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える「古典部の日常」 7



906: ◆Oe72InN3/k 2012/11/05(月) 22:12:39.02 ID:PozhboZ10

夏休みも終わり、またしてもだらだらとした日常を俺は浪費していた。

夏休み前と違うのは朝……家を出ると、千反田が待っている事だ。

それともう一つ、昼は古典部で一緒に弁当を開ける事か。

える「折木さんも、お料理をしてみてはどうでしょうか?」

千反田は突然そう言うと、前に座る俺に視線を向ける。

奉太郎「人にはな、向き不向きがあるんだよ」

える「何事にも取り組んで見るのは、良い事ですよ」

まあ確かに、毎度毎度……姉貴に作って貰うのはあれだが。


907: ◆Oe72InN3/k 2012/11/05(月) 22:13:33.38 ID:PozhboZ10

奉太郎「ううむ」

奉太郎「……姉貴が外国へ行っている時は、弁当無しだな」

える「ふふ、その時は私が作ります」

奉太郎「本当か?」

える「ええ、勿論です!」

奉太郎「ならそうだな、余計に自分で作る必要は無くなった」

える「……」

俺がそう言うと、千反田は頬を膨らませてこっちを見る。

える「やはりやめました、作りません」

奉太郎「……千反田の料理は美味いんだがなぁ」

える「……そう言われると、作ってあげたくなります」

える「でも、それをすると折木さんは自分で作りませんよね……」

そんな事を言いながら、一人考え込んでいる。


908: ◆Oe72InN3/k 2012/11/05(月) 22:14:11.63 ID:PozhboZ10

奉太郎「……ああ、こういうのはどうだ」

える「何でしょう?」

奉太郎「俺は一人じゃとても作れないから、千反田が教えてくれ」

奉太郎「そうすれば、少しは上達するだろう」

える「……それは良い案ですね!」

千反田はそう言うと、身を乗り出して俺の手を掴む。

……駄目だな、やはりこれはどうにも慣れない。

この千反田の近さに慣れる日は、俺にやって来るのだろうか。

奉太郎「ま、まあ……機会があったらだがな」

える「……意外と早く、来るかもしれませんよ」


909: ◆Oe72InN3/k 2012/11/05(月) 22:14:54.84 ID:PozhboZ10

なんだか意味がありそうな台詞だが……

ここで俺が、その台詞が気になると言ったら何だか負けた気がするので口には出さなかった。

奉太郎「ん、そろそろ昼休みも終わりだな」

時計を見ながら、俺は千反田にそう伝える。

える「あ、ほんとですね」

える「ではまた放課後に、ここで」

奉太郎「ああ、また後でな」

俺はもう少しだけ残っているのか、千反田に軽く手を挙げると古典部を後にした。

そして、放課後。

俺は昼休みに言っていた千反田の言葉の意味を、理解する事となる。


910: ◆Oe72InN3/k 2012/11/05(月) 22:15:46.65 ID:PozhboZ10

~古典部~

摩耶花「それで、私もちーちゃんみたいに上手くなれたらなぁ……って思うのよ」

奉太郎「つまり、何が言いたいんだ」

摩耶花「だから、皆でお弁当を自分で作ってきて、食べ比べてみない?」

奉太郎「……何故そうなる?」

里志「僕には分かるよ、自分を知りたければ他人を知れって事だね」

何だろう、ある様な気がするがそんな言葉は無かった気がする。

奉太郎「作ったか」

里志「さあ、先に言っている人が居てもおかしくはないけど、ありそうな言葉だと思うよ」

さいで。


911: ◆Oe72InN3/k 2012/11/05(月) 22:16:24.29 ID:PozhboZ10

える「ふふ、そうですね。 摩耶花さんの案は良いと思いますよ」

摩耶花「そうそう、そう思うでしょ?」

摩耶花「ちーちゃんには前から相談してたんだけど、言う機会が無くってさぁ」

なるほど、そういう事だったか。

……千反田め。

える「どうでしょう、やってみませんか?」

里志「僕も面白いと思う」

里志「福部流のお弁当を、見せてあげるよ!」

里志は勿論、即答で賛成する。

える「折木さんはどうでしょう?」


912: ◆Oe72InN3/k 2012/11/05(月) 22:16:50.67 ID:PozhboZ10

……こいつも随分と意地が悪いな。

俺が何て言うかなんて、分かっているくせに。

奉太郎「ああ、まあ……やってみるか」

摩耶花「よし! じゃあ一週間後でいいかな?」

里志「今日は水曜日だから、次の水曜日って事だね」

摩耶花「私は明日でも良いんだけど、折木がねぇ……」

そう言いながら、伊原は俺に嫌な笑いを向ける。

里志「ホータロー、一週間で何とか頑張ってね」

奉太郎「……それなりにはな」


913: ◆Oe72InN3/k 2012/11/05(月) 22:17:16.80 ID:PozhboZ10

摩耶花「折角一週間も猶予をあげるんだから、もうちょっとやる気出してよね」

奉太郎「それはどうも、優しい事で」

俺も勿論、やると言ったからには中途半端にはやりたくなかった。

明らかに手を抜く事も出来たが、そんな気分にはなれない。

える「では、一週間後に!」

随分と張り切っているな、千反田は。

