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竜「なにをしに、ココにきた?」村娘「食べられに」
村娘「あの……なにかお手伝いできることは──」
村人A「ふん、魔女の娘に手伝ってもらうようなことはねぇよ!」
村人B「けがらわしい……」
村娘「は、はい……」
村人A「図々しい女だ!」
村人B「あっち行けよ」シッシッ
村娘「……すみません」スタスタ
村人A「バアさん」
婆「あの女の母親は魔女だったんだからね」
婆「絶対に気を許しちゃいけないよ」
村人A「もちろんだ!」
村人B「もっとも……例外はいるけどね」
婆「あの青年と、浮浪児かい」
婆「まったく、困ったもんだよ」
村娘「ふぅ……」
少年「お姉ちゃん、またいじめられたのかい」
少年「もう出てった方がいいんじゃないの、この村から」
少年「ここにいても、ろくなことないじゃん」
村娘「うん……ありがとねボウヤ」
村娘「でも、ここを出ても行くアテはないし……」
村娘「あ、青年さん!」
青年「……さっきも村の人たちに、なにかいわれてたみたいだね」
村娘「うん……でも、仕方ないわ」
村娘「お母さん、魔女だったんだし……」
青年「ちがう!」
青年「君のお母さんは魔女なんかじゃないよ!」
青年「そして、この国では禁じられている“一般人の魔法使用”を犯してしまった……」
青年「だけどそれは世を惑わすためではなく、病気の君を助けるためだ!」
青年「もし君のお母さんが法に触れることを恐れていたら、今頃君はここにはいない」
青年「君のお母さんは……命を賭けて君を助けたんだ」
青年「断じて魔女なんかじゃない!」
村娘「うん、ありがとう……」グスッ
少年「へへへ、なかなかいいこというじゃん」
青年「村人たちの君への態度は、日に日に厳しくなっている」
青年「俺がずっとついていればいいんだが……時々かばいきれなくなって、ごめん」
村娘「ううん、いいの……ありがとう」
少年「お兄ちゃんは優しいなぁ」
青年「……それと、心配事がもう一つ」
青年「君も知っているだろう? 近くの山に住む、竜のことを……」
村娘(竜……!)
青年「この村からも3人犠牲者が出てる」
青年「しかも、みんな若い女性だ」
青年「それを考えると、君なんかはうってつけの獲物だ」
青年「ヤツが山を下りてきたという記録はないが、もし下りてきたら──」
村娘「…………」ゴクッ
村娘(私が狙われる可能性が、高い……)
青年「ん?」
少年「なんなのさ、竜って」
少年「ボクにも教えてよ」
青年「君もこの村に住むのなら、知っていた方がいいね」
青年「竜ってのは、数ある魔物の中でも鬼や悪魔と並び称される存在だ」
青年「屈強な牙や鱗を持ち、吐く息は岩をも溶かす」
青年「知能は人間と同等、悪知恵が働き、人に化けることすらあるという」
青年「さらに力は強いわ、空は飛ぶわ、寿命は長いわで、非の打ちどころがない」
青年「優れた戦士なら竜も倒せるとはいうけどね」
青年「あの竜がいつからあの山にいるかは知らないけど」
青年「竜が人を襲うようになったのは、ここ数年のことなんだ」
青年「それに……さっきの村娘ちゃんじゃないけど、ここを出ても行く場所がなきゃね」
青年「決して陽気な場所ではないけど、慣れ親しんだところでもあるしさ」
青年「人はなかなか住む場所を変えられないものなのさ」
少年「ふうん」
村娘「私は大丈夫」
青年「村娘ちゃん」ガシッ
村娘「えっ」ドキッ
青年「俺はいつだって君をみ──!」
青年「い、いや……なんでもない……」
少年「君を見守っているから、かな? いやいや、魅力に感じている、かも!」クスッ
青年「コ、コラ、茶化すなよ」カァ…
村娘&青年&少年「アッハッハッハッハ……!」
婆「けがらわしいから、近寄るんじゃないよ! あたしにも呪いをかける気かい!?」
村娘「す、すみません……」
村人A「失せろ、ジャマだ!」ドンッ
村娘「ごめんなさい! すぐにどきます!」
村人B「魔女の娘が……!」ボソッ
村娘「向こうに行きます……」
青年「村娘ちゃん、大丈夫だ!」
青年「そうだ、俺と一緒にダンスでも踊ろうよ!」
少年「あっ、ボクとも踊ってよ!」
村娘「ありがとう……二人とも」
青年「君に涙は似合わないよ。さ、踊ろう!」スッ
村娘「うん……!」
婆(ちぃっ、また余計なことを……!)
婆「ちょっとアンタ」
青年「なんでしょう……?」
婆「アンタは村一番優秀で、将来はこの村を背負って立つ人材なんだ」
婆「なのに、なんであんな魔女の娘に関わってるんだい」
婆「あんなのと関わったら、アンタまでおかしくなっちまうよ」
村人A「そうだそうだ!」
村人B「悪いことはいわない……関わるのはやめとけ」
青年「…………」
婆「!」ビクッ
青年「彼女の母親はただの子供想いの母親でっ!」
青年「彼女は普通の人間なんだっ!」
青年「俺はいつだって彼女のことをみ──……」ハッ
村人A「彼女のことを、なんだぁ!?」
青年「…………」
村人A「いってみろよ、オイ!」
青年「…………」
村人A「……ちっ!」
村人B「あ~あ……やれやれ、そういうことか……」フゥ…
青年「とにかく、俺は彼女を見捨てることはしないよ! 絶対に!」ダッ
婆「ちょっと、お待ち!」
婆「……行っちまったか」
婆「ちっ、バカな奴だよ、まったく」
村人A「やれやれ困ったことになったなぁ、バアさん」
村人B「まさか彼をたぶらかすなんてね、やはり魔女の血を引いているよ」
婆「まったくどうしてくれようか、あの魔女の娘……!」
村娘「青年さん、もう私に関わらない方が……」
青年「なにをいってるんだ!」
青年「俺のことなら気にしなくていい!」
青年「君は自分が幸せになることだけを考えればいいんだ!」
村娘「うん……ごめんなさい……ありがとう……」グスッ
青年「さて今日は俺も暇だし、ボウヤと三人で何かして遊ぼうか」
少年「賛成!」
村娘「うん……!」
婆「今日の議題は、あの魔女の娘についてだよ」
婆「奴の母親のせいで、この村は王からの助成金を打ち切られちまった」
婆「そろそろなんとかしないといけないねえ」
青年「…………」
村人A「こっちから誠意を見せないといけねえな」
村人B「そうだね。この村全体としての総意としてね」
婆「だから……いっそ始末するってえのはどうかねえ?」
青年「!?」
村人A「そりゃあ名案だ」
村人B「娘の死体を差し出せば、王もきっと許して下さるよ」
青年「ちょっと待ってくれ!」
青年「そんなこと、許せるものか! 彼女をなんだと思ってるんだ!」
青年「いくら村のためとはいえ──!」
婆「あの娘の母親のせいで、この村がさびれたのは事実なんだよ!」
婆「それにアンタの目を覚まさせるいい機会さ」
婆「アンタにゃ、あんな女にたぶらかされず、しっかり勉学に励んでもらって」
婆「村を出て──この村に巨万の富をもたらしてもらわなきゃならんのだからねぇ」
青年「ふ、ふざけるな!」
村人A「ま、お前がいくら反対しようと俺らはやるぜ」
村人B「多数決多数決、これも村のためさ」
青年「…………!」
婆「ん、ガキ! どっから入ってきたんだい!?」
村人A「てめぇみたいな子供が来るところじゃねえ、とっとと出てけ!」
少年「どうせならさぁ……」
少年「山に住んでる竜に殺させればいいんじゃない?」
少年「直接手を下すのは後味悪いし、わざわざ手を汚すこともないでしょ?」
青年「君はなんてことをいうんだ!」
婆「ほぉう、悪くないね」ニヤッ
婆「クソガキのくせになかなかいいこというじゃないか」
婆「もちろん人間だよ」
婆「れっきとした、ね」
村人B「自分たちの生活のため、必要な犠牲を出す」
村人B「実に人間らしい行為じゃないか」
青年「そんな……!」
婆「そうさ、それが人間ってもんさ」
婆「そして人間じゃない魔女はどうされても文句はいえないのさ」
婆「決まりだね」
婆「竜のいる山にあの娘を送るのは、一週間後にしよう」
青年「見損なったぞ!」
少年「え、どうして?」
青年「君は村娘ちゃんの世話になってるのに、なんであんなこと──!」
少年「世話になってるからこそ、さ」
少年「ボクだって、あれ以上お姉ちゃんの不幸なところを見たくないんだよ……」
少年「ましてや村の人たちに袋叩きにされてるところなんか……」
青年「くっ……!」
バンッ!
青年「逃げよう!」
村娘「え?」
青年「たった今、集会で君を竜の餌食にすることが決定した!」
青年「このままでは、君は竜に殺されてしまう!」
青年「あいつらのいない、安全なところまで俺が送ろう」
青年「さ、早く!」
村娘「…………」
青年「!?」
村娘「私のお母さんが魔法を使って私の病気を治したおかげで」
村娘「この村が王様から罰を受け、助成金を得られなくなったのは事実です」
村娘「ですから今度は私が一人で……その罰を受け入れます」
青年「だけど……!」
村娘「もういいんです……ありがとう……」ニコッ
青年(村娘ちゃんは自分の過酷な運命に疲れきってしまっている!)
青年(なんとか説得しないと……!)
青年「!」
婆「あの竜は若い女を食う」
婆「ただし食うといっても、全部食うわけじゃない」
婆「一部だけ食って、あとはほとんど残してる。でかい図体して贅沢なもんさ」
婆「もっとも残った部分は弄んだのか、グッチャグッチャになってるがね」
青年「おバアさん……!」
婆「グッチャグッチャのお前の死体を王に見せれば」
婆「きっとまた村は潤うはずさ」
婆「ひぃっひっひっひっひ!!!」
村娘「分かりました……私の命、この村のために捧げます」
婆「一応逃げられないよう見張りは立てるが、逃げようとしたら承知しないよ」ジロ…
村娘「……もちろんです!」
青年(あの竜に村娘ちゃんを殺させるなど! 絶対許せない!)
青年(そんなことさせるもんか!)
青年(かといって俺じゃ、竜にはとてもかなわない……)
青年(村娘ちゃんと一緒に殺されるのがオチだ)
青年(優れた戦士でなきゃ、竜は倒せない……!)
青年「そういえば、“竜殺し”の剣士が今この国にいるというウワサを聞いたな」
青年「もし連絡が取れれば──……」
婆「じゃあアンタたち、頼んだよ」
村人A「竜の巣の近くに、こいつを置いてくりゃいいんだよな?」
村人B「夕方になったら死体を取りに来よう」
村人A「もしその時生きてたら、俺たちがぶっ殺してやるからな!」
村人A「手をわずらわせるんじゃねえぞ!」
村娘「は、はい……」
少年「行ってらっしゃい……お姉ちゃん」
青年「…………」
村人A「これでようやく村の疫病神を始末できるな」
村人B「ホントだよ、もっと早くこうしとけばよかったんだ」
村人A「しっかし俺たちまで山に入って大丈夫か?」
村人B「竜が若い男を殺した、という事例はない。大丈夫さ」
村娘「…………」
村人A「オラ、ちゃっちゃと歩け!」ドンッ
村娘「は、はいっ!」ヨロッ
村人A「よし、じゃあこっからはお前一人で行け」
村人A「せいぜいむごたらしく殺されることを期待しとくぜ」
村人A「あばよ」ザッ
村人B「もう会うこともないだろうさ」ザッ
ハッハッハッハッハ……!
村娘「…………」
村娘「……さてと、あとは竜に会うだけね」
村娘「!?」ビクッ
村娘(これが竜の声……? なんて大きい唸り声なの……!?)
村娘(怖い……)
村娘(でも……もっと近づかなくちゃ!)
村娘(あれ以上村にいたら、青年さんに迷惑をかけてしまうし)
村娘(村を出て、生きていくアテもない……)
村娘(やっと……楽になれるんだわ)
村娘(お母さん……助けてくれたのに、本当にごめんなさい……)
村娘「どんどん声が大きくなってきた」
村娘「こっちの方にいるのね」
村娘「!」
グルルルル……
村娘「これが……竜!」
竜「ホウ、こんなトコロにニンゲンがくるとはな」
村娘(鋭い牙、硬そうなウロコ……青年さんのいったとおりだわ!)
村娘「食べられに」
竜「たべられに、だと……?」
竜「ハッハッハッハッハ……!」
竜「かわったニンゲンがいたもんだ。イノチがいらないのか?」
村娘「私にはもう……こうするしかないんです」
村娘「もうこの国に、私が生きられる場所なんてない」
村娘「できれば……一瞬で楽にして下さい」
村娘「私にはもう、こうするしかないんです!」ポロポロ…
村娘「え?」
竜「だって、アレだけ優しくしてもらったんだしナ」
村娘「優しく……?」
竜「まだわからないかい。ってわかるワケがないか、ハハ」
竜「ボクだよ、ボク」
村娘「…………」ハッ
村娘「まさか、あなた──」
青年「お待ちしておりました」
剣士「うむ」
青年(なんて巨大な剣だ……!)
青年(人間なんか一振りで胴体ごとちぎれ飛んでしまいそうだ)
青年(もっともこのくらいの剣でなきゃ、竜には通じないんだろう)
青年「その剣で、数々の戦乱を生き延び、“竜殺し”の異名を勝ち取られたのですね?」
剣士「うむ、これは私にしか扱えまい」
青年「その腕を見込んで、ぜひドラゴン退治をお願いします!」
剣士「任せておけ」
青年(村娘ちゃん、必ず助けるからね……!)
竜「今まで、ダマっててごめんね」
村娘「あなた……あのボウヤなの!?」
村娘「でも、どうして……!?」
竜「村のヒトたちはオネエちゃんをコロそうとしてた」
竜「だから竜にくわせてやれってアドバイスしたのはボクなんだよ」
竜「ボク、どうしてもオネエちゃんを助けたかったから」
村娘「そうだったの……」
竜「竜はヒトに化けることもできるんだって」
村娘「でも、どうしてあんな子供に……?」
竜「いや好き好んでコドモに化けたワケじゃない」
竜「好きな姿に化けられるワケじゃなく、ボク自身の年齢や性別がハンエイされるから」
竜「ボクはこれでも100年は生きてるケド」
竜「竜としてはまだまだコドモだってことさ」
竜「な、なにがおかしいんだよ!」
村娘「だって、こんな大きい竜が、人間になるとあんなに可愛い子供だなんて……」
竜「ウウウ……」
竜「ホントウにたべちゃうぞ!」
村娘「いいわよ、元々そのつもりだったし」
竜「……たべるワケないだろ」
竜「もしたべるつもりなら、ニンゲンの姿でユダンさせてとっくにたべてるよ」
村娘「ふふっ、ありがとね」
村娘「いったいどうして、アナタは人間に化けていたの?」
村娘「それに……どうして女の人を何人も殺したりしたの?」
村娘「私をこうして助けてくれたのに、どうして……!」
竜「…………」
竜「それは──」
青年「どことなく足取りが慣れた感じですが……」
青年「もしかして……この山は初めてではないんですか?」
剣士「まぁな」
剣士「だからこの山の竜のことも知らぬわけではない」
青年「なるほど……」
青年「とにかく急ぎましょう。村娘ちゃんが食べられてしまいます!」
剣士「……うむ」
竜「そうさ、竜ってのはコレでもあまりたべなくてイイからね」
竜「草や木、土を食べるだけでジュウブン生きていけるんだよ」
竜「ヒトをコロすどころか、この山でケガした子を助けたこともあるくらいさ」
竜「へへへ、ボクやさしいだろ?」
村娘「そうだったの……ごめんなさい!」
竜「でもここ数年、村の女のヒトが次々山でコロされて」
竜「しかもそれが全部ボクのせいになってるっていうじゃないか」
竜「だから……真犯人を見つけるために、ヒトに化けたんだよ」
村娘「……犯人は分かったの?」
竜「ううん、結局ワカらなかった」
青年「そこまでだ! 殺人ドラゴンめ!」
剣士「……よし、お前さんはあの娘を連れて逃げろ」
剣士「あとは俺が引き受ける」
青年「分かりました!」ダッ
青年「村娘ちゃん、こっちへ!」グイッ
村娘「あっ、でも!」
竜「アンタは、ダレだ!?」
剣士「ふん……この剣のサビになる輩に、名乗る意味はないな」チャキッ
村娘「ねぇ、待って!」
青年「大丈夫、もう大丈夫だよ!」
村娘「あの竜は──」
青年「大丈夫、あの剣士がすぐに退治してくれるさ」
青年「彼は“竜殺し”と恐れられる剣の使い手なんだ」
青年「彼がいうには、唸り声からしてここの竜はまだ子供だっていってたし」
青年「絶対倒せるよ!」
村娘「そ、そんな……ダメよ!」
村娘「あの竜の正体は──ボウヤなのよ!」
青年「なんだって!?」
村娘「だけど、ボウヤは人を殺してなんかいないの!」
村娘「真犯人を見つけるために、人に化けてたの!」
青年「なっ……」
青年「そんなのウソに決まってるだろう!」
青年「品定めのために、人に化けていたに決まってる!」
村娘「違う! だってもしそうなら、私はとっくに殺されていたわ!」
村娘「だから一緒に戻って、あの剣士さんを止めて!」
青年「…………」
青年「分かったよ」ザッ
青年「君を説得できないってことが、よく分かった」
村娘「え?」
青年「もうちょっと君とは親しくなりたかったけど、仕方ない」
青年「今が一番のチャンスかもしれないし」
村娘「チャンス……?」
青年「俺はずっと君を──み」
青年「み……み……み」
青年「み、み……み、み、み……み……み、み……」
村娘「!?」
青年「み……ミ、み、ミミ、ミ……ミミミミ……」
青年「ミンチにしたかったんだァァァァァッ!!!」
村娘「今までこの辺りの若い女性が殺された事件は……みんなあなたが……」ガタガタ
青年「そうさ」ニコッ
青年「ある時、俺はちょっとしたイザコザで、ある女性を殺してしまった」
青年「いくら俺が村の期待を背負う秀才といっても、さすがに殺しはヤバイ」
青年「だから女の死体をグッチャグッチャにして、村人に発見させた」
青年「俺が“きっと竜の仕業だ”とつぶやいたら、奴らは簡単に信じたよ」
青年「そして事件を間接的にしか知らない君のような人間の間でも」
青年「竜が若い女を殺した、というのは周知の事実になった」
青年「──と同時に、俺も新しい快感に目覚めてしまった」ニィ…
青年「ちょうど君くらいの年齢の女を、グチャグチャのミンチにするという快感にね」
青年「よその村の女をターゲットにした時も同じ手を使ったら」
青年「奴ら簡単に誘導に引っかかって、竜の仕業だと疑わなかった」
青年「ま、同じ人間があんな殺し方をするなんて思いたくもなかったんだろうね」
青年「だから……魔女の娘といわれる君とも仲良くやっていたんだよ」
青年「仲間外れになってる奴ほど、優しくすれば簡単に心を開くからね」
青年「だけど村の連中が、君を殺すなんていい始めた時は焦ったよ」
青年「しかも竜に襲わせるなんて……もったいないにも程がある」
青年「もっともあの竜は、君を助けたかったようだけどね」
青年「でもまあ、竜は剣士に退治されるだろうし、君もこれから俺の餌食になる」
青年「めでたしめでたし、ってわけさ」ズイッ
村娘「ひっ……!」
タッタッタ……
青年「無駄だよ、君はこの山に入ったことなんてほとんどないだろう?」
青年「だけど俺にとっちゃ、この山は庭みたいなもんさ」
青年「なんたって今までの殺しは、全てこの山で実行してきたんだからね」
青年「逃げられやしないよ」
村娘(なんとかしてあのボウヤのところに戻らなきゃ……)
村娘(私も……あのボウヤも……! 助かってみせる!)
村娘(でも、だいぶ離れてしまったから場所が……!)
竜「ウ……グ……ッ!」ドズゥン…
剣士「あっけない……いかに竜といえど、子供では相手にならんな」
剣士「終わりだ」
竜(強い……! とてもボクじゃ太刀打ちできない……!)
剣士「眠れ」チャキッ
竜(もう……戦えナイ……)
竜(せめて……)
竜(せめて、ヒトに化けたボクに優しかったオネエちゃんたちに最期のアイサツを……!)
竜(サヨウナラ……)
グオオォォォォォォン……!
青年「!?」
村娘「あっちね!」
青年「ちぃっ! あのガキ、余計なマネしやがって!」
村娘「──お願い、無事でいて!」ダッ
青年「逃がすかよぉっ!」ガシッ
村娘「ああっ!」
青年「細い首だねぇ~、実にキュートだ」ギュウッ
青年「絞め殺してから、ゆっくりミンチにしてやるからね……!」ギュゥゥ…
村娘「あ……あ、あ……!」
村娘(お、お母さん……)
母『最後に、一番簡単な呪文だけ教えといてあげる』
母『だけど、この国では国が認めた人以外が魔法を使うのは厳禁だから』
母『どうしてもという時以外、使っちゃいけないよ』
母『本当はこんなことより、教えたいことが山ほどあったんだけどね……』
村娘「う、ぐぐ、ぐ……!」ジタバタ
青年「ハハハ……暴れたって無駄だよ。もう大声は出せない。終わりだ!」
村娘(呪文は……必ずしも大声を出す必要はない!)
村娘「…………」ボソッ
青年「ん?」
ドンッ!
青年「ぐ、は……!」
青年(なんだ今のは……衝撃波!? なにかボソッとささやいたのは、呪文か!)
村娘(お母さん、ありがとう……!)ダッ
青年「げほっ、げほっ……くっ!」
青年「ふん、やっぱり魔女の娘は魔女だったってわけだ」
青年「…………」ブチッ
青年「逃がすかっ!」
青年「二度と呪文なんか唱えられないよう、今度はそのノドを潰してやるっ!」ダッ
村娘(──いた! まだ、ボウヤも生きてる!)ハァハァ
村娘(あとはなんとか話し合──)
青年「おっとぉっ!」ガシッ
ドザァッ!
村娘(口を、塞がれた……!)
竜「オネエ、ちゃん……?」
剣士「む!?」
剣士「お前さんたちは逃げたはずだが、どうして戻って来たのだ?」
青年「私は食べられるために竜のところに戻る、と──」
青年「竜は賢い生き物です」
青年「おそらく村娘ちゃんは、竜に暗示でもかけられているのでしょう」
青年「さあ早く、竜にトドメを!」
竜(ボクはそんなことしていナイ……)
竜(だったらオニイちゃんは、なんでこんなウソをつくんだ……?)ハッ
竜(──そうか、今まで女のヒトをコロしてきたのはこのヒトか!)
竜「チガウ! ボクはやってない!」
竜「今までに女のヒトをコロしたのも、みんなオマエだな!」
青年「人を濡れ衣を着せようとは、やはり悪知恵が回るもんだな」
青年「さあ早くトドメを!」
青年「この人食い竜め!」
竜「ボクじゃない!」
剣士「…………」
剣士「竜は鬼や悪魔と並ぶ、最上位の魔物……狩れば俺の名も上がる」
青年「そのとおり!」
剣士「さてと最上位の魔物を一匹……狩らせてもらおうか」ザッ
竜「ウゥッ……!」
ドゴッ!
青年「ゲボォッ! ──え、なんで……!?」グラッ…
ドサァッ……
剣士「土壇場になると、目というのは口以上に真実を語る」
剣士「目を見れば、ウソかどうかすぐに分かるということだ」
剣士「……この殺人鬼が」
剣士「もう大丈夫だ、ゆっくり呼吸しろ」
少年「お姉ちゃん!」
村娘「あ、ありがとうございました……」
村娘「でもお願いがあります……ボウヤを、竜を殺さないで……!」
剣士「安心しろ。ハナから殺すつもりはない」
少年「え!?」
剣士「もちろん、本当に殺人竜だったら狩らなきゃならんところだが──」
剣士「俺にはこの竜が人を殺すとはどうしても思えなかった」
剣士「だから元々気絶くらいにとどめ、お茶を濁すつもりでいた」
剣士「ああ、お前さんは覚えてないだろうが──」
剣士「ガキの頃、山に迷い込んで……足をくじいた俺を助けてくれただろ」
少年「…………」
少年「あっ、あの時の!?」
少年(どことなく面影がある……!)
剣士「そうだ」
剣士「だから、今回の件もなにかの間違いじゃないかって思ってた」
剣士「そして、さっきのやり取りで全てを確信したってわけだ」
剣士「大丈夫だ」
剣士「ああいう奴は、絶対に殺しのたびに“コレクション”をしてるもんだ」
剣士「奴の家をちょいと調べれば、証拠の一つや二つあっさり出てくるだろう」
村娘「なるほど……」
剣士「ところでお前さん、魔法を使ったな?」
村娘「!」ギクッ
剣士「弱々しいが魔力の波動を感じる」
剣士「この国では一般人は魔力を持ってるだけで、差別の対象になる」
剣士「まして、魔法の研究や使用は厳禁のはずだ」
村娘「そ、それは──」
剣士「だが王宮の魔術師は、国内のどんな小さな魔力の波動でも嗅ぎつけると聞く」
剣士「もうこの村……いやこの国を出た方がいい」
剣士「その竜ともどもな」
剣士「一匹だけで暮らしてる子供の竜なんぞ」
剣士「名を上げたい戦士にとっては絶好の標的だからな」
剣士「次俺のような奴がやって来たら、まず命はないだろう」
村娘「でも……他に行くところなんて……」
少年「そうだよ、どうしようもないよ」
剣士「安心しろ」
剣士「俺は世界中を旅して──」
剣士「魔法を使う人間に偏見がなく、人と竜が共存してる国を知ってる」
剣士「連れていってやろう」
剣士「こう見えて金はあるし、お前たちが自立するまで世話してやることもできる」
村娘「そんな国があるなんて……!」
少年&村娘「やった、やったぁ!」
剣士「…………」
剣士「ところでお前の母は、父親について何かいっていたか?」
村娘「父、ですか?」
村娘「父といっても正式に結婚はしてなかったそうですが」
村娘「母がお腹に私を宿していると知る前──」
村娘「魔力を持つ母でも平和に暮らせる新天地を探しに行ったそうです」
村娘「ですが、旅先で大きな戦いに巻き込まれ、戦死したと聞いています……」
村娘「武骨だけど、とても優しい人だったと……」
村娘「これが……なにか?」
剣士「……いや、単なる好奇心だ。無粋な質問をしてすまなかったな」
村娘「はい」
少年「ボクは荷物なんかいらないしね」
剣士「あの青年の家から、若い娘たちの“一部(コレクション)”が見つかり……」
剣士「青年は兵隊に連行された」
剣士「村の希望が殺人鬼と判明し、村人もだいぶ混乱しているようだ」
剣士「最後に、恨みごとの一つでもいってやるか?」
村娘「……いえ、このまま黙って去らせてもらいます」
剣士「そうか」
剣士「ずっと昔から、こうやってきたわけなんだからな」
剣士「だが、お前さんたちはここから抜け出すチャンスができた」
剣士「だったら、思いきり幸せになってやれ! 俺も出来る限り協力してやる!」
村娘「はいっ!」
少年「うんっ!」
剣士「ふっ……いい返事だ、二人とも」
<おわり>
よかったよかった
Entry ⇒ 2012.11.02 | Category ⇒ その他 | Comments (0) | Trackbacks (0)
半兵衛「よ、良晴さん……! も、もうっ!」
半兵衛「いつ戦が起こるか分からないのに……」
良晴「でも少なくとも今は戦争だって起こって無いんだ、ちょっとくらいいいだろ?」
半兵衛「ちょ、ちょっとくらいって……ここ数日そう言って毎日いきなり背後から抱き付いて」
良晴「嫌か?」
半兵衛「い、嫌じゃありませんけど、くすん」
良晴「最近は信奈の奴とも十兵衛ちゃんとも会えないし、人肌恋しいんだよ」
半兵衛「わたしはお二人の代わりですか……」ムスッ
良晴「そんなわけないだろ! 半兵衛ちゃんが一番可愛いし大事だよ!」
半兵衛「ま、またそんな調子の良い事言って――ひゃぅっ」
半兵衛「み、耳をはむはむしないでくださいっ!」
良晴「半兵衛ちゃんが可愛くて、つい……」
半兵衛「んっ、"つい"ってそんな理由で……ひぁっ」
良晴「ん、五右衛門か。どうした」ハムハム
半兵衛「ぁっ……んぁ」
五右衛門「拙者、僭越ながら申し上げまちゅとちゃちゅがにちゃいきんにょちゃがりゃうじは……」
五右衛門「…………」
良晴「…………」ハムハム
半兵衛「あぅ……やぁっ……」
五右衛門「流石に最近の相良氏は気が緩みすぎかと」
良晴「……ふむ」ハムハム
半兵衛「ひゃぅ……よ、よしはるさん」
良晴「ん? なんだい半兵衛ちゃん」
良晴「…………」ハムハム
半兵衛「よし……はる、さん」
五右衛門「相良氏、度が過ぎるようなら拙者も容赦しないで御座るよ」
良晴「…………」
良晴「そうか、お前らがそういう気ならこっちにも考えがある」
半兵衛「えっ……」
五右衛門(噛まずに言えた……っ!)パァァア
半兵衛(あ……良晴さん)
半兵衛「良晴さんっ、おはようございます!」
良晴「…………」スタスタ
半兵衛(あれ……聞こえなかったのでしょうか)
半兵衛「良晴さんっ! おはようございます!!」
良晴「…………」スタスタ
半兵衛「殿っ!」
良晴「…………」スタスタ
半兵衛「とーのーっ!」
良晴「…………」スタスタ
半兵衛(……無視、されてる?)
半兵衛「くすんくすん、わたしはいぢめられてるようです」
良晴「…………」スタスタ
半兵衛「…………うぅ、くすん、くすん」
半兵衛「あ、五右衛門さん」
五右衛門「今の相良氏に何を言っても無駄でごじゃるよ」
半兵衛「無駄、とは……?」
五右衛門「相良氏は昨晩からだんまりを決め込んでいるようちゅでごじゃる」
五右衛門「拙者が何を話しかけてもうんともすんとも答えないでごじゃるよ」
半兵衛「そ、そんな……」
半兵衛「私は良晴さんの軍師ですっ」
半兵衛「絶対に良晴さんと会話してみせます!」
五右衛門「御武運をお祈りいたちゅでごじゃるよ、たけにゃかうぢ」
五右衛門「…………ぁう」
半兵衛(五右衛門さん、可愛いです……)
半兵衛(良晴さん……いた)
良晴「…………」スタスタ
半兵衛「…………よし」
半兵衛「良晴さんっ。今日は天気がいいのでお散歩にでも行きませんか?」
良晴「…………」スタスタ
半兵衛(やはり無視されてる……ぅぅ、早くも心が折れそうです……)
良晴「お、官兵衛」
官兵衛「ん、きみか相良良晴」
良晴「今日は天気も良いし、散歩にでも行かないか?」
官兵衛「ふむ……たまには町の様子を見てみるのもいいものか」
官兵衛「最近は戦も無く運動する機会も少ないからな……いいだろう、きみと散歩してやる」
良晴「はは、じゃあ行こうぜ官兵衛」
官兵衛「シム。エスコートしてもらうからな、相良良晴」
半兵衛「…………っ」
官兵衛「ふん……やはりここまでくると中々騒々しいな」
良晴「でも、そう悪いもんでもないだろう? ……おっ」
官兵衛「どうした、相良良晴」
良晴「団子屋だ。行こうぜ、官兵衛!」
官兵衛「!? い、いきなり手を握るな、びっくりするだろう!」
官兵衛「そそそれに最近身体を動かして無いからと外に来てるのに団子なんて食べたら意味が……」
良晴「なーに言ってんだよ官兵衛! 折角外に来たのに団子の一つも食べなかったらそれこそ意味が無いだろ」
良晴「こう見えても今は俺も一国一城の主、女の子に団子を奢るくらいの甲斐性はあるんだぜ」
官兵衛「き、きみがそれほど言うなら……食べてやらんこともない……っ」
良晴「じゃ、決まりだな! 団子食おうぜ官兵衛!」
官兵衛「だ、だからいきなり手を握るなと…………もう」
半兵衛(…………)コソコソ
半兵衛(良晴さんと官兵衛さん、あんなに楽しそうにして……)
半兵衛(良晴さんの軍師は私だというのに……)
半兵衛「…………はぁ、なんでこんな事になったんでしょう」
良晴「おばちゃん、団子二人分ください。はい、お代」
官兵衛「……本当に、奢ってもらっても良かったのかい、相良良晴」
良晴「何今更言ってんだよ! さっきから良いって言ってるだろ?」
官兵衛「む、だが……」
良晴「それに官兵衛は女の子だしさ、男の俺が官兵衛に奢るのは当然だろ?」
官兵衛「き、きみがそう言うなら……そうなのだろうな」テレテレ
良晴「おう、そうなんだよ」ニコ
半兵衛(ぅぅ……しかもなんか良い雰囲気になってます)
半兵衛「くすん、くすん」
半兵衛(良晴さんの隣にぴったりくっついて……席は結構広さがあるのに)
半兵衛(ま、まさか、官兵衛さんも良晴さんのことを……?)
良晴「お、きたきた」
官兵衛「ふん、中々美味しそうではないか」
良晴「そうだな。……官兵衛、あーん」
官兵衛「!?」
半兵衛「!?」
官兵衛「ちょ、ちょっと待て相良良晴!」
良晴「?」
官兵衛「そ、それはまさかこのシメオンに食べろと言う意味なのか!?」
良晴「それ以外にどんな意味があるんだよ」
官兵衛「と、とにかく! わたしはそんなの――むぐっ!?」
良晴「……どうだ? 美味いだろ?」
官兵衛「もぐもぐ……ごくん」
官兵衛「ま、まあ、悪くはないが……」テレテレ
官兵衛「それにしてもいきなり人の口に団子を突っ込むのは感心しないぞ」
良晴「ん、それは悪かった。ごめんな」
官兵衛「わ、分かればいいのだ……」
半兵衛「ぐぬぬ……」
半兵衛(それどころか手だって繋いでくれなかったし……)
半兵衛(あんなに幼い官兵衛さんにでれでれしてしまって……はっ)
半兵衛(もしや良晴さん、こんどこそついに未来の不治の病"露璃魂"に掛かってしまったのでは――?)
半兵衛(で、でも、だとしたら良晴さんが官兵衛さんにでれでれしてわたしにでれでれしない理由は?)
半兵衛(まさか、わたしなんかでは良晴さんにとっては歳が行き過ぎているというのでしょうか?)
半兵衛(良晴さん……いつの間にかそんなところまで"露璃魂"を進行させてしまって……)
半兵衛「わ、わたしが良晴さんをなんとかしなくちゃ……!」
半兵衛(むー……、中々良い策が思いつきません……)
良晴「おし、官兵衛、あっちの方に行ってみようぜ」
官兵衛「シム。……シメオンもあっちの方には行った事が無くてな。何があるのだ?」
良晴「んー、確か大きめの川が通ってたはずだ。天気も良い事だしそこでのんびりしよう」
官兵衛「のんびり、か。天下布武を為そうとする織田に仕えるきみがそんなんでいいのかい?」
良晴「大切なのはメリハリを付けることだ。遊べるときに遊び、のんびり出来るときにのんびりすることも大切なんだ」
官兵衛「ふむ、一理あるな」
良晴「よし、行くぞ官兵衛」
官兵衛「だ、だからいきなり手を握るなと言ってるだろうっ」デレデレ
半兵衛(あぁっ、お二人があちらに行ってしまいます……)
半兵衛(……しかも良晴さんはまたもや官兵衛さんの手を握り締めて)
半兵衛「前途多難です、くすんくすん」
官兵衛「シム。それにここらはあまり騒がしくなくてとても……良い」
良晴「やっぱり人込みは苦手だったか?」
官兵衛「別に苦手と言うわけではないよ。ただ、静かな方が好きだと言うだけの事だ」
良晴「…………」
官兵衛「…………良い、風だ」
良晴「……ああ」
官兵衛「…………」
官兵衛「…………相良良晴、もう少しあちらの方へ行って見ないか」
良晴「おう」
半兵衛(……あっちは見晴らしが良すぎてこれ以上近づく事が出来ませんね)
良晴「……何の事だ?」
官兵衛「ふん、とぼけても無駄だ。忘れたのか? シメオンは天才軍師なんだぞ」
良晴「…………」
官兵衛「きみは普段シメオンを散歩になんて誘ったりしない」
官兵衛「手を繋いだり、"あーん"をしたり、きみの普段の行動からは考えられない行為ばっかりだ」
良晴「それが、どうした」
官兵衛「それだけじゃない。きみも気付いていたかもしれないが、さっきから竹中半兵衛がシメオンたちの後をこっそり追って来ている」
官兵衛「……相良良晴、きみは竹中半兵衛と何かあったのか?」
良晴「……ふふ、天才軍師様は全部お見通しって訳か」
良晴「それで見晴らしが良く、半兵衛が近寄れないここに行こうと言ったのか」
官兵衛「……まあ、そんなところだ」
半兵衛「くすん、遠すぎて何を喋っているのか全く聞こえません」
官兵衛「…………」
良晴「喧嘩というか……いや、悪いのは一方的にこっちなんだけれどさ」
良晴「ちょっとからかってやろうと思ただけなんだけれど予想以上に良い反応が帰ってきたもんで」
良晴「本当はすぐに謝ろうと思ってたんだけれど、ついそのまま続けちまってさ……」
官兵衛「……それで、謝るタイミングを逃した、というわけか」
良晴「あ、ああ……」
官兵衛(この……馬鹿者が……!)
官兵衛(竹中半兵衛が相良良晴に抱いている感情も知らずに……!)
官兵衛(そしてこのシメオンを一瞬でも期待させておいて……!)
官兵衛(…………くそっ!)
官兵衛「…………に行け」ボソッ
良晴「え? 何だって?」
官兵衛「竹中半兵衛に謝りに行け! 今すぐにだっ!」
良晴「ひっ!? わ、分かりました!」
半兵衛(……ん? 官兵衛さん、怒ってる? 良晴さんに何か怒鳴りつけて――)
半兵衛「って、良晴さんがこっちに来る!?」
半兵衛「か、隠れなくちゃ」アワアワ
半兵衛「木、木の裏にでも隠れて――」
良晴「半兵衛!」
半兵衛「!」ビクッ
良晴「半兵衛……」
半兵衛「よ、良晴……さん?」
半兵衛(……良晴さんがわたしに話しかけてくれた?)
半兵衛「きゃぅっ!?」
半兵衛(よ、良晴さんがわたしを抱きしめてる――!?)
良晴「本当はすぐに謝るつもりだったのに、タイミングを逃してしまって……」
半兵衛「くすん、わたしは良晴さんがわたしに話しかけてくれたのでそれでいいです」
半兵衛「無視されるのはとても辛いです、くすんくすん」
良晴「本当に、ごめん」
半兵衛「……後で五右衛門さんにも謝っておいてくださいね?」
半兵衛「……五右衛門さんも傷ついてましたから」
良晴「ああ、分かった」
半兵衛(わたしは良晴さんに冷たくした事を謝って)
半兵衛(良晴さんはわたしたちを無視した事を謝って)
半兵衛(…………)
半兵衛(……良晴さんはこれからはわたしと出かけるときは手を繋ぐと約束してくれた)
半兵衛("あーん"をしてくれるとも)
半兵衛(……そして、それから一ヶ月)
半兵衛「ひゃっ!? よ、良晴さん……! も、もうっ!」
半兵衛「最近戦がないからって良晴さん、気が緩んでますよ!」
半兵衛「いつ戦が起こるか分からないのに……」
良晴「でも少なくとも今は戦争だって起こって無いんだ、ちょっとくらいいいだろ?」
半兵衛「ちょ、ちょっとくらいって……ここ数日そう言って毎日いきなり背後から抱き付いて」
良晴「嫌か?」
半兵衛「…………嫌じゃないです」
良晴「そっか」ニコ
そんな、のどかな昼下がりの日常。
わたしと良晴さんは"まだ"特別な関係ではないけれども。
わたしはなによりもこの日常を幸せに感じているのだ。
良晴「…………」ハムハム
半兵衛「で、でも耳をはむはむするのは止めてくださいっ!」
【終わり】
今度やるときは書き溜めて来るんでよかったら読んでください
ノシ
乙
Entry ⇒ 2012.11.02 | Category ⇒ その他 | Comments (0) | Trackbacks (0)
エルフ「見ないで……」
「お願いだから……」
屋敷の地下牢に繋がれた彼女は、目を伏せてそう懇願した。
信じられないくらい悲痛な声で、少年の心まで潰してしまいそうな程だったけれど、それでも彼は目をそらせなかった。
とても綺麗だったからだ。
薄暗がりで薄く発光しているようにも錯覚する白い肌が何より目を引いた。
白磁のように滑らかで冷たい、そんな肌。
纏っているのは元は上等だったようにも見えるが、今はぼろきれとなった布の残骸なので、いたるところからその透き通った白が覗いていた。
光っているのは肌だけではない。白光を縁取るのは金色。
おとぎ話の不死鳥が本当にこの世界にいるとしたら、こんな色だろうなあと思う、そんな髪の色。
柔らかい上質な絹糸がさらりと音を立てるのを思い浮かべた。
涙のたまった瞳は、名前も知らない宝石のような輝きを湛えてただ悲しい。
息をするのも忘れて見入る。
花をそのまま結晶にしてしまったらこんなふうになるだろうか。
時が止めてしまったような、泣きたくなるような美しさ。
泣きたい? 少年は戸惑う。
美しいってのはもっと、こう、違うものだ。
美しいというのはもっと誇り高くて、豪華で、太陽のようで。じゃあこれは間違ったものなのか?
それは違う、と胸の内から囁きかける声がある。
月だ、とその声は言う。
自分では輝けない、自分では飛べない、自分では歌えない。これはそういう美しさだ。
悲しいがゆえに美しい。
欠けているがゆえに満ちている。
矛盾をはらんだ合理だ。
その日、少年は初めてエルフというものに出会ったのだった。
・
・
・
屋敷の敷地に大きな馬車が入ってきた。
みんなからねずみと呼ばれる少年は、その屋敷の二階、自分の部屋からそれをこっそり見ていた。
街で買いこんだ食料品や貴重品を運びこむいつもの馬車より大きい。何だろう、と少年は思った。
やがて停まった馬車から毛布が歩いて出てきた。変な言い方だけど、少年にはそう見えた。
毛布から足が生えて歩いていたのだ。すぐに毛布をかぶせられた人が歩いているのだと気づいたけれど。
毛布からはみ出す足にはなにも履いていない。裸足だ。石とか痛くないのかな、と奇妙に思った。
ただそれよりも、なんで毛布をかぶっているのかの方がずっと気になった。
毛布たちはひどく頼りない足取りで、いかめしい男の後を歩いている。
毛布の歩みが少しでも鈍ると男は大声をあげた。毛布はもちろん、二階にいる少年をも震わせる怖い声だった。
と、その時一人の毛布が転んで倒れた。足元がおぼつかなかったせいだろう。
毛布が落ちて、その下にあったものが明らかになった。
それは白かった。
少年は驚いて身を乗り出した。あんなに白いものは見たことがなかったのだ。
それは人の形をしていた。裸の人だった。女の人。どきりとした。
いかめしい男が一際大きく怒鳴って、その人は慌てて毛布にもぐりこんだ。
彼らは屋敷の裏に回って消えた。
あれはなんだったのだろう、と少年は考えた。まだ胸がどきどきしていた。
「汚れた血脈だよ」
夕食の席で父親に聞くと、彼はそう吐き捨てた。
一流の調理師に作らせた食事なのだけれど、そのときは心底不味そうな顔をした。
といっても父親はいつだって難しい顔をしている。
汚れた血脈。そう呼ばれるものを少年は知っていた。
森の種族、古木に集う子供、汚れた血脈、頭の固いクソども。それは色々な名前で呼ばれている。
だが、多くの人はエルフと呼ぶ。
「あれがエルフなの?」
「関わるな」
ぴしゃりと父親は告げた。少年の声に好奇心の片鱗を見つけたからだろう。
少年は黙り込んだ。父親の言うことは絶対だ。
逆らうことは許されない。疑問を持つことすら。
それがこの屋敷の、いや少年の絶対的なルールだ。
だから。
それは絶対に起こらなかったはずだった。
その日、少年が夜中に起きだして地下牢に行くことなど。
夜の空気は冷えていた。月の光も同じように冷たい。
まだ冬にはなっていない。それでもどこか凍える心地で、屋敷の裏の地下牢の入り口に回った。
見張り役は眠っていた。
地下牢は当たり前だけれど暗闇に沈んでいた。
ひっそりとしていて、それでも何かが潜んでいる気配。
息づく何かに怯えそうになるが、もう自分は十四歳なんだと言い聞かせて階段を下りた。
ただ、手に持つ明かりはあまりにも小さくて頼りない。
地下牢には初めて下りた。
そこは思ったよりは広かった。
水音が遠くから聞こえる。
鉄格子がいくつか見える。
一つ一つ覗くが、エルフは隅にうずくまってこちらに怯える目を向けるだけだった。
その目は今にも狂って叫び出しそうで、少年は目をそらした。見続けるのは少し苦しかった。
ここにはなにもなかった。怯えたエルフ以外は。
少年は好奇心を裏切られた心地で、階段を振り返った。部屋に戻るつもりだった。
その時気付いた。階段の陰にもう一つ牢がある。
それだけ他の牢とは区切られているように見えた。
明確に何かが違うわけではないのだけれど、何か線が引いてあるように思えたのだ。
覗きこんで。はっと息を呑んだ。
「見ないで……お願いだから」
少年をちらりと見て、それから目を伏せ、彼女は言った。
彼女は牢の真ん中に座りこんでいた。
他のエルフと違って、怯えなかった。ただただ悲しそうだった。
まるで身を切り刻まれてそれを堪えるのように唇をかみしめ、目には涙を浮かべていた。
少年はぼうっと、それを見ていた。
水音がぴちゃり、ぴちゃりと遠くで鳴っている。
はっと、少年は我に返った。
ずいぶんと時間が経ったように感じた。
エルフはなにも言わず俯いていて、少年はただ立ち尽くしていて。
立ち去らなければ、と感じた。自分はここにいてはいけない、と。
この場に自分は不似合いだ。
足早に階段を引き返し、部屋に戻った。
少年はねずみと呼ばれている。
いつもびくびくと臆病で、人の顔色をうかがい隠れてばかりいるからだ。
少年を知る者は面と向かってかどうかは別としてそう呼ぶし、使用人たちも陰でそのように呼んでいることを彼は知っている。
父親すらたまに彼のことをねずみのような面をするなと叱る。
そんな自分が言いつけを破ってまで地下牢に向かったのはなぜなのだろうか。
あの夜のあと、彼はそのことについて考える。
「呆けてないで勉強に集中しなさい」
その日も家庭教師に怒られた。
慌てて姿勢を正す。そうしないと叩かれることを彼は知っている。
「旦那さまのように立派な方にならなければいけないのですよ。しっかりしなさい」
そう言われると、少年は心がきゅっと痛くなる。
自分はいつかはこの屋敷を継がなければならない。
この家の全てを背負って立たなければならないのだ。そう言い聞かされて育った。
それはとても誇りに思うべきことなのだけれど、少年は時々不安になる。
ぼくにはその資格があるのだろうか。
「……ごめんなさい」
「よろしい。では次のページを読み上げなさい」
家庭教師の言いつけにしたがって音読する。
そういえばこの人も例の陰口をたたいていたな、と彼は思い出した。
だからどうということもないけれど。
「見ないで」
あの夜以来、実はたびたび地下牢を訪れていた。
あのエルフを眺めるためだ。
そのたびに彼女はそれを拒絶する。とはいえ見ることをやめさせることなどできないのだけれど。
彼女を見ていると不思議と心が落ちつく。
泣いているところを見ているのに落ちつくというのも変かな、とは思った。
この場に彼は不似合いでもある。でも落ちつく。
ただ、いつも泣いてばかりというのは、と少し思うところがあった。
「ぼくはねずみって呼ばれてるんだ」
牢屋の前に座って膝を抱える。視線の高さが一緒になった。
「いつもびくびくしているから」
お尻がひんやりと冷たかった。地面は少し湿っている。
「ねずみの方がぼくよりずっと勇敢だと思うけどね」
言って、苦笑する。ねずみが蛇を噛み殺すのを見たことがある、と。
エルフは何の反応も示さなかった。たださめざめと泣いていた。
泣き続けて身体の水分がなくならないのかなと思った。
食事はもらっているだろうけれど、その分を全て涙に使っているのだろうか。
「君の名前は?」
エルフは答えなかった。
当たり前といえ、少し残念だった。
少年は立ち上がって階段に向かった。
後ろからは静かな嗚咽が聞こえていた。
そういえば、自分から誰かに話しかけるのなんて久しぶりかもしれないなと彼は思い出した。
いつもは事務的な何かを告げられてそれに対して必要最小限を答えるだけだ。
後は叱られて謝るとき。それが彼の周りとの交流のほぼ全てだった。
この時期は大体週に一、二回、公爵らの屋敷でパーティーが行なわれる。
少年の父親はそれに呼ばれる。少年はそれについていくことになっていた。
おめかしするのは面倒だし大勢の人がいるところは緊張するけれど、パーティーの華やかさは好きだ。
そこにいると小さな自分も大きくなったような気分になる。認められていると思う。
父親の後をついて(というか背中に隠れながら)色々な「偉い人」に挨拶して、食事をとって。とても気持ちいい。
パーティーも後半になると、会場が少し退屈な空気になる。
みんな腹が膨れて、話の種も尽きてくるからだ。
そんな空気を盛り上げるために、公爵は「目玉」を用意している。
公爵の声に従って、この屋敷の使用人たちが奥の部屋から出てきた。
使用人たちはそれぞれ紐を手にしている。その紐の先には首輪。首輪にはエルフ。
彫刻のような美しさを持つ彼らに人々は視線を集める。
来客の一人一人にエルフがあてがわれ、彼らは食事を再開する。
エルフの匂いを嗅ぐ者がいる。エルフに触れる者、舐める者。もちろん気にせずなにもしない者も。
しばらくするとちらほらと来客が会場をエルフと共に出ていく。
少年は父親に聞いて知っている。彼らは屋敷の奥に用意された部屋を借りてエルフと過ごすそうだ。
少年は父親が奥の部屋に行っている間は待たされる。所在なく会場の隅でぼんやりしている。
だいぶ経って戻ってきた父親はいつもの通りしかめっ面だ。
その服にかすかに血が付いている。
美しいものほど壊したくなる。
こびりついた血を見るたびにそんな言葉が頭をよぎる。
父親は大人だからそういうことが許される。大人になるってそういうことなんだ、と少年は思っている。
早く大人になりたい。
エルフは今夜も泣いている。
少年は思い付く限りの色々な話しを聞かせてみた。
ねずみという名前についての補足、家庭教師が厳しいこと、使用人たちがする世間話、庭の木に花が咲いたこと。
最後の話にエルフは反応した。ように見えた。
尖った耳がわずかに動いた様子だった。
少年は何気なく庭の木について話の重点を置いた。
その木は秋になると花を咲かせる。黄色い小さな花で、色合いの関係から金色にも見える。
「ちょうど君の髪みたいにね」
反応を待つが、エルフはなにも言わなかった。
仕方なく続ける。
その木は少年が生まれる前からそこにある。
母が植えたのだそうだ。母は植物が好きだったらしい。
らしい、というのは、今はもういないからだ。死んでしまった。
「ぼくがまだ物心つく前だったんだ。母さんは流行り病で死んじゃった。これ、母さんの形見」
胸元のペンダントをたぐって、見せる。
エルフはちらりとそれを見たようだった。
それでもなにも答えなかった。
またパーティーの日がやってきた。
父親は服に血をつけて戻ってくる。
夜になる。エルフに話しかける。
エルフは相変わらず泣いたまま。
ある夜は見張りが起きていて地下牢に行けなかった。
その日は諦めて部屋に戻った。
そしてベッドに寝転びながら考えた。どうしたらあのエルフの名前を聞きだせるだろうか、と。
次に牢屋を訪れた時、少年は木の枝を手にしていた。
例のエルフの牢屋、その前に立ち、明かりをかざした。
「これ。この前話した花なんだけど」
鉄格子の隙間から差し伸べる。
同時に光をかざすと、花が鮮やかにそれを照り返した。
「綺麗でしょ?」
エルフはそれをじっと見ていた。
「あげるよ」
地下牢で明かりなしじゃ、対して楽しめないと思うけど、と付け加えた。
エルフは恐る恐るといった様子で近付いてきた。
そっと出してきた手に木の枝を押し付ける。
同時にもう一つ押し付けた。
「あげる」
「え……?」
エルフの手に、木の枝とペンダントが乗っている。
母親の形見だ。
「これは……」
エルフがうめく。
少年は、あげるよ、と繰り返した。
「もらえない、こんなの」
返そうと伸ばしてくる手から逃げる心地で身を引いた。
「駄目だよ。いったん渡したものは受け取れない」
「でも」
「気になるなら、お返しをもらおうかな。君の名前を教えてよ」
エルフは戸惑ったようだった。
しばらく手の上のものをぼうっと眺めていた。
それから口を開いた。
「――」
「え?」
よく聞き取れなかった。
彼女はもう一度それを繰り返したが、少年にはよく理解できなかった。
「エルフの古い言葉で、月という意味」
ふうん、と少年は頷いた。
「じゃあ、月って呼ぶよ」
それからまた少年が喋るのが続いた。
でも、少し変化があったとすれば、エルフが少年の話を聞くようになった。
またパーティーの日が来た。
くしくも少年が十五歳になった翌日のことだった。
いつもと少し違うことがあった。
エルフが来客たちにあてがわれ(よくエルフが尽きないものだと不思議に思う)、それぞれ奥の部屋にひっこんでいく頃合い。
父親が少年に声をかけた。
「お前も行くか?」
少年は驚いて父親を見上げた。
ベッドに腰掛けたその女エルフは、何の表情も浮かべていなかった。
無表情でうつむき、少年らが存在していないかのようにそこにいる。
少年は途方に暮れて父親を見た。
父親は椅子に座って腕組みしていた。
目で問うと、
「好きにしろ」
と言われた。
好きにしろと言われても、と改めて途方に暮れる。
とりあえずエルフの隣に座ってみた。いい匂いがする。
自分の中からむくむくと何かがわき起こってくるのが分かる。
そのエルフを優しく撫でたいような、しかし反対に荒々しく引き裂きたいような、矛盾した何か。
エルフに手が伸びる。エルフはなにも答えない。
柔らかい肌に指先が触れる。
さらに身体の中で何かが首をもたげる。
けれど。
触れた感触から思い出すことがある。
月の指先。触れ合う手と手。
「ぼくはねずみって呼ばれてるんだ」
思わず呟いてしまっていた。
次の瞬間視界が反転し、少年は床に倒れこんだ。
「馬鹿者が!」
大声が遠くで響いた。父親の声だ。
「この馬鹿者が! 家の恥さらしが!」
ぐるぐる回る視界を持ちあげると、父親がエルフを押し倒していた。
「エルフはこう扱うんだ」
そう唸るように言って、父親はエルフのわずかな衣服を引き裂いていった。
父親に殴られたんだ。
少年はようやく気づいた。
素肌をいっぱいに晒したエルフの唇に、荒々しく父親が吸いつく。
エルフは初めて声らしい声を上げた。
少年はへたり込んだままなにもできなかった。
父親は乱暴にエルフを扱う。
ありとあらゆる暴力をそのまま叩きつけているように見えた。
動けなかった。
恐ろしかったし、腰が抜けていたし、何より目の前の光景に目を奪われていた。
何よりも美しいものが何よりも猛るものに犯されている。
震えがこみあげてきた。快感にも似ていた。
でも。やっぱり重なってしまうのだ。月が犯されている、そう錯覚した。
それなのに、自分は動けない。
きらりと何かが光った。
次の瞬間には熱いものが顔に降りかかってきた。
口に流れてわずかに下に触れる。苦い。血だ。
いつの間にか父親が立ち上がっていた。何事もなかったかのように服も来ている。
ただ、顔だけが血まみれだった。
帰り道で父親に訊ねた。
屋敷のエルフたちもいつか……ああいうふうにするの?
殺す、とは恐ろしくて口に出せなかった。
父親は黙って歩き続けたが、少年には分かっていた。
そうしない理由がない。
やだな。とは口に出せなかった。そうすればまた殴られる。殺されるかもしれない。
これも分かっていることだ。
ねずみ! ねずみ!
みんなが周りで囃したてている。
ねずみ! ねずみ!
みんなが自分を馬鹿にしている。
みんなって誰だろう。
みんなってどんな奴だろう。
そいつらを見上げると、少年自身の顔がそこにあった。
「行こう」
牢の鍵を開けて少年は手を伸ばした。月は訳が分からずに少年を見返した。
「もう、自由だ。行こう」
「……なんで?」
彼女はようやくそれだけ言った。
そして気づいたようだった。
少年の手は血まみれだ。少年自身の血ではない。でも近しい者の血だ。
気づいて、月は口をきゅっと閉じた。
少年の血まみれの手をとった。
夜明けには城門を出ていた。
朝早く門を出る商隊に混じって、外に飛び出した。
門番の止まれという声に構わず走り続けた。
泣きたいほど風が気持ちよかった。
持ち出せたものは少なかった。
旅するために必要な量の半分にも満たないようだ。
月の導きで森に入った。
森の中は暗く、進むのに苦労したが、それでも月の先導には迷いがなかった。
歩き続けて歩き続けて。
開けた場所に出た。
密集していた木々が、そこだけない。
代わりに石造りの古城がそびえていた。
月に問うと、エルフたちの最後の砦だったとのことだ。
古城の中には、誰もいなかった。
巨大な空隙がそこにあった。もう何年もずっとそのままだったようだ。
古城を真っ直ぐ抜けて、広いバルコニーに出た。
崖の上に造られていて、そこから広がる壮大な景色が見えた。
連なる山々とそれにかかる雲。広大な森の緑。崖下に流れる谷川。
あらゆる素晴らしいものがそこにあって、でも何もなかった。
「エルフは滅んだんだね」
少年は崩れ落ちていた石材の一つに腰掛けた。月もその隣に腰を下ろした。
「そっか。そっか……」
ここは月の故郷だったんじゃないか。そう思った。
そう思ったらなぜだか視界が滲んできた。
「……なんであなたが泣くの?」
優しい顔で月が問う。
分からない。少年は答えた。でも、月が泣かないから代わりにぼくが泣くんだ。
月は手を伸ばして少年の背中を撫でた。
優しく優しく撫で続けて、それから立ち上がった。
「見ていて」
月は夕焼けの中で数歩を踏み出した。
それからゆっくりと歩をゆるめ、そう思った次の瞬間また足を踏み出す。
不思議な足取りで、バルコニーを踏んで行く。
そうか。踊っているのか。と少年は気づいた。
帰る場所を失ったエルフが、夕日の中を静かに舞う。
涙は止まっていた。
「見ていて」
月が言う。
これからのことは分からない。帰る地を失った者たちが生きられる場所がどこにある?
そんなことは知らない。ただ、少年はいつまでもいつまでも月の舞を眺めていた。
支援・保守してくれてありがとでした
気が向いたらまた何か書いてくれ
Entry ⇒ 2012.10.24 | Category ⇒ その他 | Comments (0) | Trackbacks (0)
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マミ「ティロ・フィナーレ!!」
ドォォォ――――ン!!!
まどか「あっ、あっ」
さやか「あぁ!」
脱皮し、マミを喰らおうとする『お菓子の魔女』。
マミ「!!」
ドゴォォォ――――!!!
お菓子の魔女を貫く光。爆発する魔女。
まどか「な、何?今の…光みたいな…」
さやか「魔女から出てきた、魔女を…貫いた」
マミ「…何がどうなってるの…?」
コブラ「危なかったな、お嬢ちゃん。もう少しでその可愛い顔にギザギザの傷がつくとこだったぜ」
さやか「ヒューッ!」
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1342537441
―― その少し前 ――
コブラ「どうだ、レディ。タートル号の調子は」
レディ「あまり良くないわね。この地帯を抜ける程度は出来るでしょうけど、次の星ですぐ整備に入らないと…」
コブラ「ったく、なんだって急に不調になんかなりやがるんだ」
レディ「原因は分からないわ。ブースター、反加速装置、シールド…全て異常は無いみたいなのだけれど、どうもスピードがフラついて落ち着きがないのよ」
コブラ「じゃじゃ馬め。人参でもやれば落ち着くか?」
レディ「それで直れば苦労はしないわね。とにかく、出来るだけ急いでみるわ」
コブラ「頼むぜ、レディ。それまで俺は… …ふぁぁ、一眠りしておく」
レディ「分かったわ。… … …!!あれは!?」
コブラ「!?どうした?」
タートル号の目の前に突如現れるブラックホール。
レディ「ブラックホール!?そんな…予兆もなく突然現れるなんて!」
コブラ「おいおい、タートル号の不調の次はブラックホールときたか!?俺はまだ厄年じゃないんだぜ、チクショー!」
レディ「シールド全開!加速でどうにか突っ切って…!… …ダメ!飲み込まれるわ!!」
コブラ「どわぁぁぁ―――!!」
ブラックホールに飲み込まれ、コントロールを失いながら闇に沈んでいくタートル号。
レディ「コブラ… コブラ!!」
コブラ「…っ! …くぅー、痛ててて…」
レディ「大丈夫?怪我はない?」
コブラ「しこたま頭をぶつけたくらいだよ。…ったく、危うく三度目の記憶喪失になりかけたぜ」
レディ「良かったわ。…どうやら、無事みたいね私達」
コブラ「ああ。…タンコブが痛いのを見るに、どうも生きているらしい。…にしても…どこだ、ここは?」
レディ「…座標に無い場所ね。計器は正常に動いているみたいだけれど…」
コブラ「…!おいおい…なんだ、こりゃあ…」
タートル号の周りに広がるお菓子の山。そこを彷徨うようにうろつく、ボールのような一つ目の怪物達。
コブラ「どうやら俺達はヘンゼルとグレーテルになっちまったみたいだぜ。レディ、パンでも千切ってくれ」
レディ「それじゃあ元の場所に帰れないでしょ。…駄目、タートル号のデータベースでもこの場所の情報は見つからないわ」
コブラ「そんな馬鹿な!ありとあらゆる情報がこの船のデータベースには詰まってるはず…!… … …なァんだ、ありゃあ?」
タートル号から少し離れた場所で、死闘を繰り広げるマミとお菓子の魔女。
マミの銃撃が次々と巨大な人形のような怪物にに炸裂していく。
コブラ「…レディ、俺はどうもヘンゼルとグレーテルの話を間違えてたらしいぜ。どうも、グレーテルはスカートから銃を出して、そいつで魔女を倒す話だったらしい」
コブラ「まったくだ。記憶喪失より性質が悪いぜ。これが夢じゃないときてる」
レディ「…でも…少し危ないわね。あの子の闘い方」
コブラ「…ああ。何かが吹っ切れたように闘ってる。あれじゃあ…」
言いながら、コクピットを出て行こうとするコブラ。
レディ「!どこに行くの、コブラ」
コブラ「俺のこういう時の勘は鋭いんだよ。特に美女が野獣に喰われそうな時はね」
タートル号から出て、その様子を伺う。
マミのティロ・フィナーレを喰らい、脱皮をしてマミに襲い掛かるお菓子の魔女。
その瞬間、コブラは左腕のサイコガンを抜く。
コブラ「危なかったな、お嬢ちゃん。もう少しでその可愛い顔にギザギザの傷がつくとこだったぜ」
さやか「ヒューッ!」
まどか「え、どうしたのさやかちゃん」
さやか「いや、なんか言わないといけない気がして」
まどか「なにそれこわい」
コブラ「怪我はないかい?」
マミ「え、あ、ハイ…。…有難うございました…」
コブラ「そりゃあ良かった。俺が来るのが遅けりゃ、アンタ死んでたかもしれないからな」
マミ「そ、そうでしたね…本当に…」
QB「…」
まどか「ねぇ、キュウべぇ。あの人も魔法少女…?」
さやか「いや、どう見ても少女じゃないでしょアレ」
まどか「魔法中年…?」
さやか「ちょ、ま」
QB「いや、分からないね。ボクでも、彼が誰なのか見当がつかないよ。魔法少女でもなく、結界の中に入れて、しかも一撃で魔女を倒せる人間なんて」
コブラ「…!おおっと、俺とした事が。他に2人も淑女がいた事に気付かなかったぜ。…うん?」
まどか「あ、あの…その… … 初めまして」
さやか「ねぇねぇ、さっきのビーム、どっからどうやって出たの!?あれもやっぱり魔法!?」
コブラ「あー、俺はその、魔法ってのはどうも苦手でね。… … …」
QB「…」
その時、結界が解けて全員が元の病院前に戻る。
コブラ「…!!なんだなんだ!?どうなってるんだ!?」
マミ「結界が解けたのよ。…ひょっとして、それも分からないのに結界の中に入ってこれたの?」
コブラ「…まぁ、成行きでちょっと。ところで御嬢さん方にお聞きしたいんだけどね、ここは一体どこなんだ?」
さやか「見滝原だけど」
コブラ「ミタキハラ星?聞いたことないな」
さやか「いや、町、町。なに、おじさん、宇宙人?」
コブラ「おじさんは止してくれよ。アンタ達からならそう見えるかもしれんがね、こう見えてハートは繊細なんだ」
まどか「ティヒヒヒ」
マミ「…訳が分からないけれど、とりあえず私の家でお茶にしましょうか?…もちろん、貴方も一緒に、ね」
コブラ「お、嬉しいねぇ。美女からお茶のお誘い」
ほむら「おい」
――― 巴マミ家。
まどか「ジョー…ギリアン、さん?」
コブラ「そ、いい名前だろ。サインだったらいつでも書くぜ」
さやか「(っていうか…日本人じゃないよね、どう考えてもその名前…)」
コブラ「…まぁ、俺の事はどうでもいい。おたくらの事を色々聞きたいんだが…さっきの場所といい、あの戦いといい、一体どうなってたんだ?」
ほむら「…本当に何も知らないのね。魔女の事も、結界の事も…魔法少女の事も」
コブラ「魔法少女…?」
マミ「私から説明するわ」
コブラに魔法少女、魔女との戦い、戦い続けるワケを全て教えるマミ。
さやか「ちょっ、そこまで教えちゃっていいの?マミさん」
マミ「あの戦いを見た以上、隠し通せるわけないし…それに、命の恩人だもの。何も教えずにいるのはこちらとしても失礼だと思うわ。…でしょ?キュウべぇ」
QB「ボクからは特に意見はないよ。さやかとまどか、魔法少女でない人間が2人見学に来ていたのだから、今更1人増えたところで何も変わらないしね」
マミ「…少なくとも、私の運命は変わっていたと思うの。ジョーさんが助けてくれなければ…本当にあのまま、頭を喰いちぎられていてもおかしくなかったもの」
QB「…」
マミ「私もまだまだ、魔法少女としてツメが甘いのかもね。どこか浮かれながら戦っていたのかもしれない」
ほむら「… … …」
マミ「貴方も、ごめんなさい。帰りにちゃんと解放するって約束したのに、すっかり忘れちゃってて☆」テヘペロ
ほむら(…絶対わざとね、巴マミ)
さやか「にしても…転校生、どういう風の吹き回しよ。一緒にマミさんの家で話がしたい、だなんて」
まどか「…きっと、これから一緒に戦おう、って言いに来てくれたんだよね?ほむらちゃん」
ほむら「…勘違いしないで。そんな気はないわ」
まどか「ぅ…ご、ごめん…」
マミ「あら、それじゃ一体どうしてかしら?」
ほむら「… … …」
コブラ「…ん?」
ほむら(なんなの、この世界は…)
ほむら(今まで巡ってきたどの時間軸の中にも、こんな男が現れる事はなかった)
ほむら(魔法少女では有り得ない、けれど…魔女を倒す程の力を秘めた存在…)
ほむら(…インキュベーターの何かしらの陰謀…?分からない…。…ここは、この男の様子をしばらく観察するしかない)
コブラ「… … …美人に見つめられるのは結構だがね。そう凄まないで、もうちょっと優しく潤んだ目で見て欲しいもんだ」
ほむら「…くっ!」
ほむら(なんなの、コイツ…!本当に読めない…!)
まどか「あはは、ほむらちゃん、照れてるー」
ほむら「!ちっ、違うわッ!」
マミ「あら…うふふ」ニコニコ
さやか「ははは、なぁんだ。転校生でも顔赤くする事あるんだ」ニヤニヤ
ほむら「」
コブラ「しかし信じ難いねぇ。おたくらみたいなか弱い少女があんな化け物と常日頃から戦ってる、なんてのは…。まぁ実際に見たんで信じないわけにもいかないが」
マミ「…説明して納得できるものでもないから、ああして鹿目さんや美樹さんに見学をしてもらっていたのだけれど…ツアー参加者が増えるのは予想外だわ」
コブラ「いやホント、良い物が見物できたよ。お捻りあげたいくらいだね」
マミ「それで…2人はどう?これで見学ツアーは終わりにするつもりだけれど…決心はついた?」
さやか「…」
まどか「…」
マミ「これ以上、生身の身体で戦いの傍にいるのは危険だと思うわ。…決断を急かすわけじゃないけれど、何より貴方達が心配なの」
まどか「…わたしは…マミさんと一緒に戦う、って…そう、決めたから…!」
ほむら「安易な決断はしないでと忠告したはずよ、まどか」
まどか「でもっ!マミさんが…マミさんが!」
マミ「…有難う。でもね、鹿目さん。何度も言うように魔法少女になるのにはとても危険な事なの。…私のためだけに、魔法少女になるという答えを出すのは止めてちょうだい」
まどか「で、でもっ!マミさん、戦うの怖くて、寂しくて、辛いって…だから、わたし、一緒に…!」
マミ「だからこそよ。…美樹さんにも言ったのだけれど…誰かのために願いを叶えるというのは、きっとこれから先、後悔する事になるわ」
まどか「…」
さやか「…」
マミ「だから、後悔なんて絶対にしない、魔法少女になって戦い続けられる…その心に揺らぎが無くなった時に、決めてほしいのよ」
マミ「…鹿目さん。私は、貴方達が戦いに加わろうと、加わらなかろうと…こうしてお友達としていれれば、それだけで…何よりも心強いのよ。それだけは言っておくわ」
ほむら「…。鹿目まどか、何度も言うけれど…私の忠告、忘れないでね」ガタッ
まどか「… … …うん。分かってる。…ありがとう、ほむらちゃん」
マミ「あら、もうお帰り?」
ほむら「ええ」
マミ「…今日は、貴方を縛ったままにしておいてごめんなさい。でも、私少し…貴方の事、信じられるかもしれない」
ほむら「… … …」
マミ「グリーフシードの奪い合いじゃない…貴方の行動には、何か信念のようなものを感じるの。…私の勝手な勘だけれどね」
ほむら「…私も、無益な戦いはしたくないわ。…それだけは言っておく」
マミ「そう…良かった」
ほむら「…お茶、御馳走様…」バタン
さやか「… … …」
さやか「デレたよ!ついにデレたよあの子!鉄壁の牙城にヒビが入ったよ!」
まどか「ちょ、さやかちゃん、声大きい…!」
コブラ「…若いってのはいいねぇ、どうも」
マミ「それじゃあ…別の話をしましょう。私達の事はおしまい。ジョー…さん。次は貴方の話を聞かせてくれる?」
コブラ「…そうだなぁ、マティーニでも飲みながらじっくり語りたいところだが…生憎この部屋には無さそうだし、仕方ないな」
コブラ「俺は…まぁ、しがないサラリーマンでね。宇宙観光の最中に突然謎のブラックホールに飲み込まれて…気が付いたらあのザマだ。マミが華麗に戦ってるところにお邪魔したってワケさ」
まどか「うちゅー…かんこう…?」
コブラ「ああ」
さやか「え、え?その、単なるしがないサラリーマンなのに、宇宙船に乗ってたってわけ?」
コブラ「まぁ、そこまで薄給でもないんでね。宇宙船の1隻くらいは奮発して持っていて、それでちょぃとした旅行に」
まどか・さやか・マミ・QB「… … …」
コブラ「…俺、何か変な事言っちまったかな」
さやか「え、えぇと…どこまで信じればいいのかな…?!正直、全部が嘘っぱちにしか思えないし…ま、まぁ、とにかく…本当に結界の中に入った理由は分からないんだよね?」
コブラ「そういう事。ここがどこの星かも分からないザマだよ。参った参った」
まどか・さやか・マミ・QB「… … …」
コブラ「…どうも俺は、会話教室に通ったほうがいいみたいだな」
コブラ「地球!?日本!?ここがか!?」
さやか「…本気でビックリしてるよ、この人…」
コブラ(この子らの反応を見るに、この星には星間交流の概念が無いようだが…ここが地球だってぇ!?俺の知っている地球とは随分違うぜ)
コブラ(見たところ、文明はかなり遅れて…いや、俺からすれば太古と言うに近いな、ここは)
コブラ(あのブラックホールの先は…過去の時代へと続いていたのか?…いや、それとも、この場所は…)
マミ「でも…仮にジョーさんが宇宙人だとすれば、あの魔女を倒した謎の攻撃にも何となく納得できるわ」
さやか「そうそう、アレ!あのレーザーみたいな光。どっから出てきたの?」
コブラ「あ、いやぁ魔法が苦手ってのは実は嘘でね。俺もちょっとした魔法みたいなものが使えるんだ。こう、念じて、ドバァーっ、と」
まどか「え、じゃあ本当に…契約して魔法を?」
QB「それは違うね。ボクの見る限り、彼はソウルジェムを持っていない。信じ難いけれど、生身の人間のようだ」
コブラ「そういう事。察しがいいね、そこの宇宙人は」
QB「!?」
まどか「ティヒヒ、ジョーさん。キュウべぇは宇宙人じゃないよ。…わたしにもよく分かんないけど」
コブラ「…へ?そうなの?」
QB「…」
マミ「それじゃあ、元いた世界と、今いる私達の世界、見滝原…ジョーさんは全く違う世界にきてしまったという事?」
コブラ「どうもそうらしい。しかも帰る方法が分からないときてるし、いやぁ参ったよ」
さやか「魔法少女の話の次は別世界からきた人、かぁ…。あははは、もうあたしチンプンカンプン」
マミ「…繰り返すようだけど、キュウべぇは本当にこの事については関与していないわけね」
QB「もちろん。わけがわからないのはボクも同じさ。ジョーの言う事が全て嘘とは思えないのも同意見だね」
コブラ(ブラックホールがレーダーにも反応せず、突然タートル号の前に現れるなんてのは明らかに不自然だった。あれは…誰かが俺をこの世界に呼び寄せるための意図だ。…誰かが俺を、ここに来させた)
まどか「それじゃあ、住む場所も無いわけですよね?…どうするんですか、これから」
コブラ「ん?あぁ、まぁ適当に考えるさ。生粋の旅行好きでね、どこでも寝れるのが自慢なんだ」
さやか「いや、そういう事じゃなくて」
コブラ「分かってますって。それじゃあ、俺もアンタ方の言う『魔法使い』になってみようかね?」
マミ「え?」
コブラ「行くアテがあるわけでもない、帰る方法も分からない…ともなれば、願いを叶えられるという魔法少女さんの傍にくっついてるのが一番出口に近いと俺は思うんだ」
マミ「魔法少女になるという事?」
コブラ「止してくれよ。マミの服はとってもキュートだがね、俺があんなの着たら蕁麻疹が出ちまうよ」
まどか(…想像しちゃった)
コブラ「見滝原とか言ったか。しばらくはこの辺りをブラブラさせて貰いながら、アンタら魔法少女の様子を見せてもらうよ」
まどか「…本当に大丈夫なんですか?あの、私、お母さんとお父さんに話して泊めてもらうように…」
コブラ「気持ちは嬉しいがね。年頃の御嬢さんがこんな男を家に連れ込んだら水ぶっかけられて追い出されるのがオチだよ」
マミ「私の家でもいいのよ、一人暮らしだし」
QB「マミ、ボクもいるんだけど」
コブラ「大丈夫大丈夫、心配ご無用。散歩が好きなんだ、気ままにフラフラしてるさ」
さやか「あたし達も、ジョーさんが何か元の世界に帰る手がかりみたいなの見つけたら教えるよ」
コブラ「有難いねぇ。いいのか?さやかだって色々忙しいだろうに」
さやか「あたしは… …大丈夫。マミさんを助けてくれたんだ、何か恩返しをしたいのはあたしもまどかも同意見!でしょ?」
まどか「うん。今度はわたし達が助ける番だと思うし」
コブラ「助かるぜ。…それじゃ、一旦この辺で失礼させてもらうよ。また会おう」
マミ「…ありがとう、ジョーさん。また会いましょう」
コブラ「レディーが俺を必要とするのなら、宇宙の果てからでも飛んで来るさ」
――― マミのアパート、入口。
コブラ「…さてと」ピッ
コブラ「レディ、聞こえるか。今どこにいる?」
レディ「ええ、聞こえるわよコブラ。今はタートル号に乗って太陽系をぐるりと回っているところ。あの場所から現実世界に戻った瞬間に、タートル号で外宇宙に飛んでみたの。…本当に、あなたのいる場所は地球のようだわ」
コブラ「だろうな。それで、元の世界に帰れそうな方法はあるか?」
レディ「残念だけれど…分からないわ。この世界に飲み込まれたブラックホールを探してはいるんだけれど、探知は出来ない。そちらはどう?」
コブラ「こっちも手詰まり。黒幕も何も分かったもんじゃない。…もっとも、あのキュウべぇとかいう生物は怪しいとは思うがね」
レディ「それじゃあ、あの子達の周辺をしばらく監視するの?」
コブラ「そうする。俺の直感ではこの事件には何かしら、かの女達が関係している。それに、女の子の傍にいるのは悪い気はしないからな」
レディ「呆れた。 …コブラ、何点か教えておきたい事があるのだけど、いいかしら?」
コブラ「よろしくどーぞ」
レディ「まず、私達が最初に辿り着いたあの場所。かの女達が『結界』と呼ぶ場所ね。分析したのだけれど、あの場所は言っていたように、現実世界とは少し次元の異なる場所のようね」
レディ「難しい話はしないけど、私達のいた世界にも例のない、亜空間よ。あの場所に何かしら、私達が元に戻れるためのヒントが隠されているかもしれないわ」
コブラ「ああ。俺はそのヒントを探しに、ここに残ってみる。しかし、どうやったらあの空間に入る事ができるのかが分からない。レディ、何かいい方法はないか?」
レディ「あるわよ」
レディ「『結界』のデータをタートル号のコンピューターで分析出来たの。あの空間の一定のエネルギー…かの女達なら『魔力』と呼ぶ未知のエネルギーを解析して、こちらのレーダーで感知できるようにしておいたわ」
コブラ「ほー、流石レディ。仕事が早くて助かるぜ」
レディ「ただ、その空間に直接入る事は出来ないのよ。空間を断裂してその内部に侵入する方法は私でも分からない。可能ならば、その内部に入る能力を持った魔法少女の後をついていくのが得策でしょうけど…」
レディ「単身で貴方が結界に入る方法がないわけでもないの」
コブラ「興味深いね。聞かせてくれるかい?」
レディ「あの結界を『テント』と考えてくれれば分かりやすいわ。一度開いたテントの中には、入口が見つからない限り不可能よ。…ただし、テントを開く場所さえ分かれば、貴方は結界の中に単身で潜り込めるわ」
コブラ「…なるほど。確かマミの話じゃあ、『グリーフシード』ってヤツが孵化する瞬間に魔女が生まれ、同時に結界がその場所に生じると言うが…」
レディ「そのグリーフシードの発する魔力のエネルギーのデータを、タートル号にインプットしたわ。つまり貴方が結界を張り、孵化をする前にその場所に立ってさえいれば」
コブラ「俺も晴れて、テントの中で楽しくお食事出来るってわけか」
レディ「そういう事。私とタートル号はしばらく地球周辺の宙域でそちらの探知をするわ。貴方の周辺に魔力が探知でき次第、リストバンドに位置を送る事が可能よ」
コブラ「了解。助かるぜレディ」
レディ「でも…単身で戦うのは十分気を付けたほうがいいわ。あの魔女という怪物がどれほどの力を持つものか、未だ分からない点が多いから」
コブラ「分かってますよ。…魔女狩りはかの女達の専売特許だ。あんまりやりすぎないようにはするさ」
レディ「それと…もう一つ、これは関係がないかもしれないのだけど…伝えておきたい事があるの」
レディ「…貴方と私が見た魔法少女…巴マミと言ったかしら。あの子が例の化け物と戦っているところを、タートル号のモニターで分析してみて、分かった事があるの」
コブラ「分かった事?」
レディ「かの女の身体から、生体が発生させるエネルギーが探知できないの」
コブラ「!?どういう事だ!?」
レディ「私にも分からない。ただ、人間が本来発生させるべきエネルギーが、かの女の身体からは検知できなかった。…ある一部分を除いては」
コブラ「一部分…?」
レディ「右側頭部の髪飾りの留め具部分。唯一、生体エネルギーがこちらで探知できた場所よ」
コブラ「…ソウルジェム。かの女達が魔法少女になるために必要な道具と言っていたが…」
レディ「そのソウルジェムの発生させるエネルギーが、抜け殻の巴マミを動かしていた…と言っても過言ではないわ。まるで…マリオネットのように」
コブラ(どういう事だ…?あの宝石は魔力の源…契約の証、としかマミからは教えられなかった)
コブラ(かの女はこの事実を知っているのか?いや、隠し事をしている様子は無かったし、そんな大事な物だと知っているのなら余計に伝えなければいけない事だ。…まさか、知らないのか?)
コブラ(…キュウべぇ、とか言ってたか。あの野郎、やはり食えないヤツみたいだぜ)
コブラ(しかし、こいつはまだ俺の中に仕舞っておいた方がいいな。…いつか、分かる日はくる。いきなりそれを知っても混乱を招くだけだ)
コブラ(その事実を知る時まで…俺がソウルジェムを、かの女達を守ればいい。それだけだ)
レディ「報告は以上ってところかしら。何か質問は?」
コブラ「あー…一つ心配事があるんだがね、レディ」
レディ「何かしら?」
コブラ「この国の通貨さ。酒もメシも食えないんじゃあ、魔法使いどころか動けもしないぜ」
レディ「ああ、そうね。…ごめんなさい、通貨については私も調べられないわ。ただ、タートル号に換金していない金塊があるから、どうにか売り払えれば不自由はしないはずよ」
コブラ「おー、そうだったそうだった!やっぱり持っておくべきはデキる相棒と資産だね、ハハハ」
レディ「ふふふ。夜が更けて人目が無くなったら、一度地球に降りて必要な物を渡す事にしましょう。…それじゃあね、コブラ。十分気を付けて」
コブラ「了解。そっちもよろしく頼むぜ」ピッ
コブラ「さて…色々分かった事は多いが、何から始めるかねぇ」
葉巻に火をつけて、一服をするコブラ。
コブラ「…先は長そうだな。それじゃあまず…軽い運動でもしてきますか」
――― 一方、ほむらの家。
ほむら(私は…数えきれないほどの時間を、繰り返し、やり直してきた。その度…あの夜を越えられず、また同じ時間を巻き戻しをして…)
ほむら(巴マミ、美樹さやか、佐倉杏子…そして、私と、まどか)
ほむら(それぞれの時間に、それぞれの運命が存在し、違った展開を見せていた。…それでも、まどかを助けられる時間軸は、まだ見つからないのだけれど)
ほむら「…ジョー・ギリアン…」
ほむら(あんな男が存在する時間なんて、今まで一度も無かった。…私の存在を皆が覚えていないように、彼の事を知っている人物もいない。…インキュベーターでさえも知らないようだった)
ほむら(私と同じ…いいえ、彼自身、自分がこの世界に何故来たのかを知らないのだとすれば、完全なるイレギュラーの存在)
ほむら(この繰り返す時間の中に投じられた、一つの駒。…でも、それがどんな影響をもたらすのか未だに分からない)
ほむら(…巴マミは、あそこで死んでいてもおかしくなかった。彼の存在が、もし…魔法少女を救うために、運命を変えるために、あるのだとすれば…)
ほむら(この先…まどかと私の運命…『ワルプルギスの夜』も…)
ほむら「…倒せるというの?」
――― 見滝原から少し離れた場所。その結界内部。
結界内部は、さながら巨大な書物庫のようであった。幾つもの小さな本が飛び交い、交差する。その本達はどれも手足が生え、笑いながら飛んでいた。
その中央に佇む『辞典の魔女』は結界内の侵入者に攻撃を続けている。
自らのページを開き空間内に文字を具現化させ、弾丸のようにそれらを高速で目的に飛ばし、コブラを攻撃するのだった。
コブラ「どわぁぁっ!っと、っと!うひぃぃーっ!」
叫び声をあげながら結界内を駆けまわり、次々と繰り出される文字の弾丸を避けるコブラ。
コブラ「ったく、活字アレルギーになりそうだぜ!悪趣味な攻撃してくれちゃって」
言いながら左腕のサイコガンを抜き、膝をついた体勢で止まり、『辞典の魔女』へ向けて銃口を構える。
コブラ「さあ、撃ってきな。相手してやるよ」
辞典の魔女「!!」
止まった目標に向け、今まで以上の頻度で文字の弾丸を打ち続ける魔女。
ドォォォォ―――ッ!!
だがその攻撃の全てはサイコガンの連続放射で防がれ、それらを貫いた光は本体である辞典の魔女へと向かっていく。
辞典の魔女「!!!」
攻撃を受けたせいか、一瞬魔女の攻撃が怯み、動きが止まる。その隙にコブラはにぃ、と笑って立ち上がり、サイコガンに意識を集中した。
コブラ「喰らえーーーッ!!」
威力の高い、精神を集中させたサイコガンの一撃は辞典の魔女の瞳を貫く。
崩れるように地面に落ちていく巨大な本。その姿に背を向け、コブラは静かに左手の義手をつけた。
コブラ「っとぉ!」
魔女が倒れた事を現す結界の解除。元の世界に戻ったコブラの手にはグリーフシードが握られていた。
コブラ「こいつがグリーフシードか。…しかし、こいつ一つ手に入れるのにも相当苦労するもんだな、一筋縄じゃいかなそうだ」
手にしたグリーフシードを掌の上で転がしながら、呆れたように見つめる。
コブラ「それで…何か用かい。こそこそ隠れてないで出てきたらどうだ」
静かにそう言うコブラの後ろ。ビルの物陰から、ひょっこり姿を現すキュウべぇ。
QB「君の目的を知りたくてね。少し観察させてもらっていたのさ」
コブラ「そりゃ光栄だ。先生は今の戦いに、何点をつけてくれるのかな?」
QB「君は一体何者なんだい?契約もしていないのに魔女と戦う力を有する存在…。魔法少女である暁美ほむらもそうだけれど、君はそれ以上にイレギュラーな存在だね」
QB「何よりも、君は何故魔女を倒すんだい?ソウルジェムを持たない君にとっては、無意味そのものの行為であるはずだよ」
コブラ「…無意味ねぇ」
コブラ「…ソウルジェム、っていうのは願いを叶えてくれる魔法の宝石。そんな風にかの女達は思っているかもしれないが…」
コブラ「だが、このグリーフシード、ってヤツは…そんなメルヘンチックなもんじゃないね。あんな化け物の身体から出てくるんだからな」
QB「何が言いたいんだい?」
コブラ「俺は宝石にはちょいと五月蠅くってね。いやー、なかなかこのグリーフシードとソウルジェム…似ていると思ってさ」
QB「…」
コブラ「ひょっとしたらこいつを持っていたら俺の願いが叶って元の世界に戻れる手がかりになるかも…なぁーんてね」
QB「説明はマミから受けたはずだよ。グリーフシードはソウルジェムの穢れを吸い取る存在だと」
コブラ「分かってるよ。ま、折角この世界にきた記念だ。お土産の一つに貰っておこうと思ってさ」
QB「わけがわからないよ。君の存在は、暁美ほむら以上に理解不能だ」言いながら立ち去るキュウべぇ。
コブラ「…へっ」
葉巻を口から離し、紫煙を吐くコブラ。月を見上げながら、不適な笑みを浮かべる。
その顔には、どんな運命にも立ち向かう、自信のような感情が溢れていた。
―― 次回予告 ――
青春ってのはいいねぇ。男と女、色恋沙汰っていうのはどこの世界でもあるもんだ。
ここは恋という分野で宇宙一と言われるコブラ教授の出番ってワケ。他人の恋愛に首突っ込むのはあんまり好きじゃないんだが、ここは恋のキューピッドになってやろうじゃないの。
だが一方で次々と事件が起こりやがる。妙な赤い魔法少女が俺に斬りかかるの、まどかとその友達が魔女に襲われるので忙しいったらないよ全く。
どの世界でも、モテる男ってのは辛いもんだねぇ、ほーんと嫌になっちまうぜ。
次回【魔法少女vsコブラ】で、また会おう!
恭介「さやかは、僕を苛めてるのかい?」
さやか「え?」
恭介「何で今でもまだ、僕に音楽なんか聴かせるんだ…。嫌がらせのつもりなのか?」
さやか「だって…それは、恭介、音楽好きだから…」
恭介「もう聴きたくなんかないんだよ!」
恭介「自分で弾けもしない曲、ただ聴いてるだけなんて」
恭介「僕は…僕は…っ!ああ!!」
さやか「!!」
聞いているCDに向けて振り下ろされる、恭介の腕。
瞬間、その腕を掴み、それを止める別の手があった。
コブラ「やめときなよ。そいつを壊したら、アンタはもっと大事なものを壊しちまう」
まどか「ヒューッ!」
第2話「魔法少女vsコブラ」
――― 少し前、夕刻、巴マミ家。
コブラ「いやー、お茶に続いて夕メシまで御馳走になるってのは、嬉しいもんだ。おまけにお誘いが美女からとあっちゃあね」
マミ「うふふ。…もう少しで出来上がるから、冷たい紅茶でも飲んで待っててね」
コブラ「どーも。…しかし、いつもマミは一人の食事かい?若いんだし、寂しいんじゃないかな」
マミ「あら、そんな事ないのよ。キュウべぇは…今日は出かけているみたいだけれど。最近は、鹿目さんや美樹さんが来る事も多いし…今日はジョーさんがご一緒してくれるから腕の振るいようがあるわ」
コブラ「たはは、美女にモテるってのはいつの時代も悪くないもんだねぇ」
コブラ(そろそろジョーって呼ばれるのも止めさせたいところだけど…仕方ない、か)
コブラ「しかし今日は俺だけ。その、まどかやさやかは何か用事かい?」
マミ「ええ、鹿目さんは、今日は何か用事があるみたい。美樹さんはいつものところみたいね」
コブラ「いつもの?」
マミ「言ってなかったかしら。彼女、幼馴染がいるんだけれど…その人の所に毎日のように通っているの。今は丁度その時間だから」
コブラ「ちぇー、毎日いちゃいちゃ、楽しい時間ってわけか」
マミ「そういう訳じゃないのよ。…もっと深刻な理由なの、彼女の場合は」
コブラ「不慮の事故で手を動かせなくなった悲劇の天才ヴァイオリニスト…ね」
マミ「上条恭介くん、って言うんだけれど…美樹さんは毎日彼のお見舞いに行っているのよ。…献身的よね、事故以来、ずっとらしいわ」
コブラ「惚れてるのかい」
マミ「ふふ、どうかしら?…まぁ、彼に対する美樹さんの思いが誰よりも強いのは確かだと思うわ」
コブラ「だったら、余計にハッキリさせないといけないね。女の一途な思いってのは、なかなか男には理解されないもんだぜ」
マミ「そういうものかしら」
コブラ「そうとも。…よぉーし、マミの夕メシが出来る前に、俺がいっちょ恋の指導に行ってやるかぁーっ」
マミ「…二人の邪魔にならないかしら?」
コブラ「大丈夫大丈夫!そういう色恋の問題は宇宙一、俺が経験してるのさ。先輩として教育してきてやらなきゃあな」
マミ「…ジョーさん、貴方…」
マミ「酔ってるのね」
コブラ「へへへ、この世界のカクテルも悪くない味でね。つい昼間から」
マミのアパートから出て、教えられた病院の場所へ上機嫌で歩んでいくコブラ。
コブラ「オーマイダーリン オーマイダーリン~ …♪ … …んん?」
コブラ「ありゃあ…まどかと…ほむらと言ったか。あんなところで何してるんだ?」
ほむら「まだ貴方は、魔法少女になろうとしているの?まどか」
まどか「…それは…まだ、分からないけど…でも、やっぱり…あんな風に誰かの役に立てるの、素敵だな、って…」
ほむら「…私の忠告は聞き入れてくれないのね」
まどか「ち、違うよ!ほむらちゃんの言ってる事も分かるよ!とっても大変で、辛くて、危ない事も分かってるの!」
まどか「この前だって…マミさん、あんなに戦い慣れしてるのにすごく危なかったって、分かってるから…」
ほむら「…」
まどか「…ねぇ、ほむらちゃんはさ」
まどか「魔法少女が死ぬところって…何度も見てきたの?」
ほむら「…」
ほむら「ええ。数えるのも諦めるくらいに」
ほむら「この前の巴マミの戦い…もし、あの男の介入がなければ、彼女も死んでいたのでしょうね」
まどか「魔法少女が死ぬと…どうなるの?」
ほむら「結界の中で死ぬのだから、死体は残らない。永久に行方不明のまま…それが魔法少女の最後よ」
まどか「そんな…」
ほむら「そういう契約の元、私達は戦っているのよ。誰にも気づかれず、忘れ去られる…魔法少女なんてそんな存在なの。誰にも見えず戦い、感謝もされず、散っていく」
ほむら「それでも貴方は、キュウべぇと契約をするつもりなのかしら。…貴方を大切に思う人が、身近にいるのだとしても」
まどか「… … …ぅ…」
ほむら「誰かのために魔法少女になりたいと言うのなら、誰かのために魔法少女にならない、という考えが浮かんでもいいはずよ。それを忘れないで」
まどか「… … …分かった」
ほむら「そう、良かったわ」
まどか「…ほむらちゃん!」
踵を返し、立ち去ろうとするほむらの背中にまどかが声をかける。
ほむら「何かしら」
まどか「…ありがとう。私の事…いつも、心配してくれて…」
ほむら「… … …(ホムホム)」
立ち去るほむら。
コブラ「…おっかないだけの子だと思ってたけど、どうも俺の見当違いだったかな」
道端に隠れていたコブラは、ひょっこりと顔を出して笑った。
まどか「!い、いたんですか」
コブラ「偶然。たまたま居合わせちゃってね、失礼だったかな」
まどか「…だ、大丈夫です。それより、どうしたんですか?こんな所で」
コブラ「いや、なぁに、恋に悩める純朴な少女がいると聞いてね。人生の先輩としてアドバイスに馳せ参じようとしている最中さ」
まどか「…え?」
コブラ「つまり俺は恋というプレゼントを運ぶサンタクロースってわけ」
まどか「わけがわからないよ」
まどか「えぇ!?さやかちゃんと恭介くんの応援に行く…って…」
コブラ「そういう純真な恋はさ、誰かが肩を押さなくちゃ駄目なんだよ!というわけでまどか、俺を病院まで案内してくれ」
まどか「そ、そんな…邪魔になっちゃいますよ…」
コブラ「いいから!さぁ、案内してくれ我が愛馬よ!」
まどか「… … …さやかちゃんの邪魔だけはしないでくださいね。いつも静かに音楽とか2人で聞いてるみたいなんですから」
コブラ「邪魔なんてするかっ。俺に任せておけっての」
まどか「…分かりまし…ウェヒッ!ジョーさん…お酒、飲んでません?」
コブラ「だはははー!こんなの飲んでるうちに入らない入らない。さ、病院まで頼むぜ」
まどか(…さやかちゃんに後で怒られませんように…)
コブラ「ここが彼の病室か」
まどか「はい」
コブラ「どれ、それじゃあ早速」
まどか「ま、まままま、待って!…駄目ですよ、いきなり入っちゃあ!さやかちゃん、今頑張ってるかもしれないんだし!」
コブラ「…頑張ってる?」
まどか「そうですよ。その…あの…恭介くんと、えっと…い、いい感じになってるかもしれないし…」
コブラ「… … …」
コブラ「どうもそういう感じじゃなさそうだぜ、まどか」
まどか「え?」
耳を澄ませろ、とジェスチャーをするコブラ。
病室からは、微かに怒号のような叫び声が聞こえてきた。聞いたことのないような、悲しい叫び声が。
まどか「あ…」
コブラ「乗り込むぜ」
恭介「もう聴きたくなんかないんだよ!」
恭介「自分で弾けもしない曲、ただ聴いてるだけなんて」
恭介「僕は…僕は…っ!ああ!!」
さやか「!!」
聞いているCDに向けて振り下ろされる、恭介の腕。
瞬間、その腕を掴み、それを止める別の手があった。
コブラ「やめときなよ。そいつを壊したら、アンタはもっと大事なものを壊しちまう」
まどか「ヒューッ!」
さやか「!?ジョーさん!?それに…まどかも!」
まどか「あ…。…う…ご、ごめん、さやかちゃん…」
恭介「…ッ!!離せよ…離してくれよ!」
コブラ「この手を離してアンタのバイオリンが聞けるなら喜んで離すがね。誰かを傷つけるために振り下ろされる手なら、俺はあの世の果てまで離すつもりはないぜ」
恭介「…ぐ…ッ!…うぁぁぁ…ッ!くそぉ…ッ…!」
拳から力が抜けたと分かったコブラは、恭介の腕を解放した。
涙を流しながら、誰かに訴えるように語り始める恭介。
恭介「諦めろって…言われたんだよッ…!今の医学では治らないなら…バイオリンはもう…諦めろって…ッ!」
さやか「…そんな…」
コブラ・まどか「… … …」
恭介「もう一生動かないんだよ、僕の手は…!奇跡か魔法でもない限り… …!」
… … …。
場を重苦しい沈黙がしばらく流れる。
すると、さやかがゆっくり、静かに言う。
さやか「…あるよ」
コブラ・まどか「…!」
さやか「奇跡も、魔法も…あるんだよ」
――― 一方。
杏子「…それで?アンタは何が言いたいのさ」
QB「行動は急いだほうがいいという事さ。この前、杏子の縄張りの魔女を倒したのは彼だよ」
杏子「…!マジかよ。随分ナメた真似してくれるじゃんか」
QB「ボクでさえ、彼がどんな素性で何を目的をしているかはさっぱり分からない。勿論、どうするかは杏子の自由だけど、何かが起きてからでは遅いからね」
杏子「…ジョー・ギリアンとか言ったか?おかしな名前しやがって。…上等じゃないのさ」
QB「どうするんだい?杏子」
杏子「確かにムカつく話だね。ちょいとお灸をすえてやった方がよさそう、っていうのは同意見」
杏子「見滝原…あそこはマミの縄張りだったね。前々から魔女の発生頻度が高かったから縄張りをそっちに移そうと思ってたんだけど…」
杏子「丁度いいじゃん。…マミも、ジョーとかいう男も、まとめてぶっ潰せばあそこのグリーフシードはアタシのものになる」
QB「気を付けてね、杏子。あそこには、更にもう一人、イレギュラーな魔法少女もいるから」
杏子「ふん。退屈しなくて済みそうじゃん。ほんじゃあ、行きますか」
QB「今夜かい?」
杏子「急かしたのはお前だろ?…まずは、アタシの縄張りを荒らしたヤツ」
杏子「ちょいとお仕置きが必要だからね」
さやか「ごめんね…二人とも。変なトコ見せちゃって」
さやか「こんな事言うの失礼なのは分かってる。…でも、今日は帰ってくれないかな」
さやか「怒ってるわけじゃないの。…むしろ、感謝してる。ジョーさんが止めなければ、恭介きっと、怪我してたから」
さやか「なんていうか…あたしも、ちょっとだけ…考える時間、欲しいの」
さやか「…ありがとう。…ごめんね」
・
まどか「…大丈夫かな、さやかちゃん。やっぱり、無理にでも一緒に帰ったほうが…」
コブラ「ああいう時は、一人でじっくり考えるもんさ。誰にだって落ち着いて考える時間は必要だ」
まどか「…そう、なのかな…。わたしがもっとちゃんと、二人の事フォローできれば… …っ!?」
言い終わらない内に、まどかの頭にポンと左手を乗せるコブラ。
コブラ「まどか。そうやって何でもかんでも自分のせいにするクセ、おたくの悪いクセだぜ」
時間が止まったかのように、黙る二人。しばらくすると、まどかはポロポロと噛み殺していた涙を流し始める。
まどか「… …ぅっ、くっ…!だ、だって…!さやかちゃん、かわいそうでっ…!あんなに、あんなに頑張ってるのにっ…!わたし、何もできなくて…っ!」
コブラ「泣くなよ、まどか。人は、涙を流すから悲しくなるんだぜ」
パチ パチ パチ。
二人の前に、拍手をしながらゆっくりと現れる人影。その口には棒状のチョコレート菓子を銜えている。
杏子「名演説だね。感動してアタシも泣いちゃうくらいだよ」
そういう杏子の表情は、憎悪に満ちた薄ら笑いだった。
まどか「…っ!だ、誰…?」
コブラ「そいつはどうも。なんならカフェでお茶でもしながらゆっくり語りあおうか?」
杏子「遠慮しとくよ。それに…生憎そんな気分じゃないんだ」
言いながら、赤いソウルジェムを見せびらかすように取り出し、不適に笑う杏子。
まどか「…!ソウルジェム!?」
そしてそれを使い、魔法少女へと変身する杏子。
出現した巨大な槍を演舞のように振り回し、それを終えて槍を前に構えた戦闘態勢へと移る。
杏子「アタシの縄張りを荒らしてくれるなんて、ナメた真似してくれるじゃん。…ジョー・ギリアン!」
コブラ「…やれやれ、夕メシの時間には間に合いそうにないなこりゃあ」
まどか「あ、あ…っ!」
コブラ「まどか、すまないが、先に帰ってマミに夕飯に少し遅れると伝えておいてくれないか」
コブラ「冷めたカレーライスは好きじゃないから、暖かいうちに帰るつもりだがね」
杏子「その余裕…ぶっ潰してやるよッ」
コブラ「急げ、まどかっ!巻き込まれるぞ!」
まどか「…っ!は、はいっ!!」
まどかが走り出すと同時に、杏子がコブラに向けて一気に距離を詰め、槍を振り下ろす。
杏子「でゃああああッ!!はぁッ!うおりゃあッ!」
コブラ「うおっ、とぉっ!ほっ!よっ!」
閃光のような素早い攻撃を次々と避けるコブラ。
コブラ「熱烈なアプローチだなこりゃあ!だがもう少し女の子らしいほうが好みなんだがね!」
杏子「残念だったな!アタシはそんなにおしとやかじゃないんだよッ!」
まどか「早く…早く、マミさんかほむらちゃんに助けを求めないとっ…!」
まどか「このままじゃジョーさんが…!」
急いで、マミのアパートまで走るまどか。
だがその瞬間、信じがたいものを見てしまう。友人である志筑仁美が、何かに憑りつかれたようにフラフラと歩く、その姿を。
まどか「…!ひ、仁美ちゃん!?」
仁美「あら、鹿目さん…御機嫌よう」
まどか「こんな時間に何してるの?お、御稽古事は…!?こっちの方向じゃないでしょ?どこに行こうとしてるの…!?」
仁美「うふふふ…」
仁美「ここよりもずっと、いい場所ですのよ」
まどか「…!」
仁美の首筋にある、魔女の口づけの印。そしてその刻印は、気付けば仁美の周りにいる生気のない人間達のほとんどについているのだった。
まどか「そんな…こんな時に…!?ど、どうすれば…!」
彷徨うようではあるが、確実にある場所に向かう、仁美をはじめとした集団。
放っておくわけにもいかず、まどかはその後についていくのだった。
まどか(あああ、ど、どうしよう…!)
まどか(わたしのバカ!マミさんの番号も、ほむらちゃんの番号も聞くの忘れてたなんて…ッ!)
まどか(仁美ちゃんも放っておくわけにいかないし…ジョーさんも…っ!いくら強いからって魔法少女が相手じゃ、どうなるか…!)
そんな考え事をしているうちに、集団はいつの間にか小さな町工場に辿り着く。
町工場の工場長「俺は、駄目なんだ…。こんな小さな工場一つ満足に切り盛りできなかった。今みたいな時代に…俺の居場所なんてあるわけねぇんだよな」
まどか「!!」
まどか(あれ…洗剤…!)
詢子「―――いいか?まどか」
詢子「―――こういう塩素系の漂白剤には、扱いを間違えるととんでもないことになる物もある」
詢子「―――あたしら家族全員、毒ガスであの世行きだ。絶対に間違えんなよ?」
まどか「…っ!駄目!それは駄目!皆が死んじゃうよ!」
まどかを優しく、包むように止める仁美。
仁美「邪魔をしてはいけません。あれは神聖な儀式ですのよ。…私達はこれから、とても素晴らしい世界へ旅立つのですから」
コブラ「うおおっと!!」
杏子の渾身の一薙ぎを上空に跳躍して避けるコブラ。真上にあった電信柱の出っ張りを掴み、杏子の攻撃範囲から逃れる。
コブラ「ち、ちょっとタンマ!あんたの縄張りに入ったのは謝るからさ、もう許しちゃくれないかね!平和的に行こう!」
杏子「…へっ、ちったぁ懲りたかい」
コブラ「懲りた懲りた、大反省!俺もうなぁーんにもしないから!」
杏子「…そうかい、それじゃあ…。… … …なんてねっ!」
杏子「生傷の一つもつけないで帰すなんて、アタシの腹の虫が収まらないんだよッ!」
そう言って、コブラの掴まる電信柱を斬る杏子。
コブラ「!!どわあああっ!?」
切り落とされ下に落ちる電信柱と一緒に、コブラも地面に叩きつけられるように尻餅をつく。
コブラ「いちちち… …って、のわぁぁぁあっ!?」
杏子「くらえええーッ!!!」
瞬間、それを見計らっていた杏子はバランスを崩して座り込んでいるコブラの頭上へ、槍を振り下ろす。
ガキィィィィンッ!!
振り下ろされた槍は…。
杏子「… …ッ!なんだと…っ!?」
コブラの左腕に食い込み、血の一滴も流さずに止まっていた。
杏子「…くっ!」
その異常な事態に杏子は素早くバックステップをして、コブラの様子を伺うように構える。
杏子「てめぇ、その左腕…何者なんだ…!?」
コブラ「…身体がちょいと頑丈なもんでね。特に俺の左腕はな」
にやっと不敵に笑い、ゆっくりと立ち上がるコブラ。葉巻にライターで火をつけながら、身体についた埃を払う。
コブラ(…とはいえ、こいつはちょっとまずいな。手加減をして戦ってどうにかなるもんじゃないらしいね、魔法少女ってヤツは)
コブラ(だからって素性の知れない魔法少女にサイコガンを使うわけにはいかない…。女を殴るのは俺の主義じゃない…参ったね、お手上げだ)
コブラ(…こうなりゃあ…『アレ』でいくしかないか)
コブラ「仕方ないな、こうなりゃあ俺の奥の手を見せてやるぜ」
杏子「…ほー、楽しめそうじゃん。何をしてくれるんだい?」
コブラ「…驚くなよ?」
槍の刃の音を鋭く鳴らす杏子に対し、コブラは葉巻を杏子の方へ投げ捨てると…。
コブラ「これが俺の奥の手…逃げるが勝ちだぁーッ!!」
瞬間、猛然と走り出して杏子の隣をすり抜けるコブラ。
杏子「…!!??て、てめぇ!待ちやが…っ!?」
その時、杏子の近くに投げ捨てられた葉巻が閃光のように眩い光を一瞬放つ。
杏子「うおおっ!?」
5秒ほどそれは辺りを照らす。次に杏子が目を開けた瞬間、そこにコブラの姿はなかった。
杏子「…くっ!逃げられた!…あのヤロー、あの腕といい、ただ者じゃないなやっぱ…!」
杏子「…でも、このままじゃ済まさねぇからな、絶対…!」
まどか「…!離してッ!!」
仁美の手を振り切り、洗剤の入ったバケツに猛然と走るまどか。それを掴みとると、勢いよく窓の外へ投げ捨てる。
まどか(…よ、よしっ!これでひとまず安心…)
しかし、その行動をしたまどかに向けられる…恨むような人々の視線。
まどか「…え…」
群衆「あぁぁああぁぁぁああああっ…!!」
まるでゾンビが血肉を求めるようにまどかへ襲い掛かる群衆。
まどか「きゃあああああっ!!」
襲い掛かる群衆から逃げ、急いで側にあった物置に逃げ込むまどか。
まどか「ど、どうしよう…どうしようっ…!やだよ…誰か、助けて…っ!」
その瞬間。
まどか「…ッ!!」
まどかの周りに広がる、魔女の結界。それと同時に…窓の割れる音が、微かに聞こえた。
テレビのようなモニターや、使い魔や、木馬がまるで水中のように浮遊する空間。その空間内に、まどかも同じように浮遊していた。
モニターに映し出されるのは、まどかが今まで見てきた、魔法少女の戦いの光景。
まどか(これって…罰なのかな)
まどか(わたしがもっとしっかりしてれば…さやかちゃんも、仁美ちゃんも、ジョーさんも…もっとちゃんと、助けられたのに…)
まどか(だからわたしに、バチがあたったんだ)
その自責の念はまるで声のように結界内に響き渡る。
気付けば、まどかの手足をゴムのように引っ張る、翼の生えた不気味な木製人形達。四肢を引き千切ろうと、徐々にその力は増されていく。
まどか(わたし…死んじゃうんだ…ここで…っ!う、ぐっ…!)
まどか(痛いよ、苦しいよ…っ!)
まどか(もう…嫌だよっ…!!)
その時、まどかの四肢を引っ張る四人の『ハコの魔女の使い魔』が次々に光の波動に消された。
まどか「…!!」
まどか「…ジョーさん!」
コブラ「結界が張られる前に窓に飛び込めて良かったぜ。バラバラになった美少女なんざ、地獄でも見たくないからな」
まどか「… …!!ひ、左手が…ジョーさんの、左手が…!」
まどかが見た、ジョー・ギリアンの姿。
硝煙をあげるその銃口は、本来あるべき左腕の場所にあった。見たこともない、異形の銃。まるでそれは身体の一部のように当たり前にそこにあるようだった。
コブラはまどかの前に立ちはだかり、背中を向けながら語る。
コブラ「…まどか、俺も一つ、罰を受けなきゃいけないのかもしれないな」
コブラ「俺はあんたらに嘘をついていたんだ」
まどか「嘘…?」
コブラ「一つは、俺はしがないサラリーマンなんかじゃないって事」
コブラ「一つは、俺は宇宙観光の最中なんかじゃなかったって事…」
コブラ「そして…最後の一つ、俺の名前はジョー・ギリアンじゃないって事だ」
コブラが喋っている間に、魔女の使い魔は次々とコブラとまどかを襲おうとする。
しかし、それらの全てはサイコガンの連射で次々と撃ち抜かれ、一つとして外されることはない。
まどか「…それじゃあ、あなたは…?」
コブラ「俺は…別の世界では、海賊をしていた。宇宙を流れ星のように駆けながらお宝を見つけ、糧にしていた一匹狼の海賊さ」
コブラ「俺には、一つの名があるんだ。…それは」
まどか「それは…?」
サイコガンに、コブラの精神が集中される。銃口が淡く光り、鋭い、サイコエネルギーをチャージする音が聞こえた。そしてコブラは目を見開き、叫ぶ。
コブラ「俺の名はコブラ!不死身の…コブラだぁーーーッ!!」
ドォォォォォ――――ッ!!!
まるで大砲の砲撃のようなサイコガンの一撃が、放たれた。
サイコガンの高められた精神エネルギーの光は、使い魔達を焼き払い、その本体であるモニターに隠れた『ハコの魔女』をも爆破した。
そして、結界が解け元の物置に戻るコブラとまどか。
コブラは目を閉じて微笑みながら、左腕の義手をサイコガンに被せる。
まどか「… … …」
コブラ「今まで黙っててすまなかった。だが、見知らぬ世界で俺の正体をペラペラ喋るわけにもいかなくてね。何せ、あっちじゃあ俺の首を狙ってる奴がごまんといるからな」
まどか「ジョー…じゃなくって、コブラ…さん?」
コブラ「そ。…まぁ、色々語るのは後だ。少し急ぎたいんでね」
まどか「…まだ、何かあるんですか?」
コブラ「ああ、急ぎの用がある。まどかも一緒にきてくれ、重大な事だ」
まどか「… … …」
まどかが緊張した面持ちでコブラをじっと見ると、コブラはにっこりと笑って駆け出す。
コブラ「早くしないとマミのカレーが冷めちまうんだよーっ!俺ぁ疲れて腹が減って死にそうなんだーっ!」
まどか「… … …へ?」
呆然とするまどかを後目に、物置から急いで出ていくコブラ。
まどか「ま…待ってください!ひ、仁美ちゃんは!みんなはーっ!?わたし一人じゃどうすればいいか分からないよーっ!ねぇ、コブラさーーーーんっ!!」
まどかの声は、空しく、町工場の中に響くのだった。
―― 次回予告 ――
さやかが魔法少女になっちまった!俺やまどかとしては複雑な気持ちだが、さやかには何よりも叶えたい願いがあるんだとさ。
健気な少女の願いは受け止められ、一人の戦士が誕生する。まー、男を守る女ってのは俺はあまりお勧めできないんだがね。ここは良しとしてやろうっ。
だが綺麗な事ばっかりじゃないみたいだね。暁美ほむらに、謎の赤い魔法少女。そしてもう一人、俺の事を追っかけてくる輩もいるみたい。
相変わらず俺が元の世界に戻る方法も分かんないわ、もーいい加減にしてくれってんだ!
次回【忍び寄る足音達】で、また会おう!
第3話「忍び寄る足音達」
――― 巴マミ家。早朝に訪れたさやかを、マミは快く受け入れた。
テーブルに置かれた、2人分の紅茶とお茶菓子。マミは静かに紅茶を飲むとテーブルに置き、優しく言う。
マミ「…そう。決心、したのね…美樹さんは」
俯いていたさやかはゆっくりと顔をあげ、強い意志の宿った瞳でマミを見つめる。
さやか「…うん。あたし、もう迷わない。…でも、契約をする前にマミさんに伝えたほうがいいかなって」
マミ「そうね。…とても嬉しいわ。私が言うのも何だけど、美樹さんは少し慌てん坊さんだから…ふふふ」
さやか「あはは、バレてましたかー」
マミ「…願い事は、やっぱり上条君の事かしら」
さやか「… … …はい」
マミ「…そこまで決心したということは、どうしても叶えたい願いなのね。後悔しない、確固たる決心が」
さやか「…昨日、まどかとジョーさんが、恭介の病室に来てくれたんです。恭介、もう自暴自棄みたいになってて、暴れようとして…」
さやか「あたし、もうその時自分でもワケわかんなくなっちゃって、いっそ今すぐキュウべぇと契約すればこんな恭介見なくて済むって考えちゃってた」
さやか「でも…ジョーさんが、恭介を止めてくれらから。だからあたしも、恭介と同じように、少しだけ落ち着けた」
さやか「あたしは、ずっと一人で恭介の事考えてるんだと思ってた。でも…実際は違ったんですね。マミさん、ジョーさん、まどか…みんな、心配してくれてるんだ、って」
さやか「だから仮にあたしが魔法少女になっても、心細くなんてない。…戦い続けられる。そう思ったんです」
マミ「…そう。私も、鹿目さんと美樹さんに出会うまでずっと一人だと思ってたから、よく分かるわ」
マミ「一人ぼっちで戦って、悩むのって…すごく苦しくて、悲しくて、辛い事」
マミ「…魔法少女になる前に私に言ってくれてありがとう、美樹さん。…全力で、あなたのサポートをするわ」
QB「話は終わったかな。それじゃあさやか、契約をしよう」
さやか「…うん」
マミ「…あ、そうそう。美樹さん、一つだけ訂正しておく事があるの」
さやか「…?え?」
マミ「あの人『ジョー・ギリアン』さん。本当の名前は違うらしいの。…「俺の名前は『コブラ』だ」って。昨日、あの後教えてもらったわ」
さやか「…はは、やっぱり変な名前じゃん」
マミ「私達は、仲間。…辛い時は一人で背負いこんだり、嘘や隠し事はしないで、みんなで助け合いましょう」
さやか「… … …うんっ!!」
QB「それじゃあ、さやか。君の願いを言ってごらん」
さやか「あたしは――― 」
さやかを包み込む光。そして生まれる、新たなソウルジェム。
レディ「おかえりなさいコブラ。出張はどうだったかしら?」
コブラ「もう最高だね。魔女はうじゃうじゃ湧いてるわ、魔法少女には因縁つけられるわ、退屈って言葉が懐かしいくらい」
タートル号内。
人目につかない丘でレディと待ち合わせたコブラは、一旦タートル号で外宇宙へと飛び立った。
レディ「…?これは?」
レディにグリーフシードを一つ手渡すコブラ。
コブラ「相棒にプレゼントさ。大事にしてくれよ」
レディ「まぁ、ありがとう。…どうせならもっと綺麗な宝石がいいのだけれどね、フフ」
コブラ「そいつはまた後でのお楽しみ。とにかく、そいつをタートル号の方で解析しておいてくれ。何か分かるかもしれん」
レディ「オーケー。それじゃ、朝食だけでも食べて行く?用意しておいたのよ」
コブラ「ワオ!嬉しいねぇ、ここんところレディの手料理が恋しくって恋しくって!」
レディ「その割には、マミとかいう子の家で随分と嬉しそうに御馳走になっていたようだけれど?」
コブラ「…ははは、こいつぁ厳しいや」
仁美「ふぁぁぁ…」
仁美「…!やだ、私ったら、はしたない」
まどか「仁美ちゃん、眠そうだね」
仁美「なんだか私、夢遊病というか…昨日気が付いたら大勢の人と一緒に倒れていて。それで病院やら警察やらで大変だったんですの」
まどか「…それは、大変だったね」
まどか(救急車呼んだのもパトカー呼んだのもわたしなんだけどね…。…もうっ!ジョーさん…じゃ、なかった、コブラさんが行っちゃうから…)
まどか(ふぇぇ…わたしも眠くて死にそうだよ…)
仁美「…ところで、さやかさんはどうしたのでしょう?まだ学校に来ていないみたいですけれど…」
まどか「…うん。何かあったのかな…さやかちゃん」
仁美「毎日元気に登校していましたのに…おかしいですわ」
まどか(…まさか、何かあったんじゃ…!)
