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櫻子「私たち付き合ってるよね」あかり「え」
櫻子「ジーーーーー」
向日葵「……」
ちなつ「……」
あかり「…えっとぉ…えへへ…」
櫻子「ジーーーーー」
向日葵「……」
ちなつ「……」
あかり「…あっ さ、櫻子ちゃ」
先生「コラッ大室!」パコーーーン
先生「なに後ろばかり見てるんだ!黒板は前だろ!」
先生「何を見てたんだ何を!」
櫻子「はい!あかりちゃん、赤座さんを見てましたー」ドーン
先生「」
向日葵「」
ちなつ「」
あかり「///」
ヒソヒソヒソヒソ
あかり「もー櫻子ちゃんびっくりしちゃったよぉ~」アセアセ
向日葵「あなた授業開始から30分くらい赤座さんのこと見てましたわよ?」
ちなつ「ってか先生もよく30分間も放置してたね…」
櫻子「うんうん」
向日葵「うんうんって…」
ちなつ「なんであかりちゃんを見てたの?」
あかり「あかりのお顔に何かついてかな?」
櫻子「それはね…私があかりちゃんのこと好きだからなのだー」ババーン
向日葵「またこの子は唐突に…」
ちなつ「あーでも櫻子ちゃんそんな感じだよね~」
櫻子「ぅえっえへへへ」テレテレ
向日葵「キモい」
櫻子「うるさーいおっぱお魔人は黙ってろ!」バイーンバイーン
櫻子「(バイーンバイーン)そ、それでさ…(バイーンバイーン)あ、あかりちゃんは私のことどう思ってるなかな~って///(バイーンバイーン)」
向日葵「人の胸を叩きながら!」ドゴォン
櫻子「ウグゥ」グヘー
櫻子「…ほ、ほんとに!?」
あかり「うん!」
櫻子「ーーーーーーーーーやっっっったぁぁぁぁーー!!」パァァァァァ
向日葵「うるさっ」
櫻子「うんうん!これかもよろしくねあかりちゃん!」
あかり「?う、うんよろしくね」
ちなつ「?」
櫻子「あーかりちゃん一緒に帰ろーーー!!」
あかり「えーあかり部活が…って櫻子ちゃんも生徒会がが」
櫻子「ええー生徒会の仕事なんて向日葵がやっとけ!!」ブーブー
向日葵「はぁ馬鹿なこと言ってないで、赤座さんも迷惑してますわよ?」
櫻子「じゃ、じゃー終わってから一緒に帰ろ?」
あかり「うんいいよぉー」
櫻子「(パァァァァ)じゃあ行ってくるよ!向日葵早くしろ!」
向日葵「なっ…あなたg」
バイイイイーーーン
あかり「…あはは、いっちゃった」
あかり「じゃあかりたちも部活に行こっかちなつちゃん!」
ちなつ「…」
あかり「…ちなつちゃん?」
ちなつ「あっごめんごめん……うん!行こっか」
~生徒会室~
櫻子「うぉおおおおおお!」ビジッビシッ
向日葵「いや声だけであまり進んでませんが…」
櫻子「いやー私の掛け声で向日葵が動かないかな~って」
向日葵「」バシッ!
千歳「なんや~大室さん今日は一段と元気やなー」
綾乃「そうね何かいいことがあったのかしら?」
櫻子「えっやっぱわかっちゃいますかね~」エヘヘッヘ
向日葵「…気持ちが悪いですわ」
櫻子「じ実はですねー…私あかりちゃんと付き合い始めたんです!」
綾乃「えっ」
千歳「あらまあ」ウフフフ
向日葵「!?」
綾乃「えっ あ、ええ後は私たちがしとくわ」
櫻子「じゃっ失礼しまーす!」ダッガラガラピシャ
千歳「は~まさか大室さんと赤座さんとは…これはこれで…」
綾乃「そ、そうね…って古谷さんさっきの本当なの!?」
向日葵「え、えっとそうーみたいですわ…?」
千歳「なんや微妙な感じやな~?それよりええの?古谷さんは大室さんのこと…」
向日葵「い、いえ私は別に…」
向日葵(赤座さんにその気はなさそうですし…というかそれ以前に色んな意味で櫻子のことが心配ですわ)
向日葵「先輩方すみません私も本日分が終わったのでお先に失礼します!」ガラガラピシャ
千歳「いやぁ~綾乃ちゃんも負けとられへんなぁー」
綾乃「ななななんでわわ私は別に歳納京子なんかとー」アセアセ
千歳「あはは別にうち歳納さんのことなんて言っとらへんよ~?」
綾乃「も、もう千歳!////」
向日葵「失礼します!」ガラッ
京子「おっひまっちゃーん」
向日葵「あの赤座さんは……?というか櫻子が……」
ちなつ「あかりちゃんならさっき櫻子ちゃんと一緒に帰ったけど……なんだか」
向日葵「吉川さん……あの……」
ちなつ「!」ピピーン
ちなつ「結衣先輩すみません今日は私ももう帰ります!向日葵ちゃん行こう!」
向日葵「は、はい」
ダッダダダ
京子「……ってか結衣!私たちの出番これだけなのかなぁ!?」
結衣「…いやこれくらいでいいよ……」
結衣「なんだか京子は酷い目にあってる気がするし……」
京子「?」
京子「いやいや私は別に……」
結衣「なんだか死んだり精神的に病んだり……」
京子「ええー!?なにそれ怖い!」ガガーン
京子「私は元気だよ!?」
結衣「そうだな……京子は元気だな」フフフ
京子「!?!?」
向日葵「あっいましたわ!」
ちなつ「ちょっと様子見てみようか」
…………
あかり「えへへ櫻子ちゃんと二人で帰るなんて初めてだね」
櫻子「えっ!う、うんそうだね!」
櫻子(いざとなるとちょっと恥ずかしいもんだな……)ドキドキ
あかり「でもよかったの?いつもは向日葵ちゃんと……今日も一緒かと思ってたのに」
櫻子「いいのいいの!ってかいっつもたまたま一緒な道にいるんだよね~あいつ」
あかり「それは家が隣だからじゃないの!?」
あかり「でも二人はほんと仲良しさんだよね~」
櫻子「べ別に仲良くはないよ!……あっアイスクリーム屋さん!あかりちゃん食べてこ!」
あかり「わぁいいいの?」
櫻子「もち…ん?あれ?」
…………
ちなつ「なんだか櫻子ちゃんバタバタしてるね?」
向日葵「ええ……(なんとなく予想はつきますが…)」
ちなつ「あぁ!そして明らかにテンション下がったー!」
ちなつ「もうちょっと近づいてみよう!」
向日葵「吉川さん楽しんでませんわよね……?
あかり「(記念日?)ええーでも……」オロオロ
向日葵(あの子にも一応プライドがあるのですのね……)
櫻子「……」
あかり「じゃああかり一つ買うから一緒に食べて?」
櫻子「えっ……でも」
あかり「あかり全部食べれないよぉ~だから食べるの手伝ってくれたら嬉しいかな~って!えへへ」パァァアッカリーン
櫻子「うっあかりちゃん……」マブシー
向日葵(赤座さん……!)マブシー
ちなつ(あかりちゃん)マブシー
櫻子「うん!」
ちなつ「私たちも行こ!」
向日葵「ええ……」
あかり「はい櫻子ちゃん!」
櫻子「ありがとう!」
櫻子(あかりちゃんの食べかけ……)ドキドキ
櫻子「おいしいー!」
櫻子「……あのさぁあかりちゃん」
あかり「なにー?」
櫻子「改めて聞くけど私のどこが好きかなーって……へへへ」テレテレ
向日葵「!」
ちなつ「そろそろ気づかないかな……」
あかり「えーっとねー」
あかり「元気なところに~話しててとっても楽しいし!可愛いし」
ちなつ(友達としてね……)
あかり「それと京子ちゃんに似てるところもかな~」
櫻子「えっ……」
あかり「うん!」
櫻子「……」
櫻子「あかりちゃん……歳納先輩のこと好き……?」
あかり「うん!あかり京子ちゃんのことだぁいすき!」
櫻子「!」
ちなつ「解説の向日葵さんお願いします」ズイズイ
向日葵「やはり楽しんでませんか……?」
向日葵「…そうですね多分赤座さんが歳納先輩を恋愛的に好きと言ったと思っているのでは」
ちなつ「うーんなんという」
あかり「あかり二人とも好きだよぉ」
櫻子「そんなんじゃダメ!!」
あかり「ええー!」ガーン
櫻子「例えば!私と歳納先輩が死にそうだったらどっち助けるの!?」
あかり「ええー!」2ガーン
あかり「どっちも助けるよぉ……」
櫻子「ぬぬぬぬ……」
櫻子「じゃじゃあ今!今現在!この距離で私と歳納先輩」
櫻子「どっちも、えーと、お餅!お餅詰らせたら!?」
あかり「ええー!」3ガーン
あかり「櫻子ちゃんお餅食べてないよぉ……」
櫻子「ぬぬぬぬ……」
櫻子「じゃあ!このアイス!アイスが詰まって死にそう!」
あかり「ええー!」4ガーン
櫻子「アイスが喉に詰まったー多分歳納先輩も今アイス詰まらせてる!さぁどっち!?」
あかり「うぅぅ……」
ちなつ「暴走してるね」
向日葵「櫻子……」
櫻子「本当!?」
あかり「う、うん」
櫻子「わーいわーい」パァァァァ
向日葵「もうわけがわかりませんわ……」
ちなつ「うん」
~別の帰宅道~
京子「うわぁぁぁ!結衣!アイスが詰まったー!死にそうだ助けてくれー」
結衣「!」
結衣「京子!大丈夫か!今助けるぞ!」
京子「いやいや……結衣にゃんギャグなのに……つっこんでよ」オロローン
結衣「そうか……ごめん京子の死に敏感で……」
京子「!?」
あかり「うん!」
ちなつ「じゃああとお願いね向日葵ちゃん!」
向日葵「えっ」
ちなつ「家となりだし今日にでもちゃんと櫻子ちゃんに伝えたほうがいいんじゃない?」
向日葵「そうですね……このまま勘違いさせとくわけにもいきませんわね」
向日葵「わかりました後は任せてくださいちゃんと櫻子には伝えときますので」
ちなつ「うん!」
櫻子「おっはよーあかりちゃーん」ギュッ
あかり「ぐぇ、お、おはよう櫻子ちゃん」
ちなつ「……向日葵ちゃん?」
向日葵「……申し訳ありません……」
ちなつ「言えなかったの?」
向日葵「昨日櫻子の家に言って伝えようと思ったのですが」
向日葵「あまりに楽しそうに話す櫻子を見てなかなか言い出せず……」
ちなつ「まぁ仕方ないよ」
向日葵「でも!今日中には言いますわ!」
ちなつ「そんな無理しないでも……」
向日葵「大丈夫ですわそれに早く伝えないと赤座さんにも迷惑がかかってしまいますし」
ちなつ「うん!じゃあ頑張ってね!」グッ
櫻子「ジーーーーーーー」
先生「コラ!大室はまた後ろを向いて!」
ちなつ「……」
給食~
櫻子「はいあかりちゃんのは大盛りね!」
あかり「こんなに食べれないよぉー」
ちなつ「……」
放課後~
櫻子「さぁ帰ろうよあかりちゃん!」
あかり「部活と生徒会が…(略」
ちなつ「……」
向日葵「うぅすみませんやっぱり無理でしたわ……」
ちなつ「大丈夫!こうなったら私が言ってあげるよ」
向日葵「吉川さん……」
ちなつ「こういうのは一気に言おうとしたらダメなんだよ」
ちなつ「徐々に伝えていく感じでね!」
向日葵「お願いいたしますわ吉川さん!」
ちなつ「まかせてよ!」
櫻子「いやぁ~昨日はお楽しみでしたね」ニヤニヤ
あかり「櫻子ちゃんへ変な言い方しないでよ」アセアセ
向日葵「……」
授業~
櫻子「あいらぶあっかり」
先生「何を言ってるんだ」
向日葵「……」
体育~
櫻子「あかりちゃんは私の後ろに隠れて!」
あかり「櫻子ちゃんバスケだよぉ~……」
向日葵「……」
櫻子「はいあかりちゃん私の好きな磯部揚げおたべよ」アーン
あかり「んん!?櫻子ちゃんが好きなんだよnもがぁ」
向日葵「……」
放課後~
櫻子「よーし今日も早く終わらせるからねー」
あかり「頑張ってねー」
向日葵「吉川さん……?」
ちなつ「うっ」
ちなつ「無理だよー!!」
向日葵「!?」
ちなつ「なんか櫻子ちゃんと意思の疎通できなし!」
向日葵「そこまで!?」
ちなつ「ってかなんでここまできてあかりちゃんは気づかないわけ!?」プンプン
向日葵「そ、そうですわね」
ちなつ「ということで諦めました」
向日葵「そんな……」
ちなつ「でも大丈夫!安心してね!」
向日葵「え?」
向日葵「船見先輩!?」
京子「京子ちゃんもいるよー」
結衣「大室さんが勘違いしちゃってあかりと付き合ってることになってるんだよね?」
ちなつ「もうね私たちじゃあ無理だから先輩方に頼ることにしました」
向日葵「すみません櫻子の勘違いのせいで……いえ、わたくしも何も出来ずお二方にもご迷惑をおかけしてしまって」ペコリ
結衣「大室さんと古谷さんのせいじゃないよあかりもそういの疎いし」クスッ
京子「私はなんだか楽しそうだから来た!」ババーン
ちなつ「京子先輩はホントに楽しんでますね」
結衣「うん大室さんにも伝えないといけないけど先ずあかりに言おうと思うんだ」
京子「あかり気絶したりしてな」
ちなつ「冗談になってないですよ……」
結衣「あかりに伝えた上で一緒に大室さんに言いにいこう」
京子「あかり泣いたりしてな」
ちなつ「だから冗談に……」
向日葵「でも赤座さんにどう伝えますの?」
ちなつ「ストレートですね」
結衣「経緯を伝えないとな大室さんが言った好きは恋愛の意味であかりの好きは友情の意味だろうし」
ちなつ「それ以来櫻子ちゃんはあかりちゃんと恋人として付き合ってるって思ってるし……」
向日葵「赤座さんは当然友達として付き合っているでようから……」
京子「まぁあかりもショック受けるだろうなぁ~」
あかり「」
あかり「……その話本当なの……?」
全員「!?」
あかり「最初からいたよぉ……」
向日葵「あの、全部聞きましたか……?」
あかり「うん……」ウルッ
ちなつ「泣いたーー」
京子「よし」!京子ちゃん正解!1Pゲット!」
結衣「ふざけるな」ビシッ
ちなつ「う、うんその」
向日葵「赤座さん……」
結衣「あかりさっき言った通りだ」
あかり「!」
結衣「大室さんはあかりのことが好きなんだ」
結衣「友達としてじゃなくて……わかるよね?」
あかり「」コクッ
結衣「それでちょっと食い違いかな?があってさ」
あかり「うん……」
結衣「大室さんはあかりと付き合ってると思ってるんだ」
あかり「うん……」
結衣「でもそれは友達としてだよね」
あかり「うん……」
あかり「あかりわかんないよぉ……」
あかり「櫻子ちゃんのこと大好きだけど付き合うとかそんなこと……うぅぅ」グスッ
ちなつ「あかりちゃん……」
あかり「で、でも!」
結衣「大丈夫私たちもついて行くから」
あかり「櫻子ちゃんに何を言えばいいかわからないよ……」
結衣「自分の気持ちをちゃんと伝えるしかないよ」
結衣「私たちが大室さんに伝えてもいいって言ったけどやっぱりあかりの口からあかりの気持ちを伝えるべきだ」
あかり「うん……!」
櫻子「嘘……?」
櫻子「大体最初から…」
京子「あかりと一緒に過ごしてたからあかりのスキルを身に着けた!?」
ちなつ「すごいですねー」
あかり「あ櫻子ちゃんあのね……」
櫻子「なんにも聞きたくなーーーーい!」
あかり「!」ビクッ
向日葵「櫻子!そもそもあなたがっ」
あかり「ごめんねごめん!ねあかりのせいだよ」
櫻子「うーーーー」
ちなつ「うずくまった!」
向日葵「櫻子はうずくまったままですし…」
京子「あかりは泣いてるし」
結衣「あかり……」
櫻子「昨日もあんなに遊んだのに!」
櫻子「一緒に帰ったのに!」
櫻子「一緒の布団で寝て!風呂も一緒に入って!」
向日葵「!?」
ちなつ「!?」
櫻子「キスだってしたのに!!」
京子「!?」
結衣「!?」
あかり「ごめんねごめんね」グスッヒックヒック
結衣「あかり……?」
あかり「?」
ちなつ「えっキスしたんだ」
あかり「う、うん」
結衣「その……キスしてどうだった?」
あかり「えっえその……」ドキドキ
結衣「えっと嫌ではなかった?」
あかり「うんドキドキしたけど……嫌じゃなかったよ」
あかり「う、うん」
結衣「京子とキスできる?」
あかり「ええええ京子ちゃんと!?」チラッ
キョウコダヨー
あかり「むむ無理だよぉ」アセアセ
京子「ガーンなんだかショック」ズーン
あかり「ごごめんね京子ちゃんででも嫌いだからとかじゃないよ!?」
あかり「う、うん」
ちなつ「もう!あかりちゃん!キスは好きな人としかできないんだよ!」
結衣(あっちなつちゃんがそれ言うんだ)
ちなつ「つまりあかりちゃんは櫻子ちゃんが好きなの!」ズバァァン
あかり「………えええそうなのぉ!?」
結衣「あかりはまだその辺の感情がわからなかったかもな」ナデナデ
櫻子「やだーやだー」ジタバタ
向日葵「あなた先ほどの話聞いてなかったのですか?」
櫻子「?」
あかり「さ櫻子ちゃん……」
櫻子「!」
あかり「あのねごめんね私櫻子ちゃんの気持ちわかってなかった」
あかり「櫻子ちゃんが仲良くしてくれて嬉しかった」
あかり「でも櫻子ちゃんは私のことがその、恋人として好きだったんだよね?」
櫻子「」コクッ
あかり「櫻子ちゃん傷つけちゃった」
あかり「ごめんね。でも今わかったの!」
あかり「あかり櫻子ちゃんのこと大好き!」
櫻子「!」
あかり「友達以上に……これからも櫻子ちゃんのことが知りたいよ」スッ
櫻子「あかりちゃん……」ギュッ
櫻子「どういこと?」
向日葵「いやわかりなさいよ」
櫻子「あかりちゃーーん終わったよ帰ろ!」ガラッ
向日葵「なにズルしてますの全然終わってませんわよ!」ガシッ
櫻子「わー!おっぱい魔人に捕まった!助けてあかりちゃん」
あかり「あはははもぅ櫻子ちゃんだめだよぉあかりも手伝うからー」
櫻子「わーい」
向日葵「あなたはいつもいつも」
あかり「じゃあみんなごめんねあかり生徒会室に行ってくるよ」
ちなつ「最近はいっつもあんな感じですね」
結衣「はははなんだか寂しい気持ちもでもあるけどね、な京子?」
京子「……父さんは許さんぞー!あかりはうちの子じゃーーい」
結衣「!?」ビクッ
第一部 オッワリーン
乙
次も期待してる
Entry ⇒ 2012.10.24 | Category ⇒ ゆるゆりSS | Comments (0) | Trackbacks (0)
エルフ「見ないで……」
「お願いだから……」
屋敷の地下牢に繋がれた彼女は、目を伏せてそう懇願した。
信じられないくらい悲痛な声で、少年の心まで潰してしまいそうな程だったけれど、それでも彼は目をそらせなかった。
とても綺麗だったからだ。
薄暗がりで薄く発光しているようにも錯覚する白い肌が何より目を引いた。
白磁のように滑らかで冷たい、そんな肌。
纏っているのは元は上等だったようにも見えるが、今はぼろきれとなった布の残骸なので、いたるところからその透き通った白が覗いていた。
光っているのは肌だけではない。白光を縁取るのは金色。
おとぎ話の不死鳥が本当にこの世界にいるとしたら、こんな色だろうなあと思う、そんな髪の色。
柔らかい上質な絹糸がさらりと音を立てるのを思い浮かべた。
涙のたまった瞳は、名前も知らない宝石のような輝きを湛えてただ悲しい。
息をするのも忘れて見入る。
花をそのまま結晶にしてしまったらこんなふうになるだろうか。
時が止めてしまったような、泣きたくなるような美しさ。
泣きたい? 少年は戸惑う。
美しいってのはもっと、こう、違うものだ。
美しいというのはもっと誇り高くて、豪華で、太陽のようで。じゃあこれは間違ったものなのか?
それは違う、と胸の内から囁きかける声がある。
月だ、とその声は言う。
自分では輝けない、自分では飛べない、自分では歌えない。これはそういう美しさだ。
悲しいがゆえに美しい。
欠けているがゆえに満ちている。
矛盾をはらんだ合理だ。
その日、少年は初めてエルフというものに出会ったのだった。
・
・
・
屋敷の敷地に大きな馬車が入ってきた。
みんなからねずみと呼ばれる少年は、その屋敷の二階、自分の部屋からそれをこっそり見ていた。
街で買いこんだ食料品や貴重品を運びこむいつもの馬車より大きい。何だろう、と少年は思った。
やがて停まった馬車から毛布が歩いて出てきた。変な言い方だけど、少年にはそう見えた。
毛布から足が生えて歩いていたのだ。すぐに毛布をかぶせられた人が歩いているのだと気づいたけれど。
毛布からはみ出す足にはなにも履いていない。裸足だ。石とか痛くないのかな、と奇妙に思った。
ただそれよりも、なんで毛布をかぶっているのかの方がずっと気になった。
毛布たちはひどく頼りない足取りで、いかめしい男の後を歩いている。
毛布の歩みが少しでも鈍ると男は大声をあげた。毛布はもちろん、二階にいる少年をも震わせる怖い声だった。
と、その時一人の毛布が転んで倒れた。足元がおぼつかなかったせいだろう。
毛布が落ちて、その下にあったものが明らかになった。
それは白かった。
少年は驚いて身を乗り出した。あんなに白いものは見たことがなかったのだ。
それは人の形をしていた。裸の人だった。女の人。どきりとした。
いかめしい男が一際大きく怒鳴って、その人は慌てて毛布にもぐりこんだ。
彼らは屋敷の裏に回って消えた。
あれはなんだったのだろう、と少年は考えた。まだ胸がどきどきしていた。
「汚れた血脈だよ」
夕食の席で父親に聞くと、彼はそう吐き捨てた。
一流の調理師に作らせた食事なのだけれど、そのときは心底不味そうな顔をした。
といっても父親はいつだって難しい顔をしている。
汚れた血脈。そう呼ばれるものを少年は知っていた。
森の種族、古木に集う子供、汚れた血脈、頭の固いクソども。それは色々な名前で呼ばれている。
だが、多くの人はエルフと呼ぶ。
「あれがエルフなの?」
「関わるな」
ぴしゃりと父親は告げた。少年の声に好奇心の片鱗を見つけたからだろう。
少年は黙り込んだ。父親の言うことは絶対だ。
逆らうことは許されない。疑問を持つことすら。
それがこの屋敷の、いや少年の絶対的なルールだ。
だから。
それは絶対に起こらなかったはずだった。
その日、少年が夜中に起きだして地下牢に行くことなど。
夜の空気は冷えていた。月の光も同じように冷たい。
まだ冬にはなっていない。それでもどこか凍える心地で、屋敷の裏の地下牢の入り口に回った。
見張り役は眠っていた。
地下牢は当たり前だけれど暗闇に沈んでいた。
ひっそりとしていて、それでも何かが潜んでいる気配。
息づく何かに怯えそうになるが、もう自分は十四歳なんだと言い聞かせて階段を下りた。
ただ、手に持つ明かりはあまりにも小さくて頼りない。
地下牢には初めて下りた。
そこは思ったよりは広かった。
水音が遠くから聞こえる。
鉄格子がいくつか見える。
一つ一つ覗くが、エルフは隅にうずくまってこちらに怯える目を向けるだけだった。
その目は今にも狂って叫び出しそうで、少年は目をそらした。見続けるのは少し苦しかった。
ここにはなにもなかった。怯えたエルフ以外は。
少年は好奇心を裏切られた心地で、階段を振り返った。部屋に戻るつもりだった。
その時気付いた。階段の陰にもう一つ牢がある。
それだけ他の牢とは区切られているように見えた。
明確に何かが違うわけではないのだけれど、何か線が引いてあるように思えたのだ。
覗きこんで。はっと息を呑んだ。
「見ないで……お願いだから」
少年をちらりと見て、それから目を伏せ、彼女は言った。
彼女は牢の真ん中に座りこんでいた。
他のエルフと違って、怯えなかった。ただただ悲しそうだった。
まるで身を切り刻まれてそれを堪えるのように唇をかみしめ、目には涙を浮かべていた。
少年はぼうっと、それを見ていた。
水音がぴちゃり、ぴちゃりと遠くで鳴っている。
はっと、少年は我に返った。
ずいぶんと時間が経ったように感じた。
エルフはなにも言わず俯いていて、少年はただ立ち尽くしていて。
立ち去らなければ、と感じた。自分はここにいてはいけない、と。
この場に自分は不似合いだ。
足早に階段を引き返し、部屋に戻った。
少年はねずみと呼ばれている。
いつもびくびくと臆病で、人の顔色をうかがい隠れてばかりいるからだ。
少年を知る者は面と向かってかどうかは別としてそう呼ぶし、使用人たちも陰でそのように呼んでいることを彼は知っている。
父親すらたまに彼のことをねずみのような面をするなと叱る。
そんな自分が言いつけを破ってまで地下牢に向かったのはなぜなのだろうか。
あの夜のあと、彼はそのことについて考える。
「呆けてないで勉強に集中しなさい」
その日も家庭教師に怒られた。
慌てて姿勢を正す。そうしないと叩かれることを彼は知っている。
「旦那さまのように立派な方にならなければいけないのですよ。しっかりしなさい」
そう言われると、少年は心がきゅっと痛くなる。
自分はいつかはこの屋敷を継がなければならない。
この家の全てを背負って立たなければならないのだ。そう言い聞かされて育った。
それはとても誇りに思うべきことなのだけれど、少年は時々不安になる。
ぼくにはその資格があるのだろうか。
「……ごめんなさい」
「よろしい。では次のページを読み上げなさい」
家庭教師の言いつけにしたがって音読する。
そういえばこの人も例の陰口をたたいていたな、と彼は思い出した。
だからどうということもないけれど。
「見ないで」
あの夜以来、実はたびたび地下牢を訪れていた。
あのエルフを眺めるためだ。
そのたびに彼女はそれを拒絶する。とはいえ見ることをやめさせることなどできないのだけれど。
彼女を見ていると不思議と心が落ちつく。
泣いているところを見ているのに落ちつくというのも変かな、とは思った。
この場に彼は不似合いでもある。でも落ちつく。
ただ、いつも泣いてばかりというのは、と少し思うところがあった。
「ぼくはねずみって呼ばれてるんだ」
牢屋の前に座って膝を抱える。視線の高さが一緒になった。
「いつもびくびくしているから」
お尻がひんやりと冷たかった。地面は少し湿っている。
「ねずみの方がぼくよりずっと勇敢だと思うけどね」
言って、苦笑する。ねずみが蛇を噛み殺すのを見たことがある、と。
エルフは何の反応も示さなかった。たださめざめと泣いていた。
泣き続けて身体の水分がなくならないのかなと思った。
食事はもらっているだろうけれど、その分を全て涙に使っているのだろうか。
「君の名前は?」
エルフは答えなかった。
当たり前といえ、少し残念だった。
少年は立ち上がって階段に向かった。
後ろからは静かな嗚咽が聞こえていた。
そういえば、自分から誰かに話しかけるのなんて久しぶりかもしれないなと彼は思い出した。
いつもは事務的な何かを告げられてそれに対して必要最小限を答えるだけだ。
後は叱られて謝るとき。それが彼の周りとの交流のほぼ全てだった。
この時期は大体週に一、二回、公爵らの屋敷でパーティーが行なわれる。
少年の父親はそれに呼ばれる。少年はそれについていくことになっていた。
おめかしするのは面倒だし大勢の人がいるところは緊張するけれど、パーティーの華やかさは好きだ。
そこにいると小さな自分も大きくなったような気分になる。認められていると思う。
父親の後をついて(というか背中に隠れながら)色々な「偉い人」に挨拶して、食事をとって。とても気持ちいい。
パーティーも後半になると、会場が少し退屈な空気になる。
みんな腹が膨れて、話の種も尽きてくるからだ。
そんな空気を盛り上げるために、公爵は「目玉」を用意している。
公爵の声に従って、この屋敷の使用人たちが奥の部屋から出てきた。
使用人たちはそれぞれ紐を手にしている。その紐の先には首輪。首輪にはエルフ。
彫刻のような美しさを持つ彼らに人々は視線を集める。
来客の一人一人にエルフがあてがわれ、彼らは食事を再開する。
エルフの匂いを嗅ぐ者がいる。エルフに触れる者、舐める者。もちろん気にせずなにもしない者も。
しばらくするとちらほらと来客が会場をエルフと共に出ていく。
少年は父親に聞いて知っている。彼らは屋敷の奥に用意された部屋を借りてエルフと過ごすそうだ。
少年は父親が奥の部屋に行っている間は待たされる。所在なく会場の隅でぼんやりしている。
だいぶ経って戻ってきた父親はいつもの通りしかめっ面だ。
その服にかすかに血が付いている。
美しいものほど壊したくなる。
こびりついた血を見るたびにそんな言葉が頭をよぎる。
父親は大人だからそういうことが許される。大人になるってそういうことなんだ、と少年は思っている。
早く大人になりたい。
エルフは今夜も泣いている。
少年は思い付く限りの色々な話しを聞かせてみた。
ねずみという名前についての補足、家庭教師が厳しいこと、使用人たちがする世間話、庭の木に花が咲いたこと。
最後の話にエルフは反応した。ように見えた。
尖った耳がわずかに動いた様子だった。
少年は何気なく庭の木について話の重点を置いた。
その木は秋になると花を咲かせる。黄色い小さな花で、色合いの関係から金色にも見える。
「ちょうど君の髪みたいにね」
反応を待つが、エルフはなにも言わなかった。
仕方なく続ける。
その木は少年が生まれる前からそこにある。
母が植えたのだそうだ。母は植物が好きだったらしい。
らしい、というのは、今はもういないからだ。死んでしまった。
「ぼくがまだ物心つく前だったんだ。母さんは流行り病で死んじゃった。これ、母さんの形見」
胸元のペンダントをたぐって、見せる。
エルフはちらりとそれを見たようだった。
それでもなにも答えなかった。
またパーティーの日がやってきた。
父親は服に血をつけて戻ってくる。
夜になる。エルフに話しかける。
エルフは相変わらず泣いたまま。
ある夜は見張りが起きていて地下牢に行けなかった。
その日は諦めて部屋に戻った。
そしてベッドに寝転びながら考えた。どうしたらあのエルフの名前を聞きだせるだろうか、と。
次に牢屋を訪れた時、少年は木の枝を手にしていた。
例のエルフの牢屋、その前に立ち、明かりをかざした。
「これ。この前話した花なんだけど」
鉄格子の隙間から差し伸べる。
同時に光をかざすと、花が鮮やかにそれを照り返した。
「綺麗でしょ?」
エルフはそれをじっと見ていた。
「あげるよ」
地下牢で明かりなしじゃ、対して楽しめないと思うけど、と付け加えた。
エルフは恐る恐るといった様子で近付いてきた。
そっと出してきた手に木の枝を押し付ける。
同時にもう一つ押し付けた。
「あげる」
「え……?」
エルフの手に、木の枝とペンダントが乗っている。
母親の形見だ。
「これは……」
エルフがうめく。
少年は、あげるよ、と繰り返した。
「もらえない、こんなの」
返そうと伸ばしてくる手から逃げる心地で身を引いた。
「駄目だよ。いったん渡したものは受け取れない」
「でも」
「気になるなら、お返しをもらおうかな。君の名前を教えてよ」
エルフは戸惑ったようだった。
しばらく手の上のものをぼうっと眺めていた。
それから口を開いた。
「――」
「え?」
よく聞き取れなかった。
彼女はもう一度それを繰り返したが、少年にはよく理解できなかった。
「エルフの古い言葉で、月という意味」
ふうん、と少年は頷いた。
「じゃあ、月って呼ぶよ」
それからまた少年が喋るのが続いた。
でも、少し変化があったとすれば、エルフが少年の話を聞くようになった。
またパーティーの日が来た。
くしくも少年が十五歳になった翌日のことだった。
いつもと少し違うことがあった。
エルフが来客たちにあてがわれ(よくエルフが尽きないものだと不思議に思う)、それぞれ奥の部屋にひっこんでいく頃合い。
父親が少年に声をかけた。
「お前も行くか?」
少年は驚いて父親を見上げた。
ベッドに腰掛けたその女エルフは、何の表情も浮かべていなかった。
無表情でうつむき、少年らが存在していないかのようにそこにいる。
少年は途方に暮れて父親を見た。
父親は椅子に座って腕組みしていた。
目で問うと、
「好きにしろ」
と言われた。
好きにしろと言われても、と改めて途方に暮れる。
とりあえずエルフの隣に座ってみた。いい匂いがする。
自分の中からむくむくと何かがわき起こってくるのが分かる。
そのエルフを優しく撫でたいような、しかし反対に荒々しく引き裂きたいような、矛盾した何か。
エルフに手が伸びる。エルフはなにも答えない。
柔らかい肌に指先が触れる。
さらに身体の中で何かが首をもたげる。
けれど。
触れた感触から思い出すことがある。
月の指先。触れ合う手と手。
「ぼくはねずみって呼ばれてるんだ」
思わず呟いてしまっていた。
次の瞬間視界が反転し、少年は床に倒れこんだ。
「馬鹿者が!」
大声が遠くで響いた。父親の声だ。
「この馬鹿者が! 家の恥さらしが!」
ぐるぐる回る視界を持ちあげると、父親がエルフを押し倒していた。
「エルフはこう扱うんだ」
そう唸るように言って、父親はエルフのわずかな衣服を引き裂いていった。
父親に殴られたんだ。
少年はようやく気づいた。
素肌をいっぱいに晒したエルフの唇に、荒々しく父親が吸いつく。
エルフは初めて声らしい声を上げた。
少年はへたり込んだままなにもできなかった。
父親は乱暴にエルフを扱う。
ありとあらゆる暴力をそのまま叩きつけているように見えた。
動けなかった。
恐ろしかったし、腰が抜けていたし、何より目の前の光景に目を奪われていた。
何よりも美しいものが何よりも猛るものに犯されている。
震えがこみあげてきた。快感にも似ていた。
でも。やっぱり重なってしまうのだ。月が犯されている、そう錯覚した。
それなのに、自分は動けない。
きらりと何かが光った。
次の瞬間には熱いものが顔に降りかかってきた。
口に流れてわずかに下に触れる。苦い。血だ。
いつの間にか父親が立ち上がっていた。何事もなかったかのように服も来ている。
ただ、顔だけが血まみれだった。
帰り道で父親に訊ねた。
屋敷のエルフたちもいつか……ああいうふうにするの?
殺す、とは恐ろしくて口に出せなかった。
父親は黙って歩き続けたが、少年には分かっていた。
そうしない理由がない。
やだな。とは口に出せなかった。そうすればまた殴られる。殺されるかもしれない。
これも分かっていることだ。
ねずみ! ねずみ!
みんなが周りで囃したてている。
ねずみ! ねずみ!
みんなが自分を馬鹿にしている。
みんなって誰だろう。
みんなってどんな奴だろう。
そいつらを見上げると、少年自身の顔がそこにあった。
「行こう」
牢の鍵を開けて少年は手を伸ばした。月は訳が分からずに少年を見返した。
「もう、自由だ。行こう」
「……なんで?」
彼女はようやくそれだけ言った。
そして気づいたようだった。
少年の手は血まみれだ。少年自身の血ではない。でも近しい者の血だ。
気づいて、月は口をきゅっと閉じた。
少年の血まみれの手をとった。
夜明けには城門を出ていた。
朝早く門を出る商隊に混じって、外に飛び出した。
門番の止まれという声に構わず走り続けた。
泣きたいほど風が気持ちよかった。
持ち出せたものは少なかった。
旅するために必要な量の半分にも満たないようだ。
月の導きで森に入った。
森の中は暗く、進むのに苦労したが、それでも月の先導には迷いがなかった。
歩き続けて歩き続けて。
開けた場所に出た。
密集していた木々が、そこだけない。
代わりに石造りの古城がそびえていた。
月に問うと、エルフたちの最後の砦だったとのことだ。
古城の中には、誰もいなかった。
巨大な空隙がそこにあった。もう何年もずっとそのままだったようだ。
古城を真っ直ぐ抜けて、広いバルコニーに出た。
崖の上に造られていて、そこから広がる壮大な景色が見えた。
連なる山々とそれにかかる雲。広大な森の緑。崖下に流れる谷川。
あらゆる素晴らしいものがそこにあって、でも何もなかった。
「エルフは滅んだんだね」
少年は崩れ落ちていた石材の一つに腰掛けた。月もその隣に腰を下ろした。
「そっか。そっか……」
ここは月の故郷だったんじゃないか。そう思った。
そう思ったらなぜだか視界が滲んできた。
「……なんであなたが泣くの?」
優しい顔で月が問う。
分からない。少年は答えた。でも、月が泣かないから代わりにぼくが泣くんだ。
月は手を伸ばして少年の背中を撫でた。
優しく優しく撫で続けて、それから立ち上がった。
「見ていて」
月は夕焼けの中で数歩を踏み出した。
それからゆっくりと歩をゆるめ、そう思った次の瞬間また足を踏み出す。
不思議な足取りで、バルコニーを踏んで行く。
そうか。踊っているのか。と少年は気づいた。
帰る場所を失ったエルフが、夕日の中を静かに舞う。
涙は止まっていた。
「見ていて」
月が言う。
これからのことは分からない。帰る地を失った者たちが生きられる場所がどこにある?
そんなことは知らない。ただ、少年はいつまでもいつまでも月の舞を眺めていた。
支援・保守してくれてありがとでした
気が向いたらまた何か書いてくれ
Entry ⇒ 2012.10.24 | Category ⇒ その他 | Comments (0) | Trackbacks (0)
菫「魔法少女シャープシューター☆スミレだ」
菫の部屋
仁美「ふー。やーっと落ち着いたばい。やっぱ風呂はよかね。気持ちリフレッシュ」ゴシゴシ
仁美「おー。ドライヤーで急速に髪が巻き戻るー」ゴーーーー
仁美「…ふう」
仁美「…」チラッ
仁美「…お、そうだ。冷蔵庫にカフェオレ入れてたんやった」ガチャッ
仁美「うしうし、冷えとる冷えとる」
仁美「…」チラッ
仁美「…いただきます」プスッ
仁美「チュー…」
仁美「…」チラッ
菫「…」イライラ
仁美(めんどくさ。まーだ引きずってるんかいあいつは)
菫「あの石戸霞とかいうババア。いつか殺す。あっさり殺す。絶対殺す…」ブツブツ
仁美(しかも自分の目指す正義の味方像にあるまじき呪詛吐いとるし)
仁美「ん?」
キラキラシャラーン
仁美「な、何の音だ!?」ビクッ
キラキラシャラーン キラキラシャラーン キラキラシャラーン
仁美「あわわ、ま、まさかかすみんが何か仕掛けて!?ば、馬鹿な。昼にやっとこさ逃げたのに…」
菫「…はい、もしもし。弘世ですが」ピッ
仁美(着信音だとぉおお!?)メェー!?
菫「…あ」
『こんばんわー☆菫ちゃん!それに、仁美ちゃんもっ!』
仁美「おおう。その声」
菫「瑞原プロ…」ホッ
仁美(…なんだはやりんか)ホッ
菫「…一体どうされたんですか?」
はやり『んー?あはは。聞いたよ、仁美ちゃんから。こっぴどくやられたんだって?』
仁美「ん。うちが連絡した」
菫「…はあ」ガクッ
仁美「チュー…」
菫(…まあ、あれだけ好き放題されて、師匠に報告しない訳にもいかないよな。くっそ。格好悪い…)ズーーン
はやり『あれ?菫ちゃん?』
菫(あれもこれも全部あの奇乳のせいだ。糞。糞。舐められっぱなしで終われるか。絶対復讐してやる。畜生…!)
はやり『おーい』
菫(…仕方ない。ここは正直に話すか…)
はやり『菫ちゃーーーん』
菫「…すみません」
はやり『ん?』
菫「聞いてくださいよ!瑞原プローーーー!!」ガーーーー!!
はやり『うわっ!?』
「おまえには魔法少女の才能がある」
「魔法少女?」
『メェー』
「『風潮』被害」
「ネトウヨだこいつ!?」
「ふはははー!全てはヒトラー総裁の為にーーーー!!」
「いえーっす☆はやりんだよー☆」
「ふふ…面白い子、見ぃつけたぁ♪」
「あ、あの…どうしたの菫…怖い顔…」
「ポリポリ」
「あの野郎逃げやがったああああああああああああああああああああああ!!!」
「次は…殺すわ…」
菫「いいだろう。なってやるよ、魔法少女!!」
http://ssweaver.com/blog-entry-1778.html
仁美「チュー…」コクコク
菫「ええ…ええ…で、それで、情けないことに全然歯が立たなくて…」
はやり『そうだったんだ。ごめんね。朝までの段階では、まさかかすみんが帰って来てるなんて思わなかったんだ。昨日の夜に大阪で風潮被害を追いかけてるって情報があって、それで問題ないと考えちゃって』
菫「悔しいです…仁美から聞きましたよ。奴も私とそれほど変わらない時期に魔法少女になったんでしょう?なのにあそこまで実力の差があるだなんて」
はやり『あの子は特別だからねー。私だってあの子相手には多分結構手こずるんじゃないかな』
菫「けど、一矢だって報いることが出来なかった。こんな屈辱は生まれて始めてです。…くっ!」
はやり『随分落ち込んでたみたいだね。もっと早く電話してあげられれば良かったんだけど、本業の方が忙しくて電話にも出られなくって。…私のミスだね』
菫「…」チラッ
はやり『今やっとプライベート携帯確認出来たくらいなんだ』
仁美「」ゴソゴソ (←本棚の少女漫画漁ってる)
菫《カフェオレで汚すなよ。殺すぞ》(念話)
仁美「」ビクッ
はやり『菫ちゃん?』
菫「あ、すみません。少々しつけを」
菫「あ、あと、電話の件。仕方ないですよ。瑞原プロの落ち度では無いのでお気になさらず。念話も離れすぎていると出来ないようですし」
はやり『念話は精々1kmってところかな。そうだねー…。…ねえ、菫ちゃん。かすみんの事、どう思う?』
菫「ある意味、暴走風潮被害よりも許せません。魔法少女の力をあんな風に使う奴が居るなんて。それも強大な力の持ち主が」
はやり『うーん…普段は意外に結構真面目に魔法少女してる子なんだけどね?』
菫「そうなんですか!?」
はやり『うん。実際ね。あの子一人で九州の南部の風潮被害の大半を抑えられてるし。お陰で九州の魔法少女はみんな随分楽が出来てるって聞くし。ちょっと怖がってるけど」
菫「それほどの奴なんですか」
はやり「どころか、最近は暇を持て余してるのか強大な風潮被害者が多い大阪とかまでよく出張してるくらいだもん』
菫「それって私が鹿児島まで行く必要なかったんじゃ…」
はやり『それは菫ちゃんに経験値を積んで貰う意図も有ったからだよ。それにあの子、さっきも行ったけど前日の夜に大阪に居たしね。…結果的に私の判断ミスだったし、そのせいで菫ちゃんを危ない目に合わせちゃったけどね」
菫「…」
はやり「けど、かすみんだって目に付いた魔法少女全部襲うような子でもないし、凶暴性を唆られるような強い子以外だったら他の魔法少女と協力する事さえあるんだよ?』
菫「…俄には信じられません。あいつ、私を大阪で見かけた時から目を付けていたと言っていましたし」
はやり『普通の新人さんに目を付けるような子じゃないんだけどね。あ、あと、私と再会した時も意外と礼儀正しかったな。「あの時は暴走する前に助けて下さってありがとうございました」って』
菫「あまり嬉しくないです。それに私はあいつ大嫌いですしね」
はやり『まあまあ。きっと、いつか和解出来る日も来るって』
菫「少なくとも、それは私が一回はあいつを叩きのめしてからですが」
はやり「もぉー」
菫「今度あったらギッタンギッタンに…」イライラ
仁美「やめとけやめとけ。されんのがオチたい」
菫「…」ポカッ!
仁美「メ゙ッ!?」
はやり『菫ちゃーん。どうしたのー』
菫「いえ、あはは。なんでも…」
仁美「いたたた…凶暴性だけならほぼ互角だって保証してやるよ」サスサス
菫「しかし、憧れの瑞原プロとこうして電話出来るようになったっていうだけでも魔法少女になった価値があったなぁ」ギリギリ
仁美「ヒールホールドはガチ過ぎるからラメェェエエエエエ!!」ジタバタ
はやり『じゃ、じゃれ合いもほどほどにねー…☆』
菫「っと、いけない。話の腰を折ってしまった。申し訳ありません」
はやり『う、ううん…。仲いいねー』
菫「そんな事は無いと思いますが…ところで、今回電話して下さったのには、どんな用件が?仁美の事です。報告なんて私がかすみんにやられたっていう話くらいでしょう?」
はやり『うん。メールで菫ちゃんがギッタンギタンのケッチョンケッチョンのボロッカスにやられて、仁美ちゃんのとっさの機転でギリギリ紙一重切り抜けたって書いてあったから、心配で…』
菫「へえ…」ギロッ
仁美「」ダラダラ
菫(…ま、あながち間違ってもいないんだが)
菫「…まあ、当たらずとも遠からずと言ったところです。さっきも言ったようにまるで手も足も出なかった」
はやり『そっか…』
菫「…」ギリッ
はやり『…ちょっと安心したな』
菫「へ?」
はやり『気持ちまで折られてない感じで』
菫「…まあ、これでも曲者ぞろいの白糸台麻雀部で1年間部長をしてきた人間ですので。多少の挫折如きで一々折れていられませんから」
菫「や、止めて下さい。なんか照れくさい…」
はやり『そんな菫ちゃんに、私からのプレゼント☆』
菫「は…はあ」
はやり『魔法少女としての特訓方法教えちゃいますっ!』
菫「!!」
はやり『ついでに、軽く魔法少女と風潮被害についておさらいしておこうか』
菫「よろしくお願いします!」
はやり『お~。ヤル気ある良い返事だね~☆』
菫「それで強くなれるなら!」
はやり『よしよし。それでは~』
菫「…」ドキドキ
はやり『まず、私達魔法少女について!』
菫「はい!」
菫「…」チラッ
仁美「チュー…」ペラッ
菫(頼むから本汚してくれるなよ)ハラハラ
はやり『うん。よし、それじゃあ、魔法少女とは何なのかっていうところから!』
菫「なんなのか…ですか?」
はやり『そうでーす☆魔法少女とは、何者か!実はよくわかっていません!』
菫「え?」
はやり『魔法少女がいつから現れ、何故存在するのか!その正体を知ってる人はゼロです☆』
菫「ぜ、ゼロって…」
はやり『わかってるのは、マスコットって言われる子達が先に存在して、その子達に導かれるようにして私達魔法少女が生まれるっていうこと』
菫「そうなんですか…」
はやり『だから、よく魔法少女の仲間内でも色々議論あるんだよね。私達は一体どこから来てどこへ行くのかー!って』
菫「…」
はやり『でもまあ、一応目下の目的があるからみんなそんなに悩まないでやってられるんだけどね』
はやり『そう。風潮被害』
菫「…私には、こっちのほうがわからない。風潮被害とは一体なんなんですか?一体何故そんなものが」
はやり『それもあんまり良くわかってないの』
菫「…」
はやり『風潮被害って言うのは、読んで字の如く人々の間で広がる虚偽の風潮がそうであるように世の中を書き換えてしまう事象。それはもはや強制力をすら持って発動し、やがて暴走する』
菫「…」
はやり『酷い話だよね。例えば、一人の女の子が居るでしょ?その子が本当は心優しい文学少女だったとして、その子が驚くぐらい凶悪な人間だってっていう風潮が出来たら、その子は本当に凶悪な人間になってしまう』
菫「ええ。私も何人かと対峙しましたので、わかっているつもりです」
はやり『風潮によっては性格どころかポンコツになったり、体格まで変わったり、ひょっとしたらもっと凄い、私達も知らないような風潮もまだまだあるかも…』
菫「…」
はやり『けど、それで不幸になる人が現れないように、被害を未然に防ぐのが私達魔法少女でもあるんですっ☆』
菫「…ふふ。ですよね」
はやり『魔法少女とはこの世の法則より解放されしモノ。魔を操り、超常の力を行使する…常套句だけどね』
菫「ああ。それは仁美からも聞いたことがあります」
菫「ええ」
はやり『そういう超常的な力、その中に風潮被害を浄化する力も備わっている私たちは、清く正しく有りましょうって事で。ようは…』
菫「ええ」
はやり『魔法少女の本質は愛と希望の象徴なのです☆』
菫「ですよねっ!」
はやり『うんっ!それだけ覚えてれば十分!』
菫「やあ、やはり瑞原プロの講義は勉強になるなぁ!」ウキウキ
はやり『いえー☆』
仁美(アホらし)チュー
菫「よーし!俄然ヤル気が上がってきたぞ!瑞原プロ!次の講義を!」
はやり『おまかせあれ!それじゃあ、次はマスコットについて』
菫「はい!」
はやり『マスコットはね。人を、魔法少女に導く者』
はやり『そして、人をマスコットへと導くものは、『声』。…らしいね』
はやり『マスコットたちの話によると、ある日突然、『声』が聞こえてきて、使命に目覚めるらしいよ』
菫「…なのか?」
仁美「ん」ペラペラ
菫「…」
仁美「まあ、どっかからな。聞こえてくるんよ」
仁美「『パートナーを探せ』。『魔法少女を生み出せ』。『共に戦い、風潮被害を倒せ』。…で、こうムラムラと行動しなきゃいかん気になって…」
菫「…」
はやり『…私たちは自分自身に関して余りにも色々わからない事だらけだけど…まあ、これが一番の謎…かもね』
仁美「…」チュー…
菫「謎の声…か」
はやり『で、その声とともにその子は強制的にマスコットとなって、パートナーとなる魔法少女になる才能のある人間を探すの』
はやり『普通手がかりなしでそんな出会いは出来ないと思うんだけど、まるで引かれ合うように巡り合う…らしいよ』
菫「…それが、仁美には、私だったと」
はやり『素敵な縁だよね☆』
菫「…結構多彩ですね」チラッ
仁美「…」シャカシャカ
菫(歯磨いてるし。もう寝る気だコイツ)ハァ
はやり『だよねー。特に風潮被害の感知に関しては普通の魔法少女とは比べ物にならないくらい凄く優秀だから、凄く助かるよ!』
菫「へえ…」
はやり『マスコットに関してはこれくらいかな?えーっと、あとは…何話そうか。何か質問ある?』
菫「そうですね…」
はやり『私に分かることだったら、なんでも答えるよー』
菫「なら、一点」
はやり『はい!』
菫「その…魔法少女っていうのは、何か組織だったものとかはあるんですか?」
はやり『うーん…』
菫「?」
はやり『有るって言えばあるし、無いって言えば無いって言うか…』
はやり『基本的にみんな自由にやってるんだけど、連絡網だけはしっかりしてる。みたいな』
菫「なんですかそれ」
はやり『風潮被害が凶悪で自分一人の力で手に負えない時は助けを求めるのも簡単だし、協力もしようって思ったら出来るけど、なんかやり辛いと言うか…』
菫「…ますますわかりません」
はやり『…つまりね』
菫「…ええ」
はやり『魔法少女って、みんな成る前から大体知り合いなんだよね』
菫「…」
はやり『…』
仁美「くー…かー…」
菫「…はい?」
はやり『知り合い』
菫「…」
はやり『もっと言うと、麻雀部』
はやり『びっくりしたでしょー』
菫「…ええ」
はやり『ちなみに風潮被害者もそうだよー☆』
菫「…確かに、今まで出会った風潮被害者は…」
はやり『なんでなんだろうねぇ~』
菫「…」
はやり『麻雀をやってる人間の中に特別な才能を持ってる人間が多いのか、才能持ちが麻雀に惹かれるのか、はたまた偶々なのか。わかんないけど』
菫「はあ…」
はやり『知らない街で魔法少女に会った!って言ったら、大体知り合い』
菫「ははは…」
はやり『まあ、最近は若い子も増えてきて、私は知らないけど私の番組見てましたーって子も多いけど』
菫(マジか!)
はやり『あははは~☆』
菫(こんな狭い業界だったのか!)
菫「…ああ」
はやり『がっかりした?』
菫「え?」
はやり『思ったよりスケール小さくって』
菫「いや…そんな事はないと思いますけど…一歩間違えたら被害事態は甚大じゃなくなりそうですし」
はやり『…ま、なんにせよだけど』
菫「…ええ」
はやり『わからないことが多過ぎるんだ。今は。だから深く考えてもしょうがないよ』
菫「…」
はやり『私達に出来ることは、風潮被害を未然に防いで、不幸になる人を一人でも減らすことだけ』
菫「…そうですね。それが一番大切です」
はやり『うんっ☆』
菫「…ふふ」
はやり『それじゃあ、次に、菫ちゃんが魔法少女として強くなる方法!』
はやり『まずは、変身前』
菫「はい!」
はやり『筋トレ。単純に変身した時の身体能力も上がります。スタイルも良くなって一石二鳥』
菫「…はい。地味ですが、説得力があります」
はやり『格闘技…も、習った方が有利に成るだろうけど、そこまでは難しいか』
菫「うーん…まあ、DVDで勉強くらいはしてみます」
はやり『それでも効果はあるよ。変身したら単純な身体能力以外にも運動神経とか反射神経諸々向上するから。やろうと思えばどんな技でも出来ちゃう』
菫「はあ…」
菫(肉弾重視だなぁ…まあ、プリキュアも結構格闘してるし良いんだが、もっとこう…魔法的な…)
はやり『あとは、魔法だね』
菫「!!はい!!」
はやり『魔法は、沢山戦闘経験を重ねて、今使える魔法を実戦で沢山使って、徐々に慣らしてくしか無いかな』
菫「…」
はやり『ちなみに私は最初からなんでも使えちゃいました。ごめんなさい…』
はやり『ご、ごめんね…』
菫「いえ、いいんです。才能という壁に立ち塞がられた経験なんて、それこそこの3年間何度でも…」
はやり『あわわわ!菫ちゃん!ご、ごめん!ごめんなさいって!落ち込まないで~』
菫「はあ…まあ、なんとか工夫してみますよ」
はやり『う、うん…協力は惜しまないから…』
菫「それよりも」
はやり『うん?』
菫「私なんかのために色々とお手を煩わせてしまって、申し訳ありません」
はやり『へ?』
菫「だって。基本、魔法少女は群れないんでしょう?」
はやり『…』
菫「それなのに、私みたいな唯の新人を最強の魔法少女たる瑞原プロが目をかけてくださり…」
はやり『ああ…それなんだけどね』
菫「はあ」
菫「?」
はやり『…勿論これは風潮被害じゃなくて、実際に形成されてきた風潮だし、暴走とかはしないけど』
菫「…ええ」
はやり『私、寂しいなって』
菫「…」
はやり『常々思ってたんだけどね。ただ、なんとなく慣例的な物があって誰も異議を唱えてこなかったし、そうする必要性も今まで無かったし、それで上手く回ってたんだけど』
菫「…」
はやり『…でも、なんとなく、ね。この風潮も、打破…してみようかなって』
菫「…」
はやり『ねえ、菫ちゃん』
菫『…はい』
はやり『だから』
はやり『私と』
はやり『魔法少女隊、結成してみない?』
はやり『…どう?そしたら、その…危ない時に助け合ったり、師匠みたいな事も、沢山してあげれるし…』ゴニョゴニョ
菫「喜んで」
はやり『やた!』
菫「…ふふ」
はやり『やった!やった!ありがとう!ありがとう!』
菫「ふふふ…いえ。こちらこそ。憧れの人の傍で戦えるなんて、こんなに素晴らしいことはありません」
はやり『ありがとうねー!それじゃあ、今この瞬間に、魔法少女隊結成だ!』
菫「ええ。初代プリキュアのような最高のタッグを目指して行きましょう」
はやり『え?』
菫「…ん?」
はやり『…』
菫「…」
はやり『…あ、そっか』
菫「…へ?」
菫「…何を…ですか?」
はやり『うんとねー。確かに今はまだ二人なんだけど』
菫「…ええ」
はやり『最終的には、もっと…初代セーラームーンみたいに5人は欲しいかなーって』
菫「…おお」
はやり『それでね。勿論前口上とか決めポーズとかも格好良いの付けたりなんかして』
菫「うんうん。それは必須ですね」
はやり『で、最終的には、合体技なんかも作っちゃったりして』
菫「いいですねぇ」
はやり『それでね!それでね!お揃いのコスチュームとかも揃えて!』
菫「おおー!あ、でも衣装は変わらないんじゃ…」
はやり『魔法で瞬間着替えするのあるよ!頑張って覚えて!』
菫「やった!頑張ります!」
はやり『あと、イルミネーション魔法も!』
はやり『おお!わかってるねあの子!』
菫「いけ好かないやつですが、口上も有ったし、美学には共感出来るところが多々…」
はやり『うむむむむ!欲しい!』
菫「えー…」
はやり『いいじゃない!反発する者同士、共通の目的の為に共に戦う的な!』
菫「それは確かに王道ですが、実際にやるとなるとどうしても心情が…」
はやり『うー…じゃあ、仲直りしたらねっ!絶対だからねっ!』
菫「無いとは思いますが…」
はやり『いえ~い☆』
菫「…で、話を戻しましょう!」
はやり『ん?』
菫「ここはやはり、取り敢えず二人でもキメれるような口上を…」
はやり『うん!うん!そうだねー!それじゃあ…~~~!』
菫「いやいや、ここは…~~~!」
菫「いいですね。そうしたらまず瑞原プロが~~~~」
はやり『もうっ!水臭いぞ!はやり☆って呼んで!』
菫「わかりました!はやりん!」
はやり『変身後はマジカル☆はやりんだよっ!』
菫「あっ!そういえば私まだ決めて無かった…!」
はやり『なに~!それじゃあ今から考えるよー!』
菫「わかりました!はやりん!」
仁美「…」モゾッ
はやり『~~~~~』
菫「~~~~~」
仁美「…」チラッ
はやり『~~~~~~~~~~!!』
菫「~~~~~~~~~~~~~~!!!」
はやり『~~~~~~~~~~~~~~~~~!!!』
菫「~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!!!!!!」
はやり『~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!!!!!!!』
仁美「…」
仁美(うるせーーー…)ゴロン
菫「それじゃあ、私は魔法少女シャープシューター☆スミレを名乗るということで!!」
仁美(決まったんかい)
はやり『オッケー☆じゃあ、前口上、一回合わせてみようか!』
仁美(今やるんかい)
菫「人々の小さな幸せを踏みにじる風潮被害は許さない!純潔なる一輪の花!魔法少女シャープシューター☆スミレ!」
仁美(何が一輪の花だ。ってかスミレの花言葉並べただけやろがそれ。お前毒持ちのニオイスミレだろが)ゴロゴロ
はやり『お星様に変わって、お仕置きよ!キラキラ光るみんなのアイドル!魔法少女マジカル☆はやりん!』
仁美(表現が一々古いな!)
菫はやり「『二人は!シューティグ☆スター魔法少女隊!!』」バーーーン!!
仁美(だっせえええええええええええええええ!!!)メエエエエエエエエ!!!
仁美(…静かになりおった)
菫「…マズイです。はやりん」
はやり『…うん』
仁美(ようやく我に返ったか。恥じれ恥じれ)ゴロゴローン
菫「テンション上って来た!!」
はやり『私も!!』
仁美(マジで!?)メェ!?
菫「これは…!今晩は眠れないかもしれない…!!」
はやり『私も!!』
菫「もう一個!もう一個考えましょう!」
はやり『わかった!!』
菫「それじゃあ、今度は敵が悪さしてるところに割り込むシチュエーションで…」
はやり『絶対許さない!って言う台詞はどっかに欲しいよね…!それとそれと…』
仁美「…」
仁美「…せからしかぁ…」ハァ
仁美「メェ~…」
第六話
「シャープシューター☆スミレとグダグダ前口上」 終わり
ガチャッ
菫「お、お邪魔します…」コソコソ
仁美「ちーっす」テクテク
「ん?おや、君は白糸台高校の…」
菫「ど、どうも…弘世です」カチコチ
「これは珍しいお客さんも来たもんだ。…ああ、もしかしてお目当ては瑞原プロかい?」
菫「ええ。彼女とはその…多少親交がありまして。本日、公開収録のご招待を預かりました」
「ははは。今は、牌のおねえさんとして子供達に麻雀の指導をするコーナーの収録中だよ」
菫「そうですか…」
「そう。そしてここは、子供達の保護者の皆様方がその様子を見届けられる観覧席って訳さ」
菫「はあ…」
仁美「チュー」ゴクゴク
「あ、ちょっと君。ここは飲食は禁止だよ」
仁美「チッ」
仁美「…分かった分かった。今飲み終わったから捨ててくるばい」スタスタ
「…」
菫「あ、すみません。連れがとんだ無礼を…」ペコリ
「あ、いや…構わないさ」
菫「どうも今日はあいつ機嫌が悪くて」
「ははは…」
菫「しかし凄いご父兄の人数ですね」
「ふふふ。まあね。なんて言ったって、この番組は超人気番組だから」
菫「…」
「この、『麻雀で遊ぼう!』は」
菫(某局教育テレビの超人気番組『麻雀であそぼう!』)
菫(牌のおねえさん演じるはやりん…瑞原はやりプロは、この生放送番組で子供達相手の授業方式という形で、麻雀の基礎を教えている)
菫(基本的なルールから点の計算方法、麻雀の楽しさ、トレーニング方法などをコミカルな歌や遊びで誰にでも分かりやすく説明する、麻雀への入門番組だ。広く若年層への麻雀普及への貢献度は、テレビ史上でも白眉に値する)
菫(どころか、毎年状況判断や河の見極めなどについても最新の理論を取り入れて再構成が為され、何年経っても新鮮さが薄れず、その視聴層は若年者に留まらず、プロにも参考にされる程だという)
菫(…かく云う私も、そのファンの一人だ。毎回勉強になるし、なにより難解な筈の最新の理論をプロの解釈で噛み砕いたものを分かりやすく勉強できるという点で、非常に勉強になる)
菫(それと、衣装とか可愛い)
菫(…こほん)
菫(…ところで、何故そんな番組に私達が今日招待されているのかと言うとだが…)
仁美「…」テクテク
菫「戻ってきたか」
仁美「…けったくそ悪いわーここ」
菫「ふふ…まあ、そう言うな」クスッ
仁美「なんで善良なる一般市民たるうちが売国奴のマスゴミの連中共と同じ空気を…」ブツブツ
菫(マジカル☆はやりんから、風潮被害の微かな反応を感じ取ったと連絡が有ったからだ)
菫の部屋
菫「テレビ局に…ですか?」
はやり『うん。どうも、最近教育テレビのスタジオに出入りしてる子の中に、風潮被害者が居るみたいで』
菫「ええ」
はやり『まだ反応が微弱で誰かっていうのは特定できないんだけどね。たまにスタジオや帰り道の廊下で、気配の残渣を感じるんだ』
菫「大変ですね。もしも万が一、生放送中にでも暴走なんてされたら」
はやり『うん。最悪だね。日本中に風潮被害の事がバレてしまう。そこまでなっちゃったら、魔法で被害者の記憶を消すとかももう追いつかないだろうし…』
菫「そうしたら、どうなるんです?」
はやり『風潮被害のキャリアってバレたら、きっと迫害されるよ。石持て追われる、ってやつだね。いつ暴走されるかわからない隣人なんて、たまったものじゃない』
菫「…」
はやり「勿論一般人には簡単に特定は出来ないだろうけど…でもだからこそちょっといつもと様子が変だぞってなったら、どんどん疑心暗鬼が広がっていっちゃう」
菫「…想像するだに恐ろしいですね」
はやり『それに、私達魔法少女だって同じ。特定だってされやすいしね。人間を超えた力を持ってる者は、ただの人間には怖がられる』
菫「やれやれです。お約束とは言え、現実は厳しい」ハァ
菫「聞いたか羊。お前いつか言ってたが、新聞社なんて襲撃したら歴史に残る大悪人として魔法少女に滅ぼされるってよ」
仁美「どーせ力奪うために魔法少女に集団レイプされるだけやろ。おまえが。うちに関係なか」メッヘッヘ
菫「あ?」スッ
仁美「なんでもなか!」
はやり『…ま、それはともかく。私はこれから数日の間に暴走するであろう風潮被害者を未然に特定して、浄化しようと思ってます』
菫「なるほど。まだはっきりと特定出来ないような段階でも、風潮被害者に最接近すれば特定して浄化出来るんでしたっけ」
はやり『そーそー』
菫「となると、必要なのは調査力…」
はやり『あと、人手だね!』
菫「…うん?」
はやり『ところで菫ちゃん。明日のお休み、夕方って暇じゃないかな~』
菫「…ええ、そうですね。その時間は私はいつも家で『麻雀であそぼう!』を見ているので…」
はやり『おっ!視聴者様でしたか!いつもありがとうございます☆』
菫「いや…あの…はい。…それで?」
菫「ええ」
はやり『その日公開収録があるから、その時間に教育テレビのスタジオにおいでよ!話は通しておくから☆』
菫「な!い、いいんですか!?」
はやり『もちもち♪私を誰だと思ってるの!牌のおねえさんだよ~☆』
菫「それは…確かにそうですが…」
菫(だからと言って、いいのか?番組に参加する子供だけでも競争率何十倍、大友入れれば何百倍の超人気番組の公開放送に、コネで入らせて貰うなんて!)
はやり『勿論タダだとは言わないよ?ちゃーんと、菫ちゃんにも働いてもらいます!』
菫「…それは勿論構いませんが…と、言うと」
はやり『放送終わった後に番組の責任者の人達と番組に関して何十分かの打ち合わせがあるんだけど、その前にスタジオの撤収があって、いっつも私は1時間の休憩を貰っているの』
菫「…はい」
はやり『その間に一緒に風潮被害者を探して欲しいなって』
菫「!!」
はやり『私あんまり探しものは得意じゃないし、時間も少ないし、菫ちゃんと仁美ちゃんが一緒に探してくれるとすっごく助かるんだ』
菫「~~っ!なっ!なるほど!」プルプル
菫「っ!っ!っ!」ピョンピョン
はやり『駄目…かな?』
菫「万難を排して行きます!!」
はやり「そ、そっかー。それじゃあよろしくね。詳細は後でメールで送るから…」
菫(ついに…)
菫「はい!!」
菫(ついにはやりんと一緒に戦える!!)
仁美「…」
仁美「…ふぅ」
菫「ふふふ…楽しみだ…」ニヤニヤ
仁美「だらしない顔しおってからにこの女は…」
菫「はやりん…すみすみ…二人は魔法少女…」ブツブツ
仁美「おい。おい。菫」ユサユサ
菫「…おっと、なんだ仁美。急に揺するな」
仁美「やかましい。変な妄想に浸ってるな怪しまれるぞ」
菫「…むう」
仁美「しっかりせーよ?ったく…ここは日本人の敵の総本山ばい。気を抜いたら何されるかわからん」
菫「お前はまだそんな…」
仁美「それと」
菫「ん?」
仁美「収録終わったっぽい」
はやり「みんなー!今日もありがとうねー!それじゃあ、またあしたー!ばいばーい☆」フリフリ
子供達「「ばいばーーーい!」」
はやり「…」ニコニコ
「…はい、カットでーす」
はやり「…ふう」
はやり「君たちも、ありがとうねー☆」
子供A「わーい!」
子供B「はやりおねえさん、ありがとー!」
子供C「ありがとうございましたー!」
子供D「楽しかったー!」
はやり「うふふふふー。はやりも楽しかったよー☆」
子供E「わーい!」
はやり「さあ、みんな。パパとママがあっちのお部屋で待ってるから、はやりおねえさんと一緒にスタジオに出ようねー」
子供F「はーい!!」
はやり「あ、ADさん!すみません。私はこのまま子供達を親御さん達に引き渡してきますので、その後は…」
AD「はい、わかってます。明日の打ち合わせの前に1時間ほど休憩ですよね?もうDからは承諾得てますので」
はやり「すみません。すぐにするべきだとは思ってるんですが…」
AD「仕方ありませんよ。子供たちの相手は体力を使いますし」
はやり「ふふ。なんだかんだ年ですかねー」
AD「えー?瑞原プロ全然お若いですってー。羨ましいくらい」
はやり「あはは。お世辞はよして下さいよ。褒め殺しなんて、怒りますよ?もうっ!」
AD「ははははは」
子供G「はやりおねえさーん!早く行こうよー」
はやり「おっと。ごめんねー?キミ。それじゃあ、行こうか」ナデナデ
子供G「うんっ!」
はやり「では、失礼します」ペコリ
AD「…立派な人だなぁ。あの若さでプロとしての地位も確立して、テレビの仕事すら卒なくこなすとは…」
AD「あの人になら、親御さんも安心して、子供達を任せられるな」ウンウン
「…」キョロキョロ
「…ここじゃ…ない」ボソッ
「…」コソコソ
バタン
はやり「お疲れ様でしたー」ガチャッ
菫(あ、はやりん!)
子供A「わーい!おかあさーん!」タタタタ
母親A「おかえり~。どうだった?」
子供A「楽しかったー!」
母親A「そっかー。よかったねー。おねえさん、優しかった?」
子供A「うん!」
はやり「ふふふ。ありがとう。はやりも楽しかったよ~☆」ナデナデ
子供A「おねえさん!」
はやり「また遊びに来てねー?」ニコニコ
子供A「うん!」
菫「いいなぁ…」
仁美「ほー」
仁美「あんなに子供にも保護者にも好かれて…なんだかんだ人気者なんやねー」
菫「素晴らしい。やはり憧れのはやりんは人格者だった」
仁美「メェー」
菫「その羊の鳴きマネして茶化す癖止めろ…って、瑞原プロ来た」
はやり「ごめんねー。お待たせっ☆」
菫「いえ。お構いなく。…大変ですね」
はやり「そう?子供達の相手、楽しいよっ!」
菫「ふふ…羨ましいです。私は子供や動物に怖がられるから」
はやり「そうなの?」
仁美「やはり本能的な危険を察知し…いたたた!こら!止めい!穏やかな会話のままの表情で首引っ掴むな!」
はやり「本当、短期間で随分仲良しになったねー。それじゃあ衣装の着替えもしたいし、まずは楽屋に一緒に行こっ☆」
菫「ははははは。ええ、よろしくお願いします」スタスタ
仁美「メェヘエエエエ!?」ズルズル
菫「…で、風潮被害者を見つける手段なんですが」
はやり「うん。ごめんね。私だけだとどうしても反応が追いきれなくて」
菫「まあ、我々は魔法少女ですので」
仁美「…ん?」
はやり「うん。そこで、マスコットの仁美ちゃんに…」
仁美「タンマ」
菫「仁美?」
仁美「…」ジー
はやり「…どうしたの?」
仁美「いや、どうしたのっち言うか…」
はやり「…」
菫「…あ」
仁美「はやりんのマスコットは?」
はやり「…」
はやり「あー…」
仁美「思えば、今までの会話に一回も名前すら出とらん」
菫「確かに。今どちらに?遅ればせながらも、はやりんと魔法少女隊を結成したからには、御挨拶をしなくては」
はやり「…」
仁美「…ん?」
菫「…あの」
はやり「…」
仁美「…?」
菫「えっと…」
はやり「ま、まあ、その辺の話は追々って事で」
仁美「はぁ~?」
菫「え…」
はやり「う、うん!そうだ!今ちょっと遠くに行っててね!皆に会わせてあげられないんだ!だから、帰ってきたら!帰ってきたら改めて紹介するから…」
菫「は、はあ…」
仁美「んー…」ジトー
はやり「うわーん!お、お願いだからそんな目で見ないでよー!」ギュー
仁美「…なんやこれ」
菫「仁美」
仁美「ええの?」
菫「はやりんが口を濁したという事は、私達に伝えられない事情でもあるんだろ。余計な詮索は好きじゃない」
仁美「…まあ、ええけど」ブツブツ
はやり「ご、ごめんねぇ…」
仁美「貸一個…」
菫「いやいや。協力体制にそんなの要らんから」
はやり「ううう…本当にごめんね」
仁美「ま、それじゃあパパっと探してみますかねー」
仁美「……すー……はー……すー…」
仁美「…んーーーー」
仁美「何人か怪しいなーってのの気配はおるけど…」
仁美「…ん。こん人かいな?」
菫「この人?」
はやり「…」
仁美「…うん。近か。3部屋隣の楽屋たいね。そこに居る人、なんかそれっぽい気配感じる」
はやり「!!」
菫「随分精度が高いな…って、3部屋隣の楽屋?」
仁美「ん…多分やが…あんま確信は持てんっちゅーか…」ブツブツ
菫「煮え切らないなぁ…」
仁美「仕方なかろう。なんつーか、反応がまだ微弱たい」
菫「…まあ、とにかく近くに行ってみないことには始まらないか。どんな人物がそこに居るのかも気にな…」
はやり「小鍛治プロ」
菫「…」
はやり「…その部屋は、小鍛治健夜プロの楽屋…だね」
本当にアラフォーになってるとか?
健夜「…」ペラ…ペラ…
健夜「ズズ…」
健夜「…コクン」ペラ…
健夜「…ふう。ちょっと目が疲れちゃった。休憩」パサッ
『スイート婚活女子応援特集 30代の輝ける貴女へ 年収1000万以上のイケメン高身長爽やか男子と結婚するための方法』
健夜「ふふ…なんだか、この雑誌読んでたら私も今年中に結婚出来る気がしてきた。結構簡単なんだね」
健夜「早速この本に載ってる事を実行して、近所でやってるお見合いパーティーに行こう」
健夜「どんなパーティ-が良いかな。雑誌で紹介してるやつだと…あ、これなんか良さそう。参加費1000円。お持ち帰り自由。一緒に爽やかな汗を流しましょう」
健夜「新じゃが芋掘り大会」
健夜「えーっと、連絡受付の電話番号は…」
コンコン
健夜「…ん?」
コンコンコン
健夜「誰だろう?」
健夜「こーこちゃんかな?さっきオフだから遊びに来るって言ってたし。…はーい。開いてますよー。どうぞー」
ガチャッ
健夜「いらっしゃい。今コーヒーでも…」
健夜「…」
健夜「…え」
菫(青のミニスカメイド服+黒ニーハイ)「どうだ?」ヒソヒソ
はやり(白の同上+白ニーハイ)「ここまで近づいたらわかると思うけど…」ヒソヒソ
健夜「瑞原…プロ…?」
仁美「うん。間違いなさげやね」ヒソヒソ
はやり「よし。それじゃあ、本人はまだ自覚無さそうだけど、やっちゃうよ。記憶操作は後でなんとでもなるから」ヒソヒソ
菫「しかし、まだ唯の一般人みたいなものなのに、大丈夫なんでしょうか…」ヒソヒソ
仁美「面倒なる前にやっちまったほうが楽ばい」ヒソヒソ
健夜「あ、あのぉ…その格好は…それに、一体何の話を…」
はやり「それじゃあいくよ。せーの…」ボソッ
菫「変身!」シャランラ
はやり「変身☆」キラリン☆
健夜「え…」
菫「人々の小さな幸せを踏みにじる風潮被害は許さない!純潔なる一輪の花!魔法少女シャープシューター☆スミレ!」
健夜「…」
はやり「お星様に変わって、お仕置きよ!キラキラ光るみんなのアイドル!魔法少女マジカル☆はやりん!」
健夜「…」
菫はやり「「二人は!シューティグ☆スター魔法少女隊!!」」
健夜「…」
菫はやり「「悪い風潮被害は、ポイポイのポイー!」」ビシッ
健夜「…」
菫はやり「「…」」ドヤァ
健夜「いや、特に姿変わってないよね!?むしろ最初っから変身後みたいな格好してきたよね!?」ビクッ
健夜「っていうか、何しに来たんですか貴女達は!!」
はやり「私としては、もうちょっと口上までに溜めを作った方が…」
仁美「帰りたい」
健夜「しかも速攻で反省会もみたいなのしてるし!?」
菫「…っと、そうでした。今はこんなことをしている場面ではなかった」スッ
はやり「あ、うん。そうだよね。てへぺろ」
健夜「もういい加減そろそろきついです!瑞原プロ!」
菫「…」パタン…ガチャガチャ
健夜「なんでさり気なく入り口のドアの鍵かけてるの!?」
菫「仁美。人が近くに来たら声かけろ」
はやり「一応防音の結界と人払いの魔法はかけておくから…」
健夜「な、なに…何が始まるの…」カタカタ
菫「小鍛治プロ。これより浄化作業に入ります。なるべく苦しまないように努力いたしますので、抵抗はされない方が懸命かと」ジリジリ
はやり「大丈夫。ちょっと苦しかったり痛かったりするけど、目が覚めた後にはもう記憶とか抜け落ちてるから…」
健夜「怖いよ!?不安だらけだよ!?」
健夜(なんか拳鳴らしてるし)
はやり「菫ちゃん、一人でやってみる?」
菫「そうですね」
健夜「何を!?」
菫「では、申し訳ありませんが…」スタスタ
健夜「ちょ…ちょっと…ホント、なんなの…」オロオロ
菫「んー…効率良く且つ格好良く相手を無力化する技は…」ブツブツ
健夜「や…ちょ、やだ、やめて、来ないで…」ブルブル
菫「よし、決めた。マジカル☆ボーアンドアローで」
※参考画像
健夜「超地味かつ肉体派!?」
菫「すみません。これも仕事なんです。被害は未然に防げるに越したことがありませんし」ジリッ
健夜「ちょ…」タジッ
菫「本当はこんな事やりたくないんですが」ウキウキ
健夜「だったらなんでそんな嬉しそうなの!」
健夜「や、やめて!今日私服のワンピースなんだからそんな技かけられたら…」
菫「引っ掴んで引きずり倒すっ!」ブンッ
健夜「いやああ!?」ドサッ
菫「ふんっ!」メキメキッ
健夜「いたああああああああああ!!?」ボキグキグキッ
菫「はっはっはー」ユサユサ
健夜「あががが」メシメシメシ
仁美「おーおー。効いとる効いとる」
はやり「頑張れ菫ちゃーん!」キャッキャ
菫「がんばりますよー!」ユッサユッサ
健夜「あ、あふ…ケホ…」
はやり「そういえば」チラッ
仁美「うん?」
はやり「あの子の風潮被害ってなんだったの?」
健夜「は…あ…あう…たすけ…こー…ちゃ…」
仁美「ああ」
菫「んー。なかなか落ちませんね。小鍛治プロ、早く落ちないと大変な目に合いますよ」ギシギシ
健夜「こ…ちゃ…」ビクッビクッ
仁美「あれは」
菫「まあ…その、突如降って湧いた理不尽な暴力に対する怒りと絶望と諦観に満ちた怯えた小動物の目も…嫌いじゃないですがっ!」ギチッ!
健夜「はぐっ!?」
はやり「うん」
菫「けど…可愛すぎて、私、歯止めが効かなくなってしまいそうです」ギチギチ…
健夜「…」ビクビクビクッ!
仁美「未然に防げたからまだ兆候くらいしか見えてなかったけど」
菫「…ん?」
はやり「うん」
健夜「…」ガクガクガク
健夜「…」ドサリ
菫「…調子に乗ってやり過ぎてしまった。一応退治、完了…です」
はやり「…お疲れ。それは…なんていうか、私達の年代にとっては究極に恐ろしい風潮の1つ…だね」
菫「…も、申し訳ありません小鍛治プロ…って、気絶してるよな…」
仁美「よくやった。では誰かに見つかる前にさっさとずらかるばい」
はやり「お疲れ様。今後も今回みたいに早期解決できれば楽なんだけどね。…そろそろ時間も無いし、アフターケアは勘弁してもらおうか。一旦私の楽屋に戻ろう」
菫「…ふう」
仁美「チュー…」
菫「何飲んで…ああ、自販機の紙パックか。好きだな。カフェオレ」
仁美「ん」チュー
菫「はやりんも仕事に行ってしまったし」
仁美「仕事終わりにファミレスば行くんだっけか?」
菫「ああ。祝勝記念に奢ってくれるらしいぞ」
仁美「よっしゃ」
菫「ふふ…なんだか、好き放題暴れてそのご褒美っていうのも、なんだか妙な感じもするが…」
仁美「…チュー…」
菫「…そういえばお前、あれだけ嫌がってた割に今回意外とおとなしかったな。なんだかんだ弁えてるしサポートとしては…」
仁美「…」ビクッ
菫「有能…ん?」
仁美「…」サッ
仁美「メ、メヘ…」ダラダラ
菫「何故冷や汗をかく」ジーーーー
仁美「え、えっと…」ダラダラダラ
菫「…」
ダダダダ
はやり「大変だよ二人共!!」
菫「はやりん!?」
仁美「…」
はやり「大変大変大変なんだから!」
菫「お、落ち着いて下さい!一体に何が…」
仁美「…」ソーッ
はやり「さっき、なんだかスタジオをこそこそ見回ってるスタッフの人が居てね!」
菫「…はあ」
はやり「怪しいんで声掛けて事情をこっそり聞いてみたら、なんとさっきテレビ局に爆弾を仕掛けたって言う犯行声明が!!」
菫「…」チラッ
仁美「…」カサカサ
はやり「なんでも、『コノ国ノ腐敗ノ根源タル貴様等マスゴミニ天誅ヲ下ス』って…」
菫「…」ガシッ
仁美「!?」ジタバタ
菫(まさか、最初にジュースを見咎められてどっか行った時か…まさかまさか、あそこで見咎められたのすらコイツ、計算ずくか)
はやり「怖いよねー…私達魔法少女も、風潮被害が噛んでないと流石に手を出しにくいし…」
菫「…悪戯なのでは?」ハァ
はやり「私もそうだとは思うけど…けど、最近ほら、マスコミに対する嫌がらせとかも多いし、みんなこういうのにピリピリしてるんだ」
仁美「ククク…ザマア反日組織め。怯えるが良い。貴様らが敵に回した救国レジスタンス、我ら『ネトウヨ』の見えざる影に…」ボソボソ
菫(こいつは…)
はやり「と、とにかく!万が一の事があったら事だし、閲覧の人達はもう大体帰ってたけど、関係者以外は早急に避難を…」
菫「…」
仁美「メッヒヒヒ…ざまあ。ざまあ。帰った後の2chが楽しみばい…」ニヤニヤ
菫《おい羊》 (←念話)
仁美《し、知らんし!うち何のことだかさっぱりわからんたい!》
菫《本当に仕掛けてはいないんだな?あ?答えろよ殺すぞ》
仁美《…お、おう。仕掛けてません》
菫「…」
仁美《…あ、あの…》
菫「…はあ」
はやり「ね、だから二人共。申し訳ないんだけど、祝勝会はまた今度にして…」
菫《お前なぁ…》
仁美《れ、連帯責任…》
菫《脅すな。…くっそ…だが、ここでお前突き出したら公開収録に招待したはやりんまで責任追及されるだろうし…》
仁美《まあ、それは考えた》
菫《悪魔の知恵かお前は!》
菫《あああああ!もうっ!分かったよ!今回だけは知らなかったことにしてやる!!》
仁美「…ふひ」
菫(寧ろやっぱ悪だコイツ!)
菫(ああああああああ!!!)
菫(勝ったのに大負けした気分だ!!)
第七話
「アラフォーと読んでる時点でもう色々終わってる婚活雑誌」 終わり
奈良・阿知賀
菫「…ふう。やっと着いたか」
仁美「メエー…」
菫「朝に出て、もう昼近くだ。宿に行く前に、どこかで昼食でも摂るか?」
仁美「そーだなー。腹減ったばい」
菫「ん。それじゃあ適当にファミレスでも…って、何もないな、ここ」
仁美「この間の鹿児島よりど田舎…」
菫「どうする?」
仁美「仕方なか…やっぱ宿まで行って、近所で食事できるとこ聞こうか」
菫「ん…」
仁美「なんだっけか?宿の名前」
菫「ああ、ちょっと待て。今住所書いた手帳を確認するから…」
仁美「…」
菫「ああ。あったあった」
菫「松実館だ」
仁美「松実館かー。なんか高そうな名前やね」
菫「そうだな。向こうで調べたが、ネットでも評判は上々だった」
仁美「そりゃあ楽しみばい」
菫「しかし、幾ら複数の風潮被害が確認されたとは言え、土日を利用するために宿まで手配してくれるなんて…」
仁美「またはやりんが金出してくれたんだって?魔法少女になって良かったことの1つは、ただで色んな土地に行けることやね」
菫「遊びでやってるんじゃないんだぞ。はやりんはついでに楽しむのも大事と言ってくれたが…」
仁美「まあええやんええやん。…はやりんは遅れてくるんやったっけ?」
菫「軽いなぁ…お前は。…ああ。今日の夜にこっちに着くそうだ。…はあ」
仁美「またそうやって溜息吐いて…仕方なかろう。うちら学生やもん」
菫「うう…心苦しい。早く稼げるようになって恩返しをしなくては…」
仁美「あの人に返せるくらいっち言うたら、相当稼げるようにならんとな」メッヘッヘ
菫「…まあ、精進するさ。大学に行ったら、バイトだって出来るし…」
仁美「進学かー。何処受けるかもう決めてるん?」
菫「ああ。もう秋だしな。だが、幾つか貰ってる推薦のお誘いのうち、実はまだ数校のうちで悩んでるんだ…」
菫「そういえば、お前はどうするんだ?進学とか、就職とか…」
仁美「ん?んー。そうやねー」
菫「ああ」
仁美「どーすっかねぇ」
菫「おい…」
仁美「メハハハハ」
菫「笑い事じゃないぞ?もし推薦無いなら進学するなら早めに準備も必要だろうし、就職するにしてもだな…」
仁美「…っと」ピタッ
菫「…なんだよ。どうしたいきなり立ち止まって」
仁美「ほれ、横見てみ」
菫「ん?」チラッ
仁美「いつの間にか着いとるばい」
菫「…おお」
菫「ここが松実館か」
玄「いらっしゃいませ!ようこそ松実館へ!」
菫「…へ?」
仁美「おおう」
玄「え?あっ!うわわ」
菫「君は…」
仁美「確か、阿知賀女子の…」
玄「ま、松実玄です!お久しぶりです!」ペコリン
菫「驚いたな…そういえば、ここは阿知賀で君は実家が旅館だと実況が言っていたものな。今思い出したよ」
玄「ま、まさかお客様として白糸台の弘世さんと新道寺の江崎さんがお越しになられるとは…」
菫「なんだ?私達の名前は聞いてなかったのか?」
玄「はい。お父さんに、私と同年代のお客様がお目見えになられるのでご挨拶するようにとしか…」
菫「へえ…実家の手伝い、しっかりやってるんだな。尊敬するよ」
玄「えへへ…」
菫「ところで、ちょっと早いがチェックインはもう大丈夫かな?」
菫「いや、別に謝らなくても…」
玄「えーっと…二名様でしたっけ?」
菫「ああ。取り敢えずはね。今晩遅くにもう一人。その人だけは外で食べてくるので夕飯は要らないよ」
玄「かこまりました!」ビシッ
仁美「敬礼っち…」
菫「ははは…」
玄「それではお部屋にご案内しますね。お荷物お預かりしますが」
菫「いや、大丈夫だよ。結構重いし、自分で持っていくさ」
仁美「うちも」
玄「あ、そ、そうですか…」シュン
菫「…」
玄「みゅー…」ショボーン
仁美「…」
菫「…気が変わった。じゃあ、このボストンバッグの半分だけ持ってくれるかな」
玄「はい!おまかせあれ!」
菫(一生懸命で素直な子だなぁ…)
菫「あ、そうだ」
玄「それじゃあ私こっち持ちますねー…はい?」
菫「そういえば」
玄「よいっしょ…はい!なんでしょう!」ヒョイッ
菫「君のお姉さんは今どちらに?」
仁美「プッ」
玄「?」キョトン
菫(…なんて言うか)
仁美「ククク…」
菫「…いや、もし此方に居るのなら、後で挨拶にでもと」ゴチン
仁美「メッヘ!?」
菫(あの子は…インターハイで中々痛い目合わされてるんでちょっと苦手なんだが)
菫「あ、ああ…」
玄「おねえ…姉は、今日は学校で赤土…うちの顧問とちょっとお話をしていまして」
菫「そうなのか」
玄「はい。なんでも、進路についてちょっと相談したいことがあるらしくって」
菫「ふーん…」
玄「後で帰ってきたら、姉からご挨拶に伺わせますので」
菫「ああ、ありがとう。お構いなく…すまない。それと質問ついでにもう一つ」
玄「はい?」
菫「この辺で、どこか手頃な食堂は無いかな」
玄「ああ、それでしたら…」
玄「…」
玄「…あっ!またお客さんだ!」
玄「いらっしゃいませ!ようこそ松実館…!!!?」
玄「…」ポヘー
玄「…あ、ああ。すみません。大丈夫です。ちょっとボーっとしちゃっただけですので…」
玄「えっと、二名様でよろしいですね?」
玄「はい!もうチェックインは大丈夫ですよ。この名簿に名前を書いていただいて…はい!」
玄「…え?どうしました?」
玄「…?なんだか嬉しそうですけど…」
玄「…あ、はい!ご案内します!」
玄「どうぞごゆっくりー」パタン
玄「…ほえー」キラキラ
玄「ものすっごいおもち…」ワキワキ
仁美「ふー。美味かった美味かった」
菫「…」
仁美「ジンギスカン定食」
菫「だから何故そのチョイスを…」ゲンナリ
仁美「メヘ?」
菫「…なんでもない」
仁美「お、おう。さってー。それじゃあ、これからどーすっかねー」
菫「そうだな…荷物も置いてきたし、このまま風潮被害者の探索に出るとしようか。まだ反応が薄くてお前でも察知し切れないんだろう?」
仁美「ん」
菫「そこで前回のように事前に当たりを付けて、あわよくば未然に防げるように、まずは一番可能性の高い麻雀部のある所を探してみようと思っているのだが…」
仁美「ん?」
菫「この辺、麻雀部のある学校は二つあるらしい」
仁美「ほう。調べてきとるねぇ」
菫「当たり前だ。こういう時、時間は有意義に使わねば。…話を続けるぞ」
菫「一つは、松実姉妹も属す阿知賀女子。但しこちらは部員数も少なく、部の中心人物の一角であろう姉妹の妹が家に居た事からも今日は休みの可能性が高い」
仁美「おう」
菫「もう一つは、奈良一番の名門、晩成高校。調べたところによると、この辺で麻雀をやる人間はほとんどここに行くらしい」
仁美「ほー」
菫「当然、部員数も圧倒的に多く、確率的にも風潮被害者に当たる確率は高い」
仁美「なら」
菫「ああ。流石に全員と会うことは不可能かもしれないが…それでも、訪ねて見る価値があるのはこっちだろう」
仁美「よっし。そうと決まったら…」
菫「早速行こう」
仁美「…待った」
菫「ん?」
仁美「…その前にちょっと」
菫「どうした?」
仁美「…やっべ。今、なんか感じた。もうすぐ誰か一人暴走するぞ」
仁美「反応が小さすぎて今まで気付けんかった。そんなに強い奴じゃなかぞ。それにここから近い。こげん感知から暴走までん間の短かとは…」
菫「くっ…!どこだ!?」
仁美「あっちたい!!」
菫「変身!人々の小さな幸せを踏みにじる風潮被害は…」シャランラ
仁美「うるさい!急げ!」
菫「…わかったよ」ショボン
仁美「えーっと、こん感じだとここから1~2kmくらいだっち思うばってん…」
菫「じゃあお前背負ってくからナビしろ!」ヒョイッ
仁美「うおっ!?わーかったわかった!じゃあまずあっち!」
菫「応!!」ダッ
仁美「この反応は…うーん…」
菫「どんな風潮被害だ!」
仁美「…んー?なんだこれ、わけわからん」
菫「何だ!」
菫「…は?」
仁美「…あと、Tシャツの胸のアライグマが意思を持ってるっち風潮」
菫「…」
仁美「…」
菫「訳わからん」
仁美「うん」
菫「…とにかく、現場行くか」
仁美「ん」
タタタタタ…
灼「…誰?」
菫「…君か」ハァ
仁美「きっ!貴様はーーー!」キシャーー!!
灼「あ…白糸台と真道寺の…」
菫「弘世菫だ」
仁美「グルルルル」
菫「そして、こちらが三年生なのに準決勝で君に稼ぎ負けた戦犯の九州羊」
仁美「おい!おまえもマイナスやったろうが!!」
菫「な…!なんだやる気かお前!」
灼「えーっと…」
菫「おっと、すまない」
仁美「くっ…!この暴君魔法少女め…」
灼「その、なんで二人がうちに…来てるのかがよくわからない…です」
菫「…」チラッ
菫(本当にTシャツの柄がアライグマだ…)
仁美《おい。もうこいつ暴走しとるぞ》
菫《何!?》
灼「…何しに来たの」
菫《どういう事だ?彼女、一見何の変哲もない感じだが…》
菫「…ちょっと聞いても良いかな?」
灼「え?あ…はあ。答えれることなら」
菫「そのシャツ、いつどこで買ったか覚えているかい?」
灼「あ、このシャツ…ですか?ふふ…可愛いでしょ。今年の夏おばあちゃんがジャスコで買ってきてくれたんです。ハイカラで灼にピッタリだって…」
仁美《おい!風潮被害に虚飾有りだぞ!こいつハイカラの意味わかっとらん!》
菫《そもそもこれは…なんだろう。うーん…被害って言うか…被害なんだろうけど…》
仁美《どうする?ボコるか?いつもみたく、さながら有言実行の北朝鮮のように》
菫《お前後で無慈悲な制裁な》
灼「えへへ…けど、なんだか嬉しいな。都会に住んでてしかもこんな美人な人に着てるものをどこで売ってかって聞かれるだなんて…」
菫「…」キュン
仁美《穢れとらんなー。お前と違って》
菫《…ぐ、浄化されるところだった》
仁美《さて、どうしたもんか…》
菫《放っておいて良いじゃないか?これは》
仁美《んー…》
菫《特に実害も無さそうだし…》
仁美《けど、どげんかして退治しとうしなー》
菫《なあ、いいだろ?なんだか流石にこの子を傷付けるのは、人としてやってはいけないような…》
仁美「…」
灼「…ね、たぬタンもそう思うでしょ?」
菫「…へ?」
仁美「…メ?」
狸「ソウデスネ。アラタサン」
仁美「メエエエエエエエエエ!!?」
灼「あ、いけない…つい」
アライグマ「ドンマイデス。アラタサン。間違ッテ上デ狸ッテ書イチャッタノモ、ドンマイ」
菫「ど根性ガエルのラスカルバージョンかお前は!!」
仁美「よく見たら目が怖い!?当然たい!奴は凶暴にして残虐な雑食獣!日本生態学会によって日本の侵略的外来種ワースト100のひとつに選定されとる凶悪な生物ばい!!」
アライグマ「アラタサン、オハダツルツルスベスベ、アッタカイ…」
灼「ふふ…たぬタンも。綿100%で生地厚なのに柔らかく、ゆったりした着心地。こういった暖かい緩やかなオフの日には、日中なら秋でもたぬタン一枚で過ごせちゃうよ…」
アライグマ「アラタサン…アラタサン…アラタサン…ハァ…ハァ…ハァ…」
灼「あん…くすぐったい…衣擦れ…やだ…えっち…」モジモジ
アライグマ「フヒヒヒ…アラタサンノ、乳臭イ体臭クンカクンカスーハースーハー」
菫「しかも淫獣だった!!」
仁美「流石外道よ…毎年日本だけで3億近い農業被害を出しているだけはある」
菫「これは…やはり滅ぼすべきだな。主にシャツの方を」
仁美「異議なし」
灼「…え?」ビクッ
菫「すまないね、君」ジリッ
灼「え…」
菫「そのシャツ…大切なものなんだろうが、破壊させてもらう」
灼「あ、あの…」
アライグマ「スーハースーハースーハー」
菫「この期に及んでまだ深呼吸してるし…」
灼「ちょ…やめ…誰か、あ、あれ…もがっ?」
菫「ちょっと二人で誰も居ないところに行こうか…」
仁美「ククク…催眠術による隠蔽は任せろー。客少ないし楽勝ばい」
灼「もがー!」
菫「大丈夫…苦しいのは一瞬だから」
灼「もがっ!もぐー!」ジタバタ
菫「力も大した強くないな。これなら簡単に退治できそうだ」
菫「さて…」ドサッ
灼「や、やだ…助けてたぬタン…」
菫「そのシャツ、ビリビリに破かせてもらおうか!!」ビリビリー
アライグマ「ア、アラタサーーーーン!!」ビリビリー
灼「いやああああああああああああああああああ!!!?」
仁美(おお、流石魔法少女。素手で半紙破るが如くシャツ引き裂いとる)
灼「たぬターーーーーン!!」
菫「この淫獣が!!可愛い見た目笠に着て主人の肌に密着して好き放題やりやがって!キモいんだよ!死ね!!」ビリビリー
アライグマ「ヌワアアアアアアアアアアアアアア!!!」
菫「細切れにしてやるー!!」ビリビリビリー
灼「たぬターーーーーーーーーーン!!!」
アライグマ「モットノノシッテエエエエエエエエ!!」
菫「…」
仁美「…ノーブラだったか。周りにシャツの残骸散らばって、なんかレイプされた後みたくなっとる」
灼「ううう…たぬ…たぬタン…」シクシク
菫「…と、取り敢えず、ついでだし絞め落としとくか?」
仁美「やっとけやっとけ。暴走した後の記憶消しとけ」
菫「なんか、どんどん取り返しのつかないことしてるような気がしてきた…」ミシッ
灼「あうっ!?」
菫「…」ギリギリ
仁美「今回はシンプルにスリーパーやね」
灼「かは…うう…」ジタバタ
菫「早く落ちろ…」ギリギリ
灼「うううう…う…あう…けほっ…」
菫「…ここ最近ずっと後味悪いなぁ…」ギリギリ
灼「あ…あああ…た、たすけ…」
菫「…」
仁美「ご苦労」
菫「…自宅の裏とは言え、半裸で気絶したまま放置はヤバイ。絶対にヤバイ」
仁美「ならどうする?」
菫「…はあ」
仁美「…」
菫「…ちょっと頑張ってみる」
仁美「ん?」
灼「…ん」ムクッ
灼「…あれ?ここ…」キョロキョロ
灼「家の裏?いつのまに出たっけ…しかも寝ちゃってたし」
灼「…」ブルッ
灼「…さむ」
灼「流石に秋風は冷えるなぁ」
灼「シャツ一枚じゃ、もう限界だね…」スタスタ
灼「…あれ?」
灼「なんか、このアライグマ、ちょっといつもと表情違うような…」
灼「…馬鹿らし。そんなわけないか」
ヒューー
灼「…早く中に入ろう。店番の続きしなきゃ」スタスタ
菫「…疲れた。魔法使いたい…」グダーー
仁美「…力技やね。ビリビリに破いたシャツ、魔法少女の身体能力と集中力で自力で縫合とか…」
仁美「メエー」
菫「…で、はやりんが来た頃に起きてまた魔法少女談義するんだ」
仁美「…げっ」
菫「松美館戻るぞー」
宥「ただいま玄ちゃん」ブルブル
玄「うん。お帰り、お姉ちゃん…」ユラリ
宥「?」ブルブル
玄「お姉ちゃん、後でお客さんに挨拶行ってあげて。白糸台の弘世菫さんが泊まりに来てるの。今出かけてるけど」
宥「え?そうなの?インハイで対戦した…うん、わかった。じゃあ後で挨拶してくるね」
玄「…おもち」ボソッ
宥「え?」ブルブル
玄「じゃあ、私はこれで…」スタスタ
宥「…」
宥「…玄ちゃん?」
バタン
玄「…」
玄「おもち…」
第八話
「こけし灼と淫獣アライグマ」 終わり
菫「…ふう。あったまる…」チャポン
仁美「…」ワシワシワシワシ
菫「大変そうだな仁美。その…なんだ。巻き毛」
仁美「くせっ毛たい。ストパー掛けても3日で戻る」
菫「本当、羊毛みたいだ…」
仁美「くぬくぬ…」ワッシャワッシャ
菫「あんまり乱暴に扱うなよ。痛むぞ…」
仁美「ぐぬぬぬ…」ワシワシワシ
菫「それにしても…ふぅ~…」
仁美「なんぞ婆臭い」ワッシャワッシャ
菫「いや…広い風呂は久しぶりだなと…」
仁美「ん。まあ、おまえの寮の風呂に比べたらな」ワシワシワシ
菫「あ~…いいなぁ。広い風呂。東京でもたまには照達誘ってスーパー銭湯とか行くかー」ノビーー
仁美「好きにせー」ザバーーー
仁美「おまえの髪質羨ましかー!うちより長いのに余裕で早く洗い終わっとるし!」ケッ
菫「ははは…」グテー
仁美「随分緩んどるなぁ」チャプッ
菫「ああー…身体が暖まるー」
仁美「おまえいっつも張り詰めとうからなあ。こういうとこでやっと緊張緩むタイプか」
菫「ん…まあ、ここのところ色々ストレスも溜まってたし。…主にお前のせいで」ジトッ
仁美「メッヘッヘ」
菫「風呂上がったら食事か。楽しみだ…」
仁美「うちも腹減ったばーい」グテー
菫「おー」グテー
仁美「他に人おらんち、貸切状態ええねー」
菫「そうだなぁ。今はシーズンも微妙にズレてるらしく、客が全然居ないらしいし」
仁美「今泊まっとるの、他に一組だけやったっけ?」
菫「ああ、らしいなー。まだ会ってないけど」
菫「ん?」
仁美「泳ぎたくなるばいね」
菫「やめい」
仁美「メッヘヘヘ…」バシャバシャ
菫「あっ!こら!行儀の悪い…ぶっ!おい!顔にお湯がかか…おい!!」
仁美「」バシャバシャ
菫「ぶふっ!?この…!しかも犬かきか!羊のくせに!」
仁美「メハハハハハ!!」バシャバシャバシャ
菫「うがっ!?お前わざとバタ足で私に飛沫浴びせてるな!?いい加減に…」ザバッ
「あら、広くて素敵ねぇ。ここの温泉」ガラガラッ
「…」
菫「…っ!おい、人来たぞ!マジで止めろ!」ヒソヒソ
仁美「…おっととと」チャポン
菫「…ったくこいつは…」
「…」
菫「…ん?」
菫(この声…何処かで聞いたことがあるような)
「うふふ…そう。いやねぇ。まさかこのタイミングで会っちゃうなんて…」
菫(なんて言うか、物凄くムカツク声…)
仁美「…おい、菫」タラリ
「失敗したわぁ。着替えが何処に置いてあったのか気付かなかったんだもの。知ってればゴミ箱にぶち込んでおいてあげたのに」クスクス
菫(それと、湯けむりで姿が隠れてるが、それでも分かる糞特徴的なボディライン…)
仁美「これちょっとヤバくなかとか」
菫(うるさい。わかってる)
「…え?…何?流石にやり過ぎ?」
仁美「おい。菫。ここは戦略的撤退をだな…」グイグイ
菫「…」
「…も、勿論冗談よ…冗談ですから…」
仁美「おい!菫!」ヒソヒソ
菫「うるさい。女にはな。分かってても退けない事ってあるんだ」
仁美「こんの阿呆…」ハァ
菫「第一、今更どうやって逃げんだよ」
仁美「…ブクブク」
菫(潜水しやがったこいつ)
霞「うふふふふ。相変わらず性格悪そうな顔してるわね?お久しぶり。弘世菫」
菫「…そっちこそ、婆臭さが相変わらずで何よりだ。石戸霞」
霞「うふ♪」ニコッ
菫「…ちっ」ギロッ
霞「お風呂ご一緒しても良いかしら?必然色んな所比べちゃうことになるし申し訳ないのだけど」ニコニコ
菫「ちゃんとその加齢臭漂う身体洗浄してから湯船入れよ」
霞「…」ゴゴゴゴゴ
菫「…」ドドドドド
霞「…」ゴシゴシゴシ
菫「…」グテー
仁美「…」プカー
菫(連中が身体洗いに行ったら浮上してきやがった)
仁美「おい。菫」ヒソヒソ
菫「なんだ羊」グテー
仁美「大物ぶって緩んどる場合か。今の内にあがるぞ」
菫「やだ」ツーーン
仁美「このアホ…」ワナワナ
菫「なんで私が逃げるように出ていかなきゃならないんだ。私は長風呂なんだ」グテー
仁美「強情っぱりも大概にせーよと…」ハァ
霞「あら。いいのよ?別に。どの道こんな素敵なリラックス出来る空間で弱い者いじめなんてするつもり無いし」クスクス
菫「へえ…」ビキッ!
仁美(お前ら来た時点でここはもう極上のストレス空間ばい…)ガックリ
菫「大体なんでお前らが居るんだ」
霞「あら、それはこっちの台詞だわ。なんで東京者が奈良くんだりまで」
菫「…分かってるくせに」
霞「そっちこそ」クスクス
菫「…はー」
霞「くすくす…」
菫「…潮被害だよ。はやりんも夜中には来る」
霞「あら、瑞原プロも?だったら挨拶しておかなきゃ。以前は危ない所で風潮被害から救って頂いた恩もあるし」
菫「…ああ。そういえばお前そうだったらしいな」
霞「…」
菫「…暴走ねえ」
霞「…」
菫「ま、大変だったんだろうから、ご苦労さんって言っておいてやるよ」
霞「…」
菫「ま、私はする前に魔法少女になったけどな」フフン
霞「…」
菫「…んーーーーっ!」ノビーーー
霞「…」
菫「…ふう」グテー
仁美「…ブクブクブク」
菫(何潜水と浮上繰り返してんだこいつ)
霞「そうね。暴走、しんどかったわね」
菫「あ?」
霞「…いっそ死んでしまいたかったほどに」ボソッ
菫「…」
霞「…」
美子「…」
仁美「…」プカーーッ
霞「それにしても、瑞原プロも大変ねぇ」
菫「ん?」
霞「育成枠だか知らないけど、わざわざこんな才能無しのために色々動いたりして」クスクス
菫「ああ?」ギロッ
霞「才能ないんだから、危ない目に合う前に自分でバイブでも突っ込んでさっさと引退しちゃえばいいのに」バシャァ
菫「なんだと?」ザバァ
霞「…ふう。美子ちゃん、先に湯船行ってますからね」
美子「」コクコク
菫「やっぱり喧嘩売ってるだろお前」
霞「何が?」
菫「傲慢な糞女が」
霞「ふふ…身の程知らずの馬鹿女に言われたくないわね」チャプッ
霞「…ふう。いいお湯」
仁美「…」ビクビク
霞「…何よ。全裸で湯船に仁王立ちなんかしちゃって。はしたない」
菫「っ!」チャプンッ!!
菫「…ブクブク」
霞「…呆れるわ。今度は口元まで浸かるのね」
菫「…」
霞「子供っぽいわぁ。…餓鬼」クスクス
菫「…」スッ…
霞「?」
菫「喰らえ」ピューーーッ
霞「きゃっ!?」
仁美(やりおった。水鉄砲とか…)
霞「ちょ、やめなさ…わぷぷっ!?」ワタワタ
菫「ほらほらほら。口開けたらお湯入るぞー」ピューーーーッ
霞「はぷっ!んぐっ!こ、この糞餓鬼…きゃっ!?」コケッ
霞「ガボガボ」
霞「何するの!!」ザバーーーン!!
菫「やっぱり思ったとおりだ。お前、あれだな。変身したら強いが、変身前は運動音痴だ。それを確認したかったんだよ」フフン
霞「この…!!人が下手に出てれば!調子に乗るのも大概になさいよ!?」
菫「何処が下手だった!なんだ!?やるか!!?」
霞「変身さえすれば貴女なんか…!」ワナワナ
仁美「ちょ…!こら!おい菫!」
菫「上等だ!なんなら文字通り今ここでお前を風呂に沈めてやろうか!」
霞「あはははは!!言ったわね!?良いわ!それじゃあここでこの間の続きしましょうか!『阿知賀松実館拷問殺人事件 羊は見た!湯船に沈む菫の花は最初から枯れていた』今から2時間たっぷりロードショーしてやるわよ!!」
菫「なんだとこの奇乳がコラァ!!」
霞「目付き悪いのよ貴女!!」
仁美「ちょ…!お、おい…!!」
菫霞「「ぶっころ…!!」」
仁美(いかんいかんいかん!?こうなったらもう巻き込まれる前に逃げるしか…)
仁美「!?」
仁美(美子!?狂犬共に洗面器に汲んだお湯ぶっかけた!?)
菫霞「「…」」
美子「…」スッ
菫「…」ポコン
霞「…」ポコン
仁美(しかも追撃に洗面器の腹で頭殴っただとぉ!!?)
美子「…」チャプン
菫「…」ビショビショ
霞「…」ビショビショ
美子「…」キュー…
菫「…」ポタポタ
霞「…」ポタポタ
美子「…マナー違反」ボソッ
菫「…」
霞「…」
仁美「あわわわ」オロオロ
菫霞「「…すみませんでした」」ブクブク
仁美(収まった!!)
仁美「~ったく、お前はだなぁ…どうしてこう、喧嘩っ早いっていうか、肝心なところで我慢をしないっていうか…」グチグチ
菫「…はい。はい。反省してます」
仁美「あそこで万が一バトルファイトになってたらどう考えてもなぶり殺しばい。どうせ戦うにしても、もっとこう、搦め手をだなぁ。例えば寝込みを襲うとか」
菫「それじゃあ勝った気にならないから却下だ。それに私のプライドが許さないし」プイッ
仁美「はぁ~…」
菫「…悪かったよ。久しぶりに奴の顔見てつい頭に血が昇ってしまったんだ」
仁美「ホントに勘弁してくれ。どうせバンザイアタックするにしても、うち居ないところで頼むわ…」
菫「…以後気を付ける」
仁美「いまいち信用ならんなぁ…」
菫「…今回ばかりは返す口もない」
仁美「それって約束破る気満々って事じゃ…いや、まあええわ。向こうこそ美子にがっつり絞られとるやろうし」
菫「なんか変な迫力有って逆らえなかったなぁ」
仁美「昔からあいつ、怒ったら部で一番怖かったばい」
菫「そうか。お前あの子とチームメイトだったな」
菫「なのにお前この間彼女人質に…」
仁美「ま、まああれは緊急事態だったし!?」
菫「…」
仁美「そ、それより夕飯たい!いい加減腹減って仕方なか~!」
菫「…まあ、私も確かに空腹ではあるが」
仁美「…食堂でアイツらと4人で食うのは気まずかな~」
菫「私は別に」
仁美「うちと美子が気まずかな~」
菫「…分かったよ。確か、部屋まで配膳してくれるんだっけ?松実さんに頼んでくるから」スクッ
仁美「んー」
コンコン
菫「ん?」
仁美「お。誰か来たか?はやりんにしては早すぎる気がするが…」
菫「はいー。開いてますがー」
スーーッ
菫「!」
宥「こ、こんばんわ~」カタカタ
菫「君は…」
宥「本日は当松実館をご利用頂きありがとうございます~」カタカタカタ
仁美「相変わらず寒そうな…」
宥「お久しぶりです。松実宥です~…カタカタ
菫「あ、ああ。お久しぶりです。弘世菫です…」
仁美「江崎仁美たい」
宥「先程妹からお二人がお越しくださったと聞き及んだものですから~」カタカタ
菫「あ、ああ…取り敢えず中に入ったらどうだい?この季節の夜は廊下も冷えるだろうし…」
仁美「なんか今にも凍死しそうばい。冬どうやって生きとるん?」
宥「なんだかすみません…」カタカタ
菫「え、エアコン入れようか。暖房で…」ピッピッ
菫「いや。その…。まあ、こっちも寒かったからな。気にしないでおくれ」
仁美「ところで、なんか用事でもあったんと?」
宥「あ、そうでした」ポン
宥「一つはお二人へのご挨拶のつもりだったんですけど、もう一つは、お食事をどちらで召し上がられるのかを伺おうかと」カタカタ
菫「それは助かるよ。ちょうど今からそれを伝えに行こうかと思っていたところなんだ」
宥「そうだったんですか?」
菫「ああ。部屋で食事をさせて貰えないかと…」
宥「畏まりました~」ニコッ
菫「ありがとう」
宥「では、もう一組のお客様のところにもご挨拶と、同じ要件がありますので失礼しますね」スクッ
菫「わかったよ」
仁美「どーもね~」
宥「それでは~」トテトテ
スーーーッ…パタン
宥「…あ、いけない。忘れてた。混ぜご飯と白いご飯があるけど、どっちが良いか聞くように言われてたんだった」
宥「申し訳ないけど、もう一回…」スッ
「…さて、それじゃあ食事まで暇だし明日の風潮被害者捜索の話でもしていようか…」ボソボソ
宥「…え?」
「メェー?お前とことん真面目やな~。そんなのはやりん来てからでええやろ」ボソボソ
宥「風潮被害…?」
宥「…」ソッ
宥(盗み聞きみたいで申し訳ないけど…)ピトッ
「何言ってるんだ不真面目羊。いいか?私達は魔法少女とそのマスコットして一刻でも早く風潮被害者をだな…」
宥「…」
「わーかったわかった。それじゃあちょっとだけなちょっとだけ。メェー…早くご飯来ないかな」
「こら!」
宥「…」
菫「…で、私はやはり明日こそ晩成高校にだな…って、おい羊」
仁美「…?」ジーッ
菫「…どうした?入口の方見たりして」
仁美「いや…なんか」
菫「誰かの気配でも感じたか?…はっ!まさかあの霞ババア私達の作戦の盗み聞きを…!!」タタタタ
菫「こらぁ!」ガラッ
菫「…」
菫「…」キョロキョロ
菫「…誰も居ないじゃないか」
仁美「…」
菫「…お前の勘違いだったんじゃないか?」パタン
仁美「…」
菫「さあ、話を続けるぞ。で、明日の午前中ははやりんと晩成高校に行って…」
仁美「…菫。話があるたい」
仁美「夕方こっちに帰ってきてから気付いたんやけど…」
菫「ああ」
仁美「松実姉妹」
菫「?」
仁美「あいつら、どっちか風潮被害者やぞ」
菫「!?」
第九話
「あったか温泉と狂犬魔法少女達」 終わり
宥「お待たせしましたー」ブルブル
菫「…」チラッ
仁美「…」フルフル
菫「…」
玄「…弘世さん?」
菫「ん?…ああ、すまない。ありがとう。ちょと考え事をしていてね」
玄「はえー」
宥「あったかいうちにどうぞ~」
仁美「おお、混ぜご飯!」
菫「…と、白いご飯もかい?ありがたいが、食べきれるかな…どちらかで良かったのに」
宥「…」
玄「おねーちゃん?」チラッ
宥「あ、え、えっと、う、うちはどっちも自慢ですので、お二人に両方味見してもらいたくて~」
玄「おお、なるほど!そういう事なのです!」
仁美「うち、どっちも食べきれるばい」
玄「おお~」
菫「食べ過ぎで腹壊すなよ?」
玄「万が一食べ過ぎてしまっても、お腹壊してもお薬ありますよー」
仁美「メヘッ!?」
菫「はははは…」
宥「…く、玄ちゃん!」
玄「?はいなのです?」
宥「つ、次!」
玄「んにゅ?」
宥「次、石戸さん達待たせてるから、行こ?」
玄「おお!そうでした!すみませんお二方!我々はお仕事の最中でしたので、これにて失礼をば!」
菫「あいつらか。ああ、あの石戸霞ってやつは今ダイエット中らしいからご飯減らしてやってくれ」
玄「そうだったんですか!ではそうしておきますね」ニコッ
菫「…駄目か?」
仁美「んん~…なんか、よくわからん」
菫「結構進行しているんだろう?」
仁美「もう暴走一歩手前やね。なんやけど…なんっつーか、二人がボヤけて見えるっつーか…」
菫「ボヤけて見える?」
仁美「二人が姉妹で近くに居るせいなんかね?まるでこう、風潮被害の気配が3D映画を肉眼で見たみたくダブってる感じばいね」
菫「それで、正体が掴めないと?」
仁美「こんなケース初めてよ…」
菫「うーん…困ったな。どちらかはほぼ確実だというのに、このままでは手を出せないのか」
仁美「いっそまとめてやっちまうか?」
菫「馬鹿。風潮被害者は感染時の記憶が消えるから良いかもしれないが、違う方はがっつり記憶に残るんだろう?」
仁美「ちっ…面倒な…」
菫「参ったな…霞の奴の方は大丈夫だろうな?多少の被害は目を瞑ってやったりしそうな女だし」
仁美「んな事しようとしたら美子がブチ切れるやろ」
仁美「それよりも、たい。うむむむ…さあ、どうするか…」
菫「…ふう。まあ、仕方ないか」
仁美「ん?」
菫「確実な方法は一個しか無いだろ」
仁美「…?っつーと?」
菫「簡単な事だよ」
仁美「??」
菫「暴走したら流石にわかるだろ」
仁美「…おおう。力でねじ伏せに来たか」
菫「気配ちゃんと探っておけよ。霞の奴に先んじて私が獲る。必ずな」
仁美「猟犬かお前は」
菫「…話はここまで。食べよう。…いただきます」ペコッ
菫「…モグモグ」
仁美「…はぁ~…なんでお前白糸台の部長やってこれたん?その脳筋で」
菫「ん」モグモグ
仁美「…いただきます」ペコッ
菫達の部屋
シーーーーン
菫「…」
仁美「…」
菫「…」
仁美「…」モゾッ
菫《動くな》
仁美「…」
菫「…」
仁美《…なあ》
菫《…なんだ》
仁美《…なんていうか、これでええんか?》
菫《何がだ》
仁美《何っち…結局やることと言うたら、電気消して布団潜って、寝たふりして待ち伏せ?》
菫「…」
仁美《さっきあんだけ威勢よく狩人みたいな事言っといて待ち伏せ型ハンティングかい》
菫《…どこかで反応があったら飛び起きて向かうさ》
仁美《じゃあなんでこんな事してんのうちら》
菫《ここは風潮被害者の、文字通りホームだろう?》
仁美「…」
菫《もしかしたら、どこかでこっそりこちらの様子を伺っているかもしれない》
仁美「…」
菫《もし私が風潮被害者なら、このタイミングで泊まりに来た若い女…魔法少女になりうる人間は、魔法少女だと疑うに決まってる》
仁美《…ふむ》
菫《だとしたら…暴走して力を得たら、勘付かれる前に直ぐに潰すのが上等だろう》
仁美《…つまり、隙を見せて炙り出すと?》
菫《上手くいくかはわからないがな。それでも何もしないよりは良いだろうさ》
仁美《布団気持良か~…》
菫《おい、寝るなよ。飽くまでもお前の感知が最良の手段なんだからな》
菫《おい。叩き起こすぞ》
仁美《五分だけ休憩…》
菫《こいつ…いい加減に…!》
菫「…」
菫《…いや。やっぱ寝てて良いぞ》
仁美《んぁ~?》
菫《そのまま寝たふりしてろ》
菫《どうやら掛かったみたいだ》
仁美《うそん》
スス…
「…」チラッ
「…」キョロキョロ
スス…スーーーーッ…
「…」コソコソ
仁美「…」
「…」ジーーッ
菫「…」
仁美「…」
「…」ゴクリ
菫《…用心してるな》
仁美「…」
菫《仁美?》
仁美「…」
菫《おーい》
仁美「…」
菫《仁美ーー》
仁美「…くぅ」
菫(この羊、マジで寝やがった…)
菫(ふふふ…霞の奴悔しがるだろうな。私の頭脳プレイが風潮被害者をここへ向かわせたんだ。1杯食わせてやったって訳だ)
菫(後は、奴がこちらが完全に寝入ってると確信して近づいてきたタイミングを見計らって、奇襲をかけてやれば…)
「…」
菫(完璧だな)
「…寝てる…よね?」ボソッ
菫「…」
「…新道寺の人も寝息立ててるし…うん」
菫「…」
「…この人達、魔法少女らしいし…」
菫(…ふっ…私の作戦、完璧だったな)
「…ごめんなさい」
菫(なに。謝る事は無いさ)
「私…」
菫(こっちこそ、今から君を気絶させなくてはいけないんだからね)
菫(…へ?)
宥「変身っ!」
菫「…」
菫「…はああ!!?」ガバッ
宥「っ!!起きてた!?」シャランラ
菫「な…!」
宥「…ごめんなさいっ!えいっ!」ブンッ
菫「くっ…うおっ!?」
宥「あっ!」スカッ
菫(っ!危なっ!身を引いた場所をフックが掠めてった!)
菫(このっ!反撃だ!蹴り飛ばしてやる!)
菫「ふっ!」ブンッ
宥「きゃっ!?」サッ
菫(かわされた!?くっそ!コイツに攻撃かわされるとインハイの準決勝思い出す…って、それより確認しなくてはいけないことがっ!)
菫「おい!」
宥「ひっ!?」
菫「き、君!どう言うことだ!?答えろ!」
宥「あ、あううう…この人怖い…」ブルブル
菫「なんで君が魔法少女に!?」
宥「え、えっと…」オロオロ
菫「他にもだ!なんで私を襲った!それに、妹さんを守るだと!?なら彼女が風潮被害者なんだな!?」
宥「っ!」ギュッ
菫「それにさっきの口ぶり…君はそれを知っていて放置してたのか!!」
宥「…っ!」
菫「どうなんだ!答え…」
宥「えいっ!」ブンッ
菫「ろおおお!?」サッ
菫(大振りストレート!?危なっ!)
菫「くっ…問答無用か君は」
宥「絶対に…絶対に…私お姉ちゃんだし…」ジリジリ
菫「馬鹿言うな!妹さん、風潮被害者だぞ!?早いとこ浄化してやらないと周囲にエラい被害が…」
宥「それでもっ!」ダッ
菫「…っ!」グッ
宥「私には玄ちゃんが一番大切だもん!」ドカッ
菫「がふっ…!」
菫(ぐえ…体当たり…衝撃受け止め切れなかった…)
菫「…ちっ!」ドサッ
宥「玄ちゃんは私が守るんだから~!!」ピョンッ
菫「くっ!?」トスン
菫(マズい、マウント取られて腕も抑えられた!ぐ…!動か…ない…!)グググ
宥「そ、そのためには、あ、貴女のしょ、処女だって…奪うんですから…ご、ごめんなさい…」カタカタ
菫(この子、性格と裏腹にかなり力あるぞ…!)
菫「ぐぎぎぎ…!」ググググ
菫(駄目だ…力じゃ向こうが上だ…)
宥「ううううう~~~!!」ギチギチ
菫(第一、処女奪うって言いながらずっと腕抑えたまんまだし…!何する気だ?)
宥「えいっ!」
菫「くあっ!?」ビキッ
宥「はぁはぁ…!うううう~~~!!!」
菫(抑え付けられた腕が攣りそうだ…!どんな力だよ!)
宥「やっつける!やっつけるもん!」ギチギチ
菫「この…いい加減に…」
菫「離れろ!」バッ
宥「え…あれ…?え…脚…?なんで…」
菫「首捕ったぞ!この野郎!」グイッ
宥「きゃ!?」ドサッ
宥「うううううう~~!!」ジタバタ
菫「け、けど、はぁ…こ、これで完全に極まったぞ。もう逃げられると思うなよ」ギチギチ
宥「かふっ…!」ビクビクッ
菫「ふぅ…ふぅ…っ!よ、よし!それじゃあ答えろ!何のつもりだ魔法少女!」
宥「く、玄ちゃんを守るためだもん!」ジタバタ
菫「ああ!?風潮被害者暴走したの魔法少女が止めないでどうするんだよ馬鹿野郎!」ギシッ
宥「ぐっ!だ、だけどっ!玄ちゃん、大事なんだもん!たった一人の妹なんだも…あああっ!」メシメシ
菫「ふざけるな!だったら尚更だろう!早いとこ浄化してやらないと悪戯に罪を増やすだけだ!姉だって言うならむしろお前こそが…」ギチギチ
宥「やだ!絶対にやだ!!」ポロポロ
菫「泣くほど嫌か!このわからず屋!」
宥「わからず屋でも…!暴走風潮被害でも…!!」
菫「だったらまずお前を絞め落として…」グググ
宥「あぐ…っ!かっ…!け、けどっ!負けないっ!」
宥「絶対に玄ちゃんは殺させないもん!」
菫「…え?ころ…」
宥「たあ!」コロン
菫(あ、抜けられ…って、待て待て。なんか双方重大な勘違いしてないか?)
宥「はぁ…はぁ…うう~…く、苦しかったよぉ…」ヨロヨロ
菫「えーっと…君、なんか勘違いしてないか?魔法少女は別に…」
宥「とぼけないで!魔法少女は風潮被害者を殺すために現れるんでしょう!?」キッ
菫「いやいや、幾らなんでもそこまでバイオレンスな世界観じゃないが…」
菫(えー…そこから勘違い?)
菫「っていうか、どこからの情報でそんな勘違いを…」
宥「…え?だって、マスコットの穏ちゃんが、風潮被害をやっつけるのが魔法少女の使命って…」
菫(穏って…もしかしてあの阿知賀の大将の子か?)
仁美「あの大将か?あいつアホっぽそうやったからな~。説明じゃんじゃん端折ってる内に勘違いさせてそうたいね~」ムクリ
菫「仁美…」
仁美「ちなみに、お前さん魔法少女初めてどんくらいよ?」メェー
菫「超タイムリーだなぁ!」
仁美「ほーほーほー」
宥「赤土先生に進路相談して、その後校舎で遊んでる穏ちゃんに会ってお話して、そしたら『なんかきたー!』って穏ちゃんが突然叫びだして…」ブルブル
菫「マジか」
宥「それから私と穏ちゃんがパートナー?っていうのらしいからキスしようってなって…」
菫「アバウトだな!」
仁美「風潮被害とか魔法少女について知ってることは?」
宥「風潮被害は、悪い噂に従わなきゃいけなくなることで、魔法少女はそのかかった人をやっつける専門の人って…」
菫「おお…」
仁美「…まあ、勘違いしてもおかしくない説明たいね」
菫「はぁ~…」シオシオ
宥「え?ええ!?」オロオロ
菫「羊。説明任せた」
仁美「仕方なかね~…」
仁美「以上。魔法少女に関する講義終了」
宥「そ、そんな…それじゃあ、私勘違い?」
菫「あ~…どうやらそのようだね」
宥「ごっ!ごめんなさい!私そうとは知らずお客様にとんだ失礼を!」ペコリン!!
仁美「メェ~…」
菫「…まあ、妹さんを守ろうとした気概は立派だと思うよ」
宥「うううう…」シュン
菫「しかし…そのマスコットの子…ええと…」
宥「高鴨穏乃ちゃん」
菫「なんて言うか、ちょっと説明力が無さ過ぎるというか…」
仁美「アホたい」
宥「ほ、本当はいい子なんです!ただちょっと落ち着きが足りないというか…」オロオロ
菫「まあ、今度会って話しようか。明日にでも」
仁美「…と言うことは」
宥「え?」
仁美「…おお。暴走しとる暴走しとる」
菫「ああ!」
宥「え…ああっ!」
仁美「妹さんド派手に暴走しとるね~。これは…アホの子という風潮に腹黒い犯罪者という風潮に…おもちマイスターだという風潮?トリプルやね」
菫「げっ!」
宥「えっと…それって」
仁美「初陣で菫が手も足も出なかったタイプ」
菫「くっ…け、けど今ならあの頃とは違うしなんとか…」
宥「大変!玄ちゃんを止めなきゃ!」
菫「松実宥さん。だったら、私も手伝うよ。さっきはああ言ったが新人一人じゃ手に余るだろう」
宥「すみません。恩に着ます。早く玄ちゃんを助けてあげなきゃ…」
仁美「ん?あ~…れ~…?」
菫「どうした?」
菫「仁美?」
宥「?」
仁美「…や、ええよ。行かんでも」
菫「は?」
宥「駄目!」
仁美「いや。駄目ち言うても…」
宥「玄ちゃんきっと苦しんでる!私が助けてあげなきゃ!」
仁美「ん~…」
菫「どうした羊。なんだか煮え切らないが」
仁美「…うん。もう終わったわ」
宥「へ?」
菫「…」ピクッ
宥「え…?それは…つまり?」
仁美「解決。お疲れ。おめでとう」
菫「おい、羊。まさか…」
仁美「ん」
宥「????」
仁美「かすみんが一晩でやってくれました」
霞達の部屋
スス…
玄「…」チラッ
玄「…」キョロキョロ
スス…スーーーーッ…
玄「…」コソコソ
玄「…くふふふ」
霞「…すー…すー…」
玄「ふふふ…よく眠っているのです」ニヤニヤ
霞「…すー…すー…」
玄「これから私に手篭めにされ、調教され、骨抜きにされ…己の意思すら持たぬ哀れなおもち人形として一生を終えるとも知らずに」クフフフフ
霞「…すー…すー…」
玄「可哀想なギニーピッグよ…恨むなら、己の呑気さと神すら恐れる至高のおもちに育ってしまった自分を恨むのですね」ジリジリ
霞「…すー…すー…」
玄「貴女のそのおもちは、この瞬間よりこのクロチャー様の所有物なのです…」ジリジリ
玄「ふふふ…素晴らしい…寝息で呼吸するだけで大山鳴動…もはや我慢できません」
霞「…くす…すー…」
玄「さあ、いざ霊峰へ我が魔手にて征服をせんや…!」スッ
霞「はい♪」バサッ
玄「へ?」
霞「一名様ご案な~い♪」グイッ
玄「むきゅっ!!?」
ボフッ
霞の布団「ドタンバタン!!」
霞の布団「ドタバタ!!」
霞の布団「ドタ…」
霞の布団「…」
シーーーーン
…
美子「…」ボーー
美子「…」キョロキョロ
美子「…」ジーー
霞「…すー…すー…」
美子「…?」キョトン
霞「…すー…すー…」
美子「…」ポリポリ
霞「…すー…すー…」
美子「…」ポケー
美子「クアー…」
美子「…」コシコシ
美子「…」コロン
美子「…すー…すー…」
玄「 」ピクピク
宥「はい?」
菫「妹さんは、その…」
宥「はあ」
菫「…まあ、野良犬にでも噛まれたと思って…」サッ
仁美(あ。目逸らした)
宥「何があったんですか!?」ガーーーン
第十話
「松実姉妹と恐怖のおもち」 終わり
菫達の部屋
はやり「みんなー☆お待たせこんばんわ~…てぇ…」
菫「…」ゴツッゴツッ
霞「…」ゴチンゴチン
宥「あわわ」オロオロ
仁美「チューチュー」
美子「すやすや…」
玄「 」チーーーーン
はやり「何この状況」タラリ
菫「あ、はやりん。お疲れ様です。お待ちしていました」ゴツンゴツン
霞「あら瑞原プロ。いつぞやはお世話になりまして、大変感謝しております」ゴッ!ゴッ!
はやり「ふ、二人はまずその激しい頭突きのし合いっこを止めてからお話しようね…」タジタジ
玄「新たなおもちの気配!?」ガバッ
仁美「おい。こいつ風潮被害消えとらんのじゃなかか」
宥「玄ちゃんいつもこんな感じだよ~」ブルブル
はやり「はぁ~…まさか、この局面で新しい魔法少女に出会うとはねー」
宥「あ…ま、松実宥です…瑞原プロですよね?」ペコリン
はやり「ども~。はやりんだよ~☆」
玄「みなさん!お茶を淹れてきたのです!」ガラッ
仁美「おお、気が利くね」
美子「…」ペコペコ
霞「あら…確かにあんまり変わってないわねこの子」
菫「…と、まあ、こんな感じなんですが…」
はやり「暴走風潮被害、今日だけで2人かぁ~…」
仁美「ついでに言えば、マスコットと魔法少女も一人ずつ出来とる」
はやり「なるほどねぇ…って事は、やっぱり…」ブツブツ
菫「?」
霞「あら。と言うことはやはり、瑞原プロも?」
はやり「霞ちゃんも?…うん。多分、間違いないんじゃないかな」コクン
はやり「面倒臭いなぁ…」ヤレヤレ
菫「あの…」
はやり「ん?…ああ、たはは…ごめんごめん」
菫「あの…申し訳ありません。話の腰を折るようで。けど…」
はやり「うん。わかってるわかってる。説明だよね?」
菫「ええ…何やら、わかって無いのは私と宥さんだけのようですので…」
宥「…?」キョトン
美子「…」
玄「私もわかってないのです!」ビシッ
仁美「はいはい」
霞「くすくす…」
菫「むっ…なんだよ。ちょっと知ってるからって古参気取りか」
霞「いえいえ…そんなつもりではないのだけど…」
菫「ああ?」
菫「ぐぬぬ…」
はやり「霞ちゃんもね?あんまり喧嘩しないでね?」
霞「…ぷう」
はやり「はい、それでは今から、私達…って言っても霞ちゃん達はたまたま合流しただけなんだけど、目的同じっぽいから良いよね?」
霞「ええ♪」ニコッ
美子「…」コクン
はやり「…私達が何故宿泊までしてここ、阿知賀にやってくることにしたのかのネタばらしをしようとおもいま~す☆」
菫「ネタばらしって…風潮被害が多く発生する前兆を感じたからでは?」
はやり「それもそうなんだけどね~。けど、そっちはどっちかって言うと、オードブルって感じ」
菫「…はあ」
はやり「メインディッシュは、その後に控えています」
菫「…?」
はやり「今回のメインディッシュの名前はー…大風潮被害」
菫「大風潮被害?」
菫「それは…一体?」
はやり「うん。ぶっちゃけて言うとね。超々強力な風潮被害の事」
菫「…はあ」
はやり「どれくらい強力かって言うと、その感染者のイメージを全て、真っ白から真っ黒にまで塗り替えるといっても過言ではないくらいの強力なもの」
はやり「まるで風潮被害自身が意思を持ち、人格を形成し、一人歩きし、元の人格を完全に乗っ取るかの如く。しかも、それがあっという間に広がっていく。まさに風のような速さでね」
菫「それは…恐ろしいですね」
はやり「あまりに強力なその風潮被害は、感染者本人だけに留まらず周囲の人間にまで風潮被害汚染を引き起こすと言われているよ」
菫「っ!まさか、それで今回も!」
はやり「うん。ここ阿知賀で数多くの風潮被害者が急に発生しているのは、大風潮被害者が生まれようとしているからじゃないかな」
菫「やっぱり…」
はやり「そんな状況で魔法少女とマスコットが急に生まれたっていうのも、過去に結構事例があるね。まるでウィルスに対して身体が免疫が作り出すかのように、大風潮被害者の周囲には魔法少女が発生し易くなるらしいの」
宥「それが、私と穏ちゃん…?」
はやり「多分ね。そういうケースで発生した魔法少女は強大な才能を持ってる事が多いって言うけど…どう?君。私達と一緒に魔法少女隊やってみる気ない?☆」
宥「え?え?」オロオロ
はやり「あはは…ごめんごめん。でも、良かったら真剣に検討して欲しいな」
霞「へえ…面白そうなことやってるのね貴女達」
菫「なんだよ。お前も入れて欲しいのか?」
霞「まさかぁ?確かに瑞原プロとチーム組むのはとても魅力的だけど…貴女と一緒じゃ…ほら…ねえ?」クスクス
菫「…」ビキビキ
はやり「喧嘩駄目だヨー」
菫「…コホン。では、先ほどの話の続きを。その、大風潮被害に関してですが。それほどまでに強力なケースなら、感知も容易で暴走前に未然に止めることも簡単なのでは?」
はやり「それが、そうもいかないんだよねぇ~…」
菫「…というと?」
はやり「…大風潮被害者は、完全暴走前から私達魔法少女に敵意を剥き出しにするの」
はやり「風潮に従った行動をするのは暴走後なんだけど…大風潮被害はその強大さ故に暴走までの期間が凄く長くて、それまでに自己防衛みたいな機能を働かせるようなの」
はやり「暴走前から通常の風潮被害体を遥かに超える能力を有し、狡猾に身を隠し、羽化の時を待つ」
はやり「察知するには、その強大な波動を一瞬でも感知するより他にない。だから、こうやって近くまでは特定できてもその先、個人の特定が難しい」
はやり「…ねえ?霞ちゃん」
霞「…ふふふ。ええ、そうですね。私もその大風潮被害者だった一人」
菫「お前が…」
霞「本当に辛いのよ?自分が自分でなくなる感覚…やりたくないことをやりたいと考えている自分。やらなきゃいけないという使命感に必死に抗う孤独」
霞「…誰かに必死に助けって!って叫んでも、喉元にすら言葉は上がってこない」
霞「あの時暴走前に瑞原プロに見つかっていなかったら…ふふ。考えるだけで虫酸が走るわ」
菫「そうだったのか…」
霞「兎に角、今この瞬間にでも同じ思いをしている子が居るのなら救ってあげたい…」
霞「…」
霞「…なんて、冗談。ただ歯ごたえのある遊び道具があるから遊びに来ただけ」
霞「…それだけだわ。それだけで十分」
はやり「…うん。それでもいいと思うよ。私は」
霞「…」
はやり「大事なのは、救うこと。理由なんて二の次」
はやり「だから、そのためにみんな。今この瞬間から、その時まで…力と知恵を私に貸してね」
霞「当然ですね♪」
宥「わ、私で力になれるなら…!」
美子「…」コクン
玄「わ、私だって力になれることが有ったら言って下さい!」
はやり「みんな…ありがとう…」
仁美「…」
菫「…仁美?」
仁美「…面倒くさ」ボソッ
菫「…お前なぁ」ハァ
仁美「あーめんどくさめんどくさめんどくさ…っ!」ガリガリガリ
はやり「ふふふ…」ニコニコ
菫「はやりん?ちょっとはやりんからもこの羊になんか説教の一つでも…」
はやり「大丈夫☆」
菫「…」
仁美「なるったけ早く終わる手段考えるばい…!」
はやり「それじゃあ、手筈通りに☆」
菫「ええ。お互いの健闘を祈りましょう」
霞「みなさん、お気を付けてくださいね。口だけの3流魔法少女以外」
菫「ああ!?なんか言ったか垂れ乳!」
霞「何!?図星突かれてトサカにきちゃった!?」
はやり「もー!こら二人とも!」
菫「ちっ…!」
霞「くっ…!」
はやり「…本当に大丈夫?」
菫「…ええ。頭を冷やしました。これからは白糸台の部長やっていた時のモードです。冷静沈着に行きますよ」
霞「なら私も永水女子モードで…」
菫「2回戦ガール(笑)がなんだって?」
霞「!!」ビキビキッ
はやり「…あー。これこれ。仲いいのはわかったから、お姉さんだって怒る時は起こりますぞ」
菫「Aチーム:はやりん、宥さん、玄さん。Bチーム:霞、美子さん。Cチーム:私、仁美 の編成です」
はやり「よろしい。じゃあ次。宥ちゃん、仁美ちゃん、霞ちゃん。それぞれの所属チームの行動目的言える?」
宥「Aチームは、まず私のマスコットである高鴨穏乃ちゃんと合流します。その後瑞原プロが彼女に事態の説明。使用可能な魔法等の確認。私と穏ちゃんの総合的な戦力を瑞原プロが分析し、決戦に参加可能と判断すれば参戦します」
霞「Bチームは晩成高校の調査です。大風潮被害者として疑わしき人物が居ないかを観察及び近日行動の変わった人物が居ないかを聞き込み。随時各チームに報告も行い、最終的な判断は瑞原プロに任せます」
仁美「Cも大体おんなじ。ただしこっちは阿知賀女子の調査。当該人物が少ないんで問題ないと判断したら速攻晩成に移動」
はやり「オッケー。あとは、玄ちゃんだけど…」
玄「はい!なんでもします!」フンスッ!
はやり「あ~…」
はやり「…私とお姉ちゃんから離れないように」
玄「了解なのです!」ビシッ
はやり「…そ、それじゃあ、行動に移りましょうかー。みんな。各チームでの行動はいいけど、深追いはしないように!確信を得たら、すぐに他のチームに連絡すること!1対1で戦おうなんて考えちゃ駄目だよ!」
はやり「特に二人は!!」
菫「こ、心得ています…」
霞「わ、わかりましたから…」
菫「それは勿論」
霞「当然よね」
はやり「…」
はやり「…じゃあ…」
はやり「みんな、行くよっ!」
はやり「…ふぃ~。BとCは行ったね~?…不安だぁ~」ガクー
宥「あ、あのあの…」
はやり「…おっとぉ。ごめんごめん。はやり、一番お姉さんだもんね。ごめんね?みんなに心配かけるような事言っちゃって…」
宥「いえ、そんなことないですけど…」
玄「携帯準備出来ましたよー」
はやり「…ああ。そっか。ありがとうね~」
宥「まず穏ちゃんの携帯に掛けてみます」プルルルル…
はやり「…これで繋がってくれれば話は早いんだけどねぇ~」
玄「穏乃ちゃん、すぐに携帯置いてっちゃうから…」
宥「…やっぱり駄目です」
はやり「あう…」ガックリ
宥「次、お宅の方に電話してみます…」プルルルル…
はやり「何処に行ったのかな?」
玄「休日は顧問の先生が監督していないと部活出来ないのです。で、顧問の赤土先生が先生の方のお仕事で出張中なので、それに合わせて部活もお休み。一日休みだから山の方に行ってるかも…」
宥「…あ、高鴨穏乃さんのお宅ですか?いつもお世話になっています。私、穏乃さんの麻雀部の友人で、松実宥と申しまして…」
はやり「…山だったら時間かかるなぁ…」
宥「…ええ、ええ。そうです。玄の姉です。…あの…穏乃さんは今どちらに居らっしゃるかご存じないでしょうか…」
はやり「…」
宥「…はあ…山が呼んでいると…はあ…」
はやり「…」
宥「…わかりました。ありがとうございます」
宥「…」ピッ
宥「…」
はやり「…」
玄「…」
宥「…山です」
テクテク…
霞「晩成高校か…ねえ、美子ちゃん」
美子「?」キョトン
霞「そこに居ると思う?」
美子「…」
霞「…ふふ。そうよねぇ?わからないわよねぇ?」
霞「けど」
霞「…鷺森灼」ボソッ
美子「?」
霞「松実玄」
美子「…」
霞「松実宥」
霞「…そして、高鴨穏乃」
霞「…全部、何かしら成ってるのよねぇ…」クスクス
霞「…阿知賀女子は、今日部活休みなんだっけ?」
美子「…」コクコク
霞「だったら阿知賀なんか行っても無駄骨だと思うんだけど」
美子「…」
霞「…羊が提案したチーム分け…晩成はここから一番遠い…」
美子「…!!」
霞「…まあ、良いけどね。面白いから真面目に役割こなしてあげましょうか。何か考えがあるんでしょう」
美子「…」
霞「…けど、あの子、何企んでるのかしらね?」
霞「ふふ♪」
菫「…ん?どうした仁美。そっちは阿知賀女子じゃないぞ」
仁美「いや…その前にちょっとな」
菫「寄り道は許さんぞ」
仁美「ちょっとだけいいだろ?」
菫「は?」
仁美「大勝負前の神頼みたい」
菫「神頼みって…」
仁美「ちょっと神様に一参り。必勝祈願にお祈りしてくるくらい良かろ」
菫「お前信心深かったっけ?」
仁美「…ま、そこそこな。駄目か?」
菫「…まあ、それくらいなら」
仁美「助かるわ~」
菫「…で、肝心の神社って何処だよ。あまり時間は取れないぞ」
仁美「大丈夫大丈夫」メッヘッヘッヘ
仁美「偶然、な」
第十一話
「大風潮被害と魔法少女達」 終わり
アコチャーの風潮被害はやばい
Entry ⇒ 2012.10.23 | Category ⇒ 咲-Saki-SS | Comments (0) | Trackbacks (0)
P「やよいの昇格祝いを高級和食店でしてみよう」
P「ああ、いつもは接待に使ってる店なんだが、今回はお前のために抑えたんだ」
伊織「…ってこの店、あの有名な○○じゃない!」
P「お、よく知ってるな。さすが伊織だ。今回はやよいのAランク昇格祝いだからな、特別だ」
伊織「あ、アンタねぇ…予算は大丈夫なの!?」
高木「なぁに、心配無いさ。これから君たちが頑張ってくれるなら安いもんだ」
P「さぁ、店に入ろう」
真美「だね!」
やよい「うっうー!……あれ?プロデューサー?」
P「ん?どうした、やよい」
やよい「このお店、メニューが無いですよ?」
P「一部の料理はちゃんメニューとしてあって、値段も決まっていたりするけどな」
やよい「へぇ~、そうなんですか。でも…お値段がわからないと…」
P「だいたいこのぐらいでお願いしますって金額を提示したらそれに見合った料理を出してくれるんだ」
小鳥「そそ、そうですよ、だ、だから安心して食べていいんですよ……ね?」
P「こういうお店が初めてなのはわかりますが落ち着いて下さい」
~和室~
高木「さて、ご主人の挨拶も済んだし、楽にしていいぞ」
美希「あふぅ、ミキ堅苦しいのは苦手なの」
千早「高級店だもの。仕方ないわ」
やよい「なんだかご飯食べる前にお腹いっぱいになりそうです」ドキドキ
P「そんなに緊張してたら料理の味がわからなくなるぞ。今日はやよいが主役なんだぞ?」
やよい「は、はい!で、でもここのお料理一つで一体どれだけのもやしが…はわっ!」
小鳥「ぷぷぷぷろりゅーしゃー、わわわ、私もきき、緊張s」
P「やよいがそんなんじゃ、ここに連れてきた意味がなくなるじゃないか」ナデナデ
小鳥「わ、私も…」
やよい「そ、そうですね///あ…でも…私だけ…」
P「妹弟達の事だろ?大丈夫、お弁当を頼んであるから」
やよい「お弁当?ですか?」
やよい「はい!ありがとうございますっ!」
P「やよいは家族想いだな(やよいはかわいいなぁ)」ナデナデ
小鳥「あの、わ私も…き、き…」
P「小鳥さん?ああ、事務所の電話は全て転送されるようになってますので安心してください」
小鳥「ピヨ…」
真美「これ、カイセツ料理って奴でしょ!…ご飯は?」
律子「言いたいことはわかるけど多分漢字が違うわね。今日のは会席料理よ」
響「うう…自分、よくわかんないぞ」
雪歩「あの…、皆さんがよく耳にする懐石料理っていうのは、元々はお茶会の席に出されるもので…」
P「そう、こういったお祝い事ではそこからさらに発展した、会席料理になるんだ」
亜美「なんか難しいよ~」
P「雪歩、よく知ってたな偉いぞ」ナデナデ
雪歩「それは…///あの……家の人と…その…///」ボッ
やよい「プロデューサー…、これ、これって…」
P「ああ、金箔か、食べられるから安心していいぞ」
やよい「金ぱ…」パタッ
P「おい!大丈夫かやよい!?」
律子「お造りなんか見たらどうなるのかしら…」
律子「先付と吸物の次は向付ですね、今日はお祝いなのでおそらく…」
一同「おおーっ!」
主人「鯛の活造りです」
真美「こっ…これは!」
亜美「生きてる?生きてるよ!?」
あずさ「すごいわね…」
やよい「うっうー…」
P「どうした?やよい?」
やよい「お魚さんが苦しそうだなぁーって…」
P「やよい…(やよいはかわいいなぁ…でもどうするか…)」
律子「でも新鮮な証拠よ?それに、腕が良い人が捌かないとできない料理よ?」
やよい「でも、でも…」
P「そうだぞ、腕が良いから痛くないように切れるんだ、痛かったら気絶しちゃうだろ?」
やよい「なるほど!そうですね!」
P「(やよいはかわいいなぁ)」ナデナデ
小鳥「でも結局鯛は息が出来なくて苦し――P「小鳥さんは少し黙っててください?」
小鳥「胸が苦しいピヨ…」
真美「準備はバッチリであります」ヒソヒソ
亜美&真美「それっ、お醤油投入!」
鯛「」ビックーン
一同「うわぁっ!」ドンガラガッシャーン
美希「あはっ!でこちゃんのオデコにお刺身が張り付いたの!」
伊織「アンタ達ねぇ……!」
P「(あ、あずささんの胸元に刺身が……これは目のやり場に困る…ん?)り、…律子…?」
春香「(頭に海老が!律子さんの頭に海老が乗ってますよ!)」
律子「あなた達……ちょっとこっちへ来なさい……」ユラァ
亜美&真美「り、りっちゃん!!」
・
・
・
亜美&真美「」キュゥゥ
P「あれは、俺にもかばいようがないな……」
律子「さて、次は焼き物ですね」
主人「本日はこちらの▲▲牛を使います」
やよい「プ、プロデューサー!お肉ですよ!お肉!」
P「ああ、焼き物はお前達向けにお肉でお願いしておいた」
やよい「でもこれ、なんか模様が綺麗ですね」
千早「高槻さん、これは霜降り肉って言うのよ」
あずさ「ブランドにもよるけど100gで数万円する物もあるわね~」
やよい「す…数万……」キュゥ
千早「ちょっ、高槻さん?」ガシッ
P「まあ、やよいには想像もつかない世界だろうな…って千早、鼻血が…おい」
千早「」キュゥ
律子「あ、もう結構ですのでお願いします」
高木「煮物はそのお店の腕が一番如実に現れる物でな、ここの煮物は最高だぞ」
春香「美味しそうですね!」
P「さぁ、いただこう」
真「すごく…上品な味ですね」
亜美「それでいて素材の味が引き立っていて…」
真美「んっふっふ~、これぞまさに最高の煮物っ!」
響「わ、わかるのか!?」
真美&亜美「もっちろん!」
一同「!!」ざわ・・・」
亜美&真美「えっへん!(作戦通り)」
律子「で、何の料理かわかるの?」
亜美「え」
真美「そ、それは~」
伊織「まさかアンタ達……!」
亜美「い、いや~、なんとなくそういう雰囲気だったし」
真美「な、流れで…」
律子「まあ、そんなことだろうとは思ったわ」
真美「お、美味しいのはわかるよ!」
律子「ふ~ん?」
亜美「な…なんとなく…だけど」
響「よかった…美味しいけどよくわかんないのは自分だけじゃなかったぞ」
小鳥「(私もよくわかんない…)」
春香「プロデューサーさん!頭と身が別々に揚げてありますよ!」
P「この頭が最高に美味い酒の肴になるんだよなぁ」
律子「出汁をとってお味噌汁にするのも良いわね」
やよい「こ…こんな立派な天ぷら初めてです…た、食べてもいいのかなーって…ちょっと思ったり」
P「遠慮しないで食べてくれ。何度も言うが今日はお前が主役なんだから」
やよい「はい!いただきます!」
伊織「ったく、食べなきゃ何しに来たのよ…ってやよい?」
やよい「ふぁい?」モグモグ
伊織「塩で食べるのは初めてじゃないの?」
やよい「はわっ?天ぷらってお塩で食べる物じゃ無いんですか?」
一同「!!!!」ガタンッ!
ざわざわ・・・・ざわざわ・・・・
P「そ、そうか」
やよい「あ、でもお野菜をタレにつけて食べるのは初めて聞きました!美味しいですねー!」
P「ああ……いや、なんでも無いんだやよい、いやぁ、良い塩を使ってるなぁ、うん」
やよい「なんで泣いてるんですかプロデューサー…?」
P「い、いや、あまりの美味しさに感動してだな、うん…今日はここに来てよかったなぁ……」
やよい「はいっ!ありがとうございますっ!」
プルルルル
律子「あら?電話だわ、少し席を外しますね」
ヨォシキョウハノムゾー!オオ、ユキホはキガキクナァ
律子「まったく……大丈夫かしら?……もしもし――
書いてる途中にくると思ったがやよいwwwwwwww
律子「…………。何か嫌な予感がするわね」
――――――――――――――――――――――――――――――
亜美「おおっ!」
真美「ご飯だ!」
貴音「鯛飯ですね」
P「お祝いらからな~」
律子「……プロ…デューサー?」
P「おお!律子ぉ、おきゃえり~」
律子「…………どういう事なの?」
響「じっ、自分は最初だから違うぞ!」
律子「私が席を外してから戻ってくるまでの事の顛末を詳しく聞かせてもらおうかしら…」ユラァ
響「り、律子…な、なんだかこわいぞっ!」
やよい「え~…えっとですね…」
P「さあ今日は呑むぞー!」
雪歩「あ、あのプロデューサーさん…」スッ
P「おお、雪歩は気が利くなぁ」ナデナデ
雪歩「ええっ///(…また頭を!?)……いえ、そのっ…///」ボッ
響「(うう…なんだかうらやましいぞ)」
P「ありがとう、雪歩は良いお嫁さんになるなぁ!」ナデナデ
一同「!!」ガタッ
雪歩「っ~~!!!///あ……あ……穴掘って埋まってますぅ~!!」
響「じっ、自分もお酒!……注いでみたいぞ!」
P「ん?どうしたんだ急に…まあ、せっかくのお酌だし……ごくごく…ぷはぁ……頼むよ」スッ
響「お、おー!(な、なんか近いぞ!緊張して……)」トクトク…
P「おっと、ありがとう。んん?いつもの響らしくないな~、大丈夫か?顔も赤いし熱でもあるんじゃないか?」スッ
響「~っっ!!//////……な、…なんくるないさー!!///」ダッ
P「あっ!響?……何なんだ?」
P「いいのか?やよい。今日はお前がもてなしてもらう側なのに…」
やよい「いいんです!ご馳走してもらってばっかりだとくすぐったいかなーって」
P「そうか、じゃあお言葉に甘えて……ごくっ……ふぅ……お願いします」スッ
やよい「はーい!」
やよい「えへへ///」
P「毎日家事をやってるだけの事はあるな」
やよい「そ、それで……あの」
P「どうした?」
やよい「わ、私も…良いお嫁さんになれるかなー……って///」
P「ああ、なれるさ、むしろやよいみたいなお嫁さんならこっちからお願いしたいくらいだな」
やよい「はわっ!……え?……それって///ええっ!/////」
P「ん?……ああっ!いや、そういう事じゃなくてだな、いや、そうなんだけど!」
やよい「はわ~」プシュー
P「あ、思考停止した…………うん、しばらくそっとしておこう」
やよい「ありがとうございます!」
P「忘れ物は無いか?」
やよい「あ、あの!プロデューサー!」
P「どうしたやよい?」
やよい「さっきの……お話…」
P「さっきの…?」
やよい「私、頑張って良いお嫁さんになりますね!」
P「んん!?(しまっ…>>73のフォローを忘れてた!)」
やよい「今日はどうもありがとうございました~!」タッタッタッ
終わり
P「お?珍しいな千早がこんな事してくれるなんて」
千早「い、いえ、プロデューサーには普段からお世話になってますから」
P「そんなに気を使わなくてもいいのに…ありがとう…んっ……ぷはぁ…じゃあ、頼むよ」スッ
千早「はい」
千早「さっきの話なんですけど……」
P「さっきの……ああ?お嫁さんがどうのか?大丈夫、うちのアイドルはみんな良いお嫁さんになれるさ」
千早「わ、私もですか!?///」
P「ああ、もちろんだ」
千早「でも私…………高槻さんや春香みたいにお料理が上手でもないし……」
P「何を言ってるんだ、今は男も料理をする時代だぞ?それに家庭っていうのは二人で作り上げていくものじゃないか?」
千早「プロデューサー……」
千早「はい」
P「そんな人がお嫁さんになってくれたら素敵な事だと俺は思うぞ」
千早「え……ええっ?//////」
P「ん?あ…なんかまた……ああっ!いや!千早、ええとだな!」
千早「ふふっ……安心しました」
P「あれ?」
千早「いいですよ、そういう風に考えてくれる人がいるってわかっただけでも」
P「あ……そう?」
千早「ええ、頑張って素敵な人になりますから」
P「ああ、そこは問題無い、千早は今でも素敵だと思うよ」ナデナデ
千早「なっ///……プロデューサー…酔ってますね?///」
P「んー、うん、酔ってるなぁ……でもまあ気にするな!」
千早「…もう///」ボソッ
P「社長!いや~申し訳ないです。御返杯を…」
高木「なに、気にすることはないさ、君のおかけで高槻君がAランクに昇格出来たようなものだからな」
P「恐れ入ります」
高木「これからもよろしく頼むよ!」
P「はい、頑張ります!」
真「あ、あのっ!」
P「おお、真か」
高木「丁度良い、ここは菊地君に任せて私は他のアイドルの所へ行くよ」
真「あの、ボクも……お酌…してみたいな…なんて」
P「なんだなんだ、らしくないじゃないか…ぐびっ……はい、お願いします」スッ
真「は、ハイ!」
P「おおっと!」
真「あ!す、すみません!」
P「あ、すまん(思いっきり真の手を掴んでしまった…)」
真「い、いいえ!だ、大丈夫…です///…そ、それより」フキフキ
P「残りが少なかったから一気に出ちゃったんだな、気にするな」
真「すみません…」
P「だから気にするなって…あ、ほら手、かして」
真「はい…ええっ!!?///」
P「さっきお酒がついた手で真の手を握っちゃったからな、拭かないと」フキフキ
真「あ、…あの手を拭くくらい自分でも///」
P「これは俺のせいだから気にするなって…はい終わり。これに懲りずにまた頼むよ」
真「はい…あ、あの、プロデューサー」
P「どうした?」
P「真、ちょっと手を貸して」ピタッ
真「プロデューサー、何をっ///」
P「真の手はちっちゃくて可愛いな」
真「ええっ!?いきなり何を?///」
P「さっき、自分が女の子らしくないって思ってただろ?」
真「…………」
P「確かにお前は女性に人気があるけど、俺からみたらただの可愛い女の子だよ」
真「かっ…可愛い!?///でっ、でもっ!…さっきのお嫁さん…とかには」
真「プロデューサー…」
P「な?もっと女の子である事に自信を持っていいぞ?俺はお前みたいな悩める少女は好きだぞ」ナデナデ
真「あ…///」
P「ん?あ!………本日三回目……いや、変な意味じゃないぞ、真!」
真「わかってますよ。ありがとうございます、プロデューサー///」
P「お…おう、そうか?まー、深く考え過ぎるな、真は今のままで良いさ、うんうん」ナデナデ
真「ハイ!///…って、だいぶ酔ってますね」
オオッゴハンダー
P「ん~?次の料理がきたか~…おっと……」
律子「なるほどね…」
P「まぁまぁ、そんなに怒ると可愛い顔が……怒ってても可愛いれすね?」
律子「なっ///……ごほん……とにかくっ!小鳥さんっ!」
小鳥「ピヨっ!?」
律子「あなたも何で止めな…かっ…小鳥さん?」
小鳥「らってぇ……ぷろりゅーしゃーがぁぁ、ぷろりゅーしゃーがぁ…」
律子「………。はぁ」
小鳥「冷ひゃいんれすよぉ?……初めてこんな立派にゃおみしぇにきてあーんなことやこーんなことをしてもらおうと……」
千早「プロデューサーより酔ってますね」
律子「何?」
やよい「プロデューサー、すっごく喜んでくれてたんです!」
律子「いきなりどうしたの?」
やよい「私がAランク昇格が決まった時、自分の事みたいに……」
律子「……」
やよい「ずっとウキウキしてて、だからちょっと嬉しすぎて……その……」
律子「……そうね」
やよい「律子さん…!」
律子「今日ぐらいは無礼講でも良いかもしれないわね。せっかくのお祝いなんですし」
貴音「私もです」
あずさ「あらあら…なんだか寂しいわね~」
真美「食後のデザート?」
律子「ええ、水物って言うのよ」
春香「プロデューサーさん!綺麗な形に切り分けてあります!」
真「器と盛り付け方だけでこんなにも変わるものなんだ…」
P「和食は目れも楽しむ物らからな」
P「ん?どうした美希?」
美希「ハニー、あ~ん」
P「いいっ!いや、それはちょっと…」
亜美「んっふっふ~。兄ちゃん鼻の下が伸びてますぞ~!」
P「なっ!亜美!……あっ!」ガッ
美希「ひゃんっ☆」
真美「おおっ!これは!」
あずさ「あらあら、胸元に落ちちゃいましたね」
律子「わざとですか…プロデューサー?」ユラァ
美希「…ふーん」
P「美希?」
美希「ハニーってば、こういう事したかったの?」
小鳥「ピヨっ!?わ、私らってぇ、しょれなりにれすねぇ」ヌギッ
P「小鳥さんまれ!?いや、ちょっと待っれ……おっと」フラッ
ぽふっ
貴音「……面妖な」
貴音「すこし驚きましたがあなた様が望むならもう少しこのままでも///」
亜美「ファインプレーの連発です!」
真美「いや~、いい仕事してますねぇ~」
P「うぅ……でもさすがに……ちょっと呑みすぎたな……少し、横になります……」
律子「まったく…」
小鳥「わ、私も少しは自信がぁ……うぅ」
あずさ「あら、起きましたか?」
P「ああ…あずさ……さん?どこから声が?」ムクッ
ボインッ
あずさ「あらあら」
P「!?(何かに当たっ……俺は?)」ウトウト
あずさ「もう少し横になってた方がいいですよ~」
P「(この柔らかい感触……まさか膝枕!?……そしてさっき当たったのはあずささんの…?)っ!!」
あずさ「ええ」
律子「ほら、そろそろ帰りますよ」
あずさ「立てますか?」
P「ああ、すまない」
あずさ「いいえ~、お気になさらず」
P「ありがとう、あずささん」
あずさ「さっきの『ボインッ』は内緒にしてあげますね?」ボソッ
P「!!!」
あずさ「うふふ~♪」
P「いやあ、申し訳ない…」
律子「これからやよいをAランクアイドルとしてプロデュースしていかなくちゃいけないんですよ?」
P「ああ、そうだな。やよい、これからもよろしくな」
やよい「うっうー!私こそです!あ、そうだ!」
P「ああ、アレか」
やよい&P「ハイ、ターッチ!」
やよい「えへへ…」
小鳥「こんなか弱い乙女を残して帰るなんて何かあったらどうするんれすか?」
小鳥「帰り道を一人寂しく歩いていると声をかけられて……ああっ、そんなイケメンに声をかけられたら私……」
律子「(ようやくトイレから出てきたのは良いけどいつ声をかけようかしら)」
今度こそ終わり
Entry ⇒ 2012.10.23 | Category ⇒ アイマスSS | Comments (0) | Trackbacks (0)
伊藤香苗「文化祭なにするの?」
梨穂子「んーとね、確か今日のHRで色々と話し合うみたいだよ~」
香苗「へー」
梨穂子「香苗ちゃんは何がしたいとか、あるの?」
香苗「別に特にやりたいことなんてないけど……まぁ、楽しめればいっかなぁって」
梨穂子「そうだねぇ、最後の文化祭だし、思い出に残る事をしたいなぁ」
香苗「……思い出」
梨穂子「どうかしたの?」
香苗「あ、ううん、なんでもない」
香苗(文化祭……かぁ)
絢辻「───それでは、今年の文化祭で私たちのクラスの出し物を決めます」
絢辻「なにか提案がある人、挙手をお願い」
香苗(わお、凄いね絢辻さん。なんていうか、
本当に私らと同じ年代なのかってぐらい大人びてるわ~)
梨穂子「はいはーい」びっ
絢辻「はい、桜井さん」
梨穂子「えーっとですね、その喫茶店とかどうかな~って」
絢辻「喫茶店。なるほどね、じゃあ…喫茶店と」カキカキ
絢辻「じゃあ次は───そこの暇そうにしてる梅原君」
梅原「うぇっへっ!? お、俺!?」ビクゥ
絢辻「ぼーっと外を眺めてる余裕があるのなら、提案の一つもあるでしょう?」
梅原「そ、そのー……あははは」
絢辻「笑ってごまかさない」
梅原「なっ…オイ! 棚町ぃっ!?」
薫「あーら、本当の事じゃないのよ? ねえ、純一?」
純一「すぴー」
薫「ちょっと、純一?」ゆさゆさ
純一「んあっ…やめろよっ…もう食べれないからっ…」
薫「……ふんっ!」ドス!
純一「ふごっ───ハッ!? あ、ごめんなさい絢辻さん!?」
絢辻「私はなにもしてないわよ」
純一「えっ!? じゃ、じゃあ梅原か!? お前、振られたからって僕に八つ当たりするなよっ!」
梅原「してねぇーよ!? つうか振られた振られたうるさいぞお前ら!」
純一「え?」
梅原「あーもう……なんなんだよ、お前らは…俺がそんなに振られた事おもしれえのか!」
梅原「さ、桜井さんまでっ」
薫「あれだけの大人数の前で告白しちゃあ、誰だって面白がるわよ」
純一「しかも、振られたというオチ付きだもんな」
梅原「く、くそっ…!」
薫「フツー卒業式に告白しちゃうかしら? あんなの見せ物になってます。
って言ってるようなもんじゃないの」
純一「いや、梅原的には色々と作戦は考えてたんだよ。一つ目ね?」
梅原「橘ァー! おまっ、なに恥ずかし黒歴史を語ろうとしてるんだ!」
絢辻「ゴホンッ!」
薫「あちゃーっ…怒ったわよ、静かにしなきゃ」ペロ
純一「お前の所為だろ…梅原!」
梅原「ち、違うわ! お前ら二人の所為だろ…!」
絢辻「静かに」
三人『はい…』
絢辻「──確かにあの三年生の卒業式で、
厳粛な空気をぶち壊した梅原君の告白は私にとってもとても印象に残ってます」
梅原「うっ…」
絢辻「いくら卒業する三年生に後悔なく告白をしたいと思ったとしても、
もっと場所を選ぶべきだと今頃ですが、忠告しておきます」
梅原「…ハイ、スンマセン」
絢辻「そしてそこの二人も、そんな梅原君の頑張りを笑ったりしたらいけないのよ?」
薫「は~い」
純一「え? でも、あの後一番笑ってたのあやつ──ふがっ!?」ゴス!
絢辻「あら、ごめんなさい。チョークが滑ったわ」
純一「……えらくまっすぐ僕に飛んできたよね、チョーク」ヒリヒリ
絢辻「それでは話し合いを続けます。次に誰か提案がある人は?」
香苗「………」
純一「本当の事だろ? いくら何カ月経とうが笑いもんのまんまだよ…」
香苗「……」
香苗「……はぁ」
梨穂子「…香苗ちゃん? どうしたのため息なんてついて」
香苗「ふぇっ? あ、ううん! なんでもない! あははっ」
梨穂子「そお? けっこう深刻そうに見えたけど…大丈夫?」
香苗「うん、平気平気~。まったく桜井は本当に心配性だね~」
梨穂子「あはは、だって香苗ちゃんがため息つくなんて珍しいからね~」
香苗「え? あ、うん……そう思う?」
梨穂子「うん、いつだって元気なのが香苗ちゃんじゃない」
香苗「……。このこのっ、いってくれるじゃないの桜井っ」ぐりぐり
梨穂子「あ、ちょっと…やめてよ香苗ちゃん…くすぐったいよぉ」
香苗(は……ため息、かぁ。そりゃ付きたくもなるよ)
香苗(…本当に、本当に)
純一「──じゃあ、はい! 絢辻さん!」
絢辻「次、誰か提案がある人はいますか?」
純一「絢辻さん!? 僕は!?」
絢辻「…しょうがないわね。じゃあ橘くん」
純一「しょうがないってなんなのさ……えっと、ゴホン」
純一「僕から一つ、提案があるんですが!」
絢辻「却下」
純一「まだ何も言ってないよっ」
絢辻「早くして」
純一「ううっ…最近はみんなが居る時も冷たくなって…つらい…」
絢辻「早くしなさい」
純一「わかりました!」
絢辻「もとから一人一つよ」
純一「出鼻をくじかないでください……」
薫「…くっひひ、アイツの顔見てよ? すごいでしょ?」
梅原「何時の間に顔に落書きしたんだ棚町…」
梨穂子(額に肉って書いてある…)
純一「それはですね!」
純一「───このクラス皆で、劇をしようと思わない!?」
香苗「……劇?」
純一「おっ? 香苗さん、もしかして興味ある?!」
香苗「えっ? いやーそこまではー……」
純一「ほらほら! 絢辻さん! もう一人居たよ!」
絢辻「…伊藤さんも劇を推薦するの?」
香苗「えっ!? い、いやだからその…っ!」
純一「だろ? ほら、二人目だよ!」
香苗「た、橘くん? 私は別にやりたいってわけじゃなくてさ…!」
純一「えー? やろうよ、みんなで劇。絶対に思い出に残ると思うよ?」
香苗「…思い出…?」
純一「うん! そう思わない? 三年生最後の文化祭、みんなで劇をするんだ」
純一「──一人一人役割を決めて、役者の人、裏方の人、衣装を用意する人。
みんなみんな頑張って一つの劇を作り上げるんだ」
香苗「………」
絢辻「…簡単に言うわね、どれだけ大変かわかってるのかしら」
純一「うっ、そうですよね……」
薫「でも、最後ってのは一発大きいのやっておかなきゃダメじゃない?」
絢辻「…まぁ、その気持ちも分からないでもないけど」
「橘が乗り気だ…」
「劇かぁ~、ま、面白そうだよね」
「そういって女の子の衣装見たいだけだろ橘!」
純一「ち、違うよ!」
絢辻「それが狙いだったのね、はぁ…」
純一「絢辻さん!? ち、違うってば…!」
薫「アンタ、そんなこと思ってるのなら女の子の役やらせるわよ?」
純一「やめて!」
香苗「………」
梨穂子「あはは、みんなすごくやる気だね香苗ちゃん」
香苗「あ、うんっ…そうだね、劇ね…」
梨穂子「色々と大変そうだけど、やってみたいなぁ~」
香苗「…桜井もやってみたいの?」
梨穂子「…大きな大きな思い出が残りそうだなぁって思うんだぁ~」
香苗「……そうね、大きな思い出ね」
純一「ほらほら! 梅原はどう思うんだ!」
梅原「お、俺か? いや、劇っていうと…こう、良いイメージが出来ねえんだが…」
薫「大丈夫でしょ、あんだけ大胆に告白出来る度胸があるじゃない」
梅原「ま、まだいうか棚町…!」
香苗「……」
梅原「──はぁ……まぁ別に嫌って言うわけじゃねえさ、結構面白そうだって思うしな」
香苗「っ…」
純一「うんっ! それじゃあ梅原も───」
がたっ
香苗「──私も劇に賛成する!」ばっ
純一「うえっ?!」
香苗「ううん、そんなことないよ! 私も劇するわ!」
香苗「…橘くん、絶対に成功させようね」すっ
純一「……香苗さん…」すっ
ぐっ!
香苗「…出来る限りの事は、全てやるよ私」
純一「…頼りにしてるよ、僕だって全てを出すから」
梨穂子(仲いいなぁ…)
絢辻「盛り上がってる所悪いけど、判断は多数決よ」
「どうする? なんの劇にするかな?」
「面白そうなのがいいよね~、私裏方とかやってみたかったし~」
「衣装とか私の部活にいっぱいあるから、出来ればロミジュリとか~」
絢辻(…はぁ、もう決まったも当然ねこれは)
絢辻「──それじゃあここで多数決を取ります、やりたい項目にみんな手を上げてね」
絢辻「じゃあ、クラスで劇をした人!」
バッ!
絢辻「はい、決定」
~~~~~~
梨穂子「香苗ちゃん、今日はどこか寄っていかない?」
香苗「ん? どっしたの、桜井から誘ってくれるなんて珍しいじゃん」
梨穂子「えへへ~」
香苗「……。あーなんとなくわかった、何処かでスィーツ新作出た感じ?」
梨穂子「…だめ?」
香苗「ううん、別にかまわないよ」
梨穂子「わぁ! ありがと~! 香苗ちゃん!」
「──そこの二人、ちょっといいかしら?」
薫「ごめんなさいね、話の腰を折っちゃって」
梨穂子「ううん、別にいいよ~」
薫「てんきゅ、そのね。これからちょっと文化祭の話し合いをするんだけど…」
薫「…伊藤さんも桜井さんも、参加しないかしら?」
伊藤「話し合いって…誰が集まるの?」
薫「ん」ぴっ
伊藤「…あっち?」すっ…
純一「…待ってください、あれには訳がありまして」
絢辻「どういうワケかしら」
純一「僕的には、みんなで楽しめるような文化祭にしたいと思ってる所存でして」
絢辻「へぇ、だから私が指揮を務める会議を壊しても良いと?」
純一「…そんな事は思っていません、ええ、決して」
梨穂子「怒られてるね、あはは」
香苗「…!」
梅原「まぁまぁ絢辻さん──……ん? よっ!」
香苗「っ……よ、よっ!」
梅原「……ありゃ駄目だぜご立腹だ」すたすた
薫「くひひ、でしゃばるからいけないのよ」
梅原「ちげーねえ、それっと誘ってんのか? 集まりに?」
薫「そそそ。ほら、劇に乗り気だった二人じゃない?」
梨穂子「え? 私はそこまで言ってなかった気がするんだけど…?」
薫「あら? やりたいって言って無かったかしら?」
梨穂子「うぇっ!? き、聞こえてたのー…?」
薫「バッチシねっ」
梅原「──伊藤さんは行かねえのか?」
香苗「ひゃいっ!?」
話し合いをしようと思ってるんだがー…駄目ならいいんだぜ?」
香苗「あっ…う、うんっ…えっと…そのっ…」くるくる…
梅原「なにか用事でもある感じか、なら仕方ねぇな!」
香苗「い、いやっ! 違うよ! ないない! 全然ないからねっ!」
梅原「お、おう! そ、そうか」
香苗「はっ!?」びくっ
香苗「あっ………うん、そんな感じ……ごめん……大きな声出して……」ぷしゅー
梅原「いいっていいって、楽しみにしてるんだろ? 乗り気だったしよ、わかるわかる」
香苗「………うん」モジモジ
薫「スィーツ? あ、そこなら今から行く場所よ?」
梨穂子「ホントにー? よかったぁ、ねぇねぇ香苗ちゃん! …香苗ちゃん?」
香苗「ワ、ワタシッタラモウチョット…オチツイテ……ふぇあっ!? な、なに桜井!?」
梨穂子「一緒に話し合いも参加させてもらおう?」
香苗「そ、そうなのっ? そりゃラッキーだわー! あはははっ!」
梨穂子「う、うんっ」
香苗「じゃ、じゃあさっそく向かおう! そうしよう!」ガッタ
薫「おっけー! じゃあ二人参加で、そろそろ行くわよそこの二人ぃ!」
絢辻「ん、わかったわ。……行くわよ橘くん」
純一「わん」
梨穂子(わんっ!?)
梅原「うっし、行こうぜ伊藤さん」
香苗「う、うん!」
ファミレス
梨穂子「───ふっわぁぁっ…!」キラキラキラ
香苗「桜井…これは一体…?」
薫「私もここで働いてて初めて生で見るわ…」
純一「新作じゃないの?」
絢辻「…メニューによると隠しメニューらしいわね」
梅原「さ、桜井さんこれ食べんのか?」
梨穂子「…うん、これだけ綺麗に盛り付けられたパフェを食べるなんてもったいないよねっ…」
梅原「お、おう…」
絢辻(量に突っ込みを入れたと思うんだけど…)
薫「アンタは何か食べるの?」
純一「ドリンクバー」
薫「しけてるわねー」
純一「うるさいなっ。香苗さんは何頼む?」
香苗「あ、じゃあ私はコーヒーでお願い」
絢辻「コーラ」
みんな『こ、コーラッ!?』
絢辻「え、えっ? ど、どうして皆びっくりするのよ…っ?」
薫「いや、まさか絢辻さんがコーラなんて飲み物を頼むなんて…」
香苗「紅茶とかいいそうなのに…」
梨穂子「でも、コーラはたまに飲むと美味しいよね~」
純一「おい、昨日一昨日と飲んでる姿を僕は見たぞ梨穂子」
梅原「俺見たぜ…」
梨穂子「ええぇっ!? か、隠れて飲んでたのにぃ~…!?」
香苗「あ、今日も飲んでたのよ桜井の奴。なんか言ってあげてよ橘くん」
純一「無理だよ、だって梨穂子だし」
梨穂子「ちょ、ちょっと純一ぃ~!」
梨穂子「そ、そうだよ~! 絢辻さんの言う通りだよ~!」
香苗「…で、今日は何本飲んだの桜井」
梨穂子「え? 三本ちょい…だけど?」
純一「こりゃまたダイエット始まるな、すいませーん注文良いですかー?」
梅原「おい、まだ俺の聞いてないだろ大将っ」
絢辻「…ごめんなさい桜井さん、それはちょっとどうかと思う」
薫「逆に尊敬するわ~。お腹痛くならないの?」
香苗「桜井は食べ過ぎで体調悪くなった事無いよ、一回も」
梨穂子「あ、ありますぅ~! お腹が痛くなったことぐらい、ありますぅー!」
香苗「そうなの? じゃあ桜井がお腹痛くならないように、
そのパフェはみんなで食べていい?」
梨穂子「……」すっ…
絢辻(そっと伊藤さんから視線を外した…)
香苗「んー、結局は皆が知ってるような奴がいいんじゃないの?」
薫「そうよねー、全然知らないのやって滑ったら身も蓋もないし」
絢辻「出し物で報告に行った所、聞いた話だと他のクラスでも劇をするみたいよ?」
純一「本当に?」
梅原「あー、マサの奴が言ってたな。俺のクラスでも劇をするって」
梨穂子「もぐもぐ」
純一「それは大変だ…見に来る人だって、別に僕らの演技を楽しむわけじゃないし…」
絢辻「物珍しさから見る、というのが大半でしょうしね」
薫「あ~、簡単に行くって思えばそうでもないのね~」
香苗「………」
梅原「…伊藤さんはなにか良い案とかあるか?」
香苗「えっ? わ、わたしっ?」
梅原「おうよ、なにか考えてるようだったし」
絢辻「なにかあるの?」
香苗「あーうん、ちょっと良い案っていうのかわからないけど…」
薫「あっ、ちょっと! 純一! あんた何零してるのよ!」
純一「えっ? あ、本当だ……ごめんごめん」ふき…
薫「なっ!? 何処触ってんの……よッ!」ブンッ!
