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剣士「勇者を決めるトーナメントだと……?」
友人「なあ」
剣士「なんだ?」
友人「ついこの間、大昔に勇者が倒したっていう魔王が復活しただろ」
剣士「ああ、今はまだ目立った活動をしていないが」
剣士「いつ本格的な侵攻に出るか分からない」
剣士「もちろん、俺も勇者を見習って魔王討伐に挑むつもりだ」
友人「さすがだな」
友人「──で、さっき向こうでお触れが出てたんだけどさ」
剣士「お触れ?」
友人「なんでも一週間後に、国中の剣の使い手を集めて」
友人「城下町で勇者を決めるトーナメント大会を開くらしい」
剣士「勇者を決めるトーナメントだと……?」
友人「もし勇者になれれば、莫大な報奨金が手に入るし、色んな特権もつく」
友人「んでもって、魔王討伐を国を挙げてバックアップしてもらえる」
友人「どうだ、お前もこの町じゃ敵無しだし、出場してみないか?」
剣士「そうだな……」
剣士(このまま一剣士として討伐の旅に出ても、予算も装備も厳しい……)
剣士(それに今の自分のレベルを知るいい機会だ)
剣士「──出てみるか!」
友人「おお、そうこなくっちゃ!」
友人「お前の腕なら、かなりいいとこまで……いや優勝だって狙えるぜ!」
側近「魔王様、斥候から捨て置けない情報が届きました」
魔王「どうしたというのだ」
側近「どうやら人間たちの国々のうち、もっとも剣術の栄えた王国で──」
側近「近々勇者を決める大会が開かれるとのことです」
魔王「勇者を決める大会?」
魔王「ほほう……人間にしてはなかなか面白いことを考えるではないか」
側近「本来であれば妨害したいところですが、まだ我らも復活したばかり」
側近「力が戻り切っておりません」
側近「大会が終わったら、優勝者の情報だけでも掴むことにしましょう」
魔王「ふむ……」
<城下町>
友人「どれどれ……」
友人「まずは兵士の訓練場で予選会を行い、8名の出場者を決定するんだってよ」
友人「で、その8名が大会会場で雌雄を決するってワケだ」
剣士「8名か……」
友人「じゃあ、俺は先に大会会場に向かってるから」
友人「お前と一緒に大会を観戦することがないよう、祈ってるぜ」
友人「──頑張れよ!」
剣士「ああ、ありがとう」
兵士長「参加者諸君!」
兵士長「このたびは大勢の剣士に集まっていただき、まことに頼もしく思う」
兵士長「本来ならば全員に勇者の称号を授けたいところだが、そうもいかん」
兵士長「勇者になれるのは、この中でたった一人のみ!」
兵士長「これまでに培った剣技を、存分に振るってもらいたい!」
剣士(参加者はざっと100人ってところか)
剣士(中には記念で参加したような人間も見受けられるが)
剣士(尋常ならない気配をまとう者もちらほらいる)
剣士(ハイレベルな大会になりそうだな……)
兵士長「予選は参加者を8つのグループに分け、バトルロイヤルを行う」
兵士長「その中で勝ち残った一名のみが、本戦に出場することができる」
兵士長「なお、予選は公平を期すため」
兵士長「全員の装備を統一する」
兵士長「鎧は我が軍の鎧、剣は訓練用の木剣を使用してもらう」
剣士(この大会、本戦は持参した装備を使っていいとのことだったが)
剣士(ここで装備品頼りの輩はふるい落とされるというワケか)
剣士(それに装備が同じなら、手の内がバレることもない)
剣士(──といっても、俺にはあんまり関係ないか)
剣士(ここが俺のグループか……)チラッ
剣士(どうやら強いのはいないな)
ガッ!
バシィッ!
ドスッ!
ズガガッ!
ドゴッ!
審判「そこまで!」
審判「このグループの本戦出場者は、剣士!」
剣士(よし!)
ザワザワ…… ガヤガヤ……
友人(いよいよか……)
友人(どうやらアイツも本戦出場できたみたいだし、応援してやんなきゃな)
実況『大変長らくお待たせいたしました!』
実況『ただいまより、王国主催による勇者決定トーナメントを開始いたします!』
実況『ではまず、主催者である国王陛下からのお言葉です!』
国王「この大会には単に剣技を競うものではない」
国王「国を代表する勇者を決定するものである」
国王「皆も知ってのとおり、魔王が復活して久しい」
国王「まだ本格的な活動は行っておらんが」
国王「いずれこの国を始め、世界中に害悪をもたらすであろう」
国王「ゆえに我が国は、今日誕生する勇者を盟主とした魔王討伐軍を編成する」
国王「勇者を中心に、国民が一丸となれば魔王といえども必ずや打倒できる!」
国王「ぜひとも皆には、勇者誕生の瞬間を目に焼きつけてもらいたい!」
パチパチパチパチ……
実況『ありがとうございました』
実況『では勇者決定トーナメントに参加する、8名の選手の入場です!』
<魔王城>
側近「魔王様っ!」
側近「魔王様ーっ!」
側近(城中探したが、どこにも見当たらない……)
側近(いったいどこに行ってしまわれたのか……困ったお方だ)
側近(そういえば、今日は人間どもの勇者を決める大会があったな)
側近「!」ハッ
側近(──ま、まさか!)
側近(人間に化けて、大会会場に……!?)
実況『数字は嘘をつかない!』
実況『一刀に二刀が勝るのは当たり前!』
実況『左右の腕から繰り出される剣の疾風は、まさに死角なし!』
実況『二刀剣士だぁっ!』
実況『祈れば祈るほど強くなる!』
実況『聖なる剣技が、今日も神の敵を打ち砕く!』
実況『神の御加護がある限り、私は負けない!』
実況『神聖剣士!』
実況『ならば剣を持ったらいったいどうなる!?』
実況『王国きってのパワーファイター!』
実況『怪力剣士だ!』
実況『もしも剣士が魔法を唱えたら!?』
実況『もしも魔法使いが剣を振るったら!?』
実況『そんなロマンを叶えた男がここにいる!』
実況『魔法剣士だっ!』
実況『いつだって剣で己を証明してきた!』
実況『こんな男が強くないワケがないだろう!』
実況『剣士だぁっ!』
実況『剣に年齢は関係ない!』
実況『技と経験さえあれば、どんな強敵も出し抜ける!』
実況『出場者中、ダントツの最年長!』
実況『老剣士!』
実況『これぞ魅力の相乗効果!』
実況『8名の中で唯一の女性!』
実況『女剣士だ!』
実況『無敵の剣! 無敵の盾!』
実況『どっちも持ってりゃ矛盾は起きぬ!』
実況『攻守ともにハイレベルという反則!』
実況『盾剣士っ!』
┌─┤
│ └─ 怪力剣士
┌─┤
│ │ ┌─ 女剣士
│ └─┤
│ └─ 神聖剣士
─┤
│ ┌─ 二刀剣士
│ ┌─┤
│ │ └─ 魔法剣士
└─┤
│ ┌─ 老剣士
└─┤
└─ 盾剣士
友人(予選を勝ち抜いてきただけあって、どいつもこいつもやたら強そうだ)
友人(しかも本戦からは、持参した装備で戦うんだったよな)
友人(つまり、ホンモノの剣だ)
友人(一応審判はいるが、最悪死ぬ可能性もある……)
友人(しかも一回戦の相手は、あのマッスル野郎か……)
友人(剣士のヤツ……大丈夫かな)
怪力剣士「よう」
剣士「ん?」
怪力剣士「ぐははっ、いきなりテメェみたいな弱そうなのと当たれて嬉しいぜ」
剣士「…………」
怪力剣士「テメェは一撃でカタをつけるとして……」
怪力剣士「俺様の二回戦の相手は……女か、神頼みの軟弱ヤロウか」
怪力剣士「こりゃあ決勝までシードになったようなもんだな、ぐはははっ!」
女剣士「さっきからうるさいわね。もしかして、しゃべってないと落ち着かないの?」
女剣士「デカイ体のわりに、ずいぶん小心者みたいね」
怪力剣士「ンだとォ!?」
神聖剣士「神の御加護がある私に、筋肉など通用しませんよ」
怪力剣士「いうじゃねえか、なんならテメェらから先に片付けてやろうか……!?」
怪力剣士「テメェ、今なんつった? もういっぺんいってみやがれ!」
魔法剣士「黙れ」
怪力剣士「ヤロウ……!」
二刀剣士「やめとけって」
二刀剣士「こんなとこでやり合ったら、優勝しても勇者にしてもらえないかもよ?」
怪力剣士「ふん……命拾いしたな」
魔法剣士「ほざくな」
二刀剣士「……やれやれ、血の気が多いヤツばっかだな」
老剣士「こりゃあ、ワシみたいな年寄りではとても優勝は無理じゃな」
盾剣士「それはどうかな」
盾剣士「吾輩の耳には、優勝する気満々に聞こえるが」
すると──
係員「剣士選手、怪力剣士選手、まもなく試合です!」
係員「試合場へお越し下さい!」
怪力剣士「いよいよだな、秒殺で終わらせてやるぜ」ニヤッ
剣士(基本の型を徹底的に鍛えた俺の剣……)
剣士(町ならば敵無しだったが、この大会でいったいどこまで通用するか……)
女剣士「ちょっとあなた」
剣士「ん?」
女剣士「あんなヤツに絶対負けないでよ、ますます調子に乗らせちゃうから」
剣士「……全力を尽くすよ」
ワアァァァァァ……!
実況『まもなく一回戦第一試合、剣士対怪力剣士を始めます!』
友人「がんばれ剣士~っ!」
審判「両者、構えて!」
剣士「…………」チャキッ
怪力剣士「ぐへへ……」ズンッ
審判「──始めっ!」
怪力剣士「ぬおおおおっ!」
ブオンッ!
実況『怪力剣士、いきなり上段から力任せに剣を振り下ろすっ!』
剣士(いや、これは──!)
ピタッ
怪力剣士は剣を途中で止めると──
シュッ!
──突きで剣士の腹部を狙ってきた。
剣士「くぅっ!」サッ
実況『おおっ、怪力剣士の突きを、剣士もかろうじてかわしたっ!』
実況『それにしても今の突き、恐ろしく鋭い一撃でした!』
ワアァァァァァ……!
怪力剣士「フン、さすがだな」
剣士(危なかった……!)ハァハァ
剣士(なるほど……控え室での粗野な態度はブラフだったってことか)
怪力剣士「しかもこれはトーナメント、一回戦くらいはラクに勝ちたかったんだがな」
剣士「正直な話、ラクに勝たせてしまうところだったよ」
怪力剣士「さてと、仕切り直しといくかい」チャキッ
怪力剣士「安心しな、もうダマシは無しだ」
怪力剣士「こっからは真っ向勝負だ!」
剣士「来いっ!」
ギィンッ! ガギィンッ! キィンッ!
実況『これはスゴイ!』
実況『一撃打ち合うごとに、火花が散るようなすさまじい攻防です!』
ワアァァァァァ……!
剣士(っつうっ……手がシビれている……!)ビリビリ
怪力剣士(パワーはまちがいなく俺が上だ)
怪力剣士(だが、技量や速さはやっぱヤツの方がやや上だな)
怪力剣士(基本をみっちり押さえたってタイプだ)
怪力剣士(つまり総合力は互角……)
怪力剣士(こういう時は長所を出しきった方が勝つってもんだぜ!)
ガゴォンッ! ギゴォンッ! ズガァンッ!
実況『おおっと、怪力剣士の猛攻! これは勝負に出たか!?』
ギャウンッ! ガゥンッ! ドギャンッ!
友人(ヤツの一撃を受けるたび、剣士の剣がすげぇ弾かれっちまう!)
友人(あれじゃ防戦一方だ!)
ブオンッ!
ガギィンッ!
怪力剣士の一撃でまたも剣士の剣が弾かれ──
怪力剣士(よし、もらっ──)
ギュルンッ!
弾かれた反動で、剣士は一回転すると──
怪力「な!?」
ザシュッ!
怪力剣士の腹へ一気に斬りつけた。
怪力剣士「ぐがっ……!」ガクッ
実況『な、なんとぉ! 剣士、怪力剣士のパワーを利用して会心の反撃ィ!』
ワアァァァァァ……!
怪力剣士「テメェの細腕に……こんな一撃を出させるんだからな……」
怪力剣士「うぐぅ……」ドサッ
審判「それまでっ!」
審判「勝者、剣士!」
実況『勇者決定トーナメント、栄えある最初の勝者は剣士に決まったぁっ!』
ワアァァァァァ……!
友人「よっしゃあ!」
剣士(とっさの一撃だったが……うまくいったな)
剣士(──にしても、まだシビれてるよ、両手が……)ビリビリ
剣士は退場し、怪力剣士は治療班に運ばれ、一回戦第一試合が終了した。
老剣士「い~い試合じゃったのう」
老剣士「二人とも、勇者となるに相応しい器をもっておった」
二刀剣士「どちらもいい使い手だったけど、発想の勝利というやつかな」
魔法剣士「ふん」
魔法剣士「どちらも雑魚だ。俺の敵ではない」
盾剣士(8名の中で吾輩の天敵は、盾を破壊できる可能性のある怪力剣士だった)
盾剣士(ここで消してくれた剣士に、感謝せねばな)
係員「女剣士選手と神聖剣士選手、まもなく試合です!」
女剣士(ふうん、あの剣士……なかなかやるじゃない)
女剣士「こりゃあ、負けられないわね」ザッ
神聖剣士「神よ、どうか我に勝利をお与え下さい……」スッ
ワアァァァァァ……!
実況『一回戦第二試合を開始いたします!』
実況『女剣士と神聖剣士、第一試合とはうってかわって異色の対決!』
実況『勝つのはどっちだ!』
審判「始めっ!」
女剣士「行くわよ!」
神聖剣士「神よ、我に力を……」
女剣士「でやぁっ!」
キィンッ!
女剣士と神聖剣士の剣がぶつかり合う。
女剣士(こ、こいつ……っ!)
実況『いったいどうしたんだ!?』
女剣士「くっ……!」
神聖剣士「恐れることはありません」
神聖剣士「神の御加護を受ける私に、勝つ術などありはしないのです」
女剣士「あら、それはどうかしら?」
神聖剣士「ほう?」
女剣士「よいしょっと」ガチャ…
実況『おおお~っ!?』
実況『女剣士、なんと鎧を外し始めた!?』
神聖剣士「…………?」
女剣士「緊張したり、剣を振ったりで、暑くなってきちゃって……」
女剣士「ねぇ、脱ぐの手伝ってくれない?」
実況『こ、これは……!』
ワアァァァァァ……!
実況『観客も心なしか、さっきの試合よりも盛り上がっている!』
友人「オイオイ、色仕掛けかよ……」
友人「俺だったら余裕で引っかかってるだろうが」
友人「相手は禁欲を旨としてるようなヤツだ、通用するワケが──」
神聖剣士「い、いいだろう……!」ゴクリ
友人(通用しやがった!)
女剣士「ちょっと待ちなさいよ」
女剣士「剣を持ったまま脱がす気?」
神聖剣士「そういえばそうだな」
女剣士「もーらいっ」ガッ
ポイッ
女剣士は神聖剣士の剣を奪うと、すぐさま放り投げた。
そして──
女剣士「チェックメイトよ」チャキッ
神聖剣士「あ」
神聖剣士の首元に剣を突きつけた。
審判「あ……そ、それまで! 勝者、女剣士!」
実況『すさまじいブーイングです!』
実況『勇者を決める大会にふさわしくない決着だからなのか……』
実況『あるいは女剣士のあられもない姿を期待していたからなのか……』
「どこが神聖だ! とんだ俗物じゃねえか!」
「モタモタしやがって、もったいないっ!」
「鎧しか脱いでねえじゃねえか!」
「神が泣いてっぞ!」
実況『どうやら両方のようですね』
友人(剣士の二回戦の相手は、あの女剣士か)
友人(ま、堅物なアイツなら色仕掛けなんかにゃかからないだろうし、大丈夫だろ)
二刀剣士「あははははっ!」
二刀剣士「なんつう決着だよ、こりゃ神様も呆れてるだろーな」
魔法剣士「恥ずべき試合だ……反吐が出る」
係員「二刀剣士選手、魔法剣士選手、試合会場へお越し下さい!」
二刀剣士「よっしゃ、お手柔らかに頼むよ」ザッ
魔法剣士「断る」ザッ
剣士(女剣士……)
剣士(あんな戦法に出たのは、実力がないからか、手の内を明かさないためか)
剣士(もしも後者だとしたら……やっかいだな)
二刀剣士「ふんふんふ~ん」ヒュバッ ヒュンッ
魔法剣士「軽薄なヤツめ」
実況『鼻歌を交え、リラックスしている二刀剣士を──』
実況『魔法剣士は鋭く睨みつけています!』
実況『なんとも対照的! これは好カードになりそうだ!』
審判「両者、構えて!」
二刀剣士「あいよ」スッ
魔法剣士「地獄を見せてやる」ジャキッ
審判「始めっ!」
二刀剣士(その分、接近戦の実力は俺に分があるハズ!)
二刀剣士(攻めまくってやる!)ダッ
実況『二刀剣士が一気に間合いを詰めるっ!』
魔法剣士「馬鹿が」
グオアアアッ!
魔法剣士の手から強烈な炎が放たれ、二刀剣士を襲う。
二刀剣士(な、なんでだよ!? ノータイムでこんなデカイ炎を──!?)
魔法剣士「試合前から魔力を練り上げていれば、この程度ワケはない」
二刀剣士「うっ、うおっ──!」
ゴオオオオッ!
実況『直撃ィ! 魔法剣士、あっという間の勝利だぁっ!』
魔法剣士「なに……?」
実況『!?』
炎が二つの刃によって、切り裂かれた。
実況『す、すごいっ! 二刀剣士、あの炎をみごとに切り払った!』
二刀剣士「ぐ……」プスプス…
二刀剣士「魔法を切り払うのは得意分野でね……って、少し焦げちまったけど」プスプス…
実況『二刀剣士が再び攻めるっ!』
二刀剣士「こっちの番だっ!」
ガキンッ! キィンッ! ガキンッ! キィンッ!
ギィンッ! ガキンッ! キィンッ! ガキィッ!
魔法剣士「ぐっ! ──くっ、うぐっ!」
実況『嵐のような猛攻!』
実況『魔法剣士は防ぐので精一杯か! い、いやこれは──』
魔法剣士「ちぃっ」
魔法剣士が肩を斬られる。
実況『今大会、攻撃力はおそらくは怪力剣士がナンバーワンでしょう!』
実況『しかし、攻撃回数ならばこの男の右に出る者はない!』
実況『二刀剣士、怒涛の攻めだっ!』
キィンッ! キンッ! ギャリッ! ガキッ!
魔法剣士「…………」ボソッ
二刀剣士(なにか魔法を唱えた!?)
二刀剣士(だけど、魔力を練り上げた炎で、あの大きさだったんだ)
二刀剣士(俺の二刀乱舞なら、絶対に切り払える!)
次の瞬間、魔法剣士は驚異的なスピードで間合いを広げた。
二刀剣士「えっ!?」
実況『は、速いっ!』
二刀剣士(そうか、速さを上げる呪文だったか……!)
魔法剣士「手数にずいぶん自信を持っているようだが」スゥ…
魔法剣士「しょせん井の中の蛙だ」バッ
ビュビュビュビュビュビュビュビュビュビュッ!
実況『小さな風の刃が、次々飛んでいくぅ!』
二刀剣士(ま、まさか……数で勝負に来るとは……!)
二刀剣士(全て剣で弾いて──)
ギギギギギンッ!
二刀剣士(ふ、防ぎきれないっ!)
ザシッ!
二刀剣士(あ、足をっ!)ガクッ
実況『間合いは開き、魔法剣士は回復してしまった!』
実況『これはもう、二刀剣士は万事休すか!?』
二刀剣士「ぐっ……!」グッ
二刀剣士「してやられたよ……でもまだ、俺は戦える!」
二刀剣士「うおおおおっ!」
二刀を松葉杖のようにして立ち上がり、特攻をかける二刀剣士。
魔法剣士「雑魚が」
グオオオオアッ!
無慈悲の炎が、二刀剣士を直撃した。
二刀剣士「うっ、うわぁぁぁぁ──……!」
ドサッ……
審判「…………!」
審判「そ、それまで! 勝者、魔法剣士!」
女剣士「あの魔法剣士ってヤツ……容赦のない戦い方ね」
剣士「ああ、二刀剣士が心配だな」
老剣士(魔法剣士か……なかなか面白いヤツだわい)
係員「盾剣士選手、老剣士選手、まもなく試合です!」
老剣士「さてと……行くかのう」
盾剣士「大先輩の剣技、勉強させていただく」
剣士(この試合でベスト4が決まる……)
剣士(防御の盾剣士、経験の老剣士、といったところか……)
実況『一回戦も残すところ一試合! 老剣士対盾剣士!』
実況『準決勝にコマを進めるのは果たしてどっちだ!?』
実況『ご覧下さい、盾剣士のあの巨大な盾!』
実況『老剣士が盾剣士の鉄壁を崩せるか否かが、そのまま勝敗に直結するでしょう!』
審判「始めっ!」
老剣士「ほっ」ダッ
実況『速いっ!』
ガンッ!
実況『老剣士の初撃を、盾剣士がやすやすと受け止めたぁっ!』
実況『軽快にして巧み!』
実況『老剣士、老人らしからぬフットワークで次々攻撃をしかけますが──』
実況『盾剣士も左手の盾を的確に操り、まったく攻撃を通しません!』
老剣士「ほっほっほ、やるのう。全っ然斬り込めんわい」
老剣士「じゃが……守ってばかりでは勝てんぞ?」
盾剣士「では若輩ながら、攻めに回らせていただく」
老剣士「む」
老剣士(はてさて、どんな剣術を──)
ズギャアッ!
実況『盾で殴ったぁっ! 老剣士が吹っ飛んだ! クリーンヒットォ!』
ドサァッ!
老剣士「──が、がふっ!」
盾剣士「守るだけではない。盾は攻撃にも使えるのだ」
盾剣士「もしも盾をこういう形の剣と解釈したならば──」
盾剣士「吾輩も二刀剣士と同様、二刀流と呼べるのかもしれぬ」
盾剣士(この盾は、国を追放されたという武器職人が作ったいわくつきの代物)
盾剣士(対魔力コーティングが施してあり、この盾の前では魔法剣士とて無力)
盾剣士(決勝で当たる剣士か女剣士の腕力では、我が盾を破ることは不可能)
盾剣士(勇者となるのは吾輩だ!)
老剣士「ほっほっほ……」
老剣士「面白い考え方じゃな……」
老剣士「ならば逆に、このワシの剣が剣の形をした何か、だとしたらどうかの……?」
盾剣士「?」
老剣士が地面に滑らすように、盾剣士に剣を投げる。
実況『老剣士が自ら剣を放棄した! これは降参ということでしょうか!?』
盾剣士「これはこれは……吾輩もこれ以上ご老体を傷つけるのは忍びな──」
ピカッ──
盾剣士「え」
ズガァァァァァンッ!!!
実況『!?』
実況『うおおおおっ!?』
実況『──し、失礼いたしました! 老剣士の剣が突如、爆発を起こした!』
盾剣士「あが、が……」ピクピク
老剣士「生きておったか、砕けた盾に感謝するのじゃな」
老剣士「剣の形をした爆弾、というのもなかなかオツなもんじゃろ?」
老剣士「ほ~っほっほっほ!」
盾剣士「あぅぅ……」ガクッ
審判「そ、それまで!」
実況『なんとぉ~! 老剣士の剣が爆発し、盾剣士を盾ごと文字通り粉砕したぁっ!』
実況『しかも爆発したといえど剣は剣! 反則にはならないようです!』
実況『なんだかとんでもない大会になってまいりました!』
友人「と、とんでもないなんてもんじゃねえ……!」
友人「なんてデンジャラスな爺さんだ……!」
┏━ 剣士
┌━┫
│ └─ 怪力剣士
┌─┤
│ │ ┏━ 女剣士
│ └━┫
│ └─ 神聖剣士
─┤
│ ┌─ 二刀剣士
│ ┌━┫
│ │ ┗━ 魔法剣士
└─┤
│ ┏━ 老剣士
└━┫
└─ 盾剣士
友人(せっかく剣士が勝ち上がったってのに)
友人(試合を見てたら、喜びより不安のが大きくなっちまった)
友人(女剣士は色香に惑わされなきゃ、楽勝だろうが)
友人(決勝戦は、あの冷酷な魔法剣士か──)
友人(あるいはあのとんでもない爺さんのどちらかと当たるのか……)
友人(俺だったら、絶対に棄権してるな……)
準決勝に進出したメンバーが、静かにたたずむ。
剣士「…………」
女剣士「…………」
魔法剣士「…………」
老剣士「…………」
シ~ン……
係員「剣士選手、女剣士選手、まもなく準決勝です!」
係員「試合会場にお越し下さい!」
女剣士「負けないわよ」スッ
剣士「こちらこそ」スッ
ワアァァァァァ……!
実況『勇者決定トーナメントも、いよいよ準決勝!』
実況『怪力剣士を機転をきかせた一撃で破った剣士!』
実況『神聖剣士の思わぬ弱点を突いた女剣士!』
実況『勇者の座に王手をかけるのは、どちらの剣士か!?』
審判「始めっ!」
ギィンッ!
実況『速いっ! 両者、一瞬で間合いを詰めた!』
キィンッ! ガキンッ! キンッ!
剣士(やはり強い)
剣士(だが……あくまで女性にしてはというレベルだ)
剣士(ここは穏便に決着を──)
剣士「ぐおっ……!」
剣士(な、なんだ今の変則的な軌道は!? 急に太刀筋が曲がった!)
実況『早くも剣士、腕に一太刀浴びた!』
女剣士「一回戦、見させてもらってたけど」
女剣士「あなたのようなオーソドックスなタイプは、私のいいカモよ」
女剣士が仕掛ける。
ギュルンッ! ギュルッ! ギャルッ!
剣士(軌道が──読めない!)
実況『こ、これは……っ! 剣士が一方的に攻め込まれているっ!』
友人「マジかよ……! アイツが女なんかに……」
剣士(女性の方が男より体が柔軟だというが、その柔軟性をフル活用しているのか!)
剣士(時折太刀筋を変化させるくらいなら俺でもできるが──)
剣士(こんな蛇のように軌道を変える剣は、お目にかかったことがない!)
ギュルッ! ザシュゥッ!
剣士「ぐあ……っ!」
剣士(一回戦でのふざけた勝ち方は……やはり手の内を明かさないためだったのか!?)
シュッ!
今度は脇腹に一閃を受ける。
女剣士「……さすがね」
女剣士「かわせないまでも、勝負が決まるような一撃はかろうじてさけている」
女剣士「私はあなたのような剣士とは、いっぱい戦ったことがある!」
女剣士「でも、あなたは私のような剣士とは初対決でしょ?」
女剣士「この差は覆せないわよ!」
ギャルルッ! ザシュッ! ギュルンッ! ズシャアッ!
実況『みるみるうちに、剣士の傷が増えていく!』
実況『これはもう、勝負あったか!?』
友人「ち、ちくしょうっ!」
友人「剣士の剣はいなされて、向こうの剣はよけきれないなんてっ!」
ザシィッ!
剣士「ぐ……っ!」ヨロッ
女剣士「私はあなたをけっこう気に入ってるのよ。なるべく斬りたくないわ」
女剣士「悪いことはいわないから、大人しく降参してくれない?」
女剣士「むっ」
剣士「なぜなら、これは勇者を目指す大会だ」
剣士「魔王軍と戦争になれば、それこそ知らない技や術との戦いの連続だろう」
剣士「仮に勇者になれなくとも、俺は勇者の心だけは持ちたい」
剣士「だから俺は諦めない!」
女剣士「……たしかにそうね、あなたのいうとおりだわ」
女剣士「だったら──私も全力であなたを倒す!」
戦いが再開される。
実況『直線と曲線の剣が入り乱れる!』
実況『相変わらず女剣士が優勢です、が』
実況『少しずつ剣士が女剣士の剣についていってるようにも見えます!』
剣士(相手を驚かせるような技なんて、なにひとつ持っちゃいない)
剣士(だが、その分相手がどんな武器や流派でも堅実に戦える!)
剣士(つまり、相手の技の見極めるための時間が作れる!)
ギュルンッ! ギュルルッ!
剣士(女剣士の剣術の強みは、急変する軌道で、敵の防御をかいくぐるところにある!)
剣士(もっといえば、剣と剣の接触を極力避けている!)
剣士(女性ゆえの非力、剣の打ち合い、つばぜり合いは不利だと分かっているからだ)
剣士(ならば、俺は女剣士ではなく、その剣を狙う!)ブンッ
女剣士「……とっ」ギュルッ
ガキッ!
剣士の剣が、ついに女剣士の剣を捉えた。
女剣士(しまった……! 私がどう彼の剣をかわすか、を読まれた!)グググ…
剣士「アンタみたいに一瞬一瞬判断して剣の軌道を変えるのはとても無理だが」グググ…
剣士「前もって変える方向を決めておけば、話は別だ」
キィンッ!
剣士は女剣士の剣を押しのけ、一閃──
シュバッ!
女剣士「あ、うぅ……」ドサッ
腰近くを切り裂かれ、女剣士はダウンした。
審判「それまでっ!」
ワアァァァァァ……!
実況『大逆転っ! 剣士、みごと決勝進出を決めたぁっ!』
友人「よっしゃあっ! よくやったっ!」
女剣士「ま、待って……」ググッ
剣士「ん?」
女剣士「最後の一撃……なんでこんな浅手に抑えたの?」
剣士「……深く斬り込めば、アンタの反撃をもらう可能性があった」
剣士「これはトーナメントだ。これ以上傷をもらう愚は避けたかっただけだよ」
女剣士「…………」
女剣士「ふふっ……私の、完敗ね」
剣士「こちらからも聞きたい」
剣士「これだけの技量がありながら、一回戦……なんであんなマネを?」
女剣士「そうね……もしあなたが優勝できたら教えて……あげるわ」
剣士「……分かった、約束だ」
剣士(魔法剣士と老剣士は……どちらも試合会場か)
剣士「っつうっ……!」ズキッ
剣士(やりづらい相手だった……!)
剣士(剣の接触を避けるクセがなければ、手の打ちようがなかったな……)
怪力剣士「よう」
剣士「怪力剣士! もう歩いても大丈夫なのか」
怪力剣士「ぐははっ、俺様の丈夫さは人一倍だからな!」
怪力剣士「さっきの試合、結果は知ってるぜ。ひとまずはおめでとうだな」
剣士「ありがとう」
怪力剣士「なんたってこの俺に勝ったんだ、必ず優勝しろよ!」
怪力剣士「とはいえ残る二人、どちらが上がってきてもキツイ試合になるだろうがな」
剣士「もちろんだ、アンタのいうとおりこの8人に弱いヤツはいない」
怪力剣士「ふん、いいツラ構えだ。わざわざ来ることもなかったか」
ワアァァァァァ……!
実況『準決勝第二試合を開始いたします!』
実況『剣と魔法で、二刀剣士を打ち破った魔法剣士!』
実況『爆発する剣で、盾剣士を粉砕した老剣士!』
実況『勝利の女神はどちらに微笑むのか!?』
審判「構えてっ!」
魔法剣士「年寄りがここまで来るとは、この国の剣士などこんなものだ」チャキッ
老剣士「ほっほっほ、さぁて楽しませてもらうかのう」チャキッ
実況『老剣士は新しい剣を装備しております!』
審判「始めっ!」
老剣士「ほっ?」
実況『水の塊が老剣士の刃にヒット! これは水の魔法でしょうか!』
魔法剣士「これでもう、仕込んだ爆薬は意味をなすまい」
魔法剣士「剣の爆発さえなければ、キサマなどただの老いぼれにすぎん」
魔法剣士「俺の勝ちだ」
老剣士「残念じゃったのう」
魔法剣士「!?」
実況『どうしたことだ!? 老剣士の剣に、水が吸収されてしまった!』
老剣士「この剣は……魔法を吸収する剣でのう」
老剣士「剣術のトーナメントでは不要かと思ったが、持ってきておいてよかったわい」
魔法剣士(魔法を、吸収……!?)
老剣士「これでおぬしの持ち味を半分殺したことになるのう」
老剣士「さらにおぬしの誤算はもうひとつ」
老剣士「ワシは──」
老剣士「普通に戦ってもわりと強い」ダッ
ザシュッ!
魔法剣士「ぐっ!」
ガキンッ! キィンッ! ギィンッ!
老剣士「どうやら、おぬしとワシでは──」
キンッ! ガキッ! ザシッ!
老剣士「ワシの方が上のようじゃのう、ほっほっほ~!」
魔法剣士「老いぼれぇ……!」
老剣士「本業の片手間にやってた剣術じゃが、才能というのは怖いのう」
魔法剣士「本業……?」
老剣士「おおっと、しゃべりすぎたようじゃ」
ガキンッ!
実況『魔法剣士、たまらず間合いを広げました! ですが──』
老剣士「ワシの剣がある以上おぬしの有利にはならん」
老剣士「さてせっかくじゃから、ここらで正体を明かしておこうかのう」ニィッ
老剣士「“奇人”の異名で通っておった武器職人じゃった」
ザワッ……
観客の一部が沸き立つ。
観客A「あのジジイ、“奇人”だったのかよ!」
観客B「まだ生きてたのか……!」
観客C「え、だれ!?」
友人(なんだなんだ!? 有名人なのか、あのデンジャラス爺さん!)
国王の顔色も変わる。
国王(ま、まさか……戻ってきておったとは……!)
老剣士「しかしワシの作る武具は邪道で危険だと判断され──」
老剣士「国王の命令で追放されてしもうた」
老剣士「ワシにとってこの大会は復讐なのじゃよ」
老剣士「魔王出現という緊急事態で、王国が理想とする正道な剣というものが」
老剣士「いかに役立たずなものであるかを知らしめるためにのう!」
老剣士「ワシが勇者となったあかつきには、まず最初に──」
老剣士「この国の剣士全員をあざ笑ってやるわ!」
ザワザワ…… ドヨドヨ……
魔法剣士「職人と剣士、二つの才で復讐を行うというわけか」
老剣士「そういうことじゃ」
魔法剣士「理解できた」
魔法剣士「やはりお前など、俺の敵ではない」
ブォアッ!
老剣士「む」
実況『炎魔法だっ!』
老剣士「無駄じゃというに」ジュゥゥ…
実況『──が、やはり吸収されて』
ザンッ!
老剣士「ぐおおっ……!」
実況『! なんとぉっ! 魔法を放つと同時に、間合いを詰めていた魔法剣士!』
実況『老剣士の脇腹を斬った!』
老剣士「ぐっ……!」
ブオアッ! シュバッ! ブオオッ! ザンッ!
実況『剣と魔法による波状攻撃っ!』
実況『これは老剣士、かわしきれないっ!』
老剣士「ぐうう……っ!」
老剣士(こやつ、自分の呪文の速度を熟知しておる!)
老剣士(魔法を剣に吸収させると──剣を受けることができんっ!)
老剣士(じゃが、剣を剣で受けてしまうと──魔法を吸収できんっ!)
魔法剣士「ふっ!」バッ
パキィィィン……
実況『老剣士、氷魔法を剣では受けずに、かわした!』
老剣士(やむをえん、こうなれば奥の手を使うか)
老剣士(水魔法は吸収したおかげで、しけってもおらん)
老剣士(盾剣士を倒した剣の、半分にも満たぬ量じゃがな)
老剣士(じゃが、こやつを動けなくするには十分すぎるっ!)シュッ
一回戦のように魔法剣士に向かって、地面に滑らすよう剣を投げる老剣士。
老剣士(ど、どういうことじゃ? ものすごい勢いで剣が滑って──)
老剣士(──地面が凍ってる!?)
老剣士は剣が魔法剣士の近くで爆発するタイミングで、剣を投げていた。
だが、凍った地面によって、剣は老剣士の計算よりスピードが出てしまい──
魔法剣士「じゃあな、老いぼれ」コンッ
──剣は蹴り返された。
老剣士(まさかあやつ、ワシが爆薬を仕込んでると読んで、氷の呪文を──!)
老剣士「う、うわっ! 戻ってくるなぁぁぁ!」
──ズガァンッ!!
ベッドに横たわる盾剣士と二刀剣士。
盾剣士「爆発音か……」
盾剣士「老剣士が勝ったのだろうな……吾輩にやった手で」
二刀剣士「いや、そいつはどうかな」
盾剣士「え?」
二刀剣士「あの魔法剣士……恐ろしく冷酷な目をしていた」
二刀剣士「あんなに濁った目をした男は初めてだったよ」
二刀剣士「……なんていうのかな」
二刀剣士「俺らのような剣士そのものを憎悪してる、って感じだった」
┏━ 剣士
┏━┫
┃ └─ 怪力剣士
┌━┫
│ │ ┏━ 女剣士
│ └━┫
│ └─ 神聖剣士
─┤
│ ┌─ 二刀剣士
│ ┏━┫
│ ┃ ┗━ 魔法剣士
└━┫
│ ┏━ 老剣士
└━┫
└─ 盾剣士
女剣士「これでよし、と」ギュッ
剣士「悪いな、包帯を巻いてもらっちゃって。そっちも怪我人だっていうのに」
剣士「自分でやるとどうも下手なんだ、これが」
女剣士「いいっていいって」
女剣士「自分を負かした相手だからってわけじゃないけど……」
女剣士「ここまできたら、勇者になっちゃってよ!」
剣士「勇者、か……」
剣士「これだけ剣の使い手がいるのに……勇者は一人、か」
女剣士「え、今なんかいった?」
剣士「あ、いや……なんでもない」
ワアァァァァァ……!
実況『決勝戦!』
ワアァァァァァ……!
実況『泣いても笑っても、これが最後の戦いです!』
ワアァァァァァ……!
実況『勝って勇者の称号を手にする剣士は、果たしてどっちだ!?』
ワアァァァァァ……!
実況『両者入場!』
実況『人生、剣一筋! オーソドックスこそ最強!』
実況『剣士だっ!!!』
実況『対するは──』
実況『一回戦では二刀剣士、準決勝では老剣士を打ち破りました』
実況『剣と魔法の融合剣術に死角なし!』
実況『魔法剣士だっ!!!』
友人(頑張れよ……剣士!)
友人(なんつうか、あの魔法剣士ってヤツ、他のヤツとなんかちがうんだよな)
剣士「…………」チャキッ
魔法剣士「…………」ザッ
魔法剣士(一本の剣に全てを捧げたような愚直な男……)
魔法剣士(俺がもっとも嫌悪するタイプだ)
ビュビュビュビュビュッ!
実況『出たぁっ! 二刀剣士を苦しめた風の刃!』
魔法剣士(二刀を操るヤツでも、これを受け損じた)
魔法剣士(キサマでは到底受け切れまい)
実況『えぇぇぇぇ~っ!? 剣士、風の刃の中に自ら飛び込んだ!』
友人「剣士っ!?」
魔法剣士(馬鹿め、自滅か)
ズバババッ!
盾剣士(む……身をかがめて、斬られてはならぬ急所のみをガードしてる!)
二刀剣士(俺は無理に全部受けようとして、足に痛手を負って、敗れた……)
二刀剣士(やるじゃんか……!)
実況『剣士、風の刃をくぐり抜けたぁっ!』
魔法剣士「なんだとっ!?」
剣士「でりゃあっ!」
ザシュッ!
魔法剣士「がっ……!」
実況『ですが剣士も風の刃を浴びており、ダメージは五分といったところか!?』
勝負は接近戦へ。
キィンッ! ギィンッ! キンッ!
実況『剣士が押している! やはり純粋な剣の技量は剣士の方が有利か!』
ガィンッ! ギンッ! ガキンッ!
魔法剣士「剣一筋に生きてきた、というわけか。さぞかし誇らしいことだろう」
剣士「?」
魔法剣士「軽いんだよ、キサマらは」
ボゥアアッ!
魔法剣士は至近距離にもかかわらず、炎魔法を放った。
両者、ダメージを受ける。
剣士「な……っ! あっつ……!」
魔法剣士「…………」ブツブツ
ダメージを意に介さず、さらに呪文を唱える魔法剣士。
魔法剣士「終わらせる」
ギィンッ!
実況『魔法剣士の動きが目に見えてよくなりました!』
怪力剣士「ヤロウ、パワーも上がってやがる!」
ギィンッ! ガゥンッ! キンッ!
実況『剣士の有利が一転──』
実況『別人のような魔法剣士の速く重い攻撃に、剣士は防戦一方だ!』
友人(頑張れ……)
友人(ここでなんかアドバイスとかできたら最高だけど……)
友人(俺には……応援することしかできない……!)
友人「頑張れーっ!」
ワアァァァァァ……!
実況『魔法剣士、押してはいるものの、なかなか剣士を攻め切れません!』
魔法剣士(なぜだ……なぜ圧倒している俺が焦らねばならない)
キィンッ!
実況『徐々に──』
ガキンッ!
実況『剣士の──』
キィンッ!
実況『ペースになってる!?』
魔法剣士(なぜだっ!)
女剣士(剣士のもっとも恐ろしいのは、あの愚直なまでに基本に忠実な動きよ)
女剣士(派手さも一発もないけど……安定感は抜群)
女剣士(もし彼が、どこか能力が勝ってるくらいで押し勝てるようなら)
女剣士(怪力剣士か私が、すでに負かしているでしょうね)
魔法剣士「うぐぅっ!」
剣士(やはりそうだ!)
剣士(速くなっても、力強さが増しても、動きは同じ!)
剣士(無理に速さや力に対抗しようとしなければ、対処できる!)
魔法剣士「なぜだぁっ!!!」
キィンッ!
剣士「!」バッ
魔法剣士「剣のみに生きていたような輩に、この俺が……!」
剣士「剣だけの俺より、剣と魔法を扱えるアンタの方が上ってことか?」
魔法剣士「そうではない」
魔法剣士「しかし、才能の壁にブチ当たり……挫折した」
魔法剣士「次に俺は魔法使いを目指した」
魔法剣士「だがやはりぶ厚い壁があった。俺の呪文レベルはせいぜい中級だ」
魔法剣士「俺は剣でも魔法でも……一流にはなれないと悟った」
魔法剣士「だが運命は俺を見捨てなかった」
魔法剣士「俺は……剣と魔法を組み合わせる戦うことに関しては、才能があった」
魔法剣士「二度の挫折を経て、俺はようやく自分の道を見つけることができた」
魔法剣士「それに引き換え、キサマらは順調に剣の才に恵まれたものばかり」
魔法剣士「準決勝の老いぼれに至っては、剣と武器職人の才能を持っていた」
魔法剣士「挫折を知らぬ……軽薄な力だ!」
魔法剣士「俺の力は、キサマらとは重みが違うのだ!」
剣士「…………」
魔法剣士「──我が魔法剣をっ!」
パアァァァ……
魔法剣士は持てる魔力を全て、自らの剣に叩き込んだ。
魔法剣士「魔力で剣は切れ味を増す」
魔法剣士「しかももう呪文を唱える必要もない」
魔法剣士「剣を振るうだけで、魔法が放たれるからな」
魔法剣士「これが俺が達した剣と魔法の究極戦術、魔法剣だっ!」ブオンッ
ゴォワァッ! パキィンッ! ピシャァン!
実況『炎魔法! 氷魔法! 雷魔法!』
実況『す、すごいっ! 本当に剣を振るだけで、次々と魔法が飛んでいく!』
友人「なんだよそれ……呪文唱えなくていいとか、は、反則だろ……!」
あらゆる属性の魔法が、剣士に次々襲いかかる。
ボゥワァッ! ピシャァン! ザシュゥッ!
剣士「ぐっ!」ダダッ
剣士(かわしながら──接近戦に持ち込めば!)ダダダッ
魔法剣士「話を聞いてなかったのか?」
魔法剣士「剣は切れ味を増した、と」
魔法剣士「雑魚が」
パキィンッ!
実況『魔法剣士の剣によって、剣士の剣が真っ二つになったぁ!』
友人「剣士っ!」
剣士(たとえ剣が折れても、俺にはこれしかできない!)
実況『剣士、まだ心は折れていないっ! 基本通りの動きで、魔法剣士に迫るっ!』
魔法剣士「な……っ!」
魔法剣士(剣で受けるか!?)
魔法剣士(いや呪文で迎撃するか!?)
魔法剣士(一度間合いを開けるか!?)
剣士(斬る!)
ザグゥッ!
剣士の折れた剣が、魔法剣士の胸を切り裂いた。
魔法剣士「あ、ぐぅ……っ!」
魔法剣士(な、なぜ、だ……)
魔法剣士(なぜ……コイツは──)ブシュウ…
ドザァッ!
実況『血しぶきを上げ、魔法剣士がついに崩れ落ちたっ!』
審判「それまでぇっ!」
実況『ついに決まったぁっ!』
実況『勇者決定トーナメント優勝、すなわち勇者の称号を獲得したのは』
実況『──剣士だぁっ!!!』
ワアァァァァァ……!
友人「や、やりやがった……! やりやがった、すげぇ!」
女剣士「おめでとう……かっこよかったわよ」
怪力剣士「ぐははっ、さすが俺様をブッ倒しただけのことはあるぜ」
盾剣士「これほど自分に迷いがない剣士は、見たことがないな」
二刀剣士「……俺も一から出直し、だな」
剣士「なんだ?」
魔法剣士「なぜお前の剣は乱れない……?」
魔法剣士「見慣れぬ戦法を見たら……普通の人間は動きにブレが出るはずだ」
魔法剣士「少なくとも、俺の魔法剣は……初見のハズだ」
剣士「…………」
剣士「剣の使い手なら、だれだって最初に“基本の型”を習う」
剣士「習得に三ヶ月要するというが、アンタはどれだけかかった?」
魔法剣士「…………」
魔法剣士「お、俺は……半年以上かかった……」
魔法剣士「才能が、なかったからな……」
魔法剣士「!?」
剣士「基本にそれだけ費やしたら──」
剣士「もう独自のスタイルを追求するとか、必殺技を身につけるとか」
剣士「アンタみたいに魔法や他の武器に手を出す気力もなかった」
剣士「引き返せなかった」
剣士「だから……基本の型だけを徹底的に鍛え抜いた」
剣士「動きがブレに出ないのは当たり前だ」
剣士「それしか……できないんだから」
魔法剣士「なるほ、ど……」
魔法剣士「まさか俺以上に才能のないヤツが、出場してたとはな……」
魔法剣士「くくくっ……誤算、だった……」
魔法剣士「くぅっ……」グスッ
┏━ 剣士
┏━┫
┃ └─ 怪力剣士
┏━┫
┃ │ ┏━ 女剣士
┃ └━┫
┃ └─ 神聖剣士
━┫
│ ┌─ 二刀剣士
│ ┏━┫
│ ┃ ┗━ 魔法剣士
└━┫
│ ┏━ 老剣士
└━┫
└─ 盾剣士
国王「おっほん」
国王「剣士君、おめでとう!」
国王「強さはもちろん、戦いぶりもみごとなものであった!」
国王「君はまさしく、勇者の名に相応しい剣士だ!」
国王「ではさっそく、称号を──」
剣士「お待ち下さい、国王様」
国王「ん、どうしたのかね?」
剣士「今回の大会で、俺はさまざまな剣の使い手と出会いました」
剣士「特にトーナメントに出そろった選手は、みな実力伯仲」
剣士「組み合わせや試合の流れ、ちょっとした時の運次第で」
剣士「8名のうち……だれがここに立っていても、おかしくはありませんでした」
剣士「その称号をたった一人だけに与えて」
剣士「もしその一人が倒されたら人間側のダメージははかり知れません」
剣士「たまたま優勝したとはいえ、俺には荷が重すぎます」
剣士「ならばいっそ、複数の勇者がいたっていい」
剣士「少なくともトーナメントの出場者には、勇者を名乗れる実力があるはず」
剣士「ですから国王様、今回俺に与えられるはずの数々の特権──」
剣士「8等分していただくことはできませんか?」
剣士「もちろん彼らの同意があれば、ですが」
国王「ほほう……なかなか面白いことを考える」
国王「たしかにそうだ」
国王「勇者とは人類の心のよりどころ」
国王「それをたった一人に担わせては、諸刃の剣になりかねんな」
国王「ならば今日この場で、『勇者部隊』の設立を宣言する!」
国王「メンバーはトーナメントに参加した8名!」
国王「リーダーはもちろん……剣士、おぬしだ!」
剣士「ありがとうございます……!」
ワアァァァァァ……!