和子「はーい、みんな揃っているかしらー?それじゃあ朝のHRを…」
さやか「ごめんなさーーーいっ!!遅刻しましたーーーっ!!」
和子「!!!」
早乙女先生が教室に入ろうとした矢先、後ろから大慌てで来たさやかが前にいた先生に気付かず教室内に突進してくる。
その体当たりを食らった先生は、衝突事故のような勢いで黒板に頭からぶつかるのだった。
さやか「…あ」
まどか「…あ」
和子「… … …」
和子「美樹さんはいつも、とっても元気ねぇ…?…先生も、とっても、嬉しいワァ…」ニコニコ
そう言いながら満面の笑みを浮かべる先生の背後には、ドス黒いオーラが禍々しく煙をあげていた。
さやか「ぎゃあああああああああ!!すいませんすいませんすいませんーーっ!!」
まどか(…良かった、いつも通りのさやかちゃんだ…)
そして、昼。各々の生徒が昼食を持ち、それぞれの食事場所に分散していく。
さやか「ね、仁美。顔色悪いし、お昼は保健室借りて休んでれば?少し寝たほうがいいよ」
仁美「え…?でも、私は単なる寝不足で…」
さやか「だからこそだよ。放課後にいつものお稽古事もあるんでしょ?今のうちに休んでおかないと身体壊しちゃうよ?」
仁美「… … …そうですわね。それでは、そうさせてもらいましょう」
さやか「よっし、それじゃ、保健室まで一緒するよ。ほら、まどかも一緒に」
まどか「え?う、うん…」
仁美「申し訳ございません、さやかさん、まどかさん」
さやか「いいのいいの、途中で倒れたら大変だし、行こう行こう」
まどか(…どうしたんだろ?さやかちゃん。…なんだか、仁美ちゃんを保健室に行かせたがってるみたい)
仁美を保健室まで送り届けると、さやかはまどかの方を振り返る。
さやか「さ、まどか。一緒にお昼食べよっ、屋上で」
まどか「屋上…?」
さやか「実はさ、呼んであるの。マミさんと、コブラさん!」
まどか「魔法少女に!?」
コブラ「なったぁ!?」
さやか「うん、今朝にね。…2人にも、ちゃんと伝えないといけないと思って」
まどか「ど、どうして…?」
さやか「まぁ、理由は色々あるんだけどさ。…何より、あたしの叶えたい願い、しっかり見つけられたから。後悔なんてしない、命懸けでも、叶えたい願いが」
コブラ「…」
マミ「私と相談をしたの。願いのためなら、その命を戦いに捧げても構わない…その決意があるから、キュウべぇとの契約を、しっかり見届けさせてもらったわ」
QB「そして願いは叶えられ、さやかは魔法少女になったというワケさ」
さやかの手には、太陽に照らされ、煌めく青のソウルジェムの指輪があった。
まどか「…やっぱり、上条くんの事?腕を…治したの?」
さやか「…うん。昨日はありがとう、まどか、コブラさん。2人が来てくれたから、あたし、決められたんだ」
さやか「ずっと考えてた。マミさんが言ったように、他人の願いを叶える前に自分の願いをはっきりさせる、って事。あたしは、恭介の何になりたいんだ、って」
さやか「昨日、恭介の腕の事…ずっと治らないってお医者さんに告げられた、って2人とも聞いてたよね?…その時ね、あたし、もう自分なんかどうなってもいいから恭介の腕を治したいって考えたんだ」
さやか「でも、それは少し違うんだって…その後分かったの。…あたしには、仲間がいる。先輩のマミさんが、コブラさんが…そして、あたしの可愛い嫁のまどかがね、えへへ」
さやか「あたしがどうしようもなく自暴自棄になっても、助けてもらえるかもしれない。…逆に、誰かがピンチになったら、あたしが救えるかもしれない!」
さやか「恭介も、マミさんも、コブラさんも、まどかも、助けられるかもしれない!…だから、どんなに怖くても大丈夫だって!…そう思って、あたしは魔法少女になった」
さやか「後悔なんて一つもしていないよ。魔法少女が叶えられる願いは一つだけど、あたしが叶えられる願いは、無限大なんだからっ!」
コブラ「…いい目になったな、さやか。そんな顔が出来るなら何も心配する事ないぜ」
マミ「でしょ?…ふふ、私の後輩は優秀なのよ」
さやか「でへへ」
まどか「… … あの、その…わたし、わたしっ…!」
さやか「…まどか」
さやかはゆっくりとまどかに近づくと、頭にポンと右手を置いて、にんまりと歯を見せて笑う。
さやか「あんたが引け目を感じる事は何も無いの。まどかはいつも通り、あたしの友達で、可愛いおもちゃで、さやかちゃんの嫁でいてくれればいいのだー!」
まどか「えぇぇ…それもちょっと…」
マミ「…鹿目さんは、魔法少女にちょっと詳しい、普通の中学生。それでいいと思うの。…だから、これからもよろしくね?私達の、大切な仲間なんだから」
まどか「…はい」
QB「…」
コブラ「出来れば、疲れたらマッサージとかもお願いしたいねぇ。特にマミは重い物ぶら下げて肩こりが酷い…いででででっ!」
笑顔でコブラの足を踏みつけるマミ。
さやか「3人とも、放課後は空いてる?ちょっと来て欲しいところがあるんだ」
まどか「…?」
さやか「へへ、実は恭介にサプライズプレゼントしようと思ってね。ま、とにかく暇なら病院まで来てよ、詳しくは後で教えるからっ!」
マミ「…ふふふ、美樹さんの事だから何となく想像ができるけれども、楽しみだわ」
さやか「えへへへ…それじゃ、また後でっ!」
さやかはそう言って元気に手を振ると、屋上から慌ただしく出ていく。
まどか「さやかちゃん、魔法少女になって…良かったみたい。あんなに嬉しそう」
コブラ「…ああ。頼もしい仲間になるぜ、ああいう目をした奴はな」
マミ「そうね。…私も張り切って後輩の指導にあたらなきゃ」
まどか「…えぇと…ところで、コブラさん。あの、ここ学校の敷地内なんですけれど…よく入り込めましたね…?」
コブラ「ん?なぁーに、忍び込むのは俺の専門なんでね。必要なら監獄でも軍事基地でも銀行でも、どこでも潜り込める」
マミ「…あまりおススメできない特技よね、正義の魔法少女の仲間としては」
――― その後。
さやか「そっか、退院はまだ出来ないんだ」
恭介「うん、足のリハビリがまだ済んでないしね」
さやか「でも、本当に良かった…恭介の手が動くようになって」
恭介「…さやかの言っていた通り、本当に奇跡だよね、これ…」
さやか「…」
自然に笑顔になるさやか。
恭介「… … …」
さやか「…どうしたの?」
恭介「さやかには…酷いこと言っちゃったよね。それに、さやかの友達にも。…いくら気が滅入ってたとはいえ…」
さやか「変な事思い出さなくていいの。あたしが皆に謝っておいたし…今の恭介は大喜びして当然なんだから。そんな顔しちゃだめだよ」
恭介「…うん」
さやか「…そろそろかな?」
恭介「?」
さやか「恭介、ちょっと外の空気吸いに行こ?」
恭介「さやか、屋上に何か用なの?」
さやか「いいからいいから」
屋上へと上がるエレベーター。車椅子のハンドルを握るさやか。不安そうな恭介。
そして、屋上へ到着したエレベーターの扉が開く。その向こうには…。
恭介「…!みんな…!」
上条恭介の家族、病院関係者…そして、鹿目まどか、巴マミ、コブラ、それぞれの姿があった。
皆、恭介の復活を心待ちにしていた人達ばかり。恭介とさやかは、拍手に出迎えられた。
さやか「本当のお祝いは退院してからなんだけど、足より先に手が治っちゃったしね」
歩み寄る、恭介の父親。そして差し出されたのは、以前愛用していたバイオリン。
恭介「…!それは」
恭介父「お前から処分するように言われていたが、どうしても捨てられなかった」
恭介父「さあ、試してごらん」
少し戸惑いながら、それを受け取る恭介。しかし、戸惑いはやがて微笑みにかわり、弦がしなやかに美しい音色を奏で始める。
まどか「わぁ…!」
マミ「素敵な音色ね…」
コブラ「酒の合いそうな音色だね。一杯ひっかけてもい…いでででででーーーっ」
笑顔でコブラの足を踏みつけるマミ。
さやか(…後悔なんか、あるわけない。…まどか、マミさん、コブラさん)
さやか(あたしの願い、叶ったよ)
――― その様子を近くの観光タワーから見つめる杏子。そしてその傍にいるキュウべぇ。
杏子「マミに加えて、謎の魔法少女、ワケの分からない筋肉男…更に新しい魔法少女、ねぇ。見滝原も随分騒がしくなったもんだ」
QB「ボクにもわけがわからないね。元々魔女の発生率が他の都市と比べて桁違いに高い場所だから魔法少女が増えるのは納得が出来るけど、ボクの知り得ない人間が2人もいるなんて」
杏子「まぁ、いいさ。アンタの言っている通り、ここは絶好の狩場だ。…それに、新人が1人くらい増えたところでアタシにとっちゃどうってことないね」
QB「とるべき行動は色々多いようだね。どこから手をつけるんだい?」
杏子「ふん…」
杏子「とりあえず、新人に先輩が教育でもつけてやる、ってのはどう?」
――― 少し時間が経って、高いビルの屋上。先程までの病院の様子を観察していたほむらは、物思いにふけていた。
ほむら「…美樹さやか」
ほむら(彼女も、魔法少女に…。まぁ、予想の範疇ね、今まで何度かその世界も見てきた)
ほむら(あとは佐倉杏子。私が知る見滝原に集う魔法少女は、まどかも含めて…五人)
ほむら(…あの男を除いて)
その時、ビルの屋上の扉が開いて誰かが入ってくる。
ほむら「!?」
驚いて振り返るほむら。そこに現れたのは、まどかだった。
まどか「…ほ、ホントにこんな所にいたんだ、ほむらちゃん…!」
ほむら「… … …どうして?」
まどか「え、えっとね…?コブラさんが、あっちのビルの屋上にほむらちゃんがいる、って教えてくれて…」
ほむら(有り得ない…病院からこのビルまで、数百m離れているのよ。私だって、魔法を使って観察していたというのに…)
ほむら「…それで、私に何か用かしら?」
まどか「あ、そ、そうだよね…。急に来てごめんね、ほむらちゃん。えっと…その、さやかちゃんが、魔法少女になったの」
ほむら「知っているわ」
まどか「え!?し、知ってるの!?」
ほむら「ええ。…それで?」
まどか「う…だから…新しい魔法少女も、1人増えたから…」
ほむら「私も、貴方達の仲間になれと言うのかしら」
まどか「… … …うん。マミさん、凄く頼りになるし、さやかちゃんだって一生懸命頑張ろうとしてる。…コブラさんは…あはは、よく分かんない人だけど、とっても強いし…」
まどか「だからね、ほむらちゃんも…私達と一緒に戦ったら、きっと…」
ほむら「…」
まどか「きっと…私達、ほむらちゃんの力になれる。だから…」
ほむら「…」
ほむら(力に…なれる。魔法少女が私の力になれなかった時間が、幾つあったかしら)
ほむら(ある時は力及ばずワルプルギスの夜に負け、ある時は互いを殺し合い…ある時は)
ほむら(私自身が、その魔法少女…まどかを、殺してしまう時も…っ!)
まどか「…ほむらちゃん、前にマミさんに言われてたよね?グリーフシードの奪い合いじゃなくって、ほむらちゃんは何か別の意志があって戦ってるって」
まどか「わたしにも分かるの。ほむらちゃんは、絶対に…『何か』をしようとしているって」
まどか「そしてその何かを、私達のためにしてくれているって」
ほむら「…!」
まどか「わたし…まだ、魔法少女になれなくて。臆病で、弱虫で、嘘つきだから…」
まどか「でも、私は少しでも力になりたいの。さやかちゃんの、マミさんの、コブラさんの…そして、ほむらちゃんの!」
まどか「だから…一緒に戦って、みんなで頑張ろうよ。みんなで、魔女を…!」
ほむら「…甘いわ」
まどか「!」
ほむら(私達全員…五人の力を使えば、ワルプルギスの夜に勝てるかもしれない。でも、そう信じるたびにどこか歪が起きて、私達は夜を迎える前に崩れていった)
ほむら(あと二週間、私達が力を合わせてしまえば、きっと…どこかで私達は崩壊してしまう。だから私は、一人で時間を繰り返してきた)
ほむら(…でも…)
ほむら(この時間軸では…私はどうするべきなの?…今度こそ、ワルプルギスの夜を迎えられ、倒せて…まどかと朝を迎える事が出来る?)
ほむら(… … …)
ほむら「…私達魔法少女は皆、誰かを救えるほど余裕があって戦っているわけじゃないの」
まどか「…ぅ…」
ほむら「叶えた願いの代償を支払うために、必至に戦って、その命を削っている。…だから、仲間として戦うなんて、出来るはずがない」
まどか「…」
ほむら「…でも、考えておくわ」
まどか「… …え!?」
ほむら「少なくとも私は、貴方達の敵じゃない。…それだけは覚えておいて」
ほむら「貴方が私の忠告を忘れないと約束をしてくれるならの話だけど」
まどか「!!! …う、うんっ!!…ありがとう、ほむらちゃん!!」
心からの笑みを浮かべる、まどか。その笑顔につられ、ほむらの表情も少しだけ緩んだ気がした。
――― その一方、コブラ達のいた世界での話。
タートル号が、ブラックホールに飲み込まれた宙域付近。そこに停泊をしている、二つの宇宙船があった。
いずれの船も『海賊ギルド』の紋章が刻み込まれている。その二つの船同士の交信。
ギルド幹部「『ソウルジェム』というものを知っているかね?クリスタルボーイ」
ボーイ「知らんな」
ギルド幹部「だろうな。太古の昔…いわばおとぎ話に登場するような、陳腐な噂だからな。…だが、もしそれがあれば…我々は宇宙そのものを塗り替えられるかもしれんのだ」
ボーイ「そんな話のために俺を雇ったというのか?」
ギルド幹部「ククク…そう言うな。これは確かな情報なのだ」
ギルド幹部「この付近で観測されたブラックホール…。今はもう消滅してしまっているが、我々がそのブラックホールのデータの解析に成功した」
ギルド幹部「そしてそのブラックホールが行きつく先…その先に、一つの反応があったのだよ」
ボーイ「ほう」
ギルド幹部「我々の知るところによる、ソウルジェムという宝石…伝えられているデータに似たエネルギーの反応がな。非常に強いパワーを秘めた宝石だ」
ギルド幹部「その石の力は強く…伝説では、どんな願いでも一つだけ叶える事が出来る程の力を秘めた物と言われているのだ」
ボーイ「くだらんお伽話だな。それで、俺にその石コロを探しに行けというのか。ギルドにも随分舐められたものだ」
ギルド幹部「そう言うなクリスタルボーイ。…お前をこの役に選んだのは、理由がある」
ギルド幹部「そのブラックホールに、飲み込まれた船が一隻あった。…タートル号だ」
ボーイ「…!コブラ…」
ギルド幹部「我々のこの時代に、ソウルジェムは存在しない。だが、ブラックホールの先には確かに、太古の昔に存在したといわれるソウルジェムのデータに似た反応が出ているのだよ」
ギルド幹部「だがホール事態は非常に小さいものでね。ギルドの艦隊が入り込めるほどではない。まして、銀河パトロールとの抗争もあって戦力をそちらに削る事もできない」
ボーイ「…つまり、俺に乗り込めと?」
ギルド幹部「君が適任なのだよ、クリスタルボーイ。依頼は必ず遂行する、無敵の殺し屋…まして君は、そのコブラに因縁があるのだろう?」
ボーイ「…」
ギルド幹部「我々ギルドの繁栄に、ソウルジェムが必要なのだ。そしてこれは本部からの直々の命令だ。…行ってくれるな、クリスタルボーイ」
ボーイ「…いいだろう。くだらんお伽話に付き合ってやる」
ボーイ「…ソウルジェムを手に入れ、コブラを、この手で…。…舞台としては上出来だ」
ギルド幹部「必要なら部下も数名つけるが?」
ボーイ「必要ない。宝石の数個など、俺一人で十分だ」
ボーイ「コブラもそうであるように…俺も、殺しに関しては一人の方が仕事をしやすいんでね」
ギルド幹部「いいだろう。それでは、君の船の前に人工ブラックホールを作る。また、君の船にもその装置を用意しておいた。帰還の時に使用したまえ」
クリスタルボーイの乗る小型の船の前に、黒い渦が巻き起こる。そして、それに飲み込まれていく一隻の宇宙船。
ボーイ「クックック…俺とお前とは、やはり深い因果で結ばれているようだな。…今度こそ貴様の息の根を止めてやる…コブラ!」
―― 次回予告 ――
さやかの特訓が始まった!一人前の魔法少女になれるよう、俺も勿論手伝うつもりだぜ。
だがそう簡単な話じゃないみたいだ。あの赤い魔法少女が、今度はそのさやかに因縁をつけてきた。
一方、俺の方にも一人、厄介な来客が現れやがった!クリスタルボーイぃ!?ったく、ゴキブリ以上にしつこい野郎だねあのガラス人形は!
だがヤツの目的は俺を倒すだけじゃないみたいだ。何か別の目的があるらしいんだが…ロクでもない事に決まってるな!お前の思い通りにはさせねぇぜ!
次回【ソウルジェムの秘密】で、また会おう!
第4話「ソウルジェムの秘密」
さやか「く、ゥ…ッ!はぁ、はぁ…!」
美樹さやかは、苦戦をしていた。
青の魔法剣士に対するのは、落書きの魔女・アルベルティーネ。弱ったさやかに対しここぞとばかりに使い魔を繰り出してくる。
魔女の攻撃は、落書きを実体化させ突進をさせる事。飛行機の落書きにのった使い魔達は次々とさやに特攻し、襲い掛かってきた。
さやか「ぐ…このぉッ!!」
さやかは剣で次々と使い魔を斬り捨てていくが、それだけに留まってしまっている。魔女の攻撃を防ぐ事に精一杯で踏み込めない。完全なる劣勢。
さやか(駄目…突破口が見えないっ…!このままじゃあ…!)
まどか「ね、ねぇ、マミさん、コブラさん!やっぱりさやかちゃん一人じゃ無理だよっ!助けてあげないと…っ」
マミ「…」
コブラ「…さやか、助けが必要かい?」
だがコブラの問いかけに、さやかは力強く答える。
さやか「必要ないッ!!あたしは…まだやれるッ!!」
まどか「…そんな、さやかちゃん…!」
さやか(このままじゃ、いずれあたしの体力が尽きて、負ける…!)
さやか(…それならいっそ…!)
さやか「でやあああああッ!!」
マミ「…っ!美樹さん!?」
決心をしたさやかは、勢いよく魔女に向けて駆けていく。つまり、防御を完全に捨てた体勢。使い魔達の突進を次々と受けるが、それでもさやかが止まる事はない。
攻撃を受けた瞬間に、回復。彼女の契約が癒しの祈りによるものなので、ダメージに対する回復力は他の魔法少女とは桁違いにある。さやか自身がそれを知っているのだった。
だから、捨て身の特攻に全てを賭ける。
魔女「!!」
この特攻に魔女も驚いたのか、涙を流すような悲しい表情を浮かべる。だがそんな事は構いもしない、魔女の眼前までさやかは迫っていた。
さやか「これで、トドメだぁーーーっ!」
魔女の眉間に、剣を突き刺す。
血のような黒い液体が噴出したかと思うと、魔女は消滅した。
そして結界が解かれ、四人は元いた路地裏へと戻る。
さやか「はぁ、はぁっ…!」
さやかの手には、魔女を倒した証…グリーフシードがしっかりと握られていた。
まどか「さやかちゃんっ!」
膝をつき、荒く息をするさやかに駆け寄るまどか、マミ、コブラ。まどかはいち早くさやかに駆け寄ると力の抜けたようなさやかを抱きしめた。
さやか「へ、へへ…あー、やっぱりまどかはあたしの嫁だねー」
まどか「さやかちゃん…っ!大丈夫…!?あんなに、あんなに無理しなくても…!」
涙を浮かべながらさやかをギュッと抱きしめるまどか。
さやか「無理しなくっちゃ。あたしも早く、一人前の魔法少女にならなくっちゃね。…どうだったかな、マミさん。あたしの戦い方」
初めての実戦、魔女との戦いにさやかは一人だけで戦いたいとマミとコブラに申し出た。初め、マミは反対をしていたがさやかの強い希望があり、それを通してしまった。
マミ「…そうね。初めての戦いにしては上出来よ。自分の魔法能力をもう理解しているし、それをしっかり活かせている」
マミ「ただ…少し、美樹さんの戦いは捨て身すぎるわ。あんなにダメージを受けてしまっては、ソウルジェムの濁りも強くなってしまう」
言いながらマミはさやかに近づき、さやかのソウルジェムとグリーフシードをくっつけ、穢れを取り除いた。ソウルジェムは光を取り戻し、さやかもまどかからそっと離れ、立ち上がる。
さやか「でも、あたしの持ち味ってそれくらいしかないと思うし…」
マミ「だからこそよ。ああいう戦い方は余程苦戦した時だけにしないと…。コブラさんはどう思う?」
コブラ「ああ、悪い。さやかの肌に見とれて戦いに集中できなくってね。いやー、なかなか露出度の高い衣装だ。三年後が楽しみだぜ」
さやか「え… お、おわぁぁっ!?」顔を赤くするさやか。
マミ・まどか「…」
コブラ「ハハ…ハって、あ、いやぁ、ジョーダンだよ、ジョーダン」
QB「それじゃあ、その真っ黒になったグリーフシードはボクが貰おうか」
さやか「?どうするの?」
キュウべぇにグリーフシードを手渡すさやか。そしてキュウべぇは、そのグリーフシードを背中に取り込む。
QB「きゅっぷい」
まどか「えぇ!?た、食べるの!?」
QB「これもボクの役目だからね」
コブラ「随分な偏食だな。あんなもの、健康に良くっても食う気にゃなれないぜ」
QB「別に好き好んで食べるわけじゃないよ。ただ、あのままじゃあグリーフシードが魔女化してしまうから」
コブラ「…」
コブラ(やはりおかしいな、グリーフシードは魔女から生まれる種だ。そいつが魔法少女の穢れを吸い込むと、再び活性化し、魔女が孵化するだと?)
コブラ(そもそも、その穢れとかいうシステムとそいつを吸い込む種…。つまり魔法少女と魔女は、単なる別種族じゃない事を現している)
コブラ(…ソウルジェムとグリーフシード。そして、そいつを食らうキュウべぇ。やはり全ては無関係じゃないって事だな)
マミ「どうしたのかしら?コブラさん」
コブラ「いや、マミの肌もなかなか綺麗で悪くないなと感心していてね」
マミ・さやか・まどか「…」
コブラ「すいませんでした」
マミ「さてと、それじゃあそろそろ解散にしましょうか?今日の見滝原パトロールと特訓はこれまでよ」
さやか「うん、まどかもマミさんもコブラさんも、付き合ってくれてありがとう!」
マミ「大切な後輩のためだもの、当然よ。それに、美樹さんは覚えが早いから…確実に成長しているわ。次からは、一緒に戦いましょう」
さやか「…!は、はいっ!」
コブラ「さぁーて、それじゃあ巴さんのお宅でディナーパーティとしゃれ込みますかね」
まどか「あ、あの…わたしもお邪魔していいですか?」
マミ「ええ、勿論大歓迎よ。一人で食べるのよりずっと楽しいし…それに、鹿目さんも大切な後輩ですもの。」
まどか「ありがとうございますっ! …ティヒヒ、実はお夕飯、マミさんのお家で御馳走になるって言ってきちゃったんです」
マミ「うふふ、それなら大丈夫ね。」
さやか「あ、ごめんなさいマミさん!あたしは、ちょっと寄るところがあって…」
マミ「あら、そうなの…?残念ね」
まどか「さやかちゃん、寄るところって、どこか行くの…?」
さやか「な、なんでもないのっ!大したところじゃないからっ!…それじゃみんな、また明日ーっ!」
何か慌てたように夜道を駆けていくさやか。それを見送る三人。そして…。
コブラ「… … …それじゃあ、尾行開始といきますかぁ。にぃひひ」
マミ「ええ、うふふ」
まどか「ウェヒヒヒヒ」
QB「人間は何を考えているのか分からないね」
――― 上条恭介家の玄関先。
聞こえてくる美しいバイオリンの音色は、そこに恭介がいる事を証明していた。
しかしさやかは、その音色を玄関先で聞いているだけだった。
さやか「…」
さやか(恭介…退院したなら連絡くれればいいのに…)
さやか(…練習、してるんだ…)
さやか(…)
そっと踵を返すさやか。しかし、その先には一人の少女が立っていた。
さやか「!」
杏子「折角来たのに会いもしないで帰る気かい?随分奥手なんだねぇ」
さやか「だ、誰…?」
杏子「…この家の坊やのためなんだろ?アンタが契約した理由って」
さやか「…ッ!アンタも、魔法少女…!?」
杏子「…おいおい」
杏子「先輩に向かって『アンタ』はねーだろ?生意気な後輩だね」
その様子を、物陰から見ている三人。
コブラ「…げぇ、アイツは…」
まどか「あの時の人…!今度はさやかちゃんに襲い掛かるつもり…なのかな…?」
マミ「あれは…佐倉さん…!」
コブラ「!?知り合いか、マミ」
マミ「ええ。…二人も佐倉さんに会ったことがあるの?」
コブラ「会ったなんてもんじゃないよ。この間、熱烈な歓迎を受けたところでね」
マミ「おかしいわ、佐倉さんは隣町を中心に魔女を狩っていた筈なのだけれど…」
まどか「この前はコブラさんを襲ってきたんです…。さやかちゃんに…何か用事、なのかな」
マミ「とにかく、私が直接話を…」
コブラ「いや、ここは少し様子を見ておこうぜ。かの女が何を目的にしているのか分からない。…危なくなったらすぐ前に出る準備はしておいて、な」
マミ「…そう、ね」
マミ(…佐倉さん…)
QB「…」
マミはソウルジェムを握り、コブラは左腕に右腕をかけながら、その会話を聞いている。
杏子「一度だけしか叶えられない魔法少女の願いを、くだらねぇ事に使いやがって。願いってのは自分のためだけに使うもんなんだよ」
さやか「…別に、あたしの勝手でしょ!アンタなんかに関係ない!」
杏子「…気に入らないね」
杏子「そういう善人ぶってる偽善者とか、何を捨てても構わないとか考えてる献身的な自分に惚れてる姿とかさ」
杏子「…ホント、気に入らない」
さやか「…もう一度言うよ。あたしが何を願おうと、何のために戦おうと…アンタには関係ない事でしょ。何?それとも単なる憂さ晴らし?」
杏子「… …美樹さやか…だっけ?魔法少女として、あんたにちょっと指導にきたのさ」
さやか「必要ない。あたしには…仲間がいる」
杏子「…ぬるい。ま、指導ってのは建前さ。…実はあたしも、見滝原で活動を始めようと思ってね」
さやか「え…」
杏子「ここの魔女の発生頻度、異常に高いんだよねぇ。…まるで、何か大きな事が起きる前触れ、みたいな感じに。まぁとにかく、魔法少女としては絶好の狩場なわけ」
杏子「それなのにあんたらときたら特訓だの何だの…しまいにゃ、魔女になるであろう使い魔ですら倒しちまう始末だ。グリーフシードを集めるのに効率が悪すぎるんだよ」
さやか「…!放っておけって言うの!?」
杏子「人間四、五人食わせりゃ、アイツらは魔女に成長する。弱い人間を魔女が喰らい、あたしら魔法少女がその魔女を喰らう。…基本的な食物連鎖の話さ」
さやか「…!」
さやか「違う…間違ってる!!魔法少女っていうのは…。魔女から人を守るのが魔法少女なの!!…人を守らなきゃいけないのに、魔女に成長させるために人を食べさせるなんて、そんなの、間違ってる!」
杏子「…ばーっかじゃねーの。くだらない…くだらないくだらないくだらない。やっぱどこまでいっても巴マミの後輩だね」
さやか「っ、マミさんの事…知ってるの!?」
杏子「…どうでもいいじゃん。…それよりさぁ、アタシにいい考えがあるんだけど、どう?」
さやか「…」
杏子「アタシが協力してやるよ。今すぐこの坊やの家に魔法で忍び込んで、その手足を潰してやるっていうのはどう?」
さやか「…っ!?」
杏子「恩人に一言もかけないで退院するなんて、酷い話だよねぇ?…もう、この恭介っていう子は、アンタ無しでも生きていけるんだ」
さやか「…黙れ…黙れ、黙れ…!」
杏子「もうコイツにアンタは必要ない。どんどんアンタから離れていく。…それならいっそ」
杏子「もう一度…今度は手足を使えなくして、アンタ無しじゃあ生きられない身体にするのさ。なぁに、自分でやりづらいって言うんじゃ、アタシがやってやるよ」
さやか「…あんただけは…」
さやか「あんただけは、絶対に…絶対に許さないッッ!!」
杏子「…へへ、それじゃあ…場所を移そうか?ここで戦うわけにいかないだろ?」
・
まどか「… … …」
コブラ「俺達も行くぜ。ここで出て行って戦闘になったら面倒だ、広い場所に出たら…だ。いいな、マミ」
マミ「…っ。え、ええ…」
マミ(…佐倉さん。貴方は…何が目的なの…?)
――― 大きな歩道橋の上、さやかと杏子は移動をし、お互いに対峙をしている。
杏子「ここなら邪魔は入らないね。…さぁ…始めようか?」
そう言って杏子はソウルジェムを使い、変身する。自分の身の丈ほどある巨大な槍を器用に振り回し、戦闘態勢をとる。
さやか「…!」
さやかがソウルジェムを取り出そうとした瞬間…。
まどか「さやかちゃんっ!!」
さやか「!まどか!それに、マミさんに、コブラさん!」
さやかに駆け寄るまどか、マミ。ゆっくりと後ろから歩いてくるコブラ。
杏子「…!巴、マミ…!」
マミ「佐倉さん…。久しぶりね、元気そうでよかったわ」
杏子「…アンタに心配されなくても、一人で出来てるよ。…魔法少女として、な」
マミ「…そう」
さやか「皆…。…邪魔しないでっ!あたしは、コイツを…!」
コブラ「落ち着きなよ、さやか。…それに、かの女はまだお前さんの腕じゃ勝てる相手じゃないぜ?」
さやか「そんなの、やってみなくちゃ…!」
マミ「…佐倉さん。貴方が何を考えているのか、私には分からないわ。けれど…何故美樹さんと戦おうとするの?貴方が嫌う『無駄な魔力の消耗』にしか思えないわ」
杏子「アンタには関係ないね。アタシは、新人の教育にきただけさ。魔法少女の何たるかを、ね」
マミ「指導には私があたっているわ」
杏子「アンタのやり方は…手緩い。このままじゃあ…コイツ自身が身を滅ぼしちまうのが、分からないかい?」
マミ「… … …」
杏子「本当は口だけで言うつもりだったんだけどね…生意気な奴で、あっちからやろうって言ってきたんだ。アタシからふっかけたわけじゃないよ」
さやか「…マミさん。戦わせてください!…あたしがどれだけ出来るようになったか…確かめる意味でも!」
マミ「美樹さん…」
その時、全員の前にふと現れる人影があった。
まどか「…っ!?ほ、ほむらちゃん…!」
ほむら「…」
現れた暁美ほむらは既に魔法少女に変身していた。五人をぐるりと見回すと、その中心に移動する。
コブラ「…!」
コブラ(俺の目でも、かの女がどの方角から来たか、分からなかった…!?)
ほむら「…巴マミ、佐倉杏子、美樹さやか…そして、コブラ…まどか。全員揃っているようね」
杏子「…魔法少女?…ああ、そうか。アンタがキュウべぇの言っていた、もう一人のイレギュラーか」
ほむら「これで、この周辺の魔法少女は、全員。例外もいるようだけれど」
コブラ「へへへ、まぁね」
まどか「…」
QB「何か用かい?暁美ほむら」
ほむら「貴方がこの場に居るのは少し嫌だけれど、仕方ないわね。…全員に、話しておくべき事があるの」
さやか「な、なによ…!」
ほむら「ただし、落ち着いて聞いて。そうじゃないと…私達全員、死ぬ事になるわ」
マミ「死ぬ…!?」
ほむら「ええ。間違いなく」
杏子「…初対面でいきなり現れておいて、そんな話を信じろっていうの?」
ほむら「ええ、そうよ。嫌ならいいわ。ただ私は、無益な戦いをする馬鹿の敵だということは覚えておいて」
杏子「なんだとっ…!」
さやか「…」
マミ「暁美さん、話って…?」
ほむら「…」
ほむら「貴方達に話しておくべき事がある。決して悪い話ではないわ。ただ、これから起こる事を、しっかりと把握しておいて欲しいの」
ほむら「二週間後、 この街に、ワルプルギスの…」
ほむらが話を始めた瞬間。
コブラ「…!さやか、避けろッ!」
さやか「…えっ?」
コブラはさやかの頭を抱えて、地面に伏せる。その瞬間…
二人の頭をかすめる、レーザー光。
ほむら「…ッ!?」
杏子「何だ…!?今の攻撃は、どこから…!?」
勢いよく伏せたせいで、さやかはソウルジェムを落としてしまう。
歩道橋の傾斜にそれは転がっていき…誰かの足元で、宝石は止まった。
さやか「あ…!」
コブラ「…!お前は…ッ!」
ボーイ「…こいつがソウルジェムか。なるほど、よく出来た宝石だ」
まどか「…!な、なに…!?なんなの、あの人…!」
六人の後方に立つ人物は、人間では無かった。
能面のような金色の顔、骨格のような金属の身体は、透明のガラスのような肉で覆われている。異形の怪物…少なくとも、少女達には、この世では存在し得ない存在。
コブラ「…クリスタルボーイ…!」
コブラは左腕の義手を抜き取ると、サイコガンを怪物に向けて構える。
杏子「!」
ボーイ「久しぶりだな、コブラ。まさかこんな場所で会うとは思わなかったが、やはりソウルジェムに関わっていたか」
マミ「…コブラさんの知り合い…?」
コブラ「…ちょっとした、な。なぁーに腐れ縁さ、出来れば二度と会いたくなかったがね」
ボーイ「くくく、そう言うなコブラ。俺は貴様に会いたくてここへやって来たのもあるんだからな」
コブラ「そいつは有難いね。でも出来れば美女に言われたい台詞だな」
ほむら(いけない、ソウルジェムが美樹さやかから離れている。これ以上離れたら…!)
さやか「か、返してよ!誰か知らないけど、それはあたしの物なのっ!」
ボーイ「ほう、この宝石には所有者がいるのか。てっきり鉱山から掘り出せるのかと思ったが、まさかこんな場所から反応が出ると思わなかったのでね」
コブラ「そいつを返してもらおうかガラス人形。お前には必要ない物だ」
ボーイ「…ふふふ、それが、必要なんだよ」
まどか「あの人は、一体…?」
コブラ「クリスタルボーイ…俺の居た世界の、殺し屋さ。悪の組織の幹部…なんて言った方が分かりやすいかな。少なくとも俺達の味方じゃない事は確かだ」
マミ「あの身体は…人間じゃない…!?」
コブラ「サイボーグだ。化け物と言ったほうが似合うね。俺が何度倒しても、また俺の前に現れる…ゴキブリみたいな野郎さ」
コブラ「クリスタルボーイ!何故この世界にお前がいるのか教えてもらおうかッ!」
ボーイ「俺がここにいる理由か…いいだろう、教えてやる」
ボーイ「一つは、コブラ。お前の後を追ってきたのさ。お前の足取りをようやく掴んでね、ブラックホールを辿ってこの世界に足を踏み入れたのが分かったからな」
ボーイ「そしてもう一つは…この石コロを探しにきた」
ボーイは掌で、さやかの青のソウルジェムを転がしながら言う。笑顔はない、能面のような表情がニヤリとほほ笑んだような錯覚を全員が受ける。
ほむら「…!何故ソウルジェムの事を…!」
ボーイ「太古の昔にあったと言われる、魔法の宝石…俺のいた世界にはそんな伝説があってね。そいつがこの世界に存在すると聞いて探しに来たが…まさかこんなに容易に手に入るとはな」
ボーイ「そこの餓鬼に礼を言わなければな。お前さんのおかげで仕事が早く済みそうだ」
さやか「…っ!」
コブラ「海賊ギルドがソウルジェムを狙っているってのか。驚いたね、いつからそんな少女趣味になったんだ?」
ボーイ「この宝石には随分な力があるそうだな。…魔法。そう、まるで願い事を叶えるかのような、魔法の力が」
QB「…!」
ボーイ「こいつの持つ膨大なエネルギー…そいつをギルドは求めているそうだ。くだらん夢物語だと思っていたが、現物が手に入ったのなら俺の仕事は完了だ」
ほむら「止めなさい!今すぐソウルジェムを返さないと…」
ボーイ「そう言われて素直に返すとでも思うのか?俺は今すぐこの場でこの宝石を砕いてもいいんだぞ」
ほむら「…く…っ!」
ボーイ「コブラ。貴様と決着をつけたいと思っていたが、また次回にしておこう。今は元の世界に戻る事にしておくよ、クク」
コブラ「…!戻れるというのか!」
ボーイ「どうかな」
その時、轟音を立てて歩道橋の真上に何かが接近してきた。
クリスタルボーイは、その何かに向かって跳躍をする。見たこともないような形の飛行機…宇宙船と言ったほうが正しいのだろう。
コブラ「ッ!待て、ボーイ!」
ボーイ「それじゃあなコブラ。せいぜいこの世界を楽しむといい」
さやか「ま、待ってよッ!あたしのソウルジェム…!!」
宇宙船はゆっくりと旋回をすると、空に飛び立っていく。
…そして、次の瞬間。
さやか「…ぁ…っ」
まるで糸の切れた人形のようにその場に倒れるさやか。
杏子「…!?な、なんだ…どうしたんだよ…!?」
杏子はさやかが倒れる前にその身体を抱き留め…そして、その異常事態に気付く。
杏子「…!どういうことだオイ……! こいつ…死んでるじゃねえかよ!!」
まどか「… … …え?」
マミ「…死ん、で…?」
まどか「そ、そんな、どういう…?」
QB「まずいね、魔法少女が身体をコントロールできるのはせいぜい数百メートルが限度だ。離れすぎてしまったようだね」
マミ「! キュウべぇ…それって…!?」
ほむら「…ぐ、っ…!」
その時、頭上にもう一つの飛行物体が現れる。轟音に気付き、コブラは上を見上げた。
コブラ「タートル号…レディ!」
レディ「コブラ、急いで!クリスタルボーイの宇宙船は急速で地球から離れようとしているわ!このままだと…!」
コブラ「ああ、今行く!…まどか、さやかの方を頼むぜ!」
コブラ「さやかのソウルジェムは…必ず俺が取り戻してくる!」
まどか「さやかちゃん…さやかちゃん!ねぇ、返事してよっ!さやかちゃん!」
コブラの声には反応せず、必至にさやかの身体を揺さぶるまどか。
タートル号は歩道橋にギリギリまで寄り、乗車口を開ける。急いでそれに飛び込もうとするコブラ。
マミ「ま、待って!コブラさん!私も行くわ!」
コブラ「!」
マミ「わけが分からないけれど…ソウルジェムを取り戻さなくちゃ!私だって手伝えるわ!」
コブラ「マミ…」
ほむら「私も行くわ。…このままじゃ、まずい」
コブラ「…!分かった、助かるぜ2人共!」
タートル号が、コブラ、マミ、ほむらを乗せ飛び立った後。
さやかの身体を必死に抱きしめるまどか。そして…キュウべぇに詰め寄り、首を鷲掴みにする杏子。
QB「苦しいよ、杏子」
杏子「どういう事だよ… なんで、コイツ…死んでるんだよ!!てめぇ、この事知ってたのかよッ!!」
QB「壊れやすい人間の肉体で魔女と戦って、なんてお願いは出来ないよ。魔法少女とは、そういうものなんだ。便利だろう?」
まどか「さやかちゃん… さやかちゃん…っ!」
QB「まどか、いつまで呼び続けるんだい?『そっち』はさやかじゃないよ」
QB「またイレギュラーが増えたのは本当に驚きだけれど、とにかくコブラ達が『さやか』を取り戻してくれるのを願うばかりだね」
杏子「なんだと…」
QB「魔法少女である君たちの肉体は、外付けのハードウェアでしかない。コンパクトで安全な姿が与えられ、効率よく魔力を運用できるようになるのさ」
QB「魔法少女の契約とは」
QB「君たちの魂を抜き取って、ソウルジェムに変える事を言うのさ」
杏子「ッッッ!!っざけんなぁ!! それじゃあ…アタシ達、ゾンビにされたようなもんじゃねえか!!」
QB「むしろ便利だろう?いくら内蔵を壊されようが血を流そうが、魔力で復活ができる。ソウルジェムを砕かれない限り、君たちは無敵なんだ」
QB「弱点だらけの肉体より、余程戦いでは便利な筈だ」
まどか「…酷いよ… 酷すぎるよっ…」
まどか「こんなのって… 酷すぎる…!」
クリスタルボーイの乗る宇宙船を眼前に捉えたタートル号。
コブラ「レディ、このままヤツの宇宙船に特攻して、でかい風穴をあけてくれ。そこから突入する。さやかのソウルジェムを無傷で取り返さなくちゃいけねぇ」
レディ「分かったわ。加速ならこっちの方が段違いに上よ、任せて」
コブラ「オッケー。…準備はいいかい?マミ、ほむら」
既にソウルジェムを使い、魔法少女となっているマミとほむら。しかしマミの表情はどこか優れないようだった。
コブラ「マミ」
マミ「…何が何だか、分からないの。…美樹さんが何で…倒れてしまったのか。ソウルジェムが身体から離れてしまったから?そんな事、知らない…!」
マミ「私も…ああなっちゃうの?ソウルジェムが離れると…死んでしまうの?」
マミ「分からない…もう何も、分からないッ…!」
コブラ「…マミ。とにかく今は、さやかのソウルジェムを取り戻す事だけを考えろ。話はその後だ」
マミ「……う、うぅ…ッ…」
コブラ「マミッ! アンタの大事な『後輩』だ! 助けられるのは…アンタしかいないッ!!」
マミ「…!!」
レディ「距離、50。衝撃に気を付けて…!このまま突っ込むわよ!」
ほむら「…」
・
ボーイ「…ふふふ、やはり来たか、コブラ」
ボーイ「貴様の墓標は、元の世界ではないようだな。…この世界だ」
―― 次回予告 ――
クリスタルボーイの野郎、ふざけた真似してくれるよ全く!さやかのソウルジェムを奪ったうえで俺を殺すだと?へっ、上等じゃねぇか!
奴の船に乗り込んだ俺とマミとほむら、ついにボーイとの決闘だ。相変わらず俺のサイコガンは効かないわ、魔法も物ともしない。いやだねー、ホント!
だが諦めちゃいられねぇ!さやかのソウルジェムは絶対に取り戻してみせるぜ!俺達は決死の作戦であの野郎に立ち向かう事になったっ!
次回【決戦!クリスタルボーイ】で、また会おう!
第5話「決戦!クリスタルボーイ」
レディ「距離30、20…!皆、どこかに掴まって!間もなくクリスタルボーイの宇宙船と衝突するわ!」
コブラ「了解!派手にやってくれ!」
ドォォォォンッ!!
マミ「きゃあああっ!!」
小規模の爆発が起きたように大きく揺れる、タートル号船内。
しかし狙いは完璧。タートル号はクリスタールボーイの操縦する宇宙船の後部に体当たりをかけ、見事に風穴を開ける。
コブラ「完璧だぜレディ!カースタントマンでもこの先食っていけそうだなっ!」
機体上部のハッチが開き、コブラは急いで梯子を上り外へと出ようとする。
コブラ「御嬢さん方、急ぐんだ!ヤツの宇宙船に飛び移るぞ、着いてこい!」
ほむら「ええ」
マミ「…」
コブラ「…マミッ!」
マミ「…! 分かったわ…今はとにかく、美樹さんのソウルジェムを…取り戻す!」
コブラ「上出来だ!いくぜ、皆っ!」
レディ「コブラ!忘れ物よ!」
レディがコブラに向けて、箱を投げた。それをキャッチするコブラ。
レディ「シガーケースよ。葉巻が切れた時のために、ね」
コブラ「…! あぁ、レディ。ありがとよ!」
タートル号上部船体。高速で移動を続け、クリスタルボーイの宇宙船を追う船体の外は激しい風が吹きすさぶ。
ハッチから外に出た瞬間、その豪風に吹き飛ばされそうになるほむらとマミ。
コブラ「俺に掴まれ!ヤツの宇宙船に移動する!」
マミ「移動する、って…どうやって!?」
コブラの腕にほむらが、肩にマミが掴まりつつも、マミは疑問の声を投げかける。その声にコブラは不敵な笑みを浮かべるのだった。
コブラ「こうするのさ」
コブラの空いている腕のリストバンドから、細いワイヤーが勢いよく発射される。ワイヤーの先端の刃が見事にクリスタルボーイの宇宙船の風穴内部に突き刺さり、コブラはその安定性を確認した後…。
コブラ「振り落とされるなよぉッ!!」
ほむら「…!!」
マミ「きゃあああああああああああああっ!!」
高速で縮まるワイヤー。三人の身体は吸い込まれるように、クリスタルボーイの宇宙船に移動していく。
レディ「…コブラ…皆!無事でいて…!」
――― 一方、地上。抜け殻となったさやか、それを抱きかかえるまどか。そして、キュウべぇに詰め寄る、杏子。
杏子「騙してたのかよ、あたし達を…っ!」
QB「騙していた?随分な言い方だね。さっきも言っていた通り、弱点だらけの人体で戦いを続けるより遥かに安全で確実なやり方なんだよ」
まどか「酷すぎるよ…っ!さやかちゃん、必死で…!強くなる、って…頑張るって…戦ってたのにっ…!」
QB「君たちはいつもそうだね。真実を伝えると皆決まって同じ反応をする。どうして人間は、そんなに魂の在り処にこだわるんだい?」
QB「ワケがわからないよ」
杏子「…!!畜生…っ!!ちくしょおおおっ!!」
やり場のない怒り、悲しみ…全てをぶつけるように、杏子は月夜に吼えるように叫んだ。
まどか「…コブラさん…っ!お願い…さやかちゃんを、助けて…!」
月を背景に、遥か上空を飛ぶ二隻の宇宙船。見えずとも、まどかはそこに向けて、祈った。
コブラ「うおっ、とぉ!!」
コブラは自分の身体を下にして、地面に滑り込む。三人はクリスタルボーイの宇宙船内に侵入を成功させた。
コブラ「無事かい、2人とも」
ほむら「…ええ、何とか」
マミ「む、無茶苦茶なやり方だったけど…どうにか無事だわ」
コブラ「そいつぁ良かった。…ここは…貨物室か?」
三人が侵入した場所は、無機質な、まるで鉄の箱の中のような場所。周りに数個の貨物があるだけの殺風景な部屋だった。
そして…その奥。
クリスタルボーイは、まるで三人を待っていたかのようにその場に立っていた。
ボーイ「遅かったじゃないかコブラ。待ちくたびれたぞ」
コブラ「待たせたなガラス細工。延滞金はしっかり払わせてもらうぜ」
コブラは左腕の義手を抜き、サイコガンを構える。マミとほむらも、異形の相手に向かい戦闘態勢をとるのだった。
【人工ブラックホール、生成準備完了。本船の前方に超小型のブラックホールが発生します。生成まで、あと10分…】
コブラ「…!?なんだとぉ!?」
ボーイ「ククク、タイムリミットはあと10分。コブラ、朗報だ。元の世界にもうすぐ戻れるらしいぞ」
ほむら「…!どういう事…!?」
ボーイ「聞こえなかったのか小娘。あと10分でこの船はブラックホールに吸い込まれ、異次元空間へとワープする。到着先は…我々の住む、未来の世界だ」
ほむら「!!」
ボーイ「元の世界に戻るのが目的だったのだろう?感謝しろコブラ、俺はお前の命の恩人だ」
コブラ「お前がぁ?ごめんだね、どうせ恩を売られるなら美女がいいに…決まってらぁッ!」
言いながらコブラはサイコガンの砲撃を次々とクリスタルボーイに浴びせる。
しかし、その砲撃の全てはボーイの体内で屈折し、素通りをしていくのだった。
マミ「!?こ、コブラさんの攻撃が…!」
ボーイ「クククク…忘れたわけではあるまい。サイコガンは俺には無力だ」
ボーイ「しかし、礼を言わせてもらうよコブラ。1つだったソウルジェムを一気に3つまで増やしてくれるというのだからな」
ボーイ「このままその女どもをワープさせれば…あとはその身体からソウルジェムを剥ぎ取ればいいだけだ。ふふふ…」
コブラ「どうかな。その前にお前にでかい風穴を開けてやるぜ」
ボーイ「ククク…はっはっはっは!!笑わせるな。コブラ、お前は今俺の掌の上で踊っているに過ぎん」
ボーイ「お前の行動パターンは実に分かりやすいよ。情に流されれば、貴様はきっと俺の船に乗り込んでくる…。そう思って、あえて貴様をあえてここへ呼び込んだのだからな」
コブラ「何だと…!」
ボーイ「どうやらソウルジェムとやらは、その女達の身体と繋がっている…いわば、『魂』のようなもののようだな。先程の青髪の女で確信させてもらった」
ボーイ「このまま俺が元の世界に戻ろうとすれば…貴様たちは必ずここへやってくる、というわけだ。それも1人ではない、わざわざソウルジェムを持つ女を2人も連れて、な」
マミ「…くッ…!」
ほむら「…」
ボーイ「コブラ。何故俺がこの貨物室を戦場に選んだか分かるか?此処には、貴様の武器である『臨機応変』が使えないのだよ。あるのは空の鉄箱だけだ。貴様の武器となるような物は、ない。お得意の逃げ回る戦法も場所が限られているぞ」
ボーイ「おまけに俺の特殊偏光クリスタルにはサイコガンは効かん。…さぁ、どうやって俺を倒すつもりかね?…コブラ!」
【ブラックホール、生成完了まで、あと8分です】
コブラ「!」
ボーイ「ソウルジェムは、この扉の先のコクピットにある。…あと8分。俺を倒して、この扉を潜って…奪い取れるかな?」
コブラ「…やってみせるさ!」
コブラは腰のホルダーから愛銃の『パイソン77マグナム』を抜き、3連射する。
しかしその弾丸の全てを、クリスタルボーイは右腕の鉤爪を盾のように使い、防御した。鉤爪に穴は開く威力ではあるが、その弾は身体にまでは届かない。
コブラ「!…ちっ…!」
ボーイ「一度食らった手をもう一度食らいはしない。…さぁ、次はどうするつもりだ?」
ほむら「…行くわ」
コブラ「…!」
カチリ。
微かに、時計の秒針のような音が聞こえたような気がした。その瞬間、暁美ほむらはクリスタルボーイの目の前にいつの間にか移動し、拳銃を構えていた。
コブラが次に気付いた瞬間…
クリスタルボーイの周囲は、鉛弾で包囲されていた。
コブラ・マミ「!」
ボーイ「何…!」
数十発、いや、数百発の弾丸が、クリスタルボーイの身体に次々と命中をしていく。その衝撃にクリスタルボーイは思わず仰け反る…が。
倒れはせず、一歩後ろに下がっただけで留まった。全ての弾丸はクリスタルボーイの身体に軽く埋まった程度で、穴すら開いていない。
ほむら「…!」
ボーイ「驚いたな…何だ、今の攻撃は。貴様の拳銃では不可能な連射だ…どうやった?」
ほむら「く…っ!(この銃じゃあ…威力が、足りない…!?)」
ボーイ「ククク…まぁいい。そんな安物の骨董品では俺の特殊偏光クリスタルには傷すら …つかんのだァッ!!」
ボーイは右の鉤爪を開き、ほむらに向けてビームガンを放つ。
ほむら「ッ!!」
ボーイ「!」
カチリ。また秒針の音が聞こえる。瞬間移動でもするかの如く、ほむらはその攻撃を素早い動きで避け、後ろへと下がっていく。
その瞬間…マミは次々と武器である単発式銃火器をスカートから取り出し、宙に浮かせる。
マミ「次は、私よッ!お人形さん!」
一発、それを撃つごとに銃を捨て、次の銃に切り替える。しかしその銃弾をクリスタルボーイは鉤爪で弾き、貨物室の天井へと跳弾させる。
ボーイ「そんな物が俺に効くとでも…思っているのか!!」
マミ「思っていないわ。…だから…こうするのよ!」
跳弾をして、開いた天井の穴が俄かに光り始めたかと思うと…その光から、絹のような魔法のリボンが勢いよく出現し、クリスタルボーイの身体に巻きついていく。
ボーイ「…!これは…!」
マミ「これが私の戦い方よ!…一気に決めるわ!」
マミは魔力を集中させ、巨大な、大砲のような銃器を目の前に出現させる。そしてその銃口をクリスタルボーイの方へ向けた。
マミ「喰らいなさい! ティロ・フィナー…!!」
ボーイ「…ふんっ!!」
マミ「…!!」
クリスタルボーイは自分の身体に巻きついた魔法の糸を…自らの腕力で、引き千切る。そして鉤爪をロケットのようにマミに飛ばし、攻撃をした。
マミ「きゃあッ!!」
鋭利な刃物のような、その爪。マミはどうにか単発式銃火器の銃身でその攻撃を受け止める、が…その衝撃はすさまじく、マミの身体は天井へと叩きつけられてしまう。
マミ「あぐゥっ!!」
コブラ「!マミ!!」
ボーイ「…魔法。ソウルジェムの力とやらか。…少し驚いたが、サイボーグのこの俺には通用しないようだな」
コブラ「畜生…いい加減にしやがれ、この野郎!」
コブラは再び、サイコガンの連射をクリスタルボーイに浴びせる。…が、やはりその光はクリスタルボーイを素通りしていく。
ボーイ「…次は貴様だ!死ね、コブラッ!!」
クリスタルボーイはコブラに向けて突進をし、鉤爪を大きく振り、その身体を切り裂こうとする。
コブラ「く、ッ!」
コブラはその攻撃を次々と避ける、が…相手も並の瞬発力ではない。コブラが避ければ、次の手を繰り出し…いずれ、回避行動は追いつかれてしまう。
ガキィィィンッ!!
鈍い金属音。コブラのサイコガンが、クリスタルボーイの鉤爪に掴まれた。
ボーイ「ふふふ…。…っ、はぁッ!!」
クリスタルボーイはコブラの左腕を掴んだまま、勢いよくコブラを投げ飛ばす。
コブラ「どわぁぁぁぁぁあっ!?」
身体が大きく宙を舞う。物凄いスピードで、コブラは鉄箱の山に叩きつけられた。派手な金属音が幾重にも音を立て、コブラの身体は鉄箱の山へと沈む。
ほむら「…!コブラ!」
ボーイ「…その程度では死なないのだろう?コブラ。今トドメを…刺してやる!」
ほむら「させない!」
カチリ。
クリスタルボーイの眼前に、突如として、安全ピンの抜かれた手榴弾が数個現れた。
ボーイ「何…!!」
ドォォ――――ン!!!
派手な音を立てて手榴弾が連鎖して爆発する。流石にその衝撃にクリスタルボーイの身体も吹き飛ぶ…が。クリスタルの身体には全く傷はついていなかった。
ゆっくりと立ち上がり、鉤爪をほむらの方向へ向ける。
ボーイ「相変わらず攻撃の読めないヤツだが…。言った筈だぞ…そんな骨董品で俺の身体に傷はつかん、と」
ほむら(…時間稼ぎにはなったようね…。やはり、手榴弾程度じゃアイツの身体はびくともしない…!)
ほむら(…とにかく、今はコブラを助けないと!)
マミ「はあああっ!!」
次の瞬間、マミがクリスタルボーイに向けて特攻をかける。銃器を鈍器代わりにし、その頭部を次々と殴る。
マミ「私のッ、後輩を…返しなさいッッ!!」
多少ダメージがあるのか、クリスタルボーイは反撃せず、しばしその攻撃を受ける。
ほむら(…今のうち…!)
カチリ。
ほむらはコブラの近くに瞬間移動をし、倒れているコブラの身体を起こそうとする。
ほむら「…!」
しかし、助けに行った筈のコブラは既に起き上がり、シガーケースから葉巻を取り出してジッポライターで火をつけていた。
ほむら(そんな…生身の人間なのよ!?魔法でガードしているわけでもないのに…あんな勢いで叩きつけられても…平然としているなんて)
コブラ「よぉ、ほむら。葉巻の煙は大丈夫かい?」
ほむら「そんな事言ってる場合じゃ…!」
コブラ「アンタに一本プレゼントだ」
コブラはシガーケースから葉巻を一本取り出し、ほむらに手渡す。
ほむら「!! 今はこんな… … …。 !…これ、葉巻じゃ…ない?」
コブラ「超小型の時限爆弾さ。先端のスイッチを押せば、5秒で爆発する。局部的ではあるが、おたくが今投げた手榴弾の数倍の威力はあるぜ」
コブラ「しかし、ヤツの懐に入ってそいつを爆発させる隙がない。…だが、君なら出来るんだろう?ほむら」
コブラ「時間を止めて動ける、君ならな」
ほむら「!!!!」
【ブラックホール生成完了まで、あと、5分です】
ほむら「…気づいていたの?私の能力に」
コブラ「それ以外に説明がつかないからさ。俺の目に見えない動きなんて、そう易々と出来るもんじゃない」
コブラ「魔法少女にはそれぞれ能力がある。マミは拘束系の魔法だし、さやかは回復が得意なようだな。…瞬間移動をするだけの能力かと思ったが、それじゃあさっきの銃弾や手榴弾の説明がつかない」
コブラ「時間を止める…いや、時間を『操れる』と言った方が適切かな?それがあんたの能力だ、ほむら」
ほむら「…!」
マミ「やああっ!っ、はぁッ!!」
クリスタルボーイをひたすら銃身で殴り続けるマミ。押しているようにも見えるが…クリスタルボーイは、反撃をしようとしていなかった。
ボーイ「…成程。その辺りの賞金首やギンガパトロール隊員よりは余程有能と見える。こうして受けるダメージも、通常の人間と比べて段違いに強い。魔法による身体能力の向上か」
ボーイ「だが、それが限界のようだな…!!」
マミ「ッ!!」
クリスタルボーイはマミの銃を一瞬で掴み、身動きを取れなくする。瞬間、空いている鉤爪をマミの腹へと突き出し…。
ドォンッ!!
ほむら「!!」
ボーイ「ぐ、…ッ!」
見ればコブラはいつの間にかパイソンを抜き、クリスタルボーイに向け発射していた。間一髪のところ、クリスタルボーイは後ろに仰け反り、マミはその間に後ろへと下がる。
コブラ「ほむら。お前さんにしか頼めない事だ。…そいつをヤツの腹に埋め込んできてくれ」
ほむら「…」
ほむら「もし、嫌だと言ったら?」
コブラ「… … …」
ほむら「正直に言うわ。私が此処へ来たのは、まどかの悲しむ顔が見たくなかったから。美樹さやかを失えば、きっとまどかの心に大きな穴がきっと空いてしまう」
ほむら「でも、私だって命は大事よ。私がこの葉巻型の爆弾を、アイツの身体に埋め込んできて、どうするの?アイツの身体がそれより頑丈だったら?」
ほむら「私はまだ…生きて達成する使命がある。こんなところで死ぬわけにはいかない。私には、助けるべき人がいる」
ほむら「ここで私が逃げ出したら、どうするの?コブラ」
コブラ「…いいや、アンタはやってくれる。俺はそう信じている」
ほむら「信じる?私を?…何故?」
コブラ「アンタには、助けるべき人がいる。それと同時に…アンタには助けが必要だからだ」
ほむら「…!」
コブラは葉巻から紫煙をゆっくり吐き出し、不敵に笑いながらゆっくりと立ち上がる。サイコガンをクリスタルボーイに向けて構えると、その横で茫然としているほむらに向けて、視線は合わせず語りかけるのだった。
コブラ「ほむら、アンタは何かを抱えている。俺にはそれが何かは分からない。だが君はずっとそれに立ち向かっている。…俺が君と出会った時からだ」
コブラ「そしてその『何か』に怯え…助けを求めている。だから俺は、全力でアンタのそれを手伝うつもりさ」
ほむら「…何故、それを…!!」
コブラ「君は隠しているつもりでも、俺には分かるのさ。…女に嘘は何度もつかれてきたが、女の瞳に嘘をつかれた事は…ほとんどないからな」
ほむら「… … …」
コブラ「さやかを助け、全員でその『何か』に立ち向かう。君はその『何か』を知っているようだが…今はまだ何も話さなくてもいい。少なくとも、あのガラス人形を倒すまではな」
コブラ「だが…俺は守ってみせる!君を…君達をっ!!何があっても、守り抜いてみせる!!」
ほむら「…!!!!」
ボーイ「…少し油断をしたな。…次はないぞ、コブラ…!」
頭に弾丸の穴を開けながらも、クリスタルボーイは立ち上がり、こちらを睨む。
ボーイ「死ねぇぇ、コブラァァァーーーッ!!」
鉤爪を振りかざしながら、全力でコブラに向けて疾走してくるクリスタルボーイ。サイコガンの連射も構わず、コブラに向かう。
ほむら「…分かったわ。…あなたを信じるという事は『この時間軸では』…愚かなのかもしれない。…それでも…皆を、まどかを助けれられる可能性があるのなら…私は貴方に賭けてみたい」
ほむら「…不思議ね、少しだけ…そんな衝動に駆られたわ」
コブラ「…感謝するぜ、ほむら」
ほむら「貴方が礼を言う必要はないわ…コブラ」
ボーイ「ハァッハッハッハァーーーッ!!」
完全にコブラを捉えたと確信したクリスタルボーイは、笑いながら突進をしてくる。
カチリ。
だが、次の瞬間。クリスタルボーイの足が止まった。
ボーイ「…何…?」
特殊偏光クリスタルに埋め込まれた葉巻のタイマーは『00:00』と記されていた。
ドゴォォォォォ―――――――――!!!!
大きな爆発がクリスタルボーイの身体を包むように起こった。
ボーイ「うぐぉぉぉぉぉッ!!??」
僅かに、クリスタルの破片が辺りに散らばった。
気付けば、ほむらは、コブラの真後ろにいた。コブラはそれを見ると、にぃ、と笑顔を見せて再びクリスタルボーイに向き直る。
コブラ「美人に見とれて時間を忘れたか!クリスタルボーイッ!!」
サイコガンの連射。クリスタルボーイの特殊偏光クリスタルは先程の爆発で胸部に風穴があき、防御ができない状態となっていた。
正確にその穴を通るサイコガンの弾道は内蔵のような金属を次々と破壊していく。
ボーイ「!!!!」
コブラ「マミッ!!今だ、アレをもう一度やってやれッ!!」
マミ「…!分かったわ…。…今度は、外さない!!」
クリスタルボーイが怯んでいる間に、マミはもう一度魔力を集中する。 再び巨大な砲身が現れ、銃口をもう一度、クリスタルボーイの方向へ構えた。
マミ「『ティロ・フィナーレ』ッッッ!!!」
爆音のような銃撃音が貨物室に響く。マミの頭身ほどもある巨大な弾丸は、ゆっくりと正確にクリスタルボーイの方へ突き進んでいき、そして…。
ボーイ「ぐわああああああああああああああッッッ!!!」
ドオォォォォォォォォォォンッッ!!!
まるで星空の煌めきのように、粉々になったクリスタルが辺りに散らばった。
クリスタルボーイの身体は木端微塵となり、残骸の破片が転がっているのみとなっている。
マミ「…やった…!あはは…た、倒した…!」
ほむら「…」
コブラ「2人とも、いい仕事だったぜ。100点満点だ」
三人が笑顔を浮かべた瞬間、船のアナウンスが無常にも時を告げる。
【ブラックホール、生成完了まであと1分30秒。船員は安全な場所で待機をしてください。繰り返します…】
マミ「…!!」
ほむら「…くッ…!時間が…!」
その時、貨物室の風穴から声が聞こえた。見れば、エアーバイクに乗ったレディが宇宙船と並走している。レディはそこからロープを垂らした。
レディ「皆、急いでロープに掴まって!タートル号は離れた場所で避難しているわ、早くしないとブラックホールに巻き込まれる!!」
マミ「で、でもまだ…美樹さんのソウルジェムが!!」
ほむら「…私が行くわ。もう一度、時間を…」
コブラ「いいや、俺が行く。ほむら、入ったことのない未来の宇宙船の中から一つの宝石を探し出せるかい?」
ほむら「…で、でも…」
コブラ「こういうのは俺の専門さ。…マミ、ほむら!先に脱出しろ!俺は後から行くぜ!」
そう言ってコブラは、貨物室の先のコクピットへと走っていく。
マミ「!!コブラさんっ!!」
コブラ「ちっ…あの野郎、厄介な仕事残してくれたぜ…。宝探しゲームのつもりか?」
船体が大きく揺れはじめる。それは、ブラックホールがもうすぐ出来上がる事を示していた。
コブラ「さぁーてと…どこに隠れてるのかな?ソウルジェムちゃんは…!」
宇宙船、コクピット。閑散とした場所ではあるが、コクピットはかなり広い。一見しただけでは青い宝石は見当たらないようだ。
【ブラックホール、生成完了まであと1分です。船内の乗組員は衝撃に備え…】
コブラ「ちぃーっ!分かってますってんだ…!…どこだー?どこだ、ソウルジェムは!」
操縦席、椅子の下、機器類、あらゆる場所を探すが、見当たらない。そうしている間にも刻々と時間は過ぎていき…。
コブラ「ちくしょー!あのガラス人形め、最後に罠しかけやがって…!どこだよ、どこにあるんだっ!?」
コクピットのモニター。船体の眼前には、既に超小型のブラックホールが誕生しかけている。船はいっそう揺れ始め、今にもそれに吸い込まれそうだ。
【ブラックホール、生成完了まであと10秒です。9、8、7…】
コブラ「くそーっ!!間に合わね… …ん?」
操縦桿にやけくそで腕を叩きつけた瞬間… 壊れた機械の中に煌めく、一つの青い光。操縦桿はダミーで、実は空の鉄箱だったのだ。
【4、3…】
コブラ「こいつかァ――ッ!!」
急いでコブラはそれを取り出し、貨物室へと走る。が…。
【2、1…0。異次元へのワープを開始します】
コブラ「うおおおお―――――ッ!!」
無常にも、船体はゆっくりとブラックホールに吸い込まれていく。
轟音を立ててブラックホールに吸い込まれていく、クリスタルボーイの宇宙船。
エアーバイクに乗り込んだレディ、ほむら、マミの3人はただそれを見送る事しかできなかった。
マミ「あ、あ…!」
ほむら「…!」
レディ「…」
マミ「そんな…っ!間に合わなかったの…!元の世界に、戻ってしまったのというの…!?レディさんだって、この世界にまだいるのに…!」
マミ「そんな…!!!」
ほむら「…」
ほむら(…私を、まどかを助けると…約束したのに…)
レディ「…ふふ、それはどうかしら」
マミ「え?」
レディ「私は彼と長い付き合いだけれど…彼が、やり始めた事を途中で放棄した事は、一度もないわ」
レディ「…たとえ、そこが見知らぬ世界の中だろうとね」
ガキィィンッ!!
その時、エアーバイクの機体に突き刺さる、ワイヤーの先の刃。
マミ・ほむら「!!」
そのワイヤーの先に…ウインクをしながら手を振る、1人の男の姿があった。
コブラ「おーい!レディ、早く降ろしてくれーっ。俺は高所恐怖症なんだよーっ」
力無いさやかの右手に、コブラはそっとソウルジェムを握らせた。
まどか、ほむら、マミ、杏子…コブラ、レディ…そして、キュウべぇ。全員で、時間が止まったかのようにさやかの様子を見る。
祈るような、視線の数々。
…そして。
さやか「…あれ…?」
ゆっくり起き上がるさやか。何が起きたのか分からない、という表情で辺りを見回す。
さやか「…あれ、あたし…どうしたの…?」
まどか「さ…さやか、ちゃん…っ…」
マミ「…美樹さんっ…!!」
さやか「ま、まどか…?マミさんも…なんで、泣いてるの…?あれ?あれ?」
まどか「うわぁぁぁあああんっ!!」
マミ「…っっっ!!」
大声を出して泣きながらさやかに抱きつく、まどか。そしてその2人を包むように優しく肩に手を置く、マミ。
少しだけ、微笑んで…ほむらもその様子を黙って見ていた。
コブラ「仲間、か」
レディ「どうしたの?コブラ」
コブラ「…俺達が失ってきたものを…かの女達に失わせたくはない。…そう思ってね」
コブラは葉巻に火をつけると、満足気に笑みを浮かべ…月に向けて煙を吐いた。
―― 次回予告 ――
さやかのソウルジェムを取り戻したのはいいものの、その秘密は皆にバレちまった!どうやらキュウべぇの野郎、契約と同時にかの女達の魂をソウルジェムに移し替えちまったらしい。タチの悪い詐欺だぜ。
ショックを隠し切れない魔法少女達。不安になっちまうのも無理はないってもんだよ。特にさやかにゃ、色々ワケがあるみたいだね。
そんな矢先、新たな魔女が出現する。触手がうねうね、気持ち悪いの何の。こんな中戦えっていうのも無茶な話かもしれないが…しかし、俺が必ずあんた達を守ってみせるぜ!
次回、【魔女に立ち向かう方法】で、また会おう!
さやか「…騙してたのね、あたし達を」
QB「不条理だね。ボクとしては単に、訊かれなかったから説明をしなかっただけさ。何の不都合もないだろう?」
マミ「…納得出来ないわ。…キュウべぇ、何故…教えてくれなかったの?ソウルジェムに…私達の魂が移されていた、だなんて…!」
QB「君からそんな事を言われるのは心外だね。魂がソウルジェムに移ったのは、マミ、君が魔法少女になったからだよ?失いかけていた命を救うことを望んだのは君自身じゃないか」
マミ「私の事はどうでもいいわ。…美樹さんの立場はどうなるの?彼女は、叶えたい願いを叶えただけ…それだけなのに」
QB「『それだけ?』」
QB「戦いの運命を受け入れてまで、叶えたい願いがあったのだろう?さやか、君は魂がソウルジェムに移ると知っていたのなら、願いは叶えなかったのかい?」
さやか「…!」
QB「戦って、たとえその命が尽きようとも、恭介の腕を治したかった。それならば肉体に魂が存在しない程度、どうという事はないだろう?」
マミ「キュウべぇ、貴方…!」
QB「恨まれるような事をした覚えはないよ。君たち人間は生命の消滅と同時に魂までも消えてしまうからね。ボクとしては、少しでも安全に戦えるように施しをしているつもりなのだけれど」
コブラ「… … …」
第6話「魔女に立ち向かう方法」
クリスタルボーイを倒した、翌日。
マミのアパート。マミ、さやか、コブラの三人はキュウべぇを問い詰めるべく、そこに集まっていた。魔法少女の存在とは、ソウルジェムとは何か。その願いの代償として失った物を、確かめるべく。
QB「マミ、さやか。君たちが今日まで無事に戦ってこれたのは、ソウルジェムのおかげなんだよ」
QB「肉体と魂が連結していないからこそ、痛覚を魔力で軽減して、気絶するような、ショック死をしてしまうような痛みをも君たち魔法少女は耐える事が出来る」
QB「本来、君たちが受けるべき痛みを今ここで再現してみせようか?」
マミ「…っ…!」
コブラ「やめときなよ。そんな事再現したって何の得にもなりゃしない」
QB「そうかな。マミもさやかも、現実をまだ受け入れていないからね。魔法少女として戦う事の意味を」
さやか「… … …」
コブラ「それじゃあ、その『意味』とやらを教えるのがアンタの目的かい?冗談よしてくれよ、お前はかの女達の教師でも何でもない。ただ契約を結ぶだけの存在の筈だ」
QB「イレギュラーの君にとやかく言われる必要も感じないね」
コブラ「おおっと、触れちゃいけない話題だったかな?それとも、アンタには契約を結んで魔女を倒す以外に何か目的でもあるのかい?」
QB「…」
QB「君は、何者なんだい?」
コブラ「言わなかったかな?俺は、コブラさ」
コブラ「マミ、俺はちょいと野暮用があるんで失礼するぜ。君のお茶はいつも最高の味だ」
マミ「…えぇ。…ありがとう、コブラさん」
コブラ「…さやか」
さやか「… … …」
コブラ「アンタが叶えた願い。…それに賭けたお前さんの思い。しっかり思い出すんだ」
コブラはそう言い残して、マミの部屋から出ていく。
さやか「…あたしの…願い…」
―― 学校。
和子「はーい、今日は…美樹さんは欠席、ね。それじゃあ、HRを始めましょう」
まどか「…」
まどか(さやかちゃん…大丈夫かな…。マミさんも学校来てないみたいだし…。…やっぱり、みんな…ショック、なのかな…)
まどか(わたしに出来る事って…何も、ないのかな?…ずっと見ているだけで、臆病で…っ…)
ほむら「… … …」
廃墟と化した教会。ステンドグラスから漏れる光を浴びながら、1人俯いて考え事をする杏子。
杏子「…」
杏子「なんなんだよ、一体」
杏子(意味が分からねェよ。アタシはただ…魔女を狩って、自分のためだけに…ただ、それだけのために戦ってきた筈なのに…)
杏子(ワケのわからねー男は出てくるし、魔女じゃない変な化け物は出てくるし…アタシは、もう死んで…ソウルジェムがアタシの魂になってるって…?)
杏子「…くそ…っ!こんな…こんな…!」
杏子は自らの赤色のソウルジェムを忌まわしげな瞳で見つめる。
それでも、その宝石をたたき割る事は出来ない。それが自らの命であると、知っているから。
杏子「…なんで…」
杏子(なんで、アタシは…こんなに悲しくて、悔しいんだよ…っ!…畜生…っ!)
杏子「くそ…アタシらしく、ないな…」
杏子は立ち上がり、廃墟からそっと出ていく。
――― その夜。
ピンポーン。
恭介父「はい、どなたでしょうか?」
恭介父「…ああ、貴方は確か…病院の方で、恭介の演奏を…」
恭介父「そんな、わざわざ有難うございます。…どうぞ、上がってください。恭介からも貴方のお話は聞いています。…その節ではお世話になったそうで」
恭介父「恭介は部屋にいますから、案内しますよ。…え?必要ない?そ、そうですか…?それでは…」
コンコン。
恭介「…?父さん?」
松葉杖をつきながらドアまで近づき、自分の部屋のドアをゆっくり開ける恭介。
恭介「…!あなたは、確か…」
コブラ「よー、元気かい?」
コブラは花束を恭介に手渡すと、にぃ、と笑った。
コブラ「快気祝いに来たぜー。おー、いい部屋住んでるじゃねーかー。どれ、お宅拝見っと」
恭介「そ、それは…どうも…」
恭介「酒臭ッ!!」
一方、同時刻。杏子に呼び出され、森林の中を歩くさやかと杏子。
一度は、対峙した相手。だが、心に思う事はお互いに同じなのであろう、虚ろな瞳で杏子の後をついていくさやか。
そして辿り着いたのは、廃墟と化した教会であった。
杏子「アンタは、後悔してるのかい?こんな身体にされた事」
さやか「…」
杏子「アタシは別にいいか、って思ってる。なんだかんだでこの力のおかげで好き勝手できてるんだしね」
さやか「…あんたのは自業自得でしょ」
杏子「そう、自業自得。全部自分のせい、全部自分の為。そう思えば、大抵の事は背負えるもんさ」
さやか「…それで、こんなところに呼び出して何の用?」
杏子「ちょいとばかり長い話になる。…食うかい?」
さやかにリンゴを投げる杏子。一度はそれを受け取るが…床に投げ捨てるさやか。
その瞬間、杏子はさやかの胸倉を掴む。
杏子「…食い物を粗末にするんじゃねぇ。…殺すぞ」
さやか「… … …」
杏子「…ここはね。…あたしの親父の教会だったんだ」
杏子は、静かに、しかし強い口調で語り始めた。誰に言うでもない、まるで独り言のように虚空を見ながら話す杏子の目は、とても悲しく、しかし強い瞳であった。
―― 佐倉杏子の、父親。幸せだった筈の家族。
あまりに正直で素直であったために、世間から淘汰された神父の話。しかし、それでも自分に正直であり…家族も、そんな父親を責めはしなかった。
貧しくても、その日の食糧を求める事すら苦しくとも、佐倉杏子の家族はしっかり家族として機能していたのだった。
杏子「…皆が、親父の話を真面目に聞いてくれますように、って。それがあたしの、魔法少女の願い」
その願いは叶えられ、杏子には魔法少女としての枷が与えられた。それでも、彼女は構わなかった。自分さえ頑張れば、家族は幸せになれるのだと…そう信じていたから。
―― しかし。
父親に、杏子の魔法はバレてしまった。偽りの信者、偽りの信仰心、全てが魔法の力であるものだと。
―― そして、杏子の魔法は、解けてしまったのだった。
杏子の父親、母親、幼い妹すらも巻き込んだ、無理心中。杏子の願いは、家族の全てを壊してしまったのだ。
杏子「アタシはその時誓ったんだ。もう二度と…他人のためにこの力は使わない、って」
杏子「…奇跡ってのは、希望ってのは…それを叶えれば、同じ分だけ絶望が撒き散らされちまうんだ」
杏子「そうやって、この世界はバランスを保って、成り立っている」
恭介「…あの時は、本当に有難うございました。…自暴自棄になっていた僕を、止めてくれて。…あの時、コブラさんが止めてくれていなかったら…」
コブラ「なぁ、恭介。奇跡ってヤツはどうやって起きるんだろうな?」
恭介「…え…」
窓辺に腰かけて、コブラは笑顔を浮かべながら呑気にそう語りかける。まるで独り言のように、虚空を見ながら。
恭介「…どうやって、って…それは…」
コブラ「アンタのその腕、医者からも治癒は絶望的なんて言われてたんだろ?今こうして動いて、しかもバイオリンが弾けるまで回復するなんて奇跡以外の何物でもない」
コブラ「そいつを不思議に思ってね。恭介、アンタ自身はどう考えてるのかちょいと世間話に来たんだ」
恭介「…僕自身も、本当に偶然とは思えないのは確かです。神様が僕の願いを叶えてくれた…なんて考えるのも、おこがましい話ですし」
コブラ「神様、ね」
コブラ「その神様って奴が身近にいたのかもしれないぜ?…アンタの場合」
恭介「…え?」
コブラ「病室にいて、ずっと落ち込んで、ふさぎ込んでいたアンタを、神様とやらがずっと見ていてくれたんじゃないかな」
恭介「… … …」
コブラ「その神様ってヤツぁ、お前さんが想像してるような白髪の老いぼれ爺なんかじゃないと思うね。もっとチンチクリンで、自分に馬鹿正直なクセに奥手で恥ずかしがり屋で、それでも頑張ってアンタのために祈りを叶えてくれた」
恭介「…さや、か…?」
コブラ「奇跡って奴は、叶えるのにそれだけの対価が必要だと俺は思ってるのさ。…ひょっとしたら、アンタの奇跡のためにこの世界で頑張ってるヤツが1人いるんじゃないのかな。ま、あくまで俺の考えだがね」
さやか「何でそんな話を私に?」
杏子「アタシもあんたも、同じ間違いをしているからさ。だから、これからは自分のためだけに生きていけばいい。…これ以上、後悔を重ねるような生き方をするべきじゃない」
さやか「… … …」
杏子「もうあんたは、願い事を叶えた代償は払い終えているんだ。これからは釣り銭取り戻す事だけ考えなよ」
さやか「…あたし、あんたの事色々誤解していたのかもしれない。…その事はごめん、謝るよ」
さやか「でも、一つ勘違いしている。…私は、人の為に祈ったことを後悔なんてしていない。高過ぎる物を支払ったとも思っていない」
さやか「その気持ちを嘘にしないために、後悔だけはしないって決めたの」
杏子「…なんで、アンタは…」
さやか「この力は、使い方次第で素晴らしいものに出来る。…そう信じているから」
さやか「それから、そのリンゴ。どうやって手に入れたの?お店で払ったお金は?」
杏子「…!」
さやか「言えないのなら、そのリンゴは貰えないよ」
さやか「あたしは自分のやり方で戦い続ける。…それが嫌ならまた殺しに来ればいい。もうあたしは負けないし…恨んだりもしない」
そう言い残し、静かに教会から去っていくさやか。
杏子「…ばっかヤロウ…」
恭介「…はは、まさか…」
コブラ「そう、まさかなんだよ。アンタの身体に起こった奇跡は、単なる偶然。誰に感謝するわけでもない、これからは自分のために、自分のバイオリンのためだけに生きて行けばいい。なんたってあんたは天才ヴァイオリニストなんだからな」
恭介「… … …」
恭介「それじゃあ…まるで、僕が最低の人間みたいじゃないですか」
コブラ「そう思うのかい?じゃあアンタの腕が治ったのは誰かのおかげなのか?それとも、本当に単なる偶然なのか?」
恭介「…貴方は、何を言いに来たんですか?」
コブラ「言っただろ?俺は世間話をしにきたんだよ。機嫌を損ねちまったかな?」
恭介「… … …」
コブラ「俺はバイオリンの音色に興味はないからなぁ。どうせ聞くんなら美女の甘い囁きを耳元で…なんてね」
コブラ「しかし、この世で一番、アンタのバイオリンの音色を聴きたがっている人間がいる。アンタの家族や親族より、ずっと強い気持ちでさ。…アンタはそれに応えてやらなきゃいけない」
コブラ「アンタに起こった『奇跡』を、アンタがどう考えるのかによるかだけどな」
恭介「… … …」
コブラ「それじゃ、俺は失礼するぜ。こう見えて忙しいんだ。デートの約束とかね」
恭介「… … …」
恭介「…待って、ください…!」
コブラ「…」
恭介「…もう少しだけ…もう少しだけ、貴方の話を聞かせてください。…考えたいんです」
コブラ「…ああ」
コブラ「それじゃあ、ちょいとした身の上話をさせてもらおうかな。今日の予定は全部キャンセルだ」
―― その翌日。親友の仁美に呼び出されたさやかは、ファーストフード店に来ていた。テーブル越し、まるで対峙をするかのような、仁美の強い視線。
そして、神妙な面持ちで語り始める。
仁美「ずっと前から…私、上条君の事をお慕いしておりましたの」
さやか「…!!」
さやか「…そ」
さやか「そうなんだぁ…!あははは、恭介のヤツ、隅に置けないなぁ」
仁美「さやかさんは、上条君とはずっと幼馴染でしたのよね」
さやか「あ、ま、まぁ…腐れ縁っていうか、なんていうか…」
仁美「…本当に、それだけですの?」
さやか「…!」
仁美「…もう私、自分に嘘はつかないって、決めたんですの。…さやかさん、貴方はどうなのですか?」
さやか「どう、って…」
仁美「本当の自分と、向き合えますか?」
仁美「―― 明日の放課後に、私、上条君に思いを告白致します」
仁美「―― それまでに、後悔なさらないように決めてください。上条君に、思いを伝えるかどうかを…」
―― その夜。自分の家を出て魔女退治に出かけようとするも、思考が回らず立ち止ったままのさやか。
さやか「…」
まどか「…さやかちゃん」
さやか「…!まどか…」
まどか「付いていって、いいかな…?…マミさんにもコブラさんにも言わないで魔女退治に行くなんて…危ないよ…?」
さやか「…あんた…なんで、そんなに優しいかな…っ…。あたしに、そんな価値なんて、ないのに…っ、ぐ…!」
まどか「そんな事…!」
さやか「あたし、今日、酷い事考えた…っ…!仁美なんていなければいいって…っ…!恭介が…恭介が、ぁ…仁美に、取られちゃうって、ぇ…えぐっ…!」
まどか「…」
そっと近づき、さやかの身体を優しく抱くまどか。
さやか「でも…あた、し…っ!なんにも出来ないっ…!ひぐっ…!だってもう死んでるんだもん…ゾンビなんだもん…っ!」
まどか「さやかちゃん…」
さやか「こんな身体で、抱きしめてなんて…っ、言えないよぉぉ…!!」
その時、さやかとまどかに近づく1人の影があった。
まどか「…! …あなたは、あの時の…」
レディ「…少し、いいかしら?美樹さやかさんと、鹿目まどかさん。…お届けものに来たわ」
近くにあったベンチに座った、さやかとまどか。さやかが泣き止み、落ち着くのを待ってからレディは静かに話し始める。
レディ「突然でごめんなさい。…まどかさんとは少しだけ顔を合わせたけど、さやかさんは…知らなかったわね、私の事。私はコブラから貴方達魔法少女の事は聞いているのだけれど」
さやか「… … …」
レディ「こんな恰好だから警戒するのは当たり前よね。…私はコブラの相棒、レディ…アーマロイド・レディというの」
さやか「…やっぱり変な名前」
レディ「ふふ、そうね。…こんな時に突然で驚くわよね。コブラがどうしても、私に、貴方達に届け物をして欲しいと言うから」
まどか「…届け物、って…?」
レディ「上条恭介君からの預かりものがあるわ」
さやか「…!!!」
レディはそう言って、小さな封筒を一つ、取り出して見せた。
レディ「受け取ってもらえるかしら?」
さやか「… … …」
まどか「さやかちゃん…」
しかし、さやかの表情は優れず、レディの持つ封筒に手を差し伸べる様子も無い。
レディ「…それから、コブラからもう一つ頼まれごとをしているの」
レディ「昔話を、さやかにしてやれ、ってね」
さやか「…え…?」
レディ「退屈な話なら聞かなくていいわ。この封筒だけ受け取ってくれてもいい。ここから逃げ出してもいい。…もし良かったら、そのままベンチに座っていてくれないかしら」
さやか「… … …」
さやかは動かず、俯いたままでいる。まどかはその身体をそっと支えたままだった。
レディ「…昔、あるところにとてもヤンチャなお姫様がいたの。祖国を怪物に滅ぼされ、復讐に燃えるあまりにその怪物を自ら倒しに行った…そんな無茶をした、バカなお姫様よ」
レディ「でもそのお姫様の力じゃあ、とてもその怪物には敵わなかった。…でもね、ある人が、私を助けてくれたの」
レディ「祖国を滅ぼされ、仲間も失い…全てを失った私を、その人は守ると言ってくれた。…何があっても守る、何があっても殺させやしない、って…」
まどか「…それって、レディさんと、コブラさん…?」
レディ「…ふふふ、どうかしら?」
レディ「その人は、全てを…命を賭けて、時間さえも飛び越えて…お姫様を助けてくれたわ。だから、お姫様も…その人に一生ついていくと決めたの」
さやか「… … …」
さやか「素敵な話だね。…でも、知らない人からそんな話を聞いても…あたしは…」
レディ「…そうだと思うわ。私だって不思議だもの。何故こんな話をコブラが私にさせているのか」
レディ「でも…なんとなく…私はね、そのお姫様とさやかさんが似ていると思うの」
さやか「…あたしと…?」
レディ「お姫様とその人との幸せな時間はあったわ。…でも、そう長くは続かなかった。 お姫様はある日、瀕死の重傷を受けてしまったの。…銃撃戦があって、ね」
レディ「お姫様には一つの選択肢があったの。そのまま死ぬか…もしくは、全く別の身体に魂を宿して、新しい人生を送るか」
さやか「…!」
―― 昨日。上条恭介の部屋、コブラと恭介の会話の続き。
コブラ「俺には1人の相棒がいてね。親愛なる最高のパートナーが」
コブラ「そいつは以前、瀕死の重傷を負った。…医者に言われたよ。奇跡は起きない。このまま死ぬのを待つしかない、とね」
恭介「…」
コブラ「一つだけ、彼女が助かる道があった。…まぁ、嘘だと思うかもしれないが聞いてくれ。…全く別の身体に、その相棒の魂だけを移し、生まれ変わる…そんな事が出来たのさ」
恭介「…作り話、ですか?」
コブラ「そう思ってくれて構わないさ。作り話なら、俺もなかなかいい小説家になれそうだろ?」
コブラ「話の続きだ。…だが、俺は相棒がそんな身体になる事は望まなかった。俺はそいつを愛していたし、彼女だってそんな事は望まないと思っていた」
恭介「…」
コブラ「だがかの女は、新しい身体に自分の魂を注ぎ、生まれ変わった」
コブラ「以前のように愛されなくてもいい。ただかの女は、俺と一緒にいる事だけを望んだ。そのためなら、例えその身体が機械の身体になろうとも…ってね」
恭介「…素敵な話ですね」
コブラ「そう思うかい?そりゃ良かった。恭介、アンタと俺は気が合いそうだ」
恭介「気が合う?」
コブラ「そうさ。俺はその時、かの女と共にずっと旅を続けていくと心に誓ったからさ」
コブラ「何を犠牲にしてもいい。どんな事をしてもいい。かの女が俺を愛してくれるのなら、かの女がどんな身体になろうと俺は全てをかの女に捧げようとな」
恭介「… … …」
コブラ「そこに、愛するとかそういう概念はない。俺は相棒に出来る事を全てする。相棒も同じ事を俺にしてくれる。同じ目的を持ち、同じ『道』を進む…。いい関係だろ?」
コブラ「…恭介。アンタのバイオリンには、そういう『道』が築けるのさ。世界中、全ての人にその音色を聞かせてやれるように…なんて道がな」
恭介「…ええ。僕は…たくさんの人に、自分の音色を届けたいと思っています」
コブラ「へっへっへ」
コブラ「だったら、まず…その音色。聞かせてやるべき人がいるはずさ。…『相棒』がね」
恭介「…!」
レディ「お姫様は…新しい身体。おおよそ人間とは言えない、機械の身体に自分の魂を移したわ」
レディ「彼に愛して欲しいとは望まなかった。…ただ、かの女はずっと旅がしたかったの。その人と過ごす時間…その人の進む道を同じように進んでいくのが、何よりも素敵な時間だったから」
さやか「… … …」
レディ「そう思ったのは、彼を信頼していたから。どんな身体になろうとも、約束をずっと守ってくれると信じていたから。私を、ずっと守ってくれるという…ね」
レディ「…ねぇ、さやか。貴方にとっての恭介という人は、どんな人なの?」
さやか「…恭介…」
レディ「貴方は、自分が愛される資格がない…そんな風に考えている。…じゃあ恭介君は、そんな貴方をすぐに見捨ててしまうのかしら」
レディ「貴方が愛した彼は、そんな人?」
さやか「…!」
レディ「…誰かの傍にいたいと思うには、条件があるの。それは、何があってもその人を信じる事。どんな事があっても自分を見捨てない。必ず傍にいてくれる…。自分がそう信じる事が、何よりも大切」
レディ「コブラと、私。…さやかと、恭介。…ふふ、本当に似ていると私は思うわ」
レディ「だから、貴方にお届けものよ」
レディは封筒から一枚の紙を取り出し、さやかの掌の上に置いた。
まどか「…!それって…」
さやか「…!」
紙には、恭介の字が記してあった。リハビリ中でまだ震えた字体であったが、力強く握った黒のインクで、しっかりと書かれてある。
【明日の放課後、僕の家でもう一度コンサートを開かせてください。僕をずっと信じてくれていたさやかに、聞いて欲しい曲があります。 ―― 上条恭介】
さやか「!!!!」
レディ「…こんな素敵なコンサートチケット、世界中どこを探しても見たことないわ。…幸せね、さやかは」
さやかは声にならない泣き声をあげながら、大粒の涙を流した。
まどかも、その身体を支えながら、微笑み、泣いた。
マミ「…!これは…」
マミのソウルジェムが俄かに光って反応を示す。
コブラ「魔女か?」
マミ「そうみたい…近いわ!大変よ、美樹さん!近くで魔女が生まれ… …」
ガサッ。
ソウルジェムの反応に慌てたマミは、思わず近くの茂みから身体を出してしまう。
マミ「… あっ」
さやか「… えっ」まどか「… あっ」
さやか「マミさん!それに…コブラさんも…!」
コブラ「あ、ははは、よぅさやか、まどか。おや、レディもいるのか。奇遇だねー、いや、たまたま通りかかってさ、ホントホント」
マミ「そ、そうなの!偶然通りかかってたまたま2人を見つけちゃって!それで、ええと…べ、別に盗み聞きしてたわけじゃないのよ!本当に!」
さやか「…マミさん、嘘ついてるのバレバレですよ…」
マミ「…あ、あはは…そうね。えーと… …ごめんなさい」
さやか「… ぷっ。あ…アハハハハハッ!マミさん可愛いーっ!」
まどか「ティヒヒ」
コブラ「はっはっはっは!」
マミ「うううう…」
顔を赤くするマミ。照れる顔なんてあまり拝めないもので、さやかもまどかもコブラも、その顔に笑ってしまう。
さやか「…魔女が近いんですね。行きましょう、マミさん、コブラさん。私の戦い方…もう一度、見ていてください!」
ベンチから立ち上がったさやかは、ソウルジェムを手に握りしめ、力強く握りしめた。
まどか「…さやかちゃん、大丈夫なの…?」
さやか「…まどか。もう…心配いらないよ。あたしは一人なんかじゃない。それが…やっと分かったから」
さやか「恭介、マミさん、コブラさんにレディさん…まどか。それにアイツ…佐倉杏子だって。みんな…あたしの事心配してくれてる。だからあたしは、その期待に必ず応える」
さやか「魔法少女さやかちゃんは伊達じゃないってトコ、見せてあげなくちゃね!」
さやかはまどかの方を振り向き、最高の笑顔を見せる。その笑顔に、まどかも安心をしたようだった。
マミ「…それじゃあ、行きましょう!」
レディ「さやか」
さやか「…レディさん。…ありがとうございましたっ」
レディ「どういたしまして。…彼を信じるのよ。そうすれば、きっと彼もそれに応えてくれるのだから」
さやか「…はいっ!!」
さやか、マミ、コブラ、まどかは駆け出し、その場を去る。
ほむら「いいのかしら。先に獲物を見つけたのは貴方よ。佐倉杏子」
杏子「…アイツのやり方じゃ、グリーフシードの穢れが強いからな。獲物は魔女だ。今日は譲ってやるよ」
ほむら「意外ね。貴方が他人にグリーフシードを譲るなんて」
杏子「ふん。…たまにはこういう気まぐれも起きるのさ」
ほむら(…共闘。グリーフシードの奪い合いは時に魔法少女同士の抗争を生み、それが全員の身を滅ぼした時間軸も存在する)
ほむら(佐倉杏子と、美樹さやか…。相性の悪い2人だとは思っていたけれど、この世界では…)
杏子「今日は見学だ。新人の戦い方、見届けてやる」
ほむら「…そうね」
コブラ「こいつは…」
マミ「…鹿目さん、少し下がっていて。…なかなか手ごわそうだわ」
まどか「!は、はいっ!」
現れた『影の魔女』は今まで出会った魔女の中でも巨大な部類であった。本体こそ人間と同サイズの影であるものの、それを取り巻くような無数の木の枝はまるで主を守るように生えている。
刃物のように鋭利な枝の先は、今にも三人に襲い掛かりそうに蠢いていた。
さやか「い、意気込んだのはいいけど、…あの枝はちょっと厄介そうだなぁ…。マミさん、どうしましょう…?」
マミ「そうね… 全部切り取っちゃうってのはどうかしら?」
コブラ「了解。庭師になれそうだぜ」
マミは単発式銃火器を宙に浮かせ、コブラは左腕のサイコガンを抜き、影の魔女に向けて構える。
コブラ「俺達があの盆栽の手入れをしてやる。見栄えが良くなったら本体を倒してくれ、さやか」
さやか「は、はい…!」
まどか「さやかちゃん、気を付けて…!」
さやか「! …うんっ!任しといて!」
マミ「それじゃあ…行くわよっ!!」
踏み込み、影の魔女に近づくマミとコブラ。領域への侵入者に対し、魔女は触手のような枝を次々と振り下ろしていく。
マミ「!!」
マミとコブラは立ち止り、自らに近づいてくる木の枝を次々と撃ち落していく。
目にも止まらない連射、しかも正確な一撃一撃は、次々と触手を撃ち落していく、が…。
コブラ「…!少しまずいな」
マミ「…この枝…っ、再生している…!?」
撃ち落した木の枝は一度は動かなくなるものの、少しの時間ですぐに再生を始めてしまっていた。襲い掛かる木の枝を落とすのが精一杯のマミとコブラは苦戦を強いられた。
コブラ「参ったな、キリがないぜ!」
マミ「くっ…一体どうすれば…!」
さやか「… … …!」
さやか「マミさん、コブラさん!…あたし、行きます!」
コブラ「何…っ!?」
さやか「でやああああああああッ!!」
銀に光る剣を前方に構え、さやかは影の魔女本体に突撃を開始した。それと同時に、木の枝はさやかに反応をし、襲い掛かろうとする。
マミ「!!!美樹さんっ、危ないわ!!」
さやか(このまま捨て身でいけば…皆を守れる!…例え、あたしのソウルジェムが穢れても…!)
さやか(… … …)
さやか(違う!)
さやか(大切なのは… 大切なのは、一歩を踏み出しすぎない、勇気…!一緒に戦おうって、マミさんは言ってくれた!…だから…!)
さやか「コブラさん!マミさん!一度だけ…一瞬だけ、道を作ってください!!…お願いしますッ!!」
マミ「…道…?」
コブラ「…! そうか…よぉし、分かった!マミ、俺らの周りは任せたぜ!」
マミ「え、ええっ!?」
コブラは自分の周囲の触手への攻撃を止め、影の魔女本体に向けてサイコガンを構える。自らの精神力をサイコガンに貯め、狙いを定めた。
コブラ「いくぞォォォーーーーーッ!!!」
大砲のようなサイコガンの一撃。影の魔女本体に向かっていく光は、周りを囲む木の枝を次々と消滅させていく。…それと同時に。
さやか「はああああーーーーーッ!!!」
コブラの作った『道』。触手が再生をする前にさやかはその残骸を踏み越え、影の魔女本体に向けて駆けていく。
そして眼前に現れたのは守るものを失った、影の魔女本体だった。
さやか「くらええええッ!!」
魔女本体に突き刺される剣。魔法で高められた攻撃は、一撃で魔女を葬り、消滅させた。
さやか「…あたしね、分かったんだ。…あたしが、何をしたかったのか」
まどか「…」
月夜が差し込む、ビルの屋上。夜風にあたりながら、さやかとまどかは空を見上げながら会話をしていた。
さやか「あたしが望んでいたのは…恭介の演奏をもう一度聞きたかった…それだけだったんだ」
さやか「あのバイオリンを…もっとたくさんの人に聞いて欲しかった。それで…恭介に、笑って欲しかったんだ。自分の演奏で、人を笑顔に出来るように…恭介自身も」
まどか「…さやかちゃん…」
さやか「…ちょっと悔しいけどさ、仁美じゃ仕方ないよ。あはは、恭介には勿体無いくらい良い子だしさ。きっと幸せになれる」
さやか「それに…あたしには使命がある。…まどかを、マミさんを…見滝原に住む皆を守るっていう、魔法少女の使命がね!」
まどか「でも…さやかちゃんは、恭介くんの事を…」
さやか「明日のアイツの演奏聞いたら…言ってやるんだ。アンタの事お慕いしてる子がいるって。…このさやかちゃんが、恋のキューピッドになってやろうっての!」
さやか「…それがどんな結果になろうと、後悔なんてしない。恭介にも、仁美にも…嘘をついて、生きていて欲しくなんかない」
さやか「皆…あたしの大切な人なんだ。あたしは、その大切な人たちにずっと笑っていてほしい。…だから、あたしも頑張れるんだ」
まどか「… … …」
さやか「まどか。勿論…アンタにも、ね!」
まどか「… うんっ!」
翌日の放課後、恭介の部屋。
恭介「… さやか。有難う、来てくれて」
さやか「… ううん。あたしも…ありがとう」
恭介「それじゃあ…聞いてくれるかな。…僕の、バイオリン」
さやか「… うん!」
上条家から、静かに『アヴェ・マリア』が流れる。まだ完璧な演奏とは言い難い。しかしそれは、世界中のどんな演奏より人を感動させられるような弦の音色であった。
その演奏を、外から聞いている仁美。
仁美「… … …」
仁美(…いい曲。とても静かで、力強くて…)
仁美(…私、諦めません)
仁美(でも、今は… もう少しだけ… この演奏を聴いていたいって、そう感じますの)
仁美(この音色を奏でさせられるのは… さやかさん、今は、貴方しかいないのですから…)
夕日が美しく差し込む、見滝原市。
その日はまるで、街全体を、一つの旋律が包み込んでいるかのようであった。
ほむら(… … …)
ほむら「ワルプルギスの夜まで…一週間」
ほむら(まどか…必ず貴方を、守ってみせる。…この時間軸で、全てを終わらせてみせる)
ほむら「…いよいよ…夜を迎えるのね」
ほむら(…巴マミ。美樹さやか。佐倉杏子。…コブラ。…そして、私)
ほむら(…終止符を打つ、必ず…!)
―― 次回予告 ――
さやかが一人前の魔法少女になれてさあこれからだって矢先に、暁美ほむらがとんでもない事を言い始めた!
なんでもあと何日かしたら超巨大な「ワルプルギスの夜」とか言う恐ろしい魔女が見滝原に出てくるんだとさ。かの女はそいつを倒すために、何度も時間を繰り返してきたって話だ。
か弱い女の子にそんな重荷を背負わせちゃいけないよな。俺達はワルプルギスの夜を倒すための作戦を練る事にした。
しかしそんな時、俺にビッグニュースが飛び込んできちまう!なんとレディが、元の世界に戻る方法を見つけちまったんだと!
どうすりゃいいのよ俺ぇー。
次回【夜を超える為に】で、また会おう!
コブラ「…それで、俺に何の用なんだい?」
夕日の差し込むビルの屋上。目を閉じ、微笑みながら葉巻をくわえたコブラと、それをじっと見つめる少女…暁美ほむら。
コブラ「お前さんから呼び出しなんて随分珍しいじゃないか。しかも、俺だけ。 好意は嬉しいがね、あと数年経ってから考えさせてもらうよ」
ほむら「… … …」
ほむら「『ワルプルギスの夜』が来るわ」
コブラ「… 何だって?」
ほむら「今までの魔女とは比べものにならない、超大型の魔女…。放っておけば、数時間…いいえ、数分でこの見滝原を滅ぼしてしまい…最悪の場合、更に広がるわ」
ほむら「規模は未知数。被害は地球全体に及ぶなんて話になっても、おかしくはない」
コブラ「…そんなものが来るって、どうして分かる?」
ほむら「…私には、もう一つ能力があるの」
ほむら「いいえ、正確には、私の能力は応用に過ぎない。…私の本当の力は、『時を操る事』。そして、それは…過去さえも操れる」
コブラ「…! ほむら、ひょっとしてお前さんは…まさか…」
ほむら「…ええ、何度も…数えるのも諦めるくらい、見てきているわ」
ほむら「この世界が滅びていく、その様を」
風が、一段と強く2人を吹き抜けていった、そんな気がした。
第7話「夜を超える為に」
さやか「…やっぱりここにいたんだ」
杏子「! …アンタ、どうして…」
以前会話をした、廃教会。そこへ足を運んださやかは、予想通り杏子と出会う事が出来た。
さやか「コレ、あんたに渡そうと思ってさ」
さやかは手に持っていた紙袋からリンゴを一つ取り出し、杏子に向けて投げた。それを受け取った杏子は、きょとんとした顔でさやかを見ている。
さやか「…この前は、ごめん。あたしの事、アンタなりに心配してくれたのに…嫌な事言っちゃって」
杏子「… … …」
さやか「だから、謝りに来た。…それで…改めて言うのもおかしい話だけど…これからも、その…あたしと仲よくしてほしいなぁ…なんて」
さやかは杏子の顔色を横目で伺いながら、恥ずかしそうに頬を?いた。
杏子「…アンタさぁ」
杏子「よくそんな台詞言えるよな。…聞いてるこっちが恥ずかしくなるよ」
さやか「べっ、別になんだっていいでしょ!!…あたしだって、コレでも頑張って謝りにきてるんだから…!」
さやか「…あんたと…その… 仲悪いまま、終わりたくないし…」
杏子「…かぁー。ホントに、呆れるくらい馬鹿正直なんだねアンタって」
さやか「そ、それはあんただって一緒でしょっ!?…ほら。こっちだって恥ずかしいんだからさ…」
そう言って、さやかはゆっくりと右手を杏子に向けて差し出した。
杏子「…分かったよ」
杏子はぷいとそっぽを向きながらも、さやかの差し出された右手に、自らの右手を重ねた。
コブラ「…時間を何度も繰り返し、そのワルプルギスの夜とやらと何度も戦って…それでも負け続けて、今に至る、ねぇ」
ほむら「信じてもらえるとは思っていないわ」
コブラ「信じるさ。俺も昔、同じような事をした」
ほむら「…?」
コブラ「それで、何で俺を呼び出したんだ?仮にそいつが現れるとしてそのバカデカい魔女を口説き落としてくれ、なんて話じゃないだろ?」
ほむら「…」
ほむら「貴方は、幾度となく私達を救っている」
ほむら「魔女の撃退、巴マミの救出、美樹さやかのソウルジェム奪還…貴方のしている行動の全ては、魔法少女達にとってプラスへと働いているわ」
ほむら「答えて。…何が目的なの?」
コブラ「そうだなぁ。目の前でか弱い女の子達が困っていたから、かな」
ほむら「分からないわ。単なる人助けでこんな事をしているとでも言うの」
コブラ「…信じられないかい?」
ほむら「ええ、私には理解し難い事だわ」
コブラ「勿論、俺は元の、俺のいるべき世界に戻ろうとしている。そのためにアンタら魔法少女にくっついて行動しているのも目的の一つさ」
コブラ「ただね、趣味なのさ」
ほむら「…趣味?」
コブラ「困っている女の子の顔を、安心させてやるのがさ」
ほむら「…つくづく分からないわ、貴方の事が」
コブラ「よく言われるよ」
ほむら「…」
ほむら「過去…どの時間軸でも、私は失敗を積み重ねている。時にはワルプルギスの夜に負け、時には…魔法少女同士で殺し合う、そんな世界も存在したわ」
コブラ「物騒だねぇ。何があったんだ」
ほむら「魔法少女の正体に気付いてしまったからよ」
コブラ「…ソウルジェムの穢れ、か」
ほむら「気付いていたのね」
コブラ「アンタに黙っていて申し訳なかったな。相棒にちょいとグリーフシードの成分を分析してもらってね。…それで、分かったのさ」
コブラ「…ソウルジェムの『穢れ』。アレが、魔女の正体だ。つまり魔法少女と魔女は、表裏一体の存在って事…違うかい?」
ほむら「…ええ、そうよ」
ほむら「そして、その正体に気付いた魔法少女達は自分たちこそ災厄の元凶だと気づき、互いを殺し合った」
ほむら「…ある意味、正しい行動だったのかもしれないわ。キュウべぇに利用されたままの自分達を、消せたのだから」
ほむら「…そうでしょ?…インキュベーター」
ほむらがそう言った瞬間、物陰からひょっこり現れるキュウべぇ。
コブラ「黒幕さんのお出ましか」
QB「…」
QB「驚いたね。遠い未来世界から来たイレギュラー…『コブラ』、そして時間を繰り返し戦ってきた魔法少女…『暁美ほむら』」
QB「僕の知り得ない人間が2人も関わっていたのは、本当に驚きだ。奇跡以外の何物でもないのかもしれないね」
コブラ「インキュベーター…ね。俺の疑問がようやく解けたぜ」
コブラ「アンタは少なくとも地球生物で無い事は分かっていた。しかしこの世界には、星間交流の概念がない。何故宇宙生物が魔法少女と呼ばれる存在の周りをウロチョロしているのかがようやく分かったぜ」
QB「本当に驚きだよ。君はこの星…いいや、宇宙がどんな運命を辿っていくのかを知っているわけだ、コブラ」
コブラ「興味があるかい」
QB「そうだね。僕達の目的は『宇宙の寿命』を伸ばす事にあるわけだから。僕達の行動がどんな素晴らしい結果を生んでいるのかを知りたいのが本音さ」
コブラ「宇宙の寿命…?」
ほむら「…この地球外生命体の目的は、一つ。魔法少女を魔女化する時に発生するエネルギーを、回収する事」
コブラ「はっ、そんな事をしてどうなるって言うんだ?売り払って通信販売でも始めるのか」
QB「宇宙には、エネルギーが存在するんだよ。そしてそのエネルギーは、どんどん減少を続けていくのを知っているかい」
コブラ「さあね。朝食を食べてないからじゃないかな」
QB「宇宙全体は、僕達インキュベーターによって支えられているんだよ。僕達がエネルギーを回収し、供給を続けているからこそ宇宙は現状を保っていられているんだ」
QB「そしてそのエネルギーの、最も効率のいい回収方法は」
QB「魔法少女が、魔女に変わる瞬間。その瞬間のエネルギーの回収が最も効果的に、宇宙の寿命を延ばす事に繋がるのさ」
コブラ「どの世界にも、狂信者ってヤツはいるもんだな」
QB「信仰じゃない、事実だよ。コブラ、君達のいる未来でも僕達の存在は知られていないのかい」
コブラ「さあてなぁ。お宅らみたいな連中はごまんといるからね。特に熱心な宗教家ほど目立っちまうからな。埋もれちまったんじゃないかい」
QB「僕達は、地球が誕生する遥か以前から人間の有史に関係してきた」
QB「数えきれないほど多くの少女…とりわけ、第二次成長期にあたる少女達と契約を交わし、希望を叶えてきたのさ」
ほむら「…そして、それを絶望へと変えて、エネルギーを回収していく。祈りを呪いに変えて」
QB「酷い言い方だね」
ほむら「人を食い物にしてきた貴方に、否定をする権利なんてないわ」
QB「ワケがわからないよ。僕達が宇宙を永らえさせてきたからこそ、君達人類全体の歴史があるんだ。一部の人間の消滅が全体を救っている事に、何の問題があるんだい」
QB「むしろ感謝されて然るべき話さ。僕達がいなければ、ほむらだってこの世界にはいない。コブラのいた未来だって、存在しないんだよ」
QB「それに僕達は、侵略という形でエネルギーを回収したりなんていう野蛮な真似はしていない。少女達の願いを叶えて、その代償を払ってもらっているだけさ。『契約』という形でね」
QB「そこに、何の問題があるんだい」
コブラ「…確かに、それなら何の問題もないな」
ほむら「…!?」
コブラ「だが、それならはっきりと俺達は選択肢が与えられているはずだ。…おたくら異星人と契約して宇宙のために戦うか、否かのな」
QB「コブラ。君は宇宙が滅んでもいいと言うのかい」
コブラ「さてね。だが、宇宙が滅びようとするのだと言うのなら、そいつも宇宙の一つの選択ってヤツじゃないか。インキュベーターってやつぁ、契約を元に宇宙の寿命を延ばそうとしているんだろ?」
コブラ「それなら元来、かの女達が何をしようが自由の筈さ。魔法少女になって契約した少女が何をしようと勝手…その筈だ」
QB「…」
コブラ「かの女達は希望を抱き、絶望はしない。街を襲う魔女から人々を守り、立派にその使命を全うしていく…それで十分だ。宇宙の寿命を延ばすために人柱になれ、なんて契約はしていないはずだぜ」
ほむら「…ええ、確かにそうね」
QB「甘い考えだね。それで魔女は倒せても、ワルプルギスの夜が倒せるとでも思っているのかい」
コブラ「さあてなぁ。やってみなきゃ分からないさ」
QB「僕は少なくともその前例は見ていないからね。希望が絶望に変わらなかった魔法少女は、存在しない。だからこそ僕達インキュベーターはそのエネルギーを宇宙に安定的に供給してきたのだから」
ほむら「っ…」
コブラ「前例がなけりゃ、作ればいいだけだ。そう難しい事じゃない」
コブラ「俺が…いいや、俺達がやってみせる。ワルプルギスの夜を、超えてやるさ」
コブラはそう言いながらにぃと微笑み、ビルの屋上を後にするのだった。
QB「暁美ほむら、君はどう思うんだい」
QB「『鹿目まどか』という魔法少女の存在なくして夜を超えられた時間軸が、存在したのかい」
ほむら「… … …」
QB「無いだろうね。それだけまどかの魔力は絶大だ。どんな巨大な魔女であろうと、魔法少女化した彼女に敵う敵など存在しない」
QB「逆に言えば、まどかが魔法少女にならなければ、ワルプルギスの夜には勝てない。君がまどかを魔法少女にしたがらない事と、君が時間を幾度も繰り返しているのがその証明になっている」
QB「君はどうするんだい?ほむら」
ほむら「私は、まどかを守る力を欲し、魔法少女の契約を交わした」
ほむら「だから、彼女を魔法少女にせず、ワルプルギスを倒すまで…絶対に諦めるつもりはない」
QB「分からないね。そんな方法を今まで見つけてもいないから、君が今この時間に存在するのだろう?」
ほむら「貴方達インキュベーターの目的は分かっているわ。…まどかが魔法少女になれば、同時に最悪の魔女を生む事になる」
ほむら「今まで、魔女にならなかった魔法少女はいないと言ったわね」
ほむら「狙いは一つ。まどかの膨大な魔力。魔女化に発生する莫大なエントロピーの発生が目的で、あなたはまどかに付きまとっている」
QB「だからどうしたというんだい?」
ほむら「貴方の思い通りにはさせない。私は絶対に…まどかを魔法少女に、させない」
QB「ほむらは、それでワルプルギスの夜を倒せるとでも思っているのかい?」
ほむら「…さっき、コブラにも言われた筈よ」
ほむら「前例がなければ、作ればいいだけの事」
ほむら「この時間軸で私は、それを作ってみせる」
キュウべぇに背を向け、階段を降りながらほむらは考えていた。
ほむら(…他人をアテにしない。それが何度も時間を重ねた結果の教訓だというのに)
ほむら(この時間でも、私は他人を頼りにしようとしている。…巴マミに、佐倉杏子に、美樹さやか…)
ほむら(…コブラ)
ほむら(まどかを、魔法少女にさせない。…でもそうしないと、ワルプルギスの夜は倒せない。…それが、絶対に崩せない公式だった)
ほむら(私に残された時間も、長くはないのかもしれないわ。…私の希望が、絶望に変わってしまうその前に、手を打たないと)
ほむら(…夜が来るまで、あと数日しかない)
ほむら(それなら、この時間軸で私の取るべき行動は一つしかない)
ほむら(賭ける事。それが私の…答え)
ほむら(持てる力を全て使って…ワルプルギスを、倒すという事)
その後、夜。
人目が無くなったのを見てコブラはレディと近くの小さな林の中で落ち合う。
茂みに隠れたタートル号から出てきたレディは、手に湯気の立つコーヒーカップを持っていた。
レディ「はい、コブラ。コーヒーよ」
コブラ「おー、ありがとよレディ。やっぱ相棒と過ごす時間っていうのが一番落ち着くねェ」
レディ「あら、そうかしら。巴マミの家も随分と気に入っているようだけれど?」
コブラ「あちゃー、ははは。それは言わないお約束」
レディの淹れたコーヒーを啜りながら、ぼんやりと月を眺めたままのコブラ。少し間を置いて、レディがゆっくりと語りかける。
レディ「…ねぇ、コブラ。ニュースがあるの。…良いものか悪いものかは分からないけれど」
コブラ「?」
レディ「…」
レディ「今なら、元の世界に戻れるわ」
コブラ「なんだって…!?どういう事だ?」
レディ「クリスタルボーイの宇宙船が、ブラックホールを生成し、元の世界に戻ったわよね。…あの重力場が、僅かに検知できたの」
コブラ「するってぇと…タートル号でそいつを追跡できるってのか?」
レディ「…ええ。以前、エンジニア達にタートル号に異次元潜航能力を取り付けてもらったわよね。今まではここが『どの世界』で『どの次元を辿って』元の世界に戻ればいいか分からなかったからそれが役に立たなかったのだけれど」
レディ「今なら座標が確定できる。クリスタルボーイの船の軌跡を辿っていけば、元の世界に戻れるわ」
コブラ「そいつは有難いな。あのガラス細工、いい土産を置いていってくれたじゃないの。あとでハグしてやらないとな」
コブラ「…だが、そう簡単な話じゃないんだろう?その調子じゃ」
レディ「…ええ、その通りよ」
レディ「ブラックホールの重力場の検知量はどんどん小さくなっていくわ。そのうち、完全に消滅する。そうなるともう…元の世界に戻る経路が再び見つからなくなってしまう」
コブラ「そいつはどのくらいもちそうなんだ?」
レディ「… … …」
レディ「明日には、完全に消滅してしまうでしょうね」
コブラ「…神様ってやつは随分と意地が悪いんだな。嫌われちまうぜ」
…林の中。
コブラがビルから出てきたのを見つけ、その後をずっと付いてきた人影が一つ、あった。
まどか「… … …」
まどかは急いで林の中を抜け出そうと駆け出すのであった。
――― 後日。
さやか「…ここが、あの転校生の家?」
マミ「ええ、ここがそうみたいね」
杏子「呼び出しなんて随分な心変わりじゃねーか。なんだってんだよ」
ガチャ。
アパートの一室のドアが開き、その部屋から暁美ほむらが顔を出した。
ほむら「…入ってちょうだい」
それだけ言って、ほむらは部屋の中へと戻っていく。
杏子「…」
さやか「…ねぇ、マミさん。入っていいのかな。あいつの事…信用して」
マミ「…信じてみましょう。だって暁美さんが今まであんな顔で私達に『相談したい事があるから私の家で』なんて言ってくれたの、はじめてだもの」
マミ「逆に、信頼していいと思うわ。今まで心を開いてくれなかった暁美さんがようやく私達の方に歩み寄ってくれたのだから」
さやか「…それもそう、か。何事も前向きに考えなきゃいけませんね、うん」
杏子「ま、完全に信用しきったワケじゃねーけどな。…それじゃ、入るか」
杏子はアイス最中を一齧りすると、先陣をきって部屋の中へ入っていった。
杏子「これは…」
さやか「な、なんなの…コレ…!?」
暁美ほむらの部屋の中は、貼りだされた写真や資料で埋め尽くされていた。
マミ「…これが、貴方の言っていた…いいえ、隠していた事なのね、暁美さん」
ほむら「ええ、そうよ」
ほむら「これが、『ワルプルギスの夜』。単独の魔法少女では対処できないほど巨大な魔女」
ほむら「こいつが…あと数日で、この街に現れる」
マミ「…キュウべぇから、噂だけは聞いた事があるわ。数十年…数百年に一度現れる魔女。強大で凶悪、一度具現化すれば数千人を巻き込む大災害が起きる…と」
さやか「そ、そんな魔女が…見滝原に現れるっていうの?」
ほむら「ええ、そうよ」
杏子「…なるほどな。なかなか面白そうな話じゃねーか。ただ分からない事があるんだけどな」
杏子は貼りだされた写真の数々を興味深そうに眺めながらも、ほむらに質問をした。
杏子「なんでアンタは、そんな魔女が現れるって事が分かるんだい?」
ほむら「… … …」
ほむらは一呼吸置いて、意を決したように話した。
ほむら「私が、未来から来たからよ」
マミ「…未来…から…?」
杏子「…」
さやか「…は、はは…冗談よしてよ」
ほむら「…本当よ」
ほむら「私の魔法少女としての能力。それは『時間を操る事』。そして私は、このワルプルギスの夜を倒すために幾度も時間を繰り返してきた」
ほむら「何度も繰り返して…そして、敗れては、時間を巻き戻した。いいえ、『巻き戻している』。それが私の現状よ」
杏子「…仮にアンタの話を信じるとしてもだ。アタシ達が、『ワルプルギスの夜』に何回も負けて、死んでるって事かい?」
ほむら「…そうね。何度も負け…いいえ、下手をすれば、ワルプルギスの夜を迎える前に、貴方達が死んでしまったという例もある」
ほむら「希望が、絶望に変わってしまった時に」
マミ「どういう…事…?」
ほむら「…キュウべぇから言われていなかった事実は、2つあるわ。1つは、私達魔法少女の魂は契約をした段階でソウルジェムに移されてしまったという事」
ほむら「そして、もう1つ」
ほむら「魔法少女は…ソウルジェムの穢れを拭っていかないと、魔女として生まれ変わってしまう」
マミ・さやか・杏子「!!!」
杏子「馬鹿な、そんな話…!」
ほむら「ええ、聞いていないでしょうね。あいつらインキュベーターにとって、コレを貴方達が契約前に知る事は都合が悪いことだから」
さやか「それじゃあ、あたし達が今まで倒してきたのは… …」
ほむら「…元、魔法少女。…でも、仕方のない事なの。そうしなければ、私達もああなってしまうのだから」
さやか「そ、んな…!」
マミ・杏子「… … …」
沈黙。
崩れ、膝をつくさやか。歯を噛みしめる杏子。…しかしマミは、ぐっと拳を握りしめて涙を流すのを堪えるのだった。
マミ「…暁美さん、教えて。…何故、それを私達に教えてくれるの…?」
ほむら「それは…私が貴方達に隠しておきたくなかったから」
ほむら「…かつて、過去で『仲間』だった貴方達。…巴マミ、佐倉杏子、美樹さやか…」
ほむら(…そして、鹿目まどか)
ほむら「貴方達ともう一度…仲間として戦いたかったから。…だから、嘘や隠し事はしないと、決心したのよ」
マミ「… … …」
ほむら「私の話を信じないのなら、それでいいわ。…元々私は一人で戦うつもり―――」
マミ「信じるわ」
ほむら「…!」
ほむらが諦めたように話し始めた時、マミはその声を遮るように強く言った。
マミ「…続けて。魔法少女の事、貴方の過去の事…そして、ワルプルギスの夜の事を」
コブラ「随分とデカい魔女だな!こいつは倒し甲斐があるぜ!」
エアーバイクに乗って空中を駆けるコブラ。幾重にも張り巡らせた洗濯ロープのような糸には、セーラー服が干してある。
そしてそのロープの先には、巨大な六本足の首の無い、異形の魔女がいた。
魔女は自身の周りを旋回するコブラに向けて次々と使い魔を放つ。スカートから出てくる使い魔もまた、下半身だけの異形。その脚には鋭利な刃物のようなスケート靴が履かれていた。
コブラ「へっ!あいにく俺は足だけの女に興味はないんだよッ!!」
右手はエアーバイクのハンドルをしっかり握り、左手のサイコガンを抜いてコブラは次々と使い魔を撃ち抜いていく。
だが、その数は膨大でこちらの攻撃をする余裕はあまりなかった。敵が巨大であるゆえ、チャージをしないサイコガンの射撃ではあまりダメージがないようであった。
コブラ「ちっ…!この…!」
コブラは一度体勢を立て直すため、『委員長の魔女』から離れる。
その様子を、黙って見つめるまどか。結界の中に入れたのは、他でもないキュウべぇであった。
QB「少し苦戦をしているみたいだね。まどか、どうするんだい?」
まどか「… … …」
QB「君が魔法少女になればすぐにでも彼を助ける事ができるよ」
まどか「…もう少しだけ、見てる」
まどか「見ていたいの。コブラさんが、魔女と戦っているところを」
QB「…」
観客がいる事には気づいていたが、あえて黙って闘っていたコブラ。
横目でまどかの方を見ると、にぃと笑って軽くウインクをした。
まどか「…!」
コブラはエアーバイクのアクセルを吹かし、突撃をする体勢をとる。
コブラ「行くぞぉ、生足の化け物!!」
コブラ「いやっほォォォーーーーッッ!!」
フルスロットルで飛び出したエアーバイクとコブラ。魔女は当然のように使い魔を次々とコブラに向けて発射していく。
だがコブラは正確にその攻撃を避け、魔女本体へと近づいていった。やがて委員長の魔女はコブラの目と鼻の先まで距離が縮まり…。
コブラ「くらえーーーッッッ!!」
ドォォォォォ―――――――ッッッ!!!
サイコガンの巨大な砲撃が魔女をつつむように焼き、消滅させる。その爆発にエアーバイクとコブラも飲み込まれてしまう。
まどか「!コブラさんっ…!」
しかし次の瞬間、爆風の中から脱出するエアーバイク。
まどかの元へ戻っていくコブラの右手の中には、しっかりとグリーフシードが握られていた。
――― 同時刻、再び、暁美ほむらの部屋。
ほむらは、全てを話し終えた。
魔法少女の希望が、絶望に変わったその時、魔女へと生まれ変わる事。それは、思ったよりずっと容易く起きてしまうという事。
そして、それが過去、凄惨な魔法少女同士の殺し合いすら生んでしまったという事。
さやか「…やっぱり、信じらんないな…。…あたしも、魔女になった事がある、だなんて…」
杏子「… … …」
さやか「ねぇ、転校生。…あんたは、魔女になったあたしを…殺したの?」
ほむら「…ええ」
さやか「あはは…だろうね。あたしだって…逆の立場だったら、そうするしかないもん」
ほむら「…結局、私達はワルプルギスの夜を迎える前に共倒れをしてしまう事が多かった…。それほど、希望が絶望に変わるのは容易い事だから」
ほむら「キュウべぇ…いいえ、インキュベーターは、だからこそ人間を食い物にしているの。脆く、儚い存在だからこそ」
ほむら「魔女が、見滝原を滅ぼそうが奴らには関係ない。目的は、私達が魔女化する時に発生するエントロピーの回収。…それだけなのよ」
杏子「…アンタの話してる事を全部信じるわけじゃねーけどよ。…そいつが本当だったらとんでもねー話だな。それじゃ、アタシ達はあいつに化け物にされたのと同じじゃねぇか」
杏子「忌々しくて…反吐が出そうだ」
杏子はチョコ菓子を噛み切ると、憎らしげに自身のソウルジェムを見つめ、握りしめる。
さやか「…それで、あんたはどうしたいの?…あたしたちに、こんな話をしてさ…」
座り込んださやかは、力無くほむらに語りかける。…その瞳は、既に絶望に淀んでいるようにも思えた。
さやか「あんたの話なんか信じたくもないけど…でも…嘘をついてるとも、思えないよ…。…どうしてだろ。…ねぇ、どうすればいいの?こんな化け物にさ」
ほむら(…やはり、無理だったの…?)