純一「ぐはぁっ!?」どたっ
梨穂子「むぐぅ!? げほってこほっ!」
絢辻「さ、桜井さん!? 大丈夫…!?」
梨穂子「むぎぅ~! むぎぅ~!」プルプル
絢辻「…むぎぅ? あ、水! 水水!」
香苗「え、ええっ…?」
梅原「なにやってんだ皆……で、伊藤さん」
香苗「あ、うん!」
香苗「…そのね、みんなが知っていて、かつ物珍しさも兼ねそろえている」
香苗「──他のクラスと一線を越えるかもしれない、そんな演劇になるかも…」
梅原「おお、結構自信満々じゃねえか」
香苗「う、うん…っ」
梅原「それで? 一体どうすればいいんだ?」
香苗「ええ、それはね───」
~~~~~
絢辻「いいわね」
薫「…面白いわ、いや、本当に」
梨穂子「香苗ちゃんすご~い」
香苗「そ、そうかな? あはは」
絢辻「確かにそれは、他のクラスの劇を圧倒するでしょうね」
薫「いいんじゃないかしら? それなら誰だって知ってると思うし」
梨穂子「わぁ~! いいな、いいな。今から楽しみになってきたよぉ~!」
香苗「えへへ…」
絢辻「明日にでも皆に報告してみましょう、そして所で───男子二人」
純一「……」
梅原「……」
絢辻「えらく不服そうね、どうしたのかしら」
純一「…どうしたもこうしたもないよ」
梅原「…クラスの男子が全員こんな顔になるぜ、きっと」
梨穂子「どうして?」
薫「あっははは! 楽しみねぇ、どんな劇になるのかしら~! ぷっ、くすくすっ」
純一「笑いすぎだっ」
梅原「…いいよ、伊藤さん。俺だって面白いもんには俄然乗り気になる」
梅原「──それに伊藤さんが考えてくれた事だ、ゼッテー成功するに決まってらぁ」
伊藤「っ……あ、ありがと梅原君…」
純一「何カッコ付けちゃってんの梅原…」
梅原「しかたねーだろ、だったら大将が提案しやがれよ」
純一「……ん、無理」
梅原「だろうが、俺だって出来ればしたくねぇけど…ま、面白いって思っちまったからな!」
純一「それには僕も同感だ、これは絶対にウケると思う。凄いよ香苗さん」
香苗「あはは、二人とも褒めすぎだから」
梨穂子「んー、それじゃあこれで決まりなのかな?」
薫「良い感じにまとまりそうね、明日の話し合いは~」
純一「楽しそうだな…」
絢辻「…いいわよ、ちゃんとメモっておいたわ」
絢辻「───性別反転ロミジュリ、で決まり!」
薫「イェーイ!」パチパチ
梨穂子「わぁ~~!」ぱちぱち
香苗「あはは」ぱちぱち
純一「木の役ってのもあるよな?」
梅原「多分だが、橘は絶対に女役をやらされると思うぞ」
純一「……だよね、なんとなくわかる」
梅原「……ああ、そして多分俺もだ…」
純一「頑張ろう…」
梅原「そうだな…」
~~~~~
香苗「あ、コーヒー無くなっちゃった」
純一「…ん、そしたら僕のドリンクバーでおかわりしたら?」
純一「いいだろ、薫にお金渡しとくからさ」
絢辻「犯罪よ」
梨穂子「純一?」
純一「うっ……じゃ、じゃあ僕が持ってきて香苗さんにあげるのはどうだ!」
香苗「あ、コーヒーはおかわり自由って書いてるけど」
純一「え?」
薫「パスタ美味しかったわ~、ずっと気になってたからスッキリスッキリ」
絢辻「美味しそうだったわね、今度私も食べてみようかしら」
梨穂子「ここのチーズケーキも美味しいんだよ~」
純一「三人とも!? 実は知ってて怒ってたでしょ!?」
香苗「くすっ…じゃあ行ってくるね」
香苗「えっと、コーヒーコーヒー…っと」
香苗「あった、これね」コト
ジジジジジジジ…
香苗「……」
香苗(今日は来て良かった…よね、うん。だって色々と話せたしさ)
香苗(普段は桜井も居て、橘くんもいて……それなのにちっとも話す機会が増えずに)
香苗(はたまた同じクラスになっても、とんと会話する機会も来なず仕舞い…)
香苗「……はぁ」
コポポ
香苗「おっとと、危ない危ない…」コト
香苗「……」
香苗「…もっと頑張らなくちゃいけないんだろうけど、なぁ」
香苗「でも……そんなのこと、無理に決まってるから…」
香苗(…よっし、ウジウジしてたってそんなの私らしくない!)
香苗「……」
ごくっ
香苗「ぶぇっ…に、ににゃいっ……ぐすっ、だけど! 私の想いはもっと苦い!」
香苗「全然意味が分からないけれど! 頑張る!」
香苗「……」ぐっ
香苗「それはそれで、ミルクたっぷり入れないと…ミルクミルク…」
すっ
「──これでいいのか?」
香苗「あ、どうも。ありが」
梅原「おう、どういたしまして」
香苗「……と……」
梅原「ん? どうした?」
香苗「う、うめひゃらくんっ!?」
梅原「お、おう。そうだが…俺の顔忘れたのか?」
香苗「っ…っ…っ…」ブンブンブンブン!
梅原「だよな、びっくりしたぜ」
香苗「あっ…がっ…そっ……その!」
梅原「どした?」
香苗「き、聞いてたっ!? さっきの独り言!?」
梅原「…独り言? いや、別になにも聞いてねえけど?」
香苗「…………」
香苗「……そっかぁ~~~~っはぁ~~~よかったぁ~~~」
梅原「そんなに聞かれちゃヤバい事言ってたのかよ?」
香苗「う、ううん! 違うよっ! そんなことないから!」
梅原「逆にそこまで言われると気になってくる…ま、聞きだしたりしないからよ」
梅原「ん、それでミルクはいらねえのかい」
香苗「い…イタダキマス」
梅原「ほらよ」
香苗(わっ、わわっ…梅原君が…私のコーヒーにミルクを入れてくれてる…!)
梅原「これぐらいか?」
香苗「へっ!? あっ…その、もうちょっとお願い…」
梅原「結構入れるんだな、ほら」
香苗(ひゃ~ぁ! なんだろっ、なんだろっ……凄く恥ずかしい…!)
梅原「うっし、ここまででどうだ」
香苗「…ぅ、うん…ありがと…」
梅原「はは、これぐらいでお礼は要らないぜ」
香苗「……うん…」
香苗(はっ!? い、いまって二人っきりだよね!? そうだよね!?)
香苗(そしたら会話できるチャンスじゃん! よ、よし…やってやるわよ…)
香苗「っ……その、梅原君…」
梅原「お茶お茶っと。ん、なんだー?」
香苗「す、すこしだけ、聞きたい事があるんだけど…っ」
梅原「話?」
香苗「う、うん。だめ……かな?」ちら
梅原「別にかまわねーけど、あっちじゃだめなのか?」
香苗「…うん」
梅原「……。まあいいけどよ、なんだ話って?」
香苗(来た───!!!)
香苗「その、ね。今回って私たちのクラス……演劇する事になったでしょ?」
香苗「そ、それでねっ……梅原君はなにかやりたい役とか、あるのかなってさ~」
梅原「やりたい役、かぁ。んー特にねえな…ずずっ」
香苗「そ、そっか」
香苗(ううっ…話が続かないっ…)
梅原「───あ、でもよ」
香苗「え、なに梅原君?」
梅原「俺はさ、伊藤さんで見たい役ならあるぜ」
香苗「え、私っ?」
梅原「おうよ、今回はロミジュリをやるんだろ?」
香苗「う、うん」
梅原「そしたらロミオ役をやってる伊藤さん、俺は見てみたいねぇ」
香苗「ろ、ロミオ役!?」
香苗「嫌って言うか…その、ロミオなの…?」
梅原「性別反転なんだろ? 出来ればジュリエット見てみたいけどよー」
香苗「あ、そっか…うん…」
梅原「ははは、そう考えると女子も色々と大変だな。男子はそれ以上大変だろうけどよ」
香苗「あの…」
梅原「おう?」
香苗「……で、でも…私たちのクラス可愛い子他にいっぱいいるじゃん…だけど、私のロミオが見たいの…?」
梅原「んー、確かに可愛いって言うか人気の高い女子が集まってるよな、俺らのクラス」
香苗「………っ」ぎゅっ
梅原「──でも、俺はそれでも伊藤さんのロミオを見てみたい」
香苗「え…」
梅原「どうして、と聞かれても…はは、ちっと恥ずかしいけどよ」
梅原「───すっげー似合いそうだから、としか言えねえよ…」
香苗「……」
梅原「くはぁー! なんだなんだ、恥ずかしいなオイ…俺、顔真っ赤になってるか?」
香苗「…ちょっとだけ」
梅原「だよなー! …くっそ、照れてんじゃねえよ俺。ただ見てみたいって言っただけだろうが…」
香苗「…くす」
梅原「わ、笑わないでくれっ…とんだチキンやろうってのは分かってるんだ…」
香苗「あははっ、そうだね。女子になって欲しい役を言うぐらいで、なに照れてるんだ~このこの」ぐりぐり
梅原「やめろ…やめてくれぇ…」
香苗「ふふふっ」
梅原「あん?」
香苗「その、言ってくれて…ありがと、嬉しかったわ」
梅原「嬉しかったって、別に大したこといってねーだろ?」
香苗「ううん、それでもね」
香苗「梅原君にそう言ってもらえて、嬉しかったから」
梅原「………」
香苗「えへへ」
梅原「お、おう…そっか」
香苗「うんっ」
梅原「………その」
香苗「ん? どしたの?」
梅原「いや……なんでもねえよ」
香苗「えー? 気になるじゃん、ハッキリ言いなよ」
香苗「ん~…?」ずいっ
梅原「……」
香苗「どうして顔を見てくれないのよ、梅原君?」
梅原「…なんでもだ」
香苗「嘘だって、なにか隠してるじゃん。どしたどした?」
梅原「っ…」ぷいっ
香苗「おっ? じゃあこっちに来ようっと」すたすた…
香苗「んふふ、ね?」
梅原「うっ、なにが…ね? なんだよ」
香苗「さあ?」
梅原「よくわかんねーけど…なんだか伊藤さん…しつこいぞ…」
香苗「しつこくないよ~? 黙ってる梅原君のほうがしつこいんじゃないの?」
香苗「わぁっ?!」
梅原「──じゃあ言ってやるぞ、いいんだな?」ずいっ
香苗「うっひ! ……か、顔が近くない…?」
梅原「良いんだよなっ? なっ?!」
香苗「ぁっ…ぇっ…っと…」ドキドキ
梅原「…じゃあ言うぞ」
香苗(息が頬にっ)ゾクゾク
梅原「はぁ、あのな伊藤さん…」
梅原「…あんまり、男に対して期待させるようなことを───」
純一「そんなに至近距離で何やってるの二人とも?」
梅原&香苗「うぇっ!?」
純一「………」
梅原「た、橘ァ!? なにを思った!? 何を考えたぁ!?」
香苗「ち、違うからね! たちばばばば!」
純一「え? ごみを取ろうとしたんじゃないの?」
梅原「えっ…がっ……そ、そうだぜぇ! なぁ伊藤さんん!?」
香苗「そ、そうだよねぇ梅原君!? いやーまいったわー! あはっはは!」
純一「なんだろう、違うんだったら……あっ! も、もしかしてキ───」
香苗「ふんっ!」ドス!
純一「フングォッ!?」ドタリ…
梅原「いとっ…伊藤さん!? 橘ァ!?」
香苗「あ、なんとなくやっちゃった…」
梅原「ええぇええっ!?」
絢辻「──どうしたのよ、騒がしいわね……橘くん!?」
薫「え? 純一が妄想してる?」ひょこ
梨穂子「なにやってるの純一?」ひょこ
絢辻「わからない、だけど──……これは事件ね」
梅原&香苗「えっ!?」
薫「じ、事件ですって…!?」
梨穂子「…うん、犯人は誰かな」
香苗「さ、桜井…? 何言ってんの…?」
絢辻「──いいわ、ここは私に任せて伊藤さん」
香苗「へ?」
絢辻「この事件、絢辻詞に任せて頂戴…絶対に犯人を見つけ出して見せるから!」
薫&梨穂子「おー」ぱちぱち
梅原「…いや、なんとなくわかった、みんなで覗いてたんだろ」
香苗「え、えっ?」
梅原「それで橘が空気を読まずにここに来たから、色々と誤魔化しにかかってると…」
香苗「つ、つまり……みんな隠れてみてたって事…?」
梨穂子「…えっと、パフェを食べきらないとね~」
絢辻「話し合った結果をまとめないと…」
薫「ほら、起きなさいアンタ」ぐいっ
純一「ぐえっ」ずりずり…
梅原「…はぁ」
香苗「ぜ、全部見られてたって事…っ? えっ? えっ? じゃ、じゃあさっきの私のっ…ぎゃー!」
梅原「俺らも戻ろうぜ、伊藤さん」
香苗「あ、うんっ…だけど、そのっ…!」
梅原「大丈夫だろ、ちゃんと誤解を解けばよ」
梅原「すまねえな、変な勘違いをさせちまってよ」
香苗「…うん、そうだね」
梅原「おう、じゃあ戻ろうぜ。コーヒー忘れずにな」
香苗「うん」
梅原「うっし───…おい、何を勘違いしてるか知らねえけどな!」すたすた…
香苗「……」
香苗「…勘違い、か」コト…
香苗「ずずっ…」
香苗「……まだ、苦いなぁ」
~~~~~~
薫「それじゃーまったね~」
絢辻「さようなら、気を付けて帰るのよ」
薫「なにその子供扱いっ!」
純一「正当な心配だと僕は思うよ?」
梨穂子「わぁー…純一が宙を回ってる…」
純一「なれたもんさ…」
薫「ふぃ、んじゃ改めてさいなら~」
絢辻「さようなら、それじゃあ私たちも帰るわよ」
純一「えっ? 今日は用事があるって言ってなかった?」
絢辻「………」
純一「…あはは、了解」
純一「それじゃあ梨穂子、梅原、香苗さんバイバイ」
梅原「おうよ、明日学校でなぁ」
梨穂子「ばいばい~」
香苗「まったね~」
絢辻「みんな、さようなら。…ほら行くわよ」ぎゅっ
純一「そうだね、行こうか」ぎゅっ
絢辻「…うん」
梨穂子「ね~」
香苗「…なんていうか、豹変レベルよね」
梅原「あれも大将がすげーからだろうな、うっし俺らも当てられないうちに帰るか」
梨穂子「あはは、そうだね~」
香苗「そうね、ふぁーなんだかすごく疲れた気がするわ…」
梨穂子「みんなで色々と話し合ったしね。香苗ちゃんだってあの案、良く思いつたって思うよ?」
香苗「ん~、以前からこんなことやったら面白いかも~なんて考えてたの、実はね」
梅原「ほー、性別反転をか?」
香苗「…なんだか変態さんに思えるから、やっぱ聞かなかった事にして」
梅原「そりゃ無理な相談だ」
梨穂子「くすくす…なんだか純一みたいだね、香苗ちゃん」
香苗「どういうことー!?」
梨穂子「そうなの?」
梅原「おうよ、橘って男は何を考えてるのかさっぱり見当もつかねえ奴なんだ」
梨穂子「…うむうむ、それには同意かも」
梅原「だろ? この前なんてよ、放送室でカギを借りてきて───」
梨穂子「え~! どうしてそんなことに───」
香苗「……」
香苗「……」すたすた…
梅原「──だからよ、アイツには絶対に悩み事を打ち明けちゃ…ん?」
香苗「んっ? どしたの梅原君、話を続けてていいよ?」
梅原「そうか? いや、なんか隣に来たから話でもあるのかなと」
香苗「な、なんでもないよ。気にしないで良いからね」
梅原「…おう、わかった」
梅原「んでもって、話の続きなんだけどよ」
梨穂子「あ、うん。それで純一がどうしたの?」
香苗「………」
香苗(…今はこの距離でいい。近くもなくて、遠くでもない)
香苗(私に話しかけてくれてるわけでもないし、二人っきりで居るわけでもない)
ぎゅっ…
香苗(──だけど、隣で歩けてる。声も聞こえてる)
香苗(私にとっての第一歩は、今この一歩)すた…
香苗(決して見逃しはしない、だって歩きだしたのは私だから)
香苗(一歩一歩、またどんどんと……彼に近づいて行けばいい)
香苗(この二人の距離が、ゼロになるまで)
香苗(なんの後悔もなく、私が貴方に触れる時まで───)
~~~~~
『性別反転ロミオとジュリエット』
絢辻「これで決定よ! じゃあさっそく報告をしに行ってくるから」
「すげーもんが出来そうだな!」
「えー男装するの?」
「でもでも、女装とか面白そう! 化粧するんでしょう?」
「ぐぁー! マジかー!」
香苗「……」ドキドキ
「──どうやら皆も気に行ってくれたみたいだね」
香苗「あ、橘くん…もうなんだろう、気が気でなかったわよ…」
純一「ははっ、どうして? 僕なんて安心しきって寝ちゃってたよ!」
香苗「…それはそれでどうかと思うけど、うん、でも良かった」
香苗「やりたいって──言って、本当に良かったって思ってる」
純一「………」
香苗「え? 変わったって…変なキャラになってる…?」
純一「ううん、そうじゃないよ。ただ雰囲気が変わった…というのかな?」
純一「──前よりもっと魅力的な女の子になったなぁ、って思ったんだ」
香苗「みっ…魅力的ぃ!? わ、私が…?」
純一「そうだよ、今の香苗さんなら大抵の男はころっといっちゃうだろうね」
香苗「ううっ…あんまりそう言う事言わないでよっ…恥ずかしいじゃん」
純一「あはは、そうかな? ホントに思ってるんだけどなぁ」
香苗「…ぅぅっ」
薫「コラ、なにか弱き女子高生を困らせてるのよ。あんたは」
純一「え? 困らせてる?」
香苗「……」
薫「アンタは余計な事は言わなくていいの、出る幕じゃないってことぐらいわかりなさいよ」
純一「えー、なんだよその言い草…」
純一「いたた!」ずりずり
香苗「あ…」
「──なんだなんだ、相変らず元気だなあの二人は…」
香苗「…梅原君」
梅原「おうよ、良かったな無事に決まって」
香苗「あ、うんっ……本当に良かった。みんなも喜んでくれてるみたいだし」
梅原「おう! 全て伊藤さんのお陰だなっ!」
香苗「そ、そんなこと……全然…!」
梅原「んな謙遜するなって、本当の事だろ?」
香苗「…あ、ありがと」
梅原「後はそうだな、役割と担当を決めなくちゃいけねーとなぁ」
香苗「…梅原くんは、まだ何をやりたいか決まったない感じ?」
香苗「…そっか、裏方ね」
梅原「伊藤さんはどうなんだ、そこの所は」
香苗「私は特には……あ、でも梅原君的にはロミオがいいのかね~?」
梅原「うっ、まだ言うか…忘れてくれ! もう!」
香苗「ふっふっふ、いーや。忘れないよ~」
梅原「くっそ…こんなからかわれるなら言わなきゃよかったぜ…」
香苗「まあまあ、そういわないでよ。ね?」
絢辻「──みんな、ただいま」
梨穂子「…よいしょっと」ぽすっ
絢辻「ごめんなさいね、荷物運び手伝ってもらちゃって」
梨穂子「いいよ~。ちょうど部活の話し合いの帰りだったしね~」
純一「それで? 申請は通ったの絢辻さん?」
絢辻「数分で了解を得て来たわ。そして私だけ一人、申請会議を抜けてきたの」
薫「へ? そんなことして大丈夫なの?」
絢辻「当たり前よ、私を誰だって思ってるのかしら」
純一「流石だ…」
梅原「…行こうぜ、なにやら始まるみたいだ」
香苗「うん、そうだね」がたっ
~~~~~
絢辻「文化祭での資金は既に貰ってあるの」
薫「準備いいわね、まだ先の話だって言うのに」
絢辻「元から話をしておいたのよ、資金だけは直ぐに取れる様にしておいてくださいってね」
純一「あー、だからあんなに忙しそうだったんだ…」
梅原「それで? 絢辻さん、この荷物は?」
梨穂子「衣装らしいよ~、以前に文化祭で使われてた奴らしくてね」
香苗「けほっ…すごく埃っぽいっ」
純一「着れるのこれ…?」
絢辻「カビも生えてるでしょうし、それでもいいのなら着てもいいわよ?」
純一「…勘弁してください」
薫「クラスの中に、衣装を作りたいって言ってる子がいるんだけど?」
絢辻「ええ、把握してるわ。これを持ってきたのは別の理由よ」
梅原「あーつまり、参考にしろって話か」
絢辻「そういうこと、もとになるモノがあれば短期間で作れるはずよ」
薫「ひゅ~♪ さっすが絢辻さん、ねー! みんなー! これ見てみなさいよー!」
「うわ、なにこれすっご!」
「きれぇー!」
「きたねえけど、すげえ作り込まれてるな…」
香苗「そういえば絢辻さん、担当とかどうするの? まだ決まってないけど?」
純一「揉めちゃうの?」
梨穂子「揉めると思うよ…」
純一「え? なんで?」
梅原「じゃあ橘、ジュリエットやれって言われたらやるか?」
純一「やらない!」
梅原「だろう」
梨穂子「あ、でも純一のジュリエットとか似合いそう~」
純一「やめろ梨穂子っ…そう言うと本当になりそうで怖いからっ…!」
絢辻「私の独自のアンケートだと、トップは橘くんだったり」
純一「ぐぁー! やだー!」
香苗「あはは、でも、似合いそうだよね橘君だとさ~」
絢辻「当たり前じゃないの、さあ! みんな! ちゃっちゃと決めて演劇の準備に入るわよ!」
~~~~~
絢辻「…これで村人aは決定と」かつ
絢辻「だいたい決まってきたわね、後は───」
絢辻「──お待ちかね、ロミオとジュリエットの役を決めるわよ」
クラス一同『………』
絢辻「…誰かやりたい人は?」
薫「はいはーい! 推薦なんだけど、純一むぐぅっ!?」
純一「な、なんでもないです! 気にしないでください!」
薫「むぅー!」
絢辻「…でも、そうね。自主的に手を上げるのは少し難しいかしら」
絢辻「──では推薦したい人を上げて行って下さい、文句なしの多数決で決めましょう」
絢辻「既に担当が決まってる人は除外してね、
決まってないのはロミオとジュリエットに幾つかの役…あとは裏方の担当ね」
絢辻「どれも演劇には不可欠で、重要な担当よ。それなりの覚悟を要いると考えて頂戴」
香苗「……」
純一「余計な事は言うなよ薫…! お前がやればいいじゃないか!」
薫「無理に決まってるじゃない、あたしはもう裏方担当よ? 化粧係のね!」
純一「それ、絶対に他人を男を化粧して楽しみたいだけだろ…」
梨穂子「…香苗ちゃんはどうするの? まだ決まってないけど」
香苗「うん、そうだね。桜井は?」
梨穂子「私は~……その、実はちょっとロミオを狙ってたりして」
香苗「ま、マジでいってるの?」
梨穂子「やっぱり駄目かなぁ」
香苗「いや、駄目って事無いけど…桜井がやりたいっていうのが、ちょっと不思議でね」
香苗「それに? なんなの?」
梨穂子「…やるなら、後悔をしたくないなぁって」
香苗「…後悔?」
梨穂子「うん、だってそうじゃないかな? 最後の文化祭で、なにか悔いが残っちゃ嫌じゃない?」
香苗「…確かに、そうだわ」
梨穂子「でしょ? 香苗ちゃんだって、絶対にやりたいことをやった方が良いと思うよ」
香苗「…」
梨穂子「ね?」
香苗「……───」
がたっ
絢辻「誰か挙手を──あら、どうしたのかしら伊藤さん?」
香苗「……」
香苗「私、ロミオ役をやりたい」すっ
香苗「ううん、違うのよ」
香苗「──絶対にやりたいの、ロミオ役を」
絢辻「………」
「うぉっ? すげーやる気だ伊藤の奴…」
「でも似合いそうだよね、香苗って」
「男装したらキリッとした良い男になりそうだわ」
薫「伊藤さーん! アタシも推薦するわよー!」
香苗「…え、ホントに?」
薫「勿論! それにアンタも…推薦するでしょ?」
純一「え? いいんじゃないかな、香苗さんってロミオが似合うと思うよ!」
香苗「あはは、それって褒めてるの? 貶してるの?」
梨穂子「あはは、えーと私も香苗ちゃんを推薦しまーす」
香苗「桜井、アンタやりたいって…」
梨穂子「えへへ、えっと…そんな事言ったかな?」
梨穂子「うん? あはは」
絢辻「ということらしいけど、みんなはどう思う?」
絢辻「──やる気は十分、誰よりもあると思う。私も伊藤さんを推薦するわ」
香苗「あ、絢辻さん…」
絢辻「絶対にやりたいんでしょう、ロミオ役を」
香苗「……うん! やりたいのよ私!」
絢辻「結構、じゃあどうかしら皆?」
「いいんじゃね?」
「あたしもさんせーい!」
「伊藤なら全然不自然じゃないよなー」
香苗「だーれだ今、不自然じゃないって言った奴!」
絢辻「ではロミオ役は───伊藤香苗さんに決まりって事で」カツカツ
薫「ピュー! ピュー!」
純一「頑張ってね! 香苗さん!」
梨穂子「香苗ちゃんなら、どんなロミオよりもカッコ良くなると思うよ!」
パチパチパチパチワーワーヒューヒューパチパチパチ
香苗「あはは…照れるなぁ、やめてよ皆」ちら
梅原「…ん?」パチパチ
香苗「んっふふ」ぐっ
梅原「っ……はぁ…」
梅原「…」ぐっ
香苗(やった、返してもらった!)
絢辻「……では、ロミオが決まった所で。この流れに乗ってジュリエットを決めましょうかしら」
純一「──ハイハイ! 絢辻さん!」
純一「違うよ!? 推薦だって言ってたよね!」
絢辻「そういえばそうだったわね、それで誰を推薦するのかしら」
純一「びっくりした……えっとね、実は以前からある男が
ジュリエットに向いてるんじゃないかと思ってたんだよ」
絢辻「ほう」
純一「例えるのなら、そう誰に対しても男気溢れる日本男児であり」
薫「……」
純一「約束の為ならいつだって身体張って気を張って頑張る奴であり」
梨穂子「……」
純一「僕としても大いに尊敬している、そんな男がいるんだよ」
香苗「……」
純一「僕はそんな肝っ玉のある奴をジュリエットに推薦したいんだ!」
絢辻「なるほど、では誰なのかしら?」
梅原「ま、待ってくれ!」
梅原「ひ、非常に嫌な予感しかしねえんだが…橘、それ誰の事を言ってやがる」
純一「え?」
絢辻「まだ誰とは言ってないわよ? ねえ橘くん?」
純一「言ってないけど? …まさか、もしかして梅原自分の事だと…?」
「はっずー」
「梅原ちょっと空気読めよー」
梅原「うるせぇー! な、なんなんだ…絢辻さんと橘!」
梅原「なんだかそこの二人、組んでるような空気を感じるぞ俺は!?」
薫「馬鹿言っちゃ困るわよ、梅原君」
薫「こんな大役を個人の意見で螺子負けるわけないでしょ?」
梅原「だ、だがよっ…なんだか仕組まれてるような気がして…」
「梅原君、ちょっと落ち着きなヨ~」
梅原「ぐっ……確かに、そうかもしれねえな…」
香苗「……」
梨穂子「香苗ちゃん香苗ちゃん」つんつん
香苗「…へ? なに桜井?」
梨穂子「大丈夫だよ、わかってるから」
香苗「な、なにを?」
梨穂子「──これはね、全部絢辻さんが考えた事だから」
香苗「…どういうこと?」
梨穂子「みてれば分かると思うよ」
絢辻「──少し落ち着いたらどうかしら、梅原君」
梅原「お、俺はっ…」
絢辻「いいの、確かにわかってる。橘くんが言っている事は…少なくとも貴方を推薦している事は」
絢辻「だけど、これは只の推薦よ? そう焦る必要はないじゃないの」
梅原「そ、そうだがっ…橘の野郎が言うと、それで決まっちまいそうな気がして…」
純一「僕にそこまでの権限はないぞー?」
絢辻「橘くんが言っている通り、彼にそこまでの権限は無いわよ?」
梅原「っ……」
絢辻「時に梅原君、話は変わるけど……目立っちゃったわね?」
梅原「えっ…?」
絢辻「この場での話よ、えらく梅原くんの存在が表立ってないかしら」
梅原「………」
「…梅原かぁ、面白そうかもな」
「女装とか似合うかな?」
「いけるんじゃない? こう、お嬢様って感じになりそう」
「ぴったりじゃん! いいねいいね!」
絢辻「橘くん、推薦者は誰なの?」
純一「梅原です」
絢辻「わかりましたじゃあこの推薦に賛成の人手を上げてっ!」
ばっ!
絢辻「決定、これにてジュリエット役は梅原正吉くんに決定されました」かつかつ
絢辻「はい、盛大な拍手を送りましょう!」
ぱちぱちぱちぱちぱちぱち!!
梅原「……ってちょっと待てェ! なんだ今のスピード解決!? 置いてけぼりじゃねえか俺!」
薫「うだうだいうなー」
純一「そうだそうだー」
絢辻「…文句なしの、多数決よ? 梅原君?」
梅原「ぐっ…ごっ…!」
香苗「………」ポカーン
梨穂子「おおっ…流石絢辻さん~」
梨穂子「絢辻さんがね、二人にロミオとジュリエットをやらせてあげたかったんだって」
香苗「絢辻さんが…?」
絢辻「! ……ふふっ」パチッ
香苗「……」
梨穂子「そうだよ~、それで純一も色々と考えて今の状況…なんだよね~」
香苗「……」
梅原「くそっ…やりやがったな、橘のやつ…」
香苗「……そっか、はは」
香苗「──梅原くん! 一緒にがんばろうね!」
梅原「うぇっ? ……ぐぉおお! ここまで嵌められちまったらやってやろうじゃねえか!」
梅原「──いいジュリエットを演じてみせるぜ! 俺はぁよぉ!」
香苗「私も頑張るわ!」
ワァーーーーー! パチパチパチパチ!!
絢辻「詳しいことはまた後日に」
香苗「りょーかい」
梅原「…了解」
絢辻「ごめんなさいね、梅原君」
梅原「…悪いと持ってんなら、やらないでくれよ」
絢辻「ふふ、たしかにそうだわ。それじゃあ私はこれから報告書を書かなくちゃいけないから」
絢辻「また明日に」くる…
香苗「えっと、絢辻さん!」
絢辻「…なにかしら?」
香苗「その、さ…なんて言ったらいいのかわからないけど」
絢辻「お礼はいらないわよ」
香苗「っ……で、でも!」
絢辻「だって気まぐれだもの。たいした理由もないし、感謝されるような覚えもないわ」
香苗「……」
香苗「っ……──ありがと! この御恩、絶対に忘れないから!」
絢辻「…大袈裟よ、くす」がらり…
香苗「……」
香苗(…恩が出来ちゃったわね、いつかちゃんと返さないと)
香苗「……」
純一「良かったじゃないか、ジュリエット役」
梅原「なんにもよくねーよっ」
純一「ははっ、そういは言いつつも。実は嬉しいんだろ?」
梅原「このっ…このっ!」
純一「痛い痛い!」
香苗「…くすっ」
香苗「ふぅー」ドサリ
香苗「……ロミオ役、かぁ」
香苗「ふっふっふー、やっちまったぜ~」
香苗「……んきゃー!」ぽふっ
ぱたぱたぱた!
香苗「………ハズい、すっごくハズい」
香苗「はぁ、思わずやりたいって言っちゃった…私ってば本当にどうしようもない…」
香苗「……」
香苗「彼が……ジュリエット役、かぁ」
香苗「……っ……」ドキドキ
香苗「…どうしよ、心臓が強くなる」
香苗「頬が、熱くなっちゃう…」
香苗「……」もぞっ
香苗「…これでよかったんだよ、香苗」
香苗「ちゃんとあれから、一歩ずつ…歩き出してる筈だから」
香苗「あの日から…私は…」
すっ…
~~~~~
香苗「………」
『──俺は! 貴女のことが大好きだ! 今までずっと! 貴女のことしか見て来なかった!』
『部活だってなんだって、貴女に近づけるのならっ…全てをやってきたつもりです!』
香苗「梅原君…」
「おいおい、卒業式になんてやつだ…」
「梅原だろ? アイツ?」
「三年生に告白してるんだよな? 勇気あんなー」
『俺は貴女にこうやって告白することができます! この場であっても好きだと伝えられるんです!』
「在校生の言葉で、なにやってるんだアイツは!?」
「止めろ止めろ!」
『どれだけ抵抗があろうとも! 俺は貴女に伝えたい!』
『──どうか俺と、付き合ってください! お願いします!』
香苗「………っ…」
~~~~~
香苗「───んっ……」
香苗「あれ、寝ちゃったんだ…ふぁ…」
香苗「………」
香苗「…またこの夢をみたんだ、私」
香苗「……やっぱり、忘れられないよね」
香苗「っ…すぐ泣くんだから…」ぐしっ
香苗「流れるんじゃないわよ…なに勝手に悲しんでるのよ」
香苗「───泣く権利なんて、無い癖に…」
香苗「………」
香苗「…頑張らなくちゃダメよ私」
香苗「もう、遠くから見てるのを……やめたんだから」
香苗「今度はもう、あの時の彼を見たくないんだからっ」
香苗「……絶対に」
放課後
絢辻「これ、台本よ」
梅原&香苗「え?」
絢辻「どうかしたの?」
梅原「もう、台本の準備できたのか…?」
絢辻「ええ、早いほうがいいでしょう? こういうのは」
絢辻「別にすべての仕事をやり切るワケじゃないわよ、これはってこと」
梅原「お、おう」
絢辻「台本は少なくとも基盤があるわけだから、そこから少しずつアレンジを加えていけばいいと思うわ」
絢辻「…橘君、貴方もキチンと台本をおぼえるのよ」
純一「僕は少ししか無いから大丈夫だよ」
絢辻「油断してると足元を救われるのが貴方よ」
純一「…厳しい言葉です」
梨穂子「絢辻さ~ん、ここの所どうするのかな~?」
絢辻「はーい、今行くわね。……それじゃ二人共、後は任せたわよ?」
梅原「……」
香苗「……が、頑張ろっか!」
梅原「そうだな、頑張るしかねえよな」
梅原「おー、ロミオ…どうして貴方はロミオなのぉ?」
「ぷーくすくす」
「梅原上手いぞ!」
「もうちょっと女の子っぽく言ってみたら?」
梅原「ぐっ、うっせーな!」
香苗「…っ…っ…」ぴくぴくっ
梅原「そして一番笑いすぎだ伊藤さん!」
香苗「ご、ごめっ…ちょ、ちょっとツボに入って…はははっ!」
梅原「ったく」がしがし
梅原「俺だって恥ずかしいのを我慢して言ってるんだぞ? そこの所をもうちっとだなぁ…」
香苗「う、うんっ…ごめ、ごめんねっ…わかってるん、だけどっ……くひっ…!」
梅原「はぁ~、まあ、これが狙いだから仕方ねえけどよ」
香苗「あははっ! やっぱだめだわ! ごめんね梅原っ…くんっ…あははは!」
香苗「ご、ごめんねっ…くすくすっ…いや~、ここまでツボるとは予想外だわ~」
梅原「俺も予想外だよ…演技でコレなら、本番で女装したらどうなるんだ…」
香苗「ぶふぅっ!」
梅原「想像して噴出すんじゃねえっ」
薫「ねえねえ、アンタ達。ちょっといいかしら?」
香苗「ど、どしたの…けほっ……棚町さん?」
薫「あのね、少し化粧してどんなもんか確かめておきたいのよね」
香苗「っはぁ……あ~、化粧の伸びとか?」
薫「そそそ。出来れば肌に合うのを使いたいじゃない? でしょ?」
香苗「まあね」
梅原「お、俺は本番だけで十分だ…!」
薫「ダメよ、こっちは男に化粧は初めてなんだから。慣れておかないと」
梅原「…そっちの実験台を使い続ければいいだろ」
純一「うん?」
「あ、コレも使ってみない?」
「いいねぇ、これも使おうよ!」
純一「ふふん、よくわからないけれど綺麗にしてくれるって言うからさ!」
梅原(馬鹿だ…)
薫「足りないのよ純一だけじゃ、他の男子も嫌がってやらせてくれないし~」
梅原「俺だって嫌だ!」
薫「そんな事言わないでよ、ね? ジュース奢ってあげるから!」
梅原「ジュース一本と男のプライドを踏みにじるのは一緒かよ…」
香苗「梅原君、してみればいいじゃん。色々とイメージがつきやすくなるかもよ?」
梅原「…イメージ?」
香苗「そうそう、いきなり女の役をやれって言われても。
簡単に慣れるわけじゃないし、そしたら身体から女の子になってイメージを持ちやすくするのよ」
香苗「──そうすれば今よりは上手く、ジュリエットになりきれると思ったりするよ?」
薫「そそそ! 伊藤さんの言うとおりよ梅原君! イメージよイメージ! それを大切にしていきましょ!」
梅原「…本気でそう思ってるのか? 信じるぞ? 信じちまうぞっ?」
伊藤「もちろん」
梅原「……ぐぬぬ───わ、わかった棚町…よろしく頼む」
薫「おっけ、まっかせないさーい」
薫「あはっ」ぐっ
香苗「んっ」ぐっ
梅腹「…どうしてそこで親指を立て合うんだよ、
やっぱ普通に化粧させたいだけ──ひ、ひっぱるなよっ…」
梅原「…へ、ここに座るのか? ま、まってくれ! いきなりなにをっ……うぁあああー!」
香苗「おおー手早い対処ー」
~~~~
「橘くぅーん、こっちみて! あははは!」
純一「こうかな」キリ
「こっちこっち!」ぱしゃぱしゃ
梅原「ううっ…」
薫「──いやー、見事に女の子に出来たわ~」
香苗「っ……っ…っ…」ぷるぷる
梨穂子「笑いすぎだよ、香苗ちゃん~」
香苗「だ、だって梅原君もっ…橘君もっ…似合いすぎだからっ…なにそれ、ほんとっ…!」
香苗「ころされっ…る…助けて、桜井っ…!」
梨穂子「あはは、確かに似合い過ぎだよね~」
薫「そりゃー頑張ったもの、というか、頑張った程度で似合うランクまで行くあんたら何者なのよ」
梅原「知るかっ!」
純一「ほほう…なるほどなぁ、女装ってこうやってなれるのかぁ」
「このカツラとかつけてみる?」
純一「お、いいねぇ。本格的じゃないか、どれどれ」
香苗「ぶっはぁー!」
薫「似合っててムカツク」
純一「…どういうことー」
梨穂子「かわいいよ~!」
純一「ありがとう! 梨穂子!」
梅原「い、いや! 俺はカツラいらねえから!」
「いいからいいから、ね?」
「つけてみなって~」
「……梅原、お前のことは忘れない」
「ひとまず生贄になってくれ」
梅原「うぉい! 結局お前らもやらされるんだからなっ!?」
パサ…
香苗「……」
梅原「…な、なんだよ伊藤さん…」
香苗「ぶはっ」
香苗「ひっ…はっ……くっ……」
薫「本気で大丈夫かしら…」
梨穂子「息出来てるの? 香苗ちゃん…?」
香苗「ひっは…ひっは……くひっ」
純一「…過呼吸じゃないよね、これ」
梅原「なわけ無いだろ、過呼吸なら倒れこんでもおかしく──」
香苗「きゅはっ……くぅー」バタリ
梅原「──倒れたぁー!!」
薫「やばっ…保健室連れて行くわよ!」
梨穂子「香苗ちゃん! 香苗ちゃん!?」
純一「梨穂子落ち着いて──まずは好きな食べ物を数えるんだ、いいな?」
梨穂子「シュークリームが一個、2個、3個、えへへ~」じゅる
薫「馬鹿なことやってないで連れて行くわよ!」
純一「僕も付いて行く! 他の人は絢辻さんに報告しておいて、後先生にも!」
薫「私も行くわよ! 桜井さんお願い!」
梨穂子「わ、わかったよっ」
~~~~
香苗「う、う~ん……」
香苗「…はれ? ここは?」もぞっ
香苗「……」
香苗(消毒液の匂い…それにシーツ…)
香苗「保健室? どうして私ここに…」
香苗「…ん?」ちら
梅原「すぴー…すぴー…」
香苗「…梅原君」
梅原「すぴ……うっ…」ビクン
香苗「…!」びくっ
香苗(お、起きたと思った…)
香苗「というか私、どうして…」
香苗「…あ、そっか。笑いすぎて息が段々できなくなってから」
香苗「……それでぶっ倒れちゃったような、くぉ~…私…ったら何をしてるのよ…」
香苗「………」
香苗「…梅原君、もしかしてずっと見ててくれたの?」
梅原「すぅ……すぴー…」
香苗「……」
香苗(何だか、腕が暖かいような気がする…誰かに握られてたような…)にぎにぎ
香苗(まさかね、そんなわけない。だって、それは……)
香苗「……梅原くん?」
梅原「すぴぃ……ふへへ…」
香苗「………」
梅原「むにゃむにゃ…」
香苗「……」
香苗「こんなところで、座ったまま寝たら風邪……引くよ」
すっ…
香苗「身体冷えちゃうし、それに……」
すすっ…
香苗「……それに」
すっ…
梅原「すやすや…」
香苗「……」
ぴと
香苗「それに……そんなに無防備だと、キス…されちゃうよ…」
香苗「……っ…」ドキドキ
香苗(…だめ、そんなことして嫌われちゃったら身も蓋もない)
香苗(私は決して彼を傷つけたいわけじゃないんだから、ただ私は…あの時の梅原くんを見たくないだけ)
香苗(遠くから見てるだけなんて、そんな後悔をしたくなくて)
香苗(ただ近くで…貴方を見ていたいだけ…)
香苗「…だけど」
梅原「すぷゅぅ……すぅー」
香苗「………」ドキドキ…
香苗「……ごめんね、今の私はどうも…コレ以上…」ドキ…
すっ
香苗「──我慢、出来ないと思う…から」
……ちゅっ
香苗「──……」すっ…
香苗「…ぁ……」
香苗(…唇が凄く熱い)
香苗(自分のじゃない熱が唇に残ってる…)
香苗(私、しちゃったんだ……彼にキスを…私)
~~~~
『───貴女がいるから……よね』
~~~~
香苗「っ!」びくっ
香苗「あっ…わた、し……っ」
梅原「──ぅあ? はっ!? やべ、寝てた!」ジュル
香苗「………」
梅原「おおう、起きたのか伊藤さん? すまねえ、なんか俺寝てて…伊藤さん?」
香苗「……」ぽろぽろ…
梅原「ちょ、ちょっと伊藤さん…? なんで泣いてるんだっ?」
香苗「…ごめん…っ」ぎゅっ
香苗「ごめんね…私、私またやっちゃった…」ポロポロ…
梅原「はいっ? 何言ってやがんだオイオイ。まだ苦しいのか?」すっ…
香苗「………っ…」ぎゅうっ
梅原「苦しいなら無理するなよ……ほら、大丈夫か」さすさす
香苗「………ごめんね、梅原君…」
梅原「謝るなよ、気にすんなって…先生呼んでくるか? 平気なのか?」
香苗「うん、うん……ぐすっ」
梅原「おう…」さすさす…
香苗「………」
~~~~
香苗「…あはは、ごめんね。急に泣いちゃってさ」
梅原「おーびっくりしたぜ、でも今は平気なんだろ?」
梅原「あらかた帰ったと思うぞ。まあ何人かは文化祭準備で残ってるかも知れねえが」
香苗「そっか」
梅原「…悪いことをした、とか思ってるんじゃねーだろうな?」
香苗「えっ?」
梅原「別に倒れたからって、雰囲気壊れてなんかいねーからな?
むしろあのクラスは盛り上がったわ、死んだ伊藤さんの為に頑張るぞ! …みたいな感じでよ」
香苗「死んでない死んでない、でも…そっか。うん、ありがと」
香苗「安心した、その言葉を聞いてね」
梅原「ったくよー、笑い過ぎで過呼吸とか普通有り得ないだろ。何やってるんだよ伊藤さん」
香苗「…あはは、なんだろ。やけにツボに入ったんだよね」
梅原「そんなに面白かったのか…俺らの女装姿…」
香苗「くすくす、うん! 稀に見ぬ似合いっぷりで」
梅原「…はっは、そりゃすげーぜ」
香苗「…ふふっ」
香苗「…? どうしたの梅原君?」
梅原「あ、いやっ……大したことはねえけど」
梅原「一つだけ、伊藤さんに言っておこうと思ってな」
香苗「え?」
梅原「お、俺はよっ…その~」ポリポリ
梅原「演技がさ、すっげー苦手なんだ…実は…」
香苗「……」
梅原「ほら! 昔っから嘘とか苦手でさ、よく橘にも騙されたりなんかしてさ…!」
梅原「……まあ、なんていうか。すっげー不安なんだわ、ジュリエットの役」
香苗「…それで?」
梅原「もしかしたら……伊藤さんにはこれから迷惑をかけるかもしれねえってことだ」
香苗「別に私は…だって誰だって演技をしろって難しいじゃん、でしょ?」
梅原「…まあな」
香苗「……」
梅原「初めてだからって、苦手だからって、んなもんで言い訳してる場合じゃねえんだ」
梅原「最後の最後の文化祭だ、みんなだって驚くほどヤル気を出してる」
香苗「…そうだね、うん」
梅原「だろ? だったら俺も本気でやんねーとダメなんだ、例えジュリエット役だったとしてもな」
梅原「──俺は後悔なんてものを心に残して、卒業するのだけは嫌だから」
香苗「……すごいな、梅原くんは」
梅原「なんでだよ、ただの頑固者だけだ」
香苗「ううん、凄いって。みんな真似できないよ、そんな強い所はさ」
梅原「そ、そうか? はは、照れちまうなそう言われると…」
香苗「……」
梅原「ん?」
香苗「私と梅原君、二人で秘密の特訓……してみる?」
梅原「秘密の特訓?」
香苗「そう、演技が苦手な梅原くんのために。私と二人でどこか河原とかで練習するの」
香苗「…二人だけだと、ほら。色々とやりやすくない?」
梅原「まあ、確かにそうだな」
香苗「どう? やってみる?」
梅原「……」
香苗「……」ドキ…
梅原「──うっし、やってみっか! 秘密の特訓とやらを!」
香苗「え、本当に?」
梅原「オウヨ、不安がってる今よりちっとは良くなりそうな気がするしよ」
梅原「どーしてだ? …もしかして」
香苗「えっ!?」
梅原「──伊藤さんも、実はロミオ役が不安だったオチか?」
香苗「……」
梅原「ははっ、俺と一緒か! んじゃ頑張ろうぜ二人でよ!」
香苗「……ばか」もぞ…
梅原「って、おい。伊藤さん? どうして毛布の中に戻るんだ…? おーい?」
香苗「……」
梅原「伊藤さ~ん?」
香苗「……バカ…」
香苗「……私の、馬鹿」ぼそっ
がら…
絢辻「失礼します」
梅原「ん、おう絢辻さん」
絢辻「…あら? 貴方だけ?」
梅原「まな、伊藤さんか?」
絢辻「ええ、そろそろ最終下校時間だから」
梅原「なるほどな、あ~伊藤さんなら先に帰ったぜ、親御さんが迎えに来てよ」
絢辻「了解したわ、じゃあ梅原くんは何をここで呆けているの?」
梅原「うっ…」
絢辻「まさか文化祭の準備をサボってる訳じゃあ」
梅原「ち、ちげーよ! って、違います。本当にそんなつもりはなねえからさ…」
絢辻「じゃあ理由はなんなの」
梅原「……れ、練習してたんだよっ」
絢辻「練習?」
絢辻「本番はもっと大人数に見られるから、今のうちに慣れておかないと」
梅原「ぐっ…だがよ! 今はその、台本を覚えなきゃいけないだろ? 集中力ってのは大切な筈だぜ?」
絢辻「時に慣れない現場だと、どれだけ時間を掛け覚えた記憶も、ふとしたきっかけで全て忘れるわ」
梅原「…勘弁して下さい、絢辻さん」
絢辻「ふふっ、つまらない言い訳をしたお返しよ」
梅原「……お見通しってわけか、敵わねえな絢辻さんには」
絢辻「もちろん、伊藤さんが帰ったのなんて嘘でしょ?」
梅原「……」
絢辻「お手洗いに行っているか、もしくは他のところへ行っているか。
どちらにせよ梅原くんが伊藤さんの帰りを待ってることぐらい、見てわかるから」
梅原「…まいった、降参だ」
絢辻「正直で結構、だけど早く帰ってちょうだいね? 私も戸締りして帰るつもりだから」
梅原「わかった、すぐに買える支度するぜ」
絢辻「ありがと、ふふっ」
梅原「あー、ちょっと待ってくれ絢辻さん」
絢辻「ん、なにかしら?」ちら
梅原「…少しだけ、話したいことがあるんだが」
絢辻「話し?」
梅原「おう、少しの時間でいいからよ」
梅原「───あの卒業式のことについて、『また』話しをしたいんだ」
絢辻「………」
~~~~
香苗「…ふぅ、よかった間に合った」
香苗「カバンカバンっと、あった。私のと梅原くんの」ぎしっ
香苗「よし、これからどこか広いところでも行って練習───」
「──あれ、香苗さん?」
純一「元気なったの? よかった~」
純一「ううん、香苗さんが来にすることじゃないよ。寧ろあのあと、僕ら凄く怒られたし」
純一「──あなた達の格好は、もはや凶器よ! 扱いには注意しなさい! って絢辻さんに…とほほ」
香苗「凶器って、くすくす。確かにそうかもしれないね~」
純一「香苗さんまで……でも、それほどのインパクトが
あったほうが本番でもバッチシだろうね、きっとさ」
香苗「あったりまえじゃん! だからもっともっと可愛くならなきゃだめだね~」
純一「どうしよう、僕の可愛さには限度がないのだろうか…」
香苗「あはは」
純一「ははっ、おっと…そういえば誰か待たせてるの? カバン2個持ってるしさ」
香苗「え? あ、うん。梅原くんを保健室に…」
純一「梅原を? そうか、ずっと寝てた香苗さんを見てたのか……なにか悪戯されてないよね? 大丈夫?」
香苗「えぇっ!? だ、大丈夫って思うけど…?」
裏では何を考えてるかわからないからね。きっとそれは…口ではいけないことをドロドロと…!」
香苗「ま、まかさ…というか橘くん、あれだけ良い奴だってジュリエット役に推薦してたじゃん」
純一「え? まあ絢辻さんが言えって言ったから、僕は言っただけだよ」
香苗「へ? えっと、特になにも…橘君的に思うことはなく?」
純一「うん、丸々絢辻さんが言った言葉を言っただけだね」
香苗(もしかして、気づいてないの? 私の…彼への気持ちとか)
純一「?」
香苗(あー……気づいてないっぽい、絢辻さんよく振り向かせられたなぁ…この橘くんを…)
純一「…なにか良くないことを思われてる気がする」
香苗「う、ううん! そんなことないってっ」
純一「本当に?」
香苗「ホントホント!」
純一「ならいいけど、よし。元気そうな香苗さんも見れたことだし、教室の戸締りするよ」
純一「うん、僕も香苗さんと同じで絢辻さんを待たせてるからさ、早く家に帰ろうよ」
香苗「ええ、そうね」
保健室前廊下
純一「……ん、あれは」
香苗「あれ? 梅原くんと……絢辻さん?」
絢辻「…」
梅原「…」
純一「……なんだろう、変な雰囲気だ」
香苗「えっ? そ、そうなの?」
純一「うん、何となくだけどね…多分アレは絢辻さん、怒ってる…?」
香苗「怒ってる? 梅原くんにってこと?」
純一「………」
香苗「…橘くん?」
香苗「え、ちょ、ちょっと橘くんっ…!?」
たったった
香苗(な、なんなのよ……怒ってるって、絢辻さんどうして梅原くんに…?)
香苗「っ……私も気になるじゃんっ」だっ
絢辻「──ホラきたわよ」
梅原「……」
純一「…絢辻さん、落ち着いて」
絢辻「貴方は黙ってなさい、今は梅原くんと会話してるの」
純一「黙ってられないよ、絢辻さんが怒ってるんだ。訳を知る権利は、僕にだってあるはずだよ」
梅原「……」
香苗「えっと…なにがあったっていうの…?」
梅原「…なんでもねえよ」
純一「…梅原、なんて声出すんだよ。びっくりしてるじゃないか、香苗さんが」
梅原「……」
絢辻「ねえ梅原くん。なんでもなくは無いでしょう、
私に聞くぐらいなら、一番あやしい人に聞くべきじゃなくて?」
梅原「…だから俺の勘違いだった、で、終わりでいいだろうが」
絢辻「良くないわよ、変に疑われたまんまだと気持ち悪いわ」
絢辻「貴方だってわかってるんでしょう? …伊藤さんが一番怪しいのだと」
梅原「……」
香苗「わ、私…? なにがどうなってんのっ?」
純一「…梅原?」
梅原「──はぁ、なんだよ本当に…こんなつもりはなかったっていうのによ…」
絢辻「……」
梅原「なあ、伊藤さん。覚えてるか?」
香苗「なにが…?」
梅原「──俺が卒業式で、先輩に告白した時のことだよ」
香苗「っ……」
梅原「まあ誰だって忘れることは出来ねえよな、今になっても誰だって覚えてる」
香苗「…覚えてるけど、それがどうかしたの?」
梅原「おう、あのあと直ぐにきっぱり断れたろ?」
梅原「『──ごめんなさい』ってな、覚えてるか?」
香苗「うん、覚えてる」
梅原「んだからって何のことも無いんだけどよ、実にその通りだし、なんの意味も篭ってない」
梅原「…だけどな、実はあのあとこっそりまた──先輩に会ってるんだ、俺」
香苗「………」
梅原「卒業式が終わって、先輩が一人の時を狙って、もう一度会いに行ったんだ」
梅原「…卒業式での謝罪を込めて、話をしにいったんだ」
絢辻「……」
梅原「──その時よ、実はもう一回だけ……考えてみてくれないかって、言っちまったんだ」
純一「…情けないな、梅原…」
梅原「わかってるよ、言ってくれるな。だけど、やっぱ後悔が残っちまってたんだよ……ちっとばかし」
梅原「きちんと二人っきりで先輩の話を聞きたかったんだ、
どうして、なんて聞いちまえばもっと辛くなるのはわかってたけどよ」
梅原「──そしたら先輩は、こう言ってくれたんだ」
『──四時にここで、待ち合わせ。そこで話しをしよう』
梅原「ってな」
絢辻「……」
香苗「……」
梅原「…いや、何も話してねえよ」
純一「え?」
梅原「《すっぽかされたんだ、約束の時間が過ぎても、夜になっても先輩は来なかった》」
純一「っ……!?」
梅原「…おうよ、すまねえな。橘、こんな話しを聞かせちまって」
純一「梅原……お前…」
梅原「同情すんなって、本当に情けなくなっちまうから」
純一「……」
梅原「…だけどよ、俺は信じられねえんだ。あの先輩が約束の場所に来なかったことが」
梅原「どうして、なんでだって、いくら考えても分からなかった」
梅原「…泣きてえのに、全然泣けねえんだ。何が起こってるのかちっとも頭が理解しやがらねえ」
梅原「──そうしてるうちに、ふと、思いついたんだ」
梅原「俺と合う前に、誰か先輩と会ってたんじゃねえかって」
梅原「──もしくはその他の誰かに、俺への言付けを頼んだんじゃねえかってな」
絢辻「…それで私を疑ったというわけ、なんて言ったって、あの卒業式で梅原くんが告白するように」
絢辻「手配したのは全て、私がやったことだもの」
純一「あ、絢辻さんがっ?」
絢辻「ええ、それなりに対価は貰ったわよ。大いにね」
梅原「……」
絢辻「だけど、私は卒業式内でのことはやってあげると言ったはずよ」
梅原「ああ、あれは確かに俺の独断だった。絢辻さんは関係ねえよな」
絢辻「……」
純一「ちょ、ちょっと待って! とにかく約束の場所に先輩が来なかったことはわかったけど…!」
純一「──どうして、香苗さんが怪しいの…っ? 全然、関係無いじゃないか!」
純一「だ、だよね? 香苗さんは別に関係ないよね…?」
香苗「………」
純一「…香苗さん?」
梅原「やっぱり、なにか知ってんのか。伊藤さん」
香苗「っ……」
梅原「…んだよ、やっぱりそうか。はぁ、あの人は本当に…」
香苗「……」
梅原「…すまねえ伊藤さん、あの人はなんて言ってたんだ?」
梅原「どういう経緯であの人が伊藤さんに言付けを頼んだかは、わからねえけど」
梅原「どうか教えてくれ、先輩は俺になんて言ってたんだ?」
香苗「…」
香苗「……《もう大丈夫》って言ってたよ、先輩は」
梅原「…そっか、先輩はそういってたか」
絢辻「……」
純一「大丈夫って…」
絢辻「…もういいわよね、私たちは行くわよ」
梅原「すんませんした。変に疑っちまって」
絢辻「いいわよ、それよりちゃんと話を聞いておきなさいよ」
絢辻「──文化祭に支障をきたさないよう、しっかりとね」
香苗「……」
絢辻「さあ、帰るわよ橘君」ぐいっ
純一「えっ? でも…!」
絢辻「いーから、早く!」ぐいぐいっ
純一「う、梅原ぁー! 香苗さーん! 喧嘩はしちゃだめだよー!」
香苗「………」
梅原「場所移すか、近くの公園でもいいか?」
香苗「…うん」
公園
梅原「……その、な」
香苗「……」
梅原「他に先輩は何も言ってなかったのか?」
香苗「…それだけ、特に何も言ってなかった」
梅原「そうか、そうだろうなぁ」
香苗「……」
梅原「──いやー! あんがとな! すっきりしたぜ!」ぱんっ
梅原「まっさか本当に伊藤さんが先輩の話をきいててくれてたとはよぉ~!」
香苗「…梅原君」
梅原「おう、なんだ伊藤さん!」
香苗「…どうして、怒んないの」
梅原「へ? 怒る?」
香苗「…さっきの絢辻さんの時みたいに、どうして私に怒ったりしないの」
梅原「怒ったりしないのって……そりゃ、起こる必要がないからだろ?」
香苗「っ…だ、だって今まで! ずっと黙ってたんだよ私…っ?」
梅原「……」
香苗「ずっとずっとっ…梅原くんにとって大切な言葉を、私だけが一人で隠し持ってた…!」
梅原「…伊藤さん」
香苗「それなのにっ……私、私はっ…!」ぎゅうっ…
梅原「……」
梅原「…いいって、気にすんなよ。伊藤さんは悪くねえから」
梅原「いーや、悪かねえよ。……悪いのはあの先輩だ」
香苗「…っ…!」
梅原「俺は怒ってやりたいんだ、先輩に。どうして俺に言わずに、伊藤さんに言付けを頼んだのかってよ」
梅原「そんな重たい責任を、どうして伊藤さん何かに背負わせたのかってよ!」
香苗「梅原くん…」
梅原「…だけど、あの人は理由なしにこんな無責任な事はしねえ。絶対だ」
香苗「……」
梅原「今は先輩と簡単に会話できるような状況じゃない、
今直ぐにでも理由を聞きに行きてえが我慢しなきゃいけない」
梅原「とにかくいまの現状で、伊藤さんが悪いってことは…絶対にないからな」
香苗「でも…」
梅原「でももクソもねえよっ! 伊藤さんっ!」
香苗「っ…」
香苗「…それはっ…」
梅原「わかってるよ、俺ってば振られてから……ちょっと低飛行気味だったろ?」
香苗「……」
梅原「まあ原因は先輩が来てくれなかったことだったけどよ、だが、あの時に…」
梅原「…伊藤さんが正直に言ってくれてたら、もっと落ち込んでたと思う」
梅原「裏切られたって思ってた気持ちは治るだろうけどよ、
それでも…振られて荒んでた気分は更に悪化してたと思うぜ?」
香苗「……」
梅原「あんがとよ、嬉しかったぜその気遣い。そしてごめんな、変に気苦労させちまってよ」
香苗「……っ…」
香苗(…嘘つき、本当は教えて欲しかったくせに…)ぎゅっ…
梅原「んーーーーーーーーーーー! くっそー! やっぱ振られちまってたかぁ~! だよなって思ってたぜ~!」
梅原「はぁーあ──」ぎゅっ
梅原「──後悔したくない、なんて言い訳だろ…そんなのっ…ただの諦めが悪いだけじゃねえかっ…」
梅原「くそがっ…くそっ…!」
香苗「………」
~~~~
絢辻「どうして伊藤さんが怪しいと分かったのかって?」
純一「…うん、確かに香苗さんは認めたけど。
それでも外れてたらどうするつもりだったの?」
絢辻「…はあ」
純一「え? どうしてため息をつくのさ…」
絢辻「本当にわかってなかったのね、
相変わらずきっかけがないと本当に頭が働かない人だわ」
純一「む」
絢辻「拗ねないの、だって本当のことじゃない」
絢辻「ええ、余計なことをする前に釘を差しておくわ。きちんとね」
絢辻「──ここ数日の伊藤さん、変じゃなかったかしら?」
純一「え…?」
絢辻「そうね。わかりやすく言えば…そう、文化祭の準備が始まるぐらいの時期ね」
純一「……」
絢辻「やけに前に出てくる節がなかった?」
純一「…そういわれれば、そうかも知れない」
絢辻「でしょう、それに梅原君のこと」
純一「梅原?」
絢辻「ええ、伊藤さんは特に梅原くんの前に出たがってるように思えたのよ」
純一「うーん…」
絢辻「言い換えれば、『梅原くんの役に立ちたいと感じる立ち振舞』ね」
絢辻「──恋するオトメ、のようだったと?」
純一「そうそう! それだそれ! やっとすっきりした…って恋!?」
絢辻「いやいやちょっと待ちなさい、そこもう驚くところじゃないわよ」
純一「そ、そうなの…? えっ! でも香苗さん梅原にっ…?」
絢辻「まあ、確かにそう思わせる雰囲気だったわよね。だけど…」
絢辻「…私が思うに、もっと伊藤さんはガッツリ向かう性格だと思ってる」
絢辻「自分の恋には、正直に、熱く燃えるように走っていくような気がするのよ」
純一「…うーん、女の子はわからないよ? どんな顔だって持ってるし…」
絢辻「…誰を見てそんな事言ってるのかしらねぇ」
純一「は、ははっ…どんな絢辻さんだって愛してるってことだよ!」
絢辻「…ま、まあいいわ。それなら」
絢辻「とにかく私は伊藤さんがらしくないと思ってた、まるで出そうになる感情を押しこらえてるような」
絢辻「──恋することを、頑張って押し留めてるような。そんな頑張りを感じたの」
純一「恋することを、押し止める頑張り…?」
絢辻「そう、例えばこの私とあなたの距離」
絢辻「…どう思うかしら?」
純一「近いよ、ちょっと緊張するぐらいに」
絢辻「私もよ、だけど伊藤さんはこれを…決して近づけないようにしてるはず」
純一「……」
絢辻「きっと、できれば、いつかは、未来に。──そうやって今から始めようとはせず」
絢辻「…将来はこの距離を近づけられるのだと、自分を騙しこんで」
絢辻「梅原くんのために、役に立ち続けようと思ってると」
純一「…そういわれれば、そうだったかもしれない」
絢辻「多分、それは…後悔してるんでしょうね」
絢辻「──梅原くんの先輩から貰った言付けを、言えなかったことに」
純一「……」
絢辻「伊藤さんはそれをずっと後悔してる、だからこそ、梅原くんにあそこまで頑張るのよ」
絢辻「──不自然な恋の頑張りを、ね」
純一「…絢辻さん」
絢辻「無理よ」
純一「まだ何も言ってないじゃないか」
絢辻「言わなくたってわかってる、私達にできることなんてなにもないわ」
純一「そ、それでも! 可哀想だよ…! そんなの、僕は…!」
絢辻「見過ごしなさい、絶対に」
純一「どうしてさっ」
絢辻「私達まで後悔することになる」
絢辻「…出来るっていうのかしら、本当に?」
純一「っ…絢辻さん!」
絢辻「出来るわけない、わかってるでしょう。私たちは幸せになったばかりよ」
純一「…だけど」
絢辻「人の幸せを願うには早すぎる。それに、
手を出していい問題でもないことをわかってちょうだい」
純一「……」
絢辻「…それにね、橘くん。もう遅いわよ、きっと」
純一「え…?」
絢辻「もう既に伊藤さんは決断をしてるはずよ、バレてしまったからには…きっとそう思ってるはず」
純一「絢辻さん…? ど、どういうこと…?」
絢辻「さあ? …でも、私たちは明日に分かるはず」
絢辻「──あの二人は今日、覚悟を決める筈だろうけど」
香苗「───梅原君…」すっ…
梅原「っ…すまねえ、ちっとどうしようもなくなっちまってさ…」
香苗「……」
梅原「これじゃあ…はは、文化祭でも迷惑かけちまいそうだよな、俺…」
香苗「……」
梅原「すまねえな、俺って本当にどうしようもない───」
どがっ!
梅原「──痛っ!?」
香苗「はぁっ…はぁっ…」
梅原「えっ? あれ? い、伊藤さん…? 今、背中殴った…よな?」
香苗「うじうじするなッ! 梅原正吉ッ!」
香苗「アンタがそんなんでどうするのよッ! いっぱいっぱい、なんで頑張ろうとしないのよ!!」
香苗「頑張ったんだよね!? その人のために、好きでありたいって頑張り続けたんだよね!?」
香苗「それなのにっ…たった二回振られただけで、諦めちゃっても言いワケ!? ねえそうなのッ!?」
梅原「い、伊藤さん…?」
香苗「アンタはっ…! そんなヤツじゃない! 私はそれを知ってるよ!!」
梅原「っ…」
香苗「あの時の先輩はっ……きっと本当に梅原くんを思ってたはず!」
香苗「だけどやっぱりッ…なにかしらの理由があって頷くことが出来なかったかもしれない!」
香苗「それを簡単に確かめることができないってッ…言わないでよっ! 弱虫! ばかっ!」
梅原「……」
香苗「あ、アンタはっ…後悔してるわけでも、諦めが悪いわけでもないよそれ!!」
香苗「──答えを知ることを逃げてる!! 今の梅原くんはただの弱虫だもん!!」
香苗「ばかっ…! 言わないでよ、そんな事っ…!」ぼろぼろ…
香苗「そんなの、駄目じゃんっ…きっと、そんなのっ…梅原君が…」
香苗「…可哀想でしょっ…! ぐしっ」
香苗「っはぁ…ふざけないでよ、そんなの許さないんだからっ…!」
梅原「え…」
香苗「絶対絶対、許さないっ…あーもう! コレでよかったんだよ最初から!」
香苗「……告白するよ、また先輩に」
梅原「こ、告白って……まさか三回目をしろってか!?」
香苗「あったりまえじゃない! 絶対にさせてあげるんだから!」
香苗「…梅原くんにまだ悔いが残ってるって、思ってるんだったら!」
香苗「──その気持はちゃんと相手に届けなきゃ、いけないんだよ絶対に!」
梅原「ど、どうやって…だよ?」
香苗「──文化祭がある」
梅原「っ…文化祭の劇で、やれっていうのか…? ムリムリ!」
香苗「…無理じゃない、梅原くんならきっと出来るよ」
梅原「ど、どうしてだよっ…俺はもう先輩のことは諦めようとしてるんだぜ…?」
香苗「じゃあ、ポケットに入ってる生徒手帳の…中の写真、今ここで破って見せて」
梅原「っ……何で知ってるんだ…!」
香苗「いいから」
梅原「ぐっ…わ、わかったよ! 破けばいいんだろっ? なんだよ…」すっ…
ぺら
梅原「…コレを破けばいいんだな、そしたらその意味のわからねえ目的をやめてくれるんだな?」
香苗「うん…ぐすっ…」
梅原「んなの、簡単に決まってらぁ……」ぐっ…
梅原「……あれ?」
梅原「く、くそっ…そんな訳──」
香苗「──結局はそうなんだって、梅原君」
梅原「ち、違う…俺はもう…!」
香苗「違うもんか、それがアンタの答えなんだよきっと」
香苗「──先輩のことを諦めきれてない、それが梅原くんの答えだって!」
梅原「っ……」
香苗「だったら…立ち向かわなきゃ、ちゃんと現実にさ!
逃げないで男らしく突っ込んでいきなよ! 前みたいに!」
香苗「男がグジグジと悩んでんじゃないやい!!」
梅原「っ───……」
香苗「はぁっ…はぁっ…平気だよ、私もちゃんと付いててあげるから…」
香苗「ね? だから…」すっ
香苗「頑張ろうよ、今度こそ…キチンとスッキリさせよう梅原君?」
香苗「…大丈夫だから」ぎゅっ
香苗「この手に握ってる、写真の人は……必ずアンタにとって大切な人になる」
梅原「……」
香苗「きっと、そうなるから」
梅原「…なんで、そこまで…」
香苗「うん…?」
梅原「俺の為に…やってくれるんだ…?」
香苗「ぐすっ…えへへ、なでかってそれは……」
香苗「……私がロミオ、だからじゃないの? ねえ、ジュリエット」
梅原「……は、はは、なんだよそれ…」
梅原「ロミオだから…手助けしてくれるのか? 俺のことを?」
香苗「そうだよ、なんか文句でもあるの? うん?」
梅原「……無い、全く無いぜ」
香苗「ふふっ、んじゃ決まりね!」
香苗「…三回目の告白、絶対に成功させるわよー!」
梅原「…おう」ぎゅっ
香苗「声がちっさーい! おー!」
梅原「お、おー!」
香苗「おー!」
~~~
その日、夢を見た。
遠い記憶の片隅に、だけど忘れることの出来ないモノで。
ただひたすらに、その時の私は焦っていたことを覚えてる。
香苗「はぁっ…はぁっ…」
何故そこまで息を切らしていたのだろう。
何故そこまで急いでいたのだろう。
一体何時の記憶なのか、今の私には少しも分からなかった。
香苗「はぁっ…だめだ、もう間に合わない…」
何度見返したのだろう腕時計を確認し。前方へと視線を向ける。
先には白い霧しか無く、目指しているものなんてちっとも見えはしない。
香苗「っ……」
焦燥がゆっくりと、諦めへと変わっていく。
もう私だけの力では無理だ。この霧は晴れ渡すことなんて出来ないのだから。
───その時、風が吹いた。
立ち込めていた霧は急激に一掃され、私の視界はよりクリアのものになっていく。
「……」
霧が消え去った先に、一人の男性が立っていた。
その人はゆっくりと私に手を伸ばし、そして優しい声色で話しかけてくる。
「──もう大丈夫、後は俺に任せておけ」
続きを見たいと思っても、私はもう見れることは出来ないと分かってしまっていた。
香苗「──……」ぱちっ
香苗「……朝」
──もう続きなんてものは、私自信が諦めてしまったのだから。
香苗「さーて、学校だぁー!」
ばさぁ!
~~~~
シィーーン…
梅原「……」
香苗「……」
純一「っ…ゴクリ…」
薫「何この空気…」
絢辻「シッ! 静かに!」
梅原『お父様と縁を切り、家名をお捨てになって!もしもそれがお嫌なら、せめてわたくしを愛すると、
お誓いになって下さいまし。そうすれば、わたくしもこの場限りでキャピュレットの名を捨ててみせますわ』
香苗『 黙って、もっと聞いていようか、それとも声を掛けたものか?』
梅原『わたくしにとって敵なのは、あなたの名前だけ。たとえモンタギュー家の人でいらっしゃらなくても、
あなたはあなたのままよ。モンタギュー――それが、どうしたというの? 』
梅原『手でもなければ、足でもない、腕でもなければ、顔でもない、他のどんな部分でもないわっ…』
梅原「けほこっ…駄目だ、息が続かねえ!」
香苗「だ、大丈夫っ…?」
梅原「お、おう。ちょっとはマシになったと思うんだがよ…いまいちダメだな、こりゃ」
香苗「そんなことないって、前より随分と上手くなってるって!」
梅原「そ、そうか?」
純一「………」
梅原「…ん? どうした大将?」
純一「──凄いな梅原ぁああ!何なんだ今の演技力! もうジュリエットにしか見えなかったぞ!」
梅原「何の冗談だよ橘っ…!」
絢辻「いいえ、冗談では決してないわ」
薫「やるじゃない梅原君っ! 前世はジュリエットだったんじゃないの?」
梅原「えっ? えっ?」
香苗「ふふふ」
梨穂子「香苗ちゃんも凄かったよ~! あの迫真の演技…本当に陰ながら見てるような、
そんな怪しさや気遣いを感じるような……とにかく凄かった~!」
香苗「さ、桜井っ…褒めすぎだってば」
梅原「なんだか…えらく褒められるな、はは、頑張ったかいがあったぜ」
マサ「……」
梅原「…ん、マサ? なにやってるんだこっちのクラスを覗いて?」
だだだだっ!
梅原「ちょ、おまっ! 何言ってやがる!」
「振られたから女に走ったって本当か梅原!?」
「応援するよ!」
「次は男子だな! …俺は無しな方向で」
ぞろぞろ
梅原「うおっ…なんだなんだ、一気に来すぎだろお前ら!」
薫「あらら、えらく人気者だったのね梅原君って」
純一「前の告白で一気に名前が知れ渡ったからね、当たり前だよ」
絢辻「……」
純一「凄い奴さ、梅原って男はね」
香苗「……」
梅原「だぁーもう! ちげーって! これは演劇の役でなっ…!」
香苗(…頑張らないっと、私も!)ぐっ
香苗「うっしー! 梅原くん、練習の続き行くよー!」
梅原「お、おう! ちょっと待ってくれ! …だから、違うっての!」
香苗「あはは」
梨穂子「………」
夕方
香苗「──ふぅ…こんなもんじゃない? けっこう出来たと思うけど」
梅原「そうだな、疲れた…声を出し続けるのって大変なんだな…」
香苗「あ、飲み物買ってこようか?」
梅原「公平にジャンケンだ」
香苗「おっけー、じゃんけんっ」
梅原&香苗「ぽんっ」
香苗「…あいこか、そんじゃ次にっ」
香苗「え? いいの?」
梅原「おうよ、どっちにしろ二人とも疲れてんだ…労働はお相子にしようぜ」
香苗「りょーかい、んじゃ行こうか」
梅原「おう」
~~~~
すたすた…
梅原「しっかし、なれねえもんだなぁ…演じるってのは難しすぎる」
香苗「私たちが特別、意識しまくってるからじゃない? 気入り過ぎっていうかさ」
梅原「…確かに、頑張りすぎてる所は否めないな」
香苗「だけど、ね。大切だよ、今の私たちの頑張りはね」
梅原「わかってるよ、ちゃんとな」
香苗「…うん」
香苗「あ、私はコーヒーでお願い」
梅原「あいよ、コーヒー好きだなぁ…」ガタン…
香苗「そお? 人それぞれ好みはあるもんでしょ」
梅原「そりゃわかってるけどよ、なんつぅーか…飲み過ぎじゃね?」
香苗「ふーんだ、べっつにいいじゃない。飲み過ぎたって」
梅原「いじけるなよっ…はは。おらよっ」ぽいっ
香苗「わわっ、わっ…!」
梅原「落とすなよっ」
香苗「ととっ…むー! 意地悪しないでよね! まったく…」かしゅっ
梅原「すまねえすまねえっと、俺はどうすっかな。ん~」
香苗「ぷはっ、お茶じゃないの?」
ガタン…
梅原「…俺もコーヒーを飲んでみようと思う」
香苗「どうして? コーヒー好きだったっけ?」
梅原「いや特別好きじゃねえな。むしろ好きではない」
香苗「…断言しないでよ」
梅原「はは、いいじゃねーか。人それぞれの好みはあるんだろ?」
香苗「む、そうやって直ぐ人の上げ足を撮るんだからっ…」
梅原「上げ足を取ったのではなく、訂正をしただけだ」かしゅっ
梅原「ん、ちょっと遅れたけど」
香苗「あ、うん」
かつん…
梅原「今日もお疲れ、伊藤さん」
梅原「おう! ……ごく、ぶへぁっ! 駄目だ苦いっ」
香苗「なにやってんのよっ…ぷっ」
梅原「緑茶の苦みとは比べ物にならねえな…あっちは平気なのによぉ」
香苗「あったり前じゃない、苦いのが苦手ならミルクたくさん入れれば?」
梅原「お、そうか! その手があったか~…って、缶コーヒーだぞ」
香苗「家で作った時にやってみれば?」
梅原「俺ん家にコーヒーなんぞ洒落たものは置いてねえ!」
香苗「自慢した言い方しないでよ…じゃあ何時もなに飲んでるの? ただの水?」
梅原「お茶って選択肢はないのかよお前さんには…」
香苗「そ、そんなんじゃないし! コーヒーばっかり飲んでるわけじゃないからっ!」
梅原「嘘だ…四六時中飲んでるんだな…もう既にカフェイン中毒なんだろ…」
梅原(何時も飲んでるように見えるけどなぁー)
香苗「…ったく、なによもう…」
梅原「……」
梅原「……なあ伊藤さん」
香苗「なに、梅原君…また変な事言ったら怒るからね」
梅原「言わねえさそんなこと。……いや、もしかしたら、怒るかもしれねえわ」
香苗「…どっちよ」
梅原「俺にはわかんねえな、なんつぅーか…俺個人の意見じゃ決められねえんだ」
香苗「…?」
梅原「………」
香苗「…梅原君?」
香苗「こ、恋ぃ? どーしたのよ急に…」
梅原「いいからよ、ちょっと答えてくんねーか」
香苗「え、ええっ……そりゃーまぁ、ちょっとぐらいは…」
梅原「そうか、そりゃそうだぜ。
だって花の女子高生だもんな、恋の一つや二つしてるに決まってる」
香苗「一つや二つって…そこまで気移りしやすい性格じゃないわよ、言っておきますけどね」
梅原「そうなのか、そりゃ失敬。すまんすまん、謝っておく」
香苗「……それで? 結局は何が言いたいワケ?」
梅原「……俺的な意見だから、気にはしなくていいんだ」
梅原「ただよ、一つ思っちまったんだ」
梅原「──恋は、いつになったら恋になるんだってさ」
梅原「どう思う? 伊藤さん?」
香苗「…良く分からないけど、好きになったら恋じゃないの?」
梅原「おっ! 良い所を付くねぇ、確かにその通りだ」
梅原「俺はその人のことを──気になりだした瞬間から、それは恋だと思う」
梅原「他の誰よりも違う、どんな人間よりも……近くに居たいと心から望んじまう」
梅原「そんな相手を見つけちまった時、それは恋だって言っても良いんだってな」
香苗「……」
梅原「…もう一つ、最後に伊藤さんに聞きてえんだが」
梅原「──その恋を、忘れる時って何時だ?」
梅原「つまりは失恋、って奴だな」
梅原「──気になりだした人のことを忘れたいと願った時が、失恋なのか?」
梅原「──それとも別れを告げられた時、それが失恋なのかね?」
梅原「それとも──なんだ、想いを受け取ってくれなかったときは、失恋になっちまうのか」
香苗「それは…人それぞれじゃない、どうその現実を受け止めるかが大切でしょ」
梅原「まあ、その通りだ。だが、それだと俺は納得できねえ部分がある」
梅原「──最初に言った恋は何時になったら恋なんだって話だ」
梅原「恋は好きになった時から、恋だと言うんならよ」
梅原「……じゃあ失恋しちまった時は、好きだって思いを忘れないと駄目なのか?」
香苗「それはっ……当たり前じゃん、だって辛いだけでしょそういうの…」
梅原「…そうだな、辛いだけだな」
香苗「もう自分の気持ちを伝えられないんだから、いくら好きだって思いを持ってても…忘れた方が良いわよ」
香苗「…なんなの、こんな事聞いてきて…不安なの? 先輩に告白するの?」
香苗「でも…! やるって決めたのなら、最後までやり通さなきゃ!」
梅原「わかってるって。それはちゃんと心に決めてる」
梅原「──きちんと先輩に告白するってよ」
香苗「じゃあ…どうして…」
梅原「…だから、気付いちまったんだ」
香苗「え?」
梅原「どうして俺は失恋なんかしてもー……あの人のことを好きでいられるのか、その理由を」
梅原「俺は気付いちまったんだ、いまさっき」
香苗「…どういうこと?」
梅原「なあ、伊藤さん。どうして俺の為に頑張ってくれるんだ」
香苗「え、だから……」
梅原「ロミオだからって? そうじゃねえと、今の俺は思ってる」
梅原「いや、そう思いたがってるが正しいかもな。だってそれは俺の我儘だから」
梅原「とんだ勘違い野郎って蹴っ飛ばしてくれても良い、
馬鹿だな根性ねえ奴だって、また背中を殴ってくれても良い」
梅原「…だがよ、俺は思っちまったんだ」
梅原「今まで文化祭の為に、俺たちは演技の練習をやるだけやって来たよな」
梅原「…たまに喧嘩もしたよな、それに、お互いの演技を褒め合ったりもした」
梅原「それから告白の仕方の作戦も考えて、数日後の文化祭の為に頑張り続けたよな」
香苗「なにが、言いたいの…?」
梅原「……俺だって、なにが言いたいのかわかんねえよ」
梅原「だけど…」すっ
梅原「これだけは、必ず自信を持って言えると思う」
香苗「え…?」
梅原「──俺、伊藤さんのこと好きだ」
梅原「ああ、何だそれって思うよな。俺だって…そう思ってる」
梅原「だけど俺は、今誰よりも近くに居てほしい奴は──伊藤さんだけだ」
香苗「っ…そんなの…! だって、梅原君は先輩のことがっ…!」
梅原「ああ、好きだ」
香苗「だ、だったらっ…変な事を言ってないで、まっすぐあの人の事を見てればいいじゃないっ…!」
梅原「……」
香苗「っ…」
梅原「…さっきも言ったけどよ、俺は、どうして先輩のことが好きで居続けるのか分かったんだ」
梅原「だって、それは───伊藤さんと俺の繋がりだったから」
梅原「そして伊藤さんの頑張りに後押しされて、俺も…先輩を好きで居続けた」
梅原「…だけど、伊藤さんのお陰で好きで居続けられた」
香苗「……」
梅原「俺は少し道を逸れちまったんだ。本来行く場所とは違った所に来てしまってる」
梅原「──そして伊藤さん。俺は今、君の隣にいるんだ」
香苗「っ…」
梅原「本当はもっと違った場所に居るはずだったと思う。
だが、それでも、今は…ここで一緒にコーヒーを飲んでる」
梅原「全て伊藤さんの所為だとはいわねえ、全部ハッキリと言わなかった俺の所為だ」
梅原「俺が素直にならねえから、あの時…ちゃんと写真を破けば良かった話だからな」
香苗「……」
梅原「だからもう後悔は、しないって決めたんだ。
何度だって後悔の連続で、全然その思いを守れてこなかったけど…」
梅原「…今はハッキリと伊藤さんにこの想いを伝えたい」
梅原「…だけど、伊藤さんのお陰で好きで居続けられた」
香苗「……」
梅原「俺は少し道を逸れちまったんだ。本来行く場所とは違った所に来てしまってる」
梅原「──そして伊藤さん。俺は今、君の隣にいるんだ」
香苗「っ…」
梅原「本当はもっと違った場所に居るはずだったと思う。
だが、それでも、今は…ここで一緒にコーヒーを飲んでる」
梅原「全て伊藤さんの所為だとはいわねえ、全部ハッキリと言わなかった俺の所為だ」
梅原「俺が素直にならねえから、あの時…ちゃんと写真を破けば良かった話だからな」
香苗「……」
梅原「後悔は、しないって決めたんだ。
何度だって後悔の連続で、全然その思いを守れてこなかったけれど…」
梅原「…それでも今、はハッキリと伊藤さんにこの想いを伝えたい」
梅原「とんだふがいねえ男だってことは、アンタが一番知ってると思う」
梅原「俺の気持ちは…確かに伊藤さんで一番だ、だけど! 先輩に告白する勇気はここにある!」
梅原「…矛盾してることぐらいわかってる、けどよ! 俺はちゃんとやりたいんだ!」
梅原「──伊藤さんへの気持ちと、伊藤さんの頑張りをっ…俺は認めてぇんだ!」
ぐっ…!
梅原「ちゃんと、ちゃんと…っ! この数日間の想いを、裏切りたくはないっ…!」
梅原「どれだけっ…伊藤さんに嫌われても、俺は自分の気持ちに嘘を付きたくなんかねえ!」
香苗「……」
梅原「好きだって想いはっ…ここにあるんだ、だけど…!」
梅原「俺はっ…俺は……」
梅原「俺は……」
カラン…
梅原「! 伊藤さん…?」
梅原「伊藤、さん?」
香苗「っ……やめてよ、そんなこと…」すた…
梅原「ど、どうしたんだ?」
香苗「やめて…言わないでよ、好きなんて…駄目だってば…」
香苗「それじゃあっ…私、どうしたらいいのよ……今までの頑張りを…どう認めればいいのよ…っ!」
梅原「おい、大丈夫かっ?」すっ
パシィッ!
梅原「痛っ…!」
香苗「はぁっ…はぁっ…!」
梅原「伊藤さん…」
香苗「はぁ…一人に決めて……梅原君、アンタはキチンと先輩に告白してよ」
梅原「っ…告白はする、だけど俺は…!」
香苗「私が好きとか言わないでっ!」
香苗「私はっ…梅原君が先輩に告白して、きちんとスッキリするのが…目的だったのよっ…!」
香苗「──それなのに、どうして私のことっ…! なんで、好きになっちゃうのよっ!」
梅原「……」
香苗「だめ、でしょそんなのっ…だって、だって、梅原君はっ…!」
梅原「…こんな時でも、伊藤さんは俺の心配するのか」
香苗「っ…!」
梅原「何が言いたいんだ伊藤さん。もし、アンタが俺の告白を受け入れられない…その理由が」
梅原「──俺の為だなんて言ったら、本気で怒るぞ」
香苗「わ、私はっ…」
梅原「卒業式に、堂々と告白したのに。だけどすぐさま他の女子にうつつを抜かす奴と、思われたくないってか」
香苗「んぐっ…それはだって、そうじゃないのっ…!」
香苗「わかってない、全然分かってないよ梅原君は! あの卒業式の告白がっ…どれだけ周囲に広がってるのか!」
香苗「そしてまた同じような事をして、更にっ…私が好きだとか言ってるアンタは!」
香苗「当然のように周りから人が居なくなるわよっ! 最低な奴だって…どんな神経をしてるんだって!」
梅原「……」
香苗「ぜんぜんっ……わかって、ないよ…!」ぎりっ
香苗「っ……その告白、今ここで、断らせてもらうから」
梅原「…伊藤さん」
香苗「やめてよっ! 気安く呼ばないでっ!」
梅原「…そっか、ごめん」
香苗「……っ……私、もう帰るから」
香苗「……好きなんて、どうして思ったのよ…」
たったった…
梅原「……」
梅原「……うぁー」バタリ
梅原「…やっちまったぜー」
梅原「あー…このまま廊下のシミになりたい…」
梅原「……」
梅原「…馬鹿だなホンット、俺ってよぉ…」ぼそっ
梅原「…何が好き、だ。虫が良すぎるだろうがッ…」ゴツッ…
梅原「…正直にも程があるだろッ…ふざけるなよ俺ッ…」ゴツン…
梅原「…」ゴツ
梅原「──あー、やれるのかよ…これで、文化祭とか…」
「──やれるだろ、お前なら」
梅原「あ…?」
梅原「…見てたのかよ、趣味悪いなオイ」
「ははっ、仕方ないだろ? トイレに行ってたら、なぜか二人が喧嘩してるんだもの」
純一「──思わずトイレの中で数十分、立ち聞きだよ。どうしてくれるんだ」
梅原「…じゃあそのままトイレの亡霊さんにでもなっとけ」
純一「いやだ、男子トイレなんてまっぴらごめんだ」
梅原「…そう言う問題かよ」
純一「そう言う問題だよ、よいしょっと」
梅原「……」
純一「なあ、好きな子って良いな」
梅原「…は?」
純一「突然そう思った」
梅原「突然すぎるだろ…なんだよ急に…」
純一「それに好きな子からもっともな事を言われたら、口応えが出来ないだろ?」
梅原「…さっきの俺の事を言ってやがるのか」
純一「どうだろう、そう思うの梅原は?」
梅原「ドンピシャだな」
純一「ふふっ、なんだよ梅原。今日はやけに素直だ、気持ち悪いぞ」
梅原「うるせーよ」
純一「…うーん、結局はさ。梅原ってちょっと変わってるよな」
梅原「…お前さんに言われたくない言葉、ナンバーワンだ」
純一「そうだろう、僕もそう思う」
純一「絢辻さんにだって良く言われるよ、貴方は何を考えて生きてるの? 死ねば?って」
梅原「死ねって良く言われてるのか…可哀そうにな…」
純一「…だけど、それが僕には嬉しいんだよ、梅原」
梅原「……」
純一「──素直な自分を出して、素直な気持ちを伝えてくれる」
純一「そんな好きな子を、そんな大切な子を僕は見つけることが出来たんだから」
梅原「……」
純一「だから僕等二人、梅原と僕は変わってるんだ」
純一「──好きな子から本音を言ってもらえることに、喜びを感じてるんだもの」
純一「…どうだった? 好きだって伝えて、怒ってもらった時の気持ちは」
梅原「……」
純一「凄くスッキリしなかったか? 自分の想いを相手にぶつけて、それを否定してもらって」
純一「だけど分かってもらえなかった辛さより、理解してもらえなかった苦脳より」
純一「お前はきっと───なによりも嬉しかったはずだ」
純一「一人の女の子に、ちゃんと答えを貰ったことに」
純一「……どの感情よりもやる気を出したはずだよ、絶対に」
純一「…うん、一人ぼっちは寂しいよな。なんだって、言葉が欲しい時はあるよ」
純一「お前だってそれを経験してるはずだ、
誰も来ない約束の場所でずっと待ち続ける寂しさを」
純一「例え後で来れなかった意味を知ったとしても、そのときの寂しさは…決して無くならない」
純一「…絶対に、無くならないんだ」
梅原「……」
純一「ん、だからさ梅原」
純一「逃げるなよ、真正面から立ち向かって行け!」
純一「どんなに否定されても! 社会的死を宣告されても!」
純一「──好きだって想いに、勝てるモノなんてないぞ!」
純一「…だろっ?」キリッ
梅原「っくは、台無しだな…最後の決め顔で」
純一「だ、台無しとかいうなよっ!」
梅原「本当の事だろうがっ……くく、なんだよ本当にっ…」むくっ…
梅原「──はぁ~あ、成功者に色々と言われちまえば…」
梅原「…俺も頑張りたくなっちまうだろうがよ、大将」
純一「…おう、頑張れ。きっと良い明日が待ってるよ」
梅原「明日ねえ、そりゃ楽しみだ」
梅原「今日より良い明日になれるといいな…」
純一「……なあ、帰りに本屋寄って行かないか?」
梅原「…すまねえ、ちょっとやらなくちゃいけねえことがあるんだ」
純一「そうなのか…それは残念だよ」
純一「へぇ、それは僕も見れる事が出来るの?」
梅原「特等席で見せてやるよ、楽しみにしときやがれっ」
純一「了解、じゃあ僕はそろそろ帰るよ…」すっ
梅原「おう、その……ありがとな」
純一「なんの、同じ悩みを抱える同士だ」
純一「…いっちょ幸せ、掴んで来い梅原」
梅原「あいよっ! 大将!」
~~~~~
教室
梅原「ふぅー……はぁー……」
梅原(──文化祭まで残り数日、練習期間も限られてるな、
ついでにいうとロミオ役との合わせ練習は出来ないと考えるべきだ)
梅原「──だからどうした! 俺には関係ねぇ!」カッ
梅原「……」
梅原「…よしっ」
~~~~
文化祭当日
絢辻「……これでいいわ」
薫「ひゅ~♪ やるわねえ絢辻さんっ」
絢辻「そんなことないわよ、ふふっ」
絢辻「他になにか不備がある人はいないっ? 今のうちに色々と済ませておかなくちゃ駄目よー!」
クラス一同『はーい』
純一「あの、絢辻さん…」もじっ
絢辻「どうかしたの?」
純一「と、トイレに行きたいんだけど…っ」
薫「ハァッ!? 先に済ませておきなさいって言ったでしょ!」
薫「アンタが馬鹿みたいにがばがば飲むからいけないんでしょうが…」
純一「ううっ…ヤバい、これは駄目だよっ…スカートでトイレって、立ちション駄目なの…っ?」
絢辻「私は構わないけど、貴方はどうなのかしらね」
純一「うぁー! 目も当てられない光景が浮かび上がるよ!」
純一「っ…だけど我慢の限界だ! 行ってきます!」だだっ
梨穂子「あっ、純一~! カツラはちゃんと載せて行ってね~!」
純一「あ、うん! わかった…ってカツラいらないだろ!?」
梨穂子「宣伝の為だよ~えへへ~」
絢辻「はぁー」
「大変そうだね、絢辻さん」
絢辻「…そうね、まだ始まってないって言うのにこの騒動。本当に無事に終わる事──」
香苗「…? どしたの?」
絢辻「──凄く似合ってるわね、伊藤さん」
絢辻「そう? とても高級感のある王子様に見えるわ、思わず惚れちゃいそうになったもの」
香苗「ええっ!?」
絢辻「くす、冗談よ」
香苗「も、もう! ちょっと冗談に聞こえなかったよっ」
絢辻「冗談だってば、くすくす……あら」
ズズズズ…
絢辻「──このオーラは、みんな『ジュリエット』が帰って来たわよ!」
クラス一同『ジュリエットが…!?』
がらり…
「──今帰った、保健室の仮眠、ごめんな皆」
薫「い、いやっ…いいのよ? 色々と、ね~うんうん!」
梅原「…そうか、ならよかった、俺も安心だ」ズズズズ…
絢辻「──いいわね、私たちは最終項目。他のクラスが演劇が終わり、観客の目も肥えてる間際」
絢辻「たいしたものでなければ、それは全て一掃されてしまうほどにシビアな空気よ」
ごくり…
絢辻「…でも、大丈夫。けっして怖がらなくていい」
絢辻「私たちがしようとしている事、それは既に──観客からは注意をひくものなんだから!」
「うぉー!」
絢辻「だったらやってあげようじゃないの! 全てのクラスを圧倒させるほどの劇を!」
「うぉー!!」
絢辻「絶対に負けないわよ! 全てはこのクラス、みんなの頑張りなら成功するはずだから!」
「うぉおおおおー!!」
薫「あ、来たわよ純一っ…こっちこっち」
純一「ご、ごめんねっ…ふぅ…間に合ってよかった~」
クラス一同『あはははっ!』
絢辻「くす、それじゃあ行くわよ! 性別反転ロミジュリ、開始!」
カッ!
梅原『……』
どっ!ぷっはっはっはっは!
美也「こ、これはっ…」
紗江「わぁー……」
七咲「…」
田中「ぶっは! あはは! 梅原君!」
舞台裏
絢辻「よしッ! 受けてる!」
純一「晒しもんだよね、やっぱりこれ…」
絢辻「いいのよ受ければ!」
梅原『──……』
梅原『…ああ、ロミオ様、ロミオ様! なぜあなたは、ロミオ様でいらっしゃいますの?』
紗江「っ……!」キラキラ…
七咲「…凄いね」
田中「…」ぽかーん
梅原『 お父様と縁を切り、家名をお捨てになって! もしもそれがお嫌なら、せめてわたくしを愛すると、
お誓いになって下さいまし。そうすれば、わたくしもこの場限りでキャピュレットの名を捨ててみせますわ』
絢辻「………」
純一「…な、なんだアイツ」
薫「いやー何度見てもヤバいわよねアレ…」
絢辻「……凄いじゃない、梅原君」
カッ!
香苗『……』
絢辻「っ…来たわ、ロミオよ! 頑張って…!」
梅原『……?』
美也「…どうしたんだろうね?」
紗江「ふぁー……女装って凄いよね…っ」
七咲「トラブルでもあったのかな?」
田中「せ、せんせぇー!」
高橋「ごめんなさい、遅れちゃったわね…あら? どうかしたの?」
絢辻「…まさか」
薫「ちょ、ちょっとぉ! 伊藤さんなんでセリフ言わないのよっ?」
純一「…緊張して、全部忘れちゃったとか?」
絢辻「大いにあり得るわ、伊藤さん…何処か気持ちが浮いてたような気がするモノ…」
薫「ど、どうするのよっ! ここからカンペでもみせる!?」
梨穂子「…どうしたの?」
純一「い、伊藤さんが大変なんだ! セリフを忘れちゃったみたいでっ…
二人だけの場面だし、フォローも入れること出来なくて…!」
香苗『………』
ドッドッドッド…
香苗(なに、コレ…頭が真っ白に…なにも思いだせない…え…?)
香苗『あっ……う…』
香苗(っ…あれだけ必死に練習したのに! 声が出ない、出さなきゃいけないのに!)
香苗(だって───)
観客『………』じっ…
香苗(──ひっ…視線がみんな…私に──)びくっ
香苗(だめ、足が震えて立てない、もう倒れちゃう───)
ぽすっ
梅原「ふぃー、間にあったぜ」
香苗「え?」
全員『えっ?』
香苗「う、うん…」
梅原「──よし、なら良い。じゃあ続けるぞ…」
香苗「つ、続ける…?」
薫「な、何が起こってるのよ!? 舞台の二階から飛び降りて!」
純一「…絢辻さん、これは…」
梨穂子「…うん、やるしかないよっ…」
絢辻「……」
絢辻「──ええ、続行よ! 二人にライト浴びせて! 音もb-1に変更! 早く!」
薫「つ、続けるのっ? 台本めちゃくちゃよ!?」
絢辻「やるのよ、二人の信じなさい棚町さん」
純一「…仕方ないよ、元はあの二人が主役なんだ」
梨穂子「うんっ」
薫「うっ……~~~~! わかったわよ!
なにかしらのアドリブが入ったらこっちに寄こして!」
梅原『──この世で一番、美しい…』
香苗「……」
梅原(乗っかれ乗っかれ! 良いから良いから!)
香苗『っ…それは嬉しい言葉だ、だがしかし、そなたはあのベランダからどうして飛び降りてしまったのか』
梅原『我慢できなかったのです、ごめんなさい』
香苗「…ぶふっ」
美也「にしし! 我慢できなかったんだって!」
紗江「ほぇ~」
七咲(絶対にこれアドリブだ…)
田中「なんだかすごい事になってますよぉ…」
高橋「よくわからないけど…ロミオとジュリエットなのよね…?」
香苗『……───……』
ぷっ…くすくす……あははは…
純一「…なんだか静かだった客席が、騒がしくなってきてない?」
梨穂子「なってるなってる~!」
薫「っ…ちょっと待って、梅原君がなにか合図してるわよ!」
絢辻「え? どこどこ!?」
梅原『私はそなたと何処までも行きましょう、銭湯に寿司屋。日本の素晴らしき文化を───』ちょいちょい
絢辻「──橘くんを指さしてない?」
薫「純一が出て来いって言ってるの?」
純一「でも僕、キャピュレット夫人だよ!? 出てきたらおかしくない!?」
梨穂子「で、でもっ…面白いかもしれないよ~!」
絢辻「う、ううっ…行くしかないわよ! 行ってきなさい!」ドンっ
純一「……」すた…
梅原「…」
香苗「…」
純一「…」
純一『──そこの二人、なにをしているのですかっ! ワタクシにも日本の文化を教えなさい!』
絢辻「乗ったー!」
薫「ナイス! アドリブ最高よ純一ぃ!」ぐっぐっ
梨穂子「頑張れ純一~!」
純一『月も嘆くような寂しい夜に……薔薇のような匂いを感じ、着てみれば…』
純一『何と羨ましい事をっ! ワタクシだってそのような逢引きをしてみたかったのよ!』
梅原『…お待ちになって、お母様。これは確かに逢引き…のように見えるかもしれません』
純一『あら、違うのかしら。ではいってごらんなさい、私の愛しい愛娘よ』
梅原『──今の時代は、そう……逆ナンですわよお母様!』
純一『んんまぁ! 逆ナンですってぇっ!』
あっはっは! くすくすっ…!
美也「にぃに…」
紗江「橘先輩っ…梅原先輩っ…ふぉおおおおっ…!」キラキラキラ…
七咲「………」(ガン見)
田中「おー!」
高橋「もっとロミオとジュリエットはおごそかで美しさも兼ねそれた…」
梅原『…時代に乗り遅れてますのよ、お母様。ねえロミオぉ?』
香苗『そ、そうだ! 時代は逆ナン! 草食系男子万歳!』
あははははっ…!
薫「ぱ、パリス! ここで出てきたら本当にめちゃくちゃね!」
絢辻「いいのよ、見てみなさい。この空気を」
梨穂子「……みんなが笑ってる」
薫「…絢辻さん、やるっていうの? というか出来るの?」
絢辻「………」
絢辻「──生徒会長に、不可能は無いわ…」すた…
きゃーーーー! わはっはっはっはっは!
~~~~~~
薫「はぁっ…はぁっ…」
梨穂子「ひっく…体力がもう、残ってないよ…っ」
純一「あ、ああっ…僕ってば何回突っ込みを入れたのか憶えてないよっ…」
絢辻「お疲れ様、後は──なんていうのかしら、ちゃんとお墓のシーンにいけるのね…」
純一「いや、それよりもキャピュレット夫人とパリスが剣撃戦を始めたときはもう、意味が分からなかった…」
梨穂子「それよりも、登場人物全員で盆踊りってなんなの~っ!? よく音声データあったよねっ!?」
絢辻「…大変だったけれど、舞台はもうクライマックス」
梅原『……』
香苗『ああっ…』
絢辻「最後ぐらいは、きちんと締めるわよ」
三人『…うんっ!』
香苗『ジュリエット…私はなにもしてやれることはできなかった…!』
香苗『ただひとつの命さえも、尊き魂さえも、この手に残す事が出来なかった…!!』
美也「うっうっ…」
紗江「ひっく…そ、そんなっ…」
七咲「……グス…」
田中「……」ボロボロ…
高橋「……」ボロボロ…
梅原『──どうして、なぜこのようなことが…!』
梅原『私は貴方と何処までも一緒に愛し続けていたかったのに…!』
梅原『これから先、私はなにを信じ、何を愛し、行き続けなければならないのですか…!?』
梅原『私は……私は……』
梅原『…………』
純一「今度は梅原が…?」
薫「嘘でしょ、ああもう。ここまで来たら何も言わずに短剣ぶっさしなさいよっ」
梨穂子「それはちょっと…」
絢辻「……何かする気じゃないでしょうね」
純一「え? …どうしてそう思うの?」
絢辻「梅原君、私が卒業式で告白できるよう手配したと言ったわよね」
純一「う、うん」
絢辻「そこで対価の話をしたじゃない、それは数えて二つ。一つは橘くんを私の物にするって言う約束」
純一「なにを約束してるの? 僕は梅原の物なんかじゃないよ!?」
絢辻「二つ目が実は言いたかった事なんだけれどね」
純一「…うん、早く言って」
絢辻「それは───必ず告白を成功させること」
純一「え…?」
純一「…でも」
絢辻「そう、それは失敗した。告白は見事に玉砕、二つ目の約束は守られなかった」
純一「……もしかして、梅原また…?」
絢辻「ええ、もしかしたら。だけど」
純一「ど、どうするの!? ここまできたらっ…もう割り込むことなんてできないよ!?」
絢辻「………駄目」
純一「えっ?」
絢辻「駄目よ、思いつかない……」
純一「絢辻さん…」
絢辻「もうあの場所は、二人だけの空間っ…どう考えても、策なんて思いつけない…!」
純一「…今日のお客さんにあの先輩が来てるのかな」
薫「へ…? 梅原くんが告った先輩?」
純一「うん、どうやら梅原は──また告白をするつもりらしいんだ」
薫「でも、アンタそれ…」
純一「……それが梅原の選択なら、仕方ないよ」
薫「っ…で、でも! アンタだって言ってたじゃない! 梅原君の幸せは、絶対に伊藤さんだって…!」
純一「………」
薫「だからアタシだって色々と頑張ってきたのよ!?
明らかに不仲になっていたあの二人をここまで見守って…!」
純一「…ごめん、僕だってこうなるとは思わなかったんだ」
絢辻「……」
薫「……なによ、それっ…」
梨穂子「──諦めちゃ、駄目だよみんな」
梨穂子「信じるんだよ、あの二人を」
絢辻「桜井さん…」
薫「…信じるって、何を信じればいいのよ。梅原君は…きっと…」
梨穂子「違うよ、そうじゃないと思う」
梨穂子「梅原君は決して、嘘をつかない正直な男の子だもん」
梨穂子「──今の今まで、あの梅原君の頑張りをみんな見てきたハズだよっ!」
純一「……」
絢辻「……」
薫「……」
梨穂子「その頑張りは、努力は…絶対に自分の為じゃなかった…そうでしょう?」
純一「……ああ、確かにな」
絢辻「梅原君は…ずっと何かと…」
薫「……立ち向かいながら、練習してたわね…」
梨穂子「梅原君はちゃんと、前を向いて、後ろを振り向かずに!」
梨穂子「──ただまっすぐに、一人の女の子を見つめていたんだから…っ!」
純一「梨穂子…」
梨穂子「…梅原君は、だいぶ前から香苗ちゃんのこと。好きだったと思うよ」
薫「えっ……」
梨穂子「でも、それでも初めて好きになったのは先輩だからって…そう決めて、あんな告白をしたんだと思う」
絢辻「…自分に枷を嵌めるために、ってこと?」
梨穂子「うん、多分だけどね。ずっと二人を見てきて…そう思ったの」
梨穂子「──だって、二人の距離はいつだって一緒だったから」
梨穂子「──片方が寄り添ったら、いつかは触れ合うのに、いつまでも触れ合えないんだもん」
梨穂子「……だから、私は…」
梨穂子「……梅原君を信じるの、きっと、梅原君は覚悟を決めてるはずだから…っ!」
梨穂子「だけど、大切に出来るのは、後悔なく出来るのはきっと…! ひとつだけってわかってるはずだから!」
梨穂子「──だから、信じるんだよ! あの二人の絆を…!」
純一「……わかった、梨穂子を信じるよ」どすんっ
薫「じゅ、純一…?」
純一「そして梅原も信じる。僕はアイツの頑張りを、否定する馬鹿な親友にはなりたくないんだ」
薫「っ…なによ、かっこつけちゃって。しょうがないわねっ」とすん
薫「私だって、あんなに負のオーラを纏った梅原君が…何も考えずにやってないってことは、わかってるわよ!」
梨穂子「うんっ…!」
絢辻「──そうね、信用しましょう」すっ
絢辻「あの二人がどんな結末を望むのか、私たちは傍で見守っててあげましょう」
梨穂子「わたしもだよっ」どすん
梨穂子「──きちんと、答えを出した時…その時になって、私たちは助けてあげるべきなんだと思うから」
絢辻「…」
薫「…」
梨穂子「…」
梨穂子(信じるよ、二人とも……今の距離はちゃんと近づいてるはずだから)
梨穂子(ほら、だって、あんなにも近い距離で抱き合ってるんだもん…大丈夫、正直になれるはずだから)
梨穂子(───梅原君、そして香苗ちゃん。頑張ってね)
梅原『……私は、聞こえなくなった貴方にひとつのことを言っておくことがあります』
香苗『……』
梅原『っはぁ~……俺は、単純な奴だから。すぐに人を好きになって、その人の為ならって何処までも着いて行く癖がある』
香苗『っ…』
梅原『だけど、好きって想いは。誰にも負けるつもりなんてねぇ、
絶対に他の奴らに引けを取るつもりなんて、これっぽっちもねえんだ』
梅原『だけどよ、俺は……そうだ、梅原って男は!』
梅原『そんなちっぽけなプライドを持って生きるつもりなんてこれっぽっちもねえんだよっ!』
梅原『──んな小せえモンぶら下げて、なにを気取って生きてやがんだよッ…本当に馬鹿見てえじゃねえか!』
梅原『何処も格好よくねえんだ! 好きだって思って突き通せる俺、かっけーとか馬鹿だろう! なぁそう思うだろ!?』
梅原『自分の前で泣いてっ……私の事を好きだと言わないでとっ……小さい体に感情を押し隠して、歯ぁ食い縛ってっ!』
梅原『───そうやって他人の為に頑張れる奴の方が、よっぽどカッケーじゃねえか!』
梅原『俺はっ…俺は、結局は自分だけのことしか考えてない…人を好きになるって、凄いもんだって言ってるくせに…』
梅原『一人の女の子がっ…泣いて去っていく背中を、追いかけることすらできねえんだよっ……!』
香苗「っ……」
梅原『俺はよう、嫌われても良いって言ったよな』
香苗「……」
梅原『だけど、それは撤回だ』
梅原『…俺は答えを、そうやって伊藤さんに授けただけだ。許してくれるか、許してくれないかってな』
梅原『だけど、それは違うだろ。そういうのは違うんだぜ』
梅原『俺は───伊藤さんにとって、最高の男になってやる…!』
梅原『見てろ! これが梅原正吉って男の───』がばぁっ
香苗「んにゃっ!?」ぐいっ
梅原『───一世一代の、大告白だッ!』バッ!
梅原「この会場に居るであろうっ…先輩ぃいいい! 俺はアンタのこと、大好きだぁああああああああ!!!」
梅原「だけど、それよりもこの子をッ……俺はもっともっと大好きなんだぁああああああああ!!」
梅原「アンタへの好きな気持ちなんてのは、そんなもんだったっていうわけだよくそったれ!!」
梅原「後悔してもしらねえからなぁ! アンタが逃したこのデッカイ魚は!!」
梅原「──伊藤香苗って女に、身も心も全て!! やっちまうよていだからなぁああああ!!!」
梅原「はぁっ……はぁっ……」
香苗「……」きょとん
梅原「絶対に聞こえたよなっ…ここにいるのなら、あの人にもちゃんと聞こえたはずだぜっ…はぁっ…」
梅原「良し! 立ってくれ伊藤さん!」
香苗「あ、うん……」とん…
梅原「じゃあ、聞かせてくれ」
香苗「……え?」
梅原「答えを、どうか俺の告白に対して答えをここでくれ!」
梅原「ダメだぞ、もう逃げられねえからな」
香苗「に、逃げられないって…」
梅原「答えは必ず、今、聞かせてもらう」
香苗「い、今…?」
梅原「そうだぜ、もう遠くへ行かせたりはしない」
梅原「伊藤さん、アンタの悩みは…俺が乗り越えてやる」
梅原「わかってる心配ない、俺はいつだって……」
梅原「…アンタの隣に、立ってるからよ」
香苗「っ……となりに…?」
梅原「ああ、離れたりしない。絶対にいつまでも離しはしないぞ」
梅原「何処まで歩き続けて、伊藤さんが遠くへ歩きさってしまっても」
梅原「──ずっと、俺は伊藤さんを支え続けてみせるから!」
梅原「…ありがとうよ、いつまでも俺の隣に…立っててくれて」
梅原「ずっとずっと、感謝してたぜ。今度は俺の番だからさ、もういいんだよ伊藤さん」
梅原「───今度は俺のほうが寄り添っていく番だ」
香苗「あっ……わ、私っ…そんな事思ってっ…なんか…っ」
梅原「……おう、泣くなよ…」
香苗「ごめんなさっ…私は、梅原くんを困らせたくなくてっ…だから…!」
梅原「……」
梅原「…あーもう、うるせえなオイ」ぐいっ
香苗「ふにゅっ…」ぽすっ
梅原「───良いから俺の彼女になってくれ、伊藤さん」ぎゅう
「──ライトアップ! 全部のライトを二人に!」
「──花びらの用意! みんな一斉にふらせて!」
「──全力でぶちまけるわよ、いいわね!」
クラス一同『うぉおおおおお!!!』ドドドドド!
梅原「うぉっ?!」
香苗「ひぁっ!?」
純一「ふらせ! 花びらだ!」
絢辻「声をだすのよ! お祝いの言葉をできるだけ大きな声で!」
薫「小さいわよ! もっと腹から出しなさい!」
梨穂子「おめでとうぉおー! 二人共っ! おめでとぉおー!!」
ひらひらひら…
梅原「これは…」
「まーたこんな事してくれちゃって! 先生に怒られてもしらないからね!」ばっばっ
「きちんと大切にしろよ! 梅原ぁ! ちくしょう!」ばっばっ
梅原「お前らっ…」
「やるじゃん香苗! なになに熱いことこのうえないじゃないの!」
「一生大切にしてもらいな! 絶対にね! 絶対にだよ!」
「ちくしょー! 伊藤さん! 梅原の奴をの頼むぜ!!うぉおおお!!」
香苗「みんな…」
梨穂子「香苗ちゃーんっ! 本当によかったねぇ~うわぁ~んっ!」
香苗「さ、桜井…ちょっと泣きすぎだって…」
梨穂子「かなえちゃ~んっ…!」ぎゅうっ…
ひらひら…ひらひら…ひらひら…
香苗「うん、ありがと…アンタはいつもそんな子だよ…本当にさ…」
梨穂子「うんっ…うんっ…」
香苗「…ありがとう、本当に」ぎゅっ
ひらひら…
純一「んー……どうだ、今の幸せは」
梅原「…どうしようもねえぐらい、幸せだ」
純一「だよなー…どうだよ、この花ビラ。
みんなで急遽、紙をちぎって作ったんだぞ」
梅原「…おう、綺麗だ」
ひらひら…
純一「…じゃあちょっくら、聞いてこい。ちゃんとさ」
梅原「おうよ、大将!」すたっ
香苗「……梅原君」
梅原「…聞かせてくれ、伊藤さん」
香苗「……」
梅原「俺の気持ちは、いつまでも一緒だ」
香苗「…うん」
梅原「ずっと伊藤さんを、好きで居てもいいか?」
香苗「……───」
香苗「──うん! 私も梅原くんのこと好きだからっ…!」
ばっ
ぎゅっ…!
梅原「お、おおうっ…びっくりした」
香苗「好き、好きだよ梅原くん…絶対にもう、離したりしない」
香苗「私だって、これからもずっとずっと…そばから離れたりしないから…」
梅原「…おう、俺もだ!」ぐいっ
香苗「きゃっ…!」
梅原「───やったぜぇえええ! 彼女できたぁああああああ!!」
会場『うぉおおおおおおお!!』
梅原「もうクリスマスは一人で過ごさなくてもいいぜぇええええええ!!」
会場『うぉおおおおおおおおおお」!!』
梅原「うぉおおおおおおおおおおおおおおお!!」
香苗「や、やめっ! はずかしい、恥ずかしいから!」
絢辻「…えらくノリがいいわね、会場の人たち」
純一「それはね、だって梅原が主役だもん」
純一「──みんな何処かで、期待してたんだよ」
純一「あの梅原正吉は……なにかしでかすってさ!」
純一「うん? どうかした?」
絢辻「うん、一つだけね。貴方に私も言っておかなくちゃいけないような気がするのよ」
純一「えっと…それはなにかな?」
絢辻「それはね…」
絢辻「──橘純一は何を仕出かすのか、全くわからないってこと」
純一「……」
絢辻「どうかしら? くすっ」
純一「……さすがだね、ちょっと見破られたことに驚いてる」
絢辻「何を仕出かすのか、楽しみにしてるわ」
純一「うん、楽しみにしてて良いよ」
純一「───もうすぐ、来るはずだからさ」
ばぁーんっ!
梅原「あああ…あ?」
香苗「え、体育館のドアが急に空いて…」
薫「あれ、なにかしら…何処かで見たことのあるような…」
「──ハッローーーーー! ヒィーーーーハァーーーーーー!!」ヒヒィン!
「だ、誰だ!? 何かに乗ってるぞ!?」
「う、馬だァ!? 馬に乗ってるぞ!? なんでだ!?」
「───見て! あの暴れ馬を乗りこなしてる人っ……あれってもしかして!!」
森島「わお!」
在校生『森島先輩だぁあああああああ!!?』
純一「──流石だな、梅原。まず先に僕を疑うなんて」
梅原「ど、どうしてあの人をっ…〝このタイミングで呼んだんだ大将!?〟」
純一「さて?」
梅原「とぼけるなっ! あの人はっ…楽しそうな場所であれば何処にだって現れて!」
梅原「そして最大限に楽しんで、周りを盛り上げ、そして最後に残っちまうのは!」
梅原「──なぜか森島先輩一人という、恐ろしい伝説を知らねえとは言わせねえぞ!」
純一「ふっふっふ」
梅原「っ……」
純一「これは…僕からの最後の試練だ、梅原!」
純一「──そのつかみ取った幸せで、森島先輩に勝ち残って見せろ梅原正吉!!!」
梅原「はぁっ!? 何を言って──」
「きゃああああっ!」
香苗「う、梅原くんっ…!」
森島「──ふふっ、この子がターゲットの女の子ね。ボーイッシュで実に好みよ! ハイヨー!」ぱしんっ
ヒヒィイインン!
「う、うわぁっ!? こ、こっちくる!?」
「うわぁああああああ! 暴れ馬だぁあああああああ!!!」
美也「うっわー! 椅子がなぎ倒されていく…」
紗江「み、美也ちゃんっ…! 早く逃げないと…!」
七咲「そこの水泳部のキミ、はやく塚原先輩探してきて。近くに居るはずだから」
田中「ひぁあああー!」
高橋「ちょ、ちょっとぉ!? 森島さんっ!?」
純一「……………」
絢辻「今さら後悔してるでしょう、橘くん」
梅原「今の状況が既に魔に落ちてしまってるよな!? 阿鼻叫喚だよな!?」
薫「ふぁ~、さーて。恵子ー! 文化祭回りましょ~」
田中「あ、薫~!」
絢辻「そういえば、お昼ご飯まだだったわね。食べましょうか桜井さん」
梨穂子「えっ? う、うん~?」
紗江「きゃあああっ!?」
美也「にっしっし! こっちが面白そうだからねー!」
七咲「…へえ、美也ちゃん。森島先輩側に付くんだね」
森島「ハイヨー! たっちばなくーん! これからどうするのー?」
塚原「──どうもしないわ、はるか」すっ
森島「に、逃げてぇえええ! タネウマくぅうううんっ!」
「ちょ、これ危ないっ…危なくてあぶっ!?」
純一「…」
梅原「…」
純一「…と、とにかくだな!」
梅原「お、おう!」
純一「幸せ、なんだよな? 梅原?」
梅原「当たり前、だぜ? 大将?」
純一「……」
梅原「……とにかく、この状況をどうにかする案を考えやがれ! 橘ぁ!」
純一「いや、どうにかするって…あはは」
梅原「お前がやっちまったんだろ!?」
梅原「マジか!? なんだそれ、早く出しやがれ!」
純一「よ、よしっ……ピュ~イ!」
梅原「指笛…? なんだ、なにか呼びだすつもりなのかよお前───」
かっぱら かっぱら
馬「ひひーん」
純一「馬だ」
梅原「どう見てもハリボテだよな!? 誰か入ってるよな!?」
マサ&ケン『はいってないぞー』
梅原「マサケンーーーー!!」
純一「いいから梅原、突っ込んでる暇じゃない。助けに行くんだ!」
梅原「な、なんだよっ…! これに乗れって言うのかよっ」
純一「と、とりあえず森島先輩から香苗さんを奪え返せば大丈夫! ほら、行って来い!」
マサ『あっ…くそ、重てぇなちくしょう…』
ケン『しかたねえよ、後で伊藤さんの臀部の感触を楽しもうぜ!』
梅原「良いから走れ! お前ら!」ぱしっ
馬「ひ、ひひーん」
森島「はぁ…はぁ…なんとかひびきちゃんを巻けたわ…むっ?」
梅原「森島先輩っ!」
森島「来たわねっ! 掛かってきなさい!」
香苗「梅原君っ…!」
梅原「っ……俺は絶対に離れねえと決めたんだ…!!」
森島「ふふふっ」
森島「──かかってきなさい! ジュリエット!」
梅原「負けるかよっ…うぉおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
~~~~~~
香苗「…こりゃまた、すごい事になったよね~」
香苗(これが体育館の中…だとは思えないわ、ちょっとばかり)
香苗「……」
絢辻「次はそこよ! 素早く動きなさい!」
純一「はい! はい!」
絢辻「次はそこ!」
純一「はぃいいい!!」
薫「あ、これってまだ使えそうじゃない?」
梨穂子「え~でも、食べれないよ?」
薫「いや、これ、食べ物じゃないのよ桜井さん…?」
梨穂子「えっ!? じょ、冗談だよ~っ! あはは~っ」
マサ「ぐぁー! なんで俺等までー!」
ケン「自業自得だよな…」
塚原「……」ゴゴゴゴ
森島「ちょっとしたお遊びのつもりだったのよ~…」
塚原「怪我人が出るかもしれない事が、ちょっとした遊び?」
森島「ひっ」
七咲「美也ちゃん、大丈夫?」
美也「いや~! やっぱり逢ちゃんは強いよね~! だけどアレは引きわけだよ?」
紗江「はわわっ…二人とも、大丈夫だよねっ?」
七咲&美也「次は勝つよ!」
紗江「ふぁ~!」パチパチパチ
田中「大丈夫ですか~先生~?」
高橋「も、もうっ…なんてこと…」
香苗「……」すたすた…
香苗「……」
「──ん、どうしたんだ伊藤さん?」
梅原「こっちは俺の担当だったはずだろ?」
香苗「…うん、確かにそうだったわ」
梅原「…。一緒に掃除するか?」
香苗「いい? やっても?」
梅原「もちろんだ」
さっさっさ…
香苗「…なんだか、一瞬の事だった気がする」
梅原「え?」
香苗「ここ数週間のこと、長かったようで。あっという間な気がするんだよね」
梅原「…なんだか俺もそんな気がしてきた」
香苗「………」
ざぁああああ~……
香苗「……正吉」
梅原「ん?」
香苗「──正吉くんって、呼んでも良い…かな」
梅原「お、おおっ……別に構わねえけど…そしたら、その」ポリポリ
香苗「香苗でいいよ」
梅原「…いいんだな? 呼んじゃうぞ俺?」
香苗「もちろん、下の名前で呼ぶのは嫌なの?」
梅原「馬鹿言え! そんなわけないぜ!」
香苗「んっふふ、じゃあ香苗。さんはいっ!」
香苗「……」すっ
香苗「んっ」
梅原「かな、むぐっ!?」ちゅっ
香苗「……ぷはっ…」
梅原「………は?」
香苗「あはは、呼べなかったね。下の名前でさ~」くるっ
梅原「ちょっ、えっと、今の…っ?」
香苗「──これで二回目、我慢できなかったのは」
香苗「だけど、もう我慢する…必要無いんだよね?」
梅原「……」
梅原「……ああ、いつだってしてこいよ! その為に、何時だって傍にいてやるから!」
読んでくれる人いたのか疑問だけど終わりだよ
香苗ちゃんのss増えてください。
次もまためんどくせえ話で会えたら
ご支援ご保守ありがとう
ノシ
お疲れ様でした
Entry ⇒ 2012.10.23 | Category ⇒ アマガミSS | Comments (0) | Trackbacks (0)
奉太郎「古典部の日常」 6
奉太郎「古典部の日常」 2 (5,6,7,8話)
奉太郎「古典部の日常」 3 (9,10,11,12,13話)
奉太郎「古典部の日常」 4 (14,15,16,17,18,19,20話)
奉太郎「古典部の日常」 5 (21,22,23,24,25話)
ここはどうも、一対一の場面に恵まれている様だ。
ドアの左右には植木鉢が設置されており、前までこんな物は無かった気がしたが……文化祭の関係かもしれない。
そして、入須はゆっくりと俺の方に振り返る。
そんな入須の動作と一緒に、学校のチャイムが鳴った。
入須「授業が始まってしまったか」
入須「先輩にサボりを付き合わせるとは、褒められた事ではないな」
奉太郎「……すいません」
奉太郎「でも、あなたとは話をしなくてはならないんです」
奉太郎「……それは、あなたも分かっているでしょう。 入須先輩」
入須「……さあな」
……そうだな、始まりの時から、話をしよう。
奉太郎「最初から、振り返りましょうか」
奉太郎「……あなたは、何故こんな事をしたんですか」
入須「千反田にサプライズをしよう、と言った事か」
奉太郎「ええ、そうです」
入須「それは始めに言っただろう、君と千反田には恩があったと」
奉太郎「無いですね、もしあなたが千反田に恩を感じていたなら」
奉太郎「さっきの部室前での態度、あれは明らかにおかしい」
入須「あれの事か、君には言いふらす趣味は無かった様だが……盗み聞きする趣味はあったのは迂闊だった」
奉太郎「……気付いていたんでしょう、あなたは」
奉太郎「……果たして、そうでしょうかね」
奉太郎「だけど、今はその事についてはいいです」
奉太郎「何故、あんな態度を取ったんですか。 入須先輩」
入須「……確かに、あれは千反田に恩を感じている人の態度ではないかもしれない」
奉太郎「なら……」
入須「だが」
入須「それも状況によって、だ」
入須「私があそこで引いていたとしよう」
入須「そうしたらその後どうなる? 間違いなく彼女は君に、何故入須と居たのか聞きに来るぞ?」
入須「……君はそれを、千反田のその好奇心を拒絶する事ができるのか?」
入須「計画がばれてしまっては、元も子も無いんだぞ」
奉太郎「さすがは、女帝さんだ」
奉太郎「……そうですね、それは反論としてはもっともだ」
奉太郎「この事に関しては、俺が引きましょう」
入須「……何を考えている」
奉太郎「話を変える、と言う事です」
奉太郎「あなたは一つ、不自然な事を言っていたんですよ」
入須「……聞こうか」
奉太郎「喫茶店に行った時、あなたはこう言った」
奉太郎「私は人の心を覗きたくない、とね」
入須「人の心を覗くのは好きではない、と言ったんだ」
奉太郎「……一緒でしょう」
奉太郎「それより、これは本当にあなたの本心ですか? 入須先輩」
入須「……ああ、紛れも無く、私の本心だ」
奉太郎「……なら、随分とおかしな話になるんですよ」
入須「どういう事か教えてもらおう」
奉太郎「あなたは最初、この計画を始めるときにこう言った」
奉太郎「俺が千反田の事を好きという事を、誰から聞いたのか教えてくれた時です」
奉太郎「私にそれを教えてくれたのは、総務委員会の奴だ」
奉太郎「ま、最初そいつに問いただしたのは私だがね。 傍目から見て、もしかしたらと思ったら案の定って訳だ」
入須「……そんな事を、言ったかな」
奉太郎「惚けないでくださいよ、確かに言いました」
奉太郎「……もう、分かるでしょう? あなた程の人なら」
奉太郎「人の心を覗く様な真似が好きじゃない人が、どうして人の恋路を第三者に聞きだしたんですか?」
初めて、入須が押し黙った。
奉太郎「だがそれは違う、あなたはさっきそれが本心だと言った」
奉太郎「俺はその言葉を信じましょう」
奉太郎「だからこう考えます……あなたにそれを教えてくれたのは里志では無かった、と」
入須「……面白い意見だな、非常に」
入須「だが……事実でもある」
入須「認めるよ、私は彼に聞いたのでは無い」
奉太郎「意外とあっさりと認めるんですね」
入須「くどいのは嫌いだからな」
少しずつ、少しずつだが……入須に詰め寄っている気がする。
大丈夫だ、これで大丈夫な筈。
入須「話をコロコロ変えるのは、嫌われてしまうよ」
その言葉に返す気は、無かった。
奉太郎「俺が次にする話、それは」
奉太郎「今回の事、全てについてです」
入須「……随分と飛躍した物だ」
奉太郎「そうでもないですよ、これが核心でもあるんですから」
奉太郎「俺は、こう考えています」
奉太郎「……今回の計画、入須先輩にとっては」
奉太郎「千反田にばれてでも押し通す必要があった。 とね」
入須「そんな訳、ある筈が無いだろう」
奉太郎「正確に言うと、俺と入須先輩が遊んでいる……具体的には違いますが」
奉太郎「それを見られ、仲良くする二人の事がばれても押し通す必要があった」
入須「……ふむ」
入須「つまり、こう言いたい訳か」
入須「私が最初から、千反田にデート現場を見られる事を予測していた、と」
奉太郎「端的に言えば、その通りですね」
奉太郎「違いますか?」
入須「違うな、それは完全に計画外だった」
奉太郎「……そうですか」
奉太郎「それなら俺のこの推測は、外れてしまいました」
入須「どういうつもりだ」
入須「さっきから君は、何を考えている?」
奉太郎「俺が思っている様な人では、あなたは無かった」
入須「くどいのは嫌いだとさっきも言った、単刀直入に言ってくれ」
なら……終わらせよう。
全部、繋がっている。
奉太郎「あなたは、千反田に幸せになってもらう為に、敢えて千反田に嫌われる様な言動をした」
入須「……何故、そう思った」
奉太郎「最初に言ってたではないですか、計画がばれてしまったら元も子も無い……とね」
奉太郎「だからあなたは千反田を拒絶した、この計画を成功させる為に」
入須「意味が分からないな」
入須「私が本当に、千反田に幸せになって欲しいと思っていたとしたら、だ」
入須「幸せになってもらう前に、辛い思いをさせてしまったら……それこそ本末転倒だろう?」
入須「そして現に、千反田は今……辛い思いをしている」
入須「と言う事は、君の推理は外れているよ」
奉太郎「そう考えると、どうでしょうか」
奉太郎「それなら自分が憎まれる役を演じるのが最善、そうなりませんか?」
入須「……」
奉太郎「そして……次に俺が言う事、それを俺は真実だと思っています」
奉太郎「あなたは、入須先輩は」
奉太郎「俺の姉貴と、面識がありますね?」
入須「……どこで、それを知った」
初めて、入須の顔から余裕が消えた様な気がした。
俺はそのまま……言葉を続ける。
奉太郎「知った、というのとは少し違います」
奉太郎「あなたが与えてくれた情報から考えただけです」
奉太郎「それと、姉貴の言葉からも推測を組み立てられました」
奉太郎「そして、この事実はこうも言えます」
奉太郎「俺が千反田を好きだという事を、あなたは俺の姉貴から聞いた」
奉太郎「あいつはどうにも自分の事が分かって無さ過ぎる、少し……協力して貰えないか」
奉太郎「大体はこんな感じだと思っています」
入須「……なるほど」
入須「つまり私の裏には、君の姉貴が居るという事だな?」
奉太郎「ええ、そう考えています」
入須「……驚いたな、そこまで推理するとは」
入須「君を少し、甘く見ていた」
奉太郎「事実、なんですね」
入須「……私は、あの人にも恩があった」
入須「とても、君と千反田とは比べ物にならないほどの、な」
入須「計画は私に任されたよ」
入須「全部……話そうか」
空を見上げながら、ゆっくりと口を開いた。
入須「始めは本当に、君と千反田を幸せにしたかった」
入須「いや、それは今もだな。 結果は最悪になってしまったが」
入須「……プレゼントを決める為に、駅前に行った日」
入須「見られていたんだよ、千反田に」
入須「君は気付いていなかった様だがね」
奉太郎「……確かに、全く知りませんでした」
入須「そして、そこからどう持ち直すか必死に考えたさ」
入須「これから千反田はどう動く? 私はどう動けばいい? とね」
入須「私が出した結論は……」
俺の言葉を聞き、入須は柔らかく笑うと頷いた。
入須「そうだ、それが最善だった」
入須「私が憎まれ役になり、君と千反田は更に距離を縮める」
入須「君と千反田にとってはいい迷惑だっただろうな、悪いことをしてしまった」
入須「配慮が足らない先輩で、すまなかった」
入須はそう言うと……俺に頭を下げた。
その姿は、どうにも女帝という肩書きは似合いそうには無い。
奉太郎「確かに千反田を傷つけたのは……俺としては許せません」
奉太郎「ですが、あなたも……傷付いてしまった筈だ」
入須「私が? 面白いことを言うね、君は」
入須「本当にそう思うのかい? 私が望んでした事だと言うのに」
入須「君に見破られさえしなければ、君と千反田は私を憎んで丸く収まった」
入須「そして私はそれを気にしない、全てがハッピーエンドさ」
そんな、悲しそうな顔で言われても説得力と言う物に掛けるだろ、この先輩は。
奉太郎「まだ、おかしな点があるんですよ」
奉太郎「ですが、あたなはくどいのが嫌いと言っていましたね」
奉太郎「なので、一つだけ言わせて貰います」
奉太郎「あなたの言葉を借りましょう、入須先輩」
奉太郎「だから俺はこう返す」
奉太郎「あなたは俺に全てを見破られる事さえ、予想していたのではないですか?」
入須「ふふ、ふふふ」
入須「ふふ……君は本当に、あの人の弟なんだな」
入須「……そうだ」
入須「この状況も、私は計算していた」
入須「しかし、その計算していた事さえ見破られるのは……予想外だった」
奉太郎「……あなたも、傷付いているではないですか」
奉太郎「あなたは俺に気付いて欲しかった、自分を守る為に」
奉太郎「俺はそんな優しすぎる人を、責める事は出来ませんよ」
入須「……そう言ってもらえると、少しばかり気が楽になるよ」
入須「千反田にはどうしても、幸せになってもらいたかったんだ」
入須「理由は……私からは言わない方が良い」
それは、千反田が話そうとして……未だに決心が付いていない、あれの事だろう。
入須「……家の関係上な、知りたくなくても耳に入ってきてしまうのだよ」
それは……その入須の心までは、俺には分からなかった。
何故こいつは……ここまで自分を責めているのだろうか。
入須「……ここは中々良い場所だな、風が気持ち良い」
奉太郎「……俺も、嫌いな場所では無いですね」
入須「ここに来た時ね、少しだけ私にも希望があったんだよ」
入須「君はもしかしたら……と言う、小さな希望さ」
入須「それを見事に君は成就させてくれた、感謝している」
奉太郎「つまり、ここまで全てあなたの計画の内と言える訳ですか?」
入須「そんな事は無い」
入須「あそこの植木鉢にある花、名前は知っているか」
あれは……なんだったかな。
俺は元より花の種類についてはあまり詳しく無い。
奉太郎「……すいません、あまり詳しく無い物で」
入須「あれはね、ガーベラと言う花なんだ」
入須「花言葉は、辛抱強さ」
入須「そしてもう一つは」
入須「希望」
奉太郎「……そうでしたか」
奉太郎「俺はどうやら、この先あなたを恨めそうには無いです」
入須「……ありがとう」
入須「一応言っておくが、君のお姉さんを恨むなよ」
入須「この計画を考えたのは私だ、あの人は私にアイデアをくれたに過ぎない」
奉太郎「……分かっていますよ、あれでも姉貴は随分と優しい奴なんですから」
奉太郎「だから、多分後悔していると思います」
入須「……後悔? 何故だ」
奉太郎「あなたを傷付けてしまった事を、です」
入須「……それはどうかな」
奉太郎「俺はあなたより、姉貴の事を知っている」
奉太郎「なので断言できます」
奉太郎「姉貴に取って、あなたは大切な友達なんですよ」
入須「……そうか」
入須はそう呟くと、一度空を見上げた。
俺にはそれが、涙を零さない様に……している様に見えた。
入須「さて、それより」
次にそう言い、俺の方を向いたときには、先ほどまでの悲しげな表情は消えていた。
入須「君にはまだやる事があるだろう? 私と話すより大事な事が」
奉太郎「……そうですね、時間を取らせてすいませんでした」
入須「ふふ、いいさ」
入須「私はもう少し、ここで風を浴びているよ」
奉太郎「……あなたも随分と、後輩に無理をさせる人だ」
俺が最後にそう言うと、入須は小さく笑い……屋上の柵から景色を眺める。
奉太郎「入須先輩」
入須「まだ、何かあるのか?」
奉太郎「これ、お返ししますよ」
奉太郎「あなたの知り合いの、物でしょう」
俺はそう言い、先ほど古典部に落ちていたシャーペンを入須へと手渡す。
入須「……受け取っておくよ、確かに」
奉太郎「それでは、失礼します」
入須「……ああ」
授業中なだけあって、校舎の中は大分静かだった。
俺はそれをお構いなしに走る、屋上から廊下に降り、目的地は一番端っこだ。
走っている時は、とても長い時間だった気がする。
……もっと、早く。
そんな俺の願いが通じたのか、二年H組の札が見えてきた。
確か、千反田は一番後ろの席の筈だ。
後ろの扉から、入ろう。
俺はそう決めると、教室の後部に設置された扉の前で一度息を整える。
奉太郎(一つも俺は、気付いていなかった)
奉太郎(他の事に関しては気付けたが、お前の事になると少し感覚が鈍ってしまう)
奉太郎(お前は多分、俺が謝れば許してくれるだろう)
奉太郎(……そういう、奴だから)
奉太郎(俺は千反田に許してもらえないほうが、幸せなのかもしれないな)
奉太郎(……行くか)
心の中で、決意を固める。
扉に手を掛け……開いた。
奉太郎「千反田!」
教室中の視線が俺に集まる。
無理も無い、授業中なのだから。
千反田は教室の隅で、真面目に授業を聞いていた様だった。
俺に気付き、少しの間……目を丸くしていた。
そして俺はそのまま千反田の席まで駆け寄る。
奉太郎「……とにかく、来てくれ」
える「え、お、折木さん?」
奉太郎「早く!」
俺はそう言うと、千反田の手を取り、走り出す。
廊下に出た所で教室の中から教師の怒号が響いてきた。
……だが、関係ない。
奉太郎「走るぞ!」
える「え、は、はい!」
未だに千反田は状況を飲み込めていない様だったが……後でゆっくりと話せばいい。
とりあえず今は、ここから離れなくては。
久しぶりに握った千反田の手は、柔らかくて、しかし冷たくて。
どこか、暖かい気がした。
第26話
おわり
昇降口から出て、校門へ。
ふと、屋上に目を移した。
入須「……」
そこにはまだ入須が居て、遠くからだったのでよく分からなかったが……笑っていた気がした。
える「……あ、あの……! おれ……き、さん!」
途切れ途切れに、千反田が口を動かしていた。
その言葉で俺は前に向き直り、千反田に言葉を返す。
奉太郎「あとで……話す!」
奉太郎「今は……とりあえず……付いてきてくれ!」
千反田は返事をしなかったが、少しだけ強く握られた手に意思を感じる。
俺が向かった場所は、自分でも良く分かっていなかった。
目的地を決めていた訳では無かったので、当たり前と言えば当たり前かもしれない。
……どこか、静かに話せる場所がいい。
なら、あそこか。
奉太郎「……はあ……はあ……」
える「だ、大丈夫ですか?」
千反田は確か前に、長距離が得意とか言っていた。
なるほど、息が余り切れていないのはそういう事だろう。
奉太郎「……すまない、ちょっと……休ませてくれ」
える「……私は、もっと走れますが」
奉太郎「……簡便してくれ」
俺はそう言い、座り込む。
える「では、ここでお話……しましょうか」
千反田は俺の右隣に腰を掛けた。
える「……授業中だったのですが、用件はなんでしょうか?」
える「……」
奉太郎「全部、話す」
奉太郎「それからどうするか、決めてくれ」
える「……分かりました、聞きます」
それから何分も掛けて、俺がした事……入須がした事を話す。
計画は台無しになってしまったが、そんな事は言っていられないだろう。
……結局、一番傷付いてしまったのは……千反田だったか。
俺が話をしている時、千反田はずっと俺の目を見つめていた。
俺にはそれが辛く、だが目を逸らす事もしない。
そうしなければ、全てが本当に……終わってしまう気さえしていた。
話している最中でも、千反田の表情には何も変化が無かった。
……いつもの千反田では、無いか。
俺はここまで、こいつを傷付けていたのか。
奉太郎「本当に、すまなかった」
俺は語彙が少ないとは自分でも思っていない、しかし。
そう言うしか、無かった。
える「……顔を上げてください」
千反田の言葉を受け、俺はゆっくりと下げた顔を上げる。
パチン、と乾いた音が響く。
ああ、俺は。
叩かれたのか、千反田に。
える「……終わりです」
それも、そうか。
千反田が手をあげる等、ほとんどありえない。
いや、ほとんどと言うか……今、初めて人の事を叩く千反田を見た。
当然だ、このくらい……当然だろう、俺。
たった一つの言葉が、ここまで人を苦しくできるとは知らなかった。
だが、千反田は……もっと苦しかったのだろうか。
部活にも、文化祭にも来れない程に……苦しかったのだろうか。
……出来ることなら時間を巻き戻したい。
でもそれは、都合が良いにも程があるって物だ。
俺は、罰を受けなければならない。
それもまた、仕方の無い事だろう。
……だがやはり、辛いな、本当に……苦しいな。
ふと、頬に水が垂れてきた。
雨、か?
いや……空は晴れている。
と言う事は、俺は。
そういう事か。
奉太郎「……」
千反田の方を、向けなかった。
今あいつの顔を見たら、俺は自分が情けなさ過ぎて……どうしようも無くなってしまう。
千反田の顔を見たら、俺は多分、もっと泣いてしまうから。
える「……あの」
奉太郎「……」
言葉は返せなかった。
える「あの、勘違いしていませんか?」
える「私は、今回の事は終わりと言ったのですが……」
今回の、事?
それはつまり、どういう意味だ。
……くそ、頭が上手く回らない。
俺はようやく、千反田の方に顔を向ける事ができた。
奉太郎「……うっ」
だがやはり、俺の予想以上に千反田の顔が近く、思わず後ずさりしてしまう。
える「……すいません、私の言い方が悪かった様です」
える「それと、頬……大丈夫ですか?」
える「勢いで、思わず……」
える「……このくらいは、許してくれますよね」
奉太郎「あ、ああ」
それはつまり、終わりという事だろうか、今回の事については。
……良かった、良かった。
思わず、体から力が抜ける。
える「……私、本当に辛かったです」
える「折木さんの顔を見たら、おかしくなってしまいそうで」
える「あの様な気持ちは、初めてでした」
える「だから、部活にも……文化祭にも、行けませんでした」
える「……でも」
える「最後には、こうなりました」
千反田はそう言うと、優しく笑った。
奉太郎「本当に、悪かった」
奉太郎「お前の気持ちに気付けなくて、俺は」
える「最後にはちゃんと、こうなりましたから」
える「そ、それとですね。 一つ質問です」
える「さっきの話を聞いた限りだと……その」
える「私が入須さんとお話していたのも……聞いていたんですよね?」
奉太郎「まあ……そうだが」
える「なら、その……私が、折木さんの事を」
える「あの、ああ言ったのも、聞いていたんですか」
奉太郎「……そうなる」
える「……そうでしたか」
える「一緒、ですね」
その千反田の言葉の意味が、俺には分からなかったが……言う、しかないだろうなぁ。
える「……はい」
千反田も俺の言おうとしている事に気付いたのか、俺の顔を正面から見つめる。
奉太郎「俺は、大好きな人に……酷い事をしてしまった」
奉太郎「だが、それでも伝えずにはいられない」
奉太郎「……それを言うのは、俺には許される事では無いかもしれないが」
奉太郎「けど、俺は言う」
奉太郎「その大好きな人は、お前だ……千反田」
奉太郎「俺は、千反田えるの事が」
奉太郎「好きだ」
……これは本当に、省エネでは無い。
たったこれだけの言葉を言うのにも、俺の想定を遥かに上回る量のエネルギーが必要だった。
……だが、気分は良かった。
気持ちを伝えるのは、気分がいい物だった。
える「……気持ちは、私の心にしっかりと届きました」
える「ありがとうございます、折木さん」
える「でも私には、まだ答えを出せ無いんです」
える「……もう少し、もう少しだけ」
える「待って貰えますか?」
奉太郎「……ああ」
える「ありがとうございます」
綺麗で。
可愛くて。
愛おしくて。
俺は心底、こいつの事が好きなんだなと、実感した。
それから少しの間、千反田と一緒に話をしていた。
他愛の無い会話でも、嬉しかった。
千反田の一挙一動全てが、好きになれそうで。
俺は自然に笑い、千反田も笑い。
幸せとは、こういう事を言うのだろうか。
奉太郎「ん?」
える「喫茶店に、行きませんか?」
える「少し……喉が渇いてしまって」
奉太郎「ああ、そうだな」
奉太郎「じゃあ、行こうか」
える「はい! 今日は折木さんの奢りですね」
奉太郎「そうだな……好きなだけ頼めばいい」
える「ふふ、お言葉に甘えさせてもらいますね」
喫茶店に入ると、いつもの店主が軽く会釈をしてきた。
俺と千反田はそれに軽く返すと、カウンター席に着く。
俺はブレンドを頼み、千反田はココアを頼んでいた。
いや、ココアとスコーンと、サンドウィッチ……それに
奉太郎「おい」
える「え? 何でしょうか」
奉太郎「いくら俺の奢りとは言っても……持ち合わせが足りなかったらどうするんだ」
える「ここで、お皿を洗えば……」
奉太郎「……」
える「冗談ですよ、その時は私も出します」
える「でも、折木さんのお金が無くなるまでは、私は出しません!」
える「ふふ、私もそう思います」
ま、いいか。
今日くらいは、いい。
奉太郎「……そうだ、これ」
奉太郎「千反田にあげる予定だった、プレゼント」
奉太郎「受け取ってくれ」
える「これは、ネックレスですか」
える「ふふ、嬉しいです」
える「折木さんから貰ったのは、ぬいぐるみ以来かもしれません」
奉太郎「……そういえばそんな事もあったな」
える「今でもちゃんと、私の部屋にありますよ」
える「今度、来ますか?」
奉太郎「い、いや! いい!」
奉太郎「それはいい、やめておく」
える「あのぬいぐるみ、どこか折木さんに似ている様な気がして、可愛いんですよ」
える「どこと無くやる気無さそうな感じが、とても」
さいで。
奉太郎「……にしても、さっきの授業だが」
奉太郎「何の授業だった?」
奉太郎「あの怒号、余り良い予想ができないんだが」
える「ふふ、数学ですよ」
える「尾道先生の授業でした」
奉太郎「……明日は、大変だな」
える「……一緒に、怒られましょう」
奉太郎「……だな」
奉太郎「……ああ、そうだな」
える「私は勘違いして……お二人に、謝らなければなりませんね」
奉太郎「違う、悪いのはお前じゃない」
奉太郎「全部、俺が悪いから」
える「終わりだと、さっき言った筈ですよ。 折木さん」
える「一緒に、謝りましょう」
える「半分こ、です」
奉太郎「……分かった、そうしよう」
奉太郎「今年は、文化祭……楽しめなかったな」
える「ええ、でも……それより嬉しいことが、ありましたから」
える「……そうですね……来年も……」
気のせい、か?
一瞬悲しい顔をした気がしたが、違う……気がしたんじゃない、確かにした。
もしかすると……いや、今はやめておこう。
奉太郎「外も、暗くなってきたな」
える「……もうこんな時間ですか」
える「そろそろ、帰りましょうか」
奉太郎「ああ、家まで送っていくよ」
える「あの、折木さんは何故……あの時間に来たんですか?」
奉太郎「今日の事か?」
える「ええ、そうです」
奉太郎「居ても立ってもいられなくてって言った感じでな……悪いことをしたよ」
える「……今日の折木さん、謝ってばかりです」
える「私、折木さんが教室に入って来たとき」
える「……本当に嬉しかったんですよ」
える「今までの事が無かった様になる気がして、私……」
える「それで本当に、何も無かったかの様になっちゃいました」
奉太郎「……そうか」
える「何も無かった、とは違いますね」
える「折木さんの言葉が、聞けましたから」
奉太郎「千反田が話をしてくれる時って約束だったけどな」
える「いいえ、私は幸せですよ」
える「……かっこ良かったです、折木さん」
奉太郎「そ、そうか」
奉太郎「……照れるな、少し」
える「家まで送ってくれる折木さんも、かっこいいです」
奉太郎「……やめよう、恥ずかしい」
える「……そうですか、では」
える「手、繋ぎましょうか」
奉太郎「……ああ」
千反田は答えてくれなかったが……それでも、俺には勿体無いくらいの幸せな時間だった。
いや……その日だけでは無い。
それから毎日、一週間、一ヶ月。
里志と伊原にはしっかりと頭を下げた。
里志は「やはりホータローは、力だね」等と言っていた。
伊原は「今度何かしたら許さないから!」と言いながら俺の脛を蹴って来た。
……あれは結構、痛い。
まあそれほど伊原も怒っていたのだろう。 それもまた……仕方の無い事だ。
それから毎日、いつも通りで……毎日、千反田と一緒に帰った。
段々と寒くなっていったけど、千反田と居る時は不思議と暖かかった気がする。
そして、十二月のある日。
つい、昨日の事。
冬休みまで後、一週間。
そんなある日、千反田が
学校に、来なくなった。
第27話
おわり
普通に考えれば……一日休んでも、風邪か何かを引いたのだろうと思う所だ。
しかし、どうにも嫌な感じが拭えない。
何か、何かあったのではないだろうか?
それに今日も、どうやら千反田は休んでいる様だった。
前日までの千反田は……特に変わった様子等、無かった気がする。
なんとも無い会話を四人でしていたし、具合が悪そうという事も無かった。
普通の、本当にいつも通りの千反田だった。
それが昨日と今日、学校に来ていない。
とりあえずは帰ったら、電話をしてみよう。
それで千反田に何故休んでいるのか聞けば……体調を崩したというありきたりな返事が聞けるだろう。
……そうだ、そうに違いない。
里志「ホータロー、やけに考え込んでいるね」
奉太郎「ん、ああ……ちょっとな」
そうか、俺は部室に居たんだった。
それで……里志から聞いたんだった。
千反田が学校に来ていないと言う事を。
昨日は部室に行ったが誰もおらず、今日来たら里志が居て……その事実を聞かされたんだった。
里志「でもそこまで考え込む事も無いんじゃないかな?」
奉太郎「……そう、だよな」
里志「……とは言っても、僕にも少しだけ引っ掛かる事があるんだよ」
奉太郎「引っ掛かる事? 言ってくれ」
里志の情報網は意外と侮れない、俺は今……少しでも情報が欲しかった。
里志「うん、内容は勿論千反田さんの事なんだけど」
里志「どうやら、休むという事を学校側に伝えていない様なんだよ」
つまり、無断で休んでいるという事だろうか?
あの千反田が……確かにそれは、何かおかしい。
奉太郎「……そうか」
奉太郎「やはり今日、電話してみる」
里志「そうだね、それが一番手っ取り早い」
その時、部室の扉が開かれた。
俺は一瞬、千反田が来たのかと思い……顔をそっちに向ける。
摩耶花「……やっぱり、ふくちゃんと折木だけかぁ……」
なんだ、伊原か……紛らわしいな。
摩耶花「……折木、その見るからに残念そうな顔、やめてくれない?」
摩耶花「ちーちゃんが来なくて残念なのは分かるけどねぇ」
昨日もこうだった。
当の本人が居ないからといって、伊原はこの様な事を俺に言ってくる。
だが、間違っていないのがなんとも……
摩耶花「……きっぱり言われると少しムカツクわね」
奉太郎「……すまんすまん」
伊原は本当にムッとした顔を俺に向けながら、席に着いた。
里志「まぁまぁ、二人とも仲が良いのは分かるけど……少し落ち着こうよ」
奉太郎「……誰の事を言ってるんだ」
里志「え? それは勿論、ホータローと摩耶花の事さ」
摩耶花「ふくちゃん、冗談でも言って良い事と悪い事があるって教えてもらわなかった?」
……冗談でも駄目だったのか、ちと悲しい。
里志「あはは、悪かったよ摩耶花」
里志「それと、ホータローもね」
奉太郎「別に、お前の冗談には慣れているからな」
里志「そうかい」
さて、三人集まった所でどうしたものか。
いや、三人寄れば文殊の知恵という言葉がある。
何か……良い案が出るかもしれない。
奉太郎「……それで、二人は何か思い当たる事とか無いのか?」
里志「僕は、さっき言った事が引っ掛かるくらいかな」
摩耶花「それって、あれ?」
摩耶花「ちーちゃんが学校に無断で休んでるっていう」
里志「そうそう、情報が早いね」
なるほど……女子と言うのは噂話が好きとは聞いた事があるが……それも少しは役に立つと言う事かもしれない。
摩耶花「……教えてくれたのふくちゃんだけどね」
そうでもないかもしれない、やっぱり。
奉太郎「伊原は、何か思い当たる事とか……無いか?」
摩耶花「うーん……」
伊原はそう言うと、腕を組み、視線を落とし、しばし考え込む。
やがて、伊原は顔を上げた。
摩耶花「関係あるかは分からないけど……」
摩耶花「昨日は、入須先輩も学校を休んだとは聞いたわね」
入須が? それは関係あるのだろうか? 俺にはどうにも……分からない。
里志「関係あるかどうかは、何とも言えないね」
奉太郎「……ふむ」
摩耶花「でも、入須先輩って学校を休む事は滅多に無いらしいわよ?」
……確か、入須は千反田が抱えている事情を知っていた筈だ。
それはつまり、そういう事なのか?
なら千反田は体調不良などで休んだのでは、無い。
明確な、何かしらの事情があって休んだのだ。
奉太郎「考えても、拉致が明かないな」
里志「やっぱり、直接電話するのが早いかな」
奉太郎「……ああ、今日の夜電話してみる」
俺がそう言うと、伊原が少し言い辛そうに口を開いた。
摩耶花「……実は昨日、私電話したんだ」
奉太郎「千反田にか?」
摩耶花「それ以外誰が居るって言うのよ」
ごもっとも。
摩耶花「……駄目だった」
奉太郎「駄目だったとは、どういう意味だ」
摩耶花「繋がらなかったのよ、誰も電話に出なかった」
誰も?
……電話に出れない状態だったのか?
奉太郎「……そうか」
里志「何だろうね、あまりいい予感は出来ないかな」
確かに、それはそうだが……口にはあまり出して欲しくなかった。
奉太郎「やはり、千反田と話すのが一番手っ取り早いな」
奉太郎「伊原は電話したのは昨日だろ? なら今日は俺が掛けてみる」
奉太郎「それでもし繋がれば、全部分かるだろ」
摩耶花「……うん、そだね」
里志「了解、任せたよ……ホータロー」
奉太郎「……ああ」
もし、出なかったらどうしようという考えは俺の中に不思議と無かった。
……その時は、そうなってしまったら……その時に考えればいいだけの事だ。
とりあえずは今日の夜、一度電話してみよう。
それで何とも無い会話をして、明日千反田は学校に来る。
それを俺は望んでいた。
そろそろ、電話を掛けよう。
あまり遅くなってしまっては向こうが迷惑だろうし、今は夕飯時……居る可能性も高い。
受話器を取り、千反田の家の番号を押す。
一回……二回……
コール音が十回程鳴ったところで、俺は受話器を置いた。
駄目だ、やはり伊原の言うとおり……電話は繋がらない。
しかし……これで、諦めていいのだろうか。
明日、里志と伊原と会い、やはり電話は繋がらなかったと……言って終わりでいいのだろうか?
それでは、今までの俺の繰り返しでは無いか。
少し前に千反田を酷く傷付けた俺と、一緒ではないか。
なら……俺が取る行動は、一つしか無い。
奉太郎「……少し、出かけてくる」
供恵「最近夜遊びが多いわね、お姉さん心配よ」
奉太郎「……すぐに戻るから、ごめんな」
供恵「……あんたが素直だと少し気持ち悪いわね」
奉太郎「じゃあ、行って来る」
これなら、千反田の家まではすぐだ。
風呂にはもう入っていたが……必死で漕いだせいか、冬だと言うのに汗が気持ち悪い。
……そうか、もう冬になっていたのか。
冬休みまでは後少し……俺は何故か、今年が終わる前までに……何か大きな事が起きそうだと思っていた。
いや、思っていたというのは訂正しよう。 確信していた。
今までの事を繋げれば……俺には何が起きているのか、分かっていたのだ。
だが、まだだ。
何故、それが今起きているのかが……俺には分からなかった。
千反田が無断で休んだと言う事は、それが始まった事を意味する。
……何故、このタイミングだったのか。
恐らく、多分。
千反田は近い内に俺に例の話をしてくれるだろう。
しかしそれが分からない。
俺の予測が当たっていれば、それは今で無くても良かったのだ。
いや、むしろ……もっと早く、千反田は言うべきだったのだ。
考えろ、千反田の家まではもう少し。
それまでに、答えが出るかは分からないが……思い出すんだ。
やがて、長い下り坂に差し掛かる。
俺は漕ぐのを止め、今までの事を考える方に集中した。
奉太郎「考えろ、思い出せ……一字一句、繋がる筈だ」
……俺は、答えを出せなかった。
こんな感じは初めてだった。
ヒントは確実に揃っている、しかし……いくら考えても答えが出る気がしなかったのだ。
それはもう……直接、聞くしか無いのかもしれない。
しかし俺はある事に気付いた。
結局、俺は千反田がただの病気では無いと……感じている事に気付いたのだ。
千反田の家が段々とでかくなっていく。
俺はそこで違和感を覚える。
通常なら……この時間、家族で夕飯を食べているか、談笑しているか。
あるいはそれが無い家庭でも、家の明かりはついている。
誰かしらが家には居る筈だ。 そうでは無い家も確かにあるかもしれないが……千反田の家はそういう家の筈。
しかし俺が今見た千反田の家には、それが無かった。
俺はようやく千反田の家の門前に着くと、どこか人気のある場所は無いか探す。
だが、いくら見回してもそれを見つけられない。
奉太郎「……誰も、居ないのか」
そんな、何故誰も居ないんだ。
……俺はあの日、里志にある事を聞いた。
沖縄に行き、三日目の夜。
千反田と伊原が花火をしていた時の事だ。
俺は里志にこう聞いたのだった。
それに対し、里志はこう答えた。
里志「色々あるよ、でも一番有名なのは【別離】かな。 別れの花として有名だね」
そう、里志はそう言ったのだ。
その時だった、俺が嫌な推測を立ててしまったのは。
千反田は時間が無いと言っていた。
そしてスイートピー。
あの日、映画館に二人で行った日……千反田は俺に花言葉は知っているかと聞いてきた。
その二つを繋げると、千反田に待っているのは……別れ。
何故そんな事を千反田が言ったのかは分からない。
だが、それが今だとしたら?
千反田の家がもぬけの殻と言うのも……納得が行ってしまう。
これで終わりなのだろうか。
これで……俺と千反田は、終わってしまうのだろうか。
……いや。
そんな事はありえない。
絶対にありえないんだ。
千反田はこうも言っていた。
必ず、俺にその話をしてくれると。
……俺はその千反田の言葉を信じる。
誰が何と言おうと、例え俺の姉貴に言われても。
里志や伊原に言われても。
あの入須に言われても。
もう、終わりだと告げられても……
俺は、千反田の言葉を信じる事にした。
あれから一度も、千反田は学校に来なかった。
毎日電話をしたが……とうとう繋がることは無かった。
古典部の空気は大分暗く、気安い場所では無くなってしまっている。
だが俺は、毎日古典部へと足を運んでいた。
前触れも無く、千反田が来ると思っていたから。
そして今日も……俺は古典部へと足を向けていた。
すれ違う生徒の声が、ふと耳に入ってくる。
「そういえば、今日来てたらしいよ」
「え? 来てたって誰が?」
「H組のあの子、名前はなんだっけかな」
「あ、もしかしてあの有名な子?」
「そうそう、その子」
……
……
それは、千反田の事だろうか?
俺はそいつらにそれを聞こうと振り返るが、既に姿は無かった。
どこかの教室に入ったのかもしれないし、階段を使ったのかもしれない。
くそ、呆けていたのが失敗だった。
気付くのがもう少し早ければ、聞き出せていたのに。
それより! あいつが来ているのか?
なら、今は放課後……来るとしたら、あそこしかない。
そう思い俺は古典部へと向け、進む速度を上げる。
扉を開けると、里志と伊原が居た。
俺が一番居て欲しかった千反田は……居なかった。
奉太郎「……よう」
里志「ホータローも、噂を聞いたのかい?」
噂……それは、つまりあの事か?
奉太郎「千反田が、来ていたという奴か」
里志「そう、それだよ」
里志「僕と摩耶花もね、それを聞いて急いで来たんだけど……どうやら遅かったみたいだ」
奉太郎「……元々、ただの噂だろ」
奉太郎「最初から来ていない可能性だって、ある」
そうだ、俺は多分……良い様に解釈して、里志や伊原も俺と同じように噂話に流されていたんだ。
摩耶花「……それは無いわ」
……伊原がここまで言い切るのは、少し珍しい。
奉太郎「何故、そう思う」
摩耶花「これよ」
そう言い、伊原が手に取り俺に見せたのは……一枚の手紙だった。
いや、手紙と言うには少し文字の量が少なすぎる。
メモ、と言った所だろう。
奉太郎「……それは、千反田が書いたのか?」
摩耶花「間違いないわ、私……ちーちゃんの字は良く覚えているから」
摩耶花「私とふくちゃんもう読んだ、次は折木の番」
摩耶花「……はい」
奉太郎「……」
俺は黙ってそれを受け取った。
そこに、書いてあった内容は……
第28話
おわり
そこにはいかにも千反田らしい、達筆な字でこう書いてあった。
『すいません、この様な形での挨拶となってしまいまして。』
『私は、本当に感謝しています』
『何度も私の気になる事を解決してくれて』
『私の事を、助けてくれて』
『今日の夜22時、約束のお話をします』
『あの場所で、待っています』
誰に宛てた物なのか、誰が書いた物なのか書いていないのは……多分、あいつが純粋に忘れていただけだろう。
……そういう奴だ、千反田は。
そして俺は……認めたくなかった。
こんなの、今日で終わりと言っている様で、認めたくなかった。
里志「どうするんだい、ホータロー」
奉太郎「……どうするって、何がだ」
摩耶花「あんたね、これちーちゃんが折木に宛てた物よ」
摩耶花「あの場所ってのは私達には分からないけど、あんたには分かるんでしょ」
奉太郎「……宛名が書いていない以上、決められんだろ」
里志「はは、ホータロー」
里志「いくら君でもね、それは少し……ね」
里志「僕も、さすがに怒るよ。 それは」
そう言われても、俺は……俺は!
摩耶花「……本気で言ってるの、折木」
……くそ。
摩耶花「あんた……!」
里志「摩耶花、いいよ。 続きを聞こう」
奉太郎「……それは、俺が考える事だろ」
奉太郎「お前らには……関係無い」
本当にそんな事、思っている訳ではなかった。
……それは言い訳か、どこかで少しでも思っていたから……口に出てしまったのだろう。
里志はもう言う事が無いと思ったのか、視線を俺から外し、外を見ていた。
摩耶花「……折木」
摩耶花「これだけは言って置くわ」
摩耶花「……ちーちゃんは」
摩耶花「ちーちゃんは……私の友達だ!」
摩耶花「お前に……! お前に関係無いなんて言われる筋合いは無い!」
奉太郎「……」
こんな、こんな伊原を見るのは初めてだった。
ここまで感情を昂ぶらせ、激昂している伊原を見たのは……
摩耶花「悔しいけど、あんたしか居ないのよ」
摩耶花「ちーちゃんを幸せにできるのは、折木だけなんだよ」
奉太郎「……まだ、千反田が不幸になるとは決まった訳じゃない!」
摩耶花「……っ!」
里志「ホータロー」
ふいに里志が、視線を変えず俺に声を掛けてきた。
里志「君も分かっているだろう?」
里志「千反田さんが学校を休み」
里志「そして今日、部室にメモを置いて行った」
里志「……何かが、何か良くない事が起きている事くらいは」
里志「僕や摩耶花にも分かる事なんだよ」
奉太郎「……そうか」
里志「今日はもう、帰ってくれないか」
里志「これ以上、今は君の顔を見たく無い」
奉太郎「……すまなかったな」
里志は明らかに怒っていた。
……それも、無理は無いか。
俺は最後にそう言い、部室を去る。
今日の、夜22時か。
……どうするか、だな。
時刻は既に、20時を回っている。
だがどうにも俺は、行く決心が付いていなかった。
……会えば、そこで終わってしまう。
なら会わなければ?
それもまた、終わってしまうだろう。
なら……なら俺はどうするべきなのか。
そして果たして、俺が千反田に会いに行く事で……あいつは幸せになれるのだろうか。
その事が一番、俺を引き止めていた。
俺が最後の約束を破り、千反田に嫌われてしまえば……そっちの方が、あいつにとっては良い事なのかもしれない。
……ああ、そうか。
あの時の千反田は、こういう気持ちだったのか。
あいつは俺に嫌われたかったと言った事があった。
その気持ちは、今の俺には痛いほど良く分かる。
……理解するのが、遅すぎた感は拭えないが。
そんな事を自室のベッドの上で考えていたとき、急に扉が開いた。
供恵「電話よ、里志君から」
奉太郎「……せめてノックしてから開けろ」
供恵「それはそれは、申し訳ございませんでした」
そんな冗談を言っている姉貴から受話器を奪い取り、耳に当てた。
里志「……やっぱりね、まだ家に居ると思ったよ」
里志「ホータロー、少し話をしようか」
奉太郎「……ああ、分かった」
里志「君は、今日行かないつもりなのかい?」
奉太郎「……まだ、分からない」
里志「いつまで決めあぐねているんだい?」
里志「君を待ってくれる程、時間はゆっくり動きやしないよ」
奉太郎「分かってる!」
奉太郎「……俺にもそのくらいは、分かっている。 だが……」
里志「……はあ」
里志「ホータローはさ、こう考えているんじゃないかな」
里志「今行ったとして、それは千反田さんにとって幸せなのか? とね」
奉太郎「……」
里志「沈黙は肯定と受け取るよ」
里志「やっぱりホータローは、優しすぎる」
やっぱり、とはどういう意味だろうか。
前に里志が言っていたの確か。
奉太郎「前と言っている事が違うぞ」
奉太郎「お前は俺を優しく無い、と言っていた気がするが」
里志「ああ、沖縄の時に言った事かな?」
奉太郎「そうだ、お前は確かに俺の事を優しく無いと言っていた」
里志「それは違う、僕が言いたかったのはね」
里志「自分に関して、だよ」
奉太郎「……自分に、関して?」
里志「そうさ、君は自分に対して優しく無さ過ぎる」
里志「それはつまりね、周りの人に対して優しいって事だよ」
奉太郎「……そんな事は」
里志「今ホータローはさ、千反田さんにとって一番幸せになれる事は何か、って考えているね」
里志「そして今ホータローが取ろうとしている行動さえも間違いだけど……」
里志「それはね、ホータロー自身に厳しすぎる選択だよ」
里志「……少しはさ、優しくなった方が良いと思うよ」
奉太郎「……本当に、そう思うか」
里志「ああ、断言できる」
里志「君は今日、会いに行くべきだ」
里志「僕から言えるのはこれだけだね、後はホータロー自身が決める事」
里志「でも今日、もし行かなかったら……」
里志「その先は、やめておこうか」
奉太郎「……そうか」
奉太郎「伊原には、悪いことをしてしまったな……」
奉太郎「今度ちゃんと、謝るよ」
里志「それは今日、ホータローの行動によるね」
里志「君が片方の選択を取れば、謝る必要は無い」
里志「だがもう一つの選択を取れば、しっかり摩耶花には謝って、仲直りして欲しいかな」
奉太郎「……ああ、分かった」
奉太郎「里志」
里志「ん? まだ何かあるのかい」
奉太郎「その、ありがとな」
里志「はは、ホータローから素直にお礼を言われるとは、僕もまだまだ捨てた物では無いかもしれない」
里志「それじゃあ、そろそろ失礼するよ」
奉太郎「……またな」
……俺は、自分に甘えていいのだろうか。
今すぐ、会いたい。
千反田の顔が見たい、手を繋ぎたい。
声が聞きたい、笑顔が見たい。
そんな感情に、甘えていいのだろうか。
俺は一度、リビングへ行きコーヒーを飲む。
そして、ソファーに寝そべる姉貴に向け、一つの質問をした。
奉太郎「なあ」
奉太郎「例えばの話だが」
奉太郎「一人は会いたいと思っていて、もう一人にとっては……会わない方が幸せかもしれない事があったとする」
奉太郎「そんな時の事なんだが、会いたいと思っている人間が姉貴だった場合……どうする?」
供恵「何それ、何かの心理テスト?」
奉太郎「真面目に答えてくれ」
供恵「はいはい、可愛い弟の頼みだからね」
供恵「私だったら、会いに行くよ」
奉太郎「何故? もう片方はそれで不幸になるんだぞ」
供恵「それはさ、片方が勝手に思っている事じゃない?」
勝手に、思っている?
供恵「だったら会うまで分からないじゃない、それが良い方に出るか悪い方に出るかなんて」
供恵「それにね、片方にとっては会わない方が確実に不幸になるんでしょ?」
供恵「そしてその行動は、相手にとって不幸になる事かもしれない」
供恵「ならさ、会うしかないでしょ」
……はは、これはおかしい。
俺は勝手に、千反田が不幸になると思っていたのか。
全部、俺が勝手に思っていた事。
随分と俺は……俺と言う人間を過大評価していたのかもしれない。
……馬鹿なのは、俺だったか。
供恵「……なら良かった」
供恵「外は寒いからね、暖かくして行きなさい」
奉太郎「……全く、どこまで分かってるんだよ」
供恵「なあにー? 何か言った?」
奉太郎「いいや、なんでもない」
奉太郎「……行って来るよ、俺」
供恵「ふふ……良い選択よ、奉太郎」
時間は……21時。
まだ、間に合う。
約束の時間は22時……大分早いが、行こう。
それは多分、少なくとも俺にとっては幸せな選択だ。
……最後くらい、自分に甘えてもいいよな。
姉貴の言う通りにシャツを何枚か重ねて着る、上からコートを羽織り、俺は外に出た。
……うう、確かにこれは寒い。
雪でも、降るのでは無いだろうか。
時間はまだあるな、歩いて向かおう。
あの場所というのは……まあ、あそこだろうな。
俺は千反田との約束の場所に着き、缶コーヒーを一本買う。
そしてベンチに座り、それをゆっくりと口の中に入れた。
冬の空気と言うのは、少し好きだ。
どこか新鮮な感じがして、心が透き通る感じがするからだ。
コーヒーをもう一度口の中に入れ、ゆっくりと飲み込む。
缶コーヒーはあまり好きでは無いが……今日のは少し、美味しかった。
10分……程だろうか。
約束の時間まではまだ結構あったが、足音が一つ近づいてくるのが分かった。
それは俺が一番会いたかった人で、一番会いたくなかった人なのかもしれない。
……これもまた、千反田の気持ちと一緒か。
こんな、最後の最後になってようやくあいつの気持ちが分かるなんて、やはり俺は馬鹿だった。
だがまだ、まだ終わった訳じゃない。
俺の選択が良い方に出るか、悪い方に出るか、それはまだ決まった訳じゃないんだ。
だから、俺は足音の方へと顔を向ける。
……予想通りの人物が、そこに居た。
奉太郎「……久しぶりだな」
える「……そうですね、随分と長い間、会っていなかった気がします」
第29話
おわり
奉太郎「ああ」
千反田はそう言い、俺の隣に腰を掛けた。
奉太郎「……今日は、寒いな」
える「そうですね、今日はこの冬で一番の冷え込みらしいですよ」
奉太郎「なるほどな、それなら納得だ」
える「……あの」
える「もう少し、そちらに行ってもいいですか?」
奉太郎「……ああ」
すると、すぐ横に千反田を感じた。
本当に、すぐ近くに……
える「これで少しは、暖かいです」
奉太郎「……それは良い案だ」
える「……ふふ」
俺と千反田は本当に自然と、どちらからと言う事も無く、手を繋いでいた。
千反田の手はとても、暖かかった。
奉太郎「もうすぐで今年も終わりだな」
える「ええ、早い物です」
える「ついこの間、折木さんに会ったばかりの様な気がします」
奉太郎「……そうだな、俺もそう思う」
辺りは静かだった。
車や人通りはほとんど無く、時折……公園の周りに植えられている木が風に吹かれ、ざわざわと音を立てているだけだった。
える「あの時は本当に、びっくりしました」
奉太郎「……閉じ込められていた奴か?」
える「ええ、そうです」
える「思えばあれが、最初でしたね」
千反田の気になる事を解決した……最初の事件。
……事件と言うには少し大袈裟か。
奉太郎「半ば無理やりだったけどな」
える「そんな、酷いですよ……私、とても気になって仕方なかったんですから」
奉太郎「……まあ、それだけじゃ終わらなかったけどな」
える「ふふ、そうですね」
える「本当に色々ありましたからね、沢山……」
える「全部、折木さんが解決してくれました」
奉太郎「解決って程の事でも、無いだろ」
える「折木さんにとってそうでなくても、私にとってはそうなんですよ」
そういうもんか、解決という言葉の方こそ……大袈裟かもしれない。
える「いっぱい、お話しましたね」
奉太郎「そうだな、本当にいっぱい話した」
奉太郎「……これからも、だろ」
える「……」
俺のその言葉に、千反田は答えない。
える「……私の事、お話しましょうか」
奉太郎「……」
今度は俺が、答えられなかった。
その話を避けようと、俺はベンチを立つ。
奉太郎「何か、飲むか」
える「折木さんの奢りですか? それなら是非」
そう言い、千反田は笑った。
……ああ、こいつの笑顔を見るのは随分と久しぶりな気がする。
理由になっていない理由を述べると、俺は自販機で紅茶を二本買った。
コーヒーでも良かったが、何故か少し……紅茶を飲みたくなった。
奉太郎「熱いから、気を付けろよ」
える「はい、ありがとうございます」
千反田に紅茶を一本手渡し、再びベンチに腰を掛ける。
俺が座り直すことで、千反田との間に少しの距離が出来ていた。
える「では、頂きますね」
それをこいつは、構う事無く再び埋める。
奉太郎「……ああ」
横から缶を開ける音がして、俺もそれに合わせて缶を開けた。
ゆっくりと、紅茶を口に入れる。
……やはり、俺にはコーヒーの方が向いているかもな……と思わせる味だった。
える「おいしいです、寒いから尚更、ですね」
奉太郎「……俺にはやはり、紅茶は向いていないかもしれない」
える「……私にコーヒーが向いていないのと、同じですね」
奉太郎「ある意味では、そうかもな」
える「……ふふ」
そのままゆっくりと、時間は過ぎて行く。
俺はずっと、永遠にこのまま一緒に居たかった。
……だが、さすがにそうはいかない。
ああ、とか、分かった、とか……肯定をとにかくしたくなかった。
しかし、それでも……聞かなくては、ならないだろう。
……そうだ、聞いてから答えればいい。
答えを、出せばいいだけの話じゃないだろうか?
