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伊織「サイドストーリー」
伊織「ま、私にかかればこんなの通過点に過ぎなかったわけだけど」
伊織「一歩間違えれば……って、私らしくもないわね」
伊織「そうよなるべくしてこうなったんだもの」
伊織「でも、それはそれで、違った方向に進んでたら?」
伊織「……案外面白そうね」
伊織「例えば……」
>>5
安価はアイマスSSのスレタイ形式で
例)P「伊織が原発作業員に?」、貴音「らぁめんなんてもう見たくもありません」など
DS組はプレイ中なので非推奨 モバは専門外
10~20レス程度でまとめて行く予定 書く側をやりたい人歓迎
スレタイにあるので最初の話にはできるだけ伊織を絡めていく予定
美希「デコちゃんおはようなのー」
伊織「だからデコちゃん言うな!」
亜美「あ、いおりん……デコちゃんおはー!」
伊織「言い直すな!……あんたたちだけ?」
美希「そうみたい」
伊織「そう、珍しいこともあるのね……というか暑いわねぇ……」
亜美「あー確かに。もう10月なのにたまに暑くて、洋服困るんだよねー」
伊織「それもあるけど汗がもう最悪。はぁ、シャワー入ったばっかりなのに……」
美希「あはっ!デコちゃんのデコ、光ってるの!」
伊織「は、はぁ!?美希アンタいい加減にしなさいよ?」
亜美「えーでも光ってるしー」
伊織「し、仕方ないでしょ!暑いのよこの事務所!冷房……と言うか扇風機か何か……」
亜美「あ、はるるんおっはー」
伊織「ちょうど今扇風機を出したところよ」
春香「あ、伊織おはよう!こんな時期に、って思っても暑いときはこれだよね!」
亜美「そんじゃ、スイッチオーン!」
伊織「ちょ、ちょっと待ちなさい!」
亜美「え?なんで?」
伊織「あ、そ、その……ほ、ホコリが舞うでしょう?軽くホコリをとってからじゃないと」
亜美「あ、そっか。流石いおりんじゃなかった、デコちゃん」
伊織「……亜美?」
亜美「あ、あははー……冗談っしょー!」
春香「でも、私はいいと思うけどな~伊織のおでこ」
伊織「は、春香!?」
美希「うん、ミキも別に変な意味で言ってるわけじゃないの。デコちゃんのチャームポイントだって思うな」
伊織「……そ、そうかしら」
春香「あ、亜美……それはいくらなんでも……」
亜美「もー冗談だってばー!」
伊織「アンタのは冗談に聞こえないのよ……」
亜美「でもさ、髪が薄くてひらひらーっていうので笑い取ってる人もいるじゃん?」
伊織「私は芸人か何かか!」
美希「デコちゃんはツッコミでいけるのー」
伊織「あ、アンタまで……」
春香「あ、あはは……」
亜美「よっし!こんなもっしょ!セットしてー……スイッチオーン!」
春香「あー……涼しいね~、でも夏の時とはちょっと違う感じ」
美希「気持ちいの……あふぅ……」
伊織「やっぱりいいわねぇ……」
亜美「……隙あり!!」
ブォン!
伊織「ちょ、亜美?きゃぁ!」
伊織「や、やめなさいよ!か、髪が乱れるじゃない!」
亜美「そりゃそりゃ!次ははるるんじゃー!」
春香「きゃっ!ちょ、ちょっと亜美!」
亜美「続いてミキミキ!」
美希「あ゛~~~ふ~~~」
伊織「亜美!いい加減に!」
亜美「もー!そんなに怒ってばっかりだと禿ちゃうぞ!」
伊織「ばっ!だ、誰が!」
亜美「なんてジョーダン!アメリカンジョーダンだよー!」
伊織「……もう突っ込むのも飽きたわ」
亜美「ってわけで最終兵器、最強の風をくらえーー!!!」
伊織「え?や、やめっ……!!」
ヒラッ
春香「い、おり……?」
美希「デコ……ちゃんの髪が……落ちたの」
亜美「あ、あれ?亜美、やりすぎちった?」
伊織「……」
スッ
春香「……これって、さ」
亜美「……」
美希「……」
伊織「ズラ……」
春香「伊織……」
亜美「いおりん……?」
美希「デコちゃんが……ハゲちゃんだったの……」
伊織「い、いやあああああああ!!!」
春香「おはよう伊織!」
亜美「いおりん!待ってました!」
美希「あはっ!デ……伊織遅いの!」
伊織「あはは!ちょーっと髪の手入れをしてたら遅くなっちゃって」
春香「あはは!伊織らしくないなー!」
亜美「もー!そんなにおめかしして!まさか、誰かとお出かけ?」
伊織「バカ!そんなんじゃないわよ!女の身だしなみでしょ?髪は女の命なんだから!」
美希「伊織は綺麗だから、そんな必要ないって思うな!」
伊織「あはは、美希はお世辞がうまいわね!でもありがたくうけとっておくわね!」
亜美「でもでも、中途半端にあるよりは全くない方が手入れってしやすそうだよね!……あ、あれ?」
シーン
亜美「あ……いや……」
春香「……はぁ」
美希「空気が読めない子なの……」
亜美「あ、あはは……いおりん超綺麗!髪ふっさふさ!」
伊織「」ニコニコ
亜美「や、やだよぉ……ね、いおりん?お願い、違うの!さっきのは本当に!褒めてたの!」
伊織「」ニコニコ
亜美「やだやだやだ!!はるるん!ミキミキ!助けてよぉ!!」
伊織「よかったわね、亜美」
亜美「……え?」
伊織「ズラって高いのよ?」
イヤアアアアアアアアア
春香「……」
美希「あふぅ……」
美希「だ、だめなの春香!笑ったりしたらふふっ!」
伊織「亜美、大丈夫よ」
亜美「もうダメだよぉ……双子の髪が無い方って呼ばれるようになっちゃうよぉ……」
伊織「聞いて、亜美。毛と言うものは外部からの侵入や外傷を防ぐためのガードマンの役割を持っているわ」
伊織「でも、人間はそれを最低限に抑えることができる、それはそれ以外の方法で対応することができたり、傷つくことがなかったりするから」
伊織「つまりね、毛が無い方が優秀な人間なのよ?ほら、私を見て?」
亜美「い、いおりん……うん、本当、いおりんが神様に見えるよ……後光が見える……」
美希「ぶふっ!」
春香「……」
美希「はっ!……コホン、なの」
伊織「だから、元気を出して?そうね、これから言われるとしたら”より進化した方の双子”って呼ばれるわよきっと」
亜美「そっか、それなら……いいかな……ぐすっ」
伊織「ふふっ、泣くほど嬉しいのね?無理もないわ、この領域に達するには勇気が必要だもの。……それと、美希?」ニコッ
美希「なのっ!?」
美希「死ぬの……こんなのもう生きていけないの……」
伊織「待って、美希。……これは聞いた話なんだけれど」
美希「もういいの……こんなんじゃ、何もキラキラできないの……あ、キラキラはしてるの。あはっ、あはは……」
伊織「プロデューサー、ハゲが好きみたいよ」
美希「うん!ミキもっともっとキラキラしてみせるの!というかハニーはそれが目的だったの!」
春香「……」
伊織「春香は、いいのかしら?」
春香「う、うん!すっごくうらやましいけど、遠慮しとくね!」
伊織「……」
春香「だ、大丈夫!私ドジだから、まだ髪生やしていたい派というかさ!ね?」
伊織「わかったわ……でも、気が向いたらいつでも言ってちょうだい?」
春香「わ、わかったよ!ありがとう!」
春香「……この扇風機が、元凶なのかな」
春香「い、伊織!?」
伊織「大丈夫よ、何かしようってわけじゃないの」
春香「……一つ、聞いていいかな」
伊織「何かしら」
春香「……」
伊織「いいのよ、もう今更だもの」
春香「その、さ……あれは、ズラだったのかな?扇風機で抜け落ちたわけじゃないんだよね?」
伊織「……ふふっ」
春香「い、伊織?」
伊織「デコが広い、って。それだけで生え際が後退してるって、思ってた?」
春香「い、いやそんな」
伊織「だからズラをして?あははっ、そんなのバカらしいわよ。だって、生やすならもう少しバサッ!っとやると思わない?」
春香「あ、そ、そうだよね!あはは!」
伊織「普通はね」
春香「あ、えっと……」
伊織「それで、ズラにしたの。わかる?」
春香「い、いやその……」
伊織「あのあふぅあふぅ言ってるやつにデコデコ言われる気持ちがわかる!?」
春香「あ……」
伊織「私は好きでデコったわけじゃないの!だから決めたのよ、アンタのためじゃない。私は自分の意思でデコったって」
春香「……」
伊織「だから、美希がデコデコ言うのは偽物。もうあのデコは消したもの。私はデコじゃない、ハゲ」
伊織「それで?あの扇風機で飛んだらハゲって……お笑いよね」
春香「も、もう何がなんだか……と、とにかく落ち着いて……」
伊織「……ごめんなさい。ちょっと、取り乱してしまったわね」
春香「ううん、仕方ないよ。だって、あんなことが起こったあと、あんなことが起こったんだもん」
伊織「……それじゃ、覚悟はできてるってことでいいのかしら」
春香「……もう、いいや。いいよ、私もデコるよ」
雪歩「誰もいない、のかな……」
伊織「あら、おはよう」
真「あ、なんだいるんだ伊織おはよう」
雪歩「伊織ちゃん、おはよう」
伊織「……」
真「伊織?」
伊織「……ね、真」
真「?」
伊織「きゃぴぴぴぴーん!!デコちゃんなりよー!!」
真「ブフッ」
伊織「……残念。デコってお終い」
真「え?な、何?」
春香&美希&亜美「アイアイサー」
毛のないアイドルという斬新なキャッチコピー、髪をバッサリ切ってスキンヘッドにすることを”デコる”と形容した伊織の影響で
若者たちの中で爆発的にヘアスタイルとしての”ハゲ”が流行となり、永久脱毛するものまで現れたという
もちろん元から髪が心許なかった世代にとってこれ以上ないチャンスということもあり
765プロは老若男女、人種を超え世界中から評価され、デコるは流行語大賞となり、ハゲを流行らせたということで伊織はギネスに認定された
なんでも巷では”髪様”だとか”凸神”とか言われているそうな
さて伝説となった765プロはというと……
伊織「みんな、仕事に行っちゃったわね」
伊織「少し、やりすぎちゃったみたい。私は有名すぎてなかなか仕事が回ってこないけど、お金はもう十分」
伊織「髪がこんなにも大切なものだったなんて、思いもしなかったわ」
伊織「でもね、これだけは言わせてほしい」
伊織「デコることは簡単、選んで髪をはやすのは難しいの」
伊織「今じゃそんな常識通用しないけれど、なんとなく言ってみたかっただけ」
伊織「……あら、そろそろ私も時間ね」
伊織「伊織の別にアンタ達のためにデコったんじゃないんだからね!の収録だわ」
伊織「何よ、そんな顔して。え?丸くなったって?うるさいわよ!……でも、確かにそうかもね」
伊織「……それじゃ、また会いましょうか。それまでにデコっておかなきゃ、ただじゃおかないんだから!にひひっ♪」 終わり
次>>43
やよい「なんでもかんでももやしで解決!粗食少女マジカルやよい!ただいまさんじょーです!!」
あずさ「あ、あら?やよいちゃん?」
やよい「違います!マジカルやよいです!あずささん、何か困ってるんですか!」
あずさ「あ、実はまた道に迷っちゃって……生憎今日は携帯を持ってきてなくって、それほど遠くないからいいんだけれど困ったわぁ……」
やよい「……うっうー!!」
P「説明しよう!マジカルやよいはひらめいたとき右手を高く掲げうっうー!と叫ぶのだ!」
やよい「あずささん!こっちを見てください!」
あずさ「あら?何か落ちて……もやし?」
やよい「はい!こんなこともあろうかともやしを落としながら着たんですよ!」
あずさ「あら、ということは帰れるわね!」
やよい「はい!」
あずさ「あ、あれ?でもやよいちゃん?」
やよい「マジカルやよいです!」
やよい「それはそうですよ!本当に落としながらくるわけないじゃないですか!もったいないです!」
あずさ「え、えぇ……?そ、それじゃどうやって……」
やよい「ふっふっふー……ここからがマジカルやよいの力です!おうぎ!もやしりめんばー!」
P「説明しよう!もやしりめんばーとは、対象物にもやしの幻覚を施し、それを記憶しておくことで事柄やその状況を記憶しておくことができるのだ!」
やよい「なのでこの道にはもうもやしがいっぱいに見えてますよー!」
あずさ「そ、そうなの……?」
やよい「こっちですよー!」
あずさ「ほ、本当に帰ってこれちゃったわね……でも服からなんとなくもやしのにおいがしてるのは気のせいかしら……」
やよい「それじゃ私はこれで!」
あずさ「ありがとうね、やよいちゃん?」
やよい「マジカルやよいです!あ、もやし返してください!」
あずさ「あ、え、えぇ……」
やよい「それじゃ、最後に手を出して~……ハイターッチ!カイケツ完了!」
やよい「なんでもかんでももやしで解決!粗食少女マジカルやよい!ただいまさんじょー!」
貴音「おや、やよいではありませんか」
やよい「違います!私はマジカルやよいです!」
貴音「まじかる……?」
やよい「それより貴音さん!何か困ってるんですか?」
貴音「あ、そうなのです。実は今日行く予定だったらぁめん屋が休日ということでしまっていたのです」
やよい「他のところで食べればいいんじゃないですか?」
貴音「そんなこと!この店のらぁめんに対する冒涜でしょう!……とはいうものの腹の音は収まってはくれず、途方に暮れていたところです」
やよい「うー……難しいですー……! うっうー!!」
貴音「や、やよい?」
やよい「任せてください!そのお店はどこにありますか?」
貴音「えぇ、と少々歩きますがよろしいのですか?閉まっているのですよ?」
やよい「大丈夫です!」
やよい「ふむふむ……やっぱり少し残ってます!それじゃ見せてあげます、私の力!」
貴音「一体何を……」
やよい「おうぎ!もやしめいきんぐ!」
P「説明しよう!もやしめいきんぐとはもやしの色や味、匂いを変化させることでまるでそのものがあるかのように思わせることができるのだ!」
やよい「私は食べ物のにおいをだいたいわかります!……はっ!……で、できました貴音さん!」
貴音「これは……もやし、ですが」
やよい「ふっふっふー……でも、食べてみればわかります!どうぞ、召し上がれ!」
貴音「ふむ……本来はらぁめんの気分なのですが……!?こ、この香りは……いただきます」
やよい「……どうですか?」
貴音「……これは」
貴音「ドロっとした濃厚スープが絡んだ、あの店特有の極太麺……やよい、これは一体……」
やよい「えへへ~これがもやしパワーです!」
貴音「なんと面妖な……完全にあの味、ではあるのですがらぁめんはやはりスープから味わうのが至高……というのはいささか贅沢でしょうか」
やよい「なるほど……それじゃ、このもやしをどうぞ!吸ってください!」
やよい「えへへー!」
貴音「素晴らしい……あのスープが、しっかりほどよい熱さで流れ込んできます……なんと心地よい」
やよい「そのもやしを口に含んでいれば、いつもと同じようにらぁめんを食べてるのと同じ感じになりますよ!」
貴音「な、なんと面妖なのでしょうか……ありがとうございまふ、やよい」
やよい「あ、ですけど……一つ問題が」
貴音「なんでひょうか?あ、その前に次のもやしを頂けますか?」
やよい「このまほう、あと3回しか使えないんです」
貴音「な、なんとー!」
やよい「なので、もやしもあと三本です……」
貴音「そ、そんな……まだ一口しか食べておりません……スープを味わう段階で、まだ潤っておりませんのに……」
やよい「……じゃあ、いらないですか?」
貴音「そのようなことは断じて!3つでよいです!頂けますか!」
やよい「は、はい、どうぞ!」
貴音「んむ、んむ……これです……なんとも……あぁ、しかし……」
やよい「……ごめんなさい、私の力が足りなかったばっかりに」
貴音「い、いえそのようなことはないのですよ、誠、助かりました」
やよい「そうですか!そう言ってもらえると嬉しいですー!」
貴音「……確かに、ある程度物足りなくはありますが、いくらか満たされたかと……やよい?」
やよい「もーマジカルやよいですってば!」
貴音「あぁ、そうでした。それではまじかるやよいその……もやしとにおいさえあればまた、やっていただけますか?」
やよい「はい!1日1回でよければ!」
貴音「あれほどに再現度の高いもの……あれだけの量しかいただけないのは辛いですが、それ以上に惹かれるものがあります故」
やよい「わかりました!それじゃ、最後に手を出して~!」
貴音「手、ですか?あぁ、なるほどいつもの、あれですね」
やよい「そうです!ハイターッチ!カイケツ完了!それじゃ、また!」
貴音「……ありがとう、まじかるやよい」
貴音「貴方のもやしは、まるで太陽のような……不思議な味でした。ごちそうさまでした」
やよい「……ごめんなさい、私の力が足りなかったばっかりに」
貴音「い、いえそのようなことはないのですよ、誠、助かりました」
やよい「そうですか!そう言ってもらえると嬉しいですー!」
貴音「……確かに、ある程度物足りなくはありますが、いくらか満たされたかと……やよい?」
やよい「もーマジカルやよいですってば!」
貴音「あぁ、そうでした。それではまじかるやよいその……もやしとにおいさえあればまた、やっていただけますか?」
やよい「はい!1日1回でよければ!」
貴音「あれほどに再現度の高いもの……あれだけの量しかいただけないのは辛いですが、それ以上に惹かれるものがあります故」
やよい「わかりました!それじゃ、最後に手を出して~!」
貴音「手、ですか?あぁ、なるほどいつもの、あれですね」
やよい「そうです!ハイターッチ!カイケツ完了!それじゃ、また!」
貴音「……ありがとう、まじかるやよい」
貴音「貴方のもやしは、まるで太陽のような……不思議な味でした。ごちそうさまでした」
やよい「なんでもかんでももやしで解決!粗食少女マジカルやよい!ただいまさんじょー!」
真美「え、え?やよいっち?」
やよい「違うの!マジカルやよい!何か困ってること、ある?」
真美「ま、マジカルってあはは!何それ!」
やよい「な、なんで笑うの!」
真美「ご、ごみんごみん!で、なんでそんなこと……って格好もなんか、もしかして意識してる?」
やよい「い、一応……じゃなくて!何か困ってることがないか聞いてるの!」
真美「あ、そだそだ。なんかゲームが動かなくってさー」
やよい「え?」
真美「あ、そっか!さっきもやしでどうとか言ってたし、助けてくれるんだよね?」
やよい「あ、う、うん」
真美「よかったー!これ頑張んないと亜美に負けちゃうからさー。じゃ、はいこれ」
やよい「あ、えっと……」
真美「どしたの?まさか、できないとか?」
真美「お?」
やよい「おうぎ!もやしいんぱくと!」
真美「おー!それっぽい!」
P「説明し……あれ?そんなのあったっけ?」
やよい「と、とりゃああ!!」
真美「わーー!!な、何すんのさやよいっち!」
やよい「静かに!」
真美「え、え?」
やよい「こうしておけばもやしのパワーで直るから!」
真美「い、いやいやいや!絶対無理っしょそんなの!」
やよい「もやしはすごいんだよ!体にもいいし、安いし!」
真美「それはわかるけど今関係ないっしょー!もーできないならいいよー!」
やよい「むー……!もう知らない!真美のバカ!」
真美「な、何さ……あ、あれ?……直ってる」
やよい「なんでもかんでももやしで解決!粗食少女マジカルやよい!ただいまさんじょですよー!」
響「おーやよい!どうしたんだ?」
やよい「だからもーやよいじゃないんです!マジカルやよいなんですよー!」
響「なんだかわかんないけど助けてくれるのか?」
やよい「そ、そうです!何か困ってるんですか!」
響「ちょっとハム蔵の様子がおかしいんだ」
やよい「そうなんですか?」
響「なんていうか具合悪そうで……でも忙しくて病院にも連れて行ってあげられないし……」
やよい「なるほど……うっうー!!」
響「やよい?」
やよい「任せてください!もやしは最強なんですよー!」
響「も、もやし?」
P「説明しよう!やよいのもやしは普通に食べるだけでも普通のもやしに比べて栄養値が高く、簡単な病気なら治ってしまうのだ!」
やよい「というわけでこれをハム蔵さんに!」
響「だ、大丈夫なのか……?」
やよい「……」
響「お、おいハム蔵?う、動かなくなっちゃった……けど」
やよい「あ、あれ?」
響「う、嘘だよな?お、おいハム蔵!」
やよい「ね、寝てるだけですって!」
響「……」
やよい「ひ、響さん……」
響「ごめん……ハム蔵が戻るまで、一人にさせてくれるかな……」
やよい「で、でも!私のせい、かもしれないですし……」
響「……ごめん」
やよい「……っ!」
やよい「本当にハム蔵さんが戻らなかったら……」
伊織「やよいー!」
やよい「い、伊織ちゃん?って私は今……」
伊織「あずさのこと、知らない?」
やよい「え?あずささんならさっき……」
伊織「いなくなっちゃったのよ……携帯も持ってないし……」
やよい「そ、そんな……」
伊織「あら、電話……えぇ私……え?貴音が?」
やよい「え?」
伊織「……そう、わかったわ。誰か向かわせるから、それじゃ」
やよい「た、貴音さん……何か?」
伊織「ラーメン屋の前でうろうろして不審者か?っていう電話が来たらしいの、一体何をしてるのよ……」
やよい「……わ、私……!!」
伊織「あ、ちょっとやよい!!」
やよい「もやしじゃ、みんなの迷惑になるだけ、なのかな……」
あずさ「そんなこと、ないわよ?」
やよい「え?あ、あずささん?」
あずさ「ふふっ、やよいちゃんのおかげで、もやしを思い浮かべたらどうしてか、ここに来ることはできるようになったの」
やよい「そ、そうなんですか……?」
貴音「私も、同じですよ」
やよい「た、貴音さん!?」
貴音「ふふっ、あのもやしの味。素朴で、本当はそんならぁめんの味など、いえ……やよいの心のこもった、なんともいえぬ味。誠、美味でした」
やよい「貴音さん……」
真美「ごめんね、やよいっち……」
やよい「真美?」
真美「ゲーム、直っちゃった。ごめんね、せっかく直すって言ってくれたのに……それと、ありがと!」
やよい「う、ううん……私こそ、無理なのに意地張って……」
響「やよい……」
響「……ひどいぞ」
やよい「……え?」
響「もう!あんなによくなるならもっと早く言ってほしかったぞ!」
やよい「え、え?」
響「あの後すぐ良くなって、今じゃすっかり!……でも、最初は疑うようなこと言ってごめん」
やよい「そ、そうだったんですか……よかったです!」
響「みんな、やよいに助けられたんだ!」
やよい「いえ、もやしのおかげです!もやしって、本当にすごいんですよ!」
あずさ「でも、それを配ったのはやよいちゃんでしょう?」
貴音「えぇ、あずさの言うとおりです。やよいの気持ちがあったからこそ、それぞれが笑顔になれた」
真美「やよいっちだからもやしなんだし!」
響「本当、ありがとうな!!」
やよい「う、うぅ……みなさん、ありがとうございます!……でも、一つだけ言わせてください」
やよい「私はやよいじゃないです!粗食少女マジカルやよいです!うっうー!!」 終わり
次>>85 ちょっと休憩で遠目
あずさ「気持ちいわよぉ~」
伊織「あ、あんたたちねぇ……いい加減に……ひっく」
伊織「どうしてこんなことに……」
――
伊織「え?うちに来る?」
小鳥「ダメかしら?」
伊織「い、いやそれは別に……でも急にどうしてそんな」
小鳥「ん~たまにはどうかな~と思ってね?」
伊織「絶対何か企んでるでしょうアンタ……それに、小鳥だけなの?」
小鳥「あ~そうねぇ、律子さんと、あずささんは誘おうかなと思ってるけれど、いいわよね?」
伊織「アンタの中ではもう決定してるんでしょうどうせ……まあ、いいけれど……」
律子「私はキャンセルでお願いします」
小鳥「え!?ど、どうしてですか!」
律子「……仕事が残ってるんですよ」
律子(絶対関わったらマズイ、今日はそんな気がする……ごめん、伊織)
律子「一応仕事は午前中で終わったはずですけど……」
小鳥「よっし!」
律子「……変なことしないでくださいよ」
小鳥「わかってますって!むふふ~!」
伊織&律子(絶対変な事考えてる……)
律子「というか何する気ですか。竜宮なら亜美とか誘ってもいいんじゃ」
小鳥「あーうん、亜美ちゃんはまた別に機会かな~私も同時に楽しめるほど器用じゃない、というかもったいない!」
伊織「……」
律子「まあなんでもいいですけど、本当無茶はしないでくださいよ!」
小鳥「わかってますって律子さん!」
あずさ「ただいま戻りました~」
小鳥「やったグッドタイミング!あずささんちょっとこちらに~!」
あずさ「え?小鳥さん?」
あずさ「あのーお話ならあっちでもよかったんじゃ……?」
小鳥「ダメなんですよ、律子さんがいるんで!というかホントは丸め込む文句は持ってたんですけど、参加しないとなると……」
あずさ「?」
小鳥「あ、すみません!えっとですね、伊織の家でたまには女子会みたいな感じでどうかと!」
あずさ「あら、いいですね~でも、どうしてまた伊織ちゃんなんですか?」
小鳥「……聞いてもらえます?」
あずさ「は、はい」
小鳥「私、ちょっと目覚めちゃいまして」
あずさ「……?」
小鳥「未成年にお酒を飲ますのが!」
あずさ「あ、あのー……それは」
小鳥「みなまで言わなくていいですあずささん!……わかってるんです、でもその背徳感がどうにも!」
あずさ「は、はぁ……」
小鳥「もちろん、毒になる程のませませんよ!酔ったらどうなるかみたいだけなんですって!」
あずさ「でも……もしものことがあったら」
あずさ「そ、それって結構重い責任に……というか、他に飲ませた子はいるんですか?」
小鳥「いません!妄想の中だけだったので!」
あずさ「……はぁ」
小鳥「……あれ?あ、ホントだ……って、もしかしてヤバイですかね?」
あずさ「……結構、危ないとは思いますけど」
小鳥「……むー」
あずさ(よかった、やったことなかったんですねぇ、私はいいですけど伊織ちゃん……でも)
あずさ(酔った伊織ちゃん、どんな感じかしら……いつもみたいに強気?それとも、甘えん坊さん?……や、やだ私ったら!)
小鳥「なんか怖くなってきましたし、それは辞めておきますか」
あずさ「そう、ですね……」
小鳥「……でも、見たいなぁ……伊織ちゃんが酔う姿見たいんだよなぁ」
あずさ「も、もう酔ってませんか小鳥さん……」
小鳥「だって、甘えん坊だったりしたらどうします?もう母性ガンガン働いちゃいますよ~」
あずさ「確かに見たいと言えばそうですけど……」
あずさ「ち、違いますよ!でも、見たいと言えば……いつも勝気な伊織ちゃんがしおらしくなるのを……」
小鳥「よし!もう決めました!行きましょう!」
あずさ「え、えぇ……でも、わかりました。そういうことなら私もお手伝いします」
小鳥「おぉ!ホントですか!そうと決まれば買い出しですね!よし!」
ガチャッ
小鳥「お待たせー!それじゃ伊織、後で行っていいね!?」
伊織「あ、えぇ……長々と何を話してきたのよ……あずさ?」
あずさ「え、えぇ!?わ、私は何も、話してないわよ~?」
伊織「嘘が下手な二人ねぇ……まあいいけど、なんでも」
―
小鳥「というわけできました!……相変わらずでかい家だこと」
あずさ「うらやましいわぁ……」
小鳥「でも、独り身には流石にさみしすぎませんか?」
あずさ「小鳥さん?今日はそういうの、やめましょ?」
小鳥「……私も今後悔しました。すみません……よーし!もうヤケですよ!飲むぞー!!」
小鳥「お邪魔します!」
あずさ「お邪魔致します~」
伊織「今多分誰もいないし、それで?何をするの?」
小鳥「……」チラッ
あずさ「え、えぇ!?」
伊織「何よもう……何かあるならさっさと出しなさいよね」
小鳥「……わ、わかったわ!これよ!」
伊織「……は?」
小鳥「今日は飲み会です!じゃんじゃん飲みましょう!」
伊織「小鳥、アンタ大丈夫?あ、そっかもう酔っぱらってるわけね。トイレはそっちだから、うちの中でぶちまけるのは止めてちょうだい」
小鳥「ち、違いますっ!まだ飲んでません!」
伊織「……それじゃなんで未成年の家に酒持って来れるのよ」
小鳥「んと、えっと……伊織ちゃんに大人の味を教えてあげようというお姉さん2人の粋な計らいというやつで!」
伊織「……わかったわ、それじゃ寄こしなさいよそれ」
小鳥「流石は伊織ちゃん!はいこれ!それじゃ~イッキイッキ!」
あずさ「こ、小鳥さん!」
小鳥「あっ!つ、つい……こ、コホン。飲むなら少しずつよ!無理はいけないわ!」
伊織「何を言ってるのよ、飲むわけないでしょ。没収よ没収」
小鳥「え、えぇー……」
伊織「オレンジジュースを持ってくるから、それでも飲んでなさい。100%よ」
小鳥「せめて私たちにはお酒を……」
伊織「いつすり替えられるか怖くて飲めないわよ!いいからそこでおとなしく待ってなさい!」
小鳥「はーい……」ブスッ
あずさ「流石伊織ちゃん、厳しそうですね~」
小鳥「くそぉ……こうなるとますます飲ませたくなってきた……というか私も飲みたい」
あずさ「あ、あはは……」
小鳥「……ん?なんですかねあの物物しい箱……高そうな木、かな?」
あずさ「……お酒?」
あずさ「多分……私は飲んだことないのでわからないですけど……」
小鳥「私だって日本酒は飲まないですよ!……でも、これに賭けるしか」
あずさ「え、えぇ……大丈夫ですかね、高そう、ですよ?」
小鳥「今月の給料を使ってでも見たいんですよ!よいっしょ……うわぁ、高そう……字が読めないし」
あずさ「こ、これ伊織って書いてありませんか?」
小鳥「ということは、記念のお酒ってことかしら……」
あずさ「……小鳥さん」
小鳥「流石にこれは……」
ガチャッ
「「っ!」」ビクッ
伊織「お待たせ……って、どうしたのよ、はい、ノンアルコールオレンジジュースよ」
あずさ「な、何でもないわ伊織ちゃん!わざわざありがとう!」
小鳥「あ、あはは!」
小鳥(とっさに後ろに隠しちゃったけどこれどーするのよ!)
あずさ「あったわね~ふふっ、懐かしいわぁ~」
小鳥「へぇ、そんなことが合ったんですね」
伊織「っと、ごめんなさい。ちょっとトイレに行ってくるわね」
あずさ「……あっ、そういえば小鳥さん、お酒、どうしました?」
小鳥「もうずっと後ろに……箱も不自然な位置にあるままだし、ばれないかヒヤヒヤでしたよ……」
あずさ「それはそれは……」
小鳥「……でも、飲んでみたくないですか?」
あずさ「え、で、でも……」
小鳥「この伊織家につたわる秘蔵の酒、ですよ?絶対おいしいですって」
あずさ「……」
小鳥「私が、責任はとります!」
あずさ「そこまで言われたら……」
小鳥「流石あずささん!それでは、っと……はい、あずささん」
あずさ「やっぱり結構強そうですね……」
あずさ「か、乾杯~……あ、あら?」
小鳥「な、何これ……すっごく飲みやすい……日本酒ってこんなにさっぱりして……」
あずさ「でも、私一度だけ嗅いだ事あるんですけど、ここまで優しくはなかった気がします」
小鳥「これはいいですね……っと、それでもやっぱり強いみたいですね~」
あずさ「わ、私も……これは……」
小鳥「もう一杯どうぞどうぞ~」
あずさ「あら、すみません……」
小鳥「オレンジジュース割りって言うのも有りかな……あ、あれ?これ伊織ちゃんのじゃ……」
ガチャッ
伊織「おまたせ、あら?二人ともどうかした?」
小鳥「い、いえ……」
伊織「そう……」
ゴクリ
小鳥「……あ」
小鳥「あ……そ、その……」
伊織「信じらんない……名前書いてあったでしょう?」
小鳥「ご、ごめんなさい!それは本当に……べ、弁償できるかわからないけど……」
伊織「はぁ……それはもういいわよ……私がもらったものだしね」
小鳥「ごめんなさい……」
あずさ「私からも、ごめんなさいね伊織ちゃん……」
伊織「まったくダメな大人ね……ってあ、あら?めまいが……」
小鳥「……」
伊織「ちょ、ちょっとまさか……」
小鳥「ごめんなさい……」
伊織「あ、アンタたちねぇ……うぅ、目が回る……」
小鳥「ごめん、ごめんなさいぃ……私が悪いんですぅ……」
伊織「え、え?何?」
あずさ「でもおいしいわねぇ、このお酒、どんどん入っちゃうわ~」
小鳥「うぅ……」
伊織「も、もう小鳥!いつまで泣いてるのよ!もういいから泣き止んで」
小鳥「そう……?うん、よし!それじゃ飲もう!伊織ちゃん!」
伊織「あ、え、えぇ……?」
あずさ「ほらほら~気持ちいわよ~!」
伊織「あ、そうねぇ……」
伊織(あ、あれ?私も酔ってる?というかさっきのオレンジジュースが思ったよりおいしくって……)
伊織「……もう少しだけよ」
――
伊織「……これはまずいわねぇ、ひっく」
あずさ「そんなの気にしないで飲みましょうよ~」
小鳥「そうそう!伊織ちゃん、こういう時はね、飲んで言いたいことをいいまくるの!それで解決するのよ!あははは!!」
伊織「こ、小鳥……ってあ、あずさ何やって!」
あずさ「ほら~ゆっくりおやすみなさい~」
小鳥「ほらほら~もう素直になっちゃいなさいよ~!」
伊織「やっ……」
あずさ「ふふっ、そんなに暴れなくたっていいのよ~」
伊織「もう……なんなのよぉ……」
小鳥「え?伊織ちゃん、どうしたの?」
伊織「私だって……好きで素直になれないわけじゃないのよ!」
あずさ「あ、あら?」
小鳥「伊織ちゃん?」
伊織「でも、でもそれが怖いから……私だって……」
小鳥「あ、えっと……」
伊織「……小鳥」
小鳥「なぁに?」
伊織「……言いたいこと言って、それだけ?何かしてくれたり、しないの?」
小鳥「っ!そ、そんなのいくらだって受け止めて、ギュッってして、なでなでしてあげるわ!」
あずさ「そ、それなら私が!」
小鳥「ちょ、ちょっとあずささん!私が指名されてるんです!」
あずさ「で、でも私が先にギュッてしてました!」
伊織「……」
小鳥「だったら次は私ですよ!」
あずさ「そ、それじゃ伊織ちゃんに決めてもらいましょう!」
小鳥「そうですね!ねぇ伊織ちゃ……ん」
伊織「……」スースー
あずさ「……あらあら」
小鳥「……ちょっと、やりすぎちゃいましたかね」
あずさ「きっとちょっとどころじゃないですよ?」
小鳥「あ、あはは……ん、私も眠くなってきちゃったかも……」
あずさ「私もなんですよ、寝ちゃいましょうか……」
小鳥「そんな、人様の家で……寝るなんて……――」
小鳥「ここは……そ、そうよ!伊織ちゃんは!?」
伊織「ここよ」
小鳥「なっ!……あ、そ、その……おはようございます」
伊織「全く……あずさは帰ったわ」
小鳥「え、えぇ……起こしてくれればいいのに」
伊織「私が止めたの。……たっぷり聞いてもらわないとね」
小鳥「あ、あの……その件に関しましては……」
ギュッ
小鳥「……え?」
伊織「あずさじゃ……恥ずかしいでしょ?同じメンバー同士でそんな……」
小鳥「……」
伊織「……お酒飲まされたのは許さないわ。でも、その分だけ働いてもらうんだから」
小鳥「そ、それは、まあ全然いいんですが一体何をすれば……」
小鳥「あぁ、素直がどうとかっていう……」
伊織「い、言わなくなっていいでしょ!……だから、そういう時……その、聞いてもらえたら、って」
小鳥「……」
伊織「だ、ダメ……かしら?」
小鳥「可愛いなぁもう!伊織ちゃんは!」
伊織「ひゃっ!ちょ、ちょっと急に何するのよ!離しなさいよ!」
小鳥「いいのよ、もっと頼って」
伊織「えっ……」
小鳥「そういう時くらい、お姉さんやらせてもらった方が、私だってやりがいがあるもの」
伊織「小鳥……うん、ありがとう」
小鳥「ふふっ、伊織ちゃんに頼られるって言うのがそもそも私の自信になるわね!」
伊織「何よそれ……でも、次あんなことしたら承知しないんだから。起きたとき頭が痛くて大変だったのよ?」
小鳥「それは反省してます!でもまた一緒に飲みたいな~……ふふっ」
伊織「成人して気が向いたら、付き合ってあげてもいいわよ?にひひっ!……これからもよろしくね小鳥?」 終わり
最後書くか迷ってるが>>135くらいに置いて離席
P「おっ、お疲れ律子」
律子「あ、お疲れ様ですプロデューサー」
P「最近忙しそうでなによりだが、その感じを見るといいことだけじゃなさそうだな」
律子「いえ、これくらいは当然ですよ、あの子たちもやる気ありますから」
P「んーでもなぁ、たまにはガス抜きしとかないと反動が怖いぞ?」
律子「そうはいっても……あ、すみません電話が。はい、私です。はい……え?延期、ですか?はい、わかりましたそれでは」
P「どうした?」
律子「あ、いえその、明日竜宮でライブのリハが合ったんですけどどうも舞台を使うようで延期に」
P「ってことは全員休みか。ちょうどいい、4人で遊びに行って来ればいいじゃないか」
律子「え?で、でも……それ以外にも仕事ありますし」
P「それくらい俺がなんとかするって、こんなことでもない限り次の休みがいつになるかなんてわからないだろ?」
律子「まあそうですけど……」
P「大丈夫、あいつらのことだ緩急は心得てるさ。律子の心配するようなことはないと思うぞ、ゆっくり楽しんで来い」
律子「……それじゃお言葉に甘えて」
亜美「マジ!?やったー!久々のオフだあ~!!」
伊織「まあ確かにここのところずっと仕事で疲れてはいたからちょうどいいわね」
あずさ「ちょうどよかったですね。でも、他に何かないんですか、律子さん?」
律子「あー……仕事はないんだけれど、その……」
伊織「何よ」
律子「よかったらその……4人でどこか遊びに行かないか、って思ったんだけれど……」
亜美「え?亜美達竜宮の4人で?」
律子「い、嫌ならいいのよ?せっかくのオフだし、私も仕事がないわけじゃないし……?」
伊織「……いいじゃない、たまにはそういうのも」
律子「え?」
あずさ「ふふっ、このメンバーで遊びに行くっていうのもいつ振りかしらね~」
亜美「いいじゃんいいじゃん!流石りっちゃんふっとパラですな!」
律子「あ、いやプロデューサーさんのアイデアなんだけど……ま、まあいいわそれじゃ、そうしましょうか」
亜美「それじゃどこ行く?遊園地?水族館?亜美はお買いものだけでもいいよ!」
伊織「私は別に、どこでもいいわよ?」
あずさ「私もこれと言って行きたいところがあるわけじゃないので」
律子「そうねぇ、かといってあっちこっち回るのも疲れるだろうし……」
亜美「じゃあさじゃあさ!新しくできたショッピングモール!あそこ行こうよ!」
伊織「あら?亜美知ってたの?」
亜美「そりゃ知ってるっしょ!この辺で一番でかいし!ゲーセンとかアミューズメントもたくさんあるって聞いたよ!」
あずさ「あ、おいしいアイス屋さんがあるって聞いたことがあるわね~」
伊織「ま、まあ私も行ったことはないんだけれど、こういう時に行くのもいいかもしれないわね」
亜美「え!いおりん行ったことなかったの!?てっきり常連かと思ってたのに」
伊織「そんな暇どこにあるのよ!」
律子「……ごめんなさいね」
伊織「あ、い、いや違うの、律子を責めたわけじゃないわ。それに、明日遊べるんだからそれでいいじゃない」
あずさ「そうですよ、律子さんは頑張ってくれてますし、明日は一緒に思いっきり楽しんじゃいましょう?」
律子「伊織、あずささん……そうですね!よし、じゃあ明日はショッピングモールに決定!場所と時間は――」
亜美「ごめんりっちゃん、あずさお姉ちゃん!真美と洋服選んでたら時間かかっちゃって」
伊織「ちょ、ちょっと私には何もないわけ!」
亜美「いおりんだって今来た感じっしょー?電車から降りるの見えたもん!」
伊織「ち、違うわ!一個前に来てたけど迷ってただけで……」
亜美「ふ~ん、迷ってた、か~流石お嬢様は電車とか使わないってわけですね~」
伊織「う、うるさいわね!律子!このバカはほっといて早く行くわよ!」
律子「あんたたちが後から来たんでしょうが……こう言ったらあれだけどあずささんより遅く来るってどうなのよ」
あずさ「あ、いえ今日は偶然目がさめちゃっただけで」
亜美「へ~!あずさお姉ちゃんが!あれでしょ、遠足の前の日なかなか眠れないっていう!」
伊織「子供じゃないんだからあり得ないでしょうが!」
あずさ「あら、でも私は楽しみだったわよ?」
伊織「……まあ、そりゃ私も楽しみだったけど」
亜美「亜美も!正直亜美はそのあれで寝てません!」
律子「はいはいその辺にして、とりあえず何から回りましょうか」
律子「ま、確かにそうね」
亜美「あー!!見てみていおりん!これ、新作じゃん!」
伊織「え?あっ、ホント……着てみようかしら」
律子「って早速……もしかしてこれ分かれた方がいいんじゃ……」
亜美「あ、こっちも!」
伊織「待ちなさい亜美!……そうね、律子の言うとおり一旦別れた方がいいかも」
律子「それじゃ、私はあずささん、亜美と伊織で。平日だけど人結構多いし、できるだけ二人で行動するのよ」
亜美「アイアイサー!」
あずさ「それじゃ、後でここに集合っていうことになるのかしら?」
伊織「それがいいわね、何時くらいかしら」
律子「うーん、まあお昼前にはここに」
亜美「よっしゃー!いおりんあっち見に行こ!」
律子「あんまり無茶な買い物するんじゃないわよー!全く、オフになると途端に元気になるんだから……」
あずさ「ふふっ、そういう律子さんも楽しそうで」
あずさ「えぇ、それはもう。仕事の時に叱る律子さんとはまた、違った感じで」
律子「あはは、あずささんにはかないませんね……それじゃ、私たちも行きますか」
あずさ「そうですね。あ、あのお店なんて……」
伊織「アンタ元気ねぇ……」
亜美「何言ってんのいおりん!こんくらい余裕っしょ!」
伊織「別にいいけどまだ午前中よ?それに寝てないとか言って、午後きつくなっても知らないわよ?」
亜美「だっていろいろあって見きれないんだよー!真美にもいくつか頼まれてるし今日中に終わるかなぁ」
伊織「一応言っておくけど、ただの買い物にきたんじゃないんだから」
亜美「え?そなの?」
伊織「アンタはもう……竜宮で遊びにきたんでしょ?たまには律子ともプライベートで話すことも大事でしょ?」
亜美「……いおりん」
伊織「……何よ」
亜美「りっちゃんのこと、そこまで……」
伊織「ち、違っ!べ、別に私はただ竜宮小町のリーダーとしてそう思っただけよ!い、いいから次の店行くわよ!」
あずさ「有名なお洋服がこんなに安く買えるなんて」
律子「でもまだ午前中なんで、あんまり荷物増やしたくないんですけど、なかなか無理ですよね」
あずさ「ふふっ、そうですね。あら?あっ!これですよ律子さん!テレビでやってたアイス屋さん!」
律子「え?あ~みたことあるかもしれないですね。食べますか?」
あずさ「そうですね~、あ、でもだったら亜美ちゃんたちと合流してからの方がいいですかね?」
律子「あ、それもそうですね。そろそろお昼だけど、ちゃんと戻ってくるか……」
伊織「もう!そろそろお昼になっちゃうじゃない!」
亜美「そんなこと言ったってさー!いおりんだって結構みてたっしょー!」
伊織「また遅刻したら流石にまずいでしょ!」
亜美「まあそうなんだけどさー……結構疲れちゃって走れないよー……」
伊織「まだ昼前なんだけど……あ、いたいた。律子」
律子「あぁ、間にあったわね」
伊織「危なく亜美のせいで……」
亜美「ちょ、ちょっと!亜美のせいにしないでよー!いおりんだって!」
あずさ「ほらほら、伊織ちゃんも亜美ちゃんも、アイス食べない?」
亜美「え?アイス?あ!あれってもしかして!」
伊織「テレビでやってたやつね……あずさがさっき言ってたわね」
あずさ「そうそう、二人を待ってたの。食べるでしょう?」
亜美「もちろんだよ!いおりん早くいこ!亜美はチョコミントにする!」
伊織「ちょ、チョコミント!?それはないわ……」
亜美「えー!チョコミントおいしいじゃん!じゃあいおりんはなにさ!」
伊織「私?私は……チーズケーキとか」
亜美「そんなの普通ないっしょー!」
伊織「あるわよ!だいたいチョコミントなんて……」
あずさ「ふふっ」
律子「あの……あずささん、ありがとうございます」
あずさ「あら、なんのことですか?ほらほら、律子さんも行きましょ、アイス」
律子「……はい!」
亜美「おいしかったー!亜美こんな料理食べたことなかったよ!帰ったら真美に自慢しちゃうんだもんねー!」
伊織「ちょ、アンタいつ撮ったのよそれ……行儀悪いわねぇ」
あずさ「アイス屋さんの近くなら、おいしいところがあるかなぁと思って探して正解でしたね~」
律子「流石あずささんです、いやはや恐れ入りますよ」
亜美「流石はあずさお姉ちゃん!ケイケン値が違いますな!」
律子「どういう意味よ」
亜美「うひゃー!なんでもないっしょー!」
律子「全くもう……それで、次はどうする?」
亜美「ゲーセンいこ!ゲーセン!」
律子「ゲームセンター?私はいいけれど……」
あずさ「いいんじゃないですか?とりあえず、すぐ近くですし」
亜美「いおりん、勝負っしょ!」
伊織「ほう、いいわよ?言っておくけれど、これ私強いわよ?」
亜美「ふっふっふ……ゲーマーを甘くみちゃいけませんぜいおりん……そだ、りっちゃんたちもやるっしょー!」
亜美「そんじゃあずさお姉ちゃんはこっちでーりっちゃんはそっちで2対2だぜ!」
あずさ「あらあら、私これやったことないけれど大丈夫かしら?」
亜美「大丈夫!亜美一人で片づけちゃうかんね!」
律子「それじゃ伊織、よろしくね」
伊織「よろしく、亜美に目にもの見せてやるわ!」
亜美「な、何これ……」
伊織「私たちは一体……」
あずさ「ふふっ、甘いですよ律子さんっ!」
律子「見えてますよあずささん、はっ!」
律子「ふぅ、いい汗かいたわね~」
あずさ「楽しいですねこういうのも」
亜美「いおりん、亜美は見てはいけないものを見てしまった気分だよ……」
伊織「忘れるのよ……それが一番」
伊織「そうね、もう一度回りたいところとかあるし、4人で回ればいいんじゃないかしら」
亜美「そ、そだね……」
あずさ「亜美ちゃん、大丈夫?なんだか具合が悪そうだけれど……」
亜美「へ、平気っしょー……ちょっとめまいがしただけで……あっ」
バタッ
律子「あ、亜美!?」
亜美「ご、ごめんねりっちゃん……」
伊織「全く、だからあんなにはしゃぐなって……」
あずさ「ふふっ、伊織ちゃん、律子さんみたいね」
伊織「なっ!そ、そういう律子だってなんか亜美の母親みたいになって!」
律子「ちょ、ちょっと!失礼ね、まだそんな年じゃないわよ!」
亜美「亜美はどっちもやだな……怒ると怖いし……」
「「亜美!!」」
亜美「ほらぁ……」
亜美「そ、そんな……いいよ、りっちゃんも行ってきて。亜美少し休んだらすぐ行くから……」
律子「そんなこと言ってどうせすぐまた倒れるんだから……それじゃあずささん、伊織のことよろしくお願いします」
伊織「……」
亜美「……ねぇ、りっちゃん」
律子「どうしたの?」
亜美「今の竜宮って結構すごいよね」
律子「……そうね」
亜美「そのすごい中に、亜美達がいて。りっちゃんとあずさお姉ちゃんといおりんがいて」
亜美「なんか、こうやって一緒に買い物するものすごいのかなって思ったりしたんだけどさ」
律子「……」
亜美「やっぱり一緒にいろんなことするだけで楽しいっていうか、それが普通になっちゃったからさ!」
律子「亜美……」
亜美「亜美は今の竜宮が好きだよ。りっちゃんは?」
律子「そんなの、当たり前じゃない。……私も竜宮が好き」
律子「……でもなんでまた」
亜美「ほら、忙しくてみんななんか疲れてたっぽいし。なんとなく思っただけー」
律子「亜美らしいわね……」
亜美「えへへ、よっしそろそろ大丈夫!」
律子「本当に?」
亜美「うん!遅刻して迷惑かけたからもう遅刻できないっていおりんも言ってたし、亜美も見習わなきゃね!」
律子「伊織が……そうね。いきましょうか」
あずさ「……亜美ちゃんが心配?」
伊織「え、えっ?」
あずさ「ふふっ、そうよね。一緒に頑張ってきたメンバーだもの」
伊織「……あいつはいつもそうだもの。あんなおちゃらけていっつもふざけてるけど、全部最初に手をつけて全力でこなすの」
伊織「そんなことしてたら、いつかダメになっちゃうってわかってても、あれじゃただのバカよ……」
あずさ「……私は、伊織ちゃんも同じに見えるわよ?」
伊織「え?」
あずさ「亜美ちゃんが最初で伊織ちゃんが最後。二人とも似てないようですごく似てるもの」
伊織「あずさ……」
あずさ「もちろん律子さんだって、私だって竜宮として頑張ってるつもりだけど、若い二人に負けないように、ってね」
伊織「……私、この竜宮が好きだから。でも、ちょっと最近忙しすぎた気はするの」
伊織「なんていうか、焦ってて……メンバー同士で平凡な会話もできなくって、なんか違うって思ってた」
伊織「でも、あずさと話してわかったわ。やっぱり私、竜宮が好き。……ありがとう、あずさ」
あずさ「いいのよ、私だって同じだもの。竜宮小町が、大好き。そんなみんなが大好きだもの。だからこそ、一人一人が大事だって思えるのよね」
伊織「……」
亜美「いおりーん!」
伊織「あ、亜美?」
亜美「お待たせいたしました、亜美隊員只今到着です!」
伊織「……バカ、また遅刻よ」
亜美「えー!これ遅刻に入るの!?」
伊織「当たり前じゃない、それも3回目ね」
律子「……あずささん、ありがとうございます」
あずさ「いえ、律子さんこそ。……みんな、改めてこの竜宮小町っていうのを見返せたかもしれませんね」
律子「そうですね、私も忙しさに甘えて見えてなかったかもしれません」
あずさ「ふふっ、律子さんらしいですね。私は反対に元から見えないので、律子さんに先導してもらわなきゃいけないんですけれど」
律子「それはいいですけど、迷子になるのはほどほどにしてほしい、かな?」
あずさ「あらあら、そうですね。努力します」
亜美「よーっし!次の店いくっしょー!」
伊織「ちょっと、また倒れるわよそんなに走ったら……」
亜美「へーきへーき!ってわぁ!っぶな……えへへ」
伊織「ほらいわんこっちゃない……全く」
亜美「いおりんそんなに亜美のこと心配してくれて……亜美、嬉しい」
伊織「き、気持ち悪いことしてるんじゃないわよ!」
亜美「わー!逃げろー!」
伊織「待ちなさい亜美!!」
律子「……あずささん」
あずさ「はい?」
律子「……ありがとうございます。これからも、よろしくお願いしますね」
あずさ「……もちろん。こちらこそ、よろしくお願いします」
律子「……ふふっ」
亜美「おーいりっちゃーん!」
律子「あ、亜美?」
亜美「亜美も、よろしくねー!」
伊織「わ、私だってリーダーなんだから!これからもよろしく頼むわね、律子!」
律子「亜美、伊織……えぇ!任せなさい!」
あずさ「それじゃ、私たちも」
律子「……そうですね!さぁ、まだまだ遊びつくすわよ!」
終わり
書いてて思ったのがホント安価が面白そうで他のも書きたいなと
っていうので次回書くときは趣向が変わるけど範囲安価してそこから独断で選んだのを書くというスタイルをやってみたいな
お付き合いいただきありがとうございましたー
Entry ⇒ 2012.10.17 | Category ⇒ アイマスSS | Comments (0) | Trackbacks (0)
千早「事務所の場所が変わりました」
携帯電話に謎のメールが届いた。
それが謎になったのは、
おそらく、私が誤ってアドレス帳の中身を吹っ飛ばしてしまったせいなのだけれど。
最初に思いついたのは、プロデューサーや春香あたり。
だって、この二人からは、放っておいてもメールが来るのだもの。
春香なら雑談のようなメールが多いから、
すぐに返信する必要がなくて楽なのだけど、どうかしら。
タイトルには、何も入っていない。
私の望みとは裏腹に、
差出人の名前の欄には、見覚えのない英数字が並んでいた。
>突然ごめんなさい。
>お願いがあって、メールしました。
>そろそろレッスンが終わるころですよね?
>今日の五時に、前の事務所まで来てもらえますか?
>OKなら、お返事ください。
少し怪しいけど、いたずらじゃなさそう。きっと関係者ね。
敬語で書かれた文面を見るに、年下の子かしら。それとも事務連絡?
でも、おかしいわね。
つい最近、そこからの引っ越しを済ませたばかりなのに。
『引っ越しするなら春だろう』
突然の社長の思い付きに、
プロデューサー初めとした社員が奔走していたことは記憶に新しい。
でも、あの建物も大概古かったし、
ちょうどいい機会だったんじゃないかしら。
もっとも、しばらくは肉体労働と縁のない生活と送りたいものだけど。
あんなビッグイベントが年に何回もあったら、たまったものじゃない。
おかげで引っ越しの次の日は、身体が思うように動かなかった。
うららかな春風が、コートの裾を揺らす。
一見、何ともないメール。
だけど、どこか引っかかるわね。
とりあえず、近くまで行ってみることにしましょう。
それなら、万が一いたずらだったとしても、大丈夫なはず。
私は手櫛で乱れた髪をかき上げると、
分かりました、とシンプルな返事を打った。
すぐに着信を知らせる振動があった。
思わずどきっとしてしまう。
だって、着信を受け取る瞬間に、
携帯を握っていることなんて滅多になかったのだもの。
それに、メールもあまりする方ではないしね。
差出人の欄には、さっきと同じ英数字。
>これで助かりました。
>千早ちゃんにメールしてよかったです。
>それでは、前の事務所でお待ちしています。
そのメールは、私の頭の中を、より一層かき乱した。
――いったい誰なの?
だけど、今更それについてメールするのも、気が引けるわね。
とりあえず行ってみることにしましょう。
今度こそ携帯をジーンズのポケットにしまいこむと、
私はもやもやした気分のまま、人ごみのすき間を縫って行った。
公園を抜けると、近道になる。
だから私も、それを利用することにした。
だけど、一つおかしなことがあった。
普段は静かな公園が、少し騒がしいのだ。
足を止めて声のする方を横目でちらりと見ると、大きな桜の木々。
木々の間から、金曜夕方の赤みを帯びた空と、うっすらとした月が覗いている。
お花見なんて騒々しいだけと思っていたけど、
今日だけは騒ぎたくなる気持ちも、分からなくはないわ。
本当に、ほんの少し、だけど。
それにしても、ここの桜はこんなふうに咲いたのね。
去年は確か……どうだったかしら。
まあ、気にするほどのことでもないわ。
それより、メールの送り主の正体を突き止めることの方が、
今の私にとっては重要事項なのだから。
私は、花びらで敷き詰められた道を踏みしめながら、再度、歩みを進めた。
歩くこと数分。
抜け道のおかげか、私が思っていたよりも、早く目的地に着いてしまった。
旧事務所は、大きな道路に面している。
視界もだいぶ開けていて、人も車もたくさん通る所。
これならメールの送り主が顔を出せば、容易く確認できそうね。
もっとも、それらしき人は、まだ見当たらなかったのだけど。
まぁ、どちらでもいい。
時間は五時の十分前。
私は居酒屋の脇に陣取って、
誰とも分からない、来る保証もない待ち人を待つことにした。
わざわざ先についたという報告は、しなくてもいいわよね。
来なければ、ただのいたずらということにして、帰ればいいだけだもの。
建物に寄りかかりながら、それとなしに空を見上げる。
雲一つない空に、さっきの月が浮かんでいた。
月の反対側に乱立しているビル群は、
太陽の光を受けて茜色に染まりかけている。
なんだか眠そうな春の日差し。
ここからは、こんな景色が見えていたのね。
今日という日がなければ、ずっと気が付かないままだったかも、なんて。
「こっちにいたんだ。
ごめんね、急に呼び出しちゃって」
突然、女性の声がした。
どこかくぐもったような、細い声。
萩原さんだ。
予想外の人物に、思わず固まってしまう。
そんな私の様子を見て、その表情が曇った。
「もしかして……迷惑だった?」
しまった。
ここでしくじってしまっては、今後に影響が出るかもしれない。
それだけは、なんとしてでも避けなければ。
慌てて軽い調子の声を作って、言う。
「――いいえ。突然現れたから、少し驚いただけよ」
「そっか。ごめんね? でも、よかったぁ」
「それで、お願いって何?」
「えーっとね……。
外で説明するのもなんだし、とりあえず、中に入ろう?」
少し釈然としない部分もあったのだけど、ひとまずうなずいて見せる。
約束を破るわけにもいかないしね。
それに、ここまで来て、その頼みを断れるような勇気は、生憎、持ち合わせてなかったの。
二人で縦になって、事務所への暗い階段を上る。
軽やかに上っていく萩原さんとは対照的に、私の足取りは重い。
そのせいで、徐々にステップ数段分の距離がついていった。
――なんで私なの?
聞けるはずもない。
口を開こうとすると、言葉にならないのはなぜかしら。
確かに、アドレスは知っていたはずだけど、それが私を呼ぶ理由にはならない。
いや、せっかく頼られているのだ。
だから、ここは喜んでおくべきよね。
それにしても、
どうしてこんなに遠慮がちになってしまっているのかしら。
ふと見上げると、
私の到着を待つ萩原さんの顔があった。
待たせてしまってはいけないわよね。
私は慌てて、階段を一段飛ばしで駆け上った。
扉の前まで来ると、萩原さんはどこか誇らしげに鍵を掲げた。
「プロデューサーから、鍵もらってきたんだ」
「まだ、返してなかったのね」
「うん、ちょっと用があるって言ったら、すぐ貸してくれたの。さぁ、どうぞ」
言われるがまま中に入ると、
デスクもソファも何もない、空白の部屋が私たちを待ち受けていた。
何もない分、その広さがしっかりとわかる。
「本当に何もないわね」
「……うん。そうだね」
そう返事をするなり、萩原さんは窓の方へと歩み寄った。
結局、お願いってなんなのかしら。
はやく教えてほしかったのだけど、
外の道の様子をを眺める萩原さんの背を見ると、やはり私は何も言えなくなってしまった。
仕方なく、もう一度周囲を見回す。
すると、日焼けした壁に、一際目立つ白い跡。
サイズから見るに、写真の跡ね。
あそこには、どんな写真があったのだっけ。
そっと、その場所を指でなぞる。
そうだ、ここには小さなボードがあったのだ。
その証拠に周りの色合いが少し違う。
ということは、この下には、
昔の写真が貼り付けてあったりしたのかしら。
それこそ、私の知らないようなものが。
「写真の跡、だね」
外に夢中になっていたはずのおかっぱ頭が、唐突に視界の端で揺れる。
そちらへと振り向いたら、強い西日が目に入った。
道理で、ここの壁も日焼けするわけね。
思わず顔をしかめてしまう。
「色々、あったね」
「……そうね」
その"色々"とやらが、
ここでの出来事だという事を理解するのに、
少しの間を置いてしまった。
あれだけ特徴的な人々が一堂に会していれば、何もなかったわけがないわよね。
でも、ここでは、"色々"の一言で済まされないような出来事が、数多くあったのだ。
思いつくがまま、と言ったふうに、萩原さんが言葉を並べる。
「ねえ千早ちゃん。冷静に考えると、ここって結構怪しい事務所だと思わない?」
「怪しいって?」
「だって、こんな小さな事務所……」
萩原さんは、
それっきり言いよどんでしまったけど、言いたいことはよくわかった。
確かに、怪しいどころの話じゃないわね、こんな場所。
「そんな所に突っ込んでいくって、私、結構向こう見ずだったんだなぁって」
私たちは、顔を見合わせて笑った。
「ええ。考えれば考えるほど、怪しいと思う」
萩原さんは、満足げにうなずくと、
眩しそうに手で庇を作りながら一歩後ろに下がった。
「ごめんね、なんだか感傷に浸っちゃって。
そうそう、お願いのことなんだけどね?
給湯室の戸棚にお菓子が残ってたはずなんだけど、
けっこう高い所だから、私じゃ確認できそうにないんだ。
引っ越しするときに、忘れちゃってて。
もうなかったら、骨折り損になっちゃうんだけど……」
「いいわよ。そう言うことだったのね」
次第に伏し目がちになっていた萩原さんの表情が、ぱあ、とほころんだ。
だけど、そういうことなら私以外に適任がいるんじゃないかしら。
少しの沈黙を置いて、萩原さんが申し訳なさそうに経緯を説明し始める。
「プロデューサーも四条さんも、
まだお仕事あるみたいで、頼めなかったんだ」
「……ちなみに、あずささんは?」
あの人も、背が高いはずだけど。
「連絡したんだけど……圏外」
なるほど。
お互い肩をすくめながら、今度は苦笑いを浮かべる。
まったく、今日はどこまで行ったのでしょうね。
戸棚は、思っていた以上に高い位置にあった。
こんな所に手を入れたこと、多分なかったわね。
指先を使って探すと、確かに手応えを感じる。
丸くて小さな缶の形を指先で確認することが出来た。
「……あったわ」
「ホント? 見に来てよかったぁ」
背後からは弾むような声。
「ええ。でも、こんな所にあったのね」
「うん。少しでも隠しておかないと、
すぐに誰かが食べちゃうんだもん」
知らない所で、お菓子を巡ったいざこざがあったりしたのかしら。
私は必死で腕を伸ばしながら、そう、と気のない返答をした。
私の背でギリギリ届くくらいなのだから、
こんなお願いをされるのも、無理のないことよね。
「あ、でもね、小鳥さんはここを知ってたみたいで、
無くなってたら、新しいの補給してくれてたんだよね」
「そうなの。はい、どうぞ」
ようやく腕を下ろして、
少し高級そうなクッキー入りの缶を差し出すと、
優しさのこもった声で感謝を告げられる。
「ありがと。助かったよぉ」
まっすぐな優しい目だった。
思わず視線を外して、平静を装った声を出す。
「それにしても、妙な所で律儀よね、音無さん」
「うん、そうだね。だって、私たちの世話までしてくれてるくらいだもん」
「そうね。よっぽどの物好きに違いないわ」
萩原さんは、気まずそうに、どこか頬を引きつらせたような笑顔を見せた。
再び腕を伸ばして、戸棚を閉じると、
あっ、と悲鳴も似た声が耳に届いた。
「ねえこれ、今週までみたい……」
振り向くと、萩原さんが缶の底を覗き込んでいた。
そして、うーん、と少し考え込むような唸り声を上げると、何か閃いたように手を合わせた。
あまりいい予感がしないのは、なぜかしら。
「ねえ」
萩原さんがこらえきれないように言う。
その眼の輝きは、まるでいたずら好きな誰かさんみたいだった。
「ここで食べちゃおっか」
その提案を断る理由もないので、私は黙って首を縦に振った。
「せっかくだし、社長室だった場所にしようよ」
私のコートの裾を引っ張って、萩原さんが楽しげに提案する。
こんな大胆な発言をする人だったなんて。
でも、その気持ち、なんとなく分からなくはないわ。
普段入れない場所に入るって、なぜか浮きたってしまうものがあるわよね。
「そもそも社長室って必要だったのかしら」
何か話題を、と考えた結果がこれだ。
がらんどうの部屋の隅で、
小洒落たデザインの缶の蓋を開けた萩原さんが、困り顔をする。
「偉い人には、色々あるんじゃない……かな?」
「……そうね」
軽く自己嫌悪に陥りそうになった。
まったく、なんで私は気の利いたことが言えないの。
「はい、どうぞ」
笑顔とともに差し出されたクッキーを受け取って、
感謝を告げるとともに、再度、話題の提供を試みる。
「ありがとう。……ねえ、なんで私たち、こんな角にいるの?」
椅子もない部屋では、もたれられるものに頼るしかない。
だけど、扉から一番遠くて、しかも片隅である必要はないと思うのだけど。
「……その方が落ち着くから?」
分からなくはないけど、なんで疑問符がそこについてしまうの。
「それに後ろ盾があると安心出来る、よね?」
「……そうね」
一応、賛同しておけばいいのかしら。
こうしてひっそりしていること自体、アイドルなんて職業とはかけ離れている。
でも、この方が私らしかったりしてね。
「今日のレッスンどうだった?」
普段、誰かにしているように、
萩原さんが自然な調子で訊ねてきた。
プロデューサーに同じようなことを聞かれた時は、なんて答えてたっけ。
「いつも通りだったわ」
「そっかぁ」
萩原さんは目を細めながら、
手に取ったクッキーを口に運んだ。
こんな素っ気ない答えで大丈夫なのかしら。
「ねえねえ、そのストラップって……」
とりとめのない話って、こういうことを言うのかしら。
萩原さんが、私のジーンズのポケットからはみ出た携帯をとらえたようだ。
それは、書店でもらった犬のストラップだった。
正直、犬ともわからないような悪趣味なデザインだったのだけど。
「ええ。本を買ったらついてきたの」
「それって――」
そこまで言うと、萩原さんは口をつぐんでしまった。
その続きにはどんな言葉が入るのかしら。
これが犬だから? いや、どうも違いそう。
と、なると――。
「これ、センスないわよね。
正直言って、犬の顔があまりにも不細工」
「……やっぱり、そうだよね」
良かった。
私の予想は的中したみたい。
「じゃあ、なんでつけてるの?」
「……皆から素っ気ないって言われていたし、
他にしまうところがなかった、から?」
もらいものをなんとなく使うだなんて、貧乏性みたいに思われてしまうだろうか。
私の心配をよそに、
萩原さんは嬉しそうな、
それでいてどこか弱ったような顔をした。
「実はね、それ、私も持ってるの」
言うや否や、萩原さんはバッグの中から、私と同じストラップを引っ張り出した。
もちろん、フィギュアの部分ではなく、紐の端を持って。
「これね、あんまり犬に見えないから怖くないんだけど……」
「全くもって可愛くないわよね」
ストラップとしては致命的じゃないかしら。
お互いのストラップを交互に見て、二人で苦笑する。
「ねえ、それがもう少し犬に似てたら、どうしたの?」
少し考えるようなポーズをとって、萩原さんが言う。
「……穴掘って埋めちゃう、とか?」
私たちはその一言で、同じタイミングで笑い出した。
そんなこと、できないけどね、
と明るい声で弁解する萩原さんは楽しげだった。
これなら、あの素っ気ない返事でも問題なかったみたいね。
でも、残念なことに、一つ問題が無くなると、
また別の問題がすぐに頭の中に浮かび上がる。
せっかく消えかけていたのに、厄介なものね。
――なぜ、あんな他人行儀なメールを?
口に出来ないまま、その疑問を頭の中でぐるぐるさせる。
それだけ距離を置かれている、ということなのかしら。
まあ、だからと言って、どうという事ではないのだけど。
「好きでもないものって、
ついしまいっぱなしにしちゃうんだよね」
萩原さんが空になった缶を、そのままバッグに突っ込んだ。
ゴミ箱もないし、仕方ないことよね。
そんなことを考えていると、萩原さんが何の前触れもなく、私の右腕に抱きついてきた。
思わず素っ頓狂な声を上げてしまう。
「な、何?」
「静かに。誰か来てる」
声を低くして、萩原さんが耳元でそう囁いた。
なんだ、そんなこと。
私も同じように声を低くして、開き直るような調子で囁く。
「見つかってもいいじゃない。
どうせ関係者か業者の人でしょ?」
「で、でもぉ……」
「別に隠れる必要なんてないわ。行きましょう」
だって、悪いことをしてるわけじゃないもの。
そう言い残して、
私が扉の方へ歩いて行こうとすると、腕をつかむ力が増した。
萩原さんは根を張ったように、そこから動き出そうとしなかった。
これじゃ埒が明かないわ。
力ずくで引きずっていくしか方法はないみたい。
無理やり萩原さんを引きずって、どうにか扉の前まで来る。
言われた通り、扉の外に誰かがいる気配がした。
「待って」
「隠れておこうよ」と、後ろからはこの繰り返し。
私が出ていく前に、その声で気付かれてしまうのではないかしら。
「誰かいるの?」
ほら案の定、外からの声。
私の腕をつかむ手は、
一瞬だけ硬直したかと思うと、すぐ力なくほどける。
その隙に私は、ドアノブを容赦なく回した。
でも、怖がる要素なんて一ミリたりともないわ。
だって、聞き覚えのある声だったもの。
「こんばんは。音無さん」
「あら、千早ちゃんだったの。……それに、雪歩ちゃん?」
その瞬間、音無さんの口元がだらしなく緩んだのを、私は見逃さなかった。
斜め後ろからの安堵の声が、私の髪を揺らす。
「小鳥さん、ですか?」
「ええ。……泥棒とでも思った?」
「ち、違いますよぉ!」
慌てふためく萩原さんに、音無さんはどこか生暖かい視線を送っていた。
「どうしてこんな所にいるの?」
と、音無さんがこの空気を一掃するかのように質問する。
「忘れ物があったんですって。ねえ、萩原さん?」
「は、はい! 千早ちゃんの言うとおりですぅ!」
「じゃあ、私と一緒ね。
もっとも私の忘れ物は、もうなかったんだけど。
引越し屋さんに、持って行かれでもしたのかしら」
まぁ大したものじゃなかったんだけどね、と音無さんは笑うと、
つい最近までカレンダーがかけられていた場所に身を預けた。
その証拠に、音無さんの肩の上の部分には、画鋲の跡がくっきり残っている。
「ここはカレンダーがあったのよね」
私の考えを見透かしたかのように、音無さんがその個所を指で擦った。
「――そっちには温度計。
あっちにはコードがあったわ。
引っ掛かりそうで危なかったから、壁伝いに通してたけど」
「そういえば……そうだったかも」と、萩原さんが言う。
「すごいですね。私は、ほとんど覚えてないです」
私が歓声めいた声を上げると、
音無さんが誇らしげに鼻を鳴らした。
「まぁ、みんなよりは、ちょっと長くここにいたからね」
"ちょっと"に強いアクセントが入っていたのは、私の勘違いではないはず。
更に得意顔になった音無さんは、嬉々としてこの場所当てゲームを続けた。
「そこは古雑誌置場。
……捨てられずに溜まっていく一方だったから、
あっちの棚から移したのよね。
引っ越しの時も結局捨てられずに、今の事務所まで持って行っちゃったけど」
その雑誌類の量のせいで、
プロデューサーが酷く苦労していたのも、つい最近の出来事。
「それにしても、社長も突然すぎるわよね。
いきなり引っ越しって言われても、いろいろ面倒なんだから」
ぐるりと白い部屋を見回して、音無さんが電気のスイッチを入れた。
暗くなりかけていた室内が、また明るさを取り戻す。
「よかった。まだ生きてるみたい」
「ちょっと暗くなってきましたね」と、萩原さんが眩しそうに明かりを見つめた。
そろそろ日も沈んでしまうし、お開きにした方がいいんじゃないかしら。
私の不安をよそに、萩原さんがさっきの写真の跡を指さした。
「ねえ小鳥さん。ここにはどんな写真があったんですか?」
少し考え込むような素振りを見せてから、音無さんが答える。
「確かそこには、ミニボードがあったはずよ。
それで、その横が棚――」
「そうじゃなくて、これ、見てください」
どれどれ、とそれを確認しに行く音無さんの背を見る。
意外と身長低いのよね、この人。
「確かに、写真の跡みたいなのがあるわね。
えーっと……。
そう言えばあったような……無かったような……。
ごめんなさい、ちょっと分からないわ」
「そうですか」と萩原さんがその壁を撫で回す。
「そこの上には、時計ですよね」
続けざまに、音無さんのいる位置の遥か上を指さした。
それはさすがの私でも覚えてるわ。
「ええ。雪歩ちゃんもよく覚えてるじゃない」
「えへへ」
萩原さんは満足げにうなずくと、両手を壁にぴたりとつけた。
「棚の後ろ側ってこんなふうになってたんですねぇ」
やたらと感慨深そうな声だった。
そこには、ファイルや歌の教本など、
私に必要なものがたくさん詰め込んであったのだ。
「そこにあった教本とか雑誌って、たいてい取り合いになったわよね」
「うん。
みんな譲りたがらないんだもん。
だから、ここでじゃんけんしたり、あみだくじ作ったり……。
それでも、結局並んで読んだけど」
萩原さんが思い出すようにして、天井を見上げながら話した。
そういえば、半ば強制的な形で、
それらの戦いに参加させられたのだっけ。
自分がその戦いに勝った時のことを思い出す。
資料を読むのに集中していて、気が付くと勝手に輪ができていたことが何度もあったわね。
それを見た律子が人払いをしてくれたり――。
「……まぁ、嫌ではなかったけど」
意図せずして出た声に、萩原さんが目を丸くする。
どうやら聞かれてしまったみたい。
でも私、何かおかしなこと言ったかしら。
「音無さんは、いつからここにいたんですか?」
萩原さんを気にせず、何気なく訊ねる。
音無さんは、ぼそぼそと、
そこにあったはずのものの名前を呟きながら、
部屋の中をせわしなく歩きまわっていた。
「そんなの、内緒に決まってるじゃない」
「そうですよねぇ」と、萩原さんが落胆した声を出すと、音無さんは少しむっとした表情で言った。
「それに、昔話ができるほど年は取ってないわよ、私」
「じゃあ、……おいくつなんですか?」
間髪入れずに萩原さんからの質問が叩き込まれる。
音無さんの顔に動揺が走った。
私でもわかるくらい、明らかに。
その姿があからさますぎたので、私は少し吹き出してしまった。
「今、笑ったわね」
音無さんが口をとがらせる。
「すみません。おかしくて、つい」
「……千早ちゃんが意地悪する」
珍しく、少し拗ねたような声を出したかと思うと、
音無さんが萩原さんの背中にさっと隠れた。
「ええっ!?」
突然巻き添えを喰らった萩原さんは、聞きなれた悲鳴をあげる。
ああ、これが私の知っていた場所だ。
どこか見慣れた光景の中で、私たちは目くばせすると、声を合わせて笑った。
笑い声がすべて天井に吸い込まれると、萩原さんが、少しかすれた声を出す。
「楽しかった、ですね」
「……そうね」
と、音無さんが部屋の明かりを見上げて、眩しそうに顔をしかめた。
「やっぱり、何もないと広いですね」
萩原さんがぐるりと回転しながら、しみじみと言った。
「私たちしか、いないからじゃない?」と、私も極めて明るい声で言う。
「だから、なのかなぁ」
多分、それだけではないのだろうけどね。
「だから、よ」
強調するように音無さんが言うと、
欠伸をするような息を漏らしながら大きく伸びをした。
「さて、行きましょうか」
だから、その睫毛が濡れていたのは、欠伸のせいに違いないの。
「じゃあ」と言って、萩原さんがスイッチに手をかけると、
こつん、こつんと階段を上ってくる音がどんどん近づいてきた。
まったく、今度は誰が来るっていうのかしら。
「もしかして……今度こそ泥棒?」
「わわわ、私、穴掘って埋まって――」
「待って!」
二人とも、そんなにあわてなくても、
盗るようなものは、ここにはもう何もないのよ。
でも、面白いからこのまま黙っておきましょう。
階段の音が消えた。
曇りガラスに映った影を三人で凝視する。
ゆっくりと開かれていく扉に、私もつい身を固くしてしまう。
「なんだ、君たちか」
でも、やっぱり私の思っていた通り。
面喰らった様子の二人より一歩前に出て、扉を開いた人物に声をかける。
「ええ、忘れ物がちょっとあったので。
社長はどうしてここへ?」
「近くまで来たら、明かりがついているんだ。
気にならないはずが――」
「もう、社長!
驚かさないでください!」
音無さんが社長の言葉を遮って叫ぶと、
社長は肩をすくめて申し訳なさそうに笑った。
「いやぁ、すまんすまん。
それにしても、何もないとやっぱり広いねぇ」
みんな思うことは同じみたい。
そのセリフは今日、何回も聞いた記憶があるわ。
「でも、昨日来た時よりは幾分か明るいみたいだ」
「昨日も来たんですか?」と萩原さんがおずおずと手を上げて質問した。
「ああ、確認のためにちょっとね」
社長は、頭を掻きながらそれに答えた。
それを聞くなり、音無さんが「あ」と手を叩いて、
「社長、給湯室の戸棚のの中とか、確認しませんでしたか?」と、勢いよく訊ねた。
「いいや。そんな所までは……。何か、あったのかね?」
「……いえ、なにも」
社長の答えを聞いて、音無さんが深いため息をついた。
これは……黙っておくのが吉ね。
萩原さんが、明らかに焦った顔をしているけど、
今の音無さんからは見えてないから、大丈夫なはず。
音無さんは、
「せっかく孫の手まで持ってきたのに」
と残念そうに天を仰いでいた。
それは高い場所にあるものを取るためのものではないと思うのだけど……。
「――にしても、ここからやっと抜け出せたねぇ。
新しい事務所の過ごし心地はどうだい?」
社長が場を取り仕切るように言い放つ。
だけど、逆効果だったようで
「それどころじゃなかったんですよ! もう!」
と、音無さんが怒ったように声を上げた。
私怨が混じっているような気がするのは、多分、気のせいね。
「私に何の相談もなく決めないでください。
引っ越しの手続きとか、結構面倒なんですよ?」
「いやあ……。
でも、最初にここから出たいと言ったのは、君だろう?
確か、狭いからいちいち不便だと――」
「ち、違います!
もっと設備を整えたいと言ったのは、社長じゃないですか」
どちらが本当なのかしら。
まぁ、どちらも本当なのでしょうね。
なんとなく、そう思えるから不思議。
「ねえ、どうしよう」
萩原さんが私のコートの裾をつかんでささやく。
「放っておけばいいんじゃない?」
「……そうだね」
目の前で、口論を広げる二人を見つめる。
だって、止めてしまったら、
ここをすぐに出ていく理由が出来てしまうもの。
だから、放っておくのが一番いいに決まってるわ。
「ねえ萩原さん」
「なに?」
騒々しい環境に乗じて、意を決して訊ねる。
「……なんであんなに堅苦しいの?」
「え? ……なにが?」
「メールよ、メール」
あんな素っ気ないメールをした私が言えたことではないかもしれないけど。
萩原さんは、微妙な間を置いた後、すべてわかったような顔をして口を開いた。
私も、その一言一句を聞き漏らさないように耳をそばだてた。
「メール打つ時って、なんか敬語になっちゃわない?
みんなから指摘されちゃうんだけど……変かなぁ」
「…………そう」
なんだ、と今度こそ誰にも聞こえないような声で、独り言を漏らした。
結局、私の早とちりだったってわけね。
「何か言った?」
「いいえ。別に変じゃないと思うわ」
「そっか。でも、よかったぁ。
千早ちゃん、来ないと思ったもん。
あんなに突然頼みごとしたから、無理かなぁって」
目を細めながら、萩原さんは窓の外をのぞいた。
「予定もなかったし、構わないわ。
でも、誰からのメールかわからなかったんだけどね」
驚いた顔で振り向いた萩原さんに、悪びれることなく告げる。
「アドレス帳、飛ばしちゃったの」
「なんだ」
と、安心したように萩原さんが笑った。
「じゃあ、あとで送ってあげる。
とりあえず事務所の人の分だけあればいいよね?」
「……そんなこと、できるの?」
「できるよ?
そうなら、早く言ってくれればよかったのに」
「ごめんなさい、私よくわからなくて」
そう言って携帯を取り出すと、あの犬が揺れた。
この悪趣味なストラップ、もう外した方がよさそうね。
「やっぱり今送っちゃおっか。
……しばらく終わりそうにないし、ね?」
少しばかり離れたところで、一方的な口論を続ける二人をちらりと見る。
あれはいつになったら終わるのかしら。
「ええ、そうしましょう」
そう言って私は、両手を使ってそっとフラップを開く。
「じゃあデータ送るね。赤外線、ある?」
「……セキガイセン?」
聞いたことがあるような、ないような。
「じゃ、じゃあメールで送るね。――はい、送ったよ」
「なんだかごめんなさい。……ねえ、これをどうするの?」
「簡単だよ?
まずはね――」
懇切丁寧に教えてくれようとしていたのだろうけど、
それを飲み込める気がしなかったので、
私は大人しく萩原さんに携帯を差し出した。
萩原さんはとまどいながらも、それを受け取ってくれた。
そして、私にはできないようなスピードでその細い指を素早く動かした。
ほとんど真っ白だったアドレス帳が、見る見るうちに黒く染まっていく。
「ありがとう。
すごいのね、萩原さんって」
「えへへ、どういたしまして」
画面を覗き込もうとすると、肩がぶつかる。
「ごめんなさい。私、邪魔かしら」
「ううん? 千早ちゃんだって、そんなことないんでしょ?」
「――そうね」
萩原さんは満面の笑みを浮かべたかと思うと、
いきなりびくっと肩を震わせた。
「どうしたの?」
「いや……ストラップが犬っていうこと、ちょっと忘れちゃってて」
そう言うと、私の携帯の端を持つようにして、丁寧にそれを差し出した。
もちろんストラップは宙ぶらりんのまま。
よくよく見ると、結構怖い顔してるわね、これ。
「ありがとう。これ、後で外すことにするわね」
「うん、そうした方が」
――いいと思うな。
多分こう続くはずだったのでしょうね。
だけど、その言葉は続けられないまま。
「どうしたの?」
「ねえ、私いいこと――」
「――千早ちゃんもそう思うわよね!?」
萩原さんが再び、びくっと肩を震わせる。
唐突に私たちの間に、大声がはさまれたのだ。
これは飛び火ね。
だって、気が付いたら音無さんが必死の形相で私を見つめていたのだもの。
今更聞いてなかった、なんて言えないわよね。
ひとまず適当に、
「ええ、そうですね」と、相槌を打つ。
「ですって、社長」
「……なら、申し訳なかったね」
その言葉にあまり重みが感じられないのは、たぶん気のせいじゃない。
にしても、これで終わりなのかしら。
さすがに手持ち無沙汰なのだけど。
「それでですね――」
ああ、また始まるの。
「あの、社長」
見計らったかのようなタイミングで声がかかる。
いつの間にか、萩原さんは棚のあったはずの場所まで、移動していたようだ。
「なんだね」
社長は待っていたといわんばかりに、音無さんの前から逃げ出した。
「この写真の跡なんですけど……」
「どれどれ……」
社長がその近くによると、萩原さんが一歩遠くにずれた。
やっぱり、まだダメなのかしら、男の人。
「――写真があったみたいだが、私は忘れてしまったよ」
「そうですかぁ……」
その社長の姿を見て、私は、ふと資料として渡されたファッション誌の特集記事を思い出した。
ちなみにその記事のタイトルは<<男の嘘の見抜き方>>。
酷いセンスよね。
嫌々読んだからか、それだけは頭にこびりついてしまったの。
でも、その中身なんかこれっぽっちも覚えてないのに、
どうして私は社長の嘘がわかったのだろう。
とりあえず、"女の勘"とかいう都合のいいワードを理由にしておきましょう。
もっとも、それに気づいたのは私だけのようで、
萩原さんと音無さんは、残念そうな顔をしていた。
「さて、時間も遅いし、そろそろ行こうか。
どうせ、夕食はまだなんだろう?
ご馳走しようじゃないか」
「はい! 私、いい店知ってます!」
待ち構えていたかのように、音無さんが勢いよく手をあげる。
こうなることも想定済みだったりしてね。
「それは……手間が省けたね」
皮肉交じりの社長の言葉も、
音無さんには通じていないようだった。
「じゃあ、出ましょうか」
しかし、二人が事務所を出ようとしても、
萩原さんは名残惜しそうに、その場に立ち尽くしていた。
「名残惜しいかね」
「……はい」
「じゃあ、私は先に出ているよ。
音無君はどうする?」
「私も出ます。
これ以上ここにいたら、本格的に情が移りそうで」
音無さんが寂しげに笑う。
「それじゃ、なるべく早く出てくるんだよ。
年寄りにはこのくらいの気温でも、結構堪えるんだ」
ばたんと扉の閉まる音がむなしく響く。
今日ここに来た時のように、萩原さんと二人きり。
「ねえ、さっき何か言いかけてたけど――」
夕方の頃が嘘のように、言葉が自然に出てくる。
萩原さんは何も言わずに、にっこりと笑って給湯室の方へと入って行った。
慌てる必要もないのに、ついそのすぐ後を追いかけてしまう。
「ねえ千早ちゃん」
くるりと向き直って、萩原さんがその顔を崩さないまま問いかけてくる。
「千早ちゃんは好きじゃないものってどうする?」
何を言っているのかしら。
私はまだ、萩原さんがこれから何をしようとしているのか、見当もつかなかった。
「そうね……。
とりあえず使ってみて、要らなかったら片付けるわ」
「じゃあ――――」
言い切るなり、ついさっきまで楽しげだった表情が一気に曇って行く。
「あ、でも、だめかな。こんなことしちゃ。やっぱり――」
どうやら、怖気づいてしまったみたい。
だから私は、その不安を取り払うように、精いっぱいの力を込めて言った。
「とてもいい考えだと思うわ。私もするから、やりましょう?」
「公園の近くに店があるんです。
だから、そこを抜けていきましょう!」
音無さんの提案に従って、
私は元来た道を辿って行くことになった。
私の背後から、風が囁くようにさやさやと流れていく。
とりあえず、家に帰ったらこのコートをしまわないと。
そうしたら、この風に歌を乗せましょう。
それなら私がどこにいても、もっと遠く、どこまでも届くはずよね。
遠くなった事務所は、
すっかり夜色の中に溶け込んでしまっていた。
太陽が出ていた時には、
まだはっきり見えていたのに、
その存在は、どこかおぼろげなものになっている。
なんだか今日の出来事もあの場所も、
全部、ふわふわした夢の中だったみたい。
「さよなら」
私は誰にも聞こえないようにつぶやいて、腕を下げたまま小さく手を振った。
多分、私はもうあの場所に足を踏み入れることはないのでしょうね。
だって、これ以上パンドラの箱を引っ掻き回すような真似、しない方がいいに決まってるもの。
「綺麗ですねぇ……」
あのくぐもった声のする方を振り返ると、さっきの桜がライトアップされていた。
「ああ。実にいい眺めだ」
満開の桜を見上げて、社長がかみしめるように言う。
「今度、ここで花見でもしようか。
あの桜の下だと、なかなかいい写真が撮れるんだ」
「じゃあ、場所取りはお願いしますね」
音無さんが悪戯っぽく笑う。
私はというと、喉元まで来ていた言葉を飲み込むことに必死だった。
――社長はよくご存知なんですね。
わざわざ指摘してしまうなんて、あまり良いことではないわよね。
「ああ!」
いきなり萩原さんが叫び声を上げる。
三人同時に萩原さんを見つめると、
少しばかりまごついたけど、すぐに前を見据えて、桜の木の下を指さした。
「あれ、見てください!」
「……おじさんたちがお酒を飲んでいるけど」
「その真ん中に立ってる人ですぅ!」
「とても美しい人だねぇ」
社長がのんびりとした声を出す。
それとは反対に、音無さんは顔色を変えて叫んだ。
「何言ってるんですか社長!
遠目で分かり辛いけど、あれ、あずささんですよ!!」
「まぁ、とりあえず電話をかければわかることでは?」
とっさに携帯を開いて、
先ほど萩原さんから受け取ったアドレス帳から、
あずささんの電話番号を引っ張り出す。
『おかけになった電話番号は――』
ああ、そういえば。
「みんな、のんびりしてないで早く!
サラリーマンの輪の中にアイドルがいるだなんて……問題じゃないけど大問題です!
ああもう、仕方ないわね。社長!」
「ちょっと待ってくれ。それでは五人分に――」
「そんなこと言ってる場合じゃありません! 行きますよ!」
社長は、音無さんに引っ張られるがままに桜の木の下へと向かって行った。
「事務所の場所が変わったことなんて、
あずささんにとっては些細なことなのかもね」
萩原さんがぽつりと呟く。
私も呆れたような調子で、同じように呟いた。
「あの人にとって、場所なんかこれっぽっちも関係ないんだわ」
おじさんたちの中へ、社長を放り込む音無さんの背中を見やる。
自分では入らないのかしら。
でも、私もあの中には入りたくないわね。
「そうだね。あんまり関係ないんだよね」
喧騒の中で、吐息交じりの声だけが耳に響いた。
「ええ、そうね」
「私ね、環境が変わるのってあんまり好きじゃないんだ。
だから引っ越しも、実はちょっぴり嫌だったんだよね」
おじさんたちの中に紛れ込んだ社長が困り顔をしているのは、遠目にも見て分かる。
「でもね、今日、からっぽになったあの場所に二人で行ってみて分かったんだけど」
桜の下では、
輪の中からあずささんを引っ張り出す社長の姿と、
勇ましく、ぶんぶんと手を振る音無さんの姿があった。
「千早ちゃんたちがいれば、大丈夫な気がしてきたんだ」
向こうに手を小さく振り返しながら、
私の隣で萩原さんがしっかりと微笑みかけてくれた。
もっとも私は、まっすぐ前を向いたままの状態で
「そうね」
としか、言えなかったのだけど。
「あらあら、みなさんお揃いで~。
今日は、なにかあったんですか?」
音無さんと社長の間に立ったあずささんは、
いつも通り悠長な声で言った。
「なんでまた、あんなところにいたんですか?」
「お散歩してたの。
ここって、前の事務所の近くでしょう?
だから、ちょっと寄ってみようかと思ったんだけど、
気が付いたら、あの中に引きずり込まれてて」
大して困っていないような調子で、あずささんが微笑む。
「ちなみに携帯はどうしたんですか?」
「携帯?
……ああ、家を出てすぐに電池切れしちゃったの」
それは、携帯を持ってる意味がないのでは。
矢継ぎ早に投げかけられた私の問いかけを、さして気にせず、
あずささんは桜の木と、その周りの人々を横目で見やった。
「でも、おじさんたちが酔っててよかったわ~。
そうじゃなければ、気づかれてたかも」
なんてね、とあずささんは小さく舌を出した。
「本当ですよ」
と、音無さんが安堵したような声を漏らすと、
すっとあずささんの肩に手を置いた。
「まあ、何事もなくて良かったです。
それよりあずささん。晩御飯、ご一緒しませんか?
社長のおごりですよ?」
「それは素敵ですね~。
でも、よろしいんですか?」
それにノーと言える人が、この世の中に存在するのかしら。
「ああ、私に任せたまえ!」
社長がやけっぱちに言い放つと、
今来た方に背を向けて、足取り重そうに歩き始める。
だから私たちも、そのしょぼくれた背中をゆっくりと追いかけて行った。
>今日はありがとうございました。
>それで……、
>今度、新しいの買いに行きませんか?
>空いてる時間があったら、教えてください。
>じゃあ、また明日。
>新しい事務所でお会いしましょう。
やはり、堅苦しすぎるわね。
萩原さんには悪いけど、今度顔を合わせたときに指摘しないと。
だから、明日は新しい事務所に寄ってみましょう。
そうすれば、萩原さんが少し戸惑ったような顔で、私の予定を訊ねてくるに違いないわ。
でも、あの場所は、設備が過剰でどうも落ち着かないのよね。
直に馴染める、なんてプロデューサーには言われたけど、どうなのかしら。
まあ、なんでも、いいですけれど。
だって、場所が変わっても、変わらないものがあそこにはあるのだから。
分かりました、ではまた明日、というだけのメールを送る。
私はぎこちない手つきで、
充電器と携帯を接続させると、部屋の中をさっと見回した。
……ちょっと、殺風景すぎるかも。
あの新しい場所ほど大仰でなくてもいいけど、
少しくらい彩ってみても罰は当たらないわよね。
春なんだもの。
慣れないことをしてみたって、いいでしょう?
どうしたって、あの空になった事務所よりかは見栄えするはずよ。
だって、あの事務所にあるのは、
空になった空き缶と、不細工な二匹の犬だけなのだから。
要らないものだらけの場所。
だから、それ以下になるはずないのは、もう決まってることなの。
私は充電器をコンセントを刺すと、
その前で来るかも分からない"おやすみなさい"の返事を待った。
そして、その間中、
どうやって部屋の模様替えの相談を、萩原さんに持ちかけようか、
いまいち飾り気のない部屋の中でずっと考えていた。
季節外れですまない
ちはゆきっていい組み合わせだと思うんだけど少ないよね
乙
Entry ⇒ 2012.10.17 | Category ⇒ アイマスSS | Comments (1) | Trackbacks (0)
P「律子は説教デレ」
バンッ!!
春香「ぅひっ!?」
律子「いい加減にしてくださいプロデューサー!」
春香(あちゃ~、プロデューサーさんてば律子さんに説教されてる)
律子「何度同じ失敗を繰り返せば気が済むんですか。先週の木曜も同じでしたよね!?」
P「ごめんなさい……」
春香(今出て行ったらマズいよね?)
律子「なぜ今朝はおはようのキスがなかったんですか?」
春香(ワッツ!?)
律子「あらためて確認しますが」
律子「いくら物覚えの悪いプロデューサーでもこれだけは記憶していると信じたいのですが」
春香(律子さんごめん、今キスとか聞こえちゃった)
律子「我々のキスについてです」
春香(言ってる!!)
律子「付き合い始め、我々はこの契約書において相互に同意したはずです」
律子「プロデューサーの節穴さながらの目でも見えるよう、B1に拡大しました」
春香(デカッ!!)
律子「おはようのキス、行ってきますのキス、ただいまのキス、おやすみのキス」
律子「これら四大基本キスを怠ることは重大な不貞に当たる、と」
P「はい……」
春香(そ、そうなの……?)
P「私のものです……」
春香(すごい殊勝……)
律子「それぞれのキス、特におはようのキスの重要性については何度も述べたはずです」
律子「愛し合うパートナー同士ならば当然の義務、そうですよね?」
P「はい……」
律子「だというのにあなたって人は……」
P「………」
律子「義務である理由、暗誦してください」
P「え……」
P「あんしょ……え?」
律子「ほら早く」
春香(なんだろうか、この状況は)
P「え、っと……」
P「あ、愛し合うパートナーであれば、睦みあうこと、スキンシップは必然」
律子「はい」
P「特にキスは互いの愛情を確認しあうための重要な行為であり」
律子「続けて」
P「キスのない恋人同士はすなわち、枯れ果てた大地と同じだからである」
律子「………」
P「………」
律子「……」コツコツ
律子「……」コツコツコツコツ
律子「終わりですか?」
P「え……」
春香(指で机コツコツ怖い……)
P「あっ、あ、あーっと」
律子「ハァ……私はどれだけあなたにガッカリさせられないといけないんですか?」
律子「自分が愚昧、または匹夫であるという自覚はありますか?」
P「……すみません」
律子「いえ、いいですよもう」
P「………」
春香(あ、終わる?)
ゴソゴソ
律子「ふう……」
律子「」ピッ
ウィーーン
春香(え? え、え!? なんか上からスクリーン降りてきた!?)
春香(パ○ポだーー!! パワーポイント○だーーー!!!!)
P「律子、事務所にももう皆が来ちゃうし!」
春香(プロジェクターなんていつの間に導入……いやスクリーンも!!)
律子「スケジュール的にそれはないでしょう、これだけ朝早ければ問題ありません」
春香(早起きしちゃったのは誰!? そう、この私!!)
律子「見ていただきたいのはスクリーンの図Pです」
P「………」
春香(図Pがなんと皮肉めいて聞こえることよ……)
律子「そして折れ線グラフの方は、アイドルプロデュース活動における私の仕事力――」
律子「つまり『りっちゃんパフォーマンス』の推移を定量的に示しています」
P「はい……」
春香(はいじゃないのでは? はいじゃないのでは?)
律子「大脳皮質のヒダがデロデロになっているプロデューサーにもわかるように説明しますと」
律子「例えばこの10月8日、この日はとても満足のいくおはようのキスができたようですね」
P「そうみたいですね……」
律子「すると同日、同様に『りっちゃんパフォーマンス』もとても高い値をマークしています」
律子「これが何を意味しているか」
P「………」
P「………」
律子「信じがたいことですが、おはようのキスがありませんでしたので」
律子「当然ながらおはようのキスのらぶらぶ度もゼロ」
律子「同日の『りっちゃんパフォーマンス』も地を這うような悲惨なことになっています」
春香(恐ろしいまでの公私混同……)
P「こ、公私混同じゃないか」
春香(言った!! なにこのシンクロニシティ! 行けーっプロデューサーさん!!)
P「………」
律子「公私混同ですかぁ……なるほどねぇ……」
P「………」
律子「公私混同ですかぁ……」
P「聞き間違いでは?」
春香(慇懃に日和ったーーー!!!)
春香(というかカップルって初めて知ったし驚いているうえ泣きたい!!)
春香(誰か助けて!)
律子「……と、このようにおはようのらぶらぶキスと『りっちゃんパフォーマンス』は」
律子「密接な因果関係にあるということがよくわかりましたね」
律子「ニューロンがことごとく死滅しているかのプロデューサーにも理解できたかと」
P「は、反省してます……」
律子「………」
P「………」
律子「……」ジーッ
律子「……」チラッ
律子「終わりですか?」
P「え……」
春香(自分の指のネイルを見てからの……!)
律子「プロデューサー」
P「っ!」
律子「本当にあなたはダメな人ですね、ここまで頭が回らないなんて」
律子「説教する私が疲れてきました」
P「そんな……」
律子「まだ気づかないんですか? おはようのキスだけなら私はここまで怒りません」
律子「というより、今日のおはようのキスはとても重大な意味を持っていたはずなのに」
P「あ……」
春香(付き合って○ヶ月的な……)
律子「ゆうべは全然いちゃいちゃできなかったじゃないですかっっ!!」
春香(おーーーーーーい!!!)
律子「お互いに仕事で忙しい身の上で、いちゃいちゃ出来る時間は限られているんです!」
律子「厳しい時間を終えたあと、あなたとふれあえるのがどれだけ嬉しいかっ」
律子「見てよこの髪!!」
P「え……?」
律子「昨日あなたに洗ってもらえなかったからツヤがゼロ! 皆無!! ボッサボサ!!」
春香(いぇーーーーーーい!!!!)
P「いや全然そんなことは」
律子「あります! あるんです!! ぐすっ、やだもう泣きそう……すんっ」
律子「図のRとR´を見でぐだざいっ!」
春香(みんなーーーー盛り上がってるーーーー!!??)
律子「そしてこっちが洗ってもらっていない『りっちゃんヘア』! その差は歴然!!」
P「そうか……?」
律子「そうなんです! こんなの全然パイナップルじゃない!!」
P「いやパイナップルは目指さなくても……」
律子「忙しいのはわかっていますし、いちゃいちゃできない日があるのもわかってます!」
律子「でもっ、ですが図H!!」
律子「こっちがいちゃいちゃできたあとの私の日記におけるハートマークの数っ!」
春香(みんなーーー覚えて帰ってねーーー!!)
春香(これが理路整然としているようで、その実、まるで中身のないプレゼンだよーーー!!)
律子「これが五大基本ハグの一つ、『ちょっと、抱きつかれたら料理できないでしょ……?』」
律子「――の工程を経ていないさもしい夕食です!!」
律子「なんなんですかあなたはっ? 鬼なんですか?」
律子「このうえおはようのキスもないだなんてっ」
律子「ヒトゲノムの塩基配列に『悪』『鬼』『羅』『刹』の四文字でも記されてるんですか!?」
律子「……すんっ」
P「………」
律子「もう、私……何言ってんだろ、ごめ、なさいっ」
律子「泣かないって……決めてたはずなのに……」
P「律子……」
春香「律子さん……(苦笑)」
律子「私が、とんでもない寂しがり屋な、だけ、なのにっ……」
P「そんなに自分を卑下するなって……」
律子「やめてくださいっ、かばわないでください!」
P「っ」
律子「あなたが優しいから……私はとんでもなく甘えちゃうんです」
律子「優しくされると嬉しいけど」
律子「優しくされなかったとき、不安で、さびしくてっ……」
律子「どうしようもなくて……ぐすっ、すんっ……」
律子「もう……だめです私……」
ギュッ
律子「―――!!」
P「律子……ごめんな」
P「ハハ、なあに、さっきまでプレゼンをしていたじゃないか」
律子「それは、そうですけど……」
律子「それに、プロデューサーが悪いわけじゃ」
P「いや、俺が悪い」
P「すまなかった」
P「昨日だって、頑張れば早く帰れたはずなんだ。今朝も仕事ばっかりの頭で……」
律子「だからそれは」
P「律子」
律子「っ」
P「俺……律子に説教されるの、嫌いじゃないよ」
律子「―――」
律子「な、なんですかそれ……」
律子「だからぁっ」
P「だから、」
P「俺のことで説教したくなったらいつでも説教してやってくれ」
律子「え……」
P「甘えたくなったなら、いつでも甘えてくれ。仕事の合間だっていいさ」
律子「……」
P「ためこまないで、俺を責めてくれ、依存してくれ」
P「どんな律子でも……俺は受け止めるからさ」
律子「~~~……」
律子「……プロっ」
律子「プロデューサー……」
P「ん?」
律子「ぷろでゅーさーの、ばかぁっっ……」
P「ああ……」
律子「あなたのいないあの部屋で、あなたのいない夜をすごしてっ」
律子「晩ご飯も一人で食べて、いつもみたいに抱っこされながらじゃなくてっ」
P「ごめんな……」
律子「洗い物しながら後ろを振り返っても、あなたはいないし!」
律子「お風呂だって一人だし、洗いっこも、湯船に入るのもキスしながらじゃないしっ」
P「髪の乾かしあいっこも」
律子「デザートを食べさせあうのだって! 昨日はプリンの日だったのに!」
P「そうだな……」
律子「あなたが差し出してくれるスプーンじゃなきゃ、デザートなんて食べた気しませんっ」
律子「途中までは頑張って起きてたんですっ、でも」
P「起こさないようにベッドに入って、隣で寝てやることしかできなかった」
律子「そうですっ、いつもはハグしながら、ナデナデもしてもらえるのに」
P「おやすみのキスもだ」
律子「何回もちゅーをしながら、あなたの胸の中で眠るのが、私の幸せなのに……」
律子「おかげで悪い夢を見ました……」
P「それは、どんな?」
律子「あなたが……」
P「………」
P「俺はどこにも行かないよ」
P「ずっと律子のそばにいる」
P「約束する」
律子「プロ、デューサー……」
P「律子……」
律子「………」
P「愛してる」
チュッ
P「………」
律子「ぷはっ……あぁっ……」
律子「ん……」
P「………」
律子「………」
P「だ……ダメだったか?」
律子「……っは」
P「ふふ、そっか」
律子「あなたに耳元で愛してると囁かれて、クラリとこない女性がいますか?」
P「いや、律子くらいのものだって」
律子「フザけないでください……なんなんですかもう……めろめろですっ」
律子「さびしくさせたかと思ったら、こんな、優しくして」
律子「これからの結婚生活でも、同じことを繰り返すつもりなんですかあなたは」
P「気をつけるよ。努力する」
律子「罰としてこれからはダーリンって呼びますから!」
P「仕返しには何がいいか。りっちゃんとか?」
律子「バカっ……ほんとばか……」
P「………」
律子「だいすき……」
春香「…………」
春香「だいすき、か……」
春香「………」
春香「きっついねえ……」
春香「へへ……室内だってのに、風が身に染みやがる……」
春香「B1の紙もはためいてらぁ」
春香「………」
春香「あれ……なんだろこの感じ……」
春香「私、興奮してる……?」
この日以降、春香がNTR属性に目覚めるのはまた別のお話
おわり
T たらたらしてたら
R りっちゃんにとられた
Entry ⇒ 2012.10.16 | Category ⇒ アイマスSS | Comments (0) | Trackbacks (0)
怜「うちがエロゲしてる所を竜華に見られてしもた……」
怜「りゅ、竜華!これは!」
怜(アカン、よりによってえっちシーンを見られたらなんも言い訳できへん!)
竜華「これ……何……」
怜「ち、違うんや竜華!これは!」ガタンッ ブツッ
『モモッ……モモッ!!』
『あっああっ……!そんな……!せっセンパイッ!もっと……っ!!』
怜「」
竜華「」
怜「……」
怜「……なんや」
竜華「……い、いや、その……な?」
竜華「べ、別にうちは、怜がそのような趣味を持ってても別に気にせんというか……」
竜華「趣味は人それぞれって言うしな、ハハハ……」
怜「……」
怜「……そんな目でうちを見んなや」
竜華「え……?」
竜華「そ、そんな!うちはそんな事思ってないで!」
怜「嘘や!!みんなそうやって嘘つくんや!」
怜「心の底では馬鹿にしたり気持ち悪いとか思うとるんやろ!!」
竜華「思わへんて!た、たかがゲームでそんな大げさやで!」
怜「……」
怜「……おい、今なんて言うたんやタコ」
竜華「えっ……」
怜「たかがゲームやて?何言うてんのや、ふざけんな!」
怜「この”作品”はな!先輩と後輩の甘くとも切ない感動的な恋愛劇なんや!」
竜華「で、でも、それエッチなゲームやろ……?」
竜華「いやいやおかしいやろ、怜は女の子やで……」
怜「女がエロゲしたらアカンのですか!!」
竜華「えっ、ア、アカンというか、その……」
怜「そうや、うちはエロゲーが好きや、大好きや!せやけどそれの何が悪いねん!」
怜「ええやろ別に、誰に迷惑をかけてる訳でもないし、うちの好きにさせてくれや!」
竜華「で、でも……」
怜「大体、竜華は勘違いしとるんや」
怜「エロゲーっちゅーんは、何もエッチだけを頼むゲームやないんや」
怜「エロゲーっちゅーんは、人々に夢と希望と青春と感動を与えてくれる、人類が生み出した最高の文化やねん!」
怜「それをたかがゲームだとか、エッチなゲームの一言で済ますなんてうちが許さへんで!!」
竜華「え、えー……」
怜「たまたまゲーム内で恋人がエッチしとるだけで、すぐエッチなゲームと決めつける」
怜「恋人がエッチをしたらアカンねんか!?お前らは父ちゃん母ちゃんがセックスして産まれたんやぞ!」
怜「それを全否定とか、自分自身を否定するもんやないか!」
竜華(うちにそんな事言われても……)
怜「エロゲーがアカンっちゅーんなら、世の中の昼ドラや洋画もアウトやろ!」
怜「濡れ場とかベッドシーンとかアリアリやないか!」
竜華(まぁそういう映画も結構多いみたいやけど……)
怜「大体、竜華も興味あるんやないのか」
竜華「えっ」
怜「みんなそうや、本当は興味あるけど周りの目を気にして手に取らないだけや」
怜「本当は興味があって仕方ないんとちゃうか?」
竜華「そ、そんなことは……」
竜華(アカン、実はちょっと興味あったなんて言えへんわ)
怜「これ持ってき」
竜華「え、なんなんこれ?」
竜華(”君が主でメイドがボクで”……?)
怜「エロゲーや」
怜「竜華はなんも分かっとらんから、うちが貸したる」
怜「まぁ本来はちゃんと購入して貰うのが一番なんやろけど、今回は特別や」
竜華(別にやりたい訳では無いんやけどな)
怜「ひとまずはそのエロゲーを1日でクリアしてくるんや」
竜華「ええっ!?1日で!?それはちょっと早すぎるんとちゃう?」
怜「何言うとるんや、半日もプレイしてれば1日で全ルートとか余裕やろ」
竜華(どんだけパソコンの前におるねん……)
怜「エロゲーを知るには、まずはエロゲーをする事やからな」
怜「それで竜華がエロゲーはアカンと思うなら、それでもええ」
竜華「怜……」
怜「……」
竜華「……うん、わかった。とりあえずやってみるわ」
怜「……」
怜「……そうか」
竜華「……うん、じゃあうち帰るで?」
怜「ああ」
ガチャ バタム
怜「……ふう」
怜「まさか竜華に見られてしまうとは思ってへんかった……」ガックシ
怜「あれはドン引きされてもうたやろなぁ……」ハァ...
怜「……」
怜「……まあええか」
怜「戦国ヒサでもやろ」カチカチッ
『よし、美穂子。セックスするわよ!!』
『はぁっ……!はあっ……!上埜さん!上埜さんっ!!』
『ガハハ、グッドよ!』
怜「さすがヒサやなぁ、不思議と憎めないわこの主人公」
竜華「……」
竜華(勢いで怜に渡されたけど、どないしよ……これ)
竜華「……」
竜華「ま、まあ!怜にあれだけ言われたことやし、ちょっとだけやってみるのもええかな!」
竜華(早速インストールしよ)カチカチッ
竜華(インストール中にゲームのあらすじも読んどこ)
竜華(えーと、何々……)
竜華(主人公・国広一と親友の井上純があるキッカケで龍門渕家と関わりを持ち、事情を知った龍門渕 透華によってメイドとして仕える……)
竜華(なるほどな、この一ちゃんというのがメイドで透華っちゅー子が主なんやな。それで君が主でメイドがボクで、”きみある”か)
竜華(おっ、インストール終わったで)
竜華(早速やってみよ)カチカチッ
『ステルスモモの独壇場っすよ』
怜「さすがモモやで、暗殺率100%とかチートすぎるやろ」
『カン!ツモ、嶺上開花!』
怜「咲も強すぎるやろ……圧倒的すぎるやないか我が軍は!」
『ガハハ!いくわよ美穂子!そろそろ出すわよぉ!』
『っとぉ――――――ぅ!!」ビュビュビューーーッ
『ああっ……!上埜さんのが、たくさんっ!たくさんきてるっ……!』
怜「ほんまこいつはエロい事しかしておらへんな」
怜「……」
怜「さて、もう夜遅いしそろそろ寝よ」
『――1週間おこなったメイド試験の結果を言い渡しますわ』
『――国広一、龍門渕家に対する損害は断じて許しがたいですわ』
『――ですが、あなたの普段の仕事ぶりや活躍ぶりは、誰よりも見ているつもりです』
『よって損害には目を瞑り、合格――としますわ』
『透華お嬢様……!』
竜華「おお……やったなぁ一ちゃん……壺を割った時はどうなるかと思ったで……」カチッ
竜華「しかしこっちのメガネの子はスタイル良さそうやなぁ……」カチッ
竜華「おもちも大きそうやで……」カチッ
竜華「お嬢様もええけど、こっちの子もええなぁ」カチッ
『……もしかして嫌だった?』
『……そんな事ありませんわ、わたくしだってこうしたいと思ってましたの』ギュッ
『透華……っ!!ぼ、ボクもうっ!!』ガバッ
『はじめっ……!』
竜華「お、おおおっ、ついにはじめちゃんと透華ちゃんのえっちシーンや……!」
竜華「透華ちゃん普段はあんなきつい事言うてるのに、めっちゃ可愛ええやん……」
『は、はじめっ!んっ……あっ……そんなことしたらっ……あっあぁっ!』
『透華っ……透華ぁっ……はぁっ……はぁっ……きもちいいよっ……!』
竜華「……」ゴクリ
竜華(な、なんかヘンな気分になってきたわ……)
竜華(……)
竜華「んっ……」クチュッ
セーラ「おはよーさん」
怜「おはよう」
セーラ「竜華はー?一緒やないのー?」
怜「そういえば見とらんな、もう先に行っとるんかな」
セーラ「せやなー」
-教室-
セーラ「あれー、竜華の奴まだ来とらんよー」
怜「ホンマや、もうすぐホームルームはじまるで」
竜華「はぁ……はぁっ……間に合っわ、お、おはよー」ガララッ
怜「なんや寝坊か?随分遅かったな」
竜華「ちょっと徹夜でプレイしてもうて……」ハハハ...
怜「徹夜て……」
怜(ホンマに半日で終わらす気やったんかいな)
セーラ「怜ー、竜華ー、帰るでー」
竜華「あ、うち怜とちょっと用事があるから
怜「は?用事?別にないんやけど」
竜華「何言うとんの怜」
竜華「……”きみある”の件や」ヒソヒソッ
怜「あ、ああ……」
竜華「という訳でセーラ、うちら先に帰るからな!まなまた明日なー!」
セーラ「お、おう……」
怜「……」
竜華「……」
怜「……で、どうやったん?」
竜華「……あのな、怜」
怜「やっぱりアカンかったか?」
竜華「……ちゃうねん」
竜華「すっっっっっごい良かったんや!!」
怜「……」
怜「は?」
竜華「屋敷の人が全員、一ちゃんはうちの家族や!って守ってくれて感動したわぁ……」
竜華「ともきーもめっちゃ可愛いし、ああ、うちもあのお屋敷で働きたいわぁ……」
怜「そ、そうか……」
怜(めっちゃハマっとるやんけ……)
竜華「ねぇ怜、他には?他にはなんかないん!?うちどんな奴でもやるで!!」ア、コレ カエスデ
怜「そうは言われてもなぁ……」
怜「ゲームの貸し借りはあんましたくないねん。SS書きながら調べたけど、エロゲの貸し借りって限りなくグレーやもん」メタァ
竜華「ぐぬぬ……でもっ……」
怜「あとは自分で買ってもらうしかないなぁ」
竜華「……!」
竜華「よし、じゃあ買いに行くで!」
怜「えっ」
竜華「日本橋にそういうの沢山売っとるんやろ?」
竜華「電車なら1時間もかからんうちに着くから、今からでも行けるで!」
怜「いやいやいや、確かに日本橋は大阪の秋葉原っつーぐらいオタク街やけど」
怜「いきなりどしたん、昨日までエロゲは否定的やったやないか」
竜華「……怜、うちが間違っとったわ」
竜華「正直な所、ホンマにただえっちするゲームやと思ってたわ」
竜華「でも実際にやってみると全然ちゃうんやな」
竜華「上手く言葉には出来へんけど、あそこにはうちの全てが詰まっとる気するわ!」
怜(それはないやろ)
怜「ちょ、まてやまてい!制服で行く気かいな!」
竜華「なんや、何か問題でもあるんか?別に年齢は問題ないやろ?」
怜「有り有りや、年齢条件をクリアしても場所によっては制服では売ってくれない所もあんねん」
怜「だから一度着替えて行った方がええよ。あ、派手すぎると目立つから地味な服の方がええで」
竜華「ぐぬぬ……それならしゃあないわ。じゃあ一旦着替えて駅前に集合しよか!」
怜(って、うちも行くんかいな)
-十数分後-
竜華「それじゃ、行くで!日本橋!!」
怜(テンション高いなあ)
竜華「という訳で日本橋オタロードにやってきたで」
竜華「早速エロゲショップに入るで!!」
怜「ここに来るのも1週間ぶりやな」
竜華「おお、ぎょーさんあるで……エロゲってこんなにあるんかいな」
怜「新品フロアでこれやからなぁ、あっちの中古フロアも含めると相当やで」
竜華「ホンマかいな!これだけ多いと目移りしてまうなぁ」
怜「なんや、買うもの決めておらんの?」
竜華「そこまで考えておらんくて……一応、怜にオススメでも聞こうかなーて」
怜「オススメって言われてもな、こんだけ数あるんやし……」
怜「ジャンルも色々あるからなー、竜華はどういうのがええのん?」
竜華「そうやなぁ……」
竜華「ドラマチックな展開で燃えるような恋愛もええけど、とにかくヒロインとイチャイチャする奴もええなぁ……」
怜「曖昧やなぁ」
怜(割とライトな奴でええやろ)
怜「そうやなぁ、ここ最近うちが面白いと思ったのは”麻雀で私に恋しなさい!”シリーズとかやな……」
怜「”屋上のステルスさん”も良かったわ」 ※本家の人ごめんなさい。
怜「あとは”恋愛0まいる”もええしなぁ……」
怜「って、これじゃあうちの好みになってまうな」
竜華「名前だけ言われても全然わからんわ……」
怜「まぁ実際に手に取って見るのがええよ、うちもそこらへん回ってるから何かあったら声かけてや」
竜華「わかったで」
竜華(選ぶに選べへんわ……)
竜華(実際に手に取って見るのがええらしいけど……)
竜華(とりあえずこれ見てみよ)カタッ
竜華(”マツミノソラ”……姉妹が田舎に引っ越すお話?うちずっと大阪やから田舎系も面白そうやなあ)
竜華(これはなんやろ、”黄昏のエイスリン”……これも岩手の田舎系やな)
竜華(次は……”愛宕姉、ちゃんとしようよっ!”……タレ目のお姉ちゃんと過ごすドタバタコメディ……面白いんかそれ)
竜華(他には……”おしえて!赤土先生”……主人公が先生に性教育を教わるゲーム?こんなんもあるんか)
竜華(んーホンマ色々ありすぎて何から手にとっていいのか分からんわ……)
竜華「そういえば怜は何しとるんやろ」チラッ
なんでや!ハルちゃんかわいいやろ!!
あらたそ~
怜(まだあるかな……と、あったあった!)
怜(”関西の空を越えて”)
怜(関西人ならこれはやっといて損はないで!って知人に勧められたんよなぁ)
怜(以前から気になっていた作品ではあるしな、今日これ買うてくか)
怜(他にもなんかあるかな……っと)
怜(なんや、今週の処分セールは鶴賀ソフトウェアかいな)
怜(”秋色透華”に”みはる”、”明日の尭深と逢うために”に”しあわせ麻雀部”)
怜(うち好きなんやけどなぁ、鶴賀ソフトウェア……)
怜(そういえば竜華はどうしとるんやろ)チラッ
竜華「いやそれがなー、色々手にとって見ても数が多すぎて……」
怜「なんや、最初のうちは何でもええから買うてしまうのが一番や」
怜「エロゲってのは、数をこなしていくうちに自分の好きなジャンル、欲しいジャンルってのがわかってくるもんや」
怜「色々なジャンルを知っておくのも大事やから、最初はとにかく幅広くプレイするのがオススメや」
竜華「とか言われてもなー……」
怜「ホンマに最初はテキトーでええねん、次に手にとった奴をレジへ持っていけばええんよ」
竜華「怜がそこまで言うなら……わかったで!」
竜華「……えっと、”車輪の国、嶺上の少女”やて」
怜「あー、それを引き当ててしまいましたかぁ」
竜華「え、なんかやばいん?」
怜「いや、やばいというか名作も名作やな」
怜「ただ、あまりにも定番作品すぎてニワカ扱いされたりするぐらいや」
竜華「そうなんや、じゃあうちこれにするわー」
怜「せやな、ええと思うよ」
竜華「そんな訳で帰ってきたでー」
怜「なんだかんだで長く居てもうたな、すっかり真っ暗やわ」
竜華「よおし、帰って早速プレイするで!」
怜(すっかりハマっとるなぁ、竜華)
竜華「じゃあうち先帰るで、怜。また明日や!」
怜「ああ、また明日な。遅刻ギリギリになるまで徹夜せんようになー」
竜華「わかっとるってー!」タッタッタッ
怜「……」
怜(ホンマにわかっとるんやろか)
竜華「ふう……ご飯もお風呂も済ませたで!」
竜華「インストールも終わっとるし、早速プレイやな!」カチカチッ
竜華「っと、そや。ヘッドホンもちゃんとつけな」ガサガサ
『まずは自己紹介をしましょう』
『私は宮永咲、読書とお姉ちゃんが大好きです』
『訳あって故郷でとある最終合格試験を受ける事になったのですが……』
『………タ―――――――ンッ』
竜華「開始5分で人が死んだで」
怜「さーって、うちも買うてきた奴やるかー!」ポチッ
怜「この作品は、関西の航空学生……っと、予備生徒やったっけか。が、内戦しとる関西軍と関東軍の争いに巻き込まれていく作品や」
怜「”ひろぽん”の奴が勧めてくれたんやから、多分面白いやろ」
『セーラ、何見ているの!!』
『君はペアを見捨てるパイロット?それとも共に戦うパイロット?』
『じ、自分は常にペアを戦うパイロットであります!!』
『ならどうして、相棒が倒れているのに案山子のように突っ立って見ているの!』
怜「うわ、この赤土教官って人厳しいなあ』
怜「ホンマ、パイロットは地獄やでぇ……」フゥハハハーハァー
怜「しかしまぁ、これはこれで面白そうや」
『咲……』
『……助けて』
『―――任せて』テテーテテテーテテーン
竜華「咲さんかっけーー!!」
竜華「これはイケメンすぎやろ」
竜華「アカン、このゲーム面白くて辞めるに辞められへんわ」
竜華「もう寝なアカンのに、ちっとも寝る気にならへん……」
竜華「……」
竜華「ケ、ケホッ……ケホッ……う、う~ん、ウチちょっと風邪気味やなー(棒)」
竜華「怜に風邪移したら悪いし、明日はちょっとお休みさせてもらおっと……」
竜華「……」カチカチッ
『俺なんか忘れれば、お前はこれからいくらでも幸せになれる。スマン、許せや』
『セーラぁぁぁぁ!!』
『うおおおおおっ!!』
『――――今後も我々の志を継ぎ、戦い続けるすべての人々に幸あらんことを』
『関西……万歳』
怜「関西……万歳!!」
怜「セーラが一人F2で突っ込む所とかカッコ良すぎやわ……」
怜「しかしまぁ戦争なんかやからしゃあないんやろけど、人が死にすぎやろぁ……切ないちゅーかなんちゅーか……」
怜「……っと、もうこんな時間かいな」
怜「……」
怜「ケホッ……ケホッ……あー、うち病弱やからなぁ……たまにはガッコ休んでゆっくりしとこかな(棒)」
怜「……」
怜「これはちょっと休憩して、STEALTH ALBUM2やろ……」カチカチッ
「それでは、皆さん席についてくださいホームルームをはじめますよ」
「……おや、園城寺さんと清水谷さんは欠席ですか」
セーラ「怜と竜華の奴、無断で休むなんて珍しいナー」
セーラ「怜が休む時は大抵俺か竜華に連絡が来るはずなんやけど……」
セーラ「肝心の竜華も連絡ないし、一体どうしたんやろなー」
セーラ「……」
セーラ(帰りに怜ン家と竜華ン家に寄ってくか)
『ああっ……おねえちゃんっ!そろそろ……!んっ!!』
『んっあっ……!ええよっ…‥!沢山うちに…っんあっ!出してええよっ……!絹っ!』
『お姉ちゃんっ……!!うっ……!!』
竜華「あっ……うちもイキそやで……」クチュ
竜華「絹ちゃんっ……絹ちゃんんっ!」クチュクチュ
竜華「―――――っ!」ビクンビクン
竜華「……」
竜華「……ふぅ」
竜華「良かったわ……洋榎ちゃんも絹ちゃんも可愛すぎやわぁ……」
竜華(まさか学校休んでエロゲ買いに行くとは思わんかったけどな)
竜華(愛宕姉、ちゃんとしようよっ!昨日見た時面白いか疑問に思ったんやけど買うてよかったわ)
竜華「よし、もう1回やるで……!」
『お、お姉ちゃんそこはっ…あっ!んなっ……そこはアカンて!』
竜華「はぁっ……はぁっ……ええよ絹ちゃん、かわええで……」クチュクチュ
竜華「うちっ……またっ……イキそっ………―――っ!」クチュ
セーラ「ピンポーン、勝手におじゃまするでー、竜」ガチャ
セーラ「か……」
『ひゃあっ!ら、だめっ!お姉ちゃんっ……!もううちイッてまうの!!』
『ええでっ……!イってやっ……!一緒にイこやっ……!うちもイくでっ!!』
竜華「―――…‥へぁっ?」ビクビクッ
セーラ「」
竜華「」
怜「ふぅ、結局ロクに寝ずにぶっ続けでプレイしてもうたわ」
怜「やっぱかじゅモモは正義やなぁ」
*ひろぽん
がオンラインになりました。 ポンッ
怜「お、ひろぽんがス○イプにログインしよった」
怜「なかなか良い作品教えてもろたしなぁ、報告ついでにお礼も言っておこか」
ひろぽん : ここやで (トントンッ
トキ@ヒサⅨ楽しみや : 関西の空を越えて やったで。なかなかすばらやったわ
ひろぽん : せやろー!すばらやろー!
ひろぽん : ところで、トキのオススメはなんかないんか?うち丁度この前買った奴終わってもうてな
トキ@ヒサⅨ楽しみや : そうやな、なら飛行機繋がりで……”この関西に、翼を広げて” とかどや
トキ@ヒサⅨ楽しみや : ひろぽんは関西モノ好きやろ
ひろぽん : あー、一時期話題になっとったな。結局買うてなかったんよな
トキ@ヒサⅨ楽しみや : ちょっと病弱な子とかおっぱいの大きいロングヘアの女の子とかかわええからオススメやで
ひろぽん : ホンマか じゃあ今後行った時にチェックしてみるわ
トキ@ヒサⅨ楽しみや : おう
怜「ふー、やっぱエロゲ友達とエロゲの会話をするのは楽しいな」
怜(竜華もエロゲにハマっとったみたいやけど、まだまだ深い会話はできへんしな)
怜「……」
怜「暇やな、”宮守ラブラブル”でもやるか」
『ふっ……!はっ……はっ……胡桃っ……イくよっ……!なかに……っ!』
ドピュピュピュッ
怜「シロは凄いなあ、ちっこいの子にも容赦ないでぇ……」
ガチャ
セーラ「と、怜ー!!竜華が、竜華がーっ!!」
怜「あ」
セーラ「」
怜「」
つづカン
一番エロゲっぽいのは間違いなく永水女子
ワカメ色に染まる坂
Entry ⇒ 2012.10.16 | Category ⇒ 咲-Saki-SS | Comments (0) | Trackbacks (0)
まどか「それは まぎれもなく コブラだなって」
マミ「ティロ・フィナーレ!!」
ドォォォ――――ン!!!
まどか「あっ、あっ」
さやか「あぁ!」
脱皮し、マミを喰らおうとする『お菓子の魔女』。
マミ「!!」
ドゴォォォ――――!!!
お菓子の魔女を貫く光。爆発する魔女。
まどか「な、何?今の…光みたいな…」
さやか「魔女から出てきた、魔女を…貫いた」
マミ「…何がどうなってるの…?」
コブラ「危なかったな、お嬢ちゃん。もう少しでその可愛い顔にギザギザの傷がつくとこだったぜ」
さやか「ヒューッ!」
―― その少し前 ――
コブラ「どうだ、レディ。タートル号の調子は」
レディ「あまり良くないわね。この地帯を抜ける程度は出来るでしょうけど、次の星ですぐ整備に入らないと…」
コブラ「ったく、なんだって急に不調になんかなりやがるんだ」
レディ「原因は分からないわ。ブースター、反加速装置、シールド…全て異常は無いみたいなのだけれど、どうもスピードがフラついて落ち着きがないのよ」
コブラ「じゃじゃ馬め。人参でもやれば落ち着くか?」
レディ「それで直れば苦労はしないわね。とにかく、出来るだけ急いでみるわ」
コブラ「頼むぜ、レディ。それまで俺は… …ふぁぁ、一眠りしておく」
レディ「分かったわ。… … …!!あれは!?」
コブラ「!?どうした?」
タートル号の目の前に突如現れるブラックホール。
レディ「ブラックホール!?そんな…予兆もなく突然現れるなんて!」
コブラ「おいおい、タートル号の不調の次はブラックホールときたか!?俺はまだ厄年じゃないんだぜ、チクショー!」
レディ「シールド全開!加速でどうにか突っ切って…!… …ダメ!飲み込まれるわ!!」
コブラ「どわぁぁぁ―――!!」
ブラックホールに飲み込まれ、コントロールを失いながら闇に沈んでいくタートル号。
レディ「コブラ… コブラ!!」
コブラ「…っ! …くぅー、痛ててて…」
レディ「大丈夫?怪我はない?」
コブラ「しこたま頭をぶつけたくらいだよ。…ったく、危うく三度目の記憶喪失になりかけたぜ」
レディ「良かったわ。…どうやら、無事みたいね私達」
コブラ「ああ。…タンコブが痛いのを見るに、どうも生きているらしい。…にしても…どこだ、ここは?」
レディ「…座標に無い場所ね。計器は正常に動いているみたいだけれど…」
コブラ「…!おいおい…なんだ、こりゃあ…」
タートル号の周りに広がるお菓子の山。そこを彷徨うようにうろつく、ボールのような一つ目の怪物達。
コブラ「どうやら俺達はヘンゼルとグレーテルになっちまったみたいだぜ。レディ、パンでも千切ってくれ」
レディ「それじゃあ元の場所に帰れないでしょ。…駄目、タートル号のデータベースでもこの場所の情報は見つからないわ」
コブラ「そんな馬鹿な!ありとあらゆる情報がこの船のデータベースには詰まってるはず…!… … …なァんだ、ありゃあ?」
タートル号から少し離れた場所で、死闘を繰り広げるマミとお菓子の魔女。
マミの銃撃が次々と巨大な人形のような怪物にに炸裂していく。
コブラ「…レディ、俺はどうもヘンゼルとグレーテルの話を間違えてたらしいぜ。どうも、グレーテルはスカートから銃を出して、そいつで魔女を倒す話だったらしい」
コブラ「まったくだ。記憶喪失より性質が悪いぜ。これが夢じゃないときてる」
レディ「…でも…少し危ないわね。あの子の闘い方」
コブラ「…ああ。何かが吹っ切れたように闘ってる。あれじゃあ…」
言いながら、コクピットを出て行こうとするコブラ。
レディ「!どこに行くの、コブラ」
コブラ「俺のこういう時の勘は鋭いんだよ。特に美女が野獣に喰われそうな時はね」
タートル号から出て、その様子を伺う。
マミのティロ・フィナーレを喰らい、脱皮をしてマミに襲い掛かるお菓子の魔女。
その瞬間、コブラは左腕のサイコガンを抜く。
コブラ「危なかったな、お嬢ちゃん。もう少しでその可愛い顔にギザギザの傷がつくとこだったぜ」
さやか「ヒューッ!」
まどか「え、どうしたのさやかちゃん」
さやか「いや、なんか言わないといけない気がして」
まどか「なにそれこわい」
コブラ「怪我はないかい?」
マミ「え、あ、ハイ…。…有難うございました…」
コブラ「そりゃあ良かった。俺が来るのが遅けりゃ、アンタ死んでたかもしれないからな」
マミ「そ、そうでしたね…本当に…」
QB「…」
まどか「ねぇ、キュウべぇ。あの人も魔法少女…?」
さやか「いや、どう見ても少女じゃないでしょアレ」
まどか「魔法中年…?」
さやか「ちょ、ま」
QB「いや、分からないね。ボクでも、彼が誰なのか見当がつかないよ。魔法少女でもなく、結界の中に入れて、しかも一撃で魔女を倒せる人間なんて」
コブラ「…!おおっと、俺とした事が。他に2人も淑女がいた事に気付かなかったぜ。…うん?」
まどか「あ、あの…その… … 初めまして」
さやか「ねぇねぇ、さっきのビーム、どっからどうやって出たの!?あれもやっぱり魔法!?」
コブラ「あー、俺はその、魔法ってのはどうも苦手でね。… … …」
QB「…」
その時、結界が解けて全員が元の病院前に戻る。
コブラ「…!!なんだなんだ!?どうなってるんだ!?」
マミ「結界が解けたのよ。…ひょっとして、それも分からないのに結界の中に入ってこれたの?」
コブラ「…まぁ、成行きでちょっと。ところで御嬢さん方にお聞きしたいんだけどね、ここは一体どこなんだ?」
さやか「見滝原だけど」
コブラ「ミタキハラ星?聞いたことないな」
さやか「いや、町、町。なに、おじさん、宇宙人?」
コブラ「おじさんは止してくれよ。アンタ達からならそう見えるかもしれんがね、こう見えてハートは繊細なんだ」
まどか「ティヒヒヒ」
マミ「…訳が分からないけれど、とりあえず私の家でお茶にしましょうか?…もちろん、貴方も一緒に、ね」
コブラ「お、嬉しいねぇ。美女からお茶のお誘い」
ほむら「おい」
――― 巴マミ家。
まどか「ジョー…ギリアン、さん?」
コブラ「そ、いい名前だろ。サインだったらいつでも書くぜ」
さやか「(っていうか…日本人じゃないよね、どう考えてもその名前…)」
コブラ「…まぁ、俺の事はどうでもいい。おたくらの事を色々聞きたいんだが…さっきの場所といい、あの戦いといい、一体どうなってたんだ?」
ほむら「…本当に何も知らないのね。魔女の事も、結界の事も…魔法少女の事も」
コブラ「魔法少女…?」
マミ「私から説明するわ」
コブラに魔法少女、魔女との戦い、戦い続けるワケを全て教えるマミ。
さやか「ちょっ、そこまで教えちゃっていいの?マミさん」
マミ「あの戦いを見た以上、隠し通せるわけないし…それに、命の恩人だもの。何も教えずにいるのはこちらとしても失礼だと思うわ。…でしょ?キュウべぇ」
QB「ボクからは特に意見はないよ。さやかとまどか、魔法少女でない人間が2人見学に来ていたのだから、今更1人増えたところで何も変わらないしね」
マミ「…少なくとも、私の運命は変わっていたと思うの。ジョーさんが助けてくれなければ…本当にあのまま、頭を喰いちぎられていてもおかしくなかったもの」
QB「…」
マミ「私もまだまだ、魔法少女としてツメが甘いのかもね。どこか浮かれながら戦っていたのかもしれない」
ほむら「… … …」
マミ「貴方も、ごめんなさい。帰りにちゃんと解放するって約束したのに、すっかり忘れちゃってて☆」テヘペロ
ほむら(…絶対わざとね、巴マミ)
さやか「にしても…転校生、どういう風の吹き回しよ。一緒にマミさんの家で話がしたい、だなんて」
まどか「…きっと、これから一緒に戦おう、って言いに来てくれたんだよね?ほむらちゃん」
ほむら「…勘違いしないで。そんな気はないわ」
まどか「ぅ…ご、ごめん…」
マミ「あら、それじゃ一体どうしてかしら?」
ほむら「… … …」
コブラ「…ん?」
ほむら(なんなの、この世界は…)
ほむら(今まで巡ってきたどの時間軸の中にも、こんな男が現れる事はなかった)
ほむら(魔法少女では有り得ない、けれど…魔女を倒す程の力を秘めた存在…)
ほむら(…インキュベーターの何かしらの陰謀…?分からない…。…ここは、この男の様子をしばらく観察するしかない)
コブラ「… … …美人に見つめられるのは結構だがね。そう凄まないで、もうちょっと優しく潤んだ目で見て欲しいもんだ」
ほむら「…くっ!」
ほむら(なんなの、コイツ…!本当に読めない…!)
まどか「あはは、ほむらちゃん、照れてるー」
ほむら「!ちっ、違うわッ!」
マミ「あら…うふふ」ニコニコ
さやか「ははは、なぁんだ。転校生でも顔赤くする事あるんだ」ニヤニヤ
ほむら「」
コブラ「しかし信じ難いねぇ。おたくらみたいなか弱い少女があんな化け物と常日頃から戦ってる、なんてのは…。まぁ実際に見たんで信じないわけにもいかないが」
マミ「…説明して納得できるものでもないから、ああして鹿目さんや美樹さんに見学をしてもらっていたのだけれど…ツアー参加者が増えるのは予想外だわ」
コブラ「いやホント、良い物が見物できたよ。お捻りあげたいくらいだね」
マミ「それで…2人はどう?これで見学ツアーは終わりにするつもりだけれど…決心はついた?」
さやか「…」
まどか「…」
マミ「これ以上、生身の身体で戦いの傍にいるのは危険だと思うわ。…決断を急かすわけじゃないけれど、何より貴方達が心配なの」
まどか「…わたしは…マミさんと一緒に戦う、って…そう、決めたから…!」
ほむら「安易な決断はしないでと忠告したはずよ、まどか」
まどか「でもっ!マミさんが…マミさんが!」
マミ「…有難う。でもね、鹿目さん。何度も言うように魔法少女になるのにはとても危険な事なの。…私のためだけに、魔法少女になるという答えを出すのは止めてちょうだい」
まどか「で、でもっ!マミさん、戦うの怖くて、寂しくて、辛いって…だから、わたし、一緒に…!」
マミ「だからこそよ。…美樹さんにも言ったのだけれど…誰かのために願いを叶えるというのは、きっとこれから先、後悔する事になるわ」
まどか「…」
さやか「…」
マミ「だから、後悔なんて絶対にしない、魔法少女になって戦い続けられる…その心に揺らぎが無くなった時に、決めてほしいのよ」
マミ「…鹿目さん。私は、貴方達が戦いに加わろうと、加わらなかろうと…こうしてお友達としていれれば、それだけで…何よりも心強いのよ。それだけは言っておくわ」
ほむら「…。鹿目まどか、何度も言うけれど…私の忠告、忘れないでね」ガタッ
まどか「… … …うん。分かってる。…ありがとう、ほむらちゃん」
マミ「あら、もうお帰り?」
ほむら「ええ」
マミ「…今日は、貴方を縛ったままにしておいてごめんなさい。でも、私少し…貴方の事、信じられるかもしれない」
ほむら「… … …」
マミ「グリーフシードの奪い合いじゃない…貴方の行動には、何か信念のようなものを感じるの。…私の勝手な勘だけれどね」
ほむら「…私も、無益な戦いはしたくないわ。…それだけは言っておく」
マミ「そう…良かった」
ほむら「…お茶、御馳走様…」バタン
さやか「… … …」
さやか「デレたよ!ついにデレたよあの子!鉄壁の牙城にヒビが入ったよ!」
まどか「ちょ、さやかちゃん、声大きい…!」
コブラ「…若いってのはいいねぇ、どうも」
マミ「それじゃあ…別の話をしましょう。私達の事はおしまい。ジョー…さん。次は貴方の話を聞かせてくれる?」
コブラ「…そうだなぁ、マティーニでも飲みながらじっくり語りたいところだが…生憎この部屋には無さそうだし、仕方ないな」
コブラ「俺は…まぁ、しがないサラリーマンでね。宇宙観光の最中に突然謎のブラックホールに飲み込まれて…気が付いたらあのザマだ。マミが華麗に戦ってるところにお邪魔したってワケさ」
まどか「うちゅー…かんこう…?」
コブラ「ああ」
さやか「え、え?その、単なるしがないサラリーマンなのに、宇宙船に乗ってたってわけ?」
コブラ「まぁ、そこまで薄給でもないんでね。宇宙船の1隻くらいは奮発して持っていて、それでちょぃとした旅行に」
まどか・さやか・マミ・QB「… … …」
コブラ「…俺、何か変な事言っちまったかな」
さやか「え、えぇと…どこまで信じればいいのかな…?!正直、全部が嘘っぱちにしか思えないし…ま、まぁ、とにかく…本当に結界の中に入った理由は分からないんだよね?」
コブラ「そういう事。ここがどこの星かも分からないザマだよ。参った参った」
まどか・さやか・マミ・QB「… … …」
コブラ「…どうも俺は、会話教室に通ったほうがいいみたいだな」
コブラ「地球!?日本!?ここがか!?」
さやか「…本気でビックリしてるよ、この人…」
コブラ(この子らの反応を見るに、この星には星間交流の概念が無いようだが…ここが地球だってぇ!?俺の知っている地球とは随分違うぜ)
コブラ(見たところ、文明はかなり遅れて…いや、俺からすれば太古と言うに近いな、ここは)
コブラ(あのブラックホールの先は…過去の時代へと続いていたのか?…いや、それとも、この場所は…)
マミ「でも…仮にジョーさんが宇宙人だとすれば、あの魔女を倒した謎の攻撃にも何となく納得できるわ」
さやか「そうそう、アレ!あのレーザーみたいな光。どっから出てきたの?」
コブラ「あ、いやぁ魔法が苦手ってのは実は嘘でね。俺もちょっとした魔法みたいなものが使えるんだ。こう、念じて、ドバァーっ、と」
まどか「え、じゃあ本当に…契約して魔法を?」
QB「それは違うね。ボクの見る限り、彼はソウルジェムを持っていない。信じ難いけれど、生身の人間のようだ」
コブラ「そういう事。察しがいいね、そこの宇宙人は」
QB「!?」
まどか「ティヒヒ、ジョーさん。キュウべぇは宇宙人じゃないよ。…わたしにもよく分かんないけど」
コブラ「…へ?そうなの?」
QB「…」
マミ「それじゃあ、元いた世界と、今いる私達の世界、見滝原…ジョーさんは全く違う世界にきてしまったという事?」
コブラ「どうもそうらしい。しかも帰る方法が分からないときてるし、いやぁ参ったよ」
さやか「魔法少女の話の次は別世界からきた人、かぁ…。あははは、もうあたしチンプンカンプン」
マミ「…繰り返すようだけど、キュウべぇは本当にこの事については関与していないわけね」
QB「もちろん。わけがわからないのはボクも同じさ。ジョーの言う事が全て嘘とは思えないのも同意見だね」
コブラ(ブラックホールがレーダーにも反応せず、突然タートル号の前に現れるなんてのは明らかに不自然だった。あれは…誰かが俺をこの世界に呼び寄せるための意図だ。…誰かが俺を、ここに来させた)
まどか「それじゃあ、住む場所も無いわけですよね?…どうするんですか、これから」
コブラ「ん?あぁ、まぁ適当に考えるさ。生粋の旅行好きでね、どこでも寝れるのが自慢なんだ」
さやか「いや、そういう事じゃなくて」
コブラ「分かってますって。それじゃあ、俺もアンタ方の言う『魔法使い』になってみようかね?」
マミ「え?」
コブラ「行くアテがあるわけでもない、帰る方法も分からない…ともなれば、願いを叶えられるという魔法少女さんの傍にくっついてるのが一番出口に近いと俺は思うんだ」
マミ「魔法少女になるという事?」
コブラ「止してくれよ。マミの服はとってもキュートだがね、俺があんなの着たら蕁麻疹が出ちまうよ」
まどか(…想像しちゃった)
コブラ「見滝原とか言ったか。しばらくはこの辺りをブラブラさせて貰いながら、アンタら魔法少女の様子を見せてもらうよ」
まどか「…本当に大丈夫なんですか?あの、私、お母さんとお父さんに話して泊めてもらうように…」
コブラ「気持ちは嬉しいがね。年頃の御嬢さんがこんな男を家に連れ込んだら水ぶっかけられて追い出されるのがオチだよ」
マミ「私の家でもいいのよ、一人暮らしだし」
QB「マミ、ボクもいるんだけど」
コブラ「大丈夫大丈夫、心配ご無用。散歩が好きなんだ、気ままにフラフラしてるさ」
さやか「あたし達も、ジョーさんが何か元の世界に帰る手がかりみたいなの見つけたら教えるよ」
コブラ「有難いねぇ。いいのか?さやかだって色々忙しいだろうに」
さやか「あたしは… …大丈夫。マミさんを助けてくれたんだ、何か恩返しをしたいのはあたしもまどかも同意見!でしょ?」
まどか「うん。今度はわたし達が助ける番だと思うし」
コブラ「助かるぜ。…それじゃ、一旦この辺で失礼させてもらうよ。また会おう」
マミ「…ありがとう、ジョーさん。また会いましょう」
コブラ「レディーが俺を必要とするのなら、宇宙の果てからでも飛んで来るさ」
――― マミのアパート、入口。
コブラ「…さてと」ピッ
コブラ「レディ、聞こえるか。今どこにいる?」
レディ「ええ、聞こえるわよコブラ。今はタートル号に乗って太陽系をぐるりと回っているところ。あの場所から現実世界に戻った瞬間に、タートル号で外宇宙に飛んでみたの。…本当に、あなたのいる場所は地球のようだわ」
コブラ「だろうな。それで、元の世界に帰れそうな方法はあるか?」
レディ「残念だけれど…分からないわ。この世界に飲み込まれたブラックホールを探してはいるんだけれど、探知は出来ない。そちらはどう?」
コブラ「こっちも手詰まり。黒幕も何も分かったもんじゃない。…もっとも、あのキュウべぇとかいう生物は怪しいとは思うがね」
レディ「それじゃあ、あの子達の周辺をしばらく監視するの?」
コブラ「そうする。俺の直感ではこの事件には何かしら、かの女達が関係している。それに、女の子の傍にいるのは悪い気はしないからな」
レディ「呆れた。 …コブラ、何点か教えておきたい事があるのだけど、いいかしら?」
コブラ「よろしくどーぞ」
レディ「まず、私達が最初に辿り着いたあの場所。かの女達が『結界』と呼ぶ場所ね。分析したのだけれど、あの場所は言っていたように、現実世界とは少し次元の異なる場所のようね」
レディ「難しい話はしないけど、私達のいた世界にも例のない、亜空間よ。あの場所に何かしら、私達が元に戻れるためのヒントが隠されているかもしれないわ」
コブラ「ああ。俺はそのヒントを探しに、ここに残ってみる。しかし、どうやったらあの空間に入る事ができるのかが分からない。レディ、何かいい方法はないか?」
レディ「あるわよ」
レディ「『結界』のデータをタートル号のコンピューターで分析出来たの。あの空間の一定のエネルギー…かの女達なら『魔力』と呼ぶ未知のエネルギーを解析して、こちらのレーダーで感知できるようにしておいたわ」
コブラ「ほー、流石レディ。仕事が早くて助かるぜ」
レディ「ただ、その空間に直接入る事は出来ないのよ。空間を断裂してその内部に侵入する方法は私でも分からない。可能ならば、その内部に入る能力を持った魔法少女の後をついていくのが得策でしょうけど…」
レディ「単身で貴方が結界に入る方法がないわけでもないの」
コブラ「興味深いね。聞かせてくれるかい?」
レディ「あの結界を『テント』と考えてくれれば分かりやすいわ。一度開いたテントの中には、入口が見つからない限り不可能よ。…ただし、テントを開く場所さえ分かれば、貴方は結界の中に単身で潜り込めるわ」
コブラ「…なるほど。確かマミの話じゃあ、『グリーフシード』ってヤツが孵化する瞬間に魔女が生まれ、同時に結界がその場所に生じると言うが…」
レディ「そのグリーフシードの発する魔力のエネルギーのデータを、タートル号にインプットしたわ。つまり貴方が結界を張り、孵化をする前にその場所に立ってさえいれば」
コブラ「俺も晴れて、テントの中で楽しくお食事出来るってわけか」
レディ「そういう事。私とタートル号はしばらく地球周辺の宙域でそちらの探知をするわ。貴方の周辺に魔力が探知でき次第、リストバンドに位置を送る事が可能よ」
コブラ「了解。助かるぜレディ」
レディ「でも…単身で戦うのは十分気を付けたほうがいいわ。あの魔女という怪物がどれほどの力を持つものか、未だ分からない点が多いから」
コブラ「分かってますよ。…魔女狩りはかの女達の専売特許だ。あんまりやりすぎないようにはするさ」
レディ「それと…もう一つ、これは関係がないかもしれないのだけど…伝えておきたい事があるの」
レディ「…貴方と私が見た魔法少女…巴マミと言ったかしら。あの子が例の化け物と戦っているところを、タートル号のモニターで分析してみて、分かった事があるの」
コブラ「分かった事?」
レディ「かの女の身体から、生体が発生させるエネルギーが探知できないの」
コブラ「!?どういう事だ!?」
レディ「私にも分からない。ただ、人間が本来発生させるべきエネルギーが、かの女の身体からは検知できなかった。…ある一部分を除いては」
コブラ「一部分…?」
レディ「右側頭部の髪飾りの留め具部分。唯一、生体エネルギーがこちらで探知できた場所よ」
コブラ「…ソウルジェム。かの女達が魔法少女になるために必要な道具と言っていたが…」
レディ「そのソウルジェムの発生させるエネルギーが、抜け殻の巴マミを動かしていた…と言っても過言ではないわ。まるで…マリオネットのように」
コブラ(どういう事だ…?あの宝石は魔力の源…契約の証、としかマミからは教えられなかった)
コブラ(かの女はこの事実を知っているのか?いや、隠し事をしている様子は無かったし、そんな大事な物だと知っているのなら余計に伝えなければいけない事だ。…まさか、知らないのか?)
コブラ(…キュウべぇ、とか言ってたか。あの野郎、やはり食えないヤツみたいだぜ)
コブラ(しかし、こいつはまだ俺の中に仕舞っておいた方がいいな。…いつか、分かる日はくる。いきなりそれを知っても混乱を招くだけだ)
コブラ(その事実を知る時まで…俺がソウルジェムを、かの女達を守ればいい。それだけだ)
レディ「報告は以上ってところかしら。何か質問は?」
コブラ「あー…一つ心配事があるんだがね、レディ」
レディ「何かしら?」
コブラ「この国の通貨さ。酒もメシも食えないんじゃあ、魔法使いどころか動けもしないぜ」
レディ「ああ、そうね。…ごめんなさい、通貨については私も調べられないわ。ただ、タートル号に換金していない金塊があるから、どうにか売り払えれば不自由はしないはずよ」
コブラ「おー、そうだったそうだった!やっぱり持っておくべきはデキる相棒と資産だね、ハハハ」
レディ「ふふふ。夜が更けて人目が無くなったら、一度地球に降りて必要な物を渡す事にしましょう。…それじゃあね、コブラ。十分気を付けて」
コブラ「了解。そっちもよろしく頼むぜ」ピッ
コブラ「さて…色々分かった事は多いが、何から始めるかねぇ」
葉巻に火をつけて、一服をするコブラ。
コブラ「…先は長そうだな。それじゃあまず…軽い運動でもしてきますか」
――― 一方、ほむらの家。
ほむら(私は…数えきれないほどの時間を、繰り返し、やり直してきた。その度…あの夜を越えられず、また同じ時間を巻き戻しをして…)
ほむら(巴マミ、美樹さやか、佐倉杏子…そして、私と、まどか)
ほむら(それぞれの時間に、それぞれの運命が存在し、違った展開を見せていた。…それでも、まどかを助けられる時間軸は、まだ見つからないのだけれど)
ほむら「…ジョー・ギリアン…」
ほむら(あんな男が存在する時間なんて、今まで一度も無かった。…私の存在を皆が覚えていないように、彼の事を知っている人物もいない。…インキュベーターでさえも知らないようだった)
ほむら(私と同じ…いいえ、彼自身、自分がこの世界に何故来たのかを知らないのだとすれば、完全なるイレギュラーの存在)
ほむら(この繰り返す時間の中に投じられた、一つの駒。…でも、それがどんな影響をもたらすのか未だに分からない)
ほむら(…巴マミは、あそこで死んでいてもおかしくなかった。彼の存在が、もし…魔法少女を救うために、運命を変えるために、あるのだとすれば…)
ほむら(この先…まどかと私の運命…『ワルプルギスの夜』も…)
ほむら「…倒せるというの?」
――― 見滝原から少し離れた場所。その結界内部。
結界内部は、さながら巨大な書物庫のようであった。幾つもの小さな本が飛び交い、交差する。その本達はどれも手足が生え、笑いながら飛んでいた。
その中央に佇む『辞典の魔女』は結界内の侵入者に攻撃を続けている。
自らのページを開き空間内に文字を具現化させ、弾丸のようにそれらを高速で目的に飛ばし、コブラを攻撃するのだった。
コブラ「どわぁぁっ!っと、っと!うひぃぃーっ!」
叫び声をあげながら結界内を駆けまわり、次々と繰り出される文字の弾丸を避けるコブラ。
コブラ「ったく、活字アレルギーになりそうだぜ!悪趣味な攻撃してくれちゃって」
言いながら左腕のサイコガンを抜き、膝をついた体勢で止まり、『辞典の魔女』へ向けて銃口を構える。
コブラ「さあ、撃ってきな。相手してやるよ」
辞典の魔女「!!」
止まった目標に向け、今まで以上の頻度で文字の弾丸を打ち続ける魔女。
ドォォォォ―――ッ!!
だがその攻撃の全てはサイコガンの連続放射で防がれ、それらを貫いた光は本体である辞典の魔女へと向かっていく。
辞典の魔女「!!!」
攻撃を受けたせいか、一瞬魔女の攻撃が怯み、動きが止まる。その隙にコブラはにぃ、と笑って立ち上がり、サイコガンに意識を集中した。
コブラ「喰らえーーーッ!!」
威力の高い、精神を集中させたサイコガンの一撃は辞典の魔女の瞳を貫く。
崩れるように地面に落ちていく巨大な本。その姿に背を向け、コブラは静かに左手の義手をつけた。
コブラ「っとぉ!」
魔女が倒れた事を現す結界の解除。元の世界に戻ったコブラの手にはグリーフシードが握られていた。
コブラ「こいつがグリーフシードか。…しかし、こいつ一つ手に入れるのにも相当苦労するもんだな、一筋縄じゃいかなそうだ」
手にしたグリーフシードを掌の上で転がしながら、呆れたように見つめる。
コブラ「それで…何か用かい。こそこそ隠れてないで出てきたらどうだ」
静かにそう言うコブラの後ろ。ビルの物陰から、ひょっこり姿を現すキュウべぇ。
QB「君の目的を知りたくてね。少し観察させてもらっていたのさ」
コブラ「そりゃ光栄だ。先生は今の戦いに、何点をつけてくれるのかな?」
QB「君は一体何者なんだい?契約もしていないのに魔女と戦う力を有する存在…。魔法少女である暁美ほむらもそうだけれど、君はそれ以上にイレギュラーな存在だね」
QB「何よりも、君は何故魔女を倒すんだい?ソウルジェムを持たない君にとっては、無意味そのものの行為であるはずだよ」
コブラ「…無意味ねぇ」
コブラ「…ソウルジェム、っていうのは願いを叶えてくれる魔法の宝石。そんな風にかの女達は思っているかもしれないが…」
コブラ「だが、このグリーフシード、ってヤツは…そんなメルヘンチックなもんじゃないね。あんな化け物の身体から出てくるんだからな」
QB「何が言いたいんだい?」
コブラ「俺は宝石にはちょいと五月蠅くってね。いやー、なかなかこのグリーフシードとソウルジェム…似ていると思ってさ」
QB「…」
コブラ「ひょっとしたらこいつを持っていたら俺の願いが叶って元の世界に戻れる手がかりになるかも…なぁーんてね」
QB「説明はマミから受けたはずだよ。グリーフシードはソウルジェムの穢れを吸い取る存在だと」
コブラ「分かってるよ。ま、折角この世界にきた記念だ。お土産の一つに貰っておこうと思ってさ」
QB「わけがわからないよ。君の存在は、暁美ほむら以上に理解不能だ」言いながら立ち去るキュウべぇ。
コブラ「…へっ」
葉巻を口から離し、紫煙を吐くコブラ。月を見上げながら、不適な笑みを浮かべる。
その顔には、どんな運命にも立ち向かう、自信のような感情が溢れていた。
―― 次回予告 ――
青春ってのはいいねぇ。男と女、色恋沙汰っていうのはどこの世界でもあるもんだ。
ここは恋という分野で宇宙一と言われるコブラ教授の出番ってワケ。他人の恋愛に首突っ込むのはあんまり好きじゃないんだが、ここは恋のキューピッドになってやろうじゃないの。
だが一方で次々と事件が起こりやがる。妙な赤い魔法少女が俺に斬りかかるの、まどかとその友達が魔女に襲われるので忙しいったらないよ全く。
どの世界でも、モテる男ってのは辛いもんだねぇ、ほーんと嫌になっちまうぜ。
次回【魔法少女vsコブラ】で、また会おう!
恭介「さやかは、僕を苛めてるのかい?」
さやか「え?」
恭介「何で今でもまだ、僕に音楽なんか聴かせるんだ…。嫌がらせのつもりなのか?」
さやか「だって…それは、恭介、音楽好きだから…」
恭介「もう聴きたくなんかないんだよ!」
恭介「自分で弾けもしない曲、ただ聴いてるだけなんて」
恭介「僕は…僕は…っ!ああ!!」
さやか「!!」
聞いているCDに向けて振り下ろされる、恭介の腕。
瞬間、その腕を掴み、それを止める別の手があった。
コブラ「やめときなよ。そいつを壊したら、アンタはもっと大事なものを壊しちまう」
まどか「ヒューッ!」
第2話「魔法少女vsコブラ」
――― 少し前、夕刻、巴マミ家。
コブラ「いやー、お茶に続いて夕メシまで御馳走になるってのは、嬉しいもんだ。おまけにお誘いが美女からとあっちゃあね」
マミ「うふふ。…もう少しで出来上がるから、冷たい紅茶でも飲んで待っててね」
コブラ「どーも。…しかし、いつもマミは一人の食事かい?若いんだし、寂しいんじゃないかな」
マミ「あら、そんな事ないのよ。キュウべぇは…今日は出かけているみたいだけれど。最近は、鹿目さんや美樹さんが来る事も多いし…今日はジョーさんがご一緒してくれるから腕の振るいようがあるわ」
コブラ「たはは、美女にモテるってのはいつの時代も悪くないもんだねぇ」
コブラ(そろそろジョーって呼ばれるのも止めさせたいところだけど…仕方ない、か)
コブラ「しかし今日は俺だけ。その、まどかやさやかは何か用事かい?」
マミ「ええ、鹿目さんは、今日は何か用事があるみたい。美樹さんはいつものところみたいね」
コブラ「いつもの?」
マミ「言ってなかったかしら。彼女、幼馴染がいるんだけれど…その人の所に毎日のように通っているの。今は丁度その時間だから」
コブラ「ちぇー、毎日いちゃいちゃ、楽しい時間ってわけか」
マミ「そういう訳じゃないのよ。…もっと深刻な理由なの、彼女の場合は」
コブラ「不慮の事故で手を動かせなくなった悲劇の天才ヴァイオリニスト…ね」
マミ「上条恭介くん、って言うんだけれど…美樹さんは毎日彼のお見舞いに行っているのよ。…献身的よね、事故以来、ずっとらしいわ」
コブラ「惚れてるのかい」
マミ「ふふ、どうかしら?…まぁ、彼に対する美樹さんの思いが誰よりも強いのは確かだと思うわ」
コブラ「だったら、余計にハッキリさせないといけないね。女の一途な思いってのは、なかなか男には理解されないもんだぜ」
マミ「そういうものかしら」
コブラ「そうとも。…よぉーし、マミの夕メシが出来る前に、俺がいっちょ恋の指導に行ってやるかぁーっ」
マミ「…二人の邪魔にならないかしら?」
コブラ「大丈夫大丈夫!そういう色恋の問題は宇宙一、俺が経験してるのさ。先輩として教育してきてやらなきゃあな」
マミ「…ジョーさん、貴方…」
マミ「酔ってるのね」
コブラ「へへへ、この世界のカクテルも悪くない味でね。つい昼間から」
マミのアパートから出て、教えられた病院の場所へ上機嫌で歩んでいくコブラ。
コブラ「オーマイダーリン オーマイダーリン~ …♪ … …んん?」
コブラ「ありゃあ…まどかと…ほむらと言ったか。あんなところで何してるんだ?」
ほむら「まだ貴方は、魔法少女になろうとしているの?まどか」
まどか「…それは…まだ、分からないけど…でも、やっぱり…あんな風に誰かの役に立てるの、素敵だな、って…」
ほむら「…私の忠告は聞き入れてくれないのね」
まどか「ち、違うよ!ほむらちゃんの言ってる事も分かるよ!とっても大変で、辛くて、危ない事も分かってるの!」
まどか「この前だって…マミさん、あんなに戦い慣れしてるのにすごく危なかったって、分かってるから…」
ほむら「…」
まどか「…ねぇ、ほむらちゃんはさ」
まどか「魔法少女が死ぬところって…何度も見てきたの?」
ほむら「…」
ほむら「ええ。数えるのも諦めるくらいに」
ほむら「この前の巴マミの戦い…もし、あの男の介入がなければ、彼女も死んでいたのでしょうね」
まどか「魔法少女が死ぬと…どうなるの?」
ほむら「結界の中で死ぬのだから、死体は残らない。永久に行方不明のまま…それが魔法少女の最後よ」
まどか「そんな…」
ほむら「そういう契約の元、私達は戦っているのよ。誰にも気づかれず、忘れ去られる…魔法少女なんてそんな存在なの。誰にも見えず戦い、感謝もされず、散っていく」
ほむら「それでも貴方は、キュウべぇと契約をするつもりなのかしら。…貴方を大切に思う人が、身近にいるのだとしても」
まどか「… … …ぅ…」
ほむら「誰かのために魔法少女になりたいと言うのなら、誰かのために魔法少女にならない、という考えが浮かんでもいいはずよ。それを忘れないで」
まどか「… … …分かった」
ほむら「そう、良かったわ」
まどか「…ほむらちゃん!」
踵を返し、立ち去ろうとするほむらの背中にまどかが声をかける。
ほむら「何かしら」
まどか「…ありがとう。私の事…いつも、心配してくれて…」
ほむら「… … …(ホムホム)」
立ち去るほむら。
コブラ「…おっかないだけの子だと思ってたけど、どうも俺の見当違いだったかな」
道端に隠れていたコブラは、ひょっこりと顔を出して笑った。
まどか「!い、いたんですか」
コブラ「偶然。たまたま居合わせちゃってね、失礼だったかな」
まどか「…だ、大丈夫です。それより、どうしたんですか?こんな所で」
コブラ「いや、なぁに、恋に悩める純朴な少女がいると聞いてね。人生の先輩としてアドバイスに馳せ参じようとしている最中さ」
まどか「…え?」
コブラ「つまり俺は恋というプレゼントを運ぶサンタクロースってわけ」
まどか「わけがわからないよ」
まどか「えぇ!?さやかちゃんと恭介くんの応援に行く…って…」
コブラ「そういう純真な恋はさ、誰かが肩を押さなくちゃ駄目なんだよ!というわけでまどか、俺を病院まで案内してくれ」
まどか「そ、そんな…邪魔になっちゃいますよ…」
コブラ「いいから!さぁ、案内してくれ我が愛馬よ!」
まどか「… … …さやかちゃんの邪魔だけはしないでくださいね。いつも静かに音楽とか2人で聞いてるみたいなんですから」
コブラ「邪魔なんてするかっ。俺に任せておけっての」
まどか「…分かりまし…ウェヒッ!ジョーさん…お酒、飲んでません?」
コブラ「だはははー!こんなの飲んでるうちに入らない入らない。さ、病院まで頼むぜ」
まどか(…さやかちゃんに後で怒られませんように…)
コブラ「ここが彼の病室か」
まどか「はい」
コブラ「どれ、それじゃあ早速」
まどか「ま、まままま、待って!…駄目ですよ、いきなり入っちゃあ!さやかちゃん、今頑張ってるかもしれないんだし!」
コブラ「…頑張ってる?」
まどか「そうですよ。その…あの…恭介くんと、えっと…い、いい感じになってるかもしれないし…」
コブラ「… … …」
コブラ「どうもそういう感じじゃなさそうだぜ、まどか」
まどか「え?」
耳を澄ませろ、とジェスチャーをするコブラ。
病室からは、微かに怒号のような叫び声が聞こえてきた。聞いたことのないような、悲しい叫び声が。
まどか「あ…」
コブラ「乗り込むぜ」
恭介「もう聴きたくなんかないんだよ!」
恭介「自分で弾けもしない曲、ただ聴いてるだけなんて」
恭介「僕は…僕は…っ!ああ!!」
さやか「!!」
聞いているCDに向けて振り下ろされる、恭介の腕。
瞬間、その腕を掴み、それを止める別の手があった。
コブラ「やめときなよ。そいつを壊したら、アンタはもっと大事なものを壊しちまう」
まどか「ヒューッ!」
さやか「!?ジョーさん!?それに…まどかも!」
まどか「あ…。…う…ご、ごめん、さやかちゃん…」
恭介「…ッ!!離せよ…離してくれよ!」
コブラ「この手を離してアンタのバイオリンが聞けるなら喜んで離すがね。誰かを傷つけるために振り下ろされる手なら、俺はあの世の果てまで離すつもりはないぜ」
恭介「…ぐ…ッ!…うぁぁぁ…ッ!くそぉ…ッ…!」
拳から力が抜けたと分かったコブラは、恭介の腕を解放した。
涙を流しながら、誰かに訴えるように語り始める恭介。
恭介「諦めろって…言われたんだよッ…!今の医学では治らないなら…バイオリンはもう…諦めろって…ッ!」
さやか「…そんな…」
コブラ・まどか「… … …」
恭介「もう一生動かないんだよ、僕の手は…!奇跡か魔法でもない限り… …!」
… … …。
場を重苦しい沈黙がしばらく流れる。
すると、さやかがゆっくり、静かに言う。
さやか「…あるよ」
コブラ・まどか「…!」
さやか「奇跡も、魔法も…あるんだよ」
――― 一方。
杏子「…それで?アンタは何が言いたいのさ」
QB「行動は急いだほうがいいという事さ。この前、杏子の縄張りの魔女を倒したのは彼だよ」
杏子「…!マジかよ。随分ナメた真似してくれるじゃんか」
QB「ボクでさえ、彼がどんな素性で何を目的をしているかはさっぱり分からない。勿論、どうするかは杏子の自由だけど、何かが起きてからでは遅いからね」
杏子「…ジョー・ギリアンとか言ったか?おかしな名前しやがって。…上等じゃないのさ」
QB「どうするんだい?杏子」
杏子「確かにムカつく話だね。ちょいとお灸をすえてやった方がよさそう、っていうのは同意見」
杏子「見滝原…あそこはマミの縄張りだったね。前々から魔女の発生頻度が高かったから縄張りをそっちに移そうと思ってたんだけど…」
杏子「丁度いいじゃん。…マミも、ジョーとかいう男も、まとめてぶっ潰せばあそこのグリーフシードはアタシのものになる」
QB「気を付けてね、杏子。あそこには、更にもう一人、イレギュラーな魔法少女もいるから」
杏子「ふん。退屈しなくて済みそうじゃん。ほんじゃあ、行きますか」
QB「今夜かい?」
杏子「急かしたのはお前だろ?…まずは、アタシの縄張りを荒らしたヤツ」
杏子「ちょいとお仕置きが必要だからね」
さやか「ごめんね…二人とも。変なトコ見せちゃって」
さやか「こんな事言うの失礼なのは分かってる。…でも、今日は帰ってくれないかな」
さやか「怒ってるわけじゃないの。…むしろ、感謝してる。ジョーさんが止めなければ、恭介きっと、怪我してたから」
さやか「なんていうか…あたしも、ちょっとだけ…考える時間、欲しいの」
さやか「…ありがとう。…ごめんね」
・
まどか「…大丈夫かな、さやかちゃん。やっぱり、無理にでも一緒に帰ったほうが…」
コブラ「ああいう時は、一人でじっくり考えるもんさ。誰にだって落ち着いて考える時間は必要だ」
まどか「…そう、なのかな…。わたしがもっとちゃんと、二人の事フォローできれば… …っ!?」
言い終わらない内に、まどかの頭にポンと左手を乗せるコブラ。
コブラ「まどか。そうやって何でもかんでも自分のせいにするクセ、おたくの悪いクセだぜ」
時間が止まったかのように、黙る二人。しばらくすると、まどかはポロポロと噛み殺していた涙を流し始める。
まどか「… …ぅっ、くっ…!だ、だって…!さやかちゃん、かわいそうでっ…!あんなに、あんなに頑張ってるのにっ…!わたし、何もできなくて…っ!」
コブラ「泣くなよ、まどか。人は、涙を流すから悲しくなるんだぜ」
パチ パチ パチ。
二人の前に、拍手をしながらゆっくりと現れる人影。その口には棒状のチョコレート菓子を銜えている。
杏子「名演説だね。感動してアタシも泣いちゃうくらいだよ」
そういう杏子の表情は、憎悪に満ちた薄ら笑いだった。
まどか「…っ!だ、誰…?」
コブラ「そいつはどうも。なんならカフェでお茶でもしながらゆっくり語りあおうか?」
杏子「遠慮しとくよ。それに…生憎そんな気分じゃないんだ」
言いながら、赤いソウルジェムを見せびらかすように取り出し、不適に笑う杏子。
まどか「…!ソウルジェム!?」
そしてそれを使い、魔法少女へと変身する杏子。
出現した巨大な槍を演舞のように振り回し、それを終えて槍を前に構えた戦闘態勢へと移る。
杏子「アタシの縄張りを荒らしてくれるなんて、ナメた真似してくれるじゃん。…ジョー・ギリアン!」
コブラ「…やれやれ、夕メシの時間には間に合いそうにないなこりゃあ」
まどか「あ、あ…っ!」
コブラ「まどか、すまないが、先に帰ってマミに夕飯に少し遅れると伝えておいてくれないか」
コブラ「冷めたカレーライスは好きじゃないから、暖かいうちに帰るつもりだがね」
杏子「その余裕…ぶっ潰してやるよッ」
コブラ「急げ、まどかっ!巻き込まれるぞ!」
まどか「…っ!は、はいっ!!」
まどかが走り出すと同時に、杏子がコブラに向けて一気に距離を詰め、槍を振り下ろす。
杏子「でゃああああッ!!はぁッ!うおりゃあッ!」
コブラ「うおっ、とぉっ!ほっ!よっ!」
閃光のような素早い攻撃を次々と避けるコブラ。
コブラ「熱烈なアプローチだなこりゃあ!だがもう少し女の子らしいほうが好みなんだがね!」
杏子「残念だったな!アタシはそんなにおしとやかじゃないんだよッ!」
まどか「早く…早く、マミさんかほむらちゃんに助けを求めないとっ…!」
まどか「このままじゃジョーさんが…!」
急いで、マミのアパートまで走るまどか。
だがその瞬間、信じがたいものを見てしまう。友人である志筑仁美が、何かに憑りつかれたようにフラフラと歩く、その姿を。
まどか「…!ひ、仁美ちゃん!?」
仁美「あら、鹿目さん…御機嫌よう」
まどか「こんな時間に何してるの?お、御稽古事は…!?こっちの方向じゃないでしょ?どこに行こうとしてるの…!?」
仁美「うふふふ…」
仁美「ここよりもずっと、いい場所ですのよ」
まどか「…!」
仁美の首筋にある、魔女の口づけの印。そしてその刻印は、気付けば仁美の周りにいる生気のない人間達のほとんどについているのだった。
まどか「そんな…こんな時に…!?ど、どうすれば…!」
彷徨うようではあるが、確実にある場所に向かう、仁美をはじめとした集団。
放っておくわけにもいかず、まどかはその後についていくのだった。
まどか(あああ、ど、どうしよう…!)
まどか(わたしのバカ!マミさんの番号も、ほむらちゃんの番号も聞くの忘れてたなんて…ッ!)
まどか(仁美ちゃんも放っておくわけにいかないし…ジョーさんも…っ!いくら強いからって魔法少女が相手じゃ、どうなるか…!)
そんな考え事をしているうちに、集団はいつの間にか小さな町工場に辿り着く。
町工場の工場長「俺は、駄目なんだ…。こんな小さな工場一つ満足に切り盛りできなかった。今みたいな時代に…俺の居場所なんてあるわけねぇんだよな」
まどか「!!」
まどか(あれ…洗剤…!)
詢子「―――いいか?まどか」
詢子「―――こういう塩素系の漂白剤には、扱いを間違えるととんでもないことになる物もある」
詢子「―――あたしら家族全員、毒ガスであの世行きだ。絶対に間違えんなよ?」
まどか「…っ!駄目!それは駄目!皆が死んじゃうよ!」
まどかを優しく、包むように止める仁美。
仁美「邪魔をしてはいけません。あれは神聖な儀式ですのよ。…私達はこれから、とても素晴らしい世界へ旅立つのですから」
コブラ「うおおっと!!」
杏子の渾身の一薙ぎを上空に跳躍して避けるコブラ。真上にあった電信柱の出っ張りを掴み、杏子の攻撃範囲から逃れる。
コブラ「ち、ちょっとタンマ!あんたの縄張りに入ったのは謝るからさ、もう許しちゃくれないかね!平和的に行こう!」
杏子「…へっ、ちったぁ懲りたかい」
コブラ「懲りた懲りた、大反省!俺もうなぁーんにもしないから!」
杏子「…そうかい、それじゃあ…。… … …なんてねっ!」
杏子「生傷の一つもつけないで帰すなんて、アタシの腹の虫が収まらないんだよッ!」
そう言って、コブラの掴まる電信柱を斬る杏子。
コブラ「!!どわあああっ!?」
切り落とされ下に落ちる電信柱と一緒に、コブラも地面に叩きつけられるように尻餅をつく。
コブラ「いちちち… …って、のわぁぁぁあっ!?」
杏子「くらえええーッ!!!」
瞬間、それを見計らっていた杏子はバランスを崩して座り込んでいるコブラの頭上へ、槍を振り下ろす。
ガキィィィィンッ!!
振り下ろされた槍は…。
杏子「… …ッ!なんだと…っ!?」
コブラの左腕に食い込み、血の一滴も流さずに止まっていた。
杏子「…くっ!」
その異常な事態に杏子は素早くバックステップをして、コブラの様子を伺うように構える。
杏子「てめぇ、その左腕…何者なんだ…!?」
コブラ「…身体がちょいと頑丈なもんでね。特に俺の左腕はな」
にやっと不敵に笑い、ゆっくりと立ち上がるコブラ。葉巻にライターで火をつけながら、身体についた埃を払う。
コブラ(…とはいえ、こいつはちょっとまずいな。手加減をして戦ってどうにかなるもんじゃないらしいね、魔法少女ってヤツは)
コブラ(だからって素性の知れない魔法少女にサイコガンを使うわけにはいかない…。女を殴るのは俺の主義じゃない…参ったね、お手上げだ)
コブラ(…こうなりゃあ…『アレ』でいくしかないか)
コブラ「仕方ないな、こうなりゃあ俺の奥の手を見せてやるぜ」
杏子「…ほー、楽しめそうじゃん。何をしてくれるんだい?」
コブラ「…驚くなよ?」
槍の刃の音を鋭く鳴らす杏子に対し、コブラは葉巻を杏子の方へ投げ捨てると…。
コブラ「これが俺の奥の手…逃げるが勝ちだぁーッ!!」
瞬間、猛然と走り出して杏子の隣をすり抜けるコブラ。
杏子「…!!??て、てめぇ!待ちやが…っ!?」
その時、杏子の近くに投げ捨てられた葉巻が閃光のように眩い光を一瞬放つ。
杏子「うおおっ!?」
5秒ほどそれは辺りを照らす。次に杏子が目を開けた瞬間、そこにコブラの姿はなかった。
杏子「…くっ!逃げられた!…あのヤロー、あの腕といい、ただ者じゃないなやっぱ…!」
杏子「…でも、このままじゃ済まさねぇからな、絶対…!」
まどか「…!離してッ!!」
仁美の手を振り切り、洗剤の入ったバケツに猛然と走るまどか。それを掴みとると、勢いよく窓の外へ投げ捨てる。
まどか(…よ、よしっ!これでひとまず安心…)
しかし、その行動をしたまどかに向けられる…恨むような人々の視線。
まどか「…え…」
群衆「あぁぁああぁぁぁああああっ…!!」
まるでゾンビが血肉を求めるようにまどかへ襲い掛かる群衆。
まどか「きゃあああああっ!!」
襲い掛かる群衆から逃げ、急いで側にあった物置に逃げ込むまどか。
まどか「ど、どうしよう…どうしようっ…!やだよ…誰か、助けて…っ!」
その瞬間。
まどか「…ッ!!」
まどかの周りに広がる、魔女の結界。それと同時に…窓の割れる音が、微かに聞こえた。
テレビのようなモニターや、使い魔や、木馬がまるで水中のように浮遊する空間。その空間内に、まどかも同じように浮遊していた。
モニターに映し出されるのは、まどかが今まで見てきた、魔法少女の戦いの光景。
まどか(これって…罰なのかな)
まどか(わたしがもっとしっかりしてれば…さやかちゃんも、仁美ちゃんも、ジョーさんも…もっとちゃんと、助けられたのに…)
まどか(だからわたしに、バチがあたったんだ)
その自責の念はまるで声のように結界内に響き渡る。
気付けば、まどかの手足をゴムのように引っ張る、翼の生えた不気味な木製人形達。四肢を引き千切ろうと、徐々にその力は増されていく。
まどか(わたし…死んじゃうんだ…ここで…っ!う、ぐっ…!)
まどか(痛いよ、苦しいよ…っ!)
まどか(もう…嫌だよっ…!!)