ほむら「…共に、戦って欲しい」
マミ・杏子・さやか「… … …」
ほむら「鹿目まどか…彼女が魔法少女になれば、ワルプルギスの夜を倒すのは容易い。でも…それは同時に、最悪の魔女を生む事にもなる。ワルプルギスの夜以上の」
ほむら(何よりも…まどかを失いたくないから)
ほむら「だから、まどかの力なくしてヤツを倒さなければいけないの。巴マミ、佐倉杏子、美樹さやか…そして私。…あと…」
マミ「…コブラさん、ね」
ほむら「…ええ。その五人で、ワルプルギスを倒す」
ほむら「あと数日でヤツは見滝原に現れる。…だから、協力をしてほしいの。全員でヤツを倒す…その協力を」
しかし、他の三人は黙ったままであった。
杏子「…その、ワルプルギスの夜を倒したとして…その後は、どうなるんだ?」
ほむら「…」
杏子「きっといつかはアタシ達は、絶望しちまうんだろ?…そして、化け物になって、死んでいく…。それならいっそ、ここで…」
ほむら「…それも、選択肢の一つだと、思うわ」
ほむらは、三人に見えないように後ろ手で拳をぎゅっと握りしめるのだった。
ほむら(私が、馬鹿だった…)
ほむら(佐倉杏子が言っている事の方が理にかなっている。夜を超えられても、いつか私達は絶望を迎え、魔女化してしまう)
ほむら(…結局、いつ死んでも…変わりはないのだから。…愚かなのは、それでも『仲間』を求めている、私の方…)
しかし、その時、マミは顔を上げて強い口調で言った。
マミ「…いいえ、それは違うわ」
ほむら「…!」
マミ「確かに…佐倉さんの言っている通り、魔女になる前に自分でピリオドを打つ方が正しい判断かもしれない」
マミ「…でも、それでも…私達の行動に、変わりはない筈よ」
マミ「街の平和を脅かす魔女を倒す、魔法少女であり続ければ…絶望なんて、しない。それは今までずっと続けてきた事だわ…!」
さやか・杏子「…!」
マミ「…私のこの命は、消えていてもおかしくはなかったの。いつ死んでも後悔はしない。…そう決めていた。だからせめて…ギリギリまで粘ってみたいの」
マミ「私はもっと生きていたい。もっと…鹿目さんや、コブラさん…佐倉さんや美樹さんと楽しい時間を過ごしていたい。…もちろん、暁美さんとも、ね」
マミ「だから私は…ワルプルギスの夜を超えてみせるわ」
マミ「何があっても…ね」
そう言って、ほむらに向けてにっこり微笑む。
ほむら「…!…マミ、さん…」
マミ「…ふふ」
マミ「やっと名前で呼んでくれたわね」
さやか「…マミさん…」
マミ「美樹さん…貴方だって、その筈よ」
マミ「貴方は、上条君の演奏を、もっと聞きたい…そう願っていたのでしょう?あの演奏をもっとたくさんの人に届けてあげたい、って…」
さやか「…!!」
マミ「私達は、ここで倒れてはいけない。…私達の命を、繋いでくれた人がいる。だから…それを無駄にしてはいけないの」
マミ「美樹さん…レディさんに貰った、上条君のチケット…決して無駄にしてはいけないわ。…私は、そう思うの」
さやか「…恭介…」
さやかは唇を噛みしめ、瞳を閉じてしばし沈黙する。
そして、すっくと立ち上がった。
その瞳には絶望ではなく、希望の笑顔が浮かんでいる。
さやか「…あっはは!…なんか、バカみたいだね。今までやってきた事となんにも変わらないのに、こんなに悩んでさ…!」
杏子「…!お前…」
さやか「あたしは…見滝原を守る、正義の魔法少女、さやかちゃん!…すっかり忘れてたよ。それだけ守ってれば、何も悩む事なんてなかったのに」
マミ「…美樹さん…」
さやか「…転校生。いや、ほむら!…やったろうじゃん!一緒に、戦おう!」
さやかは笑顔、だが強い目でほむらを見つめ、すっと右手を差し出した。
ほむら「…ええ、お願いするわ」
ほむらは嬉しそうに瞳を閉じ、その右手に自分の右手を重ねた。
杏子「… … …」
マミ「…佐倉さん、貴方は…」
杏子「アタシは今まで、自分のためだけに生きてきた。だから、今更アンタ達に協力しようなんて気はさらさらないね」
さやか「ばっ…あんた、ここまできて何言って…!」
杏子「うっせーなー。…めんどくさいんだよ、仲間とか、協力とか…めんどくさいんだよ」
ほむら「… … …」
杏子「…だけど」
マミ・さやか「!」
杏子「ワルプルギスの夜を一人じゃ倒せないっつーのも事実みたいだな。だから…今回だけ、付き合ってやるよ。その…一緒に、ってやつに…さ」
さやか「…アンタ…」
さやか「どこまで素直じゃないのよ…こっちまで恥ずかしくなるでしょ」
杏子「うるせーっ!!おめーに言われたくねーよこの色ボケ!!」
さやか「!い、色ボケはないでしょっ!!このお菓子女!!」
杏子「んだとー!!」
マミ「…と、とりあえず…皆、協力してくれるみたいね…」
ほむら「…ええ」
マミ「あ…暁美さん。…今の笑った顔、とても素敵ね」
ほむら「…」
ほむらは少し照れながらも、微笑んでいた。
ほむら(…そう、そうなのね…)
ほむら(この時間軸では…巴マミは魔女に食い殺されていて…美樹さやかは魔女になっていた筈…)
ほむら(でも…それを。その絶望を、全て逆に希望に変えてくれた人がいた)
ほむら(…コブラ)
ほむら(魔女に喰い殺されそうだったマミを助けてくれて…さやかの上条恭介への絶望すら拭ってくれた)
ほむら(わけの分からないガラス人形からソウルジェムを奪い返してくれて…敵対していた佐倉杏子すら、こちらに歩み寄ってくれた)
ほむら(そして、こうして今、夜を迎えようとしている…)
ほむら(…まどか)
ほむら(この時間で…貴方を助けられるかもしれない。…ようやく、貴方と朝を迎えられるかもしれない)
ほむら(まどか、待っていて…!…私が必ず、貴方を助けてみせる…!)
――― 夜。結界の解けた工業地帯のような場所で、コブラとまどかは座り込んでいた。
まどか「…教えてください、コブラさん」
まどか「なんで…なんで、魔女を倒してくれるんですか。…なんで、元の世界に戻らないんですか」
コブラ「…知っていたのかい」
まどか「…ごめんなさい、あの…。…でも、言わずにはいられなくって…」
まどか「コブラさん、元の世界に戻れるのに…なんで、まだここにいるのか…分からなくって…!だって、だって…!皆をずっと助けてくれてるのに…っ…コブラさんは…っ!」
まどか「もうちょっとで元の世界に戻れなくなるって、レディさん言ってたのに…!魔女と戦ってるってキュウべぇに言われて、わたし、我慢できなくて…っ…!何もできない私が、悔しくて…っ!!」
泣きそうになるまどかの頭に、コブラは優しく手を乗せる。
コブラ「なぁ、まどか。例えば…」
コブラ「例えば、お前さんの目の前に、子猫が一匹いる」
コブラ「その猫が、車に轢かれそうになったら、まどかはどうする?」
まどか「…!」
コブラ「お前さんの性格じゃあ、放っておけないだろ?…俺だって同じさ」
コブラ「誰かを助けたり、救ったりするのに理由はいらない。赤の他人だろうが何だろうが関係ない。…自分自身の願いだけが、自分を動かせる」
コブラ「俺ぁな、女の子が泣いたり悲しんだりするのがこの宇宙で一番苦手なんだぜ」
コブラ「例えここが違う世界だろうがなんだろうが…そこに俺が助けたいと思う人がいるのなら、力になるのが俺の趣味なんだ」
コブラ「いい趣味だろ?」
まどか「…コブラさん…!」
コブラ「さ、行こうぜ。…今日はちょいと、お呼ばれをしているんでね」
まどか「…誰に、ですか?」
コブラ「決まってるだろ?」
コブラ「街を救う、魔法少女達さ」
・
タートル号のレーダーから、クリスタルボーイの宇宙船の航路の反応が完全に途絶えた。
しかし、それを見てもレディは何も言わず、ただ心の中で静かに微笑むだけだった。
―― 次回予告 ――
いよいよ明日がワルプルギスの夜の決戦!俺達としても結束を固めておかなきゃいけないな。しっかり頼むぜ、皆。
っと、その前に話をしなきゃいけないヤツがいたな。インキュベーターの野郎さ。あいつに説教しておかなきゃ、俺の腹の虫が治まらないぜ。
そして…まどかに、ほむら。いよいよ全てを話さなきゃいけないぜ。全ての謎を解き明かし、俺達は最強の魔女に立ち向かう事になる。
次回のCOBRA×魔法少女まどか☆マギカ。【五人の魔法少女(前篇)】。よろしくゥ!
まどか「そんな… あんまりだよ…っ!こんな… こんなの、って… ないよ…っ!」
QB「――― まどか、運命を変えたいかい?」
まどか「え…!」
QB「――― この世界の全てを覆す力。君には、それがあるんだよ」
ほむら「! 駄目!まどか!そいつの言う事に…ッ!!」
まどか「… … …本当に?」
QB「――― 勿論だよ。だから」
QB「ボクと契約して、魔法少女に ―――」
ほむら「駄目ぇぇえええええええッ!!!」
・
まどか「… … …」
まどか「また、あの夢だ…」
第8話 「5人の魔法少女(前篇)」
見滝原市には、大粒の雨が朝から降り注いでいた。
暁美ほむらが言うのにはそれはワルプルギスの誕生…スーパーセルの前兆だと言う。
コブラとレディは林の中に身を潜めたタートル号のコクピットから、その雲を眺めていた。
レディ「かの女が言うには…明日。この見滝原という街を覆うように、魔女が生まれるというのね」
コブラ「ああ。どうやら本当らしいな。こんな雷雲、見たこともないぜ」
レディ「…それで、どうするの?コブラ。その『ワルプルギスの夜』に勝算はあるの?」
コブラ「へへ、俺がこう見えて計算高いの知ってるだろ?レディ。基本的に勝てない勝負はしないんだぜ」
レディ「…基本的に、ね」
コブラ「…ああ」
コブラ「今回ばかりは分からんね。ほむらがワルプルギスの夜に勝てた歴史は存在しない。つまり、どうやって倒すのかも分からない。気合や根性でどうにかなるんなら鉢巻でも作っておくけどな」
コブラ「未知数さ。今回のヤマはちょいとばかり、危険な賭けになるかもしれない」
レディ「ふふ、でも、それも慣れた事でしょう?コブラ」
コブラ「まぁね。それが海賊ってもんだからな」
コブラ「…さぁて、それじゃあそろそろ出てきてもらおうか。相変わらずコソコソ隠れるのはいい趣味とは言えないぜ、インキュベーター」
椅子に腰かけながら、のんびりとそんな風に語りかけるコブラ。
船内の物陰から、ひょっこりと姿を現すインキュベーター。
レディ「…!」
QB「相変わらず常人とはかけ離れた察知能力だね、コブラ。君が本当に人間なのかは大いなる疑問だ」
コブラ「地球外生命体にそう言ってもらえるとはね。診察したいなら結構だが、料金は高いぜ」
QB「いいや。それはボク達インキュベーターの成すべき事ではないからね」
コブラ「そうだったな。幼気な少女を騙してエネルギーを回収するのがお宅らの仕事だ」
QB「否定はしないよ。君達人間にとってボクは敵でも味方でも構わない」
QB「ただボク達は、宇宙の永らえさせられればそれでいい。それが使命なのだから」
コブラ「結構な使命だね。それで?アンタは説法でもしに俺の船に来たのかい」
QB「…」
QB「君達未来人ともう一度話す機会を設けたくてね。ボク達にとって、やはり君達の存在はとても興味深い」
コブラ「…いいぜ。レディ、客人にコーヒーだ。とびっきり苦いヤツを頼むぜ」
QB「君達のいた世界が存在するのは、ボク達インキュベーターが宇宙の寿命を永らえさせるのに成功した事の証明だ」
QB「ボク達は地球の誕生の遥か以前から存在し、その使命を全うしてきた。だからそれが無事未来まで続いているのだとしたら、それはやはり非常に興味深いわけだ」
QB「何せ人類の発展は、ボク達と紡いできた歴史と言っても過言ではないのだからね」
コブラ「ご立派だね。基金でもたてたらどうだい」
レディ「…しかし、そのために貴方達は人を…魔法少女達の希望を絶望に変え、その命を奪ってきた」
QB「君も、それを疑問視するのかい。例えば、蟻の巣から一匹の蟻を摘まみ出して殺す事に何の影響があるのかな。むしろその蟻は、宇宙に対して貢献が出来るんだ。意味のない死じゃない、素晴らしい事じゃないか」
レディ「でも、かの女達は人間よ。蟻ではないわ…!」
QB「随分と都合のいい意見だね。蟻なら良くて、人間では駄目。ボク達からすれば60億以上の個体数から毎日数個を摘出する程度、何も気にする事ではないと思うけれど」
コブラ「… … …」
QB「むしろその犠牲が、全ての人類を救う事に繋がっているんだ。インキュベーターが責められる理由は何もないじゃないか」
コブラ「…そうでもないさ。アンタらは、単に上から胡坐をかいて人に頼っているだけの存在に過ぎない」
QB「どういう事かな?」
コブラ「宇宙のエネルギーが減っていく一方、太古の昔のアンタらが見つけたのが少女達を糧にしてそのエネルギーを補っていくという方法。…だったかな」
コブラ「だが、そいつの効率性自体を疑うね。何千年何万年も昔のシステムに頼っていないと宇宙が消滅しちまうってのは、甚だ可笑しな話だ」
コブラ「インキュベーターの目的は、いたいけな少女を殺す事だったのかな。それとも、宇宙を永らえさせる事だったのかな?」
QB「…」
QB「つまり、もっと効率のいいエネルギーの回収方法があるとでもいうのかい」
コブラ「そいつを模索するのもあんたらの目的に含まれる筈だ。何にしても、俺ぁその宇宙の寿命とかいうやつに貢献するつもりは全くないからな」
コブラ「かの女達だってそうだ。アンタらには感情がないから分からないかもしれないがね」
コブラ「同じ種族、同じ志の人間を殺されていい気分のするヤツはいないぜ。そうしないと宇宙が滅びちまうっていうのなら」
コブラ「宇宙なんざ、滅びちまうべきなんじゃないかな」
QB「コブラ。君の意見は宇宙全体の害悪に過ぎないよ」
コブラ「残念だったな。俺はもともと色ぉーんな奴に恨まれてるんだよ」
コブラ「汚いんだよ。やれ宇宙のためだの人類のためだの言って人を食い殺して自分達を正当化する。感情は無いクセに、そこはクリーンに見せたいわけか?」
QB「理解をして欲しいだけさ。人が存在しないと、ボク達も生きていけない。少しは歩み寄らないとね」
コブラ「だから『契約』という形で少女達を騙しているわけだ」
QB「君がそう思うのも自由さ」
コブラ「まぁ、そこは褒めてやるさ。…勝手な奴もいてね、人なんざ平気で食い物や踏み台にするヤツは、俺の世界にもごまんといる。しかしアンタらは、契約後生き延びる術も与えてくれてるのだからな」
コブラ「だから俺は、そいつを最大限活用させてもらうよ」
QB「…」
コブラ「かの女達の未来を、醜い魔女なんかにさせやしない。…とびっきりの美女になってもらわないと、俺が困るんだ。未来に住んでいる俺がね」
そう言ってコブラは立ち上がると、タートル号から出て市街地へと歩いて行った。
ほむら「…それじゃあ、明日。教えておいた場所に集まって。そこにワルプルギスの夜が生まれるわ」
さやか「りょーかい。…あはは、なんか、集合って言われるとピクニック行くみたいでなんか緊張感ないけど…」
マミ「…でも、確かにそこで…私達の決戦が始まるのね」
ほむら「ええ。…何度も私が、挑んできた場所だから」
杏子「ま、緊張感なんざ持たなくていいんだよ。万全のコンディションで臨むためにしっかり寝て…しっかり食っておくコトだな」
さやか「アンタはお菓子食って体調万全だから便利だよね…」
杏子「どういう意味だよ」
ほむら「…それじゃあ、明日。…教えておいた時間と、場所で」
マミ「ええ。…頑張りましょうね、暁美さん」
ほむら「…」
ほむらは少しだけ頭を下げると、マミの部屋から出て、雨の降る外へと出て行った。
さやか「なーんかやっぱり実感ないなー。…明日、最強最大の魔女が生まれて…生きるか死ぬかの闘い、なんて」
杏子「生きるか死ぬかの闘いなんざ常日頃からやってるだろ。要するに、いつもと変わらねーんだよ。アタシ達にとっちゃあ、魔女が大きかろうが小さかろうが関係ない」
さやか「…そっか。いつもと変わらない…。そう思ってればいいのか。たまには良い事言うじゃん」
杏子「たまには、が余計なんだよ」
マミ「ふふ、本当にいつも通りで安心ね、2人は」
その時、来客を知らせるチャイムが鳴り、ガチャリとドアが開く音。
コブラ「やぁ淑女の皆様、お揃いで」
マミ「あ、コブラさん。…まぁ、どうしたの?それは」
コブラ「手ぶらじゃ何だしね。美人の店員に良いのを見繕って貰ったのさ」
そう言うコブラの手には、花束が一つ握られていた。コブラはコートの雨粒を払って部屋に入ってくると、笑顔でそれをマミに差し出す。
マミ「…この花…。ふふ、有難うコブラさん。それじゃあ飾っておくわね」
さやか「相変わらずキザだねー、コブラさんは。今時の男はそんな事しないよー」
コブラ「ハハ、だろうな。俺のいた時代でもなかなか見かけなかったぜ」
さやか「…さーてーはー…相当場数を踏んでいると見たねッ。…モテたでしょー?」
コブラ「ま、そこそこに」
さやか「うわぁ」
コブラ「ところで、ほむらは来なかったのかい。てっきりここにいると思ったんだが」
マミ「あら、彼女が目当てだったの?」
コブラ「とんでもない。マミにも勿論会いたくて来たんだぜ」
マミ「…あの、そういう意味じゃないんだけれど…」
苦笑いをしながら、花を花瓶に移すマミ。
杏子「アイツならさっきまでここに居たぜ。丁度アンタとすれ違いだ」
コブラ「ありゃあ、そいつは残念。タイミングが悪かったな」
さやか「明日のコトもあるしね。ほむらはほむらで、何か準備があるんじゃない?」
コブラ「…成程、ね。それじゃ、ちょいと俺は追いかけてみるとするか」
マミ「え?来たばかりだし、お茶でも飲んで行っても…」
コブラ「そいつぁ有難い。少し後でゆっくり頂きに来るぜ。ちょいとかの女に話があるんだ」
コブラ「それじゃあな。…そうだな、紅茶はダージリンがいいね。美味そうなクッキーもあったら最高だ」
マミ「…クス。はいはい、用意しておくわね」
そう言ってすぐにマミの部屋を出ていくコブラ。
呆気にとられた様子でそれを見送るさやかと杏子。
さやか「珍しいね、あの人があんなすぐ帰るなんて」
マミ「何か目的があるとすぐに飛んでいっちゃう性格みたいね。…まだ一か月くらいしか一緒じゃないけれど…分かりやすいのか分かり辛いのか…」
杏子「勝手な奴だな」
さやか「…アンタには言われたくないと思うよ」
マミはガラス製の花瓶にコブラから貰った白い花を綺麗に飾り付けると、テーブルの中央に置いた。
さやか「へーっ、綺麗。…花とかあんまり見ないから分からないけど、いい色してますね。コレ」
杏子「これ、何の花だ?」
マミ「…これはね、ガーベラの花よ」
杏子「ガーベラ?」
マミ「そう。キク科の多年生植物で…花言葉は『希望』。ふふ、本当に色々な事に詳しいのね、コブラさん」
さやか「…やっぱりキザだぁぁ…」
大粒の雨が降りしきる中、傘も差さずに一人立ち、何もない空を見上げる少女。
ビル街の中心。開発中で、何も無い草原のような広く拓けた場所。そこには…明日、いや、過去…確かにワルプルギスの夜が存在するのだった。
コブラ「…やっぱりここだったか、ほむら」
ほむら「…何か用かしら?必要な事は伝えた筈だけど」
そのほむらの後ろに着いたコブラ。少女はそちらを見る事なく、冷たいような言葉を放つ。
コブラ「一つ、聞いておきたい事があってね。お邪魔だったかな」
ほむら「…構わないわ。何かしら」
コブラもまた、雨の中傘を差さずに、雨粒を身体に受けている。それでもいつものにやけた表情は崩さずに、葉巻はしっかりと銜えていた。
コブラ「…話さないのかい、まどかには」
ほむら「… … …」
ほむら「ワルプルギスの夜の事を?何故?まどかには関係のない事だわ」
コブラ「おいおい、関係ないはないだろ?かの女にはしっかりと関係がある筈だぜ」
コブラ「あんたがかの女を親友だと思っているように…かの女もまた、あんたを親友だと思っている」
ほむら「…そんなワケないわ」
ほむら(…それは、過去の話。…この時間軸の話では、無い)
ほむら「もう一度言うわ。…何故、話さないといけないの。まどかは魔法少女ではない。一緒にいても危険なだけよ」
コブラ「俺達が負ければどこにいたって同じだろ?それに、かの女は関係無いわけじゃない。魔法少女の闘いを何度も見てきている」
ほむら「それだけだわ。…まどかには、魔法少女に関わって欲しくなかった。それなのに…関わってしまった。その事実だけで十分過ぎるほど危険なのに」
コブラ「…まどかが魔法少女になる事が、か」
ほむら「… … …」
コブラ「アンタの行動は、まどかを自分達から遠ざけたいとする一方、守りたいという行動にも見える。以前、ガラス人形と戦った時に言っていたっけな。まどかの悲しむ顔は見たくない、ってさ」
コブラ「ほむら。あんたが時間を繰り返してまで戦う理由は…まどかを守りたいからだ。しかし、まどかを魔法少女にしてはいけない。…そんなルールがお前さんの中にある」
コブラ「そして、まどかは魔法少女としての素質がありすぎる。その力は強大だ。…ワルプルギスの夜を超える魔法少女となり…最悪の魔女へとなってしまう。…違うかい?」
ほむら「… … …」
ほむら「どうして…」
コブラ「仕事柄、探偵の真似事をする事も多くてね。つい考えちまったのさ」
コブラ「当たっちまったようだな」
ほむら「… … …」
ほむら「ええ、その通りよ」
ほむら「まどかを魔法少女にするわけには、いかないの。…どんな魔法少女も…いいえ、どんな人間でも…希望は絶望へと変わってしまう」
ほむら「私達と一緒にまどかが戦ってしまっては、いけない。まどかの悲しむ顔を…もう、見たくないの。まどかが魔女に変わるその瞬間を、見たくない。まどかの悲しむ顔なんて、もう見たくない…!!」
コブラ「…」
ほむら「私は…まどかを守る。最初の時間で、最初に出会った、最高の友達を…失いたくない。だから…絶対に、私はワルプルギスの夜に負けられない…!」
コブラ「…なぁ、ほむら。あんたは、『皆で』ワルプルギスの夜を倒すんじゃなかったのかい?」
ほむら「… … …」
コブラ「闘えるだとか、闘えないだとかは関係ない。…要は、自分の意志さ。自分の願いだけが、自分を動かせる。…アンタがまどかを守りたいと言うのなら、まどかの気持ちはどうなるんだ?」
ほむら「…まどかには、私の気持ちなんて…どうだっていいの。私が守ると決めたんだもの。そのための…魔法少女の力。だから…まどかは何もしなくていい」
コブラ「それじゃあかの女の気持ちは無視するのかい」
ほむら「まどかが私に対して、何を思うと言うの。…この時間軸では、まどかには何も伝えていないというのに」
コブラ「…伝えなくても、伝わる事もあるさ。…特にほむら。あんたの行動は、分かりやすいからな」
ほむら「…?…どういう―――」
ほむら「!!!!!!!」
その時、ほむらは初めてコブラの方を振り向いた。
自分の後ろにいるのは、コブラだけだと思っていた。だからこそ、全てを語っていた。…それなのに。
まどか「… … …」
そこには、自分と同じく、雨に濡れるまどかの姿があった。
ほむら「どう、して…」
まどか「…わたし、ずっと、考えてたんだよ。どうして、ほむらちゃんが…戦っているのか。…前に、マミさんが言ってたから。ほむらちゃんは、グリーフシードを奪うためだけに戦ってるんじゃない、って」
まどか「魔女を倒して…さやかちゃんのソウルジェムも、返してくれた。…ずっと、何でか、分からなかった」
まどか「…だから、聞こうと思ってたの。どうしてほむらちゃんは…」
まどか「わたしを助けてくれようとしているのか。わたしを…魔法少女にさせないようにしてくれているのか」
ほむら「…!!」
まどか「ほむらちゃんは…ずっと、わたしを守ってくれてたんだね。違う時間を、何回も繰り返して…ずっと、ずっと…」
まどか「なんで…?なんでそこまで、わたしの事を…」
ほむら「…っ…!」
まどか「わたしだって…皆の…ううん、ほむらちゃんの力になりたいよっ…。でも、ほむらちゃんはいつも…わたしを魔法少女に近づけないようにしてくれて…それが、わたしを守ってくれている事になっているんだって、今分かった…」
まどか「教えて…どうしてほむらちゃんは、魔法少女に…」
ほむら「関係ないわ」
まどか「…!」コブラ「…」
ほむら「まどか、貴方には関係ない事なの。だから話す必要もな―――」
まどか「関係あるよッ!!!!」
ほむら「…まど、か…?」
まどか「ほむらちゃんはわたしを助けてくれる!だからわたしも、ほむらちゃんを助けたい!どうしても…どうしても、力になりたいの!だから…わたしは知りたい!!」
まどか「どうしてほむらちゃんが魔法少女になったのか…どうして、何度もわたしを助けてくれるのか…!話してくれるまで、わたしは此処から離れないッ!」
まどか「わたしは…ほむらちゃんの事ッ―――」
その瞬間、まどかに抱きつくほむら。
涙に震える掠れた声。今までの彼女からは聞いた事のないような弱々しい声。
ほむら「逆、なの…全部、全部、逆っ…!」
まどか「ほむら、ちゃん…?」
ほむら「私を助けてくれて…私を、友達だと言ってくれて、守ってくれたのは…全部っ…まどかなのよっ…!だから私は…貴方を、失うわけには…っ…!!」
ほむら「でも…ッ、でも、貴方は何度も私の前から…っ、ひぐっ、消えて、しまって…!!何度も、何度も消えてしまうのよッ…!!」
ほむら「私の一番大切な友達を、守りたい…!!それだけなのよっ…!!」
まどか「… … …」
降りしきる雨の中、まどかの服を握りしめ、強く抱くほむら。まどかもコブラも初めて聞く、彼女の弱音。
だがまどかは、涙を流しそっと微笑みながら、ほむらの肩をそっと抱く。
コブラ「…(さて、お邪魔虫はこの辺りで消えるとするかぁ)」
コブラは瞳を閉じ、微笑みを浮かべながらその場を後にする。
ほむら「まどかを、救う。それが私の魔法少女になった理由。そして今は…たった一つ、私に残った、道しるべ」
ほむら「でも時間を繰り返せば繰り返すほど…貴方と私の距離は遠くなって、ズレていく」
ほむら「それでも私は…まどかを守りたい。だから…ずっと、時間を繰り返してきた」
ほむら「解らなくてもいい。伝わらなくてもいい。私は、貴方を守れれば、それで…」
まどか「解かるよ…ほむらちゃん」
ほむら「…まどか…」
まどか「…初めて、泣いてくれた。初めて、ホントの言葉で話してくれたから。…だから、わたしはほむらちゃんの言葉、解かるよ。…全部」
ほむら「… … …」
まどか「だから…わたしは、ほむらちゃんを助けたいの。お願い…わたしを、魔法少女に…!」
ほむら「…駄目よ」
まどか「… … …」
ほむら「それじゃあ、駄目なの。…貴方を、この闘いの中に巻き込めない。貴方には…ずっと、笑っていて欲しい。私の傍で、ずっと…」
ほむら「だから…それじゃあ、駄目。それじゃあ、私のしてきた事が全て、無駄になってしまう」
ほむら「私に、貴方を守らせて」
アナウンス「―――本日午前七時、突発的異常気象による避難指示が発令されました」
アナウンス「見滝原市周辺にお住まいの皆様は、速やかに最寄の避難場所への移動をお願いします。繰り返します―――」
・
マミ「…来るのね、いよいよ…」
ほむら「ええ。…本当にいいの?」
杏子「良くなかったら此処にいねーよ」
さやか「そうそう。…ま、ちょっと怖いけどさ。これも魔法少女のお仕事…ってヤツだよね」
マミ「皆、必ず生きて帰るわ。…だから、行きましょう、暁美さん」
ほむら「… … …ありがとう」
杏子「にしても、アイツ遅いな。どうしたんだ?」
さやか「…まさか…」
マミ「そんな事はないわ、美樹さん。…彼は、きっと来てくれる。今までだってそうだったんだもの。…だから」
その時、上空に聞こえる轟音。異常気象の突風を物ともせず、空中に停止するタートル号。
ほむら「…コブラ…」
コブラ「よう、待たせたな皆」
コブラ「それじゃ行こうぜ。パーティ会場へ…な!」
まどか「… … …」
避難場所である学校の体育館から、暴風吹き荒れる外を眺めるまどか。
その手に握りしめられているのは、一本のガーベラの花であった。
まどか「ほむらちゃん…。わたし…」
まどか「…ごめんね…」
――― 次回予告 ―――
遂にワルプルギスの夜との決戦だ!まぁー奴さんのデカい事強い事、この上ない!流石の俺でもちょっと骨が折れそうだぜ。
俺とほむら、マミ、さやか、杏子の力をもってしてもなかなか厄介な仕事だ。まぁ、後にも引けない事だし死ぬ気でやってやろうじゃないの!
しかしそんな中、戦いの中に突然現れるまどか。どうやらかの女は何かの決心をして来たらしい!こうなりゃもう怖いもんナシだ。
だが物事そう上手くはいかないねぇ。…大変な事が起きちまうみたいだぜ。
次回のCOBRA×魔法少女まどか☆マギカ。【五人の魔法少女(中篇)】。よろしくゥ!
避難場所である、見滝原市体育館。
暴風雨が吹き荒れる外の景色を茫然としたような表情で見つめるまどか。そして、その横にまるで何かを待つように佇むキュウべぇ。
2人の間に、少し前、会話があったせいだろう。ただただその空間には沈黙が流れていた。
それは、魔法少女の本当の姿。希望が絶望に変わるその瞬間と、その意味。インキュベーターはその全てをまどかに話したのだった。
重い沈黙を先に破ったのはまどかだった。
まどか「…騙してたんだね、全部」
QB「君も彼と同じ事を言うんだね、まどか」
まどか「…だって…!皆、一歩間違えたら…死んじゃってたかもしれないんだよ…!?それで、それで…魔女になって、戦うなんて事になったら…!」
QB「それこそ『当たり前』なんだよ、まどか。有史以前からずっと繰り返してきた事実さ。魔法少女は遥か昔から世界中にいたんだ」
QB「そして彼女達は、希望を叶え、ある時は歴史すら動かし」
QB「最後には絶望に身を委ねて散っていく」
まどか「…!」
QB「祈りから始まり、呪いで終わる。それが数多の魔法少女が繰り返してきた歴史のサイクルさ」
まどか「… … …」
まどか「ほむらちゃんも…マミさんも、さやかちゃんも、杏子ちゃんも…必ずそうなるって言うの…?」
QB「さっきも言った筈だよ。祈りは必ず、呪いに変わる。だからこそ魔法少女は僕たちインキュベーターに必要なのだから」
まどか「… … …」
まどか「そんな事、ない」
QB「どういう事かな?」
まどか「希望は、絶望に必ず変わるワケじゃない。…ずっと持っていられる希望だって、あるんだよ」
QB「君がそれを作って見せるとでも言うのかい、まどか」
まどか「わたしが…みんなを、助けてみせる…!!」
強い瞳。強い声。
まどかの右手には一本のガーベラの花が握られていた。
禍々しい瘴気のような、霧と風が向かい風となって五人に吹いていた。
まるでそこに行くのを拒むかのような向かい風。しかし、五人はその風に向けて歩んでいくのであった。
マミ「…レディさんは、来ないの?」
コブラ「ああ。俺は基本的にかの女を仕事に手伝わせないスタイルなのさ。今回は俺の船の留守番を頼んであるからな」
さやか「そっか…。そもそも宇宙船が壊れちゃ、コブラさんが帰れなくなっちゃうもんね」
コブラ「その意味もあるが、まぁかの女は余程の事があった時の助っ人を頼んであるというわけだ」
杏子「これが『余程の事』じゃなけりゃ、アンタの余程の事はいつ起きるんだよ」
コブラ「そうだなぁ。美女達が軍隊アリみたいに俺に襲い掛かってきた時は、流石に助けてもらおうかな」
さやか「あはは…よくそんな冗談言いながら歩けるね」
コブラはにぃ、と葉巻を銜えた口元を緩ませた。
ほむら「… … …」
マミ・杏子・さやか「…!」
前方からこちらに向かってくるものが多数ある。
それは、まるでサーカスのパレード。
象、木馬、人形…まるで祭りのように賑やかに、それらは五人を通り抜けていくのだった。
さやか「使い魔…!?」
さやかはソウルジェムを取り出すが、ほむらがそっと手を出してそれを静止させる。
ほむら「いいえ。少なくともこいつらは私達を攻撃しないわ。…まだ、早い」
コブラ「本体だけを叩けばいいわけだ。目的としては単純でいいね」
ほむら「そうね。…シンプルだからこそ、絶対的でもある。力の差が歴然と出るわ。…私達が、敵う相手か否か」
さやか「… … …」
杏子「…さやか?…震えてるのか」
さやか「…あ、あはは…なんか…ど、どうしても…怖いなぁ。ごめん、情けないの分かってるし、今更だけど…こ、怖くって…どうしようもなくて…」
そう言うさやかの表情は曇り、身体が小さく震えていた。心配をする杏子も、その恐怖心による震えを必死に耐えている。
杏子「… … …」
さやか「…バカ、だよね。もうとっくにあたしなんか人間じゃないのに…死ぬのが、怖いなんてさ…。ホント、バカだと思うよ…笑ってくれても…」
杏子「ほら」
さやか「…!」
俯いて震えるさやかの眼前に、杏子の手が差し出された。
杏子「手、握れよ。ちょっとは抑えられるだろ?震え」
さやか「… … …杏子…」
杏子「怖いのは誰だって一緒さ。我慢なんざしなくていい。怖いならアタシの手なんか握らないで逃げてもいいんだ。誰も責めないよ」
杏子「ただ、アンタのバカさ加減じゃ怖くてどうしようもなくても、行こうとするだろ?」
杏子「だから、同じバカ同士、手でも握ってやるよ。少しはマシになるだろ」
さやか「… … …」
さやか「恥ずかしいヤツ」
杏子「うるせーよ」
さやかは微笑みながら、そっと杏子の手を握った。
五人の中で、前方を躊躇いなく歩く、ほむらとコブラ。そして、それに必死でついていく、マミ。今にも恐怖心で歩みが止まりそうなのは、マミも一緒だった。しかし、前を歩く2人はすたすたと先を進んでいく。
マミ「…2人とも、強いのね…。私なんて、逃げ出したくてたまらないのに…」
ほむら「逃げ出してもいいのよ、巴マミ。…責めるつもりなんて、ないわ」
マミ「…いいえ、行くわ。…でも… … …どうしても…怖くて…」
コブラ「マミ。俺もほむらも、別に強いわけじゃないぜ」
マミ「…え?だって…」
コブラ「俺もほむらも、『未来』を信じているのさ。だからこそ、その未来がくるように突き進んでいける」
マミ「…未来…」
ほむら「… … …」
コブラ「明けない夜なんざない。夜が明けなきゃ、サンタクロースはプレゼントを渡す事すらできない。だから、俺達はしっかり朝を迎えさせてやらないとな」
マミ「…コブラさん…」
コブラ「ついてきな、マミ。魔法少女は、必ず俺が守ってみせる」
詢子「どこへ行こうっていうんだ?」
まどか「…!ママ…」
詢子「まどか…あたしに、何か隠してないか?」
まどか「… … …」
詢子「言えない、ってのか」
まどか「…ママ、わたし…」
まどか「友達を助けるために、どうしても今行かなくちゃいけないところがあるの」
詢子「駄目だ。消防署に任せろ。素人が動くな」
まどか「わたしでなきゃ駄目なの」
詢子「… … …」
パァン。
廊下に響くような、乾いた音。
詢子「テメェ1人のための命じゃねぇんだ!あのなぁ、そういう勝手やらかして、周りがどれだけ―――」
まどか「分かってる」
詢子「…!」
まどか「私だってママのことパパのこと、大好きだから。どんなに大切にしてもらってるか知ってるから。自分を粗末にしちゃいけないの…よく分かってる」
まどか「だから、違うの」
まどか「みんな大事で、絶対に守らなきゃいけないから。…そのために、わたしに出来る事をしたいの」
詢子「…なら、あたしも連れて行け」
まどか「駄目。ママは…パパやタツヤの傍にいて、二人を安心させてあげて欲しい」
詢子「… … …」
まどか「ママはさ。私がいい子に育ったって、いつか言ってくれたよね。…嘘もつかない、悪い事もしない、って」
まどか「今でも、そう信じてくれる?」
詢子「… … …」
詢子はふぅ、と諦めたように溜息をつき、まどかの両肩を掴んでその目をじっと見つめる。
詢子「…絶対に、下手打ったりしないな?誰かの嘘に踊らさせてねぇな?」
まどか「うん」
まどか「わたしを…皆を助けてくれる、頼もしい人がいるから。だから、安心して。絶対にわたし、無事で帰ってくるよ」
――― その少し前。
体育館に避難していたまどかを、同じように廊下で呼びとめた人物がいたのであった。
まどか「…!!コブラ、さん…!」
コブラ「よう、まどか。元気してるか?」
まどか「み、みんなは…!?ワルプルギスの夜に向かって行くんじゃ…」
コブラ「ああ、俺もこれから行くところさ。その前に、まどかに渡す物があってね」
まどか「…渡す、物…?」
コブラはまどかの所まで近づくと、手にもっていた花をまどかの手に握らせた。
まどか「…これ…」
コブラ「昨日みんなには渡したんだけどな、お前さんに渡すのを忘れてた。俺とした事がうっかりしてたぜ」
まどか「… … …」
コブラ「まどか。お前さんは今のままで十分強い。だから、なりたい自分になろうとするな。自分を犠牲にして他人を助けようなんてするな」
コブラ「ただ、自分の信じる道だけを進んでいけばいい。それが、まどかの強さだ」
まどか「…!!」
コブラ「じゃあな。…美人のお袋さんにも、よろしくっ」
コブラはウインクをして微笑むと、体育館の外へと出ていく。
まどか(コブラさん、わたし、見つけたよ)
まどか(自分の信じる道、歩いていける道)
まどか(全部、自分で決められたんだよ。もう迷わない。絶対…後悔なんてしない!)
まどか(わたしは…!)
吹き荒れる雨の中。傘もささずに、少女は駆けていく。
自分の信じる道を、ただひたすら。
五人は歩みを続けた。
一段と、風を強く感じたその時、ほむらは足を静かに止めて、四人がいる後ろを振り返る。
ほむら「…逃げ出すなら、此処が最後よ。後戻りは出来ないわ」
ほむらは静かに、それを全員に告げた。
マミ「…」
さやか「…」
杏子「…」
しかし、誰一人として踵を返す者はいなかった。俯く者もいなかった。
ただ魔法少女達は前を向き、その先に存在するであろう巨大な敵に強い瞳を向けている。
コブラ「途中下車はいないようだぜ、ほむら」
ほむら「…本当に、いいのね」
マミ「ええ。…答えは、さっきと変わらないわ」
さやか「どうせ何もしなきゃ死んじゃうんだし…私達が、どうにかしなきゃね」
杏子「乗りかかった船だ。最後まで付き合ってやるよ」
ほむら「… … … ありがとう、皆」
コブラ「… 見えてきたぜ、アイツが…どうやらそうみたいだな」
ほむら「ええ、間違いないわ。…あれが…」
マミ「ワルプルギスの… 夜…」
コブラ「ここが終点か。それじゃあ皆、派手にやるぜ」
さやか「…うん!」
杏子「行くぜ…!」
魔法少女達はソウルジェムを取り出し、それぞれの戦闘態勢をとる。
コブラは左腕の義手をゆっくり抜き、サイコガンを目標に向けて構えた。
ほむら「…来るわ…!」
5 4 3 2 1 …
まどか「はぁっ、はぁ…っ!」
QB「もうすぐ着く筈だよ、まどか」
まどか「ほ、本当に…?まだ、影も形も…!」
まどか「…!」
QB「到着したようだね」
QB「あれが、ワルプルギスの夜」
QB「歴史に語り継がれる、災厄。この世の全てを『戯曲』へと変える、最大級の魔女だよ」
まどか「あ、あ、あ…!」
まどかの眼前に広がる光景。
それは、まさに死闘とも呼べる戦いの光景であった。
巨大な歯車には、逆さに吊るした人形のようなドレス。
数多の少女達が笑い声をあげるような声が、あちこちに響くように聞こえる。
それは、まるで城塞。巨大な城が空へ浮かび、笑い声をあげながらそこに佇む。
今までの魔女とは比べものにならない巨大な姿。そして、感じられる禍々しい気迫。魔法少女にとっては、まさにそれは最悪の敵と呼ぶに相応しかった。
さやか「はああああああッ!!!」
杏子「うおおおおおおッ!!!」
さやかと杏子は、剣と槍を構え、ワルプルギスの夜へと続くサーカスのロープを駆けていく。
その横を飛び交う、銃弾や砲撃。
地上からはマミ、ほむら、そしてコブラの砲撃が続いていた。
マミ「…ッ!はッ!やッ!」
ほむら「…!」
マミは魔法で召喚した単発銃を次々と目標に向けて放ち、ほむらも用意したあらん限りの銃火器を次々と放っていく。
巨大な爆発が次々と起こる中、本体へ辿り着いたさやかと杏子は勢いよく跳躍をし、魔力を高め、斬撃を放つ。
一撃。
剣と槍による鋭い一撃を与えると、2人は魔力を使いゆっくりと地上に降りる。
ワルプルギスの夜「アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!!!!!」
杏子「マジかよ…効いてねぇ…ッ!」
ほむら「続けて攻撃するわ!加勢して!」
さやか「くっ…!それならもう一度…!」
コブラ「おっと、もうちょっと待ってくれ。俺の番がまだ終わってねぇぜ」
マミ「え…!?」
コブラはサイコガンを上方に向けると、高めた精神エネルギーの全てを放出する。
まるでそれは、巨大な光の大砲。瘴気を切り裂き、真っ直ぐにワルプルギスの夜に向かう。
ズオオオオオ―――――――ッ!!!
ワルプルギスの夜に触れ、それは巨大な爆発を起こした。爆風で見えなくなった相手に向け、コブラは次々とサイコショットを放つ。
コブラ「ショータイムだ!遠慮しないで続けてどんどんいけ、皆!」
ほむら「…!」
杏子「っしゃあ!任せとけ!」
カチリ。
時間を止め、銃火器をワルプルギスに向けて再び連射するほむら。銃弾、グレネード、ロケットランチャー…用意した全ての武器を惜しむことなく相手に向けて放っていく。
再び動き出し、ワルプルギスの夜に向け進んでいく数百、数千の弾丸。
その間に、マミとコブラも攻撃を続けていく。
マミ「…!『ティロ・フィナーレ』ェェッ!!!」
コブラ「うおおお―――っ!!!」
巨大な銃身から出る、魔力の一撃。左腕の砲身から出る、巨大な精神力の砲撃。
その全てが魔女に確実に当たり、次々に爆発と爆風を生む。通常ならば、どんな敵でもそれだけで消滅するだろう。
しかし、さやかと杏子はそれでも再びワルプルギスの夜に向けて突進していく。
さやか「今度こそ決めるよ!!」
杏子「ああ!いい加減、くたばらせてやるぜ!!」
意気込み、駆け抜ける2人。
まどか「…皆…!」
QB「… … …」
どこか、安心して見守るようなまどか。それは、今までになかった光景だからだろうか。
巨大すぎる敵。しかしだからこそ、五人は今までにない団結力で次々と効果的な攻撃を仕掛けられている。全ての攻撃が当たり、お互いをフォローできている。
まどか(これなら…勝てる…!)
しかし、まどかは…いや、全員はまだ気づいていなかった。
ワルプルギスの夜が、こちらに対し何の攻撃も仕掛けていない事に。
さやか「いくよ!もう一回ッ!!」
あと少しで、もう一度城塞へと辿り着く。2人は剣と槍を構え、再び一撃をくわえようとしていた。その瞬間、地上からの砲撃は止み、2人の攻撃を待つ。
まさに完璧なチームワーク。…その筈だった。
杏子「…!!! なッ…!?」
まさに、ワルプルギスに斬りかかろうとした時。爆風の中から出現する…影。
幻影「キャハハハハハハハハハハハ!!!」
幻影「アハハハハハハハハハハハハ!!!」
人型の黒い影は素早くさやかと杏子の2人の眼前に来ると、武器のようなもので2人を攻撃した。
さやか「きゃああああああッ!!!」
とっさの防御も間に合わず、さやかは幻影の攻撃により地上へと叩き落された。
杏子「ッ!!さやかッ!!」
一瞬、さやかの方へ気を取られてしまった杏子。その隙に、もう一体の幻影も杏子に向けて攻撃をする。
杏子「ぐああああッ!!」
マミ「!!美樹さん、佐倉さんっ!!」
コブラ「なんだありゃあッ!?」
ほむら「…!幻、影…!?ワルプルギスが吸収した…魔女の…魔法少女の、魂…!!」
コブラ「くそぉ…!!さやかぁ!杏子ッ!!」
地上に叩き落されたさやかと杏子。どうにか自身の魔力でそのダメージを軽減するものの、魔法少女の幻影は追撃をかけようと2人に急速に迫る。
さやか「くッ…!だ、大丈夫…!?杏子…」
杏子「ああ、なんとか… …ッ!? 危ねェッ!!」
体勢を立て直そうとするも、幻影は今にも斬りかかってきそうなほど間近に迫っていた。
その時。
ズオオオオ―――――ッ!!
杏子「!!」
2体の幻影を一気にかき消す、光の波動。
幻影が消えた先に見える、サイコガンを構えた男の姿。
さやか「ヒューッ!さっすがコブラさん!助かっちゃった!」
コブラ「元気そうで何よりだ。…しかしあの野郎、なんて攻撃してきやがるんだ。悪趣味にも程があるぜ」
杏子「…余裕ぶっこいてる暇もなさそうだぜ。…来るぞ!」
上空を見据える杏子。その視線の先を追うように、コブラとさやかもワルプルギスの夜の方を見る。
城塞から次々と出現するのは、何体…いや、何十体もの、魔法少女の幻影。それらは敵であるコブラ達に向け、笑い声をあげながら突進してくる。
コブラ「やれやれ…こういうモテ方は勘弁して欲しいよ、ホント」
マミ「2人とも!大丈夫!?」
慌ててさやか達の方へ駆け寄るマミとほむら。5人は再び合流をし、臨戦態勢をとる。
さやか「はいっ!…でも、ちょっとピンチかも…!」
コブラ「マミ、ほむら!迎撃するぜ!」
マミ「…!何…あの幻影の数は…!」
ほむら(…あんな攻撃、今まで見たことは無かった…。それだけアイツが…ワルプルギスの夜が追い詰められているという事…?」
ほむら(でも…それじゃあ、あの魔女の本気はどれだけ…!)
コブラ「ほむらッ!」
ほむら「―――ッ!!」
コブラ、マミ、ほむら。遠距離武器に特化した3人は、こちらに向けて突っ込んでくる幻影群を迎撃する。
魔法銃、現代火器、そしてサイコガン。それぞれの砲撃は幻影達を次々と消滅させていくが、全てに対応できるわけではない。残りの幻影は次々と5人に向けて襲ってくる。
さやか・杏子「はあああああああッ!!!」
こちらに近づく幻影は、一歩前に出たさやかと杏子の斬撃で倒していく。一体一体が、魔法少女と同レベルの闘い。しかしながら、戦闘経験を積んだ2人の戦士は次々と幻影を斬り捨てていくのだった。
――― しかし。
ほむら(… 終わ、らない…ッ!!)
コブラ「くそっ!出し惜しみなしか!」
幻影は減るどころか、次々と城塞からこちらに向かってくるのだった。
マミ「はぁっ、はぁ…!」
さやか「くっ…!ぐ、ゥ…っ!!」
幻影を次々と倒していく魔法少女とコブラ。しかしながら、長引く戦闘による魔力の消費で、魔法少女のソウルジェムはどんどん黒く濁っていく。
ほむら(このままじゃ…私達まで危なくなる…!!)
さやか「あ、ッ…!!」
杏子「!!さやかッ!!」
最も経験が浅いさやかの限界が、一番先にきたようだった。体勢が崩れ、地面に膝をつけてしまうさやかに襲い掛かる、複数体の幻影達。
さやか「… !!!」
自分の最期を感じたのか、思わず目を瞑ってしまうさやか。 …しかし、そのさやかの目の前に立つ、一人の男の姿。サイコガンは次々と幻影を撃ち抜き、倒していった。
さやか「コブラ…さん…!」
コブラ「安心しな。何があっても守ってみせるぜ」
…しかし、状況はどんどん苦しくなっていくばかりだった。
そして…5人は未だ、気付かなかった。
ワルプルギスの夜が、次なる攻撃を仕掛けようと動いている事に。
まどか「 … !!!」
その異変に気付いたのは、鹿目まどかが最初だった。誰よりも遠くから状況を見ていたからこそ、気付けた事実。
彼女は、戦いを続ける5人の元へ急いで駆け寄る。
そして、あらん限りの声で叫ぶ。
まどか「逃げてええええ――――――ッ!!!!」
ほむら「…! まどかっ!?」
マミ「鹿目さん…!?どうして…!!」
コブラ「… … …!! 何だ、ありゃあ…っ!!」
そして、まどかの叫びの意味を、5人は知る。
城塞の周りを取り囲んでいるのは…根本が折れた、幾つもの巨大ビルだった。
ワルプルギスの夜はそれらのビルを、こちらに向けて飛ばしてくる。まるで、とてつもなく巨大な弾丸のように。
コブラ「くそおおお―――ッ!!!」
コブラはサイコガンを次々と巨大ビルに向けて発射する。
しかし…間に合わない。崩れた鉄塊は全員を押し潰そうとばかりに、ゆっくりと、しかし確実に迫い来るのだった。
ほむら(… !! このままじゃあ、まどかまで…ッ!!!)
カチリ。
ほむらは時間停止をして、こちらに走り寄ってくるまどかに近づき、引き留めようとその場に押し倒した。
カチリ。
魔力を消費した状態での、精一杯の時間停止。
まどか「あっ…!」
砂埃をあげ、地面に倒れ込むほむらとまどか。
その先には…
魔力を消費しすぎて動けなくなったさやか、杏子、マミと…その3人を必死で守ろうとサイコガンの連射を続ける、コブラの姿。
さやか「…もう、駄目…っ!!」
杏子「くそ…っ!!ここまで、かよ…!!」
マミ「そんな…そんな…ッ!!!」
眼前まで迫る、巨大なコンクリートと鉄の塊。
コブラは、喉が引き裂かれるような声をあげた。
コブラ「俺に掴まれぇぇぇぇぇ―――――――――――ッッッ!!!!!!!」
ドオオオオオオオオオオオオオオオンッ!!!!!!!
墓標のように、4人を押し潰すコンクリート。
爆風が、ほむらとまどかを襲う。
そして、無情なまでの静けさが、辺りを包むのだった。
まどか「… … …」
ほむら「… … …」
そこには、さやかと、杏子と、マミと、コブラの姿は無かった。
今まで、確かに4人が存在した場所。しかしその場所は、無数の建造物の残骸により、掻き消えてしまっていた。
コブラの叫びが、嘘のように消えていた。静寂は恐怖心と絶望を現し…同時に、4人の死を現すのだった。
ほむら「… ぐ …ッ …!!」
まどか「…嘘…だよ…。みんな…みんな、死んじゃったの…?」
まどか「そんなの、嫌だよ…。 …返事、してよ…マミさん…。さやかちゃん…杏子ちゃん…!コブラさん…!」
まどか「こんなの… こんなのって… !!!」
ほむら(… 駄目だった…。 今回、も…)
まどか「いやあああああああああああああああああああああああああッ!!!」
まどかの悲痛な叫びが、静寂を切り裂いた。
絶望を表情に灯す2人の眼前に現れる、1つの影。
それは、インキュベーターだった。
QB「さぁ、鹿目まどか、暁美ほむら。君達はどうするんだい?」
まどか「… … …」
ほむら「…!くッ…!!」
QB「希望は、全て消えた。後に残った物は絶望しかない」
QB「どうするんだい?このままこの街が…いや、この世界が滅びるのを待つのかい?」
まどか「… … …」
QB「手段はある筈だ。それは、2人とも分かっている事だね。 …鹿目まどか、君自身が希望となる以外に絶望を払拭する方法は存在しない」
QB「もし、君自身が希望となる決意があるのなら…」
ほむら「駄目…っ!まどか…!あいつの言う事に…ッ!!」
まどか「…ある、のなら…」
ほむら「… まど、か…っ!!」
QB「もし君に決意があるのなら」
QB「ボクと契約して、魔法少女になってよ」
――― 次回予告 ―――
全く、コブラと魔法少女の下敷きなんて喜ぶのはどこのどいつだぁ!?勘弁してほしいよホント。
憐れ、宇宙海賊コブラの冒険もここで仕舞い…って、俺を待ってる美女がうじゃうじゃいるのにおちおち死んでられるかってんだチクショー!!
一方、まどかはいよいよ決意を固めて魔法少女になっちまう。しかしその願いは、誰も予想しなかったとんでもない願い事だった!!
まどか、ほむら…一体どうなる事やら。平穏が宇宙の彼方で欠伸してるぜ。どんな結末が待っているのか、いよいよラストスパートだ。
次回のCOBRA×魔法少女まどか☆マギカ。【五人の魔法少女(後編)】。よろしくゥ!
瓦礫の山にぴょこんと飛び乗ったその生き物は、2人の少女に向けて告げる。
その声に、感情は無い。ただ、今そこにある事実をただただ冷酷に告げ、そして選択を迫るのだった。
QB「――― ボクと契約して、魔法少女になってよ」
その言葉に、1人の少女は明らかな敵意を向ける。
しかし、もう1人の少女は…その言葉に希望を見出してしまうのだった。
ほむら「…ッ…!ま、どか…っ!駄目…っ!駄目よ…!!」
まどか「… … … ほむらちゃん …」
ほむら「やめて…!貴方が魔法少女になったら、私は…っ、私は…!!」
まどか「… 約束、守れなくてごめんね、ほむらちゃん…」
ほむら「そんな言葉…聞きたくない…!まどか…!お願い…っ!やめてぇ…!」
QB「さぁ、まどか、君は何を願うんだい?君の魂なら、どんな願いでもその対価となり得る」
まどか「… … …」
まどか「私の願いは ―――」
ほむら「駄目ェェェェェェェェッ!!!!!!」
第10話「五人の魔法少女」
吹き荒ぶ嵐の中、1人の少女はハッキリとした眼差しでその生物を見つめる。
それは、今までの鹿目まどかからは考えられない程の明瞭な言葉だった。
まどか「私の願いは…」
まどか「全ての魔女を、生まれる前に消し去りたい」
まどか「全ての宇宙。 過去と未来の全ての魔女を。 …この手で!」
ほむら「っ…!!」
QB「! その祈りは…そんな祈りが叶うとするなら、それは時間干渉なんてレベルじゃない!因果律そのものに対する叛逆だ」
QB「まどか、君は… 神になるつもりなのかい」
まどか「神様でも、何でもいい。皆… これまで魔女と戦い、希望を信じてきた人達の涙を、もう見たくない。そのためなら、どんな事だってしたい」
まどか「それを邪魔するものなんて… ルールなんて、全部壊して、変えてみせる!」
まどか「これが、私の願いよ。…インキュベーター」
ほむら「駄目…!!まどか…!!そんな事をしたら… そんな願いが叶ってしまったら、まどかは…!!」
まどか「… ほむらちゃん …」
まどか「本当に、ごめん。 …でも、私は…皆の笑顔が戻るなら、この命を使っても構わない」
ほむら「そんな…!それじゃあ、私は…何の為に…!!」
まどか「… … …ごめん…いくら謝っても、足りないと思う。 …でも、ほむらちゃんがずっと私を守ってきてくれたから、今のわたしがあるの」
まどか「魔女が存在する限り、いつか…わたしもほむらちゃんも、きっと哀しみを背負わなくちゃいけない」
まどか「ううん、マミさんだって、さやかちゃんだって、杏子ちゃんだって… 世界中の、どの時間でも… 哀しみはずっと消えない」
まどか「コブラさんが、みんなの希望になろうとしてくれた。…でも…それは、叶わない願いだった」
まどか「だから…代わりになれるのは、わたししかいない。わたしは…皆の、希望になりたい。その為なら…この命を犠牲にしても、構わない」
ほむら「嫌よ…!まどかがいなくなったら…私は、どうすれば…!!」
まどか「… … …」
まどか「ありがとう、ほむらちゃん。…本当に、今まで…ありがとう。…だから、もう、いいんだよ」
ワルプルギスの夜が、笑っている。
まるで世界そのものに対し嘲り笑うかの如く、その笑いは響き渡った。
しかし、まどかとほむら、そしてキュウべぇの周りはまるで時間が止まったかのように静まり返っているように思えた。
まどかは一歩、キュウべぇに対して近づき、その手を差し出した。
まどか「――― さぁ、インキュベーター。 どんな願いも叶えられる…そう言ったよね。 …今のが、わたしの願いよ」
QB「… … …」
まどかの周りを、光が包む。
それは、まどかの願いが成就されようとする瞬間を示していた。
ほむら「まどか…ぁっ!」
まどか「――― !!」
インキュベーターとの契約がなされ、新たな魔法少女が誕生する瞬間。
祈りを捧げるように瞳を閉じ、手を差し出すまどかは、微笑みを浮かべていた。
光が増す。風が巻き起こる。 …全てが、変わる。
――― その時。
「おおっと、その契約 ――― 異議アリだ」
まどか「――― !!」
まどかの瞳が、開いた。
「まどか、俺は言った筈だぜ。 自分を犠牲にして、他人を助けようとするな、ってな」
「希望ってのは、なるモノじゃない。 作るものだ。 まどかの今までしてきた事は、十分『俺達』の希望になって…力になっている。 まどかは、まどかが思っている以上に、強い」
まどか「… !!」
ほむら「この…声…」
「それにな、俺のいた世界では、神様ってのはもっとボインなんだぜ」
「14歳のいたいけな少女が神様になっちまっちゃあ、俺の世界と違っちまうんだよ。 ――― お前さんにそんな重荷を背負わせる世界なら、俺が変えてやる」
「――― いいや、壊してやる」
QB「…!!」
「俺は、あんた達を守ると約束した。 そして、男ってのは… 一度交わした約束は、守りきらなきゃいけない生き物なんだぜ!!」
まどか「!!!」
瓦礫の山。そこから、光が溢れだしてる事に気付いた。
その光は段々と強くなる。鉄筋を、コンクリートを、硝子を… 全てを溶かし、『道』を作ろうとする、その光。
「そのためなら… 俺は何度でも立ち上がる!何度でも挑むッ!! だから… 俺を、俺達を、信じろ!!まどかッ!!」
コブラ「俺は ――― 不死身のコブラなんだからなァッ!!!」
ドゴォォォォ――――――ッ!!!!!!
上空に放たれた巨大なサイコショットは、雲を切り裂き、太陽の光を浮き出させた。
その光に包まれる、1人の男。
天に構えたサイコガンを右手で抑え、その男はまどかとほむらに向け、不敵な笑みを浮かべるのだった。
そして、その男の周囲には、マミ、さやか、杏子…それぞれの姿があった。
まどか「コブラ…さん…!」
ほむら「コブラ…!」
QB「…信じ難い。一体、どうやって」
コブラ「へへへ、覚えときなインキュベーター。 サイコガンは、心で撃つものなのさ。この銃は俺の精神(サイコ)エネルギーに反応し、そいつを曲げる事も、増す事も出来る」
コブラ「つまり、だ。オタクらに無い『感情』の力が、俺達を救ったのさ」
QB「!」
コブラ「かの女達、魔法少女を助けたいという感情。その思いは力になり、鉄だろうが何だろうが一瞬で溶かしちまうくらいのエネルギーを持つ。そいつが、俺達を助けた」
コブラ「な?キュウべぇ。感情ってヤツも、捨てたもんじゃないだろ?」
QB「…」
さやか「ビルが飛んできた瞬間、コブラさんのサイコガンが一瞬でビルを溶かしてくれた。そいで、その熱があたし達にこないように、あたしの魔力でバリアを張ってたのさ!」
マミ「美樹さんの自己回復能力の応用ね。…本当に助かったわ」
ほむら「そんな… だって、私達は魔力を消費して…ほとんど動けないくらいまで…」
さやか「へっへっへー」
さやかはニヤリと笑い、見せつけるように右手を差し出す。その手には、グリーフシードが握られていた。
コブラ「色々と賭けだったぜ。あの瞬間、俺がセーブせずサイコガンを撃つ瞬間、さやかがバリアを張ってくれなけりゃいけない」
コブラ「保険はかけておくもんだな。堅実ってのも少しは悪くないかもな」
コブラの大きな手には、大量のグリーフシードがあった。
QB「その為に…君は、魔女を倒していたのか」
コブラ「そういう事。もしもの時のために…ってヤツさ。こう見えて俺は貯蓄派でね」
コブラ「俺の手をさやかが握った瞬間、その穢れはコイツが吸い取ってくれる。もう少し遅かったら火傷しちまうところだったが、間に合ってホッとしたよ」
杏子「ホント、ギリギリの賭けだったな。…正直生きた心地しなかったぜ」
コブラ「まぁ、これで全ては解決だ。…ほむらっ!」
ほむら「…!」
コブラはほむらに向け、グリーフシードを投げた。それを受け取ったほむらは自分のソウルジェムにグリーフシードを当て…再び立ち上がった。
コブラ「さ、後半戦だ。…9回裏、逆転ホームランはここからだぜ!」
さやか「うんっ!」
マミ「ええ…!」
杏子「おうっ!」
ほむら「…!」
ゆっくりと、しかし確実に都心部へと移動しようとするワルプルギスの夜。
しかし、その巨体に刺さるようにぶつかる、巨大なサイコガンの一撃。
ワルプルギスの夜「!!!」
コブラ「何処にもいかせねぇぜ、城の化け物。 ここから先は通行止めだ!」
ワルプルギスの夜「キャハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!」
再び現れた『敵』に反応したワルプルギスの夜は、再びその周囲から幻影を出現させる。
マミ「…!来るわッ!」
杏子「よっし、いくらでも相手してやるぜ!」
さやか「もういくら来ようが平気だもんね!…絶対、負けないッ!」
まどか「… コブラ、さん… わたし…」
コブラ「…まどか、俺はお前さんに何かをしろ、なんて命令した事は一度も無いぜ。 自分の進むべき道、切り開くべき道は自分で決めるんだ」
コブラ「まどかには、仲間がいる。魔法少女だけじゃあない。お前さんの周りにいる全ての人々が、まどかの希望となっている筈だ」
まどか「…!」
コブラ「神様なんざ必要ない。…希望ってのは… 自分の手でも、作り出せるんだぜ!」
まどかの頭にポン、と手を乗せたコブラは微笑みを向ける。そしてその手を離し、迫りくる幻影に向けて駆けだすのだった。
まどか「…自分で作り出す…希望…」
まどか「… … …」
まどかはキュウべぇの方をもう一度振り向き、その生物を見つめるのだった。
杏子「マミッ!危ねぇぞ!!」
マミ「!!」
背後に忍び寄っていた幻影を、杏子の槍が切り裂く。
杏子「ったく、昔っから甘ったるいんだよ。…弟子に助けられるようじゃ、師匠としてまだまだだな」
マミ「…クス。そうね…佐倉さん。 …ありがとう」
杏子「へっ。…油断すんなよ!来るぞ!」
次々と迫ってくる幻影を、コブラのサイコガンが撃ち落す。
それを避けきり、コブラに近づく幻影は…さやかの斬撃によって斬り捨てられた。
コブラ「様になってきたじゃねぇか!その調子なら彼氏もしっかり守れそうだな、さやか!」
さやか「バッ…!か、彼氏とか言わないでよっ!そういう話は後回しっ!!」
コブラ「こりゃ失礼!それはそうと、どんどん来るぜ!照れてる場合じゃないぞ!」
さやか「誰が照れさせてるのよっ!!」
ほむら「…ッ!」
迫る幻影を銃器で次々と撃つほむら。 …しかし、間に合わず至近距離まで迫られてしまう。
一体の幻影が、笑い声をあげながらほむらの目の前で斧を振りかざした。
ほむら「しまッ…!」
その幻影をかき消す、一筋の光。
まるで『矢』のようなその光は、かき消すように幻影を撃ち抜く。
ほむら「な…ッ!」
ほむらの見た先には… 弓を構え、微笑むまどかの姿があった。
まどか「…あ、あはは… 当たった…良かったぁ…」
ほむら「まどかッ! その恰好… 貴方は、魔法少女に…!!」
まどか「…うん」
ほむら「どうしてッ!? 契約してしまっては、折角コブラが繋いでくれた事が…!」
まどか「違うよ。 …願い事は、もう叶ってるから」
ほむら「え…!」
まどか「神様にはならない。ただ、わたし自身が一つの希望になれれば…それで十分なんだ、って…ようやく分かったんだ」
まどか「わたしは、ほむらちゃんに守られるわたしじゃなくて…ほむらちゃんを守るわたしにもなりたいの」
まどか「ほむらちゃんが…ずっと、わたしにそうしてきてくれたように」
ほむら「!!!!!」
まどか「だから戦う。皆と同じように、わたしも…街を守る、魔法少女になる!」
まどか「どんな絶望にも… 勝てるようにッ!!」
ワルプルギスの夜に弓を向けるまどか。
繰り出される幻影を次々とその矢で射ぬく。正確なその射撃は一撃も外れる事なく、目標に当たっていく。
さやか「え…ま、まどかっ!その姿…!」
マミ「…なったのね、魔法少女に」
まどか「ティヒヒ、遅ればせながら。…えと、似合うかな…?」
杏子「…ちょっと少女趣味すぎやしないか?アタシには死んでも似合いそうにない服だ」
マミ「うふふ、とってもよく似合っているわよ、鹿目さん」
まどか「あ、ありがとう…ございます」
まどか「…コブラさん。 …わたし、答えが出せたよ。 …1人で、考えて…!」
コブラ「… へへへ、似合ってるぜ、まどか。…それに、いい顔が出来るようになったじゃねぇか。先生は100点満点をあげるぜ」
まどか「…!ありがとうございます!」
ほむら「… … …」
まどか「…ほむらちゃん…」
コブラ「ほむら。お前さんの願いは、崩れ去っちまったか?違うんじゃないのか」
コブラ「未来は、1人で掴みとらなくてもいい。5人で掴みとる希望も、あっていいんじゃないか。5人の魔法少女が…希望となれる世界だ」
ほむら「…!」
まどか「…違うよ、コブラさん! …今は、6人… コブラさんも入れて、6人!…でしょ?」
コブラ「! …ああ、そうだな!」
ほむら「… 私は…」
ほむら「私は… まどかが…いいえ、皆が笑っていられる世界なら、それでいい。…だから…」
ほむら「だから私は…ワルプルギスの夜を、倒す!!」
コブラ「ようし!そんじゃさっさと、あの馬鹿でかい疫病神を追い払うとしますかぁ!!」
さやか「…!みんな!もう一回アレが来るよ!!」
ワルプルギスの夜の周囲に、再び崩れた建造物が浮遊しはじめた。もう一度、こちらへの攻撃を開始しようとする狼煙。
しかし、それを見ても6人の表情に恐怖はなかった。
全員が対象を見据え、それぞれの構えをとる。
コブラ「それじゃ、いい加減終わらせるとしますかぁ。少しオイタを許し過ぎたぜ」
まどか「…はいっ!」
さやかと杏子は、剣と槍に力を宿す。
マミとほむらは、それぞれの銃の照準を対象に合わせる。
そして、コブラとまどかはお互い背中合わせの恰好になり、サイコガンと弓を構える。
ワルプルギスの夜「キャハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!」
ほむら「…これで、終わらせる…!」
マミ「ええ… 魔女に… あんな姿になった、魔法少女を…放ってはおけないわ」
さやか「… あたし達の街は、あたし達が守らなくちゃ…ね!」
杏子「跡形もないくらいに… 吹き飛ばしてやるぜ!」
まどか「どんなに大きな壁でも… 必ず、超えてみせるっ!これからも!」
コブラ「…ようし、意気込みは良し、だ!派手な花火をぶっ放してやろうぜ!皆!」
コブラ「行けぇぇぇぇ――――――――ッッ!!!!!」
2つの刃の投擲。2つの銃弾の発射。そして、2つの光が同時に、ワルプルギスの夜へと向かって行く。
浮遊するビル群を物ともせず、それぞれが滅ぼすべき対象の元へと、真っ直ぐに。
そして… … …。
大きな爆発が起きた。
大きな光が辺りを包んだ。
それはまるで、嵐を吹き飛ばすかのような衝撃。
そして、それが止んだ時、その爆発の後には何も存在しなかった。
あれだけ街を包んでいた雷雲すら、そこには存在しない。
ただ一つそこにあったのは…吹き飛んだ雲の間から照らす、太陽の光。
その光が、まるで6人を称えるように差し込む。
ほむら「… … …」
コブラ「夜明け、ってのはいつ見ても良いもんだな、ほむら」
ほむら「… … … ええ。 …とても、綺麗」
コブラ「…ああ。 最高だぜ」
一筋の涙がほむらの頬を流れた。
まどか「終わった… 終わったんだよ!ほむらちゃん!ワルプルギスの夜を…倒したんだよっ!!」
ほむら「…!まど、か…」
思わずほむらに抱きつくまどか。
まどか「ほむらちゃん…!これで… これでようやく、ほむらちゃんの…っ!うう、っ…!ぐすっ…!」
ほむら「… … … ありがとう、まどか…」
肩に回されたまどかの手をぎゅっと握り返す、ほむらの手。
さやか「やったんだ… あはは、夢みたい…あんな大きな魔女を、倒せた、なんて…」
杏子「ようやく生きた感じがするな。今更ながら、随分無茶したもんだよ」
マミ「うふふ…でも、皆無事だったんだから、良かったんじゃないかしら」
杏子「…そうだな。 …あ?」
さやか「?どうしたの?杏子」
杏子「コブラは… どこ行きやがったんだ、あいつ」
マミ「…あら… 本当…」
レディ「… … …!」
コブラ「ようレディ、ただいま」
レディ「おかえりなさい、コブラ」
コブラ「心配したか?」
レディ「いいえ、ちっとも。だって、貴方の仕事だもの。 無事で帰ってこないはずがない、でしょ?」
コブラ「おーヤダヤダ。男心をちっとは分かってくれよ。心配した、なんて優しい言葉を求めてる時も俺にだってあるんだぜ?」
レディ「ふふ、考えておくわ。…さ、コーヒーを淹れておいたわ。船内で飲みましょう」
コブラ「嬉しいねぇ。帰るべき我が家と相棒と、最高のコーヒー。文句のつけようがない」
コブラ「それじゃ… ささやかな祝杯でも、あげるとしますか」
―― 次回予告 ――
ワルプルギスの夜も倒して、ようやく俺の肩の荷も下りたってところだな。お伽話ならめでたしめでたしで終わるところだが…ところがそうもいかないんだなぁ。
なにせ元の世界に戻る方法が見つからないときてる。これには流石のコブラさんもお手上げってわけ。どうしたもんかね。
しかし、ひょんな事から俺は元の世界に戻る事が出来るようになったわけ!いやー、めでたしめでたしで終われそう… って、毎度の事ながら、そう簡単にいかないわけだコレが。
最後くらい平和に終われないもんかね、全く、海賊のつらぁーいところよ。
次回、最終話【エピローグ さようなら、コブラ】で、また会おう!
ピピピピピ…
まどか「うぅ~ん…っ…」
カチッ。
まどか「…ふぁぁ…よく、寝たなぁ…」
まどか「… … …」
まどか「夢…見なかったなぁ…」
詢子「おーい、まどか起きてるか~?メシにするぞ~」
まどか「あ…はーいっ」
まどか(…えへへ…なんだか、いい一日になる気がするなぁ…)
最終話「エピローグ さようなら、コブラ」
まどか「うーん…」
詢子「ふぁぁ…おはよ、まど… …なんだ、またリボンの色、悩んでるのか?」
まどか「…あ、ママ、おはよう。ティヒヒ…みんなかわいくって…」
詢子「前から言ってるだろ?赤だって。 …ま、そこまで悩むんならいっそ両方持って行っちまえばいいんじゃないか?」
まどか「あ!そうだね…うん、そうする!」
詢子「決めたら朝食食べに行くよ。…あー、台風の低気圧がまだ残ってて頭痛いわー」
まどか「ママ…それ、単に飲み過ぎだと思うよ…」
詢子「はっはっは。…さ、行くぞ」
まどか「それじゃ、行ってきまーす!」
知久「行ってらっしゃーい!」
タツヤ「いったーっしゃーい!」
詢子「気を付けてなー!」
まどか「はーいっ!」
まどか(いつも通り、何の変りも無い朝…だったなぁ)
まどか(わたしは…ううん。さやかちゃんも、マミさんも、ほむらちゃんも、杏子ちゃんも…コブラさんも。みんな、あの戦いを生き抜いて…この街を守った、なんて…。実感ない)
まどか(でも…空は今日も晴れていて。清々しい空気を…胸いっぱいに吸い込める)
まどか(私は…魔法少女になったんだ)
まどか「…えへへ」
さやか「…なーに朝からにやついてるんだぁ?まどかー」
まどか「ふぇっ!?い、いつの間に…」
仁美「…いつの間にも何も、今ここまでまどかさんが歩いてきたのではありませんか?」
まどか「… … … 天狗の仕業」
さやか「何を言っているお前は」
さやか「しかし、実感ないよねぇ、まどか」
まどか「あ、さやかちゃんも同じ事思ってた…?実はわたしも」
さやか「うん。こんなふうに朝フツーに登校できるなんて、夢にも思わなかったもん」
仁美「…お2人とも、何のお話をされているのでしょう?」
さやか「! あ、あははは!いやぁ、あんな台風が起きた後でよく学校やってるなーって!学校吹き飛んでるかと思ってさぁ!」
まどか「そ、そうそう!そういう事なんだよっ!」
仁美「…また私に内緒のお話を… 不潔ですわー!」
涙を流しながらダッシュをして学校に向かう仁美。
まどか「… 行っちゃった。 …ところで、さやかちゃん。…仁美ちゃんと、恭介くんの事は…」
さやか「ああ、アレ?しばらくその話は抜きにしよう、ってお互いに話したの」
まどか「…?」
さやか「恭介のヤツ、今はリハビリの事しか頭に無いし。そういう所鈍感で嫌になっちゃうからさ。…仁美にも、かわいそうだし。だからしばらくこの話はやめて、友達として改めて…って話したの」
まどか「…すごいね、さやかちゃん。そういう事ズバっと言えるって」
さやか「うーん。前までのあたしだったら、無理だったかな? 一皮剥けた、って感じかな。スーパーさやかちゃん的な」
まどか「あはは」
さやか「お。前方に目標確認」
まどか「…あ、ほむらちゃんだ」
さやか「おっはよー、ほむら!今日も暗いぞー!どうしたー!?」
ほむら「…おはよう、まどか」
まどか「おはよっ、ほむらちゃん」
さやか「うおぉい!出会って即無視かいっ!しかもまどかまで!?」
ほむら「… … …」
まどか「… … …」
さやか「…おーおー、見つめ合って頬赤く染めあっちゃって…新婚初日かっての、あんたらは」
まどか「な、なにいってるのさやかちゃんてばっ…!て、ティヒヒ、…えと…い、一緒に行こ?ほむらちゃん」
ほむら「ええ」
杏子「よう」
まどか「!?杏子ちゃん!どうして…それに、その恰好…」
さやか「ウチの制服じゃん!…ま、まさかアンタ…」
杏子「今日からこの学校に転校してきたんだよ。拠点を本格的に移そうと思ってな。この方が好都合だからさ」
さやか「えええええっ!?」
まどか「あはは、杏子ちゃんのスカート初めて見た。すごく可愛いよ」
杏子「!? ばっ、ばっかやろ…!こっちだって恥ずかしいんだよ…!そういう事言うのやめろ…!」
さやか「あれー?制服違ってるんじゃないのー?男子用制服じゃなかったっけー?」ニヤニヤ
杏子「こ・の・や・ろ…!」
さやか「やるかこのー!!」
ほむら「…騒がしいわね」
まどか「あはは…でも、2人ともすごく嬉しそうだよ」
ほむら「… … …」
キーンコーンカーンコーン
まどか「あ!大変!授業はじまっちゃう!」
さやか「にゃんだとー」
杏子 「にゃんだとー」
お互いに頬を引っ張り合っている2人。
4人は学校まで駆けて行こうとするが…その前方を遮るように、1つの影が出てきた。
マミ「はぁっ、はぁ…!」
まどか「ま、マミさん!?」
さやか「どうしたんですか、そんなに息あげて…」
マミ「た、大変なの…」
杏子「魔女か!?朝っぱらから迷惑な野郎がいたもんだな」
マミ「ち、違うの!そうじゃなくて…!」
まどか「それじゃあ、一体…?」
マミ「コブラさんが…いなくなっちゃうの!!」
一同「えええええええええっ!?」
森林の中。タートル号の外で、コブラとレディは森林浴を楽しみながら、朝のコーヒーを啜っている。
コブラ「くぁぁぁあ…。やっぱり地球で感じる朝の光と空気が一番だね。過去の世界だとしても」
レディ「ええ。あれだけ風が吹き荒れたから、雲1つないわね」
コブラ「新鮮な空気を吸い込み、朝の森林浴。…なーんて健康的な生活かね。健康診断、一発オッケーだな」
レディ「元から何の問題も出てないでしょ?貴方の身体は」
コブラ「色々不具合が起きてるんだよ。特に最近、グラマラスな身体を見てないからな。精神的に問題アリだ」
レディ「…怒るわよ、かの女達」
コブラ「おおっと、オフレコで頼むぜ。 …それで、データは間違いないのか?」
レディ「ええ。何百光年か離れた先に、ブラックホールが発生したわ。周囲には何もない宙域なのだけれど…そのブラックホールのデータ、私達が吸い込まれた物と一致している」
コブラ「原因不明のブラックホールが再発…ねぇ。何か裏がありそうだが、まぁ、この話に乗っからないわけにはいかないな」
レディ「詳しい分析は付近でするけれど…元の世界に戻れる可能性は、極めて高いわね。行ってみる価値はあるわ」
コブラ「ああ。名残惜しいが、この世界ともさよならだ。忙しい海賊稼業に戻るとするかね」
レディ「でも…少し不安ね。かの女達…魔法少女。別れくらい言ってからの方がいいんじゃない?」
コブラ「俺の性分じゃない。…それに、もう俺の力は必要ない。だったら、この世界の役割は、かの女達に任せるとするさ」
レディ「…悲しむわよ、きっと」
コブラ「…乗り越えて行けるさ。可憐な魔法少女の闘いに、俺みたいな血生臭い男がずっと隣にいたんじゃ、絵にならない。別れを言えば余計辛くなる。…だろ?」
レディ「… … …ええ、そうね」
コブラ「そうと決まれば出発だ。俺の気が変わらない内にな」
レディ「それじゃあ、タートル号の調整をしてくるわね。数分したら発てると思うわ」
コブラ「ああ、頼んだぜレディ」
コブラを残してタートル号のコクピットに戻るレディ。
コブラ「… … …」
コブラは、何か思うような表情をしながら、葉巻の煙を青空に浮かべるのであった。
森の中を駆けていくマミ、まどか、さやか、杏子、ほむら。
まどか「ど、どうして急に…!?」
マミ「今朝…コブラさんに改めてお礼を言おうと思って、宇宙船のところまで行ったの…そうしたら…!」
さやか「元の世界に帰れるっ、て…!?」
マミ「…ええ、偶然聞いてしまったから、急いで皆のところに来たの…」
杏子「あのヤロー、何も言わないで帰るつもりかよ!」
さやか「でも…どうやって!?確か元の世界に戻る方法がないとか言ってなかったっけ!?」
マミ「…確かに、そう言っていた筈だけれど…」
まどか「… … …」
ほむら「… … …」
ほむら(…まどか…)
レディ「メインエンジン、反加速装置、制御システム、オールクリア。…それじゃあ、行くわよコブラ」
コブラ「…よろしくどーぞ」
コブラは葉巻から煙を吐き出し、苦笑いを浮かべた。
レディ「…タートル号、発… … …」
コブラ「…?どうした?レディ」
レディ「出発は遅れそうね、コブラ」
コブラ「んん? … … … ありゃあ」
タートル号のコクピットから、こちらに駆けてくる5人の少女の姿が見えた。
まどか「コブラさーーーーんっ!!!」
コブラ「あーあ。これじゃ恰好がつかないねぇ、参った参った」
コブラは頭をボリボリと?きながら、両手を大袈裟に上げた。
レディ「…ふふふ、そう言う割には嬉しそうじゃない?コブラ」
コブラ「言ってくれるなよ、レディ」
マミ「はぁっ、はぁっ…」
さやか「ま、間に合ったぁ…」
タートル号のハッチが開き、中から苦笑いをしたままコブラとレディが出てくる。
コブラ「おいおい、おたくら、学校が始まるんじゃないかい?無断欠席とは褒められないなぁ」
杏子「怒れるような性格もしてないだろ?お前の場合」
コブラ「ははは、ごもっとも」
マミ「…何も言わずに帰っちゃうなんて…寂しすぎるわ」
さやか「そうだよ!…それにあたし達、まだお礼も何もしてないよ!」
コブラ「したさ」
さやか「え?」
コブラ「久しぶりに、いい物を見せてもらった。…仲間と呼べる者の絆。そしてそいつが起こす奇跡。…俺が久しく忘れていたものを、思い出させてくれた」
まどか「…コブラさん」
コブラ「…まどか。お前さんの願い事が叶った結果かい?これは」
まどか「… … …はい」
コブラ「…全く。何でも願いが叶うっていう折角のチャンスをこんな事に使っちまいやがって」
ほむら「…!まさか…!」
杏子「…?どういう事だ?」
レディ「…!まさか、鹿目まどかの魔法少女になる願い…そのおかげで…!?」
まどか「…私、魔法少女になって、皆を助けられるようになれば…それだけでいいんです。…だから、その時の願いは…一番役に立つ人のために使おう、って」
コブラ「… … …」
――― ワルプルギスの夜との決戦の日。
ワルプルギスの夜へと向かって行くコブラと魔法少女達。
その後ろで、対峙をするまどかとキュウべぇ。
まどか「…キュウべぇ。私、魔法少女になる」
QB「…!」
まどか「願いは… コブラさん達に、元の世界へ戻る方法を与える事。…それだけだよ」
QB「たったそれだけかい?君には、宇宙そのものを作り変える力すらあると言うのに」
まどか「…それでも構わないって、思ってた。わたしが神様になれるなら…こんな世界、作り変えちゃえ、って」
まどか「でも…わたしはまだ、信じていたい。わたしを含めた皆が笑いあえて…信じあえる。神様なんていなくても、そんな世界が築ける、って」
まどか「…例え、コブラさんが…元あるべき場所に戻ったとしても。…『わたし達』魔法少女が、この世界を守れる。…そう信じていたい」
QB「…」
QB「君の願いは、エントロピーを凌駕した。本当に構わないんだね、まどか」
まどか「うん」
QB「それじゃあ…君の願いを――― 叶えよう――――」
そして、2人の間を眩い光が包んだのだった。
QB「そしてまどかは、魔法少女となったというわけさ」
さやか「アンタ、いつの間に…」
まどか「わたし達の願いは、コブラさんのおかげで全て叶った。…でも、コブラさんとレディさんの願いが、まだ叶っていない。…そう、だよね?」
レディ「…鹿目さん…」
まどか「だからせめて…。…これが、わたしの恩返しだと、思うから…」
コブラ「…全く… あんな弱々しかったヤツが、いつの間にかこんなはっきり物事を決められるようになるとはな」
コブラはまどかに近づくと、まどかの頭にポン、と右手を乗せた。
コブラ「…ありがとよ、まどか」
そして髪型がぐちゃぐちゃになるほど、頭を撫でる。
まどか「ティヒヒ」
さやか「宇宙の果てにブラックホール…」
マミ「その中に再び入れば…私達の前に現れた時と、同じ現象が起きて…コブラさん達は元の未来へ帰れる…。…そうなの?キュウべぇ」
QB「ブラックホールが、まどかの願いによって生じたものだと言う事は間違いないね。まどかの願いは、コブラが元の世界へ戻る方法を『与える』事。だから、その中へ入るのは自由というわけだ」
マミ「…でも、貴方は行くのでしょう?…コブラさん」
コブラ「どんな人間にも、帰るべき場所はあるのさ。…それに、おたくらは俺が思ったより遥かに成長した。これなら俺がいなくなっても安心だ」
杏子「師匠気取りかよ。…気に入らねェなぁ」
コブラ「…杏子。初めにお前さんに斬りかかられた時はどうなるかと思ったが…ようやく人前で素の自分が出せるようになったみたいだな」
杏子「…どういう意味だよ」
コブラ「さぁてね。ま、とにかく、さやかの面倒をしっかり見てやってくれよ」
コブラはそう言うとにぃと悪戯っぽく笑った。
さやか「ちょ、ちょっと、どういう意味よ!なんでこいつに面倒みてもらわなきゃならないワケぇ?!」
杏子「…ま、確かに面倒見甲斐がある後輩かもしれねーな」
さやか「うがあああああ」
コブラ「さやか」
さやか「何さっ」
コブラ「お前さんの明るさなら、どんな絶望も払拭できる。笑顔を忘れるなよ。アンタの最高の魅力だ。…彼氏とのデートの時にも、な」
さやか「なっ…か、彼氏ってなによ…恭介とはまだ別に…!」
コブラ「恭介とは一言も言っていないんだがね俺は」
さやか「うがああああああああああ」
まどか「あははは」
コブラ「マミの作るお菓子や紅茶は最高だったぜ。俺の相棒に勝るとも劣らない。おかげで甘党になるところだった」
マミ「…有難う。光栄だわ」
レディ「珍しいわね。お酒と料理以外でそんな事言うなんて」
コブラ「おいおい、グルメなんだぜ俺は。何に対しても、だ。 …これからは、お前さんが皆の先頭に立つんだ。しっかり頼むぜ、マミ」
マミ「ええ。…先輩だものね。しっかり舵を取るつもりだわ」
コブラ「ああ。ついでに後輩のバストやヒップの向上計画に是非とも取り組んで欲し… いでえーーーーっ!!!」
マミに足を踏まれ、レディに頭を叩かれるコブラ。
マミ「…こうしてツッコミを入れるのも最後なのね。少し…寂しいわ」
レディ「同胞をなくしたような気分だわ」
コブラ「…ああ、全く寂しいね、ホント」
頭を摩りながら、足に息を吹きかけるコブラ。
コブラ「…ほむら。…これからも…まどかを、いいや、魔法少女達を守る存在であってくれよ」
ほむら「… … …」
コブラ「自分だけで苦労すればどうにでもなる…。綺麗事かもしれないが、そんな事は無いんだ。…もう時間を繰り返す必要も無いんだしな」
ほむら「… … …」
ほむら「そう、ね…」
コブラ「まだまだ、まどかは頼りない。かの女を引っ張っていくのは君だ。…よろしく頼むぜ」
まどか「た、頼りない…かぁ…。…うう、少しショック」
ほむら「…ええ、解かったわ」
コブラ「…まどか。お前さんの心と力があれば、全ての絶望を払拭できる。そこのエイリアンとも仲良くしていってくれよ」
QB「インキュベーターと呼んで欲しいのだけれどね」
まどか「…はい。…わたし、頑張ります!」
コブラ「ほむら、まどか。誰かを、何かを守るために、犠牲はいらない。 必要なのは、守りたいという意志だ。結果は関係ない」
コブラ「だから、これからも精一杯学生生活を満喫して、いい女になって、未来の俺のために美人の先祖を作っておいてくれよ?」
ほむら「… … …」
まどか「あはは…動機は不純ですね…」
コブラ「…お。…いい物があったぜ。…まどか」
まどか「?」
コブラは、ポケットから1つ、ガーベラの花を取り出した。それをまどかの頭につける。
コブラ「タートル号でコーティングしておいたモンさ。枯れる事なき希望。…なぁーんてね」
まどか「わぁ…有難うございます!…あ」
そして、まどかの髪を結ってあるリボンを解き、手にするコブラ。
コブラ「俺は、君達の事を忘れない。…交換しておくぜ」
まどか「…はい。…私も…忘れません」
コブラ「それじゃあ…行くとするか。こういうのは長引かせるもんじゃないね。どんどんこの世界に居たくなってくるぜ」
さやか「…いいんだよ。いつまでも居ても」
コブラ「そうもいかない。人は皆、あるべき場所へ戻る。そいつに逆らっていちゃあいけない。自然の摂理ってやつさ」
マミ「…そう、ね。…もしも…もしも、もう一度逢えるのなら…また、この世界に来てくれるかしら?コブラさん」
コブラ「もちろん!女の子の成長過程の観察は俺の趣味の一つなんだ」
杏子「大した趣味だな。…ま、その時は熱烈に歓迎してやるよ」
コブラ「楽しみにしてるぜ。…その時は、何も言わずに笑って待っててくれよ?」
まどか「…勿論ですっ!」
レディ「…それじゃあ、コブラ。…行きましょうか」
コブラ「ああ。そうだな…」
コブラ「それじゃあ、愛しき魔法少女諸君!…元気でな! …あばよ」
上空にゆっくりと浮上をするタートル号。
エンジンに火がついたかと思うと、あっという間に空の彼方へと飛び去ってしまう。
その様子を、ただただ見上げる5人の魔法少女。
まどか「…行っちゃったね」
さやか「…何か、あっという間だった…な。今まで」
マミ「辛いものね。…お互い、住む世界が違う、というのは…」
杏子「落ち込んでても仕方ねーよ。…アタシ達はアタシ達で、精一杯生きていく。それしかないだろ?」
まどか「…そうだね。… … …」
さやか「なーに落ち込んでんのよまどかっ、あたしの嫁は笑顔が一番可愛いんだぞぉ?」
そう言いながらまどかに抱きつくさやか。
まどか「わ、わ…っ!んもぅ…分かったよ、さやかちゃん…」
マミ「うふふ…それじゃあ、行きましょうか?」
杏子「そうだな。行くぞ、まどか」
まどか「…うん…。 …?ほむらちゃん?」
ほむら「… … …」
まどか「どうしたの?ほむらちゃ…」
カチリ。
その時、大きく時計の秒針の音が聞こえた。
ほむら「…え…!!??」
それは、暁美ほむらが幾度となく経験をした感覚。
全ての時間が流れを止め…そして、逆戻りをしていく。
時間が、巻き戻っていく…その感覚――――。
ほむら「そんな…!私は時間を戻そうとは思っていない!…どうして…!?どうしてなの…!?」
しかし時間は非常なまでに崩れ、ほむらの意識は暗闇へと落ちようとしていた。…元の、自分が病室へといる、あるべき時間へと。
ほむら「どうして…っ!!??」
その時。自分自身の声が、暗闇の中で響いた。
QB『――― 君は、どんな祈りでソウルジェムを輝かせるのかい?』
ほむら『私は―――』
ほむら『私は、鹿目さんとの出会いをやり直したい。彼女に守られる私じゃなくて、彼女を守る私になりたい―――』
ほむら「…!」
ほむら(…そう、だったの…)
ほむら(この結果は…彼女を、まどかを【守る】結果には繋がらなかったのね)
ほむら(わたしが時間を巻き戻せる限界は、ここまで…。これ以上時間が進めば、まどかが魔法少女になる【後】へしか戻れなくなる)
ほむら(そして…このまま時間が進めば、再び私達は…滅んでしまう。…そういう事…)
ほむら(… … …)
ほむら(それに…私は、この世界を望んでいないのかもしれない)
ほむら(まどかが…【皆に】微笑む…この世界では…)
ほむら(数多の時間の中で巡り合った、1人の男。…可能性はゼロに近くても、こんな時間も確かに存在はしていた)
ほむら(それが、ワルプルギスの夜すら超えさせられる。…そんな希望がある、世界)
ほむら(…いい夢を、見させて貰ったの。…だから…)
ほむらは、病室で目を覚ます。
カレンダーは、見覚えのある日にちで止まっていた。
ほむらは傍らのテーブルに置いてあった眼鏡をそっと手にすると、それをかけた。
ほむら「…コブラ。…有難う。希望は、存在する。それを思い出させてくれて」
ほむら「…今度こそ、私は…この世界で、彼女を助けてみせる」
ピピピピピ…
まどか「うぅ~ん…っ…」
カチッ。
まどか「…ふぁぁ…よく、寝た…」
まどか「… … …」
まどか「…すごく、悪い夢見てた気がするなぁ…」
まどか「…歯、磨きにいこ…」
まどか「おはよ、ママ」
詢子「おう、おはようまどか。…うぅん?」
まどか「…?どしたの…?」
詢子「…それ、誰に貰ったんだ?…まさかぁ、男の子からかぁ?」
まどか「な、なに?何のこと…?」
詢子「今時花の髪飾りねぇ。ロマンチックだとは思うけれど、さすがにチョイと幼すぎないかな」
詢子は少し笑いながら、まどかの頭から1つの白い花を取り出した。
まどか「え…あ…?…??なんでだろ…?」
詢子「…覚えがないのか?…じゃあ…まどかの部屋にあったのかな?うーん、でもガーベラなんて花瓶にさしておいたっけな」
まどか「… … …」
まどか「でも…すごく、綺麗な花だね」
コブラ「ふぁぁ…よーく寝たぜ」
レディ「おはようコブラ。ふふ、久しぶりにぐっすり寝れたようね」
コブラ「ああ、このところ退屈なくらい平和だからな。…おかげで変な夢見ちまった気分だ。なんだったか忘れたが」
レディ「貴方らしいわね。…あら?コブラ」
コブラ「んん?」
レディ「…コブラ。平和を謳歌するのもいいけれど、そういう物を私の前に出すのはどうかと思うわね」
コブラ「…?何の事だ?」
レディ「貴方の首にかかっている赤いリボンの事よ」
コブラ「…。本当だ。…おかしいな、見覚えのないリボンだ」
レディ「まぁ、覚えがないのにリボンを貰ったの?」
コブラ「ご、誤解だよレディ。はは、えーと…ホントになんだっけか」
そう言いながら、慌ててポケットにリボンを仕舞い込むコブラ。
コブラ(…しかし、どこか懐かしい香りだな)
その時、タートル号のレーダーのアラート音が鳴る。
コブラ「…!なんだ!?」
レディ「…! コブラ、前方に海賊ギルドの艦隊よ!」
コクピットから見えるのは、ギルドの大型戦艦が幾つも宙域に待機する光景。
そして、モニターに映し出される男の姿。
ボーイ「久しぶりだなコブラ。会いたかったよ」
コブラ「!!クリスタルボーイ!お前の仕業か」
ボーイ「くくく…お前さんがこの辺りの宙域にいるという情報を掴んでね。首を長くして待っていたところだよ」
コブラ「大層な歓迎だぜ。パレードでも開いてくれるのかな?」
ボーイ「軽口もここまでだ。…この宙域が貴様とタートル号の墓場だ!」
レディ「どうするの!?コブラ…」
コブラ「… … …」
コブラ「上等じゃねぇか。売られた喧嘩は買う主義。ここは…正面から突破だ。タートル号の性能を見せてやろうぜレディ」
レディ「了解。連中に一泡吹かせてやりましょう」
コブラ「よろしくどーぞ!…覚悟しろよ、ガラス人形!」
コブラ「俺は…不死身のコブラだからな!!」
艦隊へと単独で突っ込んでいくタートル号。
しかし船内のコブラの表情に不安はない。
葉巻を銜えたその顔は、自信に満ち溢れた不敵な笑みだった。
コブラ最高にかっこいいな!
面白かったよ
Entry ⇒ 2012.10.15 | Category ⇒ その他 | Comments (0) | Trackbacks (0)
http://iup.2ch-library.com/i/i0761891-1349974273.jpg
http://iup.2ch-library.com/i/i0761892-1349974295.jpg
P(加蓮は頑張り屋で、ちょっと身体が弱くて、でも最高に輝いてる)
P(今ではうちの事務所の顔として活躍してるけど)
P(最初の頃は本当に大変だったんだよな…)
P(社長や俺がスカウトしてきた候補生は、能力と本人の反応を見るためにしばらくレッスン場通いになる)
P(加蓮と初めて会ったのは丁度加蓮のレッスン詰め最終日)
P(一目見て惚れ込んで、社長に担当させて欲しいと頼み込んだ)
P(…今思えば、「流石だねキミィ」の意味をよく考えるべきだった)
加蓮「ん?アンタがアタシをアイドルにしてくれんの?よろしく」
P「よ、よろしく。プロデューサーのPです」
加蓮「でさ、アタシ努力とか練習とか、そういうキャラじゃないんだけど。ホントになれんの?アイドルなんてさ」
P「え、え?まあ険しい道程にはなると思うけど…やるからには二人三脚で頑張ろう、な?」
加蓮「えー…言っとくけどアタシ体力ないかんね。入院してた時期もあるし。ちゃんと休ませてよ?」
P「よろしくな、えっと、加蓮ちゃん?」
加蓮「うわ、なにそれ気持ち悪…加蓮でいいよ」
加蓮「はあ、先が思いやられるなー」
P(俺もだよ…うう、見事なまでの現代っ子…これからが心配だ…)
[同日、夕方]
ルキトレ「はい、6、2、3、4、7…ほら加蓮ちゃん頑張ってー!」
加蓮「ハッ……ハッ……あー、もう無理!休憩!」
ルキトレ「あー、もうちょっとだったのに…ダメだよ加蓮ちゃん、気合で最後までやろうよぉ」
加蓮「ハァ…ハァ…無理だってば、無理無理…ハァ…あー、喉渇いた…飲み物飲み物…」
ルキトレ「うー、加蓮ちゃぁん…」
P(でも原石としては最高の逸材だ。磨けば間違いなく輝ける)
P(それになにより、俺がこの子をプロデュースしてみたい)
P(担当を加蓮一人に絞っていいから全力でやれと社長は言ってたけど…)
P(まだ俺が加蓮のことを知らなさすぎる)
P(本人もこの程度のレッスンでかなり辛そうだし、一度ちゃんと話して心の内を聞いておかないと)
加蓮「え、わ、わ、っと…あ、レモン水じゃん!プロデューサーわかってるー♪」
加蓮「んっ…」ゴクゴク
P「ルキトレさん、今日は少し早いですけどここまでで大丈夫です。少し加蓮と話したいこともあるので」
ルキトレ「あ、はい…えっと、加蓮ちゃん、気分とか、大丈夫?」
加蓮「ん、休めば大丈夫だよ。お疲れ~」
ルキトレ「うう、それじゃ次もまた頑張ろうね?お疲れ様」
加蓮「疲れたー。やっぱしんどいよこれ」
P「そっか。じゃ、そのまま座っててくれ…っと、隣、いいか?」
加蓮「へ?と、隣?い、いいけど汗かいてるよ?」
P「構わないって、それくらい。そいじゃ失礼、と」
加蓮(構わない、って…臭わないよね?)クンクン
加蓮「うーん…なんか事務所の子達ってホント努力努力努力ーってカンジでさー」
加蓮「なのにアタシはこんなんだし、レッスンも休み休みじゃないとこなせないし」
加蓮「どうにかなんのこれ?って感じかな。あはは」
P「確かにうちの事務所は結構凄いのいるからなあ…」
P「加蓮はなんでアイドルやってみようと思ったんだ?」
加蓮「え、唐突…んー、なんていうんだろ」
P「へ?」
加蓮「あ、別にふざけてるわけじゃないよ?ほら、日高舞っていたじゃん、もう引退しちゃったけど」
P「ああ…ってまさか日高舞に憧れて?」
加蓮「うん。アタシ小さい頃から病気がちでさ。あんまり外で遊んだりできなくて」
加蓮「いつも家で遊んでたんだけど、そんなアタシのヒーロー?ヒロイン?が日高舞」
加蓮「お母さんも、『大きくなって、元気になればあんな風になれるから』とか言っちゃっててさ。アタシ、信じちゃってたんだ」
加蓮「そ。高校入って、相変わらず体弱くて、全然日高舞みたいにはなれなくて」
加蓮「あーネイルの勉強でもしようかなーなんて考えてたところで、アイドルやりませんか、とか言われるもんだからさ。ちょっと夢見ちゃった」
加蓮「でもやっぱダメだね、アタシみたいなポンコツが通用する感じじゃなさそうかも。あはは」
P「ポンコツってお前……」
加蓮「実際そうだよ。ルキトレちゃんも言ってたよ、アイドルって体力ないと務まらないって」
加蓮「アタシにはそれがないんだし、さ。根性も無いし」
P「…今も、アイドルになりたいと思ってるのか?」
加蓮「えー、実際無理そうじゃない?さっきのレッスン見てたでしょ?あれで人前に立つのは…」
P「加蓮、真面目に」
加蓮「……そりゃ、ね。夢だもん。でもお陰で現実見れたし、これで諦めつけてもいいかな、って」
加蓮「プロデューサーには付いて早々で悪いけど、そろそろ潮時ってことでもう…」
P「諦めも何も、まだ何も始まってないだろ。アイドル、なりたいんだろ?」
加蓮「なんで何度も言わせるのさ、嫌がらせ?」
P「そんなわけないだろ。加蓮をアイドルにするために、俺が知っておきたかったんだよ。プロデューサーなんだからな」
加蓮「…っ、だから無理だって、もう一週間やって分かったよ」
加蓮「アタシみたいなのはアイドルなんてなれない」
加蓮「体力もないし根性もない、そんなんじゃ通用しないって十分思い知ったって」
加蓮「もういいんだってば。帰る。さよなら」
P「おい、加蓮」
加蓮「もういいって言ってるでしょ!しつこい!」
P「待てよ、おい加蓮!」グッ
加蓮「離してよ、や、離してってば!」
P「話を最後まで聞けって!」
加蓮「っ、痛い、離して!」
P「…ごめん」
P「……俺は加蓮にこんなところで終わって欲しくないんだ。まだまだこれからだろ」
P「辛いのに、ちゃんと毎日レッスンも来てるし、根性あるじゃないか。続ければ必ずステージで輝く日が来るさ」
加蓮「…しつこいなあ。今日初めて会ったのになんでそこまで言えんの?」
P「一目見てティンときたんだよ。この子には他の子にはないものがあるって」
P「加蓮さえよければ、一緒に頂点を目指したいんだ」
加蓮「頂点って、話飛びすぎ。期待してもらって悪いけど、アタシ、やっぱこういうの無理だよ」
加蓮「去年の今頃は病院のベッドだったのにアイドルなんて目指させて貰えて、短い間だったけどいい夢見れたよ」
加蓮「いいじゃん、アタシの中で決着つきそうなんだから」
加蓮「………もういいってば……ホントしつこい…諦めさせてよ……」
P「…………加蓮はさ、目が違うんだ」
加蓮「………は?目?」
P「そう、目。アイドルはたくさん見てきたけど、加蓮みたいな目をしてる娘は他にいない」
P「アイドルってのは誰もが目が輝いてるけど、加蓮の瞳は夢を映して、こう、煌めいてて」
P「何て言うんだろうな。輝き方が違うんだ」
加蓮「……何それ、意味わかんない。口説いてるつもり?」
P「…そうだな、惚れたのかも。初めて加蓮の目を見たとき、ビビッときたんだ」
P「うん、一目惚れ、かもしれない」
加蓮「……………へ?」
加蓮「え、あ、手…」
P「お前の夢、叶えさせてくれ。俺が魔法使いになるから、加蓮がシンデレラになってくれ」グイ
加蓮「な、ちょっと…」
P「ちゃんと輝くステージに、ドレスと花を持たせて連れていくから」
P「だからさ、一緒にやろう、アイドル。二人なら出来る、約束する」
加蓮「だから、アタシはもう…」
P「今日まで一週間、辛かっただろ?でも今日からは俺と、二人でやっていこう」
P「まだ、これからだろ。スタートラインなのに、諦めるなんて悲しいこと言うなよ」
P「確かに今はまだまだ遠いかもしれないけど、だからこそのシンデレラストーリーじゃないか」
加蓮「でも、無理だよ………あたしじゃ………」
P「………できるよ。見たいんだ。加蓮の、シンデレラ。一緒にやろう」
P「舞踏会まで、俺が連れていく」
加蓮「……………本当に……?」
P「俺、これでもこの仕事では、結構評価してもらえてるんだぞ?」
加蓮「……私、すぐ疲れるよ?レッスンも活動も、迷惑かけちゃうかも」
P「それでも絶対、だ。約束する」
加蓮「二人三脚になんてならないかもしれないよ。道端でへたりこんじゃうかも」
P「そのときは肩車でもおんぶでもなんでもするさ。カボチャの馬車にだって変身してやる」
加蓮「…ぷっ、なにそれ、バカみたい」
加蓮「……ねえ、ホントに、アイドル、なれるのかな」
P「なれるよ。約束する」
P「やるって言うなら、今日この場から俺が北条加蓮のファン1号で、頂点までのパートナーだ」
加蓮「……わかった。ちょっとだけ、信じてみる」
加蓮「約束、だからね」
加蓮「ちゃんと、私の夢、叶えてね」
P「……加蓮!」ギュッ
P「うん。絶対に、絶対にお前の夢、叶えるから。明日からまた仕切り直して二人で頑張ろう」
P「…ってどうしたんだ?加蓮?」
加蓮「…あの、抱きつかれると…あたし…」
P「…あ、ははは、熱くなっちまって、つい……悪い…」
加蓮「…セクハラ」
P「う、ごめん…家まで送るから着替え終わったら呼んでくれ、外で待ってるから」
バタン
加蓮「………」
加蓮「……ぷっ、あは、あはっ」
加蓮「あはっ、だっさ、俺が魔法使い、だって、あ、あはははっ」
加蓮「しかもとんだセクハラプロデューサーだし、あはっ、ホント最悪、あは、は、は」
加蓮「自分も顔真っ赤なくせに、あは、は、カッコ、つけて、あはっ」
加蓮「しつこいし、ぷふっ、もうホント最低、っ」
加蓮「ヒッ、は、もういいって言ってんのに、あは、グスッ……ヒッ……」
加蓮「諦められると、思ったのに……ぅ、グスン、ぅぅ……」
加蓮「………ヒグッ……グスッ……」
加蓮「…グスン………私……なれるのかな………」
加蓮「…………アイドル、アイドルかあ……ひぐっ、う、うぇぇ」
加蓮「グスッ、う、う、ぅぅぅぅぅ」
加蓮「…ぁ、あ……あ……あ、あああ、」
P(あの日、加蓮がレッスン場から出てくるまで一時間待たされた)
P(ようやく出てきてから家に送り届けるまで、何度も「こっち絶対に見ないでよ」と言われたけど)
P(別れ際の「また明日ね」の声は、今でも耳に残っている)
P(これが俺と加蓮の、最初の一歩)
――――
―――
加蓮「あ、プロデューサー!今日もお迎えありがと」
P「おう、とりあえず乗った乗った、早く出よう」
加蓮「ん、何か急ぐの?今日はレッスンだけでしょ?」
P「いや、結構注目浴びてるっていうかさ…」
P「あんまり噂されたりすると、加蓮も学校でやりづらいだろ?」
加蓮「へ?うわ、ホントだガン見されてる…行こ行こ」
バタン
ブロロロロ
加蓮「普通かな。あ、今日から体育も頑張って出てるよ。先生びっくりしてた」
P「お、偉い偉い。ご飯はちゃんと食べたか?」
加蓮「朝はなんとか食べたけど…昼はちょっとしか食べられなかった。体育の後だったし」
P「それだとレッスン中に力出ないだろ。ほら、そこの紙袋のやつ食べとけ」
加蓮「はーい。今日のおやつは…フルーツサンドかー。こっちの惣菜パンは?」
P「ああ、それは俺の。ちょっと小腹が空いちゃってな」
加蓮「エビフライやきそばパン…?ね、私こっちがいい」
P「え、ええ?別にいいけど」
P「そういや言ってたな。今度からその路線の方がいいか?」
加蓮「んー、でも流石にお腹空いてないと無理だし」
P「なら欲しいときは連絡してくれ。おやつくらいならいくらでも出すから」
加蓮「はーい……んぐんぐ…ん、今日もレッスン頑張ろっと」
P「疲れとかは大丈夫か?」
加蓮「そりゃあれだけいろいろやれば疲れるけど、ね」
加蓮「ちゃんと言われたとおりに食べて、寝て、身体動かしてるから、すっごく調子はいいよ」
P「ならいいんだけどな」
加蓮「あ、それにプロデューサー、ちゃんと身体使うのと使わないのとでバランス取ってにレッスン組んでくれてるでしょ」
加蓮「ふふっ、助かってるよ」
P「その辺は任せとけ。でも頑張り過ぎは禁物だぞ?オフの日はしっかり休んで、遊ぶように」
加蓮「でも今はレッスンも楽しいし、まだまだやれるよ?」
P「他にもやりたいことあったりするだろ。押さえつけると、気がつかないうちにストレスになってくるんだ」
P「休みもちゃんと希望出して、発散すること。いいな?」
加蓮「はーい……うーん、やりたいことやりたいこと……あ」
P「ん?なんだ?」
加蓮「その、放課後デート」
P「…は!?加蓮、お前アイドルなんだから恋愛は…」
加蓮「うん、わかってる。そもそもそんな相手いないし」
加蓮「でも、Pさんならプロデューサーだからさ、その…」
加蓮「えっと、うわ、恥ずかし、何て言うか、その」
P「……」
加蓮「えっと、とにかく私ちゃんと休みとるからさ、Pさんも同じ日に、だって二人で頑張るって決めたんだから」
加蓮「二人で一緒に休んで、その…」
P「はぁ…」
P(加蓮の放課後なら仕事は早上がりさせてもらえば事足りるし…)
加蓮「……」
P「加蓮」
加蓮「ぅぅ…ご、ごめ」
P「来週の金曜な」
加蓮「!」パァァァ
P(純情、だなぁ…)
P(この頃の俺の担当アイドルは加蓮一人に絞られていた)
P(だから加蓮の育成に全力を注ぎ込むことができた)
P(送迎もレッスンも営業も、全部俺の担当で)
P(たまにオフを取っても、何らかの形で加蓮と一緒にいた)
P(忙しい日が続いても、加蓮は弱音一つ上げなかった)
P(仕事も順調、アイドルランクは一度上がり始めたら勢いが止まらず)
P(お互い、パートナーとして成長していった)
――――
―――
P「…」カタカタカタ
加蓮「…」ジー
P「…うーん……」カタカタカタ
加蓮「…ふふっ」
P「…」カタカタカタ
みく「…」ジトー
加蓮「ねえプロデューサー。そろそろいい時間だよ」
P「え?うわ、もうこんな時間か。ごめん、待ってたのか?」
加蓮「うん、プロデューサーがお仕事するの見てた」
P「そっか。よし、それじゃ今日はここで切り上げるかな。飯行こうか」
加蓮「ん。えっとね、今日は…」
みく「…Pチャン?」ジトー
みく「うん、お疲れ様…Pチャン、加蓮がずっと見てたっていうのにノーコメントなの?」
P「いつものことだし」
みく「に、にゃ…きょ、今日は加蓮とご飯の約束してたり?」
P「いや、別に」
みく「…じゃあなんで自然と一緒に食べに行く流れなの」
P「まあ、いつもの流れだし」
みく「…これもいつも!?いつも一緒にご飯食べてるの!?Pチャンみくの担当してた頃はいつも『早く帰って寝なさい』だったにゃ!?」
P「あの頃は忙しくてだな…」
みく「行く!Pチャン、みくはお肉を要求するにゃあ!」
P「回転寿司ならまだ開いてるかな?いいか?」
みく「Pチャン!?ひどくない!?」
加蓮「プロデューサー、私はどこでもいいよ」
みく「にゃ!ならそこのファミレスがいいにゃ!お肉お肉~♪」
みく(Pチャンと加蓮、仲良すぎにゃあ…ふふん、たまにはみくも構ってもらうにゃ!)
ゴチュウモンウカガイマース
みく「ガーリックステーキのデラックスセット!あと食後にストロベリーバナナパフェ!」
P「みくはこっちの焼き魚定食の方が…」
みく「はぁぁ?お断りにゃ!Pチャンの奢りだし、みくは贅沢するにゃ!加蓮はー?」
加蓮「んーっと、えっと…このアンガスバーガーのバッファローウイングセットで」
P「ん、じゃあ俺は野菜スープとシーザーサラダで」
みく「か、加蓮すごいの頼むね…」
加蓮「あはは…色々反動でね、ジャンクフード好きなんだ。こういうところ来ると、つい、ね」
みく「それに比べてPチャンはダイエット中かにゃ~?むふふ、みくを蔑ろにした罰としてお肉見せびらかしの刑にゃ~♪」
P「はいはい、食べ終わったらちゃんと歯磨いてブレスケアしろよ。明日ニンニク臭くなるぞ」
みく「え…ひどくない…?」
みく「ん~~やっぱりお肉は美味しいにゃ~~♪」ハグハグモグモグ
加蓮「ん……Pさん」
P「もういいのか」
加蓮「うん、意外と重くって」
P「そっか。じゃ、ほい」
みく「…!?」
みく(示し合わせたように頼んだもの交換…え、まさかお互い最初からそのつもりで頼んだの!?)
みく(というかそのハンバーガー、加蓮直接かじってたにゃ!?)
加蓮「あ、Pさんフォークとスプーンも」
みく(え、普通新しく頼まない?あと呼び方Pさんに変わった?)