ならまずは、聞かなければ。
奉太郎「……話してくれ」
俺がそう言うと、千反田はゆっくりと口を開いた。
える「まず、どこからお話すればいいんでしょう……」
それを俺に聞くか、全く本当に、千反田はどこまでも千反田だ。
奉太郎「最初からでいい、時間はあるだろ?」
える「ええ、大丈夫です。 最初からお話します」
そして千反田は一つ咳払いをし、再び口を開く。
える「まず、春の事です」
える「皆で遊園地に行った時……その時の事は覚えていますか?」
奉太郎「ああ、覚えている」
奉太郎「確か……泊まりで行ったな」
える「ええ、そうです」
える「そして私は、途中で帰ったのを覚えていますか」
奉太郎「……ああ」
あの時はそう、千反田が家の事情とやらで……一足先に帰った筈だ。
……そうか、あの時が始まりだったのか。
える「そして私は、家に帰り……病院へと向かいました」
える「お医者さんが言うには……」
える「もう、目を覚ますことが無いかもしれない、との事でした」
……そんな、そんな事があったのか。
奉太郎「あの日の夜、確か俺はお前を呼び出したな」
奉太郎「……すまなかった」
える「いえ、折木さんが来てくれて、嬉しかったですよ」
奉太郎「そう言って貰えると助かる」
奉太郎「……それと最近、学校を休んでいたのは何があったんだ?」
える「……父の容態が急変したんです」
える「それで、病院にずっと居ました」
える「折木さんにはお伝えしようか、悩んでいたんです」
える「でも、やはり言えなくて……すいませんでした」
奉太郎「……そういう事だったのか」
奉太郎「お前が最近学校を休んでいた理由は分かった」
奉太郎「……それで、その後は」
える「……ええ」
える「何ヶ月経っても、父は目を覚ましませんでした」
える「その間、千反田の家には家を纏める者が居なかったのです」
える「そして、やがて親戚同士で話し合いが行われました」
える「……内容は、噛み砕いて説明しますね」
奉太郎「……少し、予想は付くかな」
える「次の千反田家の頭首は、という物でした」
える「ええ、私です」
える「……当然と言えば、当然だったのかもしれません」
奉太郎「……だが、その話は何故ここまで黙っていた?」
奉太郎「確かにお前の父親が倒れたのは……あまり、言いたくは無かったと思うが」
奉太郎「そこまで黙秘する理由が、あったのか」
千反田は再度、咳払いをした。
繋がっていた手が、少し……強く握られていた気がする。
える「……はい、ありました」
える「折木さんは、回りくどいのは好きでは無かったですよね」
える「ですので、簡単に伝えます」
える「私は、父の後継者として学ぶ事が沢山あるんです」
える「学校では習えない、事です」
奉太郎「……どういう事だ」
千反田は、少し間を置き……口を開く。
える「私は今年いっぱいで、神山高校を辞めます」
何を言っているのかが、理解できなかった。
単語の一つ一つさえ、組み立てられず……文にならない。
ゆっくり、ゆっくりと単語同士を繋ぎ合わせる。
そして、俺は全て理解した。
千反田が時間が無いと言っていたのも、意味深に花言葉の話を出したのも。
スイートピーの花言葉は、別離。
……なんだ、笑えるくらいそのままではないか。
しかしそれを、すぐに受け入れろと言うには……ちょっと今の俺には無理かもしれない。
奉太郎「……お前には、母親も居るだろう」
奉太郎「それでは、駄目なのか」
千反田は首を振り、答えた。
える「駄目なんです」
える「こう言ってはあれですが……母親は純粋な千反田家の者ではありません」
える「余所者に任せる訳には……いかないんです」
はは、やはり……住む世界が違うな。
俺には到底、理解が出来ない世界だろう。
奉太郎「……そういう事だったのか」
奉太郎「だが、何故それを今になって言ったのか……その答えにはなっていないぞ」
える「……それは」
える「私が、高校を辞めると言ったら……自惚れかもしれませんが、皆さんは悲しんでくれると思うんです」
える「そんな顔は、見たくありませんでした」
える「最後まで、最後までいっぱい遊ぼうと思っていました」
える「でも……気付いてしまったんです」
える「私は、折木さんの事を好きなんだな、と」
千反田は、ちょくちょく俺の方を向くと笑顔になっていた。
それがどうしようも無く辛く見え、しかし俺には声を掛ける事さえできなかった。
そんな俺の思いには気づかず、千反田は続ける。
える「そして、思ったんです」
える「……折木さんに嫌われれば、後を濁さずに去れるのでは無いかと」
奉太郎「……それで、あんな事をしたのか」
える「はい、そうです」
える「でもそれは、間違いでした」
える「……私は弱いですから、意志の強さが」
える「折木さんの顔を見たら、嫌われるのが嫌になっちゃったんです」
とても、とても悲しそうに笑っていた。
俺は……俺には。
何も、出来ないのだろうか。
奉太郎「俺は!」
奉太郎「お前の事を嫌いになんて、絶対にならない!」
奉太郎「だから、だから……もっと楽しそうに、笑ってくれ」
える「……ふふ、ありがとうございます」
千反田は一度、紅茶を口に含んだ。
それをゆっくりと飲み込むと、話を続ける。
える「この間の、お返事がまだでしたね」
える「折木さんの事が、好きです」
える「他の女性の方と遊んでいるのを見るだけで嫉妬しちゃうくらいに、好きです」
える「折木さんと夜に会ったり、電話でお話した次の日も気分が良い位に、好きです」
える「折木さんの全てが、好きなんです」
える「……でも」
える「ごめんなさい」
何もかも、元通りにならないだろうか。
全て、無かった事に。
俺はゆっくりと夜空を仰ぐ。
冬の風が、痛い。
空を見上げると、ゆっくりと……何かが舞い落ちてきた。
……雪、か。
今日は寒かったからな。
それが俺の顔に辺り、溶けて行った。
える「……ええ、そうですね」
奉太郎「……寒いな」
える「……はい」
奉太郎「……千反田と居る時は、暖かかった」
奉太郎「……でも今は、少し寒いな」
える「……泣いているんですか」
……どうやら俺も、大分涙脆くなってしまったのかもしれない。
俺は自分が泣いているなんて事は思わなかった、雪が溶け、そう見えるだけなのだろうと。
……でも、千反田が言うからには……俺は泣いているのだろうな。
える「……折木さん」
千反田の声は、今までに無いほど弱々しかった。
その声は確かに俺の耳に届き、ゆっくりと千反田の方に顔を向ける。
振り向くと、やはり千反田の顔は俺のすぐ傍にあり。
そのまま……千反田は俺の唇に、自分の唇を重ねていた。
実際にはとても短い間だったのかもしれないが、俺にはそれがとても長く感じた。
やがて、千反田は離れていく。
える「……お別れのキスは、少ししょっぱいんですね」
奉太郎「……そうか」
これで本当に、終わりか。
本当に、全部。
……いや、まだだろう。
まだ、まだだろう、俺。
お前には、言うべき事がまだあるだろう。
全部、全部を良い方向に向ける、一言が。
千反田の顔を見て、言えばいいんだ。
後、一年待ってくれるか、と。
千反田の人生に、俺を巻き込んではくれないか、と。
お前の人生を、俺に手伝わせてくれないか、と。
……一緒に、一緒にずっと歩こう、と。
そう言えば、全てが良い方向に行くだろ、俺。
何が最悪なのかと言うと……
俺はここ数年、自分でもいつからかは分からないが、モットーを掲げてきていた。
そのモットーとはつまり、やらなくてもいいことなら、やらない。 やらなければいけないことなら手短に。
そんな、そんなモットーが俺に一つの考えをよぎらせてしまった。
それはつまり。
これは、本当にやらなければいけない事なのだろうか?
その考えがもたらすのは、最悪だった。
口を開いて、言葉を言おうにも……口が開かない。
言おうとしても、邪魔されて言えない。
たった……たった一言、一緒に居ようと言うだけで、全部良くなると言うのに。
どうにも、どうにも俺は言えなかった。
そして……
える「……そろそろ、行きますね」
俺もそれにつられ、腰を上げた。
公園を出て、千反田は再び俺の方に振り向く。
える「本当に、今までありがとうございました」
える「私はとても、幸せでしたよ」
える「大好きです、折木さん」
える「それでは」
える「……さようなら、折木さん」
奉太郎「……ああ」
千反田は、また……とは言わなかった。
明確に、さようならと……別れの言葉を俺に告げた。
段々、段々と千反田の姿が小さくなっていく。
道路の脇に植えられた木の枝に雪が付き、その間を歩く千反田の後姿はとても、綺麗だった。
まるで桜道を歩いているような、そんな錯覚さえも覚えた。
千反田の姿はどんどんと小さくなり、もう少しで見えなくなってしまいそうな時に。
ふと、千反田が振り返った。
なんで、なんでそんな簡単な事も分からなかったのだろう。
俺は今まで、何をしてきたんだ。
自分を思いっきり、殴り倒してしまいたい。
千反田の顔は、はっきりと見えた。
その、今にも泣き出しそうな顔を見て、俺は全てに気付いたのだ。
……千反田は、待っていた。
俺が、さっき言おうとして言えなかった言葉を言ってくれるのを。
ずっと、待っていたんだ。
しかし、もう俺の声は千反田には届かない。
走って行くにしても、どうにも足が動かない。
やがて……千反田は再び歩き出し、俺の視界から……居なくなっていた。
……全部、終わったんだ。
泣くなよ、全部終わっただけではないか。
そうだ、これこそが省エネではないか。
俺が、折木奉太郎が望んでいた事ではないか。
……全部、最初に戻っただけだ。
千反田の笑顔も、泣き顔も、悲しんだ顔も、全部。
今まであいつと話した時間も、手を繋いだ時間も、一緒に遊んでいた時間も、全部。
俺があいつに好きだと言った事も、あいつが俺に好きだと言ってくれた事も、全部。
全部……
全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部
全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部
全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部
全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部
全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部
全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部
全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部
全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部
そう思い、瞼を一瞬強く下ろした。
再び目を開けた俺に見えたのは、どこまでも灰色で……地球の果てまで行っても灰色しかなさそうな、世界だった。
なんだ、こんな事か。
……なんだよ、たったこれだけの事、今までずっと見ていたじゃないか。
見慣れた、光景ではないか。
……駄目だ。
いくらそう考えようとしても、駄目なんだ。
……俺には、千反田が必要だ。
しかし、それはもう遅すぎる……手遅れだ。
省エネ主義なんてくだらない事さえしていなければ、こんな大きなツケが回って来る事も無かった。
……帰るか。
俺はそう思い、ベンチから腰を上げた。
公園を出て、家に向かう。
……これから一年、いや……死ぬまで。
随分と、長い時間となりそうだな。
……希望と言うには少し大袈裟かもしれないが、確かに希望があったのだ。
それは、公園の周りに植えられた木や、雑草の中で。
一輪だけ植えられた、ガーベラの花だった。
それはもしかすると、ただの夢だったかもしれない。
俺が物事を前向きに捕らえようとして、勝手に見た妄想だったのかもしれない。
だが、俺はそれでも確かに見たんだ。
しっかりと、綺麗に咲いているガーベラの花を。
第30話
おわり
最終章
おわり
俺はついに……全てを終わらせてしまったのだ。
冬休みが明け、今日は登校日。
歩く学生達は皆、新年を迎えたという事で爽やかな顔をしていた。
それに俺は何も感じない、ただ、元気な奴らだな……と思うだけだった。
教室に行き、先生の話を聞く。
里志と伊原には既に説明をしてあった。
伊原は泣きじゃくっていたし、里志にしても俺が今までほとんど見たことの無い、泣き顔を見せていた。
始業式が終わり、午前中の内に放課後となった。
……H組には一通り目を通したが、当然、千反田の姿は無かった。
俺は結局、する事も無く古典部へと足を向ける。
そして、古典部の扉に手を掛けると、ゆっくりと開く。
黒髪は背中まで伸びていて、体の線は細い。
そいつはゆっくりと振り返る。
イメージに反して、目は大きかった。
それは……そいつは。
奉太郎「……千反田?」
しかし、その言葉を発したのと同時に……全てが泡のように消えた。
窓際になんて誰も居ないし、俺に振り向く人も居ない。
奉太郎「……そうか、そうだよな」
俺はそのまま、ゆっくりといつもの席に着いた。
やがて……伊原と里志も部室に顔を出し、いつもの席に着く。
里志「……なんだか、少し広く感じるね」
奉太郎「……そうかもな」
摩耶花「……それに、なんか静かすぎ」
奉太郎「……そう、だよな」
奉太郎「……席、一つ空いちゃったな」
里志「……うん、そうだね」
摩耶花「……今年の古典部、何すればいいのか分からないよ」
……くそ、また俺は泣いてしまいそうになっている。
この涙脆さは、あいつから移ってしまったのだろうか。
……最悪の、プレゼントだな、全く。
そんな事を思っていた時だった。
……ふと、気配を感じる。
それは伊原や里志も一緒の様で、全員が扉に視線を釘付けにしていた。
薄っすらとだが……人影が見える。
俺はこの時、何故かこう思った。
あの時咲いていたガーベラは、俺の妄想ではなく……実際に咲いていたんだ。
力強く、咲いていたんだ。
何故そう思ったのかが分からない程急に浮かんできた考えだった。
そして、古典部の扉はゆっくりと、少しずつ、開かれて行った。
第30.5話
おわり
そして本日を持ちまして
奉太郎「古典部の日常」
は完結となります。
皆さんの乙や感想の一言がとても励みになりました。
長いような短い間でしたが、お付き合い頂きありがとうございます。
残りがまだ少しだけあるので……少し本編に関係あるお話を投下します。
最後の最後、える視点からの物となります。
本編終わってからの補足話で申し訳ありませんが、もう少しだけお付き合いください。
それでは5分ほど時間置きまして、投下致します。
折木さんの言葉を、優しい言葉を。
左右に植えられている木は、雪が積もり……まるで、桜の様でした。
……これからは、私は一人で歩かなければなりません。
どんなに気になる事があっても、自分でなんとかしなければならないのです。
最後に一度だけ、私は振り返りました。
折木さんは未だに、私の事を見ていて……
私もそれに気付き、できるだけ楽しそうに、折木さんに笑顔を向けます。
……そして、前に向き直り、私は一歩一歩進みます。
折木さんは最後まで、私の望んでいた言葉を言ってくれる事はありませんでした。
ですが、それもまた……折木さんらしくて、素敵です。
今日は、泣かないと決めたのに。
最後の別れくらいは、元気な千反田えるで居ようと思っていたのに。
でもそれも、ばれなければ問題ありません。
今振り返ってしまったら、全部、折木さんには分かってしまうでしょう。
なので私は振り返りません。
……やっぱり、しょっぱいですよ。 折木さん。
……そうでした、私は何故、言葉を待っていたのでしょうか。
自分から、私から言えば、それで良かったのでは……無いでしょうか。
でも、もう遅いです。
私はもう、歩いてしまっているから。
振り返る事も、立ち止まる事も、もうできないかもしれないです。
それでもやっぱり私は、折木さんの事が大好きです。
例え何年経っても、何十年経っても、私の心の中で生き続けます。
……それくらいなら、許されてもいいですよね。
その思い出は、足枷なんかではなく、私を強くしてくれる、立派な力なのですから。
ふと、風が後ろから強く吹いてきました。
私はそれに、自然と振り返ってしまいます。
そして、私の視界には既に……折木さんの姿はありませんでした。
私は再び前に向き直り、まだ雪が舞い落ちて来ている空を眺めます。
真っ暗な空から、白い雪がチラチラと散っていて、とても幻想的な光景でした。
私は独り、そう呟くと足を再び動かします。
ゆっくり、ゆっくりと。
……さあ、これからは忙しくなりそうです。
気持ちを、どうにか切り替えましょう!
……私、頑張りますよ。 折木さん。
なのでどうか、折木さんも頑張ってください。
いつか、いつかもう一度……会えると信じて。
今度こそ、奉太郎「古典部の日常」は完結となります。
本当に、本当にありがとうございました。
Entry ⇒ 2012.10.23 | Category ⇒ 氷菓SS | Comments (3) | Trackbacks (0)
はやり「歳の差っていけないこと?」
「オッケーでーす! お疲れ様でしたー」
はやり「お疲れ様でした☆」
D「はやりちゃん今日も良かったよー」
はやり「ありがとうございまぁす☆ はやり嬉しいっ」
みんなに笑顔を振りまいてお仕事終了。
元々こういった人前に出るお仕事は好きだし、この歳でアイドルだとか、そういう体裁を気にしたことはない。
幸い容姿的には-十歳でも通用するし――キツいと言われることがない訳ではないけど――何より自分が楽しんでいるから。
ほんの少しのキャラ付け、興味のあったロリータファッション。お砂糖スパイス素敵なモノ。
これら全てが私の一部。
アイドルモードと素の自分は正反対! なんて意外性はないにしたって、されど私は28。
経験だってそこそこあるし、いわゆる「大人の世界」も一通りは見てきたつもり。
中身までがクリームたっぷり夢見がちなメルヘン少女という訳ではないのだ。
はやり「……はぁ」
だから分からない。今更、初体験をしていることが。こんなにも心を掻き乱されていることが。
どうやら私は本当に、恋をしているみたいです。
それは今から二年前くらいの話。
夏、茹だるような暑さに参っていた私に与えられたお仕事は毎年恒例インターハイの解説。
トッププロ入りしてから早……何年くらいかなぁ。とにかく、私は決勝戦の解説を任されるくらいのベテランになっていた。
今年はどんな面白い子がいるのだろうと未来のホープに期待を込めながら打ち合わせを重ね、いよいよ本選が始まった。
自分の出番はまだだけれど、そのときのために各校のチェックは欠かさない。
はやり「うわわ、やっぱりこの子凄いなぁ。東三局で飛ばしちゃってる……親番で連荘かぁ」
その年特に騒がれていたのは宮永照さん。白糸台高校の先鋒で一年生。
インターミドルなどでの成績が一切ない上、打点が上昇していくという特異な打ち筋で、そのミステリアスな強さに日本中が注目していた。
無名校や初出場校が勝ち上がったり、先の宮永さんのようなスーパールーキーが入学して勝ち進んだりと、予想だにしないドラマがあるのもインターハイの醍醐味の一つ。
この大生院女子は、インターハイ自体には何度か出場しているけれどいつもパッとしない成績だった。
だから、この年はきっと凄い一年生が入ってきたんだと思った。ワクワクしながら選手を確認する。
――――予想外だった。
大生院女子の先鋒は、三年生。それも、何とインターハイ初出場の。
三年にして初のレギュラー入りということだろうか?と思うも、牌譜がその考えを否定する。
宮永さんのような派手さはないけれど――トッププロでなければ見抜けはしないだろう――オカルトじみた打ち筋は、さながら鷹が爪を隠しているようだった。
まだ、本気じゃない……きっとこの子が本気になるのは決勝なんだ。
私は高揚するままに、その名前をしっかりと目に焼き付けた。
戒能良子。大生院女子先鋒の、不思議な三年生。
泣いても笑っても、これが最後の試合。
決勝に勝ち進んだのは、白糸台、臨海女子、姫松。そして――大生院女子。
身体が震えた。もう何年も解説のお仕事はしているけれど、これほど楽しみな試合はなかった。
結果から言うと、その年の優勝校は臨海女子。
大生院女子も白糸台も、先鋒以降では打ち負けてしまった。
お互い先鋒で稼ぐというスタンスなんだろうけれど、宮永さんと戒能さんが削り合った結果、それほど大きなリードを取れずにその後失速してしまったのだ。
解説している間、私は自分がトッププロで牌のおねえさんであるがゆえの守るべきラインとかキャラだとかを、すっかりどこかに置き忘れてしまっていた。
ただ純粋に、あの空気に触れたいと思った。
そして、オーラス。戒能さんが宮永さんに跳満を直撃、大生院女子がトップに躍り出た。
やり切った表情をして会釈をし合う彼女たちを見ながら、私は頬が熱くなるのを感じた。
はやり(戒能……良子、ちゃん)
思えばこのとき、きっともう始まっていたんだろうな。
私の胸の高鳴りが、確かにそれを告げていた。
一言にまとめるのは簡単だけれど、その現実を直視するのは何というか、難しい。
はやり(ハタチって……若っ。プロ入りしてなきゃまだ学生やってる歳なんだよね……)
いつからこんなに年寄りじみた考えを抱くようになったんだろう。私だってまだまだイケると思うんだけどなぁ。
けれどそんなものは虚勢でしかなく、つまり私は怖いんだ。
こんなに年下で、一目惚れに近くて、ろくに話をしたこともない相手に恋をしているということが。
牌のおねえさんをやっていて、年齢を気にしたことなんてない。
いつもいつまでも自分らしく、自分のやりたいことをやるのが私のモットーだもん。
相手が自分と同じプロだから? 違う。とあるプロと付き合っていたときはこんな風に悩まなかった。
面識が浅いから? 違う。あの日知り合った子と一晩だけ関係を持ったこともあった。
はやり「やっぱり……歳の差、なのかなぁ」
声に出して、ため息をつく。何かがひっかかる。
年齢なんてものに囚われないで生きてきた私が、どうしてそんなものに悩むことがあるだろうか。
そんなことは、ない、と思う。けれど、自分がこうやって考え込んでいる原因なんて、それくらいしか見当たらない。
次から次へと溢れて止まらない至高の波を、着信音が遮る。
はやり「……咏ちゃん?」
意外な人物からの突然のお呼び出し。
モヤモヤした気持ちを晴らすためにも、ここはお誘いに乗りましょう。
はやり「今日はまた、どうしたのー? まぁオフだったしいいんだけど」
咏「最近働き詰めだったかんね、ちょっと飲みたくなっちゃってさー。お、来た来た」
健夜「あれ、私が最後か。待たせちゃったかな」
咏「いんやー、今来たばっかだよ」
はやり「健夜ちゃんも呼ばれてたんだぁ。久しぶりっ」
健夜「結構久々だね……はやりちゃんも、急に?」
はやり「うん。お家でゴロゴロしてたらいきなり電話がかかってきてびっくりしたぞ?」
咏「いまさらそんなん気にする仲じゃないっしょ! ってことで飲み行くぞー!」
はやり「おー☆」
健夜「わ、私明日仕事なんだけど……」
咏「んぐっ、んぐっ……ぶっはー! 疲れた身体にビールが沁みるー!」
はやり「咏ちゃんオヤジくさぁい☆」
咏「ほっとけー! なんならオヤジらしくセクハラしてやっても良いんだぜー?」
はやり「そーいうのは事務所通してくださーい☆」
健夜「ん……砂肝おいし」
はやり「えっ……そうかな?」
健夜「確かに……何か悩んでるっていうか、ため息も増えたよね」
はやり「うっそぉ……」
咏「私が飲みたかったってのもあるけどさ、何でこの面子かっていうとだ」
健夜「ああ、それ気になってたんだ。何で?」
咏「そりゃもちろん女関係の悩みを持つもの同士!」
健夜「ブッ」
健夜「ごめ……ゲホッ、咏ちゃん何言ってるの!?」
咏「ああゴメンゴメン、すこやんは円満だから悩みじゃねーわな」
はやり「羨ましいぞーこのこのぉ☆」
健夜「そうじゃなくて……えぇ……なにこの空気」
咏「まー私も? 別に喧嘩したとかじゃないけど? えりちゃんのモテモテっぷりには嫉妬もする訳よ」
健夜(絶対喧嘩してる……)
咏「でっしょ!? 私がいながらさー、無防備すぎんだよえりちゃんは!」
健夜「それはえりちゃんのせいじゃないんじゃ……」
咏「いーや! えりちゃんフェロモンのせい!」
健夜「フェロモンって……」
はやり「んん~……それはわかったけど、それで何で私なの?」
咏「え。だってはやりんが元気ないのって女絡みでしょ?」
健夜「あ、それは私も思ってた」
はやり「えー? なになに、そんな感じ出てた?」
健夜「何か珍しいタイプの悩み方だもんね。思春期の恋煩いみたいな」
はやり「ぐふぅっ」
咏「おー! すこやんの攻撃! はやりんのHPが500ダウン!」
健夜「えぇっ!? ご、ごめん?」
はやり「うぅ……聞いても、笑わない?」
健夜「それは聞いてからじゃないと……」
はやり「ぐはぁっ」
咏「さらに追撃ーっ! はやりん死亡!」
健夜「えぇぇえ!?」
咏「なーんか遠まわしじゃね?」
はやり「自分でもちょっと混乱してて……」
健夜「はやりちゃんがこういう風に悩んでるのって新鮮かも」
はやり「それは自分でも思ってるよぅ!」
咏「で? 誰が好きなん?」
健夜「?」
はやり「……戒能、良子ちゃん」
咏「うっひょ! マジかい!」
健夜「良子ちゃんってあの良子ちゃんだよね!?」
はやり「う、うん……プロの、新人賞取った……」
咏「こりゃまた……はやりんがあの子に……へぇぇぇ……」
健夜「何ていうか、ごめん、正直ビックリ……」
咏「いやいや、悪いって言ってる訳じゃねーよ? ただちょっと意外だっただけで」
健夜「そうそう。はやりちゃんって何となく年上とお付き合いしてるイメージあったし……」
はやり「そう!!」
健夜「は、はいっ!?」
はやり「そこなの! 私、もう28だよ!? それなのに、ハタチの子に恋なんて……はぁ……」
咏「んー? 別に歳とか関係なくねー? 知らんけど」
健夜「好きになったものはしょうがないんじゃないかな?」
はやり「そうなの……? でもほら、歳の差って変な風に取り上げられやすいし……」
咏「その歳でアイドルやってるはやりんが言えたことじゃないっしょ~」
健夜「はやりちゃん、歳の差に悩んでたの?」
はやり「え……?」
健夜「はやりちゃんって、年齢とか気にしてなさそうだったから」
はやり「……わかんない」
はやり「別の、とこ……」
健夜「うん……何ていうか、年齢を言い訳にしてるみたいな感じがするかなって」
咏「おっ、言うねーすこやん!」
健夜「あっ、その、悪い意味じゃなくてね!?」
はやり「……」
咏「さすがアラフォーは言葉に重みがあるわぁ~」
健夜「アラサーだよ! 咏ちゃんまでこーこちゃんみたいなこと言って!」
健夜「どこまでって……私とこーこちゃんはそういうのじゃ……」
はやり「……えぇ~? そんなことないでしょ☆」
健夜「はやりちゃんまでっ!」
咏「いつまでカマトトぶっこいてんだよー、やることやってるくせしてー」
はやり「健夜ちゃんってそういう関係は段階を踏んでからなるものだと思ってそうだしねぇ☆」
健夜「だ、だって……告白とか、大事でしょ?」
はやり「私もその場の勢いとか多いかも~」
健夜「そんなものなの……? いやでも、あれは事故っていうか……」
はやり「あれって何? おねーさん教えてほしいなぁ☆」
咏「もっしかして、この間ふくよんが泊まったとき?」
健夜「まぁ……そう、だけど」
咏「マジで! 何があったん?」
健夜「えっと……その、き、キス……しちゃったっていうか……」
はやり「えー! それホント!?」
咏「うっひょ! すこやんやるねぃ!」
健夜「し、してきたのはこーこちゃんの方だから! じゃなくて、あれは事故っていうか!」
はやり「まさか健夜ちゃんの口からそんな言葉が聞けるなんて……はやりん泣けちゃう……☆」
咏「これが大人になるってことなんだねぃ……はやりん、乾杯っ!」
はやり「かんぱぁいっ!」
健夜「ちょ、ちょっとぉ!」
飲みすぎ。
健夜ちゃんをいじったり、咏ちゃんのえりちゃん自慢を聞いたりと、楽しい時間が過ぎるのはあっという間だった。
健夜ちゃんは最後ヤケ酒してたけど、明日のお仕事大丈夫なのかな?
そして、私はというと。
はやり「もっと、別のところ……かぁ……」
ここ最近、ずっと胸に引っかかっていたのはそこだったのかもしれない。
確かに私は健夜ちゃんの言うように、歳の差という言葉を盾に、何かもっと大きな悩みに気づかないようにしていた気がする。
だからといってその悩みがわかった訳ではないし、根本的な解決には至っていないのだけれど。
それでも、早くそれに気づけなければ、きっとまた私は自分の弱さに蓋をしようとしてしまうだろう。
酔って重力に耐え切れなくなった身体と対照に、少しだけ心は軽くなった気がする。
瞳を閉じると、あのときの彼女の姿がすぐそこにあるようだった。
もう一日あった休みは有意義に使うことが出来たと思う。今日はレギュラー番組の収録だ。
多少気持ちが落ち着いたからか、笑顔がいつにも増して良いと褒められた。嬉しいな。
「お疲れ様でしたー」
はやり「お疲れ様でしたぁ、今日も楽しかったです☆」
収録も終わり、次のお仕事までは少し時間が空く。
いつもなら一人で洋服を見たりしているところだけど、今日は何故かしばらくスタジオから出る気にならない。
まぁ、こんな日もあるよね。控え室で次のお仕事の準備でもしてようかな?
なんてことを考えながら廊下を歩いていると、これはどういうことだろう。
意中の彼女の姿が見えた。
口から心臓が飛び出すくらい、なんてものじゃない。
ピンと伸びた背筋に、長い睫毛。すみれ色の綺麗な髪はコンパクトにまとめられていて、まだまだ着慣れていないはずのスーツはしっくりと似合っている。
そこにいるのは間違いなく、戒能良子その人だった。
良子「ん……?」
目と目が合う。それだけで通じ合う、なんて仲ではないけれど、彼女はこちらに歩を進める。
良子「瑞原プロじゃないですか。すっげーお久しぶりですね」
鈴の鳴るような透き通った声が、私の心をノックした。
私はしどろもどろに――なっていたのは心中だけだと思いたいけれど――なりながら、何とか食事の約束を取り付けた。
玄関ホールで待ち合わせをして、喫茶店にでも行かないかと誘った私の顔は不自然に赤くなかっただろうか。
彼女は表情を崩さないまま、「いいですね」と快諾してくれた。
小走りで控え室へ戻り、自分がどんな洋服を着てきたか改めて確認する。
今日は一日フルでお仕事が入っていたから、それなりにお洒落な格好をしてきていた。
心底ホッとしてから、気合を入れて化粧を整える。
こんなにも誰かに見てもらうための努力をするのも久しぶりかもしれないな、と思うと、チークがいらないくらいに頬が火照った。
本当はこの言葉をかける五分ほど前に玄関に着いていたのだけれど、緊張だの心配だのがピークに達して深呼吸を繰り返していた。
髪の毛とか変じゃないかな?今見ると服もちょっと派手かもしれない。
けれど一人で何を悩もうが結局はこのまま出て行くしかないのだから、と割り切るまでに、いっそ帰りたいと何度思ったことだろう。
彼女は気取った様子のないいつものスーツ姿で、芯が一本通ったようなブレのない姿で立っていた。
良子「ノープロブレムです。行きましょうか」
はやり「う、うんっ!」
一歩踏み出した脚が震えていたことは、気づかれていないと思いたい。
はやり「そうだね……良子ちゃんとお話したいなぁって思ってたんだけど、なかなか現場も一緒にならないし」
良子「私はテレビなんかの仕事は少ないですし、誘っていただけたらいつでもついていきますけどねー」
はやり「でもでも、新人王さんは引っ張りだこなんじゃないの?」
良子「ないないノーウェイノーウェイ、瑞原プロ程じゃないですよ」
はやり「あはは……良子ちゃんもやってみる? 牌のおねえさん」
良子「ノーサンキューです」
いざ向かい合って話をしてみると、なかなかに落ち着いて喋れている気がする。
ここは年の功、経験が役に立ったかな、とこれまでの自分を褒めてあげたりなんかして。
はやり「あ……そうだ、言いそびれちゃってたけど、この間の大会も優勝してたね。おめでとう☆」
良子「ああ、ありがとうございます。日本代表クラスが出場してないもんで、助かったですけど」
はやり「ううん、良子ちゃんは最近どんどん強くなってると思うよ? これは本当」
良子「トッププロに言われると嬉しいですねー」
はやり「あなたもトッププロでしょっ。伸びしろがあって羨ましいぞ☆」
はやり「ふぇ? み、見てくれてたの?」
良子「いえす。相変わらずすっげー速いわ強いわで、見てるほうも楽しかったですよ」
はやり「あ、ありがとう……」
まさか、試合を見てくれているなんて思わなかった。またもかぁっと頬が熱くなる。
ちなみに私は良子ちゃんの出場する大会は細かくチェックしている。彼女の変幻自在ともいえるプレイスタイルは、毎度私に感動を与えてくれるものだ。
良子「ところで、今日はこの後また仕事ですか?」
はやり「うん。あと……二時間後かな。ラジオの収録があるの」
良子「あー、そうでしたか。暇ならこのまま買い物でもどうかと思ったですけど、しょーがないですね」
はやり「えぇっ!?」
――あ、マズイ。
思ってもいない嬉しいお誘いに、つい大きな声を出してしまう。
変な人だと思われちゃったらどうしよう。
良子「気にしないでくださいー。今度オフの日にでも改めて誘いますよ」
はやり「ありがとう……そのときは絶対! 何が何でも! 行くから!」
良子「オーキードーキー。んじゃ、アドレスとか教えてもらっといていいですか?」
はやり「う、うん! ちょっと待ってね」
良子「いえす」
光陰矢のごとし。
そろそろ次のお仕事に行く時間だ。
後ろ髪を二トントラックに引っ張られているような思いはあるものの、それはそれ、これはこれ。
社会人として大人として、お仕事はしっかりこなさなければいけない。
良子「楽しかったです。誘ってくれてありがとうでした」
はやり「こちらこそ☆ 急だったのに付き合ってくれて嬉しかったよ~」
良子「こっちからメールしておきますんで、登録よろしくですー」
はやり「はぁい、待ってるね☆」
控えめに手を振る彼女がかわいくて、話が出来て嬉しくて、私は今にもスキップしそうなほど舞い上がっている。
彼女に対する恋心を自覚してからこんなにも長く彼女といたのは初めてのことで、つまり口角が上がるのも当然のことで、私は身体中が幸せに満ちるなんていう感覚を久しぶりに味わった。
sub:戒能です
―――――――――――――――
グッドモーニング。
今日はありがとうございました。
またご一緒させてください。
もう何度も見返した受信メール。保護はとっくにしている。
メール画面を閉じて電話帳を開いてみても、そこに彼女の名前があることが嬉しくて、私はここ一時間ほど枕に顔を埋めて脚をバタつかせている。
はやり(まずいなぁ……私、ほんとに好きなんだ)
これまで経験だけを積み重ねてきた私にとって、ここまで盲目的に恋をするというのは珍しいことだった。
何もかもが新鮮で、こんなにも胸が温かくて、そしてちょっとだけチクリと痛い。
幸せに浸りながらも、ひとりになって思い出すのは咏ちゃんのあの言葉。
何かがわかりそうな気がしている。けれど、それをわかりたくない気もしている。
出口まではあと少しなのに、ふわふわとした足取りでなかなか距離が詰まらない。
はやり「……良子、ちゃん」
もう何度も呟いた彼女の名前。
掴みどころがなくて、たまに見せるお茶目さがかわいくて、私よりずっと年下の、私の好きな人。
この気持ちの終着点って、どこだろう?
とりあえず、今日はこのまま幸せの海に漂っていたい気がする。
ゆっくり考えていけばいいなんて、都合のいい余裕かもしれないけれど。
着信を示すランプが紫色に点灯しているのを見て、慌てて携帯をチェックする。
from:良子ちゃん
sub:無題
―――――――――――――――
ハローですー
明日とかお暇ですか?
簡潔な文章に彼女らしさがよく出ていて、思わず笑みがこぼれる。
偶然にも明日はオフなので、手早く返信。
from:良子ちゃん
sub:Re:はろー☆
―――――――――――――――
それはラッキーでしたね。
楽しみにしてます。
彼女が楽しみにしてくれているというだけでこんなにも心が躍るのだから単純なものだ。
明日の準備を入念にするためにも、今日のお仕事は張り切ってささっと切り上げなくちゃ。
良子「グッドモーニングですー」
今日は暑くもなく寒くもなく丁度良い気温に、空は雲ひとつない快晴。絶好のお出かけ日和だ。
彼女の私服は色々と想像していたけれど、それに反していつものかっちりとしたスーツ姿だった。
はやり「良子ちゃんはいつもスーツだね~」
良子「あまり私服を着た経験がないもので、どういうのがいいとかわかんないんですよね」
はやり「へぇ、珍しいね……じゃあじゃあ、今日は私が良子ちゃんをコーディネートしてあげる!」
良子「サンキューです。じゃあ、行きますか」
はやり「レッツゴー☆」
彼女は私より十センチほど背が高いので歩幅が合わないかもしれないと一瞬だけ寂しさを感じるも、いざ並んで歩くと意外と控えめというか、足運びにお淑やかな印象を受ける。
最初は私に合わせてくれているのかな? と思ったけれど、ともすればそれは私よりも小さいようで、どうやら生まれつきのようだった。
はやり「そういえば、私服を着た経験がないっていうのは、どういう……?」
良子「ああ、私の家系が神職でして。高校までは巫女をしてたんですよ」
はやり「そうだったんだ……なんか意外かも。良子ちゃんってどこか外国風というか」
良子「高校2年間は親に付いて留学してましたから、そのせいじゃないですかね」
はやり「ほぁー……なんだかスゴいね」
良子「ノーウェイノーウェイ。家系といえば、うちの従姉妹が今年のインハイに出るみたいなんです」
良子「滝見春って子です」
はやり「春……ああ、永水女子の!」
良子「いえす。あの辺はみんな血縁でして」
はやり「確かにみんな巫女さんだったなぁ、あそこ……麻雀の強い家系なんだねぇ」
良子「まぁ色々と特殊ですけどねー」
なるほど、巫女服で生活をしていたから歩幅が小さいんだ。
お家の話や従姉妹さんの話も聞けて、彼女のことをどんどん知っていくのが嬉しい。
傍から見ているとクールな印象を受ける彼女だけれど、こうして一緒にいるとお喋り好きな一面も見える。
そして何より、そんな彼女を今だけは自分が独占しているのだという事実が私の心を浮き立たせた。
はやり「そうだよ☆ 私が着てるようなかわいい系だけじゃなくて大人っぽいのもあるから良子ちゃんにも似合うと思うな」
良子「私はよくわからないんで、お任せします」
はやり「おまかせあれー☆」
ところで、たった今気づいたことがある。
――――良子ちゃんは私のこと、名前で呼んでくれないのかな?
思い返せば誰に対してもきちんとした態度を崩さない彼女ではあったけれど、休日にお出かけするような仲になったからには高望みしてしまうのも致し方ないことだろう。
良子「あ、嫌でしたか? じゃあ瑞原さんとか……」
はやり「んもぉ、そうじゃなくて! はやり、って、呼んでほしい……な?」
話を切り出したときは冷静なそぶりを繕えたというのに、どうしても尻切れトンボになってしまう。
不自然に区切られた私の声を受け取った彼女の返事を待ちながら、激しく打つ胸を静めるためにこっそりと深呼吸をする。
良子「オーケーです。それじゃ、はやりさん……でいいですか?」
はやり「おっ、おっけー、です!」
失礼なことだとは思うけれど、返事を返してすぐ後ろを向いた。
髪の毛を伸ばしていて良かった。もし短かったとしたら、いくら顔を隠しても真っ赤になった耳が見えてしまうだろうから。
それに少しでも記念になればいいと思って、彼女にアクセサリーをプレゼントした。
あまり高いものは遠慮させてしまうし、お友達として付き合う上ではネックになるだろうから小さいものだけれど。
それでも彼女は喜んでくれて、つられて私も笑顔になる。
そしてふと、プレゼントをあげる立場になったのも初めてのことだな、と気づいた。
良子「今日はありがとうございます。アクセサリーまで頂いてしまって」
はやり「いいのいいのっ。年上なんだから、プレゼントくらいさせて?」
良子「今度お返ししますよ。それまでに勉強しときますー」
はやり「ホント? 期待してるぞ☆」
彼女とのお出かけは本当に楽しかった。
こんな時間がいつまでも続けばいいのに、そう思わずにはいられないほどに。
良子「そうですねー。近いところで大きいのだと秋の交流戦ですか」
はやり「あ、やっぱり出場するんだね☆ 私それの解説」
良子「解説なんですか? 残念ですー」
はやり「はぇ? どうして?」
良子「はやりさんは選手として出るのかと思ってたですから」
はやり「あぁ、なるほど……私も良子ちゃんとは打ってみたいけど、あれは未来ある新人さんのための大会だからねー」
そこまで言って、ハッとする。
アイスティーのシロップをかき混ぜていた手が止まる。
――――わかった。わかって、しまった。
これまで私が抱えていた悩みが、どうしても靄がかかって見えなかった本質が、見えてしまった。
良子「……? はやりさん?」
彼女の声で我に返る。
名前を呼ばれるたびに高鳴っていた胸の奥が、今は冷え切っている。
はやり「あっ、ご、ごめんね。えっと、そんなことないと思うよ? 良子ちゃんすっごく強いもん」
搾り出すような生返事に、彼女の眉が少し下がったような気がした。
また連絡する約束をして別れた。
最後まで私の心は揺れていて、彼女の言葉もなかなか耳に届かなかった。
心配そうな彼女の表情に気づかないフリをして、精一杯の笑顔で手を振ることが、果たして本当に出来ていただろうか。
気づいてしまった。違和感の正体。
歳の差なんて簡単な話じゃない、それよりもっと別のところ。
はやり「……本気だから」
強めのシャワーが全身を濡らす。
顔に垂れてくる水を鬱陶しいとも思わないのは、感覚が身体と乖離しているからか。
はやり「……本気だから、くるしいんだ」
顔出しのないお仕事で良かったと思う。きっと私は今、ひどい顔をしているだろうから。
本気だから、苦しい。
本気で好きになってしまったから、同じ歩幅で歩けないことが寂しい。
彼女の「これから」と私の「これから」は違うと知ってしまったから、こんなにも悲しいんだ。
きっと彼女はこれから、もっともっと強くなって、最高峰の力を持ったプロになるだろう。
――――でも、私は?
可能性に満ちた彼女の隣に、胸を張って立つことができるだろうか?
はやり「ああ、なるほど……それも含めて、歳の差、かぁ」
私がどんなに彼女を好きでいようと、彼女に相応しい人は他にいる、そしてこれからも増え続けるだろう。
どんなに想っても、彼女と私が過ごしてきた年月は離れすぎていた。
sub:無題
―――――――――――――――
今日はありがとうございました。
別れ際、体調が優れないよう
だったですけど、大丈夫ですか?
無理しないでくださいね。
私のためを思って送ってくれただろうメールを見つめる。
せっかくのお誘いだったのに、勝手に悩んで勝手にへこんで、悪いことをしてしまった。
馬鹿だなぁ、私。こんなに若くて、未来があって、そんなあの子に不釣合いな恋をしてしまった。
諦められればいいけれど、胸にはっきりと残る熱さが頑なにそれを拒否している。
涙を流すことこそなかったものの、精神が疲弊しているのは間違いなさそうだった。
そんなとき、いつかのように着信音が鳴る。
はやり「……咏ちゃん」
電話に出るかどうか逡巡したけれど、結局通話ボタンを押してしまう。
相談に乗ってもらったのだから報告はするべきだと思うし、話して楽になりたい気持ちもある。
こんな身勝手な人間は尚更彼女には相応しくないと、自虐的な笑みを貼り付けた私がそこにいた。
咏「はっやりーん! よく来たねぃ!」
健夜「この間ぶり……っていうか、またこの面子なんだね」
咏「まーねー、飲みたい気分のときはこの三人が一番だわー」
はやり「咏ちゃん都合いいー☆」
咏「言ったなー? このわがままボディめ!」
健夜「……?」
咏「んぐんぐ……ぷはっ! うんめー!」
健夜「ん……おいし」
はやり「……」
咏「いやー急に呼び出して悪いねー二人とも」
健夜「ほんとだよ……今日はどうしたの?」
咏「この間えりちゃんフェロモンの話したじゃん? まぁあんとき実は喧嘩中だったんだけどー」
はやり「そうだったんだぁー☆」
健夜(やっぱり……)
咏「めでたく和解しましてー、愚痴に付き合わせたお詫びに奢ろうかなーと思ってさ!」
はやり「よっ、ふとっぱら~☆」
健夜「うーん、じゃあありがたくご馳走になろうかな……」
はやり「へっ? あっ、あぁ……」
健夜「……はやりちゃん、何かあったでしょ?」
咏「お?」
はやり「……」
健夜「今日のはやりちゃん、目に見えてカラ元気だから……私たちでよかったら、話くらいなら聞けるよ?」
咏「……すこやーん、そういうのはもっと温まってからじゃね? 知らんけどー」
健夜「えっ今タイミング良かったよね!? 駄目だった!?」
咏「早すぎだろ! せっかく私が楽しげな感じで始めたっつーのにさー!」
健夜「えぇ……そんなぁ」
はやり「……ぷっ」
咏「へ?」
健夜「ん?」
健夜「は、はやりちゃん?」
はやり「あのね……食事もしたし、アドレスも交換したし、この間なんて遊びに行っちゃった」
咏「お、おおっ、進んでるねぃ」
はやり「でもね、ほら、前に咏ちゃんたちが言ってたでしょ? 私の悩みはもっと別のところにあるんじゃないかって」
健夜「うん」
はやり「ずっと考えてたんだけど答えが出なくて……でも、気づいちゃったんだぁ」
はやり「私、怖かったみたい。ずいぶん年下なのにしっかりしてて、おまけにあの若さでトッププロで……すごいよね?」
咏「……」
はやり「そんな、まだまだすごい可能性を持ってる子の隣に、私がいていいのかなって」
はやり「私がいることで、あの子の芽を摘んじゃうんじゃないかなって……」
はやり「……私、馬鹿だよね」
健夜「はやりちゃん……」
はやり「あの子の負担になることも、自分が本気の恋してるってことも、全部、怖くて……っ」
咏「……はやりんさぁ」
はやり「ぐすっ、……?」
咏「ばっっっ……かじゃねーの?」
はやり「へ」
健夜「う、咏ちゃん!?」
咏「なに? 自分、そんなことで悩んでたん? 呆れた、ドン引きだわこりゃ」
はやり「……咏ちゃんはまだ若いから、そういうこと言えるんだよ」
健夜「ふ、ふたりとも、おちつ」
咏「関係ねーっての。なに急に年齢とか感じちゃってんの? しかも自爆してるし。バッカみてー」
はやり「だって! あの子はまだまだ強くなるんだよ!? こんなアラサーが一緒にいていいと思う!?」
はやり「……え?」
健夜「……!」
咏「相手に可能性があるように、自分にもまだまだ可能性があるって思わないわけ?」
咏「解説やらテレビやら、そういう仕事ばっかりやってぬるくなっちゃったってこと?」
咏「……ふざっけんな!」
はやり「咏、ちゃん……」
咏「私はさぁ、はやりんとかすこやんとは一世代違うじゃん。黄金世代の後なわけ」
咏「二人の試合見て、すげーって思ったよ。私もあんな風になりたいって思った」
咏「直接戦えないのがほんとに悔しくて、何でもっと早く生まれなかったんだって思った」
はやり「!」
咏「こんな風に思ってるやつがいるってのに、何自分のこと諦めようとしてんの?」
咏「戒能ちゃんがさ、あの歳でトッププロになれたのも、はやりんとか、そういう人らを見てきたからじゃねーの?」
健夜「咏ちゃん……」
咏「釣り合わないとか、怖いとかさぁ……そんなこと思ってる暇あったら、まだまだ一線張りますって、強くなろーよ」
咏「そんで、自分の生きたいように生きてきたはやりんならさ、出来るっしょ」
咏「もちろん、そこでいい子ちゃんしてるすこやんもね」
健夜「えっ!?」
はやり「う……」
咏「はー、らしくねぇー! キャラじゃねぇー! もう全部わっかんねー!」
はやり「うだぢゃあああああああん!!!」
咏「ぎゃー! 苦しい! 苦しいってはやりん! ギブギブ!」
健夜「咏ちゃん、その、大丈夫……?」
はやり「そうだよっ、私、臆病なだけだよっ、一番おねーさんなのにっ、情けないよぉっ」
咏「いや大丈夫じゃな……ぐるじ……」
はやり「色々理由付けてっ、言い訳してっ、結局自分がかわいかったのっ、怖いだけだったのっ」
健夜「あ、あはは……」
はやり「わだじっ、もうやめるからっ! うじうじするの、やめるからっ! ぢゃんと告白するからぁっ!」
咏「わら、え、ねー……」
はやり「うえええええん! ふえええええええええん!!」
はやり「えっと……あのぅ……取り乱して、迷惑かけて、ゴメンナサイ?」
咏「ゆるさーんっ! 死刑!」
はやり「や~ん!」
健夜「まぁまぁ、落ち着こうよ……ほらお水飲んで」
咏「んぐんぐ……」
はやり「こくっ、こくっ……ぷはっ」
健夜「それで、決心ついた?」
はやり「……うん。私、甘えてただけだった。だから、ちゃんと告白するね」
健夜「……そっか。良かった」
健夜「咏ちゃんがね、電話かけてきて。はやりちゃんが元気ないみたいだから励ましてあげようって」
咏「ちょっ、すこやん!?」
健夜「何日か前から気にかけてたみたいだよ? はやりちゃんのこと」
はやり「咏ちゃん……」
咏「う~……」
はやり「……ぐじゅっ」
咏「は」
はやり「だいすきいいいいいいいいい!!」
咏「うおおおおい!!!」
咏「私らにここまでさせたんだから、いい報告持ってきてねぃ?」
はやり「どうなるかはわかんないけど……自分の気持ち、ちゃんと伝えるよ。ありがと。咏ちゃん、健夜ちゃん」
咏ちゃんと健夜ちゃんと別れて、携帯を出す。
指先が震えているけれど、大丈夫。あんなにたくさんの勇気をもらったのだから、もうしり込みなんてしない。
送信ボタンを押して、ありがとう、と呟いた。
まだほのかに明るさを残す午後八時、一秒が永遠にも感じる緊張の中で、彼女が現れる。
良子「グッドモーニング、はやりさん」
はやり「……ふふっ、もう夜だよ?」
久しぶりに聞く彼女の声は、相変わらず私の心を包み込むようだった。
はやり「ごめんね? 急に呼び出しちゃって……どうしても、聞いてほしいことがあったから」
良子「ノープロブレムですよ。それで、どうしたんですか?」
はやり「え、っとね……」
いくら決心したとはいえ、人生初の本気の告白なのだ。いざとなって身体が竦むのは予想していた。
目をゆっくりと閉じて、大きく深呼吸。そして、彼女に向き直る。
はやり「戒能良子ちゃん。――好きです」
しっかりと彼女の目を見据えて、言葉を紡ぐ。
グッとくる台詞だってあれこれ考えたけれど、結局はシンプルなもの。
だって私はまだまだ成長中の、本気の恋愛初心者だから。等身大でいいんだと、今はそう思える。
長い沈黙。
そりゃ、そうだよね。何とも思ってないだろう年上の女に、急に告白なんてされてもどうしたらいいかわからないだろう。
けれど私は彼女がどんな返事をしたとしても、しっかりと受け止めるつもりだ。自分勝手な告白だけど、許してね。
彼女が口を開く。ぽつり、ぽつりと、思案しながら言葉を選んでいるようだ。
良子「あのときは、久しぶりにはやりさんとお会いできて、単純に嬉しかったです。プロ入りしてもほんの少ししか話す機会がなかったですから」
良子「それで……食事に誘ってもらえて、楽しそうなはやりさんの顔が見られて、それも嬉しくて」
良子「あぁ、この人と一緒にいると、落ち着くなぁって思ったんです」
これまでのことを振り返るように、静かに呟く彼女。
私も、情景をひとつひとつ思い浮かべながらうん、うんと頷く。
良子「隣を歩くはやりさんを見てると、そういう余計なことはなしにして、純粋に楽しめたんです」
良子「……プラス、別れ際の悲しそうな顔を見たとき、胸が詰まりまして。原因とか考えてみたんですけど」
さっきまではあの日の町並みが鮮明に浮かんでいたのに、今は目の前が滲んで見えない。
お化粧もばっちり決めていたのに、もうアイドルなんて名乗れないような顔をしているだろう。
良子「――私も、はやりさんが好きみたいです。ライクじゃなくて、ラブの方で」
――――おかしいなぁ、我慢できてたはずなのに。
ぼろぼろとこぼれる涙を拭うのも忘れて、彼女の胸に飛び込んだ。
はやり「そ、そう……だね。こ、恋人って……やつかな」
良子「はやりさんは経験豊富かと思ってたですけど」
はやり「経験だけだよ。こんなの初めて」
人通りのない場所を選んだとはいえ、私たちは一応有名人な訳で。
あのまま抱き合ってわんわん泣いている――もちろん私だけなのだけれど――訳にもいかず、今は少し歩いたところの公園にいる。
良子「ところで、あの日は何であんな顔してたんですか? 私が何かしたんじゃないかと思ってたんですが」
はやり「うわわっ、ち、違う違う! あのときは……えっとぉ」
歳の差のことも、相談にのってもらったことも、本気で好きになったんだと気づいて、どうしたらいいかわからなくなったことも。
それを聞き終えると、彼女はいつものケロリとした表情で「バカですね」と言った。
はやり「ひ、ひどいっ!?」
良子「だってそんな悩み、本来なら私の方が思うことですよ」
はやり「ふぇ?」
良子「私なんて、プロの世界にやっと一歩踏み込んだだけのひよっこですよ?」
良子「私よりもずっと前から一線を張り続けてるはやりさんの負担にはなりたくないですし」
はやり「で、でも、伸びしろは良子ちゃんの方が……」
良子「そんなもん、はやりさんだって私ぐらいのときはそうだったでしょう。今も伸び続けてる人が何を言うかと思えば」
はやり「伸び続けてる……? 私?」
はやり「親善試合だよね?」
良子「いえす。あのときのはやりさんの打ち筋、それ以前よりさらにパワーアップしてましたよ」
はやり「そ、そうだったんだ……」
良子「実際はあの試合を見てたから、スタジオではやりさんに話しかけられたのかもしれないですね」
はやり「そうそう、あのときまさか良子ちゃんから話しかけてくれると思わなくて……」
良子「私は人付き合いとか得意な方じゃないですけど、あのとき既にこの人のことをもっと知りたいって思ってたですから」
はやり「あ、ありがとうございます……☆」
――――なんだ、私も良子ちゃんも、同じ気持ちだったんだ。
こうなってくると、ズレた悩みで悶々としたり落ち着いた態度で諭されたりしている自分が恥ずかしくなってくる。
告白したとき以上に顔が熱いのは……たぶん気のせいじゃないんだろうなぁ。
はやり「うん。ずいぶんお世話になっちゃったなぁ」
良子「また報告会するんですよね? 私も行きますよ」
はやり「えっ! な、何で!?」
良子「間接的にお世話になったことですし、私の方からもお礼をと思って」
はやり「い、いいよぉそんなの! ていうか絶対からかわれちゃうよぉ!」
何だかこの子、この歳にして人間が出来すぎている気がする。
それに世間ズレしたところも加わって、こっちが恥ずかしくなることを平然と口にするのだ。
このままではいけない、と私の中の年上の威厳とか見栄とかプライドが思い出したかのように覗いてきたので、私は彼女よりリードを取ることにする。
良子「? はい」
はやり「ちゅっ」
キスしてしまった。もちろん私は違うけれど、彼女はきっと初めてだろう。現に唇に指を添えて俯いているし。
そんな彼女を横目に見ながらしたり顔を浮かべている私の耳に、小さいけれどはっきりとした声が聞こえて――
良子「ざっつらいと。キスはこうやってするんですね」
――きたと思った瞬間には、もう唇は塞がれていた。
先ほどまでの威厳云々はどこへやら。
どうあがいても一歩上手な彼女に、私は真っ赤な顔で抗議の視線を送ることしかできないのだった。
おわり
「かぁんっぱぁーい!」
咏「んぐんぐんぐっ! っぷぁー! はやりんかいのん結婚おめでとーっ!」
健夜「違うから! はやりちゃん、良子ちゃん、両思いおめでとう」
良子「サンキューですー」
はやり「……ぶくぶくぶく」
良子「はやりさん、コップでぶくぶくやるのは行儀悪いですよ」
はやり「知ってます! 大人だもん!」
咏「いや~熱いね~」
健夜「良子ちゃん、ほんとしっかりしてるね」
はやり「もーうっ! だからヤだったのにぃ! こういう感じになるじゃん!」
良子「ですけどテーブルマナーはちゃんとするもんですし」
はやり「そうじゃなくてぇ……うぅ……」
私はここ、まさか実現するとは思いもしなかった報告会という名の飲み会、ただし恋人同伴(!)に来ています。
先ほどから逃げ場がありません。へるぷ、みー。
咏「いや~しかしビッグカップルが出来ちゃったねぃ?」
健夜「片やベテラン、片やルーキーのトッププロカップルだもんね」
良子「その節はどうも。はやりさんがお世話になったみたいで」
はやり「や、やめてよそういうの!」
咏「いやいや、私はいいと思うぜ? どっちが年上かわっかんねーけど」
健夜「ほんと、お似合いだよね」
良子「サンキューベリーマッチ」
はやり「もー!」
穴があったら入りたいとは正にこのような状況を言うのでしょう。
良子「聞くところによると、三尋木プロも小鍛治プロも順調だとか」
咏「まぁね~! 私はえりちゃんと同棲始めたし、すこやんはついに告ったし!」
健夜「情報流れるの早いよ……おかしいよ……なんで私が話す前に知ってるの……」
はやり「……ぶくぶくぶく」
というか、馴染みすぎじゃありませんか?
あなたこの二人と飲むの初めてでしょ、良子ちゃん。
咏「そーいやそうだねぃ、かいのんてなんっか謎めいた感じだし」
良子「私もお話できて嬉しいですよ。なんたって日本のトップツーですし」
咏「いやーそんなすげーもんでもないよ? すこやんはすげー強いし怖いし得体知れないけど」
健夜「なんで私だけ!? ていうか何かひどくない!?」
良子「オーライ、わかってますってグランドマスター小鍛治。お気をお鎮めください」
健夜「良子ちゃんまで!? しかも何その呼び方に態度! 普通に恥ずかしいよ!」
咏「かいのん、わかってるねぃ」
良子「いえす。任せてください」
健夜「息ピッタリだね!?」
はやり「……ぶくぶくぶくぶく」
健夜ちゃんいじりはいつものこととして、何だかずっと前からの親友のような雰囲気なのはどういうことなのでしょう。
というか一方的に私が恥ずかしい。そして蚊帳の外。
健夜「うんうん、普段からは想像もできないよね」
良子「そうですか? 確かに、居心地が良いんで喋りすぎてる感じはありますけど」
咏「おっ嬉しいこと言ってくれるじゃーん! んじゃ私とすこやんとかいのんで遊びにでも行くかい?」
はやり「だっ、ダメーっ!!」
健夜「ふわっ」
咏「おぉ~? どしたんはやりん?」
はやり「良子ちゃんは私のなの! だから三人で遊びに行くとかそういうのはだめっ!」
咏「……へぇ?」
健夜「……ふふっ」
はやり「あ」
咏「いやいや、熱いわぁ~」
健夜「もう真夏になっちゃったのかなー?」
しまった。私の反応を見ていることくらいわかっていたはずなのに、ついムキになってしまいました。
テーブルに手を付いて身を乗り出したまま固まった私を、彼女が微笑んで見ています。
はやり「……なに?」
良子「ノープロブレム。はやりさんを置いてどこかに行ったりしませんから」
はやり「……もぉぉ~っ!」
私はきっと、この八歳も年下であるはずの彼女に一生敵わないのでしょう。
まだまだ始まったばかりの恋人生活ですが、そう思わずにはいられないのでした。
はやり「おわりっ!」
ベリーグッドでした
ところで俺のIDハートビーツっぽくない?
珍しいカプだったな
ブラボーです
Entry ⇒ 2012.10.23 | Category ⇒ 咲-Saki-SS | Comments (0) | Trackbacks (0)
エリー「私、怪盗になります!」
シャロ「エリーさん、どうしたんですかー?」
エリー「トイズが使えるように…なったかも…」
シャロ「ホントですか?!じゃあそこにあるかばんをとってくれますか?」
エリー「あ、うん…それじゃ…えいっ!」ドサァッ
シャロ「すごいです!ホントにトイズが復活してます!ネロとコーデリアさんにも報告しましょう!」
シャロ「二人とも聞いてくださーい!」
ネロ「どしたのシャロ?」
コーデリア「いったい何?」
シャロ「見て下さい!エリーさんがトイズを使えるようになったんですよ!」
ネロ「え~、ウソでしょ?」
コーデリア「じゃあエリー、そこの大きなカブを引き抜いてくれる?」
エリー「分かりました…」
エリー「えーい!」ズボォッ
ネロ「うわっ!ホントに復活してるよ…これは使えそう」
コーデリア「私たちの作業も俄然楽になるわね」
エリー「え…?」
エリー「いや、そうじゃなくて…私ができたのだから、みんなもトイズを復活できるんじゃないかって…」
ネロ「何それ?自分がトイズ使えるようになったからって僕たちにあてつけでもしてんの?」
エリー「ち、ちが…」
コーデリア「ネロ、言い過ぎよ。でもエリー、今の私たちは生活が大変だしそんな暇はないの」
ネロ「そーいうこと。ま、誰かさんのトイズがお金を作れる能力なら別だけどね」
エリー「…私…部屋に戻ってます…」
コーデリア「あ、エリー!」
エリー「シャロ、ごめんね…ちょっと一人にさせて…」
シャロ「どこ行くんですか?」
エリー「ちょっと校舎を回るだけ…すぐ戻るから」
エリー「なんで今、こんなことしてるんだろう…」ドンッ
エリー「痛っ…!」
アンリエット「あら、エルキュール・バートン。何故一人でこんなところに?」
エリー「か、会長…実は…私…」
エリー「はい…でも…」
アンリエット「三人のやる気は戻らない…そういうことですね」
エリー「…」
アンリエット「エルキュール・バートン。あなたはこれからわたくしの秘密を守れると誓えるかしら?」
エリー「秘密…?何を…ですか?」
アンリエット「誓えるかしら?」
エリー「…はい」
アンリエット「分かったわ。それじゃああなただけに明かしますわ。わたくしの正体を」バサッ
エリー「あなたは…!!」
アルセーヌ「そう。アンリエットは仮の姿、アルセーヌとはわたくしのこと」
エリー(憧れの会長が…アルセーヌ?!でも、どうして…)
アルセーヌ「あなたがミルキィホームズに失望しているならば」
エリー「…」
アルセーヌ「一緒に怪盗として新たな道を踏み出してみることを勧めますわ」
エリー「でも…わ、私は…」
アルセーヌ「ここで警察に通報するのもまた一興。あなたの好きにすればいい」
エリー(このままの生活を続けるくらいなら…会長、いえこの人と一緒に…)
エリー「いえ、会長…私、怪盗になります!」
アルセーヌ「良いお返事ですわね…ですが、これからは会長ではなく、アルセーヌ様とお呼びなさい」
エリー「はい、アルセーヌ様…」
ネロ「あ~疲れた…ただいま~」
シャロ「あ…ネロ、コーデリアさん…おかえりです~」
コーデリア「シャロ、ずっと机の上を見てどうしたの?」
シャロ「あ、トイズが使えるかどうか試してるんです!エリーさんみたいにいきなり使えるようになるかもしれないし」
ネロ「ふ~ん、ところでエリーは?」
シャロ「さっき校舎を回るって一人で出ていきましたよ」
コーデリア「それじゃあエリーが帰ってくるまでに私たちもトイズが復活するか試してみない?」
ネロ「さんせい!帰ってきたエリーをびっくりさせてやろう!」
シャロ「二人ともやる気になったんですね!」
ネロ「正直、さっきはちょっと言い過ぎちゃった気もしたしね」
コーデリア「考え直してみれば、トイズって探偵に不可欠なものだもの」
シャロ「それじゃ、誰が一番初めにトイズを使えるようになるか、競争です!」
ストーンリバー「先ほど、アルセーヌ様から新入りが入るとの連絡が入った」
トゥエンティ「なるほど。楽しみだね」
ラット「お、来たみたいだぜ」
エリー「あ、あの…よろしくお願いします…」トテトテ
ラット「おいおい…誰かと思えば探偵さんじゃん?来るとこ間違えたんじゃないの?」
トゥエンティ「まあそう言わずに…なかなか美味しそうじゃないか。僕と愛のハーモニーを奏でてみないかい?」バサッ
エリー「きゃああああ!」
ストーンリバー「やめろトゥエンティ。新入り、アルセーヌ様の許しでここに入ったのなら我々の仲間であることに変わりない」
エリー「はい…」
ストーンリバー「歓迎しよう…そして、ようこそ怪盗帝国へ」
エリー「あ、どうも…エルキュール・バートンです…いいいい以後、お見知りおきを…」
アルセーヌ「あら、思ったより早く打ち解けたみたいですわね」
4人「「「「アルセーヌ様!」」」」
アルセーヌ「ふふ…息もぴったりですわね。それじゃあ早速…今回の獲物は『ガリレオの秘宝』」
ストーンリバー「『ガリレオの秘宝』と言えば、あのヨコハマで最も厳重な金庫に保管されているという…」
ラット「聞いたことあるけどあらゆる爆発に耐えきる金属だったっけ?どうやってそん中から引っ張り出すんすか?」
アルセーヌ「ふふふ…エルキュールの力なら、造作もないことですわ」
エリー「わ、私?」
シャロ「エリーさん、遅いですね…」
コーデリア「どうしたのかしら…」
ネロ「探しに行ってこようか?」
シャロ「あ、電話ですー」
小衣「あ、シャロ?」
シャロ「ココロちゃん!」
小衣「ココロちゃん言うな!じゃなくて、そんな場合じゃない!こっちに『怪盗エルキュール』って書かれた予告状が来たんだけど…
まさかあんたらのとこのエロ女じゃないでしょうね!」
シャロ「そ、そんなエリーさんが?!そんな、そんなわけないですよ!」
小衣「落ち着け!今あいついるんでしょ?かわりなさいよ」
シャロ「エリーさんなら今、部屋を出たっきり見かけてないです…」
小衣「…!!」
シャロ「でもエリーさんはきっと、怪盗になんかならないです…」
小衣「…ともかく、三人とも現場に来てちょうだい。今から場所、教えるから」
シャロ「はい…」カキカキ
小衣「分かった?それじゃ、また後で」ガチャリ
ネロ「なんだって?」
シャロ「その…エリーさんが…」
咲「どーだって?」
小衣「音沙汰ないって」
咲「…ふ~ん」
小衣「何よ」
咲「いや、今の話でアリバイはバッチシなくなったけど、正直本人の性格的にそういうことできんのかなって感じ」
小衣「今回に関しては小衣もそう思う。でもだとしたら犯人は誰なわけよ?」
咲「さあね。ま、先に現場に着いてるお二人さんが頑張ってくれるっしょ。何事もなければ一番いいけど、
万が一なんか起こってもあの二人なら何とかなるんじゃないの?」
小衣「そうね」
咲「エラく素直だね、今日の小衣。なんか悪いもんでも食べたん?」
小衣「別に、ただ何となくやな予感するだけ」
咲「死フラっすか」
小衣「は?」
咲「なんでもない。忘れて」
エリー「えーい!」バカン
アルセーヌ「エルキュール、後は指示通りに」
エリー「はい…他の人はどこに?」
アルセーヌ「建物の外から監視に当たらせているわ。それじゃあ、後も抜かりなく」スッ
次子「今人がいたような…?」
平乃「ええ、私にも見えました」
エリー(G4の二人…!)
平乃「ミルキィホームズの方?どうされたのですか?」
エリー「いえ…怪盗が来るという情報を聞きまして…調査を…」
次子(平乃、小衣から聞いた通りだ。怪しいよ)ヒソヒソ
平乃(分かってます。何か変な行動をしたら合図します。その時には…)ヒソヒソ
エリー「あのぅ…」
次子「ん?ああ悪い悪い。何?」
エリー「えいっ!」ハラパン
次子「?!」ドサリ
平乃「次子さん、しっかり!やっぱりあなたは…!」
エリー「ごめんなさい…でも、手加減はしました…」
平乃「怪盗としての行為に飽き足らず公務執行妨害までも…!許しません!」ダッ
エリー(…!!)
平乃「遅いですよ!長谷川流奥義、兜割り!」
エリー「利きません!」バキィッ
平乃(木刀が折れた?!ミルキィホームズはトイズを失っているはずじゃ…!)
エリー「はっ!」ドコォ
平乃(私が…格闘術で…負けるなんて…)バタリ
エリー「はぁっ…はぁっ…ふぅ…ふぅ…」
小衣「遅かったわね、ミルキィホームズ…の三人」
シャロ「ごめんなさい、ココロちゃん。エリーさんをぎりぎりまで探したけど見つからなくて」
小衣「ココロちゃん言うな…」
咲「やっぱ小衣も二人が心配みたいだね」
小衣「そりゃそうよ。連絡、まだ取れない?」
咲「全然ダメ」
ネロ「どうしたの?」
咲「次子と平乃が中に入ったきり出てこないわけ」
小衣「あんたたち、行って確認してくれる?何かあったら連絡して」
コーデリア「ええ!行きましょう、三人とも」
ネロ「そうだね」
シャロ「もちろんです!」
ネロ「壁に穴が空いてる…これってやっぱりエリーが…」
シャロ「エリーさんは絶対犯人じゃありません!」
コーデリア「私もそう信じたいけど…」
エリー「みんな…来たんだね…」
ネロデリア「「エリー!」」
シャロ「エリーさん!エリーさんは怪盗なんかじゃないですよね!」
エリー「ごめんね、みんな…私、今日から怪盗になるって決めた。だから、今から『ガリレオの秘宝』を…」
ネロ「そうはさせないよ!」
コーデリア「ネロ?」
ネロ「勝手に怪盗になんかさせない。今ここでエリーを力づくで連れ戻す」
エリー「やめて…私を一人にさせて!私はもう、怪盗なんだよ?」
ネロ「怪盗だろうがなんだろうがエリーはエリーだ!」
エリー「防火装置が…動いた?きゃっ!」プシャァァァァ
ネロ「見たかエリー!トイズが復活したのはエリーだけじゃないんだ!」
シャロ「そうですよ!エリーさんがいない間にみんなで頑張ったんですから!」
エリー「あっ…ロープで…体がぐるぐる巻きに…」
ネロ「今だ!コーデリア!」
コーデリア「ええ!エリー、おとなしくおうちに帰りなさーい!」ダッ
エリー「まだまだ…」ブチン
シャロ「あっロープが!」
ネロ「コーデリア!危ない!」
コーデリア「大丈夫、見えているわ。エリー、これでおしまいよ」ガシッ
エリー「うぅ…」
コーデリア「あなたの動きは私のトイズで丸わかりよ。さあ、一緒に帰りましょう。エリー」
エリー「でも…」
次子「お疲れさん、三人とも。そこどきな」
平乃「おとなしくお縄についてください!」
ネロ「G4!」
平乃「分かりました。エルキュールさん、ちょっとおとなしくしててくださいね」
エリー「…」
次子「ほい、手錠かけたよ。最新式のトイズ無効化手錠。これで逃げも隠れもできないよ」ガチャリ
ネロ「おい、ちょっと待てよ!横から入ってきて何のつもりさ?」
シャロ「そうです!エリーさんはまだ犯罪者って決まったわけじゃありません!」
コーデリア「きっと何か理由があるはずよ!」
平乃「何にせよ、この場に居合わせたこと、そして私たちに暴行を加えたことは事実。
確かにここは金庫の強固さを信頼して監視カメラがありません。
ですが少なくともエルキュールさんが犯罪行為をしたことは私たちが証明できます」
次子「つーわけだ。こっちもあんましこういうことしたかないんだけど、今回ばかりは諦めな」
アルセーヌ「おーほっほっほ!」
一同「?!」
アルセーヌ「エルキュール・バートンに幻惑を見せて、ミルキィホームズと仲たがいをさせる作戦でしたが…。
見事に看破されてしまったようですわね」
次子「何だって?!」
アルセーヌ「ただ、こちらとしてもミルキィホームズ全員がトイズの力を取り戻すのは予想外でしたわ。
あなたたちの頑張りに敬意を表し、今回のところはこれで去るといたしましょう。それではごきげんよう…」バサッ
シャロ「あっ!」
ネロ「待て!…消えちゃった」
コーデリア「今の話、聞きました?エリーに罪はないわ」
平乃「まだ決まったわけでは…」
次子「平乃。今は離してやんな」
エリー「いいん…ですか?」
次子「今はね」
咲「平乃も次子もいるね」
シャロ「お~いココロちゃ~ん!」
小衣「ココロちゃん言うな!」コワン
シャロ「痛っ」
エリー「あの…G4の方々、やっぱり私を逮捕してください…」
コーデリア「エリー、いきなり何を?!」
エリー「幻を見せられてたとしても、裏切ったのは私の意志です…だから、私、犯罪者です…みんなと一緒になんかいちゃいけないんです…」グスッ
小衣「どういうことよ?」
平乃「それが…」
次子「かくかくしかじかでさ」
小衣「…どうする、咲?」
咲「ここは一応リーダーのあんたに任せるよ。エルキュールを逮捕してブタ箱にぶち込むか、
それとも今まで通りミルキィホームズとして生活させるか」
ネロ「そんなこと勝手に決めるな!僕たちがいなきゃ何にも出来なかったくせに!」
コーデリア「ネロ…!」
小衣「…分かったわ、このIQ1400の明智小衣が判断するわ」チラリ
エリー「…」
シャロ「エリーさん…」
小衣「エルキュールは無罪よ。ここであったことも全部なかったことにする」
平乃「そんなことできるはずが!」
小衣「今回のことは全部小衣が責任持つ。それで文句ないでしょ?」
次子「ま、リーダーがそう言うんなら従うしかないじゃん?」
咲「だね」
シャロ「うぅ…ありがとー!ゴゴロぢゃーん!」グズグズ
小衣「泣きながら引っ付くなー!服が汚れる!それと…ゴゴロぢゃん言うなー!」バカン
コーデリア「エリー…よかったわね」
エリー「コーデリアさん…!」
コーデリア「それじゃ一緒に…お花畑に行きましょー!」
エリー「あっ…そんないきなり…心の準備が…」
ネロ「ふぅ…今日のうんまい棒はしょっぱいや」
シャロ「みなさん!起きて!起きてくださーい!」
ネロ「なんだよ~」
コーデリア「むにゃ~…お花畑~」
エリー「どうしたの…?」
シャロ「アンリエットさんからお呼び出しが!」
ネロ「えぇっ?!もしかして、昨日の事件のことかな?」
エリー(会長…もしかして…)
シャロ「はい!」
コーデリア「もしかして会長、昨日のこともお聞きしているのですか?」
アンリエット「昨日のこと?いったいなんですの?」
ネロ「しっ!コーデリア、余計なこと言うなよな。知らないっぽいからそれでいいの」
アンリエット「まあいずれにしろ、あなたたちは努力を重ねて本来の力を取り戻しました。
その頑張りを認め、あなたたちの寮を一般生徒と同じ場所に戻しましょう」
エリー「本当ですか?!」
ネロ「やったー!極貧生活からもおさらばだよー!」
シャロ「ありがとうございますー!」
アンリエット「これで慢心せず以後も頑張るように。それでは行ってよいですよ」
四人「「「「はい!ありがとうございました!」」」」バタン
アンリエット「ふぅ…あら、エルキュール。何故一人残っておりますの?」
エリー「会長…会長って本当は怪盗アルセーヌ…なんですよね?」
アンリエット「何を言っているんですの?!失礼な!わたくしはアンリエット・ミステール。
それ以上でもそれ以下でもありませんわ!」
エリー「で、でも昨日…!」
アンリエット「昨日あなたと話した覚えなんてございませんわ!何かの勘違いではありませんか?」
エリー「す、すいません…」
アンリエット「まあ今日のところは大目に見ますわ。これからも頑張りなさいな」
エリー「はい、それじゃ失礼します!」バタン
シャロ「何話してたんですかー?」
エリー「みんな…待っててくれたんだ」
ネロ「そりゃまた置いてって一人で消えてもらっちゃあ困るからね」
コーデリア「もうネロったら素直じゃないんだから」
シャロ「へへへー、ネロは素直じゃないですー」
ネロ「おいこら、シャロまで何言ってんだよ!エリー助けてよ!」
エリー「えへへへ…」
エリー(やっぱり私、みんなと一緒が一番幸せ…!)
アンリエット「問題ありませんわ」
二十里「敵を強くするためにここまで回りくどい方法をとるとは…ですがそれもまた美しい作戦のひとつというもの」
アンリエット「余計なことを言ってないでさっさと持ち場に着きなさいな」
石流「わかりました、では。おい、いくぞ」
アンリエット(ライバルは強い方が張り合いがある…今の団結力とトイズを取り戻したミルキィホームズ…期待していますよ)
おしまい
初めてのSS速報でしたが読んでくれた方ありがとうございました。
凄い良かった
Entry ⇒ 2012.10.23 | Category ⇒ ミルキィホームズSS | Comments (0) | Trackbacks (0)
P「どっちだと思います?」 あずさ「あっちじゃないです?」
あずさ「はい~」
P「しかしカーナビって簡単に壊れるもんなんですね」
あずさ「すいません私の飲んでいたジュースのせいで」
P「いや、俺の方こそ急ブレーキかけちゃってすいませんでした」
あずさ「でも~」
P「大丈夫ですって、それに後は帰るだけなんでそこまで急いでないですし」
あずさ「そうですか?」
P「そうですよ。ゆっくりと帰りましょう」
P(携帯使えば簡単に帰れる……がここは携帯を使わない! それが俺のジャスティス!)
あずさ「はい~」
P「さすが、あずささんの演技力はすごいですよね」
あずさ「そんな事ないですよ」
P「そんな事、ありますよ。映画の主演だって決まったじゃないですか」
あずさ「そう言ってもらえると、私も頑張ったかいがありました」
あずさ「び、美人だなんて全然そんなありませんよ」
P「あずささんが美人じゃなかったら、美人なんてこの世にいませんよ」
あずさ「本当ですかプロデューサーさん?」
P「えぇ、本当です」
あずさ「ありがとうございます、ふふっ♪」
あずさ「はい」
P「どっちだと思います?」
あずさ「そうですね~」
P(って聞いたけど、右は森に繋がっているような道だし左、一択だろ)
あずさ「左ですかね~」
P「あぁ、そうですよ……えっ、左!?」
あずさ「多分、そっち側だと思います」
あずさ「あらあら」
P(方向音痴のあずささんが左だと思うって事は、正解は右なんじゃあ……)
――――――
――――
――
P「な、なんかちょっと民家が少なくなってきたような」
あずさ「そうですね~」
あずさ「どうしたんですか?」
P「いや、なんでもないですよ」
あずさ「そうですか?」
P「また分かれ道ですね、あずささんはどっちだと思いますか?」
あずさ「右側ですかね~」
P「はいはい」
P(今度は人気がなさそうな道か……)
P「た、多分」
あずさ「あれ?」
P「どうしたんですか?」
あずさ「あそこにマラソンの服を着た人が……」
P「えっ……」
あずさ「けど、夜なのにおかしいですよね?」
P「もう7時ですからね……」
あずさ「どうたんですか?」
P「い、いますねマラソンの服を着たような人が……」
あずさ「や、やっぱり……」
P「はは、まさかお化けじゃあ……」
あずさ「うぅ……」
ギュッ
P「なな、あ、あずささん!?」
あずさ「こ、怖いですプロデューサーさん……」
P「そん風な抱きつかれると運転が出来ないですよ」
キキっ
?「!」
ギュ―
P「あばばば」
(おっぱい♪ おっぱい♪)
あずさ「うぅ……」
ギュ―
ドンドン
ドンドン
P「うわっ!?」
P「いきなり車を叩いてくるなんて普通じゃない」
P「やはりお化け……」
あずさ「や、止めて下さい~」
ドンドン
響「プロデューサー!! 開けてほしいぞー!!」
P「くっ……やけに響みたいなお化けだ」
あずさ「響ちゃんみたいなお化け……」
ギュ―
ガチャガチャ
P「見れば見るほど響にしか見えない」
あずさ「うぅ……怖いです……悪霊退散悪霊退散……」
タプタプ
P「くっ、これはヤバい」
(胸が……胸が……)
あずさ「な、何がヤバいんですか!?」
ギュ―
P「!?」
響「あずさとイチャイチャしてないで、開けろ―」
あずさ「本物の響ちゃんだったのね~、私ってきりお化けかと思っちゃったわ」
P「で、なんで響はこんな所にいたんだ?」
響「……置いてかれたんだぞ」
P「えっ?」
響「響チャレンジの撮影のバスに置いてかれたんだぞ」
P「……」
響「自分、乗ってないのに、行っちゃったんだぞ……」
P「さすがに酷いな……これは抗議しないと」
響「いいんだプロデューサー」
P「えっ」
響「こうやってプロデューサーとあずさが助けに来てくれただろ?」
響「それだけで自分、すごくうれしいさー」
あずさ「響ちゃん」
P「響……」
(うれシーサーwwww)
響「うん」
あずさ「はい」
響「プロデューサー、ちょっと聞きたいんだけど」
P「なんだ?」
響「さっき、なんであずさと抱き合ってたんだ?」
P「あふぅ!?」
あずさ「!」
P「あれは、あずささんが響をお化けと間違えたからであって、全くもって偶然なんだ!! 全然やりたくてやった訳じゃなくて……」
響「ふーん」
あずさ「……」
響「けど、プロデューサーあずさに抱きつかれてニヤニヤしてたぞ」
P「なっ!? そ、そんな訳ないでしょーに!!」
あずさ「……」
響「ふーん……」
P「そ、それより腹減らないか?」
響「すいたぞ」
あずさ「……」
P「あずささんはどうですか?」
あずさ「……」
あずさ「あっ、はい?」
P「どうかしたんですか?」
あずさ「何でもないです~、で、なんですか?」
P「えっと、お腹すいてないですか?」
あずさ「は、はい少し」
P「じゃあ、飯食べましょう……おっ、あそこのラーメン屋でいいか」
イラッシャイマセー
P「俺の奢りなんでなんでも頼んで下さい」
響「じゃあ自分はチャーシューメン!!」
あずさ「それじゃあ、私は塩ラーメンで」
P「俺は天津飯かな」
P「すいませ……ん?」
ガヤガヤ
響「なにかあったのかな?」
店員「どうもすいません」
P「何かあったんですか?」
店員「実はお客さんが財布を忘れたようで」
あずさ「そうなんですか~」
店員「それがえらい大食いの美人さんでして」
P「美人……大食い……」
P「……」
あずさ「あらあら」
響「なんかその人あれだなー」
響「貴音みたいな人だな―」
P「……」スッ
あずさ「プロデューサーさん?」
P「……ちょっとすいません」
店員「えっ」
店長「だからお嬢さんお金がないと……な、なんだあんたは?」
P「こんな所で一人で食事か――貴音?」
貴音「あなた様!」
P「すいません、彼女の代金は俺が払うんで勘弁してもらえないですか?」
店長「あんたが? まぁ、払ってもらえるならいいが」
P「ありがとうございます」
クドクド
貴音「申し訳ありません……」
あずさ「まぁまぁプロデューサーさんも落ちつ下さい」
響「そうだぞプロデューサー貴音もこんなに謝ってるだろー」
P「うーん、けどな……」
あずさ「ほら、料理も冷めちゃいますし」
P「あずささんがそこまで言うならしょうがないですね」
あずさ「ありがとうございます」
響「いっただきまーす」
あずさ「いただきます」
貴音「プロデューサー申し訳ありません」
P「もう謝らなくっていいよ、さっきの話は―――」
貴音「私も注文してもよいですか?」
P「……」
貴音「らぁめん……」
響「おー太っ腹だなプロデューサー」
あずさ「あらあら」
貴音「私には?」
P「俺も餃子だー」
貴音「私には?」
P「貴音は水だ―」
貴音「」
P「美味いな」
響「自分、全部食べちゃったぞー」
あずさ「そうね、美味しいわね~」
貴音「」
あずさ「……」
あずさ「でも私、お腹一杯になっちゃったわ、よかったら貴音ちゃんこの餃子食べてもらえない?」
ガバァァァァ!
貴音「よいのですか!?」
あずさ「まぁまぁ、いいんですよプロデューサーさん」
貴音「ありがとうございます、あずさ」
パクパク
P「はぁ、しょうがない俺の餃子も一つだけだ」
貴音「あなた……プロデューサー! ありがとうございます!」
響「自分も……」
響「……」
響「自分は皆にお水入れちゃうぞー」
あずさ「ごちそうさまでしたプロデューサーさん」
貴音「お粗末さまでした」
響「プロデューサーごちそうさまー」
P「おう、じゃあ事務所に向かうぞ」
響「おー」
あずさ「お~」
貴音「はい」
響「左!」
貴音「私も左かと」
P(ちなみに俺も左の気がする)
あずさ「うーん、右ですかね~」
P「ほいさっ」
響「な、なん右方向に行くのさー」
P「あずささんが右って言ってるからな―」
あずさ「?」
響「うがー、だからー」
P「まぁ落ち着け響、ほらこのお菓子食べていいから」
ポイッ
響「うわわっと」
貴音「早速開けましょう、今すぐ」
あずさ「どうかしたんですか?」
P「いや……」
P(この道確か前来た事あるな……)
P「あっ」
あずさ「えっ?」
P「すいません何でもないです」
P(あのマンションは確か……)
貴音「」バリバリ
響「自分も食べたいぞ―貴音」
貴音「」バリバリ
あずさ「あっ」
P「どうかしましたか、あずささん?」
あずさ「あれ、千早ちゃんじゃないかしら?」
響「ん、本当だ千早だぞ」
貴音「コンビニの帰りの様ですね」
千早「プロデューサー!」
あずさ「こんばんわ千早ちゃん」
響「自分もいるぞー」 貴音「私も」
千早「あずささんに四条さんに我那覇さんも」
P「コンビニの帰りか?」
千早「はい、夕飯などを買いに」
千早「えっ、でも悪いですし」
P「大丈夫大丈夫、皆も大丈夫だよな?」
ハーイ ハイ エェ
千早「でも……」
P「ほら、袋にも弁当とかお菓子とかいっぱい入ってて重いだろ?」
貴音「!」
千早「悪いですし」
貴音「千早……人の好意は受け取る事も大事ですよ!」
バタン
響「車いっぱいになったなー」
P「よしじゃあ行くか、あずささんどっちだと思いますか?」
千早「えっ、私の家は……」
P「千早! ここはあずささんに任せてくれ!!」
千早「えっ……えっ?」
貴音「響! これはなんでしょう?」
響「あー、これはからあげくんだぞー」
P「……ゴクッ」
P「本当にあっちでいいんですか、あずささん?」
あずさ「は、はい」
P「……うっし、あずささん、響、貴音、千早、明日は何か用事はあるか?」
あずさ「いえ」
響「ないぞー」
貴音「同じく」
千早「私もないですど……えっ、なんですかこれ?」
P「よし、行くぞ」
貴音「……」ジー
千早「た、食べますか……」
貴音「いいのですか!?」
千早「はい」
響「なら、自分もからあげくん食べたいぞ―」
千早「えぇ、勝手に食べてちょうだい」
あずさ「ふふっ、少し楽しいですね」
P「はは……」
P「はは、そうですね……つか、くさっ! からあげくんくさっ!」
響「もぐもぐ」
貴音「もぐもぐ」
千早「ぱくぱく」
P「普通に食事してんじゃねーか!?」
P「知っている、からあげくんが美味いなんて事は日本国民なら皆知っている」
P「なんで車で飯をくってるか聞いているんだよ」
千早「私、そもそも夕飯を買いに来ていたので」もぐもぐ
貴音「食べるものがあったので」もぐもぐ
千早「それに、今日は帰るの遅くなりそうですし……」
響「なんでだ?」
千早「だって、ここ……高速道路ですよね?」
あずさ「あら~」
P「まぁまぁ、そこらへん気にするな」
響「うえっ!?」
P「ほらからあげくんでも食ってろって」
貴音「からあげさんは全て食べました」
P・響「……」
貴音「ほう、なにやら美味しそうな形ですね」
千早「美味しそう……?」
あずさ「あらあら~」
P「やれやれ」
こうして、京都まで5人で小旅行しました。
後にTV番組であずささん・貴音・響・千早で『三浦 あずさでどうでしょう?』という旅番組が始まり、伝説的な視聴率を叩きだしたのだった。
おわり
明日仕事なんでもう寝ます。よかったら誰か京都までの道を書いてくれ。
じゃノシ
Entry ⇒ 2012.10.22 | Category ⇒ アイマスSS | Comments (1) | Trackbacks (0)
P「響がメルニクス語しか喋れなくなった」
P 「参ったな」
小鳥「参りましたね」
オムドゥンディスティイイドゥ?」
P 「なぁ、いつもどおり日本語で喋ってくれよ」
響 「ウ エトゥ ティアン セトゥン エス オソエル」
小鳥「本当、これはなんて言葉なんでしょう」
P 「なんだ?お腹すいたのか?」
響 「ティアウス ウス エ ギイドゥ ワアエムワン!
ウ リヌン ヤイオ!」
小鳥「予想外にはしゃいでいますね…」
貴音「どうなされたのですか」
P 「おぉ、貴音か
実は響がな、日本語しゃべれ無くなって…
でもこれは貴音でもわからんよなぁ…」
響 「プディイドワンディ!
ウ リヌン ヤイオ!」
貴音「なるほど、メルニクス語ですか」
響 「バイバ!」
P 「おぉ、わかるのか!」
貴音「プロデューサーが好き、と響は申しております」
響 「イイプス…」
響 「アンワクー!」バタバタ
貴音「…ほんの、冗談でございます」
響 「タカネ…」
小鳥「名前は言えるんですね」
貴音「ですが、メルニクス語でしたら多少心得がございます」
P 「おぉ、これは助かったよ!」
響 「ギルルヤ エ タカネ ウス バイムドゥンディホル!」
貴音「ふふ、ありがとうございます」
今日のラジオ収録は他の子にお願いしましょうか」
P 「そうだな
しかし、それだけじゃないぞ
日常生活も困るだろ…」
響 「ウ エトゥ エルディウガティ」
貴音「自分は大丈夫、と申しております」
P 「大丈夫とは言ってもな
常に貴音が通訳しているわけにもいかないし…」
響 「ウティ ウス エグディンントゥンムティ」
貴音「はいさーい、自分もだぞ、と申しています」
P 「なんだこれは、ピアスか」
小鳥「わぁ、綺麗なアクセサリーですね!」
貴音「響も、これをつけるのです」
響 「ヤンス」
P 「ピアスはなぁ…穴開けてから6ヶ月の間
献血できなくなるだろう?
だからなぁ…」
貴音「響と献血!どちらが大切なのですか!」
P 「…響だよな」
響 「ウス ウティ ムンワンスセディヤ
ティイ バイディディヤ?」
貴音「そこで悩む必要はあるのか?
と申しております」
メルニクス語がわかるようになる装飾品でございます」
P 「つまり、ほんやくコンニャクみたいなもんか」
貴音「はて、それは何でしょうか」
小鳥「いいなー
貴音ちゃん、私の分はないの?」
貴音「申し訳ございません、在庫を切らしておりまして」
P 「うし、つけたぞ
響、どうだ!」
響 「ウティ ウス エルル ディウガティ!」
P 「変わらんな」
貴音「いい忘れておりましたが、
二人の間に信頼関係が無いと翻訳されないのです」
響 「イア…」
P 「お、落ち込むな、響!」
春香ちゃんにお願いしました」
P 「それは助かりました」
ガチャ
千早「プロデューサー、おはようございます」
P 「おぉ、おはよう」
千早「あの、本日はプロデューサーが
オーディション会場まで案内して下さる、
との事でしたが…
なんですか、そのピアスは」
P 「あぁ、すまん
そのことなんだがな、用事ができたんで、
同伴するのは難しそうだ」
千早「…どのような用事ですか」
響 「バアエティ ウス ティアウス?」
P 「つまり、こういうことだ」
千早「はぁ?」
にわかには信じられませんが」
響 「ウ エトゥ シディディヤ」
千早「いえ、いいのよ、我那覇さんが悪いわけじゃないわ」
響 「ティアエムクス ヤイオ!
ワイール!」
千早「わかりました、こういうことであれば、
本日は一人で行ってきます」
P 「すまんな、後で埋め合わせはする」
千早「それでは…
ふふ、埋め合わせの内容は、道すがら考えてみます」
P 「そうしてくれ」
小鳥「千早ちゃん、これ地図よ」
千早「ありがとうございます」
ラジオ出演は代役を頼みましたが、
この…グラビア撮影はどうしましょう」
P 「グラビア撮影か…
ラジオみたいに喋ったりしないしな…
響は、大丈夫そうか?」
響 「イフ ワイオディスン ウ エトゥ プンディフンワティ!」
小鳥「プロデューサーさん、わかりました?」
P 「いや、まだだ
だが、なんとなく言いたいことはわかるよ
大丈夫なんだな、響」
響 「ヤンス」
小鳥「あ、私もこれわかりますよ!」
P 「多分誰でもわかるよ」
P 「そうですね」
響 「プロデューサー!
ルンティ オス グンティ ギウムグ!」
P 「…おう」
小鳥「どうしました?」
P 「いえ、なんでもないです」
小鳥「困った事があったら、すぐに電話して下さいね!」
P 「ヤンス」
小鳥「もー!プロデューサーさんまで!」
P 「どうした、響」
響 「ミム…」
P 「…まぁそう気を落とすなよ?
俺だってショックだったんだ
俺と響は、信頼関係が築けてると思ってたんだがなぁ」
響 「プディイドワンディ…」
P 「でもな、さっきちょこっとだけ、
響の言葉が聞こえたんだ
だから、後ちょっとで全部わかるようになるさ」
響 「ウ アイプン シ」
P 「今は全く分からないがな!
あっはっは!」
響 「ヂムティ ティンエスン!」
響 「ヤンス」
P 「そうか、そろそろ撮影だぞ」
響 「バエウティ エ トゥウモティン」
P 「ん、どうした?」
響 「…ヂンス ウティ フウティ?」
P 「そうだな、似合ってるぞ」
響 「エディン トゥヤ バイディドゥス
オムドゥンディスティイイドゥ?
バン エディン スティディイムグ ビムドゥ
イフ エフフンワティウイム
ブンティバンンム ティアントゥ!
プロデューサー!
ウ リヌン ヤイオ!」
P 「おーまてまて、ドードー
何を言ってるかわからん」
響 「ヤイオ トスティ ブン クウドゥドゥウムグ!」
なんとなーく言いたいことが分かっただけなんだ」
響 「ウトゥ シディディヤ ヒディ
トゥウソムドゥンディスティエムドゥウムグ」
P 「…うん、本題に戻るが、
その水着、すごい似合ってるぞ」
響 「ティアエムク ヤイオ」
P 「そうだ、自信を持っていいぞ
おっと、ただ、あまり喋らないほうがいいかもな」
響 「なんで?」
P 「カメラマンに、いらぬ心配を掛けたくないからな」
響 「へウディ ンミオガ」
次は元気に谷間を強調してみようか!」
響 「~♪」
P 「うん、順調だな
言葉が通じない以外は普通の響なんだよなぁ…」
カメ「じゃあ次は寝っ転がってみようかー!」
響 「ヤンス!」
P 「あっ、バカ!」
響 「バアエティ ウス ウティ?
ウス ウティ トゥヤ へオルティ?」
カメ「おーいいねー!沖縄の言葉かなー?
響ちゃんらしいよー!」
P 「…まぁカメラマンに言葉は通じなくてもいいもんな」
響 「へへん!自分頑張ったぞ!」
P 「おおっ!響が何を言っているかわかる!」
響 「ディンエルルヤ?」
P 「…ちょっとだけだったが」
響 「バアエティ ドゥウドゥ ヤイオ セヤ?」
P 「まぁまぁ、そう怒るな」
響 「怒ってないぞ!」
P 「あはは…」
響 「ただいまだぞー!」
小鳥「あ、おかえりなさい!
響ちゃん、プロデューサーさん」
P 「音無さん!聞いてください!
響の言うことが、ちょっとだけ分かるようになったんですよ!」
響 「トゥン ティイイ!」
小鳥「あら、そうなんですか?
良かったじゃないですか
私もピアス欲しいなぁ」
P 「うーん、これもう一組無いんですかね」
P 「そうだな、今日はもう無いぞ」
小鳥「あらまっ!本当に普通に喋ってますね」
P 「全部がわかるわけじゃないですけどね」
小鳥「それじゃあ、今日は
響ちゃんを家に帰したらどうでしょう」
P 「そうですね
他の子に見つかって、千早みたいに揉めたら大変ですから」
響 「バンルル エルル トゥウスス ヤイオ…」
小鳥「今のはなんて言ってるんですか?」
P 「わからん」
響 「もう!」
一人で帰れるか?」
響 「ヤイオルル アエヌン ティイ ヂ ウティ
イヌンディ トゥヤ ドゥンエドゥ ビドゥヤ!」
小鳥「嫌がってますね」
P 「…よし、しょうがない!
音無さん、今日は響と一緒に帰ります」
響 「バイバ!」
小鳥「うーん、本来なら止めたほうが
プロデューサーとアイドルですし、止めるんですが
緊急事態ですしね…」
響 「本当に一緒に帰るのか?」
P 「響が嫌じゃなかったらな」
響 「嫌じゃないぞ!
めんそーれ!」
P 「こういうのって、トリリンガルっていうんでしょうか」
響 「ギイドゥ ブヤ!ピヨコ!」
P 「それでは今日は失礼します
小鳥「また明日ー」
小鳥「プロデューサーさんとお揃いかー
羨ましいなー」
貴音「真、憧れます」
小鳥「あら、貴音ちゃん帰ってきてたの?」
急に押しかけることになって」
響 「そんな事ないぞ!」
P 「そうか、ありがとな」
響 「ウ リヌン ヤイオ
ティアンディンヒディン ルンティ
ヤイオディ アエウディ ヂバム!」
P 「…いつになったら全部わかるんだろうなぁ」
響 「プロデューサー…」
自分の事どう思ってる?」
P 「どうって…信頼してるよ
俺から見て、響は最高のアイドルだ」
響 「そういうことじゃなくて!」
P 「なんでなんだろうな
こんなに響を信頼してるのに」
響 「ヂ ヤイオ リヌン トゥン?」
P 「なんで言葉が通じないんだ」
響 「むー…」
P 「響?」
ウフ ウ セウドゥ ウ バエス テドゥルヤ
ウム リヌン バウティア ヤイオ
ヤイオドゥ ティアウムク ウ バエス ルヤウムグ
だから…」
P 「だから?」
響 「…ウトゥ シディディヤ」チュッ
P 「おわぁっ?!
ひ、響?!いきなりどうしたんだ?!」
響 「自分の気持ち、だぞ」
P 「えっと…それはつまり…」
どうせ伝わらないだろうから言うけど、
自分は!プロデューサーが大好きなんだぞー!
アイドルとしてじゃなくて、女の子として!
…この気持ちが伝わらないなら、
言葉も伝わらなくて当然さー!」
P 「…ごめん」
響 「早く言葉を理解してほしいぞ」
P 「響の気持ちに気づいてやれなくて、ごめん」
響 「…へ?
もしかして、さっきの言葉…」
P 「あぁ、響のキスで、目が覚めたよ
俺も、響の事が…」
響 「う…うぎゃー!
は、恥ずかしいぞー!」バタバタバタ
P 「ま、待て響ー!
せめて、せめて止まって返事を聞いてくれー!」
響 「無理だー!止まったら死んじゃうー!」
ねぇ、貴音ちゃん
あのピアス、どこで買ったの?」
貴音「そこの109で」
小鳥「へー、109に、あんなの売ってるのね」
貴音「…プロデューサーと響の手前、黙っておりましたが
あのぴあすには、言葉が翻訳されるような効能はございません」
小鳥「あら、そうなの?
プロデューサーは、響ちゃんの言葉が分かった、って言ってたけど」
貴音「小鳥嬢…偽薬効果、というものをご存知ですか」
小鳥「言語の問題を偽薬効果で片付けるのはどうかと思うわ」
貴音「いけずです…」
響ちゃんがメルニクス語しか喋れないとなると
色々業務に支障が出るわ」
貴音「それならばご心配に及びません
一晩休めば、響はメルニクス語の事は忘れておりますゆえ」
小鳥「…貴音ちゃん、何かしたの?」
貴音「ふふ、とっぷしぃくれっとです」
お し まい
千早「プロデューサーと一緒にオーディション来たかったなぁ…」
ホモルーデンスの称号と25ジイニをやろう
Entry ⇒ 2012.10.22 | Category ⇒ アイマスSS | Comments (0) | Trackbacks (0)
奉太郎「古典部の日常」 5
奉太郎「古典部の日常」 2 (5,6,7,8話)
奉太郎「古典部の日常」 3 (9,10,11,12,13話)
奉太郎「古典部の日常」 4 (14,15,16,17,18,19,20話)
しかし、夏の名残と言えばいいのか、置き土産と言えばいいのか。 俺の体はちくちくと蚊によって攻撃されている。
山が近いせいで、生き残りが多いのかもしれない。
そんなある日、珍しく一人だけの古典部で俺は小説を読むことで時を過ごしていた。
一ページ、また一ページ捲っていき、やがて章の終わりが見える。
そこで一度本から視線を外し、外の景色を眺めた。
グラウンドでは運動系の部活が精を出し、校舎には音楽系の部活らしき音が響いている。
奉太郎(里志は今日も委員会か)
奉太郎(最近忙しそうだな)
原因はまあ、文化祭だろう。
伊原は漫研をやめたので時間は増えた筈だが……この時間まで来ないとなれば、今日は来ないかもしれない。
千反田は恐らく来ると思うが、来たとしても文集の話をされると思う。
俺としては内容には拘りなんて無いし、任せっきりにしたいのだが……一応は古典部に所属しているのである程度はやらなければならない。
確かもう大体の内容は決まっているとか、前に集まったとき言っていた気がする。
それも千反田が来たら聞けばいい事だ。 とりあえずはもう一度小説にでも目を落とすか。
しかし、タイミングを狙ったかの様に部室の扉が開いた。
える「お、折木さん!!」
いつもと少し様子が違う、何か厄介な事でも起きたのだろうか。
奉太郎「なんだ、何かあったのか?」
える「あ、あのですね……大変なんです!」
奉太郎「それだけ言われても、何がどう大変なのか分からない」
える「ご、ごめんなさい。 最初から説明しますね」
える「今日の事なんですが……放課後、今から少し前です……」
な、何をしに行ったかですか? ……あの、お恥ずかしながら少し、お腹が空いてしまって……
あ、あの! それよりですね。
そこで食べ物を買って、部室に行こうとしたんです。
……この私が持っているパンですか? これ、とてもおいしいんですよ。
……お話、続けてもいいですか?
それでですね、部室へ向かっている途中で見てしまったんです。
その……喧嘩している福部さんと、摩耶花さんを。
遠くだったので会話はしっかりとは聞こえなかったんですが、最初は普通にお話をしている物だと思いました。
それが突然……摩耶花さんが、福部さんの顔を……パチン、と。
私は急いで部室へ来ました、見てはいけない物を見てしまった気がして……
福部さんですか? とても、びっくりした様な顔をしていました。
……あ、そういえばですね。 最後の一言だけ、聞こえたんです。
摩耶花さんが「ごめん」と言っていました。
……折木さん、どう思います?
奉太郎「そのパンを今度買ってみようと思った」
える「……」
奉太郎「……」
える「おれきさん、真面目にやってください」
奉太郎「う……分かったよ」
と言ったはいいが……ただの喧嘩をどう思う、と言われてもな……
奉太郎「ただの喧嘩じゃあないのか?」
える「私も、そう思いました」
える「でも摩耶花さんは、簡単に人を叩く人では無いと思うんです」
える「感情的にも、人を叩く人では無い筈です」
……確かに、一理あるな。
伊原は刺々しい所があるが、直接的に人を傷つけたりはしない。
そんな伊原が里志を叩いた……よっぽどの事情があったのだろうか?
える「それも……少し、考えづらいんです」
える「福部さんは摩耶花さんの事をよく知っていると思います」
える「そんな福部さんが、それをするでしょうか?」
……しそうだが、千反田はそれでは納得しないだろう。
何かこう、もっともらしい理由を付けなければならない。
奉太郎「……これだったらどうだ」
奉太郎「伊原が少し腕を振りたい気分になっていて、腕を振った」
奉太郎「そうしたら偶然にも里志が居て、里志の顔に当たった」
奉太郎「叩く気は無かったのに、叩いてしまって謝った」
奉太郎「……どうだ」
える「摩耶花さんが腕を振りたい気分になったのは何故ですか?」
奉太郎「伊原が腕を振りたくなった理由か……」
奉太郎「……そういう気分だったから」
ううむ、なんだか予想より面倒くさくなってきてしまったな。
える「第一に、ですね」
える「私が見たとき、福部さんと摩耶花さんは既にお話をしていたんです」
える「と言う事は……偶然当たったっていうのは少し、難しいと思います」
……そういえばそうだったか。
奉太郎「視点を変えるか」
奉太郎「伊原は何故、里志を叩かなくてはならなかったのか」
える「同じ視点じゃないですか? それだと」
奉太郎「いや、違う」
奉太郎「里志を叩かなければいけない理由があったと考えるんだ」
奉太郎「そして、伊原には叩いたことへの罪悪感があったんだ」
奉太郎「伊原は謝っていたんだろ? 叩いた後に」
える「ええ、そうです」
奉太郎「それなら罪悪感があったと思うのが普通だ」
える「でも、ついカッとなってしまってという可能性もあると思います」
える「それで、その後に謝った……って事ではないんですか?」
奉太郎「さっき自分が言った言葉を忘れたのか」
奉太郎「感情的に叩く事なんて無い、と」
える「あ、そういえば……そうでしたね」
える「では何故、叩いたのでしょうか?」
奉太郎「恐らく……さっきも言ったが、叩かなくてはいけない理由があった」
える「叩かなくてはいけない理由ですか……気になりますね」
伊原は何故謝ったのか。
そしてそれが起こる前まで、普通に話していた。
奉太郎「一つ、推測ができた」
える「え? なんでしょうか」
奉太郎「それだ」
俺はそう言い、千反田を指差す。
える「え、私ですか」
える「私……何かしたのでしょうか」
奉太郎「……違う、お前の腕に居るそいつだ」
える「腕……あ!」
える「……蚊、ですね」
千反田はそう言い、腕に止まっていた蚊を手で払う。
奉太郎「伊原と里志は放課後、二人で話していた」
奉太郎「そう、なんとも無い普通の会話だ」
奉太郎「そこで伊原はある物に気付く」
奉太郎「それは……里志の頬に止まっている、蚊」
奉太郎「ついつい伊原はその蚊を叩く」
奉太郎「里志の頬に止まっている蚊をな」
奉太郎「そして丁度、その場面をお前が見ていたんだ」
奉太郎「それを見たお前は俺にこう言った」
奉太郎「里志と伊原が喧嘩をしていた、と」
奉太郎「……どうだ?」
える「……なるほど、です」
える「確かにそれなら、納得がいきます」
える「摩耶花さんが謝っていた理由にも、繋がりますしね」
える「私、ちょっと確認してきますね!」
そう言い、千反田は部室を出ようとする。
奉太郎「お、おい! ちょっと待て」
える「はい? どうかしましたか?」
奉太郎「あくまで推測だと言っただろ、外れていたらどうするんだ」
える「大丈夫ですよ、折木さんの推理は外れません」
どこからそんな自信が出てくるのだろうか……
丁度、その時だった。
摩耶花「あれ、ちーちゃん帰る所だった?」
伊原が、部室へとやってきた。
える「摩耶花さん! 丁度いい所でした!」
千反田はそのまま伊原を席まで引っ張っていくと、隣同士で腰を掛ける。
奉太郎「……おい、違っても俺は知らんぞ」
える「摩耶花さんに、聞きたい事があったんです!」
俺の声は既に千反田には届いていない様子だった。
える「あの、実はですね……」
俺は千反田の説明を聞きながら、外に視線を移す。
少し、日が傾いてきただろうか?
まだ17時にもなっていないが……日が短くなっているのだろう。
所々、帰る生徒達が見える。
この一件が終わったら、俺も帰る事にしよう。
摩耶花「……なるほど、ね」
……どうやら、千反田の説明が終わったらしい。
える「それで、どうですか?」
摩耶花「折木あんた、どっかから見てたんじゃないの?」
奉太郎「……俺にそんなストーカー的な趣味は無い」
える「……本当ですか?」
千反田が小さく、伊原には聞こえないように俺に言ってきた。
チャットルームでの事を、まだ根に持たれているのかもしれない。
それに俺が反論をする前に、千反田は再び口を開く。
える「ふふ、やはり当たりましたね」
千反田がそう言い、俺の方を向く。
なんだかそんな視線が恥ずかしく、俺は視線を逸らした。
奉太郎「……そろそろ帰るか」
摩耶花「ええ、来たばっかりなのに」
える「あ、じゃあ少しお話しましょう。 摩耶花さん」
どうやら伊原と千反田は残って話でもするらしい。 俺はお先に失礼させてもらおう。
奉太郎「そうか、じゃあまた明日」
える「はい、また明日です」
摩耶花「うん、じゃあね」
しかし、あの推測が外れていたら千反田はどうしたのだろうか。
本当に喧嘩だった可能性も、あっただろうに。
だがその可能性より、俺の推測を信じてくれた事は少し嬉しかった。
別に、だからどうとか言う訳でもないが。
ただちょっと、嬉しかっただけの話。
辺りは少しだけ、薄暗くなっている。
もうすぐで文化祭が始まる、とりあえずはそちらに力を入れなければ。
後……二週間くらいだったか。
ああ、そういえば文集がどうなっているのか聞くのをすっかり忘れていたな。
ま、家に帰ったら里志にでも電話して聞いてみるか。
本を刷るのは伊原に任せる事になるだろう、去年は大変な思いをしてしまったが……
だが伊原も同じ失敗を二度繰り返すような奴では無い、今年は安心できると思う。
まあ、結局は俺が店番をする事になるのだろうが。
暇を潰すためにも、何か新しい小説でも今度買おう。 あれがあれば店番はとても楽だ。
そんな今後の予定を頭の中で組み立てていると、やがて家が見えてきた。
奉太郎「ただいま」
供恵「おかえりー」
奉太郎「最近家に居ることが多いな」
供恵「なによ、いちゃ悪いの?」
奉太郎「……別に、そういう訳じゃない」
奉太郎「風呂に入ってくる」
供恵「あー、まだダメかな」
奉太郎「ん? どういう意味だ」
供恵「お客さん、来てるの」
この家に客とは珍しい。
また姉貴の知り合いだろうか?
奉太郎「姉貴の客か?」
供恵「あんたの客よ」
奉太郎「……俺に?」
一体誰が、里志か?
いや、でも里志ならば姉貴は里志が来ていると言うだろう。
他に思い当たる奴なんて……居ないな。
供恵「え? あんたの部屋よ」
……客を勝手に俺の部屋に通すな、バカ姉貴が。
奉太郎「……はぁ」
小さく溜息をつき、自室へと向かう。
全く、誰だこんな時間に。
そして、自室の扉を開いた。
そこには俺の予想外の人物が居て、俺の顔は多分、だいぶおかしなことになっていただろう。
奉太郎「何か、俺に用ですか」
奉太郎「入須先輩」
入須「ふふ、そう露骨に嫌そうな顔をするな」
入須「今日はちょっと話があって来たんだ、折木君」
第21話
おわり
折木さんはいつも、自分の推理に自信を持っていない様に見えますが……もっと自信を持ってもいいと私は思います。
でも、そんな折木さんも……その、少し格好いいと思う自分もいます。
える「あ、もうこんな時間ですね」
摩耶花「ほんとだ! そろそろ帰らなきゃ」
える「そうですね、また明日お話しましょう」
える「では、帰りましょうか」
摩耶花さんとのお話を止め、帰り支度をしていきます。
そこでふと、ある物に気付きました。
える「あれ? これは……」
摩耶花「あー、あいつ忘れていったのかな」
折木さんの小説でしょうか? 机の上に一つだけ、置いてありました。
える「そうですか……」
える「いえ……やはり私、家に届けてきます」
私がそう言うと、摩耶花さんはにっこりと笑い
摩耶花「そか、うん。 分かった」
と言いました。
その後は学校を出て、摩耶花さんとは別々に帰ります。
折木さんの家は学校からそれほど離れていません、歩いていっても意外とすぐに着きます。
先ほどまではまだ、そこまで暗くないと思ったのですが……気付けば辺りは大分、暗くなっていました。
本当は、明日にでも渡せば良かったのです。 摩耶花さんが言った様に。
でも、折木さんの顔が見たかったんです。
さっきまで二人でお話をしていたのに、変ですよね。
少しでも多くの時間を一緒に過ごしたかったのかもしれません。 ちょっと恥ずかしいですが。
ですがまた、もう一度折木さんに会えると思ったら……足取りが軽くなりました。
折木さんの家には何度も行った事があったので、道はしっかりと覚えています。
もう学校から大分歩いた様で、そろそろ折木さんの家が見えてくる筈です。
この角を曲がれば……
そのまま向かっている途中で、違和感を感じます。
える(ドアが開いている? 誰か居るのでしょうか)
そしてそーっと、覗き込みます。
折木さんの家のドアには、入須さん?
……どういう事でしょう?
あくまでも私が感じた事ですが……折木さんと入須さんは、そこまで仲が良かった様に思えません。
盗み見るのは良い事とは言えませんが……少し、気になります。
奉太郎「ありがとうございます、入須先輩」
入須「構わないさ、それより明日、いいか?」
奉太郎「ええ、分かってます」
そしてそのまま、入須さんは私が居る方に向かってきます。
咄嗟に、隠れてしまいました。
外壁の角に隠れていた私の前を入須さんが通っていきます。
今こちら側を向かれたら見つかってしまいますが……偶然と言う事にすれば大丈夫でしょう。
でも、私は見てしまったんです。
入須さんが、とても幸せそうな顔をしていたのを。
昨日は結局、そのまま帰ってしまいました。
何故か、会う気分にはならなくなってしまって……結局本は渡せませんでした。
奉太郎「千反田だけか」
折木さんがそう言い、部室へと入ってきます。
える「こんにちは、折木さん」
える「あの、これ……」
私はそう言い、鞄から折木さんの小説を取り出します。
える「昨日、忘れていましたよ」
奉太郎「おお、ありがとう」
奉太郎「……でも、なんで千反田がこれを持っていたんだ?」
あ、これはうっかりしていました……
える「……今日、折木さんが来なかったら届けようかと思っていたので」
つい、口から嘘が出てしまいます。
折木さんはいつも、私を真面目な人だと言ってくれますが、そんな事は無いです。
……私は結構、卑怯なのかもしれません。
奉太郎「そうだったのか、わざわざそこまでしてくれなくてもいいのに」
える「……ふふ、そうですか」
昨日何があったのかと聞きたかったです、ですが……
それは折木さんのプライベートな事になるかもしれないです、ですので私は聞けませんでした。
奉太郎「ああ、そうだ」
折木さんが思い出したかの様に、口を開きます。
える「はい、なんでしょう」
奉太郎「明日からその、バイトをする事になった」
……昨日の事と、何か関係がありそうです。
でも、入須さんに頼まれたからといって……折木さんがバイトをするとは思えません。
何でしょうか……こんな時、折木さんに相談すればすぐに解決するのですが……
その気になる事が折木さん自身の事ですので、さすがに相談できません。
奉太郎「……おい、聞いてるか?」
える「え、は、はい」
つい、私は考え込んでしまってました。
える「……頑張ってください」
としか、私には言えませんでした。
奉太郎「まあ、そんな訳でちょっと部活に出れる時間が少なくなる」
える「……そうですよね、分かりました」
5分ほど経ったころ、折木さんが口を開きます。
奉太郎「今日もちょっと用事があるから……悪いな」
える「いえ、構いませんよ」
える「頑張ってくださいね、折木さん」
昨日聞こえた会話からすると、また入須さんと会うのでしょうか。
私に何か言えた事では無いですが……何でしょうか、この気持ちは。
奉太郎「ああ、またな」
最後にそう言うと、折木さんは帰っていきました。
やっぱり、ちょっと寂しいです。
私はその後、一人で本を読んでいました。
今日は多分、福部さんも摩耶花さんも部室に来ると思います。
折木さんがあまり来れなくなると言う事も伝えなくてはなりません。
摩耶花「あれ、ちーちゃんだけ?」
里志「こんにちは、千反田さん」
える「お二人とも、こんにちは」
挨拶をしながら福部さんと摩耶花さんは席に着きます。
える「折木さんは今日用事があるみたいで、帰りました」
摩耶花「……折木に用事って、そんな事あるんだ」
里志「珍しい事もあるね、まあ文集の内容はほとんど決まってるし、別にいいんじゃないかな」
える「それとですね」
える「折木さん、バイトを始めたみたいです」
私がそう言うと、福部さんと摩耶花さんは口をぽかんと開いて、次に驚きの声をあげました。
摩耶花「え、ち、ちーちゃん……今、なんて?」
里志「……ホータローがバイトを始めたとか、そんな風に聞こえたんだけど」
える「え、ええ。 バイトを始めたと言っていましたよ」
里志「そうだよ千反田さん! 何かの聞き間違いだよ!!」
二人とも物凄い剣幕で私に迫ってきます。 少し、怖いです……
える「あ、あの! 本当ですよ!」
摩耶花「お、折木がバイトをするなんて……」
える「お二人とも、折木さんに失礼ですよ……」
里志「……あはは、あまりにもびっくりしちゃって」
私は小さく咳払いをして、口を開きます。
える「それで少しの間部活に来る時間が少なくなると、言っていました」
摩耶花「なるほどねぇ……何か、ありそうね」
何か、とは何でしょうか……
里志「うん、僕もそう思うな」
どうやら摩耶花さんも福部さんも、何か訳があってバイトを始めたと思っているみたいです。
斯く言う私も、ですが。
里志「じゃあ皆、一緒の意見って言う訳だね」
摩耶花「気になるわね……少し」
里志「探りでも入れてみようか」
里志「今日の夜、ホータローに電話をしてみるよ」
摩耶花「それで、折木が理由を言うと思うの?」
里志「いいや? でもバイトの予定くらいは聞くことができると思うよ」
える「……ごめんなさい、話が見えないのですが……」
里志「つまり……ホータローを尾行するんだよ!」
そ、それは……褒められた事では無いですよ、福部さん。
摩耶花「ちょっと面白そうね、やってみたい」
える「わ、私は……」
ですが……気になるのも事実です。
……こうして悩んでいる時点で、答えは出ていたのかもしれません。
える「……気になります」
里志「決まりだね! じゃあ予定が分かったら連絡するよ」
摩耶花「うん、よろしくね」
える「は、はい」
そうして決まったのはいいですが……本当に、これで良かったのでしょうか?
える「もしもし、千反田です」
里志「あ、千反田さん? 予定が分かったよ」
える「福部さんですか、例の事ですね」
里志「そうそう、次の土曜日に入ってるらしい」
える「土曜日ですか……分かりました」
里志「13時からって言ってたから、昼前には一回集まろうか」
える「はい、場所は学校の前がいいですか?」
里志「うん、そうだね」
里志「じゃあ11時くらいに一度学校で集まろう。 摩耶花にも連絡しておくね」
える「分かりました、宜しくお願いします」
土曜日に、全部分かるのでしょうか……
入須さんはあの日、何をしていたのかという事も。
折木さんがバイトを何故、始めたのかという事も分かるのでしょうか。
なんだか慣れない事をしたせいで、少し今日は眠いです。
土曜日までまだ三日あります。 今日はゆっくりと休みましょう。
ベッドに横になり、目を閉じながらふと思います。
……もしかしたら、この選択は間違いだったのかもしれない、と。
あっという間に三日が過ぎ、今日は折木さんを尾行する日となっています。
……緊張します。
ですが、今日全部分かると思うと……少しだけ、楽しみなのかもしれません。
結局あれから、折木さんは部活には来ませんでした。
もう文集は完成していると言っても、やはり文化祭前は部活に顔を出して欲しかったです。
文化祭まで後一週間と少し……それまでにすっきりした気持ちになりたいという思いが、私の中にはありました。
この良く分からない気持ちを、何とかしたいと。
ふと時計を見ると、約束の時間が迫ってきています。
そろそろ、行きましょう。
里志「皆、おはよう」
摩耶花「おはよ、ふくちゃん」
える「おはようございます」
私と摩耶花さんが校門の前でお話をしていたら、最後に福部さんがやってきました。
皆さんには言っていませんが……実は、昨日の夜に折木さんと電話をしていました。
私は土曜日にバイトが入っているのを知っていて、明日遊べませんかと聞きました。
ですがやはり、13時からバイトが入っていると言われ、安心できたのを覚えています。
福部さんには冗談で嘘を付く可能性があったと思ったから聞いたのですが、どうやら私の思い違いの様でした。
……悪いことをしたとは、思っています。
える「あ、ごめんなさい。 行きましょうか」
歩きながら、今日の計画について話し合いをします。
摩耶花「まずは折木の家の前で出てくるのを待つのよね」
里志「その後はホータローがどこに行くのかを尾行しながら確認する」
える「あの、これってストーカーと言う物では……」
摩耶花「……違うと思いたい」
里志「まあ、大丈夫だよ」
福部さんが何に対して大丈夫と言ったのか分かりませんが……大丈夫なのでしょう。
里志「とりあえずはばれない様にしないとね、ばれたら全部終わりさ」
摩耶花「そうね。 でも折木が気付くとも思えないけどね」
里志「はは、確かに言えてるかもしれない。 多分横に並んでも気付かないんじゃないかな」
摩耶花「そう、かも。 もしかしたら目の前に出ても気付かないかもね」
里志「叩いてようやく気付く、みたいなね」
里志「ご、ごめんごめん」
摩耶花「ち、ちーちゃん怒ってる?」
あれ、私は……怒っているのでしょうか。
折木さんを悪く言われて? 分かりません。
える「かもしれないです」
摩耶花「そ、そんなつもりじゃなかったの。 ごめんねちーちゃん」
える「ふふ、大丈夫ですよ」
里志「あ、あそこだね。 ホータローの家は」
気付けば折木さんの家の前でした。
える「今は何時でしょう?」
里志「ええっと……12時だね」
摩耶花「え、それって……まずくない?」
える「え? 何故ですか?」
摩耶花「だって、バイトに行くまでの時間もあるでしょ」
摩耶花「そろそろ出てくるんじゃないかなって」
あ! ドアが開きました!
福部さんのその声に体を動かされ、物陰へと身を潜めます。
摩耶花「……本当に行くみたいね、折木」
里志「……みたいだね」
折木さんは幸い、歩いて向かう様でした。 自転車を使われてしまったら……その時点で尾行は終わりです。
える「……駅の方に向かっていますね、バイトがそっちなんでしょうか?」
里志「……だと思うよ。 あっちにはお店がいっぱいあるし」
摩耶花「……そろそろ動こう、見失う前に」
える「……ええ、そうですね」
私達は顔を見合わせると、ゆっくりと歩く折木さんと結構な距離を置き、付いて行きます。
そして10分程歩いたところで、折木さんは一度立ち止まりました。
喫茶店の前で腕を組み、空を見上げています。
喫茶店の名前は、一二三。
摩耶花「……誰か、人を待っているとか?」
える「……同じバイトのお友達、とかでしょうか?」
里志「……うーん、どうだろう」
それから更に10分程時間を置いて、人が一人やってきました。
里志「……あれは、はは」
摩耶花「……うっそ、なんで?」
える「……入須さん……」
折木さんが待っていた人は、入須さんでした。
何か、私の心の中でぐるぐると回る嫌な感じを必死に抑え、口を開きます。
える「……あの、どういう事なんでしょうか」
摩耶花「……あいつ、私達に嘘付いてたの?」
える「……ま、まだそうと決まった訳じゃないです」
える「……移動しますよ、付いて行きましょう」
摩耶花「……うん、そだね」
それからしばらくの間付いて行き、様子を見ていました。
最初に服屋へ入り、次にアクセサリーショップに入り、それはまるで。
デートの様に私には見えました。
里志「……もう、いいんじゃないかな」
里志「……ホータローは僕達に嘘を付いていた、入須先輩と遊ぶために」
里志「……それが事実だと思うよ」
摩耶花「……だって、あいつは」
里志「……摩耶花、その先は」
摩耶花「……ご、ごめん」
える「……まだ、です」
私も、分かっていました。
入須さんと遊ぶために、折木さんが私達に嘘を付いていた事を。
でも、それでも。
える「……まだ、13時まで10分あります」
摩耶花「……ちーちゃん……」
里志「……分かったよ、続けよう」
それからまた少し、後を付けます。
1分、また1分と時間が経って行き……やがて。
える「……」
摩耶花「……もう、やめよう」
里志「……もういいかな、千反田さん」
える「……はい」
本当は、分かっていたんです。
入須さんと会ったときから、分かっていたんです。
尾行を終え、歩いていく二人を私は見ていました。
折木さんと入須さんはやがて、遠くの人ごみへと消えていきます。
える「すいません、私……分かっていたんです」
える「昨日、折木さんの所へ電話したんです」
える「明日、遊べないかと」
摩耶花「それって、ちーちゃん……」
える「でも、バイトがあると言われて……」
里志「……そうかい」
える「入須さんと会った時から、分かっていたんです」
える「折木さんが私に、嘘を付いたんだって」
摩耶花「あいつ! なんでそんな事……」
える「……ごめんなさい、私、帰りますね」
そう言い残し、私は小走りで家へと帰ります。
後ろから摩耶花さんの声が聞こえましたが、振り返る事は出来ませんでした。
里志「摩耶花、放って置いてあげよう」
摩耶花「で、でも!」
里志「……いいから」
お二人の会話が後ろから聞こえて、少し福部さんに感謝します。
……泣いている顔は、あまり人に見られたくありません。
第22話
おわり
どうして、何故、と言った感情が私の心を埋め尽くしていました。
でも、私は聞いて居たから。
折木さんが前に、私の事が好きだと言っていたのを、聞いてしまったから。
あれは……私の勘違いだったのでしょうか。
それとも、折木さんは自分では気付いていませんが……意外と鋭い人です。
あの時、私が居るのを知っていてそう言ったのでしょうか。
そして、あの言葉も嘘だったのでしょうか。
私は見事に、今までずっと……騙されていたのでしょうか。
そんな事を思ってしまう自分は、最低なのかもしれません。
私は、もっと折木さんと一緒に居たかった。
残りの時間を少しでも、一緒に過ごしたかった。
それすらも、叶わぬ望みと言うのでしょうか。
今頃、お二人は何をしているのでしょう。
一緒に笑っているのでしょうか。
それとも、どこかのお店でお茶をしているのでしょうか。
気になります、気になりますが。
……私にはもう、解決してくれる人はいないのかもしれないです。
布団の中でうずくまっていると、全てを忘れられそうで……ちょっぴり、本当にちょっぴりですけど、心が安らぎました。
いつまでも泣いていてはいけません。
文化祭も……あるんです。
私は部長なんです、少しでもしっかりとしないと。
この気持ちを引き摺っていては……ダメです。
でも今日は、今日だけは……
少しだけ、泣かさせてください。
える「うっ……おれ……き、さぁん!……」
今まで、感じていた事が無いと言えば嘘になります。
私は、好きでした。 折木さんの事が。
でも……入須さんと仲良くしている折木さんを見て、ここまで胸が苦しくなるとは思いもしませんでした。
私の中で、折木さんという方がどれほどの存在だったのか、今になって良く分かります。
摩耶花さんを傷つけた私を、助けてくれました。
時間が遅くなると、家まで私を送ってくれました。
風邪が治った次の日に、我侭を言う私に付き合って水族館へ連れて行ってくれました。
お弁当を一緒に食べたりも、しました。
動物園にも行きました。
私が部室を荒らした時も、私を信じて私の計画を台無しにしてくれました。
映画を見に行きました。
沖縄にも、旅行に行きました。
そして私の持ってくる気になる事を、見事に全て解決してくれました。
他にも、いっぱい……思い出があります。
……全て、私が勝手に思っていた事なのでしょうか。
入須さんは、いい人です。
私にも、返せない程の恩があります。
でも……入須さんさえ、居なければ。
ふとそんな考えが浮かんできて、すぐに頭から振り払います。
……私って、最低です。
折木さんが入須さんと仲良くするのも、少し納得しました。
多分、嫌気が差したのかもしれません。
……なんだか泣き疲れてしまいました。
……少し、少しだけ……寝ましょう。
起きたらきっと……いつも通りに戻っている事を願って。
気付けばもう、金曜日……新たな一週間が終わりそうになっていました。
あの日から毎日、夢であればと思いましたが……そんな事はありませんでした。
折木さんとは一度も会っていません。
会えばまた……少しだけ落ち着いた気持ちが崩れてしまいそうで、会えませんでした。
それはつまり……
校門から出ようとした所で、私に声が掛かります。
里志「今日も部活に来ないのかい、千反田さん」
私が、あれから一度も部室に足を運んでいない事となります。
自分では、決めたつもりでした。
私がしっかりしないと、と。
ですが、私の決心という物は随分と脆い様で、部室に足が向かうことはありませんでした。
分かりやす過ぎる嘘だと、自分でも思います。
里志「……そうかい、なら仕方がないかな」
里志「でもね、千反田さん」
里志「待ってるよ、皆」
里志「勿論、ホータローもね」
える「……やめてください」
里志「今日が文化祭前、最後の部活だよ」
里志「それは千反田さんも分かっているだろう?」
里志「来るつもりはないのかい?」
里志「後、文化祭にも来ないつもりかな……千反田さんは」
里志「……分かったよ、それなら僕からはもう何も言わない」
里志「けどね……まあ、これは言わなくていいかな」
つい、声を荒げてしまいました。
福部さんには謝らなければなりません、ですが……私がそう思った頃には既に、福部さんの姿はありませんでした。
私はやはり、ダメな人なのでしょう。
心配してきてくれた人を退け、私の感情だけで怒鳴ってしまいました。
今日もやはり、部室へと足は向いてくれそうにありません。
今日は何も予定がありません、家から出る必要も……ないです。
パソコンを立ち上げ、神山高校のホームページを開きました。
そこには文化祭を目前にして、色々な工夫がこなされているのが良く分かるページとなっていました。
その華やかなホームページと違い、私の心は酷く沈んでいます。
以前、折木さんに文化祭の前には顔を出して欲しいなんて思いましたが、そんな言葉は見事に自分へと戻ってきています。
私は、どうすればいいのでしょうか。
そんな事を思っていた時、家の電話が鳴り響きました。
今日は家に私一人しかおらず、他に取る人は居ません。
私は電話機の前に立ち、電話を取ります。
摩耶花「あ、ちーちゃん?」
える「摩耶花さん、ですか?」
摩耶花「うん、そうそう」
このタイミングで掛けて来ると言う事は、恐らく部活の事でしょう。
摩耶花「昨日のさ、テレビ見た?」
える「え? 昨日の、テレビですか?」
摩耶花「うん、20時くらいにやってた奴かな?」
える「……いえ、見ていませんが」
摩耶花「ええ! そりゃあちょっと勿体無い事をしたね」
摩耶花「ちーちゃんが好きそうな内容だったんだけどなぁ」
える「……少し、気になります」
摩耶花「そう来ると思った! あはは」
える「ふふ、教えてくれます?」
摩耶花「勿論!」
私が思っていた事を摩耶花さんが切り出す事はとうとう無く、私は受話器を静かに置きました。
摩耶花さんは恐らく、私を気遣ってくれたのでしょう。
敢えて、私が部活に行っていない事を話さなかったのでしょう。
……私は本当に、いい友達を持ちました。
私には少し、勿体無いかもしれません。
福部さんや、摩耶花さんに言われた事によって、気分はかなり落ち着いていました。
……やはり、文化祭には行きましょう。
大丈夫、私は大丈夫です。
最近はほとんど家に篭っていたので、外の空気もたまには吸いたい気分です。
ちょっとだけ、お散歩でもしましょうか。
そう思い、身支度を済ませると家から外に出ます。
場所は……どこにしましょうか。
前の駅前には……ちょっと、行ける気分では無いです。
少し町外れでも、お散歩しましょう。
そう決めた私は、駅とは反対側に足を向けます。
所々で見える紅葉がとても綺麗で、思わず目を奪われてしまいました。
空気は新鮮で、気持ちがいいです。
そうやって30分程歩き回った所で、少し足が痛んでいる事に気付きました。
最近ほとんど家に篭っていた事が、悪い様に回って来たのかもしれません。
私は辺りを見回し、偶然にも近くにあった喫茶店へと向かいます。
看板には歩恋兎と書いてあり、私は春に入部してくれそうになった一人の子を思い出しました。
える「ここは……懐かしいですね」
意外と、家から近いところにあった様で……今度からちょっと通ってみようと思いました。
そして店の正面に着いたとき、窓際に座る二人の男女が見えました。
……私は本当に、つくづく運が悪いのかもしれません。
神様という者が居たら、私はさぞかし恨まれているのでしょう。
ああ、もう……嫌になってしまいます。
何もかも。
この一週間、必死で頭から消し去ろうとしました。
摩耶花さんと福部さんが、声を掛けてくれました。
そんな全ての事を無駄にする物が、私の目に入ってしまいました。
私が見たのは、
楽しそうに笑う入須さんと。
いつも通りの顔をしている、折木さんの姿でした。
える「……いや、です」
必死にそこから逃げました。
何回か転び、足はどんどん痛みます。
気付けば、雨が降ってきていました。
摩耶花さんも福部さんも、ごめんなさい。
える「……こんなの、もういやです」
私は再び転び、そこから立ち上がる気力も、無くなってしまいました。
える「……こんな世界、もういやです」
今までの全ての記憶を、消して欲しいと願いました。
高校で過ごした記憶を全て。
降り注ぐ雨が私を打ちつけ、雨音は私をあざ笑っている様に聞こえます。
える「……皆さん、ごめんなさい」
える「……私はそこまで、強くないんです」
本当に、何故こんな事になったのでしょうか。
私がもっとしっかりしていれば、折木さんは私のそばに居てくれたのでしょうか。
分かりません。
ああ……私はどうやら、随分と折木さんに依存していたのでしょう。
あの日、一番最初の日。
折木さんと会わなければ、こんな事にはならなかったんです。
時期が少し、早まっただけだと思えば……
……ダメです。 それでも、無理な様です。
胸が張り裂けそうになるというのは、こういう事でしょうか。
……入須さんさえ、現れなければ。
これが、嫉妬という物でしょうか。
今日は少し……良い勉強になった日だったのかもしれません。
授業料は、ちょっと高すぎる気がしますが。
える「ごめんなさい、皆さん」
える「私は、行けそうに無いです」
そんな思いを、聞いてはいないだろう空に向けて放ちました。
……帰りましょう。
走ったせいで、足はズキズキと痛みます。
ですが、家まで着けば……しばらくは、お休みです。
そう思うと、足取りは軽くなると思ったんです。
しかし、逆に何故か……私の足は鉛の様に重くなっていきます。
家に着く頃には流す涙も流しつくし、気分は不思議と落ち着いていました。
……格好は酷いですが。
そのままお風呂を浴び、縁側に座ります。
雨は止んだようで、雲から差し込む日差しがとても綺麗でした。
える「……私は本当に、弱いですね」
じゃないと……この先、どうすればいいのか分からなくなってしまいます。
える「もう、泣くのはやめましょう」
える「笑って、過ごすんです」
える「……ですがもうちょっとだけ、休ませてください」
私は最後に涙を一筋流し、泣くのを止めました。
いつまでも……泣いていられません。
文化祭には行けそうにないですが……それが終われば、後は心配事は無い筈です。
……折木さんには、あのお話をできそうには無いですね。
折木さんも望んではいないのかもしれないです。
……いけません、また泣きそうになってしまいました。
最近の私は、随分と涙脆くなった様で困ったものです。
……次に皆さんと会うときは、笑顔で会いましょう。
きっと、できる筈です。
そして、一つ……決めました。
あの人と……入須さんと一度、正面からお話をする事にしました。
そうすれば多分、私も踏ん切りが付けられるかもしれないです。
私も仏ではありません、なので思いっきりこの気持ちをぶつけないと、どうにもなりません。
私の勝手な我侭だという事は分かっています。
ですがそれでも、入須さんには悪いですが……付き合ってもらう事にします。
入須さん、ごめんなさい。
私はこれでも、言う時は言うんです。
ですのでどうか、宜しくお願いします。
文化祭が終わった後、お話をしましょう。
……どうぞお手柔らかに、お願いします。
第23話
おわり
もう空は暗くなっていて、縁側に座る私には夜風が少し冷たく感じられます。
庭からは鈴虫の声が聞こえて、月がとても綺麗な夜でした。
福部さんと摩耶花さん……それに折木さんからも、連絡はありませんでした。
それも、そうかもしれません。
私は差し伸べられていた手を振り払い、自分の気持ちを優先したのですから。
える「……今年の文集は、どうなっているのでしょうか」
それを古典部の方達に聞く権利は、私には無いでしょう。
そして、私はもう……古典部に顔を出すつもりも、ありませんでした。
行けばきっと、あの人に会ってしまうから。
会えばきっと、私は泣いてしまうから。
泣けばきっと、またあの人は優しい言葉を掛けてくれるから。
しかし、それは……私が学校にも行けなくなってしまいそうで。
……怖かったです。
……ふふ、前の雛祭りの時に自分でここはつまらなくは無いと言って置きながら、こう思ってしまうので可笑しな物です。
これが、私の本心でしょうか。
駄目です……前向きに考えましょう。
この約二年間、本当に楽しかったです。
……出来れば忘れてしまいたいけど、楽しかった物は楽しかったんです。
氷菓の時もそうです。
あれは折木さんが居なければ、解決は出来なかったでしょう。
たったあれだけの事から、見事な推理を組み立ててくれたのは本当に心の底からすごいと思います。
2年F組の映画の時も、折木さんが作ったお話は……本郷さんの意思ではありませんでした。
ですが、最後には本郷さんの意思に気付き、私にチャットで教えてくれました。
……あの時確か、私は本当の事を知っていたのでは無いかと言われました。
勿論、私は知りませんでしたが……人が死ぬお話は好きでは無いと言ったときに、お前らしいと言ってくれました。
去年の文化祭の時は、私は結局……十文字事件の真相を知る事は出来ませんでした。
ですが、折木さんの意外な一面を見れた気もします。
お料理対決の時に、私のミスを助け、摩耶花さんを助ける為に大声を出していたのは今でも心に残っています。
そして、生き雛祭り。
私はてっきり、断られるかと思っていました。
しかし、折木さんはすぐに、手伝うと言ってくれて……とても嬉しかったのは記憶に新しいです。
私の学校生活は、大分折木さんとの思い出しか無いみたいです。
……私が、忘れたいと思うのも無理はないかもしれませんね。
その時でした。
家のチャイムが鳴り、私は縁側からお客が誰か確かめます。
時刻は22時近く、普通のお客とは思えません。
こんな時間に来るなんて、誰でしょうか。
サンダルを履き、縁側から少し離れ、玄関の方を覗き込みます。
……そこに居たのは、私が一番、会いたく無かった人でした。
折木さんはこちらに気付いていない様で、私も敢えて気付かれる様な事はしません。
今は、話したくないからです。
……家に、戻りましょう。
折木さんが来たのには少し驚きましたが……こうして遠くから見ているだけでも、胸がチクチクと何かに突かれるような感じがします。
縁側に戻り、家の中に入ります。
折角来ていただいたのに、申し訳ありませんが……
縁側から部屋へと入り、障子に手を掛けます。
……? 何か、遠くから聞こえてきました。
外、でしょうか。
私は、半分ほど閉めた障子を再び開きます。
奉太郎「千……田……おい!」
それからは体が勝手に、縁側から外へと動いていました。
奉太郎「千反田! 居るんだろ!」
……こんな、夜遅くに、非常識です!
迷惑です、近所迷惑です!
もう少し、マナーという物を弁えた方が良いと私は思います!
でも、でもでもでも。
える「……夜遅くに、人の家の前で叫ばないでください」
私の気持ちが、こんなに高ぶっているのは何故でしょうか。
奉太郎「……インターホンという物がお前の家では機能していなかったみたいだからな」
そんな事、ある訳無いじゃないですか、折木さん。
える「……何か、私に用でしょうか」
奉太郎「明日、最終日だぞ」
奉太郎「お前が何故来なくなったのかは……俺には分からないが」
胸からズキリと、音が聞こえた気がします。
奉太郎「俺はお前程……繊細じゃないしな」
奉太郎「でも、やっぱりお前が居ないと……その」
奉太郎「退屈なんだよ、面倒な事が無くて」
える「……そうですか」
える「でも、それで折木さんは良かったのでは無いですか」
える「私が居なければ、折木さんは自分のモットーを貫けるのでは無いですか」
える「ふふ、違いますか?」
そうです、そうでなければ……何故あなたは入須さんと、あそこまで仲良くしているのですか。
える「……はい」
奉太郎「……そんな事、ある訳ないだろ」
える「……そうでしょうか?」
奉太郎「俺が、信じられないのか」
える「……」
折木さんのその言葉に、私は返事が出来ませんでした。
奉太郎「……分かった、俺はもう帰る」
奉太郎「だが」
奉太郎「明日は、来いよ」
奉太郎「来なかったら俺は、お前を許せなくなる」
奉太郎「今年は予定に変更があって午前で文化祭は終わり、午後からは通常授業だ」
奉太郎「だから、朝から必ず来い」
奉太郎「いいさ、それはお前が決める事だ」
奉太郎「だが、さっきも言ったが」
奉太郎「俺はお前を許さない、古典部の部長を」
奉太郎「……そんな事には、なりたくないんだ」
……折木さんのせいで、行けないのに。
でも、折木さんに許されなくなってしまうのは、少し……
奉太郎「時間取らせて悪かったな、じゃあまた明日」
える「……わざわざすいませんでした、また明日」
折木さんはそう言うと、ご自宅へと帰っていきました。
でも、折木さんと少しお話をしたら……今まで必死に落ち着かせようとしていた気持ちが、不思議と落ち着いていました。
……私には、やっぱり。
ですが、また前みたいな光景を見てしまったら?
また、私は苦しくなってしまうのかもしれません。
一度落ち着いた気持ちを、また崩されると言うのは……とても、辛いです。
それはもう、あの喫茶店で経験していた事でした。
でも!
また私の気持ちを崩されても、一度経験した事です……人間いつかは慣れるのではないでしょうか?
それが無理でも、あと……
あと、1回だけ。
これが最後です、これが駄目だったら……私は、もう。
……明日は、学校に行きましょう。
だって、つい私は言ってしまったのですから。
折木さんに、また明日と。
私は、翌日文化祭へと行きました。
久しぶりの部室はどこか懐かしい感じがして……つい、顔が綻んでしまいました。
迎えてくれたのは、福部さんに摩耶花さん……そして、折木さん。
三人とも、いつも通りに接してくれて、まるでこの一週間の事は無かったかの様でした。
文集の売れ行きも、去年の成果があったからでしょう。 今年も好調でした。
福部さんは委員会のお仕事で忙しそうに走り回り、摩耶花さんは折木さんと店番をしていました。
午前だけとの事は本当だった様で、ほんの二時間ほどの私の文化祭はすぐに終わってしまいます。
そして……
私は扉の前に立ち、深呼吸をします。
大丈夫、大丈夫です。
ゆっくりと扉を開きました。
丁度教室から出ようとしていたのか、目的の人物は目の前に居ました。
える「……こんにちは、入須さん」
入須「千反田か、どうした急に」
える「お話があります。 お時間は大丈夫でしょうか」
入須「構わんが、ここでは出来ないのか?」
える「……ええ、付いて来てください」
私はそう告げ、古典部の部室へと向かいました。
文化祭が終わり、午後の授業に移り変わる前の休憩時間……あそこなら、既に誰も居ません。
私は古典部の教室前の廊下で立ち止まり、後ろから付いて来ていた入須さんの方へと振り返りました。
入須「ここまで来なければいけなかったのか、話とは何だ?」
入須さんは私が振り向くと、目的の場所に着いたと理解したのか、話の内容を聞いてきます。
える「……折木さんの事です」
私の話の主旨を聞き、入須さんは口に指を当てると……口を開きました。
入須「彼の事か、悪いな……特にこれと言って話せる事は無い」
える「……そんな訳、無いじゃないですか」
入須「……ふむ、と言うと?」
える「私は、見ていたんです」
える「入須さんと、折木さんが一緒に遊んでいるのを」
入須「……それで?」
える「……何故、何故ですか」
える「何故、折木さんなんですか」
入須「……それは返答に困る」
そんな訳、無いじゃないですか。 だって……あんな楽しそうに、笑っていたじゃないですか。
える「そう、ですか」
える「では、質問を変えます」
える「……急に折木さんと仲良くした理由はなんですか」
入須「君は、面白いことを言うね」
入須「私が一人の人と仲良くするのに、理由がいるのか?」
える「あまり、仲が良い様には今まで見えなかったからです」
入須「……なるほどな」
入須「確かに、その通りだ」
える「なら、理由はなんですか」
入須「それに答える義務が、私にあると思うか?」
ある程度、予想は元からできていました。
私なんかではとても、入須さんと口論になったとして勝てる見込みなんて無い事を。
ですが、これだけは……この事だけは。
える「……私は」
える「……私は!」
える「折木さんの事が、好きなんです!」
私がそう言ったとき、入須さんは何故か笑った様に見えました。
私にはそれが嘲笑っているかの様に見えて……
える「もう、折木さんと一緒に居るのを……やめてください」
辛くて、ここに居るのが、辛くて。
える「……お願いです」
自分でも、とても変なお願いをしているのは分かっていました。
入須さんが、折木さんの事をもし好きだったら、私は入須さんの気持ちを踏み躙っている事となります。
それでも、私は。
入須「君は、折木君と恋仲なのか?」
その質問に、私は……答えられません。
える「……」
入須「違うようだな」
入須「だから私はこう返す」
入須「君に、それを言う権利があるのかな?」
入須さんは私にそう告げると、私の返事を待っている様でした。
私にその質問はあまりにも重く、この場に……足で立っているのも、無理なくらいに。
最後の悪あがきに、入須さんの事を睨み、私は走って自分の教室へと向かいました。
あまり、人が居るところには行きたくない気分でした。
人気が無い階段で、壁に寄りかかります。
える「……私では、無理でした」
入須さんは、私から話があると聞いた時点で……どんな内容か分かっていたのかもしれません。
とうとう入須さんは最後まで涼しげな表情を崩さず、私の前に立っていました。
対する私は……今にも泣き出しそうな顔をしていたのかもしれません。
なんて、惨めなんでしょうか。
それでも入須さんには言いたい事を伝えました。
そして、入須さんの言葉は……折木さんとの関係を認める物でした。
もしかしたら、折木さんは入須さんと付き合っているのかもしれません。
それを私に伝えなかったのは、入須さんの最後の情けでしょうか。
ああ……やっぱり、私は惨めです。
だって、もう泣かないと決めたのに。
何回も、何回も何回も!
泣くつもりなんて、無かったんですよ。
本当です。
……少しの希望なんて持って、学校に来るべきでは無かったです。
そんな事を思い、涙を拭いながら階段の途中にあった窓から外を眺めました。
丁度、窓の外には一輪の花が咲いており、確か名前は……ガーベラ。
その花言葉は、辛抱強さ。
……なんて、皮肉なんでしょう。
私がどれだけ、辛抱して居たと思っているのでしょうか。 この花は。
あの花は私を貶める為に、咲いていたのかもしれませんね。
ついに私は、花にすら……嫉妬していたのでしょうか。
もう、どうでもいいです。
そんな自分が……なんだかちょっと、おかしくて。
える「ふふ」
える「……ふふ」
える「……う、うう…」
える「……うっ…ううう……!」
可笑しくて、涙が、出てきてしまいました。
一回止まったのに、可笑しなものです。
……色々と、吹っ切れました。
とりあえずは午後の授業に出ましょう。
後の事は、それから考えれば良い事です。
……そうです、そうしましょう。
それが、今私の選べる最善の選択だと……思います。
第24話
おわり
俺は、古典部の部室で一つの事を考えていた。
ここへ来た理由はなんとも情けなく、三年の先輩による使いっぱしりである。
なんでも……シャーペンを忘れたらしい。
断ろうかと思ったが、古典部の部員である俺はその先輩よりは確かに部室には入りやすい。
その先輩とは面識が無かったとは言え……仮にも先輩だ。 断るのも若干気が引けてしまったのだ。
そうして部室に来たのはいいが、半ば強制的に俺は思考する事となってしまった。
……まあ、いいが。
そして、その俺が考えている事に結論を出すには……少し、俺の記憶を巻き戻さなければならない。
あれは……確か、千反田と部室で話した後の事だった。
話の内容は、なんだっけか。 伊原と里志が揉めていたとか、そんな感じだった気がする。
だが今大事なのはそれではない、その後、俺が家に帰った後に起こった事だ。
奉太郎「……そりゃ、そういう顔にもなりますよ」
奉太郎「先輩が何故ここに来たのか、俺には検討も付きませんからね」
入須「ふふ、それも無理はないだろう」
入須「今日はね、一つ君に協力をしてあげようと思って来たんだよ」
怪しいな、これは……露骨に怪しい。
奉太郎「協力? また俺に探偵役でもやらせるつもりですか?」
入須「……君は随分と根に持つタイプの様だな」
そりゃ、どうも。
入須「少し、噂話を聞いてな」
入須「君の相談に乗ろうと、わざわざ足を運んだんだよ」
奉太郎「相談、ですか」
入須「ああ」
苦手な先輩が来て、非常に迷惑しています。 とでも相談してみようか。
……いや、やめておこう。
入須「そうか、なら私の勘違いだったかな」
入須「……千反田」
入須「千反田えるの事なのだが」
……こいつは、どこまで知っているんだ?
一つ、鎌でもかけてみるか。
奉太郎「ああ、あいつの事ですか」
奉太郎「確かに、それなら相談する事がありますね」
入須「……ほう、言ってみてくれ」
奉太郎「……あいつの好奇心を、どうにかする方法を教えてください」
入須「……く、あっはっは」
こうまで笑われると、俺の発言が馬鹿みたいで少し居づらいではないか。
入須「そんな事では無いだろう、君の相談は」
奉太郎「……言って貰ってもいいですか、俺はこれでも自分の事には疎いもので」
入須「……まあ、いいか」
入須「君は、千反田の事が好きなんだろう?」
……誰から、聞いたんだ。 一体こいつはどこまで知っているんだ。
入須「誰から聞いた、と言いたそうな顔だな」
入須「だが私は口を割る気は無い」
入須「まあ、少しだけヒントをやるか……君の家に押し掛けた様な物だしな」
入須「私にそれを教えてくれたのは、総務委員会の奴だ」
入須「ま、最初そいつに問いただしたのは私だがね。 傍目から見て、もしかしたらと思ったら案の定って訳だ」
入須「そいつはいつも、巾着袋を持っていたな」
……口が軽いにも、程があるのではないか。
よりにもよって俺が苦手な入須に、その事を言うとは。
今度、喫茶店でコーヒーを俺が飽きるまで奢ってもらおう。
奉太郎「あなたがどこから情報を得たかは分かりました」
奉太郎「それで、何を協力するって言うんですか」
入須「ほお、たったあれだけの情報で分かったのか」
奉太郎「……茶化すのはやめてもらえますか」
やはりこいつは、苦手だな。
入須「そうだな、本題に入るとするか」
入須「私は、女だ」
俺がそう言うと、入須は少し困ったような顔をした。
入須「千反田と同じ女だ」
奉太郎「だから、見れば分かりますよ」
入須「……君には回りくどく言っても、無駄か」
入須「女の私が、君と一緒に出かけてやろう」
……頭をどこかに、ぶつけてきたのだろうか。
奉太郎「言っている意味がよく分かりませんが……俺とデートでもするつもりですか」
入須「……デートか、それとは少し違うな」
奉太郎「もっと、分かりやすく話してください」
入須「そうだな……女という物は、サプライズに弱いんだよ」
奉太郎「そうですか、それで?」
入須「君が千反田に何かサプライズをすれば、彼女は大いに喜ぶとは思わないか」
ああ……そういう事か。
奉太郎「話の内容が見えてきました」
奉太郎「つまり、あなたはこう言いたいんですね」
奉太郎「千反田に何かプレゼントをあげ、千反田を喜ばせろ」
奉太郎「そして、そのプレゼントを女である私が選ぶのを手伝ってやる」
奉太郎「そういう事でしょうか?」
入須「……ある程度の情報が出れば、飲み込みが良くて助かるよ」
入須「そう、つまりはそういう事だ」
だが、何故急に……?
奉太郎「それをしようと思った理由は、何ですか」
奉太郎「俺にはどこかの総務委員見たいな趣味は持ち合わせていません」
入須「ふふ、そうか」
入須「……君と、千反田には恩があるんだよ」
奉太郎「恩、ですか?」
入須「……ああ、去年の映画の事は、覚えているだろう?」
奉太郎「ええ、勿論」
入須「……私には、ああするしかなかったんだ」
入須「と言っても、信じてくれるとは思っていない」
入須「その事への、せめてもの恩返しだと思ってくれればいい」
何か少し引っかかるな……
いや、俺は入須という人物を……少し大きく見すぎていたのだろうか?
そして俺は、女帝の……入須の笑顔を見てしまった。
それはいつもの入須からはとても想像ができない表情で、そんな入須をきっぱりと拒否するのも、なんだかあれだ。
最終的に千反田が喜ぶなら、まあ……いいか。
奉太郎「……分かりました」
奉太郎「入須先輩の恩返し、受け取る事にします」
入須「そうか、なら早速……明日、一度喫茶店で打ち合わせをしよう」
奉太郎「……はい」
入須「長居してすまなかったな、私はこれで帰るよ」
奉太郎「玄関くらいまでなら、送っていきますよ」
そうだ、あの日俺は……入須に協力して貰う事にしたんだった。
そして次の日には喫茶店で打ち合わせをして……土曜日に駅前で何が良いか話しながら店を巡っていた。
……千反田達には、バイトを始めたと嘘を言ったんだっけか。
あの入須と二人で出かけるなんて……絶対に言える訳が無い。
ましてや里志の奴、簡単に口を割りやがって。
勿論、千反田本人には当然言えなかった。
あいつの事だ、変に気になりますを出されたらアウトだからな。
次に思い出すべき事は……なんだ。
時間が無いな、急がねば。
ああ、あれだ。 その土曜日だ。
あの日は確か……喫茶店の前で、待ち合わせをしていた。
遅いな、遅いと言ってもまだ時間まで少しあるが。
それにしても……指定してきた場所が一二三とは、嫌な奴だ。
……いつまで待たせるつもりだ、そろそろ帰ろうか。
そんな事を考えながら、空を見上げた時だった。
入須「やあ、ちゃんと来たんだな」
突然、後ろから声が掛かる。
奉太郎「そりゃ、先輩にお呼ばれしたのに断る事なんて出来ませんよ」
入須「どうだかな、さて行くか」
俺はそのまま入須に付いて行き、駅前へと向かった。
道中は特にこれと言って会話は無かった、話す内容もある訳ではないのでそっちの方が俺には心地がいい。
意外と駅前から近かった様で、すぐに目的地へと到着する。
奉太郎「今日は、プレゼント選びでしたね」
入須「そうだ、まずはあそこへ行こうか」
そう言い、入須が指を指したのは服屋だった。
俺は特に意見も無かったので、黙ってそれに付いて行く。
入須「早速だが、君はどれが良いと思う?」
奉太郎「……と言われましても」
入須「ふふ、そうだな」
入須「これなんか、どうだろうか」
入須が手に取ったのはボーイッシュな服だった、ジーパンとシャツとパーカージャケット。
悪くは無いが……千反田のイメージでは無いだろう。
入須「……そうか? 私は良いと思うんだが」
奉太郎「あの、自分の服を選んでいる訳じゃないですよね」
入須「ああ、そうか。 今日は千反田の服だったな」
……大丈夫か、こいつに任せて。
入須「それならやはり、こっちだろうな」
次に入須が手に取ったのはワンピース。
ううむ、やはり千反田にはこっちの方が似合いそうである。
奉太郎「……やはり、そっちですよね」
入須「イメージ的にな、良く似合うと思う」
だが、待てよ。
奉太郎「今更なんですが、ちょっといいですか」
入須「ん? どうした」
奉太郎「……俺、あいつの服のサイズとか知りませんよ」
入須「君は、時々どこか抜けている所がある様だな」
入須「……場所を変えよう、頼むからしっかりしてくれ」
へいへい、すいませんでした。
心の中でしっかりと入須に謝り、俺は再びその後を付いて行く。
入須「次は、アクセサリーでも見てみるか」
そう言うや入須は既に、店の中へと入っている。
少し小走りになりながら、俺はそれに付いて行った。
入須「ふむ、色々とある様だな」
奉太郎「そうですね、どういうのがいいんですかね」
入須「基本的にはどれも嬉しい物だが……あまり重過ぎる物は駄目だな」
奉太郎「気持ち的にって事ですか」
入須「ああ、そうだ」
入須「例えば……この指輪とか」
確かにそれをプレゼントしたら、重いな。
入須「そんな物をプレゼントして、相手が喜ぶと君は思っているのか」
奉太郎「……いえ」
入須「なら口に出すな」
伊原よ、招き猫はプレゼントには向いてないらしいぞ。
入須「まあ、ここにある物ならどれでも嬉しいかな……私としてはだが」
入須「しかし、何より大切なのは気持ちだよ。 折木君」
奉太郎「……あなたからそんな言葉が聞けるとは思いませんでした」
入須「君は随分と私の事を勘違いしてないだろうか」
奉太郎「無いと思いますが」
入須「ここは候補としては、中々良さそうだな」
奉太郎「ええ、そうですね」
入須「さて、次はどこに行こうかな」
入須「適当に、周ってみる事にしよう」
その後、俺は結局夕方まで一緒に店巡りをした。
なんだかんだでプレゼントはその日、決まらなかった。
そう、土曜日は千反田のプレゼントを探しに行ってたんだ。
入須の意見は中々俺の参考になった。 なんと言っても俺は人の気持ちを考えない事が多々ある気がするから。
そんな俺にとって、入須の手助けは結構有難かった気がする。
……さて、まだ思い出さなければならない事はある。
あまり、思い出したく無いが……あれは。
水曜日、くらいだっただろうか。
記憶としてはこちらの方が新しいし、思い出すのに苦労はしないかもしれない。
あの日は確か……千反田が部活に来なくなって、三日目の事だったか。
……そう、あの日も千反田は部活に来なかったんだ。
にしても、なんだか今週に入ってからあいつらの様子がおかしい。
あいつらというのは勿論、古典部の部員達。
里志に関してはいつも通りに見えたが……どこか余所余所しい感じがしていた。
伊原は一向に俺と口を聞こうとしない。 全く、意味が分からない。
そして千反田……あいつが一番異常だ。
ほとんど毎日部活に出ていたのに、今週は一回たりとも来ていない。
何があったのかは分からないが、廊下等で時々……後姿は見ていた。
学校まで休んでいないと言う事は、何か忙しいのだろう。
それに口を出して問いただすことは、俺にはできない。
……家の事となってしまっては、俺にはどうしようもないからだ。
結局俺は一人で、古典部の部室で本を読むことになる。
先週は随分と入須に呼び出され、中々部活に来れなかったが……来てみればこれだ。
奉太郎「それにしても、誰も来ないとはな……」
思わず独り言が漏れてしまう。
今はまだ16時、今日は入須と予定が入っていた。
土曜日振りだったが、なんだか段々と面倒になってきてしまった。
もう俺一人でも決められる様な気がするが……折角手伝ってくれた人に対して、もういいですとは中々言えない物だ。
……最初から、自分でやればよかったか。
それにしても、する事が本当に無い。
千反田が来さえすれば、またあいつの話に付き合って時間を潰せたと言うのに。
……少し早いが、行くか。 ああ、面倒だな。
入須に場所はどこにするか聞かれ、俺が指定したのはここだった。
ここの喫茶店には少し、思い入れがある。
……あいつとは色々あったが……今考える事でもないか。
それより今は、入須との話し合いをどうするか、だ。
俺は手短なテーブル席に着き、入須を待つ。
約束の時間まではまだ時間があったが、俺が席に着いて少し経った頃、入須がやってきた。
奉太郎「どうも」
入須「待たせてしまったかな」
奉太郎「いえ、俺も丁度来たところです」
入須「そうか、なら良かった」
入須「にしても、いい店だな」
入須「次の日曜日は、ここで会おう」
。
奉太郎「それで、今日はなんのお話ですか」
入須「特にこれと言って、内容は考えていない」
奉太郎「……帰ってもいいでしょうか」
入須「まあそう言うな、たまには少し他愛の無い会話をしたい物だ」
奉太郎「友達とでは駄目なんですか」
入須「私の心の内を話すのには、友達では少し嫌なんでな」
奉太郎「そう、ですか」
俺はそう言い、頼んでおいたブレンドに口を付ける。
結構久しぶりに飲んだが、やはりうまい。
入須「……私はね」
入須「あまり、人の心を覗くのが好きではない」
奉太郎「試写会の時だって、俺の事を良い様に使ったじゃないですか」
入須「前にも言っただろう、あれは仕方なかったんだ」
入須「私は自分の意思で動いたのかもしれないが」
入須「同時に周りの意思でもあったのだよ」
入須「好き好んで人の心を……見たくはないさ」
その時の入須の表情は初めて見る物で、とても嘘を付いている様には見えなかった。
奉太郎「……すいません、俺は少し」
奉太郎「入須先輩の事を、勘違いしていたのかもしれません」
奉太郎「……そうですか」
そして入須も、店に入ったときに頼んだのだろうブレンドに口を付けていた。
入須「これは、美味しいな」
奉太郎「ええ、ここのブレンドは美味しいですよ」
入須「中々に気に入ったよ」
俺からは特に話す事も無く、少しの間の沈黙。
そんな沈黙が居づらく、俺は適当に言葉を繋ぐ。
奉太郎「俺が今思っている事は、分かりますか」
入須「……そうだな、恐らく」
入須「なんでこんな面倒な事をしなければいけないのか」
入須「と言った所か?」
入須「……あくまで推論さ」
入須「君の今までの言動や行動から、導き出しただけの事」
入須「さっきの私の言葉は、本心だ」
奉太郎「……では、俺の本心が分かった所でどうします?」
入須「ふむ、そうだな」
入須「あまり長居する必要も無い、帰ろうか」
奉太郎「……それは、非常にいい案だと思いますよ。 先輩」
入須「つれない奴だ、全く」
あの時、話した喫茶店はあそこだったか。
この今考えている事が終わったら、あの喫茶店に行こう。
だがまずは、このやらなければいけないことを片付けなければ。
俺は今、この大量の記憶をひっくり返して見直す事を面倒だとは思っていなかった。
理由は……なんだろうか。
いや、それよりもまだ思い出さなければいけない事はある。
時間があまり無くなって来た様だ、次に思い出すべき事……それは。
文化祭の二日目、か。
これを思い出さない限り、俺は結論へと辿り着けないだろう。
よし、やるか。
昨日は結局、千反田は来なかった。
予想が出来ていなかったと言えば嘘になるが……
もう既に時刻は昼、今日もあいつは来ないだろう。
本当に、家の用事なのだろうか?
あいつはとても文化祭を楽しみにしていたし、文集にも一番力を入れていた。
そんなあいつが参加を諦めるほどの事、そんな事があったのだろうか?
一度、会う必要があるかもしれない。
まあそれは後回しにするとして、今はこの状況が気まずくて仕方が無い。
部室で一人店番、と言う訳に今年はいかず……横には伊原が居た。
奉太郎「……何か俺がしたか」
摩耶花「……」
奉太郎「……はあ」
入須よりこいつの方がよっぽど面倒かもしれないな……
奉太郎「ま、いいさ」
奉太郎「どうせ話してもろくな事にはならないからな」
つい、毒づいてしまった。
それにようやく伊原が反応を示したのは……少し良い事だったかもしれない。
摩耶花「……折木は」
摩耶花「折木は、何を考えているの」
俺が、何を考えているか?
奉太郎「質問の意図が分からないんだが」
摩耶花「……そう、ならいいわ」
摩耶花「もうあんたと話す事は無い」
なんなんだこいつは、意味が分からない。
だが話す事は無いと言われてしまった以上、俺も話しかける気にはならなかった。
今日も最後まで、千反田は来なかった。
俺は今ベッドに横たわっているが……もう少しすれば、動かなければならないだろう。
千反田の家に行き、状況を知らなければ。
……一度リビングに行き、水を飲もう。
俺はそう思い、リビングに行くと姉貴と鉢合わせになった。
供恵「あら、あんたまだ制服のままだったの?」
奉太郎「ちょっと出かけるからな」
供恵「そ」
供恵「それより、最近元気がないねー」
奉太郎「別に、普通だ」
供恵「そうかしら?」
奉太郎「……何が言いたい」
奉太郎「全く、どっから聞いたんだ……そんな話」
供恵「私にはお友達がいっぱい居るのよ、沢山」
また里志か、そういえばあいつには入須に口を割ったことを問い詰めていなかったな。
まあ、文化祭が終わってからでいいか。 何かと忙しそうだしな。
奉太郎「付き合ってる暇は無い、ちょっと出かけてくる」
供恵「はいはい、気をつけてねー」
そして俺は、千反田の家へと向かった。
結果的に、あいつが出てきたから良かったが……
しかし、どうにも様子がいつもと違っていた。
何か、あったのかもしれないが……
家から出てきたと言う事は、出れなかった訳では無い。
つまり、あいつは自分の意思で出てこなかったのだろう。
そんな事実にまた、イラついてしまい……千反田にきつい言葉を浴びせてしまった。
帰り道は酷く後悔していたのを覚えている。
繋がった、な。
そして今も刻まれているこの記憶、これを合わせれば答えは出る。
しかし……俺は随分と馬鹿をしてしまったみたいだ。
ああ、くそ。
悩んでいても仕方が無い。 決着をつけなければ。
外の会話も、どうやら終わったらしい。
一人の廊下を走る足音が、俺の耳へと入ってくる。
それを聞いた俺は扉に手を掛けた。
その扉を開けようとした所で、向こう側から扉が開かれる。
入須「……盗み聞きとは、関心しないな」
奉太郎「……それはどうも」
奉太郎「入須先輩、少し時間を貰います」
奉太郎「終わりにしましょう、話があります」
入須「ああ、予想は出来ていた」
入須「場所を、変えようか」
第25話
おわり
うわぁぁ
わたし気になります!!!
Entry ⇒ 2012.10.22 | Category ⇒ 氷菓SS | Comments (0) | Trackbacks (0)
咲「いったい何者なの…コマキちゃん」
前回
京太郎「な、なんだこの生き物は?」鬼巫女「……」ビクビク
http://ssweaver.com/blog-entry-1749.html
前回のあらすじ
・小蒔ちゃんが霞ちゃんとケンカ
・小蒔ちゃん鬼巫女化して家出
・なんやかんやで京太郎のうちに居候
前回「ネトマで能力は使えないだろ」と指摘がありました マジそのとおりです
所詮SSってことで勘弁してください 何でもしますから!
京太郎「おはよう母さん、コマキは?」
京ママ「おはよう、掃き掃除をしてもらってるわ」
コマキ「~~♪」サッサカサッサカ
京太郎「母さん、コマキに何やらせてんだよ…」
京ママ「自分からやりたがったのよ?箒をもってうろうろするからお願いしたの、いい子よね~ あんたよりよっぽどお利口さんだわ」
京太郎「ほっとけ!」
京ママ「コマキちゃ~ん お掃除はその辺でいいから、朝ごはんにしましょう」
コマキ「!」テテテテ
京ママ「だとしても、お菓子だけ食べさせるのは不摂生でしょ ちゃんとお野菜もあげないと それに…」
コマキ「!」wktk
京ママ「この子、とにかく食べるの大好きみたいじゃない」
京太郎「まあ、確かに」
コマキ「!」テテテテ
ピトッ
京太郎「こらコマキ、俺は学校に行くんだから お前は家でおとなしく…」
コマキ「…」ショボン
京太郎「う…学校には小動物を連れていっちゃいけなくてだな…」
コマキ「…」ジーーー
京太郎「…部活の時間になるまでは構ってやれないぞ?いいのか?」
コマキ「…!」コクン
コマキ「!」パア
京太郎「万一誰かに見つかったら…ぬいぐるみのフリでやり過ごすこと、いいな?」
コマキ「!」コクン
京太郎(どうにも俺はコマキに甘えられると弱いな…)
京太郎「うーん これだと角がはみ出るな… まあいいか」
京太郎「いってきまーす」
咲「おはよう京ちゃん」
京太郎「おう、咲」
コマキ「…!」ピョコ
咲「わっコマキちゃん!? 連れてきたんだ?」
京太郎「くっついて離れてくれなくってな、ちゃんと大人しくしてるならって約束で」
咲「大丈夫だよね、コマキちゃん」ナデナデ
コマキ「~♪」
咲「へえ、すごいね!」
京太郎「あの調子が続いてればお前だって負かせそうだぜ 放課後楽しみにしてろよ!」
咲「ふふ、もうすぐ県予選だしね 京ちゃんが強くなってくれたなら私も嬉しいよ」
京太郎「すっかり上から目線になりやがって、調子に乗っていられるのも今だけだぞこいつ~」グリグリ
咲「あうう~ い、痛いよ京ちゃん…」
コマキ「…!」サクッ
京太郎「いでっ!な、なんだぁ!?」
咲「どうしたの京ちゃん?」
京太郎「たぶん…コマキの角が脇腹に刺さったんだな コマキ、気をつけてくれよ けっこうお前の角鋭いんだから」
コマキ「…プイッ」モゾモゾ
京太郎「潜っちまった ほぼ潜れてないけど」
コマキ「……」
咲「きっと京ちゃんがいじわるするから怒ってくれたんだよ ね、コマキちゃん」
京太郎「そうなのか? あのなコマキ あれは幼馴染のスキンシップってやつで…」
コマキ「…!」サクッ
京太郎「いてぇっ!」
咲「コ、コマキちゃん その辺で…」
コマキ「…」
京太郎「ふわぁ~ 眠い…昨日調子に乗って遅くまでネトマしてたからかな…」
京太郎「…ぐ~」
コマキ「!」クイクイ
コマキ「……」スラスラ ヒラ
先生「え~じゃあ次の問を 須賀、やってみなさい」
京太郎「ファッ!?は、はい」
京太郎(やべえ!全然聞いてなかった!)
京太郎「あ、あれ?えっと、x=4です…?」
先生「うむ、正解だ 寝ているように見えたがちゃんと聞いていたようだな」
コマキ「…」クイクイ
京太郎「ん?どうしたコマキ?」(小声)
コマキ「…」チラッ
京太郎「…外に出たいのか? さすがにそれは危ないんじゃ…」(小声)
コマキ「…!」グッ
京太郎「見つからないように行くって?」(小声)
京太郎「…気をつけて行けよ? あと食いもの盗んだりしないこと、遅くても昼には帰ってくること」(小声)
コマキ「!」ピョン カサカサカサカサカサカサ
京太郎「て、天井に張り付いていきやがった…スパイダーマンかあいつは」
コマキ「…」カサカサカサ スタッ
コマキ「…」ピッ
PC「ウィーン」
コマキ「…」カタカタ
PC「○月×日 鹿児島県○○市永水女子高校で女子生徒一人が行方不明になるという事件が………
家族や友人は安否を…………警察は捜査を…………」
コマキ「…」
コマキ「…」グスッ
コマキ「……」カタカタ
「天鳳」
コマキ「…」カチッ…カチッ…
PC「ツモ、1000,2000」
コマキ「!!」ガーン
霞(今日もマイナス…かわいそうだけど…おやつは抜きね…抜きね…きね…)エコー
コマキ「…」グスグス
??「誰かいるの?」ガチャ
コマキ「!!」ドヒューン
??「誰もいない…? あら、一台つけっぱなしじゃない」
??「天鳳?誰か遊んでたのね~ あら、ひどい点数」
コマキ「…」トテテテテ
京太郎「お、帰ってきたか 誰かに見つかったりしなかったか?」(小声)
コマキ「…」コクン モゾモゾ
キーンコーンカーンコーン
京太郎「お、ちょうど昼だな 部のみんなと食うって約束してるんだ 売店でメシとお菓子買っていくぞ」
コマキ「…」
京太郎(元気がないな…?お菓子って聞くとテンションあがるのに)
京太郎(もっとコマキの考えてること分かってやれたら…こいつが何者なのか分かるのかな…)
巴「霞さん インハイの出場選手の登録 済ませてきました。」
霞「ありがとう、ごめんなさい巴ちゃん 本来なら私の仕事なのに…」
巴「気にしないで下さい、お話したとおり姫様は先鋒に入れておきました 一応補欠も…」
霞「ええ…」
初美「きっと姫様もすぐ帰ってきてくれますよー 私たちは私たちにできることをしましょう! さあ、練習ですよー!」
霞(皆が気を使ってくれてるのに 駄目ね…本当なら私がしっかりしないといけないのに)
霞(小蒔ちゃん…)
巴「はるる?」
ガチャ…
良子「グッドアフタヌーンですー」
霞「あ、あなたは…」
初美「戒能プロ!?」
良子「お久しぶりです皆さん、ハルも大きくなったね」ナデナデ
春「お姉ちゃん…」ギュッ
初美「シャーマンの王になるために修行中って聞きましたよー?」
良子「ないないノーウェイノーウェイ ハルから大まかな事情をきいてね
一大事だそうで 行方不明のお姫様を探す手伝いをして欲しいとか何とか」
初美「はるるが前に言ってたのって、戒能プロのことだったんですかー」
霞「お手伝いって…」
良子「捜索透視はイタコの十八番 とりあえず お姫様の私物や写真があると一層詳しく調べられますよー」
霞「す、すぐにお持ちします!」パタパタ
初美「い、イタコって…信用していいんですかー?」
春「的中率…10割…」
初美「す、すごいですねー」
春・良子「それが自慢」ニコ
優希「部長たちはまだ来てないようだじぇ」
和「今メールで連絡が、学生議会で少し遅れるそうです。
今日は大会の出場登録に行く予定だからすぐ出られるよう準備しておくように、だそうです」
京太郎「そうだったな でも準備といっても用意するものはあまりないし、部長たちがくるまでちょっと打たないか?」
優希「おーぅ、ノリノリだな京太郎!」
優希「ふん!調子こいた飼い犬に躾をするのは飼い主の義務だじぇ、身の程を教えてやるじょ!」
京太郎「上等だぜ!吠え面かかせてやるよ!」
和「それじゃあすぐ終われるよう東風戦にしましょうか」
優希(クックック 東風戦とは好都合だじぇ! 殲滅してくれるわ!)ギラーン
京太郎「ぐわー!また優希かよー!」
咲「やっぱり東場の優希ちゃんはすごい…」
和「くっ……」
優希「はっはっは、ちょろすぎるじょ犬!吠え面かかせる前にこの笑いを止めてほしいもんだじぇ!」
京太郎「くぅ~~っ!」
京太郎「そ、そうだよな…」
コマキ「……」クイクイ
京太郎「コマキ、まだ慰めるのは早いぜ 昨日だって大逆転できたんだ ここからまくってやるさ!」
コマキ「……グッ」ピョン
京太郎「おう、応援しててくれよコマキ!」
コマキ「…!」ペカー
咲「…!?うっ!!げほっげほっ!」ガタッ
和「み、宮永さん!?優希!?大丈夫ですか?」
京太郎「ど、どうしたんだ?いきなり立ち上がったりして」
咲「ご、ごめんね 大丈夫だよ、大丈夫…」スッ
和「それなら、いいんですが…」
京太郎「なんかよくわからんが…無理すんなよ?」
咲(い、今の…お姉ちゃんみたいな感じ…)ブルッ…
優希(今…京太郎の方から咲ちゃんみたいな感じがしたじぇ…)ドキドキ
コマキ「…」
優希「よ、四本場…」カチッ
京太郎「ダブルリーチだ!」
三人「!?」
優希「そ、そういうのは私のお株だじょ…」パシッ
咲(やっぱり、気のせいなんかじゃない…!)パシッ
和(……)ピシッ
京太郎「来た!ツモだ!」
三人「!?」
京太郎「えーっとダブリー一発メンタンピン…?あとドラ2!倍満!4000、8000か?」
和「須賀くん、4本場ですから4400,8400です」
京太郎「あ、そうか サンキュー和」
コマキ「…!」
京太郎「ありがとなコマキ、お前の応援のおかげだぜ!」ナデナデ
コマキ「♪」
京太郎「へへ、どうだろうな 昨日もいきなりでかいのが来てその後ずっとバカヅキ状態だったんだ ほんとに逆転しちまうぞー」
咲「わ、私が親だね…」カチッ
コマキ「…!」ペカペカー
咲(!!さ、さっきよりもずっとすごい…!?いや…!ここにいたくない…!!)カタカタ
優希「な、なんか体が震えるじぇ…」カタカタ
和「…ッ」ブルッ
久「はーい、皆おまたせー!連絡したとおり出場登録に行くわよー」
まこ「ほれ立った立った、議会で時間食っちまったからのう、急がんと!」
咲「ぶ、部長…」ハア…ハア…
コマキ「…!」ピョン テテテテ
久「あらコマキちゃん 須賀くんに連れてきてもらったの?」
京太郎「あー、時間切れかー!せっかくここから大逆転するつもりだったのに」
和「須賀くん、ダブリーなんて運要素しかない役ですよ
実力ははっきり言ってまだまだなんですから慢心しないようにしてください」
和「そんなオカルトありえません」
京太郎「えー?」
優希「そんな豪運は京太郎にあるはずがないじぇ とにかく行くじょ!」
久「なになに、何の話ー?」
京太郎「実はですねー、昨日からすごく調子がよくてー」
コマキ「…」テテテテテ
ガヤガヤ
咲「さっきの嫌な感じ…ほんとに京ちゃんが…?」
咲「ううん、今のはたぶん…」
咲「あ… 東二局の京ちゃんの配牌、伏せたままだ…」
咲「…」ドキドキ
チャッ
咲「こ、これ…!?」ゾクッ
咲「うっ…うぐっ…」ヨロ…
咲「ツモ牌は…」
咲「だめ…怖くて開けない…」
咲「…! う、うん 今行くよ!」アセアセ
咲(い、一体何者なの…)
咲(コマキちゃん…)
霞「…」
初美「戒能プロ…見つけてくれるでしょうかー?」
春「お姉ちゃんはすごい人…きっと大丈夫」
巴「奥の部屋にこもりっきりですけど なにをしてるんでしょう…」
初美「そりゃあイタコっていうくらいですから霊を降ろして対話して見つけ出すんですよー!」
巴「いやいや、もしかしたら地図の上にペンデュラムを垂らしてダウジングかもですよ!」
???「あら~、もしかして良子ちゃん?久しぶり、大きくなったわね~」
良子「久しぶりでもないですよ?三日くらい前に呼んだのお忘れですか?」
???「そうだったかしら?一年ぶりくらいだと思ってたわ~ 幽霊になるとどうも時間の感覚がおかしいのよね~」
良子「…早急に調べたいことがありまして、協力をお願いしたいのですが」
???「おまかせあれ! 娘を見守ってばかりってのも退屈だったしね~
あーそうそう聞いて~ うちの娘たちがね、麻雀のインハイ出るって今頑張ってるのよ~」
なるほどなるほど
なるほどー
???「千里眼ね~なるほどなるほど~ この子もなかなかのおもちをお持ちね~
うちの娘のチーム、いい子たちなんだけど~どの子もおもちが物足りないのよね~」
良子「塩かけますよ?」
???「きゃ~やめてやめて、真面目にやりますから~」
良子「…まったく」
良子「どうぞ 国内でいいですよね」
???「ええ、 ん~~~~~~~~…」
???「…ここ?」
ぷにょっ
???「ん~ただ大きいだけじゃない、はりのあるいいおもちね~ 若いっていいわね~」プニョプニョ
良子「……」バサーーーッ
???「キャーちょっとしたジョークよジョーク!熱い熱い!塩はやめてー!!」
良子「今度やったら問答無用で祓いますので」
???「うっ…うっ…冗談の通じない子になっちゃったわね良子ちゃん…」
良子「…長野…ですか?そんな遠くに?」
???「うん、長野の~この辺かなー」グリグリ
良子「ずいぶんピンポイントですね、根拠は?」
???「うん、その探してる子って、たしか永水の神様降ろす子よね~
この辺からね、神通力っていうの?すっごい力をビンビン感じるのよね~」
???「大丈夫だと思うわよ?ただ…」
良子「ただ…?」
???「さっぱりおもち力を感じないのよね~ なんでかしら この写真、フォトショで加工とかしたの?」
良子「ノーウェイノーウェイ、別人という可能性は?」
???「ノーウェイノーウェイ~ さっきも言ったけどこれほど強い力は間違えようがないもの~」
良子「…有力な情報を頂けました ありがとうございました 松実さん」
松実「どういたしまして~ それじゃあ報酬に良子ちゃんのおもちをもう少し揉ませて…」ワキワキ
良子「…」塩ファサー
松実「あぁ~~」ジュワァ~~
良子「と、いうわけで 探し人は長野にいるそうです」
初美「ず、ずいぶん遠くですねー」
霞「無事なんですか!?小蒔ちゃんに何かあったら私…!」
良子「…安心して、息災なようだよ」
霞「よかった…小蒔ちゃん…」ヘタッ
初美「よかったですねー霞」ナデナデ
巴「しかし、どうして長野になんて…」
良子(どんな状況に置かれているかは分からないけど、不安にさせてしまうことはわざわざ言うことはないでしょう)
春(よかった…)ポリポリ
巴「か、霞さん…?」
霞「長野に行きます…」
巴「言うと思いました、県予選は十日後なんですよ?」
霞「それまでに、必ず小蒔ちゃんを見つけてくるわ」
巴「警察に任せるというのは…」
霞「証拠もないのにいきなり長野なんて、警察が信じてくれるかしら?」
巴「ですが…」
霞「お願い、巴ちゃん…小蒔ちゃんに謝らないといけないの…私が行かないといけないのよ…」
巴「必ず、県予選の前に帰ってきてください 姫様もつれて」
初美「大丈夫ですよー もし霞まで予選に出られないとしても私が大将に回さず終わらせてやります!」ムンッ
春「…二人の留守は私たち三人が預かる」
霞「ありがとう、皆…」
春「…お姉ちゃん?」
良子「長野にいらっしゃるプロ雀士の先輩に連絡しておいたよ
長野までは私が送っていくから向こうにいる間はその人の世話になるといい」
霞「戒能プロ…何から何まで…ありがとうございます」
良子「本当は最後まで面倒みてあげたいんだけどね さて、出発は?」
霞「今すぐに」
霞(待っていてね、小蒔ちゃん…)
巴「戒能プロ、すごく頼りになるじゃない いいお姉さんね、はるる」
春「それが自慢…」ニコ
久「みんなお疲れ様、出場登録は無事終了ね」
久「明日の休みから合宿だから集合には遅れないように、それじゃあ解散!」
和「それじゃあ帰りましょうか」
京太郎「あーあ、それにしても残念だ」
優希「どうした?犬」
京太郎「団体戦さ、うちは男子部員が俺一人だから個人戦しか出られないんだぜ?」
和「確かに、団体と個人で全国へ行くチャンスが私たちには二回あるということですが…」
優希「ないものねだりは見苦しいじょ犬!自分に与えられたチャンスを最大限に生かすよう努力するのだ!」
咲「そうだよ京ちゃん 個人戦に自分の持てる力を全力でぶつけよう?京ちゃん毎日頑張ってるもん きっといい結果出せるよ」
京太郎「うーん まあ今の俺なら全国優勝だって夢じゃなさそうだしな!きっと大丈夫だ!」
咲「えっと…」
京太郎「コラ咲!そこはノるところだろうが!励ましてるんじゃないのかよ」グニグニ
咲「あうぅ…痛いよ京ちゃん…」
咲「あ、うん じゃあね原村さん」
コマキ「…!」フリフリ
和「コマキちゃんも、また明日」
優希「よし、犬!私たちも行くじょ!またな咲ちゃん!」
京太郎「おう、じゃあな咲 また明日」
咲「あ!あの!京ちゃん…!ちょっと…二人でお話いいかな…?」
優希「じょ?」
コマキ「?」
咲「優希ちゃんごめん、いいかな?」
優希「ふむ、それじゃあ私は先に帰ってるじょ!また明日な!」
咲「うん、じゃあね!」
京太郎「?」
京太郎「ん?」
咲「昨日京ちゃん、ネット麻雀ですごく調子がよかったって言ってたよね…?」
京太郎「おう、なんだ?俺の暴れっぷりをもっと聞きたいってか?」
咲「ううん、その時って…もしかしてコマキちゃんが膝に乗ってた?」
コマキ「…!」
京太郎「コマキが…?なんでそんなこと… ああ いたよ、確かに」
京太郎「?」
咲「今日、部室で少し打った時も、京ちゃんのダブリーが決まったのはコマキちゃんが膝に乗ってから…だったよね?」
京太郎「た…確かにそうだけど…咲、何が言いたいんだ?はっきり言ってくれよ」
咲「えっと……もしかしたら…京ちゃんが麻雀ですごく強かったのは…コマキちゃんの力のおかげなんじゃないかな…って…」
京太郎「そ、そんなまさか…」
咲「ダブリーの後の東二局、部長たちが来てお開きになったけど…
あの後伏せてあった京ちゃんの配牌を見てみたの…そしたら…清老頭一向聴だった…」
京太郎「チ、チンロウってたしか…」
咲「老頭牌、一と九だけで作る役満だよ」
咲「普通の打ち手だった京ちゃんにいきなりこんな豪運が宿るとは思えないの…個人戦の前に、確認しておきたくて…」
京太郎「…俺が昨日から好調だったのは、お前の力のおかげだったのか?コマキ」
コマキ「…」コクン
京太郎「………そっか…強くなれたと思ってたのは…俺の勘違いか…」
咲「京ちゃん…きっとコマキちゃんは…負けてる京ちゃんを元気づけたくて…」
咲「怒らないであげて、ね?」
コマキ「…」ビクビク
京太郎「…すごいんだなコマキは! 本当に何者なんだ?咲にカン材が集まるのと同じようなもんなのかな?」ナデナデ
コマキ「…」シュン
京太郎「そんな顔するなよコマキ、お前はただ負けてた俺を助けたくて力を分けてくれただけだ、悪気はなかったんだろ?」
コマキ「…」コクン
京太郎「ならいいさ、俺がコマキの力だって気付かずにうかれちまっただけの話だよ」ナデナデ
京太郎「自分の持てる力を出し切って戦ってこそ麻雀ってのは楽しいんだもんな そうだろ?咲?」
コマキ「…!」
咲「…そうだよ、頑張ろう!予選までまだ時間はあるんだから!京ちゃんも私もまだまだ強くなれるよ」
咲「?」
京太郎「部のみんなに偉そうに啖呵切っちまったよ!個人戦では勝利を手土産に帰ってきてやるとか何とか!」
咲「そ、それは…勘違いだったし仕方ないんじゃ…理由を話せば…」
京太郎「いや駄目だ!今更勘違いでしたって撤回するなんて男としてかっこ悪すぎる!