その時、まどかの四肢を引っ張る四人の『ハコの魔女の使い魔』が次々に光の波動に消された。
まどか「…!!」
まどか「…ジョーさん!」
コブラ「結界が張られる前に窓に飛び込めて良かったぜ。バラバラになった美少女なんざ、地獄でも見たくないからな」
まどか「… …!!ひ、左手が…ジョーさんの、左手が…!」
まどかが見た、ジョー・ギリアンの姿。
硝煙をあげるその銃口は、本来あるべき左腕の場所にあった。見たこともない、異形の銃。まるでそれは身体の一部のように当たり前にそこにあるようだった。
コブラはまどかの前に立ちはだかり、背中を向けながら語る。
コブラ「…まどか、俺も一つ、罰を受けなきゃいけないのかもしれないな」
コブラ「俺はあんたらに嘘をついていたんだ」
まどか「嘘…?」
コブラ「一つは、俺はしがないサラリーマンなんかじゃないって事」
コブラ「一つは、俺は宇宙観光の最中なんかじゃなかったって事…」
コブラ「そして…最後の一つ、俺の名前はジョー・ギリアンじゃないって事だ」
コブラが喋っている間に、魔女の使い魔は次々とコブラとまどかを襲おうとする。
しかし、それらの全てはサイコガンの連射で次々と撃ち抜かれ、一つとして外されることはない。
まどか「…それじゃあ、あなたは…?」
コブラ「俺は…別の世界では、海賊をしていた。宇宙を流れ星のように駆けながらお宝を見つけ、糧にしていた一匹狼の海賊さ」
コブラ「俺には、一つの名があるんだ。…それは」
まどか「それは…?」
サイコガンに、コブラの精神が集中される。銃口が淡く光り、鋭い、サイコエネルギーをチャージする音が聞こえた。そしてコブラは目を見開き、叫ぶ。
コブラ「俺の名はコブラ!不死身の…コブラだぁーーーッ!!」
ドォォォォォ――――ッ!!!
まるで大砲の砲撃のようなサイコガンの一撃が、放たれた。
サイコガンの高められた精神エネルギーの光は、使い魔達を焼き払い、その本体であるモニターに隠れた『ハコの魔女』をも爆破した。
そして、結界が解け元の物置に戻るコブラとまどか。
コブラは目を閉じて微笑みながら、左腕の義手をサイコガンに被せる。
まどか「… … …」
コブラ「今まで黙っててすまなかった。だが、見知らぬ世界で俺の正体をペラペラ喋るわけにもいかなくてね。何せ、あっちじゃあ俺の首を狙ってる奴がごまんといるからな」
まどか「ジョー…じゃなくって、コブラ…さん?」
コブラ「そ。…まぁ、色々語るのは後だ。少し急ぎたいんでね」
まどか「…まだ、何かあるんですか?」
コブラ「ああ、急ぎの用がある。まどかも一緒にきてくれ、重大な事だ」
まどか「… … …」
まどかが緊張した面持ちでコブラをじっと見ると、コブラはにっこりと笑って駆け出す。
コブラ「早くしないとマミのカレーが冷めちまうんだよーっ!俺ぁ疲れて腹が減って死にそうなんだーっ!」
まどか「… … …へ?」
呆然とするまどかを後目に、物置から急いで出ていくコブラ。
まどか「ま…待ってください!ひ、仁美ちゃんは!みんなはーっ!?わたし一人じゃどうすればいいか分からないよーっ!ねぇ、コブラさーーーーんっ!!」
まどかの声は、空しく、町工場の中に響くのだった。
―― 次回予告 ――
さやかが魔法少女になっちまった!俺やまどかとしては複雑な気持ちだが、さやかには何よりも叶えたい願いがあるんだとさ。
健気な少女の願いは受け止められ、一人の戦士が誕生する。まー、男を守る女ってのは俺はあまりお勧めできないんだがね。ここは良しとしてやろうっ。
だが綺麗な事ばっかりじゃないみたいだね。暁美ほむらに、謎の赤い魔法少女。そしてもう一人、俺の事を追っかけてくる輩もいるみたい。
相変わらず俺が元の世界に戻る方法も分かんないわ、もーいい加減にしてくれってんだ!
次回【忍び寄る足音達】で、また会おう!
第3話「忍び寄る足音達」
――― 巴マミ家。早朝に訪れたさやかを、マミは快く受け入れた。
テーブルに置かれた、2人分の紅茶とお茶菓子。マミは静かに紅茶を飲むとテーブルに置き、優しく言う。
マミ「…そう。決心、したのね…美樹さんは」
俯いていたさやかはゆっくりと顔をあげ、強い意志の宿った瞳でマミを見つめる。
さやか「…うん。あたし、もう迷わない。…でも、契約をする前にマミさんに伝えたほうがいいかなって」
マミ「そうね。…とても嬉しいわ。私が言うのも何だけど、美樹さんは少し慌てん坊さんだから…ふふふ」
さやか「あはは、バレてましたかー」
マミ「…願い事は、やっぱり上条君の事かしら」
さやか「… … …はい」
マミ「…そこまで決心したということは、どうしても叶えたい願いなのね。後悔しない、確固たる決心が」
さやか「…昨日、まどかとジョーさんが、恭介の病室に来てくれたんです。恭介、もう自暴自棄みたいになってて、暴れようとして…」
さやか「あたし、もうその時自分でもワケわかんなくなっちゃって、いっそ今すぐキュウべぇと契約すればこんな恭介見なくて済むって考えちゃってた」
さやか「でも…ジョーさんが、恭介を止めてくれらから。だからあたしも、恭介と同じように、少しだけ落ち着けた」
さやか「あたしは、ずっと一人で恭介の事考えてるんだと思ってた。でも…実際は違ったんですね。マミさん、ジョーさん、まどか…みんな、心配してくれてるんだ、って」
さやか「だから仮にあたしが魔法少女になっても、心細くなんてない。…戦い続けられる。そう思ったんです」
マミ「…そう。私も、鹿目さんと美樹さんに出会うまでずっと一人だと思ってたから、よく分かるわ」
マミ「一人ぼっちで戦って、悩むのって…すごく苦しくて、悲しくて、辛い事」
マミ「…魔法少女になる前に私に言ってくれてありがとう、美樹さん。…全力で、あなたのサポートをするわ」
QB「話は終わったかな。それじゃあさやか、契約をしよう」
さやか「…うん」
マミ「…あ、そうそう。美樹さん、一つだけ訂正しておく事があるの」
さやか「…?え?」
マミ「あの人『ジョー・ギリアン』さん。本当の名前は違うらしいの。…「俺の名前は『コブラ』だ」って。昨日、あの後教えてもらったわ」
さやか「…はは、やっぱり変な名前じゃん」
マミ「私達は、仲間。…辛い時は一人で背負いこんだり、嘘や隠し事はしないで、みんなで助け合いましょう」
さやか「… … …うんっ!!」
QB「それじゃあ、さやか。君の願いを言ってごらん」
さやか「あたしは――― 」
さやかを包み込む光。そして生まれる、新たなソウルジェム。
レディ「おかえりなさいコブラ。出張はどうだったかしら?」
コブラ「もう最高だね。魔女はうじゃうじゃ湧いてるわ、魔法少女には因縁つけられるわ、退屈って言葉が懐かしいくらい」
タートル号内。
人目につかない丘でレディと待ち合わせたコブラは、一旦タートル号で外宇宙へと飛び立った。
レディ「…?これは?」
レディにグリーフシードを一つ手渡すコブラ。
コブラ「相棒にプレゼントさ。大事にしてくれよ」
レディ「まぁ、ありがとう。…どうせならもっと綺麗な宝石がいいのだけれどね、フフ」
コブラ「そいつはまた後でのお楽しみ。とにかく、そいつをタートル号の方で解析しておいてくれ。何か分かるかもしれん」
レディ「オーケー。それじゃ、朝食だけでも食べて行く?用意しておいたのよ」
コブラ「ワオ!嬉しいねぇ、ここんところレディの手料理が恋しくって恋しくって!」
レディ「その割には、マミとかいう子の家で随分と嬉しそうに御馳走になっていたようだけれど?」
コブラ「…ははは、こいつぁ厳しいや」
仁美「ふぁぁぁ…」
仁美「…!やだ、私ったら、はしたない」
まどか「仁美ちゃん、眠そうだね」
仁美「なんだか私、夢遊病というか…昨日気が付いたら大勢の人と一緒に倒れていて。それで病院やら警察やらで大変だったんですの」
まどか「…それは、大変だったね」
まどか(救急車呼んだのもパトカー呼んだのもわたしなんだけどね…。…もうっ!ジョーさん…じゃ、なかった、コブラさんが行っちゃうから…)
まどか(ふぇぇ…わたしも眠くて死にそうだよ…)
仁美「…ところで、さやかさんはどうしたのでしょう?まだ学校に来ていないみたいですけれど…」
まどか「…うん。何かあったのかな…さやかちゃん」
仁美「毎日元気に登校していましたのに…おかしいですわ」
まどか(…まさか、何かあったんじゃ…!)
和子「はーい、みんな揃っているかしらー?それじゃあ朝のHRを…」
さやか「ごめんなさーーーいっ!!遅刻しましたーーーっ!!」
和子「!!!」
早乙女先生が教室に入ろうとした矢先、後ろから大慌てで来たさやかが前にいた先生に気付かず教室内に突進してくる。
その体当たりを食らった先生は、衝突事故のような勢いで黒板に頭からぶつかるのだった。
さやか「…あ」
まどか「…あ」
和子「… … …」
和子「美樹さんはいつも、とっても元気ねぇ…?…先生も、とっても、嬉しいワァ…」ニコニコ
そう言いながら満面の笑みを浮かべる先生の背後には、ドス黒いオーラが禍々しく煙をあげていた。
さやか「ぎゃあああああああああ!!すいませんすいませんすいませんーーっ!!」
まどか(…良かった、いつも通りのさやかちゃんだ…)
そして、昼。各々の生徒が昼食を持ち、それぞれの食事場所に分散していく。
さやか「ね、仁美。顔色悪いし、お昼は保健室借りて休んでれば?少し寝たほうがいいよ」
仁美「え…?でも、私は単なる寝不足で…」
さやか「だからこそだよ。放課後にいつものお稽古事もあるんでしょ?今のうちに休んでおかないと身体壊しちゃうよ?」
仁美「… … …そうですわね。それでは、そうさせてもらいましょう」
さやか「よっし、それじゃ、保健室まで一緒するよ。ほら、まどかも一緒に」
まどか「え?う、うん…」
仁美「申し訳ございません、さやかさん、まどかさん」
さやか「いいのいいの、途中で倒れたら大変だし、行こう行こう」
まどか(…どうしたんだろ?さやかちゃん。…なんだか、仁美ちゃんを保健室に行かせたがってるみたい)
仁美を保健室まで送り届けると、さやかはまどかの方を振り返る。
さやか「さ、まどか。一緒にお昼食べよっ、屋上で」
まどか「屋上…?」
さやか「実はさ、呼んであるの。マミさんと、コブラさん!」
まどか「魔法少女に!?」
コブラ「なったぁ!?」
さやか「うん、今朝にね。…2人にも、ちゃんと伝えないといけないと思って」
まどか「ど、どうして…?」
さやか「まぁ、理由は色々あるんだけどさ。…何より、あたしの叶えたい願い、しっかり見つけられたから。後悔なんてしない、命懸けでも、叶えたい願いが」
コブラ「…」
マミ「私と相談をしたの。願いのためなら、その命を戦いに捧げても構わない…その決意があるから、キュウべぇとの契約を、しっかり見届けさせてもらったわ」
QB「そして願いは叶えられ、さやかは魔法少女になったというワケさ」
さやかの手には、太陽に照らされ、煌めく青のソウルジェムの指輪があった。
まどか「…やっぱり、上条くんの事?腕を…治したの?」
さやか「…うん。昨日はありがとう、まどか、コブラさん。2人が来てくれたから、あたし、決められたんだ」
さやか「ずっと考えてた。マミさんが言ったように、他人の願いを叶える前に自分の願いをはっきりさせる、って事。あたしは、恭介の何になりたいんだ、って」
さやか「昨日、恭介の腕の事…ずっと治らないってお医者さんに告げられた、って2人とも聞いてたよね?…その時ね、あたし、もう自分なんかどうなってもいいから恭介の腕を治したいって考えたんだ」
さやか「でも、それは少し違うんだって…その後分かったの。…あたしには、仲間がいる。先輩のマミさんが、コブラさんが…そして、あたしの可愛い嫁のまどかがね、えへへ」
さやか「あたしがどうしようもなく自暴自棄になっても、助けてもらえるかもしれない。…逆に、誰かがピンチになったら、あたしが救えるかもしれない!」
さやか「恭介も、マミさんも、コブラさんも、まどかも、助けられるかもしれない!…だから、どんなに怖くても大丈夫だって!…そう思って、あたしは魔法少女になった」
さやか「後悔なんて一つもしていないよ。魔法少女が叶えられる願いは一つだけど、あたしが叶えられる願いは、無限大なんだからっ!」
コブラ「…いい目になったな、さやか。そんな顔が出来るなら何も心配する事ないぜ」
マミ「でしょ?…ふふ、私の後輩は優秀なのよ」
さやか「でへへ」
まどか「… … あの、その…わたし、わたしっ…!」
さやか「…まどか」
さやかはゆっくりとまどかに近づくと、頭にポンと右手を置いて、にんまりと歯を見せて笑う。
さやか「あんたが引け目を感じる事は何も無いの。まどかはいつも通り、あたしの友達で、可愛いおもちゃで、さやかちゃんの嫁でいてくれればいいのだー!」
まどか「えぇぇ…それもちょっと…」
マミ「…鹿目さんは、魔法少女にちょっと詳しい、普通の中学生。それでいいと思うの。…だから、これからもよろしくね?私達の、大切な仲間なんだから」
まどか「…はい」
QB「…」
コブラ「出来れば、疲れたらマッサージとかもお願いしたいねぇ。特にマミは重い物ぶら下げて肩こりが酷い…いででででっ!」
笑顔でコブラの足を踏みつけるマミ。
さやか「3人とも、放課後は空いてる?ちょっと来て欲しいところがあるんだ」
まどか「…?」
さやか「へへ、実は恭介にサプライズプレゼントしようと思ってね。ま、とにかく暇なら病院まで来てよ、詳しくは後で教えるからっ!」
マミ「…ふふふ、美樹さんの事だから何となく想像ができるけれども、楽しみだわ」
さやか「えへへへ…それじゃ、また後でっ!」
さやかはそう言って元気に手を振ると、屋上から慌ただしく出ていく。
まどか「さやかちゃん、魔法少女になって…良かったみたい。あんなに嬉しそう」
コブラ「…ああ。頼もしい仲間になるぜ、ああいう目をした奴はな」
マミ「そうね。…私も張り切って後輩の指導にあたらなきゃ」
まどか「…えぇと…ところで、コブラさん。あの、ここ学校の敷地内なんですけれど…よく入り込めましたね…?」
コブラ「ん?なぁーに、忍び込むのは俺の専門なんでね。必要なら監獄でも軍事基地でも銀行でも、どこでも潜り込める」
マミ「…あまりおススメできない特技よね、正義の魔法少女の仲間としては」
――― その後。
さやか「そっか、退院はまだ出来ないんだ」
恭介「うん、足のリハビリがまだ済んでないしね」
さやか「でも、本当に良かった…恭介の手が動くようになって」
恭介「…さやかの言っていた通り、本当に奇跡だよね、これ…」
さやか「…」
自然に笑顔になるさやか。
恭介「… … …」
さやか「…どうしたの?」
恭介「さやかには…酷いこと言っちゃったよね。それに、さやかの友達にも。…いくら気が滅入ってたとはいえ…」
さやか「変な事思い出さなくていいの。あたしが皆に謝っておいたし…今の恭介は大喜びして当然なんだから。そんな顔しちゃだめだよ」
恭介「…うん」
さやか「…そろそろかな?」
恭介「?」
さやか「恭介、ちょっと外の空気吸いに行こ?」
恭介「さやか、屋上に何か用なの?」
さやか「いいからいいから」
屋上へと上がるエレベーター。車椅子のハンドルを握るさやか。不安そうな恭介。
そして、屋上へ到着したエレベーターの扉が開く。その向こうには…。
恭介「…!みんな…!」
上条恭介の家族、病院関係者…そして、鹿目まどか、巴マミ、コブラ、それぞれの姿があった。
皆、恭介の復活を心待ちにしていた人達ばかり。恭介とさやかは、拍手に出迎えられた。
さやか「本当のお祝いは退院してからなんだけど、足より先に手が治っちゃったしね」
歩み寄る、恭介の父親。そして差し出されたのは、以前愛用していたバイオリン。
恭介「…!それは」
恭介父「お前から処分するように言われていたが、どうしても捨てられなかった」
恭介父「さあ、試してごらん」
少し戸惑いながら、それを受け取る恭介。しかし、戸惑いはやがて微笑みにかわり、弦がしなやかに美しい音色を奏で始める。
まどか「わぁ…!」
マミ「素敵な音色ね…」
コブラ「酒の合いそうな音色だね。一杯ひっかけてもい…いでででででーーーっ」
笑顔でコブラの足を踏みつけるマミ。
さやか(…後悔なんか、あるわけない。…まどか、マミさん、コブラさん)
さやか(あたしの願い、叶ったよ)
――― その様子を近くの観光タワーから見つめる杏子。そしてその傍にいるキュウべぇ。
杏子「マミに加えて、謎の魔法少女、ワケの分からない筋肉男…更に新しい魔法少女、ねぇ。見滝原も随分騒がしくなったもんだ」
QB「ボクにもわけがわからないね。元々魔女の発生率が他の都市と比べて桁違いに高い場所だから魔法少女が増えるのは納得が出来るけど、ボクの知り得ない人間が2人もいるなんて」
杏子「まぁ、いいさ。アンタの言っている通り、ここは絶好の狩場だ。…それに、新人が1人くらい増えたところでアタシにとっちゃどうってことないね」
QB「とるべき行動は色々多いようだね。どこから手をつけるんだい?」
杏子「ふん…」
杏子「とりあえず、新人に先輩が教育でもつけてやる、ってのはどう?」
――― 少し時間が経って、高いビルの屋上。先程までの病院の様子を観察していたほむらは、物思いにふけていた。
ほむら「…美樹さやか」
ほむら(彼女も、魔法少女に…。まぁ、予想の範疇ね、今まで何度かその世界も見てきた)
ほむら(あとは佐倉杏子。私が知る見滝原に集う魔法少女は、まどかも含めて…五人)
ほむら(…あの男を除いて)
その時、ビルの屋上の扉が開いて誰かが入ってくる。
ほむら「!?」
驚いて振り返るほむら。そこに現れたのは、まどかだった。
まどか「…ほ、ホントにこんな所にいたんだ、ほむらちゃん…!」
ほむら「… … …どうして?」
まどか「え、えっとね…?コブラさんが、あっちのビルの屋上にほむらちゃんがいる、って教えてくれて…」
ほむら(有り得ない…病院からこのビルまで、数百m離れているのよ。私だって、魔法を使って観察していたというのに…)
ほむら「…それで、私に何か用かしら?」
まどか「あ、そ、そうだよね…。急に来てごめんね、ほむらちゃん。えっと…その、さやかちゃんが、魔法少女になったの」
ほむら「知っているわ」
まどか「え!?し、知ってるの!?」
ほむら「ええ。…それで?」
まどか「う…だから…新しい魔法少女も、1人増えたから…」
ほむら「私も、貴方達の仲間になれと言うのかしら」
まどか「… … …うん。マミさん、凄く頼りになるし、さやかちゃんだって一生懸命頑張ろうとしてる。…コブラさんは…あはは、よく分かんない人だけど、とっても強いし…」
まどか「だからね、ほむらちゃんも…私達と一緒に戦ったら、きっと…」
ほむら「…」
まどか「きっと…私達、ほむらちゃんの力になれる。だから…」
ほむら「…」
ほむら(力に…なれる。魔法少女が私の力になれなかった時間が、幾つあったかしら)
ほむら(ある時は力及ばずワルプルギスの夜に負け、ある時は互いを殺し合い…ある時は)
ほむら(私自身が、その魔法少女…まどかを、殺してしまう時も…っ!)
まどか「…ほむらちゃん、前にマミさんに言われてたよね?グリーフシードの奪い合いじゃなくって、ほむらちゃんは何か別の意志があって戦ってるって」
まどか「わたしにも分かるの。ほむらちゃんは、絶対に…『何か』をしようとしているって」
まどか「そしてその何かを、私達のためにしてくれているって」
ほむら「…!」
まどか「わたし…まだ、魔法少女になれなくて。臆病で、弱虫で、嘘つきだから…」
まどか「でも、私は少しでも力になりたいの。さやかちゃんの、マミさんの、コブラさんの…そして、ほむらちゃんの!」
まどか「だから…一緒に戦って、みんなで頑張ろうよ。みんなで、魔女を…!」
ほむら「…甘いわ」
まどか「!」
ほむら(私達全員…五人の力を使えば、ワルプルギスの夜に勝てるかもしれない。でも、そう信じるたびにどこか歪が起きて、私達は夜を迎える前に崩れていった)
ほむら(あと二週間、私達が力を合わせてしまえば、きっと…どこかで私達は崩壊してしまう。だから私は、一人で時間を繰り返してきた)
ほむら(…でも…)
ほむら(この時間軸では…私はどうするべきなの?…今度こそ、ワルプルギスの夜を迎えられ、倒せて…まどかと朝を迎える事が出来る?)
ほむら(… … …)
ほむら「…私達魔法少女は皆、誰かを救えるほど余裕があって戦っているわけじゃないの」
まどか「…ぅ…」
ほむら「叶えた願いの代償を支払うために、必至に戦って、その命を削っている。…だから、仲間として戦うなんて、出来るはずがない」
まどか「…」
ほむら「…でも、考えておくわ」
まどか「… …え!?」
ほむら「少なくとも私は、貴方達の敵じゃない。…それだけは覚えておいて」
ほむら「貴方が私の忠告を忘れないと約束をしてくれるならの話だけど」
まどか「!!! …う、うんっ!!…ありがとう、ほむらちゃん!!」
心からの笑みを浮かべる、まどか。その笑顔につられ、ほむらの表情も少しだけ緩んだ気がした。
――― その一方、コブラ達のいた世界での話。
タートル号が、ブラックホールに飲み込まれた宙域付近。そこに停泊をしている、二つの宇宙船があった。
いずれの船も『海賊ギルド』の紋章が刻み込まれている。その二つの船同士の交信。
ギルド幹部「『ソウルジェム』というものを知っているかね?クリスタルボーイ」
ボーイ「知らんな」
ギルド幹部「だろうな。太古の昔…いわばおとぎ話に登場するような、陳腐な噂だからな。…だが、もしそれがあれば…我々は宇宙そのものを塗り替えられるかもしれんのだ」
ボーイ「そんな話のために俺を雇ったというのか?」
ギルド幹部「ククク…そう言うな。これは確かな情報なのだ」
ギルド幹部「この付近で観測されたブラックホール…。今はもう消滅してしまっているが、我々がそのブラックホールのデータの解析に成功した」
ギルド幹部「そしてそのブラックホールが行きつく先…その先に、一つの反応があったのだよ」
ボーイ「ほう」
ギルド幹部「我々の知るところによる、ソウルジェムという宝石…伝えられているデータに似たエネルギーの反応がな。非常に強いパワーを秘めた宝石だ」
ギルド幹部「その石の力は強く…伝説では、どんな願いでも一つだけ叶える事が出来る程の力を秘めた物と言われているのだ」
ボーイ「くだらんお伽話だな。それで、俺にその石コロを探しに行けというのか。ギルドにも随分舐められたものだ」
ギルド幹部「そう言うなクリスタルボーイ。…お前をこの役に選んだのは、理由がある」
ギルド幹部「そのブラックホールに、飲み込まれた船が一隻あった。…タートル号だ」
ボーイ「…!コブラ…」
ギルド幹部「我々のこの時代に、ソウルジェムは存在しない。だが、ブラックホールの先には確かに、太古の昔に存在したといわれるソウルジェムのデータに似た反応が出ているのだよ」
ギルド幹部「だがホール事態は非常に小さいものでね。ギルドの艦隊が入り込めるほどではない。まして、銀河パトロールとの抗争もあって戦力をそちらに削る事もできない」
ボーイ「…つまり、俺に乗り込めと?」
ギルド幹部「君が適任なのだよ、クリスタルボーイ。依頼は必ず遂行する、無敵の殺し屋…まして君は、そのコブラに因縁があるのだろう?」
ボーイ「…」
ギルド幹部「我々ギルドの繁栄に、ソウルジェムが必要なのだ。そしてこれは本部からの直々の命令だ。…行ってくれるな、クリスタルボーイ」
ボーイ「…いいだろう。くだらんお伽話に付き合ってやる」
ボーイ「…ソウルジェムを手に入れ、コブラを、この手で…。…舞台としては上出来だ」
ギルド幹部「必要なら部下も数名つけるが?」
ボーイ「必要ない。宝石の数個など、俺一人で十分だ」
ボーイ「コブラもそうであるように…俺も、殺しに関しては一人の方が仕事をしやすいんでね」
ギルド幹部「いいだろう。それでは、君の船の前に人工ブラックホールを作る。また、君の船にもその装置を用意しておいた。帰還の時に使用したまえ」
クリスタルボーイの乗る小型の船の前に、黒い渦が巻き起こる。そして、それに飲み込まれていく一隻の宇宙船。
ボーイ「クックック…俺とお前とは、やはり深い因果で結ばれているようだな。…今度こそ貴様の息の根を止めてやる…コブラ!」
―― 次回予告 ――
さやかの特訓が始まった!一人前の魔法少女になれるよう、俺も勿論手伝うつもりだぜ。
だがそう簡単な話じゃないみたいだ。あの赤い魔法少女が、今度はそのさやかに因縁をつけてきた。
一方、俺の方にも一人、厄介な来客が現れやがった!クリスタルボーイぃ!?ったく、ゴキブリ以上にしつこい野郎だねあのガラス人形は!
だがヤツの目的は俺を倒すだけじゃないみたいだ。何か別の目的があるらしいんだが…ロクでもない事に決まってるな!お前の思い通りにはさせねぇぜ!
次回【ソウルジェムの秘密】で、また会おう!
第4話「ソウルジェムの秘密」
さやか「く、ゥ…ッ!はぁ、はぁ…!」
美樹さやかは、苦戦をしていた。
青の魔法剣士に対するのは、落書きの魔女・アルベルティーネ。弱ったさやかに対しここぞとばかりに使い魔を繰り出してくる。
魔女の攻撃は、落書きを実体化させ突進をさせる事。飛行機の落書きにのった使い魔達は次々とさやに特攻し、襲い掛かってきた。
さやか「ぐ…このぉッ!!」
さやかは剣で次々と使い魔を斬り捨てていくが、それだけに留まってしまっている。魔女の攻撃を防ぐ事に精一杯で踏み込めない。完全なる劣勢。
さやか(駄目…突破口が見えないっ…!このままじゃあ…!)
まどか「ね、ねぇ、マミさん、コブラさん!やっぱりさやかちゃん一人じゃ無理だよっ!助けてあげないと…っ」
マミ「…」
コブラ「…さやか、助けが必要かい?」
だがコブラの問いかけに、さやかは力強く答える。
さやか「必要ないッ!!あたしは…まだやれるッ!!」
まどか「…そんな、さやかちゃん…!」
さやか(このままじゃ、いずれあたしの体力が尽きて、負ける…!)
さやか(…それならいっそ…!)
さやか「でやあああああッ!!」
マミ「…っ!美樹さん!?」
決心をしたさやかは、勢いよく魔女に向けて駆けていく。つまり、防御を完全に捨てた体勢。使い魔達の突進を次々と受けるが、それでもさやかが止まる事はない。
攻撃を受けた瞬間に、回復。彼女の契約が癒しの祈りによるものなので、ダメージに対する回復力は他の魔法少女とは桁違いにある。さやか自身がそれを知っているのだった。
だから、捨て身の特攻に全てを賭ける。
魔女「!!」
この特攻に魔女も驚いたのか、涙を流すような悲しい表情を浮かべる。だがそんな事は構いもしない、魔女の眼前までさやかは迫っていた。
さやか「これで、トドメだぁーーーっ!」
魔女の眉間に、剣を突き刺す。
血のような黒い液体が噴出したかと思うと、魔女は消滅した。
そして結界が解かれ、四人は元いた路地裏へと戻る。
さやか「はぁ、はぁっ…!」
さやかの手には、魔女を倒した証…グリーフシードがしっかりと握られていた。
まどか「さやかちゃんっ!」
膝をつき、荒く息をするさやかに駆け寄るまどか、マミ、コブラ。まどかはいち早くさやかに駆け寄ると力の抜けたようなさやかを抱きしめた。
さやか「へ、へへ…あー、やっぱりまどかはあたしの嫁だねー」
まどか「さやかちゃん…っ!大丈夫…!?あんなに、あんなに無理しなくても…!」
涙を浮かべながらさやかをギュッと抱きしめるまどか。
さやか「無理しなくっちゃ。あたしも早く、一人前の魔法少女にならなくっちゃね。…どうだったかな、マミさん。あたしの戦い方」
初めての実戦、魔女との戦いにさやかは一人だけで戦いたいとマミとコブラに申し出た。初め、マミは反対をしていたがさやかの強い希望があり、それを通してしまった。
マミ「…そうね。初めての戦いにしては上出来よ。自分の魔法能力をもう理解しているし、それをしっかり活かせている」
マミ「ただ…少し、美樹さんの戦いは捨て身すぎるわ。あんなにダメージを受けてしまっては、ソウルジェムの濁りも強くなってしまう」
言いながらマミはさやかに近づき、さやかのソウルジェムとグリーフシードをくっつけ、穢れを取り除いた。ソウルジェムは光を取り戻し、さやかもまどかからそっと離れ、立ち上がる。
さやか「でも、あたしの持ち味ってそれくらいしかないと思うし…」
マミ「だからこそよ。ああいう戦い方は余程苦戦した時だけにしないと…。コブラさんはどう思う?」
コブラ「ああ、悪い。さやかの肌に見とれて戦いに集中できなくってね。いやー、なかなか露出度の高い衣装だ。三年後が楽しみだぜ」
さやか「え… お、おわぁぁっ!?」顔を赤くするさやか。
マミ・まどか「…」
コブラ「ハハ…ハって、あ、いやぁ、ジョーダンだよ、ジョーダン」
QB「それじゃあ、その真っ黒になったグリーフシードはボクが貰おうか」
さやか「?どうするの?」
キュウべぇにグリーフシードを手渡すさやか。そしてキュウべぇは、そのグリーフシードを背中に取り込む。
QB「きゅっぷい」
まどか「えぇ!?た、食べるの!?」
QB「これもボクの役目だからね」
コブラ「随分な偏食だな。あんなもの、健康に良くっても食う気にゃなれないぜ」
QB「別に好き好んで食べるわけじゃないよ。ただ、あのままじゃあグリーフシードが魔女化してしまうから」
コブラ「…」
コブラ(やはりおかしいな、グリーフシードは魔女から生まれる種だ。そいつが魔法少女の穢れを吸い込むと、再び活性化し、魔女が孵化するだと?)
コブラ(そもそも、その穢れとかいうシステムとそいつを吸い込む種…。つまり魔法少女と魔女は、単なる別種族じゃない事を現している)
コブラ(…ソウルジェムとグリーフシード。そして、そいつを食らうキュウべぇ。やはり全ては無関係じゃないって事だな)
マミ「どうしたのかしら?コブラさん」
コブラ「いや、マミの肌もなかなか綺麗で悪くないなと感心していてね」
マミ・さやか・まどか「…」
コブラ「すいませんでした」
マミ「さてと、それじゃあそろそろ解散にしましょうか?今日の見滝原パトロールと特訓はこれまでよ」
さやか「うん、まどかもマミさんもコブラさんも、付き合ってくれてありがとう!」
マミ「大切な後輩のためだもの、当然よ。それに、美樹さんは覚えが早いから…確実に成長しているわ。次からは、一緒に戦いましょう」
さやか「…!は、はいっ!」
コブラ「さぁーて、それじゃあ巴さんのお宅でディナーパーティとしゃれ込みますかね」
まどか「あ、あの…わたしもお邪魔していいですか?」
マミ「ええ、勿論大歓迎よ。一人で食べるのよりずっと楽しいし…それに、鹿目さんも大切な後輩ですもの。」
まどか「ありがとうございますっ! …ティヒヒ、実はお夕飯、マミさんのお家で御馳走になるって言ってきちゃったんです」
マミ「うふふ、それなら大丈夫ね。」
さやか「あ、ごめんなさいマミさん!あたしは、ちょっと寄るところがあって…」
マミ「あら、そうなの…?残念ね」
まどか「さやかちゃん、寄るところって、どこか行くの…?」
さやか「な、なんでもないのっ!大したところじゃないからっ!…それじゃみんな、また明日ーっ!」
何か慌てたように夜道を駆けていくさやか。それを見送る三人。そして…。
コブラ「… … …それじゃあ、尾行開始といきますかぁ。にぃひひ」
マミ「ええ、うふふ」
まどか「ウェヒヒヒヒ」
QB「人間は何を考えているのか分からないね」
――― 上条恭介家の玄関先。
聞こえてくる美しいバイオリンの音色は、そこに恭介がいる事を証明していた。
しかしさやかは、その音色を玄関先で聞いているだけだった。
さやか「…」
さやか(恭介…退院したなら連絡くれればいいのに…)
さやか(…練習、してるんだ…)
さやか(…)
そっと踵を返すさやか。しかし、その先には一人の少女が立っていた。
さやか「!」
杏子「折角来たのに会いもしないで帰る気かい?随分奥手なんだねぇ」
さやか「だ、誰…?」
杏子「…この家の坊やのためなんだろ?アンタが契約した理由って」
さやか「…ッ!アンタも、魔法少女…!?」
杏子「…おいおい」
杏子「先輩に向かって『アンタ』はねーだろ?生意気な後輩だね」
その様子を、物陰から見ている三人。
コブラ「…げぇ、アイツは…」
まどか「あの時の人…!今度はさやかちゃんに襲い掛かるつもり…なのかな…?」
マミ「あれは…佐倉さん…!」
コブラ「!?知り合いか、マミ」
マミ「ええ。…二人も佐倉さんに会ったことがあるの?」
コブラ「会ったなんてもんじゃないよ。この間、熱烈な歓迎を受けたところでね」
マミ「おかしいわ、佐倉さんは隣町を中心に魔女を狩っていた筈なのだけれど…」
まどか「この前はコブラさんを襲ってきたんです…。さやかちゃんに…何か用事、なのかな」
マミ「とにかく、私が直接話を…」
コブラ「いや、ここは少し様子を見ておこうぜ。かの女が何を目的にしているのか分からない。…危なくなったらすぐ前に出る準備はしておいて、な」
マミ「…そう、ね」
マミ(…佐倉さん…)
QB「…」
マミはソウルジェムを握り、コブラは左腕に右腕をかけながら、その会話を聞いている。
杏子「一度だけしか叶えられない魔法少女の願いを、くだらねぇ事に使いやがって。願いってのは自分のためだけに使うもんなんだよ」
さやか「…別に、あたしの勝手でしょ!アンタなんかに関係ない!」
杏子「…気に入らないね」
杏子「そういう善人ぶってる偽善者とか、何を捨てても構わないとか考えてる献身的な自分に惚れてる姿とかさ」
杏子「…ホント、気に入らない」
さやか「…もう一度言うよ。あたしが何を願おうと、何のために戦おうと…アンタには関係ない事でしょ。何?それとも単なる憂さ晴らし?」
杏子「… …美樹さやか…だっけ?魔法少女として、あんたにちょっと指導にきたのさ」
さやか「必要ない。あたしには…仲間がいる」
杏子「…ぬるい。ま、指導ってのは建前さ。…実はあたしも、見滝原で活動を始めようと思ってね」
さやか「え…」
杏子「ここの魔女の発生頻度、異常に高いんだよねぇ。…まるで、何か大きな事が起きる前触れ、みたいな感じに。まぁとにかく、魔法少女としては絶好の狩場なわけ」
杏子「それなのにあんたらときたら特訓だの何だの…しまいにゃ、魔女になるであろう使い魔ですら倒しちまう始末だ。グリーフシードを集めるのに効率が悪すぎるんだよ」
さやか「…!放っておけって言うの!?」
杏子「人間四、五人食わせりゃ、アイツらは魔女に成長する。弱い人間を魔女が喰らい、あたしら魔法少女がその魔女を喰らう。…基本的な食物連鎖の話さ」
さやか「…!」
さやか「違う…間違ってる!!魔法少女っていうのは…。魔女から人を守るのが魔法少女なの!!…人を守らなきゃいけないのに、魔女に成長させるために人を食べさせるなんて、そんなの、間違ってる!」
杏子「…ばーっかじゃねーの。くだらない…くだらないくだらないくだらない。やっぱどこまでいっても巴マミの後輩だね」
さやか「っ、マミさんの事…知ってるの!?」
杏子「…どうでもいいじゃん。…それよりさぁ、アタシにいい考えがあるんだけど、どう?」
さやか「…」
杏子「アタシが協力してやるよ。今すぐこの坊やの家に魔法で忍び込んで、その手足を潰してやるっていうのはどう?」
さやか「…っ!?」
杏子「恩人に一言もかけないで退院するなんて、酷い話だよねぇ?…もう、この恭介っていう子は、アンタ無しでも生きていけるんだ」
さやか「…黙れ…黙れ、黙れ…!」
杏子「もうコイツにアンタは必要ない。どんどんアンタから離れていく。…それならいっそ」
杏子「もう一度…今度は手足を使えなくして、アンタ無しじゃあ生きられない身体にするのさ。なぁに、自分でやりづらいって言うんじゃ、アタシがやってやるよ」
さやか「…あんただけは…」
さやか「あんただけは、絶対に…絶対に許さないッッ!!」
杏子「…へへ、それじゃあ…場所を移そうか?ここで戦うわけにいかないだろ?」
・
まどか「… … …」
コブラ「俺達も行くぜ。ここで出て行って戦闘になったら面倒だ、広い場所に出たら…だ。いいな、マミ」
マミ「…っ。え、ええ…」
マミ(…佐倉さん。貴方は…何が目的なの…?)
――― 大きな歩道橋の上、さやかと杏子は移動をし、お互いに対峙をしている。
杏子「ここなら邪魔は入らないね。…さぁ…始めようか?」
そう言って杏子はソウルジェムを使い、変身する。自分の身の丈ほどある巨大な槍を器用に振り回し、戦闘態勢をとる。
さやか「…!」
さやかがソウルジェムを取り出そうとした瞬間…。
まどか「さやかちゃんっ!!」
さやか「!まどか!それに、マミさんに、コブラさん!」
さやかに駆け寄るまどか、マミ。ゆっくりと後ろから歩いてくるコブラ。
杏子「…!巴、マミ…!」
マミ「佐倉さん…。久しぶりね、元気そうでよかったわ」
杏子「…アンタに心配されなくても、一人で出来てるよ。…魔法少女として、な」
マミ「…そう」
さやか「皆…。…邪魔しないでっ!あたしは、コイツを…!」
コブラ「落ち着きなよ、さやか。…それに、かの女はまだお前さんの腕じゃ勝てる相手じゃないぜ?」
さやか「そんなの、やってみなくちゃ…!」
マミ「…佐倉さん。貴方が何を考えているのか、私には分からないわ。けれど…何故美樹さんと戦おうとするの?貴方が嫌う『無駄な魔力の消耗』にしか思えないわ」
杏子「アンタには関係ないね。アタシは、新人の教育にきただけさ。魔法少女の何たるかを、ね」
マミ「指導には私があたっているわ」
杏子「アンタのやり方は…手緩い。このままじゃあ…コイツ自身が身を滅ぼしちまうのが、分からないかい?」
マミ「… … …」
杏子「本当は口だけで言うつもりだったんだけどね…生意気な奴で、あっちからやろうって言ってきたんだ。アタシからふっかけたわけじゃないよ」
さやか「…マミさん。戦わせてください!…あたしがどれだけ出来るようになったか…確かめる意味でも!」
マミ「美樹さん…」
その時、全員の前にふと現れる人影があった。
まどか「…っ!?ほ、ほむらちゃん…!」
ほむら「…」
現れた暁美ほむらは既に魔法少女に変身していた。五人をぐるりと見回すと、その中心に移動する。
コブラ「…!」
コブラ(俺の目でも、かの女がどの方角から来たか、分からなかった…!?)
ほむら「…巴マミ、佐倉杏子、美樹さやか…そして、コブラ…まどか。全員揃っているようね」
杏子「…魔法少女?…ああ、そうか。アンタがキュウべぇの言っていた、もう一人のイレギュラーか」
ほむら「これで、この周辺の魔法少女は、全員。例外もいるようだけれど」
コブラ「へへへ、まぁね」
まどか「…」
QB「何か用かい?暁美ほむら」
ほむら「貴方がこの場に居るのは少し嫌だけれど、仕方ないわね。…全員に、話しておくべき事があるの」
さやか「な、なによ…!」
ほむら「ただし、落ち着いて聞いて。そうじゃないと…私達全員、死ぬ事になるわ」
マミ「死ぬ…!?」
ほむら「ええ。間違いなく」
杏子「…初対面でいきなり現れておいて、そんな話を信じろっていうの?」
ほむら「ええ、そうよ。嫌ならいいわ。ただ私は、無益な戦いをする馬鹿の敵だということは覚えておいて」
杏子「なんだとっ…!」
さやか「…」
マミ「暁美さん、話って…?」
ほむら「…」
ほむら「貴方達に話しておくべき事がある。決して悪い話ではないわ。ただ、これから起こる事を、しっかりと把握しておいて欲しいの」
ほむら「二週間後、 この街に、ワルプルギスの…」
ほむらが話を始めた瞬間。
コブラ「…!さやか、避けろッ!」
さやか「…えっ?」
コブラはさやかの頭を抱えて、地面に伏せる。その瞬間…
二人の頭をかすめる、レーザー光。
ほむら「…ッ!?」
杏子「何だ…!?今の攻撃は、どこから…!?」
勢いよく伏せたせいで、さやかはソウルジェムを落としてしまう。
歩道橋の傾斜にそれは転がっていき…誰かの足元で、宝石は止まった。
さやか「あ…!」
コブラ「…!お前は…ッ!」
ボーイ「…こいつがソウルジェムか。なるほど、よく出来た宝石だ」
まどか「…!な、なに…!?なんなの、あの人…!」
六人の後方に立つ人物は、人間では無かった。
能面のような金色の顔、骨格のような金属の身体は、透明のガラスのような肉で覆われている。異形の怪物…少なくとも、少女達には、この世では存在し得ない存在。
コブラ「…クリスタルボーイ…!」
コブラは左腕の義手を抜き取ると、サイコガンを怪物に向けて構える。
杏子「!」
ボーイ「久しぶりだな、コブラ。まさかこんな場所で会うとは思わなかったが、やはりソウルジェムに関わっていたか」
マミ「…コブラさんの知り合い…?」
コブラ「…ちょっとした、な。なぁーに腐れ縁さ、出来れば二度と会いたくなかったがね」
ボーイ「くくく、そう言うなコブラ。俺は貴様に会いたくてここへやって来たのもあるんだからな」
コブラ「そいつは有難いね。でも出来れば美女に言われたい台詞だな」
ほむら(いけない、ソウルジェムが美樹さやかから離れている。これ以上離れたら…!)
さやか「か、返してよ!誰か知らないけど、それはあたしの物なのっ!」
ボーイ「ほう、この宝石には所有者がいるのか。てっきり鉱山から掘り出せるのかと思ったが、まさかこんな場所から反応が出ると思わなかったのでね」
コブラ「そいつを返してもらおうかガラス人形。お前には必要ない物だ」
ボーイ「…ふふふ、それが、必要なんだよ」
まどか「あの人は、一体…?」
コブラ「クリスタルボーイ…俺の居た世界の、殺し屋さ。悪の組織の幹部…なんて言った方が分かりやすいかな。少なくとも俺達の味方じゃない事は確かだ」
マミ「あの身体は…人間じゃない…!?」
コブラ「サイボーグだ。化け物と言ったほうが似合うね。俺が何度倒しても、また俺の前に現れる…ゴキブリみたいな野郎さ」
コブラ「クリスタルボーイ!何故この世界にお前がいるのか教えてもらおうかッ!」
ボーイ「俺がここにいる理由か…いいだろう、教えてやる」
ボーイ「一つは、コブラ。お前の後を追ってきたのさ。お前の足取りをようやく掴んでね、ブラックホールを辿ってこの世界に足を踏み入れたのが分かったからな」
ボーイ「そしてもう一つは…この石コロを探しにきた」
ボーイは掌で、さやかの青のソウルジェムを転がしながら言う。笑顔はない、能面のような表情がニヤリとほほ笑んだような錯覚を全員が受ける。
ほむら「…!何故ソウルジェムの事を…!」
ボーイ「太古の昔にあったと言われる、魔法の宝石…俺のいた世界にはそんな伝説があってね。そいつがこの世界に存在すると聞いて探しに来たが…まさかこんなに容易に手に入るとはな」
ボーイ「そこの餓鬼に礼を言わなければな。お前さんのおかげで仕事が早く済みそうだ」
さやか「…っ!」
コブラ「海賊ギルドがソウルジェムを狙っているってのか。驚いたね、いつからそんな少女趣味になったんだ?」
ボーイ「この宝石には随分な力があるそうだな。…魔法。そう、まるで願い事を叶えるかのような、魔法の力が」
QB「…!」
ボーイ「こいつの持つ膨大なエネルギー…そいつをギルドは求めているそうだ。くだらん夢物語だと思っていたが、現物が手に入ったのなら俺の仕事は完了だ」
ほむら「止めなさい!今すぐソウルジェムを返さないと…」
ボーイ「そう言われて素直に返すとでも思うのか?俺は今すぐこの場でこの宝石を砕いてもいいんだぞ」
ほむら「…く…っ!」
ボーイ「コブラ。貴様と決着をつけたいと思っていたが、また次回にしておこう。今は元の世界に戻る事にしておくよ、クク」
コブラ「…!戻れるというのか!」
ボーイ「どうかな」
その時、轟音を立てて歩道橋の真上に何かが接近してきた。
クリスタルボーイは、その何かに向かって跳躍をする。見たこともないような形の飛行機…宇宙船と言ったほうが正しいのだろう。
コブラ「ッ!待て、ボーイ!」
ボーイ「それじゃあなコブラ。せいぜいこの世界を楽しむといい」
さやか「ま、待ってよッ!あたしのソウルジェム…!!」
宇宙船はゆっくりと旋回をすると、空に飛び立っていく。
…そして、次の瞬間。
さやか「…ぁ…っ」
まるで糸の切れた人形のようにその場に倒れるさやか。
杏子「…!?な、なんだ…どうしたんだよ…!?」
杏子はさやかが倒れる前にその身体を抱き留め…そして、その異常事態に気付く。
杏子「…!どういうことだオイ……! こいつ…死んでるじゃねえかよ!!」
まどか「… … …え?」
マミ「…死ん、で…?」
まどか「そ、そんな、どういう…?」
QB「まずいね、魔法少女が身体をコントロールできるのはせいぜい数百メートルが限度だ。離れすぎてしまったようだね」
マミ「! キュウべぇ…それって…!?」
ほむら「…ぐ、っ…!」
その時、頭上にもう一つの飛行物体が現れる。轟音に気付き、コブラは上を見上げた。
コブラ「タートル号…レディ!」
レディ「コブラ、急いで!クリスタルボーイの宇宙船は急速で地球から離れようとしているわ!このままだと…!」
コブラ「ああ、今行く!…まどか、さやかの方を頼むぜ!」
コブラ「さやかのソウルジェムは…必ず俺が取り戻してくる!」
まどか「さやかちゃん…さやかちゃん!ねぇ、返事してよっ!さやかちゃん!」
コブラの声には反応せず、必至にさやかの身体を揺さぶるまどか。
タートル号は歩道橋にギリギリまで寄り、乗車口を開ける。急いでそれに飛び込もうとするコブラ。
マミ「ま、待って!コブラさん!私も行くわ!」
コブラ「!」
マミ「わけが分からないけれど…ソウルジェムを取り戻さなくちゃ!私だって手伝えるわ!」
コブラ「マミ…」
ほむら「私も行くわ。…このままじゃ、まずい」
コブラ「…!分かった、助かるぜ2人共!」
タートル号が、コブラ、マミ、ほむらを乗せ飛び立った後。
さやかの身体を必死に抱きしめるまどか。そして…キュウべぇに詰め寄り、首を鷲掴みにする杏子。
QB「苦しいよ、杏子」
杏子「どういう事だよ… なんで、コイツ…死んでるんだよ!!てめぇ、この事知ってたのかよッ!!」
QB「壊れやすい人間の肉体で魔女と戦って、なんてお願いは出来ないよ。魔法少女とは、そういうものなんだ。便利だろう?」
まどか「さやかちゃん… さやかちゃん…っ!」
QB「まどか、いつまで呼び続けるんだい?『そっち』はさやかじゃないよ」
QB「またイレギュラーが増えたのは本当に驚きだけれど、とにかくコブラ達が『さやか』を取り戻してくれるのを願うばかりだね」
杏子「なんだと…」
QB「魔法少女である君たちの肉体は、外付けのハードウェアでしかない。コンパクトで安全な姿が与えられ、効率よく魔力を運用できるようになるのさ」
QB「魔法少女の契約とは」
QB「君たちの魂を抜き取って、ソウルジェムに変える事を言うのさ」
杏子「ッッッ!!っざけんなぁ!! それじゃあ…アタシ達、ゾンビにされたようなもんじゃねえか!!」
QB「むしろ便利だろう?いくら内蔵を壊されようが血を流そうが、魔力で復活ができる。ソウルジェムを砕かれない限り、君たちは無敵なんだ」
QB「弱点だらけの肉体より、余程戦いでは便利な筈だ」
まどか「…酷いよ… 酷すぎるよっ…」
まどか「こんなのって… 酷すぎる…!」
クリスタルボーイの乗る宇宙船を眼前に捉えたタートル号。
コブラ「レディ、このままヤツの宇宙船に特攻して、でかい風穴をあけてくれ。そこから突入する。さやかのソウルジェムを無傷で取り返さなくちゃいけねぇ」
レディ「分かったわ。加速ならこっちの方が段違いに上よ、任せて」
コブラ「オッケー。…準備はいいかい?マミ、ほむら」
既にソウルジェムを使い、魔法少女となっているマミとほむら。しかしマミの表情はどこか優れないようだった。
コブラ「マミ」
マミ「…何が何だか、分からないの。…美樹さんが何で…倒れてしまったのか。ソウルジェムが身体から離れてしまったから?そんな事、知らない…!」
マミ「私も…ああなっちゃうの?ソウルジェムが離れると…死んでしまうの?」
マミ「分からない…もう何も、分からないッ…!」
コブラ「…マミ。とにかく今は、さやかのソウルジェムを取り戻す事だけを考えろ。話はその後だ」
マミ「……う、うぅ…ッ…」
コブラ「マミッ! アンタの大事な『後輩』だ! 助けられるのは…アンタしかいないッ!!」
マミ「…!!」
レディ「距離、50。衝撃に気を付けて…!このまま突っ込むわよ!」
ほむら「…」
・
ボーイ「…ふふふ、やはり来たか、コブラ」
ボーイ「貴様の墓標は、元の世界ではないようだな。…この世界だ」
―― 次回予告 ――
クリスタルボーイの野郎、ふざけた真似してくれるよ全く!さやかのソウルジェムを奪ったうえで俺を殺すだと?へっ、上等じゃねぇか!
奴の船に乗り込んだ俺とマミとほむら、ついにボーイとの決闘だ。相変わらず俺のサイコガンは効かないわ、魔法も物ともしない。いやだねー、ホント!
だが諦めちゃいられねぇ!さやかのソウルジェムは絶対に取り戻してみせるぜ!俺達は決死の作戦であの野郎に立ち向かう事になったっ!
次回【決戦!クリスタルボーイ】で、また会おう!
第5話「決戦!クリスタルボーイ」
レディ「距離30、20…!皆、どこかに掴まって!間もなくクリスタルボーイの宇宙船と衝突するわ!」
コブラ「了解!派手にやってくれ!」
ドォォォォンッ!!
マミ「きゃあああっ!!」
小規模の爆発が起きたように大きく揺れる、タートル号船内。
しかし狙いは完璧。タートル号はクリスタールボーイの操縦する宇宙船の後部に体当たりをかけ、見事に風穴を開ける。
コブラ「完璧だぜレディ!カースタントマンでもこの先食っていけそうだなっ!」
機体上部のハッチが開き、コブラは急いで梯子を上り外へと出ようとする。
コブラ「御嬢さん方、急ぐんだ!ヤツの宇宙船に飛び移るぞ、着いてこい!」
ほむら「ええ」
マミ「…」
コブラ「…マミッ!」
マミ「…! 分かったわ…今はとにかく、美樹さんのソウルジェムを…取り戻す!」
コブラ「上出来だ!いくぜ、皆っ!」
レディ「コブラ!忘れ物よ!」
レディがコブラに向けて、箱を投げた。それをキャッチするコブラ。
レディ「シガーケースよ。葉巻が切れた時のために、ね」
コブラ「…! あぁ、レディ。ありがとよ!」
タートル号上部船体。高速で移動を続け、クリスタルボーイの宇宙船を追う船体の外は激しい風が吹きすさぶ。
ハッチから外に出た瞬間、その豪風に吹き飛ばされそうになるほむらとマミ。
コブラ「俺に掴まれ!ヤツの宇宙船に移動する!」
マミ「移動する、って…どうやって!?」
コブラの腕にほむらが、肩にマミが掴まりつつも、マミは疑問の声を投げかける。その声にコブラは不敵な笑みを浮かべるのだった。
コブラ「こうするのさ」
コブラの空いている腕のリストバンドから、細いワイヤーが勢いよく発射される。ワイヤーの先端の刃が見事にクリスタルボーイの宇宙船の風穴内部に突き刺さり、コブラはその安定性を確認した後…。
コブラ「振り落とされるなよぉッ!!」
ほむら「…!!」
マミ「きゃあああああああああああああっ!!」
高速で縮まるワイヤー。三人の身体は吸い込まれるように、クリスタルボーイの宇宙船に移動していく。
レディ「…コブラ…皆!無事でいて…!」
――― 一方、地上。抜け殻となったさやか、それを抱きかかえるまどか。そして、キュウべぇに詰め寄る、杏子。
杏子「騙してたのかよ、あたし達を…っ!」
QB「騙していた?随分な言い方だね。さっきも言っていた通り、弱点だらけの人体で戦いを続けるより遥かに安全で確実なやり方なんだよ」
まどか「酷すぎるよ…っ!さやかちゃん、必死で…!強くなる、って…頑張るって…戦ってたのにっ…!」
QB「君たちはいつもそうだね。真実を伝えると皆決まって同じ反応をする。どうして人間は、そんなに魂の在り処にこだわるんだい?」
QB「ワケがわからないよ」
杏子「…!!畜生…っ!!ちくしょおおおっ!!」
やり場のない怒り、悲しみ…全てをぶつけるように、杏子は月夜に吼えるように叫んだ。
まどか「…コブラさん…っ!お願い…さやかちゃんを、助けて…!」
月を背景に、遥か上空を飛ぶ二隻の宇宙船。見えずとも、まどかはそこに向けて、祈った。
コブラ「うおっ、とぉ!!」
コブラは自分の身体を下にして、地面に滑り込む。三人はクリスタルボーイの宇宙船内に侵入を成功させた。
コブラ「無事かい、2人とも」
ほむら「…ええ、何とか」
マミ「む、無茶苦茶なやり方だったけど…どうにか無事だわ」
コブラ「そいつぁ良かった。…ここは…貨物室か?」
三人が侵入した場所は、無機質な、まるで鉄の箱の中のような場所。周りに数個の貨物があるだけの殺風景な部屋だった。
そして…その奥。
クリスタルボーイは、まるで三人を待っていたかのようにその場に立っていた。
ボーイ「遅かったじゃないかコブラ。待ちくたびれたぞ」
コブラ「待たせたなガラス細工。延滞金はしっかり払わせてもらうぜ」
コブラは左腕の義手を抜き、サイコガンを構える。マミとほむらも、異形の相手に向かい戦闘態勢をとるのだった。
【人工ブラックホール、生成準備完了。本船の前方に超小型のブラックホールが発生します。生成まで、あと10分…】
コブラ「…!?なんだとぉ!?」
ボーイ「ククク、タイムリミットはあと10分。コブラ、朗報だ。元の世界にもうすぐ戻れるらしいぞ」
ほむら「…!どういう事…!?」
ボーイ「聞こえなかったのか小娘。あと10分でこの船はブラックホールに吸い込まれ、異次元空間へとワープする。到着先は…我々の住む、未来の世界だ」
ほむら「!!」
ボーイ「元の世界に戻るのが目的だったのだろう?感謝しろコブラ、俺はお前の命の恩人だ」
コブラ「お前がぁ?ごめんだね、どうせ恩を売られるなら美女がいいに…決まってらぁッ!」
言いながらコブラはサイコガンの砲撃を次々とクリスタルボーイに浴びせる。
しかし、その砲撃の全てはボーイの体内で屈折し、素通りをしていくのだった。
マミ「!?こ、コブラさんの攻撃が…!」
ボーイ「クククク…忘れたわけではあるまい。サイコガンは俺には無力だ」
ボーイ「しかし、礼を言わせてもらうよコブラ。1つだったソウルジェムを一気に3つまで増やしてくれるというのだからな」
ボーイ「このままその女どもをワープさせれば…あとはその身体からソウルジェムを剥ぎ取ればいいだけだ。ふふふ…」
コブラ「どうかな。その前にお前にでかい風穴を開けてやるぜ」
ボーイ「ククク…はっはっはっは!!笑わせるな。コブラ、お前は今俺の掌の上で踊っているに過ぎん」
ボーイ「お前の行動パターンは実に分かりやすいよ。情に流されれば、貴様はきっと俺の船に乗り込んでくる…。そう思って、あえて貴様をあえてここへ呼び込んだのだからな」
コブラ「何だと…!」
ボーイ「どうやらソウルジェムとやらは、その女達の身体と繋がっている…いわば、『魂』のようなもののようだな。先程の青髪の女で確信させてもらった」
ボーイ「このまま俺が元の世界に戻ろうとすれば…貴様たちは必ずここへやってくる、というわけだ。それも1人ではない、わざわざソウルジェムを持つ女を2人も連れて、な」
マミ「…くッ…!」
ほむら「…」
ボーイ「コブラ。何故俺がこの貨物室を戦場に選んだか分かるか?此処には、貴様の武器である『臨機応変』が使えないのだよ。あるのは空の鉄箱だけだ。貴様の武器となるような物は、ない。お得意の逃げ回る戦法も場所が限られているぞ」
ボーイ「おまけに俺の特殊偏光クリスタルにはサイコガンは効かん。…さぁ、どうやって俺を倒すつもりかね?…コブラ!」
【ブラックホール、生成完了まで、あと8分です】
コブラ「!」
ボーイ「ソウルジェムは、この扉の先のコクピットにある。…あと8分。俺を倒して、この扉を潜って…奪い取れるかな?」
コブラ「…やってみせるさ!」
コブラは腰のホルダーから愛銃の『パイソン77マグナム』を抜き、3連射する。
しかしその弾丸の全てを、クリスタルボーイは右腕の鉤爪を盾のように使い、防御した。鉤爪に穴は開く威力ではあるが、その弾は身体にまでは届かない。
コブラ「!…ちっ…!」
ボーイ「一度食らった手をもう一度食らいはしない。…さぁ、次はどうするつもりだ?」
ほむら「…行くわ」
コブラ「…!」
カチリ。
微かに、時計の秒針のような音が聞こえたような気がした。その瞬間、暁美ほむらはクリスタルボーイの目の前にいつの間にか移動し、拳銃を構えていた。
コブラが次に気付いた瞬間…
クリスタルボーイの周囲は、鉛弾で包囲されていた。
コブラ・マミ「!」
ボーイ「何…!」
数十発、いや、数百発の弾丸が、クリスタルボーイの身体に次々と命中をしていく。その衝撃にクリスタルボーイは思わず仰け反る…が。
倒れはせず、一歩後ろに下がっただけで留まった。全ての弾丸はクリスタルボーイの身体に軽く埋まった程度で、穴すら開いていない。
ほむら「…!」
ボーイ「驚いたな…何だ、今の攻撃は。貴様の拳銃では不可能な連射だ…どうやった?」
ほむら「く…っ!(この銃じゃあ…威力が、足りない…!?)」
ボーイ「ククク…まぁいい。そんな安物の骨董品では俺の特殊偏光クリスタルには傷すら …つかんのだァッ!!」
ボーイは右の鉤爪を開き、ほむらに向けてビームガンを放つ。
ほむら「ッ!!」
ボーイ「!」
カチリ。また秒針の音が聞こえる。瞬間移動でもするかの如く、ほむらはその攻撃を素早い動きで避け、後ろへと下がっていく。
その瞬間…マミは次々と武器である単発式銃火器をスカートから取り出し、宙に浮かせる。
マミ「次は、私よッ!お人形さん!」
一発、それを撃つごとに銃を捨て、次の銃に切り替える。しかしその銃弾をクリスタルボーイは鉤爪で弾き、貨物室の天井へと跳弾させる。
ボーイ「そんな物が俺に効くとでも…思っているのか!!」
マミ「思っていないわ。…だから…こうするのよ!」
跳弾をして、開いた天井の穴が俄かに光り始めたかと思うと…その光から、絹のような魔法のリボンが勢いよく出現し、クリスタルボーイの身体に巻きついていく。
ボーイ「…!これは…!」
マミ「これが私の戦い方よ!…一気に決めるわ!」
マミは魔力を集中させ、巨大な、大砲のような銃器を目の前に出現させる。そしてその銃口をクリスタルボーイの方へ向けた。
マミ「喰らいなさい! ティロ・フィナー…!!」
ボーイ「…ふんっ!!」
マミ「…!!」
クリスタルボーイは自分の身体に巻きついた魔法の糸を…自らの腕力で、引き千切る。そして鉤爪をロケットのようにマミに飛ばし、攻撃をした。
マミ「きゃあッ!!」
鋭利な刃物のような、その爪。マミはどうにか単発式銃火器の銃身でその攻撃を受け止める、が…その衝撃はすさまじく、マミの身体は天井へと叩きつけられてしまう。
マミ「あぐゥっ!!」
コブラ「!マミ!!」
ボーイ「…魔法。ソウルジェムの力とやらか。…少し驚いたが、サイボーグのこの俺には通用しないようだな」
コブラ「畜生…いい加減にしやがれ、この野郎!」
コブラは再び、サイコガンの連射をクリスタルボーイに浴びせる。…が、やはりその光はクリスタルボーイを素通りしていく。
ボーイ「…次は貴様だ!死ね、コブラッ!!」
クリスタルボーイはコブラに向けて突進をし、鉤爪を大きく振り、その身体を切り裂こうとする。
コブラ「く、ッ!」
コブラはその攻撃を次々と避ける、が…相手も並の瞬発力ではない。コブラが避ければ、次の手を繰り出し…いずれ、回避行動は追いつかれてしまう。
ガキィィィンッ!!
鈍い金属音。コブラのサイコガンが、クリスタルボーイの鉤爪に掴まれた。
ボーイ「ふふふ…。…っ、はぁッ!!」
クリスタルボーイはコブラの左腕を掴んだまま、勢いよくコブラを投げ飛ばす。
コブラ「どわぁぁぁぁぁあっ!?」
身体が大きく宙を舞う。物凄いスピードで、コブラは鉄箱の山に叩きつけられた。派手な金属音が幾重にも音を立て、コブラの身体は鉄箱の山へと沈む。
ほむら「…!コブラ!」
ボーイ「…その程度では死なないのだろう?コブラ。今トドメを…刺してやる!」
ほむら「させない!」
カチリ。
クリスタルボーイの眼前に、突如として、安全ピンの抜かれた手榴弾が数個現れた。
ボーイ「何…!!」
ドォォ――――ン!!!
派手な音を立てて手榴弾が連鎖して爆発する。流石にその衝撃にクリスタルボーイの身体も吹き飛ぶ…が。クリスタルの身体には全く傷はついていなかった。
ゆっくりと立ち上がり、鉤爪をほむらの方向へ向ける。
ボーイ「相変わらず攻撃の読めないヤツだが…。言った筈だぞ…そんな骨董品で俺の身体に傷はつかん、と」
ほむら(…時間稼ぎにはなったようね…。やはり、手榴弾程度じゃアイツの身体はびくともしない…!)
ほむら(…とにかく、今はコブラを助けないと!)
マミ「はあああっ!!」
次の瞬間、マミがクリスタルボーイに向けて特攻をかける。銃器を鈍器代わりにし、その頭部を次々と殴る。
マミ「私のッ、後輩を…返しなさいッッ!!」
多少ダメージがあるのか、クリスタルボーイは反撃せず、しばしその攻撃を受ける。
ほむら(…今のうち…!)
カチリ。
ほむらはコブラの近くに瞬間移動をし、倒れているコブラの身体を起こそうとする。
ほむら「…!」
しかし、助けに行った筈のコブラは既に起き上がり、シガーケースから葉巻を取り出してジッポライターで火をつけていた。
ほむら(そんな…生身の人間なのよ!?魔法でガードしているわけでもないのに…あんな勢いで叩きつけられても…平然としているなんて)
コブラ「よぉ、ほむら。葉巻の煙は大丈夫かい?」
ほむら「そんな事言ってる場合じゃ…!」
コブラ「アンタに一本プレゼントだ」
コブラはシガーケースから葉巻を一本取り出し、ほむらに手渡す。
ほむら「!! 今はこんな… … …。 !…これ、葉巻じゃ…ない?」
コブラ「超小型の時限爆弾さ。先端のスイッチを押せば、5秒で爆発する。局部的ではあるが、おたくが今投げた手榴弾の数倍の威力はあるぜ」
コブラ「しかし、ヤツの懐に入ってそいつを爆発させる隙がない。…だが、君なら出来るんだろう?ほむら」
コブラ「時間を止めて動ける、君ならな」
ほむら「!!!!」
【ブラックホール生成完了まで、あと、5分です】
ほむら「…気づいていたの?私の能力に」
コブラ「それ以外に説明がつかないからさ。俺の目に見えない動きなんて、そう易々と出来るもんじゃない」
コブラ「魔法少女にはそれぞれ能力がある。マミは拘束系の魔法だし、さやかは回復が得意なようだな。…瞬間移動をするだけの能力かと思ったが、それじゃあさっきの銃弾や手榴弾の説明がつかない」
コブラ「時間を止める…いや、時間を『操れる』と言った方が適切かな?それがあんたの能力だ、ほむら」
ほむら「…!」
マミ「やああっ!っ、はぁッ!!」
クリスタルボーイをひたすら銃身で殴り続けるマミ。押しているようにも見えるが…クリスタルボーイは、反撃をしようとしていなかった。
ボーイ「…成程。その辺りの賞金首やギンガパトロール隊員よりは余程有能と見える。こうして受けるダメージも、通常の人間と比べて段違いに強い。魔法による身体能力の向上か」
ボーイ「だが、それが限界のようだな…!!」
マミ「ッ!!」
クリスタルボーイはマミの銃を一瞬で掴み、身動きを取れなくする。瞬間、空いている鉤爪をマミの腹へと突き出し…。
ドォンッ!!
ほむら「!!」
ボーイ「ぐ、…ッ!」
見ればコブラはいつの間にかパイソンを抜き、クリスタルボーイに向け発射していた。間一髪のところ、クリスタルボーイは後ろに仰け反り、マミはその間に後ろへと下がる。
コブラ「ほむら。お前さんにしか頼めない事だ。…そいつをヤツの腹に埋め込んできてくれ」
ほむら「…」
ほむら「もし、嫌だと言ったら?」
コブラ「… … …」
ほむら「正直に言うわ。私が此処へ来たのは、まどかの悲しむ顔が見たくなかったから。美樹さやかを失えば、きっとまどかの心に大きな穴がきっと空いてしまう」
ほむら「でも、私だって命は大事よ。私がこの葉巻型の爆弾を、アイツの身体に埋め込んできて、どうするの?アイツの身体がそれより頑丈だったら?」
ほむら「私はまだ…生きて達成する使命がある。こんなところで死ぬわけにはいかない。私には、助けるべき人がいる」
ほむら「ここで私が逃げ出したら、どうするの?コブラ」
コブラ「…いいや、アンタはやってくれる。俺はそう信じている」
ほむら「信じる?私を?…何故?」
コブラ「アンタには、助けるべき人がいる。それと同時に…アンタには助けが必要だからだ」
ほむら「…!」
コブラは葉巻から紫煙をゆっくり吐き出し、不敵に笑いながらゆっくりと立ち上がる。サイコガンをクリスタルボーイに向けて構えると、その横で茫然としているほむらに向けて、視線は合わせず語りかけるのだった。
コブラ「ほむら、アンタは何かを抱えている。俺にはそれが何かは分からない。だが君はずっとそれに立ち向かっている。…俺が君と出会った時からだ」
コブラ「そしてその『何か』に怯え…助けを求めている。だから俺は、全力でアンタのそれを手伝うつもりさ」
ほむら「…何故、それを…!!」
コブラ「君は隠しているつもりでも、俺には分かるのさ。…女に嘘は何度もつかれてきたが、女の瞳に嘘をつかれた事は…ほとんどないからな」
ほむら「… … …」
コブラ「さやかを助け、全員でその『何か』に立ち向かう。君はその『何か』を知っているようだが…今はまだ何も話さなくてもいい。少なくとも、あのガラス人形を倒すまではな」
コブラ「だが…俺は守ってみせる!君を…君達をっ!!何があっても、守り抜いてみせる!!」
ほむら「…!!!!」
ボーイ「…少し油断をしたな。…次はないぞ、コブラ…!」
頭に弾丸の穴を開けながらも、クリスタルボーイは立ち上がり、こちらを睨む。
ボーイ「死ねぇぇ、コブラァァァーーーッ!!」
鉤爪を振りかざしながら、全力でコブラに向けて疾走してくるクリスタルボーイ。サイコガンの連射も構わず、コブラに向かう。
ほむら「…分かったわ。…あなたを信じるという事は『この時間軸では』…愚かなのかもしれない。…それでも…皆を、まどかを助けれられる可能性があるのなら…私は貴方に賭けてみたい」
ほむら「…不思議ね、少しだけ…そんな衝動に駆られたわ」
コブラ「…感謝するぜ、ほむら」
ほむら「貴方が礼を言う必要はないわ…コブラ」
ボーイ「ハァッハッハッハァーーーッ!!」
完全にコブラを捉えたと確信したクリスタルボーイは、笑いながら突進をしてくる。
カチリ。
だが、次の瞬間。クリスタルボーイの足が止まった。
ボーイ「…何…?」
特殊偏光クリスタルに埋め込まれた葉巻のタイマーは『00:00』と記されていた。
ドゴォォォォォ―――――――――!!!!
大きな爆発がクリスタルボーイの身体を包むように起こった。
ボーイ「うぐぉぉぉぉぉッ!!??」
僅かに、クリスタルの破片が辺りに散らばった。
気付けば、ほむらは、コブラの真後ろにいた。コブラはそれを見ると、にぃ、と笑顔を見せて再びクリスタルボーイに向き直る。
コブラ「美人に見とれて時間を忘れたか!クリスタルボーイッ!!」
サイコガンの連射。クリスタルボーイの特殊偏光クリスタルは先程の爆発で胸部に風穴があき、防御ができない状態となっていた。
正確にその穴を通るサイコガンの弾道は内蔵のような金属を次々と破壊していく。
ボーイ「!!!!」
コブラ「マミッ!!今だ、アレをもう一度やってやれッ!!」
マミ「…!分かったわ…。…今度は、外さない!!」
クリスタルボーイが怯んでいる間に、マミはもう一度魔力を集中する。 再び巨大な砲身が現れ、銃口をもう一度、クリスタルボーイの方向へ構えた。
マミ「『ティロ・フィナーレ』ッッッ!!!」
爆音のような銃撃音が貨物室に響く。マミの頭身ほどもある巨大な弾丸は、ゆっくりと正確にクリスタルボーイの方へ突き進んでいき、そして…。
ボーイ「ぐわああああああああああああああッッッ!!!」
ドオォォォォォォォォォォンッッ!!!
まるで星空の煌めきのように、粉々になったクリスタルが辺りに散らばった。
クリスタルボーイの身体は木端微塵となり、残骸の破片が転がっているのみとなっている。
マミ「…やった…!あはは…た、倒した…!」
ほむら「…」
コブラ「2人とも、いい仕事だったぜ。100点満点だ」
三人が笑顔を浮かべた瞬間、船のアナウンスが無常にも時を告げる。
【ブラックホール、生成完了まであと1分30秒。船員は安全な場所で待機をしてください。繰り返します…】
マミ「…!!」
ほむら「…くッ…!時間が…!」
その時、貨物室の風穴から声が聞こえた。見れば、エアーバイクに乗ったレディが宇宙船と並走している。レディはそこからロープを垂らした。
レディ「皆、急いでロープに掴まって!タートル号は離れた場所で避難しているわ、早くしないとブラックホールに巻き込まれる!!」
マミ「で、でもまだ…美樹さんのソウルジェムが!!」
ほむら「…私が行くわ。もう一度、時間を…」
コブラ「いいや、俺が行く。ほむら、入ったことのない未来の宇宙船の中から一つの宝石を探し出せるかい?」
ほむら「…で、でも…」
コブラ「こういうのは俺の専門さ。…マミ、ほむら!先に脱出しろ!俺は後から行くぜ!」
そう言ってコブラは、貨物室の先のコクピットへと走っていく。
マミ「!!コブラさんっ!!」
コブラ「ちっ…あの野郎、厄介な仕事残してくれたぜ…。宝探しゲームのつもりか?」
船体が大きく揺れはじめる。それは、ブラックホールがもうすぐ出来上がる事を示していた。
コブラ「さぁーてと…どこに隠れてるのかな?ソウルジェムちゃんは…!」
宇宙船、コクピット。閑散とした場所ではあるが、コクピットはかなり広い。一見しただけでは青い宝石は見当たらないようだ。
【ブラックホール、生成完了まであと1分です。船内の乗組員は衝撃に備え…】
コブラ「ちぃーっ!分かってますってんだ…!…どこだー?どこだ、ソウルジェムは!」
操縦席、椅子の下、機器類、あらゆる場所を探すが、見当たらない。そうしている間にも刻々と時間は過ぎていき…。
コブラ「ちくしょー!あのガラス人形め、最後に罠しかけやがって…!どこだよ、どこにあるんだっ!?」
コクピットのモニター。船体の眼前には、既に超小型のブラックホールが誕生しかけている。船はいっそう揺れ始め、今にもそれに吸い込まれそうだ。
【ブラックホール、生成完了まであと10秒です。9、8、7…】
コブラ「くそーっ!!間に合わね… …ん?」
操縦桿にやけくそで腕を叩きつけた瞬間… 壊れた機械の中に煌めく、一つの青い光。操縦桿はダミーで、実は空の鉄箱だったのだ。
【4、3…】
コブラ「こいつかァ――ッ!!」
急いでコブラはそれを取り出し、貨物室へと走る。が…。
【2、1…0。異次元へのワープを開始します】
コブラ「うおおおお―――――ッ!!」
無常にも、船体はゆっくりとブラックホールに吸い込まれていく。
轟音を立ててブラックホールに吸い込まれていく、クリスタルボーイの宇宙船。
エアーバイクに乗り込んだレディ、ほむら、マミの3人はただそれを見送る事しかできなかった。
マミ「あ、あ…!」
ほむら「…!」
レディ「…」
マミ「そんな…っ!間に合わなかったの…!元の世界に、戻ってしまったのというの…!?レディさんだって、この世界にまだいるのに…!」
マミ「そんな…!!!」
ほむら「…」
ほむら(…私を、まどかを助けると…約束したのに…)
レディ「…ふふ、それはどうかしら」
マミ「え?」
レディ「私は彼と長い付き合いだけれど…彼が、やり始めた事を途中で放棄した事は、一度もないわ」
レディ「…たとえ、そこが見知らぬ世界の中だろうとね」
ガキィィンッ!!
その時、エアーバイクの機体に突き刺さる、ワイヤーの先の刃。
マミ・ほむら「!!」
そのワイヤーの先に…ウインクをしながら手を振る、1人の男の姿があった。
コブラ「おーい!レディ、早く降ろしてくれーっ。俺は高所恐怖症なんだよーっ」
力無いさやかの右手に、コブラはそっとソウルジェムを握らせた。
まどか、ほむら、マミ、杏子…コブラ、レディ…そして、キュウべぇ。全員で、時間が止まったかのようにさやかの様子を見る。
祈るような、視線の数々。
…そして。
さやか「…あれ…?」
ゆっくり起き上がるさやか。何が起きたのか分からない、という表情で辺りを見回す。
さやか「…あれ、あたし…どうしたの…?」
まどか「さ…さやか、ちゃん…っ…」
マミ「…美樹さんっ…!!」
さやか「ま、まどか…?マミさんも…なんで、泣いてるの…?あれ?あれ?」
まどか「うわぁぁぁあああんっ!!」
マミ「…っっっ!!」
大声を出して泣きながらさやかに抱きつく、まどか。そしてその2人を包むように優しく肩に手を置く、マミ。
少しだけ、微笑んで…ほむらもその様子を黙って見ていた。
コブラ「仲間、か」
レディ「どうしたの?コブラ」
コブラ「…俺達が失ってきたものを…かの女達に失わせたくはない。…そう思ってね」
コブラは葉巻に火をつけると、満足気に笑みを浮かべ…月に向けて煙を吐いた。
―― 次回予告 ――
さやかのソウルジェムを取り戻したのはいいものの、その秘密は皆にバレちまった!どうやらキュウべぇの野郎、契約と同時にかの女達の魂をソウルジェムに移し替えちまったらしい。タチの悪い詐欺だぜ。
ショックを隠し切れない魔法少女達。不安になっちまうのも無理はないってもんだよ。特にさやかにゃ、色々ワケがあるみたいだね。
そんな矢先、新たな魔女が出現する。触手がうねうね、気持ち悪いの何の。こんな中戦えっていうのも無茶な話かもしれないが…しかし、俺が必ずあんた達を守ってみせるぜ!
次回、【魔女に立ち向かう方法】で、また会おう!
さやか「…騙してたのね、あたし達を」
QB「不条理だね。ボクとしては単に、訊かれなかったから説明をしなかっただけさ。何の不都合もないだろう?」
マミ「…納得出来ないわ。…キュウべぇ、何故…教えてくれなかったの?ソウルジェムに…私達の魂が移されていた、だなんて…!」
QB「君からそんな事を言われるのは心外だね。魂がソウルジェムに移ったのは、マミ、君が魔法少女になったからだよ?失いかけていた命を救うことを望んだのは君自身じゃないか」
マミ「私の事はどうでもいいわ。…美樹さんの立場はどうなるの?彼女は、叶えたい願いを叶えただけ…それだけなのに」
QB「『それだけ?』」
QB「戦いの運命を受け入れてまで、叶えたい願いがあったのだろう?さやか、君は魂がソウルジェムに移ると知っていたのなら、願いは叶えなかったのかい?」
さやか「…!」
QB「戦って、たとえその命が尽きようとも、恭介の腕を治したかった。それならば肉体に魂が存在しない程度、どうという事はないだろう?」
マミ「キュウべぇ、貴方…!」
QB「恨まれるような事をした覚えはないよ。君たち人間は生命の消滅と同時に魂までも消えてしまうからね。ボクとしては、少しでも安全に戦えるように施しをしているつもりなのだけれど」
コブラ「… … …」
第6話「魔女に立ち向かう方法」
クリスタルボーイを倒した、翌日。
マミのアパート。マミ、さやか、コブラの三人はキュウべぇを問い詰めるべく、そこに集まっていた。魔法少女の存在とは、ソウルジェムとは何か。その願いの代償として失った物を、確かめるべく。
QB「マミ、さやか。君たちが今日まで無事に戦ってこれたのは、ソウルジェムのおかげなんだよ」
QB「肉体と魂が連結していないからこそ、痛覚を魔力で軽減して、気絶するような、ショック死をしてしまうような痛みをも君たち魔法少女は耐える事が出来る」
QB「本来、君たちが受けるべき痛みを今ここで再現してみせようか?」
マミ「…っ…!」
コブラ「やめときなよ。そんな事再現したって何の得にもなりゃしない」
QB「そうかな。マミもさやかも、現実をまだ受け入れていないからね。魔法少女として戦う事の意味を」
さやか「… … …」
コブラ「それじゃあ、その『意味』とやらを教えるのがアンタの目的かい?冗談よしてくれよ、お前はかの女達の教師でも何でもない。ただ契約を結ぶだけの存在の筈だ」
QB「イレギュラーの君にとやかく言われる必要も感じないね」
コブラ「おおっと、触れちゃいけない話題だったかな?それとも、アンタには契約を結んで魔女を倒す以外に何か目的でもあるのかい?」
QB「…」
QB「君は、何者なんだい?」
コブラ「言わなかったかな?俺は、コブラさ」
コブラ「マミ、俺はちょいと野暮用があるんで失礼するぜ。君のお茶はいつも最高の味だ」
マミ「…えぇ。…ありがとう、コブラさん」
コブラ「…さやか」
さやか「… … …」
コブラ「アンタが叶えた願い。…それに賭けたお前さんの思い。しっかり思い出すんだ」
コブラはそう言い残して、マミの部屋から出ていく。
さやか「…あたしの…願い…」
―― 学校。
和子「はーい、今日は…美樹さんは欠席、ね。それじゃあ、HRを始めましょう」
まどか「…」
まどか(さやかちゃん…大丈夫かな…。マミさんも学校来てないみたいだし…。…やっぱり、みんな…ショック、なのかな…)
まどか(わたしに出来る事って…何も、ないのかな?…ずっと見ているだけで、臆病で…っ…)
ほむら「… … …」
廃墟と化した教会。ステンドグラスから漏れる光を浴びながら、1人俯いて考え事をする杏子。
杏子「…」
杏子「なんなんだよ、一体」
杏子(意味が分からねェよ。アタシはただ…魔女を狩って、自分のためだけに…ただ、それだけのために戦ってきた筈なのに…)
杏子(ワケのわからねー男は出てくるし、魔女じゃない変な化け物は出てくるし…アタシは、もう死んで…ソウルジェムがアタシの魂になってるって…?)
杏子「…くそ…っ!こんな…こんな…!」
杏子は自らの赤色のソウルジェムを忌まわしげな瞳で見つめる。
それでも、その宝石をたたき割る事は出来ない。それが自らの命であると、知っているから。
杏子「…なんで…」
杏子(なんで、アタシは…こんなに悲しくて、悔しいんだよ…っ!…畜生…っ!)
杏子「くそ…アタシらしく、ないな…」
杏子は立ち上がり、廃墟からそっと出ていく。
――― その夜。
ピンポーン。
恭介父「はい、どなたでしょうか?」
恭介父「…ああ、貴方は確か…病院の方で、恭介の演奏を…」
恭介父「そんな、わざわざ有難うございます。…どうぞ、上がってください。恭介からも貴方のお話は聞いています。…その節ではお世話になったそうで」
恭介父「恭介は部屋にいますから、案内しますよ。…え?必要ない?そ、そうですか…?それでは…」
コンコン。
恭介「…?父さん?」
松葉杖をつきながらドアまで近づき、自分の部屋のドアをゆっくり開ける恭介。
恭介「…!あなたは、確か…」
コブラ「よー、元気かい?」
コブラは花束を恭介に手渡すと、にぃ、と笑った。
コブラ「快気祝いに来たぜー。おー、いい部屋住んでるじゃねーかー。どれ、お宅拝見っと」
恭介「そ、それは…どうも…」
恭介「酒臭ッ!!」
一方、同時刻。杏子に呼び出され、森林の中を歩くさやかと杏子。
一度は、対峙した相手。だが、心に思う事はお互いに同じなのであろう、虚ろな瞳で杏子の後をついていくさやか。
そして辿り着いたのは、廃墟と化した教会であった。
杏子「アンタは、後悔してるのかい?こんな身体にされた事」
さやか「…」
杏子「アタシは別にいいか、って思ってる。なんだかんだでこの力のおかげで好き勝手できてるんだしね」
さやか「…あんたのは自業自得でしょ」
杏子「そう、自業自得。全部自分のせい、全部自分の為。そう思えば、大抵の事は背負えるもんさ」
さやか「…それで、こんなところに呼び出して何の用?」
杏子「ちょいとばかり長い話になる。…食うかい?」
さやかにリンゴを投げる杏子。一度はそれを受け取るが…床に投げ捨てるさやか。
その瞬間、杏子はさやかの胸倉を掴む。
杏子「…食い物を粗末にするんじゃねぇ。…殺すぞ」
さやか「… … …」
杏子「…ここはね。…あたしの親父の教会だったんだ」
杏子は、静かに、しかし強い口調で語り始めた。誰に言うでもない、まるで独り言のように虚空を見ながら話す杏子の目は、とても悲しく、しかし強い瞳であった。
―― 佐倉杏子の、父親。幸せだった筈の家族。
あまりに正直で素直であったために、世間から淘汰された神父の話。しかし、それでも自分に正直であり…家族も、そんな父親を責めはしなかった。
貧しくても、その日の食糧を求める事すら苦しくとも、佐倉杏子の家族はしっかり家族として機能していたのだった。
杏子「…皆が、親父の話を真面目に聞いてくれますように、って。それがあたしの、魔法少女の願い」
その願いは叶えられ、杏子には魔法少女としての枷が与えられた。それでも、彼女は構わなかった。自分さえ頑張れば、家族は幸せになれるのだと…そう信じていたから。
―― しかし。
父親に、杏子の魔法はバレてしまった。偽りの信者、偽りの信仰心、全てが魔法の力であるものだと。
―― そして、杏子の魔法は、解けてしまったのだった。
杏子の父親、母親、幼い妹すらも巻き込んだ、無理心中。杏子の願いは、家族の全てを壊してしまったのだ。
杏子「アタシはその時誓ったんだ。もう二度と…他人のためにこの力は使わない、って」
杏子「…奇跡ってのは、希望ってのは…それを叶えれば、同じ分だけ絶望が撒き散らされちまうんだ」
杏子「そうやって、この世界はバランスを保って、成り立っている」
恭介「…あの時は、本当に有難うございました。…自暴自棄になっていた僕を、止めてくれて。…あの時、コブラさんが止めてくれていなかったら…」
コブラ「なぁ、恭介。奇跡ってヤツはどうやって起きるんだろうな?」
恭介「…え…」
窓辺に腰かけて、コブラは笑顔を浮かべながら呑気にそう語りかける。まるで独り言のように、虚空を見ながら。
恭介「…どうやって、って…それは…」
コブラ「アンタのその腕、医者からも治癒は絶望的なんて言われてたんだろ?今こうして動いて、しかもバイオリンが弾けるまで回復するなんて奇跡以外の何物でもない」
コブラ「そいつを不思議に思ってね。恭介、アンタ自身はどう考えてるのかちょいと世間話に来たんだ」
恭介「…僕自身も、本当に偶然とは思えないのは確かです。神様が僕の願いを叶えてくれた…なんて考えるのも、おこがましい話ですし」
コブラ「神様、ね」
コブラ「その神様って奴が身近にいたのかもしれないぜ?…アンタの場合」
恭介「…え?」
コブラ「病室にいて、ずっと落ち込んで、ふさぎ込んでいたアンタを、神様とやらがずっと見ていてくれたんじゃないかな」
恭介「… … …」
コブラ「その神様ってヤツぁ、お前さんが想像してるような白髪の老いぼれ爺なんかじゃないと思うね。もっとチンチクリンで、自分に馬鹿正直なクセに奥手で恥ずかしがり屋で、それでも頑張ってアンタのために祈りを叶えてくれた」
恭介「…さや、か…?」
コブラ「奇跡って奴は、叶えるのにそれだけの対価が必要だと俺は思ってるのさ。…ひょっとしたら、アンタの奇跡のためにこの世界で頑張ってるヤツが1人いるんじゃないのかな。ま、あくまで俺の考えだがね」
さやか「何でそんな話を私に?」
杏子「アタシもあんたも、同じ間違いをしているからさ。だから、これからは自分のためだけに生きていけばいい。…これ以上、後悔を重ねるような生き方をするべきじゃない」
さやか「… … …」
杏子「もうあんたは、願い事を叶えた代償は払い終えているんだ。これからは釣り銭取り戻す事だけ考えなよ」
さやか「…あたし、あんたの事色々誤解していたのかもしれない。…その事はごめん、謝るよ」
さやか「でも、一つ勘違いしている。…私は、人の為に祈ったことを後悔なんてしていない。高過ぎる物を支払ったとも思っていない」
さやか「その気持ちを嘘にしないために、後悔だけはしないって決めたの」
杏子「…なんで、アンタは…」
さやか「この力は、使い方次第で素晴らしいものに出来る。…そう信じているから」
さやか「それから、そのリンゴ。どうやって手に入れたの?お店で払ったお金は?」
杏子「…!」
さやか「言えないのなら、そのリンゴは貰えないよ」
さやか「あたしは自分のやり方で戦い続ける。…それが嫌ならまた殺しに来ればいい。もうあたしは負けないし…恨んだりもしない」
そう言い残し、静かに教会から去っていくさやか。
杏子「…ばっかヤロウ…」
恭介「…はは、まさか…」
コブラ「そう、まさかなんだよ。アンタの身体に起こった奇跡は、単なる偶然。誰に感謝するわけでもない、これからは自分のために、自分のバイオリンのためだけに生きて行けばいい。なんたってあんたは天才ヴァイオリニストなんだからな」
恭介「… … …」
恭介「それじゃあ…まるで、僕が最低の人間みたいじゃないですか」
コブラ「そう思うのかい?じゃあアンタの腕が治ったのは誰かのおかげなのか?それとも、本当に単なる偶然なのか?」
恭介「…貴方は、何を言いに来たんですか?」
コブラ「言っただろ?俺は世間話をしにきたんだよ。機嫌を損ねちまったかな?」
恭介「… … …」
コブラ「俺はバイオリンの音色に興味はないからなぁ。どうせ聞くんなら美女の甘い囁きを耳元で…なんてね」
コブラ「しかし、この世で一番、アンタのバイオリンの音色を聴きたがっている人間がいる。アンタの家族や親族より、ずっと強い気持ちでさ。…アンタはそれに応えてやらなきゃいけない」
コブラ「アンタに起こった『奇跡』を、アンタがどう考えるのかによるかだけどな」
恭介「… … …」
コブラ「それじゃ、俺は失礼するぜ。こう見えて忙しいんだ。デートの約束とかね」
恭介「… … …」
恭介「…待って、ください…!」
コブラ「…」
恭介「…もう少しだけ…もう少しだけ、貴方の話を聞かせてください。…考えたいんです」
コブラ「…ああ」
コブラ「それじゃあ、ちょいとした身の上話をさせてもらおうかな。今日の予定は全部キャンセルだ」
―― その翌日。親友の仁美に呼び出されたさやかは、ファーストフード店に来ていた。テーブル越し、まるで対峙をするかのような、仁美の強い視線。
そして、神妙な面持ちで語り始める。
仁美「ずっと前から…私、上条君の事をお慕いしておりましたの」
さやか「…!!」
さやか「…そ」
さやか「そうなんだぁ…!あははは、恭介のヤツ、隅に置けないなぁ」
仁美「さやかさんは、上条君とはずっと幼馴染でしたのよね」
さやか「あ、ま、まぁ…腐れ縁っていうか、なんていうか…」
仁美「…本当に、それだけですの?」
さやか「…!」
仁美「…もう私、自分に嘘はつかないって、決めたんですの。…さやかさん、貴方はどうなのですか?」
さやか「どう、って…」
仁美「本当の自分と、向き合えますか?」
仁美「―― 明日の放課後に、私、上条君に思いを告白致します」
仁美「―― それまでに、後悔なさらないように決めてください。上条君に、思いを伝えるかどうかを…」
―― その夜。自分の家を出て魔女退治に出かけようとするも、思考が回らず立ち止ったままのさやか。
さやか「…」
まどか「…さやかちゃん」
さやか「…!まどか…」
まどか「付いていって、いいかな…?…マミさんにもコブラさんにも言わないで魔女退治に行くなんて…危ないよ…?」
さやか「…あんた…なんで、そんなに優しいかな…っ…。あたしに、そんな価値なんて、ないのに…っ、ぐ…!」
まどか「そんな事…!」
さやか「あたし、今日、酷い事考えた…っ…!仁美なんていなければいいって…っ…!恭介が…恭介が、ぁ…仁美に、取られちゃうって、ぇ…えぐっ…!」
まどか「…」
そっと近づき、さやかの身体を優しく抱くまどか。
さやか「でも…あた、し…っ!なんにも出来ないっ…!ひぐっ…!だってもう死んでるんだもん…ゾンビなんだもん…っ!」
まどか「さやかちゃん…」
さやか「こんな身体で、抱きしめてなんて…っ、言えないよぉぉ…!!」
その時、さやかとまどかに近づく1人の影があった。
まどか「…! …あなたは、あの時の…」
レディ「…少し、いいかしら?美樹さやかさんと、鹿目まどかさん。…お届けものに来たわ」
近くにあったベンチに座った、さやかとまどか。さやかが泣き止み、落ち着くのを待ってからレディは静かに話し始める。
レディ「突然でごめんなさい。…まどかさんとは少しだけ顔を合わせたけど、さやかさんは…知らなかったわね、私の事。私はコブラから貴方達魔法少女の事は聞いているのだけれど」
さやか「… … …」
レディ「こんな恰好だから警戒するのは当たり前よね。…私はコブラの相棒、レディ…アーマロイド・レディというの」
さやか「…やっぱり変な名前」
レディ「ふふ、そうね。…こんな時に突然で驚くわよね。コブラがどうしても、私に、貴方達に届け物をして欲しいと言うから」
まどか「…届け物、って…?」
レディ「上条恭介君からの預かりものがあるわ」
さやか「…!!!」
レディはそう言って、小さな封筒を一つ、取り出して見せた。
レディ「受け取ってもらえるかしら?」
さやか「… … …」
まどか「さやかちゃん…」
しかし、さやかの表情は優れず、レディの持つ封筒に手を差し伸べる様子も無い。
レディ「…それから、コブラからもう一つ頼まれごとをしているの」
レディ「昔話を、さやかにしてやれ、ってね」
さやか「…え…?」
レディ「退屈な話なら聞かなくていいわ。この封筒だけ受け取ってくれてもいい。ここから逃げ出してもいい。…もし良かったら、そのままベンチに座っていてくれないかしら」
さやか「… … …」
さやかは動かず、俯いたままでいる。まどかはその身体をそっと支えたままだった。
レディ「…昔、あるところにとてもヤンチャなお姫様がいたの。祖国を怪物に滅ぼされ、復讐に燃えるあまりにその怪物を自ら倒しに行った…そんな無茶をした、バカなお姫様よ」
レディ「でもそのお姫様の力じゃあ、とてもその怪物には敵わなかった。…でもね、ある人が、私を助けてくれたの」
レディ「祖国を滅ぼされ、仲間も失い…全てを失った私を、その人は守ると言ってくれた。…何があっても守る、何があっても殺させやしない、って…」
まどか「…それって、レディさんと、コブラさん…?」
レディ「…ふふふ、どうかしら?」
レディ「その人は、全てを…命を賭けて、時間さえも飛び越えて…お姫様を助けてくれたわ。だから、お姫様も…その人に一生ついていくと決めたの」
さやか「… … …」
さやか「素敵な話だね。…でも、知らない人からそんな話を聞いても…あたしは…」
レディ「…そうだと思うわ。私だって不思議だもの。何故こんな話をコブラが私にさせているのか」
レディ「でも…なんとなく…私はね、そのお姫様とさやかさんが似ていると思うの」
さやか「…あたしと…?」
レディ「お姫様とその人との幸せな時間はあったわ。…でも、そう長くは続かなかった。 お姫様はある日、瀕死の重傷を受けてしまったの。…銃撃戦があって、ね」
レディ「お姫様には一つの選択肢があったの。そのまま死ぬか…もしくは、全く別の身体に魂を宿して、新しい人生を送るか」
さやか「…!」
―― 昨日。上条恭介の部屋、コブラと恭介の会話の続き。
コブラ「俺には1人の相棒がいてね。親愛なる最高のパートナーが」
コブラ「そいつは以前、瀕死の重傷を負った。…医者に言われたよ。奇跡は起きない。このまま死ぬのを待つしかない、とね」
恭介「…」
コブラ「一つだけ、彼女が助かる道があった。…まぁ、嘘だと思うかもしれないが聞いてくれ。…全く別の身体に、その相棒の魂だけを移し、生まれ変わる…そんな事が出来たのさ」
恭介「…作り話、ですか?」
コブラ「そう思ってくれて構わないさ。作り話なら、俺もなかなかいい小説家になれそうだろ?」
コブラ「話の続きだ。…だが、俺は相棒がそんな身体になる事は望まなかった。俺はそいつを愛していたし、彼女だってそんな事は望まないと思っていた」
恭介「…」
コブラ「だがかの女は、新しい身体に自分の魂を注ぎ、生まれ変わった」
コブラ「以前のように愛されなくてもいい。ただかの女は、俺と一緒にいる事だけを望んだ。そのためなら、例えその身体が機械の身体になろうとも…ってね」
恭介「…素敵な話ですね」
コブラ「そう思うかい?そりゃ良かった。恭介、アンタと俺は気が合いそうだ」
恭介「気が合う?」
コブラ「そうさ。俺はその時、かの女と共にずっと旅を続けていくと心に誓ったからさ」
コブラ「何を犠牲にしてもいい。どんな事をしてもいい。かの女が俺を愛してくれるのなら、かの女がどんな身体になろうと俺は全てをかの女に捧げようとな」
恭介「… … …」
コブラ「そこに、愛するとかそういう概念はない。俺は相棒に出来る事を全てする。相棒も同じ事を俺にしてくれる。同じ目的を持ち、同じ『道』を進む…。いい関係だろ?」
コブラ「…恭介。アンタのバイオリンには、そういう『道』が築けるのさ。世界中、全ての人にその音色を聞かせてやれるように…なんて道がな」
恭介「…ええ。僕は…たくさんの人に、自分の音色を届けたいと思っています」
コブラ「へっへっへ」
コブラ「だったら、まず…その音色。聞かせてやるべき人がいるはずさ。…『相棒』がね」
恭介「…!」
レディ「お姫様は…新しい身体。おおよそ人間とは言えない、機械の身体に自分の魂を移したわ」
レディ「彼に愛して欲しいとは望まなかった。…ただ、かの女はずっと旅がしたかったの。その人と過ごす時間…その人の進む道を同じように進んでいくのが、何よりも素敵な時間だったから」
さやか「… … …」
レディ「そう思ったのは、彼を信頼していたから。どんな身体になろうとも、約束をずっと守ってくれると信じていたから。私を、ずっと守ってくれるという…ね」
レディ「…ねぇ、さやか。貴方にとっての恭介という人は、どんな人なの?」
さやか「…恭介…」
レディ「貴方は、自分が愛される資格がない…そんな風に考えている。…じゃあ恭介君は、そんな貴方をすぐに見捨ててしまうのかしら」
レディ「貴方が愛した彼は、そんな人?」
さやか「…!」
レディ「…誰かの傍にいたいと思うには、条件があるの。それは、何があってもその人を信じる事。どんな事があっても自分を見捨てない。必ず傍にいてくれる…。自分がそう信じる事が、何よりも大切」
レディ「コブラと、私。…さやかと、恭介。…ふふ、本当に似ていると私は思うわ」
レディ「だから、貴方にお届けものよ」
レディは封筒から一枚の紙を取り出し、さやかの掌の上に置いた。
まどか「…!それって…」
さやか「…!」
紙には、恭介の字が記してあった。リハビリ中でまだ震えた字体であったが、力強く握った黒のインクで、しっかりと書かれてある。
【明日の放課後、僕の家でもう一度コンサートを開かせてください。僕をずっと信じてくれていたさやかに、聞いて欲しい曲があります。 ―― 上条恭介】
さやか「!!!!」
レディ「…こんな素敵なコンサートチケット、世界中どこを探しても見たことないわ。…幸せね、さやかは」
さやかは声にならない泣き声をあげながら、大粒の涙を流した。
まどかも、その身体を支えながら、微笑み、泣いた。
マミ「…!これは…」
マミのソウルジェムが俄かに光って反応を示す。
コブラ「魔女か?」
マミ「そうみたい…近いわ!大変よ、美樹さん!近くで魔女が生まれ… …」
ガサッ。
ソウルジェムの反応に慌てたマミは、思わず近くの茂みから身体を出してしまう。
マミ「… あっ」
さやか「… えっ」まどか「… あっ」
さやか「マミさん!それに…コブラさんも…!」
コブラ「あ、ははは、よぅさやか、まどか。おや、レディもいるのか。奇遇だねー、いや、たまたま通りかかってさ、ホントホント」
マミ「そ、そうなの!偶然通りかかってたまたま2人を見つけちゃって!それで、ええと…べ、別に盗み聞きしてたわけじゃないのよ!本当に!」
さやか「…マミさん、嘘ついてるのバレバレですよ…」
マミ「…あ、あはは…そうね。えーと… …ごめんなさい」
さやか「… ぷっ。あ…アハハハハハッ!マミさん可愛いーっ!」
まどか「ティヒヒ」
コブラ「はっはっはっは!」
マミ「うううう…」
顔を赤くするマミ。照れる顔なんてあまり拝めないもので、さやかもまどかもコブラも、その顔に笑ってしまう。
さやか「…魔女が近いんですね。行きましょう、マミさん、コブラさん。私の戦い方…もう一度、見ていてください!」
ベンチから立ち上がったさやかは、ソウルジェムを手に握りしめ、力強く握りしめた。
まどか「…さやかちゃん、大丈夫なの…?」
さやか「…まどか。もう…心配いらないよ。あたしは一人なんかじゃない。それが…やっと分かったから」
さやか「恭介、マミさん、コブラさんにレディさん…まどか。それにアイツ…佐倉杏子だって。みんな…あたしの事心配してくれてる。だからあたしは、その期待に必ず応える」
さやか「魔法少女さやかちゃんは伊達じゃないってトコ、見せてあげなくちゃね!」
さやかはまどかの方を振り向き、最高の笑顔を見せる。その笑顔に、まどかも安心をしたようだった。
マミ「…それじゃあ、行きましょう!」
レディ「さやか」
さやか「…レディさん。…ありがとうございましたっ」
レディ「どういたしまして。…彼を信じるのよ。そうすれば、きっと彼もそれに応えてくれるのだから」
さやか「…はいっ!!」
さやか、マミ、コブラ、まどかは駆け出し、その場を去る。
ほむら「いいのかしら。先に獲物を見つけたのは貴方よ。佐倉杏子」
杏子「…アイツのやり方じゃ、グリーフシードの穢れが強いからな。獲物は魔女だ。今日は譲ってやるよ」
ほむら「意外ね。貴方が他人にグリーフシードを譲るなんて」
杏子「ふん。…たまにはこういう気まぐれも起きるのさ」
ほむら(…共闘。グリーフシードの奪い合いは時に魔法少女同士の抗争を生み、それが全員の身を滅ぼした時間軸も存在する)
ほむら(佐倉杏子と、美樹さやか…。相性の悪い2人だとは思っていたけれど、この世界では…)
杏子「今日は見学だ。新人の戦い方、見届けてやる」
ほむら「…そうね」
コブラ「こいつは…」
マミ「…鹿目さん、少し下がっていて。…なかなか手ごわそうだわ」
まどか「!は、はいっ!」
現れた『影の魔女』は今まで出会った魔女の中でも巨大な部類であった。本体こそ人間と同サイズの影であるものの、それを取り巻くような無数の木の枝はまるで主を守るように生えている。
刃物のように鋭利な枝の先は、今にも三人に襲い掛かりそうに蠢いていた。
さやか「い、意気込んだのはいいけど、…あの枝はちょっと厄介そうだなぁ…。マミさん、どうしましょう…?」
マミ「そうね… 全部切り取っちゃうってのはどうかしら?」
コブラ「了解。庭師になれそうだぜ」
マミは単発式銃火器を宙に浮かせ、コブラは左腕のサイコガンを抜き、影の魔女に向けて構える。
コブラ「俺達があの盆栽の手入れをしてやる。見栄えが良くなったら本体を倒してくれ、さやか」
さやか「は、はい…!」
まどか「さやかちゃん、気を付けて…!」
さやか「! …うんっ!任しといて!」
マミ「それじゃあ…行くわよっ!!」
踏み込み、影の魔女に近づくマミとコブラ。領域への侵入者に対し、魔女は触手のような枝を次々と振り下ろしていく。
マミ「!!」
マミとコブラは立ち止り、自らに近づいてくる木の枝を次々と撃ち落していく。
目にも止まらない連射、しかも正確な一撃一撃は、次々と触手を撃ち落していく、が…。
コブラ「…!少しまずいな」
マミ「…この枝…っ、再生している…!?」
撃ち落した木の枝は一度は動かなくなるものの、少しの時間ですぐに再生を始めてしまっていた。襲い掛かる木の枝を落とすのが精一杯のマミとコブラは苦戦を強いられた。
コブラ「参ったな、キリがないぜ!」
マミ「くっ…一体どうすれば…!」
さやか「… … …!」
さやか「マミさん、コブラさん!…あたし、行きます!」
コブラ「何…っ!?」
さやか「でやああああああああッ!!」
銀に光る剣を前方に構え、さやかは影の魔女本体に突撃を開始した。それと同時に、木の枝はさやかに反応をし、襲い掛かろうとする。
マミ「!!!美樹さんっ、危ないわ!!」
さやか(このまま捨て身でいけば…皆を守れる!…例え、あたしのソウルジェムが穢れても…!)
さやか(… … …)
さやか(違う!)
さやか(大切なのは… 大切なのは、一歩を踏み出しすぎない、勇気…!一緒に戦おうって、マミさんは言ってくれた!…だから…!)
さやか「コブラさん!マミさん!一度だけ…一瞬だけ、道を作ってください!!…お願いしますッ!!」
マミ「…道…?」
コブラ「…! そうか…よぉし、分かった!マミ、俺らの周りは任せたぜ!」
マミ「え、ええっ!?」
コブラは自分の周囲の触手への攻撃を止め、影の魔女本体に向けてサイコガンを構える。自らの精神力をサイコガンに貯め、狙いを定めた。
コブラ「いくぞォォォーーーーーッ!!!」
大砲のようなサイコガンの一撃。影の魔女本体に向かっていく光は、周りを囲む木の枝を次々と消滅させていく。…それと同時に。
さやか「はああああーーーーーッ!!!」
コブラの作った『道』。触手が再生をする前にさやかはその残骸を踏み越え、影の魔女本体に向けて駆けていく。
そして眼前に現れたのは守るものを失った、影の魔女本体だった。
さやか「くらええええッ!!」
魔女本体に突き刺される剣。魔法で高められた攻撃は、一撃で魔女を葬り、消滅させた。
さやか「…あたしね、分かったんだ。…あたしが、何をしたかったのか」
まどか「…」
月夜が差し込む、ビルの屋上。夜風にあたりながら、さやかとまどかは空を見上げながら会話をしていた。
さやか「あたしが望んでいたのは…恭介の演奏をもう一度聞きたかった…それだけだったんだ」
さやか「あのバイオリンを…もっとたくさんの人に聞いて欲しかった。それで…恭介に、笑って欲しかったんだ。自分の演奏で、人を笑顔に出来るように…恭介自身も」
まどか「…さやかちゃん…」
さやか「…ちょっと悔しいけどさ、仁美じゃ仕方ないよ。あはは、恭介には勿体無いくらい良い子だしさ。きっと幸せになれる」
さやか「それに…あたしには使命がある。…まどかを、マミさんを…見滝原に住む皆を守るっていう、魔法少女の使命がね!」
まどか「でも…さやかちゃんは、恭介くんの事を…」
さやか「明日のアイツの演奏聞いたら…言ってやるんだ。アンタの事お慕いしてる子がいるって。…このさやかちゃんが、恋のキューピッドになってやろうっての!」
さやか「…それがどんな結果になろうと、後悔なんてしない。恭介にも、仁美にも…嘘をついて、生きていて欲しくなんかない」
さやか「皆…あたしの大切な人なんだ。あたしは、その大切な人たちにずっと笑っていてほしい。…だから、あたしも頑張れるんだ」
まどか「… … …」
さやか「まどか。勿論…アンタにも、ね!」
まどか「… うんっ!」
翌日の放課後、恭介の部屋。
恭介「… さやか。有難う、来てくれて」
さやか「… ううん。あたしも…ありがとう」
恭介「それじゃあ…聞いてくれるかな。…僕の、バイオリン」
さやか「… うん!」
上条家から、静かに『アヴェ・マリア』が流れる。まだ完璧な演奏とは言い難い。しかしそれは、世界中のどんな演奏より人を感動させられるような弦の音色であった。
その演奏を、外から聞いている仁美。
仁美「… … …」
仁美(…いい曲。とても静かで、力強くて…)
仁美(…私、諦めません)
仁美(でも、今は… もう少しだけ… この演奏を聴いていたいって、そう感じますの)
仁美(この音色を奏でさせられるのは… さやかさん、今は、貴方しかいないのですから…)
夕日が美しく差し込む、見滝原市。
その日はまるで、街全体を、一つの旋律が包み込んでいるかのようであった。
ほむら(… … …)
ほむら「ワルプルギスの夜まで…一週間」
ほむら(まどか…必ず貴方を、守ってみせる。…この時間軸で、全てを終わらせてみせる)
ほむら「…いよいよ…夜を迎えるのね」
ほむら(…巴マミ。美樹さやか。佐倉杏子。…コブラ。…そして、私)
ほむら(…終止符を打つ、必ず…!)
―― 次回予告 ――
さやかが一人前の魔法少女になれてさあこれからだって矢先に、暁美ほむらがとんでもない事を言い始めた!
なんでもあと何日かしたら超巨大な「ワルプルギスの夜」とか言う恐ろしい魔女が見滝原に出てくるんだとさ。かの女はそいつを倒すために、何度も時間を繰り返してきたって話だ。
か弱い女の子にそんな重荷を背負わせちゃいけないよな。俺達はワルプルギスの夜を倒すための作戦を練る事にした。
しかしそんな時、俺にビッグニュースが飛び込んできちまう!なんとレディが、元の世界に戻る方法を見つけちまったんだと!
どうすりゃいいのよ俺ぇー。
次回【夜を超える為に】で、また会おう!
コブラ「…それで、俺に何の用なんだい?」
夕日の差し込むビルの屋上。目を閉じ、微笑みながら葉巻をくわえたコブラと、それをじっと見つめる少女…暁美ほむら。
コブラ「お前さんから呼び出しなんて随分珍しいじゃないか。しかも、俺だけ。 好意は嬉しいがね、あと数年経ってから考えさせてもらうよ」
ほむら「… … …」
ほむら「『ワルプルギスの夜』が来るわ」
コブラ「… 何だって?」
ほむら「今までの魔女とは比べものにならない、超大型の魔女…。放っておけば、数時間…いいえ、数分でこの見滝原を滅ぼしてしまい…最悪の場合、更に広がるわ」
ほむら「規模は未知数。被害は地球全体に及ぶなんて話になっても、おかしくはない」
コブラ「…そんなものが来るって、どうして分かる?」
ほむら「…私には、もう一つ能力があるの」
ほむら「いいえ、正確には、私の能力は応用に過ぎない。…私の本当の力は、『時を操る事』。そして、それは…過去さえも操れる」
コブラ「…! ほむら、ひょっとしてお前さんは…まさか…」
ほむら「…ええ、何度も…数えるのも諦めるくらい、見てきているわ」
ほむら「この世界が滅びていく、その様を」
風が、一段と強く2人を吹き抜けていった、そんな気がした。
第7話「夜を超える為に」
さやか「…やっぱりここにいたんだ」
杏子「! …アンタ、どうして…」
以前会話をした、廃教会。そこへ足を運んださやかは、予想通り杏子と出会う事が出来た。
さやか「コレ、あんたに渡そうと思ってさ」
さやかは手に持っていた紙袋からリンゴを一つ取り出し、杏子に向けて投げた。それを受け取った杏子は、きょとんとした顔でさやかを見ている。
さやか「…この前は、ごめん。あたしの事、アンタなりに心配してくれたのに…嫌な事言っちゃって」
杏子「… … …」
さやか「だから、謝りに来た。…それで…改めて言うのもおかしい話だけど…これからも、その…あたしと仲よくしてほしいなぁ…なんて」
さやかは杏子の顔色を横目で伺いながら、恥ずかしそうに頬を?いた。
杏子「…アンタさぁ」
杏子「よくそんな台詞言えるよな。…聞いてるこっちが恥ずかしくなるよ」
さやか「べっ、別になんだっていいでしょ!!…あたしだって、コレでも頑張って謝りにきてるんだから…!」
さやか「…あんたと…その… 仲悪いまま、終わりたくないし…」
杏子「…かぁー。ホントに、呆れるくらい馬鹿正直なんだねアンタって」
さやか「そ、それはあんただって一緒でしょっ!?…ほら。こっちだって恥ずかしいんだからさ…」
そう言って、さやかはゆっくりと右手を杏子に向けて差し出した。
杏子「…分かったよ」
杏子はぷいとそっぽを向きながらも、さやかの差し出された右手に、自らの右手を重ねた。
コブラ「…時間を何度も繰り返し、そのワルプルギスの夜とやらと何度も戦って…それでも負け続けて、今に至る、ねぇ」
ほむら「信じてもらえるとは思っていないわ」
コブラ「信じるさ。俺も昔、同じような事をした」
ほむら「…?」
コブラ「それで、何で俺を呼び出したんだ?仮にそいつが現れるとしてそのバカデカい魔女を口説き落としてくれ、なんて話じゃないだろ?」
ほむら「…」
ほむら「貴方は、幾度となく私達を救っている」
ほむら「魔女の撃退、巴マミの救出、美樹さやかのソウルジェム奪還…貴方のしている行動の全ては、魔法少女達にとってプラスへと働いているわ」
ほむら「答えて。…何が目的なの?」
コブラ「そうだなぁ。目の前でか弱い女の子達が困っていたから、かな」
ほむら「分からないわ。単なる人助けでこんな事をしているとでも言うの」
コブラ「…信じられないかい?」
ほむら「ええ、私には理解し難い事だわ」
コブラ「勿論、俺は元の、俺のいるべき世界に戻ろうとしている。そのためにアンタら魔法少女にくっついて行動しているのも目的の一つさ」
コブラ「ただね、趣味なのさ」
ほむら「…趣味?」
コブラ「困っている女の子の顔を、安心させてやるのがさ」
ほむら「…つくづく分からないわ、貴方の事が」
コブラ「よく言われるよ」
ほむら「…」
ほむら「過去…どの時間軸でも、私は失敗を積み重ねている。時にはワルプルギスの夜に負け、時には…魔法少女同士で殺し合う、そんな世界も存在したわ」
コブラ「物騒だねぇ。何があったんだ」
ほむら「魔法少女の正体に気付いてしまったからよ」
コブラ「…ソウルジェムの穢れ、か」
ほむら「気付いていたのね」
コブラ「アンタに黙っていて申し訳なかったな。相棒にちょいとグリーフシードの成分を分析してもらってね。…それで、分かったのさ」
コブラ「…ソウルジェムの『穢れ』。アレが、魔女の正体だ。つまり魔法少女と魔女は、表裏一体の存在って事…違うかい?」
ほむら「…ええ、そうよ」
ほむら「そして、その正体に気付いた魔法少女達は自分たちこそ災厄の元凶だと気づき、互いを殺し合った」
ほむら「…ある意味、正しい行動だったのかもしれないわ。キュウべぇに利用されたままの自分達を、消せたのだから」
ほむら「…そうでしょ?…インキュベーター」
ほむらがそう言った瞬間、物陰からひょっこり現れるキュウべぇ。
コブラ「黒幕さんのお出ましか」
QB「…」
QB「驚いたね。遠い未来世界から来たイレギュラー…『コブラ』、そして時間を繰り返し戦ってきた魔法少女…『暁美ほむら』」
QB「僕の知り得ない人間が2人も関わっていたのは、本当に驚きだ。奇跡以外の何物でもないのかもしれないね」
コブラ「インキュベーター…ね。俺の疑問がようやく解けたぜ」
コブラ「アンタは少なくとも地球生物で無い事は分かっていた。しかしこの世界には、星間交流の概念がない。何故宇宙生物が魔法少女と呼ばれる存在の周りをウロチョロしているのかがようやく分かったぜ」
QB「本当に驚きだよ。君はこの星…いいや、宇宙がどんな運命を辿っていくのかを知っているわけだ、コブラ」
コブラ「興味があるかい」
QB「そうだね。僕達の目的は『宇宙の寿命』を伸ばす事にあるわけだから。僕達の行動がどんな素晴らしい結果を生んでいるのかを知りたいのが本音さ」
コブラ「宇宙の寿命…?」
ほむら「…この地球外生命体の目的は、一つ。魔法少女を魔女化する時に発生するエネルギーを、回収する事」
コブラ「はっ、そんな事をしてどうなるって言うんだ?売り払って通信販売でも始めるのか」
QB「宇宙には、エネルギーが存在するんだよ。そしてそのエネルギーは、どんどん減少を続けていくのを知っているかい」
コブラ「さあね。朝食を食べてないからじゃないかな」
QB「宇宙全体は、僕達インキュベーターによって支えられているんだよ。僕達がエネルギーを回収し、供給を続けているからこそ宇宙は現状を保っていられているんだ」
QB「そしてそのエネルギーの、最も効率のいい回収方法は」
QB「魔法少女が、魔女に変わる瞬間。その瞬間のエネルギーの回収が最も効果的に、宇宙の寿命を延ばす事に繋がるのさ」
コブラ「どの世界にも、狂信者ってヤツはいるもんだな」
QB「信仰じゃない、事実だよ。コブラ、君達のいる未来でも僕達の存在は知られていないのかい」
コブラ「さあてなぁ。お宅らみたいな連中はごまんといるからね。特に熱心な宗教家ほど目立っちまうからな。埋もれちまったんじゃないかい」
QB「僕達は、地球が誕生する遥か以前から人間の有史に関係してきた」
QB「数えきれないほど多くの少女…とりわけ、第二次成長期にあたる少女達と契約を交わし、希望を叶えてきたのさ」
ほむら「…そして、それを絶望へと変えて、エネルギーを回収していく。祈りを呪いに変えて」
QB「酷い言い方だね」
ほむら「人を食い物にしてきた貴方に、否定をする権利なんてないわ」
QB「ワケがわからないよ。僕達が宇宙を永らえさせてきたからこそ、君達人類全体の歴史があるんだ。一部の人間の消滅が全体を救っている事に、何の問題があるんだい」
QB「むしろ感謝されて然るべき話さ。僕達がいなければ、ほむらだってこの世界にはいない。コブラのいた未来だって、存在しないんだよ」
QB「それに僕達は、侵略という形でエネルギーを回収したりなんていう野蛮な真似はしていない。少女達の願いを叶えて、その代償を払ってもらっているだけさ。『契約』という形でね」
QB「そこに、何の問題があるんだい」
コブラ「…確かに、それなら何の問題もないな」
ほむら「…!?」
コブラ「だが、それならはっきりと俺達は選択肢が与えられているはずだ。…おたくら異星人と契約して宇宙のために戦うか、否かのな」
QB「コブラ。君は宇宙が滅んでもいいと言うのかい」
コブラ「さてね。だが、宇宙が滅びようとするのだと言うのなら、そいつも宇宙の一つの選択ってヤツじゃないか。インキュベーターってやつぁ、契約を元に宇宙の寿命を延ばそうとしているんだろ?」
コブラ「それなら元来、かの女達が何をしようが自由の筈さ。魔法少女になって契約した少女が何をしようと勝手…その筈だ」
QB「…」
コブラ「かの女達は希望を抱き、絶望はしない。街を襲う魔女から人々を守り、立派にその使命を全うしていく…それで十分だ。宇宙の寿命を延ばすために人柱になれ、なんて契約はしていないはずだぜ」
ほむら「…ええ、確かにそうね」
QB「甘い考えだね。それで魔女は倒せても、ワルプルギスの夜が倒せるとでも思っているのかい」
コブラ「さあてなぁ。やってみなきゃ分からないさ」
QB「僕は少なくともその前例は見ていないからね。希望が絶望に変わらなかった魔法少女は、存在しない。だからこそ僕達インキュベーターはそのエネルギーを宇宙に安定的に供給してきたのだから」
ほむら「っ…」
コブラ「前例がなけりゃ、作ればいいだけだ。そう難しい事じゃない」
コブラ「俺が…いいや、俺達がやってみせる。ワルプルギスの夜を、超えてやるさ」
コブラはそう言いながらにぃと微笑み、ビルの屋上を後にするのだった。
QB「暁美ほむら、君はどう思うんだい」
QB「『鹿目まどか』という魔法少女の存在なくして夜を超えられた時間軸が、存在したのかい」
ほむら「… … …」
QB「無いだろうね。それだけまどかの魔力は絶大だ。どんな巨大な魔女であろうと、魔法少女化した彼女に敵う敵など存在しない」
QB「逆に言えば、まどかが魔法少女にならなければ、ワルプルギスの夜には勝てない。君がまどかを魔法少女にしたがらない事と、君が時間を幾度も繰り返しているのがその証明になっている」
QB「君はどうするんだい?ほむら」
ほむら「私は、まどかを守る力を欲し、魔法少女の契約を交わした」
ほむら「だから、彼女を魔法少女にせず、ワルプルギスを倒すまで…絶対に諦めるつもりはない」
QB「分からないね。そんな方法を今まで見つけてもいないから、君が今この時間に存在するのだろう?」
ほむら「貴方達インキュベーターの目的は分かっているわ。…まどかが魔法少女になれば、同時に最悪の魔女を生む事になる」
ほむら「今まで、魔女にならなかった魔法少女はいないと言ったわね」
ほむら「狙いは一つ。まどかの膨大な魔力。魔女化に発生する莫大なエントロピーの発生が目的で、あなたはまどかに付きまとっている」
QB「だからどうしたというんだい?」
ほむら「貴方の思い通りにはさせない。私は絶対に…まどかを魔法少女に、させない」
QB「ほむらは、それでワルプルギスの夜を倒せるとでも思っているのかい?」
ほむら「…さっき、コブラにも言われた筈よ」
ほむら「前例がなければ、作ればいいだけの事」
ほむら「この時間軸で私は、それを作ってみせる」
キュウべぇに背を向け、階段を降りながらほむらは考えていた。
ほむら(…他人をアテにしない。それが何度も時間を重ねた結果の教訓だというのに)
ほむら(この時間でも、私は他人を頼りにしようとしている。…巴マミに、佐倉杏子に、美樹さやか…)
ほむら(…コブラ)
ほむら(まどかを、魔法少女にさせない。…でもそうしないと、ワルプルギスの夜は倒せない。…それが、絶対に崩せない公式だった)
ほむら(私に残された時間も、長くはないのかもしれないわ。…私の希望が、絶望に変わってしまうその前に、手を打たないと)
ほむら(…夜が来るまで、あと数日しかない)
ほむら(それなら、この時間軸で私の取るべき行動は一つしかない)
ほむら(賭ける事。それが私の…答え)
ほむら(持てる力を全て使って…ワルプルギスを、倒すという事)
その後、夜。
人目が無くなったのを見てコブラはレディと近くの小さな林の中で落ち合う。
茂みに隠れたタートル号から出てきたレディは、手に湯気の立つコーヒーカップを持っていた。
レディ「はい、コブラ。コーヒーよ」
コブラ「おー、ありがとよレディ。やっぱ相棒と過ごす時間っていうのが一番落ち着くねェ」
レディ「あら、そうかしら。巴マミの家も随分と気に入っているようだけれど?」
コブラ「あちゃー、ははは。それは言わないお約束」
レディの淹れたコーヒーを啜りながら、ぼんやりと月を眺めたままのコブラ。少し間を置いて、レディがゆっくりと語りかける。
レディ「…ねぇ、コブラ。ニュースがあるの。…良いものか悪いものかは分からないけれど」
コブラ「?」
レディ「…」
レディ「今なら、元の世界に戻れるわ」
コブラ「なんだって…!?どういう事だ?」
レディ「クリスタルボーイの宇宙船が、ブラックホールを生成し、元の世界に戻ったわよね。…あの重力場が、僅かに検知できたの」
コブラ「するってぇと…タートル号でそいつを追跡できるってのか?」
レディ「…ええ。以前、エンジニア達にタートル号に異次元潜航能力を取り付けてもらったわよね。今まではここが『どの世界』で『どの次元を辿って』元の世界に戻ればいいか分からなかったからそれが役に立たなかったのだけれど」
レディ「今なら座標が確定できる。クリスタルボーイの船の軌跡を辿っていけば、元の世界に戻れるわ」
コブラ「そいつは有難いな。あのガラス細工、いい土産を置いていってくれたじゃないの。あとでハグしてやらないとな」
コブラ「…だが、そう簡単な話じゃないんだろう?その調子じゃ」
レディ「…ええ、その通りよ」
レディ「ブラックホールの重力場の検知量はどんどん小さくなっていくわ。そのうち、完全に消滅する。そうなるともう…元の世界に戻る経路が再び見つからなくなってしまう」
コブラ「そいつはどのくらいもちそうなんだ?」
レディ「… … …」
レディ「明日には、完全に消滅してしまうでしょうね」
コブラ「…神様ってやつは随分と意地が悪いんだな。嫌われちまうぜ」
…林の中。
コブラがビルから出てきたのを見つけ、その後をずっと付いてきた人影が一つ、あった。
まどか「… … …」
まどかは急いで林の中を抜け出そうと駆け出すのであった。
――― 後日。
さやか「…ここが、あの転校生の家?」
マミ「ええ、ここがそうみたいね」
杏子「呼び出しなんて随分な心変わりじゃねーか。なんだってんだよ」
ガチャ。
アパートの一室のドアが開き、その部屋から暁美ほむらが顔を出した。
ほむら「…入ってちょうだい」
それだけ言って、ほむらは部屋の中へと戻っていく。
杏子「…」
さやか「…ねぇ、マミさん。入っていいのかな。あいつの事…信用して」
マミ「…信じてみましょう。だって暁美さんが今まであんな顔で私達に『相談したい事があるから私の家で』なんて言ってくれたの、はじめてだもの」
マミ「逆に、信頼していいと思うわ。今まで心を開いてくれなかった暁美さんがようやく私達の方に歩み寄ってくれたのだから」
さやか「…それもそう、か。何事も前向きに考えなきゃいけませんね、うん」
杏子「ま、完全に信用しきったワケじゃねーけどな。…それじゃ、入るか」
杏子はアイス最中を一齧りすると、先陣をきって部屋の中へ入っていった。
杏子「これは…」
さやか「な、なんなの…コレ…!?」
暁美ほむらの部屋の中は、貼りだされた写真や資料で埋め尽くされていた。
マミ「…これが、貴方の言っていた…いいえ、隠していた事なのね、暁美さん」
ほむら「ええ、そうよ」
ほむら「これが、『ワルプルギスの夜』。単独の魔法少女では対処できないほど巨大な魔女」
ほむら「こいつが…あと数日で、この街に現れる」
マミ「…キュウべぇから、噂だけは聞いた事があるわ。数十年…数百年に一度現れる魔女。強大で凶悪、一度具現化すれば数千人を巻き込む大災害が起きる…と」
さやか「そ、そんな魔女が…見滝原に現れるっていうの?」
ほむら「ええ、そうよ」
杏子「…なるほどな。なかなか面白そうな話じゃねーか。ただ分からない事があるんだけどな」
杏子は貼りだされた写真の数々を興味深そうに眺めながらも、ほむらに質問をした。
杏子「なんでアンタは、そんな魔女が現れるって事が分かるんだい?」
ほむら「… … …」
ほむらは一呼吸置いて、意を決したように話した。
ほむら「私が、未来から来たからよ」
マミ「…未来…から…?」
杏子「…」
さやか「…は、はは…冗談よしてよ」
ほむら「…本当よ」
ほむら「私の魔法少女としての能力。それは『時間を操る事』。そして私は、このワルプルギスの夜を倒すために幾度も時間を繰り返してきた」
ほむら「何度も繰り返して…そして、敗れては、時間を巻き戻した。いいえ、『巻き戻している』。それが私の現状よ」
杏子「…仮にアンタの話を信じるとしてもだ。アタシ達が、『ワルプルギスの夜』に何回も負けて、死んでるって事かい?」
ほむら「…そうね。何度も負け…いいえ、下手をすれば、ワルプルギスの夜を迎える前に、貴方達が死んでしまったという例もある」
ほむら「希望が、絶望に変わってしまった時に」
マミ「どういう…事…?」
ほむら「…キュウべぇから言われていなかった事実は、2つあるわ。1つは、私達魔法少女の魂は契約をした段階でソウルジェムに移されてしまったという事」
ほむら「そして、もう1つ」
ほむら「魔法少女は…ソウルジェムの穢れを拭っていかないと、魔女として生まれ変わってしまう」
マミ・さやか・杏子「!!!」
杏子「馬鹿な、そんな話…!」
ほむら「ええ、聞いていないでしょうね。あいつらインキュベーターにとって、コレを貴方達が契約前に知る事は都合が悪いことだから」
さやか「それじゃあ、あたし達が今まで倒してきたのは… …」
ほむら「…元、魔法少女。…でも、仕方のない事なの。そうしなければ、私達もああなってしまうのだから」
さやか「そ、んな…!」
マミ・杏子「… … …」
沈黙。
崩れ、膝をつくさやか。歯を噛みしめる杏子。…しかしマミは、ぐっと拳を握りしめて涙を流すのを堪えるのだった。
マミ「…暁美さん、教えて。…何故、それを私達に教えてくれるの…?」
ほむら「それは…私が貴方達に隠しておきたくなかったから」
ほむら「…かつて、過去で『仲間』だった貴方達。…巴マミ、佐倉杏子、美樹さやか…」
ほむら(…そして、鹿目まどか)
ほむら「貴方達ともう一度…仲間として戦いたかったから。…だから、嘘や隠し事はしないと、決心したのよ」
マミ「… … …」
ほむら「私の話を信じないのなら、それでいいわ。…元々私は一人で戦うつもり―――」
マミ「信じるわ」
ほむら「…!」
ほむらが諦めたように話し始めた時、マミはその声を遮るように強く言った。
マミ「…続けて。魔法少女の事、貴方の過去の事…そして、ワルプルギスの夜の事を」
コブラ「随分とデカい魔女だな!こいつは倒し甲斐があるぜ!」
エアーバイクに乗って空中を駆けるコブラ。幾重にも張り巡らせた洗濯ロープのような糸には、セーラー服が干してある。
そしてそのロープの先には、巨大な六本足の首の無い、異形の魔女がいた。
魔女は自身の周りを旋回するコブラに向けて次々と使い魔を放つ。スカートから出てくる使い魔もまた、下半身だけの異形。その脚には鋭利な刃物のようなスケート靴が履かれていた。
コブラ「へっ!あいにく俺は足だけの女に興味はないんだよッ!!」
右手はエアーバイクのハンドルをしっかり握り、左手のサイコガンを抜いてコブラは次々と使い魔を撃ち抜いていく。
だが、その数は膨大でこちらの攻撃をする余裕はあまりなかった。敵が巨大であるゆえ、チャージをしないサイコガンの射撃ではあまりダメージがないようであった。
コブラ「ちっ…!この…!」
コブラは一度体勢を立て直すため、『委員長の魔女』から離れる。
その様子を、黙って見つめるまどか。結界の中に入れたのは、他でもないキュウべぇであった。
QB「少し苦戦をしているみたいだね。まどか、どうするんだい?」
まどか「… … …」
QB「君が魔法少女になればすぐにでも彼を助ける事ができるよ」
まどか「…もう少しだけ、見てる」
まどか「見ていたいの。コブラさんが、魔女と戦っているところを」
QB「…」
観客がいる事には気づいていたが、あえて黙って闘っていたコブラ。
横目でまどかの方を見ると、にぃと笑って軽くウインクをした。
まどか「…!」
コブラはエアーバイクのアクセルを吹かし、突撃をする体勢をとる。
コブラ「行くぞぉ、生足の化け物!!」
コブラ「いやっほォォォーーーーッッ!!」
フルスロットルで飛び出したエアーバイクとコブラ。魔女は当然のように使い魔を次々とコブラに向けて発射していく。
だがコブラは正確にその攻撃を避け、魔女本体へと近づいていった。やがて委員長の魔女はコブラの目と鼻の先まで距離が縮まり…。
コブラ「くらえーーーッッッ!!」
ドォォォォォ―――――――ッッッ!!!
サイコガンの巨大な砲撃が魔女をつつむように焼き、消滅させる。その爆発にエアーバイクとコブラも飲み込まれてしまう。
まどか「!コブラさんっ…!」
しかし次の瞬間、爆風の中から脱出するエアーバイク。
まどかの元へ戻っていくコブラの右手の中には、しっかりとグリーフシードが握られていた。
――― 同時刻、再び、暁美ほむらの部屋。
ほむらは、全てを話し終えた。
魔法少女の希望が、絶望に変わったその時、魔女へと生まれ変わる事。それは、思ったよりずっと容易く起きてしまうという事。
そして、それが過去、凄惨な魔法少女同士の殺し合いすら生んでしまったという事。
さやか「…やっぱり、信じらんないな…。…あたしも、魔女になった事がある、だなんて…」
杏子「… … …」
さやか「ねぇ、転校生。…あんたは、魔女になったあたしを…殺したの?」
ほむら「…ええ」
さやか「あはは…だろうね。あたしだって…逆の立場だったら、そうするしかないもん」
ほむら「…結局、私達はワルプルギスの夜を迎える前に共倒れをしてしまう事が多かった…。それほど、希望が絶望に変わるのは容易い事だから」
ほむら「キュウべぇ…いいえ、インキュベーターは、だからこそ人間を食い物にしているの。脆く、儚い存在だからこそ」
ほむら「魔女が、見滝原を滅ぼそうが奴らには関係ない。目的は、私達が魔女化する時に発生するエントロピーの回収。…それだけなのよ」
杏子「…アンタの話してる事を全部信じるわけじゃねーけどよ。…そいつが本当だったらとんでもねー話だな。それじゃ、アタシ達はあいつに化け物にされたのと同じじゃねぇか」
杏子「忌々しくて…反吐が出そうだ」
杏子はチョコ菓子を噛み切ると、憎らしげに自身のソウルジェムを見つめ、握りしめる。
さやか「…それで、あんたはどうしたいの?…あたしたちに、こんな話をしてさ…」
座り込んださやかは、力無くほむらに語りかける。…その瞳は、既に絶望に淀んでいるようにも思えた。
さやか「あんたの話なんか信じたくもないけど…でも…嘘をついてるとも、思えないよ…。…どうしてだろ。…ねぇ、どうすればいいの?こんな化け物にさ」
ほむら(…やはり、無理だったの…?)
ほむら「…共に、戦って欲しい」
マミ・杏子・さやか「… … …」
ほむら「鹿目まどか…彼女が魔法少女になれば、ワルプルギスの夜を倒すのは容易い。でも…それは同時に、最悪の魔女を生む事にもなる。ワルプルギスの夜以上の」
ほむら(何よりも…まどかを失いたくないから)
ほむら「だから、まどかの力なくしてヤツを倒さなければいけないの。巴マミ、佐倉杏子、美樹さやか…そして私。…あと…」
マミ「…コブラさん、ね」
ほむら「…ええ。その五人で、ワルプルギスを倒す」
ほむら「あと数日でヤツは見滝原に現れる。…だから、協力をしてほしいの。全員でヤツを倒す…その協力を」
しかし、他の三人は黙ったままであった。
杏子「…その、ワルプルギスの夜を倒したとして…その後は、どうなるんだ?」
ほむら「…」
杏子「きっといつかはアタシ達は、絶望しちまうんだろ?…そして、化け物になって、死んでいく…。それならいっそ、ここで…」
ほむら「…それも、選択肢の一つだと、思うわ」
ほむらは、三人に見えないように後ろ手で拳をぎゅっと握りしめるのだった。
ほむら(私が、馬鹿だった…)
ほむら(佐倉杏子が言っている事の方が理にかなっている。夜を超えられても、いつか私達は絶望を迎え、魔女化してしまう)
ほむら(…結局、いつ死んでも…変わりはないのだから。…愚かなのは、それでも『仲間』を求めている、私の方…)
しかし、その時、マミは顔を上げて強い口調で言った。
マミ「…いいえ、それは違うわ」
ほむら「…!」
マミ「確かに…佐倉さんの言っている通り、魔女になる前に自分でピリオドを打つ方が正しい判断かもしれない」
マミ「…でも、それでも…私達の行動に、変わりはない筈よ」
マミ「街の平和を脅かす魔女を倒す、魔法少女であり続ければ…絶望なんて、しない。それは今までずっと続けてきた事だわ…!」
さやか・杏子「…!」
マミ「…私のこの命は、消えていてもおかしくはなかったの。いつ死んでも後悔はしない。…そう決めていた。だからせめて…ギリギリまで粘ってみたいの」
マミ「私はもっと生きていたい。もっと…鹿目さんや、コブラさん…佐倉さんや美樹さんと楽しい時間を過ごしていたい。…もちろん、暁美さんとも、ね」
マミ「だから私は…ワルプルギスの夜を超えてみせるわ」
マミ「何があっても…ね」
そう言って、ほむらに向けてにっこり微笑む。
ほむら「…!…マミ、さん…」
マミ「…ふふ」
マミ「やっと名前で呼んでくれたわね」
さやか「…マミさん…」
マミ「美樹さん…貴方だって、その筈よ」
マミ「貴方は、上条君の演奏を、もっと聞きたい…そう願っていたのでしょう?あの演奏をもっとたくさんの人に届けてあげたい、って…」
さやか「…!!」
マミ「私達は、ここで倒れてはいけない。…私達の命を、繋いでくれた人がいる。だから…それを無駄にしてはいけないの」
マミ「美樹さん…レディさんに貰った、上条君のチケット…決して無駄にしてはいけないわ。…私は、そう思うの」
さやか「…恭介…」
さやかは唇を噛みしめ、瞳を閉じてしばし沈黙する。
そして、すっくと立ち上がった。
その瞳には絶望ではなく、希望の笑顔が浮かんでいる。
さやか「…あっはは!…なんか、バカみたいだね。今までやってきた事となんにも変わらないのに、こんなに悩んでさ…!」
杏子「…!お前…」
さやか「あたしは…見滝原を守る、正義の魔法少女、さやかちゃん!…すっかり忘れてたよ。それだけ守ってれば、何も悩む事なんてなかったのに」
マミ「…美樹さん…」
さやか「…転校生。いや、ほむら!…やったろうじゃん!一緒に、戦おう!」
さやかは笑顔、だが強い目でほむらを見つめ、すっと右手を差し出した。
ほむら「…ええ、お願いするわ」
ほむらは嬉しそうに瞳を閉じ、その右手に自分の右手を重ねた。
杏子「… … …」
マミ「…佐倉さん、貴方は…」
杏子「アタシは今まで、自分のためだけに生きてきた。だから、今更アンタ達に協力しようなんて気はさらさらないね」
さやか「ばっ…あんた、ここまできて何言って…!」
杏子「うっせーなー。…めんどくさいんだよ、仲間とか、協力とか…めんどくさいんだよ」
ほむら「… … …」
杏子「…だけど」
マミ・さやか「!」
杏子「ワルプルギスの夜を一人じゃ倒せないっつーのも事実みたいだな。だから…今回だけ、付き合ってやるよ。その…一緒に、ってやつに…さ」
さやか「…アンタ…」
さやか「どこまで素直じゃないのよ…こっちまで恥ずかしくなるでしょ」
杏子「うるせーっ!!おめーに言われたくねーよこの色ボケ!!」
さやか「!い、色ボケはないでしょっ!!このお菓子女!!」
杏子「んだとー!!」
マミ「…と、とりあえず…皆、協力してくれるみたいね…」
ほむら「…ええ」
マミ「あ…暁美さん。…今の笑った顔、とても素敵ね」
ほむら「…」
ほむらは少し照れながらも、微笑んでいた。
ほむら(…そう、そうなのね…)
ほむら(この時間軸では…巴マミは魔女に食い殺されていて…美樹さやかは魔女になっていた筈…)
ほむら(でも…それを。その絶望を、全て逆に希望に変えてくれた人がいた)
ほむら(…コブラ)
ほむら(魔女に喰い殺されそうだったマミを助けてくれて…さやかの上条恭介への絶望すら拭ってくれた)
ほむら(わけの分からないガラス人形からソウルジェムを奪い返してくれて…敵対していた佐倉杏子すら、こちらに歩み寄ってくれた)
ほむら(そして、こうして今、夜を迎えようとしている…)
ほむら(…まどか)
ほむら(この時間で…貴方を助けられるかもしれない。…ようやく、貴方と朝を迎えられるかもしれない)
ほむら(まどか、待っていて…!…私が必ず、貴方を助けてみせる…!)
――― 夜。結界の解けた工業地帯のような場所で、コブラとまどかは座り込んでいた。
まどか「…教えてください、コブラさん」
まどか「なんで…なんで、魔女を倒してくれるんですか。…なんで、元の世界に戻らないんですか」
コブラ「…知っていたのかい」
まどか「…ごめんなさい、あの…。…でも、言わずにはいられなくって…」
まどか「コブラさん、元の世界に戻れるのに…なんで、まだここにいるのか…分からなくって…!だって、だって…!皆をずっと助けてくれてるのに…っ…コブラさんは…っ!」
まどか「もうちょっとで元の世界に戻れなくなるって、レディさん言ってたのに…!魔女と戦ってるってキュウべぇに言われて、わたし、我慢できなくて…っ…!何もできない私が、悔しくて…っ!!」
泣きそうになるまどかの頭に、コブラは優しく手を乗せる。
コブラ「なぁ、まどか。例えば…」
コブラ「例えば、お前さんの目の前に、子猫が一匹いる」
コブラ「その猫が、車に轢かれそうになったら、まどかはどうする?」
まどか「…!」
コブラ「お前さんの性格じゃあ、放っておけないだろ?…俺だって同じさ」
コブラ「誰かを助けたり、救ったりするのに理由はいらない。赤の他人だろうが何だろうが関係ない。…自分自身の願いだけが、自分を動かせる」
コブラ「俺ぁな、女の子が泣いたり悲しんだりするのがこの宇宙で一番苦手なんだぜ」
コブラ「例えここが違う世界だろうがなんだろうが…そこに俺が助けたいと思う人がいるのなら、力になるのが俺の趣味なんだ」
コブラ「いい趣味だろ?」
まどか「…コブラさん…!」
コブラ「さ、行こうぜ。…今日はちょいと、お呼ばれをしているんでね」
まどか「…誰に、ですか?」
コブラ「決まってるだろ?」
コブラ「街を救う、魔法少女達さ」
・
タートル号のレーダーから、クリスタルボーイの宇宙船の航路の反応が完全に途絶えた。
しかし、それを見てもレディは何も言わず、ただ心の中で静かに微笑むだけだった。
―― 次回予告 ――
いよいよ明日がワルプルギスの夜の決戦!俺達としても結束を固めておかなきゃいけないな。しっかり頼むぜ、皆。
っと、その前に話をしなきゃいけないヤツがいたな。インキュベーターの野郎さ。あいつに説教しておかなきゃ、俺の腹の虫が治まらないぜ。
そして…まどかに、ほむら。いよいよ全てを話さなきゃいけないぜ。全ての謎を解き明かし、俺達は最強の魔女に立ち向かう事になる。
次回のCOBRA×魔法少女まどか☆マギカ。【五人の魔法少女(前篇)】。よろしくゥ!
まどか「そんな… あんまりだよ…っ!こんな… こんなの、って… ないよ…っ!」
QB「――― まどか、運命を変えたいかい?」
まどか「え…!」
QB「――― この世界の全てを覆す力。君には、それがあるんだよ」
ほむら「! 駄目!まどか!そいつの言う事に…ッ!!」
まどか「… … …本当に?」
QB「――― 勿論だよ。だから」
QB「ボクと契約して、魔法少女に ―――」
ほむら「駄目ぇぇえええええええッ!!!」
・
まどか「… … …」
まどか「また、あの夢だ…」
第8話 「5人の魔法少女(前篇)」
見滝原市には、大粒の雨が朝から降り注いでいた。
暁美ほむらが言うのにはそれはワルプルギスの誕生…スーパーセルの前兆だと言う。
コブラとレディは林の中に身を潜めたタートル号のコクピットから、その雲を眺めていた。
レディ「かの女が言うには…明日。この見滝原という街を覆うように、魔女が生まれるというのね」
コブラ「ああ。どうやら本当らしいな。こんな雷雲、見たこともないぜ」
レディ「…それで、どうするの?コブラ。その『ワルプルギスの夜』に勝算はあるの?」
コブラ「へへ、俺がこう見えて計算高いの知ってるだろ?レディ。基本的に勝てない勝負はしないんだぜ」
レディ「…基本的に、ね」
コブラ「…ああ」
コブラ「今回ばかりは分からんね。ほむらがワルプルギスの夜に勝てた歴史は存在しない。つまり、どうやって倒すのかも分からない。気合や根性でどうにかなるんなら鉢巻でも作っておくけどな」
コブラ「未知数さ。今回のヤマはちょいとばかり、危険な賭けになるかもしれない」
レディ「ふふ、でも、それも慣れた事でしょう?コブラ」
コブラ「まぁね。それが海賊ってもんだからな」
コブラ「…さぁて、それじゃあそろそろ出てきてもらおうか。相変わらずコソコソ隠れるのはいい趣味とは言えないぜ、インキュベーター」
椅子に腰かけながら、のんびりとそんな風に語りかけるコブラ。
船内の物陰から、ひょっこりと姿を現すインキュベーター。
レディ「…!」
QB「相変わらず常人とはかけ離れた察知能力だね、コブラ。君が本当に人間なのかは大いなる疑問だ」
コブラ「地球外生命体にそう言ってもらえるとはね。診察したいなら結構だが、料金は高いぜ」
QB「いいや。それはボク達インキュベーターの成すべき事ではないからね」
コブラ「そうだったな。幼気な少女を騙してエネルギーを回収するのがお宅らの仕事だ」
QB「否定はしないよ。君達人間にとってボクは敵でも味方でも構わない」
QB「ただボク達は、宇宙の永らえさせられればそれでいい。それが使命なのだから」
コブラ「結構な使命だね。それで?アンタは説法でもしに俺の船に来たのかい」
QB「…」
QB「君達未来人ともう一度話す機会を設けたくてね。ボク達にとって、やはり君達の存在はとても興味深い」
コブラ「…いいぜ。レディ、客人にコーヒーだ。とびっきり苦いヤツを頼むぜ」
QB「君達のいた世界が存在するのは、ボク達インキュベーターが宇宙の寿命を永らえさせるのに成功した事の証明だ」
QB「ボク達は地球の誕生の遥か以前から存在し、その使命を全うしてきた。だからそれが無事未来まで続いているのだとしたら、それはやはり非常に興味深いわけだ」
QB「何せ人類の発展は、ボク達と紡いできた歴史と言っても過言ではないのだからね」
コブラ「ご立派だね。基金でもたてたらどうだい」
レディ「…しかし、そのために貴方達は人を…魔法少女達の希望を絶望に変え、その命を奪ってきた」
QB「君も、それを疑問視するのかい。例えば、蟻の巣から一匹の蟻を摘まみ出して殺す事に何の影響があるのかな。むしろその蟻は、宇宙に対して貢献が出来るんだ。意味のない死じゃない、素晴らしい事じゃないか」
レディ「でも、かの女達は人間よ。蟻ではないわ…!」
QB「随分と都合のいい意見だね。蟻なら良くて、人間では駄目。ボク達からすれば60億以上の個体数から毎日数個を摘出する程度、何も気にする事ではないと思うけれど」
コブラ「… … …」
QB「むしろその犠牲が、全ての人類を救う事に繋がっているんだ。インキュベーターが責められる理由は何もないじゃないか」
コブラ「…そうでもないさ。アンタらは、単に上から胡坐をかいて人に頼っているだけの存在に過ぎない」
QB「どういう事かな?」
コブラ「宇宙のエネルギーが減っていく一方、太古の昔のアンタらが見つけたのが少女達を糧にしてそのエネルギーを補っていくという方法。…だったかな」
コブラ「だが、そいつの効率性自体を疑うね。何千年何万年も昔のシステムに頼っていないと宇宙が消滅しちまうってのは、甚だ可笑しな話だ」
コブラ「インキュベーターの目的は、いたいけな少女を殺す事だったのかな。それとも、宇宙を永らえさせる事だったのかな?」
QB「…」
QB「つまり、もっと効率のいいエネルギーの回収方法があるとでもいうのかい」
コブラ「そいつを模索するのもあんたらの目的に含まれる筈だ。何にしても、俺ぁその宇宙の寿命とかいうやつに貢献するつもりは全くないからな」
コブラ「かの女達だってそうだ。アンタらには感情がないから分からないかもしれないがね」
コブラ「同じ種族、同じ志の人間を殺されていい気分のするヤツはいないぜ。そうしないと宇宙が滅びちまうっていうのなら」
コブラ「宇宙なんざ、滅びちまうべきなんじゃないかな」
QB「コブラ。君の意見は宇宙全体の害悪に過ぎないよ」
コブラ「残念だったな。俺はもともと色ぉーんな奴に恨まれてるんだよ」
コブラ「汚いんだよ。やれ宇宙のためだの人類のためだの言って人を食い殺して自分達を正当化する。感情は無いクセに、そこはクリーンに見せたいわけか?」
QB「理解をして欲しいだけさ。人が存在しないと、ボク達も生きていけない。少しは歩み寄らないとね」
コブラ「だから『契約』という形で少女達を騙しているわけだ」
QB「君がそう思うのも自由さ」
コブラ「まぁ、そこは褒めてやるさ。…勝手な奴もいてね、人なんざ平気で食い物や踏み台にするヤツは、俺の世界にもごまんといる。しかしアンタらは、契約後生き延びる術も与えてくれてるのだからな」
コブラ「だから俺は、そいつを最大限活用させてもらうよ」
QB「…」
コブラ「かの女達の未来を、醜い魔女なんかにさせやしない。…とびっきりの美女になってもらわないと、俺が困るんだ。未来に住んでいる俺がね」
そう言ってコブラは立ち上がると、タートル号から出て市街地へと歩いて行った。
ほむら「…それじゃあ、明日。教えておいた場所に集まって。そこにワルプルギスの夜が生まれるわ」
さやか「りょーかい。…あはは、なんか、集合って言われるとピクニック行くみたいでなんか緊張感ないけど…」
マミ「…でも、確かにそこで…私達の決戦が始まるのね」
ほむら「ええ。…何度も私が、挑んできた場所だから」
杏子「ま、緊張感なんざ持たなくていいんだよ。万全のコンディションで臨むためにしっかり寝て…しっかり食っておくコトだな」
さやか「アンタはお菓子食って体調万全だから便利だよね…」
杏子「どういう意味だよ」
ほむら「…それじゃあ、明日。…教えておいた時間と、場所で」
マミ「ええ。…頑張りましょうね、暁美さん」
ほむら「…」
ほむらは少しだけ頭を下げると、マミの部屋から出て、雨の降る外へと出て行った。
さやか「なーんかやっぱり実感ないなー。…明日、最強最大の魔女が生まれて…生きるか死ぬかの闘い、なんて」
杏子「生きるか死ぬかの闘いなんざ常日頃からやってるだろ。要するに、いつもと変わらねーんだよ。アタシ達にとっちゃあ、魔女が大きかろうが小さかろうが関係ない」
さやか「…そっか。いつもと変わらない…。そう思ってればいいのか。たまには良い事言うじゃん」
杏子「たまには、が余計なんだよ」
マミ「ふふ、本当にいつも通りで安心ね、2人は」
その時、来客を知らせるチャイムが鳴り、ガチャリとドアが開く音。
コブラ「やぁ淑女の皆様、お揃いで」
マミ「あ、コブラさん。…まぁ、どうしたの?それは」
コブラ「手ぶらじゃ何だしね。美人の店員に良いのを見繕って貰ったのさ」
そう言うコブラの手には、花束が一つ握られていた。コブラはコートの雨粒を払って部屋に入ってくると、笑顔でそれをマミに差し出す。
マミ「…この花…。ふふ、有難うコブラさん。それじゃあ飾っておくわね」
さやか「相変わらずキザだねー、コブラさんは。今時の男はそんな事しないよー」
コブラ「ハハ、だろうな。俺のいた時代でもなかなか見かけなかったぜ」
さやか「…さーてーはー…相当場数を踏んでいると見たねッ。…モテたでしょー?」
コブラ「ま、そこそこに」
さやか「うわぁ」
コブラ「ところで、ほむらは来なかったのかい。てっきりここにいると思ったんだが」
マミ「あら、彼女が目当てだったの?」
コブラ「とんでもない。マミにも勿論会いたくて来たんだぜ」
マミ「…あの、そういう意味じゃないんだけれど…」
苦笑いをしながら、花を花瓶に移すマミ。
杏子「アイツならさっきまでここに居たぜ。丁度アンタとすれ違いだ」
コブラ「ありゃあ、そいつは残念。タイミングが悪かったな」
さやか「明日のコトもあるしね。ほむらはほむらで、何か準備があるんじゃない?」
コブラ「…成程、ね。それじゃ、ちょいと俺は追いかけてみるとするか」
マミ「え?来たばかりだし、お茶でも飲んで行っても…」
コブラ「そいつぁ有難い。少し後でゆっくり頂きに来るぜ。ちょいとかの女に話があるんだ」
コブラ「それじゃあな。…そうだな、紅茶はダージリンがいいね。美味そうなクッキーもあったら最高だ」
マミ「…クス。はいはい、用意しておくわね」
そう言ってすぐにマミの部屋を出ていくコブラ。
呆気にとられた様子でそれを見送るさやかと杏子。
さやか「珍しいね、あの人があんなすぐ帰るなんて」
マミ「何か目的があるとすぐに飛んでいっちゃう性格みたいね。…まだ一か月くらいしか一緒じゃないけれど…分かりやすいのか分かり辛いのか…」
杏子「勝手な奴だな」
さやか「…アンタには言われたくないと思うよ」
マミはガラス製の花瓶にコブラから貰った白い花を綺麗に飾り付けると、テーブルの中央に置いた。
さやか「へーっ、綺麗。…花とかあんまり見ないから分からないけど、いい色してますね。コレ」
杏子「これ、何の花だ?」
マミ「…これはね、ガーベラの花よ」
杏子「ガーベラ?」
マミ「そう。キク科の多年生植物で…花言葉は『希望』。ふふ、本当に色々な事に詳しいのね、コブラさん」
さやか「…やっぱりキザだぁぁ…」
大粒の雨が降りしきる中、傘も差さずに一人立ち、何もない空を見上げる少女。
ビル街の中心。開発中で、何も無い草原のような広く拓けた場所。そこには…明日、いや、過去…確かにワルプルギスの夜が存在するのだった。
コブラ「…やっぱりここだったか、ほむら」
ほむら「…何か用かしら?必要な事は伝えた筈だけど」
そのほむらの後ろに着いたコブラ。少女はそちらを見る事なく、冷たいような言葉を放つ。
コブラ「一つ、聞いておきたい事があってね。お邪魔だったかな」
ほむら「…構わないわ。何かしら」
コブラもまた、雨の中傘を差さずに、雨粒を身体に受けている。それでもいつものにやけた表情は崩さずに、葉巻はしっかりと銜えていた。
コブラ「…話さないのかい、まどかには」
ほむら「… … …」
ほむら「ワルプルギスの夜の事を?何故?まどかには関係のない事だわ」
コブラ「おいおい、関係ないはないだろ?かの女にはしっかりと関係がある筈だぜ」
コブラ「あんたがかの女を親友だと思っているように…かの女もまた、あんたを親友だと思っている」
ほむら「…そんなワケないわ」
ほむら(…それは、過去の話。…この時間軸の話では、無い)
ほむら「もう一度言うわ。…何故、話さないといけないの。まどかは魔法少女ではない。一緒にいても危険なだけよ」
コブラ「俺達が負ければどこにいたって同じだろ?それに、かの女は関係無いわけじゃない。魔法少女の闘いを何度も見てきている」
ほむら「それだけだわ。…まどかには、魔法少女に関わって欲しくなかった。それなのに…関わってしまった。その事実だけで十分過ぎるほど危険なのに」
コブラ「…まどかが魔法少女になる事が、か」
ほむら「… … …」
コブラ「アンタの行動は、まどかを自分達から遠ざけたいとする一方、守りたいという行動にも見える。以前、ガラス人形と戦った時に言っていたっけな。まどかの悲しむ顔は見たくない、ってさ」
コブラ「ほむら。あんたが時間を繰り返してまで戦う理由は…まどかを守りたいからだ。しかし、まどかを魔法少女にしてはいけない。…そんなルールがお前さんの中にある」
コブラ「そして、まどかは魔法少女としての素質がありすぎる。その力は強大だ。…ワルプルギスの夜を超える魔法少女となり…最悪の魔女へとなってしまう。…違うかい?」
ほむら「… … …」
ほむら「どうして…」
コブラ「仕事柄、探偵の真似事をする事も多くてね。つい考えちまったのさ」
コブラ「当たっちまったようだな」
ほむら「… … …」
ほむら「ええ、その通りよ」
ほむら「まどかを魔法少女にするわけには、いかないの。…どんな魔法少女も…いいえ、どんな人間でも…希望は絶望へと変わってしまう」
ほむら「私達と一緒にまどかが戦ってしまっては、いけない。まどかの悲しむ顔を…もう、見たくないの。まどかが魔女に変わるその瞬間を、見たくない。まどかの悲しむ顔なんて、もう見たくない…!!」
コブラ「…」
ほむら「私は…まどかを守る。最初の時間で、最初に出会った、最高の友達を…失いたくない。だから…絶対に、私はワルプルギスの夜に負けられない…!」
コブラ「…なぁ、ほむら。あんたは、『皆で』ワルプルギスの夜を倒すんじゃなかったのかい?」
ほむら「… … …」
コブラ「闘えるだとか、闘えないだとかは関係ない。…要は、自分の意志さ。自分の願いだけが、自分を動かせる。…アンタがまどかを守りたいと言うのなら、まどかの気持ちはどうなるんだ?」
ほむら「…まどかには、私の気持ちなんて…どうだっていいの。私が守ると決めたんだもの。そのための…魔法少女の力。だから…まどかは何もしなくていい」
コブラ「それじゃあかの女の気持ちは無視するのかい」
ほむら「まどかが私に対して、何を思うと言うの。…この時間軸では、まどかには何も伝えていないというのに」
コブラ「…伝えなくても、伝わる事もあるさ。…特にほむら。あんたの行動は、分かりやすいからな」
ほむら「…?…どういう―――」
ほむら「!!!!!!!」
その時、ほむらは初めてコブラの方を振り向いた。
自分の後ろにいるのは、コブラだけだと思っていた。だからこそ、全てを語っていた。…それなのに。
まどか「… … …」
そこには、自分と同じく、雨に濡れるまどかの姿があった。
ほむら「どう、して…」
まどか「…わたし、ずっと、考えてたんだよ。どうして、ほむらちゃんが…戦っているのか。…前に、マミさんが言ってたから。ほむらちゃんは、グリーフシードを奪うためだけに戦ってるんじゃない、って」
まどか「魔女を倒して…さやかちゃんのソウルジェムも、返してくれた。…ずっと、何でか、分からなかった」
まどか「…だから、聞こうと思ってたの。どうしてほむらちゃんは…」
まどか「わたしを助けてくれようとしているのか。わたしを…魔法少女にさせないようにしてくれているのか」
ほむら「…!!」
まどか「ほむらちゃんは…ずっと、わたしを守ってくれてたんだね。違う時間を、何回も繰り返して…ずっと、ずっと…」
まどか「なんで…?なんでそこまで、わたしの事を…」
ほむら「…っ…!」
まどか「わたしだって…皆の…ううん、ほむらちゃんの力になりたいよっ…。でも、ほむらちゃんはいつも…わたしを魔法少女に近づけないようにしてくれて…それが、わたしを守ってくれている事になっているんだって、今分かった…」
まどか「教えて…どうしてほむらちゃんは、魔法少女に…」
ほむら「関係ないわ」
まどか「…!」コブラ「…」
ほむら「まどか、貴方には関係ない事なの。だから話す必要もな―――」
まどか「関係あるよッ!!!!」
ほむら「…まど、か…?」
まどか「ほむらちゃんはわたしを助けてくれる!だからわたしも、ほむらちゃんを助けたい!どうしても…どうしても、力になりたいの!だから…わたしは知りたい!!」
まどか「どうしてほむらちゃんが魔法少女になったのか…どうして、何度もわたしを助けてくれるのか…!話してくれるまで、わたしは此処から離れないッ!」
まどか「わたしは…ほむらちゃんの事ッ―――」
その瞬間、まどかに抱きつくほむら。
涙に震える掠れた声。今までの彼女からは聞いた事のないような弱々しい声。
ほむら「逆、なの…全部、全部、逆っ…!」
まどか「ほむら、ちゃん…?」
ほむら「私を助けてくれて…私を、友達だと言ってくれて、守ってくれたのは…全部っ…まどかなのよっ…!だから私は…貴方を、失うわけには…っ…!!」
ほむら「でも…ッ、でも、貴方は何度も私の前から…っ、ひぐっ、消えて、しまって…!!何度も、何度も消えてしまうのよッ…!!」
ほむら「私の一番大切な友達を、守りたい…!!それだけなのよっ…!!」
まどか「… … …」
降りしきる雨の中、まどかの服を握りしめ、強く抱くほむら。まどかもコブラも初めて聞く、彼女の弱音。
だがまどかは、涙を流しそっと微笑みながら、ほむらの肩をそっと抱く。
コブラ「…(さて、お邪魔虫はこの辺りで消えるとするかぁ)」
コブラは瞳を閉じ、微笑みを浮かべながらその場を後にする。
ほむら「まどかを、救う。それが私の魔法少女になった理由。そして今は…たった一つ、私に残った、道しるべ」
ほむら「でも時間を繰り返せば繰り返すほど…貴方と私の距離は遠くなって、ズレていく」
ほむら「それでも私は…まどかを守りたい。だから…ずっと、時間を繰り返してきた」
ほむら「解らなくてもいい。伝わらなくてもいい。私は、貴方を守れれば、それで…」
まどか「解かるよ…ほむらちゃん」
ほむら「…まどか…」
まどか「…初めて、泣いてくれた。初めて、ホントの言葉で話してくれたから。…だから、わたしはほむらちゃんの言葉、解かるよ。…全部」
ほむら「… … …」
まどか「だから…わたしは、ほむらちゃんを助けたいの。お願い…わたしを、魔法少女に…!」
ほむら「…駄目よ」
まどか「… … …」
ほむら「それじゃあ、駄目なの。…貴方を、この闘いの中に巻き込めない。貴方には…ずっと、笑っていて欲しい。私の傍で、ずっと…」
ほむら「だから…それじゃあ、駄目。それじゃあ、私のしてきた事が全て、無駄になってしまう」
ほむら「私に、貴方を守らせて」
アナウンス「―――本日午前七時、突発的異常気象による避難指示が発令されました」
アナウンス「見滝原市周辺にお住まいの皆様は、速やかに最寄の避難場所への移動をお願いします。繰り返します―――」
・
マミ「…来るのね、いよいよ…」
ほむら「ええ。…本当にいいの?」
杏子「良くなかったら此処にいねーよ」
さやか「そうそう。…ま、ちょっと怖いけどさ。これも魔法少女のお仕事…ってヤツだよね」
マミ「皆、必ず生きて帰るわ。…だから、行きましょう、暁美さん」
ほむら「… … …ありがとう」
杏子「にしても、アイツ遅いな。どうしたんだ?」
さやか「…まさか…」
マミ「そんな事はないわ、美樹さん。…彼は、きっと来てくれる。今までだってそうだったんだもの。…だから」
その時、上空に聞こえる轟音。異常気象の突風を物ともせず、空中に停止するタートル号。
ほむら「…コブラ…」
コブラ「よう、待たせたな皆」
コブラ「それじゃ行こうぜ。パーティ会場へ…な!」
まどか「… … …」
避難場所である学校の体育館から、暴風吹き荒れる外を眺めるまどか。
その手に握りしめられているのは、一本のガーベラの花であった。
まどか「ほむらちゃん…。わたし…」
まどか「…ごめんね…」
――― 次回予告 ―――
遂にワルプルギスの夜との決戦だ!まぁー奴さんのデカい事強い事、この上ない!流石の俺でもちょっと骨が折れそうだぜ。
俺とほむら、マミ、さやか、杏子の力をもってしてもなかなか厄介な仕事だ。まぁ、後にも引けない事だし死ぬ気でやってやろうじゃないの!
しかしそんな中、戦いの中に突然現れるまどか。どうやらかの女は何かの決心をして来たらしい!こうなりゃもう怖いもんナシだ。
だが物事そう上手くはいかないねぇ。…大変な事が起きちまうみたいだぜ。
次回のCOBRA×魔法少女まどか☆マギカ。【五人の魔法少女(中篇)】。よろしくゥ!
避難場所である、見滝原市体育館。
暴風雨が吹き荒れる外の景色を茫然としたような表情で見つめるまどか。そして、その横にまるで何かを待つように佇むキュウべぇ。
2人の間に、少し前、会話があったせいだろう。ただただその空間には沈黙が流れていた。
それは、魔法少女の本当の姿。希望が絶望に変わるその瞬間と、その意味。インキュベーターはその全てをまどかに話したのだった。
重い沈黙を先に破ったのはまどかだった。
まどか「…騙してたんだね、全部」
QB「君も彼と同じ事を言うんだね、まどか」
まどか「…だって…!皆、一歩間違えたら…死んじゃってたかもしれないんだよ…!?それで、それで…魔女になって、戦うなんて事になったら…!」
QB「それこそ『当たり前』なんだよ、まどか。有史以前からずっと繰り返してきた事実さ。魔法少女は遥か昔から世界中にいたんだ」
QB「そして彼女達は、希望を叶え、ある時は歴史すら動かし」
QB「最後には絶望に身を委ねて散っていく」
まどか「…!」
QB「祈りから始まり、呪いで終わる。それが数多の魔法少女が繰り返してきた歴史のサイクルさ」
まどか「… … …」
まどか「ほむらちゃんも…マミさんも、さやかちゃんも、杏子ちゃんも…必ずそうなるって言うの…?」
QB「さっきも言った筈だよ。祈りは必ず、呪いに変わる。だからこそ魔法少女は僕たちインキュベーターに必要なのだから」
まどか「… … …」
まどか「そんな事、ない」
QB「どういう事かな?」
まどか「希望は、絶望に必ず変わるワケじゃない。…ずっと持っていられる希望だって、あるんだよ」
QB「君がそれを作って見せるとでも言うのかい、まどか」
まどか「わたしが…みんなを、助けてみせる…!!」
強い瞳。強い声。
まどかの右手には一本のガーベラの花が握られていた。
禍々しい瘴気のような、霧と風が向かい風となって五人に吹いていた。
まるでそこに行くのを拒むかのような向かい風。しかし、五人はその風に向けて歩んでいくのであった。
マミ「…レディさんは、来ないの?」
コブラ「ああ。俺は基本的にかの女を仕事に手伝わせないスタイルなのさ。今回は俺の船の留守番を頼んであるからな」
さやか「そっか…。そもそも宇宙船が壊れちゃ、コブラさんが帰れなくなっちゃうもんね」
コブラ「その意味もあるが、まぁかの女は余程の事があった時の助っ人を頼んであるというわけだ」
杏子「これが『余程の事』じゃなけりゃ、アンタの余程の事はいつ起きるんだよ」
コブラ「そうだなぁ。美女達が軍隊アリみたいに俺に襲い掛かってきた時は、流石に助けてもらおうかな」
さやか「あはは…よくそんな冗談言いながら歩けるね」
コブラはにぃ、と葉巻を銜えた口元を緩ませた。
ほむら「… … …」
マミ・杏子・さやか「…!」
前方からこちらに向かってくるものが多数ある。
それは、まるでサーカスのパレード。
象、木馬、人形…まるで祭りのように賑やかに、それらは五人を通り抜けていくのだった。
さやか「使い魔…!?」
さやかはソウルジェムを取り出すが、ほむらがそっと手を出してそれを静止させる。
ほむら「いいえ。少なくともこいつらは私達を攻撃しないわ。…まだ、早い」
コブラ「本体だけを叩けばいいわけだ。目的としては単純でいいね」
ほむら「そうね。…シンプルだからこそ、絶対的でもある。力の差が歴然と出るわ。…私達が、敵う相手か否か」
さやか「… … …」
杏子「…さやか?…震えてるのか」
さやか「…あ、あはは…なんか…ど、どうしても…怖いなぁ。ごめん、情けないの分かってるし、今更だけど…こ、怖くって…どうしようもなくて…」
そう言うさやかの表情は曇り、身体が小さく震えていた。心配をする杏子も、その恐怖心による震えを必死に耐えている。
杏子「… … …」
さやか「…バカ、だよね。もうとっくにあたしなんか人間じゃないのに…死ぬのが、怖いなんてさ…。ホント、バカだと思うよ…笑ってくれても…」
杏子「ほら」
さやか「…!」
俯いて震えるさやかの眼前に、杏子の手が差し出された。
杏子「手、握れよ。ちょっとは抑えられるだろ?震え」
さやか「… … …杏子…」
杏子「怖いのは誰だって一緒さ。我慢なんざしなくていい。怖いならアタシの手なんか握らないで逃げてもいいんだ。誰も責めないよ」
杏子「ただ、アンタのバカさ加減じゃ怖くてどうしようもなくても、行こうとするだろ?」
杏子「だから、同じバカ同士、手でも握ってやるよ。少しはマシになるだろ」
さやか「… … …」
さやか「恥ずかしいヤツ」
杏子「うるせーよ」
さやかは微笑みながら、そっと杏子の手を握った。
五人の中で、前方を躊躇いなく歩く、ほむらとコブラ。そして、それに必死でついていく、マミ。今にも恐怖心で歩みが止まりそうなのは、マミも一緒だった。しかし、前を歩く2人はすたすたと先を進んでいく。
マミ「…2人とも、強いのね…。私なんて、逃げ出したくてたまらないのに…」
ほむら「逃げ出してもいいのよ、巴マミ。…責めるつもりなんて、ないわ」
マミ「…いいえ、行くわ。…でも… … …どうしても…怖くて…」
コブラ「マミ。俺もほむらも、別に強いわけじゃないぜ」
マミ「…え?だって…」
コブラ「俺もほむらも、『未来』を信じているのさ。だからこそ、その未来がくるように突き進んでいける」
マミ「…未来…」
ほむら「… … …」
コブラ「明けない夜なんざない。夜が明けなきゃ、サンタクロースはプレゼントを渡す事すらできない。だから、俺達はしっかり朝を迎えさせてやらないとな」
マミ「…コブラさん…」
コブラ「ついてきな、マミ。魔法少女は、必ず俺が守ってみせる」
詢子「どこへ行こうっていうんだ?」
まどか「…!ママ…」
詢子「まどか…あたしに、何か隠してないか?」
まどか「… … …」
詢子「言えない、ってのか」
まどか「…ママ、わたし…」
まどか「友達を助けるために、どうしても今行かなくちゃいけないところがあるの」
詢子「駄目だ。消防署に任せろ。素人が動くな」
まどか「わたしでなきゃ駄目なの」
詢子「… … …」
パァン。
廊下に響くような、乾いた音。
詢子「テメェ1人のための命じゃねぇんだ!あのなぁ、そういう勝手やらかして、周りがどれだけ―――」
まどか「分かってる」
詢子「…!」
まどか「私だってママのことパパのこと、大好きだから。どんなに大切にしてもらってるか知ってるから。自分を粗末にしちゃいけないの…よく分かってる」
まどか「だから、違うの」
まどか「みんな大事で、絶対に守らなきゃいけないから。…そのために、わたしに出来る事をしたいの」
詢子「…なら、あたしも連れて行け」
まどか「駄目。ママは…パパやタツヤの傍にいて、二人を安心させてあげて欲しい」
詢子「… … …」
まどか「ママはさ。私がいい子に育ったって、いつか言ってくれたよね。…嘘もつかない、悪い事もしない、って」
まどか「今でも、そう信じてくれる?」
詢子「… … …」
詢子はふぅ、と諦めたように溜息をつき、まどかの両肩を掴んでその目をじっと見つめる。
詢子「…絶対に、下手打ったりしないな?誰かの嘘に踊らさせてねぇな?」
まどか「うん」
まどか「わたしを…皆を助けてくれる、頼もしい人がいるから。だから、安心して。絶対にわたし、無事で帰ってくるよ」
――― その少し前。
体育館に避難していたまどかを、同じように廊下で呼びとめた人物がいたのであった。
まどか「…!!コブラ、さん…!」
コブラ「よう、まどか。元気してるか?」
まどか「み、みんなは…!?ワルプルギスの夜に向かって行くんじゃ…」
コブラ「ああ、俺もこれから行くところさ。その前に、まどかに渡す物があってね」
まどか「…渡す、物…?」
コブラはまどかの所まで近づくと、手にもっていた花をまどかの手に握らせた。
まどか「…これ…」
コブラ「昨日みんなには渡したんだけどな、お前さんに渡すのを忘れてた。俺とした事がうっかりしてたぜ」
まどか「… … …」
コブラ「まどか。お前さんは今のままで十分強い。だから、なりたい自分になろうとするな。自分を犠牲にして他人を助けようなんてするな」
コブラ「ただ、自分の信じる道だけを進んでいけばいい。それが、まどかの強さだ」
まどか「…!!」
コブラ「じゃあな。…美人のお袋さんにも、よろしくっ」
コブラはウインクをして微笑むと、体育館の外へと出ていく。
まどか(コブラさん、わたし、見つけたよ)
まどか(自分の信じる道、歩いていける道)
まどか(全部、自分で決められたんだよ。もう迷わない。絶対…後悔なんてしない!)
まどか(わたしは…!)
吹き荒れる雨の中。傘もささずに、少女は駆けていく。
自分の信じる道を、ただひたすら。
五人は歩みを続けた。
一段と、風を強く感じたその時、ほむらは足を静かに止めて、四人がいる後ろを振り返る。
ほむら「…逃げ出すなら、此処が最後よ。後戻りは出来ないわ」
ほむらは静かに、それを全員に告げた。
マミ「…」
さやか「…」
杏子「…」
しかし、誰一人として踵を返す者はいなかった。俯く者もいなかった。
ただ魔法少女達は前を向き、その先に存在するであろう巨大な敵に強い瞳を向けている。
コブラ「途中下車はいないようだぜ、ほむら」
ほむら「…本当に、いいのね」
マミ「ええ。…答えは、さっきと変わらないわ」
さやか「どうせ何もしなきゃ死んじゃうんだし…私達が、どうにかしなきゃね」
杏子「乗りかかった船だ。最後まで付き合ってやるよ」
ほむら「… … … ありがとう、皆」
コブラ「… 見えてきたぜ、アイツが…どうやらそうみたいだな」
ほむら「ええ、間違いないわ。…あれが…」
マミ「ワルプルギスの… 夜…」
コブラ「ここが終点か。それじゃあ皆、派手にやるぜ」
さやか「…うん!」
杏子「行くぜ…!」
魔法少女達はソウルジェムを取り出し、それぞれの戦闘態勢をとる。
コブラは左腕の義手をゆっくり抜き、サイコガンを目標に向けて構えた。
ほむら「…来るわ…!」
5 4 3 2 1 …
まどか「はぁっ、はぁ…っ!」
QB「もうすぐ着く筈だよ、まどか」
まどか「ほ、本当に…?まだ、影も形も…!」
まどか「…!」
QB「到着したようだね」
QB「あれが、ワルプルギスの夜」
QB「歴史に語り継がれる、災厄。この世の全てを『戯曲』へと変える、最大級の魔女だよ」
まどか「あ、あ、あ…!」
まどかの眼前に広がる光景。
それは、まさに死闘とも呼べる戦いの光景であった。
巨大な歯車には、逆さに吊るした人形のようなドレス。
数多の少女達が笑い声をあげるような声が、あちこちに響くように聞こえる。
それは、まるで城塞。巨大な城が空へ浮かび、笑い声をあげながらそこに佇む。
今までの魔女とは比べものにならない巨大な姿。そして、感じられる禍々しい気迫。魔法少女にとっては、まさにそれは最悪の敵と呼ぶに相応しかった。
さやか「はああああああッ!!!」
杏子「うおおおおおおッ!!!」
さやかと杏子は、剣と槍を構え、ワルプルギスの夜へと続くサーカスのロープを駆けていく。
その横を飛び交う、銃弾や砲撃。
地上からはマミ、ほむら、そしてコブラの砲撃が続いていた。
マミ「…ッ!はッ!やッ!」
ほむら「…!」
マミは魔法で召喚した単発銃を次々と目標に向けて放ち、ほむらも用意したあらん限りの銃火器を次々と放っていく。
巨大な爆発が次々と起こる中、本体へ辿り着いたさやかと杏子は勢いよく跳躍をし、魔力を高め、斬撃を放つ。
一撃。
剣と槍による鋭い一撃を与えると、2人は魔力を使いゆっくりと地上に降りる。
ワルプルギスの夜「アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!!!!!」
杏子「マジかよ…効いてねぇ…ッ!」
ほむら「続けて攻撃するわ!加勢して!」
さやか「くっ…!それならもう一度…!」
コブラ「おっと、もうちょっと待ってくれ。俺の番がまだ終わってねぇぜ」
マミ「え…!?」
コブラはサイコガンを上方に向けると、高めた精神エネルギーの全てを放出する。
まるでそれは、巨大な光の大砲。瘴気を切り裂き、真っ直ぐにワルプルギスの夜に向かう。
ズオオオオオ―――――――ッ!!!