まあ千反田なら、誰も文句を付けない弁当を持ってくるだろう。

俺も、しっかりやらないとな。

俺の想定外は、この日既に一つあった。

それは勿論、千反田の言葉の意味である。

あくまでもそれは、家に帰るまでの話。

学校が終わり、千反田を家まで送って行き、玄関の前に着いたときに本日二つ目の想定外の事が起きたのだ。


914: ◆Oe72InN3/k 2012/11/05(月) 22:17:42.86 ID:PozhboZ10

~千反田家前~

奉太郎「それじゃ、また明日」

俺は千反田にそう言うと、体の向きを変え、家路に着こうとする。

える「え、何を言っているんですか。 折木さん」

そう言いながら、俺の腕をしっかりと掴まれる。

奉太郎「何って、帰ろうとしている」

える「駄目ですよ、お料理の練習です」

……ええっと、既に夕焼けが綺麗な程に日が傾いているのだが。

奉太郎「……今からか?」

える「そうですよ、一週間しか無いので……今日から練習しましょう」

いやいや、別に一日遅れた所で大して変わらない……と思う。

そんな思いが顔に出ていたのか、千反田が再び口を開いた。


915: ◆Oe72InN3/k 2012/11/05(月) 22:18:25.79 ID:PozhboZ10

える「時間は限られているんですよ」

える「なので、今日からでは無いと駄目です」

える「この後に用事等は、無いですよね」

一言発する度に、顔を近づけ千反田は言って来る。

俺はそんな千反田を手で制しながら答えた。

奉太郎「わ、分かった」

奉太郎「今日からだな、分かった」

える「ふふ、ではさっそく練習しましょう!」

千反田はさっきまでの真剣な表情とは打って変わり、今度は笑顔になっている。

そんな表情を見れただけで、俺は今日、料理の練習をする事になったのを良かったと思った。


916: ◆Oe72InN3/k 2012/11/05(月) 22:18:59.42 ID:PozhboZ10

~千反田家~

色々と教えられながら、料理を作っていく。

千反田はそのままでは邪魔なのか、髪を後ろで縛っていた。

奉太郎「前から何回か思っていたんだが」

える「はい? どうしましたか」

……ああ、俺は今何を言おうとしているんだ。

つい、だったのだが……その後の言葉に詰まってしまう。

奉太郎「い、いや」

奉太郎「何でも無い、料理の続きをしよう」


917: ◆Oe72InN3/k 2012/11/05(月) 22:20:09.16 ID:PozhboZ10

~千反田家~

色々と教えられながら、料理を作っていく。

千反田はそのままでは邪魔なのか、髪を後ろで縛っていた。

奉太郎「前から何回か思っていたんだが」

える「はい? どうしましたか」

……ああ、俺は今何を言おうとしているんだ。

つい、だったのだが……その後の言葉に詰まってしまう。

奉太郎「い、いや」

奉太郎「何でも無い、料理の続きをしよう」


918: ◆Oe72InN3/k 2012/11/05(月) 22:20:43.65 ID:PozhboZ10

える「……」

一度外した視線を千反田に戻した所で、俺は気付いた。

やってしまった、と。

える「何でしょう、折木さんは何を仰ろうとしたんでしょうか?」

える「教えてくれますよね、折木さん」

奉太郎「そ、そんな大した事じゃない」

える「では、どうぞ」

奉太郎「……実は、かなり大した事がある」

える「そうなんですか?」

える「それでは、聞かない方がいいですね」

そう言い、千反田は調理をする為、体の向きを変える。

それを見ていた俺は、結局の所……喋る事になる。


919: ◆Oe72InN3/k 2012/11/05(月) 22:21:11.36 ID:PozhboZ10

奉太郎「その、あれだ」

奉太郎「……似合うと、思っただけだ」

俺の言葉を聞き、千反田は振り返った。

える「え? 似合うとは……どういう意味ですか?」

奉太郎「だから、それ」

言いながら俺は千反田の頭を指差す。

える「えっと……」

千反田は自分の頭を指されている事に気付いたのか、自分の頭を触っていた。

そしてそれを何度か繰り返し、ようやく気付く。

える「あ、そう言う事でしたか」

奉太郎「……まあ、それだけだ」


920: ◆Oe72InN3/k 2012/11/05(月) 22:21:43.67 ID:PozhboZ10

える「ありがとうございます、折木さん」

そう言い、千反田は俺の手を取った。

奉太郎「……お礼を言う程の事でも無いだろ」

奉太郎「ただ、俺が思った事を言っただけだ」

奉太郎「料理の続き、やるぞ」

俺は千反田にそう言うと、一人食材達と向き合った。

こうでもして話題を切らなければ、どうにも落ち着かない。

える「ふふ、そうですね」

える「続きを教えますね」

それからしばらく、二人で料理を仕上げていく。

正確に言えば、千反田監修の下……だが。

辺りがすっかり暗くなった頃、多分19時とか20時とか、そのくらいだろう。

料理はようやく仕上がった。


921: ◆Oe72InN3/k 2012/11/05(月) 22:22:22.46 ID:PozhboZ10

~縁側~

奉太郎「ここで食べるのか?」

える「ええ、折木さんに見せたい物があるんです」

見せたい物……また浴衣か?