部長なんて『期待してるわね須賀くん(はぁと)』なんて言ってくれたんだぞ!」
咲「え、えっと…」
咲「えっ」
京太郎「ヒマだよな!どうせ帰っても本読むだけだもんな!」
咲「ひ、ひどいよ京ちゃん…人を本以外趣味のない女みたいに…」
京太郎「ん?なんかやることでもあるのか?」
咲「……ないけど」
京太郎「じゃあ俺ん家こい!麻雀指導してくれ!」
咲「えぇ!?今から!?」
京太郎「あぁ、いいよな?」
咲「で、でもこんな時間に男の子の家にあがるのはちょっと…なんていうか…」ゴニョゴニョ
咲「わっちょっ…!引っ張らないで」
コマキ「…!」テテテ
京太郎「お、コマキも教えてくれよ!すっげー力持ってるんだから当然強いんだろ?ただし力を貸してくれるのは無しな!」
コマキ「…!」コクコク
京太郎「目指すは個人戦全国だー!」
咲「分かったから引っ張らないで~」
咲「うん そう、河を見ればホンイツにしたくても2,3sがもう使えないのが分かるよね」
京太郎「おう、なんかだんだん相手が何を狙ってるかも分かってきたぜ お、字牌だ ポン!」
京太郎「よし、ロン!えっとホンイツ役牌ドラ1 7700だ!」
咲「やったね京ちゃん!」
京太郎「ん?どうしたコマキ?」
コマキ「…!」フンッ
咲「もしかして、やりたいんじゃない?」
コマキ「!」コクコク
京太郎「えっでもコマキ、謎パワーで勝ちあがっちまうんじゃ?」
コマキ「…!」フルフル
咲「京ちゃん、やらせてあげなよ」
コマキ「…!」フン゛ン゛ー
咲(あれ?部室で感じたような嫌な感じが全然しない?)
咲「あっ コマキちゃんそれ!」
PC「ロン、トイトイ、役牌2」
コマキ「…!!」ガーン
京太郎「あ、あれ?」
京太郎「な、なに、気にするなよ たまにはこういうことだってあるさ」
コマキ「…」クルッ
咲「もしかしてコマキちゃんって 不思議な力を使わないで打つのは得意じゃないのかも…」
コマキ「……」コクコク
京太郎「そ、そうなのか…意外だな」
コマキ「…」ジーッ
咲「な、なにかな…コマキちゃん?」
京太郎「はは、わかった コマキも咲に麻雀教えてほしいんだよ きっと」
咲「そ、そうなの?」
コマキ「…!」コクコク
京太郎「いいじゃないか 生徒が一人増えたところであんまり変わらないだろ?」
咲「う、うーん」
京太郎「頼むぜ咲先生!できの悪い俺たちを大会でも勝ち抜けるように鍛えてくれ!」ぺっこりん
コマキ「!」ペッコリン
咲「わ、わかったから 先生って呼ばないで!頭上げて!」
京太郎「悪かったな、夜中まで付き合ってもらって」
咲「ううん、そっちこそ わざわざ送ってくれなくてもよかったのに」
京太郎「まあ、これくらいはな な、コマキ」
コマキ「!」フリフリ
咲「うん、また明日ねコマキちゃん」
京太郎「それじゃあな 明日寝坊すんなよ!」
咲「だ、大丈夫だよ お父さんに起こしてもらうから! もうっおやすみ!」
京太郎「おやすみー!」
コマキ「…」トテテテ ポテッ
京太郎「あーまてコマキ 眠いだろうがベッドインはまだ我慢しろ、風呂に行くぞ」ガシッ
コマキ「~~っ!!」ジタバタ
京太郎「コラッ暴れるな、風呂はいらずに寝たら明日におうぞ!」
コマキ「~~~っ///」
京太郎「まったく、コマキはいい子なのに風呂だけは必死に抵抗するよなー」スタスタ
コマキ「~~~っっ!!」
コマキ「……」
京太郎「しかし、意外だったよ コマキが不思議な力を使わないと俺と同レベルだったとはなー」
京太郎「一緒に強くなろうなーコマキー そんで大会では応援してくれよー」
コマキ「…!」コクッ
京太郎「さて、十分あったまったな まず頭洗おうなー」ザバァッ
コマキ「~~~~っ!!!」サクッ
京太郎「アッーーーー!!!」
コマキ「…」プイッ
京太郎(うーん ちんちくりんなくせに一丁前に恥ずかしがってんのか?ちんちくりんのくせに)
京太郎「よし、乾いたぞ」
コマキ「…」トテテテ ポテン
コマキ「Zzz…」
京太郎「…寝付きのいい奴だ」
京太郎「おやすみ、コマ…」
小蒔「Zzz…」
京太郎「!?」ガタンッ
コマキ「Zzz…」
京太郎「い、今…コマキが超絶美少女に見えた…!?幻覚か…!?」
ひとまずカン!
ひとまず終わります
前回から長いこと待たせてしまってすみませんでした
しかしこれからどう話を着陸させればいいのか…
ちょー乙だよー!
コマキちゃんかわいい咲ちゃんかわいい京ちゃんいいやつ
乙乙
Entry ⇒ 2012.10.22 | Category ⇒ 咲-Saki-SS | Comments (1) | Trackbacks (0)
愛宕洋榎「はいらっしゃいらっしゃい、美味しいたこ焼きやでー」
由子「お好み焼きもありますよー」
絹恵「あ、そこの人どうですかー」
洋榎「おっようみたらそこにおるんは清澄の中堅やないか」
久「え?あら?あなた達……」
洋榎「どや?よかったらたこ焼きかお好み焼き買ってかへん?」
久「というかあなた達、どうして会場の近くでこんな事を?」
洋榎「いやーあんたらに姫松が負けてしもうたやん?」
久「え、えぇ……」
洋榎「そしたら代行……あ、監督の代行な?」
洋榎「代行が帰りの電車代は自分たちで稼げとか言い出しおって」
洋榎「屋台も突貫で作ったんやわーお陰で漫と恭子は今ぐったりしてるわ」
久「そ、そう……」
洋榎「そうか?まぁそれはええけど、私らを少しでも助けるつもりで買ってかへん?」
絹恵「今ならサービスしますよ」
洋榎「あーもうしゃあないなぁ、本当はたこ焼き8個のところをメンバーが1個ずつ食べられるように10個にしたるわ」
洋榎「どや?買わへん?」
久「え?あ、じゃあいただくわ」
洋榎「300万になるでー」
久「え、えっと300円ってことでいいのよね?」
洋榎「まいどおおきにーありがた山のとんびからすやでー」
洋榎「あ、そうそううちの学校倒したんやで優勝せな許さへんでー」
久「ふふっありがとう」
久「いやー実はうちの部員って6人なのよ、それに同室に他校が3人いたりして」
洋榎「こっちも帰りの費用がかかってるのにまだサービスせいってかー冗談きついでほんま」
久「あぁ、そうじゃなくて後3つたこ焼きを購入してもいいかしら?」
洋榎「おっほんまか?よっしゃ、じゃあサービスもしたらなあかんなぁ」
洋榎「たこ焼き3パックサービスつけて頼むわー」
由子「ちょっとまちいよー」
洋榎「爪楊枝は何本いるんや?」
久「そうねぇ、6本もあれば使いまわせるわ」
洋榎「6本やな?いれとくでー」
絹恵「美味しかったら他の方にも薦めたってください」
久「えぇ、ありがとう」
絹恵「ありがとうございましたー」
恭子「まだまだ目標金額は遠いですわ」グター
洋榎「ほんまか!結構売れてる思うんやけどなぁ」
漫「主将がサービスやサービスやいうてたこ焼き多く入れてるからやないですかー」グテー
洋榎「しゃあないやろ、サービスは大切やで!」
洋榎「それより恭子と漫もそろそろ働かんかい」
恭子「屋台作りで寸法とかわからへんってほとんどやったん私やってのに……」
漫「私も手伝いましたやん末原先輩……」
絹恵「じゃあ私がいくわ」
洋榎「じゃあタコとあの例の白い粉を頼むで絹」
絹恵「あの例の白い粉やね?わかったわ」
洋榎「とびっきりの頼むで?」
絹恵「まかしといてぇお姉ちゃん、私ほど白い粉に詳しい人おらへんで」
由子「そう言う危ない発言はやめんかい」
洋榎「おっこれはまた長野の面子やな」
衣「ん?衣達を知っているのか?」
洋榎「対戦校の県大会の相手ぐらい調べるのが当然やろ」
衣「おおっよく見ればお前は清澄と戦っていたやつだな」
洋榎「にしてもほんまちっこいな、子供やん」
衣「衣を子供扱いするな!」
洋榎「おおっと怒らんといてぇ可愛らしいって意味で言うたんや」
洋榎「せや、たこ焼きかお好み焼き買ってかへん?いまならサービスすんで?」
衣「本当か!」
洋榎「ほんまやほんま、そうやなぁ、お好み焼き4パック買ってくれたら1パックサービスしたるわ」
洋榎「そしたらお得な値段で他のメンバーと食べれるで」
純「って姫松!?」
洋榎「お、ちっこいのの仲間やん」
恭子「ひぃ!?」
純「え?何?なんかしちゃった?」
洋榎「あー気にせんといたって、ちょっと今背の高い女性と胸のでかい女性が怖いらしいんやわ」
恭子「……」カタカタ
洋榎「で、お好み焼きとたこ焼き買わへん?」
衣「とーか達と食べよう!」
純「っても今手持ちの金がそんなに……」
衣「ハギヨシ」
ハギヨシ「はっ」
洋榎「お、おぉ……びっくりしたわ……」
由子「ほんまか!」
洋榎「……由子、サイフの中に千円札とかあるか?」
由子「もうないよー」
洋榎「まずいで、絹恵にお金持たせて行ってもろたでお釣りがないで……」
漫「私もないですわ」
ハギヨシ「お釣りが出ないように払う準備はできておりますが、おいくらでしょうか?」
洋榎「おお、客なのになんて腰が低いんや……こういう客やったら神様って崇めたくなるで」
由子「ほんまやわー」
純「あ、すんません、衣は子供なんで辛くし過ぎないように頼める?」
洋榎「任せとき、この秘伝のソース調合でやな」
由子「市販ソース混ぜてるだけやん!」
衣「その前に衣を子供扱いするなー」
洋榎「こんなもんやな」
衣「おぉ、ソースたっぷりだ」
洋榎「子供は口周りにソースべったりが定番やでちょっと多めに塗ってもうたわ」
純「あー確かに子供な衣に似合いそうだわ」
衣「ジュンー何度いえばわかるんだー」
洋榎「後はいっぱい買ってくれたサービスでお好み焼きパック一つにつき1個たこ焼きもサービスやで」
衣「うわー」
洋榎「子供は笑顔が一番やで」
衣「だ、だから子供扱いするなー」
漫「美味しかったら周りにオススメしたってください」
由子「ありがとうなのよー」
恭子「……」カタカタ
洋榎「あかん、恭子のトラウマが完全に再発してもうた……」
由子「ほら、もうおらへんよ」
恭子「あ、す、すんません」
洋榎「負けたんは恭子のせいやないんやから気にせんでええって」
洋榎「それより今は帰りのために稼ぐでー」
洋榎「お、じゃあそこに材料置いといてぇ」
怜「たこ焼きのええ匂いがする……」
竜華「へー本場の味やて」
洋榎「あ、すんません、営業妨害しないでもらえますか?」
竜華「営業妨害してへんわ!」
洋榎「なんで千里山がくんねん」
竜華「怜は何食べたい?」
怜「たこ焼きやな、お好み焼きよりたこ焼きの方が美味しそうやわ」
洋榎「1個300万になりますわ」
竜華「高ない?もうちょいまけれへんの?」
洋榎「こっちももっと安く提供したいんやけど難しいんやわ」
竜華「250」
洋榎「300や」
竜華「260」
洋榎「……」
竜華「280」
洋榎「あーもうわかったわ!280でええわ!」
竜華「おおきに」
怜「さすが竜華やなぁ」
由子「主将が負けたのよー」
竜華「おおきに、怜と食べさせてもらうわ」
洋榎「もうこやんでええからな」
竜華「美味しかったらメンバー全員で買いに来るわー」
怜「ほな」
洋榎「300円予定のものを値切られて支払いで300円だされるなんてなんちゅう敗北感や……」
絹恵「お姉ちゃん気を落としたらアカンで」
恭子「清水谷竜華が園城寺怜とおる時は要注意やで」
洋榎「普段もっと天然ボケやったやろあいつ……」
洋榎「お、また清澄か、ええでーどんどん作るでー」
絹恵「あ、大会ではどうもでした」
和「あ、いえこちらこそ」
優希「へい親父、タコスはないのか?」
洋榎「親父ちゃうわ!あとタコスはないわ、たこ焼きならあるで」
優希「まぁタコがつくなら私のパワーになるから我慢してやるじぇ」
洋榎「生意気な事言うてくれるわ」
咲「でもとっても美味しくて部長も風越の人からも大好評でしたよ」
和「というか大好評でせっかくだしまた買ってこようって事になってきたんですけどね」
洋榎「おっリピーターは大歓迎やで、いつもよりサービスしたらなあかんなぁ」
恭子「あ、あぁ……」カタカタ
由子「トラウマの3人のうち一人+胸が大きい人なのよー」
漫「こ、これはほっといてぇ」
優希「きになるじぇ……」
恭子「めげるわ……」カタカタ
由子「ちょぉ、恭子も働いてもらわんとうちら帰れへんて」
洋榎「2つずつやったな、ちょいまっといて、お好み焼き係がちょっとトラウマ思い出して作れへんで」
洋榎「由子、頼むわ」
由子「わかったわ、じゃあ恭子は漫ちゃん頼むで」
漫「あ、わかりましたわ」
絹恵「ドタバタしてるもんで待たせてしまってすんません」
和「あ、いえ、出来立てのほうが美味しいですし、かまいませんよ」
洋榎「とびっきり旨いの作るでなー」
洋榎「せやろーさすがやろー」
優希「普通こんな事させるような監督いないじぇ」
絹恵「まぁ言われた時は驚いたけどやってみると楽しいもんやわ」
由子「帰りの心配がなければもっと楽しいと思うのよー」
洋榎「まぁ何にせよ負けは負けや、勝ったあんたら応援してるで優勝頼むで」
由子「優勝したら一番の強敵は姫松って答えといてぇな」
恭子「あかん……」
漫「そうやで末原先輩、めげたらあかんで」
恭子「やっぱめげるわ……」カタカタ
優希「それにしても元々サービスしてくれていたのをさらにサービスしてくれるなんてなかなかだじぇ」
洋榎「さすがやろー」
絹恵「熱いうちに食べえや」
咲「それじゃあ頑張ってください」
洋榎「ありがた山のとんびからすやでー」
由子「帰る途中で転んでも商品返品は不可やでー」
漫「末原先輩、もう行きましたから大丈夫ですて」
恭子「あ、うん、ありがとうな漫ちゃん……」
恭子「やっぱ主将がノリでサービスしすぎですわ」
恭子「一人帰る分じゃなくて全員帰る分なんやで主将」
洋榎「そ、そういうてもやっぱサービス精神は重要やろ」
絹恵「ま、まぁまぁこれでいろんな人が大阪きてくれたらええなってことでええですやん」
漫「この調子で帰れるんかなぁ」
洋榎「余計なことをいう漫はデコペンやな」
漫「あ、す、すんません主将」
洋榎「許さへんで、絹!ペン貸したって」
絹恵「ちょいまってぇな」
由子「これで末原まで書けたな」
洋榎「あとは恭子やけど漫ちゃん次第やな」
恭子「な、なに書いてるん!」
洋榎「いやだって……なぁ?」
由子「なぁ?」
洋榎 由子「恭子の名前書いてったら面白そうやん」
絹恵「息ぴったりや」
恭子「そんな事で息合わせやんといて!」
絹恵「うちが変わるわ」
洋榎「頼んだわ絹……」
由子「主将はずっとたこ焼き焼いてたから暑いに決まってるのよー」
洋榎「皆暑いやろうし飲み物買ってくるわ」
恭子「お願いしますわ」
洋榎「5本適当に……」
宥「温かい飲み物あったよー」ピッ
ガコン
洋榎「この暑さのなかでなんで温かい飲み物やねん!」
洋榎「っていうかなんでマフラーとかしてんねん」
宥「あ、あわわわわわ」
洋榎「あ、すんません思わず突っ込んでしもうたわ」
宥「で、でも暖かいのはいいんですよ」
洋榎「……もしかしてものすごい寒がりなん?」
宥「あ、はい」
洋榎「うーん、せや!」
洋榎「あっつい食べ物食べとうない?」
宥「え?え?」
洋榎「この先のところでうちと仲間でたこ焼きとお好み焼き売ってるんやわ」
宥「あ、でも他の皆が……」
洋榎「他に人がおるなら是非一緒にきたってぇ!」
宥「は、はい」
洋榎「って冷たい飲み物探さへんと……ほな後でなー」
由子「ひんやりしてるわ―」
絹恵「ありがとうお姉ちゃん」
漫「ありがとうございます主将」
恭子「熱中症対策は大切やってこの暑さやと実感するわ」
宥「あ、その……暖かいものって聞いたから……」
玄「お姉ちゃんが言ってたのはここなんだ」
穏乃「あ!清澄と戦ってた姫松の人!」
憧「え?あ、本当じゃん!」
灼「どうしてたこ焼き屋?」
洋榎「語るも涙な話があってなぁ……話すと長いんやけど……」
洋榎「負けたから帰る費用自分達で稼げっていわれてもうたんやわ」
絹恵「一言で説明してるやん」
洋榎「まぁそんな感じやわ」
玄「だねー」
洋榎「でたこ焼き1000個か?お好み焼き1000個か?」
憧「そんなに食べれませんって」
洋榎「もっと食べへんと胸も成長せえへんで」
洋榎「うちみたいに……」
恭子「自分で言って自分で落ち込むんやめんかい」
洋榎「なんで絹は成長したんやろ……」
絹恵「そう言われてもなぁ……」
由子「コントするならお客さんの注文聞いてからにしいよー」
洋榎「5個ずつか?5個ずつやんな?5個ずつなんやろ?」
絹恵「お客さんにプレッシャーを与えたらあかんて」
絹恵「ほんますんません、好きな個数言ってください」
憧「晴絵の分も考えると」
灼「6つずつお願いします」
玄「そんなに食べれるかな?」
宥「私はあんまり自信ないかな」
憧「まぁいざとなれば穏乃が食べますって」
洋榎「ほんまか!ほんまに6つでええんやな!よーしこれはまたサービスせなあかんなぁ」
洋榎「恭子、お好み焼きは頼んだで」
恭子「わかってますて」
恭子「……」ブツブツ
由子「恭子は何言うてるんやろ……」
恭子「あれぐらいの胸ならギリギリセーフあれぐらいの胸なら……」ブツブツ
由子「あのサイズが限界みたいやな」
漫「永水女子の大将の人大きかったですしね」
由子「絹恵ちゃんは大丈夫なのはなんでなんやろなー」
絹恵「さすがにあそこまで大きくないですよ」
洋榎「ふふん、サービスや」
灼「帰る費用のために儲けなくていいの?」
絹恵「地道に稼いでますから気にせんといたってぇ」
憧「お好み焼きも美味しそう」
恭子「お好み焼き6パック袋にいれとくでー」
宥「とっても暖かそう」
洋榎「暖かそうなんやない、暖かいんやで」
憧「さっそく晴絵のとこいって食べよっか」
漫「気ぃつけて帰ってぇな」
由子「ありがとうなー」
穏乃「こっちこそありがとうございましたー」
洋榎「美味しかったらクチコミ頼むでー」
漫「可愛い人や美人な人が店番すると人が増えるって言いますよね」
洋榎「それはなんや漫、私が可愛くないいいたいんか?」
漫「きゃ、客寄せの一般論を言うただけですて」
由子「これは恭の字を書かなあかんわー」
漫「そ、そや!他にも匂いを広げて食べたくさせるとか」
洋榎「なるほどな、確かにたこ焼きの匂い嗅いだら食べたくなるのが人ってもんやわ」
漫「……」ほっ
洋榎「まぁ案をだしてもデコに書くんやけどな」
漫「あんまりやわ……」
絹恵「後ろからうちわで仰いだらええんちゃう?」
洋榎「魚やあるまいし」
由子「やっぱ呼び込みが一番なのよー」
恭子「立ち食いスペースが作れれば美味しそうに食べる人を見て来る人増えるかもしれへん」
洋榎「あー確かにテレビでラーメンとか特集してるとラーメン食べたくなるもんなぁ」
照「……」ジィー
洋榎「うわ!インハイチャンプやないか!」
照「……」ジィー
洋榎「ん?もしかして買ってくれるんか?」
照「美味しそうな匂いがしていた」
洋榎「たこ焼き、お好み焼き、どっちも美味しそうやなくて美味しいで」
洋榎「どや、今ならサービスすんで?」
由子「清澄の子に似てるからまたトラウマ再発なのよー」
絹恵「あんな麻雀されたらしゃあないですて」
由子「じゃあ漫ちゃん頼むわ」
漫「あ、はい!」
照「あぁ」
洋榎「お、弘世菫やないか、たこやき買わへん?」
菫「愛宕洋榎か……何をしているんだ」
洋榎「見ての通りたこ焼きとお好み焼き屋や」
菫「いや……まぁいい」
菫「はぁ……照も食べたそうにしているしいいだろう2つずつ頼む」
洋榎「ホンマに2つでええんか?」
菫「どういうことだ」
洋榎「確か白糸台のインハイチャンプとお前以外のメンバーは後輩なんちゃうか?」
菫「そうだが……」
洋榎「先輩やったら後輩になんか買って行ったらな後輩もかわいそうやなぁ」
洋榎「なぁ漫ちゃん」
漫「え?あ、そうですね、やっぱ先輩から差し入れとかされるとめっちゃ嬉しいですわ」
菫「……はぁ、5つ買えと言いたいんだな」
洋榎「なんなら白糸台部員全員分でもええで」
洋榎「お、さすがインハイチャンプ、3年としてもできてるわ」
洋榎「それで、お好み焼きは買わんの?」
菫「はぁ……5つもらおう」
洋榎「まいどおおきに」
由子「5つやねー」
絹恵「美味しかったら白糸台の部員さんに教えてあげてください」
照「あぁ」
恭子「少しはねた髪型怖い……」カタカタ
照「あぁ、ありがとう」
洋榎「全国大会もほどほどに頑張りやー」
照「あぁ」
菫「なんだほどほどにって……」
洋榎「せやから負けてもええよって想いを込めた応援やで」
菫「応援になっていないな……」
洋榎「そらそうやろ、うちを負かした清澄応援してるでなぁ」
由子「負けたからには負かした場所の応援よー」
照「ふっ誰であろうと叩き潰す」
洋榎「おーこわ」
由子「そうやね、5人で何とか回してるのに一人抜けるときっついわ」
絹恵「そういうてもなんかいい方法あるん?」
洋榎「特にない」
漫「ないんですか……」
洋榎「せや、怪物やおもてた奴も話してみると案外普通やったよな」
由子「清澄の子は特にいい子そうだったのよー」
洋榎「本人がきたら恭子に対応させてショック療法でどうやろ」
漫「それ意味あるんですか?そもそも宮守と永水が通らんとどうしようもないですやん」
絹恵「あ、噂をすれば永水女子や」
絹恵「どうもです」
霞「あらあら、どうしてたこ焼き屋を?」
洋榎「悲しいドラマがあってな」
恭子「あ、あぁ……」カタカタ
霞「あ、あら?何かしてしまったかしら……」
由子「恭子、お客さんに対応せんでどうするん」
恭子「い、いらっしゃいませー」カタカタ
漫「声裏返ってますわ」
由子「まるでマクドの新人やで」
春「……」ポリポリ
洋榎「お、黒糖のもおったんか」
春「ん……」ポリポリ
洋榎「甘いもんばっか食べてると太るで、ここはたこ焼き買わへんか?」
春「太らない体質……」
洋榎「まさか、鹿児島は脂肪は胸にいくような奴ばっかりって言いたいんか!」
洋榎「おっぱいお化けばっかりやでほん……ま……」チラッ
初美「?」
洋榎「そうでもなさそうやな」
初美「今この人絶対失礼なこと考えたのですよー」
恭子「さ、3パックですね!しょ、少々お待ちください」カタカタ
由子「初めてのアルバイト、飲食店のレジって感じなのよー」
初美「お好み焼きの方も3つほどいいですかー」
恭子「お、お好み焼き3パック入りました―」
漫「末原先輩いっぱいいっぱいになってるで……」
絹恵「大丈夫やろか……」
洋榎「そういえば、神代放っておいて大丈夫なんか」
洋榎「ふわふわしてそうやし天然ボケ入ってそうやし放っておいたら危なくないんか?」
霞「小蒔ちゃんには巴ちゃんが付いているから心配無用よ」
初美「無用とはいいきれない気もしますですよー」
洋榎「まぁええわ、もうちょい待ってぇな、もうできるで」
初美「美味しそうですよー」
洋榎「美味しそうやなくて美味しいんや」
洋榎「そうそう、ソースが服についても責任は取らへんからな?」
洋榎「神代と分けて食べるんなら注意しいや」
霞「あら、じゃあ小蒔ちゃんには制服に着替えて食べてもらおうかしら」
絹恵「普通制服も汚したらあかんのとちゃうんですか……」
洋榎「ショック療法では厳しいんやろか」
由子「でも震えながらもちゃんと対応はしてるで」
漫「大丈夫なんやろか」
絹恵「あんなトラウマの治す方法なんてわからへんって……」
洋榎「まぁとにかくこの調子でリハビリと電車代稼ぐでー」
健夜(私みたいなアラサーをお姉さん!)ピク
洋榎「ってようみたら小鍛治プロやん!」
由子「ほんま!小鍛治プロ?」
絹恵「ほんまやー」
健夜「あれ?あなた達って姫松の……」
洋榎「南大阪代表姫松高校ですわ」
健夜「どうしてたこ焼き屋?」
洋榎「色々とありまして」
健夜「うーん、こーこちゃんと今はぐれちゃってて」
洋榎「ここを待ち合わせ場所にしてその待ち時間の間にたべてくとかどうですか」
健夜「うーん、ここで食べるのはいいんだけどこーこちゃんと約束してて……」
恒子「あ、すこやん発見」
健夜「あ、こーこちゃん」
恒子「むむっこんなところに屋台!?」
洋榎「どうも、南大阪代表姫松が送る本格たこ焼き、お好み焼きですわ」
恒子「代表選手がなんか営業してる!?」
恒子「これは取材してみる価値が!」
健夜「そうだね、時間を取るなら売上にぐらい貢献しないとね」
恒子「じゃあまずは作ってるところを映像にでも」
由子「確か福与アナって勝手にネットに動画あげたりせえへんかった?」ヒソヒソ
洋榎「下手なところ見せれへんってことやな」ヒソヒソ
健夜「じゃあ2パックずついいかな?」
絹恵「まいどおおきにー」
洋榎「こっちももう出来るわ」
恒子「ふむふむ」
健夜「てきぱきしててすごいね」
絹恵「私らがつこうてる椅子と机を一時的に利用してもらおか」
漫「じゃあ移動させやなあかんね」
健夜「えぇ!」
恒子「すこやんもアラフォーになるほど生きているのでそのリアクションはきっとその年令に見合った深みのある」
健夜「アラサーだよ!」
健夜「何言わせるの!?」
絹恵「というわけでってことは作ってるところはすでに配信されてたんですかね」ヒソヒソ
由子「あの人小鍛治プロの家に突撃取材生配信よくしてるしね」ヒソヒソ
漫「よく訴えられないですね」ヒソヒソ
恒子「……」
健夜「こーこちゃんどうしたの?」
恒子「もっとこうオーバーな感じでもう一回リアクションしてすこやん」
健夜「やらないよ」
恒子「えー今時高校生でももっとましなリアクションするって」
恒子「ねぇ?」
洋榎「そんなん突然過ぎて無茶ぶりですわ……」
恒子「まぁまぁそう言わずに一つ自分で食べてリアクションをどうぞ」
パク
洋榎「はっ!なんやこれ!うますぎるで!まず外はカリカリ中はふんわり、からまったソースによるべたつきもなくタコが~」
由子「さすが主将なのよー」
健夜「無理無理、無理だって」
恒子「そう言わずさぁさぁさぁさぁ」
洋榎「これはある意味宣伝になったで」
絹恵「ただ店やってる理由は答えにくいわ」
由子「そやね、帰りの費用稼ぎなんて言うたら問題になりかねへんし」
漫「面倒がごめんやわ」
恭子「そういうてもやってる理由聞かれたら答えれへんで?」
洋榎「はいはい、お待たせしてもうたわって今度は三尋木プロやん!」
咏「おーう」
洋榎「っとたこ焼きとお好み焼きどっちがええですか?」
咏「うーん、着物でも食べやすい方かなー」
洋榎「ならたこ焼きの方がええかなぁ」
絹恵「そこにいる小鍛治プロに会いに来たとかですか?」
咏「匂いにつられてきただけだから知らんけど」
洋榎「まいどー」
絹恵「三尋木プロは小鍛治プロみたいにアナウンサーの人と一緒やないんですね」
咏「おーう、えりちゃんには振られちったー」
由子「振られたって針生アナに用事があったんですか?それとも……」
咏「んー、両方の意味でかなー知らんけど」
由子「ほんまですか!?」
咏「いや知らんし」
咏「よーし、あそこの二人の仲でもおちょくって楽しみますかねー」
由子「あ、やっぱりあの二人ってそういう感じなんですか?」
咏「ふははーわかんねーでもそれっぽいんだよねー」
絹恵「怪しいからつついて楽しもうってことですか」
咏「そそ」
漫「なんや馬に蹴られそうやわ」
咏「おーう、気をつけるよー」
洋榎「ってさっそくあの小鍛治プロとアナウンサーのふたりきりの空気に乗り込んだで」
恭子「やっぱプロは違うなぁ」
睦月「うむ……え!?」
睦月「さ、サインもらわないと!」ササッ
智美「ワハハ、むっきーがプロ麻雀せんべいカードを片手に飛び込んでしまったぞ」
ゆみ「仕方がない、ちょうどそばにたこ焼き屋もあるみたいだし皆で買って食べよう」
佳織「そうですね」
ゆみ「あぁいや、あっちに1人とこっちに4人だから5人だ」
ゆみ「食べやすそうだしたこ焼きを5つ……って姫松高校!?」
洋榎「ん?そうやけど、そっちもどっかの代表校か?」
ゆみ「あぁいや、私は長野の清澄応援にきたんだ」
洋榎「ってことは長野の決勝の風越か鶴賀のどっちかあたりか?」
洋榎「悪いなぁ、牌譜は見たんやけど龍門渕みたいに以前見かけたわけやないだけにわからへんわ」
智美「ワハハ、そこまで清澄も研究していたんだと驚かされるなぁ」
洋榎「強豪校がただ強いやつを集めただけの集団や思うたら大きな間違いやで、相手のことは調べるわ」
洋榎「まぁそれはええとして、うちらと同じ清澄応援校ってことでサービスせなあかんな」
ゆみ「清澄を応援しているのか?」
洋榎「うちのチームを倒したチームに優勝して欲しい、その気持ちはそっちもわかってるんやろ?」
ゆみ「ふっ確かにな」
桃子「にしてもどうしてたこ焼き屋やってるんっすか?」
絹恵「う、うわ!お化け!?」
桃子「あ、どうもっす」
洋榎「や、やばいで……目をそらしたらこれ呪われるんちゃうん」
絹恵「じゃ、じゃあ私呪われたん!?」
智美「ワハハ、モモは影が薄いだけでちゃんと生きてるぞー」
洋榎「いや影が薄いてちょっと透けて見えるんやけど」
絹恵「なんか意識せな見失いそうやわ……」
恭子「主将、遊んでないで早く作らなお客さんに悪いて」
由子「そうやで主将」
洋榎「い、いやさすがにびっくりするやろこれ……」
洋榎「昨日突貫工事で作ったんやわ」
絹恵「鉄板とかも監督代行に借金して全部買って、その分のお金も稼がんとなぁ」
ゆみ「というか何故たこ焼き屋を開いて稼ごうとしているんだ?」
洋榎「いやな、監督代行が負けたから帰りの電車代とか自分で稼げ言われてもうてな」
佳織「た、大変ですね……」
智美「ワハハ、笑えない境遇だな」
洋榎「って笑ってるやないかい!」
智美「ワハハ」
絹恵「熱いんで気をつけてなー」
由子「でも熱いうちに食べるんやでー」
桃子「美味しそうっす」
ゆみ「あぁ、それに値段のわりに祭りの屋台よりはるかにサービスもいい」
恭子「主将がサービスばっかしてるから売れても全然儲からへんねん」
智美「ワハハ、本末転倒だなー」
洋榎「う、うっさいわ」
洋榎「……」
佳織「あ、あれ?変なことを言ってしまったでしょうか?」
洋榎「皆集合やで」
洋榎「えー今お客さんから新しい商品が飛び出たわ」
絹恵「焼きそばやったらお好み焼きの鉄板で作れそうやね」
由子「モダン焼きもいけるのよー」
洋榎「どうする、恭子」
恭子「……漫ちゃん、焼きそば材料追加や!キャベツは消費が早いから多めに買ってきて」
漫「は、はい!」
桃子「チームワークいいっすね……」
ゆみ「あぁ、そしていけると判断してすぐに実行に移せる行動力もなかなかのものだ」
ゆみ「サインはもらえたのか?」
睦月「はい!」
洋榎「お、行くんか」
ゆみ「あぁ、戻ってたこ焼きでも食べさせてもらうよ」
洋榎「あんま遠いなら今のうちに食べやなあかんで」
由子「そうよー美味しいうちに食べやな」
ゆみ「大丈夫だ、それじゃあ」
洋榎「美味しかったら周りにもすすめるんやでー」
絹恵「さっき行ったばっかやで、にしても……」チラッ
恭子「椅子返せとはいえへんし我慢しいや」
由子「小鍛治プロはたまに申し訳なさそうにこっちをうかがってるのよー」
恭子「まぁ三尋木プロと福与アナに絡まれてもう行こうと言い出せないみたいやね」
洋榎「逆に申し訳ないわ、気にしてない感じでおったらなあかんで絹」
絹恵「そやね」
恭子「ちょっと見に行ったほうがええかもしれませんね」
漫「今もどりましたわー」
由子「あ、漫ちゃん遅……」
絹恵「ナースがおる……」
憩「噂聞いて見に来たんやわー」
漫「なんか絡まれまして……」
洋榎「ふぅ……何言うてるんや絹、そんなアホおらへんて、仕事に戻るで」
憩「無視せんといてー」
洋榎「せや」
憩「そこ、中継されてるんやわ」
恒子「すこやん、アラフォーの意地を見せるしかないって」
咏「おーう楽しみー」
健夜「だからアラフォーじゃないよ!」
洋榎「あぁ、あそこか……」
恭子「やっぱ配信してたんですねあのアナウンサー」
由子「カメラ持ってるように見えへんけどどこに持ってるんやろ」
洋榎「宣伝されてるらしいし客入り良くなるかもしれへん、気合い入れていくでー」
恭子「そうですね、プロ見たさに来る人は増えると思いますわ」
由子「チャンスなのよー」
憩「だから無視せんといてー」
恭子「ナース服の女子高生をプロの中に突っ込んでさらに客寄せを狙うなんてさすが主将ですわ」
由子「しっかり三尋木プロに絡まれてるしこれはありがたいな」
洋榎「こうなると巫女服の永水も確保しとけばよかったんかもしれへんな」
絹恵「いや、それもどうなんやろ」
漫「あ、あれ宮守の人やわ」
洋榎「お、獲物やな」
エイスリン「シロ、タコヤキ」
シロ「んー……」
豊音「チョー美味しそうな匂いがするよー」
胡桃「あれって……」
塞「姫松だね……なんでたこ焼き屋?」
洋榎「一緒の卓で打った仲やないかーちっこいのー」
胡桃「うるさそうだし行こ」
洋榎「ってそれはないやろ!」
胡桃「……押し売り?」
洋榎「まぁまぁそう言わへんと、めっちゃうまいから」
シロ「いいんじゃないの?」
豊音「大阪の人が作るたこ焼きチョー食べてみたいよー」
エイスリン「ワタシモ、タベテミタイデス」
塞「別に食べていってもいいんじゃない?」
洋榎「いやーやっぱ他の人は話がわかるなぁ」
胡桃「はぁ……」
洋榎「あ、そういえばリハビリ中やったわ」
由子「案外大きな胸も問題なくなってたから大丈夫かと思ってたのよー」
絹恵「やっぱ本人となると違うんちゃうんですか」
豊音「あっ大将戦ではどうもー」
恭子「追っかけリーチされる……追っかけリーチ……追っかけ……」ブツブツ
由子「あ、あかんみたいやわ」
洋榎「しゃあない、漫ちゃん頼むわ」
漫「あ、はい」
塞「さすがに焼きそば、たこ焼き、お好み焼き全部は食べきれないね」
豊音「でも全部食べてみたいかなー」
絹恵「たこ焼きなら食べさせあったりできますし」
絹恵「たこ焼き数パックにお好み焼きと焼きそば好きな方選ぶとかどうですか」
塞「それがよさそうだね」
シロ「だるい……」
洋榎「よーし、同じ卓囲んだ仲やしサービスすんでー」
洋榎「ん?なんや?」
エイスリン「デキタ」トン
洋榎「え?なんか店で左腕に指さしてる人?ってあぁ腕時計やな」
洋榎「よくみるとお腹が鳴ってるみたいに……あぁ、はよ作れいいたいんやな」
洋榎「日本語もっと喋れたらけったいな人間なんかあんた」
エイスリン「?」
洋榎「ん?なんや?」
豊音「焼きあがったら上に打ち上げてパックにいれるんだよねー」
豊音「チョー楽しみだよー」
洋榎「どこの知識やねん!」
豊音「テレビでやってたよー」
洋榎「なんちゅう無茶ぶりや……」
由子「いや、失敗したらもったいないからやらんでええからな」
洋榎「確かお前の名前は姉帯やったな、ええか?」
洋榎「たこ焼きを打ち上げたりしたらその分冷めてしまってまずくなってまうやろ?」
洋榎「やからそんな事はパフォーマンスでもないとせえへんねん」
洋榎「例えばアニメとか漫画とかそういうのじゃないとやらへんねん」
由子「そうやで、本気にしたらあかんよー」
豊音「残念だよー」
洋榎「やから……1回だけやで?」
由子「ちょ!主将!」
洋榎「行くでー」
由子「本当に打ち上げたのよー」
漫「しかも空中でちゃんと青のりとソースかけれてるで!」
由子(主将、絶対練習してたわこれ……)
洋榎(アカン、パックからそれた!)
絹恵「キーパー舐めたらアカンでえええええええええ」
塞「あ、キャッチした」
絹恵「あっつあっつ!」
洋榎「き、絹!持ってないで食べ!はよ!」
絹恵「あ、あむ……はっ!なんやこれ!うますぎるで!まず外はカリカリ中はふんわり、からまったソースによるべたつきもなくタコが~」
由子「さすが姉妹なんよー」
豊音「チョー感激だよー」
胡桃「馬鹿みたい……」
由子「主将、ソースはうまくいったんかしらんけど、青のりが髪にかかってるよー」
漫「これウエットティッシュ」
絹恵「ありがとうな」
豊音「大阪の人チョー面白かったよー」
洋榎「そう言ってもらえたらみせたかいもあるってもんやわ」
由子「というかあれだとパックに入ってもべちゃってなるのよー」
漫「売り物としてはアウトですわ」
洋榎「……漫、後でデコに子書いたるわ、これで恭子の名前が完成やな」
漫「冗談ですって主将!」
絹恵「熱いんで気ぃつけてください」
塞「ありがとう、あとその前にそっちこそ手大丈夫?」
絹恵「こんなん慣れっこですわ」
塞「ならいいけど……あ、あとそこで食べていっても大丈夫?」
洋榎「ええけど椅子とかはあっちのプロが独占してるから貸し出せやんわ」
塞「あぁそれはいいんだけどシロがそこに座っちゃっててねー……」
豊音「多分しばらく動かないねー」
シロ(だるい……)
洋榎「うちらの土地やなし好きにしたらええんちゃう?」
塞「その解答もどうなのかな……」
シロ「あー」
豊音「美味しいよー」
塞「これは確かに美味しい」
洋榎「せやろーさすがやろー」
胡桃「……あ、美味しい」ボソ
洋榎「んーなんやー聞こえやんだなーもっかい大きな声で言ってみ?」
胡桃「う、うるさいそこ!」
洋榎「おっと、怒らんと素直にもう一回言うてみ?」
胡桃「しょ、食事中に騒がない!」
洋榎「騒いでるんはそっちやないかい」
由子「子供の喧嘩なのよー」
絹恵「今日で結構稼げたんかな?」
由子「恭子、もうおっきい人おらへんて」
恭子「追っかけリーチ……え?あ、あれ?なんか暗いな」
漫「意識飛んでたんですか末原先輩」
恭子「なんで漫ちゃん私の名前デコに完成してるん?」
由子「それより恭子、今日の売上計算頼むわ」
恭子「ん?あ、ちょいまってぇな」
洋榎「ほんまか!」
恭子「ただ、初期費用のマイナス分を考えるともうちょいですわ」
恭子「代行が利子つけてとか言うてたから明日も屋台出せば問題無いと思いますわ」
洋榎「明日も朝から頑張るでー」
絹恵「今日はつかれたし汗だくやわ」
由子「ずっとあっつい鉄板の近くやでなぁ」
漫「私もお風呂はいりたいわ」
由子「あ、漫ちゃんはそのデコ消したらアカンよー」
洋榎「そうやで漫」
漫「そんなぁ」
洋榎「なんやこれ……」
絹恵「なんかどんどん人が増えてってるで」
由子「これ捌ききれるん?」
恭子「さすがに無理やわ」
漫「やっぱ配信されてたせいですかね」
洋榎「お、おお、ちょい忙しすぎてまともに相手できそうにないわ、すまんな」
まこ「ネットであんたら噂になってるけぇしょうがないじゃろうて」
洋榎「ほんまか!」
久「まぁもうこの状況ってだけでどういうことになってるかわかってると思うけど」
久「頑張ってね」
まこ「がんばりんさい」
胡桃「別にいいでしょ、美味しかったし」
洋榎「素直が一番やな」
胡桃「う、うるさいそこ!」
洋榎「まぁあんま相手する暇はないんやわ、すまんなぁ」
由子「お肉もすくなくなってきたのよー」
竜華「大変そうやなぁ」
洋榎「うっさいわ、営業妨害すんなら帰ってくれへん?」
竜華「せっかく差し入れもってきたったのに」
浩子「キャベツこんなもんでええです?」
セーラ「竜華ー肉買ってきたでー」
泉「タコ確保しましたよー」
洋榎「うっ……」
由子「主将ここは素直に謝って助けてもらったほうがいいのよー」
洋榎「わ、わかっとるわ」
洋榎「うわ、なんや白糸台のやつか」
淡「あ、たこ焼きもらえますか?」
洋榎「どんだけいるんや?」
淡「えーっと……80ぐらい?」
洋榎「え?」
淡「菫先輩が絶賛してて皆食べてみたいって白糸台の部員ほとんどがいまこっちに向かってるんですよ」
恭子「す、漫ちゃん急いでさらに材料買ってきて!」
漫「は、はい!」
淡「やっぱり無理ですよねー」
洋榎「や、やったろうやないかい!」
初美「やきそばが欲しいのですよー」
洋榎「って永水の薄墨!?」
初美「昨日来たときなかったやきそばも食べてみたいと皆がいったので買いに来たのですよー」
初美「お願いしますですよー」
洋榎「嬉しいこというてくれるわほんま」
絹恵「喋っとらんとどんどん作ってかな間に合わへんでお姉ちゃん」
恭子「このペースでお客さんがくるなら作り続けても出来立てでなくなってくはずやで」
由子「とにかく作るしかないのよー」
健夜「こーこちゃん、順番待ちしてるなら待たないと」
洋榎「あ、小鍛治プロまたきたんや」
恒子「突如現れた大人気のたこ焼き屋の謎に迫ります」
恒子「えー店員さん、なにか一言」
洋榎「そうですね、やっぱ美味しい言われると嬉しいわ」
恒子「さすが、プロは違いますね、美味しいと言われると幸せを感じる、まさにプロ!」
健夜「え?えっと、この子達はプロじゃ……というか代表校……」
恒子「次の質問いってみよー店員さんが今目指しているものはなんですか」
洋榎「そんなん団体戦では果たせへんかったから代わりに全国個人戦優勝にきまってるで」
恒子「なんと!店員さんの目指すものはたこ焼きチャンプ!」
洋榎「ちゃうて!たこ焼きチャンプやなくて個人戦チャンプや!」
恒子「たこ焼きで個人戦?たこやき部?」
健夜「恒子ちゃん、少しは代表校の事覚えようよ……」
洋榎「うちらは麻雀部なんやって!たこやき部ちゃうんやああああああああ!」
胡桃「馬鹿みたい」
終われ
本編側もキャラをわかってないの多いけど、それ以上に阿知賀側のキャラ全然わからない
麻雀描写が薄いせいなのかわからない
あと関西弁ムズイ、チョームズイ、わかんねー全てがわかんねー
洋榎ちゃんと胡桃ちゃんもっと絡んでください!あと部キャプも絡んでください!
面白かった。ありがとう
色んな絡みがあって面白かった
Entry ⇒ 2012.10.22 | Category ⇒ 咲-Saki-SS | Comments (1) | Trackbacks (0)
しんのすけ「ねぇねぇおねいさぁんピーマン食べれる~?」長門「……」
「おらのとうちゃん足くさい~♪」
「お?」
・・・・・・・
「おぉ?何か見えるゾ?」
「女の人の絵…もしかしてエッチなほん!?」
「ほっほほぉ~い!」
「んん~何だこれ?」
「ハ、ル、ヒ、の、…漢字読めないゾ」
ペラッ
「うへぇ、字ばっかり…」
「ん~このおねいさんちょっと子供っぽさが残っていますなぁ」
「でもなかなか可愛いゾ、これからの成長に期待ですなぁえへぁ~」
「……」
「このほん、絵の部分だけ破って持って帰ったらダメかな…」
「……」
「でもぉ~落し物は交番に届けないといけないんだよね~」クルクル
「オラ、そんなに悪い子じゃないゾー?」
「…でも、少し気になるゾ」
「うーん…」
「……」
「そうだ!見終わったら元の場所に置いておけばいいんだ!」
「わーいオラあったまいい~!」
「そうと決まったら早速公園に行こうっと」
「出発おしんこー!きゅうりのぬかづけー!」
・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・
―――――――――――――
キョン「季節は春。地球温暖化により昨年より早く開花してしまった桜の花が舞い散る中、生徒は春独特の陽気に感化され妙なテンションに陥っている」
キョン「来月を過ぎると一つ学年が上がり、自分達がいつまでも下級生ではないという事を自覚しなければならないのだが…どうも俺にはその実感が湧かない」
キョン「それもその筈。毎日のように文芸部部室に通い人生の糧にもならないような不可解な行動をしてる内は、俺の人間的向上なんて微塵にも望めないのだろう」
キョン「まぁこんなくだらない愚痴を吐いた所で我がSOS団団長様の馬耳には届きもしないのだがな」
ハルヒ「その愚痴を私の方に向きながら言うなんていい度胸ね。そんなに死にたいの?」
キョン「いかん、冒頭の語りに集中しすぎて今自分が置かれている状況を見失っていた」
ハルヒ「アンタみたいな馬鹿の事を何て言うと思う?『馬鹿』っていうのよ。この馬鹿」
キョン「馬鹿って言葉を三回も使いやがったな。そんな事言う奴の方が真性の馬鹿なんだよ」
ハルヒ「何ですって!?そうやって馬鹿って言ったのを馬鹿って返す方がもっと馬鹿なのよ!」
キョン「また馬鹿っていいやがったな!?そうやって馬鹿馬鹿言ってる奴に限って超ど級の馬鹿なんだよ!このバーカ!」
ハルヒ「馬鹿じゃないの!?そうやってまた馬鹿って返す人間が一番馬鹿だって何度言ったら!」
谷口「(コイツ等マジで殺してぇ…)」
キョン「…ん?そういえばお前が持ってるその本、一体何だ?」
ハルヒ「えっ?あぁコレね、昨日阪中さんに借りたのよ」
キョン「ほう、お前と阪中は貸し借りをする程の仲になっているのか、意外だな」
ハルヒ「あの事件以来結構話す機会が多くなったのよ。別にいいじゃない」
キョン「いや、お前がSOS団意外の人間とコミュニケーションを取っている事に少し驚いただけだ」
ハルヒ「何よそれ…」
キョン「で、その本は何だ?どこかで見た事あるような気もするが…」
ハルヒ「ほら、アンタも小さい頃によくテレビで見てたんじゃない?」
キョン「どれどれ…ほぅ。懐かしい物を持ってきたな」
ハルヒ「私も懐かしくなってちょっと読んでたのよ。今見ても中々面白いわ」
キョン「誰もが認める国民的漫画だからな。俺も幼稚園の時に影響されてケツ振ってたもんだ」
ハルヒ「…えっ、アンタそんな事してたの?」
キョン「えっ?お前しなかったの?」
ハルヒ「する訳ないでしょ!!」
キョン「嘘だろ…数々の意味不明な行動で世間を轟かせたお前があのアニメに影響されてなかったなんて考えられん」
ハルヒ「アンタ私の事一体何だと思ってるのよ!?小さい頃は普通の生活してたって前に話したじゃない!」
キョン「そうか…お前なら幼稚園の机の上に登ってゾウさん音頭ぐらいやってると思ったんだけどな」
ハルヒ「ちょっと待ってキョン。アンタ私を女とすら思ってないの?」
キョン「何言ってやがる。どう見たってお前は女だろ。変な質問をするな」
ハルヒ「だったら少しは考えなさいよっ!女の私にぞ…ゾウさんなんて付いてるワケないでしょ!?」
キョン「……」
ハルヒ「……」
キョン「…おぉ」
ハルヒ「何よ今の間は!?」
キョン「しかし当たり障りのない日常をだらだらと描写した漫画をお前が好むなんて珍しいな」
ハルヒ「これはれっきとした非日常ストーリーじゃない。映画なんてもう別世界の物語よ」
キョン「ん…確かに」
ハルヒ「望んでもないのにこんな楽しい事に巡り合えるなんて羨ましいわ…私にもこんな奇想天外な事起こらないかしら?」
キョン「無理に決まってるだろ。大体世界観が違うじゃねぇか」
ハルヒ「そうよねぇ…平気で変身ヒーローがビーム出しちゃうんだもの」
キョン「まぁ逆に俺達の世界にコイツが招かれたら面白い事になりそうだけどな」
ハルヒ「そうね。アンタにしては中々いい事言うじゃない」
キョン「それほどでもぉ」
ハルヒ「気持悪いからやめて」
キーンコーンカーンコーン…
キョン「む、もう昼休み終わりか」
ハルヒ「何かアンタと話してたら疲れたわ…」
キョン「今日はSOS団ミーティングの日だろ?団長のお前がしっかりしないでどうする」
ハルヒ「誰のせいよ誰のっ!!」
キョン「さて次の授業は体育か。じゃあなハルヒ、フォーエヴァー」
ハルヒ「もう、アンタいつからそんなキャラになったのよ…」
―――――――――――――
むかしむかしあるところに、木こりの親子が住んでいました。
木こりの夫婦には2人の息子がいました。兄の方は今の生活に満足していましたが、弟の方は
「いつか都に出て何かどでかいことをしてやろー」
という野望を持っていました。そんなある日・・・
長門「……」ペラッ
バ チ ィ!!
???「うおわっち!!」
ドシンッ!!
???「イテテテ…んもぅコレ母ちゃんの運転より荒いゾ~」
長門「……」
???「…お?」
長門「……」
???「……」
???「よっ!」
コンコンッ
キョン「ノックしてもしもーし」
ガチャ
キョン「よう、長…門?」
長門「……」
???「いやぁまいっちゃうよね~変なごほん読んでたら急に空がくらくなっちゃって~」
???「そうしたらオラの体がビューンって飛んでっちゃったんだゾ」
???「もうおまたヒューってなっちゃった…えへぁ」
長門「…そう」
キョン「…何の冗談だこれは?」
???「お?」
長門「……」
???「アンタだれ?」
キョン「人に名を尋ねる時はまず自分からって母ちゃんから教わらなかったのか坊主」
しんのすけ「オラ坊主じゃないぞ!野原しんのすけだゾ!」
しんのすけ「よく覚えとけぃ!」キリッ
長門「……」
キョン「…マジかよ」
キョン「…おい、長門」
長門「何」
キョン「ハルヒか?またハルヒの仕業なのか?」
長門「……」
長門「おそらく涼宮ハルヒが現在所持している漫画と呼ばれる書物の登場人物が具現化した存在だと思われる」
キョン「…はぁ」
長門「その発端は貴方と涼宮ハルヒの会話による彼女の想像力の肥大化だと推測され、これは主に貴方の発言が涼宮ハルヒの想像を増幅させる内容であったt」
キョン「あーもういい、みなまで言うな」
キョン「要するに俺の何気ない一言がこの事態を招いたって事だろ?」
長門「そう」
キョン「…やれやれ、また古泉に叱られそうだ」
しんのすけ「おじさん、オラはちゃんと名乗ったゾ」
キョン「誰がおじさんだ、俺はピチピチの高校生だ」
しんのすけ「ほうほう、『ぴちぴちのこうこうせい』…」
しんのすけ「プッ、ヘンなおなまえ~」
キョン「それは名前じゃねぇ!俺の名前は
ガチャ
みくる「すみません遅れました~」
キョン「あ、こんにちは朝比奈さん。今日も一段とお美しいですね」
みくる「もうキョン君ったら…おだてても何もありませんよ?」
しんのすけ「おぉ!きれいなおねいさん!」
みくる「えっ…えぇ?」
キョン「あっコラ!いきなり大声出すんじゃ…」
しんのすけ「ねぇねぇおねいさ~んカレーには何入れるタイプ~?オラは醤油をちょびっとかけて食べるほうが~」
みくる「えっ…この子って…えぇ!?」
キョン「落ち着いてください。今説明しますから…」
・・・・・・・・・・・・・
みくる「そうだったんですか。だからこの子…」
しんのすけ「んもうキョコン君ったら水虫臭いゾ~。こんな綺麗なおねいさんがいるなんてオラ知らなかったんだよ~?」
キョン「知らないも何もついさっき顔会わせたばかりだろ。それに俺の名前は巨根じゃねぇしキョンでもねぇ」
しんのすけ「まーまー細かい事は気にしない気にしない」
キョン「俺の名前を細かい事に分類するな!」
長門「……」
みくる「あ、あの~私そろそろ着替えたいのですけど…」
キョン「おっとそうでしたね。じゃあ俺は外で待ってます」
ガチャ
みくる「じゃあ、少し待っててくださいね?」
キョン「はい、了解です」
みくるのすけ「でわ~」
ガチャン
ガチャン
キョン「お前はこっちだ」
しんのすけ「軽いジョークなのに」
ガチャ
古泉「こんにちは。…おや?見かけない殿方がいらっしゃいますね」
しんのすけ「おぉ、ひまが見たら飛びつきそうな美少年だゾ」
みくる「あっ古泉君こんにちは~」
長門「……」
キョン「あ~古泉…コレには深い訳があってだな…」
古泉「…ふぅ、大体の原因は予想できます」
キョン「…スマン」
古泉「いいですか?貴方の何気ない言葉一つが涼宮さんの思考を左右するのです」
古泉「たとえそれが微弱な改変であったとしても、いつ何処で何が起こるか予測できないのが涼宮さんという人物である事を貴方も充分おわかりになっている筈です」
古泉「貴方はもっと後先の事を想定してから自分の意見を涼宮さんにおっしゃってですね…」クドクド
キョン「…チッ、ウッセーナ」
古泉「何か言いましたか?」
キョン「別に」
古泉「ところで彼の事ですが…あのビジュアルはやはり」
キョン「あぁ、お前が5歳ぐらいによくテレビに出演していたアレだ」
古泉「やはりそうでしたか…いやぁ懐かしいですね」
古泉「僕もあのアニメを見て母親によく生意気な口を利いて怒られてましたよ」
キョン「何?お前もアレに影響された時期があったのか」
古泉「えぇ、親が見せたくないゴールデンタイムアニメNO,1ですからね」
キョン「見るなって言われたら余計見たくなっちまうのが人間の性だよな」
古泉「まぁ流石に彼の行動をマネするという愚行はしませんでしたけどね」
キョン「…えっ、マジ?」
古泉「…もしや貴方」
キョン「い、いやそんな事ないぞ!?ケツ振ったり股間に象の落書きなんてしてないぞ絶対!」
古泉「ですよねー」
キョン「は…ははは…」
しんのすけ「んでね、オラがかーちゃんにお肩スーッってするやつ塗ってあげようとしたら…」
しんのすけ「母ちゃん、避けて鼻にお薬が当たっちゃってぇ~」
しんのすけ「『ひいいいいいいいいいいいっ!!』ガンッ!『だおおおおおおおおおおおおおっ!!』」
しんのすけ「って一人で踊り始めたんだゾ~」
みくる「あはは…それはお母さん大変でしたねぇ」
長門「……」
キョン「さて、この状況を一体どう処理すればいい?」
古泉「そうですね…取り敢えず涼宮さんにだけは彼との接触を避ける必要があるでしょうね」
古泉「彼は立場上異世界人という事になりますから、涼宮さんに影響が無いとは思えません」
キョン「そうだな、昼休であれだけこの漫画の話題で盛り上がってたんだ。実物なんて見てしまった際にゃあ」
ハルヒ「凄いじゃない!まるでテレビから飛び出てきたみたいに本物そっくりだわ!!」
キョン「てな具合に満天の笑みを浮かべて興味心身に」
キョン「えっ?」
キョン「うおおおおおおおおおおおっハルヒいいいいいいいい!!?」ガタタッ!!
古泉「す…涼宮さん…何時からそこに?」
ハルヒ「えっ?たった今来たばっかりだけど…何二人揃って驚いた顔してるのよ?」
キョン「……(アウト?)」
古泉「……(…セーフだと)」
ハルヒ「それよりもあの子しんのすけそっくりじゃない!何処から連れてきたのよ!?」
キョン「落ち着けハルヒ、これは色々な事情が重なってだn」
ハルヒ「もしかして本物!?私が望んだからひょっこり出てきたんじゃないかしら!?」
古泉「」
キョン「(世 界 が ヤ バ イ)」
キョン「い、いや違うんだハルヒ!」
キョン「あの坊主は長門の生き別れの弟だ!今日からしばらく長門が面倒見ることになってんだよ!!」
ハルヒ「えっ?有希の弟?」
キョン「おう、確か名前は~…焼け野原すんのけし君だった…と思う」
古泉「(ちょっと何ですかその露骨すぎる設定と偽名は!?)」
キョン「(うるさい!咄嗟の判断がきかなかったテメェよりマシだろうがっ!)」
キョン「と、とにかくだな…あの漫画の主人公とは似て非なる存在であって実際の団体人物とは一切関係ない事もないというか…」
ハルヒ「ふぅん…まぁいいわ、実際にアニメのキャラが現実に出てくる訳ないものね」
キョン・古泉「…ふぅ」
しんのすけ「おお、また人が増えたゾ!しかもびじんさんだ~」
ハルヒ「こんにちはしんのすけ君!SOS団長として有希の弟である君を歓迎するわっ!」
キョン「(コイツ俺が考えた偽名をナチュラルに無視しやがった…)」
しんのすけ「えすおーえすだん…おぉ!何だかカッコイイ名前ですなぁ~」
ハルヒ「!!」
ハルヒ「よく分かってるじゃない!流石は有希の弟ね!アンタ中々素質あるわよ!」
しんのすけ「えへぇ~それほどでもぉ~」
ハルヒ「良かったら私達の準団員にならない?歓迎するわよ!」
しんのすけ「いえいえ、せっかくですがオラには大事な使命があるのでお断りさせていたたきますです」
ハルヒ「使命?何かしらそれ?」
しんのすけ「オラはかすかべの平和を守るかすかべぼーえいたいなんだゾ!」
しんのすけ「ワッハッハッハッハッハ~!」
ハルヒ「春日部防衛隊?どこかで聞いた事あるような…」
キョン「パオーンパオーンッ!!!」
古泉「か、彼はですね、バルブ経済崩壊後の日本の経済的衰退を防ぐために政府特別機関工作員として任命された見た目は五歳頭も五歳の」
ハルヒ「バブル経済?古泉君いつの時代の話してるのよ?」
古泉「」
キョン「お前が自爆とは珍しいな」
古泉「放っておいてください…」
キョン「と、こんな風に色々あったのだが…特に目立った閉鎖空間も発生せず、この破天荒な一日は杞憂に終わりを告げる事になったのである」
キョン「あの坊主は長門の弟という設定にしてしまったため、しばらくは長門の家に居座らせるという事に決まり…」
キョン「それと同時にアイツを元の世界に戻す方法を長門が見つけてくれるとの事だ」
キョン「幸い今回は原因がはっきりしているため、方法を見つけるのは容易な事らしいが…」
キョン「この異世界人騒動はそんな簡単に鞘に収める事はできないのだろうと、俺は密かに思うのである」
長門「貴方が何故説明口調なのか理解できない」
キョン「気にするな。いつもの事だ」
長門「……」
―長門宅―
ガチャ
しんのすけ「おっかえり~」
長門「今の発言には不適切なキーワードが含まれている」
しんのすけ「お?」
長門「私達は今帰宅をした」
長門「この場合、私達は迎えうける立場にあるため、ただいま、が適切である」
しんのすけ「ほうほう、そうともゆぅ~」
長門「貴方の発言には理解できない。この場合にはこの単語以外に当て余るケースが一つも…」
しんのすけ「まぁまぁ細かい事は気にしない気にしない」
しんのすけ「そんなにきっちりしてるとかあちゃんみたいにたんさいぼーになっちゃうんだゾー」
長門「……」
しんのすけ「ほっほぉ~い」ダダダダ
長門「貴方は手洗いをするべき」
しんのすけ「ほーい」
・・・・・
しんのすけ「かあちゃんはらへったー」
長門「私は貴方の母親ではない」
長門「食事の準備が出来ているので運ぶのを手伝って欲しい」
しんのすけ「ブッラッジャー!」
長門「…?」
しんのすけ「お?」
長門「…貴方は早く手伝うべき」
しんのすけ「ほーい」
長門「……」
しんのすけ「あーむ」
しんのすけ「んぐんぐ…」
長門「美味しい?」
しんのすけ「っんまぁぁい!」
長門「…そう」
しんのすけ「まったりぃ~でまろやかぁ~」クルクル
長門「食事中に片足で回転するべきではない」
しんのすけ「オラ、こんなに美味いカレー食べた事ないゾ~」
長門「貴方に気に入ってもらい、私という個体も嬉しいと思う」
しんのすけ「おぉ?ゆきちゃんは今喜んでるの?」
長門「そう」
しんのすけ「うーむなかなかお顔の変化が分からない喜び方ですな~」
長門「……」
しんのすけ「むむ、もしかして今流行りのアバズレというやつですかい!?」
長門「貴方の発言から推測すると、それはツンデレが適切だと思われる」
しんのすけ「ほうほう~そうともゆう~」
長門「しかし彼は私の事をクーデレに属すると言う。違いが分からないため理解不能」
しんのすけ「ほぅほぅ、何だか大人の香りがぷんぷんしますぜ親分」
長門「私は貴方を傘下に置いていない」
しんのすけ「おぉ!そろそろアクション仮面が始まる時間だぞ」
長門「…この時間帯にそのような番組は存在しない」
しんのすけ「な、なにいぃぃぃぃぃぃ!?」ガーン!
しんのすけ「そんな…アクション仮面が見られないなんて…」
しんのすけ「オラは…オラは何のために生きてるんだあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
長門「……vncdfvnvlgfdvbidfvb」
長門「今のは私の勘違い。その番組は今この時間に放映している」
しんのすけ「な、なぁ~んだそっか~。アハハハハハ」
しんのすけ「んもう、ゆきちゃんはちゃっかり屋さんなんだから~」
長門「今の発言はうっかりが適切」
しんのすけ「わっはっはっはっはっ!」
長門「……」ペラッ
しんのすけ「あー面白かった」
しんのすけ「お?」
長門「……」
しんのすけ「ねーねーゆきちゃん」
長門「何?」
しんのすけ「それ、今日のお昼にも読んでた本だよね?」
長門「…そう」
しんのすけ「おもしろい?」
長門「…ユニーク」
しんのすけ「ほうほう」
長門「でも、少し…分からない」
しんのすけ「どして?」
長門「……」スッ
しんのすけ「お?」
長門「ここ」
しんのすけ「おぉ!この絵本幼稚園でよんだことあるゾ!」
長門「…そう」
しんのすけ「んで、これのどこがわからないの?」
長門「……」
長門「……」スッ
しんのすけ「んん?」
長門「この絵は人間と動物が繋がっている」
長門「彼女は一度も笑った事がない」
長門「しかしこの姿を見た彼女は、笑っている」
長門「彼女は何故、笑っている?」
しんのすけ「ほうほう、なるへそなるへその尾はちょん切るもの」
しんのすけ「んん~むづかしいもんだいですなぁ」
長門「…ごめんなさい」
しんのすけ「いやぁそれほどでもぉ~」
長門「褒めてはいない」
しんのすけ「んん~オラ的には子供だましだけど…」
長門「?」
しんのすけ「きっとこのお姫様はこのへんてこりんな格好をみて笑ったんだと思うゾ?」
長門「それは理解している」
しんのすけ「ほうほう、じゃあ何がわからないの?」
長門「……」スッ
しんのすけ「お?」
長門「…これは、笑える?」
―――――――――――――――
pipipipipipi
ピッ
長門「…何?」
キョン「長門、俺だ」
長門「……」
キョン「今アイツはどうしてる?騒ぎとか起こしてなければいいんだが…」
長門「問題ない。全ては想定内の範囲で収まってる」
キョン「そうか、ならいいんだ」
キョン「こうなったのも少なからず俺の所為だからな。少し心配してたんだ」
長門「…そう」
キョン「それでどうだ?元の世界に戻す方法は見つかったか?」
長門「…まだ見つけていない」
キョン「そ、そうか。…結構難しいのか?」
長門「そうではない。貴方が望むならすぐにでも見つけ出す事ができる」
長門「ただ、今まであの有機生命体の観察を優先していたため、行動に移す事ができなかった」
キョン「観察?あの坊主に何かあるのか?」
長門「分からない。しかし貴方達とは違う個体である事はたしか」
キョン「そうか…」
長門「情報統合思念体は彼という個体にとても興味を抱いている」
長門「そのため、しばらくの間彼を涼宮ハルヒと同レベルの観察対象とする事が命じられた」
長門「期限は野原しんのすけと涼宮ハルヒの共通性を発見できるまで」
キョン「…大丈夫か?」
長門「安心して、彼は私が責任を持って保護する」
キョン「そうか、それを聞いて安心した」
長門「…私という個体もそれを望んでいる」
キョン「…ほう」
長門「何?」
キョン「いや、何だかお前が満更でもなさそうだからさ」
キョン「珍しいと思ってな」
長門「……」
キョン「…ふむ」
長門「…何?」
キョン「いや、何でもないさ」
キョン「じゃあすまないが…しばらくの間アイツの事、頼んだ」
長門「…了解した」
しんのすけ「ふぃ~いい湯であった」プラプラ
長門「タオルは肩にかけず股間を隠すべき」
しんのすけ「おお、そうでした」
しんのすけ「嫁入り前の娘もいることですからなぁ」
長門「…?」
しんのすけ「オラのかあちゃんはいつもそう言うゾ」
長門「…そう」
しんのすけ「有希ちゃんは大きくなったらお嫁さんになるの?」
長門「…分からない」
しんのすけ「オラは大きくなったらななこおねいさんを迎えにいくんだ~」
しんのすけ「んでね、オラはおねいさんの膝枕で耳掃除してもらうんだゾ」
しんのすけ『しんちゃん、痛くない?』
しんのすけ「ふっ、ななこのこと思うと胸がズキズキ痛むんだぜ」
しんのすけ『まぁ大変、じゃあ私のおむねでいいこいいこしてあ・げ・る(はぁと)』
しんのすけ「うひょおおおおおおおおおおおお!!!!」シュポポポー
長門「……」
しんのすけ「あぁななこおねいさん…そこは駄目だゾ…そんなに伸びない」
長門「…貴方は」
しんのすけ「お?」
長門「今、楽しい?」
しんのすけ「んん?」
長門「私は貴方に対して何も干渉していない」
長門「しかし貴方はとても楽しそうにしている」
長門「何故、表情の変化がこの短時間で多様なのかも理解不能」
長門「…貴方は、とても興味深い」
しんのすけ「ん~有希ちゃんの言ってる事全然分かんないけど」
しんのすけ「オラは今、とっても楽しいゾ?」
長門「……」
しんのすけ「オラの家じゃないところでお泊りなんておひさしぶりぶりだから~」
しんのすけ「かあちゃんにも怒られる事ないし~」
しんのすけ「オラはまんぞくであるっ!」
しんのすけ「ワッハッハッハッハッハーッ!」
長門「…そう」
しんのすけ「ゆきちゃん」
長門「何?」
しんのすけ「ゆきちゃんはオラといて…楽しくないの?」
長門「……」
しんのすけ「はっ!もしかしてオラにほれちゃったからおむねが痛くて泣いちゃいそうだとか!?」
しんのすけ「いやぁ~まいったなぁ~オラもつみきづくりな男だゾ~」クネクネ
長門「その心配は必要ない」
しんのすけ「あ…そなの」
長門「…貴方はとても興味深い」
しんのすけ「お?」
長門「私は貴方以上の喜怒哀楽の感情が激しい有機生命体を見た事がない」
しんのすけ「きどあいらく?」
長門「そう」
しんのすけ「それってカニがいっぱい食べれるお店のこと?」
長門「それはか○道楽」
しんのすけ「緑のもじゃもじゃ人形が二匹でCMで出てた…」
長門「愛・○球博」
しんのすけ「おぉ!最近カザマくんが見てたらくごのアニメの…」
長門「じょ○らく」
長門「……」
しんのすけ「お、おぉ…ゆきちゃんのお顔がかあちゃんみたいな鬼ババに…」
長門「…そろそろ寝る時間」
しんのすけ「ふわぁ~あ…」
長門「布団は敷いてある。好きにしていい」
しんのすけ「ほっほーい…」
ボフッ
しんのすけ「ん~このおふとんいいにおいだゾ~」
長門「それは私の寝具。貴方はこっちの…」
しんのすけ「zzz.......」
長門「……」
ファサ…
長門「…おやすみなさい」
-翌日-
ガチャ
キョン「うぃーっす」
長門「……」
キョン「ん?また長門だけ…ではないな」
長門「……」
しんのすけ「えへへ~じょしこうせいでもはったつが良い子はそそられますなぁ~」
キョン「…はぁ」
キョン「おい、あまり窓から顔出すな。誰かに見つかったらどうすんだ」
しんのすけ「ああんおねいさあん~」
キョン「長門もあまりこいつを甘やかすなよ。…まぁお前がいれば心配はないのだろうが」
長門「了解した」
しんのすけ「お?オラおじさんのおなまえ憶えてるゾ。うんとねー」
キョン「誰がおじさんだ。それにまだ本名は名乗ってない。俺の名は」
しんのすけ「ギョンくん!」
キョン「そうっ!俺は黒い球体に体を蘇えさせれらた漆黒のハンター!今日も転送され世界中の怪人を」ギョーンギョーン
キョン「ちがうっ!!」
バタンッ!!
ハルヒ「やっほー!みんないる!?…って、有希とキョンだけ?」
キョン「古泉はバイトだ」
みくる「おそくなりましたぁ」
ハルヒ「遅いじゃないみくるちゃん!団員たるもの団長の入室三十分前には部室にいる義務があるのよ!」
みくる「ふぇ!?」
キョン「三十分前は授業中だこの馬鹿」ゴツンッ
ハルヒ「いたい!よくもぶったわね!あと馬鹿ってまた言った!」
キョン「馬鹿に馬鹿と言って何が悪い」
ハルヒ「…ふ、ふふふ。キョン…アンタとは一度白黒つける必要があるみたいね…」ゴゴゴゴゴ…
キョン「奇遇だな、俺も常々同じ事を思っていたんだ…」ゴゴゴゴゴゴ…
ハルヒ「この際だから平団員から超平団員に降格してあげるわ。覚悟しなさい!」
キョン「そっちこそそのカチューシャ引っこ抜いて無理やりポニテにしてやる。覚悟しろ」
みくる「ひ、ひえぇ~何だか二人から禍々しいオーラが見えますぅ~」
しんのすけ「おぉ!オラこれ知ってるゾ!」
しんのすけ「とーちゃんとかーちゃんがいつもやってる『どたんば』ってやつだ!」
みくる「え、えぇ~....」
長門「この状況から把握すると、それは土壇場ではなく修羅場だと思われる」
しんのすけ「おぉ、そうともゆー」
長門「これ以上の闘争は悪影響を及ぼす。早急に止めるべき」
みくる「で、でもどうすればいいんですかぁ~?」
長門「今私達が介入することは許されない。第三者が横槍を入れる事は、世界の崩壊を意味している」
みくる「そ、そんなぁ~」オロオロ
しんのすけ「ねーねー」
キョン「何だ?俺達は今から食物連鎖の頂点を競い合う戦いを始めようと…」
しんのすけ「二人ともどたんばがおわったらプロレスごっこするの?」
ハルヒ・キョン「プロレスごっこ?」
しんのすけ「おらのかーちゃんととーちゃんは」
しんのすけ『あなたごめんなさい…私が悪かったわ』
しんのすけ『いいんだみさえ…お前の気持ちを分かってやれなかった俺が悪いんだ…』
しんのすけ『もう三段腹が悪いなんて言わないさ!その身体全部まとめて愛してこそが夫の務めだ!』
しんのすけ『私もあなたの足の匂いを愛してみせるわ!それこそが妻の努めだもの!』
しんのすけ『みさえ…』
しんのすけ『あなた…』
しんのすけ『んー』『んー』
ハルヒ「……」
しんのすけ「ってこんなふうにしてちゅーしてんだゾ?まったく二人ともまだまだ子供なんだから~」
みくる「で、で、その後お父さん達はどうなっちゃったのですか!?」
しんのすけ「それがさぁ~二人でお布団敷く部屋に行っちゃったんだゾ」
しんのすけ「とーちゃんが『今からママとプロレスごっこするからお外いってなさい』っていってた」
しんのすけ「オラは入っちゃだめっていわれたから公園に遊びに行ったんだゾ~」
みくる「ふ、ふえぇ~」プシュー
しんのすけ「だから二人だけでプロレスごっこで遊ぶなんてズルいゾ!オラもまぜろ~!」
キョン「するかっ!」
ハルヒ「そそそそそそうよ何でこんな奴とっ!プ…プロレスごっこなんか!」アタフタ
しんのすけ「おぉ!忘れてた!」
しんのすけ「とーちゃんたちがプロレスごっこしてるとティッシュがすぐなくなるんだった!」
ハルヒ「ひぇっ!?」
みくる「」プスプス…
しんのすけ「オラとしたことがぐったりしてたぞ。ゆきちゃんの家でもらったポケットティッシュがあるからこれ使ってね」
キョン「余計な気ぃ遣わんでいい!」
長門「……」
-その後-
ハルヒ「全くキョンのやつ…どうしてあんなに反抗的なのかしら」ブツブツ
みくる「ま、まぁまぁ、涼宮さん落ち着いて、ね?」
ハルヒ「しんのすけ君にもかなり振り回されちゃったわ…。これは団長である私の唯一の失態ね」
みくる「あ、あのぉ~涼宮さんあの子はすんのけし君で」
ハルヒ「でもあの子はかなりの潜在能力を秘めてるわ!これは時期団長として育成のしがいがあるわね!」
みくる「え、えぇ~...」
ハルヒ「有希もそう思わない?あの子の姉としてこれは誇らしい事だと思うわ」
長門「……」
ハルヒ「…有希?」
長門「何?」
ハルヒ「あ、いやね?有希はしんのすけ君の事凄いと思わない?」
ハルヒ「あんな面白い子は世界中探しても中々いないわよ!」
長門「…そう」
ハルヒ「…うーん」
みくる「どうかしました?」
ハルヒ「えっと、有希としんのすけ君って本当に姉弟なのよね?」
ハルヒ「その割りにはあまりに似てないなぁーって…」
みくる「あ、それはその…」
ハルヒ「あんなに表情豊かなの子なのに有希はいっつも無表情だから…」
ハルヒ「あ、別にそれが悪いって言ってる訳じゃないのよ?」
ハルヒ「ただちょっと気になっちゃったから…」
みくる「す、涼宮さんっ!あまり長門さんの家庭の事には…」
ハルヒ「あっ…そうね!これはあんまり首突っ込む事じゃないわ!」
ハルヒ「ごめんね有希…気を悪くしちゃったなら謝るわ。許してくれる?」
長門「…いい、気にしていない」
ハルヒ「…ふぅ、何か今日はダメね。もう帰ったほうがよさそうだわ」
ハルヒ「みくるちゃん、着替えて帰る準備して頂戴」
みくる「あ、はぁい分かりました~」
長門「……」
――――――――――――――――
しんのすけ「ふんふふんふふーん」カキカキ
キョン「しんのすけ、お前何作ってるんだ?」
しんのすけ「この前幼稚園で作ったやつー」
キョン「どれどれ…ほう」
しんのすけ「キョン君にはあげないゾ」
キョン「もしかして、長門にか?」
しんのすけ「ぴんぽーん!」
キョン「ハハッ。それはあいつも喜ぶだろうな」
しんのすけ「でしょー?組長がごほん好きな人にあげたら喜ぶって言ってた」
キョン「組…あぁ、なるほどな」
しんのすけ「キョン君にはオラとくせいのなまこのもけいあげるね」
キョン「いらん」
しんのすけ「えんりょなんてしなくていいゾ~」
キョン「…はぁ、やれやれだ」
しんのすけ「はぁ、やれやれだぜ」
キョン「真似するな」
しんのすけ「あ、ゆきちゃんだ」
長門「……」
キョン「ん?もう部活はお開きになったのか?」
長門「……」コクリ
キョン「そうか、じゃあコイツの事よろしくな」
しんのすけ「ねぇねぇゆきちゃんオラはらへったー。今日のばんごはんなにー?」
長門「…カレー」
しんのすけ「なんと!二日続けてカレーですと!?」
しんのすけ「ゆきちゃんはお金持ちですなぁ~えへぇ」
キョン「おいおい、あんまりカレーばかり食べてると身体壊すぞ」
長門「…そう」
キョン「…長門?」
長門「何?」
キョン「いや…」
キョン「何かあったか?」
長門「……」
長門「何も」
キョン「そ、そうか」
キョン「じゃあ、帰るか」
しんのすけ「アークションかめーん。せいぎのかーめーんー」
キョン「ゴゴッゴー・・・」
しんのすけ「れっつごー!」
しんのすけ「おぉ!チョンくんアクション仮面しってるの!?」
キョン「まぁな、だが俺はチョンじゃねぇ」
しんのすけ「アクショーンビーム!ビビビビビビビビ!」
キョン「ふははははは!そんなものかアクション仮面!ミミコはいただいた!」
しんのすけ「ぬおおっ!ひきょうだぞかいじんジュンくん!」
キョン「そんな引き篭もりみたいな名前じゃない!さらばだアクション仮面!はっはっはー!」
ダッダッダッダッダ…
しんのすけ「やれやれ…おとなと遊ぶのも疲れますなぁ」
長門「……」
しんのすけ「ゆきちゃーんはやくかえろー」
長門「……」テクテク
-長門宅-
長門「いただきます」
しんのすけ「いっただっきまーす」
しんのすけ「あぬうんうんうん…」
長門「……」モグモグ
しんのすけ「おぉ?今日のカレーはひとあじちがいますなぁ」
長門「…どうして分かる?」
しんのすけ「きのうはまったりまろやかぁ~だったけどぉ」
しんのすけ「きょうのはきりっとしてておとなの味だゾ」
長門「…今日は醤油を混ぜてみた」
しんのすけ「おぉ!ゆきちゃん分かってるぅ~」
しんのすけ「やっぱりカレーにはしょうゆだよねー」
長門「…私は」
しんのすけ「お?」
長門「ウスターソースが至高」
しんのすけ「おぉ!とーちゃんがいっつもソースかけてたゾ!」
しんのすけ「かーちゃんにかけすぎてよく怒られるんだ~」
長門「…そう」
しんのすけ「ゆきちゃんのカレーはソースいれてるの?」
長門「食べてみる?」
しんのすけ「いただきまーすぅ」
しんのすけ「んぐんぐ…」
長門「…どう?」
しんのすけ「んんまいっ!」
しんのすけ「こってりとしててしつこくないおあじ~」
しんのすけ「オラ、これきにいったゾ!」
長門「…そう」
しんのすけ「ん~」
長門「…何?」
しんのすけ「オラ、ゆきちゃんと一緒にいて思ったんだけどー」
長門「……」
しんのすけ「ゆきちゃん、もっとわらってたらすごくかわいくなるとおもうゾ?」
長門「……」
しんのすけ「そしたらみくるちゃんにもだんちょーさんにも負けないきれいなおねいさんになるんじゃない?」
長門「…」
しんのすけ「んでもってしょうらいはきっとないすばでいなおねいさんに…」
しんのすけ「…はっ!?オラはだめだぞ!オラにはななこというこいびとが」
長門「」
しんのすけ「…ゆきちゃん?」
長門「」ポロポロ…
しんのすけ「!?」
―――
しんのすけ「ゆ、ゆきちゃん…?」
長門「」ポロポロ
しんのすけ「どうしたの?お腹いたいの?」
長門「…分から、ない」ポロポロ
長門「理解…不能」ポロポロ
しんのすけ「ああ泣かないで!オラがなんとかするから!」
長門「……」
長門「……」ポロポロ
しんのすけ「えぇーっとええーっと…」
しんのすけ「そうだっ!」
しんのすけ「踊るケツだけ星人!あっぶーりぶーり♪」ブリブリ
長門「……」
しんのすけ「ほーらゆきちゃん、たらこのなみのりだぞ~」ウニュー
長門「……」ポロポロ
しんのすけ「ううっ…こうなったらー!」
しんのすけ「ひっさつ!」
しんのすけ「チンコプタアアアアアアアアアッ!!!!」ブルンブルンブルン!!!
長門「」
しんのすけ「うおおおおおおおおいつもよりおおくまわっておりまああああああすうううううっ!」プルンプルン
長門「……」
長門「……」ガシッ
しんのすけ「(∵)」
しんのすけ「あっちょ」
グイグイグイ
しんのすけ「そ、そんなに伸ばしちゃ…」
バチンッ!!!
しんのすけ「いやあああああああああん!」クルクル
しんのすけ「はぁ…はぁ…」
長門「……」
しんのすけ「もうおよめにいけない…」
しんのすけ「ゆきちゃんのいけずぅ…」
…クスッ
しんのすけ「おっ?」
長門「……」
しんのすけ「…ゆきちゃん、いま」
しんのすけ「わらった?」
長門「…分からない」
しんのすけ「ぜったいわらったゾ!」
しんのすけ「うわーいわーい!ゆきちゃんがわらったゾー!わーいわーい!」
長門「…これが、笑う?」
しんのすけ「やったーやったー!ぶりぶりぃ~ぶりぶりぃ~」
しんのすけ「ゆきちゃんをわらわせたゾー!ひゅーひゅー!」
長門「これが」
長門「笑う」
-翌日-
キョン「…んで、こんな朝から呼び出したのは何だ?」
しんのすけ「ん~オラまだ眠いぞ~」
長門「……」
長門「野原しんのすけを現在の次元から切り離す準備が完了した」
キョン「…そうか」
キョン「原因は何だったんだ?」
長門「おそらく野原しんのすけの世界に存在する媒体がこちらの媒体にリンクした事による情報伝達が原因」
キョン「媒体?」
長門「別世界の媒体は不明。しかしこちらの媒体は明らか」
長門「媒体は涼宮ハルヒが所有していた書物だと思われる」
キョン「…ほう」
長門「彼女は野原しんのすけをイメージし具現化をさせた」
長門「それと同時に野原しんのすけは別世界の媒体に触れ何らかのショックを与えたため、こちら側の世界にコンタクトを取る形になった」
長門「それは涼宮ハルヒ…又は私達をイメージさせる事のできる媒体であったのだと推測している」
キョン「…ん?ちょっと待て」
長門「何?」
キョン「いや…ちょっと確認したい事がある」
キョン「おいしんのすけ」
しんのすけ「なに~」
キョン「お前は俺達sos団の中で会った事のある奴がいるんじゃないか?」
しんのすけ「んもうやだなぁチュンくんったら~そんなナンパのほーほーは古臭いゾー」
キョン「…質問を変えてみよう」
キョン「お前、こっちに来るとき何か持ってなかったか?」
キョン「例えば…本、そうだ本だ」
しんのすけ「んんー持ってたような持ってないような…」
キョン「思い出してみろ。一昨日の出来事だろう」
しんのすけ「むむむ~」
しんのすけ「おぉおもいだしたゾ!」
キョン「何だ?」
しんのすけ「オラ、公園でごほん拾ったんだゾ」
しんのすけ「それにだんちょーの顔がかいてあったゾ」
キョン「…そうか」
長門「おそらくは」
キョン「あぁ、分かってる」
キョン(…ハルヒ)
キョン(お前は別世界でも有名らしいぞ)
しんのすけ「んで、そのごほんもって公園に行こうとしたら~」
しんのすけ「ゆきちゃんと会ったんだゾ?」
キョン「……」
長門「……」
しんのすけ「いやぁでもあのごほんをひろったかいがありますな~」
しんのすけ「だんちょーにもあえたしーみくるちゃんといっぱいお話したしー」
しんのすけ「あ、ゆきちゃんの笑った顔がみられたことがいちばんだったゾ!」
長門「……」
キョン「そう、か。そりゃよかったな」
しんのすけ「ねーねーゆきちゃん。今日は何して遊ぶー?」
しんのすけ「オラこの前のごほんもういっかい一緒に読みたいゾ!」
キョン「なぁ、しんのすけ」
しんのすけ「お?」
キョン「お前、そろそろ帰らなきゃいけないんじゃないか?」
しんのすけ「なんで?」
キョン「お前のかーちゃん、門限は何時だって言ってた?」
しんのすけ「うーん」
しんのすけ「はっ!五時だ!」
キョン「かーちゃん。怒ったら怖いだろ?」
しんのすけ「うっ…でも今朝の七時だゾ」
キョン「あぁ、朝の七時だ」
キョン「今日は平日だ。幼稚園には行かなくていいのか?」
しんのすけ「あ」
キョン「問題だ」
キョン「門限は午後の五時。今は朝の七時」
キョン「幼稚園バスに乗らないとかーちゃんが送り迎えをしなきゃいけない」
キョン「…かーちゃんはどのくらい怒る?」
しんのすけ「お、おおおおおおっ!!!妖怪ケツでかおばばのグリグリ攻撃だぁ~!」
しんのすけ「オラまだしにたくないぞおおおおお!」
キョン「大袈裟だな」
しんのすけ「キョン君はあの痛みを知らないからそんなのーてんきなこと言ってられるんだゾ!」
しんのすけ「あ、もしかしたらおつやのチョコビ抜きかも」
しんのすけ「ひいいいいいいいいっ!」
キョン「で、どうするんだ?」
しんのすけ「オラ、かえるっ!」
長門「……」
キョン「…だ、そうだぞ。長門」
長門「…了解した」
しんのすけ「ゆきちゃん!早くしないと妖怪ケツでかおばばが!」
長門「分かっている」
キョン「元の世界に戻る方法は?」
長門「私個人の媒体から向こうに直接コンタクトを行い、空間移動を行う」
キョン「…よく分からんが、よろしくな」
長門「…了解した」
キョン「っと、その前に」
キョン「おいしんのすけ。長門がお前に言いたいことがあるらしいぞ」
しんのすけ「お、ゆきちゃんが?」
長門「…私は何も」
キョン「そんな顔しても誤魔化せないぞ」
キョン「顔に書いてあるからな」
長門「……」ペタペタ
しんのすけ「ゆきちゃんなーにー?」
長門「……」
長門「…この二日間、あなたと行動を共にした事によって、有機生命体の観測を十分に行うことができた」
長門「特に貴方の奇怪な行動には興味深く、人間の新たな可能性を見出すことができた」
長門「情報統合思念体は貴方という異世界人を手放すには惜しいと考えている。しかし涼宮ハルヒへの過度な接触によって起こりうるとされる情報爆発は未知数なt」
キョン「……」ポカッ
長門「…何故、叩くの?」
キョン「ただの五歳児になに電波的な話をしてんだ」
キョン「もっと他に言う事があるだろ?」
長門「……」
キョン「恥ずかしがらないで言ってみなさい」
長門「……」コクリ
長門「野原しんのすけ」
しんのすけ「ほいっ!」
長門「この二日間。私という個体はとても充実していたと思われる」
長門「…ありがとう」
しんのすけ「ふむふむ」
長門「…何?」
しんのすけ「やっぱりゆきちゃんは笑ってる時の顔が一番おにあいだゾ」
しんのすけ「これからずっと笑ったらきっとしわよせになれるとおもうゾ!」
長門「…それを言うなら、幸せ」
しんのすけ「そうともいう~」
しんのすけ「ワッハッハッハッハーッ!」
長門「……」
キョン「もういいのか?」
長門「……」コクリ
しんのすけ「お、こってり忘れてた」
しんのすけ「ほいっ」
長門「…これは」
しんのすけ「オラが作ったんだゾ」
長門「…私に?」
しんのすけ「お礼は一億万円!ローンも可!」
キョン「長門、最後は気にしなくてもいい」
長門「…ありがとう。大事にする」
しんのすけ「大事にするだけじゃなくて、ちゃんと使ってよね~」
長門「…了解した」
長門「私は、これ」
しんのすけ「お?」
長門「…こんなものしか、思いつかなかった」
長門「ごめんなさい」
しんのすけ「おぉ!これオラが使ってたやつ!?」
長門「そう」
しんのすけ「ほっほほーい!ありがとござまーす!」
長門「……」
しんのすけ「さっそくかあちゃんに言ってカレー作ってもらおーっと」
しんのすけ「ゆきちゃん!大事に使わせもらうゾ!」
長門「…そう」
――――――――――――
長門「…ここを通り抜けると、元の世界に戻ることができる」
しんのすけ「……」
キョン「…ふぅ、お別れだ。しんのすけ」
しんのすけ「ねぇねぇ」
キョン「何だ?」
しんのすけ「また会える?」
キョン「……」
キョン「きっと、また会えるさ」
しんのすけ「ほんとに?」
キョン「ああ、約束でもするか?」
しんのすけ「おう!」
キョン「男同士の!」クイッ
しんのすけ「おやくそくっ!」クイッ
しんのすけ「ゆきちゃんもいっしょに!」
長門「私は女性に分類される」
しんのすけ「こまかいことはきにしないきにしない!はいっ」
しんのすけ「おとことおんなのぉーっ」
長門「…約束」
しんのすけ「これでよしっ!」
キョン「ほら、早く帰らないとかーちゃん怒るぞ」
しんのすけ「ほーい」タッタッタッ
長門「……」
しんのすけ「キョンくん、ちゃんとはーみがけよー」
キョン「お前こそ、ピーマン残すなよー」
しんのすけ「ゆきちゃーん!」
長門「……」
しんのすけ「今度来たときはカレーの玉ねぎ抜いといてねー!」
長門「…好き嫌いは、ダメ」
しんのすけ「ほーい」
「じゃ、そーゆーことでー」
―後日―
ハルヒ「うーん」
みくる「涼宮さーんできましたかー?」
ハルヒ「ちょっともみあげが気に入らないけど…まぁいいわ!完成!」
みくる「わー私これ知ってますー。トーテムポールの上の部分の顔ですよね」
ハルヒ「…これ、キョンの顔なんだけど」
みくる「えっ」
ハルヒ「……」
みくる「わ、わーホントそっくりですねー!特にこのもみあげの広がり具合とか特に…」
ハルヒ「いいのよみくるちゃん。私も薄々…」
長門「再現率99%。しかしこの彫刻を理解できる人類はこの時間帯には存在していない」
長門「貴女は隠れた芸術家、数十年後この作品は必ず世界遺産として評価されると私は」
ハルヒ「やめて有希!これ以上フォローしないで!すごく胸が痛い!」
キョン「…何やってんだアイツは?」パチッ
古泉「どうやら昔を懐かしんで粘土彫刻をしているようですね」パチッ
キョン「ふーん」パチッ
古泉「貴方は参加しなくてもよろしいのですか?」パチッ
キョン「別に」パッ
古泉「おっと、これは参りました」
キョン「弱いなお前、まぁ今知ったことじゃないが」
古泉「貴方が強すぎるのだと思いますよ?」
キョン「ぬかせ」
古泉「んっふ」
古泉「話は変わるのですが…」
キョン「何だ?」
古泉「長門さん、あれから随分と明るくなられたような気がします」
キョン「あぁ」
古泉「何か僕の知らない所で人頓着あったよですね。んふっ」
キョン「そうだな」
キョン「…確かに、長門は変わった」
キョン「いや、変わろうと努力しているのかもしれん」
古泉「努力、ですか?」
キョン「なぁ、お前金のがちょうって話知ってるか?」
古泉「えぇ、知っています」
キョン「アホな木こりがお姫様を笑わせて、なんやかんやで二人は結婚するって話だが…」
キョン「長門にとってのアホな木こりは、おそらくアイツの事だったんだろう」
古泉「長門さんをあそこまで変えてみせたのが彼の功績だと?」
キョン「あぁ。そこまで立派なことをした訳じゃあないと思うが…」
キョン「長門にとってアイツは、自分を変えようと決心するほど刺激を貰ったんだろう」
キョン「ま、恋のキューピットならぬ、笑顔のキューピットって所だな」
古泉「」
キョン「…おい古泉」
古泉「なんでしょう?」
キョン「何で後ろ向いてんだお前」
古泉「いえいえ別に、ブッ。何でも、ないです…」プルプル
古泉「笑顔の…笑顔…の、キュ、ピッ、ト」
古泉「ぶほぉww」
キョン「おいこら、古泉お前どういうことだ」
古泉「だってwwwwwだってっwwwwwwブフッwwwwwww」プルプル
古泉「すいませんwwwwww僕www少しwwwwトイレにwwwww」ダッ
キョン「逃がすか!待ちやがれっ!」ガタッ!
ハルヒ「あれ?男共は一体どこに消えたの?」
みくる「さぁ…さっき古泉くんとキョンが急いで外に行ってるのを見ました」
ハルヒ「全く、今は団活中だってのにふざけてるわね!帰ってきたら私が直々に説教をしてやるわ!」
みくる「アハハ…あれ?」
ハルヒ「どうしたの?」
みくる「長門さぁん。これ、一体何ですかぁ?」
長門「海鼠」
みくる「ふぇ?」
長門「主に棘皮動物門に属する動物の一群であり、体が前後に細長く、腹面と背面の区別がある。見かけ上は左右相称であるが、体の基本構造は棘皮動物に共通した五放射相称となっている。体表が刺や硬い殻ではなく、比較的柔軟な体壁に覆われ」
みくる「ひええぇ!わ、分かりました!もう大丈夫です!」
長門「そう」
ハルヒ「…にしても、何で海鼠なの?もっとこう普通の魚とかいろいろあったでしょうに」
長門「…気に入ったから」
ハルヒ「そ、そう…」
長門「……」ペラッ
ハルヒ「有希、栞変えたの?」
みくる「あ、ホントだ。いつもの真っ白な栞じゃないですね」
長門「…貰った」
ハルヒ「ふぅん。あっ、ちょっと待って!」
ハルヒ「この豚の絵って…アレよね!」
長門「…そう」
ハルヒ「へぇーよく出来てるわねぇ。作者が書いたみたいにそっくりだわ」
みくる「長門さーん、私にも見せてくださーい」
長門「…これは、私の」
―――――――――――――――――――
「かーちゃん!はらへったー!」
「はいはい分かってるっての!ちょっとぐらい待ちなさいよみっともない!」
「グズグズしてるとせっかくのカレーが逃げちゃうゾ!」
「心配しなくてもカレーは逃げません。はい、しんちゃんの分」
「ほっほほーいい。いっただきまーす」
「たい!たたいのお、たいやっ!」
「はいはいひまちゃんもお腹がすきましたねー」
「ん?しんのすけ。お前のスプーンってそんなにでかかったか?」
「それが聞いてよー。しんのすけったらせっかく買ったアクション仮面のスプーン使わないでこればっかりなのよ」
「アクション仮面のは幼稚園で使うやつの!カレーはこのスプーンで食べるんだゾ!」
「ほほう、しんのすけもこだわりのわかる男になったってことか!」
「こだわりってなに?カレーとウンチのちがいみたいなやつ?」
「うんこ食ってる時にカレーの話すんじゃねーよ!」
「逆よ逆!きったないわねー」
「とにかく!カレーは絶対このスプーンで食べるの!」
「はぁ、別にいいけど、何でそのスプーンじゃないとダメなのよ?」
しんのすけ「だって、これはオラの…」
『私(オラ)の、大切な宝物だから』
しんのすけ「だゾ!」
―終わり―
乙
ほんわかしてて素敵だったわ
久しぶりにしんちゃんの原作とアニメ見たくなってきた……
Entry ⇒ 2012.10.21 | Category ⇒ 版権物SS | Comments (0) | Trackbacks (0)
P 「律子と二人」
律子「おはようございます。なんですか?私じゃ不満とでも?」
P 「いや、よく考えたらわざわざ早く出てきたんだから当たり前だなって思ってさ」
律子「そうですね、いつもより一時間くらい早いですか」
P 「ああ。ちょっと仕事がな」
律子「ちゃんと終わらせて帰らないから早くから出てくる羽目になるんですよ?」
P 「手厳しいな。まぁ、律子と二人で朝の時間を過ごすのも悪くないよ」
律子「……何も出ませんよ?」
P 「コーヒーくらいだしてくれてもいいぞ」
律子「はいはい。砂糖は三つですよね?」
P 「おう。ミルクもな」
律子「わかってますよ。子供みたいな舌してるんだから」
P 「いいだろ別に」
P 「……よし、しゅーりょー」
律子「あら、早いですね」
P 「大した量じゃなかったからな」
律子(……いや、結構な量残ってたはずだけど。本気でやるとすごいのよね、この人)
P 「律子はまだか」
律子「ええ。何なら代わってくれてもいいですけど?」
P 「同じ事務所でもライバルだって、見せてもくれないだろ」
律子「あら、よくわかってますね」
P 「付き合い長いんだし、当たり前だろ」
律子「……ですか」
P 「君もさっさと終わらせたまえ。そんで俺の話し相手になりたまえ」
律子「あーはいはい。待っててくださいねー」
P 「そう言っていっつもほったらかしのくせにー」
律子「はいはい」
律子「肩ですか?まぁ、勉強と仕事とでずっと机に向かってますから、バッキバキですよ」
P 「揉もうか?」
律子「ええ?いいですよ、別に」
P 「いや、揉ませてくれよ。揉みたいんだよ」
律子「すごい下心を感じるんですけど」
P 「真心しかないよ、安心してくれ」
律子「……あれだけアイドルに迫られても平気な人ですから。そういう感情ってないのかもしれませんけど」
P 「アイドルに迫られた?そんな嬉しい境遇ならなってみたいね」
律子「呆れた。揉みたいならご自由にどうぞー。肩なり腰なり脚なり」
P 「じゃあ脚で」ワキワキ
律子「ひっ!なんですかその手!」
P 「え?オクトパスハンドだよオクトパスハンド、知らないのか?」
律子「しっ、知りません!肩!肩でお願いします!」
律子「……ただの暇つぶしでしょうに。やれやれ」
P 「ほっ、そりゃ、どうだ?」モミモミ
律子「あ゛~……上手いもんですね~……」
P 「修業したからな。しかし本当にこってるな」グリグリ
律子「事務仕事ばかりで運動も出来てませんからねぇ。ストレスも溜まるし肩もこりますよ」
P 「竜宮小町の三人もそれなりに手がかかるし、大変だな」グニグニ
律子「残り全員抱えてる人に言われてもって感じですけどね」
P 「名目だけだろ。みんな自分で出来ることはやってくれるし、そこまでじゃないよ」トントン
律子「いやいや、十分すごい、っていうか凄まじいですよ。どんな超人ですか」
P 「こんなヤツです」グッグッ
律子「はいはい敏腕敏腕」
律子「はぁ、ありがとうございます。だいぶ楽に……」
P 「次、ソファーにでも寝転んで。うつ伏せに」
律子「はぁ?なんでですか?」
P 「肩こりってのは背中の筋肉も解さないと取れないんだぞ?」
律子「あら、そうなんですか?確かに背中も張ってる感じはあったんですけど……恥ずかしいですし、いいですよ」
P 「どうせみんなまだ来ないし、大丈夫だって。ほれほれ」グイグイ
律子「わかった、わかりましたから押さないでくださいよ。もう、変なとこ凝り性なんだから……」
P 「スーツ脱いどけよ、シワになるぞ」
律子「ええ?……仕方ないですね」ヌギッ
P 「ほい、そんじゃ行くぞー」グッグッ
律子「あっ!やっ、強っ……ちょ、待って、待ってよ!」
P 「大丈夫、力抜いとけ。解れてきたら気持よくなるから」グイグイ
律子「っくぅ……んっ、はぁっ!あっ……そこっ、イっ……ああっ!」
春香(ドアの向こうから声聞こえるだけだからどうなってるかわからないけど、これって……ですよね。うん)
春香(まだ時間あるし、ちょっと時間潰してこよう。そうしましょう!)
やよい「おはようございまーす!」
春香「ハッ!」ガッ
やよい「むぐっ!うっうー!」
春香「やよい、ごめんね。今事務所の中は大人空間なのよ。私とファミレスでも行きましょう」ズルズル
やよい「う゛ー!」ズルズル
春香(純粋なやよいの心を守る、天海春香で……あれ、変だな目から汗が)
P 「ん?」ゴリゴリ
律子「どうか……あっ!したんですっ……かっ?」
P 「いや、なんかやよいの声が……気のせいか」
律子「私は何も聞こえませんでしたけど?」
律子「結局腰も揉むんじゃないですか!駄目ですって!」
P 「えー」
律子「えーじゃないです」
P 「背中はいいのにか?」
律子「……さっきも言いましたけど、私最近運動不足なんですよ」
P 「そうだな」
律子「でも、摂取カロリーは変わってないわけで」
P 「普通に食べてるもんな」
律子「だから、その……わかるでしょう?」
P 「?」
律子(腰回りにちょっとお肉がついてきたから触らせたくないんだっつーの!)
P 「……ああ!もしかして律子、ふとっ」
律子「言うなー!」バキッ
P 「おぶっ!」
P 「……」
律子「その、動転しちゃったんです。でも、プロデューサーも悪いんですよ?気にしてることをあんなはっきり……」
P 「……」
律子「あの、だから……」
P 「……」
律子「だから、部屋の隅っこで体育座りするのやめてください……」
P 「……いいんだ、俺デリカシー無いから。殴られても仕方ないんだ」
律子「ああ、もう!わかりました!何がお望みですか!?」
P 「えっ、いやーなんか悪いなー。そんなつもり全然なかったんだけど、いやー律子は献身的だなー」
律子「はぁ……」
律子「あの、邪魔なんですけど」
P 「まあ今日一日だけだって。うん、やっぱいいな」
律子「何を言われるかと思ったら、髪を下ろして仕事してくれって……はぁ」
P 「なんだよ、見たかったんだもん」
律子「いい大人が見たかったんだもんーじゃありません。ていうか、このくらいなら普通に頼んでくれれば」
P 「やんないだろ?」
律子「……まぁ、承諾する理由がありませんね」
P 「だろ。はー眼福眼福」
律子「別に大して変わらないと思いますけど?」
律子「なっ、何をいきなり言うんですか!」
P 「褒めてるんだぞ?」
律子「褒めたってなにも……」
P スッ
律子「……コーヒーのおかわりくらいは出してあげますけど」
P 「うん。そしてその後姿を見る!」
律子「はぁ……」
P 「そろそろみんな来る時間だな」
律子「そうですね」
P 「今日は一日その髪型だぞ」
律子「わかってますって」
律子「はぁ?髪型変えたくらいで仕事に支障でませんけど?」
P 「や、多分律子のことばっかり見ちゃうからさ。俺の仕事がってこと」
律子「……好きにしてください。けど、仕事はちゃんとこなしてもらいますからね!」
P 「わかってるって。本気だせばちょちょいのちょいだ」
律子「もう。いつも本気出してくださいよ」
P 「えー、疲れちゃうじゃーん?」
律子「疲れたら今度は私がマッサージしてあげますから」
P 「本当か!?よっしゃ明日以降の予定もねじ込むか!」
律子(冗談のつもりだったんだけどなー)
律子「私はいつも全力です。ああ、それから……」
P 「ん?何だ?」
律子「マッサージ。良かったら今度またやってくださいよ」
P 「おお、お安いご用だぞ。何なら肩や背中と言わず全身揉んだっていいぞ」
律子「調子に乗らない。……事務所でじゃなくて、プライベートでならいいですけど、ね」ボソッ
P 「今なんて……」
律子「なんでもありません!今日もしっかりお願いしますよ、プロデューサー殿!」
P 「お、おう!」
P 「……って言ってたのが3日前だ」
春香「へーそうなんですかーあの日はたまたま会ったやよいちゃんとお茶してから事務所に来たから全然気付かなかったー(迫真)」
P 「そういえば遅かったな」
春香(わずかな疑念ももたれない迫真の演技。演技も出来るアイドルは私!天海春香です!)
春香「そうですね。月曜日ですから」
P 「その週末にあったのがこちら」写メ
春香「どれどれ……!?どうして律子さんがちょっと頬染めてくったりしてるんですか!?しかもプロデューサーさんのベッドで!」
P 「それを今から……いや待て。なんでお前俺のベッドだって知って」
春香「そんな事どうでもいいから!説明してください!」
P 「あ、ああ。ええと、次の日はみんなオフだっただろ……」
どようび。
P 「今週は奇跡的にみんなオフだから週末が週末らしく過ごせるな」
律子「そうですね。……で?」
P 「え?」
律子「どうして私ここにいるんですか?」
P 「ここって?」
律子「プロデューサーの部屋ですよ!ついてこいって言うからついてきたら……」
P 「え、だって昨日……」
P 「って言ってたじゃないか」
律子「きっ、聞こえてたんですか!?うわ、ちょ、恥ずかしい……」
P 「だから全身マッサージしてやろうと思って」
律子「げ、本気ですか」
P 「げっとはなんだげっとは。気持ちよかっただろ」
律子「それは……認めますけど。すごく楽にはなりました」
P 「だろ?だからさぁ、身を任せて!」
律子「……何か特別な話があるのかと思って黙ってついてきたのに、こんなことか」ボソボソ
P 「どうした?」
律子「いーえ!何でもないです!ほら、やるならやってくださいよ!」ヌギヌギ
P 「お、おう。じゃあいくぞー」
律子「変な事したらまた叩きますからね」
P 「叩くって、お前あれは殴るって言うんだぞ」
律子「知りません。さーどうぞ。煮るなり焼くなりしてください」
律子「はい。……んっ」ピクッ
P 「……」
律子「……あれ?どうしたんですか?続きは?」
P 「あ、ああ。よっ、と……」グイッ
律子「ふっ……んんっ……」
P 「……」
律子「あの、やらないなら帰ってもいいですか?仕事は無くても勉強したいんで」
P 「あっ、ああ。悪い悪い」グリグリ
律子「あんっ……ふぅ、っは……あぁ……ん。やっぱり、上手い……ですね」
P 「はっはっは、お褒めに預かり光栄だよ」
P (事務所の時はなんとも思わなかったけど)
律子「はぁっ……ちょっと、痛っ……くふっ……」
P (色っぺええええええええ)
P 「律子が色っぽくてドギマギしてるなんて言えるわけないだろ」(いや、別になんでもないぞ)
律子「色っ!?」
P 「あっ!いや、本音と建前が逆転して……」
律子「ってことは、本音なんですか」
P 「そうじゃなくて、いやそうだけど!」
律子「……変なこと、しません?」
P 「流石にそれは大丈夫だ!心配するな!」
律子「じゃあ別にいいですよ。続けてください」
P 「……いいの?」
律子「ええ。気持ちいいですし」
P 「う、うん。なら続けるけど……本当にいいのか?」
律子「……いいですよ」
P 「ん?」
春香「部屋に入れたんですか?」
P 「うん」
春香「……律子さんも、黙ってついてきた?」
P 「そうだな。いつもより口数少ないくらいだった」
春香「それで、体中揉ませてもらったんですか?」
P 「揉ませてもらったっていうか、揉んでやったというか。とにかくマッサージはしたよ」
春香「……へぇー」
P 「まぁ、とにかくそれでな……」
律子「……っは」
P 「……」グリグリ
律子「……っふぁ」
P 「……」グイグイ
律子「はぁっ……」
P 「よ、よし!終わり!終わり終わり!」
律子「もう終わりですか?」
P 「うん、終わりだ終わり。さあ上着着て」
律子「……脚も、張ってるんですけど」
P 「脚?」
律子「ええ。ずっと座ってるからか、血が溜まってるのかもしれません」
P 「そうかぁ?すらっとしてるし、むくんでるようには……」
律子「揉んでくれないんですか?」
律子「……」じっ
P 「えー……」
律子「……」じとっ
P 「……わかった。やるよ」
律子「ありがとうございます」
P 「……」モミモミ
律子「……」
P 「……」モミモミ
律子「……ねぇ、プロデューサー殿?」
P 「んー?」モミモミ
律子「色っぽい、なんて、初めて言われたかもしれません」
P 「そ、そうか……」モミモミ
P 「律子で?」モミモミ
律子「変な気分になったり、するって事ですか?」
P 「……は?」ピタッ
律子「あ、やめないで」
P 「あ、はい」モミモミ
律子「だって、あずささんが言われてるのはよく見ますし、マーケティングに……そういう部分もあるのは理解してますし」
P 「男性ファンの事考えたら、そういう話も出てくるよな」モミモミ
律子「ええ。それで、その……色気、ですか。そういうのって、つまり、性的な……その……」
P 「……顔真っ赤だぞ」モミモミ
律子「みっ、見ないでください!」
P 「あ、ああ、すまんすまん。集中する」モミモミ
律子「で、どうなんですか!私もそういう対象として見れるって事でいいんですか!」
P 「怒るなよ……えーと、正直に言っていいのか?」モミモミ
律子「お願いします。あ、勘違いしないでくださいよ。ちょっとしたアンケートみたいなものですから。これからの売り出し方の参考になれば……」
律子「……はい」
P 「そういう対象として見れるっていうか、むしろそうとしか見れない」
律子「ッ~~~~!」ゲシゲシ
P 「いてっ、痛い!蹴るな、やめろって!」
律子「はぁ、はぁ……す、すみません。取り乱しました」
P 「いや、ノリで痛いって言ったけどむしろ良かった」
律子「バカなんですか?」
P 「そうかも」
律子「はぁ……ほら、マッサージ再開してください。まだ右足残ってますよ」
P 「そうだな。よっと」モミモミ
律子「あ、ふくらはぎじゃなくて、もっと上……」
P 「ん?ふとももか?」
律子「ええ、まぁ……」
律子「……もっと、上です」
P 「上って、だってこれ以上……」
律子「いいから、お願いします」
P 「……また顔真っ赤だぞ」
律子「見ないでくださいってば」
P 「いや、それは無理」
律子「なんでですか。脚だけ見ておけば……」
P 「可愛くて」
律子「なっ……」
P 「見ざるを得ない」
律子「もう……」
P 「この手が、お前の望みどおりに動いたとして」
律子「……はい」
P 「そこから先、止まるかどうかわからないぞ」
春香「待った!待ってください!」
P 「なんだよ。次の写真に至るまでの重要な部分だぞここは」
春香「というか土曜日のプロデューサーが待ってください!」
P 「それは無理だろ」
春香「えっ、ちょっと待ってくださいよホント。ちょっと整理させてください」
P 「ああ。好きにしてくれ」
春香「……あ!次の写真に至るまでのって言いましたよね。写真!先に写真見せてください!」
P 「これが日曜日の朝の写真です」
春香「」
P 「春香?どうした?白目剥いてるぞ。おーい」
春香「」
P 「……俺のワイシャツ着てベッドの中で微笑んでる律子を撮った写真の何にそんなに驚いたんだ?」
春香「事後じゃないですか!」バンッ
P 「まぁそうとも言うな」
P 「いや嘘じゃないぞ」
春香「いいや!嘘です!だってあの律子さんですよ!?鉄の女って言ったらサッチャーか律子さんか迷うくらいの律子さんですよ!?」
律子「何を失礼な事言ってるの」パコン
春香「あだっ!り、律子さん!嘘ですよね!?」
律子「は?何が嘘なワケ?」
春香「これですよ!合成か何かですよね!フォトショップですよね!」
律子「プロデューサーの携帯?何か悪質なメールとか……」
律子「……」プルプル
P 「お、おい。律子?」
律子「あなたって人は……どーしてこういう……」ワナワナ
P 「違うんだ、春香に相談したい事があって……」
春香「嘘ですよね!?嘘ですよね!?」
律子「……はぁ。プロデューサーは後で話があります。春香、落ち着いて聞いて。何を聞いたかしらないけど……」
春香「律子さんとプロデューサーさんがセック」
春香「……で、どうなんですか」
律子「……誤魔化してもしょうがないから言うけど。その……し、したわ」カァーッ
春香「」
P 「あ、また白目」
律子「ああ、もう。なんでこんな目にあわなきゃいけないのかしら!プロデューサー!」
P 「ひっ!はい!」
律子「春香に相談ってなんですか!?」
P 「い、いや、その……」
律子「春香には言えて私には言えないってワケですか?それとも本当は相談なんて無くて、ただ私との事が自慢したかっただけ!?」
P 「自慢なんて、そんな……」
律子「ええそうよね、私なんかと寝たって自慢になんかなりませんよ!そのくらいわきまえてます!」
P 「いやいやそういう意味じゃないんだ。その、なんというか律子には言い難いというか……」
律子「なんですか?私の悪口?ちょっと褒めたら勘違いした馬鹿女とでも?」
P 「ちょ、落ち着けって」
律子「アイドルやってた時だって鳴かず飛ばずで、私って魅力無いのかなーとか思ってましたよ!実際無いんでしょうけど!」
律子「だから、嬉しかったんです!可愛いって言われて、色っぽいって言われて浮かれちゃったんです!悪いですか!?」
P 「律子」
律子「なんですか!」
P 「落ち着け」
律子「……はい。すみませんでした」
P 「いいよ、別に。なぁ、聞いていいか?」
律子「何ですか?」
P 「律子は、褒められて嬉しくなったからって、一晩一緒にいるようなヤツなのか?」
律子「……」
P 「一晩一緒にいて、何回も何回も求めて、それ以上にキスを求めて」
律子「く、詳しく言わないでください……」
P 「それは、俺が律子のことを褒めたからか?それだけなのか?」
律子「……そう、ですよ。バカな女です、私は」
律子「ッ……」
P 「これは、俺の希望もかなりはいってるんだが。お前は好きでもない相手に体も心も許したりしない……よな?」
律子「……」
P 「春香に相談したかった事ってのはな、律子の事なんだ」
律子「私の?」
P 「ああ。その……俺も、好きでもない相手の体も心も求めたりしない」
律子「え、それって……」
P 「春香じゃなくても良かったんだけど、たまたまいたのが春香だっただけなんだ。ええと、上手く言えないな……」
P 「俺の中で答えは出てるんだけど、第三者の意見が欲しいというか。そういう時ってあるだろ?」
律子「それは、わかります」
P 「うん、で、何の相談だったかって言うとだな……」
P 「律子に、告白しようと思うって話だったんだ」
P 「言い難い話だって言ったろ。その、随分前からなんだけど、俺、律子の事が好きで……」
律子「」ポロポロ
P 「おわっ!どうした律子!どっか痛いのか!?それとも俺が泣くほど嫌いか!?」
律子「ちがっ……何か、勝手に……ぐすっ、続けてください……」
P 「そ、そうか。けど、なんとなく言い出せなくて、ずっとなぁなぁにしてきた。今回の事は、正直良いきっかけになったと思う」
P 「順番があべこべになっちゃったけど、俺は、君が好きだ。結婚を前提に付き合ってください」
律子「私、嘘をつきました……ぐすっ」
P 「嘘?」
律子「ええ。私は、褒められたから……あんな事したわけじゃありません」
律子「随分前からなんですけど、私、あなたの事が好きで……」
P 「……うん」
律子「だけど、なんとなく言い出せなくて。あの日、久しぶりにプロデューサーと二人になった時、はっきり自覚しました」
律子「今回の事は、正直良いきっかけになったと思います。順序がバラバラですけど……」
律子「私は、あなたが好きです。結婚を前提に、お付き合いしてください」
律子「私こそ、素直じゃなくて、不器用で、仕事と勉強ばっかりな女ですけど……」
P 律子「「よろしくお願いします」」
P 「ぷっ……はは」
律子「ふふっ……」
P 「ほら、顔。ぐちゃぐちゃだぞ」
律子「もう、見ないでくださいってば……」
P 「無理だな。可愛いから」
律子「……もう」
P 「ああ、そうだ。今なら誰も見てないよな」
律子「え?んむっ……」
P 「誓いのキスを、ってな」
律子「あーあ、キザったらしいんですから」
P 「嫌だったか?」
P 「さ、顔拭いたら仕事仕事。やるぞー」
律子「あら珍しい。やる気ですね」
P 「ああ。だってオフに仕事持ち込みたくないからな。オフは……二人で、な」
律子「……そんな風に言われたら、私も頑張らないといけなくなるじゃないですか」
P 「いつも通りじゃないか」
律子「あなたと違ってね。オフが合うように調整しないと、ですね」
P 「ああ。あ、式いつにする?」
律子「……気が早くないですか?」
P 「え?でもいつかはするだろ。結婚式っていや、女の子が一番輝く瞬間だからな。気合い入れないと」
律子「まぁ、そうですねぇ。その時は、しっかりプロデュースしてくださいね?私の……プロデューサー殿?」
春香(私の体が足元に見えますね!これが憧れのアストラルトリップ?このままお空の彼方へ行けてしまいそう!天に舞う正統派アイドル、天海春香でした!)
おわり
もっとりっちゃんの可愛い所を一杯出せたら良かったのにと反省しています。
お付き合いいただきありがとうございました寝ます。
春香ェ……
ちなみに小鳥さんは七時に来て事務所を開けてるとか何とか
小鳥さんはきっとどこかに“いた”んだよ・・・
Entry ⇒ 2012.10.21 | Category ⇒ アイマスSS | Comments (0) | Trackbacks (0)
菫「で、何の真似だ」京太郎「えっと…その…」
京太郎「えっと…その…」
菫「お前が私をつけていたのは申し訳ないくらいにバレバレだ、理由によっては赦してやる。話せ」
京太郎「すいません、でも話しても許して貰えそうにないですし…」
菫「それは私が判断するから早くするんだ、このまま通報されたいなら話は別だが」
京太郎「そ、それは勘弁してください!お話しますから!」
京太郎「えーっと、こんな感じです…」
-全国大会ちょっと前-
久「須賀くん、君には全国大会では偵察をしてもらうわ!」
京太郎「はぁ…でも一体どうやって?もしかしてそこの練習風景を覗き見て牌譜でもとれと?」
久「まあそんな感じね」
京太郎「ほとんど無理なこと前提じゃないですか…」
久「冗談よ、冗談!ただ私たちと別のブロックの試合に注目してもらって要対策なところの対策をあらかじめ練って欲しいの、私は自分達のほうのブロックの対策に注力するから」
京太郎「それならなんとかできそうですが…」
久「じゃあよろしく頼むわね、須賀くん。わからないことがあれば何でも聞きに来ていいから」
京太郎「了解です、力になれるように頑張ります」
京太郎「まだ続きがあってですね…」
----
まこ「それはちょっと無茶すぎんかの?」
久「それくらいしておかないと彼を腐らせることになるでしょう?」
まこ「だったら他の方法もあったじゃろに…」
久「きっと別ブロックの有力校はシード校になると思うの、つまりね」
まこ「つまり?」
久「須賀くんが多少しょっぱい対策を練ったとしても、全国に行く以上シード校の対策は既にある程度あるわ」
まこ「あまりにも京太郎が不憫じゃろ…」
久「そうじゃなくて、須賀くんが何か報告さえしてくれれば、彼のおかげで対策も取れるって形になるの、むしろ彼の面子を立ているわ」
まこ「なんつーか、怖い女じゃ。わしですら寒気がする」
久「褒め言葉として受け取っておくわね」ニッコリ
京太郎「うわぁ~ショック、なんてことはないですね!その分みんなを見返してやれるんだから!」
-回想終了-
菫「まぁ…なんだ…ご苦労なことで」
京太郎「だから白糸台部長の弘世菫さんをつけて来たんです!」
菫「確かに動機もわからんでもないし、気持ちはわかる。だからといって他校の偵察を受け入れるほど甘くはない」
菫「今日の出来事はなかったことにするから、素直に帰るんだ」
菫「あのなぁ…赦してやるから素直に引き下がれって言ってるんだぞ?」
京太郎「弘世さんの言うことは確かに尤もですが、清澄麻雀部員としてこの機を逃すつもりは毛頭ありません!」
菫「清澄…というと、君は長野の高校の子か」
京太郎「はい、今年初出場なんですよ」
菫「つまり大会本部に清澄の部員が云々と言えば解決できると」
京太郎「えっと…それは…」
菫「世辞じゃなく君の気持ちはわかる、だから何もなかったことにしたい。それじゃ駄目なのか?」
京太郎「ただ俺一人のプライドのためにあなたたちの弱点をリサーチします!」
菫「えっと…須賀君でいいか、そこまで正直だと逆に好感が持てる、だが私も白糸台の部長としてのプライド…」
照「菫、何やってるの?」
菫「あ、照かちょっと面倒なことに巻き込まれてな」セツメイセツメイ
照「じゃあ二人から意見を聞いて、私が判断する。それでいい?」
菫「ああ」
京太郎「大丈夫です」
照「なるほど、判断をする前に京ty…須賀くんに少しの質問と要望、大丈夫?」
京太郎「はい」
照「本当にどうしても私達のリサーチがしたい?」
京太郎「はい!」
照「そのために何でもしてくれる?」
京太郎「何でもしますから!」
照「じゃあ、一局打って、ちょうどここにカード麻雀があるから」
菫「?」
菫「あぁ…」
照「せっかくの出会いを祝して半荘で、よろしく」
京太郎「よろしくお願いします!」
菫(意図がわからないが…まあ考えあっての事だろう)
京太郎「うぅ…断トツ最下位…」
菫「言うまでもなく照の独壇場だったな、で、照の判断とやらは?」
京太郎(どう見てもダメだよなぁ…今の対局から何かわかることは…)
照「他レギュラー達に紹介してあげる、今から時間ある?」
菫(…え?)
京太郎「…」ポカーン
京太郎「あ、あります!」
京太郎「はい、では一旦失礼します」タタタッ
菫「…どういうことだ?」
照「ただの気分のせい…」
菫「そんな訳あるか、正直に言え」
照「京ちゃんは菫に一回も振り込んでなかったこと気付いてた?菫が狙い打とうとしてたのに」
菫「言われなくても…そんなことわかっている」
照「正直狙い撃ちをする菫への対処法は私にもわからない、きっと京ちゃんは何か菫への対策はとれていたと思う」
照「その対策を研究して、それを対策して私は菫に全国で活躍して欲しい、それじゃダメ?」
菫「…ダメじゃない、わかったよ。ありがとう、照」
照「どういたしまして」
京太郎「ちょっと早く来すぎたかな、自販機でアイスコーヒーでも…っと」ガシコーン
菫「なんだ、早いな」
京太郎「弘世さん、こんばんは」ニコッ
菫「あぁ…こんばんは」
京太郎「弘世さんが案内をして頂けるのですか?」
菫「いや、照…じゃない、宮永がここに来ると言っていた。さっき照と言っていたカード麻雀を一緒にやった奴だ」
京太郎「流石に偵察する相手のフルネームくらい把握してますから、自分の前で照って呼んでも通じますよ、菫さん?」
菫「ま、まだ知り合って間もない女性に対して下の名前でだな…」
照「あれ、菫もいたの」
菫「照が迷子になったらアレだから先に着ておいた」
照「…」ムーッ
菫「すまなかったな、じゃあ行こうか」
京太郎「今日はよろしくお願いします」ペッコリン
菫「で、どこでみんなと顔を合わせるんだ?」
照「え?ホテルでしょ」
京太郎「!?」
菫「だ、男女がホテルの同室など…は、破廉恥にもほどが……//」
照「ただ私達の麻雀の練習風景の見学でしょ、他に破廉恥な要素はない、むしろ破廉恥な要素はあった?」
京太郎「確かにそうですが…人目が…」
照「さっき何でもするって言ったでしょ、京ちゃん」
京太郎「確かに…って、まさか照さんって…」
照「やっと気付いた?積もる話は後で」
亦野「君が須賀くんか!亦野だ!よろしく頼む!」ガシッ
京太郎「はは…よろしくお願いします」
淡「私は大星淡、同い年だし私は京太郎って呼んじゃうね、京太郎も淡って呼んじゃっていいから!」
京太郎「えーと、よろしくな、淡」
照「自己紹介は済んだ?じゃあ…」
菫「その前に一つ質問いいか、照」
照「構わない」
菫「なんで私の部屋が集合場所なんだ!」
照「多数決…」ボソッ
亦野(私の部屋の軍備を見られる危険に晒すなんて言語道断!)
淡(別に部屋は綺麗だったけど、面白そうだったから片付いてないことにしちゃったし)
菫「お前ら…部屋はある程度整理しておけと…」
照「京ちゃん、さっそくだけど、私達の中に入って打つ?それとも外野で見学する?」
京太郎「えっと…」
菫「せっかくだ、入って行け、もし牌譜が欲しいなら後で寄越すから」
京太郎「ありがとうございます、ではよろしくお願いします」
淡「じゃあ私も入るねー!」
京太郎(そんな見られるとやりにくいな…)
京太郎「ではよろしくお願いします」
菫(私の弱点…今ここで見極めなければ…!)
照「事情は言ってあるけど、みんな偵察だからってわざわざ打ち方を変えないで」
照「偵察されて得たデータ如きに負けるような白糸台とは私は思ってない、安心して」
照「悪いけど少しの間、一人の人間のプライドのために付き合ってあげて」
京太郎「すみません、照さん…」
京太郎(どんな惨めでも俺は勝ってみせる…!)
淡「じゃ、やるよー!」
菫(また…狙えなかった…!)
淡「京太郎ちょっと弱いよ、もっと頑張ってくれないとつまんない!」
京太郎「悪い、きっと弱いから偵察なんて負かされてるんだな…ハハッ」
淡「もう少し京太郎が強くならないと偵察としての意味もないよ?もっと上達してからにしたら?」
京太郎「正論だけど…今日一日だけだし…」
照「いや、二日目以降も構わない」
京太郎「えっ?」
照「さっき言ったとおり白糸台は偵察された程度で負けないし、京ちゃんが来てくれるのはこちらにもメリットがある」
京太郎「では…またお邪魔しても…?」
照「大丈夫、気にしないで」
京太郎「じゃあ淡に頼もうかn」
菫「もしよければ私にその役目を譲って貰えるか、淡?」
淡「んーいいよ!菫がどうしてもって言うなら!」
菫「そんなこと言ってないだろ!」
淡「あー照れてる菫可愛い」
菫「馬鹿言え!」
渋谷「…」ズズー
亦野「はい!これが牌譜だ!今日はご苦労だった!」
渋谷「…また」
淡「まったねー!」
菫「え、えーっとだな君に麻雀を教えるにあたって連絡先が欲しい」
京太郎「ええ、いいですよ」ポチポチ
菫「じゃあ、明日の朝頃連絡するけど、返事できるか?」
京太郎「はい!わざわざありがとうございます!今日は失礼します!皆さんおやすみなさい!」
照「道がわからないだろうから、私が送ろうか」
京太郎「正直道がわからないんで助かります」
淡「京太郎ー!テルーに手を出すなよー!」
京太郎「出さないって、では」ガチャッ
照「昔話代なら120円でいい…」
京太郎「相変わらずちゃっかりしてますね…アイスティーでいいですか?」
照「ありがとう。それと敬語やめて、他人行儀は嫌」
京太郎「だって、最初は照さんって気付かなかったし」
照「そんな変わったつもりはない…」
京太郎「いや、やっぱり変わったよ、より可愛くなってる」
照「あ、ありがとう…」カア…
京太郎「で、照さん…」
照「いいよ、本題に入っても。真剣な時の京ちゃんの表情はすぐわかる」
照「咲のこと…でしょ?」
京太郎「…」
照「そういうときの沈黙は肯定を表す。言いたいことはある程度わかるけど無理だから、ゴメンね」
京太郎「でも咲は照さんに会いたいって麻雀を再開して!」
照「やっぱり今傍にいる分、京ちゃんは咲派なんだ」
京太郎「そういうわけじゃ…」
照「言い方が酷かった。ゴメンね」
照「きっと京ちゃんのことだから、二人を中立的な立場から和解させたいのはわかる」
京太郎「なら…」
照「そのことは咲が私に勝たないと、お互い納得できない。道理が通ってないけど、姉妹喧嘩なんてこんなもの」
照「道理がないからこそ、解決策は単純。力を示せばいい、そこに綺麗な合理性はいらない」
京太郎「…それが団体戦での勝利でも?」
照「当然、白糸台を舐めないで。まあ、勝てたらの話だけど。だから京ちゃん、私達の仲直りの為に偵察頑張ってね」
京太郎「そういうことか…なら完膚なきまでに俺の偵察力をもって叩き潰すから待ってろ!」
照「うん、待ってる」ニコ…
淡「スミレー♪」ニヤニヤ
菫「な、何だ気持ち悪い」
淡「いやいやー、京太郎に惚れでもしたの?先生に立候補なんて柄にもないじゃん」
菫「いや、彼は私の狙い撃ちを完全に回避してきた、彼の先生役をやる内にその理由を見つけたい」
淡「ふぅ~む、なるほどなるほど~」
渋谷「…」ズズー
亦野「ああ、菫先輩にも今日の牌譜です、どうぞ」
菫「牌譜を見ても全くわからん…淡、何かこれを見て心当たりはないか?」
淡「まったくもって!」
菫「はぁ…答えは明日以降か…」
京太郎「朝かー、今日はAブロックの試合だったっけ…注目校はどこだっけ…」ユゥガッタメイル
京太郎「メール…って弘世さんか、えっと」
From 弘世 菫さん『昨日の夜の待ち合わせ場所に11時頃で大丈夫か?』
京太郎「『おはようございます、その時間で大丈夫です。本日はよろしくお願いします』送信っと」prrr
京太郎「もしもし?」
咲「おはよう、京ちゃん?朝からゴメンね?もし暇ならAブロックの試合見に行かないかな?」
京太郎「悪い、部長から野暮用頼まれてて行けそうにない、和達とでも行ってくれ」
咲「じゃあ和ちゃん達と見に行くね、京ちゃん。いつもご苦労様、ありがとう」ピッ
京太郎(いかなる理由であれ嘘は気が引けるな…まあ支度しないと)
菫「遅いぞ、どれだけ待たせる気だ、もう10時50分だろ」
京太郎「すみませんでした…」
菫「先に言っておくが私は基本的に15分前行動を心がけている、留意しておけ」
京太郎「はい…ところで」
菫「なんだ?」
京太郎「その服お似合いですね、大人って感じがして美人オーラが出て」
菫「そ、そういうのはやめてくれ…!自分が設定しておいて悪いが中途半端な時間だし指導は昼食を済ませてからでいいか?」
京太郎「大丈夫ですよ、何にしましょう?パスタにします?それとも…」
京太郎「えーと、何か不満でした?」
菫「正直に言うと、店を選ぶセンスがいい。こんなに落ち着けるカフェで不満になる訳がない」
京太郎「ありがとうございます、正直ホッとしました。弘世さんの好みに合うかどうか不安で…」
菫「割と合ってるから安心しろ…で」
京太郎「はい?」
菫「注文は決まったか?」
京太郎「じゃあ、ハムサンドと食後にホットで」
菫「っと、私はBLTサンドにしたいのだが後で一切れ交換しないか?どんなものか気になる」
京太郎「こちらこそ、喜んで。…店員さーん!」
店員「召し上がりましたら食後のコーヒーお持ちしますので、お知らせください。ごゆっくりどうぞ」
京太郎「じゃあ、頂きます」
菫「頂きます」
菫「ん、おいしい…」
京太郎「えっと、一切れ頂いていいですか?あまりに美味しそうなんで」
菫「あぁ、大丈夫だ。ほら、あーん」
京太郎「あーん…って、弘世さん!?」
菫「こ、これはだな照とか淡とかにあげる時の癖で、カ、カップルがやるようなあーんの意図はなくてだな…その…ちが…」
菫「…!ちょっと席を外す…」
京太郎「両方とも美味しかったですね、おいしいコーヒーもありますし、何か甘いものでも頼みません?」
菫「私は須賀くんと同じ奴でいい、さ、さっきの反省を生かしてだな」
京太郎「じゃあブラウニーでいいですか?」
菫「構わない」
店員「ではこちらブラウニーです、ごゆっくりどうぞ」
京太郎「ブラウニーも美味しかったですね」
ブブブブ
菫「ん?すまない電話みたいだ、ちょっと席を外す」
京太郎「はい、お構いなく」
菫『もしもし?』
淡『やっほー!スミレー!上手くやってるー?』
菫『淡か…』
菫『何の話をしているんだ』
淡『誤魔化さなくていいよ、通話時間もったいないし』
菫『わかった、須賀くんと一緒にいるのはお見通しと言う訳か、で、何の用だ?』
淡『さっきも言ったじゃん、へーじょうしんが大事だって』
菫『それだけか?』
淡『それだけだけと、へーじょうしんだよ!』
菫『…切るぞ』プッ
菫(むしろ平常心ってなんだ、普段意識しないから全くわからんぞ…)
菫(それでもさっき、恥をかいたのは平常心を失っていたというのも大いにありうる)
菫(平常心平常心平常心…ああゲシュタルト崩壊してきた)
菫「す、すまない、待たせた」ギクシャク
京太郎「大丈夫ですよ」
菫「そろそろ出ようか、指導する時間がなくなるしな」
京太郎「そうですね、じゃあ出ましょう」
菫「えっと会計は…」
京太郎「ああ、もう会計は済ませておきましたよ」
京太郎「今日の授業料ということで受け取ってください、むしろこうでもしないと俺が申し訳ないですよ」
菫「なんだ…その…ありがとう…」
京太郎「すごく今更ですがどこで指導をして貰えるんですか?」
菫「えっと…だな…その…ネットカフェでネトマを打ちながら添削しようとは思ってたんだが…」
菫「公共の空間ゆえ声を出しにくい…から…」
菫「わ、私の部屋でやるぞ!」
菫(平常心…平常心…)
京太郎「お邪魔します」
菫「パソコンの用意するから少し待っててくれ、とりあえずネトマを打ってもらって添削する、さっき言った形でいいか?」
京太郎「はい!よろしくお願いします!」
菫「そこでだ、私が隣からすぐ口出しできるように牌を切る時に理由などを可能な限り話しながら打ってくれ」
菫「集中が途切れるだろうが、時間も限られているしな…よし立ち上がった、ほれ」
京太郎「はい…その…マウスカーソル可愛いですね」カタカタ
菫「こ、こう見えて、ネコが好きだからいいだろ!…それはさておき指導を始めようか」
京太郎「テンパイ即リーワーイワーイ」
菫「トップだしリーチのみの手より手代わりでタンピン期待のダマでいくべきだろ…」
京太郎「そうですかね?」ロン!
京太郎「あー捲くられてる」
菫「あのなぁ…」
菫(どう見ても素人の中でも酷いレベルじゃないか…これは)
菫「一旦やめにして、牌譜を検討しよう、あと基礎的な理論も今叩き込む」
京太郎「はあ…」
菫「飲み物買ってくるからその間にそのサイトを…えーっとここだ、ここを全部読んでおく事」
京太郎「わかりました」
菫「須賀くんの分も適当に買ってくるけど何でもいい?」
京太郎「大丈夫です、ありがとうございます」
菫「じゃあ、少し行って来る」ガチャ
亦野「菫先輩、お疲れ様です。例の子はどうですか?」
菫「悪い意味で想像以上だったよ…」
亦野「それはご愁傷様です」ハハ
菫「他人事みたいに言うな、巻き込むぞ」
亦野「謝りますから冗談はやめて下さいよ、そうするとより不思議ですね」
菫「何が?」
亦野「彼が菫先輩に絶対に振り込まないことですよ、きっと彼がわかりやすいアナログの癖でも捉えたのですかね」
菫「私にそんな癖あったか?」
亦野「いえ、私にはわかりません。これはただの仮説ですし冗談程度に聞き流してください。では!」
菫(確かに須賀くんの昨日の牌譜と今日の打ち筋と大差はないし…誠子の仮説が正しいのか?)
菫(もしアナログ的な癖があるとしたら矯正しなければ…マズいだろうな)
菫(かといってそんなもの自分でわかる訳ないだろ、本人に直接聞くか…?)
菫(はぁ…こんな状態で大会に出て大丈夫か…)
菫「って、考えてたらかなり時間が経ってるじゃないか、お詫びになんか甘いものも買って…」
菫「急ぐか」
京太郎「…zzz」
菫「なんだ寝てるのか…ちゃんと最終章まで目は通したようだな」
菫「淡が昼寝していたときより幸せそうに寝てて、起こしにくい…」
菫「自分でもキャラじゃないと思うのだがな…冷房つけっぱなしだし風邪引かれても後味が悪いし、一般道徳としてだな…」ファサ
菫「って、私は誰に言い訳しているんだ…」
菫「やれやれ…」
菫「っと、本当に私の柄じゃないんだが…」カタカタ
京太郎「…zzz」
菫「アメを与えるのも大事だしな…」カタカタ
菫「かと言って、ムチを寄越すってほど厳しくするつもりはないがな…」ハッ
菫「独り言が過ぎたな、作業に集中しよう」カタカタ
菫「おはよう須賀くん、よく眠れたか?」
京太郎「えっ、俺まさか…」
菫「寝てたぞ、全力で」
京太郎「あ、あの…すみません」
菫「構わない、きっと疲れが溜まっていたのだろう、疲労した身体に指導は無意味、無理はせずちゃんと休め」
京太郎「はい…」
菫「だから気にするなと言っただろ、これ牌譜に対しての私のコメントだから参考程度に…」
京太郎「ありがとうございます!」ガシッ
菫「ひゃっ!てっ、手をいきなり握らないで!」
京太郎「ご、ごめんなさい、つい…」
菫「わ、わざとじゃないなら構わないから…さっきのネトマの牌譜を見ながら解説する、いい?」
京太郎「はい!」
京太郎「ありがとうございます…ってえぇっ!」
菫「ど、どうしたんだ?」アセアセ
京太郎「オランジーナは最近一番好きな飲み物なんですよ!」
菫「な、ならよかった、じゃあ始めるぞ」
京太郎「よろしくお願いします」
菫「じゃあ東二局のこの場面から…」
京太郎「あっ、なるほどなるほどなるほど~」
菫「解説は不慣れだけどわかって貰えた?」
京太郎「十二分ですよ!そこらへんのサイトより何倍もわかりやすかったですよ!」
菫「あ、ありがとう…」
京太郎「今までの事を踏まえてネトマでもう一局打ってみたいんですが、大丈夫ですか?」
菫「ああ、構わん、成長した証を少しくらい見せてくれよ、そうじゃないと、私が報われんからな」ニヤッ
京太郎「プレッシャーかけられると困りますよ…」
菫「お、マッチングしたか、今回は何も喋らずに君の自由に打ってくれ」
京太郎「はい、…この初手ならこう動くべきかなー」
菫(いや…これは…もしかして…)
菫「いや今回はトップのツモが良過ぎた、君の打ち方自体は悪くなかった」
京太郎「世辞でも嬉しいです、これも菫さんのご指導のおかげです!」
菫「少しでも上達してくれて私も嬉しいよ、指導した甲斐がある」
京太郎「そうでしょうか?」
菫「少しくらいは自信を持て、自信がない打ち筋はジリ貧になりやすいからな…」
菫「君に基本的な指導をすることで、私も初心に帰れた、例を言う」
京太郎「こ、こちらこそお礼をイワナ…」
菫「例なら実践で打った後に言ってくれ、じゃあ、行くぞ」
菫(わざわざ気にすることでもないし、むしろ…)
菫「流石に焼き鳥は勘弁してくれよ、教師役の私が何をしていたか疑われる」
京太郎「はい…!」
……
淡「やっほー!」
照「どうも…」
京太郎「俺の成長、見せ付けてやりますよ!」
淡「あんな大口叩いた割にトばれるとかえって反応に困るよー」
京太郎「…」
照「まあ…残念だけど予想通り」
菫(結局須賀くんからまたロンあがりできなかった…)ズーン
京太郎「今日はありがとうございます、勉強になりました」
淡「まあ、勉強されるべきな私達だしね」ドヤッ
菫「アホかお前は…」
京太郎「では失礼します、今日はありがとうございました!」
照「帰り道の案内いる?」
京太郎「二回目なんで、大丈夫です、お気遣いありがとうございます。では、失礼します!」
菫「ああ、またな」
淡「じゃーねー!おやすみー!」
照「気をつけて…」
京太郎「みなさんおやすみなさい!」ガチャッ
照「どうぞ」
淡「今更だけど照と京太郎ってどんな関係なの?元恋人だったり?」ワクワク
照「そんなことはない、ただの長野にいた時の旧友だ」
菫「ただの旧友にしてはやけに仲良くないか?」
照「私は友人が少ないから、数少ない友人を大事にするのは当然…」ドヤァ
菫「そのなんだ…すまないことを…」
淡「テルー、可哀想!私はいつまでもテルーと仲良しだよー!」ガシッ
照「あ、ありがとう淡…ちょっと…苦しいから…離して、あ、菫はその哀れむ目を止めて」
京太郎(菫さんのおかげで何か掴めた気がする)
京太郎(ああ、ここでこう打った理由が自分でもわかるな)
京太郎「少しは成果が出た…のかな」
咲「京ちゃん、ボーっとしてどうしたの、会場に行くよ」
京太郎「ああ、悪いな」
咲「私、一回戦から活躍するから見ててね!」
京太郎「おう、頑張ってこい」
京太郎(早く何か、Aブロック側の対策を立てないとな…)
京太郎(実際、対策する時間はかなり限られてる、時間を無駄にできない)
咲「出番がなかった…」
京太郎「ま、まあ落ち込むなよ。とりあえず一回戦突破おめでとう」
咲「ありがとう、でも早いうちに全国の舞台で打ってみたかったよ」
京太郎「まあ咲なら強ければ強い相手のほうが緊張せずに楽しんで打てるだろ?」
咲「もう、少年漫画の主人公みたいに言わないでよ…」
京太郎「二回戦の活躍楽しみにしてるから、頑張れよ」
咲「うん頑張る!」
…プルルル
菫「もしもし?」
京太郎「もしもし、弘世さん?どうかしましたか?」
菫「いや、清澄の一回戦突破のお祝いだ、おめでとう」
京太郎「はは…自分は全く力になってませんがね…」
菫「まあこれで私達Aブロックの対策がより必要になったわけだ、頑張れよ」
京太郎「はい」
菫「明日は白糸台の試合がある、試合を見て対策があるなら練ってみせろよ?」
京太郎「ど、努力します」
菫「せいぜい頑張れよ、じゃあな」
菫「どうかしたか?」
京太郎「ちゃんと明日は勝って下さいよ?俺が編み出した弘世さん対策が無駄になるので」
菫「え、私対策って具体的になんなん…」
京太郎「明日はお互い早いですし失礼しますーおやすみなさい」
菫「…切られたな。私対策がどうとうとか言ってたけど本当に具体的な策でもあるのか?」
菫「もういい、今度須賀くん本人に直接聞こう、明日さえどうにかすればいいんだ」
菫「で、今度っていつだ?…まぁいい、寝るか」
京太郎「今日は二回戦突破おめでとう、今までの礼をこめて差し入れもって来た!是非みなさんで」
照「ありがとう、甘いものは本当に助かる」
京太郎「そういえば今日は他のみなさんは?」
照「疲れたみたいで部屋で個別に休んでる、体調管理もレギュラーの仕事のうちだもの」
京太郎「じゃあ照さんも休まなくて大丈夫なの?」
照「大丈夫、私は先鋒だから。体力的には大丈夫」
京太郎「ならいいんだけど…」
照「じゃあせっかくだし120円で昔話、いいかな?」ニコッ
京太郎「それ普通は男が言うセリフじゃないかな…」
照「普通は、ね」
京太郎「あー悪かったよ、帰り道には気をつけさせて頂きますよー」
照「じゃあ、バイバイ」
京太郎「照さんも気をつけてー」
…
京太郎「弘世さんにはさっき直接祝おうと思ったけど、いなかったら仕方がない、メールでっと…」
京太郎「流石にこの時間はまずいか、明日の朝にでも送るか」
菫「…」
菫(…どう考えても祝辞の一つ寄越さないのは失礼だろ!世話になっておきながら!)ソワソワ
淡「すみれー、ほら、落ち着いてー。どーどーどー」
菫「おい、動物扱いするな」イラッ
淡「人間だって立派な動物だよ!つまり菫も動物!よーしよしよしよし」ワシャワシャ
菫「ちょっ…やめ…」
淡「イライラしても何も解決しないよ、もっと大雑把に行こうよ」
菫「なにを言って…」
淡「菫は真面目だから可愛がりようがあっていいよねーってこと」ワシャワシャ
菫「やめろって…あぁもう!」
菫「はぁ?今何時だと」
淡「菫は真面目だなぁ、もっと大雑把に行こうって言ったばっかりなのに」
prrr
京太郎『もしもし、弘世さん?』
淡『残念、淡ちゃんでした!』
京太郎『おう、淡か。とりあえず二回戦突破おめでとう、格好良かったぞ』
淡『でしょー、カッコいいでしょー。京太郎は見る目あるよ!』
京太郎『どーいたしまして、つーかなんで淡が弘世さんの携帯から?』
淡『やっぱり菫と話したいのー?しょうがないなー青春しちゃって!今電話代わるよー』
淡「はい、菫。どうぞ」
菫「えっ」
菫「わ、私が電話に出る必要もないだろ」
淡「京太郎を待たせたままにするほど菫は礼儀がないなんて、ガッカリだよ」
菫「いや…そうじゃなくて」
淡「いやいや、そうだよ。普段人に礼節を説く人間がすることとは思えないよ」
菫「あー、もう電話に出るから黙ってろよ!」
淡(菫は扱いやすくて可愛いなぁ!)
京太郎『もしもし、弘世さん。遅れましたが二回戦突破おめでとうございます』
菫『まあ当然の結果だが、ありがとう』
京太郎『…』
菫『…』
京太郎『今日は弘世さんもお疲れみたいですし、お祝いだけさせてもらって早めに失礼させていただきます。お休みなさい』
菫『ああ、お休み。そちらも頑張ってくれ』
京太郎『ありがとうございます、では』
ツーツーツー
淡「何この糖分が全くない会話は!やる気あるの!」
菫「会話にやる気ってなぁ、淡…」
菫「いや、ここ私の部屋だし」
淡「そうやってツッコミできるならなんで京太郎と会話のキャッチボールをしないのさ!」
菫「その…してだな」ボソボソ
淡「え?」
菫「緊張してたんだよ悪いか!私だって人間だぞ!」
淡「じゃあもう一回電話しようよ、諦めたらそこで試合終了って偉い人も言ってたしねー」prrr
菫「ちょっ、待て少しは猶予期間をだな…」
淡「はい」
菫「は?」
淡「もう繋がってるよ」
京太郎『構いませんよ、迷惑と思っていませんし』
菫『その…なんだ、迷惑じゃないならまた電話しても大丈夫か?大会中は心労が積もって仕方がない、愚痴でも聞いてくれ』
京太郎『今までのお礼もありますし、清澄の試合中じゃなければいつでも大丈夫ですよ。』
菫『ありがとう…またの機会に電話する、じゃあ本当にお休み』
京太郎『お休みなさい』
ツーツーツー
菫「ふぅ…これで満足したか、淡?」
菫「って、なんでこういうときだけ無駄に空気読んで席を外す…」
菫「お疲れ様。決勝進出、やったな」
照「当然のこと、むしろ決勝以外眼中にない…」
淡「というか私がいれば宇宙単位で敵なしだしね!」
…
菫「はいはい、そうだな。じゃあ帰るぞ」
淡「うー、ノリが悪いよー」
照「流石に凹む…」
照「やっほ」
菫「何しにきたんだ」
照「数少ない友人との交友を深めに」
菫「…そうか」
照「…流石の菫でも決勝の前は緊張してる?」
菫「そりゃするさ、私だって普通の女子高生だぞ」
照「面白いジョーク…」
菫「照の好みに合って良かったよ」イラッ
照「私は菫を信頼してる、だから緊張する必要はない。菫のミスくらい簡単に取り返せる」
照「だからそんな表情しないで」
照「…心外」
菫「悪かった、じゃあ明日は優勝しよう!」
照「もちろん」
--
prrr
照『やっほ、京ちゃん。私達に勝てそう?』
京太郎『正直余裕だよ、相性で8:2くらいかも』
照『それは楽しみ、ところで一つ質問いい?』
京太郎『?』
照『京ちゃんがやってた、菫対策、ヒントだけでも教えてくれる?純粋に興味がある、もちろん菫達には黙っておく』
京太郎『んー、恥ずかしいから、秘密で』
照『何それ…まあ大会終わったらちゃんと聞かせて。最後に一つ』
照『勝ってね』
京太郎『頼まれなくても』プツッ
久「正直驚いたわ、阿智賀一校だけでもこんなに綺麗な対策を示してくれるなんて」
京太郎「いえそれほどでも…」
久「やっぱり白糸台のはないの?あれば期待したいけれど」
京太郎「さすがに去年の優勝校は部長がきっとすでに対策立ててるかなーて、阿智賀に研究時間を注ぎました」ハハハ
久「そう…残念ね。でもこの濃度のデータなら一校でも十二分よ、ありがとう」
京太郎「白糸台に手をつけてなくてすいません…」
久「想像通り白糸台は対策を練ってあるから安心しなさい!」
久「…じゃあ、みんな!勝つよ!」
菫「…ゴホン」
菫「私達は勝って当たり前だ、今更何も言う必要はない」
菫「だが敢えて宣言する、皆の者、勝つぞ!!」
シーン
菫「えっ」
照「菫が昨日一時間くらいかけて考えたセリフなんだからみんな乗ってあげて…」
菫「そんな長く考えてもないし、お前も乗ってなかったじゃないか!」
照「まあ、場も和んだところで、頑張っていこう」
照「負けちゃったね…」
淡「み、みんなゴメンね…私が…私が…」
照「いいのいいの淡は悪くない…」ヨシヨシ
菫「それでも準優勝だから、恥じることはっ…」
照「菫も泣かないの、決勝で一番頑張ってたでしょ」
照(本当に負けるとは思ってなかったから驚嘆の感情のほうが強いなぁ…)
prrr
照『もしもし。ん、約束通り顔を出す。時間はまた連絡して』
照『あとさ』
照『ゲスト呼んでいい?』
京太郎「こんばんわ、照さん」
照「…」
京太郎「変な話だけど、ここで仲直りして欲しい、約束したよね?」
照「構わない」
咲「お姉ちゃん…」
照「咲…久しぶり、優勝おめでとう」
咲「お姉ちゃん!」ダキッ
京太郎「あれ?想像してたのよりスムーズすぎ…」
照「喧嘩こそしてたけど、仲自体は悪くないから…」ナデナデ
咲「…そうだよ、京ちゃんはどんなのを想像してたの?」
京太郎「まぁ…いいか」
照「ところで」
京太郎「いや、俺は白糸台についてはノータッチだよ、卑怯なことしたくないし」
咲「…?」
照「ゴメン、咲しばらく静かにしてて後で事情は話すから」
京太郎「というか、本当に俺じゃ対策は取れなかったってのが実情かな」
照「あれでも、菫は完全に京ちゃんが対策取れてたよね?」
京太郎「それは…えーっと」
京太郎「いや…菫さんって美人じゃないか…その」
京太郎「あんな可愛い人と対局したらさ、視線とかより敏感に感じるっしょ…」ゴニャゴニャ
照「本当にゴメンね、咲」ギュッ
照「京ちゃん、悪いけどグダグダ言わず簡潔に纏めて。私の意図を察して」
京太郎「…なら一目惚れして対局中も全神経が菫さんに向いてたからと言えば満足か」
照「うん、満足した」
照「だから咲、諦めようね?私も諦めるから」
咲「お、お姉ちゃん…!」
照「ゲストはお約束通り後ろにいるから、後は頑張ってね」ニッコリ
京太郎「…ごめんなさい」
菫「どれだけ塞ぎ込んでたかも語ると一日を越えるんだぞ…睡眠時間も減ったし…」
京太郎「…本当にすみませんでした…!」
菫「あーもう!だ、だからだな、怒ってはないから!」
菫「君から私になしかしら直接的な言葉とか、行動が欲しいんだ」
京太郎「じゃあお言葉に甘えて…」ダキッ
菫「ふぇっ?」
菫「で、な、何の真似だ」
京太郎「えっと…その…」
「付き合ってください」
カン
支援と保守をしてくれた人、今まで本当にありがとうございました。
菫さんは可愛い(確信)
Entry ⇒ 2012.10.21 | Category ⇒ 咲-Saki-SS | Comments (3) | Trackbacks (0)
奉太郎「古典部の日常」 4
折木さんの推理は間違っていますよ、と。
しかし。
える「さすがです、折木さん」
千反田が発した言葉は、自分のした事……千反田がした事を認める物だった。
奉太郎「……どうして、こんな事をしたんだ」
える「動機、ですか」
える「それを言う前に、ちょっと気になる事があるんです」
える「どうして折木さんは、私が犯人だと思ったんですか?」
奉太郎「どうでもいいだろ……そんな事」
これ以上、言いたく無かった。
理由は確かにある。
だがそれを言えば千反田が犯人だと言うような物で……言えなかった。
える「私、気になるんです」
いつもより弱々しく、千反田はそう言った。
える「正直に言います、ここまで早く見抜かれるとは思っていませんでした」
える「理由を、教えてください」
言うしか、ないのだろうか。
奉太郎「……分かった、だが」
奉太郎「説明が終わったら動機を話してもらうぞ」
える「ええ、分かりました」
……仕方ない、やるか。
える「時間? 10分のですか?」
奉太郎「ああ、まずはそこが間違いだった」
奉太郎「古典部の部室から男子トイレまで行くのに掛かる時間は、古典部の部員ならまず知っている」
奉太郎「ゆっくり行けば15分……【急いでいけば10分】ってな」
える「ええ、そうですね」
奉太郎「犯人側の視点に立ってみろ、わざわざ時間を多く見積もって犯行をする奴がいるか?」
奉太郎「そんな事をするのは余程呑気な奴くらいだろう」
奉太郎「つまり、犯人が実際に犯行を行えた時間は【5分】だ」
える「……5分、ですか」
奉太郎「とても短すぎる、見つかるリスクも高すぎるんだ」
奉太郎「そんな中、犯行を行う奴は居ない」
奉太郎「時間が5分、余分にあったお前以外にはな」
える「でも私は福部さんの証言によってアリバイがあるんです」
える「それはどうお考えで?」
奉太郎「里志の事か、あれはお前にとって予想外だったんじゃないか?」
奉太郎「10分の時間があったお前にも、里志が来るという予期せぬ事態によって犯行時間は5分となってしまった」
奉太郎「そして、里志は見てしまったんだよ。 お前が部室を荒らす姿を」
える「……」
奉太郎「これはお前にとって不運な出来事だった、しかし同時にアリバイを作る事ができるチャンスでもあった」
奉太郎「里志を共犯にする事によって、な」
える「……福部さんはそれを認めないと思いますよ、証拠がありません」
奉太郎「あいつはこう言った」
【それでホータローがトイレに行っている間に千反田さんを連れて行ったって訳だね】
奉太郎「ってな、俺が特別棟の1Fに行ってお前らに状況を知らせた時だ」
奉太郎「何故、里志は俺がトイレに行っていた事を知っていたんだ?」
奉太郎「ただ部室から千反田を連れて行っただけなのに、お前はわざわざそんな会話をしたのか?」
える「……」
奉太郎「恐らく、こんな会話があったんだろう」
える「ふく……べさん……?」
里志「ち、千反田さん? 何をしているんだい!? ……何か、あったの?」
える「……すいません、理由は言えないんです」
える「本当に申し訳ありません、少し……協力して頂けませんか」
える「折木さんは今お手洗いに行っています、今ならまだ、大丈夫です」
~~~
奉太郎「大雑把にだが、この様な会話があったと俺は推測している」
奉太郎「……何故、里志が協力したのかは分からないがな」
える「……分かりました、それは認めます」
当らない方が、よかった。
える「でも、ですよ」
える「それだけで私が犯人、というのは少し難しいと思うんです」
える「今のは全て折木さんの推測、あくまでも確実な証拠とは言えません」
える「他に、理由はあったんですか?」
これ以上、お前が犯人だなんて真似……くそ。
奉太郎「……分かった、話を続ける」
奉太郎「次に不審な点は、部室を片付け終わった後だ」
奉太郎「具体的には、お前から貰ったペンダントを俺が見つけた時だな」
える「あの時、ですか」
奉太郎「千反田は記憶力が良かったな、会話を思い出してみろ」
える「……」
千反田は首を傾げ、回想をしている様子に見えた。
える「特に変な所は無いと思いますが……」
奉太郎「あるんだよ、少し待ってろ」
そう言うと、俺は覚えている限りの会話をメモに取り、机の上に置いた。
奉太郎「……くそ」
里志「……ホータロー」
える「人の物をここまでするなんて……酷すぎます」
える「折木さん、見つけましょう」
える「ペンダントを割った犯人を……部室をこんな事にした犯人を!」
~~~
奉太郎「ああ、そうかもしれない」
える「……真面目にやってます?」
奉太郎「ふざけてこんな真似……俺はしない」
える「……そうですか、ではどの様な不審な点が?」
奉太郎「確かに会話だけでは不審ではない」
える「会話だけでは? どういう意味でしょうか」
奉太郎「状況によって、変わるんだよ」
える「状況……ですか」
奉太郎「つまり、俺とお前の位置関係だ」
奉太郎「あの時俺は【千反田の正面に座っていた】そして【ペンダントは胸の辺りで開いた】んだ」
奉太郎「千反田の視点からでは、見える訳が無いんだよ」
奉太郎「ペンダントがどういう状態になっていた、なんてな」
える「……!」
奉太郎「それが分かるのは、お前がペンダントを割ったからだ」
奉太郎「……間違いないな?」
える「ですが、ですがですね」
える「……ペンダントに被害を受けたんですよね?」
える「それがどのような状態かは、ある程度予想はできる筈です」
える「その証拠も、決定的とは言えませんよ」
奉太郎「……もう、やめにしないか」
なんで……
俺は友達を。
好きな奴を犯人にしなければいけないのか。
……
える「まだ、ダメです」
える「納得させてください、折木さん」
える「気になるんです、私」
奉太郎「……」
奉太郎「推理に、感情は入れてはいけない」
奉太郎「けど、俺にはどうしても引っ掛かる事があったんだ」
奉太郎「……無事だった氷菓と、伊原の絵だ」
える「……氷菓と、絵」
奉太郎「氷菓は窓際に飾ってある、とても大切な物のようにな」
奉太郎「ただ荒らすのが目的の犯人だったとしたら、氷菓が無事というのはあり得ない事なんだ」
奉太郎「仮に俺が【自分とは全く無関係の場所】で部屋を荒らすとしよう」
奉太郎「そこにはとても大切そうに飾ってある文集が置いてあった」
奉太郎「……当然、その文集は破り捨てるなり……する筈だ」
奉太郎「犯人には手を出せない理由があった、それは自分にとっても大切な物だったからなんだ」
奉太郎「伊原の絵も同様、大切な物だったんだよ」
奉太郎「……お前にとってな、千反田」
奉太郎「俺は、それに気付いたとき少しだけ安心した」
奉太郎「千反田はやっぱり、千反田なんだなってな」
奉太郎「お前自信の優しさは、隠せなかった」
える「……お見事です、折木さん」
える「もう一度、認めます」
える「今回の部室荒らし、犯人は私です」
える「大正解……ですね」
なんで、こんな事になってしまったんだ。
どうして千反田を責めなければ、いけないんだ。
奉太郎「答えてくれるんだろうな、部室を荒らした理由」
える「ええ、約束ですからね」
える「……お話します、理由は一つです」
える「私は、折木さんに嫌われたかったんです」
奉太郎「……俺に、嫌われたかった?」
える「ええ、折木さんならきっと……私が犯人だと気付いてくれると思っていました」
える「福部さんを巻き込んでしまったのは申し訳ありません、福部さんは責めないでください」
つまり、ここまで千反田の予想通り……という訳なのか。
奉太郎「……俺に嫌われたかった理由は、なんだ」
える「……それは、お答えできません」
える「でもいつか、話せる時が来るかもしれないです」
お前の言葉を聞いて、俺は確信した。
お前は俺に嫌われたくなんて、無かったんだなって。
だって、そうじゃなければ【いつか話せる時が】なんて言う訳ないじゃないか。
俺に嫌われてしまえば、その機会さえ無くなるのだから。
奉太郎「……そうか、一つ聞きたい事がある」
える「はい? なんでしょうか」
奉太郎「お前は本当に、心の底から俺に嫌われたいと思っていたのか?」
える「っ!……」
明らかに、千反田がうろたえた。
それは既に、俺の質問に対する答えであったのだろう。
奉太郎「……俺がお前の事を嫌うなんて事は、絶対に無い」
奉太郎「例えその嫌われたくなった理由を教えてもらってもな」
える「それは、残念です」
える「……私の作戦は最初から失敗だったって事ですね」
千反田は笑いながら、俺に言ってきた。
える「……折木さん」
える「まだ、ありますね……何か」
……こいつは、どこまで鋭いんだ?
奉太郎「お前は、やっぱり千反田なんだな」
こいつの観察力は、俺もよく知っている。
それが……千反田えるという奴だ。
奉太郎「……もう一つだけ、理由がある」
える「教えてください、全部」
奉太郎「これが本当に最後だ、お前が俺に嫌われたいと思っていなかった理由、だな」
奉太郎「俺の割られたペンダント、濡れていたんだよ」
える「……濡れていた?」
える「違うんですか?」
奉太郎「違う、一度拭いたらもう濡れたりはしなかった」
奉太郎「俺は、人の変化に気付きづらい」
奉太郎「だから特別棟の1Fでお前に会ったときも、気付かなかった」
奉太郎「こうして正面から話し合って、ようやく気付いたよ」
奉太郎「……お前の眼が、赤くなってることにな」
奉太郎「ペンダントが濡れた原因は、千反田が泣いていたからだ」
える「……やっぱり、私には完全犯罪は無理みたいです」
える「折木さんに探られては、どうしてもばれてしまいます」
える「……すごいですよ、本当に」
える「なんでも分かっちゃうんですね、折木さんには」
奉太郎「今回は、今回ばかりは」
奉太郎「知りたくなかった、けどな」
える「そうです……か。 本当に、私の心の中まで推理されるとは思っていませんでしたよ」
奉太郎「……一年も一緒に居たんだ、そのくらい分かって当然だ」
下唇を噛み、何かを堪えていた。
える「わたし……やっぱり、だめですね」
える「決めたのに、自分で決めたのに」
える「やっぱり……おれきさんには……」
える「さっきまで、おれきさんと……話す前まで、決めていたのに……」
える「おれきさんと、話していたら、……揺らいでしまいます」
える「……わたし、きらわれたく、ない……です」
3度目、くらいだろうか。
千反田の泣き顔を見たのは。
俺は、千反田に近づき、肩を掴み。
奉太郎「前にも言っただろ、俺はお前の味方だ……嫌いになんて、ならない」
千反田を、抱きしめた。
える「おれきさんに……ううっ……嫌われたほうが……よかったかもしれません……っ」
える「……ごめんなさい……ごめんなさい……」
奉太郎「すまんな、お前の気持ちに気付けなくて」
奉太郎「今回の事は伊原には黙っておく、それがあいつの為にもいいだろ」
奉太郎「もし、さっき言ってた理由を俺に話せるときが来たら、絶対に話してくれ」
奉太郎「俺は、千反田の味方だから」
小さく、千反田が頷いた。
……里志の方にも、聞きたい事がある。
奉太郎(まあ、とりあえずは後回しだ)
どうなるかと思ったが……千反田の優しさが行動に出ていた事もあり、俺はそこまで危惧していなかったのかもしれない。
、、、それから1時間程、千反田を抱きしめていたのだが……
える「あの、折木さん……ちょっと恥ずかしいです」
奉太郎「う……あ、す、すまん」
急いで千反田から俺は離れた。
える「ふふ……冗談です、ありがとうございます」
奉太郎「あ、ああ」
千反田は元気が戻った様だ。
奉太郎「……そうだな、家まで送って行く」
える「い、いえ。 大丈夫ですよ」
奉太郎「いや、送って行くよ……心配だからな」
える「……では、お願いします」
本音を言うと、もう少し……千反田と一緒に居たかった。
勿論口には出せないが。
える「……やはり、今回の事は私が馬鹿でした」
える「もっと他に、方法があったと思います……」
奉太郎「その話はもう終わりだ。 それとな」
奉太郎「他の方法は絶対にやめてくれ、疲れる」
える「……そうですね、ふふ」
える「折木さんの頼みなら、もうしません」
える「折木さんには、どう頑張っても嫌われないと……分かっちゃいましたから」
奉太郎「……ああ」
える「あ、後ですね」
える「その……一つだけ、いいでしょうか?」
奉太郎「ん、どうした」
える「折木さんは……私の事、どう思っていますか?」
それはつまり、そういう事なのか。
なんて答えればいい? というか答えていいのか、これ。
というか急だな、どうすればいいんだ。
まずいな、焦ってるぞ俺。
奉太郎「ち、千反田の、事か」
落ち着けよ、落ち着け。
奉太郎「凄く、真面目な奴だと思う」
別に変な事を言う訳じゃない。
奉太郎「優しい奴だし、純粋でもある」
ただ思っている事を、言えばいいだけ。
奉太郎「それに、その……可愛い」
奉太郎「じゃなくて、綺麗」
奉太郎「……いや、すまん」
これが、穴でもあったら入りたいという状況か。
……あまり嬉しくは無い、学習の仕方だったな。
える「え、え、あの……それって、折木さん……」
奉太郎「いや、いやなんでもない。 忘れてくれると……助かる」
俺がそう伝えると千反田はニコッと笑い、答えた。
える「だ、だめです。 忘れられません」
える「私も、折木さんの事は……その」
える「……すいません、まだ、ダメみたいです」
奉太郎「べ、別に……いいさ」
内心ちょっと、悲しかったが……まあ、仕方ないのか。 でもなぁ……。
える「あの、今度……今度はちゃんと、言ってくれると嬉しい……かもです」
える「今は、まだダメなんです。 でもいつか、お願いします」
奉太郎「……却下だな」
奉太郎「……冗談だ」
える「酷いです! 折木さん!」
千反田が膨れ顔で数歩先に進んで行く。
奉太郎「すまんすまん、分かった。 その時まで……待ってる」
その時というのは、千反田が俺に嫌われたかった理由を話してくれる時、だろう。
える「……はい、お願いします」
振り返り、そう言う千反田の笑顔は……とても綺麗だった。
そしてまた、千反田の家に向かい歩き出す。
奉太郎(しかし、意識し出すと妙に恥ずかしいな……それは千反田も一緒か)
える「お、折木さん。 何か喋ってくださいよ」
奉太郎「……喋ることが特に無い、無駄な事はしたくないんだ」
える「それと、私を家まで送ってくれたのも、ですね」
奉太郎「そ、それは」
やはり、駄目だ。
千反田と居るとどうにも調子が狂ってしまう。
奉太郎「まあ……そうなるな」
える「ふふ、ありがとうございます」
奉太郎「千反田と居ると、省エネが捗らん……」
える「もう、折木さんそればっかりじゃないですか」
奉太郎「ううむ……たまには、そう思う事もある」
える「なら良かったです」
える「ではまた、気になる事があったら折木さんに相談させてもらいますね!」
奉太郎「……ああ、引き受けてやる」
える「え、あ、ありがとうございます」
俺が素直に言ったのが、そんなに意外だったのだろうか……
奉太郎(ま、いいか。 やらなければいけないことなら手短に、だ)
奉太郎(今日はもう一つ、やらなくてはいけないことがあるけどな……面倒だ)
第14話
おわり
里志「……もしもし、ホータローかい?」
奉太郎「ああ、用事は……言わなくても分かるか」
里志「うん、今日の部室荒らしの事だよね」
奉太郎「そうだ、単刀直入に聞くぞ」
奉太郎「何故、千反田に協力した?」
そう、里志は千反田の部室荒らしに協力をしていた。
里志とは長い間付き合いがあるが……今回、何故千反田に協力をしたのか? それは俺にも分からなかった。
こいつは適当にやっている様に見えて、根は真面目でもある。
そんな里志が部室の物を散乱させている千反田を見て、何を言ったのか? 何を思ったのか? それを聞かずには今回の事を終わらせたく無かった。
里志「今日、僕がどんな風に動いたか……初めから説明した方がよさそうだね」
里志「言いたい事はあると思うけど、最後まで聞いてくれると助かるよ」
里志「僕は……委員会の事で千反田さんに用があったんだ。 そこはホータローも知っているね」
里志「今日、僕は……」
さて、厄介な事になってしまったよ……なんでわざわざ部長達に呼びかけをしにいかなければならないのか。
初めから書類を回しておけばこんな事にはならなかったのに、まあ……他の人を責める訳にもいかないかな。 この件は他人任せにしていた僕の責任でもあるしね。
里志「と言っても、部活の数が半端じゃないからなぁ……」
里志「とりあえずは、古典部から行こうかな」
今日は確か、文集の事で集まる予定になっていた。
昼休みに委員会の仕事があった事をホータロー達に伝えておきたかったんだけど……急な事だったせいで伝える暇が無かった。
過ぎたことは仕方ない、部室に行けば二人は居るだろうし……その時にでも説明しよう。
特別棟に入り、僕は古典部の部室へと向かった。
丁度、4Fの廊下に着いたところで何やら危なげな音が聞こえてくる。
里志「古典部の方から聞こえてくる? 何の音だろう?」
古典部の前に着き、音がやはりこの中から聞こえてきているのをしっかりと確認した。
ドアをゆっくりと開ける、何をしているんだろう?
僕がその時見たのは、確かホータローがいつの間にか着ける様になっていたペンダントを……
床に叩き付けている、千反田さんの姿だった。
える「ふ、福部さん? どうしてここに……」
どうして、という事は……千反田さんは今日、僕が委員会で遅れるのを知っていたのだろう。
つまり、千反田さんにとってこれは見られてはいけない事だ。
里志「なんでそんな事をしているんだ! 何か……ホータローとあったのかい?」
える「……いえ、そういう訳では無いです」
里志「じゃあ、なんで……」
える「……折木さんに、嫌われなければ……ならないんです」
里志「……全く言ってる意味が分からないよ、千反田さん」
える「すいません、でも……どうしてもなんです」
ホータローに嫌われたかった……?