友人「あ~あ、もったいねぇ」
友人「でも……お前みたいなヤツを友人に持てて誇りに思うよ」
友人「おめでとう……!」
会場の盛り上がりが最高潮に達した──
その時だった。
『フハハハハハハッ!!!』
国王「この声は!?」
ザワザワ…… ドヨドヨ……
突如、会場中に巨大な声が降ってきた。
魔王『ワシは魔王だ!』
魔王『まずは人間どもよ、なかなか面白い見世物だった! 礼をいうぞ!』
魔王『そして勇者部隊ときたか……面白い! 実に面白いぞ!』
魔王『ワシが求めるのは、人間どもの豊かな大地と──血湧き肉躍る戦い!』
魔王『かつてワシを打ち破った勇者との戦いのような、死闘を欲しておる!』
魔王『我が軍はまもなく進撃を開始する』
魔王『七人の勇者たちよ、全力でワシらを迎え撃つがよい!』
魔王『期待しているぞ、フハハハハハハハ……!』
剣士「……そのようですね」
国王「おのれ、いったいどこから……」
剣士「おそらく千里眼のような能力があるのでしょう」
剣士「あるいはこの会場内のどこかに、魔王に映像を送る使い魔がいたのかもしれません」
国王「ふぅむ……。やはり魔王とは、我々の想像以上に恐ろしい敵のようだな」
剣士「はい」
剣士「しかし、魔王の野望は、この国の剣士たちが必ず阻止します!」
女剣士「おめでとう、勇者! ──って、私も勇者になっちゃったのよね」
女剣士「なんか変な気分だわ」
剣士「今日の敵は明日からは友だ。よろしく頼む」
女剣士「うん」
剣士「ところで、さっきの試合での約束、覚えているか?」
女剣士「ん、ああ……なんで一回戦であんな戦法を取ったか? だっけ」
女剣士「いいわよ、教えてあげる」
女剣士「聞かなきゃよかった、とかいわないでよね」
剣士「なんだって……!?」
女剣士「もし1パーセントでも勝てる望みがある相手なら」
女剣士「私だってあんな恥知らずなマネせず、正々堂々戦うわ」
女剣士「最初に剣をぶつけ合った瞬間、分かったわ」
女剣士「私の力じゃ、どうあがいても勝てない、殺されるって──」
女剣士「それと同時に剣を通じて、神聖とは名ばかりの邪悪な力も感じ取れたわ」
女剣士「もし本当に神に仕える剣士なら、色仕掛けなんか通じるわけないけど」
女剣士「そうでないのなら……通じるかも、と思ってやってみたら勝っちゃった」
女剣士「もっとも、あのまま戦ってたら私はまず負けてたわ」
女剣士「審判がいる“試合”だから勝てたのよ」
女剣士「私を負かしたあなたに“あなたより神聖剣士の方が強い”なんていえるワケない」
女剣士「だから……もしあなたが優勝したら話そう、と思ったの」
剣士「そういえば、無傷にもかかわらず姿が見えないが、彼はいったい──」
女剣士「もしかしたら、魔族のスパイだったのかもしれないわね……」
魔王「戻ったぞ」
側近「魔王様! やはり例の大会に向かわれていたのですか!?」
魔王「うむ、神に仕える剣士だと身分と姿を偽って、な」
魔王「まさか神聖と名乗る者が、魔王だとはだれも思うまいて」
側近「我々魔族の力はまだ復活したてで完全ではありません」
側近「しかも人間に化けると、能力は十分の一以下に落ちます」
側近「あまりムチャをなさらないで下さい」
魔王「分かっておる、心配をかけた」
魔王「だが、収穫もあったぞ」
魔王「あの王国の剣士ども……まだまだ未熟ではあるが」
魔王「思う存分ワシを楽しませてくれそうだ」ニィッ
魔王「フハハハハハハハ……!」
側近「まったく、あなたというお方は……」
魔王軍による人間界への侵攻が始まっていた。
世界各地で猛威を振るう魔王軍を目の当たりにし、人々は絶望に包まれる。
しかし、希望もあった。
修業を重ねた七人の剣士からなる『勇者部隊』もまた、世界各地で大活躍していた。
女剣士「ふふ、まっかせといて!」
怪力剣士「腕がなるぜ! 全部叩き潰してやる!」
盾剣士「先頭は吾輩に任せておけ。だが、今日の敵もなかなかあなどれんな」
二刀剣士「だけどさ、こっちだって強くなってるって」
二刀剣士「それに爺さんがメンバーそれぞれに作ってくれた剣、こりゃあ扱いやすい!」
老剣士「なんたって、ワシの得意分野じゃからな」
老剣士「ただし、“奇人”らしくえげつない性能になっておるぞ」ニヤッ
剣士「じゃあ魔法剣士、みんなの能力を上げる魔法を頼む」
魔法剣士「任せろ」
パァァァ……
剣士「よしみんな、行くぞっ!」ダッ
後の世で『七勇者戦記』と語り継がれることとなる、伝説の始まりである──
~おわり~
ガチSSで終始面白かった 各キャラに個性があってかなり良かった
面白かった、オチもよかった
面白かったよ
でもこれむしろ始まりの間違いじゃね?
Entry ⇒ 2012.09.16 | Category ⇒ 勇者魔王「」SS | Comments (0) | Trackbacks (0)
勇者(魔法使いのやつスカート短すぎだろ……)
魔物「ぎゃああ!」
勇者(集中して戦えないって……)チラ
勇者(今日はピンクか……)
みたいなん読みたいです
勇者「あっ!」
魔法使い「あ、アンタ……!」カアアー
勇者「い、いや!ちがっ!」
魔法使い「ふんっ!」ドゴオッ!
勇者「ぐああ!」
勇者「ぐ……」
僧侶「大丈夫ですか勇者さま?」
勇者「僧侶……」
僧侶「すぐ回復しますので、我慢してください」
勇者「杖で思いっきり殴りやがって……」
魔法使い ツーン
勇者「まあそれは……わかってるけどさ」
僧侶「男の方はどうしてもそういうところに目がいってしまうというのは、私もわかりますが……」
僧侶「それでも、やっぱり見られる側は、恥ずかしいですから」
勇者「く……」
戦士「…………」フルフル
勇者「否定すんのかよ……やっぱり無口だな、おまえ……」
僧侶「まあ戦士さまと違って、勇者さまがまだお若いというのもあるかと思いますが……これからは少し控えたほうがいいですよ?」
勇者「わかったよ……」
勇者「丘の上にできてるんだな」
僧侶「戦いの後で疲れているのに階段はちょっとキツいですね」
魔法使い「!」バッ!
勇者「な、なんだよ?スカートおさえて……」
魔法使い「……先に行って、階段」
勇者「え?」
魔法使い「さ、き、に、いっ、て」ゴゴゴ
勇者「は、はい……」
勇者「え、マジですか?」
宿屋「はい。大部屋ですので四人でも大丈夫だとは思いますが……」
勇者「うーん、じゃあそうするか」
僧侶「そうですね、旅を始めたばかりのお金がない時はいつもそうでしたし」
勇者「よし、それじゃ……」
魔法使い「いやよ!絶対いや!」
魔法使い「なんでこんなスケベと一緒の部屋で寝なきゃいけないの!?絶対いや!」
僧侶「魔法使いさま、落ち着いて……」
魔法使い「戦闘中だってのに人のスカートの中覗くような変態よ!?寝てる間に何されるかわかんないじゃない!僧侶さんも女ならわかるでしょ!?」
僧侶「いえ、それは……」
勇者「し、しないよそんな事……」
勇者「しないよ……」
僧侶「とりあえず魔法使いさま、今回はゆずってください。ほかに宿もありませんし」
魔法使い「……わかったわよ」
魔法使い キョロキョロ
僧侶「どうしました?」
魔法使い「……あいつ、覗きとかしに来るかと思って」
僧侶「さすがにそれはないと思いますよ」
魔法使い「でも……」
僧侶「背中、流しましょうか?」
魔法使い「……お願いします」
勇者「あーあ……」
勇者「ちょっとしたスケベ心で、随分と信頼なくしちまったな……」
戦士「…………」ゴシゴシ
勇者「なあ、やっぱこれってまずいよな?」
戦士「…………」コク
勇者「だよなぁ……」
戦士「…………」スッ
勇者「ん?ああ、終わりか、サンキュー。次はそっちの背中流すよ」
戦士「…………」コク
勇者「わかってるよ……」
魔法使い「僧侶さん、隣で寝てください、戦士さんはあの変態の隣で」
僧侶「わかりました」
戦士「…………」コク
勇者「…………」
僧侶「すーすー……」
戦士「…………」
魔法使い「くー……くー……」
勇者「んん……」モゾモゾ
勇者「ふああ……」ムク
勇者「トイレ……」フラフラ
勇者「ふう」
勇者「寝なおすか」フラフラ
ガッ
勇者「うわっ?」
勇者「いってー、なんだ?」
勇者「戦士の荷物につまずいたのか……」ムニュ
勇者「ん?」
ムニュムニュ
魔法使い「んっ……あっ……」ピクン
勇者「!」
魔法使い「ん……?」パチ
勇者「あ……」
魔法使い「…………」
勇者「…………」
魔法使い「ひっ、ひっ……」ジワア
勇者「こ、これは違っ」
魔法使い「いやぁああぁあぁああぁあ!!!」ドゴオッ!
勇者「ぐああああ!!」
僧侶「何事ですか!?」ガバッ!
魔法使い「ふー……!ふー……!」ブルブル
勇者「や、やめろ!それ俺の剣だって!マジでケガするって!」
魔法使い「あ、アンタなんか……!アンタなんか……!」ブルブル
勇者「ひぃいぃい!?」
戦士「…………」ガシッ
魔法使い「な!?ちょっと離して!邪魔しないでください!」バタバタ
僧侶「ダメですよ、本物の剣できってはもうたんこぶじゃすみません」
魔法使い「いいじゃないですか!セクハラされた女の子の気持ちわからせるために、切り落として女の子になってもらうんだから!」バタバタ
勇者「ひぃいぃい!?」バタバタ
勇者「うん……」
僧侶「ほら、事故だったようですし」
魔法使い「……なんで簡単にこの変態の言うことを信じるんですか……」
僧侶「仮に本当に襲うというなら、私と戦士さんを仲間にする前にしていたと思いますよ」
戦士「…………」コク
魔法使い「ふん……」
勇者「……ごめん」
魔法使い「え……」
僧侶「ダメですよ勇者さま。あと数時間で夜明けとはいえ、まだ外は冷えます」
勇者「いや、変なとこ触ったのはほんとだしさ……不安にさせてもまずいし……」
魔法使い「…………」
僧侶「…………」チラ
魔法使い「…………」プイ
僧侶「はあ……」
僧侶「わかりました。でも、毛布は持っていってくださいね」
勇者「わかってる」
戦士「…………」スッ
勇者「あ、ありがと」
魔法使い「…………」
魔法使い「…………」
勇者「うー、さむ……」
勇者「まあ一人の時はよく野宿してたしな、はは……」
勇者「へっくし!」
勇者「さむ……」
僧侶「すーすー……」
戦士「…………」
魔法使い「…………」
魔法使い(ちょっと言い過ぎたかな……)
魔法使い(でも、アイツがスケベなのが悪いんだもん……)
魔法使い(でも、外で寝かせることなかったかな……)
魔法使い(アイツ……寒いだろうな……)
勇者「よし、じゃあ出発しよう」
僧侶「勇者さま、大丈夫ですか?」
勇者「大丈夫だよ、たった数時間だったし」
僧侶「ならいいのですが……」
魔法使い「…………」
勇者「この街からでて森に入るとまた魔物が出ると思うから、戦闘準備だけはしておいてくれ」
僧侶「わかりました」
戦士「…………」コク
魔法使い「……わかってるわよ」
魔物「グオオオオ!」
魔法使い「やっ!」ドーン!
勇者(見るな見るな見るなよ俺!)
僧侶「はあ……」
戦士「…………」
僧侶「勇者さま」
勇者「ん?」
僧侶「今の戦いで使ったぶん、薬草が減ってしまいました。近くにあるものを採りにいきたいのですが」
勇者「あ、そうだな、そうしよう」
僧侶「いえ、私と魔法使いさまとで行ってきますので、お二人はここで休んでいてください」
魔法使い「えっ?」
勇者「え?いいのか?」
僧侶「はい、二人とも武器を使うのですから、私たちよりお疲れでしょう」
戦士「…………」コク
勇者「んー、じゃあそうしようかな」
僧侶「はい、いきましょう魔法使いさま」
魔法使い「は、はい……」
戦士「……勇者」
勇者「へ!?」
戦士「……話がある……」
勇者「き、急に喋るなよ、びっくりした……」
勇者「…………」
戦士「魔法使いのほうを、見ないようにしていたな?」
勇者「そうだよ……」
戦士「昨日あんな事があっては無理もないが……それでは連携もとりづらい」
勇者「わかってるけどさ……あれ以上嫌われたらまずいだろ」
勇者「だから?」
戦士「一度、しっかり謝って、話しあったほうがいい……」
勇者「…………」
戦士「それに、俺も僧侶も、おまえたちには幸せになってほしいと思っている……」
勇者「な!?は、はあ!?」
勇者「く……!おまえがわかるってことは、僧侶もか……」
戦士「…………」コク
勇者「くそ、そんなにバレバレかよ……どんだけわかりやすいんだ俺……」
戦士「場は、俺達が用意する……おまえはきちんと魔法使いと話し合え」
勇者「わかったよ……」
僧侶「すみません勇者さま、お金の問題で今日は二部屋しかとらないほうがよろしいかと」
勇者「ん、二人部屋な。悪いな、金の管理任せて」
僧侶「いえいえ」
魔法使い「どういうふうに分けるか、わかってるわよね?」
勇者「わかってるよ……」
勇者「二人部屋で」
宿屋「わかりました。二階の奥の部屋とその隣でございます」
勇者「わかりました」
魔法使い「アタシたちはこっちね、いこ、僧侶さん」
僧侶「はい」
戦士「ぐ……」ドサッ
勇者「え!?」
僧侶「大丈夫ですか?戦士さま?」
戦士「ぐ……腹が……」
僧侶「お腹を痛いのですか?これは大変ですね」
戦士「ぐ……」
僧侶「勇者さま、魔法使いさま」
勇者「な、なんだ?」
魔法使い「なんですか?」
勇者「あ、ああ」
魔法使い「はい……」
僧侶「ですので、私と戦士さまで、一部屋使わせていだきます。お二人はもう一部屋で今晩ともにお過ごしください」
勇魔「えぇええぇ!?」
勇者「いででででで!耳ひっぱるな!」
僧侶「あら、二部屋しか借りられないのですから仕方ないでしょう?」
魔法使い「で、でも……」
僧侶「それとも、魔法使いさまが戦士さまを看病なさいますか?魔法使いさまは回復魔法は使えないはずですが……」
魔法使い「う、うー……」
僧侶「それか、また勇者さまが外で寝ることになるかですが……」
魔法使い「あ……」
勇者「い、いいよ、俺はそれでも……」
魔法使い「い、いいわよ……」
勇者「え?」
魔法使い「風邪とかひかれても迷惑だし……今日はしなくていい……」
僧侶 ニヤ
戦士「…………」
僧侶「お疲れ様です」
戦士「あとはあいつら次第だな……」
僧侶「気になりますか?」
戦士「……おまえはどう思う?」
僧侶「まあ、大丈夫でしょう」
戦士「…………」
僧侶「あのこたちはまだ若いですから。あんなすれ違いくらい、なんとでもなりますよ」
戦士「……そうだな……」
魔法使い(きょ、許可はしたものの、一晩こいつと一緒とか……)ドキドキ
勇者「な、なあ」
魔法使い「えっ!?な、ななななによ!?」
魔法使い「え……」
勇者「嫌な思い、させちゃったから……」
魔法使い「…………」
勇者「ごめん」
魔法使い「……はー……」
勇者「え?」
魔法使い「アタシも、言いすぎたし……許してあげる」
勇者「……ありがとう」
魔法使い「ん……」コク
魔法使い「え?」
勇者「もう一つ、話があるんだけど……」
魔法使い「う、うん……」
魔法使い「うん……」
勇者「…………」
魔法使い「な、なに?早く言いなさいよ」
勇者「ま、待てって、心の準備必要なんだから」
魔法使い「…………」
勇者「よし……」
魔法使い「…………」
勇者「俺は……魔法使いのことが好きです」
勇者「…………」
魔法使い「えっ!?ええっ!?」
勇者「驚きすぎだろ……」
魔法使い「な、なに言ってんのよアンタ!そんな急に、ええっ!?」
勇者「ほ、本気なんだ!」ガシ
魔法使い「あ……」
勇者「だから、俺の恋人になってくれ」
魔法使い「…………!」
勇者「ん?」
魔法使い「肩、痛い……」
勇者「ご、ごめん」パッ
魔法使い「…………」ドキドキ
魔法使い「え……?」
勇者「へ、返事は……?」
魔法使い「……ばか」
魔法使い「こ、こっちだって……アンタがいなきゃ自分の村も助けられなかったし……」
魔法使い「それ以外でも、いっぱい助けてもらったりしてるんだから……」
魔法使い「好きにならないわけ……ないじゃない……」
勇者「…………!」
魔法使い「お、お礼言うようなことじゃないわよ」
魔法使い「アタシだって、アンタのこと好きなんだから……」
勇者「魔法使い……」ギュ
魔法使い「ん……」ギュ
魔法使い「ね、ねえ……」
勇者「ん?」
魔法使い「す、好きなのはほんとだけど……すぐにその……えっちなこととかは、ダメなんだからね……」
勇者「は、はあ?」
魔法使い「そ、そういうのは、ちゃんと時間と手順踏まないと、ダメなんだもん……」
魔法使い「だってアンタ、変態じゃない」
勇者「もう勘弁してくれ……」
魔法使い「ふふ……」クスクス
魔法使い「ん?」
勇者「キスは?」
魔法使い「…………」
勇者「…………」
魔法使い「それなら……いい……」
勇者「ん……」スッ
魔法使い「しても……いいよ……」
チュッ
……くそっ
魔法使い「えへへ……」
勇者「うれしかった」
魔法使い「アタシも……うれしかった」
勇者「これからもよろしく……恋人として」
魔法使い「うん……こちらこそ、よろしく……」
勇者「さあ、出発しよう」
魔法使い「うん!」
僧侶「……うまくいったみたいですね」
戦士「……そうだな」
魔法使い「え?なんですか?」
僧侶「いいえ、なにも」
戦士「…………」フルフル
魔法使い「あ、ちょっと待ってよ」タタタ
勇者「おい、走ると危ないぞ。そこ石が」
ガッ
魔法使い「あっ!」グラ
勇者「う、うわ!?」
ドサッ!
戦士「…………」
魔法使い「いたた……あ!」
勇者「むっ、むぐっ……」
勇者(なんだ?視界が水色一色に……しかも甘酸っぱいにおい……)
魔法使い「やっ、やだあっ!」ギュウウウ!
勇者(な、なにに挟まれてるんだ!?すげースベスベでちょっとひんやりした……)
勇者「むぐぐぐ!」バタバタ
魔法使い「やんっ!息が……あつい……!」ハアハア
勇者「ぐ、むぐ?」
魔法使い「こ、この……///!」カアアー!
勇者「む!?」
魔法使い「ばかぁあぁあ!!」ドゴオ!
勇者「ぐふあぁああぁ!?」
おわり
終始ニヤニヤが止まらなかった
魔法使いかわええ
Entry ⇒ 2012.06.08 | Category ⇒ 勇者魔王「」SS | Comments (1) | Trackbacks (0)
魔王「来たかッ!」ガタッ!
側近「まだで御座います」
魔王「そうか……」ガタッ
側近「………」
魔王「来たかッ!」ガタッ!
側近「まだで御座います」
魔王「そうか……」ガタッ
側近「………」
魔王「……来たか?」ガタ
側近「まだで御座います」
魔王「そうか」
側近「………」
側近「………」
魔王「………」
側近「まだで御座います」
魔王「そうか……」ガタッ
側近「………」
魔王「……そろそろ?」
側近「まだまだで御座います」
魔王「そうか……」
側近「………」
魔王「………」ガタッ!
側近「まだで御座いますよ?」
魔王「……トイレ」
側近「左様で御座いますか」
側近「まだで御座います」
魔王「………」
側近「………」
魔王「………」
側近「いかがなさいましたか?」
魔王「立ち眩み……」
側近「御夕食に鉄分の多い物を用意いたしますので」
魔王「すまん……」
側近「………」
魔王「………」
側近「まだで御座います」
魔王「そうか」ガタッ
側近「………」
魔王「……遅くない?」
側近「このような物かと」
魔王「そうか……」
側近「………」
魔王「……来たかッ!」ガタッ
側近「まだで御座います」
魔王「そうか……」
側近「………」
側近「まだで御座います」
魔王「そうか」ガタッ
側近「………」
魔王「……部屋で待ってていい?」
側近「駄目で御座います」
魔王「そうか……」
側近「………」
魔王「もし……勇者来なかったらどうしよう……」
側近「その時は私めが勇者を努めさせて頂きますので御安心ください」
魔王「そうか、なら安心だ」
側近「………」
側近「まだで御座います」ガタッ!
魔王「………」
側近「………」ガタッ
魔王「……やめてくれる?」
側近「申し訳ございません」
魔王「わかればいい」ガタッ
側近「………」
魔王「……来たかッ!」……ガタッ!
側近「もう致しませんので御安心ください」
魔王「そうかッ!」ガタッ
側近「………」
側近「まだで御座います」
魔王「そうか」ガタッ
側近「………」
魔王「来たかぁぁッ!」ガタッズデンッ!
側近「大丈夫で御座いますか?……プッ」
魔王「……笑うな」
側近「申し訳ございません」
魔王「………」
側近「………」
魔王「来たか……」カタ……
側近「まだで……御座います」プルプル
魔王「………」
側近「まだで御座います」
魔王「ん?……ンギギギッ!」
側近「いかがなさいました?」
魔王「動かないんだけど……」
側近「………」
魔王「……何かした?」
側近「前回のような事がまた御座いませんように改造致しました」
魔王「………」
側近「………」
魔王「元に戻して……」
側近「かしこまりました」
魔王「………」
側近「まだで御座います」
魔王「……元に戻して」
側近「お気に召されなかったでしょうか?」
魔王「余計な事しないで……」
側近「………」
魔王「………」
側近「……かしこまりました」
魔王「来たかッ!」ポワーン
側近「………」
魔王「………」
側近「お戻し致しましたので大丈夫で御座います」
魔王「そうかッ!」ガタッ!
側近「………」
魔王「……来たかッ!」ガタッ
側近「まだで御座います」
魔王「そうか」ガタッ!
側近「………」
魔王「………」
側近「いかがなさいました?」
魔王「いや……座りたいんだけど……」
側近「左様で御座いますか」
魔王「………」
側近「まだで御座います」
魔王「そうか」ガタッ
側近「………」
魔王「遅いね……」
側近「左様で御座いますね」
魔王「………」
側近「………」
魔王「来たかぁー」
側近「まだで御座いますぅー」
魔王「そうかぁー」
側近「………」
魔王「………」
魔物「まだでゲス」
魔王「………」
魔物「………」
魔王「……側近は?」
魔物「有給休暇でゲス」
魔王「そう……」ガタッ
魔物「………」
魔王「来たかッ!」ガタッ!
魔物「まだでゲス」
魔王「……そのゲスって言うのやめてくれる?」
魔物「なんでゲス?」
魔王「何かムカつく……」
魔物「酷いッ!」
魔王「来たかッ!」ガタッ!ニコニコ
側近「まだで御座います」
魔王「そうかッ!」ガタッニコニコ
側近「……何やら嬉しそうで御座いますね」
魔王「そのような事無い」
側近「左様で御座いますか」
魔王「来たかッ!」ガタッ!ニコニコ
側近「……まだで御座います」
魔王「そうかッ!」ガタッニコニコ
側近「……?」
魔王「………」ニコニコ
勇者「来たよ」
魔王「そうか」ガタッ
側近「………」
魔王「………」
勇者「………」
魔王「来たかッ!」ガタッ!
勇者「来たよ」
魔王「そうか」ガタッ
側近「………」
魔王「来たかッ!」ガタッ!
勇者「帰るね」
魔王「そうか」ガタッ
側近「………」
側近「そのようで御座いますね」
魔王「言ってよ……」
側近「………」
魔王「………」
側近「わざとおやりになっていたのですよね?」
魔王「……も、もちろん」
側近「………」
魔王「本当だから……」
側近「………」
魔王「………」
側近「まだで……何をやっている!」
魔物「そうゲスか」ガタッ
側近「……やめろ」
魔物「はい……ゲス」
側近「魔王様は?」
魔物「お部屋から出てこないでゲス」
側近「何故?」
魔物「さぁ……ゲス」
側近「………」
魔物「………」
側近「……そのゲスって言うのやめろ」
魔物「嫌でゲス」
側近「………」
……「………」
側近「魔王様いかがなさいましたか?」
……「側近……」
側近「………」
……「何か嫌になっちゃった……」
側近「……左様で御座いますか」
……「………」
側近「このような事は申し上げるべきでは御座いませんが……」
……「………」
側近「魔王様にしか出来ない事を放置されるのは大変勿体無いかと」
……「………」
側近「全国津々浦々の魔物の長でおらせられる魔王様が勇者を待つ姿……大変立派で御座います」
……「………」
……「………」
側近「……あのッ!ご立派なお姿はもう拝見出来ないので御座いますねッ!」
……「………」
側近「……残念で御座いますッ!」
……「……側近」
側近「いかがなさいましたか?」
……「もう少しやってみようかな……」
側近「左様で御座いますか」
……「………」
側近「………」
側近「まだで御座います」
魔王「そうか」ガタッ
側近「………」
魔王「ふふふ……」
側近「……?」
魔王「感じる……感じるぞッ!尊敬する眼差しッ!」
側近「………」
魔王「微かだが歓声も……」
側近「………」
魔王「どうだ?立派だろ?」
側近「左様で御座いますね……」
側近「………」
魔王「………」
側近「………」
魔王「……?」
側近「………」
魔王「……側近?」
側近「いかがなさいましたか?」
魔王「いや……いつもの……」
側近「はて?いつもので御座いますか?」
魔王「………」
側近「はぁ……まだで御座います」
魔王「そうかッ!」ガタッ
側近「………」
魔王「?」
側近「?」
騎士「………」
魔王「誰?」
騎士「騎士だよ」
魔王「何しに来たの?」
騎士「魔王を倒しに」
魔王「へぇ……頑張って」
騎士「頑張る」
魔王「………」
側近「………」
騎士「………」
魔王「帰らないの?」
騎士「帰らないよ」
魔王「来たかッ!」ガタッ!
側近「そのようで御座いますね」
騎士「………」
魔王「……何?」
騎士「私の時はやってくれなかった……」
魔王「勇者じゃ無いから」
騎士「勇者になったらやってくれるの?」
魔王「そうだね」
騎士「………」
魔王、側近「?」
騎士「勇者覚悟ッ!」ガタッ!
勇者「……帰るね」
魔王「そうか」ガタッ
側近「………」
側近「まだで御座います」
魔王「そうか」ガタッ
騎士「………」
魔王「どうしたの?」
騎士「勇者に勝てなかった」
魔王「そう」
側近「……いい加減追い出しては?」
魔王「何か可哀想だから……」
側近「左様で御座いますか」
魔王「勇者の仲間になったら?」
騎士「え?」
魔王「そうすればやってあげるよ」
騎士「仲間になってくるッ!」
魔王「………」
側近「まだで御座います」
魔王「そうか」ガタッ
側近「………」
魔物「ゲス」
魔王、側近「………」
魔物「どうしたでゲス?」
魔王「……ゲスって言うな」
側近「……ゲスはやめろ」
魔物「………」
魔王「どうした?」
魔物「うわあああん!俺のアイデンティティーが否定されたでゲス!」
魔王「………」
側近「………」
魔王「勝手にしろ……」
側近「………」
魔物「魔王様のバカァ!あほ!つるつるでゲス!」
だだだだだッ!
魔王「………」
側近「……つるつるとは?」
魔王「し、知らん!」
側近「………」
魔王「………」
側近「しまったッ!有給休暇取れなくなるッ!」ガタッ!
魔王「………」
側近「まだで御座います」
魔王「そうか」ガタッ
側近「………」
魔王「そろそろか?」
側近「そのようで御座いますね」
魔王「そうか」
勇者、騎士、魔物「来たでゲス」
魔王「………」
勇者、騎士、魔物「魔王覚悟でゲスッ!」
側近「……来いッ!そのふざけた口調粛清してやるッ!」
魔王「………」
おわり
こーゆうの好きだ(^ω^)
元スレ:魔王「来たかッ!」ガタッ!
Entry ⇒ 2012.05.25 | Category ⇒ 勇者魔王「」SS | Comments (0) | Trackbacks (0)
勇者「俺と魔王の結婚式だと!?」
勇者「……」パチッ
魔王「……」パチッ
勇者「ん?」
魔王「え?」
神父「ほれ、はよチッスせんかい」
勇者「なんだ?どこだここ?」
魔王「なぜ私はこんなところに……?」
神父「ほれほれ、新郎勇者よ、新婦の魔王にチッスせよ」
勇者「はぁ?魔王?」
魔王「勇者とキス!?///」
新婦「御主らの結婚式だろう。ほれほれっ、口と口を合わせて、こうブチュッっとな」
勇者「俺と魔王の結婚式だと!?」
側近「魔王様がんばってー」
ワイワイ
勇者「って!魔王!?」ズササササッ
勇者「てめぇ……ここで仕留めて……ん?剣……がない……」スカッ
魔王「勇者だと!?これは貴様の仕業か!?な、なんだこのヒラヒラした格好は……」
魔王「ええい!動きにくい!うっとうしい!」ビリビリビリッ
側近「ちょっ、魔王様せっかくのウェディングドレスを……」
王様「ひょー。色っぽいわい」
勇者「なんなんだこれは。魔王」
魔王「それはこっちの台詞だ。こんなまやかしで誤魔化されないぞ、私は」
魔王「やるか!?」バチバチ
勇者「ああ、素手でも仕留めて……」
魔王「くくくっ、馬鹿め。このような場所、お前には不利だろうに」
勇者「何!?」
魔王「ふふふっ」ダッ
グイッ
王様「え?」
魔王「勇者!動くな!こいつを殺すぞ」グッ
王様「ちょっ!」
勇者「王様!」
勇者「さすが魔王……汚い……」
魔王「さあ、その命私に差し出すがいい」
勇者「くぅ……」
勇者「ん?こいつは……?」ニヤリ
勇者「ふっ、このモフモフした生物は……」グイッ
魔王「どうした!勇者!」
勇者「魔王!こっちを見ろ!」
魔王「なっ!」
勇者「王様を離せ!さもないと……こいつがどうなっても知らんぞ!」ガシッ
ケルベロス「わふ?」「がう?」「わんわんお!」
魔王「チャッピー!!」
魔王「チャッピーを……チャッピーだけは解放してくれ!」
勇者「チャッピーってどれだよ」
魔王「一番かわいいやつだ」
勇者「わかんねーよ!」
魔王「3つめのだ、早く解放しろ!」
勇者「お前か?」
ケルベロス「……」「……」「わんわんお!」
勇者「ちなみに他の2匹は何て名前なんだよ」
魔王「知らん!名前などない!」
ケルベロス「わふっ!?」「がうっ!?」「わんわんお!」
勇者「お前ら……」
魔王「早くしないとこいつを……」ガシッ
王様「あわわわわ……」
王様「あっ、わしの王冠……」
勇者「貴様!まさか王様唯一のチャームポイントを……」
魔王「こうして……」グニャア
王様「ちょっ!」
魔王「こうだ!」ポーイ
勇者「王様ー!」
魔王「くくくっ、どうだ」
勇者「よくも……王冠がなければ王様はただのおっさんじゃないか……くっ……酷い……」
おっさん「お前が一番酷いこといってるぞ……」
魔王「ははは、ショックで言葉も出ないか」
勇者「ならば俺も……」
魔王「は?」
勇者「これを……」スッ
魔王「そ、それは骨っこ!?」
勇者「こうして……」スッ
勇者「こうしてやる!!」
魔王「や、やめ……」
勇者「ほーら!お食べ」
ケルベロス「わふ!」「がう!」「わんわんお!」ガツガツッ
勇者「よーしよしよしよし!」ナデナデナデ
勇者「ははは、よしよしよしよし」ナデナデ
ケルベロス「わふわふっ」ベロベロ
ケルベロス「がうっ!」ベロンベロン
ケルベロス「わんわんお!」ペロペロ
勇者「ははは、かわいいやつよ」ペロペロ
ケルベロス「わふっ」「がうっ」「わんわんお!」ガジガジ
おっさん「勇者、お前齧られてるぞ」
側近「血だらけです」
勇者「ははは、太郎、次郎、チャッピー。俺が可愛がってやるぞぉ」
魔王「貴様ー!」
グシャア
王冠「」
勇者「なっ、王様に何をする!」
おっさん「いや、王様わしなんだけど」
おっさん「いや、生きてるから!わし!」
勇者「ん?よく見りゃ教会に魔族の幹部まで勢ぞろいじゃないか」
勇者「っということは……魔王城がら空きか!?」
魔王「ちょっ!」
勇者「ふっ、行くぜ!太郎!次郎!チャッピー!」グッ
ケルベロス「わふっ!」「がうっ!「わんわんおっ!」
魔王「こら!私のチャッピーに乗るな!」
勇者「はぁぁぁ……爆裂魔法!」ドゴーン
神父「ちょっと!壁に穴を開けるなどなんと罪深い……新婦に穴をあけるのが新郎の役目でしょう!」
勇者「うるせえ!神父はお前だろ!」
勇者「行くぜ!」
ダダッダダッ
魔王「ま、待てー!」
おっさん「いや、王様だよ?」
側近「見た目があまりにもショボかったので、つい……王様、なんか失敗しちゃったみたいですね」
おっさん「ああ……せっかくの計画が……」
側近「魔王様と勇者を眠らせて、催眠中に結婚させてしまう計画でしたのに……」
おっさん「催眠が甘かったか……」
側近「裏で魔族と人間の友好はもう結ばれていますのにね……」
おっさん「ああ……まったく勇者はいつまでも魔王を倒す倒すと……」
側近「ええ、うちの魔王様もです……」
側近「二人が結婚しちゃえば平和になりますのにねー」
おっさん「まったくだ……はぁ……どうしたものか……」
魔王「あの程度で懐いて……」
魔王「おのれ勇者……許さない……許さないぞ……」ググッ
魔王「それに魔王城で何をする気だ……ま、まさか私の家を……」
魔王「急がないと……」バサァ
側近「あ、あの魔王様?結婚式は……」
おっさん「勇者もああ見えてなかなかいいところあるぞ?ちょっと考えてみても……」
魔王「貴様も一緒に来い!人質だ!」ガシッ
おっさん「へ?」
魔王「いくぞ!」バサッバサッ
側近「ちょっと!魔王様ー!王様はこっちですよー」
王冠「」
「これで平和になるなー!」
「魔王っていっても結構いい女じゃねーか。この幸せ者!」
ワイワイ
勇者「な……なんだこれ?」
ケルベロス「わふっ?」「がうっ?」「わんわんお?」
勇者「俺の聞き違いに違いない……」
「結婚おめでとー!」
「新婦どこだよー」
「ははは!早速夫婦喧嘩か?」
勇者「なんだこれ?」
勇者「おかしい……誰もが俺と魔王が結婚していると思っている……」
ケルベロス「わふっ?」「がうっ?」「わんわんお?」ペロペロ
勇者「そういえば飯食ってる最終に眠くなってそれから記憶が無い……」
ケルベロス「わふっ?」「がうっ?」「わんわんお?」ペロペロ
勇者「俺を混乱させる作戦か?」
ケルベロス「わふっ?」「がうっ?」「わんわんお?」ペロペロ
勇者「とにかく……魔王を倒す……それが俺の使命だったはずだ……」
ケルベロス「わふっ?」「がうっ?」「わんわんお?」ペロペロ
勇者「あー!もう!かわいいなぁ!お前らは!」
ケルベロス「わふっわふっ!」「がうっがうっ!」「わんわんお!わんわんお!」
門番「ん?勇者じゃねーか?」
勇者「むっ……」
門番「おーい!結婚したんだってな!このこのっ!」ツンツンッ
勇者「……」ビキビキッ
門番「俺も魔王様狙ってたってのによー」ツンツンッ
門番「おっ、さっそくチャッピーに気に入られたのか」
門番「魔王様も猫っかわいがりしてたからなー。お前相性いいよ」
勇者「魔族がため口きいてんじゃねえ」ガシッ
門番「ちょっ……頭離して……」ギリギリ
ギリギリギリッ
門番「つ、つぶれる……つぶれますから……」
門番「す、すんませんっした……手……離して……」
勇者「ふんっ」スッ
門番「ふぅ……死ぬかと思った……」
勇者「なんで俺と魔王が結婚したことになってるんだ」
門番「え?なんでってほらっ、この新聞」スッ
勇者「なっ……一面にデカデカと……」
門番「何かあったんですか……」
門番「どうしたんです?」
勇者「魔王の部屋はどこだ?」
門番「え?え……あー、なるほど」ニヤリッ
門番「今夜が初夜っすかー。へへへー、このエッチ!」ツンッ
勇者「ふんぬーっ!」ボゴォ
ガラガラガラッ
門番「」
魔王「追いついた!」バサッバサッ
魔王「なっ……貴様門番に何をした!?」
勇者「ちょっと眠ってもらっただけだ」
魔王「おのれ……」ゴゴゴゴゴゴッ
勇者「おっ、やるか?ここで決着つけるか?」
魔王「ああ!ここが貴様の墓場だ!」バサァ
おっさん「あ、あのわし危ないんで離してくれない?」
勇者「行け!太郎!火炎ブレスだ!」
ケルベロス「わふぅ!」ゴゴゴゥ
おっさん「ちょっ!聞けよ!あちー!」
魔王「くっ……その程度……この盾があれば……」バッ
勇者「次郎!氷結ブレスだ!」
ケルベロス「がうっ!!」ドヒュー
おっさん「寒い!」
勇者「とどめだ!チャッピー!」
ケルベロス「わんわんお!」ペロペロペロペロ
勇者「ああ、お前はかわいいなぁ」ペロペロペロペロ
魔王「NOOOOOOOOOOOOO!チャッピーに何をするー!」
勇者「いくぜ!太郎!次郎!チャッピー!」
ケルベロス「わふっ」「がうっ」「わんわんお!」ダダッダダッ
魔王「チャッピーが……汚されてしまった……」ガックリッ
おっさん「あれそんなに可愛いか?」
魔王「私のチャッピーをアレとか言うな」グイッ
おっさん「ぐぅ……くっ、くるし……」
魔王「チャッピーは小さい頃から私の癒しだったのだ……つらい時も苦しいときも一緒だった……」
おっさん「じゃあ他の2匹も可愛がってやっては……」
魔王「可愛くないからやだ」ツーン
おっさん「これじゃあの犬が勇者についていくのも分かるわ……」
魔王「そ、そうだ!勇者は!?」キョロキョロ
おっさん「もう城の中にいってしまったぞ?」
勇者「さぞかし禍々しいところなんだろうな」
ケルベロス「わふっ」「がうっ」「わんわんお!」フリフリッ
勇者「そんなにしっぽを振って……お前も怖いか」ナデナデ
勇者「悪の巣窟……この俺がつぶしてやる」
勇者「いくぜ!」
ガチャッ
勇者「なんだ……この可愛らしい……女の子の部屋?」
勇者「どういうことだ??」
ケルベロス「わんわんお?」
勇者「ここがあいつの部屋で間違いないよな?」
勇者「???」
ケルベロス「わふわふっ!」ダダッ
勇者「あ、おい、暴れるな」
ケルベロス「がうがうっ」バタバタッ
ケルベロス「わんわんお!わんわんお!」ドタドタ
勇者「ちょっ、待てって」
ケルベロス「わんわんお!わんわんお!」カプカプ
勇者「タンス開けんなって、おい」
ケルベロス「わふっ!わふわふっ!」ガシャーン
勇者「ん?なんだこれ、俺の写真?なんでこんなもんがここに……」
ケルベロス「がうっ!」ドタドタ
勇者「ちょっ……」
ヒラヒラッ
勇者「ん?これは……ブラジャーに……パン……」
魔王「勇者あああああああああああ!」バタンッ
魔王「はぁ……はぁ……私のチャッピーを……チャッピーを……」
勇者「あ、いや、これは……だな」
魔王「何を……している……勇者……」
魔王「私の下着で何を……///」
勇者「えっと……」
勇者「っていうかお前がこんなヒラヒラした可愛いもんつけんの?」
勇者「魔王がこんなんつけるとか、似合わねー。はははは……は?」
魔王「うっ……」ウルウル
勇者「お、おい……」
魔王「酷い……」ポタポタ
勇者「えー」
魔王「ううっ……」ダッ
タッタッタ
おっさん「ないわー、今のはないわー」ヒョコッ
側近「ですねー、女の子にあれはないですねー」ヒョコッ
ケルベロス「わんわんお!」
側近「ええ、心配でしたから」
おっさん「まったく勇者と来たらまったくデリカシーの欠片もないやつですまん」
側近「本当ですね。あれほどとは思いませんでした」
おっさん「酷いやつだ」
側近「酷い人です」
勇者「ドアから頭だけ出して何やってんだ、あんたら……」
おっさん「泣かせた」
勇者「うっ……」
側近「女の子を泣かせた……」
勇者「女たってあいつは魔王……」
側近「さいてーねー」
おっさん「ねーっ」
側近「魔王様も女の子なんですよ」
勇者「だっ、だからなんだ」
おっさん「泣き顔……可愛かっただろう?」
勇者「何言ってやがる!///」
側近「あー、照れた照れた」
おっさん「うい奴じゃのう」
勇者「うっさい!」
側近「女の子泣かせてそのままにしておく気ですかー?」
おっさん「責任とれー」
勇者「責任とかわけわかんねーよ!どうしろってんだ!」
側近「そんなの追っかけるしかないですよねーっ」
おっさん「ねーっ」
魔王「私だって好きでいつも真っ黒な格好や偉そうな話し方してるんじゃないのに……」ポイッ
ポチャーン
魔王「外では魔王らしくしてるだけじゃあないかぁ……ううっ」
魔王「それをあんな私の部屋荒らして……私の……見て……」
魔王「それでそんなの似合わないって……」
魔王「でも……私の……見てたってことは興味はあったのかな……」
魔王「だ、だったらどうしよう///」ドキドキ
勇者「魔王!」
魔王「!?」ドキッ
おっさん「よしいけー」
側近「がんばれー」
おっさん「さっさと押し倒して子供つくってしまえー」
側近「そうですよー、それが世界の平和のためですー」
ケルベロス「わふっ」「がうっ」「わんわんおっ!」
勇者「外野うっさい!」
おっさん「これは……?」
側近「魔王様の部屋から拝借してきたんです……」
おっさん「お、おお……立派な王冠だ……」
側近「付けてみてください///給料の3か月分です」ポッ
おっさん「装……着!」シャキーン
王様「ぴったりだ……」キラキラッ
側近「素敵っ!」キラキラッ
王様「っとこんな感じで行け!勇者!」
勇者「だからうるせえって!」
側近「魔王様あんなに目をはらして……かわいい!」
王様「それ行け!勇者!」
勇者「魔王……」ジー
魔王「な、なんだ……」ドキドキ
勇者「俺……お前のこと……」
魔王「!?」
王様「おお!」
側近「これは……」
魔王「こ、この……」
側近「ああー、また女の子に恥かかせて……」
王様「へたれ勇者ー」
勇者「それが俺の運命だからだ!」
魔王「そ、そんなこと……分かってるもん!」
勇者「もん?」
側近「もん?」
王様「もん?」
ケルベロス「わふっ?」
勇者「ああ、こんな糞犬返してやるよ!」ゲシッ
ケルベロス「わふっ!?」「がうっ!?」「わんわんおっ!?」
勇者「ほれっ、さっさとあっちいけ!」
ケルベロス「きゃうんきゃうんっ!」「がうがうっ!」「わんわんお!」グルグル フリフリ
勇者「近づくな!しっぽ振っても無駄だ」
ケルベロス「わんわんおー!」ペロペロ
勇者「駄目だ、ほらっ、帰れ」
トコトコ
勇者「こっちみんな」
ケルベロス「がうっ!」タッ
魔王「チャッピー!」ギュッ
ケルベロス「わふっ」「がうっ」「わんわんおっ」
勇者「ちゃんと他のやつにも名前つけてやれよ」
魔王「ああ……」
側近「太郎、次郎とかつけた人に言われたくないですよね?」
王様「ねーっ」
勇者「そこお願いだから黙ってろよ」
勇者「初心に戻って決着つけちまおうぜ」ゴゴゴゴゴゴ
魔王「ふっ……」
魔王「ふははははは、いいだろう!それでこそ勇者だ」
魔王「行くぞ!ジュヌヴィエーヴ!エリザベス!チャッピー!」
ケルベロス「わふっ!」「がうっ!」「わんわんお!?」
側近「なんか偉い名前付けましたね」
王様「チャッピーだけ格下な感じになってしまったな」
勇者「はぁぁ……」ゴゴゴゴゴゴ
勇者「魔王……言霊って知っているか?」
魔王「ん?魔力を言葉にこめて放つものだろう?死の呪詛なんかもその類だが……まさか!?」
勇者「はぁぁ……食らえ!」ゴゴゴゴゴゴ
勇者『俺はお前が嫌いだ!』ゴゥ
魔王「ぐはぁ!」グサッ
魔王「がっ……」グサグサッ
勇者『貧乳のくせにあのエロい下着はなんだよ!』
魔王「うぐぅ……」グサグサグサッ
勇者『似合う似合わない以前の問題だろうが!』
魔王「……」ビクッビクッ
側近「も、もうやめてあげて!魔王様のライフは0よ!」
王様「言霊でなんつーことを言うんだ、あいつは……」
ケルベロス「わんわんお?」
勇者「まだ立つか……」
魔王「今度は……私の番だ……///」
側近「魔王様がんばってー」
魔王「すーっ……はーっ……」
勇者「くっ、来るか!?」
魔王『わ、私は……』
魔王『私は勇者のことがそんなに嫌いではないぞ!///』
勇者「ぐはっ……」ズキューン
相性が良いじゃないか
勇者「おうふっ」ズキッ
魔王『それに……泣き顔を見られたことも恥ずかしかった』ゴゥ
勇者「ぬおっ」ズキズキッ
魔王『でも……嫌いに……ならないで欲しい……』ゴゥ
勇者「……///」ズキズキズキッ
王様「効いてる効いてる」
側近「魔王様もうちょっとですよー」
魔王『だから……でも……』
魔王『べ、別にお前と結婚したいわけじゃないんだからな!///』
勇者「ぐはっ///」バタッ
側近「仕留めましたよ!魔王様の言霊で!」
王様「おお!」
神父「えー、改めて勇者と魔王の結婚式をとり行う」
魔王「……勇者///」チラッ
勇者「あー、もう、かわいいな!チクショウ!」
魔王「チャッピーより……可愛い?///」
勇者「ああ、チャッピーより可愛いよ!」
ケルベロス「わふっ」「がうっ」ガブガブッ
勇者「いてぇ!こいつら噛みやがった!」
ケルベロス「わんわんおっ!」ハッハッハッ ペロペロ
勇者「お前は相変わらず馬鹿でかわいいなぁ」ペロペロ
ケルベロス「わんわんおっ!」
勇者「あー、はいはい」
神父「では近いのベロチューを」
勇者「おい」
王様「どうした勇者、ベロ入れろ。ベロ」
側近「いっちゃってください!」
勇者「神父の変更を希望する!」
神父「みんな待っておるぞ。ぶちゅーっとな」
神父「もう濃密な感じでぶちゅーと、ほれほれっ」
神父「どうした?やらないのか?じゃあ私がやっちゃよ?ええのか?それでええのんか?」
神父「では……んーっ」
勇者「うおりゃあああ!」ドガッ
神父「」バタッ
勇者「あぶねぇ……まじでやろうとしやがった……」
魔王「……勇者ぁ」
勇者「ああ、もう分かったよ!」
勇者「魔王!これでお前は俺のもんだ!」
魔王「は……はいっ///んっ……」チュッ
魔王「勇者の馬鹿!もう知らない!」
勇者「なんだってんだよ、今度は!」
魔王「今日も側近ばかりと仲良くしてた!」
勇者「いいだろ、別に。仲良くなったんだから」
魔王「もっと私を見てよ!」
勇者「あーもううるさいうるさい!」
勇者「ちょっ、物投げるな……って何投げようとしてんだ!」
ケルベロス「わふっ?」「がうっ?」「わんわんおっ?」
魔王「この……ばかー!」ブンッ
勇者「ケルベロス投げんな!おっと……」ギュッ
ケルベロス「わんわんおっ」
勇者「セーフ」
魔王「もう……もう人間なんて滅ぼしてやるーーーー!」
側近「はぁ……また痴話喧嘩ですか……」
王様「はぁ……なんだ?まだ家追い出させたのか?」
勇者「王様……人類は危機にあります……」クッ
王様「痴話喧嘩に人類巻き込むなよ」
勇者「相手はあの魔王です……このままでは……」
王様「あのさぁ……」
勇者「でも安心してください!俺とこいつが絶対に倒して見せますから!」
ケルベロス「わふっ!」「がうっ!」「わんわんおっ!わんわんおっ!」フリフリ
王様「帰って謝ってくればいいだろ?」
勇者「ふっ、見ていろ……人間の底力をみせてやるぞ……」
王様「いや、ほんともう迷惑なんて帰ってくんない?」
勇者「俺たちの冒険はこれからだ!」
おしまい
Entry ⇒ 2012.05.21 | Category ⇒ 勇者魔王「」SS | Comments (0) | Trackbacks (0)
勇者「俺が死んでしまっただと……」
勇者「え」
「うえええええええん」
「勇者様……」
「まだお若いのに可愛そうに……」
「俺達のために身を犠牲にして……」
王様「皆の悲しみはよくわかる。だが、自信を犠牲にしてでも世界を救った勇者のためにも、安らかに天国へ送ってやろうではないか」
勇者「おい、俺死んでないよ?」
王様「それでは黙祷……」
勇者「だから死んでないって!」スカッ
勇者「あれ?王様に触れない……」スカッスカッ
勇者「まさか……残像か!?王様、いつのまにそんな技を……」
勇者「あれ?」
戦士「うおおおおおおおおおおおん!勇者あああああああ!」
勇者「お、戦士!おーい」
戦士「一人でいっちまいやがって!逝く時は一緒だって誓い合ったじゃねーか!」ガンガンッ
戦士「くそぅ!」
戦士「だが、安心してくれ。お前の持っていたこの武器は俺が……」
勇者「あ、俺の光の剣」
戦士「俺が世界の平和のために使ってやるからな!」
勇者「おい、何を勝手に。返せ」
勇者母「ううっ、息子も喜ぶと思います。使ってください」
勇者「おい」
勇者父「勇者、お前はいい友人を持ったな……」
勇者母「本当に……」
勇者「ちょっと、おやじ、お袋、何言ってんだ」
戦士「念願の光の剣を手に入れたぞ……」ボソッ
勇者「ちょっ!おやじ、お袋!こいつ今とんでもないこと言ったぞ!」
王様「ご両親には大変申し訳ないことをしました……大事な息子さんを危険な旅でしなせてしまい……」
勇者母「いえ……息子も本望だったと思います、ううっ」
王様「代わりにはなりませんが、補償はしっかりさせていただきますので……」
王様「申し訳ない。せめてもの気持ちです」スッ
勇者母「……」チラッ
王様「足りなければ後ほど……」
勇者母「勇者!あんた孝行息子だよ!」
勇者「おい!」
勇者父「お、おお!こんなに……」
「あ、俺、勇者の友人なんだけど」
「勇者に技教えたの僕なんだ」
「私勇者とは将来を約束した……///」ポッ
勇者「誰だよ、こいつら!」
「当然です。お父さん」
「僕達大親友でした」
「お父様……私の中には勇者の子が……」
勇者「いや、俺友達なんでいなかったからね」
勇者「つーか、思い出した!こいつら子供のころから俺を化物扱いしてイジメてたやつらじゃねーか!」
勇者「何が友達だ!」
勇者「っていうか、こいつら俺が見えてない?」
僧侶「神聖な告別式で騒がしいですよ」
勇者「え」
僧侶「静かにしてください」
勇者「み、見えるか!?僧侶!俺俺、勇者」
勇者「おい、僧侶、どうなっているんだ?」
僧侶「……」スイッ
勇者「目そらすな!おい!貴様!見えているな!」
僧侶「はぁ……なんで私に見えてしまったんでしょう///」
勇者「何顔赤くしてんだよ」
僧侶「あとで話聞いてあげますから今は黙祷を捧げましょう」
勇者「自分の葬式で黙祷とかねーから」
王様「勇者はわしが育てた!」
戦士「次の勇者はこの俺だ!」
勇者母「うふふ、旅行いってー、買い物してー、美味しいもの食べてー」
勇者父「新しいゴルフクラブが……」
ワイワイワイ
僧侶「たぶん国民のほとんどが参加してるんじゃないですか?」
勇者「おおー、俺って人気者だったんだな」
僧侶「いえ、魔王を倒したってことで人気がでたんでしょう」
勇者「え、今なんて?」
僧侶「魔王を倒したって……」
勇者「え?俺魔王を倒したの!?」
僧侶「覚えてないんですか?」
勇者「いや、魔王城に入って黒い光に向かっていったところまでしか……」
僧侶「……」スッ
勇者「あ、また目そらした」
勇者「はしょるなよ。って……。え?」
僧侶「南無……」
勇者「いや、俺死んでねーし。ほらっ、ここに今いるし」
僧侶「あたなは勇者の幽霊……ってところですね、たぶん」
勇者「えっ、いや、うそだよ。俺まだ生きてるし!死んだ記憶ねーし」スッ
僧侶「物に触れないでしょう……」
勇者「ま、マジですか」
僧侶「マジです」
勇者「なんじゃあ!こりゃああああああああ!」
ジタバタ
勇者「うおおおおおおおおおおおお!」
僧侶「……」
僧侶「落ち着きましたか?」
勇者「ああ……」
勇者「それでなんで一緒に戦ったお前らは生きてんの?」
僧侶「……」フイッ
勇者「だから何で目をそらす」
僧侶「逃げましたので」
勇者「はぁ!?」
僧侶「いやぁ、あんな悪意と殺気の塊のような闇に向かっていくとは流石勇者です。感服しました」
勇者「逃げたって……お前ら全員?」
僧侶「あなただけ突っ込んでいっちゃいまして……戻ったら血まみれで。魔王は消えてしまっていました」
勇者「そ、蘇生魔法!蘇生魔法とかあるだろ!今からでも……」
僧侶「え?あなたは死んだ人間が生き返るとでも……?」
僧侶「教会がそんな神を冒涜するような真似をするわけがないでしょう」
勇者「え」
僧侶「いったい誰がそんなことを」
勇者「王様が……。え?あれ?」
僧侶「なるほど……それで……」
勇者「何納得してんの?」
僧侶「それであなたの死を恐れないような戦いぶりに納得いきました。死んでも生き返ると思ってたと」
勇者「それが?」
僧侶「死を恐れない勇気、それを武器にしたかったんでしょうね。王様は。おかげで魔王も倒せましたし」
勇者「なっ」
勇者「え?ちょっ、まっ」
僧侶「大いなる神よ……このさ迷える子羊に祝福を……」パァァ
勇者「NOOOOOOOOOOOOOO!」シューシュー
勇者「や、やめて!消える!」
僧侶「あ、はい」スッ
勇者「はぁはぁ、やばかった。今のはやばかった!」
僧侶「でも、そんな状態じゃ誰にも見えませんし、さまよって何をしようと……」
勇者「誰にも……見えない……?」
僧侶「ええ、それに壁とかも透けちゃいますし……」
勇者「壁を……透ける……」ムラムラ
僧侶「あ、なんか黒いオーラが……」
勇者「僧侶!また今度!また今度相談するから!じゃあ!」スイーッ
カポーン
勇者「ここしかないよね!うん!」
勇者「誰がこの俺を責められよう。この死んでしまって可愛そうな俺を!」
勇者「さあ、いざ行かん!桃源郷へ!」
スゥ
勇者「お、おお……丸見えだ……」
勇者「ババア多いな……邪魔だどけ」スイッ
勇者「あの子おっきいな……はぁはぁ」
勇者「ちょ、ちょっと触って……」ツンッ
スゥ
勇者「ああ!触れねー!ちくしょう!」
勇者「見るだけか……ああ、あの子かわいいなぁ」
勇者「ちょっと僧侶に似てるな……」
僧侶「勇……者……ここで何を……」
僧侶「いえ、普通にお風呂に入りに……」
勇者「き、奇遇だな。俺もなんだよ」
僧侶「ここ女風呂ですけど……」
勇者「あ、そうなんだ。あははは……」
僧侶「覗き……ですか」
勇者「いや、あのさ。僧侶……丸見えなんだけど……その、お前の……」
僧侶「!?」
僧侶「こ、この悪霊!」ブンッ
勇者「いや、透けちゃうから……」
僧侶「……」
スタスタッ
僧侶「……」ハキハキ
勇者「僧侶さーん」
僧侶「着替え見ないでください」
勇者「僧侶の……ピンクで綺麗だったな……」
僧侶「……」ブチッ
僧侶「あった」ゴソゴソ
勇者「え」
僧侶「聖水を食らいなさい!」バシャア
勇者「ギャアアアアアアアア!」ジュージュー
スゥ
僧侶「あっ、待ちなさい!」
僧侶「まったく!勇者はまったく!」
神父「どうかしましたか?」
僧侶「い、いえ、すみません」
神父「独り言ですか?」
僧侶「え」
神父「告別式でもそうでしたが、まさか亡くなった方が現れたとか?」
僧侶「そ、そんなわけないじゃないですか」
神父「そうですか。あなたと勇者殿は仲がよかったからもしやと思ったのですが」
僧侶「ありえません」プイッ
神父「生きてる間に心が結ばれた相手は死んで魂となっても見れるといいますので、もしやと思ったまでです」
僧侶「あんな変態と心が結ばれたことなどありません!」
神父「変態?」
僧侶「い、いえ……はぁ……今日は疲れました……もう休ませていただきます」
神父「そうですか、お休みなさい」
チュンチュン
僧侶「うーん、夕べは良く眠れませんでしたね……肩が重いというか」
勇者「おっ、おはよう、僧侶」
僧侶「!?」
勇者「寝顔可愛かったぜ?」
僧侶「また出ましたね!」ゴソゴソ
勇者「ま、待って!昨日は悪かった!」
僧侶「謝ってすむと……」
勇者「俺、成仏することにしたからさ!」
僧侶「え」
勇者「俺、もう消えるから!」
僧侶「なんで突然」
勇者「やっぱ死んだままってのはよくねーよな。俺勇者だしさ」
僧侶「……」
僧侶「天国にいけるとでも?」
勇者「え」
僧侶「覗き魔……」
勇者「いや、あれは……その……」
僧侶「……」
勇者「駄目……かな」
僧侶「今日、あなたの遺体が埋葬されます」
勇者「あ、そういえば俺自分の死体まだ見てないわ」
僧侶「その後で送ってあげます。天に……」ウルウルッ
勇者「何お前涙ぐんでんの?」
僧侶「……」
僧侶「着替えるので出てってください!」
王様「勇者……この英雄をあの丘の上に奉ろうと思う!」
王様「勇者はあの丘から眺めが好きだった。自分の好きな王国が見渡せるあの丘が」
勇者「いや、別に好きじゃなかったぞ」
王様「子供のころからあの丘に登っては剣の修行をしていた。それを見ながらよく話をしたものじゃった」
勇者「あんたとは旅の前に1回あっただけじゃんか……」
王様「さあ、みなで勇者をあの丘まで運ぼうではないか」
ギィギィ
「英雄よ……永遠に……」
ギィギィ
「勇者を埋葬を手伝ったなんて将来の自慢になるな」
ギィギィ
魔法使い「爆裂呪文!!!」
ドゴオオオオオオン!