ワルプルギスの夜に触れ、それは巨大な爆発を起こした。爆風で見えなくなった相手に向け、コブラは次々とサイコショットを放つ。
コブラ「ショータイムだ!遠慮しないで続けてどんどんいけ、皆!」
ほむら「…!」
杏子「っしゃあ!任せとけ!」
カチリ。
時間を止め、銃火器をワルプルギスに向けて再び連射するほむら。銃弾、グレネード、ロケットランチャー…用意した全ての武器を惜しむことなく相手に向けて放っていく。
再び動き出し、ワルプルギスの夜に向け進んでいく数百、数千の弾丸。
その間に、マミとコブラも攻撃を続けていく。
マミ「…!『ティロ・フィナーレ』ェェッ!!!」
コブラ「うおおお―――っ!!!」
巨大な銃身から出る、魔力の一撃。左腕の砲身から出る、巨大な精神力の砲撃。
その全てが魔女に確実に当たり、次々に爆発と爆風を生む。通常ならば、どんな敵でもそれだけで消滅するだろう。
しかし、さやかと杏子はそれでも再びワルプルギスの夜に向けて突進していく。
さやか「今度こそ決めるよ!!」
杏子「ああ!いい加減、くたばらせてやるぜ!!」
意気込み、駆け抜ける2人。
まどか「…皆…!」
QB「… … …」
どこか、安心して見守るようなまどか。それは、今までになかった光景だからだろうか。
巨大すぎる敵。しかしだからこそ、五人は今までにない団結力で次々と効果的な攻撃を仕掛けられている。全ての攻撃が当たり、お互いをフォローできている。
まどか(これなら…勝てる…!)
しかし、まどかは…いや、全員はまだ気づいていなかった。
ワルプルギスの夜が、こちらに対し何の攻撃も仕掛けていない事に。
さやか「いくよ!もう一回ッ!!」
あと少しで、もう一度城塞へと辿り着く。2人は剣と槍を構え、再び一撃をくわえようとしていた。その瞬間、地上からの砲撃は止み、2人の攻撃を待つ。
まさに完璧なチームワーク。…その筈だった。
杏子「…!!! なッ…!?」
まさに、ワルプルギスに斬りかかろうとした時。爆風の中から出現する…影。
幻影「キャハハハハハハハハハハハ!!!」
幻影「アハハハハハハハハハハハハ!!!」
人型の黒い影は素早くさやかと杏子の2人の眼前に来ると、武器のようなもので2人を攻撃した。
さやか「きゃああああああッ!!!」
とっさの防御も間に合わず、さやかは幻影の攻撃により地上へと叩き落された。
杏子「ッ!!さやかッ!!」
一瞬、さやかの方へ気を取られてしまった杏子。その隙に、もう一体の幻影も杏子に向けて攻撃をする。
杏子「ぐああああッ!!」
マミ「!!美樹さん、佐倉さんっ!!」
コブラ「なんだありゃあッ!?」
ほむら「…!幻、影…!?ワルプルギスが吸収した…魔女の…魔法少女の、魂…!!」
コブラ「くそぉ…!!さやかぁ!杏子ッ!!」
地上に叩き落されたさやかと杏子。どうにか自身の魔力でそのダメージを軽減するものの、魔法少女の幻影は追撃をかけようと2人に急速に迫る。
さやか「くッ…!だ、大丈夫…!?杏子…」
杏子「ああ、なんとか… …ッ!? 危ねェッ!!」
体勢を立て直そうとするも、幻影は今にも斬りかかってきそうなほど間近に迫っていた。
その時。
ズオオオオ―――――ッ!!
杏子「!!」
2体の幻影を一気にかき消す、光の波動。
幻影が消えた先に見える、サイコガンを構えた男の姿。
さやか「ヒューッ!さっすがコブラさん!助かっちゃった!」
コブラ「元気そうで何よりだ。…しかしあの野郎、なんて攻撃してきやがるんだ。悪趣味にも程があるぜ」
杏子「…余裕ぶっこいてる暇もなさそうだぜ。…来るぞ!」
上空を見据える杏子。その視線の先を追うように、コブラとさやかもワルプルギスの夜の方を見る。
城塞から次々と出現するのは、何体…いや、何十体もの、魔法少女の幻影。それらは敵であるコブラ達に向け、笑い声をあげながら突進してくる。
コブラ「やれやれ…こういうモテ方は勘弁して欲しいよ、ホント」
マミ「2人とも!大丈夫!?」
慌ててさやか達の方へ駆け寄るマミとほむら。5人は再び合流をし、臨戦態勢をとる。
さやか「はいっ!…でも、ちょっとピンチかも…!」
コブラ「マミ、ほむら!迎撃するぜ!」
マミ「…!何…あの幻影の数は…!」
ほむら(…あんな攻撃、今まで見たことは無かった…。それだけアイツが…ワルプルギスの夜が追い詰められているという事…?」
ほむら(でも…それじゃあ、あの魔女の本気はどれだけ…!)
コブラ「ほむらッ!」
ほむら「―――ッ!!」
コブラ、マミ、ほむら。遠距離武器に特化した3人は、こちらに向けて突っ込んでくる幻影群を迎撃する。
魔法銃、現代火器、そしてサイコガン。それぞれの砲撃は幻影達を次々と消滅させていくが、全てに対応できるわけではない。残りの幻影は次々と5人に向けて襲ってくる。
さやか・杏子「はあああああああッ!!!」
こちらに近づく幻影は、一歩前に出たさやかと杏子の斬撃で倒していく。一体一体が、魔法少女と同レベルの闘い。しかしながら、戦闘経験を積んだ2人の戦士は次々と幻影を斬り捨てていくのだった。
――― しかし。
ほむら(… 終わ、らない…ッ!!)
コブラ「くそっ!出し惜しみなしか!」
幻影は減るどころか、次々と城塞からこちらに向かってくるのだった。
マミ「はぁっ、はぁ…!」
さやか「くっ…!ぐ、ゥ…っ!!」
幻影を次々と倒していく魔法少女とコブラ。しかしながら、長引く戦闘による魔力の消費で、魔法少女のソウルジェムはどんどん黒く濁っていく。
ほむら(このままじゃ…私達まで危なくなる…!!)
さやか「あ、ッ…!!」
杏子「!!さやかッ!!」
最も経験が浅いさやかの限界が、一番先にきたようだった。体勢が崩れ、地面に膝をつけてしまうさやかに襲い掛かる、複数体の幻影達。
さやか「… !!!」
自分の最期を感じたのか、思わず目を瞑ってしまうさやか。 …しかし、そのさやかの目の前に立つ、一人の男の姿。サイコガンは次々と幻影を撃ち抜き、倒していった。
さやか「コブラ…さん…!」
コブラ「安心しな。何があっても守ってみせるぜ」
…しかし、状況はどんどん苦しくなっていくばかりだった。
そして…5人は未だ、気付かなかった。
ワルプルギスの夜が、次なる攻撃を仕掛けようと動いている事に。
まどか「 … !!!」
その異変に気付いたのは、鹿目まどかが最初だった。誰よりも遠くから状況を見ていたからこそ、気付けた事実。
彼女は、戦いを続ける5人の元へ急いで駆け寄る。
そして、あらん限りの声で叫ぶ。
まどか「逃げてええええ――――――ッ!!!!」
ほむら「…! まどかっ!?」
マミ「鹿目さん…!?どうして…!!」
コブラ「… … …!! 何だ、ありゃあ…っ!!」
そして、まどかの叫びの意味を、5人は知る。
城塞の周りを取り囲んでいるのは…根本が折れた、幾つもの巨大ビルだった。
ワルプルギスの夜はそれらのビルを、こちらに向けて飛ばしてくる。まるで、とてつもなく巨大な弾丸のように。
コブラ「くそおおお―――ッ!!!」
コブラはサイコガンを次々と巨大ビルに向けて発射する。
しかし…間に合わない。崩れた鉄塊は全員を押し潰そうとばかりに、ゆっくりと、しかし確実に迫い来るのだった。
ほむら(… !! このままじゃあ、まどかまで…ッ!!!)
カチリ。
ほむらは時間停止をして、こちらに走り寄ってくるまどかに近づき、引き留めようとその場に押し倒した。
カチリ。
魔力を消費した状態での、精一杯の時間停止。
まどか「あっ…!」
砂埃をあげ、地面に倒れ込むほむらとまどか。
その先には…
魔力を消費しすぎて動けなくなったさやか、杏子、マミと…その3人を必死で守ろうとサイコガンの連射を続ける、コブラの姿。
さやか「…もう、駄目…っ!!」
杏子「くそ…っ!!ここまで、かよ…!!」
マミ「そんな…そんな…ッ!!!」
眼前まで迫る、巨大なコンクリートと鉄の塊。
コブラは、喉が引き裂かれるような声をあげた。
コブラ「俺に掴まれぇぇぇぇぇ―――――――――――ッッッ!!!!!!!」
ドオオオオオオオオオオオオオオオンッ!!!!!!!
墓標のように、4人を押し潰すコンクリート。
爆風が、ほむらとまどかを襲う。
そして、無情なまでの静けさが、辺りを包むのだった。
まどか「… … …」
ほむら「… … …」
そこには、さやかと、杏子と、マミと、コブラの姿は無かった。
今まで、確かに4人が存在した場所。しかしその場所は、無数の建造物の残骸により、掻き消えてしまっていた。
コブラの叫びが、嘘のように消えていた。静寂は恐怖心と絶望を現し…同時に、4人の死を現すのだった。
ほむら「… ぐ …ッ …!!」
まどか「…嘘…だよ…。みんな…みんな、死んじゃったの…?」
まどか「そんなの、嫌だよ…。 …返事、してよ…マミさん…。さやかちゃん…杏子ちゃん…!コブラさん…!」
まどか「こんなの… こんなのって… !!!」
ほむら(… 駄目だった…。 今回、も…)
まどか「いやあああああああああああああああああああああああああッ!!!」
まどかの悲痛な叫びが、静寂を切り裂いた。
絶望を表情に灯す2人の眼前に現れる、1つの影。
それは、インキュベーターだった。
QB「さぁ、鹿目まどか、暁美ほむら。君達はどうするんだい?」
まどか「… … …」
ほむら「…!くッ…!!」
QB「希望は、全て消えた。後に残った物は絶望しかない」
QB「どうするんだい?このままこの街が…いや、この世界が滅びるのを待つのかい?」
まどか「… … …」
QB「手段はある筈だ。それは、2人とも分かっている事だね。 …鹿目まどか、君自身が希望となる以外に絶望を払拭する方法は存在しない」
QB「もし、君自身が希望となる決意があるのなら…」
ほむら「駄目…っ!まどか…!あいつの言う事に…ッ!!」
まどか「…ある、のなら…」
ほむら「… まど、か…っ!!」
QB「もし君に決意があるのなら」
QB「ボクと契約して、魔法少女になってよ」
――― 次回予告 ―――
全く、コブラと魔法少女の下敷きなんて喜ぶのはどこのどいつだぁ!?勘弁してほしいよホント。
憐れ、宇宙海賊コブラの冒険もここで仕舞い…って、俺を待ってる美女がうじゃうじゃいるのにおちおち死んでられるかってんだチクショー!!
一方、まどかはいよいよ決意を固めて魔法少女になっちまう。しかしその願いは、誰も予想しなかったとんでもない願い事だった!!
まどか、ほむら…一体どうなる事やら。平穏が宇宙の彼方で欠伸してるぜ。どんな結末が待っているのか、いよいよラストスパートだ。
次回のCOBRA×魔法少女まどか☆マギカ。【五人の魔法少女(後編)】。よろしくゥ!
瓦礫の山にぴょこんと飛び乗ったその生き物は、2人の少女に向けて告げる。
その声に、感情は無い。ただ、今そこにある事実をただただ冷酷に告げ、そして選択を迫るのだった。
QB「――― ボクと契約して、魔法少女になってよ」
その言葉に、1人の少女は明らかな敵意を向ける。
しかし、もう1人の少女は…その言葉に希望を見出してしまうのだった。
ほむら「…ッ…!ま、どか…っ!駄目…っ!駄目よ…!!」
まどか「… … … ほむらちゃん …」
ほむら「やめて…!貴方が魔法少女になったら、私は…っ、私は…!!」
まどか「… 約束、守れなくてごめんね、ほむらちゃん…」
ほむら「そんな言葉…聞きたくない…!まどか…!お願い…っ!やめてぇ…!」
QB「さぁ、まどか、君は何を願うんだい?君の魂なら、どんな願いでもその対価となり得る」
まどか「… … …」
まどか「私の願いは ―――」
ほむら「駄目ェェェェェェェェッ!!!!!!」
第10話「五人の魔法少女」
吹き荒ぶ嵐の中、1人の少女はハッキリとした眼差しでその生物を見つめる。
それは、今までの鹿目まどかからは考えられない程の明瞭な言葉だった。
まどか「私の願いは…」
まどか「全ての魔女を、生まれる前に消し去りたい」
まどか「全ての宇宙。 過去と未来の全ての魔女を。 …この手で!」
ほむら「っ…!!」
QB「! その祈りは…そんな祈りが叶うとするなら、それは時間干渉なんてレベルじゃない!因果律そのものに対する叛逆だ」
QB「まどか、君は… 神になるつもりなのかい」
まどか「神様でも、何でもいい。皆… これまで魔女と戦い、希望を信じてきた人達の涙を、もう見たくない。そのためなら、どんな事だってしたい」
まどか「それを邪魔するものなんて… ルールなんて、全部壊して、変えてみせる!」
まどか「これが、私の願いよ。…インキュベーター」
ほむら「駄目…!!まどか…!!そんな事をしたら… そんな願いが叶ってしまったら、まどかは…!!」
まどか「… ほむらちゃん …」
まどか「本当に、ごめん。 …でも、私は…皆の笑顔が戻るなら、この命を使っても構わない」
ほむら「そんな…!それじゃあ、私は…何の為に…!!」
まどか「… … …ごめん…いくら謝っても、足りないと思う。 …でも、ほむらちゃんがずっと私を守ってきてくれたから、今のわたしがあるの」
まどか「魔女が存在する限り、いつか…わたしもほむらちゃんも、きっと哀しみを背負わなくちゃいけない」
まどか「ううん、マミさんだって、さやかちゃんだって、杏子ちゃんだって… 世界中の、どの時間でも… 哀しみはずっと消えない」
まどか「コブラさんが、みんなの希望になろうとしてくれた。…でも…それは、叶わない願いだった」
まどか「だから…代わりになれるのは、わたししかいない。わたしは…皆の、希望になりたい。その為なら…この命を犠牲にしても、構わない」
ほむら「嫌よ…!まどかがいなくなったら…私は、どうすれば…!!」
まどか「… … …」
まどか「ありがとう、ほむらちゃん。…本当に、今まで…ありがとう。…だから、もう、いいんだよ」
ワルプルギスの夜が、笑っている。
まるで世界そのものに対し嘲り笑うかの如く、その笑いは響き渡った。
しかし、まどかとほむら、そしてキュウべぇの周りはまるで時間が止まったかのように静まり返っているように思えた。
まどかは一歩、キュウべぇに対して近づき、その手を差し出した。
まどか「――― さぁ、インキュベーター。 どんな願いも叶えられる…そう言ったよね。 …今のが、わたしの願いよ」
QB「… … …」
まどかの周りを、光が包む。
それは、まどかの願いが成就されようとする瞬間を示していた。
ほむら「まどか…ぁっ!」
まどか「――― !!」
インキュベーターとの契約がなされ、新たな魔法少女が誕生する瞬間。
祈りを捧げるように瞳を閉じ、手を差し出すまどかは、微笑みを浮かべていた。
光が増す。風が巻き起こる。 …全てが、変わる。
――― その時。
「おおっと、その契約 ――― 異議アリだ」
まどか「――― !!」
まどかの瞳が、開いた。
「まどか、俺は言った筈だぜ。 自分を犠牲にして、他人を助けようとするな、ってな」
「希望ってのは、なるモノじゃない。 作るものだ。 まどかの今までしてきた事は、十分『俺達』の希望になって…力になっている。 まどかは、まどかが思っている以上に、強い」
まどか「… !!」
ほむら「この…声…」
「それにな、俺のいた世界では、神様ってのはもっとボインなんだぜ」
「14歳のいたいけな少女が神様になっちまっちゃあ、俺の世界と違っちまうんだよ。 ――― お前さんにそんな重荷を背負わせる世界なら、俺が変えてやる」
「――― いいや、壊してやる」
QB「…!!」
「俺は、あんた達を守ると約束した。 そして、男ってのは… 一度交わした約束は、守りきらなきゃいけない生き物なんだぜ!!」
まどか「!!!」
瓦礫の山。そこから、光が溢れだしてる事に気付いた。
その光は段々と強くなる。鉄筋を、コンクリートを、硝子を… 全てを溶かし、『道』を作ろうとする、その光。
「そのためなら… 俺は何度でも立ち上がる!何度でも挑むッ!! だから… 俺を、俺達を、信じろ!!まどかッ!!」
コブラ「俺は ――― 不死身のコブラなんだからなァッ!!!」
ドゴォォォォ――――――ッ!!!!!!
上空に放たれた巨大なサイコショットは、雲を切り裂き、太陽の光を浮き出させた。
その光に包まれる、1人の男。
天に構えたサイコガンを右手で抑え、その男はまどかとほむらに向け、不敵な笑みを浮かべるのだった。
そして、その男の周囲には、マミ、さやか、杏子…それぞれの姿があった。
まどか「コブラ…さん…!」
ほむら「コブラ…!」
QB「…信じ難い。一体、どうやって」
コブラ「へへへ、覚えときなインキュベーター。 サイコガンは、心で撃つものなのさ。この銃は俺の精神(サイコ)エネルギーに反応し、そいつを曲げる事も、増す事も出来る」
コブラ「つまり、だ。オタクらに無い『感情』の力が、俺達を救ったのさ」
QB「!」
コブラ「かの女達、魔法少女を助けたいという感情。その思いは力になり、鉄だろうが何だろうが一瞬で溶かしちまうくらいのエネルギーを持つ。そいつが、俺達を助けた」
コブラ「な?キュウべぇ。感情ってヤツも、捨てたもんじゃないだろ?」
QB「…」
さやか「ビルが飛んできた瞬間、コブラさんのサイコガンが一瞬でビルを溶かしてくれた。そいで、その熱があたし達にこないように、あたしの魔力でバリアを張ってたのさ!」
マミ「美樹さんの自己回復能力の応用ね。…本当に助かったわ」
ほむら「そんな… だって、私達は魔力を消費して…ほとんど動けないくらいまで…」
さやか「へっへっへー」
さやかはニヤリと笑い、見せつけるように右手を差し出す。その手には、グリーフシードが握られていた。
コブラ「色々と賭けだったぜ。あの瞬間、俺がセーブせずサイコガンを撃つ瞬間、さやかがバリアを張ってくれなけりゃいけない」
コブラ「保険はかけておくもんだな。堅実ってのも少しは悪くないかもな」
コブラの大きな手には、大量のグリーフシードがあった。
QB「その為に…君は、魔女を倒していたのか」
コブラ「そういう事。もしもの時のために…ってヤツさ。こう見えて俺は貯蓄派でね」
コブラ「俺の手をさやかが握った瞬間、その穢れはコイツが吸い取ってくれる。もう少し遅かったら火傷しちまうところだったが、間に合ってホッとしたよ」
杏子「ホント、ギリギリの賭けだったな。…正直生きた心地しなかったぜ」
コブラ「まぁ、これで全ては解決だ。…ほむらっ!」
ほむら「…!」
コブラはほむらに向け、グリーフシードを投げた。それを受け取ったほむらは自分のソウルジェムにグリーフシードを当て…再び立ち上がった。
コブラ「さ、後半戦だ。…9回裏、逆転ホームランはここからだぜ!」
さやか「うんっ!」
マミ「ええ…!」
杏子「おうっ!」
ほむら「…!」
ゆっくりと、しかし確実に都心部へと移動しようとするワルプルギスの夜。
しかし、その巨体に刺さるようにぶつかる、巨大なサイコガンの一撃。
ワルプルギスの夜「!!!」
コブラ「何処にもいかせねぇぜ、城の化け物。 ここから先は通行止めだ!」
ワルプルギスの夜「キャハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!」
再び現れた『敵』に反応したワルプルギスの夜は、再びその周囲から幻影を出現させる。
マミ「…!来るわッ!」
杏子「よっし、いくらでも相手してやるぜ!」
さやか「もういくら来ようが平気だもんね!…絶対、負けないッ!」
まどか「… コブラ、さん… わたし…」
コブラ「…まどか、俺はお前さんに何かをしろ、なんて命令した事は一度も無いぜ。 自分の進むべき道、切り開くべき道は自分で決めるんだ」
コブラ「まどかには、仲間がいる。魔法少女だけじゃあない。お前さんの周りにいる全ての人々が、まどかの希望となっている筈だ」
まどか「…!」
コブラ「神様なんざ必要ない。…希望ってのは… 自分の手でも、作り出せるんだぜ!」
まどかの頭にポン、と手を乗せたコブラは微笑みを向ける。そしてその手を離し、迫りくる幻影に向けて駆けだすのだった。
まどか「…自分で作り出す…希望…」
まどか「… … …」
まどかはキュウべぇの方をもう一度振り向き、その生物を見つめるのだった。
杏子「マミッ!危ねぇぞ!!」
マミ「!!」
背後に忍び寄っていた幻影を、杏子の槍が切り裂く。
杏子「ったく、昔っから甘ったるいんだよ。…弟子に助けられるようじゃ、師匠としてまだまだだな」
マミ「…クス。そうね…佐倉さん。 …ありがとう」
杏子「へっ。…油断すんなよ!来るぞ!」
次々と迫ってくる幻影を、コブラのサイコガンが撃ち落す。
それを避けきり、コブラに近づく幻影は…さやかの斬撃によって斬り捨てられた。
コブラ「様になってきたじゃねぇか!その調子なら彼氏もしっかり守れそうだな、さやか!」
さやか「バッ…!か、彼氏とか言わないでよっ!そういう話は後回しっ!!」
コブラ「こりゃ失礼!それはそうと、どんどん来るぜ!照れてる場合じゃないぞ!」
さやか「誰が照れさせてるのよっ!!」
ほむら「…ッ!」
迫る幻影を銃器で次々と撃つほむら。 …しかし、間に合わず至近距離まで迫られてしまう。
一体の幻影が、笑い声をあげながらほむらの目の前で斧を振りかざした。
ほむら「しまッ…!」
その幻影をかき消す、一筋の光。
まるで『矢』のようなその光は、かき消すように幻影を撃ち抜く。
ほむら「な…ッ!」
ほむらの見た先には… 弓を構え、微笑むまどかの姿があった。
まどか「…あ、あはは… 当たった…良かったぁ…」
ほむら「まどかッ! その恰好… 貴方は、魔法少女に…!!」
まどか「…うん」
ほむら「どうしてッ!? 契約してしまっては、折角コブラが繋いでくれた事が…!」
まどか「違うよ。 …願い事は、もう叶ってるから」
ほむら「え…!」
まどか「神様にはならない。ただ、わたし自身が一つの希望になれれば…それで十分なんだ、って…ようやく分かったんだ」
まどか「わたしは、ほむらちゃんに守られるわたしじゃなくて…ほむらちゃんを守るわたしにもなりたいの」
まどか「ほむらちゃんが…ずっと、わたしにそうしてきてくれたように」
ほむら「!!!!!」
まどか「だから戦う。皆と同じように、わたしも…街を守る、魔法少女になる!」
まどか「どんな絶望にも… 勝てるようにッ!!」
ワルプルギスの夜に弓を向けるまどか。
繰り出される幻影を次々とその矢で射ぬく。正確なその射撃は一撃も外れる事なく、目標に当たっていく。
さやか「え…ま、まどかっ!その姿…!」
マミ「…なったのね、魔法少女に」
まどか「ティヒヒ、遅ればせながら。…えと、似合うかな…?」
杏子「…ちょっと少女趣味すぎやしないか?アタシには死んでも似合いそうにない服だ」
マミ「うふふ、とってもよく似合っているわよ、鹿目さん」
まどか「あ、ありがとう…ございます」
まどか「…コブラさん。 …わたし、答えが出せたよ。 …1人で、考えて…!」
コブラ「… へへへ、似合ってるぜ、まどか。…それに、いい顔が出来るようになったじゃねぇか。先生は100点満点をあげるぜ」
まどか「…!ありがとうございます!」
ほむら「… … …」
まどか「…ほむらちゃん…」
コブラ「ほむら。お前さんの願いは、崩れ去っちまったか?違うんじゃないのか」
コブラ「未来は、1人で掴みとらなくてもいい。5人で掴みとる希望も、あっていいんじゃないか。5人の魔法少女が…希望となれる世界だ」
ほむら「…!」
まどか「…違うよ、コブラさん! …今は、6人… コブラさんも入れて、6人!…でしょ?」
コブラ「! …ああ、そうだな!」
ほむら「… 私は…」
ほむら「私は… まどかが…いいえ、皆が笑っていられる世界なら、それでいい。…だから…」
ほむら「だから私は…ワルプルギスの夜を、倒す!!」
コブラ「ようし!そんじゃさっさと、あの馬鹿でかい疫病神を追い払うとしますかぁ!!」
さやか「…!みんな!もう一回アレが来るよ!!」
ワルプルギスの夜の周囲に、再び崩れた建造物が浮遊しはじめた。もう一度、こちらへの攻撃を開始しようとする狼煙。
しかし、それを見ても6人の表情に恐怖はなかった。
全員が対象を見据え、それぞれの構えをとる。
コブラ「それじゃ、いい加減終わらせるとしますかぁ。少しオイタを許し過ぎたぜ」
まどか「…はいっ!」
さやかと杏子は、剣と槍に力を宿す。
マミとほむらは、それぞれの銃の照準を対象に合わせる。
そして、コブラとまどかはお互い背中合わせの恰好になり、サイコガンと弓を構える。
ワルプルギスの夜「キャハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!」
ほむら「…これで、終わらせる…!」
マミ「ええ… 魔女に… あんな姿になった、魔法少女を…放ってはおけないわ」
さやか「… あたし達の街は、あたし達が守らなくちゃ…ね!」
杏子「跡形もないくらいに… 吹き飛ばしてやるぜ!」
まどか「どんなに大きな壁でも… 必ず、超えてみせるっ!これからも!」
コブラ「…ようし、意気込みは良し、だ!派手な花火をぶっ放してやろうぜ!皆!」
コブラ「行けぇぇぇぇ――――――――ッッ!!!!!」
2つの刃の投擲。2つの銃弾の発射。そして、2つの光が同時に、ワルプルギスの夜へと向かって行く。
浮遊するビル群を物ともせず、それぞれが滅ぼすべき対象の元へと、真っ直ぐに。
そして… … …。
大きな爆発が起きた。
大きな光が辺りを包んだ。
それはまるで、嵐を吹き飛ばすかのような衝撃。
そして、それが止んだ時、その爆発の後には何も存在しなかった。
あれだけ街を包んでいた雷雲すら、そこには存在しない。
ただ一つそこにあったのは…吹き飛んだ雲の間から照らす、太陽の光。
その光が、まるで6人を称えるように差し込む。
ほむら「… … …」
コブラ「夜明け、ってのはいつ見ても良いもんだな、ほむら」
ほむら「… … … ええ。 …とても、綺麗」
コブラ「…ああ。 最高だぜ」
一筋の涙がほむらの頬を流れた。
まどか「終わった… 終わったんだよ!ほむらちゃん!ワルプルギスの夜を…倒したんだよっ!!」
ほむら「…!まど、か…」
思わずほむらに抱きつくまどか。
まどか「ほむらちゃん…!これで… これでようやく、ほむらちゃんの…っ!うう、っ…!ぐすっ…!」
ほむら「… … … ありがとう、まどか…」
肩に回されたまどかの手をぎゅっと握り返す、ほむらの手。
さやか「やったんだ… あはは、夢みたい…あんな大きな魔女を、倒せた、なんて…」
杏子「ようやく生きた感じがするな。今更ながら、随分無茶したもんだよ」
マミ「うふふ…でも、皆無事だったんだから、良かったんじゃないかしら」
杏子「…そうだな。 …あ?」
さやか「?どうしたの?杏子」
杏子「コブラは… どこ行きやがったんだ、あいつ」
マミ「…あら… 本当…」
レディ「… … …!」
コブラ「ようレディ、ただいま」
レディ「おかえりなさい、コブラ」
コブラ「心配したか?」
レディ「いいえ、ちっとも。だって、貴方の仕事だもの。 無事で帰ってこないはずがない、でしょ?」
コブラ「おーヤダヤダ。男心をちっとは分かってくれよ。心配した、なんて優しい言葉を求めてる時も俺にだってあるんだぜ?」
レディ「ふふ、考えておくわ。…さ、コーヒーを淹れておいたわ。船内で飲みましょう」
コブラ「嬉しいねぇ。帰るべき我が家と相棒と、最高のコーヒー。文句のつけようがない」
コブラ「それじゃ… ささやかな祝杯でも、あげるとしますか」
―― 次回予告 ――
ワルプルギスの夜も倒して、ようやく俺の肩の荷も下りたってところだな。お伽話ならめでたしめでたしで終わるところだが…ところがそうもいかないんだなぁ。
なにせ元の世界に戻る方法が見つからないときてる。これには流石のコブラさんもお手上げってわけ。どうしたもんかね。
しかし、ひょんな事から俺は元の世界に戻る事が出来るようになったわけ!いやー、めでたしめでたしで終われそう… って、毎度の事ながら、そう簡単にいかないわけだコレが。
最後くらい平和に終われないもんかね、全く、海賊のつらぁーいところよ。
次回、最終話【エピローグ さようなら、コブラ】で、また会おう!
ピピピピピ…
まどか「うぅ~ん…っ…」
カチッ。
まどか「…ふぁぁ…よく、寝たなぁ…」
まどか「… … …」
まどか「夢…見なかったなぁ…」
詢子「おーい、まどか起きてるか~?メシにするぞ~」
まどか「あ…はーいっ」
まどか(…えへへ…なんだか、いい一日になる気がするなぁ…)
最終話「エピローグ さようなら、コブラ」
まどか「うーん…」
詢子「ふぁぁ…おはよ、まど… …なんだ、またリボンの色、悩んでるのか?」
まどか「…あ、ママ、おはよう。ティヒヒ…みんなかわいくって…」
詢子「前から言ってるだろ?赤だって。 …ま、そこまで悩むんならいっそ両方持って行っちまえばいいんじゃないか?」
まどか「あ!そうだね…うん、そうする!」
詢子「決めたら朝食食べに行くよ。…あー、台風の低気圧がまだ残ってて頭痛いわー」
まどか「ママ…それ、単に飲み過ぎだと思うよ…」
詢子「はっはっは。…さ、行くぞ」
まどか「それじゃ、行ってきまーす!」
知久「行ってらっしゃーい!」
タツヤ「いったーっしゃーい!」
詢子「気を付けてなー!」
まどか「はーいっ!」
まどか(いつも通り、何の変りも無い朝…だったなぁ)
まどか(わたしは…ううん。さやかちゃんも、マミさんも、ほむらちゃんも、杏子ちゃんも…コブラさんも。みんな、あの戦いを生き抜いて…この街を守った、なんて…。実感ない)
まどか(でも…空は今日も晴れていて。清々しい空気を…胸いっぱいに吸い込める)
まどか(私は…魔法少女になったんだ)
まどか「…えへへ」
さやか「…なーに朝からにやついてるんだぁ?まどかー」
まどか「ふぇっ!?い、いつの間に…」
仁美「…いつの間にも何も、今ここまでまどかさんが歩いてきたのではありませんか?」
まどか「… … … 天狗の仕業」
さやか「何を言っているお前は」
さやか「しかし、実感ないよねぇ、まどか」
まどか「あ、さやかちゃんも同じ事思ってた…?実はわたしも」
さやか「うん。こんなふうに朝フツーに登校できるなんて、夢にも思わなかったもん」
仁美「…お2人とも、何のお話をされているのでしょう?」
さやか「! あ、あははは!いやぁ、あんな台風が起きた後でよく学校やってるなーって!学校吹き飛んでるかと思ってさぁ!」
まどか「そ、そうそう!そういう事なんだよっ!」
仁美「…また私に内緒のお話を… 不潔ですわー!」
涙を流しながらダッシュをして学校に向かう仁美。
まどか「… 行っちゃった。 …ところで、さやかちゃん。…仁美ちゃんと、恭介くんの事は…」
さやか「ああ、アレ?しばらくその話は抜きにしよう、ってお互いに話したの」
まどか「…?」
さやか「恭介のヤツ、今はリハビリの事しか頭に無いし。そういう所鈍感で嫌になっちゃうからさ。…仁美にも、かわいそうだし。だからしばらくこの話はやめて、友達として改めて…って話したの」
まどか「…すごいね、さやかちゃん。そういう事ズバっと言えるって」
さやか「うーん。前までのあたしだったら、無理だったかな? 一皮剥けた、って感じかな。スーパーさやかちゃん的な」
まどか「あはは」
さやか「お。前方に目標確認」
まどか「…あ、ほむらちゃんだ」
さやか「おっはよー、ほむら!今日も暗いぞー!どうしたー!?」
ほむら「…おはよう、まどか」
まどか「おはよっ、ほむらちゃん」
さやか「うおぉい!出会って即無視かいっ!しかもまどかまで!?」
ほむら「… … …」
まどか「… … …」
さやか「…おーおー、見つめ合って頬赤く染めあっちゃって…新婚初日かっての、あんたらは」
まどか「な、なにいってるのさやかちゃんてばっ…!て、ティヒヒ、…えと…い、一緒に行こ?ほむらちゃん」
ほむら「ええ」
杏子「よう」
まどか「!?杏子ちゃん!どうして…それに、その恰好…」
さやか「ウチの制服じゃん!…ま、まさかアンタ…」
杏子「今日からこの学校に転校してきたんだよ。拠点を本格的に移そうと思ってな。この方が好都合だからさ」
さやか「えええええっ!?」
まどか「あはは、杏子ちゃんのスカート初めて見た。すごく可愛いよ」
杏子「!? ばっ、ばっかやろ…!こっちだって恥ずかしいんだよ…!そういう事言うのやめろ…!」
さやか「あれー?制服違ってるんじゃないのー?男子用制服じゃなかったっけー?」ニヤニヤ
杏子「こ・の・や・ろ…!」
さやか「やるかこのー!!」
ほむら「…騒がしいわね」
まどか「あはは…でも、2人ともすごく嬉しそうだよ」
ほむら「… … …」
キーンコーンカーンコーン
まどか「あ!大変!授業はじまっちゃう!」
さやか「にゃんだとー」
杏子 「にゃんだとー」
お互いに頬を引っ張り合っている2人。
4人は学校まで駆けて行こうとするが…その前方を遮るように、1つの影が出てきた。
マミ「はぁっ、はぁ…!」
まどか「ま、マミさん!?」
さやか「どうしたんですか、そんなに息あげて…」
マミ「た、大変なの…」
杏子「魔女か!?朝っぱらから迷惑な野郎がいたもんだな」
マミ「ち、違うの!そうじゃなくて…!」
まどか「それじゃあ、一体…?」
マミ「コブラさんが…いなくなっちゃうの!!」
一同「えええええええええっ!?」
森林の中。タートル号の外で、コブラとレディは森林浴を楽しみながら、朝のコーヒーを啜っている。
コブラ「くぁぁぁあ…。やっぱり地球で感じる朝の光と空気が一番だね。過去の世界だとしても」
レディ「ええ。あれだけ風が吹き荒れたから、雲1つないわね」
コブラ「新鮮な空気を吸い込み、朝の森林浴。…なーんて健康的な生活かね。健康診断、一発オッケーだな」
レディ「元から何の問題も出てないでしょ?貴方の身体は」
コブラ「色々不具合が起きてるんだよ。特に最近、グラマラスな身体を見てないからな。精神的に問題アリだ」
レディ「…怒るわよ、かの女達」
コブラ「おおっと、オフレコで頼むぜ。 …それで、データは間違いないのか?」
レディ「ええ。何百光年か離れた先に、ブラックホールが発生したわ。周囲には何もない宙域なのだけれど…そのブラックホールのデータ、私達が吸い込まれた物と一致している」
コブラ「原因不明のブラックホールが再発…ねぇ。何か裏がありそうだが、まぁ、この話に乗っからないわけにはいかないな」
レディ「詳しい分析は付近でするけれど…元の世界に戻れる可能性は、極めて高いわね。行ってみる価値はあるわ」
コブラ「ああ。名残惜しいが、この世界ともさよならだ。忙しい海賊稼業に戻るとするかね」
レディ「でも…少し不安ね。かの女達…魔法少女。別れくらい言ってからの方がいいんじゃない?」
コブラ「俺の性分じゃない。…それに、もう俺の力は必要ない。だったら、この世界の役割は、かの女達に任せるとするさ」
レディ「…悲しむわよ、きっと」
コブラ「…乗り越えて行けるさ。可憐な魔法少女の闘いに、俺みたいな血生臭い男がずっと隣にいたんじゃ、絵にならない。別れを言えば余計辛くなる。…だろ?」
レディ「… … …ええ、そうね」
コブラ「そうと決まれば出発だ。俺の気が変わらない内にな」
レディ「それじゃあ、タートル号の調整をしてくるわね。数分したら発てると思うわ」
コブラ「ああ、頼んだぜレディ」
コブラを残してタートル号のコクピットに戻るレディ。
コブラ「… … …」
コブラは、何か思うような表情をしながら、葉巻の煙を青空に浮かべるのであった。
森の中を駆けていくマミ、まどか、さやか、杏子、ほむら。
まどか「ど、どうして急に…!?」
マミ「今朝…コブラさんに改めてお礼を言おうと思って、宇宙船のところまで行ったの…そうしたら…!」
さやか「元の世界に帰れるっ、て…!?」
マミ「…ええ、偶然聞いてしまったから、急いで皆のところに来たの…」
杏子「あのヤロー、何も言わないで帰るつもりかよ!」
さやか「でも…どうやって!?確か元の世界に戻る方法がないとか言ってなかったっけ!?」
マミ「…確かに、そう言っていた筈だけれど…」
まどか「… … …」
ほむら「… … …」
ほむら(…まどか…)
レディ「メインエンジン、反加速装置、制御システム、オールクリア。…それじゃあ、行くわよコブラ」
コブラ「…よろしくどーぞ」
コブラは葉巻から煙を吐き出し、苦笑いを浮かべた。
レディ「…タートル号、発… … …」
コブラ「…?どうした?レディ」
レディ「出発は遅れそうね、コブラ」
コブラ「んん? … … … ありゃあ」
タートル号のコクピットから、こちらに駆けてくる5人の少女の姿が見えた。
まどか「コブラさーーーーんっ!!!」
コブラ「あーあ。これじゃ恰好がつかないねぇ、参った参った」
コブラは頭をボリボリと?きながら、両手を大袈裟に上げた。
レディ「…ふふふ、そう言う割には嬉しそうじゃない?コブラ」
コブラ「言ってくれるなよ、レディ」
マミ「はぁっ、はぁっ…」
さやか「ま、間に合ったぁ…」
タートル号のハッチが開き、中から苦笑いをしたままコブラとレディが出てくる。
コブラ「おいおい、おたくら、学校が始まるんじゃないかい?無断欠席とは褒められないなぁ」
杏子「怒れるような性格もしてないだろ?お前の場合」
コブラ「ははは、ごもっとも」
マミ「…何も言わずに帰っちゃうなんて…寂しすぎるわ」
さやか「そうだよ!…それにあたし達、まだお礼も何もしてないよ!」
コブラ「したさ」
さやか「え?」
コブラ「久しぶりに、いい物を見せてもらった。…仲間と呼べる者の絆。そしてそいつが起こす奇跡。…俺が久しく忘れていたものを、思い出させてくれた」
まどか「…コブラさん」
コブラ「…まどか。お前さんの願い事が叶った結果かい?これは」
まどか「… … …はい」
コブラ「…全く。何でも願いが叶うっていう折角のチャンスをこんな事に使っちまいやがって」
ほむら「…!まさか…!」
杏子「…?どういう事だ?」
レディ「…!まさか、鹿目まどかの魔法少女になる願い…そのおかげで…!?」
まどか「…私、魔法少女になって、皆を助けられるようになれば…それだけでいいんです。…だから、その時の願いは…一番役に立つ人のために使おう、って」
コブラ「… … …」
――― ワルプルギスの夜との決戦の日。
ワルプルギスの夜へと向かって行くコブラと魔法少女達。
その後ろで、対峙をするまどかとキュウべぇ。
まどか「…キュウべぇ。私、魔法少女になる」
QB「…!」
まどか「願いは… コブラさん達に、元の世界へ戻る方法を与える事。…それだけだよ」
QB「たったそれだけかい?君には、宇宙そのものを作り変える力すらあると言うのに」
まどか「…それでも構わないって、思ってた。わたしが神様になれるなら…こんな世界、作り変えちゃえ、って」
まどか「でも…わたしはまだ、信じていたい。わたしを含めた皆が笑いあえて…信じあえる。神様なんていなくても、そんな世界が築ける、って」
まどか「…例え、コブラさんが…元あるべき場所に戻ったとしても。…『わたし達』魔法少女が、この世界を守れる。…そう信じていたい」
QB「…」
QB「君の願いは、エントロピーを凌駕した。本当に構わないんだね、まどか」
まどか「うん」
QB「それじゃあ…君の願いを――― 叶えよう――――」
そして、2人の間を眩い光が包んだのだった。
QB「そしてまどかは、魔法少女となったというわけさ」
さやか「アンタ、いつの間に…」
まどか「わたし達の願いは、コブラさんのおかげで全て叶った。…でも、コブラさんとレディさんの願いが、まだ叶っていない。…そう、だよね?」
レディ「…鹿目さん…」
まどか「だからせめて…。…これが、わたしの恩返しだと、思うから…」
コブラ「…全く… あんな弱々しかったヤツが、いつの間にかこんなはっきり物事を決められるようになるとはな」
コブラはまどかに近づくと、まどかの頭にポン、と右手を乗せた。
コブラ「…ありがとよ、まどか」
そして髪型がぐちゃぐちゃになるほど、頭を撫でる。
まどか「ティヒヒ」
さやか「宇宙の果てにブラックホール…」
マミ「その中に再び入れば…私達の前に現れた時と、同じ現象が起きて…コブラさん達は元の未来へ帰れる…。…そうなの?キュウべぇ」
QB「ブラックホールが、まどかの願いによって生じたものだと言う事は間違いないね。まどかの願いは、コブラが元の世界へ戻る方法を『与える』事。だから、その中へ入るのは自由というわけだ」
マミ「…でも、貴方は行くのでしょう?…コブラさん」
コブラ「どんな人間にも、帰るべき場所はあるのさ。…それに、おたくらは俺が思ったより遥かに成長した。これなら俺がいなくなっても安心だ」
杏子「師匠気取りかよ。…気に入らねェなぁ」
コブラ「…杏子。初めにお前さんに斬りかかられた時はどうなるかと思ったが…ようやく人前で素の自分が出せるようになったみたいだな」
杏子「…どういう意味だよ」
コブラ「さぁてね。ま、とにかく、さやかの面倒をしっかり見てやってくれよ」
コブラはそう言うとにぃと悪戯っぽく笑った。
さやか「ちょ、ちょっと、どういう意味よ!なんでこいつに面倒みてもらわなきゃならないワケぇ?!」
杏子「…ま、確かに面倒見甲斐がある後輩かもしれねーな」
さやか「うがあああああ」
コブラ「さやか」
さやか「何さっ」
コブラ「お前さんの明るさなら、どんな絶望も払拭できる。笑顔を忘れるなよ。アンタの最高の魅力だ。…彼氏とのデートの時にも、な」
さやか「なっ…か、彼氏ってなによ…恭介とはまだ別に…!」
コブラ「恭介とは一言も言っていないんだがね俺は」
さやか「うがああああああああああ」
まどか「あははは」
コブラ「マミの作るお菓子や紅茶は最高だったぜ。俺の相棒に勝るとも劣らない。おかげで甘党になるところだった」
マミ「…有難う。光栄だわ」
レディ「珍しいわね。お酒と料理以外でそんな事言うなんて」
コブラ「おいおい、グルメなんだぜ俺は。何に対しても、だ。 …これからは、お前さんが皆の先頭に立つんだ。しっかり頼むぜ、マミ」
マミ「ええ。…先輩だものね。しっかり舵を取るつもりだわ」
コブラ「ああ。ついでに後輩のバストやヒップの向上計画に是非とも取り組んで欲し… いでえーーーーっ!!!」
マミに足を踏まれ、レディに頭を叩かれるコブラ。
マミ「…こうしてツッコミを入れるのも最後なのね。少し…寂しいわ」
レディ「同胞をなくしたような気分だわ」
コブラ「…ああ、全く寂しいね、ホント」
頭を摩りながら、足に息を吹きかけるコブラ。
コブラ「…ほむら。…これからも…まどかを、いいや、魔法少女達を守る存在であってくれよ」
ほむら「… … …」
コブラ「自分だけで苦労すればどうにでもなる…。綺麗事かもしれないが、そんな事は無いんだ。…もう時間を繰り返す必要も無いんだしな」
ほむら「… … …」
ほむら「そう、ね…」
コブラ「まだまだ、まどかは頼りない。かの女を引っ張っていくのは君だ。…よろしく頼むぜ」
まどか「た、頼りない…かぁ…。…うう、少しショック」
ほむら「…ええ、解かったわ」
コブラ「…まどか。お前さんの心と力があれば、全ての絶望を払拭できる。そこのエイリアンとも仲良くしていってくれよ」
QB「インキュベーターと呼んで欲しいのだけれどね」
まどか「…はい。…わたし、頑張ります!」
コブラ「ほむら、まどか。誰かを、何かを守るために、犠牲はいらない。 必要なのは、守りたいという意志だ。結果は関係ない」
コブラ「だから、これからも精一杯学生生活を満喫して、いい女になって、未来の俺のために美人の先祖を作っておいてくれよ?」
ほむら「… … …」
まどか「あはは…動機は不純ですね…」
コブラ「…お。…いい物があったぜ。…まどか」
まどか「?」
コブラは、ポケットから1つ、ガーベラの花を取り出した。それをまどかの頭につける。
コブラ「タートル号でコーティングしておいたモンさ。枯れる事なき希望。…なぁーんてね」
まどか「わぁ…有難うございます!…あ」
そして、まどかの髪を結ってあるリボンを解き、手にするコブラ。
コブラ「俺は、君達の事を忘れない。…交換しておくぜ」
まどか「…はい。…私も…忘れません」
コブラ「それじゃあ…行くとするか。こういうのは長引かせるもんじゃないね。どんどんこの世界に居たくなってくるぜ」
さやか「…いいんだよ。いつまでも居ても」
コブラ「そうもいかない。人は皆、あるべき場所へ戻る。そいつに逆らっていちゃあいけない。自然の摂理ってやつさ」
マミ「…そう、ね。…もしも…もしも、もう一度逢えるのなら…また、この世界に来てくれるかしら?コブラさん」
コブラ「もちろん!女の子の成長過程の観察は俺の趣味の一つなんだ」
杏子「大した趣味だな。…ま、その時は熱烈に歓迎してやるよ」
コブラ「楽しみにしてるぜ。…その時は、何も言わずに笑って待っててくれよ?」
まどか「…勿論ですっ!」
レディ「…それじゃあ、コブラ。…行きましょうか」
コブラ「ああ。そうだな…」
コブラ「それじゃあ、愛しき魔法少女諸君!…元気でな! …あばよ」
上空にゆっくりと浮上をするタートル号。
エンジンに火がついたかと思うと、あっという間に空の彼方へと飛び去ってしまう。
その様子を、ただただ見上げる5人の魔法少女。
まどか「…行っちゃったね」
さやか「…何か、あっという間だった…な。今まで」
マミ「辛いものね。…お互い、住む世界が違う、というのは…」
杏子「落ち込んでても仕方ねーよ。…アタシ達はアタシ達で、精一杯生きていく。それしかないだろ?」
まどか「…そうだね。… … …」
さやか「なーに落ち込んでんのよまどかっ、あたしの嫁は笑顔が一番可愛いんだぞぉ?」
そう言いながらまどかに抱きつくさやか。
まどか「わ、わ…っ!んもぅ…分かったよ、さやかちゃん…」
マミ「うふふ…それじゃあ、行きましょうか?」
杏子「そうだな。行くぞ、まどか」
まどか「…うん…。 …?ほむらちゃん?」
ほむら「… … …」
まどか「どうしたの?ほむらちゃ…」
カチリ。
その時、大きく時計の秒針の音が聞こえた。
ほむら「…え…!!??」
それは、暁美ほむらが幾度となく経験をした感覚。
全ての時間が流れを止め…そして、逆戻りをしていく。
時間が、巻き戻っていく…その感覚――――。
ほむら「そんな…!私は時間を戻そうとは思っていない!…どうして…!?どうしてなの…!?」
しかし時間は非常なまでに崩れ、ほむらの意識は暗闇へと落ちようとしていた。…元の、自分が病室へといる、あるべき時間へと。
ほむら「どうして…っ!!??」
その時。自分自身の声が、暗闇の中で響いた。
QB『――― 君は、どんな祈りでソウルジェムを輝かせるのかい?』
ほむら『私は―――』
ほむら『私は、鹿目さんとの出会いをやり直したい。彼女に守られる私じゃなくて、彼女を守る私になりたい―――』
ほむら「…!」
ほむら(…そう、だったの…)
ほむら(この結果は…彼女を、まどかを【守る】結果には繋がらなかったのね)
ほむら(わたしが時間を巻き戻せる限界は、ここまで…。これ以上時間が進めば、まどかが魔法少女になる【後】へしか戻れなくなる)
ほむら(そして…このまま時間が進めば、再び私達は…滅んでしまう。…そういう事…)
ほむら(… … …)
ほむら(それに…私は、この世界を望んでいないのかもしれない)
ほむら(まどかが…【皆に】微笑む…この世界では…)
ほむら(数多の時間の中で巡り合った、1人の男。…可能性はゼロに近くても、こんな時間も確かに存在はしていた)
ほむら(それが、ワルプルギスの夜すら超えさせられる。…そんな希望がある、世界)
ほむら(…いい夢を、見させて貰ったの。…だから…)
ほむらは、病室で目を覚ます。
カレンダーは、見覚えのある日にちで止まっていた。
ほむらは傍らのテーブルに置いてあった眼鏡をそっと手にすると、それをかけた。
ほむら「…コブラ。…有難う。希望は、存在する。それを思い出させてくれて」
ほむら「…今度こそ、私は…この世界で、彼女を助けてみせる」
ピピピピピ…
まどか「うぅ~ん…っ…」
カチッ。
まどか「…ふぁぁ…よく、寝た…」
まどか「… … …」
まどか「…すごく、悪い夢見てた気がするなぁ…」
まどか「…歯、磨きにいこ…」
まどか「おはよ、ママ」
詢子「おう、おはようまどか。…うぅん?」
まどか「…?どしたの…?」
詢子「…それ、誰に貰ったんだ?…まさかぁ、男の子からかぁ?」
まどか「な、なに?何のこと…?」
詢子「今時花の髪飾りねぇ。ロマンチックだとは思うけれど、さすがにチョイと幼すぎないかな」
詢子は少し笑いながら、まどかの頭から1つの白い花を取り出した。
まどか「え…あ…?…??なんでだろ…?」
詢子「…覚えがないのか?…じゃあ…まどかの部屋にあったのかな?うーん、でもガーベラなんて花瓶にさしておいたっけな」
まどか「… … …」
まどか「でも…すごく、綺麗な花だね」
コブラ「ふぁぁ…よーく寝たぜ」
レディ「おはようコブラ。ふふ、久しぶりにぐっすり寝れたようね」
コブラ「ああ、このところ退屈なくらい平和だからな。…おかげで変な夢見ちまった気分だ。なんだったか忘れたが」
レディ「貴方らしいわね。…あら?コブラ」
コブラ「んん?」
レディ「…コブラ。平和を謳歌するのもいいけれど、そういう物を私の前に出すのはどうかと思うわね」
コブラ「…?何の事だ?」
レディ「貴方の首にかかっている赤いリボンの事よ」
コブラ「…。本当だ。…おかしいな、見覚えのないリボンだ」
レディ「まぁ、覚えがないのにリボンを貰ったの?」
コブラ「ご、誤解だよレディ。はは、えーと…ホントになんだっけか」
そう言いながら、慌ててポケットにリボンを仕舞い込むコブラ。
コブラ(…しかし、どこか懐かしい香りだな)
その時、タートル号のレーダーのアラート音が鳴る。
コブラ「…!なんだ!?」
レディ「…! コブラ、前方に海賊ギルドの艦隊よ!」
コクピットから見えるのは、ギルドの大型戦艦が幾つも宙域に待機する光景。
そして、モニターに映し出される男の姿。
ボーイ「久しぶりだなコブラ。会いたかったよ」
コブラ「!!クリスタルボーイ!お前の仕業か」
ボーイ「くくく…お前さんがこの辺りの宙域にいるという情報を掴んでね。首を長くして待っていたところだよ」
コブラ「大層な歓迎だぜ。パレードでも開いてくれるのかな?」
ボーイ「軽口もここまでだ。…この宙域が貴様とタートル号の墓場だ!」
レディ「どうするの!?コブラ…」
コブラ「… … …」
コブラ「上等じゃねぇか。売られた喧嘩は買う主義。ここは…正面から突破だ。タートル号の性能を見せてやろうぜレディ」
レディ「了解。連中に一泡吹かせてやりましょう」
コブラ「よろしくどーぞ!…覚悟しろよ、ガラス人形!」
コブラ「俺は…不死身のコブラだからな!!」
艦隊へと単独で突っ込んでいくタートル号。
しかし船内のコブラの表情に不安はない。
葉巻を銜えたその顔は、自信に満ち溢れた不敵な笑みだった。
コブラ最高にかっこいいな!
面白かったよ
Entry ⇒ 2012.10.16 | Category ⇒ まどかマギカSS | Comments (2) | Trackbacks (0)
紗羽「ちょっと田中ー!」 田中「はい」
紗羽「は? 今なんて?」
田中「く……な、なんでしょうか」
紗羽「よろしい。口のきき方には気を付けること」
田中「はい……わかりました」
紗羽「よし。じゃあ、この鞄持って行ってくれる?」
田中「えっ、でもお前チャリじゃ……」
紗羽「お前?」
田中「さ、紗羽さまは自転車通学では?」 ピクピク
紗羽「今日、雨降ってるから電車なの。何のため思ってるの?」
田中「はい」
紗羽「わかったら、ちゃっちゃと傘をさす!」
田中「了解です……」
田中「えっ」
紗羽「当たり前でしょ。あ、もしわたしに雨がかかったら、一滴につき一発殴るからね」
田中「んな無茶な!」
紗羽「口答えするの?」
田中「……すみません」
紗羽「わかればよろしい」
――――
来夏「あ、紗羽おはよー」
和奏「おはよう」
紗羽「おはよ。今日、雨酷いねー」
田中「……おはよう……ございます」
来夏「さあ? あたし、下衆の声は聞こえないから」
田中「……」
紗羽「早く行こっか。電車乗り遅れちゃうよ!」 タッ
和奏「そうだね」 タッ
来夏「りょーかい!」 タッ
田中(あぁ……走ったら……)
――――そして学校にて。
来夏「とーちゃーく!」
和奏「思ったより余裕で着いたね」
紗羽「……20と……4……いや、5かな?」
田中「ゼー……ハー……ゼィ……」
(4人分の荷物を持ってのダッシュはキツすぎ……)
紗羽「ねえ、和奏、来夏。なんか、ストレス溜まらない?」
来夏「あー。溜まる溜まるー! なんか、暑苦しいのが近くに居る気がするんだよねー」
紗羽「でしょー? こういう時、なんかむしょーに八つ当たりとかしたくない?」
和奏「でも、どうするの?」
紗羽「ほら、ここにちょうど良いサンドバックがあるでしょ?」
田中「え……?」
来夏「ああ! でも、良いの?」
紗羽「うん。雨粒の分だけ殴っていい約束だから」
田中「そんな……全員の荷物持ってそれは無理だろ!」
和奏「それじゃ、遠慮なく」 ドコッ!
田中「うぐぉっ!」
来夏「何汚いツバ飛ばしてんの?」 ゲシッ!
田中「うぐぅっ!!」
田中「ふぐもが!?」
来夏「あっはっは。シューズ食べるなんて、気持ち悪い趣味だね」
和奏「変態」 ゴスッ
田中「ふぐぐっ!」
紗羽「……なに、その反抗的な目は」 グリグリ
田中「うぐぐ……」
来夏「……あれ? あれあれ? ちょっと紗羽、見てよ」
紗羽「ん? ……うっわ。引くわー」
和奏「どうしたの?」
来夏「ほら、ここ。膨れ上がってる」
和奏「うわぁ……女子三人に殴られて興奮してるってこと?」
紗羽「筋金入りの変態じゃん。キモイ!」 ドカッ!
田中「ふぐっ!? う……」
ドサッ
紗羽「股間蹴り上げられて昇天した、の間違いじゃないの?」
和奏「クズだね」
紗羽「ま、こんなの放っておいて早く教室行こっか」
来夏「そうだね」
和奏「ふん……」
田中「……ぅぅ……」
ウィーン「さて、画面の前の諸君。何故、大智がこんなごほ……ンンッ!」
ウィーン「こんな拷問みたいなことを受けてるか、教えてほしいところだろう」
ウィーン「とはいっても、理由は簡単なんだ」
ウィーン「ここに、たまたま! 偶然! そう、紛れもなく自然の摂理がごとく!
まるで木の枝から離れたリンゴが、真下に落ちるように、当然のこととして!」
ウィーン「僕たち合唱部の拠点、音楽準備室に仕掛けたカメラがある」 バァz__ン!!
ウィーン「ちなみに仕掛けたのは僕だ。配置も存在も僕しか知らない」
ウィーン「そのカメラがたまッッたま、捉えたこのVTRを見て頂ければ、全て納得いくと思うんだ」
ウィーン「それは、ご覧いただこう」
ポチッ
――――数日前の音楽準備室
紗羽「あー、もう最悪ー!」
来夏「帰り際に通り雨なんて、聞いてないよー」
和奏「みんなビショビショだね」
来夏「ま、とりあえずは体操服に着替えようよ」
和奏「そうだね。寒いし」
プッ プッ ……シュルリ。パサッ
来夏「……毎度毎度思うけど」
紗羽「ん?」
来夏「紗羽、何を食べたらそんなに大きくなるの?」
紗羽「はぁっ!?」
和奏「確かに……大きいよね。かなり」
紗羽「わ、和奏も結構じゃない?」
来夏「いいや。紗羽の場合は、全てが出過ぎ! お腹以外!」
和奏「不公平だよね」
紗羽「って言われても……」
来夏「ちょっとぐらい頂戴よー!」
紗羽「んな無茶な!」
紗羽「へっ!?」
来夏「和奏ナイス! それだよ。ほれほれ、ちょっとよこしなさーい!」
紗羽「ちょ、ちょっと二人とも……」
ガラッ
田中「はー。ひっでー雨だぜ、ったく……」 カチャカチャ
紗羽「え?」
来夏「ん?」
和奏「は?」
田中「…………あ」
田中「わ、悪い!」
ズルッ!
田中(うおっ!?)
ズッデーーン!!
田中「いっ!?」
来夏「……」
紗羽「……」
和奏「……」
田中「……えっと……その……」
雨に濡れた田中は着替えようと、替えのシャツが置いてある音楽準備室に足を運んだ。
もちろん、下校時刻ギリギリなので校舎内には誰もないと踏んでいる。
肌にくっつく衣服と一刻も早くおさらばしたくて、ベルトを外しながら戸を開けた。
しかし、残念なことに。
運命的に、自動的に、物語のストーリー的に、彼は着替え中の女子三人と鉢合わせてしまったのだ。
もちろん、紳士な田中は慌てて部屋を後にしようとする。
だが、それは叶わない。
結城の性を持つ某主人公のような、あまりにもあり得ない物理法則がその場に働く。
脱ぎかけのズボンに足を引っかけた田中は、足を滑らせて三人の所へ身体ごとに突っ込んでしまう。
その際、和奏の足をひっかけ転ばせ、来夏のブラジャーを右の指に通し抜き去り、紗羽の谷間へ挟むように左手を突っ込んだ。
そう。今、田中は……! 田中大智は!!
和奏の股間に顔をつっこみ、来夏のブラを握り締めつつ、紗羽の豊満な胸部脂肪(おっぱい)を手のひらに包んでいるのだッ!
どんな動きをすればそうなるのか。そこは触れてはいけない。
田中「は、はい!!」
和奏「ぁんっ!?」
紗羽「……これはもう、擁護のしようがないよね」
田中「い、いや。これは偶然だから! 事故だ事故!!」
和奏「ふぁ……! ちょっ……田中、しゃべらな……んんっ!!」
紗羽「いいから。ちょっと顔をどけて」
田中「はい……」 モゾッ
紗羽「ひゃっ!? な、何どさくさに紛れて胸揉んでんの!? さいてー!」
田中「だ、だってこうしねーと動けないだろ!!」
来夏「とか言いつつ、あたしのブラを握り締めないでくれる?」
田中「違うって!」
田中「は、はい!」
紗羽「正座」
田中「はい」
来夏「ブラ返して」
田中「あ、はい」
和奏「ん……。」 モジモジ
紗羽「さて」
田中「はい」
紗羽「言い訳は聞かない。手段は問題じゃないから。
とにかく、わたし達にとんでもないことをしたという結果だけがあればいいの」
田中「はい」
紗羽「そうだね。例えば、このことを学校に言ったら……田中どうなる?」
和奏「普通に考えれば、停学ぐらいにはなるよね」
紗羽「うん。で、田中って、確かこの前バドミントンの推薦受けてたでしょ?」
田中「はい」
紗羽「ま、それも間違いなく取り消しだよね」
田中「そっ、それは困る!」
紗羽「喋るな」
田中「はい」
紗羽「……ねえ、田中」
田中「……」
紗羽「返事ぐらいしなさい」
田中「はい」
田中「え?」
紗羽「一応ね、偶然性は認められないこともないからさ。すこーしは、可哀相だと思う気持ちあるんだよね」
田中「じゃ、じゃあ!」 パッ
紗羽「何喜んでんの? 許してあげるとは言ってないんだけど」 クスッ
田中「はい」
紗羽「……うん。決めた」
紗羽「田中、しばらくわたし達の奴隷ね」
田中「え」
来夏「つまり、体よく使っていいってこと?」
紗羽「うん」
和奏「例えば、夜中に起きて喉乾いたから水を持ってこいとか頼んで良いの?」
紗羽「うん。とにかく気のすむまでは、それだから」
田中「そんな……」
ウィーン「と、言うわけなんだ。わかったかな?」
ウィーン「事故の贖罪としては重い気もするよね。
大智も少し気の毒だが、彼は基本的にMなところがあるからね。むしろ良いと思う」
ウィーン「勝手に事情を知っている僕は、安全圏でのんびりジュースでも飲みながら観察させてもらうよ。ははっ」
ウィーン「あ、ちなみに、このVTRは僕のお宝コレクションになっている。良いだろう? あげないよ」
ウィーン「では、大智のうらやま……重罰を引き続きご覧ください」
――――放課後の音楽準備室
紗羽「あー、肩こった」
田中「……」
田中「いてっ」 ビシッ
紗羽「肩がこったって言ってるでしょ」
田中「はい」(ペン投げなくても……)
モミモミ トントン モミモミ
紗羽「……田中」
田中「はい」
紗羽「手つきがヤラシイ。やっぱやめて」
田中「なっ!?」
紗羽「もういいから。どっかいって」
田中「……はい」
ウィーン(さりげなく女子の柔肌に触れられるなんて、羨ましいよ大智!)
ウィーン(……次におまえは「ウィーン居たのかよ」と考える)
田中「はい」
来夏「ジュースこぼしちゃったから、片付けといて」
田中「はい」
田中(えっと、雑巾雑巾……)
来夏「何してんの?」
田中「え?」
ガシッ ベチャッ
来夏「早く掃除してよ。舐めとってさ」 グリグリ
田中「うぐぐ……」
ウィーン(足蹴にされているが、あの角度は間違いなくスカートの中が見えているはず!
来夏はいかんせん身長が低すぎるせいで、パンチラチャンスが異様に少ない!
それを! それを! くぅう! 何色なんだい!? 後で教えてね、大智!)
田中「ふぁい」
和奏「終わったら、ドラに餌あげといて」
田中「え。じゃあ、坂……和奏さまの家に?」
和奏「良かったら、ついでにうちでご飯食べてく?」
田中「え、いいのか?」
和奏「ま、ドラと同じものだけど。一緒に部屋の掃除もお願いね」
田中「……」
ウィーン(といいつつ、和奏の部屋に合法的に入れるだなんて!
下着は僕のと合わせて2セット奪っておいてね!)
田中にとって、こんな毎日が続いていた。
田中「あー……疲れた」 ボスッ
田中(……何させられたっけ、今日は)
田中(今日の朝の迎えは坂井で……荷物持たされて、一緒に登校)
田中(学校ついたら、沖田の宿題見てやって)
田中(宮本に購買でパン買わされて……食べ残し渡されて……)
田中(ああ、食堂の席取りもさせられたな……)
田中(沖田が手を使うの面倒だからって、飯を食べさせたり)
田中(もういらないって、坂井に飲みかけのジュースを、無理やり口に放り込まれたり)
田中(放課後は、荷物持ちって女子三人と買い物に連れていかされたり……)
田中(その後は喫茶店……。あんまり好きでもねーケーキ買って食わされたり……)
田中「散々だ……」
田中(なんで、俺ばっかり……)
田中(そりゃ、不用意な俺も悪かったけど……)
田中(……負けっぱなしってのも、癪だしな)
田中「…………」
田中(……やり返すか)
田中(そろそろ、いい加減に許されてもいいはずだ)
田中(待ってろよ……!)
―――― 一方で、喫茶店に残った三人
紗羽「……もう田中、家に着いたかな?」
和奏「ちゃんと帰れたかな?」
紗羽「大丈夫でしょ、身体だけは丈夫そうだし」
来夏「そっか」
和奏「……ところで、いつ許してあげるの?」
来夏「んー……なんか、タイミング逃しちゃった感じするよね」
紗羽「ホントは、もうそこまで怒ってないんだけどね」
和奏「私、いい加減可哀相になってきちゃったんだけど……」
来夏「あたしもー。最初はなんか良い様に使えて面白かったんだけど」
紗羽「なんだかんだ言って、色々と付き合いあったからねぇ……」
和奏「明日からは、もう普通にしてあげない?」
来夏「そうだね。今さら謝るもなんだか恥ずかしいし、普通にするだけで良いよね」
紗羽「うん。そうしよっか」
田中(今日の迎えは宮本だ。さっそく何かしらやってやる……!) グッ!
来夏「おはよー、田中」
田中(……あれ、なんか……普通?)
来夏「? どしたの? 早く行こうよ」
田中「あ、ああ」
来夏(……普通に普通に)
田中(敬語じゃなくても、別に怒らないのか)
来夏「最近、合唱練習も大変だよねー」
田中「ああ」
来夏「歌う時に踏ん張るのって、意外と大変でさー。もー、最近足がパンパンになっちゃって」
田中(……これだ!)
来夏「へ?」
田中「疲れているのでしたら、どうぞこちらへ!」 ビシィッ
来夏「こちらへ、って……背中? おんぶってこと?」
田中「ええ、来夏さまの御身足を疲れさせるわけにはいきませんので!」 キリリッ
来夏「い、いや。この年でおんぶはちょっと……」
田中「御気になさらず!」 ハクシンッ!
来夏(……んー……まぁ、これぐらいは良っか。やりたいって言ってるんだし……)
来夏「じゃあ、お願い」
田中「はっ!」 サッ
グイッ
来夏(わわっ、思ったより高い!)
田中「じゃ、行くぞ。ちゃんと掴まってろよ」
来夏「う、うん」
来夏「……」
田中「……」
ヒソヒソヒソヒソ
来夏(うっわああああ!! なんか、すっごいみんなが見てるぅうう!!
そりゃそーだよねぇ! 制服着た男女が早朝からおんぶで登校とか、ありえないもん!)
田中(ははは!! すっげえみんなが見てるぜ!! 恥ずかしかろう、宮本!
こういうのは、する方よりされる方のが目立つんだよ!!)
来夏「あ、あの……田中。もう、いいから」
田中(なに? まだまだ足りないぞ俺は。)
田中「気にするなって。これぐらい。大事な部長が、ここで倒れられても困るしさ」
来夏「田中……」
田中「だから、安心しろよ」 ニコッ
来夏「う、うん」
来夏(もしかして、本当に気遣ってくれてるのかな……?)
田中(くくく。宮本の真っ赤な顔……作戦は大成功みてえだな!)
来夏(まさか電車内でもおんぶとは思わなかった……)
田中(他の生徒にもこれで存分にアピールできただろう。へへっ)
来夏「……ありがとね。田中」
田中「え? あ、お、おう」(お礼? 何で?)
来夏「そ、それじゃ!」
タタタタ……
来夏(あー。なんかすっごい心臓ドキドキしてる。恥ずかしかったから……だよね。うん)
田中(……今になって恥ずかしくなったか? まぁいいさ。なら効果は十分だし)
田中(さて、次は……)
――――昼食時、食堂にて
和奏(お昼、どうしようかな……。さっき来夏にお菓子貰っちゃって、お腹空いてないんだよね)
田中「……ん? 坂井、飯はどうしたんだ?」
和奏「え? ああ、今日あんまりお腹空いてなくて」
田中(……これは、前の沖田と同じパターンか? ってことは、坂井のやつ、ダイエットしてると見た)
田中(させねーぞ、そんなことは! わざわざ、こうやって食堂で席確保してんだ! 無駄にはしねえ!)
田中「もしかして、体調悪いのか?」
和奏「ううん。本当に大丈夫だから」
田中「いや、大丈夫じゃねーよ。飯食えないって、結構重大な問題だろ?」
和奏「そんな大げさな……」
田中「大げさじゃない。……あー、よし。今日は俺が奢ってやるからさ、ちゃんと飯食えよ?」
和奏「え? そんな、良いよ!」(だから、食べられないってば!)
田中「……坂井。よく聞いてくれ」
和奏「へ?」
和奏「そ、そうなの?」
田中「だって、合唱なんて今まで中学校のコンクールでしかやったことねーし。
本気で取り組んでた人の指導なんて、受けたこともないからさ」
田中「素人相手にも、ちゃんと面倒見てくれるのがさ、すげー嬉しかったんだ」
和奏「……」
田中「だから、そんな大事な部員が、今ここで体調崩されたら困るんだよ! 俺だけじゃない、みんなだって!」
田中「……もう、沖田の時みてーに。一人で抱え込んでほしくねーんだ」
和奏「……そうだね」
田中「体調管理も、立派な部活動の一つだぜ? なんなら、俺が調整メニューでも考えてやろうか?」
和奏「い、いいよ。別に」
和奏「……うん」
タッ
田中(かかったな! 消化に良いもんってのは、総じてカロリーが高い!)
田中(坂井、お前のダイエットは今ここでおしまいだ! はっはっは!)
和奏(あんな真面目に、私のこと考えてくれるなんて……)
和奏(田中って意外と……)
――――放課後、音楽準備室
ガラッ
田中「……あれ、沖田だけか?」
田中「ウィーンは補修だし……。まぁ、待ってりゃ来るだろ」
紗羽「そうだね」
田中(……願ってもいないチャンス! 誰にも気づかれずに、沖田に復讐ができるじゃねーか!)
田中(何をしてやろーかなー。このじゃじゃ馬によぉー!)
紗羽「……」 パラリ
田中(……と思ったけど、ここじゃあんまり動きもねーしな……)
田中(……どうすっか。チャンスを無駄にするわけにはいかねーし……)
田中(何もないなら、何かアクションを起こせばいいだけか)
田中(……さっきから読んでる本は……英語か)
田中(英語じゃうまく釣れるもんも釣れねーしなぁ……)
田中(……まー、何かしてみっか)
紗羽「んー?」
田中「英語やってんのか?」
紗羽「うん。ちょっとね。不安だから」
田中「そっか」
紗羽「うん」
田中「……じゃ、ここでクイズだ」
紗羽「え?」
田中「この○の中に文字を入れて、読んでください……っと」カキカキ
田中「ほい」
『S○X』
紗羽(……英語覚えたての中学生か)
紗羽「田中」
田中「はい」
紗羽「キモイ」
田中「あ、アイドントキモイ!」
紗羽「邪魔しないでくれる」
田中「はい」
紗羽「……」 パラリ
田中(うーん。流石に幼稚だったかな……)
田中(というか、宮本も坂井もそうだったけど。なんか昨日までより、全然いつも通りだ)
田中(敬語つかわなくても怒らないし……普通に会話してるし……)
田中(もしかして俺、許されたのか?)
田中(さて、じゃあどうするか……)
田中(……あ、あれは、ウィーンの小道具か)
田中(よし!)
田中「なあ、沖田」
紗羽「ん。」
田中「そういえば、ウィーンにさ。小道具出しておいてくれ、って頼まれてんだ」(嘘だけど)
紗羽「うん」
田中「あいつなら届くんだけど、俺じゃ届かないからさ。手伝ってくれねえか?」
紗羽「……どれ?」 パタン
田中(よし、かかった!)
田中「あの棚の上。俺、椅子支えてやっから、沖田が取ってくれねーか?」
田中「俺たちそこまで身長もかわらねーし。だったら、下を支えるのは、力のある男の方がいいと思ってさ」
紗羽「……まあいいけど」
田中「悪いな」
ガタガタ ガタン スッ
紗羽「えっと、これー?」 ガサゴソ
田中「ああ。それと、もう少し奥にも入ってないか?」
紗羽「奥ー?」
田中「似たような箱があるはずなんだけど」
紗羽「えー? 箱ー? どこだろ……」
田中(ま、そんなのあるわけないけどな。そのまま覗き込んでてくれよ)
田中(その間に、俺はお前のスカートの中を覗き込んでやる) ソー……
紗羽(……あれ、もしかしてこの体勢だとスカートの中見えちゃう……?)
紗羽「!」 ピクリッ
田中(まずい! 気づかれた!?)
紗羽「田中、絶対上見ないで」 バッ!
グラッ
紗羽「よっ……?」
田中「沖田!?」
紗羽「ふわぁ!?」
田中「くっ!」 ガバッ!
紗羽「え?」
ガシッ!
ドッシャーン!!
紗羽「……た、田中……?」
田中「……痛つ……」
紗羽「だ、大丈夫?」
田中「……っと……。ふぅ。そりゃこっちのセリフだ。ケガ、ないか?」
紗羽「う、うん。ちょっとすりむいちゃったけど……。田中は?」
田中「別に大したことねーよ。思ったより、お前軽かったしな。抱きかかえても余裕だったし」
紗羽「なっ……」
田中「立てるか?」 スッ
紗羽「……ありがと」 グッ
田中(あぶねー。ケガさせるつもりはなかったんだけど……)
田中(お、怒ってる……か?) チラリ
紗羽「……」 ジーッ
田中(ああー。あの眼は間違いなく怒ってる! やべぇ……)
紗羽(あー! 今ここで全部、謝っちゃいたい!)
紗羽(ところなんだけど……)
ガラッ
来夏「おいーっす。遅れてごめんねー!」
和奏「あれ、どうしたの。田中も紗羽も。ケガしてるけど」
田中「ああ……これは……その……」
紗羽「田中がさ、ウィーンの小道具取れっていうから、椅子持ち任せてたんだけど」
紗羽「全然頼りにならなくって、バランス崩して落ちちゃったんだよね」
(そこを抱きかかえて、守ってくれたけど)
田中「悪い……」
来夏「ふーん」
紗羽「……でさ、ちょっと二人に提案なんだけど」
和奏「なに?」
紗羽「田中の奴隷期間……延長しない?」
来夏「え? ……ああ。うん。いいね!」
和奏「う、うん。実は、私もそれを後で言おうかな、って思ってて」
紗羽「なーんだ。みんな良いなら、文句ないよね? た・な・か?」
田中「……うぅ。わかったよ……」(今回は、俺にも非はあるしな)
和奏「じゃ、さっそく。今日は一緒にボイストレーニングね」
田中「え?」
来夏「あ、ちょっと和奏。今日はあたしが指導する日なの! 朝、そう決めたよね?」
田中「えっと……」
紗羽「その前に、このケガどうしてくれんの? ちゃんと責任取ってくれるんだよね?」
田中「その……あー、もう!」
田中「わかったから。全部つきあってやっから。順番に頼む!」(もうどうにでもなれ!)
和奏・来夏・紗羽「「「はーい♪」」」
<ちょっ、宮本ひっぱんなって!
<田中はこっち!
<坂井? なんで正座して、おいでおいでしてんの? それ関係なくね?
<なんかココも打ったみたいだから、手当お願い、田中
<ちょっ、沖田!? なんで制服脱いでんだ!?
<田中―
<田中?
<田中ぁ!
<アーモウ……ホントニ……
<ワイワイ キャーキャー
<……
――――
――
―
――
――――
「……ふぅ」
「やあ、みんな」
「設置したカメラを取りにこようとして、イチャコラ空間にうっかり入りこみそうになった……」
ウィーン「僕だよ!」 キラッ☆
ウィーン「まさか、こんなことになるなんて……まったく、大智は幸せものだね」
ウィーン「邪魔するのもアレだし。今日は帰るとするよ。前田敦博はクールに去るぜ」
<わ、わざとじゃねーって!
<良いから、早くこっち来てよー
<はいはい……。
ウィーン「…………」
パカッ
カチカチ
プルルル
ガチャ
ウィーン「あ、もしもし。田中家のを使って、壁殴り代行をお願いします」
おしまい
Entry ⇒ 2012.10.16 | Category ⇒ 版権物SS | Comments (0) | Trackbacks (0)
#
マミ「ティロ・フィナーレ!!」
ドォォォ――――ン!!!
まどか「あっ、あっ」
さやか「あぁ!」
脱皮し、マミを喰らおうとする『お菓子の魔女』。
マミ「!!」
ドゴォォォ――――!!!
お菓子の魔女を貫く光。爆発する魔女。
まどか「な、何?今の…光みたいな…」
さやか「魔女から出てきた、魔女を…貫いた」
マミ「…何がどうなってるの…?」
コブラ「危なかったな、お嬢ちゃん。もう少しでその可愛い顔にギザギザの傷がつくとこだったぜ」
さやか「ヒューッ!」
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1342537441
―― その少し前 ――
コブラ「どうだ、レディ。タートル号の調子は」
レディ「あまり良くないわね。この地帯を抜ける程度は出来るでしょうけど、次の星ですぐ整備に入らないと…」
コブラ「ったく、なんだって急に不調になんかなりやがるんだ」
レディ「原因は分からないわ。ブースター、反加速装置、シールド…全て異常は無いみたいなのだけれど、どうもスピードがフラついて落ち着きがないのよ」
コブラ「じゃじゃ馬め。人参でもやれば落ち着くか?」
レディ「それで直れば苦労はしないわね。とにかく、出来るだけ急いでみるわ」
コブラ「頼むぜ、レディ。それまで俺は… …ふぁぁ、一眠りしておく」
レディ「分かったわ。… … …!!あれは!?」
コブラ「!?どうした?」
タートル号の目の前に突如現れるブラックホール。
レディ「ブラックホール!?そんな…予兆もなく突然現れるなんて!」
コブラ「おいおい、タートル号の不調の次はブラックホールときたか!?俺はまだ厄年じゃないんだぜ、チクショー!」
レディ「シールド全開!加速でどうにか突っ切って…!… …ダメ!飲み込まれるわ!!」
コブラ「どわぁぁぁ―――!!」
ブラックホールに飲み込まれ、コントロールを失いながら闇に沈んでいくタートル号。
レディ「コブラ… コブラ!!」
コブラ「…っ! …くぅー、痛ててて…」
レディ「大丈夫?怪我はない?」
コブラ「しこたま頭をぶつけたくらいだよ。…ったく、危うく三度目の記憶喪失になりかけたぜ」
レディ「良かったわ。…どうやら、無事みたいね私達」
コブラ「ああ。…タンコブが痛いのを見るに、どうも生きているらしい。…にしても…どこだ、ここは?」
レディ「…座標に無い場所ね。計器は正常に動いているみたいだけれど…」
コブラ「…!おいおい…なんだ、こりゃあ…」
タートル号の周りに広がるお菓子の山。そこを彷徨うようにうろつく、ボールのような一つ目の怪物達。
コブラ「どうやら俺達はヘンゼルとグレーテルになっちまったみたいだぜ。レディ、パンでも千切ってくれ」
レディ「それじゃあ元の場所に帰れないでしょ。…駄目、タートル号のデータベースでもこの場所の情報は見つからないわ」
コブラ「そんな馬鹿な!ありとあらゆる情報がこの船のデータベースには詰まってるはず…!… … …なァんだ、ありゃあ?」
タートル号から少し離れた場所で、死闘を繰り広げるマミとお菓子の魔女。
マミの銃撃が次々と巨大な人形のような怪物にに炸裂していく。
コブラ「…レディ、俺はどうもヘンゼルとグレーテルの話を間違えてたらしいぜ。どうも、グレーテルはスカートから銃を出して、そいつで魔女を倒す話だったらしい」
コブラ「まったくだ。記憶喪失より性質が悪いぜ。これが夢じゃないときてる」
レディ「…でも…少し危ないわね。あの子の闘い方」
コブラ「…ああ。何かが吹っ切れたように闘ってる。あれじゃあ…」
言いながら、コクピットを出て行こうとするコブラ。
レディ「!どこに行くの、コブラ」
コブラ「俺のこういう時の勘は鋭いんだよ。特に美女が野獣に喰われそうな時はね」
タートル号から出て、その様子を伺う。
マミのティロ・フィナーレを喰らい、脱皮をしてマミに襲い掛かるお菓子の魔女。
その瞬間、コブラは左腕のサイコガンを抜く。
コブラ「危なかったな、お嬢ちゃん。もう少しでその可愛い顔にギザギザの傷がつくとこだったぜ」
さやか「ヒューッ!」
まどか「え、どうしたのさやかちゃん」
さやか「いや、なんか言わないといけない気がして」
まどか「なにそれこわい」
コブラ「怪我はないかい?」
マミ「え、あ、ハイ…。…有難うございました…」
コブラ「そりゃあ良かった。俺が来るのが遅けりゃ、アンタ死んでたかもしれないからな」
マミ「そ、そうでしたね…本当に…」
QB「…」
まどか「ねぇ、キュウべぇ。あの人も魔法少女…?」
さやか「いや、どう見ても少女じゃないでしょアレ」
まどか「魔法中年…?」
さやか「ちょ、ま」
QB「いや、分からないね。ボクでも、彼が誰なのか見当がつかないよ。魔法少女でもなく、結界の中に入れて、しかも一撃で魔女を倒せる人間なんて」
コブラ「…!おおっと、俺とした事が。他に2人も淑女がいた事に気付かなかったぜ。…うん?」
まどか「あ、あの…その… … 初めまして」
さやか「ねぇねぇ、さっきのビーム、どっからどうやって出たの!?あれもやっぱり魔法!?」
コブラ「あー、俺はその、魔法ってのはどうも苦手でね。… … …」
QB「…」
その時、結界が解けて全員が元の病院前に戻る。
コブラ「…!!なんだなんだ!?どうなってるんだ!?」
マミ「結界が解けたのよ。…ひょっとして、それも分からないのに結界の中に入ってこれたの?」
コブラ「…まぁ、成行きでちょっと。ところで御嬢さん方にお聞きしたいんだけどね、ここは一体どこなんだ?」
さやか「見滝原だけど」
コブラ「ミタキハラ星?聞いたことないな」
さやか「いや、町、町。なに、おじさん、宇宙人?」
コブラ「おじさんは止してくれよ。アンタ達からならそう見えるかもしれんがね、こう見えてハートは繊細なんだ」
まどか「ティヒヒヒ」
マミ「…訳が分からないけれど、とりあえず私の家でお茶にしましょうか?…もちろん、貴方も一緒に、ね」
コブラ「お、嬉しいねぇ。美女からお茶のお誘い」
ほむら「おい」
――― 巴マミ家。
まどか「ジョー…ギリアン、さん?」
コブラ「そ、いい名前だろ。サインだったらいつでも書くぜ」
さやか「(っていうか…日本人じゃないよね、どう考えてもその名前…)」
コブラ「…まぁ、俺の事はどうでもいい。おたくらの事を色々聞きたいんだが…さっきの場所といい、あの戦いといい、一体どうなってたんだ?」
ほむら「…本当に何も知らないのね。魔女の事も、結界の事も…魔法少女の事も」
コブラ「魔法少女…?」
マミ「私から説明するわ」
コブラに魔法少女、魔女との戦い、戦い続けるワケを全て教えるマミ。
さやか「ちょっ、そこまで教えちゃっていいの?マミさん」
マミ「あの戦いを見た以上、隠し通せるわけないし…それに、命の恩人だもの。何も教えずにいるのはこちらとしても失礼だと思うわ。…でしょ?キュウべぇ」
QB「ボクからは特に意見はないよ。さやかとまどか、魔法少女でない人間が2人見学に来ていたのだから、今更1人増えたところで何も変わらないしね」
マミ「…少なくとも、私の運命は変わっていたと思うの。ジョーさんが助けてくれなければ…本当にあのまま、頭を喰いちぎられていてもおかしくなかったもの」
QB「…」
マミ「私もまだまだ、魔法少女としてツメが甘いのかもね。どこか浮かれながら戦っていたのかもしれない」
ほむら「… … …」
マミ「貴方も、ごめんなさい。帰りにちゃんと解放するって約束したのに、すっかり忘れちゃってて☆」テヘペロ
ほむら(…絶対わざとね、巴マミ)
さやか「にしても…転校生、どういう風の吹き回しよ。一緒にマミさんの家で話がしたい、だなんて」
まどか「…きっと、これから一緒に戦おう、って言いに来てくれたんだよね?ほむらちゃん」
ほむら「…勘違いしないで。そんな気はないわ」
まどか「ぅ…ご、ごめん…」
マミ「あら、それじゃ一体どうしてかしら?」
ほむら「… … …」
コブラ「…ん?」
ほむら(なんなの、この世界は…)
ほむら(今まで巡ってきたどの時間軸の中にも、こんな男が現れる事はなかった)
ほむら(魔法少女では有り得ない、けれど…魔女を倒す程の力を秘めた存在…)
ほむら(…インキュベーターの何かしらの陰謀…?分からない…。…ここは、この男の様子をしばらく観察するしかない)
コブラ「… … …美人に見つめられるのは結構だがね。そう凄まないで、もうちょっと優しく潤んだ目で見て欲しいもんだ」
ほむら「…くっ!」
ほむら(なんなの、コイツ…!本当に読めない…!)
まどか「あはは、ほむらちゃん、照れてるー」
ほむら「!ちっ、違うわッ!」
マミ「あら…うふふ」ニコニコ
さやか「ははは、なぁんだ。転校生でも顔赤くする事あるんだ」ニヤニヤ
ほむら「」
コブラ「しかし信じ難いねぇ。おたくらみたいなか弱い少女があんな化け物と常日頃から戦ってる、なんてのは…。まぁ実際に見たんで信じないわけにもいかないが」
マミ「…説明して納得できるものでもないから、ああして鹿目さんや美樹さんに見学をしてもらっていたのだけれど…ツアー参加者が増えるのは予想外だわ」
コブラ「いやホント、良い物が見物できたよ。お捻りあげたいくらいだね」
マミ「それで…2人はどう?これで見学ツアーは終わりにするつもりだけれど…決心はついた?」
さやか「…」
まどか「…」
マミ「これ以上、生身の身体で戦いの傍にいるのは危険だと思うわ。…決断を急かすわけじゃないけれど、何より貴方達が心配なの」
まどか「…わたしは…マミさんと一緒に戦う、って…そう、決めたから…!」
ほむら「安易な決断はしないでと忠告したはずよ、まどか」
まどか「でもっ!マミさんが…マミさんが!」
マミ「…有難う。でもね、鹿目さん。何度も言うように魔法少女になるのにはとても危険な事なの。…私のためだけに、魔法少女になるという答えを出すのは止めてちょうだい」
まどか「で、でもっ!マミさん、戦うの怖くて、寂しくて、辛いって…だから、わたし、一緒に…!」
マミ「だからこそよ。…美樹さんにも言ったのだけれど…誰かのために願いを叶えるというのは、きっとこれから先、後悔する事になるわ」
まどか「…」
さやか「…」
マミ「だから、後悔なんて絶対にしない、魔法少女になって戦い続けられる…その心に揺らぎが無くなった時に、決めてほしいのよ」
マミ「…鹿目さん。私は、貴方達が戦いに加わろうと、加わらなかろうと…こうしてお友達としていれれば、それだけで…何よりも心強いのよ。それだけは言っておくわ」
ほむら「…。鹿目まどか、何度も言うけれど…私の忠告、忘れないでね」ガタッ
まどか「… … …うん。分かってる。…ありがとう、ほむらちゃん」
マミ「あら、もうお帰り?」
ほむら「ええ」
マミ「…今日は、貴方を縛ったままにしておいてごめんなさい。でも、私少し…貴方の事、信じられるかもしれない」
ほむら「… … …」
マミ「グリーフシードの奪い合いじゃない…貴方の行動には、何か信念のようなものを感じるの。…私の勝手な勘だけれどね」
ほむら「…私も、無益な戦いはしたくないわ。…それだけは言っておく」
マミ「そう…良かった」
ほむら「…お茶、御馳走様…」バタン
さやか「… … …」
さやか「デレたよ!ついにデレたよあの子!鉄壁の牙城にヒビが入ったよ!」
まどか「ちょ、さやかちゃん、声大きい…!」
コブラ「…若いってのはいいねぇ、どうも」
マミ「それじゃあ…別の話をしましょう。私達の事はおしまい。ジョー…さん。次は貴方の話を聞かせてくれる?」
コブラ「…そうだなぁ、マティーニでも飲みながらじっくり語りたいところだが…生憎この部屋には無さそうだし、仕方ないな」
コブラ「俺は…まぁ、しがないサラリーマンでね。宇宙観光の最中に突然謎のブラックホールに飲み込まれて…気が付いたらあのザマだ。マミが華麗に戦ってるところにお邪魔したってワケさ」
まどか「うちゅー…かんこう…?」
コブラ「ああ」
さやか「え、え?その、単なるしがないサラリーマンなのに、宇宙船に乗ってたってわけ?」
コブラ「まぁ、そこまで薄給でもないんでね。宇宙船の1隻くらいは奮発して持っていて、それでちょぃとした旅行に」
まどか・さやか・マミ・QB「… … …」
コブラ「…俺、何か変な事言っちまったかな」
さやか「え、えぇと…どこまで信じればいいのかな…?!正直、全部が嘘っぱちにしか思えないし…ま、まぁ、とにかく…本当に結界の中に入った理由は分からないんだよね?」
コブラ「そういう事。ここがどこの星かも分からないザマだよ。参った参った」
まどか・さやか・マミ・QB「… … …」
コブラ「…どうも俺は、会話教室に通ったほうがいいみたいだな」
コブラ「地球!?日本!?ここがか!?」
さやか「…本気でビックリしてるよ、この人…」
コブラ(この子らの反応を見るに、この星には星間交流の概念が無いようだが…ここが地球だってぇ!?俺の知っている地球とは随分違うぜ)
コブラ(見たところ、文明はかなり遅れて…いや、俺からすれば太古と言うに近いな、ここは)
コブラ(あのブラックホールの先は…過去の時代へと続いていたのか?…いや、それとも、この場所は…)
マミ「でも…仮にジョーさんが宇宙人だとすれば、あの魔女を倒した謎の攻撃にも何となく納得できるわ」
さやか「そうそう、アレ!あのレーザーみたいな光。どっから出てきたの?」
コブラ「あ、いやぁ魔法が苦手ってのは実は嘘でね。俺もちょっとした魔法みたいなものが使えるんだ。こう、念じて、ドバァーっ、と」
まどか「え、じゃあ本当に…契約して魔法を?」
QB「それは違うね。ボクの見る限り、彼はソウルジェムを持っていない。信じ難いけれど、生身の人間のようだ」
コブラ「そういう事。察しがいいね、そこの宇宙人は」
QB「!?」
まどか「ティヒヒ、ジョーさん。キュウべぇは宇宙人じゃないよ。…わたしにもよく分かんないけど」
コブラ「…へ?そうなの?」
QB「…」
マミ「それじゃあ、元いた世界と、今いる私達の世界、見滝原…ジョーさんは全く違う世界にきてしまったという事?」
コブラ「どうもそうらしい。しかも帰る方法が分からないときてるし、いやぁ参ったよ」
さやか「魔法少女の話の次は別世界からきた人、かぁ…。あははは、もうあたしチンプンカンプン」
マミ「…繰り返すようだけど、キュウべぇは本当にこの事については関与していないわけね」
QB「もちろん。わけがわからないのはボクも同じさ。ジョーの言う事が全て嘘とは思えないのも同意見だね」
コブラ(ブラックホールがレーダーにも反応せず、突然タートル号の前に現れるなんてのは明らかに不自然だった。あれは…誰かが俺をこの世界に呼び寄せるための意図だ。…誰かが俺を、ここに来させた)
まどか「それじゃあ、住む場所も無いわけですよね?…どうするんですか、これから」
コブラ「ん?あぁ、まぁ適当に考えるさ。生粋の旅行好きでね、どこでも寝れるのが自慢なんだ」
さやか「いや、そういう事じゃなくて」
コブラ「分かってますって。それじゃあ、俺もアンタ方の言う『魔法使い』になってみようかね?」
マミ「え?」
コブラ「行くアテがあるわけでもない、帰る方法も分からない…ともなれば、願いを叶えられるという魔法少女さんの傍にくっついてるのが一番出口に近いと俺は思うんだ」
マミ「魔法少女になるという事?」
コブラ「止してくれよ。マミの服はとってもキュートだがね、俺があんなの着たら蕁麻疹が出ちまうよ」
まどか(…想像しちゃった)
コブラ「見滝原とか言ったか。しばらくはこの辺りをブラブラさせて貰いながら、アンタら魔法少女の様子を見せてもらうよ」
まどか「…本当に大丈夫なんですか?あの、私、お母さんとお父さんに話して泊めてもらうように…」
コブラ「気持ちは嬉しいがね。年頃の御嬢さんがこんな男を家に連れ込んだら水ぶっかけられて追い出されるのがオチだよ」
マミ「私の家でもいいのよ、一人暮らしだし」
QB「マミ、ボクもいるんだけど」
コブラ「大丈夫大丈夫、心配ご無用。散歩が好きなんだ、気ままにフラフラしてるさ」
さやか「あたし達も、ジョーさんが何か元の世界に帰る手がかりみたいなの見つけたら教えるよ」
コブラ「有難いねぇ。いいのか?さやかだって色々忙しいだろうに」
さやか「あたしは… …大丈夫。マミさんを助けてくれたんだ、何か恩返しをしたいのはあたしもまどかも同意見!でしょ?」
まどか「うん。今度はわたし達が助ける番だと思うし」
コブラ「助かるぜ。…それじゃ、一旦この辺で失礼させてもらうよ。また会おう」
マミ「…ありがとう、ジョーさん。また会いましょう」
コブラ「レディーが俺を必要とするのなら、宇宙の果てからでも飛んで来るさ」
――― マミのアパート、入口。
コブラ「…さてと」ピッ
コブラ「レディ、聞こえるか。今どこにいる?」
レディ「ええ、聞こえるわよコブラ。今はタートル号に乗って太陽系をぐるりと回っているところ。あの場所から現実世界に戻った瞬間に、タートル号で外宇宙に飛んでみたの。…本当に、あなたのいる場所は地球のようだわ」
コブラ「だろうな。それで、元の世界に帰れそうな方法はあるか?」
レディ「残念だけれど…分からないわ。この世界に飲み込まれたブラックホールを探してはいるんだけれど、探知は出来ない。そちらはどう?」
コブラ「こっちも手詰まり。黒幕も何も分かったもんじゃない。…もっとも、あのキュウべぇとかいう生物は怪しいとは思うがね」
レディ「それじゃあ、あの子達の周辺をしばらく監視するの?」
コブラ「そうする。俺の直感ではこの事件には何かしら、かの女達が関係している。それに、女の子の傍にいるのは悪い気はしないからな」
レディ「呆れた。 …コブラ、何点か教えておきたい事があるのだけど、いいかしら?」
コブラ「よろしくどーぞ」
レディ「まず、私達が最初に辿り着いたあの場所。かの女達が『結界』と呼ぶ場所ね。分析したのだけれど、あの場所は言っていたように、現実世界とは少し次元の異なる場所のようね」
レディ「難しい話はしないけど、私達のいた世界にも例のない、亜空間よ。あの場所に何かしら、私達が元に戻れるためのヒントが隠されているかもしれないわ」
コブラ「ああ。俺はそのヒントを探しに、ここに残ってみる。しかし、どうやったらあの空間に入る事ができるのかが分からない。レディ、何かいい方法はないか?」
レディ「あるわよ」
レディ「『結界』のデータをタートル号のコンピューターで分析出来たの。あの空間の一定のエネルギー…かの女達なら『魔力』と呼ぶ未知のエネルギーを解析して、こちらのレーダーで感知できるようにしておいたわ」
コブラ「ほー、流石レディ。仕事が早くて助かるぜ」
レディ「ただ、その空間に直接入る事は出来ないのよ。空間を断裂してその内部に侵入する方法は私でも分からない。可能ならば、その内部に入る能力を持った魔法少女の後をついていくのが得策でしょうけど…」
レディ「単身で貴方が結界に入る方法がないわけでもないの」
コブラ「興味深いね。聞かせてくれるかい?」
レディ「あの結界を『テント』と考えてくれれば分かりやすいわ。一度開いたテントの中には、入口が見つからない限り不可能よ。…ただし、テントを開く場所さえ分かれば、貴方は結界の中に単身で潜り込めるわ」
コブラ「…なるほど。確かマミの話じゃあ、『グリーフシード』ってヤツが孵化する瞬間に魔女が生まれ、同時に結界がその場所に生じると言うが…」
レディ「そのグリーフシードの発する魔力のエネルギーのデータを、タートル号にインプットしたわ。つまり貴方が結界を張り、孵化をする前にその場所に立ってさえいれば」
コブラ「俺も晴れて、テントの中で楽しくお食事出来るってわけか」
レディ「そういう事。私とタートル号はしばらく地球周辺の宙域でそちらの探知をするわ。貴方の周辺に魔力が探知でき次第、リストバンドに位置を送る事が可能よ」
コブラ「了解。助かるぜレディ」
レディ「でも…単身で戦うのは十分気を付けたほうがいいわ。あの魔女という怪物がどれほどの力を持つものか、未だ分からない点が多いから」
コブラ「分かってますよ。…魔女狩りはかの女達の専売特許だ。あんまりやりすぎないようにはするさ」
レディ「それと…もう一つ、これは関係がないかもしれないのだけど…伝えておきたい事があるの」
レディ「…貴方と私が見た魔法少女…巴マミと言ったかしら。あの子が例の化け物と戦っているところを、タートル号のモニターで分析してみて、分かった事があるの」
コブラ「分かった事?」
レディ「かの女の身体から、生体が発生させるエネルギーが探知できないの」
コブラ「!?どういう事だ!?」
レディ「私にも分からない。ただ、人間が本来発生させるべきエネルギーが、かの女の身体からは検知できなかった。…ある一部分を除いては」
コブラ「一部分…?」
レディ「右側頭部の髪飾りの留め具部分。唯一、生体エネルギーがこちらで探知できた場所よ」
コブラ「…ソウルジェム。かの女達が魔法少女になるために必要な道具と言っていたが…」
レディ「そのソウルジェムの発生させるエネルギーが、抜け殻の巴マミを動かしていた…と言っても過言ではないわ。まるで…マリオネットのように」
コブラ(どういう事だ…?あの宝石は魔力の源…契約の証、としかマミからは教えられなかった)
コブラ(かの女はこの事実を知っているのか?いや、隠し事をしている様子は無かったし、そんな大事な物だと知っているのなら余計に伝えなければいけない事だ。…まさか、知らないのか?)
コブラ(…キュウべぇ、とか言ってたか。あの野郎、やはり食えないヤツみたいだぜ)
コブラ(しかし、こいつはまだ俺の中に仕舞っておいた方がいいな。…いつか、分かる日はくる。いきなりそれを知っても混乱を招くだけだ)
コブラ(その事実を知る時まで…俺がソウルジェムを、かの女達を守ればいい。それだけだ)
レディ「報告は以上ってところかしら。何か質問は?」
コブラ「あー…一つ心配事があるんだがね、レディ」
レディ「何かしら?」
コブラ「この国の通貨さ。酒もメシも食えないんじゃあ、魔法使いどころか動けもしないぜ」
レディ「ああ、そうね。…ごめんなさい、通貨については私も調べられないわ。ただ、タートル号に換金していない金塊があるから、どうにか売り払えれば不自由はしないはずよ」
コブラ「おー、そうだったそうだった!やっぱり持っておくべきはデキる相棒と資産だね、ハハハ」
レディ「ふふふ。夜が更けて人目が無くなったら、一度地球に降りて必要な物を渡す事にしましょう。…それじゃあね、コブラ。十分気を付けて」
コブラ「了解。そっちもよろしく頼むぜ」ピッ
コブラ「さて…色々分かった事は多いが、何から始めるかねぇ」
葉巻に火をつけて、一服をするコブラ。
コブラ「…先は長そうだな。それじゃあまず…軽い運動でもしてきますか」
――― 一方、ほむらの家。
ほむら(私は…数えきれないほどの時間を、繰り返し、やり直してきた。その度…あの夜を越えられず、また同じ時間を巻き戻しをして…)
ほむら(巴マミ、美樹さやか、佐倉杏子…そして、私と、まどか)
ほむら(それぞれの時間に、それぞれの運命が存在し、違った展開を見せていた。…それでも、まどかを助けられる時間軸は、まだ見つからないのだけれど)
ほむら「…ジョー・ギリアン…」
ほむら(あんな男が存在する時間なんて、今まで一度も無かった。…私の存在を皆が覚えていないように、彼の事を知っている人物もいない。…インキュベーターでさえも知らないようだった)
ほむら(私と同じ…いいえ、彼自身、自分がこの世界に何故来たのかを知らないのだとすれば、完全なるイレギュラーの存在)
ほむら(この繰り返す時間の中に投じられた、一つの駒。…でも、それがどんな影響をもたらすのか未だに分からない)
ほむら(…巴マミは、あそこで死んでいてもおかしくなかった。彼の存在が、もし…魔法少女を救うために、運命を変えるために、あるのだとすれば…)
ほむら(この先…まどかと私の運命…『ワルプルギスの夜』も…)
ほむら「…倒せるというの?」
――― 見滝原から少し離れた場所。その結界内部。
結界内部は、さながら巨大な書物庫のようであった。幾つもの小さな本が飛び交い、交差する。その本達はどれも手足が生え、笑いながら飛んでいた。
その中央に佇む『辞典の魔女』は結界内の侵入者に攻撃を続けている。
自らのページを開き空間内に文字を具現化させ、弾丸のようにそれらを高速で目的に飛ばし、コブラを攻撃するのだった。
コブラ「どわぁぁっ!っと、っと!うひぃぃーっ!」
叫び声をあげながら結界内を駆けまわり、次々と繰り出される文字の弾丸を避けるコブラ。
コブラ「ったく、活字アレルギーになりそうだぜ!悪趣味な攻撃してくれちゃって」
言いながら左腕のサイコガンを抜き、膝をついた体勢で止まり、『辞典の魔女』へ向けて銃口を構える。
コブラ「さあ、撃ってきな。相手してやるよ」
辞典の魔女「!!」
止まった目標に向け、今まで以上の頻度で文字の弾丸を打ち続ける魔女。
ドォォォォ―――ッ!!
だがその攻撃の全てはサイコガンの連続放射で防がれ、それらを貫いた光は本体である辞典の魔女へと向かっていく。
辞典の魔女「!!!」
攻撃を受けたせいか、一瞬魔女の攻撃が怯み、動きが止まる。その隙にコブラはにぃ、と笑って立ち上がり、サイコガンに意識を集中した。
コブラ「喰らえーーーッ!!」
威力の高い、精神を集中させたサイコガンの一撃は辞典の魔女の瞳を貫く。
崩れるように地面に落ちていく巨大な本。その姿に背を向け、コブラは静かに左手の義手をつけた。
コブラ「っとぉ!」
魔女が倒れた事を現す結界の解除。元の世界に戻ったコブラの手にはグリーフシードが握られていた。
コブラ「こいつがグリーフシードか。…しかし、こいつ一つ手に入れるのにも相当苦労するもんだな、一筋縄じゃいかなそうだ」
手にしたグリーフシードを掌の上で転がしながら、呆れたように見つめる。
コブラ「それで…何か用かい。こそこそ隠れてないで出てきたらどうだ」
静かにそう言うコブラの後ろ。ビルの物陰から、ひょっこり姿を現すキュウべぇ。
QB「君の目的を知りたくてね。少し観察させてもらっていたのさ」
コブラ「そりゃ光栄だ。先生は今の戦いに、何点をつけてくれるのかな?」
QB「君は一体何者なんだい?契約もしていないのに魔女と戦う力を有する存在…。魔法少女である暁美ほむらもそうだけれど、君はそれ以上にイレギュラーな存在だね」
QB「何よりも、君は何故魔女を倒すんだい?ソウルジェムを持たない君にとっては、無意味そのものの行為であるはずだよ」
コブラ「…無意味ねぇ」
コブラ「…ソウルジェム、っていうのは願いを叶えてくれる魔法の宝石。そんな風にかの女達は思っているかもしれないが…」
コブラ「だが、このグリーフシード、ってヤツは…そんなメルヘンチックなもんじゃないね。あんな化け物の身体から出てくるんだからな」
QB「何が言いたいんだい?」
コブラ「俺は宝石にはちょいと五月蠅くってね。いやー、なかなかこのグリーフシードとソウルジェム…似ていると思ってさ」
QB「…」
コブラ「ひょっとしたらこいつを持っていたら俺の願いが叶って元の世界に戻れる手がかりになるかも…なぁーんてね」
QB「説明はマミから受けたはずだよ。グリーフシードはソウルジェムの穢れを吸い取る存在だと」
コブラ「分かってるよ。ま、折角この世界にきた記念だ。お土産の一つに貰っておこうと思ってさ」
QB「わけがわからないよ。君の存在は、暁美ほむら以上に理解不能だ」言いながら立ち去るキュウべぇ。
コブラ「…へっ」
葉巻を口から離し、紫煙を吐くコブラ。月を見上げながら、不適な笑みを浮かべる。
その顔には、どんな運命にも立ち向かう、自信のような感情が溢れていた。
―― 次回予告 ――
青春ってのはいいねぇ。男と女、色恋沙汰っていうのはどこの世界でもあるもんだ。
ここは恋という分野で宇宙一と言われるコブラ教授の出番ってワケ。他人の恋愛に首突っ込むのはあんまり好きじゃないんだが、ここは恋のキューピッドになってやろうじゃないの。
だが一方で次々と事件が起こりやがる。妙な赤い魔法少女が俺に斬りかかるの、まどかとその友達が魔女に襲われるので忙しいったらないよ全く。
どの世界でも、モテる男ってのは辛いもんだねぇ、ほーんと嫌になっちまうぜ。
次回【魔法少女vsコブラ】で、また会おう!
恭介「さやかは、僕を苛めてるのかい?」
さやか「え?」
恭介「何で今でもまだ、僕に音楽なんか聴かせるんだ…。嫌がらせのつもりなのか?」
さやか「だって…それは、恭介、音楽好きだから…」
恭介「もう聴きたくなんかないんだよ!」
恭介「自分で弾けもしない曲、ただ聴いてるだけなんて」
恭介「僕は…僕は…っ!ああ!!」
さやか「!!」
聞いているCDに向けて振り下ろされる、恭介の腕。
瞬間、その腕を掴み、それを止める別の手があった。
コブラ「やめときなよ。そいつを壊したら、アンタはもっと大事なものを壊しちまう」
まどか「ヒューッ!」
第2話「魔法少女vsコブラ」
――― 少し前、夕刻、巴マミ家。
コブラ「いやー、お茶に続いて夕メシまで御馳走になるってのは、嬉しいもんだ。おまけにお誘いが美女からとあっちゃあね」
マミ「うふふ。…もう少しで出来上がるから、冷たい紅茶でも飲んで待っててね」
コブラ「どーも。…しかし、いつもマミは一人の食事かい?若いんだし、寂しいんじゃないかな」
マミ「あら、そんな事ないのよ。キュウべぇは…今日は出かけているみたいだけれど。最近は、鹿目さんや美樹さんが来る事も多いし…今日はジョーさんがご一緒してくれるから腕の振るいようがあるわ」
コブラ「たはは、美女にモテるってのはいつの時代も悪くないもんだねぇ」
コブラ(そろそろジョーって呼ばれるのも止めさせたいところだけど…仕方ない、か)
コブラ「しかし今日は俺だけ。その、まどかやさやかは何か用事かい?」
マミ「ええ、鹿目さんは、今日は何か用事があるみたい。美樹さんはいつものところみたいね」
コブラ「いつもの?」
マミ「言ってなかったかしら。彼女、幼馴染がいるんだけれど…その人の所に毎日のように通っているの。今は丁度その時間だから」
コブラ「ちぇー、毎日いちゃいちゃ、楽しい時間ってわけか」
マミ「そういう訳じゃないのよ。…もっと深刻な理由なの、彼女の場合は」
コブラ「不慮の事故で手を動かせなくなった悲劇の天才ヴァイオリニスト…ね」
マミ「上条恭介くん、って言うんだけれど…美樹さんは毎日彼のお見舞いに行っているのよ。…献身的よね、事故以来、ずっとらしいわ」
コブラ「惚れてるのかい」
マミ「ふふ、どうかしら?…まぁ、彼に対する美樹さんの思いが誰よりも強いのは確かだと思うわ」
コブラ「だったら、余計にハッキリさせないといけないね。女の一途な思いってのは、なかなか男には理解されないもんだぜ」
マミ「そういうものかしら」
コブラ「そうとも。…よぉーし、マミの夕メシが出来る前に、俺がいっちょ恋の指導に行ってやるかぁーっ」
マミ「…二人の邪魔にならないかしら?」
コブラ「大丈夫大丈夫!そういう色恋の問題は宇宙一、俺が経験してるのさ。先輩として教育してきてやらなきゃあな」
マミ「…ジョーさん、貴方…」
マミ「酔ってるのね」
コブラ「へへへ、この世界のカクテルも悪くない味でね。つい昼間から」
マミのアパートから出て、教えられた病院の場所へ上機嫌で歩んでいくコブラ。
コブラ「オーマイダーリン オーマイダーリン~ …♪ … …んん?」
コブラ「ありゃあ…まどかと…ほむらと言ったか。あんなところで何してるんだ?」
ほむら「まだ貴方は、魔法少女になろうとしているの?まどか」
まどか「…それは…まだ、分からないけど…でも、やっぱり…あんな風に誰かの役に立てるの、素敵だな、って…」
ほむら「…私の忠告は聞き入れてくれないのね」
まどか「ち、違うよ!ほむらちゃんの言ってる事も分かるよ!とっても大変で、辛くて、危ない事も分かってるの!」
まどか「この前だって…マミさん、あんなに戦い慣れしてるのにすごく危なかったって、分かってるから…」
ほむら「…」
まどか「…ねぇ、ほむらちゃんはさ」
まどか「魔法少女が死ぬところって…何度も見てきたの?」
ほむら「…」
ほむら「ええ。数えるのも諦めるくらいに」
ほむら「この前の巴マミの戦い…もし、あの男の介入がなければ、彼女も死んでいたのでしょうね」
まどか「魔法少女が死ぬと…どうなるの?」
ほむら「結界の中で死ぬのだから、死体は残らない。永久に行方不明のまま…それが魔法少女の最後よ」
まどか「そんな…」
ほむら「そういう契約の元、私達は戦っているのよ。誰にも気づかれず、忘れ去られる…魔法少女なんてそんな存在なの。誰にも見えず戦い、感謝もされず、散っていく」
ほむら「それでも貴方は、キュウべぇと契約をするつもりなのかしら。…貴方を大切に思う人が、身近にいるのだとしても」
まどか「… … …ぅ…」
ほむら「誰かのために魔法少女になりたいと言うのなら、誰かのために魔法少女にならない、という考えが浮かんでもいいはずよ。それを忘れないで」
まどか「… … …分かった」
ほむら「そう、良かったわ」
まどか「…ほむらちゃん!」
踵を返し、立ち去ろうとするほむらの背中にまどかが声をかける。
ほむら「何かしら」
まどか「…ありがとう。私の事…いつも、心配してくれて…」
ほむら「… … …(ホムホム)」
立ち去るほむら。
コブラ「…おっかないだけの子だと思ってたけど、どうも俺の見当違いだったかな」
道端に隠れていたコブラは、ひょっこりと顔を出して笑った。
まどか「!い、いたんですか」
コブラ「偶然。たまたま居合わせちゃってね、失礼だったかな」
まどか「…だ、大丈夫です。それより、どうしたんですか?こんな所で」
コブラ「いや、なぁに、恋に悩める純朴な少女がいると聞いてね。人生の先輩としてアドバイスに馳せ参じようとしている最中さ」
まどか「…え?」
コブラ「つまり俺は恋というプレゼントを運ぶサンタクロースってわけ」
まどか「わけがわからないよ」
まどか「えぇ!?さやかちゃんと恭介くんの応援に行く…って…」
コブラ「そういう純真な恋はさ、誰かが肩を押さなくちゃ駄目なんだよ!というわけでまどか、俺を病院まで案内してくれ」
まどか「そ、そんな…邪魔になっちゃいますよ…」
コブラ「いいから!さぁ、案内してくれ我が愛馬よ!」
まどか「… … …さやかちゃんの邪魔だけはしないでくださいね。いつも静かに音楽とか2人で聞いてるみたいなんですから」
コブラ「邪魔なんてするかっ。俺に任せておけっての」
まどか「…分かりまし…ウェヒッ!ジョーさん…お酒、飲んでません?」
コブラ「だはははー!こんなの飲んでるうちに入らない入らない。さ、病院まで頼むぜ」
まどか(…さやかちゃんに後で怒られませんように…)
コブラ「ここが彼の病室か」
まどか「はい」
コブラ「どれ、それじゃあ早速」
まどか「ま、まままま、待って!…駄目ですよ、いきなり入っちゃあ!さやかちゃん、今頑張ってるかもしれないんだし!」
コブラ「…頑張ってる?」
まどか「そうですよ。その…あの…恭介くんと、えっと…い、いい感じになってるかもしれないし…」
コブラ「… … …」
コブラ「どうもそういう感じじゃなさそうだぜ、まどか」
まどか「え?」
耳を澄ませろ、とジェスチャーをするコブラ。
病室からは、微かに怒号のような叫び声が聞こえてきた。聞いたことのないような、悲しい叫び声が。
まどか「あ…」
コブラ「乗り込むぜ」
恭介「もう聴きたくなんかないんだよ!」
恭介「自分で弾けもしない曲、ただ聴いてるだけなんて」
恭介「僕は…僕は…っ!ああ!!」
さやか「!!」
聞いているCDに向けて振り下ろされる、恭介の腕。
瞬間、その腕を掴み、それを止める別の手があった。
コブラ「やめときなよ。そいつを壊したら、アンタはもっと大事なものを壊しちまう」
まどか「ヒューッ!」
さやか「!?ジョーさん!?それに…まどかも!」
まどか「あ…。…う…ご、ごめん、さやかちゃん…」
恭介「…ッ!!離せよ…離してくれよ!」
コブラ「この手を離してアンタのバイオリンが聞けるなら喜んで離すがね。誰かを傷つけるために振り下ろされる手なら、俺はあの世の果てまで離すつもりはないぜ」
恭介「…ぐ…ッ!…うぁぁぁ…ッ!くそぉ…ッ…!」
拳から力が抜けたと分かったコブラは、恭介の腕を解放した。
涙を流しながら、誰かに訴えるように語り始める恭介。
恭介「諦めろって…言われたんだよッ…!今の医学では治らないなら…バイオリンはもう…諦めろって…ッ!」
さやか「…そんな…」
コブラ・まどか「… … …」
恭介「もう一生動かないんだよ、僕の手は…!奇跡か魔法でもない限り… …!」
… … …。
場を重苦しい沈黙がしばらく流れる。
すると、さやかがゆっくり、静かに言う。
さやか「…あるよ」
コブラ・まどか「…!」
さやか「奇跡も、魔法も…あるんだよ」
――― 一方。
杏子「…それで?アンタは何が言いたいのさ」
QB「行動は急いだほうがいいという事さ。この前、杏子の縄張りの魔女を倒したのは彼だよ」
杏子「…!マジかよ。随分ナメた真似してくれるじゃんか」
QB「ボクでさえ、彼がどんな素性で何を目的をしているかはさっぱり分からない。勿論、どうするかは杏子の自由だけど、何かが起きてからでは遅いからね」
杏子「…ジョー・ギリアンとか言ったか?おかしな名前しやがって。…上等じゃないのさ」
QB「どうするんだい?杏子」
杏子「確かにムカつく話だね。ちょいとお灸をすえてやった方がよさそう、っていうのは同意見」
杏子「見滝原…あそこはマミの縄張りだったね。前々から魔女の発生頻度が高かったから縄張りをそっちに移そうと思ってたんだけど…」
杏子「丁度いいじゃん。…マミも、ジョーとかいう男も、まとめてぶっ潰せばあそこのグリーフシードはアタシのものになる」
QB「気を付けてね、杏子。あそこには、更にもう一人、イレギュラーな魔法少女もいるから」
杏子「ふん。退屈しなくて済みそうじゃん。ほんじゃあ、行きますか」
QB「今夜かい?」
杏子「急かしたのはお前だろ?…まずは、アタシの縄張りを荒らしたヤツ」
杏子「ちょいとお仕置きが必要だからね」
さやか「ごめんね…二人とも。変なトコ見せちゃって」
さやか「こんな事言うの失礼なのは分かってる。…でも、今日は帰ってくれないかな」
さやか「怒ってるわけじゃないの。…むしろ、感謝してる。ジョーさんが止めなければ、恭介きっと、怪我してたから」
さやか「なんていうか…あたしも、ちょっとだけ…考える時間、欲しいの」
さやか「…ありがとう。…ごめんね」
・
まどか「…大丈夫かな、さやかちゃん。やっぱり、無理にでも一緒に帰ったほうが…」
コブラ「ああいう時は、一人でじっくり考えるもんさ。誰にだって落ち着いて考える時間は必要だ」
まどか「…そう、なのかな…。わたしがもっとちゃんと、二人の事フォローできれば… …っ!?」
言い終わらない内に、まどかの頭にポンと左手を乗せるコブラ。
コブラ「まどか。そうやって何でもかんでも自分のせいにするクセ、おたくの悪いクセだぜ」
時間が止まったかのように、黙る二人。しばらくすると、まどかはポロポロと噛み殺していた涙を流し始める。
まどか「… …ぅっ、くっ…!だ、だって…!さやかちゃん、かわいそうでっ…!あんなに、あんなに頑張ってるのにっ…!わたし、何もできなくて…っ!」
コブラ「泣くなよ、まどか。人は、涙を流すから悲しくなるんだぜ」
パチ パチ パチ。
二人の前に、拍手をしながらゆっくりと現れる人影。その口には棒状のチョコレート菓子を銜えている。
杏子「名演説だね。感動してアタシも泣いちゃうくらいだよ」
そういう杏子の表情は、憎悪に満ちた薄ら笑いだった。
まどか「…っ!だ、誰…?」
コブラ「そいつはどうも。なんならカフェでお茶でもしながらゆっくり語りあおうか?」
杏子「遠慮しとくよ。それに…生憎そんな気分じゃないんだ」
言いながら、赤いソウルジェムを見せびらかすように取り出し、不適に笑う杏子。
まどか「…!ソウルジェム!?」
そしてそれを使い、魔法少女へと変身する杏子。
出現した巨大な槍を演舞のように振り回し、それを終えて槍を前に構えた戦闘態勢へと移る。
杏子「アタシの縄張りを荒らしてくれるなんて、ナメた真似してくれるじゃん。…ジョー・ギリアン!」
コブラ「…やれやれ、夕メシの時間には間に合いそうにないなこりゃあ」
まどか「あ、あ…っ!」
コブラ「まどか、すまないが、先に帰ってマミに夕飯に少し遅れると伝えておいてくれないか」
コブラ「冷めたカレーライスは好きじゃないから、暖かいうちに帰るつもりだがね」
杏子「その余裕…ぶっ潰してやるよッ」
コブラ「急げ、まどかっ!巻き込まれるぞ!」
まどか「…っ!は、はいっ!!」
まどかが走り出すと同時に、杏子がコブラに向けて一気に距離を詰め、槍を振り下ろす。
杏子「でゃああああッ!!はぁッ!うおりゃあッ!」
コブラ「うおっ、とぉっ!ほっ!よっ!」
閃光のような素早い攻撃を次々と避けるコブラ。
コブラ「熱烈なアプローチだなこりゃあ!だがもう少し女の子らしいほうが好みなんだがね!」
杏子「残念だったな!アタシはそんなにおしとやかじゃないんだよッ!」
まどか「早く…早く、マミさんかほむらちゃんに助けを求めないとっ…!」
まどか「このままじゃジョーさんが…!」
急いで、マミのアパートまで走るまどか。
だがその瞬間、信じがたいものを見てしまう。友人である志筑仁美が、何かに憑りつかれたようにフラフラと歩く、その姿を。
まどか「…!ひ、仁美ちゃん!?」
仁美「あら、鹿目さん…御機嫌よう」
まどか「こんな時間に何してるの?お、御稽古事は…!?こっちの方向じゃないでしょ?どこに行こうとしてるの…!?」
仁美「うふふふ…」
仁美「ここよりもずっと、いい場所ですのよ」
まどか「…!」
仁美の首筋にある、魔女の口づけの印。そしてその刻印は、気付けば仁美の周りにいる生気のない人間達のほとんどについているのだった。
まどか「そんな…こんな時に…!?ど、どうすれば…!」
彷徨うようではあるが、確実にある場所に向かう、仁美をはじめとした集団。
放っておくわけにもいかず、まどかはその後についていくのだった。
まどか(あああ、ど、どうしよう…!)
まどか(わたしのバカ!マミさんの番号も、ほむらちゃんの番号も聞くの忘れてたなんて…ッ!)
まどか(仁美ちゃんも放っておくわけにいかないし…ジョーさんも…っ!いくら強いからって魔法少女が相手じゃ、どうなるか…!)
そんな考え事をしているうちに、集団はいつの間にか小さな町工場に辿り着く。
町工場の工場長「俺は、駄目なんだ…。こんな小さな工場一つ満足に切り盛りできなかった。今みたいな時代に…俺の居場所なんてあるわけねぇんだよな」
まどか「!!」
まどか(あれ…洗剤…!)
詢子「―――いいか?まどか」
詢子「―――こういう塩素系の漂白剤には、扱いを間違えるととんでもないことになる物もある」
詢子「―――あたしら家族全員、毒ガスであの世行きだ。絶対に間違えんなよ?」
まどか「…っ!駄目!それは駄目!皆が死んじゃうよ!」
まどかを優しく、包むように止める仁美。
仁美「邪魔をしてはいけません。あれは神聖な儀式ですのよ。…私達はこれから、とても素晴らしい世界へ旅立つのですから」
コブラ「うおおっと!!」
杏子の渾身の一薙ぎを上空に跳躍して避けるコブラ。真上にあった電信柱の出っ張りを掴み、杏子の攻撃範囲から逃れる。
コブラ「ち、ちょっとタンマ!あんたの縄張りに入ったのは謝るからさ、もう許しちゃくれないかね!平和的に行こう!」
杏子「…へっ、ちったぁ懲りたかい」
コブラ「懲りた懲りた、大反省!俺もうなぁーんにもしないから!」
杏子「…そうかい、それじゃあ…。… … …なんてねっ!」
杏子「生傷の一つもつけないで帰すなんて、アタシの腹の虫が収まらないんだよッ!」
そう言って、コブラの掴まる電信柱を斬る杏子。
コブラ「!!どわあああっ!?」
切り落とされ下に落ちる電信柱と一緒に、コブラも地面に叩きつけられるように尻餅をつく。
コブラ「いちちち… …って、のわぁぁぁあっ!?」
杏子「くらえええーッ!!!」
瞬間、それを見計らっていた杏子はバランスを崩して座り込んでいるコブラの頭上へ、槍を振り下ろす。
ガキィィィィンッ!!
振り下ろされた槍は…。
杏子「… …ッ!なんだと…っ!?」
コブラの左腕に食い込み、血の一滴も流さずに止まっていた。
杏子「…くっ!」
その異常な事態に杏子は素早くバックステップをして、コブラの様子を伺うように構える。
杏子「てめぇ、その左腕…何者なんだ…!?」
コブラ「…身体がちょいと頑丈なもんでね。特に俺の左腕はな」
にやっと不敵に笑い、ゆっくりと立ち上がるコブラ。葉巻にライターで火をつけながら、身体についた埃を払う。
コブラ(…とはいえ、こいつはちょっとまずいな。手加減をして戦ってどうにかなるもんじゃないらしいね、魔法少女ってヤツは)
コブラ(だからって素性の知れない魔法少女にサイコガンを使うわけにはいかない…。女を殴るのは俺の主義じゃない…参ったね、お手上げだ)
コブラ(…こうなりゃあ…『アレ』でいくしかないか)
コブラ「仕方ないな、こうなりゃあ俺の奥の手を見せてやるぜ」
杏子「…ほー、楽しめそうじゃん。何をしてくれるんだい?」
コブラ「…驚くなよ?」
槍の刃の音を鋭く鳴らす杏子に対し、コブラは葉巻を杏子の方へ投げ捨てると…。
コブラ「これが俺の奥の手…逃げるが勝ちだぁーッ!!」
瞬間、猛然と走り出して杏子の隣をすり抜けるコブラ。
杏子「…!!??て、てめぇ!待ちやが…っ!?」
その時、杏子の近くに投げ捨てられた葉巻が閃光のように眩い光を一瞬放つ。
杏子「うおおっ!?」
5秒ほどそれは辺りを照らす。次に杏子が目を開けた瞬間、そこにコブラの姿はなかった。
杏子「…くっ!逃げられた!…あのヤロー、あの腕といい、ただ者じゃないなやっぱ…!」
杏子「…でも、このままじゃ済まさねぇからな、絶対…!」
まどか「…!離してッ!!」
仁美の手を振り切り、洗剤の入ったバケツに猛然と走るまどか。それを掴みとると、勢いよく窓の外へ投げ捨てる。
まどか(…よ、よしっ!これでひとまず安心…)
しかし、その行動をしたまどかに向けられる…恨むような人々の視線。
まどか「…え…」
群衆「あぁぁああぁぁぁああああっ…!!」
まるでゾンビが血肉を求めるようにまどかへ襲い掛かる群衆。
まどか「きゃあああああっ!!」
襲い掛かる群衆から逃げ、急いで側にあった物置に逃げ込むまどか。
まどか「ど、どうしよう…どうしようっ…!やだよ…誰か、助けて…っ!」
その瞬間。
まどか「…ッ!!」
まどかの周りに広がる、魔女の結界。それと同時に…窓の割れる音が、微かに聞こえた。
テレビのようなモニターや、使い魔や、木馬がまるで水中のように浮遊する空間。その空間内に、まどかも同じように浮遊していた。
モニターに映し出されるのは、まどかが今まで見てきた、魔法少女の戦いの光景。
まどか(これって…罰なのかな)
まどか(わたしがもっとしっかりしてれば…さやかちゃんも、仁美ちゃんも、ジョーさんも…もっとちゃんと、助けられたのに…)
まどか(だからわたしに、バチがあたったんだ)
その自責の念はまるで声のように結界内に響き渡る。
気付けば、まどかの手足をゴムのように引っ張る、翼の生えた不気味な木製人形達。四肢を引き千切ろうと、徐々にその力は増されていく。
まどか(わたし…死んじゃうんだ…ここで…っ!う、ぐっ…!)
まどか(痛いよ、苦しいよ…っ!)
まどか(もう…嫌だよっ…!!)
その時、まどかの四肢を引っ張る四人の『ハコの魔女の使い魔』が次々に光の波動に消された。
まどか「…!!」
まどか「…ジョーさん!」
コブラ「結界が張られる前に窓に飛び込めて良かったぜ。バラバラになった美少女なんざ、地獄でも見たくないからな」
まどか「… …!!ひ、左手が…ジョーさんの、左手が…!」
まどかが見た、ジョー・ギリアンの姿。
硝煙をあげるその銃口は、本来あるべき左腕の場所にあった。見たこともない、異形の銃。まるでそれは身体の一部のように当たり前にそこにあるようだった。
コブラはまどかの前に立ちはだかり、背中を向けながら語る。
コブラ「…まどか、俺も一つ、罰を受けなきゃいけないのかもしれないな」
コブラ「俺はあんたらに嘘をついていたんだ」
まどか「嘘…?」
コブラ「一つは、俺はしがないサラリーマンなんかじゃないって事」
コブラ「一つは、俺は宇宙観光の最中なんかじゃなかったって事…」
コブラ「そして…最後の一つ、俺の名前はジョー・ギリアンじゃないって事だ」
コブラが喋っている間に、魔女の使い魔は次々とコブラとまどかを襲おうとする。
しかし、それらの全てはサイコガンの連射で次々と撃ち抜かれ、一つとして外されることはない。
まどか「…それじゃあ、あなたは…?」
コブラ「俺は…別の世界では、海賊をしていた。宇宙を流れ星のように駆けながらお宝を見つけ、糧にしていた一匹狼の海賊さ」
コブラ「俺には、一つの名があるんだ。…それは」
まどか「それは…?」
サイコガンに、コブラの精神が集中される。銃口が淡く光り、鋭い、サイコエネルギーをチャージする音が聞こえた。そしてコブラは目を見開き、叫ぶ。
コブラ「俺の名はコブラ!不死身の…コブラだぁーーーッ!!」
ドォォォォォ――――ッ!!!
まるで大砲の砲撃のようなサイコガンの一撃が、放たれた。
サイコガンの高められた精神エネルギーの光は、使い魔達を焼き払い、その本体であるモニターに隠れた『ハコの魔女』をも爆破した。
そして、結界が解け元の物置に戻るコブラとまどか。
コブラは目を閉じて微笑みながら、左腕の義手をサイコガンに被せる。
まどか「… … …」
コブラ「今まで黙っててすまなかった。だが、見知らぬ世界で俺の正体をペラペラ喋るわけにもいかなくてね。何せ、あっちじゃあ俺の首を狙ってる奴がごまんといるからな」
まどか「ジョー…じゃなくって、コブラ…さん?」
コブラ「そ。…まぁ、色々語るのは後だ。少し急ぎたいんでね」
まどか「…まだ、何かあるんですか?」
コブラ「ああ、急ぎの用がある。まどかも一緒にきてくれ、重大な事だ」
まどか「… … …」
まどかが緊張した面持ちでコブラをじっと見ると、コブラはにっこりと笑って駆け出す。
コブラ「早くしないとマミのカレーが冷めちまうんだよーっ!俺ぁ疲れて腹が減って死にそうなんだーっ!」
まどか「… … …へ?」
呆然とするまどかを後目に、物置から急いで出ていくコブラ。
まどか「ま…待ってください!ひ、仁美ちゃんは!みんなはーっ!?わたし一人じゃどうすればいいか分からないよーっ!ねぇ、コブラさーーーーんっ!!」
まどかの声は、空しく、町工場の中に響くのだった。
―― 次回予告 ――
さやかが魔法少女になっちまった!俺やまどかとしては複雑な気持ちだが、さやかには何よりも叶えたい願いがあるんだとさ。
健気な少女の願いは受け止められ、一人の戦士が誕生する。まー、男を守る女ってのは俺はあまりお勧めできないんだがね。ここは良しとしてやろうっ。
だが綺麗な事ばっかりじゃないみたいだね。暁美ほむらに、謎の赤い魔法少女。そしてもう一人、俺の事を追っかけてくる輩もいるみたい。
相変わらず俺が元の世界に戻る方法も分かんないわ、もーいい加減にしてくれってんだ!
次回【忍び寄る足音達】で、また会おう!
第3話「忍び寄る足音達」
――― 巴マミ家。早朝に訪れたさやかを、マミは快く受け入れた。
テーブルに置かれた、2人分の紅茶とお茶菓子。マミは静かに紅茶を飲むとテーブルに置き、優しく言う。
マミ「…そう。決心、したのね…美樹さんは」
俯いていたさやかはゆっくりと顔をあげ、強い意志の宿った瞳でマミを見つめる。
さやか「…うん。あたし、もう迷わない。…でも、契約をする前にマミさんに伝えたほうがいいかなって」
マミ「そうね。…とても嬉しいわ。私が言うのも何だけど、美樹さんは少し慌てん坊さんだから…ふふふ」
さやか「あはは、バレてましたかー」
マミ「…願い事は、やっぱり上条君の事かしら」
さやか「… … …はい」
マミ「…そこまで決心したということは、どうしても叶えたい願いなのね。後悔しない、確固たる決心が」
さやか「…昨日、まどかとジョーさんが、恭介の病室に来てくれたんです。恭介、もう自暴自棄みたいになってて、暴れようとして…」
さやか「あたし、もうその時自分でもワケわかんなくなっちゃって、いっそ今すぐキュウべぇと契約すればこんな恭介見なくて済むって考えちゃってた」
さやか「でも…ジョーさんが、恭介を止めてくれらから。だからあたしも、恭介と同じように、少しだけ落ち着けた」
さやか「あたしは、ずっと一人で恭介の事考えてるんだと思ってた。でも…実際は違ったんですね。マミさん、ジョーさん、まどか…みんな、心配してくれてるんだ、って」
さやか「だから仮にあたしが魔法少女になっても、心細くなんてない。…戦い続けられる。そう思ったんです」
マミ「…そう。私も、鹿目さんと美樹さんに出会うまでずっと一人だと思ってたから、よく分かるわ」
マミ「一人ぼっちで戦って、悩むのって…すごく苦しくて、悲しくて、辛い事」
マミ「…魔法少女になる前に私に言ってくれてありがとう、美樹さん。…全力で、あなたのサポートをするわ」
QB「話は終わったかな。それじゃあさやか、契約をしよう」
さやか「…うん」
マミ「…あ、そうそう。美樹さん、一つだけ訂正しておく事があるの」
さやか「…?え?」
マミ「あの人『ジョー・ギリアン』さん。本当の名前は違うらしいの。…「俺の名前は『コブラ』だ」って。昨日、あの後教えてもらったわ」
さやか「…はは、やっぱり変な名前じゃん」
マミ「私達は、仲間。…辛い時は一人で背負いこんだり、嘘や隠し事はしないで、みんなで助け合いましょう」
さやか「… … …うんっ!!」
QB「それじゃあ、さやか。君の願いを言ってごらん」
さやか「あたしは――― 」
さやかを包み込む光。そして生まれる、新たなソウルジェム。
レディ「おかえりなさいコブラ。出張はどうだったかしら?」
コブラ「もう最高だね。魔女はうじゃうじゃ湧いてるわ、魔法少女には因縁つけられるわ、退屈って言葉が懐かしいくらい」
タートル号内。
人目につかない丘でレディと待ち合わせたコブラは、一旦タートル号で外宇宙へと飛び立った。
レディ「…?これは?」
レディにグリーフシードを一つ手渡すコブラ。
コブラ「相棒にプレゼントさ。大事にしてくれよ」
レディ「まぁ、ありがとう。…どうせならもっと綺麗な宝石がいいのだけれどね、フフ」
コブラ「そいつはまた後でのお楽しみ。とにかく、そいつをタートル号の方で解析しておいてくれ。何か分かるかもしれん」
レディ「オーケー。それじゃ、朝食だけでも食べて行く?用意しておいたのよ」
コブラ「ワオ!嬉しいねぇ、ここんところレディの手料理が恋しくって恋しくって!」
レディ「その割には、マミとかいう子の家で随分と嬉しそうに御馳走になっていたようだけれど?」
コブラ「…ははは、こいつぁ厳しいや」
仁美「ふぁぁぁ…」
仁美「…!やだ、私ったら、はしたない」
まどか「仁美ちゃん、眠そうだね」
仁美「なんだか私、夢遊病というか…昨日気が付いたら大勢の人と一緒に倒れていて。それで病院やら警察やらで大変だったんですの」
まどか「…それは、大変だったね」
まどか(救急車呼んだのもパトカー呼んだのもわたしなんだけどね…。…もうっ!ジョーさん…じゃ、なかった、コブラさんが行っちゃうから…)
まどか(ふぇぇ…わたしも眠くて死にそうだよ…)
仁美「…ところで、さやかさんはどうしたのでしょう?まだ学校に来ていないみたいですけれど…」
まどか「…うん。何かあったのかな…さやかちゃん」
仁美「毎日元気に登校していましたのに…おかしいですわ」
まどか(…まさか、何かあったんじゃ…!)
和子「はーい、みんな揃っているかしらー?それじゃあ朝のHRを…」
さやか「ごめんなさーーーいっ!!遅刻しましたーーーっ!!」
和子「!!!」
早乙女先生が教室に入ろうとした矢先、後ろから大慌てで来たさやかが前にいた先生に気付かず教室内に突進してくる。
その体当たりを食らった先生は、衝突事故のような勢いで黒板に頭からぶつかるのだった。
さやか「…あ」
まどか「…あ」
和子「… … …」
和子「美樹さんはいつも、とっても元気ねぇ…?…先生も、とっても、嬉しいワァ…」ニコニコ
そう言いながら満面の笑みを浮かべる先生の背後には、ドス黒いオーラが禍々しく煙をあげていた。
さやか「ぎゃあああああああああ!!すいませんすいませんすいませんーーっ!!」
まどか(…良かった、いつも通りのさやかちゃんだ…)
そして、昼。各々の生徒が昼食を持ち、それぞれの食事場所に分散していく。
さやか「ね、仁美。顔色悪いし、お昼は保健室借りて休んでれば?少し寝たほうがいいよ」
仁美「え…?でも、私は単なる寝不足で…」
さやか「だからこそだよ。放課後にいつものお稽古事もあるんでしょ?今のうちに休んでおかないと身体壊しちゃうよ?」
仁美「… … …そうですわね。それでは、そうさせてもらいましょう」
さやか「よっし、それじゃ、保健室まで一緒するよ。ほら、まどかも一緒に」
まどか「え?う、うん…」
仁美「申し訳ございません、さやかさん、まどかさん」
さやか「いいのいいの、途中で倒れたら大変だし、行こう行こう」
まどか(…どうしたんだろ?さやかちゃん。…なんだか、仁美ちゃんを保健室に行かせたがってるみたい)
仁美を保健室まで送り届けると、さやかはまどかの方を振り返る。
さやか「さ、まどか。一緒にお昼食べよっ、屋上で」
まどか「屋上…?」
さやか「実はさ、呼んであるの。マミさんと、コブラさん!」
まどか「魔法少女に!?」
コブラ「なったぁ!?」
さやか「うん、今朝にね。…2人にも、ちゃんと伝えないといけないと思って」
まどか「ど、どうして…?」
さやか「まぁ、理由は色々あるんだけどさ。…何より、あたしの叶えたい願い、しっかり見つけられたから。後悔なんてしない、命懸けでも、叶えたい願いが」
コブラ「…」
マミ「私と相談をしたの。願いのためなら、その命を戦いに捧げても構わない…その決意があるから、キュウべぇとの契約を、しっかり見届けさせてもらったわ」
QB「そして願いは叶えられ、さやかは魔法少女になったというワケさ」
さやかの手には、太陽に照らされ、煌めく青のソウルジェムの指輪があった。
まどか「…やっぱり、上条くんの事?腕を…治したの?」
さやか「…うん。昨日はありがとう、まどか、コブラさん。2人が来てくれたから、あたし、決められたんだ」
さやか「ずっと考えてた。マミさんが言ったように、他人の願いを叶える前に自分の願いをはっきりさせる、って事。あたしは、恭介の何になりたいんだ、って」
さやか「昨日、恭介の腕の事…ずっと治らないってお医者さんに告げられた、って2人とも聞いてたよね?…その時ね、あたし、もう自分なんかどうなってもいいから恭介の腕を治したいって考えたんだ」
さやか「でも、それは少し違うんだって…その後分かったの。…あたしには、仲間がいる。先輩のマミさんが、コブラさんが…そして、あたしの可愛い嫁のまどかがね、えへへ」
さやか「あたしがどうしようもなく自暴自棄になっても、助けてもらえるかもしれない。…逆に、誰かがピンチになったら、あたしが救えるかもしれない!」
さやか「恭介も、マミさんも、コブラさんも、まどかも、助けられるかもしれない!…だから、どんなに怖くても大丈夫だって!…そう思って、あたしは魔法少女になった」
さやか「後悔なんて一つもしていないよ。魔法少女が叶えられる願いは一つだけど、あたしが叶えられる願いは、無限大なんだからっ!」
コブラ「…いい目になったな、さやか。そんな顔が出来るなら何も心配する事ないぜ」
マミ「でしょ?…ふふ、私の後輩は優秀なのよ」
さやか「でへへ」
まどか「… … あの、その…わたし、わたしっ…!」
さやか「…まどか」
さやかはゆっくりとまどかに近づくと、頭にポンと右手を置いて、にんまりと歯を見せて笑う。
さやか「あんたが引け目を感じる事は何も無いの。まどかはいつも通り、あたしの友達で、可愛いおもちゃで、さやかちゃんの嫁でいてくれればいいのだー!」
まどか「えぇぇ…それもちょっと…」
マミ「…鹿目さんは、魔法少女にちょっと詳しい、普通の中学生。それでいいと思うの。…だから、これからもよろしくね?私達の、大切な仲間なんだから」
まどか「…はい」
QB「…」
コブラ「出来れば、疲れたらマッサージとかもお願いしたいねぇ。特にマミは重い物ぶら下げて肩こりが酷い…いででででっ!」
笑顔でコブラの足を踏みつけるマミ。
さやか「3人とも、放課後は空いてる?ちょっと来て欲しいところがあるんだ」
まどか「…?」
さやか「へへ、実は恭介にサプライズプレゼントしようと思ってね。ま、とにかく暇なら病院まで来てよ、詳しくは後で教えるからっ!」
マミ「…ふふふ、美樹さんの事だから何となく想像ができるけれども、楽しみだわ」
さやか「えへへへ…それじゃ、また後でっ!」
さやかはそう言って元気に手を振ると、屋上から慌ただしく出ていく。
まどか「さやかちゃん、魔法少女になって…良かったみたい。あんなに嬉しそう」
コブラ「…ああ。頼もしい仲間になるぜ、ああいう目をした奴はな」
マミ「そうね。…私も張り切って後輩の指導にあたらなきゃ」
まどか「…えぇと…ところで、コブラさん。あの、ここ学校の敷地内なんですけれど…よく入り込めましたね…?」
コブラ「ん?なぁーに、忍び込むのは俺の専門なんでね。必要なら監獄でも軍事基地でも銀行でも、どこでも潜り込める」
マミ「…あまりおススメできない特技よね、正義の魔法少女の仲間としては」
――― その後。
さやか「そっか、退院はまだ出来ないんだ」
恭介「うん、足のリハビリがまだ済んでないしね」
さやか「でも、本当に良かった…恭介の手が動くようになって」
恭介「…さやかの言っていた通り、本当に奇跡だよね、これ…」
さやか「…」
自然に笑顔になるさやか。
恭介「… … …」
さやか「…どうしたの?」
恭介「さやかには…酷いこと言っちゃったよね。それに、さやかの友達にも。…いくら気が滅入ってたとはいえ…」
さやか「変な事思い出さなくていいの。あたしが皆に謝っておいたし…今の恭介は大喜びして当然なんだから。そんな顔しちゃだめだよ」
恭介「…うん」
さやか「…そろそろかな?」
恭介「?」
さやか「恭介、ちょっと外の空気吸いに行こ?」
恭介「さやか、屋上に何か用なの?」
さやか「いいからいいから」
屋上へと上がるエレベーター。車椅子のハンドルを握るさやか。不安そうな恭介。
そして、屋上へ到着したエレベーターの扉が開く。その向こうには…。
恭介「…!みんな…!」
上条恭介の家族、病院関係者…そして、鹿目まどか、巴マミ、コブラ、それぞれの姿があった。
皆、恭介の復活を心待ちにしていた人達ばかり。恭介とさやかは、拍手に出迎えられた。
さやか「本当のお祝いは退院してからなんだけど、足より先に手が治っちゃったしね」
歩み寄る、恭介の父親。そして差し出されたのは、以前愛用していたバイオリン。
恭介「…!それは」
恭介父「お前から処分するように言われていたが、どうしても捨てられなかった」
恭介父「さあ、試してごらん」
少し戸惑いながら、それを受け取る恭介。しかし、戸惑いはやがて微笑みにかわり、弦がしなやかに美しい音色を奏で始める。
まどか「わぁ…!」
マミ「素敵な音色ね…」
コブラ「酒の合いそうな音色だね。一杯ひっかけてもい…いでででででーーーっ」
笑顔でコブラの足を踏みつけるマミ。
さやか(…後悔なんか、あるわけない。…まどか、マミさん、コブラさん)
さやか(あたしの願い、叶ったよ)
――― その様子を近くの観光タワーから見つめる杏子。そしてその傍にいるキュウべぇ。
杏子「マミに加えて、謎の魔法少女、ワケの分からない筋肉男…更に新しい魔法少女、ねぇ。見滝原も随分騒がしくなったもんだ」
QB「ボクにもわけがわからないね。元々魔女の発生率が他の都市と比べて桁違いに高い場所だから魔法少女が増えるのは納得が出来るけど、ボクの知り得ない人間が2人もいるなんて」
杏子「まぁ、いいさ。アンタの言っている通り、ここは絶好の狩場だ。…それに、新人が1人くらい増えたところでアタシにとっちゃどうってことないね」
QB「とるべき行動は色々多いようだね。どこから手をつけるんだい?」
杏子「ふん…」
杏子「とりあえず、新人に先輩が教育でもつけてやる、ってのはどう?」
――― 少し時間が経って、高いビルの屋上。先程までの病院の様子を観察していたほむらは、物思いにふけていた。
ほむら「…美樹さやか」
ほむら(彼女も、魔法少女に…。まぁ、予想の範疇ね、今まで何度かその世界も見てきた)
ほむら(あとは佐倉杏子。私が知る見滝原に集う魔法少女は、まどかも含めて…五人)
ほむら(…あの男を除いて)
その時、ビルの屋上の扉が開いて誰かが入ってくる。
ほむら「!?」
驚いて振り返るほむら。そこに現れたのは、まどかだった。
まどか「…ほ、ホントにこんな所にいたんだ、ほむらちゃん…!」
ほむら「… … …どうして?」
まどか「え、えっとね…?コブラさんが、あっちのビルの屋上にほむらちゃんがいる、って教えてくれて…」
ほむら(有り得ない…病院からこのビルまで、数百m離れているのよ。私だって、魔法を使って観察していたというのに…)
ほむら「…それで、私に何か用かしら?」
まどか「あ、そ、そうだよね…。急に来てごめんね、ほむらちゃん。えっと…その、さやかちゃんが、魔法少女になったの」
ほむら「知っているわ」
まどか「え!?し、知ってるの!?」
ほむら「ええ。…それで?」
まどか「う…だから…新しい魔法少女も、1人増えたから…」
ほむら「私も、貴方達の仲間になれと言うのかしら」
まどか「… … …うん。マミさん、凄く頼りになるし、さやかちゃんだって一生懸命頑張ろうとしてる。…コブラさんは…あはは、よく分かんない人だけど、とっても強いし…」
まどか「だからね、ほむらちゃんも…私達と一緒に戦ったら、きっと…」
ほむら「…」
まどか「きっと…私達、ほむらちゃんの力になれる。だから…」
ほむら「…」
ほむら(力に…なれる。魔法少女が私の力になれなかった時間が、幾つあったかしら)
ほむら(ある時は力及ばずワルプルギスの夜に負け、ある時は互いを殺し合い…ある時は)
ほむら(私自身が、その魔法少女…まどかを、殺してしまう時も…っ!)
まどか「…ほむらちゃん、前にマミさんに言われてたよね?グリーフシードの奪い合いじゃなくって、ほむらちゃんは何か別の意志があって戦ってるって」
まどか「わたしにも分かるの。ほむらちゃんは、絶対に…『何か』をしようとしているって」
まどか「そしてその何かを、私達のためにしてくれているって」
ほむら「…!」
まどか「わたし…まだ、魔法少女になれなくて。臆病で、弱虫で、嘘つきだから…」
まどか「でも、私は少しでも力になりたいの。さやかちゃんの、マミさんの、コブラさんの…そして、ほむらちゃんの!」
まどか「だから…一緒に戦って、みんなで頑張ろうよ。みんなで、魔女を…!」
ほむら「…甘いわ」
まどか「!」
ほむら(私達全員…五人の力を使えば、ワルプルギスの夜に勝てるかもしれない。でも、そう信じるたびにどこか歪が起きて、私達は夜を迎える前に崩れていった)
ほむら(あと二週間、私達が力を合わせてしまえば、きっと…どこかで私達は崩壊してしまう。だから私は、一人で時間を繰り返してきた)
ほむら(…でも…)
ほむら(この時間軸では…私はどうするべきなの?…今度こそ、ワルプルギスの夜を迎えられ、倒せて…まどかと朝を迎える事が出来る?)
ほむら(… … …)
ほむら「…私達魔法少女は皆、誰かを救えるほど余裕があって戦っているわけじゃないの」
まどか「…ぅ…」
ほむら「叶えた願いの代償を支払うために、必至に戦って、その命を削っている。…だから、仲間として戦うなんて、出来るはずがない」
まどか「…」
ほむら「…でも、考えておくわ」
まどか「… …え!?」
ほむら「少なくとも私は、貴方達の敵じゃない。…それだけは覚えておいて」
ほむら「貴方が私の忠告を忘れないと約束をしてくれるならの話だけど」
まどか「!!! …う、うんっ!!…ありがとう、ほむらちゃん!!」
心からの笑みを浮かべる、まどか。その笑顔につられ、ほむらの表情も少しだけ緩んだ気がした。
――― その一方、コブラ達のいた世界での話。
タートル号が、ブラックホールに飲み込まれた宙域付近。そこに停泊をしている、二つの宇宙船があった。
いずれの船も『海賊ギルド』の紋章が刻み込まれている。その二つの船同士の交信。
ギルド幹部「『ソウルジェム』というものを知っているかね?クリスタルボーイ」
ボーイ「知らんな」
ギルド幹部「だろうな。太古の昔…いわばおとぎ話に登場するような、陳腐な噂だからな。…だが、もしそれがあれば…我々は宇宙そのものを塗り替えられるかもしれんのだ」
ボーイ「そんな話のために俺を雇ったというのか?」
ギルド幹部「ククク…そう言うな。これは確かな情報なのだ」
ギルド幹部「この付近で観測されたブラックホール…。今はもう消滅してしまっているが、我々がそのブラックホールのデータの解析に成功した」
ギルド幹部「そしてそのブラックホールが行きつく先…その先に、一つの反応があったのだよ」
ボーイ「ほう」
ギルド幹部「我々の知るところによる、ソウルジェムという宝石…伝えられているデータに似たエネルギーの反応がな。非常に強いパワーを秘めた宝石だ」
ギルド幹部「その石の力は強く…伝説では、どんな願いでも一つだけ叶える事が出来る程の力を秘めた物と言われているのだ」
ボーイ「くだらんお伽話だな。それで、俺にその石コロを探しに行けというのか。ギルドにも随分舐められたものだ」
ギルド幹部「そう言うなクリスタルボーイ。…お前をこの役に選んだのは、理由がある」
ギルド幹部「そのブラックホールに、飲み込まれた船が一隻あった。…タートル号だ」
ボーイ「…!コブラ…」
ギルド幹部「我々のこの時代に、ソウルジェムは存在しない。だが、ブラックホールの先には確かに、太古の昔に存在したといわれるソウルジェムのデータに似た反応が出ているのだよ」
ギルド幹部「だがホール事態は非常に小さいものでね。ギルドの艦隊が入り込めるほどではない。まして、銀河パトロールとの抗争もあって戦力をそちらに削る事もできない」
ボーイ「…つまり、俺に乗り込めと?」
ギルド幹部「君が適任なのだよ、クリスタルボーイ。依頼は必ず遂行する、無敵の殺し屋…まして君は、そのコブラに因縁があるのだろう?」
ボーイ「…」
ギルド幹部「我々ギルドの繁栄に、ソウルジェムが必要なのだ。そしてこれは本部からの直々の命令だ。…行ってくれるな、クリスタルボーイ」
ボーイ「…いいだろう。くだらんお伽話に付き合ってやる」
ボーイ「…ソウルジェムを手に入れ、コブラを、この手で…。…舞台としては上出来だ」
ギルド幹部「必要なら部下も数名つけるが?」
ボーイ「必要ない。宝石の数個など、俺一人で十分だ」
ボーイ「コブラもそうであるように…俺も、殺しに関しては一人の方が仕事をしやすいんでね」
ギルド幹部「いいだろう。それでは、君の船の前に人工ブラックホールを作る。また、君の船にもその装置を用意しておいた。帰還の時に使用したまえ」
クリスタルボーイの乗る小型の船の前に、黒い渦が巻き起こる。そして、それに飲み込まれていく一隻の宇宙船。
ボーイ「クックック…俺とお前とは、やはり深い因果で結ばれているようだな。…今度こそ貴様の息の根を止めてやる…コブラ!」
―― 次回予告 ――
さやかの特訓が始まった!一人前の魔法少女になれるよう、俺も勿論手伝うつもりだぜ。
だがそう簡単な話じゃないみたいだ。あの赤い魔法少女が、今度はそのさやかに因縁をつけてきた。
一方、俺の方にも一人、厄介な来客が現れやがった!クリスタルボーイぃ!?ったく、ゴキブリ以上にしつこい野郎だねあのガラス人形は!
だがヤツの目的は俺を倒すだけじゃないみたいだ。何か別の目的があるらしいんだが…ロクでもない事に決まってるな!お前の思い通りにはさせねぇぜ!
次回【ソウルジェムの秘密】で、また会おう!
第4話「ソウルジェムの秘密」
さやか「く、ゥ…ッ!はぁ、はぁ…!」
美樹さやかは、苦戦をしていた。
青の魔法剣士に対するのは、落書きの魔女・アルベルティーネ。弱ったさやかに対しここぞとばかりに使い魔を繰り出してくる。
魔女の攻撃は、落書きを実体化させ突進をさせる事。飛行機の落書きにのった使い魔達は次々とさやに特攻し、襲い掛かってきた。
さやか「ぐ…このぉッ!!」
さやかは剣で次々と使い魔を斬り捨てていくが、それだけに留まってしまっている。魔女の攻撃を防ぐ事に精一杯で踏み込めない。完全なる劣勢。
さやか(駄目…突破口が見えないっ…!このままじゃあ…!)
まどか「ね、ねぇ、マミさん、コブラさん!やっぱりさやかちゃん一人じゃ無理だよっ!助けてあげないと…っ」
マミ「…」
コブラ「…さやか、助けが必要かい?」
だがコブラの問いかけに、さやかは力強く答える。
さやか「必要ないッ!!あたしは…まだやれるッ!!」
まどか「…そんな、さやかちゃん…!」
さやか(このままじゃ、いずれあたしの体力が尽きて、負ける…!)
さやか(…それならいっそ…!)
さやか「でやあああああッ!!」
マミ「…っ!美樹さん!?」
決心をしたさやかは、勢いよく魔女に向けて駆けていく。つまり、防御を完全に捨てた体勢。使い魔達の突進を次々と受けるが、それでもさやかが止まる事はない。
攻撃を受けた瞬間に、回復。彼女の契約が癒しの祈りによるものなので、ダメージに対する回復力は他の魔法少女とは桁違いにある。さやか自身がそれを知っているのだった。
だから、捨て身の特攻に全てを賭ける。
魔女「!!」
この特攻に魔女も驚いたのか、涙を流すような悲しい表情を浮かべる。だがそんな事は構いもしない、魔女の眼前までさやかは迫っていた。
さやか「これで、トドメだぁーーーっ!」
魔女の眉間に、剣を突き刺す。
血のような黒い液体が噴出したかと思うと、魔女は消滅した。
そして結界が解かれ、四人は元いた路地裏へと戻る。
さやか「はぁ、はぁっ…!」
さやかの手には、魔女を倒した証…グリーフシードがしっかりと握られていた。
まどか「さやかちゃんっ!」
膝をつき、荒く息をするさやかに駆け寄るまどか、マミ、コブラ。まどかはいち早くさやかに駆け寄ると力の抜けたようなさやかを抱きしめた。
さやか「へ、へへ…あー、やっぱりまどかはあたしの嫁だねー」
まどか「さやかちゃん…っ!大丈夫…!?あんなに、あんなに無理しなくても…!」
涙を浮かべながらさやかをギュッと抱きしめるまどか。
さやか「無理しなくっちゃ。あたしも早く、一人前の魔法少女にならなくっちゃね。…どうだったかな、マミさん。あたしの戦い方」
初めての実戦、魔女との戦いにさやかは一人だけで戦いたいとマミとコブラに申し出た。初め、マミは反対をしていたがさやかの強い希望があり、それを通してしまった。
マミ「…そうね。初めての戦いにしては上出来よ。自分の魔法能力をもう理解しているし、それをしっかり活かせている」
マミ「ただ…少し、美樹さんの戦いは捨て身すぎるわ。あんなにダメージを受けてしまっては、ソウルジェムの濁りも強くなってしまう」
言いながらマミはさやかに近づき、さやかのソウルジェムとグリーフシードをくっつけ、穢れを取り除いた。ソウルジェムは光を取り戻し、さやかもまどかからそっと離れ、立ち上がる。
さやか「でも、あたしの持ち味ってそれくらいしかないと思うし…」
マミ「だからこそよ。ああいう戦い方は余程苦戦した時だけにしないと…。コブラさんはどう思う?」
コブラ「ああ、悪い。さやかの肌に見とれて戦いに集中できなくってね。いやー、なかなか露出度の高い衣装だ。三年後が楽しみだぜ」
さやか「え… お、おわぁぁっ!?」顔を赤くするさやか。
マミ・まどか「…」
コブラ「ハハ…ハって、あ、いやぁ、ジョーダンだよ、ジョーダン」
QB「それじゃあ、その真っ黒になったグリーフシードはボクが貰おうか」
さやか「?どうするの?」
キュウべぇにグリーフシードを手渡すさやか。そしてキュウべぇは、そのグリーフシードを背中に取り込む。
QB「きゅっぷい」
まどか「えぇ!?た、食べるの!?」
QB「これもボクの役目だからね」
コブラ「随分な偏食だな。あんなもの、健康に良くっても食う気にゃなれないぜ」
QB「別に好き好んで食べるわけじゃないよ。ただ、あのままじゃあグリーフシードが魔女化してしまうから」
コブラ「…」
コブラ(やはりおかしいな、グリーフシードは魔女から生まれる種だ。そいつが魔法少女の穢れを吸い込むと、再び活性化し、魔女が孵化するだと?)
コブラ(そもそも、その穢れとかいうシステムとそいつを吸い込む種…。つまり魔法少女と魔女は、単なる別種族じゃない事を現している)
コブラ(…ソウルジェムとグリーフシード。そして、そいつを食らうキュウべぇ。やはり全ては無関係じゃないって事だな)
マミ「どうしたのかしら?コブラさん」
コブラ「いや、マミの肌もなかなか綺麗で悪くないなと感心していてね」
マミ・さやか・まどか「…」
コブラ「すいませんでした」
マミ「さてと、それじゃあそろそろ解散にしましょうか?今日の見滝原パトロールと特訓はこれまでよ」
さやか「うん、まどかもマミさんもコブラさんも、付き合ってくれてありがとう!」
マミ「大切な後輩のためだもの、当然よ。それに、美樹さんは覚えが早いから…確実に成長しているわ。次からは、一緒に戦いましょう」
さやか「…!は、はいっ!」
コブラ「さぁーて、それじゃあ巴さんのお宅でディナーパーティとしゃれ込みますかね」
まどか「あ、あの…わたしもお邪魔していいですか?」
マミ「ええ、勿論大歓迎よ。一人で食べるのよりずっと楽しいし…それに、鹿目さんも大切な後輩ですもの。」
まどか「ありがとうございますっ! …ティヒヒ、実はお夕飯、マミさんのお家で御馳走になるって言ってきちゃったんです」
マミ「うふふ、それなら大丈夫ね。」
さやか「あ、ごめんなさいマミさん!あたしは、ちょっと寄るところがあって…」
マミ「あら、そうなの…?残念ね」
まどか「さやかちゃん、寄るところって、どこか行くの…?」
さやか「な、なんでもないのっ!大したところじゃないからっ!…それじゃみんな、また明日ーっ!」
何か慌てたように夜道を駆けていくさやか。それを見送る三人。そして…。
コブラ「… … …それじゃあ、尾行開始といきますかぁ。にぃひひ」
マミ「ええ、うふふ」
まどか「ウェヒヒヒヒ」
QB「人間は何を考えているのか分からないね」
――― 上条恭介家の玄関先。
聞こえてくる美しいバイオリンの音色は、そこに恭介がいる事を証明していた。
しかしさやかは、その音色を玄関先で聞いているだけだった。
さやか「…」
さやか(恭介…退院したなら連絡くれればいいのに…)
さやか(…練習、してるんだ…)
さやか(…)
そっと踵を返すさやか。しかし、その先には一人の少女が立っていた。
さやか「!」
杏子「折角来たのに会いもしないで帰る気かい?随分奥手なんだねぇ」
さやか「だ、誰…?」
杏子「…この家の坊やのためなんだろ?アンタが契約した理由って」
さやか「…ッ!アンタも、魔法少女…!?」
杏子「…おいおい」
杏子「先輩に向かって『アンタ』はねーだろ?生意気な後輩だね」
その様子を、物陰から見ている三人。
コブラ「…げぇ、アイツは…」
まどか「あの時の人…!今度はさやかちゃんに襲い掛かるつもり…なのかな…?」
マミ「あれは…佐倉さん…!」
コブラ「!?知り合いか、マミ」
マミ「ええ。…二人も佐倉さんに会ったことがあるの?」
コブラ「会ったなんてもんじゃないよ。この間、熱烈な歓迎を受けたところでね」
マミ「おかしいわ、佐倉さんは隣町を中心に魔女を狩っていた筈なのだけれど…」
まどか「この前はコブラさんを襲ってきたんです…。さやかちゃんに…何か用事、なのかな」
マミ「とにかく、私が直接話を…」
コブラ「いや、ここは少し様子を見ておこうぜ。かの女が何を目的にしているのか分からない。…危なくなったらすぐ前に出る準備はしておいて、な」
マミ「…そう、ね」
マミ(…佐倉さん…)
QB「…」
マミはソウルジェムを握り、コブラは左腕に右腕をかけながら、その会話を聞いている。
杏子「一度だけしか叶えられない魔法少女の願いを、くだらねぇ事に使いやがって。願いってのは自分のためだけに使うもんなんだよ」
さやか「…別に、あたしの勝手でしょ!アンタなんかに関係ない!」
杏子「…気に入らないね」
杏子「そういう善人ぶってる偽善者とか、何を捨てても構わないとか考えてる献身的な自分に惚れてる姿とかさ」
杏子「…ホント、気に入らない」
さやか「…もう一度言うよ。あたしが何を願おうと、何のために戦おうと…アンタには関係ない事でしょ。何?それとも単なる憂さ晴らし?」
杏子「… …美樹さやか…だっけ?魔法少女として、あんたにちょっと指導にきたのさ」
さやか「必要ない。あたしには…仲間がいる」
杏子「…ぬるい。ま、指導ってのは建前さ。…実はあたしも、見滝原で活動を始めようと思ってね」
さやか「え…」
杏子「ここの魔女の発生頻度、異常に高いんだよねぇ。…まるで、何か大きな事が起きる前触れ、みたいな感じに。まぁとにかく、魔法少女としては絶好の狩場なわけ」
杏子「それなのにあんたらときたら特訓だの何だの…しまいにゃ、魔女になるであろう使い魔ですら倒しちまう始末だ。グリーフシードを集めるのに効率が悪すぎるんだよ」
さやか「…!放っておけって言うの!?」
杏子「人間四、五人食わせりゃ、アイツらは魔女に成長する。弱い人間を魔女が喰らい、あたしら魔法少女がその魔女を喰らう。…基本的な食物連鎖の話さ」
さやか「…!」
さやか「違う…間違ってる!!魔法少女っていうのは…。魔女から人を守るのが魔法少女なの!!…人を守らなきゃいけないのに、魔女に成長させるために人を食べさせるなんて、そんなの、間違ってる!」
杏子「…ばーっかじゃねーの。くだらない…くだらないくだらないくだらない。やっぱどこまでいっても巴マミの後輩だね」
さやか「っ、マミさんの事…知ってるの!?」
杏子「…どうでもいいじゃん。…それよりさぁ、アタシにいい考えがあるんだけど、どう?」
さやか「…」
杏子「アタシが協力してやるよ。今すぐこの坊やの家に魔法で忍び込んで、その手足を潰してやるっていうのはどう?」
さやか「…っ!?」
杏子「恩人に一言もかけないで退院するなんて、酷い話だよねぇ?…もう、この恭介っていう子は、アンタ無しでも生きていけるんだ」
さやか「…黙れ…黙れ、黙れ…!」
杏子「もうコイツにアンタは必要ない。どんどんアンタから離れていく。…それならいっそ」
杏子「もう一度…今度は手足を使えなくして、アンタ無しじゃあ生きられない身体にするのさ。なぁに、自分でやりづらいって言うんじゃ、アタシがやってやるよ」
さやか「…あんただけは…」
さやか「あんただけは、絶対に…絶対に許さないッッ!!」
杏子「…へへ、それじゃあ…場所を移そうか?ここで戦うわけにいかないだろ?」
・
まどか「… … …」
コブラ「俺達も行くぜ。ここで出て行って戦闘になったら面倒だ、広い場所に出たら…だ。いいな、マミ」
マミ「…っ。え、ええ…」
マミ(…佐倉さん。貴方は…何が目的なの…?)
――― 大きな歩道橋の上、さやかと杏子は移動をし、お互いに対峙をしている。
杏子「ここなら邪魔は入らないね。…さぁ…始めようか?」
そう言って杏子はソウルジェムを使い、変身する。自分の身の丈ほどある巨大な槍を器用に振り回し、戦闘態勢をとる。
さやか「…!」
さやかがソウルジェムを取り出そうとした瞬間…。
まどか「さやかちゃんっ!!」
さやか「!まどか!それに、マミさんに、コブラさん!」
さやかに駆け寄るまどか、マミ。ゆっくりと後ろから歩いてくるコブラ。
杏子「…!巴、マミ…!」
マミ「佐倉さん…。久しぶりね、元気そうでよかったわ」
杏子「…アンタに心配されなくても、一人で出来てるよ。…魔法少女として、な」
マミ「…そう」
さやか「皆…。…邪魔しないでっ!あたしは、コイツを…!」
コブラ「落ち着きなよ、さやか。…それに、かの女はまだお前さんの腕じゃ勝てる相手じゃないぜ?」
さやか「そんなの、やってみなくちゃ…!」
マミ「…佐倉さん。貴方が何を考えているのか、私には分からないわ。けれど…何故美樹さんと戦おうとするの?貴方が嫌う『無駄な魔力の消耗』にしか思えないわ」
杏子「アンタには関係ないね。アタシは、新人の教育にきただけさ。魔法少女の何たるかを、ね」
マミ「指導には私があたっているわ」
杏子「アンタのやり方は…手緩い。このままじゃあ…コイツ自身が身を滅ぼしちまうのが、分からないかい?」
マミ「… … …」
杏子「本当は口だけで言うつもりだったんだけどね…生意気な奴で、あっちからやろうって言ってきたんだ。アタシからふっかけたわけじゃないよ」
さやか「…マミさん。戦わせてください!…あたしがどれだけ出来るようになったか…確かめる意味でも!」
マミ「美樹さん…」
その時、全員の前にふと現れる人影があった。
まどか「…っ!?ほ、ほむらちゃん…!」
ほむら「…」
現れた暁美ほむらは既に魔法少女に変身していた。五人をぐるりと見回すと、その中心に移動する。
コブラ「…!」
コブラ(俺の目でも、かの女がどの方角から来たか、分からなかった…!?)
ほむら「…巴マミ、佐倉杏子、美樹さやか…そして、コブラ…まどか。全員揃っているようね」
杏子「…魔法少女?…ああ、そうか。アンタがキュウべぇの言っていた、もう一人のイレギュラーか」
ほむら「これで、この周辺の魔法少女は、全員。例外もいるようだけれど」
コブラ「へへへ、まぁね」
まどか「…」
QB「何か用かい?暁美ほむら」
ほむら「貴方がこの場に居るのは少し嫌だけれど、仕方ないわね。…全員に、話しておくべき事があるの」
さやか「な、なによ…!」
ほむら「ただし、落ち着いて聞いて。そうじゃないと…私達全員、死ぬ事になるわ」
マミ「死ぬ…!?」
ほむら「ええ。間違いなく」
杏子「…初対面でいきなり現れておいて、そんな話を信じろっていうの?」
ほむら「ええ、そうよ。嫌ならいいわ。ただ私は、無益な戦いをする馬鹿の敵だということは覚えておいて」
杏子「なんだとっ…!」
さやか「…」
マミ「暁美さん、話って…?」
ほむら「…」
ほむら「貴方達に話しておくべき事がある。決して悪い話ではないわ。ただ、これから起こる事を、しっかりと把握しておいて欲しいの」
ほむら「二週間後、 この街に、ワルプルギスの…」
ほむらが話を始めた瞬間。
コブラ「…!さやか、避けろッ!」
さやか「…えっ?」
コブラはさやかの頭を抱えて、地面に伏せる。その瞬間…
二人の頭をかすめる、レーザー光。
ほむら「…ッ!?」
杏子「何だ…!?今の攻撃は、どこから…!?」
勢いよく伏せたせいで、さやかはソウルジェムを落としてしまう。
歩道橋の傾斜にそれは転がっていき…誰かの足元で、宝石は止まった。
さやか「あ…!」
コブラ「…!お前は…ッ!」
ボーイ「…こいつがソウルジェムか。なるほど、よく出来た宝石だ」
まどか「…!な、なに…!?なんなの、あの人…!」
六人の後方に立つ人物は、人間では無かった。
能面のような金色の顔、骨格のような金属の身体は、透明のガラスのような肉で覆われている。異形の怪物…少なくとも、少女達には、この世では存在し得ない存在。
コブラ「…クリスタルボーイ…!」
コブラは左腕の義手を抜き取ると、サイコガンを怪物に向けて構える。
杏子「!」
ボーイ「久しぶりだな、コブラ。まさかこんな場所で会うとは思わなかったが、やはりソウルジェムに関わっていたか」
マミ「…コブラさんの知り合い…?」
コブラ「…ちょっとした、な。なぁーに腐れ縁さ、出来れば二度と会いたくなかったがね」
ボーイ「くくく、そう言うなコブラ。俺は貴様に会いたくてここへやって来たのもあるんだからな」
コブラ「そいつは有難いね。でも出来れば美女に言われたい台詞だな」
ほむら(いけない、ソウルジェムが美樹さやかから離れている。これ以上離れたら…!)
さやか「か、返してよ!誰か知らないけど、それはあたしの物なのっ!」
ボーイ「ほう、この宝石には所有者がいるのか。てっきり鉱山から掘り出せるのかと思ったが、まさかこんな場所から反応が出ると思わなかったのでね」
コブラ「そいつを返してもらおうかガラス人形。お前には必要ない物だ」
ボーイ「…ふふふ、それが、必要なんだよ」
まどか「あの人は、一体…?」
コブラ「クリスタルボーイ…俺の居た世界の、殺し屋さ。悪の組織の幹部…なんて言った方が分かりやすいかな。少なくとも俺達の味方じゃない事は確かだ」
マミ「あの身体は…人間じゃない…!?」
コブラ「サイボーグだ。化け物と言ったほうが似合うね。俺が何度倒しても、また俺の前に現れる…ゴキブリみたいな野郎さ」
コブラ「クリスタルボーイ!何故この世界にお前がいるのか教えてもらおうかッ!」
ボーイ「俺がここにいる理由か…いいだろう、教えてやる」
ボーイ「一つは、コブラ。お前の後を追ってきたのさ。お前の足取りをようやく掴んでね、ブラックホールを辿ってこの世界に足を踏み入れたのが分かったからな」
ボーイ「そしてもう一つは…この石コロを探しにきた」
ボーイは掌で、さやかの青のソウルジェムを転がしながら言う。笑顔はない、能面のような表情がニヤリとほほ笑んだような錯覚を全員が受ける。
ほむら「…!何故ソウルジェムの事を…!」
ボーイ「太古の昔にあったと言われる、魔法の宝石…俺のいた世界にはそんな伝説があってね。そいつがこの世界に存在すると聞いて探しに来たが…まさかこんなに容易に手に入るとはな」
ボーイ「そこの餓鬼に礼を言わなければな。お前さんのおかげで仕事が早く済みそうだ」
さやか「…っ!」
コブラ「海賊ギルドがソウルジェムを狙っているってのか。驚いたね、いつからそんな少女趣味になったんだ?」
ボーイ「この宝石には随分な力があるそうだな。…魔法。そう、まるで願い事を叶えるかのような、魔法の力が」
QB「…!」
ボーイ「こいつの持つ膨大なエネルギー…そいつをギルドは求めているそうだ。くだらん夢物語だと思っていたが、現物が手に入ったのなら俺の仕事は完了だ」
ほむら「止めなさい!今すぐソウルジェムを返さないと…」
ボーイ「そう言われて素直に返すとでも思うのか?俺は今すぐこの場でこの宝石を砕いてもいいんだぞ」
ほむら「…く…っ!」
ボーイ「コブラ。貴様と決着をつけたいと思っていたが、また次回にしておこう。今は元の世界に戻る事にしておくよ、クク」
コブラ「…!戻れるというのか!」
ボーイ「どうかな」
その時、轟音を立てて歩道橋の真上に何かが接近してきた。
クリスタルボーイは、その何かに向かって跳躍をする。見たこともないような形の飛行機…宇宙船と言ったほうが正しいのだろう。
コブラ「ッ!待て、ボーイ!」
ボーイ「それじゃあなコブラ。せいぜいこの世界を楽しむといい」
さやか「ま、待ってよッ!あたしのソウルジェム…!!」
宇宙船はゆっくりと旋回をすると、空に飛び立っていく。
…そして、次の瞬間。
さやか「…ぁ…っ」
まるで糸の切れた人形のようにその場に倒れるさやか。
杏子「…!?な、なんだ…どうしたんだよ…!?」
杏子はさやかが倒れる前にその身体を抱き留め…そして、その異常事態に気付く。
杏子「…!どういうことだオイ……! こいつ…死んでるじゃねえかよ!!」
まどか「… … …え?」
マミ「…死ん、で…?」
まどか「そ、そんな、どういう…?」
QB「まずいね、魔法少女が身体をコントロールできるのはせいぜい数百メートルが限度だ。離れすぎてしまったようだね」
マミ「! キュウべぇ…それって…!?」
ほむら「…ぐ、っ…!」
その時、頭上にもう一つの飛行物体が現れる。轟音に気付き、コブラは上を見上げた。
コブラ「タートル号…レディ!」
レディ「コブラ、急いで!クリスタルボーイの宇宙船は急速で地球から離れようとしているわ!このままだと…!」
コブラ「ああ、今行く!…まどか、さやかの方を頼むぜ!」
コブラ「さやかのソウルジェムは…必ず俺が取り戻してくる!」
まどか「さやかちゃん…さやかちゃん!ねぇ、返事してよっ!さやかちゃん!」
コブラの声には反応せず、必至にさやかの身体を揺さぶるまどか。
タートル号は歩道橋にギリギリまで寄り、乗車口を開ける。急いでそれに飛び込もうとするコブラ。
マミ「ま、待って!コブラさん!私も行くわ!」
コブラ「!」
マミ「わけが分からないけれど…ソウルジェムを取り戻さなくちゃ!私だって手伝えるわ!」
コブラ「マミ…」
ほむら「私も行くわ。…このままじゃ、まずい」
コブラ「…!分かった、助かるぜ2人共!」
タートル号が、コブラ、マミ、ほむらを乗せ飛び立った後。
さやかの身体を必死に抱きしめるまどか。そして…キュウべぇに詰め寄り、首を鷲掴みにする杏子。
QB「苦しいよ、杏子」
杏子「どういう事だよ… なんで、コイツ…死んでるんだよ!!てめぇ、この事知ってたのかよッ!!」
QB「壊れやすい人間の肉体で魔女と戦って、なんてお願いは出来ないよ。魔法少女とは、そういうものなんだ。便利だろう?」
まどか「さやかちゃん… さやかちゃん…っ!」
QB「まどか、いつまで呼び続けるんだい?『そっち』はさやかじゃないよ」
QB「またイレギュラーが増えたのは本当に驚きだけれど、とにかくコブラ達が『さやか』を取り戻してくれるのを願うばかりだね」
杏子「なんだと…」
QB「魔法少女である君たちの肉体は、外付けのハードウェアでしかない。コンパクトで安全な姿が与えられ、効率よく魔力を運用できるようになるのさ」
QB「魔法少女の契約とは」
QB「君たちの魂を抜き取って、ソウルジェムに変える事を言うのさ」
杏子「ッッッ!!っざけんなぁ!! それじゃあ…アタシ達、ゾンビにされたようなもんじゃねえか!!」
QB「むしろ便利だろう?いくら内蔵を壊されようが血を流そうが、魔力で復活ができる。ソウルジェムを砕かれない限り、君たちは無敵なんだ」
QB「弱点だらけの肉体より、余程戦いでは便利な筈だ」
まどか「…酷いよ… 酷すぎるよっ…」
まどか「こんなのって… 酷すぎる…!」
クリスタルボーイの乗る宇宙船を眼前に捉えたタートル号。
コブラ「レディ、このままヤツの宇宙船に特攻して、でかい風穴をあけてくれ。そこから突入する。さやかのソウルジェムを無傷で取り返さなくちゃいけねぇ」
レディ「分かったわ。加速ならこっちの方が段違いに上よ、任せて」
コブラ「オッケー。…準備はいいかい?マミ、ほむら」
既にソウルジェムを使い、魔法少女となっているマミとほむら。しかしマミの表情はどこか優れないようだった。
コブラ「マミ」
マミ「…何が何だか、分からないの。…美樹さんが何で…倒れてしまったのか。ソウルジェムが身体から離れてしまったから?そんな事、知らない…!」
マミ「私も…ああなっちゃうの?ソウルジェムが離れると…死んでしまうの?」
マミ「分からない…もう何も、分からないッ…!」
コブラ「…マミ。とにかく今は、さやかのソウルジェムを取り戻す事だけを考えろ。話はその後だ」
マミ「……う、うぅ…ッ…」
コブラ「マミッ! アンタの大事な『後輩』だ! 助けられるのは…アンタしかいないッ!!」
マミ「…!!」
レディ「距離、50。衝撃に気を付けて…!このまま突っ込むわよ!」
ほむら「…」
・
ボーイ「…ふふふ、やはり来たか、コブラ」
ボーイ「貴様の墓標は、元の世界ではないようだな。…この世界だ」
―― 次回予告 ――
クリスタルボーイの野郎、ふざけた真似してくれるよ全く!さやかのソウルジェムを奪ったうえで俺を殺すだと?へっ、上等じゃねぇか!