奉太郎「秋祭りにでも行くのか」

える「……良いですね、今度調べておきます」

はて、祭りでは無いのか。

奉太郎「ううむ」

俺は一つ唸り声をあげ、少し考えてみた。


922: ◆Oe72InN3/k 2012/11/05(月) 22:22:49.89 ID:PozhboZ10

える「そんな考えなくても、すぐに分かりますよ」

奉太郎「……そうか」

なんだ、ちょっと真剣に考えようとしていたのだが。

える「とりあえずはご飯を食べましょう」

そう言えば、成り行きで千反田の家でご飯を食べて行く事になったが……

まさかとは思うが、来週の水曜日までこれが続くのだろうか?

悪くは無い、別に嫌でも無いのだが……少し迷惑では。

しかしそんな事を今考えても、答えなんて出ないか。

今はまあ、飯を食べよう。


923: ◆Oe72InN3/k 2012/11/05(月) 22:23:16.83 ID:PozhboZ10

える「ご馳走様です」

行儀良く両手を合わせ、千反田はそう言った。

奉太郎「ご馳走様です」

俺もそれに習い、手を合わせる。

える「ふふ」

千反田が突然、こっちを見ながら笑っていた。

奉太郎「何か悪い物でも食べたか」

える「酷いです、材料は全部私の家の物なんですよ」

奉太郎「なら、何で急に笑い出した」

える「……それはですね、思い出していたんです」


924: ◆Oe72InN3/k 2012/11/05(月) 22:23:47.52 ID:PozhboZ10

奉太郎「何を?」

える「前に、福部さんに言われた事です」

奉太郎「……里志に?」

奉太郎「くだらない事でも言われたか」

奉太郎「そうでなければ、何かしらの俺の思い出話か」

える「どちらも違いますが、後者のはちょっと気になりますね」

奉太郎「……今度、機会があればな」

奉太郎「それより、何て言われたんだ?」

俺がそう聞くと、千反田は口に手を当て、小さく笑うと答えた。

える「似ていると、言われたんです」


925: ◆Oe72InN3/k 2012/11/05(月) 22:24:14.45 ID:PozhboZ10

奉太郎「……似ている?」

える「ええ、私と折木さんが」

奉太郎「あいつもついに、おかしくなったか」

える「性格等の話では、無いと思いますよ」

奉太郎「……だったら、何が似ているんだ」

える「福部さんの言葉を借りますと」

える「なんだか、千反田さんを見ているとホータローを見ている気分になるよ」

える「その腕を組んだりする癖、そっくりだ」

える「と、仰っていました」


926: ◆Oe72InN3/k 2012/11/05(月) 22:24:41.37 ID:PozhboZ10

なるほど、そう言う事か。

しかし、どうにも里志の言葉だからと言えど……千反田に名前を呼ばれ、ちょっと恥ずかしい。

奉太郎「まあ、結構長い間一緒に居たからな」

奉太郎「そう言う事も、あるのかもな」

俺は恥ずかしさを消す為に素っ気無く言い、お茶を飲み込む。

える「あ!」

突然、千反田が何かを指しながら俺の肩を叩いてくる。

える「見てください、折木さんに見せたかった物です」

ああ、そう言えばそんな話だったっけか。

それを聞き、俺は千反田の指す空へと視線を向ける。


927: ◆Oe72InN3/k 2012/11/05(月) 22:25:22.97 ID:PozhboZ10

奉太郎「これは、すごいな」

空に走っていたのは、無数の流れ星だった。

える「天気が良いと、見れるとテレビで言っていたので……良かったです」

俺はしばし、その流れ星に目を奪われていた。

える「そう言えば、流れ星は願いを叶えてくれるんですよね」

奉太郎「そんな話もあるな」

奉太郎「千反田は……何か、願いでもあるのか」

える「ありますよ、私にも」

奉太郎「なら、願っておけばいいさ」

える「もう願いました、五回ほど」

五回も願ったのか、欲張りな奴だ。


928: ◆Oe72InN3/k 2012/11/05(月) 22:26:29.96 ID:PozhboZ10

える「折木さんは何か願い事、しないんですか?」

奉太郎「俺は、こういうのは信じていない性質なんで」

える「ふふ、そうですよね」

奉太郎「何がおかしいんだ」

える「いえ、折木さんが星にお願い事をしている姿が、想像できなかったので……ふふ」