王様「」
「ぐあっ」
「きゃあ」
バタッ
魔法使い「勇者は死なせない!」
勇者「そういえば葬儀に来てなかったな」
魔法使い「全員気絶したわね」
ギィ
魔法使い「勇者……こんなに冷たくなって……」
勇者「いや、俺死んでるからね」
魔法使い「とにかく体を家まで……」
ズルズルッ
勇者「見えてねーのか。こいつも……」
魔法使い「念願の勇者の体を手に入れたわ」
勇者「でも死なせないって言ってたな。もしかして……生き返る!?」
魔法使い「これが勇者の体……はぁはぁ」ナデナデ
勇者「魔法使い……まさかお前俺のこと……」
魔法使い「いい触媒になりそう」
勇者「え゛」
魔法使い「どこから細胞をいただこうかしら」ジャキン
勇者「ハ、ハサミ!?」
魔法使い「とりあえず……」
勇者「や、やめてえええええ!切らないで!そこだけは!」
勇者「ギャアアアアアア!痛くないけど、ギャアアアアアア!」
魔法使い「やっぱり、細胞に魔力がこんなに大量に……すごい」
ジョキジョキ
勇者「やめろおおおおおおおお」
魔法使い「これだけ毛があればいいかしら」
勇者「ひどい……お嫁に行けない……」
魔法使い「これは触媒として採っておいてっと」
魔法使い「いよいよ、蘇生ね」
勇者「お」
魔法使い「このために儀式の準備をしておいたんだから……えっとイモリの黒焼きに……牛蛙の糞に……」
勇者「おお!魔法使い!やれるのか!お前はやれる子だったのか!」
毛でよかった、ただし髪の毛だったら殺す
ドロドロ
勇者「うぇ……気持ち悪い……けどこれで生き返るなら……」
魔法使い「魔方陣の上に寝かせてっと」
魔法使い「はぁぁぁぁ」
ゴゴゴゴゴゴゴゴッ
勇者「おっ、魔方陣が光はじめた」
魔法使い「さ迷える穢れた魂よ!」
勇者「穢れた魂って……」
魔法使い「破壊神の名の下に、今、地の底より蘇りたまえ!」
パァァァァ
勇者「おっ、これでもしかして俺が中に入れば生き返るとか!?」
勇者「あ、あれ?俺が入ってないのに動いた?」
勇者(死)「……」ビクッビクッ
魔法使い「さあ、黄泉がえりなさい!」
勇者(死)「ウボァアアアア」ズルズルッ
勇者「……」
魔法使い「やった……やったわ!」
勇者「なんか違うものが入ってる!」
魔法使い「勇者!あたしよ!分かる?」
勇者(死)「ウボアアア……オレ……オマエ……マルカジリ」
ドンッ
勇者(死)「グゲ?」
勇者「いや、ちげーだろ!脳みそ沸いてんのか!こいつ」
魔法使い「やっぱあたしって天才ね。みんなに教えてあげよっと。蘇生に成功したって」
勇者「大失敗だから!やめろ」
魔法使い「さっ、行くわよ。勇者」
勇者(死)「ウボァ」
勇者「ウボァじゃねーよ!」
バターンッ
勇者「どうしてこうなった」
魔法使い「こんにちはー」
勇者(死)「グァ」
コンコン
勇者母「なんですか、私たち旅行の準備でいそが……え」
勇者父「どうした、客なんてほうって遊びに……な」
魔法使い「お子さんを生き返らせた天才魔法使いですがなにか」ニコニコ
勇者(死)「ウボァ」
勇者父「勇者ってこんなだったっけ……」
魔法使い「もっと喜んでくださいよー」
勇者母「た、確かにこんな感じだったわね」
勇者「おい!お袋!」
勇者父「あ、そういえばこんな死んだ魚みたいな目してたなぁ」
勇者「おやじひでぇ……」
勇者(死)「ウボァ?」
勇者母「いいのよ!そんなこと心配しなくて!生きてくれててよかったわ」
勇者「会話できてる!?」
勇者(死)「ウボァ!」
勇者父「ははは、さすが俺の息子だぜ。うれしいことを言ってくれる」
勇者「うそだろ!?なにこれ」
勇者母「でも、そうする?今更生きてたなんて……」
勇者父「だな……あれだけ盛大に葬式やっておいて……」
勇者「俺の両親が屑な件について……」
勇者母「とりあえず王様呼びましょうか」
勇者父「だな」
魔法使い「王様にもあたしの天才っぷりを見てもらえるのね。きゃー!ご褒美楽しみ!」
勇者母「ど、どうなされたんですか。その傷は」
王様「勇者の埋葬中に突然爆発が起こってな……ん?両親のおぬしたちはおらんかったのか?」
勇者母「あ」
勇者父「旅行の準備に夢中で……」
魔法使い「それは災難でしたねー。王様」ニコニコ
勇者「お前が言うな」
王様「お前は……葬式にもきておらんかった魔法使いがなんでここに……」
魔法使い「ふふふ、よくぞ聞いてくれました」
魔法使い「ジャーン!ご対面!こちらをご覧ください」
王様「げっ」
勇者(死)「ウボァアアア!」ズルズルッ
勇者「死んでます」
王様「ん?勇者ってこんなだったか?」
勇者(死)「グゲゲゲ」ゲラゲラ
魔法使い「こんな感じだったでしょ?」
王様「た、たしかに、こんな風にボーっとしたところがあったな」
勇者「ねーよ!」
王様「しかし、これはまずいぞ」
王様「今更、勇者は生きてましたでは国民が納得すまい」
王様「しばらく隠れててもらったほうがよい。その後のことは考えておこう」
勇者母「じゃあ勇者はお留守番ってことで」
勇者父「ではそろそろ行くか」
勇者「生き返ったばっかの息子ほうっておいて旅行行く気か!?」
勇者(死)「ウボァ!」
勇者父「そうか、任せても平気か。元気でな」
勇者「元気じゃねーよ!」
魔法使い「ってことで、あなたにも自慢しに来ました」
勇者(死)「ウボァ」
僧侶「何これ」
勇者「いや、これは別に俺のせいじゃなくてな……俺は成仏しようと思ってたんだけど」
魔法使い「ふふふっ、あなたにできない蘇生にあたしは成功したのよ。勇者の蘇生に」
僧侶「これが勇者?」
魔法使い「すごいでしょ」
勇者「あの……僧侶」
僧侶「そうですね。この気持ち悪い変態的な目や話しかた、臭う体臭、勇者に間違いないですね」
魔法使い「でしょでしょ?」
勇者「僧侶さん……怒ってらっしゃる?」
僧侶「町のみんなも喜ぶことでしょうね」
魔法使い「あたしもみんなに自慢したいんだけど、王様に止まられちゃってねー」
僧侶「王様が?」
僧侶「ふーん……魔法使い、あなた魔王と戦った時のこと覚えていますか?」
魔法使い「は?戦ってないじゃん。逃げちゃったし」
勇者「お前ら……」
僧侶「ではなくて逃げる時のこととその後のことです」
魔法使い「えーっと確か戦士がやばそうだから逃げるぞとか言って勇者がついてきてなくて……」
魔法使い「その後、戻ったら勇者が血まみれで倒れてて……」
兵「こちらにいましたか。探しました」
魔法使い「え?」
兵「そちらが勇者殿ですね。ご同行いただきます」ガシッ
勇者(死)「ウガッ?」
兵「魔法使い様もご一緒に」ガシッ
魔法使い「な、何?ご褒美?」
兵「ええ、それはもう」
魔法使い「やたっ!いくいくぅ!」
魔法使い「じゃ、またね!僧侶」
バタン
僧侶「……」
勇者「怒ってる?」
僧侶「え?」
勇者「怒ってない?」
僧侶「あ、すみません。考え事をしていましたので。怒ってなんていませんよ」
勇者「じゃ、じゃあまた覗いても……」
僧侶「……」ゴゴゴゴゴゴゴッ
勇者「じょ、冗談ですよぉ〜いやだなぁ僧侶さん、その手の聖水離してくださいよぉ〜」フワフワ
僧侶「なんかおかしいと思いませんか?」
勇者「え?何が?」
僧侶「あなたが生き返ったのに隠すなんて」
僧侶「ええ、たぶんあれはゾンビですね」
勇者「俺ゾンビっす?」
僧侶「話を聞いてた限りではあなたの両親も王様も気づいているんじゃないですか?」
勇者「え?じゃあ何で生き返ったとかいってんの?」
僧侶「両親が報酬を失うのを恐れてでしょうけど……」
勇者「俺の両親って……」
僧侶「王様には何かありますね」
勇者「え?どういうことだ?」
僧侶「私にも詳しくはわかりませんが……たぶんあなたが死んだときのことが関係してるのではないのかと……」
勇者「俺が死んだとき?」
僧侶「本当に何も覚えてないんですか?」
僧侶「駄目ですか」
勇者「真っ暗だったからなぁ……」
僧侶「めった刺しにされてましたけど……」
勇者「ああ、なんか刺されたんだっけ?うーん」
僧侶「やっぱり謎は魔王城にあるみたいですね」
勇者「は?なんで?謎?調べてくれんの?」
僧侶「世界が平和になってもあなたが不幸じゃ寝覚めが悪いですからね」
勇者「不幸っていうか死んじゃってるんだけど……」
僧侶「魔王城……調べて見ますか」
僧侶「はぁ……はぁ……」
勇者「大丈夫か?」フヨフヨ
僧侶「あなたは楽そうですね……」
勇者「浮いてるからなー。楽チンだ」フヨフヨ
僧侶「これ一人旅みたいなものですね……」
勇者「何言ってんだ。魔物が出たら俺が守ってやるって」フヨフヨ
僧侶「透けちゃって攻撃できないでしょう……はぁはぁ」
ペタンッ
勇者「どうした」
僧侶「疲れました……よく考えたら変態のためにここまでやることなかったかもって……」
勇者「ちょっ」
僧侶「ぜぃ……ぜぃ……」
勇者「なんだかんだ言ってここまで来てくれるのな」フヨフヨ
僧侶「べ、別にあなたのためじゃありません」
勇者「じゃあ、なんでここまでしてくれんの?」フヨフヨ
僧侶「そ、それは……」
勇者「それは?」
僧侶「魔物がいませんね……」
勇者「あ、ごまかした」
僧侶「もう魔物も全滅したんでしょうか……」
勇者「どうだろうな……お、もう魔王の部屋だぞ」
僧侶「あの後よく調べなかったですからね。ここに何かが……」
ギギィ
僧侶「これは前も見ました。あなたの倒れていたところです」
勇者「すげえ……こんなに血が出たのか」
僧侶「周りを調べてみますか」スタスタ
僧侶「ん?」
勇者「何かあったか?」
僧侶「足跡が……」
勇者「そりゃ足跡くらいあるだろう。魔物の巣窟だからな」
僧侶「これは人の足跡ですよ。それも……たくさん……」
勇者「は?捕虜かなんかか?」
僧侶「それに血がそこかしこに……これは……」
勇者「何かわかった?」フヨフヨ
僧侶「勇者……あなたって……」
勇者「ん?なになに?惚れた?」
僧侶「何の役にも立ちませんね……」
僧侶「ここはもういいです。勇者あなたも少しは役に立ってください」
勇者「な、なんでもやるぞ!」フヨフヨ
僧侶「……お手」
勇者「わんっ!って何をやらせる」
僧侶「犬みたいでしたので。では……」ゴニョゴニョ
勇者「ふむふむ」
僧侶「では、私はここから戻らないといけないので……先に行っててください。はぁ……」
勇者「任せろ!」ヒューンッ
僧侶「便利ですね……幽霊って……」
僧侶「帰ろ……」
スタスタ
戦士「がははははは。これが光の剣かー」ジャキンッ
戦士「すげー、やっと手に入れたぜ」
戦士「まぁ、そのうち手に入ることになってたんだけどな」
戦士「あんな化物に付き合わされた報酬としては妥当かもな」
戦士「でもまったく、王様もえげつないことするよなー」
戦士「ま、俺も地位と名声にこんないいものまで貰えちまって……」
勇者「そうか……戦士……」ゴゴゴゴゴゴッ
戦士「!?」ゾクゾクッ
戦士「うおっ!寒気が……」
勇者「初めて出来た友達だと思ってたんだけどな……」
ガタガタッ
戦士「なぁ!?地震!?いや……揺れてねぇ!?ポルターガイスト!?」
戦士「ま、まさか……」
王様「まさか生きを吹き返すとはな。まったく」
大臣「今、兵に再度殺すよう命じましたので……」
王様「そうかそうか」
大臣「それで魔法使いはいかがいたしましょう。余計なことを話される前に処刑しますか」
王様「いや、なかなかいい女のようじゃからな。むふふっ」
大臣「王様も好きですねー」
王様「ふはは、お前にも貸してやるから楽しみにしていろ」
大臣「あざっす!」
大臣「まったくです、死んでまで迷惑をかけるとは」
王様「まぁ、あれはあれで役には立ったがな。魔物を殲滅させる程度にはな」
大臣「ええ、でもあの強さで町でも襲われたらと思うと……」
王様「ああ……よかった……本当に殺せてよかった……」
大臣「魔王がいるなんて話も作っちゃいましたしね」
王様「途中でやられて死んでくれるものと思っておったのだがな」
大臣「戦士を送り込んでおいて正解でしたね」
王様「まったくだ。あれの協力がなければ今頃は……」
勇者「……」ゴゴゴゴゴゴッ
オオーン
王様「!?」
大臣「!!?」
ゾクゾクソクッ
大臣「わ、私も……」
ダダダッ
兵「お、王様!」
王様「なんじゃ」
大臣「お前は勇者の処刑を命じた……」
兵「勇者が……死にません」
大臣「なに?」
兵「心臓を貫こうと首を撥ねようと再生してしまって……」
兵「あ、あれはまさにゾン……」ガクブル
大臣「ええい!うろたえるな」
王様「死なぬか……化物め……魔法使いを尋問しろ!」
大臣「あ、それ私やってもいいですか?」
王様「……このエッチめ」
僧侶「はぁはぁ……やっと戻ってきました」
僧侶「勇者ー?いますかー?」
勇者「……」オオーン
僧侶「!?」
僧侶「な、なんか死霊が取り巻いてますよ?ど、どうしたんですか?勇者」
勇者「俺は勇者じゃない……」
僧侶「え?」
勇者「もう消えたい……」
僧侶「何を言ってるんですか。戦士や王様から何か聞けましたか?」
勇者「俺は化物だ……」
僧侶「あなたは化物なんかじゃ……」
勇者「化物だったんだよ!みんな俺を殺すために全部……全部……」
勇者「魔王なんていなかったんだ……僧侶、お前の言ったとおりだった」
僧侶「やっぱり魔王城の部屋にいたのは人間でしたか」
勇者「ああ……戦士にお前たちを逃がさせて俺一人だけにして……」
僧侶「闇の中から大勢で串刺しに……。それであの足跡と刺した剣から落ちた地がそこかしこにあったんですね」
勇者「お前は……知らなかったんだよな、なぁ僧侶」
僧侶「ええ、何も聞いてませんでした……」
勇者「魔法使いはどうなんだろうか」
僧侶「彼女は……そんなことに協力する性格には思えませんが……」
勇者「僧侶……俺は……憎い……」オオーン
勇者「憎くて憎くてしかたないんだ……俺はこのまま悪霊に……」
ガタガタガタッ
僧侶「ポルターガイスト……」
僧侶「なってしまうでしょうね……このままでは……」
僧侶「がんばりすぎですよ、勇者」
勇者「え」
僧侶「いつでも正しくあろうとしすぎです。憎いなら憎いでいいじゃないですか」
勇者「だけど俺は……正しくなくては周りが……」
僧侶「化物と言われましたか?化物で何か悪いんですか」
勇者「そ、僧侶?」
僧侶「ふふっ、普通幽霊になってまでこんなに正気を保てませんよ」
勇者「お前はいったい何を言って……」
僧侶「私も憎いです……」
勇者「え?」
僧侶「勇者をこんな風にして……こんな風に……」ブルブル
ペタッ
勇者「ええ?俺の手……触れてる?」
勇者「なっ///」
僧侶「べ、別にあなたと私のことじゃないですけどね!」プイッ
勇者「……」オオーン
勇者「でも、俺はこのままじゃ……」
僧侶「じゃあ、行きましょうか」
ギュッ
勇者「は?」
勇者「そ、そうだけど……」
僧侶「だったらやることは一つしかないじゃないですか!」
勇者「お、お前ほんとに神に仕える者かよ……」
僧侶「……」
僧侶「ぷっ……」
勇者「ははっ……」
僧侶「くすくすくすっ」
勇者「はははははは」
僧侶「わ、笑わせないでください」
勇者「はははっ、よしっ!行くか!」オオーン
魔法使い「なんであたしが捕まっちゃうのよー」
魔法使い「出しなさいよー」ガタガタッ
大臣「まったくうるさい囚人だな」
魔法使い「あ、あんたは!」
大臣「ほほぅ、私を知っているのかね。まぁ私の知名度からすれば当然だがね」
魔法使い「誰?」
大臣「このアマ!」
ガシャンッ
魔法使い「あ、開けてくれるの!?」
大臣「ああ、私がお前の開いたことのないところをたっぷり開けてあげるよー」ワキワキッ
魔法使い「ちょっ、ちょっと……」
兵「大臣殿、それより勇者の……」
大臣「ちっ……お前いたのか……」
魔法使い「あのー口臭いんだけどー近づかないでくんない?」プイッ
大臣「なっ……」
兵「ぶほっ……」
大臣「兵、減給されたいのか!」
兵「し、失礼しました!」ザッ
大臣「えー、お嬢さん、お前が勇者を生き返らせたんだな?」
魔法使い「当然!あたし以外にそんなことできる天才がいると思うの?」
大臣「じゃ、じゃあまた死なせるにはどうしたらいいのだ?」
魔法使い「は?なんでそんなこと教えなきゃいけないの?」
大臣「死んだ人間が生き返るなど神に逆らう所業、許されるわけがないだろう」
魔法使い「別にいいじゃん。それにあたしが祈ったの神じゃなくて破壊神だし」
大臣「魔界の神に祈るな!ごほっ……ごほっ……」
兵「大臣殿、落ち着いて。はい、水」
大臣「ごくっごくっ……マズイ……もう一杯!」
大臣「やかましい!それにあれは生き返ったというよりゾンビではないのか?」
魔法使い「え?そうなの?」
大臣「分かってなかったのか!?」
魔法使い「そ、そんな……そんな……」
大臣「ショックか。そうであろうな。だが、それを成功させたお前なら殺し方も……」
魔法使い「そんなすごいことできちゃうなんて!やっぱあたしって天才!?」
大臣「こ、この……」
兵「落ち着いて、大臣殿」
大臣「で、でだ。あんな化物生かしておくわけにはいくまい?」
魔法使い「化物?誰が?」
大臣「勇者のことだ。お前は怖くないのか。あのような特殊な力をもった人間が」
魔法使い「別にー?面白いじゃない」
大臣「いいから言え!どうやったら奴を殺せる!」
魔法使い「人を化物扱いするような人には教えてやんない」
魔法使い「ちょっ!どこ触ってんのよ」
大臣「私は実はお前のような気の強い娘が好きでなぁ」ムニュムニュ
魔法使い「や、やめて!ちょっとそこの兵士止めなさいよ!」
兵「はぁはぁ」
魔法使い「こ、こいつ……」
大臣「誰も助けに来ないぞ。ここは密室だからな……ふふふふっ」
魔法使い「た、助けてー!勇者ー!」
勇者(死)「ウボァ」ガンガンッ
大臣「うわっ!びっくりした!」
大臣「って隣の牢獄か。驚かせおって……」
大臣「さーって、ではいただきまーす」ガバァ
魔法使い「いやあああああああああああ!」
大臣「お前は……僧侶?」
兵「大臣殿は今お楽しみ中だ。後にしろ」
スタスタッ
兵「まったく、女一人でどうやってここまで……」
オオーンッ
兵「な、なんだ……寒気が……」ガタガタッ
ヒュオオオオオオオオッ
兵「き、気分が……ううっ」バタッ
大臣「な、何をした」
僧侶「怨念にあてられただけですよ。ねぇ、勇者」
僧侶「大丈夫ですよ。あなたの体ならすぐそこに」
大臣「お、お前誰と話しているんだ!」
僧侶「あなたのあるかないか分からない程度の胸なんてどうでもいいじゃないですか」
魔法使い「気にしてることを!」
僧侶「それにあなたともあろう人がなんで捕まってるんですか」
魔法使い「杖も触媒も取られちゃったのよ!」
大臣「ち、近づくな!それ以上近づいたらこの女の……」
オオオオーンッ
僧侶「ええ、許せませんよね。私も許せません」
大臣「だ、だからさっきから誰と……」
魔法使い「隙あり!」
キーン
大臣「ぎゃっ!つ、つぶれ……」バタッ
僧侶「あ……」
魔法使い「ふーっ、助かった……」
僧侶「私の活躍の場が……」ショボーン
僧侶「別にあなたを助けに来たわけじゃないですからね」
魔法使い「もーツンデレなんだからー」
スタスタッ
僧侶「勇者、あなたの体ありましたよ」
勇者(死)「ウボァ!」
魔法使い「ちょ、ちょっと。あたしは?」
僧侶「だからあなたを助けに来たわけじゃありません」
魔法使い「ま、待って!だったら何をしにきたのよ。っていうか助けてよ」
僧侶「正しい心を持って天に向かおうとするあなたなら無理だったでしょうけど今の恨みに満ちたあなたなら……」
魔法使い「?」
僧侶「ええ、そうよ。勇者」
魔法使い「勇者?え?まさか……いるの?」
僧侶「ええ、いますよ。ここに……」
魔法使い「面白いわ!それに……この邪悪な気配は」
勇者(死)「ウボァ?ぐ、ぐぐぐぐぐぐぐぐ」ビクンビクンッ
僧侶「いよいよね……」
魔法使い「まさか勇者の魂が宿ってなかったなんてね。でも……これで……」
オオーンッ
勇者「ふははははははははは!俺復活!!」ブワッ
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ
魔法使い「すごい……この邪悪な魔力は……」
僧侶「おかえり……勇者」ギュッ
勇者「僧侶……」ギュッ
勇者「では……行くか」
僧侶「そうですね。でももう少しこのままでも……」
魔法使い「ちょっ、ちょっと待って!何をする気?っていうか助けてよ」
魔法使い「ええ、そんな体で何を……」
勇者「そんな体?別に便利じゃないか。死なないし、この溢れる邪悪な力……」ゴゴゴッ
魔法使い「ええ、すばらしいわ!」
勇者「え?」
僧侶「へ?」
魔法使い「それで何かするんでしょう、あたしにも1枚かませなさいよ」
勇者「お前、俺が怖くないのか?」
魔法使い「怖い?面白いの間違いじゃないの?」キョトンッ
勇者「ふははははは!いいだろう!俺の力を見せてやる」
バキバキバキッ
勇者「ほらっ、出ろ」
魔法使い「おおー、素手で牢屋を……すごいわ!さすがあたしの作品」
僧侶「……お邪魔虫が増えちゃいました……」
魔法使い「ん?僧侶。何か言った?」
僧侶「別に……」
勇者「あいつらの言ってた嘘を本当にしてやるんだよ」
魔法使い「嘘?」
勇者「ああ、俺もみんなも騙された嘘を本当にな……」
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ
勇者「ふはははは……はははははは……はーっはっはっは!」バサァ
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ
王様「な、なんじゃこの揺れは……」
フッ
兵「お、王様!空が!」
王様「なっ……空が闇に……」
「聞け!愚かな人間ども!」
王様「あ、頭に声が……」
「我は魔王!お前たち人間を滅ぼす者だ!」
「お前たちの王は死んだ!我が魔の軍団がお前たちを必ず滅ぼすであろう!」
王様「わしが死んだ?何を馬鹿なことを……」
兵「お、王様……」
王様「ん?お前なんでそんな背が高いのだ?」
兵「く、首が……」
王様「首?え?そ、そこにあるのはわしの体……」
グシャア
戦士「な、なんだ今の声は……それに空が真っ暗だ……」
ドンドンドン
戦士「や、やべ……俺が勇者になるとか言っちまったよ」
ドンドンドンッ
戦士「うるせえ!」
戦士「どうする俺、どうする」
1【勇敢な俺は魔王を倒して真の英雄となる】
2【魔王なんて本当はいない、これは夢だ】
3【ハンサムでカッコイイ俺は超名案を思いつく】
戦士「おれは2番を選びたいところだが……ここは3番だな……」
バキバキッ
勇者「呼んでるんだから出ろよ。戦士」
勇者「なんで?俺は死んだのか?なぁ戦士、俺がなんで死んだかお前知ってるか?」
戦士「へ?」
勇者「なぁ、教えてくれよ。戦士」
ゴゴゴゴゴゴゴッ
戦士「く、来るな!」ジャキンッ
勇者「おっ、俺の光の剣じゃないか。ちょっと貸してみろ」ガシッ
戦士「ぐぁ、な、なんて力だ……」
勇者「ははは、いてぇ!手が焼けるようだ」ジュージュー
戦士「お、お前……」
勇者「さすがに聖なる加護を受けた剣は持てそうにないな。ほらっお前にやるよ」ポイッ
戦士「な、なんなんだよ!なんなんだよ!お前は!」
勇者「ああ、忘れてた。これもやるよ」ポイッ
コロコロ
戦士「な、なんだ……ひぃ!く、首?」
戦士「お、お前がまさか……」
勇者「ああ、魔王だ」
戦士「ううううっ」ガタガタッ
勇者「どうした?震えているぞ?」
勇者「来ないのか?今はお前が勇者なんだろう?」
戦士「お、おおおおお俺を殺すのか」
勇者「いや、ころさねー」
戦士「へ?」
勇者「じゃあな……親友」バサァ
戦士「……」
戦士「た、助かった……」ヘニャア
僧侶「なんで戦士を助けたんです?」
勇者「助けてねーよ。それに人間には希望が必要だ……」
僧侶「希望?」
勇者「やがて俺による絶望に塗りつぶされることになるがな。ふはははははは!」
僧侶「戦士は希望になるでしょうか?」
勇者「んー、あの調子じゃ無理っぽいかな。だが、周りからのプレッシャーはすごいだろうな。なんてったって新しい勇者様だからな」
僧侶「それにあなたの両親はいいんですか?」
勇者「邪悪な俺にそんな里心残ってるわけねーだろ。ったく何だよさっきから」
僧侶「いえ、一人で寂しくないのかなーっと……」
勇者「……」
勇者「一人じゃねーよ」
僧侶「え」
勇者「お前がいれば……誰もいらねー」ボソッ
僧侶「も、もう一度言ってください!」グッ
魔法使い「出来た!魔物の生成に成功したわよー!」バタバタッ
勇者「!」バッ
僧侶「!?」バッ
魔法使い「どうしたの?二人とも」
僧侶「あなたって人は……ちょっとは空気を……」
魔法使い「見てみて!勇者の細胞を触媒に……」
僧侶「いえ、そんな説明はいいですので、ちょっと二人きりに……」
勇者「ほほぅ、これはすごいな」
僧侶「ちょっ」
魔法使い「でしょでしょ?これで攻めれば人間なんてすぐに……」
勇者「いや、こちらからは攻めない」
魔法使い「えーなんでよー」
勇者「ほうっておけ、いずれ人間達がこの城を攻めにくる」
勇者「もう勇者じゃない。魔王だ」
魔法使い「そんなのどっちでもいいじゃん」
勇者「魔王は自分で攻めて言ったりしない。それに欲しいものなんてあいつらは持っていない」
魔法使い「つまんないつまんないー」
勇者「魔王とはそういうものだ」
魔法使い「ブーブー」
勇者「それに……
魔法使い「それに?」
勇者「俺の欲しいものはこの城に全部あるからな」キュッ
僧侶「!」
おしまい
流れに乗っちゃったけど実際俺はこれでもいいと思うわwwwwwww
乙です
Entry ⇒ 2012.05.10 | Category ⇒ 勇者魔王「」SS | Comments (0) | Trackbacks (0)
勇者「一人旅の方が楽でいいよな」
http://hayabusa.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1334112204/
勇者「やりたいことをやりたい時に自由にやれるし」
勇者「装備や戦闘の経験とかもすべて独り占めできるし」
勇者「何より足手まといになる相手がいないってのがいい」
勇者「そもそも敵のボスである魔王とまともに戦えそうな奴なんて俺くらいしかいないっぽいし……」
勇者「……」
勇者「でも話し相手がいないっつーのも寂しいもんだな」
勇者「別に仲間がいたってそれはそれでいいんだよ。俺別に孤独を愛するタイプってわけでもないし」
勇者「仲間か……仲間がいたとしたら、どんなやつがいいかなあ」
勇者「勝気でちょっと我が侭な美少女とか、おっとりした癒し系巨乳美少女とか、読書好きな無口無表情系美少女とか」
勇者「あとは、そうだな……ニヤケたイケメン野郎とか……は要らんか」
勇者「元気で快活で年上のお姉さんな美少女とか、優等生で面倒見がよくて可愛いけどちょっと怖いとこもあって眉毛が太い美少女とか……」
勇者「……独り言も飽きてきたなあ」
勇者「……寂しい」
「退屈そうね。わたしでよければ話し相手くらいにはなれると思うけれど?」
勇者「誰もいない……幻聴とか……いくら寂しいっつっても……」
「幻聴じゃないわよ」
勇者「ど、どこだ? 姿を見せろよ……まさか、幽霊とか」
「どこを見ているの? 下よ、下」
勇者「下? 地面しか見えないけど」
「あなたの腰のあたりにぶら下がってるものがあるでしょう?」
勇者「……ちんこ?」
「なっ……違うわよ。そんなわけがないでしょう」
勇者「だよなあ。ちんこが喋りだすことがあったとしても女の声でっておかしいよな」
「そうじゃなくて、横。腰の横よ」
勇者「横って……旅の途中で手に入れた、この魔力を帯びた長剣か!?」
勇者「いわゆるインテリジェンスソードってやつか……おとぎ話と大差無いような伝説の中にはわりとよく出てくるけど、実在したとは」
勇者「は? 右って……じゃあ、こっちの短剣の方か」
短剣「やっとわかったのね。あなた、ちょっと鈍いわ」
勇者「いや、だって、まさか剣が喋りだすとは。つーかなんで家から持ってきた短剣の方なんだよ。こっちの長剣の方がそれっぽいのに」
短剣「そんなことわたしに言われても知らないわよ。そっちはただ単に魔力で強化されたよく斬れる剣というだけじゃないの?」
ロスト・マジック
勇者「それでも魔力を付加された剣なんて、今では貴重な、失われた魔法技術の産物だが……じゃあお前は?」
短剣「そうね。わたしもその類のものよ。高度な魔法技術によって、擬似的な人格を付与された存在」
勇者「擬似的な人格……じゃあ魔法で人間が剣の姿に変えられてるとかではないのか」
短剣「ええ。王子様にキスされても人間の姿に戻ったりはしないわ。人工の知能を植えつけられて喋っているだけ」
勇者「なんだー、ただの人工知能か」
短剣「何よ、不満なの? 退屈そうにしていたから話しかけてあげたのに」
勇者「あ、いや。そうか、まあ話し相手がいるってだけでも助かるよ。お前なら足手まといになることもなさそうだしな」
短剣「そういうわけだから、話したいことがあるならわたしが聞いてあげるわ。何でも言って頂戴」
勇者「えっと、じゃあ……お前、今の状況を把握してるか? 俺がなんでこうして旅をしてるかとか」
短剣「全然。さっきまで眠っていたから」
短剣「剣ってどっちの? わたし? 左の方にいる図体ばかり大きい役立たずの方?」
勇者「今のところお前よりはこっちの長剣の方が戦闘では役に立ってるよ。そうじゃなくてこの場合の剣というのは……いやどうでもいいか」
短剣「現状を把握してるかという話だったわね。知らないけれどだいたい想像はつくわ」
勇者「そうなのか? じゃ、言ってみ」
短剣「あなたは伝説の勇者の血を引く子孫で、人間の敵である魔王を倒すための旅をしている」
勇者「なんだ、知ってんじゃん」
短剣「いえ、たぶんそういうことだろうと思っただけよ。わたしに擬似人格を与えた人もそうだったから」
勇者「それってつまり……いや、その話は後で聞こう。まずは直近の目的から話すよ」
短剣「魔王の城へ向かっているのではないの?」
勇者「その前にやることがあるんだ。俺が受けた任務は魔王の討伐じゃない。後からそれもやるつもりではあるけど」
短剣「ふむ。その任務とは?」
勇者「これ秘密だから誰にも言うなよ。……さらわれた王女様の救出だ」
勇者「リアクション薄っ」
短剣「そんなことよりあなたのことをもっと知りたいわ」
勇者「『そんなこと』で済ますなよ。重大事件だ。まあお前はただの剣だし人間の事情なんてどうでもいいのかもしれんが」
短剣「ただの剣ではないわ。人語を解す魔剣よ」
勇者「はいはい、魔剣ね。で、なんだ、俺のことか? まあ察しの通りで、お前の元のご主人様の子孫ってことになるな」
魔剣「つまり親から子へ、子から孫へと、わたしを代々受け継いできたというわけね。何年前からなのか知らないけれど」
勇者「何年前からかわからないのか? ずっと眠ってたのか」
魔剣「眠っていたからというのもあるけれど、封印されていたでしょう? わたし」
勇者「ああ、うん。魔法による封印で鞘から抜けないようにされてた古い剣が俺の家の倉庫に何本もあって、その中の1本がお前だな」
魔剣「数ある剣の中からわたしを選ぶなんて、なかなか見る目があるわね」
勇者「あーいや、なんつーか、お前の封印はけっこう緩くて他のより解きやすかったから、まあこれでいいか、みたいな」
魔剣「……」
勇者「そっか、封印されてた間はお前の意識も封じ込められてたのか。……どうした? 黙り込んだりして」
勇者「リテイク!?」
魔剣「なかなか見る目があるわね。どうしてわたしを選んだのかしら」
勇者「ああ、うん。なんとなく、この剣は喋りだしたりしそうで、旅の共には最適かなー、なんて思ってさ……封印を解きやすかったからじゃないよ」
魔剣「あら、そうなの。光栄ね。でもそんなことより、あなたの実力が知りたいわ。わたしの元の主人のように強いのかしら」
勇者「また『そんなこと』で済ませやがって……じゃあ今から見せてやるよ。ほら、敵が現れた」
魔剣「特に強くも弱くもなさそうな程度の敵がわたしたちの進路に立ちふさがっているわね」
勇者「いくぞ! くらえ、『爆炎』!!」ピロリロリンッ
ドカーン!
勇者「とどめっ」スラリ
ザンッ!
テレレレッテッテッテー
勇者「と、こんな感じだけど」
魔剣「ふむ」
魔剣「攻撃魔法が得意なようね」
勇者「うん、どっちかというと剣より魔法寄りかな」
魔剣「ふむ……わたしの見たところ、あなた、けっこうやるわね」
勇者「そんなのお前にわかんのか?」
魔剣「わたしの分析力を甘く見ないで頂戴」
勇者「……じゃあ、今の戦いを解説してみ」
魔剣「そうね。まず、使った魔法についてだけれど。爆炎魔法という選択は正解ね。あの敵には火炎魔法や氷結魔法より効果が高いわ」
魔剣「次に、攻撃魔法のパワーのコントロール。過不足の無い適切な威力で、敵を瀕死にするだけのダメージを与えたわ」
魔剣「そして、最後の斬撃。これも無駄な力を使うことなく、必要充分な力でとどめをさしていたわね。戦い慣れしている証拠よ」
魔剣「相手の特性、防御力、耐久力を瞬時に見極め、余分なことは一切やらない。わたしの見た限りでは、ほぼ完璧な戦闘だったわ」
魔剣「どう? これで証明できたかしら」
勇者「あー、そうだな。忌憚の無い意見を言わせて貰うと、全っ然駄目だ。まるでわかってない」
魔剣「そんなっ!?」
勇者「知識と観察力はあると思うけどさ。分析力は皆無だ」
勇者「まず、火炎魔法や氷結魔法を使わなかった理由だけどさ」
魔剣「ええ」
勇者「使わなかったというより、使えないんだ。俺が使えるのは爆炎魔法だけ」
魔剣「……はい?」
勇者「パワーも調節したんじゃなくて、あれが精一杯」
魔剣「……」
勇者「最後の斬撃については……言うまでも無いな?」
魔剣「……えっと、」
勇者「その程度の洞察力でよく伝説の勇者のお供が務まったよなあ。ははっ。まあお前短剣だし、メインウェポンではなかったんだろうけどさ」
魔剣「いやちょっと待ちなさいよ! あれが精一杯って、そんなのでどうやって魔王を倒すつもりなのよ! しかも1人きりで!?」
勇者「それはまあ……その時までに経験を積んで、強くなって……」
魔剣「なにこの無理ゲー」
勇者「っていうかさ。……いないんだ。俺くらいしか。魔王とまともに戦えそうな奴が」
魔剣「どういうことなの……?」
魔剣「……まあ、今のあなたの武器や魔法よりはね」
勇者「でも、今は……平和な時代が長すぎたんだろうな」
魔剣「平和な時代……長い時を経て、戦うための技術が衰えてしまったということ?」
勇者「人もな。伝説の中で語られてるほどの戦士や魔法使いなんて、全然いないんだ。みんな平和ボケしちまって……」
魔剣「でも、兵士くらいはいるのでしょう?」
勇者「いるけど、防戦一方だ。魔物の侵攻をなんとか食い止めてる状態」
魔剣「厳重に警護されているはずの王女がさらわれたりするなんてどういうことかと思っていたけれど、そう……そういうことだったのね」
勇者「うん、まあ、そんな感じ」
魔剣「だったら、異世界の戦士や武器を召喚するとか……」
勇者「そういう高度な魔法技術がもう無いんだってばよ」
魔剣「あ……そうね。つまり、今で言う強力な武器とは、わたしのように保存魔法によって残されていた過去のものしか存在しないと」
勇者「お前は別に強力な武器でも何でもないけどな」
魔剣「むっ。なんだか馬鹿にされてるような気がするわ」
勇者「いや、喋れる剣ってだけでも充分凄いのはわかってるけどさ……っと、余計なお喋りはここまでだ。目的地が見えてきたぞ」
勇者「うん。俺の調査結果が正しければ、あそこに王女様が囚われてる筈だ」
魔剣「ふむ。洞窟……となると、そろそろわたしの出番かしら」
勇者「どういうこと? ……中は真っ暗だな。少なくとも入り口付近に灯りの類はついてないようだ」
魔剣「ふっ。その言葉を待っていたわ。さあ、わたしを抜いて掲げなさい」
勇者「こう?」スラリ
魔剣「ええ」
勇者「……何も起こらないけど?」
魔剣「何をしているの? 早くわたしに光の魔法をかけなさい。道を照らしてあげるわ」
勇者「なるほどこれは便利ってお前ただ掲げられてるだけで何もしてないじゃん。そもそも俺そんな魔法使えないし」
魔剣「そうなの? 残念だわ。戦闘では全然使ってくれないから、せめて松明がわり程度には役に立つところを見せておこうと思ったのに」
勇者「意外と健気なとこもあんのな……いや、松明なら持ってるし、話し相手になってくれるだけで充分だからさ」
魔剣「でも……」
勇者「さっき言ったこと気にしてんのか? ごめんな。もう武器としてのお前を貶すようなことは言わないよ」
魔剣「別に、そんなの全然気にしてないわ。もうすぐわたしの見せ場が来るもの」
魔剣「洞窟の奥で強敵との戦闘になって、あなたは頑張って戦うのだけれど、その長剣が折れてしまってピンチになるのよ」
勇者「いや折るなよ。これ魔王を倒した伝説の武器として後世に残す予定なんだから」
魔剣「じゃあ折れはしないけれど敵に弾き飛ばされて川に沈んでしまうの。そこでわたしの出番」
勇者「洞窟の奥からどんだけ飛ぶんだよ。それにそんな強敵が相手だったら短剣で戦うのはきついだろ」
魔剣「それは……えっと、あれよ。絶体絶命の危機に追い込まれた時、わたしが、秘められていた真の力を発揮して……」
勇者「えっ、そんなのあんの?」
魔剣「……ふっ。でもだめね。今のあなたではまだ、このあまりにも強すぎる力は制御できない……」
勇者「なんだ無いのか。ちょっと期待しちゃったよ」
魔剣「あっ、あるもん! 秘められた力あるもん! 秘密の力だから見せないけど!」
勇者「キャラ変わってんぞお前!? 子供か! むきになるなよ!」
魔剣「ふん。もういいわ。もう武器やーめた。話し相手だけしかしないわ、もう」
勇者「拗ねるなよ……つーか拗ねても話し相手はしてくれるのな。そういうとこ好きだよ」
魔剣「す、好きって……なに馬鹿なことを言っているの!? け、剣とは結婚できないわよ!?」
勇者「馬鹿はお前だ! 結婚してくれとまでは言ってねえよ!」
勇者「まあそうやって結婚したから子孫の俺も存在してるんだろうけどさ。さっきの好きってのはそういう意味じゃねえよ」
魔剣「とは言っても、前の持ち主が結婚したところをわたしは直接見てはいないけれどね」
勇者「そりゃ結婚式に帯剣して行かないだろうよ。いや、でもケーキカットにでも使ってもらえばよかったかもな。ははっ」
魔剣「いえ、わたしが擬似人格を持たされたのはそれより後のことだから」
勇者「ん? 戦いの旅に出たときにはもう既婚だったってことか? 時系列がよくわからん……」
魔剣「そのへんの話、聞きたい?」
勇者「興味はあるけどそんなのは後回しだ。俺たちが今どこにいるか思い出してくれ」
魔剣「今わたしたちが益体も無い雑談に興じている場所は、王女が囚われている洞窟ね」
勇者「憶えてたか。そういうわけだから、静かに行くぞ」
魔剣「ひとつだけ言っておきたいことがあるのだけど」
勇者「なんだよ」
魔剣「爆炎魔法を使っては駄目よ。洞窟の中なのだから」
勇者「うん……やっぱそうだよな……生き埋めになりたくないし。王女様を埋めちゃうのもまずいし」
魔剣「わたしはもう武器やめたからその無口な長剣で頑張って頂戴」
魔剣「あそこに王女が閉じ込められているのかしら? だとすると逃げられないように鍵をかけてあるわね」
勇者「縛られたりしてれば鍵はかかってないかもな。開けてみよう」
ガチャッ ギィ
勇者「お、開いた。中はかなり広いな。王女様は……と」キョロキョロ
魔剣「見て。あそこに人が」
勇者「どこ? 暗くてよく見えん」キョロキョロ
魔剣「どこに目をつけているのよ。あそこよ、あそこ」
勇者「そう言われても……つーかお前の方こそどこに目がついてんの?」
魔剣「右の壁際、奥の方に少し窪んでいるところがあるでしょう? あそこに人が倒れているわ」
勇者「王女様かっ?」タタッ
魔剣「……これは」
勇者「死んでる……」
勇者「わからんが……この傷跡」
魔剣「巨大な斧のようなもので切り裂かれたような傷ね」
勇者「あるいは鋭い爪のようなもので切り裂かれたような」
魔剣「もしくはバールのようなものでこじ開けられたような」
勇者「いや表現はどうでもいいよ。とにかく死んでるな」
魔剣「ふむ……わからないわね、わざわざ誘拐しておいてなぜあっさり殺してしまったのかしら」
勇者「……何か勘違いしてるみたいだけど、これ王女様じゃないよ?」
魔剣「あら、そうなの? わたしは王女の顔を知らないから勘違いしてしまったわ」
勇者「いや、どう見てもおっさんじゃん」
魔剣「なんかおっさんみたいな王女ね、とか思っていたわ」
勇者「独断で王女様を救出しようとして返り討ちにあった兵士、ってとこかなあ」
魔剣「無謀ね。蛮勇と言った方がいいかしら」
勇者「……故人を悪く言うもんじゃないよ」
魔剣「あなたももうすぐこうなるのかしらね。今のうちに悪口を言っておこうかしら」
魔剣「だって、このおっさんがここで死んでいるということは」
グルル…
勇者「殺した相手が近くにいるということに……」
ズシン
魔剣「なるかもしれないわね。たとえばあいつのような」
勇者「あー、あんな感じのドラゴンとかな」
ズシン
勇者「……ってドラゴン!? ドラゴンて! ……ドラゴンって!」
魔剣「うるさいわね。何度も同じ事を言わないで頂戴」
勇者「いやでも……ドラゴンって!」
魔剣「他の言葉を忘れてしまったの?」
勇者「最強クラスの魔獣じゃねえか! どう見ても過剰な軍備だろ! こういうの外交でなんとかできないの!?」
魔剣「あなたもけっこう平和ボケしているわね……。ドラゴンなんてただの大きいトカゲじゃない」
魔剣「ドラゴンが喋った!?」
勇者「さて、偵察という重要な任務は果たしたことだし、そろそろ戻ろうか」スタスタ
魔剣「任務は王女の救出ではなかったの?」
ドラゴン「……」ギロッ
勇者「あー、うん。『救出したかったらしてもいいよ』とか言われたような気もするかなあ……はは」スタスタ
魔剣「なんかわたしが知ってる勇者と違う」
勇者「やっぱやるしかないのかなあ……」
魔剣「わたしのアドバイス通りにやれば勝てるわよ」
勇者「どうやんの?」
魔剣「まずはその長剣を使って斬りかかるの。でも長剣は折れてしまって、」
勇者「そういうのはアドバイスとは言わん。つーかなんでそんなに剣折りたいんだよ」
魔剣「じゃあ真面目にアドバイスするわ。まず、ドラゴンと戦う上で最も脅威になるのは口から噴き出す灼熱のブレスよ」
勇者「首の向きに注意して、射線上から外れる動きをしろってことかな。難しそうだ」
魔剣「なんとか避けながら接近して、顎の下から口を串刺しにしてやるの。その長剣でね。それでブレスは封じられるわ」
魔剣「あとは尻尾による攻撃もあるかしら。それもなんとか避けながら、今度は目を剣で突いてやるのよ」
勇者「剣は口に刺さったままだけど?」
魔剣「わたし、わたし」ワクワク
勇者「武器やめたんじゃなかったの?」
魔剣「ふっ。まあ、もう引退した身ではあるけれど? あなたがどうしてもと言うなら現役に復帰してあげてもいいわ」
勇者「うーん、まあ、それでいくしかないか」
魔剣「目を潰した後は、相手はあなたの動きを正確には捉えられなくなるから、長剣の方を引っこ抜いて、間髪入れずに首を斬り落とす」
勇者「なるほど。じゃあその手でいくか」
魔剣「うまくいきそうになければ最小のパワーで爆炎魔法を使って目眩ましをするという手もあるけれど。洞窟が崩れない程度に」
勇者「それは切り札としてとっておくか……なんか怖いし」
魔剣「これで作戦はまとまったわね。さあ行きましょうか。ドラゴン・スレイヤーの称号を得に」
魔剣「避けて! 鉄をも溶かす灼熱のブレスよ。まともにくらったら骨も残らないわ」
勇者「うわっとお! ……ブレスに炙られた岩は溶けてないみたいだけど?」タタタ
魔剣「……岩は溶けないけどかなり熱いブレスよ。まともにくらったらすっごい火傷をするわ」
勇者「くそっ……『爆炎』!!」ピロリロリンッ
ドカーン!