僕から見たら、千反田さんとホータローはとても仲が良い様に見えていた。
ひょっとしたら付き合ってるんじゃないか? とも思った程に。
そんな千反田さんが、どうして? 分からない、僕はホータローほど頭の回転は良くは無い。
それでも……ホータローが何かした。 という事では無いらしい。 千反田さんの言葉からそれは分かった。
える「……福部さん、これを皆さんに言うのは……福部さんの自由です」
える「でも私は、私にはこの方法しかなかったんです」
える「これが……一番良い方法だったんです」
里志「さっぱり分からないね、これが良い方法だなんて……とても思えないよ」
える「そう……ですよね。 すいません」
とても悲しそうに見えた、千反田さんは自分でも……こんな方法は取りたく無かったのかもしれない。
これでは駄目だ、なんとか……うまく終わらせたい。
千反田さんは何か考えがあり、こんな事をしたのだろう。 つまり……今のままホータローにばれるよりかはマシかもしれない。
それに僕はホータローを信じている、きっと千反田さんを助けてくれる。 僕には考え付かないけど……ホータローならもしかすると。
里志「……分かったよ、千反田さん」
里志「委員会の仕事でね、各部長達に用事があって来たんだ」
里志「悪いけど、付いて来て貰えるかな? 総務委員会の仕事なんだ」
える「……すいません、福部さん。 ありがとうございます」
僕が協力するのを、千反田さんは理解したのだろう。 礼儀正しく頭を下げると真っ直ぐと僕の方を見ていた。
やっぱり、とても普通の理由ではこんな事をする人ではない。 何か……あったのかな。
える「行きましょう、福部さん」
える「あまり、時間もありません」
~~~
要するに……里志は今、この状況を分かっていたのか。
俺が千反田をなんとかして、里志に連絡を取るまでの事を。
千反田といい、里志といい、予測されるのはあまり良い気分では無いぞ……
奉太郎「……そうか」
里志「何か言いたい事があったら、好きなだけ言ってくれると助かるよ」
里志「言うだけで満足できないなら、好きなだけ殴るといい」
奉太郎「……いや、やめておく」
奉太郎「面倒なのは嫌いだ、特に言う事はない」
里志「……そうかい、悪かったね。 ホータロー」
奉太郎「終わり良ければ全て良しって事だ。 まだ終わりが良かったのかは分からんがな……」
里志「うん、そうだね。 ああ、それとホータロー」
里志「一つ千反田さんは、嘘を付いていたよ」
里志「千反田さんは、僕が来たのをホータローがトイレに行ってから5分と言っていたよね」
里志「それが嘘なんだよ、本当に僕が来た時間は」
里志「ホータローがトイレに行ってから【1分後】だったんだ」
奉太郎「1分後? その嘘に意味があるようには思えないんだが……」
里志「僕もそう思ったさ、まあ自分の感情を必死に抑えて部室を荒らしていたのだろうし……時間感覚が狂っていたのかもね」
そう、だろうか? あの千反田がそんなミスをするとは思えない。
千反田が部室を荒らしている最中に俺が戻ってきてしまったら全て終わってしまうのだから、時間を気にしていなかった筈が無い。
千反田の目的は……今日の放課後、俺と二人で話す事だった筈だ。 もっとも最初の予定では俺がどこかに呼び出すというのを予想していただろう。
それは千反田の「ここまで早く気付かれるとは思わなかった」という言葉に繋がる。
つまり……どういう事だ。 どうも引っかかる、何故そこで嘘を付く必要があった?
里志と千反田の会話を思い出せ、そこに何かある筈だ……
不自然な点が……
そういう事か、だとすると……あの言葉の真意は何だったのか。
それはつまり……俺に嫌われたかった理由と直結する物だろう。 という事はだな、もしかすると。
……可能性の一つではあるな。
里志「ホータロー? どうかしたのかい?」
里志の呼び掛けによって、我に帰る。 少し、考え込みすぎていた。
奉太郎「ああ、いや。 なんでもない」
奉太郎「すまなかったな、長々と」
里志「気にしないでくれよ、僕が面倒な事にしたのは間違いないんだからさ」
奉太郎「……まあ、そうだな。 今度何か奢って貰う事にする」
里志「はは、お安い御用さ。 じゃあ、そろそろいいかな?」
奉太郎「ああ。 また明日」
里志との会話は、俺にとって得るものがあった。
一つの可能性が……できれば外れて欲しい物ではあるが。
悩んでいても仕方ない、俺にこれは……解決できるのだろうか? 答えは、出そうに無かった。
しかしだ、可能性がゼロでは無い限り……やってみる価値はあるかもしれない。
それは省エネとは程遠い、成功する訳でも無いし、俺の予想が当たっているとも言えない。 だけどこれは、やらなくてはいけないことの様な気がした。
季節は夏、時刻は19時、場所は家のリビング……俺は、折木奉太郎は、決意を固めた。
ドアをいつも通り開けると、全員が揃っていた。
里志「相変わらず来るのが遅いね、ホータローは」
える「こんにちは、折木さん」
ここまでは普通、悪く言えば予想通り。 しかし一つ誤算があった。
摩耶花「……話してよね、昨日の事」
しまった、伊原の事を忘れていた。 非常にまずいぞ……
どうする? 諦めて話すか?
論外だ、他に方法は……
摩耶花「ちょっと、折木聞いてる?」
千反田と里志がいかにも気まずそうな顔をしている、一番気まずいのは俺だというのに。
あまり人に罪を被せるのは好きではないが……仕方ないか。
奉太郎「……犯人は、C組の奴だった」
あれだけの事を少し前にしたんだ、多少は目を瞑ってもらうしかない。
摩耶花「……また、あいつか」
摩耶花「私ちょっと行って来る!!」
える「ま、待ってください! 摩耶花さん」
俺や里志が止めていたら、間違いなく振り切られていただろう。 その点、千反田が声を掛け静止させたのは正解だったかもしれない。
しかし、ここからどう切り返すか。 当の千反田もその後の言葉が続いていない。 伊原が痺れを切らすのも時間の問題だ。
奉太郎「……あいつには、昨日きつく言っておいた」
奉太郎「……千反田がな」
すまん、千反田。 許してくれ。
伊原が疑うのも無理はない、千反田は人を厳しく罵る等の事を全くしない。 少なくとも俺は一度も見たことが無い。
奉太郎「ああ、とても口には出来ない言葉を使っていた」
える「……」
千反田の視線がちょっと怖い、後で呪われないか少し心配になる。
摩耶花「……そう、ちーちゃんが……」
奉太郎「そうだ、C組の奴もかなりショックを受けていた。 もう関わっては来ないだろう」
奉太郎「俺ももし言われたとしたら、立ち直れそうに無い……そのくらい酷かった」
える「……」
やめてくれ、そんな視線を向けないでくれ。 悪いのはそう、伊原だ。 伊原が気にしなければこんな事にはならなかったんだ。 だから俺は悪くない。
と必死で心の中で言い訳をするが、千反田には通じていない様子だった。
摩耶花「……うん、分かった。 でも、ちーちゃんがそこまで言うなんて……想像できないな」
そりゃそうだ、俺も想像できない。
里志「まあ、さ。 皆無事だったし、結果オーライだよ」
里志「って事で文集について話し合おうよ! 当初の目的はそれだった訳だしね」
える「え、ええ。 そうですね」
里志のナイスフォローもあり、この場はどうやら収まった。 しかし千反田から放たれている正体不明の圧力は俺に圧し掛かっていた。
……とりあえず、後で謝ろう。
摩耶花「おっけー、気持ち切り替えていこ!」
伊原もどうやら納得した様子だ。 それならばそれに乗るしかない。
伊原の発言で、文集についての会議が始まる。 あれをこうしたらいいとか、内容の順番はこうしたらいいとか。
俺は合間合間で「ああ」とか「それがいいな」とか適当に口を挟むだけだったが。
そして、珍しくこの会議をいつまでも続けていたいと願っていた。 これが終われば勿論帰る事になるだろう。
伊原と里志は付き合っている、それは周知の事実である。 つまりは一緒に帰るのが普通……いつも通りだ。
となると、残るのは俺と千反田。 俺は今更になって先ほど伊原にした言い訳を後悔し始めている。
……手遅れだが。
嫌な事を待つ時間という物は、とても早く過ぎ去ってしまう。
以前里志と会話をした時は楽しい事はすぐに終わる……みたいな事を言っていた気がしたが、それに一つ付け加えたい。
回避したい事を待つ時間は、すぐに来る。 という事を。
そんな訳で今は千反田と二人で歩いている。 無言で。
奉太郎(気まずいな……)
何か話そう、とりあえずは。
奉太郎「その、悪かった」
える「……酷いです、折木さん」
奉太郎「すまん、あれしか思いつかなくて」
える「でも、あそこまで言う必要も無かったと思います!」
それは確かに、その通り。 現に俺は少しだけあの状況を楽しんでいたのだから。
える「折木さん、少しだけ楽しんでいましたよね」
奉太郎「い、いや……そんな事はない」
傍目から見たら俺はさぞかし怪しかった事だろう。 苦笑いをしながら顔を千反田とは反対側に動かしていたから更に怪しい。
える「……やっぱり、楽しんでいたんですね」
奉太郎「……少し、少しだけ」
える「折木さん、私はこれでも知り合いが多くいます」
突然何を言っているんだ? と思った。 会話の繋がりが俺には全く分からなかった。
える「……折木さんは人の悪口を言うのが大好きな人です」
える「……折木さんは人使いがとても荒い人です」
える「……折木さんは人の事を貶めるのが楽しくてたまらない人です」
える「私も少し……楽しめるかもしれません」
まさか千反田も本気で言ってる訳ではないだろうが……そうだよな? 本気ではないよな?
でもとりあえずは、なんとかせねば。 俺はゆったりと暮らして行きたい。
奉太郎「……すいませんでした」
える「……嘘ですよ、冗談です」
える「折木さんには感謝しています、そんな事はとても出来ません」
良かった、やはり本気では無かった。
える「ですが、私も恥ずかしいので……あまり、言わないでくださいね」
奉太郎「あ、ああ。 分かった」
こうして普通に話していると、千反田が何に悩んでいるのかなんて全く分からなくなってくる。 とても悩みがありそうには見えない。
少しだけ……聞いてみるか。
奉太郎「その、昨日言っていた理由なんだが」
千反田は動じることも無く、俺の話しに耳を傾けていた。
奉太郎「……いつ頃になりそうだ?」
える「話せる時、の事ですね」
える「遅くても……3年生になる前に、早くても今年の終わりくらいには」
予想以上に、時間はある様だ。
奉太郎「……そうか、分かった」
俺は一つ、里志との会話から抱いていた疑問に答えを得た。
千反田はあの時一つ嘘を付いていた。 単純に考えてしまえば別にどうでもない嘘である。
しかし、俺には引っかかる事がある……それは。
里志と千反田の会話、最後に千反田が言った言葉だ。
里志の記憶が正しければ千反田は最後にこう言った。
「あまり、時間もありません」と。 それはどういう事か?
最初は俺が戻るまで時間が無いと言っているのだと思った。 しかしそれは違う。
里志が来る時間を入れても4分、この時点で最低でも俺が戻るまで6分の時間があった。
その状況で、あまり時間が無いと言うであろうか? 答えは否。
つまり千反田が言った言葉は、その状況から出た言葉では無い。
それはもっと大きな、いわばタイムリミット……
先ほど千反田が言った話せる時までの時間、それまでの時間があまり無い、と言う事なのだろう。
そしてその話せる時が来る時に、千反田の身に何かが起こる。 それが俺の出した答えだった。
だが、今の俺にはどうしようもない。 千反田の悩みが何かなんて皆目検討も付かない。
けど俺にとって有利な事はある。 予想以上にあった時間だ。
その時までに、俺は答えを見つければいい。 千反田に対する答えを。
今はまだ夏、冬とは程遠い。 セミの鳴き声がやかましい程だ。
しかし、懸念しなければいけない事もある。
時間が流れるのは俺の予想以上に、早いという事だ。
第15話
おわり
日にちは7月30日、丁度夏休みに入ってちょっと経ったくらいだ。
そして俺は今、神山市の郊外にある神社に来ている。
月は頭上からは少し外れており、神社の奥からこちらを照らしている。
その神社というのもただの神社では無い、倒産してしまった神社である。
これは里志に聞いた話なのだが、最初は神社が倒産? そんな馬鹿な事がある物か。 と思っていた。
しかしどうやら、神社は倒産する物らしい。 現に俺が今いるこの神社は倒産しているのだから。
勿論入るのには許可が必要だと思う。 だが里志に言わせれば「問題ないよ、ばれなければね」だそうだ。 間違ってはいないかもしれない。
そして何故、ここに俺が居るのか? ちなみに一人では無い、横にはもう一人居る。
正確に言えば、神社の入り口にはもう二人程居る。
この状況を説明するには少し、記憶を掘り返さなければならない。
一週間ほど前だっただろうか? 夏休み前の最終登校日だったのは覚えている。
~古典部~
普通、一学期の終業式が終わってしまえばそのまま家に帰る者や、友達と遊びに行く者が大多数だろう。
だが、この部活動が活発な神山高校では家に帰れば夏休みだというのに未だに残って部活動に励む者の方が多い。
それに対し俺は「頑張れ」とか「お疲れ様」等とは思わない、なんせ俺もその励む者の中の一人なのである。
そんな事を考えながら小説のページを捲る、やはり頑張れくらいは思った方がいいかもしれない。
奉太郎「……」
周りが静かなら、それは心地よい物なのだろうが……生憎先ほどから3人ばかし、何やら盛り上がっている様子だ。
「静かにしてくれ」と言いたいが、俺もそこまで傲慢ではない。
里志「それでさ、丁度夏休みに入ることだし……行ってみない?」
摩耶花「ええ……ちょっと嫌だな……」
える「でも……ちょっと、気になるかもしれないです」
その言葉のせいで小説に集中するのもできず、顔を里志達の方に向ける。
奉太郎「……何の話だ?」
里志「お、ホータローが食いついてくるとは思わなかったかな」
摩耶花「と言うか……話聞いてなかったの?」
奉太郎「いや、聞いてはいた。 覚えていないだけで」
軽い冗談のつもりだったが、伊原の目つきを悪くさせるには十分だった様だ。
里志「30日辺りにね、やろうと思っているんだ」
奉太郎「何を?」
里志「肝試し」
自分で言って、あそこは中々肝試しに向いているかもしれないと思う。 夜は真っ暗になるし、何より広い。
える「酷いですよ折木さん、私の家にはお化けなんて出ません!」
奉太郎「じゃあ伊原の家か」
摩耶花「折木の家でいいんじゃない? 怠け者のお化けとか出そう」
これは失敗、伊原を突くとどうにも手痛いしっぺ返しを食らってしまう。
里志「冗談も程々にさ、うってつけの場所があるんだよ」
里志「随分前に倒産した神社があるんだけど、最近では誰も寄らなくなってるんだ」
里志「そこなら丁度いいと思うんだけど、どうかな」
それはまた……つまりは廃墟、という事か。
しかしそれは千反田が納得するのか? そういうのは厳しそうなイメージがあるのだが。
える「そうですね、本当にお化けが出るのか気になります」
奉太郎「いいのか? 千反田はそういうのはしないと思ったんだが」
える「ええ、倒産してしまった神社なら問題は無いです」
さいで。
摩耶花「み、皆で行くならいいかな……」
える「私も、30日ならば大丈夫です」
奉太郎「……今回は断っていいのか」
里志「いや、駄目だね」
奉太郎(なら何故確認するんだ……)
里志「じゃ、全員参加って事で」
里志「ああ、それと」
里志はそう言うと、巾着袋から割り箸を4本取り出した。
里志「二人一組で一周しよう。 そっちの方が盛り上がる」
その為の割り箸か、準備がいい奴だな。 この状況にならなかった時、里志はどんな顔をして割り箸を取り出すのか少し興味があるが。
いや、もしかすると取り出さずに持ち帰って一人でくじ引きをするかもしれない。 寂しい奴だ。
える「楽しそうですね、やりましょう!」
伊原はやはり、こういうのが苦手なのかもしれない。
それにしてもくじ引きか……
心の中でしか言えないが、順位をつけるとしたら1位が千反田。 次に里志。 はずれは伊原。 心の中では遠慮は必要無い筈だ。
奉太郎「よし、引くか」
とても口にしたらただでは済まない事を思いながら、俺はくじ引きに挑む。
里志「皆掴んだね。 せーの!」
全員が割り箸を引き抜く、俺の割り箸には……
奉太郎「赤い印が付いているな」
里志「僕のは無印だね、という事はホータローとは一緒に周れない」
今更思うが、男二人で肝試しはちょっと嫌だ。 なのでこれはこれで良かったのかもしれない。
える「私は無印です、福部さんと一緒ですね」
つまり?
摩耶花「……」
奉太郎「良かったな、一緒に周れるぞ」
俺がそう言うと、伊原は持っていた割り箸を真っ二つに折った。
~~~
奉太郎「……はぁ」
摩耶花「悪かったわね、私で」
奉太郎「いやこっちこそ、俺で悪かった」
摩耶花「……ふん」
全く、もう1/3程は周っているのに会話は今のが最初だ。
特に何事も無く周る。 そして丁度裏手に周った時、道が無い事に気付いた。 裏には山がそびえ立っており、木で埋め尽くされている。
奉太郎「ん、通れないぞ……これ」
摩耶花「ええ? ふくちゃんはちゃんと下調べはしたって言ってたんだけどな……」
奉太郎「ふむ、ってことは」
奉太郎「この神社の中を通れって事か」
摩耶花「確かに廊下はあるけど……屋根は無いし、大丈夫なのかな」
奉太郎「下調べは済んでいるんだろう? なら大丈夫だろ」
摩耶花「そ、そうね。 行こう」
と言いつつ、伊原は先に行こうとはしない。 目で俺に「行け」と合図はしている。
それに逆らっても良い事なんてのは無い、仕方なく伊原の指示に従うことにした。
床はとても弱そうで、ギシギシと木が軋んでいるのが伝わってくる。
それに加え、所々穴が開いている。 本当に里志は下調べをしたのだろうか?
最初の一歩を踏み出したときは少し穴に足を取られてしまった。 しっかりチェックはしてもらいたい物だ。
摩耶花「ちょ、ちょっと折木」
奉太郎「ん、なんだ」
摩耶花「……手、繋いで」
俺は一瞬自分の耳はついにおかしくなってしまったのかと思った。 それを確認する為に再度聞く。
奉太郎「え? なんて言った今」
やはり俺の耳はおかしくなってしまったのか。 お化けが出るより余程怖い。
そんな事を考え、ぼーっとしている俺の手を伊原が掴む。
摩耶花「……歩き、にくいから」
奉太郎「……そうか、まあいいが」
良かった、俺の耳はおかしくなんてなってなかった。
伊原と手を繋ぎ、ゆっくりと廊下を進む。 しかし暗くて下がよく見えない。
足を先に出し、ここは大丈夫か確認しながら進む。
そんな事をしばらくしている間に廊下の終わりが見えてきた。
砂利の地面に足を付けると、伊原はすぐに手を離す。
摩耶花「……行こ、もうすぐでしょ」
奉太郎「ああ、そうだな」
なんとも……何も無い肝試しであった。 強いて言えば伊原と手を繋いだ事くらいか。 確かにこれは貴重な体験である。
そして神社の階段を降り、下で待つ里志と千反田の元に到着した。
える「どうでした? 何か出ました?」
奉太郎「いや、なんにも出なかったぞ」
奉太郎「それより里志、ここは下調べしたのか?」
里志「勿論さ、裏に廊下があっただろう?」
奉太郎「あるにはあったが、穴は開いているし暗くて床は見えないしで危なかったんだが……」
里志「あれ? おかしいなぁ……穴は開いてなかったと思ったんだけど」
里志「まあ、僕達は灯りを持っていくよ。 念のためにね」
……俺たちにも灯りくらい寄越せ。
里志「じゃ、行って来るね」
える「行ってきます! また後ほど」
そう言い、里志と千反田は出発して行った。
摩耶花「……さっきはありがとね」
奉太郎「ん? 何の事だ」
摩耶花「手、繋いでくれたこと」
奉太郎「ああ、別に構わんさ」
摩耶花「……そっか」
しばらくの沈黙、そして再び伊原が口を開く。
摩耶花「折木ってさ」
摩耶花「ちーちゃんと私に対する態度、違うよね」
奉太郎「……一緒だと思うが」
摩耶花「それ……本気で言ってるの?」
摩耶花「仮にさ、ちーちゃんが手を繋いでくれって言ったらどう思う?」
奉太郎(千反田が手を繋いでと言ったら、か)
奉太郎「いや、まあ……繋ぐ、かな」
摩耶花「……やっぱり違う」
そうなのだろうか? 確かに、千反田に言われたら少し恥ずかしいかもしれない。
ああ、そういう事か。
摩耶花「それでさ」
摩耶花「何か進展はあった? ちーちゃんと」
あると言えばある、無いと言えば無い。 どちらにでも当てはまる物だと思う。
奉太郎「さあな、俺にもわからん」
摩耶花「……ふうん」
奉太郎「……どうして急に?」
摩耶花「……最近、折木とちーちゃん前より仲が良さそうに見えたから」
摩耶花「何か進展あったのかな、って思っただけ」
奉太郎「……そうか」
俺としては、前とは何も変わらず千反田との距離はあるつもりだった。
しかし伊原が言うからには、そうなっているのかもしれない。
摩耶花「応援、してるから」
奉太郎「応援? 何を?」
摩耶花「……折木の事」
奉太郎「てっきり逆かと思っていた」
摩耶花「そんな訳ないでしょ、正直に言うと」
摩耶花「ちーちゃんと折木、お似合いだと思ってるんだ」
奉太郎「……」
第三者から言われると、ちょっと恥ずかしい。
奉太郎「それは、どうも」
奉太郎「……ありがとな」
摩耶花「……くっ……あはは」
何を急に笑っているんだ、こいつは。
摩耶花「ご、ごめんごめん」
摩耶花「折木が素直にお礼を言うのが面白くって」
俺はそこまで礼儀を軽んじていただろうか? やはり伊原は何か悪霊に……
摩耶花「……あんた、なんか失礼な事考えてない?」
いや、取り憑かれていなかった。 いつもの伊原だ。
奉太郎「い、いや」
これから伊原になんと言われるか、どうしようかと思っていた所に里志達が戻ってくる。
里志「たっだいまー」
える「戻りました……」
意外と早かったな、月は丁度頭上まで動いてきている。 そこまで時間は経っていないだろう。
そして千反田が何故か元気が無い、何かあったのだろうか?
奉太郎「元気が無いな、何かあったのか?」
える「いえ、何もありませんでした……」
それで元気が無かったのか、分かり辛い。
奉太郎「ん? どうした」
里志「嘘は良くないな、ジョークならまだしも嘘は良くない」
奉太郎「……言っている意味がわからんのだが」
える「確かに廊下はあったんですが、穴なんて開いてなかったですよ?」
摩耶花「え? 嘘だ、開いてたよ?」
奉太郎「俺も確かに見たぞ、だから慎重に進んだんだ」
里志「……それは妙だね、違うルートでも通ったのかな?」
奉太郎「ま、そうだろうな」
える「……確認しに行きましょう!」
摩耶花「うん、気になる」
おいおい、またこの階段を上れと言うのか。 冗談じゃないぞ。
里志「……そうだね、確認すれば終わる事だよ」
奉太郎「……分かった、行くか」
毎度毎度このパターンだ。 結局は強制されてしまう、断るのもできるが省エネにはならないだろう。 千反田がいる限り。
そして俺達4人は再び階段を上る。
里志「僕達が通ったのはこの廊下だけど……ホータロー達は?」
奉太郎「俺達が通ったのもこの廊下だ、なあ伊原?」
摩耶花「うん、この廊下だよ」
里志がその廊下を灯りで照らす。
える「ほら、穴なんてありませんよ?」
千反田がそう言い、俺と伊原で廊下を覗き込む。 そこには確かに穴は……開いていなかった。
摩耶花「……うそ、なんで……?」
奉太郎「……本当だ、確かに穴なんて開いていないな」
里志「ってことは……考えられるのは一つだね」
える「な、なんでしょうか!? 気になります!!」
いつになく千反田のテンションが高い。 夜中と言うものは人のテンションを上げるらしい。
里志「つまり……ホータロー達はどこか異次元に行っていたんだよ!!」
摩耶花「い、いやあああああああ!!」
伊原はそう叫ぶと、しゃがみ込んでしまう。 俺には異次元へ行った事よりその叫び声が怖かった。
里志「あはは、ジョークだよ」
里志「でもさ、可能性も無くはないよね?」
奉太郎「まあ、少し妙ではあるな」
える「折木さん、私……気になります!」
まあ、ここまで来たんだ。 別にいいか。
奉太郎「……分かったよ、考えよう」
と言う訳で考える事となったのだが、大体の見当は既に付いている。
奉太郎「里志、一度灯りを消してくれないか」
里志「灯りを? 分かった」
里志が灯りを消すと、辺りは真っ暗となる。
かろうじで……月の光によって俺達の影は見える。
奉太郎「原因はこれだな。 温泉に行ったときに見た首吊りと似たような物だ」
える「でも、ですね」
える「この廊下には天井なんてありません。 一体どんな影が穴を見せたのですか?」
千反田の言葉を聞き、俺は近くに落ちている葉っぱを一枚拾った。
それを廊下の方に手を伸ばし、かざす。
奉太郎「これだ、この神社の裏は山となっている」
奉太郎「俺と伊原が通ったときは丁度山から月が見えていた」
奉太郎「そして、その木の葉っぱが穴を見せていたって所だな」
える「……なるほど、それで私達が行ったときは穴が無かったんですね」
里志「僕達の時は光源もあったしね、それが余計に影を消したのかも」
奉太郎「ま、実際はこんなもんさ……異次元とか馬鹿な事を行ってないでそろそろ帰るぞ」
里志「ま、摩耶花ー。 帰るよ?」
摩耶花「……ふくちゃんの、ばか」
これはどうやら、里志は埋め合わせをしなくてはいけなくなりそうだ。 穴だけに。
そんなつまらない事を考えながら、前を行く里志と伊原の後に続く。
える「やはり、なんでも分かっちゃうんですね。 折木さんには」
奉太郎「何でもって訳でもないさ、分からない事だってある」
える「……そうですか。 あの」
える「手、繋ぎましょうか」
奉太郎「あ、ああ。 ほら」
俺と千反田は、里志達には見えないように……そっと手を繋いだ。
奉太郎(確かに、伊原とだった場合……接し方は変わるな)
奉太郎(どうにもこれは……心臓に悪い)
そして俺は一つの事を思い出す。
廊下を歩いたときに、最初は確かに穴につまづいた。
あれは……何だったのだろうか?
第16話
おわり
姉貴に顔をぺちぺちと叩かれ、目が覚める。
奉太郎「……どこ、って……」
頭の回転はまだ良くない、姉貴の言葉をゆっくりと飲み込む。
昨日は確か、里志の発案で肝試しに行った。
その後に千反田を家まで送って行った、歩きながら寝そうなくらい眠そうな千反田を。
そして俺が家に着いたときには1時を回っていた気がする。
そのまま俺はソファーに横になって……そうか。
奉太郎「……あのまま寝ていたか」
供恵「昨日は夜遅かったみたいね、何をしていたの?」
奉太郎「別に、里志と遊んでいただけだ」
供恵「奉太郎が不良になっちゃうなんて……お姉さん悲しいなー」
供恵「もうあんたに構ってあげられないなんて……」
供恵「あら、ごめんなさい」
そう言うとようやく姉貴は俺の顔を叩く手の動きを止めた。
奉太郎「……ふぁぁ」
でかいあくびをしながら起き上がる、ソファーにしてはよく寝れた方だろう。
供恵「そんなあんたに朗報ー」
奉太郎「なんだ」
姉貴がこう言う時は、大していい事でもない……むしろその逆の方が多いと思う。
供恵「これ、映画のチケットなんだけどね」
供恵「2枚あるからあげる」
そう言い、チケットを渡される。
奉太郎「ほう、中々気が利くな」
供恵「照れるなぁ。 有効期限明日までだけどね」
奉太郎「おい」
それに加え、生憎外は雨模様。 今日は外に出る気がしない。 ……いや、いつもか。
奉太郎(里志でも誘って明日、行くか)
そう思い、電話機を取る。 俺のモットーは思い立ったらすぐ行動なのだ。 嘘だが。
たまたま近くにあった電話機に感謝をしつつ、里志の携帯の番号を押す。
家でも良かったが、外出している可能性も考えると携帯に掛けた方が手短に済むという物だ。
珍しく30秒ほどかかっても里志には繋がらず、諦めかけた所で電話は繋がった。
奉太郎「ああ、忙しかったか?」
里志「いや、そういう訳じゃないんだけど」
摩耶花「……、………」
電話の奥から伊原の声が聞こえた、恐らく「折木って本当に空気が読めない」とか「タイミングが悪い奴」とか言ってるのだろう。
いや……決め付けは良くないな。
里志「ご、ごめんね。 摩耶花がホータローに怒ってる」
そうでもないか。
奉太郎「あー、そうか。 明日は空いているか?」
里志「明日もちょっと……ごめん」
奉太郎「分かった、それなら仕方ない」
奉太郎「頑張れよ」
里志「まあ、うん。 そうだね」
奉太郎「じゃ、また今度」
と言い、電話を切る。
その様子を見ていた姉貴が口を出してくる。
供恵「かわいそーに、お姉さんと一緒に行く?」
奉太郎「遠慮しておく」
供恵「それは残念、でもあんたの友達は里志君だけじゃないでしょ」
供恵「前に家に来た子、あの子でも誘ってみたら?」
奉太郎「……千反田か、ううむ」
別に気が進まないって訳ではない。 だが……あいつはどうにも休みの日は忙しそうだ。
奉太郎「ま、するだけしてみるか」
姉貴が後ろで嫌な笑い方をしているのが分かった。 何だというのだ、全く。
再び電話機を取り、千反田の家の番号を押す。 できれば携帯に掛けた方が無駄が無くていいのだが……あいつは携帯を持っていない。
2回ほどコール音が鳴ったところで、電話は繋がった。
奉太郎「千反田か、折木だ」
える「あ、折木さんですか。 どうされました?」
奉太郎「姉貴から映画のチケットを貰ったんだが、明日どうだ?」
それをどこで入手したか。 そして目的は何か。 それをする日はいつか。 これを完璧に一文で伝えた、省エネとはこういうことだ。
える「え、あ……明日、ですか」
奉太郎「あー、何か予定があるならいい。 すまなかったな」
える「い、いえ。 そういう訳ではないんです」
奉太郎「ん、じゃあどういう訳で?」
える「……折木さんから遊びの誘いがある事が、とても意外だったもので」
さいで。
奉太郎「……まあ、じゃあ明日行くか」
える「分かりました! 朝からにします?」
奉太郎「そうだな、夕方からは雨らしいからそうしよう」
える「では、明日の朝……一度、折木さんの家に伺いますね」
奉太郎「分かった、じゃあまた明日」
奉太郎「……なんだ、どうした」
える「え? 何もないですが……」
奉太郎「……そうか」
える「はい、ではまた明日」
……またしても。
奉太郎「何か用でもあるのか」
える「そういう訳では無いですが、折木さんが電話を切ると思ったので」
奉太郎「……俺はそっちから切ると思っていた」
える「……すいません、では切りますね」
奉太郎「ああ、またな」
奉太郎「あ、そうだ」
切れた。
何時に来るのか聞くのを忘れていた。 わざとでは無いが長引いて、結局は聞けなかったとはなんとも情けない話である。
後ろを振り向くと、姉貴は未だに嫌な笑いを俺に向けている。 余程、暇なのだろう。
とにかく、明日の予定は決まった。 それにしても俺から遊びに誘うのが意外だと言っていたが、そうだろうか?
里志はたまに遊びに誘う事もあるし、俺が今日は何処に行こう。 と決める事だって無かった訳では無い。
だが言われてみれば……千反田を誘った事は無かったかもしれない。 当たり前と言えば当たり前だが……
千反田がそう思ったのも、仕方ない事だ。
奉太郎「……さて、今日はゆっくりするか」
ま、特にする事も無い。 ましてや里志や伊原、千反田によって俺の休日の一日が消費される事も無い。
供恵「あー私ちょっと出るから、留守番よろしくね」
奉太郎「そうか、気をつけてな」
そう言いながらも姉貴は、既に家から出ていた。 その行動の早さだけは俺には真似できそうにない。
奉太郎「……ニュースでもチェックしよう」
特に他にする事もない。 小説を読む気分でも無かった俺は、情報収集という画期的な事を思いつく。
ゆっくりとパソコンの前まで移動し、電源を付けた。
起動までには少し掛かることを俺は知っている、その間にコーヒーでも淹れよう。
台所へ行き、コーヒーを淹れる。
パソコンの前に戻ると、既にデスクトップが映し出されていた。
しばらくの間、ニュースに目を通す。
やがてそれにも飽き、パソコンを落とそうとするが……落としたとして、何をしようか。
奉太郎「……そういえば、前に千反田がチャットをやっているとか言っていたな」
俺もそれは一度使ったことがある。 あの時はただ単に、千反田に事情を説明する為だった。
……少し、暇つぶしでもしよう。
チャットルームまで行くのにそこまで苦労はしない。 なんと言っても指を動かすだけだから。
やがてチャットルームの入り口が目に入る。
そのままチャットルームのロビーに入ると、何個か部屋があり、少し目を引く名前の部屋があった。
2013/7/31 11:04【気になります】
おい、なんだこれは。 千反田が作ったのだろうか? それにしても……もっとこう、入る人が目的は何なのか分かるように立てろ。
この部屋の名前が俺には気になって仕方ない。 しかし閲覧者として入るのも……気が引ける。
奉太郎「……入室してみるか」
名前を打つ。 前回は打ち間違えた結果、ハンドルネームが「ほうたる」となってしまった。 俺は同じ過ちを二度は繰り返さない。
丁寧に「ほうたろう」と打ち、それを変換。
「法田労」
どこかのお坊さんみたいな名前になってしまった。 しかし確定してしまったのを消すのは面倒だ。 同じ過ちでは無いし別にいいか。
そして入室をクリックする。
L:こんにちは
L:代わったお名前ですね
L:変わった、です
法田労:千反田か?
L:え?なんで解ったんですか?
L:分かった、です
法田労:いつも見ているからな、お前の事は
奉太郎(少し、暇つぶしにからかってみるか)
法田労:言葉通りだ。 たまに朝、昼はあまり見ていないが……放課後なんかはほとんど毎日見ている。
法田労:休みの日なんかも、たまに見ている
L:あの、すいません
L:まちがっていたら、ごめんなさい
L:ストーカーさんですか?
法田労:千反田がそう思えば、そうかもな
L:ふしぎな人ですね、それよりわたしの話、きいてくれますか?
法田労:構わないが、この部屋名だと人は余り寄ってこないと思う
L:それはすこし、思っていました
L:法田労さんが、初めてでしたから
法田労:まあ、そうだろうな
法田労:それで、気になるってのは何だ?
L:気になると言っても、ちょっとちがうかもしれません
L:じつは、ですね
L:明日、その
L:友達と映画にいくのですが、時間を決めるのを忘れてしまったんです
法田労:それで?
L:どうすればいいのか、おしえてください
奉太郎「……単純に電話をすればいいだけだろう」
奉太郎「しかしなんか、悪いことをしている気分だな」
奉太郎「言い出すタイミングも……失ってしまった」
奉太郎「……ま、いいか」
L:ええっとですね、そのお友達は、とても面倒くさがりな人でして
悪かったな……
L:いちど終わった話をまたしても、迷惑かとおもうんです
法田労:なるほど、面倒な友達だな、それは
L:ええ、そうなんです
こいつ、俺が聞いていないのを良い事に。
法田労:大体の時間も決めていないのか?
L:あ、それはきめています
L:朝に、そのお友達の家にうかがうことになっているんです
法田労:そうか、なら適当な時間に行けばいいんじゃないか?
法田労:あくまでも、迷惑ではない時間に
法田労:大体、そうだな……10時くらいなら迷惑ではないと思う
L:ありがとうございます、たすかりました
法田労:いいさ、暇だったしな
L:変わったストーカーさんですね、ふしぎなひとです
法田労:まあ、そうだな
L:あ、そうです
L:もうひとつ、聞いてもいいですか?
法田労:ああ、いいぞ
L:えっと、ですね
L:あした、お洒落して行こうとおもっているんです
L:あまり派手なのも、どうかとおもうんです
L:どのくらいが、いいんでしょうか?
チャットを打つ手が止まる、続ける言葉が思いつかない。
「別にしてこなくていいさ」と打ちそうになり、ある程度消した所で誤ってエンターを押してしまった。
L:別に、なんですか?
L:あれ、います?
法田労:ああ、すまない
法田労:別に、普通でいいんじゃないか?
法田労:いつも通りで、いいと思う
L:そうですか、ではそうする事にします
法田労:ああ、それがいい
L:やはり、ふしぎな人ですね
L:わたしは、法田労さんの正体が、少し気になります
L:そうなんですか、それなら仕方ないですね
法田労:ああ
そこで一度、チャットが止まる。
千反田もこれ以上聞きたい事は無いだろう。
とうとう最後まで言い出すことができなかったが……まあ、いいか。
法田労:それじゃ、俺は出る
L:はい、ありがとうございました
L:明日、楽しみにしていますね、おれきさん
L:あ
《Lさんが退室しました》
奉太郎(あいつ、分かっていたのか……)
まあ、良くは無いが……明日の時間を決められたのは悪く無い事だ。
しかし、千反田にまんまと騙された。 俺が騙していたと思ったが、騙されていたのは俺の方だった。
電話をしてやろうかと思ったが、そこまでしなくていいだろう。 どうせ明日会う事になる。
パソコンの前からソファーに移動する。
俺は倒れこむように、ソファーに横になった。
奉太郎「……あいつは将来、入須みたいになるのではないだろうか」
奉太郎「……やっぱり、納得いかん」
もっと早く、気付くべきだった。
そうすれば俺は今日失敗をせずに済んだだろう。
俺が確か「面倒な友達だな」 と言った時。
あいつは「ええ、そうなんです」 と言った。
俺の正体に気付いていないからあんな事を言ったのかと思ったが、その逆だろう。
千反田は俺に気付いていたから、敢えてそう言ったのだ。
いつもの千反田なら、あそこで同意は絶対にしない。 そう……絶対に。
違和感は今思い出すと他にもあった。
千反田は人を疑うことはあまりしない。 だがそれにも限度と言うものはあるだろう。
例えば見ず知らずの人間に「今日は学校、お昼からだよ」と言われても、確認くらいはするだろう。
それを今日の千反田はしなかった。 俺という見ず知らずの人間に言われているのにも関わらず。
今日初めて会った人間をそこまで信用するのも、千反田は絶対にしないだろう。
その点C組の奴は案外うまい事、千反田をはめる事ができたのかもしれない。
それらを思い出すと、やはり気付ける要素はあったのだ。 俺が千反田は気付いていないと思い込みさえしなければ。
まあそんな失敗に頭を悩ませても仕方がない。
明日は映画を見に行く事になっている、昼寝でもして体力を温存しておかなければ。
そう理由をこじ付け、俺はソファーに横になりながら瞼を閉じる。
外から聞こえてくる雨音は、俺に眠りをもたらすには十分だった。
第17話
おわり
窓から差し込んできた日差しによって、目が覚める。
時計に目をやると、今は9時を少し回った所だった。
奉太郎(……なんだか、目覚めがいいな)
多分、昨日は早く寝ていた事もあり俺にしては随分とすっきりした気分で起きれたのかもしれない。
俺は今日、映画を見に行くことになっていた。 千反田が家に来るのは確か11時……それまである程度は時間がある様だ。
そのまま起き上がると、俺はリビングへ向かう。
姉貴はまだ……起きていない様だった。
早々に、着替えを済ませてしまおう。 その後にゆっくりしていればいい。
一度リビングから離れ、身支度を済ませる。
再びリビングに戻り、パンを一枚食べた後にコーヒーを淹れる。
そのまま新聞を手に取り、内容を頭に適当に流し込む。
奉太郎(こうして俺は年を取って行くのか)
等と、少々悲しい現実を思いながら約束の時間まで過ごした。
そう思ったのを狙ったかの様に、インターホンが鳴った。
奉太郎(10分前行動とは、俺も見習いたい物だ)
インターホンに出る必要は……ないか。 千反田以外に、この時間来客は無い。
そのまま玄関に行き、靴を履く。
ゆっくりとドアを開けると、やはりそこには千反田が居た。
奉太郎「……おはよう」
える「折木さん、おはようございます」
夏の日差しが丁度良く千反田を照らしていて、ワンピースがとても似合っている。
俺に笑顔を向ける千反田に……少し、見とれてしまった。
える「あの、折木さん?」
気付くと千反田は俺のすぐ目の前まで来ていて、いつもの顔の近さにハッとする。
奉太郎「あ、ああ」
奉太郎「……すまん、まだ寝ぼけているかもしれない」
そう言い訳をすると、千反田は俺の顔を覗き込みながら言った。
える「もう、駄目ですよ。 昨日決めたじゃないですか」
……ああ、チャットの事か。
奉太郎「悪いな、面倒くさい奴で」
える「ふふ、折木さんが自分の事を話さないので、ちょっと嘘ついちゃいました」
その事をすぐに嘘という辺り、やはり千反田はそんな事を本気で思っている訳ではないだろう。
奉太郎「じゃ、行くか」
える「はい、歩いて行きますよね?」
奉太郎「ああ、そんな遠くないしな」
そして俺と千反田は映画館に向かい、歩き始める。
奉太郎「そういえば」
える「なんでしょう?」
奉太郎「……服、似合ってるな」
える「あ、は、はい。 ……ありがとうございます」
千反田は顔を少しだけ赤くし、そう言った。
俺も少し、顔が熱いのに気付いていたが。
そこまで混雑はしていない様子だった。 むしろ映画館にしては人が少ない方だと思う。
受付に行く前に、俺は持ってきていたチケットを2枚取り出す。
奉太郎「千反田、チケットだ」
える「はい、ありがとうございます」
チケットを渡し、受付を済ませようとする俺の肩を千反田に掴まれる。
奉太郎「ん? どうした」
える「あ、あの……折木さん」
える「このチケットって、その、しっかり読みました?」
しっかり読んだ? 軽く目を流して読んだには読んだが、しっかりとは呼べないか。
奉太郎「軽く目を通しただけだが……何かあったか」
える「い、いえ。 あの、ちょっと……ですね」
える「……チケット、読んでみてください」
仕方ない、見れば何か分かるか。
そして俺は、チケットに目を落とす。
【カップル様限定、映画ご招待】
やはり、やはりやはりやはり。 姉貴が持ってきたものにはろくな物が無い。 くそ姉貴め!
しかしいくら悪態をついてもこの状況は変わらない。 ……もう映画館に来てしまっているのだから。
未だに顔を背けている千反田に向け、言う。
奉太郎「……俺のミスだ、謝る」
える「あ、い、いえ」
千反田は俺の方に向き直り、右手で左腕を掴みながら続ける。
える「……別に、カップルだと思われるのは嫌では無い、です」
える「その、でも……ちょっと恥ずかしくて」
そんな事を言われてしまい、なんだか逆に恥ずかしくなってきてしまった。
奉太郎「……ま、まあ。 行くか」
える「は、はい。 そうですね、行きましょう」
ぎこちない会話をしながら受付へと向かう。
受付に居た人にチケットを2枚渡し、代わりに入場券を貰った。
受付の人が俺たちに向けニコッと笑いを向けたが、悪いのはこの人じゃない、姉貴だ。 恨むのなら姉貴を恨むべき。 そんな事を思いつつ、一応は愛想笑いを返す。
その後は上映まで少し時間があったので、近くにあった椅子に千反田と共に腰を掛けた。
える「そういえば、ちょっと気になったんですが」
奉太郎「ん、なんだ」
える「どうして折木さんは映画に行こうと思ったんですか?」
奉太郎「どうしてって言われてもな……他にする事も無かったから」
奉太郎「……その笑いが若干気になるな」
える「なんでもないですよ、気にしないでください」
奉太郎「いつも自分だけ気になると言って置いて、俺には気にするなと言うのか」
える「じゃあ、聞いてもいいですよ。 気になりますって」
奉太郎「……言わないからな」
える「……そうですか、少し残念です」
奉太郎「……はあ」
奉太郎「分かったよ、言えばいいんだろ」
える「ほんとですか。 是非お願いします!」
奉太郎「……私、気になります」
自分で言うのもなんだが、かなりやる気の無い気になりますだったと思う。 それに加え棒読み。
千反田はそう言うと、右手で前髪を触る。
奉太郎「……何をしている?」
える「……折木さんの真似です」
える「折木さんが考えるときって、いつもこうしているので」
そうなのだろうか? 自分では記憶にはあまり無い。
奉太郎「そうなのか、知らなかった」
える「いつもやっていますよ? ですので私も」
奉太郎「……それで、何か分かったか」
える「ええ、分かりました!」
奉太郎「その心は」
える「なんだかこうしていたら、面倒くさくなってきてしまいました」
える「え、だめですよ。 ちゃんと気になってください」
奉太郎「……なんでそこまで気にしなければいけないんだ」
える「今は私が折木さんの真似をしているので、折木さんは私の真似をしなきゃだめなんです」
奉太郎「千反田の真似……か」
奉太郎「ええっと、そうだな」
奉太郎「ちたんださん、かんがえてください、いっしょにかんがえましょう」
える「あの、私はもっと元気が良いと思いますけど……」
奉太郎「そうか? 周りから見たらこんな感じだぞ」
える「え? そうなんですか?」
奉太郎「ああ」
える「……もうちょっと、愛想を良くしないといけませんね」
奉太郎「……」
える「……」
える「え、じゃあ私は元気良いですか?」
奉太郎「ああ、さっきの10倍程には」
える「それは良かったです……どうしようかと思いました」
奉太郎「それも冗談だと言ったら?」
える「おーれーきーさーん! もう冗談はやめてください!」
奉太郎「分かったよ、それで話の続きをしよう」
奉太郎「ええっと、なんだっけか」
える「私が笑った事についてですね」
奉太郎「そうだった……ってまだ俺の真似をするのか」
える「はい、こうして折木さんが考える時の真似をしていると何か浮かんで来そうなんです」
奉太郎「ふむ、そうか」
える「あ、そういえばそうでしたね」
える「では、お話しましょう」
える「つまりですね、私が笑ったのは」
える「折木さんが自主的に動くと言うのが、面白かったんです」
……さいで。
奉太郎「……言っとくがな、そこまで俺は動かない訳ではないぞ」
える「……そうなんですか?」
奉太郎「そうだ。 俺だって動くときはある」
える「例えば、どんな時でしょうか」
奉太郎「……そうだな、例えば」
奉太郎「今この時だ。 俺が自主的に映画館に行こうと言った」
える「無かったんじゃないですか」
える「私の、勝ちですね」
何を持って勝ちとするのかは不明だが、そういう事にしておこう。
奉太郎「ああ、千反田の勝ちだ。 すまなかった」
える「えへへ」
俺に勝ったのがそんな嬉しいのかと思うほど、千反田は気分が良さそうにしている。
奉太郎「そこまで嬉しいのか、俺に勝てて」
える「勿論です! いつも折木さん頼みでしたので」
奉太郎「ま、千反田がそれでいいならいいか」
える「その言い方ですと、折木さんに勝ちを譲ってもらったみたいで納得できません」
奉太郎「……どういう言い方ならいいんだ」
える「さすがは折木さんです! ありがとうございます」
える「こんな感じでお願いします」
奉太郎「そうか」
える「では、どうぞ」
奉太郎「……ん、それ言わないと駄目なのか?」
える「駄目ですよ」
奉太郎「……さすがはちたんださんです、ありがとうございます」
える「やっぱり折木さんの言い方だと納得できません……」
奉太郎「じゃあやらせるな、それより」
奉太郎「そろそろ時間じゃないか?」
える「あ、そうですね。 行きましょうか」
そして、俺達は向かう。 何が上映するのか未だに知らない映画を見に。
そう、知らなかったのだ。 映画の内容が何かを。
しかし……姉貴がそんなロマンチックな物を用意している訳が無かった。
映画のタイトルは
「農家よ、今こそ立ち上がれ」
千反田はそのタイトルを見ると、とても嬉しそうにしていた。
何かの参考になるのだろう。 なんの参考になるのか知らないが。
俺は映画が始まってから5分ほどで、眠くなってきた。
……それにしてもこの映画、観客が驚くほど少ない。
俺と千反田は真ん中くらいに座っていたのだが、その列には他に客は居なかった。
少し顔を上げると前の方に人影が見えることから、数人は客が居るのだろう。
恐らく多分……居ても10人ほど。 勿論俺達を含めて。
映画の内容は田を耕す人々や、現在の農家の在り方。 誰が楽しくて見るのだろうか?
える「……折木さん、すごいですね」
少なくとも一人は居た。 良かったな監督。
俺は非常に寝たかった、しかしそれを隣に座っているこいつは許してくれない。
見る人が見れば盛り上がるのかもしれない場面で、小声で俺に話しかけてくるからだ。
俺はそれに「ああ」とか「うん」とか「ほう」とか適当に返しているのだが、当の千反田は全く気にしていない。
そして2時間程その苦行をこなし、ようやく映画が終わる。
千反田は終始楽しんでいた様子で、良かった良かった……
える「面白かったですね、折木さん」
奉太郎「ん、ああ……そうだな」
える「……本当ですか? とても眠そうにしていましたが」
気付いていたのか、ならなぜ話しかけた。
奉太郎「正直な、眠かった」
奉太郎「……気付いていたなら寝かせてくれ」
える「確かに、何も知らない人が見たら退屈な映画だったかもしれませんね」
える「でも少し……折木さんにも興味を持って欲しかったです」
興味、ねえ。 まあ人生何があるか分からないしな。 万が一にでも興味が向いてしまう可能性が無きにしも非ず。
奉太郎「……興味が向けば楽しくはなるのかもしれないな」
える「ええ、そうですね」
奉太郎「丁度昼くらいか」
える「丁度お昼くらいですね」
千反田と同時に言い、つい顔を見合わせる。
奉太郎「……何か飯でも食っていくか」
える「あ、それなんですけど」
える「私のと折木さんのお弁当、作ってきちゃいました」
奉太郎「おお、本当か」
千反田の料理の腕は前に食べたことがあったので知っている。 これはとても嬉しい。
える「はい、どこか公園で食べましょう」
奉太郎「分かった」
タイミング良く、近くにあった公園に俺と千反田は入る。
ベンチに腰掛けると、千反田はカバンから弁当箱を二つ取り出した。
奉太郎「そうか、ありがとう」
そう言い、千反田が両手に持っている弁当箱を右手と左手に分けて掴んだ。
える「……あの」
奉太郎「……冗談だ」
千反田から右手に持っていた弁当箱を貰う。
える「少し、驚きました」
奉太郎「俺が大食いだったことか?」
える「……折木さんがそんな冗談をした事に、です」
奉太郎「ああ、俺には人を笑わせる事は向いていないかもな」
える「あ、そんな事はないですよ。 とても面白かったです」
やめてくれ、そんな目だけ笑っていない笑顔を向けられては惨めな気分になってしまう。
奉太郎「あ、ああ……そうか」
俺にはとても名前が分からない食べ物が、野菜を中心に入っていた。
奉太郎「うまそうだな」
える「ふふ、そう言って貰えると嬉しいです」
える「新鮮な野菜等を使っているので、とてもおいしいと思いますよ」
える「お肉とかも入れたかったのですが、時間があまりなくて……すいません」
奉太郎「いやいや、作ってきてくれただけでありがたい。 文句なんて一つもない」
奉太郎「……では、千反田先生の料理解説を聞きながら食べるとするか」
える「あ、任せてください!」
まずは一つ目……これは何かの野菜、だろうか。
える「それは菜の花のお浸しです、結構有名ですよ」
奉太郎「確かに結構見ている気がするが……これって菜の花だったのか」
ふむ、確かに。 春の香りがする。 夏だが。
奉太郎「おいしい、なんかもっと気の利いた事が言えればいいのだが……おいしいな」
える「ふふふ、それだけで十分ですよ。 ありがとうございます」
それはそうと、この隅のほうに可愛く飾られているのは何だろうか。
える「あ、それはペチュニアです。 一応食べられますね」
奉太郎「そうなのか? 生のままに見えるが」
える「あくまでも飾りだったので、そのまま置いといてもいいですよ」
ふむ、最後にちょっと食べてみるか。
える「それはですね、中に桜えびが入っています」
奉太郎「ほう、どれどれ」
うまい、これは何個でもいけそうだ。
える「どうですか?」
奉太郎「これは是非、また作って欲しい」
える「えへへ」
える「折木さんさえよければ、いつでも!」
それからいくつかの解説をしてもらい、弁当を食べ終わる。
千反田も食べ終わったところで、千反田がカバンからタッパーを取り出した。
える「これ、デザートにどうぞ」
奉太郎「イチゴか、ありがとうな」
千反田が持ってきたイチゴはとても甘く、疲れた体に染み渡った。
それもすぐに食べ終わり、さてどうしようかと話していた時だった。
奉太郎「予報より、早かったみたいだな」
まだ弱いが、雨が降ってきた。 ここまで早く降るとは思っていなかったので傘は持ってきていない。
える「強くなりそうですね、その前に帰りましょうか」
奉太郎「ああ、そうだな」
そして俺と千反田は公園から出る、雨はまだ……降ったり止んだりでそこまで気にする必要はないだろう。
ここから家までは歩いて20分程くらいかかる、それまで持ち堪えてくれればいいのだが。
える「あの、今日はありがとうございました」
奉太郎「俺は暇だったからな、別にいいさ」
える「また今度、遊びましょうね」
奉太郎「……ああ、そうだな」
それから5分程歩いたところで、千反田がふと何かに気づいた様子で立ち止まった。
える「これ、スイートピーですね」
そう言い、千反田が指を指したのは人の家に飾ってあった花だった。
奉太郎「ん? ああ、花か」
える「夏咲きのスイートピー、素敵です」
奉太郎「人の物だからな、持って帰るなよ?」
える「……私がそんな事をすると思います?」
奉太郎「さあな、もしかしたらするかもしれない」
える「酷いですよ。 ただ……好きなんです、このお花」
奉太郎「……そうか」
える「ごめんなさい、行きましょう」
花、か。 俺には全く持って分からない感情だ。
える「今度は私が誘いますね?」
千反田が少しだけ俺の前に出て、振り返りながらそう言った。
奉太郎「……楽しみにしておく」
奉太郎「それより、前を見ないと危ないぞ」
その言葉を最後まで言ったか言わないかくらいの時だった。
える「きゃあ!」
予想通りと言ったらあれだが……千反田が転んだ。
奉太郎「……言わんこっちゃない」
奉太郎「大丈夫か?」
える「ご、ごめんなさい。 大丈夫です」
奉太郎「とてもそうは見えないんだが」
える「このくらいなら、大丈夫ですよ」
しかし膝の辺りを擦りむいており、転んだにしては結構な血が出ていた。
……仕方ない、とりあえずは血を止めよう。
俺はそう言い、近くにあったコンビニで水を買ってくる。
奉太郎「これで洗い流せ、見てるだけでも痛々しいぞ」
える「わざわざすいません、ありがとうございます」
そして千反田の傷口を綺麗にし、ついでに買っておいた絆創膏を貼り付ける。
奉太郎「大丈夫か?」
える「は、はい。 大丈夫です」
える「あの……折木さんって、意外と優しいんですね」
意外は余計だろ、気にしないが。
奉太郎「意外にな、そんな事より」
奉太郎「雨が少し強くなってきたな」
空を見上げると、大分薄暗い雲が敷き詰めていた。
える「みたいですね、段々と」
気付けばポツポツからサーと言った感じになっている。 ……分かりづらいか。
奉太郎「ああ、いや。 今から段々強くなってくるだろうし。 帰った方がよさそうだ」
える「あ、は、はい」
そして俺と千反田は再び歩き出したのだが、どうにも千反田は足を痛めてるらしい。
足を庇う歩き方をして、無理をして俺に付いて来ている様子だった。
奉太郎「……足が痛かったなら、そう言ってくれ」
奉太郎「さっきのコンビニで休んでもいけただろ」
える「ご、ごめんなさい。 あまり迷惑を掛けたくなかったので……」
全く、今まで1年と半年程も俺に迷惑を掛け続けよく言えた物だ。
奉太郎「今更一個増えた所で何も思わない」
える「……はい」
奉太郎「……はぁ」
俺は千反田の前に行くと、しゃがみ込む。
奉太郎「乗れ」
える「え、え、でも」
奉太郎「いいから、そっちの方が手短に済む」
える「……迷惑ですし」
奉太郎「今更一個増えても何も思わないってさっき言っただろ、逆にそっちの方が俺は助かる」
える「で、では……失礼します」
人に負ぶさるのに、その挨拶はどうかと思うが……別にいいか。
奉太郎「じゃ、いくか」
える「は、はい……ありがとうございます」
千反田はそう言い、どこか恥ずかしそうにしていた。 確かに俺も少し、恥ずかしい。
会話は自然と無くなり、道をゆっくりと進む。
奉太郎「足はまだ痛むか」
える「……」
返答が無かった。 俺はそのまま頭だけを後ろに向ける。
千反田は小さく寝息を立てながら、俺の背中で寝ていた。
別段、会話をしたい訳ではなかったし、構わないのだが……少し重い。
だが重いから起きてくれとは俺でも口にはできない、仕方あるまいと無言で歩くことにした。
30分程だろうか、ようやく千反田の家が視界に入ってくる。
奉太郎「……おい、起きろ」
える「……あ」
える「……お、おれきさん」
える「……すいません、寝てしまってました」
奉太郎「いいさ、それよりそろそろ着くぞ」
える「……ありがとうございます」
千反田はそう言い、俺の背中から降りる。
える「ええ、おかげさまで……もう大丈夫です」
その言葉は嘘ではなかったらしく、見た限り普通に歩いている。
える「今日は本当にありがとうございました」
奉太郎「……えらくエネルギー消費が激しかった一日だ」
える「次は、私が負ぶりますね」
いや、それはなんか違うだろう。
奉太郎「遠慮しておく、ここら辺でいいか?」
える「あ、はい! また遊びましょうね」
奉太郎「……そうだな」
俺は千反田に軽く手を挙げると、振り返り自分の家へと向かう。
える「……折木さん!」
一度千反田の方に振り向く、声を掛けずとも千反田は口を開き言葉を続けた。
奉太郎「花言葉? 知らないが」
単語自体は聞いた事がある、しかし内容まで知っている訳ではない。
える「そうですか、それではまた」
何だったのだろう? 深い意味があったのだろうか。
……考えるのはちょっと面倒だな。 いくら普段エネルギーを使っていないからといっても今日は疲れた。
奉太郎「ああ、またな」
雨は既に上がっていた、神山連峰から差し込む夕日に夏の一日を感じながら、俺は帰路につく事にした。
第18話
おわり
外で喚いてるセミ達も、この暑さでは焼かれるのでは無いだろうかと俺が心配するほど……今日は暑い。
しかし俺は出かけなければいけない。 昨日の夜、悪魔の電話があったせいで。
あれは確か、俺が風呂を出た後だった。 姉貴が「千反田さんから電話きてたわよ」と言うので渋々掛けたまでは良かった。
……あいつはこんな事を言っていた。
「明日古典部で集まる事になりました」
「折木さんも勿論来ますよね」
「福部さんが何やら話したい事があるらしいです」
との事らしい。
姉貴から電話が来たと聞いたときは、またどうせくだらない事だろうとは思ったが……里志が俺たちを集めるとは少し珍しい。
それに興味もあったせいか、俺は特に考えもせず行く旨を伝えてしまった。
……今日のこの気温を知っていれば、快諾は絶対にしなかっただろう。
だが、快諾をしなかったと行っても結局は行くことになっていたのかもしれない。
ああ……この思考をする時間……それこそ無駄かもしれない。 それに行かなければあいつは……千反田えるは家まで迎えに来てしまう可能性もある。
奉太郎「……面倒だ」
夏の気温と言う物に少しの悪態を着きながら俺は外へと繋がる扉を開けた。
ようこそ夏へ! と言わんばかりの湿気と温度。 学校へ着く前に行き倒れしてしまうかもしれない。
倒れればそのまま病院へと運ばれるだろう。 そして涼しい病室で俺は夏を過ごす。 案外良い物かもしれない。
奉太郎「……暑い」
だが意外と人間は丈夫にできている、案外倒れない物だ。
自転車で来ればある程度は快適に学校まで行けたかもしれないが、自転車は姉貴が使用中なのでそれも叶わなかった。
今決めた、里志に何かアイスでも奢って貰おう。 そのくらいの権利は俺にあるだろう。
奉太郎「……暑いな」
摩耶花「分かってるわよ、一々言わないで」
奉太郎「……寒いな」
摩耶花「気休めにもならないから、やめてくれない?」
奉太郎「……」
摩耶花「気まずいから何か喋ってよ」
理不尽だろ、これは。
奉太郎「……それで、後の二人はどうした」
摩耶花「さあ、まだ時間まで少しあるし……そろそろ来るんじゃない?」
千反田は百歩譲って許すとして、里志は集めた側……俺に言わせれば加害者だ。 何故あいつが居ない。
奉太郎「帰ってもいいか」
摩耶花「良いわけないでしょ」
奉太郎「……はぁ」
約束の時間まではもう少しある、もし5分過ぎても来なかったら帰ろう。 家でアイスでも食べたい。
摩耶花「……」
奉太郎「来ないな」
摩耶花「見れば分かるわよ」
奉太郎「じゃ、またな」
摩耶花「ちょっと、あんた本当に帰るの?」
奉太郎「俺はそこまで気が長くないからな、時間は無駄にしたくない」
摩耶花「よく言うわ……ほんと」
伊原を無視し、ドアに手を掛け開く。
える「おはようござい-----ひゃ!」
奉太郎「うわっ!」
丁度ドアを開けたところで、千反田が飛び込んできて俺とぶつかる。 千反田は見事に後ろへと倒れていた。
奉太郎「……大丈夫か」
える「あ、はい。 なんとか」
そのまま千反田に挨拶をして帰るわけにもいかず、仕方なく俺は再び席に着いた。
伊原は少し声を大きくし、俺に向け言ってくる。
える「え、駄目ですよ。 福部さんが来るまで待ちましょう」
狙って言ったな、伊原め。
奉太郎「……分かったよ、だがあまりにも来なかったら帰るからな」
すると伊原が俺の耳に顔を近づけ、小さく言葉を発した。
摩耶花「……ちーちゃんには甘いんだね」
奉太郎「……俺は酷く後悔している」
摩耶花「……何を?」
奉太郎「……お前に話したことを」
摩耶花「……誰にも話さないわよ」
奉太郎「……そうか、あまり期待はしないでおく」
える「あれ? 何を話しているんですか?」
摩耶花「え、ああっと……」
奉太郎「な、何でもない」
える「なんでしょう……気になります」
さあて、どう回避しようか。 伊原のせいで全く持って面倒な事になってきたぞ。
える「あ、福部さん。 お待ちしてました」
たまにはタイミングがいい事もあるな、里志は。 アイスを奢って貰うのは簡便してあげよう。
奉太郎「遅いぞ、何をしていた」
里志「色々あってね、僕も大変なんだよ」
摩耶花「何かあったの?」
里志「いや……ちょっと、ね」
える「なんでしょう……もし私達に相談できることでしたら……」
奉太郎「どうせくだらない事だろ」
える「酷いです! 折木さん!」
える「もし、福部さんが思い悩んでいたら助けてあげるのが仲間という物ですよ!」
これが友情と言う物なのか、なるほど。
摩耶花「それで、ふくちゃんどうしたの?」
里志「え? 寝坊した」
奉太郎「……里志、今日俺たちを集めた用事はなんだったんだ」
里志「あ、そうそう。 実はね」
里志「皆で旅行にいかないかな?」
奉太郎「行かない」
里志「……千反田さんはどうかな?」
える「旅行、ですか?」
里志「そそ、折角の夏休みだしね」
摩耶花「いいとは思うけど、どこに行くの?」
里志「夏と言ったら海! 沖縄に行こう!」
える「沖縄ですね! 行ってみたいです!」
摩耶花「沖縄って言っても……そんなお金無いわよ」
奉太郎「そうだそうだ、お金なんて無いぞ」
やはり、里志にはあげるべきではなかった。 回りまわって結局は俺が被害を受けることになるとは想像もできなかった。
える「え、そうなんですか?」
奉太郎「さあな、検討もつかん」
里志「おっかしいなぁ、ホータローが居なければ行けなかった筈なんだけど……」
摩耶花「ちょっとふくちゃん、早く説明してよ」
里志「チケットさ」
里志「もう大分前だけどね、ホータローに貰ったんだ」
里志「それもぴったし4枚! 僕はこれをメッセージだと思ったよ」
奉太郎「……どんなメッセージだと思ったんだ」
里志「皆で旅行に行きたいっていう、ホータローのメッセージさ」
奉太郎「やっぱりそれ返せ」
里志「人に一度あげたものを返せって言うのはどうかと思うよ? ホータロー」
摩耶花「折木もたまにはいい所あるじゃん。 行こう、皆で」
奉太郎「俺はこの為に渡した訳では無い、返せ」
える「福部さんの言うとおりです! 一度あげた物を返せというのはあまり良くないと思いますよ。 折木さん」
える「そ、そんな事はないですよ!」
える「別に沖縄に行きたいとは……思っていないです」
奉太郎「そうか、残念だったな」
奉太郎「里志、千反田は沖縄に行きたくないそうだ」
奉太郎「とても心苦しいが、3人で行こう」
俺がそう言い、里志の方に顔を向けると里志は何故か全てを悟った様な顔を俺に向ける。
里志「そうなの? 千反田さん」
える「い、いえ! 私は……」
える「……行きたいです」
里志「らしいよ、ホータロー」
里志「……良かった、これで全員参加だね」
ああ、俺は嵌められたのか。
この古典部には俺の味方など最初から居なかったのだ。
里志「え? なんの話しだい?」
奉太郎「気にするな、その内分かるから」
里志「なんか、嫌な感じだね。 とても嫌な感じがする」
摩耶花「そ、れ、で!」
摩耶花「いつ行くの?」
里志「うん、それも決めないとね」
里志「三泊四日あるから、満喫できそうだよ」
里志「じゃあ、予定を決めていこうか」
結局は、こうなる。
里志「着いたね! 沖縄!」
奉太郎「まずは旅館に行こう、荷物を置きたい」
沖縄までは飛行機で来たのだが、あの乗り物は俺を苦しめる為に存在しているのかもしれない。
あれに年がら年中乗っている姉貴を少し、尊敬する。
摩耶花「それにしても、旅館もちゃんと付いてるチケットなんてすごいね」
摩耶花「ほんのちょっとだけ、折木に感謝しておくわね」
奉太郎「形のある物をくれ」
里志「まあまあ、とりあえずは旅館に行こうか」
里志「それから観光でもゆっくりすればいいしさ」
奉太郎「ああ、そうだな……それより」
奉太郎「あいつは何をしているんだ」
俺はそう言い、首で千反田を指す。
里志「千反田さんは、多分……興味を惹かれる物があるのかもね」
確かに、さっきから静かに周りをくるくると見回している。 目を輝かせながら。
奉太郎「おい、千反田」
える「え? あ、はい」
奉太郎「行くぞ、観光なら後でゆっくりすればいい」
える「あ、そうですね。 分かりました」
俺達が泊まる事となっている旅館は、高校生が旅行で泊まるにはとても豪華すぎる程だった。
える「わあ、素敵な旅館ですね」
千反田がそう言い、俺に笑顔を向けてくる。
奉太郎「そ、そうだな」
不意打ちの笑顔に、少し動揺してしまった。
里志「僕達の部屋は……ここだね」
里志「二部屋あるから、僕とホータローは左の部屋で、千反田さんと摩耶花は右の部屋でいいかな?」
摩耶花「うん、じゃあ一回荷物置いてくるね」
える「また後で」
伊原と千反田はそう言うと、自分達の部屋へと入って行った。
俺と里志はそれを見て、同じく自分達の部屋へと入る。
里志「それにしても、随分と立派な所だね」
奉太郎「そうだな、一応姉貴にも何かお土産買って行ってやるか」
里志「うん、それがいい」
俺と里志は荷物を置くと、その場に座り込む。
里志が思い出したかの様に、口を開いた。
里志「この旅行が終われば、すぐに秋が来そうな気がするよ」
奉太郎「そうか? まだ結構時間があるだろ」
里志「あっという間さ、ついこないだまで中学生だったんだ」
里志「それが今は高校生、この分だと大人になるのもすぐかもね」
奉太郎「……そう、かもな」
少しの沈黙、窓から吹き込んでくる風が俺の髪を揺らしている。
里志「そうそう、それよりさ」
里志「ホータロー、千反田さんと何かあった?」
奉太郎「……お前もか」
里志「お前も? って事は摩耶花に何か言われたね」
奉太郎「ああ、最近仲が良くなった様に見えるとかなんとか」
里志「はは、それじゃあ僕と摩耶花は一緒の意見だ」
奉太郎「……時間が経てば、自然とそうなるだろ」
奉太郎「俺とお前だって最初から仲が良かった訳ではないしな」
里志「でも、ちょっと違うと言うか……うーん、なんて言えばいいのかな」
そして、次に里志が口を開こうとした時に扉越しから声が掛かる。
摩耶花「ちょっと、いつまで休んでいるのよ」
摩耶花「まだ夜まで時間あるしどっか行かない?」
里志「……この話は、また今度にしようか」
奉太郎「……分かった」
里志「ごめんごめん! 一回中に入って計画立てようか?」
里志はそう言うと、扉を開け中に伊原と千反田を入れる。
二人が中に入り座ると、そこを中心として里志が持ってきた地図を開いた。
里志「やっぱりさ、沖縄と言ったら首里城じゃない?」
摩耶花「あ、ちょっと行って見たいかも」
える「私は水族館に行ってみたいです! 色々と周る所が多そうですね」
三人がそんな事を話しながら、盛り上がっていた。
こんな感じは前にもあった、いつだったっけか。
……図書室で話した時か、あの時は確か……本の謎で盛り上がる三人を眺めていたんだった。
俺がこいつらの様に他愛の無い事で楽しめる様には多分、ならないだろう。
特に行きたい場所等があった訳でも無く、今回の旅行もただの成り行きだったのだ。
少しだけ自分は薔薇色なのだろうか? と前に思った事があった。
けどやはり、本質的な部分は変わらない。
俺には、灰色の方が似合っているという物だ。
摩耶花「ちょっと、折木?」
奉太郎「……ん、すまない」
その思考を、伊原によって遮られた。
摩耶花「またあんた、くだらない事考えてたんじゃないの?」
奉太郎「……ああ、そうだな」
摩耶花「……? ま、いいわ」
摩耶花「とりあえず行く場所は決まったから、準備したら外でいいかな?」
里志「うん、了解」
える「分かりました、では一度戻りますね」
奉太郎「ああ、また後でな」
……そんな事を考えていても仕方ないか。
折角の旅行だ。 少しは楽しもう。
夏の日差しは神山よりも随分と乾いていて、大分爽やかだったと思う。
沖縄特産の物を食べたり、所々にある観光名所を回っていたらあっという間に辺りは暗くなっていた。
里志「早いなぁ、もう暗くなってるよ」
摩耶花「明日もあるんだし、まだ時間はたっぷりあるでしょ」
える「そうですね。 明日は是非、水族館へ行きたいです」
奉太郎「よっぽど気に入ったのか、水族館が」
える「はい!」
里志「はは、じゃあ明日は水族館でいいかな?」
摩耶花「うん、異論無し!」
そんなこんなで早くも明日の予定は決まった様だ。
奉太郎「分かった、じゃあそろそろ戻るか」
俺の言葉を聞き、三人は旅館に向かって歩き始める。
前を歩く三人はどうやら、今日の事で話をしている様だった。
奉太郎(……疲れたな)
少し、歩きすぎた。 旅館に着いたらすぐにでも寝たい気分だ。
そんな風が一際強く吹いたとき、俺の少し前を歩く千反田が振り返る。
にこりと笑い、歩みを止め、俺の横に並んで歩き始めた。
奉太郎「……どうした」
える「いえ、折木さんが少し疲れている様子だったので」
奉太郎「そうか? いつも通りだが」
える「それならいいんですが」
える「どうですか? 沖縄は」
奉太郎「……いい所だとは、思うかな」
える「何か意味がありそうな言い方ですね」
奉太郎「まあな」
える「それはどういう意味でしょうか?」
奉太郎「敢えて言うなら、地元の人が何を言っているのか分からないって事だ」
える「……ふふ、確かにそうですね」
える「暮らすのは少し、苦労しそうです」
奉太郎「千反田は沖縄に住みたいのか?」
ああ、そうだった。 これは、しまったな。
奉太郎「……すまん」
える「何故、謝るんですか?」
える「前にも言いましたが、私は自分の場所をつまらない所だとは思っていませんよ」
える「楽しい場所、という訳でもないですが……」
だったら、だったらなんで。
何でそんな悲しそうに言うんだ。 お前は外を見たいんじゃないのか? と言おうとする。
だがそれは、言葉には出せなかった。
俺はとても、千反田の人生に口を出せるほどの人間ではない。
人から尊敬される程の人間でもない。 だから言葉に出せなかった。
奉太郎「……旅館、見えてきたぞ」
える「あ、ほんとですね。 明日は水族館、楽しみです!」
伊原と千反田と別れ、俺と里志は自分達の部屋へと戻ってきた。
奉太郎「……ふう」
里志「よっぽど疲れたみたいだね、まあ……それもそうか」
俺は窓際に置かれていた椅子に腰を掛ける。
吹き込んでくる夜風が俺の心を安らがせる。
里志「それで」
もう片方の椅子に里志が座り、話しかけてきた。
里志「ホータローはさ」
里志「自分が優しいと思った事はあるかい?」
さっきの話の続きではないらしい、また別の話だろう。
それより……俺が、優しいと思った事?
奉太郎「無いな」
里志「確かにそうだね、ホータローは優しくない」
無いと言ったが、改めてはっきり言われると少しムッとするな……
奉太郎「そう言うお前は自分が優しいと思うのか?」
里志「勿論! 甘すぎるくらいに優しいさ」
言葉からしてふざけている物と思っていたが、里志の真剣な顔を見て少し驚かされた。
奉太郎「随分と自信があるな、今度伊原に聞いてみよう」
里志「はは、摩耶花に聞いたら絶対に優しくないって返って来ると思うよ」
奉太郎「……それなら優しくはないんじゃないか」
里志「うーん、どうだろうね」
奉太郎「今日のお前は、話していると疲れるな……」
里志「それは悪いことをしてしまった、じゃあ僕はお風呂に入ってくるよ」
奉太郎「ああ、俺は後で入ることにする」
里志が居なくなった後、窓から外を眺めた。
海の匂いが少しだけして、新鮮な気分になる。
奉太郎「俺が優しいか……」
奉太郎「やはり、ないな」
まだまだ先は長い、明日は水族館か。
朝が、早そうだな……
第19話
おわり
頭を掻きながら起き上がる。
奉太郎(こいつは……寝相が悪すぎるな)
蹴った犯人はすぐに分かる、この部屋には俺と里志しか居ないのだから。
奉太郎(まだ4時か、少し距離を置いて寝よう)
里志と距離を置き、再び寝ようとしたのだが……
寝言がどうにもうるさい。 どんな夢を見ているのだろうか。
奉太郎(……少し、外の空気でも吸ってくるか)
眠いが、仕方ない。
戻ってもまだ里志がうるさいようだったら押入れに突っ込んでおこう。
そう思いながら扉を開け、廊下に出る。
ふと左から物音がし、そちらに視線を向けた
奉太郎「おはよう、伊原の寝相は悪いのか」
える「え?」
奉太郎「……いや、なんでもない」
お互いどこに行くかを言う訳でも無く、外に出た。
旅館の裏手に回ると、海が見渡せるベンチが何台か設置されており、そこに俺と千反田は腰を掛けた。
える「折木さんって、意外と朝が早いんですね」
奉太郎「本当にそう思うか?」
える「……違うんですか?」
奉太郎「俺が起きたのは、顔を蹴られたからだ」
える「顔を? ええっと……」
奉太郎「……里志は寝相が悪すぎる」
える「あ、そういう事でしたか」
える「少し、想像できますね」
奉太郎「俺はてっきりお前も同じ様に起きたと思ったんだが」
える「私はいつも朝が早いので、自然と目が覚めました」
奉太郎「ふむ、伊原も随分と寝相が悪そうだけどな」
える「その……可愛く寝ていました」
俺は寝相が悪そうだな、と言った。
対する千反田は可愛く寝ていたと言った。
千反田はうまく否定する言葉が出なかったのだろう。 千反田も中々に苦労している様だな。
奉太郎「……少し、つまらない話をしてもいいか」
える「はい、いいですよ」
奉太郎「あの話は、まだ話せそうに無いか」
これは確認だった。 後どのくらいの時間があるのか、と。
だが、話の内容を聞きたいという気持ちも少しあったのかもしれない。
える「……すいません、まだ……できません」
える「もう少し、もう少しなんです」
千反田はそう言いながら、俺の顔を見ながら話している。
そう言う千反田の顔は、とても申し訳無さそうにしていた。
そして最後の言葉を言うときには、俺から顔を逸らしていた。
そこまで申し訳無さそうにされてしまうと、なんだか悪いことをした気分になってしまう。
奉太郎「……変な事を聞いてすまなかった」
える「い、いえ」
奉太郎「少し眠いな、俺はもうちょっと寝る事にする」
える「そうですか、私もそろそろ戻ります」
それから会話は無かった。
終始申し訳無さそうにしている千反田を見ていると、やはりこの会話はするべきでは無かったのかもしれない。
える「では、また後で」
奉太郎「ああ」
最後に挨拶を軽くすると、俺は再び部屋へと入る。
奉太郎(……押入れに押し込むか、こいつ)
俺の布団を巻き込み、とても幸せそうに里志は寝ていた。
……その後、何度か里志を押入れに入れようとするが中々うまく行かない。
仕方がないので俺が押入れで寝る事にした。
気分はどこかの青い狸である。
意外にも寝心地が良く、すぐに夢の中へと俺は入って行った。
朝は少し面倒くさい事になってしまった。
起きたら押入れの扉は開いていて、里志と伊原が俺の事を携帯のカメラで撮っているのが最初に見た光景だ。
……携帯ではなく、スマホか。
まあそんな事はどうでもいい。 その写真を消すのに大変な労力を使ってしまったのだ。
しかし……中途半端に寝て起きたせいで、若干頭が痛い。
だが折角来ているんだ、少しくらいは我慢しよう。
あまりこいつらに、迷惑は掛けたくはない。
そして今は水族館へと来ている。
里志「この水族館は結構有名だね」
里志「大きく分けて、3つのエリアがあるみたいだよ」
摩耶花「へぇー。 どんなのがあるの?」
里志「まずは一つ目、サンゴ礁」
奉太郎「サンゴ礁? それって見ていて楽しいのか」
里志「ただサンゴを見るだけじゃないさ、そこに住んでいる魚達も一緒に見れるみたいだね」
える「は、早く行きましょう!」
里志「あはは、落ち着いて千反田さん」
里志「ここが多分、一番迫力があるんじゃないかな?」
摩耶花「黒潮って言うと……サメとかかな?」
里志「そう、その通り!」
奉太郎「ほお、それはちょっと見てみたいな」
える「そうですよね! あの、早く行きましょう」
奉太郎「少しは里志の説明に耳を傾けろ……時間はあるんだし」
える「あ、す、すいません……」
里志「じゃあそんな千反田さんの為に、手っ取り早く説明を終わらせちゃうね」
里志「もう一つは深海」
える「深海……ですか」
里志「深海は面白いよ、普段見れない魚がいっぱいいる」
奉太郎「ま、暇はしそうにないな」
摩耶花「そうね、じゃあ行こうか?」
摩耶花「ちーちゃんも早く行きたそうだし」
える「ご、ごめんなさい。 私、楽しみで」
里志「良い事さ、ホータローにもこのくらい興味を持って欲しい物だね」
奉太郎「ふん、いいから行くぞ」
奉太郎「まずはどこから周るんだ?」
里志「そうだね……どうしようか?」
摩耶花「あ、じゃあサンゴから見たいかな」
える「はい! 行きましょう」
奉太郎「特に決まっていないなら、そこから周るか」
それにしても、随分と広いな。
前に千反田と行った所よりも2、3回り大きいのではないだろうか?
俺は少し、楽しんでいるのかもしれない。
水族館に行きたいと言った千反田には感謝しておこう。
奉太郎(千反田よ、ありがとう)
摩耶花「折木何やってるの? 置いて行くわよ」
奉太郎「ちょっとくだらない事を考えていた、行くか」
摩耶花「ここは、ヒトデとかが居るのかな?」
里志「うん、そうみたいだね」
える「あ、あの。 これって触ってもいいんでしょうか?」
奉太郎「いいんじゃないか? 他の人も触っているし」
える「で、ではちょっと失礼して……」
そう言い、千反田は水槽の中に手を入れた。
える「か、可愛いですね。 」
てっきりヒトデを触るのかと思ったが、千反田はナマコを触りながらそう言っていた。
奉太郎「それが……可愛いのか?」
える「え? 可愛いと思いますが……」
里志「僕はこっちの方が好みかな」
そう言う里志が手に持つのはウニ。
摩耶花「な、なに」
奉太郎「お前はあいつらが持っている物が可愛いと思うか?」
摩耶花「なんか嫌だけど、折木と思っている事は一緒だと思う」
奉太郎「そうか、少し安心した」
しかし放って置いたらいつまでも里志と千反田は夢中になって、他の所に回れなくなってしまう。
奉太郎「おい、そろそろ行くぞ」
二名とも、渋々と言った感じで水槽から離れて行った。
でも確かに、あのウニやナマコの水の中で優雅に暮らしている生き方は学べる所が大いにあるだろう。
省エネに終わりはないのだ。
奉太郎「みたいだな」
少し大きめの水槽には、色々な種類の熱帯魚達が居た。
摩耶花「……かわいいなぁ」
そう呟く伊原の顔は、とても子供っぽく見えた。
伊原は元々童顔であるが……この時は本当に中学生……ひょっとしたら小学生にも見えた。
える「本当ですね、可愛いです」
える「で、でも。 この大きなお魚は小さなお魚を食べてしまわないのでしょうか?」
奉太郎「……」
想像してみた。
客がたくさん見ている中で、食べられていく小さな魚達。
奉太郎「いや、ないだろ」
摩耶花「わぁ……」
……今度は伊原か。
奉太郎「いつまで見ている、次に行くぞ」
俺がそう言うと、伊原は俺の方を睨み付ける。
なんというか、この態度こそが里志と千反田とは違うのだろう。
そして俺はふと思う。
何故、憎まれ役が俺なのだろうか。
里志「まだ他にも小さなエリアがあるみたいだけど、違う所に移ろうか?」
える「ええ、そうですね。 他のエリアも気になります!」
摩耶花「うん、どうせ来たならざっとでも全部見たいもんね」
奉太郎「んじゃ、最初の場所に一回戻るか」
摩耶花「次はどこに行こうか?」
奉太郎「旅館に行こう」
摩耶花「……ちょっと黙っててね」
奉太郎「……ああ」
これが多分、気のいい奴だったら「そうだ! 旅館に行こう!」となるのだろうが、伊原相手では絶対にならない。
里志「あ、じゃあ次は黒潮の所に行かない?」
える「大きなお魚がいる所ですね! 行きましょう!」
ま、否定する理由も無い。 流れに乗って行くか。
摩耶花「おっけー!」
奉太郎「……すごいな」
とても巨大な水槽の中に、サメやマンタが居る。
迫力は物凄い物がある、これは……
える「……すごいですね」
千反田も思わず声を漏らしていた。
摩耶花「うう……ちょっと怖いね」
える「……可愛いです」
え? これも可愛いに入るのか?
里志「やっぱりこうでなくちゃね! 水族館に来たからには!」
里志「このでっかい水槽を見ていると、自分達が水槽の中にいるんじゃないかって錯覚しちゃうよ」
える「……来て良かったです、本当に」
奉太郎「そうだな、これは来て良かったと思う」
摩耶花「折木がそんな事言うのって、珍しいね」
奉太郎「……俺も普通に感動とかするからな、言っておくが」
里志「え、そうだったの?」
奉太郎「それは冗談なのか? 本気で言っているのか?」
里志「いや……割と本気だったけど……」
さいで。
える「このガラスが割れたら……すごい事になりそうですね」
突然割れるガラス、逃げ惑う人々。
そしてサメは人々を食らい尽くすのだ。
いや、確かこのサメは人にあまり危害を加えないとか言っていた気がする。
奉太郎「まあ、割れないだろ」
える「……そうですか、それなら良かったです」
摩耶花「ちーちゃん、折木ー! 次行くわよ」
俺は渋々、巨大な水槽から離れる。
あ、伊原や千反田や里志はこういう気持ちだったのか。
さっきは悪いことをしてしまったな……
奉太郎「次はどうする?」
里志「うーん、僕と摩耶花は行きたい所に行っちゃったしね」
摩耶花「ちーちゃんに決めてもらおうか? 折木に聞いてもろくな事無いし」
悪かったな、ろくな事しか言えないで。
奉太郎「でも行ってない所はあと一つだろ? なら別に決めなくてもいいんじゃないか」
里志「あ、確かにそうだね。 じゃあ行こうか?」
える「あ、あの」
千反田が何かを言いたそうに、既に次に向かい歩いている俺達に声を掛ける。
摩耶花「どうしたの? ちーちゃん」
える「……すいません、少しはしゃぎすぎたみたいで……疲れてしまいました」
える「旅館に、戻りませんか?」
里志「意外だな、千反田さんがそんな事を言うなんて」
摩耶花「でも確かにちーちゃん、すごく楽しんでたもんね」
奉太郎「……」
里志「ま、じゃあ戻ろうか?」
摩耶花「うん、大分時間も経っていたみたいだしね」
俺が言った時と変わった事は……無い。
ここまで来ると自分自身が少し、かわいそうに思えて仕方ない。
だが、旅館に戻れるならまあ……いいか。
そして俺たちは、旅館へと戻って行った。
伊原と里志は少し買い物をすると言って、二人で出て行った。
一度は俺と里志の部屋に集まった四人だったが、今は俺と千反田しか居ない。
奉太郎「それにしても、珍しいな」
える「何がです?」
奉太郎「お前が疲れたって言った事だ」
える「あ」
える「あれはですね、少しだけ……嘘だったんです」
奉太郎「ん? どういう意味か教えてくれ」
える「疲れたというのは本当です。 ほんの少しだけでしたけど」
える「本当はですね、少し、その」
える「折木さんが辛そうに見えた物で」
える「どこか、具合が悪かったんですか?」
奉太郎「いや……少し頭が痛かっただけだ」
奉太郎「別にそこまでしてくれなくても……良かったんだがな」
素直にお礼を言えない自分に少し、腹が立ってしまった。
える「そうでしたか、では余計なお世話でしたね……すいません」
奉太郎「なんでだ」
える「え?」
奉太郎「悪いのは俺だ、何で俺を責めない?」
える「何故、ですか……自分でもちょっと、分かりません」
える「でも、折木さんは悪くないですよ」
奉太郎「少し、一人にしてくれるか」
俺が変な事を言ってしまうのは、頭が痛むからだろう。
そう思わないと、どうしようもなかった。
える「はい、分かりました」
える「それでは折木さん、お大事に」
千反田はそう言うと、俺の部屋の扉を閉めようとする。
奉太郎「……千反田」
聞こえるか聞こえないかくらいの声だったが、しっかりと聞こえていた様だった。
える「はい? どうかされましたか?」
奉太郎「その、ありがとな」
える「……はい!」
俺は千反田のその声を聞くと、ゆっくりと瞼を下ろす。
ああ、やはり頭が痛む。
旅館まで戻ってきたのは、正解だった。
少し、寝よう……
その日が確か二日目だったから、今日が終わればもう帰らなければならない。
飛行機は朝の予約となっている、実質的には今日が最終日か。
今日は朝から沖縄市内を全員で周り、お土産やら特産品等を食べ歩いたりした。
そして夕方になって日が傾き始めたところで里志が思い出した様に言った。
里志「そういえば……海に行って無くない?」
俺達はその言葉でようやく、気付けたというのがあれだが……
だがもう夜になる、諦めるしかないだろうと俺が言ったのだが千反田が納得しなかった。
える「では、海辺で花火はどうでしょうか?」
との提案を出してきたのだ。
勿論これには里志と伊原は大賛成。
俺も否定する必要も無いので賛成し、今は海へと来ている。
買いすぎた。
何を買いすぎたかと言うと……無論、花火をだ。
これがいい、これもいい、とやっている内に、とても四人で使うには多すぎる量の花火となっていた。
かれこれ一時間もやっているのに終わりがまだ見えない。
俺はそれに飽き、少し離れた所で座り込む。
10分ほどそうやって眺めていたら、里志も花火に飽きたのかこちらにやってきた。
里志「隣、いいかい?」
奉太郎「ああ」
そう返事をすると、里志は俺の隣に腰を掛ける。
里志「この前の話の続きでもしようか」
この前の話……ああ。
奉太郎「俺と千反田が仲良くなったとか、そんな話だったか」
里志「それで、どうなんだい?」
奉太郎「どう、と言われてもな」
奉太郎「まあ、お前達から見ればそう見えるのかもな」
里志「ホータロー自身はそれを感じているんだろ?」
奉太郎「どうだろうな、自分の変化は良く分からんからな」
里志「……僕は回りくどいのは嫌いだからね、単刀直入に聞くよ」
里志「ホータローは、千反田さんの事をどう思っているんだい?」
伊原はどうやら、本当に誰にも言っていない様だった。
里志が知らないという事はそうなのだろう。
奉太郎「前に、伊原にも同じ様な事を聞かれたな」
里志「はは、摩耶花は結構勘が鋭いからね。 僕は常日頃から用心しているよ」
里志「……それで、ホータローは摩耶花の質問になんて答えたのかな?」
奉太郎「千反田の事が、好きだと」
里志「……やっぱりそうか」
里志「僕はさ、意外性がある人間が好きなんだ」
奉太郎「つまり、普通に人を好きになった俺は好きになれないって事か」
里志「……まさか、逆だよ」
奉太郎「……逆?」
里志「僕にとってはね、何事にも興味を示さないホータローこそが普通なんだ」
里志「だからそんなホータローが、人を好きになったって事が意外な事なんだよ」
里志「違うかい?」
奉太郎「灰色の俺が普通だって言うなら、そうかもな」
奉太郎「そんなつもりは無いが」
里志「……いや、そうだね」
里志「確かに今のホータローは灰色だよ、間違い無い」
奉太郎「なら、少し安心した」
里志「少なくとも今は、だけどね」
里志「それを決めるのはホータロー自身さ、周りから見たらどうこうって話じゃない」
奉太郎「なら俺が自分は薔薇色だと思えば、そうなるのか?」
里志「それも少し違うね、その内分かると思うよ」
奉太郎「今のままで十分だ、変化なんて……いらない」
里志「……それは、千反田さんに関しても?」
奉太郎「分からん、まだ答えが出ていないんだ」
里志「そうか……まあゆっくりと決めなよ、時間は沢山あるんだからさ」
そうだろうか。
奉太郎「いや……あまり、無いかもしれない」
里志「どういう事だい?」
里志「前にした話だね、それは」
里志「確かにそれなら、少し焦らないといけないかもしれない」
奉太郎「ああ、そうだな」
奉太郎「……少なくとも、今年が終わる前に……答えを出さないといけない気がするんだ」
里志「はは、応援しているよ。 ホータロー」
奉太郎「ああ、そうだ。 一つ聞きたい事があるんだった」
その時、波が強く打ち付けられた。
奉太郎「-------、-------、---?」
里志「-------、---、----------」
俺と里志の声は、波の音に掻き消された。
だが里志の返答はしっかりと聞こえていた、少し、少しだけだが。
……夜も遅い時間になってきたな、風は大分冷たい。
そうか、もう……夏も終わりか。
若干の肌寒さを覚え、一つの夏が終わるのを俺は感じていた。
第20話
二章
おわり
乙ありがとうございます。
しかし、そこには彼等を待ち受ける4人の刺客が!!
遠垣内「俺が司るのは統率……この部屋に来たのが運の尽きだったな」
目的の文集を無事、奪えるか!?
沢木口「ちゃお! それじゃあ早速、死んでもらうね」
無事に姉の供恵を救うことができるのか!?
羽場「ここまで来たのは認めてやろう、だがここを簡単に突破できると思うなよ?」
彼等は、えるが掛けられてしまった呪いを解くことができるのか!?
中城「わはは、久しぶりだな! お前らとは一度戦って見たかった!!」
そして最後に待ち受ける人物とは!?
入須「ご苦労、よくここまできたな」
入須「早速ですまないが……」
入須「入須の名の元に命ずる」
入須「------------地に這え!!」
える「っ! ……この、能力は!?
里志「まさか、重力を!?」
入須「違うな、私の能力は……」
入須「絶対命令--------それが私の力だ」
奉太郎「そ、そんな無茶苦茶な……!」
入須「くくく……私は女帝だぞ? 貴様らに勝ち目等無い」
その先に……ある物とは!?
夏が終わり、季節は秋へと移り変わる。
奉太郎は、答えを出すことができるのだろうか?
入須「君に、それを言う権利があるのかな?」
日常は日々消費されて行く。
摩耶花「ちーちゃんは……私の友達だ!!」
行き着く先には、何があるのか。
里志「それは違う、僕が言いたかったのはね」
それは幸せか、或いは……
奉太郎「考えろ、思い出せ……一字一句、繋がる筈だ」
時間は無い、結末は……
える「……さようなら、折木さん」
古典部の物語は、最終章へと……
ちーちゃん…
Entry ⇒ 2012.10.21 | Category ⇒ 氷菓SS | Comments (0) | Trackbacks (0)
淡「女子高校生の日常」
『淡と誠子』
淡(――ああ、燦々と輝く太陽と、森に騒めく小鳥のさえずり)
淡(小川はせらせらと流れる。私は今そんな中――)
淡(……なぜ釣りをしているのでしょうか…)
ザパーンッ
誠子「20匹目~♪」チャポン
淡(私の隣で機嫌よさげに魚をバケツに入れているのは亦野誠子――二年生で、私の先輩になります)
淡(麻雀においては『白糸台のフィッシャー』などと言われています。実生活でも釣りが趣味だったようです)
淡(たまに部室に持ってくる釣竿やら釣りトークやらでもそれは確認できた気がしますが、単なるキャラ付けだと思っていました)
淡(そうです、この先輩が私をここに連れてきたのです)
淡(それもこれも3日前――)
~~
誠子「なあ淡」
淡「ん~?なに?」
誠子「今度の祝日、部活休みじゃないか」
淡「うん」
誠子「予定ある?」
淡「いや、特に。家でのんびりしようかな~って」
誠子「折角休みなんだからさ、遊ばないか?」
淡「え……セーコと?」
誠子「ああ。いいところ連れて行ってやるから」
淡「!」
~~
淡(何が『いいところ連れて行ってやるから』だよ、全く!)
淡(こんなんだったら家でゴロゴロしてたほうがマシだったよ!)
淡(朝っぱら起こされて長い間電車に揺られ、連れてこられたのが山の中っておかしくないかな!)
淡(勘違いして一番可愛いワンピースとか来てきた私がバカみたいじゃん!)
誠子「よっと」ザパーンッ
淡(しかも何でアンタは制服なんだよ!)
淡(でも聞いたら、『制服が一番動きやすいから』とか言いそうで怖いよ!)
淡(というかいつも思ってたけどその着こなしなんなの!理解できないよ!)
淡(でもこれは心の中に留めておく、だって私は従順な後輩なのだから)フフン
誠子「どうした淡……。一匹も釣れてないのにしたり顔とかして」
淡「な、なんでもない!」
誠子「っていうか反応してるじゃないか!ほら、速く!」
淡「えっこれって釣れてるの!?」
淡「てやっ!!」ザパーンッ
誠子「……残念、逃げられたな」
淡「む~~悔しい……」
誠子「これは一から教えたほうがいいかもな」グイッ
誠子「ほら、こんな手応えがあったときは~~」ギュッ
淡「……ねえセーコ」
誠子「うん?」
淡「胸、全然無いね」
誠子「運動に邪魔になるから要らん」キリッ
淡(だよねー)
淡(結局セーコがバケツいっぱいに釣って、お昼に一緒に食べました)
淡(おいしかったけど、これからはセーコの誘いには応じないようにしようと思いました)
『淡と尭深』
淡(祝日も終わり、久しぶりの学校です)
淡(授業はいつも通り退屈ですが気にしません)
淡(正直なトコロ、私は学校に麻雀をしに来ているようなものです)
淡(更にぶっちゃけると麻雀で推薦とかもらい放題でウハウハなので勉強なんてしなくていいのです)
淡(ということで学校生活での長い長い前座が終わり、ようやく本番がきました)
淡「こんにちはーっ!!」バンッ
淡「ってあれ?私が一番乗りか」
淡「まぁいーや。卓の準備でもしとこっ」フフン
淡「電源オンっと。よーし完璧」
淡「おやつあるかなー?」
淡(白糸台高校の麻雀部室は2部屋に別れています)
淡(うぞーむぞーがよってたかっている練習部屋、そしてこの一軍部屋です)
淡(一軍部屋はなぜかマンションの部屋みたいな感じで広々としていますが、入れるのはチーム虎姫の5人だけです)
淡(中身はソファ、机と椅子、小型の冷蔵庫や給湯器もあったりします。マンションというよりホテルの一室)
淡(まぁそんなことですからみんな好き勝手にやっています。麻雀も一日に1、2回しか打ちません)
淡(そんな部屋に一年生で入れる私はやはり天才なんだなーっていつも思っています)フフン
淡(ま、そんなフリーダムな部屋なのでテルがよくお菓子を隠しています)
淡(スミレやセーコが自分の武器を持ち込んで磨いていたりするのもよく目撃します)
淡(あ、スミレはたまに弓道部に赴いて指導もしているらしいです。ホント大変だと思います)
淡(スミレは部長でもあるので、雑居部屋に行って指導することもあるようです)
淡(私はそんな事もないので、いつもホームルームが終われば一軍部室へと直行です)
淡(今日は私が一番乗りでした。一年生が私一人というのを考えると、そう珍しいことではありません)
淡(それに、一番乗りだとテルの隠しているお菓子を勝手に開けるというイタズラができます)
淡(テルも自分のお菓子を他人に分けないなんて頭の固い人間じゃないけど、先に開けとくと反応が可愛いんです)
淡(だからやめられないっ!今日もいつもの戸棚の中に入れているはず!)
ガチャッ
淡「!!」
尭深「……あ、淡ちゃん。おはよ」
淡「お、おはよーございますっ!」ペコッ
尭深「どうしたの、珍しいね……」ドサッ
淡(この方は渋谷尭深、二年生で私の先輩にあたります)
淡(メガネをかけてて、物静かな人です。よくお茶を携帯しています)
淡「せ、セーコは一緒じゃないの?」
尭深「うん。誠子のクラスは先生のお話が長いから……」
淡「へー…」
尭深「………」
淡「どうしたのタカミー?」
尭深「淡ちゃん、また宮永先輩のおやつ探してたの?」
淡「!!何でバレたの……」
尭深「棚の戸に少しだけだけど隙間ができてる……」
淡(そんなの気づくかよ!?って思うけど、気づいちゃうんです。タカミなら)
淡(それというのも戸棚に一番触っているのはタカミなのです。何故なら――)
尭深「あんまり悪戯すると宮永先輩怒っちゃうよ?もう……」
淡「え、えへへ……」
尭深「お茶でも淹れるね」カチャッ
淡(そうです、戸棚の中にはタカミのお茶コレクションが詰まっているのです)
淡(これでも家のコレクションに比べると少ないらしいですが……。こんなにあって飲みきれるのかなといつも思っています)
尭深「」コポコポ
淡(お茶を淹れているタカミを見ているとなぜか癒されます)
淡(この学校に茶道部があれば麻雀部と兼業していたかもしれません)
淡(一度でもいいから和服に身を包んだタカミを見たいものです)
尭深「はい、どうぞ」
淡(タカミは時たまお茶と一緒にお菓子も出してくれます)
淡(テルのお菓子を盗み食いしたあとだったりするときつかったりするのですが……今日はそんなこともありませんでした)
淡「ありがとー」ズズ
尭深「おいしい?」
淡「うん、とっても」
淡(実はお茶のおいしさなんてあまり分からないのですが、報いるためにいつも『おいしい』と言っています)
淡(たまにめちゃくちゃ苦いお茶を出してきたりすることもあり、大変です)
尭深「………」ズズ
淡(ま、そういうことで、用が終わるとタカミはまた物静かな少女に戻ってしまいます)
淡(しかしそんな時間も悪くはありません。私もぼーっとお茶を楽しんでいます)
淡「ねえタカミー」
淡(しかし、ふと今日は疑問があったのでそれを聞いてみることにしました)
尭深「なに?」
淡「セーコの『フィッシャー』とかスミレの『シャープシューター』とかって周りが言い出したことじゃん」
尭深「うん」
淡「……タカミの『ハーベストタイム』って誰が命名したの?」
尭深「わたしだけど……?」
淡「そ、そう……」
淡(案外人って分からないものなんだな、と痛感する私でした)
『淡と菫』
ガチャッ
淡「……今日も私一人かぁ」
淡「おやつおやつっと~~」
菫「残念だったな」
淡「!いつから!」
菫「お前と同時だ」
淡(この背の高いお方は先程述べた弘世菫先輩です)
淡(三年生で、麻雀部の部長)
淡(しかしこれが固い性格で――)
菫「淡、久々に二人きりだ。話がある」
淡(これで三度目。内容はわかりきっていますが……)
菫「お前さ、先輩に対してため口を聞くのは百歩譲ってよしとしよう」
菫「だけど、照のおやつを黙って食べるのはどうかと思う。さすがにそれは年長を舐めすぎだ」
淡(……と、これが日常)
淡(スミレはいつも私にお説教して、まるで先生かお母さんみたいです)
淡(楽しい麻雀部の中のただ一つの懸念になっているのがスミレなのです)
淡(もちろん、スミレが嫌いだとか苦手だとか、そういうことはあり得ません。敬愛すべき先輩だから)
淡(だけどテルにくっついたりするとやたらとお説教を貰います)
淡(他にもテルのことについては過敏です。やはり麻雀部のエースだから気がかりなのでしょうか)
淡(そんなこんなで、私とスミレは端から見てもあまり相性が良いようには見えていないらしいです)
菫「…………わかったか?」
淡「………」
菫「返事は?」
淡「え?」
菫「……お前まさか全部聞き流してたんじゃ…」
淡「え、いや!はい!聞いてました!」
菫「………」ジト
淡(こういう目をしたスミレは100%私を疑っています)
淡(まぁ今のは私が悪いんだけど……)
菫「ま、これから気を付けるように。わかったな」
淡「アイアイサー!」ビシッ
菫「………」
淡(……もう一つありました。菫には冗談が通じないのです)
淡(要は頭が固いのです。実直で真面目と言えば聞こえは良いのでしょうが)
淡「そ、それにしても誰も来ないね~」
菫「ああ、そうだな」
淡「将棋でもしよっか」
菫「終わる前に誰か来るだろう」
淡「むぅ……」
淡(正直なトコロ、スミレはテルよりとりつく島がありません)
淡(脚を組んで仏頂面をしているスミレを見て、私の中で反撃したい気持ちが昂ってきました)
淡「ねえ、スミレ」
菫「何だ?」
淡「私、これからテルにイタズラするのやめる」
菫「当然だ。さっき約束しただろう」
淡(少しは誉められるかと期待していましたが無駄でした)
淡(……私が話を聞いていなかった所為でもありますが)
淡「でもさ、テルにイタズラできなくなったらストレスが発散できなくなるの」
菫「お前にストレスなんてあるのか?」
淡「私にもあるよ~ストレスくらい」
淡「学校なんて部活くらいしか楽しくないし」
菫「確かにお前同学年の友達いないな」
淡(何という憎まれ口を叩くのでしょう)
淡(……事実だけど)
菫「それで?何が言いたい?」
淡「……代わりに、スミレにイタズラしてもいい?」
菫「は?」
淡「スミレはお菓子とか持ち込まないから、物理的なイタズラはできなくなるけど」
菫「悪戯って……どういう?」
淡「先に言ったらイタズラじゃない!」
菫「む……まあ確かにな」
淡(菫は頭が固いという割には人の意見はちゃんと聞きいれます)
淡(要は理屈に固められた人……ってことですね)
菫「私へ悪戯するようになれば、照にはしないんだな?」
淡「うん」
菫「……なら好きにしろ」
淡(本当にテル思いの部長です。何か特別な想いを抱いているのではと勘違いしそうな程に)
淡「じゃ、まず」ゴロン
菫「っ?!」
淡「まずは膝枕」
菫「悪戯って、召使いにすることじゃないぞ」
淡「大丈夫、そこは解ってるから」
淡「スミレの太もも気持ちいーねー♪」ゴロゴロ
菫「うっ……」ゾクッ
菫「こ、こら淡。大人しくしろ」
菫「それにスカートの上からなんだから太ももの感触なんて分かったもんじゃないだろ」
淡「そんなことないよ、スミレも私が脚の上でゴロゴロしたのちゃんと感じたでしょ?」
菫「う……。そ、その通りだが」
淡(顔を上げて見てみると、そこには俯いたスミレの顔が)
淡「」ジーッ
菫「そ、そんなにじろじろ見るな……」フイッ
淡「スミレ、変な声出たね」
菫「膝枕やめるぞ」
淡「大人しくしまーす」ゴロン
淡(実を言うと、私の方も少しドギマギしていました)
淡(変に高いスミレの声と、明らかに赤らんでる頬を見て気分がおかしくなったのでしょうか)
淡(そんなわけで顔を横向きに倒して、スミレの顔が視界に入らないようにしたのでした)
菫「……なあ、淡」
淡「何ですか?」
淡(スミレのその声は、さっきの変な声よりは幾分か元には戻っていました)
淡(ですがやはり本調子ではなく。逆に中途半端で、私に不安感を募らせました)
淡(しかし、スミレが次に発した言葉は完全に予想を裏切るものでした――)
菫「私のこと、嫌な先輩だと思ってるか?」
淡「え?」
淡(それは私がスミレから初めて聞く『自分』についての問いでした)
淡(そういえば聞いたことがなかった。スミレと言えばお説教とお小言でした)
淡(でもそれは全て私に対する注文であり、スミレが自分自身を語るなんてことは無かったのです)
淡「……嫌だなんて思ったことは、一度もないよ」
菫「そうか……」
淡(『嫌な先輩か?』などと聞いておきながら、今までのことに対する謝罪などはありませんでした)
淡(でも、それは当然です。スミレは部長で、自分の行うことに責任を持たなくてはいけない立場だから)
淡(自分について自信が持てなくなっても――自分のしたことに自信があれば、それを覆すような真似はしてはいけないから)
淡「私は先輩のこと……立派だと思います」
淡(それは、自然に口から出た敬語でした)
菫「……ありがとう」
淡(そう言って、スミレは私の頭を撫でてくれました)
ガチャッ
照「ごめん、遅れた」
菫「待ちくたびれたぞ……」
淡「やっぱり将棋でもしてた方がよかったじゃん」
淡(そんな憎まれ口を叩いた私に対して、スミレは苦み混じりの笑みで答えてくれました)
淡(私は思いました、この先輩のために――全国の頂点に立ちたいと)
『女子高校生と将棋』
淡(前も言った通り一軍部屋はいろいろやっているので、麻雀以外のことにぼっとーすることがあります)
照「」パチッ
堯深「3五桂打」
淡「」パチッ
堯深「2一飛打」
照「リーチ」パチッ
堯深「2三桂成」
菫「………」
淡「うーん……」
誠子「大星零段、持ち時間の25分が経ちましたので、これから持ち時間3分です」
淡「チー」パチッ
堯深「同金」
菫「………」イラッ
照「リーチ」パチッ
堯深「同桂成」
菫「だあああああーーーーっっ!!!!!」ダイパンッ
照「」ビクッ
淡「!?どうしたのスミレ!」
菫「お前ら!!王手をリーチって言うのやめろ!!」
菫「あと何だよチーって!!食っただけじゃねーか!!」
照「職業病で」
菫「意味ちげーよ!!」
淡「」パチッ
菫「何事もなかったかのように再開するな!」
照「ダイレクトアタック!」パチッ
菫「麻雀ですらねーよ!」
淡「ぐ……うわぁぁあっ!!」バタッ
菫「何で倒れるんだよ」
堯深「大星零段の魂が奪われてしまった為、宮永零段の勝ちです」
菫「魂!?」
誠子「次回、『淡、死す』。デュエル、スタンバイ!」
淡「ところがどっこい、生き返るんだよねこれが!」
宮永「バカな……!このリーチでお前の王は完全に詰んだハズ……!」
淡「私はここに布石を置いていた!トラップ発動!『実は居た角』!」バシィィィィッッ!!!
堯深「同角」
菫「うるせーよ!!もうやめろ!!」
菫「何悪乗りしてんだお前ら!!」
淡「はぁ~あ、折角いいところだったのに」
照「ねー」
堯深「はい」
誠子「ですよ」
菫「え、何……これ私が悪いのか……?」
淡「一言でいうならっ!K!Y!」ビシッ
菫「!!」ガーンッ
菫「そ、そうだったのか……」ガクッ
照「ま、将棋ばっかりやってる訳にはいかないから……」スクッ
菫(!やっと麻雀を……)
照「」タン
淡「甘いよ~!カン!」タン タン タン タン
菫「オセロしながらカンとか言うな!!」
堯深(チーム虎姫は今日も平和でした)
『女子高校生と決め台詞』
照「」タンッ
堯深「」タンッ
誠子「チー」タンッ
淡「」タンッ
菫(よしよし、今日はみんな真面目に麻雀してくれてるな)
誠子「ポン」タンッ
菫(これで三副露……そろそろ来るか)
堯深「」タンッ
誠子「……深淵に潜む主」スッ
菫(えっ?)
誠子「足掻いても無駄だ、このフィッシャーから逃れる術は無し――」
誠子「ツモ!3000・6000っ!」
菫(ええぇぇぇっ!!!?)
淡「うわードラ3つ抱えてるとかあ」ジャラッ
照「親っかぶり……」ジャラッ
菫(え、ちょ!?何でみんな無反応なの!?)
堯深「」ジャラッ
菫(ま、また変なことやってるのかこいつら……)
~南二局~
堯深「」タンッ
淡「ふふっ、甘いねタカミ」
堯深「え……っ!?」
淡「ロン!!《宙に揺らめく夢幻の星》……と書いてメンチンイッツー!16000!」
菫(そらにゆらめくむげんのほし……!?)
堯深「うっ……!」ガクッ
菫(何でリアルダメージ入ってんだよ!)
照「淡零段……まだそんな奥の手を隠していたのか……!」
誠子「馬鹿な……ここにきて……っ!」
菫「おい待て!ストップ!」
淡「なに?」
菫「なに?じゃねーよ!さっきから何言ってるんだお前ら!」
淡「?真面目に麻雀してるよ?」
菫「してねーだろ!」
照「菫、もしかして知らない?」
菫「な、何を……」
照「自分の必殺技にね、名前をつけるの。そうした方が愛着が湧くしその熟練も早くなるって言うよ」
菫「は……?」
照「ま、そんなことで。私たちはいたって真面目に麻雀してる」
菫「あ、ああ……そう、なのか」
菫(確かに……さっきの誠子は三副露してから一巡でツモっていた)
菫(ほ、本当なのかな……?)
~南三局~
照「」ガシッ!!
淡「来るか……あの技が!」
誠子「何ていう風圧……!」
菫(なんだこれ)
照「受けてみろ――《約束された勝利の天地解離す開闢の剣》!!」バシィッ!!
照「300・500!」
誠子「くっ……!」
淡「ふん……猪口才な!そんな安手で我が進撃を防げるか!」
照「……止めてみせる!さぁオーラスだ!」
淡「ふっ……この親でうぬら纏めて飛ばしてくれるわぁ!!」
照「っ……!望むところだ!」
菫(いや違うだろこれは)
~オーラス~
菫(オーラス、堯深の能力か)
菫(……堯深も変な台詞叫ぶのか?まさか…)
淡「」タンッ
堯深「ポン」タンッ
照「ポン」タンッ
堯深「ん――」スッ
菫「」ゴクッ
堯深「――収穫の時は来たれり」
菫(やっぱ言うのかよ!!)
堯深「燦々と輝く陽を受けし、豊穣の化身たちよ」
菫(なげーよ!!)
堯深「私の元へ集いなさい!ツモ!」
堯深「大三元。8000・16000です!」パラッ
淡「う、うわー!!」
照「ま、眩しい……!」
誠子「最後の最後に……!ぐあ゛あ゛あ゛あ゛っ!!」
菫(誠子の演技上手いな)
堯深「世に再び安寧は齎され、大地には光が降り注ぐでしょう……私の逆転トップです」
淡「うー負けたかぁ」
照「私が最下位……」
堯深「珍しいですね」
照「連チャン狙いに行ったら堯深が怖いなぁって思って点数稼げなかった」
誠子「確かに和了が窮屈そうでしたね」
菫(何お前ら普通に感想言い合ってるの!?)
照「さて、次は菫がここね」スクッ
菫「あ、ああ……」ストン
~東一局~
菫(張った……)
菫(こっちの待ちなら誠子から溢れそうだな)タンッ
堯深「」タンッ
菫(……私も言わなくちゃならないのかな)
菫(た、確かにあの理屈は一理ありそうだし……)
菫(け、決して言いたいとかじゃないからな!うん)
誠子「」タンッ
菫「――暗闇を切り裂く一閃」
菫「ロン!シャープシューティング、8000!」
照「ぷっ」
菫「え」
淡「ぷっ……くくっあははははっ!!」バタバタ
照「~~~!!」バタバタ
菫「ちょ」
誠子「~~~っ!!」プルプル
堯深「……ふっ……ふふっ……っ!!」プルプル
菫「」
淡「や、やめて……お腹っ……痛い……」パタパタ
淡「テル、録れたー?」
照「も、もう~~バッチリ……!ふ、ふふっ……くくっ……」
菫「お、前らぁ~~っ!!」プルプル
菫「全ッッ員!!そこになおれぇーー!!」
淡(その後レコーダーは弓道場の的に設置され、13射目に菫の手で破壊されたとさ)
『女子高校生と写真撮影』
菫「みな聞いてくれ」
淡「はーい」
堯深「」コトッ
誠子「」ピタッ
照「」モグモグ
菫「今度新聞部が私たちの特集を組みたいそうだ」
淡「へえーお目が高いね」
菫「それでチーム虎姫の一人一人の写真を撮りたいと言ってきている」
誠子「いつですか?」
菫「……それが、今日なんだ」
照「今日?」
菫「すまん、すっかり言うのを忘れてた」
菫「16:30くらいに来るらしいから……」
淡「はーい」
菫「じゃ、まだ野暮用があるので行ってくる」ガチャッ
バタンッ
照「………」スクッ
淡「テルー?」
照「」ビシッ
誠子「………」
淡「なに……してるの?テル」
照「ポーズの確認」
照「うーん……こっちの方が可愛いかな」ビシッ
誠子「前の雑誌みたいな感じでよくないですか?キラッ☆みたいな」
照「あれか」キラッ☆
照「でもまたこれ?って思われたらどうしよう」
誠子「あー確かに……」
誠子「じゃあ、このソファ使ってこういうのは……」
誠子「ここに三角座りして、膝におでこつけながら横を向くっていう」
照「雑誌とかでよく見るポーズ?」
誠子「そうですそうです」
淡「テルもセーコも雑誌とか見るの!?」
照「どんな感じの笑顔がいいかな」
誠子「少し妖しげな感じで。普段みたいに笑いすぎるのはアウトです」
淡「なんでスルーされたの……」
堯深「」スクッ
淡「あれ?タカミどっか行くの?」
堯深「……トイレ」
照「」フッ
照「さっきみたいな感じで?」
誠子「完璧です。モデルになれますよ」
照「そ、そうかな……」テレテレ
淡「休日でも制服系女子のくせに何を偉そうに……」
誠子「何か言ったか?淡」ギロッ
淡「なんでもないですー」
照「さて、私のポージングは決まり」
誠子「じゃ、私のも見てください。私はかっこいい系でお願いします」
照「それならリーチ棒をこう構えて……」
淡(意外にもあの二人は話が合うのでした)
誠子「じゃ、これでいいですかね」ビシッ
照「うん。完璧」
淡「」ウズウズ
照「さて、堯深も戻ってきてることだし麻雀を……」
淡「えぇーーっ!!?」
照「?どうしたの」
淡「私はスルーなの?!」
照「……考えてほしいの?」
淡「ほしいよ!私だけ棒立ちって嫌じゃん!」
誠子「そうだったのか」
照「淡はどんな感じがいい?」
淡「やっぱりねぇ、不思議というか神秘系がいいね!」ムフー
誠子「却下」
淡「なんで!?」
照「普通の可愛い系にしよう」
誠子「だったら先輩のアレでよくないですか?キラッ☆で」
淡「更にまたスルーするの!?」
淡「というか扱いがぞんざいじゃない?!テルのお下がりって!」
照「……イヤなの?」
淡「え」
誠子「せ、先輩……あまり気を落とさないで……」
照「でも……ッ、可愛がってた後輩が急に反抗期になって……」
淡「私、テルの子供なの!?」
誠子「あーあー泣ーかしたー泣ーかしたー」
淡「なんなの!?小学生なの!?」
淡「っていうか別にイヤじゃないよ!扱いがぞんざいじゃないかって思っただけで!」
照「そう?」ケロッ
淡「泣いてないじゃん!!」
誠子「え、騙されたのかお前」
淡「いや別に信じてないよ?!」
淡「ぜーぜー……」
堯深(淡ちゃんが突っ込み役なんて相当な非常事態ね……明日は雪かなぁ)
堯深「ほら淡ちゃん。お茶」
淡「ありがとタカミー、突っ込みすぎて喉枯れちゃった」ズズ
コンコン
新聞部「あのー、これから撮影よろしいですかー?」
照「どうぞ」
淡(みんなが撮り終わった後にスミレが合流し、無事に撮影は終了したのであった)
~一週間後~
淡「みんなー!部誌発行されてたよー!」
誠子「どれどれ?」
菫「……って、あぁ!?」
淡「あははー菫だけ棒立ちで証明写真みたい!」ケラケラ
菫「う、うるさい!っていうかなんでお前らポーズとか決めてるんだよ!」
菫「道理で撮影の時に不思議がられたわけだ!」
菫「……っておい、堯深」
堯深「!」
菫「……こ、これって何だ?どこの魔法少女だ?」
堯深「え……」
誠子「ひ、弘世先輩!そんな言い方っ……」
照「堯深」ポンッ
堯深「……え」
照「……若い頃には、色々やりたくなるものだよね。わかるよ」
照「でも、その後に振り替えって赤面するような事も……一つの経験になる」
照「あまり、深く考えないないようにね」
堯深「えぇぇーーー!!!?」
淡(そうしてタカミーの心には深い傷跡が残っちゃったとさ)
『女子高校生と盗み食い』
照「………」
淡「………」
淡「あ、あの~」
照「」ギロッ
淡「ひっ」
淡「………」
淡(ダメだ……完全に人殺しモードに入っちゃってるよ……)
照「今私のこと人殺し、とか思わなかった」
淡「ふきゅっ!?」
照「ふんっ」フイッ
淡「うぅ……」
淡「い、いいじゃん……プリン一つくらい……」
照「く・ら・い……!?」ゴゴゴゴゴ
淡「ひぃぃっ!?」
照「言っとくけど!あのプリンは産地直送の最高級プリン!何のために私が雀荘に赴いたと思ってるの!」
淡「雀荘行ったの!?」
照「背に腹は変えられないから」
淡(……そうです、今日テルにイタズラしてやろうと思って食べてしまったプリン)
淡(五人分あったから大丈夫と思ったのですが、その中の一つが最高級プリンだったようで……)
淡「そ、そんなに大切な物なら部の冷蔵庫になんて入れなきゃ良かったんじゃ……」
照「」ギュルルルルルルル
淡「ひぇぇっ!?ごめんなさい!反省してますから!」
照「賠償金、反省文100ページ、一週間部室の掃除、肩揉み、家の手伝い、奴隷……」
淡「そ、そんなぁ……」ナミダメ
ガチャッ
菫「お……何だこの空気は」
照「菫聞いて。淡が私の最高級プリンを泥棒猫のように盗み食いしたの」ビシッ
菫「ははあ。最高級をピンポイントに食べてしまったということか?」
淡「はい……」
菫「淡はこれに懲りて盗み食いなんてしないことだな」
淡「はい……」
菫「照、許してやれ。淡が敬語使ってるなんて相当参ってるってことだぞ」
照「」ギュルルルルルルルルル
菫「おう、悪は断じて許すな」
淡「ええ!?」
ガチャッ
誠子「こんにちはー……ってなんか物騒な空気ですね」
照「誠子聞いて。淡が私の最高級プリンを泥棒鼠のように盗み食いしたの」ビシッ
淡「泥棒鼠!?」
誠子「ははあ。最高級をピンポイントに食べてしまったということですか?」
照「うん」
淡「みんな理解力半端ないね!?」
誠子「ん……でもいつも被害に会ってるのに書き置きもせずに冷蔵庫にほっといたのは……」
照「」ギュルルルルルルルルル
誠子「淡、今回ばかりは年貢の納め時だな」ポン
淡「なんなの!?恐怖政治!?」
ガチャッ
堯深「こんにちは……ってなんか物々しい雰囲気ですね」
淡「みんなすごくない!?何で空気とか読めるの!?風使いなの!?」
菫「お前が読めなさすぎるんだ」
淡「え!?少なくともスミレには言われたくない!」
照「堯深聞いて。淡が私の最高級プリンを火事泥棒のように盗み食いしたの」ビシッ
淡「その例えはおかしくない!?」
淡「っていうかそれはもういいですって!」
堯深「ははあ……。最高級プリンをピンポイントに」
淡「もういいよ!どんだけ国語力あるのみんな!」
堯深「淡ちゃん、反省してる?」
淡「う、うん……。もうこんなことしません」
堯深「って言ってることですし宮」
照「」ギュルルルルルルルル
堯深「やっぱり許せないですね。食べ物の恨みはちゃんと骨身に染み込ませないと」
淡(だよねー)
堯深「でも丁度よかった。親戚から最高級プリンが送られてきてたんです」
淡「!!」
照「そ、それは本当……?」
堯深「はい。それに、五人分あるんです。独り占めするより、みんなで美味しくいただきましょう」
淡「タカミー…!」ウルウル
堯深「だから宮永先輩。淡ちゃんを許してあげてください。反省してることですし」
誠子「私からもお願いします」
菫「部長命令だ」
淡(何を都合のいいことを……)
照「……しょうがないな」
照「今回のことは笑って水に流そう」
淡「ありがとうございますっ!」ドゲザッ
淡「で、そのプリンはどこに~?」ワクワク
菫「……反省しろよ?」
淡「す、するする!じゃなくて……します!」
堯深「昨日から冷蔵庫の上段に……。昨日は他にお菓子あったから出さなかったんだけど」
淡「え?冷蔵庫の上段……?」
堯深「これこれ。……あれ、何か軽い?」
淡「」
堯深「」パカッ
堯深「な、無いっ!?」
誠子「まさか……」
照「淡っ!!」バッ
菫「もういないぞ!!」
誠子「追いましょう!」
堯深「あわいちゃんーーっ!!」ダダダッ
淡「ごめんなさい~~っ!!あまりにもおいしかったからぁ!!」
照「今度ばかりは……許さないっ!!」ダダダッ
淡(イタズラで済まないこともある。逃げ惑いながらそう心に刻む女子高校生の日常でした)
おわれ
今日も白糸台は平和ですね
これは良いあわあわ
Entry ⇒ 2012.10.21 | Category ⇒ 咲-Saki-SS | Comments (0) | Trackbacks (0)
竜華「怜、今日もエロゲをするで!!」 怜「ファンディスクや!」
http://ssweaver.com/blog-entry-1836.html
洋榎「エロゲしてる所を絹に見られてしもた……」
http://ssweaver.com/blog-entry-1845.html
菫「エロゲしてる所を宥に見られた……」
http://ssweaver.com/blog-entry-1848.html
今回は、怜「うちがエロゲしてる所を竜華に見られてしもた……」のアフターストーリーです。
又、今回より怜の一人称をうち→私に変更。
(ご指摘感謝です)
怜「お、ノートPCやん、どしたんそれ」
竜華「ふふ、実は新たに買うてしもうたんよ」
竜華「これでいつどこでも寝ながらでもエロゲが出来るで!!」
怜(エロゲの為にノートPCを買うとか竜華もようやるわ……)
竜華「ついでにこれも買うたんよ!」
怜「お、”戦国ヒサ”やないか!!」
竜華「せや、怜がオススメするからうちもやろかなーて思うて」
竜華「という訳で、早速怜ン家でやろ!怜、色々教えてな!」
怜「ええで、私はこう見えて30周近くプレイした廃人プレイヤーや」
竜華「インストールは済んどるから、早速やろか!」
怜「あ、ちょいまち、もう一人呼んどるから」
竜華「もう一人?」
セーラ「怜ー、きたでー」ガチャ
竜華「え……セーラ!?」
セーラ「な……っ、なんで竜華がここにおるんっ!?」///
怜「竜華が来るっちゅーから、セーラも呼んだだけやけど」
竜華「えっ、だって今日は”戦国ヒサ”をやるんじゃ……」
セーラ「俺も怜に”戦国ヒサ”やるから来いって……」
竜華「えっ?」
セーラ「え?」
セーラ「お、おう……せやで」
竜華「ちょ、なにそれ!セーラって、エロゲーやってたんか!?」
セーラ「やってたっちゅーか、やりはじめたっちゅーか……」
竜華「ど、どーゆーことやねん!」
怜「それは私から説明しよか」
竜華「怜!」
怜「……そうやな」
怜「あれは今から36万……いや、一週間前やったか――」
………
……
…
『ひゃあっ!ら、だめっ!お姉ちゃんっ……!もううちイッてまうの!!』
『ええでっ……!イってやっ……!一緒にイこやっ……!うちもイくでっ!!』
竜華「―――…‥へぁっ?」ビクビクッ
セーラ「」
竜華「」
セーラ「……りゅ、竜華……何しとん……」
竜華「セ、セーラ……こ、これはっ……ちゃうんやっ」
セーラ「……っ」
セーラ「す、すまん……!ごゆっくりぃ!!」ドタドタッ
竜華「ちょ、セーラ!!」
竜華「ア、アカン……」
竜華「エロゲしとる所をセーラに見られてしもた……」
竜華(しかも一人エッチしとる時に……最悪や……人生終わった……)
セーラ(りゅ、竜華の奴……っ、一体な、何をしてんのや……!)
セーラ(あ、あれって……その、あれやろっ!!そ、そのっ)
セーラ(……~~~~!!!)///
セーラ「と、とにかく!怜のトコに行こ!!」
タッタッタッタッ
ガチャ
セーラ「と、怜ー!!竜華が、竜華がーっ!!」
『ひゃっ……あっ……しろっ……!もっとっ…!もっときてっ……!』
『ふっ……!はっ……はっ……胡桃っ……イくよっ……!なかに……っ!』
怜「あ」
セーラ「」
怜「」
怜「え、これか?エロゲーやけど」」
セーラ「え、エロゲイ……?」
怜「えっちなゲームや」
セーラ「……い、いや、見れば大体わかるけど、おかしいやろ……」
怜「おかしい?なにが?」
セーラ「なんで怜がそんなゲームしとるんや」
怜「そりゃ好きやからに決まっとるやろ」
セーラ「い、いやいや……やっぱおかしいて」
セーラ「いくら好きゆーても、俺らがするもんとちゃうやろ……」
怜「別に年齢的には問題あらへんよ?」
セーラ「そういう問題とちゃうねん……!あーもー!!」
セーラ「とにかくや!!そーゆーのやったらアカンの!!」
怜「……は?」
怜「ちゅーか、なんでセーラにそないな事言われなアカンの?」
怜「何を持ってしてアカンのかそれをまず言えや」
セーラ「と、怜……?」
怜「別に私がエロゲーしとったトコで何も悪うないやろ」
怜「それともなんや、女の子がエロゲーしたらアカンっちゅーのか?」
セーラ「そ、そらアカンやろ…‥そーゆーのて、普通大人の男がやるもんやろ……」
怜「エロゲーは大人の男がやるもんて誰が決めたんやボケェ!!」
怜「年齢条件を満たした女がやったらアカンのか?アカンくないやろ!!」
怜「アカンのはお前の単細胞な脳みその方やないのか!!」
怜「は?喧嘩?ちゃうやろ、私が言うとるんは全部事実やないか!」
怜「何かおかしい事言うたか?私がエロゲしたらアカン事あるか?言うてみぃやタコォ!!!」
セーラ「そ、それは……っ」
セーラ(あ、アカン……怜めっちゃブチ切れとる……こんなん初めて見たわ……)
怜「言えんやろ!?言えへんよな!?そらそうやろな!!」
怜「エロゲの事を何も知らん奴がエロゲの何を知っとるっちゅーんや!!」
怜「見た目が子供に見えるから規制やと?アフォか!!」
怜「エロゲをやった事も無い連中が何勝手にホザいとるんや!!」
怜「やった事もない連中に批判される覚えは無いんじゃボケェ!!」
怜「……」ハァ...ハァ...
怜「……セーラ、そこ座れ」
セーラ「は?」
怜「ええから!!」
セーラ「お、おう……」ドサッ
怜「……」ゴソゴソッ
怜「……よし、これでええやろ」カチッ ゥィーン
セーラ「怜、何しとん……?」
怜「今からセーラにはエロゲしてもらうで」
怜「セーラは勘違いしとるんとちゃう?エロゲはただえっちするだけのゲームやと」
セーラ「……ちゃうんか?」
怜「ちゃう、全然ちゃう。柴犬と秋田犬くらいちゃうわ」
セーラ(秋田犬とか見た事ねーから分からんわ……)
怜「エロゲっちゅーんはな、人々に夢と希望と青春と感動を与えてくれる、人類が生み出した最高の文化やねん」
怜「エロゲを知らん奴は人生損しとる。なんて言わへんけど、知らずに批判するよりはやった方がマシや」
セーラ「……?よ、よく分からんけど、とりあえずやればええん?」
怜「せや、マウスを動かしてクリックで決定やから」カチカチッ
セーラ「……”阿知賀女子、ドラゴンの少女”? これどーゆーゲームなん?」
怜「麻雀部を作る為に、主人公の高鴨 穏乃が部員を集めて大会に出る話や」
セーラ「話?」
怜「エロゲっちゅーんは、基本読み物なんや。一人称のドラマみたいなもんや」
怜「ま、とにかく進めてみ」
『――あんた馬鹿ぁ?部を作るには5人必要なのよ?それに私はやらないから』
『えぇー!!なんでだよー!やろうよ麻雀!!』
『ごめん、私もう麻雀は辞めたから……じゃ』
セーラ「……」カチッ
セーラ「……麻雀の競技人口が増えても、麻雀部の無い学校やとやってる人少ないて聞くもんなー」カチッ
セーラ「穏乃は苦労しそやー」カチッ
『――私、やるよ!麻雀!一緒に頑張って作ろう、麻雀部!!』
『っ……玄さん!』
セーラ「おー!ようやく1人目が入ったなー!」カチッ
セーラ「でもまだ残り4人、先は長いでぇ」カチッ
………
……
…
『強豪校に勝つ為に全ての力を注いだ。決勝まで体力が持たなかったのはしょうがない』
『で、でも!憧が個人戦優勝だよ!すごいよ!』
『そうね……おめでとう、憧ちゃん』
『あ……あり……がとっ /// ポッ』
セーラ「……っ」カチッ
セーラ(ええはなしやなーー!!!)ポロポロ
セーラ(結果、勝てはせぇへんかったけど……バラバラだった皆の絆がここに来てようやく一つになったんや……)
セーラ(めっちゃ泣けるで……っ)ゴシゴシ
セーラ「……っ!?」ハッ
怜「……」ニヤニヤ
セーラ「」
……
…
怜「その後、不覚にも感動してしまったセーラはエロゲにハマってしもたんや」
竜華「……セーラ」
セーラ「……なんや、何も言わんでええ」
竜華「セーラもエロゲで泣けるくらいの乙女なんやなぁ」
セーラ「う、うっさいわボケェ!!」///
セーラ「ま、まあ!そゆわけで、今じゃ俺も竜華たちの仲間なんや!」
怜「まぁまぁ、今日は”戦国ヒサ”をやりに来たんやろ?」
竜華「せやったせやった、さっさと始めよ」
セーラ「おう」
竜華「なんや、いきなり対戦?になったで。これどーするん?」
怜「一対一の麻雀対決や、今選択してるキャラで敵キャラを選んで戦うんや」
竜華「こうかっ、おお、相手を倒したで!」
セーラ「なんか数字が1500から1200に減ったで」
怜「点棒やな、まぁヒットポイントみたいなものや。0になったらそのキャラは二度と使えへん」
怜「基本的には点棒の数が多ければ多いほど有利やけど、お互い相性があるから注意や」
竜華「なるほどなー、で、これからどうしたらええん?」
怜「最初のうちは部員を増やすのがええけど、まぁ好きなように選んでもええと思うよ」
怜「重要イベントはターンが進めばに起きるからな」
セーラ「そーなんか」
……
…
竜華「はぁーっ、結構進んだなぁー……ちょっと休憩しよか」
セーラ「せやなー、しかし面白いな”戦国ヒサ”」
怜「せやろ、天下の”アコスソフト”やからな」
竜華「怜は”アコスソフト”が好きやねー」
怜「当たり前やろ、今も昔も私は”アコス”がエロゲ界トップやと思っとるわ」
セーラ「俺は最初にやった奴もなかなか良かったと思うけどな」
怜「あれもええ作品なんよな、さすが”ゆうねぇそふとつぅ”や」
怜「ただ、”阿知賀女子、ドラゴンの少女”は前作があまりにも良すぎて、影に隠れてしもただけや」
セーラ「前作なんかあったんか?」
怜「直接の続編っちゅー訳ではないんやけど、”車輪の国、嶺上の少女”って奴が一応前作なんよ」
竜華「あ、それうちが初めて買ったやつやな」
怜「せや」
セーラ「そうなんか、興味出てきたわー今度買うてみよ」
怜「ん?なにが?」
セーラ「こっちの棚にあるやつ、全部エロゲやろ?ぎょーさんあるやないか」
怜「まぁな、ここまで買い集めるのに結構苦労したで」
セーラ「ちょっと見てもええ?」
怜「ええよ」
セーラ「ほー……色々あるなぁ、この”牌を/ステナイト”ってどんなゲームなん?」
怜「7人の雀士がそれぞれ一人のパートナーと契約して、麻雀で戦わせるゲームや」
セーラ「へー、じゃあこの”シンドウジの羊”っちゅーんは?」
怜「主人公の江崎 仁美が、親友の安河内 美子を巻き込んで政治デモ活動をする話やな」
セーラ「政治デモをするゲームとか斬新すぎやろ」
怜「主人公の福路 美穂子が、麻雀部に入部していきなりキャプテンになっちゃう物語」
怜「そんでもってこれが”絶対★妹嶺上開花!!”、史上最強の妹を持った姉が苦労する毎日を送る話や」
竜華「ホント怜はすごいで……まるで野生のエロゲショップや」
セーラ「だよなー」
怜「まだまだ、私より沢山持っとる人は他にもいるで、こんなの序の口や」
セーラ「この”穏乃アフター~It's a Mountain Life~”っちゅーんは?」
怜「元は”CLONNAD-クロナド-”っちゅー別のゲームのキャラクターなんやけど、作者があまりにも好きすぎて外伝作品が出たんや」
怜「”CLONNAD-クロナド-”はエロゲやないけど、ゲーム・アニメと共に評価されとる作品やからオススメやで」
セーラ「へー、アニメ化もしとるんか」
竜華「うちはあまり”アコス”のゲームはやらんけど、名前だけは知っとるわ」
竜華「”超昂天使スミレイヤー”……”LEGENDアイランド”……”闘牌都市Ⅲ”……”咲が来る!”……」
怜「個人的には”LEGENDアイランド”が好きやったな」
怜「女の子魔物使い”小瀬川 白望”が、呪いをかけられた女の子モンスターを救う為に”レジェンゴ”と戦うやつなんやけど」
怜「この女の子モンスターっちゅーのが、すごい可愛くてな」
竜華「ホンマか、それはちょっと見て見たいわー」
竜華「こっち”咏しぼり”ってのはなんなん?」
怜「お見合い相手の”三尋木 咏”と監視役でやってきた”針生 えり”と同棲するゲームや」
竜華「この咏ちゃんて子かわええなぁ」
怜「その子24歳やで」
竜華「なんや……24か……」
竜華「”Hisa-女を求めて-”……”HisaⅡ-清澄の少女たち-”……”HisaⅢ-龍門渕陥落-”……古いシリーズも全部揃ってるやないか」
竜華「この”ヒサ・クエスト ダブルリーチ”ってのは新作やな」
怜「せやな、”ヒサ・クエスト”の追加アペンドやけど、これとダブリーを含めて完成品と言われとる」
竜華「ヒサシリーズはうちもシリーズ通してやってみたいわー」
怜「世界観とか設定を見始めると、よりハマるで」
竜華「ホンマか、今度見てみるわー!」
怜「せやね、んじゃそろそろ”戦国ヒサ”再開しよか」
セーラ「おう」
……
…
『――へぇ、貴方なかなか可愛いのね。もし良かったら私達に手を貸してくれないかしら』
『私で良かったらちょーお手伝いするよー!』
『ありがとう。でもその前に一つだけして欲しい事があるの……』ニタァ
セーラ「……っ!?」
竜「……」ポチッ
怜「え、ちょ、竜華なにCtrl押してん」
竜華「えっ、いや、そのっ、なんちゅーか、皆でエロシーンをわざわざ見んでも……」
怜「アホか!エロシーンを見ないで何を見ろっちゅーねん!」
セーラ「エロシーンをダチと囲んで見るとか、どこの男子中学生やねん……」
怜「とにかくスキップ禁止や、エロシーンもちゃんと見な製作者に失礼やろ」
竜華「ちゃんと見ろって言われてもなぁ……」
『んぁっ……んはぁっ……!ひあぁ!ちょぉ……ちょぉー気持ちいいいよっ!』
『そろそろ出すわよぉっ……!!っとぉ――――――!!」ビュビュビューーーッ
竜華「……」モジモジ
竜華「……」チラッ
セーラ「……」///
怜「……」
竜華「……」クチュ
竜華「ちょ、ちょっとうちトイレ行ってくるわ……!」
怜「おーいてらー」
セーラ「……」///
セーラ「お、おなっ!?」///
怜「めっちゃソワソワしとったもんなー、ありゃ間違いないで」
怜「つか、人ン家のトイレでオナるってどういう神経しとんや竜華は……」
セーラ「……」///
「―――…‥へぁっ?」ビクビクッ
セーラ(ア、アカン……竜華が……してる所を思い出してしもて……!)///
セーラ「……っ~~~!!」///
怜「ん?どなんしたんセーラ」
セーラ「……あ、あのなっ」
セーラ「怜も……その、一人でえっちな事とか……するん?」///
怜「ん?なんやそんな事かいな、まぁ稀にやけど」
セーラ「や、やっぱ怜もするんか……」///
怜「……」
怜「なんやセーラ、セーラだってした事ぐらいはあるやろ?」
セーラ「え、ええっ!?お、俺は……っその……っ」///
セーラ「……あ、あのなっ」
セーラ「怜も……その、一人でえっちな事とか……するん?」///
怜「ん?なんやそんな事かいな、まぁ稀にやけど」
セーラ「や、やっぱ怜もするんか……」///
怜「……」
怜「なんやセーラ、セーラだってした事ぐらいはあるやろ?」
セーラ「え、ええっ!?お、俺は……っその……っ」///
セーラ「なっ……!お、俺はっ……」///
セーラ「べ、別にっやった事無くてもええやろ!!」///
怜「……え?ホンマに?今までエロゲやってきたやろ?」
怜「エロシーンの時とかどないしてたんよ」
セーラ「そ、それは……っ……そのっ……目ェ瞑ってスキップしてた……」///
怜「うわ、ホンマかいな……」
怜(まさかセーラがオナった事も無いなんて……どんだけ初心やったんよ)
怜「じゃあ、一緒にしてみる?」
セーラ「ファッ!?」ガタンッ
怜「いや、そんなに驚かんでも」
セーラ「お、おおっ、驚くわボケェ!!いきなり何言うとんの!!」///
怜「セーラが興味有り気にしてたから」
セーラ「せ、せやからって!!なんで一緒にする事になるんや!!」///
怜「ん?アカンの?」
セーラ「アカンやろ!!」
怜「なんや、つまらん」
セーラ「な、なんでもないで!!」///
怜「おかえり」
竜華「……?まぁええけど、この後どないしよっか」
セーラ「……う、うち!もう帰るわっ!」
竜華「え?まぁ確かに真っ暗な時間やけど……」
セーラ「あっ明日も学校があるやろ、竜華もはよ帰った方がええで」
竜華「んーまぁそうやなぁ、今日はここまでにしとこかなー」
竜華「それじゃあ怜、うちとセーラ帰るで」
怜「わかった、また明日やな」
竜華「またなー怜ー」
セーラ「お、おう、またなっ……!」
竜華「……」
セーラ「……」
竜華「なぁセーラ」
セーラ「なっ、なんや!?」
竜華「?どしたんセーラ、さっきからおかしいで」
セーラ「な、なんでもないで!!」///
竜華「んー?そう?それならええねんけど」
竜華「それより早よ帰るで!さっさと帰って続きをやるんや!」
セーラ「お、おう……!」
怜「……」
怜「んー、二人が帰ってしもたのはまぁ別にええけど……」
怜「何しよ」
怜「エロゲしてもええけど、なんかこう物足りないんよな……」
怜(グルチャに誰かおるかな)カチカチッ
――ス○イプのとあるグループチャット――
――とあるネット掲示板で知り合った数人の猛者達が――
――互いに集い語り合う 淑女達のグループチャットである――
トキ:おるかーー?
巫女みこカスミン:えっ?
トキ:よーし、おるな!
ひろぽん:ここやで (トントンッ
ピカリン: 西 濃 は 神
かじゅ:お前らもよく飽きないな
ひろぽん:重大な用事なんやろな?
トキ:いや、別になにもないけど
ひろぽん:ないんかーい!
トキ:つい暇だったもんで、めんごめんご
かじゅ:なんだ、暇だからこそエロゲをすればいいんじゃないのか
トキ:んー、なんかエロゲって気分でもないんよなー
ひろぽん:なんやそれ
巫女みこカスミン:あーありますよねぇ
巫女みこカスミン:私もそういう気分じゃない時は姫様の寝顔写真を整理したりしてます
ひろぽん:あんたは何しとんのや……
ピカリン:わかる。私も咲の写真をよく眺めてはペロペロ舐め回してる
ひろぽん:おまわりさん、こいつです
かじゅ:私は勉強をするか本を読むかだな
ひろぽん:うわ、真面目やな
かじゅ:受験生なんだ、察してくれ
トキ:ひろぽんは?こういう時どないするん?
ひろぽん:ん?そやなぁーうちは息抜きにネトマをやるぐらいやな
トキ:ネトマかぁ、うちやった事あらへんわ
ひろぽん:興味があるんやったら教えるで?
トキ:そのうちな、今はええわ
トキ:そいや、すみれを見かけないんやけど……というか、グルチャから抜けてるやんけ
ピカリン:トキはあの時いなかったから、知らないのも仕方ない
トキ:?何があったん?
かじゅ:彼女自らが、ここを抜けると言ったんだよ
巫女みこカスミン:私もその場には居なかったのですが、一体何があったのですか?
ひろぽん:すみれに恋人がおるのは知っとるやろ
トキ:言っとったな、恋人が泊りに来るゆーてたけど
かじゅ:ああ、予定の1日早く泊まりに来たんだそうだ
トキ:1日早く?なんでや
かじゅ:いや、詳しい事は私も分からないが
かじゅ:エロゲよりも大事にしたいものがある
かじゅ:だから、エロゲとは一切関係を絶って恋人と幸せになるんだそうだ
ひろぽん:うちらがこの前言ってた奴な、後で見たらしくて
ひろぽん:それで決心したんやとさ
トキ:そうやったんか……
トキ:……ちょっと残念やけど、それですみれが幸せになるんやったらええんちゃうの
巫女みこカスミン:そうですね、恋人と幸せになるのが一番だと思います
かじゅ:私としてもその通りなのだが、これ以上ツッコミ役が減るのは正直勘弁してもらいたい……
ひろぽん:減ったんは一人だけやろ
トキ:いや、そーなんやけど
トキ:メンバーは結構いるのに、見かけたことの無い人とか多すぎやろ
巫女みこカスミン:私、”舞Hime”さんって人と一度も喋った事ないです
ひろぽん:あー、舞は遅い時間に時々見かけるな 深夜2時とかそのへん
トキ:うちも一度見かけただけで、それ以降全く見てないわ……
ピカリン:私も”牛乳”って人を見たことない
かじゅ:私も”蓋”って人を見たことがないな
巫女みこカスミン:みなさん忙しいんでしょうか……
トキ:時期が時期だけにしゃーないんとちゃう?
かじゅ:そうだな、私もこれからは受験勉強に時間を取られそうだから、あまりここには来れなくなる
ひろぽん:うちもええ加減進路とか決めなアカンなー
かじゅ:まだ決まってないのか……
怜「そっか……なんだかんだ、みんな先の事を考えとるんやな」
怜(私はどないしようかな)
怜(適当に行ける所の大学に行って、フツーに生活するんも有りやけど……)
怜(なんかそれやと物足りないんよなぁ……)
怜「……」
怜「ま、とりあえずエロゲでもしよ」
………
……
…
セーラ「おはよーさん、怜ー竜華ー」
竜華「おはよー」
怜「おはよう」
セーラ「って、竜華……目の隈がすごいで?」
竜華「あはは……徹夜でやりこんでしもてな……」
怜「気持ちはわかるけど、程々にせな……」
竜華「授業中に沢山寝て、帰ったら沢山出来るよーにしとかんとなぁ」
セーラ「いやいや、授業は受けなアカンやろ!?」
竜華「よしゃ!!帰るで!!怜、セーラ!!」
セーラ「うわ、めっちゃ元気になっとる」
怜「竜華の奴ホントに寝とったからなぁ……授業中……」
セーラ「ちゃんと授業は聞いとかなアカンでー、俺ら受験生なんやから」
竜華「ええよ別に、うち怜と同じ大学に行くんやから」
セーラ「え、そうなん?怜」
怜「いや知らんけど」
竜華「そんなぁ~!とーきー!」
セーラ「面白い?さあーどーなんやろーなー」
竜華「うちは怜と一緒ならなんでも楽しいで!」
怜「んー、なんちゅーか、フツーに大学生活過ごしても面白くなさそーな気ぃがしてなぁ」
セーラ「怜は大学生活でやりたい事とか無いんか?」
怜「やりたい事……なんやろ」
竜華「何言うとん、エロゲがあるやろー」
怜「いやまぁエロゲもせやけど……そうやなぁ、エロゲかぁ……」
怜「……」
怜「……エロゲを作ってみたいな」
怜「……えっ、あ、いやっ、今のはなんちゅーか……」
怜「な、なんでもないんやっ、ハハハッ……」
竜華「……怜、エロゲ作りたいん?」
怜「い、いや……まぁ、せやな……興味はある……かな」
怜「で、でも私はモノとか作った事ないし……まず無理やろな」
セーラ「……」
セーラ「……ええやん」
怜「えっ?」
セーラ「作ろやないか」
セーラ「俺らで作るんや、エロゲーを」
竜華「……うん、せやな」
竜華「怜、うちらでエロゲを作ろうや!」
怜「絵は誰が描くねん、シナリオは?プログラムは?音楽は!?」
セーラ「んー、まーなんとかなるやろ」
怜「いやいや……なんとかなるっちゅーもんでもないやろ……」
竜華「でも怜、エロゲ作りたいんやろ?」
怜「そ、そらまぁ……出来るなら作ってみたいとは思うけど」
竜華「なら作ろうや!」
怜「せやから無理やろ、私らにはなんの技術もないで?」
セーラ「そんなもん、今から猛勉強して覚えればええねん」
竜華「せや、大事なのはやる気と根性やで!」
怜「せ、せやろか……」
セーラ「せやろ!」
竜華「怜、作ろうや!エロゲを!」
竜華「自分が出来ない事は他の人を頼ればええ」
竜華「大事なのは自分がやりたいかどうかやねん!」
怜「……私はっ」
怜「私は……エロゲが作りたい」
怜「竜華やセーラ達と一緒に、エロゲが作りたい!」
怜「もっともっと、エロゲと関わって行きたいんや!」
セーラ「……ああ!」
セーラ「作ろうや!一緒に!」
竜華「……うん、作るんや!うちらのエロゲーを!」
――正直なトコ 先行きは不安だらけやけど――
――不思議な事に 竜華達とならなんだって出来る気がする――
――竜華達といること これが私にとっての人生なのかもしれへん――
怜「――始めよか、私達の作品を」
怜編 END
Entry ⇒ 2012.10.20 | Category ⇒ 咲-Saki-SS | Comments (0) | Trackbacks (0)
P「適当に話でもするか」
P「…………」カタカタ
小鳥「…………」カタカタ
P(よし、企画書が完成)
小鳥「ふう」
P(小鳥さんも休憩に入ったみたいだしなにか話題でも出そうか)
P「小鳥さん、>>5」
小鳥「なんですか?」
P「アフリカでは今も子供たちが飢えに苦しんでいるんですよ」
小鳥「え、えぇ、そうですね……」
P(めちゃくちゃ引かれてる……)
小鳥(プロデューサーさんどうしたのかしら……?)
小鳥「あの、どうして急に……?」
P(……どうしよう……)
P「>>+5」
パーフェクトだウォルター
P「いえ、アフリカの子供たちのことを考えているといろいろと思うことがありまして」
P「そこで良い案を思いついたんです」
小鳥「良い案ですか?」
P「俺達が直接サポート出来ればいいんですが、アフリカに行くわけにも行かないじゃないですか?」
小鳥「やっぱり難しいですねぇ……」
P「まず、俺達が出来ることとしては、募金だと思うんです」
小鳥「それは、そうですね」
P「でも、俺達だって自分の生活にお金がかかるわけですから、寄付したくても、あまり出来ないわけですよ」
小鳥「そうなんですよねぇ……」
P「そこで考えたんです」
小鳥「ほう?」
P「俺達が一緒に住めばいいんじゃないでしょうか 」
小鳥「………?」
P「つまり同棲して生活費を抑えて、募金しましょうってことです 」
小鳥「…………」
小鳥「えっ!えっ?」
P「小鳥さん!」
小鳥「あの……その……、>>+5」
小鳥「はっ、はい!お願いします……」
P「ありがとうございます!」
小鳥「こちらこそっ!!」
小鳥(わっ、私にもついに春がっ?! 確かにプロデューサーさんはいいかなーとか考えてたけど、でもでもっ、いきなり同棲だなんて……)
P「うーん、どっちの家に住みます?」
小鳥「>>+5」
小鳥「良かったら、お邪魔してもいいですか?」
P「分かりました、それじゃあ、早速今夜から家で寝泊まりしてください」
小鳥「はっ、はい!!」
小鳥(いきなりお泊り……。大丈夫よ、小鳥……っ! 今までに読んだ参考書の数々……その知識をフル稼働すればきっと初夜だって……)
小鳥(あぁー!!今日勝負下着じゃなかったぁ!!)
小鳥(どっ、どうしよう? 一回取りに帰るべき? でも、今の勢いがないと怖くなってプロデューサーさんの家なんて行けなさそうだし……そもそも連れて行ってもらわないと家知らないし!)
P「小鳥さん?」
小鳥「なっ、なんですかっ!」
P「いえ、もう夜なんで、帰りましょうか」
小鳥「>>+3」
そしてコンドームを……
小鳥「帰る前に、 薬局に寄りましょう! そしてコンドームを……」
P「小鳥さん……」
小鳥「いっ、いやっ!今のは!」
小鳥(しまったあぁぁっーー!!思わず脳内で暴走して……)
P「………分かりました、男の責任ですもんね」
小鳥「プッ、プロデューサーさん……」キュン
P「車で帰るんで助手席へどうぞ」
小鳥「はっ、はい!」
小鳥「………」
P「………」
P(ゴムも買ったしあと少しで家に着くが……)
P(……車内でまた無言になってしまった……)
P(さっきも小鳥さんに気を使わせてしまったし、ここは男である俺がリードしなければ)
P「小鳥さん」
P「>>+3」
P「………」
ギュッ
小鳥「っ!!」
小鳥(……プロデューサーさんの手……温かい……)
小鳥(そっか……これが幸せなんだ……)
ギュッ
P(小鳥さん……握り返してくれた……)
キーッ
P「……小鳥さん、着きましたよ」
小鳥「…………」
P「それじゃあ、降りま」
小鳥「あのっ! もう少し……繋いだままでもいいですか……?」
P「………」
P「はい」
小鳥「………」ドキドキ
P「………」ドキドキ
小鳥(あれから何分経ったのかしら……?)
小鳥(私が、もうちょっとって言ったから降りないでくれたけど、あんまり車の中で長居したら風邪を引くかもしれないし、そろそろかしら……)
小鳥「>>+3」
小鳥「プロデューサーさん……」
P「……?」
小鳥「……式はいつにしますか?」
P「………式、ですか……」
小鳥(っ!! なっ、なんか頭の中で飛躍して……)
P「そうですね……」
P「俺は、いつでもいいですよ」
小鳥「っ!!」
P「でも先にご両親に挨拶しないと……、あっ、その前にアイドルたちに言うのが先か……」
P「そこら辺は家に入って考えましょうか?」
小鳥「……は……はい……グスっ……」
P「うわー、外寒い……手、いいですか?」
小鳥「……どっ、どうぞ」
ギュッ
P「いいですね、こういうの……」
小鳥「……そうですね……」
ガチャ
P「散らかってますが、どうぞ」
小鳥「し、失礼しまーす」
P「そんなにかしこまらないでください。今日からは小鳥さんの家でもあるんですから」
小鳥「そっ、そうですよね」
小鳥「あっ」
小鳥「少し出て、扉閉めてもらってもいいですか?」
P「……は、はぁ」
小鳥「…………はい、どうぞー」
P「……?」
ガチャ
小鳥「お帰りなさい、プロデューサーさん」
P「……っ!!」
P「たっ、ただいま!」
小鳥「ふふっ」
小鳥「一回やってみたかったんですよね」
P「急に言われてビックリしました……」
小鳥「まぁまぁ、外は寒いんで、入ってください」
P「ここ、俺の家ですよね……」
小鳥「私の家でもありますからっ!」
P「ひと通り片づけましたし、とりあえず……」
P「>>+3」
P「…………小鳥さん」
P「一緒にお風呂にでも入りましょう」
小鳥「……」コクッ
P「ふぅー……」
小鳥『プッ、プロデューサーさんいるんですよね……?』
P「まだ入らないんですか?」
小鳥『こっ、心の準備がまだ、その……』
P「早くお風呂に入らないと、体冷やしますよ?」
小鳥『…………』
小鳥『プロデューサーさんは私の裸を見て……笑いませんか……?』
P「そうなの当然ですよ」
小鳥『でっ、でも……プロデューサーさんはアイドルの水着姿よく見てるから……その……』
P「小鳥さんもスタイルいいじゃないですか」
小鳥『そんなことないです! あーもう、こんな事になるなら、お酒控えてお腹のお肉を……』
P「笑わないんでちゃちゃっと入ってください」
小鳥『……本当に笑わないですか……?』
P「ええ」
小鳥『………っ!』
ガチャ
小鳥「………」
P「………」
小鳥「…あっ、あのっ、………ど、どうでしょう……か……?」
P「>>+3」
小鳥「あ、あのー……?」
P「すごく…大きいです…」
小鳥「おっ、お腹ですかっ!? 太ももですかっ!?」
P「そんなの……、胸に決まってるじゃないですか……」
小鳥「……あっ、ありがとうごさいます……///」
小鳥「……………でも……」
小鳥「……プロデューサーさんも………おっきいんですね………」
P「………すみません……」
小鳥「>>+3」
小鳥「………濡れてきちゃった……」ボソッ
P「えっ!?」
小鳥「っ! なっ、なんでもないです!」
小鳥「…………良かったら……、背中流しましょうか……?」
P「ぜひ、お願いします!」
小鳥(プロデューサーさんの背中もおっきい……)
P(あぁ……俺は今、小鳥さんに背中を流してもらってるんだ……まさかこんな事になるなんて……)
小鳥「………」
ゴシゴシ
P「………」
小鳥「力加減はどうですか?」
P「いっ、良い感じですっ」
小鳥「………」
ゴシゴシ
P「………」
小鳥「どこか痒いところはありませんか?」
P「>>+3」
P「……しいて言えば……」
小鳥「しいて言えば?」
P「前の……もうちょっと下の……」
P「……ほっ、ほうけいちんぽの皮の中が……」
小鳥「………っ!!」
小鳥「ちっ、ちちちっ、ちん……っ!!」
P「いっ、嫌だったらやめ」
小鳥「やります!」
小鳥「やらせてください!!」
P「はい!」
小鳥「まっ、前からは恥ずかしいんで……後ろから失礼します……」
P「………」
ピタッ
P(むっ、胸っ!?)
小鳥「え、えーっと、触ります……」
小鳥「………」
ツン
ツンツン
P「………あっ」
小鳥「いっ、痛かったですか?!」ムニュッ
P「あ……っ、いやっ、大丈夫です」
小鳥「……痛かったら、行ってくださいね……?」
P(それより胸がダイレクトに……)
小鳥「……こっ、これが……」
小鳥「……ふぅ……っ!」
ニギッ
P「………っっ!!」
ピクッ
小鳥「かっ、皮って、ここの先っぽの……ですよね……」
P「はい……」
小鳥「のっ、伸びるって……ことなんですよね……」
ツンツン
クリッ
P「はあっ!」
小鳥(ゆっ、指が隙間に入った……っ!!)
P「はぁ……はぁ……」
小鳥「苦しくないですか……?」
P「もっと……してください……」
小鳥「………は、はい……」
小鳥(包茎って……こうなってたんだ……)ツンツン
小鳥(親指と人差し指で……先をつまんで……)キュッ
小鳥(中に指を……)
小鳥(あっ、おっきく……)
P「……はぁっ、小鳥さん……」
P(小鳥さんも乳首たってる……)
小鳥「なっ、なんでしょう?」
P「……あんまり焦らされると……全部剥けるんで……その……できるだけ早く……」
小鳥「わっ、わかりました」
小鳥(剥ける……? そっか……おっきくなって、出てくるんだ……)
小鳥(……それなら……ひとおもいに……)
小鳥「………いきますっ!!」
グリッ
P「あ"っ!!」
グリグリグリ
P「あ"ぁ"ぁ"っ、あ"あ"っがう"う"ぅっっっっ!!」
P「い"っぐうぅっぅっ!!!」
小鳥「っ!! きゃあっ!!」
P「はあっ……はっあっ……」ピクピク
小鳥「……いっ、いっぱい出ましたね……」
P「……あっ、あっ、ありがとう……はぁっ、はぁ…はぁっ、ございました……」
小鳥「こ、こちらこそ……」
P「………」フラッ
小鳥「プロデューサーさんっ!!」
小鳥「大丈夫ですかっ?!」
P「あっ、ちょっと刺激が強くて……体力なくなっちゃいました……」
P「ちょっと目眩がしただけなんで、あがっていいですか……?」
小鳥「わかりました、手伝います」
P「すみません……服のボタンまで……」
小鳥「いえ、いいんですよ」
P「……? 何か、ご機嫌ですね?」
小鳥「あれ、わかっちゃいました?」
小鳥「プロデューサーさんが、私で気持ちよくなってくれたんだーって、考えると……」
P「……っ!」ピンッ
P「小鳥さん……俺……」
小鳥「………」
小鳥「……今日は寝たほうがいいんじゃないですか?」
P「……っ! でもっ」
チュッ
P「…………」
小鳥「目眩も心配ですし……私は明日もここにいるんですから………ね?」
P「……はーい……」
「…………さん……プロ……サーさん」
P「……ん……んんっ……」
「朝ですよ起きてください、プロデューサーさん」
P「……えっ……ことり……さん……?」
小鳥「はい、小鳥です」
P「………そっ、その格好は……」
小鳥「>>+3」
小鳥「どうですか?エプロン姿」
P「そりゃもう、めちゃくちゃ可愛いです」
小鳥「ふふっ、ありがとうございます」
小鳥「朝食できてますよ、起きてくれますか?」
P「はーい、それにしても小鳥さん起きるの早いですね……」
小鳥「いつも朝一番に行って事務所を開けますからね。今日は社長に連絡してお願いしたんで、大丈夫ですけど」
P「なるほど……」
小鳥「私は一度家に帰って荷物を取ってきて午後から出社する予定なんですが、プロデューサーさんはどうしますか?」
P「俺ですか?確かスケジュールじゃ……」
P「>>+3 」
P「午後から事務作業ですね」
小鳥「と言うことは一緒ですね。それならもっと寝てても大丈夫でしたね、起こしてごめんなさい」
P「そんなことないですよ、こうやって小鳥さんのエプロン姿を拝めたわけですし、朝ご飯もありますし」
小鳥「あっ、そうだ」
小鳥「プロデューサー、あーん」
P「あっ、あー」
P「んっ」
小鳥「どうですか?」
P「……っ! 最高です」
P「ごちそうさまです」
小鳥「おそまつさまでした」
P「じゃあ、送ります。ちょっと着替えるんで待っててくださいね」
小鳥「はい」
P「駐車場まで良かったら、手を」
小鳥「…………」 ササッ
P「……?」
P「俺、避けられてる……?」
小鳥「ちっ、違うんです! 服が昨日と同じなのでもしかしたらーって……朝、コンビニで下着は買ったんでそれは替えたんですけど……」 」
P「あぁ、そんなことですか」
小鳥「そっ、そんな事って……っ! そういうのが一番」
P「………」クンクン
小鳥「嗅いじゃダメですー!」
P「>>+3」
P「うーん……」
小鳥「やっ、やっぱり……」
P「小鳥さんの匂いがしますね」
小鳥「……っ、それはどういう……?」
P「こう……」
ギュッ
小鳥「っ!」
P「思わず抱きしめたくて……安心する匂いです……」
小鳥「プロ……デューサーさん……」
P「………」
小鳥「………」
P「……流石に出ないと、あれですね……」
小鳥「……そうですね……」
P「……ふぅ、行きますか」
小鳥「はいっ!」
P「へー、このマンションですか」
小鳥「どうぞどうぞ」
ガチャ
小鳥「っ!」
バタン
P「どうしたんですか?」
小鳥「すっ、少し待っててください!」
P「別に散らかっててもいいのに」
小鳥「あっ、危ないところだった……」
小鳥「早く片付けないと…… >>+3を……」
小鳥「そう、同人誌よ!」
小鳥「全部が全部、大人向けの特殊なのじゃないけど、やっぱりこういうのは本棚に隠して……」
P「あんまり急いで押し込むと折れますよ?」
小鳥「そうですよね……こんなに薄いのに高価で、何より思い出が……」
小鳥「プロデューサーさん!?」
P「外で待ってたんですけど、あまりに遅いのと、若い男が女性の部屋の前で立ってたら怪しまれたみたいで…… 思わず入っちゃいました、すみません」
小鳥「みっ、みみみましたかっ?!」
P「何をですか?」
小鳥(というか、机の上に散らばってるし、手にも持ってるし!)
小鳥「……っっ」
ササッ
小鳥(今更、隠してももう遅いわよね……)
P「……あぁ、なるほど」
小鳥「……やっぱり幻滅……しますよね……」
P「>>+3」
P「そんなことありません、どんな小鳥さんでも俺は大好きですよ」
小鳥「……………本当ですか?」
P「えぇ、俺ももっと小鳥さんに好かれるように頑張らないと」
小鳥「……っっ、私もプロデューサーさんのこと大好きですよ!」
P「………小鳥さん……顔真っ赤ですよ……?」
小鳥「……プロデューサーさんよりは、ましです……多分……」
P「トランクケースとかありますか? 数日分の服を選んでもらって、車に積みましょう」
小鳥「そうですね」
P「残りは時間を作って、今度の休みにでも」
小鳥「わかりました、少しかかるので、テレビでも見ててもらえますか?」
小鳥「よし、完成……」
P「お疲れ様です」
小鳥「服、着替えてきますね」
P「はい」
小鳥「脱衣所はあっちですけど、覗かないでくださいね?」
P「覗きませんよ」
小鳥「……そうですよね……覗かないですよね……」
P(……何故にショックを……)
小鳥「まぁ、いいや。行ってきます」
ガチャ
小鳥「おはようございます」
P「おはようございます」
>>+3 「おは……」
社長「おお、君たちおはよう」
P「おはようごさいます、社長」
小鳥「あっ、ごめんなさい、社長。急に朝、連絡して……」
社長「いやいや、いいんだよ。音無くんから連絡があったときは何かあったのかと心配したが、顔を見たらいつもより元気そうじゃないか」
小鳥「はい!」
社長「>>+3君も音無君が来ないことに心配していたぞ。そこにいるから、顔を見せてやってくれ」
社長「それじゃあ、私は社長室に戻ろうとするかな」
うさちゃん? 「あんた、どうしたのよ」
小鳥「えっ?」
うさちゃん? 「朝一番に来たら、社長が『音無君が来ないそうだ……』って心配してたわよ」
小鳥「あれ、普通に遅れますって言ったんだけど……」
うさちゃん?「社長はあんたに過保護だから、そうな……」
うさちゃん ? 「って! 話してるのは私なんだから私を見なさいよ!」
P「お、おぉ、伊織じゃないか」
小鳥「伊織ちゃんいつの間に」
伊織「さっきから、目の前にいたでしょ!」
伊織「なによっ、私の存在はこのうさちゃんより目立たないって言うわけ?」
P「冗談だよな」
小鳥「はい、冗談ですよ」
伊織「もう……」
伊織「それよりなんで遅れたの?」
伊織「と言うか一緒に入ってきたわよね……?」
P「そっ、それは>>+3」
P「そっ、それは……」チラッ
小鳥「………」コクッ
伊織「なに……?」
P「俺が小鳥さんと同棲始めたからだよ、結婚を前提に付き合ってる 」
伊織「………えっ………」
伊織「………っ!! へぇ、あんたの冗談にしては面白いじゃない!!」
伊織「でも、今日は別にエイプリルフールじゃないわよ? と言うか、あれって午前中だけだし……」
P「冗談じゃなくて、本当なんだ」
伊織「っ!!」
伊織「……嘘っ……嘘よ………だって……>>+3」
伊織「だって、昨日はそんな感じじゃなかったじゃないっ!!」
P「………まぁ、付き合い始めたのは、昨日の夜からだからな」
小鳥「………」
伊織「それじゃ……付き合い始めて、いきなり同棲っていうの?!」
P「そうなるな」
伊織「あっ……あんたたち、いきなりすっ飛ばしすぎなのよ! なんでいきなり……っ!!」
伊織「だっ、だいたい、職場恋愛なんてロクなもんじゃないのよ! なんで…………っっ!! 今ならまだ、たちの悪い冗談として」
小鳥「伊織ちゃん」
伊織「っ!!」
小鳥「少し、隣の部屋に来てくれる?」
P「………?」
伊織「………」
小鳥「………ここなら、誰もいないわ」
伊織「………」
小鳥「もちろん……プロデューサーさんも……」
伊織「………」
小鳥「伊織ちゃん……あなた……」
小鳥「>>+3」
小鳥「……やっぱり……プロデューサーさんのこと……」
伊織「………っ! そうよっ!なにか悪い!?」
伊織「私はあいつのことが好きよ! トップアイドルになったら……告白しようって……ぐすっ……」
伊織「……せめて他のアイドルなら……ぐすっ……私だって諦めついたのに……っ!」
小鳥「………」
伊織「まさか、あんたに……横取りされるなんて……」
小鳥「…………組……」
伊織「っ! なっ、なによっ! 言いたい事あるのならはっきりいいなさいよっ!!」
小鳥「負け組乙」
伊織「ーーーっっ!! あんた、黙って聞いていればっ!!」
小鳥「伊織ちゃんは本当にプロデューサーさんのことが好きだったの?」
伊織「とっ、当然よっ!」
小鳥「自分から何かアプローチした?」
伊織「そっ、それは……トップアイドルになったら……」
小鳥「……逃げてたんじゃないの?」
伊織「っ!!」
小鳥「トップアイドルになったら……プロデューサーさんから告白してきてくれたら……」
伊織「っっっ!! あんたに私の何がわかるよのっ!!」
小鳥「わからないわよっ!」
伊織「………っ!」
小鳥「人のことも……自分のことも……プロデューサーさんのことも……なにも……誰も……」
小鳥「………でもね、伊織ちゃん……」
伊織「………っ」
小鳥「そのまま想いを伝えないのは、ただの負け組よ」
伊織「こ、小鳥……」
小鳥「行きなさい」
伊織「そんな……あんたは……」
小鳥「私は……、プロデューサーさんを信じる……」
伊織「………いいのね?」
伊織「……私が貰っていくわよ?」
小鳥「………」
伊織「………ふんっ」
バタン
小鳥「……これでよかったのよね……」
小鳥「……………プロデューサーさん………」
P「………まだかな」
バタン
P「っ、小鳥さ………伊織か……」
伊織「ちょっと来なさい」
P「へっ?小鳥さんが、まだ」
伊織「いいから!!」
P「……伊織……お前なんで泣いて……」
伊織「…………」
P「……なぁ、屋上なんて誰もいないし戻ろう、な?」
伊織「………」
伊織「……率直に言うわ」
伊織「私はあんたが好き」
P「…………俺は……小鳥さんと付き合って……」
伊織「そんな薄っぺらい言葉聞きたくないっ!!」
P「………っ!」
伊織「………あんたは、誰を選ぶの……」
伊織「私か……小鳥か……」
P「……俺は…」
P「>>+5」
P「俺は…」
P「小鳥さんを選ぶよ」
伊織「……っ!……」
P「伊織ならわかってくれると思ってる……俺は、心から……」
伊織「あぁーー!!もうっ!! 」
伊織「そんなに念押ししなくても、わかってるわよっ!」
P「……伊織……」
伊織「小鳥には……あんたたちになんて勝てるわけ無いとわかってたわよ……」
P「すまん……伊織……」
伊織「謝るぐらいなら……嘘でも二人とも愛するとかいいなさいよ……」
P「…………」
伊織「……この伊織ちゃんを泣かせたんだから……幸せになりなさいよねっ!!」
タッ
P「いっ、いお」
バタン
P「…………」
伊織「……はぁ……はぁ……っ!!」
小鳥「………」
伊織「なによ……笑いに来たわけ……?」
伊織「おめでとう、あんたの言った通り、プロデューサーはあんたを……」
ギュッ
伊織「…………小鳥……」
小鳥「……ごめんなさい……ごめんなさい…………私のせいで伊織ちゃんに辛い思いを……」
伊織「…………はぁ……」
伊織「………なんで……二人とも謝るのよ……」
伊織「……不幸になったら……承知しないんだから………」
伊織「…ぅっ…ううっ……もうっ……なんで、私より小鳥が泣いてるのよ……涙止まるじゃない……」
小鳥「………ごめんなさい……」
春香「ええっ、プロデューサーさんが小鳥さん……と……」
P「………すまん」
小鳥「………」
春香「いえっ! 小鳥さんなら……仕方ないです……」
春香「二人とも幸せに……あっ、あれ……? 嬉しいのに……なんか……感動しちゃって……」
春香「ちょっと、トイレ行ってきますね!」
伊織「……女泣かせ……」ボソッ
P「……っ!」
伊織「……あと、何人が…… 夜道刺されないように、気をつけなさいよ」
P「………はい」
伊織「小鳥も」
小鳥「っ!」
伊織「……大事なら……夜はこいつを外に出すんじゃないわよ……」
小鳥「………」コクッ
ガチャ
P「あぁ、美希……おはよう……」
美希「ハニー……? みんなも、どうしたの?」
伊織「……よりにもよって本命が……」
P「……あのな、俺……俺と小鳥さんは……」
終わり
安価なのに空気読まれすぎて、逆に戸惑った……文章ごちゃごちゃで申し訳ない……
いおりん、はるるんファンの方、勝手に振ってごめんなさい
支援ありがとうございました
Entry ⇒ 2012.10.20 | Category ⇒ アイマスSS | Comments (0) | Trackbacks (0)
奉太郎「古典部の日常」 3
それで水族館から1時間程自転車を漕いで帰ったのだが……
里志「おかえり、ホータロー」
なんで、家の前にこいつが居るのだろうか。
いや、里志だけではない。
摩耶花「どこに行ってたのよ」
伊原もだ。
える「え、ええっと」
奉太郎「なんでお前らが俺の家の前に居るんだ」
すると伊原が盛大な溜息をつき、ひと言。
摩耶花「ちーちゃんが休みって聞いたから、折木の風邪が移ったと思って来たんじゃない!」
摩耶花「ちーちゃんの家に行っても居ないし……」
摩耶花「折木の家に来ても誰も居ないし!」
摩耶花「一体どこに行ってたのよ」
あ、ひと言ではなかった。
というか、なるほど。
千反田が心配でまずは千反田の家に行ったが誰もおらず。
その後、俺の家に里志と伊原で来たが……そこにも誰も居なかった。
どうしようかと呆然としているところに俺と千反田が戻ってきたと言う訳だ。
解決解決。
える「今度、動物園に行きましょう!」
いや、解決する訳がなかった。
摩耶花「え? 動物園?」
摩耶花「ごめん、ちょっと意味が……」
ま、そうだろうな。
そして里志が少し考える素振りをしてから、口を開く。
里志「大体分かったかな」
里志「つまりホータローと千反田さんは遊びに行ってたって訳だ」
里志「二人とも学校を休んでね」
こいつも随分と勘が冴えるようになってきたな……
悔しいが、当たっている。
奉太郎「まあ……そうなるな」
摩耶花「折木が無理やり連れ出したんじゃないの?」
こいつは、よくもこう失礼な事を言える物だ。
える「ち、ちがいます! 私が水族館に行きたいと言ってですね……」
里志「あのホータローがよく一緒に行ってくれたね」
里志「僕はどっちかというと、そっちの方が驚きかな」
奉太郎「ずっと寝てたからな、体を動かしたくなったんだ」
摩耶花「折木、やっぱりまだ熱あるでしょ……あんたが自分で動きたいなんておかしいよ」
……そこまで俺は動かない奴だっただろうか?
里志「まあまあ」
里志「確かにそれは気になるけどね……でも千反田さんも風邪じゃ無かったし」
里志「ホータローも元気になったってことでよかったんじゃないかな?」
そう言うと、里志は俺の方を向き、いたずらに笑った。
……里志、少し感謝しておくぞ。
とりあえずこれで一安心といった所か。
摩耶花「まあ……ちーちゃんが無事ならいっか」
いや、まだだ。
こいつが居た。
摩耶花「ちーちゃん、どういうこと?」
える「今日、水族館に行ってですね」
える「是非、動物園にも行ってみたいと思ったんです!」
さいで。
里志「ははは、いいんじゃないかな?」
える「そう思いますか、福部さん! 」
摩耶花「そうね、私もちょっと行ってみたいかな」
える「摩耶花さん!」
里志と伊原は承諾してしまった。
……俺の方を見ないで欲しい。
奉太郎「……分かった、今度行こう」
最近ではほとんど諦めに近い感じとなってきているが……ま、いいか。
える「良かったです、楽しみにしていますね」
最悪の展開は避けられたし、良しとしよう。
つまり、俺が言う最悪の展開とは、千反田が俺の家に泊まったという事が伊原と里志にばれると言う事だ。
そんな事がばれてしまったら、俺はこれからずっと風邪で学校を休むことになりそうである。
奉太郎「よし、じゃあ今日は帰るか」
里志「そうだね、そろそろ日が落ちて来ているし」
摩耶花「うん、じゃあ予定とかは明日の放課後に決めようか?」
える「はい! では明日の放課後に部室に集合で」
奉太郎「ああ、それじゃあまたな」
油断していた。
釘を……刺しておくべきだった。
俺は振り返り、手を挙げ別れの挨拶をした。
千反田の口が動いているのが分かった、何を言おうとしている?