奉太郎「……さいで」

流れ星は、ほんの5分ほどで消えて行った。

もう、流れ星が降る事も無い空を未だに見ながら、千反田は口を開く。

える「そう言えば、先程の事ですが」

える「私、この髪型をそんなにしていましたっけ?」


929: ◆Oe72InN3/k 2012/11/05(月) 22:27:39.45 ID:PozhboZ10

奉太郎「……ああ」

奉太郎「多分、だが」

奉太郎「……千反田の事は、良く見ていたのかもしれない」

える「そ、それは……あの、その」

える「う、嬉しい言葉です」

あたふたしている千反田を見て、俺は素直に可愛いと感じていた。

その感覚がなんだか自然で、思わず笑いが漏れる。

勿論、千反田に見られないように隠れてだが。

える「でも、逆にもなるんですよ」

奉太郎「逆? どういう事だ」

える「先程、福部さんが私に言った言葉を教えましたよね」


930: ◆Oe72InN3/k 2012/11/05(月) 22:28:11.41 ID:PozhboZ10

奉太郎「ああ、千反田を見ていると俺を見ている気分になる……だったか」

える「そうです、それでですね」

える「それは多分、私が折木さんの癖を、自然と真似しているんだと思います」

奉太郎「俺の癖を?」

える「腕を組んだりするのが、似ているらしいですよ」

奉太郎「と言われても、意識してやっていないから分からないな」

える「私も、福部さんに言われるまで全然気付きませんでした」

える「でもやはり、自然にそうなると言う事は、折木さんの事を自然に見ていたのかもしれません」

俺はその言葉にまた、気恥ずかしい気分になり、頭を掻きながら答える。

奉太郎「すまんな、変な癖を移してしまった様で」


931: ◆Oe72InN3/k 2012/11/05(月) 22:29:08.28 ID:PozhboZ10

える「いいえ、構いませんよ」

える「だって私は、幸せですから」

そう言い、俺の肩に千反田は頭を預けて来た。

奉太郎「そうか、なら俺も同じ気持ちだな」

える「……それは、良かったです」

それから数分だろうか、俺と千反田はそうしていた。

奉太郎「……じゃ、そろそろ帰るかな」

いつまでも居たら迷惑だろうし、俺もあまり遅くなってしまっては姉貴に何て言われるか分かった物では無い。

奉太郎「おい、千反田?」

える「……んん」

……当の千反田は、気持ち良さそうに寝ていたのだが。


932: ◆Oe72InN3/k 2012/11/05(月) 22:29:34.61 ID:PozhboZ10

奉太郎「……参ったな」

とりあえず、このままにしておいて風邪でも引かれたら後味が悪すぎる、場所を移そう。

そうして千反田を部屋の中へと移し、畳んで置いてあったタオルを一枚、千反田に掛けて置いた。

奉太郎「さて、どうした物か」

このまま帰ってもいいのだが、この家には誰も戸締りをする者が居ない。

千反田の両親が帰ってくれば良いのだが……いや、状況的にはあまり良くないか。

しかしそんな心配も杞憂だろう。

今まで何度も家に来ているが、千反田以外の人物は見た事すら無いのだから。

恐らく千反田は、家事やら何やら一人でしているのだろうな。

それで今日、俺に料理を教え、疲れて寝たと言った所か。

なら、そうだな……


933: ◆Oe72InN3/k 2012/11/05(月) 22:30:25.73 ID:PozhboZ10

食器洗いくらい、やっても良いだろう。

いや、むしろそのくらいしなければ罰が当たるかもしれない。

……違うな、俺はそんな神罰的な事等、信じていない。

それなら、理由としては。

千反田が起きるまでの暇潰し、としておこう。

これなら確かに合理的である。

俺は自分自身にそう、言い訳をすると食器の山へと立ち向かっていく。

奉太郎「ふわぁ……」

何だか俺も眠くなってきたが、こんな所で寝る訳にはいかない。


934: ◆Oe72InN3/k 2012/11/05(月) 22:31:31.55 ID:PozhboZ10

奉太郎「あいつも、大変なんだな」

やはりさっき、俺が自分に言い聞かせたのは建前で、本心は多分。

千反田の手伝いをする為、と言った所か。

まあ、そんな理由なんてどうでもいい。

俺が今一番考えなければいけない事は……姉貴への言い訳と、何時に帰れるか、の二つである。

奉太郎「……眠い」