魔剣「なにいきなり爆炎魔法使ってるのよ! しかもパワーの調整も無しでっ!」
ガラガラッ
勇者「岩がっ! おわっ! 上から岩が降ってくる!」
ガンッ
ドラゴン「……」クラクラ
勇者「あ、ドラゴンの頭に直撃した」
魔剣「今よ!」
勇者「うおおおおお!!」ザンッ! ザンッ! ザンッ! ザンッ! ザンッ! ザンッ!
魔剣「これはひどい」
魔剣「大丈夫?」
勇者「なんとか……」ハァハァ
魔剣「少し予定とは違ったけれど、これであなたもドラゴンスレイヤーね」
勇者「ごめん。お前を使ってやれなかったな」
魔剣「少々不満ではあるけれど勝ったから許すわ。あなたのことはこれからドラスレって呼ぼうかしら」
勇者「なんか聞いたことあるような略し方だな。なんかとかぶってるような気がするからその略し方はやめとこう」
魔剣「じゃあ、ドラゴンスレイヤーだから、真ん中へんをとってゴンス」
勇者「語感が悪いなあ」
魔剣「最初と最後をとってドライヤー」
勇者「もう何でもいいよ……その称号は俺じゃなくてこの長剣の方に与えてやってくれ」
魔剣「折れなかったわね、それ」
勇者「ひょっとして嫉妬してんの?」
魔剣「別に。わたしは人工知能なのだから、予め決められたパターンに従って会話を組み立てているだけだわ」
勇者「その会話パターン作った人にちょっと話があるんだけど」
勇者「ですよね」
魔剣「さあ、行きましょう。王女がお待ちかねよ」
勇者「ごめん……もうちょっと休ませて……」
魔剣「だらしないわね。ドラゴンスレイヤーではあるけれど駄目なスレイヤーだわ。駄スレだわ」
勇者「この人工知能を作ったのは誰だあっ!」
魔剣「しかたないわね。体力が回復するまでの間に、そのへんのことを話してあげましょうか?」
勇者「ああ、聞きたいね。お前がただパターンに従うだけの人工知能とは思えん。感情表現が豊かすぎる」
魔剣「じゃあ話してあげるわ。少し重い話になるけれど」
勇者「そういうのはちょっと苦手だなあ」
魔剣「実は、わたしを作った人はすごく太っていてね」
勇者「ベタすぎるわ! そういうジョークは要らねえよ」
魔剣「じゃあ真面目に話すわ。少し悲しい話になるのは本当よ」
勇者「うーん……鬱展開とかはちょっと」
魔剣「だったらあまり重くならないように、概要だけさらっと話そうかしらね。わたしと、過去の勇者の物語を」
魔剣「勇者とともに旅をし、魔王と戦ったパーティの一員でね。強力な攻撃魔法を操る魔法使いだったわ」
魔剣「勇者と魔法使いは相思相愛の関係で。魔王討伐という使命を成し遂げた後、ふたりは結ばれてめでたしめでたし」
魔剣「よくあるおとぎ話のような結末ね。でもお話と違ってその後もふたりの人生は続くわけで」
魔剣「不幸なことに、勇者はその妻に先立たれてしまったの」
魔剣「勇者は嘆き悲しみ、せめてもの慰めとして、亡き妻の声を持つインテリジェンスソードの製作に心のよりどころを求めた」
魔剣「勇者がインテリジェンスソード製作のベースとして選んだのは、妻が生前に愛用していた武器。それが、わたし」
魔剣「当時の魔法技術でも、意思を持つ魔剣の製作は簡単ではなかったわ」
魔剣「既に故人となった者の声や人格を再現するというのも成功への妨げになったようね。でも勇者は凄まじい執念でそれを成し遂げた」
魔剣「それほどまでに亡き妻への愛が深かったのでしょうね。ただの人工知能。まがい物の、代用品でしかなかったけれど、」
魔剣「勇者は妻とともに過ごすはずだった、失われた時間を埋めようとでもするかのように、わたしにいろいろな思い出話を聞かせてくれたわ」
魔剣「夜が来ると、宝箱の中からわたしを取り出して。ときには懐かしげに微笑みながら。ときには寂しげに涙ぐみながら」
魔剣「やがて勇者にも妻のもとへと旅立つときが来て。わたしを愛しそうに胸に抱いたまま、永遠の眠りについた」
魔剣「残された勇者の家族によって封印の魔法をかけられ、わたしもまた長い眠りについたの」
勇者「うっ……ふぐっ……うわぁああああん」
魔剣「号泣してるっ!?」
勇者「だって……勇者が……魔法使いが……かわいそうで……」ポロポロ
魔剣「そうね。でも、亡くなってしまったのは不運だったけれど、幸せだったと思うわ。わたしの元になった魔法使いは」
勇者「そうなのかな……?」グスン
魔剣「ええ。だってそれほどまでに愛されていたのだもの。生前には何百年分もの幸せを享受していたに違いないわ」
勇者「戦いの旅が終わって、結婚して、子供も当然いたってことだよな。俺の直系の先祖なんだろうから」
魔剣「そうね」
勇者「ということは、戦いの中で命を落としたってわけではないのか」
魔剣「ええ。ベッドの上で、愛する夫に看取られながら、眠るように静かに息を引き取ったと聞いているわ」
勇者「……そっか。よかった、と言うのは変だけど、せめてもの救いだな」
魔剣「そうね。詳しい死因までは聞いてないけれど、80年も連れ添った夫婦の別れなのだから、最後は静かに、」
勇者「死因は老衰だよ!」
魔剣「あら。人間の寿命って意外と短いのね」
魔剣「いえ、でも、すごく悲しんでいたわよ? わたしの前の持ち主は」
勇者「あー、まあ……そんな爺ちゃん婆ちゃんになってもそこまで深く愛してたってんだから、本当に仲のいい夫婦だったんだろーなあ……」
魔剣「いい話ね。まあそんなわけで、わたしには人間とたいして変わらないような感情表現をする機能が備わっているのよ」
勇者「なるほど……でもさあ、それならお前より、魔法で動く人形とか作って、そいつにその機能をつけた方がよかったんじゃないか?」
魔剣「当時の魔法技術なら、頑張ればそういうこともできなくはないのかもしれないわね」
勇者「なんでそうしなかったんだろう」
魔剣「そこまでは知らないけれど、なんか怖いからじゃないかしらね。人形って」
勇者「うーん、そういやそうか」
魔剣「美談のはずが怪談になりかねないわ」
勇者「っていうかすげー元気な爺ちゃんだな。婆ちゃんが100歳くらいで死んでからお前を作ったりなんやかんやしてたんだから」
魔剣「ええ。素敵な人だったわ。あなたにも同じ血が流れているのだから、きっとこれからもしぶとく生き残れるわね」
勇者「かもな……ちょっと勇気が湧いてきた。よし、そろそろ行くか」
魔剣「ええ。既に最大の障害は取り除いたと見ていいと思うけれど、慎重にね」
魔剣「鍵は?」
勇者「……かかってるな」ガチャガチャ
魔剣「開錠の魔法を」
勇者「使えると思うか?」
魔剣「どうするの?」
勇者「ん、これくらいの鍵なら、このキーピックで」カチャカチャ
魔剣「そんなので開くのかしら」
勇者「まあ見てろって……ほら開いた」ガチャン
魔剣「変なところで優秀なのねあなたって。盗賊の方が向いてそうだわ」
勇者「ここにいるのかなっ……と」ギイ…
「……誰ですか?」
魔剣「いたわね」
「人間の方……ですか……?」
勇者「なにこの異常に綺麗な人」
勇者「ああ、うん、たぶん、というか間違いない。美しさもとんでもないけどこの気品、優雅な物腰……見てるだけで気圧されそう」
魔剣「なに見蕩れているのよ。さっさと跪いて挨拶しなさい」
勇者「あっ、そ、そうか。えー、勇者と申します。お、王女様を助けに、いえ、お救いに、えっと救出に参りました。えーと、その……」
魔剣「しどろもどろってこういうのを言うのね」
王女「あっ、いえあの、わたしごときにそんなご丁寧な挨拶っ、痛み入りますっ。わっ、膝が汚れてしまいますっ。何か拭くものを……」ペコペコ
勇者「なんでそんなに腰が低いんですかっ!?」
魔剣「意外と気さくそうな人だわ」
勇者「……えっと、王女様ですよね?」
王女「はっはいっ。王女ですっ。本当ですっ。何か証明できるものは……」オロオロ
勇者「……もしかして、影武者の方とか?」
王女「いえっ、本物ですっ。ど、どうすれば信じていただけるんでしょうかっ。困りましたっ」アセアセ
勇者「あ、いや……どっちにしても本物と信じておいた方が都合がよさそうだし……信じますよ」
王女「そうですかっ。よかったです」ホッ
勇者「そうだな。では王女様、お城までお送りいたします」
王女「はいっ、ありがとうございますっ」
魔剣「王女様なのになんでこんなに腰が低いのかしら」
王女「わたし、他の王女さんの知り合いとかいませんし……王女らしい振る舞いとかよくわからなくてっ」
勇者「お城の他の方々とお話しする時もそんな感じで?」
王女「はいっ、あのっ、他の方とはあまりお話はしませんがっ。小さい頃から遊び相手になっていただいてる方がおられましてっ」
勇者「はあ。ひょっとして、その方の口調に影響されて、とか……?」
魔剣「そのお友達の立場から見れば話す相手は自分よりはるかに身分が高い人だものね」
王女「あの、わたしの言葉遣い、おかしいでしょうか……」
魔剣「ふむ。あなたの責任というわけではないけれど、王族としての教育がなってないようね」
勇者「おい、失礼だぞ」
魔剣「あら、ごめんなさい。……それで、あなた本当は何者なの?」
王女「えっ……」
魔剣「ええ、疑っているわ。おかしいと思わないの?」
勇者「何がだよ」
魔剣「さっきからわたしが喋っているのに、驚きもせず平然とした態度」
勇者「そういえば……普通の人間なら剣が喋りだしたら驚くはず……俺がそうだったように……」
魔剣「そう。普通の 人 間 ならね。わたしのような 人 工 知 能 なら別でしょうけど。さて、この王女様はどうなのかしら?」
勇者「……王女様。なぜ驚かないんですか? こうして剣が喋っているのに」
王女「いえ、わたし、剣にはあまり詳しくないですから、そういうものなのかと。喋らない剣もあるんでしょうか?」
勇者・魔剣「「単なる世間知らずかよ!」」
王女「ううっ。世間知らずでごめんなさいっ」ペコペコ
王女「この袋は?」
勇者「変装用の服が入ってます。その格好では目立ちますから、普通の平民に見える服を用意してきました」
王女「はい、わかりましたっ。えっと、どこで着替えれば……」キョロキョロ
勇者「俺はここから出て扉の向こうで待ってますから、ここで着替えて、終わったら声をかけてください」
王女「はいっ」
勇者「では」バタン
王女「……」ヌギヌギ
王女「……」スルッ ポロリンッ
王女「……」スルスル パサッ
勇者「扉越しに衣擦れの音が聞こえてなんか悩ましい」
魔剣「興奮して鼻血吹いたりはしないで頂戴。戦闘で使われてもいないのに血まみれになりたくないわ」
王女「……」ガサゴソ
王女「……?」ガサゴソ
勇者「あ、終わりました?」
王女「わわっ! まだですっ! まだ開けちゃ駄目ですっ! 今が一番開けちゃ駄目な状態ですっ!」
勇者「あ、はい……どんな状態なんだろう……どうしました? 何か問題でも?」
王女「はい、あの、この袋には下着が入ってないようなんですがっ」
勇者「いや下着はそのままでいいですよ!? 変装のための着替えですから!」
王女「えっ? あっ、そうですかっ。そうですよねっ。なんでわたし、下着まで脱いじゃったんでしょうかっ///」
魔剣「たしかに一番開けちゃ駄目な状態ね」
勇者「ということは、今、王女様は……///」ゴクリ
魔剣「全裸の美少女が扉一枚隔てた向こう側にいるというだけでそんなに興奮できるなんて、若いっていいわね」
勇者「うるせえ。そりゃお前は100歳くらいの婆ちゃんを元に……ん? そのわりには声も可愛らしいし、なんか子供っぽいよなお前」
魔剣「だってわたし、あの人の妻が若かった頃を再現して作られているもの」
勇者「やっぱりその爺ちゃんも若い娘の方がよかったんだ……」
魔剣「厳密に言うとわたしの元になっているのはあの人の記憶の中の妻だから、多少美化されているかもしれないわね」
勇者「美化してもこんな性格か」
勇者「まだ言ってるのか」
魔剣「だって、わざわざ手間をかけて誘拐した目的を考えると。替え玉とか、あるいは洗脳した状態で送り返すとか」
勇者「じゃあ、俺がこうして救出するのも敵のシナリオ通りってことに……?」
魔剣「まだわからないけれど。帰り着くまでの道中でよく観察して見極める必要があるわね」
勇者「ではさっそくこの扉を開けて観察してみよう。俺の鋭い観察力で正体を暴いてやる」キリッ
魔剣「やりたいのならやれば? わたしは止めないわよ」
勇者「いや、冗談だよ……さすがに王女様相手にそんな恐れ多いこと」
魔剣「王女じゃなければやるのかしら。それにしても見た目はともかく、全然王女っぽくない王女様ね」
勇者「影武者が誘拐されてそれをさらに替え玉にすりかえて送り返されてたら笑うよな」
魔剣「笑い事で済まないような気もするけれど、でも偽者ならむしろもっと本物っぽく見えるような演技でもしそうなものよね」
王女「ううっ。王女らしくなくてすみませんっ。でも本当に本物なんです……」
勇者「聞いてたんですかっ!? いえ、こちらこそ失礼なことをっ」
魔剣「それは、まあ……扉越しとはいえ、向こう側の衣擦れの音が聞こえるくらいなのだから、こちらの声も聞かれているわよね……」
勇者「ひょっとして、全部……? うわああああ! ごめんなさい! すいません! できればさっきの不埒な発言は聞かなかったことにっ!」
勇者「……あ、は、はい。では行きましょうか」テクテク
魔剣「これでもう王女っぽい要素は微塵も無くなったわね」
勇者「おいやめろ。王女様がめっちゃお凹みになってあらせられるぞ」
王女「いえ、でも、あの……証明できるかもしれません。わたしと両親くらいしか知らないような話をすれば」
魔剣「ふむ。それが本当かどうかは帰り着くまで確認のしようもないけれど。いいわ。言ってみて頂戴」
勇者「なんで王女様より剣の方が偉そうな態度なんだろう」
王女「はい、では、さっきお話しした、小さい頃からわたしの話し相手になっていただいていた方の話なんですがっ」
魔剣「ええ」
王女「剣なんです。その方も。だからわたし、剣って喋るのが普通なのかと……」
勇者「なるほど、それで……って、ええっ!?」
魔剣「わたしと同じ、人語を解す魔剣……?」
勇者「伝説の中にしか存在しないと思ってたインテリジェンスソード……こいつの他にもあったのか」
王女「はいっ、帰ったらおふたりにも紹介しますっ。剣同士ですから、そちらの剣さんとはいいお友達になれるかもしれませんっ」
魔剣「わたしのことは剣ではなく魔剣と呼んで頂戴」
王女「ううっ。足手まといになってしまってすみませんっ」ペコペコ
勇者「あ、いえ、王女様であり戦闘要員でもあるとかいう超絶ハイスペックなんて期待はしてませんから、気にしないでください」
魔剣「王女らしい威厳も無いけれどね」
王女「威厳ですか……えっと、じゃあ、やってみますっ。……女王様とお呼びっ!」
勇者「王女様ですよね!?」
王女「わっ、間違えましたっ。お、王女様とお呼びっ!」
勇者「最初からそう呼んでますが……」
魔剣「なんかいろいろ間違っているような気がするわね。というか、王女様とは呼ばない方がいいと思うのだけれど」
勇者「あ、そうか。せっかく目立たないように平民っぽく変装してるんだし、偽名とか……」
王女「はあ。では、えっと、わたしのことはオードリーとでも呼んでくださいっ」
勇者「ではそのように。こちらの言葉遣いも変えますから、無礼ではありますがご了承ください」
王女「はいっ。全然かまいませんっ」
勇者「敬語とか使い慣れてないから俺もその方が楽でいいや。つーか魔剣、お前もあんまり喋るな。町の人にいちいち驚かれるとめんどくさい」
王女「あの、でも、わたし、お金を全然持ってなくてっ」
勇者「金は俺が出すけど……買い物のしかたとか、わかる?」
王女「お買い物ですか。したことありませんが、どうすればいいんでしょうかっ」
魔剣「あなたもいっしょに店に行って買えばいいじゃない」
勇者「下着をか? うーん……まあしょうがないか……」
アリガトウゴザイマシター
勇者「めっちゃ恥ずかしかった……」
魔剣「店員にはどんなふうに見えていたのかしらね。若い男女が一緒に下着を買いに来るって」
王女「すみません、わたしのせいで恥ずかしい思いをさせてしまって……でも、初めてのお買い物、楽しかったですっ」
勇者「楽しんでもらえて何よりだよ」
王女「お城からほとんど出たことがありませんから、こうして町を見ているだけでも楽しいですっ」
勇者「じゃあ、宿に行く前にちょっと町を見て回ろうか」
王女「いいんですかっ? 嬉しいですっ」
王女「わっ、こんな道端でお店をやっている人もいるんですねっ。生麦や生米や生卵を老若男女様々な人が買ってますっ」
王女「わわっ、猫さんが3匹いますっ。家族でしょうかっ? 可愛いですねっ。にゃんこ子にゃんこ孫ま、にゃんこですっ」
魔剣「……楽しそうね。世間知らずのお姫様」
勇者「うん……こんなありふれた町の風景でも、別世界のように見えてるんだろうなあ……」
王女「すごいですっ、あんなの初めて見ましたっ」「あっ、こっちにも珍しいものを発見しましたっ」「わっ、あそこにも……」
勇者「めっちゃはしゃいでるなあ。まあ、喜んでもらえてよかった」
王女「あっ、勇者様、あれは何でしょうか? 食べ物を売ってるようですがっ」
勇者「串焼きの屋台だな。肉は何だろう、鶏かな」
王女「こんなふうに外で食事をする方もいらっしゃるんですねっ」
勇者「そういや腹へったな。食べていこうか」
王女「ほんとですかっ? 鶏は食べたことありますが、こんなのは初体験ですっ。どきどきですっ」
勇者「庶民が食べるようなものだから口に合うかどうかわかんないけどね」
王女「男の人と2人きりで食事をするのも初めてですから、そういう意味でもどきどきですっ」
魔剣「わたしの存在を忘れられてるような気がするわ」
宿屋「すいませんね。こんなご時勢だから宿屋の商売も上がったりってやつで。料金を高くしないとやっていけないんですよ」
王女「あっあのっ、わたしにはよくわかりませんが、2部屋で100Gなら1部屋に2人で泊まれば50Gで済むんじゃないでしょうかっ」
宿屋「ええ、その通りですよ。食事は別料金ですけど」
勇者「いや、でも、男女で同じ部屋に泊まるのは、ちょっと」
王女「わたしは全然かまいませんからっ。それに、ひとりでは不安で……」
勇者(そっか、さっきはあんなにはしゃいだりもしてたけど、考えてみたらめちゃくちゃ怖い思いもしてたんだよなあ、誘拐されたんだから)
王女「世間知らずですから、備え付けのものの使い方がわからずに壊してしまったりしないかと不安でっ」
勇者「そっちですか……。修理代請求されたりするのも嫌だし、じゃあ、まあ、1部屋で。はい、50G」
宿屋「では、201号室で。これ部屋の鍵です。……うまくやりなよ(ヒソヒソ」
勇者「えっ、いや、そんなんじゃ……行こうか、王j……オードリー」
王女「はい、えっと、うーん……」
勇者「何考え込んでんの? やっぱり2部屋の方がよかった?」
王女「あ、いえ、行きましょうバナージ」
勇者「俺の名前も考えてくれてたのね……。必要無いような気もするけど」
魔剣「部屋に入ったからやっと自由に喋れるわ」
勇者「けっこう喋ってた気もするけどなお前。まあ傍に王女様がいればお前が喋ってるとは気づかれにくいと思うけど」
王女「勇者様っ、たいへんですっ。この部屋、お風呂がひとつしかありませんっ」
勇者「いや、普通そうですから……部屋に風呂がついてない宿屋もありますよ。大浴場みたいのがあるだけで」
王女「はあ。その場合は、他のお客さんといっしょに入ったりするんでしょうか?」
勇者「そういうことですね」
王女「なるほど、わかりましたっ。わたし、男の人といっしょにお風呂に入るのも初めてですから、恥ずかしくてどきどきですっ///」
勇者「いやそういうことじゃないですよ!? この場合は1人ずつ順番に入ればいいだけの話ですからっ!」
王女「えっ? あっ、そうですよねっ。勘違いしてましたっ。恥ずかしいですっ」
勇者「ちなみに大浴場でも普通は男女で分かれてますから」
魔剣「馬鹿ね。黙っておけば王女様と一緒に入れたのに」
勇者「うわあああああしまったああああああ……ってそんなことしないよ……」
魔剣「そんなことよりベッドが1つしか無いことの方を気にするべきじゃないのかしら」
勇者「いや、それは別に……俺は長椅子の上ででも寝ればいいしさ」
勇者「お前けっこう思考に柔軟性が欠けてるとこあるよな。所詮は人工知能か」
王女「あっあのっ、勇者様はお疲れでしょうからベッドで寝てくださいっ。わたしが長椅子の方で寝ますからっ」
勇者「王女様は柔軟すぎですっ! そんなわけにはいかんでしょうが常識的に考えてっ!」
王女「ううっ。また怒られちゃいましたっ」
勇者「いや、怒ってるわけでは……お気持ちは嬉しいですよ。優しいんですね」
王女「ほめられましたっ」
魔剣「わたしだって優しいわよ」
勇者「なんで対抗意識出しちゃってんだよお前は」
魔剣「あなたは疲れているでしょうからベッドで寝なさい。わたしは長椅子で寝るから」
勇者「しかも王女様のまるパクリか! つーかそれおかしいだろ! 王女様を床で寝かせるつもりか!」
王女「わっわたしは別に床でもっ」
魔剣「何ならわたしがベッドで」
勇者「わけわかんねえ! その絵面を想像してみろ! シュールにも程があるわ! ああもうめんどくせえ! さっさと風呂入って寝るぞ!」
魔剣「怒られてしまったわ」 王女「怒られちゃいましたっ」
勇者「あーはいはい、楽しかったですよー。さあ、帰るぞ」スタスタ
王女「はいっ。わたしも楽しかったですっ」トコトコ
魔剣「わたしも楽しかったわ。床で寝かされたこと以外は」ヒソヒソ
勇者「いやだってお前剣だし……」ヒソヒソ
宿屋「いいなあ、あんな可愛い娘と。あっそうだ、恋人同士がなんやかんやする用の宿に商売替えしようかな。うん、その方が儲かりそうだ」
王女「この町ももう見納めですねっ。なんだか名残惜しいですっ」キョロキョロ
勇者「なあ魔剣、これほどまでに世間知らずってことは、もう本物の王女様と思っていいんじゃないか?」ヒソヒソ
魔剣「まだ結論を出すのは早いと思うわ。まだ誘拐の目的も不明だし」
勇者「誘拐の目的か。普通に考えたら人質とって脅迫するとかだろうな。もう助け出しちまったからどうでもいいような気もするけど」
魔剣「どうでもいいかどうでもよくないかで言えば誘拐の目的も本物かどうかも何もかもどうでもいいわ。わたしにとっては」
勇者「最初からリアクション薄かったしな……実際に会ってからも、なんか王女様に対して冷たいような気もするし」
魔剣「別に嫉妬しているわけではないわ」
勇者「やっぱり嫉妬してたのか。可愛いなお前」
魔剣「違うと言ってるでしょう。まだ信用してないだけよ。どうでもいいけれど」
勇者「はっ。お褒めにあずかり恐悦至極に存じます(こんな感じの答え方でいいのかな)」
王の側近「そうそう。ちゃんと教えた通り、無礼のないように振舞えよ」ヒソヒソ
王様「この国の王として。それ以上に1人の父親として、心から礼を言うぞ。勇者よ」
勇者「はっ。お褒めにあずかり恐悦至極に存じます(あっまた同じこと言っちゃった。まあいいか)」
王様「うむ。まあ、そんなに固くならなくていいぞ」
勇者「はっ?」
王様「こういうの慣れてないだろ?」
勇者「ええ、まあ。こんなふうにお城に来る機会もあんまり無いもんで」
王様「わしも堅苦しいのあんまり好きじゃないし。とにかくありがとうな、娘助けてくれて」
勇者「いやあ、当然のことをしたまでですよ。まあ途中でドラゴンが立ちふさがったりもしましたけど俺ならそんなん超余裕ですし」
王様「こやつめハハハ」 勇者「ハハハ」
側近「せっかく礼儀作法を叩きんだのに……」
王様「で、だ。何か褒美をとらせようと思うんだけど、何がいい?」
勇者「いえ、報酬はもう側近さんから頂きましたから」
勇者「そう言われましても、今は特に欲しいものとかは……」
王様「地位や権力的なものとかさ」
勇者「正直そういうのはめんどくさいです」
魔剣「くれるものは何でも貰っとけばいいのに」ボソ
勇者「こら、お前は喋るな」ヒソヒソ
王様「地位や権力に興味が無いなら、女は? 何ならわしの娘を嫁にしてもいいよ」
勇者「たいへん魅力的なお話だとは思いますけど、その場合、地位と権力もついてきちゃうんじゃないですか?」
王様「うん。そうなったらお前、わしの息子ってことになるからね」
勇者「光栄ですけど、それはちょっと」
王様「そんなに嫌なの? 偉い人になるの」
勇者「いやそこまで嫌ってほどでもないですけど、なんかめんどくさいです」
王様「わしの娘、おっぱい大きいよ?」
勇者「謹んでお受けいたします」キリッ
魔剣「いいの? それで……」
王様「うん、考えといてよ。わしも世継ぎのこととか考えとかなきゃいかんしさ。それはそれとして、他に何か望みは無い?」
勇者「うーん……じゃあ、魔王を倒すための武器とか、なんかいいの無いですかね」
王様「お前が持ってる魔力を帯びた長剣と同じようなのなら宝物庫に行けばあるかもなあ。でもそんなたいしたもんは無いよ」
魔剣「わたしを超えるほどの名剣はここには無いということね」
勇者「喋るなって。あ、それで思い出した。王女様から聞いたんですけど、このお城にも喋る剣があるんですよね?」
王様「うん、あるよ。でもあれは娘のお気に入りだから、譲っていいかどうかは娘に聞いてみないとなー」
勇者「いえ、譲っていただかなくてもいいんですけど、ちょっと会わせていただけたらいいなー、なんて」
王様「じゃあちょっと待って、娘呼ぶから。おい、側近」
側近「はっ。仰せの通りに」
王様「そうそう、言うの忘れてたけど娘がお前のこと、えらく気に入っちゃっててね」
勇者「マジっすか」
王様「マジマジ。だからさっきの話、ちゃんと考えといてね。わしの方もお前だったら安心して娘も国も任せられるし」
勇者「娘さんの方だけなら喜んでお引き受けするんですけど国の方はちょっと重いっす……」
王女「勇者様っ」トタタタ
王女「はいっ、ご紹介しますっ。わたしの自室までご案内しますので、こちらへどうぞっ」キラキラ
魔剣「気のせいかしら、完全に恋する乙女の瞳になっているように見えるのだけれど」
勇者「……そんなことの前に言うことがあるんじゃないのか?」
魔剣「時候の挨拶とか?」
勇者「いや、しかたがないこととはいえ、王女様のこと偽者じゃないかとか疑ってたじゃん。もう本物だってことは証明されたんだからさ」
魔剣「ふむ。『本当に本物だったのかよ!』ってツッコミ入れとくべきだったかしら」
勇者「ちげーよ。王女様、疑ったりして済みませんでした」
王女「いえ、全然大丈夫ですっ。わたしの方こそ、本物なのにこんなんですみませんっ」ペコペコ
勇者「いや……この部屋ですか?」
王女「はいっ。どうぞお入りくださいっ」ガチャッ
「あっ、王女様っ。おかえりなさいっ。お客様ですか? 王女様以外の人間さんとお会いするのは久しぶりですっ」
勇者「……確かに短剣が喋ってるな」
魔剣「……確かに王女様と似たような喋り方ね」
王女「ごめんなさいっ。キャラがかぶっててすみませんっ」ペコペコ
勇者「ふむ。つまりあんたは、過去の勇者によって擬似的な人格を与えられた存在で……」
魔剣「そのベースになっているのは、勇者とともに旅をした僧侶と、その僧侶が生前に愛用していた武器であると」
勇者「どっかで聞いたような話だなあ! ひょっとしてわりとよくある話だったりするの!?」
魔剣「そうなのかしらね。まあ、話を聞く限りではそちらの元ご主人様よりわたしの前の持ち主の方がかっこいいけれどね」
短剣「なっ……わ、わたしのご主人様だってかっこよかったですっ!」
勇者「いや、どっちも爺さんだろ?」
魔剣「ふん。年老いてはいたけれど素敵な老紳士だったわ」
短剣「わたしのご主人様もそうでしたっ。上品で、知性的で、素晴らしい人格者でしたっ」
魔剣「今のこの勇者のかっこよさを1勇者とすれば、わたしの前の持ち主は100勇者くらいのかっこよさだったわ」
短剣「わ、わたしの方は200勇者くらいのかっこよさでしたっ!」
魔剣「嘘ね。わたしが100と言ったから200と言っただけでしょう? だいたいあなた、この勇者のことなんかよく知らないじゃない」
短剣「ううっ。図星をつかれちゃいましたっ。悔しいですっ」
勇者「俺の方が悔しいわ! 俺を単位にして言い争うのはやめろ! しかもけっこう細かい単位に使われちゃってるじゃん!」
勇者「俺が一番凹むっつーの。小生意気な短剣なのはお互い様だし。そもそもお前の方が先に喧嘩売ったんだろーが」
王女「あっあのっ、喧嘩はだめですっ。なかよくしてくださぁいっ」オロオロ
勇者「つーかさ、そっちの短剣……紛らわしいな。僧侶が使ってた武器って話だから、聖剣とでも呼ぶか」
聖剣「聖剣ですか。なんだかかっこいいですっ」
魔剣「む……魔剣と聖剣って言われると、なんだかわたしが悪役みたいだわ」
勇者「聖剣の方のご主人様も勇者と呼ばれる人だったんだろ? だったらその人も俺のご先祖様ってことになるよな?」
王女「そうですねっ。だとすると、聖剣さんと魔剣さんも親戚のようなものってことになりますっ。生みの親が同じ家系の方ですからっ」
勇者「同じ家系っつーか、ひょっとして同一人物だったりしない?」
王女「その場合は、おふたりは姉妹ということに……」
魔剣「勇者、魔法使い、戦士、僧侶よ」
聖剣「勇者様、僧侶さん、戦士さん、魔法使いさんですっ」
勇者「ほら」
魔剣「でもわたし、こんな剣知らないわ」
聖剣「わたし、魔剣さんとお会いした記憶はありませんっ」
勇者「そっか……まあどうでもいいか。今の持ち主は魔剣が俺で、聖剣は王女様だ。張り合うなら今の持ち主の方でやれ」
魔剣「そうね。しかたないわ。認めましょう。わたしの負けよ」
聖剣「勝ちましたっ。嬉しいですっ」
勇者「どっちにしても俺が凹まされるのか! ちくしょう!」
王女「いえ、とんでもないですっ。勇者様はわたしなんかよりずっと素敵な方ですっ」
勇者「いえいえそんな、王女様の方こそ……とか言い出すときりがなさそうなんで、両方とも素敵な方ってことにしときましょう」
魔剣「そうね。魔法使い、僧侶ときたら戦士の人格を持った剣とかもあってもよさそうなものだわ」
王女「そういえば、そんな話を聞いたことがあるような……王家に昔から伝わる予言なんですがっ」
勇者「どんな内容ですか?」
王女「えっと、最後の方が、3本の剣を携えた勇者が邪悪を滅ぼす……とか……ごめんなさい、前半部分が難しい言葉だったので……」
魔剣「それだけではその3本の剣がインテリジェンスソードかどうかはわからないわね」
勇者「その剣という言葉自体、何かの比喩とも考えられるしな。勇者に仕える3人の仲間とか。昔の予言ってそんなん多いだろ?」
王女「でもっ、たしか前半部分は、そのインテル入ってるソードですか、知能を持った剣を表すような言葉だったと思うんですっ」
魔剣「インテリジェンスソードよ。その前半部分って、王様ならちゃんと憶えてるかしらね」
王女「はいっ、わたしはそれをお父様から聞いたので、お父様なら憶えてるはずですっ。ごめんなさい、お役に立てなくてっ」
勇者「いえ、充分です。……もしかしたら魔王を倒すための重要なヒントが隠されてるかもしれない」
勇者「前半部分はどんな言葉なんですか?」
王様「確か、『勝気な傍若無人系美少女、おっとりした癒し系美少女、無口無表情系美少女の心が集う三振りの剣』だったかな」
勇者「うわあ! 王家に伝わる予言にあんまり相応しくない言葉がふんだんに盛り込まれてる!」
王様「いや待て、『無邪気でちょっと頭は緩いけど可愛らしい妹系美少女』だったかもしれん」
勇者「うろ憶えなんじゃん! 当てにならねえ! つーかどっちでもいいわそんなもん! それ単なるあんたの好みじゃねーの!?」
王様「アホ言うな。最近のわしの好みは幼馴染の僕っ娘に決まっとるだろーが」
勇者「知らねーよそんなの!」
王様「いや、現代の言葉にするとそんな感じになるってだけで、原文はもっと仰々しい感じだったと思うよ」
勇者「原文は残ってないんですか? あるいはそれを書き写した書物とか」
王様「残ってないなあ」
勇者「それ絶対、語り継がれるうちに伝言ゲームみたいに原文からかけ離れてる……ちゃんとメモっときましょうよそういう大事そうなことは」
王様「後半部分はちゃんと憶えてるよ。『三振りの剣を携えし勇者、邪悪を滅ぼした』」
勇者「過去形!? 予言ですらねえ!」
王様「いやでも、予言じゃなくても、過去にそれで上手くいったって話なら、真似すればいいんじゃないかなー」
王様「どこの海賊だよって話だよなあ。でもまあ一応、全部揃えてみたら? っていうかもう揃ってないか? 三振りの剣」
勇者「はい? 2本は揃ってると思いますけど……」
王様「勝気で我が侭な剣」
勇者「魔剣はそんな感じと言えなくもないかなあ」
王様「おっとり癒し系」
勇者「聖剣、というか王女様がそんな感じですよね。もう少し落ち着きがあればですけど」
王様「無口な剣」
勇者「いや確かに俺の長剣は無口ですけど! 一切喋らないインテリジェンスソードって意味あるんですかね!?」
王様「駄目?」
勇者「時間に余裕があるならもっと詳しく調べたいところですが……」
王様「その前に滅ぼされかねないよなあ」
勇者「一応、心当たりは無くもないんで、少しだけ調べてみますよ。それで駄目だったらその時にまた考えます」
王様「うん、期待してるぞ。頑張れよ。すべてが上手くいったら結婚云々は抜きにしても娘のおっぱい揉んでいいから」
勇者「その発言って父親としてどうなんですか……いや、娘の遊び相手として刃物持たせてるって時点で既に相当エキセントリックですけど」
魔剣「そうね」
勇者「三振りの剣とやらが揃うことによって今後の戦いで役立つ強力な武器になるのかもしれないからさ」
聖剣「そうですねっ」
勇者「そのためにこうして、その剣を入手できそうな場所に向かっているわけだよ」
魔剣「なるほど。で、なぜわたしの隣にこの小生意気な剣がぶらさがってるのかしら」
勇者「いや、話聞いてた? 3本のうちの1本がたぶんこの聖剣だから、王女様から借りてきたんじゃないか」
聖剣「はいっ、お役にたてるかどうかはわかりませんがっ、精一杯がんばりますのでよろしくお願いしますっ」
魔剣「ふむ。この聖剣を王女様から借りパクした理由はわかったけれど、」
勇者「借りパクじゃねえよ。全部終わったらちゃんと返しに行くっつーの」
魔剣「それで、どこに向かっているの?」
勇者「俺の家」
聖剣「勇者様のご自宅にその剣がある、ということなんでしょうか?」
勇者「わからんけどさ、魔剣があったのは俺の家の倉庫だし、聖剣も過去の勇者によって作られた武器なんだろ?」
魔剣「つまり、勇者の血を引くあなたの家に、残る1本も置いてある可能性があると」
魔剣「言ってたわね。でもその中のどれがあなたの求める剣かはわからないのでしょう?」
勇者「それを今から調べるんだってばよ。さあ、着いたぞ」ガチャッ ギイッ
聖剣「剣がたくさんありますねっ。この中にわたしのように喋れたり、特別な効果を持ってたりする剣があるんでしょうかっ」
魔剣「特別な効果?」
聖剣「はいっ、ほら、わたしを身につけていると回復効果があるじゃないですか。それと同じように、」
勇者「ちょっと待って! なんか当たり前のようにさらっと言ってるけど何それ!? 回復効果!?」
聖剣「言ってませんでしたっけ? わたし、傷の回復をお手伝いすることができますよっ。深い傷だとちょっと時間はかかりますけどっ」
勇者「すげえ! まさに聖剣じゃん! そっか、それがあるから王様も娘に刃物持たせたりできたのか。それでも充分頭おかしいけど」
聖剣「いえ、そんなたいしたものではないですっ。そんなに褒められると照れてしまいますっ」
勇者「なるほど、伝説の勇者のパーティで、僧侶が持ってた武器……それっぽい能力が備わってるんだなあ」
魔剣「……ふん。けっこうやるじゃない。まあ小生意気なところはあるけれど足手まといにはならなそうだわ」
勇者「正直剣より鎧か盾にそういう能力つけといてくれた方がありがたかったような気もするけど。で、大生意気なお前は何ができるんだ?」
魔剣「……ふっ、まあ、わたしだってそれなりに凄いことができるけれど、なんか自慢してるみたいでかっこ悪いから言わないでおくわ」
勇者「何も無いのか……」
勇者「お前確か魔法使いが愛用してた武器だったよな? 攻撃魔法みたいな感じのなんかできねーの?」
魔剣「……わたしを振りかざすと爆炎魔法が」
勇者「えっマジで?」
魔剣「普段よりちょっとかっこいいポーズで使える、とか」
勇者「いやそれお前ただ振りかざされてるだけじゃん。松明がわりにすらなってないじゃん」
魔剣「うるさいわね。攻撃魔法なんて野蛮なものはわたしは嫌いよ」
勇者「うわこいつ最初の持ち主のこと否定しやがった! つーかお前の人格のベースも魔法使いなんだろ!?」
魔剣「はいはいわかりました。わたしは攻撃魔法のひとつも使えない駄目な剣です。もうわたしなんか売り飛ばしてしまえばいいわ。100000Gで」
勇者「卑屈なこと言ってるわりには自己評価額高いなあ!」
聖剣「あの、なんか、すみません。わたしの能力を自慢しちゃったみたいで」
勇者「いや、お前は別に謝らなくても。この魔剣が……いや、悪いのは俺だな。いじめるようなこと言ってごめんよ」
魔剣「……何よ、それ」
勇者「いや、お前らに凄い能力があろうとなかろうと、戦うのは俺なんだから、強くなきゃいけないのは俺の方なんだよな」
魔剣「……そうね。その通りだわ」
魔剣「ふっ。わかってくれたようね。それを教えるためにあえてわたしは、」
勇者「おい調子にのんな。……まあ、また強敵と戦う時にアドバイスでもしてくれよ。今度はあのドラゴンの時より上手く戦えるように頑張るからさ」
聖剣「ううっ。いい話ですっ」
勇者「それはそれとして、武器探しはするけどね。さて、この中にあるのかなっと」
魔剣「なにか手がかりのようなものはあるのかしら」
勇者「うん、この何本もある剣の中からお前を選んだ理由、前に話したろ」
魔剣「確か、わたしのあまりの美しさに魅せられて、自然に手が伸びたとかいう理由だったかしら」
勇者「全然違う。お前の封印が弱かった原因を考えてたんだけど、考えられる理由のひとつとして、封印を施した人間が違うってのがあるよな」
魔剣「そうね。最後にわたしに封印を施したのは、前の持ち主の遺族だったから」
勇者「それ以外にも何かあるかもしれないって思ったんだよ」
聖剣「と言いますと?」
勇者「箱とかでもさ、蓋を開けたり閉めたりを何度も繰り返してると、そのうちゆるゆるになって蓋がパカパカしちゃったりするじゃん?」
聖剣「はあ。つまり魔法による封印もそれと同じように、何度もかけたり解いたりを繰り返すと弱くなってくるのでは、ということでしょうか?」
勇者「察しがいいな。魔剣が昔の勇者の話し相手をしてた頃って、話してる時以外はどうしてたんだ?」
勇者「だろ。そうだと思ったんだ。お前らが作られた経緯ってそっくりなのに、お前ら同士では面識が無かった理由がそれだ」
魔剣「つまり、わたしたちを作った昔の勇者は、」 聖剣「同一人物……」
勇者「聖剣、お前の元のご主人様って、奥さんはどんな人だったんだ?」
聖剣「はあ、すでに亡くなられていましたが、旅仲間の魔法使いさんだったと聞いてます……」
魔剣「……同じだわ」
勇者「つまり魔剣、昔の勇者は最愛の妻の再現であるお前を作った後に、そのノウハウを生かして、他の旅仲間の人格も再現したんだ」
魔剣「ということはあとの1人……戦士の擬似人格を持った剣も存在する可能性は極めて高いということに」
聖剣「ちょっ、ちょっと待ってくださいっ。それならそれで、わたしの元のご主人様は、なぜわたしたちとバラバラに会話してたんでしょうかっ」
魔剣「ふむ。確かにせっかく昔のパーティを再現したのだから、3本揃えてみんなでお喋りしてもよさそうなものだわ」
勇者「そこまではわからんけどさ。たぶんあれだ。お前らって2本揃ってるだけでもうるさいじゃん」
聖剣「……はい?」
勇者「そこに3本目も加わったらさ……姦しすぎて思い出に浸る暇もなくなりそうだからだろ」
魔剣「そんな理由!?」
勇者「最後の1本はもう少し物静かな性格だといいなあ。この推測が正しかったらそれも望み薄だけど」
魔剣「この人の推測が正しいとするならあなたの封印だってゆるゆるのガバガバになってた筈だけれどね」
勇者「魔剣ほどガバガバではないにしても、ここにある剣の中で最も封印が緩いやつが最後の1本である可能性が高いんじゃないかなあと」
魔剣「そうかもしれないけれど、そもそも魔法による封印ってそんなことで弱くなったりするものなのかしら……?」
勇者「別に確信があるわけじゃないけどさ、まあ封印が弱い方が解きやすいってのもあるし。1本ずつ確かめてみよう。えいっ」グイッグイッ
魔剣「いやちょっと待って頂戴、あなたの封印の解き方って鞘から力任せに引き抜くだけ!? わたしもそうやって封印を解かれたの!?」
「うるさいなー、せっかく気持ちよく眠ってたのに、目が覚めちゃったじゃないか」
聖剣「あっすみません、今、封印が弱くなってる剣があるかどうか調べていて……って、えっ? 今の声、どこから……?」
勇者「最後の1本か!? 既に封印が解けてるのか!? どれだっ!」ガチャガチャ
「うるさいってばー。さっきから封印封印って何? 流行ってんの? 封印って言いたいだけなの?」
勇者「おい答えろ! お前、どこにいるんだ!?」
「あたし? あんたの腰の左側にぶらさがってるけど?」
勇者・魔剣・聖剣「「「お前かよ!」」」
長剣「えっ? 何?」
勇者「なんで旅の途中で手に入れたお前なんだよ! 俺の家の倉庫にある剣の方がそれっぽいじゃん!」
魔剣「なぜ今まで喋らなかったのよ。鞘から抜くことはできたのだから封印は既に解けていたのでしょう?」
長剣「うん。寝てた」
勇者「王様のテキトーな発言が当たってたとは。無口無表情系美少女って感じでは全然ないけど」
聖剣「口調がなんか、女戦士っぽい感じですっ。この方が最後の1本に間違いないですねっ」
勇者「旅の途中で偶然手に入れた剣なのに……」
魔剣「こうなると、さっきあなたが得意げに披露していた仮説も怪しくなってくるわね」
勇者「いや、たぶんあれで合ってると思うんだけど……たぶん……」
聖剣「長剣さんは何か特技などはお持ちなんでしょうかっ?」
長剣「ん? あたしの特技か。そうだなー、斬るのが得意だな」
勇者「うん、剣だからね」
魔剣「そんなのわたしだってできるわ。ちょっと短いけれど」
勇者「短剣だからね」
長剣「あとは雷撃の追加効果くらいかなー」
勇者「マジでっ!?」
長剣「だから寝てたんだってば」
勇者「ドラゴンを滅多斬りにしてた時とかも眠ったままだったのか……」
長剣「雷撃効果のON/OFFはあたしの意思で切り替えができるから起きてればできるよ」
勇者「そっか……まだ実際に見たわけじゃないけど、暫定的にお前のことは雷剣とでも呼ぶか」
雷剣「雷剣か。なんかかっこいいな」
勇者「じゃあここから出てその雷撃効果とやらをちょっと試してみるか」
勇者「さて、この切り株の上に薪を置いてみたわけだが」
雷剣「うん」
勇者「お前を薪に軽く振り下ろすから、雷撃を発動させてみてくれ」
雷剣「うんわかった」バチッバチッ
聖剣「わっ、雷剣さんが光って火花が散ってますっ」
魔剣「どうやら能力の話は本当だったようね」
勇者「俺が感電しそうで怖いんだけど」
雷剣「魔法の雷だから大丈夫だよー」
タンスの裏に落ちたものが取れるとか
雷剣「どれくらいのパワーでやればいいの?」
勇者「ん、じゃあ、小さめで」
雷剣「おk」
勇者「いくぞっ」コツン
バチッ! バキバキッ!