奴の船に乗り込んだ俺とマミとほむら、ついにボーイとの決闘だ。相変わらず俺のサイコガンは効かないわ、魔法も物ともしない。いやだねー、ホント!
だが諦めちゃいられねぇ!さやかのソウルジェムは絶対に取り戻してみせるぜ!俺達は決死の作戦であの野郎に立ち向かう事になったっ!
次回【決戦!クリスタルボーイ】で、また会おう!
第5話「決戦!クリスタルボーイ」
レディ「距離30、20…!皆、どこかに掴まって!間もなくクリスタルボーイの宇宙船と衝突するわ!」
コブラ「了解!派手にやってくれ!」
ドォォォォンッ!!
マミ「きゃあああっ!!」
小規模の爆発が起きたように大きく揺れる、タートル号船内。
しかし狙いは完璧。タートル号はクリスタールボーイの操縦する宇宙船の後部に体当たりをかけ、見事に風穴を開ける。
コブラ「完璧だぜレディ!カースタントマンでもこの先食っていけそうだなっ!」
機体上部のハッチが開き、コブラは急いで梯子を上り外へと出ようとする。
コブラ「御嬢さん方、急ぐんだ!ヤツの宇宙船に飛び移るぞ、着いてこい!」
ほむら「ええ」
マミ「…」
コブラ「…マミッ!」
マミ「…! 分かったわ…今はとにかく、美樹さんのソウルジェムを…取り戻す!」
コブラ「上出来だ!いくぜ、皆っ!」
レディ「コブラ!忘れ物よ!」
レディがコブラに向けて、箱を投げた。それをキャッチするコブラ。
レディ「シガーケースよ。葉巻が切れた時のために、ね」
コブラ「…! あぁ、レディ。ありがとよ!」
タートル号上部船体。高速で移動を続け、クリスタルボーイの宇宙船を追う船体の外は激しい風が吹きすさぶ。
ハッチから外に出た瞬間、その豪風に吹き飛ばされそうになるほむらとマミ。
コブラ「俺に掴まれ!ヤツの宇宙船に移動する!」
マミ「移動する、って…どうやって!?」
コブラの腕にほむらが、肩にマミが掴まりつつも、マミは疑問の声を投げかける。その声にコブラは不敵な笑みを浮かべるのだった。
コブラ「こうするのさ」
コブラの空いている腕のリストバンドから、細いワイヤーが勢いよく発射される。ワイヤーの先端の刃が見事にクリスタルボーイの宇宙船の風穴内部に突き刺さり、コブラはその安定性を確認した後…。
コブラ「振り落とされるなよぉッ!!」
ほむら「…!!」
マミ「きゃあああああああああああああっ!!」
高速で縮まるワイヤー。三人の身体は吸い込まれるように、クリスタルボーイの宇宙船に移動していく。
レディ「…コブラ…皆!無事でいて…!」
――― 一方、地上。抜け殻となったさやか、それを抱きかかえるまどか。そして、キュウべぇに詰め寄る、杏子。
杏子「騙してたのかよ、あたし達を…っ!」
QB「騙していた?随分な言い方だね。さっきも言っていた通り、弱点だらけの人体で戦いを続けるより遥かに安全で確実なやり方なんだよ」
まどか「酷すぎるよ…っ!さやかちゃん、必死で…!強くなる、って…頑張るって…戦ってたのにっ…!」
QB「君たちはいつもそうだね。真実を伝えると皆決まって同じ反応をする。どうして人間は、そんなに魂の在り処にこだわるんだい?」
QB「ワケがわからないよ」
杏子「…!!畜生…っ!!ちくしょおおおっ!!」
やり場のない怒り、悲しみ…全てをぶつけるように、杏子は月夜に吼えるように叫んだ。
まどか「…コブラさん…っ!お願い…さやかちゃんを、助けて…!」
月を背景に、遥か上空を飛ぶ二隻の宇宙船。見えずとも、まどかはそこに向けて、祈った。
コブラ「うおっ、とぉ!!」
コブラは自分の身体を下にして、地面に滑り込む。三人はクリスタルボーイの宇宙船内に侵入を成功させた。
コブラ「無事かい、2人とも」
ほむら「…ええ、何とか」
マミ「む、無茶苦茶なやり方だったけど…どうにか無事だわ」
コブラ「そいつぁ良かった。…ここは…貨物室か?」
三人が侵入した場所は、無機質な、まるで鉄の箱の中のような場所。周りに数個の貨物があるだけの殺風景な部屋だった。
そして…その奥。
クリスタルボーイは、まるで三人を待っていたかのようにその場に立っていた。
ボーイ「遅かったじゃないかコブラ。待ちくたびれたぞ」
コブラ「待たせたなガラス細工。延滞金はしっかり払わせてもらうぜ」
コブラは左腕の義手を抜き、サイコガンを構える。マミとほむらも、異形の相手に向かい戦闘態勢をとるのだった。
【人工ブラックホール、生成準備完了。本船の前方に超小型のブラックホールが発生します。生成まで、あと10分…】
コブラ「…!?なんだとぉ!?」
ボーイ「ククク、タイムリミットはあと10分。コブラ、朗報だ。元の世界にもうすぐ戻れるらしいぞ」
ほむら「…!どういう事…!?」
ボーイ「聞こえなかったのか小娘。あと10分でこの船はブラックホールに吸い込まれ、異次元空間へとワープする。到着先は…我々の住む、未来の世界だ」
ほむら「!!」
ボーイ「元の世界に戻るのが目的だったのだろう?感謝しろコブラ、俺はお前の命の恩人だ」
コブラ「お前がぁ?ごめんだね、どうせ恩を売られるなら美女がいいに…決まってらぁッ!」
言いながらコブラはサイコガンの砲撃を次々とクリスタルボーイに浴びせる。
しかし、その砲撃の全てはボーイの体内で屈折し、素通りをしていくのだった。
マミ「!?こ、コブラさんの攻撃が…!」
ボーイ「クククク…忘れたわけではあるまい。サイコガンは俺には無力だ」
ボーイ「しかし、礼を言わせてもらうよコブラ。1つだったソウルジェムを一気に3つまで増やしてくれるというのだからな」
ボーイ「このままその女どもをワープさせれば…あとはその身体からソウルジェムを剥ぎ取ればいいだけだ。ふふふ…」
コブラ「どうかな。その前にお前にでかい風穴を開けてやるぜ」
ボーイ「ククク…はっはっはっは!!笑わせるな。コブラ、お前は今俺の掌の上で踊っているに過ぎん」
ボーイ「お前の行動パターンは実に分かりやすいよ。情に流されれば、貴様はきっと俺の船に乗り込んでくる…。そう思って、あえて貴様をあえてここへ呼び込んだのだからな」
コブラ「何だと…!」
ボーイ「どうやらソウルジェムとやらは、その女達の身体と繋がっている…いわば、『魂』のようなもののようだな。先程の青髪の女で確信させてもらった」
ボーイ「このまま俺が元の世界に戻ろうとすれば…貴様たちは必ずここへやってくる、というわけだ。それも1人ではない、わざわざソウルジェムを持つ女を2人も連れて、な」
マミ「…くッ…!」
ほむら「…」
ボーイ「コブラ。何故俺がこの貨物室を戦場に選んだか分かるか?此処には、貴様の武器である『臨機応変』が使えないのだよ。あるのは空の鉄箱だけだ。貴様の武器となるような物は、ない。お得意の逃げ回る戦法も場所が限られているぞ」
ボーイ「おまけに俺の特殊偏光クリスタルにはサイコガンは効かん。…さぁ、どうやって俺を倒すつもりかね?…コブラ!」
【ブラックホール、生成完了まで、あと8分です】
コブラ「!」
ボーイ「ソウルジェムは、この扉の先のコクピットにある。…あと8分。俺を倒して、この扉を潜って…奪い取れるかな?」
コブラ「…やってみせるさ!」
コブラは腰のホルダーから愛銃の『パイソン77マグナム』を抜き、3連射する。
しかしその弾丸の全てを、クリスタルボーイは右腕の鉤爪を盾のように使い、防御した。鉤爪に穴は開く威力ではあるが、その弾は身体にまでは届かない。
コブラ「!…ちっ…!」
ボーイ「一度食らった手をもう一度食らいはしない。…さぁ、次はどうするつもりだ?」
ほむら「…行くわ」
コブラ「…!」
カチリ。
微かに、時計の秒針のような音が聞こえたような気がした。その瞬間、暁美ほむらはクリスタルボーイの目の前にいつの間にか移動し、拳銃を構えていた。
コブラが次に気付いた瞬間…
クリスタルボーイの周囲は、鉛弾で包囲されていた。
コブラ・マミ「!」
ボーイ「何…!」
数十発、いや、数百発の弾丸が、クリスタルボーイの身体に次々と命中をしていく。その衝撃にクリスタルボーイは思わず仰け反る…が。
倒れはせず、一歩後ろに下がっただけで留まった。全ての弾丸はクリスタルボーイの身体に軽く埋まった程度で、穴すら開いていない。
ほむら「…!」
ボーイ「驚いたな…何だ、今の攻撃は。貴様の拳銃では不可能な連射だ…どうやった?」
ほむら「く…っ!(この銃じゃあ…威力が、足りない…!?)」
ボーイ「ククク…まぁいい。そんな安物の骨董品では俺の特殊偏光クリスタルには傷すら …つかんのだァッ!!」
ボーイは右の鉤爪を開き、ほむらに向けてビームガンを放つ。
ほむら「ッ!!」
ボーイ「!」
カチリ。また秒針の音が聞こえる。瞬間移動でもするかの如く、ほむらはその攻撃を素早い動きで避け、後ろへと下がっていく。
その瞬間…マミは次々と武器である単発式銃火器をスカートから取り出し、宙に浮かせる。
マミ「次は、私よッ!お人形さん!」
一発、それを撃つごとに銃を捨て、次の銃に切り替える。しかしその銃弾をクリスタルボーイは鉤爪で弾き、貨物室の天井へと跳弾させる。
ボーイ「そんな物が俺に効くとでも…思っているのか!!」
マミ「思っていないわ。…だから…こうするのよ!」
跳弾をして、開いた天井の穴が俄かに光り始めたかと思うと…その光から、絹のような魔法のリボンが勢いよく出現し、クリスタルボーイの身体に巻きついていく。
ボーイ「…!これは…!」
マミ「これが私の戦い方よ!…一気に決めるわ!」
マミは魔力を集中させ、巨大な、大砲のような銃器を目の前に出現させる。そしてその銃口をクリスタルボーイの方へ向けた。
マミ「喰らいなさい! ティロ・フィナー…!!」
ボーイ「…ふんっ!!」
マミ「…!!」
クリスタルボーイは自分の身体に巻きついた魔法の糸を…自らの腕力で、引き千切る。そして鉤爪をロケットのようにマミに飛ばし、攻撃をした。
マミ「きゃあッ!!」
鋭利な刃物のような、その爪。マミはどうにか単発式銃火器の銃身でその攻撃を受け止める、が…その衝撃はすさまじく、マミの身体は天井へと叩きつけられてしまう。
マミ「あぐゥっ!!」
コブラ「!マミ!!」
ボーイ「…魔法。ソウルジェムの力とやらか。…少し驚いたが、サイボーグのこの俺には通用しないようだな」
コブラ「畜生…いい加減にしやがれ、この野郎!」
コブラは再び、サイコガンの連射をクリスタルボーイに浴びせる。…が、やはりその光はクリスタルボーイを素通りしていく。
ボーイ「…次は貴様だ!死ね、コブラッ!!」
クリスタルボーイはコブラに向けて突進をし、鉤爪を大きく振り、その身体を切り裂こうとする。
コブラ「く、ッ!」
コブラはその攻撃を次々と避ける、が…相手も並の瞬発力ではない。コブラが避ければ、次の手を繰り出し…いずれ、回避行動は追いつかれてしまう。
ガキィィィンッ!!
鈍い金属音。コブラのサイコガンが、クリスタルボーイの鉤爪に掴まれた。
ボーイ「ふふふ…。…っ、はぁッ!!」
クリスタルボーイはコブラの左腕を掴んだまま、勢いよくコブラを投げ飛ばす。
コブラ「どわぁぁぁぁぁあっ!?」
身体が大きく宙を舞う。物凄いスピードで、コブラは鉄箱の山に叩きつけられた。派手な金属音が幾重にも音を立て、コブラの身体は鉄箱の山へと沈む。
ほむら「…!コブラ!」
ボーイ「…その程度では死なないのだろう?コブラ。今トドメを…刺してやる!」
ほむら「させない!」
カチリ。
クリスタルボーイの眼前に、突如として、安全ピンの抜かれた手榴弾が数個現れた。
ボーイ「何…!!」
ドォォ――――ン!!!
派手な音を立てて手榴弾が連鎖して爆発する。流石にその衝撃にクリスタルボーイの身体も吹き飛ぶ…が。クリスタルの身体には全く傷はついていなかった。
ゆっくりと立ち上がり、鉤爪をほむらの方向へ向ける。
ボーイ「相変わらず攻撃の読めないヤツだが…。言った筈だぞ…そんな骨董品で俺の身体に傷はつかん、と」
ほむら(…時間稼ぎにはなったようね…。やはり、手榴弾程度じゃアイツの身体はびくともしない…!)
ほむら(…とにかく、今はコブラを助けないと!)
マミ「はあああっ!!」
次の瞬間、マミがクリスタルボーイに向けて特攻をかける。銃器を鈍器代わりにし、その頭部を次々と殴る。
マミ「私のッ、後輩を…返しなさいッッ!!」
多少ダメージがあるのか、クリスタルボーイは反撃せず、しばしその攻撃を受ける。
ほむら(…今のうち…!)
カチリ。
ほむらはコブラの近くに瞬間移動をし、倒れているコブラの身体を起こそうとする。
ほむら「…!」
しかし、助けに行った筈のコブラは既に起き上がり、シガーケースから葉巻を取り出してジッポライターで火をつけていた。
ほむら(そんな…生身の人間なのよ!?魔法でガードしているわけでもないのに…あんな勢いで叩きつけられても…平然としているなんて)
コブラ「よぉ、ほむら。葉巻の煙は大丈夫かい?」
ほむら「そんな事言ってる場合じゃ…!」
コブラ「アンタに一本プレゼントだ」
コブラはシガーケースから葉巻を一本取り出し、ほむらに手渡す。
ほむら「!! 今はこんな… … …。 !…これ、葉巻じゃ…ない?」
コブラ「超小型の時限爆弾さ。先端のスイッチを押せば、5秒で爆発する。局部的ではあるが、おたくが今投げた手榴弾の数倍の威力はあるぜ」
コブラ「しかし、ヤツの懐に入ってそいつを爆発させる隙がない。…だが、君なら出来るんだろう?ほむら」
コブラ「時間を止めて動ける、君ならな」
ほむら「!!!!」
【ブラックホール生成完了まで、あと、5分です】
ほむら「…気づいていたの?私の能力に」
コブラ「それ以外に説明がつかないからさ。俺の目に見えない動きなんて、そう易々と出来るもんじゃない」
コブラ「魔法少女にはそれぞれ能力がある。マミは拘束系の魔法だし、さやかは回復が得意なようだな。…瞬間移動をするだけの能力かと思ったが、それじゃあさっきの銃弾や手榴弾の説明がつかない」
コブラ「時間を止める…いや、時間を『操れる』と言った方が適切かな?それがあんたの能力だ、ほむら」
ほむら「…!」
マミ「やああっ!っ、はぁッ!!」
クリスタルボーイをひたすら銃身で殴り続けるマミ。押しているようにも見えるが…クリスタルボーイは、反撃をしようとしていなかった。
ボーイ「…成程。その辺りの賞金首やギンガパトロール隊員よりは余程有能と見える。こうして受けるダメージも、通常の人間と比べて段違いに強い。魔法による身体能力の向上か」
ボーイ「だが、それが限界のようだな…!!」
マミ「ッ!!」
クリスタルボーイはマミの銃を一瞬で掴み、身動きを取れなくする。瞬間、空いている鉤爪をマミの腹へと突き出し…。
ドォンッ!!
ほむら「!!」
ボーイ「ぐ、…ッ!」
見ればコブラはいつの間にかパイソンを抜き、クリスタルボーイに向け発射していた。間一髪のところ、クリスタルボーイは後ろに仰け反り、マミはその間に後ろへと下がる。
コブラ「ほむら。お前さんにしか頼めない事だ。…そいつをヤツの腹に埋め込んできてくれ」
ほむら「…」
ほむら「もし、嫌だと言ったら?」
コブラ「… … …」
ほむら「正直に言うわ。私が此処へ来たのは、まどかの悲しむ顔が見たくなかったから。美樹さやかを失えば、きっとまどかの心に大きな穴がきっと空いてしまう」
ほむら「でも、私だって命は大事よ。私がこの葉巻型の爆弾を、アイツの身体に埋め込んできて、どうするの?アイツの身体がそれより頑丈だったら?」
ほむら「私はまだ…生きて達成する使命がある。こんなところで死ぬわけにはいかない。私には、助けるべき人がいる」
ほむら「ここで私が逃げ出したら、どうするの?コブラ」
コブラ「…いいや、アンタはやってくれる。俺はそう信じている」
ほむら「信じる?私を?…何故?」
コブラ「アンタには、助けるべき人がいる。それと同時に…アンタには助けが必要だからだ」
ほむら「…!」
コブラは葉巻から紫煙をゆっくり吐き出し、不敵に笑いながらゆっくりと立ち上がる。サイコガンをクリスタルボーイに向けて構えると、その横で茫然としているほむらに向けて、視線は合わせず語りかけるのだった。
コブラ「ほむら、アンタは何かを抱えている。俺にはそれが何かは分からない。だが君はずっとそれに立ち向かっている。…俺が君と出会った時からだ」
コブラ「そしてその『何か』に怯え…助けを求めている。だから俺は、全力でアンタのそれを手伝うつもりさ」
ほむら「…何故、それを…!!」
コブラ「君は隠しているつもりでも、俺には分かるのさ。…女に嘘は何度もつかれてきたが、女の瞳に嘘をつかれた事は…ほとんどないからな」
ほむら「… … …」
コブラ「さやかを助け、全員でその『何か』に立ち向かう。君はその『何か』を知っているようだが…今はまだ何も話さなくてもいい。少なくとも、あのガラス人形を倒すまではな」
コブラ「だが…俺は守ってみせる!君を…君達をっ!!何があっても、守り抜いてみせる!!」
ほむら「…!!!!」
ボーイ「…少し油断をしたな。…次はないぞ、コブラ…!」
頭に弾丸の穴を開けながらも、クリスタルボーイは立ち上がり、こちらを睨む。
ボーイ「死ねぇぇ、コブラァァァーーーッ!!」
鉤爪を振りかざしながら、全力でコブラに向けて疾走してくるクリスタルボーイ。サイコガンの連射も構わず、コブラに向かう。
ほむら「…分かったわ。…あなたを信じるという事は『この時間軸では』…愚かなのかもしれない。…それでも…皆を、まどかを助けれられる可能性があるのなら…私は貴方に賭けてみたい」
ほむら「…不思議ね、少しだけ…そんな衝動に駆られたわ」
コブラ「…感謝するぜ、ほむら」
ほむら「貴方が礼を言う必要はないわ…コブラ」
ボーイ「ハァッハッハッハァーーーッ!!」
完全にコブラを捉えたと確信したクリスタルボーイは、笑いながら突進をしてくる。
カチリ。
だが、次の瞬間。クリスタルボーイの足が止まった。
ボーイ「…何…?」
特殊偏光クリスタルに埋め込まれた葉巻のタイマーは『00:00』と記されていた。
ドゴォォォォォ―――――――――!!!!
大きな爆発がクリスタルボーイの身体を包むように起こった。
ボーイ「うぐぉぉぉぉぉッ!!??」
僅かに、クリスタルの破片が辺りに散らばった。
気付けば、ほむらは、コブラの真後ろにいた。コブラはそれを見ると、にぃ、と笑顔を見せて再びクリスタルボーイに向き直る。
コブラ「美人に見とれて時間を忘れたか!クリスタルボーイッ!!」
サイコガンの連射。クリスタルボーイの特殊偏光クリスタルは先程の爆発で胸部に風穴があき、防御ができない状態となっていた。
正確にその穴を通るサイコガンの弾道は内蔵のような金属を次々と破壊していく。
ボーイ「!!!!」
コブラ「マミッ!!今だ、アレをもう一度やってやれッ!!」
マミ「…!分かったわ…。…今度は、外さない!!」
クリスタルボーイが怯んでいる間に、マミはもう一度魔力を集中する。 再び巨大な砲身が現れ、銃口をもう一度、クリスタルボーイの方向へ構えた。
マミ「『ティロ・フィナーレ』ッッッ!!!」
爆音のような銃撃音が貨物室に響く。マミの頭身ほどもある巨大な弾丸は、ゆっくりと正確にクリスタルボーイの方へ突き進んでいき、そして…。
ボーイ「ぐわああああああああああああああッッッ!!!」
ドオォォォォォォォォォォンッッ!!!
まるで星空の煌めきのように、粉々になったクリスタルが辺りに散らばった。
クリスタルボーイの身体は木端微塵となり、残骸の破片が転がっているのみとなっている。
マミ「…やった…!あはは…た、倒した…!」
ほむら「…」
コブラ「2人とも、いい仕事だったぜ。100点満点だ」
三人が笑顔を浮かべた瞬間、船のアナウンスが無常にも時を告げる。
【ブラックホール、生成完了まであと1分30秒。船員は安全な場所で待機をしてください。繰り返します…】
マミ「…!!」
ほむら「…くッ…!時間が…!」
その時、貨物室の風穴から声が聞こえた。見れば、エアーバイクに乗ったレディが宇宙船と並走している。レディはそこからロープを垂らした。
レディ「皆、急いでロープに掴まって!タートル号は離れた場所で避難しているわ、早くしないとブラックホールに巻き込まれる!!」
マミ「で、でもまだ…美樹さんのソウルジェムが!!」
ほむら「…私が行くわ。もう一度、時間を…」
コブラ「いいや、俺が行く。ほむら、入ったことのない未来の宇宙船の中から一つの宝石を探し出せるかい?」
ほむら「…で、でも…」
コブラ「こういうのは俺の専門さ。…マミ、ほむら!先に脱出しろ!俺は後から行くぜ!」
そう言ってコブラは、貨物室の先のコクピットへと走っていく。
マミ「!!コブラさんっ!!」
コブラ「ちっ…あの野郎、厄介な仕事残してくれたぜ…。宝探しゲームのつもりか?」
船体が大きく揺れはじめる。それは、ブラックホールがもうすぐ出来上がる事を示していた。
コブラ「さぁーてと…どこに隠れてるのかな?ソウルジェムちゃんは…!」
宇宙船、コクピット。閑散とした場所ではあるが、コクピットはかなり広い。一見しただけでは青い宝石は見当たらないようだ。
【ブラックホール、生成完了まであと1分です。船内の乗組員は衝撃に備え…】
コブラ「ちぃーっ!分かってますってんだ…!…どこだー?どこだ、ソウルジェムは!」
操縦席、椅子の下、機器類、あらゆる場所を探すが、見当たらない。そうしている間にも刻々と時間は過ぎていき…。
コブラ「ちくしょー!あのガラス人形め、最後に罠しかけやがって…!どこだよ、どこにあるんだっ!?」
コクピットのモニター。船体の眼前には、既に超小型のブラックホールが誕生しかけている。船はいっそう揺れ始め、今にもそれに吸い込まれそうだ。
【ブラックホール、生成完了まであと10秒です。9、8、7…】
コブラ「くそーっ!!間に合わね… …ん?」
操縦桿にやけくそで腕を叩きつけた瞬間… 壊れた機械の中に煌めく、一つの青い光。操縦桿はダミーで、実は空の鉄箱だったのだ。
【4、3…】
コブラ「こいつかァ――ッ!!」
急いでコブラはそれを取り出し、貨物室へと走る。が…。
【2、1…0。異次元へのワープを開始します】
コブラ「うおおおお―――――ッ!!」
無常にも、船体はゆっくりとブラックホールに吸い込まれていく。
轟音を立ててブラックホールに吸い込まれていく、クリスタルボーイの宇宙船。
エアーバイクに乗り込んだレディ、ほむら、マミの3人はただそれを見送る事しかできなかった。
マミ「あ、あ…!」
ほむら「…!」
レディ「…」
マミ「そんな…っ!間に合わなかったの…!元の世界に、戻ってしまったのというの…!?レディさんだって、この世界にまだいるのに…!」
マミ「そんな…!!!」
ほむら「…」
ほむら(…私を、まどかを助けると…約束したのに…)
レディ「…ふふ、それはどうかしら」
マミ「え?」
レディ「私は彼と長い付き合いだけれど…彼が、やり始めた事を途中で放棄した事は、一度もないわ」
レディ「…たとえ、そこが見知らぬ世界の中だろうとね」
ガキィィンッ!!
その時、エアーバイクの機体に突き刺さる、ワイヤーの先の刃。
マミ・ほむら「!!」
そのワイヤーの先に…ウインクをしながら手を振る、1人の男の姿があった。
コブラ「おーい!レディ、早く降ろしてくれーっ。俺は高所恐怖症なんだよーっ」
力無いさやかの右手に、コブラはそっとソウルジェムを握らせた。
まどか、ほむら、マミ、杏子…コブラ、レディ…そして、キュウべぇ。全員で、時間が止まったかのようにさやかの様子を見る。
祈るような、視線の数々。
…そして。
さやか「…あれ…?」
ゆっくり起き上がるさやか。何が起きたのか分からない、という表情で辺りを見回す。
さやか「…あれ、あたし…どうしたの…?」
まどか「さ…さやか、ちゃん…っ…」
マミ「…美樹さんっ…!!」
さやか「ま、まどか…?マミさんも…なんで、泣いてるの…?あれ?あれ?」
まどか「うわぁぁぁあああんっ!!」
マミ「…っっっ!!」
大声を出して泣きながらさやかに抱きつく、まどか。そしてその2人を包むように優しく肩に手を置く、マミ。
少しだけ、微笑んで…ほむらもその様子を黙って見ていた。
コブラ「仲間、か」
レディ「どうしたの?コブラ」
コブラ「…俺達が失ってきたものを…かの女達に失わせたくはない。…そう思ってね」
コブラは葉巻に火をつけると、満足気に笑みを浮かべ…月に向けて煙を吐いた。
―― 次回予告 ――
さやかのソウルジェムを取り戻したのはいいものの、その秘密は皆にバレちまった!どうやらキュウべぇの野郎、契約と同時にかの女達の魂をソウルジェムに移し替えちまったらしい。タチの悪い詐欺だぜ。
ショックを隠し切れない魔法少女達。不安になっちまうのも無理はないってもんだよ。特にさやかにゃ、色々ワケがあるみたいだね。
そんな矢先、新たな魔女が出現する。触手がうねうね、気持ち悪いの何の。こんな中戦えっていうのも無茶な話かもしれないが…しかし、俺が必ずあんた達を守ってみせるぜ!
次回、【魔女に立ち向かう方法】で、また会おう!
さやか「…騙してたのね、あたし達を」
QB「不条理だね。ボクとしては単に、訊かれなかったから説明をしなかっただけさ。何の不都合もないだろう?」
マミ「…納得出来ないわ。…キュウべぇ、何故…教えてくれなかったの?ソウルジェムに…私達の魂が移されていた、だなんて…!」
QB「君からそんな事を言われるのは心外だね。魂がソウルジェムに移ったのは、マミ、君が魔法少女になったからだよ?失いかけていた命を救うことを望んだのは君自身じゃないか」
マミ「私の事はどうでもいいわ。…美樹さんの立場はどうなるの?彼女は、叶えたい願いを叶えただけ…それだけなのに」
QB「『それだけ?』」
QB「戦いの運命を受け入れてまで、叶えたい願いがあったのだろう?さやか、君は魂がソウルジェムに移ると知っていたのなら、願いは叶えなかったのかい?」
さやか「…!」
QB「戦って、たとえその命が尽きようとも、恭介の腕を治したかった。それならば肉体に魂が存在しない程度、どうという事はないだろう?」
マミ「キュウべぇ、貴方…!」
QB「恨まれるような事をした覚えはないよ。君たち人間は生命の消滅と同時に魂までも消えてしまうからね。ボクとしては、少しでも安全に戦えるように施しをしているつもりなのだけれど」
コブラ「… … …」
第6話「魔女に立ち向かう方法」
クリスタルボーイを倒した、翌日。
マミのアパート。マミ、さやか、コブラの三人はキュウべぇを問い詰めるべく、そこに集まっていた。魔法少女の存在とは、ソウルジェムとは何か。その願いの代償として失った物を、確かめるべく。
QB「マミ、さやか。君たちが今日まで無事に戦ってこれたのは、ソウルジェムのおかげなんだよ」
QB「肉体と魂が連結していないからこそ、痛覚を魔力で軽減して、気絶するような、ショック死をしてしまうような痛みをも君たち魔法少女は耐える事が出来る」
QB「本来、君たちが受けるべき痛みを今ここで再現してみせようか?」
マミ「…っ…!」
コブラ「やめときなよ。そんな事再現したって何の得にもなりゃしない」
QB「そうかな。マミもさやかも、現実をまだ受け入れていないからね。魔法少女として戦う事の意味を」
さやか「… … …」
コブラ「それじゃあ、その『意味』とやらを教えるのがアンタの目的かい?冗談よしてくれよ、お前はかの女達の教師でも何でもない。ただ契約を結ぶだけの存在の筈だ」
QB「イレギュラーの君にとやかく言われる必要も感じないね」
コブラ「おおっと、触れちゃいけない話題だったかな?それとも、アンタには契約を結んで魔女を倒す以外に何か目的でもあるのかい?」
QB「…」
QB「君は、何者なんだい?」
コブラ「言わなかったかな?俺は、コブラさ」
コブラ「マミ、俺はちょいと野暮用があるんで失礼するぜ。君のお茶はいつも最高の味だ」
マミ「…えぇ。…ありがとう、コブラさん」
コブラ「…さやか」
さやか「… … …」
コブラ「アンタが叶えた願い。…それに賭けたお前さんの思い。しっかり思い出すんだ」
コブラはそう言い残して、マミの部屋から出ていく。
さやか「…あたしの…願い…」
―― 学校。
和子「はーい、今日は…美樹さんは欠席、ね。それじゃあ、HRを始めましょう」
まどか「…」
まどか(さやかちゃん…大丈夫かな…。マミさんも学校来てないみたいだし…。…やっぱり、みんな…ショック、なのかな…)
まどか(わたしに出来る事って…何も、ないのかな?…ずっと見ているだけで、臆病で…っ…)
ほむら「… … …」
廃墟と化した教会。ステンドグラスから漏れる光を浴びながら、1人俯いて考え事をする杏子。
杏子「…」
杏子「なんなんだよ、一体」
杏子(意味が分からねェよ。アタシはただ…魔女を狩って、自分のためだけに…ただ、それだけのために戦ってきた筈なのに…)
杏子(ワケのわからねー男は出てくるし、魔女じゃない変な化け物は出てくるし…アタシは、もう死んで…ソウルジェムがアタシの魂になってるって…?)
杏子「…くそ…っ!こんな…こんな…!」
杏子は自らの赤色のソウルジェムを忌まわしげな瞳で見つめる。
それでも、その宝石をたたき割る事は出来ない。それが自らの命であると、知っているから。
杏子「…なんで…」
杏子(なんで、アタシは…こんなに悲しくて、悔しいんだよ…っ!…畜生…っ!)
杏子「くそ…アタシらしく、ないな…」
杏子は立ち上がり、廃墟からそっと出ていく。
――― その夜。
ピンポーン。
恭介父「はい、どなたでしょうか?」
恭介父「…ああ、貴方は確か…病院の方で、恭介の演奏を…」
恭介父「そんな、わざわざ有難うございます。…どうぞ、上がってください。恭介からも貴方のお話は聞いています。…その節ではお世話になったそうで」
恭介父「恭介は部屋にいますから、案内しますよ。…え?必要ない?そ、そうですか…?それでは…」
コンコン。
恭介「…?父さん?」
松葉杖をつきながらドアまで近づき、自分の部屋のドアをゆっくり開ける恭介。
恭介「…!あなたは、確か…」
コブラ「よー、元気かい?」
コブラは花束を恭介に手渡すと、にぃ、と笑った。
コブラ「快気祝いに来たぜー。おー、いい部屋住んでるじゃねーかー。どれ、お宅拝見っと」
恭介「そ、それは…どうも…」
恭介「酒臭ッ!!」
一方、同時刻。杏子に呼び出され、森林の中を歩くさやかと杏子。
一度は、対峙した相手。だが、心に思う事はお互いに同じなのであろう、虚ろな瞳で杏子の後をついていくさやか。
そして辿り着いたのは、廃墟と化した教会であった。
杏子「アンタは、後悔してるのかい?こんな身体にされた事」
さやか「…」
杏子「アタシは別にいいか、って思ってる。なんだかんだでこの力のおかげで好き勝手できてるんだしね」
さやか「…あんたのは自業自得でしょ」
杏子「そう、自業自得。全部自分のせい、全部自分の為。そう思えば、大抵の事は背負えるもんさ」
さやか「…それで、こんなところに呼び出して何の用?」
杏子「ちょいとばかり長い話になる。…食うかい?」
さやかにリンゴを投げる杏子。一度はそれを受け取るが…床に投げ捨てるさやか。
その瞬間、杏子はさやかの胸倉を掴む。
杏子「…食い物を粗末にするんじゃねぇ。…殺すぞ」
さやか「… … …」
杏子「…ここはね。…あたしの親父の教会だったんだ」
杏子は、静かに、しかし強い口調で語り始めた。誰に言うでもない、まるで独り言のように虚空を見ながら話す杏子の目は、とても悲しく、しかし強い瞳であった。
―― 佐倉杏子の、父親。幸せだった筈の家族。
あまりに正直で素直であったために、世間から淘汰された神父の話。しかし、それでも自分に正直であり…家族も、そんな父親を責めはしなかった。
貧しくても、その日の食糧を求める事すら苦しくとも、佐倉杏子の家族はしっかり家族として機能していたのだった。
杏子「…皆が、親父の話を真面目に聞いてくれますように、って。それがあたしの、魔法少女の願い」
その願いは叶えられ、杏子には魔法少女としての枷が与えられた。それでも、彼女は構わなかった。自分さえ頑張れば、家族は幸せになれるのだと…そう信じていたから。
―― しかし。
父親に、杏子の魔法はバレてしまった。偽りの信者、偽りの信仰心、全てが魔法の力であるものだと。
―― そして、杏子の魔法は、解けてしまったのだった。
杏子の父親、母親、幼い妹すらも巻き込んだ、無理心中。杏子の願いは、家族の全てを壊してしまったのだ。
杏子「アタシはその時誓ったんだ。もう二度と…他人のためにこの力は使わない、って」
杏子「…奇跡ってのは、希望ってのは…それを叶えれば、同じ分だけ絶望が撒き散らされちまうんだ」
杏子「そうやって、この世界はバランスを保って、成り立っている」
恭介「…あの時は、本当に有難うございました。…自暴自棄になっていた僕を、止めてくれて。…あの時、コブラさんが止めてくれていなかったら…」
コブラ「なぁ、恭介。奇跡ってヤツはどうやって起きるんだろうな?」
恭介「…え…」
窓辺に腰かけて、コブラは笑顔を浮かべながら呑気にそう語りかける。まるで独り言のように、虚空を見ながら。
恭介「…どうやって、って…それは…」
コブラ「アンタのその腕、医者からも治癒は絶望的なんて言われてたんだろ?今こうして動いて、しかもバイオリンが弾けるまで回復するなんて奇跡以外の何物でもない」
コブラ「そいつを不思議に思ってね。恭介、アンタ自身はどう考えてるのかちょいと世間話に来たんだ」
恭介「…僕自身も、本当に偶然とは思えないのは確かです。神様が僕の願いを叶えてくれた…なんて考えるのも、おこがましい話ですし」
コブラ「神様、ね」
コブラ「その神様って奴が身近にいたのかもしれないぜ?…アンタの場合」
恭介「…え?」
コブラ「病室にいて、ずっと落ち込んで、ふさぎ込んでいたアンタを、神様とやらがずっと見ていてくれたんじゃないかな」
恭介「… … …」
コブラ「その神様ってヤツぁ、お前さんが想像してるような白髪の老いぼれ爺なんかじゃないと思うね。もっとチンチクリンで、自分に馬鹿正直なクセに奥手で恥ずかしがり屋で、それでも頑張ってアンタのために祈りを叶えてくれた」
恭介「…さや、か…?」
コブラ「奇跡って奴は、叶えるのにそれだけの対価が必要だと俺は思ってるのさ。…ひょっとしたら、アンタの奇跡のためにこの世界で頑張ってるヤツが1人いるんじゃないのかな。ま、あくまで俺の考えだがね」
さやか「何でそんな話を私に?」
杏子「アタシもあんたも、同じ間違いをしているからさ。だから、これからは自分のためだけに生きていけばいい。…これ以上、後悔を重ねるような生き方をするべきじゃない」
さやか「… … …」
杏子「もうあんたは、願い事を叶えた代償は払い終えているんだ。これからは釣り銭取り戻す事だけ考えなよ」
さやか「…あたし、あんたの事色々誤解していたのかもしれない。…その事はごめん、謝るよ」
さやか「でも、一つ勘違いしている。…私は、人の為に祈ったことを後悔なんてしていない。高過ぎる物を支払ったとも思っていない」
さやか「その気持ちを嘘にしないために、後悔だけはしないって決めたの」
杏子「…なんで、アンタは…」
さやか「この力は、使い方次第で素晴らしいものに出来る。…そう信じているから」
さやか「それから、そのリンゴ。どうやって手に入れたの?お店で払ったお金は?」
杏子「…!」
さやか「言えないのなら、そのリンゴは貰えないよ」
さやか「あたしは自分のやり方で戦い続ける。…それが嫌ならまた殺しに来ればいい。もうあたしは負けないし…恨んだりもしない」
そう言い残し、静かに教会から去っていくさやか。
杏子「…ばっかヤロウ…」
恭介「…はは、まさか…」
コブラ「そう、まさかなんだよ。アンタの身体に起こった奇跡は、単なる偶然。誰に感謝するわけでもない、これからは自分のために、自分のバイオリンのためだけに生きて行けばいい。なんたってあんたは天才ヴァイオリニストなんだからな」
恭介「… … …」
恭介「それじゃあ…まるで、僕が最低の人間みたいじゃないですか」
コブラ「そう思うのかい?じゃあアンタの腕が治ったのは誰かのおかげなのか?それとも、本当に単なる偶然なのか?」
恭介「…貴方は、何を言いに来たんですか?」
コブラ「言っただろ?俺は世間話をしにきたんだよ。機嫌を損ねちまったかな?」
恭介「… … …」
コブラ「俺はバイオリンの音色に興味はないからなぁ。どうせ聞くんなら美女の甘い囁きを耳元で…なんてね」
コブラ「しかし、この世で一番、アンタのバイオリンの音色を聴きたがっている人間がいる。アンタの家族や親族より、ずっと強い気持ちでさ。…アンタはそれに応えてやらなきゃいけない」
コブラ「アンタに起こった『奇跡』を、アンタがどう考えるのかによるかだけどな」
恭介「… … …」
コブラ「それじゃ、俺は失礼するぜ。こう見えて忙しいんだ。デートの約束とかね」
恭介「… … …」
恭介「…待って、ください…!」
コブラ「…」
恭介「…もう少しだけ…もう少しだけ、貴方の話を聞かせてください。…考えたいんです」
コブラ「…ああ」
コブラ「それじゃあ、ちょいとした身の上話をさせてもらおうかな。今日の予定は全部キャンセルだ」
―― その翌日。親友の仁美に呼び出されたさやかは、ファーストフード店に来ていた。テーブル越し、まるで対峙をするかのような、仁美の強い視線。
そして、神妙な面持ちで語り始める。
仁美「ずっと前から…私、上条君の事をお慕いしておりましたの」
さやか「…!!」
さやか「…そ」
さやか「そうなんだぁ…!あははは、恭介のヤツ、隅に置けないなぁ」
仁美「さやかさんは、上条君とはずっと幼馴染でしたのよね」
さやか「あ、ま、まぁ…腐れ縁っていうか、なんていうか…」
仁美「…本当に、それだけですの?」
さやか「…!」
仁美「…もう私、自分に嘘はつかないって、決めたんですの。…さやかさん、貴方はどうなのですか?」
さやか「どう、って…」
仁美「本当の自分と、向き合えますか?」
仁美「―― 明日の放課後に、私、上条君に思いを告白致します」
仁美「―― それまでに、後悔なさらないように決めてください。上条君に、思いを伝えるかどうかを…」
―― その夜。自分の家を出て魔女退治に出かけようとするも、思考が回らず立ち止ったままのさやか。
さやか「…」
まどか「…さやかちゃん」
さやか「…!まどか…」
まどか「付いていって、いいかな…?…マミさんにもコブラさんにも言わないで魔女退治に行くなんて…危ないよ…?」
さやか「…あんた…なんで、そんなに優しいかな…っ…。あたしに、そんな価値なんて、ないのに…っ、ぐ…!」
まどか「そんな事…!」
さやか「あたし、今日、酷い事考えた…っ…!仁美なんていなければいいって…っ…!恭介が…恭介が、ぁ…仁美に、取られちゃうって、ぇ…えぐっ…!」
まどか「…」
そっと近づき、さやかの身体を優しく抱くまどか。
さやか「でも…あた、し…っ!なんにも出来ないっ…!ひぐっ…!だってもう死んでるんだもん…ゾンビなんだもん…っ!」
まどか「さやかちゃん…」
さやか「こんな身体で、抱きしめてなんて…っ、言えないよぉぉ…!!」
その時、さやかとまどかに近づく1人の影があった。
まどか「…! …あなたは、あの時の…」
レディ「…少し、いいかしら?美樹さやかさんと、鹿目まどかさん。…お届けものに来たわ」
近くにあったベンチに座った、さやかとまどか。さやかが泣き止み、落ち着くのを待ってからレディは静かに話し始める。
レディ「突然でごめんなさい。…まどかさんとは少しだけ顔を合わせたけど、さやかさんは…知らなかったわね、私の事。私はコブラから貴方達魔法少女の事は聞いているのだけれど」
さやか「… … …」
レディ「こんな恰好だから警戒するのは当たり前よね。…私はコブラの相棒、レディ…アーマロイド・レディというの」
さやか「…やっぱり変な名前」
レディ「ふふ、そうね。…こんな時に突然で驚くわよね。コブラがどうしても、私に、貴方達に届け物をして欲しいと言うから」
まどか「…届け物、って…?」
レディ「上条恭介君からの預かりものがあるわ」
さやか「…!!!」
レディはそう言って、小さな封筒を一つ、取り出して見せた。
レディ「受け取ってもらえるかしら?」
さやか「… … …」
まどか「さやかちゃん…」
しかし、さやかの表情は優れず、レディの持つ封筒に手を差し伸べる様子も無い。
レディ「…それから、コブラからもう一つ頼まれごとをしているの」
レディ「昔話を、さやかにしてやれ、ってね」
さやか「…え…?」
レディ「退屈な話なら聞かなくていいわ。この封筒だけ受け取ってくれてもいい。ここから逃げ出してもいい。…もし良かったら、そのままベンチに座っていてくれないかしら」
さやか「… … …」
さやかは動かず、俯いたままでいる。まどかはその身体をそっと支えたままだった。
レディ「…昔、あるところにとてもヤンチャなお姫様がいたの。祖国を怪物に滅ぼされ、復讐に燃えるあまりにその怪物を自ら倒しに行った…そんな無茶をした、バカなお姫様よ」
レディ「でもそのお姫様の力じゃあ、とてもその怪物には敵わなかった。…でもね、ある人が、私を助けてくれたの」
レディ「祖国を滅ぼされ、仲間も失い…全てを失った私を、その人は守ると言ってくれた。…何があっても守る、何があっても殺させやしない、って…」
まどか「…それって、レディさんと、コブラさん…?」
レディ「…ふふふ、どうかしら?」
レディ「その人は、全てを…命を賭けて、時間さえも飛び越えて…お姫様を助けてくれたわ。だから、お姫様も…その人に一生ついていくと決めたの」
さやか「… … …」
さやか「素敵な話だね。…でも、知らない人からそんな話を聞いても…あたしは…」
レディ「…そうだと思うわ。私だって不思議だもの。何故こんな話をコブラが私にさせているのか」
レディ「でも…なんとなく…私はね、そのお姫様とさやかさんが似ていると思うの」
さやか「…あたしと…?」
レディ「お姫様とその人との幸せな時間はあったわ。…でも、そう長くは続かなかった。 お姫様はある日、瀕死の重傷を受けてしまったの。…銃撃戦があって、ね」
レディ「お姫様には一つの選択肢があったの。そのまま死ぬか…もしくは、全く別の身体に魂を宿して、新しい人生を送るか」
さやか「…!」
―― 昨日。上条恭介の部屋、コブラと恭介の会話の続き。
コブラ「俺には1人の相棒がいてね。親愛なる最高のパートナーが」
コブラ「そいつは以前、瀕死の重傷を負った。…医者に言われたよ。奇跡は起きない。このまま死ぬのを待つしかない、とね」
恭介「…」
コブラ「一つだけ、彼女が助かる道があった。…まぁ、嘘だと思うかもしれないが聞いてくれ。…全く別の身体に、その相棒の魂だけを移し、生まれ変わる…そんな事が出来たのさ」
恭介「…作り話、ですか?」
コブラ「そう思ってくれて構わないさ。作り話なら、俺もなかなかいい小説家になれそうだろ?」
コブラ「話の続きだ。…だが、俺は相棒がそんな身体になる事は望まなかった。俺はそいつを愛していたし、彼女だってそんな事は望まないと思っていた」
恭介「…」
コブラ「だがかの女は、新しい身体に自分の魂を注ぎ、生まれ変わった」
コブラ「以前のように愛されなくてもいい。ただかの女は、俺と一緒にいる事だけを望んだ。そのためなら、例えその身体が機械の身体になろうとも…ってね」
恭介「…素敵な話ですね」
コブラ「そう思うかい?そりゃ良かった。恭介、アンタと俺は気が合いそうだ」
恭介「気が合う?」
コブラ「そうさ。俺はその時、かの女と共にずっと旅を続けていくと心に誓ったからさ」
コブラ「何を犠牲にしてもいい。どんな事をしてもいい。かの女が俺を愛してくれるのなら、かの女がどんな身体になろうと俺は全てをかの女に捧げようとな」
恭介「… … …」
コブラ「そこに、愛するとかそういう概念はない。俺は相棒に出来る事を全てする。相棒も同じ事を俺にしてくれる。同じ目的を持ち、同じ『道』を進む…。いい関係だろ?」
コブラ「…恭介。アンタのバイオリンには、そういう『道』が築けるのさ。世界中、全ての人にその音色を聞かせてやれるように…なんて道がな」
恭介「…ええ。僕は…たくさんの人に、自分の音色を届けたいと思っています」
コブラ「へっへっへ」
コブラ「だったら、まず…その音色。聞かせてやるべき人がいるはずさ。…『相棒』がね」
恭介「…!」
レディ「お姫様は…新しい身体。おおよそ人間とは言えない、機械の身体に自分の魂を移したわ」
レディ「彼に愛して欲しいとは望まなかった。…ただ、かの女はずっと旅がしたかったの。その人と過ごす時間…その人の進む道を同じように進んでいくのが、何よりも素敵な時間だったから」
さやか「… … …」
レディ「そう思ったのは、彼を信頼していたから。どんな身体になろうとも、約束をずっと守ってくれると信じていたから。私を、ずっと守ってくれるという…ね」
レディ「…ねぇ、さやか。貴方にとっての恭介という人は、どんな人なの?」
さやか「…恭介…」
レディ「貴方は、自分が愛される資格がない…そんな風に考えている。…じゃあ恭介君は、そんな貴方をすぐに見捨ててしまうのかしら」
レディ「貴方が愛した彼は、そんな人?」
さやか「…!」
レディ「…誰かの傍にいたいと思うには、条件があるの。それは、何があってもその人を信じる事。どんな事があっても自分を見捨てない。必ず傍にいてくれる…。自分がそう信じる事が、何よりも大切」
レディ「コブラと、私。…さやかと、恭介。…ふふ、本当に似ていると私は思うわ」
レディ「だから、貴方にお届けものよ」
レディは封筒から一枚の紙を取り出し、さやかの掌の上に置いた。
まどか「…!それって…」
さやか「…!」
紙には、恭介の字が記してあった。リハビリ中でまだ震えた字体であったが、力強く握った黒のインクで、しっかりと書かれてある。
【明日の放課後、僕の家でもう一度コンサートを開かせてください。僕をずっと信じてくれていたさやかに、聞いて欲しい曲があります。 ―― 上条恭介】
さやか「!!!!」
レディ「…こんな素敵なコンサートチケット、世界中どこを探しても見たことないわ。…幸せね、さやかは」
さやかは声にならない泣き声をあげながら、大粒の涙を流した。
まどかも、その身体を支えながら、微笑み、泣いた。
マミ「…!これは…」
マミのソウルジェムが俄かに光って反応を示す。
コブラ「魔女か?」
マミ「そうみたい…近いわ!大変よ、美樹さん!近くで魔女が生まれ… …」
ガサッ。
ソウルジェムの反応に慌てたマミは、思わず近くの茂みから身体を出してしまう。
マミ「… あっ」
さやか「… えっ」まどか「… あっ」
さやか「マミさん!それに…コブラさんも…!」
コブラ「あ、ははは、よぅさやか、まどか。おや、レディもいるのか。奇遇だねー、いや、たまたま通りかかってさ、ホントホント」
マミ「そ、そうなの!偶然通りかかってたまたま2人を見つけちゃって!それで、ええと…べ、別に盗み聞きしてたわけじゃないのよ!本当に!」
さやか「…マミさん、嘘ついてるのバレバレですよ…」
マミ「…あ、あはは…そうね。えーと… …ごめんなさい」
さやか「… ぷっ。あ…アハハハハハッ!マミさん可愛いーっ!」
まどか「ティヒヒ」
コブラ「はっはっはっは!」
マミ「うううう…」
顔を赤くするマミ。照れる顔なんてあまり拝めないもので、さやかもまどかもコブラも、その顔に笑ってしまう。
さやか「…魔女が近いんですね。行きましょう、マミさん、コブラさん。私の戦い方…もう一度、見ていてください!」
ベンチから立ち上がったさやかは、ソウルジェムを手に握りしめ、力強く握りしめた。
まどか「…さやかちゃん、大丈夫なの…?」
さやか「…まどか。もう…心配いらないよ。あたしは一人なんかじゃない。それが…やっと分かったから」
さやか「恭介、マミさん、コブラさんにレディさん…まどか。それにアイツ…佐倉杏子だって。みんな…あたしの事心配してくれてる。だからあたしは、その期待に必ず応える」
さやか「魔法少女さやかちゃんは伊達じゃないってトコ、見せてあげなくちゃね!」
さやかはまどかの方を振り向き、最高の笑顔を見せる。その笑顔に、まどかも安心をしたようだった。
マミ「…それじゃあ、行きましょう!」
レディ「さやか」
さやか「…レディさん。…ありがとうございましたっ」
レディ「どういたしまして。…彼を信じるのよ。そうすれば、きっと彼もそれに応えてくれるのだから」
さやか「…はいっ!!」
さやか、マミ、コブラ、まどかは駆け出し、その場を去る。
ほむら「いいのかしら。先に獲物を見つけたのは貴方よ。佐倉杏子」
杏子「…アイツのやり方じゃ、グリーフシードの穢れが強いからな。獲物は魔女だ。今日は譲ってやるよ」
ほむら「意外ね。貴方が他人にグリーフシードを譲るなんて」
杏子「ふん。…たまにはこういう気まぐれも起きるのさ」
ほむら(…共闘。グリーフシードの奪い合いは時に魔法少女同士の抗争を生み、それが全員の身を滅ぼした時間軸も存在する)
ほむら(佐倉杏子と、美樹さやか…。相性の悪い2人だとは思っていたけれど、この世界では…)
杏子「今日は見学だ。新人の戦い方、見届けてやる」
ほむら「…そうね」
コブラ「こいつは…」
マミ「…鹿目さん、少し下がっていて。…なかなか手ごわそうだわ」
まどか「!は、はいっ!」
現れた『影の魔女』は今まで出会った魔女の中でも巨大な部類であった。本体こそ人間と同サイズの影であるものの、それを取り巻くような無数の木の枝はまるで主を守るように生えている。
刃物のように鋭利な枝の先は、今にも三人に襲い掛かりそうに蠢いていた。
さやか「い、意気込んだのはいいけど、…あの枝はちょっと厄介そうだなぁ…。マミさん、どうしましょう…?」
マミ「そうね… 全部切り取っちゃうってのはどうかしら?」
コブラ「了解。庭師になれそうだぜ」
マミは単発式銃火器を宙に浮かせ、コブラは左腕のサイコガンを抜き、影の魔女に向けて構える。
コブラ「俺達があの盆栽の手入れをしてやる。見栄えが良くなったら本体を倒してくれ、さやか」
さやか「は、はい…!」
まどか「さやかちゃん、気を付けて…!」
さやか「! …うんっ!任しといて!」
マミ「それじゃあ…行くわよっ!!」
踏み込み、影の魔女に近づくマミとコブラ。領域への侵入者に対し、魔女は触手のような枝を次々と振り下ろしていく。
マミ「!!」
マミとコブラは立ち止り、自らに近づいてくる木の枝を次々と撃ち落していく。
目にも止まらない連射、しかも正確な一撃一撃は、次々と触手を撃ち落していく、が…。
コブラ「…!少しまずいな」
マミ「…この枝…っ、再生している…!?」
撃ち落した木の枝は一度は動かなくなるものの、少しの時間ですぐに再生を始めてしまっていた。襲い掛かる木の枝を落とすのが精一杯のマミとコブラは苦戦を強いられた。
コブラ「参ったな、キリがないぜ!」
マミ「くっ…一体どうすれば…!」
さやか「… … …!」
さやか「マミさん、コブラさん!…あたし、行きます!」
コブラ「何…っ!?」
さやか「でやああああああああッ!!」
銀に光る剣を前方に構え、さやかは影の魔女本体に突撃を開始した。それと同時に、木の枝はさやかに反応をし、襲い掛かろうとする。
マミ「!!!美樹さんっ、危ないわ!!」
さやか(このまま捨て身でいけば…皆を守れる!…例え、あたしのソウルジェムが穢れても…!)
さやか(… … …)
さやか(違う!)
さやか(大切なのは… 大切なのは、一歩を踏み出しすぎない、勇気…!一緒に戦おうって、マミさんは言ってくれた!…だから…!)
さやか「コブラさん!マミさん!一度だけ…一瞬だけ、道を作ってください!!…お願いしますッ!!」
マミ「…道…?」
コブラ「…! そうか…よぉし、分かった!マミ、俺らの周りは任せたぜ!」
マミ「え、ええっ!?」
コブラは自分の周囲の触手への攻撃を止め、影の魔女本体に向けてサイコガンを構える。自らの精神力をサイコガンに貯め、狙いを定めた。
コブラ「いくぞォォォーーーーーッ!!!」
大砲のようなサイコガンの一撃。影の魔女本体に向かっていく光は、周りを囲む木の枝を次々と消滅させていく。…それと同時に。
さやか「はああああーーーーーッ!!!」
コブラの作った『道』。触手が再生をする前にさやかはその残骸を踏み越え、影の魔女本体に向けて駆けていく。
そして眼前に現れたのは守るものを失った、影の魔女本体だった。
さやか「くらええええッ!!」
魔女本体に突き刺される剣。魔法で高められた攻撃は、一撃で魔女を葬り、消滅させた。
さやか「…あたしね、分かったんだ。…あたしが、何をしたかったのか」
まどか「…」
月夜が差し込む、ビルの屋上。夜風にあたりながら、さやかとまどかは空を見上げながら会話をしていた。
さやか「あたしが望んでいたのは…恭介の演奏をもう一度聞きたかった…それだけだったんだ」
さやか「あのバイオリンを…もっとたくさんの人に聞いて欲しかった。それで…恭介に、笑って欲しかったんだ。自分の演奏で、人を笑顔に出来るように…恭介自身も」
まどか「…さやかちゃん…」
さやか「…ちょっと悔しいけどさ、仁美じゃ仕方ないよ。あはは、恭介には勿体無いくらい良い子だしさ。きっと幸せになれる」
さやか「それに…あたしには使命がある。…まどかを、マミさんを…見滝原に住む皆を守るっていう、魔法少女の使命がね!」
まどか「でも…さやかちゃんは、恭介くんの事を…」
さやか「明日のアイツの演奏聞いたら…言ってやるんだ。アンタの事お慕いしてる子がいるって。…このさやかちゃんが、恋のキューピッドになってやろうっての!」
さやか「…それがどんな結果になろうと、後悔なんてしない。恭介にも、仁美にも…嘘をついて、生きていて欲しくなんかない」
さやか「皆…あたしの大切な人なんだ。あたしは、その大切な人たちにずっと笑っていてほしい。…だから、あたしも頑張れるんだ」
まどか「… … …」
さやか「まどか。勿論…アンタにも、ね!」
まどか「… うんっ!」
翌日の放課後、恭介の部屋。
恭介「… さやか。有難う、来てくれて」
さやか「… ううん。あたしも…ありがとう」
恭介「それじゃあ…聞いてくれるかな。…僕の、バイオリン」
さやか「… うん!」
上条家から、静かに『アヴェ・マリア』が流れる。まだ完璧な演奏とは言い難い。しかしそれは、世界中のどんな演奏より人を感動させられるような弦の音色であった。
その演奏を、外から聞いている仁美。
仁美「… … …」
仁美(…いい曲。とても静かで、力強くて…)
仁美(…私、諦めません)
仁美(でも、今は… もう少しだけ… この演奏を聴いていたいって、そう感じますの)
仁美(この音色を奏でさせられるのは… さやかさん、今は、貴方しかいないのですから…)
夕日が美しく差し込む、見滝原市。
その日はまるで、街全体を、一つの旋律が包み込んでいるかのようであった。
ほむら(… … …)
ほむら「ワルプルギスの夜まで…一週間」
ほむら(まどか…必ず貴方を、守ってみせる。…この時間軸で、全てを終わらせてみせる)
ほむら「…いよいよ…夜を迎えるのね」
ほむら(…巴マミ。美樹さやか。佐倉杏子。…コブラ。…そして、私)
ほむら(…終止符を打つ、必ず…!)
―― 次回予告 ――
さやかが一人前の魔法少女になれてさあこれからだって矢先に、暁美ほむらがとんでもない事を言い始めた!
なんでもあと何日かしたら超巨大な「ワルプルギスの夜」とか言う恐ろしい魔女が見滝原に出てくるんだとさ。かの女はそいつを倒すために、何度も時間を繰り返してきたって話だ。
か弱い女の子にそんな重荷を背負わせちゃいけないよな。俺達はワルプルギスの夜を倒すための作戦を練る事にした。
しかしそんな時、俺にビッグニュースが飛び込んできちまう!なんとレディが、元の世界に戻る方法を見つけちまったんだと!
どうすりゃいいのよ俺ぇー。
次回【夜を超える為に】で、また会おう!
コブラ「…それで、俺に何の用なんだい?」
夕日の差し込むビルの屋上。目を閉じ、微笑みながら葉巻をくわえたコブラと、それをじっと見つめる少女…暁美ほむら。
コブラ「お前さんから呼び出しなんて随分珍しいじゃないか。しかも、俺だけ。 好意は嬉しいがね、あと数年経ってから考えさせてもらうよ」
ほむら「… … …」
ほむら「『ワルプルギスの夜』が来るわ」
コブラ「… 何だって?」
ほむら「今までの魔女とは比べものにならない、超大型の魔女…。放っておけば、数時間…いいえ、数分でこの見滝原を滅ぼしてしまい…最悪の場合、更に広がるわ」
ほむら「規模は未知数。被害は地球全体に及ぶなんて話になっても、おかしくはない」
コブラ「…そんなものが来るって、どうして分かる?」
ほむら「…私には、もう一つ能力があるの」
ほむら「いいえ、正確には、私の能力は応用に過ぎない。…私の本当の力は、『時を操る事』。そして、それは…過去さえも操れる」
コブラ「…! ほむら、ひょっとしてお前さんは…まさか…」
ほむら「…ええ、何度も…数えるのも諦めるくらい、見てきているわ」
ほむら「この世界が滅びていく、その様を」
風が、一段と強く2人を吹き抜けていった、そんな気がした。
第7話「夜を超える為に」
さやか「…やっぱりここにいたんだ」
杏子「! …アンタ、どうして…」
以前会話をした、廃教会。そこへ足を運んださやかは、予想通り杏子と出会う事が出来た。
さやか「コレ、あんたに渡そうと思ってさ」
さやかは手に持っていた紙袋からリンゴを一つ取り出し、杏子に向けて投げた。それを受け取った杏子は、きょとんとした顔でさやかを見ている。
さやか「…この前は、ごめん。あたしの事、アンタなりに心配してくれたのに…嫌な事言っちゃって」
杏子「… … …」
さやか「だから、謝りに来た。…それで…改めて言うのもおかしい話だけど…これからも、その…あたしと仲よくしてほしいなぁ…なんて」
さやかは杏子の顔色を横目で伺いながら、恥ずかしそうに頬を?いた。
杏子「…アンタさぁ」
杏子「よくそんな台詞言えるよな。…聞いてるこっちが恥ずかしくなるよ」
さやか「べっ、別になんだっていいでしょ!!…あたしだって、コレでも頑張って謝りにきてるんだから…!」
さやか「…あんたと…その… 仲悪いまま、終わりたくないし…」
杏子「…かぁー。ホントに、呆れるくらい馬鹿正直なんだねアンタって」
さやか「そ、それはあんただって一緒でしょっ!?…ほら。こっちだって恥ずかしいんだからさ…」
そう言って、さやかはゆっくりと右手を杏子に向けて差し出した。
杏子「…分かったよ」
杏子はぷいとそっぽを向きながらも、さやかの差し出された右手に、自らの右手を重ねた。
コブラ「…時間を何度も繰り返し、そのワルプルギスの夜とやらと何度も戦って…それでも負け続けて、今に至る、ねぇ」
ほむら「信じてもらえるとは思っていないわ」
コブラ「信じるさ。俺も昔、同じような事をした」
ほむら「…?」
コブラ「それで、何で俺を呼び出したんだ?仮にそいつが現れるとしてそのバカデカい魔女を口説き落としてくれ、なんて話じゃないだろ?」
ほむら「…」
ほむら「貴方は、幾度となく私達を救っている」
ほむら「魔女の撃退、巴マミの救出、美樹さやかのソウルジェム奪還…貴方のしている行動の全ては、魔法少女達にとってプラスへと働いているわ」
ほむら「答えて。…何が目的なの?」
コブラ「そうだなぁ。目の前でか弱い女の子達が困っていたから、かな」
ほむら「分からないわ。単なる人助けでこんな事をしているとでも言うの」
コブラ「…信じられないかい?」
ほむら「ええ、私には理解し難い事だわ」
コブラ「勿論、俺は元の、俺のいるべき世界に戻ろうとしている。そのためにアンタら魔法少女にくっついて行動しているのも目的の一つさ」
コブラ「ただね、趣味なのさ」
ほむら「…趣味?」
コブラ「困っている女の子の顔を、安心させてやるのがさ」
ほむら「…つくづく分からないわ、貴方の事が」
コブラ「よく言われるよ」
ほむら「…」
ほむら「過去…どの時間軸でも、私は失敗を積み重ねている。時にはワルプルギスの夜に負け、時には…魔法少女同士で殺し合う、そんな世界も存在したわ」
コブラ「物騒だねぇ。何があったんだ」
ほむら「魔法少女の正体に気付いてしまったからよ」
コブラ「…ソウルジェムの穢れ、か」
ほむら「気付いていたのね」
コブラ「アンタに黙っていて申し訳なかったな。相棒にちょいとグリーフシードの成分を分析してもらってね。…それで、分かったのさ」
コブラ「…ソウルジェムの『穢れ』。アレが、魔女の正体だ。つまり魔法少女と魔女は、表裏一体の存在って事…違うかい?」
ほむら「…ええ、そうよ」
ほむら「そして、その正体に気付いた魔法少女達は自分たちこそ災厄の元凶だと気づき、互いを殺し合った」
ほむら「…ある意味、正しい行動だったのかもしれないわ。キュウべぇに利用されたままの自分達を、消せたのだから」
ほむら「…そうでしょ?…インキュベーター」
ほむらがそう言った瞬間、物陰からひょっこり現れるキュウべぇ。
コブラ「黒幕さんのお出ましか」
QB「…」
QB「驚いたね。遠い未来世界から来たイレギュラー…『コブラ』、そして時間を繰り返し戦ってきた魔法少女…『暁美ほむら』」
QB「僕の知り得ない人間が2人も関わっていたのは、本当に驚きだ。奇跡以外の何物でもないのかもしれないね」
コブラ「インキュベーター…ね。俺の疑問がようやく解けたぜ」
コブラ「アンタは少なくとも地球生物で無い事は分かっていた。しかしこの世界には、星間交流の概念がない。何故宇宙生物が魔法少女と呼ばれる存在の周りをウロチョロしているのかがようやく分かったぜ」
QB「本当に驚きだよ。君はこの星…いいや、宇宙がどんな運命を辿っていくのかを知っているわけだ、コブラ」
コブラ「興味があるかい」
QB「そうだね。僕達の目的は『宇宙の寿命』を伸ばす事にあるわけだから。僕達の行動がどんな素晴らしい結果を生んでいるのかを知りたいのが本音さ」
コブラ「宇宙の寿命…?」
ほむら「…この地球外生命体の目的は、一つ。魔法少女を魔女化する時に発生するエネルギーを、回収する事」
コブラ「はっ、そんな事をしてどうなるって言うんだ?売り払って通信販売でも始めるのか」
QB「宇宙には、エネルギーが存在するんだよ。そしてそのエネルギーは、どんどん減少を続けていくのを知っているかい」
コブラ「さあね。朝食を食べてないからじゃないかな」
QB「宇宙全体は、僕達インキュベーターによって支えられているんだよ。僕達がエネルギーを回収し、供給を続けているからこそ宇宙は現状を保っていられているんだ」
QB「そしてそのエネルギーの、最も効率のいい回収方法は」
QB「魔法少女が、魔女に変わる瞬間。その瞬間のエネルギーの回収が最も効果的に、宇宙の寿命を延ばす事に繋がるのさ」
コブラ「どの世界にも、狂信者ってヤツはいるもんだな」
QB「信仰じゃない、事実だよ。コブラ、君達のいる未来でも僕達の存在は知られていないのかい」
コブラ「さあてなぁ。お宅らみたいな連中はごまんといるからね。特に熱心な宗教家ほど目立っちまうからな。埋もれちまったんじゃないかい」
QB「僕達は、地球が誕生する遥か以前から人間の有史に関係してきた」
QB「数えきれないほど多くの少女…とりわけ、第二次成長期にあたる少女達と契約を交わし、希望を叶えてきたのさ」
ほむら「…そして、それを絶望へと変えて、エネルギーを回収していく。祈りを呪いに変えて」
QB「酷い言い方だね」
ほむら「人を食い物にしてきた貴方に、否定をする権利なんてないわ」
QB「ワケがわからないよ。僕達が宇宙を永らえさせてきたからこそ、君達人類全体の歴史があるんだ。一部の人間の消滅が全体を救っている事に、何の問題があるんだい」
QB「むしろ感謝されて然るべき話さ。僕達がいなければ、ほむらだってこの世界にはいない。コブラのいた未来だって、存在しないんだよ」
QB「それに僕達は、侵略という形でエネルギーを回収したりなんていう野蛮な真似はしていない。少女達の願いを叶えて、その代償を払ってもらっているだけさ。『契約』という形でね」
QB「そこに、何の問題があるんだい」
コブラ「…確かに、それなら何の問題もないな」
ほむら「…!?」
コブラ「だが、それならはっきりと俺達は選択肢が与えられているはずだ。…おたくら異星人と契約して宇宙のために戦うか、否かのな」
QB「コブラ。君は宇宙が滅んでもいいと言うのかい」
コブラ「さてね。だが、宇宙が滅びようとするのだと言うのなら、そいつも宇宙の一つの選択ってヤツじゃないか。インキュベーターってやつぁ、契約を元に宇宙の寿命を延ばそうとしているんだろ?」
コブラ「それなら元来、かの女達が何をしようが自由の筈さ。魔法少女になって契約した少女が何をしようと勝手…その筈だ」
QB「…」
コブラ「かの女達は希望を抱き、絶望はしない。街を襲う魔女から人々を守り、立派にその使命を全うしていく…それで十分だ。宇宙の寿命を延ばすために人柱になれ、なんて契約はしていないはずだぜ」
ほむら「…ええ、確かにそうね」
QB「甘い考えだね。それで魔女は倒せても、ワルプルギスの夜が倒せるとでも思っているのかい」
コブラ「さあてなぁ。やってみなきゃ分からないさ」
QB「僕は少なくともその前例は見ていないからね。希望が絶望に変わらなかった魔法少女は、存在しない。だからこそ僕達インキュベーターはそのエネルギーを宇宙に安定的に供給してきたのだから」
ほむら「っ…」
コブラ「前例がなけりゃ、作ればいいだけだ。そう難しい事じゃない」
コブラ「俺が…いいや、俺達がやってみせる。ワルプルギスの夜を、超えてやるさ」
コブラはそう言いながらにぃと微笑み、ビルの屋上を後にするのだった。
QB「暁美ほむら、君はどう思うんだい」
QB「『鹿目まどか』という魔法少女の存在なくして夜を超えられた時間軸が、存在したのかい」
ほむら「… … …」
QB「無いだろうね。それだけまどかの魔力は絶大だ。どんな巨大な魔女であろうと、魔法少女化した彼女に敵う敵など存在しない」
QB「逆に言えば、まどかが魔法少女にならなければ、ワルプルギスの夜には勝てない。君がまどかを魔法少女にしたがらない事と、君が時間を幾度も繰り返しているのがその証明になっている」
QB「君はどうするんだい?ほむら」
ほむら「私は、まどかを守る力を欲し、魔法少女の契約を交わした」
ほむら「だから、彼女を魔法少女にせず、ワルプルギスを倒すまで…絶対に諦めるつもりはない」
QB「分からないね。そんな方法を今まで見つけてもいないから、君が今この時間に存在するのだろう?」
ほむら「貴方達インキュベーターの目的は分かっているわ。…まどかが魔法少女になれば、同時に最悪の魔女を生む事になる」
ほむら「今まで、魔女にならなかった魔法少女はいないと言ったわね」
ほむら「狙いは一つ。まどかの膨大な魔力。魔女化に発生する莫大なエントロピーの発生が目的で、あなたはまどかに付きまとっている」
QB「だからどうしたというんだい?」
ほむら「貴方の思い通りにはさせない。私は絶対に…まどかを魔法少女に、させない」
QB「ほむらは、それでワルプルギスの夜を倒せるとでも思っているのかい?」
ほむら「…さっき、コブラにも言われた筈よ」
ほむら「前例がなければ、作ればいいだけの事」
ほむら「この時間軸で私は、それを作ってみせる」
キュウべぇに背を向け、階段を降りながらほむらは考えていた。
ほむら(…他人をアテにしない。それが何度も時間を重ねた結果の教訓だというのに)
ほむら(この時間でも、私は他人を頼りにしようとしている。…巴マミに、佐倉杏子に、美樹さやか…)
ほむら(…コブラ)
ほむら(まどかを、魔法少女にさせない。…でもそうしないと、ワルプルギスの夜は倒せない。…それが、絶対に崩せない公式だった)
ほむら(私に残された時間も、長くはないのかもしれないわ。…私の希望が、絶望に変わってしまうその前に、手を打たないと)
ほむら(…夜が来るまで、あと数日しかない)
ほむら(それなら、この時間軸で私の取るべき行動は一つしかない)
ほむら(賭ける事。それが私の…答え)
ほむら(持てる力を全て使って…ワルプルギスを、倒すという事)
その後、夜。
人目が無くなったのを見てコブラはレディと近くの小さな林の中で落ち合う。
茂みに隠れたタートル号から出てきたレディは、手に湯気の立つコーヒーカップを持っていた。
レディ「はい、コブラ。コーヒーよ」
コブラ「おー、ありがとよレディ。やっぱ相棒と過ごす時間っていうのが一番落ち着くねェ」
レディ「あら、そうかしら。巴マミの家も随分と気に入っているようだけれど?」
コブラ「あちゃー、ははは。それは言わないお約束」
レディの淹れたコーヒーを啜りながら、ぼんやりと月を眺めたままのコブラ。少し間を置いて、レディがゆっくりと語りかける。
レディ「…ねぇ、コブラ。ニュースがあるの。…良いものか悪いものかは分からないけれど」
コブラ「?」
レディ「…」
レディ「今なら、元の世界に戻れるわ」
コブラ「なんだって…!?どういう事だ?」
レディ「クリスタルボーイの宇宙船が、ブラックホールを生成し、元の世界に戻ったわよね。…あの重力場が、僅かに検知できたの」
コブラ「するってぇと…タートル号でそいつを追跡できるってのか?」
レディ「…ええ。以前、エンジニア達にタートル号に異次元潜航能力を取り付けてもらったわよね。今まではここが『どの世界』で『どの次元を辿って』元の世界に戻ればいいか分からなかったからそれが役に立たなかったのだけれど」
レディ「今なら座標が確定できる。クリスタルボーイの船の軌跡を辿っていけば、元の世界に戻れるわ」
コブラ「そいつは有難いな。あのガラス細工、いい土産を置いていってくれたじゃないの。あとでハグしてやらないとな」
コブラ「…だが、そう簡単な話じゃないんだろう?その調子じゃ」
レディ「…ええ、その通りよ」
レディ「ブラックホールの重力場の検知量はどんどん小さくなっていくわ。そのうち、完全に消滅する。そうなるともう…元の世界に戻る経路が再び見つからなくなってしまう」
コブラ「そいつはどのくらいもちそうなんだ?」
レディ「… … …」
レディ「明日には、完全に消滅してしまうでしょうね」
コブラ「…神様ってやつは随分と意地が悪いんだな。嫌われちまうぜ」
…林の中。
コブラがビルから出てきたのを見つけ、その後をずっと付いてきた人影が一つ、あった。
まどか「… … …」
まどかは急いで林の中を抜け出そうと駆け出すのであった。
――― 後日。
さやか「…ここが、あの転校生の家?」
マミ「ええ、ここがそうみたいね」
杏子「呼び出しなんて随分な心変わりじゃねーか。なんだってんだよ」
ガチャ。
アパートの一室のドアが開き、その部屋から暁美ほむらが顔を出した。
ほむら「…入ってちょうだい」
それだけ言って、ほむらは部屋の中へと戻っていく。
杏子「…」
さやか「…ねぇ、マミさん。入っていいのかな。あいつの事…信用して」
マミ「…信じてみましょう。だって暁美さんが今まであんな顔で私達に『相談したい事があるから私の家で』なんて言ってくれたの、はじめてだもの」
マミ「逆に、信頼していいと思うわ。今まで心を開いてくれなかった暁美さんがようやく私達の方に歩み寄ってくれたのだから」
さやか「…それもそう、か。何事も前向きに考えなきゃいけませんね、うん」
杏子「ま、完全に信用しきったワケじゃねーけどな。…それじゃ、入るか」
杏子はアイス最中を一齧りすると、先陣をきって部屋の中へ入っていった。
杏子「これは…」
さやか「な、なんなの…コレ…!?」
暁美ほむらの部屋の中は、貼りだされた写真や資料で埋め尽くされていた。
マミ「…これが、貴方の言っていた…いいえ、隠していた事なのね、暁美さん」
ほむら「ええ、そうよ」
ほむら「これが、『ワルプルギスの夜』。単独の魔法少女では対処できないほど巨大な魔女」
ほむら「こいつが…あと数日で、この街に現れる」
マミ「…キュウべぇから、噂だけは聞いた事があるわ。数十年…数百年に一度現れる魔女。強大で凶悪、一度具現化すれば数千人を巻き込む大災害が起きる…と」
さやか「そ、そんな魔女が…見滝原に現れるっていうの?」
ほむら「ええ、そうよ」
杏子「…なるほどな。なかなか面白そうな話じゃねーか。ただ分からない事があるんだけどな」
杏子は貼りだされた写真の数々を興味深そうに眺めながらも、ほむらに質問をした。
杏子「なんでアンタは、そんな魔女が現れるって事が分かるんだい?」
ほむら「… … …」
ほむらは一呼吸置いて、意を決したように話した。
ほむら「私が、未来から来たからよ」
マミ「…未来…から…?」
杏子「…」
さやか「…は、はは…冗談よしてよ」
ほむら「…本当よ」
ほむら「私の魔法少女としての能力。それは『時間を操る事』。そして私は、このワルプルギスの夜を倒すために幾度も時間を繰り返してきた」
ほむら「何度も繰り返して…そして、敗れては、時間を巻き戻した。いいえ、『巻き戻している』。それが私の現状よ」
杏子「…仮にアンタの話を信じるとしてもだ。アタシ達が、『ワルプルギスの夜』に何回も負けて、死んでるって事かい?」
ほむら「…そうね。何度も負け…いいえ、下手をすれば、ワルプルギスの夜を迎える前に、貴方達が死んでしまったという例もある」
ほむら「希望が、絶望に変わってしまった時に」
マミ「どういう…事…?」
ほむら「…キュウべぇから言われていなかった事実は、2つあるわ。1つは、私達魔法少女の魂は契約をした段階でソウルジェムに移されてしまったという事」
ほむら「そして、もう1つ」
ほむら「魔法少女は…ソウルジェムの穢れを拭っていかないと、魔女として生まれ変わってしまう」
マミ・さやか・杏子「!!!」
杏子「馬鹿な、そんな話…!」
ほむら「ええ、聞いていないでしょうね。あいつらインキュベーターにとって、コレを貴方達が契約前に知る事は都合が悪いことだから」
さやか「それじゃあ、あたし達が今まで倒してきたのは… …」
ほむら「…元、魔法少女。…でも、仕方のない事なの。そうしなければ、私達もああなってしまうのだから」
さやか「そ、んな…!」
マミ・杏子「… … …」
沈黙。
崩れ、膝をつくさやか。歯を噛みしめる杏子。…しかしマミは、ぐっと拳を握りしめて涙を流すのを堪えるのだった。
マミ「…暁美さん、教えて。…何故、それを私達に教えてくれるの…?」
ほむら「それは…私が貴方達に隠しておきたくなかったから」
ほむら「…かつて、過去で『仲間』だった貴方達。…巴マミ、佐倉杏子、美樹さやか…」
ほむら(…そして、鹿目まどか)
ほむら「貴方達ともう一度…仲間として戦いたかったから。…だから、嘘や隠し事はしないと、決心したのよ」
マミ「… … …」
ほむら「私の話を信じないのなら、それでいいわ。…元々私は一人で戦うつもり―――」
マミ「信じるわ」
ほむら「…!」
ほむらが諦めたように話し始めた時、マミはその声を遮るように強く言った。
マミ「…続けて。魔法少女の事、貴方の過去の事…そして、ワルプルギスの夜の事を」
コブラ「随分とデカい魔女だな!こいつは倒し甲斐があるぜ!」
エアーバイクに乗って空中を駆けるコブラ。幾重にも張り巡らせた洗濯ロープのような糸には、セーラー服が干してある。
そしてそのロープの先には、巨大な六本足の首の無い、異形の魔女がいた。
魔女は自身の周りを旋回するコブラに向けて次々と使い魔を放つ。スカートから出てくる使い魔もまた、下半身だけの異形。その脚には鋭利な刃物のようなスケート靴が履かれていた。
コブラ「へっ!あいにく俺は足だけの女に興味はないんだよッ!!」
右手はエアーバイクのハンドルをしっかり握り、左手のサイコガンを抜いてコブラは次々と使い魔を撃ち抜いていく。
だが、その数は膨大でこちらの攻撃をする余裕はあまりなかった。敵が巨大であるゆえ、チャージをしないサイコガンの射撃ではあまりダメージがないようであった。
コブラ「ちっ…!この…!」
コブラは一度体勢を立て直すため、『委員長の魔女』から離れる。
その様子を、黙って見つめるまどか。結界の中に入れたのは、他でもないキュウべぇであった。
QB「少し苦戦をしているみたいだね。まどか、どうするんだい?」
まどか「… … …」
QB「君が魔法少女になればすぐにでも彼を助ける事ができるよ」
まどか「…もう少しだけ、見てる」
まどか「見ていたいの。コブラさんが、魔女と戦っているところを」
QB「…」
観客がいる事には気づいていたが、あえて黙って闘っていたコブラ。
横目でまどかの方を見ると、にぃと笑って軽くウインクをした。
まどか「…!」
コブラはエアーバイクのアクセルを吹かし、突撃をする体勢をとる。
コブラ「行くぞぉ、生足の化け物!!」
コブラ「いやっほォォォーーーーッッ!!」
フルスロットルで飛び出したエアーバイクとコブラ。魔女は当然のように使い魔を次々とコブラに向けて発射していく。
だがコブラは正確にその攻撃を避け、魔女本体へと近づいていった。やがて委員長の魔女はコブラの目と鼻の先まで距離が縮まり…。
コブラ「くらえーーーッッッ!!」
ドォォォォォ―――――――ッッッ!!!
サイコガンの巨大な砲撃が魔女をつつむように焼き、消滅させる。その爆発にエアーバイクとコブラも飲み込まれてしまう。
まどか「!コブラさんっ…!」
しかし次の瞬間、爆風の中から脱出するエアーバイク。
まどかの元へ戻っていくコブラの右手の中には、しっかりとグリーフシードが握られていた。
――― 同時刻、再び、暁美ほむらの部屋。
ほむらは、全てを話し終えた。
魔法少女の希望が、絶望に変わったその時、魔女へと生まれ変わる事。それは、思ったよりずっと容易く起きてしまうという事。
そして、それが過去、凄惨な魔法少女同士の殺し合いすら生んでしまったという事。
さやか「…やっぱり、信じらんないな…。…あたしも、魔女になった事がある、だなんて…」
杏子「… … …」
さやか「ねぇ、転校生。…あんたは、魔女になったあたしを…殺したの?」
ほむら「…ええ」
さやか「あはは…だろうね。あたしだって…逆の立場だったら、そうするしかないもん」
ほむら「…結局、私達はワルプルギスの夜を迎える前に共倒れをしてしまう事が多かった…。それほど、希望が絶望に変わるのは容易い事だから」
ほむら「キュウべぇ…いいえ、インキュベーターは、だからこそ人間を食い物にしているの。脆く、儚い存在だからこそ」
ほむら「魔女が、見滝原を滅ぼそうが奴らには関係ない。目的は、私達が魔女化する時に発生するエントロピーの回収。…それだけなのよ」
杏子「…アンタの話してる事を全部信じるわけじゃねーけどよ。…そいつが本当だったらとんでもねー話だな。それじゃ、アタシ達はあいつに化け物にされたのと同じじゃねぇか」
杏子「忌々しくて…反吐が出そうだ」
杏子はチョコ菓子を噛み切ると、憎らしげに自身のソウルジェムを見つめ、握りしめる。
さやか「…それで、あんたはどうしたいの?…あたしたちに、こんな話をしてさ…」
座り込んださやかは、力無くほむらに語りかける。…その瞳は、既に絶望に淀んでいるようにも思えた。
さやか「あんたの話なんか信じたくもないけど…でも…嘘をついてるとも、思えないよ…。…どうしてだろ。…ねぇ、どうすればいいの?こんな化け物にさ」
ほむら(…やはり、無理だったの…?)
ほむら「…共に、戦って欲しい」
マミ・杏子・さやか「… … …」
ほむら「鹿目まどか…彼女が魔法少女になれば、ワルプルギスの夜を倒すのは容易い。でも…それは同時に、最悪の魔女を生む事にもなる。ワルプルギスの夜以上の」
ほむら(何よりも…まどかを失いたくないから)
ほむら「だから、まどかの力なくしてヤツを倒さなければいけないの。巴マミ、佐倉杏子、美樹さやか…そして私。…あと…」
マミ「…コブラさん、ね」
ほむら「…ええ。その五人で、ワルプルギスを倒す」
ほむら「あと数日でヤツは見滝原に現れる。…だから、協力をしてほしいの。全員でヤツを倒す…その協力を」
しかし、他の三人は黙ったままであった。
杏子「…その、ワルプルギスの夜を倒したとして…その後は、どうなるんだ?」
ほむら「…」
杏子「きっといつかはアタシ達は、絶望しちまうんだろ?…そして、化け物になって、死んでいく…。それならいっそ、ここで…」
ほむら「…それも、選択肢の一つだと、思うわ」
ほむらは、三人に見えないように後ろ手で拳をぎゅっと握りしめるのだった。
ほむら(私が、馬鹿だった…)
ほむら(佐倉杏子が言っている事の方が理にかなっている。夜を超えられても、いつか私達は絶望を迎え、魔女化してしまう)
ほむら(…結局、いつ死んでも…変わりはないのだから。…愚かなのは、それでも『仲間』を求めている、私の方…)
しかし、その時、マミは顔を上げて強い口調で言った。
マミ「…いいえ、それは違うわ」
ほむら「…!」
マミ「確かに…佐倉さんの言っている通り、魔女になる前に自分でピリオドを打つ方が正しい判断かもしれない」
マミ「…でも、それでも…私達の行動に、変わりはない筈よ」
マミ「街の平和を脅かす魔女を倒す、魔法少女であり続ければ…絶望なんて、しない。それは今までずっと続けてきた事だわ…!」
さやか・杏子「…!」
マミ「…私のこの命は、消えていてもおかしくはなかったの。いつ死んでも後悔はしない。…そう決めていた。だからせめて…ギリギリまで粘ってみたいの」
マミ「私はもっと生きていたい。もっと…鹿目さんや、コブラさん…佐倉さんや美樹さんと楽しい時間を過ごしていたい。…もちろん、暁美さんとも、ね」
マミ「だから私は…ワルプルギスの夜を超えてみせるわ」
マミ「何があっても…ね」
そう言って、ほむらに向けてにっこり微笑む。
ほむら「…!…マミ、さん…」
マミ「…ふふ」
マミ「やっと名前で呼んでくれたわね」
さやか「…マミさん…」
マミ「美樹さん…貴方だって、その筈よ」
マミ「貴方は、上条君の演奏を、もっと聞きたい…そう願っていたのでしょう?あの演奏をもっとたくさんの人に届けてあげたい、って…」
さやか「…!!」
マミ「私達は、ここで倒れてはいけない。…私達の命を、繋いでくれた人がいる。だから…それを無駄にしてはいけないの」
マミ「美樹さん…レディさんに貰った、上条君のチケット…決して無駄にしてはいけないわ。…私は、そう思うの」
さやか「…恭介…」
さやかは唇を噛みしめ、瞳を閉じてしばし沈黙する。
そして、すっくと立ち上がった。
その瞳には絶望ではなく、希望の笑顔が浮かんでいる。
さやか「…あっはは!…なんか、バカみたいだね。今までやってきた事となんにも変わらないのに、こんなに悩んでさ…!」
杏子「…!お前…」
さやか「あたしは…見滝原を守る、正義の魔法少女、さやかちゃん!…すっかり忘れてたよ。それだけ守ってれば、何も悩む事なんてなかったのに」
マミ「…美樹さん…」
さやか「…転校生。いや、ほむら!…やったろうじゃん!一緒に、戦おう!」
さやかは笑顔、だが強い目でほむらを見つめ、すっと右手を差し出した。
ほむら「…ええ、お願いするわ」
ほむらは嬉しそうに瞳を閉じ、その右手に自分の右手を重ねた。
杏子「… … …」
マミ「…佐倉さん、貴方は…」
杏子「アタシは今まで、自分のためだけに生きてきた。だから、今更アンタ達に協力しようなんて気はさらさらないね」
さやか「ばっ…あんた、ここまできて何言って…!」
杏子「うっせーなー。…めんどくさいんだよ、仲間とか、協力とか…めんどくさいんだよ」
ほむら「… … …」
杏子「…だけど」
マミ・さやか「!」
杏子「ワルプルギスの夜を一人じゃ倒せないっつーのも事実みたいだな。だから…今回だけ、付き合ってやるよ。その…一緒に、ってやつに…さ」
さやか「…アンタ…」
さやか「どこまで素直じゃないのよ…こっちまで恥ずかしくなるでしょ」
杏子「うるせーっ!!おめーに言われたくねーよこの色ボケ!!」
さやか「!い、色ボケはないでしょっ!!このお菓子女!!」
杏子「んだとー!!」
マミ「…と、とりあえず…皆、協力してくれるみたいね…」
ほむら「…ええ」
マミ「あ…暁美さん。…今の笑った顔、とても素敵ね」
ほむら「…」
ほむらは少し照れながらも、微笑んでいた。
ほむら(…そう、そうなのね…)
ほむら(この時間軸では…巴マミは魔女に食い殺されていて…美樹さやかは魔女になっていた筈…)
ほむら(でも…それを。その絶望を、全て逆に希望に変えてくれた人がいた)
ほむら(…コブラ)
ほむら(魔女に喰い殺されそうだったマミを助けてくれて…さやかの上条恭介への絶望すら拭ってくれた)
ほむら(わけの分からないガラス人形からソウルジェムを奪い返してくれて…敵対していた佐倉杏子すら、こちらに歩み寄ってくれた)
ほむら(そして、こうして今、夜を迎えようとしている…)
ほむら(…まどか)
ほむら(この時間で…貴方を助けられるかもしれない。…ようやく、貴方と朝を迎えられるかもしれない)
ほむら(まどか、待っていて…!…私が必ず、貴方を助けてみせる…!)
――― 夜。結界の解けた工業地帯のような場所で、コブラとまどかは座り込んでいた。
まどか「…教えてください、コブラさん」
まどか「なんで…なんで、魔女を倒してくれるんですか。…なんで、元の世界に戻らないんですか」
コブラ「…知っていたのかい」
まどか「…ごめんなさい、あの…。…でも、言わずにはいられなくって…」
まどか「コブラさん、元の世界に戻れるのに…なんで、まだここにいるのか…分からなくって…!だって、だって…!皆をずっと助けてくれてるのに…っ…コブラさんは…っ!」
まどか「もうちょっとで元の世界に戻れなくなるって、レディさん言ってたのに…!魔女と戦ってるってキュウべぇに言われて、わたし、我慢できなくて…っ…!何もできない私が、悔しくて…っ!!」
泣きそうになるまどかの頭に、コブラは優しく手を乗せる。
コブラ「なぁ、まどか。例えば…」
コブラ「例えば、お前さんの目の前に、子猫が一匹いる」
コブラ「その猫が、車に轢かれそうになったら、まどかはどうする?」
まどか「…!」
コブラ「お前さんの性格じゃあ、放っておけないだろ?…俺だって同じさ」
コブラ「誰かを助けたり、救ったりするのに理由はいらない。赤の他人だろうが何だろうが関係ない。…自分自身の願いだけが、自分を動かせる」
コブラ「俺ぁな、女の子が泣いたり悲しんだりするのがこの宇宙で一番苦手なんだぜ」
コブラ「例えここが違う世界だろうがなんだろうが…そこに俺が助けたいと思う人がいるのなら、力になるのが俺の趣味なんだ」
コブラ「いい趣味だろ?」
まどか「…コブラさん…!」
コブラ「さ、行こうぜ。…今日はちょいと、お呼ばれをしているんでね」
まどか「…誰に、ですか?」
コブラ「決まってるだろ?」
コブラ「街を救う、魔法少女達さ」
・
タートル号のレーダーから、クリスタルボーイの宇宙船の航路の反応が完全に途絶えた。
しかし、それを見てもレディは何も言わず、ただ心の中で静かに微笑むだけだった。
―― 次回予告 ――
いよいよ明日がワルプルギスの夜の決戦!俺達としても結束を固めておかなきゃいけないな。しっかり頼むぜ、皆。
っと、その前に話をしなきゃいけないヤツがいたな。インキュベーターの野郎さ。あいつに説教しておかなきゃ、俺の腹の虫が治まらないぜ。
そして…まどかに、ほむら。いよいよ全てを話さなきゃいけないぜ。全ての謎を解き明かし、俺達は最強の魔女に立ち向かう事になる。
次回のCOBRA×魔法少女まどか☆マギカ。【五人の魔法少女(前篇)】。よろしくゥ!
まどか「そんな… あんまりだよ…っ!こんな… こんなの、って… ないよ…っ!」
QB「――― まどか、運命を変えたいかい?」
まどか「え…!」
QB「――― この世界の全てを覆す力。君には、それがあるんだよ」
ほむら「! 駄目!まどか!そいつの言う事に…ッ!!」
まどか「… … …本当に?」
QB「――― 勿論だよ。だから」
QB「ボクと契約して、魔法少女に ―――」
ほむら「駄目ぇぇえええええええッ!!!」
・
まどか「… … …」
まどか「また、あの夢だ…」
第8話 「5人の魔法少女(前篇)」
見滝原市には、大粒の雨が朝から降り注いでいた。
暁美ほむらが言うのにはそれはワルプルギスの誕生…スーパーセルの前兆だと言う。
コブラとレディは林の中に身を潜めたタートル号のコクピットから、その雲を眺めていた。
レディ「かの女が言うには…明日。この見滝原という街を覆うように、魔女が生まれるというのね」
コブラ「ああ。どうやら本当らしいな。こんな雷雲、見たこともないぜ」
レディ「…それで、どうするの?コブラ。その『ワルプルギスの夜』に勝算はあるの?」
コブラ「へへ、俺がこう見えて計算高いの知ってるだろ?レディ。基本的に勝てない勝負はしないんだぜ」
レディ「…基本的に、ね」
コブラ「…ああ」
コブラ「今回ばかりは分からんね。ほむらがワルプルギスの夜に勝てた歴史は存在しない。つまり、どうやって倒すのかも分からない。気合や根性でどうにかなるんなら鉢巻でも作っておくけどな」
コブラ「未知数さ。今回のヤマはちょいとばかり、危険な賭けになるかもしれない」
レディ「ふふ、でも、それも慣れた事でしょう?コブラ」
コブラ「まぁね。それが海賊ってもんだからな」
コブラ「…さぁて、それじゃあそろそろ出てきてもらおうか。相変わらずコソコソ隠れるのはいい趣味とは言えないぜ、インキュベーター」
椅子に腰かけながら、のんびりとそんな風に語りかけるコブラ。
船内の物陰から、ひょっこりと姿を現すインキュベーター。
レディ「…!」
QB「相変わらず常人とはかけ離れた察知能力だね、コブラ。君が本当に人間なのかは大いなる疑問だ」
コブラ「地球外生命体にそう言ってもらえるとはね。診察したいなら結構だが、料金は高いぜ」
QB「いいや。それはボク達インキュベーターの成すべき事ではないからね」
コブラ「そうだったな。幼気な少女を騙してエネルギーを回収するのがお宅らの仕事だ」
QB「否定はしないよ。君達人間にとってボクは敵でも味方でも構わない」
QB「ただボク達は、宇宙の永らえさせられればそれでいい。それが使命なのだから」
コブラ「結構な使命だね。それで?アンタは説法でもしに俺の船に来たのかい」
QB「…」
QB「君達未来人ともう一度話す機会を設けたくてね。ボク達にとって、やはり君達の存在はとても興味深い」
コブラ「…いいぜ。レディ、客人にコーヒーだ。とびっきり苦いヤツを頼むぜ」
QB「君達のいた世界が存在するのは、ボク達インキュベーターが宇宙の寿命を永らえさせるのに成功した事の証明だ」
QB「ボク達は地球の誕生の遥か以前から存在し、その使命を全うしてきた。だからそれが無事未来まで続いているのだとしたら、それはやはり非常に興味深いわけだ」
QB「何せ人類の発展は、ボク達と紡いできた歴史と言っても過言ではないのだからね」
コブラ「ご立派だね。基金でもたてたらどうだい」
レディ「…しかし、そのために貴方達は人を…魔法少女達の希望を絶望に変え、その命を奪ってきた」
QB「君も、それを疑問視するのかい。例えば、蟻の巣から一匹の蟻を摘まみ出して殺す事に何の影響があるのかな。むしろその蟻は、宇宙に対して貢献が出来るんだ。意味のない死じゃない、素晴らしい事じゃないか」
レディ「でも、かの女達は人間よ。蟻ではないわ…!」
QB「随分と都合のいい意見だね。蟻なら良くて、人間では駄目。ボク達からすれば60億以上の個体数から毎日数個を摘出する程度、何も気にする事ではないと思うけれど」
コブラ「… … …」
QB「むしろその犠牲が、全ての人類を救う事に繋がっているんだ。インキュベーターが責められる理由は何もないじゃないか」
コブラ「…そうでもないさ。アンタらは、単に上から胡坐をかいて人に頼っているだけの存在に過ぎない」
QB「どういう事かな?」
コブラ「宇宙のエネルギーが減っていく一方、太古の昔のアンタらが見つけたのが少女達を糧にしてそのエネルギーを補っていくという方法。…だったかな」
コブラ「だが、そいつの効率性自体を疑うね。何千年何万年も昔のシステムに頼っていないと宇宙が消滅しちまうってのは、甚だ可笑しな話だ」
コブラ「インキュベーターの目的は、いたいけな少女を殺す事だったのかな。それとも、宇宙を永らえさせる事だったのかな?」
QB「…」
QB「つまり、もっと効率のいいエネルギーの回収方法があるとでもいうのかい」
コブラ「そいつを模索するのもあんたらの目的に含まれる筈だ。何にしても、俺ぁその宇宙の寿命とかいうやつに貢献するつもりは全くないからな」
コブラ「かの女達だってそうだ。アンタらには感情がないから分からないかもしれないがね」
コブラ「同じ種族、同じ志の人間を殺されていい気分のするヤツはいないぜ。そうしないと宇宙が滅びちまうっていうのなら」
コブラ「宇宙なんざ、滅びちまうべきなんじゃないかな」
QB「コブラ。君の意見は宇宙全体の害悪に過ぎないよ」
コブラ「残念だったな。俺はもともと色ぉーんな奴に恨まれてるんだよ」
コブラ「汚いんだよ。やれ宇宙のためだの人類のためだの言って人を食い殺して自分達を正当化する。感情は無いクセに、そこはクリーンに見せたいわけか?」
QB「理解をして欲しいだけさ。人が存在しないと、ボク達も生きていけない。少しは歩み寄らないとね」
コブラ「だから『契約』という形で少女達を騙しているわけだ」
QB「君がそう思うのも自由さ」
コブラ「まぁ、そこは褒めてやるさ。…勝手な奴もいてね、人なんざ平気で食い物や踏み台にするヤツは、俺の世界にもごまんといる。しかしアンタらは、契約後生き延びる術も与えてくれてるのだからな」
コブラ「だから俺は、そいつを最大限活用させてもらうよ」
QB「…」
コブラ「かの女達の未来を、醜い魔女なんかにさせやしない。…とびっきりの美女になってもらわないと、俺が困るんだ。未来に住んでいる俺がね」
そう言ってコブラは立ち上がると、タートル号から出て市街地へと歩いて行った。
ほむら「…それじゃあ、明日。教えておいた場所に集まって。そこにワルプルギスの夜が生まれるわ」
さやか「りょーかい。…あはは、なんか、集合って言われるとピクニック行くみたいでなんか緊張感ないけど…」
マミ「…でも、確かにそこで…私達の決戦が始まるのね」
ほむら「ええ。…何度も私が、挑んできた場所だから」
杏子「ま、緊張感なんざ持たなくていいんだよ。万全のコンディションで臨むためにしっかり寝て…しっかり食っておくコトだな」
さやか「アンタはお菓子食って体調万全だから便利だよね…」
杏子「どういう意味だよ」
ほむら「…それじゃあ、明日。…教えておいた時間と、場所で」
マミ「ええ。…頑張りましょうね、暁美さん」
ほむら「…」
ほむらは少しだけ頭を下げると、マミの部屋から出て、雨の降る外へと出て行った。
さやか「なーんかやっぱり実感ないなー。…明日、最強最大の魔女が生まれて…生きるか死ぬかの闘い、なんて」
杏子「生きるか死ぬかの闘いなんざ常日頃からやってるだろ。要するに、いつもと変わらねーんだよ。アタシ達にとっちゃあ、魔女が大きかろうが小さかろうが関係ない」
さやか「…そっか。いつもと変わらない…。そう思ってればいいのか。たまには良い事言うじゃん」
杏子「たまには、が余計なんだよ」
マミ「ふふ、本当にいつも通りで安心ね、2人は」
その時、来客を知らせるチャイムが鳴り、ガチャリとドアが開く音。
コブラ「やぁ淑女の皆様、お揃いで」
マミ「あ、コブラさん。…まぁ、どうしたの?それは」
コブラ「手ぶらじゃ何だしね。美人の店員に良いのを見繕って貰ったのさ」
そう言うコブラの手には、花束が一つ握られていた。コブラはコートの雨粒を払って部屋に入ってくると、笑顔でそれをマミに差し出す。
マミ「…この花…。ふふ、有難うコブラさん。それじゃあ飾っておくわね」
さやか「相変わらずキザだねー、コブラさんは。今時の男はそんな事しないよー」
コブラ「ハハ、だろうな。俺のいた時代でもなかなか見かけなかったぜ」
さやか「…さーてーはー…相当場数を踏んでいると見たねッ。…モテたでしょー?」
コブラ「ま、そこそこに」
さやか「うわぁ」
コブラ「ところで、ほむらは来なかったのかい。てっきりここにいると思ったんだが」
マミ「あら、彼女が目当てだったの?」
コブラ「とんでもない。マミにも勿論会いたくて来たんだぜ」
マミ「…あの、そういう意味じゃないんだけれど…」
苦笑いをしながら、花を花瓶に移すマミ。
杏子「アイツならさっきまでここに居たぜ。丁度アンタとすれ違いだ」
コブラ「ありゃあ、そいつは残念。タイミングが悪かったな」
さやか「明日のコトもあるしね。ほむらはほむらで、何か準備があるんじゃない?」
コブラ「…成程、ね。それじゃ、ちょいと俺は追いかけてみるとするか」
マミ「え?来たばかりだし、お茶でも飲んで行っても…」
コブラ「そいつぁ有難い。少し後でゆっくり頂きに来るぜ。ちょいとかの女に話があるんだ」
コブラ「それじゃあな。…そうだな、紅茶はダージリンがいいね。美味そうなクッキーもあったら最高だ」
マミ「…クス。はいはい、用意しておくわね」
そう言ってすぐにマミの部屋を出ていくコブラ。
呆気にとられた様子でそれを見送るさやかと杏子。
さやか「珍しいね、あの人があんなすぐ帰るなんて」
マミ「何か目的があるとすぐに飛んでいっちゃう性格みたいね。…まだ一か月くらいしか一緒じゃないけれど…分かりやすいのか分かり辛いのか…」
杏子「勝手な奴だな」
さやか「…アンタには言われたくないと思うよ」
マミはガラス製の花瓶にコブラから貰った白い花を綺麗に飾り付けると、テーブルの中央に置いた。
さやか「へーっ、綺麗。…花とかあんまり見ないから分からないけど、いい色してますね。コレ」
杏子「これ、何の花だ?」
マミ「…これはね、ガーベラの花よ」
杏子「ガーベラ?」
マミ「そう。キク科の多年生植物で…花言葉は『希望』。ふふ、本当に色々な事に詳しいのね、コブラさん」
さやか「…やっぱりキザだぁぁ…」
大粒の雨が降りしきる中、傘も差さずに一人立ち、何もない空を見上げる少女。
ビル街の中心。開発中で、何も無い草原のような広く拓けた場所。そこには…明日、いや、過去…確かにワルプルギスの夜が存在するのだった。
コブラ「…やっぱりここだったか、ほむら」
ほむら「…何か用かしら?必要な事は伝えた筈だけど」
そのほむらの後ろに着いたコブラ。少女はそちらを見る事なく、冷たいような言葉を放つ。
コブラ「一つ、聞いておきたい事があってね。お邪魔だったかな」
ほむら「…構わないわ。何かしら」
コブラもまた、雨の中傘を差さずに、雨粒を身体に受けている。それでもいつものにやけた表情は崩さずに、葉巻はしっかりと銜えていた。
コブラ「…話さないのかい、まどかには」
ほむら「… … …」
ほむら「ワルプルギスの夜の事を?何故?まどかには関係のない事だわ」
コブラ「おいおい、関係ないはないだろ?かの女にはしっかりと関係がある筈だぜ」
コブラ「あんたがかの女を親友だと思っているように…かの女もまた、あんたを親友だと思っている」
ほむら「…そんなワケないわ」
ほむら(…それは、過去の話。…この時間軸の話では、無い)
ほむら「もう一度言うわ。…何故、話さないといけないの。まどかは魔法少女ではない。一緒にいても危険なだけよ」
コブラ「俺達が負ければどこにいたって同じだろ?それに、かの女は関係無いわけじゃない。魔法少女の闘いを何度も見てきている」
ほむら「それだけだわ。…まどかには、魔法少女に関わって欲しくなかった。それなのに…関わってしまった。その事実だけで十分過ぎるほど危険なのに」
コブラ「…まどかが魔法少女になる事が、か」
ほむら「… … …」
コブラ「アンタの行動は、まどかを自分達から遠ざけたいとする一方、守りたいという行動にも見える。以前、ガラス人形と戦った時に言っていたっけな。まどかの悲しむ顔は見たくない、ってさ」
コブラ「ほむら。あんたが時間を繰り返してまで戦う理由は…まどかを守りたいからだ。しかし、まどかを魔法少女にしてはいけない。…そんなルールがお前さんの中にある」
コブラ「そして、まどかは魔法少女としての素質がありすぎる。その力は強大だ。…ワルプルギスの夜を超える魔法少女となり…最悪の魔女へとなってしまう。…違うかい?」
ほむら「… … …」
ほむら「どうして…」
コブラ「仕事柄、探偵の真似事をする事も多くてね。つい考えちまったのさ」
コブラ「当たっちまったようだな」
ほむら「… … …」
ほむら「ええ、その通りよ」
ほむら「まどかを魔法少女にするわけには、いかないの。…どんな魔法少女も…いいえ、どんな人間でも…希望は絶望へと変わってしまう」
ほむら「私達と一緒にまどかが戦ってしまっては、いけない。まどかの悲しむ顔を…もう、見たくないの。まどかが魔女に変わるその瞬間を、見たくない。まどかの悲しむ顔なんて、もう見たくない…!!」
コブラ「…」
ほむら「私は…まどかを守る。最初の時間で、最初に出会った、最高の友達を…失いたくない。だから…絶対に、私はワルプルギスの夜に負けられない…!」
コブラ「…なぁ、ほむら。あんたは、『皆で』ワルプルギスの夜を倒すんじゃなかったのかい?」
ほむら「… … …」
コブラ「闘えるだとか、闘えないだとかは関係ない。…要は、自分の意志さ。自分の願いだけが、自分を動かせる。…アンタがまどかを守りたいと言うのなら、まどかの気持ちはどうなるんだ?」
ほむら「…まどかには、私の気持ちなんて…どうだっていいの。私が守ると決めたんだもの。そのための…魔法少女の力。だから…まどかは何もしなくていい」
コブラ「それじゃあかの女の気持ちは無視するのかい」
ほむら「まどかが私に対して、何を思うと言うの。…この時間軸では、まどかには何も伝えていないというのに」
コブラ「…伝えなくても、伝わる事もあるさ。…特にほむら。あんたの行動は、分かりやすいからな」
ほむら「…?…どういう―――」
ほむら「!!!!!!!」
その時、ほむらは初めてコブラの方を振り向いた。
自分の後ろにいるのは、コブラだけだと思っていた。だからこそ、全てを語っていた。…それなのに。
まどか「… … …」
そこには、自分と同じく、雨に濡れるまどかの姿があった。
ほむら「どう、して…」
まどか「…わたし、ずっと、考えてたんだよ。どうして、ほむらちゃんが…戦っているのか。…前に、マミさんが言ってたから。ほむらちゃんは、グリーフシードを奪うためだけに戦ってるんじゃない、って」
まどか「魔女を倒して…さやかちゃんのソウルジェムも、返してくれた。…ずっと、何でか、分からなかった」
まどか「…だから、聞こうと思ってたの。どうしてほむらちゃんは…」
まどか「わたしを助けてくれようとしているのか。わたしを…魔法少女にさせないようにしてくれているのか」
ほむら「…!!」
まどか「ほむらちゃんは…ずっと、わたしを守ってくれてたんだね。違う時間を、何回も繰り返して…ずっと、ずっと…」
まどか「なんで…?なんでそこまで、わたしの事を…」
ほむら「…っ…!」
まどか「わたしだって…皆の…ううん、ほむらちゃんの力になりたいよっ…。でも、ほむらちゃんはいつも…わたしを魔法少女に近づけないようにしてくれて…それが、わたしを守ってくれている事になっているんだって、今分かった…」
まどか「教えて…どうしてほむらちゃんは、魔法少女に…」
ほむら「関係ないわ」
まどか「…!」コブラ「…」
ほむら「まどか、貴方には関係ない事なの。だから話す必要もな―――」
まどか「関係あるよッ!!!!」
ほむら「…まど、か…?」
まどか「ほむらちゃんはわたしを助けてくれる!だからわたしも、ほむらちゃんを助けたい!どうしても…どうしても、力になりたいの!だから…わたしは知りたい!!」
まどか「どうしてほむらちゃんが魔法少女になったのか…どうして、何度もわたしを助けてくれるのか…!話してくれるまで、わたしは此処から離れないッ!」
まどか「わたしは…ほむらちゃんの事ッ―――」
その瞬間、まどかに抱きつくほむら。
涙に震える掠れた声。今までの彼女からは聞いた事のないような弱々しい声。
ほむら「逆、なの…全部、全部、逆っ…!」
まどか「ほむら、ちゃん…?」
ほむら「私を助けてくれて…私を、友達だと言ってくれて、守ってくれたのは…全部っ…まどかなのよっ…!だから私は…貴方を、失うわけには…っ…!!」
ほむら「でも…ッ、でも、貴方は何度も私の前から…っ、ひぐっ、消えて、しまって…!!何度も、何度も消えてしまうのよッ…!!」
ほむら「私の一番大切な友達を、守りたい…!!それだけなのよっ…!!」
まどか「… … …」
降りしきる雨の中、まどかの服を握りしめ、強く抱くほむら。まどかもコブラも初めて聞く、彼女の弱音。
だがまどかは、涙を流しそっと微笑みながら、ほむらの肩をそっと抱く。
コブラ「…(さて、お邪魔虫はこの辺りで消えるとするかぁ)」
コブラは瞳を閉じ、微笑みを浮かべながらその場を後にする。
ほむら「まどかを、救う。それが私の魔法少女になった理由。そして今は…たった一つ、私に残った、道しるべ」
ほむら「でも時間を繰り返せば繰り返すほど…貴方と私の距離は遠くなって、ズレていく」
ほむら「それでも私は…まどかを守りたい。だから…ずっと、時間を繰り返してきた」
ほむら「解らなくてもいい。伝わらなくてもいい。私は、貴方を守れれば、それで…」
まどか「解かるよ…ほむらちゃん」
ほむら「…まどか…」
まどか「…初めて、泣いてくれた。初めて、ホントの言葉で話してくれたから。…だから、わたしはほむらちゃんの言葉、解かるよ。…全部」
ほむら「… … …」
まどか「だから…わたしは、ほむらちゃんを助けたいの。お願い…わたしを、魔法少女に…!」
ほむら「…駄目よ」
まどか「… … …」
ほむら「それじゃあ、駄目なの。…貴方を、この闘いの中に巻き込めない。貴方には…ずっと、笑っていて欲しい。私の傍で、ずっと…」
ほむら「だから…それじゃあ、駄目。それじゃあ、私のしてきた事が全て、無駄になってしまう」
ほむら「私に、貴方を守らせて」
アナウンス「―――本日午前七時、突発的異常気象による避難指示が発令されました」
アナウンス「見滝原市周辺にお住まいの皆様は、速やかに最寄の避難場所への移動をお願いします。繰り返します―――」
・
マミ「…来るのね、いよいよ…」
ほむら「ええ。…本当にいいの?」
杏子「良くなかったら此処にいねーよ」
さやか「そうそう。…ま、ちょっと怖いけどさ。これも魔法少女のお仕事…ってヤツだよね」
マミ「皆、必ず生きて帰るわ。…だから、行きましょう、暁美さん」
ほむら「… … …ありがとう」
杏子「にしても、アイツ遅いな。どうしたんだ?」
さやか「…まさか…」
マミ「そんな事はないわ、美樹さん。…彼は、きっと来てくれる。今までだってそうだったんだもの。…だから」
その時、上空に聞こえる轟音。異常気象の突風を物ともせず、空中に停止するタートル号。
ほむら「…コブラ…」
コブラ「よう、待たせたな皆」
コブラ「それじゃ行こうぜ。パーティ会場へ…な!」
まどか「… … …」
避難場所である学校の体育館から、暴風吹き荒れる外を眺めるまどか。
その手に握りしめられているのは、一本のガーベラの花であった。
まどか「ほむらちゃん…。わたし…」
まどか「…ごめんね…」
――― 次回予告 ―――
遂にワルプルギスの夜との決戦だ!まぁー奴さんのデカい事強い事、この上ない!流石の俺でもちょっと骨が折れそうだぜ。
俺とほむら、マミ、さやか、杏子の力をもってしてもなかなか厄介な仕事だ。まぁ、後にも引けない事だし死ぬ気でやってやろうじゃないの!
しかしそんな中、戦いの中に突然現れるまどか。どうやらかの女は何かの決心をして来たらしい!こうなりゃもう怖いもんナシだ。
だが物事そう上手くはいかないねぇ。…大変な事が起きちまうみたいだぜ。
次回のCOBRA×魔法少女まどか☆マギカ。【五人の魔法少女(中篇)】。よろしくゥ!
避難場所である、見滝原市体育館。
暴風雨が吹き荒れる外の景色を茫然としたような表情で見つめるまどか。そして、その横にまるで何かを待つように佇むキュウべぇ。
2人の間に、少し前、会話があったせいだろう。ただただその空間には沈黙が流れていた。
それは、魔法少女の本当の姿。希望が絶望に変わるその瞬間と、その意味。インキュベーターはその全てをまどかに話したのだった。
重い沈黙を先に破ったのはまどかだった。
まどか「…騙してたんだね、全部」
QB「君も彼と同じ事を言うんだね、まどか」
まどか「…だって…!皆、一歩間違えたら…死んじゃってたかもしれないんだよ…!?それで、それで…魔女になって、戦うなんて事になったら…!」
QB「それこそ『当たり前』なんだよ、まどか。有史以前からずっと繰り返してきた事実さ。魔法少女は遥か昔から世界中にいたんだ」
QB「そして彼女達は、希望を叶え、ある時は歴史すら動かし」
QB「最後には絶望に身を委ねて散っていく」
まどか「…!」
QB「祈りから始まり、呪いで終わる。それが数多の魔法少女が繰り返してきた歴史のサイクルさ」
まどか「… … …」
まどか「ほむらちゃんも…マミさんも、さやかちゃんも、杏子ちゃんも…必ずそうなるって言うの…?」
QB「さっきも言った筈だよ。祈りは必ず、呪いに変わる。だからこそ魔法少女は僕たちインキュベーターに必要なのだから」
まどか「… … …」
まどか「そんな事、ない」
QB「どういう事かな?」
まどか「希望は、絶望に必ず変わるワケじゃない。…ずっと持っていられる希望だって、あるんだよ」
QB「君がそれを作って見せるとでも言うのかい、まどか」
まどか「わたしが…みんなを、助けてみせる…!!」
強い瞳。強い声。
まどかの右手には一本のガーベラの花が握られていた。
禍々しい瘴気のような、霧と風が向かい風となって五人に吹いていた。
まるでそこに行くのを拒むかのような向かい風。しかし、五人はその風に向けて歩んでいくのであった。
マミ「…レディさんは、来ないの?」
コブラ「ああ。俺は基本的にかの女を仕事に手伝わせないスタイルなのさ。今回は俺の船の留守番を頼んであるからな」
さやか「そっか…。そもそも宇宙船が壊れちゃ、コブラさんが帰れなくなっちゃうもんね」
コブラ「その意味もあるが、まぁかの女は余程の事があった時の助っ人を頼んであるというわけだ」
杏子「これが『余程の事』じゃなけりゃ、アンタの余程の事はいつ起きるんだよ」
コブラ「そうだなぁ。美女達が軍隊アリみたいに俺に襲い掛かってきた時は、流石に助けてもらおうかな」
さやか「あはは…よくそんな冗談言いながら歩けるね」
コブラはにぃ、と葉巻を銜えた口元を緩ませた。
ほむら「… … …」
マミ・杏子・さやか「…!」
前方からこちらに向かってくるものが多数ある。
それは、まるでサーカスのパレード。
象、木馬、人形…まるで祭りのように賑やかに、それらは五人を通り抜けていくのだった。
さやか「使い魔…!?」
さやかはソウルジェムを取り出すが、ほむらがそっと手を出してそれを静止させる。
ほむら「いいえ。少なくともこいつらは私達を攻撃しないわ。…まだ、早い」
コブラ「本体だけを叩けばいいわけだ。目的としては単純でいいね」
ほむら「そうね。…シンプルだからこそ、絶対的でもある。力の差が歴然と出るわ。…私達が、敵う相手か否か」
さやか「… … …」
杏子「…さやか?…震えてるのか」
さやか「…あ、あはは…なんか…ど、どうしても…怖いなぁ。ごめん、情けないの分かってるし、今更だけど…こ、怖くって…どうしようもなくて…」
そう言うさやかの表情は曇り、身体が小さく震えていた。心配をする杏子も、その恐怖心による震えを必死に耐えている。
杏子「… … …」
さやか「…バカ、だよね。もうとっくにあたしなんか人間じゃないのに…死ぬのが、怖いなんてさ…。ホント、バカだと思うよ…笑ってくれても…」
杏子「ほら」
さやか「…!」
俯いて震えるさやかの眼前に、杏子の手が差し出された。
杏子「手、握れよ。ちょっとは抑えられるだろ?震え」
さやか「… … …杏子…」
杏子「怖いのは誰だって一緒さ。我慢なんざしなくていい。怖いならアタシの手なんか握らないで逃げてもいいんだ。誰も責めないよ」
杏子「ただ、アンタのバカさ加減じゃ怖くてどうしようもなくても、行こうとするだろ?」
杏子「だから、同じバカ同士、手でも握ってやるよ。少しはマシになるだろ」
さやか「… … …」
さやか「恥ずかしいヤツ」
杏子「うるせーよ」
さやかは微笑みながら、そっと杏子の手を握った。
五人の中で、前方を躊躇いなく歩く、ほむらとコブラ。そして、それに必死でついていく、マミ。今にも恐怖心で歩みが止まりそうなのは、マミも一緒だった。しかし、前を歩く2人はすたすたと先を進んでいく。
マミ「…2人とも、強いのね…。私なんて、逃げ出したくてたまらないのに…」
ほむら「逃げ出してもいいのよ、巴マミ。…責めるつもりなんて、ないわ」
マミ「…いいえ、行くわ。…でも… … …どうしても…怖くて…」
コブラ「マミ。俺もほむらも、別に強いわけじゃないぜ」
マミ「…え?だって…」
コブラ「俺もほむらも、『未来』を信じているのさ。だからこそ、その未来がくるように突き進んでいける」
マミ「…未来…」
ほむら「… … …」
コブラ「明けない夜なんざない。夜が明けなきゃ、サンタクロースはプレゼントを渡す事すらできない。だから、俺達はしっかり朝を迎えさせてやらないとな」
マミ「…コブラさん…」
コブラ「ついてきな、マミ。魔法少女は、必ず俺が守ってみせる」
詢子「どこへ行こうっていうんだ?」
まどか「…!ママ…」
詢子「まどか…あたしに、何か隠してないか?」
まどか「… … …」
詢子「言えない、ってのか」
まどか「…ママ、わたし…」
まどか「友達を助けるために、どうしても今行かなくちゃいけないところがあるの」
詢子「駄目だ。消防署に任せろ。素人が動くな」
まどか「わたしでなきゃ駄目なの」
詢子「… … …」
パァン。
廊下に響くような、乾いた音。
詢子「テメェ1人のための命じゃねぇんだ!あのなぁ、そういう勝手やらかして、周りがどれだけ―――」
まどか「分かってる」
詢子「…!」
まどか「私だってママのことパパのこと、大好きだから。どんなに大切にしてもらってるか知ってるから。自分を粗末にしちゃいけないの…よく分かってる」
まどか「だから、違うの」
まどか「みんな大事で、絶対に守らなきゃいけないから。…そのために、わたしに出来る事をしたいの」
詢子「…なら、あたしも連れて行け」
まどか「駄目。ママは…パパやタツヤの傍にいて、二人を安心させてあげて欲しい」
詢子「… … …」
まどか「ママはさ。私がいい子に育ったって、いつか言ってくれたよね。…嘘もつかない、悪い事もしない、って」
まどか「今でも、そう信じてくれる?」
詢子「… … …」
詢子はふぅ、と諦めたように溜息をつき、まどかの両肩を掴んでその目をじっと見つめる。
詢子「…絶対に、下手打ったりしないな?誰かの嘘に踊らさせてねぇな?」
まどか「うん」
まどか「わたしを…皆を助けてくれる、頼もしい人がいるから。だから、安心して。絶対にわたし、無事で帰ってくるよ」
――― その少し前。
体育館に避難していたまどかを、同じように廊下で呼びとめた人物がいたのであった。
まどか「…!!コブラ、さん…!」
コブラ「よう、まどか。元気してるか?」
まどか「み、みんなは…!?ワルプルギスの夜に向かって行くんじゃ…」
コブラ「ああ、俺もこれから行くところさ。その前に、まどかに渡す物があってね」
まどか「…渡す、物…?」
コブラはまどかの所まで近づくと、手にもっていた花をまどかの手に握らせた。
まどか「…これ…」
コブラ「昨日みんなには渡したんだけどな、お前さんに渡すのを忘れてた。俺とした事がうっかりしてたぜ」
まどか「… … …」
コブラ「まどか。お前さんは今のままで十分強い。だから、なりたい自分になろうとするな。自分を犠牲にして他人を助けようなんてするな」
コブラ「ただ、自分の信じる道だけを進んでいけばいい。それが、まどかの強さだ」
まどか「…!!」
コブラ「じゃあな。…美人のお袋さんにも、よろしくっ」
コブラはウインクをして微笑むと、体育館の外へと出ていく。
まどか(コブラさん、わたし、見つけたよ)
まどか(自分の信じる道、歩いていける道)
まどか(全部、自分で決められたんだよ。もう迷わない。絶対…後悔なんてしない!)
まどか(わたしは…!)
吹き荒れる雨の中。傘もささずに、少女は駆けていく。
自分の信じる道を、ただひたすら。
五人は歩みを続けた。
一段と、風を強く感じたその時、ほむらは足を静かに止めて、四人がいる後ろを振り返る。
ほむら「…逃げ出すなら、此処が最後よ。後戻りは出来ないわ」
ほむらは静かに、それを全員に告げた。
マミ「…」
さやか「…」
杏子「…」
しかし、誰一人として踵を返す者はいなかった。俯く者もいなかった。
ただ魔法少女達は前を向き、その先に存在するであろう巨大な敵に強い瞳を向けている。
コブラ「途中下車はいないようだぜ、ほむら」
ほむら「…本当に、いいのね」
マミ「ええ。…答えは、さっきと変わらないわ」
さやか「どうせ何もしなきゃ死んじゃうんだし…私達が、どうにかしなきゃね」
杏子「乗りかかった船だ。最後まで付き合ってやるよ」
ほむら「… … … ありがとう、皆」
コブラ「… 見えてきたぜ、アイツが…どうやらそうみたいだな」
ほむら「ええ、間違いないわ。…あれが…」
マミ「ワルプルギスの… 夜…」
コブラ「ここが終点か。それじゃあ皆、派手にやるぜ」
さやか「…うん!」
杏子「行くぜ…!」
魔法少女達はソウルジェムを取り出し、それぞれの戦闘態勢をとる。
コブラは左腕の義手をゆっくり抜き、サイコガンを目標に向けて構えた。
ほむら「…来るわ…!」
5 4 3 2 1 …
まどか「はぁっ、はぁ…っ!」
QB「もうすぐ着く筈だよ、まどか」
まどか「ほ、本当に…?まだ、影も形も…!」
まどか「…!」
QB「到着したようだね」
QB「あれが、ワルプルギスの夜」
QB「歴史に語り継がれる、災厄。この世の全てを『戯曲』へと変える、最大級の魔女だよ」
まどか「あ、あ、あ…!」
まどかの眼前に広がる光景。
それは、まさに死闘とも呼べる戦いの光景であった。
巨大な歯車には、逆さに吊るした人形のようなドレス。
数多の少女達が笑い声をあげるような声が、あちこちに響くように聞こえる。
それは、まるで城塞。巨大な城が空へ浮かび、笑い声をあげながらそこに佇む。
今までの魔女とは比べものにならない巨大な姿。そして、感じられる禍々しい気迫。魔法少女にとっては、まさにそれは最悪の敵と呼ぶに相応しかった。
さやか「はああああああッ!!!」
杏子「うおおおおおおッ!!!」
さやかと杏子は、剣と槍を構え、ワルプルギスの夜へと続くサーカスのロープを駆けていく。
その横を飛び交う、銃弾や砲撃。
地上からはマミ、ほむら、そしてコブラの砲撃が続いていた。
マミ「…ッ!はッ!やッ!」
ほむら「…!」
マミは魔法で召喚した単発銃を次々と目標に向けて放ち、ほむらも用意したあらん限りの銃火器を次々と放っていく。
巨大な爆発が次々と起こる中、本体へ辿り着いたさやかと杏子は勢いよく跳躍をし、魔力を高め、斬撃を放つ。
一撃。
剣と槍による鋭い一撃を与えると、2人は魔力を使いゆっくりと地上に降りる。
ワルプルギスの夜「アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!!!!!」
杏子「マジかよ…効いてねぇ…ッ!」
ほむら「続けて攻撃するわ!加勢して!」
さやか「くっ…!それならもう一度…!」
コブラ「おっと、もうちょっと待ってくれ。俺の番がまだ終わってねぇぜ」
マミ「え…!?」
コブラはサイコガンを上方に向けると、高めた精神エネルギーの全てを放出する。
まるでそれは、巨大な光の大砲。瘴気を切り裂き、真っ直ぐにワルプルギスの夜に向かう。
ズオオオオオ―――――――ッ!!!
ワルプルギスの夜に触れ、それは巨大な爆発を起こした。爆風で見えなくなった相手に向け、コブラは次々とサイコショットを放つ。
コブラ「ショータイムだ!遠慮しないで続けてどんどんいけ、皆!」
ほむら「…!」
杏子「っしゃあ!任せとけ!」
カチリ。
時間を止め、銃火器をワルプルギスに向けて再び連射するほむら。銃弾、グレネード、ロケットランチャー…用意した全ての武器を惜しむことなく相手に向けて放っていく。
再び動き出し、ワルプルギスの夜に向け進んでいく数百、数千の弾丸。
その間に、マミとコブラも攻撃を続けていく。
マミ「…!『ティロ・フィナーレ』ェェッ!!!」
コブラ「うおおお―――っ!!!」
巨大な銃身から出る、魔力の一撃。左腕の砲身から出る、巨大な精神力の砲撃。
その全てが魔女に確実に当たり、次々に爆発と爆風を生む。通常ならば、どんな敵でもそれだけで消滅するだろう。
しかし、さやかと杏子はそれでも再びワルプルギスの夜に向けて突進していく。
さやか「今度こそ決めるよ!!」
杏子「ああ!いい加減、くたばらせてやるぜ!!」
意気込み、駆け抜ける2人。
まどか「…皆…!」
QB「… … …」
どこか、安心して見守るようなまどか。それは、今までになかった光景だからだろうか。
巨大すぎる敵。しかしだからこそ、五人は今までにない団結力で次々と効果的な攻撃を仕掛けられている。全ての攻撃が当たり、お互いをフォローできている。
まどか(これなら…勝てる…!)
しかし、まどかは…いや、全員はまだ気づいていなかった。
ワルプルギスの夜が、こちらに対し何の攻撃も仕掛けていない事に。
さやか「いくよ!もう一回ッ!!」
あと少しで、もう一度城塞へと辿り着く。2人は剣と槍を構え、再び一撃をくわえようとしていた。その瞬間、地上からの砲撃は止み、2人の攻撃を待つ。
まさに完璧なチームワーク。…その筈だった。
杏子「…!!! なッ…!?」
まさに、ワルプルギスに斬りかかろうとした時。爆風の中から出現する…影。
幻影「キャハハハハハハハハハハハ!!!」
幻影「アハハハハハハハハハハハハ!!!」
人型の黒い影は素早くさやかと杏子の2人の眼前に来ると、武器のようなもので2人を攻撃した。
さやか「きゃああああああッ!!!」
とっさの防御も間に合わず、さやかは幻影の攻撃により地上へと叩き落された。
杏子「ッ!!さやかッ!!」
一瞬、さやかの方へ気を取られてしまった杏子。その隙に、もう一体の幻影も杏子に向けて攻撃をする。
杏子「ぐああああッ!!」
マミ「!!美樹さん、佐倉さんっ!!」
コブラ「なんだありゃあッ!?」
ほむら「…!幻、影…!?ワルプルギスが吸収した…魔女の…魔法少女の、魂…!!」
コブラ「くそぉ…!!さやかぁ!杏子ッ!!」
地上に叩き落されたさやかと杏子。どうにか自身の魔力でそのダメージを軽減するものの、魔法少女の幻影は追撃をかけようと2人に急速に迫る。
さやか「くッ…!だ、大丈夫…!?杏子…」
杏子「ああ、なんとか… …ッ!? 危ねェッ!!」
体勢を立て直そうとするも、幻影は今にも斬りかかってきそうなほど間近に迫っていた。
その時。
ズオオオオ―――――ッ!!
杏子「!!」
2体の幻影を一気にかき消す、光の波動。
幻影が消えた先に見える、サイコガンを構えた男の姿。
さやか「ヒューッ!さっすがコブラさん!助かっちゃった!」
コブラ「元気そうで何よりだ。…しかしあの野郎、なんて攻撃してきやがるんだ。悪趣味にも程があるぜ」
杏子「…余裕ぶっこいてる暇もなさそうだぜ。…来るぞ!」
上空を見据える杏子。その視線の先を追うように、コブラとさやかもワルプルギスの夜の方を見る。
城塞から次々と出現するのは、何体…いや、何十体もの、魔法少女の幻影。それらは敵であるコブラ達に向け、笑い声をあげながら突進してくる。
コブラ「やれやれ…こういうモテ方は勘弁して欲しいよ、ホント」
マミ「2人とも!大丈夫!?」
慌ててさやか達の方へ駆け寄るマミとほむら。5人は再び合流をし、臨戦態勢をとる。
さやか「はいっ!…でも、ちょっとピンチかも…!」
コブラ「マミ、ほむら!迎撃するぜ!」
マミ「…!何…あの幻影の数は…!」
ほむら(…あんな攻撃、今まで見たことは無かった…。それだけアイツが…ワルプルギスの夜が追い詰められているという事…?」
ほむら(でも…それじゃあ、あの魔女の本気はどれだけ…!)
コブラ「ほむらッ!」
ほむら「―――ッ!!」
コブラ、マミ、ほむら。遠距離武器に特化した3人は、こちらに向けて突っ込んでくる幻影群を迎撃する。
魔法銃、現代火器、そしてサイコガン。それぞれの砲撃は幻影達を次々と消滅させていくが、全てに対応できるわけではない。残りの幻影は次々と5人に向けて襲ってくる。
さやか・杏子「はあああああああッ!!!」
こちらに近づく幻影は、一歩前に出たさやかと杏子の斬撃で倒していく。一体一体が、魔法少女と同レベルの闘い。しかしながら、戦闘経験を積んだ2人の戦士は次々と幻影を斬り捨てていくのだった。
――― しかし。
ほむら(… 終わ、らない…ッ!!)
コブラ「くそっ!出し惜しみなしか!」
幻影は減るどころか、次々と城塞からこちらに向かってくるのだった。
マミ「はぁっ、はぁ…!」
さやか「くっ…!ぐ、ゥ…っ!!」
幻影を次々と倒していく魔法少女とコブラ。しかしながら、長引く戦闘による魔力の消費で、魔法少女のソウルジェムはどんどん黒く濁っていく。
ほむら(このままじゃ…私達まで危なくなる…!!)
さやか「あ、ッ…!!」
杏子「!!さやかッ!!」
最も経験が浅いさやかの限界が、一番先にきたようだった。体勢が崩れ、地面に膝をつけてしまうさやかに襲い掛かる、複数体の幻影達。
さやか「… !!!」
自分の最期を感じたのか、思わず目を瞑ってしまうさやか。 …しかし、そのさやかの目の前に立つ、一人の男の姿。サイコガンは次々と幻影を撃ち抜き、倒していった。
さやか「コブラ…さん…!」
コブラ「安心しな。何があっても守ってみせるぜ」
…しかし、状況はどんどん苦しくなっていくばかりだった。
そして…5人は未だ、気付かなかった。
ワルプルギスの夜が、次なる攻撃を仕掛けようと動いている事に。
まどか「 … !!!」
その異変に気付いたのは、鹿目まどかが最初だった。誰よりも遠くから状況を見ていたからこそ、気付けた事実。
彼女は、戦いを続ける5人の元へ急いで駆け寄る。
そして、あらん限りの声で叫ぶ。
まどか「逃げてええええ――――――ッ!!!!」
ほむら「…! まどかっ!?」
マミ「鹿目さん…!?どうして…!!」
コブラ「… … …!! 何だ、ありゃあ…っ!!」
そして、まどかの叫びの意味を、5人は知る。
城塞の周りを取り囲んでいるのは…根本が折れた、幾つもの巨大ビルだった。
ワルプルギスの夜はそれらのビルを、こちらに向けて飛ばしてくる。まるで、とてつもなく巨大な弾丸のように。
コブラ「くそおおお―――ッ!!!」
コブラはサイコガンを次々と巨大ビルに向けて発射する。
しかし…間に合わない。崩れた鉄塊は全員を押し潰そうとばかりに、ゆっくりと、しかし確実に迫い来るのだった。
ほむら(… !! このままじゃあ、まどかまで…ッ!!!)
カチリ。
ほむらは時間停止をして、こちらに走り寄ってくるまどかに近づき、引き留めようとその場に押し倒した。
カチリ。
魔力を消費した状態での、精一杯の時間停止。
まどか「あっ…!」
砂埃をあげ、地面に倒れ込むほむらとまどか。
その先には…
魔力を消費しすぎて動けなくなったさやか、杏子、マミと…その3人を必死で守ろうとサイコガンの連射を続ける、コブラの姿。
さやか「…もう、駄目…っ!!」
杏子「くそ…っ!!ここまで、かよ…!!」
マミ「そんな…そんな…ッ!!!」
眼前まで迫る、巨大なコンクリートと鉄の塊。
コブラは、喉が引き裂かれるような声をあげた。
コブラ「俺に掴まれぇぇぇぇぇ―――――――――――ッッッ!!!!!!!」
ドオオオオオオオオオオオオオオオンッ!!!!!!!
墓標のように、4人を押し潰すコンクリート。
爆風が、ほむらとまどかを襲う。
そして、無情なまでの静けさが、辺りを包むのだった。
まどか「… … …」
ほむら「… … …」
そこには、さやかと、杏子と、マミと、コブラの姿は無かった。
今まで、確かに4人が存在した場所。しかしその場所は、無数の建造物の残骸により、掻き消えてしまっていた。
コブラの叫びが、嘘のように消えていた。静寂は恐怖心と絶望を現し…同時に、4人の死を現すのだった。
ほむら「… ぐ …ッ …!!」
まどか「…嘘…だよ…。みんな…みんな、死んじゃったの…?」
まどか「そんなの、嫌だよ…。 …返事、してよ…マミさん…。さやかちゃん…杏子ちゃん…!コブラさん…!」
まどか「こんなの… こんなのって… !!!」
ほむら(… 駄目だった…。 今回、も…)
まどか「いやあああああああああああああああああああああああああッ!!!」
まどかの悲痛な叫びが、静寂を切り裂いた。
絶望を表情に灯す2人の眼前に現れる、1つの影。
それは、インキュベーターだった。
QB「さぁ、鹿目まどか、暁美ほむら。君達はどうするんだい?」
まどか「… … …」
ほむら「…!くッ…!!」
QB「希望は、全て消えた。後に残った物は絶望しかない」
QB「どうするんだい?このままこの街が…いや、この世界が滅びるのを待つのかい?」
まどか「… … …」
QB「手段はある筈だ。それは、2人とも分かっている事だね。 …鹿目まどか、君自身が希望となる以外に絶望を払拭する方法は存在しない」
QB「もし、君自身が希望となる決意があるのなら…」
ほむら「駄目…っ!まどか…!あいつの言う事に…ッ!!」
まどか「…ある、のなら…」
ほむら「… まど、か…っ!!」
QB「もし君に決意があるのなら」
QB「ボクと契約して、魔法少女になってよ」
――― 次回予告 ―――
全く、コブラと魔法少女の下敷きなんて喜ぶのはどこのどいつだぁ!?勘弁してほしいよホント。
憐れ、宇宙海賊コブラの冒険もここで仕舞い…って、俺を待ってる美女がうじゃうじゃいるのにおちおち死んでられるかってんだチクショー!!
一方、まどかはいよいよ決意を固めて魔法少女になっちまう。しかしその願いは、誰も予想しなかったとんでもない願い事だった!!
まどか、ほむら…一体どうなる事やら。平穏が宇宙の彼方で欠伸してるぜ。どんな結末が待っているのか、いよいよラストスパートだ。
次回のCOBRA×魔法少女まどか☆マギカ。【五人の魔法少女(後編)】。よろしくゥ!
瓦礫の山にぴょこんと飛び乗ったその生き物は、2人の少女に向けて告げる。
その声に、感情は無い。ただ、今そこにある事実をただただ冷酷に告げ、そして選択を迫るのだった。
QB「――― ボクと契約して、魔法少女になってよ」
その言葉に、1人の少女は明らかな敵意を向ける。
しかし、もう1人の少女は…その言葉に希望を見出してしまうのだった。
ほむら「…ッ…!ま、どか…っ!駄目…っ!駄目よ…!!」
まどか「… … … ほむらちゃん …」
ほむら「やめて…!貴方が魔法少女になったら、私は…っ、私は…!!」
まどか「… 約束、守れなくてごめんね、ほむらちゃん…」
ほむら「そんな言葉…聞きたくない…!まどか…!お願い…っ!やめてぇ…!」
QB「さぁ、まどか、君は何を願うんだい?君の魂なら、どんな願いでもその対価となり得る」
まどか「… … …」
まどか「私の願いは ―――」
ほむら「駄目ェェェェェェェェッ!!!!!!」
第10話「五人の魔法少女」
吹き荒ぶ嵐の中、1人の少女はハッキリとした眼差しでその生物を見つめる。
それは、今までの鹿目まどかからは考えられない程の明瞭な言葉だった。
まどか「私の願いは…」
まどか「全ての魔女を、生まれる前に消し去りたい」
まどか「全ての宇宙。 過去と未来の全ての魔女を。 …この手で!」
ほむら「っ…!!」
QB「! その祈りは…そんな祈りが叶うとするなら、それは時間干渉なんてレベルじゃない!因果律そのものに対する叛逆だ」
QB「まどか、君は… 神になるつもりなのかい」
まどか「神様でも、何でもいい。皆… これまで魔女と戦い、希望を信じてきた人達の涙を、もう見たくない。そのためなら、どんな事だってしたい」
まどか「それを邪魔するものなんて… ルールなんて、全部壊して、変えてみせる!」
まどか「これが、私の願いよ。…インキュベーター」
ほむら「駄目…!!まどか…!!そんな事をしたら… そんな願いが叶ってしまったら、まどかは…!!」
まどか「… ほむらちゃん …」
まどか「本当に、ごめん。 …でも、私は…皆の笑顔が戻るなら、この命を使っても構わない」
ほむら「そんな…!それじゃあ、私は…何の為に…!!」
まどか「… … …ごめん…いくら謝っても、足りないと思う。 …でも、ほむらちゃんがずっと私を守ってきてくれたから、今のわたしがあるの」
まどか「魔女が存在する限り、いつか…わたしもほむらちゃんも、きっと哀しみを背負わなくちゃいけない」
まどか「ううん、マミさんだって、さやかちゃんだって、杏子ちゃんだって… 世界中の、どの時間でも… 哀しみはずっと消えない」
まどか「コブラさんが、みんなの希望になろうとしてくれた。…でも…それは、叶わない願いだった」
まどか「だから…代わりになれるのは、わたししかいない。わたしは…皆の、希望になりたい。その為なら…この命を犠牲にしても、構わない」
ほむら「嫌よ…!まどかがいなくなったら…私は、どうすれば…!!」
まどか「… … …」
まどか「ありがとう、ほむらちゃん。…本当に、今まで…ありがとう。…だから、もう、いいんだよ」
ワルプルギスの夜が、笑っている。
まるで世界そのものに対し嘲り笑うかの如く、その笑いは響き渡った。
しかし、まどかとほむら、そしてキュウべぇの周りはまるで時間が止まったかのように静まり返っているように思えた。
まどかは一歩、キュウべぇに対して近づき、その手を差し出した。
まどか「――― さぁ、インキュベーター。 どんな願いも叶えられる…そう言ったよね。 …今のが、わたしの願いよ」
QB「… … …」
まどかの周りを、光が包む。
それは、まどかの願いが成就されようとする瞬間を示していた。
ほむら「まどか…ぁっ!」
まどか「――― !!」
インキュベーターとの契約がなされ、新たな魔法少女が誕生する瞬間。
祈りを捧げるように瞳を閉じ、手を差し出すまどかは、微笑みを浮かべていた。
光が増す。風が巻き起こる。 …全てが、変わる。
――― その時。
「おおっと、その契約 ――― 異議アリだ」
まどか「――― !!」
まどかの瞳が、開いた。
「まどか、俺は言った筈だぜ。 自分を犠牲にして、他人を助けようとするな、ってな」
「希望ってのは、なるモノじゃない。 作るものだ。 まどかの今までしてきた事は、十分『俺達』の希望になって…力になっている。 まどかは、まどかが思っている以上に、強い」
まどか「… !!」
ほむら「この…声…」
「それにな、俺のいた世界では、神様ってのはもっとボインなんだぜ」
「14歳のいたいけな少女が神様になっちまっちゃあ、俺の世界と違っちまうんだよ。 ――― お前さんにそんな重荷を背負わせる世界なら、俺が変えてやる」
「――― いいや、壊してやる」
QB「…!!」
「俺は、あんた達を守ると約束した。 そして、男ってのは… 一度交わした約束は、守りきらなきゃいけない生き物なんだぜ!!」
まどか「!!!」
瓦礫の山。そこから、光が溢れだしてる事に気付いた。
その光は段々と強くなる。鉄筋を、コンクリートを、硝子を… 全てを溶かし、『道』を作ろうとする、その光。
「そのためなら… 俺は何度でも立ち上がる!何度でも挑むッ!! だから… 俺を、俺達を、信じろ!!まどかッ!!」
コブラ「俺は ――― 不死身のコブラなんだからなァッ!!!」
ドゴォォォォ――――――ッ!!!!!!
上空に放たれた巨大なサイコショットは、雲を切り裂き、太陽の光を浮き出させた。
その光に包まれる、1人の男。
天に構えたサイコガンを右手で抑え、その男はまどかとほむらに向け、不敵な笑みを浮かべるのだった。
そして、その男の周囲には、マミ、さやか、杏子…それぞれの姿があった。
まどか「コブラ…さん…!」
ほむら「コブラ…!」
QB「…信じ難い。一体、どうやって」
コブラ「へへへ、覚えときなインキュベーター。 サイコガンは、心で撃つものなのさ。この銃は俺の精神(サイコ)エネルギーに反応し、そいつを曲げる事も、増す事も出来る」
コブラ「つまり、だ。オタクらに無い『感情』の力が、俺達を救ったのさ」
QB「!」
コブラ「かの女達、魔法少女を助けたいという感情。その思いは力になり、鉄だろうが何だろうが一瞬で溶かしちまうくらいのエネルギーを持つ。そいつが、俺達を助けた」
コブラ「な?キュウべぇ。感情ってヤツも、捨てたもんじゃないだろ?」
QB「…」
さやか「ビルが飛んできた瞬間、コブラさんのサイコガンが一瞬でビルを溶かしてくれた。そいで、その熱があたし達にこないように、あたしの魔力でバリアを張ってたのさ!」
マミ「美樹さんの自己回復能力の応用ね。…本当に助かったわ」
ほむら「そんな… だって、私達は魔力を消費して…ほとんど動けないくらいまで…」
さやか「へっへっへー」
さやかはニヤリと笑い、見せつけるように右手を差し出す。その手には、グリーフシードが握られていた。
コブラ「色々と賭けだったぜ。あの瞬間、俺がセーブせずサイコガンを撃つ瞬間、さやかがバリアを張ってくれなけりゃいけない」
コブラ「保険はかけておくもんだな。堅実ってのも少しは悪くないかもな」
コブラの大きな手には、大量のグリーフシードがあった。
QB「その為に…君は、魔女を倒していたのか」
コブラ「そういう事。もしもの時のために…ってヤツさ。こう見えて俺は貯蓄派でね」
コブラ「俺の手をさやかが握った瞬間、その穢れはコイツが吸い取ってくれる。もう少し遅かったら火傷しちまうところだったが、間に合ってホッとしたよ」
杏子「ホント、ギリギリの賭けだったな。…正直生きた心地しなかったぜ」
コブラ「まぁ、これで全ては解決だ。…ほむらっ!」
ほむら「…!」
コブラはほむらに向け、グリーフシードを投げた。それを受け取ったほむらは自分のソウルジェムにグリーフシードを当て…再び立ち上がった。
コブラ「さ、後半戦だ。…9回裏、逆転ホームランはここからだぜ!」
さやか「うんっ!」
マミ「ええ…!」
杏子「おうっ!」
ほむら「…!」
ゆっくりと、しかし確実に都心部へと移動しようとするワルプルギスの夜。
しかし、その巨体に刺さるようにぶつかる、巨大なサイコガンの一撃。
ワルプルギスの夜「!!!」
コブラ「何処にもいかせねぇぜ、城の化け物。 ここから先は通行止めだ!」
ワルプルギスの夜「キャハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!」
再び現れた『敵』に反応したワルプルギスの夜は、再びその周囲から幻影を出現させる。
マミ「…!来るわッ!」
杏子「よっし、いくらでも相手してやるぜ!」
さやか「もういくら来ようが平気だもんね!…絶対、負けないッ!」
まどか「… コブラ、さん… わたし…」
コブラ「…まどか、俺はお前さんに何かをしろ、なんて命令した事は一度も無いぜ。 自分の進むべき道、切り開くべき道は自分で決めるんだ」
コブラ「まどかには、仲間がいる。魔法少女だけじゃあない。お前さんの周りにいる全ての人々が、まどかの希望となっている筈だ」
まどか「…!」
コブラ「神様なんざ必要ない。…希望ってのは… 自分の手でも、作り出せるんだぜ!」
まどかの頭にポン、と手を乗せたコブラは微笑みを向ける。そしてその手を離し、迫りくる幻影に向けて駆けだすのだった。
まどか「…自分で作り出す…希望…」
まどか「… … …」
まどかはキュウべぇの方をもう一度振り向き、その生物を見つめるのだった。
杏子「マミッ!危ねぇぞ!!」
マミ「!!」
背後に忍び寄っていた幻影を、杏子の槍が切り裂く。
杏子「ったく、昔っから甘ったるいんだよ。…弟子に助けられるようじゃ、師匠としてまだまだだな」
マミ「…クス。そうね…佐倉さん。 …ありがとう」
杏子「へっ。…油断すんなよ!来るぞ!」
次々と迫ってくる幻影を、コブラのサイコガンが撃ち落す。
それを避けきり、コブラに近づく幻影は…さやかの斬撃によって斬り捨てられた。
コブラ「様になってきたじゃねぇか!その調子なら彼氏もしっかり守れそうだな、さやか!」
さやか「バッ…!か、彼氏とか言わないでよっ!そういう話は後回しっ!!」
コブラ「こりゃ失礼!それはそうと、どんどん来るぜ!照れてる場合じゃないぞ!」
さやか「誰が照れさせてるのよっ!!」
ほむら「…ッ!」
迫る幻影を銃器で次々と撃つほむら。 …しかし、間に合わず至近距離まで迫られてしまう。
一体の幻影が、笑い声をあげながらほむらの目の前で斧を振りかざした。
ほむら「しまッ…!」
その幻影をかき消す、一筋の光。
まるで『矢』のようなその光は、かき消すように幻影を撃ち抜く。
ほむら「な…ッ!」
ほむらの見た先には… 弓を構え、微笑むまどかの姿があった。
まどか「…あ、あはは… 当たった…良かったぁ…」
ほむら「まどかッ! その恰好… 貴方は、魔法少女に…!!」
まどか「…うん」
ほむら「どうしてッ!? 契約してしまっては、折角コブラが繋いでくれた事が…!」
まどか「違うよ。 …願い事は、もう叶ってるから」
ほむら「え…!」
まどか「神様にはならない。ただ、わたし自身が一つの希望になれれば…それで十分なんだ、って…ようやく分かったんだ」
まどか「わたしは、ほむらちゃんに守られるわたしじゃなくて…ほむらちゃんを守るわたしにもなりたいの」
まどか「ほむらちゃんが…ずっと、わたしにそうしてきてくれたように」
ほむら「!!!!!」
まどか「だから戦う。皆と同じように、わたしも…街を守る、魔法少女になる!」
まどか「どんな絶望にも… 勝てるようにッ!!」
ワルプルギスの夜に弓を向けるまどか。
繰り出される幻影を次々とその矢で射ぬく。正確なその射撃は一撃も外れる事なく、目標に当たっていく。
さやか「え…ま、まどかっ!その姿…!」
マミ「…なったのね、魔法少女に」
まどか「ティヒヒ、遅ればせながら。…えと、似合うかな…?」
杏子「…ちょっと少女趣味すぎやしないか?アタシには死んでも似合いそうにない服だ」
マミ「うふふ、とってもよく似合っているわよ、鹿目さん」
まどか「あ、ありがとう…ございます」
まどか「…コブラさん。 …わたし、答えが出せたよ。 …1人で、考えて…!」
コブラ「… へへへ、似合ってるぜ、まどか。…それに、いい顔が出来るようになったじゃねぇか。先生は100点満点をあげるぜ」
まどか「…!ありがとうございます!」
ほむら「… … …」
まどか「…ほむらちゃん…」
コブラ「ほむら。お前さんの願いは、崩れ去っちまったか?違うんじゃないのか」
コブラ「未来は、1人で掴みとらなくてもいい。5人で掴みとる希望も、あっていいんじゃないか。5人の魔法少女が…希望となれる世界だ」
ほむら「…!」
まどか「…違うよ、コブラさん! …今は、6人… コブラさんも入れて、6人!…でしょ?」
コブラ「! …ああ、そうだな!」
ほむら「… 私は…」
ほむら「私は… まどかが…いいえ、皆が笑っていられる世界なら、それでいい。…だから…」
ほむら「だから私は…ワルプルギスの夜を、倒す!!」
コブラ「ようし!そんじゃさっさと、あの馬鹿でかい疫病神を追い払うとしますかぁ!!」
さやか「…!みんな!もう一回アレが来るよ!!」
ワルプルギスの夜の周囲に、再び崩れた建造物が浮遊しはじめた。もう一度、こちらへの攻撃を開始しようとする狼煙。
しかし、それを見ても6人の表情に恐怖はなかった。
全員が対象を見据え、それぞれの構えをとる。
コブラ「それじゃ、いい加減終わらせるとしますかぁ。少しオイタを許し過ぎたぜ」
まどか「…はいっ!」
さやかと杏子は、剣と槍に力を宿す。
マミとほむらは、それぞれの銃の照準を対象に合わせる。
そして、コブラとまどかはお互い背中合わせの恰好になり、サイコガンと弓を構える。
ワルプルギスの夜「キャハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!」
ほむら「…これで、終わらせる…!」
マミ「ええ… 魔女に… あんな姿になった、魔法少女を…放ってはおけないわ」
さやか「… あたし達の街は、あたし達が守らなくちゃ…ね!」
杏子「跡形もないくらいに… 吹き飛ばしてやるぜ!」
まどか「どんなに大きな壁でも… 必ず、超えてみせるっ!これからも!」
コブラ「…ようし、意気込みは良し、だ!派手な花火をぶっ放してやろうぜ!皆!」
コブラ「行けぇぇぇぇ――――――――ッッ!!!!!」
2つの刃の投擲。2つの銃弾の発射。そして、2つの光が同時に、ワルプルギスの夜へと向かって行く。
浮遊するビル群を物ともせず、それぞれが滅ぼすべき対象の元へと、真っ直ぐに。
そして… … …。
大きな爆発が起きた。
大きな光が辺りを包んだ。
それはまるで、嵐を吹き飛ばすかのような衝撃。
そして、それが止んだ時、その爆発の後には何も存在しなかった。
あれだけ街を包んでいた雷雲すら、そこには存在しない。
ただ一つそこにあったのは…吹き飛んだ雲の間から照らす、太陽の光。
その光が、まるで6人を称えるように差し込む。
ほむら「… … …」
コブラ「夜明け、ってのはいつ見ても良いもんだな、ほむら」
ほむら「… … … ええ。 …とても、綺麗」
コブラ「…ああ。 最高だぜ」
一筋の涙がほむらの頬を流れた。
まどか「終わった… 終わったんだよ!ほむらちゃん!ワルプルギスの夜を…倒したんだよっ!!」
ほむら「…!まど、か…」
思わずほむらに抱きつくまどか。
まどか「ほむらちゃん…!これで… これでようやく、ほむらちゃんの…っ!うう、っ…!ぐすっ…!」
ほむら「… … … ありがとう、まどか…」
肩に回されたまどかの手をぎゅっと握り返す、ほむらの手。
さやか「やったんだ… あはは、夢みたい…あんな大きな魔女を、倒せた、なんて…」
杏子「ようやく生きた感じがするな。今更ながら、随分無茶したもんだよ」
マミ「うふふ…でも、皆無事だったんだから、良かったんじゃないかしら」
杏子「…そうだな。 …あ?」
さやか「?どうしたの?杏子」
杏子「コブラは… どこ行きやがったんだ、あいつ」
マミ「…あら… 本当…」
レディ「… … …!」
コブラ「ようレディ、ただいま」
レディ「おかえりなさい、コブラ」
コブラ「心配したか?」
レディ「いいえ、ちっとも。だって、貴方の仕事だもの。 無事で帰ってこないはずがない、でしょ?」
コブラ「おーヤダヤダ。男心をちっとは分かってくれよ。心配した、なんて優しい言葉を求めてる時も俺にだってあるんだぜ?」
レディ「ふふ、考えておくわ。…さ、コーヒーを淹れておいたわ。船内で飲みましょう」
コブラ「嬉しいねぇ。帰るべき我が家と相棒と、最高のコーヒー。文句のつけようがない」
コブラ「それじゃ… ささやかな祝杯でも、あげるとしますか」
―― 次回予告 ――
ワルプルギスの夜も倒して、ようやく俺の肩の荷も下りたってところだな。お伽話ならめでたしめでたしで終わるところだが…ところがそうもいかないんだなぁ。
なにせ元の世界に戻る方法が見つからないときてる。これには流石のコブラさんもお手上げってわけ。どうしたもんかね。
しかし、ひょんな事から俺は元の世界に戻る事が出来るようになったわけ!いやー、めでたしめでたしで終われそう… って、毎度の事ながら、そう簡単にいかないわけだコレが。
最後くらい平和に終われないもんかね、全く、海賊のつらぁーいところよ。
次回、最終話【エピローグ さようなら、コブラ】で、また会おう!
ピピピピピ…
まどか「うぅ~ん…っ…」
カチッ。
まどか「…ふぁぁ…よく、寝たなぁ…」
まどか「… … …」
まどか「夢…見なかったなぁ…」
詢子「おーい、まどか起きてるか~?メシにするぞ~」
まどか「あ…はーいっ」
まどか(…えへへ…なんだか、いい一日になる気がするなぁ…)
最終話「エピローグ さようなら、コブラ」
まどか「うーん…」
詢子「ふぁぁ…おはよ、まど… …なんだ、またリボンの色、悩んでるのか?」
まどか「…あ、ママ、おはよう。ティヒヒ…みんなかわいくって…」
詢子「前から言ってるだろ?赤だって。 …ま、そこまで悩むんならいっそ両方持って行っちまえばいいんじゃないか?」
まどか「あ!そうだね…うん、そうする!」
詢子「決めたら朝食食べに行くよ。…あー、台風の低気圧がまだ残ってて頭痛いわー」
まどか「ママ…それ、単に飲み過ぎだと思うよ…」
詢子「はっはっは。…さ、行くぞ」
まどか「それじゃ、行ってきまーす!」
知久「行ってらっしゃーい!」
タツヤ「いったーっしゃーい!」
詢子「気を付けてなー!」
まどか「はーいっ!」
まどか(いつも通り、何の変りも無い朝…だったなぁ)
まどか(わたしは…ううん。さやかちゃんも、マミさんも、ほむらちゃんも、杏子ちゃんも…コブラさんも。みんな、あの戦いを生き抜いて…この街を守った、なんて…。実感ない)
まどか(でも…空は今日も晴れていて。清々しい空気を…胸いっぱいに吸い込める)
まどか(私は…魔法少女になったんだ)
まどか「…えへへ」
さやか「…なーに朝からにやついてるんだぁ?まどかー」
まどか「ふぇっ!?い、いつの間に…」
仁美「…いつの間にも何も、今ここまでまどかさんが歩いてきたのではありませんか?」
まどか「… … … 天狗の仕業」
さやか「何を言っているお前は」
さやか「しかし、実感ないよねぇ、まどか」
まどか「あ、さやかちゃんも同じ事思ってた…?実はわたしも」
さやか「うん。こんなふうに朝フツーに登校できるなんて、夢にも思わなかったもん」
仁美「…お2人とも、何のお話をされているのでしょう?」
さやか「! あ、あははは!いやぁ、あんな台風が起きた後でよく学校やってるなーって!学校吹き飛んでるかと思ってさぁ!」
まどか「そ、そうそう!そういう事なんだよっ!」
仁美「…また私に内緒のお話を… 不潔ですわー!」
涙を流しながらダッシュをして学校に向かう仁美。
まどか「… 行っちゃった。 …ところで、さやかちゃん。…仁美ちゃんと、恭介くんの事は…」
さやか「ああ、アレ?しばらくその話は抜きにしよう、ってお互いに話したの」
まどか「…?」
さやか「恭介のヤツ、今はリハビリの事しか頭に無いし。そういう所鈍感で嫌になっちゃうからさ。…仁美にも、かわいそうだし。だからしばらくこの話はやめて、友達として改めて…って話したの」
まどか「…すごいね、さやかちゃん。そういう事ズバっと言えるって」
さやか「うーん。前までのあたしだったら、無理だったかな? 一皮剥けた、って感じかな。スーパーさやかちゃん的な」
まどか「あはは」
さやか「お。前方に目標確認」
まどか「…あ、ほむらちゃんだ」
さやか「おっはよー、ほむら!今日も暗いぞー!どうしたー!?」
ほむら「…おはよう、まどか」
まどか「おはよっ、ほむらちゃん」
さやか「うおぉい!出会って即無視かいっ!しかもまどかまで!?」
ほむら「… … …」
まどか「… … …」
さやか「…おーおー、見つめ合って頬赤く染めあっちゃって…新婚初日かっての、あんたらは」
まどか「な、なにいってるのさやかちゃんてばっ…!て、ティヒヒ、…えと…い、一緒に行こ?ほむらちゃん」
ほむら「ええ」
杏子「よう」
まどか「!?杏子ちゃん!どうして…それに、その恰好…」
さやか「ウチの制服じゃん!…ま、まさかアンタ…」
杏子「今日からこの学校に転校してきたんだよ。拠点を本格的に移そうと思ってな。この方が好都合だからさ」
さやか「えええええっ!?」
まどか「あはは、杏子ちゃんのスカート初めて見た。すごく可愛いよ」
杏子「!? ばっ、ばっかやろ…!こっちだって恥ずかしいんだよ…!そういう事言うのやめろ…!」
さやか「あれー?制服違ってるんじゃないのー?男子用制服じゃなかったっけー?」ニヤニヤ
杏子「こ・の・や・ろ…!」
さやか「やるかこのー!!」
ほむら「…騒がしいわね」
まどか「あはは…でも、2人ともすごく嬉しそうだよ」
ほむら「… … …」
キーンコーンカーンコーン
まどか「あ!大変!授業はじまっちゃう!」
さやか「にゃんだとー」
杏子 「にゃんだとー」
お互いに頬を引っ張り合っている2人。
4人は学校まで駆けて行こうとするが…その前方を遮るように、1つの影が出てきた。
マミ「はぁっ、はぁ…!」
まどか「ま、マミさん!?」
さやか「どうしたんですか、そんなに息あげて…」
マミ「た、大変なの…」
杏子「魔女か!?朝っぱらから迷惑な野郎がいたもんだな」
マミ「ち、違うの!そうじゃなくて…!」
まどか「それじゃあ、一体…?」
マミ「コブラさんが…いなくなっちゃうの!!」
一同「えええええええええっ!?」
森林の中。タートル号の外で、コブラとレディは森林浴を楽しみながら、朝のコーヒーを啜っている。
コブラ「くぁぁぁあ…。やっぱり地球で感じる朝の光と空気が一番だね。過去の世界だとしても」
レディ「ええ。あれだけ風が吹き荒れたから、雲1つないわね」
コブラ「新鮮な空気を吸い込み、朝の森林浴。…なーんて健康的な生活かね。健康診断、一発オッケーだな」
レディ「元から何の問題も出てないでしょ?貴方の身体は」
コブラ「色々不具合が起きてるんだよ。特に最近、グラマラスな身体を見てないからな。精神的に問題アリだ」
レディ「…怒るわよ、かの女達」
コブラ「おおっと、オフレコで頼むぜ。 …それで、データは間違いないのか?」
レディ「ええ。何百光年か離れた先に、ブラックホールが発生したわ。周囲には何もない宙域なのだけれど…そのブラックホールのデータ、私達が吸い込まれた物と一致している」
コブラ「原因不明のブラックホールが再発…ねぇ。何か裏がありそうだが、まぁ、この話に乗っからないわけにはいかないな」
レディ「詳しい分析は付近でするけれど…元の世界に戻れる可能性は、極めて高いわね。行ってみる価値はあるわ」
コブラ「ああ。名残惜しいが、この世界ともさよならだ。忙しい海賊稼業に戻るとするかね」
レディ「でも…少し不安ね。かの女達…魔法少女。別れくらい言ってからの方がいいんじゃない?」
コブラ「俺の性分じゃない。…それに、もう俺の力は必要ない。だったら、この世界の役割は、かの女達に任せるとするさ」
レディ「…悲しむわよ、きっと」
コブラ「…乗り越えて行けるさ。可憐な魔法少女の闘いに、俺みたいな血生臭い男がずっと隣にいたんじゃ、絵にならない。別れを言えば余計辛くなる。…だろ?」
レディ「… … …ええ、そうね」
コブラ「そうと決まれば出発だ。俺の気が変わらない内にな」
レディ「それじゃあ、タートル号の調整をしてくるわね。数分したら発てると思うわ」
コブラ「ああ、頼んだぜレディ」
コブラを残してタートル号のコクピットに戻るレディ。
コブラ「… … …」
コブラは、何か思うような表情をしながら、葉巻の煙を青空に浮かべるのであった。
森の中を駆けていくマミ、まどか、さやか、杏子、ほむら。
まどか「ど、どうして急に…!?」
マミ「今朝…コブラさんに改めてお礼を言おうと思って、宇宙船のところまで行ったの…そうしたら…!」
さやか「元の世界に帰れるっ、て…!?」
マミ「…ええ、偶然聞いてしまったから、急いで皆のところに来たの…」
杏子「あのヤロー、何も言わないで帰るつもりかよ!」
さやか「でも…どうやって!?確か元の世界に戻る方法がないとか言ってなかったっけ!?」
マミ「…確かに、そう言っていた筈だけれど…」
まどか「… … …」
ほむら「… … …」
ほむら(…まどか…)
レディ「メインエンジン、反加速装置、制御システム、オールクリア。…それじゃあ、行くわよコブラ」
コブラ「…よろしくどーぞ」
コブラは葉巻から煙を吐き出し、苦笑いを浮かべた。
レディ「…タートル号、発… … …」
コブラ「…?どうした?レディ」
レディ「出発は遅れそうね、コブラ」
コブラ「んん? … … … ありゃあ」
タートル号のコクピットから、こちらに駆けてくる5人の少女の姿が見えた。
まどか「コブラさーーーーんっ!!!」
コブラ「あーあ。これじゃ恰好がつかないねぇ、参った参った」
コブラは頭をボリボリと?きながら、両手を大袈裟に上げた。
レディ「…ふふふ、そう言う割には嬉しそうじゃない?コブラ」
コブラ「言ってくれるなよ、レディ」
マミ「はぁっ、はぁっ…」
さやか「ま、間に合ったぁ…」
タートル号のハッチが開き、中から苦笑いをしたままコブラとレディが出てくる。
コブラ「おいおい、おたくら、学校が始まるんじゃないかい?無断欠席とは褒められないなぁ」
杏子「怒れるような性格もしてないだろ?お前の場合」
コブラ「ははは、ごもっとも」
マミ「…何も言わずに帰っちゃうなんて…寂しすぎるわ」
さやか「そうだよ!…それにあたし達、まだお礼も何もしてないよ!」
コブラ「したさ」
さやか「え?」
コブラ「久しぶりに、いい物を見せてもらった。…仲間と呼べる者の絆。そしてそいつが起こす奇跡。…俺が久しく忘れていたものを、思い出させてくれた」
まどか「…コブラさん」
コブラ「…まどか。お前さんの願い事が叶った結果かい?これは」
まどか「… … …はい」
コブラ「…全く。何でも願いが叶うっていう折角のチャンスをこんな事に使っちまいやがって」
ほむら「…!まさか…!」
杏子「…?どういう事だ?」
レディ「…!まさか、鹿目まどかの魔法少女になる願い…そのおかげで…!?」
まどか「…私、魔法少女になって、皆を助けられるようになれば…それだけでいいんです。…だから、その時の願いは…一番役に立つ人のために使おう、って」
コブラ「… … …」
――― ワルプルギスの夜との決戦の日。
ワルプルギスの夜へと向かって行くコブラと魔法少女達。
その後ろで、対峙をするまどかとキュウべぇ。
まどか「…キュウべぇ。私、魔法少女になる」
QB「…!」
まどか「願いは… コブラさん達に、元の世界へ戻る方法を与える事。…それだけだよ」
QB「たったそれだけかい?君には、宇宙そのものを作り変える力すらあると言うのに」
まどか「…それでも構わないって、思ってた。わたしが神様になれるなら…こんな世界、作り変えちゃえ、って」
まどか「でも…わたしはまだ、信じていたい。わたしを含めた皆が笑いあえて…信じあえる。神様なんていなくても、そんな世界が築ける、って」
まどか「…例え、コブラさんが…元あるべき場所に戻ったとしても。…『わたし達』魔法少女が、この世界を守れる。…そう信じていたい」
QB「…」
QB「君の願いは、エントロピーを凌駕した。本当に構わないんだね、まどか」
まどか「うん」
QB「それじゃあ…君の願いを――― 叶えよう――――」
そして、2人の間を眩い光が包んだのだった。
QB「そしてまどかは、魔法少女となったというわけさ」
さやか「アンタ、いつの間に…」
まどか「わたし達の願いは、コブラさんのおかげで全て叶った。…でも、コブラさんとレディさんの願いが、まだ叶っていない。…そう、だよね?」
レディ「…鹿目さん…」
まどか「だからせめて…。…これが、わたしの恩返しだと、思うから…」
コブラ「…全く… あんな弱々しかったヤツが、いつの間にかこんなはっきり物事を決められるようになるとはな」
コブラはまどかに近づくと、まどかの頭にポン、と右手を乗せた。
コブラ「…ありがとよ、まどか」
そして髪型がぐちゃぐちゃになるほど、頭を撫でる。
まどか「ティヒヒ」
さやか「宇宙の果てにブラックホール…」
マミ「その中に再び入れば…私達の前に現れた時と、同じ現象が起きて…コブラさん達は元の未来へ帰れる…。…そうなの?キュウべぇ」
QB「ブラックホールが、まどかの願いによって生じたものだと言う事は間違いないね。まどかの願いは、コブラが元の世界へ戻る方法を『与える』事。だから、その中へ入るのは自由というわけだ」
マミ「…でも、貴方は行くのでしょう?…コブラさん」
コブラ「どんな人間にも、帰るべき場所はあるのさ。…それに、おたくらは俺が思ったより遥かに成長した。これなら俺がいなくなっても安心だ」
杏子「師匠気取りかよ。…気に入らねェなぁ」
コブラ「…杏子。初めにお前さんに斬りかかられた時はどうなるかと思ったが…ようやく人前で素の自分が出せるようになったみたいだな」
杏子「…どういう意味だよ」
コブラ「さぁてね。ま、とにかく、さやかの面倒をしっかり見てやってくれよ」
コブラはそう言うとにぃと悪戯っぽく笑った。
さやか「ちょ、ちょっと、どういう意味よ!なんでこいつに面倒みてもらわなきゃならないワケぇ?!」
杏子「…ま、確かに面倒見甲斐がある後輩かもしれねーな」
さやか「うがあああああ」
コブラ「さやか」
さやか「何さっ」
コブラ「お前さんの明るさなら、どんな絶望も払拭できる。笑顔を忘れるなよ。アンタの最高の魅力だ。…彼氏とのデートの時にも、な」
さやか「なっ…か、彼氏ってなによ…恭介とはまだ別に…!」
コブラ「恭介とは一言も言っていないんだがね俺は」
さやか「うがああああああああああ」
まどか「あははは」
コブラ「マミの作るお菓子や紅茶は最高だったぜ。俺の相棒に勝るとも劣らない。おかげで甘党になるところだった」
マミ「…有難う。光栄だわ」
レディ「珍しいわね。お酒と料理以外でそんな事言うなんて」
コブラ「おいおい、グルメなんだぜ俺は。何に対しても、だ。 …これからは、お前さんが皆の先頭に立つんだ。しっかり頼むぜ、マミ」
マミ「ええ。…先輩だものね。しっかり舵を取るつもりだわ」
コブラ「ああ。ついでに後輩のバストやヒップの向上計画に是非とも取り組んで欲し… いでえーーーーっ!!!」
マミに足を踏まれ、レディに頭を叩かれるコブラ。
マミ「…こうしてツッコミを入れるのも最後なのね。少し…寂しいわ」
レディ「同胞をなくしたような気分だわ」
コブラ「…ああ、全く寂しいね、ホント」
頭を摩りながら、足に息を吹きかけるコブラ。
コブラ「…ほむら。…これからも…まどかを、いいや、魔法少女達を守る存在であってくれよ」
ほむら「… … …」
コブラ「自分だけで苦労すればどうにでもなる…。綺麗事かもしれないが、そんな事は無いんだ。…もう時間を繰り返す必要も無いんだしな」
ほむら「… … …」
ほむら「そう、ね…」
コブラ「まだまだ、まどかは頼りない。かの女を引っ張っていくのは君だ。…よろしく頼むぜ」
まどか「た、頼りない…かぁ…。…うう、少しショック」
ほむら「…ええ、解かったわ」
コブラ「…まどか。お前さんの心と力があれば、全ての絶望を払拭できる。そこのエイリアンとも仲良くしていってくれよ」
QB「インキュベーターと呼んで欲しいのだけれどね」
まどか「…はい。…わたし、頑張ります!」
コブラ「ほむら、まどか。誰かを、何かを守るために、犠牲はいらない。 必要なのは、守りたいという意志だ。結果は関係ない」
コブラ「だから、これからも精一杯学生生活を満喫して、いい女になって、未来の俺のために美人の先祖を作っておいてくれよ?」
ほむら「… … …」
まどか「あはは…動機は不純ですね…」
コブラ「…お。…いい物があったぜ。…まどか」
まどか「?」
コブラは、ポケットから1つ、ガーベラの花を取り出した。それをまどかの頭につける。
コブラ「タートル号でコーティングしておいたモンさ。枯れる事なき希望。…なぁーんてね」
まどか「わぁ…有難うございます!…あ」
そして、まどかの髪を結ってあるリボンを解き、手にするコブラ。
コブラ「俺は、君達の事を忘れない。…交換しておくぜ」
まどか「…はい。…私も…忘れません」
コブラ「それじゃあ…行くとするか。こういうのは長引かせるもんじゃないね。どんどんこの世界に居たくなってくるぜ」
さやか「…いいんだよ。いつまでも居ても」
コブラ「そうもいかない。人は皆、あるべき場所へ戻る。そいつに逆らっていちゃあいけない。自然の摂理ってやつさ」
マミ「…そう、ね。…もしも…もしも、もう一度逢えるのなら…また、この世界に来てくれるかしら?コブラさん」
コブラ「もちろん!女の子の成長過程の観察は俺の趣味の一つなんだ」
杏子「大した趣味だな。…ま、その時は熱烈に歓迎してやるよ」
コブラ「楽しみにしてるぜ。…その時は、何も言わずに笑って待っててくれよ?」
まどか「…勿論ですっ!」
レディ「…それじゃあ、コブラ。…行きましょうか」
コブラ「ああ。そうだな…」
コブラ「それじゃあ、愛しき魔法少女諸君!…元気でな! …あばよ」
上空にゆっくりと浮上をするタートル号。
エンジンに火がついたかと思うと、あっという間に空の彼方へと飛び去ってしまう。
その様子を、ただただ見上げる5人の魔法少女。
まどか「…行っちゃったね」
さやか「…何か、あっという間だった…な。今まで」
マミ「辛いものね。…お互い、住む世界が違う、というのは…」
杏子「落ち込んでても仕方ねーよ。…アタシ達はアタシ達で、精一杯生きていく。それしかないだろ?」
まどか「…そうだね。… … …」
さやか「なーに落ち込んでんのよまどかっ、あたしの嫁は笑顔が一番可愛いんだぞぉ?」
そう言いながらまどかに抱きつくさやか。
まどか「わ、わ…っ!んもぅ…分かったよ、さやかちゃん…」
マミ「うふふ…それじゃあ、行きましょうか?」
杏子「そうだな。行くぞ、まどか」
まどか「…うん…。 …?ほむらちゃん?」
ほむら「… … …」
まどか「どうしたの?ほむらちゃ…」
カチリ。
その時、大きく時計の秒針の音が聞こえた。
ほむら「…え…!!??」
それは、暁美ほむらが幾度となく経験をした感覚。
全ての時間が流れを止め…そして、逆戻りをしていく。
時間が、巻き戻っていく…その感覚――――。
ほむら「そんな…!私は時間を戻そうとは思っていない!…どうして…!?どうしてなの…!?」
しかし時間は非常なまでに崩れ、ほむらの意識は暗闇へと落ちようとしていた。…元の、自分が病室へといる、あるべき時間へと。
ほむら「どうして…っ!!??」
その時。自分自身の声が、暗闇の中で響いた。
QB『――― 君は、どんな祈りでソウルジェムを輝かせるのかい?』
ほむら『私は―――』
ほむら『私は、鹿目さんとの出会いをやり直したい。彼女に守られる私じゃなくて、彼女を守る私になりたい―――』
ほむら「…!」
ほむら(…そう、だったの…)
ほむら(この結果は…彼女を、まどかを【守る】結果には繋がらなかったのね)
ほむら(わたしが時間を巻き戻せる限界は、ここまで…。これ以上時間が進めば、まどかが魔法少女になる【後】へしか戻れなくなる)
ほむら(そして…このまま時間が進めば、再び私達は…滅んでしまう。…そういう事…)
ほむら(… … …)
ほむら(それに…私は、この世界を望んでいないのかもしれない)
ほむら(まどかが…【皆に】微笑む…この世界では…)
ほむら(数多の時間の中で巡り合った、1人の男。…可能性はゼロに近くても、こんな時間も確かに存在はしていた)
ほむら(それが、ワルプルギスの夜すら超えさせられる。…そんな希望がある、世界)
ほむら(…いい夢を、見させて貰ったの。…だから…)
ほむらは、病室で目を覚ます。
カレンダーは、見覚えのある日にちで止まっていた。
ほむらは傍らのテーブルに置いてあった眼鏡をそっと手にすると、それをかけた。
ほむら「…コブラ。…有難う。希望は、存在する。それを思い出させてくれて」
ほむら「…今度こそ、私は…この世界で、彼女を助けてみせる」
ピピピピピ…
まどか「うぅ~ん…っ…」
カチッ。
まどか「…ふぁぁ…よく、寝た…」
まどか「… … …」
まどか「…すごく、悪い夢見てた気がするなぁ…」
まどか「…歯、磨きにいこ…」
まどか「おはよ、ママ」
詢子「おう、おはようまどか。…うぅん?」
まどか「…?どしたの…?」
詢子「…それ、誰に貰ったんだ?…まさかぁ、男の子からかぁ?」
まどか「な、なに?何のこと…?」
詢子「今時花の髪飾りねぇ。ロマンチックだとは思うけれど、さすがにチョイと幼すぎないかな」
詢子は少し笑いながら、まどかの頭から1つの白い花を取り出した。
まどか「え…あ…?…??なんでだろ…?」
詢子「…覚えがないのか?…じゃあ…まどかの部屋にあったのかな?うーん、でもガーベラなんて花瓶にさしておいたっけな」
まどか「… … …」
まどか「でも…すごく、綺麗な花だね」
コブラ「ふぁぁ…よーく寝たぜ」
レディ「おはようコブラ。ふふ、久しぶりにぐっすり寝れたようね」
コブラ「ああ、このところ退屈なくらい平和だからな。…おかげで変な夢見ちまった気分だ。なんだったか忘れたが」
レディ「貴方らしいわね。…あら?コブラ」
コブラ「んん?」
レディ「…コブラ。平和を謳歌するのもいいけれど、そういう物を私の前に出すのはどうかと思うわね」
コブラ「…?何の事だ?」
レディ「貴方の首にかかっている赤いリボンの事よ」
コブラ「…。本当だ。…おかしいな、見覚えのないリボンだ」
レディ「まぁ、覚えがないのにリボンを貰ったの?」
コブラ「ご、誤解だよレディ。はは、えーと…ホントになんだっけか」
そう言いながら、慌ててポケットにリボンを仕舞い込むコブラ。
コブラ(…しかし、どこか懐かしい香りだな)
その時、タートル号のレーダーのアラート音が鳴る。
コブラ「…!なんだ!?」
レディ「…! コブラ、前方に海賊ギルドの艦隊よ!」
コクピットから見えるのは、ギルドの大型戦艦が幾つも宙域に待機する光景。
そして、モニターに映し出される男の姿。
ボーイ「久しぶりだなコブラ。会いたかったよ」
コブラ「!!クリスタルボーイ!お前の仕業か」
ボーイ「くくく…お前さんがこの辺りの宙域にいるという情報を掴んでね。首を長くして待っていたところだよ」
コブラ「大層な歓迎だぜ。パレードでも開いてくれるのかな?」
ボーイ「軽口もここまでだ。…この宙域が貴様とタートル号の墓場だ!」
レディ「どうするの!?コブラ…」
コブラ「… … …」
コブラ「上等じゃねぇか。売られた喧嘩は買う主義。ここは…正面から突破だ。タートル号の性能を見せてやろうぜレディ」
レディ「了解。連中に一泡吹かせてやりましょう」
コブラ「よろしくどーぞ!…覚悟しろよ、ガラス人形!」
コブラ「俺は…不死身のコブラだからな!!」
艦隊へと単独で突っ込んでいくタートル号。
しかし船内のコブラの表情に不安はない。
葉巻を銜えたその顔は、自信に満ち溢れた不敵な笑みだった。
コブラ最高にかっこいいな!