そして眠気と戦いながら、俺は食器とも戦う事となった。


第21話
おわり


964: ◆Oe72InN3/k 2012/11/10(土) 22:13:57.78 ID:fcX3Mr2O0

える「段々と、良い感じになってきましたね」

奉太郎「そうか? 自分では全然分からんな」

える「正直、最初はどうしようかと思いました……」

奉太郎「悪かったな、そんなレベルで」

える「ふふ、冗談ですよ」

……こいつの冗談は、どうにも区別が付きにくい。

奉太郎「まあ、それもこれも全部、千反田さんのおかげです」

える「感謝の気持ちが、全く感じられないのですが……」

そうだろうか、こんなにも精一杯の言葉で現していると言うのに。


965: ◆Oe72InN3/k 2012/11/10(土) 22:14:31.77 ID:fcX3Mr2O0

奉太郎「ま、本当に感謝はしているさ」

奉太郎「ありがとうな」

える「いいえ、このくらいならいつでも」

える「それに、私も楽しめましたので」

奉太郎「そうか」

俺と千反田が取り組んでいるのは、料理。

伊原の提案で、古典部全員で何かしら作る事になっていたのだ。

その事に対し、俺は別に……物凄くやる気があった訳では無い。

しかしまあ、やりたく無かった訳でも無かった。


966: ◆Oe72InN3/k 2012/11/10(土) 22:15:14.29 ID:fcX3Mr2O0

える「あ、そういえばですけど」

千反田は何かを思い出したのか、人差し指を口に当てながら続ける。

える「作っていくお料理は、皆で揃える事になりました」

奉太郎「同じ物を作れって事か?」

える「ええ、比べるのにその方が良いと思いまして」

なるほど、確かに矛盾は無いな。

奉太郎「それで、作っていく物は何になったんだ?」

える「ええっとですね」

える「卵焼きです!」

卵焼き……卵焼き。


967: ◆Oe72InN3/k 2012/11/10(土) 22:16:05.28 ID:fcX3Mr2O0

奉太郎「一ついいか、千反田」

える「あの、折木さんが言いたい事が少し分かる気がします」

奉太郎「ほう、何だと思う?」

える「……今までの練習が、あまり意味の無い物に、と言う事でしょうか」

奉太郎「さすが千反田、その通りだ」

つまり、俺がここ最近千反田の家で練習していたのは、如何にも千反田らしい料理……

噛み砕いて言えば、ちょっと上級者向けの物だろうか。

俺は詳しい訳でも無いので、声を大きくしては言えないが……

卵焼きは恐らく、かなり初心者向けなのでは無いだろうか。


968: ◆Oe72InN3/k 2012/11/10(土) 22:17:05.60 ID:fcX3Mr2O0

える「で、でもですね!」

える「いつか役に立つ時が、来る筈です!」

奉太郎「やけに自信たっぷりだな」

える「ええ」

える「努力は必ず、報われますから」

ふむ、今まで大した努力もして来なかったので、俺にはちょっと分からない。

奉太郎「そうだと良いな」

える「絶対にです!」

える「私、努力をしている人は好きなので」

奉太郎「……そうか、それに俺も当てはまると良いんだが」

える「何を言っているんですか、折木さんが努力をしてきたのは、私が一番良く知っています」

奉太郎「……ああ、まあ」


969: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) 2012/11/10(土) 22:18:40.01 ID:fcX3Mr2O0

千反田が言う事は、分かる。

俺も手を抜いて練習していた訳でも無いし、周りから見たらそれは努力をしていると呼べるのかもしれない。

だが何だか、自分で僕は努力をしていますと言うのも違うので言葉を濁してその話は終わらせる事にした。

える「まだ少し時間があるので、練習しましょうか」

奉太郎「そうだな、そうしよう」

……あれ、ちょっと待て。

奉太郎「ちょっといいか、千反田」

える「はい? 何でしょうか」

奉太郎「千反田は、知っていたんだよな」

奉太郎「皆で同じ料理……卵焼きを作ると言う事を」


970: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) 2012/11/10(土) 22:20:05.51 ID:fcX3Mr2O0