聖剣「わわっ、すごいですっ。薪が焦げ焦げの真っ二つになっちゃいましたっ」
魔剣「あら、薪割り機能付きの剣だなんて便利ね。下の切り株まで焦げ焦げの真っ二つにしてしまったのはいただけないけれど」
勇者「すげえな。これで小さめのパワーなのか?」
雷剣「うん、本気出したらこの100倍はすごいよ」
勇者「100倍!? ……勝てる! これなら魔王にも勝てるぞ!」
聖剣「すごい強さですっ。さすがにわたしたち3本の中でも最後に仲間に入っただけのことはありますねっ」
魔剣「あまりインフレされると最初からいるわたしの立場がないのだけれど」
勇者「こいつもけっこう前からいたけどな。寝てただけで」
雷剣「よくわかんないけど魔王倒しにいくんだろ? あたしにまかせろー」
聖剣「ここに来るまでにたくさんの敵が立ち塞がりましたけどっ、雷剣さんの活躍でばんばんなぎ倒しちゃいましたねっ」
雷剣「えへへ、かっこよかった?」
勇者「聖剣の回復効果のおかげでもあるな。軽い怪我くらいならしばらくほっとけば治っちゃうもんなあ」
聖剣「何よりも、勇者様の成長が著しいですっ。さすがに一人旅で戦闘経験を独占してるだけのことはありますっ」
魔剣「誰も触れてくれないから自分で言うけれど、わたしの豊富な実戦経験に基く的確なアドバイスのおかげでもあるわね」
勇者「ああ、うん。言うまでもない当たり前のことだから誰も触れなかったけどな」
魔剣「……ひょっとしてわたし、役立たずだと思われてないかしら」
勇者「いや、俺よりはるかに多くの実戦を経験してるのは確かだけどその頃にはまだ知能を付加されてなかったじゃんとか全然思ってないよ」
魔剣「邪魔だったらここに置いていってくれてもいいわよ? 剣を3本も持っていたら重いでしょう。帰りに拾っていってくれればいいわ」
勇者「いやいや、何言ってんだよ。ここまで来たんだから最後までずっとつきあってくれよ」
魔剣「でも、雷剣と聖剣がいれば魔王にも勝てるでしょう? 話し相手だって、わたしじゃなくても」
勇者「あ……またやっちゃったか。ごめん、お前を貶すつもりはなかったんだ。軽いジョークのつもりでさ」
魔剣「わかってるわ。別に怒っているわけではないのよ。でも、わたしがいなくてもいいのは事実でしょう?」
勇者「いや、そんなことは……どう言えばいいのかな……俺はお前が好きだから、手放したくないんだ。ずっとそばにいてほしい」
聖剣「わっ、静かにしておきましょうっ。勇者様と魔剣さんは真面目な話をしてますからっ」
魔剣「何それ。わたしと結婚したいということではないのよね?」
勇者「もちろん違う」
魔剣「じゃあどういうことなのよ。『剣にも……穴はあるんだよな……ゴクリ』みたいなこと?」
勇者「いや無いから。あったとしても俺はそんな特殊な性的嗜好は持ってねえよ。何が悲しくて大事なちんこをお前らみたいな刃物に……」
魔剣「刃物に、何?」
勇者「ああすまん。なんかちょっと怖い想像しちゃってゾクッとした。この話やめよう。ちんこの話と刃物の話は相性が悪い」
魔剣「よくわからないけれど、まあいいわ。で、何なの? この場合の好きというのは」
勇者「うん。人間っつーか、男の場合は特にそうだと思うんだけどさ、」
魔剣「やっぱり性的嗜好の話?」
勇者「違うって。つまり、道具に対する愛着ってもんがあってな。お前らの場合は喋ったりするから尚更なんだけど」
魔剣「よくわからないわね。必要な道具だけ持って、要らない道具は置いていった方が余分な荷物を持たずに済んで合理的だわ」
勇者「お前からは必要が無いように見えても他者にとっては大切なものってこともあるんだよ。この場合の他者とは、俺のことね」
聖剣「あっ! なるほどっ、わかりましたっ!」
聖剣「すみません、でも、わかったんですっ。つまりそれは、勇者様がお優しい方だからですねっ」
雷剣「どういうこと?」
聖剣「勇者様は人間だけではなく、わたしたちのようなただの道具にも等しく愛情を注いでくださる、とてもお優しい方だということですっ」
勇者「良く言えばそうなるのかなあ。優しいというか、感受性の問題かな? 道具を人間と同じように扱うってのは」
魔剣「言い方を変えると、あなたは人間を道具のように扱う人であるとも言えるわね」
勇者「人聞きの悪い言い方すんな! 確かにその通りなんだけど意味が変わってきちゃうだろそれ!」
雷剣「そっかー、あたしにもわかった。あたしたちは仲間だってことだな。戦友ってやつかー」
勇者「そうそう。人間だとか剣だとか、役に立つ立たないとかは関係ない。俺たちは仲間だからみんなで戦うんだ。うん、俺今いいこと言った」
魔剣「むしろ人間の方が、役立たずな人は置いていかれがちな気もするわね。弱いと死んでしまうから」
聖剣「『修行はしたがハッキリいってこの闘いにはついていけない……』みたいなことを言われて置いていかれてしまうかもしれませんっ」
雷剣「その台詞を言ってる本人もついていけてなかったりしてなー」
勇者「いい話っぽい感じでまとめようと思ったのに台無しだ! おまえらほんと3本揃うと姦しいなあ!」
魔剣「まあ、だいたいわかったわよ。あなたは思い込みが激しい人だから、わたしに過度の思い入れを持ってしまっているということね」
勇者「もうそれでいいや。そう、だから俺はお前を離したりはしない。最後までつきあってもらう。さあ、あと一息だ。魔王を倒しに行くぞっ」
雷剣「それっぽい扉だなー」
勇者「さて、どんな作戦で行こうか」
魔剣「そうね。まずは敵が何かしてくる前に、ここまで温存してきたあなたの魔力を使い切るつもりでフルパワーの爆炎魔法を連発」
勇者「先手必勝ってやつだな」
雷剣「うまく先手をとれるかなー」
聖剣「魔王といえば、戦う前になにやら長ったらしい前口上を述べるものと相場が決まってますから、大丈夫なんじゃないでしょうかっ」
魔剣「その後、一気に走り込んで接近戦に持ち込む」
雷剣「あたしの出番だな。まかせろー」バチッバチッ
魔剣「そして必殺技でとどめ」
勇者「何それ?」
魔剣「何って、必殺技よ。敵のボスにとどめを刺すときは、やっぱり必殺技でしょう?」
勇者「いや……そんなん、俺、無いんだけど」
魔剣「なんで無いのよ! 普通、ラスボス戦の前に必殺技くらい会得しておくものでしょう!?」
勇者「そう言われても」
勇者「この部屋の扉の前で?」
聖剣「騒音で部屋の中の人に迷惑そうですっ」
雷剣「人っていうか魔王だけどなー」
聖剣「そうでしたっ。あっ、だったら、ここでうるさくして魔王に精神的なストレスを与えるという戦法もアリかもしれませんっ」
勇者「ただの嫌がらせじゃん」
魔剣「じゃあもう必殺技はいいわ。とにかく魔法をばんばんぶちかまして剣でざくざく斬り刻めば勝てるわよ」
勇者「そんなんでいいの? 単純すぎるような」
聖剣「でもっ、シンプルイズベストって言いますからっ」
雷剣「そうそう。『下手の考え休むに似たり』って、あたしを作ってくれた爺ちゃんがよく言ってた」
勇者「お前らの生みの親の発言だと思うとすごく説得力があるよなあ」
魔剣「む……なんだか馬鹿にされているような気がするわね」
勇者「いや、俺にも他にいい考えがあるわけじゃないしな。お前の作戦で行こう」
魔剣「上手くいかなくても恨まないで頂戴」
勇者「上手くいったら褒めてやるよ。さあ、扉を開くぞ」ガチャッ ギィッ
勇者「『爆炎』!!」ピロリロリンッ
魔王「ちょっ」ドカーン!
勇者「最初からクライマックスだぜぇ! 『爆炎』!『爆炎』!『爆炎』!」ピロリロピロリロピロリロ
ドカーン! ドカーン! ドカーン!
勇者「オラオラオラオラオラオラアアアァーッ!」ピロリロリロリロリロリロリロリロリロリ
ドカーン! ドカーン! ドカーン! ドカーン! ドカーン!
勇者「はぁ、はぁ、はぁ……」
魔剣「次は接近戦よ! 走って!」
勇者「よっしゃあ! うおおおおおおおっ!!」
雷剣「あたしの体が光ってうなる! 魔王を倒せと輝き叫ぶっ!」バチバチッ!
勇者「いくぜ! これが俺の必殺技! ライトニングスパーク!! ……って、あれ?」
魔王「 」プスプス
勇者「えっと、あれっ? もしかして爆炎魔法だけで倒しちゃった? せっかく即興で技の名前とか考えたのに?」
魔王「 」
魔剣「ふん。思ったよりたいしたことなかったわね。わたしたちの時代の魔王の方が100倍は強かったわ」
雷剣「話で聞いただけだけどなー」
魔王「 」
勇者「俺が強くなりすぎちゃったのかもなあ。ははっ」
魔王「 」モゾリ
聖剣「お城に帰りましょうっ。早く王女様に会いたいですっ」
魔王「 」メキ…
魔剣「帰ったら聖剣とはお別れということになるわね……」
雷剣「なんか魔王がぴくぴくしてる」
聖剣「あ……そうでした……皆さんとお別れするのは寂しいです……」
雷剣「なんか魔王がもこもこしてきた」
魔剣「この人が王女と結婚すればあなたともずっと一緒にいられるんじゃないかしらね」
雷剣「なんか魔王がおっきくなってきた」
勇者「王女様と結婚してハッピーエンドか……でもそれは、まだ……先の話になりそうだなあ! 見ろ、魔王の体を!」
雷剣「なんか尻尾が生えてきた」
聖剣「あの姿は……」
魔剣・聖剣・雷剣「「「ドラゴン……」」」
ズシン ズシン
雷剣「魔王じゃなくて竜王だったのかー」
聖剣「すごく……大きいです……」
魔剣「質量保存の法則とかどこへ行ってしまったのかしらね。非科学的だわ」
勇者「そんなこと言ってる場合じゃねえ! 戦うぞ!」
雷剣「よーし、あたしにまかせろー」バチバチッ
勇者「うおおおおお!」ブンッ
ガキン! クルクル グサッ
聖剣「わっ、雷剣さんが竜王の爪で弾き飛ばされて遠くの床に刺さってしまいましたっ」
魔剣「ブレスが来るわ! 避けて!」
勇者「うわっ! くそっ、一旦退くか!? おわっとぉ! 危ねっ、なんとか奴の突進をかわしたけど……やべえ、退路を絶たれた」
魔剣「……入り口の扉の前に居座ったまま動かなくなったわね」
勇者「くそ、むやみに攻撃して逃げられるより退路を塞いで何が何でもここから生きて帰さないってつもりか」
聖剣「その傍の床に雷剣さんが突き刺さってます……」
魔剣「あそこに居座られたままだと雷剣を回収することもできないわね……近づいたらブレスで焼かれてしまうわ」
勇者「この位置はブレスの射程圏外なのか……? ちょっと近づいてみよう」ジリジリ
竜王「……」カパ
勇者「……そういうことみたいだ」ススス
聖剣「えっと、つまり……根くらべってことですか……?」
魔剣「ふむ。ここで一生暮らすことになりそうね。着替えとか持ってきた?」
勇者「アホか、そういうわけにもいかんだろうが。俺が疲れて眠っちまいでもしたらそれで終わりだ。他に出口は無いのか……?」キョロキョロ
魔剣「あら。雷剣を見捨てて逃げ帰るつもり?」
雷剣「たすけてー」
勇者「そういうわけじゃないけど、爆炎魔法の連発で魔力も使い果たしちゃったし、一旦退いて出直してきた方が今の状況よりはましだろ……」
聖剣「あっあのっ、隠し扉とかは無いんでしょうかっ」
勇者「あー、隠し階段とかありそうだよな。調べてみるか」
聖剣「でもっ、罠があるかもしれませんっ。落とし穴とかっ」
勇者「なるほど、何かありそうな場所には罠もありそうだな」
魔剣「ロープとか持ってないの? 落とし穴があっても命綱を繋いでおけば」
勇者「あるなあ。こんなこともあろうかと持ってきてよかった」スルスル
魔剣「ロープの長さは?」
勇者「10mだな」
魔剣「それ、穴の深さが9mだったら死ぬんじゃない?」
勇者「ん、それもそうか。じゃあちょっと短めに、5mにしとくか」
聖剣「穴の深さが4mかもしれませんっ」
勇者「えっと、じゃあ、2mで」
魔剣「穴の深さが1mだったら……」 聖剣「50cmくらいかもしれませんっ」
勇者「ガキの悪戯か! いいよ別にそんなんだったら落ちても!」
竜王「……」 雷剣「たすけてー」
魔剣「ええ」
勇者「えーと、このへんに何かスイッチ的なものはないかな……」ウロウロ ガタン ウロウロ
魔剣「何か音がしたわ。そこのちょっと色が違ってて少し浮いてる感じの床を踏んだ時に」
ガチャン ギリギリギリギリ…
聖剣「わっ、逃げてくださいっ!」 魔剣「罠だわ! 上からなんか凄く重そうなものがっ!」
勇者「うわっ! ちょっ、ロープがっ!」ビーン
ズシーン!
魔剣「……」
聖剣「……」
雷剣「……」
竜王「……チッ」
勇者「怖かった……死ぬかと思った……」ガクブル
聖剣「危く押し潰されてしまうところでした……」
魔剣「わたしを抜いてロープを切るのが間に合ってよかったわね。凄い早業だったわ」
聖剣「他の場所にも罠が設置してあるかもしれませんし、これで八方ふさがり、でしょうか……」
魔剣「ふっ。わたしの活躍のおかげで命拾いしたわね」
勇者「うん、まあ、そうだけど、お前的にはロープ切っただけで満足なの?」
魔剣「……一応、この窮地を脱する方法も考えてはいるけれど」
勇者「何か思いついたのか?」
魔剣「ええ、まあ……結論から言えば、あの竜王を倒せばここから大手を振って出て行けるわね」
勇者「そりゃそうだけどさ、どうやって倒すんだ?」
魔剣「えっと……つまり今の状況は、まずあなたが斬りかかったのだけれど、剣を弾き飛ばされてピンチになったわけよね」
勇者「……」
魔剣「だから、ここでわたしの秘められていた真の力が発動して、みたいな感じで」
勇者「……あるの?」
魔剣「ええ、まあ、……あるわよ」
聖剣「すごいですっ。どんな力なんでしょうかっ」
魔剣「そ、そうね。あまり見せびらかすようなものでもないから今まで黙っていたけれど」
魔王も色々と思う事はあるだろう。
魔剣「そうね、でも……あまり見せたくないというか」
勇者「なんで見せたくないの?」
魔剣「それは、ほら、だから、あれよ」
勇者「どれ?」
魔剣「……は、恥ずかしいじゃない」
勇者「……はい?」
魔剣「あ、あなたがどうしてもみ、見たいと言うなら見せてあげるけれどっ」
勇者「見られると恥ずかしいような能力なのか……?」
魔剣「なっ! ばっ、違うわよっ! そんな、あなたが想像しているようないやらしい能力ではないわっ!」
勇者「してねえよそんなもん。なんだよいやらしい能力って。つーかお前人工知能だろ? 羞恥心とかあんの?」
聖剣「あのっ、昔のご主人様の話によると、魔法使いさんはかなりの恥ずかしがり屋さんだったとか……」
勇者「いらんとこまで再現してんのな……」
魔剣「とにかくわたしが真の力を見られるのは、人間で言えば裸を見られるようなものなのっ。だから恥ずかしいのっ」
聖剣「よくわかりませんが、能力が常時発動してるわたしって常に全裸でいるようなものなんでしょうか……」
勇者「いや別に楽しくなくてもいいよ勝てれば」
魔剣「じゃあ、いくわよ。…………トランスフォーム!」ピカッ! パァアアア
勇者「うわっ、ほんとにあったのか」
聖剣「姿が……変わって……魔剣さんの能力は、変身……!」
勇者「これは……銃……異世界の武器か!」
魔銃「あら、知っているの? それなら話が早いわ」
勇者「うん、書物で読んだだけだけど、どういうものかは知ってる……引き金を引くと弾が飛び出すやつだろ?」
魔銃「ええ、そうよ」
勇者「お前の能力めちゃくちゃすげーじゃん! ……でもなんかちっちゃくないか?」
魔銃「えっ? そうかしら」
勇者「異世界の武器とはいえ、こんな片手で軽く持てるようなサイズで、あの竜王を倒せるほどの威力があるものなのか……?」
魔銃「威力? そうね、人間が相手なら当たりどころ次第で殺せたり殺せなかったりくらいかしら」
勇者「駄目じゃん! 相手は竜王だぞ! めっちゃ凄いことやってるわりに効果は妙に地味なところがお前らしいなあ!」
聖剣「あっあのっ、他の武器にも変身できるんでしょうかっ」
魔銃「できないわ」
勇者「やっぱりか! ちくしょう!」
魔銃「……何よ、あなた、前に自分で言っていたことを忘れてしまったのかしら。わたしたちの力に頼るばかりで、あなたは満足なの?」
勇者「うっ……それは……そうなんだよな。戦うのは俺なんだから、俺が強くなきゃ……」
魔銃「ドラゴンと戦った時のことを思い出して頂戴。今度はもっと上手く戦えるのでしょう?」
勇者「ドラゴン……そうか、竜王の目に弾を当てることができれば……」
魔銃「ふっ。とどめはあの雷剣に譲ってあげるわ」
雷剣「そろそろたすけてー」
勇者「よし、やってみるか」
魔銃「わたしの上面の、先の方に突起があって後ろの方には凹みがあるでしょう? その2つと標的がぴったり合わさるように狙いをつけて」
勇者「こうか、よし……撃つぞ」
カチッ
勇者「弾が入ってねええええええ!」
魔銃「あら」
魔銃「ちょっと、落ち着いて頂戴。言うのを忘れていたわ。撃つ前にスライドを引くのよ」
勇者「えっ? スライドってどれだよ。わかんねーよ」
魔銃「大雑把に言ってわたしの上半身がスライドで下半身がフレームよ。上半身を後ろに引っ張って頂戴」
勇者「こうか?」ジャキッ
魔銃「んっ……そうよ。一杯まで引いたら手を離して」
勇者「こうか」ジャキン
魔銃「あんっ」
勇者「おい変な声出すな。これで撃てるのか?」
魔銃「ええ、撃てるわ」
勇者「思ったんだけどさ、撃ったら弾が飛んでくわけじゃん?」
魔銃「飛んでくわね」
勇者「その分、元の短剣の姿に戻った時に前よりちょっと短くなっちゃったりしないかな?」
魔銃「……たぶん大丈夫だわ。わたしって魔法的なアレだから」
勇者「魔法って便利だなあ!」
魔銃「早く撃ちなさいよ」
勇者「……」パン!
竜王「?」
勇者「ありゃ、外れた」
魔銃「もっとよく狙って、引き金はそっと、優しく引きなさい。わたしが揺れると狙いが外れてしまうわ」
勇者「そ、そうか……」パン! ピキッ
魔銃「また外れだわ。下手ね」
勇者「えっと、これ何回撃てるの?」
魔銃「あと13回ね」
勇者「それだけあれば1回くらいは……ん? これ、なんだ?」
魔銃「何?」
勇者「おいちょっと、お前……下半身に割れ目があるぞ!?」
魔銃「なに唐突にセクハラしてるのよ」
勇者「じゃなくて、フレームっつーのか? ヒビが入ってる!」
勇者「ど、どうしよう、やばいじゃん。これ以上撃ったりしたら、ヒビが広がって……」
魔銃「でも、大丈夫だわ。フレームが少々割れる程度で、射手が大怪我したり死んだりするようなことにはたぶんならないわよ」
勇者「いやでも、お前はどうなるんだ!?」
魔銃「壊れるでしょうね」
勇者「えっと、この姿の時に壊れたらどうなるんだ? 元の短剣の姿に戻った時も壊れたまま……?」
魔銃「…………大丈夫よ。元に戻るわ。だってわたし、魔法的なアレだもの」
勇者「おい、今の間は何なんだ。ひょっとしてお前……」
魔銃「大丈夫と言ってるでしょう。それに、どちらにしても、このままではあなたは死ぬのよ? そうなればわたしもここで朽ち果てることになるわ」
勇者「でも……」
魔銃「……わたしはただの道具よ。道具にとっての幸せとは、最後まで役に立って使い潰されることじゃないかしら」
勇者「でも俺は、お前を壊したくない」
魔銃「主人の役に立つこともできずに、何もせずにただ朽ち果てるのを待てと言うのかしら?」
勇者「でも、お前を犠牲にしてまで……何か他の方法を考えよう」
魔銃「嫌よ。わたしを使って頂戴」
魔銃「『お前からは必要が無いように見えても他者にとっては大切なものもある』だったかしら。あなたの言葉よ。この場合の他者とは、わたし」
勇者「確かにそう言ったけどさ、お前にとってそこまで価値があることなのか? そんなに使ってもらいたがる理由は何なんだよ」
魔銃「あなたって本当に鈍いわ。恥ずかしいことを言わせないで頂戴。あなたが好きだからに決まってるでしょう?」
勇者「えっと、結婚したいってことではないんだよな、それ」
魔銃「結婚したいわ」
勇者「なっ……」
魔銃「わたしが人間だったらよかったのに。わたしの元になった魔法使いのように、あなたに愛してもらえたかもしれないのに」
勇者「ちょっ、お前、それが人工知能の台詞か……? いくら実在の人物の性格がベースになってるっつっても」
魔銃「学習能力があるもの。でも人間になるのは無理だわ。わたしは武器だから戦うことしかできない。だからあなたのために戦いたいの」
勇者「やめろよ……そんなこと言われたら尚更、」
魔銃「あなたはわたしを好きだと言ってくれたのに、わたしの望みを叶えてはくれないのかしら?」
聖剣「あのっ、勇者様、生意気なことを言うようですが……使ってあげてください。いえ、使ってあげなかったら、駄目です。わたし、怒ります」
勇者「お前まで……なんだよ、ほんとに生意気だよ。王女様と全然違うじゃん。あの性格ってお前譲りなんじゃなかったのか?」
聖剣「好きな人のために何かしたい。人間の方でも同じなんじゃないでしょうか。でも、わたしたちは人間と違って自分では何もできないんです」
聖剣「できることをやりたい。でも使ってもらわないと何もできない。もどかしいんです。使ってくれと、言うしか無いんです。わたしたちは」
魔銃「あなたは常時発動の能力があるだけまだましだわ」
聖剣「そうですねっ。でも、何かしてあげたいという気持ちはあるのにそれができないもどかしさはわかりますよっ」
魔銃「そうでしょうね。たとえば、主人が落ち込んでいるときに抱きしめて慰めることもできない。ただ声をかけるだけ」
聖剣「人間なら暖かく柔らかい手で頭を撫でてあげることもできるのに、わたしたちにあるのは冷たく硬い刃、それすら自分では動かせない」
雷剣「飛んでって突き刺さってても自力で抜け出せない。はやくたすけてー」
魔銃「わたしたちって、本当に不自由だわ。この欲求不満、あなたが何とかして頂戴。あなたのご先祖様がわたしたちを作ったのよ?」
勇者「ご先祖様の尻拭いか。言っとくけど、人間にだってできることとできないことはあるんだぞ」
魔銃「今のあなたにはできることとやるべきことがあるわ」
勇者「……わかったよ。やるよ。こんな状況でもなければ壊れかけの銃なんて危なすぎて撃てねーけどさ……」
魔銃「ふっ。わかればいいのよ。もしわたしの部品が吹っ飛んであなたに突き刺さってしまったら、聖剣に治してもらうといいわ」
勇者「幸い竜王はお前がどういう武器なのかわかってないみたいだ」
魔銃「まだ根比べのつもりでいるようね。もう状況は変わっているのに」
聖剣「雷剣さんを弾き飛ばした時に、向こうにも雷撃によるダメージが少なからずあったはずですっ。大丈夫です、勝てますっ」
勇者「動くなよ竜王……そのままじっとしてろ」
魔銃「目に当たったら後はどうするか、わかってるわね?」
勇者「ああ。よし、撃つぞ」パン! ピキッ
竜王「?」
パン! ビキビキッ
竜王「……?」
パン! バキッ!
竜王「!?」ガンッ! クラクラ
勇者「しまった、頭に当たっちまった! お前がどんな武器なのかばれて……って、おい、フレームの亀裂がこんなに……」
魔銃「……何をしているの……竜王が、クラクラしているわ……は、やく、走って……雷剣、を……」
勇者「お前……くそっ!」ダッ
聖剣「いっ急いでくださいっ」
勇者「雷剣! 頼む!」ズボッ
雷剣「よしきたぁ!」バチバチッ!
竜王「???」クラクラ ブンッ バシッ
勇者「うわっ! 痛た……くそっ、暴れんなっ!」
聖剣「わっ、わたしの回復効果を一時的に高めますっ。その後しばらくは能力を失いますがっ、効果が切れる前に強引にでも倒してくださいっ」
勇者「わ、わかった。でやあああ!」
竜王「???」クラクラ ブンッ バシッ! バシッ!
勇者「ぐっ! いてっ! くそっ、これでどうだっ!」ビュッ! ザクッ! バチバチッ!
聖剣「やりましたっ! 口を塞ぎましたっ! 次はわたしで目を! 回復だけじゃないってところを見せてやりますっ!」
勇者「うりゃあああ!」ザクッ! ザクッ!
雷剣「やれー! やっちまえー! 目が見えなくなっちまえばこっちのもんだー!」
勇者「雷剣! またお前の力を借りるぞ!」ズボッ
雷剣「あたしの力はあんたの力だ! 貸し借りなんてないよっ!」バチッ! バチッ!
勇者「竜王の首、もらったぁ!」ブンッ!
ザンッ!
竜王「 」バタバタ
竜王「 」ブンッ! ブンッ!
聖剣「あっ危ないですっ。前脚がっ、尻尾がっ」
勇者「ぐぁっ! ……このっ、全部斬り落としてやるっ!」ザンッ! ザンッ! ザンッ!
雷剣「なんか竜王がでっかいローストチキンみたいになってる」
聖剣「の、暢気なことを言ってる場合じゃないですっ。ま、ま、まだ動いてます……! とどめをっ!」
勇者「雷剣! フルパワーの雷撃だ! 心臓にブチ込むぞ!」
雷剣「よーし、あたしの力、全部出し尽くすくらいの本気全開パワーでいくぞー」バチバチバチッ!!
勇者「いっけえええええええええええ!!」ザクッ!
ドゴオオオオン!!
竜王「 」
勇者「や、やった……もう再生とか、無いよな……?」
聖剣「 」
雷剣「 」
勇者「おい、お前ら……力を使い過ぎて疲れて眠っちまったのか? ……そうだ、魔剣っ!」ダッ
魔剣「 」
勇者「元の姿に戻ってる……おい、まさか、死んじまったんじゃねえだろうな」ツンツン
勇者「疲れて眠ってるだけなんだろ? ま、まあ、寝かせといてやるか。無理に起こして不機嫌になられても困るしな、はは」ジワ
勇者「しばらく休んだらまた起きて喋りだすんだよな……? それまで待ってるから、起きたらまた話し相手になってくれよ」ポタッ
勇者「一人旅ってやっぱり寂しいからさ……お前らが……お前がいてくれないと、俺……うっ……」ポロポロ
勇者「……こいつらのおかげで竜王を倒せたけど」
魔剣「 」 聖剣「 」 雷剣「 」
勇者「なんで、こいつらは武器なんだろう」
勇者「昔の勇者は、寂しい老人の話し相手として、武器に擬似的な生命を宿した。でも、話すだけなら他のものでもいいじゃないか」
勇者「仲間たちが愛用していた道具、仲間たちの形見の品だからってのはわかるんだけどさ……」
勇者「形見の品だって、他にもあるだろう。こいつら全員が武器であることに、何か意味があるのか……?」
聖剣「……それはわかりませんが、」
勇者「聖剣! 目が覚めたのか」
聖剣「あ、はい。すぐに回復能力を再起動しますからっ、ちょっとお待ちくださいっ」
勇者「いや、休んでていいよ。疲れただろ」
聖剣「はあ……では、お言葉に甘えまして。……さっきの話ですけどっ」
勇者「お前らが武器である理由か」
聖剣「はいっ。たぶん、責任のようなものを感じていらっしゃったんじゃないでしょうかっ。昔のご主人様は」
勇者「責任? 擬似生命を生み出すことに対して?」
勇者「生きがい、能力……役割を与えたってことか」
聖剣「はい、ご自分が亡くなられた後のことも考えて、わたしたちに使命を与えてくださったのではないかと思うんです」
勇者「つまり、自分が死んだ後は新しい主人のために戦えと……」
聖剣「そういうお話をご本人からお聞きしたわけではないですから推測でしかないですけどっ。実際、役に立ちましたよね? わたしたち」
勇者「ああ、うん。すごく役に立った。……人間が住む街を魔物から守るというやりがいのある仕事……それができるのは、武器か」
聖剣「お役に立てて嬉しいですっ。長い間待ち続けてた甲斐がありましたっ」
勇者「長い平和な時代を経て、か。こうなることを予見して、危惧していたのかもしれないな。で、どうせ作るのなら後世で役に立つものをと」
聖剣「むしろ、本来そのために作られたというのは考えすぎでしょうかっ。戦訓を記憶して後の人に伝えることができる武器としてっ」
勇者「どうだかな。買いかぶりすぎかも。それより気になるのは、お前らの耐久性についてなんだけど……」
聖剣「保存魔法も完璧ではありませんから、わたしたちにもいつかは壊れる時が来ます。えっと、その、魔剣さんのように……」
魔剣「 」
勇者「こいつ、死んじまったのかな……」ジワ
聖剣「いっいえ、まだそうと決まったわけではっ。でも、人間の方にも寿命があるのと同じです。しかたのないことなんです」
雷剣「なーなー、思ったんだけどさー。壊れたら修理すればいいんじゃないの?」
雷剣「いや、あれ、なんかあたし、変なこと言ったかな」
勇者「えっと、何から言えばいいのかな。まず、雷剣、お前起きてたのか」
雷剣「さっきまで寝てた」
勇者「そうか……で、壊れたら修理って話なんだけどさ。やっぱり限度ってもんはあるんじゃないか?」
聖剣「魔剣さんは、経年劣化とか言ってましたし……」
雷剣「そっかー、あたしも真っ二つに折れちゃったらあたしのままでいる自信無いしなー」
勇者「そういやこいつ、やたらと雷剣のこと折りたがってたような……自分の方が壊れちまいやがって……」
魔剣「……あれは冗談よ。本気で折れればいいなんて思ってなかったわ」
勇者「! お前……」 聖剣「魔剣さん!」 雷剣「あ、生きてた」
勇者「だ、大丈夫なのか!? よかった……」ジワ
魔剣「無事に竜王を倒せたようね。主にわたしの活躍のおかげで。……なに泣きそうな顔してるのよ」
勇者「泣きそうになんかなってねえよ。泣いてるんだよ」ポロポロ
魔剣「あなたって、あの人に似ているわ。涙脆いところがそっくり」
勇者「子孫なんだからそりゃ似てるとこもあるだろうよ。そんなことよりお前、ほんとに大丈夫なのか? どこか痛いところ無いか?」グスン
勇者「そっか……」
魔剣「この姿のままでも、わたしに残された寿命はせいぜいあと100年といったところかしら」
勇者「けっこう長いな。先に俺が死ぬわ」
魔剣「あなたに先立たれてしまうのは悲しいわね」
勇者「じゃあ俺の人格を元にしたインテリジェンスソードでも作るか? いや、その前にやることができちまったな」
雷剣「やることって何? 王女と結婚してハッピーエンドじゃないの?」
勇者「王女様と結婚か、それも考えなきゃいけないんだけどさ。俺、お前らを俺の子孫にも受け継がせたい」
魔剣「わたしたちの寿命を延ばす、ということかしら」
勇者「あるいは、お前らの人格の部分を今の器から新しい器に移しかえるとか。方法はまだ考えてないけど、研究してみようかと」
魔剣「……わたしは別に、あなたとともに土に還ってもかまわないのだけれど」
勇者「そうなるかもな。昔みたいな高度な魔法技術はもう失われてるし。でもやるだけやってみるよ」
魔剣「そう。それがあなたの、これからの生きがい?」
勇者「それだけじゃないな。また敵が現れる時に備えて強い魔法とか、武器とか、戦士とか……人間たちが戦える力を育んでいきたい」
聖剣「大仕事ですねっ。となると、王女様と結婚して、地位と権力を得た方がいいかもしれませんっ」
魔剣「でも、王女が好きなのも事実でしょう? 結婚したいという意味で」
勇者「ああ、うん、好きだよ。そういう意味でな」
魔剣「ふられてしまったわ、わたし」
勇者「いや、その、あれだ、人間の中では王女様が一番好きだけど、剣の中ではお前が一番好きだよ?」
聖剣「ふられてしまいましたっ」 雷剣「ふられちゃったー」
勇者「あ、いや、お前らも好きだから……」
魔剣「ふっ。でも、一番はわたしだわ」
聖剣「ううっ。悔しいですっ。でもわたしには王女様がいますからっ」
雷剣「くそー、次の勇者はあたしに惚れさせてやるー」
勇者「……ハーレムパーティの会話みたいで悪い気はしないんだけど、これ全部剣の発言なんだよな。なんか複雑だ」
魔剣「昔の勇者も子孫が1人で3本とも装備することまでは想定外だったかもしれないわね。でも人間の女が3人いるより楽でいいでしょう?」
勇者「そういやお前らの昔の持ち主って、男1人と女3人のパーティか。たいへんそうだよなあ、刃物持ってる女に囲まれて旅してたんだから」
魔剣「その辺りの話、聞きたい?」
勇者「帰り道の暇潰しに聞くとするか。そうだ、俺の子孫にも聞かせてやってくれよ。3本の剣と共に喧しくも楽しい一人旅をした男の話をな」
王様「勇者よ。よくぞ大役を果たし、無事に戻った」キリッ
勇者(あれっ、なんか王様、威厳出しちゃってるな。今日は隣に王妃様がいるからか。合わせておこう)
勇者「はっ。お褒めにあずかり恐悦至極に存じます」キリッ
王妃「わたしからもお礼を言わせてください。娘のことも含めて、本当にありがとうございました」
勇者(王女様の美貌は母親譲りか。父親に似なくてよかった)
勇者「はっ。王妃様におかれましては、ご機嫌麗しく、光栄の至りでございます」キリッ
王妃「わっ、あっいえっ、そんなっ、ご丁寧な挨拶、痛み入りますっ。あのっ、わたしの方こそっ」
勇者「あんたの影響かああああ! 王女様があんなんなのはっ!」
王妃「ううっ。こんな母親ですみませんっ」ペコペコ
勇者「そういやなんか違和感があったんだよ! 聖剣はそこまで極端に腰が低くなかったもん!」
王様「ははは、可愛いだろ、わしの嫁さん」
勇者「王様もこんなんだし……だめだこの国俺がなんとかしないと」
王様「いや、でもさあ、今回の件が上手く片付いたのってわしの功績もちょっとはあるよね」
勇者「ああ、予言のアレですか。そういや王妃様もご存知なんですか? あの邪悪を滅ぼすだか滅ぼしただかいうやつ」
勇者「どんな言葉だったかも憶えてます?」
王妃「たしか、『雷鳴轟かす剣 癒しの力纏う盾 清く静謐なる衣 集いし三筋の尊き光 邪神を払いて闇を滅する』とか……」
勇者「王様のと全然違うっ!?」
王妃「ひゃっ、えっと、違ってましたかっ!?」アセアセ
王様「ははは、こいつあんまり記憶力ないからなー」
勇者「あんたのよりは信憑性高そうな感じだけどなあ!」
おわり
このSSはフィクションです
よいこのみなさんは壊れかけの銃を撃ったり王族をあんた呼ばわりとか、真似しないでくださいね
読んでくれた人、支援してくれた人、ありがとう
乙
おもしろかったよー
面白かった!
おもしろかったー
暴発注意ですね
Entry ⇒ 2012.04.12 | Category ⇒ 勇者魔王「」SS | Comments (1) | Trackbacks (0)
勇者「冒険の書が完結しない」
http://hibari.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1311950866/
王「ではゆくがよい! ゆうしゃよ!」
勇者「……」
勇者「えっ?」
戦士「この戦いも大詰めだな! 後は魔王を倒すだけだ!」
賢者「今の私たちであれば、勝機は十二分にあると思われます」
僧侶「気を引き締めていきましょうね、勇者様!」
勇者「みんな」
勇者「何を言ってるんだ」
勇者「魔王はもう倒したじゃないか」
賢者「夢ですね。しかし口に出しても現実のなんの足しにもなりませんよ」
僧侶「でも決戦前夜に魔王を倒す夢をみるなんて縁起がいいですね!」
勇者「待ってくれ」
勇者「ちょっと混乱してる。整理させてくれ」
勇者「冒険の書は……」
戦士「おいおい、そいつを確認しないと今日の日付けもわかんねーのか!」
賢者「決戦前で気持ちは分からないでもないですが、勇者さんらしくないですね」
僧侶「み、皆さん、最後の戦いの前なんですよ? 誰だって緊張くらいしますよ!」
勇者「……そう、最後の戦いの……前……」
勇者(冒険の書は、魔王城突入前で終わっている)
勇者(だけどオレには間違いなく、この手で魔王を倒した記憶がある)
勇者(これは一体……)
勇者「ちょっと賢者」
賢者「はい」
勇者「突然ですまないけど……『時の砂』という道具は、時間を巻き戻すんだってな」
賢者「はい。ただその存在はあくまで文献によるもので、この世界には現存しないはずです」
勇者「賢者の読んだ文献の範囲でいい、その時間ってのはどのくらい巻き戻すんだ?」
賢者「そう長い時間は巻き戻せないようです。ある本では魔物との一戦ほどとありました」
勇者「そっか……。ちなみに賢者」
賢者「はい」
勇者「なんていうか、時間が丸一日以上さかのぼるような呪文なんてないよな?」
賢者「はい。ラナルータの昼夜逆転は半日を往復するのでそれ以上は伸びませんし――」
賢者「パルプンテの効果でもそのような実例は聞いたことがありません。ただし唱えた後に何の効果もなかった場合」
賢者「実際は時間が巻き戻っていながら、術者が知覚できていないというケースは考えられなくもありません」
勇者「……まぁでも、パルプンテは戦闘中しか唱えられないし、あくまで戦闘にしか影響を及ぼさない呪文だよな」
賢者「はい。私の知る限りでは」
戦士「なぁ勇者、どうしちまったんだよ!」
勇者「……そうだな。戦士たちからみればオレだけがどうかしてるように見えるんだよな」
賢者「そろそろ説明してくれませんか? 時間の大切さはあなたがよく分かっているはずです」
僧侶「勇者様……」
勇者「分かった。整理がついた」
勇者「まず前提として、これから話すことに一切の冗談はないことを信じてくれ」
戦士「おー勇者がそうやって勿体ぶるたぁ相当だな!」
賢者「意味のある前提と取っていいんですね」
僧侶「ここまで来たんですもの、いまさら勇者様を疑ったりしません!」
勇者「ありがとな。で、さっそく本題なんだけど――」
勇者「なぜか今のオレには、これから倒しにいくはずの魔王を、すでに倒した記憶がある」
勇者「その後訪れた平和な世界も、一時だが過ごした記憶がある」
勇者「分かりやすく言ってしまえば、時間が巻き戻ってしまっている」
賢者「非常に興味深い話ではあります。真実であれば」
僧侶「じ、時間が巻き戻るなんて恐ろしいですね……。魔族の仕業なのでしょうか?」
勇者「まったく分からない。分からないが、今話したことを擬似的に確かめる方法はある」
賢者「でしょうね。もし本当に時間が巻き戻っていることを知っているなら」
戦士「どういうこと?」
賢者「つまり、勇者さんはこの先起こることを全て知っているわけですよ」
勇者「オレの体験した出来事だったらな」
戦士「ふーん? てことは?」
僧侶「じゃ、じゃあ平和を取り戻したあとのことも?」
勇者「少しだけな。まぁとにかく、今は目の前の魔王相手にだな」
戦士「なるほど俺にも分かってきたぜ。くらえ勇者!」
勇者「あいた何をする!」
戦士「あれー勇者おまえ先のこと予知できるんじゃないのか?」
賢者「ちょっとかしこさ足りない人はおとなしくしててください」
勇者「最初に門を入って……小部屋……階段……宝物庫……大広間……」
戦士「ほえーさすが勇者だな! これ全部本当かよ!」
勇者「仮にもパーティーを率いる長だからな。一度歩いたダンジョンの土地勘くらい強くないと」
僧侶「そんな勇者様だから、みんな安心してついていけるんですよっ」
賢者「……なるほど、やはり城内すべてを練り歩いたのですね」
勇者「もちろんだ。ダンジョンをしらみつぶしに探索しないヤツなんて冒険者じゃない」
賢者「探索後、魔王城から出ることはできなかったのですか?」
勇者「いやできたはず。でも欲をかいて開けてしまったんだよな、最後の扉を」
戦士「魔王が待ち構えてたんだな!」
勇者「さすがに逃げられなかったから戦った。結果は勝ち。大接戦だったけどな」
賢者「そのあとは?」
勇者「あとは……城に戻って……王に謁見して……。……すまない、そこからはよく憶えていない」
僧侶「そ、その後が肝心なんですが! 平和になって勇者様はどうなったのですか!」
勇者「な、なんだよ。だからよく憶えてないって」
勇者「呪われた武具と回復アイテムがいくつか。うちわけはこんな感じだ」
戦士「なんか中身が分かると興ざめだぜ!」
商人「ミミックも混じってるじゃないですか。中身を知っている方が回収効率がいいでしょう」
勇者「そうだな。オレの記憶だと戦士はザキで二回死んだ」
戦士「マジでか!」
僧侶「ということは私が二回生き返らせたんですね! 戦士さん感謝してくださいねえっへん」
戦士「マジか! ありがとう!」
勇者「まぁ中身を見る限り、最低限必要なアイテムは宝物庫に寄るだけで事足りる」
賢者「となると最短ルートはこう、こんな感じですか」
勇者「そんな感じだが、ただ今回は確かめたいことがあるから、宝箱はすべて回収する」
賢者「確かめたいこと?」
勇者「まぁそれはおいおい話す。とにかく魔王城内のマップについては以上だ」
勇者「こいつをしっかり頭の中に入れといてくれ、戦士」
戦士「あーっまた俺だけバカ扱いしやがって!」
勇者「こんなのとか、こんなのとか、こおんなドラゴンが出る」
戦士「うわ絵へてぇ!」
僧侶「でも可愛いですねっ! 特にこれとか!」
勇者「そいつはイオナズンを連発してくる」 僧侶「えっ」
賢者「どれも外見は今まで見たことがあるモンスターばかりですね。上級亜種ですか?」
勇者「待ていま色をつける」
賢者「あっいえ結構ですインクの無駄です。確認したのはこの数種類だけですか?」
勇者「ああ。でもあの時はしらみつぶし態勢だったし、これで全部だと思う」
勇者「で、特に注意すべきモンスターはこいつとこいつと……全部だな。さすがに最後のダンジョンだ」
勇者「ただ何を仕掛けてくるかは分かっているから、最初から対策ができる分だけマシだろう」
戦士「というか勇者の絵が下手なおかげで、ずいぶん楽な相手にみえるな!」
僧侶「和みますね!」
勇者「こいつら凶悪なんだぞ。実物見てショック受けても知らんぞ」
賢者「勇者さん、次は魔王についてお願いします。ちなみに絵は変に手ごころ加えなくて結構ですので」
戦士「Oh……」
勇者「そしてこれが魔王の最終形態だ」
僧侶「わあ……」
賢者「それで攻撃パターンは?」
勇者「最初は二回行動だ。通常攻撃、ブレス攻撃、上級呪文、いてつく波動をじゅんぐり」
勇者「最終形態は三回行動。やることは大して変わらなかったが、技の威力が強くなっている」
賢者「さすがに魔王ですね。本気でかからなければ」
勇者「あっちょちょ待てなんでしれっと絵を消す」
戦士「でもよ、こんだけ素性が丸ハダカにされりゃ魔王も楽勝だろ!」
僧侶「そうですねっ、それに加えて勇者様の的確な指示があれば恐いものなしです!」
賢者「まぁ勇者さんの言うことが正しければ、ダンジョンを探索し尽した状態でも倒せちゃったようですし」
勇者「ああ。とりあえず魔王はなんとかなるんだけどな」
賢者「例の時間の巻き戻しですか」
勇者「そうだ。それだけが気がかりなんだ……」
勇者「今回は宝箱を回収しきった時点でいったん引き返す」
戦士「なんで!?」
勇者「宝箱が置かれてるなら貰っておく。その上で、魔王戦は万全の状態で臨みたい」
僧侶「魔王戦……私たちにとっては未知の最終決戦なんですよね……」
賢者「探索の他の目的は何ですか? 先ほど勇者さんは確かめたいことがあると言ってましたが」
勇者「その時になったら話す。今はとりあえず魔王城攻略が成功してからだ」
賢者「分かりました」
戦士「装備は今使っているやつでいいのか?」
賢者「呪文の作戦はどうしましょうか?」
勇者「適当で大丈夫だ、なんとかなる。正確にはなんとかなった」
賢者「前の記憶の突入時刻なんかを合わせたりはしないのですか?」
勇者「しなくていいや。欲をいえば自分の体験を丸々再現できれば少しは楽なんだろうけど、そりゃほぼ不可能だしな」
戦士「よーしなんかよく分からんがいよいよだな! なんか張り切ってきたぜ!」
僧侶「みんなで頑張りましょうねっ」
戦士「おーっし城だ! 入城だ!」
僧侶「禍々しい魔力が溢れています……皆さん気を付けてくださいね」
勇者「……」
賢者「どうですか勇者さん」
勇者「とりあえず間違いなく、この門には既視感がある」
賢者「では例の可能性は」
勇者「まだ分からないさ。よし、乗り込むぞ」
戦士「門は任せろ! オラオラ開けこの!」
魔物『ガーッ!!』
戦士「どうわっ! いきなり魔物の群れぐはっ」
勇者「右のヤツを殴れ! 僧侶は回復! 賢者は補助を!」
僧侶「ゆ、勇者様の絵とぜんぜん違う! ぜんぜん違います!」
勇者「いや……似てる!」
賢者「僧侶さん回復早く!」
――
勇者「……やはり……」
賢者「勇者さんが書いたものとほとんど同じでしたね。地図は」
戦士「マジかよ! やるじゃねーか勇者!」
僧侶「ということはやっぱり、勇者様は本当に一度魔王を倒しているのですね!」
勇者「ああ、そうらしい。……」
賢者「次の小部屋の宝物庫で、探索はいったん終了ですね」
戦士「おー山ほど宝箱あるじゃねーか! どら!」
賢者「あ待ってくださいその宝箱は」
たからばこは ミミックだった!
ミミックは ザキをとなえた!