面白かったよ
Entry ⇒ 2012.10.15 | Category ⇒ その他 | Comments (0) | Trackbacks (0)
律子「んんwwwwwwwプロデューサー殿wwwwwwwwwww」
律子「ヤケモーニンwwwwwwwwwwwプロデューサー殿wwwwwwwwwwwww」
P「ああ、おはよう律子」
律子「今日は我ら竜宮小町とのヤイドルバトルですなwwwwwwwwwww」
P「あはは! それを言うならフェスな」
律子「負けませんぞwwwwwwwww異教徒は優しく導く以外あり得ないwwwwwwwwwwww」
P「こっちだって!」
【フェス会場】
P「よし、みんな! 準備はいいか!」
春香「はい! あ、でも……」
P「どうした、春香」
春香「……竜宮小町って、あの……律子さんがプロデューサーのユニットですよね?」
P「おいおい、今更どうしたんだよ? そんなの、俺が入社する前から知ってることだろ?」
春香「……」
P「あっはっは! もしかして、萎縮してるのか?」
春香「そういうわけじゃないんですけど……」
春香「最近の律子さん、なんかおかしくないですか?」
P「え、そうかな……」
千早「春香。プロデューサーは知らないのよ」
春香「あ、そっか……律子さんがああなったのは、プロデューサーさんが入社する少し前からだもんね」
P「なんの話だ?」
春香「あ、い、いえ! いいんです、こっちの話ですから」
P「……まぁ、確かに竜宮小町は俺達のユニットより先にデビューした、いわば先輩だ」
P「今日は胸を借りるってカタチになると思うけど……」
P「どんな結果でも、得られるものは必ずあると思う。全力で、頑張って来い!」
みんな「はいっ!」
P「さて……みんなは準備に行ったか」
亜美「あ、兄ちゃん!」
P「おお、亜美じゃないか!」
亜美「なんでここにいんの~?」
P「あれ? 律子から聞いてなかったかな……今日のフェスに、俺達も参加するんだよ」
亜美「ええ!!!? ってことは、亜美たちとヤイドルバトルするってこと!?」
P「そういうことになるな。ちなみに、ヤイドルバトルじゃなくてフェ……」
P(ってマズイ! 知らないなら、黙っておけばよかった!)
亜美「……」
P「……あ、亜美?」
亜美「絶対負けないんだから!!!!!!!!!!!!!」
P「っ!」
亜美「絶対絶対、負けないんだから!!!!!!!!! うあうあうあー!!!!!!!!!!!」
P「ははは……いじっぱりな性格は相変わらずだな」
亜美「ガルルルル……!」
P「どう、どうどう……」
伊織「……あら……亜美、こんなところにいたの。……それに、プロデューサーも」
P「伊織。おはよう」
伊織「おはよう。どうしたのよ、亜美の様子が……へんね」
P「それがなぁ……今日のフェスで俺達と対決するって聞いて、熱くなっちゃったようだ」
亜美「いおりん!!!!!! がんばろうね!!!!!!!」
伊織「ええ、そうね……まぁ、私達に相応の戦い方が出来れば、それで十分でしょ」
亜美「んなこといっちゃダメっしょ!!!!!! 何がなんでもブっとばしてやろう!!!!!!!」
伊織「そんなに力んだところで、いつも以上に頑張れるってわけでもないじゃない……」
伊織「それに勝つ、なんて大それたこと、私には言えないわ……それなりにやれれば、それで……」
P「伊織はひかえめだなぁ」
亜美「またそんなこと言って!!!!!」
伊織「だって……」
P「うーん……どうしたら収拾がつくだろうか……」
あずさ「プロデューサーさん」
P「あっ! あずささん、ちょうどいいところに!」
あずさ「ふふっ、困ってるみたいですね。ごめんなさいね、今連れていきますから」
P「助かります、それじゃあ……」
あずさ「……ふたりとも」ピシッ
亜美・伊織「」ビクッ
あずさ「そうやってケンカするよりさきに、やることがあるでしょう?」
あずさ「メイク、衣装、振り付けの確認……もう完璧だって言えるの?」
亜美「そ、それは……」
あずさ「口を動かすより先に、体を動かしましょう。ストレッチ、まだ済んでいないでしょう」
あずさ「勝ちたいなら、やることをやらなきゃ。ね?」
P(あずささんのれいせいな性格には、いつも助けられちゃってるな)
律子「んんwwwwwwwwwwヤーティの前に怖気づいているのですかなプロデューサー殿wwwwwwwww」
P「律子……まあ、さすが竜宮小町、って言ったところだな」
律子「当然ですぞwwwwwwwwwwwヤミ、ヤズササン、ヤオリは我が半年かけて厳選した至高のヤイドルですからなwwwwwwwwwwwww」
P「俺が入社する前に、そんなことがあったのか……」
律子「ちなみに我は儀式は使わない派ですぞwwwwwwwwwwwww」
P「儀式?」
律子「オウ助殿をわざと鳴かせるなんて我の主義に反しますなwwwwwwwwwwww」
P「へえ。言ってる意味はよくわからないけど、律子は動物に優しいんだな」
律子「褒めても何も出ないですぞwwwwwwwwwwwww」
律子「ちなみにヤイドルマスターの中には儀式に賛成派も反対派も多くいるから、ここでその議論はやめていただきたいですなwwwwwwwwwwwww」
P「ヤイドルマスター?」
律子「ヤイドルを使役しヤーティを勝利に導くトレーナーのことですぞwwwwwwwwwwww」
P「ああ、つまりプロデューサーってことか」
【フェス VS竜宮小町】
ワァァ……
春香「……」ドキドキ
春香(初めてのフェス……うう、ちゃんと歌えるかなぁ……)
千早「……春香、春香」
春香「ひゃい! あ、えーっと……」
やよい「歌、はじまっちゃいますー!」
春香「! う、うん!」
春香「……ひとりでは、出来ないこと♪ 仲間となーらでk――
律子「ヤオリwwwwwwwwwwりゅうせいぐんですぞwwwwwwwwwwwwwww」
ワァァァァ!!!!!
春香「!?」
ヒュルルル……
ドカーン ドカーン!!!
ドカーン…… ドドカーン
春香「あ、あっつ! え、ええ!?」
P「春香! 頑張れ!」
春香「がんばれって言われても……」
やよい「なんで空から隕石が降ってくるんですかーっ!?」
P「くそっ、これが伊織のバーストアピールか……なんて威力だ」
律子「んんwwwwwwwwww我のヤオリは当然ひかえめHC振りですなwwwwwwwwwwwww」
律子「ヤオリwwwwwwwwwwもどれwwwwwwwwww」
伊織「……はぁ……それなりにできたかしら」
律子「いいですなwwwwwwwwwwww続いていくんですぞ、ヤミwwwwwwwwwwww」
ぽんっ
亜美「おっしゃー!!!!」
P「あれ? ハチマキ巻いてる……あんなアクセサリ、あったっけかな」
律子「ボハヤにインファイトwwwwwwwwwwwww鉄壁を砕いてやるんですなwwwwwwwwwwwwwwww」
亜美「ふんっ!」
バシバシバシッ
千早「くっ……!」
春香「千早ちゃん、大丈夫!?」
千早「え、ええ……実際に殴られてはないから、平気だけど……」
亜美「ンッフッフー!!! 衣装が脱げちゃったよ!!!!!!!!!」
ヤミのぼうぎょ、とくぼうが下がった!▼
千早「……なんというか、精神的にダメージが……」
やよい「はわわ……亜美、すっぽんぽんですー……」
律子「ちなみにヤイドルバトルはヤケモンバトルと違って実際に殴ったり炎を当てたりするわけではないんですなwwwwwwwww」
律子「そんなことをしてヤイドルの顔を傷つけるなんてありえないwwwwwwwwwwwwすべては精神へのダメージですなwwwwwwwwwww」
P(その後も、俺達のユニットは竜宮小町にまったく手も足も出ず……)
P(めまぐるしくステージの上を入れ替わる伊織たちを前に、何も出来ずに敗退してしまった……)
律子「いかがでしたかなwwwwwwwwwwwプロデューサー殿wwwwwwwwwww」
P「……さすがだよ。完敗だ」
律子「当然ですなwwwwwwwwww先輩ヤイドルマスターとしては勝利以外ありえないwwwwwwwww」
律子「しかしながらプロデューサー殿のユニットも、旅パにしてはなかなかでしたぞwwwwwwwww」
P「え、そ、そうかな? ていうか旅パってなんだ……?」
律子「いかがですかなwwwwwwww我のヤイドル講座を受けてみるというのはwwwwwwwwwww」
P「ヤイドル講座?」
律子「これを受ければ、今よりもっと強くなれますぞwwwwwwwwwwwwww」
P「へえ……」
P(こうして俺は、担当アイドルにレッスンや営業を指示しつつも、律子の指導を受けることになった)
P(毎日が忙しい日々だが、これもあの子たちをもっと強くするためだ。頑張るぞ!)
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
律子「プロデューサー殿wwwwwwwwww基本的なことですが三値についてご存知ですかな?wwwwwwwww」
P「三値? ああ、あれだろ。ダンス、ボーカル、ビジュアル。アイドルとしての力量の評価基準のことだ」
律子「さすがの我もそれは引きますな」
P「えっ」
律子「そのような価値観はもう古いですぞwwwwwwww三値とは、種族値、個体値、努力値のことですなwwwwwww」
P「な、何を言っているんだ……?」
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
律子「プロデューサー殿wwwwwwwwwww今使用している技はなんですかなwwwwwwwwwwwwww」
P「わざ? えっと、歌のことか? The world is all oneだけど……」
律子「言っていることがまったく的はずれですなwwwwwwwwwwwwwww」
P「ええ……」
律子「補助技はありえないwwwwwwwwwwww『うたう』なんて論外ですぞwwwwwwwwwwwwww」
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
P(そうして日々は過ぎ去っていった……)
P「千早。今日はちょっと美容院へ行こうか」
千早「え? そ、そんなに野暮ったくなっていますか?」
P「そういうわけじゃないんだけど……努力値を振り直すためにさ」
千早「……?」
P「お金は事務所のマニーから出すから」
春香「プロデューサーさんっ! 千早ちゃんだけずるいです!」
P「……春香たちは、また今度な」
やよい「え……ぷ、プロデューサー?」
P「どうした?」
やよい「なんか……お顔がいつもと違うかなーって……」
P「……そんなことはないさ。さ、千早。行こう」
千早「は、はい……ごめんなさい、ふたりとも……」
春香・やよい「「……」」
P「響。ちょっと、ペットを貸してもらえないかな」
響「ペット?」
P「ああ。一日だけでいいからさ」
響「あ、わかったぞ! プロデューサーも、動物飼いたいって思ったんだね!?」
P「……まあ、そんなところだ」
響「いいよっ! 一日くらいなら……それで、どの子と過ごしてみたいの?」
響「いぬ美は体はおっきいけど、とっても優しい子さー! あとあとネコ吉なんかは……」
P「オウ助」
響「え?」
P「ペラッ……いや、オウムのオウ助がいいな」
響「ふーん……いきなり鳥を飼いたいなんて、変わってるね」
P「……まあな。んんっ……」
響「どうしたの? 風邪?」
P「……なんでもない、ですぞ……あ、いや、なんでもないさ。うん、大丈夫大丈夫」
響「……?」
P(そして……)
P「……春香たちに、伝えなくてはならないことがある」
春香「はいっ! えへへ……なんですか? 久しぶりのお仕事、ですよね!?」
やよい「わ、私! どんなレッスンでもお仕事でも、ババーンって頑張ってみせますーっ!」
P「……」
千早「……」
春香「……プロデューサーさん? それに……千早ちゃんも、どうしたの?」
やよい「なんか、いつもよりどんよりしてますー……」
P「……春香」
春香「はい……」
P「今日で、このユニットは解散だ」
春香「え……」
P「春香とやよいは、ボックス行きとなる。……急な話で、すまん」
春香「そっそんな! そんなことって……!」
P「……すまない」
やよい「ぷ、プロデューサー……私達、だけなんですか? 千早さんは?」
P「千早は、俺が新しくプロデュースするヤーティのメンバーとして、もう内定しているんだ」
春香・やよい「「!?」」
千早「……ごめんなさい。こんなことになってしまって」
P「新しいユニットのメンバーは……」
P「ヤハヤ、ヤコト、ヤビキの三人だ。AとCの種族値、個体値ともに最高だからな……」
春香「え、あの……さっきから、何を……」
P「春香、さよならですぞ」
春香「説明してくださいっ! 説明を……あ……」
やよい「行っちゃった……」
律子「……別れは済みましたか?」
P「ああ……」
律子「……本当にいいんですか? プロデューサー……」
P「それがいいって教えてくれたのは、律子だろう?」
律子「そりゃそうですけど……だけど、私はそれでもなお、やり方はあるってことを……」
P「いいんだ!」
律子「……っ」
P「……俺の実力じゃあ、春香たちを輝かせてやることは出来ない。厨ヤイを使わないと、レートは伸びないんだ」
律子「プロデューサー……」
P「厨パ使いと呼ばれてもいい。俺は……使命があるんだから」
P「最強のヤイドルマスターになるという、使命が……」
律子「……わかりました。それじゃあ……」
P「ああ……」
律子「行きますぞwwwwwwwwwwwwww」
P「了解ですぞwwwwwwwwww潜りますなwwwwwwwwwwwww」
【フェス会場】
P「んんwwwwwwwwwwwww調子はどうですかなwwwwwwwwwwww」
真「へへっ! もう最高ですよっ!!! 律子たちには意地でも絶対負けません!!!!!!!」
P「ヤコトは見事にいじっぱりな性格になりましたなwwwwwwwwwww」
響「自分もだぞ!! つっこんでつっこみまくって、見事に勝利してみせるさー!!」
P「ヤビキのゆうかんな性格は我は嫌いじゃないですぞwwwwwwwwwww」
千早「……あ、あの……」
P「どうしたんですかなwwwwwwwwwwwwww」
千早「……いえ、なんでもないです。私なんかの意見は、べつに聞いてくれなくても……」
P「ヤハヤはひかえめですなwwwwwwwwwwwww」
伊織「あら……プロデューサー」
P「ヤオリ殿wwwwwwwwwヤケモーニンwwwwwwwwwwwwww」
伊織「気合十分って感じね。それなら私たち、今日は負けてもおかしくないわ」
亜美「なにいってんのいおりん!!!!! そんなこといってちゃ」
あずさ「……」ジッ
亜美「あうう……な、なんでもないっぽいよ~……」
P「んんwwwwwwwwwwwwヤゥグウコマチは相変わらずの調子ですなwwwwwwwwwwww」
【フェス VS竜宮小町(二回目)】
ワァァ
P「二度目の対戦ですなwwwwwwwwwwww」
律子「ランダムマッチのはずなのにこんな短スパンで再戦とはヤーティ神の意図を感じますなwwwwwwwww」
P「今度は負けないですぞwwwwwwwwwwwww」
律子「それは我の台詞ですなwwwwwwwwwwww必然力によって勝利が舞い込んでくる以外ありえないwwwwwwwwwwwwwww」
P「それでは……」
律子「ええ」
P・律子「「いきますぞwwwwwwwwwwwwwwww」」
P「いくんですぞwwwwwwwwwヤコトwwwwwwwwwwwww」
ぽんっ
真「まっかせといてください!!」
律子「ヤズササンwwwwwwwwwww」
ぽんっ
あずさ「あら、最初は私ですか~?」
P(あずささんは超/水。対して真は格闘/炎タイプだ。ここは……)
律子「サイコブーストですぞwwwwwwwwwwww」
P「もどれwwwwwwwwwwwヤコトwwwwwwwww」
シュルルル
P「いくんですぞwwwwwwwwwヤハヤwwwwwwwwwwwww」
ぽんっ
みょんみょんみょん
千早(鋼/草)「くっ……でも、効果はいまひとつだわ」
律子「なかなかやりますなwwwwwwwwww」
P「当然ですぞwwwwwwwwwww交代戦は基本ですなwwwwwwwwwww」
律子「だてにこれまで鍛錬を重ねてきたわけじゃないわね……」
P「ああ……今度こそ、勝たせてもらう!」
P「ヤハヤwwwwwwwwwリーフストームwwwwwwwwwwwサイクルをぶち壊してやるんですぞwwwwwwwwww」
律子「もどれwwwwwwwwwwヤズササンwwwwwww」
シュルルル
律子「いくんですぞwwwwwwwwwwヤオリwwwwwwwww」
ぽんっ
ドカーン
千早「あ……ご、ごめんなさい、水瀬さん」
伊織「うっ……ま、まあ……そこそこのダメージってところね。平気よ、気にしないで」
P(出たな、竜宮小町のリーダー、伊織。竜/炎か……)
P(しかし、俺達だって負けない! 散っていった者ためにも、負けてなるものか!)
律子「ヤオリwwwwwwwwだいもんじwwwwwwwwwww」
P「四倍はさすがに死にますぞwwwwwwwwwwヤハヤwwwwwwwwもどれwwwwwwwww」
シュルルル……
P「再びいくんですぞwwwwwwwヤコトwwwwwwwwww」
~ 中略 ~
P(そして……)
ワァァァ
P「はぁ……はぁ……!」
律子「……っ……はぁ、はぁ……!」
P「……お、終わった……」
律子「……そう、ですね……しょ、勝敗は……!?」
P「結果は……」
律子「……まあ、見ればわかるけどね……結局響しか戦闘不能にできなかったわ……」
P○○● / 律子●●●
P「俺達の、勝ちだ……!」
ワァァァァ!
律子「……ふふっ」
P「ど、どうしたんだよ、急に笑ったりして」
律子「いえ……強くなりましたね、プロデューサー」
P「……ああ!」
律子「あの頃とは見違えますなwwwwwwwwwwwwww」
P「律子殿のおかげですぞwwwwwwwwwww」
律子「100パーセント我のおかげというのはありえないwwwwwwwwwひとえにヤーティ神の加護のおかげですなwwwwwwwwww」
P「違いありませんなwwwwwwwwwwwwww」
律子「いかがですかなwwwwwwww今度はダブルバトルというのはwwwwwwwww」
P「役割論理はシングルでの6350を想定した理論ですぞwwwwwwwwwwwwww」
律子「それもそうですなwwwwwwwwwwww」
??「ふぇぇ……」
P・律子「「!?」」
黒井「あまいんだよぉ……あますぎるんだよぉ……」
黒井「なかまうちでダブルバトルだなんて、あますぎてわらっちゃうんだよぉ……」
P「……あなたは?」
黒井「セレブでゴージャスなプロダクションのしゃちょうさんなんだよぉ……えへへ、くろいたかおっていうんだ」
律子「な、何が甘いっていうんですか!? 私達がおかしいっていうの!?」
黒井「うぃ。そのとおりだよ」
P「……なんのつもりだかはわかりませんが、俺達の身内の話だ。口を出さないでください!」
黒井「そういっていられるのも、これまでなんだよぉ……」
律子「一体なにを……」
黒井「このこたちを、みたことあるよね?」
ぽんっ
春香「ふぇぇ……」
やよい「ふぇぇ……」
P・律子「「!?」」
黒井「おかねのちからでむりやりゲットしたんだよぉ……えへへ、ハルカとハヨイっていうんだ」
P「は、春香……やよい……一体どうして……!?」
春香「ふぇぇ……わたしたちだって、ほんとはやだったんだよぉ……」
やよい「でもおかねのちからにまけて、たかぎしゃちょうが……」
律子「なんてことなの……!」
P「ああまったく、そんなこと気付きもしなかったぞ……!」
黒井「ふぇぇ……ろんじゃなんてもうふるいんだよぉ……」
黒井「いまのじだいは、はんようせいだよ。えへへ……ひとりでなんでもできるんだもん」
P「そ、そんなの、聞いたことないぞ! ヤイドルバトルと言ったら、役割論理だろう!」
律子「そうよ! 一人ひとりが役割を持って……それで」
黒井「たかぎのところのボンクラプロデューサーたちは、まだそんなこといってるの?」
律子「……っ」
黒井「じゃあ、おしえてあげるね。これからのアイドルのたたかいかた。それは……」
P「……」ゴクリ
黒井「はんようりろん、なんだよ! えへへ……♪」
黒井「さ、いくんだよぉ……かえって、いっしょにハケモンサンデーをみようね」
はるか「ふぇぇ……ばいばい、プロデューサーさん」
やよい「さよなら……」
P「ま、まってくれ! あ……」
律子「……いっちゃった……」
P「……くそうっ! 俺の……俺のせいだ……!」ガンッ
律子「プロデューサー……」
P「俺が……あのとき、春香達を見捨てなければ……こんなことにはっ!」
律子「……あなただけのせいでは、ないです。そもそも私が、あなたにこんなことを教えなければ……!」
P「俺は……一体、どうしたらいいんだ……」
律子「……そんなの決まっています、プロデューサー」
P「え……?」
律子「どんなことがあったって、私達がやることは変わらない」
律子「戦って戦って戦って……そして、勝ち続けることよ」
P「律子……」
律子「――体は、H振りで出来ている」
P「……!」
道具は拘りで、喋りはロジカル。
幾度の異教徒を倒し不敗。
ただの一度も素早さ振りはなく。
ただの一度も調整はない。
彼の者は常に独り 流星群で勝利に酔う。
故に、理論として意味がなく。
その戦術は、きっと論理で出来ていた。
「いくぞ異教徒―――素早さ調整は十分か」
――――――――――――Unlimited Logic Works
律子「それがヤイドル。そして……」
P「それを使役するのが……俺達、ヤイドルマスター……」
律子「そうです。それならもう、やることはひとつでしょう?」ニコッ
P「……そうだな。戦って戦って戦って……勝つんだ!」
律子「ええ! その意気です!」
P「黒井社長に教えてやろう。真のヤイドルバトルってやつをさ」
P「そして……春香とやよいを、絶対に取り戻してみせよう!」
律子「んんwwwwwwwプロデューサー殿wwwwwwwwwww」
P「どうしたんですかなwwwwwwwwwwwww律子殿wwwwwwwwwwwww」
律子「いつもの調子が戻ってきましたなwwwwwwww我も嬉しいですぞwwwwwwwwwwwww」
P「いつだって律子殿のおかげですなwwwwwwwwwwwwwwww」
律子「褒めたって何も出ないですぞwwwwwwwwwwwwwww」
P「しかしながら我このだいもんじよりも熱い気持ちは本物ですぞwwwwwwwwwwwwwwwww」
律子「えっ……」
P「……律子。これからも、頑張ろうな! 765プロ一丸となって、IA大賞受賞を目指そう!」
律子「は、はい……そ、そうですね! あはは……」
律子「……そ、そうよね。こういうことよね……」ドッキドキン
律子「んんwwwwwwwプロデューサー殿wwwwwwwwwww」
P「今度はどうしたんですかなwwwwwwwwwwwwwww」
律子「私も……その……同じ気持ちですから……」
P「え?」
律子「なんでもないですなwwwwwwwwww我としたことが、ねごとを使ってしまったようですぞwwwwww」
P「ねごとは変化技ですが場合によっては採用の価値ありですなwwwwwwwwwwwwwwwwwww」
律子「それもそうですなwwwwwwwwwwwwwwwww」
P(敵になってしまった、春香とやよい……)
P(そしてこれからも次々と現れるであろう、まだ見ぬライバルたち……)
P(これから先、何が起こるかなんてわからない。でも俺達は……戦い続け、そして……)
P「異教徒共を殲滅してやるんですなwwwwwwwwwwwwwwwwww」
律子「その意気ですぞwwwwwwwwwwwプロデューサー殿wwwwwwwwwwwwwww」
P(俺達の戦いは、これからだ!)
完
実際のアイドルマスター2のゲームでは、このようなバトルは起こりません
また、ステータスなんていうものはあまり関係なく、どんなアイドルの組み合わせでもベストENDは余裕で狙えます
ステではなく、愛でメンバーを選んでください
ただしプロデュース後ならありえますなwwwwww
Entry ⇒ 2012.10.15 | Category ⇒ アイマスSS | Comments (4) | Trackbacks (0)
淡「アコ。早く脱いで」憧「くっ……」
憧「……」
淡「アコがいうこと聞かなかったら阿知賀の大将さん……、潰すから」
憧「やめてっ!」
淡「へー。必死」
憧「なんでも言いなりになるからシズに酷いことするのだけは……」
淡「大丈夫、私の好みはテルーみたいに目の鋭い子」
淡「そしてあなたの目はテルーやスミレよりも更に私好み」
淡「アコをはじめて見たとき、まったくもって私の理想そのままで驚いたんだよ」
淡「アコが言いなりになってくれるなら悪いようにはしないから、ね?」チュッ
憧(シズ……)
憧「……」
淡「ふふ。ほっぺがリンゴみたいにまっかっか」
憧「あっ、赤くなんてなってない!」
淡「意地はっちゃって」
憧(あたしがシズ以外の相手に赤面するなんて、そんなの、ありえない!)
淡「……」チュッ
憧「きゃっ!?」
淡「あはは。きゃっ、だって。可愛いー!」
憧「……」
淡「ほっぺのリンゴにチューしただけなのにねー。うぶなんだー」
憧「何よ」
淡「このままじゃ不平等だから私も脱ぐね」
憧「好きにすればいいじゃない。どうせあたしに拒否権はないんだし」
淡「ま、そうなんだけどね」バサッ
淡「それでもせめて少しでも心の距離を近付けたくて」バササッ
憧(……肌、白いなぁ)
淡「あー。アコが私の身体じろじろ見てるー」
憧「はぁ!? だだ、誰がそんな!」
淡「やーい、エロエロー!」
憧「あんたにだけは言われたくない!」
憧「っ……」
淡「胸がドキドキいって、ほっぺがリンゴで、まるで私より憧の方がこの状況に夢中みたいだね」
憧「誰が……。シズのことがなければ絶対こんなことしないわよ」
淡「ふふん。説得力ない」
憧「……」
憧(目を閉じて、想像するんだ)
憧(あたしを抱き締めてるのは大星淡なんかじゃない。シズだ)
憧(あたしはシズに抱かれてるんだ。シズに……)
淡「私は、お・お・ほ・し・あ・わ・い、だよ」
憧「……」
淡「あなたをはじめて抱いている女は大星淡。タカカモシズノじゃない」
淡「現実逃避っていうんだよ、そーいうの」
憧「いちいち聞かなくても好きにすれば」
淡「違う違う、そうじゃないの。ただキスするんじゃ足りないよ」
淡「私は、アコから私にチューして欲しいんだ」
憧「あたしからあんたに……?」
淡「うん。ねー、いいでしょ?」
憧(嫌だ嫌だ嫌だ)
憧(自分からこいつにキスするだなんて、そんなの……)
淡「大将戦……、忘れてないよね」
憧「この卑怯者!」
憧「……」チュッ
淡「ふふっ。アコにキスされちゃったー」
淡「はじめては一度だけなの」
淡「この先アコがどんなに願おうが、大金を積もうが、タイムマシーンを発明したって……」
淡「アコのファーストキスは私。もうくつがえらない」
憧「……んなこと、わかってんのよ」ギリッ
淡「怒ってる怒ってる。でも怒った目も可愛いよ」
憧「……」
淡「嫌なヤツだよね、私。ごめんねアコ、こんなんで」
憧「謝るぐらいなら終わりにしてよ」
淡「それはダーメ。悪いことだとわかりつつも止められないのが恋なんだよ」
憧「恋……?」
憧「こんな最低のやり方で、しかも面識もまだほとんどないのに! これのどこが恋だっていうのよ!」
淡「そっかー。アコは恋ってものを綺麗な宝石かなにかと勘違いしてるんだー」
憧「……」
淡「ほら。アコはこんなに濡らしてるでしょ」サワッ
憧「ちょっ、やだっ!」
淡「私もおんなじ。アコを目の前にして、胸が高まって、あそこが落ち着かないの」
淡「恋っていうのは人間の中のドーブツ部分に過ぎないんだよ」
淡「だから理性じゃ御せないし、理由がめちゃくちゃでも恋できるの」
淡「どうやら憧のドーブツ部分は私に興味津々みたい」ナデナデ
憧「だとしても……、あたしは、シズ一筋だから」
淡「一途なんだね」
憧「ずっと好きだったから……」
淡「へー」
憧(シズ……)
淡「だいたいさ、不公平なんだよねー」チュッ
憧「何がよ……」
淡「アコみたいにキラキラした世界を信じて生きていられる子がいるってのに、片や私は……」
憧「あんたは?」
淡「……ねえアコ。想像できる?」
淡「少し前まで仲良しだった相手から嫌われる気持ちが」
憧「……?」
淡「アコは大好きな相手に話しかけても無視されるようになったことがある?」
憧「ない、けど……」
淡「ズルいよそんなの。なんで私だけ」
淡「私はただ自分を見てほしかっただけなのに……」
憧(さっきから何を言ってるのこの子?)
憧(支離滅裂すぎる、けど……。なんでだろう、何か……)
憧「……」
淡「麻雀が上手くなれば誉めてくれたから、そのために頑張ったりして」チュッ
憧「……」
淡「それが何、ある一線を越えたら化け物呼ばわり」
淡「だから私、人間の中のドーブツしか信じないの」
淡「損得とか利害とか理性とか、そんなのよりこっちの方がよっぽど信用でるよ」
淡「だからドーブツ部分が大好きだって囁いたアコに恋しようと思ったの」
淡「恋はドーブツ。綺麗なキラキラなんかじゃない」
憧「……事情はよくわかんないけど。あんたの話聞いててわかる部分もあったよ」
淡「えっ?」
憧「あたしも気を惹くための努力が上手くいかずに悲しくなることはあるから」
淡「私とアコとじゃ事情が違うよ。一緒にしないで」
淡「……」ガジッ
憧「いたっ!?」
淡「なんか見透かしたような言い方されるとムカつく」
憧「あーもう……。痣になってる……」
淡「……痛いことしてごめんね。謝るから私のものになって」ギュッ
憧「だからあたしはシズに」
淡「無理だよ。どうせ叶わないって」
憧「だとしても……」
淡「こんなにビチャビチャなのに一途気取って」スリスリ
憧「……っ!!」
淡「アコ。私アコならずっと好きでいられそうだよ」
淡「だからアコも私のこと好きになって」
憧(凄く必死に、あたしの太ももへアソコをこすりつけて)
淡「私、もうっ……、こういう恋しか……、でき、ないの……」スリスリ
憧(必死にあたしにすがりつこうとして……)
淡「だからアコ。最後の拠り所をっ……、否定、しないで……」スリスリ
淡「アコ……」スリスリ
憧(なんだか他人事じゃないみたい)
憧(あたしだって、明らかに片想いだと分かりつつもシズに振り向いてもらおうと、必死で……)
憧「淡」ギュッ
淡「アコ……?」
憧「やっぱり根っこは同じなのよ。あたしとあんたは……」ギュッ
憧「そうね」
淡「なのに抱き締めてくれるの?」
憧「うん。嫌だった?」
淡「嫌じゃない、けど……」
憧「じゃあいいでしょ」
淡「……うん」ギュッ
憧「……」
淡「……ふふ、アコ落ち着いてるふりしてるけど心臓がマッハで動いてる。やっぱ一年坊だねー」
憧「あのねー。こちとらいっぱいいっぱいだっての。っていうかあんたも一年だし」
淡「うん。同じだね」
淡「なんだかドーブツのドキドキよりあったかくなってきた……」
憧「……」
淡「アコはシズノが好きなんだよね?」
憧「うん」
淡「じゃあ私は?」
憧「そうね。姑息な手を使うし、むりやりファーストキス奪ったし、嫌い……」
淡「……」
憧「……になりそうなものなんだけど、不思議とそんなこともないかな」
淡「物好きだね」
憧「あんた歯に衣着せないわよねー……」
淡「でも今はその物好きに感謝!」チュッ
憧「わっ!? そ、そういう不意打ちはやめてったら!」
淡「アコ……。シズノはアコにこんなことしてくれる?」
憧「それはまだ、だけど……、いつかはきっと」
淡「私ならアコにちゃんと応えてあげられるよ? いつかもきっともつかないよ?」
淡「淡ちゃんが好きです?」
憧「そう、アワイが……、って何言わせようとしてんのよ!」
淡「あはは、ノリ突っ込み」
憧「あたしはさ。何度も言った通りシズが好きなの。この気持ちは裏切れないよ」
淡「ふーん。でもその選択って、アコの中にある別の気持ちは裏切ることになるよね」
憧「別の気持ち……?」
淡「そ。私を欲しがる気持ち」
憧「ばっ! そ、そんな気持ちなんて!」
淡「ない、とは言わせないよ。だってアコ、ドキドキしてるんだもん」
憧「うっ……」
淡「アコが綺麗な恋を好きなのはわかったよ」
淡「でもね。キラキラの恋心と、ドキドキするエッチな気持ちと、そこに尊いとか劣るとかいう違いは無いと思うの」
淡「だから……、エッチな気持ちに身を任せちゃおうよ。そしたら私、アコ一筋になってあげるから」
憧「あたしの牌譜を?」
淡「そしてわかったことが一つ! アコは不確実な賭けよりも、手近な現実を選ぶ!」
憧「いや。それは麻雀に限ったことだから」
淡「ううん、違うよ。牌譜はその人の人格や価値観まで写すの」
淡「期待値よりも目先の確実を選ぶ。アコ、そういうとこあるでしょ?」
淡「マウストゥーマウス!」チュッ
憧「むぐっ!?」
淡「今一番アコのそばにいるのは私だよ」
淡「アコのエッチなムラムラに一番応えてあげられるのも、私だよ」
淡「アコ……。ここまで言っても求めてくれないの? 私は――」
憧「淡……」ムニッ
淡「あ……」
憧「淡、あたし……」ムニムニ
淡「えへへ。私の太もも気持ちいいでしょ?」
憧「うん……」ムニムニ
淡「憧から私に触ってくれて嬉しい」
憧「あたしこんなことしていいのかな?」チュッ
淡「身体がしたがってることはしていいことなんだよ」チュッ
憧「そう……、なの?」
淡「そうだよ。初志貫徹の美徳なんて後付けの価値観」
淡「人間の本音を一番よく知ってるのは身体なんだから」クリッ
憧「ま、待って! そっちは、本当に恥ずかしい……」
淡「でも気持ちいいんでしょ?」クリクリッ
憧「……うん」
淡「かわいいよアコ。だから面倒なもの全部投げ捨てて、私に飛び込んでよ」
淡「今、アコの身体が本当に欲しがってるのは、シズノじゃなくて私なんだから」
憧「……」ツンツン
淡「ふふっ。こうされるの好き」ナデナデ
憧「ちゅー……、ちゅっ」
淡「あのさ、アコ……、んっ。ここは2回戦までぇ……、選手控え室としてっ、使われてた部屋なんだ……」
憧(どうしてこのタイミングでそんなことを?)チュッ
淡「だからインハイ団体戦が終わるまで……、はっ、飽き部屋なん、だけど……」
憧「へ?」
がちゃ
穏乃「憧……?」
穏乃「えーと、呼ばれて……、ととっ、とにかく! 失礼しました!」
ばたん
憧「あ……」
淡「アコ。私の牌譜、見たことある?」
淡「麻雀をする時、普通の人にとって見渡す世界は雀卓の上だけになる」
淡「だけど私は違う」
淡「私は雀卓の外側を、世界の外側を、宇宙を、躊躇わずに利用できる」
淡「ちょうど今みたいに、ね。私は遠慮も容赦もしないんだよ」
淡「アコが欲しいの」
淡「そんな上着だけはおってどこいくつもり?」
憧「あた、し……、追いかけてシズに説明しなきゃ……」
淡「なんて説明するの?」
憧「それは……」
淡「脅されてキスしてましたー。ペッティングしてましたー」
淡「そんな説明であの子の心は元通りになると思う?」
憧「……」
淡「今、アコの手の中にあるのは全部危険牌」
淡「振り込む相手は……、私」ギュッ
憧「あ……」
淡「恨んでくれてもいいけど離さないんだから」ギュッ
淡「泣いてもいいけどこっちを見て」
憧「あたしっ……、シズのことずっと好きだったのに……」
淡「好きならむくわれるとは限らないんだよ。自分から動かなきゃ」ナデナデ
淡「まあもう遅いんだけどね」
憧「……ぐすっ」
淡「でも大丈夫。アコには私がいるから」サワッ
憧「あっ」
淡「好き好き」サワサワッ
憧「うっ……、く……」
憧「淡……」ギュッ
淡「アコ」ギュッ
憧「うっ、うん……」
淡「えいっ。ちゅっちゅっちゅ」
憧「……ちゅっ」
淡「ちゅっちゅっ」
憧「ちゅっ……」
淡「えへへー。きちんとアコからもキスしてくれて嬉しいよ」
憧「そういうことあんま口に出して言わないでよ……」
淡「やーだよん。アコの頭がふわふわしてるうちに淡ちゃん大好きって気持ちを定着させたいんだもん」
淡「こう見えて私だって必死なんだからね?」
憧「えっ?」
淡「たまにはアコの方からしたいことを選んでよ。なんでもいいよ」
憧「……」
淡「あ、でも、あんまり痛いのとかは怖い……、かな」
淡「アコのためならできる限りは頑張るけど」
憧「じゃあ、太もも……」
淡「太もも?」
憧「あたしと淡の太ももをすりすりってしたい……」
淡「なるほど。アコは太ももフェチと!」
憧「……うん」
淡「そういえばさっきも私の太ももさわさわしてきたもんね」
淡「好きなんだね、女の子の太もも」
淡「気持ちいいね」スリスリ
憧「うん……」スリスリ
淡「私、思ったんだけどね」
憧「……?」スリスリ
淡「アコがシズノのこと好きだったのって、あの子がいつも太もも出す格好だったからなんじゃない?」
憧「えっ……?」
淡「つまりー。けっきょくシズノへの気持ちも、根本たどればエッチ心に繋がるってわけ」
憧「違う! あたしはただ純粋に!」
淡「でもどうせシズノでオナニーしたことあるんでしょ?」
憧「それ、は……」
淡「そうだ。妄想の中でシズノにしたこと、全部私に再現してよ」
淡「そしたらきっと絶対もっと気持ちよくなれるよ?」
憧「あんたはあたしのシズへの気持ちまで踏みにじろうというの……?」
淡「だってアコのこと全部まとめて好きになりたいんだもん」
淡「だから恋を私で上書きしちゃおうよ……、ね? ムラムラしてるんでしょ?」
憧「淡……」
淡「愛してるよ」チュッ
憧「……たしも」
淡「ん?」
憧「なっ、なんでもない!」
淡「そうー?」
憧(ああもう、なんなのよあたしは!)
憧(淡相手にドキドキして、これじゃまるで本当に気持ちを上書きされちゃったみたい……)
憧(淡……、淡……)
淡「うん。アコがシズノにしたかったことは全部して」
憧「それなら足を大きく開いてくれる?」
淡「えっ!? それはー……、さすがに恥ずかしいような……」
淡「でっ、でもアコのためだもんね! わかった開くよ!」
憧「……」スッ
淡「って、わーっ!? 何そんなに顔近づけてるの!?」
憧「ちゅっ」
淡「あ、あの……、私のアソコ、臭くない? 形とか大丈夫かな?」
憧「うーん。エッチな匂いかな」
淡「それって嫌な匂い……?」
憧「ううん。そんなことない」チュッ
淡「よかったぁ……」
淡「えへへ……。そ、そうかな」
憧「ちゅっ、ちゅ、ちゅっ」
淡「……」
憧「どう、かな? 気持ちいい?」
淡「うーん。ぎこちない感じだしまだあんまり気持ちよくはないかなー」
憧「うっ……」
淡「でもね。代わりにとっても幸せな気持ちだよ!」
憧「幸せな気持ち?」
淡「うん。アコに女の子の部分をたくさんキスしてもらって、とってもキュンキュンするの」
憧(ぐっ。不覚にも可愛いと思ってしまった……)
淡「ところでアコ。妄想の中では、アコはキスするだけだったの?」
淡「自分がシズノにされる妄想はしなかった?」
淡「つまりしたんだね。シズノにまん……、えっとあの、アソコをキスされる妄想」
憧「うん……」
淡「じゃ、私が代わりにキスしてあげる!」
憧「い、いいってそんな! ハズいって!」
淡「いいからいいから。ほら、足を開いて?」
憧「……うん」
淡「わっ。ぬらぬらしてる! アコ興奮してるねー」
憧「だだだって! 仕方ないでしょこの状況じゃ!」
淡「ぺろっ」
憧「ひゃっ!?」
淡「へー。憧ってもしかして敏感?」
憧「かも、しれない……」
淡「エッチな身体だこと」
憧「言わないでよ、もうっ……」
憧(自分のアソコに淡が吸い付いて……)
淡「ちゅ。ちゅぅー、ちゅ」
憧(変な気分)
憧(だんだん淡が愛しくなって……)
憧(ハッ! 違う違う! あたしシズが……、シズが……)
憧(……こんなことしておいて、今さらシズが好きなんて言う資格あたしにあるのかな?)
淡「かぷっ」
憧「んっ……」
淡「ちゅー、かぷっ」
憧「やっ……、やぁ……」
TELLLLL TELLLLL
憧(あ、え……? 電話?)
憧(携帯、携帯、と。相手は……、シズ!?)
淡「出ないで」
憧「え?」
淡「シズノの電話に出ないで」
憧「や、それは……」
淡「出ないで」ギュッ
憧「あ、淡っ!?」
淡「私だけ見てよ」クニクニ
憧「ちょっ! 指が中に入ってきて……」
淡「ちゅーっ」
憧「んぐ!?」
憧(キス、今度は舌まで入れられちゃった)
淡「ん、んっ……! んっ!」
憧(たくさん舌が絡んでくる……。淡は、電話からあたしの気を反らそうとこんなに必死で……)
憧(もしかしたらまだ引き返せるかもしれない……)
TELLLLL TELLLLL
憧(シズは自分からあたしと対話しようとしてくれている)
TELLLLL TELLLLL
憧(だから今ならまだ……、でも)
淡「アコ……」ギュッ
憧(淡はこんなにも一生懸命あたしに抱き付いてきて……)
憧(あたしは……)
憧「……」
TELLLLL TELL カチッ…
淡「電話、切っちゃったの……?」
憧「うん」
淡「私のために?」
憧「……うん」
淡「アコーっ!」ギュッ
憧「淡……」
淡「えへへ、アコぉ、嬉しいよ……」
憧「うん」ギュッ
憧(ああ。これでもうあたしは本当に選んじゃったんだな)
憧(さよならあたしの初恋……)
憧「ああ、うん」
憧(いつかシズと……、なんて考えたこともあったから)
淡「あのね。私、貝合わせがやってみたいの」
淡「あんまり気持ちよくないって話も聞くけど……」
淡「でもね! それ以上に、アコと私の大事なとこくっ付け合いたいなって思うんだ!」
憧「わかった。してみよう」
淡「うん!」
憧「うーん。位置を合わせるのってけっこう難しいね」
淡「そだねー。んしょ、んしょっと」ピトッ
憧「あっ……」ヌルッ
淡「うわー! こうやって合わせるだけでなんだかエッチな感じ!」
憧「あはは、たしかに。……ドキドキしてきた」
淡「私もドキドキで叫びたいぐらいだよ」
淡「ただ、この姿勢だと上の口同士ではキスできないねー」
憧「それは後からだってできるよ」
淡「うん! そうだよね!」
淡「これが終わっても、私アコとキスできるんだよね……?」
憧「うん」
淡「じゃ、じゃあ! シズノに手出しするって脅しがなくなってからは?」
憧「脅しがなくなってからも……、できるよ、キス」
淡「やったー!」
淡「思わない。だってアコは嘘も建前も嫌いな子だもん」
憧「どうしてそんなこと断言できるのよ」
淡「ふふっ。それも牌譜からわかるって言ったらどうする?」
憧「いやいや、牌譜心理学はなんでもありかい」
淡「でしょー、凄いでしょ! ……なんてね。さすがにこれはジョーダン」
淡「アコがそういう嘘を嫌いそうだってのは、本人を見てればなんとなくわかるよ」
憧「んなこと嬉しそうに言われたら……、ますます裏切れなくなるじゃない」
淡「やったね嬉しい誤算だ」
淡「……さ、動くよ」
淡「なんかっ……、気持ちいとこが上手く、こすれあう、ね……」クチュクチュ
憧「そう、ね……」ヌルヌル
室内に湿った音が響く。
息づかいが熱を帯びていく。
淡「もしかしてっ……、私と、アコって……」
憧「あっ、あっ……」ヌルヌル
淡「身体の相性バッチリなんじゃないかなぁ……?」
憧「そう……、かもっ」ヌルヌル
淡「なんだか私よりアコの方が夢中で腰を動かしてるね」
憧「だっ、て……」ヌルヌル
淡「かわいい。好き」
その淡の言葉に、胸の中で血潮がひときわ大きく波打つ。
跳ねるような水音がして、更に大きな快楽が下腹部へと広がる。
淡「アコっ……、アコっ……」ヌルヌル
淡はあたしの太ももを掴んで姿勢を安定させると、より強い力で股間をこすり付けてきた。
無理やり自分の身体を使われるような感覚に、気持ちの昂りがますます勢いを増していく。
憧「あっ……、……ぁ」
堪えようとしても、自分のものとは思えないような細く絞る声が漏れでてくる。
憧「あわっ、い……」クチュクチュ
淡「うっ……、ん……」クネクネ
淡「はっ、はあっ……、はあっ……」スリスリ
憧「あわいの、ことっ……」ヌルヌル
淡のことが好き。
そう口にした瞬間、淡の身体が小さく震えた。
淡「ううっ」ピチャピチャ
淡の達した震えが身体から直に伝わってくる。
事後。
絶頂の感覚に頬を染めながらも、淡は泣いていた。
淡「アコを手に入れるためにひどいやり方して……、そのくせ一人で先にいっちゃって……、ごめんね……」
憧「だい、じょうぶ……」
淡「え……?」
憧「淡がいった時の震えで、あたしも……、一緒にいけたから」
淡「……ふぇぇ」
憧「ちょっと淡!?」
淡「アコぉ……、好きだよアコぉ……」ギュッ
憧「……うん。あたしも」ギュッ
憧「うーん。ちょっと疲れたかな」
淡「私もー。じゃ、晩御飯食べにいこうよ!」
憧「あ、それならちょっと部のみんなに連絡いれなきゃ」
淡「シズノに電話かけるの……?」
憧「……」
淡「かけるんだね……」
憧「大丈夫」
憧「もう……、割りきった、から」
淡「ウソ」
憧「……今は嘘でも、本当にするから」
淡「そっかー……。わかった。アコを信じる!」
「うん。あの人とは……、妙に気が合って、恋人みたいな関係になっちゃった」
「え? そんなの嫌だ、って……」
「そんなこと言われても……、もう、遅い、よ……」
「……」
「うん。ありがとう」
「……ごめんね」
「そうそう。晩御飯、外で食べてくるから玄達にも伝えておいてくれる?」
「うん……。大丈夫、ちゃんと帰るから……」
「またね。バイバイ」
憧「どうして淡が沈んだ顔するのよ」
淡「だってアコ、泣いてるから……」
憧「……」
淡「ごめんね、アコ。ごめんね」
憧「……淡」
淡「アコ……。それでも私、アコが欲しいの……」ギュッ
淡「はじめはただ好みってだけの理由だった」
淡「でも今は、私の全部がアコを求めてるの……」
憧「うん……。それはあたしも」
憧「今はちょっと、大人になる痛みに泣いてるだけ、だから……」
憧「後悔はしてない、よ……」
淡「本当?」
憧「うん……」
淡「よかったぁ……」
インターハイ会場の外に出ると辺りはすっかり日も落ちていた。
生まれ育った阿知賀とは違う、どこか無機質な風景。
「アコー、暗くて道がよく見えなーい」
淡はわざとらしくおどけながら腕を深く絡めてきた。
ひときわ小柄なシズとは違うその高さに、自分の選択の意味を改めて知る。
「ここの空は星がほとんど見えないんだよね」
「うん」
「星といえば……、もしも今流れ星が見えたら、アコはなんてお願いする?」
「願い事? そうね、あたしの願いは……」
「願いは?」
私の、願いは――、
水遊びした河原。
何度も一緒に通った部室。
全部全部、追い払って。
「……ずっと淡といっしょに、かな」
「わー! 私もおんなじ!」
都会の夜風はほんの少しだけ大人の匂いがした。
このほろ苦い空気を浴びて、きっと夢見がちな少女だったあたしも変わっていくのだろう。
胸の痛みを夕食の考え事で無理やり追い出したりなんかして――
おわり
Entry ⇒ 2012.10.15 | Category ⇒ 咲-Saki-SS | Comments (0) | Trackbacks (0)
亜美「年上を……これ何て読むの?」真美「けいう?」
真美「何したの?」
亜美「レコード会社のお偉いさんに挨拶回りしたんだけどね」
真美「うん」
亜美「おっちゃん相手に、おっちゃん!亜美達の新曲よろしくね!って言ったらポカリだよ」
真美「マジっすか」
亜美「マジっすよ」
真美「それでポカリ?理不尽ですなぁ」
亜美「でしょ~?」
真美「真美達の間じゃ愛称で呼び合ってるのにねぇ」
亜美「だよね……ん?」
真美「どしたの?」
亜美「……呼び合ってたっけ?」
真美「えっ?」
真美「うん」
亜美「でもそれって、亜美達以外に使ってる人っていないよね」
真美「そう言われれば……」
亜美「もしかして、愛称付ける程仲良くなってると思ってたのは、亜美達だけだったのかも……」
真美「実態は真美達の一方的な好意で、本当は皆、真美達を馴れ馴れしいと思ってたりとか……?」
亜美「そうだったら亜美達は、律っちゃんの言ってた暴虐夫人になっちゃうよ!」
真美「ぼ、暴虐夫人……!」ゴクリ
真美「とりあえず愛称で呼ぶのをやめてみるとか?」
亜美「うーん、少々名残惜しいけど……真美のその考え方、イエスだね」
真美「でもやめた後、どう呼べばいいのかが問題だよね」
亜美「もっと相手に好かれるような呼称が良いのかもしんないね」
真美「じゃあ……ハニーとか?」
亜美「こないだの生っすかでミキミキにそう呼ばれて顔真っ青になってたらしいよ、兄ちゃん」
真美「マジっすか」
亜美「マジっすよ」
亜美「無難なものに限られるね」
真美「無難、ねぇ……真美達、そーゆー人生は送ってこなかったからなぁ」
亜美「送りバントより初球打ちでホームラン狙うタイプだかんね……」
真美「……じゃあさ、いっそこんな風にしてみない?」
亜美「おっ、なになに?」
真美「えっとね……」ゴニョゴニョ
ガチャッ
やよい「おはようございまーす!」
「「おはよう、やよいお姉ちゃん!」」
やよい「」
亜美「どしたの、やよいお姉ちゃん?」
やよい「お、お姉ちゃん?」
亜美「そうだよ。だってやよいお姉ちゃんは真美達より年上じゃん」
真美「だからやよいお姉ちゃん!」
やよい「えっと……何でいきなり、そんな風に?」
真美「いやぁ、今までの呼び方じゃ何か馴れ馴れしいと思って」
亜美「亜美達、一応最年少だしさ。年上ならもうお姉ちゃんと呼ぶのが筋だな、と」
やよい「そっか~……でも亜美達に改めてそう言われると、何だかくすぐったいね」
真美「まぁでも実際、リアルお姉ちゃんだしね」
やよい「……年上、かぁ」
やよい「あ、伊織ちゃ……」
伊織「?」
亜美「伊織お姉ちゃん!」
真美「伊織お姉ちゃーん」
伊織「」ゾワワッ
やよい「えーっと……い、伊織お姉ちゃん……おはよう」
伊織「」
亜美「何?伊織お姉ちゃん」ニヤニヤ
伊織「今すぐやめなさい、それ。あんた達に言われると鳥肌立つから」
真美「えぇー!?」
やよい「ご、ごめんね、伊織ちゃん……」
伊織「あ、やよいは別にいいのよ、うん」
亜美「何だよそれー!」
真美「何で真美達はダメでやよいお姉ちゃんはオーケーなんだよー!」
伊織「バカね。姉って呼ぶからには、その姉の言う事には従うってのが筋じゃない?」
亜美「ぐっ……そ、それを言われると従わざるを得ない……!」
真美「早くもヒエラルキーが確立してしまったか……!」
伊織「……え?何?」
やよい「伊織お姉ちゃん」
伊織「ごめん、ちょっと聞き取り辛くて」
やよい「……お、お姉ちゃんっ!」
伊織「なにかしら、やよい」ニコニコ
亜美「(……策士だ)」
真美「(策士だね)」
美希「……デコちゃん、何でニヤニヤしてるの?不気味なんだけど」
美希「お姉ちゃん?」
真美「真美達より年上にはね、一応皆お姉ちゃんって呼ぶことにしたんだ~」
美希「ふ~ん……ねえねえ、デコちゃん」
伊織「何よ、ってかデコちゃん言うな」
美希「ミキのこと、お姉ちゃんって呼んでもいいよ?」
伊織「はぁ?何でよ?」
美希「えっ?だってデコちゃん、どう見てもミキより年下……」
伊織「あのね……一応、あんたと同い年なんだけど」
真美「ウソッ!?」
亜美「マジで!?」
やよい「えぇっ!?」
伊織「………」
真美「ウチら辺りの年齢って、特に気にしてなかったからねぇ」
美希「伊織は割とぺったんこだしね」
伊織「うっさいわね!あんたの発育が特別いいだけよっ!」
やよい「い、伊織お姉ちゃん、落ち着いて……」
伊織「えぇ、すごく落ち着いたわ。ありがとう、やよい」キリッ
亜美「呼び方一つ変えただけでこれだよ」
真美「効果は抜群だね」
ガチャッ
響「はいさーい、みんなー!」
亜美「おはよー、響お姉ちゃん」
真美「響お姉ちゃーん」
響「」ゾワッ
響「」ゾワワッ
美希「えっと……響お姉ちゃん?」
響「」ゾワゾワゾワッ
やよい「響お姉ちゃん、おはようございまーす」
響「High sigh!」
伊織「……何よ、この反応の差」
亜美「響お姉ちゃんだからね、ちかたないね」
真美「そうだね、響お姉ちゃんだしね」
響「いきなりそんなっ!呼ばれても困るさー!」
伊織「の割にはやよいで思いっきり動揺して英語になってたわね」
美希「響も妹だからねー。気持ちは分かるよ?ミキも呼ばれた時ちょっと嬉しかったし」
響「う……うがー!」
真美「んー……純粋にお姉ちゃんなのは、やよいお姉ちゃんだけっぽい?」
亜美「ふむ……」
やよい「そ、そんなことないと思うけど……」
ガチャッ
千早「……おはようございます」
美希「おはよー、千早お姉ちゃん」
ドンガラガッシャーン
美希「大丈夫?千早お姉ちゃん」
千早「何?……あなた達、ふざけてるの?」
響「そ、そうだぞ、一体どうして自分達をお姉ちゃんとか……」
亜美「かくかくがしかじかで~」
千早「……やっぱりふざけてるんじゃない」
真美「えー?ふざけてないよ、ちーちゃん」
ズルッ
響「あ、またずっこけた」
真美「いつもは『千早お姉ちゃん』だからさ、ちょっと捻ってみたよ」
伊織「影おくりできそうな名前ね……」
千早「……あ、あなた達にそう呼ばれるのは想定外……」
やよい「大丈夫ですか、千早お姉ちゃん!?」
千早「えぇ、もうすごく大丈夫。ありがとう、高槻さん」スクッ
真美「言葉一つ変えたらコレだよ」
亜美「やよいお姉ちゃん、リアルお姉ちゃんなのにね」
響「本物の妹より妹が似合うとか……それはそれで、ちょっと複雑だなー」
美希「むー……」
春香「天海春香、ただ今戻りましたー!」
真「ふぃー、やっぱり朝から生は大変……」
雪歩「ただ今戻りまし……」
美希「おかえり!雪歩お姉ちゃん!」
雪歩「ふぇっ!?」ゾワワッ
伊織「あら、おかえりなさい真お姉様」
真「っ!?」ゾワワワワワワワ
千早「お、おかえり……春香お姉ちゃん」
春香「」ブバッ
亜美「あ、春香お姉ちゃんが血吐いた」
響「何をどうしたらそんな反応になるんだ……」
雪歩「な、何ですか?一体、何なんですか……?」ガタガタ
真美「全略」
真「伊織が妹ぉ?……こんな面倒なのが?」
伊織「は?」
亜美「むしろ全然いいよ、割と本気で」
真美「守ってあげたいお姉ちゃんってのも、需要ありそうだしね」
美希「雪歩お姉ちゃんはもっと自分に自信を持った方が良いと思うな」
雪歩「うぅぅ、妹達にに励まされるなんて……でも、ちょっとだけ、嬉しいかも……」
真「だからさ、例えオーキド博士が『そこに伊織がおるじゃろ?』って指したとしてもだよ?」
真「伊織を妹に選ぶってのはあり得ないよ、大体それなら……」
伊織「あんた、ちょっと屋上に来なさい。久々にキレたわ」
やよい「い、伊織お姉ちゃん、落ち着いて……!」
響「だ、大丈夫か、春香ー?」
春香「……ち、千早ちゃんに……お姉ちゃんと呼ばれる日が来るなんて!」ハァハァ
千早「えっ?」
春香「でもまぁそうだよね私は千早ちゃんより一コ上だしそう呼ばれるのもそう不自然ではないよね」
春香「だからと言って血は繋がってない訳だしそこは妥協して先輩とか呼ばれるのもまぁ別に悪くないんだけど」
春香「あ、でもマリみてとかじゃ女学園限定だけど普通にお姉さまとか呼ばれる関係だってあるし千早ちゃんもそれに倣えばバッチリなんじゃないかな」
春香「私としてはホントはお姉さまとか呼ばれてみたいしだけどやっぱりお姉ちゃんの方が破壊力抜群かなって思うからこのままでもいいかなって感じなんだけど」
春香「あ、千早ちゃんはどっちがいい?」
響「………」
千早「……ど、どっちがいいって言われても……」
亜美「とりあえずこれまでの反応見る限り、案外イケそうではあるね」
真美「んっふっふ~、そうだね」
貴音「嬉しそうですね、二人とも。何かあったのですか?」
亜美「あっ、お姫ち……じゃなかった」
真美「えっと……」
貴音「?」
亜美「貴姉ちゃん!」
真美「貴姉ぇ!」
真美「何?貴姉ぇ」
貴音「真美は、あの方の真似をしているのですか?」
亜美「あ、えっとね、多分呼び捨てじゃなくて……」
真美「貴と姉で貴姉ぇ、だよ」
貴音「!!!」
真美「ねー、語呂が良いっしょー」
貴音「なるほど……!」
亜美「た、貴姉ちゃん……?」
貴音「嗚呼、双海真美……貴女は何と素晴らしい才能を持っているのでしょう……!」ナデナデ
真美「……ものすごい褒められちったよ」
亜美「いいなぁ」
亜美「ヘイ!律子姉ちゃん!」
律子「………」ピクッ
真美「ヘイヘイヘーイ!律子姉ちゃーん!元気ぃー?」
律子「………」カタカタ
亜美「律子姉ちゃん!今何してるの律子姉ちゃん!」
真美「もしかして律子姉ちゃんお仕事中?ねぇ、もしかして真美達って邪魔?律子姉ちゃん」
律子「………」
亜美「ねぇ律子姉ちゃん!律子姉ちゃん!ねぇってば!」
真美「律子姉ちゃん!ヘイ!律子姉ちゃん!」
律子「うるせぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!」バンッ
真美「本当なんだよ律子姉ちゃん、真美達を信じてよ律子姉ちゃん」
律子「今すぐ、その連呼を、やめなさい」
亜美「………」
真美「………」
亜美「そんじゃあさ、律姉ぇでいいかな」
真美「律姉ぇ!律姉ぇ!」
律子「もう、何なのよ一体……」
亜美「全略」
亜美「な、なんでー?」
律子「呼称が変わっただけで敬語の一つも使えてないじゃない」
「「!!!!!」」
亜美「ま、真美!これって……!」
真美「……そういう説も、アリだったか~」
亜美「盲点、だったね……」
真美「うん……」
律子「(何で驚愕の事実が判明したみたいな驚き方すんのよ……)」
真美「そだね。真美達はいつでも自然体だもんね」
亜美「そうそう、フリーダムイズ亜美だったかんねー」
真美「でもこれからは、ちゃんと覚えなきゃいけないのかー……」
亜美「世知辛い世の中になったねー」
真美「ねー」
あずさ「この前行ってきたお店のプリンがもう、おいしくって……」
小鳥「えっと、そのお店ってどこに……」
ワイワイ キャイキャイ
亜美「……ねぇ真美」
真美「んー?」
亜美「『ピヨちゃん』じゃあ流石にアレだよね」
亜美「……それ、思いついたんだけどさ。何か……」
真美「うん、違和感あるよね」
亜美「って言うか、さんを付けなきゃいけない気がするんだよね」
真美「!……そっか!ちゃん付けじゃなくって、さん付けすれば敬語になるんじゃない!?」
亜美「おぉーっ!真美あったまいー!」
真美「じゃあじゃあ、今度からピヨちゃんの事は小鳥おばさ
真美「いつも私達の為に頑張ってくれてありがとうございます小鳥お姉さん大好きです」
小鳥「よろしい」
あずさ「あらあら~……それじゃ、私にも何か付けてくれるのかしら?」
亜美「そだねぇ……あずにゃんとかどーよ?」
あずさ「にゃん?」
真美「あーずにゃーん」
あずさ「……にゃーん♪」
亜美「にゃーん♪」
真美「にゃんにゃん♪」
小鳥「にゃーん(笑)」ププッ
あずさ「………」
あずさ「でも音無さんは訂正しないとお姉さんって呼ばれませんでしたよね」
あずさ「………」
小鳥「………」
あずさ「……ふっ」
小鳥「ほくそ笑みましたよね。今私見てほくそ笑みましたよね」
あずさ「にゃーん☆」
小鳥「にゃーんじゃねぇよコノヤロー喧嘩売ってんのか」
┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨
真美「まさにグラウンド・ゼロだね……大人って難しいねー」
亜美「そういやピヨちゃ、小鳥お姉さんの時に敬語使ってたけど、どうだった?」
真美「………」
亜美「真美?」
真美「……読書感想文読まされてる気分だったよ……」
亜美「あー」
亜美「あと残ってるのは……兄ちゃんかー」
真美「ここは無難にお兄さんとか?おにぃとか……おじさまも……」
亜美「あ、いた!」
真美「……何か兄ちゃん、真剣な顔して悩んでるよ」ヒソヒソ
亜美「声、かけづらいなぁ……どうしよっか」ヒソヒソ
P「……セクハラ……」
亜美「えっ?」
P「……お堅い貴音や千早に合法的にセクハラするには、どうすればいいんだ……」
亜美「………」
P「そんな夢のようなやり方があるとすれば……うーん」
真美「………」
P「ここはやはりカラオケで『最強○×計画』を貴音に……歌詞といい、あれは素晴らしいの一言に尽きる」
P「貴音だったら、意外に了承してくれそうではある……だが、きっかけはどうする?」
P「それに、カラオケならば千早だって容易に……」
亜美「ねぇ、おっちゃん」
真美「考えが口に出てるよ、おっちゃーん」
P「!?」
真美「おっちゃんの事だよ、おっちゃん」
亜美「おっちゃんにはガッカリだよ。セクハラする事で頭がいっぱいだなんて」
P「男は暇な時、みんな頭の中はセクハラでいっぱいなんだよ……つーかおっちゃんはないだろ、おっちゃんは」
亜美「じゃあ、おっさん」
P「おっさんじゃない!もうちょっと親しみを込めた呼び方をだな……」
真美「ならさ、ハニーで良いよね」
P「えっ」
亜美「そだね~。美希お姉ちゃんだけじゃなくって、亜美達もちゃんと呼んであげないと不公平だしね」
P「」
真美「真美達はそんなハニーでも応援してるからね、頑張ってねハニー」
P「おいバカやめろ」
あずさ「どうして亜美ちゃん達にハニーって呼ばれてるんですか……?」ヌッ
P「うわぁっ!……あ、あずささん!?」
小鳥「プロデューサーさん、まさか亜美ちゃん達にまで手を付けて……!?」
貴音「何と不埒な……あの子達はまだ年端も行かぬ少女だというのに、あなた様は……!」
P「ど、どこからわいて出てきたんですか二人とも!つーかまだ付けてない!付けてませんから!」
小鳥「ゴムを?」
あずさ「えっ」
貴音「ゴム……?」
P「違うから、全然違うから。小鳥さんはちょっと黙ってて下さい」
真美「うーん……なぁんか、イマイチだね。皆はわりかし喜んでたみたいだけど」
亜美「どゆこと?」
真美「敬語の方もそうなんだけどさ、コレジャナイ的な感じがするんだよね」
亜美「そうかなぁ?亜美は結構イイ線いってたと思うんだけど」
真美「……じゃあさ、ちょっと試してみよっか」
亜美「?……試す?」
真美「ね、亜美。真美の事、お姉ちゃんって呼んでみてくんないかな」
真美「ほら、だって真美も年上だしさ」
亜美「いや、年上も何も双子じゃん」
真美「それでも姉だよね一応」
亜美「……アーケード版では亜美がお姉ちゃんだったよ?」
真美「続編やアニメは真美がお姉ちゃんだけど?」
亜美「ぐぬぬ……」
真美「あれー?どしたの、亜美?」ニヤニヤ
亜美「な、何か……恥ずかしいってゆーか……」
亜美「えっ?」
真美「許してあげようじゃないの、お姉ちゃんの寛大な精神で……!」
亜美「!……ま、まだ真美をお姉ちゃんと認めた訳じゃないんだかんね!」
真美「ふふん」
亜美「………」
真美「………」
亜美「……ま、真美……お姉、ちゃ……」
真美「えっ?何?聞こえない」
亜美「………」イラッ
真美「………」
亜美「(お姉ちゃんって呼ばないと反応しない気満々だな、こんにゃろ……)」
真美「………」
亜美「じゃ、じゃあ、呼んでやんよ!耳の穴かっぽじってよく聞きやがれ!」
真美「………」
亜美「い、言うぞー!」
真美「(早く言いなよ……)」
真美「………」
亜美「……ま、真美、お姉ちゃん」
真美「………」
真美「ごめん、やっぱやめようこれ」
亜美「えっ?」
真美「亜美の口からお姉ちゃんって聞いたらさ、すんごいゾワゾワする」
亜美「あ、真美も?……やっぱ、慣れない事はするもんじゃないね」
真美「真美達が呼び合う時に合わないってのは、致命的だよね」
亜美「ってか、別にどーでもいいじゃんね。どっちが姉で、どっちが妹でもさ」
真美「亜美は亜美だし、真美は真美……それでいいのだ!」
亜美「そだね!」
亜美「この気持ち、さ……大事にしていこうね、真美」
真美「もちろんだよ、亜美」
亜美「結論を言いますと、亜美達が暴虐夫人なのはつまり、個性なんだよね」
真美「そうそう。フリーダムってのはとどのつまり、かけがえのない個性なんだよね」
亜美「個性だからさ、亜美達は変にかしこまったりできないんだよ。これはもう、ね」
律子「(……要するに開き直ったのね)」
真美「ま、そーゆー訳だから!こうなればもう逆に個性押しまくって、どんどんタメでいっちゃうかんね!」
亜美「よろしくね!律っちゃん!」ポンポン
律子「あぁ、そう……」
亜美「そんじゃ手始めに律っちゃん、焼きそばパン買ってこいよ~」
真美「真美は肉まんでいいからね~」
律子「……あぁん?」
おわり
雪歩「お、お姉ちゃん、頑張るから!命懸けで、頑張るからねっ!!」
美希「うん、頑張ってね~……あふぅ」ヒラヒラ
伊織「あんたみたいなお姉様なんて、こっちから願い下げよっ!」
真「な、何をぉ!ボクだって伊織みたいな妹なんか……!」
やよい「めっ!」
伊織「いたっ」コツン
真「てっ」コツン
やよい「これ以上喧嘩したら、めっ!」
響「……やよいはやっぱり、お姉ちゃんだなー」
千早「こーうん こーうん こーうん こーうん 種まき花咲き収穫期~♪」
千早「手放しハッピィー♪手ブラでラッキィー♪」
千早「こーうん こーうん こーうん こーうん こーうん こーうん こーうん こーうん」
千早「こぉーっ!うん こ~っ!うん こーうん こーうんこっ!!」
P「Fooooooooooooooo!!」
P「最高だ!やっぱりお前は最高だよ、千早っ!」
千早「歌に貴賎は、ありませんから」キリッ
P「次のカバー曲は決まったな……!」
春香「絶対にやめてくださいっ!!」
ちーちゃんは不器用かわいい!
千早にお姉ちゃんって言われる春香がよかった
お姉ちゃんって呼ぶ千早はもっとよかったww
おまけの千早は…
しかも2番wwww
とにかく乙
Entry ⇒ 2012.10.15 | Category ⇒ アイマスSS | Comments (0) | Trackbacks (0)
照「保健室の荒川先生」
宥「失礼します……」
憩「弘世さんに松実さん。ってことは……あはは、今日もやってもうた感じか」
宥「ごめんなさい……」
菫「本人は大丈夫だと言い張るんですが、何分血が出てて……」
憩「傷口そのままにしとくんは危ないからなぁ。消毒するからこっち来てー」
宥「はい……」
菫「宥の運動音痴は筋金入りだな……」
憩「今日はどうしてもうた感じ? この前はバレーで転けて、その前はバスケで突き指してたけど」
宥「マラソンの最中に足がほつれて転んじゃって……」
憩「はは、マラソンで転んだか。松実さんはおもろいなぁ」
菫「笑いごとじゃありません……」
憩「うーん、別に気にせんでもええと思うで? ウチはこれが仕事やし」
憩「弘世さんもこうやって二人で授業抜け出せて、満更でも無さそうやし」
菫「なっ……」
宥「えっ……?」ドキッ
憩「こんなちょっとした怪我でおんぶしてくるなんて、なぁ?」ニヤニヤ
菫「わ、私は宥の大事を取っただけでそんな下心は……!」
憩「あはは、冗談冗談。ほい、終わりっと。二日もすれば綺麗に治ってると思うわ」
宥「あ、ありがとうございます」
宥「ごめんなさい……」
憩「こんなしょっちゅう来られるとワザと怪我してるんかな思ってまうわ」ケラケラ
宥「そそそ、そんなことは……!」
憩「保険委員でも無いのに毎回弘世さんが付き添ってきたり、ホンマ二人は仲良しやね」
宥菫「「……」」カァァ
憩「そんじゃま、いつもどおり見学届け渡しとくわ」
憩「……寄り道してもええけど、怪しまれん程度に戻りや?」ニッコリ
菫「寄り道なんてしません!!」
>>12
憩「どうぞー」
玄「失礼します……」
憩「はいはい。あ、初めてやんな? この入室確認書ぱぱっと書いちゃって」
玄「は、はい」カキカキ
憩「ありがとー……ふむふむ、松実玄さん。3年生に松実宥さんっていうお姉さんおったりする?」
玄「え、どうしてお姉ちゃんの名前を……?」
憩「お姉さんはここの常連さんやからなー。二回も来てくれれば顔と名前は覚えるわ」
憩「うん、確かにお姉さんによく似てる……」ジーッ
玄「そ、そんなにまじまじ見られると恥ずかしいです……」
玄「ほ、本当ですか!?」
憩「まあ大した怪我やないから」アハハ
玄「そうですか……」ホッ
憩「二人は仲良さそうやね、そんなにも心配して」
玄「お姉ちゃん昔から怪我とかよくしてたし、目が届くところにいない時は少し不安です……」
憩「そっか。でも大丈夫やと思うで? 松実宥さんには過保護なくらい親身に接してるクラスメイトがおるから」
玄「えっ……そ、それって、誰ですか……?」
憩「弘世菫さん、って子なんやけど、知らん? 濃い青髪でロングヘアーで、真面目そうな弓道部の子」
玄「もしかして、あの時の……!」
玄「す、すみません、こっちの話です……」
憩「二人ともホンマに仲良くてなぁ。よく二人でここに来るんやわ」
玄「それは一体どういう理由で……?」
憩「体育の時間に怪我した松実さんを弘世さんが連れてくる、ってパターンがよくあるかな。週1くらい」
玄「そうですか……」
憩「お姉さん取られたみたいで寂しかったりする?」
玄「っ……い、いえ。そんなことは……」
憩「察するに、嫉妬半分安心半分って感じやね」
憩「まあスクールカウンセラー兼任やから、そっち方面の勉強もしとるんやわ」ニコ
玄「なるほど……」
憩「たぶんお姉さん昔からあんな感じで、自分がしっかりせえな、とか、お姉ちゃん守らな! とかっていう気持ちが強かったんやろうけど」
憩「お姉さんもええ年やし、ちゃんとお姉さんのこと見てあげてる子も今はおるから、妹ちゃんがそこまで気張らんでええと思うで?」
玄「……」
憩「まあお姉ちゃん好きで、お姉ちゃん離れでけへん、って言うんやったら話は別やけども」アハハ
玄「そ、そんなことないです! たぶん……」
玄「自分のこと……」ドキッ
憩「用件に相談、って書いてあるけど。今日はどういった相談? お姉さん関係あったりする?」
玄「お姉ちゃんのことは……気になるけど、しばらく見守ろうと思ってて」
憩「なるほど」
憩(思ったより理性的な子やなー)
玄「今日は、その……別の相談が」
憩「ふむふむ。内容はどんなもん?」
玄「先生は、そのっ……初対面の相手に好き、って言われたら、どうしますか……?」
憩「……えっ?」
玄「こ、恋、かどうかは、自分でも正直分からないです……ただ……」
憩「とりあえず、何があったか説明してくれる?」
玄「は、はい」
―――――――――
憩(要約すると、初対面の先輩に告白されてキスを迫られたそうです)
憩(そして流されるがままに唇……とまではいかなくてもおでこにキスされたと)
玄「……どう思いますか、先生?」
憩「ど、どう思うって言われても……」
憩(すごい話やなぁ、っていうのが正直な感想なんやけども……)
玄「で、でも! これって普通じゃないですよね……? 普通だったら、付き合ってください、とか、お友達になりましょう、とか……」
憩「いくら惚れたから言うても、いきなりキス迫るようなアホはそうおらんとは思うわ……」
憩(それで迫られるがままにキスされたこの子も相当アレやと思うけど……)
玄「あの人はどういう気持ちで私にあんなことをしたんでしょう……」
玄「キスし終えると、お礼だけ言って帰っちゃったし……」
憩「うーん、どういう気持ちで……」
憩(ホンマに惚れとるんやったらいきなりそんなこと出来るわけないし)
憩(ってことは……罰ゲームとか? いや、そんなことでそこまで必死にはならんか)
憩「うーん……」
玄「そう、ですか……」
憩「相手さんに訊いてみるのが一番早そうやな……名前とか分かる?」
玄「えっと……3年生の宮永照さん、です」
憩「!?」
憩「え、そ、それはホンマなん? 間違いとかじゃ……?」
玄「赤い髪の毛でおもちがあまり無くて、すごくカッコいい人、ですよね……?」
憩(初対面の相手にはあの子がカッコ良く見えるんか……てかなにやってんねん……)
憩(あー、でも。なんとなーくやけども事情が見えてきたような……)
憩「とりあえず相手側のことは置いとこか。またウチから詳しく話聞いて、また妹ちゃんに知らせるわ」
憩「それで、妹ちゃんは好きって言われてどう思ったん?」
玄「え、えっと……ドキドキ、しました……」
憩「そっか。それでなし崩しでもキスされて、相手のことが気になって仕方が無いと」
玄「はい……」
憩(これは呼び出しやなぁ……場合によっては鉄拳制裁せんと)
玄「これって、その……恋、なんでしょうか……?」
憩「う、うーん、そうやなぁ……他人に好意向けられて嫌な気分する人なんておらんし」
憩「そういう嬉しいと思う気持ちと恋心をごっちゃにしとる可能性がある、と思うかな」
玄「なるほど……」
憩「ウチもめちゃくちゃタイプの人に好きって言われたり」
憩「でこチューさせてって本気で言われたら、冷静じゃなくなってええよ言うてまうかもやし」アハハ
玄「そうですよね……わ、私が別段おかしいってわけじゃないですよね……」
憩「う、うん。だからそんなに思い詰めんでも大丈夫やで。でこチューくらいスキンシップみたいなもんやよ」
玄「そうですよね! スキンシップですよね!」
憩「そうそう。なんならウチでも妹ちゃんにでこチュー出来るで」ニッコリ
憩(とりあえず、どんな事情があっても妹ちゃんが傷つかんようにだけ心持ちを上向きにせんと)
玄「ありがとうございます。私、直接訊けるような勇気なかったから……」
憩「まあそれが出来ればウチに相談なんてせえへんわな」アハハ
玄「荒川先生、今日はどうもありがとうございました。おかげで、胸がすっと楽になりました」
玄「私、ずっとそのことばかり考えてて、自分はおかしいんじゃないかと思っちゃって……」
憩「妹ちゃんは何にもおかしくないから心配せんで大丈夫やで」ニコ
玄「先生……」ウルウル
憩(この子も涙もろいんやなぁ)
玄「あっ、もうこんな時間……料理研でミーティングあるので、失礼します」
憩「はーい。思い詰めすぎず、気楽に構えなさいね」
玄「はい! 改めて、ありがとうございました」ペコリン
憩(とりあえずは相談解決……かな?)
―――――――
憩「今日はまあ、今のとこはいつもくらいの訪問者かな……」
胡桃「失礼します」ガラ
憩「あ、胡桃ちゃん。こんばんはー」
胡桃「こんばんは先生。今日も……いいですか?」
憩「ええよ。ほんじゃ、早速しようか」ニコ
胡桃「よろしくお願いします」ペッコリン
憩(鹿倉胡桃ちゃん。2年生。その小さい身体がコンプレックスなのか、月2回ほどこうやって身長を測りに来ます)
胡桃「今月こそ伸びてるはず……!」
憩「えーっと……130cm。ぴったりやね」
胡桃「み、ミリも変わってないですか……?」
憩「残念ながら」ニコ
胡桃「そんな……」
憩「みんなまったく伸びへんなぁ。1年生の頃から測ってるつもりやけど、誰一人として成長してないような気がするわ」
憩「この前も天江さんと薄墨さん来とったけど、まったく変わり無しやったし」
胡桃「あの二人も……!」
憩「ウチとしては同じ学年クラスなんやし、三人まとめて来て欲しくはあるんやけども」アハハ
憩「まあそうやわな。普段仲良くしてても、身長に関してはみんなライバルやもんな」
胡桃「衣に負けたくも無いし、初美にもいつか勝ちたいです。そのために毎日牛乳飲んで9時に寝てるのに……」
憩(優等生やなぁ……てか三人ともぱっと見まったく変わらんけども)
胡桃「先生……どうすれば身長って伸びますか?」
憩「難しい質問やなぁ。一般的には胡桃ちゃんがしてるみたいな方法って言われとるけど、結局は遺伝が大きいから」
胡桃「い、遺伝……」
憩「まあその遺伝もあやふややから、体質って言った方がええかな?」
憩「身長伸びる人はなーんもせんでも180cm超したりするし、逆に胡桃ちゃんらみたいな子たちもおるし」
憩(かなり珍しいけども)
胡桃「背が高い人って言えば……」
憩「胡桃ちゃんらと同じクラスで2年の井上さんとか、あとは有名人で3年生の姉帯さんかな」
胡桃「純に姉帯さん……」
憩「まあ二人とも女の子にしてはかなり規格外やね。姉帯さんは井上さんもびっくりしてたくらい大きいけど」
胡桃「その二人に話を訊けば、何かヒントが……!」
憩「でもまあ正直、あんまし期待できんとは思うかなぁ」
憩「あの子らも胡桃ちゃんらがちっちゃいのと同じ理由でおっきい訳やし」アハハ
胡桃「ですよね……」はぁ
胡桃「あ、初美!」
憩「あらら。なんとも奇遇やね」ニコ
初美「な、何してるですか胡桃? こんなところで」
胡桃「そ、そういう初美こそ保健室に何か用なのかな? 超健康優良児のクセに保健室なんて」
初美「うるさいですねー……私だって保健室に用の一つや二つくらい……」
憩「はっちゃんも身長測りにきたのー?」
初美「せ、先生それは言わない約束!」
憩「まあまあ。胡桃ちゃんもよう来とるから」
胡桃「ちょ」
初美「同類はみんなライバルですよー……!」ゴゴゴ
胡桃「ただでさえ小さいのにその中でも小さいなんて屈辱以外の何物でもないからね……!」ゴゴゴ
憩「あはは、なるほどなー」
憩(二人ともかわええわぁ)
憩「それじゃあ早速はっちゃんも測ろうか。ちなみに胡桃ちゃんの身長は」
胡桃「せせせ、先生!!」
憩「トップシークレットらしいわ」
初美(気になる……)
初美「はいですよー」
胡桃「てか胡桃、水泳部は? この時間帯なら絶賛部活中だと思うけど」
胡桃(だから鉢合わせにならないようにこの時間帯狙ったのに……)
初美「排水溝? が壊れたとかでプール使えないらしいんですよー。一日でも水に浸かっていないなんて落ち着かないです」
胡桃「なるほど。そんなことってあるんだ」
初美「胡桃も部活は……って、あんなお遊びサークルは基本自由参加ですか」
胡桃「まあね」
憩「んじゃそろそろ身長発表するね。ひゃく……」
初美「せ、先生!?」
憩「あはは、冗談冗談」
憩「そんじゃま、耳打ちで」ニコ
初美「当たり前ですよー……」ジトー
憩「……」ボソボソ
初美「うぅ……」
胡桃(よし、伸びてない)
憩「ま、はっちゃんも気にしないで。な?」
初美(胡桃より高いのか気になります……)
胡桃(たぶん負けてると思うけど、もしかしたら……)
憩(熾烈な戦いやなぁ)
憩「ん? 今日はえらい多いな。はーい、どうぞー」
衣「失礼する」ガラ
胡桃「あ」
初美「あ」
衣「あっ……お、お前らなんでここに……!?」
憩「今日は面白い日やわぁ。三人が同時に揃うなんて初めてやでー」ニコニコ
胡桃「そ、そういう衣こそ、放課後のこんなところに何の用かな?」
初美「ひ、引きこもりの衣には似合わない場所ですねー」
衣「ふ、二人も十分に似合わないと思うが?」
衣「衣『も』? ってことは……」ジロジロ
胡桃「な、なに?」
初美「なにか文句あるですかー……」
衣「ふっ」
初美「あー! 今鼻で笑いましたよコイツ!」
胡桃「私たちの中で一番ちっちゃいクセに生意気だね……!」
衣「何を言う! お前らなんかに遅れを取った覚えなどない! 寝言は寝て言え!」
憩(小学生の喧嘩にしか見えない……)
初美「その通りなのですよー。衣ほど乳臭い高校生なんてこの世に存在しないです」
衣「そんなことはない! 衣が一番お姉さんだ! てかこども言うな!!」
憩「まあまあ三人とも落ち着いて。身長のことで熱くなんのは分かるけども」タハハ
衣「憩! この中で誰が一番お姉さんに見える!?」
憩「へっ?」
胡桃「私だよね先生!? こんな小学生にしか見えない二人と比べたら一目瞭然だよね!?」
憩「え、っと……」
初美「何をふざけたことを言ってるですかー!」
初美「ちんちくりんで色気の欠片もない胡桃と衣に比べたら私が一番レディーに決まってます! そうですよね!?」
憩「」
胡桃「答えを!」
初美「聞かせてください!」
憩(きゅ、究極の選択や……先生としてウチはどういう答えを出せば……)
憩「えっと、そうやな……ここは分かりやすく、身長の高さで決めよか」
「「!」」
憩「ほら、ウチの主観が必ずしも正しい答えやとは限らんし」
憩「そういう不明瞭な尺度で順序を決めるのは良く無いから……」アセアセ
衣「確かに一理ある……」
胡桃「ちゃんとした基準がある方が言い訳もつかないしね」
初美「それじゃあそれでいいです。衣、身長ちゃっちゃと測ってください」
衣「ふっ、そんな強気でいいのか? 衣の身長を聞いたとき、泣く事になるのは貴様だぞ?」
胡桃「先生! やっちゃって!」
憩「了解でーす……」
憩(胡桃ちゃんと初美ちゃんの身長は同じやった)
憩(まあミリ単位の違いはあるけど、それは伝えてないから問題ないとして……)
憩(重要なのは衣ちゃんの身長やな)
衣「よ、よろしく頼んだ」ドキドキ
憩(もしこの子の身長が130cmより大きかったり小さかったりしたら……)ドキドキ
胡桃「……」ジーッ
初美「……」ジーッ
憩(128cm……)
衣「な、何センチだ?」
憩「……」
憩「……」ボソボソ
衣「本当に!?」
胡桃「!?」
初美「な、何センチですか衣!?」
衣「130cm! 2センチも大きくなった!!」
「「えええ!?」」
胡桃「ってことは……」
初美(まったく同じ……)
初美「な、何を言うですか! 私も130cmです!」
胡桃「ええ!? 初美も!?」
衣「ほ、本当なのか憩?」
憩「う、うん。全部本当だよ」
憩(衣ちゃんの身長以外は……)
胡桃「ってことは……」
初美「引き分けですねー……」
衣(二人とも意外と大きかった……成長してなければ負けていた……)
衣「ふ、ふっ、それでこそ我がライバルであり同胞だ」
胡桃「まさか衣と同じとはねー……なんかショックだなぁ……」
初美「私もですよー」
衣「失礼なー!」
憩「いやぁ、三人ともまったく同じ身長なんてびっくりやわー」
胡桃「ま、良い勝負だったね」
初美「次やるときは私が一番でしょうけどねー。運動してるし」
衣「成長期に入った衣に勝てるわけあるまい! 次来たときには3cmは伸びてるはず!」
胡桃「どうせ2年くらい測ってなくてその結果でしょ」
初美「なるほど。それなら納得です」
衣「そんなわけあるか!」
憩「まあまあその辺にしといて」
胡桃「まさかの展開だしね……」
衣「衣は身長が伸びて嬉しい!」
胡桃(素直に羨ましいなぁ……)
初美「そんじゃま、衣の130cm祝いに三人でどこか行きましょうか」
衣「おお! それは良いはみれす行こう!」
胡桃「なんでお嬢様なのにそこでファミレス?」
初美「お嬢様だからこそじゃないんですかー」
憩(ふふ、仲良しで微笑ましいわ……)
胡桃「っと、先生、今日はどうもありがとうございました。またよろしくお願いします」ペッコリン
憩「喜んで」ニコ
初美「次来る時はなんかお土産持ってくるですよー」
衣「ばいばい憩! また会おう!」
――――――――――
憩「昨日はなんだかんだで忙しかったなぁ」
憩「一日誰も来ないときもあるし……今日はどんなもんでしょう」
コンコンコン
憩「お、3限目にして遂に」
憩(しかもこのノックは……)
憩「どうぞ、園城寺さん」
怜「こんばんは。ノックで分かるとは、先生は流石やなぁ」
憩「アンタが一番保健室によう来るからな。んで、今日はどないしたの? はい入室確認書」
怜「今日は、まあ……こんなところで」カキカキ
憩「……持病て」
怜「別にええやん。ウチと先生の仲やし」
憩「サボりやったら帰って欲しいんやけどもなー」
怜「そんな殺生なこと言わんとってや。藤田先生の理科がウチには難解過ぎて、頭痛が酷くなったんや」
憩「藤田先生にそのまま言っときますわ」
怜「やめてー」
憩「ふふ。ま、いつもの場所空いてるから、寝ていき」
怜「おおきに」
―――――――――
怜「……なぁ、憩」
憩「学校でその呼び方はやめて欲しいんやけど……」
怜「ええやん。どうせウチら二人きりやし」
憩「はぁ……」
怜「ところで、なんかナース服変わってない?」
憩「!」
怜「図星か」
憩「まさか気付かれるとは……」
怜「ウチで気付かんかったら誰も気付かんやろ」
憩「ふふ、まあそやろな」
憩「うっ」
怜「寒くなってくる季節やのにまたなんでやろ、思って」
憩「……別になんでもええやろ。黙って寝とき」
怜「ええー、気になるやん。教えてや。誰かに色目使ってたり?」
憩「そんなことしてません」
怜「またまたー。でも憩と仲良い人なんてパッと思い浮かばんしなぁ……ウチくらいしか」
憩「と、友達少ないみたいな言い方やめてくれへん?」
怜「だって本当のことやん。年の差結構あって、先生らとも心の底から打ち解けてる雰囲気なさそうやし」
憩「それは怜が先生らと過ごしてるウチを知らんだけや」
怜「……へぇ」
怜「例えば?」
憩「恒子さん……じゃなくて福与先生とか、えり……じゃなくて、針生先生とか」
怜「ふーん」
憩「あと誰やろ。あー、理事長とか三尋木先生もたまに来るわ」
怜「あの二人が……想像できん……」
憩「スクールカウンセラーは生徒以外の相談にも乗るからなー」
怜「……どんな話すんの?」
憩「えらい突っ込んでくるんやね。らしくないやん、園城寺さん」
怜「その呼び方やめて」
憩「ウチは公私混同はせえへんの。社会人の常識や」
怜「むかつくわぁ……年下のクセに……」
憩「……何度も言っとるけど、年齢について他の子に話したら怒るからな」
怜「ウチと憩だけの秘密やな」
憩「先生方は知っとるけどな」
怜「……ホンマ、おもろないこと言うんやなぁ」ハァ
憩「本当のことやからねー」
怜「……寝るわ」
憩「おやすみ」
――――――――――
コンコン
憩「はーいどうぞー」
「すみません先生、ちょっと擦りむいちゃって……」
憩「あらら。とりあえず見せてくれる?」
怜(憩はいつも通りやなぁ)
怜(ウチと接するのも他の子と接するのも、大して変わらずに……)
怜(……特定の生徒に対してえこひいきすんのはアカンやろうし)
怜(公私混同せん、ってのも立派やとは思うけど)
怜(……やっぱりおもろないなぁ)
怜(ウチと憩、二人だけの空間に誰かが入ってくるのも気に食わんわ……)
「ありがとうございました、先生」
憩「お大事にねー」
憩「ふぅ……」
怜「お疲れさん」
憩「こんなもんで疲れてたら身体もたんわ。てか起きたてたんや」
怜「さっきからずっと起きてるで」
憩「頭痛いんとちゃうかったっけ?」
怜「うーん、この枕固いからなぁ。あんまり良くはならんなぁ」
憩「そんなことばっか言って……」ハァ
憩「うーんと……11時ちょうどくらいやから、授業終わるまであと20分ほどかな」
怜「そっか……」
憩「授業参加する気になった?」
怜「うぅー、元素記号がウチの前頭葉を襲うぅ……」
憩「なんやそれ」アハハ
怜「……なあ憩」
怜「膝枕してくれへん?」
憩「嫌です」
怜「辛辣やなぁ……」
憩「どこの学校に生徒に膝枕する先生がおるの」
怜「憩が第一人者やな」
憩「アホ言いなさんな」
憩「言ってるやろ。公私混同はせえへんて」
怜「……ええやん。ちょっとくらい。他の生徒と同列なんて、嫌や」
憩「あのなぁ……」
怜「なー。やってーやー。ひーざーまーくーらぁー」
憩「駄々こねない。それでも年上か……」
怜「……膝枕してくれへんかったら憩の年齢言うからな」
憩「なっ」
怜「本当はきゃぴきゃぴのセブンティーンや言いふらしたる」
憩「……そ、そんなこと言ってもやらんからな」
憩「アホはと……園城寺さんでしょ。そんなに元気やったら教室戻りなさい」
怜「あぁ、貴重な時間が……次の時間も休もかな」
憩「こら」
怜「膝枕してくれるまで絶対に動かへん……無理やり連れてこうもんなら教育委員会訴えたる……」
憩「……今日はどうしたん、我がままばっか言って。お利口さんな園城寺さんらしくないで」
怜「憩がそんな呼び方でウチのこと呼ぶからや」
憩「保健室ではいつもこうやろ」アキレ
怜「……アホ」
憩(学校外では頼りになるお姉ちゃんやのに、どうしてここまで変わるのか……)
キーンコーンカーンコーン
憩「あ、チャイム」
怜「……」
憩「動く気なして」
怜「……学校終わるまで動かんもん」
憩「……はぁ。ホンマ、しょうがないんやから……」
怜「!」
憩「……4限目のチャイム鳴ったらすぐに帰るんやで」
怜「うん……」
憩「はぁ。短い時間でも居留守使うなんて、養護教師(保健室の先生)失格や……」カラン
出張中
怜「鍵も締めて」
憩「当たり前や……」
憩「はいはい」トサッ
怜「……やっぱり、丈短い。太ももの面積広なってる」
憩「別にええやろ。……ウチかってたまにはそういう気分になるの」
怜「セブンティーンやもんな」
憩「うるさい」
怜「それじゃあ、失礼するな……」
憩「っ……」
憩(やっぱこのくすぐったい感じ馴れへんわ……)
怜(憩の膝枕……久しぶりや……)
憩「チャイム鳴ったら終わりやで」
怜「そんな寂しい事言わんとってや……あったかいんやから……」
憩(うぅ、いくらプライベートで親交が深いとは言え、一人の生徒と先生がこんなことしてるなんて……)
怜(この背徳感というか、学校でみんなに内緒で憩とこういうことしてる、ってのがたまらんわ……)
怜(校内屈指の人気者、荒川先生。そんな人の素性を知ってて、下の名前で呼んでるのはウチだけか……)
怜「ふふ……」
憩「はぁ……」
憩「なんですか」
怜「下の名前で呼んでや」
憩「これ以上は何も出来ません」
怜「ケチ」
憩「十分大盤振る舞いしてるつもりですけどもー」
怜「呼んでくれるまで離さへんから」ギュッ
憩「なっ」
キーンコーンカーンコーン
憩「ほ、ほら、チャイム鳴ったで! 約束守って!」
怜「嫌や」
憩「と、怜!?」
怜「別にええやん。昼休みまで……」」
怜「ええやん、憩も一緒に寝よ」グイッ
憩「きゃっ……ちょ、ちょっと……!?」
怜「おやすみー」
憩(結局昼休みまで付き合う事になりましたとさ)
安価なら洋榎
――――――――――
憩「はぁ……酷い目に遭った……」
憩「おかげで午前中に終わらそうと思ってた仕事残してまうし……」
憩「今日は残業かもなぁ……」
洋榎「失礼しまーす……」ガラッ
憩「はいはい……って愛宕さん。珍しいね、愛宕さんが授業中に保健室やなんて」
洋榎「体育の授業中にちょっとぼーっとしてもうて……」
憩「ぼーっと? ……とりあえず、どこ怪我したの?」
洋榎「この辺にデカいたんこぶが……」
憩「あっちゃー。また派手にやったなぁ……軽い打撲かもやでこれ」
洋榎「とりあえず冷やしといたら治る感じのアレやないの?」
憩「まあマシにはなるけど……でも病院行くほどじゃないかな」
洋榎「そらよかったわー」
洋榎「ほーい。って冷めたっ……こういうのって氷持ってる手が痛くなってくるよなー」
憩「あるあるやねー。タオルあげるわ、これ使って持ったらマシちゃう?」
洋榎「さすが憩ちゃん。至れり尽くせりやで」
洋榎「ところで。授業戻ったらアカン?」
憩「うーん、出来ればここで安静にして欲しいかなぁ」
洋榎「そっか……んじゃあそうするわ」
憩(なんか、聞き分けが良い愛宕さんって不気味やわ……)
憩「で、何やっててこんなんなったの?」
洋榎「ソフトボールやな。フライ取り損ねて」
憩「愛宕さんが?」
洋榎「情けない話やけどもなー」
憩(信じられない……体育の授業で初心者が打ち上げるようなフライをあの愛宕さんが……)
洋榎「ふいー。冷たい冷たい」
憩(妙に大人しいというか、しおらしい雰囲気も気になるし……ちょっとお話してみようかな)
憩「最近ソフトボール部はどんな感じ?」
洋榎「まあ基本的には普段と変わらず……やけども」
憩「?」
洋榎「副部長がここ最近めちゃくちゃ不機嫌やなー……」
憩「ソフトボール部の副部長といえば……末原さん?」
洋榎「そうそう。ちょっと前に面倒なことがあって、それ以来なぁ」
洋榎「もちろん。普通やったら笑い話にもならんくらいくだらん話やで」
洋榎「ただ、どうしてかそれが恭子の逆鱗というか、なんか気に入らんことに触れたらしくて」
憩「何があったんか訊かせてや。面白そう」
洋榎「えっとな……」
―――――――――――
憩(簡潔にまとめると、生徒会長……もとい竹井さんの悪ふざけで愛宕さんがキスされて、その現場を見られたそうです)
洋榎「まあ確かにウチが目撃した立ち場としても、練習が始まってるにも関わらずそんなふざけたことしとる部員がおったら蹴っ飛ばすと思うわ」
洋榎「ただ、それにしては尾を引きすぎてるというか……ウチとしてはいつまでそんなくだらんこと引きずんねん、って感じで……」
憩(うーん、これは末原さんが憤慨するのも無理はないかなぁ……)
洋榎「なぁ、どう思う憩ちゃん? いくらなんでも怒りすぎやと思えへん?」
洋榎「一週間前くらいから今までずっとやで。口聞いてくれへんし……」
憩「ウチは末原ちゃんの気持ちわかるかなぁ」
洋榎「えっ……ほ、ホンマに? なんで恭子はそんなに怒っとんの?」
憩(洋榎ちゃんは鈍感なんかなぁ……結構賢そうに見えるけども、恋愛は別なんかな?)
憩「自分が何とも思ってない人がそんなことしてたら、何やってんねんコイツ、くらいで済むんやろうけど……」
憩「末原ちゃんにとって愛宕さんはそうじゃなかったってことやなー」
洋榎「ウチの部長という立場がまずかったんか……」
憩(うーん、そうじゃないねんなぁ)アハハ
洋榎「半分くらい?」
憩「末原ちゃんはソフトボール部一筋やから、めちゃくちゃ部を愛してると思うねん」
憩「で、その愛する部の象徴とも言える愛宕さんは、生徒会の役員でもあるわけやん」
洋榎「うんうん」
憩「自分が末原ちゃんの立場としたら、なんかそれだけでも嫌じゃない?」
洋榎「む……」
憩「例えば、自分が本気で好きな人が自分のとこだけやなく、別の人らのところでも仲良さげ楽しげにしてるというか……」
洋榎「それは確かに気に食わんな。どっちかハッキリせえ! ってなる」
憩(うん、いやまあ、まさにその通りなんやけど……)
洋榎「でもウチは両方本気でやっとるし、疎かにしたことなんて無いって断言出来……!」
憩「うん、まさにその通り。だから愛宕さんが部と生徒会を両方やってることについては、末原ちゃんも認めてるし納得いってるねん」
憩(心の奥底ではこっち一本にして欲しいとか、そういう気持ちはあるやろうけど)
洋榎「じゃあなんで……?」
憩「今度はこれが部と生徒会じゃなくて、末原ちゃんと竹井さんに置き換えて考えてみ?」
洋榎「!」
憩(愛宕さんは恋愛ごとに鈍感なだけで、頭も良いし勘も鋭いから……)
洋榎「ひ、久に嫉妬した、ってこと……?」
憩「そういうこと」ニコ
洋榎「つまり、恭子はウチのこと……」
洋榎「……!!」
憩(やっと分かったか)
憩「まあ、そんな生徒会のボスでもあり恋敵でもある竹井さんと」
憩「ソフトボール部の部長で主将で、自分の好きな人でもある愛宕さんがキスなんてしてるとこ見た日には……ね?」
洋榎「……」
憩(愛宕さん可愛い顔しとるなぁ……相当動揺してるみたいやけど……)
憩「それってつまり竹井さんを受け入れたってことで、愛宕さんは軽い気持ちでやったことかもしれんけど……」
憩「生徒会とソフトボール部とか、末原ちゃんの気持ちとかもろもろ考えたら……相当まずいことしたと思うで?」
洋榎「……!!」
憩「まずはちゃんと謝って、自分がどう思ってるのかを話さんとな」
憩(しかし、竹井さんはホンマにトラブルメイカーやなぁ……何の目的でそんなことを……)
洋榎「……すまん、憩ちゃん。いや、ありがとう。頭思いっきりぶん殴られた気分やわ」
洋榎「恭子のとこ行ってくる」ダッ
憩「ちょ、まだ授業中……」
憩「思い立ったらすぐに行動で、愛宕さんらしいなー。安心したわ」
憩「これも青春、なんやろうなぁ……」
憩(……ウチまだ17やのに、なんでこんな年寄りみたいなこと……)
憩(後日談。愛宕さん3ーC乱入事件は後の伝説になりましたとさ)
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>>179
安価ならたかみちゃん
―――――――――
憩「言うてる間に放課後かぁ」
憩(愛宕さんどうなったんやろ……)
憩(まあ、あの子も有名人やし、そのうち風の噂として耳に入ってきそうやな)
コン…
憩(……ん? 今のは……ノック?)
憩「はーい、どうぞー」
尭深「失礼します……」ガチャ
憩「初めて……だよね? これぱぱっと書いちゃってくれる」ニコ
尭深「……」コク…
尭深「……」カキカキカキ
憩(これまた保健室には似合わないくらいに奥ゆかしい子が来たなぁ……)
憩(どういう用件だろう?)
憩「ありがとー」ニコ
憩(渋谷尭深さん。2ーB、茶道部……部長、か)
憩「茶道部の部長なんだね。二年生なのにすごいわぁ」
尭深「部員が少ないから、必然的に……」
憩「それでも何かの集団の長になるってことはすごいことやで。もっと誇ろう!」
尭深「……」
憩(顔赤いけど……シャイな性格なのかな?)
憩(保健室に来る子は黙ってれば勝手に喋りだすような子ばっかりだから、こういうこの相手は大変かも……)
憩「えっと渋谷さん、今日はどういったご用件で保健室に?」
尭深「……猫」
憩「え?」
尭深「……付いて来て、欲しいです……」
憩「う、うん……?」
尭深「……」ギュ
憩「あっ、ちょ……し、渋谷さ……」
―――――――――
憩(手を掴まれ連れ出されてしもた)
憩(見た目よりずっと積極的なんかなぁ……)
尭深「……」テクテクテク
劔谷の梢ちゃんが部長でもよかったかもな
尭深「……茶道部室」
憩「茶道部室……そういえば茶道部って部員何人くらいおるの?」
尭深「……私を入れて、5人くらい?」
憩「ぎ、疑問系で訊かれても困るかな……」
憩「そういえば、茶道部って普段なにしてるの?」
尭深「……お茶を淹れて、飲む」
憩「そっか……お茶飲むのかー……また用事は済んだらでいいから、私にも淹れてもらえるかな?」
尭深「……どうして?」
憩「うーん、どうして、か……渋谷さんが淹れたお茶を飲んでみたいから、かな?」
尭深「……」
憩「ふふ、楽しみにしとくわ」
憩(相変わらず用事が何なのか分からないままやけど……ま、なんとかなるか)
憩(茶道部室に行けば他の子から事情を訊ける、はず……)
――――――――――
尭深「着いた」
憩「ほえー。茶道部室ってこんな場所にあるんやね……」
友香「あ、尭深先輩帰って来た!」
美幸「やっと帰って来たよもー……」
尭深「二人ともただいま」
憩「えっと、お二人は……?」
尭深「茶道部の部員。この子が1年で」
友香「ども!」
尭深「この人が3年」
美幸「あ、よろしくお願いします……」
美幸「茶道部は代の移り変わりが早くて、この時期にはもー部長は変わるんです」
友香「まだ他にも部員はいるっすけど、今日は私ら三人以外休みです!」
尭深「……休みです」
憩「な、なるほど……」
憩(まあ、こういう部活は基本自由やからなぁ……)
憩「っと、で、用事って何かな? ウチ、渋谷さんに何も告げられずにここまで連れて来られてんやけど……」
友香「せ、先輩……」
美幸「尭深ちゃん、ちゃんと訳は話さないとー……」
尭深「……ちゃんと言った。猫って」
憩「猫? あ、そういえば……」
友香「えっと、説明させてもらうと、茶道部室の窓から見えるところに猫がいて、そいつが怪我してるんです……」
憩「猫が怪我……」
尭深「……足のところから血が出てて、動けないみたい。助けて欲しい」
憩「あー、なるほど。そういうことなんやなー」
美幸「説明不足でごめんなさい……」
友香「自分からも謝るんでー……」
尭深「……ごめんなさい」
憩「あはは、まあようあることやから気にせんとって」アハハ
憩(しかし、なるほどなー……猫、か……)
憩「おー、かなり本格的な和室やねー……」
友香「私らいつもここでお茶淹れたりしながらくっちゃべってます!」
美幸「茶道部ではお茶は立てる! 何度も言わせないでよもー……」
憩(なかなか雰囲気良さそうな部やな……全然どんな部か知らんかったけど……)
尭深「……あそこ」
憩「あー……本当だ。素人目で見ても酷そうだね……」
尭深「……助かる?」
憩「助ける、やで」ニッコリ
尭深「……!」
友香「カッコいい……」
美幸(保険の先生って、動物治せるのかな……?)
憩(保険の先生言っても、人と動物なんて処置の仕方絶対違うやろし……)
憩「……とりあえず、なんでも出来そうな人呼ぼか」
「「?」」
―――――――――
戒能「ハロー、みなさんこんばんは」
憩「どうも、お忙しいところすみません」
美幸「か、戒能先生……」
友香「ど、どういうことでー……?」
尭深「荒川先生……?」
憩「いや、ごめんな渋谷さん。ちょっと専門外やわ。素人が下手なことするより、ある程度知ってそうな人のがええかな、と思って」アハハ
憩「いや、戒能先生、アフリカで獣医の助手してたらしいとかっていう噂聞いたから……」アハハ
友香「噂!?」
美幸「どういうことなのよもー……」
戒能「なるほど。あの猫は怪我をしているんですね。了解です。応急処置だけならなんとかしてみます。とりあえず、保健室からこれだけの道具を……」
憩「ふむふむ……」
友香「マジでー!?」
美幸「この人めちゃくちゃだよー……」
尭深「治りますか……?」
戒能「あの状態なら、早い段階で処置してちゃんとした獣医に見せればノープロブレムです」
尭深「……!」パァァ
憩(いやぁ、戒能先生は頼りになるなぁ……大抵のことは出来るって聞いたけど、まさか本当やとは……)
―――――――――――
憩(戒能先生の応急処置の後、猫は動物病院に連れて行かれました)
憩(怪我の具合は見かけだけで、戒能先生が大雑把な作業はやっていたので消毒とかしかすることはなかったそうです)
憩「……以上が猫ちゃんの経緯でした」
尭深「良かった……」ホッ
美幸「心配して損したよもー……」
友香「遅くまで学校に残ってる意味なかったですね」アハハ
憩「応急処置をした上に、動物病院にまで連れて行ってくれた戒能先生にあとで土下座せえなな」ニコ
美幸「ございましたー……」ペコ
友香「感謝です!」
憩「いえいえ。ウチ、なんもしてないし」
憩(割とホンマに)
尭深「……きっと先生を呼んでいなければ、私たちだけで無理に獣医に連れて行こうとして……」
尭深「猫の様態が酷くなっていました」
尭深「本当に、ありがとうございました」ペッコリン
憩「……自分の力じゃどうにもならんときに人のこと頼れるって結構すごいことなんやで?」
憩「ま、三人ともよく出来ました、ってことで」ニコ
尭深「先生……」
美幸「本当だ……もーこんな時間……」
友香「ずっと猫の心配してましたからね」アハハ
憩「渋谷さん。今日は遅いから無理やけど、また遊びに行くからお茶お願いな?」
尭深「……はい」ニコ
荒川(……さて、ウチは残業やなー……こういう仕事と承知でやってますけども……)
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>>225
――――――――――
憩(昨日はホンマに忙しかったなぁ……)
憩(午前は怜に振り回され、午後は愛宕さん、立て続けに渋谷さんで……)
憩「それに関係あるかは知らんけど、今日は放課後まで特に何もなかったなー……」
憩(ウチが働かんでええのが一番幸せな状態なんやと思うけど……)
コン コン
憩(そういう訳にもいかんよなぁ)
憩「はーい。いますよー」
咲「失礼します……」ガチャ
憩(1年生かな? 何にせよ初めてやなー……)
咲「は、はい」
咲「……」カキカキカキ
憩(物静かな雰囲気の女の子やなー……いかにも文学少女って感じの……)
咲「あ、書けました」
憩「ありがとうね」ニッコリ
憩(……宮永咲。1ーB、文芸部)
憩(うーん。なんか、所々既視感のあるプロフィールやなぁ……)
咲「……」モジモジ
憩「あ」
咲「へっ?」
憩「もしかして、3年にお姉ちゃんおる? 宮永照っていう赤髪の」
咲「えっ……あ、は、はい。宮永照は私の姉です……」
憩「なるほどなぁ、通りで……」ジロジロ
咲「あ、あの……」
憩「いやぁ、ごめんな。しかし、お姉さんに似てるね」
咲「えっ……ほ、本当ですか?……」
憩「うん。顔立ちも面影あるし、髪型の特徴もそっくりやし、同じ文芸部やしな」ニコ
憩(この子もお姉ちゃん子なんやろうなぁ……そんなオーラが滲み出てるわ……)
憩(まあ、この学校の妹ちゃんはみんなお姉ちゃん大好きな子ばっかやけど……)
憩「で、今日の用事に相談って書いてあるけど……どんなお悩みで?」
咲「その……お姉ちゃんのことなんですけど……」
憩「宮永さんのこと?」
咲「じ、実は……私……!」
咲「お姉ちゃんのことが好きなんです!!」
憩「……」
憩「そ、そっか。えっと……それはどういう……?」
咲「……」カァァァ
憩(な、なんか。今までで一番ヤバげな雰囲気が……)
???「ナシですね」
憩「その好きは……その、ライク? ラブ?」
咲「……ライクです。たぶん」
憩「そっか……ライクか……」
憩(限りなく黒に近そうなグレーって感じやな……)
憩「まあ、お姉ちゃん離れでけへん子はいっぱいおるし、そこまでマイノリティでもないと思うで?」
咲「出来れば、お姉ちゃん離れはしたくないです……」ウルウル
憩(何か惹かれるモノがあるんやろうなぁ。松実玄さんにしろ、この子にしろ……)
咲「……はい」
憩「出来ればこの先も末永く今の姉妹関係でいたいと」
咲「……もうちょっと、距離が近くなっても大丈夫、です」モジモジ
憩「な、なるほど……咲ちゃんがお姉さんのこと大好きなんは分かったわ。それを前提にどういったお悩みで?」
咲「実は……最近、お姉ちゃんの周りにたくさん女の人が増えてきていて……」
憩「つまり、お姉さんがどこぞの馬の骨かも分からん誰かに取られるのが怖い、ってことかな」
咲「! ……すごいです先生、その通りです……」
憩(ただ単に大好きなお姉ちゃんが取られるのが怖い、ってだけやったらええんや けども)
憩(この子の場合、何かそれ以外の、ただならぬ理由がありそうなオーラが……)
咲「先生、私どうしたらいいんでしょう……?」ウルウル
咲「お姉ちゃんがいなくなったら、私……!」
憩「うーん、正直に言うと、そない心配せんでも大丈夫やと思うで? あの宮永さんが誰かとお付き合いしてる姿なんて想像でけへんし」
憩「そもそも誰かと付き合ったからと言って咲ちゃんを蔑ろにするとも思えんし」
咲「……蔑ろにされなくても、お姉ちゃんが誰かと付き合ったりキスしたりするなんて……嫌です」
憩「神聖なお姉ちゃんに気軽に触れられたくない、ってこと?」
咲「はい……」
咲「昔からの馴染みの人とか、私がよく知ってる人とかならまだいいんですけど……」
憩「ウチが知る限りじゃ、宮永さんの昔からの馴染みって弘世さんくらいかなぁ」
咲「菫さんは、はい。大丈夫です。お姉ちゃんとは幼稚園児のときからのお友達なんで」
憩「ほえー。あの二人そんな長かったんや」
咲「まあ、だからと言って私とかと特別仲が良いってわけでもないんですけど」アハハ
憩「他に宮永さんと付き合い長い人っておるの?」
咲「私と菫さんくらいに長いのは、この学校の1年生で私と同じクラス大星淡ちゃんですね」
憩「あのダンス部の元気な子?」
咲「はい。知ってるんですね」アハハ
咲「昔からずーっと一緒に三人で遊んでたように思えます」
憩「そっかぁ。大星さんと宮永さんらがそんな関係やとは……」
咲「この高校に入ってから、お姉ちゃんにも同年代の仲の良い友達が増えてることを知って……」
咲「良い事だとは思うんですけど……やっぱり、私たちが知らないお姉ちゃんがいることは……すごく寂しいです」
憩「なるほどなぁ」
憩(なんか咲ちゃんの気持ちが分かってきたように思えるなぁ……)
咲「あ、そうだ。聞いてください先生、この前、お姉ちゃん知らない女の人にキスしてたんです……!」
憩(松実さんか……)アハハ
咲「あんなにも簡単に好きとか言って、キスして……羨ましい……」ブツブツ
憩(なんか羨ましい聞こえたような気が)
憩「そやなぁ……もしかしたらキスされてたその人、宮永さんにとってすごく付き合いが長くて」
咲「あり得ないです。お姉ちゃんにあんな知り合いいませんでした。断言できます」
憩(なんで断言出来るんでしょー……)
憩「えっと、それじゃあ、宮永さんが一目惚れしちゃった」
咲「そんなことあり得ません!!」
咲「……たぶん」
憩「はは、そこは自信ないんや」
憩(所々理性的なのが救いやなー)
咲「お姉ちゃんがその人に一目惚れって、あり得ますかね……?」
咲「2年生の松実玄さん、って人らしいんですけど……」
憩(ある程度のことは調べてそうな雰囲気……)アハハ
憩「うーん、あり得へん話ではないんちゃうかな? 宮永さんも人間やし、松実玄さん可愛いし」
咲「そ、そんな……」
咲「……胸、ですか?」
憩「……え?」
咲「私が胸小さいからお姉ちゃんは……」ジワァ
憩「なんでそうなるの!?」
咲「それに引き換え私は……」
憩「さ、咲ちゃん落ち着いて。胸の大きさは関係ないと思うから……」
咲「じゃあどうして……?」
憩(まあ、そう言われるとこれと言った答えも浮かばへんのよねぇ)
憩「うーん、考えてもしゃあないし、お姉さんに直接訊いてみたら?」
憩「なんかきっと重大な事情があるんやって」
咲「キスしないと死んじゃう病気とか……?」
憩「いや、そこまで重大でもアホらしくも無いと思うけど……」
憩「ちょっと勇気ない感じ?」
咲「はい……」
憩(宮永さんに関してかなりアグレッシブに動いてそうやのに)
憩(なんで直接ってなったら臆病になるんや……)
憩「……よし。ほんならウチが手伝ったるわ」ニッコリ
咲「えっ……? でもどうやって……」
憩「まあまあ。ちょっと待っといて」
憩「……」
キーンコーンカーンコーン
憩『3年A組宮永さん。宮永照さん。校内にいましたら、至急保健室まで来てください』
憩『繰り返します。3年A組宮永さん……』
―――――――――
憩「さ、これであとは来るの待つだけやな」ニコ
憩(松実さんの相談に対してもケリ付けなアカンかったし、ちょうどよかったわ)
咲「お、お姉ちゃんがここに……!」アワワ
憩(急にそわそわし出すあたり咲ちゃんも分かりやすいなぁ……)
憩「ま、この際やし、思ってること全部ぶつけたらええで」
憩「もっと構えとか、あんまし知らん子とイチャイチャするなとか」
咲「そう、ですよね……ちゃんと気持ち伝えないと、ダメですよね……」
憩「うんうん♪」
憩(宮永さん、早く来てくれたらええけど……)
――――――――――
咲「……来ない、ですね」
憩「う、うん……おかしいなぁ、帰ったんやろか」
咲「今日は文芸部あるので、学校にいるとは思うんですが……麻雀部の方に行ってるかもですけど……」
憩「……もしかして、迷ってるとか?」
咲「えっ」
憩「いや、あの子保健室に来るときいつも誰か側におったから……」
菫「失礼します」ガラ
照「失礼します……」
憩「あ、来た」
照「うぅぅぅ……」
菫「申し訳ないです先生。遅れました」
憩「いや、全然大丈夫やで?」
菫「コイツ、呼び出された瞬間帰ろうとして」
憩「あらら」
菫「行けと言っても逃げそうな雰囲気だったので……無理やり連れてきました」
照「うぅぅぅ……」
咲「お、お姉ちゃん……」
憩「なるほどなー。ってことは、呼び出されることに対して心あたりがあるわけか」
照「こ、心あたりなんて無いです。私なにもしてないです」
菫「おまえなぁ……」
憩「じんも……じゃなくて、質問にはちょうどええわ」ニコ
照「」
菫「しっかりと報いを受けろ。あんな連中集めてあんなことしておいて、何も音沙汰が無いわけがないだろ……」
照「うぅぅ……賢者はいつも愚者の犠牲になる……」
菫「殴るぞお前」
憩「まあ、質問するのは私やなくて咲ちゃんなんやけどね」
照「咲……?」
咲「うぅぅ……」モジモジ
憩「さ、弘世さん。こっちこっち」
菫「は、はい……」
照(菫と先生がいなくなった………)
照(これは……チャンス……)ソローリ
咲「あ、あの……」
照「!」ビクッ
照「な、なに……?」
咲「お姉ちゃん一体何をして……?」
照「い、いや、ちょっと花を摘みに……」
菫「アイツ……」
憩「なんかもう見てて気持ち良くなってくるな」アハハ
咲「あの、お姉ちゃん。話があるんだけど……いいかな?」
照「は、はい……」
咲「と、とりあえず座ろうよ。ね?」
照「いや、花を……」アセアセ
咲「お姉ちゃん……?」
照「あ、後で行きます」
照「……」
咲「なんか、こうやって向かい合って話すって珍しいね」アハハ
照「そうだね……なんか悪い事したみたいな気分……」
菫(いやいやいや)
咲「その、ね。今日お姉ちゃんをここに呼び出してもらったのは、私なんだ」
照「咲が……?」
咲「色々と訊きたいことがあって……」
照「それは家では話せないことなの?」
咲「う、うん。淡ちゃんとかもよくいるし、ちょっと話しにくいと言えば話しにくいかも」
照「そっか……」
照「す、好きな人……?」
咲「うん……」
照「えっと、それはどういう意味の好き?」
咲「……キスするとかの好き」
照(キスするとかの好き……)
照「……うん。そういう意味なら、好きな人はいるよ」
咲「えっ……!?」
憩「そ、そうなんや……なんか意外やわ……」
菫「いや、アイツのことです。また何か意味をはき違えてそうな……」
照「咲が知ってる人もいるよ?」
咲(えっ……どど、どういうこと!?)
咲「お、お姉ちゃん? 好きな人だよ?」
照「うん、好きな人」
照「咲のことも大好きだよ」ニコ
咲「!?」ドッキーン
菫「またあんなこと言って……」
憩「松実玄ちゃんが勘違いするのも分かる気がするわ……いや勘違いかはまだ分からんけども…‥」
菫(何の悪気もなく純粋な気持ちで言ってるんだから厄介なんだアイツは……)
咲「あぅ……ぁ……」カァァ
照「どうしたの咲? 顔が赤い」スッ
咲「ふぁ!?」
咲(お姉ちゃんの手……ほっぺに……!)
照「熱でもある? 先生呼ぼうか?」
咲「だ、だだ、だいじょぶ……」
照(また赤くなってる……)
憩「なんか宮永さんってすごいんやね……」
菫「アイツが人見知りのおかげで被害は最小限で済んでますがね……」
菫(私も昔、本気で……)
照「なに?」
咲「お姉ちゃんは……私のこと、大好きなんだよね……?」
照「うん」
咲「それなら、その……」
咲「キス、して欲しいです……」ウルウル
菫(完全にネジを飛ばされてるな……)
憩(あっちゃー……これはまずい気が……)
照「うん、いいよ」ニコ
咲「……!」
照(キスくらい言ってくれればいつでもしてあげるのに)
照「それじゃ、するね」スッ
咲「ま、待って! ここ、心の準備が……!」
照「ふふ、咲は可愛いね」チュッ
咲「ぁ……」
咲(おでこ……)プシュー
照「咲?」
憩「はいストップストップー……」
菫「尋問されて責められるはずがどうしてこうなるんだ……」
照「せ、先生に菫……いたんだ……」
菫「自制出来ない分、竹井や園城寺よりタチが悪いぞお前……」
照「ふ、二人とも一体何を……」
咲「ふにゃぁ……」
憩(咲ちゃんの相談何一つ解決出来てないと思うけど、本人幸せそうやからこれでいいんかな……ってよくないか)
憩「宮永さん!!」
照「は、はい!」
憩「さっき弘世さんから訊いたで……? 宮永さんずいぶん面白い事やってたみたいやなぁ……」ゴゴゴゴ
照「ひっ!?」
憩「反省文、400時詰め原稿用紙20枚分と明日から1週間校内清掃をすること」
照「そ、そんな……何も悪い事してないのに……」
菫「悪い事してる自覚がないのが一番悪いんだよ……」ハァ
憩「分かりましたか?」ニコ
照「あ、あれは高尚な研究であって……」
憩「分かりましたか?」
照「分かりました……」
憩「それとちゃんと松実さんに事情説明して謝る! 他の子も連れて来なさい!」
照「はい……」シュン
菫(あぁ、なんという常識人……)ジーン
―――――――――――
菫(その後、続いて呼び出しを食らった竹井と園城寺も仲良くお説教を食らった)
怜「委員長がチクるから……」セイザ
久「私は反省してたつもりなんだけどなー……」セイザ
照「賢者はいつの時代も愚者の犠牲に……」セイザ
菫(その後、各々謝罪に出向いたりしたのだが……それはまた別の話)
―――――――――――
憩「はぁ……宮永さん、気軽に人に好きって言ったりキスしたらアカンで?」
照「そんなことしてな……」
憩「してなかったら咲ちゃんはこんな風にはなりません」
咲「……ふふっ」ポケー
憩「……そういうことは本当に好きな人が出来たとき、その子だけにしてあげ」
憩(いっぺん襲われるかなんかせな分からなさそうやなこの子……)ハァ
憩「まあええわ。いつか身を以て学ぶときが来るから……」
憩「宮永さん、咲ちゃんと一緒にもう帰り。これからはアホなことしたアカンで?」
照「はい。……咲、咲」ペチペチ
咲「ふぇ……? あ、お姉ちゃん……」ポケー
照「帰ろうか」ニコ
咲「うん……」ニヘラ
憩(これで解決……なんかな? いや、ウチではこれ以上何も出来そうにないし、被害出るとしても宮永さんやから別にええか……)
憩(もうこんな時間……明日も明日で大変そうやなー)
憩「ま、楽しいからええけどな♪」
終わり
途中で死んたり席外して申し訳なかったです
次からこの設定で書く時は前スレ貼ります
お疲れ様でした
咲さんが幸せそうでなにより
Entry ⇒ 2012.10.15 | Category ⇒ 咲-Saki-SS | Comments (1) | Trackbacks (0)
照「……ごめん、菫。 付き合うことはできない」
私と照は、”気兼ねなく話せる友人”だ。
お互いに、あまり感情任せな性格はしていないから、こういった友人は一人いるだけで助かるもの。
菫「照、大丈夫か?」
照「大丈夫……少しは、落ち着いた」
とはいえ、悲しむことも、落ち込むことも、怒ることもある。
そんな時には、私は照に、照は私に相談して、お互いに隠れて宥めている。
この関係が変わったのは、いつ頃だったろうか――。
二年生のインターハイが終了し、私たちは晴れて二連覇を成し遂げることに成功した。
あらゆるメディアから引っ張りダコだった状態も落ち着き始めた、秋の中頃の話だ。
菫「今は部活中だ。 そういう話は後にしろ」
「あ、先輩すみません」
「それじゃ、あっち行って打とうか」
卓につくこともなく恋話をしていた、一年生の二人に注意をする。
白糸台が二連覇を達成したことにより発生した結果は、決して良い物ばかりではない。
一軍の座に座ろうと精進する生徒こそ多かったものの、諦めてしまう生徒もまた多かった。
菫「お前、誰かと付き合ったことあるのか?」
照「ない」
菫「だろうな」
照「もし付き合うことがあれば、真っ先に菫に報告する」
少し、胸の温度が変化した。
すぐに原因を探るものの、どうもよくわからない。
照「それに私は、誰かに恋するつもりもない」
菫「……そうか」
再び、温度が変化した。
上がったり下がったり、妙な気分。
二回目のそれは温度の変化に加えて、少量の痛みまで伴うようになっていた。
照はどうも、人との間に壁を作りやすい節がある。
一番近くにいるであろう私ですら、時折壁を作られているのではないかと感じてしまうほどに。
照が恋人を作ったことをないという話も、恋をするつもりがないという話も、実に照らしい回答だと思う。
それなのに、なぜ、私は妙な気分になってしまったのだろうか。
菫「……ああ」
閃いた時、思わず声が漏れてしまった。
一回目の変化は、照に恋人がおらず、安堵したところから来ているのだろう。
二回目の変化は、照に恋する気がなく、落胆したところから来ているのだろう。
それらを繋げると、設問の答えは簡単に浮かび上がってしまった。
菫「……私は、照が好きなのかもしれないな」
その日は、うまく眠れなかった。
菫「…………」
照「どうしたの? ずっとこっち見て」
菫「あ、いや……」
照「最近、ぼーっとしていることが多い」
菫「ん、ああ、すまない」
私の照に対する恋心は、加速度的に成長していった。
照の挙動が一々気になってしまうし、そっぽを向いていればいい機会だと思うのだろう、無意識の内に眺めてしまうことがある。
赤面しやすくなり、指摘された通り、上の空になってしまうことも多くなっていた。
照「どうかしたの?」
菫「……別に、なんでもないさ」
記憶にある限りでは、その日初めて、照に隠し事をした。
人に言いにくいことは、大体この時に全て処理してしまうのだ。
とはいえ、私も照もあまり喋る性分ではないから、話はいつもそこそこに終了する。
照「おやすみ」
菫「ああ、おやすみ」
それからしばらくは、とても眠れる状態になかった。
時計を確認すると、会話を切り上げてから一時間も経過している。
すぐ隣には、心を寄せている照がいる。
その事実を確認する度に、私の心臓は段々と活発になっていた。
少しだけ、休息している照の手に触れてみた。
触れてみて、緊張と罪悪感で、咄嗟に離してしまった。
離してしまったけれど、やはり照には触れていたい。
再び手に触れて、今度は握ってみると、顔が簡単に沸騰して、秋だというのに真夏のように熱くなってしまった。
――私はこの時、多少なりとも発情してしまったのだと思う。
菫「……ぁ……んっ」
私は、照の隣で自慰をしてしまった。
かつてない勢いで絶頂したのと同時、同じ程度の後悔が押し寄せてきたのは言うまでもない。
が、それも虚しい。
照「……菫、聞いてる?」
菫「え、ああ……」
照「先生が呼んでる」
菫「そっか、悪い」
照「また、ぼーっとしてる」
菫「…………」
結局その抑圧は、三日と持たずに終了してしまったのだ。
麻雀にも精が出ないし、最近は家の中ですらぼーっとしてしまうことがあった。
これを断ち切る方法など、実際のところはとっくに気が付いている。
照とは今のように、このまま大人になり環境が変わっても話し続けられる仲でありたいと思う。
照とは今と違い、恋人になりもっと進んだ仲になりたいと思う。
どちらかを選択すれば、その逆を切り落とさなければならない。
私はこの答えを決められないまま、腹をくくった"つもり"で、照に告白しようと決心した。
誰もいなくなったことを確認して、照をここに呼び寄せた。
照が来るまでに済ませた心の準備は、足音が聞こえただけで軽く吹き飛んでしまっていた。
照「話って、どうしたの」
菫「…………」
照「菫?」
好きです、と、ただ一言の言葉が出てこない。
毎日毎日、心の中は復唱した言葉。
今だって、復唱している。
けれどいくら口を開けたって、出てくるのは熱い息ばかり。
照「大丈夫?」
照の方からは、私が病人にでも見えたらしい。
私は、照に手を握られた。
それがただの気遣いであることは、重々承知している。
照「菫……っ!」
菫「…………」
照「……ねえ、ちょっと」
――気が付けば、照を抱擁していた。
あの時と同じく、照の手に触れたことで、私の中の枷が弾け飛んでしまったのだろう。
抱きしめる力が強すぎると、なんとなくわかっている。
照がやや混乱していることも、なんとなくわかっている。
それらに対して、照は何一つ言及しない。
私も、照に対する気遣いなど全くもって忘れてしまっていた。
菫「……照、好きです」
照「え……」
菫「私と、付き合ってくれ……」
私はただ、勢いに任せて自分の恋心を照にぶつけたのみだ。
照「……ごめん、菫。 付き合うことはできない」
元々、たったの1%しかない、あるいはそれよりもっと低い希望にかけて告白したのだから。
これは当然のもの、こんなことはわかっていた、はずなのに。
なのになぜこうも、胸の奥がぽっかりと空いたような気分になるの?
泣き声だけは、なんとか堪えられている。
その代わり、恋心だけは堪えきれずに、その辺りに散らばってしまっていた。
それから照は、私に追い打ちをかけてきた。
実際追い打ちではなく、黙っている私を見兼ねてのことだと思う。
しかし私には、照が言う”付き合えない理由”というのが、全く追い打ちにしか感じられなかった。
照「菫のことはいい友達だと思っているし、一番仲もいい」
菫「……ああ」
照「それでも、恋愛感情は持っていない、持てない。 ごめん」
胸のほうに、得体のしれない気味の悪さが押し寄せてくる。
私はきっと、激情でひどい顔をしているはずだ。
その表情を隠蔽するように、耳をくっつけて、照の理由全てを聞いていた。
照が今どんな顔をしているのかは、よくわからない。
抱きついた時と同じく、この時もまた、照は一言も喋らない。
私達の仲は、これで終わってしまうのだろうか。
もしかしたら関係を切られるかもしれないと、片隅では理解した上で告白している。
それについて、腹はくくっている――つもりだった。
照「……帰ろっか」
その言葉が、あろうことか別れの言葉に聞こえてしまう。
こうして帰宅して、一度照と別れれば、それ以降一緒に歩くこともなくなるのだろうか。
頭に過るその考えは、照に対する恋心と同じく、どうしても振り払えないものだった。
どうにかして、繋ぎ止めないといけない――そんな焦燥から出た言葉は、最悪のものだった。
菫「なんでもいいんだ! ……身体だけの関係でも」
照「…………」
菫「照、私を見捨てないでくれ!」
振り向いた時に見えた照の顔には、僅かな哀れみが色濃く反映されていた。
可哀想だと思われていることは、わかっている。
でも、後に引くことなどできない。
それに、もし引くことができたとしても、私はきっと引かないことを選択すると思う。
照「それで、どうすればいいの」
菫「いつも一人でするようなのと変わらないさ……ただそれが、二人に増えただけ」
照「私、ほとんどしないけど」
菫「それならそれで、構わない」
それからは、照の制服を上から脱がしていった。
ブレザーを剥がして、ネクタイをほどいて、ボタンを上から順に弾いていく。
私がする行為を、照はただただ静観していた。
これからする行為がわからないわけじゃないだろうに、全く緊張している様子が見られない。
照にとっては自慰の延長線上であり、同時に私を慰めるための儀式でしかないのだろう。
私も私で、半分程度は線が切れてしまっているから、取り乱したり、必要以上に赤面することはなかった。
切れたのが緊張の線ではなく、恋心の線であったのなら、どんなに良かったことか。
そうして、私たちは何もなくなった。
双方ともに、脱がし終えた服を畳むことなど忘れてしまっていた。
菫「照、触るぞ」
照「待って」
菫「何?」
照「こういうの、最初はキスするものじゃないの?」
しよう、ではなく、するもの、か。
やっぱり照にとっては、こんなことはとことん儀式らしい。
先の言葉は、それを私に知らしめるかのよう。
そして同時に、哀れんでいる様が見て取れる言葉でもある。
それらのことを知りつつも、この行為を中断する気など、私は持ち合わせていなかった。
菫「照、目を閉じてくれ」
照「……んっ」
照の頭に手を添えて、私たちは静かに唇を重ねる。
初めてのキスは、よくわからない味、ヘドロのような感触がした。
私達は、それから幾重にも身体を重ねていった。
正確な回数は、もう覚えていないし、取り立てて数えることもしていない。
いくら歪な関係になろうとも、本質である照との友人関係は未だ変わらず。
――いいや、実際には、少しは変わってしまったかもしれない。
少なくとも私は、あれ以降ガラス張りの壁のようなものがあるのではないかと、不安で仕方がなくなっている。
二年の春も終わり、私達は三年生へと進級した。
一軍である私たちは、そのまま成り行きで指揮を取るような立ち位置につくこととなった。
インターハイを二連覇に導いたのは、一軍の地力もあることだろうが、私は偏に照の功績だと思っている。
それはなにも、私だけの思考ではないらしい。
新入生が皆、口を揃えて宮永照、宮永照と言っているのがその証拠だった。
公平のために口に出さないものの、教師陣も皆同じような考えに至っているはずだ。
菫「目ぼしい生徒はいたか?」
照「正直、全然。 菫は、いた?」
菫「私も同じ意見だ」
けれど皆、憧ればかりが先行していて、実力がそれに追いついていなかった。
いくら入部者が殺到しても、力なきものは一軍には入れない。
菫「今年は、不作だな」
そう思った、直後の出来事だった。
普段ならば気にすることではないのだが、入室者の一声によって、部室内の全員が彼女に注目することとなった。
淡「ごめんなさーい、遅れちゃったよ」
金髪のその少女は、全く悪びれる様子も見せずに、挑発と勘違いしてしまうようないい加減な謝罪をした。
白糸台は、照が二連覇へ導いたことも影響して、その実力重視は完璧なものとなっている。
そのため一軍に上がった者達はともかく、それよりも下に位置する者は、皆多少なりとも神経質になる。
あるいは先のように、やる気をなくしてしまうかのどちらかである。
この金髪の少女は新入生と見えるが、入学早々やる気がないのだろうか。
フランクなのは結構だが、時と場合を考えてもらいたい。
菫「遅れちゃった、じゃないだろう。 一時間は経過しているが」
淡「だから、ごめんなさいって」
菫「……お前、名前は」
淡「大星淡、一年生!」
菫「入部希望か?」
淡「うーん、私は……宮永照を、倒しに来ました!」
大星の発言により、部内の雰囲気は注目から清寂へと変化した。
照相手にも、全く引けをとらない。
あるいは、半荘の途中に限って、一時的に優位になることすらあった。
照を相手にそれほどの闘牌ができたのは、他に誰がいただろうか。
照の苦境を見るのは、何時ぶりだろうか。
照「ツモ、12900オール」
淡「うわ、噂通りだねー」
最後の半荘は、照の親番、東二局九本場の二巡目で終了する。
この五回の半荘、結局、照が一度もトップを逃すことはなかった。
それでも、私には大星が照に劣るようにはとても思えなかった。
確かに負けは負けだが、彼女もまた常に二位をキープし、照と棒一本分程度の点差しかなかった半荘だって、二回もあったのだから。
淡「こんな面白い人と打てるなら、ここに入部する!」
それからは、一ヶ月も待たずに大星は白糸台の一軍に参加することとなる。
もしかしたら、照は最初の対局時に、大星を一軍にすることを決めていたのかもしれない。
ただ、皆のことを考えて、すぐに迎え入れなかっただけで。
麻雀部での照は、彼女といることが多くなっていった。
最も照の方からそうしているわけもなく、専ら淡が照へちょっかいをかける形だ。
照も全面的に受け入れるわけではないが、かといって拒絶もしていない。
それを見ると、ひどく胸焼けがする。
時が経ち、早くもインターハイの時期が迫ってきた。
この一年は、白糸台の三連覇がかかった重要な年。
必然、実力主義に更に磨きがかかる。
そうなると他の三年生を押しのけて、大星もメンバーに入ってくることだろう。
「先鋒、宮永照」
照「はい」
「次鋒、弘世菫」
菫「はい」
入ることはわかっていたけれど、いざ発表されると、照と同じチームでいられることに安堵してしまった。
全く、情けない。
「中堅、渋谷尭深」
尭深「! はい……」
彼女もまた、同じく安堵の体だった。
そういえば、渋谷は今年が初めてだったか。
「副将、亦野誠子」
誠子「はい」
「大将……大星淡」
淡「はいはーい」
大星が、大将。
照が先鋒として選ばれた時点で、薄々は理解していたことだ。
彼女の実力なら、その大将の座もしっかりと務まることだろう。
照が座ったことのあるその席を大星に任せることには、誰も異論はない様子だった。
それもそうだ、彼女が照に引けをとらない実力を持っていることは、否定しようもない事実なのだから。
帰りの道で、私は照に対して、大星について問いかける。
大将の座に、自分が座らなくていいのかという旨の問いかけだ。
菫「いいのか? お前じゃなくて、大星を対象に置いて」
私はてっきり、照が大星を褒めるだけの返答を寄越すと思っていたのに。
照「私が、大星に大将を譲った。 あそこはあの子にこそ相応しいから」
照の返答は、予想も濃度の高いものだった。
照「他の誰にもできないと思う」
――また、胸焼けがした。
その原因がただの醜い嫉妬であることは、既に気が付いている。
気が付いていても、どうしようもできない。
菫「んっ、照っ……」
照「う、あ、あっ……」
菫「ん、んうっ!」
どうしようもできないから、乱れた。
私達の行為は、大星が入学してきてから明らかに変化している。
端的に言えば、激しくなっていった。
今日もまた、同じ場所を重ねて、快楽を共有するばかり。
他には、何も考えてない。
こうしている内は、考えなくていい。
菫「照……んむっ」
照「ん、ぅ……」
一通り終えた後は、汗だくになりながら、体液の塗りたくられた身体を重ねあって身体を休める。
と言っても、私はその際にも照の口へ自分の舌を繋げるのだから、実際は名前ばかりの休憩だ。
それが終われば、再び先のような行動を機械的に繰り返して、脳に快楽を命令するのみ。
これでもう、今日は三度目だ。
照「菫、苦しいっ……」
菫「す、すまない」
その言葉で、頭が一気に冷却されてゆく。
照の腰から自分の腰を下ろしてすぐ、照は自分の身体を起こして、胸に手を当てて深呼吸を始めた。
それほどまでとは、私は一体、どれほど錯乱していたんだろうか。
照「今日、なんか、強引……」
菫「……悪かった」
照「今日はもう、休憩したい」
菫「……そうだな」
照「ねえ、菫、何かあったの?」
そんなこと、一々聞かないでくれ。
照、お前はどうして、そうやって私の心を分解しようとするんだ。
菫「……お前は、大星のことをどうしたいんだ、どう思っているんだ」
自分でも、見苦しい返答をしたと思う。
大星が照とよく対決するのも当然のことだ。
照が大星を一軍へ引き入れたことも、大将の座を譲ったことも、納得できないわけがない。
その上で、大星に嫉妬の念を抱いているわけだ。
むしろ、それだけならまだ可愛いものだろう。
私はあろうことか、照の彼女面をしているのかもしれない。
自分が憎らしい――そう考えれば、全ての感情に説明がつくのだから。
照「どう、って……。 実量があるから、一軍に推薦したし、大将の座も譲った」
菫「確かに、実力はあるが……」
照「菫だから言うけど、私が抜けた後、白糸台を支えるのは尭深でも誠子でもなく、淡だと思ってる」
"菫だから"なんて本来なら嬉しいはずの言葉は、この時ばかりはむしろ嫌悪してしまった。
照「念のため言っておくと、私は……淡のことは、後輩としか思っていない」
そういった照の赤い視線は、真っ直ぐに私の目を突き刺してきた。
思わず、目を逸らしてしまった。
その言葉の役割は、本来なら、私を宥めるものであるはずなのに。
淡がどう思っているかはともかく、照はただの後輩としか思っていない、それだけの意味しかないはずなのに。
どうしてだろうか。
”菫のことも、彼女ではなく友人としか思っていない”――そんな風に、聞こえてしまうのは。
照「私は、菫が一番の友人だと思ってるから」
現在考えていた思考を読み取られたかの如く、照は顔を変えずにそんな言葉を投げかけてくるのだった。
胸焼けこそしなかったけれど、今度は吐き気がこみ上げてくる。
照は最初から、私とは恋人ではないと、言葉にして伝えてきているじゃないか。
そんなことはどうでもいい、私たちはただ、身体だけ重ねていればそれでいいはずである。
勝手に期待しているのは、私だけ。
先の発言だって、そんな風に聞こえるもへったくれもない。
照は一貫して、最初からそんな風に言ってきているじゃないか。
――それでも私は、照が好きだ。
大星が一方的に照に擦り寄るように、私もまた、照に一方的な恋慕の情を抱いている。
菫「お前はどう思っているか知らないけどなぁ!」
照は私も大星も等しく否定するだろう、そんなことはわかっている。
わかりきっているのに、何度も否定されているのに、求めてしまう。
菫「私は、お前のことが好きなんだよ……! なんでわかってくれないんだ……」
そんな自分に、嘔吐感を覚えてしまったわけだ。
腹中に渦巻く気持ち悪さは、全て言葉にして吐き出すことで、なんとか誤魔化すこととした。
照「……それでも、私は」
照はただ、淡々と告げる、そこには何の感情もない。
強いて言えば、友人である私に対する哀れみが含まれているばかり。
その口から出てくる言葉は、もう、わかっている。
照「菫に恋愛感情は抱けない、抱くこともない」
だろうな。
照も、異存はない。
大体、求めているのは照のほうではなく、私だけなのだから。
菫「……すまない、今日はもう帰る」
照「シャワー浴びて行かないの?」
菫「いい」
いつもなら、シャワーを浴びてから二、三の会話をして帰るのだが、今日はもう早く帰りたい一心だ。
体液を落とすためにここに居続けるよりも、湿った格好でもいいから、とにかくこの場から離れたい。
本当、自分勝手だと思う。
家に帰ってからは、靴を脱ぐのを待たずして、玄関で泣き崩れてしまった。
服も髪も、汗でとっくに汚されているから、涙が出てくることは特に気にならない。
先刻の嘔吐感が再発して、咄嗟に手のひらを口に当てるも、何か出てくることはなかった。
服を汚さずに助かった、などとは思えなかったし、また何か出てきてしまっても、同じように何も思わなかったろう。
菫「……照」
無意識に、恋愛対象の名前を呟いてしまった。
私はどうやら、まだ照のことが好きらしい。
恋は病と言うが、全くその通りだと思う。
できることなら、薬で治してしまいたい。
こんな関係になってから、嫌悪感を抱かなかったことが無い、といえばそれは嘘になる。
けれど、それは照に対してではなく、むしろ不可能な恋をしてしまった自分に対して、だ。
偽りの罵倒を頭の中にいる照にいくら投げかけても、どうしても嫌いになることができない。
身体を重ねる行為だって、やめたくない。
これが唯一、崩れた私達を繋ぎ止める糸に見えて仕方がないのだから。
繋げるというよりも、縛っているといったほうが適当だろう。
どちらにせよ、照との関係がなくなるよりは、ずっとマシだ。
シャワーを浴びて、体液を全て削り落とした後は、夕食も食べずに眠ってしまった。
あれから三日が過ぎる。
大星は、相変わらず照に懐いていた。
私と照も、表面上こそ変わりない。
亦野はしっかりしているし、渋谷も気を使いながら落ち着いている。
麻雀部の風景は、全く変わっていない。
この三日間、私達は身体を重ねていなかった。
無論、行為をやめることはできる限りしたくない。
かといって、積極的に身体を重ねることも、またしたくはなくなっていた。
あの吐き気が襲ってくるかもしれない――そう考えるだけで、身体が縮こまってしまう。
照はただ、私が求めれば素直にそれに従うのみ、照のほうから私を求めてくることなど一度もない。
そんな理由が重なったのが、身体の関係が疎遠になった理由である。
それに。
菫「調子は、大丈夫か?」
照「大丈夫。 準決勝と、決勝だけ問題にしていればいい」
菫「お前が負けるということはないだろうが……油断はするなよ」
照「わかっている」
もう、三日後にはインターハイがある。
照の雀力に関しては、私なんかが文句を言えるものでもない。
しかし、身体の問題は別だ。
いくら強くとも、雀卓につけなければ意味がない。
破綻した今の状態では、照の身体を崩してしまいかねない行為に及ぶ可能性が十分にある。
照との関係が壊れるよりも、照自身が壊れることのほうが、私には耐えられない。
菫「照」
照「なに?」
菫「……しばらく、私達の関係は終わりにしよう」
照「…………」
だから私は、自分の感情を押し殺して、照との関係を断つことにした。
照「……どうして?」
菫「もう、インターハイだ。 万が一身体を壊してしまったら、私は責任を負いきれない」
照「最近してなかった理由も、そういうこと?」
菫「……ああ」
本当は、違う。
照の彼女になれない現実、それを見つめたくなかったから。
これで私は、照に二度目の嘘をついたことになる。
照「わかった」
菫「…………」
照が理由を聞いてきて、正直、内心では期待していた。
もしかしたら、照のほうからこの関係を繋ぎ止めてくれるのではないか、と。
しかし、そう都合良くいくはずもなく。
照の淡白な返事からは、そんな影は全く見られなかった。
それもそうだ、元々私が勝手に求めて、私が勝手に断ち切ろうとしているだけなのだから。
どんな行動を取ろうとも、照の彼女ではいられない。
そういった現実を自覚するのには、もう十分すぎる期間が経過している
照「ツモ、2000.4000」
淡「おー」
白糸台は、何の問題もなく勝ち進んでいる。
そのためだろうか、他の学校は知らないが、少なくとも白糸台の控え室は重苦しい空気にはなっていない。
それ故に、大星はいつものように照にべたついていた。
淡「おかえりテルー、やっぱりすごいね!」
照「今回は相手が弱かっただけ」
淡「ま、それもそうだけどね。 決勝にさっさと行っちゃえば、少しは楽しめそうだけどなー」
また、胸焼けがする――だが、意外にもそれもすぐになくなった。
私の心中に、触った端から肉が腐り落ちてしまいそうな、どす黒い感情が宿ったためだ。
大星は、照のことを友人以上、先輩以上だと思っているのだろう。
大星ほどの実力であれば、自分より強い人間を見たら敬愛してしまう気持ちもわからないじゃない。
私も照のことを友人以上だと思っているし、願わくばそれをしっかりとした形にしたいと思っている。
しかし照は、両者共に、明確な言葉にして否定した。
その事実は、私だけが知っているもの。
照に対しては、大星はそんな事情を知らずに突っ込み、私は知っていても尚突っ込んでいる。
ああ、なんだ。
大星も、結局、私と同類じゃないか。
その頃になって、私の元に一つの転機が訪れる。
廊下を歩いている時に、どこかの記者に質問を求められたのが発端だ。
「ちょっと、いいですか」
菫「はい、なんでしょう」
「宮永照選手について、聞かせてもらいたいんです」
菫「本人に、直接伺ったほうがいいと思いますが」
「そう言わずに……ほら、これ見てください」
菫「……?」
その記事には、清澄高校・宮永咲のことが記述されていた。
宮永咲――照の妹。
照の家庭はどうも複雑らしいが、私は未だにその全貌を教えてもらったことはない。
しかし長いこと一緒にいる身だ、妹がいることなど、とっくに知っているさ。
無闇矢鱈に、こんな人間にお喋りするつもりもない。
「あなた、宮永照選手のご友人ですよね? 妹さんについて、何か知りませんか?」
菫「いいえ、全く」
「そうですか……残念」
なんの嫌悪感も抱くことなく、記者に嘘をついた。
照が私を拒絶する際も、きっとこんな風に、何も思っていないのだろうか。
そう思うと同時、先程大星の方を向いていた黒い感情は、今度は照の方を向いてしまった。
気が付いた頃には、もう遅い。
いくら修正しようと思っても、命令を受け入れてくれない。
修正しようと思いつつ、心の底のほうでは照を独占したいと思っているためだろうか。
菫「この記事……」
「はい?」
菫「私も、照のことについて知らないことは多くあります。 ですから、この記事をお借りしたいのですが」
「あ、ああ、はい! 構いませんよ、いくらもっていっても」
菫「ありがとうございます」
私は、照に振り向いてもらいたい一心で、こんなことをする。
こんなものは、言い訳にしかならないか。
照「おかえり、ずいぶんと長かったけど……何持ってるの?」
菫「ああ、これか」
そう言った切り。
大星が帰ってきたために、この会話は中断される。
大星と照が二、三の会話をぽつぽつとした後。
私は手元の記事を、先ほどのお望み通り、照の側へと投げつけてやった。
菫「……お前、妹がいたんじゃないのか?」
照は何も喋らず、ただその記事を読み取るのみだった。
照の家庭が複雑であることは、私だけが知っている事実。
同じ秘密を共有できる唯一の相手として、私を頼って欲しい。
照の方から、私を求めて欲しい。
真っ黒な感情に突き動かされてとったこの行動は、すぐに後悔することになる。
照「……私に、妹はいない」
照の身体に走る、確かなショックを見つけてしまったから。
新聞を投げた一件以降、照とは会話をしていない。
夕食や風呂など諸々の事柄を済ませて、各自ホテルの自室へと戻る。
大星なんかは、もしかしたら照にちょっかいを出しているかもな。
どうせ実らないのだから、好きにすればいい。
私も、実らないと知りつつ好きにしているのだから。
そう思った直後、ドアに軽い音が二つ鳴り響き、用心することもなく鍵を開けた。
菫「照か」
照「明日の対戦校の牌譜を、一通り見せて欲しい」
菫「……わかった」
用事があるのは、私ではなくて、牌譜ってわけだ。
牌譜の入った端末を持って、照に渡す。
受け取った照はそのままベットへと座って、膝の上に端末を乗せて牌譜を眺めはじめたのだ。
てっきり、さっさと帰ると思っていたのに。
菫「自分の部屋で見なくていいのか?」
照「さすがにこれを持ち出すのは申し訳ない。 全部覚えて帰る」
違う、帰ってくれ。
困るのはお前じゃなくて、私なんだよ。
それからも、照は居座っている。
菫「帰らなくていいのか?」
照「帰って欲しいの?」
菫「そういうわけじゃないが……」
照「もう少し、居たい気分」
私はお前と違って、淡白な性格はしていない。
私がいつからお前に抱かれてないと思っているのか、覚えているのか?
そんなこと、お前は興味がないのか?