加蓮「この間のカフェのとか酷かったもんね。あ、そのバッファローも割とよくない?」
P「うーん、ちょっと甘い気が…」アーダコーダ
みく(な、何コレ…)
ストロベリーバナナパフェノオキャクサマー
みく「あ、はい…」
P「加蓮はデザートいらないのか?」
加蓮「うん、今はいいよ」
P「そっか」
加蓮「ん、ありがと」
みく(アカンなんやこの空気アカンアカン)
P「みくはよく食べるなあ。ほら、加蓮もこれくらい普段から食べればもっと…」
加蓮「最近は頑張ってるよ。ほら、この間だってさ」
みく「に、にゃー!PチャンPチャン!!並んでる人いるし、食べ終わったらさっさと出よ!…んっんっんっ…ごちそうさま!ささ、早く出るにゃ!」
P「え?お、おう、それじゃ会計してくるか。みく、3000円な」
みく「に゛ゃ!?」
P「ぷっ、相変わらずいい顔するな。冗談だよ、車乗って待ってな」
加蓮「みく、Pさんと仲いいよね」
みく「え、加蓮がそれ言う?加蓮こそ入り込めないくらいPチャンと仲いいにゃ」
加蓮「ふふ、そうかな…でもPさんもさっきから酷いことばっかり言って」
みく「前からあんな感じだよ?みくもあれくらいでじゃれるのが丁度いいにゃ~♪」
加蓮「そっか。……みくはさ、Pさんが担当外れたとき、どうだった?」
みく「うーん、いろいろ思うことはあったにゃあ。でも最後はにゃんていうか、よかったー、って感じが一番強かったかにゃ」
加蓮「え?みく、Pさんのこと嫌いだったの?」
みく「そんなわけにゃいでしょー」
みく「……でもあの頃のPチャン、いつも死にそうな顔してたし」
みく「みくたちのためにやりすぎなくらい頑張ってたにゃ。いつもボロボロで、ちひろが救急車呼ぼうとしたこともあったにゃ」
みく「だからみくたちのLIVEが上手くいって、やっとの思いで出したCDが成功して」
みく「ちひろが新しいプロデューサーが雇えるって教えてくれたときは、寂しいっていうよりも、安心したかも」
みく「結果的にPチャンはみくの担当からも外れちゃって、仕事終わりくらいにしか会わなくなっちやったけど」
みく「もうボロボロのPチャンを見なくていいなら、みくはそれで嬉しいよ」
みく「……ふふーん、みくはいいオンナだにゃ?」
みく「魔法使い?」
加蓮「うん、みくも最初に言われたでしょ?俺が魔法使いでお前がシンデレラ~ってやつ」
みく「へ?何の話?」
加蓮「え、ちょっと待って、みんなに言ってたんじゃないの…?」
みく「…加蓮?もしかしてこれはのろけ話かにゃ?」
加蓮「あ、ウソ、ウソ、なんでもない、なんでもないよ。あ、ほらみく、Pさん来たよ」
みく「む!Pチャン!!Pチャンは魔もごごごご」
加蓮「わー!!わー!!」
P「お前ら仲いいなあ。あ、みくには歯磨きガムとミント買ってきたぞ」
みく「に゛ゃぁぁぁ!!Pチャンがいじめるに゛ゃぁぁぁ!」
P「みくー、着いたぞー」
みく「にゃ、Pチャンお疲れ様!」
P「みくもお疲れ。早めに寝るんだぞ」
みく「みくは夜行性にゃ!夜はこれからだにゃ!お断りにゃ!」
P「にゃあにゃあうっさいにゃあ!」
みく「に゛ゃぁぁぁぁ!もうやだみくおうち帰る!!」
P「おう帰れ!それじゃみく、おやすみな」
みく「にゃ!おやすみPチャン、加蓮」
P「今日はちょっと遅くなっちゃったな。加蓮、親御さんに電話を…」
加蓮「デザート」
P「へ?」
加蓮「どこでもいいから、ちょっと寄ろうよ。お話したい気分」
P「仕方ないなあ。駅前のシュークリームでいいか?」
加蓮「ん、いいよ。人前で、って感じでもないし」
加蓮「ね、Pさん。いつもありがとう」
P「なんだ急に改まって。なんかあったのか?」
加蓮「みくに昔話聞いた。そしたらなんか、溢れだしてきちゃって」
加蓮「ホントに、ホントに感謝してるよ」
P「…なら俺もありがとう。加蓮のお陰で毎日充実してるよ」
加蓮「うん…まだ全然言い足りないや。Pさん、私、Pさんに育ててもらって幸せだよ」
加蓮「今の私は、何から何までPさんのお陰」
加蓮「私の夢、拾い集めてここまで連れてきてくれて、ありがとう」
P「…なんか恥ずかしくなってきた」
加蓮「ふふ、茶化さないでよ。あのね、Pさん、私絶対にPさんの努力にも期待にも応えるから」
加蓮「だから、これからもずっとよろしく、ね?」
P「…当たり前だ。加蓮は俺の自慢のアイドルなんだからな」
加蓮「ふふっ、Pさんも私の自慢のプロデューサーだよ」
加蓮「うーん、どうすればこの気持ち、もっと伝わるかなぁ」
P「これ以上言われると俺が逆に恥ずかしいってば…」
P「ん?どうし…」
加蓮「ぎゅー」
P「お、おい加蓮!?」
加蓮「私から抱き付くのは初めてだね。ふふっ、でもこれが一番いいかも」
加蓮「Pさん、いつもありがとう。大好きだよ」
P「…うん、明日からもよろしくな、加蓮」
加蓮「もー、そうじゃなくて…ううん、やっぱりそれでいいや」
加蓮「ねぇ、次からありがとうって言う代わりにぎゅーってしてもいい?」
P「だーめ。人の目考えなさい」
加蓮「ちぇー。あ、じゃあ人目のないときだけにする。それより時間、そろそろ帰らないと流石にヤバいかも」
P「…はぁ…よし、それじゃ出ますか」
加蓮「うん。よろしくね、私の魔法使いさん」
P(そんな加蓮が倒れたと聞いたときは目の前が真っ白になった)
――――
―――
凛「そ、プロデューサー昨日はずっと上の空でさ」
奈緒「加蓮ガー加蓮ガーって聞かなかったんだぞ!ずっと『ううう加蓮、ううう』って、ぶふっ、思い出したら、ぷぷぷ」
凛「もう熱は大丈夫なんだよね?」
加蓮「うん、明日からは現場に戻れそう。ただの風邪なのに…ホント大袈裟だなあ、プロデューサーったら」
凛「今日は午前で切り上げて、お見舞いに来るってさ」
奈緒「プロデューサーに会ったらまた熱でちゃうんじゃない?」ニヤニヤ
加蓮「もう、そんなことないってば」
凛「それじゃ私たちは仕事に戻るから。お大事にね」
加蓮「うん、わざわざありがとう」
奈緒「がんばれよー」ニヤニヤ
加蓮「もー!頑張らないから!」
P『もしもし加蓮?大丈夫か?一応お見舞いにと思ってな、家の近くまで来てるんだけど』
加蓮『あ、うん、鍵開いてるから上がっていいよ。部屋は階段上がって左ね』
P『鍵開いてるってお前、危ないだろ…』
加蓮『さっきまで凛と奈緒が来てたの。上がるときに閉めといて』
P『無用心だぞー…ってご両親は?』
加蓮『仕事』
P『…そっか。それじゃ上がらせてもらうな』
加蓮「大丈夫だってば、何度もメールしたでしょ?Pさんこそお仕事大丈夫なの?」
P「はは、全然手がつかなくてさ」
P「ちひろさんに『あとは私がやるから今日はもう上がって下さい!』って言われちまった」
加蓮「もう、ホント心配性なんだから」
P「仕方ないだろ?身体弱いってお前が昔散々…」
加蓮「だからちょっと風邪ひいただけだってば。大げさ」
加蓮「……ね、それじゃ今日はもうお仕事戻らないの?」
P「今日は戻ってくるな、ってさ。だからこの後は家かな」
加蓮「そっか。ふふっ、それじゃ今日は一緒にゆっくりしよ?」
加蓮「ホントに大丈夫。それより一人でぼんやりしてる方が辛いよ。だから、ね?」
P「ならちょっとだけ、な。ほい、これ差し入れ」
加蓮「わ、ありがと!うわ重い…プリンにヨーグルトにジュースに…ふふっ、こんなに食べられないよ」
加蓮「でも私の好きなものばっか。流石私のPさん」
P「昼ご飯は?食べたか?」
加蓮「ううん、お母さんがお粥作っておいてくれたはずだけどまだ食べてない。ちょっと食欲湧かなくて」
P「取ってこようか?ちゃんと食べないとだめだぞ」
加蓮「久しぶりにそれ言われたかも…ふふ、それじゃあお願いするね。たぶん台所にメモがあるから」
加蓮「ん、ありがと……ね、Pさんが食べさせてよ」
P「お前なあ…」
加蓮「食欲湧かないのー。でもPさんがあーんってやってくれれば食べられるかもー」
P「全く…加蓮、お前来年17だろ?」
加蓮「来年17で今年16の年頃の女の子だもーん」
P「……お前……はぁ」
P「ほれ、あーん」
加蓮「え、やってくれるの?やった!あーん」
P「………今回だけだぞ。もう一口。ふーっ、はいあーん」
加蓮「あーん…ん、ふふ、幸せかも」
P「だーめ。今日は布団でじっとしてなさい」
加蓮「えー、折角Pさん来てるのに…あ、それじゃ奈緒から借りたアニメ一緒に見よ?ほらこれ、なんか夏の感動作なんだって」
P「それくらいならいいか。でもこの部屋、テレビは見当たらないけど」
加蓮「ベッドの下にノートパソコンがあるの。ん、よっと。で、ほら、横に座れば一緒に見れるよ」
P「……加蓮、流石に俺がベッドに上がるのは」
加蓮「いいじゃん、事務所のソファで一緒にライブのビデオ見るのと変わらないよ。ほら、こっちこっち」
P「スーツのままだし汚いぞ?」
加蓮「Pさんなんだから気にしないよ。ほら、早く入ってくれないと寒いー」
P「……ああもういいや、後で文句言うなよ。お邪魔します」
加蓮「ん、いらっしゃい。あ、足ちょっと曲げて?…よっ、と」
加蓮「ふふっ、あったかい。それじゃ、観よ?」
加蓮「こういうシャツ、杏が好きそうだよね」
P「無気力な若者の間のブームなのか…?」
~~~~~~~~~
P「なあ加蓮、この子加蓮にちょっと」
加蓮「………この子の名前で呼んだりしないでね」
~~~~~~~~~
加蓮「うわ、この人ヤバい変態なんじゃ…Pさん?」
P「」スヤスヤ
加蓮「もう、Pさんったら…」
P「zzz」
加蓮「ほら、枕使っていいから。んー!よっと、それじゃ私も」
加蓮「…うわ、近い…」
P「スヤスヤ」
加蓮「………」
加蓮(ちょ、ちょっとだけ)
ぎゅっ
加蓮(うわ、いつもと全然違う。すっごいいけないことしてる気分)
加蓮(Pさんの体温、すごく感じる…なんか、Pさんに包まれてるみたい)
加蓮(…もっと近くに……)
加蓮「………あ」
加蓮「…P、さん…」
加蓮(……ごめんね、Pさん。ダメだってわかってるのに)
加蓮(我慢、できない)
チュッ
加蓮(………やっちゃった……でも、今凄く………)
加蓮(も、もう一回)
チュ
加蓮(頭、じーんってする)
加蓮(……だめ、止まらない)
加蓮(Pさん、Pさん、Pさん)
加蓮(もう一回)
加蓮(もう、一回)
チュ チュウッ
加蓮「Pさん…………………あ」
P「………加蓮」
加蓮「あ、Pさんごめんなさい、あ、その、ちが、ん、んっ」
加蓮「……Pさん?」
P「加蓮……」チュ
加蓮「っ、ぷはっ……」
加蓮「あ、あのね、Pさん。私、私ね」
P「……ごめん、加蓮。これ以上は、その、ダメだ、とういか俺もダメだな。ごめん」
加蓮「Pさん、私は」
P「加蓮」
加蓮「………」
P「加蓮の夢は俺の夢だから。ここで魔法を切らしちゃダメだ」
加蓮「あ……Pさん、ごめん。私勝手に……」
P「……俺も、嬉しかったよ。でも、俺はこれからも俺加蓮と一緒に頑張りたいから」
加蓮「……うん。ホントにごめんなさい。なんか、勝手に盛り上がっちゃって」
P「俺からもしちゃったしおあいこ。だからこれ以上の言い合いは無し」
加蓮「うん。私、ちょっとおかしかった。ごめんね」
加蓮「なんか、ちょっと、不安で、さ」
P「……不安?」
加蓮「うん。こうして病気でベッドにいるしかない、って久し振りだったから」
加蓮「凛と奈緒が来てくれて、でもお仕事行っちゃって。なんかすごく置いて行かれた気分になって」
P「加蓮………」
加蓮「そしたら、そしたら……その、Pさんも、遠く感じちゃって。すごく怖くて………」
P「………大丈夫、一緒にいるよ。約束しただろ?」
加蓮「うん………でもいつか私がアイドル辞めたら、いつかPさんがプロデューサーやめたらって、考えちゃって」
加蓮「でも、Pさんが、すぐそこにいて、すごくあったかくって。だめだって分かってたのに」
P「加蓮」
加蓮「私、ずっとPさんと一緒がいい。ごめんね、アイドルなのに、こんなこと言って」
ぎゅー
加蓮「……Pさん?」
P「俺も、感謝してるよ。加蓮が頑張ってくれるから、俺も頑張れる」
P「……明日から、またお仕事、頑張ろうな。一緒に」
加蓮「……うん。ありがとう。頑張る」
加蓮「……私、単純だなあ。Pさんがぎゅってしてくれるだけで不安なんて吹き飛んじゃうみたい」
P「今回だけだぞ。もう倒れるのは本当に勘弁してくれよ?」
加蓮「ふふっ、凛と奈緒から聞いたよ。『ううう~加蓮~』、だって?ふふっ」
P「げ……とにかくちゃんと体調悪くなる前に休んでくれよ?本当に心配だったんだぞ。最近休んでなかっただろ?」
加蓮「うん、気を付けます。そうだね、最近お仕事が楽しくって、休むのすっかり忘れてたかも」
P「全くお前は……まぁ、頑張り屋なのは加蓮のいいところだからな。前も言ったけど、頑張り過ぎないように」
加蓮「…ね、Pさん。またお休みちゃんと取るから」
P「うん?」
加蓮「もう、その、さっきみたいなことは無いようにするからさ」
加蓮「また、こっそりデート、連れていってね?」
P(そして加蓮を、約束の舞踏会まで連れてこれたと実感できたのが)
P(夢のステージでのLIVE)
ワーワーワーワーワーワー
パチパチパチパチパチパチ
加蓮「はぁ、はぁ、凛、奈緒、やった、やったね!」
奈緒「やべェ、すッッッげェ楽しかった!夢みたいだ!」
凛「すごい、まだ、拍手、して、くれてる…やった、大成功、だね」
P「三人ともお疲れ!最高だったぞ!ほら水飲め水」
奈緒「んっ、んっ……あー、アイドルやっててよかったなァ」
凛「ぷはっ……本当に、ね。しかもこの三人で一緒にLIVEなんて、夢みたいかも」
加蓮「Pさん、また三人でできる!?できるよね!?」
P「そうだな、ユニット化も社長に打診してみるよ」
P「よし、風邪ひく前に着替えてこい、一息ついたらスタッフさんに挨拶行くぞー」
奈緒「お、そうだ加蓮行け行けー!」
加蓮「え、いいよ、ちょ、なんで今」
P「ん?どうかしたのか?」
加蓮「もー……えっとね、Pさん……」
加蓮「その、私、シンデレラに、なれたかな」
P「……ああ、どこに出しても誇れる、立派なお姫様だよ」
加蓮「ふふっ、ありがとう……うん、シンデレラになれたなら、言わないといけないことがあるんだ」
P「ん?なんだ?」
加蓮「……私ね、ガラスの靴……」
P「?」
加蓮「舞踏会が終わったら、ガラスの靴持って、会いに行くから」
加蓮「魔法が解けるときまで」
加蓮「魔法が解けた後も」
加蓮「一緒に、その、いて欲しいな、って」
奈緒(うわ、聞いてる方が恥ずかしくなってきた、なんだこれ…加蓮乙女すぎだろ……)
凛(顔真っ赤…)
奈緒「ほら、P返事………ってオイ、泣いてんのかよ!」
凛「プロデューサー、加蓮がこんなに勇気出して言ったんだから」
加蓮「……ううん、凛、奈緒、いいんだよ。ほら、着替えに行こ?」
凛「え、加蓮?ちょっと、プロデューサー!?」
奈緒「加蓮、いいのか?」
加蓮「うん。Pさん、また後でね?」
P「………おう」
奈緒「ああもうなんだよ、とびっきり恥ずかしい告白にとびっきり恥ずかしい返事が聞けると思ったのになァ」
凛「加蓮、本当によかったの?」
加蓮「うん。こうなるかなって、思ってたし」
凛「……どういうこと?」
加蓮「その、前にPさんが看病に来てくれた時にね」
奈緒「ああ、こないだのアレ」
加蓮「うん。その時に私がちょっと、その、迫っちゃって」
奈緒「え、ええ!?本当に頑張っちゃったのかよ!?」
加蓮「……うん。で、そのときはその、キスだけだったんだけど」
凛「え、えぇ!?き、キスしたの!?」
奈緒「ああ、加蓮が遠くに…」
加蓮「うん…でもそれ以来、Pさんそういうことに対して厳しくなっちゃって」
加蓮「あ、バレてた?でも手も繋いでくれないし、あんまり抱きつかせてもくれなくなっちゃって」
凛(オフの日毎回一緒で、その度デートプラン相談してたじゃん…名前伏せてたけど)
奈緒(あんまりって結局抱きついてんのかよ)
加蓮「でも、こんな感じのこと言うとやっぱりちょっとはぐらかされちゃって」
加蓮「今回ほどハッキリ言ったことはなかったけど……返事もらえるとも思ってなかった、かな」
奈緒「まあ、加蓮がいいなら…でもなあ」
加蓮「ごめんね、背中押してもらったのに」
凛「……まぁ、アイドルだし、ね」
奈緒「Pもプロデューサーだしなー。どう見ても両想いなのに」
凛「ふぅん……ね、加蓮、目元ちょっと滲んでるよ?」
加蓮「あ、え、嘘!挨拶行く前に直さないと!奈緒、私のポーチ取って」
奈緒「んー……あれ、なんかゴツいな。何入れてんだ?ほいよ」
加蓮「え?そんなに物入ってたっけ…」
ゴソゴソ
加蓮「?あれ、これ……」
凛「……加蓮?何その箱?」
加蓮「わかんない……でも、なんか……」
パカッ
凛「それ、指輪だよね?……箱に何か書いてある?」
加蓮「蓋の裏に何か………イニシャル?あ、やっぱりPさんからだ!」
加蓮「ふふっ、綺麗な指輪……あとは……えっと、Mors Sola?なんだろ、ブランドの名前?」
奈緒「え?え、ええ!?」
凛「奈緒、わかるの?」
加蓮「どういう意味?」
奈緒「そ、その……ラテン語、でさ」
加蓮「?」
奈緒「……『死が二人を別つまで』」
奈緒「いや、多分だけどな?」
加蓮「え、ねぇ、どう意味!?」
凛「……ほら、結婚式で言うやつ」
奈緒「加蓮の告白が恥ずかしいと思ったら、更に上行きやがった…」
加蓮「え!?え、えええ!?じゃあこの指輪って……え、うわ、嘘、わ、私どうしよう!?」
凛「もうお互い伝えたいこと伝えたんだからいいんじゃないの?おめでとう、加蓮。結婚式には呼んでね」
奈緒「あ、アタシも呼べよなー」
加蓮「え、わ、わかった、ちゃんと呼ぶ!あ、私、Pさんのとこ行ってくる!」
凛(茶化したつもりなのに…)
奈緒(完全にその気かよ)
加蓮「で、でも」
奈緒「それに外には記者とかいるんだぞ、指輪片手にうろうろしてたらまずいだろ」
加蓮「うう…でも、でも」
凛「まだやること残ってるんだから、プロデューサーのところ行くのはそれから」
加蓮「……うん、そうだね。……ふふっ、Pさん……」
凛「……あと指輪もしまって。見つかったらまずいし、ニヤケ顔治らないよ」
凛「はい着替えて。そしたらメイク直すよ。奈緒右目やって、私が左目」
加蓮「……はーい」
加蓮「……着けちゃダメ?」
凛「ダーメ。その時が来たら、Pさんに着けてもらいな」
加蓮「あ、それいいかも。そうしよ。ふふっ」
奈緒「にしても、『死が二人を別つまで』かぁ。ちゃんとさっきの告白の返事になってるんだよなぁ」
奈緒「図らずしてこれだよ、両想いどころか以心伝心じゃん」
加蓮「……えへへ、そう、かな」
凛「はーい、そうだよそうだよ。ほら、着替えたらそこ座って」
凛「落ち着いた?」
加蓮「うん。ありがと、凛。奈緒も」
奈緒「あー甘ったるい。砂糖吐きそ」
凛「もう飛び出して行かない?」
加蓮「うん、大丈夫。あのね、今度私からも指輪贈ろうと思う」
奈緒「まぁ、そういう指輪だしな。こっそりやれよ」
加蓮「うん。でもとりあえず、私はアイドル、やり切らないと。私の夢、Pさんの夢だもん」
加蓮「ちゃんと一花咲かせて、いつかステージ降りて、それから普通の女の子になって」
加蓮「それからも、ずっと一緒だもん、ね」
すごい砂糖吐きたい気分
Entry ⇒ 2012.10.12 | Category ⇒ その他 | Comments (0) | Trackbacks (0)
鍛冶師「人里離れた所でひっそりと暮らしてる」
ここ最近天候が悪かったが、これでようやく畑仕事ができる。
最近は依頼が少なく、収入が心許無いがのんびりとやれるのはいい事だ。
だが、空に陰りがあるし今日のうちにある程度収穫しておかないと、また雨の中で収穫しなくてはならなくなる。
すっかり忘れていたが、そろそろ鉱山に住み着いているコボルト達が鉱石を持ってくる時期だった。
つるはしだのなんだのと物々交換しているが在庫が少ない。
今日明日は徹夜になるやもしれん。
三日間、作るに作り続けた。
逆に作り過ぎた。あって困るもんでもないが、正直幅を取るから困る。
久々に罠に動物がかかった。
今日は兎肉のスープだ。
今日の取引はまずまずだった。
新しい採掘場が見つかったらしく、更に大量のつるはし等の注文が入った。
かなりの材料が蓄えられるかと思うといてもたってもいられない。嬉々として金槌を振るう。
珍しい金属もあったし何を作るか……それとも大事に取っておこうか。いかん、興奮してきた。
追加の注文も作り終え、コボルト達との物々交換も無事終わった。
にしても雨の所為で冷える。奥に仕舞った冬服を引っ張り出し、少し着込んでおく。
大量の材料を仕入れた事だし、今日は倉庫の整理をした。
しっかりと整理したら元々あると推定していた材料が、1.2倍に膨れ上がった。
在庫管理が杜撰過ぎたようだ。今後は帳簿でもつけようものか。
あいも変わらず天候不順が続く。依頼も無く畑仕事も無く、雨音をBGMに読書に耽る。
そんな雨の中、わざわざ貴族様が依頼を持ってきた。
金ならいくらでも払うから最高の刀を作って欲しいと言い出した。金持ちの道楽か。
仕方が無いので追い返した。良質の砂鉄なんぞこの大陸で探すとなったらどれだけ時間がかかるか。
それでも食い下がらないから塩の塊を投げつけジパングに行けと言ってやった。
にしてもあんな塊になっているとは。ちゃんと対策をしておくべきだったか。
そろそろ食料の買い足しが必要になってきた。
この調子なら明日は晴れるだろう。
明日は山を降りるとするか。
現地販売の準備、それと刃物研ぎの準備をして早めに就寝する事とする。
下山するにはもってこいの天気となった。
のはいいが、麓あたりで山賊と鉢合わせした。
そこらへんを魔物が闊歩している時代だというのに逞しいものだ。
有無を言わず襲い掛かってきたので返り討ちにしてやった。
臨時収入だ。肉でも買うか。
町で卸す商品の売れ行きも刃物研ぎの仕事もあまりだった。
臨時収入と合わせても通常の収入程度にしかならない……なんてこった。
食料品を買い込み、家に戻る途中で旅人が山で迷っていた。
何でも自分に依頼をしに来たらしいが場所が分からなくなったそうだ。
仕方が無いのでその場で内容を聞く事にした。ふざけた依頼だったら町に送り返そう。
と思ったら材料を持ち込んでの製造依頼だった。久しぶりにまともな依頼だったからその場で材料を受け取った。
報酬もいいし明日はまた町まで届けに行く事にした。
気合を入れただけあって、依頼のクレイモアは中々良い出来となった。
早朝、町に下りようと下山している途中、旅人が先日と同じあたりで迷っていた。
何をやっているのやらと思ったら、自分が依頼を受けてくれると思っていなかったらしく、
町まで運ぶと言われても、いてもたってもいられなかったのだと言う。
アホな依頼が多いから断っているだけで、まともな依頼は全て引き受けているのだがなあ。
大方、馬鹿貴族どもが勝手な事を流布しているのだろう。が、食っていくには問題無い程度に依頼はくるからどうでもいいが。
今日は朝から雨が降り続く。
これは長雨になるかもしれない。
しばらくは暇になりそうだし、武具図鑑でも読み漁るとするか。
雨脚が半端ない。
一度、この家も流された経緯からしっかり対策しているが、それでも今回はどうなるか分からん。
というよりも今回もダメかも分からんね。
流された時の為に必要な道具はまとめて、見つけ易いように細工を施した。
明け方とんでもない音がした。どっかで土砂崩れが起こったようだ。
思いの他早くに晴れてくれたものの、やはりというべきか被害は甚大だった。
材料類に関する被害ほ無かったものの畑は全滅だ。
ここしばらく順調だったゆえに惜しい。
最もまた一からとは言え、だいぶ知識も経験も積んできているし、復興もそう難しくは無いだろう。
今日は一日畑仕事。水気たっぷりの野菜が食べたい。
鍛治関連で唯一の被害。薪が全滅。
という訳で今日は周囲の散策にでかけた。が、当然ながら薪に使えそうな木々は得られなかった。
薪を貯蔵している倉庫の改良が必要そうだ。
途中、山の主様を見かけた。ここに住み始めた当初、主様は巨大な猪だったが今は角が立派な牡鹿のようだ。
何時見てもこの威圧感というか神々しいというか、そんなオーラの前ではただただひれ伏すばかり。
そこへ魔物の集団が現れた。主様を狙っているのかと剣を抜く。よりも早く主様の角が魔物を薙ぎ払った。
主様ぱねぇ。流石、山の安定を司る存在だ。
真面目な依頼だが、恐ろしくキチガイな依頼が入ってしまった。そしてそれを受けた自分もキチガイだ。
大量の石を持って兵士や傭兵、そして神官らしき男がやってきた。
その石を使ってできるだけ大きな剣を作って欲しいと言われた。見たことの無い石だしどうしたものかと悩む。
石の出所を聞けばなんと隕鉄だという。よくもこれだけの量を集めた物だ。頭がおかしい。
だが壮大な話だ。隕鉄は天からの恵みとして信仰があったりする事を考えると、この量で作った大剣はさぞ偶像崇拝にもってこいだろう。
ああ、だから神官っぽいのもいたのか。
だが問題はこれが全部材料になりえないだろうという点だ。
今日は朝から資料探し。
こいつでクリスでも作れって事だったら簡単だったろうに。
一通り手持ちの資料の中から隕鉄に関する情報かき集めて読み耽る。
期間を長めにもらって正解だ。というかこれを一人で造るのか。こういう時、国の鍛治ギルドや町の工房を羨ましく思う。
リンが多く含有している隕鉄は、鍛造そのものが出来ないようなものだとされる。
まずはこれを調べないとだ。
莫大な報酬だったとは言え、あんな仕事二度と引き受けるものか。
一週間以上の時間を費やしなんとか作れたのは長めのブロードソード。いやバスタードソードといったところか。
遥か古代から隕鉄が使われている事もあってか、クリスは邪を払うものとしてタリスマンとしての役割も持っている。
こいつならどんな邪も払えるだろう。というか切り払えるだろう。
もっとも教会かどっかに奉納されるのだろうから、振るわれる事は無いのだろうが。
ふと思い出したかのように畑を見ると荒れ放題だった。
しばらくは農作業だ。
絶好の土弄り日和。いやちょっと暑かったか。
クワを振るっているとコボルト達がやってきた。
どうしたのかと聞くと、新しい採掘場に鉱石の精霊が現れて奮闘中だという。
精霊と言っても全身が特定の鉱石で出来ているゴーレムの様なもの。何より恐ろしく硬く力強い厄介な奴だ。
自分の出番か、とハルバートを担ごうとしたらミスリル銀のゴーレムだと言うから、茶を淹れてやりながら頑張れと伝えた。
銅と鉄まで戦えるが、それ以上の相手となる一撃で圧死するから絶対に戦いたくない。
というかミスリル銀のゴーレムとか随分と大物だな。
畑の整地、水引完了。意外と早く終わったからまた山の中に入っていった。
あれから雨も降ってないお陰で乾いた薪が拾えた。いやはや助かるものだ。
土砂崩れで荒れたとは言え、多くの新芽が芽吹いている。
今日も主様は忙しそうだ。
町に下りて野菜の苗や種を買い漁る。
ついでに刃物研ぎをしてみたら、今回は盛況だった。タイミングがずれていたのか。
帰り道に高価そうな鎧を着た男と出会った。勇者様だという。
魔王討伐の為にも剣を作って欲しいとの事だ。
材料も持ち込みでミスリル銀だった。しかし要望はフルサイズの両手剣だと言う。
流石にこれでは足らない。ふと、コボルト達の事を思い出し、紹介状がてら一筆手紙を書いて渡す。
討伐に成功したら精霊から取れるミスリル銀を分けてもらう、という内容だ。
初めは危険だし冗談がてら倒して貰ってきたら造る、と言ったら極々普通に了解された。
勇者をやるだけあって強いのかもしれない。
一晩泊まった勇者様は早朝、コボルト達の所へ向かっていった。
送ろうかとも思ったが、地図を見てルートを把握していたので余計な心配のようだ。
だが夜になっても帰ってこない。
大丈夫なのだろうか? まさか精霊に? それとも行く途中か戻る途中に道を外れて遭難?
不安ばかり募るが既に日は沈み、細い弓なりの月明かりでは心許無い。
明日、早朝に勇者様を探しに行こう。
早朝、一先ずコボルトの群れに向かった。
もしかしたら援軍が来た事で、一度体勢を建て直し総攻撃の準備をしているのかもしれない。という淡い期待があった。
コボルト達の集落に辿り着き見た物とは!
しっちゃかめっちゃかな宴会後と酔い潰れて寝ているコボルト達と勇者様だった。
心配して損をした。仕方が無いので起こすのも悪いし、全員に毛布をかけて帰った。
勇者様は日暮れになって戻ってきた。しかも結構大量のミスリル銀を抱えて。
コボルト達はかなり苦戦していたようだ。
今日、明日を使って剣を造る事にした。
勇者様は暇だから山の中へと入っていく。聞けば元々山育ちらしい。
色々と心配するだけ無駄だったようだ。
最高の剣にするべく、一心不乱に金槌を振るう。気付けば日が暮れつつある。
勇者様はというと日が沈むか沈まないかという頃に、現地で作った魚篭に魚を入れて帰ってきた。
ここから沢まで結構距離があったはずだしどうやって道をと聞けば、立派な角を持つ鹿の後をついていったと言う。
思わず狩られなくて良かった、と呟いたら山の主殿かどうかぐらい分かる、と言われてしまった。そりゃそうだ。
他に討伐するものも無く、今晩は勇者様とゆっくりと談笑しながら食事についた。
あまり多くの土地を回った事の無い自分にとっては、滅多に無い良い機会であった。
とりわけ金属製品を特産とする工業都市の話は非常に興味深かった。暇を見て技術を学びに行くのもいいかもしれない。
日暮れあたりになって、ようやく剣が完成した。
ミスリル銀を打つと心臓が打ち震えるような高揚感を覚える。が、加工が大変で一振り造るだけでも時間がかかる。
自分が持ちうる力を全て出し切った、そんな満足感と気だるさが体中から溢れ出る。これと同じ出来をと言われても、当分はできないだろう。
勇者様は勇者様で鞘から引き抜いて刀身を見つめ……次に行動するまで数分の間動く事が無かった。
そして涙目でこれは最早芸術品だ。この世に二本とない名剣だ。本当に、ありがとう、と深々と頭を下げられてしまった。
本音を言えば多少は争い事があった方が金にはなる。が、自分達人類の命運を背負う勇者様のお力になれた事、満足していただけた事はとても誇りに思う。
と言ったら、君は裏がないな、と人懐っこそうな笑顔を向けた。
何とも人望が厚そうな人だ。自分とは真逆のタイプなのだろう。しかし自分自身、彼と話すと気持ちが良い。これが出来た人間の為せる事か。
勇者様は重ね重ね礼を言いつつ、日の出と共に旅立っていった。
願わくば彼の旅路に無事に終わらん事を。
しばらくは依頼が無い限り金槌を振るうのはよそう。休息は必要だ。
という訳で倉庫の改良の為、材料を集めに山に入っていく。最近気付いたが、ここも山中だ。
とは言っても、文字通り家の周りは自分の庭になっている所為で、この先の山を山の中だと思ってしまう。山の主様に罰を与えられそうな考えだ。
土砂崩れのお陰で近場で良い石がごろごろと採れる。
なんか幸先いいな。わくわくしてきた。新しい小屋でも造るか。今のところ使い道ないけど。
なんかコボルト達が土産を持ってやってきた。よっぽど勇者様の援軍が嬉しかったようだ。
丁度来たのが生産職を担う奴らで、倉庫の改装を手伝い始めた。
なんで技術持ってる奴はどうしてこうも物作りが大好きなのか。自分もだが。
以外に早く倉庫の大改造が終わってしまった。倉庫のLvが5ぐらいあがった感じだろうか。
しばらくは鍛治以外の物作りしていると話したら、目聡く積まれた木材について聞かれた。
意味も無く小屋を造るつもりだと答えたら、他の連中も呼んでとっとと作っちまおうぜ、とか言い出した。
こいつら自分達の仕事はいいのか、と思ったら、更に新しい採掘場が見つかり、今は内部調査の為、非戦闘員の立ち入りを禁止しているらしい。
小屋……というか小さい家ができた。本当に小さい家。
何だろう、一人用の小さい安い宿みたいな。作っている時は特に考えていなかったが、これ本当にどうしよう。
物作り会は夜に自分と六匹のコボルトで鍋をつついてお開きになった。
倉庫改造と小屋の案を一週間くらいかけてやろうと思っていたがどうしようか……。
明日は山を歩くか。
軽く土いじりをして山に散歩。
土砂崩れの爪痕は今尚残るが、だいぶ青々として活気を取り戻しつつある。いい事だ。
上へ上へと進み、崩れた地点よりも上へと登ると良い山菜が群生している箇所に出る。
必要な分だけ採り上流の湖へ。二時間ほど粘ったが釣れたのは一匹だった。
戻ってくる頃には日が暮れていた。たまにはこんなスローライフもいいものだ。
今日は小屋の活用について考えるとする。
ぶっちゃけ要らない。
よく依頼主が泊まったりする事もあるが、一人ならこっちの家で十分。向こうのが狭いし。
利点といったら綺麗な事と、共同のスペースで生活したくない人ぐらいか。そんな奴、わざわざ山まで来て依頼はしないだろう。
とは言え物置に使うには勿体無いし、今後はちょっとした家具を作って寝泊りできるようにするか。
いっその事、あっちはのんびり暮らすをテーマに娯楽とか置いてみるか? いや要らないな。
晴れた事だしちょっと町まで下山する。
顔馴染みに小屋の活用について、参考まで考えを聞いてみる事にした。
が、基本的に客用にすればという意見が占めた。それはそれでいいのだが何か面白みに欠ける。
そしてやっぱり出てきた案がだらだらする場所だった。本棚でも作って本を揃えようものか?
などと思っていたら、特殊構造の鎧をのんびり作りつつ、置き場にしてしまえばいい、とも言われた。
理由を聞いたら初めは剥き出しの内部構造に、少しずつ出来上がっていくのって楽しくないか、との事だ。
それは認めるが、流石に山の中で鎧を求める者もいないだろう。
だが特殊構造か……ちょっとしたからくりでも作って置いておこうか? いややっぱり使い道無いって。
今日はベッドを作ってみた。一先ず小屋でも泊まれるようにした。ベッドしかないけど。
よくよく考えたら風呂は一つだし、寝る場所を別にしただけにしかならないな。
何の意味があるんだろう。女性客? いやでも風呂は共同だし。
というかこんな山奥まで依頼しに来る女性はいないだろう。
むしろ今まで女性客がいない。あれ? この小屋本当にどうしよう?
早朝、鉱夫コボルト達がやってきた。
魔王軍のゴーレム種が暴走しているという。魔王軍は基本、統率がとれているというのに。
それも魔法生物のゴーレムだ。命令には忠実のはず。と思ったら、鉱山に迷い込んだゴーレムが山に滞留する魔力に当てられたようだ。
最深部なんてどれほどの力が流れているから分かりはしない。山に住む人は勿論、コボルト達だって近づきはしない。
原因はいいとして。どうやら彼らは自分に援軍を求めてきたようだ。ゴーレムぐらいなら何とかなるか。
とハルバードを担いでコボルト陣営に赴く。中型のゴーレムだ。その数20。20?! 多っ! 到着時は本当にこんな感じだった。
薙ぎ払っては崩し薙ぎ払っては崩しの繰り返し。朝にコボルト軍と合流し戦闘開始、ゴーレム軍が鎮圧されたのは夕方であった。
雨の所為で冷える。風邪をひきそうだ。
援軍の報酬としてゴーレムより得た石材を大量にくれた。当分石材には困らなさそうだ。
案の定風邪をひいた。くそっ。
喉が痛い。熱が酷い。まともに動けん。
保存食をちまちま食べつつ、薬を飲んで暖かくしてひたすら寝る。
だいぶ楽になったが微熱と痛みと鼻水は続く。
少し本に手が伸びかけたが、読み耽って悪化するのが目に見えたので我慢。
多少動けるようになったので軽く食事を作る。
薬草スープぐいっと飲み干す。黒胡椒を入れすぎた。辛い。旨い。黒胡椒最強説。
体が軽い。ひゃっほう。
思わずテンションが上がり、ハルバートで素振りを始める。うん、やはり体を動かすのは気持ちが良い。
色々あったがそろそろ金槌を振りたくなってきた。しかし依頼が無いし、無駄に造るのもあれだ。
と思ったら、町で卸す商品の補填をしていない事に気付く。しばらくはのんびり造るかな。
というかゴーレム討伐で得た石材の山をどうしよう。というか何に使おう。倉庫を更に改良するか?
暑い。ていうか熱い。でも厚くはない。
そんな天気だったが嫌いじゃない暑さだ。
しかし工房に篭るには死ねる。という訳で近場の池にダイブしてきた。
気持ち良い。そろそろ夏本番か。虫対策をしなくてはならないな。
今年は美味い西瓜が出来るといいな。
途中、河原ではしゃぐコボルト達を見た。山の内部はまだ調査中で外で涼むしかないようだ。
今日も町で卸す用の商品作り。昼飯中に来客あり。
黒い鎧を纏い、ピリピリと肌に刺さるような魔力を放つ者だ。どう見ても魔王陣営です本当にありがとうございました。
勇者様に強力な剣を作ったとして殺しに来たのかと判断し、矢継ぎ早にロングソードを四本投げつける。
第一印象違わず、四本全てをひらりひらりとかわす。これはもうダメかも分からんね、と思いつつも全力で迎撃にあたる。
立て掛けてあったハルバードを引き寄せる力のままにフルスイング。が相手は一歩踏み込みピック部を回避して盾で受け止める。
詰んだ、と思っていたら相手は敵意は無い事を告げながら兜を脱いだ。長髪ブロンドの美人だった。
大変腕の良い鍛冶師だとは聞いていたが、まさかここまで戦える者だとは、と感嘆していた。魔王陣営なのにそれでいいのか。
しかし敵意が無いのに襲い掛かってしまったのはこちらの非。相手が人類の敵とは言え、頭を垂れて謝罪をすると向こうも改まって誤解を与えた事を謝罪してきた。
そこら辺の人間よりよっぽど礼節のある者だ。すげえ。
そこで美少女がはっとしてまた一礼をして名乗った。魔王軍最上位の魔王であると。
美少女が魔王そんなバナナ、と信じられなかった。顔に出ていたのか本当なのだよ、と苦笑いをされてしまった。
何でも魔王城には常に最強クラスの剣を備えて勇者達の指揮を高めるものなのだが、先代の時に戦闘中に砕け散ってしまったそうだ。
その為今回、この美少女魔王は人間の中に非常に腕が立つ、という噂のある自分の所に製造依頼をしに来たという。
疑問に思う事がある。わざわざ敵に塩を送る意味は? 史上では幾度と無く魔王は現れ、勇者に討たれている。それでもそんなものを備えるなんて。
というと、魔王側には魔王側の事情があるらしい。というより根本的に人間の認識を遥かに超えたものがあった。
魔王とは適度に人間を襲い、勇者に討たれるのが役目。そして勇者達を盛り上げるのも役目の一つなのだ、とこれでも魔王業は大変なのだぞ、と溜息混じりに言われた。
死ぬ事が役目なのか? と問えばその過程も大事であるがその通りだ、と言う。理解できない。
これによって魔界で動く経済があるのだと言う。本題はそこじゃない、殺される為の人生ではないか。辛くは無いのだろうか。
彼女は寂しそうに笑ってみせた。幼少より魔王になるべくそう教わってきた。ラストバトルという儚く、それでいて何よりも輝かしい一瞬に打ち震える幸せを得るのだ、と。
私にはそれ以外の幸せは何たるか、むしろそれ以外でどう幸せを感じられるか。それが分からないんだと語った。
なんとも不憫な人生だと思うが、本人がそれで良しとする以上、こちらからこれ以上何かする事もできる事も無い。
どうも後味が悪いというか……目の前にいる者はこれから死にに逝くようなものだというのは気分が悪い。
だが、仕方が無いことなのだろう、と引き下がり本題の依頼について聞くと、オリハルコンで剣を作って欲しいという事だ。
差し出されたオリハルコンを見て固まる。伝説級の金属だ。生きている内に見る事になろうとは思いもしない。
それをまさか自分が打つだなんて。汗が吹き出た。こんな大仕事、というか一世一代級がまだまだ未熟な自分にくるなんて。
その様子を見て魔王は、無理なら断ってくれていいのだぞ、と気にかけてくれる。
失敗は許されない。正直断りたい。だが、オリハルコンを打つ機会などこの先にあるだろうか?
鍛冶師としての興奮に負けて依頼を引き受ける事になった。また資料集め……今回は今ある資料だけでは難しいだろうから余計に時間がかかる。
三週間ほどの時間が欲しいと伝えたら、魔王はこちらの引き受ける意思に喜んでくれた。
今日一日は仕事を休むとしているらしく、今日はここに泊まらせてほしいとまで言ってきた。まさか小屋が役立つ時が来るとは。
昨晩は魔王と談笑しながら夕食に着いた。世界広しと言えど、魔王と夕食を楽しく共にした人間はいるまい。
依頼についても少し詰めた話をすると、資料集めなら魔王の方でやりくりしてやろうとの事だ。太っ腹な依頼主だ。
確かに一人で集めるには時間も質も量もかなり限られる。魔界の資料や単純に広域で探してもらえるなら越した事は無い。
早朝、魔王は城に戻ると発っていった。朝食を取るには早すぎるので、せめてと弁当を渡したら顔を綻ばした。
こうした食事も弁当などというものも私は初めてだ。思えば、こうして軽く話し合える者もいなかったな。
お前がいてくれて、そして噂の鍛冶師がお前であってくれてありがとう。
魔王はそう言って、黒い翼を生やして飛び立った。嬉しい事を言われたが、それと同時に複雑にも思う。
だからこそ、彼女の為にも頼られた役割だけはきっちりと果たそう。
一週間後に資料を届けられるまでに、出来る限りの準備を行う事にした。
片っ端から薪を掻き集める。ついでにコボルト達に会い、オリハルコンに関する情報も聞き出す。
が、流石に彼らの中でもオリハルコンに関する知識は乏しいらしく、鍛造技術も明確でないらしい。
依頼主が頼りという依頼というのも珍しい。
柄の案を練る。最高級の金属の剣だ。見劣りするような柄は許されない。
何よりこれがこれから先、後世にまで引き継がれるのか。
そういえば、常々歴代勇者の剣が消えてなくなるのは魔王達の所業だったという事か。
朝、コボルト達が集まってきた。明日より新採掘場での作業が始まるらしく、暇なのは今日が最後とオリハルコンを見に来たらしい。
流石に付き合いのあるお前達とは言え、依頼の材料を見世物にする訳にはいかない、と告げると大量の薪や石炭を見せた。
材料等を貢献する変わりにという事の様だ。確かに有り難いし必要な物である。
こういうあたり、道理を理解しているというかきっちりしているというか、しっかり考えて行動するから困る。
午後からは資料を漁るに漁った。勿論オリハルコンについては多少は記載されているが、いざ扱う時に役立つ知識は塵ほども無い。
仕方が無いと伝説の武具の図鑑も引っ張り出す。
伝説の武器はどういった種があるか。どういった物が無難か。
まさか雲を掴むような存在の武器を真剣に学ぶ時が来るとは。
いくつかの案を出す。
高貴さを引き立たせつつ、スタンダードな両刃の剣。熟練者仕様として棟側が特殊な形状の剣。
限界のラインまで細く長くした神速の剣。ぶ厚く片刃だけの耐久性と威圧感の高い剣。
魔王が来たらどれがいいかを聞いてみよう。それまでにどれでもいいように柄を揃えておこう。
と思ったが、わざわざ資料を届けるだけの為に魔王が来るだろうか? しまった、大誤算だ。
柄を丹念に作っていく。剣の種類に合わせて柄の装飾の度合いも変えていく。
思えば装飾の多い剣と言うのもあまり経験が無い。儀礼的な武具の図鑑を片っ端から読み漁り、知識だけは集めていく。
午後には柄も一通り出来上がる。
こちらの準備は出来た。後は資料を待つばかり。
なのだが、工房の中をうろうろしたり、無闇に炉に火を入れてしまう。
間もなくオリハルコンを打つという興奮と緊張と不安で、挙動不審になってしまっている。
今もベッドの上でこれを書いているが、この後眠れる自信が無い。
明日だ。明日やってくる。
そう思うと事の重大さに不安になり涙したり、緊張のあまり一人おろおろとしたり。
果てには一瞬だけ吹っ切れて笑い飛ばしたり、責任の重さに静かに病んでいたりする。最早情緒不安定である。
そんな時に兵士のコボルトが顔を出して、自分の奇行に青ざめる。
しどろもどろに事情を話すと、気持ちを落ち着かせようとミスリル銀で何か簡単な物を作ってくれと言われる。
ミスリル銀で簡単な物ってなんだよと思いつつも、震える手でインゴットを受け取る。
何を思ったのか、出来上がったのはミスリル銀のつるはしだった。うん、見事なまでにミスリル銀の無駄使い。
コボルトも馬鹿だ馬鹿がいる、と輝かしいつるはしを見つめながら呟いた。だがお陰で、気持ちが落ち着いた。
精神力を高める為、夜中に滝に打たれにいく。少し満月を過ぎた頃で明るい。
何時来るのかとそわそわする。思わず木材で椅子を作り、外で座って待ってしまうぐらいそわそわしている。
すると空からふわりと魔王が降り立った。今回は兜を付けてこなかったようだ。
やはり黒鎧に金髪は栄える。何より顔も整っており美しい。
今回マイナス点があるとしたら、大量の本を背負っている事ぐらいか。凄い違和感だ。
魔王は開口一番、先日の弁当が美味しかった事とその礼を述べてきた。
本当に良い子だが、どういった環境で生活し、それを窮屈と思っていないのかが窺え、複雑な気持ちになる。
どうやらまた一日、休みを得て来たらしい。
それらしい資料を集めたから、精査をかけねばなるまい、とその手伝いをすると言い出した。本当に魔王なのだろうか?
とは言え、彼女と過ごせるのだから嬉しい。絶世の美人と言っても過言でない女性だ。
時には談笑しつつ作業を進める。最近羽振りが良くて助かる。多少見栄を張った食事が提供できるのだから。
ある程度、資料も集め終ったところで今日は読み耽って理解を深める。
魔王は再び早朝に発っていった。また弁当を作って渡したら軽く断られたが、折角作ったのにと言えば簡単に受け取ってくれた。
断ると言っても顔は綻んでいたし、形だけであって内心は喜んでいたのだろう。きっとそうだ。そう思う事にしよう。
剣についてはぶ厚い威圧感のあるものがいいと言われた。ある意味聖剣なのに物々しいタイプを選択した。なんて魔王ださすが魔王。
この物好きめ、と言ってやると魔王は不敵に笑いつつ、幼少の頃より変わり者と呼ばれた者の感性を舐めるでない、と言い返された。
不敵に笑う魔王可愛い。今気付いたが何気に幸せ者の部類に入るのではないだろうか。
最もそれも依頼の間だけだし、彼女は彼女で死に逝く身である事を思うと、やはり複雑な気持ちにならざるを得ない。
何度も読み返し頭に叩き込む。一分のミスも許さない為にも、幾度と無くシュミレーションをする。
オリハルコンを手にする。いよいよ明日から手にかける。
魔王からは何時でもいいから、剣を造る時は呼んでほしい、と魔石を渡されている。
これを割ると魔王が持っている対の魔石が割れるとかなんとか。
鍛冶師の仕事というのを見てみたいのだという。だがいきなり呼んでもアレだし、ある程度形になりはじめてから呼ぶ事にしよう。
明日からは当分、日記を書く事も出来ないだろう。
日記を前にして何日かかったかを計算する。
冥の日を次の日、地の日から次週の風の日だから11日かかったのか。
凄い時間がかかった。しばらくは寝て過ごしたいが、最近畑仕事がなおざりになっている。休めないな。
依頼品完成の連絡用に魔石を砕いた。明日、魔王がやってくるだろう。
なんだかんだで魔王と共に過ごす時間は楽しかった。それもこれで終わりだと思うと何ともいえない気持ちになる。
日記を前にして何日かかったかを計算する。
冥の日を次の日、地の日から次週の風の日だから11日かかったのか。
凄い時間がかかった。しばらくは寝て過ごしたいが、最近畑仕事がなおざりになっている。休めないな。
依頼品完成の連絡用に魔石を砕いた。明日、魔王がやってくるだろう。
なんだかんだで魔王と共に過ごす時間は楽しかった。それもこれで終わりだと思うと何ともいえない気持ちになる。
昼頃になって魔王はやってきた。出来た大物の刀剣を見るや否やおお、と感嘆の声を漏らした。
どうやらお気に召したようだ。
魔王はそれを丁寧に丁寧に包んで抱えた。今日は休みがとれなかったのだよ、と寂しそうに笑った。
かなり色をつけられた報酬を渡してくると、魔王は飛び立っていった。
しばらくは日々を寂しく思うのだろう。
畑は雑草が生い茂っていたが、野菜もすくすくと育っていた。今日は草むしりの日。
畑の整理も一息ついた感じだ。
新鮮な野菜が食べたくなったので山を降りて買出しに。
念の為にと刃物研ぎの道具は持ってきたがいまいち精が出ない。
何なのだろうこの気持ちは。もしかしたらこれは失恋の思いなのかだろうか。
今まで武道と金属を打つ事だけに生きてきた事もあって、これがそうなのかは定かではないが。
だが、彼女に恋慕を寄せていた事を理解していたとして、自分如きにどうにかできたとは到底思わないが。
夏本番を向かえ、畑の周りを整備した。
ら、待ってましたとばかりに今年一発目の夕立が襲い掛かってきた。
間に合って良かったと胸を撫で下ろす。
夕立のお陰で今日の夜は涼しい。
小屋の方の布団を干した。持ち上げた時に良い香りがした。
これが魔王の香りかと少し興奮した。興味が無いと言えば嘘だが、それ以上に鍛治に関する事の方が頭の中で優先される。
だがこうして反応できる辺り、まだ自分は人間で男なのだろ認識できる。良いのか悪いのか。
人間である事男である事を捨てたとして、それで鍛冶師としての腕前が上がる訳でもないし、あって下がる訳でもないから良い事か。一応だが。
木陰で昼寝をしていると黒い姿の来客があった。魔王だ。
思わず息を飲んだ。幻覚だろうかと思ったが本物だった。
どうやら粗方仕事も片付いたらしく、勇者様が辿り着くまでは暇もできるらしい。そして行くあてと言ったらここぐらいしかないのだと。
流石に泊まるほどの時間は無いらしいが、一日いたりはできるらしい。
素直に嬉しい話で今日はただただ談笑し、夕食を共にした後帰って行った。
身に渇をいれて引き締める為にも、この山の奥であり隣接する霊峰に向かう。
遥か昔はそこにも人はいたらしいが今は里の跡しか残っておらず、大きな祠も点在している場所だ。
何時来ても身が清められる思いである。言うほど何度も来れる場所でもないが。
僅かな山菜を摘んで煮込み、それを夕食にした。
一日で往復できない距離である為、今日はこの里の跡で野宿する。
目覚めると主様が近くで草を食んでいた。何とも幻想的な。
邪魔するのも申し訳ないので、そっとその場を後にする。
途中にある沢で川魚を一匹頂いて朝食とした。塩焼き旨い。
家に着く頃には日がだいぶ傾いていた。
庭の椅子が木陰にあり、魔王が座ってうとうとと転寝をしていた。何これ可愛い。
聞けば来てみたはいいもののメモ書きで今日帰ってくるとの事だったから待っていたらしい。悪い事をした。
日暮れまでしか居られないとの事だったので、早めに夕食を作り共にした。
久々に旅人の客だ。製造、というよりも売って欲しいとの事だった。
在庫置き場に案内すると、しばらくあれこれ物色した後、二振りの刀剣を手にした。
試し切りはいいのだろうかと確認すると、貴方が作った物の切れ味をわざわざ確かめるほど無粋でない、と言われた。
評判が一人歩きしている気がする。恐ろしい話だ、と思っていたら知り合いに自分が作った剣を使っている者がいて、実際に振るった事があるそうだ。
しかし、常に最高の水準で仕上がるわけでもないのだが、と言うと、旅人はからからと笑ってみせた。
職人からすれば杜撰な扱いをされていたあの刀剣で、あれだけの切れ味が維持されている。
それだけでわざわざ試す必要は無いものだ、と軽快に言われた。嬉しい事だがそれはそれでハードルが上げられている気がする。
昨日の旅人の話だと麓の町をちょっとした軍隊が通るらしい。
武器卸すにはもってこいだ。いや買ってもらえないかもしれないが。
久々に金槌を握りひたすら槍を造る。
明日晴れるといいな。下山の準備をし、早めに寝る事にした。
今日は不貞寝。
麓に行く全ルートがぬかるんでいる。流石に大量の槍を担いで行ったら容易く滑落するだろう。
何の為に軍隊が来たかは知らないが、多分そろそろいなくなるだろう。
というか目的次第だが、晴れたのだから出発するだろう。
取らぬ狸の皮算用とは正にこの事、と溜息をついていると魔王がやってきた。
何時も食わせてばかりでは、と土産を持ってきた。
魔界のとある国の銘菓で入手困難なバームクーヘンだと言う。
たかがバームクーヘンで入手困難、と思って一切れ食べてみた。
うめぇ! 思わず声を上げて驚いた。魔王はにやにやしながら見ている。
なるほど、ここまで定番の流れなのか。
ふと思い出して近くの洞に。果実酒を漬けていたのを忘れていた。
酒の味はよく分からないがとりあえずまあ旨いのだろうと思う。
少し容器に汲んで持ち帰る。
軽く酒を飲んだし、今日はもう読書をして過ごそう。と、武具の図解を読み出す。
昼頃だった筈が気付けば夜になっていた。やはりアルコールには弱い。
珍しく早朝より魔王が訪れた。また手土産を持ってきたようだ。
どうやら酒らしい。何と言うかタイミングがまた……。
今日も鍛治は止める事にし、昼食を豪勢にして二人で飲む事にした。
昼間っから酒とはいい身分だ、と言ったら何たって王だからな、と言い返された。
忘れていたが本当にそういう立場の者なんだよなぁ。と言っても聞く限りじゃ、人間側の王位とは違うようだが。
それにしても彼女は酒に強い。結構なペースで飲んでいく。そして昨日の果実酒を目聡く見つけ、それも半分ほどさらりと飲む。魚かお前は。
気付けばとっぷりと暮れていた。やはり眠ってしまったようだ。魔王の姿は勿論無く、自分には毛布が掛けられていた。
次の機会では穴埋めをしないと申し訳がないな。
久々に町に商品卸しと刃物研ぎに行く。
食料を買い込み家に帰ろうとしたら行商人の一団と出会った。この辺りを通るなんて珍しいな。
と思ったら自分が造る武器が目当てだという。なんなら在庫を全部売ろうかと言うと、商品達は大はしゃぎをした。
今ある在庫を箇条書きにし、それをあの山から運べるかと問うと、今手持ちのだけ全部買います、と改まった。
大商人にはなれなさそう一団だな。
全部売り切れるというのも滅多にない事。
という事で今日は在庫の補填をすべく、金槌振るって剣だの何だのと造る。
しかし今日はやたらと旅人の来客が多い。それも依頼ではなく購入で。
何かあったのかと事情を聞くと、すぐ近くで行商人達が高額で剣を出しているそうだ。まじぼったくり。
この地方より遠くにいる人の多くが、名前こそ知れどこの場所まで知らないらしく、行商人が売る剣を見て近くに本人がいるのでは、とこぞって探していたらしい。
で、麓の町でここまでの道を知り押しかけてきたと。
確かに金にはなるがあまり売れすぎても補填が間に合わないし、材料の供給にも限界がある。
何より無理にこの山を登ろうとして遭難する者も多い。その為、旅人達にはあまり言い回らないよう頼むと快く了承してくれた。
自分が住む場所で死者が出るというのも気持ちが良い話ではないからなぁ。
また早朝から魔王が来た。なにやらどこか暗い。
正直聞くべきか悩んだが、恐らく魔王としてのしがらみに関する事なのだろう。
今日はよくお前とのような気楽な付き合いが、お前が私の部下であってくれればというような事ばかり言う。
こういう時何と言ってやればいいか分からないが、彼女は今の俺とのこの付き合いは良しとしているわけだし、
自分はここにいるし、何時でも魔王を歓迎すると伝えた。
今思えば失言だった。これから死ぬ彼女に何時でも、なんて酷な話ではないだろうか。
魔王は寂しげな笑みを見せた後、にっこりと笑ってありがとうと言った。
昼には魔王は帰っていった。そして夕方、遠くで爆破魔法を連続で打ち上げる音が聞こえる。
その意は祝砲。膝を突きうつ伏せに倒れ、日が昇るまで動く気にはなれなかった。
朝日が輝かしい。嫌味の様だ。
ゆっくりと起き上がり、近くの椅子に腰を掛けるが全身が軋むように痛い。
何も考えられないというのはこういう事なのだろうか。
そのまま動けずにいるとコボルト達が鉱石を持ってやってきた。交換する日だったか。すっかり忘れていた。
コボルトは自分の有様を見て真っ青になり自分の介抱をし始めた。正直、もう放っておいて欲しい。
付きっ切りで自分を看るコボルト達が早朝、大騒ぎを始めた。
気に留める事もなく、何を見る事も無く、そのまま真っ直ぐ天井に顔を向けていたら青ざめた魔王の顔が目の前に現れた。
一瞬何が起きているか分からず、別の意味で何も考えられなくなった。
その間、魔王はあたふたと何があった、大丈夫なのかとしきりにこちらに安否を問いかけてきた。
何かを言わなくては、と思うものの喉が渇いて声が出せなかった。
せめて何かを伝えたいと必死になって取れた行動と言えば、魔王の手を取り引き寄せ抱きしめる事だった。
コボルト達から口々に死ね、という言葉が聞こえた。後で詫びに行かなくては。
それからしばらく落ち着いた所で、お互いに状況を話し合う。
まずは自分の事から話すと魔王は照れながら、それほど大事に思われていたのか、ありがとうと言ってくれた。
コボルト達はあの旦那がか、やはり旦那もちゃんと性別があったのか、と口々に言い最後には死ねと言った。うん、詫びに行こう。
魔王はと言うと、二日前に城に帰った時には魔王城が陥落していたという事らしい。
どうやら勇者様達が早馬を用いて、一気に魔王城に攻め込んだのだ。
今まで勇者様達は徒歩だからと試算していた日数を大幅に短縮してきた。もしかしたら作戦として考えていたのかもしれない。
兎にも角にも魔王は命を落とす事も無く、魔王城陥落という形で人間側は勝利を宣言したのだという。
で、肝心の魔王の立場だがかなり困った事になったらしい。何せ前代未聞である為、魔界では長い時間審議を行ったらしい。
とりあえず、魔界としては魔王は倒されたって形で進むとして、死ななかった現魔王をどうしよう? という状態らしい。
何やら好きにしていいよ、な流れになってしまったので、とりあえずここに来たのだと言う。
魔王城を失い、寝る場所もないらしいのでしばらくは一緒に暮らす事になった。
昼と夜では魔王は休んでいてくれ、と言いテキパキと料理を作っていった。
不器用ながらも一生懸命さが伝わる料理だったがとても美味しく、涙が零れてしまった。恥ずかしい限りである。
ここ数日とは心機一転。ひたすら金槌を振るい鉄を打つ。
コボルト達への詫びも含め、既に受け取ってしまった材料分の交換物資を大急ぎで造る。
魔王は小気味の良い音だと言ってくれたが、それを気にする余裕はありはしない。
一本、二本とつるはし等の道具が凄まじい勢いで増えていくのを見て、流石の魔王もその異常性に顔を引き攣らせた。
早朝から夜遅くまでかかって、交換分と侘び分が出来上がる。
明日はこれをコボルト達の所に……どうやって運ぶんだこの量。
と呆然としていると、魔王が付き添い魔法を使って手助けしようと言ってくれた。
一人では何往復する事になったのやら。
ある者は心配して損をしたと罵倒した。ある者はちゃんと男だったかと安心した。
ある者は死ねっと悪態を付いた。ある者はあまりにも早すぎる祝福を祝った。
そしてコボルト達は盛大な祝いをしていた。流石に自分の復活祝いという事のようだったが。
事ある事に自分と魔王との事で祝いの言葉が投げかけられる。
それを魔王は困った顔をしつつも、嬉しそうに笑ってくれた。
自分は初めて全うな人としての幸せに触れた気がする。
一晩明けて一旦落ち着き。今後をどうするかを考える。
大きい依頼が続けば問題無いが、現実はそうも行かないだろう。
つまり二人で安定して食っていくには、更に何かをしないといけなくなる。
いっそ山を降りて何処かの工房かギルドに所属すべきかと考える。すると魔王は何故、一人でこんな所で暮らしているのかを聞いてきた。
昔は工房で働いていたが、大した努力も技術も無い奴が偉そうな事をほざいたから殴り倒して、一人で腕を磨くようになったと過去を話した。
魔王にお前は指導者には向かないな。集団に混じるべきではないと諭された。そんな気は元からあったさ。
昨日の話の所為か魔王は何か仕事は無いか、と催促してくるようになった。
そもそも戦う以外に何が出来るのだろうかと言ったら、色んな事ができるぞと胸を張った。
政治とか何とかとか、言い出して数十秒で知らない単語がぼろぼろ出てくる。
聞き方を変えてこの辺りでなら何が出来そうかと問うと、水脈を地図に起こすだの水路を作るだのなんだのかんだのと言い出した。
何やら幼少頃から多くの事を学ばされてきたらしい。土木は得意だぞ、と満面の笑みで言ってきた。
人間側にとってはとんでもない逸材かもしれない。
人間界においてどれだけ有効か、を見る為にもしばらく旅に出る事に決めた。
ついでに工業都市で学ぼう。
長旅になる為、早めにコボルト達と麓に伝えないといけないな。
おまけにある程度、物は揃えておかないといけない。
しばらくは忙しそうだ。
ひたすら製造する。なんか数日前も同じだった気がする。
魔王は魔王で家事などを手伝ってくれている。助かる事だが家事を手伝う魔王というのも不思議な話だ。
明日も延々と造る事になるので日記もそこそこに就寝。
疲れた。
が、目標としていた数は造り終えた。後は明日にでもコボルト達と麓に行けばいいだろう。
そうしたらいよいよ旅支度を整えられる。
今晩は残っている食料で旅に持っていけない物をしこたま使った、結構、いや滅茶苦茶豪勢なものとなった。
挨拶も済ませたし、コボルト達には倉庫のつるはしは適当に持ち出してくれ、と伝えたし大丈夫だろう。
この長旅で魔王には告白、いやプロポーズをしよう。
彼女も共に付いてきてくれる、というより共に生活をするつもりで仕事などを考えている。
うぬぼれとかで無く、彼女もまた自分に思いを寄せてくれているのだろう。
だからこそ、自分は彼女に明確にこの思いを伝えるべきだ。もう彼女が居ない世界など味わいたくは無い。
そしてこの日記帳は仕舞ってしまおう。見られたら恥ずかしすぎる。
これからは新調して、彼女が傍に居る事を考えた上で書き綴ろう。
一つの節目としては良いだろう。彼女ももう、討たれる事に幸せを見ていないのだろうし。
だからこそ、自分も一歩踏み出していかなければならないのか。
これからは自分が彼女を幸せにしていくのだから。
最後の最後でこの見開きのページを魔王に見られた。
恥ずかし過ぎて死にそうだが、顔を真っ赤にしつつも魔王が喜んでくれたから良し、いやプロポーズは格好良く決まらなくなった。死にたい。
鍛冶師「人里離れたところでひっそりと暮らしてる」 完
雰囲気が好きだわ
良い終わり方だったよ
Entry ⇒ 2012.10.06 | Category ⇒ その他 | Comments (1) | Trackbacks (0)
メリー「今あなたの後ろにいるの」武術家(殺気ッ!?)
友人「全日本格闘大会!」
武術家「ああ、日頃からの鍛錬の成果を満天下に知らしめる絶好の機会だ」
友人「優勝候補は俺とお前、あとは……空手家と紳士ってとこか」
友人「実質この四人での大会になりそうだな」
武術家「油断していると、意外な相手に足をすくわれるかもしれんぞ」
友人「ハハ、分かってるって」
友人「俺としては、お前とは決勝で当たりたいもんだぜ」
友人「──ところで、こないだお前の家の前を小さな女の子がうろうろしてたけど」
友人「もしかして、お前のファンなんじゃないか?」
武術家「女の子が? まさか……たまたまだろう」
友人「オイ、大変だ!」
武術家「どうした?」
友人「空手家が……襲撃を受けて、病院送りにされたってよ!」
武術家「襲撃?」
友人「ああ、全治三ヶ月の重傷らしい。これじゃ大会出場は無理だ」
武術家「残念だな……大会では彼とも戦いたかったのに」
友人「まったくだ、だれがこんなことを……!」
武術家(どうやら空手家は、背後からの一撃で昏倒した後──)
武術家(全身を打ちのめされたようだ)
武術家(不意打ち、しかも気を失った相手を打ちのめすという外道ぶりは捨て置けんが)
武術家(なによりも警戒すべきは、やはりその技量)
武術家(空手家ほどの達人の背後に忍び寄り、しかも一撃で昏倒せしめるとは……)
武術家(こんなことが可能な使い手は、日本でも数えるほどしかいないだろう……)
武術家(電話か)
武術家(こんな時間に、いったいだれだ?)ガチャッ
武術家「はい、もしもし」
『私メリーさん、今××駅にいるの』
武術家「?」
ツーツー……
武術家(メリーさん……? 外国人?)
武術家(女の声だったが……切れてしまった……)
武術家(××駅といえば、この近くの駅だが──)
武術家(またか)ガチャッ
武術家「もしもし」
メリー『私メリーさん、今コンビニにいるの』
武術家「なんなんだ、あなたは──」
ツーツー……
武術家(また切れてしまったか……)
武術家「もしもし」
メリー『私メリーさん、今△△医院にいるの』
武術家「おい──」
ツーツー……
武術家(△△医院は、すぐ近くにある診療所だ……)
武術家(──まさか!)
武術家(徐々にこの家に近づいている……?)
武術家「……もしもし」
メリー『私メリーさん、今あなたの家の前にいるの』
武術家「!」
ツーツー……
武術家(家の前に……!?)
武術家(出てみるか? いや、しかし──)
武術家(来た……! 次にかけてくるとしたら、どこからだ……?)
武術家(まさか家の中に入ってくるなんてことは……)ガチャッ
武術家「もしもし!」
メリー『私メリーさん』
メリー「今あなたの後ろにいるの」
武術家(殺気ッ!?)
武術家が振り返りざまに、裏拳を放つ。
武術家(外したッ! ──殺気の主はどこだ!?)
メリー「声をかけてから反撃まで、0.2秒とかかってない」
メリー「さっすが、いい反応だね」
武術家(お、女の子……!?)
メリー「えいやっ!」
ベシィッ!
メリーのローキックが、武術家の足にぶつかる。
武術家(お、重いっ……!)ビリビリ…
武術家(この子、ただの女の子ではない……いったい何者なんだ!?)
武術家「君が、空手家を襲撃したのか?」
メリー「……だとしたら、どうするの?」
武術家「空手家がやられたのは、仕方ないことだ」
武術家「彼とて格闘家、どんな形であれ敗北したことに言い訳はできん」
武術家「だがそれと、君の行為が許せるものかどうかは別問題だ」
武術家「背後から不意打ちをしかけ、昏倒した相手を叩きのめす……」
武術家「格闘家以前に、人として到底許せる行為ではない」
武術家「もし君が犯人というのなら、君を止めるために、戦わねばなるまい!」ザッ
メリー「じゃあ始めよっか」ザッ
武術家(──俺と、同じ構え!?)
ドズゥッ!
武術家「おぶっ!」
メリーのボディブローが、武術家のミゾオチをえぐった。
武術家「ぐ……(なんて突きだ……!)」ゲホッ
武術家(空手家がやられたのは仕方ない、などといっておいてなんてザマだ)
武術家(手加減して制圧できる相手ではない!)
武術家(本気で……やらなくては!)ギンッ
メリー(うわ……すっごい気迫……)ゾクッ
メリー「そうこなくちゃね!」サッ
鋭い攻防が続く。
武術家「せやぁっ!」シュッ
リーチで有利な武術家は、蹴りを巧みに使いメリーを懐に入らせない。
メリー「うぅ~……」
武術家(思い通りに攻められず、じれてきているな……そろそろ──)ビュッ
バッ!
武術家のローキックをかわし、メリーが飛び上がった。
武術家(──読み通りッ!)
メリー「!」
武術家(スキだらけだ、あとはこの拳を、この子に──)
武術家(この子に──)
一瞬のためらい。
ガキィッ!
メリーの飛び蹴りが、武術家の顔面を直撃した。
武術家「ぐはぁっ!」ザザッ
武術家「……君こそな」
メリー「!」ギクッ
武術家「今の蹴り……全力で放ってたら、俺は今こうして立っていなかったはずだ」
武術家「攻撃をためらった俺に対し、君もまたためらってしまった」
武術家「ちがうか?」
メリー「うっ……」
武術家「そしてこれでハッキリした」
武術家「空手家を襲撃したのは、君ではない」
武術家「よくよく考えたら、本気で俺を倒すつもりなら──」
武術家「わざわざ電話などかけず、奇襲をかけてきたはずだからな」
武術家「君の目的はなんだ? なぜ俺と戦い方がソックリなんだ?」
メリー「…………」
メリー「あ~あ、もうちょっと手合わせしたかったんだけどな」
メリー「私はね」
メリー「あなたを助けに来たの」
武術家「!?」
武術家(俺を……助けに……!?)
武術家「怖そうな人?」
メリー「うん」
メリー「で、その人たち、『ここを襲うのか』とか『命令があった』とか話してたの」
武術家「なんだって……!?」
メリー「空手家って人が大怪我したニュースは知ってたから」
メリー「もしかしたら、次はあなたかも……って思ったの」
武術家「……だからここに来てくれたのか」
武術家「悪いが、俺は君を全く知らないのだが」
メリー「知らないのは当然だよ。だって私、元々は人形だったんだもん」
武術家「人形?」
メリー「うん……私、持ち主だった女の子にゴミ捨て場に捨てられちゃったの」
メリー「すっごく憎んだわ、絶対許さないって」
メリー「動けるようになって、絶対仕返ししてやるんだって」
メリー「でも、そんな時──」
──
───
武術家(もうそろそろ10kmか……)タッタッタ
武術家「ん?(人形が捨ててあるな)」
武術家(可愛げのある人形だが、ずいぶん雑に捨てられているな)
武術家(こんな風に捨てられては、人形としても無念だろう)
武術家「あいにく俺は拾ってやることはしないが──」
武術家「たとえ捨てられるにしても、せめてキレイなままでいたいだろう」パッパッ
武術家は人形の汚れを払い、ポーズを整えた。
武術家「さてと、もう10km走るか」タッタッタ
人形「…………」
メリー「とっても嬉しかった……」
メリー「私、あなたのおかげで恨みがすっかりなくなっちゃったの」
武術家「そうだったのか……」
武術家「なんにせよ、恨みが晴れたのであればなによりだ」
メリー「だから、あなたの家に近づいて、トレーニングを眺めたりしたの」
メリー「あなたのマネをしてたら、けっこう武術を覚えられたんだよ」
武術家「!?」
武術家「まさか……俺のマネをしてただけで……あれだけの実力を備えたのか!?」
メリー「うん」
武術家(どうりで構えや戦い方が俺にソックリなハズだ……)
武術家(正直いって、今の話が一番衝撃的だった)
武術家「ところで……ここに来た時、俺と戦ったのはなんでだ?」
メリー「えぇ~と、つい今の私がどれぐらい強いか、たしかめたくなっちゃって……」
武術家「ああ、たしかにその気持ちはよく分かる」
武術家(これも格闘家のサガか……)
メリー「ねえねえ、私の武術どうだった?」
武術家(どうって……)
武術家(人間ではないとはいっても、女の子がマネだけであそこまで──)
武術家「な、なかなかだった……まだ俺には及ばないがな」
メリー「ホント? 嬉しいっ!」
武術家(他人の才を素直に認められぬとは……俺もまだまだ未熟だ)
武術家「ほら、できたぞ」
メリー「わぁ~! 美味しそう!」
武術家「わざわざ人間になってまで訪ねてきてくれたんだ。歓迎しよう」
武術家「恩返しとかは考えなくていい」
武術家「しばらくゆっくりしていくといい」
メリー「うん……ありがとう!」
メリー(よかった……私の思ったとおり、強くて優しい人だった……)
武術家「全日本格闘大会、か」
メリー「どういう大会なの?」
武術家「日本中の実績ある格闘家を集めて行われる大会だ」
武術家「日本一を決める大会といっても過言ではない」
武術家「もしいい成績を残せれば、世界大会への道も開かれる」
メリー「ふぅ~ん、そんなにすごい大会なんだ」
メリー「あなたの他には、どんな人が出るの?」
武術家「日本の名だたる格闘家はだいたい参加するが……」
武術家「優勝候補だといわれていたのは、四人」
武術家「俺と友人、あとは紳士と空手家だ」
武術家「だが空手家は、襲撃を受けて出場は絶望的になってしまった……」
メリー「ラッキーだって思ってる出場者もいるかもしれないね……」
武術家「あまり健全な考えではないが、中にはいるだろうな」
武術家「…………」ハッ
武術家(まさか……大会出場者の誰かが、優勝する確率を上げるために……!?)
武術家(だとするなら、俺を狙う理由も理解できる)
武術家(いやしかし……大会出場者にこんなことをする人間がいるとは思いたくない)
武術家(だがもし犯人の狙いがそれだとするなら──)
プルルルルル……
武術家「電話……?」
メリー「こ、これは私じゃないよ!?」オドオド
武術家「分かっているよ」ガチャッ
武術家「もしもし」
友人『俺だ……』
武術家「(やけに弱々しい声だが──)友人、どうしたんだ!」
友人『俺も、やられちまった……』
武術家「!」
友人は右腕に大きなギプスをはめ、全身包帯まみれであった。
友人「よう」
武術家(なんてことだ……!)
武術家「入院しなくても大丈夫なのか?」
友人「動けるっちゃ動けるし、無理いって脱け出してきた」
友人「……ところで、そっちの嬢ちゃんは?」
武術家「えぇと──」
メリー「私メリーさん、武術家さんの親戚なの!」
友人(ファンじゃなく、親戚だったのか……ハーフか?)
友人「へえ、お前にこんな可愛い親戚がいたなんてな」
メリー「やだぁ、可愛いだなんて……やっぱりあなたの親戚になろうかな」
武術家「お、おいおい……」
友人「さっきお前と別れて、すぐだったな」
友人「家に帰る途中、後ろからガツンと……」
友人「──で、目を覚ましたらこのザマになってたってワケだ」
友人「んでもって、とりあえず金だけ払って病院を出て、お前に電話をかけたんだ」
武術家「しかし、お前ほどの男が相手を見ることもできずに……」
友人「ああ、犯人はかなりの達人のハズだ」
友人「……にしても、情けねえ。くそったれ……!」
友人「完治とはいかねえだろうが、俺は必ず戦えるようになる」
友人「だから……このことは大会関係者には伏せておいてくれ、頼む!」
友人「このことがバレたら、出場停止になっちまうかもしれねえから……」
武術家「ああ、分かっている」
武術家「お前なら、そういうだろうと思っていた」
友人「……ありがとよ」
友人「だが気をつけろよ、もし犯人が大会出場者の誰かだとしたら──」
友人「次に狙われるのは、お前か紳士のどっちかだろう」
メリー「ねえねえ」
武術家「ん?」
メリー「さっきの人も、あなたぐらい強いんでしょ?」
武術家「ああ、あいつはパンチが得意でな」
武術家「特に疲れ知らずの連打は、浴びた方がうずくまってしまうほどの威力だ」
メリー「そんな人がやられちゃったんだ……」
武術家「空手家や友人ほどの格闘家を相手に、こうまでできる人間か……」
武術家「心当たりがあるとすれば──」
武術家(いや、やめておこう。証拠もないのに、疑ってはいかん)
メリー「ねえねえ、私しばらくあなたの家にいてもいい?」
武術家「ああ、せっかく来てくれたんだ。かまわないぞ、メリー君」
メリー「君なんてつけないでよ。メリーでいいよ」
武術家「──道着も似合ってるじゃないか」
武術家(俺の子供の時のお下がりだが、とっておいてよかったな)
メリー「私、こういうの着るのはじめてなんだけど……よかった」
武術家「じゃあメリー、まずは柔軟体操からだ」
武術家「ちゃんとやっておかないと、怪我をするからな」
メリー「うん!」
武術家(わざわざ人形から姿を変えてまで、会いに来てくれたんだしな)
武術家(それにこの子の強さはホンモノだ)
武術家(この子と稽古をすれば、きっと俺自身も強くなれるはずだ)
武術家(本当に俺が狙われているとするなら、戦いに巻き込みたくはないが──)
武術家「ほう、どんな技だ?」
メリー「まずね……私が少しずつこの家に近づいていったみたいに」
メリー「こうやって、少~しずつ相手に近づくの」ソロ…
メリー「動きはゆっくりなのに、意外と手を出せないでしょ?」ソロ…
武術家「ああ、カウンターを警戒してしまうな」
メリー「こうやってステップで──」スタタンッ
武術家「!」
メリー「一気に背後に回り込むの!」バッ
メリー「そしたら“あなたの後ろにいるの”っていって、振り返った相手を──」
メリー「パンチ!」ビュッ
メリー「……どう? 名づけて、“メリー拳”!」
武術家「ハハハ、メリー拳か。なかなか面白いかもしれんな」
メリー「わぁい、ありがとう!」
武術家「ただ、一度見られてしまうと、効果が半減してしまうがな」
メリー「うぅ、たしかに……」
武術家(背後に回る時の独特なステップ……まったく動きを追えなかった)
武術家(つくづく恐ろしい才能だ)
武術家「では今日の稽古はここまでだ」
メリー「じゃあ私、お風呂たいてくる!」パタパタ…
武術家(大会まであと七日……メリーがいっていた襲撃者が来る気配はない)
武術家(だが、もし大会の優勝候補が狙いであるなら)
武術家(そろそろ──)
ガッシャアンッ!
武術家(ガラスが割られた!?)
ダダダッ! ダダダッ!
武術家(複数の足音! 侵入者かッ!)
覆面A「へっへっへ……」
覆面B「これも仕事なんでな」
武術家「お前たちは何者だ?」
覆面A「答える義務はねえなっ!」ブンッ
覆面B「オラァッ!」ブンッ
武術家「ハァッ!」
ズドォ!
武術家「どりゃあッ!」
バキィ!
覆面A「ぐげぇ……!」ドサッ
覆面B「がはっ……!」ドサッ
武術家(この二人だけじゃない、まだかなりの数がいるな……!)
武術家(一人一人は大したことないが──数が多すぎる!)ハッ
武術家(しまった、こっちにもいたのか!?)
覆面C「もらった!」ブンッ
武術家(いかん──!)
「私メリーさん、今あなたの後ろにいるの」
覆面C「え?」
ドゴッ!
覆面Cは後ろから現れたメリーに、一撃で倒された。
武術家「メリー、すまん! 助かった!」
メリー「いいのいいの、全部やっつけちゃおう!」
武術家(かなり倒したが、まだ10人以上残っていたか……)
武術家「メリー、背中合わせになって、互いに前方だけに集中するぞ!」ザッ
メリー「うんっ!」
メリー「私メリーさん、今あなたの後ろにいるの!」バッ
覆面D「ちくしょう、あんなガキがいるなんて聞いてねえぞ!」
覆面E「こいつら、強すぎるぜ……」
白覆面「ええい、ひるんでんじゃねえ! てめえら、やっちまえ!」
武術家(あの白い覆面が、リーダー格のようだな)
ドゴッ! ボスッ! バシッ! ベキッ! ドゴッ!
武術家とメリーの実力は、覆面たちを全く寄せつけない。
武術家(昔はこうやって、友人と一緒に荒くれ者相手に戦ったもんだ)
武術家(まさかまた、こうして背中を任せられる格闘家に出会えるなんてな)
武術家(しかもそれが小さな女の子だとは……不思議なこともあるものだ)
ドズッ!
覆面D「ぐへぇっ!」ドサッ
メリー「あなたの後ろにいるの」
バキィッ!
覆面E「ぎゃふっ!」ドサッ
白覆面(武器を持った30人が、あっという間に全滅だとぉ……!?)
白覆面(くそっ、せめて命令通り怪我だけでもさせねえと……)
白覆面(そうだ! やられた奴らのバットをかき集めて──)
白覆面はメリーめがけて、バットをまとめて投げつけた。
メリー「え!?」
武術家「危ない、メリー!」ダッ
ガスッ! ガンッ!
武術家の右ヒザと左脇腹に、バットが当たってしまった。
武術家「ぐっ……!」
白覆面「ヒャハハ、ざまあみやがれ!」
メリー「よくもやったなぁ!」スタタンッ
白覆面(えっ、一瞬で後ろに回り込まれ──)
メリー「私メリーさん、今あなたの後ろにいるの!」グイッ
白覆面「ちょっ、待っ──」
メリーは白覆面を後ろから持ち上げると、ジャーマンスープレックスを決めた。
──ズガァン!
武術家「なぜ、こんなマネをした?」
武術家「空手家や友人をやったのも、お前たちの仕業なのか?」
白覆面「空手家、友人……? なんのことだ?」
白覆面「俺らはただ……今日アンタを襲撃しろって雇われただけのチンピラ集団だ……」
白覆面「もっとも、ほとんどが格闘家崩れだがな……」
武術家「だれに雇われた!?」グイッ
白覆面「し、知らねえ……本当だ!」
白覆面「なにしろ、こっちからは一切連絡が取れねえんだ……!」
白覆面「勝ちは期待してねえから、せめて怪我だけでもさせろっていわれて」
白覆面「絶対ブッ潰してやるって意気込んでたんだが……やっぱアンタつええな……」
白覆面「いや……アンタらか」
メリー「なあに?」
武術家「今から……紳士の家に行ってみようと思う」
メリー「たしか、優勝候補の人だよね?」
武術家「ああ……俺の読みでは、おそらく彼が黒幕だ」
武術家(空手家と友人を倒す実力者……)
武術家(それに怪我だけは負わせろ、という指示も明らかに大会を意識したものだ)
武術家(仮にちがうとしても、疑念を晴らすために行ってみた方がいいだろう)
武術家「……ぐっ!」ズキッ
メリー「どうしたの!?」
武術家「いや、なんでもない」
ピンポーン……
ピンポーン……
武術家「反応がないな」
メリー「出かけてるか、寝てるかしてるんじゃないの?」
武術家(……失礼)ガチャッ
武術家(ドアが……開いている……)
武術家「…………」クンクン
武術家(かすかに……血の臭い!?)
メリー「入ろう!」
武術家&メリー「!」
中では、紳士が血まみれで倒れていた。
武術家「おい、しっかりしろ!」
メリー「ひどい……」
武術家「メリー、救急車を頼む!」
メリー「うん!」
紳士「き……君は……武術家君……?」
武術家「今救急車を呼んだ。安静にしていてくれ」
武術家(あちこちの骨を折られている……)
武術家「大した怪我ではないが、しゃべらない方がいい」
紳士「き、気をつけるのだ……」
紳士「時計を見る限り……私が気絶させられてから……さほど時間はたってない」
紳士「私をやった者は……(まだ、近くに……)」ガクッ
武術家(紳士は犯人ではなく、むしろ狙われる側だったとは……)
武術家(ではいったい犯人はだれなんだ!?)
パシャッ
武術家(ん、今なにか音が──)
メリー「もしもし私メリーさん、今紳士さんの家にいるの!」
メリー「紳士さんが大怪我してるの!」
メリー「救急車をお願いしたいの!」
メリー「!」ハッ
メリー(今、窓の外にかすかに気配が──)チラッ
ガサッ……
メリー(あ……!)
メリー「あの人……大丈夫かな?」
武術家「俺の見立てでは命に別状はないが、手ひどいやられ方なのはまちがいない」
武術家「大会直前で、俺と紳士を同時に襲う算段だったのだろう」
武術家「恐ろしく狡猾で、非道な犯人だ……。許せん……!」
メリー「…………」
武術家「ん、どうした?」
メリー「私……さっき見ちゃったの」
武術家「なにをだ?」
メリー「窓の外に──」
メリー「友人さんがいたのを」
武術家「メリー、下らないウソをつくんじゃない!」
メリー「で、でも──」
武術家「…………!」
武術家「メリー、先に家に戻っていろ!」
武術家「俺はすぐ友人のところに行ってくる!」
武術家「だってアイツはすでに襲われているんだぞ!」
武術家「アイツは……内気でいじめられがちだった俺に、格闘技を教えてくれた!」
武術家「今の俺があるのも、アイツのおかげなんだ!」
武術家「こんなことをするワケがないんだ!」
武術家「アイツのハズがない!」ダダダッ
メリー「…………」
武術家(なあ、そうだろう!?)ダダダッ
~
友人『君に、ケンカのやり方教えてやるよ』
友人『おぉ! なかなかいいパンチ打てるようになったじゃんか』
友人『ちっ、囲まれちまったな……お前は俺の後ろを頼む!』
友人『この団体戦のトロフィーは、俺とお前の一生の宝だな!』
友人『俺としては、お前とは決勝で当たりたいもんだぜ』
~
武術家(友人……)ダダダッ
武術家(友人、お前はこんなことしないだろう!?)ダダダッ
武術家は戻ってくる友人と鉢合わせになった。
武術家「友人……」ハァハァ
友人「!?」ギョッ
友人「……どうしたんだ、こんな時間に」
武術家「お前……包帯とギプスはどうした……」ハァハァ
友人「ん……ああ、こないだ取れたんだよ。俺、回復が早いからさ」
ビュッ! パシィッ!
武術家のパンチを、右手で受け止める友人。
武術家「今……ためらいもなく右手で拳を受けたな」
武術家「あれほどの怪我をしていた人間の反応じゃない」
武術家「──お前なのかっ!?」
武術家「証拠はない……が、だったらなんで怪我もしてないのにあんな芝居をした!」
友人「怪我をしてなきゃ包帯やギプスをしてはいけないなんて法はないだろ?」
友人「それに……仮に俺が犯人だとして、どうする?」
友人「証拠がなくともお前が騒げば、大会側も俺を出場停止にするかもしれないな」
友人「俺を出場停止に追い込めば、お前の優勝はほぼ決定的だ」
友人「やるか? やるのか? え?」
武術家「お、俺は……お前をずっと親友だと──」
友人「よせよ」
友人「いっとくが、俺はお前を友と思ったことはない」
友人「俺の行く道をジャマする……ただの石っころだ」
友人「話は終わりか? 一仕事終えたばかりで、疲れてるんだ」
友人「どいてくれ」
ドンッ
武術家「うぅっ……!」ズキッ
友人「今度は大会で会おうや」
友人「多分俺らは決勝で当たるように組まれるだろう」
友人「もっとも……その体で勝ち上がってこれたら、だけどな」ニィッ
バタンッ
武術家「…………」
メリー「ねえねえ」
メリー「友人さんが犯人だったのはショックだと思うけど……」
メリー「気を取り直さないと!」
メリー「ほら、大会であの人に勝って、目を覚まさせるとか……!」
武術家「──うるさいっ!」
メリー「!」ビクッ
武術家「子供の頃からずっと親友だと思っていた奴に裏切られたんだ!」
武術家「気を取り直すなんて……そう簡単にできるものかッ!」
メリー「だけど──」
武術家「ちょっと優しくされたぐらいで捨てられた恨みを忘れるような奴に」
武術家「俺の気持ちは分かるまい!」
武術家「……あ」ハッ
メリー「…………」
メリー「……ごめんなさい」タタタッ
武術家「メリー!」
武術家(くっ……怒りにまかせてなんてバカなことをいってしまったんだ、俺は!)
武術家(武を志しておきながら、感情の制御もできぬとは……!)
武術家(メリー……すまん……!)
この日、メリーが戻ってくることはなかった。
武術家も、選手として会場入りする。
武術家(結局、メリーは戻ってこなかった……)
武術家(当然だ、どう考えても俺に非がある)
武術家(今メリーがどうしているのか、俺には見当もつかないが……)
武術家(せめてメリーがいっていたことだけはやり遂げよう)
武術家(大会で友人に勝ち、目を覚まさせる!)
武術家(せめてそれだけは……!)
武術家「だあッ!」
ベキィッ!
友人に裏切られ、メリーを傷つけ──
武術家「はッ!」
ズドォッ!
心も体もとても本調子とはいえなかったが──
武術家「せいッ!」
バキィッ!
悪戦苦闘しつつ、武術家はどうにか決勝まで勝ち進んだ。
友人「ふん……」
友人「やはり武術家が上がってきたか」
友人(精神的にも肉体的にも最悪のコンディションだろうに)
友人(よくもまあ、勝ち上がってこれたもんだ。腐っても鯛、ってことか)
友人(だが、あんな動きで通用するのはせいぜい二流まで)
友人(この俺には通用しねえ)
友人(このままでも勝利はまちがいないが、念には念をだ)
友人(お前にはさらなる絶望を味わわせてやる!)
まもなく試合開始というところで、観客の一部が騒ぎ出す。
「空手家や紳士に出場できなくしたのは、そいつだ!」
「武術家がやりやがったんだ!」
「ふざけんな!」
武術家「──な、なんだ!?」
友人(始まったか)ニヤッ
観客席に次々と「倒れている紳士の横にいる武術家」の写真がばら撒かれる。
「なんだこりゃ!?」
「アイツが犯人だったのかよ!」
「俺は紳士のファンなのに……ふざけんな!」
友人(チンピラどもに襲われたお前が、紳士の家に来るのは読めていた)
友人(だから俺は紳士を叩きのめした後、お前の到着を待ち、写真を撮った)
友人(あとは雇ったサクラどもに写真をばら撒かせれば……四面楚歌の完成だ)
友人(もうお前を応援してくれる奴なんざ、いないんだよ)
「犯人は武術家だっ!」 「卑怯者めっ!」 「失格にしろ、失格に!」
サクラに乗せられて、ヒートアップする観客が次々出てくる。
大会委員が抑えにかかるが、一向に鎮まらない。
すると──
友人「みんな、待ってくれ!」
ピタッ
友人「武術家がやったことは、たしかに許されないことではある」
友人「だからこそ俺は、友として必ず彼の優勝を食い止めてみせる!」
友人「ここはひとつ、どうか俺と彼の試合を見守っていて欲しい!」
ワァァァァ……! ヒューヒュー……!
武術家への罵声が、友人への声援にかわる。
武術家「お前っ……!」ギリッ
友人「こういう自己演出も、プロ格闘家には必須のスキルだぜ?」
友人「引き立て役になってもらって悪いなァ、ありがとよ親友」
友人「せりゃあっ!」ブンッ
武術家「くっ」サッ
武術家は友人のパンチをかわし、蹴りを放とうとするが──
武術家「ぐう……っ!」ズキッ
ペシッ
友人「なんだぁ、そりゃ?」
バキィッ!
武術家「ぐはっ……!」
友人「試合を見てたら分かるぜ、傷んでんだろ? ……右ヒザと左脇腹」
ドズッ!
友人の拳が、武術家の脇腹をえぐる。
武術家「ぐあ……っ!」ガクッ
友人「決勝戦の試合時間は15分──」
友人「お前だけは特別にこの大舞台で、たっぷり痛めつけてやるよ」
バシィッ!
武術家「うぐぁぁっ!」
友人「どうしたどうした? 軽く蹴っただけなのに、痛がりすぎだろォ~?」ニィッ
友人「ほら、どんどん強くしてくぞ!」
バチィッ! ドガァッ!
武術家(ダ、ダメだ……)ヨロッ
武術家(俺の体は、決勝に来るまでで精一杯だった……!)
武術家(とても友人にはかなわない……!)
ワアァァァ……! ワアァァァ……!
友人「聞こえるか?」
友人「みぃ~んな、俺を称えている。お前の味方なんざ一人もいやしねえ」
友人「お前はここで出場者潰しと負け犬の汚名をかぶり、格闘技界から消えるんだ」
友人「あばよ親友……これからは俺が世界で羽ばたく姿を見ててくれ」
得意の猛ラッシュが始まる。
ズドッ! ドスッ! ドボッ! バキッ! ドガッ!
武術家(こ、ここまでか……)
武術家(俺に、もう味方は一人もいない……)
武術家(友人……お前に倒されるなら、本望だ……お前は、親友なのだから)
バシッ! ドゴッ! ベキッ! ガンッ! バゴッ!
武術家(これもお前にひどいことを、いった報いかな……)
武術家(謝れなかったのが、せめてもの心残り、か……)
ズンッ! ガゴッ! バキッ! ベシッ! ドゴッ!
武術家(もう、次の一撃で倒れ──)グラッ…
「私メリーさん」
武術家「!」
「今あなたの後ろにいるの」
武術家「うおあああっ!!!」
ドゴォッ!
友人「がはぁっ!」ドザァッ
武術家の右ストレートがカウンターで決まった。
友人「な、な、な……!?」
試合場の外──武術家の後ろにメリーが立っていた。
武術家「メリー……どうして……!?」
メリー「ごめんね、遅れちゃって」
メリー「私が後ろにいるから……最後まで諦めないで!」
武術家「──ああ!」
友人「あ、あれは……!?(たしか親戚の子供……!)」
友人「……ふん」
友人「たった一人に応援されたぐらいで、どうにかなるもんかよっ!」ダッ
メリーの応援で、戦況を盛り返す武術家。
武術家(メリーが後ろにいるのなら、恥ずかしい試合はできない!)バシッ
友人(くそったれ……! ここに来て、今日で一番いい動きになりやがった!)ガッ
友人(だったらこっちも戦法を変えるまでだ!)スッ
友人は無理に攻め込まず、防御主体のスタイルに切り替える。
武術家「せいっ!」ビュッ
友人「ふん」サッ
武術家(くそっ、蓄積してるダメージの差が大きすぎる!)
武術家(守りに入られては、逆転するのは難しい……!)
友人(お前の技は全て熟知してる。慎重に戦えば、どうとでも対処できる)
友人(お前になにか新技でもあれば別だが、んなもんあるわけねえ!)
武術家(なにか……友人を出し抜く手はなにかないか!?)
武術家「…………」ハッ
武術家(あの技なら……通用するかもしれない!)
友人(な、なんだ!? じわじわとこっちに近づいてきやがる!)
友人(俺の知らない奥の手か!? ──だとしたらうかつに手は出せねえ!)
武術家(間合いに入る──寸前!)スタタンッ
友人(消えた!? ど、どこへッ!?)
メリー「あ、あの技ってもしかして──」
一瞬で友人の背後に回り込んだ武術家。
武術家「俺は武術家、今お前の後ろにいる」
友人「──ちぃっ!」バッ
振り返ろうとする友人の顔面に──
ガゴォッ!
会心の“メリー拳”が炸裂した。
武術家(メリー、俺に技を教えてくれてありがとう!)
メリー(武術家さん、私の技を使ってくれて……ありがとう……)ウルッ
友人「ふっ、ふざけんなぁっ!」ガバッ
友人「ここまでやったんだ! 負けてたまるかよ……お前なんかに!」ギリッ
友人「俺は……いつもいつも……お前がうっとうしかったんだよォッ!」ダッ
持てる力を振り絞り、友人が猛攻に出る。
ガガガッ! パシッ! ガキッ! ドガッ! ズドドッ!
しかしそんな友人の意地を、武術家の気迫が一歩も二歩も上回る。
友人(なんでだ……!)
友人(身も心もボロボロなはずなのに……なぜ倒れない!?)
友人(後ろに……あの嬢ちゃんがいるからなのか……!?)
友人(ならば俺の後ろには……誰かいるのか?)
友人(いない……)
友人(金で雇った連中や、俺の本性を知らない観客だけ……誰もいない……)
友人(いや……)
友人(──いた)
友人(ガキの頃から、お前はずっと俺の後ろにいてくれた)
友人(なのに、俺は──……)
ズドンッ!!!
武術家、渾身の突き。
友人の体は場外まで吹っ飛び──
ドザァッ……!
──立つことはできなかった。
武術家「友人……」
友人「俺は……俺より後から格闘技を始めて……」
友人「俺と肩並べるくらい、強くなった……お前に、嫉妬してたんだ……」
友人「そんなしみったれたことを考える……自分にもずっとムカついてた……」
友人「気がついたら、俺はどうしたいのか、自分でもワケが分からなくなってた……」
友人「だから……この大会でどんな手を使っても優勝しよう、お前を潰そうと……」
友人「他人の力を認める度量もねぇ、ちっぽけな男だ……」
友人「俺は……お前に友じゃねえといったが……そのとおりだった」
友人「こんな俺に……友達を作る資格なんて……あるわけ、ねえ……もんな」
メリー(この人……私にそっくりだ)
メリー(私も捨てられた時、持ち主だった女の子を恨んだけど……)
メリー(同時に恨んでいる私自身にも、腹が立ってた)
メリー(でも──)
メリー(私が武術家さんに止めてもらったみたいに、やっと止めてもらえたんだね)
メリー「私ね、この一週間で色々とあなたのことを調べてたの」
友人「俺を……?」
メリー「うん」
メリー「で、あなたの家に忍び込んだりしちゃったの」
メリー「本当は襲撃事件の証拠を探そう、って思ってたんだけど」
メリー「そしたらあなた──武術家さんと取ったトロフィーとか賞状とか」
メリー「ちゃんととっておいたでしょ」
メリー「本当に憎んでるなら……とっくに捨ててるハズだよ」
友人「……ふっ」
友人「ふははっ……! すまねえ、俺は、俺は──」
武術家「もうなにもいうな」
武術家「俺は今でも、お前を親友だと思っている」
友人「この……お人好しが……」ツ…
メリー「友人さん……自首しちゃったね」
武術家「友人なら、ちゃんと罪を償って出てくるだろう」
武術家「そうしたらまた、これまでのようにアイツと切磋琢磨するつもりだ」
メリー「そうだよね!」
武術家「幸いなことに、空手家と紳士も順調に回復しているようだ」
武術家「今回の件が格闘技界に与えたダメージは大きいが──」
武術家「きっとまた盛り上がってくれることを祈るよ」
メリー「だったら、優勝したあなたは世界で活躍して、みんなを引っ張らないとね!」
武術家「……そうだな!」
メリー(私がここにいる理由もない……)
メリー(私は……ここから去らなきゃならない……)
メリー(だってこれ以上いると、迷惑だもんね……)
武術家「おしゃべりはこの辺にして、と」
武術家「メリー、今日も稽古を始めるか」
メリー「え!? でも私はもう──」
武術家「ん、もしかして、もう他のところに行かねばならないのか?」
武術家「だとしたら引き止めはせんが……そうか、残念だ」
武術家「メリーが編み出したメリー拳がなければ、俺は友人に敗れていただろう」
武術家「だからもっと、色々と教えてもらいたかったのだが──」
メリー「ちょ、ちょ、ちょっと待って!」
メリー「私、しばらくここにいてあげるの」
武術家「本当か? ありがとう!」
メリー「そういえば私、メリー拳をさらに速くする方法を思いついたの!」
メリー「光ぐらい速いって意味を込めて、名づけて……“メリー拳・光”!」
武術家「“メリー拳・光”!?」
武術家(なんだか小麦粉を連想させるネーミングだが……)ゴクリ…
武術家「ぜひ伝授してほしい!」
メリー「う~ん、ホントは企業秘密なんだけど、しょうがないなぁ~」
アナウンサー『いよいよ始まりました、世界格闘技選手権!』
アナウンサー『日本の若きエースが、ついに世界のトップファイターたちに挑む!』
アナウンサー『武術家の登場だぁーっ!』
ワァァァァ……! ワァァァァ……! ワァァァァ……!
武術家「ついにこの時が来た……行くか!」ザッ
その後ろには、常に一人の少女がいた。
メリー「私メリーさん、いつだってあなたの後ろにいるの!」
<完>
熱いSSだったぜ
面白かったぜ。
Entry ⇒ 2012.09.26 | Category ⇒ その他 | Comments (0) | Trackbacks (0)
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練習後
聖「おい、この後はミーティングが……」
バタン
聖「……はぁ」
円谷「えーっと……ドンマイ?」
手塚「橘の奴……大丈夫かなぁ」
聖「まだ大会には時間があるが……このままではな」
円谷「去年の夏は帝王とあかつきが潰し合ってくれたからよかったけどねー」
手塚「組み合わせ次第じゃ両方と戦わないといけない……ウチの地区は何かおかしい」
聖「文句を言っても始まらん。とにかく、手塚とみずきの両看板が仕上がらないことには、万全とは言えん」
手塚 B(70) B(75) 146km スライダー3 カーブ3 フォーク2 安定感4
みずき A(85) C(60) 139km オリジナル5 スクリュー3 対ピンチ2 ケガしにくさ4 タイムリーエラー ムラッ気 人気者
こんな感じ
大正義恋々高校^p^
聖「加藤先生……すいません、私がもっとしっかりしていれば」
円谷「そういうことは言わないの!」
手塚「そうそう、橘のことはチーム全体で考えていこう。先輩達が抜けて何か物足りないのは、みんな一緒なんだから」
聖「お前達……すまない」
加藤「ふふふ、どうやら心配することはなさそうね。近い内に『彼』もやってくるし……」
聖「『彼』?何のことですか?」
加藤「すぐに分かるわよ。さて、ミーティングを始めましょう?」
「「「???」」」
※円谷・手塚 チームプレイ○
円谷 CDBCBB 弾道2 送球○ 盗塁4 走塁4 守備職人 サブポジ○ チームプレイ○
くらい。大正義恋々ry
数日後 教室
みずき(最近練習出来てないなぁ。自分でサボってるんだから当たり前だけど)
みずき「……先輩達が部に居た頃は、毎日毎日楽しかったのに……」
キーンコーンカーンコーン
みずき(……いっそ授業もサボっちゃおうかしら)
教師「えー、HRを始める前に連絡がある」
みずき(あーあ、ほんとに何か面白いことでも起きないかなぁ)
教師「今日からこのクラスに転校生がやって来る。みんな仲良くな」
みずき(転校生ねぇ。私が漫画の主人公なら、ここで『あー!!?』とか言って立ち上がったりするんだろうな。ま、あり得ないけど)
教師「君、さっそく自己紹介を」
??「はい」
みずき「あー!!?」ガタッガタン
教師「どうした橘?」
??「……」
みずき「アンタ……友沢!?」
友沢「……漫画のキャラか、お前は」
教師「野球部に入部希望らしいし、ちょうど席も空いてるから橘の隣な」
みずき「な゛ー?!」
みずき「……ちょっと」
友沢「何だ」
みずき「屋上まで着いてきなさい」
友沢「……やれやれ」
クラスメートA「あれ、告白か何か?」ヒソヒソ
クラスメートB「何かただならぬ関係みたいだしな、朝の反応的に」ヒソヒソ
クラスメートC「勝気な美少女とクールっぽいイケメン……YESだね!」ヒソヒソ
クラスメートD「小生のみずきタソを返せー!」
友沢「……周りの反応はどうにかならんのか」
みずき「……あきらめなさい。私は慣れた」
※みずき・友沢 精神ポイントが下がった……
友沢「……で?」
みずき「で?じゃないわよ!何でアンタが転校してくるわけ?!」
友沢「……」
みずき「……だんまりとはね。カッコつけてるつもりかしら」
友沢「……そう受け取ったなら、それでもいい」
みずき「ふん、そういうすかした態度が気に食わないのよ」
友沢「勝手に言ってろ」
みずき「……でも、本当にどういうこと?帝王のアンタがライバル校に転校して、当然のように野球部志望だなんて」
みずき「何よ?」
友沢「お前、最近サボっているらしいが、今日は来い」
みずき「なっ……よ、余計なお世話よ!ていうか何でアンタがそのことを知ってるワケ?!」
友沢「……本当にサボってたのか。意外だな」
みずき「……色々あんのよ、乙女にはね」
友沢「乙女ね……ま、俺がここに居る理由も含めて、部活に顔を出せば分かると思うぞ。じゃあな」
みずき「むむ……わけわかんない……」
みずき(なんだか友沢に説得されたみたいで癪だけど、結局大会には出たいし勝ちたいのは間違いないのよね)
みずき「サボりも潮時、か。先輩達が居なくて物足りないのは変わんないけど」
聖「それでも練習に顔を出さないよりはずっとマシだな」
みずき「聖……その、ごめんなさい」
聖「いいさ」
手塚「先輩達が居なくなってつまんないっていうのはみんな一緒さ」
円谷「でもそこは俺達自身で、これから何とかしていこうぜ」
みずき「あんた達まで……うん。それもそうね。いつまでも後ろ向いてても始まらないわ」
※みずき サボりぐせ 解消
友沢「……」
加藤「すでに知っている人も多いと思うけど、今日から野球部に新たな仲間が加わります」
部員A「あれって帝王の……」
部員B「だよなぁ」
加藤「さすがの知名度ってところかしらね……亮君、改めて自己紹介を」
友沢「今日から入部する友沢亮です。ポジションはショート」
みずき「は?!」
友沢「よろしくお願い……」
みずき「待ちなさい!何でアンタがピッチャー希望じゃないのよ?!」
友沢「……」
加藤「それについては私から言わせて貰うわ。そこら辺は、彼がウチの高校に来た理由でもあるから」
聖「というと?」
加藤「……数ヶ月前、妹から相談を持ちかけられたの。『ある優秀な野球少年』の体について、ね」
友沢「……」
手塚「確か監督の妹さんって……」
円谷「近くの総合病院の看護婦さんでしたっけ」
加藤「そう。妹……京子と私は同じ先生の元でスポーツ医学を学んでいたのだけれど、得意分野が少し違うの」
聖「なるほど。その『ある優秀な野球少年』の検査を妹さんから頼まれた、ということですか」
加藤「そういうこと。まぁ、私達の先生にお願いしてもよかったんだけど、多少過激なことも辞さない性格の人で……
まぁそれは置いておきましょう。最終的に施設だけ借りて、私が精密検査を行ったわけ」
みずき「……検査の結果は?」
加藤「限りなく黒に近いグレー、という所ね。少なくとも、医学を志す者として看過出来るような状態では無かったわ。
その子が身を置いている環境が、過酷な練習と熾烈な競争を是とする帝王野球部だからこそ、
尚のこと放っておくことが出来なかった。それ程に稀有な才能の持ち主なのよ」
聖「つまり、その野球少年というのは」
友沢「……特に肘がボロボロでな。決め球のスライダーが、もうまともに投げられないらしい」
みずき「……アンタ、ってわけね……」
加藤「現状の帝王の練習及びシステムだと、どうしても亮君の選手生命に危険が及んでしまう。
そこで私は、帝王の監督や私の先生、そして亮君本人と、何度も話し合った末に、彼の転入を提案したの。
ウチなら設備の整った総合病院にも近いし、メニューの調整なんかも柔軟に対応出来るからね」
円谷「……よく帝王側も本人も納得しましたね。悪い言い方だけど、戦力の引き抜きみたいなもんだし」
手塚「練習環境が変わるのもリスクだと思うんですけど」
友沢「……実際そこら辺は悩んだけど、プロ入りする前に体を壊しちゃ人生計画がパーだからな」
聖「ビッグマウスはほどほどにな……と言うべきところだが、友沢ならまぁ間違いなくプロからオファーが来るだろうな」
加藤「現3年のパワプロ君や早川さん、あかつきの猪狩君、帝王の山口君に引けを取らない注目度であるのは間違いないわ。
そこら辺も考慮しているからこそ、帝王の監督もこちらの提案を受け入れてくれたのよ。
『戦力的に大きな打撃にはなるが、野球界の為と思えば致し方ない』ってね。『覚悟するように』っても言われたけれど」
手塚「『覚悟しておくように』って……当たったらラフプレーとかしてきたり?」
友沢「ラフプレーはさすがに無いだろうが、執拗にマークされるのは間違いないだろうな。
お前たちには正直申し訳ないと思うけれど、その分実際のプレーで貢献していくつもりだ」
聖「ふむ……ショート希望ということなら、ちょうど不足していたポジションだし、
戦力的には大幅なパワーアップということになりそうだな。問題は体の方だが……」
友沢「転入手続きのゴタゴタの間に体は休ませておいた。加藤先生からの指導は勿論、
京子さんにもリハビリの面倒を見てもらったから、今すぐにでも動きたい所さ。
……しかし意外だな。守備に定評のある恋々でショートが不足だなんて」
円谷「これでようやく本職セカンドに戻れそうだなぁ。正直助かるよ、俺一人だったし」
友沢「……一人?しかもサブポジション?何かの間違いじゃないのかそれ」
手塚「しょーがないんだよね、そこら辺の事情は」
聖「……聖域(JK)」
友沢「……?」
聖「……みずき?」
みずき「ごめん、やっぱり今日は私練習パスするよ」
聖「は?」
みずき「加藤先生、ごめんなさい、後でサボってた分まで罰は受けますから、今日は……」
加藤「うーん……ま、分かったわ。覚悟しておきなさい」
みずき「ありがとうございます……友沢、みんな、ごめん。お先」
手塚「あれれ、一目散だ」
円谷「せっかく久しぶりに来たのに……」
聖「……本人がああ言ったんだ。明日からは問題なく来るだろう」
聖(それにしては、複雑な表情をしていたけれど)
加藤「……亮君、やっぱり今日の練習禁止」
友沢「えっ?!久しぶりだから特別に動いていいって……」
加藤「あぁ、えっと……野球の練習は、ってこと。監督としてウォーミングアップを命じます」
友沢「はぁ、まぁ、動けるならいいですけど……」
友沢「校門出て左に10分ってとこでしたっけ……アップにも物足りない気がしますけど」
加藤「また故障寸前まで行きたいのかしら?」
友沢「うっ……りょ、了解しました」
加藤「素直でよろしい。他のみんなも、しっかり準備運動とアフターケアを怠らないように!」
友沢出発後
聖「……加藤先生」
加藤「何かしら?」
聖「神社はランニングコース外のはずですけど、どうして友沢君に?」
加藤「……勘よ」
聖「は?」
加藤「六道さんにも、その内分かるわよ。ふふ」
聖「???」
みずき「……何でアンタがここに来るのよ。帰るにしても家は反対方向でしょ」
友沢「今日は軽いアップまでって言われたんだ。神社まで走って来いだと」
みずき「ふーん」
友沢「……お前こそ、どうしてここに居るんだ。お前の帰る方向だって逆だろう」
みずき「別に……なんとなく、よ」
友沢「……」
みずき「……」
「なぁ」「ねぇ」
友沢「……何だ?先に言えよ」
友沢「質問によるな」
みずき「アンタ、隠し事してない?こっちに来た理由、あれだけだと思えないんだけど」
友沢「……さすがに腐れ縁ってわけか」
みずき「不本意だけどね。その……家族のこととか、そこら辺について、何も言ってなかったし」
友沢「それは別に隠そうとは思わないし、かといってひけらかして同情を誘うつもりもない」
みずき「でも……」
友沢「……屋上でお前に転入の理由を話さなかったのは、お前が俺の家の事情をある程度察しているからだ。
他の部員に前もって話したりされたら、俺がやりづらくなるだけだしな」
みずき「そんなデリカシーの無い事しないわよ?!」
友沢「どうだか。お前、お節介だし」
友沢「……まぁ、バッサリと言うとだな。母さんの看病と弟たちの面倒見るのとバイトとの兼ね合い……」
みずき「はぁ?!アンタ、あれだけ私が言っておきながらまだバイト増やすつもりなの!?いい加減に……」
友沢「耳元で怒鳴るなよ!?しかも逆だ逆。バイトはこれから減らせるんだ」
みずき「そうなの?」
友沢「理香さん達の先生が『出世払いでいいデース』って言って、母さんの治療費とか俺の検査費用を負担してくれたんだよ。
おかげで無理にバイト増やしたりする必要も無くなったんだ」
みずき「うさんくさっ?!」
友沢「そう言いたくなる気持ちも分かるが、実際大助かりさ。母さんも京子さんの勤務してる近くの病院で診てもらえることになったんだ。
帝王だと電車を使わざるを得なかったけど、ここなら自転車で十分だし、翔太たちの学校も近い。
壊れる寸前だった体も、何とか持ち直させてくれたし、いいこと尽くめで怖いくらいだよ」
友沢「……まぁ、な。少なくとも、スライダーを試合で放ることはもう無いだろう」
みずき「……そっか……ごめん、嫌なことまた聞いちゃって」
友沢「……気にするな。これでも、自分の中では一応けじめをつけたつもりだし」
みずき「……」
友沢「……お前の質問には答えたんだから、今度はこっちの番だ」
みずき「……いいわよ」
友沢「どうして今日もサボった?最初は普通にやる気みたいだったが」
友沢「……分かった、約束する」
みずき「……そもそも最近何でサボってたか、アンタは分かるかしら?」
友沢「理香さんから少し聞いていたくらいだったから、理由までは」
みずき「……さっきもちょっと思ったんだけど、理香さんって名前呼びなのね」
友沢「?話に関係あるのか?」
みずき「……無いわね。続けましょう。私が練習をサボりがちになったのは……
先輩たちが部活に来なくなったから。間違いなくこれが理由ね」
みずき「そうね。年末までは来てくれてたんだけど」
友沢「なんだ、むしろよく来てくれてたくらいじゃないか」
みずき「うん。他の先輩達も、何人かはちょくちょく顔を見せてくれたわ。今でもたまに来る人は来るし」
友沢「ならそれで」
みずき「よくないのよ、私にとっては」
友沢「……先輩たちが現役だった頃がよかったというわけか」
みずき「……暇を見つけては遊ぶくせに、ヘッドスライディングだけ気合入れてたダメガネは嫌いじゃなかった。
みんなの人気者で、おどおどしてる雅先輩をからかうのが日課だった。
簡単そうに私のボールを受けるパワプロ先輩を尊敬してたし、ちょっとだけあの才能が妬ましかった。
パワプロ先輩とのキャッチボールを心底楽しそうにやってたあおい先輩が大好きだった。」
みずき「でも、分かりきってたことだけど、それは部のみんなが思ってることで……
私だけいつまでも甘ったれてるなんていうのも、おかしな話。だから、それはもう解決したの」
友沢「じゃあなんで今日は休むんだ?」
みずき「うー……アンタが原因っていうか、えっと」
友沢「俺?」
みずき「アンタは何も悪くないんだけどね。私が勝手に、色々考えてて……」
友沢「……」
みずき「アンタは私のこと意識したこと無かったかもしれないけど、私はアンタをずっと
ライバルだと思ってたっていうか……あぁっもう、恥ずっ!恥ずい!」
友沢「ふむ」
何か、その、変な気持ちになっちゃってさ。すごく辛くて、やるせなくて……
自分のことじゃないのに、何言ってんだろうね、私。わ、笑いたければ笑いなさいよ」
友沢「……まさか。笑ったりなんてしないさ。最初に約束したし」
みずき「うぅ、そういえばそうだったわ……」
友沢「……それから、俺もお前はライバルだと思ってるよ」
みずき「そう、なの?」
友沢「あぁ。お前の周りが凄過ぎて、俺のことなんてシニアで争っただけ、もう過去の人間扱いだろうと思ってた」
みずき「……あんだけ投げ合っておいて『だけ』とか過去の人だなんて思ってるわけ無いでしょうに……
今でも思い出すわよ……ほら、去年だって練習試合でさ……」
矢部(どんな状況でやんすかこれ)
矢部(神社の軒下にコツコツ貯めてきたエロ本を回収しようと思って来てみれば、
みずきちゃんとどこかで見たことのあるイケメンが楽しそうにお喋りしているでやんす。
明らかに不純異性交遊でやんす。不潔でやんす。爆発しろでやんす)
矢部(これはあえて空気を読まないで参上して、雰囲気をぶち壊してやるでやんす。
そしてみずきちゃんからゴミカスを見るような視線を受けてそれを今夜のオカズにするでやんす。
名づけてAKY721作戦でやんす。完璧でやんす!)
矢部「デュフフ……コポォでやんす……」
チョンチョン
矢部「なんでやんす?今取り込み中でやんす」クルッ
ゲドー君「」ギョギョー
矢部「」
友沢「それでその時山口先輩がさ……」
みずき「えー?!あの人そんな人だったんだ……意外」
加藤「コラコラ亮君!」
友沢「げ!理香さん?!すっ、すいません!サボりじゃなくて、ええと……」
加藤「その呼び方は診療中だけよ?全く、遅いから心配して来てみれば……青春真っ只中って所かしら?」
みずき「そ、そんなんじゃないですよ!」
加藤「……ま、いいわ。どうせ亮君用のメニューは明日から始めるわけだし」
加藤「ええ。体に出来るだけ負担をかけない特訓、っていう矛盾したオーダーで組むのは中々骨が折れたけどね」
友沢「う……すいません、ありがとうございます」
加藤「そ・こ・で!橘さん!」
みずき「はい?」
加藤「度重なる部活の無断欠席……いくら私が野球に関しては素人監督とはいえ、
到底見過ごせるものじゃないわ。このままじゃ、懸命に練習に励んでいる他の子達に示しが付きません」
みずき「うぅ……すいません、ごめんなさい」
加藤「謝って帳消しにならないのは分かっているでしょう?チームのエース格とはいえ、それ相応の罰を受けてもらいます」
みずき「はい……私に出来ることなら、何でも」
加藤「いい覚悟ね。非常によろしい。では、あなたには罰として……」
加藤「亮君のトレーニングパートナーを命じます!」
友沢「えっ」
加藤「亮君の要望に応えて、『通常練習後』『可能な限り長時間』の特別メニューを組んでおいたから、
亮君と一緒にこれを年度が変わるまでの間、きっちりみっちりしっぽりこなしなさい」
みずき「ええええええええ!?れ、練習後に長時間って、体を痛めつけるだけじゃないですか?!」
加藤「さっき言ったわよ?『体に出来るだけ負担をかけない特訓』って。
一見矛盾したオーダーでも、ダイジョーブ医学にかかればどうってことないわ。
それに、あなた達二人の経過を観察して、随時メニューは調整していくから安心しなさい」
友沢「まぁ、り……加藤先生が組んでくれるんだから、間違いは無いだろう。
理由はどうあれ、サボってたお前が悪いっていう面もあるし、あきらめろ」
加藤「あら、亮君と食べればいいじゃないの。ふ・た・り・で♪」
みずき「だっ、な、ななな」
友沢「……すまん、甘いのはそこまで得意じゃない」
みずき「何でそこでまともな反応なのよ?!」
加藤「これは監督命令です!……あ、首尾がよければ来年度の部のメニューに組み込む予定だから、
そこら辺もよろしくね。ある意味責任重大よ?」
みずき「もういやー!?」
※みずき 負け運
みずき「ふぇぇ……また増えてるぅ……」
友沢「元々俺のリハビリも兼ねてるんだ、メニューが段々きつくなるのは仕方ない」
みずき「そうはいっても今日のは増えすぎよ!ウェイトの時間が2倍近いじゃないの!?」
友沢「……ま、女のお前にはきびしーかもなー」(棒読み)
みずき「むぎぎぎぎぎ……しゃーどんとこいオラー?!」
友沢(相変わらず誘導しやすいなこいつ)
みずき「なんて言うと思った?!もうその手には乗せられないわよ!?」
友沢「ちっ」
みずき「舌打ち禁止!……あーもう!あんなにサボるんじゃなかったー!!」
友沢「自業自得、だな」
みずき「むきー!!」
みずき「誰がこんな奴と!」
友沢「……理香さん、こいつの言うとおり、実際今日のメニューは増えすぎな気がしないでもないんですけれど」
加藤「もう、名前で呼ぶのは二人の時……診察の時だけって言ってるじゃないの」
友沢「あ、すいませんつい……」
みずき「……」ビキビキ
加藤「うふふ……まぁともかく、確かにそろそろ根を上げる頃だとは思ってたわ。
最近の橘さんは基礎練習を疎かにしがちだから……まだパワプロ君たちが現役だった頃は、どんな練習も熱心だったんだけど」
みずき「……あおい先輩分が足りない……」
友沢「うわぁ……」
みずき「……冗談よ。真に受けないでよね」
これなら基礎練習よりはモチベーションが上がるんじゃない?そうね、例えば……スライダー系のボールとか」
みずき「!」
友沢「!」
加藤「亮君にも手伝ってもらいなさい。彼のスライダーは、間違いなくプロレベルだった。
きっと良いアドバイスをしてくれるはずよ。勿論、亮君には投げさせないけど」
みずき「ちょっと待って下さい!それだと友沢が……」
加藤「……もう亮君は、野手として第二の野球人生を始めたと言っても過言じゃない。
でもこの程度でうじうじする様なら、プロになんてなれないでしょうし、なったとしても活躍は厳しいでしょう。
投手としての自分を冷静に振り返ることが出来るかどうか、それが一つの分岐点だと私は考えるわ。どうかしら、亮君?」
友沢「……」
みずき「友沢……」
加藤「……ええ、いいわ」
友沢「……ちょっと走ってきます。すぐ戻るんで……あぁ、橘は休んでてくれ」
みずき「ちょっ、待ちなさ……加藤先生、私も!」
加藤「はいはい、どうぞいってらっしゃい」
みずき「ついでにウェイト免除で!」
加藤「それは却下ね」
みずき「あう」
※みずき 寸前×
神社
みずき「はぁ、はぁ……やっぱりここよね……はぁ」
友沢「橘……」
みずき「やっぱジョグで流せばよかった……はぁ、はぁ、とんだピエロだわ……」
友沢「どうして、ここだと?」
みずき「……簡単よ。アンタが野球馬鹿だから」
友沢「……何だそりゃ」
みずき「この神社、どうしてかは知らないけどみんな練習場にしてるのよね。
パワプロ先輩も、あおい先輩も、雅先輩も、手塚も円谷も聖も……
もちろん私もね。ほら、野球馬鹿ばっかり。だからアンタもここに来るって寸法よ」
友沢「……」
みずき「まぁ、実際当てずっぽうって言えばそうなんだけどさ。私の目に狂いが無かったってことね」
みずき「……誰でもそんな気分になる時はあるんじゃないかしら」
友沢「この前『けじめはつけた』とか言ったのにこのザマは無いだろう」
みずき「私はそうは思わないわ。逆に、平気な顔して『分かりました、さぁスライダーの特訓だ』
とか言われてたら、アンタのことぶん殴ってたかも」
友沢「む……」
みずき「……アンタがピッチャーやってる姿、私はよく覚えてるわ。
いつも強気でグイグイ攻めてて……変な言い方だけど、ちょっと癪に障るような、
憎たらしいアンタらしくて、でも気持ちがボールに乗ってて、清々しかった。
こいつは本当に楽しくて投げてるって、そんな風に見えて、嫌いじゃなかったの」
友沢「……お前」
みずき「あんなに全力で投げてたアンタが、そう簡単にピッチャーをあきらめられるわけ無い。
その証拠に、気持ちの整理をもう一度したいから、アンタはここに来た。違う?」
友沢「………………違わない、な」
友沢「ふ……何でもお前に見通されてるみたいで、ちょっとむかつくが」
みずき「気にしてやってる分だけ感謝しなさいよ、全く」
友沢「はは、そうかもな……お前の言う通り、俺、ピッチャーやってるのは好きだったよ。
それなりに自信もあったし、この腕一本で家族を食わせていくんだって思ってた。
それがもう投げられないなんて、悪い冗談だと思いたかったさ。
野球が続けられるって分かった後も、自分がピッチャーだった時のことを、
何とか忘れようとするばっかりで、ちゃんと向き合おうとしなかった」
みずき「……まだ逃げる?」
友沢「まさか。里香さんの言う通り、ここで立ち止まってたらプロでやっていけるわけが無い。
それに、今の俺にはパートナーがいるんだ。そいつには貸しを作ったり、
迷惑かけたくない。なんてったって、後が怖そうだからな」
みずき「よく言うわよ」
友沢「……俺のピッチング、褒めてくれてありがとうな」ニコッ
みずき「?!べ、別に褒めてなんかないし!?嫌いじゃないってだけで……あ、アンタのことも別に」
友沢「は?なんでそういう話になるんだ?」
みずき「ぐっ……な、なんでもないわ!ふん!」
友沢「???」
友沢(復活) 弾道3 ABBABC AH PH サブポジ○ ポーカーフェイス
またまた数日後、スライダーの特訓中……
みずき「えいっ」ククッ
スコーン
みずき「ふぅ……少しは様になってきたかしら」
友沢「そうだな、そろそろ本格的に実戦に近い練習をしてもいいんじゃないか。
次からは聖に残ってもらって、ボールを受けてもらおう」
みずき「……アンタ、いつから聖のこと呼び捨てにしてるの」
友沢「え?いや、昨日話してたら『名前で良い』って本人がな。
……それがどうかしたか、橘?」
みずき「……ふーーーんだ。何でもありませんよー……えい」クッ
スコーン
みずき「えっ、ちょっ……」
友沢「前も言ったと思うけどお前は腕の振りが甘いんだよ。もっとこう手首まで使って……」
みずき「う、うん……」
みずき(近い近い近い!?)
友沢「……あれ、もしかしてサイドだからもっと重心低い方がいいのか……?
腰をもっとこうして……いやでもこれだとちょっと負担が……」
みずき「……ッ!……ッ!」
みずき(真剣過ぎて何も言えないじゃない……!えっち!スケベ!!変態!!!)
※みずき 低め○
……いつもこんな感じなら、少しは可愛げが出るだろうに)
友沢(……首、白くて細いな……ていうか、体全体細いんだな、やっぱり女の子か)
友沢(……せっけんの良い匂い……)
友沢(……あ)
友沢「ま、まぁこんな感じのフォームでいいんじゃないか!うん」パッ
みずき「えっ?!あ、ああ。うん、分かったわ。さ、サンキュー」
友沢「お、おう」
みずき「こほん……気を取り直して……えいっ!」グググッ
スコーン
友沢「?!」
みずき「……凄い変化したわね今」
※みずき スライダー系オリジナル変化球取得 クロスファイヤー取得
友沢 弾道が上がった! ポーカーフェイス消去
帰り道
みずき「疲れたー!!」
友沢「お疲れ」
みずき「今日は大収穫ね。あんなに曲がるスライダーをマスターするなんて、さすが私」
友沢「確かにあれには驚いたな」
みずき「……でも投げ過ぎでかなり疲れちゃった。早いとこ帰って休もうっと」
友沢「迎えでも頼んだらどうだ?」
みずき「……それだとアンタが一人になっちゃうじゃないの」
友沢「……もしかして、今までそれで律儀に一緒に帰ってくれてたのか、お前」
みずき「ふん。感謝しなさいよね」
友沢「何故無駄に偉そうなんだ……」
友沢「二人乗りは危険だろ、もう真っ暗だし」
みずき「男がそんな細かいこと気にしないの!」
友沢「あっ!コラ!俺も疲れてるんだからそんないきなり……うおっ!!」フラフラ
みずき「あはははは!楽しいわねこれ!」
友沢「……ったく……バランスとるの難しいんだから、しっかりつかまってろ」
みずき「私みたいな美少女に抱きつかれてる気分はどうかしら?」
友沢「言ってろ」
みずき「ふふふ」
※みずき 積極打法 積極走塁
みずき「……いきなり何よ、かしこまっちゃって」
友沢「こっちに来てから、お前に助けられてばっかりだなと思ってさ」
みずき「……私が好きでやってるんだからいいの。アンタとの特別メニューも、
なんだかんだで結構楽しいし、練習不足も解消出来たし。結果オーライってやつよ」
友沢「……そういうもんか」
みずき「……」
友沢「……」
みずき「……ねぇ」
友沢「あっ!」キキー
みずき「わぷ?!……いったぁ……ちょっと!止まるなら合図とか……」
友沢「す、すまん……でも、ほら!上見てみろ!」
みずき「はぁ?……あっ!!流れ星!」
壁が足りん
みずき「迎えを頼んでたら見られなかったわね、これは。正に結果オーライだわ」
友沢「珍しいこともあるもんだ……」
みずき「……流れ星……!そうだ!」
友沢「どうした?」
みずき「今日のすっごい曲がるスライダーの名前が決まったわ」
友沢「は?いや名前ってお前子供じゃないんだから」
みずき「名付けて『シューティングスター』よ!」
友沢「……中二?」
みずき「うるさい!」
特訓の成果によりみずきと友沢がパワーアップしました
みずき A(85) C(65) 140km クレッセントムーン5 スクリュー3 シューティングスター4 負け運 対ピンチ2 ケガしにくさ5 タイムリーエラー 寸前× ムラッ気 低め○ ノビ4 キレ4 クロスファイヤー
人気者 積極打法 積極走塁
友沢 弾道4 AABABB ケガしにくさ4 AH PH 送球○ サブポジ○
(二人とも厨キャラじゃ)いかんのか?