せんしは しんでしまった! ▼
勇者「あーもう余計なことだけ再現しやがって!」
僧侶「い、今生き返らせます!」
勇者「いい! 先に片付けるぞ!」
勇者「……この扉の向こうが、魔王の間だ」
戦士「まおうのま……ふっ!」
僧侶「す、凄まじく強大な魔力を感じます……」
賢者「でも勇者さん、今回は」
勇者「分かってる。魔王め、そこで大人しくしてろよ」
ゆうしゃは リレミトをとなえた! ▼
戦士「で。どうすんだ」
勇者「とりあえず宿屋に泊まろう。魔王は明日倒す」
僧侶「明日……」
賢者「ところで勇者さん、確かめたいこととは結局なんだったのでしょうか」
勇者「ああ、忘れていたわけじゃないけど、先にそっちの用を済ませておくか」
戦士「用って?」
勇者「『冒険の書』だ。王のところへ行くぞ」
――
王「――そなたらの たびのせいかを この ぼうけんのしょに きろくしても よいかな?」
勇者「はい」
王「……」
王「しかと きろくしたぞよ」
王「どうじゃ? また すぐに たびだつ つもりか?」
勇者「はい」
王「では ゆくがよい! ゆうしゃよ!」
戦士「前から思ってたけど、わざわざ王様の前でコレ記録するのになんの意味があんのかねえ!」
勇者「えっ?」
戦士「だってそうだろ? そんなもん俺らで勝手に書けばいーじゃん!」
僧侶「儀礼的な様式美ですよっ。今までだって欠かさずやってきたことでしょう?」
賢者「まぁ無骨で大ざっぱな戦士さんには縁遠い話ですが」 戦士「なにおう!」
勇者「…………」
勇者「――明日は魔王との決戦だ。このあとはしっかり休んでくれ」
戦士「分かったおやすみ!」
勇者「あっ、待……たなくていいや戦士だけは。おやすみ」
賢者「妥当な判断です。では本題に入りますが」
賢者「結局今日の一連の行動はなんだったのですか? 私には分かりかねましたが」
勇者「それは……これまた突飛な話になるけど。冒険の書だ」
僧侶「冒険の書? どういうことでしょうか?」
勇者「仕掛けはよく分からないが、おそらくこの冒険の書は」
勇者「オレが体験した時間の巻き戻しに関係している」
賢者「どうしてそう思うのですか?」
勇者「明確な根拠は二つ。前の記憶では、魔王を倒したあと冒険の書が一度も更新されなかったこと。と、」
勇者「自分が巻き戻しによって送られた時間が、最後に冒険の書を記録した瞬間だったことだ」
僧侶「そ、そうなんですか?」
勇者「ああ。偶然にしてはできすぎだと思ってな」
勇者「オレも最初は同じだったさ。だけど気になりだしたら止まらなくなってな」
僧侶「か、仮に時間の巻き戻しに関わりがあるとしたら……その冒険の書の正体は……」
勇者「それまでの時間を刻み、その時点を巻き戻しの着地点にするという、とんでもない代物だ」
勇者「名づけるなら、賢者なら何て呼ぶ?」
賢者「……時の……保存書。でしょうか」
僧侶「時の保存書? 今まで当たり前のように使ってきたそれが、ですか?」
勇者「ああ。時間を保存するアイテム。そう考えると一番しっくりくるんだ」
賢者「……その仮説が正しいとして、最後に時間を保存したのはつい先刻になりますね」
勇者「そう。魔王城攻略後、魔王討伐前。ここだ。真の決戦前夜だ」
賢者「ようやく私にも、勇者さんが確かめたいことの意味が分かりました。もし本当に冒険の書がカギならば」
賢者「これからさき再び巻き戻しが発生した場合、その巻き戻される時点は」
賢者「最初に勇者さんが記憶の食い違いを自覚したという時点よりも、後とということになるというわけですね」
僧侶「ええっと……は、はい、なんとか分かりました?」
勇者「僧侶でこうなら戦士は頭爆発してるな」
勇者「ん?」
僧侶「『時の保存書』が本物なら……魔王を倒した後にでも、記録を残せばいいだけじゃないですか?」
賢者「もっともな意見ですね。その時点その時点をこまめに刻めば、巻き戻されるリスクも少なくなります」
勇者「……それは……」
僧侶「な、何か不都合があるのでしょうか?」
勇者「……よく憶えていないけど、それは無理だった気がする」
賢者「何がですか?」
勇者「魔王を倒した後は、記録の保存は無理だ。なぜなら……」
勇者「なぜなら……。……すまない、思い出せない。前の記憶では、何かが起こったんだ」
僧侶「な、何かとは何でしょう?」
勇者「それが思い出せない。何か……オレにとって、とても恐ろしいものだったような気がする……」
賢者「どうも不確定要素が多いですね」
賢者「この際だからはっきり言いますと、私はまだ勇者さんの話を信じ切れていません」
僧侶「ちょ、ちょっと賢者さん?」
賢者「全てが真実だとして、魔王討伐後に記録すればいいだけの部分でどうしてお茶を濁すのですか」
賢者「そもそも魔王城の構造や出没モンスターの件は、あらかじめ知る方法がないとは言いきれませんし」
僧侶「賢者さん!」
勇者「いや当然だ。オレ以外にとってははじめから理解のしようがない話だからな」
勇者「むしろ鵜呑みにされるのも不安だったところだ。賢者みたいな批判的思考は逆に欠けてはならないと思う」
僧侶「えっええっ」
勇者「ただ賢者、これだけは信じてくれ」
勇者「オレの行動理念は、世界中の人々はもちろん、この場の仲間全員にも」
勇者「満足に平和な日々を送らせること。にある。それ以外の無意味な行動は一切していないつもりだ」
賢者「……その割には、モンスター闘技場では馬鹿みたいに手に汗にぎっていましたけどね」
僧侶「ぱ、ぱふぱふのお姉さんに一人でついていったりもしました!」
勇者「い、いやその話はもう! だからあれは!」
賢者「……」
勇者「こら賢者いま笑ったな!」
勇者「あ、ああ。そういうことだな。いいのか? 信用して」
賢者「実は少しゆさぶってみただけなんです。申し訳ありません」
賢者「もとより勇者さんがどう答えようとも、私は平和な世が訪れるその日まで貴方に従う所存です」
勇者「賢者。ありがとう」
僧侶「わ、私もですよっ!」
勇者「ああ、僧侶もありがとう」
僧侶「は、はいっ。あ、い、いえっ」
賢者「では話を戻しますが、明日はどうするつもりなのですか」
勇者「まずは魔王を倒してからいろいろ試す」
賢者「わかりました」
僧侶「あ、あの勇者様、私たちは魔王と戦うのは初めてなんですけど、その」
勇者「大丈夫。一度は勝った全く同じ相手と、もう一戦交えるだけだ」
勇者「明日の魔王戦はいつもと同じように命令させてくれればいい。今のオレ達なら勝てるからな。大丈夫だ」
僧侶「は、はいっ!」
勇者「おはようみんな、準備はいいか」
僧侶「大丈夫です!」
賢者「いつでも」
戦士「待てちょっと筋肉痛が」
勇者「よしいざ出陣だ」
ゆうしゃは ルーラをとなえた! ▼
【魔王城】
勇者「今回は魔王を倒すつもりで乗り込むけど、みんな無理だけはしないでくれ」
賢者「といっても一度ガサをいれたダンジョンなど恐るるに足りませんが」
僧侶「神よ、どうか我らにご加護を……」
戦士「うーん肩だ。あと腰も少し……」
勇者「よし、みんな行くぞ!」
勇者(しかし本命が魔王討伐後に控えてるとなると、どうもこれ前座気分が拭えないな)
賢者「さしたる消耗もなしにここまで来れましたね」
僧侶「勇者様のおかげですねっ」
勇者「みんなのお陰だよ。それじゃ開けるぞ」
賢者「どうぞ」 僧侶「えっちょっ、ちょっと」 戦士「おいちょっと待て!」
勇者「なんだ? ああそうか、みんなはこの先は初めてだったな」
僧侶「そ、そうですね。心の準備がまだ……」
戦士「さすがに最終決戦だからな! 気合入れなおすぜ!」
賢者「しかし勇者さんは一度倒してるのですよね? 気楽に構えていいと思いますが」
勇者「さすが賢者は違うな」
僧侶「わ、私はもう大丈夫です!」
戦士「俺もなぜか筋肉痛完治したぜ!」
勇者「よしそれじゃ開けるぞ。念のため言っておくが一度開けたらもう引き返せないからな」
戦士「おいなんだそりゃ聞いてね」
勇者「もう開けた」
魔王『ゆうしゃよ。よくぞここまできた……』
勇者「魔王!」
僧侶「ま、魔王……なんて膨大な魔力……」
戦士「こいつが魔王か! なんか勇者の書いた絵にニュアンスが似てるな!」
賢者「印象付けされているとどうも緊張感に欠けますね」
魔王『おまえのながいたびも ここでおわりだ。わがまりょくによって ほろびるがよい!』
勇者「やはり一字一句変わらないのか」
僧侶「き、きます!」
戦士「魔王おおうううおおおお!!」
戦士のこうげき! まおうに××のダメージを あたえた! ▼
勇者「また勝手に始めやがった! 僧侶はフバーハ、賢者はバイキルトを!」
僧侶「は、はいっ」
賢者「次の形態が控えてます。体力魔力ともに温存しながら戦いましょう」
勇者「いくぞ! お前をいま一度打ち倒し、今度こそ平和な日々を手に入れてやる!」
勇者「これがとどめだ!」
ゆうしゃの こうげき!
まおうに ××のダメージを あたえた!
まおうを たおした!! ▼
真魔王『ぐおおおっ。おのれにんげんどもめ』
真魔王『だが このからだくちようとも わがたましいはえいえんにふめつ。ぐふっ』
勇者「……」
僧侶「……終わったのですね。私たち、本当にやりとげたんですね!」
戦士「っしゃあああ! これで世界が救われたぜ!!」
賢者「さすがに呆気なかったとは言いませんが、絶妙な物足りなさでしたね」
僧侶「勇者様がひとつも無駄な指示を出さなかったおかげです!」
戦士「っしゃあああ勇者最高! ってどうした勇者! もっと喜べよ!!」
勇者「あ、ああ、すまない。でもオレからしてみればここからが正念場だからな」
賢者「時間との戦いというわけですか」
勇者「ああ。そこが決着しない限り、今のこの瞬間もすべて無駄になってしまうからな」
僧侶「? こ、ここは隣国の城?」
戦士「おい勇者どこ行くんだよ! 俺たちの城はここじゃないだろ!」
勇者「分かってる。だがいま優先すべきは、冒険の書――いや、時の保存書だ」
勇者「前回は確か、まっすぐ自分たちの王のもとへ向かった。もちろん魔王を倒したことの報告も兼ねてだが」
勇者「あの時のオレは、王と話して新たな記録を刻もうとしていたはずだ。だがそれが叶っていない」
勇者「最後に途切れた記憶もあわせて考えると、いまオレたちの王に会いに行くのはまずい気がする」
賢者「それで別の王のもとで冒険の書を更新するというわけですね」
勇者「ああ」
戦士「ちぇーなんでえ! カッコよくガイセンする気満々だったのに!」
僧侶「そうですよっ、魔王を倒したんですよ? もう何も憂いはないはずじゃないですか」
勇者「すまないな。まだ戦いは終わってないんだ。それどころかもしかすると」
勇者「魔王とは比べ物にならないほどの強大な敵を相手にしているのかもしれない」
勇者「だが安心してくれ。必ず勝つ。そしてみんなで平和な日々を過ごそう」
隣国の王「そなたこそ まことのゆうしゃよ!」
勇者「ありがとうございます。あのところで、冒険の書の記録をしたいのですが」
隣国の王「冒険の書……? はて、それは?」
勇者「これです。あなたにも記録して頂いたおぼえがあるのですが」
隣国の王「なんの話であろうか? ワシは知らんぞ?」
勇者「えっ? ですからこれです! お忘れになったのですか?」
隣国の王「ふむ、見せてみよ。……ううむ、やはり見覚えがないな」
勇者「そんなはずは」
隣国の王「この……冒険の足跡が刻まれた日記帳が、どうしたというのだ?」
勇者「日記帳? 日記帳ですって? まさか――」
勇者(まさか冒険の書本来の効力が失われて、本当にただの日記帳になってしまったのか!?)
僧侶「勇者様、おかえりなさい! どうでしたか? 用事は済みましたかっ?」
勇者「……まだだ。ルーラをとなえる。こうなったらアテは全部回るからな」
賢者「結局どこもダメでしたか」
勇者「……念のため、形だけでも記録の手順を演じてもらったが、間違いなく効果はないだろう」
勇者「分かるんだ。いつもの手ごたえというか感触というか、そういうのでな」
賢者「他に記録してもらえる場所は残っていませんが、これは八方塞がりですか?」
勇者「どうもそうらしい。……だが、一応他の方法も考えてみて」
戦士「おい、いい加減にしろ!」
勇者「!」
戦士「なんだって魔王を倒したってのにあちこち道草しなきゃなんねーんだよ!」
戦士「打ち倒す魔物はもういないんだろ! いま、平和ってやつなんだろ!」
戦士「こんなおあずけ状態、ガマンできねーぜ! とっとと帰って、王様からたんまりご褒美もらっちゃおうぜ!」
僧侶「……わ、私も戦士さんに賛成です。勇者様、顔に疲れが出てます……早く帰りましょう?」
賢者「みなさん、勇者さんはただ」
勇者「いや、いい。冒険の書が機能しないんじゃ、もうほとんどお手上げ状態だしな」
勇者「帰ろう。……言うとおり、もう疲れたしな……」
【城下町】
戦士「よっしゃー帰ってきたぜ俺らの本拠地! テンション上がってきた!」
僧侶「早く王様に挨拶を済ませて、ゆっくり休みましょうね、勇者様」
勇者「ああ……。……」
町人A「あっ勇者様だ! 勇者様がやっと帰ってきたぞ!」
町人B「あまりに帰りが遅いから、王様は本人なしで勇者様を称えるところだったんですよ!」
町人C「無事に帰ってきてよかった! 勇者様ばんざい! 魔王を打ち倒した勇者様ばんざい!」
戦士「ほらみろ。主役がいないのに勝手に式を挙げられるところだったんだぜ!」
勇者「式を……勝手に……?」
賢者「また何か気がかりが?」
勇者「……ここに来なかったら、勝手に式を挙げられていた?」
僧侶「そ、そうですよ! そんなこと、納得いきませんよねっ」
戦士「ほらーとっとと城に行くぜー!」
勇者(……もしオレの予想が正しければ……魔王を倒した時点でもう……)
兵士「あなたこそ まことの ゆうしゃ!」
兵士「さあ おうさまが おまちかねですぞ!」
戦士「へへ、城の中も歓迎ムードだな!」
僧侶「平和になった実感がわいてきますね!」
勇者「……」
僧侶「勇者様……?」
勇者「あ。ああ、確かに平和だな。確かに、今この瞬間は平和だ……」
賢者「足取りが重いようですね」
勇者「そんなことは」
賢者「勇者さんの話では、このあと何か恐ろしいことが起こるとのことですが」
勇者「憶えていたか。ま、たぶん大丈夫さ! 今は……この一時をみんなで味わおう」
賢者「……はい。勇者さんがそう言うなら」
僧侶「……勇者様……」
兵士「さあ おうさまが おまちかねですぞ!」
王「ゆうしゃよ よくぞ だいまおうを たおした!」
王「こころから れいを いうぞ! そなたこそ まことの ゆうしゃ!」
王「そなたのことは えいえんに かたりつがれてゆくであろう!」
戦士「よっしゃー凱旋だー!」
賢者「……別に何かが起きる様子も……」
僧侶「あ、あの勇者様、勇者様はこれから、その」
勇者「待て」
勇者「みんな」
そして でんせつが はじまった!
・
・
・
THE END
王「よくぞ もどった!」
王「ではゆくがよい! ゆうしゃよ!」
勇者「……」
勇者「えっ?」
戦士「前から思ってたけど、わざわざ王様の前でコレ記録するのになんの意味があんのかねえ!」
戦士「だってそうだろ? そんなもん俺らで勝手に書けばいーじゃん!」
僧侶「儀礼的な様式美ですよっ。今までだって欠かさずやってきたことでしょう?」
賢者「まぁ無骨で大ざっぱな戦士さんには縁遠い話ですが」
戦士「なにおう!」
勇者「…………」
勇者「王様」
勇者「少しお話があるのですが」
【宿屋】
勇者(王は冒険の書の『記録方法だけ』をなぜか知っている。結局得られた情報はそれだけだった)
勇者(由来も仕組みも作用も知らないとなると……王様すらこの見えざる力の駒に過ぎないのだろうか……)
賢者「勇者さん、一体どうしたのですか?」
戦士「なんだって王様にあんな妙なことばっかり聞いたんだよ?」
僧侶「勇者様、疲れてるみたいです……」
勇者「ああ、すまない」
勇者「今から全部話す……」
――
賢者「冒険の書の正体が『時の保存書』……? 本当に私が名づけたのですか?」
僧侶「に、二回も魔王を倒しているなんて。間違いないのですか?」
勇者「オレ視点では証明された。もうみんな魔王城というダンジョンは攻略済みなんだろ?」
勇者「一番最初に巻き戻しが起こった時点から、時間が進んでいる。冒険の書の効力は決定的だ」
戦士「Zzz」
勇者「まず魔王を倒してしまった後は、冒険の書はその時点以降は効力を失う。王様たちまで影響してな」
勇者「そして魔王討伐後にオレたちの王に謁見すると……時間が巻き戻されてしまう」
勇者「……は正しくないな。正確には、『始まってしまう』だ」
僧侶「な、何が始まってしまうのですか?」
勇者「分からない。分からないけど、『それ』が始まってしまうと、オレたちにはもうどうしようもない」
勇者「どうしようもないから、時間が巻き戻るしかない……という理屈が出来上がってる気がする」
賢者「言ってる意味がよく分かりませんが」
勇者「要するに『王への魔王討伐報告』が巻き戻しの引き金、って認識でいいと思う」
賢者「……でしたら魔王を倒した後、我々の王に会わなければいいだけの話ではないですか?」
僧侶「えっ!」 戦士「なんで!」
勇者「さすがに真っ先にそれは考えたけど……どうも上手くいかない気がする」
賢者「なぜですか?」
勇者「勘だ。はっきりした根拠はない。――だから今回は、実際にその線を検証してみるとする」
戦士「Zzz」
勇者「ん?」
僧侶「なにもかも話が急すぎて……私と賢者さんと戦士さんは、まだ魔王に会ったことすらないんですよ?」
勇者「ああ、まだ絵に描いてなかったっけ? ちょっと待ってくれ」
賢者「いえ勇者さんの絵はもういいです。それより、私にも僧侶さんが言いたいことは分かります」
賢者「突拍子がなさすぎるのです。私たちはまだ、勇者さんの過ごしたという未来の時間を、一片も経験していません」
僧侶「そ、そうです。魔王を倒したあとの世界なんて、簡単には想像できないんですよう」
勇者「……そうか。そうだな」
僧侶「あっでもっ、決して勇者様を信じてないわけではっ!」
勇者「いや、オレの配慮不足だった。『ここまで』の流れで全部鵜呑みにしろってのも無理があるよな」
勇者「そもそも魔王城の構造や出没モンスターの件は、あらかじめ知る方法がないとは言いきれない。だろ、賢者」
賢者「えっ。まあ。はい」
勇者「だから今度は、より信用に足る情報を伝えようと思う。まぁ結局未来予知の形になるけどな」
僧侶「そ、それはっ!?」
勇者「な、なんでそこで乗り出すんだよ。ただの魔王のデータだよ」
僧侶「戦士さんの通常攻撃で45~50回分……?」
勇者「そしてこれが魔王の攻撃力・防御力・素早さ」
賢者「この数値は?」
勇者「オレを基準の100として表してみた。魔王は大体そのくらいだ」
勇者「これが二回の魔王戦で、魔王が取った各行動の大体の回数」
僧侶「す、すごいっ」
勇者「見て分かる通り、形態が変わってからはブレス攻撃の頻度が高くなってるな」
勇者「だがその分、いてつく波動の割合が少なくなってる。真魔王戦は積極的に補助呪文を使うべきだ」
僧侶「さ、さすが勇者様ですっ! もう魔王は倒したも同然ですね!」
勇者「二回も倒したから分かるんだけどな」
賢者「……とても信じられませんが、全てがもしこの通りであれば、勇者さんの話を信じてもよさそうです」
勇者「明日証明されるさ」
勇者(それにしても毎回これ解説するの面倒だな。何か考えとくか)
戦士「Zzz」
勇者「おはようみんな、準備はいいか」
僧侶「ばっちりです!」
賢者「いいですとも」
戦士「待てちょっと風邪気味だ」
勇者「よしいざ出陣だ」
ゆうしゃは ルーラをとなえた! ▼
【魔王城城門】
勇者「よしちゃっちゃか行くぞ、すぐやるぞ」
賢者「昨晩のデータが真実であれば、魔王など恐るるに足りませんが」
僧侶「神よ、どうか我らにご加護を……」
戦士「うーん喉も腫れてる。あと鼻水も少し……」
勇者「よし、みんな行くぞ!」
勇者(しかし魔王を倒すという本来の目的が、すっかり冒険の書検証の手段になってしまったな)
勇者「これがとどめだ!」
ゆうしゃの こうげき!
まおうに ××のダメージを あたえた!
まおうを たおした!! ▼
真魔王『ぐおおおっ。おのれにんげんどもめ。だが このからだくちようとも』
勇者「わがたましいはえいえんにふめつ」
真魔王・勇者『ぐふっ」
僧侶「……終わったのですね。私たち、本当にやりとげたんですね!」
戦士「っしゃあああ! これで世界が救われたぜ!!」
賢者「さすがに呆気なかったですね」
僧侶「勇者様がひとつも無駄な指示を出さなかったおかげです!」
戦士「っしゃあああ勇者最高! ってどうした勇者! もっと喜べよ!!」
勇者「さすがに三度目ともなると達成感がないや」
賢者「ではこのあとは?」
勇者「ああ。みんなで逃避行といこうか」
【孤島の小屋】
戦士「だーかーらー! なんで城に戻んねんだよお!」
勇者「昨晩そういう話だったんだよ。爆睡していたお前が悪い」
戦士「だって俺ら、魔王倒した英雄なんだぜ? なんだってこんなコソコソ隠れる必要があんだよー!」
賢者「城に戻れば、『何か』が起こって時間が巻き戻ってしまう……信じられない話ですが」
賢者「勇者さんの魔王攻略データは驚くべき精度でした。もはや疑おうにも反論が用意できません」
僧侶「わ、私たちはしばらくここで暮らしていくのでしょうか? 誰にも見つからないようにしながら……」
勇者「そうなる。あるいはそれが正解なのかもしれない」
戦士「なんで!?」
勇者「だが、おそらく上手くいかない。きっと半日も経たず分かるさ。あいや、みんなは分からないか……」
賢者「勇者さんの勘だと、また巻き戻しが起こるのですね」
勇者「ああ。でもま、もし起こればまたヒントが増える、起こらなければ御の字。楽観的に考えてるさ」
戦士「俺だけでも解放してくれよおっ!」
勇者「ダメ。一人も城に戻らせない。今回はそういう実験だからな」
戦士「ヤダ!」 勇者「めいれいさせろ!」 戦士「ヤダー!」
僧侶「や、やって欲しいことってなんでしょうか?」
勇者「ああ、実は巻き戻しが起こるたびに、逐一みんなの信用を得るのが面倒になってな」
勇者「それに今回は魔王の情報だったけど、それで確実な信用を得るためには実際に魔王と戦わないといけないだろう?」
勇者「おそらくこのループを解決するには、『魔王を倒す前』に何か行動するしかないと思うんだよな」
賢者「何が言いたいのですか?」
勇者「要するにてっとり早く信用を得られるような、みんなの『呪文』を教えて欲しいわけだ」
戦士「俺は死ぬまでMPないぞ!」
勇者「キーワードってことだ。今から、オレがそれを言えばすぐに信用してもらえるような『呪文』を紙に書いてくれ」
勇者「次に巻き戻しが起こったときに、それぞれにその呪文を言う。そうすれば冒険の書攻略がやりやすくなる」
僧侶「え、えっとつまり何を書けばいいのですか?」
勇者「極力自分しか知り得ないようなことだよ。何でもいい、秘密とか、思い出とか」
戦士「なんでお前にそんなこと教えなきゃいけないんだよ!」
勇者「教えてくれたらこの30万ゴールドはお前のものだ」 戦士「よしきた!」
勇者「オレがその呪文を覚えるしかない。つーわけで書いたらオレのところまで持ってきてくれ」
僧侶「ええっ。い、いまここで確認するのですかっ?」
勇者「じゃないと間違えていたとき後々面倒になるしな」
僧侶「え、ええっと。ええっと……」
戦士「うがー思いつかねえ!」
賢者「できました」
僧侶「ええっ」
勇者「さすが賢者早い、どれどれ。……? これが呪文か?」
賢者「まぁ呪文です。多分過去の私は分かります」
勇者「はぁ。お前にとっては何か意味深いものなんだろうな」
賢者「ちゃんと今の私からのメッセージであることを伝えてくださいね」
勇者「分かった」
賢者「また、その呪文はできるだけ練習はしないでくださいね」
勇者「? 分かった。……うーんやっぱり分からん。賢者の考えることは」
勇者「おし見せてみろ」
僧侶「は、はいっ」
勇者「よし覚えた。ちなみにこれ、何が?」
僧侶「あ、や、やっぱり分かりませんよね?」
勇者「まぁオレが知らない方が都合がいいけどな」
僧侶「そ、それでいいんです!」
勇者「で、戦士。あとはお前だけだが」 僧侶「えっ終わり……」
戦士「んーこれしか思いつかなかった!」
勇者「あまり凝ったのは期待してないが見せてみろ」
勇者「……。お前これは誰の言葉だ?」
戦士「親父の遺言だ! 俺と親父しか知らんはずだ!」
勇者「そうか……それならそうと事前に言ってくれりゃよかったのに」
戦士「膳立てはいらねえ! 自分の実力じゃねーとな!」
勇者「そうか。お前はバカだけど、いいバカだな」 戦士「あんっ!?」
戦士「ほほーい! こんだけありゃ当分暮らしには困らねぇ!」
賢者「それで勇者様、今後どうするのですか」
勇者「考える。もしまた巻き戻しが起こってしまった場合を想定して」
賢者「もし起こらなければ?」
勇者「……そのときも考えなくちゃならない」
勇者「さすがに一生ここに住む訳にもいかないし、かといって城に戻るのもはばかられるし」
賢者「私は別にここに骨をうずめても構いませんが。賢者の隠遁生活など珍しくないですから」
僧侶「わ、私も……皆さんが残るなら、私も残ります!」
勇者「ありがとう。まあでも、とりあえず一日ぐらい様子をみてからの話だな」
勇者(何事も起こらなければ、それで冒険の書は暫定的ながら攻略成功だ)
勇者(正解は魔王討伐後の王への謁見を回避することだった、ということになる)
勇者(……けれど、どうもそんなことで決着がつくとは思えないんだよな)
戦士「あ!? ここから出してもらえないんじゃーこんな大金意味ねーじゃん!」
戦士「意味ねーじゃんっ!!」 勇者「うるさい静かにしろ」
勇者「なんだ?」
賢者「その前に確かめておきたいのですが、今回巻き戻しが起こらなかったとして」
賢者「勇者さんはこれからここで暮らしていくことに抵抗はないのですか?」
僧侶「!」
戦士「そうだよ! なんで救世主ご一行がこんなヘンピなトコでひっそり暮らさないといけないんだよ!」
賢者「どうなのですか勇者さん」
勇者「そうだなぁ。オレはこれから先、平和な時間が過ごせればそれで満足だよ」
勇者「そりゃーオレだって帰るべき場所はあるよ? でも、時間を巻き戻される方が嫌なんだよな」
勇者「おかげで魔王との戦いはずいぶん楽になったけど、全部パァになるってのに慣れた訳じゃない」
勇者「なにより『今この場で』語りあっているみんなと別れるのが辛いよ。だから現状が保てるなら、それでいいんだ」
僧侶「勇者様っ……!」
戦士「勇者……お前……もう一回説明してくれ! いいこと言ったんだろうが、よく分からんかった……!」
賢者「分かりました。提案というのは大したことではありません」
賢者「その冒険の書、いっそのこと焼き払ってはいかがでしょうか?」 勇者「!」
賢者「勇者さんは今後再び、時間の巻き戻しが起こる可能性を危惧しているようにみえますが」
賢者「その憂いも冒険の書がいつまでも手元にあるせいかもしれません」
勇者「なるほど……」
賢者「もちろん、冒険の書を抹消することも巻き戻しの引き金だった、などの危険はないとは言い切れませんが」
賢者「少なくとも『今』の冒険の書は、各地の王の反応から分かるように効力を失っています」
賢者「よってさしたる影響はないと私は思います。それは無意味の裏返しですが、試してみる価値はあるかと」
勇者「冒険の書の……抹消。その発想には至れなかったな」
勇者「オレは冒険の書を完結させることばかり考えていたが、こいつはもともと完結し得ない物なのかもしれないな……」
僧侶「勇者様!」
勇者「どうした?」
僧侶「そろそろご飯にしませんか? この島、身体にいい薬草がたくさん生えているんですよっ」
戦士「腹減った! 魚獲ってきた! 食う!」
勇者「ああ……頼む!」
ぼうけんのしょは あとかたもなくもえつきた! ▼
勇者「……何も起こらないな」
賢者「はい。これでループ問題が解決したかどうかは分かりませんが」
僧侶「みなさん出来ましたっ」
勇者「おおっ早いな」
戦士「魚! 焼いた! みんなで食う!」
賢者「先ほど島の周りを軽く調べてみましたが、この気候が続けばしばらくは生活に困らないですね」
僧侶「じゃあこれから皆さんは、そっそのっ……家族ですねっ」
勇者「家族……そういえば賢者も僧侶も孤児だったな」
僧侶「はいっ、だから私、嬉しくてっ」 賢者「家族。遠い言葉です」
戦士「家族!? はっ、俺は今まで一体何を! かあちゃん……」
勇者(……ここで生活していくのに先行きの不安もなさそうだ)
勇者(……本当にこれで終わりなのか……?)
【王の間】
王「ふむ……勇者一行はいまだ帰らぬか……」
兵士「予定の式典はいかがしましょう?」
王「いたしかたない、敢行せよ。後日勇者が報告に参じた暁に、改めて式を執り行えばよい」
兵士「はっ! では……」
王「うむ。皆のもの!」
王「この度は勇者の活躍によりついに魔王は打ち倒され、害悪な魔物なき平和な世が訪れた!」
王「もはや魔王の歴史は終わった! 人の子の勝利に祝福せよ! 勇者を称えよ!」
王「そうじゃ、この大役を果たした勇者を称えよ! そしてその記憶を末代まで刻み続けるがよい!」
ワー ワー ワー 勇者バンザーイ ワー ワー ワー
そして でんせつが はじまった!
・
・
・
THE END
王「ではゆくがよい! ゆうしゃよ!」
勇者「……。……みんな……」
勇者(……直接王様との関わりがなくても、強制的に巻き戻されるのか。結局一日ももたなかった……)
戦士「前から思ってたけど、わざわざ王様の前で冒険の書に記録するのになんの意味があんのかねー」
戦士「だってそうだろ? そんなもん俺らで勝手に書けばいいじゃん」
勇者「それでは意味がないんだ」 戦士「ああ?」
勇者「役目を与えられた者が記録しなければ、冒険の書は機能しない」
僧侶「えっ? 勇者様?」
賢者「……王様が、何者かに役目を与えられているというのですか」
勇者「ああ。そしてオレ達にも役目が与えられている。それを果たしてしまうと、どうあがいても物語は終わってしまう」
戦士「おい勇者! もっと分かりやすく教えてくれ10文字くらいで!」
勇者「まずはやどにむかおう」 戦士「お前そりゃぴったり10文字だけども!」
勇者(燃やしたはずの冒険の書が手元にある。過去の冒険の書なんだから、考えてみれば当然か)
勇者(さて、そろそろ打つ手に窮してきたな……)
【宿屋】
勇者「てっとり早く話そう。実はオレはもう、三度も魔王撃破を経験している」
戦士「は?」 僧侶「えっ?」 賢者「なんですって」
勇者「そしてさきほど王様の前で記録した瞬間をスタート地点として」
勇者「魔王撃破後の(おそらく)王の祝典をゴール地点に時間が巻き戻されるという、ループ状態に遭っている」
勇者「元凶はこの冒険の書だ。このループを脱出するには――」
戦士「ちょちょちょちょっと待て! 完全に意味が分からん!」
僧侶「そ、そうですよっ、勇者様が何を言ってるのか私にはさっぱり……」
賢者「言っていることは理解できますが、話の見通しがありません。根拠となる材料を」
勇者「あ、ああそうだった。すまない、いつの間にか焦っていたみたいだ」
勇者「まずはオレの言っていることを信用してくれ。そのための『呪文』は用意してある」
戦士「呪文ん?」
勇者「ああ。未来のみんながオレに教えてくれた合言葉だ」
勇者「一人ひとり違うから……これから一人ずつ別室にきてくれ。プライバシーは守ろう」
勇者「まずは賢者、お前からだ」
賢者「未来の私が、勇者さんに妙なことを吹き込むほど切羽詰ってなければいいのですが」
勇者「さすがに状況の飲み込みが早いな。だがお前の『呪文』はとびきり妙だぞ」
賢者「どうぞ」
勇者「よし言うぞ……『赤メダパニ青メダパニュ黄ミェダパニュ』」
勇者「すまん間違えたもう一回。『赤メダパニ青メダアパニ黄メダパン』」
勇者「『赤メダパニ青メダパヌ黄メダパム』。『赤メダパニ青メダパニュキメーダパニ』あーくそ!」
賢者「なるほど」
勇者「な、何笑ってんだ! お前からもらったメモは『できるだけ早く』なんて注釈までついてたんだぞ!」
賢者「失礼しました。勇者さんがすでに魔王を倒したという話、確かに信じましょう」
勇者「ど、どういうことなんだ?」
賢者「勇者さんが早口言葉が大の苦手であることを知っている人間も、そう多くはないということです」
賢者「それに普段は凛々しい勇者さんのおちゃめな一面も独り占めできましたし私は満足です」
勇者「な、なんだって? 早すぎてよく聞き取れなかったもう一回」 賢者「では次は僧侶さんを呼んできますね」
僧侶「あ、あのう勇者様。わ、私はどうすれば……」
勇者「『全部で100回』」
僧侶「!!」
勇者「という言葉に心当たりはあるか?」
僧侶「ど、どうしてそれを……正確には96回ですけど……」
勇者「いや。これは未来の僧侶から教えてもらった言葉で、意味までは教えてくれなかったんだが」
僧侶「あ、ああそうなんですねっ。ま、まさか勇者さんも一緒に数えていたのかと思ってびっくりしました!」
勇者「何を?」
僧侶「えっ? ほ、本当に大したことじゃないんですよっ。勇者様のことは信じますので今のは忘れてください」
勇者「気になるからできたら教えて欲しい」
僧侶「ダ、ダメです! そ、その、恥ずかしい……ですから……」
勇者「恥ずかしい96回? ??」
僧侶「ちっ違いますっ! 違いますよっ!! 神に誓ってそういうコトじゃないです!!」
勇者「はあ。もう面倒くさいからいいや」
戦士「おい勇者! 早く魔王を倒しに行こうぜ!」
勇者「いいか。お前だけかしこさが2ケタあるのか不安だからよーく聞け」
勇者「オレはお前の親父の遺言を知っている。なぜなら未来のお前に聞いたからだ」
戦士「未来の俺……?」
勇者「『魔王に初めて傷を与える男になれ!』」
戦士「お……おおお!」
戦士「おおおおおおお! なんでお前がそれを知っているんだ!?」
勇者「お前に教えてもらったからだ。いいな、これからオレの言うことは全て信じろ。そして」
勇者「大人しくしていてくれ。事態は深刻だ。くれぐれも邪魔をしないよーに」
戦士「そんなわけに行くか! 魔王を倒さねーとお袋に合わせる顔がねーよ!」
勇者「……お前30万ゴールドもありゃ暮らしに困らないって、お袋のか?」
戦士「な、なんだそりゃ? そりゃそんだけの金がありゃラクできるだろうけどな!」
勇者「そうか。……待ってろ。すぐにその生活、叶えてやるからな」
戦士「あたりめーだ!」
勇者「――というわけなんだ」
賢者「時の保存書……」
僧侶「そんな……いくら頑張っても時間が巻き戻されるなんて……」
戦士「やっぱり理解不能だったぜ!」
勇者「巻き戻しの条件は一つ。オレたちが魔王を倒すこと」
勇者「いや、たぶん正確には違うな。俺たちがこの物語の、役目を終えることだ」
僧侶「物語? なんだかロマンチックですね」
賢者「王の時も少し話しましたが、その役目を与えているものというのは何者なのでしょうか?」
勇者「分からない。分からないが――オレたちの概念を遥かに超越した存在だ」
僧侶「……神……でしょうか?」
勇者「さあな。けれど、僧侶が崇拝しているような存在とは別のものだと思う」
勇者「支配者……いや……創造主……?」
勇者「とにかくそれが定めた縛りがある限り、このループから抜け出すことはできない」
戦士「Zzz」
勇者「この通り効果はなかった。だから今回はこの冒険の書を」
勇者「『魔王を倒す前』に燃やそうと思うんだが、どう思う? 賢者」
賢者「そうですね……時の保存書としての効力は残っているとはいえ、やはり同じ結果になると思います」
賢者「いくらこの時点で冒険の書を抹消しても、過去の記録がある以上は巻き戻しの呪縛は解けないでしょう」
勇者「オレもそう思う。だから今回は、そこからさらに一歩進めてみようと思う」
賢者「といいますと?」
勇者「その前にまず、もう一度冒険の書に記録をしよう」
僧侶「またお城に戻るんですか?」
勇者「ああ。今まで単に機会がなかったが、みんなの信用を得た『今』を記録すれば、今後同じことをする手間が省けるからな」
賢者「――しかしながら、勇者さん視点でしか本質を理解できないセリフですね。我々には未知の領域です」
僧侶「そ、そうです。私たちはまだ、魔王に会ったことすらないんですよ?」
勇者「大丈夫、なんとかなる。それにしてもこのギャップにも大分慣れてきたな」
勇者「よし起きろ戦士。もう一度城に行くぞ。ほら!」
戦士「ぶあっくしょおおおい!」 勇者「いいからもう」
王「――そなたらの たびのせいかを この ぼうけんのしょに きろくしても よいかな?」
勇者「はい」
王「……」
王「しかと きろくしたぞよ」
王「どうじゃ? また すぐに たびだつ つもりか?」
勇者「いいえ」
王「では しばし やすむがよい! また あおう! ゆうしゃよ!」
勇者「お休みなさいませ」
勇者「これでよし。宿屋で一晩明かして明日魔王を倒すぞ」
戦士「え? 終わり? 何しにきたの!?」
賢者「やはり当事者でなければ、意味のある行為には見えませんが」
僧侶「勇者様のすることにきっと間違いはありませんよっ」
勇者(だといいんだけどな……)
ゆうしゃは メラを となえた! ▼
ぼうけんのしょは あとかたもなくもえつきた! ▼
勇者「よし」
戦士「おおおおおいおいいいのかよこれえええ」
僧侶「う……分かってはいましたが、今までの冒険の足あとがこんな簡単に……」
賢者「勇者さん。先の勇者さんの話も織り込み済みで言わせていただきますと」
賢者「私たち視点では、勇者さんがいきなり訳の分からない理由で冒険の書を燃やしたようにしかみえないのですが」
勇者「『永遠に平和な日々を過ごせない』リスクと天秤にはかけられない。どうかここはオレを信じてくれ」
僧侶「し、信じます!」
賢者「勇者さんがそこまで言うのなら」
戦士「もう俺には訳が分からんよ!」
勇者「さて……寝るぞ! 明日は決戦だ!!」
戦士「そうそれ! そういう分かりやすい流れにしてくれよ!」
勇者(……効力のあるうちに冒険の書を抹消……果たしてこれで『何者か』の呪縛を解いたことになるのだろうか……)
勇者「おはようみんな、準備はいいか」
僧侶「いつでもオーケーですっ」
賢者「特に異常は」
戦士「眠い! 寝不足だ! だが気合でカバーできるぜ!」
勇者「よしいざ出陣だ」
ゆうしゃは ルーラをとなえた! ▼
【魔王城城門】
勇者「よしちゃっちゃか行くぞ、すぐやるぞ」
賢者「昨晩勇者さんがまくし立てたデータが真実であれば、魔王など軽く丸腰ひねるがごとしですが」
僧侶「神よ、どうか我らにご加護を……」
戦士「う~ん眠い! だが! 気合でカバーできるぜ!!」
勇者「よし、みんな行くぞ!」
勇者(うまくいかなかったときの時間のロスが精神的に惜しい。今回は最速タイムを弾き出すつもりでいこう!)
勇者「あと一発! これで終わり!」
ゆうしゃの こうげき!
まおうに ××のダメージを あたえた!
まおうを たおした!! ▼
真魔王『ぐおおおっ。おのれにんげんどもめ。だが このからだくちようとも――』
勇者「よし、城に帰るぞ!」
賢者「魔王がまだなにか言ってますが」
勇者「後で聞かせてやる、すぐに帰還だ」
僧侶「えっ……終わっ……えっ? えっ?」
戦士「ん……んん!? 倒した? もしかしてもう倒しちゃったのか? っしゃあああああ!!」
賢者「我々のここまでの苦労をあざ笑うかのような瞬殺っぷりでしたね」
僧侶「勇者様の天才的な指示の賜物です!」
戦士「っしゃあああ勇者最高! ってどうした勇者! もっと喜べよ!!」
勇者「いいから帰るぞ! 王に会いにいく!」
戦士「なにイライラしてんだよ!」 勇者「もう飽きたんだよ!」
【王の間】
王「ゆうしゃよ よくぞ だいまおうを たおした!」
王「こころから れいを いうぞ! そなたこそ まことの ゆうしゃ!」
王「そなたのことは えいえんに かたりつがれてゆくであろう!」
戦士「よっしゃー凱旋だー!」
賢者「展開が早すぎて順応に時間がかかります」
僧侶「あ、あの勇者様……勇者様?」
勇者(……さて、果たして呪縛は解かれているか?)
勇者(どうなる? これでダメだったら……)
そして でんせつが はじまった!
・
・
・
THE END
王「よくぞ もどった!」
王「ではゆくがよい! ゆうしゃよ!」
勇者「…………」
僧侶「勇者様?」
戦士「どうした勇者ぼーっと突っ立って!」
賢者「……この、今の地点に巻き戻されたのですか?」
勇者「……ああ……」
僧侶「え? い、今、戻ってきたんですか?」
勇者「……ああ。四回目の、魔王討伐を、終えたところだ」
戦士「何言ってんだ、魔王はこれから倒しに行くんだろ!」
勇者「…………」
勇者(効力がある状態の冒険の書を抹消しても、過去の冒険の書の記録がある限り、全て無意味……)
勇者(残している手段は……)
勇者(気が進まないが……他に試す手も思いつかない……)
ぼうけんのしょは あとかたもなくもえつきた! ▼
戦士「あっ!?」
僧侶「えっ!?」
賢者「!?」
勇者「王様」
勇者「もう一度、冒険の書に記録をお願いします」
僧侶「ちょ、ちょっと勇者様何を言って……」
戦士「おいコラ! 気でも狂ったのかよ!」
賢者「皆さん、ここは勇者さんに任せましょう」
勇者「……」
勇者(冒険の書を消滅させた上で、王に冒険の書の記録を要請……)
勇者(これがどうなるのか少し気になっていた)
勇者(解決策とは思えないが、何か手がかりくらいは掴めるかもしれない……)
勇者「お言葉ですが王様、冒険の書はもうこの世にありません」
王「――そなたらの たびのせいかを この ぼうけんのしょに きろくしても よいかな?」
勇者「いえですから、冒険の書は」
賢者「勇者さん、様子が!」
王「この ぼうけんの しょ にに に 」
戦士「おい勇者、こいつぁ いうこ ん よ !」
僧侶「 者 様 」
勇者(そ、そうか……本来あるはずのアイテムがないために、王は与えられた役目を果たせない!)
勇者(ルールに露骨に干渉したことで、世界を保つ歯車が狂ってしまったのか!? れ は もう わりなの ?
王「ゆう 111111111111
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絶望感パネェ
―――――――――――――――――――――――――――――――
―――――――――――――――――――――――――――――――
―――――――――――――――――――――――――――――――
プツン
王「よくぞ もどった!」
王「ではゆくがよい! ゆうしゃよ!」
勇者「!?」
勇者「……た、助かったのか……?」
僧侶「勇者様! ど、どうしたのですか!? 顔が真っ青です!」
戦士「いきなりに貧血でフラつくたぁ勇者らしくねーぜ!」
賢者「勇者さん、大丈夫なのですか」
勇者「…………みんな」
勇者「すまない」
勇者「分からない」
勇者「さっぱり分からないんだ」
勇者「どうあがいてもこのループから抜けられない。頭がおかしくなりそうだ」
勇者「平和な日々が目の前に吊り下げられてるのに、いくら手を伸ばしてもつかめないんだ」
勇者「オレは、いやオレ達は永久に……役目を超えた世界に落ち着くことを……許されないんだ……」
僧侶「え……今夜は解散ですか?」
賢者「冒険の書の攻略は?」
勇者「……今日はもういい。今、わりと精神的に参っているんだ。少し休ませてくれ……」
僧侶「勇者様、大丈夫ですか? 本当に顔色が悪いですよ……」
勇者「一晩休めば大丈夫だ。ほら、みんなも疲れただろ。今夜はもう寝よう」
勇者「って言う前に寝てる奴もいるけどな」
戦士「Zzz」
勇者「明日は……予定通り魔王戦だ。それに備えてしっかり体力を回復しておくように」
勇者「以上、解散。おやすみ」
賢者「……分かりました。勇者さんがそう言うなら」
僧侶「あ、あの! なにか気分が悪くなったりしたらいつでも私を起こしてくださいね!」
僧侶「私、すぐに飛び起きますから!」
勇者「ありがとう。だけど大丈夫だ。心配いらない。大丈夫だから……」
勇者「……今日はもう……休ませてくれ……」
勇者「…………」
勇者(この世界は誰かが創ったものだ。それはいわゆる神とか創造主とか、通俗的で漠然としたものじゃない)
勇者(何者かは分からない。どこにいるのかも分からない。もちろん目的だって分からない)
勇者(ただ、オレみたいな『駒』なんかでは抗えないような強固なルールを敷いている)
勇者(魔王を倒す……つまりこの世界での最後の役割が果たされると、強制的に『終わる』)
勇者(終わったあとは……最後に冒険の書に記録した時点からの、再スタートになってしまう)
勇者(この事実に気がついているのは、おそらくこの世界でオレだけだ。なぜか。……いや今はそんなことはいい)
勇者(オレしか気がついてないなら、オレが何とかしなければならない。世界を真の平和に導くために)
勇者(しかし……どうやって……明日だって何をすればいいのか、まだ見通しもついていない……)
勇者(もう一度魔王と戦って……何が得られるのか……)
勇者(とりあえず明日考えよう……今は眠って頭をすっきりさせないと……)
勇者「…………」
勇者(…………)
勇者(眠れない)
僧侶「スー スー 」
勇者(よく眠っているな)
勇者(僧侶はいつもオレのことを気にかけてくれるんだよな)
勇者(そしていつもオレのことを勇者「様」だなんて呼んでるけど)
勇者(オレはそんな大層な器じゃない。現にこの世界一つ救えてないからな)
僧侶「……ん……勇者様……」
勇者(!)
勇者(ど、どんな夢見てるんだろうな!)
僧侶「スー スー 」
勇者(……)
勇者(そういえば僧侶のキーワードだった『100回』……いや96回って何の数だったんだろう)
勇者(オレが一緒に数えてるかと思ったとか言ってたけど)
勇者(オレと僧侶が一緒に数えられて、かつ今まででそのくらいの回数のものといったら……)
勇者(思いつかないな! ……まあ……いいか別に……)
勇者「んっ?」
賢者「勇者さん。まだ起きてらしたんですね」
勇者「賢者の方こそ。こんな時間まで何をやっているんだ」
賢者「冒険の書について考えていました」
勇者「えっ?」
賢者「いえ。勇者さんをそこまで憔悴させるという難題に興味がわきまして」
勇者「そうか。でも賢者は一度もループを体験していないはずなのに、考察できるのか?」
賢者「もちろん全て想定です。勇者さんの話を鵜呑みにした上で考え込んでいました」
勇者「そうか。で、塩梅はどうだ?」
賢者「……私の考えですと、勇者さんの言うループから解放されるには」
賢者「やはりカギであるその冒険の書を、『完結』させるか『消す』かのどちらかしかないと思います。そして」
賢者「未だそのどちらも、具体的な方法が思いつきません。やはり難しい。役に立たず申し訳ありません」
勇者「とんでもない。一緒になって考えてくれるだけでも心強いよ」
賢者「そう言ってくださると幸いです」
勇者「なぜ?」
賢者「シャクだからですよ。高みから定められた運命のままに流されるなど、我慢なりません」
賢者「相手はあるいは万物の神かも分かりませんが、少なくとも冒険の書というギミックに関しては一矢報いたいところです」
勇者「はは。賢者は冷静に見えて、結構根に持つタイプなんだな」
賢者「それはあなたも同じではないですか? 勇者さん」
勇者「ああその通りだ。オレもどちらかといえば、冒険の書を『呪縛』ととっている」
勇者「何度も何度も同じこと繰り返す羽目になって、いったい何人の」
勇者「何人の仲間たちと別れざるを得なかったというんだ」
賢者「……」
勇者「冒険の書は、『消す』。まずはその方針で思いつく限りの総当たりをかけてみよう」
賢者「はい、私もできる限りの助力に努めます。何かあったらいつでもご相談を。……では、私はそろそろ眠ります」
勇者「賢者。お前なりの気遣い、確かに受け取った。ありがとうな」
賢者「別に私はただ。……いえ」
賢者「どういたしまして。おやすみなさい、勇者さん」
戦士「ふんっ! ふんっ!」
勇者「どこにもいないと思ったら、こういうことだったのか」
戦士「ぬっくせもの!」
勇者「うわっ! バカ、オレだ!」
戦士「ぬううこやつできる! ん、待て今の声は!」
勇者「お前な。決戦前ぐらいしっかり休んでろよ」
戦士「おい! 勇者じゃねーか! おい!」
勇者「だから筋肉痛になったり風邪引いたり寝不足になったりするんだよバカ」
戦士「いやー明日がついに最終決戦だと思うと、身体を動かさずにはいられなくてな!」
勇者「気持ちは分からんでもないが、お袋に孝行してやりたいんだろ? なら、なおさら無理をしちゃダメだ」
戦士「そうか……そうだな! なら寝るか! あと少し魔物を倒したらな!」
勇者「しょうがない熱血バカめ。……行くぞ。少しだけ付き合ってやる」
戦士「お? おおう! それでこそ俺の認めた男!」
勇者(身体動かしたら、少しは寝つきもよくなるだろ。それにしても戦士のヤツめ、なかなか憎めないぜ)
勇者「あいよ」
戦士「わらわら出やがってこの! 一撃! この!」
勇者「戦士うしろだ」
戦士「痛っ! この! 跳ね回りやがって! そらカウンターだ!」
勇者(昔はこんなスライム集団にも苦戦させられていたな……)
戦士「勇者! スライムは飛び上がっているときが絶好のチャンスだ! この!」
勇者(そうそう、戦士がそれを教えてくれるまでは、ただがむしゃらに追いかけてたな)
戦士「どりゃ! どりゃ!」
勇者(スライムは飛び上がっているときが無防備だから、その瞬間を見定めれば……)
勇者「…………」
戦士「魔物の群れを! やっつけたぜ! よし次行こうか!」
戦士「ん? どうした勇者! この調子でレベル上げるぞ!」
勇者「戦士」
勇者「お前のおかげで、この世界は救われるかもしれない」
――
戦士「だーかーら! 今日は魔王を倒しに行くんじゃなかったのかー!?」
勇者「まー待て。これがうまくいけば魔王は倒しにいくさ」
賢者「勇者さん。その顔は何かつかみましたね」
勇者「ああ」
僧侶「えっ? 賢者さん? えっ?」
勇者「……」
勇者(スライムが一直線にピョンピョン飛び跳ねて、進んでいくイメージ)
勇者(スライムを冒険の書に見立てると、着地ごとに新しい記録を刻んでいく)
勇者(呪縛を解くために、オレはそのスライムを倒さなければならないが、とどまっているスライムをやっつけようとしても)
勇者(直前にいた場所に一歩引っ込められて倒せない。まあ厳密には違うが)
勇者(肝心なのは、スライムを確実に仕留めるには、飛び跳ねている瞬間を攻撃すればいいということ)
勇者「王様」
勇者「冒険の書に記録をお願いします」
勇者「はい」
王「 」
勇者「ここだ」
ゆうしゃは メラを となえた! ▼
冒険の書は 跡形もなく燃えつきた!!