える「勿論です、知っていましたよ」

奉太郎「なら何で、練習をすぐにそれに変えなかった?」

俺がそれを問いただした時、千反田はちょっとだけ焦っていた。

言葉にすれば、多分……しまった。 とかそんな感じの顔をしていた。

える「ええっと……」

える「あの、一緒にお料理をするのが……楽しかったので」

さいですか。


971: ◆Oe72InN3/k 2012/11/10(土) 22:21:57.00 ID:fcX3Mr2O0

~折木家~

そして、その日がやって来た。

俺はいつもより少しだけ早く起き、それに取り組む。

とは言っても、大して練習する時間も無かったのは事実であり、結果にもそれは出ていた。

奉太郎「……なんと言うか」

卵焼きと言うよりかは、炒り卵と言った感じか。

手を抜いた訳では無いが……まあ、時間も無いし別に大丈夫だろう。

卵を焼いたのは事実なのだし。

俺はそれを小さい容器に入れ、鞄の奥へと仕舞う。

そのまま鞄を背負い、家を出て行った。


972: ◆Oe72InN3/k 2012/11/10(土) 22:24:13.33 ID:fcX3Mr2O0

える「おはようございます、折木さん」

奉太郎「おはよう」

家を出るとすぐに、千反田が目に入ってくる。

これにも最近では随分と慣れてきた。

最初来た時は、事前に何も言われていなかったので相当驚いたが。

える「どうでした? 上手く作れましたか?」

学校までの道で、横に並んで歩く千反田が声を掛けてくる。

いつもはまあ、本当に他愛も無い会話をしているのだが、今日は勿論あれの事だろう。

奉太郎「ううむ、上手く……とはとても言えないな」

える「と言いますと、失敗したんですか?」


973: ◆Oe72InN3/k 2012/11/10(土) 22:24:55.17 ID:fcX3Mr2O0

奉太郎「結論から言うと、そうだな」

奉太郎「卵焼きと言うよりは、炒り卵と言った方が近いかもしれない」

える「そうでしたか……でも、焼いた事には変わりは無いので、大丈夫ですよ」

なんだ、俺は随分と投げやりにその結論を出したのだが……

千反田に同じ事を言われると、本当にそれが正しい気がしてくる。

奉太郎「そっちはどうなんだ?」

える「私ですか、私もあまり成功とは言えないかもしれません……」

奉太郎「珍しいな、失敗したのか?」

える「いえ、そう言う訳では無いのですが」

える「あ、それでしたら」

える「お昼に一つ、食べますか?」


974: ◆Oe72InN3/k 2012/11/10(土) 22:25:32.31 ID:fcX3Mr2O0

奉太郎「いいのか? 放課後に食べる分もあるんじゃないか」

える「いいえ、実はですね」

える「最初から、そのつもりだったので」

奉太郎「そうか……なら、貰おうかな」

える「ええ、福部さんや摩耶花さんには内緒ですよ」

奉太郎「分かっているさ」

奉太郎「それより、千反田が成功とは呼べない物には少し興味があるな」

える「気になりますか?」


975: ◆Oe72InN3/k 2012/11/10(土) 22:27:39.39 ID:fcX3Mr2O0

奉太郎「いや、そこまでじゃない」

える「気にならないんですか?」

奉太郎「……それも違うが」

える「どちらですか、それが私、気になってしまいます」

奉太郎「どっちかと言うと……少し、気になるかもしれない」

える「そうですか! それなら折木さんが気になる物、お昼まで楽しみにしておいてくださいね」

千反田はそう言うと、ようやく見えてきた校舎の中へと走って行ってしまう。

奉太郎「……何が満足なんだか」

俺は、聞こえてはいないだろう千反田の背中に向かってそう言うと続いて校舎に入って行った。


976: ◆Oe72InN3/k 2012/11/10(土) 22:28:05.21 ID:fcX3Mr2O0

~古典部~

午前の授業も終わり、俺は古典部へと足を運んだ。

扉を開けると、すぐに窓際に座っている千反田が目に入ってくる。

一緒に古典部まで行けばいい、とは思うのだが……なんだかそれは、俺も千反田も自然と避けていた。

奉太郎「早いな」

える「そうでもないですよ、折木さんが遅いだけです」

……否定はしないが。

その言葉は軽く流し、千反田の向かいの席へと俺も腰を掛ける。

奉太郎「それで、成功しなかった卵焼きとやらを見せて貰おうか」

える「あの、あまりそればかり言わないでくださいよ」


977: ◆Oe72InN3/k 2012/11/10(土) 22:28:47.10 ID:fcX3Mr2O0

千反田はそう言いながら、鞄から小さな容器を取り出した。

える「そう言えば、折木さんには一度、卵焼きを作ってましたっけ」

あったっけか、そんな事が……

ああ、映画を一緒に見た時か。

奉太郎「とは言っても、かなり昔だな」

える「ふふ、そうですね」

える「時が経つのは早い物です」

千反田はそう言い、窓の外に視線を移した。

やめてくれ、まだ若いままで居たいから、そんな年老いた雰囲気は出さないで欲しい。


978: ◆Oe72InN3/k 2012/11/10(土) 22:29:26.74 ID:fcX3Mr2O0

奉太郎「それで、食べていいか」

える「あ、そうでしたね」

える「どうぞ」

千反田は容器に手を掛け、開いた。

……なんだ、見た目は全然普通だな。

むしろ、俺のと並べたらそれは多分悲惨な事になるだろう。

奉太郎「じゃあ、いただきます」

俺はそう言うと、一つ卵焼きを口に入れる。

奉太郎「……うまいな」

何故、千反田が成功したと言わなかったのかが分からないくらいに、美味しかった。


979: ◆Oe72InN3/k 2012/11/10(土) 22:29:52.86 ID:fcX3Mr2O0

える「本当ですか?」

奉太郎「ああ、こんな事で嘘は付かない」