その後みずきちゃんと友沢の仲が進展したりしなかったり
ゲドー君に連れ去られた矢部君がシーズン前半だけ超強化されたりされなかったり
パワプロ君が新人(笑)として大正義化したり
恋々が甲子園優勝したりしなかったり
とりあえず終わりです
読んでくれた人ありがとー
厨キャラ最高や!!
女性でこの能力は恐ろしすぎる…
面白かった
気が向いたらまた書いてくれ~
乙
Entry ⇒ 2012.09.22 | Category ⇒ その他 | Comments (0) | Trackbacks (0)
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Entry ⇒ 2012.09.21 | Category ⇒ その他 | Comments (0) | Trackbacks (0)
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皇帝「ど、ど、ど、ど、童貞ちゃうわ!」
皇帝「ど、ど、ど、ど、童貞ちゃうわ!」
側近「どうしたんですか、いきなり」
皇帝「今、俺に向かって、童貞といっただろう!」
側近「童貞ではなく、皇帝陛下と申し上げたんですよ」
皇帝「あ、そうだったのか……すまんな」
側近「いえいえ」
側近「でも皇帝陛下って──」
側近「童貞ですよね」
皇帝「童貞っていった方が童貞なんだぞっ!」
側近「残念ながら、私はもう捨てました」
側近「妻も子もいますからね」
皇帝「ぐぬぬ……」
側近「まあまあ、落ち着いて下さい」
側近「陛下は先代である父君がご病気で退位されて即位されましたから、まだお若い」
側近「お世継ぎのことを考える時期もないですし、焦ることはありませんよ」
皇帝「父を含め、歴代皇帝は成人する前に童貞を捨ててきたと聞く」
皇帝「──が、俺はすでに成人の儀式をしたが未だに童貞だ」
皇帝「このままではマズイ」
皇帝「今のうちに捨てておかないと、ズルズルいってしまう気がするのだ」
側近「ならばせっかく皇帝の座にあるのです」
側近「権力を行使して、女性を城に呼び寄せてはどうです?」
側近「例えば隣国の王は、正妻や側室など、幾人もの女性と交わってますよ」
側近「なぜです?」
皇帝「こちらから女性を呼び寄せたら、俺がリードしなければならないだろう」
皇帝「未経験である俺に、そんな大役を果たせるハズがない!」
側近「だったら──」
側近「ボク童貞なんで手取り足取り教えて下さい、っていえばいいじゃないですか」
側近「なにせ国で一番偉いんですから、きっと優しく教えてくれますよ」
皇帝「ダメだ!」
皇帝「そんなの……みっともなさすぎる!」
側近「いいソープを紹介しますよ」
皇帝「ダメだっ!」
側近「どうしてです?」
皇帝「なにしろ、一生に一度のことだ」
皇帝「できればプロは避けたい……!」
側近「強いこだわりがあるんですね」
皇帝「うむ……」
皇帝「最近読んだ恋愛小説にこういうのがあった」
皇帝「ある国の王子が、身分を隠して町を歩き回るのだ」
皇帝「そこで王子は町民である美少女と出会う」
皇帝「身分のちがい、城内の権力闘争、さらには迫りくる敵国──」
皇帝「さまざまな試練が二人を襲うが」
皇帝「二人はみごと結ばれ、幸せになるという内容だ」
側近「その小説がどうかしたのですか?」
皇帝「まだ分からんのか?」
皇帝「俺は──ああいうのがやりたいんだよっ!!!」
側近(だいぶこじらせてるな、この人……)
側近「もしかしたら、小説のようないい出会いに恵まれるかもしれませんよ」
側近(ま、ないと思うけど)
皇帝「おお、ナイスアイディアだ!」
皇帝「よぉし……」
皇帝「さっそく召使に命じて、庶民っぽい服を集めさせるか」
女召使「よいしょ、よいしょ」
女召使「町で買ってきた服をお持ちしましたです!」ドサッ
女召使「ご命令通り、なるべく庶民的な服を選びました!」
皇帝「うむ、ご苦労」
女召使「しっかし、皇帝陛下ともあろう方がこんな服をどうするんですか?」
皇帝「着て、城下を歩いてくる」
女召使「なんのために?」
皇帝「童貞を……捨てるためだ!」
女召使「ほうほう」
皇帝「──どうだ?」
女召使「おぉ~似合ってますよ! かっこいいです!」
皇帝「うむ、そうか」ニヤッ
皇帝「よし、では出かけるとするか」
女召使「陛下、一言だけ」
皇帝「なんだ?」
女召使「陛下は立派な方です。童貞がどうとか、あまり気にすることないですよ」
皇帝「嬉しい言葉だが、そうもいかぬ」
皇帝「皇帝が童貞では格好がつかないからな」
皇帝「では行ってくる」ザッ
女召使「頑張って下さい!」
皇帝(ふ~む、見慣れているハズなのに、庶民として来ると雰囲気がちがうな)
皇帝(せっかく変装しているのだ)
皇帝(童貞を捨てる前に、俺が民にどう思われているか聞いてみるか)
皇帝「おい、そこの」
町民「ん、なんだよ」
皇帝「数年前、この国の皇帝が代替わりしただろう」
町民「ああ、したな」
皇帝「どう?」
町民「皇帝なのにえらぶってないし、政治もしっかりやってるし」
町民「先代が倒れられた時はどうなるか心配だったけど、あの方なら大丈夫だろ」
皇帝「ハハハ、照れるな」
町民「いや、別にアンタは褒めてないよ」
皇帝「あ、そういえば、そうだったな」
皇帝(ほっ、評判がいいみたいでよかった……)
町民「ただ──」
町民「童貞なのが玉にキズだけどな!」
皇帝「え!?」
町民「なんだよ」
皇帝「な、なんで皇帝が童貞……と知ってるのだ?」
町民「なんでって、常識じゃん」
皇帝「え!?」
町民「城下じゃ、だいぶ広まってるよ」
皇帝「え、え!?」
町民「というか、城下じゃ知らない奴はいないんじゃないかな」
皇帝「え、え、え!?」
町民「下手すりゃ子供だって知ってるかも……」
皇帝「え~~~~~っ!?」
女「皇帝はすばらしい方よ、童貞だけど」
老婆「陛下はええ男じゃなぁ、童貞じゃがのう! ひょっひょっひょ!」
中年「皇帝陛下? 童貞だが、いい君主だと思うぜ」
旅人「色んな国を見てきたが、彼はまちがいなく名君だね。童貞ではあるけどね」
幼女「陛下はえらくって、かっこよくって、チェリーなんだよ」
主婦「皇帝陛下っていい人だけど、雰囲気が童貞っぽいわよねえ」
少年「俺も大きくなったら、皇帝みたいな“どうてい”になるんだ!」
オカマ「皇帝陛下っていい男よねえ、童貞らしいし狙っちゃおうかしら」
皇帝「──どういうことだ、これは!?」
側近「今この国は平和ですし、こういう醜聞が流布しやすいのでしょうね」
側近「まあいくら隠しても、皇帝が童貞なのは事実ですし」
側近「君主としては評価されてるようですし、よかったじゃないですか」
皇帝「よくない!」
側近「民が君主に親近感を持つというのはいいことですよ」
皇帝「親近感ってレベルじゃないぞ!」
皇帝「くっそぉ~……! どうしてこうなったんだ……!」
皇帝「俺を童貞呼ばわりする者は、いっそ罰してやろうか」
側近「皇帝侮辱罪、でですか?」
皇帝「いや、国家機密漏洩罪でだ」
側近「もう国家機密でもなんでもないですよね」
皇帝「うわぁ~~~~~っ!」
皇帝「性質やら業績やらを反映して“~帝”と名を冠せられるだろう」
側近「お父上である先代は、慈悲深い方ですので“慈帝”」
側近「先々代は農業に力を入れたので“農帝”といった具合ですね」
皇帝「うむ、それで少し思ったんだが」
皇帝「もしかしてこのままいくと、俺は“童帝”にされてしまうのでは……」
側近「童帝……ぷっ」
皇帝「笑うな!」
側近「いいじゃないですか、絶対歴史に残りますよ……ぷぷっ」
側近「ぷぷっ、ぶっ! ど、童帝……ぶふっ! ふふふっ!」
皇帝「笑うなぁぁぁ!」
皇帝「はぁ……」
女召使「どうでしたか?」
女召使「童貞、捨てられましたか?」
皇帝「いや……色々あってな。結局捨てられなかった」
女召使「そうですか……」
皇帝「だが、俺は諦めてはいない! いつか必ず……捨ててみせる!」
女召使「さっすが陛下です!」
皇帝「ありがとう」
皇帝「もし捨てられたら、真っ先にお前に伝えるからな」
女召使「はい!」
皇帝(こうなったら、あんまり気が進まないが父上に相談してみるか……)
皇帝「父上」
先代「どうしたのじゃ、童貞息子」
皇帝「うぐっ」ピクッ
皇帝「いきなりそれですか、あなたのどこが慈悲深いのか理解に苦しみます」
先代「事実をありのままにいってやるのも、慈悲というものじゃよ」
先代「ほっほっほ」
皇帝「くっ……」
皇帝「まあいいです。ここに来たのは他でもありません」
皇帝「どうすれば童貞を捨てられるか、相談に来たのです」
先代「お前、まァ~だ初体験は素人がいいとか、ドラマチックに捨てたいとか」
先代「無謀極まりないワガママをいっておるのか」
皇帝「当然でしょう! 一生に一度のことなのですから!」
先代「う~む、まあそうじゃな」
先代「ドラマチックに童貞を捨てたいのなら、やはり押しの一手じゃな」
先代「お前は優秀だが、ガンガン押すというタイプではないからのう」
皇帝「ガンガン押していく……」
皇帝「つまり男らしさに欠けている、ということですか」
先代「う~ん、まあそういうことになるんかのう」
皇帝「……なるほど」
皇帝「父上、アドバイス感謝いたします!」
軍団長「側近殿」
側近「これは軍団長殿、どうかしましたか?」
軍団長「先ほど皇帝陛下が、甲冑を借りに来られたのですよ」
側近「甲冑を……?」
軍団長「なんでも“男らしさの象徴といえば甲冑だ”などとおっしゃられて……」
軍団長「もちろんお貸ししましたが、なにかご存じないでしょうか?」
側近「いや、私はなにも──」
兵士「軍団長!」
軍団長「どうした!?」
兵士「城下町で不審者を捕えたので、報告に参りました!」
兵士「はい、甲冑を着込んで“だれか俺の童貞をもらってくれ”と連呼しておりました」
兵士「幸い、町民に危害を加える様子はなく──というか無視されてました」
兵士「かなり抵抗しましたが、兵数人がかりでなんとか取り押さえました」
軍団長「うむ、ご苦労だったな」
軍団長「新手の変態というやつか。まったく困ったものだ」
側近(まさか……)
皇帝「ハハハ、すまんな」
側近「…………」ギロッ
皇帝「……すみませんでした」
皇帝「男らしく童貞を捨てようと思いまして……」
皇帝「考えに考えた結果、あのような行動に出た次第でして……」
側近「町民に正体がバレてたら大変でしたよ!」
側近「あ~……ったく!」
側近「当分は、童貞がどうとかは忘れて下さい!」
側近「真面目にやっていれば、あなたはまちがいなく良き君主となれるのですから!」
皇帝「はい……」
皇帝「はぁ……」
女召使「陛下、どうしました?」
皇帝「いや、童貞を捨てたい一心で、とんだバカをやってしまってな……」
皇帝「死にたい……」
女召使「なっ、なにをいってるんです!」
皇帝「いや、わりと本気だ」
皇帝「今回の件は、いいきっかけだったかもしれないな」
皇帝「玉座にふんぞり返って、この国の未来に想いをめぐらせていると」
皇帝「たまになにもかもどうでもよくなるんだ」
皇帝「国も、民も、部下も、自分自身さえも──」
皇帝「なにもかも捨ててしまいたくなるんだ」
女召使「じゃあまず、あたしが先に死にます」
皇帝「は?」
女召使「うぅ……っ!」ググ…
皇帝(自分で自分の首を!?)
女召使「うえぇ……」グググ…
皇帝「おい……なにをしているんだ! やめろっ!!!」
皇帝「バカ! なにを考えてるんだ!」
女召使「す、すみません……」
女召使「でも……陛下が本気で全てを捨てるというのなら」
女召使「無能ではありますが、召使であるあたしが第一号になるべきかと……」
皇帝「…………」
皇帝「すまんっ!」ギュッ
女召使「ちょ、陛下!?」
皇帝「俺は間抜けだった」ギュゥゥ…
皇帝「たかだか童貞を捨てられぬくらいで、全てを捨てるなどと!」
皇帝「童貞さえ捨ててないのに、全てを捨てるというのもバカげた話だ」
皇帝「俺は生きる!」
皇帝「生きて必ずや童貞を捨ててやる!」
皇帝「そしてこんな最低男に命を賭けてくれたお前には──」
皇帝「全権を賭して、俺が必ず最高の男をあてがってやる!」ギュゥゥ…
女召使「へ、陛下……」
女召使(ちょっと苦しいけど、気持ちいい……です……)
皇帝「この制度は煩雑すぎる。もう少し簡略化すべきだろう」
皇帝「地方都市からの報告が滞っているな。一度自ら視察してみるか……?」
皇帝「あの地域は慢性的な水不足だ。用水路の開発を急がせろ」
皇帝「盗賊団の動きがだいぶ掴めた。軍団長に討伐隊を組織させろ」
皇帝「なにっ、隣国の王子が結婚しただと!? お、俺より年下なのに……くそっ!」
~
側近「陛下、近頃は今までにもまして政務に励んでおられますな」
皇帝「まあな」
側近「あの事件なら、もう気にすることはありませんよ」
皇帝「ああ、分かっている」
皇帝(──というか、暇をしているとあの事件を思い出してしまうからな)
皇帝(それに……仕事をバリバリやってると部下の能力が見えてくる)
皇帝(女召使をめとるにふさわしい男を、俺が見極めてやる!)
<帝国城>
側近「皇帝陛下、大変です!」
皇帝「どうした?」
側近「地方都市で、反乱が起こった模様です!」
皇帝「反乱……!?」
皇帝「たしかあそこには、行政官を派遣していたな」
側近「はい、行政官のいる役場を徒党を組んだ住民が襲撃したとのことです」
側近「幸い、行政官は手勢とともに逃れてきたため無事でしたが──」
皇帝「……分かった。とにかく、行政官に話を聞いてみるとしよう」
皇帝「反乱が起こったと聞いたが、状況を説明してもらえるか?」
行政官「ははっ!」
行政官「ヤツらは三日前の夜、役所に襲撃をかけてきたのでございます」
行政官「むろん警備もいたのですが、反乱軍の勢いに押されてしまいました」
行政官「しかし、どうにか私と手勢は脱出に成功いたしました」
行政官「現在も、ヤツらは役所にたてこもっているものと考えられます」
皇帝「うむ……」
側近「なんということだ……!」
行政官「私はいわば皇帝陛下の手足として、地方都市に派遣されたのです」
行政官「これは明らかな反逆行為でございます!」
行政官「大至急! 討伐軍の編成をお願いしたい!」
皇帝「反乱軍とやらの主張は?」
行政官「え? な、なぜそんなことを──」
皇帝「反乱軍とて、まさか暇だから反乱を起こしたのではあるまい」
皇帝「なにか理由があるはずだろう」
行政官「……皇帝を倒すだの、自分たちが国を変えるだのと叫んでおりました」
皇帝「…………」
側近「おのれ……!」
皇帝「側近の意見は?」
側近「地方都市の情勢は堅調だと報告が入っております」
側近「反逆に至る要因があるとは考えにくい」
側近「まして皇帝陛下を打倒するなどと、口にするだけでも許せぬ暴挙!」
側近「私も行政官と同様、彼らを反逆者として処理すべきと考えます」
皇帝「うむ」
側近「ただちに軍を派遣して討伐すべきでしょう」
側近「これを許せば、陛下の威厳は失墜し、国が乱れます」
側近「陛下の温和な気質は理解しておりますが、ここは心を鬼にするべきかと」
皇帝「…………」
皇帝「側近、軍団長に命じて討伐軍を組織させろ」
皇帝「明日中には出動させるように」
側近「はっ!」
行政官「おおっ……! ありがとうございます!」
軍団長「──これは陛下の温厚なる性質につけこんだ、悪質な反乱である!」
軍団長「役所にたてこもる賊どもを、我が軍の誇りにかけて叩き潰すのだ!」
ワアァァァァァ……!
~
側近「頼むぞ」
側近「陛下に落ち度があるならともかく、同情の余地などまったくない!」
行政官「側近様のおっしゃるとおりでございます」
行政官「どうか手心など加えぬよう、お願いいたします」
軍団長「無論です」
女召使「城内は地方都市の反乱の話題で持ちきりですよ」
女召使「どうしてこんなことになっちゃったんですかねぇ……」
皇帝「心配するな」
皇帝「明日には軍が出動する。軍団長らがすぐに解決してくれるだろう」
女召使「……そうですね!」
女召使「では、失礼します。おやすみなさい!」スタスタ
皇帝「おやすみ」
皇帝「…………」
<帝国城>
側近(さて、昼には討伐軍を出動させねばならん)
側近(皇帝陛下からも、兵たちを鼓舞してもらわないとな)
側近「…………」キョロキョロ
側近(そういえば、今日は朝から陛下の姿が見えないな……)キョロキョロ
召使「側近様」
側近「なんだ?」
召使「側近様宛に封書が届いております」
側近「おお、ありがとう」
側近(郵便を介した形跡もない)ビリッ
側近(ということは、直接城の郵便受けに手紙を入れたということか)
側近(だれだ、こんなことをするのは……)ガサガサ…
側近「どれどれ……」
『側近へ ちょっと反乱軍のところに行ってくる。 皇帝より』
側近「ふうん……」
側近「…………」プツン
側近「なにをやってやがるんだ、あの童貞はァ!!!」
パカラッ パカラッ
皇帝「──今頃、側近のヤツ激怒してるだろうな」
女召使「本当ですよ、まったく!」
皇帝「……で、なんでお前がついてくるんだ」
女召使「だってあたしの仕事は皇帝陛下のお世話をすることですから!」
皇帝「はぁ……」
皇帝(反乱軍、か)
皇帝(行政官の話だけだと、どうにも腑に落ちない点が多すぎる)
皇帝(もしそれが分かれば、和解も可能かもしれん)
皇帝(側近を始めとした重臣たちはみな、激怒していたから)
皇帝(俺から和解案など出しても、“甘い”といわれてしまうだろう)
皇帝(それに──)
皇帝(地方都市では、俺の童貞は知られていない)
皇帝(反乱軍にも女はいるはず)
皇帝(正体を隠して現地に出向き、うまい具合に解決した後──正体を明かす)
皇帝(惚れられて、抱いて、童貞卒業!)
皇帝(イケる!)
皇帝(これは……ドラマチックに童貞を捨てるラストチャンスなんだ!)
女召使「へーいーか」
皇帝「!?」ビクッ
女召使「こんな夜遅くに、ど~こに行くんです?」
皇帝「ちょ、ちょっと地方都市までな」
女召使「ほうほう」
女召使「じゃあ、あたしも行きます」
皇帝「は!?」
女召使「あそこは遠いですし、道も険しいですよ」
女召使「絶対あたしが必要になりますって!」
皇帝「……分かった、ついてくるがいい」
女召使「ありがとうございますっ!」
パカラッ パカラッ
皇帝「そういえば、久しく馬には乗っていなかったな」
皇帝「しっかり俺につかまっているのだぞ」
女召使「はいっ!」ギュッ
皇帝(背中に胸が……! これはいかん!)
女召使「皇帝陛下の背中、おっきいですね!」
皇帝(俺のナニもおっきくなっている……!)
パカラッ パカラッ
皇帝の独走が、側近を通じて重臣たちに伝えられる。
軍団長「なんですと!?」
行政官「皇帝陛下がお一人で!?」
ドヨドヨ……
側近「召使も連れてはいるだろうが……護衛にはならん。マズイことになった」
行政官(ま、マズすぎる……!)
行政官「……軍団長殿!」
軍団長「なんでしょうか」
行政官「私にも、緊急時には兵の指揮権がございます」
行政官「先行部隊として、100騎ほどお貸し下さい!」
側近「たしかに行政官の方が、地方都市への道は詳しい」
側近「陛下が反乱軍と接触するまでに、追いつけるかもしれん」
側近「行政官の先行を認めよう」
側近「反乱軍の討伐より、陛下の確保を優先的に頼む」
行政官「ありがとうございます!」
行政官(よし!)
皇帝(しまった……!)
皇帝(時間を考えずめいっぱい飛ばしてきたから、寝る場所とメシのこと忘れていた)
皇帝(仕方あるまい、今夜はメシ抜きで寝るか……)グーキュルル…
女召使「陛下! 陛下!」タタタッ
女召使「木の実と野草とキノコを採ってきました!」
皇帝「お、おい……なんかマズそうだが食えるのか?」
女召使「大丈夫です!」
女召使「調理しますんで、ちょっと待ってて下さいね」
火をおこし、木の実を砕き、野草をちぎり、キノコを裂く。
皇帝(す、すごいな……)
女召使「ありがとうございます!」
皇帝「……しかし、お前にこんなサバイバル能力があるとは意外だったぞ」
皇帝「連れてきて正解だった」
女召使「あたしが住んでた村は貧しかったですから」
女召使「あ、でも、先代様や陛下のおかげでだいぶ豊かになったんですよ!」
皇帝「……ありがとう」
皇帝「お前のいうとおり、この国にはまだまだ貧しい地方がある」
皇帝「地方都市もそうだが、俺が行ったことすらない土地も多い」
皇帝「こうやって馬でも飛ばさねば、通行すらままならんからな」
皇帝「今回の反乱も、きっとそういうところが起因しているはずだ」
皇帝「できれば平和的に解決したいものだが……」
女召使「陛下……」
女召使「おやすみなさい!」
皇帝(草で作った布団か……。こういうのも新鮮だな)ガサ…
女召使「すぅ……すぅ……」
皇帝(可愛い寝顔をしてるな……)
皇帝(コイツ、こんなに可愛かったのか……)
皇帝(──っていかんいかん!)
皇帝「ぐぅ……」
……
………
先代皇帝「どうじゃ、息子は」
側近「非常に優秀で、次々に知識を吸収していきますよ」
側近「ただ……皇后様が亡くなられてから、精神的に塞いでいるようで……」
側近「特に女性には心を開かなくなってしまい……」
先代皇帝「ふむぅ……」
先代皇帝「やむをえん部分もあるが、アイツはいずれ上に立つ身」
先代皇帝「このままではいかんな」
先代皇帝「そういえば、この前城で雇われたいといってた女の子がいたと聞いたが」
側近「はい」
先代皇帝「その子に、息子の世話係になってもらうというのはどうじゃ」
少女召使「今日から太子の召使になりました」
少女召使「よろしくお願いします!」
皇太子「ふん」
皇太子(新しい召使が来たと思ったら、俺よりも子供じゃないか)
皇太子(父上はなにを考えてるんだ)
皇太子「いいか、俺は女が嫌いだ」
皇太子「なぜなら母上より、すばらしい女などいないからだ」
皇太子「徹底的にイジメ抜いてやるから、覚悟しろよ」ギロッ
少女召使「はいっ!」
皇太子(はいっ、って……アタマ大丈夫かコイツ)
……
…
皇帝「……ん」
皇帝(朝か……)
皇帝(ずいぶんと懐かしい夢を見たな)
女召使「むにゃ……」ゴロン
皇帝「オイ、起きろ。討伐軍に追いつかれてしまう」ユサユサ
女召使「は、はい!」
女召使「うわっ、よだれが! す、すみません!」ジュル…
皇帝「いや、お前はそれでいいんだ」
女召使「へ?」
皇帝「なんでもない」
パカラッ パカラッ
皇帝「どうどう」
皇帝「この辺は、まったく道が整備されていないな」
皇帝「城下と地方都市を行き来する人が少ないのも無理はない」
皇帝「しかしこの分なら、今日中にはたどり着けそうだ」
女召使「着いたらどうします?」
皇帝「一般人を装って、役所に向かう」
皇帝「いったい地方都市でなにが起きているのか、たしかめねばならん」
<地方都市>
皇帝「なんだこれは……」
女召使「なんというか……静かな町ですね」
皇帝(……活気がまるでない)
皇帝(まだ日も高いというのに、どこを見ても暗く沈んでいる)
皇帝(本当にここは城下町と同じ国なのか……!?)
皇帝(最新の報告では地方都市の財政は順調だと聞いていた)
皇帝(税収も特に落ちているということはなかった)
皇帝(これはいったいどういうことだ……!?)
女召使「陛下……お顔が真っ青ですけど……大丈夫ですか?」
皇帝「え、ああ、大丈夫だ。ちょっと驚いただけだ」
皇帝「気を取り直して、役所に向かおう」
<役所>
女召使「あのぉ~」
農民「なんだ、おめえたちは!?」
皇帝「皇帝だ」
農民「皇帝!?」
女召使「陛下!」ボソッ
皇帝「い、いや……童貞だ」
農民「なんだ童貞だべか、ビックリしただよ」
皇帝「ここに地方都市の住民が立てこもっていると聞いてな」
皇帝「俺たちも協力したいと思い、やってきたんだ」
農民「そりゃあ、ありがたいことだ」
農民「どうぞ入ってくれい」
ワイワイガヤガヤ……
女僧侶「どうぞ、こちらですわ」
皇帝(おお、やはり女がいた! 童貞喪失も夢ではなくなってきたな!)
皇帝(……というか)チラッ
皇帝(反乱軍と聞いてたから多少は身構えていたのだが)
皇帝(軍というか、本当にそこらの住民が集まっただけって感じだな)
リーダー「アンタは国中を旅している童貞とのことだが……」
リーダー「なんのためにここにやってきたんだ?」
皇帝「一童貞として、今回の反乱に興味があってな」
リーダー「反乱? なんのことだ?」
皇帝「ここの行政官が、すでに皇帝に報告している」
皇帝「地方都市の住民が結集して、帝国に対して反乱を起こしたと」
リーダー「な、なんだって!?」
ザワザワ……
リーダー「本当なのか、それは!?」
皇帝「ああ、まちがいない」
皇帝(俺が皇帝だしな)
リーダー「くそっ、なんてことだ!」
女商人「まんまとやられたわね」
女商人「あの行政官に……!」
皇帝(おお、またもや女!)
皇帝「いったいなにがあったのか説明してくれないか?」
リーダー「童貞に話したところで、今さらどうにもならないが……」
リーダー「いいだろう、話してやろう」
リーダー「やってくる人間なんてほとんどいない」
女商人「だからこそ、前の皇帝はここに行政官を派遣したのよ」
女商人「手の届かないところをきちんと統治できるようにってことで」
農民「最初はよかったんだがよ……」
農民「だんだんと、アイツは王様みたいに振る舞うようになったんだべ」
女僧侶「苛烈な重税をかけ、地方都市の税として国に納めた後──」
女僧侶「残りを全て自分の懐に入れるようになったのですわ……」
リーダー「いわゆるピンハネだな」
リーダー「他にも陸の孤島なのをいいことに、やりたい放題だ」
リーダー「おかげで、ここ数年で地方都市はあっという間に干からびてしまった」
女召使「そ、そんな……」
皇帝「…………」
リーダー「バレるわけがない」
リーダー「地方都市の住民はこの土地を出られないよう監視されていたし」
リーダー「ヤツの部下もみんな甘い汁を吸っていた」
リーダー「首都のヤツらも行政官を信頼しているのか、ここに来ることはなかった」
リーダー「我慢の限界に達したボクらは、役所に襲撃をかけたんだ」
リーダー「警備の兵はいるし、行政官も剣の使い手だから、用心して夜中にね」
リーダー「もちろん、役人を殺せば大問題だ。ハナから殺すつもりなどなかった」
リーダー「拘束して、帝国城に連れていくつもりだった」
リーダー「するとヤツは涙を流し──」
リーダー「“全てを皇帝に話してくるから許してくれ”“それまで役所を預ける”」
リーダー「──といった」
リーダー「ヤツが善政を敷いていた時期も知ってる我々は」
リーダー「その言葉を信用したんだが──」
皇帝「行政官はまんまとお前らを反乱軍にしたというワケだ」
女召使「なんだか……思ってたのとだいぶちがいますけど……」
女召使「どうしますか、陛下……?」
皇帝「決まってるだろう」
皇帝「住民と行政官の言い分がこうも食い違う以上、どちらかが嘘をついている」
皇帝「住民と行政官、両方を裁判の場に出して正式に裁く」
皇帝「……十中八九、嘘をついてるのは行政官の方だろうがな」
皇帝「来て正解だった」
皇帝(俺の目論み通り、どうやら平和的解決ができそうだ)
皇帝(そして解決したら正体を明かし、童貞を──)
すると──
農民「た、大変だべ!」
リーダー「軍が!?」
女商人「私たちを反乱軍として叩き潰すつもりね……!」
女僧侶「そ、そんな……」
ガヤガヤ……
役所のそばには、帝国軍が迫っていた。
女召使「兵隊がいっぱい来てますね……」
女召使「でもへっちゃらですよね! なんたって、ここには陛下がいますから!」
皇帝「…………」
皇帝「いや、これはマズイかもしれんな」
女召使「え?」
行政官「役所に立てこもるヤツらは、皆殺しにするのです!」
行政官「後から本隊を率いてくる軍団長殿の手を煩わせてはなりません!」
新兵A「はいっ!」
新兵B「はいっ!」
新兵C「しかし、皇帝陛下の捜索はいかがいたしましょう?」
行政官「…………」
行政官「どうやら知らぬうちに、追い抜いてしまったようですね」
行政官「今は陛下のことは忘れ、反乱軍の駆除に集中するのです!」
行政官「君たちのような新兵に活躍の場を与えてやるのですから、存分に働きなさい!」
新兵C「はいっ!」
皇帝「……それに新兵ばかりだ。多分、俺の顔なんか知らないだろう」
女召使「えっ!? ってことは──」
皇帝「行政官は、ここの住民もろとも俺を殺すつもりのようだ」
皇帝「殺した後は、それを住民の仕業だとなすりつければいい」
皇帝「そうなればもう、自分の不正が明るみに出ることはない」
女召使「ど、どうしましょう……!」オロオロ
女召使「こっちには戦えそうな人なんて、ほとんどいないのに……!」
皇帝(まもなく攻撃が始まるだろう)
皇帝(死んでたまるか……)
皇帝(──童貞のままで!)
リーダー(まちがいなくヤツらはボクたちを皆殺しにするつもりだ!)
リーダー(こんなことになるなんて……! どうすれば……! あああ……!)
皇帝「おい、リーダー」
リーダー「な、なんだ!?」
皇帝「帝国軍は到着したばかりで、攻撃開始までもう少し時間があるはず」
皇帝「今のうちに仲間に、窓や扉を障害物で塞ぐよう、指示してくれ」
皇帝「あとは大量の砂と、狩猟用の網を持ってこさせてくれ!」
リーダー「そんなことをして、どうなる!?」
皇帝「籠城する」
リーダー「籠城!? こっちは素人集団だ、勝負にならない!」
皇帝「向こうも新兵ばかりだ! 死にたくなければ、さっさとしろ!」
リーダー(通りすがりの童貞のくせして偉そうに……!)
リーダー(だが、なぜだろう……なんだか逆らえない雰囲気がある)
リーダー「わ、分かった……! やってみよう……!」
新兵B「オイ、あまり緊張するなよ! しくじるぞ!」ドキドキ
新兵A「お前こそ!」ドキドキ
行政官(経験を積ませるという名目で連れてきたが、やはり頼りないですね)
行政官(しかし、反乱軍はろくな武器も持たない素人の寄せ集め)
行政官(……十分皆殺しにできる)
行政官(もうあの中にいるかもしれない、皇帝ごとね!)
行政官「よし、準備のできた者から入り口から突入するのです!」
行政官「一人も逃がしてはなりませんよ!」
新兵A「このドア、ビクともしないぞ!」
新兵B「こっちの窓もだ!」
新兵C「出入り口が全て封鎖されてる!」
行政官「…………」
行政官(籠城か……! てっきり逃げまどうものとばかり……)
行政官(私をあっさり逃したヤツらに、こんな知恵や度胸があるとも思えませんね)
行政官(やはり、中には皇帝がいる!)
行政官(マズイ……後続の軍団長の部隊が到着するまでに)
行政官(なんとしても皇帝を殺さなければ……!)
リーダー「ふぅ、間一髪だったな」
皇帝「この役所は頑丈だ。ヤツらの装備では壁を破壊することはできない」
皇帝「しばらくは持つだろう」
女商人「でも、私らが袋のネズミってことにはかわりないわよ!」
農民「んだんだ」
皇帝「任せろ。俺は攻めるのは苦手だが、守りには長けている」
リーダー(さすが童貞)
女召使(陛下……かっこいいです!)
新兵A「かなり封鎖が固いぞ!」
新兵B「攻城戦の演習はまだ受けてないしなあ……」
新兵C「これは軍団長の部隊を待った方がいいんじゃ……」
行政官(なにをグズグズしている……!)
行政官「一点突破です!」
行政官「どこか封鎖が脆いところを見つけて、そこに全員で突撃するのです!」
新兵A「な、なるほど!」
新兵B「よし、手分けして弱い部分を見つけよう!」
新兵C「おう!」
皇帝「色んな入り口からなだれ込まれるのが一番マズイ」
皇帝「だからここはあえて──」
皇帝「侵入させる」
皇帝「一ヶ所手薄な入り口を作っておけば、帝国軍はそこから入ってくるハズだ」
~
ガンッ! ガンッ! ガンッ!
農民「よぉ~し、こっちから開けてやるべ!」
新兵A「うわっ、急に開いた!? お、押すな──!」
ドドドドドッ!
バサァッ!
「うわぁっ!」 「ひぃ~っ!」 「お、押すなぁっ!」
大量の砂と、手製の網で、帝国軍の一団が一網打尽となった。
新兵B「行政官様、先に入った20名が捕らわれました!」
行政官「くっ……なにをやってるのです!」
新兵B「や、やはり軍団長の本隊を待つべき──」
ズバッ!
新兵B「ぐわあああぁっ! いだいぃぃぃぃぃっ!」
行政官「…………」イライラ
行政官「キサマら! 死んでも中になだれ込め!」
行政官「私に斬られたくなければな!」
農民「な、なんだべ!?」
女商人「出鼻をくじいたと思ったのに!」
女僧侶「さっきより、すごい勢いですわよ!」
リーダー「みんな、用意した砂や網で応戦するんだ!」
ワアァァァァァ……!
皇帝(行政官め!)
皇帝「リーダー、ここは任せる! なんとか死守してくれ!」
リーダー「童貞、アンタはどこへ行くんだ!?」
皇帝「別の出入口から外へ出る!」
皇帝「帝国軍の後ろにいる、行政官をなんとかする!」ダッ
リーダー「わ、分かった! 童貞、アンタに全て託す!」
女召使(陛下……!)
行政官(よしよし、あれならば時間の問題だ)
行政官(反乱軍と皇帝を殺せば、私の不正はどうにでもごまかせる!)
行政官(皇帝は反乱軍に殺されたことにすればいい!)
だが──
ザシャッ!
行政官「だ、だれだ!?」
皇帝「行政官……」
行政官「こ、皇帝陛下!? なぜこんなところに!?」
皇帝「俺はもう、全てを知っている」
皇帝「あの兵たちは俺の命令は聞くまい。すぐに攻撃をやめさせろ」
行政官「私が地方都市で重税をかけて、私腹を肥やしていたことも」
行政官「哀れな住民を反乱軍に仕立てたことも」
行政官「挙げ句、それを隠ぺいするために陛下のお命を奪おうとしたことも──」
皇帝「……認めるのだな?」
行政官「ふふ、ふふふ……」
行政官「それらは全て嘘なのでございますよ」
皇帝「!」
行政官「今役所に立てこもっているのは反乱軍であり、あなたは偽皇帝です」
行政官「なぜなら本物の皇帝は反乱軍の手で死んでいるのですから……」
行政官「私はこの剣で、偽皇帝を成敗しなければなりません」ジャキッ
皇帝「この地方都市の惨状は、全て俺の責任だ」
皇帝「生きて責任を取るためにも、この剣で我が身を守らねばなるまい!」チャキッ
行政官が皇帝めがけて斬りかかる。
キィンッ!
ガキンッ!
キンッ!
行政官(なんという堅い守りだ!)
皇帝(俺の剣は攻めはヘタクソだが、守りは一級品と評された)
皇帝(このままじっくり守って、チャンスが来るのを待つ!)
行政官(くそぉぉぉっ!)
行政官(どう斬りかかっても、全てガードされてしまう!)
行政官(なんとかして、皇帝から攻撃させなければ──)
行政官(攻撃させる……怒らせる……挑発……)
行政官(ウワサによると皇帝は──)
行政官「く、くくく……くくっ」
行政官「すばらしい守りですね」
行政官「さすがに未だに童貞を守っておられるだけのことはあります」
皇帝(うぐっ……)
皇帝「ふ、ふん、それがどうし──」
行政官「なんでもマザコンが過ぎて、女に興味が持てなくなっていたとか」
行政官「なんなら墓でも掘り返して、母親で童貞を捨てたらどうです?」
皇帝「きっ……」
皇帝が怒りの剣を振るう、が──
スカッ
皇帝「あっ」
行政官「さすが童貞、攻めはヘタのようで」
皇帝「し、しまっ──」
ザシュッ!
行政官「む!?」
皇帝「あ……っ!」
女召使「へ、へいか……」
皇帝「お前、どうしてここに!?」
女召使「あたしは……しごとは、へいかの、おせわを……」
女召使「すること、ですから……」ガクッ
皇帝「お、俺なんかをかばって……」
行政官「ちいっ……だが次の一撃で──」ジャキッ
皇帝「…………」
行政官「!」ビクッ
少女召使「全然! あたしの仕事は陛下のお世話をすることですから!」
皇太子「やっぱりどこかおかしいよ、お前」
~
皇太子「母上ほどじゃないが……お前も少しはいい女だな」
少女召使「今なにかいいました?」
皇太子「い、いや……なんでもない」
~
皇太子「……俺は皇帝になんかなりたくないっ!」
少女召使「じゃあ、あたしが太子に変装しますから、そのスキに城から逃げて下さい!」
皇太子「え!? いやいやいや、そんなことできるワケないだろ! 冗談だ!」
少女召使「冗談だったんですか……でも」
少女召使「もし本当に逃げたくなったら、あたしはいつでも協力しますよ」
皇太子「…………」
皇帝(俺は今でも女嫌いだっただろうし、皇帝であることを放棄していたかもしれない)
皇帝(……ありがとう)
皇帝(俺がしっかりしていれば──)
皇帝(行政官をここまでのさらばらせることもなかったし)
皇帝(住民たちを戦わせることもなかったし)
皇帝(お前をこんな目にあわせることもなかった……!)
皇帝が行政官を睨みつける。
行政官(怒っている、怒っている……好都合だ!)
行政官(さあ攻撃してこい! 次の一撃で決めてやる!)
行政官「!?」ビクッ
皇帝「我は第10代帝国皇帝である!!!」
皇帝「この我に、刃を向けるとはなにごとか!!!」
行政官「は……はうっ!」
行政官(な、なんだこの迫力は……)ガタガタ
行政官(ここで皇帝を斬らねば私は破滅する)
行政官(破滅すると分かっているのに──)
行政官(コイツ、いやこの方を斬る? で、できるワケがない……)ガタガタ
行政官(刃を向けることすら……でき、ない……!)
行政官「ひ……」
行政官「ひぃぃぃぃぃっ!」ガバッ
新兵A「俺は皇帝の顔も声も知らないが……分かる」
新兵B「うぅっ……お、俺もだ……!」
新兵C「あのお方は、皇帝陛下だ!」
農民「あの人は皇帝だべ! たとえ皇帝じゃなくても皇帝だべ!」
女商人「うん……間違いないわよ」
女僧侶「驚きですわ……」
リーダー(とても信じられないが──)
リーダー(あれほどの迫力を見せつけられては、信じざるを得ないな)
リーダー(童貞は……皇帝だった!)
……
…
皇帝(あれからすぐ軍団長の後続部隊が駆けつけ──)
皇帝(地方都市の惨状は全て明るみに出た)
皇帝(行政官は部下共々捕縛され、裁判にかけられている)
皇帝(そして俺は──)
皇帝(二度とこういうことが起きぬよう、交通網を発達させることを決意した)
皇帝(この帝国内から、孤立した町や村をなくすために……)
皇帝(モテ期到来である)
皇帝(人生に一度あるとかないとかいわれるモテ期が、ついにやって来たのだ)
皇帝(俺は積極的に各地方を視察するようになったが)
皇帝(行く先々で、女性から声援を送られる)
皇帝(悪い気はしない)
皇帝(むしろいい気分だ)
皇帝(童帝まっしぐらだった俺が、ついにスポットライトが浴びる時がきたのだ)
皇帝(だが、立場が変わって分かることもある)
おれたちを裏切りやがったか
側近「いよいよ今日ですね」
先代「うむ」
側近「皇帝陛下は本当にご立派になられました」
側近「あの事件で、多くのものを得たようです」
先代「そうだな、アイツにならばこの国を任せられる」
先代「じゃが、失ったものもある」
先代「いや……今日これから失うというべきか……」
皇帝「──職場復帰、おめでとう」
皇帝「すでに見舞いの時に伝えたが……」
皇帝「今日ここで俺の童貞を奪って欲しい」
皇帝「お前を傷つけられ、モテ期を経て、俺はようやく気づいた」
皇帝「俺はお前をずっと抱きたかったのだ」
女召使「陛下……」
女召使「あ、あたしなんかで……よかったら……」
女召使「よろしく、お願い……します……」カァァ…
皇帝「よ、よし……」ゴクッ
皇帝(あ、焦るな……俺は皇帝だ)ドクンドクン
皇帝(あの行政官たちを威厳だけで屈服させたのだ、自信を持て!)ドクンドクン
女召使「あっ……」ドサッ
皇帝(次は……服を脱がさねば)
皇帝(胸のボタンを……)ムギュッ
女召使「痛っ!」
皇帝「げっ!」
女召使「へ、陛下……もっと優しくして、ね……?」
皇帝「ご、ごめんっ!」ゴクッ
皇帝「えぇ~と、えぇ~と……」キョドキョド
皇帝(い、いかん! 早くも、どうすればいいのか分からなくなった……!)
女召使「ふふ、今夜は長くなりそうですね……」
皇帝「そ、そうですね……」ゴクッ
………
……
…
歴史書にはこう記されている。
【10代皇帝(大陸暦619~702 在位:636~702)】
9代皇帝“慈帝”の長子。
若くして帝位を継いだ後、自身の世話係だった女性を皇后に迎える。
政治、産業、外交とあらゆる場面で優れた手腕を発揮した。
特に地方官吏の腐敗を目の当たりにした経験から、国内の交通網の発達に力を注いだ。
この時代、いくつもの道路が整備され、帝国領内が一つになるきっかけを作った。
まさしく国が大きく発展する道を築き上げたといっても過言ではない。
彼がいなければ、今日の帝国の隆盛はなかったかもしれない。
死後、10代皇帝はその功績を称えられ“道帝”の名を冠せられた。
<おわり>
最後までどうていか
そうきたか
いいオチだ
Entry ⇒ 2012.09.11 | Category ⇒ その他 | Comments (2) | Trackbacks (0)
DQN「10万円持ってこい」男「僕は今1億円持っている」
男「ようするに君は僕を見て10万円程度の価値しかない。そう思ったわけだね」
DQN「い、いや…10万ってのはただ何となくで…」
男「僕は家に帰れば自分1人で動かせるお金が15億円程度はある」
男「そんな僕に10万円?」
男「君は馬鹿なのかい?ああ、よく見れば知能が低そうな顔をしているよね」
DQN「う、うう、うるせぇ!!」
男「しかし、恐喝というのかい?これは」
男「何故、僕が恐喝の対象になったのか聞かせてくれないか?」
DQN(な、なんなんだよ、こいつはーーーっ!?)
DQN「あ、遊ぶ金が欲しかったんだよ…」
男「よくある話だね」
男「でも、それが10万円って。君は10万円ぽっちでどれだけ遊ぶ気でいたのかい?」
DQN「そ、そりゃあ、今日だけでパーッと使って…」
男「ほほう。10万円で1日も遊べるなんて、すごく慎ましい遊びをするんだね」
男「僕なら普通に遊ぶだけでも1千万円は普通に使っちゃうからさ」
男「日によっては2、3億使う日もあるけど、さすがに普段はそんなに使わないよ」
男「で、10万円でどんな遊びをするんだい?」
DQN(こいつ、もうやだ…)
男「え?10万円以下のワインなんて飲むんだ。なるほど、そういう所で使うお金を節約してるんだね」
DQN「いや、俺はビールだし…」
男「ゲームって何?どこのカジノ?そんな低レートなカジノは知らないなぁ」
DQN「普通にゲーセンだけど…」
男「あとナンパって何?船に乗ったりするのかな?」
DQN「何を言ってるのか、こっちが聞きたい」
男「まあ、それはともかく、話も聞けたし、恐喝された10万円くらいならあげようじゃないか」
DQN「マジかよ!?ひゃっほーっ!!10万円ゲットだぜ」
男「そのかわり、僕も君を恐喝する事にしよう」
DQN「へ?」
男「社会的地位や暴力を使って、君のご両親や兄弟に対し、僕が君という存在のせいで迷惑を被ったという理由をつけてね」
DQN「そ、そんなの通用するわけ無いだろ!!馬鹿か、テメェ!!」
男「ああ。でも、僕はお金持ちだから出来るんだよ。通用する、しないに関係なく」
男「それにさ。君がやった事と同じだから」
男「本来なら友人や学校の先生も対象にして構わないが、僕も手広く面倒な事はあまりしたくないんだ」
DQN「テメェ!!ふざけた事言いやがるとぶっ殺すぞ!!」
男「脅迫か。いいね、僕も君の親族に脅迫するとしよう」
男「両親は脅迫して離婚でもしてもらうとするか。兄弟がいれば、不登校くらいになってもらうとしよう」
DQN「わ、わけわかんねーよ、おめえ」
男「だが、君が恐喝しようとした事実は変わらない。金品の移動がなかったのはたんなる結果に過ぎない」
男「君は結果がなんともなければ過程はどうでもいいと思っているのかい?」
男「駄目だよ、それは。結果も大事だが、過程も大事だ」
男「だが、僕も鬼じゃない。恐喝するのはやめておこう」
DQN「あ、ああ。ありがてぇ」
男「とりあえず脅迫だけはしてみよう」
DQN(な、何を脅迫するかしらねぇが、うちの家族は脅迫くらいじゃビクともしねぇはずだ!!)
家に帰ると、そこには誰もいなかった。
父も、母も、姉も。
携帯電話も繋がらない。
近所の人に聞いても目を逸らし、消息はわからないと口を揃えていう。
警察に家族が行方不明だと届けても門前払い。
誰もDQNに関わろうとしない。
DQNは家で膝を抱えて座り込む。
ピーンポーン
DQN「誰だよ、一体」ガチャッ
男「やあ」
DQN「…て、てめぇ!!」
男「おや?家族の方はいないのかな?」
DQN「白々しい事言ってんじゃねぇ!!どうせ、お前が何かしたんだろ!!」
男「その通りだけど」
男「正確にはお願いしたんだよ。この家から出て、君とは関わるな、ってね」
DQN「なんで、そんな事しやがるんだ!?」
男「楽しいからだろう?」
男「だから、僕も出来る限りの財力を使って、君の家族を脅迫した」
男「それなりの散財だったが、君の絶望感に満ち溢れた顔は見ていて楽しかったよ」
男「ああ、君が家に帰ってきた時からずっと隠れてみていたんだけどね」
DQN「ちくしょう!!テメェ、マジでぶっ殺してやる!!」
男「ああ。いいのかい?僕を殴ったら、君は傷害罪で捕まってしまうよ」
DQN「構うもんか!!親父やお袋、姉貴もいないんだったら悲しむ奴なんか誰もいねえからな!!」
男「君の思考は短絡的だな」
DQN「嘘ついてんじゃねぇ!!」
男「僕は嘘はつかない。僕が嘘をつく意味がないからね」
男「さて、家族を元に戻すためには、まず僕を殴らない」
DQN「ぐっ」
男「真面目に学校に行く」
男「恐喝や脅迫等の犯罪行為を行わない」
男「毎日、壁に向かってごめんなさいを唱和する」
男「あと、自慰行為は禁止。家に女性を連れ込むのも駄目だ」
男「それをしばらくやって、気が向いたら家族は戻ってくるよ」
DQN「ぐぐぐっ…」
男「それじゃあ、僕は帰るとしよう」バタン
男「失礼します」
父「ああ、おかえりなさい。男さん」
母「ごめんなさいねえ、うちのDQNが迷惑を掛けてしまって」
姉「ホント、なんであいつはああなのかしら?」
男「いえいえ。気にしないでください」
男「とりあえず隠しカメラの様子はどうですか?」
姉「なんかベッドの上でひたすら苦悶してるみたいだけど」
男「はははっ。楽しそうじゃないですか」
男「とりあえずこの部屋の家賃と元々の部屋の家賃は僕が支払っておきます」
男「部屋が隣なので彼の外出時間と鉢合わせないようにだけお願いします」
男「ご両親が反省してるなと思ったら、隣の部屋に戻ってあげてください」
父「わかりました」
母「はい」
姉「でも、わざわざお金を使ってまでなんでこんな事を?」
男「彼と同じです。楽しいからやっただけです」
姉「悪趣味だね、あんた」
男「よく言われます」
男「それでは僕からの脅迫ライフを楽しんでください」
END
面白さやネタの濃度は度外視で。
短いのにイラッとしたりほぅ…と思ったりニヤッとしたり面白いSSだった
なかなかよかったわ
元スレ:http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/internet/14562/1345353104/
Entry ⇒ 2012.08.20 | Category ⇒ その他 | Comments (0) | Trackbacks (0)
だいすけ「ジッペイ!」ジッペイ「だいすけ君?!」
ジッペイ「だいすけ君!随分久しぶりだねえ。キミしばらく見てなかったけどどうしてたんだい?」
だいすけ「ハハハ、テレビ観てないのかい?僕は随分前に死んだんだよ。胃捻転でね!」
ジッペイ「え?死んだ?でも僕と君はこうやって普通に会話…」
だいすけ「キミもここへ来たって事はキミも死んでしまったんだね…」
だいすけ「思い出したかな?キミにとっては嫌な思い出だろうけど」
ジッペイ (あの時ご主人様と弟達とで車で出掛けて、ご主人様達は車から離れた。その後なんか暑くなってきて弟達も…)
だいすけ「…キミ大丈夫かい?体調悪そうだね。ま、ここでは病気もケガもないけどね!ハハハ!」
ジッペイ「う、うん。大丈夫…。じゃあここは天国なのかい?」
ジッペイ「そうか…僕はやっぱりあの時死んだんだね。あ、そういえば声が出る…」
だいすけ「声?喉を悪くしてたのかい?まあここなら生前の、一番健康な時でいられるからね!」
ジッペイ「そうなんだ。僕のは手術で喋れなくされたんだけど、そういうのも大丈夫なんだね」
だいすけ「え?手術で?…キミがどうしてここへ来たのか聞いてもいいかい?」
ジッペイ「うん…実は…」
ジッペイ「ハハハ…」
だいすけ「う~ん、でも大変だったねぇ~!車のもだけど、喉を手術されて喋れなくするなんて酷いねえ!」
ジッペイ「…僕たちはテレビの前では吠えちゃダメだから。僕はそのつもりはなかったけど、人間達に僕の言葉は通じないし」
だいすけ「だから車に閉じ込められても助けを呼べなかったんじゃないか!これはぎゃくたいだぁ~!!」
だいすけ「ハハハ!そう言われると照れちゃうよ!!まあ辛い事は忘れて、ここでは楽しくやろうよ!もう命令する人間もいないしさ!」
ジッペイ「フフフ…そうだね。あ、弟達はどうしたかな。僕と一緒に死んだんならここに来てると思うけど」
だいすけ「あ、そうかぁ!…そうだ!父ちゃんに聞いてみるよ!」
ジッペイ「キミのお父さんに?」
まさお「…ん~?何だぁだいすけ⁈」
だいすけ「父ちゃん!コイツ友達のジッペイ!最近死んだんだ!」
ジッペイ「ど、どうも初めまして…」
まさお「おぉ~!そうかそうか!ワッハッハ!ようこそ天国へ!キミもテレビ犬だったのか⁈ ワシも生前はポチたまって番組でよく暴れry」
だいすけ「そんなのいいから父ちゃん!
こいつの弟と仲間も一緒に死んだみたいなんだけど、同じ場所に来てないみたいなんだ」
だいすけ「長老?ジッペイ、行ってみようぜ!」
ジッペイ「うん!」
まさお「ネコじぃ!ネコじぃ!おるか~!」
ジッペイ「ネコじぃ?」
だいすけ「ああ、聞いた話によると随分前からここらを仕切ってるネコの爺さんらしい。かなり物知りみたいだぜ」
ジッペイ「へぇ~…。その人なら弟達の居場所知ってるのかな」
だいすけ「多分な」
まさお「今日はじいに頼みがあるんじゃ!実は…」
ネコじい「わかっとるわい。そこの白い坊の弟達の事じゃろ。察しはついとる」
ジッペイ「わ、わかるんですか⁈ ぜひ教えて下さい!」
ネコじい「ふん…坊よ、お前は人間に酷い目に遭わされ、そして殺された。人間達に恨みはないのか?ワシならここから人間達に復讐する方法も知っとるぞ。代わりにそれを教えてやってもいいぞ」
ジッペイ「確かに人間達に恨みはあるかもしれません…。でも今は弟達の事が心配なんです!だから居場所を教えて下さい!」
ジッペイ「!あ、ありがとうございます!」
だいすけ「やったなぁジッペイ!(ジッペイの漢気に濡れたワン…///) 」
ジッペイ「うん!」
ネコじい「さて、いくぞ坊よ。」
ジッペイ「え?そうなんですか?」トットッ
ネコじい「ここへ来たものはまず受付を通る。そこで生前悪さをした者は矯正層へ行き再調教される。そうでないものはここ天国へと通されるのじゃ」トストス
ジッペイ「へえ…。だいすけ君知ってた?」トットッ
だいすけ「知らん!(ドヤァ」チャッチャッ
ネコじい「おっと、これは秘密事項じゃった。くれぐれも内密にな」トストス
ジッペイ「は、はい…」トットッ
だいすけ「へぇぇ~!そうなんだぁ!スゲーなジッペイ!」チャッチャッ
ジッペイ「だいすけ君、声大きいよ…」
ジッペイ「あ、あれが…!」タタッ
だいすけ「待てよジッペイ!」タタッ
ジッペイ「弟達…まだ出てきてない…。」
だいすけ「ジッちゃん!すれ違ったって事はないかな⁈」
ネコじい「ここは一本道じゃし、すれ違う事はないのう。矯正層へ落ちたのなら別じゃがの」
だいすけ「コラじい!言っていい事と悪い事があるぞ!」ウ~!
ネコじい「ホホッ、なら待つ事じゃ。動物は毎日死んでここにやって来る。数は多いからのう、時間がかかっとるやもしれんの」
ジッペイ「 … 」
だいすけ「あ!誰か出てきた!」
ジッペイ「弟!それにみんな~!」
ジッペイ弟「ここはどこなんだい?俺たち車にいたと思ったらなんか知らない場所に来てるんだけど…」
ジッペイ「実は…」
ジッペイ弟「え~!俺たち死んだの?!で、ここが天国~?!」
ジッペイ弟「ああ…それはね、ちょうどそこの出口とこで…」
???「キュ~…」
だいすけ「なんだこの赤ん坊?犬っぽくないなぁ!」
ネコじい「ホッホッ、これは珍しい。パンダの赤子じゃのう」
だいすけ「パンダ?!」
ジッペイ弟「なんか足にしがみついてきて離れなくてさ。みんなと相談して一緒に連れていこうって決めてたのさ」
ジッペイ「そ、そうなんだ…良かったあ。でもパンダなんて育てられるかな?僕たちただの犬だし…」
ネコじい「フフフ…ここは天国、現世よりもずっと自由じゃ。犬でもパンダは十分育てられる。それに探せば大人のパンダもおるじゃろうしな」
ジッペイ「ネコおじいさん、初対面の僕たちの為に親切にありがとうございました。」
ネコじい「ホッホッ…ワシも生前は映画なんぞに出ててのう。それこそ撮影の為に酷い目にもあったもんじゃった」
ネコじい「だから同じような境遇の坊達が他人に思えなくての…つい手を貸したのじゃよ」
ジッペイ「おじいさん…」
ジッペイ「そ、そうだったんですね…おじいさんも…」
チャトラン「ホッホッ!坊は優しいのう!なに、今はこうしてのんびりやっておる。坊もこれからは弟達と楽しく暮らすのじゃよ!」
ジッペイ「…!はい!」
こうしてジッペイと仲間達は天国で幸せに暮らしたのでした。
2012.8.14 亡きZIPPEIに捧ぐ
乙でした
Entry ⇒ 2012.08.19 | Category ⇒ その他 | Comments (0) | Trackbacks (0)
秋「お前マジで俺にそろそろ譲れ」夏「嫌だ」
夏「しらねーって」
春「どうしたんだい」
秋「こいつが季節ゆずらねえんだよ」
夏「まだ8月なったばっかだろうがぶっ飛ばすぞ」
冬「ど、どうされたのですか」
夏「なっ、なんでもねえよっあっち行け///」
夏「なにが」
春「確かに少し暑すぎやしないか」
夏「知らねーって」
春「しらねーって自分のことだろうが」
夏「うっせーなマジで次なんか言ったらぶっ殺す」
冬「駄目ですよ暴力は」
夏「わ、わかってるよっせーな///」
秋「何だよこんなとこ呼び出して」
春「最近の猛暑の原因がわかった気がするんだ・・・」
秋「何だよ」
春「わ、笑わないか?」
秋「それはお前次第だわ」
春「多分、夏の恋が原因だ。夏は恐らく冬ちゃんにお熱だ」
秋「おいおい・・・」
秋「だけど失恋何かしたらあいつ爆発するぞ」
春「だから、冬と夏が結ばれるしかないと思う」
秋「おいお前それどういう意味かわかってんのか・・・?」
春「ああ、夏と冬がくっつくには俺かお前が消えなくちゃいけないからな」
秋「おい待てよ、お前だって冬のこと・・・」
春「俺はいいんだ」
春「猛暑でこれ以上死者がでるよりマシだろう」
秋「それに冬だってお前のこと・・・お前は気づいてるんだろう」
春「・・・」
春「冬は・・・あいつは強い、以前よりずっと強くなった」
秋「それは冬が・・・それはあいつが1年の役目を終えた時、お前が待っててくれるからだろうが!」
春「・・・」
秋「あいつはいつも苦しんでたんだぞ、自分の寒さのせいでみんなに迷惑が」
春「それ以上はやめてくれ、もう決めたんだ」
夏「何だよ」
冬「皆さんはああいう風に言いますが、夏さんだけのでいではないと思います」
夏「な、何だよ急に」
冬「人間の方々にも猛暑の原因はあると、わたくしは思います・・・」
夏「どうでもいいよ、関係ねーし・・・」
冬「よくありません!」
夏「なんだよ・・・」
冬「わたくしは知っています!あなたが毎年、人間の方々を楽しませようと・・・」
夏「俺は嫌われ者だよ、俺はそれでいいし、好かれたいと思ったりはしない」
冬「夏さん・・・」
夏「お、おいどうなってやがる・・・」
秋「・・・」
冬「わ、わたくし・・・これ以上人間の方々に迷惑をかけることは・・・」
冬「春さん・・・」
秋「あの野郎まさか本当に」
冬「春さん・・・何故・・・来てくれないのですか」
冬「わたくしは毎年・・・あなたを信じて・・・」
秋「くそっ」
夏「俺がでる」
秋「おい待てよ」
秋「あいつは!あいつはお前が最近暑くし過ぎるからそれを冷まそうと!」
夏「な、何の話だよ」
冬「どういうことですの、秋さん」
秋「っく・・・、まさか俺だってあいつが本当にいなくなるとは思ってなかったよ」
夏「てめえ何か知ってるのか」
秋「全部話すよ」
夏「なっ、あの野郎・・・それに別に冬のことなんか・・・」
冬「・・・すみません」
夏「・・・///」
夏「ちくしょーがっ」
秋「・・・・」
夏「とにかく俺が行かないと人間の世界が凍りついちまう」
「全く、ばっかじゃないの!」
秋「誰だ」
梅雨「私よっ!!!」
梅雨「なによ!」
夏「何だお前か」
梅雨「何よ///アンタは私がいないと表舞台には出られないのよ!忘れたの!」
夏「っち」
梅雨「何よ///」
冬「梅雨さん・・・」
梅雨「アンタが冬ね、初めまして」グイッ
冬「えっちょ、何をなさるのですk」
梅雨「夏に色目使ってんじゃないわよ」
冬「そそそ、そんなわたくしはただ・・・」
梅雨「チッ」
梅雨「私が雨を降らすわ、雪よりはいいでしょ」
冬「つ、梅雨さん・・・」
梅雨「その間にアンタ達が春を探してらっしゃい」
梅雨「このままじゃ夏が悪者になっちゃうもの」
夏「梅雨・・・」
梅雨「ただし2ヶ月よ、それ以上は待てない。洪水どころの話じゃなくなっちゃうわよ」
秋「十分だ」
夏「よっし」
冬「春さん・・・あのときの約束をお忘れですか・・・」
冬「もう1度・・・綺麗な桜をわたくしに・・・」
冬「・・・」シクシク
冬「わたくしのせいで・・・」グズ
「お前こんなとこで何やってんだよ」
冬「えっ?」
「何縮こまってんだって聞いてんの」
冬「それは・・・わたくしのせいで・・・生き物達が・・・」
「ああーこれお前がやってんのか、凄いな」
冬「わたくしのせいで、全てがなくなってしまいます」グズ
冬「わたくし何ていないほうが良かったのです、でも死に方もわかりません・・・」
「ちょっと見てろよ・・・それっ」
「な、綺麗だろ?」
冬「す、凄いです・・・それにゆ、雪も解けていきます・・・」
「良かったなあ」
冬「あの・・・綺麗なピンク色の花びらを纏った木は」
「ああ、あれは桜だな。好きか?」
冬「はい!とても綺麗です」
冬「わたくしもあのような綺麗なものを咲かせられたら・・・」
「あれはな、お前の寒さがないと咲かないんだよ」
冬「え?」
「俺一人じゃ咲かせられないんだ、だから来年もお前を待ってるぞずっと」
冬「あ、あなた様は一体・・・」
春「俺は春、俺も桜が1番好きだ」
夏「クソっ、みつからねえ」
秋「あの野郎どこ行った」
夏「心当たりが全くねえ・・・」
夏「おい・・・何か変じゃないか・・・?」
秋「何だよこんなときに」
夏「おい、しっかりしろ。よく見てみろ」
秋「え・・・?あっ・・・おいおい」
夏「梅雨の奴は何やってんだ・・・」
秋「吹雪じゃねえか・・・」
秋「異常気象どころの話じゃないな・・・これはやばいぞ」
夏「梅雨に何かあったのかもしれない」
秋「ああ、急いで梅雨のところに戻ろう」
夏「おい冬!梅雨のところに・・・!?」
夏「おい秋!冬がいねえ!」
秋「こんな時に・・・とりあえず梅雨が先だ!」
梅雨「くそっ・・・ハァ・・・ハァ・・・くそっ・・・」
秋「おい梅雨!!!」
梅雨「秋!!」
夏「おいどうしたっていうんだよ!」
梅雨「どうしたもこうしたもないんだ!雨を降らせようとしても・・・」
梅雨「全部雪に変わっちまうんだ・・・」
秋「・・・冬か」
夏「!?」
秋「冬が・・・暴走してんだ」
夏「なっ」
夏「俺ちょっと探してくる!」
秋「おい夏っ!」
夏「俺のせいで!くそっ!くそっ!」
夏「俺はいつもどうしてこう空回るんだ・・・」
夏「春の野郎・・・ハァ・・・つくづく気にくわねえ奴だよ」ハァ
夏「でも皮肉なもんだな・・・冬が居る場所はわかってるんだ」
夏「なあ、冬。春と最初に桜を見たこの場所なんだろう」
冬「・・・夏様」
夏「やっぱりここか」
冬「すみません・・・わたくし・・・止まらなくて・・・止め方が・・・」
冬「おさまらないんです・・・この気持ちが・・・」
夏「大丈夫・・・俺が暖める。心配しなくていい、俺ができる」
冬「夏様・・・」
夏「おらあああああああああ!!!!」
夏「ハァ・・・ハァ・・・くそっ」
冬「夏様・・・お体が・・・凍り始めてます!」
夏「どうってことねーよこんなもん」
冬「駄目です、お止めください!この場所から離れてください!」
夏「俺が・・・今度は俺が・・・」
冬「どうか・・・」
夏「・・・」バタン
秋「おい夏の奴どこ行ったんだ!」
梅雨「わからないわ!」
秋「おいおいこのままじゃ俺たちまで・・・おい梅雨!」
梅雨「え?」
秋「お前・・・体が凍ってきて・・・」
梅雨「アンタもよ・・・」
秋「・・・おいおい」
梅雨「全員で冬眠かしら・・・?」
秋「四季もここまでか」
バタン
冬「・・・」
冬「また・・あの時と同じ・・・」
冬「全てが凍ってしまいました」
冬「わたくしは・・・また1人です・・・」
冬「春さん・・・あなたがいないとわたくしに意味なんて・・・」
冬「・・・!?私まで凍るのですか」
冬「でもそれでよかったのです・・・これで・・・長い苦しみから解放されるのですね」
冬「やっと死ねる・・・」
「またそんなとこで縮こまってんのか」
冬「・・・・!」
春「しっかりしろ冬」
冬「春さん・・・春さん!わたくし・・・春さん・・・!」
春「意味のないものなんてない、どんな些細なことにだって意味はある」
冬「・・・春さん、今までどこに」
春「お前の寒さで、人は人の持つ温もりを再認識する、人々の暖かさを感じることができる」
春「お前の寒さで、恋人たちは普段よりずっと・・・その距離を縮めることができる」
冬「春さん・・・」
春「さあ、前を向いてごらん、冬」
冬「・・・・!」
春「桜はまだ好きか?」
冬「はい・・・一番綺麗です・・・またこの景色が見られるなんて」
春「そうか・・・それは良かった」ニコッ
冬「・・・///」
春「・・・」バタン
冬「春さん!春さん!しっかり」
冬「春さん・・・まさかご自分の力を全て・・・」
春「ありゃっ、どうやらそうらしいな・・・」
冬「体が・・・どんどん体が凍って・・・」
春「お前今回のは凄い力だったなあハハッ」
冬「私を・・・暖めるために・・・」
春「俺はお前に知って欲しかったんだ・・・どんな些細なことにだって意味がある」
春「お前にだって・・・そう・・だ」
冬「ちょっと待っててくださいね!誰か、誰か呼んできますから!!」グズ
春「花の香り・・・雪が解けて・・・キラキラ光る世界・・・」
春「悪くないなあ」
春「でも結果的に・・・冬には悪いことしたなあ」
春「さて・・・そろそろ時間か・・俺も長い眠りに・・つくとしよう」
ザッ・・・ザッ・・・
春「・・・」
夏「ふざけんじゃねえ」
春「・・・」
夏「冬を守って死ぬだと?そんな綺麗な死に方させてたまるかよおおおおお!!!」
夏「最大パワーだこら受け取れクソ春が!うおおををおおおおお!!!!」
そして季節は何十回・・・何千回・・・何万回・・・巡る
夏「おい梅雨、そろそろ変われ」
梅雨「おっ!今年も会えたね!ダーリン!」
夏「相変わらずうぜえ・・・」
梅雨「今年も大好きな季節がやってきたわ!」チュッ
夏「おいやめろよ、くっつくなジメジメすんだよテメエは、ったく///」
夏「さっさとしろ交代だ」
梅雨「はあい///」
夏「おらああ!待ちに待った梅雨明けだぞ人間共おおおおお!!!!」
秋「・・・」
冬「もう2月ですか」ニコニコ
冬「もうすぐ・・・会えますね」
人間「九州で桜が開花いたしました!観測史上初の2月開花です!」
人間「すげー2月に桜開花だってよ」
お前ら「チンコの形した桜見つけたったwwwwwww」
冬「今年は随分とお早いのですね」
春「ああ、お前に会いたくってね」
冬「お茶・・・入れてきますね///」
おしまい
秋「・・・」
秋報われねぇwwww
乙!
秋…秋…
秋さんェ……
Entry ⇒ 2012.08.05 | Category ⇒ その他 | Comments (0) | Trackbacks (0)
Lチキ「ファミチキ・・・ファミチキ・・・」クチュクチュ
Lチキ「キャッ!か、からあげ君?!///」サッ
Lチキ「あ、揚げ上がりだからよ!今揚がったばかりだから!///」
からあげ君「ふーん・・・なんか顔赤いよ?」
Lチキ「ホ、HOTなの!今日はLチキHOTだから!」
からあげ君「それより・・・」カチャ(ドア施錠)
からあげ君「このあふれる肉汁は何かなぁぁぁぁぁ????」グイッ
Lチキ「キャッ!!」トロリ
Lチキ「嫌ぁぁぁぁぁ!!!見ないでぇ!!!」
からあげ君「へへ・・イイむね肉してんじゃねえか!」ビリィ!(衣破る音)
Lチキ「やめてぇ!!!」
Lチキ「た、助けて!!」ダッ
からあげ君「チィ!いい所を・・・!」
Lチキ「か、からあげ君に急に襲われて・・・」
からあげ君「へへ・・・ちょっとスキンシップ取っただけだよ」
バンズ「からあげ貴様・・!」
Lチキ「ひっ・・・バンズ君?!」
からあげ君「へへ・・・悪ィ・・・チーズが股間からあふれ出ておさまりつかなくてよォ」スリスリ
バンズ「フン、まあいい・・・所でLチキさん、俺は前からあなたの事気になってましてねェ」
バンズ「一度あなたを挟んでみたいと思ってたんですよ」パサァ(袋開ける音)
バンズ「やめて?おかしな事を言いますねェLチキさん・・・」
バンズ「俺達は元々親同士の取り決めで一緒になる予定じゃないですか」
バンズ「一緒になってこそ幸せになれるんですよ?」
Lチキ(ああ・・・こんな・・・嫌なのに・・・わたし美味しそうって思ってる?!)
からあげ君(クソッ・・・相変わらずイイ身体してやがんぜ!俺も挟まれてェ!!)ギンギン
Lチキ「あああああ!!!!」
バンズ「くぅっ!凄い肉汁だ!!Lチキさん、俺のパンズリは最高だろう?!」ズーリズーリ
Lチキ「ひぎぃぃ!!!」
バンズ「お前まで挟んだらカロリーオーバーだ!後で相手してやるからおとなしくまってろ!」ズーリズーリ
Lチキ「ファミチキ君・・・ファミチキ君・・・」
Lチキ「?!」ハァハァ
バンズ「あいつも今頃は・・・他のバンズに挟まれてるころさ!」ズーリズーリ
Lチキ「!!」
バンズ「ククク!ローソンのバンズとファミチキも案外イケるもんでさ!喜んで貪り食ってるだろうぜ!!」ズーリズーリ
夢が広がるな
客男「あー腹減ったなー。Lチキ食おっかな」
客女「ねーねー、このパンに挟んで食べると美味しいんだってww」
客男「へーそうなんだ。じゃあ一緒に買うか。すみません!これとあとLチキ下さい!」
Lチキ「私を・・・もっと挟んで下さいご主人さま///」
end
Entry ⇒ 2012.07.30 | Category ⇒ その他 | Comments (4) | Trackbacks (0)
幽霊「幽霊です」 男「怖いなあ」
男「うん、怖い」
幽霊「あまりそう見えないんですけど」
男「うーん。でも、怖いよ?」
幽霊「そですか。ならいいんです」
男「気がついたら知らない人が家にいるなんて、恐怖以外の何物でもないよ」
幽霊「そっちの意味で怖いんですか」
幽霊「幽霊ですから、枕元に現れます」
男「なるほど、それが仕事だからなあ」
幽霊「いえ、別に対価をもらってるわけじゃないので、正確には仕事じゃないです」
男「じゃあ、なんで怖がらせるの?」
幽霊「……趣味?」
男「悪趣味だなあ」
幽霊「…………」ションボリ
男「悪いことをした気がした」
男「ごめんね?」
幽霊「ダメです。許しません。呪い殺します」
男「困るなあ」
幽霊「幽霊ですからしょうがないんです。諦めてください」
男「なるほど、呪うのも仕事だから仕方ないか」
幽霊「いえ、対価がないので仕事じゃないです」
男「じゃあ、やっぱ趣味で呪うのか。悪趣味だな!」
幽霊「…………」ションボリ
男「この幽霊は打たれ弱すぎる」
男「分かった。ごめんな?」
幽霊「……悪気がないようなので、許します」
男「で、なんで俺の家にやってきたの、趣味で人を怖がらせたり呪い殺したりする人?」
幽霊「いじめないと言ったのに」(涙目)
男「嘘をつきました」
幽霊「酷いです。もう泣きます。ひんひん」
男「泣かれると良心がうずく。申し訳ないことをした。こんなことなら嘘をつくんじゃなかった」
幽霊「ぐすぐす……もう嘘をつきませんか? いじめませんか?」
男「いいえいいえ」
幽霊「うえぇぇん」
男「ああつい本音が」
男「あの後、どうにか謝り倒して泣き止ませたはいいが、先程から幽霊が部屋の隅っこで体育座りをしてこっちをじーっと見ている」
幽霊「…………」ブスーッ
男「正直なところ、明日も学校なのでとっとと寝たいところなんだが、不機嫌そうな幽霊が気になって寝られない」
幽霊「…………」ブスーッ
男「……でも、まあ、いいか!」
幽霊「ええっ!?」
幽霊「あ、あの、まだ許してません、許してませんよ?」
男「でも、眠いんだ。ほら、もう朝の3時だし」
幽霊「起こして上げますから、もうちょっと頑張って起きててください。そして私をいじめことをいっぱい謝ってください」
男「嫌だ」
幽霊「!!?」
男「そういうわけで、お休み」
幽霊「ね、寝たら呪いますよ!?」
男「幽霊の趣味が出た」
幽霊「またいじめた! うえぇぇん!」
男「やかましくて寝れない」
幽霊「起きて。起きてください」ユサユサ
男「zzz……」
幽霊「朝です。早く起きてください」ユサユサユサ
男「ん、……うぅん……ん、むぅ」
幽霊「はぁ、やっと起きた……」
男「んー……うわぁ、知らない人!」
幽霊「幽霊ということで驚いて欲しいです……」
男「……あ、ああ、なんだ。昨夜の幽霊か。驚かすなよ」
幽霊「そして幽霊なのに微塵も怖がられていないことに悲しみを禁じ得ません」
幽霊「はぁ……あれからいっぱい寝るの邪魔したのに、すぐに寝ちゃってそれから全然起きませんでした。起こすの、すっごく苦労しました」
男「何言ってるか全然分からん。ちょっと待って、耳栓取るから」
幽霊「耳栓!? いつの間に!? ずるいです、卑怯です!」
男「……っと。んじゃ改めて、おはよう、幽霊さん」
幽霊「あ、おはようございます」ペコリン
男「ところで、幽霊って朝日に当たったらぐげぇぇぇってヒキガエルみたいな断末魔出しながら消えたりしないの?」
幽霊「隙あらばいじめます! ひどいです!」
男「いや、心配したんだよ?」
幽霊「とてもそうは思えないです! 悪意たっぷりです!」
男「ばれた」
幽霊「やっぱりいじめてました。ひんひん」
男「朝飯何にしようかな」
幽霊「女の子が泣いてるんだからちょっとは慰めてください。ひんひん」
幽霊「ふああっ!?」
男「しまった、頭が性感帯だったか!」
幽霊「違います」
男「それはどうかな?」
幽霊「本人が違うと言っているのです! 違うのです! そうじゃなくて、どうして私に触れるんですか?」
男「え、いや、さっき俺を揺り起こしてたろ? 普通に物に触れるんじゃないのか?」
幽霊「いいえ、無理です。ほら、物を触っても通り抜けます」スカスカ
男「うーん。じゃ、幽霊さんは実は幽霊じゃない、とか?」
幽霊「幽霊です。あいでんててーが崩壊しそうなことを言わないでください」
男「アイデンティティ」
幽霊「あいでんててー」
幽霊「仲間!? ……でも、生きてるように見えます」
男「生きてるからな。心臓忙しすぎ」
幽霊「また騙されました。しょっくです」
男「ちなみに、俺は通り抜けない」ドヤアッ
幽霊「当然のことをドヤ顔でされて癇に障りましたが、触った目覚ましが床に落ちて蓋が開き、さらに電池がばらまかれ、わたわたしながら拾う無様な所を見れたのでプラスマイナスゼロです」
幽霊「爽やかな顔が不愉快です。それで、どうして私に触れるのですか? 陰陽師の血筋なのですか?」
男「全然知らないけど、そうなんだ」
幽霊「もう騙されません。それは嘘です!」ビシッ
男「当たり」
幽霊「わーいわーい!」ピョンピョン
男「この幽霊可愛いなあ。飼おうかなあ」ナデナデ
幽霊「飼うとは何事ですか! 一個人として尊重してください!」
男「死んだ奴に人権なんてないだろ。……と、なると」
幽霊「何やらひどいことをされそうです」ガタガタ
男「よぅし! 恋人としてチュッチュチュッチュしよう!」
幽霊「嫌です」
男「悲しい」
幽霊「幽霊なので食べられません」
男「偏食は体に良くないぞ?」
幽霊「好き嫌いの話ではないのです」
男「好きとか嫌いとか最初に言い出したのは誰なのかしら」
幽霊「どうして往年の名作ギャルゲーの話をしているのですか?」
男「だって、いきなりサメの話とかしだしたら頭おかしい奴だと思われるだろ」
幽霊「ギャルゲーの話でもかなりのものだと思われますよ」
男「で、なんでお前はそんな知識があるんだ」
幽霊「……生前の私は、ゲーマーだったようです」
幽霊「だから、食べられないと……」
男「ま、パンでいいよな」
幽霊「うぅー」
男「ちっちっち、はい二分経過、できあがり。バターしかないけど、別にいいよな」ヌリヌリ
幽霊「いい匂いです……」
男「じゃ、おあがりなさい」
幽霊「食べられないです……」グゥー
男「腹が鳴ってるぞ。臓器があるのか」モグモグ
幽霊「ないです。ないけど鳴るのです。こんな焼きたてのパンを目の前に置かれちゃ、お腹も鳴ります」ググゥー
男「んー。まあ、ものは試しだ。食ってみろ」
幽霊「そもそも掴めないのに……あ、あれ?」
男「ひぃ、パンが幽体離脱! 怖い!」
幽霊「幽霊を無視してパンに怯えないでください」
幽霊「んー……お供え、ですかね?」
男「そうだ!」
幽霊「何が!?」
男「いや、何のことか分からなかったから、勢いでごまかそうとしたんだけど、聞き返されたので失敗した」
幽霊「……黙って聞いててください」
男「はい」
幽霊「ええと……お供えされて初めて、幽霊はご飯を食べることができるんです……かね?」
男「なんで疑問形なんだ」
幽霊「……幽霊になってから、ご飯食べたことないんです」
男「ダイエットは身体によくないぞ?」
幽霊「ここはしんみりするところなのに」
幽霊「とんでもなく曖昧です」
男「で、結局その透けてるパンは食べられるのか?」
幽霊「…………。はぐっ」
男「おおっ」
幽霊「もぐもぐ。もぐもぐもぐ。……た、食べられます」
男「おお、よかったな幽霊さん!」
幽霊「食べられます。……おいしーです」ポロポロ
男「お、おい」
幽霊「ぐすぐす……ご飯って、こんなおいしかったんですね……」ポロポロ
男「これはパンだけどな」
幽霊「そういう話じゃないです……ぐすぐす」
男「まあ、なんにしても良かったな」
幽霊「はい……はい!」
幽霊「酷いです! 言い方ってものがあると思います!」
男「えーと。会えなくなるのは寂しいけど、とっとと成仏しろ」
幽霊「あまり変わってません! それに、パン食べて成仏って、あんまりです。餓鬼のようです」
男「ところで、そのお前の分にと焼いたパンは、どうすればいいのだろうか」
幽霊「食べましたよ? おいしかったです」
男「いや、そうじゃなくて、物質のパンの方。幽体のじゃなくて」
幽霊「……育ち盛りなら、パンのひとつやふたつ、ヘーキですよね?」
男「はぁ……。明日からは焼くの一枚でいいか」モグモグ
幽霊「…………」グゥー
男「さっき食っただろ。腹を鳴らすな」
幽霊「な、鳴らしてなんていませんよ!? 酷い言いがかりです!」ググゥー
男「……もう一枚焼くか?」
幽霊「…………///」コクン
幽霊「もぐもぐもぐ。はぁぁ……♪」
男「んじゃ、俺は学校行ってくるな」
幽霊「もぐ? あ、私も行きます」
男「連れていきたいのは山々なんだが、ペット禁止なんだ」
幽霊「酷い扱いです。ペットではないです。幽霊です」
男「んー……でも、連れて行ったら騒ぎになるだろ? 騒ぎになると目立つだろ? そしたらテレビとかネットで話題になるだろ? 一躍有名人になるだろ?(俺が) 芸能界デビューしちゃうだろ?(俺が) ……よし、来い!」
幽霊「有名人以降は無理だと思います。それと、私は普通の人には見えないので、騒ぎにもならないと思います」
男「そっか。でも、何も見えない空間にニヤニヤしながら話しかける奴ってのは騒ぎにならないかな?」
幽霊「怖いです! なんでニヤニヤしてるんですか!?」
男「だって、幽霊とはいえ女の子が裸でいたら誰だってニヤニヤしちゃうだろ」
幽霊「なんで私が裸って前提なんですか!? 変態さんじゃないですか!」
男「そうだったらいいなーっていう、他愛のない空想だよ」
幽霊「妄想の域に達しているように思えてなりません」
幽霊「わーい♪」
男「でも、行く先で会う人を次々と呪うのは勘弁な。俺が重篤な伝染病にかかってると勘違いされそうだから」
幽霊「人を悪霊か何かと勘違いしている様子です」
男「違うの?」
幽霊「違います! 善良な幽霊なのですよ、私は! ふんがい!」
男「あれ? でも、俺を怖がらせたり呪ったりしようとしてなかった?」
幽霊「……しゅ、趣味です。趣味ではないですが、そういうアレです。とにかく、私は悪霊ではないのです」
男「やっぱ悪趣味だな!」
幽霊「ひんひん」
幽霊「楽しそうだからです。あーゆーところに行ってみたかったんです」
男「……いや、普通に一人で行けばよかっただろうに。なんでわざわざ俺と一緒に行く必要が?」
幽霊「……ああいう陽の気が集まっているところには、幽霊は行けないのです。はじかれてしまうのです」
男「俺と一緒だと大丈夫なのか?」
幽霊「今はおにーさんに取り憑いてますから、大丈夫だと思います」
男「え、俺取り憑かれてるの!? 怖っ、怖あっ!」
幽霊「あっ、怖がられました! ひゅーどろどろ!」
男「いや、そんな元気いっぱいに言われても怖くない」
幽霊「残念です……」
幽霊「……こっ、こんな可愛い子に取り憑かれてるんだから、むしろらっきーですよ、おにーさん?///」
男「それもそうだな!」
幽霊「納得が早すぎて逆に怪しいです……」
男「近く呪いの効果で変死するだろうけど、こんな可愛い子に取り憑かれてるんだから、それくらい甘んじて受け入れよう」
幽霊「変な効果を勝手に付加しないでください。そんな力はないです」
男「断る!」
幽霊「どういうわけかこのおにーさんは変死したがります」
幽霊「遅刻して走って校門をくぐろうとして挟まれて死んじゃえばいいんです」
男「くそぅ、悪辣で悪趣味な幽霊にかまってるばかりに!」
幽霊「悪辣じゃないし、悪趣味でもないです。人を怖がらせるのは……そう、幽霊としての本能です!」
男「知らん。興味ない。喋るな」
幽霊「ひんひん」
男「ほら、泣いてないで行くぞ」
幽霊「泣かしたのはおにーさんなのに」
幽霊「だーっしゅ」フヨフヨ
男「ええい、幽霊は浮くなんてチートスキルを持っててずるいなあ!」
幽霊「鳥のようで素敵ですか?」
男「バルンガのようで素敵だなあ」
幽霊「せめて風船……なんでウルトラQ……」ブツブツ
男「ぶつぶつ呟きながらついてくるな。朝から気が滅入る」
幽霊「幽霊なのでしょうがないです。ひゅーどろどろ」
男「それ口で言ってるの?」
幽霊「はい」
男「馬鹿丸出しだな!」
幽霊「ひんひん」
幽霊「お疲れ様です、おにーさん。タオルはご入り用ですか?」
男「お、気がきくな。さんきう」
幽霊「持ってませんが」
男「…………」ギリギリ
幽霊「いひゃいいひゃい、いひゃいでふおひーはん!」
男「俺だから頬を引っ張るので済んでいるが、そこらの一般人なら外道照身霊波光線を照射して強制成仏させられてるぞ」
幽霊「ううう……そこらの一般人は、そんな必殺技持ってません」ヒリヒリ
男「いや、そうとは限らないぞ。じゃあ誰かに聞いてみて、もしその技を持ってたら照射してもらうからな」
幽霊「非常に困ります! やめてください!」
友「……一人で何やってんだ、男」
幽霊「大ぴんちです! 強制成仏なんてまっぴらごめんです!」
友「……? 何言ってんだ、お前は」
幽霊「あ、おにーさん。この人は見えない人のようですよ?」
男「いやまったく、俺は何を言ってるんだろうな。幽霊なんて馬鹿げたものは存在しないと言うのに」
幽霊「います! 超います! おにーさんが否定するのは悲しいです!」ポカポカ
男「ぶべらはべら」
友「? なあ男、お前何かに殴られてねーか?」
男「いたた……いや、ただのパントマイムだ」
幽霊「のっとぱんとまいむ! 私が叩いているのです!」ポカポカ
男「ぶべらはべら」
友「……よく分からんが、楽しそうだな。じゃ、俺は先に教室行ってるな」
幽霊「しません」
男「がーんだな……出鼻をくじかれた」
幽霊「なんで孤独のグルメですか?」
男「さて、んじゃ教室行くか」
幽霊「わくわくします!」
男「期待してるところ悪いが、別に女子が半裸で闊歩とかしてないぞ?」
幽霊「そんな学校は存在しません」
男「なんでだろうなあ……!」
幽霊「うーん。おにーさんは気持ち悪いですね?」
男「幽霊に言われると結構ショックだな」
幽霊「わぁ……! 有象無象がひしめいています!」
男「この幽霊口が悪いな」
友「……なあ男、さっきからお前何と喋ってんだ?」
幽霊「あ、さっきの人です。こんにちは」ペコリン
男「こんにちは」ペコリン
幽霊「おにーさんにしたのではないのです!」プンプン
友「何もないとこに頭下げたり……いきなりなんだ? まあ、奇行は今に始まった話じゃないからいいけど」
男「いやね、聞いてくれよ友。実は、幽霊がここにいるんだ」
友「…………。へー」
幽霊「まるで信じてない目をしてます」
男「もちろん嘘だけどな」
幽霊「嘘ではないのです! そこを否定してどうするのですか!」
男「あー、うん、そんな感じ」
幽霊「なんかうまい具合にまとまりましたね」
男「全て計算ずくだ」
幽霊「絶対にうそです!」
友「……ま、んじゃいると仮定して……んーと、よろしくな、幽霊さん」ペコリ
幽霊「あ、ハイ! よろしくお願いします!」ペコリン
男「幽霊の奴、お前の顔が気に入らないから『俺の嫁メモリアル』を部屋の机の上に置いといてやるって言ってるぞ」
幽霊「言ってません!」
友「なんで俺の持ってるエロ本知ってんだ!?」
教師「ぅーい、席に着けー」ガラッ
友「まあいいや……んじゃ後でな」
男「はぁやれやれどっこいしょあいたたた」
女「どこのおじさんよ」
男「やあ、君は席が隣の女さんではないか。いかん、説明口調に過ぎる。お母さんに怒られるかも」
女「なに言ってんのよ。……それより、話があるんだけど」
男「困った、告白された」
女「してないわよッ!」
教師「あー? 女ー? どうかしたかー?」
女「い、いいえ、なんでもないデス……///」
女「誰のせいよ……!」ギュー
男「ほおをひっはふは」
女「と、とにかく! あとで話があるからね。逃げないで待ってなさいよね」チラチラ
幽霊「…………」
男「さて、昼休み、すなわちあとになったわけだが」
男「なんか変なところに連れてこられた。想像するに異次元に違いない。幽霊の仕業か。あとでぶち殺す」
幽霊「違いますよ!? もう死んでますし!」
女「ここは空き教室。……単刀直入に言うわ。私、幽霊が見えるの」ジロッ
幽霊「!」
男「ああ、メンヘルか。きめぇ」
女「違うわよ! きめぇとか言うなッ! ほらっ、そこにいるでしょ! アンタに憑いてるのが!」ビシィッ
幽霊「ふわあっ!?」
男「ふわあ(笑)」
幽霊「び、びっくりして思わず口から飛び出ただけです! 別に普段からそんな感じではないのです!」
男「いや、何も恥じる必要はない。むしろどんどんそういう萌え言語を使うように。大好物です」
幽霊「なんて人に取り憑いちゃったのでしょうか……」ガックリ
女「ええっ!?」
幽霊「ええっ!?」
女「いやいや、いやいやいや! アンタさっきものすごい会話してたじゃないの!」
幽霊「そですよ! たくさんいじめられました!」
女「ねー?」
幽霊「ねー?」
男「ねー?」
女「アンタは関係ないッ!」
男「楽しそうだったからさりげなく入ったんだけど、ばれた」
幽霊「満面の笑みですごく気持ち悪かったです……」
男「この幽霊腹立つな」ギュー
幽霊「いひゃいいひゃいでふ」
幽霊「ひっ」
男「いや、何と言われても。便利な性欲処理装置、としか」
幽霊「ええっ!?」
女「アンタを殺して私も死ぬッ!」ギュー
男「ぐげげぇ」
幽霊「おにーさんの首がぎゅーっと締められ、目がくるりんっと白色にちぇんじしました。もう少しで私の仲間になりそうです」
女「う、うるさい! あんなの冗談でもなんでもないわよ! このド変態!」
男「ありがとうございます!」
女「うわぁ……」
幽霊「満面の笑みです。取り憑く相手を明らかに間違えました。きゃんせるしたいです」
女「えーと……この幽霊が、アンタに取り憑いてるのね?」
男「簡単に言うと、そんな感じ」
幽霊「……も、もしかして、外道照身霊波光線ですか?」ブルブル
女「はぁ?」
男「何言ってんだコイツは。頭悪ぃなあ」
幽霊「おにーさんが言ったことなのに! ふんがいです!」プンプン
男「ごめんね?」ナデナデ
女「…………」ジーッ
幽霊「は、はぅぅ! 睨まれています!」
女「誰が子供で誰が貧乳よッ!」ドゲシッ
幽霊「ひ、貧乳はすてーたすで希少価値なんですよ!?」
男「古いな。だが、個人的に貧乳は大好きなので諸手を上げてその理論に賛同します」
女「……あ、アンタの好みなんて知らないわよ///」
幽霊「まったくです! 好きで小さいわけではないのです!」
男「すいません、先ほど殴られた際に噴出した鼻血が止まらないのでティッシュをください」
男「ふがふが。いや、全部お前が悪い」
女「最初に悪口言ったアンタも悪いわよッ!」グイッ
男「ふがあ。押し込むな」
女「あ、ご、ゴメン……これでどう?」クイクイ
男「ん、よし。どうだ、幽霊?」
幽霊「鼻声のうえティッシュが鼻に詰まっていて、おにーさんの最大カッコ悪さを更新しました」
男「ままならないなあ」
女「……で。なんで取り憑かれてるの?」
女「そんなことも知らずにのほほんと学校に……本っ当、コイツは……!」ギリギリ
男「頬をつねらないでいただきたい。理由は、痛いから」
女「うっさい!」
幽霊「あはは。あのですね、私の住んでる家に、おにーさんがやってきたからです」
女「えっ、アンタ幽霊屋敷に住んでるの!?」
男「え? えーと、うん」
幽霊「ええっ!?」
女「ちょっと! 幽霊ちゃんが”ええっ”て言ってるわよ!」
男「そんな怖いところに住んだ覚えはないけど、幽霊が住んでたようだし、そういう意味では幽霊屋敷かなあ、って後付けで思ったんだ。でも見た目は普通のアパートだよ?」
男「安いし学校近いし。そして別に狙って幽霊のいる部屋に住んだわけではない。あとお前も頬をつねるな」
女「元々平和に暮らしていた幽霊ちゃんの元へ、男という闖入者がやって来たのね。つまり、アンタが諸悪の根源ね!」ビシィッ
男「ぐわはははー。ばーれーたーかー」
幽霊「退治してやります。えいえい」ギュー
女「とりゃー!」ギュー
男「やめて」
幽霊「調子に乗ってつねりました。少し申し訳なく思います」
男「許さん。死ねェ!」
幽霊「もう死んでます」
男「じゃあいいや、許す」
幽霊「死んだ甲斐があったというものです!」
女「あったま悪い会話してるところになんだけど、今アンタが住んでる部屋に幽霊ちゃんがいるんだから、別のところに引っ越せばいいじゃない」
男「お金がないんだ」
幽霊「おにーさんは貧乏人です」
男「だから、近くの浮遊霊の気を食べて生き長らえてるんだ」
幽霊「知らない間におにーさんに食べられてました。……な、なんだかえっちな響きですね?///」
女「…………」ギリギリ
男「軽い冗談を言っただけなのに、どうして頬をつねられているんだろう」
女「うっさい!」
幽霊「あわわわ」
幽霊「わ、私が先に住んでいたのです! 居住権を行使します!」
男「ひぃ、法律! 助けて!」ガシッ
女「寄るな触るな抱きつくなッ!」ゲシッ
男「すいません、難しい言葉に混乱しました」
女「ったく……///」
男「ただ、どさくさに紛れておっぱいのひとつでも揉んでやれ、という思いが今になって脳裏を駆け巡る。後悔先に立たずとはよく言ったものだ」
女「ちょっとは吟味してから喋りなさいッ!」ギュー
幽霊「このおにーさんは頭が悪いですね」
女「まぁね。……で、でも、本当はいい奴なのよ?」
男「…………」ニヤァ
幽霊「わ、悪い顔をしてますよ!? おにーさんは悪人です! えいえい!」ポカポカ
男「ぶべらはべら」
女「楽しそうで何よりね」
幽霊「本当は追い出して今までどおり一人気ままでいたかったですが、おにーさんといるとご飯が食べられるので我慢します」
女「んー……まあ、悪霊じゃないっぽいし、大丈夫かなぁ……?」
男「お、俺は悪霊とかじゃないよ!? ほ、本当に!」ガタガタ
幽霊「お、おにーさんは頭悪くてじつに変態ちっくですが、悪霊じゃないです!」
女「違うッ! 幽霊ちゃんの方! なんで生きてる男を悪霊と思うか!」
男「言い訳しながらおかしいなあとは思ったんだ」
幽霊「実を言うと私もです」
女「幽霊ちゃんも頭悪いの?」
幽霊「!!?」
男「涙目の幽霊可愛い」
女「喋るな」
女「……それもそうね。んじゃ、教室に戻るわよ」
幽霊「ご飯は嬉しいです。たくさん食べます!」
男「たくさん食べるのはいいが、今日の俺の昼飯は朝お前が食ったパンの抜け殻だぞ?」
幽霊「……あ」
男「即ち、お前が食う飯など存在しない」
幽霊「……へ、ヘッチャラです。今までずーっとずーっと食べてなかったから、慣れてます。問題なしです」グゥー
男「腹を鳴らしながら言う台詞ではないなあ。ああ可哀想だ可哀想だ。誰か幽霊にご飯をあげる優しい奴はいないかなあ?」チラチラ
女「ああもう、普通に言いなさいよね。幽霊ちゃん、私のお弁当で良かったら食べる?」
幽霊「ほ、本当ですか!? こんないい人に巡り合えるなんて、感激しきりです!」
男「全て俺の人徳がなせる業なのだから、俺を崇め奉るように」
幽霊「嫌です」
女「幽霊ちゃんは好き嫌いとかある?」
幽霊「なんでも食べれます」
男「無視かぁー」
友「……お、戻ってきたか。二人して何やってたんだ?」
男「搾乳プレイ」
幽霊「お、おにーさんが女さんに凄まじい勢いで廊下に連れ出されました!」
女「何言ってんのよッ!」
男「ご飯食べないの? お腹空いたんだけど」
女「アンタが余計なこと言わなけりゃ、今頃普通に食べれたんだけどねッ!」ギリギリ
男「おや、脳が大変に痛いですね。ひょっとしたら死ぬやも」
幽霊「お、おにーさんのこめかみにおねーさんの指がめりこんでいます!」
幽霊「あ……えへへっ♪」
女「…………」ギリギリギリ
男「何が気に障ったのか分からないが、こめかみに掛かる圧が増したので、このままでは確実に死ぬ」
幽霊「おにーさんの口からあぶくが出てきました」
女「いい? 変なこと言わないで、普通にしてなさいよね」
男「はい」
幽霊「教室に戻ります」
友「うーす。お前ら、相変わらず仲いいな」
女「は、はぁ!? どこを見たらそう見えるってのよ! ……こ、こんな奴なんかと///」
男「ご飯ご飯」イソイソ
女「…………」ギリギリ
男「変なことを言ってないのにまた頬をつねられた。もう法則が分からないよ」
幽霊「おにーさんは、鈍感さんなんですか?」
男「ああ。俺が、俺達が土管だ!」
幽霊「聞き間違えてるのに肯定しましたよ!? そしてどういうわけか私まで土管にされました。幽霊なのに」
幽霊「はい! います!」
男「いや、成仏した」
幽霊「!!?」
女「あんまりいじめないの。……はい、幽霊ちゃん。これ食べていいわよ」コトッ
友「あれ、女さんも付き合ってあげてるの? 珍しいね」
女「んー、まぁ、ね」
幽霊「お、お弁当です! いただきます!」
女「……物の幽体離脱? そんな感じになるんだ」
友「?」
男「冷めた食パンおいしくない」モソモソ
女「ん。おいしかった?」
幽霊「はい! それはもう!」
女「そっか。よかった」ナデナデ
幽霊「あ……えへへへへっ♪」
男「見ろよ友、女が何もない空間に手をゆらゆらとしてるぞ。俺が思うに、薬が切れた結果の幻覚が見えてるのだと思うぞ」
友「いや、普通にお前の戯言に付き合ってあげてるだけだろ」
女「男、あとで顔貸せ」
男「たぶん殴られる。言うんじゃなかった」
友「ご愁傷様」
幽霊「あわわわわ」
幽霊「頬が腫れてますよ、おにーさん」
女「当然の報いよ。ふん、だ」
友「あっはっは。んじゃ俺は先に帰るな」
男「待てよ。一緒に帰って友達に噂とかされると恥ずかしいし、一緒に帰らないか? ゲーセン行こうぜ」
友「頭おかしい奴とは一緒に帰りたくないんだ」
男「じゃあ仕方ないな。また明日な、友」
友「ああ。また明日な、男。それに女さん、あと幽霊も」
女「はいはい。またね、友くん」
幽霊「見えてないようですが、また明日です」
男「幽霊とか馬鹿じゃねえの」
友「お前が言うな」
幽霊「見えてるおにーさんが言うのは明らかにおかしいです!」
女「じゃあ、一刻も早く死んで証明してみなさいよ」
男「女の台詞の鋭利さといったら……!」
男「……さて。んじゃ俺らも帰るか」
幽霊「はい! 一緒の登校、一緒の下校です!」
女「そうね。……い、一緒の方角だから、アンタと一緒に帰るのも仕方ないわよね///」
男「誰に言ってんだ」
女「う、うるさい! ただの独り言よ!///」
幽霊「……ふーむ」
男「ああ」フニフニ
幽霊「ひゃ、ひゃああ」
女「セクハラはするなッ!」ゲシッ
男「これは幽霊に触る大義名分を得たと思い、急ぎほっぺをふにふにしただけです。本当はおっぱいとかお尻とか触りたかったんだけど、勇気が出せずにほっぺに留まったんです。だから殴らないでください」
幽霊「び、びっくりしました///」
女「コイツは……まさかとは思うけど、家で変なことしないでしょうね?」
男「まっ、ままままままままままままさかあ!!!」
幽霊「このままでは確実に変なことをされます。貞操の危機です。初体験が生身ではなく幽体とは思いもしませんでした」
男「し、しませんよ!? そんな人として間違ったこと……あ、でも相手は幽霊だから人としてとか関係ないから……よし、する!」
幽霊「男らしさが間違った方向で発揮されてます」
男「なんてこった! 俺の幽霊があ!」
幽霊「……べ、別に私は誰のものでもないです///」
女「何か聞き捨てならないものが聞こえたわね」
男「おや、夏なのに寒気が」
女「生きてるだけでありがたいと思いなさい」
幽霊「私は死んでますけどね?」
男「いやまったく。わはははは!」
女「不謹慎ッ!」
幽霊・男「ご、ごめんなさい」
女「まったく……で、どうする、幽霊ちゃん? うち来る?」
幽霊「……そうしたいのは山々なんですが、おにーさんに取り憑いているので、おにーさんから離れられないんです。一度取り憑くと、そう簡単に別の人に取り憑いたりはできないのです」
男「そうなのか! それなら仕方ないなあ!」ニマニマ
女「……明日幽霊ちゃんに何かあったか聞くから。変なことしたら……分かってるわよね?」
男「お仕置きとしておっぱいを押し付けられるのか。いや困ったなあ、おっぱい怖いからなあ」
女「するわけないでしょッ!」ギューッ
男「饅頭怖いだとまんじゅうが腹いっぱい食べられるのに。おかしい」
幽霊「おにーさんのほっぺがびろーんってなってて面白いです」
幽霊「はい!」
男「はいと来た。目の前で自身の殺人事件の計画を打ち明けられる恐怖に、君は打ち勝てるだろうか。ちなみに俺は勝てない」ブルブル
幽霊「おにーさんの顔色が面白い感じに」
女「これだけ怯えてたら大丈夫そうね……じゃあね幽霊ちゃん。あとついでに男も」
幽霊「はい! さよならです、おねーさん」
幽霊「おにーさんは実はおじーさんだったのですか?」
男「いや、見た目通り高校生です。衝動的に適当なことを言う癖があるのです。勘違いさせてごめんね?」
女「気にしないでいいわよ。それくらいは想定内だから」ヒョコッ
男「ひぎぃッ」
幽霊「あ、おねーさん。さっきぶりです」
女「幽霊とはいえ、やっぱコイツのとこに女の子一人置いとくのは危ないわね。……し、しょうがないわよね、道義的にね、うん」
幽霊「何を一人で言ってるんでしょうか?」
女「だ、だから、仕方なく、仕方なく! 幽霊ちゃんを守るため、……わっ、私もアンタの家に泊まってあげるわよ!///」
幽霊「わあ! はーれむ! はーれむですよ、おにーさん!」
女「ちっ、違うわよ!/// ……ていうか男、どうしたの?」
男「びっくりした時にとっておきの破瓜の声をあげたのに、誰にもつっこまれなくて悲しんでたんだ」
幽霊「別の意味で可哀想ですね、おにーさん」
幽霊「おにーさんはねがちぶですね」
男「ネガティブ、な」
幽霊「ねがちぶ」
女「あ、私一度家に帰るわね。荷物とかあるし、親にも言っておかないといけないから」
男「荷物ってなんだろ。ぱんつかな。ブラ……は、ないな。なぜならぺたんこだから、する必要性がない」
女「えい」サクリ
男「ぎにゃあ」
女「じゃあね、幽霊ちゃん。また後でね」
幽霊「は、は、はい」ガタガタ
男「前が見えねえ」フラフラ
幽霊「はい」
男「というわけで、我が家に着いた」
幽霊「私の家でもあります」
男「俺がお金を出して借りてるはずなんだけどなあ」
幽霊「居住権を行使します!」
男「ひぃ、また法律! 助けて!」ガバッ
幽霊「ひゃ、ひゃああ///」
女「やー、お母さんに勘ぐられて本っ当困ったわよ。そんなんじゃないの……」ガチャ
男「oh,bad timing」サワサワ
幽霊「あ、あの、おにーさん……そこ、お尻ですよ?///」
女「お仕置きの時間よ」ゴゴゴゴゴ
男「ああ、こうやって要所要所で折檻を受けることにより、人生のバランスがとられているのか。よくできていやがる、ちくしょう。でもお尻柔らかいからいいか」ナデナデ
幽霊「あ、あの、おにーさん、そ、その……困ります///」
女「男が泣くまで殴るのをやめないッ!」
男「この女、怖すぎる」ガタガタ
女「うっさい! アンタが幽霊ちゃんを襲わなけりゃ殴ったりしないわよ!」
幽霊「お、襲われたんですか、私?」
男「いかん、幽霊の怯えた表情に嗜虐心が刺激され、またムラムラしてきた」
女「もっかい殴る?」
男「勘弁してください」
幽霊「一点の曇りもない土下座です」
男「どうだろう。幽霊、ちょっと冷蔵庫開けて中身見てくれ」
幽霊「はい。……あれ? あれ?」スカスカ
男「あー、そういや物に触れないんだったな。すっかり忘れてた」
幽霊「そでした。私も忘れてました。おにーさんたちと話してると、時々自分が幽霊だということを忘れちゃいます」
男「若年性痴呆症か。可哀想になあ」
幽霊「それくらい楽しいって話だったのに! おにーさんはひどいです!」
男「はいはい。ごめんね」ナデナデ
幽霊「ううう。おにーさんになでられると、どういうわけか許してあげたくなる心地になってしまいます」
女「…………」イライラ
男「なあ幽霊、視界の端に何かとんでもない怒気を背負った鬼のようなものが見えるんだけど、お前の仲間が遊びに来てたりしないか?」ナデナデ
幽霊「あれはおねーさんですよ、おにーさん?」
幽霊「あ、あぅ……ほ、ほっぺ、つつかないでください///」
女「はいこけた!」ドゲシッ
男「大変痛い!?」
幽霊「芸術の域に達しそうな飛び蹴りです」
男「うぐぐ……てめえ! 何しやがる! てめえ!」
女「こけたの。偶然。だから仕方ないの。ドジっ子なの」
男「あんなライダーキックをかましておいて偶然こけたとかちゃんちゃらおかしいぜ! ただ、ドジっ子なら仕方ないので許す」
女「自分で言っておいてなんだけど、それで許すのはおかしいのよ?」
男「ドジっ子とか好きなんだ。ドジっ子メイドとかいいなあ」チラチラ
女「やらないわよ」
男「別に胸元を強調するデザインじゃないから貧乳の方でも安心ですよ? あ、でもコンプレックスを刺激する姿を眺めるのもご飯が進みそうだし、それもアリだな!」
女「何か突拍子もない天災が起こってコイツだけ原子にまで分解されないかなあ」
幽霊「私、着替えとかできません」
男「じゃあいいや。することないし死のうかな」
女「そんなんで諦めるなッ!」
幽霊「そんな様でよくこの年齢まで生き残れたと感心しますよ、おにーさん」
男「どうにもいじめられて辛いので、そろそろ夕食の材料でも買いに行きましょう」
女「え? 冷蔵庫に何かないの?」
男「即席ラーメンとかならあるが、わざわざ女が来てくれたのにそんなのを出すのは申し訳ないからな」
女「……そ、そう。……ま、まあ、私をもてなすのは、とっ、トーゼンよね!?///」
幽霊「どして声が裏返ってるんですか、おねーさん?」
女「うっ、うるさいっ!」
幽霊「ふああっ!? こっ、怖い、怖いですっ!」ピュー
男「ああよしよし。幽霊をいじめるなよ、女。貧乳同士仲良くしろと言ってるだろ?」
女「アンタ毎秒喧嘩売ってるでしょッ!?」
幽霊「変な二つ名を勝手に付けないで欲しいです……」
女「……ね、ねぇ。幽霊ちゃんも落ち着いたみたいだし、もうなでなくてもいいんじゃない?」
男「そうは言うが、なでてると幸せだから手が止まらないんだ」ナデナデ
幽霊「私も、成仏する時みたいにいー気持ちです……」ポーッ
男「そのまま成仏されたら寂しいのでやめておこう」
幽霊「はわっ!? なでなでが!」
男「お、ナイス萌え言語。今後も努めるように」ナデナデ
幽霊「さながら永久機関です」
女「ねえ、男。手を止めて素直に買い物に行くのと、動けなくなるまで殴られてから買い物に行くの、どっちがいい?」
男「そろそろ買い物に行こうか」
幽霊「おにーさんの顔色が人間のそれとはかけ離れています」
幽霊「すーぱーまーけっと」
男「お、これは言えたな」ナデナデ
幽霊「これも、です。なんでも言えます。あいでんててー」
男「アイデンティティ」
幽霊「あいでんててー」
女「…………」
男「ん、どした女。幽霊をじーっと見つめて」
女「ゆ、幽霊ちゃん。もっかいさっきの言って?」
幽霊「はぁ。んと、あいでんててー」
女「……ゆ、幽霊ちゃん可愛い!」ダキッ
幽霊「はわわっ!」
幽霊「あ、あいでんててー」
女「あああ……可愛い可愛い可愛いっ!」ナデナデナデ
幽霊「は、はぅあぅはぅ///」
男「百合ってるところ悪いが、一般人には幽霊が見えないがため、一人でくねってるちょっと精神がアレな奴と思われてますよ」
女「レズじゃないっ! 誰がアレよっ! ……って、なんでそんな離れてるのよ」
男「知り合いと思われると嫌なので」
女「知り合いでしょ、男クン?」テクテクテク ギュー
男「今回に限って言えば俺は悪くないと思うのだが、どうして頬をつねられているのだろう」
幽霊「は、はぁはぁ……び、びっくりしました///」
男「ああ、俺もよもや知り合いが街の往来で突然発情するとは思いもしなかった」
女「言い過ぎよッ! ……ち、ちょっと幽霊ちゃんの可愛さに前後不覚になっただけよ///」
男「しっかりしろよ、レズ女」
女「うっさいロリコン。童貞こじらして死ね」
幽霊「酷い戦いもあったものです」
女「もうやってないわよ!」
幽霊「くねくね」ユラユラ
男「そんなわけで三人で入店したわけだが、何買おう」
女「晩ご飯でしょ? 何食べたい?」
男「食べたいものはたくさんあるが、生憎技術が欲望に追いついていないもので、できるものは限られているんだ」
女「いいわよ。泊めてもらうんだからご飯くらい作ってあげるわよ」
男「折角の申し出だが、毒を盛られると死ぬ体質だから遠慮しとくよ」
女「誰でもそうよっ! アンタを殺すならそんな手間のかかる手段なんて採らないわよ!」
男「暗に直接殴り殺すと言われているようで、震えが止まらないよ」ブルブル
幽霊「マネしたくなる程度には楽しそうです」ブルブル
男「別に楽しくて震えているわけではなくて、身体の防衛機構が勝手に震わせるんだ」
幽霊「難しいことはよく分かりません」
男「実は俺もなんだ。しょうがないからサメの話でもしようか」
幽霊「きばがかっこいいです」
男「ぐええ」
幽霊「おにーさんの首におねーさんの手ががっしりと食い込んでいます。一種の刑罰と言われても違和感のない風景です」
男「さて、女に酷い目に遭わされたが、まあいつものことなのでよしとしよう」
幽霊「おにーさんの度量が果てしないです」
女「単に文句言う度胸がないだけよ」
男「えへんえへん。ええと、メニューだけど、幽霊は何が食べたい?」
幽霊「えっ、私が選んでいいんですか?」
男「ダメだよ」
幽霊「もう何も信じられません……」ションボリ
女「幽霊ちゃんをいじめるなッ!」ドゲシッ
男「軽い冗談なんです。すぐに冗談と言う予定だったんだけど、なんかゴリラ的な力場に遮られたんです」ハナヂ
女「まったく……それで幽霊ちゃん、何が食べたい? なんでもいいわよ?」
幽霊「え、えと……じゃ、ハンバーグがいいです。食べたいです」
女「そっ。じゃあひき肉と玉ねぎ、あと卵ね。そだ、パン粉とかある?」
女「ん、それで大丈夫」
幽霊「おにーさん、おにーさん。パンは朝おにーさんが食べちゃった分で全部ですよ?」クイクイ
男「しまった。しかし今更そんなことを言ったら『じゃあ代わりにお前がひき肉になれ』とか言い出しかねないからな。幽霊、陽動を頼む。その間にどうにかして手に入れてくる」
幽霊「わ、分かりました。せきにんじゅうだいです!」フンス
女「なんでアンタは人を殺人鬼扱いするの?」
男「しまった、ばれた! ええとええと、俺より幽霊をひき肉にしたほうが珍しい味のハンバーグができると思いますよ?」
幽霊「物理無効ですのでひき肉にはなれません」
男「いや、どういうわけか俺と女に限っては触れるので、手でミンチ状になるまで殴ればできる」
幽霊「ふわああん!」
女「だから、幽霊ちゃんをいじめるなッ!」ドゲシッ
男「冗談です。紳士なので、女性に手をあげるなんてありえないです。代わりじゃないけど女性によく殴られます。納得はいってません」ハナヂ
幽霊「ぐすぐす……おにーさんはひどいです。悪魔です」
男「デビルイヤーは地獄耳!」ババッ
幽霊「も、ものすごくかっこいいぽーずです……!」
女「私には間違ったラジオ体操の動きにしか見えないわね」
女「恥ずかしがるくらいなら最初からしなきゃいいのに」
幽霊「あんなにかっこいいのに恥ずかしがるなんて、おにーさんはどうかしてます」
男「いや、どうかしてるのは幽霊の美的感覚だ」
幽霊「またいじめられました……」ションボリ
男「ションボリする幽霊は可愛いなあ」ナデナデ
幽霊「ションボリとナデナデが相殺され、ちょうどにうとらるの感情です。無です。むー」
男「では、なでりを強めたら?」ナデナデナデ
幽霊「何やら嬉しい心地になりました」ニコニコ
女「はいはい、そこまで! 幽霊ちゃんもこんな奴に付き合ってあげる必要なんてないのよ?」
幽霊「付き合ってあげてるわけではないです。なでられると嬉しいのです」
男「なんと好都合な。乳でも尻でもなでてくれよう!」
幽霊「遠慮します」
男「話が違う。解せぬ」
女「あっ、こら何を勝手に……!」
男「ふむン。幽霊とはまた違う楽しさがあるね」ナデナデ
女「……い、意味分かんないし。なでることの何が楽しいってのよ///」
男「言われてみると確かに。何が楽しいんだか」パッ
女「……あ、やめるんだ」ションボリ
幽霊「おねーさん寂しそうです!」
女「なあっ!? だっ、誰が寂しそうだったのよ!?///」
男「ばか大きな声でそんなこと言うな。チクチク刺激していたぶるのが楽しいのに」
幽霊「あちゃー、失敗しました。ごめんなさい、おにーさん」
幽霊「私はおにーさんの子供ではないですが、大きくなります。おっぱい育てます!」
男「人間的な話なのに。あと乳は現状維持でどうかお願いします」
幽霊「おにーさんはロリコンさんなので、いつでも身の危険を感じています」
男「ばか、危険度で言うなら今の俺が一番高いぞ? なぜならいま女が静かなのは怒りを溜めている最中だからで、もう少しで超必殺技が俺に降りかかるからでげべっ」
幽霊「降りかかってます」
女「アンタが余計なことしなけりゃ最初からそうしてるわよッ!」
幽霊「お買い物は危険がうぉーきんぐです」
男「一般的な買い物の場合は歩いてないんだけどな。女がついてくると往々にして歩き出す」
女「アンタと一緒じゃなけりゃ、私だってこんなことにはならないわよ!」
幽霊「つまり、お二人は特別同士なんですね!」
女「にゃあっ!? そ、そ、そっ、そんなわけないじゃない! ね、ねえ?///」
男「さっきのびっくりした時の声が猫みたいで可愛かったのに、突然のことに録音できなかった。あまりの悔しさに血尿が出そうだ。……否、出す!」
幽霊「無意味に男らしいです」
女「……え、えと。アンタって猫好きなの?」
男「好きだなあ。でも猫かおっぱいかと言われたら、断然後者を推すね!」
幽霊「猫に人のおっぱいがくっついてたらどうですか、おにーさん?」
男「残念ながら俺はケモナーじゃないからあまり嬉しくないなあ」
幽霊「足し算で全ての物事がうまくいくと思ったら大間違いです。反省してください、おにーさん」
男「あれ、俺?」
男「納得は未だいっていないが、飯には賛成だな」
女「(にゃー……いや、いきなり語尾ににゃーとかつけたら、あんまりすぎるわね)」ブツブツ
男「何を言ってるのですか、お嬢さん」ヌッ
女「きゃああああああ!? いきなり近寄るなッ!」ドゲシッ
男「なんか近寄っただけで殴られた。酷すぎる。こんな世界では、この先生きていく自信がない」ハナヂ
女「あっ、ごっ、ごめん! つい! ……で、でもアンタも悪いのよ? いきなり女の子に無遠慮に近寄ったりするから。……まあ、殴ったのは悪かったケドさ」
男「知り合いがいきなりぶつぶつ言い出したら、誰だって心配して近寄るだろーが」
女「……し、心配したんだ。ふーん、そっか///」
男「当たり前だろ。だのに殴られて、お兄さん意気消沈ですよ」
女「そ、そっか。……じゃ、じゃあさ、お詫びってわけじゃないけど、これから語尾にさ、にゃ」
幽霊「このせんせいきていくとは、きのこるの亜種ですね」ナデナデ
男「幽霊になでられて元気百倍! もう何も怖くない」
女「…………」
男「女? どうかしたか?」
男「どうにもそうは思えない」ハナヂ
幽霊「見てるこっちが貧血になりそうなくらい鼻血を出してますよ、おにーさん」
男「たまにはラッキースケベで鼻血を出したいよ。ていうかそういう事態に陥ったなら、鼻血が出るのではなく海綿体に血液が集まるよな」
女「なっ、何言ってんのよアンタは!」ギュー
男「ほほほひっはふは(頬を引っ張るな)」
幽霊「かいめんたい、って何ですか、おにーさん?」
男「おおぅ。なんとイノセントな瞳で問いかけるのだ、この娘は。よし、汚そう! 海綿体とは、ち」
幽霊「ち?」キラキラ
幽霊「ち?」キラキラ
男「視線に物理的な力があろうとは予想だにしなかったよ……。俺の負けだ、完敗だ。女、メルヒェンに説明してあげてくれ……」
女「おちんちんのことよ」
男「てめえ! 何教えてやがる! てめえ!」
女「早めの性教育よ」
男「メルヒェンにと言っただろ! なんということを……! 俺が親なら今頃泣いてるね!」
幽霊「なるほど、おちんちんですね! おちんちんさん、こんにちは」ニッコリ
男「人の下腹部に挨拶しないでください!」
女「あははははっ!」
幽霊「そですね。じゃあ行きましょうおねーさん、おちんちんさん」
男「その呼称やめてくれないと泣きますよ?」
女「あははっ。ほら幽霊ちゃん、コイツいじめるのも楽しいけど、いい加減にしないと材料が売り切れちゃうわよ?」
幽霊「あっ、それは大問題です! 急ぎひき肉と卵を買うのです!」フヨフヨ
女「あっ、行っちゃった。あの子、物掴めないのに……」
男「どうせ戻ってくるよ。つーかお前、あんなちっさい子に変なこと教えるねい」
女「あら、妙なところでまともなのね。アンタのことだから喜ぶと思ったのに」
男「いや、まあなんというか、嬉しいは嬉しいんだけど、どう扱えばいいのか。実際に見せて反応をうかがってもいいかなあ?」
女「私がなんのために泊まりに来たか忘れたようね。幽霊ちゃんをアンタから守るために来たのよ?」
男「なるほど。じゃあ保護者責任でお前も幽霊と一緒に見てください」
女「なっ……だっ、誰がアンタの粗末なものを見るってのよ!///」
男「貴様、俺の秘密どこで知った!?」
女「うっさい!」
幽霊「物に触れないことを忘れてました……あ、またおにーさんがほっぺを引っ張られてます」フヨフヨ
女「きったないわねー。アンタ一人だけならまだしも、幽霊ちゃんもいるんだからちょっとは掃除しなさいよ」
幽霊「私は幽霊なので、これくらい汚いほうがおどろおどろしい雰囲気が出てよいかと思われます。ひゅーどろどろ」
男「ああ怖い怖い。しかし、おっぱいを俺に押し付けてひゅーどろどろ言われるのが一番怖いんだ」
幽霊「よいことを聞きました」
女「嘘よ」
幽霊「また騙されそうになりました……。でも、灰色の脳細胞がおにーさんの言葉を嘘と見抜きました。私は頭がいいです」
男「いや、前にも似たような嘘を言ったのに、少しでも信じた時点でとんでもなく馬鹿だよ」
幽霊「おにーさんがまたまた私をいじめます。ひんひん」
女「ああよしよし。男は……もう、幽霊ちゃんをいじめるな!」
男「あまり大きな声を出さないで。怖くて泣きそうだ」
幽霊「怖い!? 私の出番です! ひゅーどろどろ!」
男「だから、そんな元気いっぱい言われても怖くないです」
幽霊「ままなりません……」ションボリ
男「何か手伝おうか?」
幽霊「あ、私も手伝います」
女「じゃーお願い。何ができる?」
男「後ろでにぎやかし」
幽霊「応援ならお任せです」
女「……テレビでも見てて」
男「夕方のテレビなんて見ても仕方ないしなあ。よし幽霊、イチャイチャしよう」
幽霊「嫌です」
男「先っぽ! 先っぽだけだから!」
幽霊「何がですか?」
女「私の前でよくもまあそんなどぎついセクハラできるわね?」チャキッ
男「OK俺が悪かった、だからその手に持ってる鈍く光る刃物を本来の使い方以外で使わないでください」
幽霊「今日もおにーさんの土下座が光ってます」
幽霊「無理です」
男「そりゃそうだ」
女「ねー男、することないんだったらお風呂でも洗っててー」
男「くそぅ、俺が、この俺が女に言われるがまま顎で使われていいのか!? 否、よくない! 今こそ俺たち立場の弱い男衆で団結し、立場逆転を! 古き良き亭主関白を」
幽霊「おにーさん、おにーさん。一緒にお風呂洗いましょうか?」クイクイ
男「あ、それは楽しそうだ。やるやるー」
女「……ま、まあ、大丈夫よね。たぶん」
──風呂場──
男「風呂だ!」ババーン
幽霊「お風呂です!」ババーン
男「いや、やはり風呂はいいな。わけもなく仁王立ちしたくなる」
幽霊「狭いです」
男「アパートの風呂だからなあ。それもやむなしかと」
男「なんと。今の発言で俺の興奮度はうなぎ登り、既に暴発しそうです」
幽霊「どして前かがみになってるんですか、おにーさん?」
男「男には、色々あるのさ……」
幽霊「おちんちんさんが元気いっぱいなんですね?」
男「折角アンニュイな感じで言ったのに。笑顔でそういうこと言われると、なんか泣きそうだよ」
幽霊「じゃ、お風呂洗っちゃいましょうか、おにーさん」
男「はい。しかし、お前は物を掴めないから何も手伝えないんじゃないか?」
幽霊「むぅ。じゃあ、応援します。ふれー、ふれー、おにーさん」
男「手を振って応援してくれるのはありがたいが、風呂場は狭いのでその手がものすごく俺に当たり、結構痛い」
幽霊「痛いのはおにーさんだけじゃないです。当てる私も痛いのです!」
男「なんでどっかで聞いたことがあるようないい台詞を言うの? そして幽霊も痛覚があるの?」
幽霊「かっこいいからです。痛覚はあります。たぶん」
幽霊「いひゃいでひゅ、おにーしゃん」
男「可愛い」ナデナデ
幽霊「はぅぅ」
男「さて、幽霊とイチャイチャできて満足したので、洗いますかね」
幽霊「知らずイチャイチャされました。許しがたいです。あとで怖がらせたり呪ったりします」
男「久々に幽霊の趣味が出た」
幽霊「隙あらばいじめます。おにーさんはひどいです」
男「まあそう言うなよ。幽霊とコミュニケーションをとれる者の特権だ」ゴシゴシ
幽霊「……まあ、世には私みたいな幽霊を認識できない人間の方が多いですからね。……あの、おにーさん」
男「ん?」ゴシゴシ
幽霊「ありがとございます」ペコリン
男「どういたしまして」ペコリン ガッ
幽霊「どしておにーさんは何のありがとうか分からないのにお辞儀を返すのですか?」
男「頭下げた時に風呂の縁に頭ぶつけて痛い」
男「でへへぇ」ニヤニヤ
幽霊「この程度だろう、という想像をはるかに上回るほど気持ち悪いです。おにーさんの地力にはほとほと驚かされます」ションボリ
男「ちくしょう」
幽霊「それで、おにーさん。さっきのありがとうですが、私のことを嫌わないでありがとう、と言いたかったのです」
男「…………」
幽霊「なんだかんだ言って、私は幽霊です。人に嫌われて当然みたいな存在なのに、おにーさんは私を普通に受け入れてくれて。それが、嬉しかったのです」
幽霊「そのありがとう、なのです。だからおにーさん、改めて言います。ありがとうございます」
男「気にするな。代わりにおっぱいを触らせてください」
幽霊「失望の数が多すぎます……」ションボリ
男「い、いや、ここは思い切って、も、も、も、もんだりしますよ!? ほ、ほら、今はなんかつけこめる雰囲気っぽいし!」
幽霊「おねーさんを呼んできましょう」フヨフヨ
男「い、一回……いや、二回。……否! やはり、三回、もしくはそれ以上、揉むね! 俺は!」
女「あんなに小さい子の胸を?」
男「おや、件の胸と似たような人。こんにちは」
女「馬鹿ねー、もし実際に触ってたらそんなのじゃ済まないわよ」
幽霊「ぷぷぷぷぷ」ヒョコッ
男「あっ、幽霊! 貴様、いつの間に忍法入れ替わりの術でニントモカントモ拙者忍者でゴザルよニンニンを使えるようになりやがった!」
幽霊「無駄に名前が長いです」
女「男がいやらしいことをしてきます、って私を呼んだのよ」
男「……ああ! そりゃ仕方ないさ! 風呂場だもの、いやらしいことのひとつもしたくなるさ!」
幽霊「ひどい開き直りっぷりです」
女「まだ殴り足りないのかしら?」バキボキ
男「ひぃ、女が自分の全身の骨という骨を粉砕しながらゆっくり近寄ってくる!」
女「してないわよ! 指の骨を鳴らしたの! 変なこと言うな!」
女「あら、そうなの?」
男「まあ幽霊はもう死んでるから関係ないけどな」
幽霊「それもそうです。折角だし、鳴らしてみましょう」グイグイ
男「どした?」
幽霊「……ちっとも鳴りません。ペキポキのペくらい出てもいいものです」ションボリ
男「ションボリする幽霊は可愛いなあ」ナデナデ
幽霊「……///」
女「…………」イライラ ギュー
男「俺の頬をつねる理由を述べよ」
女「うっさい!」
幽霊「幽霊ならいますよ?」フヨフヨ
男「本当だ。可愛い」ナデナデ
幽霊「はうう」
女「…………」ジーッ
男「あ、あの、女さん。手を出さないのは大変に嬉しいのですが、その、ゴルゴーンもかくやと思えるほどの視線の圧はどうにかなりませんかね。このままでは石化する」
女「…………」ジィーッ
男「ええと、その、いかん、とうとう身体が石に」
幽霊「見た目は一緒です」ベシベシ
男「痛い痛い。顔を叩かないで」
幽霊「石の強さを過信しました」
女「……はぁ。さて、それじゃ私は料理の続きをしてくるわね」
男「ん、あ、ああ。ふぅ、ようやっと出ていってくれたか。ああ緊張した」
女「超目の前にいるわよッ!」
女「よくないッ! なによ、そんなに私が嫌いなの!?」
男「いやいや、まさか。大好きですよ?」
女「んな……ッ!?///」
幽霊「これが噂の告白シーンですか」
男「あ、いかん、何か勘違いさせた模様。か、勘違いしないでよね、勘違いなんだからねっ!」
女「ドやかましいッ!」
幽霊「ややこしいです、おにーさん」
男「時々ツンデレ語を使いたくなるんだ」
女「そ、そんなことより、ど、どーゆーことなのよ! そ、その、……だ、大好き、って///」
男「大好きです」
幽霊「告白されました」
女「なんで私に告白した次の瞬間に幽霊ちゃんに告白してるかッ!」ギューッ
男「ぐええ」
幽霊「またおにーさんが首を絞められてます。見慣れた光景で、ちょっと飽き飽きです」
幽霊「私はもう死んでるので死に瀕してません」
男「然り然り! がはははは!」
女「殺されかけてんだからちょっとは苦しめッ!」ギューッ
男「ぐええ」
幽霊「おにーさんは律儀です」
男「さて、例によって臨死体験から奇跡の生還を果たしたので、さっきの大好きの説明をします」
女「は、早くしなさいよ! 全然キョーミないけど!」
男「じゃあしない」
女「…………」ギューッ
男「ひはひ」
幽霊「おにーさんのほっぺは大体いつも伸びてます」
男「拷問?」
女「そうよッ!」
男「なんと。でも石も何も抱いてないよ? それどころかこんな狭い風呂場に女の子が二人も揃っていて、まるで何かのご褒美のようだけどいいんだろうか」
女「いい加減にしないと髄液が出るまで殴る」
男「ちょっと涙出るくらい怖かったので真面目に説明します」
幽霊「よしよし。怖くないですよー? 怖いのは私ですよー?」ナデナデ
男「わぁい」
女「…………」
男「ち、違うんです! ファービーか俺かというくらいなでられちゃうと簡単に喜ぶんです! あと幽霊は怖くない」
幽霊「さりげなくけなされました……」
女「いいから。説明。早く」
男「は、はい。ええとですね、さっきの大好きというのは、異性としての感情ではなく、友人としての大好きでして、でも見た目は花丸をあげたいくらいの出来ですし、それに性格も実はそんな嫌いじゃないし、どうしよう」ナデナデ
女「説明が混乱してるッ!」
女「好きに対する批評内容じゃないわよ! ツインテールっていうの!」
男「これはこれはご丁寧に。男と申します」ペコリン
女「私の名前がツインテールじゃないッ!」
幽霊「私は幽霊っていいます」ペコリン
男「お、よい自己紹介だ」ナデナデ
幽霊「えへへへー」ニコニコ
男「こんな小さな幽霊が自己紹介できたのに、おっきな女は自己紹介できないのかなー?」
女「何この鬱陶しい流れ。ああもう分かったわよ。私は女。これでいい?」
男「ちなみにおっきなと言ったが、この大きなは年齢だけにかかっており、身長や胸にはかかっていないのでご注意ください。身長はともかく、胸は幽霊とほぼ差がないですから」
女「わざわざのご説明痛み入るわねッ!」ギリギリ
男「ぎええええっ」
幽霊「今は亡きフリッツ・フォン・エリックが蘇ったかのような技の冴えです」
女「結局よく分からなかったわよ。……ま、まあ、その。この髪形を褒めてくれたのは嬉しいケドさ///」
幽霊「私も昆布を垂らすべきでしょうか」
女「幽霊ちゃんまで!? 違うって言ってるでしょッ!」
幽霊「ふああっ!? お、おにーさーん!」フヨフヨ
男「よっしゃ慰めると称して幽霊の身体まさぐりタイム来た! 来い、幽霊!」ニマニマ
幽霊「ううううう……おねーさーん!」ダキッ
女「私が怒鳴ったのに……まあしょうがないわよね。ごめんね、幽霊ちゃん」ナデナデ
幽霊「はうー」
男「おっぱいホールドの構えが無駄になった」
女「アンタそのうち捕まるわよ」
男「自分でも薄々そんな気はしていたんだ。早めに権力を掌握しないとなあ」
女「今のうちにコイツを消しておいたほうが世のためのような気がするわ」
幽霊「おにーさんが仲間になりたそうにこちらを見ている」
男「まだ死にたくないです」
女「あらあら、可哀想に。男もそれくらい受け入れる度量があるといいのにねー?」
男「うぅむ……よしわかった、女神転生のアリスでもしんでくれる? の問に神速ではいと答えた俺だ、幽霊の仲間になってやる!」
幽霊「わーいわーい!」
女「ちょ、ちょっと! 何言ってるのよ!」
男「でも死ぬのは怖いので幽霊を生き返らせる方向で」
女「あ、そ、そうよね。……焦らせるな、ばか」ギュー
男「痛い」
幽霊「生き返りたいところですが、もう肉体ないです」
男「この幽霊使えねえなあ」
幽霊「久しぶりにいじめられた気がします。なんだか少し嬉しいです」
男「この幽霊は歪んだ性癖を持ってて一寸怖いなあ」
幽霊「あっ、怖がられました! ひゅーどろどろ!」
男「はいはい怖い怖い」ナデナデ
幽霊「えへへへへー♪」ニコニコ
男「さ、さぁて。遊ぶのもいいが、そろそろ掃除を再開しないとな」
幽霊「何を焦ってるんですか、おにーさん?」
男「あ、焦ってなんていないよ? 決してさっきと同じ轍を踏むまいとしているのではないよ?」
女「……ひ」
男「すいません今すぐ掃除しますので髄液だけはどうか!」
女「……ひゅーどろどろ///」
男「…………」
女「ひ、ひゅーどろどろ」
男「……え?」
女「ひ、ひゅーどろどろ!」
男「……え、えーと」
女「……だーっ! ナシッ! 今のナシッ! 全部忘れろ馬鹿ッ!///」ドダダダダッ
男「なんか幻覚と幻聴が」
幽霊「恐るべきことに現実です」
幽霊「……はい」
男「……女も逃げちゃったし、掃除しちゃおうか?」
幽霊「……そですね」
男「ふぅ……。終わった」
幽霊「お疲れ様です、おにーさん」
男「ん。じゃ戻ろっか?」
幽霊「はい」
女「あ、お、終わったのね。お、お疲れ様」
男「ひゅーどろどろ」
女「忘れろって言ったでしょうがッ!!!」
男「ひぃ」
幽霊「お、鬼もかくやと思えるほどの怖さです! 思わず弟子入りしたくなります!」ブルブル
男「待て、コイツの恐怖と幽霊の目指す恐怖のベクトルは明らかに違うぞ。こいつの撒き散らす恐怖は物理的なもので、幽霊が目指すのは精神的な恐怖だろ?」
男「一人称がおかしいが、分かってくれて何よりだ」ナデナデ
幽霊「えへへー」
男「で、女」クルッ
女「……な、なによ。まだ馬鹿にする気!?」
男「さっきのひゅーどろどろは怖かったです」ナデナデ
女「あ……」
幽霊「?」
女「……い、今更なによ。そ、そんなことされても、別に……」
男「ああ怖い怖い女のひゅーどろどろの怖いこと山のごとしだ」ナデナデ
女「……うー///」
幽霊「……ああ! おねーさんも頭なでられたかったんですね!」
女「なっ、ちがっ///!?」
女「ち、違うわよっ! 誰がこんな奴に!///」
男「屈託のない笑みで人格破綻者って言われた。もうダメだ」ガックシ
幽霊「落ち込む姿がとてもよく似合ってます」
女「どんだけ打たれ弱いのよ。……で」
男「DE?」
女「……な、なでなでは、終わりなの?///」
男「」
幽霊「ほほう。これが目が点になる、という現象ですね」
幽霊「しょうゆおいしいです」
女「……お、終わりなら、別にそれでいいケド。幽霊ちゃんばっかひいきしてるなんて思ってないし」ナミダメ
男「い、いかん、身体が勝手に女の頭を」ナデナデ
女「……か、勝手になら仕方ないわよね」ニマニマ
幽霊「いい加減お腹空きました。いつまでこの茶番を見てればいいんでしょうか」
男「知らない間に幽霊も口が悪くなってしまったなあ。お父さん悲しいよ」
幽霊「おにーさんはおとーさんでしたか」
男「初耳だ」
幽霊「相変わらず破綻した思考です」
女「…………」クイクイ
男「ん、ああ」ナデナデ
女「んへへー♪」ニマニマ
幽霊「うーんキモイです」
女「ええっ!?」
女「アンタまで!? ううっ……もういいわよ!」
男「あっ、嘘ウソ冗談です。ぐひひひ、もっと俺をなでさせろー」
幽霊「妖怪なで男が出現しました。この妖怪は夜な夜な街を徘徊しては周囲の人間をなでるのですが、よく痴漢に間違えられて留置所に入れられるので現在の留置所は乗車率150%です」
女「何その嘘解説」
男「留置所に乗車率とは言わないだろ」
幽霊「ふたりがかりで責められて泣きそうです」ナミダメ
男「ああこれは申し訳ない。昨今の留置所は未来型だからしゅっぽしゅっぽと走るので乗車率で合ってるに違いないよ」ナデナデ
幽霊「なでなでげっと。しめしめ」
女「……あ、アンタは妖怪なで男なんだから、私もなでたいでしょ!? 特別になでさせてあげるわよ!」
男「妖怪とかこの現代社会に馬鹿じゃねえの」
女「むきーっ!!!」
幽霊「まったくです」
女「幽霊ちゃんが言うなっ! 幽霊ちゃんも妖怪の一種でしょ!」
幽霊「……幽霊も妖怪なのですか?」
幽霊「そうです」
男「算数と国語が融和するとは思わなかったよ。流石は幽霊」ナデナデ
幽霊「しめしめ」
女「いーから私も混ぜろッ!」
男「は、はい。……べ、別に殴られるのが怖いからなでるんじゃないんだからねっ!」ナデナデ
幽霊「そのツンデレ語はただの負け惜しみにしか聞こえません」
男「しまった」
女「そんなのどーでもいいから、もっと誠心誠意なでろ、ばか」
男「あ、いかん。なんか顔とかべろんべろんに舐めたくなった。いい?」
女「いくないっ!」
幽霊「おにーさんは頭おかしいですね」
女「アンタが余計なこと言わなけりゃ、そ、その……もうちょっとアレしてもよかったんだけどさ。……も、もーちょっと考えなさいよね!」
男「分かった、ゴム買ってくる」
女「~~~~~!」ドゲシッ
幽霊「真っ赤になりながらの全力拳です」
男「何か考える方向性を誤った様子」ハナヂ
幽霊「どして輪ゴムを買うだけで怒られるんですか?」
男「ああ。輪ゴムじゃなくて、ゴムってのはコ」
女「説明するなっ! いーから机の上片付けろっ! ご飯よ!」
男「この嫁は暴力的に過ぎる」
女「だっ、誰が嫁よ、誰が!///」ポカポカ
男「あいたた」
幽霊「急に攻撃の威力が弱まりました。作為的なものを感じます」
女「幽霊ちゃんはハンバーグいらないのね」
幽霊「おにーさんがいらないって言ってました」
幽霊「それ邪気眼です」
男「邪王炎殺黒龍波!」ナデナデ
女「ひゃっ! ……も、もう///」
男「なんかいい感じにまとまった。ありがとう邪気眼」ナデナデ
女「……ご、ご飯だから。なでるのは後でね?」
幽霊「それはいいことを聞きました。この後はおにーさんのエンドレスなで時間なのですね?」
男「エンドレス!?」
女「……はーい、ハンバーグの登場よ。二人とも食べちゃって。自信作なんだから!」
幽霊「わーい!」
男「あの、お二方。なでるのはまるで異論はないのですが、エンドレスという単語に一抹の不安を感じるのですが」
幽霊「じゅーじゅーと良い音をたてています。でみぐらるそーすがいいにおいです。よられが出そうです」ダラダラ
男「出てる出てる。そしてどういうわけか幽霊が俺の真上に浮かんでるせいで、その涎が全部俺に」
幽霊「うわ、汚いです」
幽霊「ふわああん!」
女「妖怪かッ!」ドゲシッ
男「顔についた涎を舐めとっただけなのに、殴られるわ泣かれるわ散々だ」ハナヂ
幽霊「うわーん、おねーさーん!」ダキッ
女「はいよしよし。本当、酷い奴よねー、男って」ナデナデ
男「なんかうっすら甘かったような」
幽霊「ふわああああん!!」
女「男ッ!」
男「感想も許されぬとは」
幽霊「ぐすぐす……」
女「次また幽霊ちゃんにセクハラしたら殺すからね」
男「セクハラなどしてない。垂らされた涎を舐めとっただけだ」
女「それがセクハラだって言ってるのよ! 普通に拭けッ!」
男「次があればそうする。でも次したら殺されるって言う話だし、どうすればいいの」
女「知らないわよ。ほら、二人とも手合わせて。はい、いただきます」
幽霊「いただきまーす」
男「遠い夢が見えなくなったよ 呟いて空を見上げたら」
幽霊「もぐもぐ……おいしーです! おねーさんは料理の天才です!」
女「い、言い過ぎよぉ。悪い気はしないけどね」
男「流れる星の向こう側に 君との約束がまぶしくうつる」
女「そこの馬鹿、歌ってないで食え」
男「今からサビなのに」
男「すいません殺さないでください。いただきます」モグモグ
女「ったく。……で、ど、どう?」
男「おいしい」モグモグ
女「……そ、そっか。ま、まあ、私が作ったんだからトーゼンだけどね!」
男「おいしい」モグモグ
女「……えへへー♪」ニコニコ
幽霊「もぐもぐもぐ。おかわりください」
男「げぶはー。こんなうまい飯食ったの久しぶりだ。余は満足じゃ」ポンポン
幽霊「よはまんぞくじゃー」ポンポン
女「ほら二人とも、食べてすぐ横になると牛になるわよ」
男「それは大変にいけない。なぜなら牛とは即ち巨乳であり、幽霊や女がそんなのになったら世を儚んで死ぬ人が多発するから。俺とか」
女「幽霊ちゃん、一緒に横になりましょ」
幽霊「巨乳化作戦開始です」
男「分かった、大人しく死ぬからどうか横にならないでください」ドゲザ
女「そうなのよ。ほら早く顔あげろ馬鹿」
男「いや、冗談なのはわかってたけど、わずかでも巨乳になる可能性がそこにあるなら、命を賭けるに十分すぎる理由なので」
幽霊「無駄にかっこよくて困ります」
女「見た目は全然かっこよくはないけどね。何この十人並みな顔」
男「失敬な。じゃあ腹ごなしというわけじゃないけど、お風呂入ってくるよ」
幽霊「あ、私も入ります」
男「やったあ!!!!」
女「なっ、ちょ、ダメに決まってるでしょ!」
幽霊「どしてですか?」
女「ど、どうしてって……女の子が男と一緒にお風呂なんて、ダメに決まってるでしょ!」
男「大丈夫、ちょっと構えがおっぱいホールドのまま固定されるだろうが、何もしないよ」
女「お前ちょっと黙ってろ」
男「だまえよっとまとってろ? 何言ってんだお前」
男「ぐえええ」
幽霊「いつもの光景です。じゃ、私は先にお風呂で待ってますね」
女「だから、ダメだってば! こんなのと一緒に入ったら妊娠しちゃうわよ!」
男「任せろ!」
女「否定しろッ!」
幽霊「私は幽霊なので妊娠とか無理です」
男「じゃあ生でし放題なのか! やったあ!」
女「うわ……」
男「あ、すいません冗談です。悪質な冗談です。引かないでください」ドゲザ
女「謝るくらいなら最初から言わなきゃいいのに。まあコイツのことだから、どうせいざとなったら腰が引けるだろうケド」
男「そうそう、俺=チキンという式が成り立つくらい根性ナシなんだ。だから、一緒にお風呂に入っても全く問題ないよ?」
幽霊「なるほど」
女「納得しないの! だから、ダメに決まってるでしょ! こいつは妖怪いやらしなんだから!」
男「また妖怪にされた」
男「します。ああいや違う、しないしませんするもんか!」
女「語るに落ちてるわよ」
幽霊「じゃあおねーさん、一緒に入りましょう」
女「あ、それはいいわね」
男「三人一緒かあ。入れるかなあ? ま、詰めれば大丈夫か」
女「私達がお風呂に入ってる間、ちょっとでも浴室に近寄ったら目抉るからね」
男「……え? あれ、三人一緒でえろえろシーンじゃないの? くンずほぐれつじゃないの?」
幽霊「洗いっこしましょう、おねーさん」
女「はいはい。じゃあ私達はお風呂入ってくるから、アンタは洗い物しててね」
男「あ、はい。……え? あれ?」
男「仕方ない、このスポンジを幽霊、この皿を女に見立て、ここに擬似風呂場を形成しよう。皿も女の胸もまっ平らだから見立てやすいな。わはは」カチャカチャ
男「『さあさあ幽霊ちゃん、大人しく胸を揉ませなさい!』『お、おねーさん、突然どうしたんですか!?』『男から守るって言って来たけど、本当は幽霊ちゃんを襲いたくて来たのよ! だからほら!』」キュッキュ
男「『だ、誰か助けてください、誰か! お……おにーさーげぶっ」
女「……何をやってるのよ」
男「言いつけ通り皿洗いを。あと、いきなり殴らないでください」
女「うっさい! 風呂場まで響く声をあげながらやるな! うるさいし近所迷惑だし私達の物真似が旨すぎるッ! なによその隠れた特技!?」
男「『そんな怒らないでください、おねーさん』」
女「ドやかましいッ! いい? もうその小劇場するんじゃないわよ!」
男「はい。あと、バスタオルを身体に巻いているようですが、もう少し結び目を甘くしないと、解けていやーん的なラッキースケベイベントは起きませんよ?」
女「格言にある通り、一度死なないと馬鹿なの治らないの?」
男「どうやらそのようで」
男「任せろ、得意だ」
女「…………」
男「気のせいか、まるで信用されてないような」
幽霊「おねーさん、まだですかー?」フヨフヨ
女「ちょ、幽霊ちゃん!?」
男「神よ!!!!!」
幽霊「? 幽霊ですよ? ひゅーどろどろ」
女「ふっ、服! 服着なさい! なんで裸で浮かんでるのよ!」
幽霊「お風呂の途中なので」
女「見るなッ!」ドゲシッ
男「見てません!」ジーッ!