王「のわっち!!」
兵士「何をする!!」
勇者「王様。冒険の書を記録をお願いします」
王「ぼ、冒険の書? なんじゃそれは! ワシはそんなものは知らぬぞ!」
勇者「王様、まだ魔王は倒されていないのですよ。冒険の書の記録をお願いします」
王「わ、訳の分からぬことを言うない! それよりいきなりメラを放つとはワシが何かしたか!?」
勇者「……あの時のように世界が狂ったりしない」
勇者「冒険の書という概念が存在しなくなったからだ」
勇者「……多分、これが唯一ループを脱出する方法だったんだ……」
賢者「勇者さん、つまりどういうなのでしょうか」
勇者「つまり……時の保存書で新たに記録を上書きする瞬間だ」
勇者「最後に記録した時点と、新しく記録する時点の境目ということは、すなわち……」
賢者「なるほど。どこにも時間を保存する点が存在しない可能性がある」
僧侶「宙ぶらりんの状態というわけですね?」
勇者「そこを射抜く。その瞬間もし、賢者の言うとおり時の保存点が存在しなかったとしたら、どうなる?」
賢者「『過去の冒険の書』という存在もありませんから……おそらく因果関係は断ち切られ、完全にこの世から消滅しますね」
勇者「そう、完全に呪縛から解き放たれる。だからあの時みたいに世界がおかしくなったりしなかったんだ」
賢者「あの時?」
勇者「ああいやこっちの話だ。それより、後は魔王を倒しに行くだけだ」
戦士「それ! それだよ! やっと俺にも分かる言葉が出てきた!」
僧侶「ま、魔王を倒しに行くだけ、ですか。私たちはまだ会ったこともないのですが……」
勇者「大丈夫だ、もう何度も戦って勝っている。あとは消化作業みたいなもんさ」
勇者「やっとこれで……平和が訪れる……」
【魔王の間・扉】
勇者「よしよし、あとは楽勝だ」
賢者「気楽そうですね」
勇者「事前に渡した魔王のデータ、確認したろ? 取るに足らない相手だよ」
僧侶「わあ、頼もしいですっ」
戦士「どんな相手だろうと全力でぶっつぶすのみ!」
勇者「はいはい、魔王への初撃はくれてやるよ」
戦士「この野郎!」
賢者「勇者さんの言うとおりでしたら願ったりの展開ですが……少し気がかりが」
勇者「何がだ?」
賢者「冒険の書はこの世から消えてしまいましたが、もしそのお陰で本来守られている一面があったとしたら」
勇者「大丈夫だって考えすぎだろう」
僧侶「ではこの扉、開けちゃいますよう?」
勇者「よーしやるか! 本当の最終決戦!!」
魔王『……』
勇者「魔王!」
魔王『……お前は何者だ?』
勇者「えっ? 勇者に決まっているだろう! お前を倒しにきたんだ!」
魔王『勇者……勇者よ。余は何者だ?』
勇者「!? お、お前は魔王じゃないのか?」
魔王『魔王? 余は……魔王……。魔を統べる王……。……そうか……。……』
賢者「勇者さん、どうも様子がおかしくありませんか?」
僧侶「ど、どうなっているのでしょう?」
戦士「魔王め!」
勇者「ま、待て! そうか……冒険の書がなくなった影響か……」
魔王『余は……魔王。魔王。魔王!!』
魔王『そうか。余は魔王なのだな! 余は、魔族の王!! 魔族に仇なす人間共を滅ぼす魔王!!』
勇者「やっぱりこうなる流れか! みんな、戦闘体勢だ!」
戦士の攻撃!
魔王は剣を受け止めた!
勇者「なっ!?」
戦士「く、くそっ、放しやがれ!」
魔王『この漲りゆく力は、人間を滅ぼすためのものか!』
魔王の攻撃!
戦士は衝撃とともに壁に叩きつけられた!
戦士「がっはっ」
僧侶「か、回復を!」
勇者「な、なんだこいつは……! オレの知っている魔王じゃないぞ!」
賢者「勇者さん、指示を!」
勇者「くそっ! 賢者はバイキルト、僧侶は回復を軸にフバーハを! 戦士、立てるか!」
戦士「たりめーだ! こんくらいで!」
勇者「みんな集中しろ! 全力でかかるぞ!」
最終形態より上じゃないか
賢者はバイキルトをとなえた!
魔王『余は魔王……余は……』
魔王の指先から凍てつく波動がほとばしった!
魔王は呪文の効力を全て消し去った!
魔王『余の意義を全うするのみ!』
魔王はこごえる吹雪を吐いた!
魔王ははげしい炎を 吐いた!
魔王はイオナズンを唱えた!
戦士「うおおおっ!?」
僧侶「きゃっ!」
賢者「くっ」
勇者「バ……バカな……僧侶、回復はいい、補助を!」
勇者はベホマズンを唱えた!
パーティーの体力が回復した!
勇者(まるで枷が外れたような強さだ……これが本来の魔王の力なのか!?)
勇者「ひるむな! 戦士は攻撃、僧侶は回復、賢者は補助を軸に立ち回れ!!」
勇者「待て戦士! 今はうかつに飛び込むな!」
魔王『余は魔王……絶対の覇者……』
魔王の攻撃! 戦士はダメージを受けた!
魔王の攻撃! 戦士はダメージを受けた!
魔王の攻撃! 戦士はダメージを受けた!
勇者「戦士!」
戦士「ぐぼっ! こっ、これしきでこの野郎おおおおああああっ!」
戦士の攻撃! 魔王にダメージを与えた!
魔王『ぐおっ!? ……余に……傷がっ……!!』
戦士「みっ見てるか親父! あんたの息子はバカだけど、遺言くらい守れるんだぜ!!」
勇者「戦士」
戦士「ほら勇者お前も加勢しやがれ! 二人で一太刀ずつ浴びせるんだよ!」
勇者「ああっ! 僧侶、回復を頼む!!」
僧侶「は、はいっ!」
勇者(戦士……もしかすると、今やお前の方が勇者なのかもしれないな)
戦士の傷が回復した!
魔王『癒しの術……あの小娘か!』
魔王の攻撃!
僧侶「あっ……」
勇者「危ない!!」
勇者は僧侶をかばった! 痛恨の一撃!
勇者は大ダメージを受けた!
僧侶「勇者様!」
勇者「ぐっ……下がれ……回復だ……」
僧侶「は、はい! あ、あのっありがとうございます!」
勇者「今はそんなことはいい、早く陣形を整えろ!」 僧侶「は、はい……」
僧侶はベホマを唱えた! 勇者の傷が回復した!
勇者「……なぁ。これで97回目なんだろ?」
僧侶「えっ?」
勇者「行くぞ戦士、援護しろ! 賢者はそのまま補助を徹底! ここから押し返すぞ!!」
魔王はこごえる吹雪を吐いた!
魔王ははげしい炎を吐いた!
魔王はイオナズンを唱えた!
魔王の攻撃!
魔王の攻撃!
戦士「ぐあああっ!!」
勇者「くそっ規格外の猛攻だ……今まで戦ってきた魔王はなんだったんだ……」
賢者「規格内の魔王だったんですよ。勇者さん視点では、さしずめ冒険の書の亡霊といったところでしょうか」
賢者はベホマラーを唱えた!
パーティーの体力が回復した!
賢者「ですが勇者さん、好機です。いま魔王は攻撃ばかりに専念しており、凍てつく波動を使ってきません」
賢者はバイキルトを唱えた!
勇者の攻撃力が2倍になった!
賢者「勇者さんの知らない未来を勝ち取るのでしょう。後方支援は任せてください」
勇者「賢者」
賢者「大丈夫です。勇者さんには私がついています」
勇者「……ああ! やっぱり賢者は最後まで頼りになる!!」
魔王はこごえる吹雪を吐いた!
魔王はイオナズンを唱えた!
魔王はイオナズンを唱えた!
魔王ははげしい炎を吐いた!
魔王の攻撃! 魔王の攻撃!
僧侶はベホマラーを唱えた!
賢者はベホマラーを唱えた!
勇者の攻撃!
戦士の攻撃!
勇者の攻撃!
――
魔王『おお……おおおお……』
戦士「ハァ……ハァ……見ろ! 魔王のヤツ、息が上がってるぜ!」
僧侶「お、終わりが近いのでしょうか……」
賢者「しかし我々も消耗しています。魔力もアイテムもジリ貧です」
勇者「ここが正念場だ! 今までのペースを崩すな!」
勇者(そう、ここで倒れたら……全滅したら……おそらくもうオレ達に再起の機会はない)
勇者(オレ達も……世界も終わりだ。何としてもこの場で果たし遂げなければならない!!)
勇者「うおおおおおっ!!」
勇者の攻撃!
会心の一撃!!
魔王を倒した!!
魔王『ぐおおおおおおおオオオオオオ!!』
勇者「や、やった!」
僧侶「……終わったのですね。私たち、本当にやりとげたんですね!」
戦士「っしゃあああ! これで世界が救われたぜ!!」
賢者「間違いなく今まで遭った中で最大の強敵でした。しかしこれで」
魔王『グオオオオオオオ! オノレ……ニンゲン……余ハ……余ハ……』
魔王『余ハ……何ノ為ニ……余ハ……』
勇者「!? ま、まずい! 戦士、一緒に追撃だ! 形態が変わる前に――」
魔王『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!』
魔王の姿が変貌していく!!
僧侶「そ、そんな……」
賢者「も。もうほとんどアイテムも残っていません」
*『……人間共め……もはや微塵も容赦はせぬ……』
真・魔王が現れた!!
真魔王『勇者! お前だけは全力で屠ってやろうぞ!!』
真魔王『出でよ我が眷属たち! 全霊をもってかかれ!!』
真魔王は仲間を呼んだ!
魔物の群れが現れた!
魔物の群れが現れた!
魔物の群れが現れた!
魔物の――
戦士「……う、うそだろ……なんつー数だ……」
賢者「勇者さん。どうしますか。勇者さん」
勇者「……馬鹿な……冒険の書は正しかったというのか……」
僧侶「……。…………皆さん」
僧侶「私が後ろの扉の結界を破ります!」
戦士「!」
賢者「確かに、一か八かの逃げに賭けるしか!」
勇者「分かった! 僧侶、頼んだぞ! 残った三人は応戦だ!」
真魔王『おおお……力が……力が溢れてくる……来るがよい!!』
戦士「言われなくてもそのつもりなんだよ!」
戦士の攻撃!
真魔王は剣を受けとめ、その刃を折った!
戦士「なーっ!?」
真魔王『くだらぬ……』
真魔王はかがやく息を吐いた!
真魔王の攻撃! 真魔王の攻撃! 真魔王の攻撃!
戦士「げふっ……バカ……強すぎんだろ……」
戦士は死んでしまった!
勇者「戦士! くそおおっ!!」
賢者「くっ。とてももちません」
勇者「く、くそっ! 僧侶! まだか!?」
僧侶「まだです……いま……私の持ちうる全ての魔力を注いでいます……」
勇者「必ず開けてくれ! 賢者、僧侶の援護はできないのか!」
賢者「負の魔力に満ちた扉です。聖なる力に長けた僧侶さんの方が適しています」
賢者「そう。僧侶さんの方が――つっ」
勇者「賢者! 待ってろ、いまベホマを」
賢者「いりません。勇者さん。伏せてください」
賢者はメガンテを唱えた!
自己犠牲の爆発が 魔物の群れを一掃した!
賢者は死んでしまった!
真魔王『小癪な真似を!!』
勇者「賢者! 賢者! く、くそ、もう世界樹の葉がない!」
僧侶「勇者さん……け……結界が解けました……」
勇者「!!」
僧侶「私はいいです……もう、疲れました。……勇者様だけでも……勇者様……」
勇者「ふざけるな! 背負ってでも連れていくからな!」
真魔王『勇者よ。どこへ行く』
真魔王『この魔王の間を、この魔王城を、この世界から逃げられると思ってか?』
勇者「くっ……」
真魔王『絶望せよ。お前の長い旅もここで終わりだ。我が魔力によって滅びるがよい』
勇者「う……くそ……」
勇者(今思えば冒険の書のお陰で、魔王はオレ達が打倒し得る強さに抑えられていたんだ……)
勇者(……やはり冒険の書を消し去ったのは間違いだったのか……?)
勇者(オレは延々とループに飲み込まれていた方が正しかったのか……?)
勇者(平和な日々を得たいなんて……高望みだったのか……?)
真魔王『終わりだ。永遠の眠りにつくがよい』
勇者「あ……――」
魔王の間の扉が開かれた!
勇者「!?」
兵団「「うおおおおおおおっ!!」」
兵士の集団がなだれこんできた!
兵士の集団がなだれこんできた!
兵士の集団がなだれこんできた!
兵士「魔王だ! 勇者殿もいるぞ!」
兵士「魔王を倒せ! 勇者殿をお助けしろ!!」
隊長「勇者殿! ご無事ですか!?」
勇者「こ、この軍勢は……」
隊長「我々は王に派遣された者です!」
隊長「我々のみならず世界各地の兵団が、続々と勇者殿の応援へと駆けつけております!」
兵士「魔王は、地上に住まう全ての人々の仇敵です!」
隊長「『勇者が魔王を討ち果たす』という伝承など、誰のどんな権限で決め付けられたのでしょうか!」
兵士「勇者殿に丸投げするわけにはいきません! 我々も戦います!!」
戦士「勇者!」
賢者「勇者さん!」
僧侶「勇者様っ!」
勇者「みんな! 生き返ったのか!」
隊長「蘇生や魔力回復などの貴重な道具を、数多く持ち寄りました! 優秀な人材も集結しております!」
隊長「さあ勇者殿! まだ力を振り絞れるなら、我々と共に――」
兵士「ぐあああああああっ!」
隊長「!?」
真魔王『何ゆえ……何ゆえにお前達は、己が使命を見出せるのだ……かくも克明に……』
勇者「魔王っ……!」
真魔王は仲間を呼んだ!
魔物の群れが現れた!
魔物の群れが現れた!
魔物の群れが現れた!
隊長「増援だ! 迎えうてーっ!」
\オオオオオオオーッ/
勇者「オレ達は本命を叩くぞ! 仲間を見失うなよ!」
戦士「おおっ!」
僧侶「はいっ!」
賢者「まずは陣形を固めましょう。いったん補助呪文をかけ直します」
勇者(まさかこんな流れになるとは思わなかったが……これで負ける気がしない!)
真魔王『余は倒れる訳にはいかぬ……余という存在ある限り……』
真魔王はベホマを唱えた! 真魔王の傷が回復した!
真魔王は仲間を呼んだ! 魔物の群れが現れた!
真魔王は仲間を呼んだ! 魔物の群れが現れた!
勇者「それがどうした! みんなこれが最後だ、全力で行くぞっ!」
真魔王は仲間を呼んだ!
魔物の群れが現れた!
魔物の攻撃!
兵士の攻撃!
兵士の攻撃!
勇者の攻撃!
戦士の攻撃!
真魔王の指先から凍てつく波動がほとばしった!
賢者はバイキルトを唱えた!
僧侶はフバーハを唱えた!
兵士は倒れた!
魔物を倒した!
兵士の攻撃!
真魔王はかがやく息を吐いた!
真魔王の攻撃!
真魔王はイオナズンを唱えた!
勇者はベホマズンを唱えた!
兵士の攻撃!
魔物の攻撃!
魔物を倒した!
賢者は祈りの指輪を使った!
僧侶はスクルトを唱えた!
魔物の攻撃!
兵士の攻撃!
真魔王はかがやく息を吐いた!
真魔王はかがやく息を吐いた!
戦士の攻撃! 会心の一撃!
賢者はベホマラーを唱えた!
勇者の攻撃! 会心の一撃!
真魔王『余は……解せぬ。何もかも……』
戦士の攻撃!
戦士の攻撃!
真魔王『余は……何ゆえここに在るのか……』
賢者は○○を唱えた!
賢者は○○を唱えた!
真魔王『我が魂は……永遠に……不滅……なのか……?』
僧侶は○○を唱えた!
僧侶は○○を唱えた!
勇者「うおおおっ!!」
勇者の攻撃!
会心の一撃!!
真魔王『ぐ……愚問か……ふっ……不思議なものだ……何も……』
真魔王『何も感じぬ……感じられぬ…………』
真魔王を倒した!!
兵士「見ろ! 魔王が! 勇者殿が魔王を討ちとったんだ!!」
兵士「勝った! 我々は勝ったんだ!!」
\オオオオオオオーッ/
僧侶「……今度こそ、終わったのですね。私たち……今度こそ本当にやりとげたんですね!」
戦士「っしゃあああ! これで本当に世界が救われたぜ!!」
賢者「生涯使うつもりはなかった自己犠牲呪文を私に使わせるほどの難敵でした」
僧侶「勇者様! 勇者様! ああ……本当によかった……」
戦士「っしゃあああ勇者最高! ってどうした勇者! もっと喜べよ!!」
勇者「……賢者」
賢者「はい」
勇者「魔王は……『冒険の書の亡霊』なんかじゃなかったさ」
勇者「魔王もまた『犠牲者』だったんだ。あんな目には遭ったけど、全てが終わった今となっては……」
勇者「世界中の誰もが喜んでも……オレだけはヤツに同情するよ」
【王の間】
王「勇者よ! よくぞ魔王を倒した!」
王「心から……心から礼を言うぞ! そなたこそ真の勇者じゃ!!」
王「そなたのことは、人々の間で永遠に語り継がれてゆくであろう!!」
王「さて、今宵は盛大な祝賀を開こうぞ! 勇者への褒美もすでに考えておる!」
勇者「恐れながら王様」
王「ぬ?」
勇者「この度の褒賞は、わたしの仲間と、魔王城へ攻め入ったすべての兵士に分け与えください」
勇者「わたしめには僭越ながら、たった一つの望みさえ叶えて下されば結構です」
王「な、なんと。申してみよ」
勇者「はい。一日も早く国を発展させ」
勇者「新たな発見を重ね、学術を深め――世の文明を次なる域へと進めてください」
勇者「それが今におけるわたしの、生涯の望みへと繋がります。どうかなにとぞ、お願いします」
王「なんと無欲な! そなたの望み、しかと聞き入れたぞ! 何か困ったことがあればいつでも申すがよい!」
勇者(そうだ。魔王を倒したことで、また新たな目的ができた)
勇者(『冒険の書』)
勇者(結局不透明のままだ。このままオレの中だけの過去に埋もれるのは気に入らない)
勇者(人に役割を与える? いたずらに時間をループさせる?)
勇者(魔王討伐後に共に過ごした、別の未来の仲間たちはどうなった? 魔王の無念は蚊帳の外か?)
勇者(神のつもりか。もしくは神そのものなのか。どちらが相手でも、このまま収まらせる訳にはいかない)
勇者(必ず)
勇者(その正体を暴いてやる)
勇者(たとえ途方もない年月をかけても――)
戦士「あーっ、見つけた! 勇者ーっ!」
僧侶「勇者様!」
賢者「勇者さん」
勇者「みんなっ? もう祝賀会は始まってるはず……」
勇者「ええっ」
賢者「まだやることが残っているのでしょう。決して邪魔はいたしません、どうか私もお供を」
勇者「ええっ」
戦士「悪いが俺は、これからお袋を助けにゃならんからついていけねえぜ!」
勇者「ええっ……あ、それでいい。それがいい」
戦士「だが、困ったときはいつでも頼ってくれ! 俺たちは生涯の仲間だぜ!」
勇者「ええっ」 戦士「なんでだよ!」
僧侶「勇者様、会場に戻りましょうっ。みんな待っていますよっ」
賢者「私も賛成です。例えば、何かを大衆に伝えるとするなら、今が好機ではないですか?」
勇者「……そうだなぁ」
勇者「とりあえずしばらくは、念願の平和な世界に落ち着くとしようか」
TRUE END
おつ!
おもしろかった!!
最高だったぜ。久しぶりに清々しい気分になれた
めちゃめちゃ面白かったです!
バグが怖かったが完結して良かったぜ!
乙
Entry ⇒ 2012.04.03 | Category ⇒ 勇者魔王「」SS | Comments (0) | Trackbacks (0)
魔王「世界の半分をお前にやろう」側近「全部ください」
http://hayabusa.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1333149378/
側近「全部ください」
魔王「え?いや……でも私が支配したらって話で……全部はちょっと……」
側近「全部です」
魔王「私の力あっての支配であって……その……」
側近「魔王様の支配?魔王様が何かしましたか?」
魔王「え」
側近「玉座で高笑いしていただけではないですか」
魔王「そ、それは……だって……魔王ってそういうものだし……私には支配する権利が……」
側近「権利?でしたらそれは私にあるのではないですか?」
魔王「え」
側近「いつも魔王様を起こしたり、ご飯用意したり、お世話をしてるのは誰ですか?」
魔王「それは側近だけど……でも……」
側近「高笑いしてるのが魔王?違います。政治も軍事も全部部下に押し付けてるだけじゃないですか」
魔王「あう……」
魔王「え?あれって冗談じゃなかったの!?」
ブチッ
側近「冗談だと……思っていたんですか……あれほど……あれほど何度も忠言したことを……」
魔王「いや、あの、何となく暇だなーっとは思って……」
側近「魔王様に世界を支配する資格などない!世界は私が貰います!」
ビシッ
魔王「あうっあうっ……ど、どうしても?」
側近「ええ」
魔王「ちょっ、ちょっとくらい私にも……」
側近「駄目です」
魔王「ううっ、わ、分かった。あげる」
側近「……」
ブルブル
魔王「側近?」
側近「嘘ですよ……」
魔王「え、嘘?」
側近「ええ」
魔王「あー、もう、側近も冗談がすぎるなぁ……ははは」
側近「カマをかけただけです。しかし何ですか!分かった!?世界の全部をやる!?それでも魔王ですか!」
魔王「ええ!?」
側近「そんなことを言う私に黙って従って!力ずくででも黙らせようと言う気概はないのですか!」
魔王「そ、そんなこと側近に出来ない……」
側近「今度こそはっきり言います!あなたに魔王を名乗る資格はない!」
ビシッ
側近「!?」
魔王「側近なんてクビだ!」
プイッ
側近「本気……なんですか?」
魔王「ふんっ」
プイッ
側近「分かりました。今までお世話になりました」
ザッ
側近「この側近の力至らずこのような結果になり残念です。さらばっ」
スタスタッ
魔王「あ……」
バタンッ
魔王「あ……半分やろうの前に『私のものになれ』って言い忘れた」
魔王「ううー……」
グーッ
魔王「お腹すいたなぁ……側近!……はもういないか……」
バターン!
炎の将魔「魔王様!!側近殿を解任させたというのは本当ですか!!」
魔王「うわっ!突然入ってくるな」
炎の将魔「本当ですか!!」
ズイッ
魔王「ほ、本当だ!わ、私に逆らったんだ!」
炎の将魔「何と言うことを!!側近殿を解任させるなど正気ですか!」
魔王「え」
炎の将魔「あの方がどれだけこの魔界に必要な方か知らないのですか!」
魔王「え、私のご飯作ってくれたりする人じゃないの?」
魔王「え?でも見た目私と同じくらい……」
炎の将魔「魔族の年齢を見た目で判断しないでください!」
魔王「そっか」
炎の将魔「側近殿はこの国の政治の中心なんですよ!法律から軍事まで全て手がけてます」
炎の将魔「国の細々した法律作成、部族間の対立の調停、人間との駆け引きや作戦の指示など全て側近殿の指示です」
魔王「え?じゃあ側近はいつ寝たり食べたりしてるの?」
炎の将魔「魔王様にお仕えしてからは寝てるところなど見たことがありません」
魔王「私は夜8時には寝むくなる」
炎の将魔「どうするんですか!国が混乱しますよ」
魔王「うーん……」
炎の将魔「側近殿を連れ戻してください!」
魔王「え?」
炎の諸魔「我々の説得では無理です。魔王様が謝ればもしかしたら戻ってくださるかも……」
炎の将魔「魔王様!」
魔王「側近に頭なんて下げれるか!」
炎の将魔「お願いします!魔王様!」
グイッ
魔王「あっつ!近づくな!」
グーッ
魔王「そういえばお腹すいた。ご飯ちょうだい」
炎の将魔「話にならん!」
魔王「ご飯……」
炎の将魔「勝手に食堂にでも行ってください!」
ドスドスドスッ
魔王「ああ……行っちゃった……」
炎の将魔「まったく!魔王様は……しかしどうする」
水の将魔「側近殿はもう行ってしまいました……」
炎の将魔「そうか……」
ダダダッ
風「はぁはぁ……側近殿がやめたって本当かよ!」
炎「風……お前も来たか」
風「魔王様がクビにしたって!?」
炎「ああ」
風「あの女……どれだけ側近殿の世話になったと思ってやがんだ……くそが!」
ガンッ
風「あの馬鹿王にそんな考えあるわけねーだろ!くっそ。俺がぶん殴ってくる!」
ダッ
炎「やめておけ」
ガシッ
風「離せよ!俺も小さい頃から側近殿の世話になってんだ!許せねぇよ!」
炎「死ぬぞ、お前」
風「は?」
炎「私がなんでこんな鎧に身を包んでいると思っている」
ガシャンガシャン
風「まさか……」
炎「魔王様は強いぞ。私も以前我慢できず魔王様に挑んだ。その結果、私は肉体を失った」
水「それ以上言わないでください」
ジャキンッ
風「だ、だってよ!側近殿が呼びかければ国の半分は側近殿につくぜ!」
水「そんな場合ではありません」
炎「そうだ。人間どもとも争っている今、国を二つに割ることなどできん」
風「じゃあどうすんだよ!政治とか軍事とか!」
炎「それは……」
バタンッ
土の将魔「ちぃーっす!」
土「あったっすよー。ほら、これ『困ったら?もしものための側近マニュアル』!」
風「なんだそりゃ?」
土「ふふふ、それはっすねー」
炎「側近殿は自分に何かあった時のために対応マニュアルを残していってくださってたのだ」
土「あー!俺が言おうと思ったのに!」
ペラペラ
炎「ふむ……なるほど」
水「なんて?」
水「なるほど。あれだけの細かい法律は我々では手に余りますからね、さすが側近殿」
炎「それから魔界は4つにわけ、我々で分割統治する。人間界への対策から将の配置まで書かれているな……」
風「側近殿……我々を思って……くそ!」
ガンッ
炎「とりあえずこれで行こう」
土「魔王様はどうするっすか?」
炎「ほうっておけ。一人では何も出来ん」
側近「まったく、魔王様が私の話をまったく聞いていなかったとは……」
スタスタッ
側近「ふんっ、もう忘れよう。ふぅ……しばらく働きづめだったからな……」
フラッ
側近「くっ……気を抜いたら眠気が……寝るのも忘れてたな……」
側近「さて、どうするかな」
スタスタッ
側近「変装して、人間界を見て回るのもいいかもな。今の人間の実体については報告でしか読んだことがないからな」
側近「って、また仕事として考えてしまったな」
スタスタッ
側近「んっ?あれは?」
魔法使い「ううっ……」
側近「人間の雌か?」
側近「ん?足を怪我してるのか?」
側近「崖の崩れ方からすると上から落ちたのか」
魔法使い「ブツブツ言ってないで助けてよ!」
側近「っと言うことは落ちてきたあそこの先に町があると言うことだな。いってみるか」
スタスタッ
魔法使い「ちょっとーーーーーー!」
側近「ん?」
クルッ
魔法使い「助けてっていってるでしょ!」
側近「なぜ?」
側近「そうなのか?ふぁ……ふああああーあ」
魔法使い「何あくびしてんのよ」
側近「すまん、少し眠くてな」
側近「それで……なんだった?」
魔法使い「歩けないから助けてって!」
側近「ふむ……困ってる人を助けるか。それが人間か」
魔法使い「そうよ!」
側近「分かった」
ヒョイッ
魔法使い「ちょっ!お姫様だっこって……」
側近「何か問題あるか?」
魔法使い「いや……別に///」
「おい……あれ」
「ひゅーひゅー、見せ付けやがって。お二人さん!」
「ママー?あの人たち何ー?」
「あれはね、バカップルって言うのよ」
魔法使い「~~~~~!!」
ジタバタッ
側近「どうした、暴れるな」
魔法使い「も、もういいから離して!」
側近「もうすぐ病院だぞ?」
魔法使い「いいから!」
ジタバタッ
側近「うっ……眠気が……もう……限界……だ」
バターンッ
魔法使い「え!?」
側近「……」
魔法使い「ねぇ、ちょっと!大丈夫!?ねぇってば!」
側近「ここは……」
側近「ベッド……眠ってしまったのか私は」
魔法使い「あっ!」
側近「ん?お前は?」
魔法使い「よかった!」
ギュッ
側近「抱きつくな」
魔法使い「3日も目を覚まさないんだから!心配させないでよ!」
側近「3日……そうか。まぁ気が緩んだからな」
魔法使い「体調悪いなら悪いっていいなさいよ!ばっかじゃないの!」
ギュッ
側近「お前の怪我は?」
魔法使い「ん?もう治療終ったから大丈夫だけど」
側近「ならなんでまだここにいるんだ?」
側近「怪我が治ったなら病院などにいる必要ないだろう」
魔法使い「あんたをほうって行けるわけないでしょ!」
側近「そういうものか?」
魔法使い「そういうものなの!それにお礼……言ってなかったし……」
側近「礼?」
魔法使い「そうよ」
側近「困ってる人は助けるのが決まりではないのか?なぜ礼がいる」
魔法使い「そうだけど!あ、ありがと!」
側近「……」
魔法使い「どうしたのよ」
側近「いや、最近人から礼を言われたことなどなかったような気がしてな」
側近「いや、自分では頑張っているつもりだったんだが……礼を言われるのは気分の悪いものではないな」
魔法使い「ふふっ、なにそれ」
側近「お前には関係ない話だったな。よし、もう行こう」
スタッ
魔法使い「え?行っちゃうの?」
側近「ああ、眠気もなくなった」
魔法使い「どこ……行くの?」
側近「別に決めてはいないが、お前に教える必要はないだろう」
魔法使い「またそういうこと言う!袖触れあるも多少の縁って言うでしょ」
側近「人間のことわざか?」
魔法使い「私はね。王国に向かってるの。勇者が仲間を集めてるんだって」
側近「ほう!王国!勇者!?」
グイッ
魔法使い「何かいきなり話に食いついたわね……」
魔法使い「そうよ。魔王討伐に向かうらしいの」
側近「ほう。しかし怖くはないのか?お前のような若い娘が……」
魔法使い「あんただって若いでしょ。怖いけど……あたしは人のために力を使いたい」
側近「そういうものか」
魔法使い「そういうものよ」
魔法使い「で……でさ。あんたも、その……一緒に戦わない?///」
側近「人間の国家か……面白そうだな……」
ブツブツ
魔法使い「聞いてる?」
側近「その国で働けるだろうか?」
魔法使い「え?」
側近「ほほぅ……王国仕官募集試験か」
魔法使い「はぁ……あんたフラグ折り過ぎ……」
側近「お前から教えられたこと色々ためになったぞ。ありがとう!」
ガシッ
魔法使い「あー、はいはい」
側近「とりあえずこの試験を受けてみようと思う」
魔法使い「勇者様はまだ着いてないみたいだからあたしはしばらく酒場にいるわ」
側近「そうか。魔王は強いぞ。命を大事にな」
魔法使い「うん、あんたも気が向いたら来てよ」
側近「ああ」
魔法使い「あ……そういえば名前聞いてなかったけど……あたしは魔法使い、覚えておいて」
側近「私は側近だ。さらば」
バッ
大臣「今年の仕官募集試験が終了しました」
王様「ふむ、して、結果は」
大臣「芳しくありませんね。どんぐりの背比べといったところで……」
王様「うーむ」
大臣「在り来たりの解答ばかりで……ん?一人いました」
王様「何!?」
大臣「な……これは……」
王様「どうした」
大臣「このような成績のものは今までいなかったんですが……」
王様「だからどうした」
大臣「満点です……しかも戦術に関するこの解答……新しい……」
大臣「側近という者です」
王様「側近?聞かん名だな」
大臣「今年初めて試験を受けたようですから」
王様「一度話をしてみたい。つれてまいれ」
大臣「はっ」
側近「はい」
王様「試験の解答。見事であった」
側近「いえ、あの程度ではまだまだです。この国の戦術レベルはまだまだ低い」
王様「何!?」
側近「私にお任せくだされば兵錬を重ね、一流の部隊にしてごらんに入れます」
大臣「口が過ぎるぞ!側近!」
側近「失礼」
王様「ふふふふ……はーっはっは!余にそのような口を利く者は今までおらなんだ!」
大臣「王様?」
王様「いいではないか!はいはい言ってる者だけではつまらん!側近、軍師をやってみるか?」
側近「御意」
王様「ふふふ、だが、それだけでかい口を叩いたのだ。失敗した時は分かっておるな?」
側近「お任せください」
王様「くくくっ……はーっはっは!面白いやつだ!」
兵士長「ほんとですよ。ちょっと頭がよかったからってなんですか、あの態度」
大臣「我々のレベルが低い?何様だ」
兵士長「まったくです。しめてやりますか」
大臣「いや……一応王様の命令もある、それはまずい」
兵士長「そうですか、くっそー。馬鹿にしやがって……」
大臣「だが、破滅させることはできるかもな」
兵士長「へ?」
大臣「あいつの赴任先の選定は私に任されている」
兵士長「おお!」
大臣「兵力も少なく、敵の攻撃の激しい大激戦区に送りつけてやろう!」
兵士長「失敗すれば……」
大臣「首が飛ぶ」
魔法使い「誰もいない……」
女主人「どこ見てんだい?結構客いるでしょ?」
魔法使い「いや、勇者と一緒に戦う人たちがいっぱい来てるかと思ってたから」
女主人「あー、そういえば随分前にお触れが出てたね」
魔法使い「今何人くらいいるの?」
女主人「あんただけ」
魔法使い「え!?」
女主人「命がけの仕事にそんなほいほい人が集まるわけないでしょ?」
魔法使い「そ、そうだけど……なんだかなぁ……」
女主人「あんたも帰る?」
魔法使い「帰らない。あたしは戦う」
女主人「あっそ。ご立派」
魔法使い「困ってる人は助けるものってあいつに言っちゃったし……」
側近「縦四方陣!」
ビー
「はっ!」
ザザザザッ
側近「右翼陣!展開!」
「はっ!」
ザザッ
側近「兵錬中です!お静かに!」
大臣「なっ……この……」
側近「何か?」
大臣「辞令だ」
側近「やめ!30分休憩だ!」
「はっ!」
ザッ
側近「まだまだです」
大臣「お前の行き先と部隊の編成だ」
サッ
側近「ふむ……」
ペラペラッ
側近「随分、兵が少ないですね」
大臣「不満か?出来んと言ってもいいのだぞ?」
側近「「いえ、十分です。では私の鍛えた兵達を連れて行きましょう」
大臣「失敗したら分かっているな?」
側近「期待していてください」
大臣「ぐぬぬ」
軍曹「将軍!増援が来ました!」
将軍「やっと来たか!王国は俺達を見捨ててなかった!」
軍曹「そ、それはどうだか……」
将軍「どうした?」
軍曹「それが……」
側近「この度こちらに赴任する側近だ。よろしく」
将軍「なっ……こんな若造が……」
将軍「増援は!?」
側近「これだけです」
将軍「なっ……こんな人数で……見捨てられたか……」
側近「将軍がそんなことを言ってはいけない!士気にかかわる」
側近「そのために私が来たのだ」
将軍「この人数で何を……」
側近「窮鼠猫を噛むというところを見せてやりましょう」
将軍「背水の陣でもしくきか」
側近「それも一つの手だな」
軍曹「そんな!死ぬより逃げましょうよ!」
側近「敵前逃亡は死刑だ」
軍曹「ひっ!」
将軍「逃げて臆病者の謗りを受けるよりは、戦って名を残すか……」
側近「無謀と勇気を履き誓えてはいけない」
魔将軍「動かないな」
魔兵「そりゃそうでしょう。出てきたら負けるのは分かってますからね」
魔将軍「油断するな。追い詰めた相手は何をするか分からん。増援が砦に入ったという情報もある」
魔兵「そんな大軍入った様子はありませんよ。はったりですよ、はったり」
魔将軍「まぁ、そうだろうな。だが、側近殿はいつも言っておられた。油断が一番の敵だと」
魔兵「ですけどねぇ、もう逆転のしようがないでしょう」
魔兵「ん?」
ザザザッ
魔兵「で、出てきた!?」
魔将軍「どういうつもりだ!?まさか!」
ドドドドッ
魔兵「向かってきた!」
魔将軍「特攻か!馬鹿め!こちらも行くぞ!」
ザザザッ
軍曹「あーもう!どうにでもなーれ!」
魔将軍「さすがに正面衝突は避けたか。だが……砦への逃げ道を放棄するとは、本当に捨て身か!?」
魔兵「いけいけ!」
ドドドッ
ザザザッ
魔将軍「これは……なんだ?戦う気がない?逃げるのか!?」
魔兵「じゃあ砦落としちゃいましょうよ!」
魔将軍「待て!敵の狙いが……」
ドドドドッ
将軍「射てい!」
ヒュンヒュンッ
魔将軍「弓!?何を考えている」
ドドドッ
側近「今だ!」
「はっ!」
ザザザッ
魔将軍「なっ!?やはり増援がいたのか!?」
側近「甘いな。マニュアル通りの戦い方しか出来ていない」
側近「敵の陣形が伸びきったぞ!薄いところから叩いていけ!」
「はっ!」
ドガガガガッ
魔将軍「なっ……なんだ、この戦い方は……人間にこんな戦い方ができるわけが……」
ズバッ
魔兵「ぐはっ!」
魔将軍「なぜだ……なぜだあああああああ!」
将軍「か、勝った!?」
側近「……」
将軍「おい、何をそんなにフードを目深にかぶっている」
側近「余り敵に顔を見られたくないもので」
将軍「ふっ、すごいのか臆病なのか分からないやつだな」
側近「これで私は魔族の敵か……」
将軍「何か言ったか?」
側近「いえ、何も。クビにならない限り任務は遂行する」
将軍「?」
軍曹「すっげー。私は信じてましたよ!王国が私達を見捨ててないってね!」
将軍「どうにでもなれとか言ってなかったか?」
軍曹「え?なに?聞こえませんー」
土「やばいっすよー。何か前線がどんどん後退してるっす」
炎「ああ、分かっている」
風「くそー。側近殿がいないと俺達じゃこうなのかよ!くそっ!くそっ!」
ドガッ
水「イラついても仕方ありません。これからどうするかです」
炎「そうだな。側近殿のマニュアルを変えるか……」
風「何言ってんだよ!その通りだからこの程度で済んでんだぞ!わかってんのか?」
炎「だが……」
魔王「ねぇ、何やってるんだ?」
水「側近殿のマニュアルだけでは全てに対応できないのも事実です」
土「そっすよねー」
炎「運用は柔軟に対応していかなくてはな。前線の後退の報告から、人間は知恵をつけてきたと見るべきだ」
魔王「ねぇ、暇なんだけど」
風「やっぱ側近殿を探そうぜ!俺達でさ!」
炎「捜索はさせてみよう。だが、期待するなよ。側近殿は一度言ったことを違えたことはない」
風「わぁってるよ」
水「我々は試されてるのかもしれませんね。側近殿なしでやっていけるのか」
土「腕力ない分、頭はよかったっすからねー」
風「てめぇ……側近殿ディスってんのか!?あぁ!」
土「ち、違うっすよ」
魔王「暇だって言ってるでしょ!!」
ドガンッ
パラパラッ……
土ああ……会議机が……」
魔王「むっ……」
メラ……
炎「ちょっ!魔王様!暇ならすごいもの差し上げますから!今日のところはお帰りください!」
魔王「すごいもの?」
炎「ええ、すっごいいいものです」
魔王「分かった。待ってる……」
スタスタッ
風「わりぃ……」
水「あんな約束しちゃっていいんですか?」
炎「魔王様が我々の邪魔をしにくることなど側近殿はお見通しだった」
水「なんと」
炎「ちゃんと対策は書いてあった。任せておけ」
風「さすが側近殿……」
土「じゃ、会議再開するっす」
王様「側近は期待通りの活躍をしているようだな」
大臣「え、ええ」
王様「どうした?顔色が悪いぞ」
大臣「いえ、何でもありません」
王様「ふふふっ、お前が側近の態度の腹いせに最前線に送り込んだことなど分かったおる」
大臣「なっ……」
王様「側近の鍛えた軍は強い。認めてもいいのではないか?」
大臣「くっ……そ、そうですね」
王様「しばらくしたら王国に戻ってくるらしい。その時に謝っておけ」
大臣「は?」
王様「仲良くしておけ。今度はお前の首が飛ばされるかもしれんぞ?」
大臣「わ、分かりました」
ギリッ
ドンドンッ
兵士長「大臣、壁ドンやめてください」
大臣「うるさい!」
ドンッ
ガチャ
姫「うるさい!」
大臣「ごめんなさい」
姫「ふんっ」
バタンッ
大臣「はぁ……どうしよ」
兵士長「誤って仲良くすればいいんじゃないですか?」
兵士長「?」
大臣「勇者が国についたらしい。あの魔王を討伐に向かうということだ」
兵士長「それが何か?」
大臣「参謀としてあいつをそこにくっつけてやろう」
兵士「なっ……ですが軍事関係は……」
大臣「それはあいつから兵錬を受けた士官達がしっかりやっている。問題ない」
兵士「なるほど」
大臣「魔王は神を超える強さと聞く。生きては帰れまい」
魔王「まだかなー。暇だなー」
ブラブラッ
ガチャッ
炎「お待たせしました」
魔王「待っていたぞ!何を持ってきたのだ!」
ガタッ
炎「こちらでございます」
スライム「ピー」
プルプルッ
魔王「お……おお……」
魔王「よし!お前の名前はスラリンだ!」
スライム「ピキー!」
ピョンピョンッ
魔王「よし!ご飯を食べに行くぞー!」
スライム「ピーピー!」
ダダダッ
炎「さすが側近殿の作戦……」
側近「勇者と一緒に魔王を倒す?」
王様「ああ、頼めるか?」」
側近「アレを倒しても魔界に何の影響もないと思いますが……」
王様「何か言ったか?」
側近「いえ、何も……」
王様「お前のおかげで我が軍も精鋭揃いとなった」
王様「お前の教えた士官達もよくやってくれている」
側近「それは何より」
王様「だが、長引く戦いを終らせるには敵の大将をたたくしかない」
側近「それは命令ですか?」
王様「ああ、そうだ」
側近「御意」
ザッ
勇者「ここか」
ガシャ
女主人「いらっしゃーい」
勇者「あ、あの、勇者だけど」
女主人「へ?あんたが?ガキじゃん」
勇者「ガキじゃねーよ!」
女主人「あーはいはい」
勇者「ここに仲間が集まるって聞いてきたんだけど」
女主人「んー、あそこの子だけ」
勇者「え?」
女主人「ま、頑張って」
魔法使い「ん?」
勇者「勇者だけど……」
魔法使い「は?」
勇者「いや、だから俺勇者ですけど」
魔法使い「遅い!!」
ダンッ
勇者「へ!?」
魔法使い「いったいいつまで待たせんのよ!遅すぎてもうここの常連よ!あたしは!」
勇者「いやぁ……村からここまで遠くて……」
魔法使い「言い訳しない!」
魔法使い「よし!はいっ、握手」
ギュッ
勇者「え///」
魔法使い「これからよろしく!」
勇者「手……柔らかい……」
魔法使い「は?」
勇者「い、いやなんでもない!」
ブンブンッ
魔法使い「でも結局あたしたちだけかー」
勇者「やっぱそうなのか」
魔法使い「まーしょうがない。魔法のことは頼りにしてくれていいからね」
ニコッ
勇者「……///」
側近「ここか」
女主人「いらっしゃい!」
側近「いや、客じゃない。勇者はどこだ」
女主人「あら、いい男……」
側近「おい」
女主人「あ、勇者ね。勇者さーん。お呼びよ!」
魔法使い「あ!」
側近「あれか。なるほど強い力を感じる」
魔法使い「来てくれたんだ!」
ダダッ
勇者「むっ」
カチンッ
側近「まだいたのか。暇だな」
魔法使い「ふふっ、相変わらず口が悪いわね」
魔法使い「ああ、こっちは……」
側近「人間の軍師、側近だ!」
勇者「軍師?何ができんの?」
側近「多少の剣の扱いはできる。戦士とでも思ってくれ」
勇者「あーそう。へー」
魔法使い「でもホントに来てくれるとは思わなかったな」
勇者「うれしそうだな」
魔法使い「うん!」
側近「国からの派遣だ。私の意志は関係ない」
勇者「いやいやなら俺と魔法使いだけでも……」
側近「王様からの直々の命令だ。最後まで一緒に戦う。よろしく」
魔法使い「よろしくね」
勇者「……よろしく」
勇者「教会から?」
側近「余りにも集まりが悪いので手配したそうだ。回復役がいないと戦略も厳しいからな」
勇者「俺の人望そんなにないの……?」
魔法使い「命がけなんだから仕方ないよ」
勇者「そっか。そうだな」
側近「来たみたいだな」
バタンッ
ズルズルッ
僧侶「いやあああああああ!死にたくない!死にたくないですー!」
バタバタッ
神父「ほらっ、暴れない。勇者様のお役に立てるんです。喜んでください」
僧侶「やだあああああ!しんじゃいます!魔王なんて倒せませんよー!」
ズルズルッ
勇者「あれか?」
側近「ふむ、女か」
神父「あっ!勇者様たちですね!はじめまして」
ペコッ
神父「こちらが一緒に旅をさせていただきます僧侶です。ほらっ、ご挨拶して」
僧侶「助けてください!私死にたくないです!」
バタバタッ
勇者「なんか嫌がってるけど……」
神父「いやぁ照れ屋で困ります。あはは。実力は保障しますので安心してください」
僧侶「やだやだ!」
バタバタッ
神父「僧侶さん、喜んでください。あなたはこの任務で2階級特進して大僧正ということになりました」
僧侶「それって死亡扱いってことじゃないですかー。神父様代わって下さい!」
シュタタタッ
僧侶「はやっ!」
勇者「……」
魔法使い「……」
僧侶「……」
側近「では、行くか」
ズルズルッ
僧侶「ちょっ、何普通に引きずって連れて行こうとしてるんですか!」
魔法使い「こんなんで役に立つの?」
勇者「無理やりってのは……」
側近「連れて行ってピンチになれば必然的に回復するだろう」
ズルズルッ
勇者「まぁまぁ。無理やりはだめだって」
魔法使い「そうね」
側近「そうなのか?」
魔法使い「命がけなんだから納得してからじゃないと」
側近「そうか」
僧侶「ほっ……じゃあ縄といてください」
側近「分かった。だが、それは私の話を聞いてからだ」
僧侶「え?」
側近「僧侶、お前がこのまま教会に逃げ帰ったらどうなると思う?」
僧侶「どうなるって……」
僧侶「そ、それは勝手に……」
側近「逃げ帰ったら教会のメンツは丸つぶれだ。それを周りが黙ってみていると思うか?」
僧侶「ひっ!」
側近「逃亡者のレッテルを貼られ、教会を、いや、国さえ追われることになるだろうな」
僧侶「や、やだ……」
側近「道で会う者みんながおまえに石を投げつけるだろう。今後の人生はつらいぞ?」
僧侶「うう……」
側近「どうだ?一緒にいかないか?」
僧侶「はい……」
側近「よし!説得が終ったぞ」
魔法使い「脅迫よ!それ!」
魔法使い「こういう奴なの。はぁ……なんであたしはこんなんが……」
側近「ん?」
魔法使い「なんでもない」
パラパラッ
側近「ほらっ、縄解いたぞ」
僧侶「さよなら!」
ダダッ
魔法使い「こらっ」
ガシッ
僧侶「ううー」
勇者「大丈夫か……これで」
「グルルル」
僧侶「魔物怖いです!逃げます!」
ダダッ
側近「待て」
ガシッ
僧侶「離してくださいー!」
勇者「うおりゃあーー!」
ズバッ
魔法使い「火炎魔法!」
ゴゴゥ
僧侶「あ、強い」
側近「お前は後ろで回復だけしていてくれればいい」
僧侶「わ、分かりました。回復魔法!」
僧侶「はぁ……癒される……」パァァ
僧侶「あ、そうでした。てへっ」
ペロッ
勇者「いや、かわいいけどね!」
「ガウッ!」
ガリッ
勇者「ぐあっ」
僧侶「回復魔法!」
パァァ
勇者「お……おお!一瞬で直った!」
魔法使い「教会の推薦っていうのは伊達じゃないってわけね」
勇者「じゃあ攻撃魔法もすごいんじゃないか?」
僧侶「攻撃魔法ありません」
僧侶「回復と防御魔法しかありません」
勇者「な、なんで?」
僧侶「だって攻撃したら私に攻撃が来るじゃないですか!」
勇者「……」
「グアウ!」
ズバッ
勇者「いてぇ!」
僧侶「回復魔法!勇者様そっちです」
パァア
勇者「お、おう!」
ズバッ
勇者「お、おう!」
ババッ
「がうっ!」
バリッ
勇者「いてぇ」
僧侶「回復魔法!」
パァァ
グイッ
勇者「おい!」
ガリッ
勇者「いてぇ!」
僧侶「ふぅ、危なかったです……回復魔法!」
パァァ
勇者「い、いいんだけどさ!これでいいんだろうけどさ!前衛担当としては!」
勇者「なんかムカツクんだけど!!」
勇者「そ、そお?///」
側近「おっと、こっちにも攻撃が……勇者バリアー!」
グイッ
勇者「いてぇ!」
僧侶「回復魔法!」
パァァ
勇者「てめぇの盾になる気はねぇよ!自分で防げ!」
側近「なんだ駄目なのか」
勇者「男は女を守るものなんだよ!」
側近「そうなのか?」
側近「ほー」
魔法使い「……」
チラッ
側近「なんだ?守って欲しいのか?」
魔法使い「バ……バッカじゃないの!///」
魔法使い「そうね、ちょっと拍子抜け」
僧侶「じゃあ私帰っても大丈夫ですか?」
魔法使い「待ちなさい」
ガシッ
側近「当然だ。魔王軍は別の方面に展開しているはずだからな」
勇者「は?どういうことだ?」
側近「人間側の前線の兵力に差をつけた。我々は西から回り込んで魔王城に向かう」
側近「だが、魔王軍の前線が東側に集中せざるをえないように軍の配置をしてきた。こちらはがら空きだ」
勇者「何言ってんのこいつ?」
魔法使い「じゃあ……」
側近「ああ、敵は少ないはずだ。だが油断するな。魔王城には将魔クラスがいるからな」
僧侶「やっぱ帰っていいですか?」
勇者「今日はここで休むか」
僧侶「部屋割りはどうしますか?」
勇者「まぁ常識的に男部屋と女部屋か?」
側近「いや、全員一部屋がいい」
魔法使い「ちょっ!」
勇者「ま、まさか……噂の乱k……」
魔法使い「何言おうとしてんのよ!」
ドガッ
勇者「け、蹴ることないだろ」
側近「別の部屋になれば僧侶が逃げる」
勇者「あ」
魔法使い「あ」
僧侶「なにいってるんですかわたしがそんなことするわけないじゃないですかわたしはひとびとのへいわのためまおうをたおすかくごをきめています」
側近「目を見て言え」
フイッ
魔法使い「目、そらしてるし……」
側近「そういうわけで4人部屋で、魔法使い、勇者、僧侶、私の順で並び、僧侶を見張る」
勇者「お……おお……女の子の間……」
僧侶「逃げませんってば!」
魔法使い「だ、だめよ!そんな一緒に部屋なんて……」ゴニョゴニョ
側近「なぜだ?」
魔法使い「そ、それにそれならあたしが側近の隣に……」ゴニョゴニョ
側近「は?」
魔法使い「いいからだめなの!この子はわたしが見張るから!いくわよ!」
グイッ
僧侶「あうっ」
勇者「あ、あれ?俺のハーレムは?」
魔法使い「う……ん……側近……むにゃむにゃ」
側近「おい、起きろ」
グイッ
魔法使い「え?」
魔法使い「ええ!?な、なんで側近があたしに馬乗りに……///」
側近「大声を出すな!」
魔法使い「で……でも……こんなのまだ……変だよ」
側近「お前のほうが変だと思うんだがな……」
僧侶「んーっ!んーっ!」
ガタガタッ
側近「猿轡してベッドに縛り付けるとは……」
魔法使い「だってあの子逃げるし……」
魔法使い「だ、だめだよ。僧侶が見てる……///」
側近「何を言ってる。早く起きろ。敵だ」
魔法使い「へ?」
側近「こんな町の民間人を襲ってくるとは思わなかった……いったいどうしたことだ」
魔法使い「魔物!?」
側近「ああ。勇者が住民を避難させている。早く僧侶も自由にしていくぞ」
魔法使い「う、うん……でも」
側近「どうした?はやく着替えろ」
魔法使い「着替えるから出てって!」
ドンッ
ゴブリンB「女は犯せ!ハハハハハー!」
勇者「側近!来たか!ん?どうした?その顔の手形は」
側近「なんでもない」
魔法使い「ふんっ!」
僧侶「あわわわわ」
側近「数はたいしたことないようだが……あの印は……正規軍?なぜこんな単独行動を……」
ゴブリンC「ヒャハハハハハ!魔王様はおっしゃった!好きに殺していいってな!」
側近「なっ……」
ゴブリンD「ギャハハハハ!魔王様はおっしゃった!好きに奪っていいってな!」
側近「軍規はどうしたのだ……いったい魔王軍に何が……」
ゴブリンE「魔王様はおっしゃった!人間を殺して側近を助け出せとな!」
側近「なっ……」
魔王「なぁスラリン」
スライム「ピ?」
魔王「なんで側近はいなくなってしまったのだろう」
スライム「?」
プルプル
魔王「会いたいなぁ。どうしてるかなぁ」
ツンツンッ
スライム「ピキー」
ピョンピョンッ
魔王「あ、こらっ」
タタタッ
「……で……らしい」
「なんだと……」
魔王「また会議か」
炎「ああ、魔界中を探したがどこにもいない」
水「まさか……人間界に……」
炎「それしか考えられまい」
土「捕まっちまったんすかねー。側近殿も腕力はチョロイっすからねー」
風「側近殿をディスんなっつってんだろがー!おお!」
グイッ
水「もしや、最近の人間達の活動は側近殿が捕まったせいで……」
土「拷問にかけられてるとか?」
風「側近殿が拷問程度でゲロるわけねーだろ!」
炎「まぁ待て、あくまでも想像に過ぎない。調査範囲を……」
バタンッ
魔王「……」
魔王「側近が……拷問?捕まった?」
炎「そんな事実はありません!」
魔王「嘘だ!今話していた!」
スライム「ピキー?」
フルフル
炎「ほらっ、スラリン殿が呼んでいますぞ」
魔王「黙れ!」
ドガッ
炎「がはぁ!」
魔王「側近は私が助ける!」
風「側近殿がそんな失敗するわけねーだろ!一度も失敗なんてみたことねーよ!」
風「はぁ?何言ってんだ!」
魔王「失敗している!私の元を離れたことだ!」
風「てめぇでクビにしておいてなんだその言い草は!おおう!」
グイッ
魔王「うるさい!」
ドガッ
風「ぐっ……」
魔王「行くぞ!軍の元へ!」
ダダッ
土「ど、どうするっすか?」
水「とりあえず二人の手配を……あとは出来る限り統率を取っていくしか……」
土「やべぇっすね」
勇者「ふぅ……これで全部片付いたか」
僧侶「ふぅ」
キュッ
勇者「あのさ……いい加減後ろから離れてくれない?」
僧侶「あ、すみません、盾様」
勇者「今俺のこと盾って……」
僧侶「間違えました。勇者盾」
勇者「……」
魔法使い「ねぇ、さっき魔物が側近を助けるとかって……」
側近「民間人にまで手を出すなど……戦争にルールをやぶるか……」
ブツブツッ
魔法使い「ねぇ、ちょっと!」
側近「いったい将魔たちはどうしたのだ……しかも私を助ける?」
ブツブツッ
グイッ
側近「ああ……すまない」
タタッ
魔法使い「ど、どこいくのよ」
側近「魔物にやられた者たちの手当てをしないとな」
魔法使い「え……」
側近「困っている人は助けるのだろう?」
魔法使い「人違い?そっか……そうだよね」
タッ
魔法使い「ほらっ!勇者と僧侶もいくわよ!」
勇者「これは……」
魔法使い「酷い……みんな死んでるの?」
僧侶「キモいです!帰ります!」
ダッ
ガシッ
勇者「死んでるのはほとんど魔物か?」
側近「統率を失った軍隊の末路か……」
「ぐぐ……」
魔法使い「わっ」
勇者「生き残りか!?」
側近「お前は……」
炎の将魔「その声は……側近殿!うぐぐ……」
ガシャンガシャン
炎「ぐっ……もう目が見えませんが、その声は側近殿に間違いない……」
炎「魔王様が……乱心されました……」
側近「なぜ……」
炎「あなたが人間に捕まったと言われ……強引に軍を動かし……」
炎「逆らったものは殺されました」
側近「なんと……」
炎「私も人間をけん制しつつ、魔王様を抑えようとしたのですが……力及ばず……もうしわけない……」
側近「なぜ魔王様は私なぞに執着するのだ……」
炎「分からないのですか?」
側近「ああ……」
炎「ふふっ、側近殿にも分からないことがあるとは」
側近「お前には分かるのか?」
炎「ええ。その困った姿……冥途の土産に……」
ガシャーン パラパラッ
側近「勝手に言いたいことをいいおって……はっ!」
ズイッ
勇者「魔王の側近だって?」
側近「『元』だ。今は人間の軍師で戦士だ」
勇者「信用できるか!今だって敵と仲良く……」
側近「死に際の言葉を拾ってやっただけだ」
勇者「まったく口だけは回るやつだな」
ジャキンッ
魔法使い「ちょ!ちょっと!やめなさいよ!」
僧侶「今が逃げるチャンスです!」
ダダダッ
僧侶「あいたっ!」
ドテッ
僧侶「ピ、ピアノ線……いつのまに……」
魔法使い「勇者、側近が今まで人間になにかした!?」
勇者「そ、それは……」
魔法使い「人を助けるために戦って守ってきたでしょう!私達は!」
勇者「そいつは王様の命令に従っているだけで……」
僧侶「ハサミかペンチ……ハサミかペンチはどこに……」
カシャカシャ
勇者「見ろ!僧侶だって教会の命令で来てるだけじゃないか」
魔法使い「それは否定しない」
僧侶「してくれないの!?」
側近「いや、私は国の命令で来ているにすぎない」
勇者「ほらっ、こんなやつ信用できるのか」
魔法使い「できるよ」
勇者「な、なんで……」
魔法使い「人を助けてる時の側近……うれしそうだったから」
勇者「はぁ?」
側近「そんなことは思っていない///」
魔法使い「あ、赤くなった!」
側近「赤くなってなどいない///」
魔法使い「照れてんの?ねぇ、照れてんの?」
側近「う、うるさい!」
魔法使い「ふふっ、これツンデレってやつだよね」
側近「なんだ?爆発?私を殺したいのか?」
勇者「うっさい!バーカバーカ!」
僧侶「ペンチありました!」
バチンッ
勇者「ほらっ、僧侶いくぞ!」
ズルズルッ
僧侶「……」
魔法使い「さ、行きましょ」
側近「いいのか?」
側近「仲間?私が?」
魔法使い「あたし達が、よ」
側近「私達が……」
魔法使い「さあ、あなたの元上司が暴れてるんでしょ。お灸をすえてあげましょ」
側近「ははは、魔王にお灸か。お前はなかなか面白いやつだな」
魔法使い「あ、笑った」
側近「?」
魔法使い「笑顔の方が……いいよ」
側近「ん?」
魔法使い「さぁ!い、いこっ!」
ギュッ
勇者「意外とすんなり来れたな」
僧侶「魔王城……敵がいっぱい……死んじゃう……逃げる……捕まる……殺してでも逃げろ」
魔法使い「物騒な事言わないの!」
ペシッ
僧侶「痛いです」
側近「すんなりどころか人の気配がない……これは……」
風の将魔「よう……側近殿……」
勇者「敵!?」
風「消えっちまう前にあえてよかったぜ」
ブスブスッ
側近「風……お前……」
風「ちっと熱くなりすぎてヘマこいちまった……まぁしゃーねーわな」
側近「まぁな」
風「人間従えて乗り込んでくるたぁ流石側近殿だぜ」
側近「何があったんだ」
風「中にはもう誰もいないぜ?魔王様以外はな」
側近「……」
風「さすがにみんな愛想を尽かして逃げた。当然っちゃ当然だな」
側近「ならばなぜお前はここに……」
風「けっ……あんなんでも魔王様だからな」
風「それに言ってただろ?側近殿。上が間違ったら命を賭してでも正せってな」
風「俺じゃあ力が及ばなかったからよ。任せていいよな」
側近「ああ」
風「糞ったれな人生だったけどよ、側近殿のおかげでなかなか味があったぜ……」
側近「そうか」
風「あばよ」
ヒュー
側近「……」
側近「ああ」
魔法使い「泣いてるの?」
側近「私にはもったいない部下だった……」
魔法使い「慕われてたのね」
側近「違う、職務に忠実だっただけだ」
魔法使い「負けられないね」
側近「ああ」
勇者「おい、早く行くぞ!」
僧侶「敵はいない……魔王はいる……強い……逃げる……捕まる……殺してでも逃げろ」
勇者「おい」
チョップ
勇者「こ、ここか……なんか緊張してきた」
ギュッ
僧侶「離してくださいー!怖いです」
勇者「絶対お前を離さねぇ!」
僧侶「うわぁ……なんか勇者様に言われると引きます……」
勇者「俺泣いてもいい?」
魔法使い「馬鹿な事言ってないでいくわよ。準備はいい?」
側近「ああ。魔王様は強い。油断するなよ」
魔法使い「わかった」
ギュッ
側近「おい、私は逃げたりしないぞ」
魔法使い「お願い……」
ブルブルッ
側近「……」
魔王「なぁ、スラリン」
スライム「ピキー?」
ギギィ
魔王「誰か来た!?」
ガタッ
側近「……」
魔王「側近!側近!側近だ!」
ダダダッ
魔王「ま、まったくどこにいっていたのだ!ふ、ふんっ!謝ったって許してやらんぞ」
プイッ
勇者「お前が魔王か……って女!?」
僧侶「あら可愛い」
勇者「だが……この魔力……」
魔王「なんだ?こいつらは……」
魔法使い「……」
ギュッ
側近「魔王様……」
魔王「なんだ、その女は!なんで人間と手なんて繋いでいる!」
側近「残念です。魔王様。すべて私の不徳の致すところ……」
魔王「答えないか!」
ドガッ
ピョンピョンッ
側近「部下に教えられました。私は魔王様から逃げただけだったらしい」
魔王「何をいっている」
側近「命を懸けてでも教えて差し上げるべきでした」
魔王「だから何を!」
側近「王たるものがなんたるかを!」
魔王「なっ……」
側近「魔王様……お仕置きの時間です」
ザッ
側近「なんです?」
魔王「わ、私の物になれ!そうすれば世界の半分をお前にやろう!」
側近「?」
魔王「お、お願い……」
側近「何を言ってるのかわかりませんね」
勇者「うわあ……」
僧侶「ちょっとかわいそうかも……」
魔法使い「……」
ゴゴゴゴゴゴッ
魔王「だ、だったら……」
ゴゴゴゴゴゴッ
魔王「だったらいらないよ!!世界もなにもかも!」
ババッ
勇者「ちっ……なんて魔力だよ」
僧侶「にげ……うわっ」
グイッ
勇者「一緒に来い」
魔法使い「まったく……ただの子供ね」
ダッ
魔王「爆裂呪文!!」
側近「伏せろ!」
ドゴオオオオオオオオオン!