照「飲み物、もらっていい?」
菫「ああ……その冷蔵庫に入ってる」
腰の低い冷蔵庫に合わせて、照はやや屈んでその中身を覗いていた。
こちらから見える横顔と腰を見ると、とても我慢できそうにはなかった。
いつもいつも、行動ばかりが先行する。
そんなだから、私たちはこんな醜い関係になってしまったのかもしれない。
照「……あっ!」
私は、とことんバカだ。
腰を起こした照の両腕を掴み、そのまま床に押し倒してしまったのだから。
暴発してしまったら大変だけれど、今の私はそれに構っている余裕はない。
菫「照」
照「んっ……」
それから、強引に照の唇を奪った。
照は全く抵抗しない。
それどころか、いつもより少しばかり火照っているようにも見える。
こんな表情、燃料としては十分すぎる。
それからは四回ほど、互いの舌と舌を、唾液と唾液を混ぜ合った。
どちらの口にどちらの唾液が入っているのか、もう、わからない。
私たちはそのまま服を脱ぎ終えて、あろうことか床の上で行為に及んでしまう。
照はいつもよりも数倍乱れて、喘ぎ声は下手したら騒ぎ声にも錯覚してしまうほど。
今まで照が、なんで私とこんなことをしているのかわからなかったのだが、その時、ふと気が付いてしまった。
照はきっと、家族関係に関するストレスを解消するために、私を抱き続けていてのだろう、と。
お互いに、決して埋められることのない傷を埋めたいがために、こんな行為に及び続けているわけだ。
私は照を利用しているし、照も私を利用している。
照と同じ堕ち方をしているのは、なんだか嬉しく思えてしまう。
払いきれない冷たさと、湿っぽい熱さ。
その二つを同時に、互いに感じながら、私たちは同じ頃に果ててしまった。
――結局この年、白糸台は三連覇を逃してしまった。
けれど、元々は白糸台を勝ちへと導くために始めた禁欲だ。
それを解除した途端の敗退。
これで責任を感じるなという方が、無理な話だ。
菫「照、ごめん、ごめん……!」
照「菫のせいじゃない、誰のせいでもない。 ただ、相手が強かっただけ」
菫「でも!」
照「三連覇を逃したのは、私だけじゃなくて菫も同じ。 一方的な責任を感じないで」
私には自分の"無理"を押し付けてくる癖して、私の"無理"は無視しようとする。
お前は、どうしてそうなんだ。
こんなの、私を責め立てればそれで終わる話じゃないか。
私のことを一発や二発でも叩いて、菫が襲ったせいと一つ言うだけで、全てが丸く収まる。
もう関係は終わりなんて言えば、ちょうどいい機会だ、綺麗サッパリ関係を断てることなのに。
そう言われてしまえば、私が次に返せる言葉はない。
そんなこと、お前ほどの人間が、理解できないわけがないだろ。
どうしてお前は、中途半端に私に優しくするんだよ。
インターハイ中の一件があってからは、どちらが言い出すまでもなく、自然と行為は再開していった。
そのペースは、意外にも安定している。
私も照も、あれから極端に乱れることはなくなっていた。
ただただ、作業的に快楽に包まれているだけだ。
この頃はもう、どうして身体を重ねているのか、なんだかよくわからなくなってしまっていた。
私にわかっていることは、私が照を好きでいることと、その恋は永遠に成熟しないこと。
そして、関係を断ち切りたくないこと――この三点のみ。
だから私は、今日も照に身を委ねる、照もまた同じだ。
ある日の帰り道で、照とこんな会話をした。
照「菫は、卒業したらどうするの?」
菫「進学しようと思う」
照「プロ行きの推薦は?」
菫「一旦、保留だろうな」
最高学年ともなると、当然のように進路の話を進めなくてはならない。
照にはもちろん、幸い私にもプロ行きの話は転がってきたのだが、私はこれを蹴って、大学へ進学することとした。
大学に行って、何かしたいわけではないし、将来的にはプロになるつもりでもある。
ただ、今はその地位は欲しくない。
今そんな地位を入手して、一体何になると言うんだ。
少なくとも、照に関しても、麻雀に関しても、気持ちの整理が全くついていないことは事実であった。
照「なら、私と同じ」
どうやら、照も進学を決めたらしい。
普段ならば喜ぶ、以前ならば喜んでいたのかもしれないことなのに、全く喜べずにいたのが不思議だった。
最終的に私たちは、別々の大学へ進学することを決定した。
その方が、後腐れなく済むだろう。
進路を固めた後は、少しばかりペースの落ちていた例の行為を、再び元のリズムに戻した。
もう、照に溺れる必要もないのに、未だにこんなことを続けてしまっている。
自分の選択、照の心中、自分の非力さ、現状。
全てが、よくわからなくなる、満足とも不満足ともつかない。
そんな不安定な状態だからこそ、強引に精神を安定させるために、互いの身体を貪りあっているのかもしれない。
願わくば照の方にも、多少なりとも似たような感情が宿っていてほしいものだ。
未だに照のことは好きだ、だけど、付き合う希望はもう抱いていない。
実のところどうかはわからないものの、そう決心したのは事実である。
だからクリスマスは、照と会わないことにした。
もし会ってしまえば、再び処理し切れない希望を抱いてしまうかもしれないから。
余談だが、大星は私の予想通りの感情を抱いており、卒業式の今日の日に告白をしたらしい。
結果は言うまでもないだろう。
同類だと思うものの、私のように泥沼に陥らなかっただけ、彼女はまだましだ。
それだけは、素直に羨ましかった。
こいつは、最後まで一貫していた。
対して私は、最後までブレ続けていた。
照「お疲れ」
菫「ああ、背中が痛くて仕方ない」
照「……なんだか、こうなると少し寂しくなる」
菫「全く動じなかった癖にか?」
照「それとこれとは別、菫だって動じてなかったでしょ」
菫「まあ、な」
照の言うとおり、私は泣いてはいなかった。
でも――何が"動じてなかったでしょ”だ。
菫「……すまない、先に出ててくれ」
照「わかった」
こんなちぐはぐな感情を抱えたままの卒業式で、感傷に浸らないわけがないだろう。
気持ちはもうとっくに整理した、はずなのに。
菫「照……照……」
もう、照と付き合うことは考えないようにしよう。
プロ行きも、一旦はやめにしよう。
私はまだ、大人ではないから。
そんな諸々のことは、先程までは確固たる思考として、確かに私の中に存在していたものだ。
でも、照に話しかけられただけで、"寂しくなる"と一つ言われただけで、それらは簡単に崩れ去ってしまった。
どうやら自分に言い聞かせて、無理矢理、自己暗示的に納得していただけらしい。
本当はもっと、照と一緒にいたい。
本当はもっと、照と麻雀を打ちたい。
全て、叶わない。
もう、遅い、遅すぎる。
それどころか、叶うタイミングすら、最初から存在していなかったのだろう。
照と出会ったことそのものが、間違いだったのかもしれない。
私の初めては両方とも、快楽ごと照に預けてしまったのだ。
そのことを理解すると、また、少しばかり吐き気がこみ上げてきた。
照は玄関のすぐ側にいた。
菫「すまない、待たせた」
照「……泣いてきたの?」
なんで、一発で見抜くんだよ。
しっかりと、鏡で跡を直してきたはずなのに。
なんでこいつは、私のことを知り尽くしているんだ。
なんで私は、こいつのことを知り尽くしているんだ。
ああ、なるほど。
こうして互いを理解し合えるほど深い関係だったなら、せめてもの救いと言える。
結果がどうあれ、私たちはただ、身体を重ねるだけの関係ではなかったのだ。
照「っと……大丈夫?」
奇しくも、最初の頃と全く同じ状況だった。
照に寄っかかるように強く抱きついて、耳をくっつけて、お互いの顔を隠している。
私が泣いていることは、照は察しているだろう。
だからこそこうして抱きついていることも、照は知っているはずだ。
内面が筒抜けだろうと、それで構わない。
もう最期になるのだから、せめて外面くらいは、破綻していない弘世菫として過ごさせてほしい。
口に出して決めたことではない。
けれど私も、照も、これが最後になるであろうことは察している。
照「っ、あっ、うぁっ……」
菫「はあっ、あっ……んぅっ!」
私は、照よりもやや遅く絶頂を迎えた。
いつもは、照の名前を呼びながらすることなのに――なあ。
喉の方まで出かけた想い人の名前は、口に出さず身体の中へ押し返すことにした。
くたびれた私たちは、お互いに胸を重ねて、倒れたまま休憩する。
最後の最後は、ひどく疲れてしまった。
耳には、照の激しい呼吸音が侵食してきている。
恐らく照の方にも、私のそれが侵食しているはずだ。
しばらく荒い呼吸をした後、私たちは一言も喋ることなくキスをした。
舌を重ねない、軽いキス。
行為の最初と最後には、毎回キスをするのだから、これが正真正銘最後の触れ合いだ。
この触れ合いで、私達の関係は全て解除される。
最後のキスは最初と違って、不思議と甘い味がした。
お互いに、最後はどうやってケリをつけるべきか手探りしている状態だ。
照はどうだかわからないが、私にはただ一つだけ、やり残したことがある。
それだけは、どうしても実行しておく必要があった。
もし照にやり残したことがあったら申し訳ないけど、その枠はどうしても私に譲って欲しい。
菫「照、私は今から告白する。 こっびとく振ってくれ」
照「……わかった」
トイレで泣いた通り、私には確かに未練が残っていた。
それを本当の意味で断ち切らねば、お互いに先へは進めない。
告白の言葉は、最初と違って簡単に口から出ていってくれた。
菫「照、好きだ。 付き合ってくれ」
照「菫に恋愛感情を抱くことは"絶対に"ない」
菫「……ふふ、ありがとう」
照「…………」
最後にしぶとく残っていた未練は、心の中心部を道連れにして切り落とされていった。
ぽっかりと空いた穴を見つけた後――身体が、なんだかひどく軽くなった気がした。
私は、ありがとうの言葉と一緒に、うまく笑えているだろうか。
涙を流しつつも、最後に相応しい顔を作れているだろうか。
なあ、照――。
時が過ぎて、私と照は大学二年生になっていた。
年齢も互いに二十歳になり、もう酒も飲める。
自分で言うのもなんだが、高校生の頃と比べると、随分と大人になったと思う。
少なくとも、二十という年齢に恥じない程度の精神力は身につけたつもりだ。
照との最後の日を補足しよう。
私は帰宅してから、照のアドレスを削除しようと考えたのだ。
アドレスを削除しても、向こうからメールが来たら意味がないから、まずはアドレスを変えることとした。
そうした後で、照へ別れの連絡を入れるために、メールの作成画面を開いた。
"さようなら"
――この一文が打てたら、どんなに楽なものか。
未練こそない、が、やはり照のことは好きなのだ。
友人としても、それ以上のものとしても。
私はただ、こいつと連絡を取り合える仲であれば、それで十分だ。
最終的に、最初の”さ”すら打つことなく、打つことができず、この計画は断念してしまう。
"さようなら"と打つべきはずだった入力欄には、"アドレスを変えた"とだけ入力して、送信ボタンを押した。
私は大学に不慣れなこともあって、勝手がわからずに講義を入れすぎてしまった。
それに加えて、照への想いを埋葬するかの如く、麻雀へと没頭しいった。
照も淡々とした性格だから、多少のやりとりこそするものの、向こうから遊ぼうなどといった連絡は寄越さない。
そんな様々な要素が重なったせいか、一年の内はメールこそすれど、一度も照に合わずに終わってしまった。
もしかしたら、それでちょうど良かったのかもしれない。
今の私は照の横に並んで、照と競い合いながら麻雀をできる、なんて、それだけの自信と力を身につけることができたのだから。
本当は、わざと講義をたくさん入れたことも、わざと麻雀漬けになっていたこともわかっている。
こちらから会おうと申し出れば、照はきっと空いている日時を教えてくれただろう。
私のほうから空いた日時を教えてやってもいいし、それを無視するほど照は冷めた性格ではない。
調整なんて、いくらでも可能だ。
つまるところ、私は再会するという選択から、敢えて目を逸らしていたらしい。
年齢的に区切りがつき、大人になったと自覚できる二十になるまで。
菫「久しぶりだな」
照「変わらないね」
菫「照もな」
今日が、その再会の日である。
先刻は照に対して"変わらない"とは言ったものの、実際、照はそれなりに変わっていた。
なんだか背も少しばかり伸びたように思えたし、見たところ雰囲気が大人びている。
元々照は大人びていたのだが、大人びている高校生とはまた違った、本物の大人の雰囲気を身に着けていた。
加えて、整った顔立ちも相まって、高校の時よりも更に美人に成長している。
昔の私が見たのなら、顔を真っ赤にして動けなくなっていたろうな。
無論、今ここにいる私も、頬がやや熱くなったのは自覚している。
当時と違うのは、吹っ切れたような熱さを持ち合わせていないこと。
それと、仮に持ち合わせていたとしても、それを実行する気がないということ。
「お待たせしました」
菫「ありがとう」
照「じゃあ、乾杯」
菫「乾杯」
大人になっても、私達の関係は変わらない。
それを今日この時になって、やっと自覚できた。
口に入れたビールは、確かに美味しいけれども、ひどく苦い味をしていた。
私も私で調子がよくなり、高校の頃を思い出して、照に一つの質問をする。
あの時と、同じく。
菫「お前、恋人とかできたのか?」
照「全く、作るつもりもない」
それにはもう、何も思わなくなっていた。
ただただ、こんな美人がもったいないな、なんてと思うばかり。
照「菫は?」
菫「私だって、いないさ」
照「もったいない」
菫「そうはいっても、気がないんだから仕方ないだろ」
そう、私はもう、恋人を作る気など持ち合わせていなかった。
なぜなら、照――お前の存在があるからだよ。
私の片思いは、弘世菫か、宮永照のどちらかが生き続ける限り続くものだろう。
それは仕方ないさ、回避する手段も、成熟させる手段も、高校に置き忘れてしまったから。
この恋を実らせることもなく、ただ照の友人でいること――それが現在、私が唯一願っていることだった。
卒業式の日にできた、埋まる兆しのない心の空洞は、もうどうしようもないから目を背けることにした。
おわれ
死にたい
Entry ⇒ 2012.10.14 | Category ⇒ 咲-Saki-SS | Comments (0) | Trackbacks (0)
雪歩「甘くて、甘い、雪解けの水」
P「ひと段落したし、少し休憩するか…」
雪歩「あの、プロデューサー。お茶、どうぞ」
P「お、さんきゅ…」ズズー
P「ふぅ…なんて言うか雪歩のお茶は落ち着くなぁ…」
雪歩「そ、そうですか?ありがとうございますぅ」
P「礼を言うのは俺の方さ、ありがとな」
雪歩「えっと、あの…どういたしまして///」
P「それにしても…他のアイドル達がいないとこんなに静かなんだなぁ…」
雪歩「…そ、そうですね」モジモジ
P「ん?どうした、なんか様子が…」
雪歩「あの、昨日お茶を淹れたとき…」
P「あ、あぁ…ついうっかり頭撫でちゃったな。一昨日姪っ子が来てたからつい癖で…すまん、もうしないからそんなに警戒しないでくれ」
雪歩「いえ、そうじゃなくて…」
P「?」
雪歩「また、撫でてくれると嬉しいなって…」
雪歩「男の人ですけど、プロデューサーですから…」
P「そっか、慣れてかないと駄目だもんな。うーん…じゃあそこに座って」
雪歩「そ、そういうことじゃ…うぅ…」ポスッ
雪歩「ぁぅ…」
P「えーっと…そんなに緊張しなくてもいいぞ?」
雪歩「そう言われても緊張しちゃうんですよぉ」
P「そっか、まあできるだけ優しくするように気をつけるよ」スッ
雪歩「ぁ…」
P「…」ナデナデ
雪歩「はい…大丈夫ですぅ」
P「そっかそっか」ナデナデ
雪歩「なんだか、とっても優しい感じがします」
P「そうなのか?姪っ子もいつもそう言ってせがんでくるんだが、俺にはよく分からんな…」ナデナデ
雪歩「姪ちゃんと仲良いんですね」
P「うーん、どうだろ…時々世話を押し付けられてるだけだし」ナデナデ
雪歩「でもよく頭を撫でてあげるんですよね?」
P「まあ、それはそうだが…」ナデナデ
P「そうかな?」ナデナデ
雪歩「そうですよ。だから私も…」
P「雪歩も?」ナデナデ
雪歩「あっ、えっと、男性恐怖症でもプロデューサーなら大丈夫なんじゃないかなって…」
P「他の男の人はまだ苦手か」ナデナデ
雪歩「はい…挨拶するくらいなら大丈夫になりましたけど」
P「まあ少しずつ慣れていけばいいさ」ナデナデ
雪歩「はい、ありがとうございます」
P「大丈夫だよ、いつもは1時間くらいぶっ通しとかざらだし」ナデナデ
雪歩「でもなんだかぎこちなくなってますよね?」
P「それは…撫でる相手が膝の上にいるから…」ナデナデ
雪歩「じゃ、じゃあ…」スッ
P「ゆ、雪歩…!?」
雪歩「さ、さすがに膝の上は無理ですから…隣で…」ポスッ
P「大丈夫か?さっきより近くなるし…それに抱き寄せるみたいになっちゃうけど…」
雪歩「は、はい、大丈夫です…!」
雪歩「ぁ…」
P「…大丈夫か?」
雪歩「はい…だ、だからその…」
P「はは、今日の雪歩はなんだか甘えん坊だな」ナデナデ
雪歩「それは…!だって…」
P「…だって?」ナデナデ
雪歩「うぅ……もしかしてからかってます?」
P「若干」ナデナデ
雪歩「プロデューサー!」
雪歩「ほんとにそう思ってますか?」
P「あぁ、雪歩が可愛いのが悪い」ナデナデ
雪歩「そ、そんな…!私なんてひんそーでちんちくりんで…」
P「あんまり言うといろんな奴に怒られるぞ?っていうか今のは突っ込むところ…」ナデナデ
雪歩「そ、そうなんですか?」
P「そうなんですよ」ナデナデ
雪歩「すみません…」
P「いや、別にいいさ」ナデナデ
雪歩「…」
P「…」ナデナデ
雪歩「あとでちゃんとお仕事しないと律子さんに怒られちゃいますよ?」
P「…アイドルのコンディションを整えるのも仕事の内ってことで」ナデナデ
雪歩「律子さん怒りそうですぅ…」
P「というか、現在進行形で仕事できないようにしてる奴に言われてもなぁ…」ナデナデ
雪歩「あぅぅ…や、やっぱり迷惑でしたか…?」
P「まさか、迷惑ならこんなことしないさ」ナデナデ
雪歩「そうですか…少しだけ安心しました」
P「それはよかった」ナデナデ
P「いい天気だし、美希じゃないが昼寝でもしたくなるな…」ナデナデ
雪歩「…」ウト…ウト…
P「雪歩?おーい、雪歩ー」
雪歩「あ、す、すみません…!今私寝ちゃって…」
P「眠いなら寝たらどうだ?収録までまだ時間あるだろ」
雪歩「で、でも折角……なんですし」
P「ん?何って?」
雪歩「あ、あの…よかったら膝枕とか…してもらえませんか?」
P「膝枕?」
雪歩「でもでも、きっと安心できると思うんです…!」
P「まあそんなに言うんならいいけど…寝心地悪くても文句言うなよ?」
雪歩「は、はいっ!」
P「えーっと、俺はここに普通に座ってればいいんだよな?」
雪歩「…」
P「雪歩?」
雪歩「…」
P「おーい」ペシペシ
雪歩「ひゃいっ!ふ、不束者ですが、精一杯頑張りますのでよろしくお願いしますぅ…!」
雪歩「は、はい…」スー…ハー…
P「もう一回」
雪歩「スー…ハァー…」
P「…落ち着いたか?」
雪歩「はい…」
P「まあ無理することはないさ。さっきも言った通りゆっくり慣れていけば…」
雪歩「…えいっ」コテン
P「大丈夫なのか?」
雪歩「私が…したいと思ってしてることですから…」
雪歩「!」ビクッ
P「っと、悪い…調子に乗りすぎた」
雪歩「い、いいんです…!ちょっと吃驚しただけですから」
P「でも…」
雪歩「続けてください…」
P「分かったよ」ポンポン
雪歩「ありがとうございます」
P「…」ポンポン
雪歩「ふふっ」
P「こういうの?さっきも言った通り姪がいるからな」ポンポン
雪歩「こ、恋人さんとかは…」
P「残念ながらお前達のプロデュースが忙しすぎてなぁ…」ポンポン
P「せいぜい学生時代の真似ごと程度だよ」ポンポン
雪歩「そ、そうなんですか…」
P「でも急にそんなこと聞いてどうしたんだ?」
雪歩「えっと、私にはそういうの、ないですから…」
P「何言ってるんだ、雪歩はまだまだこれからだろ?」ポンポン
雪歩「はい…これから、ですね…」
雪歩「な、なんですか?」
P「なんかこう、複雑だなぁ…」ポンポン
雪歩「それって…」
P「いや、雪歩が選ぶくらいなんだからいい奴なんだろうけどさ、なんつうか俺の雪歩をー!みたいな?」ポンポン
雪歩「お、俺の…///」
P「娘を嫁にやる父親の気持ちってこんななのかなぁ…」ポンポン
雪歩「…父親ですか」シュン
P「あれ?なんかテンション下がってる?」
雪歩「別になんでもないですぅー」
P「…さすがに仰向けになられるとバッチリ目が合って少し恥ずかしいな」
雪歩「わ、私って、娘みたいな感じなんですか?それってやっぱり私がひんそーでちんちくりんだから…」
P「雪歩がっていうかアイドル全員が娘みたいな感じかなぁ…」
P「やっぱり俺が世話してやらないと、みたいなとこあるっていうか…」
雪歩「だったら!トップアイドルになって独り立ちできるようになったら…もう違うんですよね?」
P「んー、まあそうかもな。ちょっとさみしい気はするけど」
雪歩「じゃあ私、今まで以上に頑張ってトップアイドルを目指します…!」
P「えっ…俺の娘ってそんなに嫌か?直接そう言われると少し悲しいものが…」
雪歩「嫌じゃないけど…嫌なんですっ…!」
P「むぅ…よく分からん」
雪歩「あっ…そうですね」
P大丈夫か?「なんだかんだで結局寝なかったけど…」
雪歩「はい、やる気は十二分ですっ!」
P「いい返事だ。それじゃ、終わったら迎えに行くから、しっかりやってこいよ?」
雪歩「プロデューサーも、律子さんに怒られないように頑張ってくださいね?」
P「いやいや、律子に怒られないためじゃなくてお前達のために頑張るさ」
雪歩「ふふっ、ありがとうございます」
P「じゃあ雪歩、行ってらっしゃい」
雪歩「行ってきます、プロデューサー」
P「よ、お疲れ」
雪歩「プロデューサー、見てたんですか?」
P「最後の方だけだけどな。ほれ、お茶」
雪歩「ありがとうございますぅ」
P「今日は調子よかったみたいだな」
雪歩「えっ…!」
P「スタッフの人が褒めてたぞ?『今日は男と話すシーンが多かったのにNGが少なかった』って」
雪歩「それは…プロデューサーのおかげです」
P「あぁ、行く前のあれでちょっとは慣れたか」
雪歩「そういうことじゃ……やっぱりいいです」
P「それじゃ、少し早いけど帰るか」
雪歩「はい、急いで着替えてきますね」
P「あんまり慌てると転ぶぞ?」
雪歩「春香ちゃんじゃないんですから…私は転びませんよ」テクテク
P「いやいや、そう言って油断してると…」テクテク…ズルッ
P「おわっと…危ないところだった」
雪歩「プロデューサーの方が心配です」
P「ははは、面目ない」
雪歩「はい!よろしくお願いしますぅ…!」
P「いい返事だ。そんじゃしゅっぱーつ」ブロロロロ
雪歩「お、おー…?」
P「でも助手席でよかったのか?今日は疲れただろうし家に着くまで後ろで寝ててもいいのに…」
雪歩「いえ、私はこっちの方が…」
P「助手席ってあんまり広くないし俺は後部座席の方が好きだけどなぁ…」
雪歩「でも私は助手席の方がいいんです」
P「へぇ、珍しいな」
雪歩「そうかもしれません」
雪歩「はい?」
P「今日はほんとに調子良かったんだな。雪歩の演技見るために早めに仕事切り上げて来たのにちょっとしか見れなかった…」
雪歩「怒られますよ?」
P「いいさ、雪歩のためなら…」
雪歩「アイドルのコンディションを整えるのも仕事の内、ですか?」
P「そういうこと」
雪歩「でもそうされているうちは、まだまだってことですよね」
P「そうともいうかもな」
P「ちょっとしか見てないけど現場全体の雰囲気もすごかった」
雪歩「…生意気かもですけど、私のやる気でみんなを引っ張って行ったような感覚でした」
P「いや、実際そうかもしれん」
P「トップアイドルっていうのは、今日みたいな感じがずっと続けられるやつのことなんだよ」
P「やっぱり雪歩には素質がある。社長も俺も見る目があるってことだな」
雪歩「そしたらプロデューサーも私の調子を見に来なくなりますか…?」
P「なんだ、見られたくないのか?」
雪歩「そういうことじゃ、ないんですけど…」
P「ま、確かにそうなるだろう」
雪歩「そうですか」
P「しかしそんなことになってしまってはサボりの口実が…」
雪歩「やっぱりサボりなんですか?」クスッ
P「ん?なんだ」
雪歩「今日の私、頑張りましたよね?」
P「おう、過去最高の頑張りだったんじゃないかと思うぞ」
雪歩「だからご褒美を、もらえませんか…?」
P「ご褒美…?」
雪歩「はい」
P「って急に言われてもなぁ…あっ」ティン
P「じゃああそこ入ろうか」
雪歩「え?」
雪歩「それでファミレス、ですか?」
P「ホントはもっといいとこ連れて行ってあげたいんだけど給料日前で…すまん」
雪歩「そ、それは別にいいんですけど」
P「まあ給料出たらもっとちゃんとしたとこに連れて行ってやるからさ、オフの日にでも」
雪歩「ホントですか…!?」
P「ほんとほんと、今日はその前哨戦ってことで」
雪歩「いえ、そういうことなら今日は自分で出します…!」
P「え?でも…」
雪歩「給料日前で辛いんですよね…?」
P「…ありがとな」
P「もちろんだ。って言うかそんなに期待されるとは…」
P「接待用の店でちょうどいいとこあったかな…雪歩はどんなもの食べたい?」
雪歩「お店はどこでもいいんです」
P「どこでも?」
雪歩「はい、どこでも…」
P「それはそれで難しい注文だなぁ…」
雪歩「すみません」ニコニコ
P「顔が満面の笑みなんだが?」
雪歩「そうですか?」ニコニコ
P「そうですよ」
雪歩「忘れてました…」
P「俺も若干忘れかけてた」
雪歩「うーん…なににしよう…」
P「あ、俺決めた」
雪歩「もうですか…!?」
P「うん、この期間限定のやつ」
雪歩「プロデューサーって結構限定物に弱いですよね」
P「だって今しか食べれないんだぜ?」
雪歩「それは確かにそうですけど…」
雪歩「うーん、でもそれは…あ、これにします」
P「定番もど定番なメニューだな」
雪歩「はい、これとってもおいしですし」
P「へぇ…そうなのか」
雪歩「食べたことないんですか?」
P「いつも限定物ばっか食べてるから…」
雪歩「本末転倒じゃないですか」クスッ
P「言われてみればそうかもしれん」
P「じゃあ店員呼ぶぞ」スイマセーン
雪歩「そうなんですか…?」
P「うん、ほんと。ほらこれ、一口食べてみ?」
雪歩「ひぅっ!」
P「っと、すまん。あまりのうまさについうっかり…」
雪歩「い、いえ…その……も、もう一回お願いします!」
P「えっ?」
雪歩「……あ、あーん///」フルフル
P「えーと…いいのか?」
雪歩「…」アーン
雪歩「…」ハムッ
P「ど、どうだ?」
雪歩「お、おいしいですぅ」
P「だろー?これめっちゃうまいよな」
雪歩「で、でも…こっちもおいしいですよ?」
P「え?」
雪歩「あ、あーん…」オズオズ
P「さすがにそれはちょっと恥ずかしいって言うか…」
雪歩「わ、私だって恥ずかしかったんですよ…!?」
雪歩「えっと、お返しです!お返し……あの、こうして待ってる方が恥ずかしいんですけど…」
P「分かったよ。じゃあ…」パクッ
P「…うまいな」
雪歩「でしょう?」
P「割と当たりはずれの大きい店だと思ってたから意外だな」
雪歩「それは、期間限定の物ばかり食べてるからだと思いますぅ…」
P「雪歩のおかげでこの店の新しい一面を知れたよ」
雪歩「それは大げさですよ」クスッ
P「ふー、食った食った」ポンポン
雪歩「プロデューサー、おじさんみたいです」
P「なに?俺はまだまだ若…ってまあ雪歩から見ればおじさんかもしれんな」
雪歩「そんなことないです」
P「初めに言いだしたのは雪歩じゃないか」
雪歩「そ、それは…おじさんじゃないのにおじさんみたいなことするからですよ…!」
P「なるほど、やっぱまだまだ若いつもりでいいってことか…さて、そろそろ行くぞ」
雪歩「はいっ」
雪歩「お父さん、もう怒ったりしてませんよ?」
P「それでもなんとなく、プレッシャーみたいなものが…」
雪歩「?」
P「ま、まあそれはいいんだ。ほら、そろそろ帰りな」
雪歩「あ、あの…」
P「どうした?」
雪歩「少しだけ、お散歩しませんか?」
P「こんな時間に?まあ腹ごなしにはいいかもしれんが…」
雪歩「ダメでしょうか…」
P「いや、いいよ。でも少しだけだぞ?」
雪歩「そろそろ衣替えしないとですね」
P「俺はほとんどスーツだから、涼しい方がありがたいよ」
雪歩「確かに、夏はすごく暑そうでした」
P「…」
雪歩「…」
P「おっ」
雪歩「?」
P「月が綺麗だ」
雪歩「へっ…!?」
P「ほら、満月ではないみたいだけどさ、真っ黒い空に少しだけ欠けた月が浮かんでて…」
雪歩「あっ、そうですね…」
P「これも散歩に誘ってくれた雪歩のおかげだな」
雪歩「そんな…!」
P「…」
雪歩「…」
雪歩「知ってますか?夏目漱石さんは英語のI love youを『月が綺麗ですね』と訳したそうですよ」
P「へっ?あ、いや、さっきのはそういうつもりじゃ…」
雪歩「分かってます」
P「そうだな」
雪歩「プロデューサー」
P「ん?」
雪歩「月、綺麗ですね」
P「あぁ、そうだな」
雪歩「手を繋いでもいいですか?」
P「犬でもいたか?」
雪歩「いえ、私がそうしたいからするんです」ギュッ
P「そっか」
雪歩「え?」
P「雪歩の手」
雪歩「そうですか?」
P「大事にしないとすぐ折れちゃいそうだ」
雪歩「そんなことないですよ」
P「確かに、脆そうに見えて芯は強いからな」
雪歩「何の話ですか?」
P「雪歩の話だよ」
P「男の手なんてこんなもんさ」
雪歩「そうなんですか…」
P「そういうことも少しずつ知っていけばいいよ」
雪歩「あと、すごく大きいです」
P「そうかな?普通だと思うけど」
雪歩「そんなことないですよ」
P「雪歩が言うのなら、そうなのかも」
雪歩「はい、そうなんです」
雪歩「…そろそろ戻りましょうか」
P「ん、そうだな」
雪歩「はい、また明日」
雪歩「プロデューサー、約束、忘れないで下さいね?」
P「約束…?なんかしたっけな…」
雪歩「オフの時に食事に連れて行ってくれる約束です…!」
P「冗談だよ、冗談」
P「期待にこたえられるかは分からんが、できるだけ頑張るよ」
雪歩「よろしくお願いします」
P「ん、じゃあおやすみ」
雪歩「はい、おやすみなさい」
雪歩「いえ、まだ10分前ですし」
P「でも待たせちゃったんだろ?なら遅刻さ」
雪歩「私が早く来すぎたばっかりに…!ごめんなさいー!」
P「ここで謝罪合戦しつづけるのもなんだし、行こうか」
雪歩「あ、はい。ごめんなさ…」
P「はは、でもなんか安心したよ」
雪歩「安心、ですか?」
P「最近の雪歩はキリッとしてるって言うかしっかりしてるからさ」
P「そういう後ろ向きなとこ見るの久々だからちょっとな」
P「しっかりしてる雪歩は仕事する上では助かるけどな」
雪歩「そう言ってもらえると頑張ってる甲斐がありますぅ」
P「それにしても、なんでこんなとこで待ち合わせなんだ?」
P「別に家まで迎えに行ってもよかったし万一アイドルってばれたら大変だろ」
雪歩「それは…」
雪歩「やっぱり待ち合わせが醍醐味って春香ちゃんが言ってましたし…」
P「醍醐味?」
雪歩「はい、待ってる間もずっと楽しかったです」
P「よく分からんが変な奴だな」
P「ふっふっふ、それはだなぁ…」
雪歩「それは…?」
P「着いてみてのお楽しみだ」
雪歩「えぇっ…そこで焦らすんですか?」
P「っていうか着いたし」
雪歩「プロデューサー、楽しんでます?」
P「そりゃもう」
雪歩「ほどほどにしてくださいね?」
P「善処する」
P「だろ?雪歩が気に入りそうな店を頑張って選んだんだ」
雪歩「ありがとうございます」ニコッ
P「最近の雪歩は頑張ってるしな。大サービスだ」
雪歩「えへへ、なんだか少し照れちゃいます」
P「いやいや、雪歩は堂々としててくれ」
雪歩「?」
P「実は俺もこの店来るの2回目だから、ちょっと緊張してるんだ」
P「雪歩が縮こまってたら俺が隠れられない」
雪歩「ふふっ、なんですかそれ」
雪歩「そ、そんな…!責任重大すぎますぅ…」
P「心配しなくてもこの店の物は多分大体おいしいし、なにより俺は雪歩を信じてるからな…!」
雪歩「その言葉はもっと別の時に聞きたかったです…」
P「んじゃ、俺ちょっとツイッターにランチなうって投稿してるから」
雪歩「全然余裕そうですよね…?」
P「いや、今にも空気に押しつぶされそうだ」ピロリロリーン
P「雰囲気のいいお店でランチなうっと」
雪歩「ほ、ホントに決める気ないんですか…?」
雪歩「そうなんですか?私、自分が食べたい物を頼んだだけなんですけど…」
P「へぇ、ファミレスの時のイメージで雪歩とは食べ物の好みが真逆なのかと思ってたよ」
雪歩「でもプロデューサーの頼んだものも、私が頼んだものも、どっちもおいしいって思いましたよ?」
P「なるほど、確かに…」
雪歩「あ、あの…それより…」
P「ん?」
雪歩「ここ個室で、誰にも見られないですから…」
P「ほうほう」
雪歩「えと、その…」
P「うんうん」
P「いやー、全くわからないなー」
雪歩「うぅ……あの…一口、もらえませんか?」
P「良く言えました。じゃあ、あーん」
雪歩「あ、あーん…」ハムッ
P「うまいか?」
雪歩「…はい、とっても」
P「じゃあ俺にもお返し」
雪歩「あ、はい…あーん」
P「あーん…」パクッ
雪歩「二人?」
P「俺が店を選んで雪歩がメニューを選んだ。だから二人、な?」
雪歩「あっ……そうですね!」
P「それにしても雪歩、人にあーんってする時まで、口開けなくてもいいんじゃないかと思うんだけど」
雪歩「へっ?開いてました…?」
P「うん、ばっちり」
雪歩「きゅ、急に恥ずかしくなってきましたぁ…」
P「個室とはいえ真昼間から食べさせ合いっこしといて何言ってんだ」
雪歩「うぅ…そういうこと言わないでください…改めて聞くともっと恥ずかしく…」
雪歩「ごちそうさまでした」
P「どうだった?」
雪歩「とってもおいしかったです!」
P「そう言ってもらえると連れて来た甲斐があるよ」
雪歩「ありがとうございました」
P「別にいいって」
雪歩「あの、この後ってなにか予定とかありますか…?」
P「いや、特にはないな」
雪歩「だ、だったら…私に少し、付き合ってもらえませんか…?」
P「もちろん」
雪歩「えと、美術館に…今茶器の展示をやってるって聞いて…」
P「なるほど」
雪歩「あの、興味なかったですか…?」
P「んー、そうでもないさ」
雪歩「ならよかったです…」
P「んじゃ行くか?」
雪歩「あ、その前に…今日ってご褒美なんですよね?」
P「ん?まあそうだな」
雪歩「なら手を、繋いでもらえませんか?」
雪歩「そんなこと言ったら今こうしてることが既に問題です…!」
P「まあそれは確かにそうだけど…」
雪歩「だから、その…お願いします」
P「うーん…雪歩に頼まれちゃうと弱いなぁ」
雪歩「ありがとうございます…!」
P「そんじゃ今度こそ、行こうか」ギュッ
雪歩「あ、あの…」ギュッ
雪歩「こっちの方がいいです」
P「…これって恋人繋ぎってやつだっけ?」
雪歩「は、はい…」
雪歩「そんなこと言ったら今こうしてることが既に問題です…!」
P「まあそれは確かにそうだけど…」
雪歩「だから、その…お願いします」
P「うーん…雪歩に頼まれちゃうと弱いなぁ」
雪歩「ありがとうございます…!」
P「そんじゃ今度こそ、行こうか」ギュッ
雪歩「あ、あの…」ギュッ
雪歩「こっちの方がいいです」
P「…これって恋人繋ぎってやつだっけ?」
雪歩「は、はい…」
雪歩「それにこうして握れば」ギュッ
雪歩「すぐ近くにいられます」
P「なるほど、世の恋人たちってのは中々考えてるんだなぁ」
雪歩「みんながみんな考えてこうしてるわけじゃないと思いますけど…」
P「じゃあ最初に考えたやつがすごいってことで」
雪歩「誰なんですか?」
P「さあ、わからん」
雪歩「別に誰でもいいですけどね」クスッ
P「なんだ、千早の真似か?」
雪歩「はい。ポスターを見るだけでワクワクしてきます」
「ご来場ありがとうございます」
P「じゃあ俺が…」ゴソゴソ
雪歩「あ、私割引券持ってますから…」
「ありがとうございます。ごゆっくりどうぞ」
P「…あのくらい払ってもよかったのに」
雪歩「お昼ごちそうしてもらいましたし、ここに来たのは私の我儘ですから」
P「我儘じゃないさ。俺は雪歩と一緒に来たいと思ったから来たんだしな」
雪歩「…ありがとうございます」
P「確かに、すごく素敵だ」
雪歩「やっぱりこういうのって自然と職人の技が合わさってできるんですよね…なんだか感動ですぅ」
P「そんなことないはずなのになんだか輝いているように見えるよ」
雪歩「はい、お茶碗のヒビだとか形だとか…今の物のように決して綺麗なものばかりではないですけど」
雪歩「そこに人の想いや生活が詰まっているんだと思うとなんだか考えさせられちゃいます」
P「うん、やっぱり生き生きしてる雪歩はいい」
雪歩「へっ?」
P「茶器を見て興奮してる雪歩は水を得た魚みたいだ」
P「今度こういう博物館の取材収録でもとってくるかな…」
P「だって俺、ぶっちゃけると茶器にはあんまり興味ないし」
雪歩「やっぱり私が無理を…」
P「茶器には興味ないが茶器に興味がある雪歩には興味がある」
雪歩「うぅ…なんだかごまかされてる気がします…」
P「そんなことないさ。今日はいつもと違ってリフレッシュできてるからな」
雪歩「いつも…プロデューサーはお休みの日何をしてるんですか?」
P「だらけてるか仕事してるかのどっちかだな」
雪歩「それは確かにリフレッシュできそうにないです…」
P「趣味と言えることがないからなぁ…割と真面目に仕事が趣味かもしれん」
P「分かってはいるんだが…」
雪歩「あの、今日はリフレッシュできたんですよね?」
P「まあな。雪歩といるとなんか落ち着くし」
雪歩「じゃあまた時々…こうやって一緒に過ごしませんか?」
P「雪歩と?」
雪歩「プロデューサーがよければですけど…」
P「時々?」
雪歩「…プロデューサーがよければもっとでも」
P「ん、ありがと」ポンポン
雪歩「はい…!これも約束、ですよ?」
P「ん、約束だ」
P「っと、もう展示は終わりか」
雪歩「みたいですね」
P「どうする、帰るか?ちょっと微妙な時間だが…」
雪歩「あの…」
P「さてさて、今度は何が来るんだ?」
雪歩「プロデューサーのお家に、行ってもいいですか?」
P「え?」
P「誰が?」
雪歩「私が」
P「どこに?」
雪歩「プロデューサーのお家に行きたいんです」
P「えーっと…さすがにそれはまずいんじゃないかなーと思うんだけど」
雪歩「ダメですか?」
P「ダメって言うかやっぱり世間体とかそういうのが…」
雪歩「プロデューサー」
P「…」
雪歩「お願いします」
雪歩「ここがプロデューサーのお家ですか…思ったより片付いてますね」
P「まあいつもは寝に帰ってきてるだけだからな」
雪歩「あっ、私達のDVDとか写真集…ちゃんととっておいてくれてるんですね」
P「当たり前だろ?」
雪歩「あれ、でもなんで私のが真ん中に…他の皆は50音順なのに…」
P「えっ、あーそれはだな…そう、最近見たんだ!それでちゃんと戻すのが面倒になって…」
雪歩「なるほど…ちょっと残念かもです」
P「残念って?」
雪歩「なんとなく、私が皆の中でトクベツだったらいいなって…」
雪歩「おかしいですね、私なんかが…」
P「俺は雪歩が他の皆より劣るだなんて、思ってないよ」
雪歩「プロデューサー…」
P「それに家まで来ちゃったのはさすがに雪歩が初めてだし、そういう意味では特別だよ」
雪歩「そう、ですか…嬉しいです」
雪歩「…あの、隣に座ってもいいですか?」
P「なんだ今更そのくらいのこと…」
雪歩「ありがとうございます」トテトテ…ポスッ
P「それで、俺の家に来たはいいが…なにをするんだ?」
雪歩「別に何も。私はただ、プロデューサーと一緒にいたいと思っただけですから…」コテン
雪歩「重いですか?」
P「いや、そんなことはないけど…」
雪歩「けど?」
P「こんなに近くて男性恐怖症は大丈夫なのかと思ってな」
雪歩「前にも言った気がしますけど、プロデューサーだから大丈夫ですよ」
P「俺だから…か」
P「信頼されてるんだな」
雪歩「はい、信頼しています」
P「ありがとな」
雪歩「え?」
P「ゆったりと時間が流れててさ…」
P「さっきも言った通り帰ったらすぐ寝ちゃうし。朝は朝でばたばたしてるからな」
雪歩「朝、弱いんですか?」
P「実はちょっとだけな」
雪歩「初めて知ったかもです」
P「そりゃばれないようにしてるからな」
P「寝ぐせチェックの時間がなければあと5分は長く寝てられる」
雪歩「そんなに気にしなくてもいいと思いますけど」
P「いやいや、営業もするんだし気にしなきゃまずいだろ」
P「…」
雪歩「…プロデューサー?」
P「…zzz」
雪歩「寝ちゃったんですか?」
P「zzz」
雪歩「寝てるんですよね…?」
P「zzz」
雪歩「プロデューサー、私、プロデューサーのことが好きです」
P「zzz」
雪歩「だけど、ちゃんと気持ちを伝えるのは、もっと後にします」
P「…」
雪歩「いつか、トップアイドルになれたときに…」
雪歩「今までの感謝の言葉と一緒に、伝えますから…」
P「…」
雪歩「その時にはきっと、聞いてくださいね?」
P「…zzz」
雪歩「…今はまだ、このぬくもりだけで十分です」
雪歩「気にしないでください。お疲れみたいでしたし」
P「でもちょっと寝たおかげでかなり元気になったよ。雪歩のおかげだな」
雪歩「そんな…でもお役に立てたのなら、嬉しいです」
P「ありがとな」
P「…よし、また明日から仕事がんばるぞー!」
雪歩「プロデューサー、頑張ってくださいね」
P「他人事みたいに言ってるが、雪歩もだぞ?」
雪歩「も、もちろんですぅ…!」
P「ってもうこんな時間じゃないか。家まで送るよ」
雪歩「あっ、ありがとうございます」
雪歩「いえ、お礼を言うのは私の方です。お昼ごちそうになっちゃって家にまで押し掛けて…」
P「ま、最近頑張ってたご褒美ってことで。それに俺も久々に休日を満喫できたし」
雪歩「ならよかったです」
P「あ、そうだ。家に来たことは内緒にしてくれよ?怒られたりいじられたりするのはごめんだ」
雪歩「一つだけ条件が…」
P「条件?」
雪歩「また、お家に行ってもいいですか?」
P「んー…まあ雪歩ならいいか」
P「お、この約束は指切りするのか」スッ
雪歩「はい」キュッ
二人「「ゆーびきーりげんまん うそついたら はりせんぼん のーます」」
二人「「ゆーびきった」」
P「…指切りもしたし、この約束は絶対に守らないとな」
雪歩「よろしくお願いしますね」ニコッ
雪歩「…それじゃあ、おやすみなさい」
P「おやすみ、雪歩。また明日」
雪歩「はい、また明日です」
終わり
かわいいゆきぽでした
Entry ⇒ 2012.10.14 | Category ⇒ アイマスSS | Comments (0) | Trackbacks (0)
士郎「セイバー……好きだ」ギュッ セイバー「!?」
TV<ヘヴィマシンガン!!
セイバー「あっ、凛! それは私のヘビーマシンガンです!!」
凛「いいじゃない協力プレイなんでしょ? 堅いこと言わないでよ
あっ、ほらアレとりなさいよ」
TV<ドゥロップショッ!!
セイバー「あっ!! クソ武器ではないですか!! いりませんよこんなもの!!」
ガラッ
士郎「セイバー」
セイバー「あ、士郎。すみません、うるさかったですか」
凛「ほっときなさいよ、ほらほらよそ見してると落とされ……」
士郎「セイバー……好きだ」ギュットダキシメル
セイバー「!?」
凛「えええええええ!!!!!」
TV<ア゙ッ-!!
凛「ちょっちょっちょっちょ、アンタなにやってんのよ離れなさいよ!」
セイバー「いや私ではなく士郎が! は、離れてくださ…」
士郎「セイバー……」ギュッ…
セイバー「ふわぁ……」
凛「ふわぁ……じゃないわよ!! えっ、なにどうなってるの!? ちょっと士郎!」
士郎「どうした、遠坂」キリッ
凛「えっ冷静?」
士郎「ああ、夕食か? そろそろ桜が買い物から帰ってくるはずだ」
凛「あ、ああ、そうなの……ところで」
士郎「セイバー、好きだよ」アタマナデナデ
セイバー「あっ……気持ちいいです、士郎……」
凛「あああああ駄目だったあばばばばばば」
士郎「なに慌ててんだよ、別に今日は何も無いよ。
強いて言うならさっき葛木先生と組み手やってきたくらいかな。やっぱ強いな、先生」
凛「そ、そうね……えーっと、士郎」
士郎「うん?」ホッペスリスリ
セイバー「あっ……あっ……」
凛「……とりあえずセイバーから離れない?」
士郎「なんでさ」
凛「えっ」
士郎「えっ」
セイバー「しろぉ…」トロ-ン...
士郎「そうかな」
セイバー「ハッ!そ、そうです士郎!離れてください!」
士郎「セイバー……嫌なのか?」シュン
セイバー「あっ、いや……そういうわけでは……」
士郎「そっか!!」パァァ
凛「いや止めなさいよセイバー!」
セイバー「あっ、えと、そもそもいきなりなぜこんな」
士郎「だって好きなんだ、仕方ないだろ」ホッペニチュッ
セイバー「えっ!?」カオマッカ
凛「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!」
桜「戻りましたー、どうしたんですか姉さん大きな声出して……
ってキャアアアアアアアアアア!!!!」
ガラッ
ライダー「どうしました桜!!ってのおおおおおおおおおお!!!!!!」
ガラッ
藤ねえ「士郎ー!おなかへっ……たあああああああああああ!!!!!」
4人「ぎゃああああああああああああああ!!!!!!!」
しばらくおまちください
凛「まずは状況を整理するわよ」
桜「そうですね」
士郎「ふふっ。セイバーの手、柔らかいな」
セイバー「そ、そんなこと……」
凛「なんとかハグはやめさせたものの」
桜「手は離しませんでしたね」
士郎「セイバーと離れるなんて、俺には考えられないよ」
セイバー「士郎‥‥」キュン
凛「キュンじゃないわよしっかりしなさいよ騎士王」
士郎「慌ててるセイバーも、かわいいな」テノコウニキス
セイバー「ひゃん!」
凛・桜「あああああああああ!!!!!!!」
しばらくおまちください
凛「はぁ、はぁ……何よコレ」
桜「ストレスで死んでしまいそうですね……」
凛「藤村先生もそりゃ壊れるわ……」
別室
藤ねえ「ねえおねえちゃんさっきのなーにー? えへへへ」
ライダー「幼児退行してしまった……」
桜「そうですね」
士郎「なにかあったのか?」
凛「アンタのことでしょうが!!」
士郎「な、なんだよ遠坂……あ、そうか腹減ってるんだな? よし、メシにしよう」
凛「いやいやいや」
士郎「セイバー、何が食べたい?」
凛「おい」
セイバー「し、士郎の作る料理なら……」
凛「止めろよ空腹王」
士郎「ははっ、そういわれると嬉しいな!よーし今日は気合い入れて作るぞ!」
セイバー「はいっ!!」
凛「話聞きなさいよ!!!」
凛「……なんで料理するときまでセイバーの手を離さないのよ」
桜「片手でやってますからなんだかやりづらそうですね」
凛「あっ」
桜「セイバーさんが後ろから抱きつく形に変わりましたね」
凛「セイバーが気を利かせたのね」
桜「そうでしょうね」
凛「よし、殺すわ」
桜「姉さん落ち着きましょう」
凛「じゃあアンタもその果物ナイフ置きなさいよ」
桜「積極的になったとかそんなレベルじゃないですからね。明らかに変です」
凛「誰か他のサーヴァントに何かされたのかしら」
桜「あり得ますね。ゴールデンボンバーとか怪しくありませんか?」
凛「それはないわね。アイツが好きなのはセイバーよ、わざわざこんな状況にしないでしょ」
桜「たしかに。むしろこの状況を見たら発狂しそうですね」
凛「フラグね」
桜「ですね」
ガラッ
ギル「セイバー!!我が愛する貴様に逢いにきてやっわああああああああ!!!」
凛「あらら」
凛「あいつ叫びながら泣いてるわよ」
ギル「うひゃああああああああああああ!!!」
桜「自分のほっぺをつねりはじめましたね」
凛「まあ夢ならよかったのにとは思うわよね」
ギル「うぅおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!」
桜「くずおれて膝をつきましたね」
凛「現実を知ったのね」
ギル「雑種めがああああああああ!!!!!」ダダダダ…
桜「この現状に耐えきれず帰っちゃいましたね、珍しい。てっきり宝具で先輩が串刺しになるかと」
凛「あいつ童貞くさいし多分こういうのだめなのよ」
桜「童貞王ですものね」
凛「そうね」
桜「そして姉さんは処女」
凛「黙れ」
凛「あっ」
桜「なにか?」
凛「そういや葛木先生と組み手したって言ってたわ」
桜「葛木先生と?」
凛「ええ」
桜「うーん、あの人が何かするとは思えないのですが……」
凛「そうよねぇ」
──そのころの柳洞寺では──
キャスター「あらー……? おかしいわね。どこにやったのかしら?」
葛木「ただいま」
キャスター「おかえりなさいませ、宗一郎さま。組み手はどうでした?」
葛木「ああ、やはりあいつは悪くない。中々に楽しい。……なにを探している」
キャスター「ああ、その、昔戯れに作った惚れ薬を……」
葛木「これか」
キャスター「えっ」
葛木「さきほど衛宮に飲ませた」
キャスター「!?」
葛木「スポーツドリンクに混ぜてな。うまいうまいと飲んでいたぞ」
キャスター「な、なぜそのようなことを……」
葛木「……キャスター。セイバーを監視、いや、盗撮しているな?」
キャスター「あう、そ、それはその……」
葛木「ならば、いつもと違うセイバーも見たくはないか?」
キャスター「……!! まさか、わたしのために……?」
葛木「私にできるのは、これぐらいしかない。すまない」
キャスター「宗一郎さま……嬉しい」
葛木「キャスター、いや、メディア……」
キャスター「宗一郎さまぁ……」
ここからは濃厚な大人の時間なのでカットされます。
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桜さんは純情可憐で素敵な乙女です
桜さんは純情可憐で素敵な乙女です
桜さんは純情可憐で素敵な乙女です
桜さんは純情可憐で素敵な乙女です
凛「ちょっと。よく考えたらキャスターがいるじゃない。アイツの仕業ね」
桜「間違いありませんね」
凛「どうせ惚れ薬とか媚薬とかそのへんでしょ」
桜「でしょうね。なんとか解毒しないと……」
凛「そうね、士郎のことだから、その……あ、アレなこと?にはならないと思うのだけど」
桜「でも、さっきはキスしてましたよね?」
凛「……で、でもほっぺと手の甲でしょ?ぎ、ギリギリセーフよ」
桜「セーフですか。じゃあ私も先輩のそこにキスしますね」
凛「今そういう話してるんじゃないわよ!ていうか駄目に決まってるでしょ!!」
桜「それでは姉さんもご一緒に」
凛「えっ……や、ややややらないわよ!!!!」
アーチャー「凛、良い魚が穫れたぞ。刺身にしよう」
凛「アーチャー、いいところに来たわね。緊急事態よ」
アーチャー「ほう、どういうことかな?」
凛「アレよ」
士郎「セイバー、味見してくれ」
セイバー「はい……うん、大変美味です」
士郎「良かった!あ、ほっぺについちゃったな」ペロ
セイバー「ひゃうん!!し、しろぉ……だめですよぅ……」
士郎「ははっ、いいじゃないか。それにセイバーがかわいいのが悪いんだぞ?」オデココツン
セイバー「むぅ……」
アーチャー「……なんだアレは」
アーチャー「そうだな……まずは2人ともテーブルから手を離さないか?限界が来ているぞ」
テーブル<メキメキメキャァヤメテェ
桜「あらあらまあまあ」
凛「こいつが貧弱すぎるのよ」
アーチャー「まあいい。しかし薬か……」
ドクンッ
アーチャー「!? んなっ……!!」
アーチャー「かはっ……く、くるな、凛……」
凛「何言ってんのよ!? 何よ、どうしたのよ!!」
桜「キャスターの魔術でしょうか!?」
凛「まずいわね……しっかりしなさい、アーチャー!!」
アーチャー「く、来るなっ……ぐああああああ!!!!」
凛「アーチャー!!!」
アーチャー「うわあああああ!!!」リンニダキツキッ
凛「」
桜「」
凛「ち、ちがう!!そんなんじゃない!!なにやってんのよあんた!離れなさい!!」
アーチャー「だ、駄目だ!! 抗いきれんっ!! 凛!! 好きだ、凛!!」ギュウウウ
凛「ちょっ、なんであんたまで……」カァァ
桜「……まさか」
凛「なに!? なんかわかったの!?」
桜「アーチャーさんって一応未来の先輩なんですよね?」
アーチャー「まあ……そうだな……。平行世界、ということにはなるが……んぎぎ」メッチャタエテル
桜「だから今の先輩の状態が作用しているんじゃないですか?
もしこのまま先輩が元に戻らなければ、一生このままになっちゃって、好きな人に気持ちを抑えられなくなる、と……」
凛「な、なるほど。ってアーチャーあんた私のこと……」
アーチャー「ち、違う!! これは断じて……違っ! ぬぁっ」アスナロダキッ
凛「きゃっ……うわぁすごくいいこれ……」トローン
桜「……家に帰ろうかなぁ……」
凛「あっ……」ショボン
桜「……姉さん?」
凛「あっ、いやその、これはちが」
アーチャー「と、とりあえず私は一度霊体化して、キャスターのところへ行ってみよう」スッ…
凛「えっ……」
桜「そうですね、お願いします」
凛「や、やれやれ!!しょうがない奴ね!!」
桜「姉さん、すごくツヤツヤしてますよ」
凛「……」
士郎「セイバー、あーん」
セイバー「あーん……うん、美味です! さすが士郎ですね!」
士郎「へへ」
セイバー「し、士郎!」
士郎「ん?」
セイバー「あ、あーん」
士郎「!!あ、あーん……うん、美味い。セイバーが食べさせてくれたから、もっと美味い」
セイバー「そ、そんな……」テレテレ
凛「‥‥」
テーブル<ヤメテーベキバキボキ
桜「あ、もしもし、壁殴り代行さんですか? はい、そうです、冬木の……」
士郎「セイバー、風呂に入ろう」
セイバー「い、一緒にですか」
士郎「嫌か?」シュン
セイバー「いえ、いきましょう!! お風呂に!! 2人で!!」
スパ-ン!
凛「行きましょうじゃないわよ!! 落ち着け!! あんたそれでも騎士王か!?」
セイバー「はっ!! あまりの快感に夢見心地でした」
桜「セイバーさん……」
セイバー「し、士郎。申し訳ありませんがお風呂は……また今度というこt」スパーン
凛「だから!そうじゃ!ないっ!!!」パーン!パーン!パーン!
セイバー「痛いっ!痛いっ!すみません出来心だったんです!!」
士郎「……だめか……うっ!!」
ドサッ
凛・セイバー「!?」
凛「あ、ありがとう」
セイバー「……で、では今度こそ解決策を……あっ」
凛「何よ……あっ」
桜「……気絶してるのに、セイバーさんの脚を掴んでますね」
凛「どんだけ離れたくないのよ……」ハァ
桜「ここまでくると、微笑ましささえ生まれますね」
凛「この瞬間だけね」
アーチャー「戻ったぞ」
凛「どうだった?」
アーチャー「やはりキャスターのモノだった。しかし今回のことは事故のようなものらしい。すでに解毒剤を用意していたよ」
凛「あらそうなの? 変なこともあるのね。まあいいわ。さっさと終わりにしましょう」
アーチャー「ああ、これが解毒剤だ」マッカナバラ
凛「えっ」
アーチャー「受け取って欲しい。これが私の気持ちだ」
凛「あ、アーチャー……」キュン
慎二「えんだああああああああああああああ!!!!!!いやあああああああああ!!!!」
桜「兄さんは帰って!!!!!姉さんも冷静になってください!!!」
セイバー「ていうかどっからわいたんですかこのワカメ!!」
凛「むしろ悪化してたわよ……」
桜「まんざらでもなかったくせに」
アーチャー「ちなみに先ほどの薔薇は、投影したものではない。君のために、買ってきたものだ」
凛「えっ……?」キュン
アーチャー「まがいものではない、私の……いや。俺の、本当の気持ちだよ、遠坂」
凛「……士郎……」
慎二「えんだあああああああああああああ!!!!!」
セイバー「エクス……カリバァァァァ!!!」ドカーン!!
慎二「僕の出番これだけだよおおおお!!!!」
桜「姉さん……」
桜「落ち着きましたか、お二人とも」
凛「はい……」
アーチャー「面目ない……」
桜「まったく、話が進まないじゃないですか」
アーチャー「これが、本当の解毒薬だ」
桜「ありがとうございます。あとはこれを先輩に飲ませるだけですね」トコトコ
セイバー「……桜」
桜「なんです?」
セイバー「それを飲ませれば、士郎は元に戻るのですか?」
桜「そのはずです。キャスターさんが嘘をついていなければ」
アーチャー「その可能性はないだろうな。奴、やたら満足げな顔をしていた」
セイバー「そうですか……」
セイバー「そ、そんなことは……」
桜「まあ、仕方ないですよね。朴念仁な先輩があれだけアプローチしてくれれば……」
セイバー「ですよね!!!」
桜「えっ」
セイバー「えっ」
凛「えっ」
セイバー「いや、だって、最高のひとときだったんですよ!?」
アーチャー「これはひどい」
セイバー「私は……私は!! この幸せを手放したくありません!!」
凛「いやいや何を」
ランスロット「血迷ったかアーサー!!」
凛「今の誰よ!?」
凛「違う、今してる話はそんなスケールの話じゃない」
桜「せ、セイバーさん落ち着いて……」
セイバー「何を言う。私はいたって冷静です。さあ桜、解毒剤をこちらに」
桜「い、嫌です……だ、だって私も先輩が……」
凛「そ、そうよ!! 第一惚れ薬なんてフェアじゃないわ!!」
セイバー「 勝 て ば 官 軍 !!!!」
アーチャー「駄目だな、目がイッている」
セイバー「それに凛、士郎がもしもこのままならばあなたはアーチャー、いえ、大人になった士郎といちゃいちゃし放題です!!」
凛「!!!!」
桜「姉さん『!!!!』じゃないですよ? 刺しますよ?」
凛「そうね、確かにそうかもしれないわ」
アーチャー「頼むから落ち着いてくれ、我がマスターよ」
セイバー「さあ、共に戦いましょう!!凛!!」
凛「分かったわ!! 契約成立よ!!さあ、2人で-約束された勝利の剣-エクスカリバーを!!」
セイバー「心得ました!!!凛、手を!!」
凛「ええ!!」
アーチャー「ちょ」
凛・セイバー「エクス……」
桜「ま」
凛・セイバー「カリバァァァァァ!!!!!」
桜・アーチャー「あああああああああああああ!!!!!!!!!!!」
幸い、死傷者はたまたま付近を歩いていた全身青タイツの男だけで済んだらしい。
そして後日、解毒剤が改めて渡され、士郎はようやく元に戻ることが出来た。ついに、再び衛宮家に日常が戻ったのである。
士郎「セイバー」
セイバー「は、はいっ!なんですか、士郎」
士郎「なんかさ、こないだは悪かったな」
セイバー「い、いえ……」
士郎「だからさ、改めて言うよ」
セイバー「えっ?」
士郎「好きだ、セイバー」
セイバー「し、士郎……?」
士郎「抱きしめても、良いか?」
セイバー「……ずっとじゃなきゃ嫌ですよ?」
士郎「セイバー……好きだ」ギュッ
セイバー「……はい!」
おしまい
乙
乙
支援も助かりましたです。嬉しいですねこういうの。
5年ぶりに書いたのですが楽しかったのでまた書こうと思います。
次はもう少し早い時間に立てます!ありがとうございました!
士郎「はいはいここにいますよっと。どうした? メシならさっき食べたろ?」
藤ねえ「食べてないわよ!!」
士郎「嘘……だろ……?」
藤ねえ「何愕然としてるの!?」
士郎「一度やってみたくてさ」
藤ねえ「いやーちょっと確かめたいことがあってさー」
士郎「? なんだよ」
藤ねえ「士郎さ、最近いろんな女の子と仲良くなったわよね」
士郎「そうだなぁ。遠坂にセイバー、イリヤ、ライダー……あれ、なんか多いな」
藤ねえ「そうよ。あんた自覚なかったの?」
士郎「いや、なんとなく女の子多いなぁとは思ってたけど……まさかこんなにとは」
士郎「自分でもびっくりだよ」
藤ねえ「うんうん。で、誰にするのかな?」
士郎「えっ?」
藤ねえ「いやだから、恋人」
士郎「なんでさ」
藤ねえ「えっ」
士郎「えっ」
士郎「ええー……藤ねえまでそんなこというのかよ、慎二じゃあるまいし」
藤ねえ「うん? ワカメ君もなんか言ってたの?」
慎二『衛宮はどいつにするんだ? 桜とかどうだ? 桜は純情だしいいぞ!早くもってけ!!頼むから!!』
士郎「……って」
藤ねえ「あら、妹を推すだなんて良いお兄ちゃんじゃないの」
士郎「うーん……なんか目がヤバかった気もするんだけどなぁ」
士郎「うーん……どうって言われてもなぁ」
藤ねえ「何よー、家庭的だし気だても良くって最高じゃない! 何がダメなのよ」
士郎「いや、だって……桜は別に俺のこと好きじゃないだろう?」
藤ねえ「……はぁ?」
士郎「やっぱりそういうのはさ、両思いじゃないとって思うんだ。彼女いたことも無いくせに生意気だとは思うけどさ」
藤ねえ「……そーですねー」
士郎「遠坂!? ないないもっとないって!! 遠坂とは絶対無理だって!」
士郎「いつも俺につっかかってくるし、アーチャーもやたら俺にきっついし……」
藤ねえ「アーチャーはさておき……それは……ねえ?」
士郎「あれ? でもだったらなんでうちに居座ってるんだ? 家もあるんだし別に出て行ったっておかしくないよな……」
藤ねえ「!! そうよ、そうなのよ!! その理由を考えなさい!!」
士郎「うーん……」
藤ねえ「おっ! やっとわかったのね!!」
士郎「メシだ!! メシのためだ!!」
藤ねえ「」
士郎「桜のメシは言うまでもなく美味いし、俺の作る料理だって、自分で言うのもなんだけど美味いはずだし」
士郎「セイバーだって美味いっていってくれてるんだ。結構自慢できるはずだよな」
士郎「そんなメシを毎日喰えるんなら、そりゃ居候するよなぁ。うん、なるほど!」
藤ねえ「士郎、さすがねぇ」
士郎「なんだよ藤ねえ。照れるじゃないか」
藤ねえ「褒めてないわよ」
士郎「セイバーは……どうだろう」
藤ねえ「ん?」
士郎「ちょっと、自分でもわからないな。なんて言うんだろう……」
藤ねえ「何が?」
士郎「なんか、アイツといると……落ち着く気がする」
藤ねえ「……ふぅん」
藤ねえ「そうねぇ、私も歯が立たなかったし……あれは悔しかった……!!」
士郎「はは……しょうがいよ。藤ねえも強いけど、セイバーはもっと強い」
士郎「強く無きゃ、ダメだったんだ。だから出会った頃も、もっと堅くってさ」
藤ねえ「そうね、今みたいに『士郎、おかわりです!!』なんて言うようになるとは思えなかったわね」
士郎「うん、最初はおっかないとこもあった」
士郎「でも今はさ、いっぱい笑うようになった」
士郎「満面の笑みって訳じゃないんだけどさ、嬉しさが伝わってくる感じで」
士郎「……もっといっぱい、アイツのいろんな顔、見たいな」
藤ねえ「……そうね。そっかそっか」
士郎「うん?」
藤ねえ「やっぱりアンタは、セイバーちゃんが好きか!」
士郎「ええええ、なんでさ!!?」
士郎「藤ねえに言われたくないよ!!」
藤ねえ「何よー!! 私はまだ20代よ!?」
士郎「わわっ、冗談だってば! でも、そうなのかな」
藤ねえ「ええ、そうよ。誰がどう見てもそうなんです!」
藤ねえ「士郎が気づいてないみたいだから言っちゃうけどさ、セイバーちゃんもあんたのこと。好きよ」
士郎「……えっ?」
藤ねえ「このままあんたたち進みそうにないから言っちゃう!あんたたちは両思い!」
士郎「ええええ!!! いやでもそんな!! ……そうだったら、そりゃ嬉しいけどさ」
藤ねえ「でしょでしょ? あんた達さ、もうお似合いよ!」
士郎「そっか……」
藤ねえ「ねっ、だからさ、もうあんた達付き合いなさいな!セイバーちゃんなら私も許す!」
藤ねえ「何よ、もしかして不満なの!? お姉ちゃんはそんなわがままな子に育てた覚えはありません!!」
士郎「いやそうじゃなくって!! ……藤ねえさ、どうして泣いてるのさ」
藤ねえ「……えっ?」
士郎「ほら、涙が……」
藤ねえ「うそうそ、そんな……な、なんでかな? ははは……」
士郎「藤ねえ……」
「言わないで!!」
「お願いだから、言わないで……」
藤ねえはそう言って俺に体を預けてきた。しおらしくなった藤ねえ。
今までこんなことが、なかったわけではない。
なかったわけではないが、その姿は初めて見るものだった。
疲れた、とか。辛い、とか。そういったものではない。
もっと別の何か。
それは、やっぱり。
「……うん」
藤ねえが腕をそっと背中に回す。俺はそれを受け入れた。
自分の腕も、藤ねえの背中に回した。少し、力を込めた。
藤ねえも力を込めてきた。はじめは少し。そのまま少しずつ強く。
「私は、士郎のことが……好き」
そう言って、より力を込めてきた。
強く、強く。それでも、痛くはない。心地が良い。
ぬくもりが強く伝わる。それが、嬉しくて。
「……ありがとう」
口からこぼれたのはそんな言葉だった。素直な言葉。
ほんの少しの時間だった。きっと、数秒程度だろう。
でもそれが、長く感じられた。長い長いあいだ、そうしていた気がする。
それを終らせたのは自分の言葉だった。
「でも、ごめん」
それが彼女を傷つけることになるのはわかっていた。
わかっていたけれど、言わなきゃならなかった。
うやむやにしてはいけない。それぐらい、馬鹿な自分でもわかる。
だから、伝えた。彼女がそれに応える。
「……うん、わかってた」
短い言葉。彼女が言ったのはそれだけだった。
でもそれで良かった。お互いが交わすぬくもりで、全て伝わった。
──家族だって、思ってるからでしょ?
──うん。
──私は、好きだって言えた。それで満足だから。
──そっか。
──そうなのよ。
──藤ねえのこと、本当の家族だって思ってるよ。とてもとても、大事な人だ。
──うん……うん。ありがとう。私は、幸せだよ。
さっきとは違って、実際の時間すらも予想できない。
それぐらい抱き合っていた。とても充実した時間。
少し、彼女から離れた。
「あ……」
残念がる声が唇から漏れる。
俺はその唇に、自分の唇をそっと重ねた。
仕方が無い。自分だって驚いている。
そっと目を閉じ、彼女は自分に身を委ねてくれた。
そのまま唇を重ね続ける。舌を絡めることも無い、優しいキス。
やがて唇は離れ、再び強く抱きしめ合った。
「こんなこと、するようになったんだ」
藤ねえが少し照れた声で言う
「ふ、藤ねえが初めてだよ」
声がうわずった。恥ずかしい。
ここまでしておきながら今更、という感は拭えないが。
嬉しそうな顔で、彼女は笑った。
今まで見てきた表情の中でも、とびっきりの笑顔だった。
「ありがとう、士郎。……私、今日は帰るね」
そういって彼女は向こうを向いてしまった。
そのとき見えた最後の表情はとても魅力的だった。
いつか、あの表情をずっと見られる男がいるんだな、と思うとなんだか複雑な気持ちになった。
たった今フっておきながら何を身勝手な。我ながら情けない。
まあ、自分も男だったということか。
そう言い残し、走り出した彼女を俺は見送った。
少し先の角を曲がって、姿が見えなくなってしまうまで見送った。
胸の中に、切ない気持ちが残った。切ないけれど、あたたかい。
決して嫌な気分ではない、心地よい気分。
明日からも藤ねえとはいつも通りでいられる。そんな気がした。
そして、勇気ももらえた。
帰ったら、自分の気持ちを伝えよう。
きっと今言わなきゃいけない気がする。
そうじゃなきゃ、藤ねえに悪いもんな。
そう心に決めて、俺は強く歩き出した。
──藤ねえ、ありがとう。
終わり。
まだ見てくれてる人がいたので良かったです。
こっちは即興だったので時間かかって申し分けない。
みなさまよい週末になりますように。私は深夜に冷蔵庫を運ぶバイトへ行きます。
こんな時間までお疲れさまでした!ありがとう!
藤ねえマジ大人の女性
乙
Entry ⇒ 2012.10.13 | Category ⇒ FateSS | Comments (1) | Trackbacks (0)
翔太郎「赤坂美月、か」フィリップ「ダブルキャストだね」
美月「えと……そういうこと、らしいです」
照井「今朝保護した時にはとっくにだ。精神鑑定を頼んだところ、嘘をついている様子もない。生活に関しての記憶は健在だが、自分の生まれや個人情報などのことはさっぱりだ。名前をのぞいてな」
亜樹子「え~と、赤坂美月さん、だっけ?」
美月「は、はい」
亜樹子「どこまで記憶があるのかな?」
美月「うんと……駅前で歩いてた所に、ちょっと怖い人が絡んできて、それで、警察の人が助けてくれたところまでなら」
照井「つまり刃野警部補に保護された直前まで。手掛かりはまったくなんだ」
照井「戸籍がなかった」
フィリップ「ほう、それは不可解だね」
美月「わっ!?」
翔太郎「お前、湧いて出たように現れるなっつーの」
フィリップ「何、照井夫妻が久しぶりにここにそろったから、ちょっとしたお茶菓子を買ってきただけさ」
照井「話を続けるぞ。さっきも言った通り、赤坂美月という人物についての戸籍が存在していなかったんだ。同姓同名の人物のはいくつが見つかったが、どれも顔が違う」
亜樹子「家族の戸籍とかは?」
照井「それすらもなかった。まぁ、この女が赤坂美月という名前ではない、というなら戸籍が見つからない理由も一応納得はいく」
照井「そうだ。だから俺はここにやってきた」
亜樹子「そうか! フィリップ君だったら、赤坂さんについて一発でお見通しか」
翔太郎「まっ、こんな美人さんが困ってるようなら、ほうっておけないよな。フィリップ」
フィリップ「キーワードが少なそうだが、やってみよう」
美月「調べる?」
照井「ああ、情報捜査は、こいつの専売特許だ」
美月「赤い城って書いて、後は美しい月の美月です。はい、多分」
フィリップ「ふむ……やはり個人名だから、かなりの数を絞れた。もう少し絞れそうなキーワードがほしいところだね」
翔太郎「赤坂さん、なんでもいい。何か少しでも思い出せそうな記憶とかないか?」
美月「う~ん……でも、本当にさっぱりで」
照井「身体的特徴でもダメか?」
フィリップ「ふむ、現状ではそれしかなさそうだ。特徴は――」
翔太郎「赤くて長い髪、性別は女性だ」
フィリップ「――見つけた。……ん?」
フィリップ「……情報が、損失している?」
翔太郎「はぁ? おいそりゃどういうことだ?」
フィリップ「言葉通りだ。赤坂美月についての情報は確かに存在した。存在はしているが……ところどころ、いや、大部分に渡って情報が欠けている。破かれた本のページみたいにね」
照井「地球の記憶の情報が損失? あり得るのか、そんなことが」
フィリップ「外部からの強い力によってならあり得る。だが、星の本棚に介入出来る存在は僕ぐらいしかいないはず。……いや、あり得るケースがもう一つ」
翔太郎「地球の記憶に介入……ガイアメモリっ!?」
フィリップ「その通り。彼女がガイアメモリ関連の何かしらの事件に巻き込まれたなら、一応あり得る」
亜樹子「そういえば、ガイアメモリの副作用で記憶喪失になった人もいるし……」
翔太郎「こりゃあ、ちょっと無視できない事態になっているかもしんねぇな」
フィリップ「もしかすれば、最近調べている例の組織とも赤坂美月は関連しているかもしれない」
照井「例のメモリ販売組織か……そっちの調査にも、もっと力を入れなければならないらしいな」
亜樹子「でも、情報がなくなってても、ある程度はあったんだよね?」
フィリップ「とはいっても、本当に些細な情報だけどね。赤坂美月。生年月日は9月30日。血液型は0型。身長160センチ。スリーサイズは――」
亜樹子「すとーっぷ! 乙女のプライバシーにかかわります!」
フィリップ「おっと、これはすまない」
翔太郎「まぁ、あいつの特技みたいなもんだ。でもそれしかわかんねぇのはきついな。手掛かりなんてさっぱりだ」
照井「それより、今後の彼女の処遇について相談したいのだが……左」
翔太郎「あん?」
照井「赤坂美月をここに置いてはくれないか?」
翔太郎「……はぁ!? ここって、事務所に!?」
照井「様子を見るに長期にわたる案件になりそうだ。だとするとずっと署に置くのも気が引ける。それに、ガイアメモリの事件に巻き込まれた可能性が否定できない以上、ここはスペシャリストに保護を任せたい」
翔太郎「ちょっ、待ってくれよ! だったら照井のとこで預かればいいじゃねぇか」
亜樹子「う~ん、でもウチはちょっと……」
照井「あー……んん」
照井「実はだな、最近、あいつが通販にはまりだしてだな……基本安いものばかりなので、そこまでお金に関しては困ってはいないのだが……」ボソボソ
翔太郎「あー……でも安い代わり、とにかくたくさんため込むってか」ボソボソ
照井「どうもな……今の現状を、他の人に見せたくないのだろう。正直、足の踏み場もない」
翔太郎「あいつ、結婚してからだらしなくなってないか?」
照井「家事は出来なくはないのだが……」
フィリップ「通信販売。店舗を介せずに消費者と業者が取引を行う販売手段。主にテレビ通販やネット通販が主流。確かに家事に時間を取られてしまう主婦にとっては魅力的なセールスだね」
翔太郎「おいこら、勝手に検索を始めるなっての。……まぁ、実際メモリ関連の事件に巻き込まれている可能性がある以上、俺も無視はしないが」
翔太郎「でもなぁ……亜樹子はともかく、美少女がここに泊りこむってのはなぁ」
亜樹子「ごらぁ!」
美月「えと……あのっ!」
翔太郎「ん?」
美月「あの、ボク、手伝えることがあったらなんでもします! ここって探偵事務所なんですよね? 推理なんて全然だけど、雑務とかだったら全然オッケーなので! 迷惑もかけません! ですので……」
翔太郎「……仕方ねぇか」
美月「ほんとですか!」
翔太郎「うぉ、なんだいきなり元気になって……まっ、こっちも手伝いが増えるのはありがてぇし。何よりこの男だけの事務所に花が増えるんだ。いいぜ、美人の頼みだったら断れねぇ」
美月「あ、ありがとうございますっ! ボク、一生懸命働かせてもらいますっ!」
美月「秘書?」
フィリップ「『探偵には美人秘書が付きもの』とマッキーが言っていた。これで探偵として顔が立つ。よかったじゃないか、翔太郎」
美月「そ、そんな、美人だなんてっ」
亜樹子「なんだろう、このあたしが来た時との扱いの差……」
照井「その……気に病むな」
亜樹子「竜君もなんだかんだで否定しないし」
照井「へ? あ、いや、そういうわけじゃ――」
亜樹子「竜君も赤坂さんに鼻のばしちゃって! きーっ!」
フィリップ「おおっ、あれがドラマでよく見かけられる、ハンカチを噛む嫉妬のポーズ! 生で見るのは始めてだよ」
翔太郎「実際にやる奴なんか亜樹子ぐらいだからな、そりゃ」
――
―
美月「ということで、今日からよろしくお願いしまーす!」
翔太郎「おお、朝から随分と元気だな」
美月「う~ん、なんというか……何か目的が出来たら、やる気とか出ませんか?」
翔太郎「なるほど、それも一理あるか。とはいっても、やることか……今まで俺だけでこなせたから、何も思いつかねぇな」
美月「なんでしょうね? 探偵の秘書なんですから……情報の資料をまとめたり、とか?」
翔太郎「も、情報面はフィリップがなんとかしてくれるところもあるしなぁ。じゃあ、コーヒー頼めるか?」
美月「あっ、はい! わかりましたっ」
―
美月「はい、インスタントですけど……」
翔太郎「おう、ありがとな。……んん~、やっぱり、男の朝はブラックに限る」
美月「そういえば、えと……フィリップさん? でしたっけ?」
翔太郎「ん? ああ」
美月「フィリップさんの姿が見えないのですけど」
翔太郎「ああ。あいつは別室で情報捜査中だ。喉が渇いたり腹がすいたら勝手に出てくるから、ほっといても大丈夫だ」
美月「はぁ……あの、ボクもコーヒー、いいですか?」
翔太郎「もちろんだ。依頼人が来ない限りやることも基本ないし、ゆっくりしといてくれ」
翔太郎「ああ。亜樹子が結婚してからはそうだな」
美月「フィリップさんと翔太郎さんって、どういう知り合いなんですか? 昔からの友人だとか」
翔太郎「なんていえばいいかな……ひょんなことから巡り合ったって感じだな。今では唯一無二の相棒だ」
美月「『相棒』かぁ、なんだかいいですねっ」
翔太郎「そうだな。なんだかんだで、あいつが一番頼りになる」
美月「へぇ。それじゃあ、この事務所はフィリップさんと知り合った時に建てたんですか? でも、それにしてはちょっと古いような?」
翔太郎「いや。この事務所自体は昔からあってな。ほら、ここの事務所名『鳴海探偵事務所』だろ?」
美月「そういえば、鳴海って名前が……」
美月「探偵の師匠! う~ん、なんか探偵小説みたいでかっこいいですね!」
翔太郎「ああ、おやっさんはそりゃかっこよかったんだぜ? 俺の目指すハードボイルドを体現していた」
美月「機会があったら是非会ってみたいなぁ」
翔太郎「あっ……」
美月「へ? えと……あっ」
翔太郎「ああ、気にするんじゃない。ただな……少し前、死んじまったんだ」
美月「あの……すいませんっ」
翔太郎「気にすんなって」
美月「あ、はい……」
美月「はい!」
翔太郎「俺はちょっと用事で出る。留守番を頼む」
美月「わかりました! フィリップさんにも伝えておきますか?」
翔太郎「大丈夫だ。後、昼食はそこのインスタントのやつで適当に済ませてくれ。すまねぇな、今度買い物するわ」
美月「でしたら料理は任せてくださいよ! ボク、料理は出来るらしいので」
翔太郎「おお、そりゃありがたいな。……ああ、あとな」
美月「はい?」
――
―
美月「時間になっても姿を表さなかったら、あそこの扉からフィリップさんに声をかける」
美月「時間になりましたし、仕方ないです……よね?」
美月「それにしても、こんなところに扉があるなんて、秘密基地みたい。ちょっとわくわくするかもっ」
美月「失礼しまーす……わぁっ」
美月「すごいっ! ほんとに秘密基地みたい! えと……フィリップさーん!」
シーン……
美月「う~ん……失礼しま~す」
フィリップ「地理情報から推測するに、本拠地はここにある可能性は高い。規模は小さいが、少し興味深い動きをしているね」ボソボソ
美月「あ、あれ? 寝て……は、ないよね。フィリップさーん!」
フィリップ「人員はこれほど。危険性はそれほどではなさそうだね――」
美月「フィリップさぁーんっ!」
フィリップ「っと。ん? どうしたのかな?」
美月「はぁ、はぁ……いや、さっきからずーっと呼んでるのに、どうも反応がなかったので……」
フィリップ「ああ、それはすまない。何かを考えたりしていると、夢中になってしまう癖でね」
美月「は、はぁ。……それにしても、すごい場所ですよね。まるで秘密基地みたい」
美月「おお、なんだか探偵っぽいっ」
フィリップ「……ところで、赤坂美月」
美月「あっ。えーと……美月、でいいですよ? 多分同年代でしょうし」
フィリップ「ふむ、そうか。なら美月。君にひとつ質問がある」
美月「はい?」
フィリップ「君は、『ガイアメモリ』という単語について何か心当たりがあるかな?」
美月「がいあ……めもり? そういえば、昨日の話にも出てましたけど……」
カチッ サイクロンッ!
美月「え? なんだろうこ――っ!?」
フィリップ「ん?」
美月「んっ……! いつっ……!?」
フィリップ「大丈夫か!?」
美月「っはぁ……あ、ごめんなさい。ちょっとなんか、めまいみたいな感じがしちゃって……」
フィリップ「思ったより疲労がたまっているのかもしれない。ソファで休みたまえ」
美月「ご、ごめんなさい。ちょっとだけ休ませてもらいます……」
フィリップ「ああ」
フィリップ(単語には反応はなかったが、実物を見た瞬間興味深い反応を示した。記憶の深層にメモリについての記憶が眠っているのか? どうも判断しがたいな)
――
―
【風麺屋台】
翔太郎「――そっか。まさか風都の外でも動いていたとはな」
ウォッチャマン「どうも外ではこそこそ怪しいことしてたみたいよ?」
翔太郎「なるほど。……で、実は別件で話があってな」
ウォッチャマン「新しい依頼?」
翔太郎「それがまた違ってな。……この少女についてなんだ」
ウォッチャマン「あらら! これ随分と美人さんじゃない! 何? ついに彼女が出来たの!?」
ウォッチャマン「記憶喪失? なんだ、ずいぶんと興味深い子ね。まるで小説みたい」
翔太郎「個人的な感想はいい。で、聞きたいことは言うのは、この子を見たことがあるかってことだ。これぐらいの美人さんだったら、知ってると思ってな」
ウォッチャマン「う~ん……これが知らないんだな、残念ながら」
翔太郎「ウォッチャマンでも知らない、だと?」
ウォッチャマン「こんな美人さんだったら一度見かけたら絶対覚えてるから間違いなし! 自分でも知らないってことは、多分この子、風都の子じゃないね」
翔太郎「そっか……」
ウォッチャマン「で、今度、この子の写真撮ってもいい?」
翔太郎「あー言うと思った。まっ、本人がいいって言ったらな」
―
翔太郎(風都の住みじゃないとなると……こりゃ調べるのに少し骨が折れそうだな)
~♪
翔太郎「うん? はい、こちら左翔太郎――照井?」
照井≪左。今いいか?≫
翔太郎「ああ。こっちは丁度捜査の切上げ時だ」
照井≪実はだな、先ほど例のガイアメモリ販売組織の本拠地をつぶすことに成功した≫
翔太郎「本当か!」
照井≪住宅街にまぎれるような場所にあったが、なんとか見つけてな。ドーパントによっての抵抗もあったが、それも倒せた。今は警察の方で事後処理をしている≫
照井≪それが……そうもいかないらしい≫
翔太郎「どういうこった?」
照井≪組織の構成員の一人に、財団Xの元ガイアメモリ研究者がいた。構成員の証言によれば、この組織で独自に新たなガイアメモリの研究を行っていたらしい。これの意味がわかるか?≫
翔太郎「つまり……その新しいメモリは、とっくに人の手に渡ってるのか?」
照井≪押収したメモリに、その詩作品メモリがなかった。そう考えるしかないだろう。メモリの詳細についてはまだ不明で、その研究員が目覚めしだい取り調べをするつもりだ。その研究員がドーパントに変身しなかったら、ここまで面倒なことにならなかったのだが……≫
翔太郎「詩作品のメモリ……かなり危ないにおいがプンプンするぜ」
照井≪警察はそのメモリを追跡し、回収するつもりだ。左の方も協力を頼みたくてな≫
翔太郎「もちろんだ。そっちも情報をつかんだら連絡をくれ」
――
―
ガチャッ
翔太郎「今帰ったぞ~」
美月「あっ! お帰りなさい!」
翔太郎「ああ――ん? なんだ、その写真」
美月「あっ、えーとですね、実は先ほど、お客さんがいらっしゃいまして……」
―
フィリップ「迷い猫の捜索か。名前はトラ。由来は虎猫なところかな」
翔太郎「ふむ。放し飼いにしていて、いつも帰ってくる時間になっても帰ってこなかった、と」
美月「目印になるアクセサリーとかも付けていないので、ちょっと手こずりそうですね」
翔太郎「それにしても、接客ごくろうさん。ちゃんんと働けてるじゃねぇか」
美月「えへへ~、どもども~」
フィリップ「美月、この猫について他に情報はあるかい?」
美月「え? えと、確かにメモにまとめてあったはず……魚が好きで、よく近所からお魚をもらっていたらしいですね」
フィリップ「ふむ、魚……」
翔太郎「居場所が分かりそうか?」
美月「フィリップさん、今なにやってるんですか?」
翔太郎「ああ、なんていうか……あいつのシンキングポーズみたいなものだ。あいつは人一倍記憶力がいいんでな。それに、ちょっとした裏技も持ってる」
美月「そういえば、昨日のあれすごかったですよね! なんでボクの誕生日とかわかるんだろう?」
翔太郎「まぁ、説明してもいいかな。あいつは今、地球の記憶の中で情報を調べているんだ?」
美月「地球の……記憶?」
翔太郎「地球規模の図書館だと思えばいい。フィリップに任せれば、地球上のありとあらゆる知識を教えてくれる」
美月「な、なんだかスケールの大きい話ですね」
翔太郎「客観的に見ればそうだな。あっ、あとこれは他の奴には秘密な?」
美月「はい、わかりましたっ」
フィリップ「……検索は完了した。商店街の鮮魚店の店主が大の猫好きで、よく野良猫に魚をあげているそうだ」
翔太郎「なるほど、そこにいる可能性が高いってわけか」
美月「すごいです、フィリップさん!」
フィリップ「何、朝飯前さ。よく猫が集まり始める時間は昼頃、明日の昼にその場所に行けば遭遇する可能性は高いだろう」
翔太郎「そんじゃあ……なぁ美月」
美月「はい?」
翔太郎「明日、俺達と一緒に風都散策でもどうだ?」
美月「案内してくれるんですか!」
翔太郎「もちろんそれもあるが、探偵事務所で働くからには、仕事場である風都のことを知らないといけないしな。それに、ずっと事務所の中でこもってるわけにもいかないだろ? たまには外に出て、気分転換も必要だ」
美月「ありがとうございますっ! 実はボク、この町のこと気になってたんですよ」
フィリップ「ほう、主にどこが?」
美月「そうですねぇ……駅前で歩いてた時、なんとなーく思ったんですよね、『この風、少し心地いいかも』って。夏場の夜でちょっとほてった体に、この町の風はすごく快適だったんですよ。優しい気持ちになれて……」
翔太郎「ほう、これは話が合いそうだな。期待しとけ、この町にはいっぱい楽しい場所があるからな」
美月「期待させてもらいまーす!」
フィリップ(ここに初めて来たときと比べ、目覚ましく元気を取り戻している。心身状態も安定している今、記憶を取り戻せればいいのだが…)
フィリップ(何より、気になるのはメモリを見たときの反応だ。あれが偶然か、それとも記憶喪失と関連があるのか)
―
フィリップ「詩作品のメモリ?」
翔太郎「ああ。情報がない以上、照井の連絡を待つしかないけどな」
フィリップ「なるほど、道理で美月を席から外すわけだ。それにしても、財団Xの研究員が協力していたとはねぇ」
翔太郎「さらにウォッチャマンによると、例の組織は風都の外でも密かに活動していたらしい」
フィリップ「風都の外で……? 少し怪しいね」
翔太郎「ちょっといや~な香りがするぜ。で、肝心な赤坂美月についてだが……おそらく風都の人間ではない。外から来た人間だ」
フィリップ「それは色々と面倒になりそうだ。風都に手掛かりがある線が薄いとなると、少し苦労しそうだね」
翔太郎「そうだな。明日の風都案内で、何か記憶が少しでも思い出せればいいんだが」
――
―
【風都大通り】
美月「ほんと、風車が多いですね」
フィリップ「風都はその名に恥じず風力発電が多いエコロジー都市、観光都市として有名だ」
翔太郎「あれが風都タワー。風都のシンボルだな」
美月「あの風車に顔をつけたようなキャラクターは?」
フィリップ「あれは『ふうとくん』。風都のイメージキャラクターだよ」
美月「へぇ、ちょっと可愛いかも。あっ、ストラップもあるんだ~」
翔太郎「よし、ならば美月にストラップをプレゼントしよう」
美月「え? いいんですか?」
美月「ありがとうございます!」
フィリップ「よかったじゃないか、男らしくかっこつけられて」
翔太郎「っておい、言葉にしちゃおしまいだろ。おじさん、ふうとくんストラップひとつ!」
おじさん「へいへい、ふうとくんね。色はどうする?」
翔太郎「色? そういえば、ふうとくんはふうとくんでも、見ないような色ばかりだな」
おじさん「最近の流行りよ~。みんなね、仮面ライダーの色をしてるの」
フィリップ「紫と緑、赤と銀、これは青と金だね! これはアクセルかな?」
美月「かめん、らいだー?」
美月「仮面、ライダー……ヒーローかぁ」
翔太郎「ま、まぁいいだろ。仮面ライダーについての新聞を後で見せてやるさ。おじさん、だったらこの緑と紫のもらえる?」
おじさん「お兄さんお目が高いねぇ! 毎度!」
美月「仮面ライダー……まるでテレビみたいですね。でも本当にいるんですか? 実際見たことないので、どうもにわかに信じがたいというか……」
翔太郎「いるいないは関係ねぇさ。でも……この町を泣かせたくないのは、みんな同じだよ。もちろん、俺もな」
フィリップ「少なくとも、仮面ライダーの存在はみんなの心の支えになっている。この町には危険な存在も潜んでいるが、それを打ち倒す存在も潜んでいる。この事実だけで人は安心してこの町で生活ができる」
美月「なんだか……そう考えると、素敵ですねっ!」
翔太郎「だろ?」
―
フィリップ「もうすぐ目的地だ」
翔太郎「確かに、猫の姿が多いような気がするな」
美月「ここの猫って人懐っこいんですね! おいでおいで~」
「ニャーン」ヒョイッ
美月「あーもう! かわいいなこのこの~」
翔太郎「美月も楽しそうで何よりだよまったく」
フィリップ「翔太郎!」
翔太郎「ん? あれは……」
美月「あの特徴的な額のハートマーク……間違いないです! トラちゃんですよ!」
「ニャーッ!」ダッ
翔太郎「おい思いっきり威嚇して逃げたじゃねぇか!」
フィリップ「おかしいな……」
美月「そういえば、飼い主以外の人には警戒して近づかないって言ったような……」
フィリップ「それを早く言いたまえ」
翔太郎「言い争いしてる場合じゃねぇ! 追うぞ!」
美月「まてー!」
フィリップ「こんなことなら、日頃から適度な運動をしていればよかった」
―
翔太郎「くそっ、路地裏に逃げ込まれた!」
フィリップ「いや、幸いあの先は行き止まりだ」
美月「絶好のちゃーんす!」
ダッダッダ
美月「ねこちゃーん――って、ありゃ?」
「ニー……」
翔太郎「おいおい、随分と高い場所にお座りになってるな」
フィリップ「様子を見るに、逃げた勢いで高い場所に逃げたのはいいが、どうも降りれなくなってしまったようだ。懐かしいな、ミックもよくこんな風に困っていたよ」
美月「どうやってあんなところまで……」
翔太郎「豆知識どうも。でもどうするよ、あんあところいくら俺でもジャンプで届きやしないぜ?」
フィリップ「僕たちが肩車しても……微妙だね。足場も不安定で非常に危険だ。一番の安全策は、梯子を持参して――」
美月「――ていっ!!」
「ニャーッ」
美月「――とっ!」
翔太郎「おおっ!?」
フィリップ「これはすごい……」
フィリップ「すごい跳躍だったねぇ。人間業とは思えない」
翔太郎「おいおい、あの距離で届きやがったぜ」
美月「あ、あはは~、自分でも届くとは思ってなかったので。正直びっくりです」
フィリップ「もしかすれば、美月はバレーボール部にでも所属していたのかもしれないね」
美月「そうかなぁ? 個人的にはバスケットボールの方が好きだけど」
翔太郎「まぁとにかく、これで迷い猫は確保。お手柄だ、美月」
美月「えへへ~!」
―
翔太郎「依頼者の家に寄ったら、すっかり日が暮れちまったなぁ」
美月「夕焼け……きれいですね」
フィリップ「この町の空は澄んでいるからね。夜は星もよく見える」
美月「素敵な町ですねぇ……ほんと」
フィリップ「……ああ」
翔太郎「そうだ! 美月」
美月「……」
翔太郎「美月?」
美月「へ? わたし……ごめんなさい。ぼーっとしちゃってました」
翔太郎「おいおい、しっかりしてくれよ? 今日、よかったら夕食を作ってくれないか?」
フィリップ「ほう、手作りか。それは実に興味深いね」
翔太郎「美人の手料理……男として、期待するしかねぇなこりゃ」
フィリップ「……」
翔太郎「フィリップ?」
フィリップ「済まない。僕も少し考え事をしていた」
翔太郎「おいおい、フィリップまでどうしたんだよ? 考え事は帰ってからにしてくれよ?」
フィリップ「大丈夫、わかっているさ」
美月「それじゃあ、お二人は先に帰っておいてください。場所は案内の時に教えてもらいましたし、道も覚えましたから!」
翔太郎「そうか? それじゃあ先に戻ってるぜ。とびっきりの待ってるぞ」
フィリップ「気を付けて戻りたまえ」
美月「はいっ!」
――
―
美月「~♪」
照井「預けてから三日経過したが、ここの雑務も身についてきたようだな」
翔太郎「今ではすっかりここの花形秘書さ。で、本題だが。ここにわざわざ来たってことは、捜査に進展があったのか?」
照井「そうだといいたいのだが……実は、それどころじゃなくなってきた」
翔太郎「事件か?」
照井「ああ。ここ最近、連続通り魔事件が発生しているのは知っているな?」
翔太郎「ああ。確か三日連続だっけか……被害者はどれも男性で、刃物でザックリだっけか。ギリギリ命に別状はなく、死者は出ていないって……ドーパントか!?」
照井「その可能性が高い。襲われた男性は全員、彼女や妻といった異性と一緒に歩いているところ、いきなり男だけが襲われている。そばにいた女性は無事だったので証言を取った見たところ、全員が共通して『怪物に襲われた』と証言している」
照井「傾向からしてそういう可能性が高い。それもカップル連れとなると……嫉妬に駆られた男性の犯行、ともとれるが、まだ確定ではないな。外見的な特徴が分かれば、対策は立てられるんだが、証言者はパニックを起こして記憶があいまいだから仕方ない」
美月「あのぉ……今話してるのって、例の連続通り魔事件ですか?」
照井「ああ。ちょっと面倒なことになりそうだと思ってな。現時点では死者は出ていないが、いつ死人が出るかわからない以上、警戒する必要がある」
翔太郎「美月も一応気を付けろよな。もしかすれば女性も襲う可能性も否定できないから」
美月「は、はい。気を付けますっ」
―
フィリップ「ふむ、刃物を扱うドーパントか」
翔太郎「それも刃渡りは体をやすやすと貫通するほどらしい。しかも、ここ三日間で随分な人数を襲ってる」
フィリップ「襲われた時間帯を見るに、翔太郎が外出している時間帯で発生している。それでも気付けなかったということは、相手はかなり素早いね」
翔太郎「大きな刃物を使う俊敏なドーパント。それも目撃者によれば、負傷者はかなり様子がひどかったらしい。生きてるのが不思議なくらいだ」
フィリップ「刃物を扱うドーパント。残虐性も確認できる……検索完了だ。おそらく、犯人のドーパントは『ジェノサイド』のメモリのドーパントだ」
翔太郎「ジェノサイド?」
フィリップ「『ジェノサイド』、意味は大量殺戮。その名の通り、使用者の残虐性を増幅させる危険なメモリだよ。使用者を『殺人』へと駆り立てる一面を持っている」
翔太郎「おいおい……てことは、使用者は問答無用で殺人者になるってわけかよ!」
翔太郎「なにより、それが犯人だったら、一刻も早く止めなくちゃな!」
フィリップ「……翔太郎。照井竜は『三日前から』連続通り魔事件は起こったって言ったよね?」
翔太郎「ん? ああ、丁度美月が来てからだから――っておい、まさか……」
フィリップ「その通りだ。僕の頭の中では、容疑者の一人として『赤坂美月』も考えている」
翔太郎「そんわけねぇだろ! あいつの様子を見てきたけど、メモリの力に侵されているようには見えなかった。なにより、そんなメモリを使ってるなら俺達だってとっくに……」
フィリップ「彼女が、ジェノサイドのメモリを使っていながら、その力を押えていたのだとしたら?」
翔太郎「それは……」
フィリップ「今のところ死者は出ていない。ジェノサイドのメモリを使っていながらだ。メモリに支配されているなら襲われた人間は必ず死んでいるはず。けど死者は出ていない。使用者にメモリの適性があるなら、それもあり得る」
翔太郎「けどよ……」
翔太郎「くっ……だが、まだ確定はしていないだろ?」
フィリップ「ああ。確かに彼女の行動は理性的で、メモリの力が干渉しているとは思えないのも事実。あくまでタイミングが合ったことで浮上した容疑者だ。けど……可能性はある程度高い」
翔太郎「その根拠は?」
フィリップ「通り魔の犯行は翔太郎が外出している時間帯に発生している。それもすべてだ。僕は基本この部屋にいるから、彼女の行動を把握しているわけではない。翔太郎が外出してしまえば、彼女は誰にも知られずにここから出られる」
翔太郎「くそっ、ますます怪しくなっちまったな……」
フィリップ「そういえば、美月は?」
翔太郎「今は買い物に行ってる。あいつ、俺達が飯がうまいって言ったのがうれしかったらしくてな。随分と張り切ってたぜ」
フィリップ「そうか……ますます疑うのが心苦しくなってきたね」
翔太郎「ん? はい、こちら左――照井? ……何!? 大通りでドーパントが現れた!?」
フィリップ「噂をすれば、か」
翔太郎「おいおい、大通りだったら美月も巻き込まれてるんじゃ……行ってくる!」
――
―
【大通り】
男「あ、ああ……来るな! 来るなぁっ!?」
ドーパント「ふん、そうやって女を見捨てて自分だけ逃げるなんて、最っ低! 死になさい!」
男「うわぁっ!?」
カンッ!
ドーパント「ん?」
アクセル「間一髪ってところか」
男「か、仮面ライダー!」
アクセル「今すぐ逃げろ!」
ドーパント「待て!」
アクセル「させるかっ!」
カンッ!
ドーパント「くっ!」
アクセル「手首から生えてる刃……お前が例の通り魔か」
ドーパント「お前が仮面ライダー……目ざわりだ! 消えろ!」
アクセル「俺は消えるわけにはいかない。仮面ライダー、だからな」
―
アクセル「はぁっ!」
ドーパント「遅いっ! はぁっ!」
アクセル「ぐぁっ!? くっ、速い……」
ドーパント「ふんっ! 貧弱な男……これだから男は」
アクセル「なぜ男ばかりを狙う? 嫉妬か? 恨みか?」
ドーパント「強いて言うなら、恨みよ! 男は女を騙して、暴力を振るって、女を不幸にする! わたしは女を助けるために男を皆殺しにするのよ!」
アクセル「では、なぜカップルばかりを狙う! 男なら風都にもごまんといるはずだ!」
ドーパント「うるさい! 速く黙りなさい!」
カンッ! キィンッ!
アクセル「ぐあっ!? 力勝負でも勝てないとは、こいつ、強い!」
ドーパント「はぁぁ!!」
「トリガーエアロバスター!」
バシュンッ! バシュンッ! バシュンッ!
ドーパント「うあっ!」
W(翔太郎)「ふぅ、間一髪だなおい」
アクセル「来てくれたか、W」
W(翔太郎)「ああ。だが……照井でも苦戦するとは、油断できねぇなおい」
W(フィリップ)「む? どういうことだ?」
W(翔太郎)「どうした? フィリップ」
W(翔太郎)「そうじゃないのか? 手首から刃も生えてるし……」
W(フィリップ)「だが、外見が大きく違う。ジェノサイド・ドーパントにはあんな大きな角は生えていないはずだが……」
W(翔太郎)「とにかく、今はあいつを倒すのが先だ!」
アクセル「そうだな。これ以上犠牲者は増やさせない」
ドーパント「そうか、お前が二人目の仮面ライダー……わずらわしい! 男はみんな消えてしまえばいい!」
W(翔太郎)「おいおい、随分と物騒なこと言ってくれるじゃねぇか」
アクセル「あいつの力と速さは油断できないぞ」
W(フィリップ)「しかしジェノサイド・ドーパントは防御力がないはずだ。そこをつけばなんとかなる」
W(翔太郎)「だったら、熱々のランチを持っていけ!」
【HEAT/METAL】
キィンッ!
W(翔太郎)「っと! 確かに力はあるが……こっちの勝ちだな! おりゃっ!」
ドォンッ!
ドーパント「ぐぅっ!?」
アクセル「俺も忘れるな、よ!」
キィンッ!
ドーパント「うぁ! こんのぉっ!」
ダッダッダッ!
W(翔太郎)「おいおい! あの角で突撃なんて洒落になんねぇぞ!」
カキィンッ!
ドーパント「はぁぁ!」
W(翔太郎)「ぐぅぅ!」
アクセル[バイクフォーム]「はぁぁっ!!」
ドゴォンッ!!
ドーパント「うがぁっ!!」
W(フィリップ)「助かった、感謝する」
アクセル「何、相手が冷静さを失っているから出来た」
ドーパント「ぐぅぅっ……」
W(フィリップ)「さっきの突撃が効いているようだ」
W(翔太郎)「なら、いっきに『ツインマキシマム』いくか?」
アクセル「それがいいだろうな。逃げられる前に」
ドーパント「こ、このぉっ!」
W(翔太郎)「これで決まりだ!」
【TRIGGER MAXIMUM DRIVE】
アクセル「これでゴールにしてやる」
【ACCEL MAXIMUM DRIVE】
ドーパント「はぁぁ!」
W(翔太郎)「俺に合わせろ!」
アクセル「了解した!」
W「トリガーフルバースト!!」
アクセル「はぁぁっ!!」
バァンッ! バァンッ! バァンッ!
ドーパント「あぁぁっ!?」
アクセル「たぁっ!!」
ドーパント「ぐぁぁぁっ!!?」
アクセル「ああ、これで通り魔も――」
W(フィリップ)「待ってくれ!」
ドーパント「ぐ、ぐぅぅ……」
アクセル「メモリブレイクされないだと?」
W(翔太郎)「ツインマキシマムを受けたのにか!?」
W(フィリップ)「いや、ダメージは充分なはずだ。だがどういうことかメモリが排出されない」
ドーパント「ぐ、ぐぉぉ!」
バシュッ! バシュッ!
アクセル「なっ!?」
W(翔太郎)「あいつ、翼生えやがった!」
ドーパント「くっ……」
バサッ バサッ
W(翔太郎)「あっ、おい! 待ちやがれ!」
カシュン ヒュゥーン
翔太郎「さすがに空を飛べられたらな。けどやばいな」
照井「ああ。おそらくまた犯行に及ぶだろう。せめて予防策があればいいのだが……」
翔太郎「せめてメモリの所持者が分かればいいんだがな」
翔太郎(メモリの所持者……か)
――
―
翔太郎「ただいま」
美月「あっ、おかえりなさい!」
翔太郎「美月! 帰ってたのか」
美月「ええ。けどさっきニュースで大通りで事件があったって聞いて不安で……。大丈夫でしたか?」
翔太郎「ああ、俺は大丈夫だ。美月は?」
美月「わたしは、事件と運よくすれ違ったので……」
フィリップ「美月。ちょっといいかな?
フィリップ「開発用の材料が不足していて、早急に買い物に行きたい。荷物持ちに付き合ってもらえないかな?」
美月「わかりました、そういうことでしたら」
翔太郎「おいおい、随分と急だな。荷物持ちだったら俺でもいいだろ?」
フィリップ「今はいつドーパントが現れてもおかしくない。だったらここで待機して、どこで現れても対応できるようにしてほしい。いざとなって一人で変身出来るのは一人なんだしね」
翔太郎「……わかった。だがドーパントが現れてもおかしくないのはそっちも同じだかんな。気を付けろよ」
美月「はいっ!」
フィリップ「では、行ってこよう」
アッー
詩作品→試作品、ですね
脳内保管をお願いします……
―
翔太郎「にしても、なぜあのドーパントはメモリブレイクされなかったんだ? ツインマキシマムを受けて無事なはずが――」
ダンダンッ
翔太郎「ん? どうぞ」
ガチャッ
柏原「あ、あの……鳴海探偵事務所でいいんでしょうか?」
翔太郎「はいこちら鳴海探偵事務所! どんな依頼もハードボイルドに解決いたします」
柏原「はぁ……」
翔太郎「で、どんなご用件でしょうか?」
柏原「っと、そうだ。えーとですね……人捜し、なんですけど」
――
―
美月「売ってるところまで、随分と遠いのですね」
フィリップ「僕の発明品は特殊だからね。その筋の店で買う必要があるんだ。それにしてもすまない。もう夕刻に入っている時に付き合わせてしまって」
美月「構いませんよ! わたしもあの事務所の一員なわけですし、好きでやってるんですから」
フィリップ「それは非常にありがたい。……そうそう、実は美月に大事な話があったんだ」
美月「大事な?」
フィリップ「実はだね。僕と翔太郎は――」
――
―
翔太郎「――おいおい、そりゃマジかよ!」
柏原「でしたら、今その人は危険です! 特に今は夕日がある!」
翔太郎「おいおい! 早く連絡を――」
ピョインッ! ピョインッ!
翔太郎「ん? ……フロッグポッド?」
フロッグポッド「――!」
翔太郎「……録音データがある?」
――
―
美月「――お二人が、仮面ライダー……?」
フィリップ「仮面ライダーW。二色の色を持つ風都のヒーローだ。ドーパントという、ガイアメモリの力を持つ怪物を相手に戦っているんだ」
美月「……すごいですね。ただの探偵さんとは思わなかったけど、まさかみんなのヒーローだなんて」
フィリップ「改めてそう言われるとうれしいものだね。ということで、事件にもあった怪物に出会ったら、迷わず連絡してくれ」
美月「ええ……そうさせてもらいます」
フィリップ「それじゃあ、早く向かおう。翔太郎が今日の夕食に待ちくたびれているはずだからね」
美月「ええ。……今日も、腕によりをかけますよ」
フィリップ「それはうれしいな――」
ブンッ!
美月「ふんっ!」
美月「なにっ!?」
フィリップ「やはり期待通りの働きを見せてくれるね、ファング」
ファング「――!」
美月「なんなのよ、そいつ!」
フィリップ「この子はファング。僕のSPみたいなものかな? それにしてもなんなんだろうね? ファングは僕の命の危険を察知しないと現れないんだけれど……それと、その左手に持っている岩はなにかな?」
美月「こ、これは……」
フィリップ「ついに正体を現したか、赤坂美月。……本当は嘘であってほしかったけど」
美月「仕方ないか……仮面ライダー、わたしの邪魔をする憎き男! ここでわたしが殺す!」
【GENOCIDE/GOAT DOUBLE CAST】
カチッ シュイーン
ドーパント「ここで死ね! 仮面ライダー!」
フィリップ「ダブルドライバー……どうやら僕も準備ができたようだ。翔太郎!」
翔太郎≪ったく、無駄に心配させやがって。『スタッグフォンが鳴ったら、ドライバーを装着してくれ』っていうフロッグポッドのメッセージ、聞いてなかったらどうしてたんだ?≫
フィリップ「心配ない。僕のメモリガジェットは優秀だからね。もちろんファングも」
翔太郎≪あまり無茶はしてほしくないが、今は説教をやってる場合じゃないな!≫
フィリップ「行くよ、ファング!」
ファング「――!!」
フィリップ・翔太郎「変身!!」
【FANG/JOKER】
W「さぁ、お前の罪を数えろ!」
【ARM FANG】
ダブルキャスト・D「はぁぁ!」
W(フィリップ)「させない! たぁっ!」
ダブルキャスト・D「ぐぁっ!」
W(翔太郎)「フィリップ! 赤坂美月についての正体が判明した! さっき美月の関係者が来てな、隅々まで教えてもらったぜ」
W(フィリップ)「赤坂美月の関係者?」
W(翔太郎)「ああ。そもそも正確には彼女は赤坂美月ではない。彼女の本名は『赤坂志穂』。赤坂美月ってのは志穂の双子の姉だ!」
W(フィリップ)「双子の姉? では本物の赤坂美月は?」
W(翔太郎)「……自殺したそうだ」
――
―――
翔太郎「赤坂美月は自殺している?」
柏原「はい。……美月と志穂は、二人暮らしをしていました。ですが、ある日姉の美月に男ができたんです。それだけなら、いい、それだけなら」
翔太郎「よくある恋愛話じゃ済まなくなった、てか」
柏原「僕も、人伝から聞いた話なんですけど……その男がたいそうひどくて、金はせびるわ暴力は振るうわ……結局それに耐えきれず別れ、美月の精神はボロボロになってしまいました。と、同時に、男に対してとてつもない『敵対意識』も美月に生まれたのです」
翔太郎「そりゃあひでぇ話だ……その男、許せねぇ」
柏原「その敵対意識は半端なものではなく、美月は一切男を寄せ付けなくなりました。……それは、妹である志穂にも飛び火しました。
妹を不幸にしまい、二の舞は踏ませない、と志穂の周囲からも男という男を跳ね除けました。志穂が誰か男性の人と少しでも接触すると、虐待すらしてしまうようになってしまったようで……」
翔太郎「赤坂美月はどんどんすさんでいった……で、その終局が、自殺か」
柏原「お風呂場でのリストカット。第一発見者は他でもない赤坂志穂。度重なる虐待でストレスがたまっていた矢先、姉の自殺現場を目の当たりにしてしまった志穂は、あまりの心的ショックによって――」
W(翔太郎)「彼女が持つ人格は専門家によると三つ。ひとつは普段の生活を過ごしている赤坂美月。ひとつは志穂に近寄る男を殺しさえもしてしまう志穂が投影した残忍な姉、赤坂美月。さらに、表に滅多にでることのない、本人格である赤坂志穂」
W(フィリップ)「なるほど、メモリ使用者に見られる感情の高ぶりが感じ取れなかったのは、メモリを使う人格が違っていたから。たびたび『ボク』や『わたし』といった一人称に違和感があったのは、人格が変わっていたからか」
W(翔太郎)「残忍な姉である赤坂美月の人格は非常に危険で、近づく男は殺すこともためらわない。おそらくメモリによって、その残忍性が増幅されてしまったんだ」
W(フィリップ)「大体理解は出来た。そして、相手がかなり厄介なこともね」
W(翔太郎)「そういえば、ジェノサイド・ドーパントとは違うってフィリップ言ってたな」
W(フィリップ)「ああ。あれは『ダブルキャスト・ドーパント』だ」
W(翔太郎)「ダブルキャスト?」
W(翔太郎)「ああ、覚えてるぜ。あのどんぶりドーパント、見た目の割に妙に強かったぜ」
W(フィリップ)「簡単に説明するなら、あれの強化版だ。『ダブルキャスト』のメモリは、ふたつのメモリの特性を合体し、一つのメモリにすることができるんだ。
まさか理論段階だったあれが完成するなんてね」
W(翔太郎)「ってことは、かなり厄介なんじゃ……」
W(フィリップ)「ああ。親子丼ドーパントみたいに、弱いメモリ同士の合体じゃない分、強力になる。しかしそのメモリの特殊性故、適正者が現れるのはありえなかったんだ。
『ダブルキャスト』は二面性のメモリ。同じ二面性を持つ人にしか惹かれないはずだからね」
W(翔太郎)「なるほど、多重人格である美月にはもってこいのメモリってわけか!」
W(フィリップ)「偶然が重なりあった結果、強力なドーパントがうまれたわけだ。合体したメモリは『ジェノサイド』と『ゴート』。
『大量殺戮』と『羊』だね。逃走の際に見た飛行能力は、羊が悪魔の象徴であるための能力だろう。『ゴート』の能力が、『ジェノサイド』の影響を諸に受けている」
W(翔太郎)「相変わらず、ガイアメモリはなんでもありだなこんちくしょう!」
W(フィリップ)「うぅっ!」
W(翔太郎)「大丈夫かフィリップ!?」
W(フィリップ)「くっ、明らかに力が増幅している。赤坂志穂に近しい男と戦っているための執念もあるが、メモリとの適合が徐々に進んできている。メモリとの適性が高すぎるんだ!」
W(翔太郎)「ってことは、暴走するかもってことか!?」
W(フィリップ)「だから、暴走する前に早く勝負を付ける!」
「その通りだ。この町で暴れさせるわけにはいかない!」
キィンッ!
ダブルキャスト・D「ぐぅ! 来たか、赤い仮面ライダー!」
アクセル「すまない、遅くなった」
W(フィリップ)「いや、また助けられたようだ。ありがとう」
ダブルキャスト・D「ふんっ! まぁ二人がかりでもいいわ! 今のわたしは誰にも止められない!」
W(翔太郎)「けど、実際厄介なのは間違いねぇし。なによりメモリブレイクされないんだぜ! フィリップ、何かいい方法はないか?」
W(フィリップ)「メモリブレイク出来なかったのは、おそらくふたつのメモリが合体している状態だからだ。方法は……ふたつのメモリを分離させて、同時にブレイクするしかない」
アクセル「そんなことができるのか?」
W(翔太郎)「同時にブレイクってのは、俺達とアクセルなら問題ねぇ」
W(フィリップ)「だが、問題なメモリの分離だ。メモリは赤坂美月のふたつの人格に依存しているはず。外から精神世界へ呼びかけるしかない!」
W(翔太郎)「言葉で語れ、か。説得あるのみだ!」
ドゴンッ!
アクセル「くっ! なんて馬鹿力だっ」
W(翔太郎)「おい! 美月! 聞こえるか!」
ダブルキャスト・D「ぴーぴーうるさいわね、この!」
W(フィリップ)「ぐあっ!」
W(翔太郎)「耐えてくれ、フィリップ! 美月! お前、この町の風は心地いいって言ってくれたな! なんだか優しい気持ちになるって!」
ダブルキャスト・D「うる、さいっ!」
カキィンッ!
アクセル「左の邪魔はさせない!」
ダブルキャスト・D「くぅっ!」
W(フィリップ)「赤坂美月! この声を覚えているかな?」
柏原≪美月? 美月か! 俺だ、柏原だ!≫
ダブルキャスト・D「柏原さん……?」
柏原≪今ちょっと探偵さんの電話を借りてるんだ。美月! お前がいきなり姿を消して、みんなが心配してたんだぞ! 部長や映研のみんな! 森崎先生もだ! みんな美月の帰りを待ってる!≫
ダブルキャスト・D「あ、ああ……」
柏原≪俺は世界で一番お前のことを心配してるつもりだ! だって、だって……≫
ダブルキャスト・D「や、やめろぉ! これ以上、あの男の声を――ぐっ!?」
W(フィリップ)「美月の人格が分離し始めている! 人格の力関係を覆そうとしているんだ!」
W(翔太郎)「美月! お前、風都の風が好きなんだろ? 何より、お前を待ってくれている人だっているじゃねぇか! なのに、なのに――」
ダブルキャスト・D「やめろって言ってるんだよぉ!」
W(翔太郎)「お前がこの町を、待ってくれている人たちを泣かせてどうするんだ! 戻ってこい!!」
シュゥゥーン
ジェノサイド・D「あ、あぁ……」
ゴート・D「あぁっ!」
W(フィリップ)「メモリが分離した!」
ジェノサイド・D「お、おのれぇぇぇ!!」
ガシッ!
ジェノサイド・D「何っ!?」
ゴート・D「翔太郎さんたちに、怪我なんてさせないっ!」
W(翔太郎)「美月! 美月なんだな!」
ジェノサイド・D「放せぇ! お前なんか、わたしでも志穂でもないただの取り繕いの人格のくせにぃ!」
ゴート・D「たとえ本当はない人格でも! 柏原さんや翔太郎さん、フィリップさんと……みんなと生きてきたから! 短い間でも、みんなと過ごしてきたから!
だから、大事な人達を守るのは当たり前でしょ!」
ジェノサイド・D「この出来そこないがぁ!!」
W(フィリップ)「おそらく彼女は気づいているのか……メモリブレイクされた瞬間、完全にメモリに寄生した人格も消えると」
W(翔太郎)「なにっ!? そ、それじゃ、美月は……」
ゴート・D「迷ったらだめ! だって、あなたたちはこの町を守る仮面ライダーでしょ! あの店のおじちゃんも、みんなも、守らなきゃいけないんでしょ! だから――」
W(翔太郎)「美月……」
アクセル「フィリップ、左。行けるか?」
ゴート・D「……伝えてください。柏原さんに。……『ありがとう』って」
W(フィリップ)「そのメッセージ、僕の本棚にしっかりと記録した。行くよっ、ツインマキシマムだ!」
アクセル「二人同時に……たたく!」
ガションッ! ガションッ! ガションッ!
【FANG MAXIMUM DRIVE】
アクセル「お前の憎しみ、恨み。……俺が振り切ってやる」
【ACCEL MAXIMUM DRIVE】
ジェノサイド・D「や、やめろぉぉ!!」
ゴート・D「……」ギュッ
W・アクセル「はぁぁ!!」
W・アクセル「ライダーツインマキシマム!!」
ズドンッ! ズドォンッ!!
ジェノサイド「いやぁぁぁ!!」
ドォォン……
―――――
――――
―――
――
―
こうして、『赤坂美月事件』は終結した。
赤坂志穂はほどなくして目を覚ましたが、その時には幸いにも残酷な姉の人格である赤坂美月はきれいさっぱり消えていたという。
……そう、もう一人の赤坂美月も。
柏原が言っていた赤坂志穂の行方不明は、例の組織の研究員の仕業だった。
名前だけ出ていた試作品のメモリ――『ダブルキャスト』のメモリの被検体として赤坂志穂を見つけ出した研究員は、
志穂が入院していた病院から半ば無理やり風都の病院に移送。
秘密裏に行うため研究員個人でやっていたところ、メモリの力によって志穂及び美月は脱走。
しかしメモリとあまりにも適性値が高く、人格の力関係が完全に変動。
治療によって抑えられ始めていた姉・美月の人格が上位となってしまう。
強大すぎるメモリの力が、本棚にも影響を与えていたとは驚きを隠せない。
やはりメモリについてはまだ未知数な点が多そうだ。
赤坂美月の記憶喪失に関して、犯人は姉・美月で間違いないだろう。
姉。美月が生活に溶け込むために、美月の人格の記憶に制限をかけていたのだ。これも解離性同一性障害の症状の一つらしい。
そしてこの事件の中心人物ともいえる赤坂志穂についての処遇であるが……これに関しては心配ないらしい。
赤坂志穂のカルテも発見、研究員が削除していた戸籍も復活。
その人物の特殊性故少しばかり議論があったらしいが、研究員の違法な実験に巻き込まれた被害者であるという点と、強制的に使用されたメモリによる犯行である点だということから、彼女自身は無罪放免となった。
しかししばらくは精神病棟でちょっとしたリハビリをしなければいけないらしい。今回は死者も出ていない、幸い後遺症が発生した被害者もいないので、比較的丸くおさまったといえよう。
猫を助けるときに見せた人間離れな跳躍……思えば、あれはメモリの力が浸食していた結果だったと推測できる。
だが、おそらく美月は……赤坂美月は、最後まで姉・美月に抵抗していた。
ジェノサイドの力を使いながら、なぜ姉・美月は一人も殺せなかったのか……。
これは、美月がメモリの力を、姉・美月を最期まで抑えていたから。
彼女がいなければ、この事件も解決できていなかったであろう……。
風都の風がいざなった、とある夏のむなしい事件だ。
フィリップ「一人の少女に宿るふたつの人格……ダブルキャストだね」
翔太郎「……プレゼントしたふうとくんが、泣いてるように見えるぜ」
フィリップ「そうかな?」
翔太郎「ほう、じゃあフィリップにはどう見えるんだ?」
フィリップ「……安堵。彼女は大事なものを守れたんだ。風都の風を愛する者として、ね」
翔太郎「……そうだな」
ダンダンッ
ガチャッ
志穂「えと……」
柏原「どうも」
柏原「はい。署での取り調べも終わったので。担当医の森崎先生のところに」
志穂「その……色々と、ありがとうございました」
翔太郎「何、俺は依頼を遂行したまでさ」
フィリップ「君たちの幸せを、心から祈っているよ」
柏原「あはは……」
翔太郎「……志穂、これを受け取ってくれ」
志穂「これって……確か風都のマスコットキャラ、でしたっけ?」
翔太郎「まぁ、俺達からの選別ってこった。……向こうでも、がんばれよ」
志穂「……ありがとうございますっ!」
――
―
フィリップ「よかったのかい?」
翔太郎「何がだ?」
フィリップ「あのふうとくん。彼女との唯一の形ある思い出じゃないのかい?」
翔太郎「……何、あいつが持っていた方がいいって思っただけだ。あれさえそばにいれば、あいつの『お姉さん』も安心して妹を見守れる……そう願っただけさ」
フィリップ「……ふぅ。慣れないことはしないほうがいいよ? まさか翔太郎が一瞬だけハードボイルドに見えてしまうとは」
翔太郎「なっ! 俺は正真正銘のハードボイルドだっつーの!」
フィリップ「はいはい」
―FIN―
保守してくれた人達に感謝感謝
PSゲーム「ダブルキャスト」、中古で発売中
乙
懐かしかった
Entry ⇒ 2012.10.13 | Category ⇒ 版権物SS | Comments (1) | Trackbacks (0)
サトシ「ピカチュウ!最大パワーで10万ボルト!」ピカチュウ「……」
サトシ「よーし!イッシュリーグに向けて今日もガンガン特訓するぞー!」
デント「んん~wwww気合い充分だね~wwサトシ」
サトシ「あぁ!早くイッシュリーグで戦いたくてワクワクしてるんだ!」
アイリス「そんなにはしゃぐなんてほんと子どもね~」
サトシ「うるさいなアイリスは」
デント「うるさいよアイリス。……あ!そうだサトシ。特訓がてらボクとポケモンバトルしないかい?」
アイリス「……」
サトシ「お!いいな!じゃあ、早速やろうぜ!」
サトシ「行くぞビカチュウ!」ダッ
ピカチュウ「……」タッタッタッ
アイリス「じゃあ、これからサトシ対デントのポケモンバトルを始めるよ!使用ポケモンは一た」
デント「さぁ、サトシ!早速始めようか!使用ポケモンは一体でどちらかのポケモンが戦闘不能の時点でバトルは終了!これでいいかい?」
サトシ「さすがデント!それでいいぜ!」
アイリス「……」
アイリス「……それじゃーはじ」
デント「じゃあ、行くよ!出てこい!マイ・ビンテージ、ヤナップ!」ポン
ヤナップ「ナップ!」
サトシ「よし、こっちはお前だ!いけ!ピカチュウ!」
ピカチュウ「……」タッタッ
ヤナップ「ナー、ププププププププ!」ププププ
サトシ「かわせ!ピカチュウ」
ピカチュウ「……」サッ
デント「逃がさないよ!ソーラービーム!」
ヤナップ「ヤーーー……」キュイイイイ
ヤナップ「ナッ!」カッ
サトシ「ピカチュウ!かわして10万ボルト!」
ピカチュウ「……」バリバリバリ
ヤナップ「ヤナー!」ビリビリビリ
デント「あぁ!ヤナップ!」
ピカチュウ「……」バチバチバチ
ピカチュウ「……」シュッ
デント「ヤナップ!あなをほるでかわすんだ!」
ヤナップ「ヤナッ!」ガゴッ
サトシ「ピカチュウ気をつけろ!どこから来るか分からないぞ!」
ピカチュウ「……」
デント「今だよヤナップ!」
ヤナップ「ナップ!」ボゴコッ
サトシ「ピカチュウ後ろだ!」
ピカチュウ「!?」バキッ
ピカチュウ「……」コクッ
サトシ「よし!10万ボルトだ!」
ピカチュウ「……」バリバリバリ
デント「ヤナップ!ソーラービーム!」
ヤナップ「ナッ!」カッ
バリバリバリ ドゴーン
アイリス「相変わらず二人共すごいパワー!二人共ー!がん」
デント「ヤナップ!タネマシンガン!」
サトシ「ピカチュウ!でんこうせっか!」
ヤナップ「プププププププ!」ププププ
ピカチュウ「……」シュッサッシュッサッ
ピカチュウ「……」ドカッ
ヤナップ「ヤナッ!?」ドゴッ
ヤナップ「ヤナッ!」コクッ
デント「ボク達の味わい深い強力なテイストでフィニッシュだよ!」
デント「ヤナップ!ソーラービームッ!!」
ヤナップ「ヤーーー……」キュイイイイ
サトシ「こっちも全力で迎え撃つぞ!」
サトシ「ピカチュウ!最大パワーで10万ボルト!」
ピカチュウ「……」
ピカチュウ「くだらんな」
デント「何がくだらないんだいピカチュウ?」
ヤナップ「ヤナ……?」ピタ
アイリス「ちょっと、一体どうし」
ピカチュウ「実にくだらん……何もかもがだ」
アイリス「……」
サトシ「具体的に言ってくれよ?」
ピカチュウ「全力」
サトシ「え?」
ピカチュウ「気合い」
サトシ「え?」
ピカチュウ「根性」
サトシ「え?え?」
ピカチュウ「そして、かわせ」
ピカチュウ「サトシ、お前は今まで何回この言葉を使ってきた?」
ピカチュウ「お前はこの軽い言葉で何回ポケモンに無理をさせてきた?」
ピカチュウ「いい加減にしてもらおうか」
サトシ「……いや、でも、俺は今まで気合いと根性でタイプの相性の壁さえ乗り越えて……」
ピカチュウ「それだよ」
サトシ「え?」
ピカチュウ「お前は気合いだの根性だのでタイプ相性の壁を無理矢理ぶち破ろうとしているが」
ピカチュウ「なぜお前はもっとそのようなことを戦いの中で学ばない?」
サトシ「……」
ピカチュウ「お前は気合いと根性で数々のピンチを乗り越えてきたと思っているだろうが……違う」
サトシ「違う?何が違うんだよ?」
ピカチュウ「主人公補正」
アイリス「主人公補正も知らないの?サトシってほんと子ど」
ピカチュウ「黙れ雌が」
アイリス「……」
ピカチュウ「話を戻す。いいか、お前は今までピンチの後に大逆転を果たして勝ったことが何回かあるだろ?」
サトシ「あぁ、毎回気合いと根性でなんとか……」
ピカチュウ「まだ言うか。……とにかく、それは少なくともお前お得意の気合いや根性のおかげではない」
サトシ「じゃあ、何なんだよ?」
ピカチュウ「それはお前が主人公だからだよ」
サトシ「主人公?」
サトシ「あぁ、でも俺と主人公って何の関係があるんだ?」
デント「(ピュアなのか単なる馬鹿なのか……わからないねぇ)」
ピカチュウ「……まぁいい。とにかくだ。お前の気合い根性論は普通は通用しない。お前は特別だからというのをよく覚えておけ」
サトシ「俺って特別だったのか……(神とかかな?)」
ピカチュウ「あぁ、そうだ。そして、お前が特別じゃなかったらさっきのバトルなんて一瞬で負けていた、ということも覚えておけ」
サトシ「つまりピカチュウの弱さを俺の特別な力で補っているのか……フフッ」
ピカチュウ「」イラッ
シリーズが変わる度にレベルをリセットされるピカチュウさん…
サトシ「えぇ!?俺は優勝する気でいるんだぜ!?」
ピカチュウ「無理だ」
サトシ「無理じゃない!気合いと根性で全力最大フルパワーでかわしまくれば……」
ピカチュウ「無理だ。ていうかさすがに詰め込みすぎだろ」
サトシ「そんなぁ……じゃあどうすりゃいいんだよ!」
ピカチュウ「まずは何でも気合いと根性で片づけようとするな。タイプ相性を勉強しろ。もちろんそれぞれのポケモンのタイプや特性も頭に入れておけ」
サトシ「そんな難しいこと考えられないよー!」
ピカチュウ「じゃあ、優勝は諦めるんだな?」
サトシ「!?」
サトシ「……したいさ。でも……」
ピカチュウ「ならば努力しろ。お前がポケモンについての知識を増やし、それにお前の今までの経験、そして俺達のチームワークが加われば」
ピカチュウ「優勝も夢じゃない」
サトシ「……分かったよ」
サトシ「俺……これから沢山勉強して……そして、必ずイッシュリーグで優勝してみせる!」
ピカチュウ「……フッ。いい心がけだ」
アイリス「その意気よ!分からないことがあっ」ドンッ
デント「分からないことがあったらボクに聞きなよ!なんたってボクはポケモンソムリエだからね!」
サトシ「ありがとうデント!遠慮なく聞いていくからなデント!」
デント「お手柔らかに」
アイリス「……」
ピカチュウ「サトシ。お前が勉強している間は、俺達もそれに見合うように自分達で特訓しているからな。頑張れよ」
ヤナップ「やれば、上がる」
サトシ「ありがとう……ピカチュウ!ヤナップ!」
アイリス「……」
それからというもの、サトシは一日のほとんどを勉強の時間にあてた
サトシ『ルリリは……水タイプだ!』
デント『ブーッ!ノーマルタイプなんだよこれが』
サトシ『えぇーっ!?』
―――――――――――――――
一方ピカチュウ達も一日中特訓に明け暮れていた
ピカチュウ『動きが遅い!そんなんじゃ、相手にすぐ捕らえられてしまうぞ!』
チャオブー『きっついわー……』ハァハァ
ミジュマル『文句言うなよ焼き豚が』
そして時は流れ──
―――――――――――――――
ワーワー ワーワー
実況『さぁー!今年のイッシュリーグの決勝戦も白熱しております!』
実況『サトシ選手対シューティ選手による決勝戦もいよいよ大詰め!』
実況『シューティ選手のポケモンは残すところあと一体!エースのジャローダのみとなりました!』
実況『対するサトシ選手は未だ六体残っております!』
実況『トップバッターのエンブオーだけで既に五体を倒しているという圧倒的な実力!』
実況『そしてなおもジャローダを追い詰めております!』
実況『シューティ選手の大逆転はあるのか!?』
シューティ「くっ……」
シューティ「(強い、強すぎる……。以前とは比べ物にならないほどの圧倒的な強さ)」
シューティ「(一体あいつに何があったんだ!?)」
エンブオー「……」ゴゴゴゴ
ジャローダ「ローダ……」ハァハァ
シューティ「(ジャローダの体力も限界に近い……。次の攻撃をまともに食らったらアウトだ……)」
サトシ「……ぞ」
シューティ「……?」
サトシ「いきますぞwwwwwwww」
シューティ「!?」
シューティ「(何だあいつ……しゃべり方がおかしいぞ……?)」
シューティ「……とにかく今はやるしかない!ジャローダ!にらみつける!」
サトシ「にらみつけるwwwwんんwwフルアタ以外ありえないwwwwwwww」
サトシ「ヤンブオー、とどめですぞwwww」
サトシ「フレアドライブwwwwwwww」
エンブオー「んんwwww」ゴオォォォォ
シューティ「かわせぇ!ジャローダぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
ドゴーーーン
シューティ「ジャローダ!」
ジャローダ「ロォ……ダ…………」ガクッ
審判「ジャローダ戦闘不能!よって勝者、サトシ選手!!」
ワアアアアァァァァァァァ
ヤトシ「やりましたぞwwwwぺゃっwwwwwwww」
ヤンブオー「んんwwwwwwww」
シューティ「……お疲れ様、ジャローダ」バシュッ
ワアァァァァァァァ
アイリス「やったわね!サト」グイッ
ヤント「やりましたなヤトシ殿wwwwwwww」
ヤナップ「んんwwwwwwww」
ヤンブオー「んんwwwwwwww」
サトシ「我はただ迷える子羊を導こうとしただけですぞwwwwwwww」
アイリス「(……なにこれ)」
アナウンス『サトシ選手。表彰式を行いますのでバトルフィールド中央におこし下さい』
ヤンブオー「んんwwwwwwww」
ヤント「胸を張って行くんですぞwwwwwwww」
ヤナップ「んんwwwwぺゃっwwwwwwww」
ワアァァァァァァァ
ピカチュウ「……」
アイリス「……」
アデク「えー、サトシ君本当におめでとう!」
ヤトシ「ヤトシですぞwwwwwwww」
アデク「ヤトシ……?ま、まぁ、とにかくおめでとう!何か一言あるかね?」
ヤトシ「じゃあ、一言だけ言わせてもらいますぞwwwwwwww」
シーン
ヤトシ「……トレーナー全員にヤーティ神の御加護があらんことを!」
ワアァァァァァァァ ワアァァァァァァァ
ピカチュウ「(どうしてこうなった)」
おしまい
最後まで見てくれて非常にありがたいですなwwwwwwww
ニャースとピカチュウのSSの続編は希望があれば近い内に書きますぞwwwwwwww
⇒ニャース「おミャーらを許さないニャ……」ピカチュウ「……」
んんwwwwwwニャースとピカチュウの続きを期待する以外ありえないwwwwwww
>>68ですぞwwwwwwwwwwwwww
Entry ⇒ 2012.10.13 | Category ⇒ ポケモンSS | Comments (4) | Trackbacks (0)
P「加蓮の親愛度がMAXになった」
P(加蓮は頑張り屋で、ちょっと身体が弱くて、でも最高に輝いてる)
P(今ではうちの事務所の顔として活躍してるけど)
P(最初の頃は本当に大変だったんだよな…)
P(社長や俺がスカウトしてきた候補生は、能力と本人の反応を見るためにしばらくレッスン場通いになる)
P(加蓮と初めて会ったのは丁度加蓮のレッスン詰め最終日)
P(一目見て惚れ込んで、社長に担当させて欲しいと頼み込んだ)
P(…今思えば、「流石だねキミィ」の意味をよく考えるべきだった)
加蓮「ん?アンタがアタシをアイドルにしてくれんの?よろしく」
P「よ、よろしく。プロデューサーのPです」
加蓮「でさ、アタシ努力とか練習とか、そういうキャラじゃないんだけど。ホントになれんの?アイドルなんてさ」
P「え、え?まあ険しい道程にはなると思うけど…やるからには二人三脚で頑張ろう、な?」
加蓮「えー…言っとくけどアタシ体力ないかんね。入院してた時期もあるし。ちゃんと休ませてよ?」
P「よろしくな、えっと、加蓮ちゃん?」
加蓮「うわ、なにそれ気持ち悪…加蓮でいいよ」
加蓮「はあ、先が思いやられるなー」
P(俺もだよ…うう、見事なまでの現代っ子…これからが心配だ…)
[同日、夕方]
ルキトレ「はい、6、2、3、4、7…ほら加蓮ちゃん頑張ってー!」
加蓮「ハッ……ハッ……あー、もう無理!休憩!」
ルキトレ「あー、もうちょっとだったのに…ダメだよ加蓮ちゃん、気合で最後までやろうよぉ」
加蓮「ハァ…ハァ…無理だってば、無理無理…ハァ…あー、喉渇いた…飲み物飲み物…」
ルキトレ「うー、加蓮ちゃぁん…」
P(でも原石としては最高の逸材だ。磨けば間違いなく輝ける)
P(それになにより、俺がこの子をプロデュースしてみたい)
P(担当を加蓮一人に絞っていいから全力でやれと社長は言ってたけど…)
P(まだ俺が加蓮のことを知らなさすぎる)
P(本人もこの程度のレッスンでかなり辛そうだし、一度ちゃんと話して心の内を聞いておかないと)
加蓮「え、わ、わ、っと…あ、レモン水じゃん!プロデューサーわかってるー♪」
加蓮「んっ…」ゴクゴク
P「ルキトレさん、今日は少し早いですけどここまでで大丈夫です。少し加蓮と話したいこともあるので」
ルキトレ「あ、はい…えっと、加蓮ちゃん、気分とか、大丈夫?」
加蓮「ん、休めば大丈夫だよ。お疲れ~」
ルキトレ「うう、それじゃ次もまた頑張ろうね?お疲れ様」
加蓮「疲れたー。やっぱしんどいよこれ」
P「そっか。じゃ、そのまま座っててくれ…っと、隣、いいか?」
加蓮「へ?と、隣?い、いいけど汗かいてるよ?」
P「構わないって、それくらい。そいじゃ失礼、と」
加蓮(構わない、って…臭わないよね?)クンクン
加蓮「うーん…なんか事務所の子達ってホント努力努力努力ーってカンジでさー」
加蓮「なのにアタシはこんなんだし、レッスンも休み休みじゃないとこなせないし」
加蓮「どうにかなんのこれ?って感じかな。あはは」
P「確かにうちの事務所は結構凄いのいるからなあ…」
P「加蓮はなんでアイドルやってみようと思ったんだ?」
加蓮「え、唐突…んー、なんていうんだろ」
P「へ?」
加蓮「あ、別にふざけてるわけじゃないよ?ほら、日高舞っていたじゃん、もう引退しちゃったけど」
P「ああ…ってまさか日高舞に憧れて?」
加蓮「うん。アタシ小さい頃から病気がちでさ。あんまり外で遊んだりできなくて」
加蓮「いつも家で遊んでたんだけど、そんなアタシのヒーロー?ヒロイン?が日高舞」
加蓮「お母さんも、『大きくなって、元気になればあんな風になれるから』とか言っちゃっててさ。アタシ、信じちゃってたんだ」
加蓮「そ。高校入って、相変わらず体弱くて、全然日高舞みたいにはなれなくて」
加蓮「あーネイルの勉強でもしようかなーなんて考えてたところで、アイドルやりませんか、とか言われるもんだからさ。ちょっと夢見ちゃった」
加蓮「でもやっぱダメだね、アタシみたいなポンコツが通用する感じじゃなさそうかも。あはは」
P「ポンコツってお前……」
加蓮「実際そうだよ。ルキトレちゃんも言ってたよ、アイドルって体力ないと務まらないって」
加蓮「アタシにはそれがないんだし、さ。根性も無いし」
P「…今も、アイドルになりたいと思ってるのか?」
加蓮「えー、実際無理そうじゃない?さっきのレッスン見てたでしょ?あれで人前に立つのは…」
P「加蓮、真面目に」
加蓮「……そりゃ、ね。夢だもん。でもお陰で現実見れたし、これで諦めつけてもいいかな、って」
加蓮「プロデューサーには付いて早々で悪いけど、そろそろ潮時ってことでもう…」
P「諦めも何も、まだ何も始まってないだろ。アイドル、なりたいんだろ?」
加蓮「なんで何度も言わせるのさ、嫌がらせ?」
P「そんなわけないだろ。加蓮をアイドルにするために、俺が知っておきたかったんだよ。プロデューサーなんだからな」
加蓮「…っ、だから無理だって、もう一週間やって分かったよ」
加蓮「アタシみたいなのはアイドルなんてなれない」
加蓮「体力もないし根性もない、そんなんじゃ通用しないって十分思い知ったって」
加蓮「もういいんだってば。帰る。さよなら」
P「おい、加蓮」
加蓮「もういいって言ってるでしょ!しつこい!」
P「待てよ、おい加蓮!」グッ
加蓮「離してよ、や、離してってば!」
P「話を最後まで聞けって!」
加蓮「っ、痛い、離して!」
P「…ごめん」
P「……俺は加蓮にこんなところで終わって欲しくないんだ。まだまだこれからだろ」
P「辛いのに、ちゃんと毎日レッスンも来てるし、根性あるじゃないか。続ければ必ずステージで輝く日が来るさ」
加蓮「…しつこいなあ。今日初めて会ったのになんでそこまで言えんの?」
P「一目見てティンときたんだよ。この子には他の子にはないものがあるって」
P「加蓮さえよければ、一緒に頂点を目指したいんだ」
加蓮「頂点って、話飛びすぎ。期待してもらって悪いけど、アタシ、やっぱこういうの無理だよ」
加蓮「去年の今頃は病院のベッドだったのにアイドルなんて目指させて貰えて、短い間だったけどいい夢見れたよ」
加蓮「いいじゃん、アタシの中で決着つきそうなんだから」
加蓮「………もういいってば……ホントしつこい…諦めさせてよ……」
P「…………加蓮はさ、目が違うんだ」
加蓮「………は?目?」
P「そう、目。アイドルはたくさん見てきたけど、加蓮みたいな目をしてる娘は他にいない」
P「アイドルってのは誰もが目が輝いてるけど、加蓮の瞳は夢を映して、こう、煌めいてて」
P「何て言うんだろうな。輝き方が違うんだ」
加蓮「……何それ、意味わかんない。口説いてるつもり?」
P「…そうだな、惚れたのかも。初めて加蓮の目を見たとき、ビビッときたんだ」
P「うん、一目惚れ、かもしれない」
加蓮「……………へ?」
加蓮「え、あ、手…」
P「お前の夢、叶えさせてくれ。俺が魔法使いになるから、加蓮がシンデレラになってくれ」グイ
加蓮「な、ちょっと…」
P「ちゃんと輝くステージに、ドレスと花を持たせて連れていくから」
P「だからさ、一緒にやろう、アイドル。二人なら出来る、約束する」
加蓮「だから、アタシはもう…」
P「今日まで一週間、辛かっただろ?でも今日からは俺と、二人でやっていこう」
P「まだ、これからだろ。スタートラインなのに、諦めるなんて悲しいこと言うなよ」
P「確かに今はまだまだ遠いかもしれないけど、だからこそのシンデレラストーリーじゃないか」
加蓮「でも、無理だよ………あたしじゃ………」
P「………できるよ。見たいんだ。加蓮の、シンデレラ。一緒にやろう」
P「舞踏会まで、俺が連れていく」
加蓮「……………本当に……?」
P「俺、これでもこの仕事では、結構評価してもらえてるんだぞ?」
加蓮「……私、すぐ疲れるよ?レッスンも活動も、迷惑かけちゃうかも」
P「それでも絶対、だ。約束する」
加蓮「二人三脚になんてならないかもしれないよ。道端でへたりこんじゃうかも」
P「そのときは肩車でもおんぶでもなんでもするさ。カボチャの馬車にだって変身してやる」
加蓮「…ぷっ、なにそれ、バカみたい」
加蓮「……ねえ、ホントに、アイドル、なれるのかな」
P「なれるよ。約束する」
P「やるって言うなら、今日この場から俺が北条加蓮のファン1号で、頂点までのパートナーだ」
加蓮「……わかった。ちょっとだけ、信じてみる」
加蓮「約束、だからね」
加蓮「ちゃんと、私の夢、叶えてね」
P「……加蓮!」ギュッ
P「うん。絶対に、絶対にお前の夢、叶えるから。明日からまた仕切り直して二人で頑張ろう」
P「…ってどうしたんだ?加蓮?」
加蓮「…あの、抱きつかれると…あたし…」
P「…あ、ははは、熱くなっちまって、つい……悪い…」
加蓮「…セクハラ」
P「う、ごめん…家まで送るから着替え終わったら呼んでくれ、外で待ってるから」
バタン
加蓮「………」
加蓮「……ぷっ、あは、あはっ」
加蓮「あはっ、だっさ、俺が魔法使い、だって、あ、あはははっ」
加蓮「しかもとんだセクハラプロデューサーだし、あはっ、ホント最悪、あは、は、は」
加蓮「自分も顔真っ赤なくせに、あは、は、カッコ、つけて、あはっ」
加蓮「しつこいし、ぷふっ、もうホント最低、っ」
加蓮「ヒッ、は、もういいって言ってんのに、あは、グスッ……ヒッ……」
加蓮「諦められると、思ったのに……ぅ、グスン、ぅぅ……」
加蓮「………ヒグッ……グスッ……」
加蓮「…グスン………私……なれるのかな………」
加蓮「…………アイドル、アイドルかあ……ひぐっ、う、うぇぇ」
加蓮「グスッ、う、う、ぅぅぅぅぅ」
加蓮「…ぁ、あ……あ……あ、あああ、」
P(あの日、加蓮がレッスン場から出てくるまで一時間待たされた)
P(ようやく出てきてから家に送り届けるまで、何度も「こっち絶対に見ないでよ」と言われたけど)
P(別れ際の「また明日ね」の声は、今でも耳に残っている)
P(これが俺と加蓮の、最初の一歩)
――――
―――
加蓮「あ、プロデューサー!今日もお迎えありがと」
P「おう、とりあえず乗った乗った、早く出よう」
加蓮「ん、何か急ぐの?今日はレッスンだけでしょ?」
P「いや、結構注目浴びてるっていうかさ…」
P「あんまり噂されたりすると、加蓮も学校でやりづらいだろ?」
加蓮「へ?うわ、ホントだガン見されてる…行こ行こ」
バタン
ブロロロロ
加蓮「普通かな。あ、今日から体育も頑張って出てるよ。先生びっくりしてた」
P「お、偉い偉い。ご飯はちゃんと食べたか?」
加蓮「朝はなんとか食べたけど…昼はちょっとしか食べられなかった。体育の後だったし」
P「それだとレッスン中に力出ないだろ。ほら、そこの紙袋のやつ食べとけ」
加蓮「はーい。今日のおやつは…フルーツサンドかー。こっちの惣菜パンは?」
P「ああ、それは俺の。ちょっと小腹が空いちゃってな」
加蓮「エビフライやきそばパン…?ね、私こっちがいい」
P「え、ええ?別にいいけど」
P「そういや言ってたな。今度からその路線の方がいいか?」
加蓮「んー、でも流石にお腹空いてないと無理だし」
P「なら欲しいときは連絡してくれ。おやつくらいならいくらでも出すから」
加蓮「はーい……んぐんぐ…ん、今日もレッスン頑張ろっと」
P「疲れとかは大丈夫か?」
加蓮「そりゃあれだけいろいろやれば疲れるけど、ね」
加蓮「ちゃんと言われたとおりに食べて、寝て、身体動かしてるから、すっごく調子はいいよ」
P「ならいいんだけどな」
加蓮「あ、それにプロデューサー、ちゃんと身体使うのと使わないのとでバランス取ってにレッスン組んでくれてるでしょ」
加蓮「ふふっ、助かってるよ」
P「その辺は任せとけ。でも頑張り過ぎは禁物だぞ?オフの日はしっかり休んで、遊ぶように」
加蓮「でも今はレッスンも楽しいし、まだまだやれるよ?」
P「他にもやりたいことあったりするだろ。押さえつけると、気がつかないうちにストレスになってくるんだ」
P「休みもちゃんと希望出して、発散すること。いいな?」
加蓮「はーい……うーん、やりたいことやりたいこと……あ」
P「ん?なんだ?」
加蓮「その、放課後デート」
P「…は!?加蓮、お前アイドルなんだから恋愛は…」
加蓮「うん、わかってる。そもそもそんな相手いないし」
加蓮「でも、Pさんならプロデューサーだからさ、その…」
加蓮「えっと、うわ、恥ずかし、何て言うか、その」
P「……」
加蓮「えっと、とにかく私ちゃんと休みとるからさ、Pさんも同じ日に、だって二人で頑張るって決めたんだから」
加蓮「二人で一緒に休んで、その…」
P「はぁ…」
P(加蓮の放課後なら仕事は早上がりさせてもらえば事足りるし…)
加蓮「……」
P「加蓮」
加蓮「ぅぅ…ご、ごめ」
P「来週の金曜な」
加蓮「!」パァァァ
P(純情、だなぁ…)
P(この頃の俺の担当アイドルは加蓮一人に絞られていた)
P(だから加蓮の育成に全力を注ぎ込むことができた)
P(送迎もレッスンも営業も、全部俺の担当で)
P(たまにオフを取っても、何らかの形で加蓮と一緒にいた)
P(忙しい日が続いても、加蓮は弱音一つ上げなかった)
P(仕事も順調、アイドルランクは一度上がり始めたら勢いが止まらず)
P(お互い、パートナーとして成長していった)
――――
―――
P「…」カタカタカタ
加蓮「…」ジー
P「…うーん……」カタカタカタ
加蓮「…ふふっ」
P「…」カタカタカタ
みく「…」ジトー
加蓮「ねえプロデューサー。そろそろいい時間だよ」
P「え?うわ、もうこんな時間か。ごめん、待ってたのか?」
加蓮「うん、プロデューサーがお仕事するの見てた」
P「そっか。よし、それじゃ今日はここで切り上げるかな。飯行こうか」
加蓮「ん。えっとね、今日は…」
みく「…Pチャン?」ジトー
みく「うん、お疲れ様…Pチャン、加蓮がずっと見てたっていうのにノーコメントなの?」
P「いつものことだし」
みく「に、にゃ…きょ、今日は加蓮とご飯の約束してたり?」
P「いや、別に」
みく「…じゃあなんで自然と一緒に食べに行く流れなの」
P「まあ、いつもの流れだし」
みく「…これもいつも!?いつも一緒にご飯食べてるの!?Pチャンみくの担当してた頃はいつも『早く帰って寝なさい』だったにゃ!?」
P「あの頃は忙しくてだな…」
みく「行く!Pチャン、みくはお肉を要求するにゃあ!」
P「回転寿司ならまだ開いてるかな?いいか?」
みく「Pチャン!?ひどくない!?」
加蓮「プロデューサー、私はどこでもいいよ」
みく「にゃ!ならそこのファミレスがいいにゃ!お肉お肉~♪」
みく(Pチャンと加蓮、仲良すぎにゃあ…ふふん、たまにはみくも構ってもらうにゃ!)
ゴチュウモンウカガイマース
みく「ガーリックステーキのデラックスセット!あと食後にストロベリーバナナパフェ!」
P「みくはこっちの焼き魚定食の方が…」
みく「はぁぁ?お断りにゃ!Pチャンの奢りだし、みくは贅沢するにゃ!加蓮はー?」
加蓮「んーっと、えっと…このアンガスバーガーのバッファローウイングセットで」
P「ん、じゃあ俺は野菜スープとシーザーサラダで」
みく「か、加蓮すごいの頼むね…」
加蓮「あはは…色々反動でね、ジャンクフード好きなんだ。こういうところ来ると、つい、ね」
みく「それに比べてPチャンはダイエット中かにゃ~?むふふ、みくを蔑ろにした罰としてお肉見せびらかしの刑にゃ~♪」
P「はいはい、食べ終わったらちゃんと歯磨いてブレスケアしろよ。明日ニンニク臭くなるぞ」
みく「え…ひどくない…?」
みく「ん~~やっぱりお肉は美味しいにゃ~~♪」ハグハグモグモグ
加蓮「ん……Pさん」
P「もういいのか」
加蓮「うん、意外と重くって」
P「そっか。じゃ、ほい」
みく「…!?」
みく(示し合わせたように頼んだもの交換…え、まさかお互い最初からそのつもりで頼んだの!?)
みく(というかそのハンバーガー、加蓮直接かじってたにゃ!?)
加蓮「あ、Pさんフォークとスプーンも」
みく(え、普通新しく頼まない?あと呼び方Pさんに変わった?)
加蓮「この間のカフェのとか酷かったもんね。あ、そのバッファローも割とよくない?」
P「うーん、ちょっと甘い気が…」アーダコーダ
みく(な、何コレ…)
ストロベリーバナナパフェノオキャクサマー
みく「あ、はい…」
P「加蓮はデザートいらないのか?」
加蓮「うん、今はいいよ」
P「そっか」
加蓮「ん、ありがと」
みく(アカンなんやこの空気アカンアカン)
P「みくはよく食べるなあ。ほら、加蓮もこれくらい普段から食べればもっと…」
加蓮「最近は頑張ってるよ。ほら、この間だってさ」
みく「に、にゃー!PチャンPチャン!!並んでる人いるし、食べ終わったらさっさと出よ!…んっんっんっ…ごちそうさま!ささ、早く出るにゃ!」
P「え?お、おう、それじゃ会計してくるか。みく、3000円な」
みく「に゛ゃ!?」
P「ぷっ、相変わらずいい顔するな。冗談だよ、車乗って待ってな」
加蓮「みく、Pさんと仲いいよね」
みく「え、加蓮がそれ言う?加蓮こそ入り込めないくらいPチャンと仲いいにゃ」
加蓮「ふふ、そうかな…でもPさんもさっきから酷いことばっかり言って」
みく「前からあんな感じだよ?みくもあれくらいでじゃれるのが丁度いいにゃ~♪」
加蓮「そっか。……みくはさ、Pさんが担当外れたとき、どうだった?」
みく「うーん、いろいろ思うことはあったにゃあ。でも最後はにゃんていうか、よかったー、って感じが一番強かったかにゃ」
加蓮「え?みく、Pさんのこと嫌いだったの?」
みく「そんなわけにゃいでしょー」
みく「……でもあの頃のPチャン、いつも死にそうな顔してたし」
みく「みくたちのためにやりすぎなくらい頑張ってたにゃ。いつもボロボロで、ちひろが救急車呼ぼうとしたこともあったにゃ」
みく「だからみくたちのLIVEが上手くいって、やっとの思いで出したCDが成功して」
みく「ちひろが新しいプロデューサーが雇えるって教えてくれたときは、寂しいっていうよりも、安心したかも」
みく「結果的にPチャンはみくの担当からも外れちゃって、仕事終わりくらいにしか会わなくなっちやったけど」
みく「もうボロボロのPチャンを見なくていいなら、みくはそれで嬉しいよ」
みく「……ふふーん、みくはいいオンナだにゃ?」
みく「魔法使い?」
加蓮「うん、みくも最初に言われたでしょ?俺が魔法使いでお前がシンデレラ~ってやつ」
みく「へ?何の話?」
加蓮「え、ちょっと待って、みんなに言ってたんじゃないの…?」
みく「…加蓮?もしかしてこれはのろけ話かにゃ?」
加蓮「あ、ウソ、ウソ、なんでもない、なんでもないよ。あ、ほらみく、Pさん来たよ」
みく「む!Pチャン!!Pチャンは魔もごごごご」
加蓮「わー!!わー!!」
P「お前ら仲いいなあ。あ、みくには歯磨きガムとミント買ってきたぞ」
みく「に゛ゃぁぁぁ!!Pチャンがいじめるに゛ゃぁぁぁ!」
P「みくー、着いたぞー」
みく「にゃ、Pチャンお疲れ様!」
P「みくもお疲れ。早めに寝るんだぞ」
みく「みくは夜行性にゃ!夜はこれからだにゃ!お断りにゃ!」
P「にゃあにゃあうっさいにゃあ!」
みく「に゛ゃぁぁぁぁ!もうやだみくおうち帰る!!」
P「おう帰れ!それじゃみく、おやすみな」
みく「にゃ!おやすみPチャン、加蓮」
P「今日はちょっと遅くなっちゃったな。加蓮、親御さんに電話を…」
加蓮「デザート」
P「へ?」
加蓮「どこでもいいから、ちょっと寄ろうよ。お話したい気分」
P「仕方ないなあ。駅前のシュークリームでいいか?」
加蓮「ん、いいよ。人前で、って感じでもないし」
加蓮「ね、Pさん。いつもありがとう」
P「なんだ急に改まって。なんかあったのか?」
加蓮「みくに昔話聞いた。そしたらなんか、溢れだしてきちゃって」
加蓮「ホントに、ホントに感謝してるよ」
P「…なら俺もありがとう。加蓮のお陰で毎日充実してるよ」
加蓮「うん…まだ全然言い足りないや。Pさん、私、Pさんに育ててもらって幸せだよ」
加蓮「今の私は、何から何までPさんのお陰」
加蓮「私の夢、拾い集めてここまで連れてきてくれて、ありがとう」
P「…なんか恥ずかしくなってきた」
加蓮「ふふ、茶化さないでよ。あのね、Pさん、私絶対にPさんの努力にも期待にも応えるから」
加蓮「だから、これからもずっとよろしく、ね?」
P「…当たり前だ。加蓮は俺の自慢のアイドルなんだからな」
加蓮「ふふっ、Pさんも私の自慢のプロデューサーだよ」
加蓮「うーん、どうすればこの気持ち、もっと伝わるかなぁ」
P「これ以上言われると俺が逆に恥ずかしいってば…」
P「ん?どうし…」
加蓮「ぎゅー」
P「お、おい加蓮!?」
加蓮「私から抱き付くのは初めてだね。ふふっ、でもこれが一番いいかも」
加蓮「Pさん、いつもありがとう。大好きだよ」
P「…うん、明日からもよろしくな、加蓮」
加蓮「もー、そうじゃなくて…ううん、やっぱりそれでいいや」
加蓮「ねぇ、次からありがとうって言う代わりにぎゅーってしてもいい?」
P「だーめ。人の目考えなさい」
加蓮「ちぇー。あ、じゃあ人目のないときだけにする。それより時間、そろそろ帰らないと流石にヤバいかも」
P「…はぁ…よし、それじゃ出ますか」
加蓮「うん。よろしくね、私の魔法使いさん」
P(そんな加蓮が倒れたと聞いたときは目の前が真っ白になった)
――――
―――
凛「そ、プロデューサー昨日はずっと上の空でさ」
奈緒「加蓮ガー加蓮ガーって聞かなかったんだぞ!ずっと『ううう加蓮、ううう』って、ぶふっ、思い出したら、ぷぷぷ」
凛「もう熱は大丈夫なんだよね?」
加蓮「うん、明日からは現場に戻れそう。ただの風邪なのに…ホント大袈裟だなあ、プロデューサーったら」
凛「今日は午前で切り上げて、お見舞いに来るってさ」
奈緒「プロデューサーに会ったらまた熱でちゃうんじゃない?」ニヤニヤ
加蓮「もう、そんなことないってば」
凛「それじゃ私たちは仕事に戻るから。お大事にね」
加蓮「うん、わざわざありがとう」
奈緒「がんばれよー」ニヤニヤ
加蓮「もー!頑張らないから!」
P『もしもし加蓮?大丈夫か?一応お見舞いにと思ってな、家の近くまで来てるんだけど』
加蓮『あ、うん、鍵開いてるから上がっていいよ。部屋は階段上がって左ね』
P『鍵開いてるってお前、危ないだろ…』
加蓮『さっきまで凛と奈緒が来てたの。上がるときに閉めといて』
P『無用心だぞー…ってご両親は?』
加蓮『仕事』
P『…そっか。それじゃ上がらせてもらうな』
加蓮「大丈夫だってば、何度もメールしたでしょ?Pさんこそお仕事大丈夫なの?」
P「はは、全然手がつかなくてさ」
P「ちひろさんに『あとは私がやるから今日はもう上がって下さい!』って言われちまった」
加蓮「もう、ホント心配性なんだから」
P「仕方ないだろ?身体弱いってお前が昔散々…」
加蓮「だからちょっと風邪ひいただけだってば。大げさ」
加蓮「……ね、それじゃ今日はもうお仕事戻らないの?」
P「今日は戻ってくるな、ってさ。だからこの後は家かな」
加蓮「そっか。ふふっ、それじゃ今日は一緒にゆっくりしよ?」
加蓮「ホントに大丈夫。それより一人でぼんやりしてる方が辛いよ。だから、ね?」
P「ならちょっとだけ、な。ほい、これ差し入れ」
加蓮「わ、ありがと!うわ重い…プリンにヨーグルトにジュースに…ふふっ、こんなに食べられないよ」
加蓮「でも私の好きなものばっか。流石私のPさん」
P「昼ご飯は?食べたか?」
加蓮「ううん、お母さんがお粥作っておいてくれたはずだけどまだ食べてない。ちょっと食欲湧かなくて」
P「取ってこようか?ちゃんと食べないとだめだぞ」
加蓮「久しぶりにそれ言われたかも…ふふ、それじゃあお願いするね。たぶん台所にメモがあるから」
加蓮「ん、ありがと……ね、Pさんが食べさせてよ」
P「お前なあ…」
加蓮「食欲湧かないのー。でもPさんがあーんってやってくれれば食べられるかもー」
P「全く…加蓮、お前来年17だろ?」
加蓮「来年17で今年16の年頃の女の子だもーん」
P「……お前……はぁ」
P「ほれ、あーん」
加蓮「え、やってくれるの?やった!あーん」
P「………今回だけだぞ。もう一口。ふーっ、はいあーん」
加蓮「あーん…ん、ふふ、幸せかも」
P「だーめ。今日は布団でじっとしてなさい」
加蓮「えー、折角Pさん来てるのに…あ、それじゃ奈緒から借りたアニメ一緒に見よ?ほらこれ、なんか夏の感動作なんだって」
P「それくらいならいいか。でもこの部屋、テレビは見当たらないけど」
加蓮「ベッドの下にノートパソコンがあるの。ん、よっと。で、ほら、横に座れば一緒に見れるよ」
P「……加蓮、流石に俺がベッドに上がるのは」
加蓮「いいじゃん、事務所のソファで一緒にライブのビデオ見るのと変わらないよ。ほら、こっちこっち」
P「スーツのままだし汚いぞ?」
加蓮「Pさんなんだから気にしないよ。ほら、早く入ってくれないと寒いー」
P「……ああもういいや、後で文句言うなよ。お邪魔します」
加蓮「ん、いらっしゃい。あ、足ちょっと曲げて?…よっ、と」
加蓮「ふふっ、あったかい。それじゃ、観よ?」
加蓮「こういうシャツ、杏が好きそうだよね」
P「無気力な若者の間のブームなのか…?」
~~~~~~~~~
P「なあ加蓮、この子加蓮にちょっと」
加蓮「………この子の名前で呼んだりしないでね」
~~~~~~~~~
加蓮「うわ、この人ヤバい変態なんじゃ…Pさん?」
P「」スヤスヤ
加蓮「もう、Pさんったら…」
P「zzz」
加蓮「ほら、枕使っていいから。んー!よっと、それじゃ私も」
加蓮「…うわ、近い…」
P「スヤスヤ」
加蓮「………」
加蓮(ちょ、ちょっとだけ)
ぎゅっ
加蓮(うわ、いつもと全然違う。すっごいいけないことしてる気分)
加蓮(Pさんの体温、すごく感じる…なんか、Pさんに包まれてるみたい)
加蓮(…もっと近くに……)
加蓮「………あ」
加蓮「…P、さん…」
加蓮(……ごめんね、Pさん。ダメだってわかってるのに)
加蓮(我慢、できない)
チュッ
加蓮(………やっちゃった……でも、今凄く………)
加蓮(も、もう一回)
チュ
加蓮(頭、じーんってする)
加蓮(……だめ、止まらない)
加蓮(Pさん、Pさん、Pさん)
加蓮(もう一回)
加蓮(もう、一回)
チュ チュウッ
加蓮「Pさん…………………あ」
P「………加蓮」
加蓮「あ、Pさんごめんなさい、あ、その、ちが、ん、んっ」
加蓮「……Pさん?」
P「加蓮……」チュ
加蓮「っ、ぷはっ……」
加蓮「あ、あのね、Pさん。私、私ね」
P「……ごめん、加蓮。これ以上は、その、ダメだ、とういか俺もダメだな。ごめん」
加蓮「Pさん、私は」
P「加蓮」
加蓮「………」
P「加蓮の夢は俺の夢だから。ここで魔法を切らしちゃダメだ」
加蓮「あ……Pさん、ごめん。私勝手に……」
P「……俺も、嬉しかったよ。でも、俺はこれからも俺加蓮と一緒に頑張りたいから」
加蓮「……うん。ホントにごめんなさい。なんか、勝手に盛り上がっちゃって」
P「俺からもしちゃったしおあいこ。だからこれ以上の言い合いは無し」
加蓮「うん。私、ちょっとおかしかった。ごめんね」
加蓮「なんか、ちょっと、不安で、さ」
P「……不安?」
加蓮「うん。こうして病気でベッドにいるしかない、って久し振りだったから」
加蓮「凛と奈緒が来てくれて、でもお仕事行っちゃって。なんかすごく置いて行かれた気分になって」
P「加蓮………」
加蓮「そしたら、そしたら……その、Pさんも、遠く感じちゃって。すごく怖くて………」
P「………大丈夫、一緒にいるよ。約束しただろ?」
加蓮「うん………でもいつか私がアイドル辞めたら、いつかPさんがプロデューサーやめたらって、考えちゃって」
加蓮「でも、Pさんが、すぐそこにいて、すごくあったかくって。だめだって分かってたのに」
P「加蓮」
加蓮「私、ずっとPさんと一緒がいい。ごめんね、アイドルなのに、こんなこと言って」
ぎゅー
加蓮「……Pさん?」
P「俺も、感謝してるよ。加蓮が頑張ってくれるから、俺も頑張れる」
P「……明日から、またお仕事、頑張ろうな。一緒に」
加蓮「……うん。ありがとう。頑張る」
加蓮「……私、単純だなあ。Pさんがぎゅってしてくれるだけで不安なんて吹き飛んじゃうみたい」
P「今回だけだぞ。もう倒れるのは本当に勘弁してくれよ?」
加蓮「ふふっ、凛と奈緒から聞いたよ。『ううう~加蓮~』、だって?ふふっ」
P「げ……とにかくちゃんと体調悪くなる前に休んでくれよ?本当に心配だったんだぞ。最近休んでなかっただろ?」
加蓮「うん、気を付けます。そうだね、最近お仕事が楽しくって、休むのすっかり忘れてたかも」
P「全くお前は……まぁ、頑張り屋なのは加蓮のいいところだからな。前も言ったけど、頑張り過ぎないように」
加蓮「…ね、Pさん。またお休みちゃんと取るから」
P「うん?」
加蓮「もう、その、さっきみたいなことは無いようにするからさ」
加蓮「また、こっそりデート、連れていってね?」
P(そして加蓮を、約束の舞踏会まで連れてこれたと実感できたのが)
P(夢のステージでのLIVE)
ワーワーワーワーワーワー
パチパチパチパチパチパチ
加蓮「はぁ、はぁ、凛、奈緒、やった、やったね!」
奈緒「やべェ、すッッッげェ楽しかった!夢みたいだ!」
凛「すごい、まだ、拍手、して、くれてる…やった、大成功、だね」
P「三人ともお疲れ!最高だったぞ!ほら水飲め水」
奈緒「んっ、んっ……あー、アイドルやっててよかったなァ」
凛「ぷはっ……本当に、ね。しかもこの三人で一緒にLIVEなんて、夢みたいかも」
加蓮「Pさん、また三人でできる!?できるよね!?」
P「そうだな、ユニット化も社長に打診してみるよ」
P「よし、風邪ひく前に着替えてこい、一息ついたらスタッフさんに挨拶行くぞー」
奈緒「お、そうだ加蓮行け行けー!」
加蓮「え、いいよ、ちょ、なんで今」
P「ん?どうかしたのか?」
加蓮「もー……えっとね、Pさん……」
加蓮「その、私、シンデレラに、なれたかな」
P「……ああ、どこに出しても誇れる、立派なお姫様だよ」
加蓮「ふふっ、ありがとう……うん、シンデレラになれたなら、言わないといけないことがあるんだ」
P「ん?なんだ?」
加蓮「……私ね、ガラスの靴……」
P「?」
加蓮「舞踏会が終わったら、ガラスの靴持って、会いに行くから」
加蓮「魔法が解けるときまで」
加蓮「魔法が解けた後も」
加蓮「一緒に、その、いて欲しいな、って」
奈緒(うわ、聞いてる方が恥ずかしくなってきた、なんだこれ…加蓮乙女すぎだろ……)
凛(顔真っ赤…)
奈緒「ほら、P返事………ってオイ、泣いてんのかよ!」
凛「プロデューサー、加蓮がこんなに勇気出して言ったんだから」
加蓮「……ううん、凛、奈緒、いいんだよ。ほら、着替えに行こ?」
凛「え、加蓮?ちょっと、プロデューサー!?」
奈緒「加蓮、いいのか?」
加蓮「うん。Pさん、また後でね?」
P「………おう」
奈緒「ああもうなんだよ、とびっきり恥ずかしい告白にとびっきり恥ずかしい返事が聞けると思ったのになァ」
凛「加蓮、本当によかったの?」
加蓮「うん。こうなるかなって、思ってたし」
凛「……どういうこと?」
加蓮「その、前にPさんが看病に来てくれた時にね」
奈緒「ああ、こないだのアレ」
加蓮「うん。その時に私がちょっと、その、迫っちゃって」
奈緒「え、ええ!?本当に頑張っちゃったのかよ!?」
加蓮「……うん。で、そのときはその、キスだけだったんだけど」
凛「え、えぇ!?き、キスしたの!?」
奈緒「ああ、加蓮が遠くに…」
加蓮「うん…でもそれ以来、Pさんそういうことに対して厳しくなっちゃって」
加蓮「あ、バレてた?でも手も繋いでくれないし、あんまり抱きつかせてもくれなくなっちゃって」
凛(オフの日毎回一緒で、その度デートプラン相談してたじゃん…名前伏せてたけど)
奈緒(あんまりって結局抱きついてんのかよ)
加蓮「でも、こんな感じのこと言うとやっぱりちょっとはぐらかされちゃって」
加蓮「今回ほどハッキリ言ったことはなかったけど……返事もらえるとも思ってなかった、かな」
奈緒「まあ、加蓮がいいなら…でもなあ」
加蓮「ごめんね、背中押してもらったのに」
凛「……まぁ、アイドルだし、ね」
奈緒「Pもプロデューサーだしなー。どう見ても両想いなのに」
凛「ふぅん……ね、加蓮、目元ちょっと滲んでるよ?」
加蓮「あ、え、嘘!挨拶行く前に直さないと!奈緒、私のポーチ取って」
奈緒「んー……あれ、なんかゴツいな。何入れてんだ?ほいよ」
加蓮「え?そんなに物入ってたっけ…」
ゴソゴソ
加蓮「?あれ、これ……」
凛「……加蓮?何その箱?」
加蓮「わかんない……でも、なんか……」
パカッ
凛「それ、指輪だよね?……箱に何か書いてある?」
加蓮「蓋の裏に何か………イニシャル?あ、やっぱりPさんからだ!」
加蓮「ふふっ、綺麗な指輪……あとは……えっと、Mors Sola?なんだろ、ブランドの名前?」
奈緒「え?え、ええ!?」
凛「奈緒、わかるの?」
加蓮「どういう意味?」
奈緒「そ、その……ラテン語、でさ」
加蓮「?」
奈緒「……『死が二人を別つまで』」
奈緒「いや、多分だけどな?」
加蓮「え、ねぇ、どう意味!?」
凛「……ほら、結婚式で言うやつ」
奈緒「加蓮の告白が恥ずかしいと思ったら、更に上行きやがった…」
加蓮「え!?え、えええ!?じゃあこの指輪って……え、うわ、嘘、わ、私どうしよう!?」
凛「もうお互い伝えたいこと伝えたんだからいいんじゃないの?おめでとう、加蓮。結婚式には呼んでね」
奈緒「あ、アタシも呼べよなー」
加蓮「え、わ、わかった、ちゃんと呼ぶ!あ、私、Pさんのとこ行ってくる!」
凛(茶化したつもりなのに…)
奈緒(完全にその気かよ)
加蓮「で、でも」
奈緒「それに外には記者とかいるんだぞ、指輪片手にうろうろしてたらまずいだろ」
加蓮「うう…でも、でも」
凛「まだやること残ってるんだから、プロデューサーのところ行くのはそれから」
加蓮「……うん、そうだね。……ふふっ、Pさん……」
凛「……あと指輪もしまって。見つかったらまずいし、ニヤケ顔治らないよ」
凛「はい着替えて。そしたらメイク直すよ。奈緒右目やって、私が左目」
加蓮「……はーい」
加蓮「……着けちゃダメ?」
凛「ダーメ。その時が来たら、Pさんに着けてもらいな」
加蓮「あ、それいいかも。そうしよ。ふふっ」
奈緒「にしても、『死が二人を別つまで』かぁ。ちゃんとさっきの告白の返事になってるんだよなぁ」
奈緒「図らずしてこれだよ、両想いどころか以心伝心じゃん」
加蓮「……えへへ、そう、かな」
凛「はーい、そうだよそうだよ。ほら、着替えたらそこ座って」
凛「落ち着いた?」
加蓮「うん。ありがと、凛。奈緒も」
奈緒「あー甘ったるい。砂糖吐きそ」
凛「もう飛び出して行かない?」
加蓮「うん、大丈夫。あのね、今度私からも指輪贈ろうと思う」
奈緒「まぁ、そういう指輪だしな。こっそりやれよ」
加蓮「うん。でもとりあえず、私はアイドル、やり切らないと。私の夢、Pさんの夢だもん」
加蓮「ちゃんと一花咲かせて、いつかステージ降りて、それから普通の女の子になって」
加蓮「それからも、ずっと一緒だもん、ね」
すごい砂糖吐きたい気分
Entry ⇒ 2012.10.12 | Category ⇒ アイマスSS | Comments (2) | Trackbacks (0)
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P(加蓮は頑張り屋で、ちょっと身体が弱くて、でも最高に輝いてる)
P(今ではうちの事務所の顔として活躍してるけど)
P(最初の頃は本当に大変だったんだよな…)
P(社長や俺がスカウトしてきた候補生は、能力と本人の反応を見るためにしばらくレッスン場通いになる)
P(加蓮と初めて会ったのは丁度加蓮のレッスン詰め最終日)
P(一目見て惚れ込んで、社長に担当させて欲しいと頼み込んだ)
P(…今思えば、「流石だねキミィ」の意味をよく考えるべきだった)
加蓮「ん?アンタがアタシをアイドルにしてくれんの?よろしく」
P「よ、よろしく。プロデューサーのPです」
加蓮「でさ、アタシ努力とか練習とか、そういうキャラじゃないんだけど。ホントになれんの?アイドルなんてさ」
P「え、え?まあ険しい道程にはなると思うけど…やるからには二人三脚で頑張ろう、な?」
加蓮「えー…言っとくけどアタシ体力ないかんね。入院してた時期もあるし。ちゃんと休ませてよ?」
P「よろしくな、えっと、加蓮ちゃん?」
加蓮「うわ、なにそれ気持ち悪…加蓮でいいよ」
加蓮「はあ、先が思いやられるなー」
P(俺もだよ…うう、見事なまでの現代っ子…これからが心配だ…)
[同日、夕方]
ルキトレ「はい、6、2、3、4、7…ほら加蓮ちゃん頑張ってー!」
加蓮「ハッ……ハッ……あー、もう無理!休憩!」
ルキトレ「あー、もうちょっとだったのに…ダメだよ加蓮ちゃん、気合で最後までやろうよぉ」
加蓮「ハァ…ハァ…無理だってば、無理無理…ハァ…あー、喉渇いた…飲み物飲み物…」
ルキトレ「うー、加蓮ちゃぁん…」
P(でも原石としては最高の逸材だ。磨けば間違いなく輝ける)
P(それになにより、俺がこの子をプロデュースしてみたい)
P(担当を加蓮一人に絞っていいから全力でやれと社長は言ってたけど…)
P(まだ俺が加蓮のことを知らなさすぎる)
P(本人もこの程度のレッスンでかなり辛そうだし、一度ちゃんと話して心の内を聞いておかないと)
加蓮「え、わ、わ、っと…あ、レモン水じゃん!プロデューサーわかってるー♪」
加蓮「んっ…」ゴクゴク
P「ルキトレさん、今日は少し早いですけどここまでで大丈夫です。少し加蓮と話したいこともあるので」
ルキトレ「あ、はい…えっと、加蓮ちゃん、気分とか、大丈夫?」
加蓮「ん、休めば大丈夫だよ。お疲れ~」
ルキトレ「うう、それじゃ次もまた頑張ろうね?お疲れ様」
加蓮「疲れたー。やっぱしんどいよこれ」
P「そっか。じゃ、そのまま座っててくれ…っと、隣、いいか?」
加蓮「へ?と、隣?い、いいけど汗かいてるよ?」
P「構わないって、それくらい。そいじゃ失礼、と」
加蓮(構わない、って…臭わないよね?)クンクン
加蓮「うーん…なんか事務所の子達ってホント努力努力努力ーってカンジでさー」
加蓮「なのにアタシはこんなんだし、レッスンも休み休みじゃないとこなせないし」
加蓮「どうにかなんのこれ?って感じかな。あはは」
P「確かにうちの事務所は結構凄いのいるからなあ…」
P「加蓮はなんでアイドルやってみようと思ったんだ?」
加蓮「え、唐突…んー、なんていうんだろ」
P「へ?」
加蓮「あ、別にふざけてるわけじゃないよ?ほら、日高舞っていたじゃん、もう引退しちゃったけど」
P「ああ…ってまさか日高舞に憧れて?」
加蓮「うん。アタシ小さい頃から病気がちでさ。あんまり外で遊んだりできなくて」
加蓮「いつも家で遊んでたんだけど、そんなアタシのヒーロー?ヒロイン?が日高舞」
加蓮「お母さんも、『大きくなって、元気になればあんな風になれるから』とか言っちゃっててさ。アタシ、信じちゃってたんだ」
加蓮「そ。高校入って、相変わらず体弱くて、全然日高舞みたいにはなれなくて」
加蓮「あーネイルの勉強でもしようかなーなんて考えてたところで、アイドルやりませんか、とか言われるもんだからさ。ちょっと夢見ちゃった」
加蓮「でもやっぱダメだね、アタシみたいなポンコツが通用する感じじゃなさそうかも。あはは」
P「ポンコツってお前……」
加蓮「実際そうだよ。ルキトレちゃんも言ってたよ、アイドルって体力ないと務まらないって」
加蓮「アタシにはそれがないんだし、さ。根性も無いし」
P「…今も、アイドルになりたいと思ってるのか?」
加蓮「えー、実際無理そうじゃない?さっきのレッスン見てたでしょ?あれで人前に立つのは…」
P「加蓮、真面目に」
加蓮「……そりゃ、ね。夢だもん。でもお陰で現実見れたし、これで諦めつけてもいいかな、って」
加蓮「プロデューサーには付いて早々で悪いけど、そろそろ潮時ってことでもう…」
P「諦めも何も、まだ何も始まってないだろ。アイドル、なりたいんだろ?」
加蓮「なんで何度も言わせるのさ、嫌がらせ?」
P「そんなわけないだろ。加蓮をアイドルにするために、俺が知っておきたかったんだよ。プロデューサーなんだからな」
加蓮「…っ、だから無理だって、もう一週間やって分かったよ」
加蓮「アタシみたいなのはアイドルなんてなれない」
加蓮「体力もないし根性もない、そんなんじゃ通用しないって十分思い知ったって」
加蓮「もういいんだってば。帰る。さよなら」
P「おい、加蓮」
加蓮「もういいって言ってるでしょ!しつこい!」
P「待てよ、おい加蓮!」グッ
加蓮「離してよ、や、離してってば!」
P「話を最後まで聞けって!」
加蓮「っ、痛い、離して!」
P「…ごめん」
P「……俺は加蓮にこんなところで終わって欲しくないんだ。まだまだこれからだろ」
P「辛いのに、ちゃんと毎日レッスンも来てるし、根性あるじゃないか。続ければ必ずステージで輝く日が来るさ」
加蓮「…しつこいなあ。今日初めて会ったのになんでそこまで言えんの?」
P「一目見てティンときたんだよ。この子には他の子にはないものがあるって」
P「加蓮さえよければ、一緒に頂点を目指したいんだ」
加蓮「頂点って、話飛びすぎ。期待してもらって悪いけど、アタシ、やっぱこういうの無理だよ」
加蓮「去年の今頃は病院のベッドだったのにアイドルなんて目指させて貰えて、短い間だったけどいい夢見れたよ」
加蓮「いいじゃん、アタシの中で決着つきそうなんだから」
加蓮「………もういいってば……ホントしつこい…諦めさせてよ……」
P「…………加蓮はさ、目が違うんだ」
加蓮「………は?目?」
P「そう、目。アイドルはたくさん見てきたけど、加蓮みたいな目をしてる娘は他にいない」
P「アイドルってのは誰もが目が輝いてるけど、加蓮の瞳は夢を映して、こう、煌めいてて」
P「何て言うんだろうな。輝き方が違うんだ」
加蓮「……何それ、意味わかんない。口説いてるつもり?」
P「…そうだな、惚れたのかも。初めて加蓮の目を見たとき、ビビッときたんだ」
P「うん、一目惚れ、かもしれない」
加蓮「……………へ?」
加蓮「え、あ、手…」
P「お前の夢、叶えさせてくれ。俺が魔法使いになるから、加蓮がシンデレラになってくれ」グイ
加蓮「な、ちょっと…」
P「ちゃんと輝くステージに、ドレスと花を持たせて連れていくから」
P「だからさ、一緒にやろう、アイドル。二人なら出来る、約束する」
加蓮「だから、アタシはもう…」
P「今日まで一週間、辛かっただろ?でも今日からは俺と、二人でやっていこう」
P「まだ、これからだろ。スタートラインなのに、諦めるなんて悲しいこと言うなよ」
P「確かに今はまだまだ遠いかもしれないけど、だからこそのシンデレラストーリーじゃないか」
加蓮「でも、無理だよ………あたしじゃ………」
P「………できるよ。見たいんだ。加蓮の、シンデレラ。一緒にやろう」
P「舞踏会まで、俺が連れていく」
加蓮「……………本当に……?」
P「俺、これでもこの仕事では、結構評価してもらえてるんだぞ?」
加蓮「……私、すぐ疲れるよ?レッスンも活動も、迷惑かけちゃうかも」
P「それでも絶対、だ。約束する」
加蓮「二人三脚になんてならないかもしれないよ。道端でへたりこんじゃうかも」
P「そのときは肩車でもおんぶでもなんでもするさ。カボチャの馬車にだって変身してやる」
加蓮「…ぷっ、なにそれ、バカみたい」
加蓮「……ねえ、ホントに、アイドル、なれるのかな」
P「なれるよ。約束する」
P「やるって言うなら、今日この場から俺が北条加蓮のファン1号で、頂点までのパートナーだ」
加蓮「……わかった。ちょっとだけ、信じてみる」
加蓮「約束、だからね」
加蓮「ちゃんと、私の夢、叶えてね」
P「……加蓮!」ギュッ
P「うん。絶対に、絶対にお前の夢、叶えるから。明日からまた仕切り直して二人で頑張ろう」
P「…ってどうしたんだ?加蓮?」
加蓮「…あの、抱きつかれると…あたし…」
P「…あ、ははは、熱くなっちまって、つい……悪い…」
加蓮「…セクハラ」
P「う、ごめん…家まで送るから着替え終わったら呼んでくれ、外で待ってるから」
バタン
加蓮「………」
加蓮「……ぷっ、あは、あはっ」
加蓮「あはっ、だっさ、俺が魔法使い、だって、あ、あはははっ」
加蓮「しかもとんだセクハラプロデューサーだし、あはっ、ホント最悪、あは、は、は」
加蓮「自分も顔真っ赤なくせに、あは、は、カッコ、つけて、あはっ」
加蓮「しつこいし、ぷふっ、もうホント最低、っ」
加蓮「ヒッ、は、もういいって言ってんのに、あは、グスッ……ヒッ……」
加蓮「諦められると、思ったのに……ぅ、グスン、ぅぅ……」
加蓮「………ヒグッ……グスッ……」
加蓮「…グスン………私……なれるのかな………」
加蓮「…………アイドル、アイドルかあ……ひぐっ、う、うぇぇ」
加蓮「グスッ、う、う、ぅぅぅぅぅ」
加蓮「…ぁ、あ……あ……あ、あああ、」
P(あの日、加蓮がレッスン場から出てくるまで一時間待たされた)
P(ようやく出てきてから家に送り届けるまで、何度も「こっち絶対に見ないでよ」と言われたけど)
P(別れ際の「また明日ね」の声は、今でも耳に残っている)
P(これが俺と加蓮の、最初の一歩)
――――
―――
加蓮「あ、プロデューサー!今日もお迎えありがと」
P「おう、とりあえず乗った乗った、早く出よう」
加蓮「ん、何か急ぐの?今日はレッスンだけでしょ?」
P「いや、結構注目浴びてるっていうかさ…」
P「あんまり噂されたりすると、加蓮も学校でやりづらいだろ?」
加蓮「へ?うわ、ホントだガン見されてる…行こ行こ」
バタン
ブロロロロ
加蓮「普通かな。あ、今日から体育も頑張って出てるよ。先生びっくりしてた」
P「お、偉い偉い。ご飯はちゃんと食べたか?」
加蓮「朝はなんとか食べたけど…昼はちょっとしか食べられなかった。体育の後だったし」
P「それだとレッスン中に力出ないだろ。ほら、そこの紙袋のやつ食べとけ」
加蓮「はーい。今日のおやつは…フルーツサンドかー。こっちの惣菜パンは?」
P「ああ、それは俺の。ちょっと小腹が空いちゃってな」
加蓮「エビフライやきそばパン…?ね、私こっちがいい」
P「え、ええ?別にいいけど」
P「そういや言ってたな。今度からその路線の方がいいか?」
加蓮「んー、でも流石にお腹空いてないと無理だし」
P「なら欲しいときは連絡してくれ。おやつくらいならいくらでも出すから」
加蓮「はーい……んぐんぐ…ん、今日もレッスン頑張ろっと」
P「疲れとかは大丈夫か?」
加蓮「そりゃあれだけいろいろやれば疲れるけど、ね」
加蓮「ちゃんと言われたとおりに食べて、寝て、身体動かしてるから、すっごく調子はいいよ」
P「ならいいんだけどな」
加蓮「あ、それにプロデューサー、ちゃんと身体使うのと使わないのとでバランス取ってにレッスン組んでくれてるでしょ」
加蓮「ふふっ、助かってるよ」
P「その辺は任せとけ。でも頑張り過ぎは禁物だぞ?オフの日はしっかり休んで、遊ぶように」
加蓮「でも今はレッスンも楽しいし、まだまだやれるよ?」
P「他にもやりたいことあったりするだろ。押さえつけると、気がつかないうちにストレスになってくるんだ」
P「休みもちゃんと希望出して、発散すること。いいな?」
加蓮「はーい……うーん、やりたいことやりたいこと……あ」
P「ん?なんだ?」
加蓮「その、放課後デート」
P「…は!?加蓮、お前アイドルなんだから恋愛は…」
加蓮「うん、わかってる。そもそもそんな相手いないし」
加蓮「でも、Pさんならプロデューサーだからさ、その…」
加蓮「えっと、うわ、恥ずかし、何て言うか、その」
P「……」
加蓮「えっと、とにかく私ちゃんと休みとるからさ、Pさんも同じ日に、だって二人で頑張るって決めたんだから」
加蓮「二人で一緒に休んで、その…」
P「はぁ…」
P(加蓮の放課後なら仕事は早上がりさせてもらえば事足りるし…)
加蓮「……」
P「加蓮」
加蓮「ぅぅ…ご、ごめ」
P「来週の金曜な」
加蓮「!」パァァァ
P(純情、だなぁ…)
P(この頃の俺の担当アイドルは加蓮一人に絞られていた)
P(だから加蓮の育成に全力を注ぎ込むことができた)
P(送迎もレッスンも営業も、全部俺の担当で)
P(たまにオフを取っても、何らかの形で加蓮と一緒にいた)
P(忙しい日が続いても、加蓮は弱音一つ上げなかった)
P(仕事も順調、アイドルランクは一度上がり始めたら勢いが止まらず)
P(お互い、パートナーとして成長していった)
――――
―――
P「…」カタカタカタ
加蓮「…」ジー
P「…うーん……」カタカタカタ
加蓮「…ふふっ」
P「…」カタカタカタ
みく「…」ジトー
加蓮「ねえプロデューサー。そろそろいい時間だよ」
P「え?うわ、もうこんな時間か。ごめん、待ってたのか?」
加蓮「うん、プロデューサーがお仕事するの見てた」
P「そっか。よし、それじゃ今日はここで切り上げるかな。飯行こうか」
加蓮「ん。えっとね、今日は…」
みく「…Pチャン?」ジトー
みく「うん、お疲れ様…Pチャン、加蓮がずっと見てたっていうのにノーコメントなの?」
P「いつものことだし」
みく「に、にゃ…きょ、今日は加蓮とご飯の約束してたり?」
P「いや、別に」
みく「…じゃあなんで自然と一緒に食べに行く流れなの」
P「まあ、いつもの流れだし」
みく「…これもいつも!?いつも一緒にご飯食べてるの!?Pチャンみくの担当してた頃はいつも『早く帰って寝なさい』だったにゃ!?」
P「あの頃は忙しくてだな…」
みく「行く!Pチャン、みくはお肉を要求するにゃあ!」
P「回転寿司ならまだ開いてるかな?いいか?」
みく「Pチャン!?ひどくない!?」
加蓮「プロデューサー、私はどこでもいいよ」
みく「にゃ!ならそこのファミレスがいいにゃ!お肉お肉~♪」
みく(Pチャンと加蓮、仲良すぎにゃあ…ふふん、たまにはみくも構ってもらうにゃ!)
ゴチュウモンウカガイマース
みく「ガーリックステーキのデラックスセット!あと食後にストロベリーバナナパフェ!」
P「みくはこっちの焼き魚定食の方が…」
みく「はぁぁ?お断りにゃ!Pチャンの奢りだし、みくは贅沢するにゃ!加蓮はー?」
加蓮「んーっと、えっと…このアンガスバーガーのバッファローウイングセットで」
P「ん、じゃあ俺は野菜スープとシーザーサラダで」
みく「か、加蓮すごいの頼むね…」
加蓮「あはは…色々反動でね、ジャンクフード好きなんだ。こういうところ来ると、つい、ね」
みく「それに比べてPチャンはダイエット中かにゃ~?むふふ、みくを蔑ろにした罰としてお肉見せびらかしの刑にゃ~♪」
P「はいはい、食べ終わったらちゃんと歯磨いてブレスケアしろよ。明日ニンニク臭くなるぞ」
みく「え…ひどくない…?」
みく「ん~~やっぱりお肉は美味しいにゃ~~♪」ハグハグモグモグ
加蓮「ん……Pさん」
P「もういいのか」
加蓮「うん、意外と重くって」
P「そっか。じゃ、ほい」
みく「…!?」
みく(示し合わせたように頼んだもの交換…え、まさかお互い最初からそのつもりで頼んだの!?)
みく(というかそのハンバーガー、加蓮直接かじってたにゃ!?)
加蓮「あ、Pさんフォークとスプーンも」
みく(え、普通新しく頼まない?あと呼び方Pさんに変わった?)