女「せめて幽霊ちゃんから目を逸らして言え! なんで殴り倒されてまで見続けてるか!」ドゲシゲシ
男「すいません! すいません!」ジーッ!
女「はぁはぁ……あ」ハラリ
男「よし、続けざまに女のラッキースケベイベントもget! コンシューマー版では髪がうまい具合にここそこを隠す予定ですが、今回の現実版では全部見られます」ジーッ!
女「み、み、み、見るな、変態ッ!///」ドゲシッ
男「ありがとうございます!」
幽霊「はぷしゅっ」
幽霊「はふー。あがりましたよ、おにーさん」フヨフヨ
男「お、幽霊。先ほどは素晴らしいものをありがとうございました」ペコリン
幽霊「いえいえ、どいたまして。もしよかったら、もっとくしゃみをしましょうか?」ペコリン
男「それに感謝したのではない」
幽霊「裸の方でしたか。おにーさんはえっちです」
男「そうですそうです。で、女の機嫌はどう? まだ怒ってる?」
幽霊「顔を赤くしたまま、ずーっと黙ってました」
男「よく分からないが、生命の危険を感じる程度にはヤバそうだな。ヤクいぜ!」
幽霊「やくいぜー」
女「…………」
男「そして今、ゆっくりと湯上がりの女が登場! 素早くDOGEZAへトランスフォーム!」
女「……お、お風呂。空いたから」
男「あ、はい。……ええと。怒ってないの?」
女「……じ、事故だから。事故だからあんまり繰り返し怒ってもしょうがないし」
女「……の、脳内は犯罪じゃないから別にいい。あっ、でも幽霊ちゃんの裸は忘れなさいよ! あれは明らかに犯罪だから!」
男「つまり、お前の裸を思い出す分には構わない、と」
女「……そ、そゆコト///」
男「痴女」
女「がーっ!!!」
幽霊「痴女が変態に襲いかかってます」
男「妖怪か何かにかじられたのか頭がヤケにズキズキするが、風呂入ったら治った」
女「妖怪じゃないわよ!」
幽霊「おふとん、おふとん」ゴロゴロ
女「こら幽霊ちゃん、転がらないの。布団一つしか敷けないくらい狭いんだから、危ないでしょ?」
男「おふとん」ゴロゴロ
女「アンタまでするな」ムギュッ
男「ぐえっ」
幽霊「おにーさんの顔がおねーさんに踏み潰されています。さながら不動明王です」
男「一緒に寝ます」
女「ああ?」
男「いえすいません俺なんて便所に篭ってます」
幽霊「ますます妖怪じみてます」
女「冗談はいいから。どこで寝るの?」
男「んー。そこらの漫喫に泊まるよ」
女「ちょっと! そんなのダメに決まってるでしょ!」
男「や、流石に嫁入り前の女性と一緒に寝るのは気が引けますし。我が家に他に寝る場所ないですし。一日くらい大丈夫ですよ」
女「……はぁ。ちょっと幽霊ちゃん、こっち来て」
幽霊「ナイショ話ですね」
男「何やら女と幽霊でごにょごにょと話している。羨ましいことこの上ねぇ。俺も混じりてえ」
幽霊「けっかはっぴょー」
女「き、協議の結果、今日だけはアンタも一緒に寝てもいいことになったわよ」
男「えっ」
男「え、いや、しかし」
幽霊「おにーさんは、いやらしいことしますか?」
男「はい! ……いや、何もしませんよ?」
女「やっぱやめようかなあ」
男「あー、うん、その方がいいと思いますよ?」
女「だーっ、もうっ! 手を出さないなら一緒に寝ていいって言ってるんだから、素直に寝るって言いなさいよ!」
男「痴女」
幽霊「ちじょ」
女「がーっ!!!」
女「はーっ、はーっ……最初っからそう言やいいのよ」
幽霊「おしっこちびりそうなくらい怖いです」ブルブル
男「笹食ってる場合じゃねえ!」
女「おしっこに反応するなッ! ほら、幽霊ちゃんを真ん中に挟んで寝るわよ」
男「挟む、という単語に思わず二人のおっぱいを見てため息をついてしまったが、言うと怒られそうだから黙っていよう」
女「全部言ってるわよッ!」
幽霊「挟む、とおっぱいの間にどんな関係が?」
男「ああ。それはね、パ」
女「説明するなッ!」ドゲシッ
男「子供の知的好奇心を押さえ付けたくなかったがために起こった事件と言えよう」ハナヂ
女「はぁはぁ……ほら、寝た寝た!」
幽霊「じゃあ、私が真ん中です。いっとーしょー」
男「なんで寝る前にこんな疲れなくちゃいけないんだ」
女「アンタのせいじゃないの! ほら、電気消すわよ」パチ
女「この状況で触るのなんてアンタしかいないから、もし触られたら問答無用でアンタを殴るわよ」
男「冤罪発生率が100を超えました。助けて」
女「あら、誰か私の身体に触ったような気がするわねー。じゃ、殴るわね?」
男「酷すぎる! まだ何もしてねえのに! くそぅ、こうなったら破れかぶれだ、そのうすぺたい乳を触ってやる!」
女「うすぺたいとか言うなッ!」
幽霊「うふふふ」
男「ほら見ろ、幽霊だってpgrするほどお前の乳は薄いのだ」
幽霊「うふふ、違います。なんだか、とってもとっても楽しいです。……夢みたいです」
幽霊「みんなと一緒に学校に行って、おにーさんとおねーさんとお買い物して、一緒にご飯を食べて、お風呂に入って、一緒に寝て。……まるで、家族みたいです」
女「幽霊ちゃん……」
男「ふむ。さしずめ幽霊は俺らの子供か」
女「なっ、ちょっ、何言ってるのよ!///」
幽霊「あはは。……生まれ変わったら、また、おにーさんとおねーさんと一緒に……」
女「えっ……」
女「ちょ、ちょっと。幽霊ちゃん、どこ行っちゃったの? ちょっと、脅かさないでよ」
男(まさか)
女「あ、あれ? どこ? 押入れ? もー、夜も遅いんだからかくれんぼは明日にしなさいよね」ドタドタ
男(……成仏?)
女「お、おかしいわね……ど、どこ行っちゃったのかしら」
男「……女」
女「ちょ、ちょっと、アンタも何をぼーっとしてんのよ。ほ、ほら、早く幽霊ちゃんを探さないと。あの子まだ小さいんだから、見つけてあげないと泣いちゃうわよ?」
男「もう、幽霊は……」
女「まだ!」
男「!」
女「……まだ分からないじゃない。どこか隠れてるだけかもしれないじゃない。だから、まだ言わないでよぉ……」ポロポロ
男「……分かった。俺も探すよ」
女「……ありがと。ごめん」
女「ありがとね、幽霊ちゃ……ゆっ、幽霊ちゃん!?」
幽霊「二度見です」フヨフヨ
男「お前、成仏したんじゃなかったのか!? 消えたのは一体!?」
幽霊「おしっこしたくなったので、秘技、てれぽーとを使いました。短い距離なら一瞬です」
女「もう……もうっ! 心配かけないでよっ!」ギュッ
幽霊「てへぺろ」
男「はぁ……。フラグ立ってたのに見事にへし折ったなあ」
幽霊「コブラと呼んでください」
女「あははっ……はぁ。あーなんか脱力しちゃった。じゃ、寝直そっか?」
幽霊「はい。また川の字で寝ます。私が真ん中です。これだけは譲れないのです!」
男「はいはい」ナデナデ
男「zzz……」
女「あーもう、休みだからっていつまで寝てるのよ! もう昼よ!」
男「うああ……眠い、超眠い……。なぜならどっかの嫁が昨日寝かせてくれなかったから」
女「う、うるさいっ! アンタが毎日相手してくれないのが悪いのっ!」
???「けんかですか?」フヨフヨ
女「あっ、ち、違うのよ、幽霊ちゃん?」
幽霊「けんかしたなら愛想をつかしているはずです。おにーさん、私と結婚しましょう」
男「しません。つか、お前いつになったら成仏すんだ」
男(あれからずっと幽霊は俺に取り憑いたままだ。どういうことだ)
幽霊「おにーさんが死んだら成仏します。一緒に転生です」
男「女神転生!」ババッ
女「何そのかつおぶしみたいな動き」
幽霊「か、かっこいいです……!」キラキラ
男「かっこよかろう、かっこよかろう。わっはっは」
男「ズボンを脱がさないでください。もう出ません。ていうかお前も女と一緒に昨日したろ」
幽霊「幽霊は無尽蔵なのです」ヌガセヌガセ
男「適当なことを。あとパンツ返せ」
幽霊「おちんちんさんこんにちは。今日はちょっと元気ないですね?」
男「人の下腹部に挨拶しないで!」
女「…………」マジマジ
男「お前もじっくりと観察しないで!」
女「い、いーじゃない別に! 減るもんじゃないし! ……お、お嫁さんなんだし///」
男「うっ。……ああもう、この嫁は可愛いなあ!」ナデナデ
女「……え、えへへー♪」ニコニコ
男「ただ、いい大人だってのに未だに頭から昆布が垂れているのには閉口」
女「まだ言うかッ! ツインテールだって言ってるでしょうがッ! アンタが好きだって言うからしてるのにッ!」
男「そう怒るなよ、はるぴー」
女「女よッッッッッ!」
女「はるぴーだのすずねえだの、何なのこの家族」
男「幸せ家族に決まってるだろ」
女「うわー……」
幽霊「正直ドン引きです」
男「決まったと思ったのになあ。ままならないなあ。……しょうがない、死ぬか!」
女「すぐに諦めるなッ!」
幽霊「わくわく」キラキラ
男「そこの幽霊さん、わくわくしないで」
幽霊「生まれ変わったら私と結婚しましょうね、おにーさん?」
女「むっ。……ま、まあ、今は私と結婚してるケドね?」ギュッ
男「突然抱きつかれて一瞬うろたえたが、いつものうすぺたい感触に平静を取り戻した。ふうやれやれ」
女「アンタ本当に私のこと好きなの!?」
男「じゃなきゃ結婚しねーだろ」ナデナデ
女「あっ……う、うう……///」
男「成長知らずでうれしちいね!」
女「アンタそのうち私に刺されるわよ」ムギュッ
幽霊「そしたら生まれ変わって一緒ですね、おにーさん」ムギュッ
女「ふん。言っとくけどね、私は生まれ変わってもまたコイツと一緒になる予定よ?」ムギュギュッ
幽霊「残念ながら予約済みです。次の次の人生では譲らなくもないです」ムギュギュッ
男「なんだか普通の人とは別の意味で死ぬのが怖いよ」サワサワ
女「おしりを触るな!」
幽霊「孕ませの合図ですか?」ワクワク
男「違います」
幽霊「がーん」
終わり
ホントよかった
もっとみたかった
あっという間だった
おつ
元スレ:http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/internet/14562/1341674980/
Entry ⇒ 2012.07.29 | Category ⇒ その他 | Comments (0) | Trackbacks (0)
俺「ん?なんだこれ…矢の破片?」ヒョイ
俺「痛ェェェェェッッ!!」ブシャアアアアア
俺「クソッ!何だッてんだよォォォォ!」
俺「クソッ、早く止血しねーと…」サッ
俺「……?別に大した傷跡が無い…?」
俺「こんな不吉なモン捨ててやるよチクショウ!」ポーイ
俺「さっさと帰って寝るか…」
???「詳しく調べる必要があるな…」
???「まず「矢」を回収しておくか…」
俺「うーん、良く寝たな」ピンポーン
俺「ったく…こんな時間に来客かよ」ガバッ
俺「はいはーい、どちらサマー?(夏だけに」
???「君が俺君かい?」
俺「はあ、まあそうですけど」
???「少し…話を伺いたい」
俺「構いませんが…あんたは誰です?」
???「私か?私の名は、>>19だ」
俺「はあ(シラネ…)」
俺「で、マズヤニさんは俺に何の用ですか?」
マズヤニ「昨日、君は「矢」の破片を拾ったね?」
俺「はい(何で知ってんのコイツ)」
マズヤニ「その「矢」は、人の運命を大きく変えてしまう物でね…それこそ安価と同じ位に。
一度触ってしまえば取り返しが付かない、それは安価↓が通じないのと同じ事なんだ。絶対なんだ」
俺「はあ…大変なんですね(何言ってんだコイツ)」
俺「(宗教か何かだろうか…)」
マズヤニ「君には、「スタンド能力」という物が備わったのだ」
俺「(そろそろドア閉めるべきだろうか)」
俺「はあ…正直、そんな突拍子も無い事言われても…」
マズヤニ「…確かにそうだな、ならば私のスタンドを君に見せよう。
「矢」に選ばれた君なら見る事が出来るだろう」
マズヤニ「行くぞッッ!!」ドドドドドドドドドドドドド
スタンド名>>28
あぁああああ…ああ…あっあっー!あぁああああああ!!!ルイズルイズルイズぅううぁわぁああああ!!!
あぁクンカクンカ!クンカクンカ!スーハースーハー!スーハースーハー!いい匂いだなぁ…くんくん
んはぁっ!ルイズ・フランソワーズたんの桃色ブロンドの髪をクンカクンカしたいお!クンカクンカ!あぁあ!!
間違えた!モフモフしたいお!モフモフ!モフモフ!髪髪モフモフ!カリカリモフモフ…きゅんきゅんきゅい!!
小説11巻のルイズたんかわいかったよぅ!!あぁぁああ…あああ…あっあぁああああ!!ふぁぁあああんんっ!!
アニメ2期決まって良かったねルイズたん!あぁあああああ!かわいい!ルイズたん!かわいい!あっああぁああ!
コミック2巻も発売されて嬉し…いやぁああああああ!!!にゃああああああああん!!ぎゃああああああああ!!
ぐあああああああああああ!!!コミックなんて現実じゃない!!!!あ…小説もアニメもよく考えたら…
ル イ ズ ち ゃ ん は 現実 じ ゃ な い?にゃあああああああああああああん!!うぁああああああああああ!!
そんなぁああああああ!!いやぁぁぁあああああああああ!!はぁああああああん!!ハルケギニアぁああああ!!
この!ちきしょー!やめてやる!!現実なんかやめ…て…え!?見…てる?表紙絵のルイズちゃんが僕を見てる?
表紙絵のルイズちゃんが僕を見てるぞ!ルイズちゃんが僕を見てるぞ!挿絵のルイズちゃんが僕を見てるぞ!!
アニメのルイズちゃんが僕に話しかけてるぞ!!!よかった…世の中まだまだ捨てたモンじゃないんだねっ!
いやっほぉおおおおおおお!!!僕にはルイズちゃんがいる!!やったよケティ!!ひとりでできるもん!!!
あ、コミックのルイズちゃああああああああああああああん!!いやぁあああああああああああああああ!!!!
あっあんああっああんあアン様ぁあ!!セ、セイバー!!シャナぁああああああ!!!ヴィルヘルミナぁあああ!!
ううっうぅうう!!俺の想いよルイズへ届け!!ハルケギニアのルイズへ届け!
スタンド名長すぎw
あぁああああ…ああ…あっあっー!あぁああああああ!!!ルイズルイズルイズぅううぁわぁああああ!!!
あぁクンカクンカ!クンカクンカ!スーハースーハー!スーハースーハー!いい匂いだなぁ…くんくん
んはぁっ!ルイズ・フランソワーズたんの桃色ブロンドの髪をクンカクンカしたいお!クンカクンカ!あぁあ!!
間違えた!モフモフしたいお!モフモフ!モフモフ!髪髪モフモフ!カリカリモフモフ…きゅんきゅんきゅい!!
小説11巻のルイズたんかわいかったよぅ!!あぁぁああ…あああ…あっあぁああああ!!ふぁぁあああんんっ!!
アニメ2期決まって良かったねルイズたん!あぁあああああ!かわいい!ルイズたん!かわいい!あっああぁああ!
コミック2巻も発売されて嬉し…いやぁああああああ!!!にゃああああああああん!!ぎゃああああああああ!!
ぐあああああああああああ!!!コミックなんて現実じゃない!!!!あ…小説もアニメもよく考えたら…
ル イ ズ ち ゃ ん は 現実 じ ゃ な い?にゃあああああああああああああん!!うぁああああああああああ!!
そんなぁああああああ!!いやぁぁぁあああああああああ!!はぁああああああん!!ハルケギニアぁああああ!!
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アニメのルイズちゃんが僕に話しかけてるぞ!!!よかった…世の中まだまだ捨てたモンじゃないんだねっ!
いやっほぉおおおおおおお!!!僕にはルイズちゃんがいる!!やったよケティ!!ひとりでできるもん!!!
あ、コミックのルイズちゃああああああああああああああん!!いやぁあああああああああああああああ!!!!
あっあんああっああんあアン様ぁあ!!セ、セイバー!!シャナぁああああああ!!!ヴィルヘルミナぁあああ!!
ううっうぅうう!!俺の想いよルイズへ届け!!ハルケギニアのルイズへ届け!」
俺「うおお…すげえ…(色んな意味で…)」
マズヤニ「どうだ、俺君?因みにこのスタンドは…こんな事も出来るッ!」
ルイズ(ryの能力>>33
あぁああああ…ああ…あっあっー!あぁああああああ!!!ルイズルイズルイズぅううぁわぁああああ!!!
あぁクンカクンカ!クンカクンカ!スーハースーハー!スーハースーハー!いい匂いだなぁ…くんくん
んはぁっ!ルイズ・フランソワーズたんの桃色ブロンドの髪をクンカクンカしたいお!クンカクンカ!あぁあ!!
間違えた!モフモフしたいお!モフモフ!モフモフ!髪髪モフモフ!カリカリモフモフ…きゅんきゅんきゅい!!
小説11巻のルイズたんかわいかったよぅ!!あぁぁああ…あああ…あっあぁああああ!!ふぁぁあああんんっ!!
アニメ2期決まって良かったねルイズたん!あぁあああああ!かわいい!ルイズたん!かわいい!あっああぁああ!
コミック2巻も発売されて嬉し…いやぁああああああ!!!にゃああああああああん!!ぎゃああああああああ!!
ぐあああああああああああ!!!コミックなんて現実じゃない!!!!あ…小説もアニメもよく考えたら…
ル イ ズ ち ゃ ん は 現実 じ ゃ な い?にゃあああああああああああああん!!うぁああああああああああ!!
そんなぁああああああ!!いやぁぁぁあああああああああ!!はぁああああああん!!ハルケギニアぁああああ!!
この!ちきしょー!やめてやる!!現実なんかやめ…て…え!?見…てる?表紙絵のルイズちゃんが僕を見てる?
表紙絵のルイズちゃんが僕を見てるぞ!ルイズちゃんが僕を見てるぞ!挿絵のルイズちゃんが僕を見てるぞ!!
アニメのルイズちゃんが僕に話しかけてるぞ!!!よかった…世の中まだまだ捨てたモンじゃないんだねっ!
いやっほぉおおおおおおお!!!僕にはルイズちゃんがいる!!やったよケティ!!ひとりでできるもん!!!
あ、コミックのルイズちゃああああああああああああああん!!いやぁあああああああああああああああ!!!!
あっあんああっああんあアン様ぁあ!!セ、セイバー!!シャナぁああああああ!!!ヴィルヘルミナぁあああ!!
ううっうぅうう!!俺の想いよルイズへ届け!!ハルケギニアのルイズへ届け!
これが第一の能力だ!
私のルイズへの愛をスタンドを通じてぶちまける事が出来るッッ!」
マズヤニ「次が二個目の能力だッ!」
二個目の能力>>44
俺「えっ」
マズヤニ「ああ死ぬさ、殺せるさ」
俺「(さようなら現世、ありがとうカーチャン)」
俺「そうか、俺、殺されるのか…」
俺「じゃあ、何で…」
マズヤニ「私は、君に頼みがあって来た」
俺「頼み…ですか?」
マズヤニ「今までは私が制裁いたり、ゼロ魔やルイズの良さを伝え説き伏せたり、釘宮病にしていたのだが…」
マズヤニ「最近はルイズの良さすら分からなくなる程邪悪な者が増えている…」
マズヤニ「そこで、だ。君の力を借りたい」
俺「何でですか?」
マズヤニ「それがそうでも無いのだよ…私のスタンド、
『ルイズ!ルイズ!ルイズ!ルイズぅぅうううわぁああああああああああああああああああああああん!!!
あぁああああ…ああ…あっあっー!あぁああああああ!!!ルイズルイズルイズぅううぁわぁああああ!!!
あぁクンカクンカ!クンカクンカ!スーハースーハー!スーハースーハー!いい匂いだなぁ…くんくん
んはぁっ!ルイズ・フランソワーズたんの桃色ブロンドの髪をクンカクンカしたいお!クンカクンカ!あぁあ!!
間違えた!モフモフしたいお!モフモフ!モフモフ!髪髪モフモフ!カリカリモフモフ…きゅんきゅんきゅい!!
小説11巻のルイズたんかわいかったよぅ!!あぁぁああ…あああ…あっあぁああああ!!ふぁぁあああんんっ!!
アニメ2期決まって良かったねルイズたん!あぁあああああ!かわいい!ルイズたん!かわいい!あっああぁああ!
コミック2巻も発売されて嬉し…いやぁああああああ!!!にゃああああああああん!!ぎゃああああああああ!!
ぐあああああああああああ!!!コミックなんて現実じゃない!!!!あ…小説もアニメもよく考えたら…
ル イ ズ ち ゃ ん は 現実 じ ゃ な い?にゃあああああああああああああん!!うぁああああああああああ!!
そんなぁああああああ!!いやぁぁぁあああああああああ!!はぁああああああん!!ハルケギニアぁああああ!!
この!ちきしょー!やめてやる!!現実なんかやめ…て…え!?見…てる?表紙絵のルイズちゃんが僕を見てる?
表紙絵のルイズちゃんが僕を見てるぞ!ルイズちゃんが僕を見てるぞ!挿絵のルイズちゃんが僕を見てるぞ!!
アニメのルイズちゃんが僕に話しかけてるぞ!!!よかった…世の中まだまだ捨てたモンじゃないんだねっ!
いやっほぉおおおおおおお!!!僕にはルイズちゃんがいる!!やったよケティ!!ひとりでできるもん!!!
あ、コミックのルイズちゃああああああああああああああん!!いやぁあああああああああああああああ!!!!
あっあんああっああんあアン様ぁあ!!セ、セイバー!!シャナぁああああああ!!!ヴィルヘルミナぁあああ!!
ううっうぅうう!!俺の想いよルイズへ届け!!ハルケギニアのルイズへ届け!』
は、近距離パワー型だ…つまり、近くの敵にしか有効ではないのだよ」
俺「はあ…なるほど」
あぁああああ…ああ…あっあっー!あぁああああああ!!!ルイズルイズルイズぅううぁわぁああああ!!!
あぁクンカクンカ!クンカクンカ!スーハースーハー!スーハースーハー!いい匂いだなぁ…くんくん
んはぁっ!ルイズ・フランソワーズたんの桃色ブロンドの髪をクンカクンカしたいお!クンカクンカ!あぁあ!!
間違えた!モフモフしたいお!モフモフ!モフモフ!髪髪モフモフ!カリカリモフモフ…きゅんきゅんきゅい!!
小説11巻のルイズたんかわいかったよぅ!!あぁぁああ…あああ…あっあぁああああ!!ふぁぁあああんんっ!!
アニメ2期決まって良かったねルイズたん!あぁあああああ!かわいい!ルイズたん!かわいい!あっああぁああ!
コミック2巻も発売されて嬉し…いやぁああああああ!!!にゃああああああああん!!ぎゃああああああああ!!
ぐあああああああああああ!!!コミックなんて現実じゃない!!!!あ…小説もアニメもよく考えたら…
ル イ ズ ち ゃ ん は 現実 じ ゃ な い?にゃあああああああああああああん!!うぁああああああああああ!!
そんなぁああああああ!!いやぁぁぁあああああああああ!!はぁああああああん!!ハルケギニアぁああああ!!
この!ちきしょー!やめてやる!!現実なんかやめ…て…え!?見…てる?表紙絵のルイズちゃんが僕を見てる?
表紙絵のルイズちゃんが僕を見てるぞ!ルイズちゃんが僕を見てるぞ!挿絵のルイズちゃんが僕を見てるぞ!!
アニメのルイズちゃんが僕に話しかけてるぞ!!!よかった…世の中まだまだ捨てたモンじゃないんだねっ!
いやっほぉおおおおおおお!!!僕にはルイズちゃんがいる!!やったよケティ!!ひとりでできるもん!!!
あ、コミックのルイズちゃああああああああああああああん!!いやぁあああああああああああああああ!!!!
あっあんああっああんあアン様ぁあ!!セ、セイバー!!シャナぁああああああ!!!ヴィルヘルミナぁあああ!!
ううっうぅうう!!俺の想いよルイズへ届け!!ハルケギニアのルイズへ届け!』
本体―マズヤニキニーイ・ラレズニシヌダロ
破壊力―E スピード―E 射程距離―声の届く範囲(相手を殺す場合1~2m)
持続力―A 精密動作性―A 成長性―A
能力― ルイズへの愛を相手に吐き出し、自らと同じ道に導くスタンド。
ルイズへの底知れぬ愛と、ルイズの良さを正確に伝え、人を虜にする話術を持つ。
ルイズへの愛は消える事は無く、それどころか日に日に強くなっていく。
ルイズは他のファンに対しては甘く愛のある言動を忘れないが、ルイズのアンチや良さを分からない物は即座に殺す残忍性も持ち合わせている。
俺「断ったら…?」
マズヤニ「君宛にゼロ魔のグッズやルイズ関連の商品を山ほど送りつつける」
俺(間違い無い…断れば死ぬッ!俺が!家庭的にッッ!)
マズヤニ「悪い話では無いだろう?お互いにとって」
俺「クッ…仕方が無い、引き受けよう…」
マズヤニ「この男は、スタンドを利用し、悪事を繰り返している…」
マズヤニ「許しがたい男だ、名前は>>73という」
俺「なるほど…」
マズヤニ「別にサイコガンを装着とかしていない、ただかなりの強敵だ」
マズヤニ「奴のスタンドの名前は、>>80
その能力は>>88らしい、目撃者の証言だがな」
俺「大した事なさそうだな…」
マズヤニ「安価は絶対になるとか他力本願も良い所だ、どうやって悪事を働いて来たんだろう」
マズヤニ「まあ油断は禁物だ、何か隠された能力があるのかも知れない」
俺「そうだな…」
俺「本当に来るのか…?」
マズヤニ「分からない、だが今は待つしかない」
ザッザッザッザ
マズヤニ「来たぞ…コブラだ…!」
コブラ「右も左も見てないし、オマケに手も挙げてねェーぜェー!」
コブラ「しかもカップラーメン食いながら渡ってやるゼェェェェーッッ!」ズビズバー
コブラ「さらにさらにィーッ!?ポイ捨てまでするぜェェェェ!」ポーイ
コブラ「しかも深夜の道路で!こんなに騒ぎながらだぜええええええ!?」
俺「何て野郎だ…!許せねえッ…!」
マズヤニ「落ち着いてくれ、俺君…まだ行ってはならない」
マズヤニ「お、俺君!」
コブラ「アアーン?!誰だーテメエーッ!」
俺「貴様に名乗る名など無い!」
コブラ「この俺に挑むとはァーッ!何て命知らずな野郎だッ!
うおおおお、『スレタイのヒョイがカワイイ』ーッ!
全ての安価は絶対の物となる!」
俺「これ普通に殴れば関係無いじゃん…」バキッ
コブラ「ぐふう」
殴る時の台詞>>120
おしりのほうが感じるのよっ!!」
コブラ「ウボアー!!」ドサッ
マズヤニ「俺君…まさか君の実力がこれ程とは…!」
俺「まだやるか?次は唇が切れるかもな」
コブラ(コイツ…強い…このまま行けば唇どころか、手首を捻るかも知れない…!)
コブラ(どうする…!?)
1スレタイのヒョイがカワイイコブラさまはとっさに可愛くなれる
2スレタイのヒョイが可愛くしてくれる
3スレタイのヒョイがカワイイ。現実は非情である。
>>130
うおおお、『ルイズ(ry』!!」
コブラ「ぐああああああ!!」
その後、釘宮病となったコブラは、脳内が完全にくぎゅで埋め尽くされた。
元のように悪事を働こうと思ってもくぎゅの事が頭から離れないので、そのうちコブラは、考えるのを止めた。
本体 コブラ
破壊力 E スピード E 射程距離 A
持続力 A 精密動作性 C 成長性 C
安価を絶対にするスタンド。
特にそれ以外の能力は無く、特筆すべき戦闘能力も無い。
後始末は私がするから、君は次のターゲットをお願いしたい」
俺「俺一人でか?」
マズヤニ「いや、今回狙うのはこの辺り一帯を仕切っているヤクザのボスだ。
流石に一人で向かわせはしないさ」
俺「つまりどういう事だ?」
そいつの情報だと、ターゲットのシマにはスタンド使いが他に二人居るらしい」
俺「なるほど、で、そいつの名前は?」
マズヤニ「彼の名前は>>140。優秀な潜入工作員だ」
俺「貴方がカマドウマさんですか」
カマドウマ「いかにも、俺がカマドウマだ」
俺「初めまして、俺、俺って言います」
カマドウマ「君の事はマズヤニから聞いている、では任務に向かうぞ」
能力は>>160だ…」
カマドウマ「コレを使ってボスにのみ近づき、残る二人の干渉が無い内に奴を仕留める」
俺「分かりました…!」
俺「っく!何て臭いだ!これなら…」
カマドウマ「分かったか?ならば計画実行だ」
俺「はい!」
モブ「ぐああああああああああああああ」
雑魚「おびゃああああああああああああああああああ」
手下A「ヒュおおおおおおおおおおおおおお」
俺(すげえ…敵が皆避けて行く!これで…)
カマドウマ「着いたぞ、ボスの部屋だ。もう鼻栓は取っていい」
俺「いや、まだ着けときます」
ボス「ククク…やはり来たか、カマドウマ!」
強い手下「ケケケ…」
実力に定評のある手下「カカカ…」
カマドウマ「何ィ!?何故お前らまでここにいる!?」
俺「作戦はバレていたのかッ!」
しかも俺が隣に居るのに!
さらにスタンドの事も!ベラベラと!
部下が周りにめっちゃ居たのに!」
カマドウマ「しまったァーーーーーッッ!
電話に夢中で周りを確認していなかったァー!」
俺「何やってんだ!」
強い手下「俺の名は>>185!]
実力に定評のある手下「俺は>>188だ!!」
カマドウマ「やるしかないッ!行くぞ俺!」
俺「仕方ねえ!」
ギッチョア「ふへええ!そこの坊主!俺と勝負だあー!」
でぃお「裏切り者に引導を渡してやるぜ!」
カマドウマ「来るぞッ!」
俺「おう!」
でぃお「出ろーッ!>>207ーッ!」
カマドウマ「出でよ!『ベンジョコオロギ』!」
俺「くっそ!俺も…出ろ!スタンド!」
俺みたいな中3でグロ見てる腐れ野郎、他に、いますかっていねーか、はは
今日のクラスの会話
あの流行りの曲かっこいい とか あの服ほしい とか
ま、それが普通ですわな
かたや俺は電子の砂漠で死体を見て、呟くんすわ
it'a true wolrd.狂ってる?それ、誉め言葉ね。
好きな音楽 eminem
尊敬する人間 アドルフ・ヒトラー(虐殺行為はNO)
なんつってる間に3時っすよ(笑) あ~あ、義務教育の辛いとこね、これ
俺みたいな中3でグロ見てる腐れ野郎、他に、いますかっていねーか、はは
今日のクラスの会話
あの流行りの曲かっこいい とか あの服ほしい とか
ま、それが普通ですわな
かたや俺は電子の砂漠で死体を見て、呟くんすわ
it'a true wolrd.狂ってる?それ、誉め言葉ね。
好きな音楽 eminem
尊敬する人間 アドルフ・ヒトラー(虐殺行為はNO)
なんつってる間に3時っすよ(笑) あ~あ、義務教育の辛いとこね、これ
』!!」
でぃお「『ザドワール』!!」
カマドウマ「まずい!ギッチョアの能力は>>215で、
でぃおは>>218だ!気を付けろ!」
俺「そ、そんな恐ろしい能力を!?」
時が止まった世界では止めた本人だけが動けない
ギッチョア「おちんちんびらびらーーーッッ!!」ドドドドドドドド
俺「………」
1金的を蹴り上げる
2金的にラッシュ
>>225
ギッチョア「何ッ!?」
マズヤニ「遅い!『ルイズ!(ry』」
ギッチョア「ぐああああああああああああああ!!」
おちんちんびろーんしようと思っても釘宮の事が頭から離れない為、そのうちギッチョアは、考えるのを止めた。
俺「はい!色々と!」
カマドウマ「ぐふう……」
マズヤニ「カマドウマッ!まずい!やられるぞ!」
俺「助けましょう!どっちかがでぃおに攻撃して、どっちかが救助に向かうのがベストかと」
マズヤニ「そうだな…じゃあ俺君は」
1攻撃側
2救助側
>>235
俺「そうですね、俺も疲れました」
カマドウマ「じゃ、そういう事で」
でぃお「お疲れしたー!」
ディアロボ「あ、明日のこの時間も空けておきますんで」
マズヤニ「あ、わざわざすみません」
ディアロボ「いえいえ、お体にお気を付けて」
マズヤニ「それじゃまた明日」
チュンチュチュンサンワソロエバロードローラーダッ!
俺「もう朝か…」
1アジトに向かう
2めんどいからすっぽかす
3ゼロ魔を見る
>>243
マズヤニ「お、ポテチじゃん、一枚くれよ」
俺「いいっスよ別に」サッ
マズヤニ「うめー」パリッ
ディアロボ「いいなー俺にもくれよ」
1負けてくれるなら
2別にいいよ
3現実は非情である
>>254
ディアロボ「これハバネロくんじゃーんポテチじゃなきゃやだやだやだやだやーだあー」ジタバタ
俺「文句言うなよーせっかくあげたのにー」
ディアロボ「…ぐっすん、だってマズヤニにはあげてたのにー」
俺「それはー…」
マズヤニ「俺ちゃん?いじわるしないでディアロボ君にもちゃんとあげるのよ」
俺「でもー…」
1渡す
2渡さない
3現実は非情である
>>265
現実は非情である
ディアロボ「ほぐう!?」
俺「本当はこれが欲しかったんだろォ?このド変態がよォ!」グリグリ
ディアロボ「ふん、ふんぐう…」ジタバタ
マズヤニ「止めなさい!」スッパパパッパッパーン
俺「くぎゅう?!」ドッテバッタン
マズヤニ「何をやってるの!!」
俺「こ、これは…」
1安価が悪い
2夢だった
3アアんまりだアアアアアアアアアア
4現実は非情
>>275
マズヤニ「何だとッ!?茶番やってる場合じゃあないッ!」
???「ふふふ…良く気付いたな…」
カマドウマ「誰だーッ!」
でぃお「正体を現せッッ!!」
???「我は…>>287…」
???「この世で最強のスタンド使いよ…!」
吉良「その一つ目の効果は、先程見せた他人の行動を操作する能力…!」
吉良「二つ目は、>>300だ…!」
俺「と、とんでもねー野郎だ…!」
二つ目の能力はイチャイチャするけどあんま使わない!
まずはお前から始末してくれよう!」
1俺
2マズヤニ
3カマドウマ
4ディアロボ
5でぃお
6ギッチョア
>>307
ギッチョア「体が…勝手に!?」
ギッチョアがする行動
>>311
俺「ギッチョアーーーーーーーーーー!!!!」
カマドウマ「貴様!許さんぞォー!」
吉良「次は貴様だ!>>317!!」
ふひふひいっひっひひひ
げらげれげげえれがげが
うへへへっへえへhっひひへ」
俺「貴様ーーーーーーーーーーーーーーー!!」
マズヤニ「何の関係も無い>>317を朝っぱらから爆笑させやがってエエエエ!!」
でぃお「もう我慢ならん!俺が行く!『ザドワール』!!」
1現実は非情である
2現実は非情である
3現実は非情である
4現実は非情である
>>323
シーン…
DIO「この後何するか>>340」
パッ
でぃお「うおおおおおおおお!!」
カマドウマ「止めろでぃおーーーー!!」
吉良「こいつはどう料理してくれようか…」
>>349
吉良「はい、用意するのはこちらの圧力鍋」
吉良「この中にでぃおを入れ、オリーブオイルを適量かけて弱火でことこと煮込めばはい完成」
吉良「もこみち流でぃお鍋です」
でぃお「一般家庭にオリーブオイルはそうそうねーよ……ぐふっ」
俺「でぃおーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」
カマドウマ「テメエエエええええええええええええええ!!」
ディアロボ「>>362!!」
ディアロボ「これででぃおとギッチョアの仇を討つ!」
能力は>>365
ディアロボ「うおおおおおおおおおおお!!」
俺「止めろーーーー!ディアロボーッ!!」
1現実非情
2非情
3現実
>>374
1吉良を吹っ飛ばす
2吉良を確定一発
3吉良を無限処刑
>>384
吉良「ふん、愚かな…『猫耳ナー』……」
マズヤニ「愚かなのは貴様だ…『ルイズ!ルイズ!ルイズ!ルイズぅぅうううわぁああああああああああああああああああああああん!!!
あぁああああ…ああ…あっあっー!あぁああああああ!!!ルイズルイズルイズぅううぁわぁああああ!!!
あぁクンカクンカ!クンカクンカ!スーハースーハー!スーハースーハー!いい匂いだなぁ…くんくん
んはぁっ!ルイズ・フランソワーズたんの桃色ブロンドの髪をクンカクンカしたいお!クンカクンカ!あぁあ!!
間違えた!モフモフしたいお!モフモフ!モフモフ!髪髪モフモフ!カリカリモフモフ…きゅんきゅんきゅい!!
小説11巻のルイズたんかわいかったよぅ!!あぁぁああ…あああ…あっあぁああああ!!ふぁぁあああんんっ!!
アニメ2期決まって良かったねルイズたん!あぁあああああ!かわいい!ルイズたん!かわいい!あっああぁああ!
コミック2巻も発売されて嬉し…いやぁああああああ!!!にゃああああああああん!!ぎゃああああああああ!!
ぐあああああああああああ!!!コミックなんて現実じゃない!!!!あ…小説もアニメもよく考えたら…
ル イ ズ ち ゃ ん は 現実 じ ゃ な い?にゃあああああああああああああん!!うぁああああああああああ!!
そんなぁああああああ!!いやぁぁぁあああああああああ!!はぁああああああん!!ハルケギニアぁああああ!!
この!ちきしょー!やめてやる!!現実なんかやめ…て…え!?見…てる?表紙絵のルイズちゃんが僕を見てる?
表紙絵のルイズちゃんが僕を見てるぞ!ルイズちゃんが僕を見てるぞ!挿絵のルイズちゃんが僕を見てるぞ!!
アニメのルイズちゃんが僕に話しかけてるぞ!!!よかった…世の中まだまだ捨てたモンじゃないんだねっ!
いやっほぉおおおおおおお!!!僕にはルイズちゃんがいる!!やったよケティ!!ひとりでできるもん!!!
あ、コミックのルイズちゃああああああああああああああん!!いやぁあああああああああああああああ!!!!
あっあんああっああんあアン様ぁあ!!セ、セイバー!!シャナぁああああああ!!!ヴィルヘルミナぁあああ!!
ううっうぅうう!!俺の想いよルイズへ届け!!ハルケギニアのルイズへ届け!
』ーーーーーーー!!」
吉良「何ーッッ!」
マズヤニ「堕ちろ!吉良アァァァ!!」
マズヤニ「『ルイズ(ry』の第二の能力…」
マズヤニ「相手は死ぬ」
カマドウマ「やったぞ!勝ったんだ!俺達!」
マズヤニ「ああ…!」
結局、自分のスタンドが何か、なんて分からなかったけれど。
でぃおとギッチョァとディアロボは、伝説のポテチを探す旅に出るらしい。
俺とカマドウマとマズヤニは、引き続きゼロ魔の布教を続けるつもりだ。
悪人面の奴「くっへへ、この「矢」の破片で、俺は人を超えた能力を…!」
俺「そこまでだ!出でよ俺のスタンド!!」ドドドドドドドドドド
悪人面の奴「何だ?!やんの…」
俺「おしおしおしおしおしおしおしおしおしおしおしおしおしおしおしおしおしおしおしおしおしおしおしおしおし
おしりのほうが感じるのよッッ!!」
悪人面の奴「うぎゃああああああああーーー!!」ポロッ
マズヤニ「よし、後は釘宮病に感染させるだけだな」
カマドウマ「今回も楽勝だったな…帰ろうぜ」
お前ら「ん?なんだこれ…矢の破片?」ヒョイ
TO BE CONTINUED
本体 カマドウマ
破壊力 B スピード C 射程距離 A
持続力 A 精密動作性 E 成長性B
足が臭いスタンド。
その臭いはどこまでも拡散し、嗅いだ者の戦意を喪失させる。
俺みたいな中3でグロ見てる腐れ野郎、他に、いますかっていねーか、はは
今日のクラスの会話
あの流行りの曲かっこいい とか あの服ほしい とか
ま、それが普通ですわな
かたや俺は電子の砂漠で死体を見て、呟くんすわ
it'a true wolrd.狂ってる?それ、誉め言葉ね。
好きな音楽 eminem
尊敬する人間 アドルフ・ヒトラー(虐殺行為はNO)
なんつってる間に3時っすよ(笑) あ~あ、義務教育の辛いとこね、これ 』
本体 ギッチョア
破壊力E スピードB 射程距離E
持続力A 精密動作性C 成長性E
おちんちんびらびらーーーー!!
本体 でぃお
破壊力C スピードB 射程距離D
持続力D 精密動作性C 成長性E
五秒間時を止めるスタンド。
止めている間は自分だけ行動不可能。
本体 ディアロボ
破壊力C スピードC 射程距離C
持続力C 精密動作性C 成長性C
とくにない
本体 コブラ
破壊力 E スピード E 射程距離 A
持続力 A 精密動作性 C 成長性 C
安価を絶対にするスタンド。
特にそれ以外の能力は無く、特筆すべき戦闘能力も無い。
本体 吉良吉陰
破壊力 C スピード B 射程距離 D
持続力B 精密動作性A 成長性A
他人の行動を操るスタンド。
あと甘えて来る。
あぁああああ…ああ…あっあっー!あぁああああああ!!!ルイズルイズルイズぅううぁわぁああああ!!!
あぁクンカクンカ!クンカクンカ!スーハースーハー!スーハースーハー!いい匂いだなぁ…くんくん
んはぁっ!ルイズ・フランソワーズたんの桃色ブロンドの髪をクンカクンカしたいお!クンカクンカ!あぁあ!!
間違えた!モフモフしたいお!モフモフ!モフモフ!髪髪モフモフ!カリカリモフモフ…きゅんきゅんきゅい!!
小説11巻のルイズたんかわいかったよぅ!!あぁぁああ…あああ…あっあぁああああ!!ふぁぁあああんんっ!!
アニメ2期決まって良かったねルイズたん!あぁあああああ!かわいい!ルイズたん!かわいい!あっああぁああ!
コミック2巻も発売されて嬉し…いやぁああああああ!!!にゃああああああああん!!ぎゃああああああああ!!
ぐあああああああああああ!!!コミックなんて現実じゃない!!!!あ…小説もアニメもよく考えたら…
ル イ ズ ち ゃ ん は 現実 じ ゃ な い?にゃあああああああああああああん!!うぁああああああああああ!!
そんなぁああああああ!!いやぁぁぁあああああああああ!!はぁああああああん!!ハルケギニアぁああああ!!
この!ちきしょー!やめてやる!!現実なんかやめ…て…え!?見…てる?表紙絵のルイズちゃんが僕を見てる?
表紙絵のルイズちゃんが僕を見てるぞ!ルイズちゃんが僕を見てるぞ!挿絵のルイズちゃんが僕を見てるぞ!!
アニメのルイズちゃんが僕に話しかけてるぞ!!!よかった…世の中まだまだ捨てたモンじゃないんだねっ!
いやっほぉおおおおおおお!!!僕にはルイズちゃんがいる!!やったよケティ!!ひとりでできるもん!!!
あ、コミックのルイズちゃああああああああああああああん!!いやぁあああああああああああああああ!!!!
あっあんああっああんあアン様ぁあ!!セ、セイバー!!シャナぁああああああ!!!ヴィルヘルミナぁあああ!!
ううっうぅうう!!俺の想いよルイズへ届け!!ハルケギニアのルイズへ届け!』
本体―マズヤニキニーイ・ラレズニシヌダロ
破壊力―E スピード―E 射程距離―声の届く範囲(相手を殺す場合1~2m)
持続力―A 精密動作性―A 成長性―A
能力― ルイズへの愛を相手に吐き出し、自らと同じ道に導くスタンド。
ルイズへの底知れぬ愛と、ルイズの良さを正確に伝え、人を虜にする話術を持つ。
ルイズへの愛は消える事は無く、それどころか日に日に強くなっていく。
ルイズは他のファンに対しては甘く愛のある言動を忘れないが、ルイズのアンチや良さを分からない物は即座に殺す残忍性も持ち合わせている。
第二の能力は、あくまで殺すのであって破壊はない。
本体 俺
破壊力 A スピード A 射程距離 A
持続力 A 精密動作性 A 成長性 A
安価を実現させるスタンド。
安価に書いてあれば何でも可能で、出来る事は無限大。
様はお前ら次第。
安価くれた皆、ありがとう
面白かったよ
またどっかで建てたらよろしく
次こそはちゃんと選択肢選ばれるといいな
Entry ⇒ 2012.07.23 | Category ⇒ その他 | Comments (0) | Trackbacks (0)
薬屋「こんこんこんのこぎつねさん」
童女「こっ……こんにちは。あの」
薬屋「おつかいかな?偉いね。」
童女「あっ、あのっ、おくすり。おくすりください!」
薬屋「薬、といってもいろいろあるんだ。」
薬屋「まず症状を教えてほしいな。」
童女「かかさまが」
童女「かかさまがね」
童女「おけがしたの」
童女「森でね」
童女「ばちんってなったの」
童女「このくらいの輪っかにね、あたしがひっかかりそうになってね」
童女「かかさまが、あたしを突いて、かわりに……」
薬屋「ううん、そりゃあお気の毒さま。……お医者様にはかかってないのか?」
童女「かかさまは大丈夫、って言って……」
薬屋「これで痛みがひかないようなら、ちゃんと町のお医者様に診てもらうんだよ。」
童女「うん、そーする。はい、おかね。」
薬屋「うん、……?」
童女「どうしたの?」
薬屋「とすると、この子は……」
薬屋「まあ、いいか。まいどあり。」
童女「うん!ありがとう!ばいばい!おにいさん!」
薬屋「気をつけて帰るんだよ。お大事に。」
薬屋「世の中には不思議なこともあるんだ。」
猟師「おう、店仕舞いか。」
薬屋「またきてたんですか猟師さん。鎮守様の森で猟なんて、バチが当たりますよ。」
猟師「そんなこといったってオメエ、俺はコレ以外に食い扶持を稼ぐ術がねえんだからしょうがなかろ。」
薬屋「今時猟師なんて流行りませんよ。そろそろ廃業するって先週言っていたばかりではないですか。」
薬屋「へー。お客さんですか?」
猟師「そこの森にでっけー真っ白なキツネがいてな。それの毛皮が欲しいっつんだ。」
猟師「それを渡せばもう二度と生活に困らないくらいの報酬がもらえんだ。」
薬屋「いやでも、昔からここに住む大妖は、神の使いだというではありませんか。」
薬屋「そんなものに手を出したら、ただでは済まないでしょうに。」
猟師「こないだトラバサミを仕掛けてよ、今日掛かった形跡はあったんだが」
猟師「毛と血だけ残して逃げられちまった。」
猟師「でも俺は諦めねえぜ。大金が鼻先にぶら下がってんだからよう。貧乏は真っ平だ。」
薬屋「…………。」
猟師「おっといけねえ。すっかり話し込んじまった。」
猟師「明日こそは捕まえてやるぞ。怪我をして遠くへは逃げられんはずだからな。」
猟師「じゃあな、薬屋の青瓢箪。」
薬屋「……はあ」
料理屋「全然食事が進んでないわね。今日の日替わり定食はあんまり好みじゃないの?」
薬屋「ああ、いや、旨いです。そうじゃなくて、ちょっと。」
薬屋「良心と良心の間で板挟みになってるというか。」
薬屋「片方を助けると、片方の生活が成り立たない。」
薬屋「でも、片方の仕事を見逃せば、片方が命を落とす。」
薬屋「そんな場面にこれから遭遇しそうで困ってるんです。」
料理屋「へえ。難題だね。どっちについたほうが君の得になるの?」
薬屋「僕の得云々は関係ないですよ。」
薬屋「面白がらないでくださいよ。」
薬屋「片方は顔見知り程度。」
薬屋「片方は今日初めて来店したお客さんの、おそらくおかあさん。僕は会ったことがありません。」
料理屋「どっちもさして君とは繋がりがないってこと?」
料理屋「それなら、お客さまをとったほうが君の得になるのでは?」
薬屋「そのお客さんは、こう、常の人ではないというか、支払い能力がないというか。」
薬屋「かと言って、命を落とすのがわかっていながら放っておけるほど」
料理屋「不人情なことはできない?」
料理屋「相も変わらずお人好しだねえ」
薬屋「女将さんなら、どうします。」
薬屋「他人事だと思って。」
料理屋「知らぬ存ぜぬを決め込んで、成り行きに任せてみては?」
薬屋「むう。」
料理屋「ここで君が頭を悩ませていても何かが変わるわけではないのでしょう。」
薬屋「……そうなんですが。ごちそうさまでした。」
料理屋「一晩ゆっくり眠れば、案外良い考えが浮かぶかもしれないよ。」
薬屋「はあ……」
薬屋「猟で生活してるなら、その邪魔をしちゃあいけないよなあ。」
薬屋「あの子には可哀想だけど、女将さんの言うとおり、放っておこうかな。」
薬屋「積極的に僕が猟に関わってるわけじゃないし……なあ。」
薬屋「助けて欲しいと頼まれたわけでもない、し……」
薬屋「眠……い……」
猟師「よう!薬屋の青瓢箪。」
薬屋「わっ!」
薬屋「お、おはようございます。猟師さん。」
猟師「なに驚いてやがんでえこのモヤシ。」
薬屋「猟師さんは、なんだかご機嫌ですね。」
猟師「おう!昨日、罠の話、しただろ。」
猟師「久しぶりに弟に腹一杯飯を食わせてやれたんだよ。」
猟師「毎日ひもじい、ひもじい、って泣いてた弟のよ、あんな笑顔見たことねえや。」
猟師「おっかあもおっとうもいねえ分、俺がしっかりしなきゃなんねえからな。」
薬屋「へ、へえ……」
猟師「そろそろ行ってくらあ。」
薬屋「いって、らっしゃい……」
童女「おにいさん!」
薬屋「ここは、見なかったことに……って、うわあ。」
童女「どうしたの?げんきがないの?」
薬屋「いや、うん。元気だよ。君こそどうしたの?」
童女「あのね、かかさまがね」
童女「おくすりのお礼にもっていきなさいって。」
童女「葉っぱのお金じゃだめだって、しらなかったの。ごめんなさい。」
薬屋「ああ、いや、ありがとう……」
薬屋「お母さんの具合はどう?」
童女「おくすり飲んで、痛いのは少なくなったって。」
童女「お家にお招きしてよくお礼を言いたいから」
童女「おにいさんのお休みを聞いてきなさいって。」
薬屋「え、ええー……」
薬屋「明日は定休日だけど、お礼なんていらないから」
薬屋「僕はできればいかない方向で検討願いたいなー、なんて」
童女「明日おやすみなの!?じゃあ明日いこう!」
薬屋「それはちょっ……」
薬屋「暇だけど……」
童女「じゃ、いこう!」
薬屋「いやでも」
童女「いこ?」
薬屋「う、うん……」
薬屋「あーはいはい。……あ、ちょっとまって。」
童女「んー?」
薬屋「これ。料理屋の女将さんに持たせてもらった稲荷寿司。」
童女「おいなりさん!」
薬屋「良かったら、持って行って。」
童女「いいの!?ありがとうおにいさん!」
薬屋「あ、うん……」
童女「またあしたね!おにいさん!」
薬屋「うん……。」
料理屋「今、この鮎焼くわね。」
薬屋「女将さんの言うとおり一晩寝たら、悩みが増えたんですが。」
料理屋「他人の人生っていろいろあるのねえ。」
薬屋「ちょっ……また」
料理屋「だから私にとっては他人事なんだって。はい、焼けた。美味しそうだわ。」
薬屋「……。」
薬屋「……いただきます。」
料理屋「面白いから、何か進展があったら教えてよ。」
薬屋「もう!」
薬屋「押しに弱いよなあ僕は……」
薬屋「案の定鎮守様の森だし……」
薬屋「牛車の外は変な霧とかで包まれてるし……」
童女「もうすぐつくよ!」
薬屋「うん……」
薬屋「わー……立派な御殿だなあ……」
童女「はやくはやく!かかさまが待ってる!」
薬屋「どうしよう……」
童女「はやくー!」
薬屋「わ、わかったよ……」
薬屋「終わった……猟師さんの言ってた狐とは実は何の関係もありませんでしたー」
薬屋「っていう細やかな期待すら裏切られた。」
薬屋「尻尾隠して下さいよ!」
女主人「薄々気づいているようだからの。隠す必要もなかろう。」
薬屋「それって、あの、人間の罠で怪我、しちゃったんですよね。」
女主人「いかにも。」
薬屋「ということは、あれですよね。人間を恨んだり、呪ったり、祟ったり、みたいな。」
女主人「……?、なぜじゃ。」
女主人「鎮守さまの狛狐ともあろうものが」
薬屋「よりにもよって本当に神の遣いですか人類詰んだなこれ。」
女主人「良いから聞け」
薬屋「あ、はい。」
女主人「よいか。鎮守さまの狛狐ともあろうものが、あんな単純な罠にかかったのは妾の不注意よ。」
女主人「ヒトにもいろいろ在ることも知っておるし」
女主人「この程度のことでいちいち人間を恨んでおったら身が持たぬわ。」
女主人「鎮守さまの森を荒らす不届きものもおれば」
女主人「そなたのように妖とわかっていながら、丸腰でのこのこついてくるお人好しもおる。」
女主人「そのように怯えずとも良い。取って喰ろうたりはせぬわ。」
女主人「ま、望みなら喰ろうてやってもよいがの。性的な意味で。」
薬屋「!!!??!?」
女主人「冗談じゃ。そのように赤くなりおって。可愛いの。」
薬屋「かっ、からかわないでください!」
女主人「これは、心ばかりの品じゃ。」
女主人「妾が鎮守さまに拾われる前に誑かした、人間の殿方から巻き上げた財宝じゃ。」
薬屋「もらえませんよそんなもの!」
女主人「安心せよ。もう何百年も昔のことで、今更足が付くこともない。」
女主人「庭を掘ったら出てきたとでも言えば良かろ。」
薬屋「それに、お礼なら昨日娘さんからもらいましたよ。」
薬屋「木の実とか川魚とか。」
女主人「ああ、あれはあの子の気持ちよ。妾の気持ちはまだ示しておらぬ。」
女主人「それに、いなり寿司、なかなか美味であったしのう。」
薬屋「あんたを見捨てようとしたのに」
薬屋「こんな風にされると、困る。」
女主人「こうでもせぬと、妾がすっきりせぬからこうしているだけよ。」
薬屋「」
女主人「これを受け取ってしまえば、妾たち側の味方をせねばならぬなどと」
女主人「くだらぬことを考えているのではあるまいな?」
薬屋「そっ……それは、だって」
女主人「そなたはそなたの営みを普段通りに行えば良い。」
女主人「千にひとつ、万にひとつ、妾が猟師に獲られて毛皮になったとしても」
女主人「そなたが気に病むことはない。そういう運命だったというだけよ。」
薬屋「僕がここの場所を猟師さんに喋っちゃうかもしれないとか、」
薬屋「後をつけられてましたとか、」
薬屋「僕がここに来た痕跡を発見されましたとか」
薬屋「そういう、僕が関わったことが要因となって、あなたが捕らえられることだって充分考えられるではありませんか。」
薬屋「僕はそれが嫌なんです」
女主人「だから寿命が短いのだぞ。」
女主人「命あるものは死ぬ時は死ぬし、妾はただそれを受け入れるだけよ。」
薬屋「そんな」
女主人「妾の後はあの子が継ぐであろうし……そうじゃ」
薬屋「飛躍しすぎやしませんか。」
女主人「この話は終いじゃ。本当は、食事にも呼んでやろうと思うたが興が削がれた。帰れ帰れ。」
薬屋「帰れ、って……。」
女主人「かーえーれ、と。」
薬屋「うわあ!?風が……吹き飛ばされる……!」
夫人「毛皮ひとつ捕まえるのに一体何日かかってますの?」
猟師「へえ、すんません。いつもあとちょっとのところなんですが。」
夫人「こんな何にもないところ、毛皮の為でなければ来ませんわ。早く捕まえて頂戴。」
猟師「は、そう言われやしても。」
夫人「あたくしを誰だと思ってますの。あたくしは、さる大臣の妻ですのよ。」
猟師「あんた……」
夫人「このぐず。のろま。」
猟師「弟のためだ、我慢我慢我慢……」
夫人「明日中に、毛皮を持ってきて頂戴。」
夫人「でなければ、今までお渡ししたお金も全部返してもらいますからね!」
猟師「!」
猟師「クソッ……!」
薬屋「ここは……店の前、か。」
薬屋「夢だったんだろうか。」
薬屋「……夢ではないな。この箱……。」
薬屋「金銀、瑠璃に玻璃、真珠に玉がこんなに……」
薬屋「はー……」
仔狐「きゅー!きゅー!」
猟師「なんか小せえ?」
猟師「生け捕りだし、違ったら違ったで放せばいいか。」
仔狐「きゅーっ!」
猟師「いってえ!噛み付きやがったな!」
猟師「このやろ!お前はここに入ってろ!」
薬屋「鑑定してもらったら、どれも本物で、しかも古いものなので相当な金額になるらしいです。」
料理屋「億万長者というわけね。しかしなんだってそんなに、むすっとしてるの?」
薬屋「べつに……」
料理屋「でも、これでこの前の君の悩みは大方解決したね。」
薬屋「は……?」
薬屋「全然解決してませんよ何言ってるんですか。」
料理屋「ん?片方は、経済的に困ってるんでしょう?」
薬屋「そうなんです……って!あ!」
薬屋「ごちそうさま!」
料理屋「……慌ただしいこと」
夫人「ああ、楽しみ。」
夫人「今度の茶会で自慢しましょう。」
夫人「きっと目立つに違いないわ。」
夫人「……あら?鏡に、汚れ?」
夫人「いいえ、これは汚れではないわね。」
夫人「後ろ!?」
女主人「薬屋!あの子を、あの子を見ておらぬか!?」
薬屋「は?あの子?娘さん?」
女主人「この3日、あの子が帰って来ぬのだ。」
薬屋「とりあえず座って。詳しく聞かせてください。」
薬屋「心当たりは?」
女主人「そなたのところに行ったのであろうと思うたのだ。」
女主人「それから、妾の毛皮を欲しがっていた輩のところにも行ってみた。」
女主人「妾はどうなろうと構わぬが、あの子に何かあったら……!」
薬屋「さあ、これを飲んで。落ち着きますよ。」
猟師「おい!その車!」
夫人「!はやく、こんなところは早く離れますわよ!」
猟師「どういうことだ!あんた俺がキツネ捕まえるまでここに滞在するって」
夫人「こんなバケモノの出るようなところ、いつまでもいられますか!」
猟師「ばけもの……?待て!約束の金はどうなるんだ!おい!」
夫人「知ったことではありませんわ!」
夫人「……!」
夫人「ああ、美しい白ギツネ。少し小さいけれど、でもその分柔らかい毛並み。」
仔狐「きゅーん」
夫人「いいわ。買い取りましょう。」
夫人「その代わり、今すぐ毛皮を剥いで頂戴。」
仔狐「!」
猟師「悪く思うなよ……」
猟師「モヤシ?」
夫人「なんですの。早くおやり。」
女主人「その子を離せ!お前たちの探している大狐はここに在る!」
薬屋「ちょっとあんたなに言ってんですか!」
薬屋「隠れてろと言ったではないですか!さっき!」
女主人「ヒトの言うことなど聞く耳持たぬ!さあ、人間共よ!」
大狐「早くお離し!さもなくば……」
夫人「なにをしているのです!毛皮ですわ毛皮!毛皮があちらからきたのですよ!」
猟師「お、おう……」
猟師「しかたねえんだ!こっちは生活がかかってんだから!」
大狐「グルルル……」
薬屋「ああもう!ご婦人!」
夫人「な、なによ」
薬屋「猟師さんにはいくら払う契約ですか!」
夫人「このくらい、だけどそんなこと聞いてどうするんですの」
薬屋「あれはもともとこの狐さんのものです!」
薬屋「そもそも僕のものではありません!」
大狐「阿呆め!そなたにやったものゆえもう妾のものではないわ!」
薬屋「その言葉お返ししますよ狐さん!」
大狐「妾がやったものをそのように使われると困る!」
薬屋「キツネの事情なんか知らないんですよ!」
薬屋「こうでもしないと、僕がすっきりしないんですよ!」
大狐「!」
夫人「まあ!どうして銃を下ろすんですの!獲物はすぐ目の前に!それでも猟師ですの!?」
猟師「ああ、俺は猟師失格だ。明日から廃業だな。」
夫人「!?」
猟師「おい薬屋の青瓢箪!」
薬屋「はい!」
薬屋「猟師さん……!」
猟師「売り物がないから、貰う金もない!だから、報酬の三倍だしてもらう理由もないしな!」
夫人「あなた!なぜ逃がしたりするんですの!?」
仔狐「かかさまー!」
大狐「娘!」
夫人「なんですの!なんなんですの!庶民風情がこのように!あたくしに恥をかかせて……!?」
大狐「ほう……ならば、永遠に恥をかけぬようにしてくれようぞ……」
夫人「昨日の晩の……!化け物!はやく!はやく車をだしなさい!」
薬屋「狐さんこわい……」
・
・
料理屋「それで、最近店も大きくして繁盛しているってわけなのね。」
料理屋「同じ客商売としてはあやかりたいものだわ。」
薬屋「いやあ、遠方からもお客さんがきてくれて大変有難いですよ。」
料理屋「元猟師の彼も、番頭が板に付いてきたようだし。」
薬屋「ええ、僕の仕事がなくなっちゃうのでほどほどに、とは言ってるんですが。」
童女「きゃー!」
弟「にーさんが怒ったー!」
番頭「罰として店の床掃除だお前ら!」
童女「きゃー!お掃除だいすきー!」
弟「大好きー!」
番頭「まったく……」
薬屋「いえ……」
料理屋「毛皮好きで有名だったのだけど、ある日を境にぱったりと毛皮を集めなくなったんですって。」
料理屋「毛皮に触れただけで、全身が真っ赤に腫れ上がる病にかかったそうよ。」
薬屋「……うわあ」
料理屋「なんでも、いままで毛皮にされてきた動物の祟りだとか。」
料理屋「あらいらっしゃい。」
女主人「大方、なにか毛皮に関する恐怖が引き金になって体がそんな反応をしているだけであろう。」
薬屋「……ほんっとーに、なにもしていないんでしょうね?」
女主人「せぬせぬ。枕元に立ってやっただけよ。」
薬屋「うわあ。」
女主人「女将、いなり寿司を包んでくれ。」
料理屋「はいはい。またお稲荷様へお参り?」
料理屋「昔は小さな祠だと思っていたけれど、今はすっかり立派な神社よねえ。」
女主人「それはそうであろう。なぜならあそこは」
薬屋「商売繁盛の神様がおわしますから、ね。」
<おしまい>
ご支援ありがとうございました。
途中ID変わっちまいました。
元ネタは、赤毛のイケメン、ムックさんの歌ですぞ。
蛇足ですが以前書いたもの。
勇者「せっかくだから、違う選択肢を選び続けてみよう。」
http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/internet/14562/1332225434/
魔王「ものども!であえー!であえー!」
http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/internet/14562/1332638104/
勇者「私は、勇者であると同時に」
http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/internet/14562/1333425924/
学者「何の問題もないよ!だって私はケモナーだよ!?」
http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/internet/14562/1339946594/
乙
乙
Entry ⇒ 2012.07.18 | Category ⇒ その他 | Comments (0) | Trackbacks (0)
猫「今日もまた雨か……」
猫(……雨か)
猫(今日もまた長く降りそうだ気配だな)
猫(餌探しはヤメて宿探しに変更しよう)
――ザァァ。
猫(そういや、あの時もこんな雨だったか)
猫(濡れたダンボール箱、少量の餌)
猫(あの人何か言いながら俺の首輪を外してた)
猫(いくら鳴き続けてもあの人は戻って来なくて)
猫(そうして三日経ってようやく)
猫(捨てられたんだって気づいたんだっけな……)
猫(あの頃と俺は違う)
猫(寝床も餌も自分で探せる)
猫(俺はもう一人で生きていける)
猫(一人で、生きていけるんだ……)
猫(ん? 誰かやって来る)
タッタッタ
女「…………ふぅ」
猫(なんだ? コイツも雨宿りか?)
猫(まぁ俺には関係無いけどな)
猫「……」
女「耳、破れてる。痛そうだね……」
猫「……」
女「雨、早く止むといいね。キミも早く家に帰りたいだろう?」
猫「……」
女「え~っと。私の声、聞こえてるかな?」
猫「……」
女「……無視されちゃったか。ごめんね」
猫(気にしたって何も聞こえないし、どうでもいいか)
猫(しかし音の無い世界ってのはずいぶんと不便で退屈だ)
猫(雨音すらも全然聞こえねぇ。どんな音だったっけな)
猫(まったく退屈だ。こう体が濡れてちゃ毛づくろいもする気も起きねぇ……)
猫「……」
女「もしかして、本当に聞こえてないの?」
猫「……」
女「……」スタスタスタ
猫「……」
猫(つまり当たらなければどうということはない)
猫(俺の運動神経なら軽く避けられんじゃないか?)
猫(右左右右左右左右左左左右)
猫(うん。やっぱり俺ならいける。いつか試して――)
女「ねえ?猫君?」
猫「!?」ビクッ
女「やっと気づいてくれた。やっぱり耳が聞こえないんだね」
猫(ハァ?何喋ってんだ?こっちは聞こえねんだよ)
女「驚いても逃げないなんて、キミはきっと強い猫なんだね」
女「あっ、そうだ!」ゴソゴソ
猫(なんだよ。何しようってんだよ)
女「ほら。お昼ごはんの残りだけどあげるよ」
猫(なんだアレ……)
猫(真っ白くてツヤのある謎の物体だ)
猫(どことなく魚の良い匂いはするが……)
女「かまぼこだよ。ほら、食べれるよ」パクッ
猫(うわ、口に含んだ……。食えるのか、それ)
猫(こっちに投げた)
猫(……くれるってことか?)
女「……」モグモグ
猫(そういや、この雨で餌探し出来なかったもんな……)
女「……」モグモグ
「ニャー」
女「おっ。ようやく喋ってくれたね」
猫「……」パクッ
女「意外とカワイイ声だね。目つき悪いのに。ふふっ」
猫「……」モグモグ
女「キミを見てると、昔飼ってた猫を思い出すよ」
猫「……」モグモグ
女「……って言ってもキミには聞こえないんだろうけど。あはは」
猫「……」モグモグ
女「ムックって名前の猫」
女「真っ白なのに、お母さんがムックって付けちゃったんだ」
女「おかしいよね。でもね、なんか妙に合ってて」
女「気が付いたらみんなそう呼んでたんだ」
女「私、ムックと一番の仲良しだったんだよ」
女「私あまり友達がいなかったから」
女「学校から家に帰るのが毎日楽しみでしかたなかった」
女「ムックと一緒にいる時間が大好きだったんだ」
女「ムックはね、病気で死んじゃったんだ」
女「あの時は散々泣いたなァ」
女「何ヶ月も本当に何もする気力が無かった……」
女「思い出すと今でも胸が苦しくなるよ……」
女「でもね、悲しかったことより今は楽しかったことを思い出すように――」
猫「……」チョコン
女「あれ、もう食べ終わってた?」
猫「……」
女「ごめんね。話が長かったね」
女「聞いてくれてありがとう」
猫「……」
猫(俺、アンタが何言ってるのかわからんのよ)
猫(ただ、飯はうまかった)
猫『ごちそうさま』
「ニャアー」
女「“ごちそうさま”って言ってるのかな?」クスッ
猫『ありがとさん』
「ニャーオ」
女「今度は“ありがとう”かな?」クスッ
女「どういたしまして」
猫(この一飯のお礼、俺は忘れないぜ)
女「あの……かまぼこあげた代わりにさ」ウズウズ
女「ちょっと撫でてもいいかな?」ソ~ッ
猫(おっと。だからって気易く触らせはしないぜ)ヒョイ
女「あっ。避けられた……」
女「ようやく雨が止みそうだね」
猫(雨そろそろ止むか)
猫(しかし、腹が膨れて今は動きたくねぇ)
女「……あのさ」
女「またキミに会いに来ても……いいかな?」
猫「……」
女「触れなくてもいいから」
女「また来てもいいかな?」
猫「……」
女「……なんて。キミからすれば、私なんて興味無いよね」
女「それじゃ、バイバイ」スタスタ
猫『気を付けて帰れよ』
「ニャー」
女「!?」
猫『図々しくて悪いが、次もまた何かくれると助かる』
「ニャー、ニャー」
女「……うん。ありがとう、また来るよ」
女「またね。“ムック”」バイバイ
猫(人との交流は久しぶりだな)
猫(むしろ飼い主以来か?)
猫(そういえば、俺の飼い主はどんな人だったけか)
猫(……全然思い出せん)
猫(そりゃそうだ。俺もまだ子猫だったしな)
猫(唯一覚えているのは、最後の雨の日だけか……)
女「ムック」
猫『おぉ。アンタか』
「ニャー」
女「ようやく覚えてくれたみたいだね」
猫『アンタの顔覚えたぜ。相変わらず何言ってるかはわからないがな』
「ニャァー。ニャー」
女「そろそろ触らせてくれるかな……」ソ~ッ
猫(だが、まだ触れさす程俺は甘くない)ヒョイ
女「うぅ~。イジワルだね、キミは……」
女「ホント、ムックは小柄なのに良く食べるよね」
女「野良なのに毛並みも悪くないし」
女「元々どこかの飼い猫だったのかな」
女「……それでも、こうして生きているキミはたくましいね」
猫「……」モグモグ
「ニャー」
女「ムックは食べ終わると必ず鳴くんだね。お礼なの?」
猫『今日の飯は美味であった』
「ニャー」
女「ふふっ。どういたしまして」クスッ
女「それじゃ、また来るね。ムック」
猫『気をつけて帰れよ』
「ンニャー」
女「またね」バイバイ
猫(ずいぶん酔狂な人間もいたもんだ)
猫(いや、大変ありがたい。大いに助かる)
猫(しかし、狩りの仕方を忘れてしまいそうだ)
猫(たまには自分で餌を取りに行かねばな)
猫(全く思いもよらなかった)
猫(こんな感じ初めてだ……)
猫(よくわからないが“ 、 、 ”と呼ばれているのはわかる)
猫(名前か。俺の元の名前は何だったんだろう)
猫(あの時。首輪を外される時、何か言われてたけど)
猫(アレは名前を呼んでたんじゃない)
猫(アレはおそらく……懺悔だ)
猫(いや、俺はもう一人じゃない)
猫(今はあの、酔狂なアイツがいてくれるんだ)
猫(……)
猫(まぁ。そろそろ触れさせてやってもいいかな)
猫(やれやれ。俺も甘くなったもんだ)
――ザァァァ。
猫(今日は一日中雨か)
猫(どうにも雨は好きになれない)
猫(身体が濡れるのが嫌なのもあるが)
猫(やはりあの日のトラウマが大部分か)
猫(……)
猫(……)
猫(……)
猫(……)
猫(……アイツ、遅いな)
猫「……」
――ザァァァ。
猫(……今日もまた一日中雨か)
猫(結局アイツ来なかったな)
猫(まぁそういう日もあるだろう)
猫(この雨だ。ここへ来るのも一苦労だろうしな)
猫(……決して、寂しいわけではない)
――ポツリ、ポツリ。
猫(……)
猫(三日続けて、今日もまた来る気配は無い)
猫(良い奴だと思ったんだが)
猫(やはり気まぐれだったのか……)
猫(まぁ慣れたもんだろ。捨てられるのは)
猫(捨てられるのは……)
猫(人間ってのは所詮そんなもんだってこと)
猫(都合が悪くなれば簡単に捨てることも)
猫(……所詮俺は野良猫だ)
猫(元から頼るものは何もない。何も頼らない)
猫(そうだよ。そうなんだよ……)
女「ムックー!」
女「ねぇ!ムックー!」
猫「……」
女「よかった、そこにいたんだ」
猫「……」
女「ゴメンね、何日も来れなくて。今日も御飯持ってきたよ」
女「?」
猫「……」
女「ほっ、ほらコレ」
女「今日は奮発してみたんだ。猫缶だぞ」パカッ
猫「……」
女「どうしたの?具合悪いの?」
猫「……」
猫(見せびらかしやがって)
猫(俺はもうアンタの物には手を出さない)
猫(俺はもう誰も頼らない)
猫(決めたんだ、俺は)
猫(気まぐれで相手して、飽きたら捨てる)
猫(自分の都合が悪くなると俺を忘れて)
猫(自分の都合の良いように俺を忘れていくんだ)
猫(アンタを責めるようなことはしない)
猫(だからアンタも)
猫(あの日のように俺を捨てることになるなら)
猫(あの日のように全て奪うなら)
猫(もう何も与えないでくれ……)
女「ムック?どこに行くの?」
猫「……」スタスタ
女「ほら、猫缶だぞ?おいしいぞ?」
猫「……」スタスタ
猫「……」スタスタ
女「ねぇ。ちょっと待って――」スッ
猫『俺に触るなっ!』
「シャーッ!」
女「!?」ビクッ
猫「……」スタスタ
女「……ムック」
猫(しかしまぁ、ずいぶんと降るもんだ)
猫(空ってのはどれだけ水を溜めこんでるんだ?)
猫(そもそも何で雨が降るんだ?)
猫(空は泣くのか?これは涙か?)
猫(……あぁ。肌に当たる雨粒が痛いな)
猫(今までで一番痛い。あの時よりも……)
猫(俺は野良猫、元から一人だ)
猫(元に戻っただけ。それ以上でもそれ以下でもない)
猫(慈愛のフリでを差し伸べられるエゴならいらない)
猫(甘んじて期待させられるから裏切られたよう思うんだ)
猫(だから俺はアイツとの関わりを絶つ)
猫(それでいいんだ)
猫(本当はわかってるんだよ)
猫(一人になるのが悲しいんだよ!寂しいんだよ!)
猫(本当は、俺は……)
猫(俺は!一人になんてなりたくなかった!)
猫(何でだよ!何で捨てるんだよ!)
猫(何でこうなるんだよ……)
猫(届いた所でどうせまた捨てられる)
猫(だからこそ俺は)
猫(独りにならなくちゃいけないんだ)
猫(独りで生きていかなくちゃいけないんだ)
猫(一向に止みそうにないな)
猫(……)
猫(アイツは帰っただろうか)
猫(帰っただろうな……)
猫「……」
猫(数日振りに会ったと思ったら)
猫(俺の態度が豹変しているんだからな)
猫(理解できないって顔してたよな)
猫(あっちからすれば裏切ったのは、俺か……?)
猫(いや、でも……)
猫「…………」
猫(……本当に同じなのか?)
猫(あの雨の日、あの人は帰って来なかった)
猫(いくら呼んでも、助けを求めても)
猫(あの人は振り向きすらしなかった)
猫(でもアイツは……)
猫「………………」
猫(……少しだけ、様子を見に行くか)
猫(……)スタスタ
猫(雨が冷たい。痛い)
猫(こんな様子じゃ、もうとっくに帰って――!?)
女「……」
猫(こんな土砂降りの中ずっと立ってたのか?)
猫(何故だ?何でだ?何の為に?)
猫(まさか……もしかして)
猫(俺が来るのを待ってたのか……?)
女「……あっ」
猫『何してんだ。せめて雨宿りしたらどうだ』
「ニャー」
女「ムック……」
猫『どうした?アンタ、泣いているのか?』
「ニャァー。ニャー」
女「ムック……ごめんなさい!」
猫『おいおい、どうした?どこか痛いのか?寒いのか?』
「ニャーオ、ニャーォ」
女「ムックを捨てた訳じゃないだよ!本当に心配だったんだよ!」
女「ずっと心配だったのに、でも来たくても来れなくて」
女「なのにムックは待っててくれてたんだよね。本当にごめんね……」
女「嫌われて当然だよね……ごめんね」
猫「…………」
猫(俺には今、アンタが何を言ってるかわからない)
猫(もし俺の耳がちゃんと聞こえてても)
猫(きっとその言語は理解出来ないんだろうな)
猫(その顔見りゃ大体わかるけど)
猫(でもそれだけじゃない)
猫(きっと、俺とアンタは今、同じ気持ちだろうからさ)
猫『すまん。悪かった』
「ニャァ」スリスリ
女「!?」
「ニャー、ニャー」スリスリ
女「ムック……」ナデナデ
猫「ゴロゴロ」
女「許してくれるの……?」
猫『許して欲しい』
「ニャァ」
女「ムック、ありがとう……」ナデナデ
猫「ゴロゴロ」
「ニャー」スリスリ
女「ごめんね。本当にごめん」
猫(まだ泣いてるのかよ)
猫(なぁ。いつもみたいに笑えよ)
猫(笑えるまで傍にいてやるからさ)
猫『ニャー』
猫(今はもう心からそう思ってる)
猫(いつでも来いよ。俺はここにいるから)
猫『俺はここで、アンタが来るのをずっと待ってるよ』
「ニャー、ニャー」スリスリ
女「ふふっ」クスッ
女「これからずっとここに来るから」
女「来れない時もあるかもしれないけど……」
女「絶対ムックの所に来るから、待っててね」
女「これかもっと仲良しになろうね」ナデナデ
猫『ニャーオ』
猫(雨、止んだか)
女「雨、止んだね。よかったねムック」
猫(アンタもようやく泣きやんだみたいだな)
猫(きっと雨が全部洗い流してくれたんだな)
猫(俺の心の泥も、アンタの涙も)
女「ふふっ」ナデナデ
猫『ごちそうさまでした』
「ニャー」
女「どういたしまして」
女「それじゃ、また明日も来るね」ナデナデ
猫『ニャー』
猫(これは約束の証だ)ペロペロ
女「はは、くすぐったいよ」クスクスッ
猫「ゴロゴロゴロ」
女「ふふっ。またね。ムック」バイバイ
猫『またな』
「ニャーォ」
――ポツリ ポツリ
猫(今朝から降ってた雨もようやくやんだか)
猫(こんなに気持ちが晴れ晴れとしたのは初めてだ)
猫(せっかくだ。今日は外に出てみよう)
猫(この公園を出るのは何年ぶりだろうか)
猫(この耳じゃ外は出るのは危険だから禁止にしていたけど)
猫(今の俺なら何でもできる気がする)
猫(アイツはどれくらい驚くだろうか)
猫(喜んでくれるかな)
猫(いつもみたいに笑ってくれるかな)
猫(何だか気持ちが高揚してきた)
猫(アイツに会ったら、何て話しかけ――)
――キキィッ! ドン!
猫(………………)
猫(………………)
猫(………………)
猫(……今、何が……あったんだ?)
猫(あぁダメだ……わかんねぇ……)
猫(起き上がれねぇ……)
猫(身体が重い……)
猫(あぁ……アンタか)
女「―――――――!――――!」
猫(本当に、会える、なんてな)
猫(予想以上に、驚いて、るけど)
女「――!――――!―――!」
猫(どうした?また、泣いてんのか?)
猫(アンタ実は、泣き虫、なんだな……)
女「――!――――!」
猫(すまん、な。こんな、ことしか、できねぇ)ペロ…ペロ…
女「――――!――!――!」
猫(悪い……ちょっと……眠く、なって……きた)
女「――!――!――――――!」
猫(明日も……ちゃんと、待って、から)
猫(俺、ここ、いる……から)
猫(ずっと、傍……いる、か、ら)
猫(アンタ、の傍、に……さ)
猫(空が、綺、麗――――――――
――――――
――――
――
―
-
女「ヤダよ!ダメだよ!起きてよ!」
女「約束したんだよ!これからずっと来るって!」
女「これからもっと仲良くなろうって約束したじゃない!」
女「死なないで!お願いだよ、ムック!」
女「目を開けて、ムック!お願い!ムック!」
女「ムックーーーー!」
今日もまた出会った時のような雨が降っています。
そっちの天気はどう?やっぱり雨なのかな。
実を言うとね、キミがあの公園で雨宿りをしているのを見て、私も雨宿りしたんだ。
降りしきる雨を見つめる眼差しが、昔のムックにそっくりで、それで……。
雨を見つめるキミはとても悲しげだった。
昔、悲しい事があったのかな……。
私ね、キミのその眼差しにある悲しさを吹き飛ばしてあげたかったんだ。
だけど、キミはどう思ってたのかな。少しでも和らげられたかな。
ムックと出会えて本当によかった。楽しかった。
嫌われたと思った時はとても悲しかったけど、それでも最後は許してもらえて、すごく嬉しかった。
キミのお墓に花を一輪植えたんだ。
キミによく似た小さな真っ白い花を一輪だけ。
どこか悲しげだけど、楽しそうに風に揺れているよ。
いつまでも、いつまでも。
-
―
――
――――
猫(………………)
猫(ここは一体何なんだ)
猫(晴れるでもなく、雨も降らない)
猫(その上、周りには門が1つあるだけで他には何も無い)
猫(その先へと行かなきゃいけないならないらしい)
猫(誘導員が人から動物まで全てを門へ促しているが)
猫(俺は「人を待たなくてはならない」と拒んだ)
猫(そしたら、誘導員は笑顔で了承してくれた)
猫(俺はそれからずっと待っている)
猫(ずっと一人で……)
猫(ここまで退屈だと、逆に雨を見たくなるから不思議だ)
猫(まぁ雨を避けるイメトレが俺の唯一の趣味だったからな)
猫(でも、その趣味も実践もここでは不可能)
猫(結局、雨避けは試さず終いになっちまったな)
猫(そもそも、また会えるのかな……)
猫(アイツもここに来るのかな……)
猫(まさかもうアイツとは……)
猫(アイツが来るのをずっと待つって)
猫(アイツの傍にずっといてやるって)
猫(アイツが笑えるように傍にいてやるって!)
猫(アイツが来るまで)
――――!
猫(あと何十年、何百年かかろうと!)
――ック!
猫(俺は……ずっと……!)
?「ムック!」
猫「!?」ピクッ
猫(…………散々待たせやがって)
猫『来るのが遅ぇよ……』
「ニャー」
猫『俺、どんだけ待ったと思ってんだよ……』
「ニャー、ニャー」
猫『こんな何にもない場所で、俺は!』
「ニャーォ!」
猫『アンタを!アンタをずっと待ってたんだぞ!』
「ニャーォ! ニャーォ!」
女「でも約束したでしょ」
女「ずっと一緒にいようって」
女「ずいぶん待たせちゃったけど、もう大丈夫」
女「これからはずっと一緒だよ」ニコッ
猫(でも、わかってるよ)
猫(アンタの言いたいことはちゃんと伝わってるぜ)
猫(これからはずっと一緒だってこと)
猫(もう待たなくていいんだってこと)
猫(俺はもう、一人じゃないんだってこと)
猫『ニャーォ!』スリスリ
女「ふふっ」ナデナデ
―― fin.
Entry ⇒ 2012.07.14 | Category ⇒ その他 | Comments (1) | Trackbacks (0)
女神「貴方が落としたのは金の斧ですか?それとも」男「お弁当です」
女神「それとも銀の斧ですか?」
男「お弁当です」
女神「もしかして・・・あれかな?胴の斧とかいっちゃう?」
男「お弁当」
女神「・・・・・・」
男「・・・・・・」
男「食べたんですね?」
女神「いや・・・」
男「お弁当は?」
女神「そんなものおちてきませんでしたよ」
男「口の周りに食べカスがついてますよ」
女神「・・・!!」ゴシゴシ
男「嘘ですよ」
女神「・・・」
男「・・・食べたんですよね?」
女神「・・・」
男「ちなみに、何が美味しかったですか?」
女神「からあげです」
男「卵焼きはどうでしたか」
女神「最高です。甘くてフワフワしておいしかったです」
男「そうですか」
女神「はい!」
女神「タコの赤いウィンナーのアレもおいしかったです」
男「いや、僕はお腹が空いてるんですけどね」
女神「・・・」
男「まぁ、どうせ湖に落とした時点で諦めてましたけどね」
女神「すいません」
男「いいですよ。今日は昼飯抜きということで」
男「僕は薪取りの仕事に戻りますから」
女神「あ・・・あの・・・」
男「はい」
女神「あなたは、毎日この森で仕事をしているんですよね」
男「そうですね」
女神「また明日もきますか?」
男「はい、おそらく」
女神「・・・」
男「・・・」
女神「お弁当、すごくおいしかったです」
男「はい」
女神「本当においしかったです」
女神「この湖の精霊になってから、人間の食べ物なんて食べてきませんでしたから」
男「・・・」
女神「・・・」
男「・・・食べたいんですか?」
女神「・・・」
男「お弁当が」
女神 モジモジ...
男(・・・)
男「貧乏な僕にとっては、貴重な一食なんです」
女神「はい・・・」
男
男「・・・まぁ、また手をすべらせてしまうかもしれませんけどね」
女神「ほんとですか!」
男「さぁ・・・」
女神「・・・」
男「じゃあ、僕は仕事があるので、これで」
女神「はい。それではさようなら。人間よ・・・」ブクブク
男(沈んでった・・・)
木こりの男は、薪割りをして家に帰りました。
翌日
男 キョロキョロ
男 ミ□ ポチャン
男(・・・)
数十分後
ズゴゴゴゴ
女神「貴方が落としたのは、金の斧ですか?それとも銀の斧ですか?」ビチャビチャ
男「お弁当です」
男「また食べてましたよね」
女神「・・・」
男「すぐ出て来ないのは食べてたからですよね。ちょっと一服くらいの間をとってますよね」
女神「はい」
男「どうでしたか」
女神「すごく・・・おいしいです」
女神「お肉の入ったおにぎり・・・よかった・・・ポテトサラダも最高でした!」
男「そうですか」
女神「あ・・・」
女神「ごめんなさい・・・貴方のごはんを」
男「いや・・・今日は、予備のお弁当を持ってきてるんです」
男「力仕事ですから、すぐにお腹が減りますから」
女神「そうなんですか!」
男「一食失った事には変わりありませんけどね」
女神「・・・」
男「・・・」
男「じゃあ・・・とりあえず僕は仕事に」
女神「それではさようなら・・・人間よ・・・」ブクブク
女神「ぶくぶく・・・」
男「・・・」
男 スタスタ
それから男は、毎日お弁当を湖におっことしつづけました。
ズゴゴゴゴ
女神「あなたが落としたのは
男「お弁当です」
女神「はい。一口カツと、シューマイが絶品でした」
男「もはや悪びれる様子も皆無になりましたね」
女神「すいません・・・」
男「いえ、落とした僕が悪いんですけどね」
女神「ですよね!」
男「まぁ、十分気をつければ絶対に落としませんけどね」
女神「すいません」
女神「あ、あの」
男「はい」
女神「このあいだの、カレー味の肉団子、美味しかったです」
男「そうですか」
女神「はい」
男「・・・」
女神「・・・」
男「・・・まぁ、またお弁当に入ってるかもしれません」
女神「やったー!」
女神「あ・・・」
男「?」
女神「美味しいお弁当ですが・・・もしかしてお嫁さんとかが、つくってるんですか?」
男「ああ」
男「いえ、独り身ですから。自分でつくってますよ」
女神「・・・そうなんですか!料理うまいですね!」
男「ありがとうございます」
女神「すごいです、男さん・・・!いや人間よ・・・」
男「神っぽい威厳はとうに失われていますからそういうのいいですよ」
男「そういえば以前、この湖の精霊になったといってましたが」
女神「はい」
男「もとは、精霊じゃなかったんですか?」
女神「はい、もとは人間でした」
男「そうなんですか。どうして、精霊に?」
女神「・・・身投げ、したんです。この湖に」
男「!」
女神「人間の頃の悲恋を嘆いて・・・この湖に命を落としました」
男「・・・」
女神「そのままなら彷徨える魂になるはずでしたが」
女神「私の心が清らかな事を他の神に買われて、この湖の守り神にしてもらったのです」
男「自分で清らかとかいっちゃいますか」
女神「メガ純粋ですよ!」
男「そうですか」
女神「・・・」
女神「男さんは・・・人間の頃に愛していた男性に、似ている様な気がします」
男「そうですか」
女神「・・・でも、身投げの事はもう別にいいんです」
女神「そういう俗世とは切り離された神聖な存在に昇華しましたから!」
男「食欲に関しては俗心を捨て切れていないようですが」
女神「・・・」
男「・・・」
男「・・・また、明日来ます。じゃあ、これで」
女神「おお、人間よ、人間よ・・・」ブクブク
それから男は、毎日お弁当を湖におとしました。
来る日も来る日も、おいしいお弁当を。
男と女神は、いつも顔を合わせました。
そしてわりかし淡白な会話をしたあと、
男は森へ。
女神は湖へかえってゆくのでした。
数日後
ズゴゴゴゴ
女神「貴方が落としたのは、お弁当ですね・・・」
男「はい」
女神「あ・・・あれはなんですか!なにかトロッとしたの!」
男「多分かにクリームコロッケだと思います」
女神「ああ、もう幸せです。最高の美味しさです!」
男「よかったですね」
女神「はい・・・良い、良いです」
女神「おお・・・人間よ・・・私は明日が楽しみです・・・」
男「だからそういうのいいですよ」
女神「そういえば、木こりの仕事はどうですか?調子は」
男「まったく稼げませんね」
女神「そうですか・・・」
男「なので、木こりの仕事はやめることにしました」
女神「」
女神「え」
女神「や、やめる・・・?」
男「はい」
女神「・・・そ、そうなると、この森にくることは・・・」
男「・・・」
女神「・・・」
女神「や、やめてどうするんですか・・・」
女神「最近は再就職とか厳しいし・・・そう簡単に仕事変えるとか溜めた方がいいのでは・・・」
男「そういう現実的な話はちょっとSSにはやめたほうが」
女神「・・・・・・」
女神「そう、なんですか・・・」
男「はい」
女神「・・・」
男
女神「・・・これから、何をするつもりなんですか」
男「はい。料理屋をやろうかと」
女神「料理屋・・・?」
男「昔から、木こりは向いてないと思っていました。華奢だし」
男「家業をついでみたものの、どうもしっくりきませんでした」
男「それより好きな事がありました」
女神「それが・・・料理・・・」
男「はい」
男「でも、村や町では料理なんて女のする仕事・・・と割り切られています」
男「いくらか自信もありませんでしたけが」
男「でもある日、僕のつくったものを美味しいといってくれる人が現れて」
男「いや、人じゃなかったかな」
女神
男「あなたに、おいしいといってもらえて、自信がつきました」
男「自分を信じて、料理人になろうと思います」
女神「・・・そうですか」
男「・・・」
女神「・・・」
男「ところで・・・店を出す場所なんですが」
男「この湖畔の、すぐそばにしようかと」
女神「」
女神「えっ」
男「他の人に湖に女神が出ると言ってみたものの、誰も信用しませんでしたが」
男「女神の出る湖の店、なんて集客効果抜群だと思うんです」
女神「え。えっ人間よ、人間よ・・・」
男「どう思います?」
女神「」
女神「・・・――――――いいと思います!!」
男「・・・そう、ですかね」
男「なので、今日はこの辺りにお店をつくるために」
男「木こりとしての、最後の木材取りの仕事に来ました」
女神「そう、そうなんですか!」
男「ええ」
女神「・・・おおお、人間よよ!!」ポロポロ
男「ははは・・・」
女神は泣きました。涙の粒が湖に落ちて、またそれが湖の一部となりました。
それから森に、一つのお店が出来ました。
お客が窓から料理をひとつ落とすと、女神が現れるという事で。
女神の湖の店は、大繁盛しました。
お客は奇跡を目の当たりして、なおかつ素晴らしい料理に舌鼓をうって、満足してかえっていきます。
そして、おいしい料理を食べ続けた女神は、少しばかりふくよかになりましたが。
それでも湖と、その店の守り神として。
人々と、そして店の主人に深く愛され続ける事になりました。
ズゴゴゴゴゴ
女神「おお、人間よ人間よ・・・」
男「やぁ。今日の料理は?」
女神「――――――最高です!!」
めでたし
しょうどうにかられてやってしまいました
おわりです
乙
ちょっと川に弁当落としてくる
ちょっと弁当に湖落としてくる
乙
Entry ⇒ 2012.07.11 | Category ⇒ その他 | Comments (1) | Trackbacks (0)
孫娘「おい、クソジジイ!」祖父「なんだ、バカ孫!」
孫娘「おい、クソジジイ!」
祖父「なんだ、バカ孫!」
孫娘「アンタみたいな老いぼれに、金を恵んでもらう筋合いはないよ!」
孫娘「こんな金、いらない!」ポイッ
祖父「なんだと!?」
祖父「まだ働いてもいないスネかじりのひよっ子めが!」
祖父「大人しく受け取っておけ!」
祖父「ま、ネコに小判だ。どうせ下らんモノを買うに決まってるがな!」
孫娘「なんだとぉっ!?」
孫娘「アンタだって、国から年金もらって暮らしてるじゃんか!」
孫娘「あたしにあーだこーだいえる立場じゃないじゃん!」
祖父「ふん、ワシは何十年も働いて、老後のために年金を払ってきたんだ!」
祖父「悔しかったら働いてみせい!」
祖父「もっとも、お前のようなケツの青いガキを雇ってくれるところなんてないがな!」
祖父「ガハハハハッ!」
孫娘「ぬぅぅ……」
祖父「近所の宇宙博物館の名誉研究員としてな!」
祖父「どうだ、名誉だぞ!? 名誉!」
孫娘「ふ……ふん。いい年して、宇宙なんかに目を向けちゃってさ」
孫娘「まだ本気で月に行きたいとか思ってるわけ?」
祖父「当然だ!」
祖父「ワシらの世代、特にワシのような人間にとって月面着陸はロマンだ!」
祖父「アームストロング船長なんて、お前知らんだろ!?」
孫娘「知らないよ!」
孫娘「少しは地面に目を向けた方がいいんじゃない?」
祖父「どういう意味だ?」
孫娘「だってジジイはもうすぐ地面に埋まっちゃうじゃん!」
孫娘「それにどうせ行くとしたら地獄でしょ?」
孫娘「上だけでなく下も見ないと、舌抜かれちゃうよ!」
孫娘「キャハハハッ!」
祖父「む、こんのバカ孫が! 成敗してくれる!」
孫娘「負けるもんか!」
母「ちょっと二人とも、やめなさいよ」
父「いいじゃないか、やらせておけよ」
母「もう、あなたまで……!」
父「オヤジが博物館を定年になって……」
父「まだまだ馬力はあるのに、名誉研究員なんて名ばかりの職を与えられて」
父「しかもそれからすぐにお袋が亡くなって……正直ボケちまうかと思ってたけど」
父「あの様子なら、そういう心配もなさそうだ」
父「どっちも本気でやってるワケじゃないしな」
父「互いに相手は爺ちゃん、相手は子供だって手加減してるよ」
母「ちょっとは注意しないと……」
父「いいんだよ、気が強いオヤジにはあれぐらいでちょうどいいのさ」
父「俺がわりと大人しめで、親にあまり反発しない子供だったから」
父「どことなくオヤジも張り合いがなさそうだったしな」
父「それに二人とも、楽しそうじゃないか」
母「まったくあの子ったら……だれに似たんだかねぇ……」
祖父「ゼェ……ゼェ……」
孫娘「なかなか……やるじゃん……ジジイのくせに」
祖父「そっちこそ……やるじゃないか……ガキの分際で」
孫娘「ま、まぁ……疲れたし」
孫娘「今日はこのくらいにしといてあげるよ」
孫娘「あたしだって孫が祖父を暴行、なんてニュースになりたくないし」
祖父「それはこっちのセリフだ」
祖父「老い先短い身で、ムショ入りなんてゴメンだからな」
祖父「そんなことになったら、死んだ婆さんに顔向けできんわ」
孫娘「アンタの葬式で、くたばってよかったっていってやるから」
孫娘「骨なんかゴミ捨て場にばら撒いてやるから!」
祖父「ふん、ワシみたいなのは簡単にはくたばらないと相場が決まってるんだ」
祖父「いっそお前がくたばる時まで、ギネス更新するくらい長生きしてやる」
祖父「お前の葬式では、どうしようもないバカ孫でしたって大笑いしてやる!」
孫娘「やるか!?」
祖父「いつでもいいぞ!?」
孫娘「ジジイ、ご飯だってさ」
孫娘「ここは一時休戦といこうじゃないか」
祖父「ふん、いいだろう」
祖父「腹が減っては戦はできぬ、というしな」
孫娘「飯を食べてしばらくしたら、次は風呂で海戦だ!」
祖父「よかろう、ミッドウェーを生き抜いたワシの実力見せてやる」
孫娘「熱い湯はイヤだからね、ぬるま湯で」
祖父「やれやれ、仕方あるまい」
孫娘「いっけぇ~!」
祖父「砲撃だ!」
ザッパァン! バッシャ! バッシャアン! ザバァン! ジャブン!