さようなら? とは違う。
口が「お」の形になる。
お……お……
これは、風邪を引くことになりそうだ。
える「折木さん! また泊まりに行きますね!」
伊原と里志が千反田の方を向く、ついで伊原の叫び声。
摩耶花「お!れ!きー!」
ドアを閉めよう、俺は知らん。
鍵を掛け、チェーンを掛けると俺は外から聞こえる叫び声に震えながら、静かにコーヒーを淹れるのであった。
そして、ようやく外が静かになった頃、家の電話が鳴り響いた。
奉太郎「里志か、どうした」
里志「いきなりそれかい? ホータロー」
里志「僕が摩耶花をなだめるのに使った労力をなんだと思っているんだ」
奉太郎「おー、それはすまなかったな」
里志「……ま、いいさ」
里志「それより少しは説明してくれると思って電話したんだけど」
里志「どうかな?」
奉太郎「今、近くにあいつらは?」
里志「んや、いないよ」
里志「家の方向が違うからね、なだめた後は別れた」
奉太郎「そうか」
里志「それで、話してくれるのかい?」
奉太郎「……少しだけな」
こうなってしまっては仕方ない、別にやましい事をした訳でもあるまいし。
里志「だろうね、ホータローがそんな事をするとは思えない」
里志「何か、理由があったのかい?」
奉太郎「理由、か」
奉太郎「あるにはあった」
里志「へえ、どんな?」
奉太郎「色々世話になってな、夜遅くになってしまっていたんだ」
奉太郎「そんな中、帰す訳にはいかなかった」
奉太郎「かと言って、無理に泊まれって言った訳じゃないからな」
里志「ふうん、それは意外だなぁ」
奉太郎「意外? 無理に泊まらせなかったのがか?」
里志「あのホータローがそれだけの理由で泊まらせたってのが意外だと思ったんだ」
奉太郎「……何が言いたい」
里志「やっぱり変わったよ、ホータローは」
奉太郎「それは……少し自分でも分かっている」
里志「自覚があったのか、前のホータローなら」
奉太郎「絶対に千反田を泊めていなかった、だろうな」
里志「そう、その通りだよ」
奉太郎「それで、結局お前は何が言いたいんだ」
奉太郎「前の俺の方が良かった、か?」
里志「いや? 今のホータローも充分良いと思うよ」
里志「ただ、ね」
里志「今のホータローは、ちょっと見ていて辛いんだ」
奉太郎「は? 意味が分からんぞ」
里志「……いや、なんでもない」
里志「まあ、事情が聞けて安心したよ! それじゃあ僕はこれで」
奉太郎「お、おい!」
……切られた。
客観的に見ても、昔の俺よりは幾分かマシだろう。
そのマシの判断基準になる物はなんなのかは分からないが、一般的に見て、という事にしておく。
あいつの言っている事は、時々意味が無いこともあるし、大して相手にしないのだが……少し気になるな。
気になる、か。
俺にも千反田が乗り移り始めているのかも知れない。
あまり頭を使うと、熱がぶり返して来そうだ。
明日は……行くしかないだろうなぁ。
里志がなだめたと言っていたので、多少は安心できるが……
ううむ、今から寒気がするぞ。
いや、決めた。
男には腹を括らねばならない時がある物だ。
それが今なのか? という疑問は置いといて、とりあえず頑張ろう。
さて、明日はなんて言い訳をしようか、と思いながら残りの時間は消費されていった。
今日の作戦はこうだ。
まず、朝は伊原をなんとか回避する。
できれば千反田も回避した方がいいだろう。
なんせ、セットでいる可能性が高い。
そして放課後は、里志と一緒に部室に行く。
以上、作戦終わり。
奉太郎(はあ……行くか)
朝から気分が悪いな、全く。
放課後までは生きていたい、俺にも生存本能はある。
いつもの場所で、里志を見つけた。
奉太郎「おはよう」
里志「おはよ、ホータロー」
奉太郎「昨日はすまんな、伊原の事」
里志「なんだい、そんな事か」
里志「構わないさ、摩耶花をなだめるのも慣れてきたしね」
奉太郎「そうか、じゃあ一つ頼みがあるんだが」
里志「ホータローが? 珍しいね」
里志「うーん、生憎そういう趣味はないんだけどね」
奉太郎「……里志」
里志「ジョークだよ、でも一緒にはいけないかなぁ」
里志「今日は委員会があるからちょっと遅れそうなんだ」
早くも、作戦は失敗に終わってしまった。
奉太郎(仕方ない、千反田と行くしかないか)
奉太郎(伊原と二人っきりだけは、避けたいしな)
まずは、千反田と合流しよう。
ちなみに、俺はA組で千反田はH組である。
奉太郎(遠いな……)
しかし、ここで省エネしていては後が怖い、なんとかH組まで到達し、扉を開ける。
人は結構居たが、千反田が見当たらない。
奉太郎(もう部室に行ったのだろうか?)
ならば仕方ない、部室の様子をちょっと覗いて、居なかったら帰ろう。
ドアを、そっと開ける。
奉太郎(静かに開けよ……)
少しだけ開いた隙間から、中を覗いた。
見えるのは……伊原。
千反田は見当たらない。
奉太郎(さて、帰るか)
誰も俺を責める事はできない。
考えてみろ、わざわざ牙を向いて待っているライオンに飛び込んで行く餌などは居るはずがない。
という訳で、俺の行動も別段普通の事である。
教室のドアを閉めて変な音が出ても困る、そのままにして帰る事にした。
足音を立てないように、そっと階段まで戻る。
ここまで来れば、もう安全だろう。
摩耶花「あれ、折木じゃん」
摩耶花「どこに行くの?」
奉太郎「い、いや……ちょっと散歩を」
摩耶花「あんたが散歩? 珍しいわね」
摩耶花「でも疲れたでしょ、部室で休んでいきなさいよ」
奉太郎「あ、ああ。 そうしようかな」
会話だけ見れば、普通の会話だろう。
だが、伊原の手は俺の肩を掴み、骨でも砕く勢いで力を入れている。
渋々、伊原の後に付いて行く。
付いて行くという表現は正しくないだろう。
正しくは、連れて行かれてる。
摩耶花「よいしょ」
そう言うと、伊原は席に着く。
ここで小さくなっていてもどうしようもない。
いつも通りにしておこう。
そう思い、席に着き本を開く。
やはりというか、部室には俺と伊原だけだった。
3分ほどだろうか? 突然伊原が机を叩く。
奉太郎(言ってから叩いてくれよ……)
寿命が縮まることこの上ない。
奉太郎「ど、どうした」
摩耶花「昨日の事、話してくれるんでしょうね」
奉太郎「……やはりそれか」
摩耶花「まあね、ちーちゃんに聞いても答えてくれないし……あんたに聞くしかないじゃん」
奉太郎「ちょ、ちょっと待て」
奉太郎「伊原は関係無いだろう、今回の事は」
摩耶花「私の友達に何をしたか聞いてるのよ!!」
奉太郎(千反田とは違う形で後ずさるな、これは)
奉太郎「わ、わかった」
摩耶花「ま、そうだとは思ったわ」
摩耶花「折木に何かする度胸なんてあるわけないしね」
奉太郎(……ひと言余計だ、こいつは)
奉太郎「それで、千反田が飯を作ってくれたのは知ってるだろ」
奉太郎「それを食べて少し話をしていたら、すっかり辺りが暗くなっていて」
奉太郎「そのまま帰す訳にもいかないから、泊まるか? と聞いたんだ」
摩耶花「ふうん」
奉太郎「別に強制した訳じゃないぞ」
摩耶花「そうなんだ、分かったわ」
なんだ、意外と素直だな……
奉太郎「……まだ何かあるのか」
摩耶花「前からすこーしだけね、気になってたんだけど」
摩耶花「折木って、ちーちゃんの事好きなの?」
奉太郎「は、はあ!?」
やられた、こいつの目的はこれか。
摩耶花「別に嫌なら言わなくてもいいよ、少し気になっただけだし」
奉太郎「……前から、って言ったな」
奉太郎「いつぐらいからそう思っていたんだ」
摩耶花「もう大分前、去年の文化祭の時くらいだったかな?」
そ、そんな前から?
奉太郎「……そうか」
摩耶花「で、どうなの?」
伊原には、話しておくべきなのだろうか?
いや、むしろこれは隠すことなのか?
伊原がそう思っていると知った以上、隠すのにも労力が必要になるだろう。
ならば、話は早い。
否定する必要も、無い。
俺がつい最近気付いた事を、伊原は去年から知っていたと言うのだ。
それを聞いた俺が無理に隠しても、どうせいずればれてしまう。
摩耶花「へええ、あの折木がねぇ……」
奉太郎「……悪かったか」
摩耶花「ううん、折木も一緒なんだなって思ってね」
奉太郎「一緒?」
摩耶花「私たちとって事」
摩耶花「あんた、何事にもやる気出さなかったじゃない」
奉太郎「まあ、否定はしない」
摩耶花「そんな折木でも恋とかするんだなぁって思っただけ」
奉太郎「……俺も確信したのは最近だったがな」
摩耶花「そうだろうね、あんたって自分の変化には疎そうだし」
奉太郎「……悪かったな」
しかし周りから見たらそれほどまでに分かりやすかったのだろうか……
まあ、もう10年近い付き合いになる、気付かない方がおかしいのかもしれない。
摩耶花「ところでさ、あんたは私に聞かないの?」
奉太郎「……何を?」
摩耶花「ちーちゃんが折木の事をどう思っているか」
摩耶花「私がちーちゃんに聞けば、答えてくれると思うよ」
奉太郎「それはいい」
摩耶花「即答、ね」
奉太郎「知りたくないと言えば嘘になるが、それは千反田の口から直接聞くべきだろ」
奉太郎「面倒くさいのは嫌いなんだ」
摩耶花「やっぱり、折木は折木ね」
奉太郎「それはどうも、話は終わりでいいか?」
摩耶花「うん、ごめんね引き止めちゃって」
奉太郎「別に、いいさ」
摩耶花「ちーちゃんは今日部活に来れないってさ、さっき廊下で会った時に言ってた」
奉太郎「じゃあ、話し合いは明日だな。 俺は帰る」
奉太郎「ああ、じゃあな」
全く、なんという余計な行動だったのだろうか。
だが、別に話したからと言って何も変わる事ではないだろう。
気楽に、考えるか。
それにしても伊原とあんな感じで話したのは初めてじゃないか?
根はいい奴と言うのも、間違いではないな。
今日は帰ろう、風呂に入りたい気分だ。
第9話
おわり
私は、聞いてしまいました。
聞いてはいけない事だったでしょう。
ですが、私に聞きたいという感情さえ無ければ……聞かずに済んでいました。
つまり私は、折木さんの気持ちを一方的に知ってしまったという事です。
何故こんな事になったかというと、少しだけ時間を遡らないといけません。
私はいつも通り、部室に入ろうとしました。
そこで、丁度階段を上ってきた摩耶花さんと鉢合わせとなります。
える「摩耶花さん、こんにちは」
える「他の方は、まだみたいですね」
摩耶花「あ、ちーちゃん」
摩耶花「後で皆も来ると思うよ」
える「えっと、それなんですが……」
える「すいません、今日はちょっと用事が入ってしまいまして」
折角の話し合いだったのに、少し残念です。
ですが、家の用事は絶対に外せないので仕方がありません。
摩耶花「あー、そうだったんだ」
摩耶花「じゃあ私が皆に伝えておくよ」
える「そうですか、では宜しくお願いします」
私は頭を下げると、摩耶花さんが部室に入るのを見てから、ドアを閉めました。
そう思いながら階段に差し掛かった時です、聞き覚えのある足音がしました。
える(これは、折木さんのでしょうか?)
今でも、何故こんな行動を取ったのか分かりません。
私は咄嗟に部室の前まで戻り、更に奥の物陰に隠れました。
と言っても、大して隠れられていません。
恐らく、見つかるでしょう。
ですが、折木さんは何かに怯えている様な顔をし、視線が泳いでいます。
そして私に気付かないまま、部室の扉を少し開けると、中を覗いていました。
える(何をしているのでしょうか?)
そして覗いた後にすぐ、部室から去ろうとします。
折木さんが去ってからほんの数秒後に、ドアを開けて摩耶花さんが出てきました。
摩耶花さんは階段の方まで走って行くと、折木さんと会った様です、話し声が聞こえてきました。
える(折木さんは、どこか落ち着きがなかったのでばれなかったみたいですが……)
える(摩耶花さんが来たら、ばれてしまうかもしれません)
そう考えた私は、一度部室の中へと入ります。
こんな事さえしなければ……
そして、やはり摩耶花さんと折木さんは部室に向かってきました。
える(どこかに、隠れないと……)
私が隠れた場所は、部屋の隅にあるロッカーの中でした。
える(……私は一体何をしているのでしょうか)
そして、少し時間を置いて会話が始まります。
どうやら昨日の事の様です。
何度か迷いました、ここから出て行こうかと。
ですがタイミングを失ってしまい、次に始まった会話で更に失ってしまいます。
「折木って、ちーちゃんの事好きなの?」
摩耶花さんが言う、ちーちゃんとは私の事です。
つまり私の事を好きなのか? と折木さんに聞いている事になります。
私はこの先を聞いてもいいのでしょうか?
ダメです、聞いてはダメな内容です。
そして、聞いてしまいました。
「……そうだ、俺は千反田の事が好きだ」
その言葉を、聞いてしまいました。
私は、どんな顔をしていたのでしょうか。
嬉しいという感情が溢れていたのは分かります。
ですが、何故……私の目からは涙が落ちているのでしょうか?
折木さんの気持ちに、私は答えていいのでしょうか?
その資格が、私にあるのでしょうか?
考えれば考えるほど、涙が溢れてきます。
そして、ある事に気付きます。
える(これが、私が自分で答えを出さないといけない問題なのでしょう)
える(折木さんの事ばかり考えてしまうのは、そういう事だったんですね)
える(私は……折木さんに)
える(答えていいのでしょうか)
える(好きです、と……答えていいのでしょうか)
そう考えながら、やがて誰も居なくなった部室に出ると、静かに外に出ます。
今回は、少し卑怯でした。
私は自分の行動を後悔しながら、帰路につきました。
第9.5話
一章
おわり
里志「ホータロー、どうしたんだい?」
そして、何故か里志と二人っきりだ。
奉太郎「この状況をうまく言葉にできないものか考えていた」
里志「それはまた、難しい事を考えているね」
里志「だって僕でさえ、この状況は理解に苦しむよ」
そう言う里志の顔はいつも通りの笑顔。
俺は小さく息を吐くと、一度整理することにした。
俺たち4人は、動物園に来ていた。
と言うのも千反田がどうしても行きたいらしく、特にすることが無い暇な高校生の俺たちは行くことになったのだが。
最初は4人で行動していた筈だ、だったら何故里志と居るのか?
確か、伊原と千反田が一回別行動をしようと言って……どこかに行ってしまったから。
確かというのは、俺が単純に話をちゃんと聞いていなかったからである。
すると里志は……
里志「え? てっきりホータローが聞いていると思ったんだけど」
と答えた。
俺と里志は数秒間、顔を見合わせるとお互いに溜息を吐く。
里志「うーん、じゃあ動物でも見ながら探そうか」
と里志は意見を述べた。
無闇に探すよりは、確かに効率がいいかもしれない。
そう思った俺は渋々承諾したのだが……
園内をほとんど見終わっても、伊原と千反田は見つからなかった。
そして成り行きでウサギ小屋で休憩を取っている所である。
なんといっても男二人だ。
奉太郎「それで、大体見回ったと思うが」
奉太郎「どうするんだ、これから」
里志「僕は別にホータローと二人でも構わないんだけどね」
里志「一生に一度、あるかないかだよ」
里志「ホータローと二人で見る動物園、なんてさ」
……こいつはどうにも前向きすぎる。
奉太郎「俺が嫌なんだよ、何が楽しくてお前と二人で周らないといけないんだ」
里志「はは、そう言われると困るね」
しかし、本当に困ったな。
動物園はそこまで広くはないが、迷路みたいに入り組んでいる。
全部周ったとしても、すれ違いになる可能性が高い。
ん? 待てよ。
連絡を取る方法……あるじゃないか。
里志「前にも言ったけどね、携帯じゃなくてスマホだよ」
さいで。
奉太郎「んで、そのスマホで伊原に連絡は取れないのか?」
里志「さすがホータローだよ! その考えは無かった!」
どこか演技っぽく言うと、里志は続けた。
里志「ってなると思うかい? 今日は忘れてきたんだ」
肝心な時に……
奉太郎「……帰って明日謝るか」
里志「それはダメだよホータロー」
里志「だって、来る時は摩耶花と千反田さんに道を任せていただろう?」
里志「僕たちだけじゃ、家に帰り着く事は不可能だね」
奉太郎(よくそんな情けない事を自信満々に言えるな)
奉太郎「……そういえばそうだったな」
奉太郎「それじゃあ、どうするか……このままここに住むか?」
里志「悪い案では無いね、でもそれだと学校に行けなくなってしまう」
里志「動物に囲まれて朝を過ごす、一度はやってみたいけどね」
里志「でもやっぱり……もう一回、周ってみるのが最善かな?」
奉太郎「……分かった、もう一度周ろう」
そう言い、ウサギ小屋から出ようとした時に、視線を感じた。
なんかこう……獰猛な動物に睨まれるような。
里志「タイミング、完璧じゃないか!」
里志「摩耶花! 助かったよ」
檻に入っているのは俺、里志、そしてウサギ達。
それを外から不審者を見る目で見ているのが伊原。
奉太郎(ウサギ達の気持ちが、少し分かった)
摩耶花「時間も場所も言ったはずよね、なんでこんな所にいるのよ」
里志「ご、ごめんごめん。 ホータローと周っていたらついつい忘れちゃって」
摩耶花「ふーん、折木と回った方が楽しいんだ。 ふくちゃんは」
奉太郎(1/100で悪かったな)
摩耶花「ま、いいわ」
摩耶花「鍵閉めておくから、またね」
摩耶花「ちーちゃん、行こ?」
これからの人生、ウサギと共に過ごすことになるのだろうか。
える「え、ええっと……私は……」
里志「千反田さん! 開けて!」
摩耶花「ちーちゃんに頼るんだ? へえ」
奉太郎「……はぁ」
奉太郎「そろそろ行くぞ、時間が勿体無い」
そう言うと伊原もようやくふざけるのを止め、俺たちが檻から出るのを待つ。
奉太郎「それで、お前たちは何をしていたんだ」
摩耶花「ちょっと、買い物をね」
買い物? 何かお土産でも買っていたのか?
える「これです!」
そう言いながら千反田が取り出したのは、ウサギの置物?
奉太郎「これを? 部屋にでも置くのか?」
える「部屋と言えばそうです、部室に置こうと思って……」
なるほど。
確かにあの部室は簡素すぎる。
伊原が描いた絵は映えているが、どうにも寂しい。
摩耶花「そ、それは」
伊原の態度を見て、察した。
大方、何か里志に買ったのだろう。
奉太郎「ま、いいさ」
奉太郎「それより一度、飯にしよう」
里志「うん、ウサギと遊んでいたらお腹が減っちゃったよ」
その言い方だと、俺もウサギと遊んでいたみたいに聞こえるのでやめてほしい。
える「ウサギさんと遊ぶ折木さん……ちょっと気になります」
ほら、こうなるだろ。
奉太郎「俺は遊んでないぞ、見ていただけだ」
里志「そうそう、ホータローがウサギと遊ぶところはちょっと見たくないかな」
える「……そうですか、残念です」
動物を見てから肉を食べる気は、あまりしなかった。
伊原と千反田も同じ考えのようで、麺類を頼んでいる。
だが、里志は肉を食べていた。
人それぞれなのだろうか、あまり気にする様な奴には見えないし。
摩耶花「ふくちゃん、よくお肉食べられるね」
里志「それはそれ、これはこれだよ」
里志「一々気にしていられないさ」
ふむ、こういう考えもありなのかもしれない。
等と、少し哲学的な事を考えながら昼飯を済ませる。
どうやらプレゼントでも渡すつもりなのだろう。
それに着いて行く様な真似はさすがの俺でもできない。
える「あ、あの。 折木さん」
対面に座る千反田が話しかけてきた。
える「これ、プレゼントです」
これは意外。
俺にもプレゼントをくれる人が居たとは……
奉太郎「おお、ありがとう」
千反田がくれたのは、ペンダントだった。
中に写真が入っており、その写真には綺麗な鳥が写っていた。
しばらくペンダントに見とれていた。
気付くと、千反田が俺の方をじーっと見つめている。
奉太郎「……今は付けないからな」
える「え、はい……そうですか」
奉太郎「……恥ずかしいだろ」
える「そ、そうですよね。 分かりました」
そんな会話をしている内に、伊原と里志が戻ってきた。
慌ててペンダントを隠す、なんとなく。
奉太郎「さて、これからどうする?」
里志「僕とホータローは大体見て周っちゃったからなぁ」
里志「二人で周ってきたらどうだい? 僕達はここで待ってるよ」
える「いいんですか? じゃあ摩耶花さん、行きましょう」
摩耶花「今度はフラフラしないでここに居てね、二人とも」
はいはい、分かりました。
女二人で話したい事もあるだろうし、これでいいか。
何より座っている方が楽だ。
と言っても里志と二人で話す事も無いのだがな……
それは俺だけの話であって、こいつはあるみたいだ。
奉太郎「なんだ」
里志「僕が摩耶花に貰ったもの、分かるかい?」
奉太郎「さあな、見当もつかん」
里志「これだよ」
そう言って、里志はテーブルの上にそれを置いた。
ゴトン、という大きな音をたてて。
置かれたのはかなり重そうな招き猫だった。
奉太郎「これは……」
里志「正直な話、最初はまだ怒っているのかと思ったよ」
里志「でもそんな感じじゃなかったんだ、それで仕方なく受け取った」
奉太郎「気持ちが大切って奴じゃないのか」
里志「でもこの気持ちはちょっと重すぎる」
奉太郎「確かにな、随分重そうだ」
里志「かなり、ね」
里志「僕の巾着袋が破けないかが、今一番心配な事だよ」
にしても。
奉太郎(でかいな……)
テーブルの上に置かれた招き猫は、とても大きな威圧感を放っていた。
里志「それより、だ」
里志「ホータローは何を貰ったんだい?」
見られていたか? いや、そんな筈は無い。
奉太郎「何も貰ってないぞ」
里志「嘘はよくないなぁ、友達じゃないか僕達」
奉太郎「……」
最近になって、里志はやたら勘が鋭くなってきている。
俺にとっては迷惑な事この上ない。
里志「何年友達やってると思っているんだい? 顔を見ればすぐに分かるさ」
奉太郎「なるほど、まあいい、確かに貰った」
里志「何を?」
奉太郎「それは言わない」
里志「残念だなぁ」
奉太郎「一つだけ言えるのは、その招き猫より小さいって事くらいだな」
里志「はは、いい例えだ」
そう言うと、里志は窓から外を眺めた。
奉太郎「そうか? いつも通りだろ」
里志「いいや、違うね」
里志「ホータローとこういうちょっと離れた場所に来るっていうのは、新鮮だよ」
里志「最近はホータローも活発的とは程遠いけど、動くようにはなってきたしね」
里志「そんな毎日が、少し新しくて楽しいのかもしれない」
奉太郎「ふうん、そんなもんか」
里志が楽しいと自分で言うのも、結構珍しいな。
里志「それと、こういう突発的な災難ってのもね」
そう言い、外を指差す。
なるほど、これは確かに災難だな。
空は、どんよりとした色をしていた。
そんな会話を聞いていたのか、やがて雨は降り出した。
里志「こりゃ、二人とも雨に降られたね」
奉太郎「だろうな、一緒に行ってなくて良かった」
だが俺達は二人とも傘なんぞ持っていない。
ならば諦めて降り注ぐ雨を眺めているのが効率的と呼べる。
それに伊原にはフラフラするなと言われている、これならば仕方ない。
奉太郎「いつまで降るんだろうな」
里志「うーん、すぐに上がりそうだけど、どうだろうね」
里志も俺と同じ考えなのか、探しに行こうとは言わなかった。
奉太郎「いよいよする事が無くなったな」
里志「そうだね、こうしてみると男二人ってのは寂しいもんだ」
奉太郎(さっきまで、ウサギ小屋ではしゃいでたのはどこのどいつだ)
俺は未だに上がりそうに無い雨を見ながら、コーヒーを一杯頼む。
里志「それにしても、後2年かぁ」
奉太郎「2年? 何が」
里志「僕達が高校を卒業するまでだよ」
奉太郎(卒業か、考えたことも無かったな)
奉太郎「まだ2年もある」
里志「ホータローにとってはそうかもしれないけど、僕にとっちゃ後2年なんだよ」
それもまた、感じ方の違いと言うものだろう。
奉太郎「楽しい時間はすぐに過ぎる、か」
里志「……ホータローがそれを言うとは思わなかったかな」
奉太郎「俺にもそれを感じる事くらいはあるさ」
里志「ふうん、ホータローがねぇ」
奉太郎「……里志は毎日が楽しそうだな」
奉太郎「それもそうだな」
里志「でも、たまには楽しくない日も欲しいとは思うけどね」
奉太郎「……なんで、そう思う?」
里志「さっきホータローが言ったじゃないか、楽しい時間はすぐに過ぎるって」
里志「つまり楽しくない時間なら、長く感じるって事さ」
里志「そうやって、一日を大切にしたいって思うこともある」
里志「それだけの話だよ」
奉太郎「そうか、じゃあ俺は随分と長い高校生活を送れそうだ」
里志「それはどうかな? 終わってみると案外早い物だよ」
現に既に高校生活の1年は過ぎている……少し納得できるかもしれない。
里志「それとね、終わってから気付くこともあるんだ」
奉太郎「終わってから?」
里志「うん、その時はつまらないって思ってた日々も、終わってから振り返ると楽しかった日々に思える」
里志「つまり結局は、時間が過ぎるのは早いんだよ」
里志「楽しくない日が欲しいって言うのは、無理な話かもね」
奉太郎「現に今も退屈で仕方ない」
里志「ははは、それには同意するよ」
そう里志が言うと、少しの沈黙が訪れた。
ふと窓の外に視線を流すと、どうやら雨が上がったようで、雲の隙間から陽が差し込んでいる。
里志「ホータロー」
里志に呼ばれ、顔を向けると店内の入り口を指差していた。
そのままそっちに顔を向けると、雨に降られた千反田と伊原の姿見える。
伊原は俺たちを見つけると、どこか不服そうに、睨んでいた。
奉太郎「千反田はともかく、伊原になんと言われるかって所か」
里志「そうそう、よく分かってるよホータローは」
奉太郎「フラフラするなと言ったのは、伊原だったと思うがな……」
里志「それを摩耶花の前で言ってごらん、摩耶花は絶対にこう言うね」
里志「折木は臨機応変って言葉の意味、知ってる?」
里志「ってね」
奉太郎「里志がそこまで断言するなら、言わない事にしよう」
里志「懸命な判断だよ、ホータロー」
そう言い笑う親友と共に、腕を組み、待ち構えるライオンの元へと食われに行くのであった。
第10話
おわり
里志とはあんな事を話していたが、時が経つのはやはり早い。
少し前まで、やっと高校生かー等と思っていた物だ。
気付けば進級していて、そして気付けばすぐ目の前に夏がやってきている。
初夏と言うのだろうか、セミが鳴いていてもなんもおかしくない暑さ。
そんな暑さに叩き起こされ、俺は不快な朝を迎えた。
奉太郎(暑いな……)
唯一幸いな事は……今日は日曜日、学生身分の俺は休みである。
しかしとりあえずは水を飲もう、このままでは家の中で死んでしまう。
寝癖も中々に鬱陶しいが、まずは喉を潤さなければ。
そんな事を思い、リビングに赴く。
リビングに着くと、いつ帰ったのだろうか……姉貴が居た。
供恵「おはよ、奉太郎」
奉太郎「帰ってたのか、おはよう」
確かこの前海外へ行ったのが2ヶ月くらい前か?
いや、1ヶ月前くらいか。
奉太郎「今回は随分と早かったな」
供恵「そう? 外国に行ってると感覚が狂うのよねー」
そんなもんか。
そう言いながら、姉貴はバッグから物を探す素振りをする。
俺は姉貴に視線を向け、水を飲みながら姉貴の話に耳を傾けた。
供恵「お土産、買ってきたわよ」
供恵「買ってきたってのは変ね、貰ってきたが正しいかしら」
そう言い、手渡されたのは4枚のチケットだった。
奉太郎「沖縄旅行、3泊4日?」
供恵「そそ」
供恵「この前の友達らと行って来なさい」
沖縄か、確かにありがたいが……
しかし、そんな時間は無いだろう。
奉太郎「あのなぁ、俺たちは高校生だぞ」
奉太郎「1週間近くも離れるなんてできない、学校があるしな」
供恵「ふうん、そっか」
姉貴は素っ気無く言うと、それ以降は口を開こうとしなかった。
話はどうやら終わったらしい。
奉太郎(里志は確か妹がいたな、あいつにあげるか)
チケットを渡すついでに里志と遊ぼうかと思ったが、外の暑そうな空気にその気は無くなる。
奉太郎「一応礼は言っておく、ありがとう」
供恵「可愛い弟の為だからねー」
奉太郎「それと、一ついいか?」
供恵「ん? なに?」
奉太郎「このチケットって、海外のお土産では無いだろ……」
供恵「そりゃーそうよ、商店街の人に貰ったんだもん」
さいで。
ま、とにかくこのチケットは次に会った時にでも渡すとして……
今日は何をしようか?
奉太郎(あれ、俺ってこんな行動的だったか?)
いや、違う。
別にする事なんて求めていない。
ただ、ごろごろとしていればいいだけだ。
そう思うと、寝癖を直すのもなんだか面倒になってきた。
その結論に至ってから、俺の行動はとても単純な物になる。
30分……1時間……クーラーが効いたリビングで過ごす。
やはり、こうしているのが俺らしいという事だ。
そんな事を考え、しかし部屋まで戻るのも面倒だな、など考えているときにインターホンが鳴った。
……リビングには姉貴もいる、任せよう。
供恵「はーい」
供恵「あ、久しぶりね」
供恵「ちょっと待っててねー」
姉貴が転がる俺の頭を足で小突く。
もっと呼び方という物があるだろう……全く。
奉太郎「……なんだ」
供恵「と・も・だ・ち」
供恵「来てるわよ」
その時の姉貴の嬉しそうな顔と言ったら……省エネモードに入った俺には起き上がるのも辛い。
しかし、尚も頭を蹴り続ける姉貴に負け、今日一番嫌そうな顔をしながら起き上がる事にした。
無視し続けては後が怖い、これが本音というのが悲しい。
奉太郎(寝癖直すのも面倒だな……このままでいいか、とりあえずは)
伊原や千反田まで居たら、とても面倒な事になって仕方ない。
しかし、悪い予感というのは良く当たる物で、玄関のドアを開けると見事に全員が揃っていた。
奉太郎(暑いな……)
顔だけを出し、問う。
奉太郎「日曜日にわざわざ何をしに来た」
里志「古典部としての活動だよ」
休日に? 馬鹿じゃないのかこいつらは。
奉太郎「明日でいいだろ……」
摩耶花「あんた今何時だと思ってんの? 寝癖も直さないで……」
奉太郎「今日は家でごろごろすると決めたんだ、帰ってくれ」
える「今日でないとダメなんです!」
迫る千反田に咄嗟に後ろに引くと、頭だけを出していた俺は当然の様に挟まる。
幸い、その失敗に気付いた者は居なかった。
里志「千反田さんもこう言ってるし、折角来たんだからさ、いいじゃないか」
奉太郎「……今日は暑すぎる、今度にしないか」
暑い、休日、面倒くさいの三拍子、断る理由としては結構な物だろう……多分。
里志「だってさ、どう思う? 二人とも」
里志はそう言うと、二人の方に振り返り答えを促した。
摩耶花「いいから来なさいよ、暑いのは皆一緒でしょ」
える「アイスあげますから、はい!」
奉太郎(アイス……? 物凄く子供扱いされているな、俺)
当然、他二名は来い、と言うだろう……だがここで引くほど俺も甘くは無い。
里志「はあ、仕方ないなぁ」
少しだけ残念そうな顔を里志がしたせいで、やっと帰ってくれるのかと思ったが……里志が無理やりドアを開いてきた事で若干だが焦った。
奉太郎「お、おい」
里志は大きく息を吸うと、ひと言。
里志「おねえさーん!」
この馬鹿野郎。
それを予想していたかの様に、直後に姉貴が現れる。
供恵「里志くん、お久しぶり」
供恵「どしたの?」
くそ、最近は里志も俺の使い方を分かってきたのか……やり辛い。
姉貴に苦笑いを向けながら、俺は言う。
奉太郎「今から、皆で遊びに行くところだ。 ははは」
供恵「ふ~ん、行ってらっしゃい」
姉貴は物凄く嬉しそうに笑うと、リビングに戻っていった。
それを見届けた後、満足気に笑う里志に向け、ひと言伝える。
奉太郎「……覚えとけよ、里志」
里志「はは、夜道には気をつけておくよ」
こんな感じで、俺は折角の休みだと言うのに古典部の部室まで足を運ぶはめになった。
全員が席に着き、話を始める。
摩耶花「そうそう、この前ふくちゃんと遊んだときなんだけどね」
摩耶花「30分も遅れてきて、笑いながら謝ってきたの」
摩耶花「少し遅れちゃったね、ごめんねーって」
摩耶花「酷いと思わない!?」
える「そうですね……福部さん、それは少し酷いと思いますよ」
里志「千反田さんに言われちゃうと、参っちゃうなぁ」
これが古典部としての活動か、なるほど納得! ……帰ってもいいだろうか。
頬杖を突きながら俺は異論を唱える、当然だ。
奉太郎「そ、れ、で」
奉太郎「古典部の活動ってのはこの事か?」
数秒の間の後、千反田が思い出したように手を口に当てた。
える「……そうでした! 今日は目的があって集まったんでした!」
奉太郎(おいおい……)
溜息を吐きながら、新しく設置されたウサギの物置に目をやった。
窓際に置かれたそれは日光に当てられ見るからに暑そうだ、可愛そうに。
える「それでですね、今日集まったのは……」
える「今年の氷菓の事についてです!」
里志「ああ、文化祭に出す奴だね」
摩耶花「でも今年って文集にするような事……ある?」
奉太郎「あれって毎年出すのか?」
摩耶花「当たり前でしょ、3年に1回とかどんだけする事のない部活なのよ」
奉太郎「……ごもっとも」
里志「ホータローにとっては3年に1回でも随分な労力に違いないけどね」
俺は里志を一睨みすると、少し気になった事を千反田に訪ねる事にした。
える「はい、どうぞ」
千反田はそう言うと手を俺に向けた、司会はどうやら千反田努めてくれるらしい。
奉太郎「それが、今日じゃないとダメな事か?」
千反田は人差し指を口に当てながら、答える。
える「いえ、今日じゃないとダメという事は無いですね」
つい、頬杖で支えていた頭が少しずれる。
奉太郎「……さっき言っていたのはなんだったんだ」
奉太郎「俺の家の前で、今日じゃないとダメとかなんとか」
える「ああ、あれですか」
える「えへへ、そう言わないと、折木さんが来ないと思いまして」
奉太郎「……」
千反田は、こういう奴だっただろうか……?
どうにも最近は、里志やら千反田やら、俺を使うのに慣れてきているのだろうか。
そうだとしたら……俺の想像以上に面倒な事になってしまう。
奉太郎「……帰っていいか」
える「それはダメです! 氷菓の内容を決めないといけないです!」
一応持ってきていた鞄を掴む俺の手を、千反田が掴む。
奉太郎「……分かったよ、手短に終わらせよう」
渋々承諾するも、一刻も早く家に帰り休日を満喫したい。
里志「と言っても、内容が無いよね」
摩耶花「そうね、去年は色々とあったから良かったけど……」
里志「今年は内容がないよね」
える「困りましたね……」
里志「内容がないと困るね……」
奉太郎「別に何でもいいだろ、今日の朝は何食べたとかで」
里志「内容がないよう!」
里志が席を立ち、一際声を大きくし、嬉しそうな顔で言う。
どっちかというと……叫んでいた。
摩耶花「ふくちゃん、少しうるさいよ」
奉太郎「黙っててくれるとありがたいな」
える「福部さん、お静かに」
流石に3人に言われると、里志はようやく静かになった。
まさか千反田までもが言うとは思っていなかったが……
一旦静まった部屋の空気を変えるように、千反田が口を開く。
える「ではこういうのはどうでしょう? これから文化祭までに何かネタを見つける、というのは」
摩耶花「……それしか無さそうね」
悪い案ではない、が。
奉太郎「見つからなかったらどうするんだ? 今年は何か芸でもやるか?」
える「私、何もできそうな事が無いです……すいません」
摩耶花「ちーちゃん、本気にしないで」
える「あ、冗談でしたか」
こいつは本気で何か芸でもするつもりだったのだろうか。
少しだけ見たい気はするが……
俺は机を指でトントンと叩きながら言う。
奉太郎「後4ヶ月で何か見つけろというのは……難しいと思うぞ」
里志「あ、いい事思い出したよ」
またどうでもいい事を言うんじゃないだろうな、こいつは。
摩耶花「くだらない事言わないでね」
伊原もどうやら同じ意見の様だ。
しかし……伊原の視線が恐ろしいな、俺に向けられてないのが幸いだが。
里志「千反田さん、一つ気になることあったんじゃなかったっけ?」
奉太郎「ばっ……!」
える「あ、そうでした!!」
くそ、やられた。
今日は里志が口を開くとろくな事が無い。
える「折木さんに是非相談しようと思っていたんです!」
俺の返答を聞く前に、千反田は続ける。
える「実はですね、DVDの内容が気になるんです!」
える「す、すいません」
える「お話しても、いいでしょうか?」
奉太郎「……それと文集とどう関係があるんだ、里志」
里志「特にはないね、でも新しい発見ってのは重要な物だよ。 ホータロー」
奉太郎「……はぁ、分かった」
奉太郎「千反田、話してみてくれ」
える「ありがとうございます」
える「それでは最初から、お話しますね」
コホン、と小さく咳払いをすると話が始まった。
える「私は摩耶花さんが見終わった後に、お借りしました」
える「一つはコメディ物のお話で、もう一つはホラー物でした」
奉太郎(ホラーとコメディが同じDVDに入っているのか……少し見て見たいな)
摩耶花「それよ!」
伊原が机を叩き、声を挙げる。
こいつは俺の寿命を縮める為にやっているのではないだろうか? 等疑ってしまうのは仕方ない。
それと……急に大声を出すのは、本当にやめてほしい。
奉太郎「それって、何が?」
摩耶花「……もう片方は感動系だった!」
つまり二人が見ていた話の系統が違う……と言う事か?
える「そうなんです! 変ではないですか?」
一つ案が浮かんだ、成功すれば見事に手短に終わらせられるいい方法。
奉太郎「普通だろう、伊原がホラーを感動して見ていただけの話だ」
摩耶花「おーれーきー!」
おお、怖い。
仕方ない、逆転させよう。
奉太郎「じゃあこうだ、千反田が感動物を怯えながら見ていた、これで終わり」
える「お・れ・き・さ・ん! 真面目に考えてください」
……どっちに転んでも怖い思いをするのは俺の様だ。
なんで休日にこうも頭を使わなければいけないんだ……
全ての元凶の里志を見ると、それはもう楽しそうに笑っていた、あの野郎。
奉太郎「まず、DVDを見た日は同じ日か?」
える「はい、そうです」
奉太郎「ふむ」
可能性としては、あるにはあるな。
順番としては……
コメディをA、ホラーor感動物をBとして考えよう。
恐らく順番はA→Bに間違いは無い。
問題はそのBがホラーか感動物か、ということだ。
もう少し、情報が必要だな……
奉太郎「そのDVDはどこで見たんだ?」
える「場所……ですか?」
える「神山高校の、視聴覚室です」
奉太郎「視聴覚室? 学校まで来たのか?」
える「ええ、昨日は摩耶花さんと遊んでいまして……DVDを見ようって事になったんです」
える「それで、私の家には機材がありませんし……摩耶花さんの家は用事があり、お邪魔する事ができなかったので」
える「私たちは、学校で見ることにしたんです」
奉太郎(……学校の物を私物化する奴は初めて見たな)
ん? それはおかしくないか。
奉太郎「なんで一緒に見なかったんだ?」
える「見終わった後に、感想をお互いで交換しようと思っていたからです」
奉太郎(随分と暇な奴らだな……)
まあそれならば一緒に見なかったのは納得がいってしまう。
える「摩耶花さんが見終わった後は、今度は私が見させて頂きました」
える「私が終わった後、感想を交換しているときにお互いの意見が違う事に気付いたんです」
奉太郎「なるほど、な」
それならば話は早い、条件は揃っている。
深く考える必要も無かったな。
里志「……さすが、ホータロー」
里志「何か分かったみたいだね」
摩耶花「え? もう分かったの?」
奉太郎「まあな、でも一つ確認したい事がある」
える「確認、ですか?」
奉太郎「俺が聞きたいのは、何故もう一度二人で見ようとしなかったのか、だ」
奉太郎「意見が違った時点でそうするのが手っ取り早いだろ」
える「あ、そ、それでしたら……」
何故か千反田が言い淀む。
摩耶花「先生にね、ばれそうになっちゃって」
何をしているんだか、こいつらは。
奉太郎「……許可くらい取っておけ、次から」
奉太郎「だがそれのせいで、お前らも気付かなかったんだろうな」
える「は、早く教えてください! 気になって仕方がありません!」
奉太郎「わ、分かったから落ち着け、それと少し離れろ」
千反田が少し距離を取るのを見て、俺が話を始める。
奉太郎「結論から言うぞ」
奉太郎「そのDVDには、話が3本入っていたんだ」
奉太郎「そうだ、だから千反田達が見た内容が違っていた」
える「でも、でもですよ」
える「3本話があったとしますね」
える「わかり辛いのでA,B,Cとしますと」
奉太郎「千反田が言いたいのはこういう事だな」
千反田 A→B→?
伊原 A→B→?
える「そうです!」
える「でもこれですと、私と摩耶花さんが見ているお話が違うのはおかしくないですか?」
奉太郎「ああ、そうだな」
摩耶花「……そうだなって、まさかまた私とちーちゃんが見たものは受け取り方が違ったとか言うんじゃないでしょうね」
奉太郎「それを言うと後が怖い、だからさっき確認しただろ」
奉太郎「DVDを見た場所について、だ」
千反田 C→A→?
摩耶花 A→B→?
える「この場合なら、見た内容が違うと言うのも分かります……ですが」
える「どうして話の始まる場所が違っていたんですか?」
奉太郎「同じ場所で見た、というのが原因だ」
奉太郎「一度DVDを抜いていれば、こんな事は起こり得ない」
奉太郎「伊原がA→Bと見た後に巻戻しが行われないまま、千反田がC→Aと見たんだ」
奉太郎「伊原は元から2本しか入っていないと思っていたんだろう? なら巻戻しをしなかったのは説明が付く」
摩耶花「……なるほど!」
える「確かにそれなら……納得です」
える「私の、言い方ですか?」
奉太郎「さっきこう言っただろう」
奉太郎「一つはコメディ物のお話で、もう一つはホラー物でしたってな」
奉太郎「一瞬、千反田が最初に見たのがコメディ……つまりAだと思った」
奉太郎「だがそうすると伊原と合わなくなるからな」
奉太郎「最初に見たCがコメディとは考え辛い」
える「なるほど、つまり……」
私 ?→?→?(コメディとホラーは見ている)
摩耶花さん A→B→?(コメディと感動物を見ている)
える「この時点で、Aはコメディだという事が分かるんですね」
奉太郎「そうだ、Bがコメディだと言う事もありえない」
奉太郎「そこから考えられるのは一つしかない」
奉太郎「伊原がまず最初の二つを見て、その後千反田が最後の話と最初の話を見た」
奉太郎「そのせいで、意見に違いが出たんだろう」
奉太郎「考えれば分かるだろ……DVDのパッケージでも見れば書いてあるだろうしな」
摩耶花「あー、これ……もらい物なんだよね。 中身だけの」
奉太郎(DVDをあげた奴に俺が被害を受けているのを伝えたい)
える「そういう事でしたか、すっきりしました」
える「では、今度は全部見て感想を交換しましょう! 摩耶花さん」
摩耶花「うん、また持ってくるね」
奉太郎「暇な奴らだな、全く」
摩耶花「折木にだけは、それ言われたくない」
奉太郎(その通り、としか言えんな)
すると、ずっとニヤニヤしていた里志が口を開いた。
里志「確かに、分かってみれば簡単な事だったかもね」
里志「それに良かったじゃないか、文集のネタが一つ増えた」
……こんな事を文集にするのか、勘弁して頂きたい。
里志「そうかな? 僕は結構楽しめたけど」
える「私も良いと思いました、ありがとうございます」
そんな改まって頭を下げることでも無いだろうに……少し、照れる。
奉太郎(それはそうと)
奉太郎(16時……俺の休みが……)
明日からは、また学校が始まってしまう。
何が楽しくて休日の学校に来なければいけなかったのか……くそ。
それからまた関係の無い話を始める3人を眺め、やはりこれは放課後に済ませられた会話だったと俺は思った。
……やはり、納得がいかんぞ。
第11話
おわり
里志「いやあ流石だね、ホータロー」
里志「DVDの謎は無事に解決! お見事だったよ」
奉太郎「何がだ、あんなのは誰にでも思い付くだろ」
奉太郎「あれを謎と言ったら、全国のミステリー好きに失礼って物だ」
里志「いやいや、僕なんかじゃとても思いつかないよ」
あ、この感じ……次に恐らく。
里志「データーベースは結論を出せないんだ」
ほら言った。 へえ、そうなんだ。
そんな里志を軽く流すと、朝に姉貴から貰った物を思い出す。
奉太郎「ああ、そういえば」
奉太郎「これ、やるよ」
里志「ん? これは……沖縄旅行?」
奉太郎「姉貴に貰った奴だが、使ってる時間なんて無いだろ、家族とでも行ってくればいい」
里志「気が効くねぇ、ありがたく貰っておくよ」
千反田か伊原にあげてもよかったんだが、高校を一週間近く休むのは結構でかい物があるだろう。
その点、里志は大して気にしなさそうだし、まあ……いいんじゃないだろうか。
奉太郎「よくそんな物を持ち歩いているな」
里志「さっき買ったんだけどね、せめてものお礼だよ」
そう言うと、里志は缶コーヒーを投げ渡してくる。
銘柄を見ると、微糖の文字が見えた。
奉太郎(甘いのは好きじゃないんだがな……)
フタを開け、口に含んだ。
やはり甘い。
奉太郎(不味くは無いし、まあいいか)
そしていつもの交差点に差し掛かった。
ここで里志とは別々の道となる。
そのまま今日は別れると思ったが、里志は立ち止まると俺に顔を向け話しかけてきた。
奉太郎「どうって、何が」
里志「前に話した事だよ、楽しい日だったかっていう奴さ」
ああ、あの時の話か。
奉太郎「全く楽しくは無かった、気付けば休日が終わってしまったからな……勿体無いという感情はあるぞ」
里志「あはは、気付けば終わったって事は楽しかったんじゃないのかな?」
奉太郎「俺はとても、そうとは思えん……」
里志「ホータローにもいつか分かる時が来るさ、それじゃあまた明日」
奉太郎「ああ、また明日」
奉太郎(俺にも分かる時が来る、か)
奉太郎(楽しいと思う日もあるにはあるが)
奉太郎(今日は確実に無駄な日だったな……)
そいつは目の前で止まり、自転車を降りる。
奉太郎「……まだ何か用か、千反田」
える「用事、という程の事ではありません」
える「今日の、お礼を言いに来たんです」
奉太郎(お礼? DVDの事か?)
える「ありがとうございました、折木さん」
奉太郎「なんだ改まって、言いにきたのはそれだけか?」
える「もう一つあります」
える「ペンダント、着けて来てくれたんですね」
奉太郎「ああ、まあな。 折角貰った物だから」
少し恥ずかしくなり、顔を千反田から逸らす。
える「嬉しいです、ありがとうございます」
奉太郎(それだけを言いに来たのか? でも何か、言われるのを待っている?)
これでも一応1年間、千反田えるという人物と過ごしている。
そんな経験が、俺に違和感を与えていた。
何か、何かあったのか? と聞こうとする。
だがそれを聞いたら、今の仲が良い友達という関係が壊れてしまうような、そんな気も同時にする。
それを今やっているという事は、つまりは普通では無いのだ。
千反田はもう言う事が無い筈なのに、俺の方を見つめていた。
奉太郎「……千反田」
俺は、聞いてもいいのだろうか?
しかし、やはり嫌な予感がする。
える「はい」
言わなければ、何があったんだ? と。
だが……
奉太郎「……また明日、学校で」
俺は、口にできなかった。
える「はい、また明日、ですね」
千反田の顔は一瞬悲しそうな表情になったが、すぐにいつも通りに戻っていた。
奉太郎(俺は、間違えたのだろうか? 聞くべきだったんじゃないのか……?)
リビングには、俺と姉貴が居る。
姉貴なら、分かるかもしれない。
奉太郎「なあ、姉貴」
供恵「んー?」
煎餅をぼりぼりと食べながら、反応があった。
奉太郎「千反田……友達の女子なんだが」
奉太郎「今日帰り道であってな、何か言って欲しそうな雰囲気だったんだ」
奉太郎「なんだと思う?」
供恵「そりゃー、告白じゃないの?」
奉太郎「……真面目に考えてくれ」
供恵「うーん、ふざけているつもりは無かったんだけど」
供恵「それじゃないとなると……何か悩みでもあったんじゃないかな」
とてもそうは見えなかったが……
奉太郎「悩み、か」
供恵「そうそう、人間誰しも悩みの一つや二つ、あるもんよ」
奉太郎「そんな物か、そういう姉貴にはあるのか?」
供恵「ないね」
奉太郎(一つや二つあるんじゃなかったのかよ……)
奉太郎「俺は、そいつにそれを聞いてやれなかったんだ」
奉太郎「聞いたとして、今の関係が壊れそうな気がして……」
供恵「あんま思い悩む事もないでしょ」
奉太郎「……友達、だぞ」
供恵「ほんっと、あんたは無愛想な癖に愛想がいいんだから」
供恵「悩みっていうのはね」
供恵「自分からどうにかしようとしないと、どうにもならないのよ」
供恵「これあたしの経験談ね」
供恵「それで、今あんたが言ってたその子は」
供恵「心のどこかで、自分の抱えている悩みをあんたに聞いて欲しいと思ってたんだと思う」
供恵「でも向こうから言って来なかったって事は、まだ自分から解決しようとしてないのかもね」
奉太郎「だからこそ、言わなかったんじゃないのか」
供恵「その場合もあるわ、だけど今日……その子はあんたに聞いて欲しそうにしてたんでしょ?」
奉太郎「まあ、そうだな」
供恵「だったら簡単じゃない、あんたに頼ろうとしてたのよ」
供恵「奉太郎だったら解決してくれるかもしれない、とか思ってね」
奉太郎「それなら尚更……」
奉太郎「手を差し伸べるべきじゃなかったのか?」
供恵「それは違うね、ちょっと悪い言い方になっちゃうけど」
見事に即答、だな。
供恵「その子は、奉太郎に甘えようとしてたんじゃないかな」
甘えようと?
確か前に、千反田はその様なことを言っていた気がする。
……そういう事か。
供恵「それはダメ」
供恵「それはその子にとっても、奉太郎にとっても決していい方には転ばない」
供恵「あんた、意外と優しいからね」
供恵「でも向こうが相談してくるまで待つって言うのも大事よ」
奉太郎「……そんなもんか」
供恵「深くは考えないで、ゆっくり待っていればいいのよ」
そう、か。
そうだな、そうするか。
奉太郎「……分かった、助かったよ」
供恵「じゃあ、はい」
奉太郎「ん? なんだその手は」
供恵「コーヒー淹れて来て。 相談料」
やはり姉貴は、苦手だ。
今日はいつもより少しだけ、快適な朝を迎えられた。
昨日の千反田の顔を思い出すと、少し引っかかる物があるが……
ま、爽やかな朝だろう。
姉貴はどうやらまだ寝ている様で、姿が見えない。
一人準備を済ませ、家を出ようとした所で一度振り返る。
奉太郎(ありがとうな、姉貴)
姉貴の部屋に向け、一度頭を下げた。
見られていないから、できる事だ。
奉太郎(さて、行くか)
俺は、この時……また何も変わらない一日が始まると思っていた。
退屈な授業が一つ、また一つと過ぎて行く。
奉太郎(今日は確か、文集の事で集まる予定だったな)
奉太郎(昨日で全部終わったと思っていたが……流石にそんな事はないか)
そんな事を思いながら、午前の授業は終わった。
昼休みになり、他の生徒が思い思いに弁当を広げている時に、意外な奴が教室にやってきた。
摩耶花「折木、ちょっといいかな」
伊原か、一体なんだというのだ。
奉太郎「珍しいな、何か用事か?」
摩耶花「今日の放課後、ちょっと委員会の仕事が入っちゃってね」
なるほど、つまり。
奉太郎「遅れるって事か、俺に言わんでもいいだろう」
摩耶花「ふくちゃんもちーちゃんも見当たらないから、仕方なくあんたの所に来てるのよ」
摩耶花「それくらい察してよね」
奉太郎「そうかそうか、まあ分かった」
という事は、今日の放課後は俺も少し遅れてもいいか。
摩耶花「あんたは遅れないで行きなさいよ、いつも適当なんだから」
と、うまく物事は進まない様だ。
心を見透かされているようで気分が悪いな。
奉太郎「……分かってる、始めからそのつもりだ」
摩耶花「なんか怪しいなぁ、まあそれならいいわ」
摩耶花「しっかりと伝えておいてね」
そう言い残すと、別れの挨拶も満足にしないまま伊原は自分の教室へ帰っていった。
釘を刺されてしまっては仕方ない、放課後は素直に部室に行くことにしよう。
最初は、俺と里志と千反田で話し合うことになりそうだな。
ま、適当にネタを出しておけば問題ないだろう。
さて……そろそろ午後の授業が始まるか。
ようやく授業が終わった。
この後にもやらなければいけない事があると思うと……憂鬱だ。
だが、遅刻したら後で伊原になんと言われるか……分かった物じゃない。
俺はゆっくりと、部室に向かった。
ゆっくりゆっくりと古典部へ向かっていたら、途中で一度伊原に会い早く歩けと言われてしまう。
全く、今後の学校生活は是非とも伊原を避ける事に力を入れて行きたい物だ。
そんな事を思いながら古典部に着き、部室に入る。
どうやらまだ里志は来ていない様だった。
える「こんにちは、折木さん」
える「摩耶花さんも福部さんもまだ来ていませんね」
奉太郎「ああ、伊原は委員会で少し遅れるとさ」
える「そうですか、では福部さんが来たら文集について始めましょう」
奉太郎「そうだな」
そう言うと会話は終わり、俺は千反田の正面に座ると本を開き目を通す。
10分……20分……30分と時間が過ぎていった。
奉太郎「……遅いな」
える「そうですね……私、探してきましょうか?」
奉太郎「いや、もうちょっと待とう」
しかし、あいつは何をやっているんだか……
える「分かりました、もう少し待ちましょう」
再び俺は本に視線を戻す、だが千反田が何故か俺の方をちらちらと見てきて集中ができない。
える「え……あ、まあ……はい、そうです」
える「少し、お話しませんか?」
奉太郎「……なんの話だ」
える「文集の事です!」
奉太郎「却下だ、里志を待つ」
える「いいじゃないですか、二人でも話は進められます!」
奉太郎「二人より三人の方が効率がいい」
える「……」
静かになったか、やっと。
ちらっと、千反田の方を見た。
奉太郎「うわっ!」
びっくりした。
机から身を乗り出し、俺のすぐ目の前にまで千反田の顔がきていた。
える「真面目にやりましょう、折木さん!」
える「はい!」
満足したのか、笑顔の千反田が居る。
やはりこいつと二人は疲れてしまうな。
奉太郎「それで、文集についてだったか?」
える「ええ、そうです」
える「確かに去年より文集にする様な事が無いのは確かです……」
える「ですがそれでも! 書くことはあると思うんです!」
奉太郎「ほう、じゃあその書くことを教えてもらおうか」
える「ええ、昨日の夜考えていたんですが」
える「私達一人一人の視点で、古典部について書くというのはどうでしょう?」
ふむ、少し面白そうではあるな。
一人一人、つまり4人の視点からの古典部という事か。
合間合間に、物凄く不服だが……前のDVDの件等を挟めば読む方も退屈しないかもしれない。
奉太郎「ページ数も稼げそうだな」
える「本当ですか、良かったです」
える「……真面目に書いてくださいね、折木さん」
奉太郎「……分かってる、真面目にやるさ」
奉太郎「後は里志と伊原にも話して、最終決定って言った所だな」
える「分かりました、他にもいくつか考えないといけませんが……」
える「それはお二人が来てから、決めましょう」
奉太郎「そうだな」
意外にも話はすぐに終わった。
少し拍子抜けしたが……千反田が出した案が良かったのだから仕方無い。
える「はい、分かりました」
俺は首に掛けていたペンダントを机の上に置くと、部屋を出た。
部室から男子トイレは意外と遠く、急げば10分ほどで往復できるが……
俺は生憎急いでいない、15分ほど掛かるだろう。
トイレを済ませ、手を洗っていると何やら遠くから物音が聞こえてきた。
奉太郎(何の音だろうか、何か倒れた音か?)
奉太郎(まあいいか)
手をハンカチで拭きながら、部室へと戻る。
変わり果てた姿だった。
部屋中の物が散乱している。
奉太郎(さっきの音は……これか?)
椅子は倒れているし、机の周りは足の踏み場もない程だ。
奉太郎(それより、千反田は!?)
部屋の中を見回すが、いない。
襲われて、逃げたのか?
それともどこかに連れて行かれた?
奉太郎(くそっ!)
現在いる場所は特別棟の4F。
このフロアには階段が2つある。
俺はトイレに行っている間、一人も会わなかった。
犯人が使った階段は……恐らく古典部側だろう。
部屋から去り、階段を駆け下りる。
奉太郎(どこだ……!)
そんな事を3回繰り返し、見つけた。
特別棟の1Fに、千反田が居た。
奉太郎「千反田!」
える「あれ? 折木さん、どうしたんですか?」
横には里志も居て、状況がうまく飲み込めない。
里志「ホータロー? どうしたんだいそんな慌てて」
奉太郎「……なんで、ここに、いるんだ……千反田」
途切れ途切れに、聞いた。
える「ええっとですね、福部さんが委員会の仕事で各部長達に用事があったみたいなんです」
える「折木さんが部室から出て行った後に、すぐ福部さんが来られまして」
里志「それでホータローがトイレに行っている間に千反田さんを連れて行ったって訳だね」
俺は一度息を整えると、部室で見た光景を告げた。
奉太郎「……部室が、滅茶苦茶な事になっている」
える「滅茶苦茶とは……?」
奉太郎「見れば分かる、千反田は何か違和感……変な奴をみたりとか、なかったか?」
える「いえ、特には……」
里志「とりあえず、さ」
里志「その滅茶苦茶にされた部室に行ってみよう、じゃないと何が何だか分からないよ」
そう里志の言葉を聞くと、俺を先頭に3人で部室へと向かった。
第12話
おわり
改めて見ると、部室は酷い有様だ。
里志「これは……酷いね」
える「そんな、こんな事をするなんて……」
二人とも、結構なショックを受けている様だった。
それもそうだ、いつも4人で使っている部屋なのだから……俺が受けたショックも結構な物である。
奉太郎(一体誰がこんな事を……)
しかし、いつまでも呆然とはしていられない。
奉太郎「とりあえず、元に戻そう」
奉太郎「これはあまり見ていたくない」
二人も納得したのか、俺の意見に賛同する。
里志「そうだね、片付けよう」
える「……はい、分かりました」
この前買ったばかりのウサギの置物は耳の辺りが折れていて、見ていて辛い。
える「……」
やはり一番ショックを受けているのは千反田で、無言でそれらを片付けていた。
しかし、不幸中の幸い、とでも言えばいいのだろうか?
1冊だけ飾ってあった【氷菓】は無事だった。
他にはガラス等は割られていなく、壊して周った……と言うよりは散らかした、と言った感じだろう。
それでも、見つけ出してやる。
古典部の部室をこんな事にした、犯人を。
ある程度片付けが終わり、全員が席についた。
千反田はさっきまで座っていた席に着き、俺はその正面に座る。
里志は俺の横に座り、顔から笑顔は消えていた。
部室が滅茶苦茶だ、と俺が伝えた時から……里志には元気が無かった。
奉太郎「誰か、怪しい奴を見たのはいないのか?」
空気は辛いものがあるが……なんとか見つけなくてはいけない。
……古典部の為にも。
それを分かってくれたのか、千反田がゆっくりと口を開いた。
える「……いえ、福部さんと一緒になってから1Fまで歩きましたが……その様な人は居ませんでした」
里志「僕も、この部屋に来るまでに誰にも会ってはいないね」
里志「降りるときは勿論、千反田さんが気付かないで僕が気付くってのは考え辛いよ」
奉太郎「そうか……」
ふと、ある事に気付く。
……俺のペンダントは、どこにいった?
辺りを見回すが、見当たらない。
椅子の下、ポケットの中、机の中……
あった。
それは机の中に、置いてあった。
それを取り出し、胸の前でペンダントを開く。
少しの希望を持っていたが……
中身は無惨にも、割られていた。
奉太郎「……くそ」
思わず口から言葉が漏れる。
里志「……ホータロー」
える「人の物をここまでするなんて……酷すぎます」
しかし前ほど、俺は怒ってはいなかった。
何故かは分からないが……前の時は恐らく、千反田が傷付けられた事に怒っていたのだろう。
だが間接的に千反田も、傷付いているかもしれないが。
未だにペンダントを見つめる俺に向け、千反田が言った。
える「折木さん、見つけましょう」
える「ペンダントを割った犯人を……部室をこんな事にした犯人を!」
怒って、いるのだろうか?
少し違う……
悲しんでいる?
俺には複雑な感情は分からないが……千反田の意見には同意だ。
こいつがここまで言うのも珍しい。
奉太郎「ああ、そうだな」
奉太郎「何故こんな事をしたのか……理由を聞かなきゃ、気が済まん」
里志「うん……そうだね」
里志「僕も、気になるかな」
3人でそれぞれ顔を見合わせ、決意を固めた。
だが、どこから手をつけていいのか……分からない。
片付けをした、と言っても壊れた物は戻りはしない。
それは伊原も気付いたのか、口を開く。
摩耶花「皆、どうしたの? 何かあったの?」
奉太郎「……ああ、説明する」
事情を説明すると、伊原は怒って犯人を捜しに行くかと思ったが……落ち着いていた。
摩耶花「そう、そんな事が……」
摩耶花「でも、良かったよ……ちーちゃんが無事で」
摩耶花「それと氷菓も、無事だったみたいだね」
本当に、全くその通り。
犯人にとっては恐らく、たかが文集程度の認識だったのだろう。
える「摩耶花さんがくれた絵も……無事です」
それは気付かなかったな、と思い絵の方に顔を向ける。
あれは、まあそこそこ高い位置に飾られている。
犯人もわざわざ何かしようとは思わなかったのだろう。
それでも、破かれなかったのは良かったが。
里志「この状態で一つや二つ無事な物があってもね……」
奉太郎「それでも、全部壊されるよりはマシだ」
伊原も千反田も何か言いたそうにしていたが、俺は少し声を大きくし、言った。
奉太郎「一度、状況を整理しよう」
奉太郎「伊原もまだ理解していない部分もあるだろうしな」
続けて俺は、話をまとめる。
奉太郎「里志と伊原は委員会の仕事で遅れていた」
奉太郎「そして、文集について俺と千反田は少し話をしていたんだ」
奉太郎「区切りが良い所になった時、俺はトイレに行った」
奉太郎「急げば10分ほどで戻れたが……暇だったからな、ゆっくり歩いて15分ほどは掛かったと思う」
摩耶花「あんたゆっくり歩くの好きね……」
奉太郎「好きって訳じゃない、ゆっくり歩いた方が楽だからだ」
伊原の突っ込みに、少しだけ空気が和らいだのを感じた。 感謝しておこう……
こういう時の伊原の存在は意外と侮れない。 空気を変えてくれるのはとてもありがたいものだ。
奉太郎「俺が知ってるのはここまでだ。 千反田、説明頼めるか?」
そこまでしか俺は知らない、千反田に補足を促すとすぐに説明を始めた。
える「ええ、分かりました」
える「恐らく4分か5分程……だったと思います」
奉太郎「多く見ておこう、そっちの方がやりやすい」
奉太郎「俺が部屋を出てから里志が来たのは……5分としておく」
奉太郎「すると犯人は、10分の間に犯行を行ったって事か」
10分……意外にも長い。
部屋を荒らし、その場から去る時間を入れても……大丈夫だろう。
える「分かりました。 そしてその後は、福部さんと必要な書類を取りに行く為に特別棟の1Fまで降りて行きました」
摩耶花「その間に変な人は見なかったの?」
それは一度俺が聞いたことだが……一から見直すのもあるし、まあいいだろう。
える「……見かけませんでした、見逃していると考えると……すいません」
奉太郎「お前が謝ることではない。 里志、続き頼めるか?」
そう言うと、里志もすぐに口を開いた。
里志「その書類を持ってくれば良かったんだけど……委員室に忘れちゃったんだ」
里志「ちゃんとしていれば、こんな事にはならなかったのかもしれない」
里志「ごめんね、皆」
そう言う里志の顔は、笑顔だったが……とても辛そうに見えた。
こいつは、自分を責めているのだろう。
奉太郎「お前も謝るな。 悪いのは部室を荒らした犯人だろ」
里志「……うん、そうだね」
里志はそう言い、俯く。
その後、流れを分かったのか伊原が自分の行動を口にした。
摩耶花「私はずっと図書室にいたわ」
摩耶花「来る途中にも、怪しい人は居なかった……と思う」
摩耶花「……ちょっと、難しいかもね」
伊原は笑っていたが、里志同様、悲しそうに笑っていた。
奉太郎「……かもな、高校の生徒全員が容疑者となってはな」
何か新しい情報でもあれば、ある程度絞り込めるかもしれないが……
そして再び、伊原が口を開く。
摩耶花「一回帰ってさ、また明日仕切りなおさない?」
その言葉に、里志が同意を示す。
里志「僕もそれが良いと思うな」
里志「……ホータローにも期待してるしね」
これは、やらなくてはいけない事だ。
それも……手短に等とは言っていられない程の。
……少し、引っかかることもあるしな。
奉太郎「ああ、何か……思いつきそうなんだ」
嘘ではない、だがすぐに答えがでそうではなかった。
える「分かりました、では今日は解散しましょうか」
それを聞き、里志と伊原が帰り支度を始める。
俺も鞄を持ち、教室を出ようとした所で千反田がまだ座っているのに気付いた。
奉太郎「千反田、帰るぞ」
える「……ええ、分かってます」
える「……すいません、もうちょっとだけ……残ることにします」
千反田は俺の方を見ず、教室全体を見ているよな眼差しでそう言った。
それもそうか、千反田も何か……思う所があるのだろう。
無理やり引っぱって行く事もできたが……そんな気にはなれなかった。
俺にはそんな権利は、ありはしない。
里志「にしても、一体誰がやったんだか……」
摩耶花「そんなに酷い状態だったの?」
里志「そりゃ、ね」
里志「滅茶苦茶にされてたよ、氷菓と摩耶花の絵が無事だったのが不思議なくらいだ」
里志と伊原が会話をしている、だが少し……考えるのには邪魔だった。
悪いと思いつつ、俺は里志と伊原に向け静かにして貰えるよう頼む。
奉太郎「すまん、ちょっと静かにしてもらってもいいか」
奉太郎「少し、考えたいんだ」
それを聞いた里志と伊原は、文句をひと言も言わず口を閉じた。
こいつらのこういう所は、嫌いにはなれない。
奉太郎(荒らされた部室、割られたペンダント)
奉太郎(10分の時間、部屋に散乱していた物)
奉太郎(千反田の証言、里志の証言)
ダメだ、情報が繋がらない。
奉太郎(くそ、何か足りないのか?)
奉太郎(集められる物は集めた筈だ……何かがおかしい?)
考え方が違うのだろうか。
少し、視点をずらそう。
奉太郎(動機は一体何だったんだ……恨みがある人物?)
奉太郎(そんな奴、居るのだろうか……)
古典部に、恨みがある人物。
つまるところ、俺と千反田と里志と伊原に恨みがある奴……
居るじゃないか、一人。
かつて、千反田を騙した奴だ。
奉太郎(そういう、事なのだろうか)
奉太郎「なあ」
里志「ん? 何か思いついたかい?」
奉太郎「今回の、動機はなんだと思う? 犯人の」
里志「動機、ねえ」
摩耶花「決まってるでしょ、何か恨みでもあったんじゃないの?」
やはり、そうか。
里志「うーん、それにしてはぬるかった様な気がするんだけどなぁ」
ぬるかった……氷菓や絵の事を言っているのだろう。
奉太郎「時間がなかったんだ、それは仕方ないだろう」
里志「ま、そうだね」
恨み……か。
奉太郎(まずは最初、俺がトイレに行った)
奉太郎(所要時間は10~15分、まあゆっくり行ったから15分掛かったが)
奉太郎(俺が出て5分後に里志が部室を訪ねてきた)
奉太郎(そしてそこから千反田を連れ出す)
奉太郎(この時点で残り時間は10分)
奉太郎(その間に犯行を行ったって事だが……)
奉太郎(犯人はどうやって俺達を監視していたのだろう?)
奉太郎(どこか階段から見ていた……いや、千反田は怪しい人物は見ていないと言っていたな)
奉太郎(廊下の物陰……? これは無いだろう、隠れられる場所が無い)
奉太郎(後は……部室の、中?)
俺が一度出した答えは、恐ろしいものだった。
奉太郎(部室を思い出せ……)
奉太郎(あそこには、何があった……?)
奉太郎(まさか)
奉太郎(俺と千反田が部屋から出て行った後に、犯人は部屋に入ってきた)
奉太郎(そして次に、部屋を荒らした後……ロッカーに隠れた)
これが、答えなのか?
そして、思い出す。 千反田の居場所を。
そいつが部室にまだいる可能性は? ありえなくは、無い。
奉太郎(待てよ、千反田はまだ部室にいる筈だ)
奉太郎(だとすると------)
奉太郎「里志! 伊原! 忘れ物をした!」
奉太郎「先に帰っててくれ!」
里志「……ホータロー、何かに気付いたみたいだね」
摩耶花「私達も行った方がいいんじゃない? 本当にそうだとしたら危ないわよ」
奉太郎「いや、大丈夫だ」
奉太郎「後で連絡はする、頼むから帰ってくれ」
里志「……分かった、後で連絡待ってるよ」
奉太郎「ああ、すまんな」
大分歩いてきてしまった……学校までは、20分程か?
奉太郎(20分……もう一度、整理しよう)
奉太郎(犯人はC組の奴なのか……?)
俺は走りながら、必死に頭を働かせる。
全ての視点から物事を見直す。
おかしな所は無いか?
全て、筋が通っているか?
走りながら、必死に考える。
……学校が見えてきた。
俺は、学校に着くのとほぼ同時に……
一つの結論に辿り着いた。
奉太郎「……はぁ……はぁ」
こんなに全力で走ったのはいつくらいだろうか。
マラソンの時は大分手を抜いて走っていたからな……生まれて初めてかもしれない。
奉太郎(間に合った……だろうか?)
ドアをゆっくりと開ける。
……間違いない、大丈夫だ。
奉太郎「……今回の事を全ての視点から見つめなおした」
奉太郎「そして、全ての証拠に繋がる奴が一人、居る」
奉太郎「今回の部室荒らし、それはお前にしかできなかったんだよ」
奉太郎「いや……お前で無ければ矛盾が出るんだ」
奉太郎「お前以外には、ありえない」
「そうだな? 千反田」
第13話
おわり
Entry ⇒ 2012.10.20 | Category ⇒ 氷菓SS | Comments (2) | Trackbacks (0)
カレン「ルルーシュ!ごはんできたわよー!」ルルーシュ「わかった」
ルルーシュ「スザク!!貴様は友達を売り渡すのか!!」
スザク「そうだ。友達を売り、僕は上に行く」
ルルーシュ「くっ……!」
シャルル「よぉくやったぁ……」
スザク「いえ」
シャルル「では、目を」
スザク「イエス、ユア・マジェスティ」グイッ
ルルーシュ「シャルルゥゥゥ!!!!またお前は!!俺を!!!」
シャルル「シャルル・ジ・ブリタニアが刻むぅぅ!!」キュィィン
ルルーシュ「やめろぉぉぉ!!!!」
ルルーシュ「……」
カレン「ルルーシュ……起きて……」
ルルーシュ「ん?カレン?」
カレン「朝ごはん、できたけど」
ルルーシュ「今、何時だ?」
カレン「もう7時。そろそろ着替えないとダメじゃないの?」
ルルーシュ「そうだな」
カレン「お弁当はテーブルの上ね」
ルルーシュ「いつも悪いな」
カレン「そう思うなら、手伝ってほしいけど」
ルルーシュ「今晩は俺が作るよ」
カレン「ホント?やったぁ」
ルルーシュ「ふふ……」
カレン「ちょっと待って……」
ルルーシュ「置いて行くぞ」
カレン「なによ。私が起こさなかったら寝坊してるくせに」
ルルーシュ「それとこれとは関係ないな」
カレン「じゃあ、もう起こしてあげない」
ルルーシュ「それは困るな」
カレン「そう思うなら―――」
咲世子「ルルーシュ様、カレン様」
ルルーシュ「咲世子さん。どうかしましたか?」
咲世子「ミレイ様が生徒会室に来て欲しいと」
ルルーシュ「分かりました」
カレン「なんだろう?」
ルルーシュ「どうせ、くだらないことだろ。とはいえ、待たせたらどんな貧乏くじを引かされるかわからないな。急ごう」
カレン「待ってよ、ルルーシュ」
ルルーシュ「おはようご―――」
ミレイ「おっそーい!!」
カレン「呼ばれてから10分もたってませんけど……」
ミレイ「5分で来なさい。5分で」
ルルーシュ「で、用件はなんですか?」
ミレイ「昨日、ふと思ったのよね」
カレン「何をですか?」
ミレイ「ほら、ルルーシュとカレンが結婚したのになんでか祝ってないなーって」
ルルーシュ「そういえば……。不思議と事実だけを伝えて終わりましたね」
カレン「でも、あのときはみんなからたくさんお祝いの言葉を貰いましたし」
ミレイ「ダメよ、ダメダメ!!折角、結婚したのに生徒会で盛大なパーティーもしないなんて!!」
ルルーシュ「そんな今更じゃないですか」
カレン「いいですよ。恥ずかしいし」
ミレイ「やるったらやる!!生徒会で結婚式をやるの!!」
カレン「はぁ……」
ルルーシュ「騒ぎたいだけですか……」
ミレイ「じゃあ、カレンはドレスをきないとダメよねー」
カレン「ドレスって……」
シャーリー「……」
ルルーシュ「シャーリー?どうした?」
シャーリー「うーん……」
ミレイ「おはよー。シャーリー」
シャーリー「おはようございます」
ルルーシュ「何かあったのか?機嫌が悪いみたいだけど」
シャーリー「別に。なんだか腑に落ちないだけ」
カレン「……?」
ルルーシュ「腑に落ちないって、何がだ?」
シャーリー「それが分からないから困ってるの」
ミレイ「ご苦労、リヴァルくん」
リヴァル「いえいえ。カレンとルルーシュのためですから」
シャーリー「……」
ルルーシュ「シャーリー?」
シャーリー「ねえ、ルル?」
ルルーシュ「なんだ?」
シャーリー「カレンのこと、どこで好きになったの?」
ルルーシュ「え?」
カレン「シャーリー、どうしたのよ?」
シャーリー「気になるの」
ミレイ「ちょっと、シャーリー」
シャーリー「でも」
ルルーシュ「カレンをどこで好きなった……か。……カレン、思い出せるか?」
カレン「え?うーん……ルルーシュを好きになったときのこと……?」
ルルーシュ「……」
カレン「あれ?ルルーシュっていつプロポーズしてくれたっけ?」
ルルーシュ「おいおい。あれは……雨の日にお前が外でずっと待ってくれていたときだろ?」
カレン「あー、そうだったわね」
シャーリー「付き合い始めたのって半年ぐらい前からだよね?」
ルルーシュ「ああ。そうだな」
カレン「うん。私からルルーシュに告白して……」
ルルーシュ「キスしたんだよな」
カレン「も、もう!!そんなこと言わなくてもいいでしょ!!」
リヴァル「ヒューヒュー」
ミレイ「ごちそうさまー!!」
ルルーシュ「だが、いつ異性として意識し始めたのかは覚えていないな」
カレン「そうね。まぁ、そんなものなんでしょうけど」
シャーリー「そっかぁ……」
リヴァル「よっしゃー!!」
カレン「あはは……。なんか恥ずかしいね……」
ルルーシュ「そうだな」
シャーリー「……」
ミレイ「どうしたの?」
シャーリー「……私、ルルのこと好きだったような気がするんですけど」
ミレイ「知ってるけど、それはもう諦めたって言ったじゃない」
シャーリー「諦めた?」
ミレイ「そうよ」
シャーリー「……諦めた……」
ミレイ「ほら、過去のことは水に流して!!ぱーっと行きましょう!!イエーイ!!」
シャーリー「―――恋はパワー!!!」
ミレイ「……!?」ビクッ
シャーリー「会長!!わ、私!!やっぱり諦めた覚えはないです!!」
シャーリー「だって……あの……」
ミレイ「ルルーシュとカレンは結婚したのよ?もう取り返しなんて……」
シャーリー「だって、変なんですもん!!」
ミレイ「頭が?」
シャーリー「私の記憶じゃ、すんなり諦めてるんです……。自分でも驚くぐらいスッキリと!」
ミレイ「潔い子に育って、私は嬉しいわ」
シャーリー「でも、そんなの私じゃないっていうか……」
ミレイ「過ぎたことはしょうがないでしょ?シャーリー?」
シャーリー「……」
カレン「今日の晩御飯はどうする?」
ルルーシュ「お前だけで十分だな」
カレン「何言ってるのよ。バッカじゃないの……ふんっ」
シャーリー「……っ」
ミレイ「シャーリー……ちょっと……。ここで変な諍いを起こしても誰も幸せにならないというか……」
ルルーシュ「もうちょっと右だな」
リヴァル「わかったー」
カレン「……」
シャーリー「カレン」
カレン「なに?」
シャーリー「ルルと結婚して幸せ?」
カレン「ええ」
シャーリー「ホントに?」
カレン「何よ?ルルーシュはとても優しいし……」
シャーリー「変じゃないかな?」
カレン「変って?」
シャーリー「だって……私もルルのこと好きだもん!!」
カレン「はぁ?!」
ルルーシュ「……え?」
ミレイ「ちょっとちょっと!!」
シャーリー「はー……はー……」
カレン「シャー……リー……?」
ルルーシュ「……」
シャーリー「私もルルのこと好きなのに、何もなかったって変だと思うの!!」
カレン「ちょっと待って。シャーリーだって祝福してくれたじゃない」
シャーリー「そうだけど……」
ルルーシュ「シャーリー……」
シャーリー「カレンとルルのことで一度も真剣に話したことがないって……どう考えてもおかしいよ……」
カレン「そういわれても……。シャーリーが身を退いてくれたんでしょ?」
シャーリー「うん」
カレン「なら、それでいいじゃない?」
シャーリー「……でも……私は……」
ミレイ「シャーリー……」
ルルーシュ「あ……」
カレン「シャーリー、どうしたんだろう?」
リヴァル「おいってば!!」
ミレイ「もう少し左かなー」
リヴァル「りょーかい」
ルルーシュ「……」
ミレイ「ルルーシュ、どうしたの?」
ルルーシュ「カレン。確認したいことがある」
カレン「なに?」
ルルーシュ「告白した雨の日のことだが……。場所は……コンサートホールのところだよな?」
カレン「そうだけど?」
ルルーシュ「会長。俺がカレンとの結婚を報告したとき、誰が居ましたっけ?」
ミレイ「ルルーシュとカレンとシャーリーとリヴァルとニーナとスザクくんと私、だけど?」
ルルーシュ「そうですか」
ヴィレッタ「何をしている?」
シャーリー「先生……」
ヴィレッタ「またルルーシュと喧嘩か?」
シャーリー「……先生、ルルとカレンが結婚しているのはご存知ですよね?」
ヴィレッタ「無論だ。学生同士の結婚なんて後にも先にもあいつらぐらいだろうな」
シャーリー「……」
ヴィレッタ「どうした?」
シャーリー「なんか変なんですよね」
ヴィレッタ「……変?」
シャーリー「どうしても納得できないんですよ。ルルとカレンが結婚したなんて……」
ヴィレッタ「……」
シャーリー「なんかこう、喉に何かが貼りついたときみたいな気持ち悪さがあるんですよね……」
ヴィレッタ「そ、そうか。まあ、深くは考えるな」
シャーリー「んー……」
ヴィレッタ「報告は以上です」
スザク『シャーリーが……』
ヴィレッタ「問題はないと思いますが」
スザク『……』
ヴィレッタ「どうされますか?」
スザク『検討してみます。引き続き監視をお願いします』
ヴィレッタ「はい」
ロロ「殺しちゃえばいいのに」
ヴィレッタ「そういうわけにもいかない。昨日、記憶の改竄が行われたばかりなんだからな」
ロロ「不安分子は殺しておくのが利口ですよ?」
ヴィレッタ「余計なことはするな」
ロロ「分かっていますよ」
ヴィレッタ「……」
ヴィレッタ(またシャーリーか……)
シャルル「ほう……。ワシのギアスに抗うか……!!」
スザク「シャーリーも強靭な精神を持っているようです」
シャルル「いや。ワシの考えた設定が浅すぎた故だろう」
スザク「では、どうされますか?」
シャルル「気づかれては厄介だな……」
V.V.「僕にいい考えがあるよ、シャルル」
シャルル「兄さん……」
V.V.「要するにそのシャーリーって子が邪魔なんでしょ?」
シャルル「障害になるやもしれませんからね」
V.V.「元々、ルルーシュにはナナリーという妹がいた。でも、今はいないでしょ?」
シャルル「兄さん……まさか……」
V.V.「そのシャーリーをルルーシュの妹にしちゃえばいいんだよ。兄妹という絆と記憶が刻まれれば、些細な矛盾は気にしなくなるよ」
スザク「でも、顔が似ていないから……」
V.V.「血の繋がっていない兄妹にしちゃえばいいじゃないか。それで解決だよ」
スザク「……」
シャーリー「え……どこここ?!」
シャルル「よぉくきたな……」
シャーリー「怖い!!」
シャルル「だまれぇい!!!」
シャーリー「ひっ」
スザク「シャーリー、皇帝陛下の目を見るんだ」
シャーリー「ど、どうして?」
スザク「いいから!!」
シャーリー「でも……」
スザク「見るんだ!!」グイッ
シャーリー「うわ!?」
シャルル「シャルル・ジ・ブリタニアが刻む!!―――お前は今から!!!ルルーシュの義妹ぉぉぉ!!!」キュィィン
シャーリー「は―――」
ルルーシュ「……」
カレン「ルルーシュ!ごはんできたわよー!」
ルルーシュ「ん……」
シャーリー「ルルー。カレンが呼んでるよ」ユサユサ
ルルーシュ「あ……ああ……。おはよう、シャーリー」
シャーリー「うん。おはよう。ルル。ほら、顔洗ってきたら?」
ルルーシュ「偶にはお兄様って呼んでくれないか?」
シャーリー「もうそんな歳じゃないの!」
ルルーシュ「寂しいな。昔はもっと可愛かったのに」
シャーリー「今だって可愛いでしょ!!」
ルルーシュ「違うな。間違っているぞ」
シャーリー「可愛くないって言いたいの?!」
ルルーシュ「美人になりすぎなんだよ」
シャーリー「も、もう!!妹をからかわないで!!」
シャーリー「結婚しても変わらないんだから」
カレン「シャーリー、お皿運んでよ」
シャーリー「はーい」
カレン「……」
シャーリー「……」カチャカチャ
カレン「不思議ね」
シャーリー「え?」
カレン「少し前まで同級生だったのに……」
シャーリー「今じゃあ、私のお姉様だもんね」
カレン「ふふ……そうね」
シャーリー「ちょっと悔しいけど……」
カレン「シャーリー……」
シャーリー「……」
ルルーシュ「何をしているんだ、二人とも。朝食にしよう。遅刻するぞ?」
ミレイ「うーん……」
ルルーシュ「どうしたんですか、会長?」
シャーリー「ずっと唸ってますね」
ミレイ「いや、カレンとルルーシュの結婚式って盛大にやったわよね?」
カレン「ええ。もうすごい騒ぎになるほどに」
リヴァル「花火100連発はやっぱ圧巻だったな」
ルルーシュ「火事にならなかったのが不思議なぐらいだな」
シャーリー「ホント、ホント」
ルルーシュ「二度とやりたくないな。シャーリーが火傷したら大変だ」
シャーリー「もう!ルル!子ども扱いしないで!!」
ルルーシュ「妹扱いだよ」
シャーリー「一緒でしょ!!」
リヴァル「相変わらずのブラコンですかぁ?」
ルルーシュ「黙っていろ」
ルルーシュ「カレン!!」
シャーリー「カレン!!」
ミレイ「もしかして。やっぱり二人って一線越えてたりするの?禁断の兄妹愛ってやつ?」
ルルーシュ「あ、あるわけないだでしょう!!」
シャーリー「そ、そうですよ!!どうしてルルなんかと!!」
ルルーシュ「なんかとはなんだ!!なんかとは!!」
シャーリー「ルルなんてなんかで十分でしょ!!」
ルルーシュ「もう少し可愛げのある妹になってくれないか?」
シャーリー「十分、可愛いです」
ルルーシュ「あのなぁ……」
カレン「いつもこんな調子なんですよ?私の入る隙がないぐらいなんです」
ミレイ「新妻としては辛いわよね。妹とイチャイチャする旦那を近くでみるのは」
カレン「全くです」
ルルーシュ「カレンも余計なことはいうな!」
シャーリー「まぁ……はい……」
ルルーシュ「……」
リヴァル「でも、あのときはどうして何事もなくルルーシュとカレンが結婚できたんだっけ?」
ルルーシュ「え?」
リヴァル「だって、ルルーシュは二言目にはシャーリーシャーリーって言ってたし、シャーリーもルルーシュのこと―――」
シャーリー「リヴァル!!」
ミレイ「そうよね。私はてっきりシャーリーと結婚するものとばかり思ってたし」
カレン「それ、私の前で言いますか?」
ミレイ「だって、考えても見てよ。ルルーシュは妹のことをこれでもかってぐらい過保護にしてたじゃない?」
シャーリー「そんなこと……」
リヴァル「熱でたってだけで授業サボったときもあったよな?」
ルルーシュ「当然だ。シャーリーに熱が出たんだぞ。授業よりも看病が優先だ」
カレン「咲世子さんもいるのに?」
ルルーシュ「それは……」
ルルーシュ「会長。その話は……」
ミレイ「そうね。ごめんなさい」
シャーリー「……」
カレン「はい。この話は終わりにしましょう。昔は昔だし」
ルルーシュ「……それもそうだな」
シャーリー「うん」
ミレイ「じゃあ、リセーット!!」
ルルーシュ「魔法の言葉ですか?」
ミレイ「じゃあ、生徒会会議を始めます。何かある人ー」
ミレイ「なーし。では、解散」
ルルーシュ「……」
カレン「ルルーシュ、帰りましょ?」
シャーリー「ルルー、いくよー?」
ルルーシュ「シャーリー。ちょっといいか?」
ルルーシュ「俺に告白したことあるよな?」
シャーリー「え……?」
ルルーシュ「リヴァルの話で何か引っ掛かるんだ」
シャーリー「告白って……昔のことでしょ……」
ルルーシュ「雨の日に……」
シャーリー「やめて!!」
ルルーシュ「……!」
シャーリー「私とルルはただの兄妹……だから……」
ルルーシュ「そうだな……。で、そのあとシャーリーに童貞とか罵られて……」
シャーリー「はい?」
カレン「兄妹だけでコソコソしないでほしいんだけど。私も一応身内だからね」
ルルーシュ「ああ、悪かったな」
シャーリー「ほら、もうかえろ!」
カレン「ルルーシュ、行くわよ」
リヴァル『ルルーシュは二言目にはシャーリーシャーリーって言ってたし、シャーリーもルルーシュのこと―――』
ルルーシュ「……そこまで俺はシャーリーなんて言ってたか?」
ルルーシュ「いや、言ってた。確かに口癖のようにシャーリーの名前を口にしていたな」
ルルーシュ(でも、何故だ……。どうして……)
ルルーシュ(そうだ。確かにカレンのことも好きだ。愛している。だが、俺はそれ以上に妹のことを……)
ルルーシュ「……」
ルルーシュ「まてまて。俺はどうしてそんなにシャーリーを気にしていた……?」
ルルーシュ「シャーリーだからか。妹だからか……」
ルルーシュ(なのに何事もなくカレンと結ばれている現実は酷く違和感がある)
ルルーシュ「わからない……」
カレン「ルルーシュ?そろそろ寝る?」モジモジ
ルルーシュ「カレン、今日は気分じゃない。すこし散歩にでてくる」
カレン「え……」
カレン「初夜はいつになるのよ……」
ルルーシュ「……」
咲世子「ルルーシュ様、夜風は体に障りますよ?」
ルルーシュ「咲世子さん。少し考えごとを……」
咲世子「考え事ですか?」
ルルーシュ「咲世子さん。俺は少しまでまでシャーリーのことばかり気にしていたように思えるんですが」
咲世子「ええ。ルルーシュ様はシャーリー様のこと大変可愛がっていました」
ルルーシュ「例えばどのように?」
咲世子「そうですね……。お料理を振舞ったり、シャーリー様が寝るときはいつも抱き上げてベッドまで―――」
ルルーシュ「シャーリーを抱き上げる?」
咲世子「はい。いつもそうしていたではありませんか」
ルルーシュ「ああ。そうですね。って、それはシャーリーが中等部の……」
咲世子「……」
ルルーシュ「咲世子さん。俺にもう一人、妹がいるということはないですよね?」
咲世子「シャーリー様……一人では……?いえ……あれ……?」
ルルーシュ「シャーリー!!」
シャーリー「きゃぁ!?」
ルルーシュ「……シャーリー……リー……」
シャーリー「な、なに……急に……?」
ルルーシュ「シャーリー。俺と風呂に入ったことあるよな?」
シャーリー「……あるけど?」
ルルーシュ「どうして一緒に入ってたんだ?」
シャーリー「そんなの……ルルと入りたかったから……」
ルルーシュ「だが、かなり最近まで入っていたよな?」
シャーリー「う、うん……。カレンと結婚してからやめようって話、したじゃない」
ルルーシュ「おかしい……」
シャーリー「な、なにが?」
ルルーシュ「シャーリー……いつの間にそんなに豊満な胸部になったんだ……?もっと小さな丘だっただろ……」
シャーリー「セクハラ!!」
シャーリー「……そういえば」
ルルーシュ「どうした?」
シャーリー「ルルとお風呂にはいった記憶はあるけど……。ルルの裸があんまり想像できない……」
ルルーシュ「実は……俺もシャーリーの裸は想像できない」
シャーリー「どうしてかな……?」
ルルーシュ「ついでに言うとカレンの裸もだ」
シャーリー「え……。まだなの……?」
ルルーシュ「浮かんでくるのは、華奢でありながら魅力的な裸体と、妙にお尻の大きな体だけだ……」
シャーリー「……」
ルルーシュ「……」
シャーリー「ルル、私たち、疲れてるんだよ……きっと……」
ルルーシュ「そうだ。そうだな。忘れよう」
シャーリー「お休み……ルル……」
ルルーシュ「ああ。悪かったな。変なこといって。おやすみ」
カレン「すぅ……すぅ……」
ルルーシュ「……」チラッ
カレン「ん……ルルーシュぅ……」
ルルーシュ「……」ジーッ
ルルーシュ(違う。カレンのお尻では遠く及ばないでかさだった……)
ルルーシュ(なんなんだ……記憶の片隅にある巨大なお尻は……)
ルルーシュ(ここに居た……。誰か違う女が……)
ルルーシュ「カレンでもシャーリーでも咲世子さんでも会長でもない……。もっとお尻の大きな女がいたはずだ……」
ルルーシュ「誰だ……!!誰がいたんだ……!!」
ルルーシュ「考えても出てこないな……。寝るか」
ルルーシュ「……」
カレン「ルルーシュぅ……ふふ……」
ルルーシュ「カレン……」
ルルーシュ「おやすみ」
尻
脳内に焼き付くわ
ルルーシュ「シャーリー、ほら、口元に……」スッ
シャーリー「や、やめてよぉ……」
ルルーシュ「ほら、とれた」
シャーリー「いつまでも子ども扱いなんだか!!」
ルルーシュ「妹は一生妹なんだよ」
シャーリー「もう!」
カレン「ルルーシュ、はい。あーん」
ルルーシュ「カレン、恥ずかしいから……」
カレン「シャーリーにするのはよくて、私にされるのは嫌なの?」
ルルーシュ「そういう言い方をするな」
カレン「なら、いいでしょ?はい、あーん」
ルルーシュ「全く……」
リヴァル「いいなぁ……ルルーシュ……」
ミレイ「青春よねぇ……。いや、もうそんなの通り越してるか……」
ルルーシュ「ああ。そうだったな」
シャーリー「ルル!!どこ行くの?!授業は?!」
ルルーシュ「上手くいい訳しておいてくれ」
シャーリー「だめだってばぁ!!」
カレン「遅くなるの?」
ルルーシュ「夕食までには戻ってくる」
カレン「わかったわ」
シャーリー「カレンも止めないと!!」
カレン「止めたって止まらないでしょ?」
シャーリー「それは……」
ルルーシュ「よくわかってるな、カレン」
カレン「妻だからね」
ルルーシュ「怖い奴だ」
カレン「でも、危ないことはしないでよ、ルルーシュ?」
リヴァル「今日も圧勝だったな!」
ルルーシュ「貴族相手は楽でいい」
リヴァル「いやールルーシュさまさまだな!!」
ルルーシュ「ふっ。さてと、そろそろ帰るか」
リヴァル「新妻と可愛い妹が待ってるもんな」
ルルーシュ「そうだな」
バニー「えー?もうかえっちゃうんですかぁ?」
リヴァル「うわぁ!?」
ルルーシュ「ええ。たっぷりともうけさせて貰いましたからね」
バニー「そんなぁ、もっとゆっくりしていってくださいよぉ」
ルルーシュ「そういうわけにも―――」
バニー「サービスしますからぁ」プリンッ
リヴァル「うわー、いいお尻」
ルルーシュ「……」
リヴァル「ルルーシュ、どうする?」
ルルーシュ「……」
バニー「なんですか?」
ルルーシュ「……」
リヴァル「ルルーシュ?」
ルルーシュ「リヴァル、先に帰ってくれないか?」
リヴァル「は?なんで?」
ルルーシュ「用事を思い出した。とても大事な用事をな」
リヴァル「べ、別にいいけど……」
ルルーシュ「悪いな」
リヴァル「じゃ、じゃあな」
ルルーシュ「ああ」
バニー「思い出したのか?」
ルルーシュ「ああ……。全てをな」キリッ
ルルーシュ「これは……」
C.C.「お前のナイトメアは用意してある」
ルルーシュ「そうか」
C.C.「今まで随分と楽しい生活を送っていたようだな?」
ルルーシュ「カレンもシャーリーもシャルルの玩具にされたようだな……」
C.C.「お前の周囲にいる人間は全員だ」
ルルーシュ「シャルルめ……!!」
C.C.「今すぐ行動を起こすのか?」
ルルーシュ「それは……まだ早い」
C.C.「……」
ルルーシュ「もうしばらくは普通の学生を演じる。監視の目もあるしな」
C.C.「本当にそれだけが理由かな?」
ルルーシュ「何が言いたい?」
C.C.「別に。お前が行動を起こすまで私はここで働いているから、いつでもこい。それじゃあな」
シャルル「……」
V.V.「ルルーシュ、思い出しちゃったみたいだね」
シャルル「C.C.の仕業でしょう」
V.V.「どうするの?」
シャルル「次なる一手は既に打ってあります」
V.V.「ルルーシュをもう一度、捕らえるの?」
シャルル「もうそれはできないでしょう。ルルーシュには三度も同じことをしましたから、奴も警戒しているはずです」
V.V.「なら……」
シャルル「……」
スザク「皇帝陛下」
シャルル「来たか……枢木よ……」
スザク「連行してまいりました」
シャルル「久しいな……」
コーネリア「……なんのつもりですか?」
シャルル「お前の行動など筒抜けだ、コーネリア」
コーネリア「……」
V.V.「ギアスのことを調べていたそうだね?」
コーネリア「知っていたのですね……父上……」
シャルル「とぉぉぜんだ」
コーネリア「なら、どうしてユフィを見殺しにした?!」
シャルル「……」
コーネリア「何か言ってください……」
シャルル「ワシはこう考えておる」
コーネリア「……」
シャルル「ルルーシュには平穏の中で死んでほしいとな」
コーネリア「馬鹿な……。もうルルーシュは後戻りできない場所にいるのですよ?!」
シャルル「奴は非力ではあるが有する思想は厄介だ。故に牙を抜く必要があぁる」
コーネリア「牙……?」
コーネリア「……」
シャルル「その温床が奴の足を鈍らせる」
コーネリア「それで……?」
シャルル「しかし、奴はまた牙を剥いた。また抜歯せねばならん」
コーネリア「私でルルーシュの牙を抜くというのですか?」
シャルル「日常という檻が強固になればなるほど、奴は身動きがとれなくなる」
コーネリア「私はもう……ルルーシュのことなど!!!」
V.V.「僕は嘘つきが大嫌いだ」
コーネリア「な……」
V.V.「憎みきれていないくせに」
コーネリア「……」
シャルル「さぁ、コォォネリアよ!!次なる一手になってもらうぞ!!!」
スザク「皇帝陛下の目を見てください!!」グイッ
コーネリア「い、いやだ……やめろ……!!」
ルルーシュ「……」カタカタ
カレン「ルルーシュ、コーヒーいれたけど、飲む?」
ルルーシュ「ああ。ありがとう」
カレン「最近、よくネットしてるけど、何かあるの?」
ルルーシュ「少しな」
カレン「ふぅん……」
ルルーシュ「……どうした?」
カレン「ねえ、結婚してからもう半年なんだけど……」
ルルーシュ「そうだな」
カレン「あの……そろそろ……初夜……」モジモジ
ルルーシュ「カレン」
カレン「なに?」
ルルーシュ「体は大事にしたほうがいい」
カレン「私……妻よね?」
カレン「だったら!」
ピンポーン
ルルーシュ「誰かきたみたいだな」
カレン「こんな夜に?誰かしら?」
ルルーシュ(まさか……C.C.……?いや、それはありえない……)
カレン「私が出るから」
ルルーシュ(監視役の誰か……?)
カレン「はい?どちらさまですか?」
ルルーシュ(まだボロは出してない……はずだ……!)
カレン「え?は、はい……」
ルルーシュ「どうした?」
カレン「ルルーシュ……」
ルルーシュ「なんだ?」
カレン「ルルーシュの許嫁がきたみたいだけど?」
カレン「……そんなのいたの?」
ルルーシュ「いるわけないだろ」
カレン「でも、ルルーシュの許嫁と言えばわかるって」
ルルーシュ「なんだと?」
シャーリー「ふわぁぁ……だれかきたのぉ……?」
カレン「起こしちゃった?ごめん」
シャーリー「それはいいんだけど……」
ルルーシュ「分かった。俺が出る」
カレン「う、うん……」
ルルーシュ「代わりました。ルルーシュです。申し訳ないが私に許嫁など―――」
『とにかく開けて』
ルルーシュ「名前を聞いてもいいですか?」
『アーニャだけど』
ルルーシュ「知りません。帰ってくれますか?」
ルルーシュ「とにかく帰ってくれ。迷惑だ」
『開けて。寒い』
ルルーシュ「失礼します」ガチャン
カレン「悪戯?」
ルルーシュ「だろうな」
シャーリー「もういい迷惑なんだから……ふわぁぁ……」
カレン「おやすみ、シャーリー」
シャーリー「うん」
ルルーシュ「じゃあ、俺たちも寝るか」
カレン「寝るの?!」
ルルーシュ「普通にな」
カレン「……そう」
ルルーシュ「……」
ルルーシュ(しかし、アーニャ……どこかで聞いた名前だな……)
ルルーシュ「そうか!!ラウンズのナイトオブシックス、アーニャ・アールストレイム卿!!」
ルルーシュ「いや、まて……そんな大物がここに来るわけ……」
ルルーシュ(まさか……監視目的で……?)
ルルーシュ(だが、露骨な手段をとるとも思えないが……)
ルルーシュ「……」
カレン「ルルーシュ?寝ないの?私の隣、ガラ空きなんだけど」
ルルーシュ「……すこし、散歩に行ってくる」
カレン「え……」
ルルーシュ「先に寝ててくれ」
カレン「ルルーシュ!!」
ルルーシュ「……アーニャ……確かめておくか……」
カレン「……」
カレン「……もう倦怠期なのかしら」グスッ
アーニャ「寒い」ガタガタ
ルルーシュ「……」
アーニャ「あ」
ルルーシュ(やはり、ラウンズの……!!)
アーニャ「部屋にいれて。あとココアもいれて」ガタガタ
ルルーシュ「あの。どうして貴方のような人物がここに?」
アーニャ「これ」ブルブル
ルルーシュ「携帯……?」
アーニャ「そこに記録がある。私はルルーシュの許嫁。今すぐ嫁げって」ガタガタ
ルルーシュ「……」
アーニャ「……いれて」ブルブル
ルルーシュ「そんな水着みたいな格好でくるからだろう?」
アーニャ「……くしゅん」
ルルーシュ「とりあえず、入れ」
アーニャ「ふぅ……」
ルルーシュ「俺は一学生だ。君とは身分が違いすぎる」
アーニャ「……」
ルルーシュ「だから、嫁ぐ必要はない」
アーニャ「でも、記録にあるから。私にとってはそれが全て」
ルルーシュ「何を言ってる?」
アーニャ「記憶がよく食い違う」
ルルーシュ「なに?」
アーニャ「なかったことがあったり、知らないことを知っていたり。私はずっとそう」
ルルーシュ(記憶障害なのか?)
アーニャ「だけど、その記録は本当。私そのもの」
ルルーシュ「ここに書いてあればそれは君にとって真実であり、絶対ということか」
アーニャ「そう」
ルルーシュ(このタイミングだ。シャルルの差し金と考えてまず間違いないが、何が目的なのか全くわからない。しかし、何か意味があるはず)
ルルーシュ「カレンか」
アーニャ「……」ゴクゴク
カレン「その子……誰?」
ルルーシュ「……」
アーニャ「ルルーシュの許嫁。よろしく」
カレン「私はルルーシュの嫁よ。よろしく」
アーニャ「……」
カレン「あ?」
ルルーシュ「カレン。落ち着け」
カレン「嫁のほうが強いわよね?」
ルルーシュ「よくわからないが」
アーニャ「許嫁も相当強いけど」
カレン「あん?」
アーニャ「やる?」
ルルーシュ「起こしたか、悪いな。シャーリー」
シャーリー「それはいいんだけど……。何かあったのぉ?」
ルルーシュ「なんでもないよ。ほら、寝てくれ」
シャーリー「もう子ども扱いしないでってば」
ルルーシュ「……そうだな。本当はしたくない」
シャーリー「ふわぁぁ……」
ルルーシュ(シャーリー……すまない……。できることなら、お前だけでも元に……)
アーニャ「許嫁は約束されたお嫁」
カレン「嫁は成就した女なんだけど」
アーニャ「……」
カレン「……」
ルルーシュ「もう夜も遅い。寝よう」
アーニャ「うん」
カレン「三人で?」
カレン「……」
リヴァル「ルルーシュ。カレンのやつ、機嫌悪そうだけど、なんかあったのか?」
ミレイ「もう離婚調停?」
ルルーシュ「違いますよ」
シャーリー「昨日、ルルの許嫁を名乗る女の子が来ちゃって」
ミレイ「許嫁!?」
リヴァル「お前!!義理の妹に嫁さんにメイドさんまでいて、許嫁ってなんだよ!!おい!!」
ルルーシュ「俺にもよくわからないんだ」
リヴァル「どういうことだよ?」
ルルーシュ「俺自身、許嫁がいたということを昨夜知ったんだ」
ミレイ「もしかしてルルーシュが生まれる前に親同士で交わされた約束事だったとか?!」
ルルーシュ「可能性はありますね」
リヴァル「俺にもそんな星の下で生まれたかった……」
シャーリー「妹の立場から言わせてもらうと、その節操のなさはどうかと思うけどね」
シャーリー「全くですよ。……どういう意味ですか?」
リヴァル「あーあ。ホント、ルルーシュばっかだよなぁ」
ルルーシュ「隣の芝は青く見えるだけで、それほどいいものじゃない」
リヴァル「これ以上、俺を怒らせないほうがいい」
ミレイ「リヴァルもそのうちいいことあるわよ」
リヴァル「俺みたいな平凡な人間は新しくきた保険医さんで目の保養をさせてもうぐらいしかないっすよ」
シャーリー「保険医?」
ルルーシュ「……なんだそれは?」
リヴァル「知らないのか?一昨日から赴任した保険医が居るんだよ」
ミレイ「あのとんでもバディの人でしょ?健全な男子学生の目には毒よねぇ」
シャーリー「へー、知りませんでした」
リヴァル「ルルーシュ、見に行くか?」
ルルーシュ(胸騒ぎがする……。確認はしておくべきか……?)
シャーリー「ルル、ダメだからね?」
リヴァル「ま、ルルーシュも男なら一度ぐらいは見ておくべきだもんな」
ルルーシュ「まぁな」
シャーリー「もう……ダメ兄なんだから」
リヴァル「失礼しマース」
コーネリア「……ん?どこを怪我した?言ってみろ」
リヴァル「えーと……」
コーネリア「頭が悪そうだな。悪いが馬鹿につける薬はない」
リヴァル「ひでぇ!!」
ルルーシュ「……」
コーネリア「なんだ?怪我人がいないなら出て行け」
シャーリー「本当にすごい……」
ルルーシュ(シャルル……!!あいつ……!!)
コーネリア「こっちも暇じゃないのでな。用がないなら退室してくれ」
リヴァル「は、はい。すいませんでした」
ルルーシュ「確かにな」
シャーリー「……はぁ。自信なくなった」
リヴァル「まぁ、ルルーシュは周りにいっぱいいるから感動も薄いか」
ルルーシュ「そんなことはない」
シャーリー「ルル、もう帰ろう?カレンも待ってるだろうし」
ルルーシュ「そうだな」
ルルーシュ(コーネリアにヴィレッタがいる学園か……。気を抜くことができるのはベッドの上だけだな……)
リヴァル「はぁ……こんなことでしか自分を慰められないのが悲しいな……」
シャーリー「あはは……」
リヴァル「笑い事じゃないんだよ!」
シャーリー「ごめん……」
リヴァル「会長さえ……会長さえ振り向いてくれたら……!!」
ルルーシュ(そろそろ手を打つか……。このままでは全てのマスが敵の駒で埋まってしまう!!)
ルルーシュ(まずは……)
ルルーシュ「久しぶりだな」
C.C.『どうした?』
ルルーシュ「学園にこい」
C.C.『なに?正気か?』
ルルーシュ「お前が必要なんだ、C.C.」
C.C.『……そこまで言うなら行ってやろう。しかし、無駄なリスクが増えるだけだぞ?』
ルルーシュ「どうもおかしい」
C.C.『なんのことかな?』
ルルーシュ「今まで異変にはすぐに気がつかなかったが、連日は明らかな異変が俺の周囲で起こっている。しかも、その異変に気がついているのは俺だけだ」
C.C.『それはシャルルによる記憶改竄がお前にだけ行われていないということだな』
ルルーシュ「何故、改竄せず、周りに壁だけを置いていくのか。答えは簡単だ。俺の記憶が戻ったことをシャルルは知っている」
C.C.『……』
ルルーシュ「理由はわからないが、そうとしか思えない」
C.C.(私がシャルルのギアスを無理やり解いたから、感付かれたとはいえないな。ルルーシュ、絶対に怒るだろうし)
C.C.『わかった。では、三日後に合流する。で、バニーでもやればいいのか?』
ルルーシュ「それもいいが、ボディーガードをしてほしい」
C.C.『私がか?おいおい。見た目より丈夫ではあるけど……』
ルルーシュ「ギアス能力者がいるかもしれないからな」
C.C.『なに?』
ルルーシュ「俺の記憶が戻った場合の対処法としてまず考えられるのがギアス能力者を配置しておくことだろう」
C.C.『ギアスの盾になれというのか』
ルルーシュ「ああ」
C.C.『出来ればいいがな』
ルルーシュ「お前にしかできない」
C.C.『分かった。行ってやろう』
ルルーシュ「会えるのを楽しみにしている」
C.C.『精々、死ぬなよ』
ルルーシュ「俺は死なない。世界を変えるまでは」
カレン「ルルーシュ?」
ルルーシュ「どうした?」
カレン「あの……これでも体には自信あるんだけど……」モジモジ
ルルーシュ「また今度な」
カレン「……ルルーシュ!!」
ルルーシュ「どうした?」
カレン「私のこと……嫌いになったの……?」ウルウル
ルルーシュ「な……」
カレン「私はルルーシュのこと好きなんだけど……」
ルルーシュ「カ、カレン……おい……」
カレン「傍に置いておきたくないほど……嫌いなら……あきらめるけど……」
ルルーシュ「いや……そうじゃなくて……」
カレン「目障りじゃないなら……傍にいさせてよ……」
ルルーシュ「えっと……」
シャーリー=嫁
C.C.=愛人・母親
カレン=友達以上奴隷未満
会長=とても親しい幼馴染のような先輩
スザク=妻
な気がする。
何言ってるんですか?
ナナリー=嫁
ナナリー=愛人・母親
ナナリー=友達以上奴隷未満
ナナリー=とても親しい幼馴染のような先輩
ナナリー=妻
こうですよ
全部全て何もかもナナリーでいいんだよナナリーで
ナナリーは私の母になってくれたかもしれなかった女性だ
乗り換えかこのロリコンニュータイプめ
ルルーシュ「嫌いなわけないだろう。良く考えろ、カレン」
カレン「本当に?」
ルルーシュ「ああ」
カレン「じゃあ、好き?」
ルルーシュ「……ぁぁ」
カレン「聞こえないんだけど」
ルルーシュ「ああ!!」
カレン「はいかいいえで答えろ!!」
ルルーシュ「はいだ!!」
カレン「ルルーシュ、お腹すいたでしょ?今、ご飯つくるから、待っててよ」テテテッ
ルルーシュ「……」
ルルーシュ(まあいい。現状は維持しておく。C.C.がくるまでヴィレッタに感付かれても厄介だしな)
カレン「これはレンジでチンしようっと。―――弾けろ、ブリタニアっ♪」
ルルーシュ(俺は何も間違えていない!!)
ルルーシュ「ああ、ありがとう」
カレン「ふふ。美味しい?」
ルルーシュ「ああ」
カレン「ありがとう」
ルルーシュ(そういえば、カレンの身体能力はどうなっているんだ?この状態でも戦えるんだろうな……)
カレン「なに?」
ルルーシュ「ふっ!」バッ
カレン「!?」グイッ
ルルーシュ「がっ?!」
カレン「いきなり、殴ろうとしてどういうつもり?」ググッ
ルルーシュ「い、いや……顔にソースがついていたから……」
カレン「あ、そうなんだ。ごめん」
ルルーシュ(よかった……戦力としては十分だ……。よし……)
カレン「もう恥ずかしい……どこでついたのかしら……」ゴシゴシ
カレン「うんっ。じゃあ、食器洗うからちょーだい」
ルルーシュ「俺がやるよ。これぐらい」
カレン「いいから。家事は妻の仕事なんだから」
ルルーシュ「そ、そうか……」
カレン「ルルーシュに任せると、私のやることなくなっちゃうし」
ルルーシュ「なら、任せる」
カレン「うん」
ルルーシュ「ふぅ……」
アーニャ「……ルルーシュ」
ルルーシュ「アーニャ、どうした?」
アーニャ「ココア、許嫁が入れたけど、のむ?」
ルルーシュ「……ああ」
アーニャ「美味しいから、飲んで」
ルルーシュ(アーニャはどうなんだ……。スパイと考えるのが自然だが……。少し探りを入れるか……)
ルルーシュ「アーニャ。お前は俺と結婚したいということでいいのか?」
アーニャ「ルルーシュに嫁ぐけど」
ルルーシュ「俺のことがその……好きなのか?」
アーニャ「わからないけど、嫁ぐ以上、好きになる」
ルルーシュ「そうか」
アーニャ「……うん」
ルルーシュ「なら、俺の言うことを聞いてくれるか?」
アーニャ「いいけど、あと3年待って」
ルルーシュ「え?」
アーニャ「ルルーシュを犯罪者にしたくないから」
ルルーシュ「別にそういうのは期待してないが」
アーニャ「……」
ルルーシュ「アーニャ……?」
アーニャ「胸をどうにかしたほうがいいってこと?」
アーニャ「そう。安心した」
ルルーシュ(感覚がズレているのか。それとも演技なのか……)
アーニャ「……」ゴクゴク
ルルーシュ(ちぃ……確証を得難いな。既に堕ちているのか?)
アーニャ「ふぅ……」
ルルーシュ「アーニャ。率直に訊ねる」
アーニャ「なに?」
ルルーシュ「俺と結婚するために軍を辞める覚悟はあるか?」
アーニャ「どうして?」
ルルーシュ「嫁を戦場には立たせたくないからな」
アーニャ「……」
ルルーシュ(さあ、どう答える……)
アーニャ「……じゃあ、今から辞表書く」
ルルーシュ「!?」
ルルーシュ「……」
アーニャ「じゃあ、行って来ます」
ルルーシュ「待て」
アーニャ「なに?」
ルルーシュ「本気か?」
アーニャ「うん」
ルルーシュ(この目……本気だな……。迷いがない。ここまでの演技ができるなら、騙されてもいい)
ルルーシュ「分かった。アーニャの想いが本物であることは十分にな」
アーニャ「そうなの?」
ルルーシュ「ココア、美味しかった。ありがとう」
アーニャ「おやすみ、ルルーシュ」
ルルーシュ「おやすみ」
ルルーシュ(アーニャはどうやら俺の味方になってくれそうだな……。存分に利用させてもらうぞ……フフフハハハ……)
カレン「ルルーシュ、寝る?」
カレン「……うんっ」
ルルーシュ(C.C.にカレン、そしてアーニャ……。これだけの駒があればヴィレッタごときは制圧可能だな)
シャーリー「あれ、ルル。まだ起きてたの?」
ルルーシュ「シャーリー……」
シャーリー「ん?」
ルルーシュ(そうだ。シャーリーだけでも解放してやらないと……。このままシャルルの駒にさせてたまるか……!!)
シャーリー「なに?」
ルルーシュ「シャーリー……」
シャーリー「え……?」
ルルーシュ「……」ギュッ
シャーリー「ちょっと!!いくら兄妹でもダメ!!」
ルルーシュ「お前だけは必ず守る……必ずな……」
シャーリー「お兄ちゃん……うん……ありがとう……」ギュッ
ルルーシュ「シャーリー……」
C.C.「……久しぶりだな」
ルルーシュ「会いたかったぞ」
C.C.「冗談がうまいな」
ルルーシュ「よし。これで前提条件は全てクリア。いくぞ」
C.C.「本当に私たちだけでやるのか?」
ルルーシュ「問題はない」
C.C.「なら、お前を信じるとしよう」
ルルーシュ「行くぞ」
C.C.「ああ」
ルルーシュ「俺からナナリーを奪い。そして他の者を玩具のように扱った報いは受けてもらうぞ!!シャルル!!」
ルルーシュ「手始めに俺の監視役どもを制圧する」
C.C.「人数は?」
ルルーシュ「並みの相手ならギアスで十分だ。問題は……」
C.C.「ギアスが通じないヴィレッタと、いるであろうギアス能力者か」
ルルーシュ「女子更衣室でも覗きにいけ!!」キュィィン
見張り「そうだ。覗きにいこう」タタタッ
C.C.「悪魔だな」
ルルーシュ「死ぬよりはマシだろ?フフハハハ」
C.C.「ここだな」
ルルーシュ「……」ピッ
ウィィン……
ヴィレッタ「ん?―――なに?!」
ルルーシュ「ヴィレッタ先生。どうも」
ヴィレッタ「お前……記憶が……」
ルルーシュ「……」
ロロ「……」キュィィン
C.C.「ふっ!―――なるほど、便利なギアスを持っているな、クソガキ」
ロロ「がっ……!?お、お前は……!!!」
ルルーシュ「なんだ?」
C.C.「どうやら体感時間を止めるギアスらしい。私がいて命拾いしたな」
ルルーシュ「全くだ」
ヴィレッタ「ルルーシュ……!!」
ルルーシュ「どうやらあなたたちに俺の情報は降りていなかったか。完全な捨て駒ということか」
ヴィレッタ「なに……」
ロロ「こんなことで……!!」
C.C.「残念なお知らせだ。お前はもう一度ギアスを使えば、楽になる」チャカ
ロロ「……」
ヴィレッタ「何が目的だ……」
ルルーシュ「ここを無力化させるだけですよ」
ヴィレッタ「またゼロに戻るのか……」
ルルーシュ「当然でしょう?」
スザク「―――今の君にそれだけの覚悟があるのかい?」
スザク「皇帝陛下の言うとおりになるなんて……。信じたくなかったよ」
ヴィレッタ「来ていたのですか……」
スザク「ルルーシュ……」
ルルーシュ「貴様……」
スザク「ゼロに戻るなら。この場で討つ」
ルルーシュ「……」
スザク「ゼロは死んだ。それでいいだろ」
ルルーシュ「どういう意味だ?」
スザク「……」
ルルーシュ「俺に覚悟がないとはどういう意味だ?」
スザク「今の君は恵まれているじゃないか」
ルルーシュ「なに?」
スザク「魅力的なお嫁さんがいて、血が繋がっていない妹がいて、年下の許嫁がいて、美人な保険医がいて、お尻の大きな愛人がいて……。これ以上、何を望むんだ?!」
ルルーシュ「俺はそのようなものを望んでいないんだよ!!!スザク!!!」
ルルーシュ「俺は間違ってなどいない!!」
スザク「お前がいるから!!!彼女すらできない哀れな男性が生まれるんだ!!!」
ルルーシュ「知るか!!!」
スザク「ルルーシュゥゥゥ!!!」ガッ!!!
ルルーシュ「ぐっ!?」
スザク「君はそれでいいのかもしれない!!だけど!!!我を通す者の陰で涙を流す者もいることを自覚するんだ!!!」
ルルーシュ「俺は俺の望むものを手に入れるために多くの血を流してきた!!もう止まることなどできない!!」
スザク「止まるんだ!!俺が世界を変える!!!」
ルルーシュ「貴様の方法で変わるのはいつになる?!10年か?!20年か?!俺はもう1日たりとも無駄にしたくはない!!」
スザク「そのための犠牲なら払ってもいいというのか?!」
ルルーシュ「そうだ!!それが大義のためならばな!!」
スザク「君は屑だ!!」
ルルーシュ「なんとでもいえ!!俺が目指す世界のためならば、どんな汚泥もかぶってやる!!!」
スザク「この……!!」
ロロ「お前たちは皆処刑だ……」
ヴィレッタ「諦めろ、ルルーシュ」
スザク「ルルーシュ……君には普通の男が何度転生しても手に入れることのできないものが揃っているんだぞ?」
ルルーシュ「俺が望むのはナナリーだけだ」
スザク「……ナナリーがいればそれでいいのか?」
ルルーシュ「違うな。ナナリーが笑っていられる世界を望む」
スザク「何を言っても無駄なんだね……ルルーシュ」
ルルーシュ「ああ。お前とは分かり合えない」
スザク「なら!!ここで!!」
ルルーシュ「無策でここにくると思うな!!―――カレン!!」
スザク「え?!」
カレン「私の旦那からはなれろぉぉ!!!」バキィ!!!
スザク「ぐ!?」
カレン「スザク。男の嫉妬は醜いんだけど」
モニター『キャー!!覗きよー!!』
ヴィレッタ「……!?」
ルルーシュ「見張りなら鼻の下を伸ばしながら婦女子の着替えを観覧していますよ」
ヴィレッタ「ルルーシュ……!!」
スザク「カレン……」
カレン「なに?」
スザク「君はギアスによってルルーシュのことを好きになっているだけなんだ」
ルルーシュ「スザク!!」
スザク「君は偽りの愛に尻尾を振っているだけだ!!」
カレン「……ギアスにかかってるからなんなの?」
スザク「え……」
カレン「私はルルーシュのことが好きだし、愛してる。それが全てよ!!紅月カレンを甘く見るな!!」
スザク「くっ……」
C.C.「……暫く見ないうちに一皮剥けたな……カレンめ……」
スザク「ルルーシュ……逃げる気か?」
ルルーシュ「なに……?」
スザク「君に会わせたい人がいる」
ルルーシュ「会わせたい人……?」
カレン「誰よ?」
C.C.「……まさか」
スザク「総督に繋いでください」
ヴィレッタ「ああ」ピッ
ルルーシュ「総督だと……?」
スザク「こんど新たに就任される人だよ。モニターを見てくれ」
ナナリー『―――お兄様?』
ルルーシュ「……!?」
ナナリー『お兄様?いらっしゃるのですか?』
スザク「……」
C.C.「枢木……」
ルルーシュ「何の真似だ?」
スザク「……」
ナナリー『お兄様……。私、全てをスザクさんからお聞きしました』
ルルーシュ「全て……?!」
ナナリー『ゼロのこと……ギアスのこと……』
ルルーシュ「スザァァァク!!!」
スザク「……」
ルルーシュ「貴様は!!!」
スザク「ルルーシュのことを全て話す。それがナナリーが出した条件だった」
ルルーシュ「なに……!?」
スザク「総督になるための条件だよ」
ルルーシュ「じゃあ……ナナリーは……!?」
スザク「自分の意志で総督の座についた。もう君が戦う理由はない!!」
スザク「ナナリーは自分の意志で世界を変えるつもりだ」
ルルーシュ「ふざけ……!!」
ナナリー『お兄様……』
ルルーシュ「ナナリー……おれは……おれはぁ……!!」
C.C.「これまでか……」
カレン「……この子、だれだっけ?」
ナナリー『―――お兄様。聞いてください』
ルルーシュ「……」
ナナリー『中から変えるのは……はっきりいって無理です』
スザク「!?」
ヴィレッタ「え……」
C.C.「ほう……?」
カレン「あ!!思い出した!!ルルーシュの実の妹のナナリーだ!!」
ルルーシュ「……ナナリー?」
ナナリー『私が総督になっても知らないところで日本人の皆さんに対する圧政が行われています』
スザク「それは……」
ナナリー『総督になればあるいはと思いましたが、所詮は小娘の戯言で一蹴されてしまう。少し考えれば分かったことなのですけど』
ルルーシュ「……」
ナナリー『だから、一度外側からシステムを壊しましょう。お兄様』
スザク「ナナリー!!!どうして!!」
ナナリー『私の言うことを聞いてくれない人ばかりですから……』
スザク「僕がいる!!ジノも!!アーニャもいるじゃないか!!」
ナナリー『たった三人のラウンズでは……ちょっと……』
スザク「……」
ルルーシュ「ナナリー……俺にどうしろと……?」
ナナリー『ゼロとしてブリタニアと戦ってください。私はお兄様が壊した世界を中から修復します。勿論、今とは違う形でですが』
ルルーシュ「……本気か?」
ナナリー『私とお兄様なら造作もないことだと思います』
ナナリー『中から変える間にも罪のない日本人の方々、世界中にいるナンバーズと呼ばれ差別されるの人たちが血を流しています!!』
スザク「!?」
ナナリー『流れる血の量が少なくて済む方法があるのなら、私は躊躇うことなくそちらを選びます。これは可笑しなことですか?』
スザク「でも……間違った方法で得た結果に価値なんて―――」
ナナリー『スザクさんにとって間違いでも、私にとっては正しいことです。不満があるのなら、軍から抜けてもらっても構いません』
スザク「……」
ルルーシュ「ナナリー……いいんだな?」
ナナリー『よろしくお願いします。お兄様』
ルルーシュ「容赦はしないぞ?」
ナナリー『優しい世界でありますように』ニコッ
ブツッ……
ヴィレッタ「……」
スザク「……」
ルルーシュ「撤収するぞ。もうここに用も価値もない」
ロロ「ま、まて……!!」
C.C.「殺してもいいんだぞ、クソガキ」
ロロ「……っ」
カレン「ルルーシュ……」
ルルーシュ「カレン。今のお前は覚えていないかもしれないが、紅月カレンは黒の騎士団のエースだった」
カレン「……」
ルルーシュ「カレンさえよければ……」
カレン「夫が戦えっていうなら戦う」
ルルーシュ「カレン……。ありがとう。だが、絶対に死ぬな」
カレン「ルルーシュがそういうなら死なない」
ルルーシュ「いくぞ」
C.C.「よし」
カレン「おー」
スザク「……こ、ここで逃がしたら……!!」
C.C.「しつこい男は嫌いだ」
カレン「ホントに」
ルルーシュ「外に出れば勝ちだ!!いくぞ!!」
C.C.「わかっている」
カレン「まだなにか策があるの?!」
スザク「まて―――」
モルドレッド『止まってくれるぅ?』
スザク「!?」
ルルーシュ「フフフハハハハハ!!!」
スザク「ア、アーニャ!!何の真似だ!!」
ルルーシュ「アーニャ!!ここは任せるぞ!!」
モルドレッド『はいはぁ~い』
スザク「アーニャ!!何をしているのか分かっているのか!?」
モルドレッド『あなたこそ何をしているのかわかってるわけぇ?』
アーニャ『ルルーシュはねぇ、たくさんのお嫁さんに囲まれて世界を変えちゃうんだから』
スザク「は?」
アーニャ『勿論、夫の計画が失敗したときの保険だけどね』
スザク「なにを……」
アーニャ『いい?作り変えられた世界で必要なのは絶対的な王なのよ。それを捕まえようとするなんて、ナンセンスだと思わない?』
スザク「ルルーシュはただの人殺しだ!!」
アーニャ『英雄や王で独りも殺さずその椅子に座り続けた者はいないわ。あなただって、今の地位に来るまでにどれだけの人を殺してきたの?』
スザク「それは……僕は正しいことを……」
アーニャ『正しい人殺しってなぁに?』
スザク「……!?」
アーニャ『二元論で語れるほど、世の中は甘くないとおもうけどぉ。どう思う?』
スザク「……」
アーニャ『ルルーシュには少なくともナナリーとシャーリーとカレンとアーニャと……ついでにコーネリアを孕まして、夫亡き後に君臨してもらわないとね。アレが失敗した場合だけど』
スザク「ま、待ってくれ……アーニャ……君は……どうするつもりだ?まさか……ルルーシュにつくのか……?」
スザク「裏切るのか?!」
アーニャ『友人を裏切った貴方がいってもねえ』
スザク「……」
ジノ『アーニャ!!見つけたぞ!!』
スザク「ジノ!!」
アーニャ『ハドローン!』ゴォォ!!!
ジノ『うわ!?』
スザク『アーニャ!!!』
アーニャ『それじゃあ、追って来てもいいけど、そのときはボイスレコーダーに最後の言葉を吹き込んでおいてね?』
スザク「アーニャァァァ!!!!!」
ジノ『待て!!!』
アーニャ『ハドローン』ゴォォォ
ジノ『うそだろ?!』
ドォォォン!!!
ヴィレッタ「今、ルルーシュ、C.C.、カレン、シャーリー、コーネリアの5名が学園敷地内から姿を消しました」
スザク「……」
ロロ「追います」
スザク「いや、いい。やめるんだ。追っても無駄だよ」
ヴィレッタ「これからどうなるというんだ……」
スザク「こんなの絶対に間違っている……僕はやる……たとえ一人でも自分の正義を信じて……戦う!!」
ヴィレッタ「……」
ロロ「レジスタンスと同じ思考ですよね」
ヴィレッタ「しっ」
スザク「……」
ヴィレッタ「では、逃げた5名の行方を至急捜索します」
ロロ「ラウンズを入れたら6人ですね」
ヴィレッタ「モルドレッドはすぐに補足できるだろう。急ごう」
スザク「……僕はどうしたらいいんだ……」
カレン「扇……?」
コーネリア「おい。怪我人はどこにいる?いないぞ?」
ルルーシュ「今からわんさか来ますよ」
コーネリア「そうか。ならいいんだ」
シャーリー「ルル……私は本当にルルの傍にいればいいの?」
ルルーシュ「ああ。俺の帰る場所になってくれればそれでいい」
シャーリー「……うん」
C.C.「しかし、どうやって救出するつもりだ?」
ルルーシュ「そろそろ連絡がくる」
ナナリー『―――お兄様』
ルルーシュ「どうだ?」
ナナリー『中華連邦とも連絡を取りました。黒の騎士団のみなさんの身柄は中華連邦総領事館で渡しますね。あくまで取引をしたという形で……』
ルルーシュ「くくく……よし……」
カレン「おうぎ……?だれ……だっけ……?まぁ、いいか」
ゼロ「では、団員たちの身柄は我々が貰い受ける!!」
扇「助かった……」
玉城「さっすがゼロだぜぇぇ!!!」
藤堂「……」
ギルフォード「さぁ!!姫様を渡せ!!」
ゼロ「……できない相談だな」
ギルフォード「約束が違うぞ!!」
コーネリア「怪我人はいないか!!私が治療する!!!」
ゼロ「彼女は大事な医療班のリーダーだからな」
ギルフォード「くっ……!!ゼロは卑怯にも約束を反故にした!!うてぇ!!」
ゼロ「くくく……」
モルドレッド『うざい奴、嫌い』
ギルフォード「モルドレッド……ラウンズ……!?」
アーニャ『私のダーリン、殺させない』ゴォォォ
ゼロ!!ゼロ!!ゼロ!!
アーニャ『ゼロっ、ゼロっ、ゼロっ』
カレン「ゼロ!!ゼロ!!!ゼロ!!!ゼロ!!!」
ゼロ「皆の者!!ナイトメアに搭乗しろ!!まだ終わってはいない!!」
藤堂「用意がいいな」
千葉「よし」
ギルフォード「撤退だ……撤退しろ……」
ランスロット『まだ、自分がいます!!』ギュルルル!!!!
ゼロ「来たか……」
ランスロット『ゼロ!!お前を倒して僕が正しいことを証明す―――』
紅蓮『いいよ』
モルドレッド『こい』
斬月『スザクくん。無駄な抵抗だ』
ランスロット『……うわぁぁぁぁ!!!!』
ランスロット『くそ!!まだだぁ!!』
斬月『であぁぁぁ!!!』ザンッ!!!
ランスロット『ぐぁ?!』
紅蓮『捕まえたぁ!!!』ガキィィン
ランスロット『くっ……?!』
紅蓮『弾けろぉ!!ブリタニアァ!!!!』
ランスロット『くそぉぉ!!!僕は諦めない!!!絶対に諦めるものかぁぁぁぁ!!!!』
ドォォォン!!!!
ゼロ「よし。脅威は去ったな」
玉城「やべえ!!今の爆風で扇がふっとんだぁ!!!」
南「医療班!!」
コーネリア「任せろ!!」ダダダッ
ゼロ「フフフハハハハ!!!!やれる!!やれるじゃないか!!!」
コーネリア「……唾付けておけば大丈夫だろう」
千葉「ゼロ。ブラックリベリオンのとき、どうして逃げ出した?説明はあるんだろうな?」
ゼロ「見れば分かるだろう、千葉よ」
千葉「え?」
コーネリア「……」
藤堂「コーネリアを仲間に引き入れるためだったのか」
ゼロ「そうだ」
千葉「ならば、そのとなりにいる女はなんだ?」
ゼロ「ん?」
シャーリー「……」オロオロ
ゼロ「私の影武者になる人物だ。知略計略に長けている」
シャーリー「え?!」
千葉「なら、いいけど」
シャーリー「よ、よろしくおねがいします!!」ペコッ
千葉「……礼儀正しいな」
ゼロ「これはこれは、ナナリー総督。何か御用ですか?」
C.C.「……」
玉城「ブリタニアの総督がなんのようだよぉ!!」
ナナリー『あなた方の卑劣な行為。看過できるものではありません。即刻、日本から退去してください』
千葉「なんだと?!」
藤堂「ふざけるな!!」
ナナリー『蓬莱島というところがありますから、そこに新しい日本でもなんでも作ればいいです』
千葉「貴様!!少し可愛いからと侮辱が過ぎるぞ!!」
藤堂「……待て、千葉」
千葉「はい?」
藤堂「奴らから拠点の提供をしてくれたようなものだぞ……」
千葉「……」
ナナリー『ゼロは悪魔です!!大嫌いです!!パセリぐらい嫌いです!!』
ゼロ「気が合いますね、ナナリー総督。私も貴方のことは子猫を愛でてる程度の情しかもてませんよ』
ブツッ
ゼロ「聞いたな、皆の者。新天地で新たな国をつくるぞ!!」
玉城「ブリキ野郎ども!!俺たち日本人を日本から追い出すなんて!!ひでーやつらだ!!今にみてやがれ!!!」
C.C.「酷い演技だ。藤堂辺りは感付くんじゃないか?」
ゼロ「感付いたにしろこちらにとってメリットしかない。文句のつけようなどないだろ?」
C.C.「悪魔め」
ゼロ「魔女が」
カレン「よし。みんな!!移動開始!!」
シャーリー「列を乱さないようにしてください!!」
コーネリア「怪我したら速やかに言うのだぞ!!」
アーニャ「記録……」パシャ
ゼロ「行くぞ!!未来は我らにあり!!!」
ゼロ「世界は変わる!!!変えられる!!!!」バッ
カレン「かっこいいフレーズ……メモしておかないと……」カキカキ
V.V.「……いいのかい?」
シャルル「ふふふ……ふはははは……ぬぁっはっはっはっはっは!!!!」
V.V.「……」
シャルル「ルルーシュめ……やりおったわぁぁ!!!!」
V.V.「でも、まだまだだよね」
シャルル「ええ。側室がたったの4人では……ダメですね……」
V.V.「じゃあ、そろそろ僕も行くよ」
シャルル「兄さん……」
V.V.「大丈夫さ。ルルーシュが本当に王の器があるのなら、僕でも抱けるはずだよ」
シャルル「それほどまでにルルーシュのことを……」
V.V.「ルルーシュはシャルルに似ているからね。僕は好きだよ」
シャルル「……がんばってください」
V.V.「うんっ」テテテッ
シャルル(ルルーシュ……兄さんを……たのぉぉむ……)
ナナリー「ふぅ……これでよし」
スザク「ナ、ナリー……どうして……」
ナナリー「お兄様……次にあえるときは……世界が変わるときですね……」
スザク「ナナリー……僕の話を……」
ナナリー「……」
スザク「こんなの間違っている……」
ナナリー「スザクさん?」
スザク「ナナリー……」
ナナリー「邪魔しないでくださいね?」
スザク「……」
ナナリー「それでは」ウィィン
スザク「ははは……」
スザク「ハハハハハハハハハ!!!!!アハハハハハハハハ!!!!!!!」
スザク「アーッハッハッハッハッハッハッハッハ!!!!!」
カレン「ルルーシュ!ごはんできたわよー!」
ルルーシュ「わかった」
シャーリー「ルルー、新聞」
ルルーシュ「ありがとう」
アーニャ「歯磨きセット」
ルルーシュ「悪いな」
コーネリア「体温を測る。ズボンを脱げ」
ルルーシュ「どこで測る気ですか」
C.C.「お前の周りは女だらけだな」
ルルーシュ「そうか?黒の騎士団は男のほうが圧倒的に多いぞ?」
C.C.「そういうことじゃない」
ルルーシュ「今日の一面は……。たった一人の抗議デモ……。正義は我らにあり……。スザクも必死だな」
C.C.「世界が変わればこいつも大人しくなるさ」
ルルーシュ「そうだな。こんなスザクは見たくないな……」
ルルーシュ「ほう?」
ジェレミア「ギアスキャンセラーでございます」キュィィン
V.V.「ルルーシュのギアスが実質何回もかけられるようになったよ」
ルルーシュ「なるほど。それは使えるな。ありがとう、V.V.」ナデナデ
V.V.「……♪」
ルルーシュ「よし、そろそろ行くか」
ゼロ「―――イカルガの進捗状況は!!」
シャーリー「えっと、いい感じです!!」
ゼロ「中華連邦との会合日程は!!」
カレン「天子様はお昼寝するそうなんで午前中か17時から19時までの間でお願いしたいと言ってます!!日にちについてはいつでもいいらしいです!!」
ゼロ「わかった。では、各員持ち場につけ!!!」
「「はいっ!」」
ルルーシュ(ナナリー、待っていろ。二人が、いや、みんなが笑っていられる優しい世界を必ず作ろう!!そのために俺は進み続ける!!!)
END
スザクェ…
V.V.が普通に愛されていたwww
Entry ⇒ 2012.10.19 | Category ⇒ コードギアスSS | Comments (0) | Trackbacks (0)
菫「エロゲしてる所を宥に見られた……」
http://ssweaver.com/blog-entry-1836.html
洋榎「エロゲしてる所を絹に見られてしもた……」
http://ssweaver.com/blog-entry-1845.html
前作の続きという訳ではありませんが、
前作から話は繋がっているので、前作も読んだうえ見て頂けると楽しめるかと思います。
菫「有が泊まりに来るまであと1日……」
菫「なんとかエロゲの山は押入れに隠す事が出来たが……油断は出来ない」
菫(万が一ここを開けられたら、宥に引かれるどころか私の人生はおしまいだ……)
菫「……」
菫「……しばらくエロゲも自重しておくか」
菫(とはいえ、宥が来るのは明日だ……)
菫(今日ぐらいはやっても平気だよな……?)
菫「……」
菫「よし、”松実屋温泉記”の続きを進めておくか……」
『おまかせあれっ!』
菫(”松実屋温泉記”……このゲームは奈良にある温泉旅館の経営をする温泉旅館経営シミュレーションゲームだ)
菫(やはりというか、”ソフトハウスダヴァン”のゲームは面白い)
菫(中には”アコスソフト”や”ヤエシュリー”の方が面白いという奴もいるそうだが……)
菫(経営や育成シミュレーションゲームを多く発売してくれるこのブランドの方が私には合っている)
菫「……」
菫「しかし……なかなか売上が伸びないな……」
菫「やはり多少の経費を覚悟して宣伝をもっとした方がいいのだろうか……」
菫「いや……それとも施設の増設をして売上アップを狙った方が……」
ピンポーン
菫(もう22時だぞ?外は真っ暗だって言うのに、一体誰だ)
菫(宅配を頼んだ覚えもないし、宗教や勧誘もこんな時間に来るとは思えないが……)
ピンポーン
菫「あ、ああ!今出る!」
ガチャ
菫「はい、どちらさまで……」
宥「こんばんわ……菫ちゃん」
菫「ゆ、宥っ!?」
宥「うんっ、そのはずだったんだけどね……」
宥「……菫ちゃんに早く会いたくて……来ちゃったっ……」///
菫「宥……」
菫(私に早く会いたくて……来ちゃった……だと……?)
菫(そ、それってつまり……あ、あれだよな……)ゴクリ
宥「……?菫ちゃん……?」
菫「あ、ああ、すまない、とりあえず上がってくれ」
宥「うんっ」
宥「ううん、大丈夫だよ」
宥「でも菫ちゃん……一人暮らしをしてるなんてすごいね」
菫「ああ……大学が始まってから一人暮らしをするようでは慌てるだろうから」
菫「早いうちに一人暮らしに慣れておけってね、親に言われてしまった」
宥「ふふっ、そうなんだ」
菫「……」///
菫「と、とりあえず布団を敷こう、な!」
宥「うん」
菫「ふぅ……宥はどっちで寝る?」
宥「えっ……私は布団でいいよ……?お客様だし……」
菫「いや、そういう訳にも行かん。わざわざ遠くから来て疲れてるだろう、ベッドで寝た方がいい」
宥「でもっ……」
菫「……じゃあ、こうしよう」
菫「しばらくの間、交互に使おう。今日は宥が、明日は私が。それでいいか?」
宥「……うん、わかった。…………あれ?」
菫「……?どうした?」
宥「菫ちゃん……パソコンで何かしてたの?」
菫「パソ……?……ッ!!?」
菫(しまった、ゲームを放置したままだった……!!)
菫「あ、ああ……!これは、その、温泉旅館の経営ゲームをな!やっていたんだ、うん」アセアセ
菫(嘘は言ってないぞ、うん、嘘は言ってない)
宥「温泉旅館の経営……」
菫「ま、まさか宥が今日来るとは思わなかったからっ……!ついさっきまでやっていたんだっ」
菫「ははッ、宥が来たからにはこんなものをやっている場合じゃないけどな!」
菫(さっさとセーブして閉じてしまおう)カチッ
宥「……菫ちゃん」
菫「ん?どうした?」カチッ
宥「……私もそのゲーム、やってみたいなっ」
菫「ファッ!?」
菫「このゲームは、宥がやるようなゲームでも無いと言うかっ」
菫「宥がやっても、全然おもしろくないんじゃないかなーって……ハハ……ハ」アセアセ
宥「……」
宥「菫ちゃん……私ね」
宥「実家の旅館を継ぐためにね……良い大学に入って経営学を学ぶ為に、東京の大学を見に来たの……」※設定を変更しました
宥「だから……少しでも旅館の経営に関わる事なら何でもしてみたいの……」
菫「……」
菫「し、しかしだな……」
宥「……」
宥「だめ……?」ウルッ
菫「うっ……」
菫(か、可愛いい……)///
菫(……だが、ここは何としてでも阻止せねばならない!!)
宥「え、えっと……こうかな」
菫「ああ」
菫(結局押し切られてしまった……)
菫(しかし、まだ慌てるような時間じゃあない)
菫(一番簡単なモードを選んだんだ、少なくともエロシーンは当分やってこない)
菫(要はエロシーンさえ見られなければいいんだ)
菫(序盤は小さなイベントと経営ばかりひたすら続く)
菫(そのうち飽きるか、寝る時間が来るかのどちらかだろう……)
菫(問題は無いはずだ……!)
菫「……」
宥「……えっと」
菫「ん?ああ……これはここをこうしてだな……」
宥「ありがと……」
宥「……私ね、ゲームとかは全然しないんだけど……」
宥「こういうゲームも、面白いんだね」
宥(可愛い女の子ばっかり出てくるのが不思議だけど……)
菫「……」
菫「ああ……そうだな」
菫(宥が思ってるようなゲームでは無いんだがな……)
菫(いや、見たことあるような……確かこのランダムイベントって…………っ!!!?)
菫「ゆ、宥!ちょっと待ったっ!!」
宥「えっ?」カチッ
『っやぁっ……だっ……だめだよ巴ちゃん……っ!』
『姫様っ……!はぁっ……はぁっ……!もっと激しくしますね……!!』
『んっ……!ふあぁっ……んっんっ……んっ!ひゃうぅ……!』
宥「」
菫「」
宥「な……なに……これ」
宥(裸の女の子が抱き合ってる……?)
宥(ううん……抱き合ってるだけじゃない……よね)
宥(……こ、これって……玄ちゃんが言ってた……えっちなげーむ……だよねっ……)///
宥「……」///
菫「そ、その……こ、これは……だな」
菫「……えと……はは……」
菫(見られてしまった……もうおしまいだ……)
菫「……」
菫「と……とりあえず、ゲームは止めにしようか……」
宥「……」
宥「……うん」コクッ
菫「……」カチカチッ
菫(さて……どうしたものか……)
菫「ゆ、宥……えっと……」
宥「……」
宥「さ、さっきのって……」
菫「え……?」
宥「さっきのって……その……えっちなげーむ……だよね……」
宥「……」
菫「……」
菫(おしまいだ……これは完全に引かれたに違いない……)
菫(よく考えたら……恋人持ちでエロゲーをやっている方がおかしいんだ……)
菫(私はやってはいけない事をやっていた……)
菫(その過ちが今、罪となって私に降りかかってきた……)
菫(なるべくしてなった……のかもしれないな)
宥「……」
宥「……菫ちゃん……」
菫「……」
菫(……全部話してしまおう……)
菫(それで許して貰えるとは思えないが……せめてもの償いに……)
菫「私は……こういうゲーム、その……エッチなゲームが大好きなんだ……」
菫「……はは」
菫「引いたか……?」
菫「学校ではシャープシューターや菫お姉様などと呼ばれ、誰にでもクールに振舞っていた私が……」
菫「家に帰ればエッチなゲームを楽しむ、ただのオタクだ……」
菫「宥という可愛い恋人が居るにも関わらずだ」
菫「……我ながら、実に最低な人間だ」
宥「……」
菫「こんな私に、宥みたいな恋人が居る事自体が」
菫「私はエロゲーマー、世間の影でひっそりと生活する日陰者だ」
菫「決して表立って生活する事は出来ない、醜き存在だ」
宥「菫ちゃん……」
菫「……」
菫「……宥」
――私たち……別れよう――
菫「……自分の恋人がエロゲーをやっているなんて知れたら、きっと宥まで変な目で見られてしまう」
菫「私が何を言われようと構わない……だが」
菫「宥にはそんな目に遭って欲しくない」
宥「……で、でもっ、見ちゃったのは私だけだし……」
宥「他の誰にも言わないよ……?」
菫「たとえ宥が黙っていてくれたとしても、今回見られてしまったのは事実だ」
菫「今後いつボロを出して、バレるか……」
宥「……」
菫「……わかってくれ、宥」
宥「……」
宥「……ぃ……だっ」
菫「……え?」
宥「菫ちゃんとせっかく恋人になれたのにっ……」
宥「なんでそんな事で……別れなきゃっ……」
菫「宥……」
宥「……私はっ、別れたくない……!」
宥「菫ちゃんのことがっ……好きだから」
菫「……」
宥「……菫ちゃんは……どうなの?」
菫「えっ……?」
宥「菫ちゃんは……本当に別れたいの……?」
菫「……」
菫「……そんなわけ……ないだろう!!」
菫「当たり前じゃないか……!こんなにも宥の事が好きで好きで!」
菫「宥の事を考えるだけでも胸がはち切れそうなのに……!」
菫「何故こんなにも苦しい思いをしなければならないっ!!」
菫「宥の事は好きだ……でもそれじゃあダメなんだ!!」
菫「これ以上は……宥を傷つけてしまうんだ……」
菫「他に……」
菫「他に……どうしろって言うんだ……」
ダキッ
菫「……っ、宥……?」
宥「……大丈夫だよ」
宥「悪口とか……言われ慣れてるから……」
菫「宥……っ」
宥「それにね……菫ちゃんだけにそんな辛い思いをさせたくないよ……」
菫「で、でもっ……!それだと宥が……!!」
宥「菫ちゃん」
菫「っ……」
宥「菫ちゃんは……私に何かあった時は、守ってくれる?」
菫「……っ……!ああ……!当たり前だろ……っ!」
宥「じゃあ、菫ちゃんに何かあった時は私が菫ちゃんを守ってあげる」
菫「……ッ……ゆ……うぅ……っ!」
宥「……ね?」
菫「…………――――っ!!」
『う……あああああ……――――!!!』
…
宥「……落ち着いた?」
菫「……っ」コクン
宥「そっか……」
菫「……宥」
菫「私は、エロゲーが大好きな女なんだ……」
菫「周りにどう思われようと別にいいが……宥だけには嫌われたくないんだ……」
菫「宥は気持ち悪いとか思わないのか……?」
菫「こんな、エロゲーが好きな私を……」
宥「……」
宥「さ、最初は……びっくりしたけど」
宥「菫ちゃんが……その、えっちなゲームをしていても……私は何とも思わないよ」
宥「私が好きになったのは……菫ちゃんだから」
宥「えっちなゲームもやっている菫ちゃんを含めて、菫ちゃんだから」
菫「……宥」
菫「……?」キョトン
宥「あっ……」
宥(か、顔が近い……ど、どうしよう)///
宥(そ、そういえば抱きしめたままだったよぉ……)///
宥(……あっ……菫ちゃん……睫毛長いなぁ……)
宥(本当に美人さんなんだぁっ……)
菫「……」
菫(ど、どうしよう……顔が近い……っ)///
菫(まだ目が腫れていて……恥ずかしいっ……)///
菫(……しかしこうして間近で見ると、本当に宥は可愛い……)
菫(本当に……好きなんだ、私は……宥のことが)
菫「……宥」
宥「……?す、菫ちゃん?」
チュッ
菫「……好きだ」
宥「……?う、うん、私も好き……だよ」
菫「違う、そうじゃないんだ」
菫「その……本当に好きなんだ」
宥「……?え、えっと、どう違うの……かな」
菫「……そ、その、つまりだな」
菫「……こういうことだ」
ンチュッ
宥「んっ…………」
菫「………っ……」
菫「……っはぁ」
宥「っ……菫ちゃん」
宥「……ううん」
宥「……もっと、して欲しい」
菫「……宥っ!」
がばぁっ
宥「す、菫ちゃんっ……!?」
菫「……これ以上は歯止めが効かなくなるぞ」
宥「……」
宥「……」コクリ
宥「菫ちゃ……んっ……ぁっ……」
菫「んんっ……くちゅっ……んちゅっ……」
宥「んっ……はっぁ……す、すみれちゃっ……そ、そこはっ」
菫「……」
菫「……いやか?」
宥「……ううん、ち、ちがうのっ」
宥「その……ね……は、はじめてだから……」
宥「や、やさしく……して……」///
菫「……宥っ」
………
……
…
菫「ん……寝てしまっていたのか」
菫「宥は……」
宥「……zzz……zzz」
菫「はは……全く」
菫(結局、あの後身体を交わせてしまった)
菫(最初はお互いぎこちなかったが、何回か続くと宥の方からも求めてくれた)
菫(……エロゲの知識も大して役に立たなかったな)
菫「……ん?なんだ、パソコン付けっぱなしだったのか」
菫「いい加減電源落としておかないと……ん?」
菫「ス○イプで誰か話していたのか、何々……」
――とあるネット掲示板で知り合った数人の猛者達が――
――互いに集い語り合う 淑女達のグループチャットである――
ひろぽん:”恋と麻雀とチョコレート”とかなかなか良かったと思うんやけどな
トキ:あーこの前アニメ放送もしてたな
かじゅ:学内麻雀で優勝した人物が生徒会長になるとか言う奴だろう?実に馬鹿げてると思うがな
巫女みこカスミン:でも、絵も音楽もなかなか良かったわよね。私は好きよ
ひろぽん:せやろー
トキ:やーそれやったら、”アトカラ=スコヤ”の方が全然ええわ
ひろぽん:うわ出たでーアコス厨
かじゅ:でもわかる
巫女みこカスミン:わかる
ひろぽん:いや、そら名作やからそうやろけど、そもそも比べるもんとちゃうやろ
トキ:せやろか
ひろぽん:せやろ
巫女みこカスミン:とある女の子からお姉様って呼ばれるのがイイのよね
ひろぽん:あんたら自分がお姉様って呼ばれたいだけとちゃうんかと
トキ:すみれとか”アトカラ=スコヤ”めっちゃ好きそうやな
かじゅ:ああ、好きそうだな
巫女みこカスミン:その張本人はインしてるようだけど、今いないのかしら?
ひろぽん:なんか反応ないんよな
トキ:恋人が泊まりに来るとか言うてなかったっけ
かじゅ:それは明日じゃないのか?
トキ:や、しらんけど
巫女みこカスミン:恋人かぁ、羨ましいわねぇ
ひろぽん:せやな
ひろぽん:せやけど、恋人がおるんなら……エロゲなんてせーへんで幸せになってほしいトコやけどな
トキ:うちエロゲめっちゃやっとるけど、幸せやで
ひろぽん:や、確かにそういうんもあるかもしれへんけど
かじゅ:それを言うなら日陰者だ
ひろぽん:な、なんでもええやろ!でーまー、なんちゅーの
ひろぽん:仮に相手の親御さんに挨拶しに行った時とか、趣味はエロゲですなんて言えへんやろ
トキ:まぁ言ったら交際を反対されるやろなぁ
ひろぽん:やろ、いくらエロゲ趣味を隠していても、いつかバレる日が来ると思うんや
トキ:まぁ実際にバレたしな、親友にやけど
ひろぽん:うちも妹にバレたけどな
かじゅ:なんというかお前ら……
巫女みこカスミン:苦労してるのねぇ
ひろぽん:別にエロゲをやるなとは言わへん、せやけどエロゲよりも大事にしなきゃいけないモンが別にあるんやないのかと
かじゅ:……
ひろぽん:せやから幸せになってほしいねん、ちゃんと
ひろぽん:エロゲをやるのも幸せやろけど、恋人がおるなら恋人も幸せにせなアカン
かじゅ:……そうだな
ひろぽん:うおーい、それはゆーたらアカンやろー
巫女みこカスミン:あらあらまぁまぁ
菫「……」
菫「……みんな」
菫(そうだな……私はもう一人じゃない)
菫(宥も一緒なんだ、私の問題は宥の問題になる)
菫(……なんとかしないといけないよな……)
チュンチュン...
宥「……ふぁ……菫ちゃん……?」
菫「ん?ああ、起きたのか。おはよう」
宥「おはよう……何してるの?」
菫「ちょっとゲームをな……ダンボールに積めてるんだ」
宥「……?」
菫「……売ろうと思うんだ、エロゲーをな」
宥「えっ……別にそこまでしなくても……」
菫「決めたんだ、エロゲーがある限り……」
菫「私は宥を幸せにする事は出来ないんだ」
宥「で、でもっ……」
菫「……教えられたよ、私にはエロゲよりも大事にしなきゃものがあるってね」
宥「菫ちゃん……」
菫「……そ、それで……その、なんだ」
菫「宥がこっちの大学に入る事になったら……その……」ゴニョゴニョ
菫「…………一緒に暮らさないか」
宥「えっ……?」
菫「い、嫌ならいいんだ……宥の事情もあるだろうし……」
宥「……」
宥「ううん……一緒に暮らしたい」
菫「え……?」
宥「私も……菫ちゃんと一緒に暮らしたいっ」
菫「宥……っ」
宥「一緒にご飯食べて……一緒にお出かけしたり……一緒のベッドで寝たり……」
宥「そんな生活がしてみたいなっ」
宥「……」///
菫「……」
菫「……宥」
宥「……菫ちゃん?」
菫「……――」
――結婚しよう――
くろちゃーはおもちゲーでもやってたくましく生きるよ
菫「プロポーズ……だな」
宥「で、でも……私達まだ学生だよ……?」
菫「……今すぐという訳じゃないさ」
菫「まずは一緒に暮らして、同棲からはじめよう」
菫「そして大学を出たら……結婚してほしい」
宥「菫ちゃん……」
菫「……嫌か?」
宥「私も……菫ちゃんと結婚したい」
宥「結婚して、菫ちゃんの家族になりたいっ」」
菫「……ああ、私もだ」
――幸せとは 画面の中にあるものではない――
――目の前にある かけがえのない存在こそが――
――私の本当の幸せなのかもしれない――
菫「――家族になろう、宥」
つづカン
正直な所、今回の話は自分が書きたかった物と全く違う物になってしまったので
納得の行かない部分がかなり……
菫宥にはやっぱ幸せになってほしいなーという思いから
こんな話になってしまいました
明日はがっつりエロゲを絡ませて行きたいと思いますので、明日も宜しければぜひ。
イイハナシダナー
久しぶりにエロゲーやろうかな…
Entry ⇒ 2012.10.19 | Category ⇒ 咲-Saki-SS | Comments (0) | Trackbacks (0)
奉太郎「古典部の日常」 2
寝付こうとしても、中々寝付けず、睡眠時間は3時間程だろうか。
奉太郎(学校に着く前にぶっ倒れるかもしれんな、これは)
しかしそうは言ってもられない。
今日は、やるべき事があるからだ。
時刻は7時、準備をしなければ。
寝癖がほとんどついていない、それもそうか……まともに寝ていないのだから。
朝食を済ませ、コーヒーを一杯飲む。
奉太郎(今日で……終わらせる)
奉太郎(少し早いが、行くか)
カバンを背負い、玄関のドアに手を掛けた。
奉太郎「ん、なんだ」
供恵「……寝間着で学校に行くの?」
ああくそ、俺はどうやら……すっかり頭の回転が落ちている。
姉貴の横を無言で通り過ぎ、制服に着替える。
供恵「それもそれでありだとは思うわよー面白いし」
後ろから何やら声がかかるが、無視。
しかし、こんな状態で本当に大丈夫だろうか。
いや、駄目だ、これは絶対に……解決せねば。
洗面所で服装の確認をし、再び玄関に手を掛ける。
奉太郎「……今度はなんだ」
供恵「別に、ただ言ってみただけ」
奉太郎「行くぞ、構ってられん」
やはりどうにも、姉貴は苦手だ。
供恵「頑張りなさいよ」
考えを見透かされてる様で、苦手だ。
姉貴に返事代わりに手を挙げ、玄関のドアを開いた。
供恵「ま、私の弟だし余裕だとは思うけどねー!」
供恵「そ、れ、と! あんま無理はしないようにね」
朝から元気なこった、だが少し、元気は出たか。
摩耶花「……おはよ」
こいつが俺の家に来るなんて、今日は雪だろうか?
奉太郎「珍しいな、今日は良くない事が起きそうだ」
摩耶花「……そうかもね」
摩耶花「折木、ちょっといいかな」
伊原の威勢がいい反論も聞けない、無理もないか。
奉太郎「ああ、少し頭を回さないといけないしな」
摩耶花「?」
摩耶花「まあいいわ」
伊原は少し疑問に思ったみたいだが、そこまでは気にしていない様子だった。
並んで学校へ向かう。
摩耶花「まさか、折木と学校へ一緒に行くことがあるなんて夢にも思わなかったわ」
全くの同意見。
摩耶花「昨日の、事なんだけどね」
伊原はそう、前置きをした。
やはりそうか、むしろそれ以外だったら俺はどんな顔をしていただろう。
奉太郎「あれか」
摩耶花「……うん」
摩耶花「私、少し邪魔だったかな。 やっぱり」
摩耶花「ふくちゃんから昨日、電話がきてね」
摩耶花「私は悪くない、安心してって」
摩耶花「でもやっぱり……迷惑だったのかな」
なんでだろう……千反田といい、伊原といい、どうして自分を責めるのだろうか?
摩耶花「……ふくちゃんにこんな話、できる訳ないじゃない」
摩耶花「ちーちゃんは、あんな事言わないと思っていたのに」
摩耶花「……それだけ」
奉太郎「ま、余り深く考えるな」
奉太郎「千反田は今日、話があるみたいだぞ」
俺が事情を説明してもいいのだが、本人同士で話すのが一番いいだろう。
摩耶花「そう、ちーちゃんが」
摩耶花「……分かった、少し腹を割って、話そうかな」
奉太郎「ああ、それがいい」
奉太郎「だけど、そんなに気を病むなよ」
奉太郎「言い返してこないお前と話していても、つまらん」
摩耶花「でも、ありがとね」
摩耶花「けど……やっぱり折木に励まされるのって、なんかムカツク」
おいおい、随分と酷いなこいつは。
今の一瞬で、俺の株は下がって上がって下がったのだろうか。
摩耶花「ちょっと元気出たし、私先に行くね」
そう言うと伊原は走り、学校へ向かっていった。
奉太郎(元気が出たらなによりだ)
奉太郎(けど、今のままの伊原の方が……大人しくていいかもしれない)
伊原に聞かれたら、それこそ俺は生きて帰れる気がしない。
まあ、少しは頭の回転になったか。
あくびをしながら、学校へと向かう。
1……2……3……4……あ、学校が見えた。
あくびを4回したところで、ようやく学校が見えてきた。
校門の前で一度止まり、深呼吸。
奉太郎(今日は少し、気合いを入れんとな)
柄にも無く「おし、行くぞ!」と意気込んでいたところで、背中に衝撃が走った。
里志「おっはよー! ホータロー!」
奉太郎「……いって!」
奉太郎「朝から元気だな、お前」
少々目つきを悪くして、里志を睨む。
里志「そういうホータローは随分とだるそうだね、はは」
奉太郎「昨日は少ししか眠れなかったんだ、寝つきが悪くてな」
里志「そんな日もあるさ! でもね、今日は期待してるよ? ホータロー」
里志「あんまり無理はしないようにね、大丈夫だとは思うけど」
奉太郎「分かってる、大丈夫だ」
里志「そうかい、じゃあ僕は総務委員の仕事があるから、これで」
そう言うと、里志は俺に手を振りながら昇降口へと走っていった。
下駄箱で靴を履き替える。
階段を上がろうとしたところで、後ろから声が掛かった。
伊原、里志ときたら……あいつだろう。
える「おはようございます、折木さん」
奉太郎「やはり千反田か、おはよう」
える「やはり? ちょっと気になりますが……今はやめましょう」
俺の第六感まで気になられては、対処のしようが無い。
える「部室でお話をしようと思っていて、申し訳ないんですが」
用は、放課後は部室を空けてくれないか、ということだろう。
丁度いい、今日はどうも部活に出れそうになかった。
奉太郎「ああ、空けて置く、今日は部活は休ませて貰う事にする」
える「そうですか、ありがとうございます」
える「それと、ですね」
まだ何かあるのだろうか?
える「少し顔色が優れないようですが……大丈夫ですか?」
奉太郎「だ、大丈夫だ。 気にするな」
周りの人間がこっちを見ている、何もこんな人が多いところでやることはないだろうが!
える「ならいいのですが、それでは!」
そう言うと、千反田は自分の教室へと向かって行った。
奉太郎(いつも通りの、千反田だっただろうか)
奉太郎(少しは元気が出たみたいだな、あいつも)
そのまま教室へ向かい、自分の席に着く。
奉太郎(にしても、眠いな)
少し寝よう、少しだけ。
俺はそう考えると同時に、眠った。
奉太郎「ん……」
目が覚めた、クラスは賑やかな様子だ。
「おう、折木」
突然、名前もまともに覚えていないクラスメイトに声を掛けられた。
「お前、中々やるじゃねーか」
奉太郎「ん、なにが」
「昼までずっと寝てるなんて、そうそうできないぞ?」
昼まで……?
時計に視線を移す。
時刻は12時を少し回った所。
「先生達、震えてたぞ。 見てる分には面白かった」
それだけ言うとそいつは満足したのか、いつもつるんでいるらしき奴等の元へ向かって行った。
奉太郎(後で呼び出されそうだな、めんどうくさい)
奉太郎(しかし、少しは頭が冴えたか……まだ少しだるいが)
昼休みか、教室は少し気まずい。
朝から昼まで寝ていた奴をちらちらと見る連中がいるからだ。
奉太郎(部室で飯を食うか)
省エネでは無いが、俺にも一応気まずさを避けたいって気持ちはある。
弁当を持ち、部室へ向かった。
あくびを一つつきながら、扉を開ける。
誰も居ないと思ったが……どうやら先客が居た様だ。
える「あ、折木さん、こんにちは」
奉太郎「なんだ、誰も居ないと思ったのだが」
える「たまに、ここで食べているんです」
える「陽が暖かくて、気持ちいいので」
奉太郎「そうか、邪魔してもいいか?」
える「ええ、勿論です」
千反田の前の席に腰を掛け、弁当を開く。
奉太郎「いや、姉貴が作ってくれている」
える「そうですか、お姉さん優しいんですね」
奉太郎「……本気か?」
える「え? はい、そうですけど……」
奉太郎「何も知らないからそんな事が言えるんだ……」
える「でも、これだけの物って中々作れる物ではないですよ」
そうなのだろうか?
姉貴が家に居るときはほとんど作ってくれるし、そんな事は思った事がなかった。
奉太郎「そうなのか? 普通の弁当だと思うが」
える「いえいえ、折木さんの事を想っている、いいお姉さんだと分かるお弁当です!」
ふうむ……少しは姉貴にも感謝しておくか。
こんなもんでいいだろう。
奉太郎「少し感謝しておいた、心の中で」
える「ちゃんと直接言った方がいいと思いますが……」
奉太郎「気持ちが一番大事なんだ」
える「そ、そうですか」
千反田の苦笑いが、少し辛い。
奉太郎「それはそうと、千反田の弁当も中々すごいな」
える「そ、そうでしょうか? 私のこそ普通、ですよ」
奉太郎「そんなことはないだろう、とても旨そうだぞ」
える「……少し、食べます?」
そう言うと、千反田はおかずを一つ、俺の弁当に移す。
奉太郎(貰ったままでも、なんか悪いな)
奉太郎「俺のも一つやろう」
える「はい! ありがとうございます」
千反田の弁当に、おかずを一つ移した。
そこでふと、本当にどうでもいい考えが浮かんできた。
奉太郎(今千反田に貰ったおかずを、そのまま返していたらどんな反応をするのだろうか)
奉太郎(……なんて無駄な事を考えているんだ、俺は)
勿論そんな事はしない。
奉太郎(う、うまい)
奉太郎「これは……うまいな、こんな料理を作れるなんて、なんでもできるんじゃないか? 作った人」
える「ええっと……」
える「これ、作ったの私なんです」
千反田は恥ずかしそうに笑いながら、そう言った。
奉太郎「そ、そうか」
何故か、嵌められた気分に俺はなる。
そんな風に若干気まずい空気が流れた時、ドアが勢い良く開く。
前にも、似たような光景があったような……
里志「あれ、ホータローに千反田さん?」
里志「ご、ごめん! 邪魔しちゃったみたいだね!」
待て、里志よ。
奉太郎「おい、里志」
里志「え、なんだい?」
奉太郎「お前、いつから居た?」
里志「えっと……最初から、かな」
くそ、全然気づかなかった。
そう言うと里志は手短な席に腰を掛ける。
里志「ごめんごめん、盗み聞きするつもりはなかったんだよ」
里志「でも二人がカップルみたいにしてるのをみたら、ついね」
える「カ、カップルだなんてそんな」
える「たまたま、会っただけですよ! 本当に!」
える「折木さんと私は、その……仲はいいですけど、まだそんな仲では無いというか……」
千反田の焦っている所を見るのは、少し楽しいかもしれない。
だが、こいつは一言言わないといつまでも続けるだろう。
里志「あはは、ジョークだよ、千反田さん」
える「じょ、じょーく……ですか」
千反田は胸を撫で下ろし、ハッとする。
える「あ、あの」
える「福部さん」
里志「あー、例の事かい?」
里志はこう見えても、勘は冴えるほうだと思う。
千反田の微妙におどおどした様子を見て、なんの話か分かったのだろう。
える「知ってたんですか、この度は……」
だが千反田が最後まで言う前に、里志は口を開いた。
里志「これでも僕は、人間観察をしている方だと思うんだ」
里志「それでね、人を見る目も結構あると思っている」
里志「だから、千反田さんの事は信じているよ」
里志「ホータローの事は、どうかな?」
奉太郎「おい」
里志「うそうそ、信じてるよ。 ホータロー」
そう言うと、里志は俺に抱きつこうとしてくる。
やめろ、気持ち悪い。
える「やはり、折木さんの言うとおりでした」
里志「ん? ホータローが何か言ったのかい?」
奉太郎「……なんでもない、気にするな」
える「なんでもない、です」
里志「うーん、気になるなぁ」
俺が最近、非省エネ的な行動をしているのを里志に知られたら……どんな風にいじられるか分かった物じゃない。
どうはぐらかそうか考えていたとき、里志は何かを思い出した様に拳と手の平を合わせた。
里志「あ! 委員会の仕事の途中だったよ、すっかり忘れてた」
奉太郎(この動作を本当にやってる奴は始めてみたぞ……)
しかし、こいつも色々と大変だな。
里志「じゃ、そういう訳で! またね~」
奉太郎「そういう訳だ、伊原も必ず話せば分かってくれる」
える「はい……そうですよね!」
さて、と。
そろそろ昼休みも終わりか。
奉太郎「じゃあ俺は教室に戻るとする」
える「はい、私はもうちょっとここでゆっくりしてから戻ります」
奉太郎「そうか、じゃあまた」
える「はい」
俺が部室から出ようとした所で、思い出したように千反田が言った。
える「あ、そういえば」
える「午後の授業は、寝ないで頑張ってくださいね」
……どこまで噂が広まっているんだ、全く。
軽く手を挙げ、千反田に挨拶をすると俺は教室に戻って行った。
教室に入り、10分ほど経っただろうか。
授業開始のチャイムが鳴り響いた。
奉太郎(状況の整理を……するか)
まず一つ目。
・千反田を騙した奴は誰か?
C組の女子、名前は里志から聞いている。
二つ目。
・そして、そいつは何をしたか?
千反田に嘘を吹き込み、使わせた。
恐らく、千反田と伊原が仲が良いのを知っていて嘘を吹き込んだのだろう。
目的は漫研絡みと考えるのが妥当。
・そいつの目的はなんだったのか?
千反田と伊原の仲違い。
多分だが、千反田は伊原を傷つける為に利用されたという考えが有力。
つまる所、伊原を追い込むのが目的という事か。
最後に、四つ目。
・そいつに何を話すか?
これには少し考えがある。
正面から言って、千反田と伊原に土下座でもするのなら苦労はしないが……
それをすぐにする奴なら、初めからこんな事はしないだろう。
里志にも協力をしてもらい、手は打ってある。
しかし、里志に話していない事もある。
少し懲らしめないと、駄目だろう。
話をする場も、既に打ってある。
里志からそいつに「今日の放課後、話があるから屋上でいいかな?」と言って貰った。
俺が言ってもいいのだが……直接会ってしまったら何をするか自分でも分からない。
どうせなら人目に付かない所の方が、勿論いいだろう。
奉太郎(ここまで動き、頭を使ったのは随分と久しぶりだな)
奉太郎(たまにはいいか、熱くなるのも)
そして、放課後はやってきた。
第五話
おわり
大丈夫だ、意外にも冷静になっている。
今は16時、1時間もあれば……終わるだろう。
奉太郎(行くか)
そう思い、教室を出る。
向かう先は、屋上。
屋上に繋がる扉を躊躇せず開く。
空は曇っていた、風は無い。
視線を流すと、そいつが目に入ってきた。
「あれ、福部君に呼ばれて来たんだけど」
「アンタ誰?」
初対面の人間にこの対応とは、なるほど納得だ。
奉太郎「A組の折木奉太郎だ」
「折木? 聞いたことないなー」
「それで、アタシに何か用?」
「まさか、告白とかするつもり? ムリムリ」
そいつは笑っていた、俺にはどうも……汚らしく見えて仕方ない。
「ちたんだ……ちたんだ、ああ、アイツね」
「知ってるけど、それがどうしたの?」
奉太郎「それと伊原摩耶花、勿論知っているだろう」
「あー、あのウザイ奴ね。 勿論知ってる」
やはり、駄目だ。
なんとか抑えようと思ったが、里志には穏便に済ませようと言われたが……
俺はどうやら、そこまで人間が出来ていない様だ。
奉太郎「……自分のした事は、分かっているんだろ」
奉太郎「千反田に嘘を吹き込み、伊原に向かって言わせた」
奉太郎「覚えて無いなんて、言わせないぞ」
「思い出したらおかしくなってきちゃう」
良かった。
正直な話、これを否定されたら俺には手は無かった。
千反田は誰に言われた等……あいつの性格だ、言わないだろう。
それをコイツは自分で認めてくれた、良かった。
奉太郎「お前は、なんとも思っていないのか」
奉太郎「千反田を傷付け、伊原も傷付け、なんとも思わないのか」
「別に? 騙される方が悪いんじゃない?」
奉太郎「それを、お前はなんとも思わないのか!」
奉太郎「千反田は人を疑わないし、嘘なんて付かない」
奉太郎「どこまでも……正直な奴なんだぞ」
「ふーん、あっそ」
「アタシも知ってるよ、あいつが馬鹿正直な所」
「それで教えてあげたんだもん」
「こいつなら絶対に騙されるなーって思ってね」
自分でも、驚くほどに大きな声で叫んでいた。
言われたそいつは、少し身を引きながら再び口を開く。
「な、なに熱くなってんの? ほっときゃいいじゃん」
奉太郎「あいつはな、千反田は伊原にその言葉を言った後……!」
思いとどまる、こいつに……千反田の泣いていた所なんて、教えたくない。
奉太郎「お前に千反田と話す権利なんて無い!」
「それは残念だなぁ、もうちょっと使おうと思ってたのに」
「ていうかさ、たかが友達の事で本気になってて恥ずかしくないの?」
確かに、俺も昔は少しそうだったのかもしれない。
氷菓事件の時、千反田の家で話し合いをした時。
俺は流そうとした、それが俺らしいと思い。
たかが一人の女子生徒の悩み。
たかが高校の部活動。
だけど、俺とこいつは……絶対に同類なんかじゃない。
不思議と、今の言葉で俺は落ち着けた。
奉太郎「……もういい」
「あっそ、じゃあ帰っていいかな」
奉太郎「違う、お前に普通の話し合いなんて、通じないからもういい」
「言ってる意味が分からないんだけど?」
「……それが何?」
奉太郎「その部室から少し離れた場所」
奉太郎「女子トイレが無く、男子トイレしかない場所があるのも知ってるな」
「それが……なんだよ」
奉太郎「以前俺は、お前がトイレから出てくるのを見かけている」
奉太郎「男子トイレ、からな」
「アンタ、ストーカー?」
もう、くだらない挑発は無視をする。
奉太郎「昨日、その男子トイレを少し調べた」
奉太郎「見つかったのはこれだ」
奉太郎「これは、お前の物だろ?」
「っ! んな訳ないでしょ!」
やはり、認めないか。
奉太郎「そうか、余りこういう事はしたくないんだが」
そう言い、俺はポケットから一つの写真を取り出した。
そこには、金髪の女子が男子トイレで煙草を吸っている光景が写し出されている。
奉太郎「こいつは、俺の友達が撮ってくれた写真だ」
奉太郎「知ってるか? 図書室のとある場所から丸見えなんだぞ」
「……アタシを脅してるつもり?」
奉太郎「これを学校側に提出されたくなかったら、今後一切」
奉太郎「千反田と伊原に関わるな」
「……そんな物、出されたら……」
小さいが、俺には確かに聞こえていた。
しかし、すぐに元の調子に戻る。
「おもしろいね、アンタ」
「じゃあ、こういうのはどうかな?」
「アタシが捏造写真で盾にされてる、捏造写真を仕組んだのは伊原摩耶花」
「面白そうじゃない?」
奉太郎「そんなので、先生達が信じる訳ないだろう」
「確かにね、でも」
「お互いの言い分を尊重し、退学は無し」
「両名にしばらくの停学を言い渡す」
「こうなると思うんだけど?」
「それで停学が明けたら、無事にアタシはまた千反田ちゃんと伊原ちゃんと仲良しこよし」
「いいと思わない?」
「もっちろん」
奉太郎(これは本当に、使いたく無かったが)
奉太郎(仕方ないか)
奉太郎「俺が、どんな友達を持っているかお前は知らないのか」
「はあ? アンタの友達になんて興味ないし」
奉太郎「そうか」
奉太郎「お前を呼び出した奴、覚えているか」
「福部の事?」
奉太郎「そうだ、あいつがどこに所属しているか知っているか」
「言ってる意味がわからないんだけど、何を言いたいのよアンタは!」
奉太郎「副委員長としてな」
「総務……委員会?」
奉太郎「俺が持っているこの写真、あいつも既に持っている」
奉太郎「そして、少なからず学校の上層部に影響力のある立場だ」
奉太郎「そんな奴がこの写真を提出したら、どうなるかお前でも分かるだろ」
「や、やめてよ」
急に弱気、か。
「そんな事されたら、アタシは」
奉太郎「お前の意見なんか聞いていない!!」
「ひっ……」
奉太郎「俺が譲歩してやっているんだ、お前が……」
奉太郎「それに俺と、一切関わらないならこいつは提出しない」
奉太郎「だがこいつは保管させてもらう、いつでも提出出来る様にな」
奉太郎「お前がもし、俺たちに関わってきたらすぐに退学にしてやる」
奉太郎「分かったか?」
「……」
奉太郎(仕上げだな)
奉太郎「お前も退学になったら困るだろう? 親がどこかしらの学校のお偉いさん、だからな」
「っ! ……わ、分かった」
その情報は、誰に聞いた物でもなかった。
今の会話から、こいつの言葉が小さくなる部分、表情の変化。
それらを繋げて、得た情報であった。
奉太郎「俺もそこまで鬼じゃない、お前が変な事をしなければ何もしない」
「ご、ごめんなさい」
奉太郎「別に謝らなくていい、俺にも、千反田にも伊原にも、里志にも」
奉太郎「お前の謝罪なんて、何も響かない」
奉太郎「……もし今度何かあったら、話し合いだけでは済むとは思うなよ」
それ以降、そいつはうなだれて口を開こうとしなかった。
階段を降り、一度自分の教室へ向かった。
椅子に座り、大きく深呼吸をする。
奉太郎(5回、くらいか?)
思考を放棄して、殴りかかりそうになった回数。
だが、もし殴ったとしてだ。
千反田はそれで喜ぶだろうか?
伊原は? 里志は?
間違いなく、喜びはしない。
それがなんとか俺を留まらせた。
奉太郎(全く、今日は本当に疲れた)
時刻は……17時30分、か。
少し、長引いてしまったな。
さて、と。
千反田と伊原の方は、無事に終わっただろうか?
摩耶花さんは少し、私を怖がっていた様で胸が痛みます。
しかし、伝えなくてはいけません。
える「あの、摩耶花さん」
摩耶花「ちーちゃんか……何か、用事?」
える「……はい、今日の放課後に少し話せますか?」
摩耶花「……うん、いいよ」
一瞬だけ、摩耶花さんが嫌そうな表情をしました。
それだけで、私はもう……
摩耶花「でも委員会の仕事があるから、終わってからでいいかな」
そして、摩耶花さんは私の顔を見てくれませんでした。
える「はい、では部室で待っていますね」
そう伝えると摩耶花さんは軽く頷き、それ以降は喋ろうとはしません。
私は教室を出ると、自分の教室に向かいます。
また少し、泣きそうになってしまいます。
える(涙脆くなったのでしょうか、私は)
教室に戻るとすぐに午後の授業が始まりました。
あっという間に授業は終わり、放課後となります。
それまで少し、時間が余っています。
一度部室に行き、座って外を眺めていましたが……校内でもお散歩しましょう。
そう思い、人が少なくなった校内を歩きました。
気付けば自然と、折木さんのクラスへ。
教室を覗くと、まばらには人が居ましたが折木さんの姿は見当たりません。
える(そうでした、折木さんはもう帰っているのでしょう)
朝の事を思い出し、教室を去ろうとした所で不自然な物を見つけます。
える(あれは、折木さんのカバン?)
える(忘れていったのでしょうか……でも、おかしいです)
折木さんは意外と言ったら失礼ですが……忘れ物は滅多にしません。
そんな折木さんが忘れ物? それかまだ学校にいるのでしょうか?
5分ほどそこで待ちましたが、戻ってくる気配はありません。
そして階段まで差し掛かったとき、何やら声が聞こえてきます。
あれは……屋上から?
声の抑揚が、折木さんの物と一緒です。
間違いありません……折木さんです。
える(誰かと話しているのでしょうか? 少しだけ……行ってみましょう)
私は、屋上の扉まで辿り着きました。
これでも意外と耳はいい方だとは思っています。
内容はしっかりと聞こえました。
その内容は、どうやら私の事の様で。
昨日の事のようです。
える(もしや折木さんは、昨日私と話していた方とお話を?)