加蓮「この間のカフェのとか酷かったもんね。あ、そのバッファローも割とよくない?」
P「うーん、ちょっと甘い気が…」アーダコーダ
みく(な、何コレ…)
ストロベリーバナナパフェノオキャクサマー
みく「あ、はい…」
P「加蓮はデザートいらないのか?」
加蓮「うん、今はいいよ」
P「そっか」
加蓮「ん、ありがと」
みく(アカンなんやこの空気アカンアカン)
P「みくはよく食べるなあ。ほら、加蓮もこれくらい普段から食べればもっと…」
加蓮「最近は頑張ってるよ。ほら、この間だってさ」
みく「に、にゃー!PチャンPチャン!!並んでる人いるし、食べ終わったらさっさと出よ!…んっんっんっ…ごちそうさま!ささ、早く出るにゃ!」
P「え?お、おう、それじゃ会計してくるか。みく、3000円な」
みく「に゛ゃ!?」
P「ぷっ、相変わらずいい顔するな。冗談だよ、車乗って待ってな」
加蓮「みく、Pさんと仲いいよね」
みく「え、加蓮がそれ言う?加蓮こそ入り込めないくらいPチャンと仲いいにゃ」
加蓮「ふふ、そうかな…でもPさんもさっきから酷いことばっかり言って」
みく「前からあんな感じだよ?みくもあれくらいでじゃれるのが丁度いいにゃ~♪」
加蓮「そっか。……みくはさ、Pさんが担当外れたとき、どうだった?」
みく「うーん、いろいろ思うことはあったにゃあ。でも最後はにゃんていうか、よかったー、って感じが一番強かったかにゃ」
加蓮「え?みく、Pさんのこと嫌いだったの?」
みく「そんなわけにゃいでしょー」
みく「……でもあの頃のPチャン、いつも死にそうな顔してたし」
みく「みくたちのためにやりすぎなくらい頑張ってたにゃ。いつもボロボロで、ちひろが救急車呼ぼうとしたこともあったにゃ」
みく「だからみくたちのLIVEが上手くいって、やっとの思いで出したCDが成功して」
みく「ちひろが新しいプロデューサーが雇えるって教えてくれたときは、寂しいっていうよりも、安心したかも」
みく「結果的にPチャンはみくの担当からも外れちゃって、仕事終わりくらいにしか会わなくなっちやったけど」
みく「もうボロボロのPチャンを見なくていいなら、みくはそれで嬉しいよ」
みく「……ふふーん、みくはいいオンナだにゃ?」
みく「魔法使い?」
加蓮「うん、みくも最初に言われたでしょ?俺が魔法使いでお前がシンデレラ~ってやつ」
みく「へ?何の話?」
加蓮「え、ちょっと待って、みんなに言ってたんじゃないの…?」
みく「…加蓮?もしかしてこれはのろけ話かにゃ?」
加蓮「あ、ウソ、ウソ、なんでもない、なんでもないよ。あ、ほらみく、Pさん来たよ」
みく「む!Pチャン!!Pチャンは魔もごごごご」
加蓮「わー!!わー!!」
P「お前ら仲いいなあ。あ、みくには歯磨きガムとミント買ってきたぞ」
みく「に゛ゃぁぁぁ!!Pチャンがいじめるに゛ゃぁぁぁ!」
P「みくー、着いたぞー」
みく「にゃ、Pチャンお疲れ様!」
P「みくもお疲れ。早めに寝るんだぞ」
みく「みくは夜行性にゃ!夜はこれからだにゃ!お断りにゃ!」
P「にゃあにゃあうっさいにゃあ!」
みく「に゛ゃぁぁぁぁ!もうやだみくおうち帰る!!」
P「おう帰れ!それじゃみく、おやすみな」
みく「にゃ!おやすみPチャン、加蓮」
P「今日はちょっと遅くなっちゃったな。加蓮、親御さんに電話を…」
加蓮「デザート」
P「へ?」
加蓮「どこでもいいから、ちょっと寄ろうよ。お話したい気分」
P「仕方ないなあ。駅前のシュークリームでいいか?」
加蓮「ん、いいよ。人前で、って感じでもないし」
加蓮「ね、Pさん。いつもありがとう」
P「なんだ急に改まって。なんかあったのか?」
加蓮「みくに昔話聞いた。そしたらなんか、溢れだしてきちゃって」
加蓮「ホントに、ホントに感謝してるよ」
P「…なら俺もありがとう。加蓮のお陰で毎日充実してるよ」
加蓮「うん…まだ全然言い足りないや。Pさん、私、Pさんに育ててもらって幸せだよ」
加蓮「今の私は、何から何までPさんのお陰」
加蓮「私の夢、拾い集めてここまで連れてきてくれて、ありがとう」
P「…なんか恥ずかしくなってきた」
加蓮「ふふ、茶化さないでよ。あのね、Pさん、私絶対にPさんの努力にも期待にも応えるから」
加蓮「だから、これからもずっとよろしく、ね?」
P「…当たり前だ。加蓮は俺の自慢のアイドルなんだからな」
加蓮「ふふっ、Pさんも私の自慢のプロデューサーだよ」
加蓮「うーん、どうすればこの気持ち、もっと伝わるかなぁ」
P「これ以上言われると俺が逆に恥ずかしいってば…」
P「ん?どうし…」
加蓮「ぎゅー」
P「お、おい加蓮!?」
加蓮「私から抱き付くのは初めてだね。ふふっ、でもこれが一番いいかも」
加蓮「Pさん、いつもありがとう。大好きだよ」
P「…うん、明日からもよろしくな、加蓮」
加蓮「もー、そうじゃなくて…ううん、やっぱりそれでいいや」
加蓮「ねぇ、次からありがとうって言う代わりにぎゅーってしてもいい?」
P「だーめ。人の目考えなさい」
加蓮「ちぇー。あ、じゃあ人目のないときだけにする。それより時間、そろそろ帰らないと流石にヤバいかも」
P「…はぁ…よし、それじゃ出ますか」
加蓮「うん。よろしくね、私の魔法使いさん」
P(そんな加蓮が倒れたと聞いたときは目の前が真っ白になった)
――――
―――
凛「そ、プロデューサー昨日はずっと上の空でさ」
奈緒「加蓮ガー加蓮ガーって聞かなかったんだぞ!ずっと『ううう加蓮、ううう』って、ぶふっ、思い出したら、ぷぷぷ」
凛「もう熱は大丈夫なんだよね?」
加蓮「うん、明日からは現場に戻れそう。ただの風邪なのに…ホント大袈裟だなあ、プロデューサーったら」
凛「今日は午前で切り上げて、お見舞いに来るってさ」
奈緒「プロデューサーに会ったらまた熱でちゃうんじゃない?」ニヤニヤ
加蓮「もう、そんなことないってば」
凛「それじゃ私たちは仕事に戻るから。お大事にね」
加蓮「うん、わざわざありがとう」
奈緒「がんばれよー」ニヤニヤ
加蓮「もー!頑張らないから!」
P『もしもし加蓮?大丈夫か?一応お見舞いにと思ってな、家の近くまで来てるんだけど』
加蓮『あ、うん、鍵開いてるから上がっていいよ。部屋は階段上がって左ね』
P『鍵開いてるってお前、危ないだろ…』
加蓮『さっきまで凛と奈緒が来てたの。上がるときに閉めといて』
P『無用心だぞー…ってご両親は?』
加蓮『仕事』
P『…そっか。それじゃ上がらせてもらうな』
加蓮「大丈夫だってば、何度もメールしたでしょ?Pさんこそお仕事大丈夫なの?」
P「はは、全然手がつかなくてさ」
P「ちひろさんに『あとは私がやるから今日はもう上がって下さい!』って言われちまった」
加蓮「もう、ホント心配性なんだから」
P「仕方ないだろ?身体弱いってお前が昔散々…」
加蓮「だからちょっと風邪ひいただけだってば。大げさ」
加蓮「……ね、それじゃ今日はもうお仕事戻らないの?」
P「今日は戻ってくるな、ってさ。だからこの後は家かな」
加蓮「そっか。ふふっ、それじゃ今日は一緒にゆっくりしよ?」
加蓮「ホントに大丈夫。それより一人でぼんやりしてる方が辛いよ。だから、ね?」
P「ならちょっとだけ、な。ほい、これ差し入れ」
加蓮「わ、ありがと!うわ重い…プリンにヨーグルトにジュースに…ふふっ、こんなに食べられないよ」
加蓮「でも私の好きなものばっか。流石私のPさん」
P「昼ご飯は?食べたか?」
加蓮「ううん、お母さんがお粥作っておいてくれたはずだけどまだ食べてない。ちょっと食欲湧かなくて」
P「取ってこようか?ちゃんと食べないとだめだぞ」
加蓮「久しぶりにそれ言われたかも…ふふ、それじゃあお願いするね。たぶん台所にメモがあるから」
加蓮「ん、ありがと……ね、Pさんが食べさせてよ」
P「お前なあ…」
加蓮「食欲湧かないのー。でもPさんがあーんってやってくれれば食べられるかもー」
P「全く…加蓮、お前来年17だろ?」
加蓮「来年17で今年16の年頃の女の子だもーん」
P「……お前……はぁ」
P「ほれ、あーん」
加蓮「え、やってくれるの?やった!あーん」
P「………今回だけだぞ。もう一口。ふーっ、はいあーん」
加蓮「あーん…ん、ふふ、幸せかも」
P「だーめ。今日は布団でじっとしてなさい」
加蓮「えー、折角Pさん来てるのに…あ、それじゃ奈緒から借りたアニメ一緒に見よ?ほらこれ、なんか夏の感動作なんだって」
P「それくらいならいいか。でもこの部屋、テレビは見当たらないけど」
加蓮「ベッドの下にノートパソコンがあるの。ん、よっと。で、ほら、横に座れば一緒に見れるよ」
P「……加蓮、流石に俺がベッドに上がるのは」
加蓮「いいじゃん、事務所のソファで一緒にライブのビデオ見るのと変わらないよ。ほら、こっちこっち」
P「スーツのままだし汚いぞ?」
加蓮「Pさんなんだから気にしないよ。ほら、早く入ってくれないと寒いー」
P「……ああもういいや、後で文句言うなよ。お邪魔します」
加蓮「ん、いらっしゃい。あ、足ちょっと曲げて?…よっ、と」
加蓮「ふふっ、あったかい。それじゃ、観よ?」
加蓮「こういうシャツ、杏が好きそうだよね」
P「無気力な若者の間のブームなのか…?」
~~~~~~~~~
P「なあ加蓮、この子加蓮にちょっと」
加蓮「………この子の名前で呼んだりしないでね」
~~~~~~~~~
加蓮「うわ、この人ヤバい変態なんじゃ…Pさん?」
P「」スヤスヤ
加蓮「もう、Pさんったら…」
P「zzz」
加蓮「ほら、枕使っていいから。んー!よっと、それじゃ私も」
加蓮「…うわ、近い…」
P「スヤスヤ」
加蓮「………」
加蓮(ちょ、ちょっとだけ)
ぎゅっ
加蓮(うわ、いつもと全然違う。すっごいいけないことしてる気分)
加蓮(Pさんの体温、すごく感じる…なんか、Pさんに包まれてるみたい)
加蓮(…もっと近くに……)
加蓮「………あ」
加蓮「…P、さん…」
加蓮(……ごめんね、Pさん。ダメだってわかってるのに)
加蓮(我慢、できない)
チュッ
加蓮(………やっちゃった……でも、今凄く………)
加蓮(も、もう一回)
チュ
加蓮(頭、じーんってする)
加蓮(……だめ、止まらない)
加蓮(Pさん、Pさん、Pさん)
加蓮(もう一回)
加蓮(もう、一回)
チュ チュウッ
加蓮「Pさん…………………あ」
P「………加蓮」
加蓮「あ、Pさんごめんなさい、あ、その、ちが、ん、んっ」
加蓮「……Pさん?」
P「加蓮……」チュ
加蓮「っ、ぷはっ……」
加蓮「あ、あのね、Pさん。私、私ね」
P「……ごめん、加蓮。これ以上は、その、ダメだ、とういか俺もダメだな。ごめん」
加蓮「Pさん、私は」
P「加蓮」
加蓮「………」
P「加蓮の夢は俺の夢だから。ここで魔法を切らしちゃダメだ」
加蓮「あ……Pさん、ごめん。私勝手に……」
P「……俺も、嬉しかったよ。でも、俺はこれからも俺加蓮と一緒に頑張りたいから」
加蓮「……うん。ホントにごめんなさい。なんか、勝手に盛り上がっちゃって」
P「俺からもしちゃったしおあいこ。だからこれ以上の言い合いは無し」
加蓮「うん。私、ちょっとおかしかった。ごめんね」
加蓮「なんか、ちょっと、不安で、さ」
P「……不安?」
加蓮「うん。こうして病気でベッドにいるしかない、って久し振りだったから」
加蓮「凛と奈緒が来てくれて、でもお仕事行っちゃって。なんかすごく置いて行かれた気分になって」
P「加蓮………」
加蓮「そしたら、そしたら……その、Pさんも、遠く感じちゃって。すごく怖くて………」
P「………大丈夫、一緒にいるよ。約束しただろ?」
加蓮「うん………でもいつか私がアイドル辞めたら、いつかPさんがプロデューサーやめたらって、考えちゃって」
加蓮「でも、Pさんが、すぐそこにいて、すごくあったかくって。だめだって分かってたのに」
P「加蓮」
加蓮「私、ずっとPさんと一緒がいい。ごめんね、アイドルなのに、こんなこと言って」
ぎゅー
加蓮「……Pさん?」
P「俺も、感謝してるよ。加蓮が頑張ってくれるから、俺も頑張れる」
P「……明日から、またお仕事、頑張ろうな。一緒に」
加蓮「……うん。ありがとう。頑張る」
加蓮「……私、単純だなあ。Pさんがぎゅってしてくれるだけで不安なんて吹き飛んじゃうみたい」
P「今回だけだぞ。もう倒れるのは本当に勘弁してくれよ?」
加蓮「ふふっ、凛と奈緒から聞いたよ。『ううう~加蓮~』、だって?ふふっ」
P「げ……とにかくちゃんと体調悪くなる前に休んでくれよ?本当に心配だったんだぞ。最近休んでなかっただろ?」
加蓮「うん、気を付けます。そうだね、最近お仕事が楽しくって、休むのすっかり忘れてたかも」
P「全くお前は……まぁ、頑張り屋なのは加蓮のいいところだからな。前も言ったけど、頑張り過ぎないように」
加蓮「…ね、Pさん。またお休みちゃんと取るから」
P「うん?」
加蓮「もう、その、さっきみたいなことは無いようにするからさ」
加蓮「また、こっそりデート、連れていってね?」
P(そして加蓮を、約束の舞踏会まで連れてこれたと実感できたのが)
P(夢のステージでのLIVE)
ワーワーワーワーワーワー
パチパチパチパチパチパチ
加蓮「はぁ、はぁ、凛、奈緒、やった、やったね!」
奈緒「やべェ、すッッッげェ楽しかった!夢みたいだ!」
凛「すごい、まだ、拍手、して、くれてる…やった、大成功、だね」
P「三人ともお疲れ!最高だったぞ!ほら水飲め水」
奈緒「んっ、んっ……あー、アイドルやっててよかったなァ」
凛「ぷはっ……本当に、ね。しかもこの三人で一緒にLIVEなんて、夢みたいかも」
加蓮「Pさん、また三人でできる!?できるよね!?」
P「そうだな、ユニット化も社長に打診してみるよ」
P「よし、風邪ひく前に着替えてこい、一息ついたらスタッフさんに挨拶行くぞー」
奈緒「お、そうだ加蓮行け行けー!」
加蓮「え、いいよ、ちょ、なんで今」
P「ん?どうかしたのか?」
加蓮「もー……えっとね、Pさん……」
加蓮「その、私、シンデレラに、なれたかな」
P「……ああ、どこに出しても誇れる、立派なお姫様だよ」
加蓮「ふふっ、ありがとう……うん、シンデレラになれたなら、言わないといけないことがあるんだ」
P「ん?なんだ?」
加蓮「……私ね、ガラスの靴……」
P「?」
加蓮「舞踏会が終わったら、ガラスの靴持って、会いに行くから」
加蓮「魔法が解けるときまで」
加蓮「魔法が解けた後も」
加蓮「一緒に、その、いて欲しいな、って」
奈緒(うわ、聞いてる方が恥ずかしくなってきた、なんだこれ…加蓮乙女すぎだろ……)
凛(顔真っ赤…)
奈緒「ほら、P返事………ってオイ、泣いてんのかよ!」
凛「プロデューサー、加蓮がこんなに勇気出して言ったんだから」
加蓮「……ううん、凛、奈緒、いいんだよ。ほら、着替えに行こ?」
凛「え、加蓮?ちょっと、プロデューサー!?」
奈緒「加蓮、いいのか?」
加蓮「うん。Pさん、また後でね?」
P「………おう」
奈緒「ああもうなんだよ、とびっきり恥ずかしい告白にとびっきり恥ずかしい返事が聞けると思ったのになァ」
凛「加蓮、本当によかったの?」
加蓮「うん。こうなるかなって、思ってたし」
凛「……どういうこと?」
加蓮「その、前にPさんが看病に来てくれた時にね」
奈緒「ああ、こないだのアレ」
加蓮「うん。その時に私がちょっと、その、迫っちゃって」
奈緒「え、ええ!?本当に頑張っちゃったのかよ!?」
加蓮「……うん。で、そのときはその、キスだけだったんだけど」
凛「え、えぇ!?き、キスしたの!?」
奈緒「ああ、加蓮が遠くに…」
加蓮「うん…でもそれ以来、Pさんそういうことに対して厳しくなっちゃって」
加蓮「あ、バレてた?でも手も繋いでくれないし、あんまり抱きつかせてもくれなくなっちゃって」
凛(オフの日毎回一緒で、その度デートプラン相談してたじゃん…名前伏せてたけど)
奈緒(あんまりって結局抱きついてんのかよ)
加蓮「でも、こんな感じのこと言うとやっぱりちょっとはぐらかされちゃって」
加蓮「今回ほどハッキリ言ったことはなかったけど……返事もらえるとも思ってなかった、かな」
奈緒「まあ、加蓮がいいなら…でもなあ」
加蓮「ごめんね、背中押してもらったのに」
凛「……まぁ、アイドルだし、ね」
奈緒「Pもプロデューサーだしなー。どう見ても両想いなのに」
凛「ふぅん……ね、加蓮、目元ちょっと滲んでるよ?」
加蓮「あ、え、嘘!挨拶行く前に直さないと!奈緒、私のポーチ取って」
奈緒「んー……あれ、なんかゴツいな。何入れてんだ?ほいよ」
加蓮「え?そんなに物入ってたっけ…」
ゴソゴソ
加蓮「?あれ、これ……」
凛「……加蓮?何その箱?」
加蓮「わかんない……でも、なんか……」
パカッ
凛「それ、指輪だよね?……箱に何か書いてある?」
加蓮「蓋の裏に何か………イニシャル?あ、やっぱりPさんからだ!」
加蓮「ふふっ、綺麗な指輪……あとは……えっと、Mors Sola?なんだろ、ブランドの名前?」
奈緒「え?え、ええ!?」
凛「奈緒、わかるの?」
加蓮「どういう意味?」
奈緒「そ、その……ラテン語、でさ」
加蓮「?」
奈緒「……『死が二人を別つまで』」
奈緒「いや、多分だけどな?」
加蓮「え、ねぇ、どう意味!?」
凛「……ほら、結婚式で言うやつ」
奈緒「加蓮の告白が恥ずかしいと思ったら、更に上行きやがった…」
加蓮「え!?え、えええ!?じゃあこの指輪って……え、うわ、嘘、わ、私どうしよう!?」
凛「もうお互い伝えたいこと伝えたんだからいいんじゃないの?おめでとう、加蓮。結婚式には呼んでね」
奈緒「あ、アタシも呼べよなー」
加蓮「え、わ、わかった、ちゃんと呼ぶ!あ、私、Pさんのとこ行ってくる!」
凛(茶化したつもりなのに…)
奈緒(完全にその気かよ)
加蓮「で、でも」
奈緒「それに外には記者とかいるんだぞ、指輪片手にうろうろしてたらまずいだろ」
加蓮「うう…でも、でも」
凛「まだやること残ってるんだから、プロデューサーのところ行くのはそれから」
加蓮「……うん、そうだね。……ふふっ、Pさん……」
凛「……あと指輪もしまって。見つかったらまずいし、ニヤケ顔治らないよ」
凛「はい着替えて。そしたらメイク直すよ。奈緒右目やって、私が左目」
加蓮「……はーい」
加蓮「……着けちゃダメ?」
凛「ダーメ。その時が来たら、Pさんに着けてもらいな」
加蓮「あ、それいいかも。そうしよ。ふふっ」
奈緒「にしても、『死が二人を別つまで』かぁ。ちゃんとさっきの告白の返事になってるんだよなぁ」
奈緒「図らずしてこれだよ、両想いどころか以心伝心じゃん」
加蓮「……えへへ、そう、かな」
凛「はーい、そうだよそうだよ。ほら、着替えたらそこ座って」
凛「落ち着いた?」
加蓮「うん。ありがと、凛。奈緒も」
奈緒「あー甘ったるい。砂糖吐きそ」
凛「もう飛び出して行かない?」
加蓮「うん、大丈夫。あのね、今度私からも指輪贈ろうと思う」
奈緒「まぁ、そういう指輪だしな。こっそりやれよ」
加蓮「うん。でもとりあえず、私はアイドル、やり切らないと。私の夢、Pさんの夢だもん」
加蓮「ちゃんと一花咲かせて、いつかステージ降りて、それから普通の女の子になって」
加蓮「それからも、ずっと一緒だもん、ね」
すごい砂糖吐きたい気分
Entry ⇒ 2012.10.12 | Category ⇒ その他 | Comments (0) | Trackbacks (0)
ルルーシュ「こんな事をしているのは知られたくないからな……」
ルルーシュ「蓬莱島に来て数日、中華との交渉も必要な分は全て済んだ」
ルルーシュ「合衆国日本の内政については、神楽耶に指示も出し、滞りなく進んでいる」
ルルーシュ「物資の調達や在庫管理は扇や藤堂に任せてある……問題はない」
ルルーシュ「そしてC.C.とカレンはそれぞれ偵察任務についている……久しぶりに一人だけの、自由な時間だ」
ルルーシュ「一人ではできない事も多いが、逆に一人でなければできない事だってある」
ルルーシュ「あいつらが帰って来ないうちに済ませなければな……よし、決行するなら今だな」
ルルーシュ「俺自身の脈拍、心拍とも正常値……健康状態にも問題はない」
ルルーシュ「メンタルも非常に落ち着いている……先ほどハーブティーを飲んだのは正解だったな」
ルルーシュ「室内には俺一人。現在、誰かが尋ねてくる様子もなし」
ルルーシュ「姿見には汚れ一つない。角度のズレも一切ない……条件は全てクリアされた」
ルルーシュ「では改めて! ゼロとしてのポージングの練習を開始するッ!!」ビシィッ!
ルルーシュ「まぁこの程度は慣れたものか……では次、こうッ!!」バサァッ!
ルルーシュ「……今一つキレというか勢いが足りない……ではもっと大きく動きをつけてみるか」
ルルーシュ「ぃよぉっ!!」シュババッ!
ルルーシュ「ふははははは! いいぞ、やれるじゃないか!」ウットリ
ルルーシュ「だがこの程度は序の口だ……1年の時を経て新生した、より威厳あるゼロのポーズを世に見せつけてやる!!」
ルルーシュ「……これはダメだな、雄々しさというか、壮麗さが感じられん」
ルルーシュ「では次っ! そぉれっ!!」ビシィッ!
ルルーシュ「……うむ、次にブリッジで主砲の指示を出すときはこれでいってみるか」
ルルーシュ「ならこれはどうだ! はあぁぁぁっ!!」シュビビィッ!
ルルーシュ「ふはははははは! いいぞ、いいじゃないか! これほどの素晴らしいポーズならブリタニアも畏怖する事間違いなしだ!」
ルルーシュ「クククク、なんだか楽しくなってきたぞ……いいだろう、ならば極限を追求してくれる!!」ニヤァ
ルルーシュ「あはははは、素晴らしい! 自身の才能ながら怖くなりそうだ!」
ルルーシュ「ならば次はもっと派手に! 美麗に! 大胆に! 大きなアクションを加えてみるか!」
ルルーシュ「ぃよおぉぉぉっ!!」クルクルクルゥー…
ルルーシュ「ここで……そぉれぇっ!!」ビシィッ!!
プシューッ
C.C.「帰ったぞ……って」
カレン「何、やってんの……ルルーシュ」
ルルーシュ「!?」ビクゥッ!
C.C.「実にスローな振り向きだな、動きに合わせてギギギィ~と錆びた音が聞こえてきそうだぞ」
カレン「えーっと……その、ね……」
ルルーシュ「み……見た、のか……?」オソルオソル
C.C.「ああ、この曇りのない澄んだ眼で拝ませてもらったとも。お前が姿見に向かって恥ずかしいポーズをきめているところをな」
カレン「正直、見なきゃよかったと思ってるわ」
ルルーシュ「」
ルルーシュ(ましてC.C.はこの事をネタにからかってくるに決まっている! こいつの性格はよくわかっている!)
ルルーシュ(最悪この事をバラしかねない……そんな事がディートハルトあたりに知れてみろ、たちまち艦内全域で笑い話にされる!)
ルルーシュ(ならば頼みの綱はカレンしかいない! カレンのゼロへの信頼は絶対だ、ゼロの秘密をバラす事はないはず!)
ルルーシュ「カレン、君ならわかってくれるだr
カレン「ルルーシュ。お願いだからこれ以上あたしを幻滅させないでほしいんだけど」
ルルーシュ「がっ……!?」
ルルーシュ「ま、待ってくれカレン! 俺の話を聞いて―――」
カレン「そりゃ正体知らなかったときは、ゼロの一挙手一投足見てかっこいいと思ってたけど」
カレン「正体がルルーシュだってわかっちゃったら、ルルーシュがあのポーズ決めてるって思うと……」
C.C.「思うと? なんなんだ?」
カレン「……あまり言いたくないけど、正直痛い」
ルルーシュ「」
C.C.「一人で鏡の前に立って、ビシッ! シュバァッ!って……く、くくくっ」
カレン「そんな事言うけど、あんただって影武者であのポーズやってるんでしょ? 充分痛いわよ」
C.C.「私をそこの坊やと一緒にするなよ。本音をいうと、あんないかにも『俺カッコいい』なポーズやりたくないんだ」
カレン「まぁ普通そうよね……ノリでやってるならともかく、練習までしてるとは思わなかったわ」
ルルーシュ「……黙れ……」ワナワナ
C.C.・カレン「ん?」
ルルーシュ「黙れ貴様らぁぁぁぁっ!! 練習して何が悪いぃっ!!」
ルルーシュ「五月蠅いッ! ……こんな真似するのも、元はといえば君が原因だぞ、カレン!」ギンッ!
カレン「はぁっ!? 何よ、いきなり人のせいにして!!」
ルルーシュ「そうだろうが! あのとき新宿で、俺に言った事を自分で忘れたのか君はぁ!」
カレン「言った事……って確か」
ルルーシュ「言ったよな、俺に! 『最後の最後まで騙せ、今度こそ完璧にゼロを演じきってみせろ』とっ!」
カレン「そりゃまぁ、言ったけど」
ルルーシュ「だからこそゼロとしての完成度を高めるべく研鑽を積んでいたんだ! 文句はあるかぁっ!」
カレン「」
C.C.「やれやれ。子供丸出しだな」
ルルーシュ「そして1年の不在を経てなお健在という事もアピールせねばならない! だから努力を怠るわけにはいかんのだ!」
カレン「だからってあんた、ポーズ先行でやるのもどうなのよ?」
ルルーシュ「まだいうか……えぇい、ならば君が憧れたゼロの仮面を被る! これなら幻滅も何もないだろう!」カポッ
カレン「直前まで素顔見てたわけだし、今更被っても……」
C.C.「恥を隠すどころか上塗りしてるぞ、ルルーシュ」
ルルーシュ「くっ……なぜだ、なぜこんな事に……」スポッ
ルルーシュ「ダメだ。同じものの繰り返しではやがて飽きが来る、新作の開発は急務だ」
ルルーシュ「これから数多くの奇跡を起こす事になるんだ、その都度ポーズが同じというのは絶対に避けるべきだ!」
C.C.「言い換えれば奇跡の数だけ恥をかくわけか」
ルルーシュ「俺は今までのポーズを恥と思った事はない!!」キッ!
カレン「ルルーシュ……あんた頭いいけど、馬鹿なの?」
カレン「あたしも正体知る前はともかく、今はちょっと……ねぇ?」
ルルーシュ「違うな、間違っているぞ。少なくとも子供や大きいお友達には大人気のはずだ」
カレン「あたしも去年学園の帰り道に見た覚えはあるけど……まぁ、子供がやる分には微笑ましかったわね」
C.C.「だが年齢重ねればああいうのやるのは恥でしかなくなるぞ」
ルルーシュ「ならば俺は何なんだ!! 決めポーズの数々を恥とも思わなかった俺は!!」
C.C.「ある種の病気だろ。それか素顔隠してるからできる事だ」
カレン「あのさぁ、さっきあたし達が入ってきたときの反応が全てを物語ってない?」
ルルーシュ「なっ……ぐっ、おのれぇっ……!!」
カレン「だったら扇さん達にも聞いてくればいいわけ?」
ルルーシュ「っ……」
C.C.「いい方法があるじゃないか。お前明日から数日間、エリア11に戻るんだろ?」
C.C.「アッシュフォード学園の生徒達にそれとなく確認してみればいいんじゃないか?」
ルルーシュ「だが学園ではスザクの目がある。大っぴらには聞けないだろう」
C.C.「だからそれとなくといったろ。ゼロの話題だって出るはずだ、そこに聞き耳立てればいい」
ルルーシュ「……よし、やってみるか……C.C.、留守の間は任せるぞ」
カレン「アッシュフォード学園、か……」
ルルーシュ「……やはり、懐かしいか?」
カレン「そりゃ懐かしいけど、今どのツラ下げて戻れるっていうのよ……」
ルルーシュ「……そうか」
ルルーシュ(結局教室では対してゼロの話題が出なかったな。情報規制の影響か)
リヴァル「ちょいちょい、ルルーシュ! ちょっとこれ見てみろよ!」
ルルーシュ「ん?」
ゼロ『ゼロが命じる……』ウデクロスッ
ゼロ『黒の騎士団は全員、行政特区日本に! 参加せよッ!!』ビシィッ!!
ルルーシュ(あのときの映像か。このシーンが記録されているとは思わなかったな)
ルルーシュ(我ながらあのポーズは会心の出来だった。カレンの叱咤と生徒会のみんなの想いがあったからの完成度だ) シンミリ
リヴァル「ゼロってさー、一体いくつぐらいなんだろなー?」
ルルーシュ「は?」
リヴァル「いやさ、正直俺らくらいの年であんな事してたら痛くね?」ハフー
ルルーシュ「!?」
ルルーシュ「は、はは……そうだな……」
スザク「……」
ミレイ「ねぇねぇ、何見てんの?」
リヴァル「会長も見ます? ゼロの派手なポーズの数々」ホレホレ
ミレイ「うーわ、何度見ても派手通り越してちょっとひくわー」
シャーリー「こんなポーズ決めたがる人、友達にいてほしくありませんよねー」
ルルーシュ「……だよな、俺もそう、思う……」ヒヤアセ
ルルーシュ(そんなっ……これが世間の目だというのか!? 俺の、ゼロのポーズは恥ずかしいというのか!?)
ルルーシュ「何?」
スザク「だってルルーシュって、子供の時変身ヒーローのもの真似したりして……」
シャーリー「えっ、ルルってそんな趣味持ってたの!?」
ルルーシュ(スザクめ……俺がボロを出すよう仕向けているなっ!!)
ルルーシュ(俺はシャルルのギアスで記憶を変えられた設定だ、ここでイエスと答えては記憶が戻ってる事の証明になる!! だが……)
ルルーシュ「いやだなスザク、そんな事話した事あったっけ?」
スザク「え? いや……」
ルルーシュ「仮にそうだとしても、子供の時の話だし……それに俺だって高校生だ。恥という概念ぐらいあるさ」
リヴァル「そーだよなぁ、さっすがにいい歳こいてやんねーって」
スザク「あー、そう? そうか……」
ルルーシュ「そうそう、まったく……ははは」
ルルーシュ(くぅ……おのれ、おのれ貴様等ぁぁぁっ!!)
ミレイ「シャーリーはルルーシュがやる事ならなーんでも歓迎なんでしょー?」
シャーリー「そっ、そんな事いってませんけどぉ……」
ルルーシュ「勘弁してくれよシャーリー。そんな事期待されても困るって」ハフー
スザク「……だったら僕がみんなに、素晴らしい決めポーズを教えてあげるよ」
リヴァル「え? なになに、スザクってそーいうの好きなんだ?」
スザク「好きとか嫌いじゃなく、騎士として当然の振る舞いだよ」
スザク「いいかい? 右手をこう水平に構えて、背筋伸ばすのと同時に足閉じて……」
スザク「ではみんなで一緒に、イエス! ユアマジェスティ!!」ビシィッ!
一同「「「」」」
ロロ「イエス! マイブラザー!」ビシィッ
ルルーシュ「あー……ハイハイ」
ルルーシュ「……」ナミダメ
C.C.「どうだった? 世間様の目とやらは」
ルルーシュ「黙れ……うぅっ」グスッ
カレン「その様子じゃ散々だったみたいね……」
ルルーシュ「なぜだ、なぜみんなあのかっこよさがわからない……」グスッ
C.C.「それが一般の認識というものだ。わかったらあんなポーズの開発なんてやめとけ」
カレン「そうよ、ゼロは仮面とマント姿で佇んでるだけでもちゃんと存在感あるんだし……」
ルルーシュ「俺が……間違っているというのか……」
C.C.「直球でいえば、そうなるな」
ルルーシュ「違う……間違っているぞ!!」ユラリ
カレン「……はい?」
C.C.「壮麗かどうかはともかく、まぁそうだな」
ルルーシュ「やはりお前達もわかっているんじゃないか……そう、間違っているのは俺じゃない!! 世界のほうだ!!」
カレン「なんか、やな予感……」タジッ
C.C.「まぁまたバカな事始めるんだろうさ……やれやれ」
ルルーシュ「世界は変わる、変えられる―――」
ルルーシュ「そう、俺はゼロ!! 世界の常識すらも破壊し、創造する男だ!!」 ビシィッ!
ルルーシュ「フフフ……フフフハハハ……!! フハハハハハハハハハハハ!!」
ゼロ「諸君。今日こうして集まってもらったのは他でもない……」
ディートハルト「また新たな作戦ですか? 情報操作でしたらお任せを」
ゼロ「頼らせてもらうとは思うが、まずは話を聞け。……諸君、先日の特区日本の件は覚えているな」
扇「あ、ああ。もちろんだ」
玉城「そりゃゼロの服着るなんて普通ねぇもんよぉ、張り切っちゃったぜ俺!」
神楽耶「まるで身も心もゼロ様になりきったかのようでしたわ♪」
ゼロ「そうか……だが諸君。君達は服を着ただけで私に……ゼロになったつもりでいるのか?」
藤堂「ゼロ、どういう事だ?」
ゼロ「諸君はあのとき、ただ服を着ただけだ! 心からゼロを演じたとは言えない!!」シュビッ!
ラクシャータ「全っ然意味がわからないんだけどぉ?」
ゼロ「わからないという事は、諸君が普段私をちゃんと観察していないという事だ」
ゼロ「この私、ゼロを語るにあたって、この装束以外の特徴がわからないか?」
朝比奈「そりゃ……起こした奇跡? でも特徴じゃないよねぇ」
ゼロ「惜しいと言っておこう。私が言っているのは、諸君らでも再現可能な特徴だ」
扇「と言われても、なぁ……」
C.C.「おい、もう面倒だから言ってしまったほうが早いぞ」
ゼロ「そうだな……では諸君、私のポージングを再現してみろ、今この場で!!」バッ!
一同「「「!!??」」」
南「再現!?って……」
朝比奈「ゼロ、いきなり何を言い出すんだ!?」
ディートハルト「お言葉ですがゼロ、あのポーズはあなたがやってこそのものです! それにあれは、あの場限りの策だったのでは……」
ゼロ「違うな、間違っているぞ。今後またああいった策を使う機会もあるかもしれない」
ゼロ「それにゼロはあくまで記号の存在。私もいわばゼロを演じている一人に過ぎんのだ」
ゼロ「その一役者の私が不測の事態で倒れる事があったら、代わりに演じる者が必要となる」
ゼロ「代役を務めるものとて、ゼロを演じるなら完璧でなくてはならん。知略もそうだが、まずは入り易い外見からだ」
ゼロ「ゼロの外見はこの装束だけで構成されるものではない、事あるごとにとるこのポーズもセットでゼロの姿なのだ!!」
ゼロ「そして諸君は特区日本の作戦で外見だけとはいえ私を演じた、だがやるならやはり完璧だ!!」
ゼロ「よって!! 諸君には全員!! 私のポージングをマスターしてもらう!!」
一同「」
ゼロ「ほぅ? 何故だ、千葉よ」
C.C.「正直に言ってやれ。こいつだって言われる覚悟はあるさ」
ゼロ「そうだ。言っていいのは、言われる覚悟のある奴だけだ!」
千葉「な、ならば……(ゴクリ)ゼロ、悪いが正直言って恥ずかしい!!」
扇「す、すまないゼロ……俺も正直恥ずかしいんだ」
朝比奈「僕もこの歳になってあのポーズはちょっと……」
ゼロ「恥ずかしい? ……恥ずかしいとは情けないな」
千葉「なっ、なんだと!?」
ゼロ「我々は二度ブリタニアに敗れ、それでもこうして立っている身だ。今更恥や外聞を気にする必要があるのか?」
藤堂「……ふむ」
ゼロ「それにあたって私は自身の恥や外聞は切り捨てた。そんなもの抱えていては、今こうしてここに立っていない」
藤堂「……なるほどな。言いたい事は察した」
朝比奈「でも藤堂さん! あんな特撮ヒーローみたいなポーズ、いい大人になって―――」
ゼロ「では朝比奈よ、いい大人でありながらああいったポーズをとる私はおかしいのかな?」
朝比奈「う……」
ゼロ「考えてみろ。ゼロを演じきる者が増える事はすなわち、このゼロという記号の存在の秘匿性を高める事にもなる」
千葉「つまり、かつてのように処刑を騙られて姿を消すということも防げるという事……」
ゼロ「察していただけたなら幸いだ。ならわかった者から順次やってもらおうか」
玉城「おうよ!!(シュビッ)こうか? こうだろゼロぉ!」
ゼロ「腰の入りが甘いぞ。鍛錬が足りん」
玉城「ちぇ~っ」
藤堂「我々の認識はゼロは彼個人だが、世間に対してはそれを特定させない……単純ながら重要な事だな」
ゼロ「そういう事だ。私一人でなく、全員でゼロという存在を完全にしなくてはならない」
南「でもゼロ、やっぱり恥ずかしさはあると思うぞ」
扇「ああ、俺達もう30近いんだし……」
ゼロ「恥は捨てろといったのにまだ言うか……ならば一つ、真理を説いてやろう」
千葉「真理? 一体なんだ?」
ゼロ「古来より日本に伝わる言葉ゆえ、知ってる者も多いはず……今の諸君にはうってつけだ」
ディートハルト「ゼロ、その言葉とは!?」ワクワク
ゼロ「その真理とは……『赤信号、みんなで渡れば怖くない』ッ!!」
一同「」
カレン「(要は一人じゃ恥ずかしいからみんな巻き込もうって事じゃないのぉっ!!)」ヒソヒソ
C.C.「(やれやれ、どこまでも困った坊やだ)」ヒソヒソ
ゼロ「だが全てを覚えてもらわねばならない。それが完全に演じるという事だ」
扇「で、でも……」
神楽耶「まぁ練習すればできなくもないかもしれませんが……」
ゼロ「ほぅ? さすが神楽耶様はわかってらっしゃる」
神楽耶「ですが私は妻としてお傍に控えているべきで、演じる必要はないのでは?」
ゼロ「ダメです、例外は認めません」
藤堂「……ゼロよ、それは我ら黒の騎士団のみが対象か?」
ゼロ「違うな。あのときゼロを演じたのは百万人の日本人。それら全てが対象だ」
朝比奈「子供やお年寄りまでいるのに、全員に徹底させるなんて無理なんじゃ……」
ディートハルト「ですがその無理を現実にすれば、また新たな奇跡となります」
藤堂「ふむ……」
ゼロ「それを話し合うためにこうして集まってもらったのです」
千葉「つまり、ノープランなのか?」
ゼロ「当初は黒の騎士団総員で先にマスターし、そこから徐々に広めていくつもりだったのだがな……」
藤堂「……温いな」
ゼロ「何っ!?」ガタッ
朝比奈「藤堂さん、まさか!?」
藤堂「ゼロ、ここは私に任せてもらえるか?」
ゼロ「やれるのか、藤堂!?」
藤堂「フ……かつて奇跡と呼ばれた以上、私も結果を出さねばな……」
藤堂「落ち着けゼロよ。……玉城!」
玉城「お!? おぅ、なんだよ旦那?」
藤堂「お前の抱える問題とは覚えられない事、そう言ったな?」
玉城「おぅよ、しゃーねぇじゃんよ、頭悪ぃんだからよぉ!」
藤堂「千葉! 朝比奈! 扇!」
3人「「「は、はいっ!!」」」
藤堂「お前達はひた恥ずかしい、これが最大の問題なのだな?」
千葉「え、あ……はい///」
朝比奈「藤堂さんの言動なら、いくらでも真似れるんですけど……」
扇「俺や南も、年齢的な事もあるし……」
藤堂「つまり年齢や性別に縛られず、体に直接覚えさせる事が出来なお且つ恥ずかしくない……そういった習得方法を編み出せばよいのだな?」
ゼロ「まさか藤堂、お前!!」
藤堂「私に策が浮かんだ。その全てを解消する策がな」
ゼロ「よし……ならばまずは私と藤堂、それに―――」
藤堂「千葉、朝比奈、それにディートハルト。お前達にも協力してもらう」
千葉・朝比奈「「藤堂さんのご命とあれば!!」」
ディートハルト「私をご指名という事は、メディアを使うのですか?」
藤堂「ああ。日本人に馴染み易いやり方を採る」
神楽耶「私にできる事はございますか?」
藤堂「いえ、ここはまず見ていて頂きたい」
神楽耶「そうですか~、残念……」
C.C.「ひとまず私達は外されて安心ってところか」
カレン「油断しない方がいいんじゃない? ……あいつと藤堂さんだし」
カレン「……く~……」zzz
カレン「ん……うぅ……るるーしゅの、ばかぁ……」スヤスヤ
ゼロ『諸君ッ!! おはようっ!!』キィー…ン!(※大音量で全艦放送)
カレン「ふわゎぁっ!?」ビクッ!!
ゼロ『起きた者は順次自室のテレビを点けろ! 先日の成果を見せてやる!』
カレン「テレビって、一体何なのよもう……」
カレン「ん……っと」ポチッ
カレン「って何これ、千葉さんと朝比奈さん?」
千葉『み、みんな~、おはよぉ~っ!!///』テェフリフリ
朝比奈『今日から始まる、朝のゼロ体操の時間だよぉ~っ!!』ヒキツリ
カレン「はい?……ゼロ体操って、何??」キョトン
千葉『じゃあみんな、お姉さんとお兄さんの動きに合わせて、いっしょにやってみよぉ~っ!!』
朝比奈『準備はいいかな? それじゃ、いっくぞぉ~っ!!』
チャーンチャラチャッチャッチャチャ チャーンチャラチャッチャッチャチャ チャラチャチャチャラチャチャタララララン♪
朝比奈『腕を大きく広げて、背伸びの運動ぉ~っ!』
千葉『さん、はい♪』
ターン ターン チャーンチャン ターン ターン ターン…♪
カレン「」
千葉『はい、これでゼロ体操第一はおしまいっ!』
朝比奈『第二もあるんだけど、それはまた次の機会にねっ!』
千葉『みんな、この体操で毎朝トレーニングしながらかっこよさを磨いてね♪』
朝比奈『続ければきっと君も、とうd……ゼロのようになれるはずさ!』
千葉『それじゃあ今日はここまで!』
千葉・朝比奈『それじゃあ、またね~!』
ナレーション『この番組は、合衆国日本国営放送がお送りしました―――』
ポチッ
カレン「……何これ」
ゼロ「ご苦労だった、二人とも」
藤堂「よく頑張ってくれたな、ほれタオル」
朝比奈「い、いえ……藤堂さんのためなら、これくらい何でもないです!」
千葉「ちょっと恥ずかしかったけど、まぁ……一応、アリかな~と……」アセフキフキ
カレン「あ、あの~、ゼロ……?」テッテッテッ
ゼロ「カレンか。派手に寝癖が立ってるが……何だ?」
カレン「ふぇっ? あーいや寝癖はともかく! あの、さっきのアレ……何ですか?」
ゼロ「見ての通り。朝のゼロ体操第一だ」
カレン「いやゼロ体操って何!?」
カレン「あー……はい、お願いします」
藤堂「先日の会議でのオーダーは覚えているな?」
カレン「えっと、年齢や性別関係なしで、体で直接覚える形でなお且つ恥ずかしくない、でしたっけ?」
ゼロ「その通り。ちゃんと覚えていたか、やはり優秀だなカレン」
カレン「え、えへへ……じゃなく、何でそれが体操に?」
藤堂「体で覚えるならば不自然ではなく自然な形で入る事が必要だ。よくよく見ると派手なポーズが自然な形で織り込まれている、私はそれでラジオ体操を思い出した」
ゼロ「そうだ。カレン、君も日本人ならば小学生時代に経験したはずだろう」
カレン「そりゃありますけど」
藤堂「ラジオ体操の様なものなら毎日繰り返す事によって自然と動作を覚える。これにゼロのポージングを上手く織り込むと、知らず知らずのうちに体が覚える事になる」
藤堂「年齢層も性別も関係ない。そして気軽に出来る。それにどうだ、みんなやる事だし恥ずかしくもないだろう?」
ディートハルト「なるほど、この機転こそが奇跡の藤堂と呼ばれる所以……!!」
藤堂「ふ、よしてくれ。大した事はしていない」
藤堂「ああ。加えて体操という以上、健康増進効果も考慮してプログラムを組んでいる。平均寿命が延びて日本の行く末も安泰だ」
ディートハルト「ゼロと藤堂鏡志朗、奇跡の体現者が二人手を組めばこれほどの事が……!」
ゼロ「藤堂、お前という漢がいて本当によかった!」
藤堂「お前に二度も拾われた命だ、出来る限りを尽くすのは当然だ」
ゼロ「藤堂……!!」
藤堂「ゼロ……!!」
ガシィッ!!(握手)
カレン(どうしよう……ものすごくツッこみたいんだけどツッこめる空気じゃない!)
千葉「早寝早起きすればいいだけだ、私は問題ない」
朝比奈「藤堂さんのご命令とあれば、不眠不休でも!!」
藤堂「いかんぞ昇悟、少しでも睡眠はとっておけ」
カレン「ってこれ生放送だったの!?」
ゼロ「よし! 放送スケジュールも固まった、あとはやるだけだ!」
ディートハルト「相変わらず素晴らしきカオスです、今後もバッチリ撮らせて頂きますよゼロ!!」
ゼロ「この流れなら国民総ゼロ化も遠くないな!! フフフハハハハハハハハ……!!」
ゼロ「ディートハルトよ。国民の様子はどうだ?」
ディートハルト「国民の半数近くは毎朝のゼロ体操を実行しているようです。老年層からは、この体操で節々の痛みが消えたのもゼロの奇跡とあがめているとか」
ゼロ「待て、半数近く? 全員ではないのか」
神楽耶「それについては私が説明しますわ」
神楽耶「……かつてのラジオ体操同様、中高年層、及び幼年層は欠かさず行っているようです」
ゼロ「すると……残りの半数とは!?」ガタッ
神楽耶「お察しの通り、問題は若年層ですわ」
ディートハルト「街頭でアンケートをとった結果、『朝に体操なんてかったるくてやってられない』という意見が多いですね」
神楽耶「加えてポージングに抵抗感を持ってらっしゃる方も多い用で……あ、私は毎朝やってますわよ?」
ゼロ「若年層……学生連中か! おのれぇぇぇぇっ!!」
神楽耶「奇跡に近付く努力、お嫌いなのでしょうか……」シュン
朝比奈「どうすんの? もうちょっと引き込む要素増やす?」
ディートハルト「ふむ。美形成分を足すなら、特務隊の杉山さんに手伝ってもらいましょうか?」
朝比奈「ほら、千葉ももうちょいこう、色気ある格好でやってみるとかさ?」
千葉「絶対嫌だ! このタンクトップ姿だって結構いっぱいいっぱいなんだ!」プンスカ
神楽耶「私もお姉さん役やりましょうか?」
ゼロ「神楽耶様にそこまで無理をさせるわけには参りません……しかし、若年層を取り込むにはどうする……」ブツブツ
朝比奈「それもありかもね」
千葉「だが相当激しい運動になるぞ、大丈夫か?」
ディートハルト「少なくとも千葉さんの踊る姿は男子の目を釘付けにするかと」
ゼロ「下劣な話はやめておけ。……だがそれでは一部の層を蔑ろにする事になる……何か策は……」
朝比奈「ゼロって軍略や政略は得意なのに、こういう事は弱いんだねぇ」
ゼロ「黙っていろ! えぇい、何かないか……」ブツブツ
藤堂「フ……」
ゼロ「む、どうした藤堂?」
藤堂「案ずるなゼロよ。この体操を生み出すときも、『まずは』と言ったろう?」
千葉「藤堂さん、まさか!?」
藤堂「この程度は想定済みよ。今回の策は二段構えだ!」ニィッ!
藤堂「落ち着け。今度の策は、ここに集うメンバー以外にも援けを求めねばならん」
ディートハルト「さらに増員を? 一体何を……」
藤堂「ちゃんと説明する。ただ言うなれば、今度は体操とはベクトルが異なる」
千葉「え? っていうことは……」
朝比奈「僕らのゼロ体操はもう、御役御免ですか……?」
藤堂「安心しろ、ゼロ体操は続けてもらう。既存市場を手放すわけにはいかん……神楽耶様」
神楽耶「はい?」
藤堂「神楽耶様にもご協力願いたいのですが、よろしいですかな?」キリッ
神楽耶「私の出番ですか? 喜んでご協力致しますわ♪」ニパッ!
ゼロ「藤堂……一体何をたくらんでいる……?」
藤堂「フフ……実はな」ゴニョゴニョゴニョ
ゼロ「! フ、フフフハハハハ!! それならいける、いけるぞぉっ!!」
ゼロ「諸君! 集まってもらったのは他でもない、先日結実した国民総ゼロ化計画、それがさらなく飛躍の時を向かえた!」シュバッ!
カレン「飛躍って、また何かやるんだ……」
C.C.「また下らない事なら御免だぞ、ゼロ」
ゼロ「話は最後まで聞け。……ところで、ちゃんと毎朝ゼロ体操はしてるだろうな?」
玉城「ったりめぇよ親友! おかげで毎日すこぶる快調だぜぇ!」
南「神楽耶様がやってるっていうから、俺も毎日やってるよ」
扇「やってると慣れてくるもんだな、最近俺カッコいいかもって思えてきたよ」
ゼロ「結構。では女子勢はどうかな?」
カレン「ま、まぁ……やってます、一応……///」
C.C.「真面目だなお前。私はやらん、ピザ10枚積まれても御免だ」プイッ
ゼロ「C.C.貴様ぁぁぁぁぁっ!!」プンスカ
ゼロ「藤堂……そうだな、あの計画なら間違いなくいけるはずだ」フーッ、フーッ
C.C.「ずいぶん自信ありげだな。まぁ聞いてやるから話してみろ」
ゼロ「いいだろう……後悔するなよ?」ユラリ
カレン「(ちょっとC.C.!! 挑発して大丈夫なわけ!?)」ヒソヒソ
C.C.「(あの阿呆共の考えなどたかが知れてるさ。大方エアロビとか女子増強、露出アップとかその辺だろう?)」ヒソヒソ
神楽耶「ふふふ~、きっとC.C.さんやカレンさんにもお楽しみいただけると思いますわ♪」
藤堂「さぁゼロよ、我らのプレゼンの時間だ!!」ニヤリ
ゼロ「よぉし……ではとくと聞くがいい!!」バサァッ!
カレン「あ、はい……年齢や性別関係なしで、体で直接覚える形でなお且つ恥ずかしくない、でしたよね?」
藤堂「見事な回答だ、紅月」
ゼロ「その答えの一つが体操だったわけだが、残念ながら朝の体操では若年層の心を掴むに至らなかった」
南「じゃあ今度は若年層も取り込むってわけか!?」
ゼロ「その通り……若年層をメインターゲットとしつつ、その実全ての年齢層に訴えかけるもう一つの策!!」ゴゴゴゴゴ
C.C.「本当にあるのか、そんなもの」
藤堂「愚問だな、日本人なら惹かれる事請け合いの策だ!!」ニィッ!
扇「そ、その策とは!?」
ゼロ「心して聞けッ!! 新たに全年齢に訴求する策、それはッ!!」ブワサッ!
ゼロ・藤堂「「アイドルだっ!!!!」」
一同「「「「……はい!?」」」」
ゼロ「日本人は皆すべからくアイドル―――偶像というものが大好きだ。藤堂の言によりこれはハッキリしている」
藤堂「そう、アイドルというものは人の心を熱狂させる。私もかつてどれほどのアイドルを追っかけたかわからんほどだ」
ゼロ「そして昨今のアイドルはただ歌うだけではない、歌って踊れるのが主流だ」
藤堂「そのダンスの中にゼロのポージングを織り込めば、さぁどうなると思う!」
南「そうか……そのアイドルが魅力的であればあるほど注目し、自然と目は向かう!」ガタッ
扇「見ているうちに振りを覚え、いつしか自分でもやりたいと思うほどになる!」ガタッ
玉城「んで覚えた振りは実はゼロのポーズってわけか! さすがだぜゼロぉ!」ガタッ
ゼロ「そう、近年ではカラオケで振り付きで歌う輩も数多い。中には女性アイドルの曲を振り付きで歌う男性もいるほどだ」
藤堂「つまりだ。我々から皆の目を引くアイドルをプロデュースし、ゼロのポーズを織り込んだダンスを踊りながら歌えば!!」
男達「「「国民総ゼロ化も間違いなし!!」」」
ディートハルト「どころか、PVを国内外に流す事によって世界規模で巻き込む事ができるかもしれませんよ?」
ゼロ「フハハハハハ、夢が広がるではないか!!」
こんなとこで何やってんですかギルフォードさん!
まだ仕事が残ってんですよ!戻ってください
ゼロ「そんな事はわかっている。すでに候補にも目星はつけている」
藤堂「ほう、そこまでは聞いてなかったが」
神楽耶「まずはゼロ様にその候補を発表していただきましょう?」
ゼロ「ああ、では発表する……カレン!!」ビシィッ!
カレン「え!?」
ゼロ「このゼロが命じる! 我ら黒の騎士団プロデュースのアイドルとなりたまえ!」ババッ!
カレン「ちょ、ちょっと! なんであたしなんですか! 千葉さんたちだっているのに……」
ゼロ「カレン。君に自覚があるかどうかは別にして、君の容姿は間違いなく黒の騎士団……いや、合衆国日本中でもトップクラスだ」
ゼロ「整った顔立ち、魅惑的なプロポーション、アイドルとして全く申し分ないと思うがな」
カレン「え? そ、そんな……って、そうじゃなくって! あたしはゼロの親衛隊隊長だし―――」
ゼロ「加えて! 私を助け出してくれた時などに見せた高い身体能力! 激しいダンスでも問題なかろう」
ゼロ「心配いらない、私が―――私達が全力で君をスターにしてみせる!! そうだろう、藤堂!!」バッ!
藤堂「フ……ゼロよ、目の着けどころがいいな」ニィッ
ゼロ「フッ、カレンのことはちゃんと見ているからな」
藤堂「だがまだ甘い!!」
ゼロ「!?」
藤堂「紅月を選ぶのは必然といえる。彼女ほどうってつけな人材もいないだろう」
カレン「ホントに、あたし決定なわけ……?」
藤堂「だが今日び、ピンのアイドルのダンスだけで世を席捲できると思うのか?」
ゼロ「まさか藤堂、お前の考えているのは!!」
藤堂「フ!! さすがに察したか……そう、ユニットだ!!」
藤堂「一人より二人、二人より三人!! そしてどうせなら違うタイプの女子で編成する事で更なる効果促進が見込める!!」
ゼロ「お……おおぉ……!! これが、これこそが!! 奇跡の藤堂!!」
藤堂「よせ。わずかばかり長く生きてるだけだ、なんでもない」フッ
ラクシャータ「あたしパ~ス。ダンスするよりこーやってソファにお気楽してる方が性に合ってるしぃ」
藤堂「案ずるなラクシャータ。お前はアイドルよりセクシー女優という方がイメージに合っている」
ラクシャータ「ほめられてんのかしらぁ? でも夜はこーんな寝たきりじゃないわよぉ♪」ペロォリ
ゼロ「藤堂、頼れるお姉さんポジションで千葉はどうだ?」
藤堂「千葉にはゼロ体操のお姉さん役がある。それに新人アイドルとしては年齢的に問題ありだ、浮いてしまう」
ゼロ「そうか……むぅ」
神楽耶「あらー! でしたら私とカレンさんとC.C.さんでいいんじゃないかしら?」
ゼロ「何っ!?」
神楽耶「ほら、ゼロ様を支える三人官女ですし♪」
藤堂「ほう? いつの間にか既にユニットが出来ていたのか」ニィ
C.C.「……ほう?」
C.C.「私は別に構わんぞ? これでも歌は自信アリでな」クスッ
藤堂「編成としてもバッチリだ。ハーフで活発な正統派美人の紅月、純日本人でちょっとわがままなロリ系の神楽耶様、国籍不明で意地悪エロスなお姉さんのC.C.!! 人数は押さえ目でもこれは売れる!!」
神楽耶「でしょー?」
カレン「……やっぱりもう、後戻り効かない感じ?」
ゼロ「確かに売れるかもしれんが……えぇいC.C.! ちょっとこっち来い!」ズカズカ
C.C.「強引だなぁ、キスの一つもしてくれるのかな? ふふっ」
カレン(まーた二人だけで話しこむー……)ジトーッ
C.C.「(私だって女の子だ。アイドルというものに対する憧れくらいなくもないぞ?)」ヒソヒソ
ゼロ「(女の子って歳でもないくせに……って違う!)」ヒソヒソ
ゼロ「(さっき言ったろうが、PVは世界規模で流す予定なんだ! 皇帝や嚮団にバレるだろうがぁっ!)」ヒソヒソ
C.C.「(目はカラーコンタクトで誤魔化せばいい。髪は染めるなりヅラ被るなり、最悪ヘアスタイル変えるだけでも充分だ)」ヒソヒソ
ゼロ「(名前はどうする! アイドルの名前じゃないだろ、さっき言ったようにバレるし!)」ヒソヒソ
C.C.「(そんなもん偽名で充分通る。そうだなぁ、クリスティナ・シエラなんてどうだ? ふふっ)」ヒソヒソ
ゼロ「(くぅっ……仕方ない、珍しくやる気のようだし承諾してやる! ただし絶対バレるなよ!)」ヒソヒソ
C.C.「(安心しろ、私を誰だと思ってる? C.C.だぞ)」ヒソヒソ
ゼロ「(……もういい、向こうに戻るぞ。参加の方向で話を進める)」ヒソヒソ
C.C.「アイドルの時はクリスティナ・シエラと名乗らせてもらう。うっかりC.C.と呼んでくれるなよ」
神楽耶「確かにイニシャルはC.C.になりますわね……これが本名ですの?」
C.C.「さぁな? 秘密だよ、お嬢ちゃん」クスッ
カレン「C.C.が入るんじゃ負けるわけにいかないわね……いいわ、やってやるわよ!」
藤堂「私の構想では紅月と神楽耶様の2トップでいくつもりだったが、これは予想以上だな……フフフ、私の胸も熱くなってきたぞ」
ゼロ「藤堂、人数を補うべくバックダンサーを付けるのはどうだ?」
藤堂「ほう?……なるほど、奴らか」
ゼロ「察しが早くて助かる。そうだ、オペレーター3人娘をバックに付ける!」
藤堂「ふむ、バックで経験を積みいずれは世代交代というのもありかもしれんな」
ゼロ「そうだ、そしてメイン3人も追い越されまいとする結果競争心が生まれる! その行く先は更なる未来を生む!」
藤堂「そしてゆくゆくはソロデビューも考え得る……ゼロよ、完璧だな」
ゼロ「ああ! 藤堂、お前がいてくれた事に心から感謝する!!」
ガシィッ!!(握手)
ゼロ「どうした、カレン?」
カレン「ユニット名、どうするんですか?」
藤堂「そのまま三人官女でいいとも思うがな」
ゼロ「それに加えてバックのオペレーター3人か……むぅ」
ラクシャータ「せっかくだし公募したほうがいいんじゃなぁい?」
神楽耶「何かいいアイデアが出るかもしれませんしね♪」
C.C.「まぁ、たまにはそういうのもいいだろうさ」
ゼロ「よし! では>>140まででユニット名を公募する!」
ゼロ「そこまでにカッコいいものがあれば採用だ、なければそのまま三人官女! さぁ諸君、悩むがいい!!」
藤堂「何々……まずはオノイゼル、か。これはなんとなく避けた方がよさそうだな」
神楽耶「こっちはゼロ様ラブ♥LOVE親衛隊ですね……そのまんまですが、私はいいと思いますわ」
C.C.「冗談よしてくれ。次……000(オーズ)か。特撮みたいだな」
カレン「これは……ゼロの使い魔って、こんなタイトルなかったっけ?」
ラクシャータ「グラストンナイツだってぇ……さすがにマズイでしょぉ、これぇ」
ゼロ「最後の一つは……っ!? き、却下だ! こんなものぉっ!!」
C.C.(さすがに童貞坊やにはこたえたらしいな)
神楽耶「どうします?」
ゼロ「……当初の予定通り、三人官女が一番よさそうだな。投稿者達には申し訳ないが、これで決定だ」
藤堂「ならば三人官女withラブリー☆オペレーターズとかどうだ?」
カレン「藤堂さん、それだとバックの方が豪華になってます……」
ゼロ「三人官女のみで充分だろう。バックダンサーとはメインの引き立て役に過ぎない」
C.C.「なかなか酷い言い草じゃないか」
ゼロ「違うな、間違っているぞ。自分もその輪に加わりたいという想いが競争心を呼び覚まし、また新たなステップを踏めるのだ」
藤堂「ゼロ……わかっているじゃないか」
ゼロ「よし! ならばあとは曲とダンスの練習だ!」
藤堂「私は振り付け指導と衣装のデザインを行う。そのデザインを元に千葉が衣装を作ってくれるだろう」
ラクシャータ「舞台装置とかはまかせてくれちゃっていいわよぉ☆」
ゼロ「フフフハハハハ……いいぞ、順調だ! では、三人官女、始動っ!!」ブワサッ!
―――蓬莱島・特設会場―――
ゼロ「さすがだなディートハルト。この会場を埋め尽くすだけの観客を集めるとは」
ディートハルト「いえいえ、これもゼロのカリスマのなせる業です」
藤堂「彼女ら自身の努力もあるさ……お前達! 準備はいいかっ!」
3人「「「はいっ!!」」」
ラクシャータ「演出はさっきアンチョコ渡した通りだから、タイミングずれないよう気ぃつけてねぇ~」
藤堂「ゼロ、何か言ってやる事はあるか?」
ゼロ「そうだな……これまで長い間、この記念すべきデビューの日のためによく地獄の特訓に耐えてくれた」
ゼロ「歌もダンスも、これほどまでに短時間で完璧に仕上がるとは思っていなかった。君達の努力の賜物だ」
ゼロ「これ以上私から言う事も特にないだろう。君達の努力の結果を国民に見せ付けてやれ!!」
藤堂「よし、行って来い!」
ゼロ「!……そうだ、カレン」クルリ
カレン「え? あ、はい!」
ゼロ「立ち位置上では君がセンターだ。気張り過ぎる事はないが、二人を引っ張るつもりで存分に力を振るえ!」
カレン「……わかってます、リーダー張らせてもらいます!」
ゼロ「その意気だ……それと」
ゼロ「(その衣装、よく似合っている)」ボソッ
カレン「! ばっ……」
C.C.「おやおや、これはしくじれないなぁ?」
神楽耶「なんにせよ、折角だし楽しんでいきましょう?」
ゼロ「では改めて、行くぞぉっ!!」バサッ!
ゼロ「予告していた通り、これより! 我が黒の騎士団プロデュースによるアイドルユニット、三人官女のデビューコンサートを開催する!」
ゼロ「ではメインメンバーを紹介しよう! まずはセンターを勤める、黒の騎士団の切り込み隊長!」
ゼロ「見目麗しき姿だが、戦場では紅蓮を駆って血路を開く! 歌って踊れて戦うアイドル、紅の戦乙女・紅月カレン!!」バッ!
カレン「みんな今日はよろしくーーーっ!!」
ゼロ「続いてぇ! 我ら合衆国日本の代表でありながら、その歌声で心を照らす!」
ゼロ「体は小さくても器は大きい、ちょっとやんちゃな幼き女神、皇神楽耶ぁ!!」
神楽耶「楽しんでって下さいね~~♪」
ゼロ「そしてぇ! 私の傍らにコイツあり! 一体お前はどこから来たんだ!?」
ゼロ「風の吹くままピザ香るまま、今日は何をやらかすか!? 謎に満ちたミス・ピッツァ、クリスティナ・シエラァーッ!!」
C.C.「ピザの差し入れならいつでも歓迎だぞ?」
ゼロ「彼女ら3人が集まって、チーム三人官女だ!! ―――では聴いて頂こう!!」
ゼロ「彼女らのデビュー曲……colors!!」
――ワァーーーーーーーーーーーーーーッッッ!!――
ミレイ「ねぇルルーシュ~、これ知ってる?」ホレッ
ルルーシュ「学校で何を見て……って、ああ。黒の騎士団の」
ミレイ「カレンったらいつの間にかアイドルなんてやってたみたいね~、頑張ってるようで安心したわ♪」
リヴァル「だめっすよ会長~、こいつこーいうの興味ない奴だから」
ルルーシュ「俺だって知った顔だしちゃんと見たよ。まぁ、元気そうで何よりだ」
ミレイ「ってかすっごいダンスよね~……そのくせこんなミニなのにちゃんと中は見えないギリギリ保ってるし」
リヴァル「結構可愛い衣装だよな~、どう思いますかね、センセーは?」
ルルーシュ「……馬子にも衣装だな」
シャーリー「も~、ルルったらすぐそういう事言う! ほんっとカレンには冷たいよねー」
ミレイ「あれ~、シャーリー知らない? ルルーシュがこういう事いうのはねぇ、ホントは褒めてるって事よ♪」
シャーリー「え!? や、やっぱりルルとカレンって……」
ルルーシュ「会長もそういう冗談はやめて下さいよ、全く」
リヴァル「ん~、俺としてはこのクリスって姐さん、いいな~……」
リヴァル「え゛!? い、いやそういうんじゃないっすよ会長ぉ~」
シャーリー「会長! このカレン達みたいな衣装って用意できますか!?」
ミレイ「え? あー、まぁ似たようなのはあるかもだけど」
シャーリー「ないなら私が作るから、私達もやりましょ、このダンス!」
ルルーシュ「……ほぅ?」
ミレイ「ちょ、シャーリーってばちょっとタンマ! どったのよいきなり……って、はっはぁ~♪」
ガラッ
ヴィレッタ「おいお前ら、騒がしいぞ! 生徒会としての自覚が欠けてるんじゃ……」
ミレイ「(ピコーン)うん、いいわね~! じゃヴィレッタ先生も一緒にやりましょっか♪」
シャーリー「ヴィレッタ先生! 私達と一緒にアイドルやりましょう! 歌って踊れるアイドル!!」
ヴィレッタ「はぁ!?」
ヴィレッタ「おい待て! 一体何が―――」
シャーリー「大丈夫です、悪いようにはしませんから!!」ガシッ
ヴィレッタ「え!? おいこら、何をするシャーリー!!」ジタバタ
プシューッ(LOCK)
リヴァル「ホントに、追い出されちまった……」
ルルーシュ「いつもながら強引だな、ホント……」
スザク「あれ? どうしたんだい二人とも」
ルルーシュ「スザク。いや実は―――」
ルルーシュ「ああ。カレン達のPV見て火がついたらしい」
リヴァル「クラスの奴らも食いいる様に見てたしな! もう国とか組織関係なく、アイドルとして認知されてる感じだぜ?」
ルルーシュ「そうだな。平和になったら、色眼鏡なしで受け入れてもらえるかもな」
スザク「ルルーシュ、君は―――」
ルルーシュ「……さっきから変だぞ、どうしたんだよスザク?」
スザク「……いや、なんでもない」
リヴァル「っつーかスザクはこのPV知らねーわけ?」
スザク「一応僕も見た。ナナリー総督が興味を持たれたからね」
ルルーシュ(ナナリーが!?)
スザク「総督の目が見えなくてよかったと思う。あんな派手で卑猥なダンス、教育上よろしくない! 即刻配信停止すべきだ!」
リヴァル「お前相変わらずかったいねぇ……」
ルルーシュ(スザク……やはり今のお前は俺の敵だぁっ!!)
ヴィレッタ「センターはやはり私だな。引率者がリーダーだろ、当然だよな?」
シャーリー「嫌です! センターは私がやるのぉ!」
ミレイ「さーてシャーリー、理由をどうぞぉ?」
シャーリー「私もカレンみたいに、ルルに『馬子にも衣装』って言われたい~!」
ヴィレッタ「シャーリーお前、その言葉意味わかっていってるのか!?」
ミレイ「やっぱりねー……まぁ私はクリスティナってお姉さんのポジかな~やっぱり」
シャーリー「じゃあヴィレッタ先生があの神楽耶って子のポジション! 決定!」
ヴィレッタ「ちょっと待て! なんで一番年上の私が幼女ポジなんだぁ! ちゃんと考えろお前らぁ!」
シャーリー「ダメです、もう決定! 私はルルに『馬子にも衣装』って言ってもらうのぉ!!」
―――以降、下校時間までドタバタ繰り返し―――
ロロ「あれ? 兄さん、生徒会は?」
ルルーシュ「今日はなしになったんだよ。さ、帰るぞ」
リヴァル「なぁルルーシュ、久々に賭けチェスいかねぇ?」
ルルーシュ「悪いが予定もあるんだ。それに、そこでコワ~イ軍人さんが目光らせてるぞ?」
スザク「リヴァル、やはり高校生が賭け事はよくない!」
リヴァル「うげ……た、退散~! また明日な、ルルーシュ~!」スタコラ
ルルーシュ「まったく……」
スザク「ルルーシュ。いくらアイドルデビューしても、今のカレンは犯罪者だ」
ルルーシュ「……そう、だな」
スザク「戦いもそうだし、あんなダンスの被害者を増やさないためにも、僕は彼女達を潰すよ」
ルルーシュ「お前、何言って―――」
スザク「そうさ、ラウンズ全員でアイドルデビューすれば、三人官女なんて敵じゃない!!」
ルルーシュ「……は?」
ルルーシュ「スザク、さすがにどうかしてると思うぞ。仕事しろと一喝されて終わりだろう」
スザク「だけど―――」
ルルーシュ「カレンにはカレンの、お前にはお前が進むべき道がある。それでいいじゃないか」
ルルーシュ「話はここまでだ。じゃ、また明日な」スタスタ
スザク(ルルーシュ……!)
ロロ「ねえ兄さん、僕もあのアイドルみたいなダンスすればいいの?」
ルルーシュ「いや、お前にはそういうのは求めてないよ」
ロロ「じゃあどんなことすれば兄さんは嬉しい?」
ルルーシュ「そうだな……適当な格好でひたすら匍匐前進でもしてればいいよ」
ロロ「」
ルルーシュ「冗談だよ、冗談」
プシューッ
カポッ
ルルーシュ「帰ったぞ」
C.C.「お帰り、坊や」
カレン「あんたがいない間こっちは大変だったわよぉ……」
ルルーシュ「藤堂から報告は聞いている。新曲も追加してのアンコールツアーやってたらしいな?」
カレン「そうそう、凄かったわよみんな、振りまで全部一緒にやってくれて」
C.C.「あの馬鹿な体操の成果もちゃ~んと出ていたらしいな。よかった、のか?」
ルルーシュ「全ては計算通り、予定に沿って進んだだけの事だ」ムフー
C.C.「予想通りの反応だな」
カレン「ったく、可愛くないわね~」
カレン「っ……し、知り合いに見られたと思うとすっごく恥ずかしいんだけど……」
C.C.「その知り合い達にもあの恥ずかしいポーズが伝承されていくわけか。やれやれ、とんだ罪人だよ私達は」
ルルーシュ「みんながやってるなら恥ずかしくもないさ。少なくともカレン、そうやってソファの上でミニスカートで胡坐かくよりはマシだ。……見えてるぞ」
カレン「ふぁっ!? み、見ないでよ変態!!」バッ!
C.C.「おやおや、衣装褒められたのが嬉しくてサービスしたんじゃないのか?」
カレン「ち、違うってば! もう!」
カレン「ルルーシュ……まさか、そのためにあたしをアイドルに……」
ルルーシュ「さぁな……まぁ、こんな戦いだっていいだろう?」
ルルーシュ「何にせよ、国民総ゼロ化計画はアイドル効果により見事第2段階を達成した! 次は第3段階、世界制覇を目指す!!」ビシィッ!
カレン「ってちょっと、趣旨変わって来てない!?」
C.C.「日本解放とブリタニア打倒はどこへいったんだろうなぁ?」
ルルーシュ「違うな! 間違っているぞ。全世界ゼロ化が成されれば、ブリタニアの完全包囲も可能だ。そうすれば日本解放も容易い事!」
ルルーシュ「全ては繋がっている。そしてこの戦いは血を流さない新たな戦いだ! アイドルと体操、そしてポージングが世界を変える!」
C.C.・カレン「」
ルルーシュ「そのために新たな戦略を練るとしよう! 加えて君達は歌と踊りを、俺はポージングをより高みへ昇華させる!」
ルルーシュ「さぁ二人とも姿見に正対しろ! 共に決意のポージングだ! ぃよぉっ!!」シュバァッ!
C.C.「いいかげんに―――」
カレン「しなさいっ!!」
ゴツンッ!!!!
おしまい。
いい奇跡だった
Entry ⇒ 2012.10.12 | Category ⇒ コードギアスSS | Comments (0) | Trackbacks (0)
モバP「李衣菜は可愛い」多田李衣菜「私はロックなんです!」
多田李衣菜(17) にわかわいい
ちひろ「プロデューサーさん。先週撮影した雑誌、サンプルが届きましたよ」
P「お、ホントですか。どれどれ……」パラパラ
ちひろ「確か、李衣菜ちゃんのグラビアでしたよね? それも可愛い系の」
P「ええ。あいつ、ひらひらはロックじゃないーとか文句垂れてましたが……あったあった」
ちひろ「あら。ふふ、可愛らしいですね」
P「でしょう? 李衣菜にも言ったんですけどねー」
ちひろ「『ロックがいいんですー!』ですか? ふふっ」
P「はは、仰る通りです。でも、最初は渋々だったんですけど、終わってみれば『可愛いのも意外と……』なんて言ってましたし」
P「これからも可愛い路線で攻めていきます!」
ちひろ「プロデューサーさんったら、李衣菜ちゃんに嫌われちゃっても知りませんよ?」クスクス
P「嫌われない程度に、カッコいい衣装も着せてあげますよ!」
ちひろ「あんまりやりすぎちゃダメですからね? いくらロックを目指してるって言っても、女の子なんですから」
P「分かってますよぉ」ヘラヘラ
ちひろ「本当ですか……?」
ガチャ
李衣菜「おはようございますっ! 多田李衣菜、今日もロックに頑張りまーす!」ビシッ
P「お! おはよう李衣菜!」
李衣菜「おはようございますプロデューサー! 私、ロックですから時間は守りますよっ」
P「ロックって便利だなぁ」
ちひろ「おはよう、李衣菜ちゃん」
李衣菜「ちひろさんもおはようございます!」
ちひろ「うふふ、元気ね。さ、私はお茶を淹れてきますね」スタスタ
李衣菜「へへ、あったかいのお願いしまーす♪」
P「そうだ、李衣菜見てみろ! この前撮ったグラビアだ、可愛く写ってるぞ」
李衣菜「え、ホントですか? えへ、ひらひらの……って」
李衣菜「違います違いますっ! 私はクールでカッコいい衣装がよかったんです!」
P「えー可愛いじゃーん可愛いは正義なんだぞー」ブーブー
李衣菜「私が目指してるのはロックなアイドルなんです! こんな淑やかなワンピースは似合いませんっ」
P「そうかなぁ。この笑顔なんか、とびっきり可愛いのに」
李衣菜「うう、それはカメラさんに言われたからで……そんな可愛い可愛い言わないでくださいっ」プイッ
P「照れてる李衣菜可愛い」
李衣菜「違いますー! 照れてませんよっ!」
P「ほれ、ポーズ決めっ」パンッ
李衣菜「えへっ♪」キャピ
李衣菜「はっ!? レッスンのくせで体が勝手に!」
P「李衣菜は可愛いなぁ!」
李衣菜「だーかーらー、私はロックなんですってばぁ!」
李衣菜「える!」バン
李衣菜「おー!」バン
李衣菜「しー!」バン
李衣菜「けー!」バン
李衣菜「ロックなんですっ!!」バンッ
P「机を叩くな机を……ん?」
李衣菜「もー、いつになったら分かってくれるんですか……」ブツブツ
P「まあいいか……さあ李衣菜! 今日も仕事だぞ!」
李衣菜「やっぱりプロデューサーとは音楽性の違いが……え、なんですか、プロデューサー?」
P「撮影だよ撮影! 一人で行ってもらうけど、大丈夫だよな?」
李衣菜「どうせまた可愛い系の撮影でしょ……つーん」
P「いちいち可愛いなおい……じゃなくて、今日は期待してもいいぞ李衣菜!」
李衣菜「期待していいって……まさか!?」
P「ふふふ……そのまさかだよ。李衣菜ならやってくれると信じてる」
李衣菜「プロデューサー……! わ、私、頑張ってきます!!」
P「よし、その意気だ! 場所はこの紙に書いてある。時間は……」
李衣菜「ありがとうございますプロデューサー! 行ってきますっ」ドタバタ
P「あ、待てまだ早い……」
ガチャ バタンッ
ウヒョー!!
P「行ってしまった」
ちひろ「お茶お持ちしましたよーって、あら? 李衣菜ちゃん、もうお仕事へ?」
P「はぁ、そそっかしいというかなんというか」
ちひろ「随分嬉しそうにしてましたね。李衣菜ちゃんの希望に沿うお仕事なんですか?」
P「いやぁ、ははは! あいつは可愛いですからね!」テヘペロ
ちひろ「……私知りませんよ? ホントに嫌われちゃうかも」
P「あいつを見てると、なんかいじりたくなっちゃうんですよねー」
ちひろ「プロデューサーさんの性癖を疑いたくなる発言、いただきましたー」ススス
P「ああっどうして後ずさりするんですかっ」
ちひろ「さあ、どうしてでしょーねー」
P「俺は李衣菜一筋ですからね!?」
ちひろ「それはそれでまずいかと……」ジトー
P「あれれー? どんどん肩身が狭くなってる気がするぞー?」
――――――
――――
―――
数時間後
P「……よし、一区切り付いたぞっと」ノビー
ちひろ「はい、お茶のおかわりどうぞ」コトン
P「ありがとうございます……ずずー……あぁ美味い」
ちひろ「そろそろ李衣菜ちゃん、帰って来る頃ですね」
P「そうですね。李衣菜のことですから、そつなくこなしてくれてますよ」
ちひろ「プロデューサーさんが意地悪しなければもっと良いんですけどねー」
P「意地悪じゃないですよ! 愛ですよ、愛!」
ちひろ「はいはい……」
ガチャリ
李衣菜「ただいま戻りました……」
ちひろ「あら、おかえりなさい李衣菜ちゃん……元気ないわね?」
李衣菜「いえ……なんでもないです、ちひろさん」
P「おかえりーなー! なんちゃってなーははは」
李衣菜「……」プイ タタタッ
P「あ、あれー?」
ちひろ「あーあ……これはもう、完全に嫌われてますね」
P「ばばばばばんなそかな!!」
ちひろ「当たり前ですよ……プロデューサーさん、悪ふざけの度が過ぎましたね」
ちひろ「言ったでしょう、李衣菜ちゃんも女の子だって」
P「うう……李衣菜ぁ……」
ちひろ「どうすればいいか分かりますよね?」キッ
P「い、行って来ますっ」ダッ
ちひろ「……まったくもう」
休憩室
P「り、李衣菜ー?」ヒョイッ
李衣菜「……」
P(ソファーの上で体育座りして頬を膨らませている……やっぱり可愛い)
P(って違う! こんなときまでバカか俺は!)
P「なぁ、隣……座っていいか?」
李衣菜「……ふんっ」
P「す、座るぞ……よいしょ」ポスン
李衣菜「……」
P「……」
李衣菜「……」
P(やばいこれは気まずい……普段どんな会話してたっけ)
李衣菜「……あの」
P「おっおう! なんだ李衣菜っ!」
李衣菜「……プロデューサーは、やっぱり私がロックなんて無理だって思ってますか?」
P「え……」
李衣菜「……可愛い衣装を着て笑顔でいると、私、アイドルやってるなって思うんですけど」
李衣菜「やっぱりロックじゃないなーなんて思ったりもして」
李衣菜「ダメですよね、こんな中途半端な気持ちでやってるなんて……」
李衣菜「せっかくプロデューサーがお仕事とってきてくれてるのに」ウルッ
P「李衣菜……。中途半端なんて、そんなこと……大体俺が」
李衣菜「私、このままでいいのかなって……」ウルウル
李衣菜「ぐすっ。ううん、ごめんなさい。気にしないでプロデューサー」グシグシ
P「……李衣菜っ」ギュッ
李衣菜「ひゃっ!? ぷ、ぷろでゅーさー?」
P「ごめんな李衣菜。俺が悪かった」
李衣菜「なんでプロデューサーが謝るんですか……」
P「李衣菜はそのままでいいんだよ。ひた向きな所が李衣菜の美徳なんだから」
P「俺が身勝手なばかりに、李衣菜のやりたいことを無視して……不安にさせてしまった」
李衣菜「そんな……別に、私は可愛いの好きですし。そういうのばっかりだとちょっと困りますけど」
李衣菜「プロデューサーについていけば大丈夫って思ってますからね。えへへっ」
P「そこまで信用されてるのに、ばかだよなぁ俺……。本当にすまなかった」
李衣菜「そんなに謝らないでください。プロデューサーには、感謝してもしきれないんです」
李衣菜「街をふらついてた私を拾ってくれて、キラキラのアイドルにしてくれたんですから」
李衣菜「あなたは私の自慢のプロデューサーなんです。もっと胸張ってください!」
P「……うん。ありがとう、李衣菜」
李衣菜「 へへ、なんだかむず痒いですね。こちらこそありがとうございますっ」
P「はは、そうだな。その……これからもよろしく、ってことでいいのか?」
李衣菜「はいっ、もちろんです! ……あんまり嘘つくのは嫌ですよ?」
P「ああ、分かったよ……これからは正直に可愛い仕事を持ってくるぞ!」
李衣菜「だから、もっとクールな……! うー、もういいですよっ」プクッ
P「膨れてる李衣菜も可愛いなぁ」プニッ
李衣菜「んにゅ、なにゅすうんですくぁ」ムニー
P「うはは、ほっぺた柔らかいなぁ」
李衣菜「うゅー! やみぇてくらはいー」ムニムニ
P「おお伸びる伸びるー」
李衣菜「にへぇ♪」
ちひろ「……いつまでいちゃついてるんです?」
P「うおっ!? ちひろさん!」
李衣菜「にゅ、いちゅのまにっ」ムニュー
ちひろ「プロデューサーさんが李衣菜ちゃんの隣に座った時から、ですかね?」
P「最初からじゃないですか……」
ちひろ「というか、アイドルとプロデューサーが抱き合わないでくださいね」
P「!? うおおおお李衣菜すまん!」バッ
李衣菜「いいいいえ! こちらこそっ!」ババッ
ちひろ「仲直りはしました?」
P「は、はぁ」ドキドキ
李衣菜「うぅ……」ドキドキ
ちひろ「なんて、聞くまでもありませんでしたね♪ そろそろ事務所閉めますから、ぱぱっと出ちゃってくださいねー」スタスタ
P「あ、はい……」
李衣菜「も、もうそんな時間なんですね……わ、外暗いですよプ ロデューサー」
P「暗くなるの早くなったよな……そうだ李衣菜、飯でも食ってこうか?」
李衣菜「お、もちろんプロデューサーの奢りですよねー?」
P「あぁいいぞ、今日のお詫びに。それと、未来のロックアイドルに先行投資だ」ナデ
李衣菜「! へへ、頑張ります私っ! シェケナベイベー!!」ハイターッチ
P「Yeah!!」ハイターッチ
パンッ!
――――――
――――
―――
事務所前
ちひろ「忘れ物はありませんねー?」
P・李衣菜「はーい」
ちひろ「じゃあ閉めちゃいますね。……はいガチャリンコっと」
ちひろ「それでは、私はこっちですから。お疲れ様でしたー♪」フリフリ
李衣菜「また明日ですー」フリフリ
P「お疲れ様でしたー……さて、李衣菜は何食う?」
李衣菜「んー、ガッツリと行きますよ! 私、ロックですからっ」
P「俺、李衣菜といるとロックって何か分かんなくなりそう」
李衣菜「ロックはロックです。ロックとは、心で感じるものなんですよ……」ドヤァ
P「ふーん(棒)」
李衣菜「ふーんってなんですかぁ!」
P「いやだって分かんないしぃ?」
李衣菜「分かってくださいよー! 私のプロデューサーでしょー?」ギュ
P「分かるのは李衣菜が可愛いってことかなぁ」ギュッ
李衣菜「私はロックなんですってば!」
P「あーはいはい」
李衣菜「もー!」
P・李衣菜「ギャーギャー」
ちひろ「」コソッ
ちひろ「……仲良く手なんか繋いじゃって……ふふっ」
おわり
李衣菜が可愛いからいけないんだごめんね
こんなのだりーなじゃない?だりーなはお前らのロックが決めるんだ
P「李衣菜、李衣菜」
李衣菜「はいっ、なんですかプロデューサー」ヒョコ
P「ロックのスペルってなんだっけ?」
李衣菜「え? える、おー、しー、けー。ですよ?」
P「ふむ……ほい、これ」
李衣菜「英和辞書……あ」
ロック【lock】
鍵(かぎ)をかけること。錠(じょう)を下ろすこと。また、錠。「ドアを内側から―する」
李衣菜「……」プルプル
P「あれーロックってこういう意味だったんだなー知らなかったー」プークスクス
P「鍵をかけるアイドルってなんだろーなー知りたいなー」ニヤニヤ
李衣菜「……うわああああんプロデューサーのばかああああああ!!!! 」
P「李衣菜は可愛いなぁ!!」
おしり
乙
乙
こんな顔
Entry ⇒ 2012.10.12 | Category ⇒ アイマスSS | Comments (1) | Trackbacks (0)
憧「にゃっ!」穏乃「にゃ?」憧「あっ」
憧(我ながら何よ、にゃって)
憧(恥ずかしい恥ずかしい)
憧(というか絶対シズにキモがられた……、よね)チラッ
穏乃「……」フイッ
憧(ガーン! 露骨に目ぇそらされたー!?)
憧(そんなに引かれちゃったかな……)
穏乃(やばいやばいやばい!)
穏乃(さっきのが可愛すぎてまともに憧の顔が見れない!)
穏乃(このまま黙ってても気まずいだけだ)
穏乃(なんとか会話をしないと……、落ち着け私)
穏乃「あのさ憧」
憧(シズの方から話しかけてきてくれた!?)
穏乃「さっきのにゃってやつさ、けっこう可愛いかったよ」
憧(か、かかか、可愛い!? 今シズが可愛いって……)
憧「ふみゅー」
穏乃(ふみゅー? えっ?)
憧(ぎゃー!! テンパってまた訳わかんないこと口走ってしまったー!)
穏乃(憧の顔が真っ赤になってる……)
穏乃(口にしてから恥ずかしくなったのかな)
穏乃(か、可愛い……!)
穏乃(えええっ!? 憧ってこんなに可愛かったっけ!?)
憧「シズ、あの……」
穏乃「うっ、うん」
憧「今の変な声はわざとじゃなくって、つい口がもつれたというか……」
穏乃「あ。そうなんだ……」
憧「だからお願い! 聞かにゃかったことにして!」
憧(って、わあー!? 肝心なところで噛んだー!!)
憧(よりによってシズの前でこんな恥ずかしい発現連発して……)
憧(穴があったら入りたい……)
穏乃(可愛いのはいいんだけど、いったいどうしちゃったんだろ憧?)
穏乃(さっきから落ち着きがないというか、めちゃくちゃ恥ずかしがってる様子だし……)
穏乃(よーし! ここは幼馴染みの腕の見せどころ!)
穏乃(混乱してる憧を私がリラックスさせてあげるんだ!)
穏乃(それで恥ずかしくもなんともないよって安心させてやろう)
穏乃(そうと決まればー)
憧(だ、だだ抱きつかれた!?)
穏乃「こんなことで照れるなよー。私と憧の仲だろ?」
憧(わ、私とシズの……、仲?)
穏乃「小さい頃からお互いのこと知ってんだもん。今さら恥ずかしいも何もないって」
憧(恥ずかしいも何もない……?)
憧(ああ駄目! 恥ずかしさとシズに抱き締められた緊張とで、頭が上手く回らなくなって……)
穏乃「ほら。裸の付き合いもした仲だろ?(風呂的な意味で)」
憧(あ。駄目だあたし、頭がオーバーヒートして……)
憧「……好き」
穏乃「えっ?」
憧(……あれ? 今あたし、なんて?)
憧(……)
憧(……)
憧(いやああああああ!!)
憧(なんばしよっとあたし!?)
憧(あわわわわ! とっ、とにかく弁解しなきゃ!)
穏乃(そっ、そんなに顔を赤くして言われても……)
憧「だからあたし、あたし……」
憧(……っていうか)
憧(よく考えるとわざわざ弁解する方が怪しくない!?)
憧(どうしよ、えっと、弁解の弁解……、ああでもそれだと気持ちを認めることに)
憧(だからあの、今からでも何でもないふりを、その……)
穏乃「落ち着いて憧」ポンポン
憧「ふきゅっ!」
憧(あ。シズに背中ぽんぽんされたら、また変な声が……)
憧(やだもう……。なんであたしこんなんなんだろ……)
穏乃「あ、憧……?」
憧「うっ、ひっく、ひっく……、うぁぁん……」
穏乃「……」
憧(最低だ……)
憧(ワケわかんないことわめいたあげく勝手に泣き出しちゃって……)
憧(これじゃあたし、シズの後ろをちょこまかしてた頃と何も変われてないよ……)
憧(一方的に迷惑かけて……)
穏乃「そういえばちっちゃい時は憧ってけっこう泣き虫だったよな」
憧「……うっ、ん」
穏乃「なんだか久々に憧が泣いてるの見た」
憧「ぐすっ、ずずっ……」
穏乃「今だから白状するけどさ、憧に泣きつかれるのって嫌いじゃなかったんだよ」
憧「え……?」
穏乃「だから頼ってもらえると、それだけ私に気を許してくれてるのかなー、なんて思えて」
穏乃「あはは、じいしきかじょー?」
憧「……ぐすっ」
憧「シズ……」
穏乃「うん」
憧「ぜんぜん、自意識過剰なんかじゃないよ」
憧「あとね……、さっきの言葉は、その……」
憧「好きって言ったのは、本当は……」
穏乃「うん」
憧「特別な……、ひっく」
穏乃「へ?」
憧「ひっく、ひっく、ひっく!」
穏乃「ちょ、憧!?」
憧「ど、どうしようシズ!? 緊張、ひっく、した、ら……、ひっく」
憧「しゃっくり、ひっく、止まらなく……」
穏乃「だ、大丈夫憧……?」
憧「ひっく、ひっく、ひっく……」
憧「……、あ、おさまったかも!」
穏乃「おおー!」
憧「気を取り直して……、オホン」
穏乃「……」
憧「あたしね、シズ。シズのことが……、ひっく!」
穏乃「えっ?」
憧「ひっく、ひっく! ひっく!」
憧(もうやだぁ……)
穏乃「うん」
憧「それでは、改めて!」
憧「あのねシズ。あたしあんたのことが……、はくちゅん!」
憧「ま、待ってシズ、あたし……、はくちゅん! はくちゅん!」
憧「はくちゅん!はくちゅん! はくちゅん!」
穏乃「憧ー? 大丈夫?」
憧「はくちゅん!」
憧(死にたい……、どんだけヘタレなのよあたし……)
穏乃「頑張って憧!」
憧(シズに応援してもらえた!)
憧(よーし……)
憧(「あ」「た」「し」「は」「シ」「ズ」「が」)
憧(……)ガクガクガク
憧(……あ、あれ?)
憧(……)ガクガクガク
憧(どど、どうしよう!? 緊張のあまり手が震えて字が打てない!)
穏乃(憧……)
憧(げっ。打ち間違えた、消さないと……)
憧(あ。消さなくていい文字まで消しちゃった……)
憧(どうしよどうしよ……)
穏乃「もういいよ憧」
憧「えっ?」
憧(も、もしかしてあたし、あんまり要領悪いから呆れて見限られた?)
憧「ま……、待ってシズ……」
憧「あたし頑張るから……、もう一度だけ気持ちを伝えるチャンスを……」
穏乃「あっ。違う違う! そうじゃなくって!」
憧「……?」
穏乃「今の憧の調子を見てたらはっきり言われなくてもなんとなく気持ちが伝わってきたってこと」
穏乃「私が言いたかったのはそういう意味での十分」
憧「と、いうことは……」
憧(あたしがシズをそういう好きだって、もうバレて!?)カアアアアッ
憧「か、勘違いじゃないと、思う……」
憧(……)
憧(シズに気付いてもらえることに甘えるんじゃなくて、やっぱりきちんと好きって言いたい)
憧(でも、あたしはこの気持ちを緊張して上手く言葉にすることができない……)
憧(言葉にできない、なら……)
憧(行動で示さなきゃ!)
憧(好きな気持ちを伝えられる行動といえば……、いえば……!)
憧(きっ、きき、キス……、だよね!?)
憧「しっ、しし、シズ!」
穏乃「うん!」
憧「めっ、目を閉じてください!」
穏乃「わかった。いいよ……」
憧(これであとはあたし次第)
憧(あー、緊張する)
憧(でも気合い入れなくちゃ!)
穏乃(頑張れ憧)
憧(やっぱりまつ毛長くて可愛いなあ)
憧(……いやいや見とれてる場合じゃなかった!)
憧(シズにキスをしなくちゃ、キス、を……)
憧「……」
憧「……」
憧「……ちゅっ」
穏乃「って、顔じゃなくて手にするのー!?」
憧「だだだだってだって! 恥ずかしくって!」
憧「シズのことになるとあたし、頭がこんがらがって……」
憧「本当はあたしも勇気さえあれば……」
穏乃「えいっ」チュッ
憧「って、え……、あ、え……?」
穏乃「ほら。私達って、得手不得手がバラバラじゃん」
穏乃「こうやって補いあおうよ。ねっ?」
憧(いま口、に……)
憧(口にチューされちゃった!?)
穏乃「憧ー?」
憧「……」
穏乃「おーい」
憧「……」
穏乃「もしかして、勝手に口にキスしたの嫌だった?」
穏乃「だとしたらごめ……」
憧「ふぁぁ……」ヘタヘタ
穏乃「あっ、憧!? 大丈夫!?」
憧「あはは……。なんか嬉しすぎて力抜けちゃったよ……」
穏乃「えー。無理しないでもいいよ?」
憧「大丈夫、キスした後なんだからそのぐらい平気だよ」
穏乃「そっか……。わかった!」
穏乃「……」
ふっ、ふきゅっ!
憧「にゃっ!」穏乃「にゃ?」憧「あっ」
おわり
ちょー可愛いかった
すばらでしたよ
かわいい
Entry ⇒ 2012.10.12 | Category ⇒ 咲-Saki-SS | Comments (1) | Trackbacks (0)
古畑「放課後ティータイム…?」
えー、突然ですが皆さん。自分の学生のころを思い出してみてください。
部活動に打ち込み、屋上で授業をさぼり、テスト前には慌てふためき…
そして…、恋愛に燃える。
だいたいそんな学生時代を送ってきたのではないでしょうか。
もちろん『そうではない』という人もいるでしょうが…んっふっふ。
それはともかく、学生時代には良くも悪くもたくさんの思い出が詰まっているものです。
私の学生時代はというと…んー…。
律「じゃあみんな、これが今んとこの大まかな計画ってことで。わかったか?」
澪紬憂「……」コクリ
律「…唯?」
唯「えっとー…あはは、ごめんりっちゃーん、よくわかんなかったからもう一回言ってよぉ…」
律「お、おいおい…」
憂「お姉ちゃんっ、帰ってから私が説明してあげるから…」
唯「ううう…ごめんね~憂ぃ~」
紬「あらあら」
澪「やれやれ…先が思いやられるな」
律「とにかくだ…いいか、みんな。このことは絶対梓には漏らs」
ガチャッ
梓「こんにちはーっ」
唯律澪紬憂「!!」
梓「どうしてここにいるの…?」
唯「ああああのねあずにゃん、これは…」
憂「お、お姉ちゃんがピック忘れちゃって!それで届けに来たら、お茶に誘われちゃったんだ~」
唯「そ、そうそう!いつも迷惑かけてごめんね~憂~」
梓「そうなんだ…」
梓「でもわざわざ届けに来るぐらいなら、私に預けてくれればよかったのに」
憂「あーそれは…つい預けるの忘れちゃってて…あはは」
紬「気にしないで、いつでも飲みに来てね~」
律「またな~」
澪「じゃあまた、憂ちゃん」
憂「はい!じゃあね、お姉ちゃん」
唯「ばいば~い憂~」
憂「梓ちゃんもまた明日」
梓「う、うん。また明日」
ガチャッバタン
梓「…で、先輩方」
梓「いったい何の話をされてたんですか?」
唯律澪紬「ギクッ」
梓「教えてください」
紬「あ…梓ちゃん、お茶いらない?」
梓「あ、いただきます。で、律先輩。いったい何の話をされてたんですか?」
律「あーっと、それはぁ…」
澪「えーっとだな…」
梓「……」ジトッ
唯律澪紬梓「…………」
紬「?どうしたの、唯ちゃん」
唯「…ぷくくくくっ」
澪「ゆ、唯?」
唯「あははははっ!ごめーん、わたしもう限界!」
梓「ど、どうして笑ってるんですか?」
唯「ねぇねぇりっちゃーん、もうネタばらししようよ~」
律「おっ、おい唯!?」
唯「内緒話してるふりしてただけだってさぁ~」
梓「へっ?」
紬「…もう唯ちゃん、バラすの早すぎよぉ?」
唯「えへへ、ごめんごめん」
澪「はぁ…やっぱり唯にこういうのは無理だったな」
梓「なんだ…そうだったんですか…」
梓「ま、まあそんなことだろうと思ってましたけど」
律「あれあれ~?の割にはちょっと不安そうな顔してたぞ~?」
梓「うっ…、き、気のせいです!」
唯「え~、久しぶりの部室なんだよ、あずにゃん」
律「せっかく工事が終わって部室に戻ってこれたんだしさ~、もうちょいゆっくりしようぜ~」
梓「だめですよ!部長が何言ってるんですか!」
紬「梓ちゃん…せっかくお茶淹れたのに、いらないの…?」
梓「あ…」
梓「い、いえ、そんなことは…」
紬「ケーキもあるのよ♪」カチャ…
澪「じゃあ、梓がお茶飲み終わってから、練習しようか」
唯律「さんせ~い!」
梓「うう…」
唯「じゃあみんな、また明日ね~」
梓「みなさん、お気をつけて」
律「おう!じゃあな~」
澪「また明日」
紬「学校で会いましょう~」
スタスタ…
律「今日は唯の機転のおかげで助かったな~」
紬「ほんと、唯ちゃんのアドリブには驚いたわぁ」
澪「でも何度も通用する手じゃないだろ。今度からもっと気をつけないと」
律「へいへい、わかってるって」
紬「それにしても、梓ちゃん…」
紬「私たちの前だと、全然いつも通りにしか見えないね…」
澪「そう振る舞ってるんだろ。私たちに心配かけないように…」
澪「早く、助けてやらないとな」
律「ちきしょー…許せねぇよ」
和「立花さん、秋山さん、松本さん、秋山さん、秋山さん…」
和「というわけで、3年2組の学園祭の出し物、ロミオとジュリエットのロミオ役は、秋山澪さんに決定しました」
一同「キャーキャー」
澪「あわわ…」プシュー…
律「よかったなぁ澪~」
和「田井中さん、ジュリエット役、お願いね」
律澪「い、異議あり~!」
和「でも立候補も推薦もいなかったし、何よりみんなの投票で決まったでしょう?」
律澪「あぅ…」
和「まず、衣装ですが…」
さわ子「はい!立候補します!」
和「え?で、でも、先生にそんなこと…」
さわ子「大丈夫、悪いようにはしないから…」
澪「どうする…?」
律「うーん…バンドの練習に劇の練習も入ってくるとなると…動きにくくなるな」
紬「大丈夫よ。私がもう一度計画を練り直してくるわ」
唯「え、でもムギちゃん、劇の脚本も書いてるんじゃ…」
紬「いいのよ、脚本はほとんど出来上がってるし、何より…」
唯「何より?」
紬「私、一度こういう計画立ててみるのが夢だったの~♪」
唯「……」
律「とにかく、放課後はあたしたち教室行くふりしてちょっと話し合うからさ」
律「唯は部室で梓のこと見張っといて」
唯「了解ですりっちゃん隊員!」
~軽音楽部部室~
梓「へぇ、じゃあクラスで劇やるんですね」
紬「そうなの~」
梓「それで澪先輩はあんなに…」
澪「…私…トンちゃんになりたい…」
梓「……」
梓「それにしても、律先輩がジュリエットだなんて…」
梓「…ぷっ」
梓「ははっ、すみません、あはは…ぷっ」
律「まだ笑うか~っ!」
梓「すみませ~ん!」
梓「あれ?じゃあ唯先輩は…」
唯「木!Gだよ!」
梓「A、B、C、D、E、F…木ってそんなに必要なんですか」
唯「むぅ…じっとしてないといけないなんて、なんて難しい役!」
律「はは…」
紬「じゃあ私、セリフのチェックがあるから教室行ってるね」
律「あぁ待って、ほーら澪、行くぞ~」
澪「うあぁ、やだ、やだ~!!」
ズルズル…バタン
梓「……」
梓「唯先輩は行かなくていいんですか」
唯「じっとしている練習してなさいって、和ちゃんが」
梓「はぁ…」
憂「お待たせしちゃってすみません。喫茶店の準備でなかなか抜けられなくて…」
澪「いや、気にしなくても大丈夫だよ」
紬「憂ちゃん、さっそくだけど、みんなの役割についてちょっと話し合っていたの」
紬「それでね、まだ大まかにしか決まっていないんだけど」
紬「憂ちゃんには唯ちゃんのふりをしてもらって、できるだけ人目に付くように梓ちゃんに話しかけてほしいの」
律「その間にあたしらが…やるからさ」
憂「えっと…あの、お姉ちゃんと入れ替わるぐらいなら私が…」
律「それに…」
憂「?」
律「万一の時は、唯より憂ちゃんの方が機転利きそうだしな」
憂「あ~…」
紬「とりあえず、あとのことは私が家で考えてくるね」
律「ああ、頼む」
澪「悪いな、ムギ」
文化祭1日目
7時30分頃:3年2組教室
唯(時間になった…!まずはわたしが教室から音もなく出るっ)
ソロ~…トテテテ…
澪(…!唯が出て行ったな。いよいよか…)
和「今日は劇の本番よ!気合い入れていきましょう!」
一同「おーっ!」
澪「ブツブツ…ブツブツ…」
和「あら…?」
和「どうしたの?澪」
澪「…………」
和「…澪?」
澪「あぁあああああ~!やっぱりダメだぁ~!」
一同「ざわざわ…」「どうしたんだろ秋山さん…」
和「ちょっと澪、落ち着いて!」
澪「やっぱりダメだよ和~、私にロミオなんて無理だよ~」
和「ちょっと、いまさら何言って…」
ガチャッ
律「ロミオ、あなたはなぜロミオなのぉ?」
澪「律~」ヒシッ
澪「わっちょっ…と、なっなんだよ澪!」
和「ちょうどよかったわ、律」
和「実は、澪がまたロミオはできないって言い出して…」
律「は?また?今日本番なのに?」
澪「りつぅ~りつぅ~…」
律「ったくしょうがないな…。なぁ和、どっか空いてる教室ない?」
和「今なら生徒会室が空いてると思うけど…何するつもり?」
和「でも、わざわざ移動しなくてもいいんじゃない?」
律「そうかもしれないけど…」
律「ここじゃ澪がみんなの目を気にしちゃうかもしれないからさ。人気のないとこがいいんだ」
和「そう…じゃあ任せるわ」
律「鍵空いてるかな?」
和「鍵は職員室にあるわ。一般の生徒には貸してくれないと思うから、借りに言ってくるわね」
律「悪いな和、生徒会室の前で待っとくよ」
澪「ひっ、やだ、離せ、離せ~!」
ズルズル…
一同「……」
紬「ええと…あっ、エリちゃん」
エリ「ん?どうしたのムギ?」
紬「唯ちゃん知らない?」
エリ「あーそういえばさっき出ていくの見たなぁ。なんか用事?」
エリ「へぇ…そここだわるんだね…」
紬「うん、もちろん♪」
エリ(やっぱりムギって不思議な子だなぁ…)
紬「じゃあちょっと探してくるから、見かけたら私が探してたって伝えておいてね」
エリ「うん、オッケー」
紬「ありがとう、エリちゃん」
ゴソゴソ…
憂「お茶はとりあえず掃除ロッカーの中に隠しておけばいいかな…」
憂「うぅ…ちょっと汚いけど仕方ないよね…」
憂「保冷剤も一緒に入れたし、領収書ももらっておいたし、これでよし、と」
純「あれ、おっかしいなー…」
憂「どうしたの?」
純「お茶がないんだ、梓と買いに行ったはずなのに…」
憂「忘れてたんじゃないの?」
純「うーん、そんなはずないんだけどなぁ…」
憂「私買いに行こうか?」
純「え?いやでもそんな…」
憂「だって、ないと困るでしょ?大丈夫だよ、すぐ戻ってくるね!」
純「あっ憂!…行っちゃった…」
憂「あ、モブちゃん!」
モブ「ああ、憂ちゃん」
憂「梓ちゃん見てない?」
モブ「あー見てないなー。どうしたの?」
憂「ちょっと話があったんだけど…。見かけたら声かけておいてくれないかな?」
モブ「いいよ、わかった」
憂「ありがとね、モブちゃん」
和「お待たせ」
律「おっ和」
和「これ、鍵ね。終わったら私に返して」
律「わかった、サンキュー和」
和「ええ」
律「さて…」
澪「ひっ」
律「入るぞ、澪」
澪「いっ…ゃ……はい…」
律「じゃ、またあとで」
和「頼むわね、律」
憂「えっと、制服のタイを青に変えて、髪留めをつけて、と…」
憂「じゃーん♪お姉ちゃんの完成!」
憂「あとは梓ちゃんに会って、3年生の教室に行って…」
曜子「……」スタスタ…
?『~~~~!』
?『~~~~!』
曜子「あら…?」
律『…だーから、一度約束したじゃないか!』
澪『な、なんのことかなー』
律『とぼけるなっ!この前ロミオ役頑張ってみるって約束したばっかだろ!あの時の約束は、嘘だったのかぁ!』
澪『聞こえない聞こえない聞こえない…』
曜子「秋山さんかわいそう…だけどロ澪も見たい…」
~生徒会室内~
ラジカセ『大体お前は…ギャーギャー…』
ガチャッ
律「わりぃ、待った?」
唯「あ、りっちゃん澪ちゃん、急がないと!」
澪「人通りがなかなか途切れなくてさ…ごめんな」
紬「まあまあ、まだ余裕はあるから」
律「じゃあ…みんな、準備はいいな」
唯澪紬「……」コクリ
律「今から被服室に行く」
紬「さわ子先生自身が被服室に近づかないように言っていたから、あの辺りには誰もいないはずよ」
律「ああ、そこは運が良かった」
澪「ああ」
紬「うん」
唯「了解ですりっちゃん隊長!」
律「共に作戦を成功させようではないか、唯隊員!」
澪「ふざけてる場合じゃないだろ!」
律「わあってるって、ちょっと気合い入れただけ」
唯「あ、ロープは…」
紬「唯ちゃん、私が持ってるわ」
唯「おおっ」
律「よし、じゃ…行くぞ」
カチャッ…
憂(あ、梓ちゃんだ…)
そろ~っ…
憂「あーずにゃん♪」ダキッ
梓「わっ、ゆ、唯先…輩?」
憂「ん?どうしたの?あずにゃん」
梓「い、いえ…」
憂「あ~ん、和服衣装のあずにゃんもかわいい~♪」スリスリ
梓「ちょっともう、やめてくださいよぉ…」
周りの生徒「……」ジロジロ
梓「って、そういえば憂が私のこと探してたらしいんですけど…、見てませんか?」
憂「ほぇ、憂?うーん、見てないなぁ」
梓「そうですか…ところで、唯先輩はここでなにしてるんですか?」
憂「ぶらぶら!」ピース!
梓「そんな自信たっぷりに言わないでください」
憂「あずにゃんはなにしてるの?」
梓「わたしは、ちょっと…先輩の教室に行ったり…」
憂「え?なんで?」
梓「先輩方がいなかったので、すぐ帰りましたけど」
憂「そっかぁ~。あ、忙しいのにごめんねあずにゃん」
梓「いえ、そんな。先輩も木の役頑張ってくださいね」
憂「あー、木Gだよあずにゃん!」
梓「あはは、すみません」
憂「じゃあね~!」
タタタ…
憂「ふう…うまくいった…かな?」
憂「あとはお姉ちゃんのクラスに行かなきゃ」
律「誰も見てないな…行くぞ」
ガラッ
さわ子「だれ!?」
律「失礼しまーす」
唯「お邪魔しまーすさわちゃん」
さわ子「あ、あなたたち…」
唯「わーっ、かわいい衣装♪原始人みたーい」
澪「それかわいいっていうのか…?」
律「なになに?『2年2組 衣装』…何か劇でもやるんだっけ?」
紬「あー、私外で見たよ。確か…」
さわ子「こら!…入ってきちゃダメって言ったでしょう?」
唯「えーなんで~?」
律(澪…鍵)
澪(え?ああ…)
カチャッ…
憂「やっほー」
エリ「あっ唯ー」
憂「なにエリちゃん?」
エリ「ムギがさっき唯のこと探してたけど…」
唯「あー今さっき会ったよ~、なんかねぇ、木の立ち位置のこととかいろいろ言われちゃった」
エリ「そっか、ならもういいんだね」
唯「うん、ありがとー…えっと…(ヤバい、名前がわからない…!)」
エリ「?」
三花「エリー、ちょっとこっち手伝ってー!」
エリ「あ、はーい!」
憂「……っ」ソーッ…
タタタッ…
さわ子「なんでって、唯ちゃん…劇のもライブのも、どんな衣装作ってるかは内緒なんだからね?」
唯「えーっ、ないしょって、それだけ?」
律「へー…てっきり誰か生徒を連れ込んでるから入ってくるなって言ってるのかと思ったよ」
さわ子「え…?あなたたち、なに言って…」
澪「先生、私たち知ってるんです」
紬「先生が今まで、梓ちゃんに何をしてきたのかを」
さわ子「……っ!」
さわ子「な、なにをふざけたことを…教室に戻りなさい!私は忙しいの!」
律(背を向けた…ムギ)
紬(……)コクリ
バッ
さわ子「ぐあっ!あ、あなたたち…」
律「押さえろ!」
ギリギリッ…
さわ子「かっ…はっ……」
ギリ…
さわ子「…かっ……」
さわ子「…………」
律「ムギ…もういいよ」
紬「あ…うん」
ドサッ
澪「……」
唯「やっちゃったね、ついに…」
紬「…そうね」
律「…ほら、ぼけっとしてる暇ないぞ、みんな急ご」
澪「あ…うん」
紬「そうよ。あ、りっちゃん、足持って。澪ちゃんは配管にロープを吊るして」
澪「わ、わかった…」
唯「澪ちゃん、ほい、椅子」
澪「ありがとう」
澪「よいしょ…っと、っとと…!うわぁ!」
ドテッ!
律「な~にやってんだよ、澪!」
澪「ご、ごめん…」
澪「ん、しょっと…、できたよ」
紬「じゃあ、私が死体を背負うわ」
唯「わたし、落とさないように支えるね」
律「ロープ首にかけるよ。澪は椅子が動かないように抑えといて」
澪「うん」
ギシッ…ブラン
紬「できた…わね」
唯「さわちゃんオバケみたい…」
律「オバケ…っていうかホトケになったんだけどな」
律「おう、頼むムギ」
唯「…わたしたちのステージ衣装、まだ作ってなかったみたいだね。見当たらないよ」
律「どうでもいいよ、どうせ着ないんだから」
律「じゃ、早く戻ろっか。……ん?澪?」
澪「……」
律「ボーっとすんな、行くぞ」
澪「えっ?あぁ…うん」
梓「ふう…」
憂「あ、梓ちゃん」
梓「憂…。おかえり、どこ行ってたの?」
憂「お茶がなくなってたらしいから、買いに行ってたんだ」
梓「そっか。あ、そういえばさっき、私に話があるって言ってたんでしょ?」
憂「え?」
梓「モブに聞いたんだけど…」
憂「えっと…あれ?ごめん、忘れちゃったや」
梓「ええ?」
憂「あはは…たぶん忘れてるぐらいだから大した話じゃなかったと思う」
梓「そっか…」
憂「あ、ごめん」
憂「そうだ、はいこれ。お茶と領収書」
純「おっ、ご苦労さま」
純「あれ…、憂、レシートは?」
憂「え?あ…あれ?どこだろう」
憂「ごめん…落としちゃったみたい…」
純「ええっ?も~しょうがないなぁ…」
憂「ごめんね」
純「なくしちゃったものは仕方ないよ。じゃ、憂は厨房の方お願い」
憂「わかった」
純「梓は、こっちよろしく」
梓「任せて」
律「みんな…、ちゃんとやれよ?」
澪「律こそ」
唯律澪「……」スタスタスタ…
律「よっ和」
和「あっ、律!どうだった…?」
律「へへへ…あーきやーまさーん?」
澪「……」ソロッ…
澪「…ロミオ役…やっぱりがんばるよ…」
和「…そう!」
澪「和、わがまま言ってごめんな」
澪「みんなも迷惑かけてごめん!私…精いっぱい頑張るよ!」
一同「よかった…」「秋山さん頑張って!」
和「あら…唯?」
唯「ほぇ?」
和「そういえばどこ行ってたの?さっき一度戻ってきてたようだけど…」
唯「ああごめんね和ちゃん、なんとなくさわちゃんとこ行ったんだけど追い返されちゃってさぁ、戻ろうと思ったんだけど今度はムギちゃんやあずにゃんに会っちゃってぇ」
澪(ちょっと…唯?)
唯「それでね、いったん教室に戻ってきたんだけど、今度はトイレ行きたくなっちゃったから行ってきてたんだぁ」
律(不自然に説明的すぎだろ!)
和「まったくあなたって人は…本当に自由ね」
唯「いやいやそれほどでも~」
律「いや、褒められてねぇから」
澪「お…ムギ」
紬「うんしょっと」ドサッ
和「これ…劇の衣装?」
紬「うん、さっき様子を見に行ったらさわ子先生が渡してくれたの」
一同「わーっすごーいっ」「山中先生やるぅ」「キャーキャー」
和「えっと、ムギ…先生は?」
紬「あぁ、それがね、徹夜で疲れたから仮眠をとるって。昼ごろ教室に来るって言ってたわ」
和「そう、わかった」
唯(わ~い、大成功じゃん♪)
澪(うまくいった…よな?)
今泉「……う~ん…」ウロウロ
今泉「ねぇ」
巡査1「はい」
今泉「古畑さん、来た?」
巡査1「ええ、さっきお見えになりましたよ。そこに自転車が…」
今泉「あっほんとだ、いつの間に…。あ~どこ行っちゃったんだろうなぁ」
巡査1「現場にいらっしゃらないんですか?」
今泉「来てないから探してるんだよ!」
巡査2「古畑さん、そこのコンビニで何か買い物されてましたよ」
今泉「えぇ?コンビニ?」
古畑「だぁから違うんだよこれは」
店長「どこが違うの」
古畑「いやどこって…あんなに説明したじゃないか」
店長「だってピクルス入れろって」
古畑「ピク…そっそれはいいんだよ」
今泉「あっいた!古畑さぁん!」
古畑「ちょっと待って。見てこれ見てこれ」
古畑「ピクルスこんな小っちゃいのが1枚しかないじゃないの」
古畑「ピクルスはね真ん中に1枚とそれを囲むように4枚計5枚花びらのように!どっから食べてもピクルスに当たるようにしてほしいんだよ」
古畑「これ当たらないよ、はい、作り直し」ポイッ
古畑「なに言って…あんたが作ってんじゃない」
店長「いや裏にもう一人いるんですよ」
古畑「どこにぃ」
店長「……」サササッ
古畑「いなっ……ほんとに調子いいオヤジだぁ…」
古畑「ん?」
今泉「……」ニヤニヤ
ペシッ
今泉「いたっ!いや、だって、久しぶりに古畑さんと仕事ができるんですよ?」
今泉「いやぁー、懐かしいなぁー」
古畑「きみ…アレ、なんだっけ…トーゴー…じゃない、ジリジリみたいな」
今泉「自律神経失調症ですかぁ」
古畑「そうそれ。もう治ったのアレ」
今泉「とっくに治りましたよぉ!リハビリ辛かったんだから…」ウッ…
古畑「あそぉ。それより朝飯まだたべてないのよ」
今泉「あ、僕もです。なんか買っちゃおうかなぁ」
古畑「じゃあピクルスバーガーおすすめだよ」
今泉「そうなんですかぁ?いやでも、朝にバーガーはちょっと…あ、これにしようかな」
古畑「……」
古畑「いやぁそれにしても腹減った…あ、そういえばそっちの方どうなの」
今泉「はい…?」
古畑「現場の方」
今泉「あ、それが、えっと…」
古畑「なに」
今泉「外でウロウロしてたから、中の様子は、その…」デヘッ
古畑「わからないの」
今泉「はい」
ペチッ
今泉「いたっ!ちょっ、さっきからなんなんですかぁ!」
古畑「あ…、おじさ~ん、やっぱりあんたが作ってんじゃないかぁ」
今泉「……」
古畑「急いでよみんな待ってるんだから」
店長「…150円になります」ブスッ
古畑「どうも」ニッコリ
今泉「早く行きましょうよぉ」
古畑「まぁ待ちなさい」
古畑「あれ…、そういえばどうして君だけなんだ。西園寺君は?」
今泉「やっぱりアイツですか…」
古畑「なに、いないの?」
今泉「チビ太なら、現場の方にいますよ」
古畑「あ、そーなの。じゃあ案内してくれる」
古畑「……」モグモグ
今泉「古畑さん、食べ歩きは行儀悪いですよぉ」
古畑「しかし外はえらく込み合ってたね。出店も出てたし今日何かあるの」モグモグ
今泉「この学校の学園祭だそうですよ。今日が1日目らしくて」
古畑「それはまた悪いタイミングで事件が起きたもんだね」
今泉「ほんとに、生徒がかわいそうですよぉ」
今泉「あ、そういえばさっき外で『マンモスの肉』っていう店が出てたんですよ。
いやぁ、食べたかったなぁ」
今泉「すぐそこには『ヴァンパイア喫茶』って看板が出てたし、
『峠の茶屋』っていうのもなかなか…」
古畑「本当にもう御苦労したよ…今日は普通なら休日なんだからさ」
古畑「えっと、椅子椅子…」
西園寺「椅子ならこちらに」
古畑「あぁありがとう」
西園寺「さっそく事件の説明を」
今泉「あー僕がやる僕がやる!」
西園寺「今泉さんが?大丈夫ですか?」
今泉「ねぇキミさぁ、馬鹿にしてるの?」
古畑「どっちでもいいから…早くはじめなさい」
今泉「ここの、被服室で首を吊っているところを発見されました。
えっと、第一発見者は衣装を取りに来た2年生です。かわいそうですよねぇ」
今泉「あー、あそこのロープに配管を…じゃない、配管にロープをかけて、首を…。
死因は窒息死だそうです」
古畑「続けて」
西園寺「同僚の教師の証言によると、山中さんは最近交際相手と別れたらしく、
さらに初めて担任を受け持ったクラスが3年生ということで悩んでいたそうです」
西園寺「自殺の動機は十分ですね」
今泉「ねぇ、どうして僕の役割とってるの?」
古畑「うーん…」
古畑「…自殺だねぇ間違いないねぇ…」
古畑「じゃあ今泉君、後は任せた」
今泉「ちょっ、なに言ってんですかぁ!」
古畑「金森先生の時みたいに君が指揮しなさい」
今泉「僕できませんよぉ!」
古畑「いいからほら、頑張りなさい。私はその辺でぶらぶらしてるから」
今泉「あ、ちょっと…」
今泉「…どうすればいいの」
西園寺「さぁ…」
古畑「西園寺君」
西園寺「はい」
古畑「この部屋奇抜な服や布切れがえらくたくさんあるけどさ」
古畑「メイド、原始人、ナース…、これは…?」
西園寺「バニーガールですね」
古畑「どうしてこんなものがたくさんあるの」
西園寺「山中さんの趣味だったようです」
よく作ってきた衣装を生徒に着せては楽しんでいたそうです」
西園寺「今回の学園祭で使われている衣装も、ほぼすべて山中さんの手作りだったとか」
古畑「え?ということはここにある衣装は全部一人で?へぇー」
西園寺「今日も昨夜からこもりっきりで、担任するクラスの劇衣装や
他の学級の出店衣装を仕上げていたそうです」
西園寺「軽音楽部のライブ衣装以外はすべて仕上がっていたようですね」
古畑「軽音楽部?」
西園寺「山中さんが顧問を務めていた部活です」
西園寺「山中さんの奇抜な衣装を着せられるのは主にその部活だったとか」
古畑「ふーん…どうしてそこの衣装だけ作ってなかったんだろうね」
西園寺「さぁ…今日は時間がなかったのでは」
古畑「その部活の子達、まだいるの」
西園寺「全校生徒は校内に残ってもらってます。部員はたぶん部室か教室の方にいるんじゃないでしょうか」
古畑「じゃあとりあえず部室の場所を教えて」
律(…なんか微妙な空気)
紬(本当はいろいろ相談したいんだけど…)
澪(梓がいるんだもんな)
唯(あずにゃんの前じゃ、なにも知らないふりしないといけないよね…)
澪「…なんだか実感がわかないな…」
梓「そうですね…」
律「なんか、今にも『よっす』とか言って入ってきそうだよな」
唯「あはは、そうだね」
澪「…………」
律「…………」
梓「…………」
唯「…………」
澪(…会話が、続かない…)
紬「お茶にしよう、ね?」
律「…そうだな、お茶にすっか(ナイスだ、ムギ!)」
澪「悪いな、ムギ(うう…助かった)」
紬「うん、今淹れるね」ガタッ
コポポポ…
紬「はい、どうぞ」
カチャ…
唯「ありがとう、ムギちゃん」
律「あざっす」
澪「サンキュー」
唯「…ねぇ、あずにゃん」
梓「は、はい」
唯「えっと、その…」
唯「元気、出してね」
梓「えっ?ぁ…はぁ…」
律「そうだぞ、梓」
澪「落ち込むんじゃないぞ」
紬「ファイトよ、梓ちゃん。はい、お茶」
梓「あ、どうもです…。み、みなさん、いったいどうされたんですか?」
ガチャッ…キィィ…
紬「あら?」
唯「え?」
澪「そうですけど…」
律「おじさん、誰」
唯(真っ黒い人…)
古畑「あ、申し遅れました。わたくし古畑と申します。今回の事件を担当することになった刑事でして…」
唯「け、刑事さん!?」
古畑「はい」
律(もう来ちゃったのか…予想よりずっと早い)
澪(みんな、大丈夫だよな…?)
律「おい…ムギ?」ボソッ
紬「なにりっちゃん?」
律「…今ワクワクしてんだろ」
紬「うん♪だって二時間ドラマみたいに取り調べ受けるなんて考えたら、ワクワクしない?」
律「あのなぁ…」
律(一応あたしら本物の犯罪者なんだぞ…)
律「あっ!?すみません!」
紬「どうぞどうぞ」
スッ
古畑「あぁー、すみません」
ギシッ
唯(さわちゃんの席…)
紬「あの…刑事さん?」
古畑「あ、古畑で結構です」
紬「え…と、古畑さん、お茶、いりませんか?」
古畑「はい?いえいえいえそんなお構いなく」
紬「遠慮しなくていいんですよ」
唯「ここに来たらお茶飲んでかないといけないんだよ、古畑さん」
澪「いつ決まったんだそのルール」
古畑「そうなんですか?ならいただきましょうか」
紬「今淹れますね」
古畑「お願いします」
律「あ、はい、えっと、田井中律です。一応部長やってまぁす」
唯「次わたし!平沢唯で~す!」
唯「好きなものはギー太と憂とあずにゃんと甘いものでぇ、特技は…」
澪「おい唯、余計なことまで言うなって!あ…えと、秋山澪です…」
梓「えーと…中野梓といいます。みなさんの一年後輩になります」
唯「あだ名はあずにゃんだよぉ」
梓「ゆ、唯先輩!?変なことまで言わないでくださいっ!」
紬「……」コポポポ…
律「おーい、ムギ」
紬「あ、ごめんなさい。琴吹紬です。お茶汲み係です」
律「おい」
澪「は、はい」
古畑「軽音楽とはいったいどのようなものなんですか?」
澪「ああ、それは…」
唯「軽い音楽だよ~」
古畑「は…?」
律「そうそう、カスタネットとかで演奏するんだ」
澪「しょーもない嘘つくなっ」
ゴチン!
律「なんであたしだけ…」
古畑「はっはっは…、で、実際はどうなんです」
澪「えっと、ギターやドラムを使って演奏するんです。あそこの…」
古畑「ああ、あれですか。へぇ~立派なものだ」
唯「あ~、放課後ティータイムだよ!」
古畑「放課後ティータイム…?」
澪「私たちのバンド名なんです」
古畑「ああ、なるほど」
律「で…あの、古畑さん。いったい何をしにここに?」
古畑「あ~忘れてましたぁ…」
紬「どうぞ~」カチャッ
古畑「あ、すみませんいただきます。実はですね…」ズズ…
古畑「へぇーおいしいお茶だぁ」
律「古畑さん?」
古畑「あぁすみません。実はですね、亡くなられた山中先生のことでいくつか質問が」
律「はい」
古畑「あなた方が入学する前からずっと?」
澪「いえ、私たちが無理言って顧問になってもらったんです」
紬「実は私たちが入学したとき、けいおん部は廃部寸前で…」
古畑「なるほど、顧問がいなかったわけですね。
しかし山中先生はすでに吹奏楽部の顧問もされていたのでは…」
唯「先生はけいおん部のOBだったんだよ」
古畑「あぁそれで…」
この部活のライブ衣装も毎回先生の手作りだったとか」
唯「うん、毎回作ってきてたよ~」
澪「ちょっと奇抜すぎて困ってたんですけど…」
古畑「私も見ました。あれは確かに…あー…んっふっふ…」
古畑「そういえば…えー、琴吹さんでしたか」
紬「はい」
古畑「今のところ集まっている証言を総合したところ、
どうもあなたが最後に山中さんの姿を見たということになるんですが」
紬「そうなんですか?」
古畑「先生とはどんな会話を」
紬「確か…衣装を取りに行ったら、
『徹夜で疲れたから、仮眠をとる』というようなことを言っていました」
紬「うーん…言われてみると、疲れた顔をしていたかもしれません。いつもより元気がないかな、って。
徹夜明けと言ってたのであまり気には留めなかったんですけど」
古畑「んー、そうですか」
古畑「…ひっかかるなぁ」
澪「え…?」
古畑「琴吹さん」
紬「は、はい」
古畑「山中先生は衣装を徹夜で仕上げていたとおっしゃったんですね」
紬「はい…そうです」
古畑「徹夜で」
紬「…はい」
古畑「そうですか…んー…」
古畑「いえ、たいしたことではないんですけどね」
古畑「山中先生はなぜあなた方のライブの衣装は仕上げていなかったんでしょうか」
律「へっ?」
古畑「先ほどの話によれば、山中先生は軽音楽部のOBで、
今の3年生が1年生の頃から顧問として面倒を見られていたそうですね。
その分思い入れも強かったようで…」
古畑「自殺の直前にクラスの出し物の衣装をすべて作り上げるぐらいなら、
なぜあなた方のライブの衣装まで作ってしまわなかったのでしょうか」
澪「…!」
唯「自殺する前で落ち込んでて、作る気力がなかった、とか…?」
古畑「徹夜で劇の衣装を仕上げる気力はあったのに、ですか?」
律「じゃあ…実際そこまで思い入れがなかったんじゃないんですか」
古畑「それもどうでしょう、毎回ライブの衣装を自分で作ってくるほどの入れ込みようだったというのに」
古畑「更に山中先生は今回、他の学年の出店の衣装まで担当していたそうです、ずいぶん前から取り掛かって。
こうなるとやはりあなた方の衣装だけ作っていなかったのは不自然でしょう」
律「…っ」
唯「それか…?」
古畑「今夜作ろうと思って作れなかった、か…」
唯律澪紬「!?」
梓「ま、待ってください!それじゃまさか…」
古畑「殺人…の可能性もあるということです」
紬「…そんな」
澪「はは…まさか」
古畑「んっふっふ…刑事というのは疑り深い生き物でして…、
まぁあくまで自殺以外の可能性も視野に入れて捜査しなくてはならないということです」
唯律澪紬梓「…………」
古畑「では貴重なお時間を邪魔してしまってすみません。あ、紅茶ご馳走様でした」
紬「いえ…またいらしてください」
古畑「ありがとうございます。では失礼します」
ガチャ…
古畑「あ、みなさん。お気を落とされないように…」
バタン
憂「え?」
古畑「いやぁよかった、職員室の場所がわからなくて…」
憂「えっと…あの…」
古畑「アハハ、学校というのはどうも苦手でして…」
憂「すみません…どなたですか?」
古畑「えっ」
古畑「あっ…いや…ついさっきお会いしましたよね?」
憂「ええっ?」
憂「お姉ちゃん」
古畑「お姉ちゃん?」
唯「古畑さんも。どうしたんですか?」
古畑「あ、いや、職員室の場所を訊こうと…、しかし、あの、お二人は、双子…?」
唯「違いますよぉ、憂は1つ下の妹です」
憂「ねぇお姉ちゃん、この人…」
唯「あ、紹介するね。この人古畑さんって言って、刑事さんなんだって」
古畑「古畑ですどうも。今回の事件を担当することになりまして…」
憂「ど…どうも、平沢憂です」
古畑「はい。いやぁしかし驚きましたぁ。二人ともそっくりなんですね」
唯「えへへ…よく言われるんですよぉ」
古畑「んっふっふ…あぁそうだ、職員室に行かないと。場所を伺ってもよろしいですか」
唯「あーえぇと、職員室はまずあそこを降りて、次に右に…いや左に曲がって…あれ?どっちだっけ…」
憂「お、お姉ちゃん!私が説明するから大丈夫だよ」
唯「ありがとう、憂~」
憂「まずそこの階段を降りて、廊下に出たら右に曲がるんです。しばらく歩いたら…」
唯「あ!そうだね!その方が早いよ~」
古畑「え!いいんですか?」
唯「いいんですよぉ今日はもう何もないんだし」
憂「じゃあ行きましょう?」
テクテクテク…
校門から歩いてくるまでいろいろ拝見しましたが驚きました」
憂「あはは、そうですか?」
唯「いっぱいあるでしょ~?あ、古畑さんあれ見た?
2年生の『マンモスの肉』って出店!あそこの衣装ってかわいいんだよ~」
憂「え?あそこって衣装あるの?」
唯「憂見てないの?もったいないなぁ」
憂「うーん…ヴァンパイア喫茶の衣装なんかはかわいかったけど…」
古畑「んっふっふ…時間があればぜひ拝見したいものです」
古畑「えー、まぁいろいろと…」
憂「あの…やっぱり文化祭は、中止なんですか…?」
古畑「あー、ちょうどそのことも先生方に相談しようと思っていたんですが」
古畑「文化祭の方は一応、捜査に支障のない範囲で続けていただいても構わないと思っています」
唯「ほ、本当!?」
古畑「んーさすがに今日の分は後日に回してもらうことになりますが…」
唯「あ、ありがとう古畑さん!」
憂「やったねお姉ちゃん!」
唯「あ、唯でいいですよ~。憂も平沢だからわかりにくいだろうし」
憂「私も憂でいいです」
古畑「あーでは、唯さんは明日何か…」
唯「ふっふっふ、わたしたちはねぇ、明日ライブやるのです!」フンス!
古畑「へぇ、ライブを…憂さんも?」
憂「わ、私は見てるだけです」
古畑「そうですか…しかし顧問の先生がなくなったというのに大変ですね」
唯「うーん、そうなんだけど…」
唯「まぁ、追悼ライブって感じで」
古畑「んっふっふ…楽しみですね」
唯「えへへ、ぜひ見に来てね、古畑さん」
古畑「よろしいんですか?では、ぜひ…」
古畑「ここですか。いやぁ助かりましたぁ」
古畑「では失礼します」
唯「またね~」
憂「お仕事、頑張ってください」
古畑「ありがとうございます。では…」
ガチャ
古畑「お仕事中すみません。今回の事件の捜査を担当する古畑というものですが…」
唯「…じゃ、わたしたちも戻ろっか」
憂「うん」
テクテクテク…
唯「うん、わたしもそう思うよ~。でもね…」
唯「どうも、さわちゃん先生が死んだのは自殺じゃないかもって、疑ってるみたいなんだ…」
憂「そ、そうなの?」
唯「うん。殺人の可能性もある、だって」
憂「そんな…」
唯「心配いらないよ。ムギちゃんの立てた計画は完ぺきだったし、アリバイもきちんとあるんだから」
憂「う、うん…」
憂「あ、そうだお姉ちゃん。梓ちゃんと会った時に話した内容を教えとくね」
唯「え?それって必要なの?」
憂「万が一の時、知らなかったら困るでしょ?」
唯「う~ん、それもそうだね~」
憂「じゃあ今から教えるから、覚えといてね?」
唯「了解です!」
律「…それ、本当なのか?」
唯「うん、古畑さんがそう言ってたよ~」
澪「じゃあ…ライブ、できるんだな」
紬「劇が延期になっちゃったのが、心残りだけど…」
梓「みなさん、ずっと劇の練習してましたもんね…」
梓「でも…よかったです…先輩方とのライブがなくならなくて…」
律「よ~っし!じゃあ今日は、明日のライブに向けて泊まり込みで練習だぁ!」
澪「学校って泊まって大丈夫なのか?」
律「だ~いじょぶぅ♪」
紬「お泊りの準備持ってきてないんだけど、それでも?」
律「ノープロブレム!」
唯「ご飯は何杯でもお替り!?」
律「じゆー!…って、なんでやねん」
律「じゃあさっそく…」
唯「あれだね、りっちゃん!」
律「ああ。ほら、みんなも準備しろ!」
澪紬梓「?」
律「いくぞ?ジャ~ンケ~ン…」
澪「うぅ…梓はともかくあの二人に負けるとは…」
紬「まぁまぁ。早く寝袋もらって帰ろう?」
澪「ああ。忘れないように宿泊届も出しとかないとな。ん?あれは…」
古畑「おや、秋山さんに、琴吹さん」
澪「古畑さん…でしたっけ」
古畑「はい」
紬「お仕事ご苦労様です」ペコリ
古畑「んっふっふ、ありがとうございます」
澪「捜査の方は…進んでるんですか?」
古畑「…んーそれがまだなんとも」
澪「…一般人にそうやすやすと情報を漏らせませんよね」
紬「ちょっと澪ちゃん、失礼よ…」
古畑「んっふっふ…申し訳ありません」
澪「え?」
古畑「誰に聞いてもあなた方の明日のライブを楽しみにしてらっしゃいます。
えー実は、ついさっき生徒会室で去年のライブのDVDを拝見したんです」
紬「本当ですか?」
古畑「いいライブでしたぁ。特にいったん曲が終わってから、琴吹さんが再び演奏を始めるところとか。
しまいにはうちの部下まで明日のライブを見に行きたいと言い出す始末で…」
紬「まぁまぁ。ぜひ観にいらしてください♪」
古畑「んっふっふ…、はい、ぜひ。ところで、あの曲は全てみなさんの自作なんですか?」
紬「はい。私が作曲して、澪ちゃんが作詞して…。あ、明日演奏する予定の曲は唯ちゃんの作詞なんですけど」
古畑「そうでしたか。いやー、『ふわふわ時間』でしたか?素晴らしい曲調でした」
紬「うふふ、嬉しいです♪」
古畑「歌詞の方も独特なセンスが感じられて実に…あー…個性的で」
澪「……///」
古畑「はい」
紬「捜査って、いったいどんなことをするんですか?」
古畑「興味がおありなんですか?」
紬「はい、とっても♪」
古畑「えー…もしお暇なら見学されますか」
紬「ええ!?いいんですか!?」
澪(ちょっ!?ムギ!?)
古畑「んー遺体も運び終わっていますし、捜査に差しさわりのない程度でしたら…」
紬「ありがとうございます!わくわくするわぁ♪」
澪「お、おいムギ…」
紬「あ、ごめんね澪ちゃん。りっちゃんにはあとで戻るって伝えておいて」
古畑「では行きましょうか」
紬「はい♪」
澪「あっ、ちょっと…!」
澪「…行っちゃった…」
紬「うわぁ…!」キラキラ
古畑「こういう現場を生で見るのは初めてでしょう」
紬「はい!」
紬「か、鑑識の人たちが動き回って…!」
紬「これは、指紋なんかを採って回ってるんですか?」
古畑「そんなところです。まぁ生徒の指紋が至る所に付いていてあまり意味がないんですが」
紬「へぇ~…」
紬「?はい…」
紬「あら、これは…、袋に物がたくさん…」
古畑「これは現場で見つかった証拠品をですね…」
紬「あ、知ってます!こういうの、遺留品っていうんですよね?」
古畑「そうですそれです!いやーよく知ってらっしゃる」
紬「そうですか?うふふ」
紬「はさみに…針に…まぁ、ここにある衣装も全部?」
古畑「この部屋にあったものは全て遺留品なんです。触っちゃだめですよ」
紬「ええ、わかってます」
紬「あ…これ、は…」
紬(澪ちゃんのリップクリーム…!)
紬(どうして…?)
古畑「ご存じなんですか?」
紬「え、あぁ…」
紬(椅子からこけたとき、落としたのね…)
紬(どうこたえるべきかしら…)
紬「…見覚えがあるような、ないような…」
古畑「そうですか…」
紬「え?どうしてですか?」
古畑「いやだってここに」
パッ
紬「…!」
紬(キャップの頭に…)
古畑「『MIO AKIYAMA』とあるものですから。
てっきりお友達のあなたなら本人のものかどうかわかるとばかり」
紬(…この人…あえて最初に名前が見えないように…)
紬「あはは…同じもの使ってる人、けっこういますから」
古畑「そうなんですか。しかしどうしてこれがこんなところに落ちていたんでしょうね」
古畑「3年生は授業で被服室を使うことはないと聞きましたが」
古畑「そうなんですか?」
紬「はい。この前廊下でりっちゃん…じゃない、田井中さんに見せてる時にたまたま先生が通りかかって…」
古畑「没収されたと」
紬「はい。澪ちゃんがそう言って落ち込んでいました」
古畑「なるほど…そうなるとこれがここにあった理由も説明がつきますね」
古畑「いやぁのどのつっかえが取れました」
紬「お力になれてよかったです」ニッコリ
古畑「もう見学されていかなくていいんですか?」
紬「ええ、そろそろ戻らないとみんなが心配しますから…」
紬「私が取り調べを受けてるんじゃないか、って」
古畑「あっはっは、そうですね」
紬「ふふ。じゃあ失礼します、お仕事がんばってくださいね」
古畑「はい、どうも…」
ガチャ…バタン
律「あ、ムギやっと帰ってきた」
澪「もう、大変だったんだぞ!寝袋5人分も持つの…」
紬「ごめんね、澪ちゃん。きっと埋め合わせはするから」
紬「あら…?梓ちゃんは?」
律「梓なら、純ちゃんと一緒にどっか行ったぞー。明日の出店の準備だってさ」
紬「そう…それはちょうどよかったわ」
唯「なにかあったの?」
紬「うん、実はね…」
唯「それは大変だったね…」
澪「本当に申し訳ない…」
律「現場に証拠が落ちていた以上…澪が一人で自首するしかない、か…」
澪「ひっ!」
唯「ひどいよりっちゃん!」
律「冗談だって。で、古畑もムギの説明で納得したんだろ?」
紬「うん、完全に疑いが晴れたかどうかはわからないけど…」
律「なら大丈夫だろ。万が一訊かれたとしてもあたしらが口裏合わせればいいだけだし」
律「なぁ澪?」
澪「タイホ…タイホ…タイホ…ハハハ」
唯「み、澪ちゃん!?」
律「澪!?あたしが悪かった!戻ってきてくれ~!」
律「みぉ…ん、どうしたムギ」
紬「今回のことはうまくごまかせたかもしれないけど、
あの人が私たちを疑っているのは間違いないと思うの」
紬「だから、これからは少しの隙も見せちゃダメ。いい?」
唯「わかったよ、ムギちゃん」
律「…おう」
澪「タイホ…タイホ…」
唯「ちょいといつまで固まってんだいこの子は~。あ…そうだ。憂にも気をつけてって言っとかないと」
ピポパ…
ヴィヴィヴィ…ヴィヴィヴィ…
憂「…あ、メール…」
憂「お姉ちゃんだ!どうしたんだろう…」
from:お姉ちゃん
題名:きんきゅうのおしらせ~!
本文
――――――――――――――――――――――
うい!降旗山には絶対に気をつけるんだよ~!!
ぴーえす:今日はみんなで学校にお泊りするから
晩ごはんいらないからね~
――――――――――――――――――――――
憂「…登山でもするの?」
~軽音楽部部室~
憂「みなさん、夜食作ってきたんです。どうぞ食べてください」
澪「ありがとう、憂ちゃん」
律「んん~うみゃい!」
憂「まだまだたくさんあるので、みなさんいっぱい食べてくださいね」
唯「おいひいよぉ~憂~」
憂「うふふっ」
紬「デザートは、私たちが用意したのがあるから、よかったら食べて行ってね?」
憂「わぁ、いいんですか?ありがとうございます!」
ガシッ
律「大丈夫だ。何時にケーキを食べようがへっちゃらだ。なぜなら今日は…」
律「徹夜だからーっはっはー!」
梓「ええ!?寝ないんですか!?」
律「あったりまえだぁ!学祭といえば徹夜で準備だからなっ♪」
梓「……」
ガシッ
梓「ん?」
唯「今夜は寝かさないぞ…子猫ちゃん!」
梓「一人でどうぞ」
唯「あ~ん、あずにゃんいけずぅ~」
コンコンコン
律「おっ」
澪「ん?」
古畑「んっふっふ…盛り上がってらっしゃるようで」
梓「古畑さん…」
古畑「おくつろぎのところすみません」
唯「どうしてここに?」
古畑「電気が点いているのが見えたものですから」
律「…殿方がピチピチの女の園に何の用かしらん?」
古畑「んー…実は、みなさんのアリバイを確認しておきたいと思いまして」
唯「あ、あ、あ…アリバイ!?」
澪「それじゃまるで、私たちが犯人みたいじゃないですか…」
古畑「あくまで形式的なものですので」
古畑「自殺と断定できない以上は、関係者全員のアリバイを調べておく必要があるんです」
古畑「ちなみに他の生徒への聞き取りもほぼ済んでいます」
梓「そうなんですか…」
唯「あ、わたしはねぇ~」
紬「!」
紬「ふ、古畑さん!」
古畑「はい?」
紬「何時から何時までのアリバイを調べてるんですか?」
古畑「あぁ失礼しました。とりあえず登校してから、遺体が発見された8時半ごろまでのアリバイです」
紬(いきなり7時半からのアリバイを答えちゃったら、用意しておいたアリバイってことが見え見えだわ…)
唯(危ない危ない…ありがとうムギちゃんっ)
唯「あー…わたしはぁ、えっと…7時ぐらいに登校して、しばらく準備を手伝ってたけど、
7時半ぐらいかな?被服室に行きました」
古畑「行ったんですか被服室に?」
唯「はい、さわちゃんどうしてるかなーって。でも追い返されちゃってぇ…」
唯「それからすぐムギちゃんと会って劇のことでお話しして、次にあずにゃんに会ったんだよね?」
梓「あっ…そうでしたね。いきなり抱きつかれて驚きましたよ」
唯「それで教室に戻ったけどすぐトイレに行って、
帰りに澪ちゃんとりっちゃんに会って一緒に教室に帰ってきました!」
古畑「ん~…要するにあちこち歩き回ってらっしゃったんですね?」
唯「でへへ…」
古畑「その後は」
唯「あとはずっと教室にいましたよ~」
律「あーっと、あたしは7時前ぐらいに澪と登校して、教室でセリフ覚えてました。
それからちょっと教室の外に出て、戻ってきたら澪が『私にロミオの役はできない』って言ってて…」
古畑「失礼、ロミオ役というのは…」
律「あ、うちのクラスはロミオとジュリエットの劇をやる予定で、
澪はそのロミオをやることになってたんです」
唯「ちなみにりっちゃんがジュリエット役だよ~」
律「余計なこと言うなっ」
古畑「んっふっふ…それで、どうされたんですか?」
律「あぁ、それで生徒会室で澪を説得してたんです」
古畑「二人きりですか」
律「はい。最後には澪も納得してくれて。で、戻るときに唯と会って3人で教室に帰りました。
8時くらいだったかな」
古畑「以降は教室に」
律「はい」
古畑「えー…では秋山さんは今日はほとんど田井中さんと行動を共にしていた、
ということでよろしいですね?」
澪「は、はい」
律「いやいや、刑事さんに質問されながら飯食べれるほどあたしら図太く…」
唯「もぐもぐ」
律「――って食ってるし!」
唯「ほぇ?」
憂「古畑さんもよかったらおひとつどうぞ?」
古畑「いいんですか?では失礼して…」
ヒョイ
紬「はい…私は、みんなより早く6時過ぎぐらいに登校しました」
紬「それで教室で台本の最後のチェックをしていたんですけど、唯ちゃんの役のことで気になることがあって」
紬「近くにいなかったから、探しに行ったんです」
古畑「ちょうど唯さんが教室を空けていたときでしょうか」
紬「はい、唯ちゃんが出て行ってすぐくらいかもしれません。
それで唯ちゃんはすぐ見つかって、別れた後は私も被服室に向かったんです」
古畑「そこは聞いた通りですね」
紬「あとは衣装を受け取って、8時ごろ教室に戻りました。それからは教室から出ていません」
梓「はっ、はい!私は…えっと…あまり詳しくは覚えていないんですけど…」
梓「とりあえず、学校には6時ぐらいに登校して、それからは準備してて…。
あ、しばらくして純とコンビニに買い物に行ったり……あと唯先輩に会ったりしました。
でも…、具体的に何時にどこで何をしてたのか、とかはちょっと…」
唯「あずにゃん、確かわたしたちの教室に来たって言ってたんだよね?」
梓「え?」
唯「わたしと会ったときにさ」
梓「あーそういえば…確かに先輩方の教室にもいきました。でもけいおん部の先輩は誰もいなくて…」
古畑「…唯さん、それは誰からお聞きになったんですか?」
唯「へ?あずにゃんからだよ~」
古畑「本人からですか?」
唯「?はい…」
古畑「そうですか…」
古畑「いえ、たいしたことではないので…」
紬「私たちが気になります」
古畑「あー…唯さんが『わたしたちの教室に来たって言ってたんだよね?』とおっしゃったものですから」
律「それが?」
古畑「『言ってたんだよね』…ですよ?まるで中野さんがそう言っていたと、別の誰かから聞いたみたいじゃないですか。
実際には唯さん自身が中野さんから聞いていたというのに」
唯「…そんなのちょっとした言い間違いじゃないですか~。やだなぁ古畑さん」
古畑「んっふっふ…まぁそういうことにしておきましょう」
古畑「中野さん、その後はいかがですか?」
梓「あ、あぁその後は…何もなかったと思います。ずっと教室で準備してたり…」
憂「私は、梓ちゃんが来る少し前に学校に来てました。一度、7時半ぐらいだったか、お茶を買いにコンビニに行ってたとき以外は、ずっと教室に…」
古畑「なるほど…」
古畑「こうなると、つまりみなさん全員にしっかりしたアリバイがあるということになりますね」
律「あったりまえですよ~」
唯「当然だよっ、古畑さん」
古畑「んっふっふ…しかしみなさん、大変記憶力が良くて助かります」
澪「え?」
それこそさっきの中野さんのように…」
古畑「それをみなさん、しっかりとおおよその時間まで記憶してらっしゃる」
紬「…!」
律「いけないんですか?しっかり時間まで覚えてちゃ」
古畑「え?いえいえそんなことありません。むしろ調べる側としては手間が省けて助かります」
唯律澪紬梓憂「……」
古畑「あー、では夜分遅くにどうもすみませんでした。明日に備えてゆっくり休んでください」
唯「…ばいばーい、古畑さん」
古畑「んっふっふ…おやすみなさい。あ、おにぎりご馳走様でした」
ガチャ…バタン
西園寺「軽音楽部の部員や平沢憂さんのアリバイの裏を取ってみましたが」
西園寺「中野さんと平沢唯さんが会話しているところは、多くの生徒に目撃されていました」
西園寺「また田井中さんと秋山さんについても、生徒会室の中で話している声が複数の生徒に聞かれています」
西園寺「琴吹さんについてははっきりと目撃したという証言はありませんでしたが、
アリバイがはっきりしている平沢唯さんが二人で話していたと証言しています…」
西園寺「彼女が買い物に行ったというコンビニにあたってみました」
西園寺「平沢憂さんの写真を見せて訊いてみたんですが、
昨日は学園祭の準備の関係で女子高生の客の出入りが多く、
どのような生徒が来たかは覚えていないそうです」
古畑「学園祭の買い物に行ったんならさ、領収書とかレシートとかとってあるんじゃないの」
西園寺「お茶を買った時のものと思われる領収書は確認できましたが、レシートは見つかりませんでした」
古畑「とってなかったの?」
西園寺「憂さんが落としてしまった、と言っていたそうです」
古畑「そう…ありがとう」
古畑「騒がしいなァ。どうしたんだ」
今泉「これ見てください、これ!」
今泉「山中さんの自宅のパソコンから見つかったんですけど…」
古畑「…!」
古畑「…これはぁ…」
西園寺「…古畑さん」
今泉「ひどいですよね。最低だなぁあの山中って教師」
西園寺「どうしましょう」
古畑「…ちょっと出てくる」
ワイワイガヤガヤ… イラッシャイマセー
古畑「中野さん」
梓「えっ?あぁ、古畑さん」
古畑「いやどうも…」
梓「どうされたんですか?まさか聞き込み…とか?」
古畑「いえいえただ寄ってみただけです。『峠の茶屋』…いい名前ですね」
梓「あはは…、ありがとうございます」
古畑「んっふっふ…そう言われると何とも」
梓「ふふっ、すみません。はいこれ、メニューです」
古畑「ああどうも、えっと…どれにしようかな」
古畑「これ、ほうじ茶っていうのいただけますか?」
梓「ほうじ茶ですね、少々お待ちください」ペコリ
梓「純~、ほうじ茶ひとつ~」
純「ほ~い」
古畑「……」
古畑「ありがとうございます」
古畑「いやしかし…中野さんもいい先輩方に恵まれましたね」ズズッ…
梓「え?…あぁ、けいおん部の先輩たちですか?」
古畑「みなさん個性豊かな方々で」
梓「はい、毎日部活が楽しいです」
古畑「んっふっふ、それはなにより」
梓「まぁ…先輩たちはみんな、今日で引退なんですけどね…」
古畑「寂しいですか、やはり」
梓「…寂しいに決まってるじゃないですか」
梓「でも、だからこそ…今日のライブはめいっぱい楽しんで、最高のライブにしたいんです」
古畑「……」
梓「私に?…ですか?」
古畑「ええ」
梓「…結局聞き込みに来たんじゃないですか」
古畑「んっふっふ…すみません」
古畑「ここではなんですから場所を移して…」
梓「はぁ…じゃ、ちょっと待ってください」
憂「なに、梓ちゃん?…と、あれ?古畑さん?」
古畑「どうも」
梓「なんかね、古畑さんが訊きたいことがあるんだって。少し抜けてもいいかな」
憂「たぶん…大丈夫だと思うよ」
梓「ありがとね」
憂(…大丈夫かな、梓ちゃん)
憂「……」
憂「じゅ、純ちゃん!」
純「えぇ!?…なんだ、憂か」
純「急にでかい声出されたらびっくりするじゃん。どしたの?」
憂「ごめん…ちょっとだけ抜けてもいいかなぁ?」
純「えっ…なんで?」
憂「ごめんっ、すぐ戻るから!」
純「あ、ちょっと!…って、梓もいないじゃん!」
憂「……」ソーッ…
梓「古畑さん、訊きたいことっていったい…」
古畑「えー、実は…」
古畑「あなたと山中先生との関係についてお訊きしたいのです」
梓「えっ…」
憂(っ!!)
古畑「あなた方の間には何かただならぬ関係があった…」
古畑「我々はそういう風に見ているのですが」
梓「………どうして、そんな…」
古畑「山中先生の自宅のパソコンから、いくつかの写真が見つかりました」
梓「……っ!」
古畑「どのような写真か、お判りですね」
梓「……はい…」
梓「……」
梓「…あんまり、こんなところで話したいことじゃないです。ごめんなさい」
梓「でも…おそらく、古畑さんの想像通りだと思います」
古畑「…お察しします」
梓「学祭が終わったら、お話ししますから」
古畑「ちなみに…このこと、誰かに相談は」
梓「してません。口止めされてましたし、それに…」
梓「誰かに言えば、けいおん部を潰すかもしれないって…。それに、先生は先輩方の担任だったから…!」
古畑「……」
古畑「…もう結構ですよ」
梓「…戻ってもいいんですか?」
古畑「はい」
梓「…失礼します」ペコリ
テクテク…
梓「…?」
古畑「ライブ、頑張ってください。応援してますので」
梓「…はい。ありがとうございます」
憂(……マズい…)
憂(お姉ちゃんたちに知らせないと!)
ピポパ…ピッ
ピロリロリン♪ピロリロリン♪
唯「あれ、メール…誰からだろう」
唯「あ~、憂からだ~!」
唯「ふむふむ……な、なんですとー!」
律「騒がしいな…」
澪「どうした?唯」
唯「あわ、あわ、あわ…、た、たいへんだよ~っ!」
紬「いったいどうしたの?」
唯「こ、これ…」ブルブル
律澪紬「!?」
律「梓のことが、バレたのか…」
紬「唯ちゃん、落ち着いて?」
律「どっちみち、警察が調べたら遅かれ早かれわかることだったんだ」
律「そのためにも憂ちゃんが唯のふりして会いに行ったり、きちんと梓のアリバイを作っといてあげたろ?」
唯「あぅ…そうだけど…」
澪「そうだけど…?」
唯「うん…わたし、不安なんだ」
唯「もっもちろん、ムギちゃんの立ててくれた計画は完ぺきだよっ?」
唯「でも…あの人…」
律「古畑か…」
唯「うん…なんか、あの人にはぜんぶお見通しな気がして…」
澪「…確かに、明らかに私たちのこと疑ってる感じだもんな…」
紬「そうね…」
律「……」
律「『真珠を造って天然の松』って言うだろ?」
澪「『人事を尽くして天命を待つ』だろ」
律「そうだっけ?まぁとにかく、やることはやったんだから、あとはどーんと構えてればいいのさーっ」
唯「…あはは、りっちゃん、男前~!」
澪「やれやれ…ほんとに律は能天気だな」
律「なにをーっ!?」
紬「ふふ…ポジティブなのはいいことじゃない」
律「よーっし、梓が来るまでに軽く音合わせしとくか!」
唯紬「お~っ!」
澪「…おー」
律「ふぅ…そろそろ楽器運ぶかー」
紬「そうね」
唯「ほーい」
ガタゴト…
梓「……」
澪(梓…演奏中もあんまり元気なかったな…)
澪「梓…」
梓「っ!はい!」
澪「えっと…その…」
梓「…?」
澪「…あ、あれだ!いいライブにしような!」
梓「…はい!」
梓「わわっ、ちょっ…唯先輩!危ないですよ!」
律「……」
律「なぁ澪」
澪「ん…どうした?」
律「あたし、ちょっと用事思い出したからさ、先に楽器運んどいてよ」
澪「え?おい、こんな時に…」
律「じゃ、任せたよ~ん」
澪「り、律!…ったくもう…」
古畑「……」
律「すみません」
古畑「はい?…田井中さんでしたか」
律「……」
古畑「ライブの練習はいいんですか?あと2時間ほどでは」
律「それより…梓と先生のこと、知れちゃったんですね」
古畑「…あー…はい」
律「…確かに梓は…、先生に、その……」
古畑「わいせつな行為を受けていた…」
律「…!」
古畑「やはりご存じだったんですね」
律「…最近梓の様子がおかしくて…。元気がないってわけではなかったんですけど、練習中も上の空って感じで…」
律「それで放課後、澪たちと梓の後をこっそりつけてみたんです。そしたら…」
古畑「山中先生の自宅から、それらしい痕跡は見つかっています」
古畑「先生が中野さんに何らかの嫌がらせを行っていたのは間違いないでしょう」
律「でも…でも梓は!絶対に殺しなんて…」
古畑「わかってます」
律「え?」
まして上から吊るすなんてことができるはずがありません」
古畑「そもそも彼女の身長では、椅子に乗ったとしても配管にロープを吊るすことさえできるかどうか…」
律(梓が聞いたら怒るな、絶対)
律「じゃあ…梓を疑ってはいないんですね?」
古畑「もちろん。彼女はほとんど、どの時間帯においても人目に触れていますから」
古畑「ただし…中野さんは、ということですが」
律「…どういうことですか」
古畑「中野さん以外の誰かが犯人である可能性は、依然なくなっていないということです。例えば…」
古畑「山中先生と中野さんの関係を知った誰かが、彼女を助けるために協力して先生を殺した、とか…」
古畑「あくまで可能性の話をしているだけです」
律「あたしたちにはみんなにアリバイがある」
古畑「んー、どうでしょう。あなた方のアリバイはみなトリックでどうにでもなるものばかりです。
平沢さん姉妹はまさに瓜二つなんですから、入れ替わったところで少し話したぐらいでは気づきません。
あなた方の会話だって、ラジカセでもセットしておけばどうにでも…」
古畑「…あ、そんなことよりそろそろライブですよね。戻らないとみなさん心配するんじゃないんですか?」
律「……そうですね。じゃ、失礼します」
スッ
古畑「頑張ってくださいね。ぜひ観に行き…」
ガチャッバタン
古畑「……」
古畑「……」
今泉「買って来ちゃいましたよぉ、マンモスの肉!」
今泉「これ、古畑さんの分です。はい君の」
古畑「気が利くね」
西園寺「ありがとうございます」
今泉「いやぁ、おいしそうだなぁ」
西園寺「はい」
古畑「軽音楽部の部員たち、どう思う」
今泉「そりゃあ、かわいい子たちだと思いますよぉ」モグモグ
古畑「君は黙ってなさい」
西園寺「山中さんが、彼女らの後輩部員である中野さんへのわいせつ行為や嫌がらせを行っていたとすれば、
動機は十分にあります」
西園寺「しかし部員全員にしっかりとしたアリバイがある…」
西園寺「秋山さんや田井中さんは複数の生徒に声を聞かれていますし、
平沢唯さんに関しては姿までしっかり見られています」
古畑「そういうのはトリックでいくらでもどうにでもなるよ」
古畑「生徒会室の声はラジカセでもセットしておけば事足りるし、平沢姉妹はあれだけそっくりなんだよ。
少々入れ替わったところでおいそれとわかるものじゃない。現に憂さんの方のアリバイはあやふやだし、
あの二人が教室から姿を消した時間は重なっているんだしね」
古畑「軽音楽部の3年生と平沢憂、この5人が一斉に教室から姿を消したということは、
絶対に何かあるよ…」
今泉「考えすぎだと思うけどなぁ。彼女たちまだ高校生で、未成年なんですよ」
今泉「でも楽しみだなぁ、彼女たちのライブ」
古畑「何時からあるんだっけ」
今泉「3時半ですって。あと1時間かぁ。いい席取らないとなぁ」
古畑「ふーん…」
西園寺「へぇ、これおいしいですね、マンモスの肉」モグモグ
今泉「だろ?あ、でも、2年2組の子達、かわいそうだったなぁ」
西園寺「何かあったんですか?」
でも衣装受け取る前に事件が起きちゃったもんだから、結局衣装が使えずに制服のままやってるんだよ」
古畑「……」
西園寺「それは気の毒ですね…」
今泉「だろう?遺留品なんだから仕方ないんだけどさ、あの毛皮みたいな衣装着た子たちも見てみたかったなぁ…」
古畑「…今泉君」
今泉「はい?」
古畑「お手柄だよ」
今泉「へ?」
西園寺「はい」
古畑「今からいうものを準備して、講堂のステージ裏に持ってきといて」
古畑「これと、あれと…」
西園寺「わかりました」
今泉「ぼ、ぼくはぁ」
古畑「君はね…」
古畑「ライブ楽しんでらっしゃい」
今泉「わかりましたぁ!」
ドタドタ…
古畑「えー、犯人は間違いなくあの5人です」
古畑「おそらく大事な後輩を、そして大切な友人を救うための犯行でしょう」
古畑「同情できる点もありますが、それでも殺人はいけません」
古畑「えー、今回のポイントは、私がどこで彼女たちを犯人だと確信したか…」
古畑「ヒントはこれ…マンモスの肉」
古畑「んっふっふ…少し考えてみてください」
古畑「解決編はこの後。古畑任三郎でした」
ジャー…パシャパシャ…
憂「……」
ガチャッ
憂「!?」
梓「憂…」
憂「梓ちゃん…」
憂「いよいよだね、ライブ」
キュッキュッ
梓「うん」
ジャー…パシャパシャ…
憂「楽しみだなあ。お姉ちゃんね、この日のために家でもずっとギー太と寝てたんだよ」
梓「あはは、そうなんだ」
キュッ
ポタッ…
梓「ねぇ憂」
憂「なに?」
梓「実は…思い出したことがあってね」
憂「?」
梓「昨日の午前中に、私が2階の廊下で唯先輩に会ったっていうのは知ってるよね」
憂「うん…昨日古畑さんに言ってたね」
梓「そのときになんか違和感があってさ」
梓「ちょっと気になってたんだけど、わかったんだ」
ポタッ…
梓「うん。抱きつかれたときにね、いつもと感触が違ったんだ」
梓「正確に言えば、圧迫感っていうか…少し、胸がおっきかった」
ポタッ…
憂「……」
梓「ねぇ、もしかしてあの唯先輩は、憂だったんじゃないの?」
梓「憂は本当に唯先輩にそっくりだよ。見た目だけじゃわかんないくらい。
でも、抱きついた時の感触だけは真似しようがないよね?」
憂「梓ちゃん…」
憂「ごめん…梓ちゃん」
憂「梓ちゃんは知らない方がいいよ。いや違う、知っちゃいけないの」
梓「どうして?なんで憂…」
憂「ごめん」
ガチャッバタン
梓「……」
梓「どうして…」
ポタッ…
澪「え?古畑さんが?」
和「そう、ライブが終わってからみんなに話があるって…」
律「……」
和「終わってから講堂の裏で待っていますって言ってたわ」
梓「い、いったいなんなんですかあの人!」
紬「梓ちゃん…」
梓「いっつも先輩方に付きまとって!まるでみなさんが事件にかかわってるって言いたいみたいに…」
梓「あんな人、無視しとけばいいんです!」
澪「梓…」
澪「!?」
紬「ゆ、唯ちゃん?」
梓「唯先輩!?」
唯「いやーだってさぁ、もやもやしたまんま演奏するのって、なんかいやじゃん」
唯「わたしたちは無実だーっ!ってきちんと証明してから演奏しようよ」
律「…あたしも唯に賛成だ」
梓「り、律先輩まで?」
律「疑われてるって気にしながら演奏したって、いいライブは出来っこないだろ?」
澪「そりゃそうだけど…」
律「だ~いじょうぶだって、あたしらな~んも悪いことしてないんだからさっ」
律「さっさと無実だって古畑にわからせてから演奏しようぜ」
和「じゃあ…今から呼んできていいのね?」
律「うん、悪い和、頼むわ」
古畑「いやーライブの直前に申し訳ありません。よろしかったんですか?」
唯澪紬梓「……」
律「いいから始めてくださいよ古畑さん。いったいなんなんですか?」
古畑「すみません。これが本当に最後ですので」
律「……」
和「律…ライブ開始まであと20分よ?」
律「あー…ごめん和、ちょこーっとだけ時間遅らせるわけには」
和「」
律「いかないよねー…ははー…」
律「…てことで古畑さん。すぐに終わらせてくださいね」
古畑「わかりました。…と、その前に、まだかな」
西園寺「お連れしました」
憂「……」
唯「憂!?」
憂「お姉ちゃん…みなさん…」
古畑「えー、これでやっと全員揃いましたね。では始めましょう、手短に…」
今回の山中先生の死は、単なる自殺ではなく、綿密に計画された殺人であるということです」
唯「そ、そんな…」
澪「…もちろん確証があるから言ってるんですよね?」
古畑「あてずっぽうでこんなことは言いません」
律「へっ…じゃあ見せてくださいよ。殺人の証拠とやらを」
古畑「まぁ落ち着いてください。順を追って説明しましょう」
古畑「毎年のように新歓、学祭とあなた方のライブ衣装を作っていた先生がなぜ今回は衣装を作っていなかったのか。
他の衣装は全て仕上げていたんです。おかしいとおもいませんか」
律「別に。案外手ぇ広げすぎてめんどくさくなったとか、そんなとこじゃないの?」
唯「あはは、さわちゃんらしいね」
古畑「んっふっふ…しかし山中先生は、やはり衣装を作るつもりだったんです」
古畑「そして衣装を作るための材料も見つかりました」
古畑「その材料というのは…西園寺君」
西園寺「はい」
ガラガラ…
古畑「調べてみると、これらは全て山中先生が業者に発注して昨日届いたものだそうです」
古畑「さらにこれ。なんだかおわかりですか?」
紬「それは…」
唯「HTTって…わたしたちのトレードマーク…」
古畑「そうです。これはアイロンでTシャツに貼り付けるものです。これで手軽に手作りTシャツが作れるとかで」
古畑「こういうものが用意されていた…。ということは、ですよ。
やはり山中先生はあなた方の衣装を作るつもりだったんです」
和「!」
唯「の、和ちゃん!?」
和「…その通りです。先生は今回のライブ衣装と同じものを大量に作って、
ライブを見に来た人全員に配るつもりだったんです」
和「私が聞かされたのは一昨日だったんですけど。前日から徹夜で一気に仕上げると言っていました」
古畑「はい…ありがとうございます」
古畑「自殺するつもりの人が果たしてここまでのことをするでしょうか?」
古畑「これを放っておいて自殺するにしてもです、
せめてあなた方の分の衣装だけでも仕上げておくのではないでしょうか。
衣装自体はTシャツに柄をプリントするだけの簡単なものなのですから」
唯律澪紬梓憂「…………」
古畑「犯人の正体に関わることです」
唯「え!?」
律「……」
古畑「実は…被服室にあった衣装のうち一つに、あなた方の中の一人の指紋が残っていたんです」
澪「なっ…」
紬「まさか…」
古畑「えー…誰の指紋か、触った記憶のある人にはわかるはずです」
唯(わ、わたし触っちゃったかな…)アセアセ
律「……」
古畑「その衣装をお見せしましょう。西園寺君」
西園寺「はい」
バッ
律「…!」
唯「え……」
古畑「この長袖で、しかも全身を覆う毛皮なんて、この時期にはまだ暑そうですが。
猿人を意識したんでしょうか」
唯律澪紬梓憂「…………」
古畑「いかがですか」
澪「…律?」
律「…ははははは!古畑さん、なーにでたらめ言ってんだよ!」
古畑「はい?何のことでしょう」
律「いやいや…とぼけなくてもいいって。こんな生地に指紋が残るわけないってのぐらい、あたしでもわかるよ」
古畑「ええ?いやでも確かに…」
律「…っ!」イラッ
紬「ちょっと、りっちゃん…」
古畑「え?いやこれは2年2組の…」
律「『マンモスの肉』の出店の衣装はこんなんじゃないって!」
古畑「え?これではないと」
律「違うよ」
古畑「ではどんな」
憂「…!」
律「どんなって…もっと薄手で袖がなくて、斑点があって…。とにかくこんなカッコ悪くて暑苦しいやつじゃ」
憂「律さん!」
律「っ!…な、なに?」
唯「憂…?」
憂「あぁ…」
古畑「今…なんとおっしゃいました?」
律「え…あぁ、え?」
古畑「…今なんと」
律「だ、だから薄手で袖がなくて、斑て…」
古畑「西園寺君」
西園寺「…最後のアレを」
西園寺「はい」
バッ
古畑「はい。これが本当に2年2組の出店で使うために作られた衣装です」
古畑「最初のこれは演劇部から借りてきた雪男の衣装でして…」
古畑「田井中さんのおっしゃった通り。確かにこちらの衣装は偽物でした」
古畑「しかし…なぜこの衣装が偽物だと見抜いたんですか?」
律「それは…2年生の子たちが今日それを着てるのを見たから…」
古畑「いいえ。そんなはずはありません」
古畑「あなたがこれを着た生徒を目にするはずがない!」
律「…っ!どうして!」
古畑「だって誰もこの衣装を着ていないんですから!この学校の生徒は誰も」
律「…え?」
古畑「はい確かに、完成はしていました。必要な数は全部」
古畑「しかし…実はこの衣装、被服室に置いたままになっていました」
古畑「そしてなかなか衣装が届かなかった2年2組の生徒が被服室に衣装を取りに行って、遺体を発見したんです」
古畑「衣装は遺留品ということで使うことができず、
かわいそうに2年2組の生徒は制服のままで出店を営業していたそうで…」
古畑「もっとも昨日から部室にこもって練習していたあなた方にはわからなかったでしょう」
古畑「憂さんはこの衣装が使われていないことを知っていたようですが…。
少し気づくのが遅かったですね。残念でした」
憂「……」
それ以外の方法でこの衣装を偽物だと断定することはできないんです、絶対に!」
唯律澪紬「…………」
古畑「そして…憂さん。あなたもこの犯行に加担していたと、私は確信しています」
憂「……」
古畑「…以上です」
梓「本当、なんですか…?」
律「う…いや…」
梓「…教えてくださいっ!」
律「…っ!」
唯「りっちゃん、もういいよ」
律「え…」
唯「もう…ネタばらししようよ」
澪「唯…」
唯「あずにゃん、ごめんね」
唯「わたしたち…ほんとは内緒話してたんだ…」
梓「…唯先輩…」
クルッ
唯「…古畑さん、さわちゃんは、わたしたちが殺しました。わたしたち4人で」
紬「……」
澪「…くっ…!」
唯「憂は…殺しには関係ないです。ただ、わたしたちのアリバイ作りに協力してくれただけで」
古畑「……」
澪「あの…古畑さん」
澪「どこで…私たちが犯人だと思ったんですか?」
古畑「えー…決定的だったのは、唯さんの発言です」
唯「ふぇ?わたし?」
古畑「あなたと憂さんに職員室に案内してもらった時のこと、覚えていますか」
唯「職員室に…?そういえばそんなことあったような…」
まぁその時は私もそれに気づかなかったんですが…結果それが失言になってしまったわけです」
古畑「…残念でした」
唯「…そっかぁ…」
唯「あはは…やっぱりわたし、おっちょこちょいだなぁ」
唯「みんな…ほんとにごめんね!」
憂「お姉ちゃん…」
律「ははっ…せっかくさっきはカッコよかったのにな」
紬「ううん…唯ちゃんが謝ることないわ」
澪「私だって、被服室にリップクリーム落としてたし…」
律「まっ、あたしたちに完全犯罪なんて無理だったってこったな」
唯律澪紬憂「!?」
梓「こんなことされて私が喜ぶと思ってたんですか!?」
紬「梓ちゃん…」
澪「梓…」
梓「私のせいで、先輩方や憂が犯罪者になって…、私はひとりぼっちになって…」
梓「みんなで…最高のライブしようって、言ったのにっ……うっ…」
唯「あずにゃん…」
梓「!」
唯「ごめんね、あずにゃん」
梓「…!……うっ……うっ…」
唯「わたしたちは、一足早くいなくなっちゃうけど…」
梓「ひっぐ…っ……えぐっ…!」
唯「わたしたちは、いつまでも、いつまでも…!」
唯「放課後だから!」
梓「…へっ?」
律「…はい?」
唯「だから…だからね。心配いらないよ、あずにゃん」
梓「えっ…あ、はい…」
梓(ちょっと、意味が…)
憂(お姉ちゃん…!)
澪(…唯らしいな)クスッ
古畑「時間だ…そろそろライブが始まる」
古畑「我々は客席で拝見しています。最後のライブ、頑張ってください」
唯律澪紬梓憂「…………」
律「いや…もういいですよ、古畑さん」
古畑「はい?」
律「今のあたしたちじゃ、とてもみんなに顔向けできないし…」
澪「それに…」
唯「澪ちゃん…?」
澪「人を殺した手で、楽器を演奏しちゃいけないと思いますから」
律「…だな」
憂「澪さん…」
紬「…そうね」
澪「んなっ、バカ…そんなわけないだろ!」
律「……ははは、冗談だよ」
唯「…りっちゃん…、あはは、意地悪はやめてあげなよ」
澪「…ふん、バカ律…」
紬「…あら、あら」
梓「……」
澪「梓…ごめんな」
梓「いえ…、先輩方の決めたことですから。従います」
唯「…えへへ…」
紬「その言葉だけで…うれしいです、古畑さん」
古畑「…お連れして」
西園寺「わかりました」
西園寺「こちらへ…」
ゾロゾロ…
唯「あずにゃん…?」
律「どした?」
梓「いつか…また…」
梓「武道館じゃなくても…小さいライブハウスでも」
梓「近所の公園でも、道端でも、どこでもいいですから…!」
梓「きっと…きっとまた、一緒に演奏しましょう!」
唯「あずにゃん…」
律「…へへ」
梓「私…、それまでみなさんのこと、ずっとずっと待ってますから!」
唯「…うん!」
紬「ありがとう、梓ちゃん」
澪「約束だ、梓」
憂「え…?」
梓「今度…おいしいお菓子の作り方、教えてよ」
憂「…うん、わかった!」
律「よーっし、こうなったら早く梓との約束を果たすためにも…」
唯「次は『だつごく!』だね!」
律「おう!そうだな!」
澪「お前ら反省しろっ!」
ガツンッ!
律「あいたっ!だからなんであたしばっかり…」
紬「あらあら」
唯「あ、和ちゃん…」
和「憂も。しっかり反省して出てくるのよ」
憂「…はい」
唯「…ごめんね、和ちゃん」
和「バカね、唯ったら…。みんな大バカよ」
唯「……」
和「さよならは言わないわ」
唯「…またね、和ちゃん」
和「落ち着いたら…面会に行くから」
ゾロゾロ…ガチャ…バタン
和「……」
古畑「…お二人はどうされますか?」
和「私は…仕事が残ってます。生徒会長として、きっちりみんなに説明しないと」
古畑「そうですか…」
古畑「中野さんは」
梓「え…」
和「一緒に…行く?」
梓「…私は……」
梓「私は…いいです」
梓「いつかまた先輩方と、放課後ティータイムとしてみんなの前に出たいですから」
梓「それまでステージには立ちません」
今泉「幕開くの遅いなぁ。もう予定の時間5分は過ぎてるのに!」
今泉「あ…あ!開いた!やっと開い…あれ?」
今泉「だ、だれあれ…。あ、生徒会長の子だっけ」
今泉「いやあの子もかわいいけど…放課後ティータイムは?」
今泉「え?え?」
完
~澪たんは俺の嫁!の巻~
さっそくですが、自分の学生時代を思い出してください。
部活動は帰宅部、授業中は廊下に立たされ、テスト中にはカンニングがバレて…。
…好きな人にはフラれる。
そんな学生時代を送ってきたのではないでしょうか。
…もちろんそんなことはないというイヤミなやつもいるでしょうが…。
それはともかく、学生時代には良くも悪くもたくさんの思い出が詰まっているものです。
えー、私の学生時代といえば……っ…うっ…ぐすっ…。
桑原「そういえば聞いたよ~、今泉さん!」
今泉「なにが」
桑原「今回の犯人、現役の女子高生たちだったんだって?」
今泉「それが」
桑原「いやーすごいよなぁ。友達や後輩を悪徳教師から守るための犯行だってね」
桑原「僕が高校生の頃なんて、近所の小学校のプールに裸で飛び込むとかさぁ、
やんちゃばっかりしたもんだよ…」
桑原「それと比べたら…、不謹慎だけど立派な子たちだよねぇ」
今泉「……」ムスッ
今泉「どうもこうもないよぉ!古畑のヤツ!」
桑原「ちょっとちょっと、どうしたのよ」
今泉「あいつがライブ楽しんで来いって言ったから放課後ティータイムのライブ観にいったのに、
あの野郎ライブの直前にあの子たち逮捕しちゃったんだよ!?」
今泉「狙ってるとしか思えないよぉ!」
桑原「まぁまぁ、落ち着いて…。古畑さんもそこは仕事なんだからさぁ」
今泉「それにしてもだよぉ!」
桑原「落ち着きなさいってあんた…、それよりなによ、その放課後ティータイムって」
今泉「逮捕された子たちが組んでたバンドの名前だよ。
生徒会が保管してたDVD見せてもらったんだけど、いやぁ、かわいかったなぁ!」
桑原「へぇ、そうなの」
桑原「なに」
今泉「…………」ニタニタ
桑原「なによ」
今泉「持ってきちゃった」
桑原「…なにを?」
今泉「ライブのDVD」
桑原「ちょっ…何やってんの!?おたく一応警察官でしょ!?」
今泉「いいんだよ捜査資料ってことで。バレないようにこっそり持ってきたし」
桑原「こっそり持ってきちゃダメでしょ!きちんと許可得ないと」
桑原「悪いこと言わないから返してきなさいって」
今泉「ダビングしてから返すよ」
桑原「いやいいよ別に」
今泉「観たいでしょ」
桑原「いいってば」
今泉「というかうちのDVDプレーヤー壊れちゃってるからさ、ここで見せてよ」
桑原「結局あんたが観たいんじゃないか」
今泉「じゃあ観るよ」
桑原「どうなっても知らないからね?」
今泉「これはまだ観てないんだよなぁ」
今泉「おっ、映った!映った!」
桑原「……」
今泉「うひゃあ、かわいいなぁ」
ワン、ツー、スリー、フォー、ワン、ツー、スリー!
ジャカジャカジャンジャンジャカジャンジャカジャン…
桑原「……」
キミヲミテルト イツモハートドキドキ…
今泉「澪ちゅわあああああん!」
桑原「おたく傍から見てたらけっこう気持ち悪いよ?」
桑原「……」チラ
ユーメノナカーナーラ フータリノキョーリー…
桑原「…ちょっと…かわいいねぇ」
今泉「だろぉ!?こっち来て観なよ」
桑原「……」ススス…
アーアーカーミサーマオネーガイー フタリーダーケーノ…
今泉「うわああああああ!澪ちゃあああああん!」
桑原「ちょっと今泉さん、聞こえないってば!」
今泉「いいんだよ!ライブなんだからこれぐらい盛り上がっても!」
桑原「外にまで聞こえちゃうから、ほら…」
今泉「ふわふわターイム!ふわふわターイム!」
桑原「……」
ジャーン…!
ワアアアアアア…
パチパチパチパチパチパチパチパチ…
澪『…みんな、ありがとー!』
今泉「こっちこそ生まれてきてくれてありがとー!!」
桑原「いやーでも、これはいいもの観…」
澪『きゃっ』
ガシャァンッ!
今泉・桑原「!!!」
イ、イヤアァァァァァァァァ…
今泉「み、澪たんのパンチラだあああああ!」
今泉「巻き戻し巻き戻し!」
桑原「ちょっと今泉さん!今のはさすがにマズイよ!」ガバッ
今泉「いいじゃん、ちょっとぐらい!」
桑原「限度があるでしょうが限度が…!」
グググッ…
ポトッ
桑原「…ん?今泉さんなんか落としたよ」
今泉「え?…あっ!それはァ!」バッ
桑原「おっと、危ない」ヒラッ
桑原「えーっと、なになに、『秋山澪ファンクラブ』…?」
今泉「……」
桑原「……」
桑原「……」
桑原「今泉さん…、これ、なに?」
今泉「なにって…会員証」
桑原「どうしたのこれ」
今泉「生徒会室にあったから…。DVDと一緒に持ってきちゃった」
桑原「持ってきちゃったじゃないでしょ」
桑原「…あのさ、今泉さん。この子、逮捕されたとはいえ未成年の高校生なんだよ?」
今泉「あなた警察官なんだからさ、その辺の良識はわきまえようよ」
今泉「……」
今泉「……っ…」
今泉「…………はぅっ!」ガシッ!
桑原「ああよしよし、諦めようね」
アーヨシヨシ… ガチャ…バタン
完
中居君のビーズ然り、澪がわざとリップクリーム落としたかと思った。
桑原さん生きてくれてればなぁ…
おつ
Entry ⇒ 2012.10.12 | Category ⇒ けいおん!SS | Comments (0) | Trackbacks (0)
幼咲「シローシロー」シロ「…ダル可愛い」
シロ「……」プイッ
幼咲「っ!?」
シロ「………」スタスタ
幼咲「シロー…!」トテトテ
幼咲「あうっ…!」ドテッ
シロ「………」ピタリ
幼咲「シロ…シロー…」グスッ
シロ「…」クルリッ
幼咲「シロー!」ニパーッ
シロ「…」プイッ
幼咲「!?」ガーン
シロ「…(…可愛い)」
シロ「…なに?」
幼咲「絵本読んでっ」
シロ「……だる」
幼咲「!?」
シロ「…だるいなぁ」
幼咲「うぅっ…」
シロ「…心の底からだるい」
幼咲「……」ウルウル
シロ「…嘘」ナデナデ
幼咲「あっ…」
シロ「ほら…おいで…」ポンポン
幼咲「うんっ!」ストン
シロ「…どれどれ」ペラペラ
シロ「……咲。これ、誰の?」
幼咲「久ちゃんから借りたのっ!」
シロ「……あぁ」
幼久「…ニヤニヤ」
シロ「……」スタスタ
幼久「にげろーっ!」ダッ
幼久「な、なによ!そんなにおこることないじゃない!ちょっとしたおちゃめなのに!」セイザ
シロ「…咲にも久にもこういうのはまだ早い」キッ
幼久「うっ…ご…ごめんなさい」
シロ「……反省した?」
幼久「……した」
シロ「よしよし…」ナデナデ
幼久「……」ウツムキ
シロ「…(キツく言い過ぎた…かな?)」
幼久「……シロ」
シロ「……なに?」
幼久「……これ、なに?」ピラッ
シロ「な…!?」
幼久「おとーさんおかーさんのへやで見つけたのーねーねーこれなに?