孫娘「……浴槽のお湯がほとんどなくなっちゃったね」
祖父「またお母さんに怒られるぞ。お湯を無駄にするなって」
孫娘「ジジイのせいにするからいいもん!」
祖父「だったらワシもお前のせいにしてやるからな!」
孫娘「う~……!」
祖父「ぬ~……!」
祖父「だれが見とれるか」
祖父「ワシが愛した女性は、婆さんただ一人だった」
祖父(ホントは他数名いたけど……)
祖父「胸も出てないガキの裸なんぞ、これっぽっちも興味ないわ!」
孫娘「ひっどい、今のセクハラだよ!」
祖父「ふん、お前こそジジハラだ!」
祖父「少しは年長者を敬ったらどうだ!」
孫娘「そっちがうやまうに値するジジイになったらね!」
祖父&孫娘「ふんっ!」
孫娘「ようし、一緒に寝てやるよ、クソジジイ」
祖父「ほう、ワシの布団が恋しいか?」
孫娘「眠ったまま地獄に落ちちゃったジジイの死体の、第一発見者になってやるよ」
祖父「こんのバカ孫めが、寝てる間に屁をしてニオイをうつしてやるからな!」
孫娘「だったらあたしもオネショしてやる!」
祖父「ぐぬぅ……」
孫娘「ぬぐぅ……」
母「オネショなんて絶対許さないからね。洗濯が大変なんだから」
孫娘「ちぇっ」
<家>
ガキ大将「うっす!」
眼鏡「おジャマします」ペコッ
少女「こんにちは」
母「あら、いらっしゃい」
孫娘「ま、狭いところだけど上がってよ」
ガキ大将「ちわっす!」
眼鏡「孫娘さんの友だちの眼鏡といいます」
少女「こんにちは」
孫娘「これがあたしのジジイだよ、もうすぐくたばる予定だけどね」
少女「そんなこといったらダメよ……」
孫娘「いいのいいの」
祖父「ま、いつものことだしな。気にしないでおいてくれ」
祖父「そうだが、なんで知ってるんだね?」
眼鏡「やっぱり! ボク、よくあそこに行くんですよ!」
眼鏡「あそこで見かけたことがあって、もしかしたら……と思ったんです」
祖父「ほぉ~そうなのか!」
祖父「どうだね、よかったらちょっとワシの部屋に来るかい?」
祖父「色々なロケットや人工衛星の模型や……天体写真があるよ」
眼鏡「ぜ……ぜひ!」
ガキ大将「俺も見てみたい!」
少女「私も……」
孫娘「…………」
祖父「下の方をどんどん切り離して宇宙へ飛ぶんだ」
ガキ大将「へぇ~こんなゴツイのが宇宙に行ったのかぁ……」
祖父「ワシもけっこう本を書いたりしていてね」
祖父「これなんか、君でも分かりやすく読めるんじゃないかな?」
眼鏡「お、お借りします! ありがとうございます!」
祖父「これが天の川の写真だよ」
祖父「もう七夕にもなかなか見られないようになったが……」
少女「うわぁ~キレイ……!」
孫娘「…………」
祖父「君たちが孫だったら嬉しかったんだがな」
祖父「ガハハハハハッ!」
ガキ大将「へへへ、今日は楽しかったっす!」
眼鏡「ボクもおじいさんみたいな人の孫になりたかったです……」
少女「孫娘ちゃんに似て、明るくて面白い人ですね」
祖父「ま、ワシは今はほとんど暇人だから、また来るといい」
孫娘「…………」
祖父(たまにはよその子と遊ぶのも悪くなかったな……)
祖父(しかしまぁ、やっぱりアイツとのケンカは欠かせんな)
祖父「──ってあれ? 孫娘はどこだ?」キョロキョロ
母「あ、お義父さん」
母「あの子……ちょっとスネちゃったみたいで」
祖父「あ~……まあ、つい出しゃばって友だちと遊ぶのをジャマしてしまったからな」
祖父「悪いことをしてしまったな」
母「いえ、そうじゃないんですよ」
祖父「え、どういうことだい」
祖父「へ?」
母「他の子が孫だったら、って言葉もけっこうショックだったようで……」
母「まあ、すぐに元通りになりますよ」
祖父「……やれやれ、しょうがない孫だ」
祖父「少しは可愛いところがあるじゃないか」ニヤッ
祖父「どれ、少しからかってやるとするか」
孫娘「……なんだよ、クソジジイ」
孫娘「アイツらが孫だった方がよかったんでしょ!」
祖父「まぁな」
孫娘「!」
祖父「だれかとちがって、あの子たちは素直で、真面目で、宇宙にも興味がある」
祖父「あのような孫を持てた爺さん婆さんは、さぞ幸せだろうな」
孫娘「…………!」
祖父「ワシとしてはまぁ……なんだ」
祖父「もう少し張り合いがある孫の方がいい」
祖父「年寄りを年寄りと思わない、一筋縄じゃいかない孫の方がな」
孫娘「…………」
孫娘「やれやれ、しょーがないな」
孫娘「やっぱ、ジジイの孫はあたしじゃなきゃ務まりそうもないね」
祖父「フン、そうだな」
孫娘「仲直り!? お母さん、ジジイとあたしは宿命のライバルなの!」
孫娘「仲直りなんてありえないよ!」
母「あらやだ、ごめんね」
母「まあそれはともかく、明日おじいちゃんの博物館に行ってみない?」
孫娘「へ? なんで」
母「なんでって、アンタおじいちゃんが働いてるところほとんど見たことないでしょ」
孫娘「見る価値がないからだよ!」
母「アンタとケンカしてる時とちがって、マジメなところを見たくないんでしょ?」
母「なんとなく照れ臭いから」
孫娘「ち、ちがうよ!」
母「じゃあ、いいじゃない」
母「たまには親孝行だと思って、私に付き合いなさいよ」
母「おじいちゃんにはナイショにしといてあげるから」
孫娘「分かったよ……」ブス…
<宇宙博物館>
母「ほら、あそこにおじいちゃんがいるわよ」
母「お客さんになにかを説明してるみたい……すごいわねぇ」
孫娘「…………」
母「どう?」
孫娘「ふんっ!」
孫娘「あんなクソジジイに説明されるお客さんが可哀想!」
母「まったく……じゃあ帰りましょうか」
孫娘「あ、あの説明が終わるまで待って」
孫娘(ピンと背筋をはって、お客さんの質問にハキハキ答えていた)
孫娘(もちろん、内容はあたしにはよく分からないけど……)
孫娘(いつもとは別人みたいだった……)
孫娘(ちょっとだけ、かっこよかった……かな?)
孫娘(ううん、やっぱりかっこよくなんかない!)
祖父「ただいま」
孫娘「あっ、ジジイ! この給料泥棒!」
孫娘「今日も博物館の人に迷惑かけてきたんだろ!」
祖父「なにをいうか! ちゃんと金の分くらいは働いてきたぞ!」
孫娘「ウソつき! ウソつきは泥棒は始まりなんだよ!」
祖父「ほぉう、今日はなかなかいうじゃないか! よし着替えたら一勝負だ!」
祖父「いっとくが手加減しないぞ!?」
孫娘「よしきた!」
孫娘(よかった……いつものジジイだ)
<宇宙博物館>
職員「どうでしょう?」
祖父「ふ~む」
祖父「近年話題になったこともあるし」
祖父「もっと人工衛星を押し出したレイアウトにした方がいいかもしれないな」
職員「そうですね」
職員「模型などを取り寄せてみましょうか」
祖父「うむ、そうしてくれると──うっ!」
祖父「ううっ……!」ガクッ
職員「ど、どうしました!? しっかりして下さい!」
孫娘「えぇっ!?」
先生「博物館で仕事中、倒れられたらしいの……」
先生「今日は早退して、すぐ病院に行ってあげて」
孫娘「分かりました!」
孫娘(そんな……ジジイが倒れただなんて、そんな……!)
孫娘(ジジイ……くたばったりしたら、許さないんだから!)
祖父「いやぁ~心配かけてすまなかったな」
父「無事でなによりだったよ、オヤジ」
母「えぇ、本当によかった……」
孫娘「うぅっ……」グスッ
祖父「おいおい、涙はワシは死んだ時にとっておけよ。ガハハハハッ!」
祖父「ただでさえ、ワシが死んだ時に泣きそうもないんだからな、お前は」
孫娘「泣いてなんかないよ!」
孫娘「なんなら、ここで勝負する!?」
母「こらこら」
祖父「勝負は退院してから、だな」
孫娘「うん!」
孫娘(ふぅ……)
孫娘(よかった……ジジイが無事で……)
孫娘(本当に心臓が止まるかと思っちゃったよ)
孫娘(さぁて、明日から当分家にジジイはいないけど)
孫娘(いつ帰ってきてもいいように、いっぱい悪口を考えておこう!)
孫娘「……むにゃ……」
父「ああ……だいぶ悪いらしい」
父「もってあと半年……だそうだ」
母「そんな……! でも全然そんな風には見えなかったけど……」
父「まあ、我慢強い人だったし……それに……」
父「アイツとやり合ってる時のオヤジは本当に楽しそうだった」
父「多分アレがあったから、あんな状態でもここまで頑張れたんだろうな」
孫娘(病気だなんてウソみたいだった)
孫娘(あたしが持ってった見舞い品にケチをつけてきて、いつもの大喧嘩)
孫娘(でも……でもね)
孫娘(本当はあたし知ってるんだ)
孫娘(だって……)
孫娘(ジジイを驚かせようと思って、こっそり面会時間外に病院に行った時──)
祖父「げほっ、ごほっ、げほっ!」
ナース「大丈夫ですか!?」
祖父「ああ……げほっ! げっほ!」
祖父「すいません……本当に」
祖父「まったくこんなところ、孫には見せられんな」
ナース「早く元気になって、お孫さんを喜ばせましょうね」
祖父「……ああ」ゲホッ
孫娘「…………」
孫娘(こんなところ、あたしに見られたくないよね?)
孫娘(だって、逆の立場だったらあたしもジジイに見られたくないもん)
孫娘(だって、あたしらは宿命のライバルなんだもん)
孫娘(だから今日は会わないでおくね)
孫娘(本当は会いたいけど……)
<学校>
孫娘「ねぇ、みんな。相談があるんだけど……」
ガキ大将「どうしたんだよ、突然」
眼鏡「なんだい?」
少女「どうしたの?」
孫娘「実はね……」
孫娘「あたしのジジイを……月に行かせてあげたいんだ」
孫娘「ジジイ、今入院してて……すごく辛そうなんだ」
孫娘「で、昔から月に行くのが夢だったっていってたから……」
孫娘「もし叶えてあげたら……少しはよくなるかと思って……」
少女「そういうことだったの……」
眼鏡「あのお爺さんが……そんな……」
ガキ大将「…………」
ガキ大将「いいぜ、出来る限りのことはしてやろうや!」
ガキ大将「とにかく方法があるのか調べてみようぜ!」
眼鏡「じゃあボクの家にパソコンがあるから、インターネットで調べてみよう!」
孫娘「……ありがとう!」
ガキ大将「──ダメだったな……」
眼鏡「月旅行はおろか」
眼鏡「ほんのちょっと大気圏外に出るだけでも、とんでもない費用がかかる……」
眼鏡「しかも訓練まで必要とするなんて……」
眼鏡「これじゃ、とても入院しているお爺さんに旅行させることはできない……」
少女「漫画とかじゃ一瞬で行けるのに……」
孫娘「みんな、ありがとう……ごめんね」
ガキ大将「そうだ! 宇宙博物館に月の石が展示してあったろ!?」
ガキ大将「あれを分けてもらって、プレゼントするってのはどうだ!?」
ガキ大将「爺さんは博物館の人なんだし、頼めば分けてもらえるだろ!」
眼鏡「それぐらいなら、できるかもしれないね!」
少女「うん、頼みに行ってみよう!」
孫娘「みんな……」
職員「──その気持ちは痛いほど分かるよ」
職員「私も……あの人には昔からお世話になってきたからね……」
職員「しかし、アレは博物館の物ではなく、借りものなんだ」
職員「たとえ一部であろうと、あげるってワケにはいかないんだ……」
眼鏡「そうですか……」
ガキ大将「くそう……!」バシッ
少女「月の石もダメだなんて……」
職員「すまないね、私としても本当は丸ごと差し上げたいくらいなんだ」
孫娘「いいよいいよ。あんなジジイ、その辺の石ころでも十分だもん!」
孫娘(ごめんね……ジジイ)
眼鏡「なにしろ地球から月までは、38万キロもあるからね……」
眼鏡「月が向こうからやって来てくれればなぁ……」
孫娘「そんなことできっこないよね……」
少女「…………」ハッ
少女「そうだわ!」
少女「月の方から地球に来ればいいのよ!」
孫娘「え、どういうこと!?」
少女「気休めにしかならないかもしれないけど──」
ガキ大将「面白いな!」
眼鏡「まあ、相手は天文学のプロだけど……きっと喜んでくれるよ」
少女「じゃあ、今日中に一人一つずつ作って、明日病院に行きましょう!」
孫娘「うんっ!」
孫娘「ふんふ~ん」チョキチョキ
母「あら、アンタなに作ってるの?」
孫娘「えへへっ」チョキチョキ
孫娘「明日病院に行って、ジジイに月旅行気分を味わわせてやるんだ」チョキチョキ
母「月旅行気分……?」
母「病院なんだし、あまり騒がしくしたらダメよ」
孫娘「は~い」チョキチョキ
<病院>
祖父(さてと、今日は孫娘が友だちを連れてくるとかいっていたな)
祖父(弱ってるところは見せられんな)
祖父(今日は久しぶりに調子がいいからな、いつでもいいぞ)
コンコン
祖父(来たか!)
ガチャッ
祖父「!?」
ウサギA「はるばる月からやってきてやったぞ!」
ウサギB「へへへ、地球の空気はうまいぜ……」
ウサギC「あなたは我々の住んでいる星に詳しいそうですね、こんにちは」
ウサギD「はじめまして、お爺さん」
祖父(こ、これはウサギのお面を被った──)
祖父(いや、この四人は月で餅をついているウサギだ!)
祖父「ほう、わざわざ月から来てくれたのか! こりゃまたご苦労だったね」
ウサギA「地球の文明は遅れてるから、なかなか大変らしいじゃない?」
ウサギA「だからこっちから来てやったよ」
祖父「どうもありがとう、ウサギさんたち。ま、ゆっくりしていってくれ」
ウサギB「照れ臭いぜ」
ウサギC「ところで、あなたは月について色々知っているそうなので」
ウサギC「ボクたちに教えていただけませんか?」
ウサギD「お願いします」
祖父「ガハハッ、ワシは君たちの故郷が大好きだからね」
祖父「ワシなんかの話でよければ、聞かせてやろう」
ウサギC「勉強になりました。また色々教えて下さい!」
祖父「月に住んでるウサギさんたちに満足してもらったなら」
祖父「ワシも研究者冥利に尽きるってもんだ、ガハハハハッ!」
ウサギD「……ところで、お爺さん」
祖父「なんだい?」
ウサギD「このウサギさんが特別にいいたいことがあるらしいの」
ウサギA「えっ!? な、ないよそんなの!」
ウサギD「ほらほら!」グイッ
ウサギA「うぅ……」
祖父「ほぉう。聞かせてもらおうか?」ニヤッ
祖父「ああ、一緒に住んでいたよ」
ウサギA「その孫から伝言を……もらってるから……」
祖父「ほぉう?」
ウサギA「聞いてくれる……?」
祖父「もちろんだとも」
祖父「ワシが世界で一番愛する孫からの伝言だからな」
祖父「耳かっぽじって聞かねばバチが当たる」
ウサギA「あ、ありがとう……」
ウサギA「いっつもジジイ呼ばわりしてごめんなさい」
ウサギA「えぇと……あたしはおじいちゃんが大好きです」
ウサギA「実はあたし、こっそり博物館に行ったことがあるの」
ウサギA「お客さんに説明をしていたおじいちゃんは、とてもかっこよかった」
ウサギA「あ、あとおじいちゃんのために、月の石をもらいに博物館に行った時」
ウサギA「博物館の人も……心配してたよ」
ウサギA「お父さんとお母さんも……」
ウサギA「だからまた……」グスッ
ウサギA「絶対……元気になって……」グスッ
ウサギA「ケンカ……しようね……」ポロッ
祖父「こりゃあ、くたばれなくなっちゃったな!」
ウサギA「くたばるなんて……いわないでよ……」
祖父「そうだな!」
祖父「孫娘には、絶対元気になると伝えてくれ!」
ウサギA「うん……!」グシュッ
祖父「他のみんなもありがとう!」
祖父「まさか月からわざわざやって来てくれるとは」
祖父「ワシはアームストロング船長より、贅沢者だよ!」
ウサギB「絶対元気になって下さいっす!」
ウサギC「また宇宙について教えて下さい!」
ウサギD「私たちも待っていますから……」
祖父「月までは遠いから、気をつけて帰るんだぞ」
ウサギB&C&D「はいっ!」
ウサギA「…………」
祖父「?」
ウサギA「…………」バッ
孫娘「ぐすっ……」
祖父「おうおう、よしよし」ナデナデ
孫娘「絶対絶対絶対、元気になってね!」
孫娘「あたし……待ってるからね!」
祖父「ガハハッ! 心配するな、ワシのようなジジイはしぶといと相場が決まってる!」
祖父「だからお前もしぶとく生きろよ!」
孫娘「へん、分かってら!」
──
───
それから数週間後、祖父は帰らぬ人となった。
亡くなる直前の日々、祖父は入院前とは比べ物にならないほどやせ衰えていたが、
その顔には常に明るい笑顔が張り付いていた。
まるで長年叶えられなかった夢を、ついに叶えることができたかのように──
父「……まったくオヤジらしい最期だったな」
母「天国で、きっとお義母さんと再会したでしょうね……」
孫娘「ううん、おじいちゃんは天国には行ってないよ」
母「え?」
孫娘「だって、あんなに元気だったんだもん」
孫娘「きっと……おばあちゃんも誘って……月まで行ってると思うから……」
おわり
面白かった
Entry ⇒ 2012.07.08 | Category ⇒ その他 | Comments (0) | Trackbacks (0)
王妃「早く来なさい、白雪姫」白雪姫「はい…」
白雪姫「ごめんなさい…」
王妃「ほら、早くここを掃除しなさい」
白雪姫「はい…」
王妃「…」
ジロリ
白雪姫「ビクッ」
ハア…
王妃「あの子ももう16歳…」
王妃「…綺麗になったわね、白雪姫」
王妃「それにあんなに健気でいい子になって…だから余計辛いわ…」
王妃「私は貴方をおびえさせることしか出来ないのが…」
ガックリ
側近「もうしばらくの辛抱でございます」
王妃「そうね、隣国の王子なら、あの子を幸せにしてくれるわ」
側近「王様の手には絶対渡してはなりませぬ」
側近「共に最後まで頑張りましょう」
王妃「…側近、ありがとう。貴方が頼りよ…」
王妃「他でもない…策略結婚よ…」
王妃「『…私と…と結婚しろ…さもなくば戦争だ…』ですって」
王妃「小国の私の祖国と大国のこの国が戦争したら…結果は見えているわ」
王妃「私には…大臣の旦那様と…お腹に赤ちゃんがいた…」
王妃「…結婚するために赤ちゃんは下ろしたの…」
王妃「こうしてこの国と私の祖国は不可侵条約を結んだ…」
王妃「…国民が…私の家族が…これ以上傷つけられずに済むなら…
私がどんな目にあっても良かったわ…」
王妃「この城で…皆から“魔女”と言われようとも…うとまれても」
王妃「ああ…白雪姫…貴方だけはいつも優しかったわ」
王妃「この…血の繋がっていない私をお母様と呼んで…いつもくっついて来て…」
王妃「可愛かったわ…ホントに…娘が出来たみたいで…」
王妃「自分の子とダブられていたのかもしれないけど」
王妃「祖国では夫を裏切り子を殺した罪人、
王宮では魔女と呼ばれる私の居場所は白雪姫の隣しかなかったわ」
王妃「でも…いつまでもそうは出来なくなったわ…」
側近「…王妃様…」
王妃「あのスケベ…あいつ…」
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王『側近よ』
側近『はっ』
王『王妃をどう思う?』
側近『それは大変美しい…と思いますが』
王『ははっ、確かに気は強そうだがね』
王『あれは…前の王妃にうり二つだ』
側近『王様…』
王『でもな…あれは俺には心から笑ってくれん』
王『そっくりだが何かが全く違う』
側近『…』
王『でもな…あれ以上に似ている女を見つけた』
側近『誰ですか!?』
王『白雪姫だ』
側近『…なんですと…!?』
まっさお
王『よく考えれば娘だから似てるに決まっている』
王『あれは…成長したらますます美しくなる…前王妃のように』
王『しかも性格もこの上なく似ている』
王『笑い方も…好きなものも…』
側近『…おやめに…』
側近『…』
王『お前の一族…皆殺しだぞ…』
側近(クソッ、あの時と同じかよ!!今の王妃様の時と…)
王『上手く俺と白雪姫をくっつけろ』
側近『そんな…』
王『そして、年頃の男を一切近づけるな』
王『あれは…そうだな、隠しておこうか』
王『世間には…死んだことにして…な』
王『そして、塔でも立てて、そこに住まわせよう』
王『王妃…あれもついでにサッサと殺せ』
王『あの女が一番たてつくに決まっている』
王『いい加減、あれの国に攻めないのも辛くなってきたのでな』
側近(この外道…!!)
ギリッ
王妃『おや、どうしたの側近?』
側近『いますぐ2人で話したいことがあるのです…緊急事態発生です』
王妃『そ…そう、しばらく1人で遊んでてね、白雪姫』
王妃『どうしたの?そんな顔して?』
側近『王妃様、すみません…』
ガバァ
王妃『ちょ、どうしたの!?顔をあげて、側近』
側近『王様の暴走を止められませんでした』
王妃『へ…?』
王妃『もしかして…また増税したの?民衆はあんなに苦しい生活を送っているのに…』
側近『いえ、増税ではありません』
側近『…そうですが…』
王妃『はぁ…まあいいわ…で、相手は?』
側近『…白雪姫です…』
王妃『…!いま…なんて…?』
側近『貴方が娘のように可愛がっている…白雪姫です…』
王妃『そんな…あの人の実の娘よ!?』
側近『…あの王様は…いえ、あの人は狂っています…』
側近『王様は、姫様を一人占めにしたいがため、世間一般には死んだと公表し』
側近『塔にでも閉じ込めるつもりです!』
王妃『なんてこと…どうすればいいの…』
王妃『…王様を暗殺するわ』
側近『ダメです!!』
王妃『決行するチャンスは…夜、共に寝るとき…』
側近『いくらなんでも無理です!!』
側近『あの人は昔、王子のころ最強の戦士と謳われた男ですぞ!!』
王妃『…』
側近『歳をとったとはいえ…この間の剣の舞を見る限り、腕は衰えておりません!!』
王妃『私だって…全く武芸に通じてないわけではないわ…』
側近『ですが…』
王妃『やるしかないわ…どうせ、あの人は私を殺す予定でしょ?』
王妃『…それに、万が一王を殺せたら…私がこの国の権力を握ることが出来る』
王妃『祖国も…白雪姫も守れる』
側近『でも、王妃様!王様は白雪姫の実の親ですよ!!』
王妃『実の親に犯される方が、殺される以上の悲劇よ』
王妃『別にいいわ…私のことなんて気にしないで』
王妃『迎える結末が悲劇なら…全力で…その結末に抵抗するわ…』
王妃『悲劇を希望にかえれるように』
王『zzz』
王妃(今…眠っている…)
王妃(首を絞めるなら、今)
王妃(殺すなら、今!!)
グッ!!
王『!!』
王『ぐふっ…』
グォン!!
王妃(ぐっ…頭を…殴られた)
王妃(なんて力なの…)
王妃(早く…早く死んで…)
王『ぐ…ぐ…』
ガン!ガン!!
王妃(ダメだ…意識が)
王(いまだ!)
ゴフッ!!
王妃『ぐはっ!』
ガタン!!
王『お前、なかなかやるじゃないか』
王『昔…武芸でもやってたか』
王妃『く…』
王『しかも…俺の足蹴りを食らってもいまだ立っている…』
王妃『…』
チャキ
王『ほう…まだ戦うのか…そんなちっぽけな小刀で…』
王妃『…黙りなさい!』
ブン!!
王『ふん』
スカッ
王妃『逃げるな!!』
ブン!!
王『ホイさっと』
グワン!
王妃『な…腕を掴まれた!?』
ガシィ
王『なかなかの身のこなしじゃないか…』
王『でも残念だったな…俺が相手で…』
王妃『くそっ…』
ギリリッ
王『おーこわっ』
王『そうだ、これ、返してあげるよ』
王妃『へ…?』
グサッ
王妃『…ゴホッ、ゴホッ』
ボタボタ…
王妃(小刀が…突き刺さっている…)
王妃(意識が…)
側近『王妃様がいらっしゃらいので、泣きじゃくってベッドから出てきません』
王『はぁ~…王妃は今地下牢だが…』
側近『昨日から何も食べてはおりません』
王『面倒なことにしてくれたな、あの女…』
白雪姫『お母様…ぐすん…』
王妃(…とうとう幻覚も見るように…もう先は長くないわ…)
白雪姫『お母様…お母様…』
王妃(…)
王妃(本物なの…?)
白雪姫『だから閉じ込められてるって…』
王妃『し…白雪姫…』
白雪姫『私がイタズラしてもいつも許してくれる…』
グズグズ
白雪姫『…確かに罰は受けたりするけど』
白雪姫『何で…そんなひどいことしたの…?』
白雪姫『許してくれないの…?』
ボロボロ
王妃『…それほど酷いことを私はしたのよ』
王妃『まねしちゃだめよ』
ニコリ
グズン、グズン
王妃『ほら、笑いなさい、私は元気だし…』
ズキズキ
王妃『私は…本当に大丈夫よ、それよりどうして貴方はここに忍び込んだの?』
白雪姫『私1人通れるくらいの抜け穴があるの…』
王妃『悪い子ね、こんな危ない所来ちゃダメよ』
王『そうだぞ!』
王妃『!?』
白雪姫『…お父様…どうして』
王『このイタズラ娘!』
白雪姫『ごめんなさい…ごめんなさい…』
ウワアアアン
白雪姫『でもお母様に会いたくて…』
王妃(白雪姫…)
王妃(…王様のあの目…)
王妃(あの表情…あれは娘を見る目なんかじゃない…)
王妃(一人の女を見る目…)
王妃(信じられない…こんな小さな子に…)
王妃(側近から最初聞いた時は正直半信半疑…
きっと側近じゃなかったら信じなかったわ…)
王妃(でも…こうして見ると…ますます真実味を帯びてくるわね…)
王妃(…やっぱり死ねないわ…)
王妃(私の祖国だけじゃない…)
王妃(この小さな…白雪姫が…この男とくっつくなんて…絶対許さない)
王妃(この子を…どうやったら救えるの…?)
白雪姫『…ぐすっ…どういうこと…?』
王『丁度いいね、白雪姫、この女は私の首を絞めたんだよ』
白雪姫『…嘘つかないで…お母様はそんなことしないわ…』
王『悲しいことに…真実だよ』
ハアッ…
王『白雪姫…この女、お前の本当のお母さんに…そっくりだけど…中身はまるで違う』
王『この女はね、魔女だよ』
白雪姫『嘘よ!!お母様はいつも優しかったもん!!』
白雪姫『お母様は…本当のお母様は、この人だもん!!』
王『やれやれ、子どもだから仕方ないか』
王『王妃…白雪姫と会えるのもこれで最後だからな』
ニヤリ
王妃(…考えなさい…何としてでも…)
王妃(この子の未来を守るのよ…)
王妃(…前の王妃と私が似ている…)
王妃(…白雪姫も似ている…)
王『お前はいつもつまらなさそうだ…』
王妃(…私に熱をあげていた頃…そんなことをいっていたわ…)
王妃(…この人は前王妃を溺愛していて…今でも彼女の愛情に飢えている)
王妃(前王妃に似ている私が相手にしなかったばっかりに…
白雪姫に関心がいってしまったのね)
王妃(…最終手段よ…これだけは絶対したくなかった)
王妃(…でももう、こうでもいわないと…それだけ王と溝が出来ている…)
これしか貴方を守れる可能性がないわ)
王妃(私の不甲斐無さに腹が立つ…!最初から…)
ギュ
王妃(私がもっと王様の機嫌をとればよかったのよ…
そうしなかったから白雪姫を傷つける結果になるのよ)
王妃(ああ…神様、白雪姫…私を許して…)
王妃『王様…』
王『ん?』
王妃『王様はいつも私を見てくれないじゃない…』
王『…?』
王妃『私は、私を愛してほしいの!!』
王妃『ああもう!!このガキなんかばっかり見て!!』
白雪姫『へ…?』
王妃『この子がそんなに大事!?』
王妃『ねえ!?私は好かれたかったからこいつと仲良くしてたの!!』
白雪姫『そんな…お母様…うそでしょ…?』
王妃(…ごめんなさい、ごめんなさい…)
ズキズキ
王妃『お黙りなさい!!』
白雪姫『ひっ…グスッ』
王妃『貴方こそ、私を見てないじゃない!!』
王妃『だから、殺してやりたかった!!』
王妃『…王様…あなたを…私のものにしたかったから…!』
王妃『ねえ…嫉妬させないでよ…』
王妃『ねえ、私を…悪い女にさせないでよ…』
王『…へええ』
ニヤニヤ
王『…おい、守衛』
守衛『はっ』
王『王妃を出してやれ』
守衛『な…しかし…』
王『なかなか可愛い奴じゃないか…』
王(まあ…嫉妬の件は…面倒だがね…)
王(俺を愛するあまり…ってやつか、思ったより気分が良い)
王妃(…かかったな、馬鹿野郎)
王妃(でも…白雪姫…)
王妃(いいわ…私は嫌われても良い)
王妃(だから…せめていい所に何としてでも嫁がせてみせる)
ダダダッ
王妃『王様!!』
ガシィ
王『おう、積極的じゃないか』
王妃『…何を見ているの』
白雪姫『…お母様、悪い冗談でしょ』
王妃『私はあんたの母親になった覚えはないわ』
バシィ!
白雪姫『ううっ…うわあああん』
王『こらこら、いじめるんじゃない』
王妃『ねえ、王様ぁ』
うるうる
王『…わかった、わかった…』
ナデナデ
白雪姫『…ぐすん』
王妃『側近…側近…うわあああん』
側近『王妃様…』
王妃『私…あの子を殴ったわ…』
王妃『あの子を泣かせたのよ…』
ぼろぼろ
側近『今回のことは私にも責任はあるのです』
ギリリッ
側近『だから…ご自分をお責めにならないように…』
側近『…王様が考えを改めるように説得してみます』
王妃『うっ…うっ…』
側近『…ですから、王様、今回の件は貴方にも問題はあるのです!』
王『ほう…側近の癖に、いうではないか』
側近『貴方が姫様を女とてみるからにございます!』
側近『お考えなおし下さい!!』
側近『やはり道徳に反します!!』
側近『神が許されるとお思いですか!?』
側近『お願いにございます、我が親愛なる王、しばらく距離を置きになって下さい!!』
王『側近、いうことはそれだけか?』
側近『ええ、まあ…』
王『…お前たち、側近を連れて行け』
兵士『え…はっ!』
バタバタ
側近『く…!』
グッ
王妃『おやめなさい!!』
王『王妃…』
側近『王妃様…』
王妃『王様、女を見くびってはいけませんわ』
王妃『…王様が白雪姫、あの小娘を女として見ているのは分かっているのですよ』
王『…ほう』
王妃『私は…許せませんわ!!』
王妃『あの女が王様の視界に入ること自体!!』
王『…お前、嘘をつくの上手いな』
王妃『!?』
王『可愛げのある奴と思った俺がばかだったわ』
王『白雪姫の為にやっただろう』
王『俺とくっつけさせたくないがためにねぇ』
ハァ~
ジロリ
王妃(…しまった…墓穴を掘ったようね…どうすれば…)
王妃(…これだ)
王妃『いいですわ…そんなにおっしゃるならば…』
王妃『いいですか、貴方達!』
兵士『わっ、は!』
王妃『白雪姫を連れてらっしゃい!!』
ドンドン!!
兵士『わ、わかりました!!』
バタバタ
兵士『連れてまいりました!!』
王妃『こっちへきなさい!!!』
白雪姫『ガタガタ』
王妃『…王様…私の思いをご覧ください…』
ガタッ!
王妃(ああ…ああ…誰か…助けて)
ガシィ
王妃『…殺しますよ、この子を』
白雪姫『あう…』
ガタガタガタ
王『やれるもんなら、やってみな。首にあてた小刀を引けばいい』
王妃『…』
白雪姫『お…お母様…』
ガタガタガタ…
王妃(…いやだ…これをしたらもう…この子との関係は…修正不能になってしまう)
王妃(…でも、今私がやらなきゃ…この子は…塔に閉じ込められて…)
王妃(…)
ギュッ
ブン!!
白雪姫『う…』
ツーッ
王『む…』
王妃『…次は切り傷ではすませませんよ』
王『…わかった、やめろ』
王妃『…ありがとうございます』
王妃『私が責任を持って、この子の面倒を見ますわ』
王『この子をどうするんだ…』
王妃『こき使わせるのです、私の離れの城でね』
王『…何!?』
王妃『おっと…反論なさらないでね』
王『くっ…わかった、何だ』
王妃『一つ目はあなた』
ニヤリ
王妃『私が貴方を愛するように、貴方も私を愛してね』
王『…』
ゾクッ
王妃『2つ目』
王妃『私の離れの城に来ないでね。白雪姫に会うためなんて、絶対ゆるさないわ』
王妃『これらを破ったらどうなるかわかるかしら』
王妃『…白雪姫を、最悪な目に合わせるからね』
王『…良いだろう』
王妃『ふふふっ…これで、貴方は私のもの…』
王『くそっ…恐ろしい女だ…』
王妃『ちがいますわ…私の、王様への愛ですわ…』
王妃(流石に一度も会わないってわけにはいかなかったけど)
王妃(それでも最小限に食いとどめたわ)
王妃(側近の努力で…私も毒殺もされずに済んだし…)
王妃(あの日の全力の演技のお陰で…とりあえず私は王様を愛している、
ということにはなってるし)
王妃(この間、隣国の王子に白雪姫の姿を少し、見せる事に成功したわ…)
王妃(そしてお城に手紙が届いたわ…婚約の許可の…)
王妃(隣国の王子の評判はすこぶる良いと聞くし…)
王妃(どうか、このまま上手くいって…)
ブンッ!
(ああ…ああ…)
ポタポタ…
白雪姫「いやあああっ!!」
白雪姫(…まただわ…)
白雪姫(またあの夢を…)
白雪姫(…お母様…)
白雪姫(あんなにやさしかったのに…本当は…)
ポロポロ
白雪姫(お母様、私は貴方が大好きだった…)
白雪姫(私の思い違いだったのね…)
ポロポロ
白雪姫(だけどね、今でも、私のお母様は貴方ただ1人なのよ…)
グスン
フキフキ
女官(あれ、お姫さまよ)
女官(ああ、おいたわしい)
女官(あんなにお美しいのに…)
お手伝い(あの魔女に脅されてるらしいのよ、王様)
メイド(聞いたわ、姫様を殺されたくなかったら、姫様をこちらへよこせと)
女官(最低だわ、あの女、ホント屑!)
お手伝い(でも無理よ…私達じゃ歯向かえない…だって、魔女だもの…)
女官(ホント…悪知恵は働くのね…)
メイド(前王妃様にそっくりに化けて出てきた挙げ句、弱みを握ったそうじゃない)
メイド(あ、しかもね、毎夜鏡に話しかけてるのよ、世界で一番美しいのはだれって)
お手伝い(うわああ)
白雪姫「はい、お母様」
王妃「まあ!なんて不出来な子!!」
王妃「雑巾がけも出来ないなんて!!」
白雪姫「すみません」
王妃「もう一度!!やり直しなさい!!」
白雪姫「はい…」
王妃「おっと」
ガシャーン
王妃「あら、ごめんあそばせ、雑巾のバケツの水をこぼしちゃったわ」
白雪姫「…」
召使(サイッテー!!)
王妃(隣国の王子今日我が国に訪れる…)
コツコツ
王妃(そしてここを通りがかるはず)
王妃(ここで掃除している白雪姫をきっと見るわ)
王妃(王は…私を理由に、結婚を許可させないでしょう)
王妃(だから…少しでも、王子が無理にでも、この子を救い出そうとしてくれれば…)
王妃(この子は…こんな生活からもおさらばになれるわ…)
白雪姫(…こことかに屑ゴミが…)
白雪姫(ああ、なかなか終わらないわ…)
白雪姫(今日は特に機嫌が悪かったみたいね…)
白雪姫(お父様と…喧嘩でもしたのかしら…?)
フキフキ
白雪姫(ふう…あらかた終わったかしら…?)
ピカピカ
コツコツ
白雪姫(あっ、誰か来たわ…お辞儀しないと)
白雪姫「いらっしゃいませ…お父様に御用事ですか?」
王子「君は…あの時の…?」
白雪姫「?」
白雪姫「ま、まあ、王子様とは知らず、ご無礼を」
アセアセ
王子「い、いや、おきになさらず」
王子「それより、あなたは白雪姫でしょう?どうして…そんなボロを…?」
白雪姫(どうして私の名を知っているのかしら?)
白雪姫「…私掃除が趣味なので…」
王子「変わった趣味ですねえ、はははっ」
白雪姫「そうでしょう、ふふっ」
王子(なんて…健気な子だ…王から聞いていたが…助けを求めもしない)
王子(しかも、笑った顔…こっちが恥ずかしくなるくらい、美しい…)
王子(一刻も早く…この国の王妃の手から救い出したい…)
白雪姫「ではこれで失礼いたします」
王子「…」
王子「王様、貴方の娘さんを、白雪姫を是非とも僕の妻に迎えさせて下さい」
王「おお、今すぐにでも…と、いいたいところだが、私の妻がね…」
王「あいつが…姫を強制的にこき使っておるのはしっているな?」
王子「はっ、ここに訪れる前、手紙の返事で聞きました」
王「すまない…説得してみるが、あの女はどうしても私を手放したくがないため」
王「白雪姫を人質に取っているのだ」
王子「…なんてやつだ…」
王「白雪姫に…自分の義理の娘に嫉妬し…彼女に苦しみを与えたい…ということだ」
王「とんでもない…奴だ」
王「…一刻も早く娘を救い出したいのに…自分が不甲斐無い…」
ギュウウウ
王子「…王様…」
王子「私、今から王妃様にあって、説得してまいります!!」
パタパタ
バタン
王(…まさかこんなところであの女の執着が役に立つとはね)
王(…何が妻としてだ…)
王(あの娘を貰うのは私の方だ…)
ニヤニヤ
王妃「すみませんが、王子様、あの子は愚かな子です」
王妃「何も指示したことができませんの」
王妃「お引き取りになって」
王子「いいえ、第一王妃が掃除なんてする必要はありません!」
王妃「はあ…卑しい子をそんなに欲しいのですか?」
王子「卑しいですって…そんなことはないですよ!」
王子「健気な素敵な子ですよ!」
王妃「ふふっ…そう思うなら…」
王妃「無理矢理にでも連れさらってみなさい」
王妃「この魔女と呼ばれる女が相手しますわよ」
王子「…受けて立ちます…」
バタン!!
王妃(…もうそろそろよ…まってて…白雪姫…)
王「おう、王子!結果は!?」
王子「無理矢理連れ去れと。」
王子「あの女…魔女が相手すると」
王「なんだと…」
王子「私、いったん帰国します」
王子「後、1週間の後、この国にまた訪れます!」
王「…そ、そうか」
王子「そして…魔女退治を行います」
王子「王様、貴方様も救ってみせます」
王子「この地にまた足を踏み入れる事をお許しください」
王「許可しよう…」
ワナワナ
王「…また会えるのを楽しみにしておるぞ…」
王子「はいっ」
スタスタ
王(…あの女…そう来たか…)
王(くそっ…あのアマ…最初からやっぱりか…)
王(あの時怪我させたのも…全て演技か…)
王(白雪姫を俺の手から引き離す…策略…)
王(くそう…騙されてた…本気で俺のことを好きだと思ったのに…)
王(…何が魔女だ…)
王(本物なら…もっと“気”が違う…)
王(いくら魔女でなくとも無理に救おうでもしたら殺されかねない…)
王(あの女は武芸は並みの兵士よりずっと出来るからな…)
王(だから、今まで仕方なしに白雪姫を渡してやってたのだ)
王(…ふふっ、でももうあの女の陰謀をいとも簡単に壊せるぞ)
王(最初から殺す気がないのだ…)
王「楽勝ではないか…」
白雪姫「あら、狩人様、何の御用事で?」
狩人「あんたさまの王様から指示があってですだ」
白雪姫「…お父様から?」
狩人「実はですだ…姫様、隣国の王子は知っておられますか?」
白雪姫「ええ」
狩人「彼が…姫様に婚約を求めておりますで…」
白雪姫「まあ…」
狩人「それを…貴方のお母様が妬んで…貴方様を殺そうとしております」
白雪姫「…本当ですの?」
狩人「私の仲間が、貴方様を森へ連れて行き、殺して心臓を取れと命令されたと
聞きました」
狩人「なので、私めは、とある場所にお姫様を極秘で
連れていくように命を下されたのですだ」
白雪姫「…そうなのですか」
狩人「逃げますぞ、お姫様」
白雪姫「ええ、分かりましたわ」
白雪姫(…本当なの、お母様…)
町人「なんだい?」
商人「そうそう、王妃様の話さ」
町人「王様もとんだ女もらっちまってね~」
商人「それがよ、税金の値上げ、あれの原因がその女らしいんだ!!」
商人「それだけじゃない。あの女が来た頃から数々の悪法ができたろ?」
町人「…まさか」
商人「ああ。王様の娘…姫様を人質にとってるとか」
商人「しかも散々コキつかってるらしいぜ。」
町人「なんてこった!!」
商人「でもな、隣国の王子さまが姫様をみそめたそうだ」
商人「今度あの王妃…もとい魔女と決闘するらしいぞ」
町人「…是非とも王子様には頑張ってもらいたいな」
王「側近、いるか?」
側近「はい、ここに」
王「側近よ、私は王妃に関する情報を国中にまいた」
側近(…私に相談なしで…こいつめ…)
王「側近や、今すぐに王妃…魔女の討伐命令をくだせ」
王「白雪姫が殺された…いまこそ、民の怒りを、そして我が娘の無念を晴らすために…」
王「王妃を…あの魔女を殺せ」
ニヤリ
王「演説のセリフはこれで決まりかねぇ」
側近「王様…」
王「お前の娘…今何歳かな」
王「きっと楽しい未来が待っていることだろう…」
ギロッ
側近(王妃様…すみません)
側近「…仰せの通りに」
ペコリ
王「よろしい」
ザワザワ、ガヤガヤ
町人「ちょ、押すな馬鹿!」
農民「おい、王様が今から緊急で演説なさるぞ!黙れ!!」
王「勇気ある国民諸君」
王「私は皆に謝らねばならない」
ガバッ
王「本当に申し訳ない…」
ガヤガヤ、ガヤガヤ
王「しかし諸君…時はきた!!」
王「人質にされていた姫…我が娘は殺された!!!」
(なんてこった…ひでえ)
(お姫様が…)
(最低だな、本当に)
王「私はあの魔女を討つ!!!」
王「諸君の苦しみを…娘の無念を晴らすため!!!」
王「諸君にも…苦労をかけるが協力してほしいのだ!!!」
王「この通りだ!!」
(…王様あんなに…土下座までして…)
(聞いたかい?俺らの救済法を制定したのはあの王様らしいぜ)
(そうそう、魔女の圧力をかいくぐってなんとか制定したそうだ)
(…あんないい王様いねえよ)
(そうだそうだ!)
(王様万歳!!)
(王様万歳!!)
ワーワー!!!
王(…ちょろいもんだ)
側近「救済法を制定したのは王妃様なのに…」
側近「民の誤解を解かねば!!」
側近「…いや、もう無理だ」
側近「王妃様の所へなんとか駈けつけ、にがさねば…」
ドサッ!!
側近「…ナイフが壁に…」
側近「そうか…わかったよ」
側近「…私は今夜中に殺されるんだな…」
側近「あの王のことだ…このことを知るもの全員…殺してしまうだろう」
側近(しかし…どうやって伝えようか…)
側近(そうだ…伝書鳩…)
側近(あれを使おう…)
王妃「井戸へいったのかしら…」
王妃「あれは伝書鳩…?側近から?」
王妃「なになに…?」
-----王妃様へ----
大変なことになりました
王様が動き出しました。どうもばれかかっているようです
私達の計略が
姫様を森の、あの7人の小人のいる小屋へ連れていったのです
7人の小人とは、王様の若かりし頃の戦友です
彼らは知恵、力共に人間以上です
王様は彼らに姫様をかくまってもらうようです
そして王子には、姫はあなたに殺されたと伝えるようです!!
王子は一週間後にこの国へ再びきます
王妃様、小人達は知恵はあるといいましたが
生活リズムはめったなことがなくてはかえません
これは彼らのある意味、弱点なのです
昼は炭鉱で働き、夜に帰ってくるのです
ようするにその間白雪姫は家で1人
一週間のうちに姫様が王子に会えるように手を打たねば、
姫様を救うどころか、貴方様も確実に
王妃「…ここに血が付いている?」
王妃「ここから…字も止まっている…」
王妃「…まさか…側近…」
王妃「…ぐすっ…側近…無事でいてくれ…」
ガタン!ゴトン!!
王妃「!?」
<お前のやったことなどお見通しだ!!>
<白雪姫様を散々いじめて!挙げ句の果てには森で心臓をとってこいなど!!>
<いま、お前を討伐する指示が出たぞ!!>
<堪忍して出てこい!!!>
<おい!!俺らの増税の原因もお前だそうだな!?>
王妃「…そういうことか…計ったな、王」
ギリッ
王妃「随分私の評判を使って散々やってくれたわね…」
王妃「…私が用意してないとでも思ったの?」
王妃「…貴重品をこの隠し扉に隠して…」
王妃「…この城を燃やそう…もう帰っては来れないのだから」
王妃「さて、もってく荷物の確認…」
ガサガサ
王妃「光玉…これで撹乱できるか…な」
ズシッ
王妃「…雑魚兵士ならよいのだけど…」
王妃「…ひさびさに腕がなるわね…」
バタン
白雪姫「わあ、綺麗な場所!」
狩人「でしょう。今からしばらくの間、ここで暮らすのですだよ」
白雪姫「まあ!」
狩人「あの小屋。あそこに王様の戦友の7人の小人がいます」
狩人「彼らの言うことを聞けば、王妃様を恐れる必要もありますまい」
白雪姫「そう…ね」
狩人「お、丁度、小人達も帰ってきましたぞ」
狩人「では、お姫様、私はここで」
白雪姫「わざわざ、ありがとう」
狩人「なあに、お姫様のためですだ」
狩人「戸締りにはくれぐれも気をつけて」
白雪姫「ええ」
狩人「へい」
兵士「お前だな!姫様の心臓をとるように命じられた魔女の仲間の狩人とは!!」
狩人「ちがいますだ!王様から…」
兵士「問答無用!!」
狩人「うっ!!」
グサッ!!
小人「おお、あれの娘か!べっぴんじゃないか!!」
小人1「俺は小人1だ」
小人2「2ですぅ~」
小人3「3だ」
…
小人7「7だ。しばらくよろしくな」
白雪姫「ええ、よろしくお願いいたします」
小人4「わははっ、だいぶ腰の低いお姫様だ」
小人6「そうだなあ~。あんたの親父は最初の態度はひどいもんだったぞ」
小人5「ちょいちょいちょい、これから日がくれるから、まずは飯を用意しようぜ!!」
白雪姫「あの…」
小人達「ん?」
白雪姫「私は作りますよ、料理は得意ですの」
小人達「やったあ!!」
小人1「いや~2の作るスープのだまの多さは以上で嫌だったところだ」
小人2「なんだってぇ~それを言うなら、1だって鳥さばくのへたくそじゃん!」
小人3「お前ら2人とも…料理下手過ぎなんだよ」
小人1、2「ぐうう」
「わははははっ」
白雪姫「ふふふっ…あはははっ…」
白雪姫「…」
王妃「…相手が弱くて助かった…」
王妃「…一体どうしようか…」
王妃「白雪姫に会って…いっそ真実を述べようか…」
王妃「…いや、ダメだわ…」
王妃「…私にいじめられた…傷はそれだけでイイの」
王妃「血のつながった父親が…まさかそんな人だったなんて…それこそ最大の悲劇よ…」
王妃「何のために悪魔になる決心をしたの…」
王妃「…悪役は最後まで徹底して悪を演じるものよ…」
王妃「…さて、薬草を探しましょう…」
ガサゴソ
小人達「夕方まで帰ってこないから、誰が来ても扉を開けてはいけないよ」
小人達「じゃあね、くれぐれも、開けちゃダメだよ!」
小人達「あ、今夜は第一の山場の話だから楽しみにしといてね!!」
白雪姫「わかったわ。今夜のお話、楽しみにしてますね」
バタン
白雪姫「お掃除はこれで終わりっと」
白雪姫「編み物でもしようかしら…」
白雪姫「こんな綺麗な服を着せてもらうなんて…何年ぶりかしら…」
白雪姫「…お母様…私は…貴方を今でも慕っております…」
白雪姫「昔…あんなによくして貰ったこと…1日も忘れてません…」
白雪姫「…王宮で1人ぼっちの私に…接してくれたあの日から…」
白雪姫「…お母様が来た直後のあの毎日は…本当に夢のようでした」
白雪姫「…」
「誰かいませんかぁ~」
白雪姫(お母様の声ではないわ…)
白雪姫(でも…警戒しないといけないのね…)
白雪姫(無視を決め込もう)
「お暇な貴方に、心ときめく商品を!」
白雪姫(…訪問販売?)
「奥に隠れている可愛いお嬢さん」
「出ていらっしゃいな」
白雪姫(…ばれているの?)
「ふふっ、私はこう見えても販売のプロよ」
「留守か、留守じゃないかくらい、わかるわよ!」
「大丈夫、窓際にいらっしゃい!」
そろそろ
「おやまあ!なんて綺麗なの!!」
白雪姫(…顔は帽子と髪で見えないわ…もしかしたら、お母様かもしれない…)
「貴方には、よい髪飾りをあげましょう」
「あ、櫛もありますわよ」
白雪姫(…手がボロボロ…お母様はこんな手では無かったわ…)
白雪姫(うでも…薄く血がにじんでいる…)
白雪姫(この人はお母様ではないわ…大丈夫ね…)
「そうそう、こうしお座りなさい」
「ちょっととかしてあげるわね」
白雪姫(…)
バタン!!
王妃(…これでしばらくは起きないはず)
王妃(…まさか白雪姫にここまで手を出すとは思っていないでしょう?)
王妃(…あの人から守る…王子にこのことを少しでも広めなくては…)
王妃(ここで私から隠れていることを…)
王妃(…この森が…薬草や毒薬ばっかりでホントによかったわ)
王妃(髪から浸透する気絶薬を作れたから)
小人2「ううっ~おかな空いたよ~」
小人4「わははははっ、白雪姫どこだい、」
小人1「どこじゃねえぞ!!倒れてる!!」
小人3「なんだと!?」
小人7「おい、どけ」
小人5「ちょいちょい、看護は俺の担当だぞ、7」
小人7「呪文が入ってるかもれんぞ。呪文系は俺の専門だ」
小人1「とにかく、そばに落ちてるこの櫛が原因っぽいな」
小人2「う~ん…いくつかの薬草の臭いがするよ~」
小人7「…呪文もかかってないな」
小人5「ちょいちょい…心臓は動いてる…気絶…麻酔の効果があるようだな、これ」
小人5「人体に影響は無しだろうな…」
小人5「髪を洗えば多分すぐ目を覚ますだろう…」
小人3「…王にこのことを伝える」
がさぞこ
小人1「おう…頼んだぞ」
白雪姫「ごめんなさい、心配掛けてしまって…」
シュン
小人4「わはははっ、大丈夫だよ、でも今度はもっときをつけるんだ」
白雪姫「はい…」
小人3「そうだぞ…誰も入れるな…無視をしろ」
小人5「ちょいちょい、ご飯たべようぜ~」
小人7「そうだな、とりあえず食べようぜ」
みんな「いただきまーす」
王妃「…あの子は目覚めたようね」
コソッ
王妃「やっぱり…あの小人達は…一筋縄ではいかないのね…」
王妃「…極秘の眠り薬…これをのませないといけないようね…」
王妃「そして街中に噂を流すの…」
王妃「白雪姫は本当は生きていると」
王妃「…隣国に手紙を書かなくては…」
王妃「…私はここにいる…ここへ来い…とね」
王妃「王子が1人で来ないように…王様にも、会いたいと書き添えて」
白雪姫「今日も昼は1人ね」
白雪姫「今日は何をしようかしら」
白雪姫「そうだ、この服、繕ってあげようかしら」
ガサッ!!
白雪姫(何!?)
白雪姫(お母様…?)
こっそり
白雪姫(あ…庭に人が倒れている…)
白雪姫(でも…無視を決めこまねば…)
白雪姫(…ダメだわ、やっぱり見捨てられないわ…万が一本当に病人だったら…)
白雪姫(でも…お母様だったら…)
白雪姫(…ああもう…!)
バタン!!
白雪姫「大丈夫ですか!?」
「あ…ああ、み、水を…」
タッタッタ…
白雪姫(汚れがひどくて顔が分からなかったわ…)
白雪姫(しかもボロボロの服…)
白雪姫(森で迷子になったのかもしれないわ…)
白雪姫「さあ、水ですよ!」
「ああ…ああ…ありがとう…」
「お礼に…売り物のリンゴをあげよう…」
白雪姫(…おかしいわ…)
白雪姫(倒れるほど喉が渇いて辛いなら、リンゴを私なら食べるわ…水気も多いし)
白雪姫「ありがとうございます。それではお気をつけて…」
「まちなさいな、この場で食べていきなさい」
ガシィ!
白雪姫「!?」
白雪姫(なんて…強い力かしら…振り切れない…)
「口にあったらあと2、3個あげますよ」
ニヤァ
白雪姫(…ああ、計略にはまったわ…)
白雪姫(…食べなかったらどうなるのかしら…)
白雪姫(もしかしたら…殺されるかもしれない)
白雪姫(いえ、食べても死ぬわ…どの道、死ぬのね…)
白雪姫(…ああ)
白雪姫「…ではお言葉に甘えて」
ガリっ!
ばたり
王妃(ごめんなさいね…私の可愛い娘…こんなに辛い目に合わせて…)
小人1「たいへんだああ!!白雪姫がまた倒れてる!!」
小人6「よく外にでるねぇ~あの子、やっぱあの親父の子どもだわ」
小人3「そんな悠長なこといってる暇はない」
小人7「…昨日に引き続き、呪文はかかっていない」
小人2「ううん…やっぱり薬草と毒草の臭いが酷いよ…」
小人5「ちょいちょい…めんどうだ」
小人5「さらに…原因は身体の中だから…」
小人5「診断しづらい…解毒を作るのに一体どれくらい時間を費やすか…」
小人5「多分…強力な眠り薬…であることしかわからない…」
小人5「昨日のように何か落ちてればいいのだけど…」
小人5「そんなヘマはしてないと…」
小人4「王に…手紙かくよ」
小人1「…笑ってないお前って珍しいな」
王「あの女のことが分からなくなってきたぞ…」
王「本当に白雪姫を殺す気なのか…そうでないか…」
王「側近、狩人を殺したまでは計画通りだった」
王「問題は王妃、まさかあの人数を1人で切り抜けたとは…」
王「しかも、薬草、毒物の配合に長けているとは…かなりの戦闘技術をもってるな」
王「…だいぶ番狂わせだな…」
王「…王妃の国へ、連絡を送ろう…」
王「(貴方の国で一番の医者を連れてきて欲しい。)」
王「(それと貴方の娘…あれをどうにかしてほしい。)」
隣国と魔女討伐連合軍から除外する)」
王「(そしてその連合軍が貴方の国を攻めるだろう。国民を1人残らず殺してやる)」
王「(それがいやなら、条件をのめ。王妃を殺す手伝いをしろ)」
王「…ふふっ、祖国に捨てられる…か、可哀想だねぇ」
王「いや、ここに来た時から捨てられてるか、あはははっ」
王「それと…また噂の訂正と捏造を…」
王妃(まさか…誰も私が王妃とは分かるまい…)
商人「なんだかお城が騒がしいのお」
町人「お姫様が殺されたと聞いたが…」
「いいえ、この噂は違うわ」
「実は、王妃様の先回りをして、森の小人の家に避難しているのよ」
町人「なんだと!?」
「ただ…生きているけれど、睡眠薬で眠らされているのよ」
商人「生きていらっしゃるのはよかったが…誰がそんな…」
「王妃様に決まっているわよ」
町人「くそっ、またあいつか!!」
町人「あいつのせいで、生活が苦しいんだ!」
商人「あの悪魔め…嗅ぎつけるのがはやすぎる」
「今度こそ殺されてしまう…」
商人「大変だ!!」
町人「何とかしないと!!」
街娘「あれ、どうしたの?」
商人「かくかくしかじか…」
王妃(よしよし、そのまま広めなさい)
王妃(えっと…手紙手紙…)
王妃(今週の日曜、日没以降に、小人の家がある森で待つ)
王妃(ゆっくり相手をしますわ…あ、…私の旦那様も連れてきてね…)
王妃(これでよし…鳩の足につけて…隣国へ…)
王「王妃の国からの返事か…」
王「…つまりは、こちらの条件を飲むのだな…」
王「その証拠に…お前は目の前にいる」
王「お前はかの有名な医者じゃないか。あそこの国出身だったのか」
王「よしよし計画通り」
王子(ああ…白雪姫…貴方は本当に死んでしまったのか…)
大臣「王子様、大変にございます!!!」
王子「…何?果たし状!?」
王子「隣国の王妃から!?」
大臣「そうでございます!!」
王子「…隣国の王様と提携しよう」
王子「父上にも事情を説明します」
王子「これは、もう個人の問題ではありません」
王「おう…わかるか…」
医者「ええ。これは身体の外に薬をだせばすぐに目を覚まします」
小人達「そうですか…」
医者「まあ、解毒剤もあるので体外へ出せなければ城で調合しますよ」
医者「多分、お城に向かっている間に揺れるので、自動的に吐き出すでしょう」
小人達「王様、すまなかった」
王「いやいや…気にすんな。お前たちだからこのレベルですんだんだ」
王「一時的に城に戻すよ。お前たちも付いてきてほしい」
小人達「もちろん!」
王「これは、隣国の王子…こんなに軍隊を連れて…」
王子「魔女から果たし状がきたのですよ」
王子「この間王様は魔女退治を宣言なさったでしょう?
それで提携をお願いしようと来たところです」
王子「…白雪姫の無念を晴らすためにも…」
王「あ、その件だが」
王「白雪姫は生存しておるぞ」
王子「本当ですか!!」
王「ここだ…この馬にまたがっている…酷い睡眠薬を飲まされたようだがね」
王「すべては魔女のせいだ…」
王「危うく殺されるところだった」
王子「よかった…」
王子「…可哀想に…くそっ、諸悪の根源め…」
王子「…貴方を救うと大見えを切ったのに…」
王子「…自分が情けない!」
王子「すまない…」
ガシッ
白雪姫「…げほっ、ごほっ!!」
王「おや…何かが口から…」
白雪姫「あら…ここは…?」
白雪姫「…王子様、な、何を…」
王子「…う、うわっすまない…思わず抱きしめってしまって…」
白雪姫「…おきになさらないで…」
カアアア
王「いやはや、若いっていいですなぁ」
王(…若造が…こいつ、後で殺してやる…)
王妃(…あの医者は…私の城一番の医者…)
コソッ
王妃(…私の祖国が…私の敵にまわったのね…)
王妃(きっとあいつのことよ…父上を脅したのね…あの時のように…)
王妃(いいわ…丁度いい…心配事が1つ減ったわ…)
王妃(祖国は…これでしばらくは安泰ね…)
王妃(もう…どうなっても良いわ…)
王妃(結果が…白雪姫が笑える…未来があればいい)
王「そうだな…あの女、どう出るか」
王子「どう出ても変わりはないです。必ず殺す」
王「…息子よ」
王子「!いま…なんと」
王「今日が無事に終わったら…私の娘と結婚式を盛大に挙げさせよう」
王子「…王…いえ父上…」
王(…まあ、今日、お前事故を装って殺す気だけどな。)
王妃(…嫌に静かね…)
『うおおおおおお!!!!!』
王妃(始まったわね…)
王妃(…あきれるわ、女1人に一体何国の軍隊をつれてるのよ…)
王妃(魔女狩り…まあ私は魔女では無いわけではないからいいのか)
王妃(…もともと私の家系は魔法が使えるのよ)
王妃(まあ、長年封印されてたけどね)
王妃(でも、なぜか封印が解けてた)
王妃(…お父様…大臣様…)
ギュ…
王妃(さあ…戦ってあげるわよ)
ザッ!!
王子「魔法だ!!」
王「全軍!ひるむな!!あれは脅しだ!!」
兵士「うわあああ!木が、ツタが!!」
兵士「龍だ!!氷の龍だ!!!」
王(…あいつは魔法が使えるのか?)
王(あの時は気は感じなかったのに今は感じる…一体どうしたんだ!?)
王子「くそっ!!魔女はどこだ!!」
小人「ぶつぶつ…」
小人「はっ」
小人「解除!!」
王子「…火や龍が消えた…」
小人「魔法は我々が解除しながら行きます!!」
小人「皆さん、ひるまずにいきましょう!!」
「うおおおおおおおおお!!!」
ドドドドドドド
王妃「…来たな、王子」
王子「おい…散々悪事を働いてくれたな」
王妃「ははっ…わるいかしら?」
王子「…だまれ!!」
チャキ
王妃「お金も美貌も、何もかも私のもの」
王妃「白雪姫すらいなくなれば、全ては私の思うがまま」
王子「…残す言葉はそれでいいのか」
王妃「ええ。」
王子「行くぞ!!」
ブン!!
兵士長「剣をとれええええ」
王妃「風よ!!」
ゴオオオオ
兵士達「う…前に進めない!!!」
王妃「草木よ!!」
ザワザワ
兵士達「身体がしめられる!!」
ジャキン!
王妃「ふん」
さっ、さっ
王妃「雷よ!!」
バリバリ!!
王子「うわっ!!」
王「ぐあっ!!」
王妃「さあて、と…」
王妃「ぶつぶつぶつ」
ゴゴゴゴゴ
王子「この暗雲は…?何が起きるんだ!?」
小人「ま、まずい!!」
小人「最上級呪文だ!!」
小人「…嵐をおこすつもりだ!!」
王妃(王子と少し戦って、死んだふりをして逃げよう)
小人「えええい!!!うっとうしい、このツタめ!!」
ブチブチ
王妃(!?)
小人「王様、王子様、助太刀します!」
小人「ぶつぶつ」
ドオン
小人「うおおおおおおおお」
ゴゴゴゴゴ…
王妃「…無効の呪文ね…しかも広範囲にわたっての…」
小人「これで魔法は使えまい!!」
ハアッハアッ
王妃(ああ…私はどうやら逃げれないようね)
王妃(…それでもいいわ)
王妃「ふふっ…これで十分だわ」
ジャキン
ブン
王子「く…女のくせに何でそんな大剣を…」
チキ…
王妃「遅いわよ」
ギン!
王子「うわっ」
ガチッ!!
王「王子!!」
ダダッ
王妃「邪魔よ」
バキィ!!
王「ぐふっ!」
兵士長「お前ら、魔女に矢を放て!!」
王妃(…あの馬鹿兵士長!!今打ってどうすんの!!)
ビュンビュン
王妃(王子に死なれては困るのよ!!)
ザッ!!
王妃(…なんとか体位を変えるのに成功したわ…)
グサグサ
王妃(クウッ…矢が刺さりまくってしまった…)
王子「助太刀すまない!!」
王妃(…私がかばったからよ…あんなの助太刀じゃないわよ…)
王(ちっ…殺す絶好のチャンスだったのに…あの女は邪魔ばかり…)
王(俺が直々にやるか…)
フッ
王「これでも食らえ!!!」
ブン!!
王妃「!?」
スカッ
王子「王様!お陰で魔女が離れました!!」
王妃(あいつ…うすうす感づいてはいたけど王子を殺す気だわ…事故を装って…)
王妃(いま、王子から離れなくてはいけない…)
王妃(…兵士長もグルなのね…矢を広範囲に当たるように…弓矢隊を配列して…)
王妃(…何が何でも王子を殺してやると…)
王(矢を王子に当てて…あの女と戦っているうちにフラつきでもしたら)
王(我が剣の餌食にしてやる)
王妃(王子を殺させなど、しない)
ガバッ
王妃「王子いいいいい」
ダダダッ
ガチーン
王子「ぐっ…なんて力だ…」
ギリギリギリ
王妃(そりゃ、これくらいなくちゃ城から1人で逃げられないわよ)
兵士長「はなてえええ!!!」
ピュン!
王妃(来た!!)
グワン!!
ドン
ドスドスドス
王子「ざまあないな、魔女…」
王子「わざわざ敵の盾になるなんてさ」
王妃「ぐっ…」
フラフラ
王妃(…力が…入らないわ…)
グラッ
王(いまだな、もうあの女が王子をかばえるとは思えない)
王「魔女め!!おりゃああああ!!」
ジャキン!
王妃(…あいつめ!!!)
王妃(動いて…私の身体!!)
ググッ
ドスッ!!
王妃「ぐはっ…」
ダラダラ
王(ま、この女、私の剣で串刺しにされたし、すぐに間違いなく死ぬ)
王(それだけでも大収穫だ)
王「堪忍しろ、魔女」
王子「これでとどめだ!!」
ブン!!
「やめて!!!!」
王子「!」
王「ど…どうしてきたんだ!!」
王妃(白雪姫…なぜ)
白雪姫「お母様!!目を覚まして!!」
白雪姫「今…いじめられても、貴方が私のことを嫌いでも!!」
白雪姫「私が幼いころ、いつも一緒に遊んでくださいました!!」
白雪姫「王宮で1人だった私にとって、どんなに楽しい日々だったか…」
白雪姫「だから…こんなことやめて、お城へ帰りましょう?」
ジッ
王妃(…あんなにいじめたのに、まだ好きと言ってくれるなんてね…)
王妃(よい子ね…私の自慢の娘だわ…)
王妃(今すぐ謝りながら抱きしめられるならどれほど良いかしら…)
王妃(…いけない…いま泣いてはいけない…)
王妃(しっかり…ここが最後の山場よ…)
ブルブル
ドカッ!!
王子「うわっ、しまった!!」
グッ!!
王子「!魔女め、白雪姫を放せ!!」
王「おい、いい加減にしろ!!」
白雪姫「お母様…」
ポロポロ
王妃「ほんっとうに馬鹿な娘」
ケセセセッ
兵士「くそ…姫様を人質に…」
小人「うかつに近づけない…!!」
王妃(ごめんなさい…私の力不足で今まで大変苦労をかけさせてしまって…)
王妃(でも、これも最後よ…)
王妃(あなたをいじめるのも…これで…最後よ…)
王「何だ」
王妃「要求があるのです。飲まないのなら、白雪姫を殺します」
王「くそっ…なんだ、いってみろ」
王妃「貴方の欲するものは決して欲してはならないもの!!」
王妃「釣り合う相手に渡しなさい!!」
王妃「さもなくば、あなたに地獄の苦しみを!!」
王「はぁ~」
王(…王子に白雪姫を渡せ…ということか…)
王「…お前の企みくらい、分かってたぞ」
王「…」
ギロッ
王妃「…」
ググッ
白雪姫「くうっ…」
王妃「…ふっ、あはははははは…」
王妃「…ようやく…終わりました…白雪姫…」
ソッ
白雪姫「へ…?」
王妃(私は貴方の花嫁姿が見たかったけど…無理そうだわ)
王妃(幸せにおなり…白雪姫)
ニコリ
グラッ
バタン!!
白雪姫「お…お母様、」
白雪姫「お母様!!」
王子「…力尽きたのか」
王子「…こんな人だったが、主よ、彼女にも安らぎを…」
王「…さあ、終わった…皆、城に帰ろう」
白雪姫「…」
グズグズ
町人「あ、魔女討伐から帰ってきた!!」
商人「あれは…王妃の死体!!引きずられている!!」
町人「皆~魔女がしんだぞおおおお!!!」
(やった…安らかな日々が戻るぞ!!)
(あれが隣国の王子と…姫様)
(なんて美しい2人だ)
(王様…あの方が指揮をとったそうだぞ)
(万歳!王様万歳!!)
(王子様万歳!!)
(万歳!!万歳!!!)
(魔女は死んだ!!万歳!!!)
数週間後
王「さてと…2人の結婚式が終わった…」
王「あのムカつく若造も王になった…」
王「フフフッ、叩き時か」
王「浮かれているうちに、我が国の盗賊団を送り込む…」
王「そして内乱にまで勃発させる」
王「もちろん、我が国の軍も盗賊団を捕まえる、という名目で侵入」
王「隣国を滅茶苦茶にしてやれ」
ニヤリ
王「そして、とどめに全面戦争にまでやってやる」
王「はははははっ!!!」
――――約束を破りましたね
王「!?」
――――舐めてもらっては困ります
王「この声は…王妃!?」
――――私は魔法を使えなくなりました
――――でも“呪い”まで封印してませんよね
王「…お前、黒魔術師か!?」
王「しかし…黒魔術は、老齢の魔術師でも難しいといわれている!」
――――お勉強をちゃんとしていないようですね
――――私の祖国の王家は…死神の血が混じっているのですよ
王「…まさか、…お前の祖国の別名…“死国”と呼ばれている理由がそれなのか!?」
王「伝説では無かったのか!?」
――――だから他国は我が国を恐れて近づかないのです
――――黒魔術なんて、生まれた時からできますよ
――――父上は私を娘と思ってくれていたようで、最後に封印を解いてくれたようでした
王「…」
フラフラ
王「…何しに来た」
――――当然、貴方を葬り去りに来ました
王「ぐっ…」
―――――ここまでですよ
―――――私が命と引き換えに貴方にかけた呪い
―――――貴方を死に誘うでしょう
王「ぐふっ…ぐっ…死にたくない…まだ…」
ブチブチ
王「うわああああ!!!いやだああああ身体がああああ」
ピキピキ
王「いだいよおおおおおおお!!!」
ドクドク
ピシィ、ピキッ
王「ぐああ、ああ、ああああ」
ドサッ
「王様!?」
「王様―!!」
ザワザワ
新王「白雪姫…可哀想に」
白雪姫「…お父様……グスッ」
新王「…ご両親が亡くなるのは大変辛いだろう」
新王「でもこれからは私が、貴方の支えになります」
新王「家族として…夫として」
新王「王は…貴方の泣き顔よりも笑顔が見たいと思いますから」
白雪姫「はい…」
グスン
新王「貴方の国は、私の国と統合し、新たな国を発足させます」
新王「白雪姫をこれからも守り、貴方の国をよりいっそう、豊かに」
新王「だから…安心して、お眠りください」
白雪姫「ねえ、…」
新王「どうしたんだい?白雪姫」
白雪姫「お母様が亡くなったのは…だいたいここ辺りかしら」
新王「ああ…ここで、倒れたんだ…」
白雪姫「…実は私…お母様が私をいじめるのは何か深いわけがあると思っていたの」
白雪姫「…今でもそう思うわ…」
白雪姫「実は、お母様が死ぬ直前に呟いた言葉が頭にずっと引っかかってて」
新王「…白雪姫…」
新王(…深い理由か…)
新王(…そういえば、私と組み合っていた時…)
新王(体位を変えていたな…)
新王(あの時は疑問に思わなかったが…おかしい)
新王(わざわざ…矢が当たる方へ…体位を変えていた)
新王(…王に向けた最後の言葉も…不可解な内容だった…)
新王(…しかもあの時、負傷者はいたが…死亡者がいなかった)
白雪姫「…あ!!」
白雪姫「…これを…見て下さい」
チャリン
新王「これは…ロケットだ。鎖に2つもついている?」
白雪姫「…ここに落ちていたの…」
白雪姫「お母様はよくこのロケットを見ていたわ」
白雪姫「誰にも中身はみせなかったけれど」
カチャリ
白雪姫「…」
新王「…君の絵だ」
新王「…言葉が彫ってある」
新王「…」
白雪姫「…おかあさま…」
ポロポロ
新王「もうひとつは…」
新王「男の人と…王妃…」
新王「(夫を捨て、子どもを殺した自分を私は永遠に恨む)」
新王(王妃に…何があったんだ…白雪姫を憎んでいなかったのか…?)
白雪姫「王様」
白雪姫「私、お母様と暮らしたあの場所へ行きたい…」
ボロボロ
白雪姫「今も残っているでしょう?」
白雪姫「お願い、連れて行って…」
新王「…いいだろう。焼け跡しかないが僕も行こう」
新王「…本当のことが分かるかもしれない」
白雪姫(…お母様…)
白雪姫(…ホントに…私のことが嫌いだったの…?)
白雪姫(実はずっと気になってたの…)
白雪姫(…多分、ここ辺りがお母様の部屋…)
白雪姫(何かあるかもしれない…)
ガサガサ
新王「…」
白雪姫「ダメだわ、やっぱり…なにもない」
新王「だろうね…」
ザクッザクッ
新王「全く…皆魔女を恐れて片づけなかったんだな…」
新王「がれきがそのまま残っている」
バキッ!!
新王「!!、危ないな…ん!?」
新王「…あ、こんな所に隠し扉が!!」
ドンドン
白雪姫「ええ」
ガタン
新王「これは…」
白雪姫「…昔私がお母様に作った人形」
白雪姫「お母様に宛てた…手紙?」
新王「…間違いない、王妃は君を憎んではいなかったのだ」
新王「…でも一体どうしてあんな行動を…?」
新王「…白雪姫、何をよんでいるのかい?」
白雪姫「うっ…ぐずっ…うわああああん…」
新王「…えっと…日記?」
新王「…」
ピラピラ
本日をもってこの日記を終わらせる
理由はたった一つ、王様が自分の娘に前王妃を見出したため、
他の男に取られまいと監禁し、我が物にせんとするのを阻止するために
この国に来る前に私は離婚し、子を下ろした
絶望を抱き、この国に来た
私に唯一心を開いてくれたのは、白雪姫
彼女は私の唯一無二の娘
私は赤ちゃんを殺した。赤ちゃんを圧力から守れなかった
今度こそ、自分の子を守って見せる
今度こそ、私は守ってみせる
白雪姫「うわあああん、お母様、ううっ」
ボロボロ
白雪姫「どうして…言ってくれれば…」
ボロボロ
白雪姫「お母様…私のお母様…」
白雪姫「神様…もう一度お母様にあわせて…」
白雪姫「お礼を…いわせて…神様…」
ガクリ
新王「白雪姫…」
新王(…白雪姫、貴方を王妃から守りきったつもりだった…)
新王(しかし本当に貴方を守っていたのは、あの王妃だったのか…)
新王「…母親は強いものだな…」
新王「でも…どうして、打ち明けて下されば…」
新王「あるいは…」
新王「いえ、打ち明けるわけにはいかなかったのですね…」
ボロボロ
新王「クソッ…」
ボロボロ
新王「…自分は愚かものだ…」
新王「きがつけなかった…何も…何も…」
新王「王妃様…私をお許しください…」
ジャキン
白雪姫「!!やめて!!!王様、ダメ!!」
新王「地獄で…私は裁かれます…」
ゴオッ!!!
――――――貴方は大馬鹿物ですか!?
――――――今、白雪姫も国民も身捨てて自分だけ死ぬつもりですか!?
――――――ああ、こんなことなら私があの時本気を出して
王様共々殺してあげればよかった!!!
ピタッ
白雪姫「…何をおっしゃっているのですか」
白雪姫「声なんて聞こえません」
白雪姫「いいから早く剣をしまって下さい!!」
白雪姫「私を1人にするつもりですか!?」
白雪姫「私は1人が嫌いなのです!!」
白雪姫「ですから…お願いですから…」
ポロポロ
新王「…白雪姫…すまなかった…」
新王「こんなことは二度としないから…」
ギュ…
白雪姫「…約束ですよ…」
新王(さっきの声は…王妃様、貴方なのですか…!?)
新王(…答えてください…)
新王(彼女は…貴方と話したがっているのです…!)
新王(王妃様…!)
新王(あなたは…)
ゴオッ!!!
新王(…)
新王(…気のせいだったのか…?)
新王(…)
新王「白雪姫、行こう」
新王「王妃様の葬られている所へ」
白雪姫「はい…」
サクサクサク
きっとそうだ
―――――――――フンッ、ようやくお墓参りに来てくれるのね
―――――――――いくら悪者でも墓くらいきて欲しかったわ!
―――――――――ま、王子が首を切ろうとしてくれたし、良かったことにしましょう
―――――――――ふふっ…なんだかんだ、本当のことを知ってほしかったみたいね、私
―――――――――情けないわ、今までここに残ってしまって
―――――――――…これで、本当に、さようならね
…………
「ん?」
「悪い魔女と白雪姫のお話!」
「ああ、いいよ」
「昔、ある国に王様がいました」
「王様には大層綺麗なお妃さまとお姫様がいました」
「そして同じころ少し北の国に魔女はいました」
「悪い魔女は、ある浅ましい野望があったのです」
「国を思うままに動かし、贅沢を尽くし、一番美しくありたいという…」
「ですからそのようすを見た魔女は妬み、お妃様を殺し、とり替わりました」
「さらにお姫様…美しい白雪姫をいじめました」
「………」
王妃『ほら、この花はね、こうすると…』
白雪姫『なになに?』
ワクワク
王妃『ピィ~』
白雪姫『わあ』
キラキラ
王妃『草笛よ』
ニコニコ
王妃『白雪姫はお庭に散歩に行ったことは?』
白雪姫『…いつもメイド達が汚れるし、はしたないから行くなって』
ショボン
王妃『ふふっ、まあそうね。』
王妃『ま、私がいるからこれからは思いっきり遊べるわよ』
白雪姫『ホント…?』
ブンブン
白雪姫『かっこいい!わ、私もやりたい!!』
キラキラ
王妃『まあ、そのうち教えてあげるね』
ナデナデ
王妃(…私は赤ちゃんを殺してから…一刻も早く死なねばと思っていたわ)
王妃(いや…今でもそう思うの)
王妃(でも…この子を見ていると…生きる喜びを感じずにはいられないわ…)
王妃(私が一瞬でも息をするのを許されないほど罪深い存在でも)
王妃(そして神様が生きる事を許してくれなくても、私は生きていたい)
王妃(私は…貴方を会えてよかった)
王妃(本当に、よかった)
王妃『白雪姫』
白雪姫『なに?お母様』
王妃『これからも、一緒にいようね』
ギュ…
白雪姫『うん!』
ニコッ
前のssがさるをくらいまった挙句、落ちたのがトラウマだったので気をつけた
つもりでしたが、やはりくらいました
なんとか最後までいけて良かったです。保守や支援してくれた方々、最後までお付き合いしてくれた方
本当にありがとうございました
大層乙であった
鏡に一番綺麗な人聞いてたのはただの噂?
はい、周りの人の勝手な噂という設定にしていますね
Entry ⇒ 2012.07.03 | Category ⇒ その他 | Comments (0) | Trackbacks (0)
非力彩芽「ふぇぇ…こんなの重くて持てないよぉ…」
非力彩芽「ふぇ?お姉ちゃん…誰?」
怪力彩芽「アタイは怪力彩芽さ!」
怪力彩芽「ほらちっこいの、そこどいたどいた」
非力彩芽「ふぇぇ……?」
怪力彩芽「見てろよ? こんなもんあたしの怪力をもってすれば……」ガッシリ
非力彩芽「もってすれば……」ワクワク
怪力彩芽「お茶の子さいさいさ! ふんぬりゃあぁぁ!」
非力彩芽「おぉ!」
怪力彩芽「ぬ……ぐぎぎぎ」
非力彩芽「が、がんばれぇ怪力ちゃん!」
怪力彩芽「ちっくしょう、なかなか重てーじゃねぇか!」
非力彩芽「ふれぇ、ふれぇ、怪力ちゃん!」ワッショイワッショイ
怪力彩芽「だあぁぁっ、見てないで手伝えよ!」
非力彩芽「ふぇぇっ!?」
―――
非力彩芽「だめだったね……」
怪力彩芽「あたしの怪力でも持ち上げられないなんて……」シュン
非力彩芽「ふぇぇ、落ち込まないで……」オロオロ
怪力彩芽「不甲斐ないぜ……」
非力彩芽「げ、元気だしてよぉ」アワアワ
怪力彩芽「非力……」
非力彩芽「怪力ちゃんが来てくれてうれしかったもん」
怪力彩芽「……」
非力彩芽「それに、2人でダメなら3人でやればいいだけだよ!」
怪力彩芽「……へっ、全くその通りだな」
非力彩芽「うんっ」ニコッ
怪力彩芽「ったく、あたしともあろう者が非力なんかに励まされるとはなあ」ワシワシ
非力彩芽「ふぇっ、頭撫でないでぇ」
怪力彩芽「おっ、あそこ見てみろよ」
非力彩芽「ふぇぇ?」
怪力彩芽「誰かいるぜ」
非力彩芽「ほんとだぁ」
怪力彩芽「ちょっと声かけてみるか……って、え!?」
非力彩芽「ふ、ふぇぇ! 猛スピードでこっちに来てるよおぉ!?」
怪力彩芽「ちっ、アブないタイプか?」
非力彩芽「わ、わかんない」
怪力彩芽「とにかく非力、あたしの後ろに隠れるんだ!」
非力彩芽「う、うん」ササッ
怪力彩芽「さぁ、来るなら来やがれ!」
???「おーい!」ダッダッダッ
怪力彩芽「あぁん?」
非力彩芽「ふぇっ、この声……」
???「ウチやでーっ!」ダッダッダッ
怪力彩芽「このテンション……」
???「お二人さぁーん! 何しとるーん?」ダッダッダッ
怪力彩芽「このうざさ……」
非力彩芽「ふぇぇ! ハリキリちゃんだぁ!」
ハリキリ彩芽「おっはぁー! はりきっとるぅ?」キラーン
怪力彩芽「相変わらず熱いな、お前」
非力彩芽「ハリキリちゃーん、久しぶりぃ」ニコニコ
ハリキリ彩芽「おぅ非力たん、元気やったか?」
非力彩芽「うんっ、非力元気だよぉ」
ハリキリ彩芽「はーっはっは、そりゃ良かったわぁ!」
怪力彩芽「なにしにきたんだよ」
ハリキリ彩芽「ほんま連れんなぁ自分」
怪力彩芽「お前のテンションに合わせるとこっちが疲れちまうからな」
ハリキリ彩芽「まぁええけど。何か困っとったんやろー?」
非力彩芽「ふぇぇ……実はそうなの」
ハリキリ彩芽「したらウチの出番や、手伝わせてーな!」
非力彩芽「ほんとにぃ? やったー」
怪力彩芽「おいおい非力まで……」
非力彩芽「これで3人、きっと持ち上がるよ!」ニパッ
ハリキリ彩芽「なーるほど、こいつを持ち上げればえーちゅう話か」
怪力彩芽「まぁ、そういうこった」
ハリキリ彩芽「怪力自慢のあんたでもムリやったん?」
怪力彩芽「おう……」
ハリキリ彩芽「なんや暗いと思ったらそういうことかいな」
非力彩芽「怪力ちゃん……」
ハリキリ彩芽「ほらシャキッとしい! はりきって行くで!」
怪力彩芽「……そうだな、3人もいれば持ち上がるだろ」
非力彩芽「が、がんばろうねぇ」
ハリキリ彩芽「やるでー、ウチやったるでー!」フンッ
怪力彩芽「よし、じゃあ非力とハリキリでそっち側を頼むぜ」
非力彩芽「うんっ」
ハリキリ彩芽「ウチにまかしときぃ!」
怪力彩芽「いいな、せーので行くぞ」ガシッ
非力彩芽「ふぇっ!」ガシッ
ハリキリ彩芽「ばっちこーい!」ガシッ
怪力彩芽「……せー、のっ」
非力彩芽「ふんっ、ん~……」プルプル
ハリキリ彩芽「だらっしゃああああ! おらおらおらぁぁ!」プルプル
怪力彩芽「おいハリキリ! いや非力もだが、そっちだけ全く浮いてねえじゃねぇか!」グググ
ハリキリ彩芽「な、なんやてぇっ!? この気合いがぁっ、見えへんのかあああぁぁ!」プルプル
非力彩芽「ふぇぇ……。た、たしかハリキリちゃんって」プルプル
怪力彩芽「威勢がいいだけだったな、いっつも……」グググ
ハリキリ彩芽「や、やかましいわ! もっと熱くなれよぉぉぉ!」プルプル
非力彩芽「……」プルプル
怪力彩芽「……」グググ
ハリキリ彩芽「いてまえ打線~!」プルプル
―――
非力彩芽「……ふぇぇ」
怪力彩芽「……こいつは」
ハリキリ彩芽「……」ショボーン
非力彩芽「は、ハリキリちゃん。そんなに落ち込まなくても……」
ハリキリ彩芽「……なんや、あんたらまだおったんかいな」ハァ
怪力彩芽「それものすごくこっちのセリフだわ」
ハリキリ彩芽「今ウチは気分が悪いんや。あっち行ってくれへんか」ショボーン
非力彩芽「ふぇぇ、ハリキリちゃんが落ち込んじゃった……」
怪力彩芽「落差が激しすぎるだろ……」
非力彩芽「ど、どうしようねぇ」
怪力彩芽「このバカは放っておいたら直るだろ」
非力彩芽「そうなの?」
怪力彩芽「バカだからな」
非力彩芽「バカは放っておけばいいんだね!」
怪力彩芽「そう、触れないバカに祟りなし!」
ハリキリ彩芽「何やぁぁぁぁ!?」ガバッ
非力彩芽「ふぇっ」ビクッ
ハリキリ彩芽「関西人に向かってバカバカ言いよってこいつら……怒るで!」プンプン
怪力彩芽「……な? 直っただろ」
非力彩芽「すごいねぇ、怪力ちゃん」
怪力彩芽「いやー、それにしても汗かいたな」
非力彩芽「うんっ、少し休憩しよっか」
ハリキリ彩芽「なんや、やる気ないなぁ」
怪力彩芽「お前が言うか……」
非力彩芽「誰かが来たら手伝ってもらおうねぇ」
ハリキリ彩芽「そか。ほなウチトイレ行ってくるわ」
怪力彩芽「おう、いっトイレ」
ハリキリ彩芽「便器でな」
非力彩芽「ふぇぇ、なにかで見たやりとりだよぉ……」
―――
ハリキリ彩芽「しゃあっ、トイレや!」
ハリキリ彩芽「トイレと言ったらふんばり! 気合いはいるでー」
ハリキリ彩芽「……むっ、なんやおかしいなぁ」
ハリキリ彩芽「なんでトイレの中やのに、こんな清々しい気分なんや……?」
~♪
ハリキリ彩芽「……なんか聞こえる?」
~~♪
ハリキリ彩芽「……これは、歌? 一体どこから……」
~~~♪
ハリキリ彩芽「むっ、この扉の向こうから聞こえるみたいやな」
~~~~♪
ハリキリ彩芽「誰や、出てきぃっ!」バターン
消臭力彩芽「消~臭~力ぃぃ~♪」
ハリキリ彩芽「……」
消臭力彩芽「エステー」ボソッ
ハリキリ彩芽「……いや、お前はいらんわ」パタン
消臭力彩芽「えっ……」
―――
ハリキリ彩芽「戻ったでー」
怪力彩芽「おう。って、なんで消臭力がいるんだ?」
ハリキリ彩芽「知らへん。勝手についてきたんや」
非力彩芽「消臭力ちゃん、お部屋にいないと思ったらトイレにいたんだねぇ」
消臭力彩芽「私、トイレ用だから……」
非力彩芽「ふぇぇ、不潔だよぉ……」
消臭力彩芽「……」
怪力彩芽「一応、これで4人だけど……」
ハリキリ彩芽「消臭力はちょっと役に立たんからなぁ」
怪力彩芽「うん、お前が言うな」
ハリキリ彩芽「誰かおらへんやろか……」
非力彩芽「ふぇっ、あそこで突っ立ってるのって……」
怪力彩芽「ん? 誰かいるな」
ハリキリ彩芽「声かけてみるか。おーい!」
???「……なに?」
怪力彩芽「ちょっとこっち来て手伝ってくれねーか?」
???「やだ。めんどくさい……」
ハリキリ彩芽「め、めんどくさいって何やねん!」
怪力彩芽「おいまてハリキリ! こいつは……」
非力彩芽「ふぇぇ……他力ちゃん」
他力彩芽「あぁ、ナマポで暮らしたい……」
ハリキリ彩芽「一番のハズレをひいてしもたな」
怪力彩芽「……言うな」
他力彩芽「あぁ、芸人の息子がほしい……」
非力彩芽「だ、だめだよぉ他力本願は……」
他力彩芽「あんたらが言うな!」クワッ
非力彩芽「ふぇっ!」ビクッ
他力彩芽「今さっき私に頼ろうとしたあんたらが言うな!」クワッ
怪力彩芽「いや、あたしらはちゃんと自分でもがんばるし……」
ハリキリ彩芽「そうやで! 失礼なやっちゃなぁ」
他力彩芽「ふん、あんたらだって助け合いがしたいんじゃない。助けてほしいだけなんだ……」
ハリキリ彩芽「……あかんわ! このマイナスオーラあかんわ!」
他力彩芽「他力本願をけなすくせに、自分1人じゃ何もできないじゃないか……」
怪力彩芽「だから、自分は何もしないってわけじゃないって」
他力彩芽「うるさいうるさい。楽できればそれが一番。ナマポだって、貰えるから貰うんだ……」
消臭力彩芽「いや、今ナマポ関係ないし……」
他力彩芽「いたの……?」
消臭力彩芽「!?」
他力彩芽「とにかく私は誰も助けない……」
怪力彩芽「こいつは……」
他力彩芽「あっちの人に助けてもらえば……?」
非力彩芽「あっち……?」
怪力彩芽「こんな使えないやつはほっとくか」
消臭力彩芽「賛成! 大賛成!」
非力彩芽「いたの……?」
消臭力彩芽「!?」
怪力彩芽「おーい、そこにいる人ー!」
???「あぁん!?」ギロ
ハリキリ彩芽「うわっ、いきなりキレてんであの人……」
???「……」
ハリキリ彩芽「……?」
長州小力彩芽「……キレてないっすよ」
ハリキリ彩芽「なんでやねんっ!」
怪力彩芽「ちょっ、落ち着けハリキリ!」ガッチリ
ハリキリ彩芽「離しいっ! あんなカビの生えたネタ見せられて黙ってられんわ!」バタバタ
非力彩芽「ふぇぇ……ハリキリちゃんまで変になっちゃったよぉ」
怪力彩芽「ていうか、どいつもこいつも使えなさすぎだろ……」
???「お困りのようだね!」
怪力彩芽「もうこの時点でイヤな予感しかしないわ」
非力彩芽「ふぇぇ……」
???「きらきら輝く、未来の光!」
ハリキリ彩芽「なっ、まさか……」
他力彩芽「……」ドキドキ
プリキュ彩芽「キュアハッピー!」キラーン
ハリキリ彩芽「キュアサニー!」ゴォッ
怪力彩芽「あっ、じゃああたしはビュー」
他力彩芽「キュアビューティ……」ニヤッ
怪力彩芽「……」
非力彩芽「ふぇぇ……。じゃあ、私は……」
プリキュ彩芽「君はピースだよ! あざといから!」
非力彩芽「ふぇぇっ!?」
プリキュ彩芽「行くよみんな!」
ハリキリ彩芽「おぉ、なんやようわからへんけど力が溢れてくんでー!」
他力彩芽「め、めんどくさいし……」ドキドキ
怪力彩芽「あぁ、そう言えばあれをどかすのが目的だったっけ……」
非力彩芽「ふぇぇっ、なんだかいけそうな気がするよぉ」
プリキュ彩芽「今だっ! プリキュア・レインボーヒーリング!」ピッカアァーン
怪力彩芽「おぉっ、これはいけそうな気が……」
シィーン
プリキュ彩芽「……う、ウルトラハッピー!」
ハリキリ彩芽「何もおきんやないかい!」
他力彩芽「期待して損した……」
プリキュ彩芽「だ、黙れパチモン!」
怪力彩芽「いや、それお前だろ」
非力彩芽「ふぇぇっ、カオスになってきちゃったよぉ」
???「オーホッホ、やっと見つけたわよ、怪力!」
怪力彩芽「……もう勘弁してくれ」
非力彩芽「ふぇぇっ、この子って……」
記憶力高芽「小学生の時に貸した300円、今すぐ返しなさい!」
非力彩芽「ふぇぇ……」
―――
非力彩芽「ふぅ」
怪力彩芽「はぁ」
ハリキリ彩芽「ひぃ」
消臭力彩芽「……」
長州小力彩芽「……」
他力彩芽「だるい……」
プリキュ彩芽「ピースかわいいよピース」
記憶力高芽「300円返してもらいました」
怪力彩芽「……なんかもうさ、こんだけいればできるんじゃね?」
ハリキリ彩芽「本気? 九割役立たずやん」
非力彩芽「ふぇぇ……ごめんなさい」
ハリキリ彩芽「いやいや、非力たんは役立たずちゃうでー! かわいいは正義や」
怪力彩芽「さて、どうしたもんかね……」
???「あら、あなたたち……」
怪力彩芽「……お前」
ハリキリ彩芽「なんや、えらい懐かしい顔やなぁ」
非力彩芽「ふぇぇ……」
原子力彩芽「……」
プリキュ彩芽「原子力ちゃん……。最近見ないから、心配してたよ」
他力彩芽「私も心配はしてた。してただけだけど……」
ハリキリ彩芽「どないしたん? 連絡もよこさんで」
原子力彩芽「……私はもう用済みなのよ」
怪力彩芽「……どういうことだ?」
原子力彩芽「私は高校の生徒会長をしていたの。それはもう大きな支持を受けてね」
他力彩芽「たしか、いろいろ革新的なことをやってたんだっけ……」
原子力彩芽「そうね。何よりもまずは生徒のために……。そう思って、自分の身を粉にしながら働いたわ」
プリキュ彩芽「そうなんだ、すごいね!」ハッピー
原子力彩芽「おかげで学校生活がとても充実したものになった、ってみんな言ってたわ」
怪力彩芽「結構なことじゃねーか。ならなおさら、なんでいなくなったんだよ」
非力彩芽「……ま、まさか」
原子力彩芽「……たった一回よ」
ハリキリ彩芽「……」
原子力彩芽「たった一回の失態を見られて、手のひら返しのバッシングを浴びて」
非力彩芽「ふぇぇ……ひどいよぉ」
原子力彩芽「そうよ。とってもひどいこと。今まで私のおかげで学校生活を楽しんでいたくせに、あいつらは……」
消臭力彩芽「……」スピー
非力彩芽「許せないよぉ! 抗議しに行かなきゃっ」
原子力彩芽「ふふ、ありがとう。私のために怒ってくれて」
非力彩芽「たった一回の失敗でそこまで責めることないもん!」
原子力彩芽「……でもね、それが責任ってものだと、最近思うようになったの」
非力彩芽「……ふぇっ?」
原子力彩芽「二回目が与えられないほどに重く、大事な物なんだと思う」
非力彩芽「ふぇぇ……それでいいの?」
原子力彩芽「うん、いいのよ。私がいなくなっても、私の功罪はなくならないもの」
非力彩芽「ふぇぇ……」
原子力彩芽「のちの生徒会長がそれを見て何を得るか。その種火になれただけでも、価値があったんだと思う」
他力彩芽「私には考えられない……」
ハリキリ彩芽「そら、お前は他力本願やなくて自己中なだけやん」
非力彩芽「よくわからないけど、原子力ちゃんがそれでいいなら……」
原子力彩芽「いつかあなたにもわかるわ。きっとね」
???「よく言った!」
ハリキリ彩芽「うわっ、またなんか来たでえ!?」
???「サイコキネシス!」
他力彩芽「なっ……!?」
怪力彩芽「あ、あんなに重い物が浮いてやがる!」
ハリキリ彩芽「おぉー、やったな非力たん!」
非力彩芽「う、うん!」
原子力彩芽「あなたは……」
キリンリキ彩芽「ただのエスパータイプさ。あばよ!」ヒュン
怪力彩芽「ふー、何はともあれこれで終わりだな」
ハリキリ彩芽「せやなー。久しぶりに楽しかったで?」
他力彩芽「まぁ、少しはね……」
プリキュ彩芽「えへへー、ウルトラハッピーエンドだね!」
消臭力彩芽「……まぁ、よかったね」
記憶力高芽「……うん」
原子力彩芽「さぁ、非力ちゃん。道は開けたわよ」
非力彩芽「ふ、ふぇぇ……」オドオド
怪力彩芽「おいおい、ここにきて何を尻込みしてんだよ」
ハリキリ彩芽「ま、気持ちはわかるけどなー」
原子力彩芽「……非力ちゃん」
非力彩芽「……うん」
原子力彩芽「私たちのこと、忘れないでね」
怪力彩芽「……いつだって、一緒だからな」
ハリキリ彩芽「心の中に、っちゅーやっちゃな」
非力彩芽「みんな……」
他力彩芽「あんたなら、応援してあげなくもない……」
プリキュ彩芽「女の子は誰だってプリキュアになれるんだよ!」
非力彩芽「……うん、わかった。私、がんばるからね!」
怪力彩芽「おう!」
ハリキリ彩芽「元気でなー!」
原子力彩芽「自信を持って。あなたはもう、非力なんかじゃない……」
非力彩芽(みんな、ほんとうにありがとう……)
テッテッテッテー
テーテーテー、テレレレッテレー
おめでとう! 非力彩芽は剛力彩芽に進化した!