える「少々、味付けを失敗したんですが……ちょっと濃くないですか?」

奉太郎「……いや、別に?」

える「そうですか、それなら良いのですが」

ここまで美味しいのに、成功じゃないと言われてしまったら俺はどうすればいいのだろうか……

奉太郎「俺が作った奴も、食べてみるか」

える「良いんですか? 是非!」

そこまで期待されても困るが。


980: ◆Oe72InN3/k 2012/11/10(土) 22:30:20.48 ID:fcX3Mr2O0

奉太郎「じゃあ、ほら」

鞄から容器を取り出し、千反田の前で開ける。

える「これは、確かに卵焼きと言うよりは炒り卵と言った方が正しいですね」

奉太郎「だろうな」

える「でも、食べてみなければ分かりませんよ」

そう言うと、千反田は少しだけその卵を取り、口に入れた。

える「おいしいですよ、折木さん」

……何だか、照れるな。

正面から言われると、どうにも目を合わせられない。

奉太郎「……そうか、それなら良かった」

それからは、それぞれの容器を仕舞うと弁当を広げ食べ始める。

まあ、千反田が美味いと言ってくれたから……これで少しは安心できると言う物だ。

味も最悪だったら、伊原に何と言われるか分かった物じゃないからな……


981: ◆Oe72InN3/k 2012/11/10(土) 22:31:05.11 ID:fcX3Mr2O0

~放課後~

里志「と言う訳で、皆作ってきたかな?」

摩耶花「勿論、作ってきたわよ」

摩耶花「皆に聞くより、一人に聞いた方が良いと思うけど」

伊原はそう言いながら、俺の方に顔を向けてくる。

奉太郎「失礼な、俺もしっかり作ってきたぞ」

摩耶花「へえ、楽しみにしておくわね」

里志「じゃあ、ホータローのは最後のお楽しみにしておくとして、最初は僕でいいかな?」

える「そうですね、ではお願いします」

里志「了解! とは言っても普通のだけどね」

里志が取り出したのは、一見すると言葉通り、普通の卵焼きであった。


982: ◆Oe72InN3/k 2012/11/10(土) 22:32:17.31 ID:fcX3Mr2O0

摩耶花「それじゃ、貰うわね」

伊原の言葉を合図に、里志を除く三人が箸を伸ばす。

奉太郎「……うまいな」

何だろうか、少し辛い? そんな感じの味だ。

える「これは、明太子ですか?」

里志「そう、流石は千反田さん! 食べてからすぐに分かって貰うのは作る側として嬉しいよ」

摩耶花「……確かに、悔しいけど美味しいかも」

里志「ただの卵焼きじゃ、何だかつまらないと思ってね。 一工夫してみたんだ」

……なるほど、里志らしい考え方と言えばそうかもしれない。


983: ◆Oe72InN3/k 2012/11/10(土) 22:35:06.14 ID:fcX3Mr2O0

摩耶花「次は私かな?」

える「あ、私でも構いませんよ」

里志「いやいや、次は摩耶花に頼みたいかな」

える「どうしてですか?」

里志「それは勿論、落差を楽しみたいから」

……覚えとけよ、里志め。

千反田は何か言いたそうな顔をしていたが、里志の勢いに流されてしまう。

摩耶花「それじゃあ、私のはこれ」

伊原のも、一見して普通の卵焼きか。

……見た目で違いなど、分かる訳無いか。


984: ◆Oe72InN3/k 2012/11/10(土) 22:37:36.93 ID:fcX3Mr2O0

奉太郎「どれどれ」

卵焼きを一つ箸で掴み、口に入れる。

奉太郎「む……甘いな」

える「みりんとお砂糖ですね、私はこの卵焼きも好きです!」

……さっきから思うが、千反田が料理の先生に見えて仕方ない。

里志「うん、美味しいね」

里志「……これだけ出来るなら、食べ比べる必要も無かったんじゃないかなぁ」

摩耶花「それ、ちーちゃんのを食べてから言って欲しいな」

える「そんな、私のも皆さんと同じくらいですよ」

千反田はそう言いながら、鞄から容器を取り出す。


985: ◆Oe72InN3/k 2012/11/10(土) 22:38:53.92 ID:fcX3Mr2O0

摩耶花「なんか見た目から、とっても美味しそう」

里志「そうだね……って」

里志「気のせいかな、器に比べて中身が少なくない?」

本当に、小さい事を気にする奴だな。

える「あ、あのですね、器がこれしか無かったので……」

摩耶花「ふうん、まあ一つ貰うわね」

何とか誤魔化せたみたいだが、千反田の慌てっぷりから少々冷や汗を掻いてしまった。

もう少し、上手く誤魔化せない物か……

摩耶花「わ、これ美味しい」

里志「ほんとだ、味付けは普通に醤油かな?」

える「ええ、何か工夫をしようと思ったのですが……色々思いついてしまって」


986: ◆Oe72InN3/k 2012/11/10(土) 22:39:33.39 ID:fcX3Mr2O0


摩耶花「それで、結局最初に戻ったって訳ね」

える「ふふ、そうです」

里志「まあ、それでも僕達のとはやっぱり比べ物にならないなぁ」

える「そんな事無いですよ、福部さんのも摩耶花さんのも、とても美味しかったですよ」

摩耶花「そうね、ふくちゃんのも美味しかったなぁ」

摩耶花「今度、作り方教えてもらおっと」

里志「うん、何か新しいのにもチャレンジしてみたいし、いいかもね」

里志「それより、一ついいかい?」

える「はい、何でしょうか」

里志「あ、いや。 千反田さんじゃなくて、ホータローに」

俺に? また急に……何だと言うのか。


987: ◆Oe72InN3/k 2012/11/10(土) 22:40:49.66 ID:fcX3Mr2O0

里志「ホータローは、千反田さんのを食べないのかい?」

……さっきは千反田に、心の中でダメ出しをしたが、どうやら俺もやらかしたらしい。

奉太郎「ああ、いや……食べる」

くそ、余計な事を考えすぎていたか。

える「は、はい。 どうぞ」

千反田も慌てながら渡してくる物だから、余計に怪しくなってしまう。