折木さんの方は、とても真剣に。
もう片方の方は、どこかふざけている感じ……でしょうか。
える(折木さんが、あんなに大きな声で……)
少なくとも、一年間一緒に居ましたが……ここまで大声を出しているのは聞いたことがありません。
自分で言うのもあれですが、その内容は……私の事を大切に思ってくださっている物です。
ここまで……ここまで折木さんは、していてくれたのですか。
私は本当に、折木さんに頼りっぱなしです。
扉越しに、折木さんに頭を下げその場を去ります。
あまり、聞いてはいけない内容でしょう。
折木さんがその話をしてくれなかったのも、私に知られたくなかったからでしょう。
ならば、聞いては駄目です。
私はゆっくりと部室に戻り、決意を固めます。
える(私は、摩耶花さんにしっかりと気持ちを伝えます)
える(友達を失うのは……耐えられません)
える(絶対に、仲直りします!)
その時、扉が開きました。
摩耶花さんが来たようです。
やっぱり、帰ろうかな。
ちーちゃんには悪いけど……
いや、駄目だ。
朝、折木にも相談に乗ってもらったし、ここで逃げちゃ駄目だ。
でも扉は、とても重い。
なんて言われようとも、私はちーちゃんと話さなきゃいけない。
そうしないと、いつまでも弱いままだ。
胸に手を置き、息を整える。
摩耶花(よし!)
扉を、開けた。
そこには、いつも通りのちーちゃんが居た。
なんて、暗い声なんだろう。
える「摩耶花さん、わざわざすいません」
摩耶花「話って、何かな」
分かってるだろう、自分でも。
性格悪いのかな、私。
える「昨日の、事です」
摩耶花「……そう」
ちーちゃんは、ゆっくりと語り始めた。
その内容を頭に入れる。
そして5分ほどで、話は終わった。
える「摩耶花さん、本当に申し訳ありません」
える「合わせる顔も無いと思いましたが、話さずにはいられませんでした」
える「すいませんでした」
そう話を締めると、ちーちゃんは頭を下げた。
ほんっとに。
ほんとーに! 私って、馬鹿だ。
ちーちゃんが、そんな事……昨日言った事を本気でする訳ないじゃんか。
私は昨日まで、ちーちゃんの事を疑っていたのをすごく後悔した。
ああもう! 最低じゃないか私。
謝るのは、こっちの方だ。
摩耶花「……ちーちゃん」
摩耶花「謝るのは、私の方だよ」
摩耶花「ちーちゃん! ごめん!」
するとちーちゃんはキョトンとした顔をこっちに向け、少し困惑していた。
摩耶花「私、ちーちゃんの事疑ってた」
摩耶花「もしかしたら、そういう事を言う人なんじゃないかって」
摩耶花「でも、普通に考えたらありえないよね」
摩耶花「ごめんね、ちーちゃん」
える「あ、あの」
える「……許して、くれるんですか」
何を言ってるんだこの子は!
摩耶花「友達、でしょ」
今年一番の、いい笑顔だったと思う。
良かった、本当に。
胸の痛みは、とても自然に……心地よく消えていた。
える「……はい! 友達、ですよね」
ちーちゃんの笑顔も、今年で一番可愛らしかった。
える「良かったです、本当に……良かったです」
ちーちゃんの瞳から、綺麗な涙が落ちるのを見た。
摩耶花「良かったよ、私もほんっとに」
摩耶花「……良かったよ」
今回の事で、お互いが思っていた事。
その間何回か泣き、笑った。
やっぱり、ちーちゃんはちーちゃんだ。
私の大切な、友達。
そうだ、あれをあげよう。
元からあげる予定だったんだけど、ね。
摩耶花「そだ、ちーちゃん……」
える「はい? なんでしょうか」
摩耶花「これ、あげる」
える「……これは、すごく綺麗ですね」
摩耶花「なら良かった、喜んで貰えるなら私もうれしい」
える「私のお部屋に飾りたいですが……この部屋に飾ってもいいですか?」
摩耶花「ちょっと恥ずかしいけど……うん、いいよ」
摩耶花「ちーちゃんのお部屋用のも、今度あげるね」
える「はい! ありがとうございます、摩耶花さん」
少し休んでいたつもりだったが、もう18時か……
ふと窓から外を眺めると、千反田と伊原の姿が目に入ってきた。
お互いに笑顔で、とても仲が良さそうに見える。
奉太郎(向こうも、うまくいったようだな)
奉太郎(俺も帰るか、体が重すぎるぞ……)
教室を出た所で、少しだけ黄昏れたい気分になった。
奉太郎(部室に寄って行くか)
そう思い、普段より重く感じる体を引き摺りながら目的地へ向かう。
古典部の前に着き、ゆっくりと扉を開けた。
夕日が差し込み、中々に趣がある光景となっている。
近くの席に腰掛け、溜息を一つついた。
奉太郎(最近は本当に、体を動かしっぱなしだな)
奉太郎(俺は、今薔薇色なのだろうか?)
奉太郎(わからん……)
奉太郎(まあ、どっちでもいいか)
奉太郎(しかし……何も灰色に、拘る必要もないかもしれない)
奉太郎(もう少し居たかったが……仕方ない、帰るか)
部室を出ようとしたところで、見慣れない物が視界に入ってきた。
奉太郎(……全く、周りから見たら薔薇色の一員か、俺も)
そして俺は、家へと帰る。
部室には--------
俺、里志、伊原、千反田。
全員が笑顔の、綺麗な色使いの絵が飾ってあった。
今日もまた、高校生活は浪費されていく。
それは灰色か、薔薇色か。
こいつはどうやら、自分で決める事ではないらしい。
今日もまた灰色の……いや、どちらかは分からない高校生活は浪費されていく。
第六話
おわり
今日はとても長く感じる。
色々あったが……無事に終わった。
ま、終わりよければ全て良しと言った所か。
家に入り、自室へ向かう。
姉貴がリビングに居るが、疲れていて姉貴の話に付き合う体力は無い。
奉太郎(やはり少し、体が重いな)
朝からだったが、今がピークだろうか……どうにもふらふらする。
ああ、もう少しで、部屋に着く。
奉太郎(なんか、視界が揺れているぞ)
奉太郎(ま、ずいな)
そこで、俺の意識は途絶えた。
里志(ホータローの方もうまくいってるだろうし、これで一件落着って所かな)
けど、ホータローには随分と任せっぱなしにしてしまったなぁ。
僕の立場を使うってのは良いと思ったけどね。
とりあえず明日、部室でゆっくり皆で話そう。
里志(にしても、疲れたなぁ)
突然、部屋の電話が鳴り響いた。
里志(誰だろう? 摩耶花なら携帯に掛けて来る筈だし……ホータローかな?)
電話機の前まで行き、映し出されている番号はホータローの家の物だった。
里志(やっぱりか、今日の結果報告と言った所かな?)
そう思い、電話を取る。
里志「もしもし、ホータローかい?」
供恵「ごめんねー。 奉太郎じゃなくて」
里志「あれ、ホータローのお姉さんですか?」
供恵「そっそ、里志君お久しぶり」
里志「どうも! それで、何か用でしょうか?」
供恵「うん、実はね」
摩耶花(本当によかった、仲直りできて)
一応、敵を作りやすい性格だとは自分でも分かっている。
でも、ちーちゃんに嫌われたと思ったときは本当に辛かった。
しかしそれも思い過ごしで……なんだか思い出したら泣けてきちゃう。
摩耶花(やっぱりちーちゃんとは、友達続けていたいな)
明日は、またいっぱい話をしよう。
今度、どこかへ遊びに行こうかな。
ちーちゃんは遊ぶ場所知らなさそうだし、私が案内しなくちゃ。
そうだ、どうせならふくちゃんも、折木も呼んでどこかへ行こう。
そう思い携帯を手に取る。
電話番号を押そうとした所で、着信。
摩耶花(ふくちゃんから? 何か用なのかな)
摩耶花「もしもし、ふくちゃん?」
里志「摩耶花! ちょっと今から出れる!?」
焦っている感じ……何かあったのかな?
摩耶花「う、うん」
摩耶花「……一体どうしたの?」
私は……とても友達に恵まれています。
折木さんも、福部さんも、それに摩耶花さんも。
皆さん、とてもいい方達です。
私には少し勿体無いくらいの、そんな人たちです。
でもやはり、最後にはまた……折木さんに助けられました。
いつか、私が折木さんを助ける事はできるのでしょうか?
える(何か、恩返しはできないでしょうか……)
える(折木さんにも、福部さんにも、摩耶花さんにも)
最初に古典部に入った目的は、氷菓の件です。
しかし私しか部員がおらず、どうしようかと思っていたときに現れたのは折木さんでした。
そして私が長い間、考えていた問題も解決してくれました。
他にも色々と、今回の事だってそうです。
える(とても返しきれそうな恩では……ないですね)
気温も大分、気持ちいいくらいになってきます。
もうすぐ夏も、やってきます。
える(後、2年も……ないですね)
考えると寂しい気持ちになってしまうので、気持ちを切り替える為に冷たい水でも飲みましょう。
そう思い、台所へと向かいました。
丁度台所に入ろうとしたとき、家のインターホンがなります。
える(お客さんでしょうか?)
える(こんな時間に、珍しいですね)
私は台所へ向かっていた足を玄関に向けると、扉を開きました。
摩耶花「ちーちゃん!」
える「ま、摩耶花さん?」
摩耶花さんから私の家までは大分距離があるのに……どうしたのでしょう?
える「どうしたんですか? 随分と慌てている様ですが……」
摩耶花「折木が、折木が倒れた!」
6.5話
おわり
今考えると、朝からどこか……具合の悪そうな顔をしていました。
思い出されるのは、今日の屋上で聞いた話。
える(……私のせいです)
私がもっとしっかりしていれば、折木さんに頼らずに済んでいたのに。
なのに折木さんに無理をしてもらって……
える(考えていても、仕方ありません)
える「折木さんはどこに?」
摩耶花「私もふくちゃんから聞いただけなんだけど……今は家に居るみたい」
える「では、行きましょう!」
そう言うと、私は制服のまま自転車を取り出します。
摩耶花さんも自転車で来ていた様です。
精一杯漕いで……15分ほどでしょうか。
それらを計算する時間も勿体無く、私は摩耶花さんと一緒に折木さんの家に向かいました。
少しだけ見慣れた光景なのに……とても長く感じました。
える(早く……まだでしょうか)
たった15分の道のりが、30分にも1時間にも感じます。
摩耶花「ちーちゃん! 道はあってるの?」
える「はい! 何度か行った事があるので大丈夫です!」
自転車を漕ぎながらも、必死で会話をします。
摩耶花「え? ちーちゃん折木の家に行った事あるの!?」
ああ、失念していました。
別段、秘密にしようとは思っていなかったのですが……
なんとなく、隠していたんです。
でも、今は答えている余裕はありません。
える「もう少しで着きます!」
やっと……やっと見えてきました。
える「福部さん! 折木さんは!?」
里志「ち、千反田さん。 落ち着いて」
里志「ホータローなら家に居るよ、お姉さんもね」
福部さんは、どうしてここまで落ち着いているのでしょう?
摩耶花「ふくちゃん! 早く折木の所へ行こう!」
そうです、折木さんは大丈夫なのでしょうか……
里志「うん、じゃあ行こうか」
福部さんの後ろについて行く形で、折木さんの家に入ります。
玄関を開けると、折木さんのお姉さんが居ました。
供恵「にしてもあいつ、意外と友達に恵まれてるなー」
この方……もしかして。
摩耶花「こんにちは、伊原摩耶花といいます」
える「千反田えると申します」
摩耶花さんに続き、軽い挨拶をしました。
そこでふと、少し気になっていた疑問をぶつけてみます。
える「あの、すいません……以前お会いしましたよね?」
供恵「前に? うーん」
供恵「覚えてないなぁ……どこで会ったの?」
確かに、会った筈です。
える「神山高校の文化祭の時にお会いしたかと……」
える「いえ、一目見ただけです。 その時はなんとなく、以前どこかでお会いした気がしていたんですが……」
える「折木さんのお姉さんだったんですね!」
供恵「すごい記憶力ねぇ」
供恵「ま、それにしても」
供恵「私とあいつが似てるー? 勘弁してよ!」
里志「あはは、ホータローもそれは違うって言ってたね」
供恵「あいつがねぇ……」
供恵「と言うか、千反田さん?だっけ」
える「は、はい」
供恵「なるほどねぇ、可能性の一つって所かしら」
供恵「ううん、なんでもない」
少し、気になりますが……
いけません!
今はもっと、しなければいけない事があるんでした!
える「それより!」
供恵「な、なに?」
里志「ち、千反田さん落ち着いて。 お姉さんびっくりしてるよ」
いけません、また近づきすぎてしまいました……
える「す、すいません。 で、でもですね」
供恵「あいつも大切にしてもらってるのねぇ、勿体無い!」
供恵「あ、奉太郎ね」
供恵「今は自分の部屋で寝ているよ、顔だけでも出してあげて」
える「ありがとうございます」
える「行きましょう。 福部さん、摩耶花さん」
摩耶花「うん、そうだね」
里志「りょーかい」
私たちは、3人で折木さんのお部屋に向かいました。
ドアはすんなりと開きます。
目に入ってきたのは、ベッドに横になっている折木さんでした。
える(私が、私のせいで……)
える「折木さん!」
摩耶花「折木! 大丈夫?」
あれ? 福部さんも一緒に来たと思ったのですが……
お手洗いにでも行っているのでしょうか? 見当たりません。
で、でも今はそれよりも!
える「折木さん! 折木さん!」
何度か呼びかけると、折木さんは返事をしました。
奉太郎「……おい」
そう言うと、折木さんはゆっくりと体を起こします。
奉太郎「里志だな……こんな大事にしたのは」
大事……とはどういう意味でしょうか?
里志「い、いやあ……僕もここまで大事になるとは思わなかったんだよ」
える(福部さん、いつの間に戻ったのでしょうか……)
える「え、ええっと?」
摩耶花「……ふくちゃん、説明してね」
つまりは、どういう事でしょう?
摩耶花さんは何か分かった様な顔をしていますが……
里志「えっとね、ホータローはただの風邪なんだ」
里志「最初に聞いたのは僕なんだけど……ホータローのお姉さんからね」
里志「それを拡大解釈して、摩耶花に連絡をしたんだよ」
里志「ホータローが倒れた! ってね」
里志「そうしたら摩耶花は千反田さんに連絡を入れて……今に至るって所かな」
そ、そうでしたか……
でも、危ない状態ではなくて良かったです。
いえ、一度倒れているんです……良かった事はないでしょう。
える「……そうですか、少しだけ安心しました」
そう言うと、私は床に座り込んでしまいます。
全身から、一気に力が抜けたのでしょうか。
摩耶花「あんな慌てて連絡してくるから、一大事だと思ったじゃない!」
里志「い、いやあ……まあ皆集まってホータローも嬉しいんじゃない?」
里志「結果オーライって奴かな?」
摩耶花「ふーくーちゃーんー?」
二人は、口喧嘩を始めてしまいます。
と言っても、摩耶花さんが一方的に責めているだけですが……
える(こ、ここで喧嘩はダメですよ! 二人とも!)
そんな動作を身振り手振りで伝えていたら、折木さんから声が掛かります。
奉太郎「いいんだ、千反田」
奉太郎「今となっちゃ、こっちの方がいつも通りだからな」
える「そう、ですか」
える「あの、折木さん」
える「すいませんでした……折木さんがこんな状態なんて知らずに、私」
奉太郎「別に、俺が好きでやったことだ」
奉太郎「お前が気に病むことなんてないだろ、ただの風邪だしな」
える「そう言って頂けると、ありがたいです……」
本当に、折木さんは心優しい方です。
折木さんが好きでやったことでは無い事なんて……私でも分かります。
もう少し、もう少しだけ……私も強くならないと。
いつまでも頼ってばかりでは、ダメです。
える「折木さん、ありがとうございます」
そう笑顔を向けると、折木さんも少しだけ……笑った気がしました。
すると突然、ドアが開きます。
福部さんと摩耶花さんはそれを期に、口喧嘩を止めました。
供恵「ご飯作っちゃったけど、食べてく?」
里志「おお! ホータローのお姉さんの手作り! 是非!!」
摩耶花「私も、いただこうかな……」
摩耶花さんが、少しだけムッとした顔を福部さんに向けています。
える「では、私も……」
供恵「そっ、下に置いてあるから勝手に食べちゃってねー」
里志「あれ、お姉さんは一緒に食べないんですか?」
摩耶花さんが、さっきより更に鋭い視線を福部さんに向けています。
少し、怖いです。
供恵「あー、私はね」
供恵「今夜から旅行!」
確か前に、折木さんが「姉貴は世界が好きなんだ」って言っていましたが……
なるほど、と思いました。
供恵「うんうん、何かお土産皆に買ってくるね」
供恵「それじゃあまたねー」
そう言うと、さっそく折木さんのお姉さんは家を出て行きました。
行動が……早い人です。
里志「もう行っちゃったね」
里志「ご飯、食べようか」
福部さんの言葉を皮切りに、私たちはリビングへと向かいます。
それにしても何か忘れている様な……
そんな考えも、おいしいご飯を食べている時は忘れてしまいます。
30分ほど3人でご飯を食べ、また少しお話をします。
里志「あっははは、それはまた、ははは。 面白いね」
摩耶花「でしょ? 私はいい迷惑だったけどね!」
える「そうですね……あ、もうこんな時間ですか」
時計を見ると、時刻は20時となっています。
随分と、長居をしてしまいました……
里志「そうだね、そろそろ帰ろうか」
あ、思い出しました……!
摩耶花「うん、明日も学校だしね」
える「あ、あの」
える「少し、言い辛いんですが……」
摩耶花「どしたの? ちーちゃん」
える「折木さんは……?」
私がそう言うと、二人も思い出したのか焦りが顔に出ています。
里志「す、すっかり忘れてた」
摩耶花「物凄くリラックスしてたね、私たち……」
える「ちょ、ちょっと折木さんの部屋に行きましょう」
里志「そ、そうだね、そうしよう」
少々皆さんの顔が引き攣っていますが……戸惑ってはダメです!
奉太郎「楽しかったか?」
里志「ま、まあ……」
奉太郎「……随分と、盛り上がっていたなぁ?」
摩耶花「う、うん……」
奉太郎「飯はうまかったか?」
える「折木さんごめんなさい!!」
急いで、頭を下げます。
折木さんは、一つ溜息をつくと、ゆっくりと口を開きました。
奉太郎「ま、いいさ」
奉太郎「それより悪いんだが、俺の飯を運んできてくれないか?」
える「は、はい!」
折木さんのご飯……ご飯。
里志「ほ、ホータロー」
奉太郎「……ん」
里志「とても言い辛いんだけど、ホータローの分、皆で分けちゃったんだ」
奉太郎「……」
奉太郎「お前ら、一応ここ俺の家だからな?」
摩耶花「ご、ごめん折木……」
どうしましょう、どうしましょう……
すると突然、誰かの携帯が鳴りました。
摩耶花「私のだ、誰だろ」
摩耶花さんは廊下に出ると、電話でどなたかとお話をしています。
続いてまた、携帯が鳴ります。
今度は……福部さんでしょう。
部屋に二人っきりになりました。
える「すいません、本当に……」
奉太郎「……はあ」
奉太郎「いいんだ、別に」
奉太郎「そこまで腹が減ってた訳じゃないしな、構わないさ」
える「い、いえ! でも……」
そうは言っても、折木さんのとても悲しそうな顔ときたら……
やはり、申し訳ないです。
するとどうやら、話し終わった福部さんと摩耶花さんが部屋に戻ってきます。
摩耶花「お母さんからだった、何してんのーって」
里志「はは、僕も一緒だ」
お二人はどうやら、そろそろ帰らないとまずいようです。
える「そうなんですか、折木さんのご飯……どうしましょう」
奉太郎「気にするな、明日も学校だろ。 お前ら」
ですが、ですが。
福部さんも、摩耶花さんも、やはり少し後ろめたさがあるようです。
える「私が何か作ります!」
奉太郎「た、確かにそれは有難いが……時間、大丈夫なのか?」
える「はい、今日は大丈夫です」
える「両親は今日、挨拶でとなりの県まで行っているので」
える「戻ってくるのは明日のお昼の予定です、問題はありません」
里志「うーん、じゃあちょっと悪いんだけど……千反田さんに任せようかな」
摩耶花「そだね……ごめんね? ちーちゃん」
える「いえいえ、構いませんよ」
そう言い、二人は帰り仕度を始めます。
奉太郎「ありがとな、里志も伊原も……千反田も」
里志「気にしない気にしない、どうせ暇だったしね」
摩耶花「別にあんたの為に来た訳じゃないし……ふくちゃんが行くって言うから……」
摩耶花「でも、早く元気になってよ。 病気のあんたと話しててもつまらないし」
奉太郎「……ま、すぐに治るだろう」
そして、摩耶花さんと福部さんは自分の家へと帰って行きました。
える「とりあえず、ご飯作りますね!」
奉太郎「ああ、悪いな千反田」
える「いえいえ、折木さんは寝ていてください」
そう言い残し、私は台所へと向かいました。
える(何を作りましょうか……)
える(お米は、御粥にしましょう)
える(生姜粥がいいですね)
える(後は……ネギを炒めましょう)
える(少ないですけど……風邪ですからね、仕方ないです)
私はお粥を作り、ネギを醤油で炒め、折木さんの部屋へと持って行きました。
える「折木さん、できましたよ」
える「ちょっと見た目も良いとは言えませんし、量も少ないですが……風邪に良いと思いまして」
える「そう言って頂けると、うれしいです」
折木さんは食べ始めると、ひと言も喋らず食べ続けます。
そんな様子を見ていたら、なんだか顔が綻んでしまいます。
奉太郎「あ、あんまジロジロ見ないでくれ」
える「あ、す、すいません」
慌てて視線を泳がせますが……やはり気になってちらちらと見てしまいます。
える(どうでしょうか……)
奉太郎「……ふう」
折木さんは食べ終わると、箸を置き、息を吐きました。
奉太郎「……うまかった、ご馳走様」
ああ、良かったです。
える「そうですか、お粗末様です」
える「い、いえ……元を辿れば私のせいですので」
やはり、申し訳ない事をしてしまいました。
私がもっとちゃんとしていれば。
そこで気付くと、折木さんが私の顔の前に手を持ってきていて……
える「いっ…」
デコピン、してきました。
奉太郎「何回言ったら分かるんだ、お前のせいじゃない」
奉太郎「もう自分を責めるのはやめろ」
える「は、はい。 でも……」
奉太郎「ん?」
える「デコピンは、ちょっと酷いです……」
そう言い、私が俯き悲しそうな顔をしていると折木さんが口を開きます。
折木さんは、顔を私から逸らします。
今です!
奉太郎「悪かったよ、千反田……いてっ」
やり返しちゃいました。
える「ふふ、お返しです、折木さん」
奉太郎「……全く、俺はもう寝るぞ」
える「そうですか」
奉太郎「それより、お前は帰らなくてもいいのか」
……すっかり忘れていました。
える「あ、もう22時ですね」
える「……通りで眠いと思う訳です」
もう外は、真っ暗です。
でも余り折木さんの家に長く居ても迷惑ですし……そろそろ帰らなければ。
奉太郎「なあ……」
える「はい? なんでしょうか?」
奉太郎「今日、泊まっていかないか」
と、泊まり!?
お、折木さんの家に!?
そ、それはつまり……どういう事でしょう?
える「え、えっと、そ、そのですね」
奉太郎「べ、別に嫌ならいいんだ」
奉太郎「その、なんだ」
奉太郎「今から一人で帰すってのも、ちょっとあれだしな」
奉太郎「夜遅くに、女子を一人で帰すのは……ちょっと気が引けるってだけだ」
奉太郎「……千反田が嫌ならいいんだがな、無理にとは言わん」
ど、どど、どうしましょう。
嫌って訳ではないんです、ないんですが……
なんで、私はここまで緊張しているのでしょうか……?
折木さんが言っているのは、帰っても帰らなくてもって事ですよね。
……どうしましょう?
える「お、折木さん、あの」
える「……泊まらせて、もらいます」
自然と、口から出てしまっていました。
折木「……そうか」
折木「……風呂も一応沸いてるから、使っていいぞ」
える「は、はい」
える「では、頂きますね」
そう言い、ちょっと恥ずかしいのもあり、私は一度リビングへと行きました。
える(びっくりしました)
える(まさか、泊まる事になるなんて……)
ふと、思い出します。
える(着替え……どうしましょう)
そんな事を思いつつ、ソファーの隅に一枚の紙切れが落ちているのに気付きます。
その紙には【これ私の服ね、使っていいわよ、千反田さん。 折木 供恵】と書いてありました。
える(全部、全部予想されていたって事ですか……)
折木さんのお姉さんは、随分と勘が鋭い方だとは聞いていましたが……ここまでとは。
でも、助かりました。
そう思い、その紙と一緒に置いてあったパジャマを手に取り、私はお風呂場へと足を向けます。
第七話
おわり
そこで、盛大な勘違いをしたことを知ったんだけど……
お姉さん曰く、ただの風邪らしい。
それでも無理に動いていたから、倒れたとの事だ。
まあ、普段から体を動かしてないからってのもあると思うけどね。
とにかく、摩耶花と千反田さんになんて言い訳しようかな。
里志(うーん、参ったなぁ)
里志(あれ? もう来てるし!)
予想以上に千反田さんと摩耶花が来るのは早かった。
二人に軽く挨拶をして、ホータローの家に入る。
ここまできたら、どうにでもなれ!
里志(これほどまでとは、ね)
そんなこんなで、ホータローに会おうという流れになってしまう。
うう、参ったなぁ。
お姉さんの横を通り過ぎようとした所で、呼び止められた。
供恵「里志くん、ちょっといいかな」
なんだろうか? まあこのまま行っても気まずいし、少し道草をしよう。
里志「なんですか?」
供恵「奉太郎の事なんだけど、さ」
供恵「最近学校で何かあったの?」
里志「うーん、確かにあるっちゃありましたね」
里志「ま、そんな所です」
里志「すいません、いくらお姉さんでも言う訳には行かないんです」
供恵「……それってあの千反田さんに関係してるのね」
里志「……違うといえば、嘘になります」
うひぃ、やっぱり鋭いなぁ。
ホータローが苦手になるのも、少し分かる気がする。
供恵「そう、それだけ分かれば充分だわ」
供恵「にしても、あのホータローがねぇ」
供恵「その内分かるわよ」
なんだろうか……
やはりこの人は、何か知っているのか?
ううん、僕には思いつきそうにないや。
そして、そう言うとお姉さんはリビングへと戻っていった。
供恵「里志くん、ごめんね呼び止めちゃって」
供恵「奉太郎に会いにいってあげて」
そう言い残し、扉を閉めようとする。
そして、これは僕が聞いていなかった言葉、聞けなかった言葉。
供恵「あの奉太郎が飛び出して行ったと思ったら、なるほどね」
供恵「中々青春してるじゃない、あいつも」
第7.5話
おわり
勢いで千反田に泊まっていけ等と言った物の、どうにも落ち着かない。
奉太郎(何をやってるんだか……)
第一に、風邪を移してしまう可能性もあるだろう。
そんな事をしてしまったら本末転倒ではないか。
あいつは、あいつの性格からしたら……
これでも1年と少しの間、千反田と過ごしている。
一緒に居た時間もそれなりにはある。
そこから予想できる、次の千反田の行動は。
恐らく、風呂を出た後はこの部屋に一度やってくるだろう。
その時、俺はどんな顔をすればいいのだろうか。
全くもって、面倒な事になってしまった。
普段の俺なら、絶対に泊まっていけ等と言う筈が無いのに。
どうやら大分、風邪のせいで思考は弱くなっているらしい。
しかし今考えなければいけないのは、次に千反田が部屋に来た時どうするか? だ。
生憎だが、眠気は吹っ飛んでしまっている。
振りならば可能と言えば可能だが、そこまでする必要はあるのか……?
奉太郎(普通に接するか)
普通に接する……?
普通とは、どんな感じだったっけか。
ううん……
奉太郎(千反田、お風呂出たんだ。 じゃあ次は僕が入ろうかな?)
あれ、俺ってこんなキャラだっけ?
違う違う。
奉太郎(ちーちゃん、お風呂気持ちよかった? 私も入って来ようかな)
これは伊原だろう!
奉太郎(千反田さん、お風呂あがったんだね。 そう言えば、人間の体を温めた時に起きる作用なんだけど)
これは里志。
半ば半分ふざけて思考遊びをしていた時に、来てしまった……奴が。
える「お風呂、ありがとうございます」
奉太郎「あ、ああ」
そう言いながら、千反田に目を向け、ぎょっとする。
この服は、姉貴のだろうか。
姉貴は意外にも身長があるし、体格も女の割りには結構がっちりとしている。
かと言ってスタイルが悪いと言う訳でもない。
そんな姉貴の服を千反田が着ると、どうなるかというと……
ぶかぶかだ。
それだけなら、まだいい。
余りこういうのは言いたくは無いのだが……
つまり、胸元が、見える。
える「折木さん、大丈夫ですか?」
える「顔が真っ赤ですけど……また熱でも上がったのでしょうか……」
それをこいつは自覚しないから始末に終えない。
本当に、言いたくないが……このままでは風邪どころか神経を使いすぎて倒れかねない。
奉太郎「ち、千反田」
える「はい、どうかしましたか?」
奉太郎「その、その服だと、目のやり場に困るから、何か下に一枚着てくれると助かる」
える「え、あ! す、すいません!!」
がばっ!と胸元を隠す。
この際なら、なんでもいいだろう。
部屋にある引き出しから、手頃なシャツを一枚千反田に渡す。
奉太郎「これは俺のだが、着てくれると助かる」
える「は、はい! ありがとうございます!」
千反田もようやく気付いた様で、慌てっぷりは中々の見物だ。
そしてそのまま姉貴の服に手を掛けると……
全く、全く全く。
千反田は顔を真っ赤にして、部屋から出て行った。
奉太郎(疲れる……本当に疲れるぞ、これ)
どうにも千反田は、天然と言えばいいのだろうか?
所々抜けており、言われるまで分かっていない節がある。
それを一個一個指摘するのは、大変な労力なのだ。
ほんの2、3分だろうか、千反田が再び部屋に戻ってきた。
える「あ、折木さん、本当にす、すいません」
奉太郎「……もういい」
話を変えよう、気まず過ぎて窓から飛び出したい気分になってしまう。
奉太郎「それより、布団を出しに行こう」
奉太郎「さすがにソファーで寝ろとは言えんからな」
そして、再びこのお嬢様は俺に疲れをもたらせる。
える「あれ、一緒のベッドで寝ないんですか?」
奉太郎「寝る訳あるか!」
泊まっていけなど、口が裂けても言うべきでは無かった。
奉太郎「……大体、俺は風邪を引いてるんだぞ」
奉太郎「移ったらどうするんだ」
える「私は大丈夫ですよ! うがいと手洗いには気を使って居ますので」
奉太郎(そういう問題では無いだろ)
しかし、飛びっきりの笑顔で言われては俺も参ってしまう。
奉太郎「そうか、でもとりあえずは別々で寝よう」
手段は、強行突破。
える「……そうですか、少し残念ですが、分かりました」
奉太郎(はぁぁ)
どうにも熱が上がってしまいそうで、本当に千反田はお見舞いに来たのだろうか? 等と思ってしまう。
だが納得してくれたのなら引っ張る必要も無いだろう。
そのまま別の部屋に移り、布団を引っ張り出す。
える「あの、折木さんの部屋に敷かないのですか?」
こいつはそろそろわざとやっているんじゃないか? と疑ってしまう。
仕方ない、はっきりと言おう。
奉太郎「あのな、千反田」
える「はい、なんでしょう」
奉太郎「俺は男で、お前は女だ」
える「ええ、そうですね」
奉太郎「男と女が一緒の部屋で寝るのは……その、余り良くないだろう」
える「確かに、分かります」
ん? 分かるのか。
奉太郎「だったら」
える「でも私、折木さんの事を信用していますから」
ああ、そう言う事か。
こいつは俺の事を信じているから、一緒のベッドで寝てもいいし、一緒の部屋で寝てもいい、というのか。
今までのこいつの態度の原因が、少しだけ分かった気がした。
信じていなかったのは、俺の方なのだろうか。
ここまで言われては、無下にするのも気が引けてしまう。
奉太郎「……分かった」
奉太郎「俺の部屋に布団は敷く、だけど風邪が移っても知らんぞ」
やっぱり、泊めるべきでは無かった。
どうやら今年一番の失敗は、これになりそうだな。
渋々布団を抱え、自室に戻る。
床に落ちている物を適当に足でどけると、そこに布団を敷いた。
すると千反田はとても満足そうな顔をしていた。
俺は、とても不満足な顔をした。
える「ふふ、折木さんと、お話したかったんです」
奉太郎(一応病人だぞ、俺)
でも、千反田と話していると何故か元気が出てくるのは自分でも分かっていた。
奉太郎(ま、少しくらい付き合ってやるか)
える「今日の事で、お話しようと思っていて」
今までの少し楽しんでいた千反田とは違い、一転空気が引き締まるのを感じた。
今日の事か、どうせ後で話すことになるんだ、今でもいいだろう。
奉太郎「俺も、その事は話さないといけないと思っていた」
千反田は一呼吸置くと、続けた。
える「本当に、折木さんには感謝しています」
える「私一人では多分、摩耶花さんと話し合いをしていたのかも分かりません」
える「福部さんとも、お話はとても出来ると思っていませんでした」
える「正直に、言いますね」
また一段と、空気が重くなる。
える「最初、摩耶花さんが帰った後」
える「一番怖かったのは、折木さんに嫌われるという事でした」
える「今まで少し、頼り過ぎていたのでしょう」
える「折木さんがすぐに戻ると言ってくれた時、ちょっとだけ安心できたのも覚えています」
覚えていたのか、俺は……くそ。
える「外が暗くなってきて、ようやく立てる様になったんです」
える「今までで一番、体が重く感じました」
える「家に帰る道も、とても長く感じました」
俺がもし覚えていたら、千反田はこんな思いをしないで済んだのでは?
一緒に帰っていれば、そんな思いをさせずに済んだかもしれない。
える「それでようやく家に着いて、これからどうしようか考えていたんです」
える「気付くと電話機の前に居て、掛けようとした先は……折木さんの所です」
える「ですが、電話を取れませんでした」
える「……また、折木さんに甘えていると思ったからです」
たまたま前に居たんじゃない、俺に電話を掛けようとしていて……電話機の前に居たんだ。
える「しかし、そんな時に電話が鳴ったんです」
える「お相手は、折木さんでした」
える「私は、その時とても嬉しくて、嬉しくて」
える「そこからは、折木さんの知っている通りです」
える「これは私の気持ちですが、知って貰いたかったんです」
さっき、俺はこう言った。
どうやら今年一番の失敗は、これになりそうだな。と。
そんな事は無い。
さっきまでの俺は……とんだ馬鹿野郎だ。
奉太郎「俺の話を、聞いてくれるか」
千反田の方に顔を向けると、返事代わりに笑顔を一つ、俺の方へ向けた。
奉太郎「俺は、最初の一瞬……お前が言ったのかと思った」
奉太郎「けど、すぐにそれは違う事が分かった」
奉太郎「まずは謝る、ごめん」
千反田は何か言うかと思ったが、どうやら俺の話が終わるまでは話す気はないらしい。
奉太郎「自分で言うのもなんだが」
奉太郎「俺は怒るって事や、他の事もだが……あまりしない」
奉太郎「疲れるし、な」
少し、少しだけ千反田が笑った気がする。
奉太郎「だが千反田に経緯を教えてもらったとき」
奉太郎「俺は多分、怒っていた」
奉太郎「多分って言うのも変だがな、あんな感情は初めてだった」
奉太郎「怒りを通り越していたのかも知れない」
奉太郎「勿論、千反田に対してじゃない」
奉太郎「千反田に嘘……その言葉の意味を教えた奴に、だ」
奉太郎「里志に少し、事情を話して……大分落ち着いたのを覚えている」
奉太郎「そして次に、俺は」
言っていいのか? 俺のした事を。
本当に、言っていいのだろうか?
それは千反田には、言ってはいけない内容だ。
けど、俺は……千反田の気持ちを全然理解していなかった。
もしかすると、自分の為に動いていたのかもしれない。
正体不明の感情を、消す為に。
奉太郎「……俺は!」
える「折木さん」
える「もう、いいですよ」
える「折木さんの気持ちは、私に伝わりました」
奉太郎「そう、か」
える「先ほど、こう言いましたよね」
える「自分を責めるのはやめろ、と」
える「それは、折木さんにも言える事ですよ」
そう、だろうか?
俺は……自分を責めているのだろうか?
……そうかもしれない。
える「私は、何回も救われています」
える「氷菓の時も、入須先輩の時も、文化祭の時も、生き雛祭りの時も、今回の事も」
える「だから、たまには……折木さんの事を、助けたいんです」
える「でもやっぱり、私じゃとても力不足みたいです、ね」
える「今日も、迷惑を掛けてしまいましたし……」
少しでも俺の、手助けになれるようにと。
俺は天井を見つめながら、言った。
奉太郎「今日は、随分と楽をできたな」
奉太郎「具合が悪い所に友達がお見舞いに来てくれたし」
奉太郎「うまい飯も食えた」
奉太郎「お陰で大分、楽になってきたな」
自分でも、演技っぽいのは分かっていた。
だが、言わずにはいられなかった。
奉太郎「そういう訳だ、千反田、ありがとう」
える「で、ですが」
奉太郎「ありがとう、千反田」
強引だっただろうか?
しかし俺には、これしか思いつかなかった。
える「……はい」
える「どういたしまして、折木さん」
ま、少しは分かってくれたか。
える「そうですね、電気消しますね」
そう言い、千反田が電気を消した。
える「おやすみなさい」
小さいが、俺の耳には確かに聞こえていた。
奉太郎「ああ、おやすみ」
今日は多分、長い夢を見る事になりそうだ。
雀だろうか、鳴き声が騒がしい。
風邪は大分良くなったようだ。
千反田のおかげ、と言うのも勿論あるだろう。
奉太郎(喉が渇いたな)
部屋ではまだ千反田が寝息を立てている。
どうやらこいつも、昨日は随分と疲れた様子だ。
起こさない様に、そっと部屋を出た。
部屋を出たところで、一度立ち止まる。
部屋の中には千反田、ドアは開いているが不思議と少しの距離感を感じた。
奉太郎「……お疲れ様、ゆっくり休め」
聞こえては、いないだろう。
俺はゆっくりとドアを閉めた。
朝飯は……いいか、面倒だし。
奉太郎(コーヒーでも飲むか)
コーヒーを一杯淹れ、ソファーに座る。
テレビをつけると、丁度昼前のバラエティ番組がやっていた。
頭に入れることは無く、ただ画面を見つめる。
奉太郎(この分なら学校に行けたかもな)
嘘ではない。
昨日までのダルさは無く、ほとんどいつもの調子だ。
奉太郎(ん?)
奉太郎(テレビ……)
神山高校は、普通の学校である。
普通と言うのはつまり、平日は普通に授業を行っている。
俺は今日休みだが、昨日の内に連絡は入れてあった。
しかし、部屋にはあいつがいるではないか。
奉太郎(あいつ学校は!?)
ドアを開けると、そこには相変わらず熟睡している千反田の姿がある。
える「……すぅ……すぅ」
呑気に寝息を立てている千反田を見て、ちょっと起こす気が引けるが仕方ない。
奉太郎「おい、千反田」
奉太郎「起きろ」
そこまで声は出していないつもりだったが、千反田はすぐに起きた。
える「……折木さんですか? おはようございます」
目を擦りながら、朝の挨拶をしている。
奉太郎「ああ、おはよう」
奉太郎「今何時だと思う?」
える「……えっと、今? でしょうか」
える「時計が無いので、わからないです」
奉太郎「12時前だ、学校大丈夫なのか?」
える「あ、学校?」
える「ええっと、折木さん」
える「今は、何時でしょうか?」
俺は大きく溜息を吐きながら、もう一度時間を教えた。
奉太郎「正確に言うと、11時ちょっとだ、昼のな」
える「ち、遅刻です!!」
もはや遅刻という問題では無い気がするが……
がばっと起きるというのは、こういう事を言うのだろう。
千反田はがばっと起きると、何からしたらいいのか分からないのか、部屋の中をぐるぐると回っている。
奉太郎「とりあえず、学校に連絡だ」
やらなければいけない事なら、手短に。
携帯は俺も千反田も持っていないのだ、仕方あるまい。
える「あ、ありがとうございます!」
そう言うと千反田は暗記しているのか、迷い無くボタンを押し、電話を掛けた。
える「もしもし、2年H組の千反田えるです」
える「連絡が遅くなり申し訳ありません」
える「ええ、少し……」
俺はこいつの事は真面目な奴だとは思っていた。
少なくとも、この時までは。
える「体調が悪くて……休ませて頂いてもよろしいですか?」
奉太郎「お、おい!」
そう声を発したか発する前か、千反田は空いている手で俺の口を塞いできた。
える「ええ、それでは」
ようやく、俺の口から手が離される。
奉太郎「どういうつもりだ」
える「えへへ、ずる休みしちゃいました」
とんだ優等生が居た物だ、本当に。
える「そんな事よりですね」
奉太郎(そんな事で終わらせていいのか?)
える「折木さん、具合は大丈夫ですか?」
奉太郎「まあ、かなり良くなったな」
える「そうですか、それならよかったです」
える「本当に、無理はしていませんよね?」
なんだろう、くどいな。
奉太郎「少し体を動かしたいくらい元気だが……」
える「そうですか!」
える「それなら、ですね!」
奉太郎「な、なんだ」
千反田がこういう雰囲気になる時は、何か嫌な予感しかしない。
奉太郎「どこに? と言うかだな」
奉太郎「学校、休んで行くのか」
える「見つからなければ大丈夫です!」
いつもの千反田とは、ちょっと違うか?
ま、いいか。
どうせする事も無い。
奉太郎「分かった、見つからない様にな」
奉太郎「それで、どこに行くんだ?」
える「水族館です!!」
何故、平日の昼過ぎに俺は水族館に居るのだろうか?
勿論客はまばらにしかいない、平日だから。
受付の人は少しばかり不審がっていた、平日だから。
俺たちと同年代の人は周りにほとんどいない、無論……平日だから。
奉太郎「それで、なんで水族館なんだ」
える「神山市の水族館は日本でもかなりの大きさと聞いていたので」
える「来てみたかったんですよ……わぁ、かわいいですね」
小さな魚を見て、千反田が言った。
いや、むしろだな。
奉太郎(なんでこいつは制服で来ているんだ)
それがより一層、不審人物を見るような目を集めていることは言うまでもない。
える「あ、折木さん」
奉太郎「ん、なんだ」
える「イルカのショーがあるみたいですよ、気になります!」
千反田の気になりますも、随分と久しぶりに聞いた気がした。
最近は何かと忙しかったからな、仕方無いだろう。
そして、イルカのショーを見に来た訳だが……
隣同士で座っているのに、イルカはどうやら俺の方に恨みでもあるらしい。
さっきから俺だけ何度も水を掛けられている。
奉太郎(冷たい……)
入り口で雨具を貸し出していたので、服は濡れなくて済むのだが。
える「わ、わ、可愛いですねぇ」
どうやら千反田はかなりの上機嫌の様だった。
しかし何故、俺だけこうも水を掛けられるのだろうか?
数えているだけで5回。
あ、丁度6回目。
さいで。
回数が10回を越えた辺りで、ようやくショーは終わった。
千反田はと言うと、イルカを触りに行っている。
える「おーれーきーさーんー!」
こっちに手を振っている、周りの視線が痛い。
える「かわいいですよー!」
分かった、分かったからやめてくれ。
える「おーれーきーさーんー!」
イルカは恐ろしいと思った、狙って俺に水を掛けてくるから。
だが千反田も狙って俺に手を振ってくる。
奉太郎(恐ろしい所だ、水族館)
エスカレーターに乗ったとき、全面ガラスで魚が泳いでいたのには驚いたが……
千反田はその光景に、言葉を失っていた。
目がいつもより一段と大きくなっていたので、すぐに分かる。
そして今は水族館内で、昼飯と言った所だ。
える「すごいですねぇ、来て良かったです」
奉太郎「ま、そうだな……イルカは納得できんが」
える「折木さん、随分気に入られていたみたいでしたね」
奉太郎「イルカに気に入られてもなんも嬉しくは無い」
える「そうですか……少し、羨ましかったです」
奉太郎「俺は千反田が羨ましかったけどな」
える「ふふ、あ、今度は小さいお魚が居る所に行きませんか?」
しかし、元気だなぁ。
奉太郎「そうだな、行くか」
える「はい! テレビ等で見て行きたいと思っていたんです」
やっぱりか、通りで見るもの全てに目を輝かせている訳だ。
そろそろ帰ろうか、と切り出そうとしていたが……もう少し居てもバチは当たらないだろう。
奉太郎「じゃ、あっち側だな、小さい魚は」
える「はい、次はどんなお魚が居るんでしょうか……気になります!」
通路の脇に設置されている水槽には、ヒトデが何匹も入っていた。
える「可愛いですねぇ……」
奉太郎(可愛い? これがか……?)
える「あ! あっちにはクラゲも居るみたいですよ」
クラゲの水槽までとことこと小走りで行くと、千反田はクラゲを見つめながら言った。
える「知っていますか、折木さん」
奉太郎「ん?」
える「酢の物にすると、おつまみにいいんですよ」
奉太郎(今その話をするのか……クラゲの目の前で)
奉太郎(哀れ、クラゲ達)
える「どうしたんですか? そんな悲しそうな目をして」
奉太郎「いや、なんでもない」
千反田はと言うと、相変わらず見る度に感動している。
える「タコもいるんですね! すごいです!」
……やはり俺と千反田では、受け取り方が違う。
確かに面白いが……ここまでの感動は俺には無い。
千反田は何にでも興味を示す、それは恐らく……家の事が関係しているのであろう。
外の世界を知識として蓄えたい、そう言った物が千反田にはあるのかもしれない。
水族館を出た頃には、すっかり夕方となっていた。
帰り道、千反田と会話をしながら自転車を漕ぐ。
奉太郎「家に居ても暇だったしな、これくらいならいつでもいいぞ」
える「はい……ありがとうございます」
える「今度は皆さんで、どこかに行きたいですね」
える「行きたい場所が、沢山あります……」
ふいに、千反田が自転車を止めた。
奉太郎「どうした?」
える「あの、折木さん」
千反田の顔はいつに無く真剣で、真っ直ぐに俺を見ていた。
える「私、今日はとても嬉しかったです」
える「やっぱり、折木さんといると楽しいです」
える「すいません急に、行きましょうか」
ふむ、千反田も色々と思うところがあるのだろうか?
える「……時間も、無いので」
その最後の言葉は、急に強くなった風に消され、俺には届いていなかった。
第8話
おわり
Entry ⇒ 2012.10.19 | Category ⇒ 氷菓SS | Comments (0) | Trackbacks (0)
洋榎「エロゲしてる所を絹に見られてしもた……」
引用元: http://hayabusa.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1350385200/
洋榎「き、絹……これは……ちゃうねん」
絹恵「ちゃうって……何がよ……これは一体なんなん……」フルフル
洋榎(アカン、よりによってエロシーン見られてもうた)
絹恵「……っ!!」ダッ
洋榎「ま、待つんや!絹っ!!」ガタンッ ブツッ
『きっ!キちゃうよおっ…!お姉ちゃんっ……!!いっぱいきちゃうよおぉっ……!!』
『妹に欲情するお姉ちゃんでごめんねっ……!はぁっ……はぁっ……気持ちいいよっ……咲っ……!!』パンパン
洋榎「」
絹恵「」
絹恵「……」
ガチャ バタム
洋榎「ア、アカン……」ガックシ
洋榎「確実にドン引きしとったわ……」ハァ
洋榎「このままやとやばいで……絹に嫌われてまうどころか……」
洋榎「一生口を聞いてもらえなくなるかもしれへん……」
洋榎「一緒の家に住んどいてそれはきっついやろ……」
洋榎「ああー……どないすればええねん!」ジタバタ
洋榎「……」
洋榎「はぁ……」
洋榎「とりあえず ”神降ろしコマキマイスター”でもやろ……」カチカチッ
絹恵「……」
絹恵「おねーちゃん……」
絹恵(お姉ちゃんがやってたゲーム……多分えっちなゲームや……)
絹恵(そ、それも……えっちしてるキャラクターが……)
絹恵(お姉ちゃんて言うてた……)ドキドキ
絹恵(……お姉ちゃんも妹にああいう事したいんやろか……)ドキドキ
絹恵「……」ドキドキ
絹恵「っ!」バッ
絹恵「う、うちは何考えてんのや……!」
絹恵「た、たまたまやろ!せや、気のせいやきっと!!」
絹恵「そうや、お姉ちゃんがあんなゲーム好きな訳あらへん!」
絹恵「さっさと忘れてサカつく進めよ!」
『でも本当に申し訳ないので、ここからは全力以上で造らせてもらいます!』ゴッ
洋榎「おおお!突然変異や!」
洋榎「っしゃー!レア装備きたでこれ!」
洋榎「さすが小蒔や!!」
洋榎(”神降ろしコマキマイスター”……この作品は、主人公の神代 小蒔が工房を運営しながら迷宮探索するゲームや!)
洋榎「やっぱ”ヤエシュリー”の作品は面白いで!」
洋榎「トキの奴は、”アコスソフト”派っちゅーてたけど、うちはやっぱこっちの方が好きやなー」
洋榎「……て」
洋榎「……ホンマはこんな事してる場合やないんやけどな……」ハァ
洋榎「……寝よ」パチンッ
洋榎「はー……部活行く気せーへんわぁ……」
洋榎「今朝は絹が早めに出たから会わんかったけど……」
洋榎「部活ではどうしても鉢合わせしてまうやろしなぁ……」
洋榎「かと言って部活サボる訳にも行かへんし……」
洋榎「……覚悟を決めるしかあらへのんか」ガチャ
恭子「お、主将きましたね」
由子「なのよー」
恭子「はい、では部活はじめるでー!みんなそれぞれ卓につきやー」
洋榎「……?絹は来てないんか?」
漫「絹ちゃんですか?今日は用事がある言うて休む言うてましたけど、聞いてないんですか?」
洋榎「いや……聞いておらへんわ……」
恭子「絹ちゃんが主将に何も言わずに休むなんて、珍しいですね」
洋榎(絹……やっぱうちを避けとるんやろか……)
恭子「じゃあ今日はこれで終わりやー」
由子「のよー」
漫「ではお先ですー」
恭子「おつかれー」
洋榎「……」
洋榎「はぁ……」
恭子「主将、どうしたんです?今日は調子悪かったですね」
洋榎「恭子……」
由子「何か悩み事があるなら何でも聞くよー」
洋榎「由子……」
洋榎「……」
洋榎「……せやな、お前達なら別にええか」
洋榎「……実はな」
由子「それは一大事なのよー」
洋榎「せや……めっちゃドン引きしてもうて、それ以来会話どころか顔も見てないねん……」
恭子「それはなんちゅーか……」
由子「運が悪かったのよー」
洋榎「ホンマどうしたらええんやろな……」ハハッ
由子「……」
恭子「……」
洋榎「……もううち、エロゲやめよかな……なんて」ハハハッ
恭子「……」
恭子「……なんや、主将らしくないですね」
洋榎「……なんやと?」
洋榎「あ?恭子、お前喧嘩売っとるんか?」
恭子「ちゃいますよ、いつもの主将なら無理矢理にでも誤解を解かせて納得させたりするやないですか」
恭子「なのに、絹ちゃんにエロゲしてる所を見られただけで何落ち込んどるんですか」
洋榎「そ、そうは言うけどな!絹になんて言えばええねん!」
洋榎「実はうちエロゲが大好きなんですーって言えるか?」
洋榎「アホか!んな事言うたらマジで一生口聞いてもらえなくなるで!!」
恭子「知りませんよ……とにかく、ちゃちゃっと仲直りしちゃってくださいよ」
恭子「このままやと部の士気にも関わりますから」
洋榎「他人事やと思って好き勝手言いよって……」
恭子「他人事ですし」
由子「他人事なのよー」
洋榎(こいつら……ホンマ腹たつわー……)
恭子「それじゃ主将、うちとゆーこはここで」
洋榎「え?二人なんか用事でもあるん?」
由子「日本橋に行くのよー」
洋榎「は?日本橋?何しに?」
恭子「日本橋に行くゆーたら一つしかないじゃないですか」
由子「エロゲを買いに行くのよー」
洋榎「え、エロゲやて!?」
洋榎(……いかんいかん、エロゲは少し自重せな……これ以上絹にヘンな誤解はされとうない)
恭子「……あ、もしかして、主将も行きたいんやないですか?」
洋榎「ア、アホ!ちゃうわ!な、ななな、なんでうちが行きたいなんて!お、思うとる訳ないやろ!!アホ!」
由子「じゃあ30分後に駅前で集合なのよー」
恭子「ええ、では後ほど」
洋榎「まてや!なんで勝手に話が進んどんねん!」
洋榎「っておい!ちょまてっ!……行ってもうた……」
洋榎「……」
洋榎「う、うちは行かへんからな……!」
洋榎(……せや……もうエロゲは卒業するんや……!!)
洋榎(うちは行かへんで……!)
由子「おまたせー」
恭子「揃いましたね、じゃ行きましょか」
洋榎(結局来てしもーた……!!)
洋榎(気がついたら服着替えて財布握って出かけとる自分がおった……)
洋榎(習慣ってホンマ恐ろしいわ……)
恭子「主将、何しとるんです?行きますよ」
洋榎「あ、ああ……行くで」
洋榎(ま、まあ今日だけ……今日だけや、今日を最後にエロゲを買うのは卒業や)
洋榎(……せ、せやから沢山買うても別にええよな……)
恭子「じゃ、各自好きなように見てまわるっちゅー事でええですか?」
由子「のよー」
洋榎「じゃ、また後でな」
洋榎(さて……どないするかな……と)
洋榎(今話題の作品コーナーか……えーと、何があるんや)
洋榎(……”大星のメモリア”……突如現れた謎の女の子、大星淡と一緒に昔の記憶を取り戻す物語……)
洋榎(これファンディスクも出とるんよなぁ、結構面白いって聞くで)
洋榎(次は……”コシガヤ☆エクスプローラー”……埼玉県越谷市に住む女子学園生が全国学生麻雀大会に挑む……か)
洋榎(確かこの作品、ヒロインが全員貧乳なんよなぁ……見た目もどこかズレてるのばっかやし)
洋榎(ほな次は……”すばら式日々~不連続和了~”……主人公、花田 煌が世界の救世主となり、様々な謎に立ち向かう奴か……)
”
洋榎(これトキがハマったとか言ってたなぁ、それ以来すばらすばら言うようになってうっとおしいったらありゃせんわ)
洋榎(恭子や由子は何見とるんやろ……)チラッ
由子「これですかー? ”ドラ、置き場がない!”ですよー」
洋榎「ああ、麻雀大会で負けまくってチームメイトや出場選手に犯されまくるっちゅー……」
由子「はい、でもそれ以上に笑える要素が多いのでオススメらしいですよー」
洋榎(そうなんか)
洋榎「恭子は何にするん?」
恭子「私ですか?私は”世界で一番NGな漫”を……」
洋榎「あー、恭子好きそうやもんなそれ」
恭子「あ、分かります?なんかパッケで唆られるんですよね、こうラクガキがしたくなるといいますか」
洋榎「ラクガキするのは買うてからにしとけや」
恭子「わかってますよ、私はこれにしときます」
恭子「主将はもう決まったんですか?」
洋榎「あ、あー……」
NGな漫ワロタ あれは名作
洋榎(今日でエロゲ買うのも最後って決めとったんやけどなぁ……)
洋榎(ここに来てまうと色々目移りしてまうなぁ)
洋榎「そや、トキの奴が言ってた……これや、”この大阪に、翼をひろげて”」
洋榎(主人公の江口セーラが病弱な女の子や黒髪ロングの女の子達と、グライダーで大阪の空を目指すお話やな)
洋榎(これは今日買うて……おおっ!?)
洋榎「”卓上の魔王”やないか!前に来た時は売ってへんかったのに、もう入っとるんかいな!」
洋榎(卓上の魔王、突如現れた魔王と名乗る人物を、転校してきた大星淡と探し出し事件の真相を追う物語……!)
洋榎(美少女ゲームアワード大賞受賞作品になるくらい、名作中の名作やな!)
洋榎(これも追加や……!これは今日帰ったら早速やるで……!)
洋榎(……しかしこれだけやと物足りないな、あと何本か追加しとこか)
洋榎(”トキ-黒い竜華と優しい部員-”……あるキッカケで仲間になった5人が、「麻雀」というデスゲームに巻き込まれていく……)
洋榎(”ゴア・コークスクリュー・ショウ”……異形の魔物テルと関わる羽目になってしまい、平穏な日常に戻るために努力するお話……)
洋榎(この3本も名作や、こんだけあれば十分やろ)
洋榎「待たせたなー、ほな、帰ろかー」
恭子「そうですね、早くやりたくて待ちきれませんよ」ハハハ
由子「のよー」
洋榎「ただいまーっと」
雅枝「おかえり、もうすぐメシできるで」
洋榎「オカン、帰ってたんかいな」
雅枝「今日は特別早かったんや、さっさと荷物置いてメシの準備し」
洋榎「わかってるでー……っ!?」
絹恵「あ……お姉ちゃん……おかえり」
洋榎「き……絹……た、ただいま……」
絹恵「……」
洋榎「……」
雅枝「……?」
洋榎「……」モグモグ
絹恵「……」モグモグ
雅枝「……」
雅枝「なんやあんたら、そんなに黙って……なんかあったん?」
洋榎「はっ……はぁっ!?べ、別になんもないで?」
雅枝「そーかー?ヒロがそんなに静かやなんて、頭でも打ったんちゃうの?」
雅枝「いつもぴーちくぱーちく言うとるのに」
洋榎「アホか!うちは普段からそんな喋りまくってへんわ!つか食事中くらい静かに食べェや!」
雅枝「せやせや、いつものヒロはそんな感じやで」ハハハッ
洋榎「アホか!」
絹恵「……」
洋榎「ふー……オカンの奴」
洋榎「さーて、風呂も入ったし……まずは卓上の魔王からやろか!」
洋榎「っと、せやせや……ス○イプにログインしとかな……」カチカチッ
洋榎「おっ、今日は結構人おるやん……珍しいなぁ」
洋榎「……」
『とにかく、ちゃちゃっと仲直りしちゃってくださいよ』
洋榎「……」
洋榎(ついでにちょっと相談に乗ってもらおかな)
――とあるネット掲示板で知り合った数人の猛者達が――
――互いに集い語り合う 淑女達のグループチャットである――
ひろぽん:おるかーー?
魔法少女すみれ:えっ?
ひろぽん:よーし、おるな!
トキ:ここやで (トントンッ
ピカリン: 西 濃 は 神
魔法少女すみれ:西濃厨うぜぇ
ひろぽん:ちょいとやばいことになってもーてな、助けてくれ
魔法少女すみれ:何があったんだ?
ひろぽん:妹にエロゲバレした
ピカリン:なんだと!お前妹いるのか!?どんな子だ!
魔法少女すみれ:シスコンは黙っとけよ
トキ:シスコンは病気やから無理やろ
ひろぽん:真面目な話なんや、頼むで
トキ:せやろなー
ひろぽん:どうにかして誤解を解きたいんやけど、どしたらええやろか
ピカリン:犯す
魔法少女すみれ:お前は本当にしそうだから怖い
魔法少女すみれ:誠意を持ってちゃんと話をすればちゃんと分かってくれるんじゃないか?
ひろぽん:そやろか、めっちゃドン引きしとったで
トキ:うちも親友にエロゲしてる所見られた事あったけど
トキ:ちゃんと話をすれば分かってくれたで
ひろぽん:まじか
トキ:ただそいつが今度はエロゲにハマってしもうてな
魔法少女すみれ:一体何をしたらそうなるんだ
トキ:エロゲをやらせたらいつの間にかハマってた
ピカリン:バロスwwwwwwww
『――ここからが勝負だじぇ!』ドヤァ
『――後ひっかけの洋榎とは うちのことやで!!』ドヤァ
『――おまかせあれっ!』ドヤァ
『――そろそろまぜろよ!』ドヤァ
竜華「ヘックチ!!」
竜華「さすがに徹夜でやりすぎたんかな……今日はちょいと暖かくして寝た方がええな」
竜華「しかしみんなかわええなぁ」
竜華「”どやきす” ヒロイン全員がドヤ顔をするちょっと変わったゲームやけど、面白いわ」
竜華「いちいちドヤ顔しまくるのが最高に笑えるで」
竜華「しかも”どやきす2本場”と”どやきす3本場”もあるっちゅーし」
竜華「ホンマ、エロゲって最高やなぁ!」
ピカリン:むしろ英雄
トキ:HとEROだけに
ピカリン:だれうま
ひろぽん:でもうちの妹は17の高2やで?エロゲはさすがにアカンやろ
トキ:ギャルゲがあるやろ
魔法少女すみれ:妹にギャルゲを勧める姉なんて
ピカリン:アリですね
トキ:せやろ
魔法少女すみれ:ねぇよ
ひろぽん:うちの妹をその手の道に引き込むのはさすがに気が引けるで
魔法少女すみれ:まぁ普通はそうだろうな
トキ:でもうち思うんや、エロゲの良し悪しは実際にやった人じゃないと分からないって
トキ:エロゲをやった事のない奴にエロゲを悪く言う資格はないで
ひろぽん:まぁそうかもしれへんけど……
トキ:やったうえで、悪く言われるならしゃあないやろけど
トキ:少なくとも、考え方は変わってくれると思うで
ひろぽん:なるほどなー
魔法少女すみれ:経験者は語るか
ひろぽん:しかしなぁ……あんま気が進まへんで
トキ:何だかんだ言ってみんなエロゲやギャルゲが好きなんや
トキ:ええからやらせてみーな
ひろぽん:まぁトキが言うなら……考えとくわ
ひろぽん:じゃあうち先に落ちるで
トキ:おー おつかれさーん
ピカリン:おつ
魔法少女すみれ:またな
洋榎「ホンマ無茶言いよるで……」
洋榎「せやけど妹にギャルゲを勧める言うたって、普通はありえへんやろ……」
洋榎「素直に受け取ってくれるとも思えへんで……」
絹恵「母ちゃん、風呂上がったで」
雅枝「おー、さんきゅー」
絹恵「……」トタトタ
雅枝「あ、ちょい絹、まちぃ」
絹恵「ん?なんや母ちゃん」
雅枝「……」
雅枝「絹、あんたヒロとなんかあったん?」
絹恵「えっ……」
雅枝「なんかあったんやな?」
絹恵「……」
絹恵「……ないで」
雅枝(図星か)
雅枝「感付かんとでも思っとったか?」
雅枝「何の悩みか知らんけど、うちに話せる事なら話してほしいねん」
雅枝「な?絹、話してみ」
絹恵「……」
絹恵「……わかったで」
………
……
…
雅枝「ほれ、とりあえずお茶でええな?」
絹恵「……」コクッ
絹恵「実はな……お姉ちゃんが」
雅枝「……ヒロがどしたん?」
絹恵「……えっちなゲームしとったん」
雅枝「」
絹恵「声をかけても全く気づかへんから、驚かそうと思って近づいたんやけど……」
絹恵「……その、丁度えっちなシーンで……しかもえっちしてたのが姉妹らしくて……」///
雅枝「……」
雅枝(ヒロがいつもと違うのも、そのせいやったんか……)
絹恵「そんでそのまま……顔合わせ辛くなってしもて……」
雅枝「そ、そうか……」
絹恵「……母ちゃん、うちどうしたらええんやろか」
雅枝「……」
雅枝「絹はどうしたいん?」
絹恵「えっ」
ネキが終わっちゃうだろ……!
雅枝「でも……知ってしもうたから出来ないっちゅーんか?」
絹恵「……」
雅枝「……絹」
雅枝「人間、誰でも一つや二つの秘密はあるもんや」
雅枝「その秘密を知ってもうたからって、その人を嫌いになったり引いたりするんか?」
絹恵「……」
雅枝「人間、皆それぞれ違う生き物なんや」
雅枝「たまたまえっちなゲームをやってたからって、その人の事を全否定するのはおかしいと思わへん?」
絹恵「そ……やけど」
雅枝「他人を嫌う前に、まずは自分からその人の事を理解せなアカンのや」
雅枝「わかったか……?」
絹恵「……」コクッ
雅枝「よし、行ってこい!」
絹恵「……うん、お姉ちゃんと話してくる!」
雅枝「……ふっ、青春やな」
雅枝(頑張れ……絹……ヒロ……!)
雅枝「……」
雅枝「……しっかし、ヒロも甘いで」
雅枝「妹にエロゲやってる所を見られるなんて、エロゲーマーとしてまだまだやな」
雅枝「うちなら絶対にバレへんで」
雅枝「……」
雅枝(でも……)
雅枝(うちがロリゲーやってる所を見られへんで助かったわ……!!)
雅枝(見られてしもたら、親の威厳は疎か下手すら家出されるレベルやしな……!!)
雅枝(ヒロには悪いが、見られたのがヒロでホント助かったで……)
雅枝(……)
雅枝(……今度何かおごっちゃるからな!ヒロ!)
コンコンッ
絹恵「……おねえちゃん、うちや」
洋榎「っ!?き、絹っ!?」
絹恵「入るで」ガチャッ
洋榎「お、おう……どしたん……」
絹恵「……」
絹恵「ごめん!!お姉ちゃんっ!!」ペコリン
絹恵「その……お姉ちゃんがえっちなゲームをしとる所……見てしもうて……」
洋榎「い、いや……うちの方こそ見せてしもてすまんというか……」
絹恵「お姉ちゃん……うち」
洋榎「絹」
洋榎「……まずはうちから言わせて欲しいんや」
絹恵「……えっ?」
洋榎「絹がうちのことをキモいとか思うたりするのも、別にしゃあないと思うわ」
洋榎「せやけど、それで絹との会話が出来なくなったり無視されんのは嫌やねん……」
洋榎「勝手がましいかもしれへんけど、うちと今まで通り接してほしいねん……」
洋榎「……だめか?」
絹恵「お姉ちゃん……」
洋榎「はは……ごめんなぁ絹……こんなダメなお姉ちゃんで……」ハハッ
絹恵「……ダメやない」
洋榎「……えっ」
絹恵「お姉ちゃんはダメなんかやない!!」
絹恵「むしろ、うちの方が悪いねん……!」
絹恵「人間誰しも、人には知られたくない秘密なんて1つや2つ当たり前にあるっちゅーのに……」
絹恵「勝手にお姉ちゃんの秘密に踏み込んだりしてしもうて!」
絹恵「勝手に秘密に踏み込んで、自分で勝手に距離を置いて!!」
絹恵「自分勝手すぎるわ……!自分が……情けない!!」
洋榎「……絹」
ダキッ
絹恵「おねえ……っ」
洋榎「うちは嬉しいんや……絹がちゃんとこうして話してくれて」
洋榎「情けないんは、むしろ自分の方や……」
洋榎「もっと早く絹に教えてあげられたら、良かったって思うとる」
洋榎「……怖かったんやな、言うのが」
洋榎「話す事でどこか関係が壊れてしまうんやないかと思って……怖かったんや」
洋榎「結果、最後の最後まで言わなかった結果がこれやねん……」
洋榎「うちらは姉妹や……むしろ秘密がある方がおかしいねん」
洋榎「これからは、お互い秘密なしにしよ……な?」
絹恵「お姉ちゃんっ……!」ポロポロ
……
…
洋榎「……落ち着いたか?絹」
絹恵「……」コクッ
洋榎「……そか」
絹恵「……お姉ちゃん……私な、もっとお姉ちゃんの事が知りたいねん」
洋榎「えっ……それ……どういう……」
洋榎(え、なんやこれ……なんかフラグみたいなん立っておらへんか……?)
洋榎(この雰囲気はうちもよく知っとるで……これ、エロシーンの前にあるやつや!)ドキドキ
洋榎(って、これアカンのとちゃう!?え、なんや、ヨ○ガってまうのはアカンやろ!)ドキドキ
洋榎(き、絹はどうなんや……)チラッ
絹恵「……」ソワソワ
絹恵「……」ポッ
洋榎(むっちゃ赤くなっとるぅぅーーー……!!)
洋榎「ちょ、ちょっと待ってほしいねん、絹」
絹恵「えっ、なん……?」
洋榎「ええか、よーく考えてや」
洋榎「確かにうちはエッチなゲーム……エロゲーが好きや、大好きやねん」
洋榎「でもな、うちはあくまでエロゲーが好きなだけで、実際のエッチとかは全く興味ないねん」
洋榎「だ、だからっ……絹がそう言ってくれるのは……その、嬉しいんやけど」
洋榎「その、やっぱりアカンと思うんや……うん、うちら姉妹やし、余計にアカンやろ」ハハッ
絹恵「……えっと」
絹恵「お姉ちゃん、さっきから何を言うてるん?」
洋榎「……えっ?えっと……」
絹恵「うちが言いたいんは、お姉ちゃんがやってるエッチなゲームをうちもやりたいねんって事や……」///
洋榎「」
絹恵「せやけど……お姉ちゃんが好きなものを、うちも自分の手で知りたいねん」
洋榎「そう言われてもアカンものはアカンやろ……主に年齢的な意味で」
絹恵「……二度言うほど大事な事なんか?」
洋榎「18歳未満がエロゲしてる描写を書いたらこのSSが叩かれそうやからな……」メタァ
絹恵「……そっか」
洋榎「……」
洋榎「ね、年齢的に問題無い奴なら、あるから……そっちで良かったらやけど」アセアセ
絹恵「っ……!ホンマか!?」パアァッ
洋榎「お、おう……」
洋榎「これや」
絹恵「”コロモバスターズ!”……?」
洋榎「せや、天江衣を中心とした友達兼家族のメンバー達が、最後の夏に様々な事をチャレンジしていくゲームや」
洋榎「無印版やから、18歳未満の絹でも出来るで」
洋榎「丁度いまアニメ放送もやってるトコやし、楽しめると思うで」
絹恵「これが……」
洋榎「あと、もう1本、これもや」
絹恵「”CLONNAD-クロナド-”……?」
洋榎「至って平凡な学園生活を送るゲームなんやけど、それぞれキャラの魅力が良くてな」
洋榎「偉い人はこの作品をこう言ったんや、『CLONNADは人生』……と」
洋榎「高校生活を送る学園編、卒業後のアフターストーリー……人間の大切な時期を描い作品は……まさに人生や」
洋榎「ないな、あったら貸さへんしな」
洋榎「それでもうちがやってるゲームと大差ないで、えっちシーンがあるかないかの問題やからな」
絹恵「そうなんか……」
絹恵「うん、わかった、やってみるで」
絹恵「じゃあお姉ちゃん、おやすみっ」
洋榎「お、おう……おやすみやで」
ガチャ バタム
洋榎「……」
洋榎「結局、絹にギャルゲ渡してもうた……」
洋榎「これでハマったらどないしょー……絹がうちみたいなエロゲーマーになったらどないしよ……」
洋榎「そないになったらオカンに申し訳立たへんわぁ……」ガックシ
絹恵「……」ゴクリ
絹恵「……よし、インストール完了」
絹恵「お姉ちゃんを理解するに、お姉ちゃんをもっと知るために、うちは”ぎゃるげー”に挑戦するで!」
絹恵「ゲーム、スタートや!」カチカチッ
………
……
…
『……はじめ?』
『いつも衣がリーダーだった……なにかワクワクする事を、始める時は――』
『……なら、今しかできない事をしようではないか――』
『……衣』
『……「麻雀」をしよう――』
『麻雀でインターハイを目指す……チーム名は……【コロモバスターズ】だ!!』
絹恵「なるほど、選択肢を選択して物語を進めていくっちゅー訳ですね」
絹恵「まだ始めたばっかやど、笑える部分がかなりあったから不思議と面白いわ」
絹恵「このあとどーなるんやろなぁ」
絹恵(……お姉ちゃんも今頃ゲームをやっとるんやろか)
『照うううぅぅっ―――――!!!』
『"魔王"よ!聞けっ!!!』
『悪とは、いまだ人のうちに残っている動物的な性質にこそ起源がある!!!』
『復讐に救いを求め、救いに悪を成さんとする貴様は、遠からず己が悪行のもろさを知るだろうっ!!!』
『――嗤おう、盛大に!!!』
『…………ッタ―――――ンッ』
洋榎「うおおーー!弘世ぇぇぇっ!」
洋榎「最後の最後まで怖いオネーさんやったけど、いい人やないか……」
洋榎「アカン、涙出てきた……これはアカンやろぉ……なんで死んでまうん……」
洋榎「くそ……魔王……一体誰なんや……」
『うん……』
『だったら、私は……』
『――勇者を守る、仲間になる!』
『照ぅぅっ――――!!!』
『……咲っ……いや、"魔王"!!』
洋榎「魔王……まさかの妹やったんか……!!」
洋榎「その発想はなかったわ……なんや、むっちゃ熱い展開やないか……!」
洋榎「ちゅーか色々と複雑すぎやろこの家庭……」
洋榎「一体何がこの家庭をこんなにしたんや……」
『ツモ、3000・6000!』
『ロン!18000!!』
絹恵「……」カチッ
絹恵「……」カチッ
絹恵(このゲーム、麻雀も打つんかいな)カチッ
絹恵(まぁ麻雀部のうちからすれば、ただのお遊びなんやけど……)カチッ
絹恵(おっ……大三元テンパイきたで……!)トンッ
『それロンです、3900!』
絹恵「……」イラッ
『んっ……やっ……テルッ……!!ふぁぁぁんっ、はぁっ……!んんっ!』
『はぁっ……ふぅっ!淡っ……!すごく……っキツくて……気持ちいいっ……!』
洋榎「お、おおう……」///
洋榎(正直言うと、うち激しいエロシーンはあんま得意ではないねん……)///
洋榎(でもエロシーンを飛ばすのは作者に対して失礼や……ちゃんと見るで……)
洋榎「……」
洋榎「……」ムズムズ
洋榎(……と、トイレいこ)
菫「……ん?こんな夜中にメールか?」ピロリロリーン
菫「宥か……えっと……来週は大学受験の為、東京に行こうと思います?」
菫「その間、もし宜しければ……数日間菫ちゃん家にお泊りしたい……だと……!?」
菫「宥が……私の家に来てくれるのか……」ピッ
菫(また宥に会える……)
菫(こんなに嬉しい事は他にはない……)
菫(……だが)チラッ
菫「…………このエロゲパッケージの山はどうしたものか」
菫(処分は出来ればしたくない……私にとってこれは、今まで集めてきた財宝のようなものだ)
菫(……さて、どうしたものか)
チュンチュン....
絹恵「おはよう、お姉ちゃん」
洋榎「おう、絹、おはよーさん」
雅枝「お、丁度朝メシできとるで」
洋榎「ってうおーい!朝から唐揚げは無いやろー、ちと重いやろー!」
雅枝「いらへんのやら食わんでもええよ」
洋榎「誰もいらんて言うてへんわ!食うて!食うわ!」フガフガッ
絹恵「んもう、お姉ちゃん。そんなにガッついたら……」
洋榎「なん……んグッ!ケッホケホ!」
絹恵「せやから言うたやろー……ほら、お水やで」
洋榎「……っぷはー、当然やないか!うちと絹はチョー仲良しの最高姉妹やで!」ゴクゴクッ
絹恵「お姉ちゃん行儀悪いで!」
雅枝「せやな、仲よきことは美しきかな、や」ハハッ
絹恵「んもう、母ちゃんもちゃんと言ったってや……」
絹恵「ふふっ」クスッ
絹恵(少しだけ……お姉ちゃんの事が分かった気がする)
絹恵(お姉ちゃんが大好きなセカイの事――)
洋榎「きーぬー!何しとん、ガッコいくでー!」
絹恵「あ、まってぇ、お姉ちゃん!」
絹恵(そして自分の気持ちも――)
絹恵(私は……大好きなお姉ちゃんと)
絹恵(いつまでも――一緒にいたい――)
絹恵(これからも……ずっと――)
つづカン
『カン!ツモ、嶺上開花!』
竜華「うお、強いな咲!」
怜「せやろ、チートすぎやよな」
竜華「この”大魔王”ってゲーム面白いなあ」
怜「”アコスソフト”では割と有名な地域制圧型シミュレーションゲームや」
怜「学校、長野と制圧して、全国の強豪と麻雀(物理)で戦っていくんや」
竜華「へー、こういうゲーム性のあるゲームも、ホンマにゲームって感じがして面白いで」
怜「竜華も”アコスソフト”の作品を沢山やったらええよー、絶対ハマるで!」
竜華「せやなー、怜がハマっとった”ヒサシリーズ”もめっちゃ気になるしなー!」
ハハハッ
今度おしまい。
支援ありがとうございました。
Entry ⇒ 2012.10.18 | Category ⇒ 咲-Saki-SS | Comments (1) | Trackbacks (0)
貴音「あなた様とらぁめん探訪」
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貴音「本日はこちらですか」
P 「あぁ、少し並ぶが、大丈夫か?」
貴音「30分程度なぞ、らぁめんの前には霞んでしまいます」
いささか不思議な雰囲気ですね」
P 「そうか?結構商店街に隣接している二十郎は多いんだがな」
貴音「面妖な・・・」
P 「はは、じゃあ次は赤羽の二十郎にでも行ってみるか?
あそこは商店街に隣接じゃあなく、商店街にあるからな」
貴音「なんと!
二十郎はそこまで進化していたのですね」
P 「そうだな・・・特に無いぞ
一般的な二十郎と一緒だ
そのかわり、味も特筆する程じゃあない」
貴音「美味ではない、ということでしょうか」
P 「いや、他の店と同じくらい上手いってことだ
二十郎であんまり美味しくないといったら、新宿ぐらいだからな」
貴音「それは期待が持てそうですね」
P 「なんやかんや話してるうちにもう順番か
貴音は大ダブルでいいか?」
貴音「もちろんです」
先に行ってるな」
貴音「はい、お気をつけて」
P 「・・・」
貴音「・・・」
店主「大豚ダブルの男性の方、トッピングは?」
P 「ヤサイマシ、アブラカラメ」
店主「ヤサイマシアブラカラメ!」ドンッ
P 「ありがとうございます」
店主「大豚ダブルの女性の方、トッピングは?」
貴音「ヤサイマシマシニンニクカラメ」
店主「ヤサイマシマシニンニクカラメ!」ドンッ
貴音「ひょいぱく ひょいぱく」
・・・・・・
貴音「真、美味でした」スタスタ
店主「ありがとうございましたー!」
P 「ずぞぞーっ、ぱくぱく・・・」
貴音「あなた様、先に出ております」
P 「わかった」
P 「いやー、待たせたな」
貴音「今度は2分程短縮して下さい」
P 「善処するよ」
貴音「冗談です
あなた様、黒烏龍茶をどうぞ」
P 「おう、ありがとな
いやー、二十郎を食べた後はやっぱり黒烏龍茶だな!」
貴音「そうですね、これほどまでに飲料が美味しいと感じるときはないでしょう」
P 「それにしても、今日の二十郎は神二十郎だった!
麺の硬さもスープの濃さも、最高だったよ!」
貴音「ふふ、それは宜しかったですね」
P 「貴音はどうだった?」
貴音「それはですね・・・」
? 「・・・まさか、765プロのヘボプロデューサーと
四条貴音がこんなところに居るとは・・・
くくく・・・あーっはっはっは!」
ガチャッ
P 「おはようございます」
ザワザワ・・・ガヤガヤ・・・
P 「ん?どうしたんだ?」
小鳥「プロデューサーさん!
どうしましょう・・・大変ですよ!」
P 「どうしたんです?音無さん
事情を教えて下さい」
小鳥「それが・・・これを見てもらえますか?」
P 「動画投稿サイトですか?
・・・うわっ!俺と貴音じゃないか!」
小鳥「どうやらプロデューサーさんと貴音ちゃんがデートしている所を
誰かに見られてたみたいですね・・・」
P 「参ったな・・・変な男とデートしてるという風にしか見られないじゃないか」
P 「えぇ・・・軽はずみな行動でこんな事になってしまうとは・・・」
小鳥「プロデューサーさんは悪くないですよ!」
ガチャッ
社長「いやーおはよう!今日もいい天気だね!
ん?二人ともどうしたんだい?」
小鳥「それが・・・これこれしかじかの」
社長「かくかくうまうまと言うわけか」
P 「社長・・・どうしましょう」
社長「・・・ピンと来た!」
P 「本当ですか?!」
社長「キミ!四条くんとキミのラーメン食べ歩きを放映しよう!」
P 「・・・はいぃ?!」
さらに、四条くんがラーメンを食べることで宣伝をする!
いいこと尽くめじゃないか!」
小鳥「また始まった・・・」
P 「良くないですよ!
俺、テレビとか出たことないんですよ?!」
社長「それに、だ
この動画の、キミがご飯を食べている所だが実に快い!
見ているこちらが幸せになるようだ!」
P 「は、はぁ・・・」
社長「と、言うわけでだ
私は今から知り合いに連絡して、手はずを整えるから
キミも四条くんに伝えておきたまえ」
P 「そ、そんな!社長ー!!!」
貴音「それは夢のような企画でございます!」
P 「あぁ、夢であって欲しいよ・・・
そういうわけで、これからはあまりオフで外食は行けないな」
貴音「なんと!私は一向に構いません!」
P 「また貴音のファンに動画でもとられたら大変だろう?
俺も苦しいんだ、我慢してくれ」
貴音「いけずです・・・」
真美「兄ちゃーん!お腹空いたよー!」
亜美「もうペコペコだよー!」
貴音「貴音と」
P 「プロデューサーの」
皆 「らぁめん探訪ー!」ワァー!!!
貴音「皆様、ごきげんよう
四条貴音でございます」
P 「貴音のプロデューサーです」
貴音「本日は都内某所の幸薬苑を貸しきって収録しております」
P 「新番組の番宣ってやつだな」
春香「プロデューサーさん!ラーメンはまだですかー?」
P 「もう!挨拶ぐらいさせろ!」
果たしてどのような番組になるのでしょうか」
P 「かいつまんで説明すると
俺と貴音が適当にラーメン屋を巡るっていう内容だな」
千早「プロデューサー・・・?
それは分かったんですが、なぜ私達が幸薬苑に集まったんですか?」
P 「それはだな、俺と貴音だけじゃ間が持たないんで、
毎回一人ゲストとして呼ぼうと思ってな
ぶっちゃけ言うと、今回の収録でピンと来たやつが選ばれるぞ」
小鳥「えっ?!本当ですか?!」
P 「誰だ事務員呼んだの!」
大方、あんたの財布が寒いからだとは思うけどね にひひっ」
貴音「無論、金銭の事情というのもございます
ですが、それとはまた別の理由もあるのですよ」
P 「金銭の事情は無いよ・・・
今回企画を決めるにあたって、俺と貴音で行きたい所を選んだんだがな
なんと、ほぼ二十郎だった」
千早「当然なんじゃないでしょうか・・・」
P 「そこでだ
まず二十郎を食べる前に、らぁめんとはなんぞや、というのを
皆と共有したいと思ってだな」
伊織「だからなんで幸薬苑なのよ」
P 「それに答える前に、まずは注文だ!」
亜美「亜美はもちろん、こってりとんこつらーめんっしょ!」
伊織「スーパーアイドル伊織ちゃんは、この濃厚魚介つけめんを頼むわ」
響 「自分は完璧だから、ねぎらーめんを食べるぞ!」
美希「あふぅ・・・ミキはマンゴープリンがいいな」
やよい「中華そばが一番安いから、これがいいかなーって」
律子「では、私は味噌野菜らーめんを頂きますね」
真 「ボクは坦々つけめんがいいかな」
雪歩「私も、真ちゃんと一緒ので・・・」
あずさ「塩ねぎらーめんと、ぎょうざ、あと日本酒を頂けるかしらー?」
春香「えーっと、私は・・・うーん・・・」
P 「春香、受けを狙わなくていいんだぞ」
春香「狙ってません!」
春香「・・・私、なんでチャーハンなんて選んだのかな」
P 「結構皆バラけたな」
貴音「プロデューサー、私もらぁめんが食べとうございます」
P 「来週からたくさん食べられるんだから、我慢しろ」
貴音「面妖な・・・」
P 「ところで・・・千早は注文しないのか?」
千早「私はそれほどらぁめんが好きではありませんので・・・」
P 「そうか・・・じゃあ杏仁豆腐でも食べておけ、な?」
千早「はい、プロデューサーがそう言うなら・・・」
真美「兄ちゃーん!食べていいー?」
P 「あぁ、いいぞ
食べながらでいいから話を聞いてくれ」
亜美「わぁーい!」
貴音「それでは本題に入りたいと思います
伊織、らぁめんとは、何が入っていればらぁめんと言えるのでしょうか」
伊織「そうね・・・
最低でも、麺とスープがあればらぁめんなんじゃない?」
P 「じゃあ、蕎麦やうどんなんかもらぁめんに入るのか?」
伊織「入るわけないじゃない!あんたバカじゃないの?」
貴音「確かに、麺とスープがあるだけではらぁめんとは言えません」
真 「うーん・・・そんなの考えた事無かったなぁ
鶏がらや豚骨からスープが作られてて、麺が入ってて・・・
後は、上にトッピングがあればラーメンになるんじゃない?」
響 「胡椒とかもあると、らぁめん!って感じがするぞ!」
律子「めんまとか、なるとがあると、らぁめんって雰囲気は出るわね」
亜美「良くわかんないけど、おいしければらぁめんでいいんじゃない?」
真美「真美もそう思うよ!」
P 「確かに、おいしいのはまず第一条件だな」
小鳥「私は、自分の分のらぁめんも注文できたらいいと思いますよ」
雪歩「あのぅ・・・私の分、食べますか?」
小鳥「あら、ありがとう」
そしておいしい、というのが世間一般でのらぁめんなのですね」
P 「そのようだな
となると、やよいが食べてる”中華そば”が一番普通に近いと言えるだろう」
やよい「ふぇっ?!私ですかっ?!」
真美「じゃあ真美の担々麺はらぁめんじゃないのー?」
真 「ボクの坦々つけ麺も定義から離れてる気がする」
美希「ミキのは、おいしいかららぁめんだと思うな」
律子「それはマンゴープリンです!」
P 「春香、らぁめんは上手いか?」
春香「おいしいです」
なんといっても、個人の好みも価値観も千差万別だからな」
貴音「今回、私共が伺うらぁめん屋には、
およそらぁめんの定義からかけ離れたものが出るでしょう」
亜美「さそりが乗ってるとか?」
真美「手で食べるとか!」
P 「自分が行きたい、という意見として受け取っておくよ」
真美「ウソだよ兄ちゃんー!そんなの食べたいわけないじゃん!」
亜美「若気の怒りってやつだよ!」
P 「そんなわけで、だ
It's a らぁめん!というものが置いてある幸薬苑さんにお邪魔したわけだな」
別に悪口を言うわけじゃないんだけど・・・
わざわざ幸薬苑じゃなくても良かったんじゃない?」
P 「どういうことだ?」
伊織「ここよりも手の込んだらぁめんが出るお店なんていくらでもあるし
ぶっちゃけ安いだけの店じゃない」
P 「そうだな・・・伊織の言う通り、味だけじゃ他の店に数段劣るだろう」
律子「ちょっとプロデューサー殿?!
公共の電波に乗るんですよ?!」
P 「だが、ここはチェーン店だ
他の店には無い、利点というものがある」
貴音「らぁめんが食べたい、と思った時に食べられるのは真、素敵ですね」
P 「第二に、味のブレが少ない」
貴音「ちぇえん店であるがゆえに、規則がしっかりとしており
調味料の量から何から何まで安定した味を供給出来るのですね」
P 「第三に、全国、とはいかないがいろんな地域で食べられる
北海道及び四国より西では店舗は無いが、
そこ以外の地域ならば幸薬苑はあるからな」
貴音「もし幸薬苑の味が好みならば、
好きな時に、好きな場所で、安定した味を楽しめる」
P 「更に安いと来たもんだ、さすが幸薬苑さんだー!」
春香「必死でカバーしようとしてるね・・・」
千早「見苦しいわ・・・」
P 「わかってくれるか」
貴音「プロデューサー、そろそろ時間です」
P 「もうそんな時間か・・・
というわけで、だ
来週の本放送からは、二十郎を中心にらぁめんを食べ歩こうと思う」
貴音「らぁめんとは一体なにか
二十郎とは何かを視聴者の皆様にお伝えすべく、
全霊を賭して戦って参りたいと思います」
春香「来週月曜日、19:00からご覧のチャンネルで放映しまっす!」
P 「それでは、貴音とプロデューサーのらぁめん探訪・・・」
皆 「「「「「「皆さん見て下さいねー!」」」」」」
監督「はい、かぁーっと!」
途中から素になってしまった・・・」
監督「オレっちは中々いいと思ったぞ
まったくの勘だが、受ける!多分おそらくメイビー、受ける!」
P 「はぁ・・・監督がそういうなら、良いのでしょうか」
響 「そうだぞ!プロデューサーはきっとテレビ映えするぞ!」
貴音「さすが響、見る目がありますね」
響 「えへへ、褒められると照れるぞー!」
あずさ「プロデューサーさーん!お酒おかわりよろしいでしょうかー」
小鳥「おかわりもってこーい!」
P 「事務所に帰るか!撤収!」
あずさ「あぁんいけずー!」
P 「あぁ、前職の時の趣味がらぁめん食べ歩きだったからな
貴音と食べ歩くようになったのはここ最近だが」
美希「そういえば、ハニー最近太った?」
P 「ぎくっ・・・!」
美希「だよねー
ベルトの穴が一つ増えてるもん」
P 「良く見てるな・・・
確かにこれは運動しないとやばいかもしれん」
真 「プロデューサー!運動ならボクにお任せですよ!」
P 「真・・・助けてくれ、これじゃあ俺、ブタ太になっちまう・・・」
真 「もちろんですよ!じゃあまずはマラソンからですね!」
P 「あんまりきつくないのを頼む」
真 「イヤですっ!」
? 「なんだこれは・・・!!
四条貴音のスキャンダル記事を握ったと思ったら
高木のやつ、逆手に取りおって・・・!
このままでは終わらんぞ・・・
おい!羅刹!」
冬馬「おいおっさん、そろそろその名前で呼ぶのやめてくれよ」
? 「セレブな私は旅行に行ってくる
それまでジュピターは何をすれば良いのか
ラーメンを食べて、考えておくんだな!」
冬馬「ラーメン?おい、意味がわかんねぇよ
待てって、おっさん!
おーい!!」
真 「おはようございます!!!」
P 「あぁ、おはよう・・・」
真 「プロデューサー!声が小さいですよ!
おはようございます!!!」
P 「おはようございますっ!」
真 「良い返事ですね!
じゃあ準備運動も終わったことだし、走り込み行きますよ!」
P 「待て、さっき5km走ったのは準備運動だったのか?!」
真 「今回は20kmです!さぁ立って!
765プローふぁいおっふぁいおっ!」
P 「まじかよ・・・ふぁいおっ」
貴音「貴音と」
P 「プロデューサーの」
春香 「らぁめん探訪ー!」
貴音「皆様、ごきげんよう
四条貴音でございます」
P 「貴音のプロデューサーです」
春香「ゲストの天海春香です!」
貴音「本日は東京の北、埼玉県は大宮で収録しております」
春香「プロデューサーさん!トップバッターですよ!トップバッター!」
P 「あぁ、トップバッターだな」
貴音「春香、なぜ春香が最初に選ばれたかというと」
春香「うん」
貴音「最初に伺うお店は二十郎だからです」
春香「えーっ?!二十郎?!
私行ったことないよ?!」
P 「なんで行ったことないんだ?」
春香「だって・・・怖いじゃないですか!
ロットバトルとか出来ないですよ!」
貴音「なるほど、これは適任ですね」
P 「だろう?」
ラーメン二十郎の大宮店に伺っております」
貴音「本日はよろしくお願い致します」
城島「よろしく」
ヒゲ「よろしくな」
春香「うわぁ、二十郎に初めて入っちゃった」
貴音「真、二十郎でございますね」
P 「あぁ、二十郎だな」
春香「黄色い看板に赤い机、あとロットバトル・・・」
P 「それだそれ、前半は大体合ってるが、ロットバトルなんて無いぞ?」
春香「えー」
春香「そうですねぇ
一番大きいラーメンを頼んだ人が二人以上いると、バトルが始まったり
20分以内に食べきれなかったらギルティ!って追い出されたり
もやしがこれ以上ないくらい載せられてたり
トッピングに特殊な呪文を唱えないといけなかったり・・・」
貴音「春香、一体どこからそのような知識を得たのですか」
春香「えっと・・・インターネットから、かな」
P 「残念だが、春香が言ったのは大半が誇張してある
二十郎はそんな怖い店じゃあないんだよ!!!!」バンッ!
P 「そうだな、それがいい」
春香「二十郎って食券だったんですね」
貴音「さらに、通常時は行列に並ぶ必要がありますが
大体30分も並んでいれば店内に入れるでしょう」
P 「ちなみに、二十郎大宮店では
食券を買ってから行列に並ぶローカルルールがある
他の店では店内に入った時点で買うからな」
春香「それですよそれ!
なんでそれを明示してないんですか?」
P 「なんでだろうな」
春香「なんでだろうなって・・・」
春香「大豚ダブルってなんですか?」
貴音「らぁめんの大きさが大、豚がたくさんという意味です」
P 「らぁめんは大きさが小か大が選べる
ただ小といっても通常のらぁめんより大分多いがな
その点大宮店は、小より下のミニがある」
春香「じゃあ私そのミニで!
豚っていうのはなんですか?」
P 「豚というのは、いわゆるチャーシューの事だ
チャーシューには似ても似つかないが
通常では2枚、豚では5枚、豚ダブルでは8枚入っている」
春香「うーん、2枚でいいかなぁ」
P 「春香はミニラーメンだな
俺は折角だから大豚ダブルを頂こう」
この食券だが、買ったら上に置く」
春香「それもローカルルールですか?」
P 「二郎のデファクトスタンダードだ
明示されていないが、どの店舗でも上に置く必要があるな」
春香「あ!私、ヤサイニンニクでお願いします!」
城島「出来上がったらもう一度聞きますので、
その時仰って下さい」
春香「うぅ・・・」
貴音「春香、こぉるは聞かれた際に答えれば良いのです」
春香「初心者には厳しいですよ・・・」
P 「ちなみに、油少なめと麺固めを注文する場合は今のタイミングでいいぞ
出来上がってからじゃ逆に遅いからな」
ニンニクとかカラメとか」
P 「確かに呪文みたいだよな」
貴音「真、二十郎が恋しくなる呪文でございます」
P 「コールの内容は
ニンニクはニンニクを入れるかどうか
通常はニンニクがゼロだ
ヤサイが野菜を増すかどうか
アブラがアブラを増すかどうか
カラメが醤油を足すかどうかだ」
春香「マシっていうのはなんなんですか?」
貴音「通常よりも多く、という意味です
ヤサイマシマシと言うと、大量の野菜が提供されるのです」
春香「じゃあ、ヤサイマシニンニクカラメ、って感じでいいんですか?」
P 「おお、上出来だな」
貴音「春香、そろそろですよ」
春香「うん・・・!」
P 「緊張することないぞ、肩の力を抜こうな」
城島「ミニラーメンの方、ニンニクいれますか?」
春香「えっ・・・あ、はい・・・え?」
城島「どうぞ」ドンッ
城島「大豚ダブルの男性の方、ニンニク入れますか?」
P 「ヤサイマシマシニンニクアブラカラメ」
春香「えっ?」
城島「どうぞ」ドンッ
城島「大豚ダブルの女性の方、ニンニク入れますか?」
貴音「ヤサイマシマシニンニクマシカラメ」
城島「どうぞ」ドンッ
P 「あぁ、悪い 言ってなかったな
コールの時は、”ニンニク入れますか”と聞かれるんだ」
春香「知らないですよそんなの!」
P 「ただ、さっきみたいに”はい”と答えてもいい
呪文を言わなくてすむから、初心者には安心だな」
春香「安心じゃないですよ・・・」
貴音「さて、春香・・・二十郎のらぁめんを見て、何か思うところはありますか?」
春香「えーとですね、やっぱりこれらぁめんじゃないです!」
P 「春香の言う通り、普通のらぁめんとはかけ離れてるな」
春香「野菜、って言ってももやしとキャベツが大量にあるだけだし、
麺もらぁめんの麺というよりうどんですよ!」
貴音「春香、そろそろ麺が伸びてしまいます
後は食べ終わってからで良いのではないでしょうか」
春香「そ、そうだね貴音さん」
P 「今日はいつにもまして美味しそうだな」
貴音「えぇ、真・・・」
春香「これからバトルが始まるんですね!?」
P 「だから始まらないって!
そもそも貴音のスピードに追いつけるわけがないだろう」
貴音「ひょいぱく ひょいぱく」
春香「うわぁ・・・」
P 「ずぞぞっ、むしゃむしゃ」
春香「はむっ」
貴音「プロデューサー、豚を一枚頂いてもよろしいでしょうか」
P 「ダメだ」
貴音「いけずです・・・
春香、豚を一枚頂いてもよろしいでしょうか」
春香「うん、いいよ」
貴音「春香は将来大物になりますよ
ひょいぱく」
春香、どうだった?」
春香「うぅ、口の中がしょっぱいです・・・」
P 「美味しかったか?」
春香「最初の一口は美味しかったですけど
それ以降はわからないかな・・・」
貴音「正に王道の答え、といった所でしょうか」
P 「だな
基本的に、二十郎は好き嫌いが別れる食べ物だ
一週間後、また食べたくなるかどうかが分かれ道だと思っている」
春香「多分もう食べたいと思いませんよ・・・」
P 「ちなみに俺は、今回は普通だったな
豚がもっと柔らかければ神二十郎だった」
貴音「えぇ、私も同じ意見です
麺の湯で加減は最高でした」
あれ、チャーシューじゃないですよね?」
P 「そうだな
だから”豚”と呼ばれているんだ」
春香「なんていうか・・・やっぱり二十郎はらぁめんじゃないです!」
貴音「やはり、春香もそう思いますか!」
P 「らぁめん二十郎はらぁめんではない、という言葉もあるぐらいだからな
だが、俺は立派ならぁめんだと思うぞ」
貴音「ちなみに大宮店は、私のほぉむでもあります」
P 「貴音のお勧めってことだな」
春香「うーん、ネットで噂を見てただけだから、
二十郎って怖い所だなーって思ってましたけど
それほど怖い所じゃありませんでした!
自分一人で並ぶとしたら勇気がいりますけど
また貴音さんと来るんだったら怖くないかもですね!」
貴音「春香さえ宜しければ、是非ご一緒致しましょう」
P 「うむ、その時は俺もついていくからな」
貴音「さて、では次の店に参りましょう
店長様、副店長様、本日はありがとうございました」
城島「ありがとう」
ヒゲ「次のご来店お待ちしております」
春香「じゃあ私はここまでですね」
P 「待て!春香!机を拭くんだ!」
春香「え?またローカルルールですか?」
P 「二十郎では、食べ終わった後は机を拭くのがマナーだ」
春香「やっぱり二十郎は怖いなぁ・・・」
P 「いや、最後にだな」
貴音「プロデューサー、春香、これを」
春香「なんですかこれ」
P 「トリイサンの黒烏龍茶だ
脂肪の吸収を抑える効果がある」
貴音「トリイサンは今回の放送のすぽんさぁとなっております
ふふ、これを飲んで、一区切りと言うわけです」
春香「へー・・・ごくごく・・・
えっ?!なにこれ、おいしい!」
P 「だろう?」
貴音「二十郎を食べ終わった後の黒烏龍茶は格別です」
春香「ちょっと癖になりそうかも・・・」
P 「ということで、最初のゲストは春香でした!」
春香「ありがとうございました!」
貴音「気をつけて帰るのですよ」
営業時間 11:00~14:00 17:00~22:00
定休日 無し
臨時休業の場合はメールマガジンで連絡アリ
メニュー ラーメン:650円
ミニラーメン:600円
大盛り:750円
豚増し:+100円
豚W:+200円
味付きうずら:100円
刻みタマネギ:100円
期間限定でつけ麺を提供
特殊ルール:行列に並ぶ前に店内入り口左の食券を買う
P 「その前に、次のゲストを呼んでおこうか
あずささーん!」
あずさ「はぁ~い
只今ご紹介に預かりました、三浦あずさと申します~」
貴音「あずさはらぁめんは良くお召になるのでしょうか」
あずさ「ん~、それほどじゃあないけれど、
普通の人ぐらいには食べるわよ~
ところで、私はどのお店に行くのかしら?」
P 「次のお店は・・・着くまで秘密です」
あずさ「あらあら♪」
P 「そう、こってりといえばここ、天上一品!」
あずさ「あらあら、天一ね~
お酒を飲んだ後はすごいおいしいのよね
プロデューサーさんも良く行くんですか?」
P 「いや、俺は時々しか行かないですが・・・
ただ、時々天一のこってりが無性に食べたくなる時があるんですよ」
貴音「プロデューサー、その気持ち良く存じております
一ヶ月も天上一品から離れると、生きた心地が致しませんから」
あずさ「あら?そこまでのものだったかしら?」
こってりについて説明は不要でしょうか」
あずさ「ダメよ、貴音ちゃん
視聴者の方は天上一品か何かわからない人もいるんだから」
P 「確かにそうだな
貴音、こってりについて説明してくれ」
貴音「そうですね
こってりは、あっさりに比べてこってりしており」
P 「その説明じゃわからないぞ」
あずさ「こってりがあっさりよりこってりで、
こっさりがあってりで・・・あら?」
P 「正直俺も口で説明する自信が無いから、
注文しちゃおうか」
P 「あぁ、こってりだな」
あずさ「お酒が欲しくなりますね~」
P 「ダメです!まだ日が明るいんですからね!」
貴音「こってりとは・・・そう、普通のらぁめんではありえないほど
麺にすぅぷが絡みます」
P 「そうだな・・・
天上一品のスープは濁っているから、
視覚的にも麺に絡んでるように見える」
貴音「すぅぷはどろっとしていて・・・
ここまでどろっとしている豚骨は天上一品以外には中々ありません」
あずさ「あらあら、二人ともらぁめんの話になると目の色が変わるんですね~」
俺は食べたことがないんだが、一部店舗には
こっさりと言うものが存在するらしい」
あずさ「こってりと、あっさりの中間って事かしら~?」
P 「どうもそのようで、”こっさり”もしくは”二号”と注文すると
出てくるみたいです」
あずさ「あらあら、じゃあ次はそのこっさりを頼んでみようかしら」
貴音「いわゆる裏めにゅぅという物ですね」
P 「なんか通ぶってるように見えるよな」
貴音「二十郎の呪文も同じようなものです」
貴音「ひょいぱく ひょいぱく」
あずさ「しゃっきりぽん」
P 「毎回思うが、貴音は良くそんな風に食えるな」
貴音「私とてアイドル、無様な姿は見せられません」
P 「らぁめんを食べてる様子がさまになってるのが、
アイドルの辛い所だよな」
貴音「いけずです・・・」
あずさ「本当美味しかったわ~」
P 「もう一杯食べたいな」
貴音「今回の天下一品も、通常のらぁめんとは
大幅にずれていますね」
P 「そうだな
まずスープがスープじゃない
らぁめんとは別の進化系だ」
あずさ「あら~、天一の器って、底に何か書いてあるのね~
普段はスープを全部飲まないから、気づかなかったわ~」
貴音「”明日もお待ちしてます”と書いてあります」
P 「小さな気配りだよな
俺はこれがあるから、毎回スープは飲み干してる」
あずさ「確か、天一ってチェーン店よね?
こんな癖が強い物が全国にあるなんて、全国的に人気ってことかしら
美味しいものがどこでも食べられるなんて、幸せな時代に生まれたものね
それにしてもお酒遅いわねぇ」
P 「お酒は頼んでませんよ」
貴音「代わりに黒烏龍茶をお飲み下さい」
あずさ「うふふ、貴音ちゃんありがとう」
P 「ということで、ゲストの三浦あずささんでした!」
あずさ「天上一品で私と握手~♪」
P 「そんな企画ありません!」
貴音「二十郎で私と握手・・・」
営業時間 店によってまちまち
定休日 上に同じ
メニュー:らぁめんには”こってり”と”あっさり”があり、
同じ値段で選択出来る
なお、中間の”こっさり”もある模様
また、セットメニューも充実しており、1,000円もあれば十分豪遊可能
個人的にお勧めは、チャーハン+こってりスープのラーメンチャーハン
P 「今日はあと2件回る予定回る予定だ」
貴音「ふむ、そろそろ満腹の頃だと思われますが、如何でしょう」
P 「そんなことないぞ、なんてったって・・・」
真 「25km走って、お腹ペコペコですもんね!」
P 「あぁ、正直立ってるのもやっとだがな」
貴音「というわけで、今回のゲストは真です」
真 「まっこまっこりーん!シャンシャンプリプリ 真ちゃんなりよー♪」
P 「カメラ止めて!放送事故!」
真 「事故じゃありませんっ!」
P 「そうだな
今回は、東京都赤羽駅降りてすぐの商店街で収録しています」
真 「商店街ってことは、なんかおしゃれならぁめん屋なんですか?」
P 「ふふ、それはとっぷしぃくれっとです」
貴音「プロデューサー!それは私のセリフですよ!」
P 「これ、叩くな貴音
お、そろそろ見えてきたぞ」
真 「えーっと、あれって・・・」
P 「赤羽店だ」
真 「うわー、初めてみた!
商店街の中にもあるんですね!」
P 「ここは比較的最近できた二郎でな、
商店街の中でも営業出来るっていうことは
世間的にも認められた、と見てもいいだろう」
貴音「プロデューサー、机が!
机が赤くありません!」
P 「確かに珍しいな」
貴音「真は二十郎初めてと言っていましたね」
真 「そうだね
だけど大丈夫!
さっき春香のVTR見て、勉強したよ!」
P 「そうか、それは頼もしい
じゃあ早速入ってみるか」
真 「はい!」
店員「いらっしゃいませー」
P 「貴音はいつもどおり大豚Wでいいか?
貴音「はい、それでお願いします」
真 「ボクはミニラーメンでお願いします!」
P 「残念だが、赤羽はミニラーメンは無いんだ」
真 「えっ?!
どうしよう、食べきれるかな・・・」
P 「安心しろ、ここの麺の量は基本的に少ない
小でも普通のらぁめん程度しか無いぞ」
真 「そうなんですか
二十郎は、店によってまちまちなんですね」
貴音「店による差と、時期による差、それが非常に多いのが二十郎」
P 「いつでも美味しい二十郎は、二十郎じゃない!」
P 「チェーン店ではないな
いわゆる暖簾分けってやつだ」
貴音「二十郎で下働きとして働き、一人前と認められた者は
そのものの希望により店主となる」
P 「そうして幾つもの二十郎ができてるんだ」
真 「へー じゃあ二十郎は、きちっとしたマニュアルは無いんですね」
P 「無いが・・・あまり二十郎から離れていると、二十郎の暖簾を外されるんだ」
貴音「二十郎評価委員会によって、二十郎が二十郎であるかの調査を受けるのです」
P 「あぁ、昔、武蔵小杉に二十郎があったんだ」
貴音「ですが、時が経つにつれ二十郎とは別の進化をしていった
味は確かに美味しいのですが、もはや二十郎とはいえなくなりました」
P 「麺も細いしな」
貴音「本店の再三の警告を無視し続けた結果・・・
本店の店長から破門され、店名も”らーめん546(こじろう)”に改名したのです」
P 「そこから、二十郎委員会が発足した、と俺は踏んでいる
それまではそんなの見たことも聞いたことも無かったからな」
真 「委員会・・・このステッカーですね」
真 「確か食券を上に置くんですよね」
P 「お、さすが勉強してるな」
真 「えっへへー」
店員「ニンニクいれますか?」
貴音「ヤサイマシマシニンニクアブラマシカラメ」
真 「えっ?」
店員「次の方、ニンニク入れますか?」
真 「えっ、あ、はい」
店員「次の方、ニンニク入れますか?」
P 「ヤサイマシマシアブラカラメ」
P 「悪いな、言うのを忘れていた」
貴音「赤羽店では、席に座って真っ先にこぉるを聞かれるのです」
真 「ローカルルールですか?」
P 「そうだな・・・俺も最初きた時はびっくりしたよ」
貴音「先に聞かれるのは、少数派ですね」
真 「むぅ、ボクも呪文唱えたかったなぁ」
貴音「言われてみればそうですね」
P 「ラジオの類が一切ないからな
他のお客さんが食べている音や、らぁめんを作っている音が
他店よりもよぉく聞こえる」
真 「今はボク達しか居ないから大丈夫ですけど
他のお客さんが居た場合は
あまりに静かすぎてすごい喋りづらいですね」
P 「静かだから、というよりは
二十郎では歓談はあまり推奨されないな」
真 「えっ、そうなんですか?!」
貴音「もちろん、多少話すぐらいは問題ありませんが、
らぁめんを食べ終わった後も席に座ったまま話をしていると
ろっとなるものが乱れてお店に迷惑をかけてしまいます」
P 「だから、複数人で食べに行った時でも
食べ終わったらすぐに店を出るのが礼儀なんだ」
P 「うむ、二十郎だな」
真 「うわぁ、プロデューサーと貴音のはもやしがすごいね」
貴音「このもやしを食べないと、二十郎にきたという心持ちがしません」
真 「なるほど・・・ぱくっ・・・」
P 「どうだ?真」
真 「うーん、思ったより麺が柔らかいです」
P 「だろう
先ほど行った大宮店は麺が固めだが、
赤羽店は逆にやわらない
ちなみに麺固めで注文すると、麺がぽきぽきいう食感になるぞ」
貴音「プロデューサー、麺が伸びてしまいます」
P 「おう、すまんすまん」
P 「おぉ、今度は擬音すらなくなったな」
貴音「プロデューサー、まだ豚が3キレも残っていますよ
お手伝い致しましょう」
P 「ダメだ」
貴音「いけずです・・・」
真 「ずずず・・・」
P 「真、スープは飲まなくていいんだぞ」
真 「ちょうどいい感じでしたね
しょっぱすぎず、薄すぎずって感じです」
P 「なるほど、神二十郎だったってわけだ」
貴音「私は、豚が非常に美味しく頂けました
麺がもう少し固ければ神二十郎となっていたやもしれません」
P 「確かにここの豚は美味しいな」
真 「確かに美味しいし、ボリュームもたっぷりで
プロデューサーや貴音が夢中になるのもわかる気はする
けど、絶対カロリーがどうかな?
体を頻繁に動かす学生が食べるならまだしも、
アイドルやプロデューサーが頻繁に食べるのは危険だと思うよ」
P 「う・・・確かに」
貴音「二十郎にかぎらず、らぁめんを食べたら一定の運動が必要なのですね」
P 「貴音は、らぁめんを食べたエネルギーはどこへ行ってるんだよ」
貴音「とっぷしぃくれっとです」
真 「やーりぃ!黒烏龍茶だね!」
P 「ありがとう、貴音」
真 「ごくっ、ごくっ・・・
うわ!美味しい!
もしかしたら、二十郎より美味しいかも?!」
P 「そう思うよな?
多分二十郎より美味しいぞ」
貴音「この時程、黒烏龍茶が真価を発揮することはありません」
P 「トリイサンがスポンサーじゃなくても、きっと黒烏龍茶飲んでたろうな」
貴音「こればっかりは譲れません」
P 「ということで、ゲストの菊地真でした!」
真 「きゃっぴぴーん!」
貴音「面妖な・・・」
プロデューサー、次のらぁめん屋はどちらでしょうか」
P 「いわゆる二十郎系だな
いや、二十郎系とはまた新たな進化先と行ったところか」
貴音「ふむ・・・」
P 「そして今回のゲストは、この人だ」
小鳥「皆さんこんにちは!
765プロの小さなオアシス、音無小鳥です!」
貴音「小鳥嬢ですか」
P 「なんか監督が気に入っちゃったらしくてな
アイドルじゃないがしょうがなくキャスティングしたよ」
小鳥「ちょっとそこ!聞こえてますよ!」
小鳥「なんか私の評価おかしくないですか?」
P 「音無さんはそういうの見慣れてるでしょう?」
小鳥「もう!見慣れてませんよ!失礼ですね!」
P 「痛い痛い!落ち着いて!」
小鳥「で、なんですか?
しもつかれでも食べに行くんですか?」
P 「さすがにそこまでは行かないかな・・・」
貴音「やはり、今回も現地に行くまで」
貴音・P「とっぷしぃくれっとです」
貴音「黄色い看板に”にんにく入れましょう”の文字・・・
二十郎に酷似しています」
P 「もしかして、貴音は初めてか?」
貴音「はい、このようなおどろおどろしい豚の文様、初めて拝見致しました」
小鳥「あーん、確かラーメン博物館で見た気がするー」
P 「音無さんって、意外と遊び人なんですね」
小鳥「プロデューサーさんこそ、貴音ちゃんとらぁめん食べてほっつき歩いて!
デートしすぎですよ!」
P 「カメラさん、編集でカットして下さい」
P 「あぁ、ジャンクガレージは二十郎系インスパイアとして
一部で熱狂的な支持がある
そして、一部では二十郎を超えたとまで言われているそうだ」
小鳥「ここではギルティとかあるんですか?」
P 「二十郎に比べて、比較的緩いから
こうしなきゃいけない、なんてのは無いな」
貴音「ふむ、二十郎系のインスパイアがどのようなものか
実際に食してみましょう」
二種類があるようですが」
P 「今回はまぜそばを頂こう」
小鳥「まぜそば?お蕎麦ですか?」
P 「いや、まぜそばは まぜそばだ
見ればわかる」
貴音「普通のらぁめんは頼まないのですか」
P 「今回は頼まなくていいだろう
いいか、ジャンクガレージにきたら、必ず最初はまぜそばを食べてほしい!
それぐらい、まぜそばはインパクトがでかいんだ」
小鳥「特製まぜそばってなんでしょう」
P 「お、ちょうどいいです、小鳥さんは特製まぜそばを頼んで下さい」
P 「ラーメン大や、富士丸なんかだな
それ以外にもゴリメンとか小さいお店でも増えてきている」
貴音「二十郎が世間に受け入れられている証拠でしょう」
P 「二十郎は見た目は簡単だからな
麺は太い小麦粉、スープは豚骨にカネシ醤油、
豚はスープを作った時に出来る物で、野菜はもやしとキャベツ」
貴音「後はにんにくと油を入れれば二十郎、ですか」
P 「実際、にんにくを大量に入れればそれだけで二十郎に近くなるからな」
貴音「油とうま味調味料を入れれば、それだけで味は確保できます」
P 「今後二十郎系インスパイアが増えるのは構わないが、
ただ真似しただけではなく、何か一アイディア欲しいところだな」
貴音「最初は真似だけでも良いのです
真似ることが完璧にできたのならば、次は工夫を加えてみる
その積み重ねでらぁめんは進化していくのだと、私は信じています」
P 「そうだな、ジャンクガレージでは
野菜、ニンニク、アブラ、チーズ、課長の中から選べる
ただし、野菜はらぁめんのみ、
チーズはまぜそばのみトッピング可能だ」
小鳥「あのー、課長ってなんですか?」
P 「化学調味料だな」
小鳥「化学調味料?!
それって大丈夫ですか?なんか体に悪そうなイメージですけど」
P 「イメージだけです、大丈夫
昔は化学調味料は石油から作ってましたから
確かに体に悪かったですが・・・
今は別の方法で作られていて、体に問題は無い、とされています」
貴音「しかし、化学調味料の入れすぎも、味のバランスが崩れてしまいます」
P 「外食やコンビニ弁当なんかは、基本化学調味料が入ってると言って差し支えない
それぐらい、一般的な物なんだ」
店員「ニンニク入れましょう!」
小鳥「えっ、あ、はい」
店員「ニンニクだけでよろしいですか」
小鳥「えっと、じゃあチーズも入れて貰えますか」
店員「はい」
P 「初心者には聞き返してくれるのも、インスパイア系ならではだな」
貴音「ろっとの間が長い為出来る芸当でしょう」
小鳥「どんならぁめんなんで・・・しょう・・・」
貴音「なんと!」
P 「うむ」
貴音「あなた様!すぅぷが!ございません!」
小鳥「なんか見た目グロいですね・・・」
P 「それが、まぜそばだ」
小鳥「まさか、まぜそばだから、これを混ぜる・・・?」
P 「その通り」
小鳥「うぅ・・・なんか美的感覚が狂いそう」
P 「お世辞にも快い見た目という訳にはいかんな」
貴音「まさにじゃんく、と言えるでしょう」
混ぜる前:ttp://tabelog.com/saitama/A1101/A110103/11004783/dtlphotolst/P9755603/?ityp=1
混ぜた後:ttp://tabelog.com/saitama/A1101/A110103/11004783/dtlphotolst/P9755616/?ityp=1
P 「ちなみに、特製まぜそばは、普通のまぜそばにプラスして
ベビースターとエビマヨネーズがトッピングされている」
小鳥「まさかとは思いましたが、これベビースターだったんですか?!」
貴音「らぁめんにべびぃすたぁらぁめんを乗せるなど、奇天烈としか言い用がありません」
小鳥「うわぁ・・・見ようによっては、しもつかれよりも強烈ですよ・・・」
P 「味は保証します
騙されたっ!と思って食べてみて下さい」
小鳥「プロデューサーさんがそこまで言うなら、食べますけど・・・」
こんなちっさい皿でどうやって混ぜんだよ・・・うまそうだけど
上に乗ってる茶色っぽいドロッとした奴は何?
あ ぶ ら
サンクス
貴音「ひょいぱく ひょいぱく」
P 「・・・いかがですか」
小鳥「ん・・・思ったよりは悪くないですかね」
貴音「確かに、見た目に目をつぶりさえすれば、
味は中々のものです」
P 「そうだろう?
スープがなくてもちゃんとらぁめんらぁめんしてる
一体、らぁめんってなんだろうな」
貴音「これがらぁめんである、という主張であらば
首を傾げざるを得ません」
P 「実際、このまぜそばはらぁめんと似ても似つかない、異色だ
らぁめんではない、というのも理解できなくは無いな」
小鳥「水!プロデューサーさんお水下さい!」
P 「あぁ、はいはい」
貴音「私にもお願いします」
小鳥「貴音ちゃん、食べるの早いわよー」
P 「慣れて下さい」
貴音「確かに、味は良かったでしょう
ですが、日本では食事は目でも楽しむものと聞きます」
P 「食欲をそそるような見た目ではないな
実際、女性でまぜそばを食べる客はあまり見たことがない
女性で二十郎に行く客も居ないが」
小鳥「居たとしても、せいぜいカップルとかですよね」
貴音「そうです
私は好いておりますが、一般的な女性が二十郎の味を好むとは
到底思えません」
P 「二十郎系インスパイアは、女性客をどのようにして取り込むかが
勝利の鍵となりそうだな」
小鳥「今までらぁめんって言ったら、至って普通のらぁめんだったり
替え玉のある、とんこつらぁめんだったけれど
日本には私の知らないらぁめんが、まだまだあるのね
らぁめんとはかくあるべし、という固定概念について
よくわかったつもりよ」
P 「貴音も初めてだろう
どうだった?」
貴音「まだまぜそばを、らぁめんと認めるのは時間がかかるでしょう
ですが、味自体は非常に美味であり、
決して二十郎に引けを取らないと言えるでしょう」
P 「そっか、貴音も音無さんも、それぞれ思う所があったみたいで良かったよ!」
小鳥「後は見た目なんですが・・・
よく今回放映出来ましたね」
P 「本放映ではモザイクをかけます」
貴音「プロデューサー、逆に汚く見えると思われます」
小鳥「黒烏龍茶ね!」
P 「やっぱりこれがないと締まらないよな!」
貴音「一日に4本も黒烏龍茶を飲んだのは初めてです」
小鳥「貴音ちゃん、体調崩さないでね?」
貴音「問題ありません」
小鳥「すごいわね・・・
私なんか、まぜそば一杯だけでお腹ギュルギュルいってるのに」
P 「では、今回のゲストは音無小鳥さんでした!」
小鳥「ピヨー」
営業時間 11:30~15:00 18:00~25:00
定休日 基本無休
メニュー まぜそば:750円
大盛り:+100円
特盛り:+200円
らぁめん:720円
大盛り:+0円
特盛り:+80円
その他、激辛レッドやカレー等あり
チェーン店を相当数展開しているので、
東京付近の県であれば店舗が見つかるだろう
いかがでしたか?プロデューサー」
P 「予想外に時間がかかったな」
貴音「おそらく、味の感想等を仰ったほうがよろしいかと」
P 「そうだな、正直4店舗が全部こってり系、といっても差し支えないので
次回はあっさり系のらぁめんも視野に入れたい所だ
貴音はどうだ?」
貴音「あっさり系、それもよろしいですね
今回は新しい出逢いがございました
果たして、あれはらぁめんと言えるのか・・・
それを差し引いても、素晴らしい出逢いと言えるでしょう」
P 「あぁ、そうだな」
貴音「次回も、新しい出逢いがあると信じて、今週は一旦お別れです」
是非是非、以下の番号までご連絡下さい」
貴音「めぇる、お電話、お葉書でのご連絡等お待ちしております」
P 「次回は、来週の月曜日、19:00から、ご覧のチャンネルで放映予定です」
貴音「皆様、宜しければ来週もお付き合い下さいませ」
P 「それでは、貴音とプロデューサーのらぁめん探訪」
貴音「また来週、お会い致しましょう」
・・・
貴音「プロデューサー、今度はまぜそばではなく、らぁめんが食べとうございます」
P 「えっ?!まだ食べるのか?!」
監督「はい、かぁーっと!」
度胸があるっていうか、カメラ慣れしてるっていうか
とにかくお疲れさん!」
P 「ありがとうございます」
監督「普通の人だったら、カメラの前に立っただけで
呂律が回らなくなるからね
その点キミはすごいよ
貴音くんもそう思うだろ?」
貴音「はい、プロデューサーの会話力には、目を見張るものがあります
現アイドルである私でさえも、
油断をすると負けてしまうでしょう」
P 「いや、そんなことないって」
監督「とにかく、だ!
この調子で、来週も頼むよ!ガッハッハ!」
P 「善処します」
こんなにらぁめん食べて、胃もたれとかなったりしないの?
社長「いやー!素晴らしい!
キミが、プロデュースだけでなく俳優もやれるとは!」
小鳥「たまには社長の思いつきも役に立ちますね」
P 「いえ、俳優なんてとても無理ですよ!」
小鳥「またまた、そんなご謙遜しちゃってー」
ガチャッ
律子「プロデューサー殿ー?」
P 「なんだ、律子」
律子「プロデューサー殿宛のファンレターですよ」
P 「・・・は?」
社長「いや素晴らしい!
まさかこんな短期間でファンまで手に入れるとは!」
P 「いやいや待って下さい!
多分ただの全国のらぁめん好き同士ですよ!
ですから!決して、またピンと来ないでください!!」
真 「おはようございます!!!」
P 「おはようございます」
真 「ボク、プロデューサーがどれだけカロリーを摂取してるのか
甘く見積もってました!反省します!」
P 「いや、反省しなくていいよ」
真 「ということで、今週は走りこみを30kmに増やしますね!」
P 「増やさなくていいよ」
真 「これもプロデューサーの為なんです
今日も美味しいらぁめん食べたいですよね?
はい、じゃあ準備運動!5kmジョグですよ!」
貴音「貴音と」
P 「プロデューサーと」
亜美「亜美と!」
真美「真美の、らぁめん探訪!」
貴音「皆様、ごきげんよう
四条貴音でございます」
P 「貴音のプロデューサーです」
亜美「かわいい方の亜美でーす!」
真美「セクチーな方の真美でーす!」
貴音「本日は東京都、品川区で収録しております」
亜美「兄ちゃん!このメンツで収録すると、嫌な予感しかしないよ!」
真美「デ・ジャ・ヴュってやつだよ!」
P 「少しは我慢しなさい」
亜美「この前、お姫ちんと二十郎いったじゃん?」
真美「ヤサイというよりもやしタワーが出てきたじゃん?」
亜美「あんなのラーメンじゃないよ!」
真美「スペクトラルタワーだよ!」
P 「また訳の分からない例えを出して・・・
安心しろ、二十郎はヤサイマシと言わなければ
ありえない量にヤサイは出てこない」
真美「とかなんとか言っちゃってー
実はどっきりでした!って落ちでしょー?」
貴音「行ってみれば自ずと分かるでしょう
さぁ、プロデューサー
本日の戦地へ導くのです!」
二十郎 品川店です」
貴音「ついにやって参りました
二十郎、品川店!」
真美「嫌な予感しかしないね、亜美」
P 「まぁもしもがあっても、
一応今回は貸切だからな
時間はたっぷりあるぞ」
亜美「死亡フラグってやつかな、真美」
貴音「自分の食べられる量を把握し、
それ以上頼まなければ良いだけの話
自分の限界を理解するのです」
真美「限界を超えろ!」
貴音「はい、それでお願いします」
P 「お前らは・・・そうだな、二人で1杯食うか?」
亜美「ほんとー?!さっすが兄ちゃん!」
真美「真美達の事わかってるー!」
亜美「二人で1杯なら、大でも食べられるかな?」
真美「もちろん!当たり前だのクラッカーっしょ!」
貴音「二人とも、大丈夫でしょうか」
P 「大丈夫だろ、品川店は”麺の量”はそれほど多くない
スープも甘めだし、あいつらでも十分食えるよ」
貴音「では、大豚W3つ、ですね」
貴音「そうですね・・・
ヤサイマシマシニンニクアブラカラメ、と答えれば良いかと」
P 「それもいいんだがな、品川はヤサイの注文方法が少し違うんだ」
亜美「ってゆーと?ヤサイチョモランマ!とか?」
P 「近いな
品川はヤサイマシの上が”ダブル””トリプル”と続くんだ」
真美「その上はー?」
P 「”タワー”」
貴音「タワー・・・心が揺り動かされる響です」
真美「うわー、絶対そんなの食べられないよ!」
P 「そうだな、だからお前らは絶対にコールするなよ?
いいか?絶対だからな?
絶対”ヤサイタワー”と言っちゃあダメだからな?」
貴音「ヤサイタワーは禁忌の呪文です」
貴音「ヤサイタワーニンニクマシアブラカラメ」
真美「今アイコンタクトで会話してた!」
亜美「ツーカー?」
P 「いや、この店舗は視線を送ってコールを聞くことがあるんだ
もちろん、アイコンタクトを送って反応がなければ
直接聞くけどな」
店員「チラッ」
P 「ヤサイタワーニンニクカラメマシマシ」
店員「チラッ」
真美「ヤサイ」
亜美「タワー!」
真美「・・・亜美ー?」
P 「Oh・・・」
亜美「何あれ、タワーっていうよりエアーズロックだよー」
店員「残さないのであれば、もっとませますけどどうしますか」
貴音「お願いします」
店員「はい」
参考画像
真美「なにあれ」
亜美「わかんない」
P 「お、次は俺か」
店員「ましますか?」
P 「はい」
亜美「ねぇ、真美、これ亜美達だけまさなかったら
負けかな?」
真美「もう負けでいいと思うよ」
ヤサイタワーで、かつラーメン大を選んだ客にのみ
野菜の追加マシを持ちかけられることがある」
貴音「その時は、このように小皿で別に野菜が運ばれてくるのです」
真美「小皿?」
亜美「きっと小皿だよ、諦めよう」
貴音「さぁ、亜美、真美
今日はもやし祭りです
この幸福の一時、ともに楽しみましょう!
ひょいぱく」
P 「ぱくぱく」
亜美「うえーん!地獄だー!」
真美「うぅ、泣けるぅー」
真美「お姫ちん早っ?!
まだもやししか食べてないよー!」
P 「慣れろ」
亜美「うぅ、もやしが減らないよー」
P 「ちなみに、ヤサイ通常形態はこんな感じだな」
参考画像
真美「真美これがいいー」
貴音「自分で頼んだ分は、自分で処理するのです」
亜美「うぇー」
貴音「しかし、さすがにこれは酷と言うもの
豚が余っていれば頂きましょう」
調子にのった挙句のもやしは美味いか?」
真美「わかんない」
亜美「知らない」
真美「小麦粉か何かだ」
貴音「当然の報いですね」
P 「うむ
二十郎が有名になっていくにつれ、
高校生等も二十郎に増えていくことになった」
貴音「そして調子に乗った高校生が、
ラーメン大豚W、ヤサイマシマシを注文して」
P 「そして撃沈する」
貴音「二十郎では、まず自分の限界を理解するのが先決です」
P 「そろそろか、貴音、もやしを食べてあげなさい」
はじめに行く店舗ではラーメン小から食べるのが鉄則だな」
貴音「甘めにみて、ラーメン大のヤサイ普通でしょうか」
P 「店舗によって量はバラバラだし、味もバラバラだ
この放送を見て、二十郎に興味を持った人も、
残さない、残らない、退っ引きならないの
3つのNoを覚えて置いて欲しい」
真美「兄ちゃん!普通の麺は美味しいよ!」
亜美「すこーし伸びちったけど」
P 「用量、用法を守れば、これほど美味いらぁめんは無いからな」
貴音「ちなみに、一つのらぁめんを二人で食べる行為は
ぎるてぃとなります」
P 「ぎるてぃなんて実際無いが、あまり推奨されないって事だな」
真美「もやし」
亜美「やもし」
P 「確かにあのもやしの量は圧巻だよなぁ」
真美「野菜とか言っておきながら、もやししか無いんだもん!」
亜美「キャベツとか飾りですよ!兄ちゃんにはわからんのですよ!」
貴音「品川は微乳化したすぅぷと少ない麺の影響で
二十郎初心者にもお勧めしやすい店舗でしょう
しかし、初心者のうちはヤサイは増さないほうが良いかと」
P 「ヤサイの下は美味かったろ?」
亜美「うん、おいしかった!」
真美「新時代の幕開けを見た!」
P 「それは良かった」
亜美「お姫ちんありがと→」
真美「もうお姫ちんらびゅんだよ!」
P 「毎度悪いな」
亜美「ごくごく・・・
くはぁー!効きますなー!」
真美「まったく、極楽ですな!」
貴音「黒烏龍茶は摂取した脂肪の吸収を抑える効果があります
大量に摂取して疾患が治るものではありません」
P 「スポンサーのトリイサンから、黒烏龍茶でした」
亜美「それじゃあ亜美達はこれで!」
真美「ばいばーい!兄ちゃん!お姫ちん!」
貴音「ゲストの双海姉妹でした」
営業時間 平日 11:00~14:30 17:00~21:00
土曜 11:00~14:00 昼営業のみ
定休日 日曜・祝日
メニュー ラーメン小:700円
ラーメン大:800円
豚増し:+100円
豚W:+200円
煮玉子:100円
特記事項:品川店にはロットと呼べるロットが無く、
お客さんが入って来次第麺を茹でる
並ぶ時間は大体1時間程度
あっさり系のらぁめんを選択する、と仰ってましたね」
P 「おぉ、そうだ
次に行く所は、俺お勧めのあっさりらぁめんだ
疲れた体に染み渡るぞ」
貴音「ふむ、薬膳らぁめんでしょうか・・・」
P 「そして、今回のゲストは、この人だ」
千早「あの・・・こんにちは、如月千早です」
貴音「はて、千早ですか」
P 「どうかしたか?」
貴音「たしか千早は、あまりらぁめんが好きではないはずでは?」
P 「そうだ
だから、今回の収録でらぁめんを好きになってもらおう、と
お節介ながら計画してみた」
千早「期待に添えるかわかりませんが・・・」
貴音「熱そうな店名ですね」
P 「そんなことないぞ、どちらかというと最高にCoolだ」
千早「・・・」
P 「なぁ、千早
千早はなんでらぁめんが嫌いなんだ?」
千早「嫌いじゃありません!
ただ、ラーメンは・・・ラーメン特有の刺激が苦手で・・・
それに、口に入ってしまえば皆一緒じゃないですか」
P 「ふむ、わかったよ、千早
まさに火頭山のらぁめんは千早にぴったりだ!」
貴音「一体どのような薬膳らぁめんが出てくるのか、興味が付きません」
千早「はぁ・・・」
P 「そうだな
一言でいうと、優しいらぁめんだ」
千早「優しいラーメン?」
P 「それ以上は言わない
実際に食べて確かめてくれ
ちなみにお勧めは塩ラーメンだ」
貴音「では、私はお勧めの塩らぁめんをお願いします」
千早「私もそれで・・・」
P 「三人塩らぁめんだな」
P 「そのようだな」
貴音「プロデューサー」
P 「なんだ?」
貴音「少々量が少なくありませんか」
千早「私からは普通ぐらいに見えるけど」
P 「つまり、そういうことです」
貴音「面妖な・・・」
P 「あんまり落胆するな、味は一級品だ
そこは残念な思いはさせないさ」
貴音「めんまにきくらげ、なるとにネギ・・・」
千早「柔らかそうなチャーシューに、一点の赤い梅干し」
貴音「これは、目にも心地よい綺麗さです
食べるのが勿体無いとは、正にこの事でしょう」
P 「だが、らぁめんは食べるものだ
千早、口にできそうか?
無理はするなよ」
千早「私、このラーメンなら・・・
四条さん、プロデューサー、私、食べてみます」
貴音「お肉は食べられなかったら頂きます」
P 「貴音、言葉の取捨選択は大事だぞ」
P 「・・・」
貴音「・・・」
千早「あれ?刺激が無い・・・」
貴音「・・・プロデューサー、私も頂いて宜しいでしょうか」
P 「いいぞ」
貴音「ひょいぱく ひょいぱく」
千早「はむ、もむもむ」
貴音「なんと!これはなんと優しい!」
千早「何これ・・・おいしいわ・・・
すごい・・・鳥肌が立ってきてる」
貴音「まったく癖が無く、豚骨であることを忘れさせるような味!
むしろそれ自体がこのらぁめんの癖なのですね!」
P 「あぁ、それが北海道初の優しいらぁめんだ」
その癖の無さを調和するように、
中央に添えられた小梅」
P 「見た目だけじゃなく、食べてもアクセントになる
まったく飽きを感じさせない、素晴らしい味だ」
千早「ごくごく・・・」
P 「千早?!
スープまで飲んだのか?!」
千早「プロデューサー・・・美味しいです
私、ラーメンは皆一緒だって思ってました
ですが、このらぁめんを食べて・・・私は・・・」
貴音「千早・・・」
P 「千早をここに呼んで良かったよ
まさか泣くほどとは、予想にもしなかったが」
千早「私、泣いてなんか・・・あれ、おかしいです・・・」
貴音「千早・・・お手洗いに参りましょう」
千早「はい、取り乱してしまい申し訳ありませんでした」
P 「いや、千早が無事ならいいんだ
千早がらぁめんを好きになってくれれば」
千早「プロデューサー・・・
一つ聞きたいのですが、あれは本当にらぁめんなのでしょうか
私が知っているらぁめんとは、似ても似つかないのですが」
P 「・・・さぁ、どうなんだろうな
貴音はどう思う?」
貴音「私は、らぁめんだと思います」
P 「そうか」
千早「あの・・・もし良ければ、また今度
火頭山に連れてって貰えますか?」
貴音「構いませんよ」
P 「あぁ、俺も問題ない」
千早「ありがとう」
P 「うーん、今回は要らないんじゃないか?」
貴音「それもそうですね」
P 「悪いが千早、持ち帰ってくれ」
千早「はい
トリイサンの黒烏龍茶、私も飲んでます!」
P 「それでは、今回のゲストは歌姫 如月千早さんでした」
貴音「またらぁめんを食べにご一緒しましょう」
千早「是非!よろしくお願いします!」
営業時間 店舗による
休業日 上に同じ
メニュー しおらーめん
みそらーめん
しょうゆらーめん
特選とろ肉らーめん
辛味噌らーめん
チャーシュー麺
各種大盛りあり
特記事項
関西よりも西には店舗は無い
海外に店舗展開をしており、外に出る日も安心
P 「おそらく、ああいうのが女性に受けるんだろう」
貴音「量もさほど多すぎず、女性向けというのが感じられました
ところで、次のらぁめんはなんでしょうか」
P 「次のらぁめんの前に、ゲストを紹介しよう
はい、どん!」
響 「はいさーい!自分、我那覇響だぞ!」
貴音「響でしたか!」
響 「貴音!会いたかったぞ!」
P 「天真爛漫沖縄元気っ子、
チャレンジ精神旺盛な我那覇響くんだ」
響 「そうだぞ!チャレンジ精神の塊だぞ!」
P 「はい、というわけで、今回は蒙古タンメン中卒にお邪魔しています」
貴音「蒙古たんめん?らぁめんでは無いのですか」
P 「らぁめんみたいなもんだと思う
というか多分らぁめんだ」
響 「ただのらぁめんなのか?」
P 「響を呼んだって事は、ただのらぁめんじゃあ無いんだ」
響 「へ?」
P 「なんていうか、辛い」
貴音「プロデューサー、”からい”か”つらい”かわかりません」
P 「両方だ 便利な言葉だよな」
響 「なんくるないさー!自分、ダンスやってるからな!」
貴音「ふふ、頼もしいですね」
P 「その言葉を待っていた!
突発!響チャレンジ!他局編!」
響 「うおー!チャレンジか!燃えてきたぞー!」
P 「中卒はらぁめんの種類によって、0辛~10辛まであるんだ
ちなみに辛いのが苦手な人は、辛さ控えめを選択出来るぞ」
響 「自分10辛だな!楽しみだぞ!」
貴音「響が楽しそうで何よりです」
響 「これは、つけ麺?」
P 「そうだ、多少冷えてるから、辛さは多少抑えられるだろう
ちなみに暖かいらぁめんで一番辛いのは、9辛の北極らぁめんだ」
貴音「私は、あまり辛いものに慣れていませんので、
ここは蒙古タンメンを頂きましょう」
P 「お、さすが貴音だな
初めての人はそれが一番だ」
貴音「らぁめん選びは慣れておりますので」
P 「ところで響、いい忘れてたんだが・・・
冷やし味噌らぁめんな、辛さ5倍に出来るんだよ」
響 「ひっ!」
P 「無理にとは言わないが・・・チャレンジするか?」
響 「うぅ・・・す、するぞ!自分完璧だから、
10辛の5倍でもなんくるないさー!」
P 「じゃあ俺は、普通の冷やし味噌らぁめんでも頼んでおくか」
参考画像
響 「うわー、辛そうだな」
P 「うむ、実際に辛い
だが、その辛さも二度三度と通ううちにやみつきになってくるぞ
お、俺のも来たみたいだ」
参考画像
響 「・・・赤いぞ」
貴音「赤いですね」
P 「赤いな・・・おっと、響のも来たみたいだ」
参考画像
響 「何なのだ、これは!どうすればいいのだ?!」
どうあがいても、しょせん地獄よ」
貴音「私は響を信じております」
響 「いや、これは・・・」
貴音「私の蒙古タンメンは、確かに辛いですが
それだけではない、爽やかさも含んでおります
きっとそのどろっとした何かも、爽やかさがあるでしょう」
P 「まぁ一口だけでも食べてみろって
意外といけるかもしれんぞ?」
響 「うぅ・・・一口だけだぞ・・・」パク
響 「うぎゃー!」
P 「まぁそうなるわな」
貴音「響!気を確かに!」
P 「ほら、響!ヨーグルトだ!食べろ!」
貴音「ヨーグルトは辛味を感じる味蕾を保護し、
辛味を抑える効果があります」
響 「ぎゃー!ぎゃー!」
------
響 「はぁ、はぁ・・・疲れたぞ」
P 「いくら辛いからって、暴れすぎじゃないか」
響 「ごめんだぞ、プロデューサー」
貴音「その赤い謎の液体はどう処理致しましょう」
P 「残すのは忍びない・・・よし、俺が食べよう
幸いヨーグルトはたくさん用意した
代わりに、響はこの普通の冷やし味噌らぁめんを食べてくれ」
響 「わ、わかったぞ!それぐらいなら!」
貴音「はて・・・」
響 「ちゅるちゅる・・・けほっけほっ」
貴音「ひょいぱく ひょいぱく」
P 「響、汗がすごいぞ 大丈夫か?」
響 「プロデューサーこそ・・・
あれ?全然汗かいてないな」
P 「おそらく、限界を突破すると・・・
汗は・・・
出ない」
貴音「真、美味でした」
響 「うぅ、貴音は食べるの早いぞ」
P 「慣れた」
響 「無いぞ」
貴音「その気持ち、よくわかります」
響 「しいて言うなら、らぁめんじゃないぞ!」
貴音「私の食べた蒙古タンメンは、
辛さと味のバランスがしっかりしており
決して普通のらぁめんに引けを取るようなものではありませんでした」
P 「今回は選んだらぁめんが悪かったな」
響 「今度は、チャレンジ無しで普通のを食べたいぞー!」
P 「そうだな、今度は3辛でも食べよう」
響 「うぅ、ありがたいけど・・・」
P 「多分、飲んだら、死ぬ」
貴音「ふむ、それほどまでに辛さが」
P 「トリイサンには悪いけれど、
黒烏龍茶は自宅に持って帰って飲ませて頂きます!」
響 「食後に一本!黒烏龍茶だぞ!」
貴音「以上、今回のゲストの、我那覇響さんでした」
響 「またやーさい!」
営業時間 店舗によって異なる
定休日 店舗によって異なる
メニュー (一部抜粋)
味噌タンメン:750円 辛さ3 ほぼ辛くない
蒙古タンメン:770円 辛さ5 味噌タンメンに麻婆豆腐が出会った
北極ラーメン:800円 辛さ9 温かいラーメンの中ではもっとも辛い
冷やし味噌ラーメン:770円 辛さ10 もはやラーメンではない
蒙古丼:800円 辛さ5 蒙古タンメンの上の具を、ご飯に乗っけてみました
特記事項:辛いメニューを食べた後は、お腹の調子及び
トイレに注意
いかがでしたか?響」
響 「もう辛いのはこりごりだぞ!」
貴音「プロデューサーは、あまりにも辛い物を食べ過ぎた影響で
倒れました」
響 「犠牲になったのだ!」
貴音「本日は二十郎、火頭山、蒙古タンメン中卒と回りましたが、
それぞれが別の方向を目指す、どれもまったく似ていないらぁめんでした」
響 「もう突き抜けちゃってるさー!」
貴音「次回は一体どのような出逢いがあるのでしょうか」
響 「プロデューサーから伝言だぞ!
次回は変わり種のらぁめんを用意しておく、って!」
貴音「はて、変わり種とはなんでしょうか
それでは、次回も新しい出逢いがあると信じて、今週は一旦お別れです」
遠慮しないでこの番号まで連絡くれよな!」
貴音「めぇる、お電話、お葉書でのご連絡等お待ちしております」
響 「最終回は、来週の月曜日、19:00から、同じチャンネルで放映するぞ!」
貴音「皆様、宜しければ来週もお付き合い下さいませ」
響 「それじゃ、貴音と響のらぁめん探訪!」
貴音「また来週、お会い致しましょう」
監督「はい、かぁーっと!」
いい絵が撮れたってもんだ!」
響 「へへっ、自分完璧だから、あれぐらいなんくるないさー!」
貴音「監督、ところでプロデューサーの様態は、いかがでしょうか」
監督「それに関してなんだが
今一番つらい状況らしい
オレっちには何も出来ないが、
峠を超えるまで、せめて見守ってやってくれや」
貴音「はい、わかりました」
響 「うぅ、プロデューサー!頑張るんだぞー!」
P 「お腹が・・・うぐぉっ?!
痛た・・・あぎぃっ?!」
律子「プロデューサー殿?お荷物ですよー」
P 「出会い頭にひどくないか?」
律子「いえ、プロデューサー殿宛にお荷物が届いたんですよ」
P 「なんだろう・・・はぁ?ヨーグルト?」
律子「この前放送した時に食べてたヨーグルト、
あれ雹印のヨーグルトだったみたいで、
あの放送の影響でちょっとしたヨーグルトブーム見たいですよ」
P 「まじか・・・
なぁ、黒烏龍茶は来てないのか?」
律子「あんまり横着してるといけませんよ?
ちなみに、黒烏龍茶は貴音が持って行きました」
P 「なんと!」
?「ふっふっふ・・・はーっはっはっは!
ついに!ついに見つけたぞ765プロ!」
冬馬「急に帰ってきたと思ったら、テンション高いな」
?「なんだ、羅刹ではないか」
冬馬「羅刹じゃねーってーの!
それよりも、ジュピターでラーメン食ってきたぜ」
?「つまらん、そんなことか
それよりも、もっと面白い情報があるぞ
なんと、あの憎き765プロのプロデューサーが、
逢引している現場を発見したのだ!」
冬馬「はぁ?!おいおい、あの鈍感野郎が逢引?!」
?「セレブである私に不可能はない
そして今日から、事務所付きのパパラッチを仕向ける
さて、何日で765プロの化けの皮が剥がれるかな?
はーっはっはっは!はーっはっはっはっはは!」
真 「おはようございます!!!」
P 「おはよう!真!」
真 「おっ、今日は元気いいですね!」
P 「なんか運動し始めてから、最近目覚めがいいんだ
これも真のお陰だな」
真 「そうですよ!
運動すれば落ち込んだ気分も直るし、
ダイエットにも効果的なんです!」
P 「よし、じゃあ今日も気合いれて走るか!」
真 「そうですね・・・プロデューサーも最近体力ついてきたし、
折角だからスポーツとかしませんか?」
P 「そうだな・・・お、あんな所にテニスコートがあるぞ」
真 「プロデューサー・・・ボクにテニスを挑むなんて、勇気がありますね
ボクは一時期テニスのプリンスって言われてたんですよ!」
P 「それはよかった、初心者同士で打ち合いしなくて済むんだからな」
真 「へへっ、覚悟してくださいねっ!プロデューサー!」
貴音「貴音と」
P 「プロデューサーの」
P・貴音「らぁめん探訪!」
貴音「皆様、ごきげんよう
四条貴音でございます」
P 「貴音のプロデューサーです」
律子「皆さんこんにちは
竜宮小町のプロデューサーにして元アイドル、
765プロ一の論理派、秋月律子です」
貴音「本日は神奈川県、鶴見で収録しております」
律子「で、プロデューサー殿?
なんでアイドルでも無い私が呼ばれたんですか?」
P 「んなもん、監督に聞いてくれ
なんでも元ファンだったとか」
貴音「もしかして、そのためにこの企画をOKしたんじゃ・・・」
P 「さぁ、細かい所は気にしないで行ってみよう!」
律子「確か、味噌野菜らーめんね
って、それを聞いてくるってことは、
もしかして味噌野菜ラーメン系のお店ってこと?」
P 「あぁ、二十郎だ」
律子「二十郎ですかー
あそこは味噌こそ無いけど野菜がたっぷり入ってて、
味噌野菜ラーメンに通じるものが
ってこらぁっ!」
貴音「これが本場ののりつっこみ、ですね」
P 「あぁ、覚えておけよ
後で必要になるかもしれん」
律子「そんな必要後にも先にもありません!
ほらさっさと!今日の取材場所に連れてって下さい!」
律子「とんでもない所で営業してるわねー
周りは道路で、人なんて集まりそうにも無いじゃない
飲食店は、人通りが多い所で営業するのが鉄則よ」
貴音「確かに律子嬢の言う通りです
しかし、二十郎はただの飲食店ではありません!」
律子「どういうこと?」
P 「二十郎にはな、遠くからでも人がやってくるような
魔力がこめられているんだ
人が居るから二十郎があるんじゃない
二郎があるから、行列が出来るんだ!」
律子「なるほど、確かに予想に反して人が居るわね
つまり、二十郎はそこに存在するだけで
ランドマークとなり得る、という事かしら」
貴音「私達も、いつかはそのような存在になりたいですね」
P 「あぁ、俺たちにならなれるさ・・・」
律子「二人共・・・微力ながら、私も協力するわ」
貴音「・・・せーの」
P・律子・貴音「アイドルマスター!」
貴音「私は大豚Wでお願いします」
P 「うーん、実はここでは大豚Wはお勧め出来ない」
貴音「なんと!」
律子「何か理由があるんですか?」
P 「そうだな・・・折角だ、頼んでみるか?貴音」
貴音「はて、なぜ私が選ばれたのでしょう」
律子「折角だから、3人で大豚Wとやらを頼みましょうよ」
P 「何が折角なんだよ・・・」
P 「良い所に気づいたな、貴音」
律子「なになに?ヤサイマシマシはご遠慮下さい?」
P 「そうだ、鶴見店では、ヤサイマシマシは出来ない
ヤサイマシはかろうじて可能だ」
貴音「はて、何か理由があるのでしょうか」
P 「基本、ヤサイというのは無料トッピングだからな
無料トッピングを頼まれれば頼まれる程、経営は苦しくなる」
律子「それでも、もやしなんて安いですから
マシマシでもいい気はしますけど」
P 「鶴見店はな、もやしとキャベツの割合が3対7なんだ」
貴音「なんと!7対3ではなく!」
P 「あぁ、キャベツのほうが多い」
貴音「それはなんと・・・早く食べたくなって参りました!」
貴音「ヤサイマシアブラ」
店主「中の方」
律子「にんにくでお願いします」
店主「左の方」
P 「ニンニクマシ」
P 「なんだ、律子コール出来るんじゃないか」
律子「えぇ、無様な姿を見せないよう、練習してきましたから」
貴音「ところで、プロデューサーはなぜヤサイマシにしなかったのですか」
P 「そろそろわかるよ」
P 「皆、立て」
律子「えっ、はい」
P 「立った状態で、器を手前に移動するんだ」
貴音「プロデューサー、異常事態です
すぅぷが今にも溢れそうです」
律子「むしろ、もう溢れてない?」
P 「そういうもんだ
しょうがない、手本を見せよう
まず、器を指先だけを使って持つ
あ、熱っ」
律子「あれは、どうやっても溢れるわよ」
P 「ふー、なんとか手前に置けたな」
貴音「プロデューサー!すぅぷがどんどんこぼれていきます!」
P 「あぁ、なぜか鶴見店は机が傾いている
ついでに、椅子も急に傾いて壊れるときがあるぞ」
P 「あぁ、だから立てって言ったんだ
こういう時はだな・・・
机の上の布巾で、堤防を作る!」
貴音「面妖な」
P 「これをしばらくしていれば、スープの溢れは止まり
落ち着いて食べれるようになる」
貴音「律子嬢、私共も行なってみましょう」
律子「えぇ、プロデューサー殿ばっかりに格好いい所は見せられないわ!」
P 「ちなみにこぼれたスープは左に流れるから、
つまり全部俺の方に来るわけだ」
貴音「面妖なっ!布巾が油まみれなどとっ!」
P 「俺は、鶴見店の布巾が油でギトギトじゃない時を知らない」
P 「らぁめん小を選ぶ、豚増しをしない、
この2つのうち、どちらかをすればスープ溢れは起こらないんだ」
貴音「小を選ぶと、器が小さくなって逆に溢れやすくなるのでは?」
P 「残念だが、鶴見店には器は一種類しか無いんだ」
律子「つまり、大を選んでも器の大きさは変わらないから・・・」
P 「そう、キャパシティを超えて溢れやすくなる」
貴音「食い意地が張っていると、大変な目に合うということですか」
P 「実際そうだから困る」
P 「あぁ、だがこういうアトラクションをやらせる為だけに
鶴見店を選んだんじゃないぞ」
貴音「なるほど、プロデューサーは鶴見店の味に自信を持っているのですね」
P 「そういうこった
まぁ落ち着いて食べてくれ」
律子「ぱくぱく ちゅるる」
貴音「ひょいぱく ひょいぱく」
P 「どうだ?」
律子「想像していた二十郎の味とは違くて
柔らかい美味しい味です」
貴音「味だけならば、大宮の
神二十郎の時にも引けを取らないと思います」
P 「だろう、なぜか味は美味い
乳化してるからか?それはよくわからんが」
貴音「後は麺がもう少々固ければ、最高の二十郎です」
律子「私はこれで満足だわ、麺の固さもちょうどいいもの」
律子「最初のぐだぐだから始まった時は
どうなることかと思いましたけど、
美味しいらぁめんにありつけてそこは良かった
ただ、スープが溢れるのとギトギトの布巾はダメダメですね
そこを何とかしたら、もっと繁盛店になるのに、勿体無い」
P 「確かに、鶴見に来た人は皆が思うことだよな」
貴音「味は真、美味ですが」
律子「二十郎というブランド力と、このらぁめんの味があるから
お客様は来ています
器や布巾がギトギトなのは瑣末な問題なのかもしれないですね」
P 「だが、それを味わった客が不快に思うのもまた事実だ」
貴音「美味なるらぁめんを頂いた後は、快く帰宅したいものです」
律子「ところでプロデューサー殿?
どこかに水道無いかしら」
P 「外にセブンイレブンがあるから、
お手洗いを借りて来たらいいと思うぞ」
律子「ありがとう」
P 「おう、ありがとう」
律子「ごくごく・・・
わ!美味しい!」
貴音「その顔を見るのも、二十郎を勧める際の楽しみの一つです」
P 「トリイサンの黒烏龍茶は二十郎にぴったりだからな」
律子「それではプロデューサー殿、貴音、本日はありがとう」
貴音「こちらこそ、ゲストに来て頂きありがたく存じます」
P 「それでは、ゲストの秋月律子さんでした」
律子「皆さん!竜宮小町、竜宮小町をどうか宜しくお願いしますねー!」
P 「プロデューサー根性に溢れてるな」
ラーメン二十郎 鶴見店
営業時間 平日 11:30~14:15 18:00~24:15
土日祝 11:30~15:00 18:00~24:15
※雨が振ると休日の可能性大
メニュー ラーメン小:600円
ラーメン小豚:700円
ラーメン小豚W:800円
ラーメン大:700円
ラーメン大豚:790円
ラーメン大豚W:900円
ビール:500円
特記事項
・一気に12人分程作る為、行列の前進が遅い
・大豚Wを頼むと、スープが溢れる可能性が高い
・ヤサイマシマシは不可(マシは可能)
貴音「はい、私達は今、栃木県宇都宮市に赴いております」
P 「まだ関東と言っても寒いな」
貴音「栃木県は盆地ですから・・・
ところで、前回プロデューサーは変わり種を用意した、と
仰っておりましたが、どのようならぁめんでしょうか」
P 「あぁ、かいつまんで言うと、見て楽しめるらぁめんだ
と、その前に、ゲストを紹介しよう
おーい」
美希「はいなのー!ハニ~♪」
監督「かぁーっと!」
美希「ミキ、何か悪いことした?」
P 「ハニーはまずい、ハニーは
スキャンダルをもみ消す!って意義もある放送で、
新たなスキャンダルなんか作ったら伝説になるぞ」
美希「伝説になるの?」
P 「いや、ならないから安心しろ
いつもどおり、プロデューサーで頼む」
美希「いつもだったら、ハニーでいいと思うな」
P 「おっけ、今だけ頑張ってプロデューサーで通してくれ」
美希「はいなのー」
P 「監督さん!こっちおっけーです!」
監督「次は気をつけろよっ!!」
貴音「はい、私達はただ今、栃木県宇都宮市に赴いております」
P 「栃木県は関東、と言っても、非常に冷えるな」
貴音「栃木県は盆地ですから・・・
ところで、前回プロデューサーは変わり種を用意した、と
伝言を残しておりましたが、どのようならぁめんなのでしょうか」
P 「かいつまんで言うとだな、見て楽しめるらぁめんだ
と、その前にゲストを紹介するぞ
おーい!」
美希「はいなの!プロデューサー!」
貴音「美希ですか
確か美希はらぁめんに興味なかったのでは?」
P 「あぁ、興味なさそうだった
だから、今回は興味が持てるようならぁめん屋を用意したぞ!」
美希「すごーい!さっすが・・・プロデューサーなの!」
P 「それも、こんな寒い日にうってつけの、な」
貴音「石焼らぁめん・・・でしょうか」
P 「そう、石焼きビビンバのらぁめん版みたいなもんだ」
美希「石焼だと、何かいいことあるの?」
P 「そうだなぁ、しいていうなら、時間がたっても
スープが熱々って事かな」
貴音「らぁめんは熱が冷めると、基本的に味が落ちます
例え食すのが遅くとも、長時間すぅぷが熱いならば
味の低下が抑えられるのですね」
P 「あぁ、それに味も美味いぞ、保証する
ただ、問題があってな・・・
いつまでも熱いから、猫舌の奴には向かないんだ
美希は猫舌じゃないよな」
美希「うん、猫舌じゃないよ」ペロッ
P 「そうか、それは良かった」
貴音「そうですね
プロデューサーのお勧めは何かございますか」
P 「お勧めはなんといっても、石焼野菜らぁめんだな
これは、醤油、塩、豚骨、味噌の4種類から選べるぞ」
美希「ミキは、この塩がいいって思うな」
貴音「では私は、豚骨を頂きましょう」
P 「それじゃあ俺は醤油だな」
貴音「面妖な・・・どこかの方言が書いてあります」
P 「栃木弁というやつだな
栃木県の南部はそれほど訛っていないんだが、
栃木県の北部に行くとはっきりわかる程なまりが出てくる」
美希「どんなことが、書いてあるの?」
P 「炎山のらぁめんを食べる手順について、だな」
美希「食べ方に手順があるなんて、なんかめんどくさいね」
P 「いやいや、それほどめんどくさくないぞ
今回は俺がレクチャーしてやるから、大船に乗ったつもりでいろ!」
貴音「えぇ、それでは宜しくお願いしますね」
美希「プロデューサー♪」
P 「俺も石焼らぁめん自体は久方ぶりだから、楽しみだな」
美希「ん?なにこれ
石鍋に麺と具材だけ入ってて、スープが入ってないの」
P 「これはな、隣にあるスープを店員さんが入れてくれるんだ
俺たちは、さっき貰った説明が書いてある紙をだな
こんな風に、鍋のちかくに立てて、
飛沫が飛んでこないようにガードする」
貴音「これで宜しいでしょうか」
P 「上出来だ」
美希「店員さん!もうスープ入れちゃっていいよ!」
貴音「では、最初は美希のらぁめんから入れて貰いましょう」
美希「ミキが最初でいいの?やったやったやったぁ!」
美希「わあっ!すごいぐつぐつっていってるの!」
貴音「これは見るからに熱そうですね・・・」
P 「熱いぞ
だから絶対に、石鍋には触れるなよ」
美希「わかったの」
貴音「店員殿、次は私のをお入れ下さい」
P 「貴音も見てて、やりたくなったか
ちなみに、スープを入れて2分ぐらい
大体ぐつぐつ言わなくなった頃が食べごろだな」
貴音「あなた様っ!面妖な!
ぐつぐつ沸騰しておりますっ!」
P 「!」
監督「(セーフセーフ)」
美希「そろそろ落ち着いてきたの」
P 「店員さん、俺のにもお願いします」
店員「はい」スー
シーン
貴音「面妖な・・・」
美希「いきなり落ち着いてるの」
P 「時々、なぜか、沸騰、しない
おそらく石鍋の温め時間が少なかったのか、
放置時間が長かったのかのどちらかだろう」
貴音「プロデューサー・・・」
P 「稀にこういうことがあるんだよな・・・
参っちゃうよなホント・・・はは」
P 「ん、ああ・・・落ち込んでる場合じゃないな
もちろん、食べていいぞ
ただ、これも食べ方があってな」
美希「食べ方とかめんどくさーい」
P 「食べ方といっても、”安全な”食べ方だ
失敗するとやけどするから気をつけろよ」
美希「はぁーい」
P 「といっても簡単だ、食べる時はこの小皿に移してから食べる
それだけだ
石鍋から直接食べると、絶対にやけどするぞ
あんなふうに」
貴音「熱っ!熱っ!」
P 「食い意地はるなってことだな
おい貴音、聞いてたか」
美希「分かったの!」
P 「それは良かった
貴音が重篤なやけどを負わなくて良かったよ」
美希「ずっと熱いままかと思ってたけど、
こうやってお皿にとって食べたら
簡単に食べやすい温度に出来るね!」
P 「そういえばそうだな、気が付かなかった
これで、2つのブレがなければ個人的に最高なんだがなぁ」
貴音「ぶれ、でございますか」
P 「あぁ、1つはさっきの石鍋の温度」
美希「意外としゅーねん深いの」
P 「もう1つは・・・肉、だ」
貴音「肉、でございますか
ぶれと申しましても、私が食した肉は
どれも美味でございましたが」
P 「味のブレじゃないんだよ・・・
数にブレがあるんだよ」
美希「へー」
P 「基本的に、一つの鍋に0~5個の肉が入っている
ちなみに俺のは、さっきから探してるんだが無いようだ」
貴音「なんと!」
美希「それは仕方ないの
運が無かったって思うな」
貴音「プロデューサー、もしかしたら醤油味には
肉が入っていないという可能性もございます」
P 「そうだな、きっとそうに違いない」
美希「きっと石鍋の中に放り込むんだと思うな」
P 「お、勘がいいな その通りだ」
貴音「白米を、らぁめんのすぅぷの中に?!」
P 「鍋をした後の、締めのおじやみたいな感じで
これはこれで結構美味いぞ!」
貴音「ふむ、らぁめんとして楽しみ、おじやとしても楽しめる
二度の楽しみが、この石焼らぁめんには詰まっているのですね」
常連はともかく一見さんからは苦情出るだろ
美希「ミキね、あんまりらぁめんには興味ないんだけど、
石焼らぁめんみたいに楽しくお喋りしながら食べるのは
悪くないって思うな
ミキ的には、また皆でらぁめんを食べに来て、
千早さんとかを驚かせたりしたい!」
P 「想像したより美希や貴音が喜んでくれたのは嬉しい誤算だったな」
貴音「味も美味でしたし、私は言うことはございません」
P 「栃木県を中心に、どんどんチェーン店を広げてる
石焼らーめん炎山、東京に進出する日も近いな」
美希「事務所の近くにできたら、一緒に行こうね!」
貴音「そうですね、美希」
美希「ありがとなの!」
P 「おう、毎度悪いな」
貴音「今回はそれほど油っこいらぁめんでは無かったので、
飲む必要性が感じられません」
P 「そんなことないぞ、らぁめんっていうのは
結構油を使ってるからな」
美希「ご飯食べたら、眠くなっちゃったの あふぅ
黒烏龍茶は起きたら飲んでいい?」
P 「おう、構わないぞ」
貴音「今回のゲストは、マイペースアイドル星井美希さんでした」
美希「トリイサン、ばいばーい!」
P 「思えば遠くまで来たもんだ」
貴音「地理的にはそこまで遠くではございません、
神奈川県は横浜西口」
P 「それでは今回のゲストは、この子だー!」
やよい「うっうー!ゲストにお誘い頂き、ありがとーございます!」
貴音「最後にやよいでしたか」
P 「あぁ、そしてやよいってことは、もう既に行く所が
バレているかもしれないな」
やよい「うー?なんですかー?」
貴音「えぇ、やよいといえば・・・あそこしかございません」
貴音「やはりこちらでしたか」
P 「ところで、先ほど紹介した石焼らーめん炎山の紹介を忘れてたんだが」
貴音「宜しいのでは?店舗によって異なる、でしょうし」
P 「そうだな」
やよい「あのー、なんで私と言ったら、このお店なんですかー?」
P 「よし、じゃあそこら辺の説明も含めて、まずは注文しようか」
貴音「一風堂は、確か豚骨らぁめんでしたね」
P 「そう、そして、味は大別して4種類
豚骨の味がシンプルな白丸元味と、
醤油と辛味噌の味が香る赤丸新味、
白丸ベースのスープに肉味噌をトッピングしたからか麺、
最後に、かさね味だ」
やよい「かさね味って、なんですかー?」
P 「なんだろうな
俺が聞いた時は、赤丸と白丸を
絶妙に調合してできたもの、と聞いたが・・・」
貴音「かさね味は、数ある一颪堂の店舗でも
銀座、町田、高崎、そしてここでしか食すことが出来ない
店舗限定の味なのです」
やよい「そうなんですかー?すごいですー!」
P 「やよいは何か食べたいの決まったか?」
やよい「そうですねー、一番安いのがいいかなーって」
やよいはかさね味でいいな」
やよい「だめですよ!プロデューサーさん!
かさね味は一番高いじゃないですか!」
P 「大丈夫だ、今回は一颪堂のご好意で、
お金はかからないことになってるんだ」
貴音「それは本当ですか?!」
P 「やよいの分だけな」
貴音「いけずです・・・」
P 「そういう訳で、やよいは遠慮せずに味わっていいんだからな」
やよい「うー、プロデューサーがそういうなら、
思いっきり味わいます!」
P 「じゃあ白、赤、かさねで注文するからぞ」
やよい「あれですかー?」
P 「そうだな
やよい、ちょっとこの箱を見てくれ」
やよい「はーい」
パカッ
やよい「こ、これは・・・!」
P 「もやしだ
食べ放題もやし、しかもロハだ」
やよい「ロハ?」
貴音「無料ということです、やよい」
やよい「本当ですかっ?!」
美味いぞー!」
貴音「さすがに全て食い荒らすのも如何かと思いますが
らぁめんが来るまでの間に食べるのが良いでしょう」
やよい「食べていいですかっ?!」
P 「食え、好きなだけ」
やよい「はむ・・・」
P 「どうしたんだ?やよい」
やよい「どんな調味料が使われてるのかなーって
わかったら、家族にも食べさせたいんです!」
P 「いつでも家族思いなんだな・・・」
貴音「私も頂きましょう」
P 「さすが早いな」
やよい「うー、まだもやしの謎が解けてませんー」
P 「貴音、そういえば言っておくことがあった」
貴音「なんでしょうか」ひょいぱく ひょいぱく カタメー
P 「替え玉は2回までな」
貴音「なんと!
それでは心ゆくまで堪能出来かねます!」
P 「こういっておかないと、貴音はいくらでも食うからな」
やよい「らぁめん・・・ずるずる
うっうー!美味しいですー!」
P 「貴音も、あんなふうに一口を楽しもう」
P 「やよい、美味しかったか」
やよい「はい!もやしも、らぁめんも、すっごい美味しかったです!」
P 「貴音も落ち込んでないでこっちこい!」
貴音「落ち込んでなぞおりません!」
P 「味はどうだった?」
貴音「えぇ、真、美味でした」
P 「やはり、一颪堂は美味いな」
貴音「えぇ、至って普通に見える豚骨らぁめん・・・
しかして、日本を飛び越えて海外まで展開しているとは」
P 「一体なにが受けて何が受けないのか」
貴音「私共には、まだ理解が足りないのかもしれませんね」
やよい「えーっと、ゲストに呼ばれて、その上
らぁめんも食べさせてもらって、嬉しいなーって!
よくある無料トッピングだと、しば漬けや紅しょうがとかが
多いんだけど、もやし、しかもちゃんと味付けしてある
おいしーいもやしを無料でおいてて、
お客様へのサービスが高いなーって思いました!」
P 「やよいの言うとおり、適当に買ってきた業務用のものではなく、
一颪堂でしか食べられないものを用意しておく、
この部分はサービスとして非常に高レベルにあるだろう」
貴音「店員の声出し等も、しっかりハキハキと喋っており、
こちらに不快感を与えず、逆に心地よい気持ちにしてくれます」
P 「日本を超えて、世界に出ていくらぁめんというのは
サービスもしっかりしているんだな」
やよい「あー!それアイドルにも同じこと言えますよねー!
歌が上手いだけじゃなくて、ファンサービスとかも出来る人が、
トップアイドルになるんだと思いますー!」
やよい「ありがとーございますー!」
P 「おう、ありがと」
やよい「これはなんですかー?」
貴音「トリイサンの黒烏龍茶ですよ、やよい」
P 「食べたものが、お肉にならないように防いでくれるんだ」
やよい「そーなんですかー?すごいですー!」
貴音「あと、これもお渡しします」
やよい「あっ、これはあの、ホットもやしソース(4本入1,680円)ですねー!」
P 「おうちに帰ったら、家族に食べさせてあげなさい」
やよい「はいー!今日は本当に、本当にありがとーございました!」
貴音「以上、高槻やよいさんでした」
やよい「視聴者の皆さんも、ありがとーございましたー!」
営業時間 店舗による
定休日 店舗による
メニュー 白丸元味
赤丸元味
からか麺
かさね味(銀座、横浜西口、町田、高崎限定)
替え玉
特記事項
ほぼ全国的に展開しており、
その県には無くとも隣の県にはあるんじゃないかというぐらい分布している
海外にも展開しており、これからの成長に期待が持てる
いかがでしたか、プロデューサー」
P 「今回の3店舗は、味、と言うよりサービスを中心に見ていったと思う」
貴音「二十郎 鶴見店、石焼らーめん炎山、一風堂・・・
さぁびすとは何か、というのを考えさせられました」
P 「この三週間で回った、10店舗・・・
二十郎 大宮・赤羽・品川・鶴見、 天上一品、 ジャンクガレージ、
火頭山、 蒙古タンメン中卒、 石焼らーめん炎山、一颪堂」
貴音「もっと回っていたと思っておりましたが、
10店舗しか回って居なかったのですね」
P 「それぞれ、良い所や欠点が目立つ所、色々あったと思う
だが、それがらぁめんだ、と俺は思う
誰から見ても、全てが完璧な、らぁめんなんて無いんだ」
貴音「今回の探訪で、そのことが良くわかりました」
P 「人の好みは千差万別、
その人にあったらぁめんが必ずあるはず」
貴音「だから、私達は探すのですね
自分に合う、究極の一杯を」
ですが、私達のらぁめん探訪は終わりません」
P 「番組の意見や感想、素晴らしいらぁめん情報等がございましたら、
以下に表示されている番号までご連絡下さい」
貴音「皆様、宜しければ私達のらぁめん探訪にお付き合い下さいませ」
P 「それでは、貴音とプロデューサーのらぁめん探訪」
貴音「またいつか、お会い致しましょう」
監督「はい、かぁーっと!」
P 「いやー、全くあの時はどうなるかと思いましたよ」
社長「またまた、キミは謙遜が上手いねー
私はキミがうまくやってくれる、そう信じてたよ」
P 「いえ、アイドルでもなんでもない私が、
アイドルと一緒にレポーターをやるなんて
一歩間違えれば炎上してましたよ?」
社長「そこなんだが・・・キミ、これを期に
俳優業なんかに手を出したり・・・なんて気はないか?」
P 「ありませんよ!
私はあくまでプロデューサーですから!
テレビに映るのは得意じゃないんですよ」
社長「そうか、それは実に残念だ」
社長「おや、律子君!慌ててどうしたんだい」
律子「それが、プロデューサー宛にファンレターが来てまして・・・」
P 「またか、今度は前回は2枚だったから、今回は4枚ぐらいか?」
律子「今度は、ダンボール3箱分です」
P 「ほぁっ?!」
社長「おおっ!それは素晴らしい!
どうだねキミ、これだけの声援があれば、
俳優、いや、アイドルにすらなれるとは思わないか?」
P 「いやいや、無いですって!
気の迷い、若気の至りですっ!」
社長「ううむ、残念だが・・・
キミさえ良ければ、いつでも席は開いているんだよ
そこを、忘れないでくれたまえ」
社長「音無君!音無君まで一体どうしたんだね?」
小鳥「そ、それが、社長
こんな動画が炎上してまして・・・」
P 「・・・おい、これは
俺と真がテニスしてる動画じゃないか!」
律子「なんかデ・ジャ・ヴュを感じます」
小鳥「この動画のせいで、真ちゃんとプロデューサーさんが
デートしているように勘違いされますね」
P 「くっ・・・961プロめ・・・!」
社長「・・・おおっ!ピンと来た!」
P 「本当ですか?!」
社長「あぁ、いい案を思いついたよ
プロデューサーとのデート疑惑を払拭しつつ、
真君がスポーツをすることで宣伝をする、一石二鳥の案がね」
--終わり--
貴音「あなた様・・・一体このような所で、何をなさるのでしょうか」
P 「仕事とか関係無しに、貴音とらぁめんが食べたくなった
それだけだ」
貴音「ふふ、私もあなた様とらぁめんが食べとうございます」
P 「先に断っておくがこれはただのわがままだ
ただの自己満足だし、決して面白い話を書こう等とは思っていない
エピローグは無事に終わった
それでもいい、俺のわがままについてきてくれるというなら、
・・・ついてきてくれないか」
貴音「・・・わかりました」
P 「・・・」
貴音「あなた様、こちらの方面は、もしや
一颪堂への道ではございませんか」
P 「よく覚えてるな
だが、目的地は一颪堂じゃあないんだ」
貴音「ふむ、他のらぁめん屋でしょうか」
P 「・・・月が見えないな」
貴音「横浜ですから」
P 「あぁ、一颪堂の道路を挟んで向かい側にあるらぁめん屋
とんこつらぁめんの、よかとこ」
貴音「・・・」
P 「聞いたことないだろう
チェーン店でもないし、有名でも無いしな」
貴音「この水車は、何に使う物なのでしょうか」
P 「さぁ、俺も動いている所を見たことはない」
貴音「本日もそれを食されるのですか」
P 「そのつもりだよ」
貴音「では、私も同じ物を頂きとうございます」
P 「ここのつけ麺はな、つけ汁が二種類出てくるんだ
たしか豚骨醤油味と、塩味の二種類だった」
貴音「ここには結構いらっしゃったんですか」
P 「前の会社の時に、何度も通ったよ」
貴音「それでは、ここのらぁめんも期待が持てる、という事でしょうか」
P 「わからない」
500円で醤油とんこつらぁめんと半チャーハンが食べられたんだ
美味しかった」
貴音「・・・」
P 「よかとこには、何度も通った
雨の日も、風の日も、
会社でミスして落ち込んでいるときも、
プロジェクトが順調に進んでいるときも、
いつだってよかとこに通った」
貴音「なるほど・・・
この店の味が、あなた様にとっては
究極の味、という事なのですね」
P 「さすが貴音だな、なんでもお見通しだ」
貴音「あなた様にとっては究極の味ですが、
他の人にとっては一般的な味かもしれない」
P 「そう、だな」
P 「さぁ・・・今の貴音なら、
その理由もわかると思ったんだがな」
貴音「私は、あなた様の口から聞きたいのです」
P 「・・・俺が究極の味だ、と思ったらぁめんを、
貴音にも食べて貰いたい
ただ、それだけだ」
貴音「はい、ただそれだけで、私は嬉しゅうございます」
P 「貴音・・・ありがとう」
P 「あぁ、醤油とんこつと、塩の二種類のスープ」
貴音「いただきます」
・・・
貴音「醤油とんこつは、麺と絡んで濃厚な味が出ています
毎日通うのも、頷ける味でございますね」
P 「そうだったな・・・」
貴音「塩は・・・醤油とんこつの後に食したからか、
口に残っている味にかき消され、
大した味を感じられません」
P 「・・・」
貴音「あなた様の事ですから、醤油とんこつのつけ汁ばかりを
お召し上がりになっていたのでしょう?」
P 「はは、やっぱり貴音には隠し事は出来ないな」
貴音「確かに、これは美味です
これが、あなた様の究極の味なのですね」
貴音「あなた様が思う究極の味、それ自体は理解致しました
しかし、私の思う究極の味のそれとは、また別物でありました」
P 「・・・そうか」
貴音「以上です」
P 「やっぱり、貴音と一緒に食べるらぁめんは格別だな」
貴音「はい、私も、あなた様と食すらぁめんは別格でございます」
P 「ふー、やっぱり夜は冷えるな」
貴音「もう秋でございますから」
P 「今日、俺の究極の味を貴音に食べてもらって、すっきりしたよ」
貴音「左様でございますか」
P 「あぁ・・・貴音、今日は本当にありがとう」
貴音「いえ、礼には及びません・・・
そうですね、私からもお願いがあるのですが、宜しいでしょうか」
P 「貴音からのお願いか・・・なんだ?」
貴音「あなた様は究極の味に出会えた・・・
ですが、私はまだ究極の味に出会えてません
そして、ここ数日あなた様とらぁめんを食し、
私は確信致しました
究極の味を知りつつも、
様々ならぁめんを追い求めるあなた様といれば、
私の追い求める究極のらぁめんに出会える、と
あなた様のご迷惑でなければ、
私が究極の味に出会えるまで、
共に、歩んで、頂けませんでしょうか」
まさか24時間まるっとかかるとは思いませんでした
貴音×らぁめんの構想を考えた時点で、
蛇足を書くことは決定していました
あくまで私の自己満足です
私の愛したよかとこは、2010年の今頃、廃業致しました
ちょっと出てないキャラがいたのが残念だけど面白かったよ
好きな店が廃業はせつないよな・・・
Entry ⇒ 2012.10.18 | Category ⇒ アイマスSS | Comments (0) | Trackbacks (0)
奉太郎「古典部の日常」 1
古今東西どこへ行っても、入学式や卒業式、俗に言う出会いと別れの季節である。
しかし、進級しただけの俺、折木奉太郎には特に関係が無い事であった。
つまり、高校二年生になった俺には。
そんな事を思いながら、部室に行く。
俺が属する部活は古典部、部員は四人ほどいる。
【省エネ】をモットーとする俺が何故、古典部にいるかと言うと……それすら説明するのが億劫になってしまう。
まあ、何はともあれ、俺の日常はこんな感じだ。
そんな誰に話しかけているのかも分からない内容を頭の中で回転させ、扉を開ける。
奉太郎「なんだ、千反田、もう居たのか」
える「はい! こんにちは、折木さん」
こいつは千反田える。
里志に言わせれば、結構な有名人らしい。
ああ、里志というのは……
里志「お、今日はホータローも来てたんだね」
こいつの事だ。
名前は福部里志。
これでも俺とは結構な付き合いで、世間一般で言う友人、という物だろう。
奉太郎「ああ、少し気が向いてな」
摩耶花「ふくちゃん、ちーちゃん、お疲れ様ー」
摩耶花「あ、なんだ、折木も居たんだ」
俺の事をおまけみたいな扱いをしてくるこいつは、伊原摩耶花。
小学校からの付き合いで、腐れ縁という奴だろう。
奉太郎「居て悪かったな」
ふう、とにもかくにも、これで古典部は勢ぞろい、という訳で。
える「皆さん揃いましたね」
奉太郎「揃ったとしても、やることなんてないだろう」
我ながらその通り、何しろ目的不明の部活である。
摩耶花「やる事があっても、どうせ折木はやらないじゃん」
奉太郎(間違ってはいない)
里志「それがね、やる事があるんだよ、実は」
里志がこういう顔をする時は、大体よくない事が起こる、主に、俺にとって。
奉太郎「はあ」
それを短い溜息として表す。
える「福部さん、やる事とはなんでしょうか?」
摩耶花「あー、もしかして……あれ?」
伊原はどうやら、既に話を聞いてるらしい。
里志「そ、さすが摩耶花は勘がいいね!」
奉太郎(気になりません)
千反田の気になりますにも、大分早く突っ込みをできるようになってきた気がする。
里志「これだよ、遊園地のチケット!」
里志「親がくじ引きで当てたんだけど、忙しくて行けないから友達と行ってこいって、渡してくれたんだよね」
える「遊園地ですか! 行ったことなかったんですよ」
まあ、そうだろう、千反田が行った事が無くても不思議では無い。
奉太郎(しかし、俺もあんま記憶に無いな……最後に行ったのは幼稚園の時だったか)
摩耶花「え? ちーちゃん、遊園地に行ったことないの?」
える「はい! 一度行ってみたかったんです!」
あー、まずいな、と思う。
これは断るのが難しい……かもしれない。
里志「それなら良かった、行くのは今度の日曜日でいいかな?」
える「日曜日でしたら大丈夫です、行きましょう!」
摩耶花「うん、私も日曜日は空いてる」
奉太郎「残念だ、日曜日はとても忙しい」
主に、家でごろごろするのに。
える「そうなんですか? 折木さん」
える「日曜日は忙しいんですか?」
千反田が顔を近づけ、聞いてくる。
すると横から伊原が口を挟む、いつもの光景だ。
摩耶花「ちーちゃん、折木に予定が入ってる日なんてある訳無いでしょ」
里志「まあホータローにも色々事情があるんじゃない? 行けないなら行けないで仕方ないよ」
奉太郎(なんだ、珍しく里志が引いてるな)
そう、いつもなら何かと理由を付け、結局は俺も参加……という流れなのだが、今日は少し違った。
える「そうですか……残念ですが、仕方ないですね」
里志「今度機会があったらって事で、残念だけどね」
摩耶花「いいよいいよ、三人でも楽しいでしょ」
何か気になるが、いいだろう。
奉太郎(行かなくていいならなによりだ)
結果に少々満足し、本に目を移す。
里志「あー、それはそうとさ、ホータロー」
それを狙ったかの様に、里志が話しかけてきた。
奉太郎「なんだ」
里志「今日さ、僕たちは別々に来ただろ? 学校に」
奉太郎「そうだな、お前が朝、委員会の仕事があるとかなんとか」
里志「うんうん、それでね、朝会ったんだよ」
奉太郎「会ったって、誰に」
里志「……ホータローの、お姉さん」
奉太郎(まずいことになった、さては里志の奴……)
なるほど、里志は最初からこれを知ってた訳だ、それを踏まえて俺に言ってきた、という事か。
嫌な奴。
里志「それでね、遊園地の事を話したんだけど」
里志「そうしたら、さ」
里志「「あいつはどうせ暇だから、居ても家でごろごろしてるだけだから、連れていってあげてー」ってね」
里志「だけど、そんなホータローに予定が入っていたなんて残念だよ」
里志「後でお姉さんにも報告をしておかないとね」
奉太郎「待て」
奉太郎「今思い出したが、予定なんて入ってなかった」
奉太郎(そんな事が姉貴の耳に入ったら、何をさせられるか分かったもんじゃない)
里志「え? そうなの? 無理をしなくていいんだよ?」
わざとらしい里志。
摩耶花「そうそう、折木の「用事」の方が大事でしょ」
ニヤニヤしながら言うな、こいつめ。
える「そうですね……無理をなさらないでください、折木さん」
何か最近、千反田もこういう流れが分かってきているような気がする。
勿論、思い過ごしだと思いたいが。
奉太郎「いやー、日付を一週間勘違いしていた。 次の日曜日は暇でしょうがない」
いつの日曜日も暇だが、それに突っ込みを入れる奴もいないだろう。
里志「そうかい、じゃあホータローも参加、という事で」
える「それは良かったです! 楽しみですね、折木さん!」
摩耶花「……強がり」
伊原が何か最後に言っていた気がするが、気にしないでおく。
里志「これで全員参加だね。 よかったよかった」
奉太郎(全く良くは無い)
里志「それで、ね」
里志「今日は、その日の準備や計画をしようと思ってるんだ」
奉太郎「たかが、遊園地だろ」
奉太郎「適当でいいんじゃないか?」
そう、たかが遊園地、予定なんて。特にいらないと思う。
摩耶花「はぁ、折木なんも分かってないね」
摩耶花「行くとしたら、バスか電車でしょ? それの時刻も調べなきゃだし」
摩耶花「遊園地が開く時間とか、閉まる時間も調べないといけないでしょ」
奉太郎(さいで)
える「でも、確かに何時からやっているんでしょう」
える「思いっきり楽しむ為にも、朝は早くなりそうですね!」
すると里志が、巾着から携帯を取り出す。
里志「ちょっと待っててね、今調べちゃうから」
奉太郎「ん、携帯でそこまで調べられるのか」
里志「これは携帯じゃなくてスマホだよ、ホータロー」
奉太郎「似たようなもんだろ」
持ってない奴からしたら同じだろう、しかし、持って無い奴の方が珍しいかも知れない。
える「営業時間は何時までやっているんでしょうか?」
里志「うん、えーっと」
里志「夜の10時って書いてあるかな」
摩耶花「12時間かぁ、大分楽しめそうだね」
奉太郎(正気か!? 12時間いるつもりか!?)