―――
剛力彩芽「んっ……。また、あの夢かぁ」
剛力彩芽「えへへ。私、がんばってるよ? 辛いことも多いけど……」
剛力彩芽「だからみんな、見守っててね」
剛力彩芽「……心の中から、見守っててね」
終わりき彩芽
でも剛力のことは応援しない
発想がいい
元スレ:非力彩芽「ふぇぇ…こんなの重くて持てないよぉ…」
Entry ⇒ 2012.06.29 | Category ⇒ その他 | Comments (2) | Trackbacks (0)
学者「なんの問題もないよ!だって私はケモナーだよ!?」
学者「やれやれ。困ったね。すっかり暗くなってしまった。」
少年「プロフェスール、あなたが夢中になってこんな森の奥まで来るからですよ!」
学者「悪かったと謝ってるじゃないか。しかしこの種の薬草は、この森でしか採れないのさ。」
少年「わかってるんですか?この森には魔物が出るという噂が」
学者「魔物、ねえ。出てきたならきたで、是非とも生きたサンプルを持ち帰りたいものだ。」
少年「あのう、プロフェスール?そんな風にフラグを立てたら……!」
少年「どうしてそんなに楽観的なんですか!ほ、ほら!見てください!あそこ!茂みが何か動いているではありませんか!」
学者「まったく君というものは、臆病だね。それでもタマのついてる男の子かい?」
少年「プロフェスール!ぼくは慎重なだけなんです!それに、下品なことを言わないでください。綺麗な顔して。」
学者「ほら見たまえ。猫じゃないか。おいで仔猫ちゃん。にゃ、にゃー。」
少年「……プロフェスール。その流れは非常にまずいです。」
学者「なにがだい?おや?あれはなんだろう。ちょっと見てくるよ。私が戻るまで、ここを動かないでくれるかい?はい。猫。」
少年「いっ、いかないでくださいよ!それに、だめですよ!うら若い女性をこんなところでひとりにできません!猫どうするんですか!」
学者「解せぬ」
少年「え、えと、呪文、呪文は……」
学者「焦る必要はないさ。棒切れ振り回しているだけで勇者と呼ばれる者のいる昨今、魔物の一匹や二匹、恐るるに足らない。」
少年「いっぴきや!にひきじゃ!ない!じゃないですか!3ダースはいるじゃないですか!」
少年「なんですって?」
学者「私が囮になって君を逃がすだけのことさ。必ずあとで追いつく。ここは私にまかせて先に行きたまえ。」
少年「何を言い出すのですプロフェスール!どうしてあなたというひとはそうやって死亡フラグ立てまくるんですかー!」
学者「案ずることはない。棒ッキレ振り回して勇者と名乗るのに同行する魔法使いなんかよりずっと私のほうが優れているのだからね。」
少年「あなたが優秀なのは百も承知してますが!あと王家に任命された勇者をそんな風に言わないの!」
少年「むむむ……!」
学者「いいから行きたまえ!」
少年「ヤです!」
学者「言っただろう君など足手纏いだ。それに魔物どもも、男の子の筋っぽい肉よりも、女の私の肉のが良いだろう。」
少年「なんてこというんです。もとより、あなたに拾ってもらった命なんですから、あなたを置いて逃げられるわけはない!」
学者「勝手にしたまえ。怪我をしてもしらんからな。」
少年「勝手にします!」
学者「豚やら狼やら小鬼やら。普通の野生生物でもそれなりに脅威だが……」
少年「魔物ですもんね武装してますもんね」
学者「目標、正面一列に……『焔』」
少年「すごい!一気に3分の1くらい減った!」
学者「しかし他は……やはり、火を恐れぬか。群れが欠けてもなお向かい来るとは見上げた根性だ。」
学者「……魔物の魔物たる所以、か。」
少年「どうしましょうプロフェスール。」
少年「ちょっ」
学者「みゃっ!?飛び道具まで使ってきた!道具を使う知能もあるのか。面白い。」
少年「言ってる場合ですか!」
学者「にゃっ!足が!具体的にいうと左ふくらはぎが!」
少年「逃げても逃げても追ってくる……」
学者「参ったね」
少年「ッ!?崖……!」
学者「前門の崖、後門の魔物。おまけに雨まで降ってきたじゃないか。」
学者「あらやだ詰んだ。」
少年「全然危機感ない口調やめてくださいよ!」
学者「せめて思い残しがないように今仔猫ちゃんを思う存分もふっておこう……」
少年「いきなり絶望するのも勘弁してください!ちっ!奴ら撃ってきやがった!プロフェスール!」
学者「落ち……!君、この手を離したまえ。君まで落ちる。」
少年「絶対離しません!ってうわあああ!?」
学者「ほらみろいったじゃないかあああ」
学者「…………。」
学者「……!」
学者「おちた、のか。あの高さから。……私も君も存外丈夫だな。少年。猫ちゃんには怪我がなくて良かった。」
少年「う、うう……ィ痛ッ」
学者「どの位眠っていたのかはわからないが、魔物が諦めてくれたのは幸いだ。しかし。」
少年「プロフェスール!あなたその脚!」
学者「ああ。奴らの矢に毒がね。仕方なく患部をえぐり取ったのさ。道もわからんし崖を登ろうにも他の道を探すにも、あまり歩けそうに……ないな。」
少年「そんな!あんたまたぼくを庇って!」
学者「『かんちがいしないでよねあんたのためじゃないんだからこれはねこたんのためなんだからね』
学者「お誂え向きにいかにも……妖しげな城だなあ。」
少年「この辺りに、こんな城を立てられる財力を持ったものがありましたでしょうか。」
学者「紫の雲に緑の稲妻とは風流だねえ」
少年「おばけ……やしき……」
学者「背に腹はかえられまい。いこう。肩貸してくれ。」
少年「こんばんはー。だれか、いますかー!」
少年「雨が上がるまで、屋根を貸していただけませんかー!」
学者「……おお。ひとりでに扉が開いた。」
少年「このギィィ……、って音すっげーヤですね。」
少年「あっ。ちょっと待ってください!」
少年「しまった!扉が!」
学者「駄洒落かい?」
少年「ちっ、ちがいますっ!うーん、開かない。びくともしない。」
学者「ま、ここの人に言えば開けてくれるだろ。しかし真っ暗だな。」
メイド「いらっしゃいませお客様。」
少年「わっ!勝手に上がり込んでしまって申し訳ありません。崖から落ちて雨に……」
メイド「困った時はお互い様ですわ。さ、風邪をひかぬよう、このタオルをお使いくださいまし。」
学者「見たまえ少年。猫耳メイドだ。」
少年「猫耳っていうか全身猫じゃないですか!人の背丈もある大きな白猫が服をきて二足歩行して喋ってるんですよプロフェスール!」
メイド「……その辺は、その足の手当をしながらお話ししますわね。」
学者「助かるよ。ついでに雨が上がるまでで構わないから、屋根も貸してはくれまいか。」
少年「正気ですかプロフェスール!?」
学者「こらこら失礼だよ少年。相手は人語を解する知的生命体だ。我々も敬意を持って接するべきだ。」
メイド「話の通じる相手で安心しましたわ。人によっては、いきなり斬りかかってくる野蛮な方もいますもの。」
学者「それは良くないね。」
学者「この猫を知っているのかい?」
メイド「知っているも何も、この屋敷の猫ですわ。」
学者「お子さん?」
メイド「こんな姿ですけれど、わたくし、本当の猫というわけではありませんの。……お食事を用意しますが、召し上がります?」
学者「ありがたい。」
少年「大丈夫なんですか。とって食われたりしませんか。」
学者「ふふ。そうなったら、私を置いて逃げたまえ。」
少年「そんなことできますか!」
メイド「お食事の準備がととのいました。さあ、おあがりくださいな。」
学者「少年。待ちたまえ。私が先だ。」
少年「……?プロフェスール、お腹が空いていたのですか?」
学者「では、そういうことにしよう。……私が口をつけたあとならば食べてもいい。」
少年「??、は、はあ……。」
学者「すごい豪華な食事だね。味付けも王都の高級料理店並みだ。」
メイド「お褒めに預かり、料理長も感激することでしょう。」
学者「ところでちょっとした質問があるのだが。」
メイド「なんでしょう。」
学者「この食材はどうやって調達しているんだ?食材だけじゃない。日々生活する上で、モノはどうしても要りようだろう。それはどうやって?」
メイド「確かに、わたくしたちのような魔物の姿が、人の町に現れたら大騒ぎでしょうね。疑問に思うのも無理はありませんわ。」
少年「えっ!?」
メイド「なるほど。そうですね、森の外の道は商隊が行き来しますものね。襲いかかるのは容易いことでしょう。」
学者「うん……この魚なんかは、海のものだ。この近くで獲れるものではない。」
メイド「ご安心召されまし。お金というのは、時に、人間が恐怖に打ち克つ力を与えるものですよ。」
学者「ああ、要は金で使える人間がいるわけだね。」
メイド「ええまあ。わたくしたちの主人は、富だけは無駄に莫大ですもの。」
学者「ふうん。ああ、少年。もう少し待ちたまえ。ビーフジャーキーを目の前にぶら下げられた犬のような顔をするでないよ。」
少年「してません!」
学者「君たちがそのような姿であることにも、関わってくるのかな。」
メイド「まあ。するどい。」
学者「少年、さあ、スープとパンは食べても良い。魚料理と肉料理は私がいいというまでだめだ。」
少年「……?、はい。」
学者「さ、話してほしい。」
メイド「ええ。……こういう御伽噺をご存知でありません?」
メイド「そのみすぼらしさに、王子が冷たく断ると、老婆は美しい女神に早変わり。」
メイド「お前のような性根の腐った男には、醜い野獣の姿がお似合いだ。」
メイド「そう言って、王子の姿を変える呪いをかけます。また、王子を甘やかしてきた城の者にも。」
メイド「そして。こうも言うのです。」
メイド「もし、この薔薇が散る前に、お前が真実の愛を知ることができれば、お前は元の姿に戻ろうが……」
学者「その前に薔薇が散ってしまえば、永遠に、その姿のまま……か。」
学者「俄かには信じ難いが、世界は広いからね。どんな不可解も、まあ起き得るんだろうね。」
少年「しっ、信じるんですか?」
学者「……少年。待たせたね。さ、どの料理に手を付けても良い。」
少年「???いただきます?」
メイド「わたくしたちは、まあ、困っているんですわ。結構。この姿ではいろいろと不都合もありますの。」
メイド「あら。理解が早くて助かりますわ。」
少年「ぶふっ……!?」
学者「そのネタバラシは得策ではないのではないか?」
メイド「……雰囲気さえつくればなし崩し的に恋愛関係に移行するのは容易なものですわ!」
少年「いやあの。」
学者「まあ、何かの小さなきっかけで、思いも寄らないもの同士が惹かれ合うというのはありがちだね。」
メイド「頷いていただけるのであれば、あなたの怪我の治療もいたしますし、ここから無事に街まで帰るルートもお教えしますわ。」
学者「うーん」
少年「プロフェスール、あれ完全にウラがありますよ!」
学者「そうかもしれないね。」
メイド「はいはい裏なんてないですよー。」
学者「投げやりにありがとう。……お言葉に甘えるよ。」
少年「何言ってんですかプロフェスール!?」
少年「ちょっ……プロフェスール!?しっかりしてください!プロフェスール!」
メイド「あらいけない。さ、こちらの客室にお運びしましょう。」
少年「プロフェスールに妙なことをしてみろ!ただじゃおかないからな!?」
メイド「……お客様に『妙なこと』をするほど、わたくしは不躾ではありませんわ。お客様でなければ別ですが。どうなさいます?おとなしくこの方のようにお客様になるか、それとも」
少年「わ、わかった。でも、プロフェスールのことはぼくが運ぶ。」
メイド「……こちらへ。」
少年「本当に、手当してくれるんだ……」
メイド「さあ、これでもう大丈夫。」
少年「あ、ありがとう……」
メイド「いえ。あなたにとって、ずいぶんと大切な方なんですのね。」
少年「プロフェスールは、恩人だからな。」
メイド「恩人?」
少年「ドレイ、って言った方がいいのかな。暴力も、性的なことも含めていろいろされたし、食事だってマトモにもらえたことはない。」
少年「ある日さ、その金持ちの屋敷にプロフェスールが招かれて。プロフェスールの研究は、ある種の人間には完成したら喉から手が出るほど欲しいもので、たぶんその関係だと思う。」
少年「いつも通りいろいろあって動けなかったとこを、本当だったら客が入るようなところじゃない屋敷の裏だったけど、なんでかふらっと迷い込んだプロフェスールに拾われたんだ。」
少年「金で買い取られたんだし、最初はプロフェスールも同類だと思ってた。」
少年「けど、文字を教えこまれたり、剣術を習わさせられたり、正規の賃金を払われたり。なんだろ、ちゃんと助手として扱ってくれてるんだよな。」
メイド「…………。」
少年「この人への恩返しにはまだ足りないし、なんとなくほっとけないひとだし、それに……って、あんたには関係ないよな。変なこと聞かせて悪いな。」
メイド「いえ。なるほど。わかりました。ひとつ、肝心なことだけお聞きしても?」
少年「なに?」
メイド「この方に、恋愛感情はあるのですか?」
少年「な!何言ってんだ!べつに、そんなんじゃない……!ただの師弟……いや、ぼくにとってはそれも違うな。」
メイド「ほう」
少年「母さんとか、姉さんみたいな存在だよ。尤も、そんなものはいたことがないから、こういうものだって想像でしかないけど。」
メイド「それは良うございました。あなたがこの方をちょっとウザいくらいに守ろうとしたり、てっきり愛やら恋やら肉体的交渉やらで結ばれているものかと。」
少年「誤解されるけど、ぼくたちの間にそういうことは何もないからな!?」
メイド「それならば、わたくしも安心して主人とこの方を引き合わせることができますわ。そして、我らの悲願を達成するために、とっととくっついていただきます。」
少年「いやそれはちょっと」
少年「ごめん。疑ったりして。」
メイド「いえ。慣れております。」
少年「…………。」
メイド「?、お手洗いなら廊下の突き当たりですが。」
少年「違ッ……!」
メイド「異形のもの相手に、最初から無警戒で挑むのは間抜けのすることですわ。この方も、あなたのように怯えはしないものの、警戒はなさっていたようですし。」
メイド「悲鳴を上げて逃げ惑ったり、いきなり攻撃を仕掛けてくる方もいらっしゃいますもの。もちろん、そういった方は屋敷からご退出願いました。」
メイド「……魔物に喰われてしまいましたけれど。」
少年「まじで」
少年「プロフェスール!目が覚めたのですね!?……どこから聞いてました?」
学者「たった今だよ。……君たちが文化的な生活をしている上、言葉の通じる相手なら、折り合いをつけることもできよう。」
メイド「まあ。」
学者「で、受けたのがとても紳士的対応だ。いや、淑女的、と言った方がいいかな。無闇に怯える必要はないよ。」
メイド「悪い魔物が旅人に豪華な食事を与え、肥らせて食べてしまう、というのもよく聞く話ですわ。」
学者「うん……その場合は、むしろ脚が治らないほうが好都合だね?」
学者「しかし君の施した治療になんら不審な点はない。手際も完璧だ。少年にも危害が加えられていない。礼を言うよ。ありがとう。」
メイド「いいえ。人として当然のことですわ。あら?」
学者「ん?」
メイド「ちょっと外しますわね。ご主人様がお呼びのようですわ」
メイド「……参りましたわ、ご主人様。」
主人「なんだ、あの者共は。」
メイド「なに、ってご主人様。ご主人様の花嫁候補ですわ。それと、その小姓。」
主人「ふざけるな。また勝手なことを。」
メイド「勝手なこと?他に手がありますか?」
主人「もとより、呪いなど解けぬのだ。このような姿、誰が愛そうか。」
メイド「愛していただかねば困ります。我々を真の姿に戻すには、それしかありませんもの。」
主人「結局は自分のことだけではないか。」
メイド「当然でしょう?他者のことを思いやれるような性質でしたら、このような姿に変えられることもなかったのですから。」
主人「ふん。忌々しい。」
主人「余計なお世話だ。」
庭師「血のニオイ、若いオンナのニオイ、喰ウ、喰イタイ。」
メイド「お黙りなさい。そのようなことは許しません。精神まで獣と化すなど、恥を知りなさい。」
主人「ふん。まだ言葉を話せるだけ良いではないか。それこそ、知性のない魔物や、家具のようなモノに変えられた者に比べればな。」
メイド「ご主人様以外でこの城で唯一まともな精神を保っているのはわたくしと料理長と執事くらい。わたくしまでおかしくなりそうだわ。」
主人「いっそ、精神まで狂えればこれほどまでに苦しむこともなかった。ただ己が欲を満たすために生きれば良いのだから。」
メイド「例の期限がくればそれも叶いましょうが、わたくしは御免ですわ。」
主人「…………。」
主人「……それは、私とて同じだ……。」
学者「やあおはよう。良い天気だね。」
少年「まったく、呑気なんですから。」
学者「おや?眠れなかったのかい?そんな顔をしているね。」
少年「外から唸り声は聞こえるし、あなたの包帯は変えなきゃいけないし、眠れるものですか。」
学者「……そうか。繊細だな。」
少年「そういう問題じゃないです。」
学者「おはよう。早速で悪いが、頼みがあるんだ。」
メイド「なんでしょう?」
学者「彼だけ、村の宿に戻してほしい。」
少年「はあ!?」
メイド「わかりました。誰か手の空いた者に送らせましょう。」
少年「ちょっと待ってください!なんでぼくだけなんですか!」
学者「いや、前払いで助かったとは言え、宿屋には昨夜のうちに戻るつもりだったからね。荷物を王都の研究室に引き上げてほしい。」
少年「王都まで何日かかると思ってるんですか。プロフェスールも一緒に戻ればいいじゃないですか。」
少年「ぼくが背負います!」
メイド「それは……危険ですわ。安全な道をお教えするとは申しましたが、その、血の臭いに敏感な魔物も多いんですの。この屋敷内であればお守りすることも可能ですが……」
学者「ほらね。傷が完全に塞がるまでの滞在許可を先程いただいたのさ。」
少年「それならぼくも」
学者「いや、村で余所者がどういう視線を集めたか、君も経験しただろう。万が一、荷物に触れられて研究内容にあらぬ誤解を受けたくはない。頼むよ。私と、君の名誉のためだ。」
少年「そんな風に言われたら断れないじゃないですか……。行ってきますよ。」
学者「そう言ってくれると信じてたよ。」
少年「ちぇっ」
道化「こんにちは。僕が貴方を森の外までお連れしましょう。」
少年「あんたは呪いにかかってないんですか?ヒト、の形してる。クラウン、かな」
道化「おやまあ、そう見えますか。」
少年「派手な仮面をつけて、帽子を被ってるけど、メイドさんみたいに獣化しているようには……。」
道化「……ここのご主人様以下、この城の者には例外なく呪いはかかっておりますよ。」
道化「お望みならば外しましょうか?」
少年「いやいいよ。道化師の素顔を見ようとする程、礼を欠くなってプロフェスールに怒られる。」
学者「……少年をよろしく頼む。」
道化「心得て御座いますとも。」
少年「荷物を運んだらすぐ戻ってきますからねプロフェスール!」
学者「はいはい。待っているよ。」
少年「うー。」
道化「よほど彼女が心配のご様子ですね。」
少年「そりゃあ……プロフェスールは怪我をして動けないのに、あんな化け物屋敷にひとり置いて……あ、ごめん。」
道化「いいえ。あそこが化け物屋敷であることには間違い御座いませんからね。」
少年「一体何をしたら、こんな魔法?呪い?をかけられるんだ?」
道化「……力のある方のご機嫌を損ねるべきではない、と言ったところでしょうか。ま、もしかしたらご当人は、こういう術をかけたこと自体を忘れていらっしゃるやもしれませんがね。」
少年「忘れてる、って。」
道化「あの方はそうしたところがおありですから。……おっと、その木を左回りに、その次の木を右回りに進んでください。でないと、永遠にここを彷徨うことになりますよ。」
少年「え、あ、うん。やっぱり、この森自体にそーいう魔法がかかってるのか。」
道化「ええ。よくあるトラップですが」
道化「道を違えばああなります。」
少年「じゃあ、その、あの城にぼくたちが辿り着いたのは」
道化「貴方か彼女のどちらかが、余程、運が良いのでしょうね。」
少年「ひええ」
道化「ああ、それから」
少年「…………!」
道化「ここを抜けるまでは、どうかお静かに。気付かれると、あれらの餌食になりますから気をつけてくださいね。」
少年「うわ……昨日のやつらだ……」
道化「無闇に騒ぎ立てねば大丈夫ですよ。あれらは僕には近づきませんから。」
少年「う、うん」
道化「街道まであと少しです。そのように不安そうな顔をなさるるでありませんよ。」
少年「お、おー。」
メイド「荷物の心配、だなんて仰って。」
学者「ああでも言わないと、少年は素直に戻ってくれないからね。」
メイド「……良かったのですか?わたくしたちを信用して。」
学者「我々に君たちが危害を加えるつもりなら、昨夜のうちにされているだろう。例えば……料理に毒をいれたり、就寝中に襲ったり。」
メイド「…………。」
学者「それに、経験から、そういう気のある者は、なんとなく気配でわかるのさ。私も過去、いろいろあったからね。」
メイド「そう、ですか。」
メイド「安全な場所へ避難させた、というわけですか?そして自分は構わないから彼だけでも無事に逃がして欲しい、ですか。」
学者「………あー……」
メイド「まあ、その条件さえ飲めば、あなたがここに留まってくださるということですし、あなたと邪魔者を引き離す願ってもない展開ですし。」
学者「言うね。」
メイド「ずいぶんと大切にされてるんですのね。」
学者「……あの子は同郷の生き残りだからね。」
メイド「生き残り、とは、妙な言い回しを仰るのですね。」
学者「王国の西の端の町の噂を聞いたことは?」
メイド「ええ、十年ほど前、魔王に滅ぼされた、とか。」
学者「……ま、そういうわけさ。」
メイド「あなたがたも、魔王の被害者というわけですのね。」
学者「まあね。ま、あれがなければ、私は今のような立場にはなっていなかっただろうけどね。」
道化「さあ、つきましたよ。ここから南にまっすぐ進めば、村につきます。」
少年「う、うん。あ、ありがとう。本当にふつーに送ってくれたね……。」
道化「もっとアトラクション的な演出をお求めでしたか。」
少年「いやそういうんじゃないけどさ。プロフェスールが信用したなら、それも当然か。」
道化「さあ、用事を済ませて早くお戻りください。紳士はレディを待たせるべきではありませんよ。」
少年「すぐ戻る!プロフェスールにはそう伝えてくれ!」
道化「ええ。いってらっしゃい。」
少年「ああ!ありがとなー!」
道化「さあて、上手く事が運べば良いんですが。」
学者「……肖像画、かな。」
メイド「それは……ご主人様の在りし日のお姿ですわ。」
学者「顔部分が切り裂かれている。残念だな。これじゃ、イマジネーションにも頼りようがない。」
メイド「呪いをかけられた直後のご主人様は大荒れでございましたからね。」
学者「窓から見える庭の石膏像がみんな首がないのもその所為かい?」
メイド「お片付けが大変でしたわ。」
学者「苦労するね。」
メイド「仕事ですもの。」
宿屋「偉い学者先生だかなんだか知らないが、外泊するなら一言言っておくれヨ。」
少年「ごめんなさい女将さん。」
宿屋「ま、先に大金もらってるから良いけどサ。で?学者先生は?」
少年「えーっと……ちょっと、急用ができて。この宿もチェックアウトしておいてくれって。」
宿屋「はン、そーかいお忙しいこって。」
少年「荷馬車をお願いしたいんだ。ぼく、急いで先生の荷物を王都の研究室に運ばなきゃいけなくて。」
宿屋「ハイハイ、それにしても弟子に全部押し付けて、勝手なセンセイだネ。」
少年「そんなんじゃ……そんなんじゃ、ない……。とにかく急ぎたいんだ。」
宿屋「なんかあったのかイ?」
学者「それにしても、ここの蔵書数には目を見張るものがあるね。学園の図書館より多いんじゃないのかな。退屈せずに済みそうだ。」
メイド「執事がときどき手入れをしているものの、今ではだれも読む者もおりませんからね。そう言っていただけると良かったですわ。」
学者「そういえば、君以外にこの城のひととは会えないのかな。」
メイド「……城の者の姿は、少し刺激が強うございますから。」
学者「残念だ。最初の晩からずっと、部屋の外で私を何かから守ってくれている彼に礼を言いたかったんだが。」
メイド「?、そのようなものが?」
学者「扉の前で、寝ずの番をしてくれているようだ。」
メイド「心当たりはありますわ。」
学者「礼を言っていたと伝えておいてくれ。」
メイド「承知しましたわ。ま、その方には早めに本人をお目にかけましょう。主人が客人に挨拶もしないというのは失礼ですし。」
学者「そうしていただけると嬉しいよ。」
メイド「…………と、いうことですし、隠れていないで出ていらっしゃいませ。」
学者「ん?」
主人「…………。」
学者「もっふもふだ」
メイド「こちらが、わたくしたちのご主人様ですわ。」
学者「数日前から、お世話になっている、学者だ。ハグしても、いや、できればもふらせ……いや、肉きゅ、握手してもいいかな。」
主人「お前は、私が怖くはないのか。」
学者「え?」
主人「私は、熊だか獅子だかわからぬ、このような真っ黒な姿が?」
主人・メイド『は……?』
学者「君との恋愛について猫耳メイド君に頷きはしたものの、触手、とか虫、とかトロールとかだったらどうしようかと思ってたんだ!それが!もふもふの肉食獣!願ったり!叶ったり!だよ!」
メイド「ここにきて一番テンションお高いですわね。ご主人様のお姿を見て恐怖でおかしくなる方は今までたくさんいらっしゃいましたが、こういうパターンは初めてですわ。お顔を真っ赤にされて……」
主人「メイドよ。私はお前に言いたいことがある。」
メイド「思ったより、呪いの解けるのが早そうで良うございましたわ!あらわたくし、ちょっとお仕事を思い出しました!ではお二人でごゆっくりー!」
主人「待て!メイド!待て!くそっ……!」
学者「一目惚れしました!結婚してください!」
主人「落ち着け。執事!貴様何をニヤニヤと!」
学者「執事?一体どこに……」
学者「やあ、気付かずに挨拶もせずにごめん。……聞こえているのかな?」
執事「(゚∀゚)」
学者「わ、絨毯が毛羽立って表情に!」
主人「腹の立つことだ。」
執事「(´・ω・`)」
主人「あとで、お前たち全員私の部屋に来い。」
学者「知り合ったばかりで、だっ、大胆なんだね。」
主人「お前ではない。お前は部屋で大人しくしていることだな。」
執事「(・∀・)」
主人「勘違いするな!別に安全なところへ避難させておきたいわけではない!誰も連れずに勝手に城内をうろうろされたくないだけだ!」
学者「わかったよ。本は何冊か借りて、部屋で読むことにするよ。ありがとう。」
主人「ふん!」
少年「勇者ァ?」
勇者「うん。わたしたちは、ここの先生に用があって来たの。」
魔法使い「ここの学者は、禁じられた不死の研究をしているという噂がある。」
少年「!」
勇者「王様の命令でね。ちょっとでいいから話をさせてくれないかな。」
少年「せっかく来てくれたところ悪いんだけど、プロフェスールは留守だし、ぼくも明日早くに出かけるんです。それに、プロフェスールは」
勇者「旅先からキミだけ戻ってきたって聞いたけど、行くのはその先生のところ?だったらわたしたちも同行する。」
少年「え、えー。」
魔法使い「なぜ困っているの。潔白なら、何ら不都合はないはず。」
少年「プロフェスールは勇者という仕組みを信用してないから、君たちに不快な思いをさせるかもしれません。」
勇者「キミと話していてもラチがあかないみたいだね。わかった。じゃあ、キミの後をわたしたちが勝手についてくからヨロシクね」
魔法使い「冗談なんかじゃない。」
勇者「道中もしなにかキミの身になにかあればフォローするし、勝手について行くんだから報酬もいらないわ。」
少年「なんだよ、その勝手な言い分。」
勇者「先生は、魔王に対抗しうる魔法の開発にも着手していると聞いているわ。そっちを聞かせてくれたら」
魔法使い「我々は何の研究であろうと、王国に報告したりしない。……たぶんね。」
少年「きたないぞ!帰れ!」
勇者「明日の朝また来るわ。」
少年「……ぐ。」
学者「彼と夕食を一緒に取るようになって、何日経っただろう。」
学者「晴れた日は彼と中庭でお茶を飲んだり、雨の日は読書や古代詩の解釈について議論したり、彼のブラッシングしたり。」
学者「このままじゃいけない、な。」
学者「少年は、今、何をしているんだろう。」
学者「ちゃんと帰れただろうか。迎えに来る気はあるだろうか。」
学者「ちゃんと食事はとっただろうか。お小遣いをもう少し渡しておけば良かったな。」
学者「風邪などひいていないだろうか。」
学者「ああ、心配だな……。」
少年「奴ら、明日の朝来るって言ってた。夜中のうちに出発すれば、撒けるかな。」
少年「今夜は新月だっけ。夜目がきいて良かったって初めて思えるな。」
少年「武器よし、携帯食糧よし、水筒よし、スペルブックよし、と。」
少年「待っててくださいねプロフェスール!」
少年「わっ!?」
道化「やあ、驚かせてしまいましたね。」
少年「な、なんだあんたか。……こんなところ、うろついてて大丈夫なのか?っていうか、よく門番が通したな。」
道化「僕はちょっとしたマジシャンなんですよ。」
少年「ふーん。」
少年「実はかくかくしかじか」
道化「なるほど。それはまた、厄介なトラブルに巻き込まれていらっしゃいますね。」
少年「だから、今から出て、プロフェスールに伝えるんだ。」
道化「それなら早い方がよろしいですね。」
少年「ああ。急ぐよ。」
道化「とは言え……歩いて行ったのでは、引き離すといってもたかが知れています。……協力いたしましょう。」
少年「馬でも貸してくれるのか?」
道化「似たようなもの、でしょうかね。」
少年「なんだっ!?急にめまいが!せかいがぐるぐる……」
主人「潮時だ。あの娘を帰す。」
メイド「これ以上ないくらい、今回は上手くいっているではありませんか!今逃せば、今後二度とないのですよ!」
主人「見よ。」
メイド「……薔薇が、そんな。枯れ果てて……!?」
主人「時間切れだ。もう二度と、元には戻らぬ。永遠にな。」
メイド「そんな……そんなこと……だって!あなたがたは、あんなに四六時中いちゃいちゃいちゃいちゃしてたではありませんの!?」
主人「ああ、あんなに温かい気持ちになったのは初めてだった。だが、あの美しい娘が、私のようなものに真実に愛情を注いでくれるとは、どうしても思えなかったのだ。これは憐れみで、同情だ、そうとしか思えなかったのだ。」
メイド「……そう、ですか。ええ、なんとなく、このまま、戻らぬのではと察してはおりました……。わたくしたちの姿を受け入れた、あの方ならば、と思ったのですが……こうなった以上、あの方をこの城に留めておく理由はありませんね……」
主人「すまない。」
メイド「化け物、として……命が尽きるまで、このまま……」
主人「……すまない」
勇者「やられたわね。」
魔法使い「馬車の出た記録は無かった。子供の足。すぐ追いつける。」
勇者「行き先は例の村だってわかってるし、わたしたちには飛空艇があるでしょ。先回りしましょ。」
魔法使い「……素直に同行すれば、敵対しないのに、愚か。」
勇者「ま、あの子にとって、センセが大事なんでしょ。いきましょう。」
主人「おい。」
学者「……なんだい?」
主人「もう、その足は疾うに治っているだろう。街道まで送ってやるから早く帰れ。」
学者「え?」
主人「例の子供が心配なんだろう。」
学者「……まあ、うん。」
主人「準備しろ。明日の朝、出発する。」
学者「優しいな君は。」
主人「何がだ。」
学者「……いや。なんでもないよ。」
少年「うわあああ!?」
道化「はい、到着です。」
少年「なにがなんでどうなってんですか!?人間の空間転移は現在の魔道技術じゃ無理だってこの前の論文で立証されたばっかりじゃないんですか!?うえええきもちわるい。」
道化「人間の快適な輸送にはもう少し改良の余地がありますね。」
少年「……あんた何者なんですか。」
道化「ただの舞台回しですとも。ここから先は歩かねば城までいけません。森の魔法のせいで、転移はできませんからね。がんばってくださいね。」
少年「ちょっと、だけ、休ませて……うえっぷ。」
勇者「と、いうわけでわたしたち、この教授を捜しているの。この村に滞在してるって聞いてるんだけど。」
宿屋「勇者サマじゃないかイ。その先生なら何日も前に王都に帰ったヨ。連れてる生徒に荷物とか全部押し付けてねエ。ヒドい話サ。」
勇者「帰った?それからここには立ち寄ってない?」
宿屋「なんでもフィールドワークってんで、アタシらの止めるのも聞かないで、魔の森に入って行ったのサ。ヤレヤレ、偉い先生はアタシらのいうことなんか歯牙にもかけないンだから。」
勇者「魔の森?」
宿屋「ああ、あの森の奥には、化け物がいてね。大昔、このあたりを荒らしてたンだってサ。でもあるとき女神サマが封印してくれたおかげで、今こうしてすぐ近くの村のアタシたちも平和に暮らせるってモンなのサ。」
勇者「魔の森、ね。ありがとうおねえさん。行ってみるわ。」
宿屋「勇者サマなら大丈夫だと思うけど、気を付けるンだヨ。なんせ、ホントーに化け物が出るンだから。」
学者「……急に、どうして私を返してくれる気になったんだい?」
主人「……お前が溜息ばかりつくからだ。」
学者「え?」
主人「いや、もう我々はお前を必要としないからだ。」
学者「……そう、か。残念だ。君の凍てついた心を溶かしていると自負していたのに、自信を失ってしまうな。」
主人「…………。」
学者「良い関係を築けていた、と思っていたがとんだ独り善がりだったようだ。迷惑もかけただろう。ごめん。」
主人「いや……!そうではない!そうではないのだ。これは我々の勝手な都合であって、お前にはなんの落ち度も無い。」
学者「その都合、というのは聞かせてはもらえないのだろうね。」
学者「え?なんだい?」
主人「いや。なんでもない。足元には気をつけろ。」
学者「うん……最後に、ひとつだけわがまま、きいてくれないかな。」
主人「なんだ。」
学者「君は一度も許してくれなかったけど、一度でいいから君を抱きしめたいんだ。」
主人「な」
学者「私は今、君をもふもふとしてではなく、その、ひとりの男の人として頼んでいる。振られてしまったことには納得している。二度としない。だから。」
主人「……お前は……」
主人「わ、わかった。ゆ、ゆるす。」
学者「……とても温かいよ。どきどきする。」
道化「その割には、まじまじとご覧になっていらっしゃいますねえ。」
少年「プロフェスールのあんな顔、初めて見た……。」
道化「奥歯をそのように噛み締めますと、血が出ますよ。」
少年「ギリギリギリ」
道化「……おや。困りましたね。」
少年「何が?……あ!」
学者「勇者殿、か。お噂はかねがね。こんなところでお会いできるとは思わなかったけれど。」
魔法使い「あなたには、不死の研究の容疑がかかっている。それは、禁呪のひとつ。」
勇者「そして今、あなたは魔物と行動を共にしていた。そうね?」
主人「この娘は私が捉えていたのだ。気紛れに逃がしてやろうとしたところであって、この娘が好き好んで行動を共にしたわけではない。」
勇者「あら嘘が随分とお上手ね。たった今抱き合っていたのは見間違いかしら。」
学者「……見て、いたのか。覗きとはよい趣味だ。勇者を名乗るだけあって、ひとがやらないことをするんだな。」
魔法使い「勇者を愚弄するのは許さない」
勇者「落ち着いて、魔法使い。わたしたちは何も戦いにきたわけではないのだから。わたしたちの本当に知りたいのは、あなたもうひとつの研究の方。」
魔法使い「魔王に対抗する、術。」
学者「そういう態度の人間には、協力できないと言ったら?」
勇者「協力したくなるように仕向けるまで。」
学者「……そう。」
少年「もしかしてこのザワザワしてるのって。」
道化「ええ、魔物、魔王様の配下ですね。」
少年「プロフェスールたちが囲まれてる!」
道化「……彼らなら突破できましょうが」
勇者「あなたが呼んだんじゃないの?」
主人「まさか。あのような下賤なる輩、私は雇ったりせぬ。」
勇者「じゃ、あれを斬っちゃっても文句はないわね?」
主人「学者、お前は私の後ろに……学者?」
学者「ふふ……油断したよ。そういえば、あれらの使うのは毒矢だったね。しかも、先日よりも強力だ。」
魔法使い「今、解毒呪文を」
学者「いや、君は攻撃呪文を準備していただろう。それをキャンセルする必要はない。」
学者「いや。避けられなかった私のミスだ。大丈夫、私は大丈夫だから君は今、戦闘に集中してくれ。」
勇者「数が多すぎる……!」
主人「すぐに終わらせる。お前はここで休んでいろ。」
学者「いや、私も呪文ならば唱えられる。できる限りの援護を」
主人「いいから。」
学者「わかった……わかったよ。待っている。」
主人「良い子だ」
少年「プロフェスールが!手を離してくれ!」
道化「貴方が行ったところでどうにもなりません。犬死するおつもりですか?」
少年「でも!」
道化「僕は彼女に貴方を任されているので、行かせるわけにはいきません。」
少年「うっ……なに……を……」
道化「そういう契約なんです。大人しくしていてくださいね。」
魔法使い「満身創痍。」
主人「……学者!」
学者「…………」
魔法使い「『解毒呪」!」
学者「…………」
主人「学者?おい……嘘だろう?」
勇者「息をしてない……!?」
魔法使い「脈がない。」
主人「学者!目を、目を開けろ学者!そん、な」
勇者・主人『道化……ッ!』
道化「お久しゅうございます殿下。勇者殿。」
主人「貴様と話す暇などない。去ね。」
勇者「斬るわよ」
道化「そのように怖い顔しないでください、おふたりとも。おや?殿下の抱いているのは、誰です?ああ、かの有名な学者殿ですか。ぐったりと動かない。それでみなさんそのような辛気臭い顔をされているわけですね。」
魔法使い「『光よ』!」
道化「おっと。相変わらず血の気の多いことです。しかし、何をそんなに嘆くことがありましょう。哀しむことがありましょう。」
勇者「この状況を見て、なにもわからないの!?」
道化「ええ、わかりませんね。だってソレは、不死者ではありませんか。」
メイド「おかえりなさいましご主人様。あの方は無事にお帰りに……!?」
主人「ベッドの用意を頼む。この娘を寝かせる。それから、客人に茶を。」
メイド「一体何が……いえ、かしこまりましたわ。」
魔法使い「知っていることを全て話して。」
勇者「洗いざらい、ぜーんぶよ。」
道化「承知いたしました。この狂言回し、全てお話いたしましょう。」
道化「そもそもの発端は、魔王様が双子のご兄弟に嫉妬なさったところからはじまります。」
魔王「なぜなの。妾が即位し、この世の全ては妾のものだと言うに、なぜ弟ばかり慕われるの。」
側近「魔王様。魔王様はこの世の誰より美しく、この世の誰より気高く、この世の誰よりご聡明でいらっしゃいます。そして、魔王という地位に相応しい残酷さもお持ちでいらっしゃいます。」
魔王「そうでしょう。ならばなぜ、家臣どもは妾にはへりくだるばかりで、弟にするように親しみをこめて接しはしないの。あれはとても醜い獣の姿だというのに。」
側近「殿下は、魔王様がお持ちのものをお持ちでない代わりに、魔王様のお持ちでないものがおありですから。」
魔王「それはなあに。」
側近「先程申しましたように、魔王様はその魔力、その権力に相応しい決断力もお持ちです。もしも魔王様に逆らうものがいたら、いかがなさいます。」
魔王「首を刎ねるわ。そして見せしめに、その一族を城のホールに呼び出して、中心に首を放り投げるかしら。」
側近「もしも魔王様が欲しいものを誰かが持っていたらいかがなさいますか。」
魔王「もちろん、奪い取るわ。逆らうようなら灰すら残さず燃やし尽くすでしょうね。」
魔王「……弟の、あの優柔不断な『甘さ』の方を好ましいと思うものがいるということね?」
側近「その通りでございます。」
魔王「お前はどうなの側近。」
側近「僕は、殿下は魔王という地位には相応しいとは思えません。」
魔王「……そうでしょう。貴方ならそう言うと信じていたわ。」
魔王「ねえ王子。貴方、最近好きな女性がいるんですって?」
王子「姉上!……そ、それをどこで」
魔王「あら。妾は魔王よ。魔王に隠し事などできると思って?」
王子「はは……参ったな。」
魔王「ねえ、欲しいものは手に入れておしまいなさい。妾も協力してあげる。」
王子「いや、姉上。それは良いんだ。ここだけの話、あの女性は人間なんだから。私は魔族だし、寿命も違う。それに私の姿はこんなだし。」
王子「なに、って……。」
魔王「まさか、そんな些細なことで手に入らないとでも思っているの?相変わらず自信のないこと。いいわ。おねえちゃんに任せておきなさい。」
王子「いや姉上。この件についてはどうか何もしないで欲しい。」
魔王「どうして?」
王子「今は、人間の姿をとって彼女に会える。それで満足なんだ。」
魔王「変な子ね。」
娘「君か。よく飽きもせずにくるものだ。」
王子「……迷惑か?」
娘「いいや。君の話は知的で面白い。」
王子「それは良かった。」
娘「だが……もう会えなくなるかもしれないね。」
王子「なぜだ?この街を離れるのか?」
王子「お前の冗談には真実味があるな。そのように白く細い姿でそのようなことを言われれば、まるで本当に聞こえるよ。」
娘「ふふっ。冗談だったら良いな。」
王子「……うそ、だろう?」
娘「嘘なんかじゃないさ。でも、君と会えたここ数ヶ月間、それを忘れるくらい楽しかったし、これから3年もしも……君が会いに来てくれるなら、なんの思い残しもなさそうだ。」
王子「何とかならないのか?」
娘「両親も手は尽くしたよ。でも、人間の医学や魔術ではどうにもならないんだ。それどころか、エルフなんかの妖精や龍族にまで当たったらしい。でも駄目だった。どうにかできるとしたら、魔王くらいじゃないかな。」
王子「……そう、か。」
魔王「珍しいわね。あなたがこの部屋にくるなんて。」
王子「姉上に聞きたいことがある。」
魔王「なあに?」
王子「実は……」
王子「では……!」
魔王「ふうん。貴方の想い人、そんなに短命なの。ムシ共もトカゲ共も、なにをそんなに難しがることがあるのかしら。」
王子「良かった……」
魔王「要するに、死なないようにすれば良いんでしょう。簡単だわ。」
娘「あれから、彼が来ない。やはり言うべきでなかったか。引かれてしまったかな。」
娘「彼なら、言っても平気だと思ったんだが……だめ、だったなあ。」
娘「……はー。さびしいな。友人を失うというのは。慣れるものではないな。」
魔王「ごみごみしてちいさくて醜い街だこと。」
娘「!?」
娘「いつのまに……!」
魔王「ふーん。本当だ。今にも消えそうな魂の色ね。」
娘「……なんて冷たい手。まるで、この世のものではないみたいだ。」
娘「何を言っているんだ?どんな名医も治せないものだ、もう諦めているさ。」
魔王「貴女の意志は関係ないわ。」
娘「……ぐ、ぅ……うぁっ……」
魔王「苦しい?苦しいわよね。だって一度人間としての命が終わるんだもの。」
娘「なに、を……」
魔王「貴女には永遠をあげる。永遠に若い姿のまま、生きることができるの。素敵でしょう。」
娘「そんなこと!望んでいない!」
魔王「貴女の意志は関係ないと言ったでしょう。二度同じことを言わせないで。初めて弟が妾を頼ったのよ。あの子の望みを叶えてあげなくちゃ。」
王子「本当ですか姉上!?彼女は、本当に病で命を落とさずに済むのですか!?」
魔王「ええ本当よ。そんなものでは死なないわ。見せてあげましょうか。」
王子「見せる?」
魔王「鏡よ。あの街を映しなさい。……よく見ていて。」
王子「なぜ、あの街に軍のものが?」
魔王「あの娘が死なぬところを見せてあげる。」
王子「姉上、何を……まさか!?」
警備兵「なんだってこんなところに魔族共が!?」
町人「いやああああ!火が!坊やが!」
娘「なにが、何が起こっている……?」
娘「とう、さん?かあ、さん?」
娘「ねえ、目を覚まして。ねえ……血が、こんなに。うそでしょ?うそよね?」
娘「きっとこれは、悪い夢、だ。」
魔族「全部焼きつくせー魔王様のご命令だー」
娘「ッ!?」
魔族「おお、コレが例のおーじさまのお気に入りか。ま、これも仕事だ。燃えてくれや。」
娘「い、いやあああああ」
魔王「ほらね。言った通りでしょ。焼けたところから再生もするの。けして死なないわ。」
王子「やめろ、やめてくれ。」
魔王「どうして?貴方が望んだことよ。」
王子「あ……」
魔王「人間は脆いわねえ。でも大丈夫。あの娘だけは何があっても……あら?なぜ、妾に剣を向けるの?」
王子「何故!?何故だと!?巫山戯るな……!彼女に、彼女になんてことを」
王子「が……ッ」
魔王「静かになったわね。礼も言えずにこんなことをしでかす悪い子の首は」
側近「お待ちください魔王様。殿下は、魔王様の唯一のご血縁。どうかお許しいただけはしませんか。」
魔王「でも妾、妾に剣を向けたものを許したことはないのよ。そういう前例を作れば、他の者に示しがつかないわ。」
側近「ならば、このようにいたしましょう。魔王城からの追放、という形です。」
魔王「……うーん。そうね……。でも、ただの追放では面白くはないわね。こうしましょう。頭の中を少し弄るの。」
側近「頭の中を、ですか?」
魔王「ああ我ながら名案だわ。この前、謀反を起こそうとした者をたしか地下牢に繋いでいたわね。あれらも一緒にしましょう。」
魔王「ヒトの娘と恋に落ち、愛で魔法が解けるところも同じよ。違うのは、真の姿が人間なんかじゃなくて、醜い獣だということよ。」
魔王「そうしてずっと自分が呪いをかけられた王子だと思い込んでいたことに気付かされるの。ああ、そのときこの子はどんな顔をするかしら。」
魔王「ねえ、滑稽でしょう。最高の喜劇となるでしょう。」
側近「……魔王様のお気に召すままに」
道化「これが、僕の存じている全てです。」
勇者「じゃあ、なに?彼は魔王の弟だっていうの?」
道化「いかにもその通りです。」
メイド「そん、な……そんなこと。わたくしたちが、魔族……?見た目通りの、存在ですって……?」
道化「本当は薄々気付いていたのではありませんか?求めていたのは人間の姿ではなく、本来の力と記憶であると。」
メイド「ああ……それでは……それではわたくしたちは今まで……」
勇者「許せないわ。魔王……!」
道化「あの方は、しかしあれから笑わなくなりました。そしてなにをされても退屈だと仰せになりました」
勇者「それで、今度は世界を滅ぼすって言い出したのね。つまらない世ならない方がマシ、だなんて言って。」
道化「どうか、あの方を止めてはいただけませんか。僕は道化となりながら、あの方を笑わせることも、あの方の涙を拭うこともできない役立たずなのですから。」
少年「プロフェスールの手、冷たい……。」
主人「……。すべて、私の所為だ。」
少年「それは否定しません。でも、プロフェスールがいつも寝言で呼んでたのはあんたの名前だったんですね。」
主人「彼女が?」
少年「……いつだってぼくはヤキモチ灼いてましたよ。」
主人「……」
少年「は、はやくちゅーでもなんでもしてプロフェスールを起こしてくださいよ。オヒメサマを目覚めさせられるのは、オウジサマのキスだってプロフェスールはいつも言ってますし、ぼくがしても良いけどぼくはオウジサマじゃありませんからね!ちくしょう。ぼくは部屋から出たくなっちゃったな!あーちくしょう!」
主人「……………。」
主人「………………………。」
主人「…………………………。」
学者「ん、ちゅ、ふ…ぁ……君は……」
学者「……ああ、懐かしい顔だ。」
王子「全部思い出した。」
学者「そうか。奇遇だね。私もだ。」
王子「恨んでいるだろう。」
学者「こんなに長い年月放っておかれたことならね。」
王子「お前の故郷を滅ぼしたのも、お前をそのような身体にしたのもこの私の所為だ。」
王子「ああ、そのつもりだ。姉上を刺し違えてでも止め、もしそれでも生き残ってしまった場合は自ら……」
学者「君は本当に愚かだな。」
王子「……何がだ。」
学者「また私を独りにするつもりか?少年は、人間だ。普通の寿命を全うする。私はどうだ。君の姉の、君の所為で死ねぬ身体になった。この呪いを解く術が見つからなかったら、永遠に孤独でいろと言うのか。」
王子「しかし私は魔族だ。そして」
学者「もう一度言う。いいか。私はケモナーだ。勿論、君が人間の姿になっている方も好きだから一粒で二度オイシイ。それに、魔族なら寿命などないと聞く。なんの問題もない。それとも、君の方がこんな化け物じみた女は嫌か。」
主人「お前は本当に愚かだ。」
学者「愚か者同士、お似合いじゃないか。」
少年「ちくしょうちくしょうプロフェスール取られた」
メイド「……すべて、思い出した。思い出してしまった。わたくしは、わたくしは」
少年「メイドさん?あんたふらふらしてるけど大丈夫か?」
メイド「あなたは……」
少年「メイドさんも失恋ですか?実はぼくもたった今したばかりなんですよ。」
メイド「……わたくしは、」
メイド「……ふー……。なんだか馬鹿らしくなってきましたわ。わかりました。とことん付き合います。」
少年「そうこなくちゃ!で、後で魔王のところに八つ当たりに行きましょう。」
メイド「あら楽しそうですわね。その案、乗らせてくださいな。」
勇者「ちょっと。まさか素人だけで行こうって言うんじゃないでしょうね。」
魔法使い「魔王は、勇者が倒す。」
魔法使い「彼女が研究していたのは、自分にかけられた呪いを解く為のものだとわかった。噂は噂。王国に報告するようなことはなかった。」
勇者「そういうこと。それに、魔王に対抗し得る手段についても収穫があったし。」
少年「収穫?」
勇者「ええ。魔王の血縁者に元四天王、そしてこのわたし、勇者が手を組めば、立派な武器よね。」
少年「……考えてみるとすごいパーティーになるなそれ。」
勇者「そうと決まれば明日早く奇襲をかけましょう。だからこの部屋の中のひとたちも色ボケている暇はないと伝えて頂戴。」
少年「いや……それは自分で言ってくれないかな。ぼく的には中の様子見るだけで大ダメージなんだから。」
魔法使い「ぐだぐだ。」
勇者「臨機応変と言って欲しいわね。」
メイド「……それじゃあ、明日に向けて英気を養わねばなりませんわね。料理長に腕を振るわせますわ。」
少年「メイドさん、ぼくなにかできることあるかな?」
メイド「あら、それじゃあ、わたくしを手伝っていただこうかしら。」
少年「任せて」
魔法使い「さくやはおたのしみでしたね」
学者「な、なにを言っているんだ。まだ私が完全に回復していないから、なにもしていない!彼はそのような鬼畜ではない。」
勇者「……うわあ。」
メイド「お熱いこと。」
学者「えっ?あっ……。」
少年「ちくしょう……ぐすん」
王子「……………貴様らには危機感というものがないのか?くだらぬ話をするな。」
主人「うるさい黙れ」
勇者「おおこわいこわい。」
学者「どうか、気をつけて。」
主人「ああ。必ず戻る。」
学者「少年、君にもいろいろ迷惑かけたね。」
少年「これからも迷惑かけるつもりでしょう。これが最後みたいな顔したら許しませんよ。」
少年「ご自分のことを化け物呼ばわりしたらもっと許しません。唯一の同郷でしょう。それに、ぼくの初恋の相手を化け物呼ばわりされたくありません。」
学者「少年……。」
主人「……行ってくる。」
学者「いってらっしゃい。この戦いが終わったら……」
少年「わー!わー!それはナシですプロフェスール!こういう場面でそういう台詞は言っちゃだめなんです!」
主人「ああ。」
勇者・メイド『きーす、きーす、きーす!』
少年「それはぼくのモチベーションがだださがるんでやめてください。」
道化「そうして、後に勇者一行と呼ばれる彼らは魔王の城へ出発しました。」
道化「戦いの行方、ですって?」
道化「さあ、どうでしょう。」
道化「新たな魔王が立ったやら、勇者が王国に凱旋したやら。」
道化「……ただひとつだけ。」
道化「後に広まった伝説を書き留めた書物にはこう記述されています。『王様は聡明な后と共に、いつまでも幸せに暮らしましたとさ。』」
道化「めでたし、めでたし」
<完>
そしてご支援ありがとうございました。
***
学者「私のことは『プロフェスール』と呼びたまえ。理由はない。なんとなくだ!」
少年「ぷろふぇしゅー……」
学者「え?ちょっ、それ!」
少年「?」
学者「もーいっかい!もーいっかい言ってくれ!」
少年「えっと、ぷろふぇすーりゅ」
学者「ああ……!それ!だ!舌ったらず!すばらしい……!」
少年「……ちゃんと、言えないのに、あんたは殴らないんですか?っていうか鼻血吹いてますけど大丈夫ですか?」
学者「なんの問題もないよ!だって私はショタコンだからね!もーいっかい!いってくれないかな?」
少年「しょた……?ぷろへすーる?」
学者「ちょっとここの主人と交渉してくるよ!大丈夫だ。幾らでも出そう。金に糸目などつけるものか。イエスショタコンノータッチ。そのくらいの分別はある。大丈夫だ。なんの問題もない。」
***
少年「というのが、ぼくがプロフェスールの弟子になったきっかけです。」
メイド「……ケモナーでショタコンで不死者の三重苦って救いようのないあれですわね……。」
どっとはらい。
面白かった
URL:http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/internet/14562/1339946594/
Entry ⇒ 2012.06.25 | Category ⇒ その他 | Comments (0) | Trackbacks (0)
女武術家「たのもうっ!」格闘家「道場破りか!?」
「先生さようなら~!」 「さよなら~!」 「じゃあね~!」
格闘家「気をつけてな!」
友人「……しっかし、未来ある若き格闘家が日々子守とは哀しいねぇ」
格闘家「アイツらも俺の立派な弟子だ。バカにすると怒るぞ」
友人「おっと、悪かったよ」
友人「でもさ、本当はお前だって刺激を求めてるんだろ?
例えば……道場破りとかさ」
格闘家「バカいえ、平和が一番だ」
格闘家「かつて偉大な武道家はいっていた。
敵を倒すのではなく、敵と仲良くなる技こそが最強だと──」
友人「あ~分かった分かった、悪かったよ!
まあ今時道場破りをやってるヤツなんていやしないしな」
格闘家「道場破りか!?」ガバッ
友人(──っていたよオイ)
友人(しかもあの反応の速さ……やっぱり刺激を求めてるんじゃないか)
格闘家「────!」ギクッ
女武術家「ああ、道場破りさ。アンタと試合させてもらえる?」
格闘家「お、女……!?」
女武術家「ん、女だと問題あるの?」
友人(これは……マズイかもしれない……!)
女友人「はい」
女武術家「さ、始めよっか!」ザッ
格闘家「ちょ、ちょっと待ってくれ……。
君のような女性がなんで道場破りなんてマネをするんだ?」
女武術家「ハァ? そんなの自分の腕試しのために決まってんじゃん」
女武術家「アタシはこれまで九つの道場で道場破りを成功させてきたよ。
つまり、ここで十回目ってワケ」
女武術家「ま、安心しなよ。仮にアタシが勝っても、
看板なんていらないし、勝利を吹聴する趣味もないからさ」
女武術家「アタシがやりたいのは……純粋なアンタとの強さ比べってワケ」ザッ
女武術家「へぇ?」
女武術家「さっきこの道場から出てきた子供たちに聞いたら、
お姉ちゃんなんか先生にやっつけられちゃえ~っていわれたけど」
女武術家「てゆうか、来てるし。ホラ」
道場の外には、先ほどの子供たちが応援に来ていた。
「先生がんばって!」 「お姉ちゃんをやっつけろ!」 「ファイトー!」
格闘家(ア、アイツら……!)
女武術家「さすがにこの状況で、戦わないって選択はナシだろ?」
格闘家「いや、でも──!」
女武術家「問答無用!」ダッ
女友人「ここ、よろしいですか?」
友人「あ、どうぞどうぞ」
女友人「失礼します」スッ
友人「君の友人、すごい苛烈な攻撃だねぇ。ところで君も武術をやってるの?」
女友人「……私はただの付き添いです。
あの方の戦績の証人となるべく、ついてきているだけです」
ドゴッ! パシッ! シュッ! ドガッ! ガッ!
友人「ふうん。ずいぶん付き合いがいいんだなあ」
女友人「あなたはどうなのですか?」
友人「俺はケンカはからっきしさ。痛いのはゴメンなんでね。
この道場を貸している縁で、ちょくちょくアイツを冷やかしてるだけさ」
女友人「お暇なのですね」
友人(大人しそうな顔で、けっこう毒吐くな。この人……)
ビシッ! ガッ! ベシィッ! ドゴッ! ゴッ!
かといってアタシが有利ってワケでもない)
女武術家(これだけ攻めてるのに、有効打はほとんどない)
女武術家(いったいなにを考えてんだ? なにか企んでるのか?)
女武術家(なにか企みがあるんだったら──)
女武術家(それをさせる前にツブすっ!)
女武術家が凄まじいハイキックを繰り出す。
ブオンッ!
女武術家(……かわされた!)
女武術家(ヤバイ!)
女武術家(そうか……コイツ防御に徹して、アタシが勝負に出るよう誘ったんだ!
──やられるっ!)
女武術家の脇腹に、拳がヒットした。
女武術家「え?」
格闘家「…………」
女友人「あら?」
友人(やっぱりな……)
女武術家「…………!」ギリッ
女武術家「オイ」
格闘家「…………」
女武術家「どうして、打ち抜かなかった?」
女武術家「絶好のチャンスだった……。
本気で突いてたら、アタシのアバラを何本かへし折れたハズだ」
女武術家「まさか、このアタシに情をかけたってのか?」
女武術家「アタシだって道場破りなんて無礼なマネしてる以上、
半殺し、いや殺される覚悟だってして来てるんだっ!」
格闘家「い、いや……情っていうか……」
女武術家「情じゃなかったら、なんなんだよ!」
友人「……許してやってくれ」
女武術家「え?」
友人「そいつ、ガキの頃からずっと格闘技ばっかやってたから、
女ってのをほとんど知らないんだよ」
友人「ようするに──ウブなんだ」
女友人「どことなく童貞っぽいですものね」
ただちょっと普通の男より慣れてないだけであって……」アセアセ
友人(取り繕うなよ……余計ミジメになる)
女武術家「…………」
女武術家「……っはぁ~……しょうがないな」
女武術家「女殴れないヤツと戦っても、弱い者イジメになっちゃうね」
女武術家「──よし決めた!」
格闘家「な、なにをだ?」
女武術家「アタシ、この道場に入門してやるよ。
アンタがアタシを殴れるようになったら、再戦しよう!」
格闘家「えぇっ!?」
女武術家「ワケあって週に一、二回くらいしか来れないだろうけどさ。
ま、よろしく頼むよ!」
友人「なんだか面白いことになってきたな」
女友人「面白くありません」
少年「あ、あの……」
女武術家「ん?」
少年「先生……お姉ちゃんに負けちゃったの?」
女武術家「…………」
女武術家「ううん、今日のところはアタシの負けってとこかな。
安心しな、アンタらの先生はものすごく強いから」
女武術家「アタシが保証するよ」ナデナデ
少年「うんっ!」
「そうだったんだ……」 「よかった……」 「先生が勝ったんだ!」
女武術家「これからはたまにアタシも稽古に参加させてもらうから、よろしく頼むね」
少年「よろしくね、お姉ちゃん!」
友人「へぇ……ガラは悪いけど、けっこう優しいところもあるんだな」
女友人「ガラが悪いとは失敬な!」
友人「えっ!? ──ご、ごめんなさい!」
友人「変なヤツらだったな」
格闘家「ああ、だが実力はホンモノだった……」
格闘家「攻撃できなかったとはいえ、俺は本気でやってた」
友人「マジか」
格闘家「彼女の打撃を全て完璧にサバいて戦意喪失させようとしたが──
できなかった」
格闘家「女性の身であれほどの体術……よほどの鍛錬をこなしてきたのだろう」
友人「ふうん……でもよかったじゃんか。
ああいう子が入ってくれれば、けっこう張り合いが出るんじゃないか?」
格闘家「そうだな……」
<格闘道場>
「えいっ!」 「やぁっ!」 「せやあっ!」
格闘家「よぉーし、休憩に入ろう!」
友人「おうおうやってるねえ」ザッ
少年「あ、また冷やかしに来たな! 町長さんにいいつけてやる!」
友人「オイオイこれでも町長の息子ってのは忙しいんだぜ?
忙しい合間をぬって、冷やかしに来てやってんだよ」
友人「ところで、あれからあの女は来たか?」
格闘家「いや、一度も──」
ザンッ!
女武術家「たのもうっ!」
女友人「こんにちは」
友人「……来やがった」
「あっ、こないだのお姉ちゃん!」 「ホントだ」 「また来てくれたんだ!」
女武術家「うわっと」
子供たちに囲まれる女武術家。
ワイワイ…… ガヤガヤ……
格闘家「オイ、この人は──」
女武術家「いいっていいって」
女武術家「よぉし、アンタらみんなまとめてかかってきな!」
ワーワー…… キャーキャー……
次々と飛びかかってくる子供たちを、女武術家が上手にいなす。
格闘家(こんなに楽しそうな子供たちを見るのは、初めてかもしれない……)
格闘家(俺は格闘技の楽しさを、これまで教えることができていただろうか……?)
格闘家「──今日は悪かった」
女武術家「え?」
格闘家「君と稽古をする約束をしていたのに、
結局子供たちの相手ばかりさせてしまって……」
女武術家「なんだそんなことか。気にしなくていいって、
アタシもけっこう楽しんでやってたしさ」
格闘家「それに──」
格闘家「今までは俺が指導して、
みんなは黙々とそれに従うっていう稽古しかできてなかった」
格闘家「俺のやってることは、いわば俺のコピー作りにすぎなかった。
もっと子供たちの独創性を生かす稽古も取り入れるべきだった」
女武術家「独創性とやらを重視して、事故が起こったってマズイしさ。
こっちこそ、余計なマネしちゃったね。軽率だった」
格闘家「今度は……ちゃんと二人で稽古しよう」
女武術家「オッケー。じゃあアタシはそろそろ帰るよ」
格闘家「……ところで、君はどこに住んでるんだ?」
女武術家「う~ん、ナイショ。ま、そんな遠くじゃないよ」
一方、友人も女友人を口説いていた。
友人「ちなみに君はどこに住んでるワケ?」
女友人「お暇な方に教えるとろくなことになりそうもないので、黙秘します」
友人「つれないなぁ……」
友人「まったくワケが分からない二人組だったな。
おまえと戦いに来たのに、結局戦わずに帰りやがった」
格闘家「……おまえもありがとうな」
友人「え?」
格闘家「おまえが町長さんに口添えしてくれなかったら
この道場のスペースは借りられなかったし」
格闘家「俺と子供たちだけじゃ堅苦しい雰囲気になるってのが分かってるから、
忙しい中、いつもああやって茶化しに来てくれてるんだろう?」
友人「よせやい、俺はただの暇人だっての」
友人「オヤジは町の活性化のためだとかいって、
隣のでかい都市に色々働きかけてるが、どうもああいうのは性にあわねえ」
友人「この町にはこの町の良さってもんがあるんだからな」
格闘家「頑張れよ、未来の町長」
友人「おまえもな」
女武術家「さてと、今日はアンタがアタシを殴れるように特訓だね」
格闘家「よ、よろしく頼む」
女武術家「っつっても、どうすりゃいいかはよく分からないから──」
女武術家「とりあえず、拳でアタシに触れる練習でもしてみるか」
格闘家「分かった……」
女友人「あら? あなた、稽古に参加しないくせに、また道場にいるのですか。
本当にお暇なんですね」
友人「君こそ暇なんじゃないのか?(よしっ、うまく反撃できた)」
女友人「私はこれが仕事でもありますので暇ではありません。残念でしたね」
友人「くっ……(仕事……?)」
格闘家「こうか」ポスッ
女武術家「肩」
格闘家「こうだな」ポスッ
女武術家「胸」
格闘家「分かった……ってちょっと待ってくれ。胸はちょっと──」
女武術家「ん?」
女武術家「なに恥ずかしがってんだよ。
本気の戦いになったら、打つ場所を選んでられないだろ」
格闘家「いや……そうかもしれないけど……」
女武術家「アンタの中に妙なスケベ心があるから、照れ臭いんだよ。
これも修業のうちだと思ってやれば大丈夫だって」
女武術家「命がかかってたら、さすがに恥ずかしいとかいってらんないだろ?」
格闘家「た、たしかに……」
格闘家「よ、よし……」ゴクッ
ソロ~……
格闘家の拳が、ゆっくりと女武術家の胸に近づく。
ポニュッ
女武術家「ふふん、できたじゃん」
格闘家「これで俺も、格闘家として一歩前進できたのかな……」
女武術家「多分ね」
友人「…………」
友人「ハタから見てるとイチャついてるようにしか見えねーな」
女友人「ですね」
友人(珍しく意見が合ったな……)
友人「今日は大変だったな。うらやましくもあったけどさ」
格闘家「彼女の胸……とても柔らかかった」
友人「え?」
格闘家「あの弾力性と柔軟性、十分クッションにもなりえる。
生半可な突きでは、衝撃を殺されてしまうかもしれない……」
格闘家「脅威だ……胸囲だけに」
友人(ここは笑うところなのか……?
コイツ……ギャグでいってるのかマジなのか、分からないんだよな……)
格闘家「俺ももっと胸筋を鍛え上げないと……!」
友人(ただひとつ分かることは……コイツが根っからの格闘バカってことだけだ)
格闘家の基本からみっちり叩き込む教え方と──
格闘家「みんな、今日は回し蹴りを教える。
フォームが悪いと威力が落ちる上に、スキだらけになるからな!」
「はいっ!」 「はいっ!」 「はいっ!」
女武術家の子供にある程度自由にさせる教え方がうまく融合し──
女武術家「さっき格闘家に教わった技でアタシに向かってきてごらん。
どういう場面で使うといいか、よく考えるんだよ」
「よぉーし!」 「考えてみよう……」 「う~ん……」
道場の評判は徐々にではあるが高まっていった。
バシィッ! ベシッ! ガガッ!
友人「5分経った、そこまで!」
格闘家「ありがとうございました」
女武術家「ありがとうございました」
女武術家「ふぅ~……タオルと水ちょうだい」
女友人「どうぞ」サッ
格闘家「あ、俺にもタオルくれ」
友人「ほらよっ」ヒュッ
あれだけ動いても息切れ一つしてないし」
女武術家「いっとくけど、お互い全然本気じゃないよ」
友人(マジかよ……)
格闘家「本気じゃないとはいえ、真剣ではあるんだけどな」
女武術家「ふふん、そろそろ本気でやってみる?」
格闘家「いや……もうちょっと先にしておこう」
──こんな日々が、およそ二ヶ月ほど続いた。
「さようなら~!」 「先生、さようなら!」 「お姉ちゃんもさよなら~!」
格闘家「気をつけて帰るんだぞ」
女武術家「んじゃ、アタシらも帰るよ」
女友人「さようなら」
格闘家「ああ、今日も来てくれてありがとう。助かったよ」
格闘家「……あの」
女武術家「ん?」
格闘家「いや……なんでもない」
女武術家「?」
女友人「きっとなんでもあるにちがいありませんが、
あえて聞かないでおきましょう」
友人「お、今日の稽古はもう終わったのか。
例の二人組も来てたみたいだし、お疲れだったな」
格闘家「…………」
友人「どうした?」
格闘家「……俺はおかしいのかな」
友人「なにが?」
格闘家「女武術家はついさっき帰ったばかりなのに、
もう来て欲しいと思ってしまっている」
友人「別に……おかしくはないんじゃないか?
あの女武術家のおかげで、道場が賑わいだってのは事実だし、
実力もあるからおまえにとってもいい練習相手だろ」
友人「え?」
格闘家「なんていうのかな……道場とか稽古とかそういうのを抜きにして
純粋に彼女に会いたいと感じてしまっている」
格闘家「邪念……だよな、どう考えても。
こうやって道場を手伝ってもらってるだけでも感謝すべきなのに、
さらに会いたいだなんてワガママすぎる……」
友人「……たしかにおまえはおかしいな」
格闘家「や、やっぱり!」
友人「いや、おかしいってのはな、そんなことでいちいち自分がワガママとか
悩むことがおかしいって意味だよ」
格闘家「へ?」
友人「自分を手伝ってくれる女を好きになる、いいことじゃんか!
おまえはどこもおかしくなんかないんだよ!」
格闘家「で、結局俺はおかしいのか? おかしくないのか?」
友人「え? え、えぇっと──」
友人「やっぱり、さっさと気持ちを伝えるのがベストなんじゃないか?」
格闘家「でも……この邪念ヤロウ! とか思われたら……」
友人(なんだよ邪念ヤロウって……)
「そりゃあ、向こうもおまえを好きとは限らんけど、
あの子は下手な小細工より、ストレートなのを好むだろうしな」
格闘家「そうだな……」
格闘家「俺、今度女武術家が来たらやってみる! ストレートに!」
友人(おおっ……コイツ、もしかしてこれが初恋なんじゃないか?)
「あ、お姉ちゃんたちだ!」 「こんにちは~!」 「いらっしゃい!」
女武術家「よ」
女友人「こんにちは」
格闘家「あ、ああ……よく来てくれたな」
女武術家「ん、どうした? 体調でも悪いの?」
格闘家「いや……緊張してるだけだ」
女武術家「緊張? 変なの」
友人(今から緊張してどうする……)
「先生さよなら~!」 「お姉ちゃんたちもさよなら~!」 「さようなら~!」
女武術家「んじゃ、アタシらも──」
格闘家「あ、ちょっと待ってくれ」
女武術家「どしたの?」
格闘家「ちょっと……道場の裏に来てくれないか」
女武術家「……なんでさ?」
格闘家「大事な用なんだ。君と二人だけで話をしたい」
女武術家「ふうん……ま、いいけど」
女武術家「さてと……大事な用って?」
格闘家「じ、実は……」
二人を物陰から見つめる友人。
友人「頑張れ……」ボソッ
女友人「いったいなにが始まるのでしょうか?」
友人(うわっ、いつの間に後ろに!?)
格闘家「はあっ!!!」
ビュボォッ!
女武術家「!」
──ピタッ
格闘家が全力の右ストレートを放った。──が、寸止めであった。
女武術家「すごい突きだね、止めるってのは分かってたけどさ。
──で、もしかしてこれはアタシへの挑戦状ってことかい?」
格闘家「いや……これが俺の本気のストレートなんだ。
つまり、俺は……君が好きなんだ」
友人(い、意味が分からん……!)
友人(あのバカ……!)
友人(俺がいったストレートってのは、そういう意味じゃねえよ!
いやある意味合ってるのか……?)
女友人「バカですね」
女武術家「いいストレートだったよ……でぇやっ!!!」
シュバァッ!
格闘家「!」
──ピタッ
女武術家の右ハイキック。同じく寸止めだった。
格闘家「そういえば君は蹴りの方が得意だものな」
女武術家「これがアタシの答えさ……アタシもアンタが好きだよ」
格闘家「えっ……」
友人(両方とも、バカだった……!)
友人(いやしかし、めでたしめでたしでいいんだよな……?)
女友人(おめでとうございます……お嬢様)
女武術家「バカだね、別にアンタの突きだけに惚れたんじゃないって」
女武術家「アンタの格闘技に対する愚直なまでの真剣さや
子供らにも手を抜かず接する心根に惚れたんだよ」
女武術家「それに、あんなこと初めてだったしね」
格闘家「あんなこと?」
女武術家「アタシは今までにも九つの道場で道場破りをしたっていったろ?
どこの道場も、アタシに勝ったらアタシをどうにかしてやろうって
ヤツらばっかだった。ま、もちろん覚悟の上だったけどさ」
女武術家「そんなところに、まさか女は殴れません、というか慣れてません
なんてのが出てきたからなんか微笑ましくってね」
女武術家「思えば、あの時からアタシはアンタに惚れてたのかもしれない」
格闘家「い、いやぁ……どうも」
友人「──ところでさ、俺たちも付き合わない?」
女友人「ご友人のアタックが成功したとみるや、
どさくさに紛れてこの私に求愛ですか」
女友人「格闘家さんとちがって、あなたは本当にいつもお暇そうで姑息な方ですね」
友人「ご、ごめんなさい……」
女友人「かまいませんけど」
友人「え?」
女友人「二度もいわせないで下さい。
あなたとお付き合いするのはかまわない、といったのです」
友人「…………!」
女武術家「こっちにも事情があってね、ゴメン」
格闘家「いや、構わない。そちらの事情が解決するまでいくらでも待つよ」
女武術家「ああ、必ず解決するから」
格闘家(いったいどんな事情なんだろうか……?)
こうしてこの日、二組のカップルが誕生した。
とはいえ、大きく生活が変わることもなく、今まで通りの日々が続いた。
そんなある日のこと──
友人「オイ格闘家、頼みがあるんだけど聞いてくれねえかな」
格闘家「珍しいな、どうした?」
友人「実はさ俺、今度見合いすることになったんだ」
格闘家「見合い!? おまえには女友人さんがいるだろうに……」
友人「もちろんイヤだっていったんだぜ!?
でも、オヤジが俺にナイショで見合いをセッティングしやがってさ」
友人「相手は隣の都市の市長だかの娘だとか……」
格闘家「市長の娘か……スゴイ相手だな」
友人「会ってくれなきゃワシの顔がツブれるとかいって泣き出すしよぉ……。
だから会うだけ会って嫌われようと思うんだ」
友人「隣の都市は自治都市で、近年貧困層やはみ出し者への取り締まりを
ぐっと強化して治安はよくなったんだが──」
友人「そのせいか、市長に恨みを持つヤツがけっこういるみたいなんだ」
友人「見合いの場に乗り込んでくるバカがいるかもしれないし、
ボディガードを頼みたいんだ」
格闘家「そんなことなら、お安い御用だ」
友人「ありがとよ。持つべきものは強い親友だな」
(本当はオヤジと二人で行くのがイヤだからなんだけどな。
いちいち町のため町のためってうっとうしいから……)
<町長宅>
町長「おお、これはこれは格闘家君。
ワシの息子のためにわざわざありがとう」
格闘家「いえ、いつも彼には助けてもらっていますから」
友人「はぁ~……めんどくせぇ」
町長「しっかりしろ、バカ息子!
この縁談が成立すれば、この町はさらに発展するんだぞ!」
町長「仮に破談となっても、おまえが好青年ぶりをアピールすれば
市長の目がこの町に向いてくれるハズだ!」
友人(もっとまともな方法考えろよな、バカオヤジ……。
あ~あ、なんとか上手に嫌われるようにしないとな)
町長「さぁ、出発だ!」
友人「──いつ来てもここは立派だな。
来るたびに建物はでかくなってるし、景色もキレイになってる」
格闘家「おまえはよく来るのか? 俺はほとんど来たことがないんだ」
友人「せいぜい買い物に来るぐらいだけどな。
ただし市長とかに関してはほとんど知らない。興味もねぇし」
友人「ったく、顔も知らない女と見合いとかありえねえよ……」
町長「ええい、文句ばかりいうな! これも全てワシらの町のためなんだぞ!」
友人「はいはい」
格闘家(たしかに治安はいいが……あちらこちらに危険なニオイがする。
市長が恨みを買ってしまってるってハナシもウソじゃなさそうだな)
ゴロツキ「──ウワサによれば、今日市長の娘と隣町の町長の息子が
見合いをするらしい」
手下A「見合いですか」
ゴロツキ「こういう時を待ってたんだ」
ゴロツキ「あのクソ市長に、借りを返すチャンスだ!」
手下A「そうですね」
手下B「やってやりましょう!」
ゴロツキ「せっかく頼もしい用心棒も雇ったことだし、一泡吹かせてやる!」
メイド「ようこそいらっしゃいました」
町長「おお、これはこれは……ありがとうございます」
友人(さすがは市長のお屋敷、メイドまでいるのかよ……。
ハッキリいって、俺やオヤジが釣り合う相手じゃねえぞ……)
友人(……ところでこのメイドの声、どこかで聞いたような声だな)
格闘家(あのメイドさん……なにか見覚えがあるような……)
メイド「!」ハッ
格闘家「!」ハッ
友人「!」ハッ
友人(このメイド、女友人だよな!?)
メイド(な、なんでこの二人がここに……!?
もしや今日お嬢様とお見合いをする隣町の有力者のご子息というのは──)
町長「どうしたんだね、君たち?」
格闘家「実は──モゴッ」
友人「いや、なんでもない、なんでもない。ねえ、メイドさん?」
メイド「ええ、なんでもありませんわ」
町長「そうか。頼むから見合い前に、メイドさんに惚れるなんてことはやめろよ。
ハッハッハ……」
友人(すみません、惚れてます)
あなたには私がいるのに見合いとは──」ボソッ
友人「いや、ちがうんだって!
この都市と友好関係を築きたいオヤジにムリヤリ……」ボソッ
メイド「分かっております。私とてそこまで察しは悪くありません」ボソッ
友人「おどかすなよ」ボソッ
メイド「ところでこの私がここにいるということは、
今日のあなたのお相手はもうお分かりですよね?」ボソッ
友人「ああ、すぐに分かったよ。
まったくとんでもないことになっちまったな」ボソッ
格闘家(ここに女友人さんがいるということは……
女武術家もこの都市のどこかに住んでいるということなのか?)
格闘家(もし時間ができたら探してみるか……)
市長「おおっ、美しいぞ!」
令嬢「ありがとうございます、お父様」
市長「今日の相手は隣町の町長の息子で、なかなか優秀な人物だと聞く。
しかし、実際に見てみなければなんともいえん」
市長「おまえに相応しい相手は、私が必ず選び出してやるからな!」
令嬢「えぇ……」
令嬢(アタシは格闘家が好きだってのに……とてもいえないよ、お父様には)
令嬢(絶対反対されるだろうしなぁ……)
令嬢(町長の息子か……どんなヤツなんだろ)
メイド「では主人たちを呼んで参りますので」
パタン
町長「すごいお屋敷だな……オイなんとしてもこの縁談、成功させろ!」
友人「まあ、こういうのは向こうの気持ちもあるからな。
例えば向こうにすでに好きな人がいたら、もうどうしようもないだろ?」
町長「まあそれはそうだが……そんなことはありえんだろう。
それだったら見合いなんかしないハズだからな」
友人(ありえるんだよ)
格闘家「じゃあ俺は外に行ってるよ」スッ
友人「オイ待てよ。いいじゃんか、おまえも見合いに参加しろよ。
ボディガードなんだからさ」
格闘家「えっ!?」
友人(コイツ、まだ俺の相手がだれか察しがついてないっぽいからな……
驚くところを拝ませてもらうぜ)
市長「やあお待たせしてしまいました。おやこれは、利発そうなご子息ですな」
町長「おお、これは市長! 本日はこのような場を設けていただき、
まことにありがとうございます」バッ
町長「しかし、この都市は来るたびに大きく、美麗になっておりますな」
市長「うむ、都市の一角に存在した貧民街への締め上げを強化し、
治安もだいぶよくなった。
彼らは都市の美観を損ねる存在でもあったからな」
町長「いやぁ、まったくもっておっしゃる通り! すばらしい!」
令嬢「!」ドキッ
格闘家「!」ドキッ
令嬢(な、なんで格闘家と友人がここにいるの!?)
格闘家(着飾ってはいるが、あれはまちがいなく女武術家! な、なぜ!?)
友人「…………」プッ
友人(向こうもかなり驚いているみたいだ。さて対するこっちは──)チラッ
格闘家「…………」ウルッ
友人「え……?」
格闘家は涙をこぼしていた。
思っちまったんじゃ……)
格闘家「友人……」
友人「な、なんだ?」
格闘家「彼女を……幸せにしてやってくれっ!」グスッ
友人「えぇっ!?」
町長「格闘家君、急にどうしたんだ?」
市長「な、なぜ泣いてるんだ?」
友人「いや、なんでもないんです! このボディガード、ジョークが好きなもんで!
よく人にウケるために突然泣き出したりするんですよ~」
令嬢「お、お父様たち! 町長さんのご子息とはゆっくり話したいので、
席を外していただけるかしら……?」
町長(おお、脈アリか!? これはイケる!)
市長「まあ、おまえがそういうのなら……」
市長と町長は半ば追い出されるように、部屋から出て行った。
友人「格闘家、大丈夫か!?」
令嬢「まったくもう……」
メイド「どうぞ、ハンカチを」スッ
格闘家「あ、どうも」
格闘家「しかし……まさか友人の見合い相手が女武術家だとは思わなくて……」フキフキ
友人「いやそこは女友人がメイドだった時点で気づこうぜ」
格闘家「えぇと……全然状況が分かってないんだが、
つまりどういうことなんだ?」
友人「分かった……一から説明してやる。ちゃんと聞けよ?」
色々あって、俺たちはけっこう仲良くなった」
友人「その後、なんとしても町を盛り上げたいオヤジに
市長の娘と見合いをさせられることになった俺は、
おまえにもついてきてもらってこの都市にやってきた」
友人「──で、なんと女友人は市長宅に勤めるメイド、
女武術家は市長の娘だった! ここまでは分かるよな?」
格闘家「ああ、なんとか……」
友人「しかし俺は女友人が好きだから、女武術家こと令嬢とくっつくつもりはない。
女武術家だっておまえが好きなんだから同じハズだ」
友人「つまり、おまえが泣く理由はなにひとつない」
格闘家「なるほど……」
友人「しかし、この見合いは仮にも一つの町と市の思惑が絡んだ見合いだ。
互いに“他に好きな人いるんで”で終わらせるワケにもいかない」
友人「だから穏便に破談にする必要があるワケだ、分かったか?」
格闘家「うん、分かった」
なんか、バラしたら敬遠されるかもって思っていえなかった……ゴメン」
格闘家「いや、そんなことはかまわない」
格闘家「しかし……市長さんは君が格闘技をやってることや、
俺とのことは……?」
令嬢「知らないよ」
令嬢「アタシは強くなりたくてお父様にはナイショでトレーニングしててね。
週に一、二度メイドと外出してるのも、お父様は花嫁修業かなんかだと
思ってるハズさ」
友人(ある意味花嫁修業ともいえるかもしれないけどな)
格闘家(ちゃんとした道場に通わずあそこまで強くなるとは……スゴイな)
アタシが格闘家のことを好きってことをいえてないんだ」
令嬢「もしいったら、格闘技やってることも当然バレちゃうから……
そうなったら外出禁止にされかねないしね」
格闘家「あの時いってた“事情”ってのはそういうことだったのか……」
令嬢「ホントゴメン……アタシは弱いね。
アンタはアタシにストレートにぶつかってきてくれたのに、
アタシは自分の父親にすら真実を話せないなんて……」
格闘家「そんなことはない! 君の強さは俺が保証する!
あれほどの蹴りの使い手はざらにいるもんじゃない!」
友人(ここでいう強さは、格闘技の強さじゃないっての……)
辛気臭いハナシってのもよくない」
友人「俺と女友人、おまえと女武術家で分かれてデートでもしようぜ」
格闘家「デートって……見合いはどうするんだよ」
友人「大丈夫大丈夫、どうせ今頃俺のオヤジが
市長さんにウチの町を宣伝しまくってるだろうし」
友人「さあ行こうぜ!」
メイド「参りましょうか」
令嬢「い、いいのかな……」
手下A「ん、令嬢たちが出てきたぞ!」
手下B「四人か……どこかで令嬢と町長の息子が二人きりになるのを
待つしかないか……」
すると──
友人「じゃあ二手に分かれて小一時間デートしようぜ。
またここに集合な」
格闘家「おいおい……俺はおまえのボディガードとして来てるんだぞ?
もしなにかあったら……」
友人「大丈夫だって、こんなデカイ都市でデートの一つもしないなんて損だぞ?
それに、市長さんに恨みを持ってるヤツらが俺と女友人を狙うワケないだろ?」
格闘家「そりゃそうだが……」
友人「決まりだな。もし変なのが来たら、ちゃんと守ってやれよ」
令嬢と強そうなヤツと、メイドと町長の息子っぽいヤツの二組だ」
手下B「なんで見合いをしてる二人が分かれるんだ?」
手下A「知るか!」
手下B「どうする? 親分には令嬢と町長の息子をさらってこい
っていわれてるぜ?」
手下A「あの令嬢の隣にいるヤツに、おまえ勝てるか?」
手下B「いや……アレは強そうだ」
手下A「だろ? ってことで、あのメイドと町長の息子をさらおうぜ」
手下B「いいのかな、こんなんで……」
友人「──なんだ、おまえら!?」
手下A「おまえたち、町長の息子と市長のメイドだろ?」
手下B「大人しくついてくれば、悪いようにはしねえよ」
友人(なんで俺らが狙われるんだ……クソッ)
「ふざけんな! だれがついていくか!」
メイド「この二人はこの都市でも悪名高いゴロツキの一味ですわ。
あなたが勝てる相手ではありません……大人しくついていきましょう」
メイド「きっとあの二人が助け出してくれましょう」
友人「イヤだね」
メイド「!」
バキッ!
友人は手下たちに殴りかかるが、あっけなく殴り倒されてしまう。
友人「うぐぅ……」ピクピク
手下A「ふん、弱っちいヤロウだ。よし、アジトに連れていこう」
手下B「おう」
友人「ご、ごめん……君を守れなくて……」
メイド(ごめんなさい……)
ゴロツキ「ばっきゃろう!」
手下A&B「ひぃっ!?」
ゴロツキ「市長に一泡吹かせようってのに、
メイドと町長の息子さらってきてどうすんだよ!」
手下A&B(そりゃそうだけど……)
ゴロツキ「──ちっ、まあいい。
せっかくだ、コイツらを使って身代金でも巻き上げてやろう」
手下A「払いますかね……?」
ゴロツキ「てめぇんとこのメイドと、娘の見合い相手になにかあったらコトだ。
払うに決まってる」
ゴロツキ「もし奪回に来ても、あの用心棒二人がいれば怖くねえ」
手下A「分かりました、すぐ手紙を送ってきます」
ゴロツキ一味から脅迫状が届いた。
友人とメイドの身柄と引き換えに、身代金を要求するという内容だ。
市長「むむむ……なんということだ」
町長「な、なぜワシの息子がさらわれるんだ……!?
なにをやっておったんだ、あのバカ息子は……!」
格闘家「いえ、全て俺が悪いんです。
ボディガードとしてこの都市にやってきたというのに……」
令嬢「お父様……ごめんなさい」
市長「あのゴロツキどもめ……我が都市の品位を汚すことばかりしおって。
どうせこの手紙もつまらん脅しだろう、まともに取り合う必要はない」クシャクシャ
市長「さらわれたのが娘でなく、メイドだったのが不幸中の幸いか……」
格闘家「…………」カチン
格闘家「今のお言葉、あまりにも市長としての品位に欠けていると思いますが」
市長「なにっ!?」
格闘家「この家に仕えていたメイドさんがさらわれたというのに、
彼女の心配をする前に、娘でなくてよかったとはあんまりでしょう!」
市長「う、うぐぅ……」
町長「おいおい、格闘家君……!」
格闘家「こういう事件が起きるのも、あなたに少しも原因がないといえますか!?」
市長「ぐぐ……!」
町長「あわわ……」
格闘家「グズグズしてはいられません。
今すぐ俺はゴロツキたちのアジトに乗り込みます」
格闘家「では失礼します」ザッ
令嬢「…………」
市長「くぅぅ……」
町長「し、市長……」
女武術家「よ」
格闘家「!」
格闘家「いつの間に着替えたんだ!?」
女武術家「ふふん、水臭いじゃんか。一人で行くなんてさ。
それにアンタ、アイツらのアジトの場所知らないでしょ?」
格闘家「あ、そういえば……(バカか、俺は……)」
格闘家「でもこんな時に市長さんの家からいなくなったら余計心配する。
すぐ戻った方がいい」
女武術家「イヤだね」
格闘家「しかし……」
女武術家「アタシにとっても、あの二人は大切な友人だしね」
格闘家「……そうだな。分かった、二人で助けに行こう」
格闘家「え?」
女武術家「近頃のお父様は都市開発に熱中するあまり、
情ってものをどこかに置いてきぼりにしてた」
女武術家「こんな風に恨みを買ってるのも、多分そういうところにも
原因があるんだと思う」
女武術家「かといって、あの人に意見をいえる人間なんてこの都市にはいないしさ」
女武術家「だからさっき、アンタがお父様にいった言葉……スカッとしたよ」
格闘家「いや……あれは失言だった。この都市の事情なんてなにも知らないのに……。
そもそもあの二人がさらわれたのは俺のせいだし……。
あとできちんと謝るよ」
格闘家「でも、今はとにかく急ごう、友人たちが心配だ」
女武術家「はいよ!」
手下A「親分、アジトに変な二人組が近づいてきてます!」
ゴロツキ「変な二人組?」
手下A「男女のコンビです。男の方は市長の屋敷にいた護衛かなんかです。
女の方は……どことなく市長の娘に似てるんですが」
ゴロツキ「バカヤロウ、市長の娘がなんでアジトに来るんだよ。他人の空似だ。
まあいい、丁重に歓迎してやりな」
手下A「えぇっ!? 強そうなんですけど……」
ゴロツキ「ここで俺に殴られるのとどっちがいい?」
手下A「わ、分かりました」
手下A「何の用だ!?」
格闘家「俺の友人とメイドさんを返してもらおう」
女武術家「大人しく二人を返せば、痛い目見ないで済むよ」
手下A「ふざけんな!」
手下A「あのクソ市長は、都市の見栄えが悪くなるからと
俺たちみたいな貧困層をどんどん日陰に追いやりやがって!」
手下A「こうやって嫌がらせの一つでもしねえと気が収まらねえんだよ!」
女武術家「…………!」
格闘家「だからといって、他人を誘拐していい理由にはまったくならないな。
身勝手にも程があるぞ」
格闘家「返してもらえないのなら、力ずくで奪い返す!」
手下A「おもしれぇ……やっちまえ!」
バキィッ! ドガァッ! ドゴォッ!
「うぎゃあっ!」 「ほげぇっ!」 「ひぃぃっ!」
次々に蹴散らされていく手下たち。
手下A「くっそ、こうなりゃヤケだ!」
手下B「やってやるっ!」
バゴッ! ベキッ!
格闘家の右ストレートが手下Aを、女武術家の前蹴りが手下Bを吹っ飛ばした。
手下A「やっぱりつえぇ……」ドサッ
手下B「い、痛い……」ドサッ
格闘家「よし、アジトに乗り込むぞ!」
女武術家「うん!」
ゴロツキ「もう全員やられやがった……最短記録更新だな。
まぁいい人質はこっちにあるし、アンタらもいる」
ゴロツキ「頼んだぜ」
用心棒兄「ふん、任せておけ」
用心棒弟「兄さんとぼくのタッグは無敵さ」
友人(あの二人が負けるとは思えないが……コイツらも相当強そうだ……!)
メイド(さて、この兄弟に勝てるかどうか……観戦させてもらいましょうか)
女武術家「ゴロツキ、アンタに万に一つも勝ち目はないよ!」
ゴロツキ「ちっ、クソ市長の飼い犬どもが……さすがに腕が立つようだな」
ゴロツキ「だがよ、こっちにも強い用心棒がいるんだ!」
用心棒兄「どうやらキサマらも多少武術をかじっているようだ」
用心棒弟「どうだい、ぼくらとタッグマッチでも」
格闘家「タッグマッチ……二対二か。いいだろう」
女武術家「受けて立ってやるよ」
格闘家「はああっ!」ダッ
格闘家が用心棒兄に突っかける。
ところが、用心棒弟が横から格闘家に足払いをかけ──
格闘家「うっ!?」ガクッ
用心棒兄「もらった!」
体勢が崩れた格闘家に、強烈なヒジ打ち。
バキィッ!
格闘家「ぐはっ!」ドサッ
女武術家「でやぁっ!」
女武術家が蹴りで用心棒兄を狙うが──
ベキッ!
用心棒兄の体を利用して死角に入り込んでいた用心棒弟から、
逆に蹴りをもらってしまう。
女武術家「──ぐっ!」
二対二の攻防は、用心棒兄弟のペースで進む。
ゴロツキ「がはははっ! いいぞいいぞ、やっちまえっ!」
友人「ちっくしょう、あの二人が全然歯が立たないなんて……!
アイツら、とんでもない使い手だな!」
メイド「いえ」
メイド「お嬢様と格闘家さんの技量と、彼ら兄弟の技量にそう隔たりはありません。
ですが──」
メイド「コンビネーションの差が出ています」
友人「コンビネーション?」
メイド「互いの死角を補い合い、絶妙な連係を行っている兄弟に対し、
お嬢様と格闘家さんは個々に戦っているだけ……」
メイド「この差は大きいですわ」
友人「そういうことか……」
格闘家(分かってる!)
女武術家(分かってるんだけど──)
ブオッ!
格闘家の拳が女武術家をかすめる。
シュバァッ!
女武術家の蹴りが格闘家に当たりそうになる。
格闘家(うまく──)
女武術家(連係できない!)
用心棒兄「無駄だ、付け焼刃のコンビネーションで破れるほど」
用心棒弟「ぼくら兄弟は甘くないよ」
用心棒兄のアッパーで、格闘家が膝をつく。
格闘家「ぐぅぅ……っ!」ガクン
ビシッ!
用心棒弟のチョップで、女武術家がダウンする。
女武術家「うあっ……!」ドサッ
用心棒兄「まだ意識があるのか。かなり鍛え込んではいるようだ」
用心棒弟「でも、ぼくらの敵ではなかったということだね、兄さん」
用心棒兄「そういうことだ」
ゴロツキ「おおかた市長に雇われた格闘家コンビかなんかなんだろうが、
用心棒兄弟の方が上だったな! ざまあみやがれ!」
ゴロツキ「市長が悔しがるツラが目に浮かぶぜ!」
メイド(ここまで、でしょうか……)
友人(くっそぉ~……!)
友人(俺はとてもじゃないが戦力になれない……せめて、なにかアドバイスを……!)
友人「愛だ!!!」
用心棒兄「!」
用心棒弟「?」
ゴロツキ「!?」
メイド「…………?」
格闘家&女武術家(愛……!?)
友人「たしかにコンビネーションじゃ、おまえらはあの兄弟に敵わない……。
だってそんな稽古してないもんな」
友人「だが、おまえたち二人にはそれを補って余りある愛がある!
あの道場で培ってきた愛ってヤツが!」
用心棒兄弟(アイツ、なにいってんだ……?)
格闘家「そ、そうか……」ムクッ
女武術家「そうだったね……」ムクッ
>女武術家「そうだったね……」ムクッ
おっきしたのかと
おきたことには違いない
普段の組み手のように自然体でやれば……)ザッ
女武術家(互いがどういう時にどう動くか、この体が覚えていてくれるハズ!)ザッ
用心棒兄「ふん……ワケが分からないことを。
真のコンビネーションとは、練習量と経験によって作られる!」
用心棒兄「弟よ、一気に決めるぞ!」
用心棒弟「はい!」
格闘家「うおおおおっ!」
(女武術家なら、きっと何とかしてくれるはず!)
用心棒兄(こんな大振りパンチが当たるか!)サッ
ブオンッ!
格闘家のパンチはかわされたが──
女武術家(格闘家のパンチを何度も見たアタシなら、相手がどうよけるか
なんとなく分かるっ!)
──それを読んでいた女武術家の飛び蹴りが、用心棒兄に炸裂した。
ベキィッ!
用心棒兄「ぐわっ!」
用心棒弟「兄さん!」
ズガァッ!
用心棒弟「ぐおっ……!」
格闘家と女武術家が、徐々にペースを掴んでゆく。
メイド「あなたのアドバイスで二人の動きが見違えるように……お見事ですわ」
友人「適当なことをいっただけなのに、まさかなんとかなるとは……」
メイド「相手の兄弟のコンビネーションは機械のように正確ですが、
一定以上の効果は出ません」
メイド「逆にあの二人の自然なコンビネーションは時にミスもあるでしょうが、
その分ものすごい爆発力を生み出すでしょう」
友人「君、けっこう詳しいんだね」
女武術家のハイキックが、誤って格闘家の顔面に入ってしまった。
女武術家「あっ……ゴメン!」
格闘家「いや、いい蹴りだった。いつもの稽古の成果が出てるな」ニッ
女武術家「ありがとう……」ポッ
用心棒兄(くそう、なんなんだコイツらは!?)
用心棒兄(味方に蹴りを入れられたというのに男は笑ってるし、
蹴りを入れた女はなぜか赤面している!)
用心棒弟(メチャクチャなのに……メチャクチャなのに強い!)
ドゴォッ!
用心棒兄「うごぉっ!」ドサッ
女武術家「でぇやあっ!」
ベキィッ!
用心棒弟「おぶっ……!」ガクッ
格闘家「おまえたちも強かったが、愛が足りなかったな!」
女武術家「そういうことだね。愛を知ってから出直してきな!」
友人(俺のせいとはいえ、なんという恥ずかしいセリフ……)
用心棒兄「くっそぉ~! なぜだ!?」ハァハァ
用心棒弟「愛なんかに、ぼくたち兄弟が負けるハズがない!」ゼェゼェ
格闘家「さぁ、決めるぞ!」
女武術家「はいよ!」
用心棒兄「ぐはぁっ!」
格闘家に殴り飛ばされる用心棒兄。
バキィッ!
用心棒弟「うぐぁっ!」
女武術家に蹴り飛ばされる用心棒弟。
用心棒兄弟(ぶ、ぶつかるっ!)
吹き飛ばされた兄と弟の顔面、すなわち唇と唇がぶつかり合い──
ガツンッ!
用心棒兄(こ、これが……!)
用心棒弟(愛……!)
ドザァッ……!
用心棒兄弟は仲良く気絶した。
友人(男同士でキスしながら気絶とは……最悪のやられ方だな……。
でも本人たちは幸せそうな顔してるから、まあいいか……)
ゴロツキ「ちっくしょう!」ガシッ
メイド「!」
ゴロツキがメイドを捕える。
友人「あっ!」
ゴロツキ「用心棒兄弟を倒すたぁ、大したもんだ。
だがな、こっちには人質がいることを忘れてもらっちゃ困る!」
友人「往生際が悪いぞ、テメェ!」
格闘家「これ以上罪を重ねるな!」
ゴロツキ「う、うるせぇ!」
女武術家「…………」
あの手強い兄弟に打ち勝ったお嬢様と格闘家さん……」
メイド「私だけが戦わない、というわけにはまいりませんわね」
ゴロツキ「あぁ?」
ドズゥッ!
メイドのヒジが、ゴロツキの脇腹をえぐる。
ゴロツキ「ぐっ!?」
バギィッ!
さらに振り返りざまの後ろ回し蹴りが、一撃でゴロツキの意識を奪い取った。
ゴロツキ「ぐはぁ……」ドサッ
(まさか、あの女友人さんまでここまで強いとは……!)
女武術家「ふふふ……」
格闘家「ん?」
女武術家「アタシがお父様にバレないようにしながらの修業で、
ここまで強くなったのを不思議に思わなかった?」
格闘家「ああ、たしかに……。
よほど腕のいい師匠がついてないと──まさか!?」ハッ
女武術家「そう……年は同じだけど、
あの子はアタシの友人でありメイドであり師匠なんだよ」
女武術家「もちろんこれも、アタシと彼女だけの秘密だったけどね」
格闘家「そういうことだったのか……」
友人「…………」
メイド「私は幼少の頃より武術をたしなんでおりました。
しかし、あまり戦うことが好きではなかったもので、
道場から逃げ出し、あのお屋敷で雇っていただきました」
メイド「おてんばなお嬢様に、武術の手ほどきをしたのも私です」
メイド「本当はあのゴロツキの手下に囲まれた時……彼らを倒すのは簡単でした」
メイド「しかし……彼らはお嬢様のいい実戦相手になると思ったのです」
メイド「そしてなにより、あなたの前では戦えない女のままでいたかったのです」
メイド「私が戦っていれば、あなたをあんな目にあわせることは──」
友人「なにいってんだよ」
友人「俺、君に惚れ直した! 君は最高の女性だ!」
友人「君にはいつか……町長夫人になってもらう!」
メイド「まぁ……」ポッ
女武術家「ねぇ……格闘家」
格闘家「なんだ?」
女武術家「アタシもお父様に全て話すよ」
格闘家「!」
女武術家「アタシも……もう堂々とアナタと付き合いたい」
格闘家「そうか……だったら俺も一緒に行って話すよ」
格闘家「たとえどんな困難が待ち受けていようと、俺たちならやれる!
だってそれが格闘家なんだから!」
女武術家「そうだね!」
市長「おお……みんなよく無事に戻ってきてくれた!」
町長「格闘家君、息子を助けてくれてありがとう!」
市長「しかし娘よ……その格好はなんだ?
まるで格闘技かなにかをするような格好ではないか」
女武術家「うん、私はこれからは堂々と格闘技をやらせてもらうわ」
市長「なんだと!? それはどういう──」
格闘家「市長さん、実は彼女は時折俺の道場に来ていました。
そしていつしか、俺たちは互いに愛し合うようになっていました」
格闘家「お願いです」
格闘家「どうか、俺と彼女の交際を認めて下さい!」
市長「…………!」
格闘家「……条件?」
市長「うむ……」
格闘家「…………」ゴクリ
市長「私も君の道場に入門させてくれ!」
格闘家「え!?」
市長「君はメイドと町長のご子息を助けに行く前、私に一喝しただろう。
あんなことは市長になって以来、初めてのことだった」
格闘家「あれは本当に申し訳なく……」
市長「いや謝ることなどない」
市長「私はね、感動したのだよ! 君という一人の男に対してね!
私は……都市開発に熱中するあまり、大事なことを忘れていた……!」
市長「当然市長としての職務があるので、めったに行けないだろうが、
私の名も道場の一員として加えて欲しい!」
格闘家「そ、それはかまいませんが……」
女武術家(これは予想外だったよ……)
町長(あれ? これもしかして、ワシの息子と市長の娘の見合いは破談?
ま、息子は助かったわけだし、いいか……)
格闘家「じゃあ俺は友人と町長さんと一緒に帰るよ」
女武術家「うん……」
格闘家「また道場に稽古に来てくれよ。俺も必ずこの都市にやってくるから」
女武術家「もちろん!」
格闘家「今日は色々あったが、結果としてはいい日だった。
あんな強敵と戦うことができたし、君との交際を認められることもできた」
女武術家「いずれアタシらも決着をつけないとね」
格闘家「いずれ、な」
ガッ
二人は互いの拳をぶつけ合い、別れた。
<格闘道場>
「えいっ!」 「とぉっ!」 「えいやっ!」
格闘家「よぉし、そこまでっ!」
友人「よう、けっこう繁盛してるじゃないか。
あの事件でけっこうおまえも有名になったからな」
格闘家「ありがとう。おまえこそかなり忙しいみたいだな」
友人「まあな」
友人「俺はオヤジとちがってデカイ街や都市におもねって
町を発展させるより、自力で発展させるやり方が好きだからな」
友人「忙しいが、やりがいはあるよ」
友人「町の北にある荒れ地の開墾をやってる。
都市にいたゴロツキたちも雇ってるが、一生懸命働いてくれているよ」
~
ゴロツキ「おい、昼飯を食ったら今日はあそこまで耕すぞ!」
手下A&B「はいっ!」
用心棒兄「ほら弟よ、あ~んしろ」
用心棒弟「兄さんの作った卵焼きは美味しいや!」モグモグ
~
友人「最初は不安だったが、アイツらも元々マジメに暮らしたかったんだろうな。
用心棒のヤツらは、ちょっと変な方向に目覚めちまったようだが……」
格闘家「そ、そうか……」
(あの兄弟がおかしくなったのって、やっぱり俺たちのせいなのかな……。
早く元に戻ってくれればいいが……)
女武術家「たのもうっ!」
女友人「こんにちは」
市長「よろしく頼む!」
「こんにちは~!」 「お姉ちゃんいらっしゃい!」 「わ~い!」
市長「いやぁ、ここでたまに稽古するようになってから
体と心の調子がすこぶるいいよ!」クネッ クネッ
格闘家「ど、どうも……」
(なんだこの独特な腰の動きは……)
女友人「あら、また道場にいるのですか。本当にお暇なのですね」
友人「暇なんじゃなく、君を待ってたのさ」
女友人「もう、からかわないで!」バシッ!
友人「いでぇっ!」
女武術家「じゃ、今日も稽古を始めよっか!」
格闘家「ああ!」
女武術家「こうやって逃げ続けてれば、うやむやになるとか思ってない?」
格闘家「!」ギクッ
女武術家「ふふん、まあいいか」
女武術家「でも、いつか必ず勝負してもらうからね!」
格闘家「分かってるよ」
格闘家「どちらが勝っても負けても……俺たちはずっと一緒だ!」
女武術家「……もちろん!」
こうしてある小さな町と大きな都市は、不思議な絆で結ばれた。
この後、この町と都市はこれまでにない発展を遂げたという──
~おわり~
Entry ⇒ 2012.06.23 | Category ⇒ その他 | Comments (0) | Trackbacks (0)
お嬢様「うちのメイドは頭を撫でられるとだらしなく喜ぶ」
お嬢「……」ナデナデ
メイド「ちょっ……んっ…………」
お嬢「…………」ナデナデナデナデ
メイド「やぁっ…………やめっ……やめ……」
お嬢「ふむ……」ピタッ
メイド「あ……」
メイド「もう、終わり、なの……?」
お嬢「……」キュンキュン
みたいなのはよ
メイド「几帳面なだけです」
お嬢「料理の腕も一流だ」
メイド「舌の検査にでも行ったらどうです?」
お嬢「帰った時もいの一番に迎えてくれるし」
メイド「っ……それは……」
お嬢「貴女が専属で、私は大変誇らしいよ」
メイド「あっ……」
お嬢「…………」
メイド「…………」ムズムズ
メイド「そ、そこまで褒めてくださるなら、その」
メイド「あの、あ、あたまを……っ」
お嬢「……」キュンキュン
みたいな感じでひとつ
メイド「よっと……」
メイド「あ」ガシャーン
メイド「これは、奥方様からの大事な贈り物の……」
メイド「どどどど、どうししし」
メイド「…………」モワモワモワモワ
お嬢『メイド、なんだこれは』
メイド『あの、その、ええと』
お嬢『こんな失態をやらかすとは思ってなかったな。普段から無愛想な奴だと思っていたがもう限界だ』
メイド『……!!』
お嬢『……さよならだ。どこぞにでも拾ってもらえ!』
メイド『い、いや!お嬢様、お嬢様ーっ』
お嬢「……メイド、なんだこれは!」
メイド「あ、あの、その…………」
お嬢「怪我はないか?どこか打ったりしてないか?こんなに泣きはらして、どうした?」
メイド「お、お嬢しゃま……!」
お嬢「なんともないじゃないか。あまり心配させるな……」ナデナデ
メイド「!!」
メイド「ひゃ、ひゃい……おじょうしゃま……」
お嬢「(レプリカ置いてただけだけどメイドがかわいいから黙ってよう)」キュンキュン
メイド「お嬢様ーっ!おかえりなさいませ!」
お嬢「ん、ただいま」
メイド「鞄持ちます!お風呂もわかしてあるので早めに貰ってください!」
お嬢「あ、ああ……ありがとう。メイドは気が利くな」ナデナデ
メイド「んっ……」ブルッ
メイド「ゆ、夕飯もできてますからね!お待ちしてますね!」
お嬢「ん…………」
お嬢「……ちょっと罪悪感、かも」
メイド「あの、良かったらお背中を……」ジッ
お嬢「じ、自分でやる!先に行ってろ!」
お嬢「(持て余しすぎて自制ができなくなりそうだ)」
このスレで有名な>>1さんじゃないっすか!!オナシャスッ!!
生徒「私、ずっと会長のこと、お慕いしてて……!」
お嬢「すまない、貴女のことをそういう風には見れないんだ」
生徒「……!!……そ、そうですよね、わかってました」グスッ
生徒「でも、気持ちをお伝えできただけで、私、私っ……」ダッ
お嬢「…………」
お嬢「……はぁーっ……」ズーン
メイド「おかえりなさいませー、ってお嬢様?」
お嬢「あ……メイド、か」
メイド「どうかされましたか?顔色が優れないようですが……」
お嬢「くっ……」グイッ
メイド「きゃあっ……!」
お嬢「……ふふ……ここなら誰もこないな。なぁ、メイドぉ……」ガシッ
メイド「お、お嬢様。いったい何を……」
お嬢「メイドーっ!!撫でさせろ心行くまで!!!」ナデナデナデナデ
メイド「はひゃっ!急にっ!そんにゃっ!……」ビクンビクン
お嬢「」ナナデナデナデナデナデナデナデナデナデナデナデナデデナデナデナデ
メイド「ひゃ、ひゃげし、しゅぎ……」ビクッビクッ
お嬢「かわいいなぁかわいいなぁ」ナデナデナデナデナデナデナデナデナデナデナデナデナデナデナデナデナデナデナデナデナデナデナデナデ
メイド「(かわいい!?う、うう、嬉しい!でもこの状況!!)」ブルルッ
お嬢「メイドー、メーイード、めーーいーーーどーー♪」ナデナデナデナデナデナデナデナデナデナデナデナデナデナデナデナデナデナデナデナデナデナデナデナデ
メイド「(ご帰宅されてから元気がないようでしたが、こんなことで回復されるなら、私っ……)」
お嬢「」ナデナデナデナデナデナデナデナデナデナデナデナデナデナデナデナデナデナデナデナデナデナデナデナデナデナデナデナデ
メイド「……っ!……っ!…………っt!?…………っ!…………」ビクンビクン
お嬢「あ……すまない、すっかり取り乱してしまった」
メイド「い……いえ…………んっ…………」
お嬢「……ありがとう、メイド。貴女がいてくれるだけで、私は、私は」
メイド「……っ……?」
お嬢「……んっ」デコチュ
メイド「!?」
お嬢「お、おやすみ!メイド!」
メイド「…………ほわぁぁぁぁああ」
お嬢(いつまで?部下に何も与えられない主人に、いつか愛想を尽かすんじゃないだろうか)
お嬢(そんな気持ちすらごまかしてばかりだ。いったいどうしたら……)
メイド(……みっともない姿を晒してしまったけど)
メイド(あんなことでお嬢さまの為になるなら私は……)
メイド(でも、できることなら、もっとお役に立ちたい。私の全部で、お嬢様の全ての為になりたい)
メイド(そしてそのあかつきには……ってもう!)カァッ
メイド(一体、どうしたら、ずっと、ずっと)
お嬢&メイド((彼女を幸せにできるだろうか))
メイド「お館様も大変ですね。こんな日でも出勤されるなんて」
お嬢「ああななりだが、父は名医だからな。腕を買われて講演までする始末だ。まったく……」
メイド「はぁー……すごいんですね。」
お嬢「……」ムスッ
お嬢「だが、それもいずれは過去の話になる!こうして私が跡を継ぎ、いや越えようとしてるのだからな!」ナデナデ
メイド「にゃっ!ひ、ひゅいうちです……」ゾクッ
お嬢「ふん……」ナデナデナデナデ
メイド「にゃ~ん……」ゴロゴロ
お嬢「…………!」
メイド「おかえりなさいませ、お嬢様!遅くまでおつかれさまです。お風呂ができてますよ」
お嬢「ん……入ってくる。あとで夜食を頼む」
メイド「かしこまりました……お嬢様?」
お嬢「なんだ?」ギロ
メイド「いえっ」
お嬢「……じゃあ、頼んだぞ」
メイド「…………」
他メイド「……文化祭が近いからかしら、気がたっておいでね」
他メ2「実行委員に加えて、普段の会長職までしてられるでしょ?そりゃ余裕もなくなられるわよ」
他メ3「なんでも今年の生徒会は~~……」
メイド「…………」
メイド「……無力だなぁ……」
「であるからして!予算が~」
「だいたいそっちの都合で人員を~」
「ほらまたこんなことで!文化祭まで時間が~」
「じゃあなにか建設的な意見を~」
お嬢「……」イライライライラ
「そもそもの責任は~」
「またそれ!?いい加減に~」
お嬢「」バン!
「「「「」」」」ビクッ
「か、会長……?」
お嬢「…………帰る」
ガチャン!
メイド「おかえりなさいませ、お嬢様」
お嬢「ん……」スタスタ
メイド「お、お待ちください!申し上げたいことがございます!」
お嬢「……ぁ?」
メイド「……もう少しだけ、ご自愛ください。学業の方もさぞ大変でしょうが、日に日にやつれていかれるのを、黙ってみてられません」
お嬢「……じゃあ、あんたが代わりしてくれるの?」
メイド「えっ」
お嬢「私しかいないんだ!どいつもこいつも使えないから、私が、私が頑張らなきゃ!」
お嬢「そう、私がなんとかすれば……私がいなかったら……いないか。それもいいかな」
メイド「お嬢、様……?」
お嬢「疲れた。もう疲れたよ。メイド」
お嬢「もういいや。あんただけいれば」ガバッ
メイド「やぁっ……」
メイド「お嬢様……んんっ……落ち着いて……」ピク
お嬢「落ち着いてるよ……メイドの姿……しっかり見てたいから……」ハムッ
メイド「あっ……耳……っ……」ゾクゾク
お嬢「なんだ、頭だけじゃなくてこっちも良いのか。ほんとに可愛いなぁメイドは」グニグニ
メイド「(…………ああ、すごく、きもちがいい)」
メイド「(こんなに触っていただいて、抱きしめられて、求められて、幸せすぎて、このまま、流されてしまいたい)」
お嬢「メ、メイド。こっ、このままっ」ハァハァ
メイド「(…………でも…………でも)」
メイド「…………だめ」
お嬢「?」
メイド「お嬢様、私を、逃避に使うのはやめてください」
お嬢「なっ」カァッ
メイド「私は、貴女の専属のメイドです。だから、どうしてもとおっしゃられたら、頷くしかありません、が」
メイド「(少なからず望んでいるから、とは言えないけど……)」
メイド「お嬢様は今、なにか大きな試練に立ち向かってるんじゃないですか?今までにないような」
メイド「だからそんなに、毎日身を削って、あんなになるまで頑張ってるんじゃないんですか?」
メイド「私がいま、ここでお嬢様に抱かれることでその助けになるなら、この体、喜んで差し出します」
メイド「でも、きっとこのままだとお嬢様は、堕ちていってしまう。もう二度と戻れないところまで。きっと……」
お嬢「…………」
メイド「私は、お役に立ちたいんです。私の全てで、お嬢様を良くしたいんです。私のせいで、だめにしたくないんです」
メイド「いつも高貴で、自信にあふれていてほしいんです。お嬢様、だから、だから……」
メイド「すみません。あまりにも差し出がましい真似でした」
お嬢「いや……………………助かった、かな」ボソ
メイド「?」
お嬢「なんでもない!!」プイ
お嬢「わかったよ。そこまで啖呵きるなら、お望みに応えようじゃないか。やり切ってみせるよ。だから」
お嬢「全力で、助けてくれ」
メイド「お嬢様…………」パァッ
メイド「はい!喜んで」
お嬢「そのかわり、全部おわったらひたすら抱いてやるからな」
メイド「なっ!?」カーッ
お嬢「冗談だよ、冗談…………じゃあ、私は明日に備えるよ。おやすみ」
メイド「おやすみなさいませ、お嬢様」
お嬢「………………………………………………………………ありがとう」
メイド「えっ…………」
お嬢(あんなに尽くしてくれるだなんて)
お嬢(あんなに、想っていてくれただなんて……)
お嬢(それに引き換え私は…………)
お嬢(…………!!)
お嬢(……あるじゃないか、私なりに、報いいることが)
お嬢(できるじゃないか、今はまだ無理でも、きっと、遠くない未来に)
お嬢(あの男の娘たる、私ならば)
「は、間違いありません。社長」
?「いい気なものだわ。一人だけ、温室の中でのうのうと暮らせるなんて」
?「あなただけ、何も背負わず幸せになれるとは、努々想っていないでしょうね…………」
メイド「お疲れ様です。見事でしたよ、お嬢様」
お嬢「メイド、膝を頼む」キリッ
メイド「はいはい、そんなに格好つけなくてもいつも素敵ですよ……こちらへどうぞ」
お嬢「よっ……やっぱりメイドの膝は絶品だな。最高の枕だ」
メイド「お褒めにあずかり光栄です…………あっ」
お嬢「どうかしたか?」
メイド「いいえ……ふふっ……」ナデナデ
お嬢「わわっ、何をいきなり!」
メイド「いえ、いつもしていただいてるので、私も……と思いまして」
お嬢「そ、そうか」ドキドキ
お嬢「……メイドのナデナデも絶品だな……」ボソッ
メイド「?」
お嬢「何でも無い!」
お嬢「んん……何だ?」
メイド「こうしてると、幸せですね。すごく……」
メイド「されてる時は、ただ心地いいだけでしたのに……今は、なんて言ったら良いのでしょう」
お嬢「幸せ、だろう?」
メイド「はい!……言葉じゃ伝えきれない想いまで、全部乗せていけるようで」
メイド「そして、それを全部受け止めてもらってる。そんな喜びで、体も心も満たされていきます」
お嬢「そう、だな。私も今、すごく気持ちがいい。なんていうか、その」
お嬢「愛されてる、感じがする」
お嬢「…………」カーッ
メイド「……私も、同じ気持ちです。お嬢様」
お嬢「メイド……」ドキドキ
メイド「約束、でしたから、その!」
メイド「すべて、貴女に…………!」ハラリ
お嬢「うん……でも……」
メイド「は、はいっ!」
お嬢「今、すごく、すごく…………」
お嬢「眠い」ガクッ
メイド「……は?」
メイド「えーと、お嬢様?」
お嬢「」スヤスヤ
メイド「せっかく、勇気、だしたのになぁ…………」
メイド「でも、寝顔も素敵……ふわぁぁ……」zzz
メイド「……お嬢様ー」
お嬢「……なに?」
メイド「いえ、何ってほどでもないんですけど……」
お嬢「なら、よかったらコーヒーを頼めないか。今日はまだ終わりそうにないから」
メイド「……かしこまりました。……でもぉ……そのぉ……」
お嬢「ええい!甘ったるい声を出すな!変な風に気が散る!」
お嬢「お前が勉強の邪魔をしてどうする!!頼むから静かにしてくれ!!」
メイド「はい、申し訳ありません」
メイド「…………」ズーン
お嬢「……受験が終わったら、晴れて一人暮らしだ。そういう大学を選んだ」
メイド「?」
お嬢「誰にも邪魔されない、私とメイドだけの城だ。素敵だろう?」
メイド「……!」
メイド「は、はい!!」パァッ
お嬢「ふふっ……いい子」ナデナデ
メイド「んっ…………」ゾクッ
お嬢「……私も、我慢だな…………よし、最後の追い込みだ」
メイド「はい!」
父「……そうですか。あの二人が……まさかそんなことまで」
母「ちょっと、事を急いだ方が良さそうじゃない?取り返しが付かなくなるよ」
父「わかっています。少々心は痛みますが、仕方ない」
父「あの子たちには、早急に離れていただかないと」
メイド「失礼いたします」ガチャ
父「ああ、メイド君か。ご苦労様。そこにかけてください」
メイド「いえ、お気遣いなく……。今日は、どのような用件でしょうか」
父「……では、つかぬことを聞きますが、今の貴女の貯え……貯金ですね。いくらか教えていただけませんか?」
メイド「えーと……◯◯◯◯万ほどです。計算違いがなければ」
父「…………」
メイド「お館様?」
父「し、失礼。あまりの額だったで驚いてしまいました」
メイド「中学生相応の頃から高給で雇っていただいてますし、普段なにも使わないもので」
父「なるほど、なるほど…………それだけあれば、十分ですね」ボソッ
メイド「……何か、まずかったでしょうか……?」
父「いえ、むしろ好都合です。メイド君」
父「せっかく教えていただいたので、私も率直に申し上げましょう」
父「メイド君。貴女に、暇を出します」
父「わかりやすく言いましょうか。貴女はクビだと、を申しあげているのです」
メイド「ど、どうしてっ!私、なにか、し、して」
父「ええ。とんでもない事をしてくれました」
父「娘を、よからぬ道へと誘いましたね」
メイド「…………!」
父「彼女しか跡取りのない我が家において、子供が全うな道を進むかどうかは文字通り死活問題なのですよ」
父「それは貴女にもわかるはずです。その為に尽力していただいてるものだとばかり、思っていました」
父「ところが蓋を開けてみれば、語るもおぞましい道へと、落としてくれましたね。貴女は」
父「孤児同然だった貴女を、拾った恩も忘れて」
メイド「……あ……あ……の……」
父「あの子にとって、貴女は害でしか無いんですよ」
メイド(お嬢様の為に、すべてを捧げてきたつもりだったのに)
メイド(お嬢様がより良くなるように、より輝けるように、ただその一心で……)
メイド(でも私のしたことは……全部……全部……)
父「……かといって、このまま放り出す訳にも行きません。しばらくの滞在場所と、次の仕事くらいは手配しておきましょう」
メイド「あ、あの、せめて、せめて合格の、合格発表だけは、ご一緒に」
父「なりません」
メイド「そんな……」
父「……もう、日取りは決めてあるのです。貴女には従ってもらいます」
父「それが、娘のためにもなるのですから」
メイド(…………私は…………私は…………)
メイド(ごめんなさい……お嬢様……ごめんなさい……ごめんなさい……)
ガチャ、バタン!!
お嬢「た、ただいまーっ!!」ハァハァ
お嬢「メイド!早く来いメイド!やったぞ!おーい!!」
お嬢「本命一本一発合格だ!全部メイドのおかげだぞ!!……メイド?」
お嬢「……ちょっと、そこの!」
他メ「」ビクッ
お嬢「……すまない、あの、メイドを知らないか?いくら呼んでもこないんだ」
他メ「い、いえ。存じ上げません……」
お嬢「そうか……」
他メ「し、失礼します!!!」ダッ
お嬢「あ…………」
お嬢「どうしたと言うんだろう」
お嬢「ところに入りび……」
お嬢「…………………………………………」
父「私が彼女に暇を言い渡した。それだけです」
お嬢「納得できない!!彼女には今以上の厚遇こそあれ、解雇されるいわれなどないはず!」
父「それが、あるのですよ」
父「身に覚えが、ないわけではないでしょう」
お嬢「くっ……」
お嬢「それなら、私にも考えがある。こんな家なんて……!」
父「出られるとお思いですか?貴女のような若輩者一人で、生きていけると?」
お嬢「……」カーッ
父「貴女があのメイドに、ほぼ全ての家事に関して任せきりだったことは、この家のものなら誰でも知るところです」
父「そして何よりも、貴女には彼女と違って収入も貯えもない」
父「温室育ちここに極まれり、ですね。この点に関しては彼女に感謝すべきかも知れません」
お嬢「糞親父がっ……」
父「口を慎みなさい。貴女は、決められた道を進めばいいのです。それ以外になにもできないのですから」
お嬢「…………」
お嬢(貴女と一緒なら、なんでもできたのに。いや)
お嬢(なんでもできると、思い上がってただけ、か……)
お嬢(結局、メイドに、なにもしてあげられなかった。何も……何も……)
お嬢(最後に……頭を撫でで……褒めてやることさえ……)
お嬢「ごめん……メイド……」
母「ええ、でも、どうしようもないわ。これから起こるであろうことに、立ち向かうためには」
母「必要なことだったと、きっとわかるはず」
父「そうですね。ここからは」
父「私の腕の見せ所。ですかね」
母「期待しているよ」
父「任せてください」
お嬢(あの子が、初めて家に来た時のこと)
お嬢(汚い履歴書を持って、ぼろぼろの身なりで)
お嬢(後で、私より少しだけ年上と知って、ひどく驚いたっけ……)
お嬢(そんなころから、仕事だけは丁寧だった。特に掃除が)
お嬢(彼女が私の部屋を掃除するときがいつも楽しみで、まるでプレゼントを待つ子供のような気持ちで、下校したもんだった)
お嬢(あんまりにきれいにしてくれるから、年上なのに、思わず撫でてしまった。その反応が、あまりにも可愛かったから)
お嬢(……思えば、あのときから、親にせがんで専属にしてもらったのも……)
お嬢(好き、だったんだなぁ……)
お嬢(でも、もう何もかも手遅れ)
お嬢(メイド……………)
メイド(地獄のような毎日から逃げ出して、死にものぐるいで居場所を探したあの時)
メイド(どう見られるかなんて、考えなかった。逃げられるところを、受け入れてくれるところを、必死に求めた)
メイド(あんな豪邸に採ってもらえるなんて、それがそもそも夢の始まりで)
メイド(あんなにすばらしい主人に仕える事ができたのも)
メイド(誰かの為に、全てを捧げる、そんな喜びを見出せたのも)
メイド(全部、夢)
メイド(でも、私にはいたから。認めてくれる人が。褒めてくれる人が)
メイド(だから頑張れた。私の働きで、喜んでくれることが、褒めてくれる事が、何よりも嬉しかったから)
メイド(お嬢様…………)
メイド(もっと早く、素直になっておくべきだった。伝えておきたかった。ずっと大切にしてた、この気持ち)
メイド(でも、もう終わり)
メイド「お嬢様ぁー…………」
父「さあ、なんの事だか見当がつきませんが」
「てめぇ…………!!」
?「やめなさい。今日は事を荒立てにきたんじゃないわ。ただ、忠告に来たまでなんだから。それにしても」
?「貴男、良い度胸してるじゃない。私たちがここまで来たということを、もう少しよく考えるべきでなくて?」
父「熟考した上での選択ですよ。私には、守る義務がありますのでね」
?「よくもまぁ、そこまで他人の子を庇えるものね」
父「なんのことやら……ですが」
父「誰であれ、一度同じ屋根の下に招き入れれば、もうそれは家族に他ならない」
父「我が子であるにも関わらず、何年も放逐したあげく、また、モノ同然に扱おうとしてる貴女には、理解できないでしょう」
?「言うわね……その屋根の中に、私も入れてくれたらありがたいんだけどね」
父「ふふ……貴女には野ざらしがお似合いですよ」
?「チッ……まあいいわ。今日のところはこのくらいで。でも」
?「なんとしてでも探し出すから。あの子は私の所有物なんだから」
父「なんとでも。あちらこちらに私の息がかかってることも、お忘れなきよう」
父「茶化すのはよしてください。まだ震えがとれませんよ」
母「悪い悪い……でも、これからも、全力でいかなくちゃ、ね」
父「ええ、もちろんですとも」
父「あの子が、この先ずっと笑顔でいられるように、その為だけなんです。出し惜しみなんてできませんよ」
母「あの子 たち が、でしょう?」
父「その通り!」
メイド「あれから、言われた通りになるべく外出は控えてたけど……まるでタイムリープしたかのようですね」
メイド「もうすっかり山も青々としてます。桜の季節も良いですが、こんな時期でもお嬢様と一緒に……」
メイド「」ズキッ
メイド「……気持ちを、切り替えましょう。だって」
メイド「今日から、新しい職場なんですから!」
メイド「前が豪邸だったせいか、とても質素に見えますね」
メイド「それに名前が……なんてお呼びしたらいいんでしょう……」
メイド「…………
メイド「(……結局、お嬢様のことはひとときも忘れられなかったけど、それは大切な思い出としてとっておいて)」
メイド「今度は節度をもって、新しい主人に仕えましょう」
ピンポーン
メイド「こんにちわ、こんにちわーっ」
メイド「すみませーん、すみませーん!」ドンドン
アア?ウッセーンダヨ!
メイド「ひゃ!ご、ごめんなさい!……早く、出てこられないかなぁ……」
ガチャ
「…………はい?」
メイド「…………」ニッコリ
メイド「今日からここで働かせていただくことになりました、メイドです!」
「??……私は……そんなこと……聞いてない……」ギィ
メイド「でも、先方からもう話は……通し……て……あ…………」
「……………………!!」グイッ
メイド「あっ…………」
バタン
メイド「あ、あの……」
「…………」ギューッ
メイド「…………ちょっと苦しいです」
「……………」ガッチリ
メイド「……ふぅ」
メイド「ただいま戻りました。お嬢様」
お嬢「……遅いよ、バカ……っ」
お嬢「いい」
メイド「ご連絡さしあげることも、されてましたので」
お嬢「許す」
メイド「私が側にいると、またご迷惑をおかけするかもしれません」
お嬢「そしたら二人で乗り越えよう、もうなんだっていいよ。誰が悪いとかどうでもいい」
お嬢「メイドが側にいてくれたら、それでいい、それでいいんだ!ほかには何も……何も……!」
お嬢「……よく、戻ってきてくれたね。メイド」ナデナデ
メイド「んんっ…………ずっと、ずっと待ってました。この感触……」ピクッ
メイド「お嬢様を、感じます」
お嬢「……ごめん、私も、待たせちゃったね」
メイド「いえ……ええ、待ってました。ずっと!」
お嬢「?」
メイド「お嬢様、おっしゃいましたよね。文化祭が無事終わったら、その、私を!」
メイド「私じゃ、いやですか……?」
お嬢「そんなことはない!今だってこう、撫でるだけじゃたりなくて、もっと側に感じたい!でも……」
お嬢「でも、あれから考えるようになってしまったんだ!」
お嬢「何をするにしても、本当にこれでいいのかって、また、壊してしまうんじゃないかって!」
お嬢「自信ないし、傷つけるかも……」
メイド「……自信に満ちあふれてたお嬢様はどこへやら、ですね」
メイド「だから、何が起ころうと、それがお嬢様によってもたらされることなら、幸せなんです」
お嬢「メイド……」
メイド「でも、どうしてもとおっしゃるなら、僭越ながら、私からさせていただきますね」
お嬢「ちょっと、メイ」
お嬢&メイド「んっ…………」
お嬢「……ぷは」
メイド「……お嬢様、なめ回し過ぎです……」
お嬢「うるさい。何をされても、だろ」
メイド「ええ、もちろん」
お嬢「それにしても……私たち、キスもまだだったんだな。色々したような気がしていたが」
メイド「そうですね。でも……」
メイド「だからこそ、そこから始められるなんて、素敵だと思いませんか」
メイド「んんっ……くうっ…………ちょっと、お、おち、つくの、に」
メイド「時間、が……はぁっ…………」
お嬢「ごめん、すこしがむしゃらすぎたかな」
メイド「……いいえ、とても素敵でした。お嬢様」
お嬢「…………なんだか、すごく照れるな。今の言い方は」
メイド「ふふっ…………」
メイド「こんなに、疲れ果ててるのに……心がすごく晴れやかで、軽い感じがしますね」
お嬢「ん…………そうだな…………」ナデナデ
メイド「んんっ……お嬢様……あの……私……」
メイド「お嬢様の子供が、欲しい、かもしれないです」
メイド「お嬢様がお館様のあとを次ぐために、医学の道を選んだことは存じておりました」
メイド「お館様は外科医です。でもいつからか、お嬢様の部屋には再生医療や生命工学等……」
メイド「所謂、研究の道に進むための準備がそろっていったように記憶してます」
メイド「お嬢様が、初めて私を求めたあの日以来です。これは、うぬぼれかもしれませんが、お嬢様は」
メイド「私と結ばれるために、この道を選んだのではありませんか?」
メイド「わかっています」
お嬢「もしかしたら、取り返しのつかない事になるかも」
メイド「お嬢様にされるなら、すべて受け止めます」
お嬢「…………メイド」ギュ
メイド「…………はい、お嬢様」
お嬢「……愛してる」ナデナデ
メイド「んんっ……私も、です」
メイド「かしこまりました。お嬢様」
お嬢「………。じゃあ、いってきまーす!!」
メイド「いってらっしゃいませ、お嬢様!」
お嬢「…………もう、そんなお腹してるのに、まだそんな呼び方なんだな」ボソッ
メイド「えっ」
お嬢「何でもない、いってきます!」
ガチャ
お嬢「ただいま……ふぅ……」
メイド「……~♪……~♪」ウツラウツラ
お嬢「……ただいま。帰ったよ」
メイド「……はっ。し、失礼しました、ついうたた寝を……」
お嬢「いいんだ、体は大事にしないとな」
メイド「あ、ありがとうございます。って、そうじゃなくて」
メイド「おかえりなさいませ、 様」
お嬢「」キュンキュン
メイド「やぁっ……勇気を出して言ったのに、私はまだメイドなんですか……んっ」
お嬢「今度はその敬語だな。待ってるぞ」ナデナデナデナデ
メイド「んっ……んんっ……」
お嬢「……まだ、そんなに好きなんだな、頭を撫でられるの。でもそれじゃ生まれてくる子に示しが付かないな」
メイド「そ……んんっ……な……こと、おっしゃられても」ビクビク
お嬢「」ナデナデナデナデナデナデナデナデナデナデ゙
メイド「ひゃ、やめ、やめて……くりゃしゃい…………」ビクンビクン
お嬢「全く、うちのメイドは」
お嬢「うちのメイドは、頭を撫でられるとだらしなく喜ぶな!」
しました
おやすみなさいおつかれさまでした
よく完結した
Entry ⇒ 2012.06.10 | Category ⇒ その他 | Comments (0) | Trackbacks (0)
ラオウ「・・・!!(この拳王が痴漢されているだと・・・!?)」
ガタンゴトン
ラオウ「(この拳王に痴漢する輩には容赦せぬ・・・!後悔せ・・・・)」
ケンシロウ「サワァ!サワサワサワサワサワァァァ!! 貴様はもう、感じている・・・(ボソッ・・・」
ラオウ「ぬぅっ!?(か、体が・・・)」
ケンシロウ「ラオウよ、性を捨てる時がきたのだ!」
ラオウ「(体が思うように動かぬ・・・。これが北斗神拳か・・!)」
はよ…
はよ
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アミバ「間違えたかな……」
やられたwwww
これは卑怯ww
そんな格好だから痴漢されるんだよwww
Entry ⇒ 2012.06.04 | Category ⇒ その他 | Comments (0) | Trackbacks (0)
女騎士「なっ!ち、違う!これは違うぞ!」
女騎士「と、当然だろう!?こんな汚ない部屋……きちんと整理整頓しろばかものっ!」
女騎士「え……?しゃ、シャツ?」
女騎士「あ、ああ、まずはこれから畳もうと思ってだな、うん……」
女騎士「なっ!に、においなんか嗅いでない!何を言っているのだ!」
女騎士「嗅いでないったら嗅いでない!おまえの見間違いだ!絶対にそうだ!」
女騎士「と、当然だろう!?こんな汚ない部屋……きちんと整理整頓しろばかものっ!」
女騎士「え……?しゃ、シャツ?」
女騎士「あ、ああ、まずはこれから畳もうと思ってだな、うん……」
女騎士「なっ!に、においなんか嗅いでない!何を言っているのだ!」
女騎士「嗅いでないったら嗅いでない!おまえの見間違いだ!絶対にそうだ!」
女騎士「え……?そろそろベッドから出てきたらどうだって……」
女騎士「あ、ああ!ああ!そうだったな!まだ朝も早いから多少眠気があったけれどおまえも来た事だしな!うん!」
女騎士「な、なんだ?名残惜しくなんてないぞ……」モゾモゾ
女騎士「ほ、本当だ!寝るとおまえのにおいに包まれてるような感じになるベッドなど誰が名残惜しいものか!」
女騎士「そもそもこんな朝早くからどこに行っていたのだ。鍵もかけずに不用心な……」
女騎士「ん、休日だから朝の散歩か。それはいいな、健康的で」
女騎士「というか、わたしが休みなのはよく見ればわかるだろう?今は鎧も剣も持っていないのだから」
女騎士「……なんだその目は?わたしが私服を持っているのがそんなに不思議か?」
女騎士「はあ、失礼なやつだな。いや、謝るな。怒ったわけではない」
女騎士「いや、そんな事はないぞ」
女騎士「キツそうに見えるって……なんだ、わたしが太っているとでも言いたいのか?」ギロ
女騎士「え?違う?腹じゃなくて胸?」
女騎士「っ///!?こ、この変態が///!」
これこそ女騎士のあるべき姿
女騎士「知っているのだぞ!おまえは普段わたしが素振りをしている時もむ、む……」
女騎士「胸ばかり見ているだろうが!バレバレだ!この変態め!」
女騎士「え?しっかり恥ずかしがってるところがかわいい?」
女騎士「ばっ、ばか!何を言っているのだ!かわいいなど!」
女騎士「おまえのようなただの変態程度、見られようが触られようが……」
女騎士「ひゃあぁあ!?な、なに本当に触ろうとしてるのだばかもの!」
女騎士「ひっ!へ、変なふうに指を動かすな!」バチン!
女騎士「ふ、ふん!痛くしたのだから当然だ!」
女騎士「本当にやった側が言うのもなんだな……しかし、まあそれは自覚はある」
女騎士「そういう意味でも、やはりまだまだわたしは未熟だ……」
女騎士「今そんな事を言っても、立派なのは忠誠心だけだと笑われるだろうが……」
女騎士「と、というかどうしてこういう話の時だけは真面目にしているのだ?普段はあれだけ不真面目なのに……」
女騎士「おまえのそういうところが、わたしは……」
女騎士「えっ?い、いや、なんでもない!」
女騎士「たとえ拷問されても、この気持ちは決して変わらない」
女騎士「それほd、ん?なんだ?」
女騎士「本当に拷問されても変わらないか試してやる?」
女騎士「は、なにをバカな事を。どこからつっこめばいいかわからんわ」
女騎士「その時の姫様の下着の色を言え……は?」
女騎士「はあ!?い、今なんと言った!?」
女騎士「そうだろう?おまえだって姫様に忠誠を誓っているのだから、本気で言ったわけではないだろう?」
女騎士「うむ、そこはまともで安心した」
女騎士「まあ冗談にしても問題発言だが……え?」
女騎士「かわりにわたしの今日の下着の色でいい……?」
女騎士「ばっ、ふざけるな!姫様はもちろん他の女ならいいという問題ではないわ!」
女騎士「しかも『かわりに』とか『でいい』とかなんなのだ!この上なく失礼だわ!」
女騎士「い、言わないぞ!どんな拷問を受けようとも、おまえのような変態に……ひゃっ!?」
女騎士「あはははははは!あっはっはっはっはっは!や、やめ!くすぐるなっ!くくっ……あはははは!」
女騎士「だ、誰が言うか!誰が観念するかぁ!」
女騎士「ひゃあぁあ!?な、なに直接腹を触ってるのだばかものっ!」
女騎士「ひゃわぁあぁあ!?や、やめろっ!わき腹を揉むなこの変態っ!」
女騎士「あはははははは!ぐ、グニグニするな!あーっはっはっはっはっは!」
女騎士「ば、ばかものっ!ばかものっ!やめっ……ひっひひひ!あーっはっはっはっはっは!」
女騎士「い、言う言う!言うからやめろぉ!そこ弱いぃい!あはははははは!」
女騎士「が、柄も!?ふざけ……あっはははは!」
女騎士「は、花とちょうちょいっぱいついてるやつうぅう!フリフリもたくさんあるやつうぅ!あはははははは!」
女騎士「あはは!……げほっ、はあ、はあ……」ビクン!ビクン!
女騎士「は、はあ、はあ、お、おわっ、た……」
女騎士「……機嫌など直るはずないだろう、まだ殴り足りないくらいだ」
女騎士「この場に剣があったら、間違いなくきっていたぞ」
女騎士(というか、わざわざ正直に下着の事を答えなくても、適当に言えばよかったのではないか?ばかかわたしは……)
女騎士「女性をくすぐって下着の色をはかせるなど、どんな変態だ!」
女騎士「む、むう……なんだ珍しく素直に頭を下げて」
女騎士「確かに今回のはやり過ぎだと思った……か」
女騎士「……本当に反省しているのか?」
女騎士「……なら、今回だけは許す」
女騎士「た、ただし!次にやったら本当に許さないからな!」
女騎士「どうせおまえのような暇人、だらだらと過ごすつもりだろうが……」
女騎士「え……?」
女騎士「こ、恋人と……デート?」
女騎士「……なら余計ダメではないか。他の女にいやらしい事をするなど……」
女騎士「いや、うん、この話はまた今度にしよう」
女騎士「すまんな、これから愛する人と過ごすというのに、押しかけて……」
女騎士「……なに?」
女騎士「デートはうそ?恋人なんていない?」
女騎士「なんで意味もなく嘘をつくのだ!本当に悲し……びっくりしたではないか!」
女騎士「ふん!そもそもよく考えればおまえのようなやつに惚れる女がいるわけがないわ!」
女騎士「ひどいじゃない!自業自得だ!一生独り身ですごせばーか!」
女騎士「まったく……少しトイレを借りるぞ」
パタン
女騎士「よ、よかったぁ……」
女騎士「な、泣きそうだったけど、なんとかこらえられた……」
女騎士「いやいや、でも油断は禁物……あいつはやる時はやる男だから人気もあるようだし」
女騎士「それに気のせいかとは思うが……姫様も最近あいつを見る目が……」
女騎士「だ、ダメだ!いくら姫様でもあいつだけは……」
女騎士「うう……」
コンコン
女騎士「あ、ああすまん。今出る……なっ!お、おっきいほうではないわ!」
女騎士「おまえ、本が好きなのか?あんまりイメージにはないが……」
女騎士「そうか、実は読書家だったと……」ドサ
女騎士「あ、すまない。一冊落としてしまった」スッ
女騎士「……今わたしがしゃがんだ時、胸を見てただろう?」
女騎士「バレてる。バレバレだ、この変態」
女騎士「まったく、そんなに好きなのか?男というやつは……」
女騎士「ちょ!何を本棚の裏をあさっているのだ!」
女騎士「そこにへそくりがある?じょ、冗談だ冗談!」
女騎士「冗談に決まっているだろうが!100万でも嫌だわ!金の問題ではない!」
女騎士「胸でなく肩を揉んでやろうとは思わんのか……」
女騎士「あ、いや、そんな本当にやろうとしなくてもいいんだぞ?」
女騎士「別に嫌々おまえと一緒にいるわけではないのだし……」
女騎士「ん……そんな、お礼なんてしなくても……」
女騎士「で、でもそこまで言うのなら、お願いしよう……かな」
女騎士「よければ肩を揉んでる間読んでいてくれ、か、わかった」
女騎士「ちなみにたくさん本があるなかでこれを選んだのはなぜだ?」
女騎士「ん、なるほど。おすすめだからか」
女騎士「それじゃ、少し読ませてもらうとしよう」
女騎士「ん?なんだ?」
女騎士「あ、当たり前だ!いやらしいシーンなぞあってたまるか!そんなもの読ませたらタダじゃおかないからな!」
女騎士「……『おっと手がすべった』なんて事をするなよ?」
女騎士「図星か……まったく」
女騎士「ちょっとは真面目にやってくれ」
女騎士「か、肩に手を置く時はきちんと言え!」
女騎士「び、敏感すぎるだと!?仕方ないではないか!わたしだって好きで敏感なのではないわ!」
女騎士「ひああああっ!?」ビクウン!
女騎士「こ、この……!背中をなぞり上げるとはどういうつもりだ!」ボカッ!
女騎士「んっ、ああ、そこだ、そこが気持ちいい」
女騎士「……何を変な想像してるのだ。肩だ肩。そこがこっているという意味だ」
女騎士「んっ、そうだ。そこがこっている」
女騎士「なるほど、面白いな、この小説は」
女騎士「特にここだ、この場面が……」
女騎士「ふわっ!?の、覗きこむな!顔が近い!」
女騎士「え?借りてもいいのか?けっこう高そうだぞこの本」
女騎士「ん、まあたしかに、人から借りた物を汚したりするような人間じゃないことはわたし自身さすがに自覚はあるが……」
女騎士「うん……そうか、じゃあ借りていくよ。ありがとう」
女騎士「ひゃあっ!?」ビク!
女騎士「み、見るな!来るな!」ダダダ
女騎士「な、なんで追いかけてくるのだ!来るなって言っているだろうが!」ダダダ
女騎士「やめろ……見るな……見ないでくれえ……」
女騎士「違うのだ……この髪も、服も……わたしの意思じゃないんだ……」
女騎士「髪をいじられて、こんなふりふりの服を着せられて……」
女騎士「ど、どういうふうに話したかって?」
女騎士「……スケベでだらしのない同僚がいると、話しただけだ……」
女騎士「なのになんでこんな目に合うのだ……うう……」
女騎士「おまえ、今なんと言った……?」
女騎士「い、嫌だ!こんな格好で出歩けるものか!」
女騎士「さっきだってどこか人の少ない店に入ろうと思ってたのだ!なのにおまえに見つかって……」
女騎士「ま、ましてや見回りのやつらに見つかったらどうする!?笑い者にされるだけだ!」
女騎士「やっ、ま、待て!見回りのやつらを呼んで来ようとするな!ずるいぞ!騎士の誇りはどうした!卑怯もの!」
女騎士「せ、せめて帽子か何か買ってくれ……見回りのやつらに見られたら、本当に……」
女騎士「うう……ならバレないような道を歩いてくれ、頼むから……」
女騎士「はぐれないようにって……今わたしは猛烈にはぐれたいのだが……」
女騎士「うあっ、わ、わかった、つなぐから他のやつらには言わないでくれ」ギュ
女騎士「こんなところにクレープ屋があったのか」
女騎士「い、いや、別に食べたいわけでは……」
女騎士「で、でもおまえが食べたいなら……付き合いとして、わたしも……」
女騎士「そ、そうか!食べたいか!仕方ないやつだな、うん!」
女騎士「あむ、ん……」
女騎士「え?い、いや、おまえのぶんまで食べるわけには……」
女騎士「……ほ、本当にいいのか?」
女騎士「じ、じゃあ遠慮なく……はむ」モグモグ
女騎士「ああ、そうだ。この前借りた本、読み終わったから今度返すぞ」
女騎士「うん、最後は二人が結ばれて幸せになる、王道だが、いい小説だった」
女騎士「なんだ?意外とああいう恋愛に憧れがあるのか?」クスクス
女騎士「え?本当にそうなのか?」
女騎士「いやに素直に認めたな……そんな恥ずかしい事を」
女騎士「……え?」
女騎士「わ、わたし……と?わたしとああいう恋愛をしたい……?」
女騎士「ほ、本気だ、って……そ、そんなこと……」
女騎士「きゃっ!?」
女騎士「わ、わかった。本気なのはわかったから……」
女騎士「だ、だから離してくれないか……?そうやって抱きしめられたままだと、恥ずかしい……」
女騎士「あうう……またそうやっていじわるして……離してくれえ……顔が、あつい……」
女騎士「本当にわたしでいいのか……?」
女騎士「だって、言葉使いも女らしくないし……すぐ手が出るし……」
女騎士「いや、うん……嬉しいぞ。そう言ってくれるのだな」
女騎士「わ、わたしも、その……///」
女騎士「あ、愛して……いる……///」
女騎士「だ、だから、えっと……///」
女騎士「これからは、恋人として、よろしくな///」
おわり
読んでくれた人ありがとう
乙乙
乙
乙!
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