奉太郎「ありがとう、じゃあ貰うか」

俺も千反田の卵焼きを一つ貰い、口に入れる。

奉太郎「……美味いな」

ううむ、里志や伊原のとは違い……いや、二人のも十分に美味かったが。

比べるとやはり、千反田のは美味かった。


988: ◆Oe72InN3/k 2012/11/10(土) 22:41:29.61 ID:fcX3Mr2O0

里志「それじゃ、次はホータローの番だよ」

奉太郎「……ほら」

そう言い、俺は鞄からそれを取り出し、机の上に置く。

摩耶花「よっ」

勢い良く、伊原がふたを開いた。

里志「ホータロー、今日作ってくる物は何だっけ」

奉太郎「……卵焼きだな」

摩耶花「それで、折木が作ってきたのは何?」

奉太郎「……卵を焼いた物だ」

里志「違うね、これは卵を炒った物だよ」

さいで。


989: ◆Oe72InN3/k 2012/11/10(土) 22:42:17.14 ID:fcX3Mr2O0

える「み、見た目はともかく、味も大事ですよ!」

千反田のフォローが、少し辛い。

里志「うーん、まあいいか」

里志「それじゃ、頂きます」

里志と伊原と千反田は、それぞれ箸を伸ばす。

里志「……ちょっとしょっぱいかな?」

奉太郎「……醤油を入れすぎたかもな」

摩耶花「ちょっと、あんた真面目に作ったの?」

失礼な、かなり真面目に取り組んだつもりだと言うのに。

里志「やっぱり、練習した方が良かったかもね」

千反田との毎日の練習を、こいつらに見せてやりたい。


990: ◆Oe72InN3/k 2012/11/10(土) 22:43:30.13 ID:fcX3Mr2O0

える「あ、あの……折木さんも、真面目にやられていたと思いますよ」

摩耶花「無いって! 絶対適当にやってたでしょ」

里志「そうそう、ホータローが真面目にやるのは、面倒事を避ける時だけだよ」

随分と酷い言われ様である、まあ……今に始まった事では無いので別にいいが。

奉太郎「それじゃ、今日のは終わりでいいか」

摩耶花「なんか納得行かないけど……ふくちゃんとちーちゃんのは、勉強になったしいいかな」

里志「了解、日が落ちると寒くなるから、そろそろ帰ろうか」

そう言い合うと、それぞれ自分の荷物へと手を伸ばした。

える「……待ってください」

何だ、この後に及んでまだ何かあると言うのか……


991: ◆Oe72InN3/k 2012/11/10(土) 22:45:30.56 ID:fcX3Mr2O0

奉太郎「どうしたんだ」

える「折木さんは、真面目に作っていました」

える「絶対に、適当にやっていた何て事は無いです」

える「……納得、出来ないんです」

別に、俺自身は大して気にしていないのだが……

える「一週間、一緒にお料理の練習をしていたんです」

える「毎日、学校が終わった後に」

える「そんな折木さんが今日、適当に作ってくる事は無いんです」

こうなってしまっては、千反田は結構頑固だ。


992: ◆Oe72InN3/k 2012/11/10(土) 22:46:15.33 ID:fcX3Mr2O0

里志「そ、そうだったのかい。 ごめんね、千反田さん……ホータローも」

珍しく怒っている千反田に、里志は少し慌てていた様子だった。

それが見れただけでも、今日は散々言われた甲斐があったと言う物だ。

摩耶花「ご、ごめん。 知らなくてつい」

える「……すいません、少し言い過ぎました」

える「お二人がそれを知らなかったのも、当たり前の事です」

奉太郎「……まあ、俺は全く構わないんだがな」

奉太郎「今度何か奢って貰う事で、許してやろう」

里志「はは、それは冗談かい?」

奉太郎「それをどっちと取るかは、里志と伊原に任せるさ」

摩耶花「……急に偉そうになったわね」

……冗談のつもりだったが、普段冗談を言わないだけでこうも言われるのか。


993: ◆Oe72InN3/k 2012/11/10(土) 22:46:56.42 ID:fcX3Mr2O0


える「では! 帰りましょうか」

える「もう少しで日が落ちてしまいますし」

里志「そうだね、また今度……次は何がいいかな?」

摩耶花「そうね、今度はちーちゃんに教えて貰って作りたいかな」

える「私で良ければ、いつでも大丈夫ですよ」

奉太郎「……俺はもう勘弁して貰いたいが」

摩耶花「折角教えて貰ってたのに、そんな事言うんだ」

里志「ホータローは、千反田さんの料理じゃ参考にならないって言いたいのかなぁ」

える「え、そうなんですか……折木さん」

……これは、またしても厄介な事になりそうである。


994: ◆Oe72InN3/k 2012/11/10(土) 22:47:58.54 ID:fcX3Mr2O0

える「決めました、今日は寒いので……」

える「折木さんが、帰りに暖かい飲み物をご馳走してくれるみたいです」

ほら、なった。

奉太郎「却下だ」

里志「ああ、寒くて寒くて僕は倒れそうだ」

奉太郎「……却下だ」

摩耶花「私も……さっきから体の震えが止まらない」

奉太郎「……却下だ」

える「折木さんは、友達を見捨てるんですか!」

千反田、一つ教えてやろう。

その台詞は、笑顔で言う物では無いと。


995: ◆Oe72InN3/k 2012/11/10(土) 22:48:30.29 ID:fcX3Mr2O0

うう……気温も低ければ、財布も寒くなる物なのだろうか。

……いかんいかん、これは年老いてからの駄洒落だろう。

そんな事を思い、かぶりを振りながらどう切り抜けようかと考える。

しかし良い考えが思い浮かばず、それならば別に、飲み物の一本や二本くらい……別に良いか。

……いや、良くはないだろうが。

外を歩き、肌には秋らしい冷たさが感じられる。

だが、不思議と暖かかった。


第22話
おわり

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