ギザギザの付いたふくろにまるいわっかみたいなのがはいってるのー」ニヤニヤ
シロ「………」プルプル
幼久「(こ…これって…!?)」
シロ「…死刑」ダッ
幼久「全力で逃げろぉぉぉー!」ダッ
幼咲「むーー…」
シロ「…なに?」
幼和「あいぴーえすさいぼーというものでどうせいでもこどもができるんですよ!」フンスッ
シロ「…和は物知りだね」ナデナデ
和「べ…べつにそんなことは」テレッ
シロ「…和、これは知ってるかな」
和「なんですか?」
シロ「わらび餅はワラビーを粉末状にして作るんだよ」
幼和「!?」
シロ「…嘘だと思うなら咲に訊いてみなよ。本当だっていうはずだから」
幼和「え…?いや…でも…そんなばかな……」
幼咲「……」ジー
シロ「…お…ちょうど良いところに…咲、こっちにおいで」
幼咲「……」プイッ
シロ「…?」
幼咲「………」スタスタ
シロ「………(あぁ、なるほど)」
幼咲「(……シロはわたしのこと…きらいなのかな…)」ジワッ
シロ「……咲」ダキッ
幼咲「……っ」ビクッ
シロ「…拗ねてるの?」
幼咲「…すねてないもんっ」
シロ「……本当に?」
幼咲「…本当に。だからシロはわたしのことはほうっておいてみんなの相手をしてればいいよ」
シロ「………そっか…わかった」パッ
幼咲「あっ…うぅ…」ジワッ
シロ「(…可愛い)」
シロ「(だるい…やりすぎた)ごめんごめん」ダキッ
幼咲「っ!………こんなことしてもだまされないもんっ」ニパーッ
シロ「そう…」ナデナデ
幼咲「……ぜんぜんうれしくないしきもちよくもなんともないかなー」ニヘラッ
シロ「……じゃ、止めるね」
幼咲「そ、それはだめ!」
幼咲「だめなものはだめなの!」
シロ「そっか…だめなものはだめなんだ」
咲「そうなの!だから」
シロ「…じゃあやっぱり止めるね」
咲「え……?」
シロ「…だって撫でるのを止めるのがだめで、
それがだめなんだったらやっぱり撫でるのを止めなきゃいけないよね」
咲「え…?え…?」
咲「な…ならやめるのをだめなことがだめで…でもそれはよくてけどだめで…」アセアセ
シロ「(…やめられないとまらない)」
シロ「…そう言われるとだるい」
幼咲「な…ならなでないでっ!だきしめないで!ぜったいだよ!ぜったいだよ!?」
シロ「…オッケー」
幼咲「ぐっ………むぅぅぅぅ…!」プルプルプルプル
シロ「(…わくわく)」
幼咲「シロのばかーー!」トツゲキッ
シロ「…」アタマオサエ
幼咲「このっこのっこのー!」ブンブン
シロ「(…届かないのに一所懸命腕をブンブン振ってる…可愛い)」
シロ「……大丈夫?汗だくだよ」
幼咲「シロのせいでしょ!」
シロ「…酷い冤罪」
幼咲「…?むずかしいことばでごまかさないでよ!そうやってシロはいつもいつも…!」グゥー
シロ「……お腹、空いたの?」
幼咲「………うん」
シロ「……そろそろお昼だからちょうどいい…だるいけど続きはご飯を食べてから…ね?」ナデナデ
咲「……うん、わかった」
シロ「…今日のお昼は………照焼き」ボソッ
咲「!?」
シロ「…だから…照焼き」
幼咲「だからなんの!?」
シロ「…だから照焼きだって」
幼咲「…ま…またそうやってわたしのことをばかにして…」
シロ「…しまった…咲は知らなかったのか」
幼咲「え…?な、なにが?」
シロ「…調理師のトヨネはどうしてあんなに背が高いのか…考えたことはない?」
幼咲「…トヨネさんが…なんなの?」
シロ「…栄養満点の美味しいものを定期的に食べてるから」
幼咲「……!?」
シロ「……若い肉」
幼咲「」ビクッ
シロ「…瑞々しい肌」
幼咲「」ビクビクッ
シロ「…サラサラの血液」
幼咲「」ビクビクビクッ
シロ「…新鮮な臓物」
幼咲「で…でもそんなことしたらおまわりさんにつかまっちゃうんだよ…!
それに小さい子がいなくなったなんてテレビでやってないもん!」ガクガクブルブル
シロ「…はぁ…エイスリン」
幼咲「っ…エ、エイさんは実家に帰ったって…」
シロ「…うん。還ったよ」
幼咲「な…なに…どういうことなの…?」ガクガク
幼咲「あ…あぁ…!」
豊音「?咲ちゃんどうしたの?ちょーおいしいごはんの時間だよー」
幼咲「…え…て…」
豊音「え?なに?聞こえないよー?」
幼咲「かえしてーー!!」トツゲキッ
豊音「なにをーー!?」
幼咲「このっこのっ…!くそぅっ!このー!よくも!
これはおねーちゃんのぶんっ!これはエイさんのぶんっ!」ポカポカ
シロ「(…ちょーたのしいよー)」
豊音「シロ…嘘ばっかりついてると咲ちゃんに嫌われちゃうよ」
シロ「…そんなオカルトありえない。私は咲が好き。咲も私が好き。WIN-WINの関係」
豊音「…はたしてそうかなー?」
シロ「…?」
豊音「さっきは本当に怒ってたっぽいし」
シロ「」ピクッ
豊音「もうしばらくは口をきいてあげないってさー」
シロ「…だ…だいじょうぶ…なんだかんだで許してくれる」
豊音「仏の顔も三度までって言うしねー…ねー」
シロ「…咲は大天使だから(震え声)」
シロ「(…言われてみれば、この昼寝の時間咲は必ず私に添い寝をねだる…なのに…)」
幼咲「すぅ…すぅ…」ギュー
塞「よしよし」ナデナデ
シロ「(…お洒落眼鏡め…!!)」ギリギリ
塞「」ゾクッ
塞「(すごい視線を感じる…息の根が塞がれそう)」ダラダラ
シロ「(そうとわかれば…)…塞」
塞「なっ…なに?」
シロ「…ちょいこっちきて」
塞「どうしても?」
シロ「…親の死に目に会えなくとも」
塞「(嫌な予感がするけど…逆らえない!)…わかったわ」
塞「……シロ?どこまで行くの?」スタスタ
シロ「…ここらでいい…かな?」
塞「…で、要件はなに…」
シロ「…隙有りっ…!」ガバッ
塞「ちょぉぉぉっ!?」ヨケッ
シロ「…ちっ……」
塞「いきなりなにするのよ!?」
シロ「…そのモノクルは今日から私の物。そしてお前は今日から腰つきが
エロいだけの女になり、マヨヒガ(北○鮮)に送り将軍様を喜び組」
塞「なに言ってるの!?」
塞「(マズいわ…なにがマズいって全部マズい!言ってることはわからないけど…兎に角今のシロは漲ってる!)」
シロ「…分かってるよ。あなたのシアワセ、ウチのシアワセ。塞ならそう言ってくれると信じてる」ジリジリ
塞「それは違うわシロ!信じることは疑うことなのよ!」
幼霞「先生方」
シロ「…か…」ビクッ
塞「かすみ…さん?」ビクッ
幼霞「静かに、してもらえますね?」ニコッ
シロ「…命に代えても」
塞「モノクルが割れても」
シロ「…全く…塞が素直にモノクルを渡さないから」
塞「え?私にも過失があるの?…まぁ、いいわ。兎に角色々なことがもういいわ。
で…なんで急に私のモノクルに狙いを定めたのよ」
シロ「……知的系モテカワキャラになりたくて」
塞「そういうのはいいって言ってるでしょ」
シロ「…………だるいから言いたくない」
塞「はぁ………」
キライなんて欠片もなかったのに」
シロ「…時が経てば誰でも変わる」
塞「たとえ本気の言葉であっても、冗談っぽく言えば万が一の事があっても傷つかないものね。冗談で済むものね」
シロ「…………」
塞「…咲ちゃんと出会ってからよね」
シロ「…そんなこと…」
塞「あるわよ」
シロ「……だるいから考えたことない」
塞「はいはいだるいだるい」
シロ「…私…病弱だから」
塞「それは違う子の持ちネタでしょ」
シロ「………」
塞「…本気なら、相応の態度で接しなさいよ」
シロ「……分かってる」スタスタ
シロ「(……だるい。だるいだるいだるいだるいだるい)」ゴロゴロ
シロ「(…塞のせい…塞のせいで……)」ゴロゴロ
シロ「(…変わった…変わったのか…私は…昔は…どうだったんだろう…)」ゴロゴロ
シロ「(…思い出せないし…思い出せたとしても戻れない…)」ゴロゴロ
?「シロー」
シロ「っ!」ガバッ
幼久「ひまならあそびましょうよ」
シロ「……久」
幼久「ん?」
シロ「…私は今後一切、久になにも期待しない」
幼久「ひどいっ!?」ガーン
幼和「はい」
幼咲「まだかすみさんとかまこちゃんとかタコスちゃんとかせーらちゃんとかいっぱいいるよ?」
幼久「わかってないわね!そんなにだしたらしゅうしゅうがつかなくなるじゃない!」
幼和「デジタルてきにしゅうしゅうがつかなくなるのはよろしくないですね」
幼咲「…わかったよ…わからないけど」
幼和「……………はぁ」
幼咲「……………いつものことだよね?」
幼久「……咲、和…」
幼和「?」
幼咲「?」
幼久「わたしはこんごいっさい、あなたたちにきたいしないわ」
幼和咲「」ガーン
幼久「というのはじょうだんで」
幼咲「わたしっ!?」
幼和「…ふむふむ」
幼久「よくもまぁそこでいがいそうなかおができるわね」
幼咲「だって、いっつもいじわるされてるのはわたしだよ!だるいのはわたしのほうだよ!」
幼久「へーっだるかったんだー(棒読み)」
幼咲「だるくない…こともないけど」
幼和「ふむふむ(はなしのながれがまったくわかりませんが
きゃらてきにわかったふりをしておきましょう)」
幼和「ふぇっ!?」
幼久「シロがいつもよりだるそうなげんいんよ」
幼咲「のどかちゃんわかるの?」ジー
幼和「そ…そうですね…(どうしましょう…このじょうきょうはすばらくありませんでじたるてきに。
と…とりあえず…いつもとちがったことをあげれば)」
幼和「あっ…お…おひるねのとき…咲さんは塞さんといっしょに…ねてましたよね?それがげんいんだったり…なかったり…だったり」
幼咲「…そうなの?」
幼久「………」
幼和「………」ドキドキ
幼久「さすがのどかね。わかってるじゃない」
幼和「!!とうぜんです!わたしはでじたるですから!」フンスッ
幼久「(てんしょんたかすぎでしょ)」
幼咲「………なんでっていわれても…とくにないけど」
幼久和「……え?」
幼咲「ただそういうきぶんで…ふかいいみはないよ?」
幼久「………ふーん」
幼和「わかってましたよわたしはなにせでじたるですからっ」
幼久「そうなんだ。いみはないんだ。へー、ふーん、ほー」
幼咲「…………」
さてさて、ぎもんもすっきりとけたところでのどか。どう?ふたりでじゅうななほでもやらない?」
幼和「でじたるてきにことわるりゆうがありませんねっ」
幼久「それじゃ、じかんをとらせてわるかったわね咲」フリフリ
幼和「咲さん。またおはなししましょうねでじたるてきに」フリフリ
幼咲「うん、またね」
幼咲「……………」
幼咲「…………そっか…」
幼咲「……ちがうひとといっしょにねてたから…すねてたんだ…」フルフル
幼咲「わーい!わーい!ざまぁみろー!いっつもわたしにいじわるするからそのしかえしだー!」ピョンピョン
幼咲「これをきにわたしにもっとやさしくすればいいんだ!ばーかばーか!」
幼咲「……えへへ…きらわれてるわけじゃなかったんだ…よかった」
シロ「(……本当に嫌われたのか…?咲に嫌われランク世界一なのか?よしんば私が二位だったとしても世界一なのか?)」
シロ「(……もし、万が一仮に嫌われていたとしても…私は悪くねぇ!ヴァン先生がやれっていったから…!)」
シロ「(……こういう知識も無駄についたなぁ…子供が好きそうなもの片っ端からリサーチして…)」
シロ「(正に無駄知識になってしまったわけか…)」
シロ「(…この世に神はいないのか)」
?「シロ」
シロ「っ!?」ガバッ
幼セーラ「おれや」
シロ「…おまえだったのか」
幼セーラ「まただまされたな」
シロ「…暇を持て余した」
幼セーラ「かみがみの」
シロセーラ「あそび」
シロ「…帰れ」
シロ「(真面目に…本気で…かぁ…)」
幼咲「(どうしよう…ほんとうにだるそうだよ……あやまったほうがいいのかな…?)」
シロ「(…でも…今は自殺行為だよね…
雌伏の時を耐え忍ぶ極楽の山本さんを見習わなきゃ…諦めなければまた油谷さんに会えるんだ…)はぁ…」
幼咲「(…あやまろうかな……いじわるされたからっていじわるしかえすなんてだめだよね…)」テクテク
シロ「(…山本さんが帰ってくればスタンプも復活するはず…そうや…山本さんがいれば新メンバーなんていらなかったんや!)」
シロ「(またか…)」
咲「あの…」
シロ「…今、考え中」
咲「」ビクッ
シロ「後にして」
咲「…ごめんなさい」ペッコリン
シロ「…ふぅ…まったくもー…」
シロ「………………………ん?」
シロ「(…今の声……まがう事なく咲だったような…)」
シロ「(………ありえないな…デジタル的に)」
シロ「(…どうやら悶々としすぎた結果、脳内願望が耳から漏れ出てしまったようだ……)」
シロ「(…駄目だ…このままじゃ駄目だ…自分から行かなきゃ…謝らなきゃ…)」
シロ「よしっ」グッ
?「……」スタスタ
幼咲「……はぁ」ピタッ
?「……」ピタッ
幼咲「……?」クルリッ
?「…っ」サッ
幼咲「……はぁ…」テトテト
?「……ふぅ」
塞「……シロ?」
シロ「な…」ビクッ
塞「なにしてるの?なんなのその格好」
シロ「……マクミラン大尉ごっこ」
※分からない人はマクミラン大尉 ギリースーツでググってください
塞「……わかったわ。わかったことにしてあげるわ…で…なに?
ギリースーツ着込んで咲ちゃん尾行して、なにをする気だったの?」
シロ「……謝ろうと思って」
塞「両親に?生まれてきたことに」
シロ「…酷い…酷すぎる」
塞「あのさぁ…言ったわよね?真面目にやんなさいって」
シロ「…私は大真面目」
塞「」ギロリ
シロ「ふざけてましたごめんなさい」
塞「正直でよろしい。ところで…まさかこのおふざけに誰か巻き込んでないわよね?」
シロ「…やだなぁ…単独犯に決まって…」プルルップルルッ
塞「…携帯、鳴ってるわよ」スッ シロ「ちょ…」
竜華「こちらHQ。シロ。応答しーや」
塞「作戦終了。速やかに帰投するわ」
シロ「(…なんて言ってらんないよね。全面的に私に非があるんだから。私が謝らないと)」
シロ「よしっ」
塞「言い訳は?」
シロ「…ナルガ装備なら…ナルガ装備なら間違いないと思って…!」
咲「…(塞さんとシロ…なかよしさんだなぁ…)」
咲「…でも、よくかんがえたら…シロはみんなにやさしい…みんなのことがすき」
咲「…あたりまえのこと…なのかなぁ」
咲「……」グスッ
その頃
竜華「どうやシロ!このサイコガンなら咲ちゃんもイチコロやで!」
シロ「…ヒューっ!」
塞「いい加減にしなさいよあんた達っ…!」ビキビキ
塞が最後の良心
塞「みんな、さようなら」
「さようならー!!」
シロ「(……私は…一体何をやっているんだ…)ガックリ」
塞「シロ…シロ!」
シロ「……なに?腰つきのエロい人」
塞「うん、許す。全部許すわ。だからシロ、咲ちゃんの面倒よろしく」
シロ「…なんと?」
塞「親御さんから連絡があったのよ…急に仕事が忙しくなって今晩は帰れないそうよ」
シロ「………つ…つまり…?」
塞「きちんと面倒、みなさい」
シロ「(…神は生きていた)」パァァ
幼咲「(シロ…くらいかおでなにかブツブツ呟いてる…やっぱり……いやだよね…おしごとでもないのに…めんどうくさいよね)」
幼咲「…シロ…いやならいやっていってもいいよ」
シロ「……どうしてそんなこと言うの?」
幼咲「だって…めんどうくさいでしょ。だいじょうぶだよ。わたしひとりでおるすばんできるよ」
シロ「……一人でお留守番できるんだ…偉いね」ナデナデ
幼咲「っ…うん……だから」
シロ「でも…咲が一人で寂しくお留守番してる所を想像すると死にそうなくらいだるくなるから」ギュッ
幼咲「……あっ…」
シロ「…一緒に帰ろう」
幼咲「……うん」コクリ
シロ「(…うーん…どうしよう…即オッケーしたものの…コンビニにお世話になりっぱなしの私になにができるのか…)」トテトテ
咲「(シロ…あるくはやさ、あわせてくれてる…やさしいなぁ…やさしいよ)」トテトテ
シロ「(…そして謝る。家事と謝罪…両方やらなきゃならないのが辛いとこだね)」トテトテ
咲「(でも…とくべつだから…じゃない…)」シュン
シロ「………寂しいの?」ナデナデ
咲「え……あぅ…」
シロ「…大丈夫。今日は一緒だから…」
咲「(……ずるいなぁ)」
シロ「(えーと…塞いわく、確か合い鍵は玄関の上の…あった)」ガチャガチャ ガララ
シロ「…おじゃまします」
幼咲「(……わたし…わるいこなのかな…シロはわたしがさみしくないようにきをつかってくれてるのに…)」
シロ「…咲…入って」
幼咲「あっ…た…ただいま」
シロ「…ん…おかえりなさい」ニコッ
幼咲「~~っ!?(わ…わらった…シロが…うわ…すごいきれい…かお…あついよぉ…!)」
シロ「…これ、ひさしぶりに言いたかったんだよね…一人暮らしだと言う機会が…咲…咲ー?」
幼咲「…な、なんでもないもん!」
一方その頃
竜華「邪魔するんなら帰ってやー」
塞「…急になに?」
竜華「言わなあかんねん」
塞「(そして私は考えるのをやめた)」
シロ「(…よし…風呂は焚けた…さすが私。やれば出来る子。後は料理……自分を信じるしかないかぁ…)」
咲「(うぅ…シロのえがおが…あたまのなかからきえないよぉ…)」モンモン
シロ「(冷蔵庫の中には…おぉ…カレールー…天の恵み…野菜もバッチリ。これならサラダも…)」
咲「(どうしようどうしよう…たぶんかおまっかだよぉ…!)」
シロ「…そうだ、咲。お風呂はご飯のあと、さきどっち?」
幼咲「はいぃっ…!?えっと…さ…っ…じゃなくてあと!あとで!」
シロ「…そっか…あ、でも時間かかりそうだから先に…」
幼咲「いいからっ!あとでいいから!」ズイ
シロ「…お…おう」
幼咲「シロ。わたしもてつだう」
シロ「(手伝わなくてもいいって言ってもきかないだろうから…ケガしないやつを…)」
シロ「…じゃあピーラーでジャガイモとニンジンの皮むきを」
幼咲「うん、がんばるよっ」
シロ「…ほどほどにね」
幼咲「よいしょっよいしょっ」スーッ
シロ「!?」
幼咲「よいしょっうんしょっ」
シロ「(咲が皮を剥いている)」
幼咲「よいしょっ」
シロ「(咲が皮を剥いている…!)」
幼咲「うんしょっ」
シロ「(咲が一所懸命皮を剥いている…!)」
シロ「…クールクールクールクールクールクールクールクール…!」ガンガンガンッ!
咲「シロ!?シロー!?」
シロ「…我ながらよくできたもんだ」
咲「(よしきめた……いまはいろいろかんがえるのはやめよう…シロはわたしをさみしくさせないようにがんばってる。
ならわたしもシロをたのしいきもちにさせるためにがんばる!)」
咲「すごいよシロ!とってもおいしそうっ!」
シロ「…せやろーさすがやろー」
咲「さすがだよぉー」ニコニコ
シロ「……でも…ちょいタンマ」
咲「(どうして、さ…さむけが)」ゾクッ
シロ「…たしか…隠し味にチョコレートを入れると美味しくなるとか…」
咲「!?」
幼咲「(止めなきゃ…!)あの…シロ」
シロ「…ちょい待っててね咲。咲のために作ったカレー。とびきり美味しくするから」ニコッ
咲「」プシュー
シロ「…えーっと…ここらへんだったかな?」
咲「(うんもんだいないもんだいないよねシロがわたしのためにつくってくれるんだからおいしくないなんてことがあるだろうかいやないありえない(0.1秒)」
シロ「…っと。随分深いところにいたなぁ…」
シロ「あとは…牛乳と…」
咲「(のむヨーグルト!?)」
シロ「…コーヒーとー…」
咲「(インスタントコーヒー!?)」
シロ「……はちみつは…これでいいかぁ」
咲「(はちのこ!?)」
シロ「……では、いざとうにゅ」
咲「やっぱりだめーっ!!」
幼咲「とっても美味しいよシロ!」パクパク
シロ「…そう…よかった」
シロ「本当によかった…」チラッ
幼咲「?」ニコッ
シロ「っ……けど…最後の最後…咲は私を信じてくれなかった…」シュン
幼咲「うっ…」ズキンッ
シロ「…悲しかった」ジー
幼咲「うぅ…ごめんなさい…けど、あのままじゃなたいへんなことになって…
で、でもわたしのためにっていうきもちはうれしくて…」タジタジ
シロ「(…可愛いなぁ)…嘘」ナデナデ
咲「…はえ?」
シロ「…あんなの入れるわけない。常識的に考えて」ナデナデ
咲「もーっ!またすぐそうやっていじわるばっかり!」
シロ「(…だめだなぁ…私は)」
シロ「(分かってる…私がこうなった理由…痛いほど。色々な感情をこじらせすぎて…結果現在に至る)」カチャカチャ
シロ「(その元凶が…)」
幼咲「~♪」キュッキュッ
シロ「(…このちんちくりん)」ツンツン
幼咲「きゅっ…急にほっぺたつつかないでよぉ」
シロ「(…我ながら、どうかしてる…)…終了っと」キュキュッ
咲「(…きた…ついにきたよぉっ!ごはんはたべた!はもみがいた…あとは)」ドキドキ
シロ「…咲、お風呂…」
幼咲「…っ」ドキドキドキ
シロ「…先に入ってきて」
幼咲「……ゑ?」
幼咲「……うぅ」モジモジ
シロ「(…あぁ…そっか…一緒に入らないとダメか)…なんてね」
幼咲「もぅー!すぐこれだよ!」
シロ「…ごめんごめん。着替え、持っておいで。一緒に入ろう」ナデナデ
幼咲「…うん」トテトテ
シロ「……………おかしいなぁ」
シロ「(一緒にお風呂…咲の年齢を考えたら当たり前なのに…というかそれをネタにいじり倒すはずなのに…)」
シロ「(…本当に…本物…なのかな…私)」
シロ「…」ブンブン
シロ「…考えちゃいけない…よなぁ」
幼まこ「きんぐくりむ…」
胡桃「うるさいそこ!」
幼まこ「はいっ」ビクッ
お風呂中
シロ「…さぁ咲…座って…隅々まで洗ってあげるから…」
幼咲「…お…おてやわらかにおねがいします……」ストン
咲「…あ…ありがとぅ(ほめられるのはうれしい…うれしいけど…シロにほめられても)」チラッ
シロ「……」ワッシャワッシャ
幼咲「(……れべるがちがいすぎるよぉ…おはだのしろさも…)」
幼咲「(おもち…はしかたないよね…!わたしにはみらいがあるもん!だいじょうぶだもん!)」
シロ「………」スッ
幼咲「ひゅぅっ!?シ…シロ…きゅうにまえは…ちょっ…くすぐったいよぉっ!」ジタバタ
シロ「…暴れちゃだめ」ギュッ
幼咲「ひゃふっ…!?(あったかいすべすべぷにぷにきもちいいくすぐったいはずかしいなにこれなんなのどういうことなの)」プシュー
シロ「…そう、いい子いい子」ワッシャワッシャ
幼咲「」ドキドキドキドキドキドキドキドキ
咲「そんなにかみ、ながくないし(まださっきのぷにぷにがからだにのこって…というかせなかにあたってるよぉ…!)」
シロ「……流すよ。目、瞑って」
咲「ん…」
シロ「……」シャー
咲「(なんでだろう…めをつむったらぷにぷにがおおきくかんじて…!)」
シロ「……」シャー
咲「(は…はやくおわってよぉっ…)」
咲「う…うん(お…おわった。あぶなかったー。ぷにぷにのせいであたまがどかーんてなるところだったよぉ)」ガララ
咲「(あ…おゆがあさめになってる…)」チャポン
咲「(…あつくないけどぬるくない…いいかんじ)」ハフゥー
咲「(こういうときはやさしいんだよね…)」ジー
シロ「……」ワッシャワッシャ
咲「(あれ…なにかわすれて…あぁっ!?)」
シロ「……」ワッシャワッシャ
咲「(シロのからだ…あらわないと…!で…でももうせなかはおわってるし…まえだけ…なんてはずかしくていえないよぉ…!)」
シロ「………」ワッシャワッシャ
咲「(せめてかみだけでも…あ…あ…あーー!)」
シロ「……咲、楽しいのそれ?」チャプン
咲「……ブクブクブク」コクリ
シロ「…体…ちゃんと拭かないとね」フキフキ
幼咲「それくらいじぶんでできるってばっ」
シロ「……次は服を」
幼咲「それもできるよっ」フンスッ
シロ「…よしよし…えらいえらい」ナデナデ
幼咲「……えへへ」
シロ「……」ドキッ
幼咲「~♪」キガエチュウ
シロ「……着替えたね…行こうか」
幼咲「うんっ!ってシロ!?なんでパジャマきてないの!?」マッカ
シロ「……だってあとは髪を乾かして寝るだけだよ…なにも問題ない」
咲「え…そ…そうなの?おとなのひとはなにもきないでねるの?でも…おとーさんは…」
シロ「…ちっちゃいことは気にするなー」スタスタ
咲「気にするよぉっ!」
シロ「………うん……だいじょうぶ…私はだいじょうぶ…私は咲の傍にいていい…はず…」
シロ「そろそろ…あやまらないとなぁ」
ベッドイン
幼咲「……」モジモジ
シロ「…そんなところに突っ立ってないで…おいで」ポンポン
幼咲「(おもちが…!おはだが…すべすべぷにぷにが…!)」ゴクリ
シロ「……」ジー
幼咲「……し…しつれいします」バサッ
シロ「……どうぞ、おかまいなく」
幼咲「」ドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキ
シロ「……」ギュッ
幼咲「!!??γαβ」
幼咲「わ…あわわわっ」ドクドクドクドク
シロ「……ねぇ、咲…」
幼咲「ななななに…」ドクドクドクドク
シロ「…咲は…私のこと…どう思ってる…?」
幼咲「ど…どうって…」
シロ「……嫌い?」
幼咲「そんなこと…!」
シロ「………だよね。ごめん。そういうに決まってるよね。
咲は優しい子だから、嫌いな相手でも嫌いだなんて言えないよね…わかっててきいた……卑怯だなぁ…私は」
そしたら頭の隅に追いやってた不安要素がドンドン湧き出て…たまらなくなって」ギュー
幼咲「…」ギュッ
シロ「…他にも考えることがあって…気がついたらいつの間にか
好かれてるわけがない…そうとしか思えなくなった」
咲「……うん」
シロ「…素直に謝ろうって…そう思ってたはずなのに…その謝罪を素直に受け入れられた時のこと、
悪い意味で跳ね返された時のことを考えたら怖くなって…私は結局咲の優しさに甘えることにした」
幼咲「……そうなんだ」
シロ「………………ごめん。全部ごめん」
幼咲「……シロ」ギューッ
シロ「……」
幼咲「わたしも…そのきもちわかるよ…」
シロ「……?」
幼咲「…わたしも…わたしのせいでシロが色んな人にいっぱい怒られて…」
シロ「……(…なんだっけ?)」
幼咲「それがきっかけで…みんなバラバラになっちゃって」ギュー
シロ「(なんだっけ…それ)」
幼咲「せっかくシロがたすけようとしてくれたのに…わたし…もっとくらいこになって…」ギューッ
シロ「(………そんなこと…あったような…)」
ともだちのいないわたしにともだちをつくるきっかけをくれたり」
シロ「(……あ…)」
幼咲「うれしかったよ。でも……こころのなかではごめんなさいでいっぱいだったの。
そのごめんなさいをシロにみせちゃうと、もっとむりするからがんばってギュッとして」ギューッ
シロ「(………あぁ)」
幼咲「ときどきギュッとしきれなくて……シロにみせちゃって…わたしはシロにとってめんどくさい
だけのこどもなんじゃないのかって…
」
シロ「(思い出した)」
咲「そうかんがえちゃうとひょっとしたらへんなこともただあいてをするのが
めんどくさくていいかげんにつきあってるだけなんじゃないのかって」
シロ「(なんで…私は…こんな大切なこと)」ギュー
幼咲「よかった…よかった…よかったよぉぉぉぉぉ!」ギューッ
シロ「(そっか…いたなぁ…できそうな人…できるもんなんだ…そんなこと)」ポロポロ
幼咲「ヒック…えぐ…シロ…シロ…大好きだよぉっ!」
シロ「…私も…大好き…」ギュー
同時刻某所
塞「っ!?」パリンッ!
竜華「うわっ!モノクルが割れよった…ってことはまさか…!?」
塞「……えぇ、思い出したのね…シロ」
竜華「そっか…そっかぁ…ひっく……グス」
塞「ちょっと…泣かないでよ竜華。私まで変な気分に…」
竜華「だって…だって…!エビスにモノクルの破片がはいったんやもーん!!」ビャービャー
塞「……あんたつくづく大物だわ…」
…どうしたの?
幼咲「」ビクッ
……だいじょうぶ。私は怖くない。咲ちゃんの味方。
幼咲「……」
なんで泣いてたの?
幼咲「………わたし」
うん
幼咲「まーじゃんきらい」ポロポロ
…詳しく聞かせて
咲「せ…せんせー…」オドオド
…勝つな負けろだなんて…ヤクザより質が悪い。…いえ、違います。ヤクザ以下だと言っているんです
塞「バカ…!やめなさいっ!」
……反論、ありませんよね。兎に角、咲ちゃんには麻雀を打たせないでください。
幼咲「せ…せんせー…おかーさん…やめてよ…」
…家庭の問題に口を出すな?こっちの問題でもあるんです。…現に咲ちゃんは暴力団のシノギ紛いの家族麻雀のせいで
心身共に疲弊し園内でも塞ぎ込んでいます。
無理もありません。勝てば褒められる…と思いきやまさか怒られるとは…夢にも思わなかったでしょうねぇ
…あぁ……こんな小娘に言いたい放題言われて苛々するというその気持ち…わかります…私も全く同じ気持ちです
暗転
照明
咲父「君の気持ち…わからなくもない…現にすれ違いは年々増していった…
こうなるのは時間の問題だったのかもしれないが…ここまで壊れるはずじゃなかった!」
塞「言いたいこと…?なにもないわよ。強いて言うならいっぱい食べて、いっぱい寝なさい。酷い顔、してる」
竜華「で、でたー!保護者にマジ切れ奴ーwwwww」
バキッ!
竜華「あぁーー!?シス仕様のライトセイバーがぁぁぁぁ!!」
塞「ほんとバカよね…」
シロ「…めんぼくない…」
塞「…どっからどうみてもバカップルの分際で…嫌われてるかもしれない?」
シロ「………」
塞「バーカバーカ。あー痒い痒い全身痒いわー」
シロ「…背中…掻かせていただきます…」
塞「触らないでよ。シロミ菌がうつるじゃないの」
シロ「シロミ菌…!?」
塞「感染者を皆鬼畜ロリペド野郎にする悪魔の病原菌よ」
シロ「…いじめだ。小学生のいじめだ」プルプル
塞「このくらい言わせなさいよ。今までどれほど神経を集中させてあげたことか」
シロ「……ごめん」シュン
シロ「……」
塞「だから私は塞いだわ…現実に立ち向かえるその時まで…がしかしよ。その間まさかここまで悩みこじらせ性格こじらせ性癖こじらせるとは思わなかっ」
シロ「……私はペドじゃない!しっかり確かめたんだ!」
塞「確かめた?」ヒキッ
シロ「…ん…全くこれっぽっちも反応しなかった。つまり私は十年待てる逸材」ドヤ
塞「あぁ…自白か」
シロ「ちがう…!?」
幼咲「ぅ…むぅ…」スヤスヤ
シロ「…大声出させたくせに…」ナデナデ
塞「これから…どうするの?」
シロ「…ん」
塞「お姉ちゃんとは親交があるようだけど…母親は絶望的じゃない」
シロ「…なんとかする。必ず、絶対」
塞「その時は…私も呼びなさいよ。私にも責任はあるんだから」
シロ「でも…」
塞「デモもストも無いわ。ずっと面倒みてあげてたのよ。最後まで付き合わせなさいよ」ニコッ
シロ「……腰つきのエロい人」
塞「許さない。絶対によ」
シロ「…ありがとう」
塞「最初から素直にそう言いなさいよ」
竜華「トキィ…!!この清水谷竜華大先生にキングボンビー憑かせるとはいい度胸やないかい!表出ろやぁぁ!!!」
幼トキ「うわーっちっさいちっさいわー。某国しかりじぶんに大つけるやからはこものと決まってるんやでー」
竜華「ななな…なんやと…!?そんな生意気な口きくやつには二度と膝枕させてあげへんで!」
幼トキ「べつにええもーん。塞せんせーの腰枕があるし」
竜華「こ…腰枕…!?なんやその素敵な響きのする単語は!?」
幼トキ「なんや竜華だいせんせーはまだみたいけんなんかー。ひょっとして嫌われてるんちゃう?」
竜華「そんなことあるかい!塞とはツーカーの中や!頼めば腰枕だろうが腹枕だろうが胸枕だろうが恥骨枕ろうがノー問題や!」
塞「…さぁて、私は園児より手のかかる大きなお友達の相手をしてくるわ」
シロ「…お疲れ様です」
シロ「…竜華のこと、悪く言わないで」
塞「…ごめん。そんなつもりじゃ」
シロ「…わかってる。でも、私が変われたのは竜華のおかげでもある」
塞「私だってそうよ」
どしたー塞?景気の悪い面しよって。あ?理想と違う?アホかい。んなもん当たり前やんか!
大体なーグチグチ言いながら仕事しとるってことはどっかで手ぇ抜いとる証拠や。
全力で事にあたり、仕事覚えて余裕を持てるようになれば、気付かなかったやりがいに気付くはずや!そうすりゃきっと楽しくなるで!
なんやシロ…子供と仲良くなる方法…?んな今更…まぁええわ。そんなもん、全力で楽しむことに決まっとるやないかい!
大人がこれごっつ楽しいねんでーって心の底から本気で思わな子供が興味持ってくれるはずないやろ
無愛想?気にすんなや!一所懸命ってもんは子供に絶対伝わるもんやで!
シロ「…竜華によろしく」フリフリ
塞「一つ…言い忘れてたわ」
シロ「……?」
塞「その特別扱い…大っぴらにやらないでよ」
幼咲「……」スヤスヤ
シロ「…無理…何故なら咲は特別な存在だからです」
塞「一人の子供を特別扱いしてるのが親御さんにバレたら問題になるのがわからないほどあなた様の脳みそは色ボケしちゃったわけ?」ギリギリ
シロ「…心得ました」
塞「はぁ…じゃ、ごゆっくり」スタスタ
シロ「…咲は…塞いでなかったんだよなぁ…」ナデナデ
幼咲「…むぅ」ゴロゴロ
シロ「…強いよ…咲は。私も強くなりたいな…」ナデナデ
幼咲「えへへー」ムニャムニャ
シロ「…なりたいじゃだめだ。強くならなきゃ…」
シロ「…咲、あんまり強くなりすぎないでね。守られてばっかりじゃ…だるいから」
咲「んんー」ゴロン
シロ「(咲の唇…!?)」
シロ「……」キョロキョロ
咲「うぅ…ん…」スヤスヤ
幼咲「…」スヤスヤ
シロ「…いざ…」グッ
幼咲「……」スヤスヤ
シロ「………」ググッ
シロ「…ちょいタンマ…!だめだめ…十年十年」
幼咲「……ちぇっ」ボソッ
シロ「…んん…?」
幼咲「…」スヤスヤ
シロ「…気のせいか」ナデナデ
幼咲「……」スヤスヤ
シロ「…今はこれで我慢してね…私も我慢するから」ナデナデ
幼咲「(…しょうがないなぁ)」
なんや?
あの二人…うまくいくと思う?
まぁ…立場的倫理的に応援し辛いのは確かやな
そうじゃなくて…
勝手に背負って勝手に抱えて勝手に悩んで勝手に泣いて…今世紀最高の遠回りカップルやけど…なんとかなるやろ
どうして?
シロの持ち味は、わけわからんところで悩んで迷って頓珍漢な一打を打って…
そんでも結果最高系…それが持ち味やろ?
そうね…その通りだわ
もし、本当に出口の見えない迷路に迷い込んだとしても…咲が入れば安心や。
なんせあの子は、森林限界の山の上だろうと花咲かせる一輪の花。
どんな場所に迷い込もうと、道標になってくれるわ
カン
相当行き当たりばったりで書いたんでめちゃくちゃです。
初SSなもんで許してください
…寝ます。お休みなさい
ちょーよかったよー
Entry ⇒ 2012.10.11 | Category ⇒ 咲-Saki-SS | Comments (0) | Trackbacks (0)
○○(・・・・・なんで俺はこんなところにいるんだろう)
・・・・・なんで俺はこんなところにいるんだろう。
確かに招待状は着てた。出席に丸をつけて返信したが、実際に会場に到着したのは披露宴どころか2次会からだが。
もとから人が多いところはそんなに好きじゃない。
特にこんな場所では。
手には時間が経って、冷たさと気の抜けたビールの入ったグラス。
情けない話だ。
今の俺はこのビールと同じだな。
そんなくだらないことを考えつつ、壁に背をもたれ会場を見渡す。
学生時代の友人が話しかけてきた。
助かった。話し相手がいなくて困っていたし、こいつと会うのも久々だ。
気を紛らわすためにも会話でもしていれば・・・・。
友人「久しぶりだなぁ、大学の卒業以来か?そういえば、お前いまどんな仕事してるんだっけ?」
○○「4年振りか、ホント久々だよ。今はただのサラリーマンやってる。ようやく一人前扱いされるようになってきたんだ。」
友人「そうかそうか!」
このときばかりはコイツのやかましさが心地いい。
このまま話していれば、最低限の係わり合いだけで終れるだろう。
むしろ、未練だらけなのかもしれない。
だからこそ
直接会うことだけは
直接会話することだけは
なるべく避けておきたい
○○「!」
何故だ。
いや、「何故だ」じゃない。
彼女は今日の主役だ。
ここにいることは当然だ。
視界の端に彼女がいた。
純白のドレスに身を包み、他のゲストと歓談しているようだ。
やめよう。
彼女を目で追うのは。
あぁ、本当にコイツは勝手に喋ってくれる。
今日ばかりは心の底からありがたい。
彼女との思い出を思い返す時間を勝手に貰うぞ。
-----------
○○「随分とオカタイな鉄面皮。」
留美「あら、貴方のようにイイ顔ばかりしている男よりかはマシだと思うわよ?」
出会いは最悪。
所謂、ソリが合わないというやつだった。
-----------
雪がちらついている。
○○「付き合ってくれないか?」
留美「お断りよ。と、以前の私なら言っていたでしょうね。」
留美「でも、今の私は貴方にこんなに惹かれてる。」
留美「これからよろしくね。」
冬の寒い雪の降る日、俺たちは付き合い始めた。
-----------
留美「貴方って本当にものぐさね。」
唐突に留美がそんなことを言う。
留美「なんで?って顔してるわよ。」
そりゃそうだ。心当たりが思いつかない。
留美「靴下。大方、帰ってきて脱いだんでしょうけど廊下にそのままだったわよ。」
あぁ、そういえば脱いだ気がする。忘れていた。
留美「脱いでそのまま洗濯機に入れておけば手間は減るじゃない。」
留美「洗濯し忘れる、なんてことも無くなるんだから。」
○○「ごめん、忘れてた。」
留美「次からは忘れずに。洗濯する私のためにもね。」
同棲してから家事でお世話になりっぱなしだ。
-----------
思い出の中の彼女は笑顔で溢れていた。
○○「・・・・あ。」
無意識に呷っていたらしい。
右手に持っていたグラスは、いつの間にやら空になっていた。
○○「悪い、なんかおかわり貰ってくるわ。」
友人「わかった。けど、飲みすぎるなよ?」
○○「はいはい。」
友人と別れてカウンターへと足を向ける。
さっきはビールだった。
次は何を飲もうか。
カクテルもいい。
飲んだことはないが聞いたことがあるモノがあった。
○○「ホワイト・レディをお願いします。」
バーテン「かしこまりました。」
白い貴婦人とも言われるカクテル。
この場に合うか合わないかはこの際どうでもいい。
酔えれば、いや、飲めればいい。
ふと振り返る。
いた。
さきほどと同じ純白のドレスに身を包む彼女が。
会場の中央に。
俺ではない別のオトコの傍らに。
おそらくはそのオトコとの間に生まれた小さな子をその両腕に抱いて。
笑顔で。
俺にも見せていたあの笑顔。
だけども、どこか違う笑顔。
もう俺に向けられることの無い笑顔。
あぁ、わかる。
泣いている。
止め処なく涙が溢れる。
止められない。止まらない。
○○「っっく!・・・ううっ!っぐ!」
一度流してしまったら止められない。
耐え切れずに膝をついてしまった。
俺はこんなにも弱かったらしい。
自分自身への情けなさ
惚れた女と添い遂げられなかった悔しさ
ゴッ・・・・ゴッ・・・
拳を床に叩きつける。
この感覚が、この痛みが今の俺なんだ。
それでも涙は止まらない。
止めたくない。
彼女を見たくないから。
ドゴォ!
!?!?!?!?
何が起きた?
俺は四つんばいになってたはずだ。
なんで、仰向けに?
え?
なんで彼女が?
なんで俺を見下ろしてる?
留美「貴方なら祝ってくれると思っていたのだけどね・・・・。」
蹴り上げられた・・・・のか。
だから仰向けになったのか。
留美「もういいわ。自分でなんとかしなさい。」
留美「・・・・・ばか。」
あぁ。
やっぱり俺は彼女のことが、留美のことが大好きなんだ。
愛してたんだ。
だから、涙が、想いが止まらないんだ。
受け入れよう。
この愛を、この想いを。
彼女の今の幸せと、これからの幸せを。
留美「当たり前じゃない。惚れた弱みでしょ?」
○○「いま幸せだろ?これから、もっと幸せになってくれ。」
留美「・・・・えぇ、幸せよ。」
留美「絶対に、絶対に今よりも幸せになってみせるわ・・・・。」
これ以上の言葉はいらない。
俺から視線を外し、去っていく彼女。
これでいい。
○○「えぇ、大丈夫です。」
○○「気分がいいので、もう少しこのままでいます。」
大の字で寝転がるなんて何年振りだろう。
周りの邪魔になるだろうが、そんなことはお構いなしだ。
○○「モバPさん。」
モバP「はい、なんでしょう?」
○○「留美、いや彼女のこと絶対に幸せにしてあげてください。」
○○「俺が惚れた、愛した人ですから。」
モバP「言われなくとも、と言いたいですが・・・。」
モバP「全身全霊で幸せになってみせます。」
○○「頼みますよ。」
けれども、悲しみの涙じゃない。
未練は当然ある。
もっといい恋をしよう。
もっと深い愛を育もう。
そう思えてくる。
そのためには、いい人を探し出さないとな。
自然と笑みが生まれてくる。
彼女がうらやむようなアツイ恋を、深い愛を手に入れよう。
この未練とは一生の付き合いになるだろう。
それでいい。
だからこそ、笑って進むことが出来る気がする。
○○「結婚おめでとう、留美。」
小さく、けれどもありったけの想いを込めた祝福の言葉。
その言葉は、驚くほど素直に言えた。
了
初自作SSです。
アイドルやPが主観のSSがあるなら、第三者のものがあってもいいのでは?
と思って書きました。
この作品のきっかけはモバマスのSR和久井さんのイラストと
後輩の結婚式でした。
ほとんど勢いで書いたので書くことも大してありません
お目汚し大変失礼いたしました
乙!
Entry ⇒ 2012.10.11 | Category ⇒ アイマスSS | Comments (0) | Trackbacks (0)
やよい「お泊り?」亜美「うんうん」真美「///」
真美「亜美じゃん。どったの?今日直帰っしょ?」
亜美「なんかねー、パパ達がなんとかパーチーに行くとかで今日帰ってこないって」
真美「えー、そんなの聞いてないよー」
亜美「まあそんなわけでご飯代としてこいつを頂いたんですが…」
真美「い、一葉さん!?それってこれってもしかして!?」
亜美「余りは小遣い」
亜美真美「「ラッキーデー!!」」
亜美「亜美もー…ファミレスとかだと一人1000円超えちゃうよねぇ…」
真美「むむむ…」
亜美「むむむ…」
「…っうー!今日も一日お疲れ様でした!はい、たーっち」
「「いぇい!」」
亜美「…」ティン
亜美「へいへい、やよいっち!」
やよい「う?亜美、どうしたの?」パタパタ
亜美「ここに5000円札があります」ピラッ
やよい「はわっ!亜美、こんなところでそんな大金出したらだめだよ!」
亜美「こいつは亜美達二人分の夕食代+お小遣いです」
やよい「へぇーそうなんだー」
亜美「そこで物は相談なんだがね、やよいっち」
真美「亜美、まさか…!」
亜美「ここから1000、いや1500出そう!それで亜美たち二人に夕飯を振舞ってはくれまいか!」
やよい「え……えええええええっ!?」
真美「や、やっぱり…」
やよい「さすがにそこまでは…100円くらいだよー」
亜美「ふむ、それが兄弟5人で500円、これに亜美達の1500円を足して2000円!それを亜美たち二人を含めた7人で割ると…えっと…」
やよい「一人当たり285円で余りが5円!」ビシッ
真美「計算はやっ…」
亜美「そ、そう!3倍近い資金が夕食に使えることになるわけだ」
やよい「で、でも…」
亜美「やよいっちの家は食卓が潤う!亜美たちはおいしい食事をおなかいっぱい食べて懐もあったか!」
亜美「まさにWIN-WINの関係と言えるのではないだろうかっ!」ドドーン
やよい「…うぃんうぃん?」
真美「どっちにとってもいいことって感じ…かな」
真美「…」キュン
亜美「でしょでしょー?」
やよい「で、でも…」
亜美「ん?どったの?」
やよい「1500円はさすがに貰いすぎかなーって…元々亜美達のお金だし、ちょっと悪いような…」
亜美「うーん…じゃあ、宿泊代も込みってことで!家に帰っても今日は親帰ってこないしねー」
真美「ちょ、亜美!?」
やよい「亜美達がそれでいいならいいけど…」
亜美「やーりぃ!」
真美「うぅ…」
真美「ふえぇっ!?」ドキッ
やよい「私の家に来るのいやなのかなーって」
真美「そ、そんなわけないじゃん!」
やよい「でもさっきからなんか元気ないし…」
真美「それは、ほら、あれだよ!今日のレッスンがハードだったからおなか空いちゃって…」
真美「だからやよいっちの作るご飯、楽しみだなー!」
やよい「そうなの?うっうー!じゃあ今日は腕によりを掛けておいしいご飯作るね!」ニコッ
真美「う、うん…///」
やよい「そうと決まればお買い物に行かないと!じゃあ先に行ってるね。また後でー」タタッ
亜美「…」ニヤニヤ
真美「…」
亜美「…」ニヤニヤ
真美「…亜美、なんなのさ」
亜美「んっふっふ~真美ってばオ・ト・メですなー」
真美「な、なあっ!?真美はやよいっちのことなんて…!」
亜美「亜美はやよいっちのことなんて言ってないけどー?」
真美「あっ…うぅ…」
亜美「双子ってことをおいといてもさ、あんなバレバレな態度とってたら誰にだってわかるっしょー」
亜美「あ、※ただしやよいっちは除くって感じかな」
真美「安心していいんだか悪いんだかわかんないよー」
亜美「せっかく亜美がオデンダネしてあげたんだから、据え膳皿までとかちつくちてよねっ!」
真美「色々ごちゃごちゃでわけが分からな…ってそうじゃん!こ、これからやよいっちの家に行くって…しかも泊まりとか…」
真美「……」
真美「うあうあー!ど、どどどどどーしよー!!心の準備とか!体の準備とか!って体の準備ってなにさ!」
亜美「ま、真美!落ち着いて…!今すぐやよいっちの家に行くわけじゃないから!亜美達も着替えとか持ってこないとだし」
真美「そ、そっか…そうだよね…とりあえず落ち着こう…」スーハー
真美「う、うん…少しは…」
亜美「真美隊員、これから我々は家に帰ってお泊りセット等を回収、やよいっちの家に向かう!」
真美「で、でもさ…」
亜美「ん?」
真美「手ぶらで行っていいのかな…?」
亜美「どゆこと?」
真美「この前ぴよちゃんが言ってたんだよ」
小鳥『好きな人の実家に行くときは手土産を忘れないようにしないと結婚できないかもしれないわ!』
小鳥『妄想の中のシミュレーションは完璧なんだけどな…』シロメ
真美「なにか持ってかないと結婚できなくなっちゃうかもだし…」
亜美(元々性別的に結婚できないことは黙っておこう)
真美「でもでも、なにをもって行ったらいいのかな?今日はもうピヨちゃん帰っちゃってるし…」
亜美「うーん、その辺はやよいっちの家に行くまでに考えればいいっしょ」
真美「あ、うん…そだね。じゃあ一旦帰ろっか」
亜美「うん。にーちゃーん!亜美たち帰るねー!」
P「おー、おつかれー」
真美「げ、兄ちゃんいたのか…聞かれなかったかな…」
亜美「聞いてても問題ないっしょ。兄ちゃんだし」
真美「まあ兄ちゃんならいいか…」
亜美「結局いい案でなかったねー」
真美「うあうあー!このままじゃやよいっちの家に着いちゃうよー」
亜美「うーん…なにかいい手は…」
真美「あっ」
亜美「真美、なんか思いついた?」
真美「やよいっちってさ、確かプリン食べたことないんだよね」
亜美「醤油かけてウニの代わりとして食べたことはあるみたいだけどねー」
真美「だからさ、プリンをプリンとして食べさせてあげるってのは、どうかな?」
亜美「ふむふむ…それって結構いいかも!」
真美「そうと決まればあのお店にGO!!」ダッ
亜美「あっ、真美!待ってよー」ダダッ
亜美「…」
真美「…」
亜美「プリンが…」
真美「あるにはあるけど…」
亜美「ゴージャスセレブプリンEXのみ・・・だと・・・?」
真美「数は…7こ…」
亜美「やよいっちの兄弟+亜美達でピッタリだね…」
真美「…」
亜美「…」
亜美「お値段が…」
真美「一つ500円だね…」
真美「つまり、7個で3500円…」
亜美「…」
真美「…よし」
亜美「ま、真美…?まさか…」
真美「一葉さんを使う…」
亜美「だ、だめだよっ!このお金は二人でポ○モンを買うためのっ…」
真美「すまない、亜美…!やよいっちの笑顔には…」
亜美「兄ちゃんだって悲しむよ!亜美達のために厳選作業やりたいって、言ってたじゃない!」
真美「いや、兄ちゃんは真美達に命令されるのと、報酬の双子サンドイッチびんたが目当てなだけだと思う…」
亜美「…」
真美「…」
亜美「まったく、しょーがないなぁ」
真美「亜美さん…!」
亜美「なんだかんだ言って、亜美にもメリットはあるしね」
真美「メリット?」
亜美「この間兄ちゃんが掃除してるやよいっちを見つめつつ、物憂げな表情で呟いてたんだ」
P『はぁ…できることならやよいの弟か箒になりたい…』
亜美「やよいっちと真美がくっつけば亜美はやよいっちの妹ってことだし、ってことは亜美の旦那様も……」
真美「亜美、あんまり言いたくないけど趣味悪いよ」
亜美「しょーがないじゃん!好きになっちゃったんだから…」
真美「っていうか亜美…?さっき兄ちゃんがいるのに事務所で話したのって…」
亜美「んっふっふ~♪」のヮの
真美「目をそらすなー!」
真美「亜美…ありがと…」
亜美「貸し一つ、だかんね?いや、お泊りの件込みで2つかな?」ニヤリ
真美「いいけど…真美、兄ちゃんの家にお泊りとか絶対嫌だかんね?」
亜美「そ、それは亜美だって恥ずかしいよ///」
真美「真美が嫌なのは別の理由なんだけど…っていうか真美だってやよいっちの家行くの恥ずかしいし…」ブツブツ
亜美「そろそろ行かないとやよいっち待たせちゃうんじゃない?」
真美「あ、確かに…じゃあプリン買ってやよいっちの家へ向かおう!」
亜美「おぉー!」
真美「ついに来てしまった…ここがやよいっちの家…」
亜美「真美ー早く入ろー?」
真美「ちょっと待って…今ココロのゾンビを…」
亜美「準備っしょ」ポチッ
ピンポーン
亜美「ちわー、宅配便でーす。双海さんちの美人姉妹、お届けにあがりましたー」
真美「ちょ、亜美!」
パタパタ…ガチャッ
やよい「亜美、真美!いらっしゃい」ニコッ
真美「可愛いなぁ…」
真美「あっ」
やよい「え、えーっと…///」テレッ
真美「あのそのえっと、だから……エプロン!エプロンが似合ってるなって!」アセアセ
やよい「あ、うん。ありがとー。でもこの間、お料理さしすせそで来てくれた時も私エプロンだったよね?あっちの方が綺麗なのだったと思うけど…」
真美「なんていうか…着慣れてる感じっていうの?それがあるから…」
やよい「あ、そうかな…?えへへ、このエプロンお気に入りだから嬉しいかもー!」
真美(うあうあ~!これ反則っしょー!)
亜美「コホン、そろそろあがってもよいかね?コイツを冷蔵庫に入れないと…」
やよい「う?それなあに?」
亜美「んー、内緒。後でのお楽しみ!先に開けちゃダメだかんねー?」
やよい「う、うん…分かった…!」
亜美「りょうかーい」
真美「ら、らじゃー」ドキドキ
かすみ「あの…いらっしゃい」
亜美「おー、カスミンじゃないか!」
かすみ「か、カスミン…?」
真美「かすみだったらカスミンだYO!こんじょだこんじょってね!」
かすみ「はぁ…あの、姉から聞きました。今日はありがとうございます」
真美「へ?あぁ、いーっていーって!」
亜美「亜美たちにとっても色々都合がいいしね!」
真美「こら、亜美!」
亜美「てへぺろっ☆ミ」
亜美真美「「ん?」」
長介「今日は…い、伊織ねーちゃん来ないの?」
亜美真美((は、はぁ~ん))ニヤリ
真美「少年、残念ながら本日は真美たちだけなのだよ」
長介「そっか…」
亜美「少年、いおりんになにか御用でもあるのかね?」
長介「べ、別にないけど…」
真美「こちらにおわす亜美嬢はいおりん率いる竜宮小町のメンバーでしてな」ニヤニヤ
亜美「言いたいことがあるのなら代わりに伝えてやるのもやぶさめじゃないぞ?」ニヤニヤ
長介「やぶさめ…?いや、俺は…その…」
長介「じゃ、じゃあまた家に…」
やよい「ご飯できたよー」
長介「うわああああああああ!!!」
長介「だ、だって…」
亜美真美「「…」」ニヤニヤ
かすみ「ほら、長介もお皿並べるの手伝って」
長介「くぅ~…」
真美(やよいっちの妹弟のおかげでちょっと緊張ほぐれたかも…少年、この借りはいおりんのでこに反射させて返してやろう…)
やよい「よし、準備できたかな」
亜美「ほほぉ…これがあの伝説のもやし祭り…!」
真美「そしてこれが巷で噂の秘伝のタレ…!」
やよい「もう、亜美も真美も大げさなんだから…あ、でも今日は亜美と真美のおかげでもやしだけじゃないんだよー」
長介「に、肉だ…」
かすみ「お肉が…」
やよい「今日はもやし祭りすぺしゃるです!!」ドンッ!
一同「「「いただきます!!」」」
ンマイ! オイシイ…
ウメェー ンマンマ
アー、ソレアミノー! コノヨハ ジャクニク キュウショク ナノダヨ!
やよい「もー、慌てなくてもいっぱいあるから大丈夫だよ」
ゴハンオカワリ! ワタシモ…
アミモ! マミモ!
ハイハイ、ジュンバンダヨー
―――――
―――
―
一同「「「ごちそうさまでしたっ!!」」」
やよい「亜美と真美の口に合ったみたいでよかったよー」
真美「合わないわけないっしょー!やよいっちはホントに料理上手だなぁ…今すぐお嫁に欲しいくらいだよー」
やよい「そ、そんな…褒め過ぎだよ、真美…///」
真美(い、今真美なんて言った…!?と、とんでもないことを口走って…!)
真美「あ、あああ亜美!そろそろアレ、出していいんじゃないかな…!?」
かすみ「あれ…?」
亜美「アレ…ね。らじゃー!」タッ
亜美「へいおまち!」ジャン
やよい「あ、これって冷蔵庫に入れてた箱?何が入ってるの?」
亜美「んっふっふ~」
真美「それでは~」
亜美真美「「ゴカイチョー」」
かすみ「イチゴとクリームが乗ってる…!」
長介「これってキウイだろ?こんなの給食でしか食べたこと…」
浩太郎「ケーキ?おたんじょうび?」
真美「チッチッチッ…こいつはケーキではない…」
亜美「こいつの名は…」
亜美真美「「ゴージャスセレブプリン!!」」ドンッ!
長介「ぷ、プリン…!?でも今日はちらし寿司の日じゃ…」
かすみ「そ、それにウニと果物は合わないんじゃ…」
亜美「諸君、辛いかもしれないが聞いてくれ」
真美「プリンってのはな…本来醤油をかけないで食べる…デザートなんだよ!」
高槻家一同「「「な、なんだってー!?」」」
パクッ
かすみ「ケーキみたいに甘い…」
長介「だけど食感はケーキみたいにふわふわしてなくてぷるぷる…」
浩太郎「おいしー!」
浩司「んまっんまっ!」
真美「…ほら、やよいっちも」
やよい「うん…」ジー
アムッ
やよい「…!」
やよい「真美っ!」キラキラ
真美(あー、やっぱ買ってよかったかも…)ニヘラッ
真美「あれ?やよいっち一口しか食べてないじゃん。どうかした?」
やよい「あ、うん。残りはとっておこうかなーって」
亜美「うぇ?お腹いっぱいになっちったとか?」
やよい「ううん、違うの。とーってもおいしいから夜遅く帰ってくるお父さんとお母さんにも食べさせてあげたいなーって」
真美(あ、亜美ぃ…)チラッ
亜美(う゛……わ、わかったよぉ…)コクリ
真美(ありがと、亜美!恩に着る!)
真美「じゃあ真美たちの分をお父さん達にあげるからさ、それはやよいっちが食べなよ」
やよい「で、でもそれじゃあ真美たちの分が…」
亜美「まあ亜美たちはプリンくらいいつでも食べれるし。予想以上においしかったご飯のお礼ってことで!」
やよい「で、でもぉ…」
真美「うぇぇぃ!?」
やよい「それは別にいいけど…」
真美「い、いいの…!?じゃなくて…元々このプリンはやよいっちのために買ったんだしさ、やよいっちのためなら真美、我慢できるよ」
やよい「真美…ありがとう…あ、でもせめて一口くらい…はい、あーん」
真美「…!?」
真美「え、えぇと…あ、亜美から!亜美からで!」
亜美「あ、亜美はぶっちゃけご飯食べ過ぎてオナカ、イッパイ、ナノデ」
真美「え、えぇ…!?」
亜美「じゃあ亜美はこのプリンを冷蔵庫に入れてくるねー」ピュー
やよい「じゃあ真美、あーん…」
真美(うあうあ~!突然こんなの無理だよ~!さっき我慢するって言っちゃったから亜美と同じ手は使えないし…)
真美(っていうかあーんって言いながら自分も口開けてるやよいっち、可愛い…)
やよい「…真美?」
真美「う…あの、えと…あーん」
ハムッ
やよい「おいしい?」
真美「う、うん…///」
真美(思い切って食べたけどよく考えたらこれ…間接キス…うあうあ~!考えたらもっと恥ずかしくなってきちゃったよ~!)
やよい「やっぱりみんなで食べるとおいしいね!」
真美「そ、そだね…///」
やよい「いぇい!張り切って二人の背中流しちゃうよー!」
真美(あ、亜美…!真美やっぱいきなりお風呂なんて…)ヒソヒソ
亜美(真美隊員、お主の妹はこーめーな策師ですぞ!)ヒソヒソ…ドヤッ
亜美「うーん、でも二人となるとやよいっちも大変っしょー?亜美はカスミンにやってもらおっかなー」
真美「あみぃ~…」
やよい「え、えっと…」
かすみ「あ、はい。分かりました」
亜美「姉は姉同士、妹は妹同士、チンボツを深めようではないか!ハッハッハッ…!」
やよい「ちんぼつ…?」
真美「それをゆーなら親睦っしょー…」
かすみ「あ、はい。お姉ちゃんも真美さんもゆっくりしてきてね」
やよい「うん、分かった。真美いこー?」
真美「う、うん…」
亜美「いってら~」ニヤニヤ
真美(くぅ…亜美め、面白がってるな…このウラミ忘れぬぞ…!)ジロッ
亜美「…のヮの;」
やよい「真美ー、なにしてるのー?」
真美「い、今行くー!」
真美「う、うん…」
真美(ど、どーしよー…もう完全に逃げ場がない…)
やよい「~♪」ヌギヌギ
真美(わわっ、やよいっちもう脱ぎ始めてる…!そ、そうだよね…女同士なんだし、ここでもたもたしてた方が怪しまれる…)
真美「よ、よーし!」ヌギッ…ガラッ…タタッ
やよい「あ、真美!そんなに急ぐと危ないよー」
真美「ご、ごめん…」
真美(うあうあ~!やよいっちすっぽんぽんだよ~!真美もだけど…)
やよい「それじゃあ背中ながすね」アワアワ
やよい「かゆいところはありませんかー?」
真美「うん、大丈夫。ありがと…///」
真美(やよいっち上手いなぁ…時々亜美と背中流し合いっこするけど亜美はすぐふざけるからなぁ…まあ真美もだけど…)
やよい「んしょ…んしょ…」ゴシゴシ
真美「うあうあ///」
やよい「ん?どうかした?」
真美「いや、やよいっちがかわい…じゃなくて背中流すのうまいなーって…!」
やよい「えへへ、時々お母さんにもしてあげてるんだー」
真美「やよいっちはいい子ですな~」
やよい「そんなことないよー///」
真美「アイドルだけでも大変なのにやよいっちは家のことやったり弟とか妹の面倒みたり…」
真美「真美には絶対真似できないよ」
やよい「真美だっていつもさりげなく亜美の面倒見てるでしょー?私知ってるもん」
真美「…も、もぉー、はずいじゃーん!」
真美(今絶対顔真っ赤…背中流してもらっててよかっ……鏡?)
やよい「…」ニコッ
真美「っ…!///」
真美「こ、こーたい!今度は真美がやよいっちの背中流すから!ほら早く!」
やよい「え、私は別に……もー、変なことしないでよー?」
真美(でもこんなに小さいのに家事とかやってるんだよね…)
やよい「真美?」
真美「いやーやよいっちってちっちゃいなって。1コ上とは思えないくらい」
やよい「わ、私だってすぐ大きくなるよ!」
真美「いやーどうかなー。ひびきんくらいがせーぜーじゃない?」ニシシ
やよい「響さん…」
真美「ん?複雑そうな表情ですな」
やよい「胸があのくらいになるならいいかなーって」
真美「いや、それはむりっしょ」バッサリ
やよい「あー!真美ひどーい!」
やよい「っ…ぅぁっ…」ピクン
真美「やよいっち?」
やよい「ちょ、ちょっとくすぐったいからもう少し強くやって欲しいかなーって…」
真美「…」
コシコショ…コショコシ…
やよい「ぁぅっ…!く、くすぐったいって…ばぁっ…!」
ツツー
やよい「ま、真美!」
真美「…ごみんごみん。つい魔が差して…」
やよい「もー、ふざけるならやらなくていいよー」
真美「まじめにやらさせていただきます!」キリッ
ゴシゴシ…ゴシゴシ…
やよい「んー、きもちいい…」
真美「ふいー…ごぞーそっぷに染み渡るー」
やよい「なに、それ?」
真美「よくわかんないけどピヨちゃんが言ってた」
やよい「へぇー」
真美「…」
やよい「…」
真美「ねぇ、やよいっち」
やよい「なあに?」
真美「ありがとね、いきなり押しかけちゃったのにこんなにもてなしてもらっちゃって…」
やよい「お礼を言うのは私のほうだよー」
真美「いやいや、真美たちの方が…」
やよい「ううん、私達のほうが…」
やよい「…」
「「プッ」」
二人「「あははははは!あはははは!」」
真美「まあお互い様ってことで」
やよい「うぃんうぃん、だもんね!」
真美「うんっ!」
やよい「そろそろあがろっか」
真美「だね、亜美達も待ってるだろうし」
やよい「お風呂上りに牛乳飲む?」
真美「飲む飲むー!やよいっちも頑張って背伸ばさないとね!」
やよい「もー、真美ってば!」
P「で、写真は?」
やよい「なんのですかー?」
P「亜美真美inやよいん家withやよい&かすみの写真」
真美「あるわけないじゃん」
亜美「こちらのケータイに…」
やよい「亜美!?」
真美「い、いつ撮ったのさ!」
亜美「皆が寝静まった後?」テヘッ
P「よーし、よくやった、亜美隊員!見せてっ!」
真美「させんっ!」ガシッ
亜美「うあうあ~つかまっちゃったよ~…」
P「ギリギリコース!擦り傷が心地いいナイスパスだっ!」ズサァァァ
やよい「…プロデューサー」
P「な、なんだ?やよい…」ゴクリ
やよい「それ見たらもうはいたっちしてあげません」
P「は、はいたっち禁止だと…!?そんなことされたら俺はもう生きては…」
P「でもその怒った顔も可愛いよおおおお!!も、もっとみてええええ!!蔑むようにぃぃぃ!!」
亜美「に、兄ちゃん!亜美も見てあげるから!こっちもみてよ~!」
P「亜美ぃぃぃ!!!うわあああああああ!!!」
真美(亜美…お姉ちゃんは心配だよ…)
やよい「ん?なぁに?」
真美「また泊まりに行っても、いいかな…?」
やよい「もちろん!あ、でも…」
真美「でも?」
やよい「今度は私が真美のところに泊まりにいきたいかなーって」
真美「…///」
やよい「だめ?」
真美「うっうー!大歓迎に決まってますー!」
やよい「あっ、真似しないでよー!じゃあ、約束だからね?」ニコッ
真美「うん、約束」ニコッ
糸冬
感想、保守、支援、本当にありがとうございました
近く発売予定のファンキーノートが、とっても欲しいです
Entry ⇒ 2012.10.11 | Category ⇒ アイマスSS | Comments (1) | Trackbacks (0)
菫「話があるんだ」 宥「何ですか?」
菫「宥!」
菫「私と……」グ…
菫「結婚してくれー!」シャープシュート
宥「ごめんなさい」ヒラリ
菫「何故だ!」
宥「私には玄ちゃんが……」
菫「いかん!」
菫「姉妹など……!」グ…
菫「いかーん!」シャープシュート
宥「ごめんなさい」ヒョイ
菫「ぐぬぬ……」
菫「……よしわかった!」
菫「妹も一緒でいい!」
菫「だから宥!」
菫「私のものに」グッ
菫「なってくれー!」シャープシュート
宥「ごめんなさい」ピョン
玄「おねーちゃーん」
宥「あ、玄ちゃん」
玄「迎えに来たよー」
宥「ふふ、ありがとう……」ナデナデ
玄「えへへ……お任せあれ!」
菫「くっ……」グ…
菫「私にもナデナデしてくれー!」シャープシュートッ
宥「わわ」スッ
菫「避け……られた、だと……」
宥「弘世さん?」
菫「……なんだ」グスッ
宥「それくらいなら良いですよ?」
菫「えっ」
宥「……いい子いい子」ナデナデ
菫「……っ///」カーッ
宥「耳まで真っ赤ですね」ナデナデ
菫「……!」
菫「宥!」バッ
菫「このまま私と結婚してくれ!」ギュッ
宥「ごめんなさい」ニコッ
菫「……」ズーン
菫「宥……何故……」ブツブツ
照「ねぇ」
菫「……なんだ」
照「まだ松実さん(姉)にご執心なの?」
菫「何か文句があるのか?」キッ
照「いや別に」
菫「あの準決で宥に私のシュートを躱されて以来……」
菫「奴のことが頭から離れないっ……!」
菫「初めてだったんだ……」
菫「私が……狙った獲物を逃すなんて……!」ワナワナ
菫「……」フッ
菫「……気付けば、私の方が宥に射抜かれていたんだな」
菫「このハートを、さ……」
照「そうだね」
次の日
菫「宥ー!」
宥「はい」
菫「今日こそ私と……」グッ
菫「結婚してくれー!」シャープシュート
宥「ごめんなさい」サッ
菫「何故頑なに断られるんだあああああ!?」
菫「いい加減、私の愛をっ……」ググッ
菫「受け取れええええ!」
シ ャ ー プ シ ュ ー ト 乱 れ 打 ち ッ !
宥「わわわ……」ヒョイヒョイッ
菫(全て……躱され……!?)
/
アッ、アブナーイ
\
泉「は……?」クルッ
泉「」サクッ
宥「あっ」
菫「あっやべっ」
菫「だ、大丈夫か!?」
泉「……ぅ」
菫「よ、よかっ……」
泉「好きです!」ギュッ
菫「えっ」
泉「好きです好き好きっ」
泉「私のお姉様になってください!」キラキラ
菫「えっ?」
泉「お姉様ぁ」ギュッ
菫「ま、待て待て、落ち着け君……はっ!?」
宥「……」ジト…
宥「ひどい……」
菫「は……?」
宥「あれだけ私に結婚を迫っておいて……」
菫「!? ち、違う! 違うんだ宥!」
宥「さよなら、弘世さん」タッ
菫「宥――――――っ!!」
泉「お姉様お姉様」スリスリ
照「で?」
菫「」
泉「お姉様好きですお姉様」スリスリ
照「通りすがりの二条さんを射抜いてしまったと」
菫「……うん」
照「シャープシュート(笑)」
菫「……うるさい」
泉「お姉様お姉様」ラヴラヴ
照「彼女どうするの」
泉「お姉様ぁ」ギュー
菫「……うぐ」
照「離れてくれそうにないね」
菫「……いいさ、明日もこのまま宥の所へ行ってやる」
照「まじで?」
菫「まじで」
泉「ほんまですか!」
菫「……宥への想いは変わらないからな」キリッ
泉「さすがお姉様! かっこいいです! 好き!」ギュースリスリ
照「二条さんはそれで良いのか……」
次の日
菫「宥」
宥「……」
菫「今日こそは私と結婚してもらう」
泉「キャーお姉様頑張ってください!」ギュー
宥「……他の女の子に抱き着かれながら、よくそんなこと言えますね」ジトー
菫「うっ……」
泉「お姉様、ファイトですよ!」
菫「た、確かに……泉から好かれてはいるが」
泉「好きですお姉様っ」スリスリ
菫「私の目に映っているのは、宥だけだからな……!」グッ
泉「キャー/// お姉様シビれますぅ!」
宥「……寒い」
菫「私が……暖かくしてやる!」シャープシュートッ
宥「遠慮します」ヒラッ
菫「!!」ガーン
泉「あっ、松実さんの後ろに誰かいますよ?」
菫「えっ」
宥「?」
泉「避けられた矢が……」
淡「へ?」クルッ
淡「」サクッ
泉「刺さりましたね」
菫「何っ!?」
菫「あ……淡!?」
淡「きゅー」
菫(まずいくないかこれは)
泉「大丈夫ですー?」ペチペチ
淡「うぅ……」パチ
菫「あ、淡……」
淡「……」
淡「スミレ……?」ボー
淡「……」ピコーン
淡「菫愛してるっ!」ガバッ
菫「!?」
泉「は……?」
淡「なんだろ、いきなりズキューンってキちゃったよ菫ぇ」ギュー
菫「」
淡「ドキドキが止まんないよ菫、愛してるぅ」スリスリ
泉「わ、私も好きですよお姉様!」ギュ
菫「」
泉「お姉様ぁ」
淡「愛してるよ菫ぇ」
菫「」
菫「はっ」
宥「…………」
菫「ゆ、宥……私と、結婚……」
宥「……」プイ
菫「宥うぅぅぅぅぅ!!」
淡「スミレスミレ」
泉「お姉様お姉様」
宥「……知りません」
照「あれ?」
菫「」
泉「お姉様好きですお姉様」スリスリ
淡「菫愛してる菫」スリスリ
照「なんか増えてない?」
菫「……」
照「淡じゃなくて松実さんを狙いなよ」
菫「狙った結果がこれだよ!」
泉淡「「スキスキー」」
菫「何故……何故宥は私と結婚してくれないんだ……」
照「なんでだろうね」
菫「メゲそう……」
淡「大丈夫! 私が菫と結婚するよ!」
泉「私もお姉様と結婚します!」
照「菫モテモテだね」
菫「はは、は……はぁ」
泉「憂い顔のお姉様……素敵……」キュン
淡「うん……もっとメチャクチャにしてあげたい……」キュン
菫「……私は、宥を諦めた方がいいのだろうか」
照「さぁ」
菫「もしかして私、宥にかなり嫌われているんじゃ……」
照「どうだろうね」
菫「ここまでしても振り向いてもらえないなんて……もうここらでやめに……」
照「……それでいいの?」
菫「仕方ないじゃないか……宥に嫌われているんじゃ、どうしようもない」
照「松実さんがどう思ってるかじゃなくて、菫はどうなの?」
菫「え……?」
照「好きなんでしょ? 松実さんのこと」
菫「当たり前だろ……!」
照「じゃあ、やることなんて決まってるじゃない」
照「今までみたいな数打ちゃ当たる、みたいな告白じゃなくてさ」
照「ちゃんと真っ直ぐ気持ちを伝えてみたら」
菫「……照」
照「大体、結婚結婚って……菫は先走りすぎだと思う」
照「逸る気持ちもまぁわからないでもないけど。物事には順序があるんだよ」
菫「そう、だな……」
菫「……ありがとう。私が弱気になるなんてな……どうかしていた」
照「うん。最近の菫、頭おかしいもん」
菫「ははは、こいつぅ☆」グリグリ
照「ほら、じゃれてないで。明日のために今日やっておくことは?」
菫「あぁ! シャープシューティング告白の練習だな!」
泉「私が的になりますお姉様!」
淡「ほら、みんなも菫の的になるよ、協力して!」
白糸台麻雀部員「「おー!」」
次の日
宥「……また、ですか」
菫「あぁ」
菫「やはり、宥への気持ちは変わらないからな」キリッ
泉「お姉様お姉様」
淡「菫愛してる菫」
尭深「玉露よりも先輩が好きです……///」
誠子「先輩の竿で一本釣りにして下さい!」
美子「好きですたい」
澄子「私もよろしくお願いしまーす」
花子「うーわ競争率マジぱねーっすわー」
宥「……更に増えてますね」
菫「気にするな、練習の成果だ」
菫「ほらお前ら、離れてくれ」
泉淡尭深誠子美子澄子花子「「は~い」」ワラワラ
菫「さて、宥」キリッ
宥「……はい」
菫「私と結婚してくれ」
宥「……、ごめんなさい」
菫「だろうな」フッ
宥「え……?」
菫「いきなり求婚されて、あっさり『はい』なんて言えるものじゃないよな」
宥「……」
菫「好きだ、宥」
菫「……だから」
菫「私と、結婚を前提に……!」グッ…
菫「付き合ってくれええええええええ!」SHARP SHOOOOOOOOT!
菫(このシュートに、私の全身全霊の愛を込めた……!)
菫(これを避けられれば……もう私に次の矢は無い……)
菫(必ず当たる……いや、当てる……射抜く!)
菫(宥のハートを!)
宥「……」
宥「ごめんなさいっ」ヒョイッ
菫「あれっ」
泉「余裕で避けられてますやん……」
淡「あちゃー」
菫「え? そこ避けるか普通?」
宥「……えへ」
菫「な」
菫「なっ……何故なんだああああああ!」
菫「ああああ……」
菫「……うぁぁ」
菫「もう嫌だ……宥なんかもう知るか……帰る……おうち帰る……」
宥「あっ、弘世さん待って……」
菫「何だよ触るなよ帰るんだよおぉ……」
宥「弘世さん」
菫「だからなん……」
チュッ
菫「」
宥「……」
菫「え」
宥「弘世さんには散々打ち抜かれちゃったので」
宥「今度は私があなたを打ち抜く番です」
菫「え」
宥「弘世さん」
菫「え」
宥「私と、お付き合いしてくれますか……?」
菫「」ズキューン
菫「も」
菫「勿論だ……! 愛してるぞ宥うううう!」ガバッ
宥「わわ」ヒョイッ
菫「」
淡「ええええ!? そこくっつくの!? 私は!?」
泉「良かったですねお姉様ぁ……ルパンダイブは避けられましたけど」
それから
玄「おねーちゃん、おめでとう!」
宥「うん。ありがとう、玄ちゃん」ナデナデ
玄「でも、何ですぐにオッケーしてあげなかったの?」
玄「おねーちゃんも、前から弘世さんのこと好きだったのに」
宥「ふふ……断られて愕然としてる弘世さんとか、涙目の弘世さんとか、すごく可愛いかったから……」
宥「ちょっと意地悪したくなっちゃって」ニコ
玄「ふ~む、なるほどなるほど、なるほどー」
菫「宥!」
泉「お姉様好きです!」
淡「菫愛してるよ!」
菫「うるさいお前ら!」
宥「今日連れてるのは二人だけですか?」
菫「つ、ついてくるなと言ったんだが……」
淡「ユウばっかり菫独り占めしてズルイズルイー!」
泉「私は何番目でも構いませんからお姉様ぁ」
菫「あぁもう……少し何処か行ってろお前ら!」
泉淡「「わーい」」タター
菫「全く……」
菫「さて、宥」
宥「はい」
菫「今日は雲ひとつ無い快晴だ、結婚しよう」キリッ
宥「ごめんなさい」ペッコリン
菫「ですよねー」
宥「……もっとお話して、もっと色んな所へ行って、もっと好きになりたいんです、菫さんを」
宥「だからそれは……もう少し先で」
菫「……!」パァッ
菫「そうだな……! その時になったら結婚しよう!」
宥「ふふ……はい」ニコ
カン
書いてて気付いた
次鋒は○子って名前が多い
ちょいおまけ
シャープシューティング告白練習中
菫「シャープシュート! シャープシュート! シャープ……シューット!」シュババッ
泉「一心不乱に矢を射るお姉様……素敵です……///」ホゥ…
淡「こら的、動くな」
菫「……」
菫(く……ただ打っているだけじゃ駄目だ……)
菫(集中……宥への気持ちを……)
菫「はっ!」シャープシュートッ
ヒュンッ
泉「あれ?」
淡「盛大にすっぽ抜けてね?」
泉「しかもその先に……」
淡「テル!?」
照「え……」
照「」サクッ
菫(またやっちまったー!)
菫「だだだ、大丈夫か照……」
照「いた……」
菫(あわわわわわわ)
照「……」ジ…
菫「……!」ドキッ
照「……なに慌ててるの」
菫「え……な、何ともないのか?」
照「何が?」
菫「え……」
照「?」
菫「いやその……菫スキスキーってならないか?」
照「何言ってるの……菫って自意識過剰?」
菫「んなっ……なわけないだろ!///」カーッ
菫「もういい、心配した私が馬鹿だった……告白の練習に戻る!」スタスタ
照「……」
照(ふぅん)
照(もともと菫が好きだった場合はシャープシュートされても変化は特に無し、か……)
カン
ありがとうございました
日付が変わる前に終わってよかった(小並感)
もしかしてこれ練習の意味なかったんじゃ
乙
Entry ⇒ 2012.10.11 | Category ⇒ 咲-Saki-SS | Comments (0) | Trackbacks (0)
あずさ「お隣に…」
あずさ「はい~」パタパタ
ガチャ
P「あ、あの…隣に越してきました………!?」
あずさ「え…??」
P「あ、あずささん?」
あずさ「プロデューサーさん…?」
P「ええ、なかなか良さそうな場所だったので……」
P(まさか隣の部屋にあずささんがいるなんて…)
あずさ(まさか隣のお部屋にプロデューサーさんが来るなんて…)
P「……」
あずさ「……」
あずさ「…?」
P「お蕎麦です」
P「定番すぎてつまらないかも知れませんが…」
あずさ「ありがとうございます~」
P「何はともあれ、これからよろしくお願いします」
あずさ「はい、こちらこそよろしくお願いしますね」
あずさ「仕事の打ち合わせがあるので、事務所に行く予定です」
P「そうですか…では朝一緒に行きましょうか」
あずさ「はい」
P「ではまた明日に」
あずさ「はい、おやすみなさい」
P「……どこだっけ?」
ゴソゴソ
P「この荷物も、いつ片付くやら…」
P「あったあった……と」ゴロン
P「それにしても……壁の向こうにあずささんが」
P「………」
あずさ「…プロデューサーさん、越したばかりで荷物も片付いてないんじゃ…」
あずさ「うん、お手伝いしなきゃね」
あずさ「……この壁の向こうに、プロデューサーさんが」
あずさ「………」
P「………」
P「はぁ、何やってんだか…」
P「……寝よう」
あずさ「………」
あずさ「はぁ、何してるんだろ…」
あずさ「……寝ましょう」
あずさ「……んぅ…」
あずさ「…すぅ………」
ピンポーン
あずさ「ふあい…?」
あずさ「今出ますよ~」
P「おはようござ………」
あずさ「……」
P「!?!?」
あずさ「……っ!?」
P「すすすいません!!」
あずさ「ご、ごめんなさいっ!!」
P(あずささんのパジャマ姿ぁぁぁぁ!!)
あずさ(寝起きの顔見られちゃった…!)
…
ガチャ
あずさ「お、お待たせしました~」
P「あ、いえ大丈夫です」
P「じゃあ行きますか」
あずさ「…はい」
P(気まずい…)
あずさ(気まずい…)
あずさ「私の方こそ…お騒がせしました」
P「いえ、貴重なものを見る事ができたので」
あずさ「もうっ!」
あずさ「恥ずかしくて、死んじゃいそうだったんですから…」
P「はは、すいません」
P「おはようございます」
あずさ「おはようございます~」
律子「おはようございます……あれ?」
亜美「…むむっ、何やらアヤシイ」
伊織「ただ車で送ってもらっただけでしょ」
あずさ「ええと、実は…」
伊織「えっ?」
あずさ「そうなの…私もびっくりしちゃって」
亜美「あずさお姉ちゃん」クイクイ
あずさ「…?」
亜美「うんめー、って奴だよ! きっと」
あずさ「……っ!!」
亜美「亜美は応援してるかんね!」
あずさ「亜美ちゃん…」
P「ん、まあ大丈夫だ」
伊織「きっとあずさも喜ぶわね」
P「え、何故」
律子「……はぁ」
伊織「朴念仁」
P「な、なんだよ」
律子「まあ、そうね」
P「……?」
伊織「じゃ、私たちはこれから打ち合わせだから」
律子「昼過ぎには終わる予定なので、終わったらあずささんを家まで送ってあげて下さい」
P「ん、わかった」
伊織(色々わかってないわよね…)
律子(間違いないわね…)
ガチャ
小鳥「おはようございます」
P「おはようございます」
小鳥「新しい家はどうですか?」
P「思っていたよりもずっといい所ですね」
小鳥「ふふ、それは何よりです」
P「いえ、何でもないです」
小鳥「…?」
P「まあとにかく、まだ荷物も片付けてない状態ですが」
小鳥「焦ることは無いですよ」
小鳥「配置を考えながらゆっくりやるのも楽しいですから」
P「そうですねぇ…」
P「…ええ、そこは問題なさそうですね」
小鳥「男ですか、女ですか?」
P「女性で、かなりの美人さんです」
小鳥「むむ、これはチャンスですよ!」
P「そうですかね?」
小鳥「押しが肝心ですからね」
P(そうは言ってもなぁ……)
…
あずさ「お待たせしました」
P「お、お疲れ様です」
小鳥「お疲れ様です」
P「では、俺はここで」
小鳥「はい、プロデューサーさんもお疲れ様です」
P「お疲れ様です……じゃあ行きますか」
あずさ「はい」
小鳥「…?」
小鳥「……何やら楽しそうな予感」
律子「実はですね」
律子「そんなこと言ってたんですか」
小鳥「本人の前で言ってあげたらいいのに…」
伊織「全くだわ」
亜美「兄ちゃんはニブチンだかんね」
P「……はくしゅん!」
あずさ「大丈夫ですか?」
P「いえ、誰かに噂でもされてるんでしょう」ズズッ
P「まだほとんど片付いてないので…コンビニの弁当で済まそうかと」
あずさ「……」
あずさ「もし良ければ…ご馳走しましょうか」
P「え?」
あずさ「迷惑でしたか?」
あずさ「はい、もらったお蕎麦のお返しだと思って下さい」
P「そうですか…ではお言葉に甘えて」
あずさ「よーし、頑張って作りますね」
あずさ「何かリクエストはありますか?」
P「そうだなぁ…カレーが食べたいです」
あずさ「そうと決まれば…お買い物をしなきゃ」
P「そうしましょう」
P「……」
あずさ「どうしました?」
P「あずささんにナビゲートされる日が来るとは思ってもいなかったので…」
あずさ「あっ、失礼ですね~」
あずさ「作ってあげませんよ?」
P「すいません! それは勘弁して下さい!」
あずさ「ふふっ」
あずさ「これだ!」
P「いい食材の見分け方、わかるんですか」
あずさ「いえ、実は勘で選んでいるんです~」
P「なんだか、あずささんらしくて素敵ですね」
あずさ「むっ、馬鹿にしてますか?」
P「そんな滅相もない」
あずさ「すいません…荷物持たせちゃって」
P「いえ、このくらいお安いご用です」
P「カレーの為の労力は厭わないですから」
あずさ「頑張ってくれたプロデューサーさんの為にも、腕によりをかけて作りますね」
P「期待してますね」
あずさ「はい、上がって下さい~」
P(当然、そうなるよな…)
P「お邪魔しまーす…」
あずさ「早速作りますから、くつろいで待っていて下さい」
P「はい」
P「……」
P「……落ち着かない」
律子『男性のハートを射止めるにはまず胃袋を掴めばOKです』
あずさ『それって、つまり…』
律子『手料理を食べさせてあげればイチコロですよ』
あずさ(ウソだったら…怒っちゃいますからね、律子さん)
あずさ「よし、頑張りましょー!」
P(あずささんがここで暮らしてるんだよな…)
P「いかんいかん、妄想するな」
P「忘れるんだ…」
あずさ「何をですか?」
P「ひゃい!? な、なんでも無いです!」
あずさ「もうすぐできますから、あとちょっと待っていて下さいね」
P「は、はい」
P(とんでもない発見をした)
あずさ「……?」
P(この人、エプロン似合いすぎだろ…)
P(なんだか夫婦みたいで素敵だ」
あずさ「…え?」
P「…あ!」
P「い、今のは…」
あずさ「……」
P「……」
P(沈黙が痛い)
あずさ(夫婦……私とプロデューサーさんが)
あずさ「……あ、お鍋火にかけたまま!」
パタパタ
P「……ふぃ~、助かったようなもどかしいような」
P(俺ってものすごいヘタレなんじゃ…)
あずさ「はい、お待たせしました」
P「おお……!」
P「早速ですが……いただきます!」
P「………う」
あずさ「う?」
P「うまぁぁぁい!」
P「何ですかこれ、美味しすぎますよ」
あずさ「そう言ってもらえると嬉しいです」
P「下さい!」
あずさ「はい、今持って来ますね」
あずさ「やった…!」
あずさ「ふふっ、これで一歩近付けたかな?」
P「こんなに幸せを感じる食事は久しぶりだ…」
P「毎日でも食いたいなぁ」
…
P「ご馳走様です」
あずさ「お粗末さまです」
P「こんなに美味しい料理、久しぶりでした」
あずさ「喜んでもらえて良かったです…頑張った甲斐がありました」
P「もう、毎日でも食べたいくらいですよ」
あずさ「……毎日、お作りしましょうか?」
P「え」
あずさ「なーんて、ふふっ」
あずさ「今度は、プロデューサーさんのお料理が食べたいです」
P「ぐぬぬ……いいでしょう」
あずさ「やった! 期待して待ってますね」
P「過度の期待はしないでくださいね……よし」
あずさ「あ、洗い物は私がやりますから」
P「そんな、悪いですよ」
あずさ「片付けまでが料理ですから、いいんです」
あずさ「いえ、私も楽しかったです」
あずさ「じゃあ、また明日会いましょう」
P「はい」
P「そうだ」
あずさ「……はい?」
あずさ「……!!」
P「では、お休みなさい」
バタン
あずさ「あ、あの……あ」
あずさ「……もうっ、いじわる」
P「まあいいや、ね……」
ピンポーン
P「ん?」
P「はいはい」ガチャ
あずさ「携帯電話、忘れてましたよ?」
P「」
あずさ「ふふ、うっかりさんですね」
あずさ「では、お休みなさい」
P「ちょ…」
あずさ「そうだ、プロデューサーさん」
P「はい?」
あずさ「今夜は、私の夢を見て下さいね」
バタン
P「………何度見てもいいなぁ、パジャマ姿」
P「今日はいい夢見れそう」
おしまい
いい夢を
Entry ⇒ 2012.10.10 | Category ⇒ アイマスSS | Comments (0) | Trackbacks (0)
白望「……ダルくないよ」塞「……え?」
塞「女同士が、何だって!?」
エイスリン カキカキ サッ『♀×♀=?』バッ
豊音「えっとえっとー……」
白望「ただの独り言だけど……」
塞「どんな経緯からそんな独り言が!?」
白望「……ダルい」
塞「シロ!」
胡桃「塞ちょっとうるさい!」
胡桃「シロ、何かあったの?」
白望「別にそういうわけじゃないけど……」
塞「じゃあどういうわけよ!?」
豊音「塞の目が血走ってるよー」オロオロ
エイスリン「♪」 カキカキ サッ 『<●> <●>クワッ』
白望「塞はどうして怒ってんの……?」
胡桃「そっちより質問に答えて!」
胡桃「うんうん」
白望「名前も知らない女の子に、告白されただけっていう……」
胡桃「ほうほう、なるほど、女の子に……告白、され……た……?」
胡桃「はぁぁぁぁぁぁぁ!?」
豊音「く、胡桃ー?」オロオロ
胡桃「何それ! 何それ!? シロに告白とか!! バッカみたい!!」
チョンチョン
白望「ん?」
エイスリン「ン!」→指差し
塞「orz」ズーン
白望「……」
胡桃「バカみたい! バカみたい! バーカーみーたーいー!!」
白望(なにこのダルい状況……)
ギャー!! ギャー!!
豊音「まったく収集つなかないよー」オロオロ
豊音「塞、塞はー」
塞「」
豊音「塞が息してないよー」ジワァ
豊音「誰か助けてよー……」シクシクシク
白望「よくわかんないけど……ダルいから泣かないで」ポンポン
豊音「うう、シロ~……」ギュッ
エイスリン「♪」 カキカキ
エイスリン サッ『ハートマークの絵』
塞・胡桃「……ハッ!?」
塞「シロ!その後の返事は!?」
胡桃「いえすおあのー! どっち!?」
白望「えーと」
塞「……」ゴクリ
白望「h」
胡桃「うわーー! わーー!!」
塞「胡桃うるさい!」
白望「二人ともうるさいけど」
豊音「全然事態が進まないよー」オロオロ
塞「ごめんシロ。 胡桃は黙らせたから」
胡桃「むー! むー!」←ガムテで口を塞がれました
豊音「ごめんねー」←胡桃を拘束しています
白望「えーと…………あれ」
塞「どしたの?」
白望「……どこまで話したっけ」
塞「もう! シロが女の子に告白されたって言ったんでしょ!!」
白望「あー……そっか」
エイスリン「♪」ワクワク
白望「うーん……」
白望「実はね」
塞「……」ゴクリ
豊音「……」ドキドキ
胡桃「……」ベリベリ←ガムテを剥がす音
エイスリン「♪」ワクワク
白望「返事――できなかったんだ」
塞「えっ?」
豊音「ど、どうしてー?」
白望「その子、終始一方的で……答える間もなく走り去っちゃったんだ」
胡桃「え? え?」
白望「えっと……まァ、そういうことで」
胡桃「どーゆうことさ!?」
豊音「胡桃、ちょっと落ち着いてー」アセアセ
豊音「シロ、それはつまりー」
胡桃「……言い逃げってこと?」
白望「……多分」
エイスリン「シロ、オイカケタ?」
白望「一応追ったけど、逃げられた」
豊音「……その娘、途中で怖くなっちゃったのかなー」
胡桃「モヤモヤが残りそうなやり方だよね……ってそうじゃなくてね!?」ドンッ
豊音「ひぅ!?」
白望「?」
胡桃「本題はそこじゃなくてっ、もっと別のところにあるでしょ!」
豊音「もっと別……?」
胡桃「うん、最も重大なこと! それは……」
エイスリン「シロジシンノ、キモチ!」
塞「」ピクッ
胡桃「それだよそれ!」
白望「私、の?」
胡桃「そう! その娘に告白されて、どう感じたか、どう思ったか! その辺りがいっちばん重要でしょ!」
白望「……私の気持ちかァ」
白望「んー……」ホッペポリポリ
胡桃「どう?」
白望「……今さらだけどさ」
胡桃「うんうん」
白望「恋愛って、男女間でするものじゃないの?」
胡桃「え!?」
豊音「へ?」
塞「……!」
エイスリン「?」
白望「みんな、何故か私に告白してきた女の子に対して何の疑問も抱いてないけど」
白望「……その辺り、どうなの?」
豊音「えっと、えーと……」オロオロ
胡桃「あー、うー……」アセアセ
塞「……」ズキ
白望「……ごめん、やっぱ今の質問はわすれ」
エイスリン「モンダイ、ナイ!!」グッ
一同「「「「!?」」」」
胡桃「え、エイちゃん?」
豊音「それってどういうー……」
エイスリン「……」 カキカキ
エイスリン「」 バッ
塞「……?」
胡桃「シロ、翻訳!」
白望「……『愛に形はない』かな」
エイスリン「」コクコクッ
エイスリン「♪」ニコッ
胡桃「でも、でもそれは……」
豊音「その、シロが言うように、やっぱり女のコ同士は……」
エイスリン「……」カキカキ バッ
白望「……『好きなものは好きなんだから仕方がない』?」
エイスリン「」コクコクッ
エイスリン「スキハ、スキ!」
塞・胡桃・豊音「「「!」」」
白望「……」
豊音「エイスリンさん……」胡桃「エイちゃん……」
エイスリン「」フンス
豊音「うわーん! なんだかとっても素敵だよーー!」ガバッ
胡桃「前から思ってた! エイちゃんってやっぱ天使だよ!」ガバァッ
エイスリン「What!?」
胡桃「もういいや! エイちゃん今日から私のモノね! 今日も一緒に帰ろうね!!」スリスリ
豊音「私も! 私も一緒に帰りたいよー!」ピョンッ ピョンッ
胡桃「トヨネの家は反対方向でしょ!!」
豊音「うぇぇぇぇんそぉだったぁぁぁぁー!!」グスグス
エイスリン「エ? エ?」
白望「……ダル」
塞(……好きは好き、かァ)
塞「あ」
塞(……そういえば、結局シロの話が曖昧になっちゃったな)
塞(まあ、いいか)
塞(シロもあんまり気にしてないみたいだったし)
塞(気にして……)ズキ
塞(……シロ)
胡桃「みんな、忘れ物はないー?」
豊音「問題ないよー」
エイスリン「ナイヨー!」
塞「おっけー」
白望「ダルい……」
塞「いつものことでしょそれ。 ほら立った立った」
白望「むぅ……」スッ
胡桃「じゃあ部室のカギ締めるよー」
豊音「はーい」
豊音「また明日ー!」フリフリ
塞「うん、お疲れー」フリフリ
白望「……」フリフリ
\エイチャン、テ、ツナゴッカ/// / \アッ、ズルイズルイー!/ \ミンナ、ナカヨシ!/
塞「本当、仲良いねぇあの三人」
白望「うん」
塞「私たちも、帰ろっか」
白望「」コクリ
――――帰路
白望「……」テク テク
塞「……」
白望「……」テク テク
塞「……」
白望「……」テク テ
白望「塞」
塞「なに?」
白望「んー……」
白望「……あのさ」
塞「うん」
白望「……ごめん、やっぱり何でもない」
塞「え?」
白望「……」
塞「えと……シロ?」
白望「……」ハァ
塞「無言でため息を吐かれた!? ちょちょ、どうしたってのシロー!?」
塞(私なにかしたっけ!? え? え!?)アタフタ
白望「……」クス
塞「!?」
塞(い、いま一瞬だけ……)
塞(……シロの、口元が緩んだ――!?)
塞「……」チラッ
白望「……なに?」
塞「あ、いや、別に」
塞(……気のせい、なのかな)
塞(いや、でもあれは確かに……)
塞「んぅ……?」
白望「塞」
塞「!?」
塞「な、に?」
白望「止まってるよ」
塞「な……なにが?」
白望「……足」
塞「あっ、ご、ごめん」
白望「……」
塞「うぅ……」
塞(さっきのは見間違いだったのかな……)
塞(……いや、でもあれは間違いなく)
塞(……)
塞(シロの笑顔、か)
塞(……きっと超絶可愛いんだろうなぁ)
塞(――いや、どっちかというと格好いいのかな?)
塞(男装とか似合いそうだし……)
塞(……まあ、それはそれで……)
塞(あぅ///)
白望「……?」
ピタッ
塞「ん」
白望「うん」
塞「それじゃ、私こっちだから」
白望「うん」
塞「それじゃ、また明」
白望「塞」
塞「た……え?」
白望「……」ジー
塞「し、シロ?」ドキッ
白望「……」
白望「……ん、また明日」
塞「う、うん……また明日」フリフリ
テク テク
テク テク
……
――――
――――
塞「なん、だったのかな……」
塞(あの、シロの眼……)
塞(何かを、探るような……見極めてるような)
塞(そういう、眼だった)
塞(……)
塞(考えても仕方がない、か)
塞(わからないのなら、本人に聞けばいいんだ)
塞(うん)
塞(明日、聞いてみよ)」
塞(……ま、十中八九はぐらかされると思うけどね)
――――翌日
塞「おっはよー」フリフリ
白望「うん」
塞「待たせた?」
白望「……今来たとこ」
塞(……待たせたかな、こりゃ)
塞「……それじゃ、行きますかー」
白望「うん」
塞(……本当、優しいんだから)
胡桃「おいっす、お二人さん!」ギュー
エイスリン「Good morning!」ナデナデ
塞(うわ、なにそのベタベタっぷり)
塞「お、おはよー」ヒク
白望「……」フリフリ
塞「(……何かやけにベタベタしてない?)」
白望「(……昨日の帰り際に、何かしらあったのかも)」
塞「(にしたってこれは……)」
胡桃「エイちゃんは温かいなぁー」スリスリ
エイスリン「クルミ、クスグッタイ///」
塞「(……進展し過ぎじゃない?)」
白望「(……昨日のあれそれが影響してるんじゃないかなァ)」
塞「(だよねぇ……)」
塞(あんな話をした翌日にこれだもん……)
塞(……羨ましいな)
塞(あっ)
塞(いやいやいや!)ブンブン
塞(思ってない! そんなこと考えてないから!)
塞(私もシロに抱きつきたいとかそんなことは全然っ……ハッ!?)
「――え」
塞(いやでもシロの身体って女っぽいし、かなり抱き心地良さそう……)
「塞」
塞「!?」
塞「なななななななにっ!?」
白望「……いや、ボーっとしてたから」
塞「シロに言われると何かショックだわそれ……」ズーン
白望「え、ごめん」
塞「……あれ? 胡桃たちは?」
白望「先に行っちゃったよ」
塞「え!?」
白望「なんかあの二人の世界が出来上がってたから……塞がボーっとしてる内に置いていかれた」
塞「なんつーバカップルよそれ……」
白望「……まあ、仲が良いのは悪いことじゃないし」
塞「そりゃそーかもしれないけど……」
塞(……シロから見て、あの二人の関係がどう見えてるのかが重要なわけで)
※塞シロ組。胡エイ組と合流。
豊音「みんなーおはよー!」ブンブンッ
塞「おはー」白望「ん」
胡桃「はいはーい」スリスリ
エイスリン「オハ、ヨー!」ニコニコ
豊音「……んん?」キョトン
塞(あ、気付いた)
豊音「(……胡桃たち、何かあったのー?)」
塞「(わっかんない)」
白望「(会った時からこんな感じだったよ)」
豊音「(へぇー!)」
豊音「何だかとっても微笑ましいね!」キラキラ
塞「それは否定しないけどさー」
塞「っていうか、豊音は昨日一緒に帰ったんじゃないの?」
豊音「んーんー。 一緒に帰ったのは途中までだからー」
塞「じゃあ、別れた後に何かがあったのか……」
白望「……」
豊音「シロー?」
白望「……また置いてかれてるよ、私たち」
塞「また!?」
トコトコ
塞「うー……マイペース過ぎるでしょあの二人」
豊音「桃色の空気が流れてたねー」
塞「だよねぇ。 あんなに引っ付いちゃって、お熱いわー」
白望「……エイスリンの抱き心地の良さは認めるけどね」
塞「あれ? それさらっと凄いこと言ってない?」
豊音「確かにエイスリンさんって温かいよね!」
白望「うん」
塞「あれ!? もしや私だけ出遅れてない!?」ガビーン
――――学校、到着
塞「着いたァー……」
白望「……大丈夫?」
豊音「まだ授業前だけど、疲れちゃった?」
塞「だいじょぶだいじょぶ。 朝からお腹いっぱい過ぎて疲れただけだから」
胡桃「だらしないなぁ、塞はー」
塞「主にアンタらが原因だけどね……」
エイスリン「」カキカキ
エイスリン「」サッ
白望「……『具合悪いなら保健室行く?』だって」
塞「平気だって。 エイスリンは優しいなァ」ナデナデ
エイスリン「///」
胡桃「むむ!」
塞「じゃ、また後でねー」
白望「……うん」
エイスリン「♪」フリフリ
――――
塞「やっぱあの二人も仲良いよね」
胡桃「私とエイちゃんほどじゃないけどね!」
塞「むむ、惚けるねぇ」
胡桃「フフン!」
塞(時折、本当に同い年かと疑ってしまうのは私だけじゃないよね……?)
豊音「あぅぅー、一人ぼっちは寂しいよー!」グスグス
塞「いや泣くほどのことじゃ……」
胡桃「豊音ってクラスじゃ弄られキャラでしょ? 別に寂しくないじゃん」
豊音「確かにみんなみんな仲良くしてくれるけどー、塞たちと一緒にいられないのが寂しいんだよー!」グスグス
塞「はいはい。 授業中にメールしたげるから、今は我慢しときなさい」
胡桃「携帯禁止!」
塞「えー?」
塞「胡桃は豊音が可哀想じゃないのー?」
胡桃「規則が大事!」
塞「なら……この豊音を直視しながら同じ台詞を言ってみろー!」→豊音「うぅ~」ウルウル
胡桃「…………クッ」
胡桃「……きょ、今日だけ特別ね! と・く・べ・つ!」
塞「はいはいっと、特別特別ー」
豊音「胡桃優しいー♪」ガバッ
胡桃「うわっ、重い! トヨネ重いー!」ジタバタ
――――放課後
胡桃「さてさて、部活部活っと」
塞「おー、やる気だねぇ」
胡桃「シロたちはまだ教室かな?」
塞「どうだろね。 とりあえず覗いてみようよ」
胡桃「だね。 行こ行こー」
ガラガラ
塞「ん?」
塞(シロが……いない?)
胡桃「エイちゃーん!」タタタッ バッ
エイスリン「クルミ!」パァッ
胡桃「会いたかったよぉ!」スリスリ
エイスリン「ワタシモ!」ナデナデ
塞「お昼一緒に食べてたじゃん……って聞いてるわけないかー」ハァ
塞「エイスリン、まさかと思うけど……シロは先に部室行ったの?」
エイスリン「」フルフル
塞「だよねぇ……」
胡桃「帰ったってわけでもなさそうだね。 鞄残ってるし」
塞「エイスリンは何か聞いてる?」
エイスリン「シロ、ヨウジ、アル!」
塞「あれ、そうなの?」
エイスリン「」コクコクッ
胡桃「シロが用事……珍しいね」
塞「だねぇ」
胡桃「とりあえず、先に部室行ってよーか」
塞「うん。 教室で弄り倒されてるであろうトヨネを救いがてら、ね」
胡桃「エイちゃんはどうする?」
エイスリン「」カキカキ
エイスリン「」サッ
塞「……エイスリンとシロの、絵?」
胡桃「これは多分……シロから『先に行ってていいよ』って言われた的な意味じゃないかな」
エイスリン「♪」コクコクッ
塞「おお、正解っぽい!」
胡桃「フッ、さすが私」ドヤァ
塞「殴ってもいい? というか殴る」
胡桃「痛い!」ペシッ
胡桃「シロの鞄どうしよ」
エイスリン「ワタシ、モツ!」
塞「ならメールで伝えとこっか」スッ
胡桃「なんて?」
塞「『お前の鞄は預かった。 返してほしくば部室まで来い! byクルミ怪人』」
胡桃「なんで脅迫気味なの……しかも怪人て」
エイスリン「カイジン! モンスター!」キラキラ
胡桃「そこ喜ぶポイントなんだ!?」
――――
ガラガラ
塞「トヨネいるー?」
豊音「ふぇぇぇぇぇん塞ぇぇぇぇぇぇぇ!」ガバァッ
塞「うわぁ!?」胡桃「どしたのトヨネ」
豊音「みんなが意地悪するんだよぉぉぉぉ!」グスグス
塞「へー」
豊音「私のこと八尺様って呼ぶんだよぉぉぉぉ私八尺様じゃないのにぃぃぃぃぃぃ」グスグス
塞「おーよしよし」ナデナデ
豊音「うぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇん!」グスグス
エイスリン(カワイイ)
胡桃(かわいい)
塞(かわいい)
胡桃「もう……あの娘らにはまた説教しなきゃね!」
豊音「だ、ダメだよー、みんなに悪気はないんだからー」オロオロ
胡桃「どうしてトヨネが庇うの!?」
豊音「だってだってー……」オロオロ
塞「もうこれも毎度のやり取りね」
エイスリン「オナジミハ、ダイジ!」
塞「確かに、見てる分には飽きないかも」
エイスリン「♪」ニコニコ
――――部室
豊音「え、シロが?」
胡桃「そうそう」
塞「何か用事があるらしくてさ」
エイスリン「メズラシイ!」
塞「もしかしたら、どっかで寝てるだけかもね」ケラケラ
胡桃「あり得るよ、シロなら」
豊音「でもでもー、さっきおそーじしてる時に廊下歩いてるの見掛けたよー?」
胡桃「へー」
豊音「何となくキョロキョロしてた気がするけどー、何でだろー?」
塞「キョロキョロ、ねぇ」
胡桃「ま、その内来るでしょ。 ダルいダルい言ってても何気にサボったことないし」
豊音「実はしっかりものだよねー」
エイスリン「シロ、エライ!」フンス
塞「それでも基本は怠け者だけどねぇ」
豊音「アハハッ」
胡桃「間違いないねー」ケラケラ
塞「四人いるし、そろそろ始めよっか」
豊音「わーい!」ピョンッ ピョンッ
エイスリン「♪」ワクワク
胡桃「今日は勝つよ!」
豊音「させないよー♪」
エイスリン「マケナイ!」
塞「それじゃ場決めから行くよー」
――――
――
塞(……そういえば)タン
塞(シロに昨日のこと聞くの、すっかり忘れてた)
塞(朝も昼もタイミングはあったのに)
塞(昨日からどこか抜けてるな、私……)
塞(でも考えてみれば……)タン
塞(二人きりの時に聞いた方が良い気がするし……)
塞(今日の帰りでも、いいかなぁ)タン
塞「あ、それロン、7700」
胡桃「ぐぁー!」
――――半荘終了
豊音「トップだよー!」キャッ キャッ
塞「まあ、妥当なところかな」←二位
エイスリン「クヤシイデス……」←三位
胡桃「焼き鳥じゃないもん……一回は和了ったもん……」←四位
塞「一回の和了でもあんなに低い打点じゃ、焼き鳥と変わらないんじゃない?」ニヤニヤ
胡桃「うぐぅっ」
エイスリン「サエ、イヂワル!」
豊音「いじめっこみたいだねー」
塞「敗者に口無し、ってね!」
胡桃「うぐぐぐっ」
ガチャリ
白望「ごめん……遅くなった」
豊音「あっ、来たー」
エイスリン「シロ!」
胡桃「ほんとに遅いよー?」
白望「知ってる。 ……だから、これ」スッ
豊音「おぉー」
エイスリン「――ジュース!」パァッ
白望「適当だけど、受け取って……」
胡桃「はいはい、お礼は言わないよー♪」
白望「うん」
塞(……ちゃんと皆の好きな種類が揃ってる。 相変わらずというかなんというか……)
白望「塞も、はい」
塞「さんきゅ」
白望「はぁ……ダルかった」プルプル←腕を振る音
塞「お疲れ様」
塞「……何やってたの?」
白望「あー……うん」
白望「……気が向いたら、話す」
塞「……ん」
塞(多分、教えてくれないんだろうなぁ)
胡桃「それじゃあドベの私が抜けるから……シロ! 仇は任せた!」
白望「え、やだ」
胡桃「たまにはノってくれても罰は当たんないでしょ!」
白望「……ダルい」
胡桃「……ですよねー」
エイスリン「マカセテ、クルミ!」
胡桃「エイちゃん!」ガバッ
エイスリン「カタキ、トル!」ナデナデ
胡桃「うん、お願い///」ギュッ
塞「……もうお腹いっぱいなんだけど」
豊音「微笑ましくてちょーかわいいよー」
白望「……ダル」←トップ
塞「意外な結果になったねー?」←二位
エイスリン「カタキ、トレナカッタ……」シュン←三位
豊音「まんまと塞がれたよー……」グスグス←四位
胡桃「エイちゃんは悪くないよ……悪いのはあのボンバーマンだよ!」ビシィッ
塞「超失礼だからそれ!」
――――帰り道
テク テク
塞(……さて)
塞(いつも通り、シロと二人で帰路についてるわけだけど)
塞(あー……)
塞(……切り出し方がわからない)
塞(ストレートに聞く? 変化球で攻める? それとも――)
白望「塞」
塞「あ、なに?」
白望「危ないよ……目の前」
塞「え?」クルッ
│電柱│←塞「うぉ!?」
白望「……前見て歩かないと」
塞「う、うん。 ありがとシロ」
白望「……何か悩み事?」
塞「へ?」
白望「さっきからずっと、難しい顔してるから」
塞「あー」
塞「……うん。 まあ、ちょっとね」
白望「聞かない方がいい?」
塞「んーん。 むしろ、今その悩みを解決させてもらおうかな」
白望「?」
塞「――単刀直入に聞くよ、シロ」
白望「……うん」
塞「昨日の帰り際、シロは妙な雰囲気だった。 その理由を、教えてほしい」
白望「……」
塞「」ジッ
白望「……」
塞「……やっぱり答えてくれない、か」
白望「……」
塞「そっか」
塞「……やっぱ、気が向くまでは、教えてくれないつもりなんだ?」
白望「……」
塞「だんまりね……」
塞「……わかった」
白望「……塞」
塞「や、ごめん。 気にしないで。 答えたくないことだって、そりゃあるよね……うん、わかってる」
白望「……」
塞「誰しも、あるものだよね。 秘密というか、言いたくないこととか……」
白望「……」
塞「……ほんと、ごめん」
白望「……塞」
塞「さっ、日も暮れてるし、とっとと帰ろーよ」
白望「……うん」
白望(……ごめん)
――――翌日
胡桃「え、今日は部活出られないの?」
白望「うん」
豊音「どうしてー?」
白望「外せない用事があって」
エイスリン「サビシイデス……」シュン
白望「ごめんね」
塞「……」
白望「明日は普通に出られるから」
胡桃「差し入れを持ってくるなら許してあげよう!」
白望「……それはちょっとダルい」
豊音「アハハっ」
――――授業中
教師「――であるからして……」
塞(……シロ)
塞(用事って、なんだろ)
塞(放課後に、何やってんのかな)
塞(……)
塞(どうして私は、こんなにも不安な気持ちになってるんだろう?)
塞(何があったわけでもないのに)
塞(……いや)
塞(なかったとは、言えないか)
塞(……確かにあったよね、特別なこと)
塞(やっぱりそれが……?)
塞(……)
――――昼休み
胡桃「塞ー、お昼行くよー」
塞「ああ、うん」
胡桃「よっし、今日こそ私からエイちゃんに『あーん』してやるぞー」
塞「そうだね」
胡桃「あれ……?」
塞「どしたの?」
胡桃「あ、いや、なんでもない」
塞「?」
胡桃「(いつもなら何かしら突っ込んでくるのに……)」
胡桃「(……うーん)」
ガラガラ
胡桃「エイちゃーん!」ヒラヒラ
エイスリン「!」
エイスリン「クルミ! サエ!」パァァッ
塞「やっほー」
エイスリン「」カキカキ
エイスリン「」バッ!
塞(山? に、人が……反響?)
塞「……し、シロ翻訳!」
塞「ってあれ!? いないの!?」
胡桃「戸を開いた段階で気付かなかったの……?」
胡桃「エイちゃんや、シロさんはどこぞに行ったのかね」
エイスリン「」チョイチョイ
胡桃「?」スッ…
エイスリン「(シロ、ヨウジ)」
胡桃「(え、また?)」
エイスリン「」コクコクッ
胡桃「(……そか、わかった)」
塞「なにコソコソ話してんの?」
胡桃「ちょっとね。 それよりシロだけど、なんか先生に呼び出されたっぽいよ?」
塞「? 何だって呼び出しなんか」
胡桃「提出物でも出し忘れれたとかじゃない? あるいは、居眠りのしすぎで指導、みたいな」
塞「ふぅん……」
塞「まあ、シロならあり得るかー」
胡桃「だよねー」ケラケラ
胡桃(後でシロに謝礼を要求しよう、うん)
塞「」モクモグ
エイスリン「クルミ、アーン」
胡桃「あーんっ」パクッ
胡桃「んん~、おいひぃ♪」
エイスリン「♪」ニコニコ
塞「……」モクモグ
塞「……」ゴックン
塞「……」
塞(……誰かこの桃色空間どうにかして)ズーン
――――5時限目
塞(……結局、シロは昼休みが終わるギリギリの時間まで、教室に戻ってこなかった)
塞(それとなく尋ねてみたら、同様にそれとなくはぐらかされた)
塞(胡桃たちに聞いても、困惑気味に首を傾げられた)
塞(程なくしてチャイムが鳴って、タイムオーバー)
塞(せっかくのシロと話せる機会が、また失われた)
塞(神様は……いぢわるだ)
――――
塞(……どうしてだろう)
塞(酷く、落ち着かない)
塞(肩が重い)
塞(思考がまるで働かない)
塞(授業の内容なんて、これっぽっちも頭に入ってこなかった)
塞(……唯一頭に浮かぶのは、あいつの顔)
塞(あいつのダルそうな顔だけ)
塞(……シロ)
塞(……息苦しい)
塞(胸の奥が、ざわめいてる)
塞(私……動揺してるの?)
塞(……どうして?)
塞(……シロが、どこか遠くに行ってしまいそうな、言い知れぬ不安を感じるから……?)
塞(そんなわけ、ない)
塞(シロが、離れていっちゃうなんて、そんな)
塞(そんなわけ……)
塞(……)
――――放課後
胡桃「さてさて、今日も部活頑張るよー」ヨイショ
塞「……うん」
胡桃「今日こそ雪辱を晴らすからね、覚悟しておくといいよ!」
塞「……うん」
胡桃「……」
胡桃「私とエイちゃんの相性は最高だよね!」
塞「……うん」
胡桃「だめだ、完全に心ここに在らずになってる」
胡桃「塞ー? 帰ってこーい」ペチペチ
塞「……うん」
胡桃「困ったなー……」
――――部室
胡桃「無理矢理連れてきたはいいけど……」
エイスリン「ウー……」
豊音「さ、塞ー……?」
塞「うん」ポケー……
胡桃「午後からずっとこんな感じだから、さすがに困っちゃって」
豊音「何があったのー……?」
胡桃「……私も、詳しく知ってるわけじゃないんだけどね」
胡桃「多分――」
胡桃「とまぁ、かくかくしかじかで」
豊音「昨日のお話の延長上にあるのかなー……?」
胡桃「多分、ね」
豊音「……胡桃ー。 実は大したことじゃないかなーって、黙ってたことがあるんだー」
胡桃「なになに?」
豊音「えっとねー……」ゴニョゴニョ
胡桃「ふんふんふん…………えっ?」
胡桃「(人を、捜してるの? あのシロが? ……誰を?)」
豊音「」コクコクッ
豊音「噂が色々あるから、『誰を』まではわからなくって。 ただ、学校中を捜し回ってるみたいなんだー」
胡桃「あのシロが、そこまでして捜す相手って……?」
豊音「何者だろうねー……」
胡桃「想像もつかないよ……」
エイスリン「ハイ」ピンッ
豊音「?」
胡桃「どしたの、エイちゃん」
エイスリン「コタエガワカッタ、カモデス!」
胡桃「え……」
豊音「シロの捜してる人がわかったのー!?」
エイスリン「タブン!」
胡桃「じゃ、じゃあちょっと耳打ちで……」
エイスリン「エーット……」ゴニョゴニョ
胡桃「な、なるほど……」
豊音「確かにその線が濃厚かもー……」
エイスリン「」フンス
胡桃「でも」スッ
胡桃「(それ、今の塞には伝えない方が無難かも)」
胡桃「(朝から色々と思い悩んでたみたいだし、昼休みの間も様子がおかしかったからねー……現に今だって)」チラッ
胡桃「ってあれ!?」
豊音「さ、塞がいなくなってるー!?」
エイスリン「!」
エイスリン「クルミ! トヨネ!」
豊音「うん!」
胡桃「捜さないとまずいね! 行こう!」
――――
白望「……やっと見つけた」
――――
タッタッタッタッ
塞(……)
塞(シロに、)
塞(シロに会わなきゃ)
塞(会って、話をして)
塞(それから……)
塞(……それから?)
塞(……何で走ってんだろ、私)
塞(シロがまだ学校にいるかどうかも、わかんないのに)
塞(……)
塞(っ!)
塞(靴箱! 靴箱を見れば!)
塞(……よしっ)タッ
塞(シロの靴箱は確か……)
塞(!)
塞(外靴……)
塞(シロは、まだ学校にいるんだ)
塞(胡桃たちの話、やっぱ本当なのかも……)
塞(でも)
塞(それならなんでシロは、その子のこと……)
塞(……ダメだ)
塞(嫌な未来しか、想像できない)
塞(……会いたい)
塞(会って、直接シロに訊きたい)
塞(『何してんの?』って)
塞(……それでどう転ぶかは、わかんないけど)
塞(でも)
塞(それをしなきゃ、私は前に進めない気がするから)
塞(だから私は)
塞(……)
――
ガラガラ
白望「……ふぅ」
白望(……ダル)
白望(慣れないこと、したもんなァ)
白望(我ながら情けない)
白望(でも……)
白望「……」
白望(……帰ろう)
トボ トボ トボ トボ
白望「」チラッ
白望(16時過ぎ、か)
白望(塞たちは、楽しく打ってるかな)
白望(んー……)
白望(……無駄な心配かァ)
白望(あ)
白望(……自販機)
白望(お財布は)スッ
白望(……軽い)
白望(……ダル)
白望(……帰ろ)
白望()トボトボ
白望(……んー)
白望(……なんか)
白望(……空しい)
白望「……はァ」
?「――――見つけた!」
白望「!」
白望「どうして、ここに」
白望「――塞」
塞「……シロ」
白望「……」
塞「用事があるって、言ってたよね」
塞「それ……もう済んだの?」
白望「……はァ」
白望「しくじったなァ……」
塞「……どういう、意味……?」
白望「……」
白望「ついてきて」
塞「っ」
塞「……」コクリ
白望「ここなら、いいかな」
塞「」コクリ
白望「ん……」カミクシャ
白望「……本当は、明日にしようと思ってたんだけど」
塞「なにが……」
白望「まあ、いいか」
白望「これも多分、“そういうこと”なんだろうし」
塞「だからなにが」
白望「塞」
塞「っ!」ビクッ
白望「塞は、どう思う?」
白望「……同性間の、恋愛について」
塞「!」
塞「な、なんでまたそんなこと……」オロ
白望「聞かせて」ジッ
塞「っ」
塞「私、は……」
塞「互いに、好き合ってるんなら……」
塞「当人たちが、受け入れているなら」
塞「……そこに、性別は関係ない……と思ってる」
塞「だって、仕方ないし」
塞「たまたま好きになった相手が同性だった、ってだけだもん」
塞「好きなものは好き。 エイスリンが言ってたように、それが真理なんじゃないかなって」
塞「そう、思ってるよ」
白望「……」
白望「……」
白望「塞の意見はわかった」
白望「……ごめんね」
白望「私はずるいことをした」
塞「……?」キョトン
白望「……」
白望「塞」
塞「な、なに?」
白望「……あのね」
白望「何となく、塞が勘違いしていそうだから」
白望「敢えて……暴露する」
塞「……」
白望「私は普段……超が付くほどの物臭だけど」
白望「……塞と、一緒にいるのは」
白望「……ダルくないよ」
塞「……え?」
塞「あの、えと、それって……」
白望「……ん」ギュッ
塞「ふぇっ!?」
塞(こ、腰に手を回されてっ……)
白望「――これなら、伝わる?」キュッ
塞(シロの目が、いつもとちがう……)
塞(そんな……そんな真剣な眼差し)
塞「……ずるいよ、シロぉ……」ポロ
白望「……うん、知ってる」
白望「……塞」
塞「…………うん」キュッ
白望「返事……聞かせてくれる?」
塞「……」
塞「……」ギュー
白望「!」
塞「えへへ……」
塞「……これじゃ、答えにならないかな?」
白望「……」
白望「大丈夫……ちゃんと、伝わってきた」キュッ
塞「……」ギュウー
白望「ん……」
塞「心臓、早くなってるよ」
白望「塞こそ」
塞「……バレたか」クスクス
白望「体……温かいね」
塞「そりゃあ……シロに抱き締められてるし?」
白望「照れてるってこと?」
塞「有り体に言えばそうなる」
白望「言わなくてもそうなるよ?」
塞「う、うるさいな///」
塞「それより……ごめんね」
白望「なにが」
塞「や、その……私」
白望「誰も悪くない」
白望「悪くないから」
白望「……謝らないで」ナデナデ
塞「……そういうの、本当ズルいよ」カァァ
白望「そう?」
白望「……そうかもね」ナデナデ
塞「……///」
白望「もう一つ、おまけに暴露しとこう」
塞「なに……?」
白望「実は私のコレは……三年前から」
塞「……え?」
塞「こ、“コレ”って……“ソレ”?」
白望「うん」
塞「ええええええ!?」
白望「そんなに驚くこと?」
塞「びっくりもするでしょ!?」
塞「だってっ……だって……」
塞「シロが、三年も前から私のこと…………なんて///」
白望「迷ってたから」
塞「う、ん」
白望「ずっとずっと、迷ってたから」
白望「……麻雀の時みたいに」
白望「……迷って、迷って、迷い続けて」
白望「ようやく最近、決心がついたんだ」
塞「うぅ~……///」
白望「質問していい?」
塞「……答えられる範囲なら」
白望「塞は、いつから?」
塞「それは答えられない範囲」
白望「不公平」ジッ
塞「は、恥ずかしいから……」テレ
白望「答えないと」
塞「……ないと?」
白望「……塞いじゃうよ?」
塞「だからそーいうのズルいってぇ……///」
白望「ごー、よーん、」
塞「うっ」
白望「さーん、にーい、」
塞「うぅぅっ」
白望「いーち、」スッ
塞「に、二年前!」
白望「ん……」ちゅっ
塞「んん!?」
塞「けけけ結局するんじゃない!///」
白望「コンマ2秒、言うのが遅かった」
塞「そんなのズルい!」
白望「ズルい、って今日だけで何回言ったかな」
塞「シロがそーゆーことばっかりするからでしょー……」
白望「それにしても」
白望「二年前かァ……」
塞「う……」カァァ
白望「きっかけは?」
塞「……ヤダ、言いたくない」
白望「また塞い」
塞「にっ、2年に進級した時にっ」
塞「……シロとクラスが別れてから、色々あって」
白望「色々って?」
塞「い、色々はいろいろ……」
白望「詳しく聞きたい」
塞「なんでこーゆー話題に限ってそんな積極的なの!?」
白望「好きな人の話が気になるのは当たり前のことじゃ」
塞「っ~~!!」カァァ
塞「バカ! シロのアホ! タラシ!」
白望「……タラシは心外だなァ」
塞「そ、そういうシロは……どうなのよ」
白望「気になるの?」
塞「当たり前でしょ! だってその、私はシロが……」モジモジ
白望「……かわいい」ボソッ
塞「そっ、そーゆーのはいいから! きっかけ!」
白望「直感的に」
塞「えっ?」
白望「一目見た瞬間、思ったんだ」
白望「『私この人好きだ』って」
塞「そ、それってっ」
白望「一目惚れに近いかなァ」
塞「あぅぅ///」
塞「なにそれ、何なのよそれぇっ///」ジタバタ
白望「本当のことだよ」
塞「くぅぅっ!」ドタバタ
白望「塞ちょっと落ち着いて」
塞「ムリに決まってるでしょ!」
白望「……わかった」
ギュッ
塞「あっ……」
白望「力ずくで、黙らせよう」ナデナデ
塞「っ~~……」カァァ
塞「……なんか、さっきから抱き合ってばっかりだね、私たち」
白望「嫌?」
塞「ううん」フルフル
塞「むしろ…………好き」
白望「よかった」ナデナデ
塞「ん……」
塞「ねぇ、シロ」
白望「なに?」
塞「……さっきまで、どこで何をしていたの?」
白望「……多分、塞の想像通りだと思うけど」
塞「……告白してきた子に関係することだよね?」
白望「うん」
塞「……何のために?」
白望「ケジメをつけるために」
塞「そっか……」
白望「……あの子には、酷なことをした」
塞「……だとしても」
塞「それが、シロなりの誠意の見せ方だったんでしょ?」
塞「なら、それで十分だと思うんだけどなァ……」
白望「塞……」
白望「……ありがと」キュッ
塞「ん」
白望「塞」
塞「ん?」
白望「目、閉じて」
塞「ん……わかった」スッ
白望「……」チュッ
塞「んっ」
塞(シロの手が、頭の後ろに回って……)
塞(優しく撫でられて……)
塞(なんか……頭ん中ふわふわしてきちゃう)
塞(あー……まずいなぁ……)ギュウ
塞(このままずっと抱きついてたいなー……)ギュウウ
塞(……シロの体、色々と柔らかいしさー)ギュウウウ
白望「塞」
塞「なぁにー?」
白望「甘えてくれるのは、嬉しいんだけどさ」
塞「んー」
白望「――部活、戻んなくていいの?」
塞「えー?」
塞「……」
塞「……」チラッ→時計見る
塞「……」
塞「完っ全に忘れてたー!!」
――――
エイスリン「サーエー!」
豊音「どこにいるのー? おーい!」
胡桃「はぁー……見つからないねぇ」
豊音「もう帰っちゃったのかなー?」
胡桃「いや、靴箱に外靴残ってたし、校内のどっかにいるのは間違いないよ」
エイスリン「……チョット、ツカレマシタ」シュン
胡桃「うーん……とりあえず一回部室に戻ろっか? もしかすると、戻ってきてるかも」
豊音「はーい……」
――――
白望「部室、戻らないの?」ポンポン
塞「……ダルくて動けないー」ギュー
白望「それ私の台詞……」
塞「おんぶしてー……」
白望「……」スッ
塞「なんてね。 今いk……ってうわっ!?」
白望「部室、連れてくから」ヒョイ
塞「あわわわっ」
塞(本当におんぶされちゃったよ///)
白望「私の鞄持っててくれる?」
塞「え、あっ、はい」
白望(塞、軽いなァ……)
塞(シロ、温かいなァ……)
トボ トボ
塞「ね、ねぇ、やっぱり自分で歩くから下ろしてっ」
白望「ダメ」
塞「なんで!? いくら人気がないからって、さすがに恥ずかしいんだけど!」
白望「私がやりたいからおんぶしてる。 はい、交渉決裂」
塞「シロのくせにアグレッシブすぎる!!」
白望「まあまあ」
塞「しかも適当に押し切られるだなんて……っ!?」
白望「とーちゃく」
塞「そうこうしてる内に着いてしまった……」
白望「塞、鞄ありがとう」
塞「あ、こちらこそ」
塞「って何かこのやり取り妙じゃない!?」
白望「ほら、入ろう」
塞「しかもいつも以上にマイペースだね!?」
白望「入らないの?」
塞「ま、待ってっ……色々と心の準備が……さっきなんて部室飛び出してきちゃってたし……」
白望「……」
白望「」クルッ
塞「シロ? 急に振り返って、どうし――」
チュッ
塞「っ!?」
白望「……ん……」
塞「ん、んっ……ちゅっ……」
塞「……ぷはっ」
塞「な、なんなの!?」カァァ
白望「……」
白望「隠すつもりなんて、ないからね」
塞「……え?」
白望「部活中でも、堂々といちゃつきたいし」
塞「や、そっそれはさすがに控えた方が、ねっ!?」
白望「どうして?」
塞「そりゃ、恥ずかしいから……」
白望「ならなおさらいちゃつかないと」
塞「なんで!?」
白望「……照れ顔が見たいから?」
塞「却下! ぜったい却下!///」
白望「無効」
塞「なんで!?」ガビーン
白望「私が法だから」
塞「意味わかんないだけどっ///」
塞「もう……」
塞「わかったよ……」
塞「……皆になんて説明しよっか?」
白望「……適当に」
塞「相変わらず無計画なのね……」タハハ
白望「……あ」
塞「どうしたの?」
白望「差し入れ……持ってきてない」
塞「……明日の予定だったし、別にいいんじゃない?」
白望「胡桃に叱られる……」
塞「っていうか私も叱られるわ……多分」
白望「塞と一緒ならいいや」
塞「切り替え早いね……嬉しいけどさ」
白望「……そろそろ入ろうよ」
塞「そうだね……うん、覚悟決めた!」
白望「行けそう?」
塞「平気平気! シロこそダルくない?」
白望「大丈夫だよ」
白望「何があっても」
白望「塞と一緒なら」
白望「……ダルくないから」
塞「……うんっ」
カン!
塞「あ、こら。 髪の毛触っちゃダメだってば」
白望「……なんで?」
塞「集中できないのっ。 そーゆーのは後でいくらでもしていいから今は、ね?」
白望「……待つのがダルい」
塞「そう言われてもねー……んー」
塞「あ、そうだ」ピンッ
塞「シロ、手出して」
白望「……」スッ
塞「ん、それをこう、私のお腹の方へ回して……」
白望「あ」
塞「じゃじゃんっ。 どう? 胡桃にしてたみたいに、この密着感があればちょっとは我慢できない?」
白望「いい、凄くいい」bグッ
塞「でっしょー?」ニコニコ
胡桃「ちょっと待てそこのお二人さん!!」
塞「なにー?」ニコニコ
白望「どうしたの胡桃」
胡桃「今っ、私たちは何をしてる最中だっけ!?」
白望「?」キョトン
塞「麻雀だけど?」キョトン
胡桃「そうだね! 対局中だね! じゃあお二人さんは何をしてるのかな!?」
塞「何って……」
白望「抱っこして座ってるだけだよ?」
胡桃「それが問題だって言ってるんだよこのお惚けコンビがぁ!!」
豊音(胡桃たちも人のこと言えないと思うんだけどなー?)
エイスリン「フタリハ、ナカヨシ!」
エイスリン「デモ!」
エイスリン「ワタシト、クルミモ、ナカヨシ!」
エイスリン「♪」bグッ
胡桃「あぁっ、エイちゃんの笑顔は天使のようだよぅ///」
エイスリン「クルミ///」
塞「……人のこと言えないよねぇ?」
白望「うん」ナデナデ
塞「ぁ、こら、くすぐったいってー」ニコニコ
白望「ぐーぜんぐーぜん」
塞「アハハっ、何それ~」
豊音(目の保養だよー)ホクホク
――――休日
ピンポーン
白望「ちわー」
塞「はいはーい」
ガチャリ
塞「いらっしゃーい」
白望「お邪魔します」ペコリ
塞「邪魔するんなら帰ってねー」
白望「どこで大阪のノリを覚えたの?」
塞「たまたまテレビで」テヘペロ
白望「かわいい」
塞「いいから上がってよ///」
白望「あれ、親御さんは?」
塞「可愛い一人娘をほっぽり出してラブラブデート、だってさー」
白望「……ふーん」
塞「シロ?」
白望「なに?」
塞「あ、いや、なんでもないんだけど」
塞(……?)
塞「シロがウチに来るのなんて久しぶりだねー」
白望「うん」
塞「あはは、なんか恥ずかしいなー」ホッペポリポリ
白望「模様替えした?」
塞「うん。 ちょっとだけね」
白望「……ぬいぐるみが増えてる」
塞「集めてるつもりはないんだけど、つい」タハハ
白望「塞っぽくて、いいと思う」
塞「そう、かな? 自分じゃよくわかんないけど」
白望「温かい空間というか……とにかく落ち着く」
塞「あはは。 ありがと」
塞「ね、シロ」
白望「なに?」
塞「その……隣、座ってもいいかな?」
白望「……もちろん」
塞「ん……」スッ
白望「……」
塞「……」
塞(……無言でいるのが、気まずくない)
塞(むしろ、心地いいくらい)
塞「……」トン
塞(シロに寄り掛かっちゃった……重かったり、しないよね?)
白望「……」トン
塞(!)
塞「……えへへ」
塞「……」
白望「……」スス
塞「?」
白望「……」ギュッ
塞「!」
塞(シロに、手握られちゃった)
白望「……」キュッ
塞(しかも恋人繋ぎ……)
塞(……恥ずかしい)カァァ
白望「……」
塞「……」
白望「……」
塞「……」
白望「……」
塞「……」
白望「……」
塞「……なんか」
白望「……うん」
塞「……心地好すぎて」
白望「……眠くなるね」
塞「……えへへ」キュッ
塞「……このまま寝ちゃう?」
白望「……それも、魅力的だけど」
塞「……なんかやりたいことでもあるの?」
白望「……うん」
塞「なに?」
白望「……ただ」
白望「ただ、塞に触れていたいな」
塞「シロ……」カァァ
塞「……ね、こっち向いて」
白望「……」
チュッ
白望「……塞?」
塞「えへへ」
塞「まだ、私からしてないなって思ってさ」
白望「……」
白望「次は、私から」スッ
塞「ん……」
塞「……なら、お返しってことで」スッ
白望「んんっ……」
白望「……じゃあお返しのお返しで」スッ
塞「んむっ――」
――――
――
塞「……んー」
塞「どのくらい、経ったかな……?」
白望「たぶん……一時間くらい」
塞「あはは……」
塞「……いちゃつき過ぎかな?」
白望「……まだ足りないよ?」
塞「……実は、私も」カァァ
白望「塞……」
白望「……おいで」スッ
塞「……」コクッ
塞「お腹、空いちゃったね」
白望「うん」
塞「簡単なものなら作れるけど」
白望「食べたい」
塞「ならリビング行こっか」
白望「ん」
白望「ご馳走さまでした」
塞「ん、お粗末さまー」
塞「……あっ」
白望「どうしたの?」
塞「や、別に」
塞(今のやり取り、なんか夫婦みたいだったな///)
白望「……」
白望「小瀬川塞」ボソッ
塞「!?」
白望「どうしたの?」
塞「え、あっ、いや今、え?」
白望「ご馳走になったし、洗い物は私がしていい?」
塞「ええっ、いいって、私がするよー」
白望「だめ」
塞「なんで?」
白望「エプロンした塞の後ろ姿は凶悪だから」
塞「何それ///」
\You got a mail ! /
塞「あ」
塞(お母さんからだ)
塞(えーと)
塞(……)
塞(えっ)
カチャッ
白望(おしまい、っと)
白望(二人分だから、言うほど洗うモノ多くなかったなァ)
白望「んー」フキフキ
白望「よし」
白望「塞ー、洗い物終わっ――」
塞「シロ!」
白望「……慌ててどうしたの?」
塞「えっと……えっとね……あの、」
白望「深呼吸、深呼吸」
塞「うんっ」スーハー スーハー
白望「落ち着いた?」
塞「……うん。 ちょっとだけ落ち着いた」
白望「……それで、どうしたの?」
塞「えっと――」
白望「親御さん、今日は帰ってこれないんだ」
塞「お父さんがお酒飲みすぎてべろんべろんらしくって……恥ずかしい親なんだからっ」
白望「……」
塞「だから、ものは相談なんだけど……その」
白望「……ねぇ」
塞「え? な、なに?」
白望「――今日、泊まっていってもいい?」
塞「……へっ?」
塞「あ、ぅ、ぇっ」
白望「こんな時間に、年頃の女の子が家で一人ぼっちだなんて不安だし」
白望「塞を、一人ぼっちにさせたくないし」
白望「何より……私がもっと塞と一緒にいたいから」
白望「……ダメかな」
塞「……」
塞「ううん……」フルフル
ル塞「……ありがと、シロ」
塞「もちろんっ、大歓迎だよ!」
塞(とは言ったものの……)
塞(どうしよ……)
塞(あれからしばらく経ったのに、シロの顔を一度も直視できないでいる)
塞(なんでって?)
塞(そんなの恥ずかしいからに決まってるでしょ!///)
塞(いざこうなると必要以上に意識しちゃうというか)
塞(一夜をシロと過ごせるんだって思うと心臓が破裂しそうになるというかっ)
塞(あ~ぅ~……///)
白望「塞」
塞(うぅ……)モジモジ
白望「塞?」
塞(どきどきが止まんないよぉ……)モジモジ
白望「……」
塞(もしかしたらもしかするかもしれないんだから、色々と覚悟し――)
チュッ
塞「……」
塞「!?」
塞「ふっ、不意打ちはダメだって前にあれほど!///」カオマッカ
白望「塞がさっきからずっとぼんやりしてるから」
塞「あっ、ぅ……」
白望「テンパりすぎ」
塞「でも、でもぉ……」
白望「……」
白望「ねぇ」
白望「塞は明日、用事とかあるの?」
塞「……なんにもないよ」
白望「そっか……よかった」
塞「……なんで?」
白望「――今夜は寝かせないから」
塞「っっ!?」
塞「シ、シロ、それってどういう」
白望「……こういう意味」スッ
塞「ひぅっ!?」
塞(シロの手が、私の身体にっ///)
白望「ベッド……行こっか」
塞「はぃ……///」
カン
感想くださった方々、ありがとうございました
後日談は、ただいちゃつかせたかっただけでした
書いててニヤけちゃって我ながらキモかったです、まる
シロ塞好きが増えたらいいなぁ……
では、またどこかのスレで
Entry ⇒ 2012.10.10 | Category ⇒ 咲-Saki-SS | Comments (2) | Trackbacks (0)
伊織「幻の料理人味沢匠……?」
アイドルマスターとザ・シェフとのクロスです。実はもう一つクロスをしておりますが気にしないでください。
某レストラン
伊織「へえー、だから美味しいのね。こんなに料理で感動したのは久しぶりよ!」
伊織の父「なるほど、グルメの君がこんなパッとしない店を推薦したのはこういう訳があったのか」
グルメな友人「はい、味沢匠は知る人ぞ知る凄腕の料理人です。しかも出張専門の請負人。こんな機会は滅多にないと思いまして」
グルメな友人「しかも依頼料が法外なんですよ。しかしそれだけの価値はあると思いますよ」
伊織の父「ううむ。確かにこれならいくら出しても惜しくはないな」
伊織「本当ね。出てきたメニューが古典的なフレンチだからどうかと思ったけど、これならまた食べたいわね」
グルメな友人「噂ではリッツホテルで最年少でシェフになったとか……」
伊織の父「ほほう、あのフランスで最も格調高く名門ホテルでか。そいつはすごいなー」
味沢「気に入っていただきましたか?」
伊織「えっ、あっ、はい!」
グルメな友人「はっはっは。リッツホテルなど有名な店ではこうやって料理人が挨拶に来るんだよ」
グルメな友人「おっと、紹介しよう。こちらは水瀬財閥の水瀬氏に娘の伊織さんだ。伊織さんは何とアイドルとして活躍もしているんだ」
味沢「そうですか」
伊織「初めまして水瀬伊織です」ペコリ
グルメな友人「伊織さんは765プロに所属していてもう大人気なんだよ」
味沢「あいにくとテレビはあまり見ないもので」
伊織(むー)
伊織の父「ふむ、そういえば思い出したぞ。味沢匠。確か人の心を打つ料理を作るとか」
伊織の父「私の友人が言っておったが一つの料理で息子と新しい執事の考え方を変えたと。しかも違う悩みをだ」
グルメな友人「それは聞いたことありますよ。引退を決意した力士を説得したり詩の絶望に震えていたお嬢さんに生きる希望を与えた」
グルメな友人「ほかにも頑なな心を解きほぐしたりと、ほんと凄い人ですよ」
味沢「いえ、私はただ料理を作るだけです。大したことはしておりません」
味沢「では、ごゆっくり」ペコ。
グルメな友人「やれやれ、いつもながらそっけない人だよ」
伊織の父「」ところで伊織、いつまでアイドル活動をしてるつもりなのかね
伊織「もちろん、トップにしてスーパーアイドルになるまでよ」
伊織の父「やれやれ誰に似たのかお前も頑固だな。言っておくがこれ以上の──」
伊織「分かっているわよ。私自身の力で成し遂げてみせるんだから!」
小鳥「もうー、プロデューサーさん、また徹夜して!」
小鳥「しかもソファーで仮眠? 体を壊してしまいますよ」
P「だけど音無さん、今度のフェスに大型合同ライブ。さらに番組改編に向けて仕事が山積みなんだ。今頑張らずにいつ頑張るんだよ」
小鳥「けど、こんなに根を詰めて体を壊したら元も子もありません。もう少し私たちを頼ってください!」
P「けど、音無さんもかなり仕事を抱えているでしょう。律子も自分の仕事で手一杯だし、社長は……」
小鳥「健康ドックで入院中ですものね。悪いところが見つかって少し長くなるみたいですし。でも、社長代行まで抱えたら──」
P「分かってるよ、今日で少し一息がつく。とりあえず今晩は徹夜せず早く帰れるさ。そうだな……日付が変わる頃かな」
小鳥「全然早くありません! それと──」チラリ。
小鳥「……春香ちゃんが作っていった夜食、また残したんですか?」
P「すっ、少しは食べたさ。でもやっぱり食欲が沸かなくて……」
小鳥「はあー、とりあえず春香ちゃんの見えないところに処分してくださいね。残したと知ったら悲しみます」
P「分かってるさ。俺のためにみんなが夜食を置いてくれて行くのはありがたく感じてるよ。けどどうしてもな……」
小鳥(……全くどうしたものかしらね)
小鳥「とにかくシャワーを浴びて無精ひげを剃ってきてください! そんなだらしない格好でみんなに会わせるわけにはまいりません!」
P「だから分かってるよ」スタスタ。ガチャ。
小鳥「はあー。アイドルのためのシャワールームがプロデューサーさん専用になってきたわね」
──少し経って。
春香「プロデューサーさん夜食、きちんと食べてくれたかな……」
小鳥「もちろんよ。ほら、空になっているでしょう」
春香「──そうだね」
美希「今日はミキがハニーのためにおにぎり作ってきたの。おかかマゼマゼと鮭まぜまぜだよ。ハニー、食べてくれるかな」
小鳥「ええっ、きっと食べてくれるわよ」
伊織「──それであいつは?」
小鳥「営業先に出かけているわ」
伊織「そう……」
あずさ「こんなこともあろうかと私も事務のやり方は教わっているんですけどねー。プロデューサーさんはどうして頼ってくれないのかしら」
ハム蔵「ヂュイ、ぢゅい」
響「ハム蔵もそれぐらいの事務作業ならこなせると言ってるぞー。忙しいなら猫の手ならぬハム蔵を使えばいいさー」
小鳥「あははは、頼もしい限りね」
律子「……ごめんなさいね。私がもう少し仕事ができればプロデューサー殿に負担かけなくて済むのに」
小鳥「仕方ありません。一気に仕事が押し寄せてきたんですから。こういう時のためにもう少し人を雇おうと常々言ってるんですけど」
貴音「とにかくこちらが出来ることをして少しでもプロデューサーに負担をかけないようにいたしましょう」
真「そうだね。何が出来るか分からないけどやれることは少しでもやろうよ」
雪歩「冷蔵庫に疲労回復効果抜群のお茶を淹れておきましたー」
伊織「──ちょっと喉が乾いたからオレンジジュースを飲んでくるわね」
事務所の給湯室というか台所。
ゴミ箱ガサガサ。ばさっ、
伊織「やっぱり残しているわね。多分、春香も薄々気付いているでしょうけど……全くあの頑固者はー、皆に心配ばかりかけて……」
“グルメの友人”「味沢さんは頑なになった人の心を解きほぐしたりとか」
伊織「そうだわ、あの人に頼めばもしかしたら──」ピッピ、
伊織「新堂? 少し頼みたいことがあるの。ええっ、お願いね」
伊織「さて、依頼料は高いと聞いていたけど幾らぐらいなのかしら? 今自分が使える額は……五十万。まあ、これだけあれば足りるでしょう」
さて伊織が気づかないように見つめる視線。銀髪がたなびく。いったい誰なのやら。
バー「レモンハート」
マスター「おっ、いらっしゃい、久しぶりだね」
P「今日は早く帰れたからね。久しぶりにマスターの一杯を飲んで寝ようかと」
マスター「早い? おいおい、もう十二時を回ったよ。頑張るのは良いけど体だけは壊すなよ」
P「ははっ、分かっているよ。マスター、いつものをお願い」
マスター「はい、少し待っててね」スイッ、
P「おっ、ありがとう」グイ。
マスター「あっ、それは……」
P「んっ、いつもと味が違うな」
マスター「そりゃあそうでしょう。それはこちらのお客さんのなのだからさ」
黒衣の男「───」
P「あっ、すみません。マスターこちらの方に代わりを。もちろんこれも合わせて俺のお代に入れて置いてくれ」
マスター「了解です。味沢さん、すみませんね。もう少しお待ちくださいね」
P「ハハッ、ホント失礼しました」
味沢「いえ、別にいいですが」
P「あなたも仕事帰りですか」
味沢「…………まあ、そんな所です」
P「んー、何をしてるのかな。あっ、分かった、お医者さんでしょう。黒ずくめですし」
マスター「おっと、残念。味沢さんは料理人だよ。しかも知る人ぞ知るという凄腕のね。しかも出張専門の請負料理人さ」
P「へえー、さすらいの料理人か。カッコイイなー。包丁片手に昨日は北へ、今日は東へと渡り歩くわけか」
マスター「珍しいのはPさんもでしょう。765プロでアイドルのプロデュースをしてるんだから」
味沢「765プロ」ピクリ
P「あっ、知ってるんですか? 嬉しいなー」
味沢「いえ、そういうのには疎いもので……」
P「やれやれ、まだまだ有名じゃないか。もっと頑張らないとなー」
マスター「だから頑張るのは良いけど顔色悪いよ。倒れないように気を付けないと」
P「大丈夫ですよ、体だけは頑丈ですから」
マスター「でもね、一人で抱えずに皆に相談したら……」
P「みんなも忙しいですし、これは俺の仕事です──味沢さんなら俺の気持ちが分かるでしょう」
P「流離いの料理人ということは一人で何でもこなさなければならないそれが定めであり宿命じゃないのかな」
P「とにかく俺はみんなをトップアイドルにするために──」
味沢「いい加減にしてもらえませんかな。私はここでゆっくり酒を飲みたいんだ」
味沢「つまらない自慢や愚痴を聞くためでない」
P「うっ、すみません」
マスター「ごめんなさいね、調子に乗って」
味沢「──」マスターから貰った酒を飲み干す。
味沢「ではこれで──それから、お節介かもしれませんが空きっ腹に強い酒を飲むのはやめた方がいいですよ」
──某所
伊織「時間通りに来てくれたようね」
味沢「仕事の話ですから。でっ、どういったご用件で」
伊織「あなたに夜食を作って欲しいの。相手はコイツよ。765プロの事務所でいつも徹夜してるわ」
味沢「それは別にいいですが私は高いですよ」
伊織「ええっ、ここに五十万を用意したわ。これで究極にして至高の夜食を作ってちょうだい」
味沢、なぜかニヤリと笑う。
──765プロ、深夜
P「ふうー、疲れたなー。でもまだまだ頑張らないとな。さて、もうひと踏ん張りするか」
ガチャ、バタ。
P「誰だ? 鍵はかけておいたはずだぞ」
味沢「失礼、765プロからの依頼で貴方に夜食を作りに参りました。
P「あっ、あんたは? 何故ここに?!」
味沢「ですから765プロからの依頼です。こうやって鍵も持っているのが証拠です」」
P「……やれやれ伊織辺りか。余計なことしてくれて……悪いけど食欲がないんだ。帰ってくれないか。
味沢「そういうわけには参りませんな」」
P「何……だと?」
味沢「私は高額な報酬をもらってここに来ているのです。このまま帰っては依頼人たちに合わせる顔がありません」
味沢「とにかく私は料理を作ります。勿論、それを食べる食べないはあなたの自由ですが」
P「やれやれ分かったよ。キッチンはそっちだ。適当に作ってくれ。俺は仕事を続けるから」
味沢「分かりました。では」
トントン、ぐつぐつ。
P(何だろう……すごく胃が揺さぶられるというか、腹が減って仕方がない。ああ、良い匂いだな)
味沢「出来ました。チキンスープのリゾットです。」
P「細かく刻んだ野菜とご飯を入れて煮込んだチキンスープか……まあ、夜食向けだな」
味沢「まさか不センス料理のコースでも出ると思いましたか。この時間となるとあまり胃に負担のかかる料理は避けたほうがいい」
味沢「これは常識ですよ」
味沢「さ、冷めないうちにどうぞ」
P、スプーンをとって一口すする。
P「なっ、なんだこの料理はー!!!
P「ウマイではないかー!!!!」!
ガツガツムシャムシャズズー!!
P「はっ、一気に飲み干してしまった。一体何が起こったんだ?」
P「ううっ、なんという料理だ。いや、今でうまいと思った料理は何度も食べたさ」
P「けど、我を忘れて貪り当然としたのは初めてだ。いや、さすが流離いの凄腕料理人だな」
P「えっと、もっと食べたいのだけど……」
味沢「残念ながらこれで終わりです」
P「ああっ、やっぱりー。おっ、まだ残ってるぞ。うん舐め取っても恥でないよな」
P「しかし、伊織には気を使わせたよ。反省しないと」
味沢「……一体何の話です?」
P「えー、味沢さんを雇ったのは伊織でないのか? 彼女ぐらいしかこんな事できないだろ」
味沢「確かに彼女に呼ばれました。しかし依頼は断ったのです」
P「えっ、何故?」
味沢「簡単な話です。依頼料が足りなかったからです。私の相場は百万単位。今回は二百万を提示しました」
味沢「それにたいして彼女は五十万しか用意してなかったのです。全然足りません」
味沢「水瀬財閥のお嬢さんといえど自由にお金が使えるわけではありません。まだ子供なのですから」
P「じゃあ、誰の依頼でここに?」
味沢「言ったでしょう。依頼人は765プロと」ニヤリ。
P「えっ?」
伊織「二百万?! そんな……」
味沢「びた一文まけるつもりはありませんよ」
伊織「ううっ、この五十万を手付金として支払うわ。残金はきっと払う。だから──」
味沢「こういう稼業は現金即決。それが常識です」
伊織「……」
味沢「水瀬グループならば腕のいい料理人は何人もいるでしょう。中には日本の老舗とも言える店も有しておりますし」
味沢「彼らに頼めば安く上がるのではないですか」
伊織「──ダメよ」
伊織「確かにあんたに匹敵する料理人ならいるわ。でもダメなの。違うの」
伊織「あいつに必要なのは美味しい料理じゃない。心を打つ料理なの。それを作れるのはあんたしか居ないわ」
味沢「そう申されても以来量が足りなければ話になりませんな」
伊織、携帯を取り出して電話をかける。
伊織「パパ、お願いがあるのだけど──」
貴音「ふっ、その必要はありませぬ」 貴音、伊織の携帯を取って通話を切る。
伊織「貴音、どうしてここに?」
貴音「味沢匠。あなたの料理をりっつほてる時代に味わったことがございます。真、美味でした」
貴音「伊織、足りない分は出しましょう」
伊織「でっ、でも百五十万よ。そんなに持っているの」
貴音「いいえ、残念ながら到底足りませぬ」
伊織、ズコーとこける。
伊織「じゃあどうするのよ!」
貴音「ふっ、それは知れたこと。絆を束ねて団結するのです」
春香「伊織ちゃん、一人で抱えるのはプロデューサーさんと同じだよ」
千早「私たちも少しだけお手伝いをさせて」
あずさ「うふふ、運命の人のための結婚資金取り崩してしまいましたー。でもあまり変わりませんよね」
やよい「みんなごめんなさい。当分の間おかず一品減るけど許してね」
真「自由に出来るお金は少ないけど何とか用意したよ」
雪歩「私もです! 出来る限り持ってきました」
律子「ごめんね伊織。こういうのは率先して行わないといけないのは私なのに」
亜美「うふふ→親の目を盗んで」
真美「真美たちの貯金通帳からお金を降ろしてきたぜ→。真美たちまだ小さいからとお給金が自由に使えないからね→」
小鳥「はい、これ。少ないけど足しにしてね」
美希「ミキも持ってきたよ。ハニーのためなら別にいいの」
響「みんなごめん。少しのあいだ餌が減るけど自分頑張るから我慢してくれよー」
伊織「あっ、あんたたち……本当に馬鹿よ。こんなことにお金を使う──なんて」
貴音「いいのです。これでプロデューサーの心に春が戻れば。あの方は今、頑固にこびりついておりますゆえ」
貴音「これで二百万。耳を揃えて用意しました。さあ、これで究極にして至高の夜食メニューを」
味沢「いいだろう。報酬がきちんと貰えれば何も言わない。だが──もう少し水瀬グループの力を借りたい」
味沢「確か日本で屈指の老舗レストランがあったな。そこで貰いたいものがある」
伊織「何が欲しいというの?」
味沢、再びニヤリとする。
──765プロ 深夜。
P「スープストック?」
味沢「ええ、水瀬グループのレストランからスープを分けてもらいました。だからこそ、その味が出たのです」
P「へえー、そうなんだ。でも味沢さんが人の手を借りるなんて……なんかイメージに合わないな」
味沢「残念ながらそのスープは到底私には作れませんから」
P「特別な材料でも使っているのかな」
味沢「いいえ、普通の鶏です。ただ──開店当初から何十年も継ぎ足しつつ煮込み続けたスープですが」
P「なっ、何十年も?! すげえ……」
味沢「本場フランスでも行ってする店は少なくなりました。伝統をひたすら守り続けた結果の味。それがこのスープです」
P「……それがこの感動を生んだのか。何年も何十年もじっくり煮込んで」
味沢「結果というのはすぐに求めることは出来ない好例です。それと……一人では到底成し得ないということでもあります」
味沢「スープの火は二十四時間絶やす事無く続けなければなりません。当然、交代で番をするわけですよ」
P「──何が言いたいのです?」
味沢「いえ、そのスープの味の秘密を述べただけですよ」
味沢「では、これで失礼いたします」
P「………………」
あずさ「音無さん、この書類はこうでいいのかしら?」
小鳥「ええっ、それでお願いします」
貴音「判子、判子はどこですー?」
千早「ライブの進行スケジュールはこれでいいと思いますよ」
春香「そうだね、後は……」
やよい「うっうー、計算終わりましたー。決済終了です」
真「ええと、備品で足りないのは……」
雪歩「はい、765プロです。あっ、いつもお世話になっております」
美希「あふぅ、こっちの書類の整理は終わったのー」
律子「じゃあ、ちょっと行ってくるからあとはよろしくね」
亜美「は→い。任せておいて→」
真美「うし、お掃除おわりまちたー!」
響「はい、プロデューサー、ハム蔵がこっちの企画書をまとめてくれたぞー」
ハム蔵「ぢゅい、ぢゅい」
P「やれやれすっかりみんなに迷惑をかけたな」
伊織「もっと早くからこうすれば良かったのよ。ほんと、頑固なんだからさ」
P「ははっ、味沢さんの依頼料。なんとかみんなに返すよ」
伊織「いらないんじゃない。みんな好きでやったわけだし。あっ、てもやよいにはすぐに返したほうがいいかも」
P「……だな。でも、みんなには本当に世話になった。何とかして返さないと」
伊織「ふふっ、私はそうね、味沢さんの料理をまた食べたいかしら」
P「そうだな、あの人の料理をもう一度じっくり味わいたいかな」
伊織「──それはそうと貴音、味沢さんの料理をリッツホテル時代に食べたと言っていたけど……それってかなり前の事よ」
伊織「味沢さんは若く見えるけど結構長いあいだ請負料理人をしてるし──いったいどういう事なの?」
貴音「うふふっ、それはもちろん──とっぷしぃくれっとです」
765プロのビルを味沢が見上げる。無言で振り返り黒いコートを着てカバンを手に立ち去る。
終わり。
久々にザ・シェフ読むとするわ
Entry ⇒ 2012.10.10 | Category ⇒ アイマスSS | Comments (0) | Trackbacks (0)
木胡桃「横浜デート!」
なぜ、こういうことになったかというと
マリーさんが、言っちゃいけないことを言ったから!
*・゜゚・*:.。..。.:*・゚・*:.。. .。.:*・゜゚・*
木胡桃「友達に写メ送っちゃおうかなー」
魔梨威「友達ぃ?」
木胡桃「・・・・・・」あぅぅ
*・゜゚・*:.。..。.:*・゚・*:.。. .。.:*・゜゚・*
木胡桃「遅いよマリーさん」
木胡桃「10分の遅刻だよ!」
魔梨威「いやー、途中まで順調に来てたんだけどさぁ」
魔梨威「なんか武蔵溝ノ口に寄んなきゃって気になっちまって」
木胡桃「もう、そのネタは散々やったから!」
京浜東北線沿線以外の人を
光の彼方に置き去りにしつつ
女の子達の差しさわりのないデートを
お楽しみいただくSSです
木胡桃「バツとして、お茶はマリーさんの奢りに決定!」
魔梨威「えー」
木胡桃「えー、じゃないよ!」
木胡桃「こーゆとこに女のコ一人でいると」
木胡桃「ジロジロ見られて、ヤなんだから!」
魔梨威「あー、いやー」
木胡桃「だいたい!」
木胡桃「わたしが、誰か知らない人に連れてかれちゃったら」
木胡桃「どうするつもりだったの!?><。」
魔梨威「知らない人に着いてくなよ!」
魔梨威「その前に、アタシが異人さんに連れてかれた時」
魔梨威「追っても来なかったじゃんか!」
木胡桃「その赤い靴伝説のある、山下公園!」
魔梨威「伝説じゃねーよ!」
魔梨威「童謡だよ、童謡!」
木胡桃「ということで!」
木胡桃「マリーさんがまた連れてかれないように」
木胡桃「手を繋ぎましょう!」
魔梨威「なんでだよ、恥ずかしいだろ!」
木胡桃「今日はデートなんだよ!?」
木胡桃「手を繋ぐくらい、当然でしょ!」
魔梨威「で、でもさぁ」
木胡桃「・・・・・・」じわっ
魔梨威「わかった、わかりました!!!」
木胡桃(フッ、ちょろい)
木胡桃「そこはもう、元町商店街♪」
魔梨威「へー、アタシ初めて来るよ」
魔梨威「この辺だと、中華街で豚まん食べるか」
魔梨威「球場の外野席でビール飲んで野次るかだからね」
木胡桃「・・・だから、オッサン言われるんだよ」ぼそっ
魔梨威「オッサン、言う・・・」
木胡桃「どうせ柿ピーとか食べてたんでしょ?」
魔梨威「ぐっ」
木胡桃「マリーさん、怒ったの?」
魔梨威「・・・・・・」
木胡桃「ねー、マリーさんってば!」
魔梨威「・・・・・・」
木胡桃「もー、しょうがないなー」
木胡桃「じゃあ、腕を組んであげます!」
ぎゅっ
魔梨威「待て、待て、待て!」
魔梨威「それはキグの望みだろ!?」
木胡桃「ほら、こっちのがデートっぽいよね♪」
魔梨威「聞けよ、人の話!」
魔梨威「へ?」
魔梨威「洋服屋とかじゃないの?」
木胡桃「子供の頃は、よくここでシール買ったりしたんだよ」
木胡桃「ビーズの種類もいっぱいあったし」
木胡桃「いまはデコの材料にも事欠かないよ」
魔梨威「そんなん、ユザ○ヤでいーじゃん」
木胡桃「だから、オッサンって言われるの!」
魔梨威「オイ!それは一部の地域的にケンカ売ってるぞ!」
魔梨威「ユザ○ヤとキシ○ォートつったら」
魔梨威「あの地域じゃ、聖域なんだよぉ!」
魔梨威「あ、あたしだね」
魔梨威「はいって、え?」
魔梨威「はい、はい」
魔梨威「・・・・・・」
魔梨威「色々すいませんでしたー!」
木胡桃「どしたの、マリーさん」
魔梨威「いや、怒られちまったよ」
魔梨威「うちは全国展開、だってさ」
魔梨威「あと、吉祥寺的にも怒られた」
木胡桃「なんでだろうね」
木胡桃「これぞ元町ブランドって感じだよ!」
魔梨威「ちなみにここは、カ・・・」
木胡桃「カメラは、売ってない!」
魔梨威「ツッコミはえーよ!」
魔梨威「芸人ゴロシかよ!」
木胡桃「んー、やっぱりお嬢様っぽいバッグ多いよねー」
木胡桃「ちゃんとした場所用に、1つは欲しいとこだよ」
魔梨威「ちゃんとした場所って、区役所とか?」
木胡桃「・・・・・・」
魔梨威「なんでここまで来て、ジョナ○ン?」
木胡桃「だって、公園入っちゃうと店少ないし」
魔梨威「それにしたって、ファミレスにしなくても」
木胡桃「いーの!」
木胡桃「ここで、カフェキャ○メルパフェ食べるのが通なの!」
木胡桃「てゆか、なんでデ○ーズ潰れちゃったの!?」
魔梨威「ファミレス入るのは、百歩譲っていいとしよう」
魔梨威「しかし、なんでアタシら恋人座りなんだい!?」
木胡桃「マリーさん」
木胡桃「今日がデートだって、忘れたの?」
魔梨威「いや、いねーから!」
魔梨威「いまドキ、恋人座りなんていねーから!」
木胡桃「だって、こっちのがアーンしやすいよ?」
魔梨威「ゴーモンかよ!!!」
木胡桃「・・・言う通りにした方がいい気がするなぁ・・・」
魔梨威「今度は、脅迫かい!?」
木胡桃「ってことで、食べさせてください!」
木胡桃「はい、あ~ん♪」
魔梨威「いやいや、ちょっと待ちなって」
木胡桃「あ~ん♪」
魔梨威「うぅ」
魔梨威「えーい、ままよ!」
ぱくっ
*・゜゚・*:.。..。.:*・゚・*:.。. .。.:*・゜゚・*
木胡桃「んーっ」
木胡桃「おいひぃ」
*・゜゚・*:.。..。.:*・゚・*:.。. .。.:*・゜゚・*
魔梨威「!?」
魔梨威「こうやって食べさせてると、自分の子・・・」
木胡桃「そのオチは、もういらない!」
魔梨威「先手を打たれた!?」
木胡桃「これはデートって言ってるじゃん!」
木胡桃「もっと恋人らしくして!!!」
魔梨威「ちょっ、声が!」
ざわっ ざわざわっ
木胡桃「!?」
魔梨威「あたしのせいか!?」
木胡桃「マリーさんが素直にあーんしてくれれば」
木胡桃「こんなことには、ならなかった!><。」
魔梨威「り、理不尽さが半端ないけど」
魔梨威「悪かったよ」
木胡桃「じゃあ、公園でアイス奢ってください!」
魔梨威「立ち直りはえーな、オイ!」
魔梨威「公園あんま居なかったけど、良かったのかい?」
木胡桃「山下公園は、アイス食べてー」
木胡桃「散歩してるワンちゃん、もふもふする場所なんだよ」
木胡桃「あ、ついでに花火観るとこ」
魔梨威「い、色々と楽しみ方が間違ってる気がする」
木胡桃「・・・・・・」ぶるっ
魔梨威「寒いのかい?」
魔梨威「冷たいもの連続で食べるから」
木胡桃「けっこう、海は風あるからだよ」
木胡桃「じゃあ、わたし手すりにつかまってるから」
木胡桃「マリーさんは、わたしの後ろから手を回して・・・と」
魔梨威「なんか、すげー恥ずかしいカッコなんだけど!?」
木胡桃「わたしが温かいから、いーの!」
魔梨威「いや、こうしてるとさぁ」
木胡桃「もう子供オチはいらない!」
魔梨威「い、いや」
魔梨威「キグって、いい匂いすんだな」
木胡桃「!?///」
木胡桃「・・・ばか///」
魔梨威「そういえば、こっち側ってあんまり来ないなー」
木胡桃「ホテル側だからねー」
魔梨威「お、そろそろお昼だな」
木胡桃「いい所があるよ!」
木胡桃「ちょっと歩くけどね!」
木胡桃「ここにケータイクーポンがあるから!」
魔梨威「いやいや」
魔梨威「どうせなら横浜らしくさ・・・」
木胡桃「じゃあ、聞くけど!」
木胡桃「横浜らしい食べ物って、なに!?」
魔梨威「え、そりゃあさ」
魔梨威「中華とか、こじゃれた食べ物なんじゃないの?」
木胡桃「中華は池袋とか神戸でも食べれる!」
木胡桃「あと、こじゃれた食べ物とか」
木胡桃「下北とか代官山に任せとけばいーの!」
魔梨威「お前は横浜の格を落としたいのか!」
木胡桃「って言ってる間に、お昼で並び始めたけど」
魔梨威「・・・入るか」
苦来「・・・どうも、暗落亭苦来でございます」
苦来「なぜ、わたしの出番がないの!!?」
苦来「・・・・・・」
苦来「・・・という訳で、無理やり出て来ました」
苦来「先ほどマリーさん達が使っていた、こじゃれたですが」
苦来「本来、小戯れる(こざれる)から来ており」
苦来「ふざけているという意味合いで使われるものです」
苦来「まあ、最近は意味が違って来た言葉も多いですよね」
苦来「・・・以上、楽屋からお送りしました」
*・゜゚・*:.。..。.:*・゚・*:.。. .。.:*・゜゚・*
木胡桃「わざと黄身を崩してるんじゃない?」
魔梨威「その労力を、他に活かせないものなのかね」
木胡桃「形を残す方が大変なのかも」
魔梨威「まー、どうでもいいけどさ」
木胡桃「だねー」
魔梨威「・・・・・・」もぐもぐ
木胡桃「・・・・・・」もぐもぐ
魔梨威「口に入れちゃえば、変わんないなー」
木胡桃「だねー」
魔梨威「・・・・・・」もぐもぐ
木胡桃「・・・・・・」もぐもぐ
魔梨威「あー、なんか分けて食べるかなー」
木胡桃「ふーん」
魔梨威「・・・・・・」もぐもぐ
木胡桃「・・・・・・」もぐもぐ
木胡桃「あれ?」
木胡桃「あーんするの忘れた!」
魔梨威「残念だな、完食しちまったよ!」
木胡桃「うー」
木胡桃「マックシェイク買って来る!><。」
魔梨威「それを、どうやってあーんするんだよ!」
魔梨威「・・・・・・」
木胡桃「どしたの?上なんか見上げちゃって」
魔梨威「改めて見ると、デケーなって思って」
木胡桃「ランドマークタワー!」
木胡桃「なんか、他のビルよりどっしりしてるよね」
魔梨威「重量感あるよな!!!」
ぐっ
木胡桃「・・・なんでドヤ顔?」
木胡桃「マリーさん、こんな天気いいんだよ?」
木胡桃「もったいないから、観覧車乗ります!」
魔梨威「それ、天気関係・・・」
木胡桃「・・・・・・」
魔梨威「あるじゃんかよ!」
木胡桃「わたしが怒られる意味が分かんないよ!」
魔梨威「行き場を無くしたツッコミの恐ろしさ」
魔梨威「とくと思い知りやがれ!」
木胡桃「そんなの知らない!」
木胡桃「意味不明だけど許してあげます」
魔梨威「なんだよ、素直じゃん」
木胡桃「だって、マリーさんが普通に手を繋いでくれたから!」
魔梨威「え、あれ!?」
木胡桃「にひひー」
魔梨威「怖い!」
魔梨威「慣れって怖い!!!」
木胡桃「マリーさんは、このデートで一皮むけたんだよ」
木胡桃「言うなれば、新型マリーさん!」
魔梨威「なんかどっかで聞いたような」
ヒュオオオオオン
魔梨威「な、なんだい、この風は!」
木胡桃「頭の上だけ黒い雲が掛かったよ!?」
ひ と の ネ タ と ら な い で ー
*・゜゚・*:.。..。.:*・゚・*:.。. .。.:*・゜゚・*
魔梨威「き、聞きなれた声がするぞ!?」
木胡桃「怖い!」
木胡桃「こんなの持ちネタと思ってる執念が怖いよ!!!」
*・゜゚・*:.。..。.:*・゚・*:.。. .。.:*・゜゚・*
!?
*・゜゚・*:.。..。.:*・゚・*:.。. .。.:*・゜゚・*
木胡桃「あれ、急に雲がなくなった」
木胡桃「なんでだろう?」
魔梨威「・・・精神攻撃は基本だからな」
魔梨威「今頃、楽屋が大変なことになってそうだ」
丸京「泣いた!」
丸京「意味不明のこと叫んだと思ったら、今度は泣いたぞ!」
手寅「どんな夢を見ているのかな」
丸京「悪夢かも・・・起こすか?」
手寅「うーん」
手寅「やめとこう!」
手寅「なんか面倒くさくなるかもだから」にこっ
丸京「・・・それもそうだな」
テトちゃん、安心の危機回避能力
*・゜゚・*:.。..。.:*・゚・*:.。. .。.:*・゜゚・*
魔梨威「横浜なのに、なんでこんな場末感が漂ってんだよ」
木胡桃「あー、この遊園地ね」
木胡桃「花や○きを新しくしましたーって感じはあるよね」
魔梨威「みなとみらいってことは」
魔梨威「まさに、未来の花やしき!?」
木胡桃「狙ったわけじゃないだろうけどね」
魔梨威「まー、でも」
魔梨威「この観覧車は、さすがに浅草にはないな」
木胡桃「浅草にこんなのあったら」
木胡桃「さすがに雰囲気ぶち壊しじゃない?」
魔梨威「なんでだよ」
魔梨威「京都駅とか京都タワーのが、よっぽどだろ」
木胡桃「京都方面にケンカ売っちゃダメー!」
魔梨威「だったら、傘回しに例えれば良くないか?」
魔梨威「いつもより多く回しちゃう的な!」
木胡桃「そんなに回しちゃったら降りられないよ」
木胡桃「その前に、ゴンドラを回すボールにしちゃったら」
木胡桃「1個しか付けらんないじゃん!」
魔梨威「やっぱり隣に座るんだな」
木胡桃「じゃあ、膝の上に座ろっか!」
魔梨威「・・・すいません、隣でお願いします」
木胡桃「よろしい♪」
魔梨威(だ、ダメだ)
魔梨威(今日はキグに勝てる気がしねー!)
木胡桃「さっき居た山下公園が、あんなちっちゃい」
魔梨威「ほえー、ほんとだ」
魔梨威「水上バスだとあっという間だったのになー」
木胡桃「よいしょっと」
こてんっ
魔梨威「な、なにしてんだ!?」
木胡桃「膝枕に決まってるじゃん」
魔梨威「そりゃ見ればわかるって」
木胡桃「いいよね、膝枕!」
魔梨威「いいよねって、景色が見えないだろ!」
木胡桃「マリーさんの顔が見れるよ?」
魔梨威「ぐっ」
魔梨威(か、勝てる気がしねー!)くぅぅ
なでなで
木胡桃「むー!」
木胡桃「なんで頭をなでるんですか!」
魔梨威「え?」
魔梨威「いや、なんとなく」
木胡桃「また子供扱いしたー!><。」
魔梨威「違うって」
魔梨威「ほんとに、なんとなくだって!」
魔梨威「ほんとだって」
木胡桃「ほんとに、ほんと?」
魔梨威「嘘なんかついて、どーすんだよ」
木胡桃「じーっ」
魔梨威「い、いや、だからさ」
木胡桃「しょーがない、信じてあげます!」
木胡桃「その代わり」
木胡桃「観覧車降りたら、腕組んじゃおっと!」
魔梨威「・・・容赦ねーな、オイ」
魔梨威「なんでウインドーショッピングが横浜駅地下街?」
木胡桃「だって、そ○うとかマ○イって高いんだもん」
木胡桃「ここだと、なにかにつけてセールやってるしね!」
魔梨威「・・・いやー」
魔梨威「今日一日で、横浜にケンカ売りまくってるなー」
木胡桃「横浜のいーところも、たくさんあるよ?」
木胡桃「例えば」
木胡桃「ヨド○シ横浜のガチャの品揃えが半端ない!」
魔梨威「それ、逆効果だろ!」
魔梨威「言われてみれば」
木胡桃「はいはい!」
木胡桃「わたし、パスタがいいです!」
魔梨威「あー、任せるよ」
魔梨威「どんな店あるか知らないしね」
木胡桃「よかったー」
木胡桃「牛丼とか言われたら、どうしようかと思っちゃった」
魔梨威「言わねーよ!」
魔梨威「いい加減、オッサン扱いやめやがれ!」
木胡桃「あ、あそこの店、すぐ座れるかも」
魔梨威「スルーかよ!」
木胡桃「パスタだから、あーん出来なかった!」
魔梨威「どう考えても無理だろ」
魔梨威「ドリンクにストロー2本差しとか」
魔梨威「やりかねないと思ったけどな」
木胡桃「・・・あ」
木胡桃「次は、あっちのド○ール行きます!」
魔梨威「やめろー!」
魔梨威「ド○ールはなぁ、ス○バとかエ○セルシオールとか」
魔梨威「おされなとこ入れないおっちゃん達の」
魔梨威「最後の楽園なんだよぉ!」
木胡桃「普通に、若いコ達もいるよ!」
木胡桃「どしたの?」
魔梨威「キグ、そこハネちゃってるぞ?」
木胡桃「ウソ?さっきのパスタ!?」
木胡桃「うわーん、どうしよう」
木胡桃「これ、お気に入りなのに!><。」
きょろきょろ
魔梨威「キグ、あの店入るぞ」
木胡桃「え、なんで?」
魔梨威「サイズはMで大丈夫だよな?」
木胡桃「あ、うん」
魔梨威「キグに似合うのはっと」
魔梨威「んー、こんなんかなー」
木胡桃「それ、割と好きな感じかも」
魔梨威「んじゃ、これくださーい」
魔梨威「あと、着ていきたいんだけど」
魔梨威「やっぱ全部は落ちないかー」
魔梨威「あとは漂白剤つけて洗濯して・・・って」
魔梨威「なに鏡見てボーっとしてんだ?」
木胡桃「だって、マリーさんのプレゼントだもん!」
魔梨威「ぷ、プレゼントとかじゃねーよ!」
木胡桃「プレゼントでしょ!」
魔梨威「だ、だから」
木胡桃「誰がなんと言おうと、プレゼントなの!」
魔梨威「・・・う」
魔梨威「じゃあいいよ、プレゼントで」
木胡桃「うん!」
木胡桃「ありがと、マリーさん!」にこっ
魔梨威「!?///」
魔梨威(さ、悟っちまった)
魔梨威(たぶん、キグには一生勝てねー!)
がっくり
木胡桃「あれ?」
木胡桃「お礼言ったのに、なんで落ち込むの?」
魔梨威「ふいー」
木胡桃「電車座れて、良かったね」
魔梨威「なんだかんだで、歩いたからなー」
こてっ
魔梨威「電車の中もかい!」
木胡桃「・・・・・・」zzz
魔梨威「も、もう寝たのかよ」
木胡桃「むにゃ・・・マリーさぁん」
木胡桃「次はろこでデートするんれすかぁ」zzz
魔梨威「・・・はぁ」
魔梨威「そうだなぁ、今度はどこに行くかねぇ」
魔梨威「なんだか・・・あたしも眠く・・・」
総武快速線でした
お後がよろしいようで
Entry ⇒ 2012.10.10 | Category ⇒ 版権物SS | Comments (0) | Trackbacks (0)