える「今からとても楽しみです! そこの場所でしたら、バスで1時間程でしょうか?」
里志「そうだね、丁度、僕たちの最寄駅から直行のバスが出てるみたい」
摩耶花「それなら朝は8時30分くらいに学校の前! でいいかな?」
と、ここで水を差す。
奉太郎「各自、別々に行って、遊園地前で集合でいいんじゃないか」
摩耶花「そんな事したら、あんた何時に来るか分かったもんじゃないでしょ」
奉太郎(確かに、ごもっとも)
里志「はは、じゃあ集合時間は8時30分! 場所は学校の前って事で!」
える「了解です! 後は、他に決めることはありますか?」
里志「そうだねぇ」
すると里志は、何か含んだ言い方で続けた。
里志「……そういえばさ」
里志「次の月曜日って休みじゃない?」
える「次の月曜日……そうですね、祝日ですので」
里志「じゃあ泊まりで行こうか!」
おい、ふざけるな。
冗談じゃない。
とは言えず、もっともらしい意見を述べてみる。
奉太郎「おいおい、泊まるにしてもホテルとかどうするんだ」
里志「その辺は抜かり無し! 」
里志「どうやら、このチケットにはホテルも付いているんだよ」
里志「日帰りでもいいらしいけど、皆はどっちがいいかな?」
なんと言うことだ、全く。
摩耶花「じゃあ、泊まりで行きたい人!」
える「はい!」
里志「はーい」
奉太郎「……」
伊原の何か悲しい物を見る眼で見られると、さすがの俺も、ちと悲しい。
摩耶花「……日帰りで行きたい人」
奉太郎「はい」
即答、だがそれに返す伊原も即答。
摩耶花「じゃあ、泊まりでいこうか」
奉太郎(はあ……)
える「そうですね! 今日の夜、寝れるか心配です」
奉太郎(まだ木曜日だぞ!? 行く頃には千反田、倒れているのではないだろうか)
里志「じゃ、準備とかは各自で済ませておくとして……今日は解散しようか?」
える「分かりました、もう大分日も暮れてきてますしね」
千反田の言葉を聞き、腕時計に目をやる。
奉太郎(いつの間にか、もう17時か)
奉太郎「よし、帰ろう」
摩耶花「あんた、今の一瞬だけやる気出てたわね……」
奉太郎「気のせいだ」
確かにそれは気のせいだ、日帰りがいい人の挙手の時だってやる気はあった。
里志「あはは。 じゃあ僕は摩耶花とこの後、買い物に行かないといけないんだ」
里志「という訳で、お先に帰らせてもらうね」
と言いながら、既にドアに手を掛けている。
奉太郎「じゃあなー」
止める必要も特にないし、友人を見送る。
摩耶花「折木、あんた日曜日ちゃんと来なさいよ、遅刻しないでね」
おまけで、伊原も。
奉太郎(親にしつけられる小学生の気分が少し分かった気がする)
える「はい、では、また明日!」
残された部室には、俺と千反田。
奉太郎(千反田と二人っきりになってしまった)
奉太郎(と言っても、もう生徒はほとんど帰っている)
奉太郎(今から、例の気になりますが出たとしても、明日には持ち越せそうだな)
える「はい!」
える「……あ」
千反田が口に手を当て、何かを思い出した仕草を取る。
奉太郎「ん? どうした」
える「鞄を教室に置いたままでした」
こいつはしっかりしているが、どこか抜けている所もある、そんな奴だ。
える「取ってくるので、折木さんはお先に帰っていてください。 すいません」
奉太郎「いや、昇降口で待ってるよ」
奉太郎(待ってる分には無駄なエネルギーを抑えられるしな)
える「そうですか、では私は一旦教室まで行くので、また後で」
奉太郎「ああ」
~階段~
奉太郎「今日は疲れたな」
奉太郎「座っているだけだったが……」
「……でさー」
奉太郎(あれは、漫研の部員達か?)
奉太郎(男子トイレから出てきた? 何をやってたんだか)
奉太郎(まあ、どうでもいいか)
千反田が居たら、ほぼ、気になりますと言っていたであろう。
だが幸い、今は千反田が居ない。
今日はつくづく運が悪いと思っていたが、そうでもないかもしれない。
奉太郎(遅いな、あいつ)
える「折木さーん!」
奉太郎(優等生が廊下を走っている、中々に面白い)
える「すいません、教室に鍵が掛かっていまして、職員室まで取りに行っていたら遅れてしまいました」
奉太郎「いや、気にするな」
奉太郎「待ってる分には、疲れないしな」
と伝えると、千反田は幾分か嬉しそうな顔をした。
える「……はい!」
える「では、帰りましょうか」
~帰り道~
える「……折木さんは」
若干言いづらそうに、俺の方に顔を向けてきた。
奉太郎「ん?」
える「折木さんは、遊園地は楽しみではないのですか?」
そういう事か、まあ内心、ほんの少しでは楽しみでは……あるかもしれない。
奉太郎「……疲れる事はしたくないからな」
える「そう、ですか……」
千反田は悲しそうにそう言うと、黙りこくってしまう。
奉太郎「でも、まあ」
える「?」
奉太郎「たまには、悪くないかもしれない」
奉太郎「良くはないが……」
ああ、全くもって良くはない。
良くも悪くも無い、つまり普通。
える「……ふふ」
お嬢様らしく、上品に笑うと、千反田は嬉しそうに前を向いた。
奉太郎(……ま、別にいいか)
える「あ、折木さんの家はあちらでしたよね」
いつの間にか、家の近くまで来ていた様だ。
奉太郎「ああ、そうだな」
える「では、ここで失礼します」
える「また明日、学校で」
奉太郎「ん、気をつけてな」
える「……はい!」
奉太郎(一々、ニコニコしながらこっちを見るな……全く)
.............
時が経つのは早いとは言うが、あっという間に金曜日が終わり、既に土曜日の夜になっていた。
楽しい時間はすぐに過ぎるとはよく言ったものだ。
俺は、楽しい等と思ってはいないと思うが……
とにもかくにも、現在は土曜日の夜7時。
準備が丁度終わり、リビングでゆっくりと無為な時間を過ごしている所だ。
見ていた時代劇も終わり、CMに入ったところで電源を切る。
奉太郎(コーヒーでも飲むか)
と思い、台所へ足を向ける。
すると突然、電話が鳴り響いた。
周りを見渡すが、他に出てくれる人など居ない。
奉太郎(にしても、誰だ、こんな時間に)
傍から見たら、面倒くさそうに受話器を取る。
奉太郎「折木ですが」
向こうから聞こえてきた声は、俺の見知った人物の物であった。
える「折木さんですか? こんばんは」
奉太郎「あ、こんばんは」
急に挨拶をされ、思わず挨拶を返してしまう。
奉太郎「千反田か、何か用か?」
える「えっと、今からお会いできますか?」
奉太郎(今から? 外に出るのは御免こうむりたい……)
奉太郎「えーっと、用件が全く飲み込めないんだが」
える「あ、すいません! お渡ししたい物があるんです」
奉太郎「明日どうせ会うだろう、その時でいいんじゃないか?」
える「いえ、今でないとダメなんです!」
こうなってしまうと、断るのにも中々エネルギー消費が著しい。
仕方ない……が、家から出るのは如何せん回避したい。
奉太郎「……分かった、だが家から出るのが非常に面倒くさい」
える「それなら丁度よかったです、今から折木さんの家に行くつもりでしたので」
さいで。
える「はい!」
そう言うと千反田は電話を切った。
自転車で来れば、結構すぐに着くだろう。
と言っても20分、30分程は掛かるだろうが。
そして俺は元々の目的のコーヒーを淹れ、再びテレビを付ける。
テレビでは「移り変わる景色」等といって、世界の情景等を流していた。
それを見ながらコーヒーを啜る。
そうして又も無為な時間を過ごす。
奉太郎(幸せだ)
最後の景色が映し終わり、番組は終了した。
ふと、時計に目をやると、時刻は20時30分。
奉太郎(電話したのが、確か19時くらいだったか……?)
奉太郎(ってことは、1時間30分経っているのか?)
奉太郎(何をしているんだ、あいつは)
と思った所で、狙い済まされたかの様にインターホンが鳴る。
俺は若干固まった体を動かし、玄関のドアからのそのそと顔を出す。
そこには、予想通りの人物が顔を覗かせていた。
える「あ、折木さん! こんばんは」
奉太郎「随分と遅かったな、何かあったのか?」
える「何か……という程の事ではないのですが、自転車がパンクしてしまいまして」
自転車がパンク? それは不幸な事で……というか。
奉太郎「お前、歩いてきたのか?」
える「ええ、体力には自信があるんです!」
いやいや、体力に自信があっても、結構な距離、ましてや夜だ。
奉太郎「用件ってのは、なんだったんだ」
える「そうでした、えっと」
おもむろに、バッグに手を入れ、物を取り出した。
える「これです!」
これは……
奉太郎「お守り?」
える「はい!」
奉太郎「これを届けに、わざわざきたのか」
える「ええ、今日の内に渡したかったんです」
える「遠くに出かけるので、是非!」
遠くと言うほどの遠くではないだろう。
いや、こいつにとっては遠くなのかもしれないか。
というか、だ。
これなら別に明日でも構わなかったんじゃないだろうか。
その疑問を、言葉にする。
奉太郎「明日でも良かったんじゃないか? これなら」
える「いえ、その」
える「福部さんと摩耶花さんには、秘密で……内緒で渡したかったんです」
千反田は少し恥ずかしそうにそう告げると、口を閉じた。
ああ、こいつはそんな事の為にわざわざ家まで来たというのか、歩いて、一時間半も。
顔が少し熱くなるのを俺は感じた。
える「いえ、本当は金曜日に渡せればよかったんですが」
える「ご利益があるお守りも、手に入れるのは難しいんですよ」
奉太郎「すまないな、わざわざ」
える「気にしないでください、私が急に押しかけた様な物ですから」
全く、なんだと思えばお守り一個とは。
まあ、嬉しくないと言えば嘘になる。
える「では、私はこれで帰りますね、また明日、お会いしましょう」
と言い、千反田は再び歩き出そうとする。
奉太郎(これは俺のモットーには反しない……やらなくてはいけない事、だ)
奉太郎「千反田」
後ろ姿に声を掛けると、すぐに千反田は振り返った。
奉太郎「その、送って行く、家まで」
千反田から見たら、俺は随分と変な顔になっていただろう、多分。
える「え、悪いですよ、そんな」
奉太郎「今から歩いて帰ったら大分遅い時間になるだろ、危ないしな」
頭をボリボリと掻きながら、そう告げる。
千反田は少し考えると、笑顔になり、答えた。
える「……では、お願いします」
奉太郎「……ああ」
さすがに、歩いて行くのは遠すぎる。
そう思い、自転車を出し、千反田に後ろに乗るように促した。
奉太郎(なんにでも好奇心があるのか、こいつは)
千反田を後ろに乗せ、家に向かう。
道中は特にこれと言って、会話という会話は無かった気がする。
気がする、というのも変な言い方だが、俺もどうやら緊張していた様だ。
覚えていないのは、仕方ない。
楽しい時間はすぐに過ぎる……等言ったが、あの言葉は概ね正しいのかもしれない。
千反田の家には、思いのほか早く着いた。
える「折木さん、ありがとうございました」
奉太郎「いや、こっちこそ、お守りありがとな」
千反田は優しそうに笑うと「では、また明日」と言い、家の中に入っていった。
俺はそのまま、まっすぐ家に帰るつもり……だったのだが、どうにも気分が乗らず公園に寄る。
この公園というのも、神山市では随分と高い位置に設置されており、景色は結構な物だ。
滑り台に座り溜息を付くと、神山市の夜景を眺めた。
先ほど家で見た「移り変わる景色」程では無いが、中々に美しかった。
俺は、何故か心に少し残るモヤモヤを洗い流せないかとここに来たのだが……どうやら数十分経っても、消えそうには無かった。
第一話
おわり
どうにも寝心地が悪く、目が覚めた。
時計に目をやると、時刻は5時。
奉太郎「なんだ、まだ5時か……」
今日は8時30分に、学校の前で集合の予定となっている。
それもそう、遊園地に古典部で遊びに行く、という里志の粋な計らいによって、だ。
奉太郎(二度寝したら、寝過ごしそうだな)
そう思い、ベッドからのそのそと這い出る。
奉太郎(少し早い気もするが、仕度するか)
洗面所に行き、寝癖を流し、歯を磨き、顔を洗う。
朝飯にパンを一枚食べ、コーヒーを飲む。
大分時間を使ったと思ったが、時刻はまだ5時30分であった。
奉太郎(後3時間もあるな……どうしたものか)
着替えを済ませると、外に出た。
柄にも無く、少し散歩でもしようと思い至ったからである。
奉太郎(さすがに、まだ朝は寒い)
まだ薄っすらと暗い空の下、目的地も無く歩いた。
20分ほどだろうか、神社が視界に入ってくる。
奉太郎(特に頼む事など無いが、寄ってみるか)
長い階段を半ば程まで上ったところで、若干後悔したが。
一番上まで到達し、息が少し上がる。
ふと、人が居るのに気付いた。
奉太郎(あれは……)
すると、そいつがこちらに振り向く。
千反田はどうやら、少し驚いた様子。
無論、俺も多少驚いた。
一呼吸程の間を置くと、こちらに向かってきた。
える「折木さん、おはようございます。 どうしたんですか?」
奉太郎「少し早く起きすぎてしまってな、ちょっと、散歩を」
える「ふふ、珍しいですね」
奉太郎「里志風に言うと、世にも珍しい散歩する奉太郎って所か」
える「い、いえ! 折木さんも、お参りとかするんだな、と思っただけです」
奉太郎「いや、たまたま寄っただけだ」
奉太郎「お参りって程でも無い」
える「そうですか、では少し、お話しませんか?」
特にこれといってする事が無かったので、丁度いい。
奉太郎「ああ、じゃあ公園にでも行くか」
える「はい!」
~公園~
公園に入ったところで、千反田が口を開いた。
える「ここの公園、私……好きなんですよ」
奉太郎「そうなのか、俺も別に嫌いではないな」
そう言いながら、自販機に小銭を入れる。
温かいコーヒーを買い、続いて紅茶を買う。
奉太郎「お礼といっちゃなんだが、おごりだ」
える「ええっと、お礼……というのは?」
奉太郎「昨日のお守り、飲み物一本で釣り合うとは思えんがな」
奉太郎「また今度、何か渡すよ」
そう言うと千反田はベンチに座りながら、答えた。
える「いえ、大丈夫ですよ。 お気持ちだけで」
俺は「そうか」と言い、千反田の横に座る。
公園の時計によると、現在は6時を少しまわった所だ。
ところで、この公園というのも随分と辺境な場所にあり、知っているのは好奇心旺盛な小学生くらいだろう。
……無論、俺が知っているのは里志に教えてもらったからだが。
神山市を朝日が照らす。
千反田がこちらを向き、嬉しそうに言う。
える「私、この景色が好きなんです」
える「朝早く起きたときは、いつもここに来ているんですよ」
そう言う千反田の瞳は、太陽の光が反射し、眩しかった。
奉太郎「そうか、俺は夜景が好きだな」
もっとも、朝日を見るのにここまでわざわざ来ることが無いというのが1番の理由だ。
奉太郎「でも、綺麗だなぁ」
える「はい、今度、夜景も見に来てみますね」
その後は少しだけ雑談をして、千反田は仕度があるので、と言って帰っていった。
まあ、女子ならば色々と準備に時間がかかるのだろう、良くは分からん。
俺もそのまま家に戻り、後は時間が来るまで、ぼーっとしていた。
ぼーっとしすぎて、集合時間に遅れそうになったのは笑えなかったが。
そんなこんなで、今はバスに揺られている。
横で里志が、外に見える景色について様々な雑学を披露しているのを聞き、目を瞑る。
そうやって何も考えずにしているだけで俺は充分に幸せなのだが、里志が唐突に声を掛けてきた。
里志「そういえば、ホータロー」
奉太郎「……ん」
里志「ホータローってさ、遊園地の乗り物、楽しめるのかなって思ったんだけど」
里志「どうなのかな?」
奉太郎「まあ、それなりには楽しめるんじゃないか」
奉太郎(俺も人並みには楽しめるだろう、恐らく)
すると伊原が、後ろから突然話しかけてくる。
摩耶花「折木って、アトラクションを楽しめそうにないよね」
失礼な奴だ、全く。
それを口に出して反論しようとしたが……
える「折木さん!」
今にも食ってかからん、といった距離まで千反田が顔を近づけてきた。
奉太郎「な、なんだ」
俺が若干引くも、千反田は更に距離を詰め、パンフレットを指差しながら言う。
える「私、このジェットコースターという乗り物が……」
える「気になります!」
さいで。
里志「はは、確かにそうだね、じゃあ最初に行こうか?」
摩耶花「私はちょっと怖いけど……いいよ、賛成」
える「ありがとうございます。 折木さんも行きますよね?」
ああ、参ったな。
俺は乗らないつもりだったんだが、どうやらこの流れだと全員で乗ることになりそうだ。
別に俺は、絶叫系という奴が苦手という訳ではない。
だけど、ジェットコースターは如何せん……
~遊園地~
里志「うわあ、さすが、すごかったね」
える「わ、わたし、ちょっと怖かったです」
摩耶花「私も怖かった……でも、すごかったね」
里志「あれ、ホータローは?」
奉太郎「すまん、ちょっと気持ちが悪い」
如何せん俺は、酔うのだ。
摩耶花「ええ、あんたジェットコースターでも酔うの?」
奉太郎「わ、悪かったな」
里志「ホータロー……」
哀れみの目で俺を見るな。
える「折木さん、大丈夫ですか?」
摩耶花「もー、しょうがないわね」
なんとも情けない。
俺が既に帰りたくなっていると、遠くからパレードらしき音が聞こえて来る。
里志「おわっ! なんだあれ? ちょっと行ってくる!」
里志はどうやら、そっちに更なる興味を惹かれ、パレードへ向かって走っていった。
摩耶花「ちょ、ちょっとふくちゃん!」
伊原もそれを呼び止めようとし、無理だと悟ると追いかけようとするが、俺と千反田を見て一瞬躊躇う。
その一部始終を見ていた千反田は言った。
える「大丈夫ですよ、摩耶花さん、折木さんは私が見ていますので」
摩耶花「う、うん……ごめんね、ちーちゃん、折木」
奉太郎「……いいから早く行って来い、里志が迷子になる前に」
それを聞くと、伊原は申し訳なさそうな顔を再度こちらに向け、里志の後を追って行った。
奉太郎「すまんな、千反田」
える「いえ、私の方こそ、無理やり乗せてしまったみたいで……」
こいつは、人を責めると言う事をしない。
だからたまにそれが、辛く感じてしまう。
しかし、それもこいつのいい所ではあるのだろう。
それからはしばらく木陰で休み、千反田が飲み物やらを用意してくれたお陰で、すっかりと体調はよくなった。
起き上がり、礼を言う。
える「いえいえ、とんでもないです」
える「それより、福部さんと摩耶花さんと、合流しましょう」
ふむ、そうだな、合流しよう。
どうやって?
奉太郎「そうだな、じゃあどうやって合流しようか」
千反田もようやく合流する方法がない事に気付いたのか、若干気まずそうに言う。
える「ええっと……探しましょう!」
という訳で、俺と千反田は里志と伊原を探すことになった訳だが……
える「折木さん! あの乗り物に乗ってみたいです! 私、気になります!」
える「折木さん! あのぐるぐる回っている物はなんでしょうか? 私、気になります!」
える「折木さん! あそこは何を売っているのでしょうか? 私、気になります!」
える「折木さん!」
こんな具合で、目的はすっかりと入れ替ってしまっていた。
だが、千反田もいざ乗る前となると「折木さん、大丈夫ですか?」と聞いてくるので、かなり断り辛い。
まあ、酔うのはジェットコースターくらいで、問題はないのだが。
奉太郎(しかし)
奉太郎(これはもしかして、デートという奴になるのか)
それを意識しだすと、なんだか妙に恥ずかしい。
千反田は全く気付いていない様子だ。
ま、別にいいか。
ただ、二人でコーヒーカップに乗ったときは、かなり恥ずかしかった。
奉太郎「それにしても」
奉太郎「本当に初めてだったんだな、遊園地」
える「ええ、見るもの全てが気になってしまいます!」
奉太郎(それは、良かったです)
散々動いたせいか、少し腹が減ってきた。
気付けば太陽は頂上を通り越している。
なるほど、腹が減る訳だ。
奉太郎「千反田、どこかで飯を食べないか?」
える「そう、ですね。 私もお腹が減ってきてしまいました」
奉太郎「決定だな、どこか近くの店に入ろう」
える「はい!」
俺は辺りを見回し、ファミレスらしき建物を見つけた。
奉太郎「あそこにするか」
ファミレスに入ると、店内は結構な賑わいをかもしだしている。
席に案内され、千反田と一緒に腰を掛ける。
奉太郎(何を食べようか)
メニューを見ながらどれにするか悩む。
千反田はというと、とても真剣にメニューを見ていた。
奉太郎(そこまで必死に見なくても、メニューは逃げないぞ)
奉太郎(に、しても)
「それでさ、あれはそう言う訳であそこにあるんだよ! 分かった?」
「へえ、そうなんだ。 じゃあ、あれは?」
奉太郎(後ろがやけに騒がしいな)
そしてその、後頭部を持った人物の向かいに座っている奴が声をあげた。
摩耶花「あれ? 折木?」
後頭部も気付いたのか、こちらを振り向く。
里志「ホータローじゃないか! こんな所で何をしているんだい」
あのなぁ。
える「あれ? 福部さんに、摩耶花さん!」
摩耶花「ちーちゃんも! 変な事されなかった?」
最初に聞くのがそれなのか、納得できん。
里志「あはは、ごめんね。 ついつい見たいものがありすぎて」
奉太郎「千反田が乗り移りでもしたか」
奉太郎「ま、別にいいさ、俺のせいで回れないって方が嫌だからな」
摩耶花「ちーちゃんは折木のせいで回れなかったんじゃないー?」
失礼な、しっかり回った……もとい、振り回された。
える「そんな事ないですよ! 色々な乗り物に乗ってきました!」
と、ここで里志は余計なひと言。
里志「色々、ね。 デートみたいに楽しめた訳だ」
一瞬の沈黙。
千反田はそれを聞くと、顔を真っ赤にして必死の言い訳を始める。
える「そ、そんなんじゃないです! ただ、折木さんと一緒に観覧車やコーヒーカップに乗っただけで……」
ああ、そこまで詳細に言う必要は無いだろう。
里志「千反田さん! 世間一般ではね、それをデートっていうんだよ」
こいつはまた、余計な事を。
そう言うと、千反田は顔を伏せてしまった。
奉太郎「はあ」
摩耶花「やっぱりしてたんじゃない、ヘンな事」
おい、それだけで変な事扱いとは、世の中の男はどうなる。
奉太郎「大体だな、本当にただ一緒に回っていただけだぞ」
奉太郎「お前らだって、気になる物があったら見て回るだろ、里志もさっきそうだったように」
そこまで言って、これは俺のモットーに反する事ではないか、と思い始めた。
しなくてもいい事。だったのでは、と。
里志「はは、ジョークだよ。 ごめんね、千反田さん、ホータローも」
奉太郎「俺は、別にいい」
える「い、いえ、大丈夫です。 気にしないでください」
そう言うと、千反田はようやく顔をあげた。
それからは、席を4人の所に移してもらい、談笑しながら飯を食べる。
一通り食べ終わり、会計を済ませ、店を出ようとした所で、千反田がなにやら言いたそうにこちらを見ていた。
奉太郎「千反田、どうかしたのか」
千反田は、伊原と里志に聞こえてないのを確認し、こう言った。
える「あの、折木さん、さっきはありがとうございました」
なんだ、そんな事か。
軽く返事をし、行こうとすると。
える「でも、勘違いされたままでも、私は気にしませんよ」
言われたこっちが恥ずかしくなる。
別に俺も、そのままでも良かったんだが……疲れるしな。
しかし「俺もそのままでも良かった」とは、いくら言おうとしても、何故か言葉にできなかった。
出てきたのは「ああ、そうか」という無愛想な返事。
……お化け屋敷に行ったときの伊原の怖がりっぷりは、是非とも永久保存しておきたかった。
……夜のパレードを見て、千反田は目をキラキラと輝かせていた。
……里志はと言うと、相変わらずすぐにどこかえ消え、気付いたら戻ってきてる、と言った感じだ。
やはり、楽しい時間はすぐに過ぎるのだろうか。
俺も別段、人が楽しめる事を楽しめない……と言った訳でもない。
人並みには、楽しめる。
間もなく閉園時間となり、朝の内にチェックインしてあったホテルへと帰って行く。
俺はすぐにでも寝たかったのだが、里志のくだらない与太話を聞かされ、寝たのは大分遅い時間になってしまった。
翌朝、目を覚まし、里志と共に伊原、千反田と合流する。
すると何やら千反田は申し訳なさそうに、頭を下げてきた。
える「すいません、実は家の事情で……」
要約すると、どうやら千反田は家の事情で一足先に帰らなくてはいけなくなったらしい。
携帯を持っていない千反田にどうやって連絡を取ったのかは謎だが……恐らくホテルへ電話が入ったのだろう。
里志と伊原は残念そうにしていたし、俺も少ないよりは多いほうがいい、程には思うので多少は残念だったと思う。
そして千反田を見送り、3人でどうするか話を始める、つまりこれが現在。
里志「さて、と。 どうしようか」
奉太郎「と言われてもな」
摩耶花「うーん、ここにずっと居てもあれだし……とりあえず遊園地に行かない?」
里志「そうだね、折角きたんだし、楽しまなくちゃ!」
奉太郎「……」
里志がまず「ホータローも来るよね?」といい、伊原までもが「折木も来なさいよ?」等というので、仕方なく、参加する。
二人とも、千反田が帰ったことによって多少は寂しかったのかもしれない。
だがやはり、3人で回った所で何か物足りない気分となってしまう。
それは俺以外の二人も感じていた事の様で、昼過ぎ頃には「帰ろうか」という雰囲気になっていた。
荷物を持ち、バスの停留所まで歩く。
伊原と里志がバスに乗り込んだ後で、あることを思い出した。
里志「ホータロー、もう出発しちゃうよ」
里志が未だバスに乗らない俺に向けて言う。
摩耶花「これ逃したら次は1時間後よ? もしかして遊園地が恋しくなった?」
と続けて伊原も言ってくる。
奉太郎「……すまん、ちとホテルに忘れ物をした」
二人とも、呆れた様な顔をし、続ける。
里志「うーん、ま、仕方ないよ、降りよう摩耶花」
里志「それにしても、省エネの奉太郎が忘れ物をするなんて、入学して間もなくを思い出すよ」
摩耶花「もう、しっかりしてよね、折木」
そう言ってくれたが、二人を連れて行くわけには……ダメだ、連れて行くわけにはいかない。
奉太郎「いや、俺だけ次のバスで帰る。 すまないが先に帰っていてくれ」
二人もそれなら……と言った感じで、納得した様子ではあった。
バスを見送り、遊園地に向かう。
ホテルへ忘れ物をした、というのは嘘。
だからといって、一人で遊園地を楽しむぞ! という訳でもない。
一つ、目的があった。
今日の出来事を振り返り、俺は少し眠くなってきた。
奉太郎(もう夕方か)
奉太郎(少し、寝るか)
夢は、特に見なかった。
次に起きた時には、最寄の駅の停留所に居て、バスの乗務員によって起こされた。
奉太郎(体が重い)
奉太郎(帰るか)
辺りは既に暗くなっていて、仕事帰りのサラリーマンが群れをなしている。
奉太郎(祝日まで働いて、大変だなぁ)
それを見て「この二日は、意外と面白かったかもしれない」等、柄にも無いことを考えてしまう。
奉太郎(一週間分くらいは動いたな、この二日で)
奉太郎(いや、二週間か?)
そこまで考え、ああ、これは無駄な事だと思い、放棄する。
俺の視界に我が家が見えてくる、長い二日間も、ようやく終わり。
思えば、省エネとはかけ離れた二日になってしまった。
そんな事を考えながら、重い荷物を背負い、家の扉を開けた。
第二話
おわり
折角皆さんと、遊園地に遊びに行っていたのに、途中で用事が入るなんて……
今日皆さんに会ったら、謝りましょう。
私は、いつもより少し早く目が覚めました。
時刻はまだ、朝の5時。
少しどうするか悩みましたが……決めました!
える(いつもの公園に行きましょう)
そう思い、公園に向かいます。
まだ外は少し暗く、日が昇るのにはちょっとだけ時間がありそうです。
公園の入り口に着き、いつものベンチに座ろうとしたところで、人影があるのに気付きました。
える(あれは……折木さんでしょうか?)
近づいて見たら、すぐに分かりました、やはり折木さんです。
える「おはようございます、折木さん」
える「昨日はその……すいませんでした」
奉太郎「千反田か」
奉太郎「別に気にするほどの事でもないだろう」
える「そうですか、ありがとうございます」
える「今日もお散歩ですか?」
奉太郎「いや、今日はちょっと、用があった」
奉太郎「ここで待ってれば、千反田が来ると思ってな」
はて、私に用事とはなんでしょうか……気になります。
奉太郎「ああ」
すると折木さんは、持っていた袋を私に渡してきました。
可愛らしくラッピングされたそれは、何かのプレゼントの様な……
える「これは、プレゼントでしょうか?」
奉太郎「まあ、そうだ」
どうしてでしょう……何か、今日は記念日なのか……気になります!
える(もしかして、私の誕生日だと思って……?)
える「すいません、私の誕生日はまだ先なんですが」
奉太郎「いや、違う」
奉太郎「それに俺はお前の誕生日を知らん」
える「そ、そうですか。 では、これは?」
奉太郎「この前のお礼だよ、お守りの」
える「あ! そうでしたか。 わざわざありがとうございます」
折木さんがしっかりと覚えていてくれたのは、意外でした。
でも、嬉しかったです。
すると、折木さんはまだ薄っすらと暗い街並みを見ながら答えました。
奉太郎「その、なんだ。 伊原と里志には言わないでくれよ」
える「えっと、でも一緒に買ったのではないんですか?」
奉太郎「いや……あいつらには先に帰ってもらって、後から買って帰ったんだよ」
正直、折木さんがそこまでしてプレゼントを買ってきてくれたと聞いたときは、ちょっと泣きそうになってしまいましたが……
我が子の成長を見守る母親……とはちょっと違います、なんでしょうか。
える「あ、そ、その、ありがとうございます。 とても嬉しいです」
少し、顔が熱いです。
折木さんは「袋は帰ってから開けてくれ」と言うと、帰ってしまわれました。
嬉しくて、上手くお礼を言えなかったのが残念ですが。
私はプレゼントを抱くと、今日が昇ってきた朝日に向かい、頭を下げ、言いました。
える「折木さん、ありがとうございます」
~部室~
里志「いやあ、二日間、お疲れ様」
摩耶花「ちーちゃんも残念だったね、今度また行こうね」
える「いえ、初日で充分に楽しめたので」
える「でも、また機会があったら行きたいです」
える「二日目は急用が入ってしまい、すいませんでした」
里志「千反田さんが謝る事でもないよ。 家の事情なら仕方ないしね」
摩耶花「そうそう、ちーちゃんは忙しいんだから、一々謝らなくてもいいのに」
奉太郎「……そうだな、人間誰しも急な用事はあるものだ」
摩耶花「折木がそれを言うの? あんたに急用入ってる所なんて見たことないんだけど?」
奉太郎「うぐ……」
そう言われ、折木さんは苦笑いをしていました。
摩耶花さんも心の底から言っている言葉ではないみたいですし。
これはこれで、いいコンビなのかもしれません。
摩耶花「あ、そうだちーちゃん」
える「はい?」
摩耶花「昨日の帰りの事なんだけどさ」
摩耶花「ふくちゃん、話してあげて」
昨日の帰りの事……なんでしょうか?
……気になります。
里志「じゃあ聞いてもらおうかな」
里志「ホータローの忘れ物事件、をね!」
それを聞いた折木さんは、少し顔を歪めていました。
里志「前に話した【愛無き愛読書】は覚えているかな?」
里志「あれで分かったこと、事件の内容は勿論だけど……もう一つ」
里志「ホータローは意外と抜けているって事が分かったよね」
里志「それでね、昨日の帰りなんだけど……」
そう言うと、福部さんは昨日の帰り、バスに乗る時にあったことを話してくれました。
それを聞いた私は、ちょっといたずら心を突付かれてしまいます。
える「そんな事が……」
える「折木さん!」
奉太郎「な、なんだ」
える「折木さんが何故、忘れ物をしたのか」
える「何を忘れたのか」
える「そして、それを見つける事が出来たのか」
える「私、気になります!」
折木さんはというと。
奉太郎「い、いや……それは」
と口篭ってしまいました。
少々やりすぎてしまったかもしれません。
その光景を見ていた福部さん、摩耶花さんの方を向き、私は言いました。
える「でも、やっぱり気にならないかもしれません……」
福部さんと摩耶花さんは少し……かなり残念そうな顔をした後に、興味がなくなったのか二人で話し始めました。
える「折木さん」
える「……冗談、ですよ」
える「折木さんがその時に何をしていたか、私、知っていますから」
奉太郎「み、妙な冗談を急に言うな……」
折木さんはそう言うと、手に持っていた小説に再び目を落とします。
なんだか、不思議と気分がよくなります。
部室に集まり、なんでもない会話をする。
これが、私たちの「古典部」です。
2.5話
おわり
後ろから、里志が声を掛けてくる。
奉太郎「里志か」
今は帰り道、時刻は恐らく17時くらいだろう。
里志「いやあ、お見事だったよ」
奉太郎「そんな事は無い。 ただ、集まった物を繋げただけだ」
里志「そうは言ってもね、あれだけの物から結論を導き出すって事は中々容易じゃないと思うなー」
すると里志は、暗い声に反して空を見上げながら言った。
里志「……ホータローも、随分と変わったよね」
俺が? 変わった?
奉太郎「何を見て、お前が変わったと言うのかわからんが」
奉太郎「俺は変わってない」
里志「ふうん」
簡単に説明すると、今日もまた、あいつ……千反田の気になりますをなんとか終わらせた所である。
里志が言っているのは、恐らくその事だろう。
里志「今日の件もそうだけど、今までの事件もね」
奉太郎「それはだな、あいつの事を拒否したらもっと厄介な事になるだろ」
里志「あはは、確かに、間違いない」
里志「でもね、ホータロー」
里志「その厄介な事も、拒否することはできるんじゃないかな?」
奉太郎「お前は何を見て言っているんだ……」
里志「全部、だよ」
里志「僕から見たらね、千反田さんのそれも、今までホータローが拒否してきた人達も、同じに見えるんだよ」
里志「ホータロー、君は自分では気付いていないのかもしれないね」
里志はそう言うと、何か含みのある笑い方をした。
奉太郎「自分の事は、よく分かってるつもりだがな」
里志「……そうかい」
里志「じゃあ、話はここで終わりだね」
里志の話は半分程度しか聞いていなかった気がするが、どうやら案外耳に入っていたらしい。
里志「じゃあね、ホータロー。 また明日」
奉太郎「……じゃあな」
~奉太郎家~
俺は湯船に入り、気持ちを整理した。
里志に今日言われた事について、何故か心が落ち着かない。
奉太郎(俺が変わった、ね)
奉太郎(何を見てるんだか……)
確かに、確かにだ。
高校に入ってから、動く事は多くなったのかもしれない。
それくらいは俺にだって分かる。
いや、高校に入ってからではない。
千反田と、出会ってからだ。
あいつの「気になります」は、何故か有無を言わせず俺を動かす。
それは、今まであいつのようなタイプが居なかっただけで、俺はそのせいで動かされているのだろう。
仮に、里志や伊原の頼み等が来たら……俺はどうするのだろうか。
俺にも人情という物はある。
だがひと言断れば、あいつらは引いていく。
里志は恐らく「そうかい、じゃあ他の人に聞いてみるよ」と。
伊原は恐らく「折木に頼んだのが間違いだった」と。
あいつの「気になります」も、人の秘密やプライベートの事になると、さすがに聞いてはこない。
しかし、最終的に俺は頼みごとを引き受けるだろう。
その原因は、あいつがひと言断っても引かないから。 である。
奉太郎(やはり俺は、変わっていない)
結論は出た、風呂場を出よう。
リビングへ行き、テレビを付ける。
目ぼしい番組がやっておらず、若干テンションが下がる。
あ、テンションは元々低かった。
する事もないので、自室に向かった。
本でも読もうかと思ったが、ベッドに入りぼーっとしていたら、眠気が襲ってくる。
奉太郎(今日は、寝るか)
明日は土曜日、ゆっくりと本を読もう。
こうしてまた、高校生活の一日は消えてゆく。
姉貴によって、起こされた。
奉太郎(今は……10時か、大分寝ていたな)
俺はまだ目覚めていない体を引き起こし、リビングへ向かう。
寝癖が大分酷いが、今日は外には出ない、何があっても。
それにしても騒がしい、テレビでも付いているのだろうか。
リビングと廊下を遮るドアに手を掛け、開ける。
里志「おはよう、ホータロー」
える「おはようございます。 折木さん」
摩耶花「あんたいつまで寝てるのよ」
大分寝ぼけているようだ。
俺はその幻影達に、少し頭を下げると台所へ向かった。
すると、玄関の方から声があがる。
供恵「あー、言い忘れてたけど、友達きてるから」
そうかそうか。
言葉の意味を飲み込み、状況を理解した。
後ろを振り向き、確認する。
変わらずそこには、里志・伊原・千反田。
それと同時に、玄関から出る音がした。
摩耶花「朝から大変ねえ、あんたも」
誰のせいだ、誰の。
里志「それより、ホータロー」
里志「寝癖、直した方がいいんじゃないかな」
ああ、確かにそうだな、ごもっとも。
そして、気のせいかもしれないが、千反田が少しソワソワしながら言った。
える「折木さんの寝癖……少し、気になるかもしれません」
勘弁してくれ。
むすっとした顔を3人に向けると、洗面所へ向かった。
寝癖をしっかりと直し、3人に問う。
奉太郎「それで、なんで俺の家にいるんだ」
里志「えっと、ホータロー、覚えてないの?」
覚えてない、という事は……何か約束していたのだろうか。
摩耶花「3日前に4人で決めたでしょ、ほんとに覚えてないの? アンタ」
3日前……3日前。
4人で話したってことは、放課後だろう。
場所は古典部部室で間違いは無さそうだ。
なんか、思い出してきたぞ……
俺はその日、なんとなくで古典部へと向かった。
部室に入ると、既に俺以外は集まっていた。
何やら3人で盛り上がっているが……ま、いつもの事か。
奉太郎(よいしょ)
いつもの席に着き、小説を開く。
所々で俺に話しかけている気がするが、適当に相槌を打って流していた。
あ、ダメだ。
ここまでしか覚えていない。
~折木家~
奉太郎「なんだっけ?」
溜息が二つ。
里志「覚えてないのかい……」
摩耶花「やっぱり、折木は折木ね」
里志「仕方ない、千反田さん、奉太郎に教えてやってくれないかな」
なんで千反田が。
里志「一字一句、千反田さんなら覚えているでしょ?」
そこまでする必要もないだろう。
える「はい! 分かりました」
える「では、少し演技も入りますが……やらせて頂きます」
そう言うと、一つ咳払いをすると千反田は口を開いた。
里志(える)「うーん、確かにそうだね」
里志(える)「千反田さんの言葉を借りると、目的無き日々は生産的じゃないよ」
摩耶花(える)「まあ、確かにそうだけど……」
える「何かしましょう!」
おお、これは中々に演技力があるぞ。
里志(える)「何か……と言っても、何をしようか」
摩耶花(える)「話し合う必要がありそうね、こいつも入れて」
こいつ……というのは恐らく俺の事だろう。
える「折木さん! 何かしましょう!」
奉太郎(える)「……そうだな」
ああ、空返事していたのか、俺は。
える「折木さんもオッケーらしいです、では一度、どこかに集まって話し合いをしませんか?」
摩耶花(える)「どこに集まろうか?」
里志(える)「ホータローの家でいいんじゃない?」
こいつ、俺が空返事しているのを分かってて言いやがったな。
える「折木さん! 折木さんの家で話し合いをしたいのですが……いいですか?」
奉太郎(える)「……そうだな」
える「大丈夫らしいです!」
摩耶花「なによ」
奉太郎「俺はここまで無愛想じゃないだろう」
里志「ちょっとホータローが何を言ってるのかわからないよ」
摩耶花「いつもあんたこんな感じだけど……」
大分酷い言われようだな。
奉太郎「千反田、もっと俺は愛想がいいだろ」
える「えっと……いつも折木さんはこうですよ」
そうなのか、少しは愛想良くするか。
える「では、続けますね」
里志(える)「そうか、それは良かった!」
里志(える)「じゃあ今度の土曜日、でいいかな?」
える「折木さん、今度の土曜日でいいですか?」
奉太郎(える)「……そうだな」
える「決まりです!」
後半はどうやら、千反田も分かっててやってはいないか?
える「といった感じでした、思い出しましたか?」
里志は苦笑いをし、言った。
里志「まあ、ホータローがちゃんと聞いていなかったのがいけないかな」
里志「流れは分かっただろう? じゃあ何をするか決めようか」
流れは分かったが……納得できん。
しかし、異論を唱えた所で聞いてはもらえないのは明白だった。
える「そうですね、まずは意見交換から始めましょうか」
奉太郎「今のままでいいと思います」
摩耶花「折木、少し黙っててくれない?」
視線が痛い、仮にもここは俺の家だぞ。
里志「千反田さんは、何か意見あるのかな?」
える「そうですね……やはり古典部らしく」
そこで一呼吸置くと、千反田はもっともな意見を述べる。
える「図書館に行きましょう!」
里志「いい意見だね、確かに古典部らしい」
摩耶花「うん、私もいいと思う」
ダメだ、これだけはなんとか回避せねば。
奉太郎「ちょっといいか」
伊原からの視線が痛い、まだ意見も言っていないのに。
奉太郎「千反田が言っているのは、当面の目的という事だろう」
える「はい、そうですね」
奉太郎「これから毎日図書館に行くのか? そこで本を読むだけか?」
える「そう言われますと……確かに少し、違いますね」
伊原は尚も何か言いたそうに見てくるが、反論する言葉が出てこないのだろう、口を噤んでいた。
里志「ホータローの言う事にも一理あるね、確かにそれじゃあただの読書好きの集まりだ」
そのあとの「読書研究会って名前に変えないかい?」というのは無視する。
摩耶花「じゃあ、折木は他に目的あるの?」
これには困った。
奉太郎「と言われてもな……ううむ」
里志「あ、こういうのはどうかな」
里志「一人一つの古典にまつわる事を考え、まとめ、月1で発表するっていうのは」
中々にいい意見だ。
だが、月1? 冗談じゃない、頻度が多すぎる。
奉太郎「ちょっといいか」
……伊原の視線がやはり痛い。
奉太郎「最初の内はいいかもしれない、だがその内、発表の内容が同じ内容になってくるぞ」
奉太郎「同じ奴が考える事だしな」
伊原は又しても何か言いたそうだが、反論は出てこない、なんかデジャヴ。
里志「そう言われると、困ったね」
里志「僕じゃあ結論を出せそうにないや、それに」
里志「データベースは 摩耶花「ちょっといいかな?」
あ、里志がちょっとムスッとしている。
摩耶花「文集を1冊作るっていうのは」
なるほど、4人で一つを作れば内容は変化していく、確かにこれなら同じような内容にはならないかもしれない。
だけど、やはり却下。
奉太郎「確かに、それなら問題ないな」
摩耶花「じゃあ!」
奉太郎「だが、文集にするほどネタがあるか? 第一に、誰が読むんだ? それ」
摩耶花「……確かに、そうだけど」
おし、やったぞ、全部却下できた。
摩耶花「じゃあさ、折木は何か意見あるの? さっきから反論してばっかじゃない」
里志「それは僕にも気になるとこだね」
える「私も少し、折木さんの意見に興味があります」
ここまでは、予想通り。
問題はこれから。
奉太郎「こういうのはどうだろう」
奉太郎「今までのままで行く」
伊原が今にも殴りかかってきそうな顔をする。
奉太郎「だが」
奉太郎「何か古典に関係しそうな事……それがあったら、皆で話し合う」
奉太郎「そうすればネタも尽きる事はないし、同じ内容になることもないだろ」
俺の今年一番の強い願いはこれになりそうだ。
そんな願いが通ったのか、3人が口を開いた。
里志「ホータローが言うと、説得力に欠けるけど……言ってる事は正しいね」
える「私は、それでいいと思います。 いい意見です」
摩耶花「なんか納得できないけど……言い返す言葉も出てこないし、それでいい、かな」
ガッツポーズ、心の中で。
奉太郎「おし、それじゃあ今日は解散しようか」
これで、俺の休日は守られる。
里志「いや、そうはいかないんだよ」
まだのようだ。
里志「千反田さんが、何か気になる事があるみたいなんだよね」
千反田がソワソワしていたのは、それが原因か。
える「そうなんです! 私、気になる事があるんです!」
さいで。
える「折木さんにお話しようかと思っていて、聞いてくれますか?」
俺が断る前に、千反田は続けた。
える「私、いつも22時頃には寝ているのですが」
奉太郎(早いな)
える「今日は8時に学校の前に集合でした、折木さんのお家に皆で行くことになっていたので」
える「ですが私、少し寝坊してしまったんです、お恥ずかしながら」
える「何故、寝坊したのか……気になります!」
奉太郎(知りません)
奉太郎「と言われてもだな、誰しも寝坊くらいはするだろう」
里志「ホータロー、寝坊したのは千反田さんだよ?」
里志「僕やホータローが寝坊するのならまだ分かるけど……千反田さんが予定のある日に寝坊するって事は」
里志「少し、考えづらいかな」
確かに、あの千反田が寝坊というのはちょっと引っかかる。
奉太郎「だが情報が少なすぎる、考える事もできんぞ、これは」
今ある情報といえば
・千反田が寝坊した
・普段は22時に寝て、6時に起きている
・予定がある日に寝坊するのは、千反田なら普通あり得ない
この3つだけ。
奉太郎「何か他にないのか?」
える「他に、ですか……」
える「そういえば、お休みの日はいつも目覚まし時計で起きているんです、今日も勿論そうです」
える「確かに目覚ましで起きたはずなんです、ですが、居間の時計を見たら既に約束の時間が近かったんです」
奉太郎(目覚ましで起きている、か)
える「それはありえません。 いつも21時のテレビ番組に合わせて直しているんです」
テレビに合わせている、となればまず狂っていないだろう。
奉太郎「その時計が壊れていた、というのは?」
える「それもあり得ません、先月に買ったばかりなんです」
思ったより、厄介な事になってきた。
奉太郎「目覚ましで起きたのは確かなんだな?」
える「ええ、それは間違いありません」
奉太郎「という事は、やはり目覚ましがずれていたのは間違いなさそうだな」
える「えっ、なんでそうなるんですか」
奉太郎「千反田は寝坊したんだろう? それで遅刻したと」
える「私、遅刻していませんよ?」
ん? なんだか話が噛み合っていない。
奉太郎「お前は寝坊して、遅刻したんじゃないのか?」
える「ええ、確かに寝坊はしました、ですが集合時間には間に合いました」
さいですか。
奉太郎「じゃあ、寝坊して遅刻しそうになった。 これでいいか」
える「はい、そうですね」
奉太郎「……続けるぞ、少し考えれば分かる」
奉太郎「遅刻しそうになったってことは、正しかったのは居間の時計だ」
奉太郎「目覚ましが正しかったら、遅刻しそうにはならないだろう」
える「あ、なるほどです!」
こいつは、頭がいいのか悪いのか、時々分からなくなる。
一般的にはいい方だろうけど。
奉太郎(少し、考えるか)
……21時に合わせている時計
……22時に寝て、6時に起きる千反田
……ずれていた目覚ましと、居間の時計
なるほど、簡単な事だ。
里志「ホータロー、何か分かったね」
奉太郎「まあな」
える「なんですか? 教えてください!」
摩耶花「全然わからないんだけど……なんで?」
一呼吸置き、まとめた考えに間違いは無いか確認し、口を開く。
奉太郎(これで、大丈夫だ)
奉太郎「千反田はいつも目覚ましを21時に合わせて寝ている」
奉太郎「次に、その目覚ましで起きている」
奉太郎「そして何故、今日は遅刻したか」
える「私、遅刻していませんよ」
……どっちでもいい。
奉太郎「遅刻しそうになったか」
と言い直すと、千反田は少し満足気だ。
奉太郎「考えられるのは目覚ましの故障、または時間を間違えて設定した。 これのどちらかだ」
奉太郎「故障は考えから外そう、これを考えたらキリが無い」
摩耶花「でも、時間を間違えて設定したってありえるの?」
摩耶花「テレビが間違えているとは思えないんだけど」
奉太郎「確かにその通り、テレビはまず、正確に放送をしている」
摩耶花「だったら……」
奉太郎「だが、例外もある」
える「例外……ですか?」
奉太郎「里志、この時期にテレビ番組をずらす例外といったらなんだ?」
里志「プロ野球、だね」
奉太郎「そう、俺は野球に詳しくないからしらんが、何回か影響でテレビ放送を繰り下げているのは見ている」
奉太郎「つまりこういう事だ」
える(奉太郎)「あー今日も動いたなぁ、寝よう寝よう」
える(奉太郎)「あ、目覚まし時計を設定しないと、めんどうだな」
える(奉太郎)「テレビ、テレビっと」
える(奉太郎)「丁度21時の番組がやっている。 よし、ぴったし」
える(奉太郎)「さてと、今日は寝よう、おやすみなさい」
奉太郎「で翌朝起きたら寝坊していた、ってとこだろう」
何か、空気が冷たい。
里志「ホータローは、演劇とかをやらない方がいいかもね」
摩耶花「……同意」
える「……私って、そんな無愛想ですか?」
奉太郎「……」
少し、恥ずかしいじゃないか。
える「なるほどです!」
える「今度から違う番組も、チェックしないとダメですね……」
むしろ居間の時計に合わせればいいと思うのだが、習慣というものがあるのだろう。
奉太郎「でも、なんでいつもは起きている時間に自然に起きなかったってのが分からないけどな」
奉太郎「体内時計というのもあるだろう」
える「実は、昨日は少し寝るのが遅くなってしまったんです」
夜更かしか、そういうタイプには見えなかったが。
里志「なるほどね、それで自然に起きる時間も来なかったっていう訳だ」
奉太郎「それなら納得だな、なんか気になる物でも見つけたのか?」
える「気になる、と言えばそうかもしれないですけど」
折角終わりそうになったのに、また始まるのか?
今日はもう疲れたぞ、一日一回という制限でも付けておこうか。
える「少し、折木さんの家に行くのが楽しみで……寝れなかったんです」
さいで。
第三話
おわり
奉太郎(折角の休みがあいつらのせいで一日潰れてしまった)
奉太郎(そしてもう日曜日も終わり……か)
明日からまた1週間、学校に行き、古典部の仲間と会う。
最近では、意外と馴染んでいると思う。
薔薇色に俺もなっているのだろうか。
だけど、だ。
省エネは維持しているし、頼みなんて物は滅多に聞かない(あくまで千反田を除いて、あいつのは断ると余計に面倒なことになる)
ああ、少し安心する。
俺は……まだ灰色だ。
少しの安心感が得られた。
何故? 慣れた環境の方がいいだろう、誰だって。
そんな事を考えている間にも、時はどんどんと進む。
そして気付けば月曜日、1週間が始まった。
今日も、【灰色】の高校生活は浪費されていく。
今日は登校中里志に会わなかった、委員会か何かがあるのだろう。
奉太郎(ご苦労なこった)
昇降口に入り、下駄箱で靴を履き替える。
階段を上り、教室まで向かった。
途中、何やら話し声が聞こえてきた。
一つは見知った者の声、もう一つは……分からない。
恐らく女子だろう。
恐らくというのも、女声の男子も少なからず居るからである。
える「そう……すね、今……、って……ます!」
途切れ途切れで千反田の声が聞こえた。
盗み聞きをする趣味もないので、そのまま教室へと向かう。
千反田が話している相手は、どうやら漫研の部員であった。
奉太郎(何か、嫌な事でもあったのだろうか)
奉太郎(まあ、どうでもいいか)
一瞬見た顔は、どうにも俺とは相性が悪そうだ。
俗に言う派手な女子、といった所だろう。
髪を金髪に染めていて、スカートはやけに短い。
そいつと千反田が話していたのは少々意外ではあった。
しかし、俺も人の交友関係にまで口を出すつもりなんてない。
千反田が誰と話そうとあいつの勝手だし、何よりめんどうだ。
少々気にはなったが、そのまま通り過ぎた。
教室に入り、いつもの席に着く。
いつも通り、いつもの風景。
やがて担任が入ってき、退屈な授業が始まる。
俺は、これといって成績が優秀って訳でもない。
なので授業は一応必死に聞いている。
人間必死になっていれば、時間はすぐに終わる物だ。
あっという間に昼になり、弁当を広げた。
姉貴が作ってくれる弁当は、いつも購買で済ませている俺にとってはありがたい。
突然、教室の後ろのドアが勢いよく開き、俺を呼ぶ声が聞こえてきた。
里志「ホータロー! ちょっといいかい」
俺は無言で弁当を指す。
これを食ってからにしろ、と。
苦笑いしつつ、里志はそのまま教室に入ってくると俺の目の前の席に腰掛けた。
里志「つれないねぇ、ホータロー」
奉太郎「やらなくてもいいことはやらない」
里志「はは、久しぶりに聞いた気がするよ」
奉太郎「それで、用件はなんだ?」
里志「今日、帰りにゲームセンターでも行こうかなって思っててね」
里志「ホータローも一緒にどうだい?」
ゲーセンか、悪くはないな。
奉太郎「別にいいが、委員会の仕事とかはないのか?」
里志「総務委員会は無いんだけど、図書委員会の方をちょっと手伝わないといけなくてね」
伊原の関係か、それくらいしか思いつかない。
奉太郎「伊原になんか言われたのか、ご苦労様」
里志「ご名答! さすがだよ」
さすがという程の事でもないだろうに……
里志「摩耶花は少し描きたい物があるみたいでね、僕はそれで利用されてる訳だ」
奉太郎「なるほどな、って」
奉太郎「あいつは漫研やめたんじゃなかったか?」
里志「ホータローでもそれくらいは知ってるか、なんでも個人的に描きたい物があるみたいだよ」
奉太郎「個人的、ねえ」
どうせ、同人誌かなんかの物だろう。
奉太郎「それで、図書委員の仕事はすぐに終わるのか?」
里志「うん、まあね」
奉太郎「そうか、なら俺は部室で待ってる」
里志「了解、多分摩耶花も居ると思うから、気をつけてね」
伊原が聞いたら、ただでは済みそうにない台詞だな。
奉太郎「ああ、用心しておく。 じゃあ放課後にまた」
里志「いやいや、僕が言ってるのはね、ホータロー」
里志「君が摩耶花に手を出さないでねって事なんだよ」
こいつはまた、くだらん事を。
奉太郎「本気で俺が伊原に手を出すと思っているのか?」
里志「まさか、ジョークだよ」
里志「灰色のホータローが、そんな事をする訳ないじゃないか」
里志「それに、摩耶花の可愛さはホータローには絶対分からないしね」
さいで。
里志「じゃ、また後で」
そう言うと、里志は自分の教室へと戻っていった。
俺は小説を開くと、ゆっくりと文字を頭に入れる。
物語がいい所に差し掛かった時、チャイムが鳴り響いた。
やがて教師が入って来て、授業が始まる。
途中で何回か、夢の世界に旅立ちそうになったが、なんとか乗り切る。
そして気付けば既に放課後。
終わってみればなんて事は無い、短い時間だった。
ぼーっとする頭をなんとか働かせ、部室に向かう。
奉太郎(着いたら、少し寝よう)
土曜日のアレが、まだ響いてるのだろうか?
等、本気で思う自分に少し情けなくなる。
扉を開けると、千反田、伊原が居た。
奉太郎(里志の予想通りって所か、まあ寝てる分には問題ないだろ)
そう思い、席に着くと腕を枕にし目を瞑る。
千反田は何故かソワソワしていたが、気になりますとは少し違った様子だ。
伊原はと言うと、絵を描くのに夢中で俺には興味も示さなかった。
あ、気づいていないだけか……気づいていても無視されるだろうけど。
これならば問題あるまい。
そう思い、夢の世界へと旅立つ。
すると伊原が立ち上がっていて、千反田の方を見つめていた。
少し、嫌な空気……? 何かピリピリとした感じだ。
摩耶花「えっと、ちーちゃん……今なんて?」
千反田はニコニコしながら、言った。
える「ですから、摩耶花さんは少しうざい所があると……」
眠気は一瞬で吹き飛んだ。
違う世界に迷い込んだんじゃないかと錯覚するほどの衝撃を受ける。
あの千反田が「うざい」なんて言葉を使うのかと。
その衝撃も引く前に、伊原は部室を飛び出て行った。
残されたのは、俺と千反田。
それと描きかけの絵。
俺は千反田に向けて言った。
奉太郎「……お前、何いってるんだ」
える「ええっと、摩耶花さんはうざいと言ったのですが……」
不思議そうに、そう言うこいつには悪気は無さそうに見えた。
あり得ない、俺が知っている千反田ではないのだろうか?
いつの間にか、千反田が誰かと入れ替わって……ないだろう。
奉太郎「千反田、その言葉の意味は、知っているか」
千反田は首を傾げると「今日教えてもらったんです」と言い、続けた。
千反田から説明される内容は、まるで褒め言葉のような意味を持った言葉である。
俺は、この時はまだ落ち着いていた。
未だにニコニコしている千反田に本当の意味を教える。
次に起こった事は、俺の予想外であったが。
千反田はそう言いながら、伊原が去って行ったドアを見つめる。
える「わたし……」
俺は見た、千反田の目から、涙が落ちるのを。
どんどん涙は溢れていたが、千反田は拭おうとしなかった。
自分でも気づいていないのかもしれない。
奉太郎「千反田……」
える「すいません、私、謝らなければ」
小さく、本当に小さく、千反田が言った。
この感情は、なんと言うのだろうか?
腸が煮えくり返る?
いや、ちょっと違うな。
それを通り越したのは、なんと呼べばいいのだろうか。
俺は、ああ、怒っているのか。
もしかしたら、初めてかもしれない。
勿論、千反田に対してじゃない。
その意味を教えたクソ野郎に、俺は怒っているのだ。
どうにも、冷静な判断はできそうにない。
今からそいつを探し出して、殴ろうか。
そうしよう。
そのまま部室を出ようとすると、千反田が声を掛けてきた。
える「折木さん、わたし……」
千反田は、まだ泣いていた。
奉太郎「ちょっと用事が出来た、すぐに戻る」
奉太郎「お前は悪くない、気にするな」
すると千反田は、泣き笑いというのだろうか。 「はい」と言い、顔を俺に向けていた。
どうにも、どうにもだ。
この怒りは収まりそうに無い。
俺は、千反田の事はよく知っているとは思う。
あいつは何事にも純粋だし、人を疑うという事をあまりしない。
そんなあいつを騙した人間には、なんとなく、当てはあった。
まずは、里志に会おう。
摩耶花に仕事を押し付けられて、僕はここに居る訳だけど。
里志「なんともやりがいが無い仕事だなぁ」
そんな事をぼやきながら、本を片付ける。
突然、ドアが思いっきり開かれた。
誰だい全く、図書室ではお静かにって相場が決まっているのに。
そっちに顔を向けたら、これはびっくり、ホータローじゃないか。
にしても随分と、あれは怒っているのか? ホータローが?
僕はそそくさと近づき、声を掛けた。
里志「ホータロー、どうしたんだい?」
聞きながらも、ちょっと焦る。
里志(僕、なんかしたかなぁ)
里志(というか、これほどまでに怒ってる? ホータローを見るのは初めてかも)
奉太郎「里志か」
奉太郎「少し、聞きたい事がある」
里志「なんだい? というか、何かあったの?」
奉太郎「俺たちと同級生で、漫研にいる、金髪の女子って誰だ」
人探し? それにしてはやけに怒っているみたいだけど……というか僕の質問、片方無視された?もしかして。
里志「うん、分かるよ」
里志「でも、何が起きたのか教えてくれないかい?」
里志「ホータローをそこまで怒らせる事、少し興味があるよ」
奉太郎「いいから、誰だ」
おや、こいつは随分とご立腹だなぁ。
ううん、ま、いいか。
里志「それはC組みの人だよ。 名前は……」
そう言って名前を教えると、ホータローはすぐに図書室を出て行こうとした。
里志「ちょっと待ってホータロー」
どうやらホータローは、状況判断ができない程、怒っているらしい。
クラスに居るなんて保証は無いのに。
里志「とりあえず落ち着こうよ、らしくないよ」
奉太郎「落ち着いてる、いつも通りだ」
里志「そんな、今にも殴りそうな顔をしているのに?」
里志「ホータローが怒る程の事だ、よっぽどの事だとは思うよ。 でもさ」
里志「事情くらいは話してくれてもいいんじゃない?」
そう言うと、ホータローは一つ溜息を付いて、話してくれた。
朝、そいつと千反田さんが話していた事。
部室であった事。
僕も勿論、腹が立ったさ。
でもこういう時、落ち着かせるのはホータローの筈なんだけどなぁ。
さあて、どうしたものか。
信じられなかった。
最初聞いた時もそうだけど、2回目を聞いた時。
私はその場に居るのも、辛かった。
ちーちゃんの事は、そんなに知っているつもりはない。
だけど、あんな言葉を使うなんて、とても信じられなかった。
でもそれは、私の勝手な想像かもしれない。
もしかしたら、そういう事を言う人だったのかもしれない。
そう思ってしまう私にも、嫌気がさしてきた。
摩耶花(明日から、どうしようかな)
古典部になんて、顔を出せる訳もない。
私が泣いていたの、折木に見られたかなぁ、悔しい。
ふくちゃんに会いに行こうと思ったけど、そんな気分にもなれなかった。
ずっと、友達だと思っていたのに。
ちーちゃんは「うざい」って、ずっと思っていたのかもしれない。
なんで今日言葉にしたのか分からないけど……部室で自分の絵を描いていたからかな。
確かに、あそこは古典部の部室だし。
居やすい場所だと、思ってたけど。
摩耶花(それは、私の気持ち)
摩耶花(ちーちゃんやふくちゃん、折木がどう思っていたなんて、考えた事もなかった)
摩耶花(やっぱり私、馬鹿だ)
胸がぎゅっと、締め付けられる気がした。
摩耶花(今日は、ご飯食べられそうにないや)
私は、なんて事をしてしまったのでしょうか。
摩耶花さんには会わせる顔がありません。
しばらく、部室でぼーっとしてしまいました。
茫然自失とは、こういう事を言うのでしょうか。
折木さんも、部室を出て行ってしまいました。
恐らく、怒っているのでしょう。
最後に「気にするな」と言ってくれましたが、顔からは怒っているのがすぐに見て取れました。
勿論、私に怒っているのでしょう。
福部さんも、聞いたら恐らく私に怒りを感じると思います。
帰る気分には、今はなれません。
足に力が入らない、というもありますが。
折木さんは、私に言葉の意味を教えてくれました。
もしかすると……折木さんとは、少し話ができるかもしれません。
摩耶花さんとも勿論、話さなくてはいけないのは分かっています。
ただ少し、時間が必要です。
私はそこまで、強くないんです。
ですが、どんな言葉で罵倒されても仕方ないです。
私が……愚かだったんです。
俺は、里志に話をして、少し気持ちが落ち着いたのだろうか。
自分では部室を出た後は落ち着いているつもりだったのだが、里志には違うように見えていたらしい。
里志は「どうするつもりだい?」と言って来たのに対し「そいつを殴る」と言っただけなのだが。
里志は苦笑いをしながら「それはホータロー、落ち着いてないよ」と言って来た。
まあ、そうかもしれない。
里志には全てを話した訳ではなかった。
千反田が涙を流していたのを話しては駄目な気がしたからだ。
里志も勿論怒っているだろう、そいつに対して。
しかしどうやら、俺を落ち着かせる為に堪えているらしい。
ああ、やっぱり俺は落ち着いてなんかいなかったか。
一度、深呼吸をする。
里志「別に、気にしなくていいよ」
里志「まあ、怒ってるホータローも珍しいから悪くはないけどね」
奉太郎「それはよかったな」
里志はいつも通りの顔を俺に向けていた。
さてと、だ。
まずは状況整理。
千反田に嘘を吹き込んだのはC組みの奴らしい。
朝見かけた奴だろう、千反田と話していたし。
少し、考えようか。
5分ほど、頭を働かせてみた。
漫画研究会、千反田に嘘を吹き込んだ、そして……あの時。
ああ、そうか。
ならば話は早い、意外と簡単に終わるかもしれない。
後は、揃えるだけで大丈夫だ。
ホータローも大分落ち着いたようで、安心だ。
それにしても今回は僕も全面協力させてもらったよ、ホータロー。
後はホータローが終わらせる、明日には終わるかな。
摩耶花と千反田さんは一度、話し合う必要があると思うけどね。
摩耶花はああ見えて、随分と自分を責めるからなぁ。
今夜、電話してみよう。
える「私は、どうすればいいのでしょうか……」
つい、独り言が出てしまいます。
折木さんに貰ったプレゼント、どこか折木さんに似ているようなぬいぐるみを抱きしめます。
える「折木さんに、電話してみましょうか……」
そう思い、電話機の前まで来ましたが……どうにも電話が取れません。
折木さんになんと言えばいいのでしょうか。
私は騙されていたんです?
言い訳です。
皆さんには申し訳ない事をしました?
謝って済む問題でしょうか、これは。
折木さんに相談すれば、なんとかなるでしょうか。
予想外の回答で、私を驚かせてくれるのでしょうか。
また、折木さんに頼ろうとしてしまっています。
これは甘えです、甘えてはいけません。
それに折木さんは、今回の件は無関係です。
巻き込むような事は、できません。
もう、大分遅い時間になってきました。
夜の21時。
少し思い出します、折木さんの家で、私はまたしても気になる事を解決してもらいました。
折木さんの寝癖を見て、少し気になったのも思い出しました。
思わず笑みが零れます。
やはり、皆さんとまた、一緒に仲良くしたいです。
これは、我侭なのでしょうか?
その時、突然電話が鳴り響いて、思わず受話器を取ってしまいました。
える「は、はい! 千反田です」
大体の構図は出来た。
後は俺がこれをどうするか、だけか。
まあ、どうにかなるだろう。
だけどまあ、少しは許してくれよ、里志。
……そういえば。
奉太郎(千反田にすぐ戻るとか言って、すっかり忘れてたな)
千反田は結構ショックを受けていたみたいだし、聞こえていなかったかもしれない。
だけど、まあ……
ああ、仕方ない。
やはり千反田が関係することだと、どうにもうまく省エネができない。
自室から出て、リビングへ向かう。
奉太郎「姉貴、携帯借りていいか」
俺はソファーに座る姉貴に話しかけた。
供恵「はあ? あんたが携帯!?」
供恵「……なんかあったんでしょ」
やはり鋭い、ニヤニヤしながらこっちを見るな。
奉太郎「ダメならダメで、いいんだが」
供恵「いいわよ、貸したげる」
意外にも姉貴は快く貸してくれた。
供恵「変わりに洗い物やっておいてね」
指差す先には大量の食器。
前言撤回、快くは間違いだ。
正しくは、エサにかかった獲物をなめまわすような視線を向けながら。 としておこう。
奉太郎「……分かったよ」
奉太郎「ありがとうな、姉貴」
供恵「あんたにしては随分と素直ね、どこか出かけるの?」
奉太郎「俺はいつも素直だ。 少しな、すぐに戻ると思う」
供恵「ふうん、気をつけて行ってきなさいよ」
姉貴が珍しく真面目な顔をしていた、あいつはどうにも勘が良すぎる。
少し前まで寒かったが、今は夜も涼しいくらいになってきた。
自転車に跨り、千反田の家に向かう。
以前はそこまで長くない距離だと思ったが、今は自然と長く感じた。
やがて見えてくる、大きな家。
門の前に自転車を止めると、携帯を取り出した。
千反田の家の番号を押し、コールボタンを押す。
近くにでも居たのだろうか、1回目のコールで繋がった。
える「は、はい! 千反田です」
奉太郎「千反田か、遅くにすまない」
える「え、えっと、折木さんですか……?」
奉太郎「ああ、今千反田の家の前にいるんだが……少し話せるか?」
える「……はい、分かりました」
千反田は、いつもより少しだけ暗かった気がする。
だがその中にも少しだけ嬉しそうな感情、そんな感じの声に聞こえた。
5分ほど待ち、千反田が出てきた。
奉太郎「夜遅くに悪いな、どこか話せる場所に」
そこまで言った所で、千反田が俺の声に被せてくる。
える「あの公園に、行きましょうか」
奉太郎「……そうだな」
公園に向かう途中は、お互いに無言だった。
千反田の様子は、やはり暗く、ショックが大きいのが見て取れる。
そんな千反田を見ていると、また怒りが湧いてきそうで、俺は敢えて千反田の方を見ずに、歩いた。
やがて、公園が見えてくる。
自販機に向かい、コーヒーと紅茶を買った。
千反田に紅茶を渡し、ベンチに腰掛ける。
それを見て千反田は俺の横に座った。
奉太郎(さて、何から話そうか)
える「折木さん、すいませんでした」
える「私があんなことを言ったせいで、古典部に影響を与えてしまって……」
える「折木さんが怒るのも……仕方がない事です」
える「私が馬鹿でした、許してもらえるとは思っていません」
える「でもやっぱり、また皆さんで仲良くしたいんです」
える「……すいません、折木さんに相談する話では、ないですよね」
千反田は泣きそうな声で最後の言葉を告げると、俯いてしまった。
俺は、一瞬何を言っているのか分からなかった。
何故、千反田が謝る?
俺が千反田に怒っている?
また仲良くしたい?
許してもらえない?
それらを並べると、俺は理解した。
今回の事も、人のせいにしないで、全て自分で背負っているんだ。
怒りが湧いてくると思ったが、俺の心に湧いたのは、落ち着いた物だった。
奉太郎「千反田」
奉太郎「お前は、そういう奴なんだよな。 やっぱり」
奉太郎「俺はお前には怒っていない」
奉太郎「千反田を騙した奴に、俺は怒っているんだ」
奉太郎「伊原も、ああいう性格だが捻くれた奴ではない」
奉太郎「少し話せば、すぐに終わる」
奉太郎「皆は許してくれない? それはちょっと不服だな」
奉太郎「少なくとも俺は、お前の味方だぞ」
奉太郎「第一に、俺は省エネ主義者だ」
奉太郎「それがわざわざ千反田の家に来ているんだ」
奉太郎「それだけで、俺がお前の味方ってのは、分かるだろ」
奉太郎(なんか、俺らしくないな)
奉太郎(まあ、いいか)
える「……折木さん、私」
える「ずっと、ずっと、どうしようかと思っていました」
える「……でも、でもですね」
千反田は今にも泣きそうに、続けた。
える「折木さんが……いえにきたとき……わたし、うれしかったんです……っ」
否、千反田は泣いていた。
える「ずっと……ずっと相談じようどおもっでいて……っ…」
涙を拭い、千反田は自分の胸に手を置いた。
小さく「すいません」と言い、一呼吸置き、再び話し始める。
える「でも、折木さんの、今の言葉を聞いて、私、安心できました」
次に出てきた言葉は、いつもの千反田らしく、しっかりとした物だった。
える「……少しだけ、すいません」
そう言うと、千反田は俺の肩に頭を預けてきた。
奉太郎(暖かいな)
俺はこの時、強く確信した。
奉太郎(なんだ、随分と悩まされていたが)
今まで何回か、友人が言っていた言葉。
奉太郎(分かってみれば、大した事はなかったか)
千反田が来て変わったと、里志は言った。
俺はずっと、そんなことは無いと、思っていた。
だが今、確信した。
千反田の頼みを断れないのも。
千反田が関係することだと省エネできないのも。
千反田に振り回され、満更ではなかったのも。
千反田が泣いたとき、俺は酷く怒ったのも。
全ての疑問に、答えを見つけた。
言おうとした、好きだと。
だが……だが。
どうにもうまく言葉にできない。
前にも、似たような経験はあった。
前の時も、言おうとしたが、少しめんどうくさいというのがあったと思う。
だが、今回ばかりは。
いくら言おうとしても、できなかった。
そのまま、5分ほどが立った。
奉太郎「寝る時間、過ぎてるな」
時刻は23時近く、千反田が寝る時間は過ぎている。
える「そうですね」
える「でも今日は、ちょっと夜更かししたい気分です」
奉太郎「そうか」
奉太郎「夜景が、綺麗だな」
そう言うと、千反田は
える「……はい、折木さんと一緒に見れて、良かったです」
俺は……笑っていた、と思う。
第四話
おわり
折木さんと一緒に夜景を見ていた時間は、とても短く感じました。
気持ちも、軽くなっています。
やはり、折木さんに相談したのは間違いではありませんでした。
……これは、甘えではないですよね。
明日は、しっかりと摩耶花さんとお話をするつもりです。
私が言った、許してくれないと言う言葉。
それは反対の意味にすると、私は古典部の皆さんを信じていないという事になります。
そんなのでは、ダメです。
私は皆さんを信じています。
摩耶花さんもきっと、分かってくれる筈です。
もし、万が一にでも、想像したくはないですが。
福部さんも、摩耶花さんも許してくれなかったら……
そうしたら、味方だと言ってくれた折木さんと、どこか遠くへ行きましょう。
折木さんならきっと、私の思いもよらない場所へ連れて行ってくれる……そんな気がします。
そんな事を考えながら、折木さんが以前くれたぬいぐるみを抱きしめます。
でも、まずは摩耶花さんと話さなければ。
える(明日、明日です)
える(うまく、話せるでしょうか……)
後ろ向きになってはダメです。
ちゃんと、伝えましょう。
折木さんがわざわざ家まで来てくれたんです。
折木さんを裏切らない為にも、また皆で仲良くする為にも。
……また、一緒にあの公園で夜景を見る為にも。
何故でしょうか?
私にはまだ、分かりません。
折木さんに聞けば答えてくれるでしょうか?
しかし、何故か聞いてはいけない気がします。
これは、自分で答えを出さないといけない問題……
える(折木さんが家に来てくれて、本当に良かったです)
える(もし来なかったら……考えたくもありません)
える(……今夜は、いい夢が見れそうですね)
奉太郎(はあ)
何度、溜息をついただろうか。
どうにも気持ちが落ち着かない。
千反田は別れる時には、いつも通りの顔だったと思う。
しかし、俺はどうだっただろう。
なんとも言えない気分である。
奉太郎(今まで避けてきたが……)
奉太郎(確かに、これはエネルギー消費が激しそうだ)
まあ、いい。
問題は明日だ。
準備は問題無いはず、後は俺次第。
千反田には、話せる内容ではない……か。
落ち着け、落ち着け。
とりあえずは、目の前のを片付けなければいけない。
奉太郎(今日は、もう寝るか)
自室へ向かった俺に、後ろから声が掛かる。
供恵「ちょっと、携帯返してよね」
ああ、すっかり忘れていた。
奉太郎「ありがとな」
再び、自室へ向かう。
しかし再度声が掛かる。
供恵「ちょっと、アンタ寝ぼけてるの?」
奉太郎「……なにが?」
姉貴はニヤリと嫌な笑顔を浮かべる。
供恵「あれ、約束でしょ」
指差す先には食器の山。
奉太郎(どうやら)
奉太郎(もっと先に片付けなければいけない問題があったな)
数えるのも嫌になる程の溜息をもう一つつき、俺は食器の山へと向かうのであった。
4.5話
おわり
Entry ⇒ 2012.10.18 | Category ⇒ 氷菓SS | Comments (0) | Trackbacks (0)
唯「カツカレー」
SIDE:PORK
紬「そうだね~」
夜の十時。
唯と紬はオフィス街の大通りを歩いていた。
今日は夏休みが終わり大学が始まって最初の金曜日。
講義が終わった後二人はドーム球場へ野球を見に行った。
当初は電車に乗って帰るつもりだったが駅までの道に野球観戦客がごった返していたので諦めた。
加えて球場のビール売り子と美味しそうに飲みだす客を見ていたら二人も飲みたい気分になり、
それなら朝まで飲んじゃえーという事になったのだ。
その場でビールを頼まなかったのは二人ともビールがあまり好きではなかったから。
唯「でもお酒が飲みたくなっちゃったんだよね」
紬「うんうん」
紬「私もびっくりしちゃった! 応援団の人達もすごかったわね」
唯「迫力あったなー」
紬「あっ!」
唯「どうしたの?」
紬「もしかしたら私達テレビに映ってたりして!」
唯「ハッ!? 誰かにテレビ録画しておいてもらえばよかった~!」
二人とも野球に興味があんまりない。
サークルの先輩からチケットを二枚貰った時に「あーあたし野球興味ないからパス」「私も野球はよく知らないから……」
となってドームで野球を見るのが夢だったりなんとなくわくわくした人がチケットを握っていた。
夜遅くなるとオフィスの明かりが消えて人や車も少なくなるので都会の割には穏やかな景観だ。
街路樹の葉の色が落ちていく時期の夜は涼しい風が吹いていて散歩には丁度いい。
熱気溢れる応援にあてられた身体が程よく冷まされる。
唯「何食べようか? あーでもこの辺あんまり食べるところないね」
今探しているのは居酒屋ではなく普通の飲食店。
居酒屋で長時間飲み食いすると会計が跳ね上がってしまうので先に食べ物で腹を満たすという作戦だ。
腹を満たした後で少量のおつまみとお酒をちょびちょびいただくというお金に困っている学生ならではの可愛い(?)発想。
酒で腹を満たすという発想はこの二人にはまだない。
唯「ムギちゃんがっつりいくね」
紬「あいむはんぐりー。ほら、あそこに黄色い看板が」
唯「カレーかあ……うんいいねえ。じゃあカレーに決定!」
紬「やったぁ」
暗く静まった通りに黄色い看板がよく目立つ。
店の前まで来て中を覗くと客は誰もいなかった。
唯「私達の貸切だね」
紬「わくわくっ」
店内に入りカウンターに座る。
この店のカレーはルーやライスの量、辛さやトッピングを自分好みに選ぶことができる。
唯がそれを教えてあげると紬は目を輝かせながら悩み始めた。
辛さやトッピングの他に元のカレーにも様々な物があり、
豚しゃぶカレーやチキン煮込みカレー、他にもハンバーグやカキフライや納豆が乗っているものもある。
紬「いけない。私食べたいカレーがあったんだった」
唯「何カレー?」
紬「カツカレー!」
唯「カツカレー!?」
唯「なんとなくわかるけど……夜の十時過ぎてるよ? それに元々カレーなんだよ?」
紬「言わないで! いいの、今夜カツカレーを食べなかったら別の後悔が残るから……!」
唯「あ、うん、そうなんだ……」
紬「せめてルーはカロリー少なそうなのにしておこうかな。ビーフとポークだったらやっぱりポークの方がヘルシー……?」
紬「ハーフサイズはちょっと少ないかもだし……カレーちょっぴりライスたっぷりとか? うーん、いやでも」
唯「私はビーフの気分かな~。ムギちゃんがカツカレー食べるなら私もカレーにあげもの乗せよーっと」
唯「おあ、カニクリームコロッケカレーなんてものが!? 私これにするー♪」
紬「ぐ……!」
唯「ムギちゃん?」
唯「あ、うん、そうなんだ……」
唯「えっと、辛さはどうしようかな。クリームコロッケと歩調を合わせて甘口か……あるいはカレーならではのコラボで辛口に」
紬「そっか、私『5辛』っていうの経験してみたかったけどカツとの相性を考えるとあんまり好ましくないのかな」
唯「『5辛』は相当な大人味だと思うよ」
紬「辛さが増す分舌が麻痺してしまうからカツのおいしさが半減しちゃうかも……」
紬「となると『普通』か『1辛』あたり……やっぱり初めてのお店だしまずは『普通』の辛さにしようかな」
紬「私も。すみませーん、カツカレーお願いします。はい、普通で、ポークで」
唯「えっと、カニクリームコロッケカレーでルーはビーフでライスと辛さは普通で」
唯「あとトッピングでカニクリームコロッケ追加して下さい」
紬「!?」
唯「えへへ、節約するつもりだったんだけどつい頼んじゃった☆」
紬「ぐ……!」
唯「ムギちゃん?」
パリパリのカツに少しルーがかかっていて食欲をそそるカツカレー。
それより少しだけ色の濃いビーフカレーの上に丸い揚げ物が四つ並ぶカニクリームコロッケカレー。
唯紬「いただきまーす」
二人とも揚げ物が乗っているので福神漬けは乗せずに召し上がる。
結構多いな
アツアツホカホカだったので口をはほはほさせながらカレーを味わう。
程よい辛さにしたのは正解で、家のカレーとも寮のとも違う新しい味に心が踊る。
料理は作り手によって味が変わるがカレーはそれが顕著に現れる。
辛さ、スパイス、こく、具、水分の量による水っぽさ加減等により同じカレーであっても好き嫌いが別れたり。
紬が以前食べたカレーの中にはそれこそカツが乗っていなくても3500円するようなものもある。
対して今食べているカレーはカツがついて700円なのだが紬にとっては新鮮な味のカレーだった。
家の味や高級洋食店とはまた違った味なのは当然で、それが個性であり長所。
誰が何と言おうと今紬は美味しさを感じている。
『おいしい』は一種類じゃない。
カレー屋のメニューやトッピング、それを上回る作り手やお店や家庭の数だけ『おいしい』があるのだ。
ルーのかかっていない部分にスプーンを差し込むとサクサクッといい音がした後に弾力のある肉厚を感じる。
それをルーと一緒に頬張った。
辛すぎないカレールーのおかげでカツの味がダイレクトに舌を刺激する。
定食屋や自宅のおかずでカツが出てきたらカレーソースをかければいいんじゃないか
と思える程カツとカレールーの相性は良く、後続のごはんが加速する。
カツとカレーとごはん。
食事している時刻も相まって重みのあるボディブローのような一撃。
カロリー的にはノックアウトだが銀のスプーンが止まる事は無かった。
蓄積される辛さと熱さから額に汗を浮かべて夢のコラボレーションを食べ尽くす。
ポークとビーフってルーの味どのくらい違うんだろう。
でもチキンカレーもいいなー。
チーズトッピングもおいしそうだなー。
ああーカニクリームコロッケおいしいなーと思いながら幸せそうにもぐもぐしている。
唯紬「うまー……///」
唯紬「ごちそうさまー」
二人ともいっぱい満足して店を後にした。
街路樹がなびいて再び火照った身体にそよ風。
満たされて気分のいい二人は飲み屋へ向けてゆっくりと歩き出す。
唯「私もー。なんだか眠くなってきたかも」
紬「だめよ~。今食べた分はちゃんと燃焼してから寝ないと」
紬「飲み屋さんまできっちり歩いて、それから飲みながら燃焼するの! あ、もうちょっと回り道したり……?」
唯「あ、うん、そうなんだ……いやそれはちょっと」
紬「うん、カツカレーにしてよかった~。みんなに自慢しちゃおう」
唯「カニクリームコロッケもおいしかったよー。あ、カツと交換してもらえばよかった」
紬「そっか、食べるのに夢中で気付かなかったわ」
唯「ムギちゃんの食いしん坊めー」
紬「唯ちゃんだってコロッケ追加までしたくせにー」
唯「えへへっ」
紬「うふふ」
カレーを食べてさらにテンションの上がった二人の会話はどんどん盛り上がっていく。
その勢いで色々と突っ込んだ話をしようとして、でもこの話はお酒を飲みながらだなと思い留まる。
夜の静かな街を散歩しながらお喋りもいいけれど甘いカクテルで割りたい話もあるのだ。
大通りから脇道へ逸れると学生に丁度良さそうなチェーン店の居酒屋が見つかった。
チェーン店の割には落ち着いていて味のある雰囲気を醸し出している。
二人は店先にあるメニューを見てこの居酒屋で飲み明かす事に決めた。
紬「オムそばっていうのがある! わぁい焼きそばが包まれてる!」
唯「え゛っまだ食べるの!?」
紬「そうよね……これ以上は流石に……やきそばぁ」
唯「ま、まあ夜は長いからね。おつまみとしてちょっとずつ食べれば……」
唯「誘惑に負けてるよムギちゃん」
紬「大丈夫、カツカレーで総裁にだってなれるもん!」
唯「おわームギちゃんもう飲んでるみたいだね!」
紬「さぁ行くわよ唯ちゃん、今夜は話したい事が沢山あるんだから!」
唯「おぅ! 私もあるよっ!」
喝を入れて居酒屋へともつれ込む。
じっくりコトコト煮込んだ話は甘口だけどちょっぴり辛い。
二人の夜はまだまだこれから。
カツカレーが食べたい。
SIDE:PORK END
俺もカツカレー食べたい
唯とムギと一緒にカツカレーを食べたい
SIDE:BEEF
唯「ほっ! こんな感じかな」
晶「まあそんなとこだな」
唯「やったー晶ちゃんのおかげでこのフレーズ弾けるようになったー! ありがとー」
晶「楽譜読めないってお前今までどうやってギター弾いてきたんだよ」
唯「読めるようにはなったんだよ? でも実際に弾いてるの聞かないとピンとこないっていうか」
晶「ダメだろそれ……って何で私は敵に塩送るような事してんだ……」
唯「敵って?」
晶「学園祭でバンド対決するだろ! 何で忘れてるんだよ!」
唯「え? ……あっ! 忘れてないよ!」
晶「うそつけ」
晶「よくねーよ」
唯「でも本当にありがとね。そだ、お礼もかねてこれから飲みに行かない?」
晶「おっ唯のおごりか。それなら……」
唯「えっワリカンだけど」
晶「お礼じゃなかったのかよ! 話の流れ的におごりだろ!?」
晶「何だかんだで飲みに行くことになっちまった……」
唯「えへー♪」
晶「あんだよ」
唯「何でもないよ~」
晶「割り勘で何がお礼なんだよ」
唯「だって今厳しいんだもん」
晶「余計なもんばっかり買ってるからだろ」
唯「えーそんな事ないよ。あ、だからさー先に何か食べていかない?」
晶「はあ?」
唯「ね?」
晶「そんなの大して変わらねーよ……あ」
唯「あ?」
晶「……」がさごそ
晶「いち、に、さん、よん枚……まぁ、食べた後で飲むのもいいかもな」
唯「……」フスッ
晶「おい今鼻で笑っただろ」
唯「笑ってないよ」フスッ
晶「こいつ……!」
唯「そうだねー何食べようか?」
晶「くっ……んーそうだな……あ、カレー」
唯「えー目の前のお店選んだだけじゃん」
晶「ちげーよカレーが食べたいんだよ」
唯「めんどくさいだけじゃないの?」
晶「そういうお前は何が食べたいんだよ」
唯「えっ? うーん……ううん……カ、カレー?」
晶「おい」
唯「じゃ、じゃあカレーにしよっか!」
唯「何カレーにしようか」
唯「うーん……カツカレーもいいけど……ハンバーグカレーもいいねえ」
唯「うおっカキフライカレー!? おいしそー」
唯「トッピング! そういうのもあったね」
唯「チョコカレー……はないか。半熟タマゴとか?」
唯「あーんどれにしよう~」
晶「いいからまず店に入れよ!」
唯「ああん待って」
晶「私はもう注文決まってるから」
唯「何にするの?」
晶「ビーフソースでビーフカツカレー」
唯「あっいいなー」
唯「カツも捨てがたいけどシーフード系もいい……」
唯「海の幸で行くかカツで行くか……」
晶「すいませんビーフカツカレー下さい」
唯「ああっ!? 私まだ決めてないよー!」
晶「選ぶの遅すぎ。待ってられるか」
唯「ええーじゃあえっと、カニクリームコロッケカレー下さい」
晶「……」
唯「うう……」
晶「……」
唯「間を取ってカニコロカレーにしたけどやっぱりカツがよかったかなあ……?」
唯「……ねえ晶ちゃん」
晶「やらねー」
唯「まだ何も言ってないよ!?」
唯「一切れ交換しよ?」
晶「いただきます」
唯「……いただきます」
晶「もぐもぐ……ん、まあまあだな」
唯「ん! カニクいームコおッケおいひい!」
唯「これにしてよかった~♪」
晶「何でもいいんじゃねーか」
晶「だーめーだ」
唯「カニコロおいしいよー?」
晶「う……いやだめだ」
唯「ケチー」
晶「ケチじゃない。私がカツカレー食ってるのには意味があるの」
晶「カツカレーを食べてお前に勝つっていう大事な意味が」
唯「あっもしかして早食い勝負だった? しまった出遅れた~」
晶「ちげーよ! バンド対決の話だよ!!」
晶「そうだ。という訳でお前にカツはやらん」
唯「……」
晶「もぐもぐ」
唯「それじゃあ仕方ないか……」
晶「もぐもぐ」
唯「……カツ、カニ、かにくり、ころ……ハッ、ウィンナーカレーにしておけばよかった」
唯「……上手い事言ったね私……ウィンナー、ウィナー……フスッ」
唯「それなら交換出来たのに……ああメニューにウィンナーカレーないや。ソーセージカレーでも大丈夫かな……?」
晶「……」
唯「え?」
晶「一切れだけだからな」
唯「くれるの!? やったぁ! あっでも私もカツカレー食べたら私が勝っちゃうかもよ?」
晶「一切れだけだから私の方がご利益があるの。そもそもカレーじゃなくて実力でお前に勝つからいいの」
唯「わぁい晶ちゃんありがとー♪ お礼にカニコロいっこあげる~」
晶「別にいらね――」
唯「いいからいいから」ベチャ
晶「……」
晶「じゃあ、もぐ」
晶「もぐもぐ……結構美味いな」
唯「でしょー?」
唯「はー美味しかった」
晶「まあまあだな」
唯「晶ちゃん黙々と食べてたくせにー」
晶「……」
唯「カツカレーを食べてまで私達に勝ちたいとは……私に一切れもあげたくないほどに」
晶「ちゃんとあげただろ」
唯「これには何かある……ハッ!?」
唯「そういうことだったんだね晶ちゃん……」
晶「は?」
晶「はあっ!?」
唯「そうなると私達は恋敵になるのか……でも手は抜かないから!」
晶「ならねーよ! そもそも告白はまだしねえよ!」
唯「なーんだ。……ん? 『まだ』しないって事はその内また……?」
晶「ぐああぁ……!」
晶「うるせーよ!」
晶「くっそぉ……何で私だけ好きな人ばらされて唯にまでいじられなきゃならないんだ……」
晶「私の事ばっかりでお前らそういう話全然しないし……きたねえ」
唯「まあまあ」
晶「よし決めた。今日は朝までお前の好きな人とか全部聞き出してやるから覚悟しとけよ」
唯「え」
唯「ええっと……でも私そういうのあんまりなくて――」
晶「ちょっとあれば十分だ。今までのそういう話全部話してもらうからな」
唯「いやぁ、でもぉ……恥ずかしいよぉ///」
晶「ふざけんな散々人の話ほじくり返しといて。よーし飲み屋行くぞ」
唯「あ、私用事が……」
晶「さっきまでギター教えてやったよなぁ?」
唯「それは……はい」
唯「いやあ、ええと、あっレポート書かなきゃ」
晶「お前はいつも溜め込んでるから一日くらいかわんねーよ。ほら行くぞ」
唯「うえあぁぁ……」
晶「腹も満たしたし今夜はたっぷり飲めそうですねえ唯さん?」
唯「……もうカツカレーはしばらく食べなくていいやもう」
晶「カレーのせいじゃなくてお前の失言だからな」
唯「はぁい……」
その後酔ってさらに勢いのついた晶に質問攻めされて唯はあんまり酔えなかったとさ。
おまけに酒の量まで勢いづいてしまい、酔い潰れた晶を介抱しながら寮まで帰る事になってしまった。
うなだれる晶に肩を貸しながら唯はお酒を飲む時にこの話題は出さないようにしようと朝日に誓うのだった。
SIDE:BEEF END
腹減るわ
Entry ⇒ 2012.10.18 | Category ⇒ けいおん!SS | Comments (0) | Trackbacks (0)
洋榎「これからよろしくな!」 絹恵「……」
絹恵「……」
父「ほら絹」
絹恵「……っ」プイッ
父「ハァ……ごめんな、洋榎ちゃん。こいつ人見知りだからさ」
洋榎「あはは、別にええよ。そのうち打ち解けてくるやろし。なあ絹江ちゃん?」
絹恵「……」
絹恵「……別に」
洋榎「別にってなんや別にって」アハハッ
絹恵「……」
洋榎「大阪もええとこやで~。ま、そのうちいやでも慣れるから安心しいや」
絹恵「……」
洋榎「あとで本場のたこ焼きでも食いいこな? うまいとこ知ってるんやで~」
絹恵「……」
絹恵「は……うちら?」
洋榎「そ、二人部屋なんやて。まあもともとうち一人で寝るんには広すぎたしな」
絹恵「……最悪」ボソッ
洋榎「ん、なんか言うた?」
絹恵「……別に」
洋榎「絹恵ちゃんさっきからそればっかやな~。口癖なんか?」アハハッ
絹恵「……」
絹恵「……」ストン
洋榎「ちょっと待っててや。今なんか飲み物持ってくるから」スタタ
絹恵「……」
絹恵(……ハァ、息苦しい)
絹恵(……これからあんなうるさい人と一緒に生活しろなんて……)
絹恵(……なんかもう、色々と最悪……)
洋榎「お待たせ~」ガチャ
洋榎「どう? うまい?」
絹恵「……ただの麦茶じゃん」
洋榎「まあな~」アハハッ
絹恵「……」
洋榎「絹恵ちゃん物静かやな~。東京にいたときもそんなやったん?」
絹恵「……」
洋榎「ええ~、無視せんといてえな~」
絹恵「……」イラッ
洋榎「あ、場所わからへんやろ? 案内するで」
絹恵「……っ」
絹恵「……やっぱ外の空気吸いに」
洋榎「あ、そんならうちも行く~。ついでにさっき言ったたこ焼き食いいこうな」
絹恵「……ハァ」
洋榎「??」
絹恵「……もういい」ボフンッ
洋榎「あれ、出かけるんやないの?」
洋榎「ええ~、まだ昼の3時やで? 今寝るとかもったいないやん!」
絹恵「……」
洋榎「たこ焼き食いいこうや~、絹恵ちゃ~ん!」ユサユサ
絹恵「……っ」
洋榎「そんな寝てばっかいると太るで~」
絹恵「……」ブチッ
絹恵「うるさいなぁ! いいからほっといてよ!」
洋榎「ぇ……ぁ、ごめん……」
洋榎「……ぁ、あの……ごめんな絹恵ちゃん」
絹恵「……」
洋榎「そ、そりゃ疲れるよなぁ。東京からの長旅やったもんな」
絹恵「……」
洋榎「ごめんな、うち気づかへんで……」
絹恵「……うるさくて眠れないんですけど」
洋榎「ご、ごめん……」
絹恵「……」
絹恵「……」
洋榎「おやすみ……」
バタン
絹恵「……」
絹恵「……ハァ」
絹恵「……ほんとうざい。私にかまうなっつーの」
絹恵「……」
絹恵「やば……ほんとに寝ちゃった」
絹恵「携帯、携帯……」ガサガサ
コンコン
絹恵「っ!」ビクッ
「絹恵ちゃん、起きとる?」
絹恵(……あいつか)
「お母さんがご飯やから降りてきいって」
絹恵(……うわ、めんど……)
「絹恵ちゃん? ……開けるで」ガチャ
絹恵「ちょ……!」
洋榎「うわっ、な、なんや……?」
絹恵「か、勝手に開けないでよ!」
洋榎「いやノックしたやん……」
絹恵「ノックすればいいってもんじゃないでしょ!?」
洋榎「で、でもでも、ここうちの部屋でもあるんやで?」
絹恵「そ、それは……っ」
洋榎「ていうか別に女同士なんやから気にせんでええやん。それにこれからはもうお互いに家族やろ?」
絹恵「……」
絹恵「……」
洋榎「とりあえず下いこ。な?」
絹恵「……先いってて」
洋榎「いや、あんたリビングの場所知らへんやろ? だから一緒に……」
絹恵「……っ!」
絹恵「じゃあドア閉めて外で待っててっ!」
洋榎「は、はいっ!」ダダッ
絹恵「……ハァ、ハァ」
絹恵「……」
雅枝「お、絹ちゃん。久しぶりやな~」
絹恵「……どうも」コクッ
雅枝「お疲れみたいやな。よく寝れた?」
絹恵「な、なんでそれを……!///」カァア
雅枝「ん、洋榎から聞いたんやけど」
絹恵(あ、あんた……余計なこと……!)キッ
洋榎「~♪」パクパク
雅枝「ははっ、ここはもう絹ちゃんの家なんやから、そんなん気にせんでええで~」
絹恵「……っ」
絹恵「……はい」
父「まぁ、絹にとっても早い方がいいだろうしな」
雅枝「せやな。絹ちゃんには早いとこ大阪の空気になじんでもらわんと」
絹恵「……」
父「洋榎ちゃん、こいつのことよろしくな」
洋榎「ん、ふぁふぉい!」
雅枝「こら、口に物入れて話すなバカ」ベシッ
洋榎「ふぁい……んぐ……了解や、任せとき!」
絹恵「……」
洋榎「いってきまーっす!」
雅枝「おう、いってらっしゃい」
洋榎「ってカバン忘れとった! やばいやばい!」ダダッ
雅枝「なにやっとるんやあいつは……」
絹恵「……」
雅枝「……絹ちゃん、がんばってき」
絹恵「……」
雅枝「あの子アホやけど、根は真っ直ぐやから。いざとなったら頼りにせえ」
洋榎「お待たせぇええええ!!」ダダダッ
雅枝「こら、階段で走るな!」
絹恵「……」
雅枝「それじゃ今度こそ、いってらっしゃい」
絹恵「……」スタスタ
洋榎「絹ちゃん!」
絹恵「っ!?」ビクッ
洋榎「絹ちゃん……お母さんもそういってたし、うちもそう呼んでええ?」
絹恵「……」キッ
洋榎「……」ジッ
絹恵「……か、勝手にすれば」スタスタ
洋榎「うん、勝手にするで!」ニコッ
絹恵「……」
絹恵(……だ、ダメだ……こいつらに心を許すな)
絹恵(……近っ)
洋榎「近いやろ~? もしかして前んとこでは電車通学とかやった?」
絹恵「……まぁ」
洋榎「あれって朝は人でギュウギュウなんやろ? つらくないん?」
絹恵「……慣れれば、別に」
洋榎「へえ、うちは絶対無理やわそんなの~」
絹恵「……」
洋榎「ついたで~。ここがうちらの中学校」
絹恵(……ふーん、まぁまぁきれいかな)
洋榎「なかなかいいとこやろ? 本館はまだ改装したばっかなんやで~」
洋榎「ほな、さっそく職員室いこか」
―――――――――――――――――――
「おはよー洋榎」「おっす愛宕」
洋榎「おはようさん~」
絹恵「……あれ全部友達?」
洋榎「ん、まぁな~」
絹恵「……」
洋榎「お、由子やん。おはようさん」
由子「今日はちゃんと寝坊せずにこれたんやね~」
洋榎「まぁな~」ヘヘン
由子「ん、そっちの子は……」
洋榎「あ、こいつ絹恵。前言ってたうちの妹になるって子や」
由子「あぁ、その子が~」
絹恵「……」
由子「私、真瀬由子っていうのよ~。洋榎と同じ部活なの。よろしくね~」
絹恵「……」コクッ
洋榎「おう、また放課後な~」
絹恵「……」イライラ
洋榎「待たせてごめんな~。職員室はすぐそこやから」
絹恵「……じゃああんたもういいから」
洋榎「えっ」
コンコン
絹恵「……失礼します」ガラッ
先生「おう、どうしたん~?」
絹恵「……あの、今日転入することになってる……あ、」
先生「ん?」
絹恵「あ、愛宕……絹恵といいます」
先生「おお、お前さんが愛宕の。聞いとる聞いとる」
絹恵「……はい」ストン
洋榎「ほーい」ボスンッ
絹恵「……ってあんたなんでいるの!?」
洋榎「え、だって絹ちゃんのこと心配なんやもん」
絹恵「い、いいから自分とこ行ってよ!」
洋榎「ええ~、別に始業までまだ時間あるしええやん」
絹恵「ジャマなの!」
洋榎「なんもせえへんて~」
絹恵「~~~~っ!!」
絹恵(……ああもう、恥ずかしい!)
洋榎「先生、おはよ~」
先生「おう、おはよう。しかしお前さんに妹ができるとはな~」
洋榎「ふっふーん。ちょっとはお姉ちゃんっぽくなったやろ?」
先生「いや全然」
洋榎「ひどっ! そこはお世辞でも同意してえな~!」
先生「せやかて、身長からしてお前の方が年下っぽいやん」
洋榎「そ、それは言わん約束やろ~!」
先生「ははっ、まぁ少しはお姉ちゃんぽく見られるようこれから頑張ってき」
洋榎「ちぇ……は~い」
先生「っと、せやった。これから教室案内するわ。ついてき」
絹恵「……はい」
洋榎「ほいほ~い」
―――――――――――――――――――
先生「ここがお前さんのクラスや。ちなみに俺がお前の担任やから」
絹恵「……はい」
先生「俺の後について入ってき」
絹恵「……」ゴクリ
洋榎「絹ちゃん大丈夫? トイレ行っといた方がいいんやない?」
絹恵「……あ、あんたはいいから自分とこ戻ってよ!」
先生「そうやで。もうチャイム鳴るし。はよ行け」
洋榎「む……仕方あらへんかぁ」
洋榎「んじゃ、絹ちゃんがんばってき~! ファイトやで~!」
絹恵(……は、恥ずかしいからやめてってば!!)
先生「おらー、席につけー」
絹恵「……」
ザワザワ...
先生「えーっと、今日はまず転校生の紹介から。愛宕、大丈夫やな?」
絹恵「……」コクン
絹恵「……」
絹恵「えっと、東京から来ました……あ、愛宕絹恵です」
絹恵「これからよろしくお願いします」ペコッ
パチパチパチ...
先生「よし、みんな仲良くするようになー」
先生「愛宕、お前は窓際の一番後ろに席や」
絹恵「……はい」スタスタ
絹恵(ハァ、疲れた……なんで私がわざわざこんな面倒なこと……)
絹恵(……でも、いい席もらったな)チラッ
洋榎(おーい! 絹ちゃーん)ブンブンッ
ガタンッ...!
先生「どないしたん? 愛宕」
絹恵「な、ななな……」
なんであいつが向かいの校舎に……!
ガヤガヤ...
先生「大丈夫かー?」
絹恵「え、ぁ……ご、ごめんなさい!///」
絹恵(あ、あいつ~~~~~~~っ!)
「じゃあねー」「またなー」
絹恵「……」スタスタ
ガラッ
洋榎「お、早かったなー絹ちゃん」
絹恵「!!」
絹恵「……っ」スタスタ
洋榎「ち、ちょっと待ってや~」タタッ
絹恵「……」スタスタ
洋榎「絹ちゃん、自己紹介はうまくできた? 友達は?」
絹恵「……」スタスタ
洋榎「うちのこと見えたやろ? いや~、まさかとは思うたけどちょうど真向いなんてなぁ」
洋榎「これならいつ何があっても平気やな。困ったときはお姉ちゃんを……」
バシッ...!
絹恵「……あんた、なに? ……なんなの?」
絹恵「人の心に土足でグイグイと入ってきて……気持ち悪い!!」
洋榎「……う、うちは……」
絹恵「困ったときはお姉ちゃんを頼れ……? バッカじゃない!」
絹恵「私はあんたのこと、姉なんて……家族なんて認めてないから!」
絹恵「もう私にかまわないでよ!」ダダッ
洋榎「……」
洋榎「絹……ちゃん……」
絹恵「……っ」
絹恵(あいつ……これで少しは大人しくなるかな……)
絹恵「……」ジクッ
絹恵(わ、私は何も間違ったことは言ってない……!)
絹恵(こっちの気持ちも知らないで馴れ馴れしくしてくるあいつが悪いのよ……!)
絹恵「……っ」
絹恵(……なのに……)
絹恵「なんで……なんでこんなに、胸が痛いんだろ……」
洋榎「……」
由子「あら、洋榎。お疲れなのよー」
洋榎「……」
由子「? どうしたのよー?」
―――――――――――――――――――
由子「うーん……それは難しい問題やね」
洋榎「うちが馴れ馴れしくしすぎたんかな……」
由子「環境がガラッと変わったせいで、きっと絹恵ちゃんの心はナーバスになってたのねー」
由子「まぁ、洋榎のやり方もちょっと無神経だったかもなのよ」
洋榎「無神経……」ガクッ
由子「でもそこが洋榎のいいところでもあるのよ」
由子「まずは絹恵ちゃんに会って謝って、彼女の気持ちを聞くことが大事だと思うのよー」
由子「そんないきなり認められるはずないのよー」
洋榎「うちはもう、絹ちゃんのこと家族やって思うてるで?」
由子「誰もが洋榎みたいになれるわけじゃないのよー」
由子「相手を認めるだけなら簡単……問題なのは、相手と認め合うことができるかどうかなのよー」
洋榎「絹ちゃんと、認め合う……」
由子「相手に認めてもらうために洋榎には何ができるのか、まずそれを考えることが大事なのよー」
洋榎「……」
洋榎「うん、まだどうしたらええかわからへんけど、ともかく今うちにできることをしてみようと思う」
洋榎「恩に着るで、由子!」
由子「がんばってこいなのよー」
お母さんはとても優しかった。私が学校であった出来事を話すと、いつも楽しそうにそれを聞いてくれた。
そして私はお母さんのする話が大好きだった。日常の些細な出来事に関する話でも、お母さんの話術にかかれば、それは一つの絵本のように私の心を湧き立たせてくれた。
しかし私が小学5年生にあがる頃、お母さんは交通事故に巻き込まれ、命を落とした。
それから私は変わってしまった。何をしても楽しいと思えず、そして次第に他人との付き合いも煩わしくなっていった。
いつしか私は、お母さんとの楽しい思い出に浸ることで、孤独を紛らわせるようになっていった――――。
私はそうやって他者との関わりを絶ってきた。だって私はお母さんがいる限り、孤独じゃないから。
父が再婚すると言い出したとき、私はあまり驚かなかった。
心底どうでもいいことだったし、なにより私の中でのお母さんは一人と決まっていたからだ。
しかし私は甘かった。世の中には、こちらが拒んでいても繋がりを求めてくる物好きな輩もいる。
“家族”という立場上の問題もあったのだろうが、愛宕雅枝という人は、まさにそういう人だった。
そして、愛宕洋榎……彼女を見たとき、私は不覚にも「お母さんに似てる」と思ってしまった。そしてそう感じた自分を呪いたくなった。
だから私はあの人たちを拒む……拒まなければいけない。そうしなければ、私の中の“お母さん”が消えてしまうように感じたから。
―――そんなことさせない……
私に“お母さん”一人さえいればそれでいいんだ……誰にも邪魔なんてさせない!
誰にも―――――
「絹ちゃん!」
絹恵「……っ!」ビクッ
洋榎「……ハァ、ハァ」
絹恵「……あんた……」
洋榎「……き、絹ちゃん、うち……」
絹恵「……もうかまうなって言ったでしょ」
洋榎「……うん」
絹恵「じゃあ、もう私に関わらないでよ」
洋榎「わかった……だけど、これだけ言わせて」
絹恵「……?」
洋榎「絹ちゃん……ごめんなさい」ペコッ
絹恵「!?」
洋榎「……謝ってる」
絹恵「そりゃ見ればわかるわよ! なんでそんなこと……」
洋榎「うち、少し無神経やったから……絹ちゃんの気持ち考えないで、一方的に仲良くしようって……」
洋榎「ほんま自分勝手やった……だから、ごめんなさい」
絹恵「なっ……や、やめてよ……」
洋榎「……絹ちゃん、うちのことやっぱり嫌い?」
絹恵「そ、それは……」
洋榎「嫌いやったら嫌いやったでええ。ただうちは知りたい……絹ちゃんの本当の気持ちを」
絹恵「……本当の、気持ち……」
なんだこの気持ちは……
これが……私の、本当の……
絹恵「……」
洋榎「……すぐには答えられへん?」
絹恵「……っ」
洋榎「んじゃ考えてる間に、うちの気持ち聞いて」
絹恵「え……」
洋榎「うちは、やっぱり絹ちゃんのこと気になる」
絹恵「!!」
洋榎「なんでやろな……放っておけないっていうか、あんたのこと、どうも他人のこととは思えないんや」
絹恵「……それってもしかして、私を憐れんでるっていうこと……?」
絹恵「え……」
洋榎「絹ちゃんは昔はもっと笑ってたってパパさんから聞いたで」
洋榎「うちは見てみたいのかも……絹ちゃんの笑った顔を」
絹恵「……」
なんで……なんでそんなに……
洋榎「で、どう? さっきの質問の答え、決めてくれた?」
絹恵「……っ」
絹恵「わ、私は……」
私は――――
絹恵「……私は、あんたのこと、好きじゃない」
洋榎「……そっか」
絹恵「……らない」
洋榎「……?」
絹恵「わかんない……わかんないよ……」
洋榎「絹ちゃん……?」
絹恵「どうして……あんたのこと、好きじゃない……好きじゃないのに……」
洋榎「……」
洋榎「……もしかして、嬉しいって、思ってくれた?」
絹恵「なっ……!」
洋榎「勘違いならごめんな……でも、もしかしたらって思うて」
絹恵「……」
絹恵(嬉しい……か)
嫌わないと、自分を保てなくなるから。お母さんが消えちゃうから―――。
洋榎「……お母さんのこと、パパさんから聞いたよ」
絹恵「……」
洋榎「お母さんが亡くなってから、絹ちゃん変わっちゃったって……」
絹恵「……」
洋榎「うちも小っちゃい頃にお父さん死んどる。だから気持ちがわかるなんて言うつもりはないけどな」
絹恵「……」
絹恵(そっか……この子には、お父さんがいないんだった……)
絹恵(どうして私、そんなことにも気づけなかったんだ……)
洋榎「でもこのままじゃ、絹恵ちゃんはもったいないと思うんや。もっと絹恵ちゃんらしい生き方してみてもいいと思う」
洋榎「うちはその手助けをしたい。だって……仮ではあっても、うちは愛宕の姉やから」ニコッ
絹恵「……っ」
絹恵「わ、わた……し……」
絹恵「お、お母さんのことが……っぐ……だ、大好きで……」
絹恵「でもお母さん死んじゃって……っ! それで……なんか、全部イヤになって……」
洋榎「うん……うん……」
絹恵「たぶん現実を受け入れたくなかった……お母さんがいない日常なんて、知りたくなかった……」
絹恵「けど、そんなのダメだった……自分勝手なことでしかなかった……っ」
絹恵「私……っく……今まで、なにやってたんだろ……」ボロボロ
絹恵「人の気持ちをないがしろにして……っ! 自分の殻に閉じこもって……っ!」
絹恵「最低だ……私……」グスッ
洋榎「……」
絹恵「お墓参りにも、行ってない……っ」
洋榎「……」
洋榎「……それじゃ、うちと行こう?」
絹恵「……ぇ」
洋榎「うちと行って、それでお母さんに笑った顔見せよう?」
洋榎「お母さん、きっとそれだけでめっちゃ喜んでくれると思うで」
絹恵「……っ」
――――お母さん……
絹恵「ぅ……うぇ……うええええん!! うええええんっ!!」ボロボロ
洋榎「よしよし……」ギュ
私は、お母さんが死んでから初めて、声をあげて泣いた。
たぶんそれは、3年間積りに積もった感情すべてを精算するための声と、涙だった。
お母さんは、もういない。でも、私にはまだ家族がいる。
お父さん……雅枝さんと、そしてこの―――お姉ちゃんが。
絹恵「……っ……ぇぐ」
洋榎「もう大丈夫?」
絹恵「……っく……うん……ありがとう」ゴシゴシ
洋榎「ありがとうって……なんか嬉しいな」
絹恵「ごめん……私、ひどいこと……」
洋榎「ん? なんのことや?」
絹恵「だって……会ってから今まで、散々……」
洋榎「うちは過去の細かいことは気にせん女なんや。だからごめんとか、もう言いっこなし」
絹恵「……うん」
洋榎「さ、帰ろ。うちのおかんとパパさんが待っとるで」
絹恵「……うんっ」
洋榎「ただいま帰ったで~」
雅枝「おう、遅かったな」
絹恵「……」
雅枝「絹ちゃんも一緒か。ちょうどええ、飯にしよ」
絹恵「あの……」
雅枝「……ん?」
絹恵「……」
絹恵「えっと……ただいま、です」
雅枝「……ふふ」
雅枝「ああ、おかえり絹ちゃん」ニコッ
雅枝「うちは昔っから中辛やけど、絹ちゃんは平気か?」
絹恵「えっと、大丈夫です」
父「父さんは甘口のがいいけどな」パクッ
洋榎「えぇ~、あんなの甘すぎて食えへんわ」
雅枝「イヤやったら無理して食わへんでもええで~」スッ
父「え……いや食います、食わせてください」
あははははっ!!
絹恵「ふ、ふふっ……」
洋榎「……」ニコッ
絹恵「おいしかったね」
洋榎「せやろ~? うちのお母さんはあれでなかなか料理上手なんやで」
洋榎「ま、めんどくさがってあんま作らへんけどな」アハハッ
絹恵「え、っと……ひろえさんは……その」
洋榎「むっ」ムギュ
絹恵「ぶっ! ばびぶんぼ!」(なにすんの!)
洋榎「絹ちゃん……いや、絹。この際やからはっきりさせとくで」
洋榎「うちのおかんをお母さんと呼ばんのは別にかまへんけど、さすがに姉妹でさん付けはないやろ」
絹恵「ばびば……」(それは……)
洋榎「……うん、なにゆうてるかわからへんわ」パッ
絹恵「ん……じゃあ、なんて呼べばいいの?」
洋榎「まぁ? 無理じいはせえへんけど?」
絹恵「……?」
洋榎「妹が姉のこと呼ぶんやったら、ほら、あれしかないやん?」
絹恵「えっと……」
洋榎「お、お……」
絹恵「……?」
洋榎「お、おね……」
絹恵「……あぁ」
洋榎「ん……いやまぁ、呼べって言うてるんやないで? これは絹ちゃんがそう呼びたかったらの話で……」
絹恵「……」ニヤッ
絹恵「いや別に私は呼びたくないけど……」
洋榎「えっ」ガーン
洋榎「え、どっちやねん……」
絹恵「……お姉ちゃん」
洋榎「っ!」ドキッ
絹恵「これでいい……かな?」
洋榎「う、うん……」
絹恵「……っ」
絹恵(い、言うの恥ずかしい……でも『お姉ちゃん』……悪くないかも)ドキドキ
洋榎(なんやこれ……胸の奥がこう、ふにゃあっとするわ……)ドキドキ
洋榎「そ、それじゃ部屋いこか!」
絹恵「うんっ」
絹恵「え、なんかお姉ちゃんの方が広くない?」
洋榎「うーん、じゃあこう……ふんっ!」グイッ
洋榎「これでええやろ?」
絹恵「あんま広がってない……まぁもういいけどさ」ヨイショ
絹恵「でも、お姉ちゃんの部屋って意外と片づいてるね。無駄に物は多いけど」
洋榎「意外と、と、無駄に、は余計や!」
絹恵「ん……これなに?」
洋榎「麻雀牌やで~。こっちにマットもある」
絹恵「へえ、お姉ちゃんって麻雀するんだ」
洋榎「これでも部内ではランキング一位なんやで~」ヘヘン
絹恵「それってすごいの?」
洋榎「え、すごいやろ! この学校で一番最強ってことなんやで!?」
絹恵「ふーん……」
洋榎「ええ~、なんやその興味なさげな空返事は」
この絹はどうすんだろ
家族麻雀するぐらい麻雀覚えて
次第に勝ち始めちゃって
洋榎お姉ちゃんが可哀想になったから、自分は±0で抑えて麻雀やらなくなってサッカー部に入ると思います
それなんて咲さん…
お姉ちゃんが転校フラグやそれ
洋榎「絹もやってみいよ。うちが教えたるから」
絹恵「ううん、いいよ」
洋榎「そ、そんなナチュラルに拒否されると傷つくわ……」ガクッ
絹恵「ご、ごめんごめん。でも私、ちょっとやってみたいことがあるから」
洋榎「なになに? 部活?」
絹恵「うん……あの学校って女子サッカー部あるんでしょ?」
洋榎「あったかなぁ……あーうん、あったかも」
洋榎「でも絹ってサッカーできるん?」
絹恵「ううん、見るのが好きってだけだけど」
洋榎「ええ~、見るのとやるのは全然違うやろ。ほんとにできるんか~? 絹、メガネやし」
絹恵「そ、そんなのやってみなくちゃわかんないじゃん!」ムスッ
洋榎「うーん、せやけどそのメガネはどうなん……?」
絹恵「試合中はコンタクトにするってば!」
洋榎「持ってないんかい」
絹恵「だからさ……今度買いに行くから、その……」
洋榎「ふっふーん……お姉ちゃんについてきてほしいんやな?」
絹恵「いや、お金……」
洋榎「っておぉい!」ビシッ
絹恵「冗談だよ冗談。でもついてきてくれるんなら嬉しいな」
洋榎「絹って案外おちゃめさんやな……」
洋榎「ま、まぁ仕方あらへんな! ええよ、ついてったる! ただしお金はださへんけどな!」
絹恵「ふふ……はいはい」
洋榎「ふぃ~、疲れたわ……」
絹恵「ありがとね、お姉ちゃん」
洋榎「別にええって。それよりもう10時やで。風呂入ってき」
絹恵「うん、じゃお先に」ガチャ
スタスタ...
洋榎「さーてマンガマンガっと……」
スタスタ...ガチャ
絹恵「お姉ちゃん、お風呂の場所ってどこ?」
洋榎「あぁ、そういや知らへんのか。案内するわ」
洋榎「……ここがトイレ」ガチャ
絹恵「へえ、ありがと」
洋榎「じゃ、ごゆっくり~」スタスタ...
ガチャ...ボフンッ
洋榎「よし、マンガ読むでー」ペラッ
スタスタ...ガチャ
絹恵「お姉ちゃん、お湯が出ないよ~」
洋榎「ええ~」
―――――――――――――――――――
洋榎「ここのスイッチ押さんと出えへんからな。ほいじゃ」スタスタ
絹恵「わかった。ありがと」
ダダダッ...ガチャ
絹恵「お姉ちゃ~ん」
洋榎「もう! 下の階なんやからおかんに聞いてや!」
―――――――――――――――――――
洋榎「はい、これでええ?」
絹恵「うん、ありがとお姉ちゃん」
洋榎「……」
洋榎「なんかまた呼ばれるんも面倒やから、いっそうちも一緒に入るわ」ヌギヌギ
絹恵「えええっ!? や、やだよ!」
洋榎「別にええやん。女同士っていうかもう姉妹なんやし」
絹恵「そりゃそうだけど……」
絹恵「なんかそれおじさん臭い……」
洋榎「ええやん、大阪じゃ湯船に浸かるときはみんなこういうんや」
絹恵「それうそでしょ」
洋榎「ほんとほんと~。絹も早く大阪のしきたりに慣れなあかんで~」
絹恵「はいはい」ジャー
洋榎「……」ジーッ
絹恵「……ん、なに?」
洋榎「絹……おっぱいでかいな」
絹恵「なっ……///」
洋榎「なんか年下ってちゅうか、中学生に見えへんわ」
絹恵「そ、そんなこと……お姉ちゃんの方だっt」
洋榎「……」ペタン
絹恵「あの……気にしないでね」
洋榎「なんやろ……今すごくバカにされた気がするわ」
洋榎「え……なにいうてるん? あんたまだ風呂入ってないやん」
絹恵「うん、だって私シャワー派だし」
洋榎「し、シャワ……?」
絹恵「シャワー派。シャワーだけで済ませる人のこと」
洋榎「え、なんやそれおかしいやろ」
絹恵「おかしくないよ」
洋榎「いやおかしい。絹、ちゃんと風呂入りなさい」
絹恵「え、やだよ。暑いし」
洋榎「ダメや! ちゃんと入りんさい!」グイッ
絹恵「ちょ……!」
バシャンッ...!
絹恵「ぷはっ……あ、危ないじゃないの、お姉ちゃん!」
洋榎「うるさいわ、ちゃんと100数えるまで湯船からはださへんからな」
絹恵「お、お姉ちゃん……狭いんだけど……」
洋榎「さーん、我慢しーい、ごーお……」
絹恵「……なんか数えるの遅くない?」
洋榎「ろーく、しーち、はーち……」
絹恵「……」
―――――――――――――――――――
洋榎「ごじゅろーく、ごじゅしーち……」
絹恵「……お姉ちゃん、もういいでしょ?」
洋榎「ダメや、まだ半分も、残っとる……」
絹恵「……」
―――――――――――――――――――
洋榎「……ひゃーくっ! はい、よくできたで絹ちゃん」
絹恵「ハァ……軽くのぼせた……」
絹恵「それは、絶対、ないっ!」
―――――――――――――――――――
洋榎「電気消すでー」
絹恵「……うん」
カチッ
「……」
「……お姉ちゃん、今日はありがとうね」
「……ええっていうたやろ」
「うん、そうやったね……て、あっ///」
「はは、絹もだんだんと大阪色に染め上げられつつあるなぁ」
「うぅ……なんか恥ずかしい///」
「……絹」
「なに?」
「明日はお墓参りいこ」
「……うん」
「んで、帰りは昨日言ったたこ焼きおごったる」
「コンタクトも買いに行っていい?」
「おごらへんけどな。おかんかパパさんにお金もらっとき」
「うん」
「……ん」
「……これからもずっと、お姉ちゃんでいてね」
「なんや……そういうのもう恥ずかしいからやめ」
「……恥ずかしいから今言ってるんだよ」
「そーですか」
「……それで?」
「……ん、なんや?」
「ハァ……もういいよ」
「……うそうそ。ずっと絹のお姉ちゃんでおるで」
「……」
「……やで、お姉ちゃん」
「え……今なんて言うた?」
「な、なんでもないっ! おやすみ!」バッ
「……」
ありがとう……
大好きやで、お姉ちゃん―――
カン(カチッ...でどうすか
槍槓だ
そのカン、成立せず
ほんとは銀縁メガネだった絹ちゃんが、洋榎ちゃんに言われて今のピンク縁のメガネに替えるシーンとか入れたかったです
お疲れっした
>>295
なんであきらめるんだそこで
続き待ってるでー!
Entry ⇒ 2012.10.17 | Category ⇒ 咲-Saki-SS | Comments (0) | Trackbacks (0)
アックマン「ハンター試験?」
アックマン「占いババ様がぁ?」
鬼「そのハンター試験とやらに合格して、ハンター証を取って来いとの事だ」
アックマン「おい、鬼……そのハンターってのはなんだ?」
鬼「世界中に居る珍獣・怪獣の保護や狩り、希少な鉱石・宝石の入手。はたまた賞金首を狩るといった」
鬼「占いババ様のいる近辺では稀な職業らしい」
アックマン「ふぅむ……中々面白そうだな、ぬはは!」
アックマン「しかし、俺様を選んだ理由が分からんな」
鬼「お前は占いババ様の戦士の仲で腕がたつんだろ?なら、選ばれて当然じゃないか」
アックマン「それもそうか……ぬは、ぬは、ぬははは!!」
レオリオ「なんだアイツ……」
クラピカ「悪魔のコスチュームか……?」
ざわざわ……
ゴン「元気でねー!!」
ゴン「絶対、立派なハンターになって戻ってくるからーー!!」
モブ「くっくっく……立派なハンターか」
モブ「なめられたもんだな」
モブ「この船だけで(ry」
ゴン「……(あの人、背でっかいなー)」チラ
アックマン「こいつ等、ジロジロと俺様を……。ムカつく野郎共だ」
アックマン「まぁいい、はんたー証?の為だ、見逃してやるか!ぬは、ぬは、ぬははは!」
ゴン「(明るいおじさんだなぁ)」
アックマン「ふぅむ……流石は占いババ様。厳しい環境に身を置かなければならないほどハンターは厳しいのか」
モブ1「あっ!アイツ、空を飛んでやがおぼろろろろ」
モブ2「馬鹿な、何かの間違いだおぼろろろろ」
アックマン「ぬははは、俺様を見て驚いてやがる」
アックマン「どれ、いっちょライバルを減らしてみるかぁ?」
アックマン「貴様らぁ!このアックマン様の攻撃を避けてみろ!」ボウンッ
ゴン「フォーク!?」
アックマン「フォークアタック!」ビュンビュン
モブ2「フォーク形状の槍か!?どこから!?」
アックマン「槍を衝動買いしてしまった事は、マージョンには内緒にせねばならんな」
ゴン「うわっ!おっと!」
アックマン「むぅ?あの小僧……中々すばしっこいな」
アックマン「どぉれ、俺様の攻撃をどこまで避けられるか!試してやろう!」ビュビュンビュン!
ゴン「!」ヒュンヒュンヒュン!
アックマン「……!全部、避けやがった?」
ゴン「おじさん危ない!波が!」
アックマン「?」
ザバァァァァン!
船長「まぁまぁの波だったな」
船員「そうですね」
船長「今年の客はどうしてる?」
船員「例年通りですよ」
船員「ほとんど全滅です」
船長「情けねぇ連中……だ、って」
船長「おい、このフォークみてぇな槍はどうした?」
船員「槍?あぁ、それなら」
船員「あそこで倒れている男の物かと」
アックマン「……」
ゴン「ほい、水だよ。この草かむと楽になるよ」ア、スンマセン
船長「どうでもいいが、アイツの服装なんだ?」
船員「さぁ」
船長『命が惜しい奴は今すぐ救命ボートで近くの島まで引き返すこった』
ナニィィ!?ウワァァァ!
船長「結局、客の中で残ったのはこの4人か。名を聞こう」
レオリオ「俺はレオリオという者だ」
ゴン「俺はゴン!」
クラピカ「私の名はクラピカ」
アックマン「俺様は正義の悪魔!アックマン様だ!」
レオリオ「(何言ってんだコイツ)」
船長「お前ら、なぜハンターになりたいんだ?」
アックマン「それだけだ」
レオリオ「おい待てオッサン!勝手に答えるんじゃ」ジャキン
アックマン「地獄へ連れてってやろうかぁ?小僧」
レオリオ「なんでも無いです」
クラピカ「……!(ふざけた容姿だが実力はある様だな……)」
ゴン「オレは親父が魅せられた仕事がどんなものかやってみたくなったんだ」
レオリオ「……俺はあんたの顔色をうかがって答えるなんてまっぴらだから正直に言うぜ」
レオリオ「金さ!金さえありゃなんでも手に入るからな!」
レオリオ「でかい家!いい車(ry」
アックマン「(いい悪人ヅラだ)」
レオリオ「おい」
レオリオ「お前年いくつだ、人を呼びすてにしてんじゃねーぞ」
船長「そっちの兄ちゃん、お前は?」
クラピカ「もっともらしい嘘をついて……」
船長「ほーお、そうかい」
船長「それじゃお前も今すぐこの船から降りな」
船長「まだ分からねーのか?すでにハンター試験は始まってるんだよ」
アックマン「……ん?」ピクッ
ゴン「?どうしたの、おじさん?」
アックマン「小僧、よぉく覚えておけ。俺様の名前はアックマンだ!」
ゴン「アックマンさん、どうしたの?」
アックマン「いやなぁに、ちょいとアイツの……目が気になったのさ」
ゴン「目?クラピカの?」
クラピカ「!」
クラピカ「貴様、クルタ族を知っているのか!?」
船長「!!クルタ族……」
アックマン「そうそう……クルタ族。よぉーく覚えてる……怒ると目が赤色になる奴ら」
クラピカ「貴様、まさか幻影旅団か!?」
アックマン「何人かは地獄に来ていたからなぁ……殺されたらしいが」
クラピカ「質問に……答えろ!」
アックマン「俺様は別に殺してもいなければ、幻影旅団とやらも知らん」
クラピカ「なら貴様は……何者だ!?」
アックマン「聞こえてなかったか?俺様は、正義の悪魔アックマン様だ!」
船長「ムダ死にすることになるぜ」
クラピカ「……」
クラピカ「死は全く怖くない」
クラピカ「一番恐れるのはこの怒りがやがて風化してしまわないかということだ」
アックマン「死が怖くないか……ぬはは!」
ゴン「ねぇ、アックマンさん」
ゴン「アックマンさんって本物の悪魔なの?」
アックマン「んん?あぁ、正真正銘の悪魔だ」
ゴン「へーっ!アックマンさんって本物の悪魔だったんだー!」
レオリオ「(んなわけねぇだろ!?)」
アックマン「よぉし、小僧外に出な。俺様の恐ろしさを目に焼き付けてやる」
ゴン「うん!」
クラピカ「(馴染んでいる……)」
レオリオ「(馴染んでる……)」
船長「!!」
ザザァァァン!ドォォンビュウウザザァァァンン!!
アックマン「いいか、よく見ておけよ?」ボウン
アックマン「これが俺様の武器だ」
ゴン「あの時のフォークだよね!」
アックマン「いかにもぉ!俺様のフォークアタックを避けきった奴は、久しく見ていなかったぜぇ!」
アックマン「小僧、確かゴンといったか?」
ゴン「うん!ゴン=フリークスだよ!」
アックマン「そうか、お前を見ていると……何となく奴を思い出すな」
ゴン「?」
アックマン「ソイツはなぁ……」
カッツォ「ぎゃっあう」
船員「カッツォ!」
レオリオ「チイッ」
ゴン「」ダッ
アックマン「まぁったく……貴様ら人間は脆すぎる」
ゴン「!?」キィィッ
クラピカ「なっ……!?」
レオリオ「!?」
アックマン「ほれ」ポイッ
船員「うおっ」
アックマン「ソイツの手当てでもしてやれ」
アックマン「傷は浅いはずだぁ……ぬはは!」
レオリオ「本当に……悪魔なのか……?」
ゴン「すっげー……」キラキラ
アックマン「(占いババ様は……何故ハンター証が欲しいのだ……?)」
クラピカ「……先ほどの、失礼な言動を詫びよう。すまなかった、アックマンさん」
レオリオ「俺もさっきの言葉は全面的に撤回するぜ、アックマンさん」
アックマン「そうか、そうかぬははは!貴様ら気に入ったぁ!」
アックマン「今日の俺様はすごく気分がいい!
アックマン「貴様ら3人は俺様が責任もって審査会場最寄りの港まで連れて行ってやろう!」
船長「」
男「なんだアレ……」
女「人?人が飛んでるわ……」
バサッバサッ
アックマン「着いたぞ」
レオリオ「すげぇ人だな。えーとザバン市に向かう乗り物は……」
クラピカ「おそらく彼らの殆どが我々と同じ目的なのだな」
船長「(ソイツを見に来たギャラリーばっかりだろ……)」
ゴン「船長!色々ありがとう!元気で」
船長「うむ、達者でな」
船長「最後にわしからアドバイスだ」
ゴン「?」
船長「あの山の一本杉を目指せ。それが試験会場にたどりつく近道だ」
ゴン「分かったありがとう!」
ゴン「おーいアックマンさーん!あの一本杉がー……」
船長「……ジン」
船長「お前の息子はいい子に育ってる」
船長「ただアイツがいる限りハンターは無理な気がする」
レオリオ「見ろよ、会場があるザバン地区は地図にもちゃんとのってるデカイ都市だぜ」
レオリオ「わざわざ反対方向の山にいかなくても、ザバン直行便のバスが出てるぜ」
レオリオ「近道どころかヘタすりゃ無駄足だぜ」
クラピカ「彼の勘違いではないのか?」
ゴン「とりあえずオレは行ってみる。きっと何か理由があるんだよ」
アックマン「ぬははは!なら、俺様もこっちから行くかぁ!」
クラピカ「……ならば私も」
レオリオ「じゃあ、俺も行くぜ!」
クラ・レオ「(絶対に安全だからな!)」
アックマン「ぬははは!」
レオリオ「下はうすっ気味悪そうな所だなぁ、人っ子一人見当たらねーぜ」
クラピカ「すまないな、アックマンさん」
アックマン「ふん、貴様ら人間など軽い軽ぅい!」
ゴン「下に何かトラップでもあったのかな?」
クラピカ「……なぜそう思う?」
ゴン「だって下から小さいけど息づかいが聞こえるもん!」
クラピカ「(この距離で聞こえるのか……ゴンの聴力はすごいな)」
アックマン「さぁてぇ、あの山の頂上でも目指すかぁ!」
レオリオ「!道分かるのか!」
アックマン「勘だが?」
レオリオ「……」
バッサバッサ
婆「(;ω;)」
クラピカ「しかし……此処からどうすれば」
ゴン「あ!見て、小屋がある!」
レオリオ「……まさか、あそこが試験会場なんていうんじゃないだろうな」
アックマン「迷った時はなぁ、行ってみよう!」
クラピカ「そうだな、行ってみよう」
クラピカ「……静かだな」
クラピカ「我々以外に受験者は来ていないのか?」
コンコン
レオリオ「入r」
アックマン「貴様等ぁ!少し下がってろ!」
レオリオ「なっ!?」
クラピカ「二人とも伏せろ!」
アックマン「フォークアタァァァック!!」ビュン
ギィヤアァアァァァァァ
アックマン「入るぞ」
レオリオ「流石だぜ」
ゴン「かっけー……」
ガチャ
アックマン「そうか、貴様等を地獄に送ればハンター試験クリアだなぁ?」
キリコ「ガクガクブルブル」
キリコ(男)「ちちち違う!私たちは案内役で、試験官じゃない!」
ゴン「アックマンさん!この魔獣は本当のこと言ってるよ!」
アックマン「そ、そうなのか?」
アックマン「そうか……驚かせてすまなかった!ぬは、ぬは、ぬははは!」
アックマン「んでぇ?道案内はしてくれるんだろうなぁ?」ジャキン
キリコ「」
キリコ「ツバシ町の2-5-10は……と」
クラピカ「アックマンさんはやはり強いな」
レオリオ「なんせ、あの後強制的に俺達を合格にしてくれたからな」
ゴン「キリコ達、目が泳いでたね」
アックマン「なぁにお安い御用だぁ!ぬは、ぬは、ぬははは!」
キリコ「向こうの建物だな」
アックマン「流石……占いババ様直々の命令だけあって、すげぇ建物だな」
レオリオ「ここに世界各地から」
クラピカ「ハンター志望の猛者が集まるわけだな」
ゴン「(親父もこんな気持ちだったのかな……)」
レオリオ「……どう見てもただの定食屋だぜ」
レオリオ「冗談きついぜ案内役さんよ」
レオリオ「まさか、この中に全国から無数のハンター志望者が集まってるなんて言うんじゃねーだろ」
キリコ「そのまさかさ」
おっちゃん「いらっしぇーい!」
クラピカ「……」
おっちゃん「御注文はー?」
アックマン「そうだなぁ……このトンカツ定食を一つ」
キリコ「悪いけど黙ってて」
キリコ「ステーキ定食」
おっちゃん「焼き方は?」
キリコ「弱火でじっくり」
おっちゃん「あいよー」
店員「お客さん、奥の部屋へどうぞー」
ジュー ジュー ジュージュージュー
アックマン「ほう……美味そうだなぁこりゃあ」
キリコ「一万人に一人」
ゴン「?」
クラピカ「?」
レオリオ「?」
アックマン「」ガツガツ
キリコ「ここに辿りつくまでの倍率さ。お前達、新人にしちゃ上出来だ」
キリコ「それじゃ頑張りなルーキーさん達とアックマンさん」
キリコ「お前らとアックマンさんなら来年も案内していいです」カチ
ウィーーーーン
キリコ「(絶対案内しない)」
レオリオ「まるで、俺達が今年は受からねーみたいじゃねーか」
クラピカ「3年に1人」
クラピカ「初受験者が合格する確立、だそうだ」
クラピカ「新人の中には余りに過酷なテストに精神をやられてしまう奴」
クラピカ「ベテラン受験者のつぶしによって」
クラピカ「二度とテストを受けられない体になってしまった奴などざららしい」
ゴン「でもさぁ」
ゴン「オレ達にはアックマンさんがいるから安心だよね」
クラピカ「……それもそうだな」
レオリオ「俺達にはいらねー心配ってことだぜ!」
クラピカ「着いたらしいな」
レオリオ「……」
アックマン「」ガツガツ ゲェプ
ゴン「着いたよ、アックマンさん」
ウィーン
「!!」
ザワザワ…ザワザワ…
アックマン「(ふん、一体どんな化け物共が相手かと思えばぁどいつもこいつも大した事ねぇなぁ)」
アックマン「(拍子抜けって感じだなぁ!これなら楽々合格、簡単な仕事だったぜ)」
ゴン「一体、何人くらいいるんだろうね」
トンパ「君たちで406人目だよ」
トンパ「よっ、オレはトンパ。よろしく」
トンパ「新顔だね君たち」
ゴン「分かるの?」
トンパ「まーね!なにしろオレ、10歳からもう35回もテスト受けてるから」
ゴン「35回!?」
アックマン「(コイツは人の良い顔をしてるが……悪人だ、今の内に殺っておくかぁ?)」
アックマン「(……ヘタに行動して、失格になるかもしれん。やはり様子を見るか……)」
レオリオ「(いばれることじゃねーよな)」
クラピカ「(確かに)」
トンパ「当然よ!よーし、色々紹介してやるよ!」
~紹介中~
トンパ「~とまぁここら辺が常連だな」
トンパ「実力はあるが、今一歩で合格を逃してきた連中だ」
「ぎゃあああああ!」
ゴン「!」
ヒソカ「アーラ不思議♥」
ヒソカ「腕が消えちゃった♠」
モブ「お オ」
モブ「オ オオオレのォォ~~」
ヒソカ「気をつけようね♦人にぶつかったら謝らなくちゃ♠」
トンパ「44番 奇術師ヒソカ」
トンパ「去年、合格確実と言われながら気に入らない試験管を半殺しにして失格した奴だ」
レオリオ「そんな奴が今年も堂々とテストを受けれんのかよ……!」
トンパ「当然さ。ハンター試験は毎年、試験管が変わる」
トンパ「そして、テストの内容はその試験管が自由に決めるんだ」
トンパ「その年の試験管が「合格」と言えば」
トンパ「悪魔だって合格できるのがハンター試験さ」
ゴン「……」チラ
クラピカ「……」チラ
レオリオ「……」チラ
アックマン「……?」
トンパ「極力近寄らねー方がいいぜ」
アックマン「ふぅむ……」
アックマン「ではぁ、奴がどれほどの奴か俺様が試してやろう……」
アックマン「ふん!」ゴワァァァァ
ヒソカ「!?」
ヒソカ「(この気迫……!140点!!)」ビーン!
ヒソカ「(ふふふ……♥ふふふふ……♥)」
ヒソカ「(彼は絶対、僕の獲物だ♠)」
トンパ「(なんだ……コイツの気迫!?)」
ゴン「アックマンさんの周りに……気みたいなのが見える!」
レオリオ「すげぇ……禍々しい色だぜ」
クラピカ「悪魔っていうのは本当なのか……?」
アックマン「あのヒソカとかいう奴は……まぁまぁだな、ぬはは!」
トンパ「マズイのに関わっちまった」
キルア「……マジかよ」
トンパ「俺が色々教えてやるから安心しな!」
ゴン「うん!」
トンパ「おっとそうだ」ゴソゴソ ジュース!
トンパ「お近づきのしるしだ、飲みなよ」
トンパ「お互いの健闘を祈って乾杯だ」
ゴン「ありがとう!」
トンパ「(くくく、そのジュースは強力な下剤入り!)」
トンパ「(一口飲めば(ry」
ゴン「れろ」ダーー
ゴン「トンパさんこのジュース古くなってるよ!味がヘン!」
トンパ「え!?あれ?おかしいな~~?」
アックマン「やはりな……」
トンパ「え?」
アックマン「貴様を見た時から悪人だとは分かっていたが……毒を盛っていたな?」
トンパ「いや、毒じゃなくて……」
アックマン「悪魔を相手取るとはなぁ……いい度胸だ」
アックマン「その卑劣な行為を、あの世で懺悔するがいい!」
トンパ「いやちょっと」
アックマン「俺のこの目が真っ赤に光るぅ……貴様を倒せと妖しく囁くぅ……」
アックマン「いーんしつ……!」
トンパ「あ、あ、あああ」
アックマン「アクマイト光線!」
アックマン「それ!ドカン!」
ドカァァァァァァン!!
ナンダナンダ!?バクハツシタゾ!
レオリオ「な、なんだ!?」
クラピカ「トンパが……爆発した!?」
ゴン「」
アックマン「そぉだそぉだ……貴様らにはこの技の説明をしてなかったなぁ」
アックマン「俺様の必殺技アクマイト光線は、邪心を増幅させ爆発させることができるのだぁ!」
アックマン「どんなに良い子ちゃんぶった奴にも、少なからず邪心は存在するからなぁ!」
ヒソカ「(180点……ハァハァ♥)」
ゴン「かっけー……」
クラピカ「ゴン、それは違う」
レオリオ「えげつねぇな……グチャグチャだぜ」
キルア「(;ω;)」
ギタラクル「(涙目キルアの写メ撮っとこ)」パシャ
レオリオ「ジュースだって、勘違いで古くなってただけかもしれねぇぜ?」
ニコル「いえ、そこの方の行動は正解ですよ」
レオリオ「……誰だ?」
ニコル「二コル、といいます。以後お見知りおきを」
ニコル「今見たところ、トンパさんは本試験連続30出場という歴代1位の記録を持っています」
ニコル「成績上位ですが、合格できないのは別の目的に気をとられているから」
ニコル「彼は”新人つぶし”のトンパと言われています」
レオリオ「新人……つぶし?」
ニコル「だから、成績上位でありながらも合格することが出来てないんです」
クラピカ「トンパがそんな奴だったとは……」
アックマン「人は見かけによらねぇってこった!」
ジリリリリリリリリ!ジリリリリリリリリ!
サトツ「ただ今をもって受付時間を終了いたします」
サトツ「では、これよりハンター試験を開始します」
アックマン「(アイツもまぁまぁ……ってところか)」
サトツ「こちらへどうぞ」
サトツ「さて、一応確認しますが」
サトツ「ハンター試験は大変厳しいものもあり、運が悪かったり実力が乏しかったりするとケガしたり死んだりします」
サトツ「先ほどのように受験生同士の争いで再起不能になる場合も多々ございます」
ヒソカ「♠」
アックマン「ぬはは……」
サトツ「それでも構わない――という方のみついて来てください」
ザッザッ
サトツ「承知しました、第一次試験404名。全員参加ですね」
レオリオ「当たり前の話だが誰一人帰らねーな」
レオリオ「ちょっとだけ期待したんだがな」
ゴン「……」
クラピカ「おかしいな」
クッ ダダダダダダダ
レオリオ「おいおい何だ?やけにみんな急いでねーか?」
クラピカ「やはり進むペースが段々早くなっている!」
ゴン「前のほうが走り出したんだよ!」
アックマン「……」フワフワ
ゴン「あ、そっか。アックマンさんは悪魔だから飛べるんだったよね」
アックマン「ぬはは!このアックマン様に不可能はぬぁい!」
アックマン「どれ……貴様らも乗せていってやろうか?」
ゴン「いいの!?」
アックマン「大船に乗ったつもりでいけぇ!ぬは、ぬは、ぬははは!」
クラピカ「助かった」
レオリオ「ありがとうアックマンさん!」
キルア「マジで?」
サトツ「これより皆様を二次試験会場へ案内いたします」
アックマン「なにぃ?ハンター試験はまだ始まらないのか?」
サトツ「もう始まっているのでございます」
サトツ「二次試験会場まで私について来ること」
サトツ「これが一次試験でございます」
アックマン「ならば大した試験じゃない、さっさと二次試験会場へ行くぞぉ!」
ゴン「おーっ!」
サトツ「(悪魔ですかね)」
キルア「(悪魔だよな)」
ギタラクル「(悪魔だね)」
ヒソカ「……」ペロ
キルア「」スーッ
レオリオ「おいガキ汚ねーぞ。そりゃ反則じゃねーかオイ!」
キルア「何で?」
レオリオ「何でってオマ……」
レオリオ「こりゃ持久力のテストなんだぞ!」
ゴン「違うよ、試験官は付いて来いって言っただけだもんね」
レオリオ「ゴン!!テメ、どっちの味方だ!?」
クラピカ「怒鳴るな、体力を消耗するぞ」
クラピカ「何よりまずうるさい、テストは原則として持ち込み自由なのだよ」
レオリオ「~~~」
キルア「(お前らも下の悪魔みたいなのに乗ってるよな)」
キルア「……」
キルア「ねぇ君、年いくつ?」
アックマン「いくつか当ててみな」
キルア「アンタじゃない」
ゴン「もうすぐ12!」
キルア「……ふーん」
キルア「(同い年……ね)」
ゴン「?」
キルア「やっぱ俺も乗っていい?」
ゴン「アックマンさん、大丈夫?」
アックマン「少しスピードは下がるが……支障はぬぁい!ぬはははは!」
ゴン「ノリノリだから大丈夫」
キルア「さんきゅー」
ゴン「俺はゴン!」
キルア「おっさんの名前は?」
レオリオ「おっさ……これでもお前らと同じ10代なんだぞオレはよ!」
ゴン・キル・アック「うそぉ!?」
レオリオ「あーーー!ゴンとアックマンさんまで……!ひっでーもう絶交な!」
クラピカ「(離れたい)」
クラピカ「(およそ三時間)」
クラピカ「(40kmくらいは飛んでたんだろうかw)」
クラピカ「(後ろではきっと何人か脱落してるんだwろwうwがwww)」
クラピカ「(いったいいつまで待てばいいんだ?www)」
ニコル「(馬鹿な……馬鹿な馬鹿な馬鹿な!)」
ニコル「(オレが脱落!?そんな馬鹿な!)」
ニコル「いやだ……たくない……」
ニコル「ゼヒューゼヒュー」ガシャッ
アックマン「……そろそろ、何人かは後ろでリタイアだ」
ゴン「何でそう思うの?」
アックマン「あの階段を見たら一目瞭然ってわけだ!」
キルア「おー……たっけぇ(大したこと無いけど)」
レオリオ「俺たちは勝ち組だな」
クラピカ「必死に走ってる奴らざまぁww」
アックマン「あぁ、上げろ上げろ!ぬは、ぬは、ぬははは!」
ゴン「頑張れサトツさん!」
キルア「おっさーん、もっと速く走ってもいいんじゃないの?」
クラピカ「私もキルアに賛同だな、あまりにもスローペースでは時間を無駄にしてしまう」
レオリオ「よっしゃ!サトツさん……だったか?もっとスピードを上げてくれ」
サトツ「(この悪魔が試験官やった方がいいような……)」
スタスタスタスタ
アックマン「(しかしつまらんな……こんな調子じゃはんたー証など簡単に取れそうだ)」
アックマン「(少ぉし縛りルールを決めてみるか)」
アックマン「(ゴン、クラピカ、レオリオ、キルア)」
アックマン「(この4人を欠ける事無くハンターにする、たまには俺様も良いことしないとなぁ)」
アックマン「(ぬはは……そうか、これは修行の一環か)」
アックマン「(孫悟空打倒の為に、俺様を此処へ行かせたわけだなぁ……?)」
アックマン「ぬはは!上等!俺様の力を存分に見せ付けてやるぜぇ!」
サトツ「(変わった悪魔ですな)」
ゴン「?どうしたのアックマンさん?」
アックマン「俺様がライバルを……減らしてやろう!」ボンッ!
サトツ「!(槍を……具現化系の能力者?)」
アックマン「貴様らぁ……」
アックマン「悪魔に殺されたことはあるかぁ……?」
アックマン「フォォォォクアタァァァック!!」
バシュンバシュンバシュンバシュンバシュンバシュン
バシュンバシュンバシュンバシュンバシュンバシュン
バシュンバシュンバシュンバシュンバシュンバシュン……
モブ達「うわぁぁぁぁ!」
ハンゾー「うおっと!」
ヒソカ「♥♥♥」ゾクゾクゾク
ギタラクル「(あの悪魔のせいで……キルアの写真が撮れなくなった)」
ギタラクル「(殺すか)」
脱落者 187名
サトツ「(……確かに、その年の試験官が合格と言えば悪魔だって合格できるのがハンター試験)」
サトツ「(しかし……本物の悪魔を実際に見ると、どうすればいいか困りますね)」
サトツ「(と、そんな事を考えている間に出口ですか)」
ハンゾー「ふぅ、ようやく薄暗い地下からおさらばだ」
ザッ
モブ「ここは……」
サトツ「ヌメーレ湿原。通称”詐欺師の塒”」
サトツ「二次試験会場へは此処を通っていかねばなりません」
サトツ「この湿原に……」
アックマン「(まぁ、俺様の速さならぁ5分と掛かるまい!)」
アックマン「(……それにしても)」
アックマン「(後ろから妙な殺気を感じる)」
ヒソカ「♥」
ギタラクル「(殺)」
アックマン「しーっかりと捕まっていろよ?」
4人「え?」
アックマン「ぬああああっ!!」ビュウウウン!
4人「うわぁぁぁぁっ!?」
サトツ「(飛んだ……)」
ヒソカ「最悪♠」
ギタラクル「殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す……」
サトツ「(怖い)」
~上空~
アックマン「あの魔獣の時みたいに、何か小屋の様なものを探せば見つかるはずだ」
ゴン「何が?」
アックマン「二次試験会場に決まってるだろぉ?」
ゴン「あ……そうか(また小屋なのかぁ……)」
クラピカ「建物……みたいだな」
キルア「あそこが二次試験会場じゃねーの?」
レオリオ「二次試験会場か……まだ10分立ってねーよな?」
ゴン「あっという間だったね!」
アックマン「ぬはは!このアックマン様に不可能はぬぁい!」
サトツ「(続々とリタイアする者が出ていますな……しかし、その原因は)」
ギタラクル「イライラする」ビシュッビシュッ
モブ「あががぎぎぎぐぐぐ」
ヒソカ「つまんないの♦」
モブ「ぐあわわわわ」
サトツ「あの二人ですね」
サトツ「(会長に連絡した方がいいのでしょうか)」
ギタラクル「ゴワゴワする」ビシュビシュ
モブ「あががっががががっがが」
ヒソカ「(早くあの悪魔と殺りあいたい……♥」ザシュ
モブ「ぐあああああ!!」
サトツ「(80人減るんじゃないかな)」
ビーンズ「会長!ご連絡が」
ネテロ「んー?」
ビーンズ「先ほど、ハンター試験会場のサトツさんから、一次試験の時点で残り10名ほどになったと)」
ネテロ「」
ビーンズ「どうしましょう?」
ネテロ「どうしたもこうしたも……行くしかあるまい」
ネテロ「(10人?マジで?)」
アックマン「なんだなんだぁ?この奇妙な音はぁ?」
ゴン「獣の唸り声みたいな……」
レオリオ「アックマンさん、物怖じもせずに音がする方を見てるな」
クラピカ「というより、人数が大分絞られてないか?」
キルア「(ヒソカの野郎はしっかりと残ってるみてーだな)」
キルア「(その隣の針男はさっきから俺ばっかり見てるし……悪寒がする)」
ギタラクル「(キルアキルアキルアキルア)」
ゴン「あ、12時になった」
ギィィィ……グルルルルルルルギュルルルルルルル
レオリオ「!」
ブハラ「」ギュルルルルグルルルルガルルルゴォォォ
メンチ「どぉ?お腹は大分減ってきた?」
ブハラ「聞いての通りもーぺこぺこだよ」
メンチ「そんなわけで二次試験は”料理”よ!」
メンチ「美食ハンターのあたし達二人を満足させる料理を作ってちょうだい!」
キルア「料理!?」
メンチ「(本当に少ないわね……もう10人ちょいしかいないじゃない)」
~二次試験スタート~
アックマン「(豚か……孫悟空の周りをウロチョロしていたアイツも、豚だったなぁ……?)」
レオリオ「いやー正直ホッとしたぜ!簡単な料理でよ」
ゴン「豚捕まえて焼くだけだもんね」
クラピカ「しかし早く捕まえねば」
キルア「ハンター試験だし、一筋縄じゃいかねー豚かもな」
アックマン「ぬはははは!なぁに、この俺様にかかれば豚一匹など雑魚同然!」
アックマン「待っていろ、貴様等の分も合わせて30秒で狩ってきてやろう!」ビューン!
レオリオ「さっすがアックマンさんだぜ!もう姿が見えねぇ!」
ゴン「じゃ、俺たちは待っておこうか」
クラピカ「うむ、そうだな」
キルア「(こいつ等……)」
アックマン「ふぅ……なんだ、ただの豚じゃあねぇか……」
アックマン「これを持って帰って……ふん!む、重いな」
アックマン「まぁ、豚程度にてこずる俺様じゃあないがなぁ!ぬは、ぬは、ぬはははは!!」
アックマン「重い……」
ゴン「遅いねー」
レオリオ「まぁ、気長に待とうぜ」
クラピカ「まだ他の受験者も来てないしな」
キルア「(こいつ等結局スタート地点に戻ってきてるし……俺もだけど)」
ドドドドドドドド
レオリオ「おい、人が大分来たぞ」
ゴン「これってやばい?」
キルア「(行けばよかったorz)」
クラピカ「……あれは!」
アックマン「貴様等待たせたなぁ!」フラフラ
レオリオ「アックマンさん!」
ゴン「豚五頭を背負って飛んでるよアックマンさん!(ふらふらだけど)」
クラピカ「流石だな、アックマンさんは」
キルア「(こういうのを何ていうんだっけ?他力本願?)」
ブハラ「これも美味い」ムシャムシャ
ブハラ「うん、美味美味」ムシャムシャ
ブハラ「……って、もう無くなったの?」
ブハラ「物足りないな」
メンチ「全員通過」
レオリオ「よく食う奴だな……」
ゴン「ハンターって皆あーなのかな?」
クラピカ「まさか」
メンチ「二次試験後半、あたしのメニューは”スシ”よ!」
モブ「(スシ……スシとは……?)」
ヒソカ「(一体どんな料理だ?)
アモリ「分かるか?」
イモリ「いや……」
アックマン「(そうかそうかぁ……これは一見料理を作らせると見せかけ、俺様達の動揺を誘っていやがるなぁ?)」
アックマン「(つまぁり、本当は頭を使い考えるなぞなぞの様なものだな)」
アックマン「(スシ……なんて料理は聞いたことが無いからなぁ、ぬはは!)」
アックマン「(さぁてさて……ここらで俺様の悪魔的な脳細胞を活性化させて考えてみるかぁ)」
アックマン「(なぞなぞの一般的な流れだとぉ……スが4つあってスシ、なーんていう場合が多いらしいからな)」
アックマン「(テーマは料理ということもあって……答えも料理に関する物に違いねぇ!)」
アックマン「(ス……ス……酢?そうか!酢を4つで、スシだなぁ!)」
アックマン「(材料の中にも酢がある所から見て答えは……)」
アックマン「分かったぞぉ!」
「!!?」
アックマン「これとこれとこれとこれだな!どぉれ、俺様の悪魔的閃きに度肝を抜かすがいい!」トントントントン
ゴン「お酢を……4つ?」
メンチ「」
ブハラ「」
ハンゾー「」プルプル
ブハラ「酢が4つで……あーそういうこと!」
アックマン「どうだ!酢が4つでスシ、これが答えだろう!」
メンチ「……あのねぇ、あたしはなぞなぞじゃなくて料理を作れって言ってるんだけど」
アックマン「」
ハンゾー「酢がwww4つでwwwスシってwwwスシっtぶふぉああwwww」
アモリ「(コイツ知ってるな)」
~試食~
メンチ「食えるかぁぁぁ」
メンチ「403番とレベルが一緒!」
メンチ「ダメ!」
メンチ「違う!」
メンチ「ある意味惜しい!」
メンチ「酢はもういいっつってんだろうがぁぁ」
アックマン「なんだと!?」
メンチ「あーもー!どいつもこいつも!」
ハンゾー「そろそろ俺の出番だな」フッフッフ
ハンゾー「……こんなもん誰が作ったって味に大差ねーべ!?」
メンチ「お手軽!?こんなもん!?ざけんなてm(ry」
アックマン「(……む、マージョンに似ているなあの女)」
ブハラ「(出ちゃったよメンチの悪い癖……)」
ヒソカ「♥♥♥♥♥」
ギタラクル「(ヒソカがまた興奮しだしてる……本番はまだだし、まぁヒソカらしいっちゃらしいけど)」
ギタラクル「(お、キルアがご飯握ってる。写メ撮っとこ)」パシャ
メンチ「……悪!お腹いっぱいになっちった」
~ハンター試験二次試験 メンチのメニュー”スシ”~
~合格者0名!~
???『それはちとやりすぎじゃないか?』
「!!」
メンチ「!!」
???『というわけでワシが新たな試験を用意した、メンチ君。これ、やってみね?』
メンチ「え、あ、は、はぁ……」
アックマン「(どうした?あのメンチとかいう奴があれ程までに萎縮するとは……)」
アックマン「(あの飛行船の中からは、確かに中々の奴がいることは確かだが……)」
アックマン「(一応、潰しておくか)」
アックマン「フォークアタック!」ビュン
???『え?』パァン!
メンチ「あ……」
クラピカ「あっちの山の方まで落ちていってるな」
メンチ「あんた何やってんの!?あの飛行船は!審査委員会最高責任者のネテロ会長が乗った飛行船なんだぞゴルァ!」
アックマン「あ゛ぁ?そんなもん悪魔の俺様が分かるわけなかろうがぁ?」
メンチ「周りの状況と状態を見てそれくらい分かれっつってんのよ!」
アックマン「……本当なら貴様を殴り殺したいところだが、はんたー証の為だ。見逃してやろう、ぬはは!」
メンチ「(あたしに喧嘩を売るなんて……コイツ、ハンターにならなくても強いんじゃ)」
ブハラ「メンチ!とりあえず、会長の所に!」
メンチ「あ、うん!ほら、アンタ達もさっさと走れ!」
ゴン「アックマンさーん」
アックマン「任せておけぇ!」
レオリオ「俺も俺も!」
クラピカ「では私も」
キルア「じゃ、俺もー」
ゲルタ「じゃあ俺m「フォークアタック!」
~二次試験(二回目) ???スタート!~
~脱落者一名~
アックマン「ぬはは!なぁに、俺様の力をほぉんの少し出しただけさ」
レオリオ「流石だぜアックマンさん!」
クラピカ「正義の悪魔、というのも過言ではないな」
アックマン「当然!」
キルア「でもさーアックマンさん、アックマンさんって何でハンターになろうとしてるの?」
アックマン「む?いやなぁに、あるお方からのご命令なんだよ。はんたー証とかいうやつを取って来いと」
キルア「でも、それって本人じゃなきゃ使えないんじゃねーの?免許証みたいに」
アックマン「……え?」
キルア「他人の免許証持って運転してても無免許になるだろ?」
キルア「だから合格しても、多分アックマンさんしか使えないよ」
アックマン「(……じゃあ何故占いババ様は……)」
ゴン「あ!ホントだ!」
キルア「あれが会長?」
レオリオ「倒れてるな……」
クラピカ「あの歳だから腰の骨が折れてしまったんじゃないのか?」
アックマン「おいどうした!なにがあった!」
ゴン「…」チラ
キルア「…」チラ
クラピカ「…」チラ
レオリオ「…」チラ
アックマン「俺様?(……そぉいえばそうだな……まぁいいか!ぬはぬはぬはは!」
ネテロ「あいてて……無茶しおって……」
ゴン「だ、大丈夫ですか!」
クラピカ「ネテロ会長は無事みたいだな」
キルア「(あれでケガしてても拍子抜けだけど)」
ネテロ「ワシは大丈夫じゃが……ビーンズがケガを」
ビーンズ「も、申し訳ありません……」
アックマン「すまん、俺様はてっきり敵かと……」
ネテロ「活きがいいのも結構じゃが……そういう行動は以後慎んでくれたらありがたいの」
ネテロ「それより……ビーンズの手当てをしたいんじゃが医療の知識は生憎持ち合わせていなくての……」
レオリオ「そういうことなら俺に任せてくれよ!」
ゴン「レオリオ!」
レオリオ「俺はこう見えて医者を目指してるからよ、少しくらい役立たせてくれ」
クラピカ「流石だレオリオ」
ネテロ「お、役者は揃ったの」
ネテロ「じゃあ早速じゃが、二次試験最後のメニューは”ゆで卵”じゃ!」
メンチ「……!なるほど」
ネテロ「じゃあ頼んだぞメンチくん」
メンチ「はい!」
~移動そしてメンチ卵捕り成功~
メンチ「こういう風に谷から飛び降りて上手いこと糸に捕まって卵取ってよじ登ってくる」
メンチ「どう?」
アモリ「余裕だな」ピョーン
イモリ「あぁ」ピョーン
ウモリ「お、俺だって!」ピョーン
オレダッテ!ワタシモダ!
メンチ「(物怖じせずにひょいひょいと……今年の新人は期待できるわ)」
ネテロ「ほっほっほ、豊作豊作」
レオリオ「む、無理だ!こんなの、マトモな神経で飛び降りれるわけがねぇだろ!」
クラピカ「同じくだ、これは自殺行為に等しい。危ない橋はなるべく避けたほうがいいだろう」
ゴン「うりゃっ」ピョーン
キルア「よっと」ピョーン
レオリオ「」
クラピカ「」
クラピカ「アックマンさん、我々を下へ連れて行ってもらえないだろうか」
アックマン「よーしよし、任せろ!乗れ!」
レオリオ「助かったぜ!」
クラピカ「ふっ……感謝しよう」
アックマン「行くぞォォォォッ!」バサッバサッ
ゴン「よっ」ガシッ
キルア「ほっ」ガシッ
ゴン「…あの二人、上でずっと待ってたけど何で来なかったんだろ?」
キルア「ビビッてんだろ、今の今まで命の危険ってのをアイツ等は感じてなかったからな」
キルア「まぁ、自業自得だな。あいつ等はここで失格決定……」
アックマン「ぬあああああああっ!!」
キルア「」
レオリオ「しかし悪魔をこうして従え……じゃなくて、仲間にしているとはな……」
アックマン「だがしかぁし!勘違いは死んでもするなよ?俺様はなぁ、あくまで暇潰しとしてやっていることだ!あくまだけに!」
キルア「あいつ等……あの悪魔を使いやがって……」
ゴン「でも楽しそうだなー」
キルア「ゴン、悪いことは言わないから自立しろ」
ゴン「うん」
ゴン「(楽しそうだなー)」
メンチ「全員通過……って、あの三兄弟は?」
アックマン「俺様と肩がぶつかったから落とした」
アックマン「俺様とぶつかる奴は皆地獄送りだぁ!」
ハンゾー「(危ねーっ!もう少ししたら当たってたアブねーっ!)」
~回想~
ハンゾー「忍者の俺には簡単すぎる試験だなww」
アモリ「ぎゃあああ」
イモリ「何すんだお前……うわやめろばぎゃあああああ」
ウモリ「うっ、うわぁぁぁぁ!!」
アックマン「俺様と肩がぶつかってぇ……?懺悔の言葉も無いのか貴様等ぁ……?」
クラピカ「まぁまぁ、一旦落ち着こうアックマンさん」
レオリオ「そうだよ、あいつ等は落としたしすっきりしたろ?早く上に行こうぜ」
アックマン「ちっ……」ビュン!
ハンゾー「ってぬおぉぉっ!?」ヒョイ
ハンゾー「あ……危ない……」
~三次試験と四次試験は人数の都合上中止~
~こうして最終試験が始まろうとしていた~
Q、戦いたくない人は誰ですか?
ポックル「406番」
キルア「405番と406番」
ボドロフ「406番」
ギタラクル「99番、406番」
ゴン「99番、403番、404番、406番は選べないかな」
ハンゾー「406番」
キルア「405番、406番」
レオリオ「405番、406番」
ネテロ「偏ったのー……」
ネテロ「……これでよし!と」
ブハラ「……会長、これ本気ですか?」
ネテロ「大マジじゃ」フェッフェッフェ
ネテロ「最終試験は一対一のトーナメント形式で行う」
ネテロ「その組み合わせは」
ネテロ「こうじゃ!」
「!!」
アックマン「……んん?おい、俺様の番号が見当たらねぇが……?」
ネテロ「最終試験……アックマンくんと言ったか?君はワシと戦ってもらおうかの」
アックマン「……なにぃ?」
アックマン「貴様がこの試験の責任者か知らんが、死んでも責任は取らねぇぞ?」
ネテロ「勿論じゃ、さぁ始めようか」
ヒソカ「待てよ♠」
ネテロ「!」
ヒソカ「彼は僕の獲物だ♦邪魔するなら……アンタが相手でもいいけど♥」
ネテロ「……困ったな」
アックマン「俺様は別にどっちでも構わんが……」
ネテロ「……ならば、先に二人で戦ってもらおう」
ヒソカ「!!!!(キタ……キタ……)」
ヒソカ「キタキタキタキタキタキタキタキタキタキタキタキタキタキタキタキタキタ…♥♥♥♥」
ゴン「怖~(汗」
ヒソカ「ククク……クククク……♥♥」
アックマン「(君の悪い奴だ……とっとと片付けるかぁ……)」
アックマン「ふん!」イーンシツッ!
ヒソカ「230……250……290……300点!♥♥♥」
ヒソカ「やっぱり君、とってもイイ……♥」
ヒソカ「お気に入り決定だy「ふん!」バキィッ!
アックマン「貴様なら、いつでも殺してやるからさっさと負けを認めなぁ!」
ヒソカ「ククク……クククク……♥言ったね♦」
ヒソカ「約束だからね♥まいった♠」
アックマン「次は……貴様か?」
ネテロ「ほっほっほ……この気持ち、久しく感じていなかったの……」
マスタ「!(あれは……会長が本気の時に着る心Tシャツ……!)」
マスタ「(そこまで……彼は強いのか?)」
マスタ「始め!」
――無音 その瞬間辺りに響き渡る轟音
ゴン「……すっげー」
――常人には決して捉えられない動き
――ネテロとアックマンは互いの手の内を読み合い攻防を繰り広げた……
アックマン「(ほぉ……?中々やるなこのジジイ)」
ネテロ「(これで余裕の表情見せられて……黙ってられるかよ!)」
ネテロ「殺すつもりで行くぜ……!」
百式観音
壱乃掌
アックマン「!」
ドォォォォン!!
ネテロ「よぉ……アックマン……!!」
アックマン「……ハンターネテロ。貴様は確かに強かった……」
アックマン「だがしかぁし!……貴様はぜーったいに俺様にはぁ……勝てんっ!!」ゴァァァァァンン!!
ネテロ「……?」
アックマン「俺のこの目が真っ赤に光るぅ……貴様を倒せと妖しく囁くぅ……」
アックマン「いーんしつ……」ゴゴゴ・・・
アックマン「いーんしつ……」ゴゴゴゴ・・・
アックマン「いーんしつぅ……」ゴゴゴゴゴ・・・
ネテロ「!」
アックマン「アクマイト光線ーーーーー!!」ギュルルルルル!!
ネテロ「!(この能力は確か……サトツが言っていた”特質系”の能力!)」
ネテロ「(この悪魔の系統は放出系と特質系!相性は悪い……)」
ネテロ「(技のスピードも相性の悪さが影響して鈍っている……避けれる!)」
ネテロ「っと!」ヒョイ
ネテロ「……今のはヒヤヒヤしたぜ、悪魔」
ネテロ「これからお前に隙は作らねぇ……速攻で叩く!」
アックマン「ではあの世で後悔するがいい!絶対無敵のアックマン様に戦いを挑んだことを!」
ネテロ「…なっ!この光は!?」
アックマン「……アクマイト光線だぁ!」
アックマン「俺様は常に進化し続けるぅ……このアクマイト光線も、”操るということを覚えた”」
ネテロ「!!(そうか……放出系と特質系との間に空いた”操作系”という穴を埋めて……)」
ネテロ「(相性の悪かった放出系と特質系の……橋を!作ったってのか……)」
アックマン「この光線……操るってだけに爆発の有無も操れるみたいだなぁ?」
アックマン「降参するか?ハンター達の王よ」
ネテロ「……まいった」
ネテロ「ワシの――
――負けじゃ」
ブハラ「負けた……」
サトツ「……」
ネテロ「……ワシは引退する」
「!!?」
ネテロ「もっと強くなりてぇ……今回の敗因はワシの修行不足だ」
ネテロ「だから……後はよろしく」
アックマン「……」ドサッ
ゴン「!アックマンさん!」
アックマン「意識が……朦朧とぉ――
――」
サトツ「Σ」ビクッ
アックマン「此処は……?」
サトツ「おめでとうございますアックマンさんハンター試験合格ですハンター証をどうぞでは失礼します!」バタン
アックマン「……?」
~部屋の外~
サトツ「怖かった……」
メンチ「お疲れ」
アックマン「…しかしこれで、ハンター証とやらをゲットしたし、修行もできた!」
アックマン「占いババ様には感謝しても足りねぇぜ!ぬは、ぬは、ぬははははぁ!!」
アックマン「……そういえば、ゴン達はどうなったんだ?」
アックマン「円!」
アックマン「(おぉ……出来た出来たぁ…しかし、俺様に念とやらが使えたとはなぁ)」
アックマン「あのネテロとか言う奴が言ってた通りだ、ぬはは!」
アックマン「(さてさて……ゴンは……おぉ、そこか)」
ゴン「キルアに謝れ」ドガアァァァァン!!
レオリオ「な、なんだ!?」
アックマン「……何をやっているんだ貴様らぁ?俺様抜きでぇ」
ハンゾー「いやアンタが何やってんだよ」
ゴン「キルアの兄貴だよ」
アックマン「ほぉ……」
イルミ「…」
ゴン「コイツのせいでキルアが失格になったんだ」
アックマン「……なに?」
アックマン「ならば、キルアはハンターになっていないのかぁ!?」
ゴン「そうだよ」
アックマン「俺様の縛りルールが……破られてしまった」
アックマン「キルアはどうしたぁ?」
イルミ「キルアなら、俺たちのアジトに帰ったよ」
レオリオ「!アジトってどこだテメェ!」
クラピカ「キルアは何処にいる!」
イルミ「ククルーマウンテン。そこが俺たちのアジト」
ゴン「!!クラピカ!レオリオ!」
レオリオ「連れ戻しに行くんだろ!」
クラピカ「勿論だ!早く行こう!」
ゴン「あ、それじゃあ失礼しますっ!」
アックマン「……待てぇい!」
アックマン「修行のついでだ……俺様もそのキルアを取り戻しに行く手伝いはしてやろう」
レオリオ「ホントかアックマンさん!」
クラピカ「しかしいいのか?あるお方からの命令でその証を取る任務だったんじゃ……」
アックマン「……む、むぅ」
アックマン「大丈夫だ!早く行くぞ貴様らぁ!」
ゴン・レオリオ・クラピカ「アックマンさん!」
アックマン「(貴様らを見ていると……奴を思い出す)」
アックマン「……孫悟空」
ゴン「?何か言った?」
アックマン「何もなぁい!行くぞぉ!」ビューン!!ドカァァァァン!!
ネテロ「……」プルルルルル プルルルルル
ネテロ「お前んとこの戦士は、本当に強いの。同じ世界の出身か怪しく思えるわい」
占いババ『アックマンは元々地獄生まれじゃ』
ネテロ「そうじゃったな……悪魔、だったか?」
占いババ『それでアックマンはハンター証を……』
ネテロ「あぁ……なぁ、お前は何でハンター証なんk」ブツッ プープープー
占いババ「早く帰ってくるのじゃアックマン……ハンター証を売れば、七代先まで遊んで暮らせるからの」
ゴン「アックマンさん……風邪?」
アックマン「誰かが俺様の噂をしてやがるなぁ……?」
アックマン「よし、見えたぞ!ククルーマウンテンだ!」
アックマン「……ゴン!クラピカ!レオリオ!行くぞぉ!」
三人「おーっ!」
完
楽しかった
おいクソババア
むしろ占いババらしいww
>>1乙でした、面白かったよ
Entry ⇒ 2012.10.17 | Category ⇒ 版権物SS | Comments (1) | Trackbacks (0)