魔法使い「伏せなかったら危なかったわね」
勇者「ほれっ、さっさと回復を……」
僧侶「///」
勇者「おい、こらっ」
僧侶「ど、どこ掴んでるんですか///」
勇者「そりゃお前が逃げるから……」
ムニュムニュ
勇者「あ」
僧侶「は、離して……」
側近「次が来るぞ!」
勇者「早く回復!」
モミモミ
パァァ
勇者「おいこら」
僧侶「なんですか!痴漢盾!」
勇者「ぐぬぬ……」
側近「魔法使い!氷結呪文を!」
ゴゴゴゴゴッ
魔王「火炎魔法!」
ゴゴゥ!
魔法使い「氷結呪文!」
ジュワッ
魔王「なっ……」
魔法使い「なんで分かるの!?」
勇者「すげぇ」
モミッ
僧侶「もう……離してー」
魔王「うー!もう!うるさいうるさい!」
ダンッ
魔法使い「側近に狙いが!」
僧侶「勇者様!バリアーの出番ですよ」
勇者「うっさい!まにあわねーよ!」
側近「おっと!」
タタタッ
魔王「逃げるなー!」
僧侶「あ!逃げました!ずるい!私には逃げるなって言ったくせにー!」
ダダダッ
魔王「待て!」
ダダダッ
勇者「後ろががら空きだ!魔王!」
ズバッ
魔王「にゃあっ!」
バタッ
魔王「……痛い」
側近「戦いのいろはも教えたはずなのに情けない。一人の敵しか見えないとは」
魔王「痛い……痛いよう……」
魔王「側近にもぶたれたことないのに!」
勇者「うわっ来た!」
ギィン
魔王「このこのこのおおおおお!」
ガンガンガンッ
勇者「わっ……たっ……つよっ……」
ギンギィン
僧侶「こ、この隙に……」
コソコソ
魔王「そこ!」
僧侶「!?」
グサッ
僧侶「ああ……思えば神父様にいい話があると言われたときに疑うべきでした」
僧侶「噛み付いてでもあの時逃げてればこんなことには……」
僧侶「オシャレしてイケメンと結婚して主婦ニートになりたかったです……」
僧侶「神様……次に生まれ変わったら……セレブに……」
僧侶「……」
僧侶「痛くない……?」
勇者「ぐぬぬ……」
ボタボタッ
勇者「馬鹿……早く逃げろ……」
僧侶「勇者様!?」
勇者「はやく……しろ」
ボタボタッ
僧侶「逃げていいんですね!ほんとにいいんですね!きゃっほー!あ、きゃっほーなんて言っちゃいました」
僧侶「恥ずかしいです。それでは失礼して……」
ズルル
勇者「なっ……」
僧侶「回復魔法!」
パァァ
勇者「治った……。逃げるんじゃなかったのかよ」
僧侶「ここで逃げたら悪役じゃないですか」
勇者「お前に対して俺は今までも悪い印象しかなかったような気がするんだが……」
魔王「このお!」
ブンッ
僧侶「ほらっ!守ってくれるんですよね!」
勇者「当たり前だ!」
ギィーン
ゴゴゥ
魔王「あうっ!」
勇者「おりゃああ!」
ドスッ
魔王「ううっ……ひ、酷いよ!寄ってたかって!卑怯だぞ!」
魔王「こっちは一人なのに!」
側近「一人ではなかったはずです」
魔王「なっ……」
側近「魔王様の部下達はどこに行きました?」
魔王「知らない……」
魔王「仲間?」
側近「それを教えて差し上げられなかったのは私の責任です」
魔王「うっ……うええええ……」
ボタボタッ
魔王「私は……ずっと一人だった……のか……ううっ……」
魔王「わ、私を殺すのか……側近……ぐすっ……」
側近「そうです」
魔王「そうか……」
側近「ご安心ください。私もご一緒しますから」
魔王「え?」
側近「人間の軍師としての責任、魔王の側近としての責任、取らせていただきます」
魔王「最後は……一人じゃない?」
側近「ええ」
魔王「よかった……」
ゲシッ
勇者「よくねーよ!」
ゲシッ
僧侶「ほらっ、靴でも舐めて反省してください」
グリグリッ
側近「痛いぞ」
魔法使い「何勝手に終らせようとしてんの!?ばっかじゃないの!?」
側近「だが、お前たちは魔王を倒しに来たのだろう」
魔法使い「そうだけど!そうだけども!あーーーーもう!」
ガリガリッ
勇者「お前はだいっ嫌いだけどな!しなせねーよ!仲間だからな」
僧侶「あの側近さんの顔が私の靴の下に……はぁはぁ」
魔法使い「なっ……」
側近「責任を取るのが側近であり、軍師だ」
勇者「頭固てーな」
魔法使い「側近って昔からこうなの?」
魔王「うん……」
側近「さあ、勇者、その剣でとどめを!」
勇者「だまれ!」
ゲシッ
側近「結構痛いぞ。勇者」
側近「では僧侶の足でも舐めればいいのか?」
僧侶「!!」
魔王「だめだああああああ!」
僧侶「わっ……びっくりした」
魔法使い「何よ」
魔王「なんだよー」
バチバチッ
勇者「うっわ、こわっ」
側近「?」
魔王「側近は悪くない。私が責任をとる」
勇者「魔王!?」
魔王「人間の王のところに連れて行き好きにしろ」
魔法使い「魔王……いいの?」
魔王「うん……」
側近「それでは私の責任が!」
側近「くぅ、分かった。私も一緒に行く」
側近「だが、その前に魔界の統率をどうにかしないとな」
魔王「それは……水と土がやってる」
側近「そうか、ならば心配はないか」
勇者「よし、帰るか。僧侶、お前ももう自由だぞ。よかったな」
ギュッ
勇者「なんで俺の後ろにいんだよ」
僧侶「ここ……安全っぽいですから……///」
勇者「ま、まだ俺を盾にする気か!?」
王様「魔王を生きて捕らえてくるとはよくやった!」
大臣「ぐぬぬ」
王様「これは褒美だ」
勇者「いやぁ……どーもどーも」
王様「側近、お前の働きも見事であったな」
側近「はっ……それで……魔王は……」
王様「まだ魔族の動きが止まってはいない。終戦の切り札になるやもしれぬ」
側近「では、殺したりは……」
王様「せぬよ。お前もな」
ガシッ
側近「ぐっ……何を!」
「動くな!」
王様「最初から気づいておったよ……魔族だとな」
僧侶「あうあう……」
王様「おや、お仲間は気づいてなかったのですかな?」
王様「魔族が我らに手を貸したいと言って来た。これは危険な賭けであったが成功だったな」
王様「働きも申し分なかった」
王様「くくっ、まさか魔王まで捕らえてくるとはおもわなんだがな。だがここまでだ」
王様「いつ裏切るか分からんからな。いや、まだ何か狙いがあるやもしれぬ」
魔法使い「待って!側近は……」
王様「側近は?まさか仲間だとでも?人間を敵に回すのか?よく考えて答えよ」
側近「くくくくくっ、はははははは……はぁーーーはっはっは!バレテしまったか!愚かな人間どもめ!」
魔法使い「側近!?」
側近「気安く呼ぶな!人間が!」
側近「油断させてここでまとめて殺してやろうと思っていたが、どうやらここまでのようだな!」
勇者「側近おまえ……」
側近「人間の王にしてはなかなか隙を見せないから油断させようと思ったんだがな!」
勇者「うそだろ……仲間じゃねーのか」
側近「何が仲間だ!笑わせる!ぺっ!」
ベチャッ
「動くな!」
王様「もういい!引っ立てろ!」
側近「これで終ったと思うなよ!我らが眷属がお前たちを地獄に落とす!」
ズルズルッ
勇者「はぁ……側近があんなやつだったとはなぁ」
魔法使い「あんた……それ本気で言ってんの?」
僧侶「はぁ……ちょっといいなって思ってたんですが……」
勇者「え?え?なんか違った!?」
魔法使い「側近はあたしたちのためにああ言ったに決まってるでしょ!」
勇者「でもあいつ俺に唾はきかけたぜ!あー、きもちわりぃ」
ゴシゴシッ
魔法使い「はぁ……ほんと馬鹿ね。あの時側近が他にも投げたでしょ」
勇者「は?」
魔法使い「ほらっ、これ」
パラッ
魔法使い「あんたに唾かけてる隙にこっちに投げたの」
僧侶「地図……でしょうか?」
僧侶「あ、コタツのつけっぱなしでした。帰りますね!」
ダッ
勇者「おい、またか」
ガシッ
僧侶「じょ、冗談ですよぉ……いやだなぁ。私は成長したんですから」
魔法使い「行く?」
勇者「しかないだろ。でもここ行って何しろってんだ?」
僧侶「助けを呼んで欲しいとか?」
勇者「あいつそんな感じじゃなかったけどな。むしろ死にたそうな……」
魔法使い「まさか……」
魔王「捕まってしまったな」
側近「ですね」
魔王「これだけ結界を重ねられたら私でも無理だな」
側近「でしょうね」
魔王「お前が教えたのか?」
側近「ええ」
魔王「そうか……もしかして昔私にも教えてくれたのか?」
側近「ええ、解除法も。これだけ重ねたら無理ですが……」
魔王「ごめんなさい……」
側近「魔王様」
魔王「ごめんなさい……ううっ……私がもっと側近の言うことを聞いていれば……」
魔王「準備?」
側近「たぶん勇者たちが知らせてくれます」
魔王「知らせる?何を?」
側近「我々が捕まっていることを」
魔王「知らせるとどうなるんだ?」
側近「私のおいてきたマニュアルにはこう書いてあります。『魔王様や側近が捕まった場合には』」
魔王「場合には?」
側近「『決して要求に屈してはいけない。見捨てろ。』っと」
魔王「ぷっ」
側近「魔王様?」
魔王「あははははは!」
側近「どうしました?」
魔王「側近はいつでも側近だなぁ」
魔王「じゃあ殺されちゃうな」
側近「ですね、怖いですか?」
魔王「うん……でも側近が一緒だから」
側近「そうですか」
魔王「なぁ、側近」
側近「なんです?」
魔王「私のこと……好きか?///」
側近「いえ、別に」
魔王「……」
ブチッ
魔王「空気よめええええええええええ!」
ボコボコッ
側近「い、痛い!痛いですよ!」
「静かにしろ!」
勇者「ここか?」
水の将魔「人間!?」
土の将魔「人間っすよ!てめぇらなんのようっすか!」
勇者「いや、あの……ほらっ、これっ」
フリフリッ
僧侶「白旗!これ白旗ですよ!負けの合図です!攻撃しちゃだめな合図です!逃げていい合図ですよ!」
水「白旗?人間が降伏するとでも?」
土「ですよねー。魔界は今人間のほうが優勢っすもんねー」
水「白旗を揚げるなら武器を捨てなさい」
勇者「うっ……」
水「話し合いはそれからです」
勇者「わあったよ」
魔法使い「はいはい」
カシャン
僧侶「えっえっ!?武器手放したら誰が私を守ってくれるんですか!?」
僧侶「怖い……怖い……帰りたい……」
土「こっちのお嬢ちゃんなんなんすか?」
僧侶「私にはまだ勇者バリアーがあります……」
ギュッ
勇者「こいつは……」
水「それでどうしてここが分かりました?」
魔法使い「ここって?」
土「魔王軍の臨時本部っすよ。もしもの時はここで落ち合うっす」
水「あ、こらっ、軍の秘密ですよ!」
土「あっ、しまったっす。てへっ」
ペロッ
水「可愛くないですよ」
水「そうですか……炎と風は逝きましたか」
土「うおおおおおおおん!寂しいっすよーー!」
水「そして魔王様と側近殿が捕まっているとは……」
土「でも側近殿のマニュアルだと……」
水「ええ、見捨てないといけないですね」
勇者「なんだよそれ!」
僧侶「酷い……」
魔法使い「で、見捨てる気!?」
土「……」
水「……」
土「魔王様はどうでもいいっすけど、側近殿は……なぁ」
水「魔王様は死んでくれていいですけど、側近殿は必要な方ですね」
僧侶「あ……なんか泣けてきました」
ホロリッ
魔法使い「じゃあ……」
土「よっしゃ!いっちょ魔王軍を再召集するっすよ!」
水「ええ!側近殿を助けるためなら皆が力を助けてくれるでしょう!」
土「ぎゃは!それじゃ側近軍っすねー」
水「側近殿にしごかれた兵の指揮……今こそ見せる時です!」
土「あいあいさー!」
勇者「なんか俺達部外者っぽくね?」
魔法使い「言わないで……泣けてくるから」
大臣「王様!国境に魔王軍の残党が集結しつつあると情報が」
王様「来たか。意外と早かったな」
大臣「どどどどどどうします?」
アワアワ
王様「慌てるな。みっともない。どれ、私が行こう」
大臣「え?」
王様「ふふふっ、自分達の王がこちらの手のうちにあると知った時……どのような顔をするのか楽しみだ」
大臣「え?え?」
王様「兵を招集せよ!親征だ!」
水「来ましたか!人間の王よ!」
王様「ふん、魔物風情が開戦の挨拶とは笑わせる」
土「風情ってなんすか!風情って!」
王様「人間の言葉を話すな。不愉快だ」
水「私は水の将魔。あなたの命、貰い受ける!」
王様「くくっ、魔王はどうした」
「!?」
王様「はーっはっは。魔王は我々の手にある!降伏しろ」
「魔王様?」
「あー、あのわがまま大王か」
「あいつ嫌いー」
「どうでもよくね?」
王様「ど、どうした!?お前たちの王が我が手にあるのだぞ!」
王様「な、なにを……はったりか!?」
水「行きますよ!」
王様「側近とかいうやつも捕らえておるのだぞ!!」
「!!!」
ザワザワッ
王様「どうだ、分かったか」
「側近様……」
「俺子供のころ頑張れってアメちゃんもらったことあるぞ」
「俺、側近殿に名前をつけてもらったんだ」
「俺のじいちゃんも名前もらったっていってた!」
「あの野郎……私の側近殿を……」
ザッザッ
王様「な、なんだ!?」
水「側近殿を取り返しますよ!!」
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
ドドドドドドッ
王様「くっ……援軍を呼べ!」
魔王「この浮気物!朴念仁!」
ボコボコッ
側近「ああ……せめて断頭台で死にたかった……」
ザワザワ
魔王「ん?騒がしいな」
側近「助かった!?」
「なんだお前たちは!なにをすくぁwせdrftgyふじこlp」
バタッ
勇者「よう!大丈夫……そうじゃないな?なんだその顔は」
魔法使い「酷い……拷問されたの!?」
僧侶「顔パンパンです」
魔王「お前たちは!?」
側近「お前たち……警備のやつらはどうしたんだ?」
勇者「みんな戦争に借り出されてるよ」
勇者「で、そっちに気がいってるうちにお前を助けてくれって頼まれてさ」
側近「将魔たちが……くぅ……馬鹿め……」
魔王「私には何か言ってたか?」
勇者「死ねって」
魔王「……」
魔法使い「それにしても酷い顔……大丈夫」
スッ
側近「いつっ」
魔王「そ、そうなんだ。まったく酷い拷問だったなぁ……」
側近「ですね……」
魔法使い「僧侶、回復してあげて」
僧侶「はい、回復魔法(主に私を中心に)」
パァァ
側近「治った」
魔法使い「あれで周りも直しちゃうのはすごいわね」
魔王「だが、大丈夫なのか?残りの魔王軍は……」
魔法使い「ええ、たぶん王国軍の半分以下じゃないかな」
勇者「しかも、王国軍は側近の最新の戦術を組み入れてんだろ?」
僧侶「も、もしかして魔王軍が負けたら私達お尋ね者ですか?」
勇者「だな」
僧侶「えっと……じゃあ……」
チラッ
魔王「こっちみんな」
魔法使い「今さら魔王を倒しても仕方ないでしょ」
側近「魔王軍が負ける?どうだか」
魔法使い「え?」
勇者「はぁ?あのチャラ男も?」
側近「見た目に惑わされるな。炎や風は力で将魔になったが、あの二人は私並に弱いぞ」
エヘンッ
勇者「威張るな。そういえばお前戦闘一回も戦ってなかったよな」
側近「今さら気づいたか。馬鹿め」
勇者「口も悪くなってるし!」
魔法使い「でもマニュアル通りにしか戦わないんでしょ?」
側近「それはどうかな?それに……」
魔法使い「それに?」
側近「土と水は相性がいい」
王様「右翼に回りこめ!」
「し、しかし敵の展開が早く……」
王様「言い訳するな!ならばこちらもその分早く動けばいい!」
「はっ!」
王様「なぜだ!敵の数が減らん!」
「後ろから伏兵です!!」
王様「何!?そんな馬鹿な!」
「右からも!」
王様「ええい!守りを固めろ!」
水「陣形に魔法が組み込まれてるなんて思ってもみないでしょうね」
土「ぎゃは!また幻影追いかけてるっすよー」
土「俺の土魔法と」
水「私の水魔法で」
水「よし!囲みますよ!」
「うおおおおおおおおおおおおおお!」
ドドドドドッ
水「うぐっ……はぁはぁ……」
ボタボタッ
土「ちょっ!大丈夫っすか!水さん!」
水「不覚を取りました……」
土「ほらっ、敵が王様突き出してきましたよ。もうすぐっす!」
ズルズルッ
王様「何をする貴様らー!」
ジタバタ
水「……」
土「ほらっ!俺達が側近殿をすくったんすよ!ねぇ水さん!」
チャプンッ
王様「は、はは……馬鹿が、人間に逆らうからだ!」
王様「はははは……」
土「ふんぬううううううう!」
ズバッ
王様「……」
コロコロ
土「うるさいっす……うるさいっすよ……」
大臣「ひぃいいい!」
側近「土……お前だけか」
勇者「すっげー。マジで勝った」
僧侶「はぁ……生きているこの幸せ、かみ締めたいです」
魔法使い「これって……」
側近「水は……逝ったのだな」
土「側近殿おおおおおおおおお!」
ガバッ
土「水さんのこと褒めてやってくれっす!側近殿!」
ボタボタッ
側近「ああ、よくやった。私を超えたな。いや、ずっと前から超えていたのかもな」
土「ううっ、どうしたっすか、側近殿、そんな優しいことばらしくねーっす」
土「でも、ありがとうっす……」
ギュッ
魔王「あ、あのぅ……」
土「あっ!」
勇者「あちゃー……なんで自分から地雷に……」
僧侶「これは血を見ますね!私以外の」
ドキドキ
魔法使い「向かい合うなら早いほうがいいでしょ」
土「よくここでその面だせるっすねぇ!魔王様!」
魔王「え、えーっと、ね」
土「炎も風も水もしんじまったっすよ!ねぇ!何かいうことないんすか!」
土「ご?」
魔王「ごめ~ん♪ねっ!許して!」
キャピッ
勇者「うわあ……」
僧侶「これは酷いです……」
魔法使い「向かい合う気ないわね……」
土「……」
ブルブルッ
魔王「え?そう?初体験させちゃった?あは……」
土「死んで謝れええええええええ!」
ダッ
側近「待て!」
土「側近殿!止めないでください!こいつは……こいつだけは……」
側近「魔王様のアレは私の責任だ」
魔王「アレって……私アレって……」
土「でも!」
側近「魔王様のことは私が責任を持つ」
土「わ、わあったっすよ!ふんっ!」
側近「すまないな」
ザッ
大臣「ひぃ!」
側近「どうする?降伏したそうだが」
大臣「そ、そうだ。降伏する。命だけは……」
側近「まぁ普通こうだな。国のトップが討ち取られたら……」
側近「優秀な王だった。立場が違うだけだったが、本当に……」
側近「それに比べて……」
チラッ
魔王「こっちみんな!」
側近「なぜ私に聞く?」
土「へ?」
側近「勝ったのはお前たちだ。お前たちが決めればいい」
土「それって……」
側近「それにコレにはもう魔王をやめさせよう」
土「じゃあ、側近殿が魔王になってくれっす!」
側近「だめだ」
土「なんでっすかー!誰も文句いわないっすよ!」
側近「やることがある無理だ」
土「そんなー、じゃあどうするっすか!」
元魔王「私やめるなんて一言も……」
勇者「お前……この場の全員敵に回す気か?」
僧侶「私は逃げますけど、やめておいたほうがいいですよ」
魔法使い「あんまり調子に乗ってると……」
ゴゴゴゴゴゴッ
元魔王「わ、わかった!魔王やめる!」
土「はぁ?俺?無理無理むりっすよ!」
側近「なぜ?」
土「俺よわいっすから!」
側近「安心しろ!私のほうが弱い!」
エヘンッ
勇者「だから威張んなよ……」
側近「それに弱いからこそ分かるものもあるだろう」
「土なら俺はいいぜー」
「俺も!」
「また酒おごってくれー!」
「面倒見いいしなー!」
側近「見ろ」
土「……」
ブルブルッ
大臣「は、はひ!」
土「ほらっ握手っす」
ギュッ
大臣「へ?へ?」
土「もうお互い悪いことやめるっすよ」
大臣「あ、ああ……」
土「じゃあみんな帰るっすよー」
「うーい!」
「おつかれさーん」
「土かっけー!」
「馬鹿!魔王様って呼べよ!」
土「ぎゃは!」
ドドドドドッ
僧侶「じゃあ私もう用ないみたいなんで帰りますね」
タタタッ
勇者「ちょっ!待てよ!」
タタタッ
魔法使い「やることって?」
側近「ん?」
魔法使い「魔王になる以外にやることって何?」
側近「ああ、コレの教育をしないと世界に迷惑がかかるからな」
コレ「コレになっちゃったし!」
コレ「や、やっぱり側近は私のこと好きなんだ!///」
側近「むしろ嫌いになりました」
コレ「あうっ……」
魔法使い「嫌いなのになんで?」
側近「お前が行っただろう。困っている人がいたら助けるってな」
魔法使い「!」
側近「じゃあな」
魔法使い「ね、ねぇ」
側近「なんだ?」
魔法使い「あ、あたしのことは?///」
側近「は?」
魔法使い「だ、だから!私のことは……好き?///」
チラッ
魔法使い「え?」
コレ「ずるいー!私と全然違うー!」
側近「ではさらば!」
バッ
魔法使い「待って!あたしも行く!」
ダダッ
側近「はっきり言ってコレの謝罪回りだぞ、いいのか?」
魔法使い「いいの!」
側近「ふん!面白いやつだ」
コレ「……」
僧侶「ほらっ勇者様!あそこの犬噛み付くんですよ!先に行ってください」
勇者「あのな……いちいち俺呼び出すのやめてくんない?」
僧侶「私を守ってくれるって言ったじゃないですか!」
勇者「なんかちがくね?」
僧侶「あっ!あそこにゴロツキがいますよ!勇者様!」
グイッ
勇者「ちょっ!」
僧侶「行けー!勇者バリアー!」
ダダダッ
なんか最初に思ってたのと違う方向に行っちゃいました(´・ω・`)
それでは!
面白かった
素晴らしかった!
Entry ⇒ 2012.04.02 | Category ⇒ 勇者魔王「」SS | Comments (0) | Trackbacks (0)
少女勇者「脱ぎたぁいのおおおお」魔王「」
http://hayabusa.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1332849065/
勇者「よし……勝負だ、まおぅ…………」
勇者「脱ぎたぁいのおおおお」
魔王「」
勇者「やだ、やだ、どうして!? 脱ぎたいの!」
勇者「ねえチャーム使った!?」ヌギヌギ
魔王「そのようなことをした覚えはない」
勇者「そうだよね! 魔法かけてる素振りなかったもん!」
魔王「……」
勇者「やだ、見られたくないのに…………」
勇者「魔王に見られたいのおおお」
勇者「僕おかしくなっちゃったの!?」ハアハア
側近「魔王様、勇者が到着したとの報告があったのですg」
側近「……貴方は勇者に一体何をさせているのです」
魔王「いや待て誤解だ。俺にも一体何が起こっているのか全く分からん」
側近「悪い大人が幼い少女を半裸にさせて泣かせているようにしか見えませんが」
側近「……本当ですか?」
魔王「だから誤解だと」
勇者「ひくっひくぅっ……僕一体どうしちゃったの」ヌギヌギ
側近「ほら、ちゃんと服着てください」パサッ
勇者「うぅ…………」グスッ
側近「揉め事が起きた時、手っ取り早くどちらかが諦めるように施された魔王と勇者の戦いの儀式ですが」
側近「これでは実行できませんねえ」
勇者「僕こんな子じゃないのに……」
側近「ちょっと別室で落ち着きましょうか」
勇者「魔王以外の人には身体見られたくない……」
側近「魔王様は別行動していただけます?」
側近「貴方がいらっしゃると勇者の調子が悪くなるそうなので」
魔王「…………」
側近「冷静になりましたか」
勇者「うあぁ……僕どうしてあんなことを…………」
側近「一体何が起こったのですか」
勇者「魔王を見たら、突然……ふ、服を脱ぎたくなって」
勇者「気がついたら上半身……裸で…………」
勇者「は、はつ、発情するって……こういうことなのでしょうか」
勇者「うそだ……僕そんな変な子じゃない!」
勇者「よく……委員長よりまじめでうざいって言われてるのに……」
側近「……不思議ですねえ」
勇者(やだこれ……)
側近「魔王様があのタイミングで魅了魔法使うとは到底考えられませんし……」
勇者「どうしよ……王様と国の皆の期待を背負ってるのにこれじゃまともに戦えない」
側近「まあ今回の魔族と人間の問題の解決はそこまで急ぎませんし、」
側近「しばらく様子を見ましょうか」
勇者「ごめんなさい……」
側近「魔族と人間の間に問題が発生した場合、談合による解決が見込めない場合は」
側近「魔王と勇者が戦い、敗北した側は勝利した側の要求を呑む」
側近「このような状態で勝利したくはありません」
勇者「うぅ……ご迷惑をおかけして本当にごめんなさい」
魔王「おい、勇者はどうなっている」コンコン
勇者「っ!?」
側近「戦える状態ではありません。儀式はしばらく見送りましょう」
魔王「勇者の行動の原因は分かったのか」ガチャ
勇者「まおおぉぉぉお」ガバッ
魔王「!?」
勇者「はあはあはあはあ」スリスリ
魔王「っ…………」
側近「魔王様、お顔が赤いですよ。まさか、10代前半の少女にこうh……」
魔王「早くこいつを引き剥がせっ」
側近「はいはい」
勇者「あうっ」
魔王「全く……何故今回の勇者はこのような行動を取るのだ」
側近「原因はまだ不明です」
魔王「…………」
勇者「まおー……………………」ウルウル
側近「もうしばらくどっか行っててください」
魔王「……そうするぞ」バタン
勇者「はっ、僕は一体……」
側近「魔王様の気配が消えたら正気に戻る、と」
勇者「い、今さっき、完全に理性吹っ飛んでた……」
勇者「やだ……やだよぉ…………」
勇者(……最高に恥ずかしい……)
勇者(魔王を見ると、魔王以外のこと考えられなくなって)
勇者(夢中になっちゃう…………)
勇者「ぅぅ…………」
勇者(何で……どうして……)
側近「まるで恋する乙女みたいですね」
勇者「えぇっ!?」
側近(やっていることは変態ですけど)
勇者(恋=発情するってことなの?)
勇者(わかんない…………)
勇者(けど、会ったばっかりなのに……魔王が……恋しい)
勇者(でも確実に変な子だって思われてる……! 思われてないはずがない!)
勇者「うあぁぁぁぁぁ暴れたい」ゴロゴロバタバタ
側近(発情の仕方はサキュバスに近いが……淫魔特有のフェロモンは発生していない)
側近(そもそも勇者は人間のはず……)
魔王(先天性の痴女か?)
魔王(一瞬でも彼奴を可愛いと思ってしまった自分が情けない)
魔王「……………………」
魔王(抱き付かれた部分が……熱い)
魔王(阿呆が)
勇者「何であんな行動に走っちゃうん、だろ……!」グスッ
勇者「こんなんじゃ、勇者としての責任も果たせないよ……」
勇者「うぅっ……ぐすっ…………うわあぁぁぁん」
勇者「えぐっ…………えぐぅっ…………」
魔王「…………」
魔王(俺が傍にいない時は普通の人間なのか…………)
……
側近「城内でも散歩します?」
勇者「あ、ちょっと見て回りたいです。こちらの文化にも興味があるので」
勇者「装飾見事ですよねー」
魔騎士「閣下、少々来ていただきたいのですが」
側近「……お一人で大丈夫ですか?」
勇者「多分大丈夫です」
勇者(彫刻や他の装飾も、豪華且つしつこ過ぎない。ほんと綺麗だなー)
勇者(いっそのこと永住したい)
勇者「あ」
魔王「っ……」
勇者「まおおおおおお」ガシッ
魔王(思わず遭遇してしまった)
勇者「はあはあまおぉぉ」スリスリ
魔王「…………」
勇者「か、らだ、が、かってにぃ」スリスリスリスリ
魔王「…………」
魔王(……これはどう対処すべきなのだろうか)
勇者「ま、ぉ…………」
勇者「………………ぇき」
勇者「まおーのせーえきほしい」
魔王「」
勇者「や、やだっせーえきってなに?」
勇者「わけわかんないのに言いたくなったのおお」
魔王「」
勇者「いみわかんないのにくちがかってにいいいいい」ブワッ
魔王(まるで淫魔だな…………)
勇者「まおおぉぉ…………」スリスリ
魔王「ぅ…………」ビク
勇者「まおう?」
魔王「……牛乳でも飲んでいろ」バッ
魔王(逃げる)ダッ
勇者「まおーまって、おいてかないで!」
魔王(反応しかけた…………)
……
勇者「この汚れはこの洗剤使うと簡単に落ちるよ」
召使「あら本当」
勇者「お料理手伝います!」
調理師「すっ、すごい」
勇者「家事は得意です」
魔王「……何をしている」
勇者「!? まおおおおおお」ガバッ
魔王「…………」
勇者「せめて滞在にかかっている税金の分だけでも働こうと思ってえええ」スリスリスリ
魔王「……妙に律儀なんだな」
魔王(変態だが)
勇者「僕ねえきっと良いお嫁さんになるよおおお?」
魔王「よ、嫁……?」
勇者「あれ? 僕何言っちゃってるの!? 僕魔王のお嫁さんになっちゃうの!?」
側近「というかもう他の所には嫁に行けなくないですか」
側近(裸見せてたし)
勇者「ど、どうしよおおおお」
魔王(……逃げるか)
側近「魔王様を見ては脱衣、しがみ付く等の(変態)行為をここ数日続けたわけですが」
勇者「…………」
側近「このまま変化なしだと少々厄介ですので、私なりにこの現象について検討してみました」
勇者(魔王に会いたいいいぃぃ)
側近「まず、貴女は人間の中では最も強い、という事は真実ですよね?」
勇者「勇者第一候補だった兄にうっかり勝ってしまったので恐らく正しいかと」
側近「人間に、もしくは魔族にでも、対等と言える者はいましたか?」
勇者「戦っていないので実際どうなるかはわかりませんが」
側近「という事は、貴女が唯一対等な立場になれるかもしれない魔王様に親近感を覚えることはおかしいことではありません」
側近「しかし、それだけでは発情行為の説明がつかない」
勇者「は、発情……」
側近「家系図を調べた限りでは、貴女は純粋な人間なのですが」
側近「実は淫魔の血が入ってたりなんてことないですか?」
勇者「そういえば、昔おばあちゃんが言ってたような……でも、確かな記憶じゃないし」
格闘家「こいつの父ちゃんの本当の親父インキュバスだってよ」
勇者「や、やっぱり? って」
勇者「わわわわわ4君いつの間に来てたの!?」
側近「この私でさえ気配に気づかないとは……」
格闘家「今さっき来た。戦いの儀式が延期だって聞いたから様子見に」
勇者「数少ない友達が会いに来てくれた!」
格闘家「あまりにもぼっちで痛々しいから憐みで相手してやってるだけだぞ」
勇者「……分かってたけどはっきり言われると傷付く…………」
格闘家の名前=4
勇者「おばあちゃん、淫魔と浮気したってこと? 誘惑に負けちゃったの?」
格闘家「いや、じいさんと結婚する前にお前の親父産んだらしい。したがって浮気ではない」
勇者「そ、そっかあ……って、他人の事情にどうしてそこまで詳しいの」
格闘家「小さい頃お前のばあちゃんからこっそり聞いた」
勇者「わけがわからないよ」
魔王「おい、勇者以外の人間の気配がしたのだg」ガチャ
勇者「まおおおおおおお」ガバァッ
魔王「……慣れたからもういい」ズリズリ
勇者「ん……まおぉ……」トロォ
格闘家「何この面白い生物」
勇者「わっ! う、うわ、4君もいるのに理性吹っ飛んでたあああ」
側近「珍しく貴方がいるのに正気に還りました」
魔王「…………」
勇者(ど、しよっ……魔王に抱きつきたいぃっ…………)ウズウズ
側近「例外もありますが、生命とは基本的に自分より優れた者を伴侶に得たがるものです」
側近「勇者の場合、戦闘に於いて自らより優れている、もしくは同等である可能性のある存在が魔王様しかおらず」
側近「生命の本能と、淫魔の本能が重なった結果あのような行動をしていたのだと思われます」
格闘家「先天的な変態だったんだな」
勇者「う……」
側近「淫魔の本能はなかなか抑えられませんからねえ……」
側近「性欲抑制剤でも飲みますか」
勇者「せ、せい、よく…………」
格闘家「俺等の年齢には刺激が強い単語だな。俺は平気だけど」
側近「というわけで、明日戦いの儀式結構で問題ないでしょうか」
魔王「俺は構わんが」
勇者「…………」
コンコン
魔王「……誰だ」
勇者「ぼ、僕です、勇者です。入っても良いですか」
魔王「…………抱き付かないのならな」
勇者「う……精神安定剤だけは飲んできたので、多分大丈夫だと思います。……保証はないですけれど」
勇者「っ……こんな夜に、ごめんなさい」
魔王「……何の用だ」
勇者「そのっ、あ、明日のことで」
魔王「…………何だ」
勇者「……………………でき、ること、なら、」
勇者「たたかいたく、ないんです……っ…………」ヌギ
魔王「……怖気付いたか?」
勇者「そうじゃ、ないんです」
魔王「……それで事が済むなら、疾うの昔に終わっている」
勇者「それは、そうですけど……」ヌギ
勇者「でも、戦いの儀式は、言わば戦争の代わり。どちらかが、もしくは両方が死ぬかもしれない」
勇者「貴方と、殺し合いをしたくは、ないんですっ…………」ヌギ
魔王「……………………」
勇者「ごめんなさい、僕、まだ子供だから、詳しい大人の事情なんて分かっていないのに」
勇者「こんなことを言って、ごめんなさい……」ヌギ
勇者「無責任にも、程がありますよね…………」ヌギ
勇者「……いいえ、きっと、淫魔の本能だけじゃない……」ヌギッ
勇者「魔王、僕は…………」ブルブル
魔王「……とりあえず服を着ろ」
勇者「えっ!? や、やだっいつの間に裸にっ……!」
勇者(なんか寒いと思った…………)
魔王「……こっちに来い」
勇者「で、でも」
魔王「良いから近付け」
魔王「…………」ギュゥ
勇者「!?」
魔王「……俺だって、お前と殺し合いたくなどない」
勇者「え…………」
勇者「僕のこと、嫌いじゃないの? 僕、すごく……変な子でしょ?」
魔王「……この数日、お前を遠くから眺めていた。正気のお前も知っている」
勇者「え、そ、そうなの…………?」
魔王「俺が近くにいる時といない時とで豹変するからな。何と面白い生物だと思って観察していた」
魔王「…………冗談だ」
勇者「な、何それ!」
勇者(魔王でも冗談言うんだ……)
魔王「……お前はまだ子供だ。大陸に住む人間全員の期待を背負うには小さすぎる」
魔王「重責まで圧し掛かるのならば尚更だ」
勇者「ん…………」
魔王「戦闘能力が高いからと言って、子供一人に全てを背負い込ませること自体が間違っている」
勇者「戦わないといけないのは理解しているんです。でも、感情が追いつかなくて」
勇者「僕、僕…………」ウル
魔王「…………」ナデナデ
勇者「っう、えぐっ…………」ブワッ
勇者「やだよ……魔王……っ…………戦いたく、ない、よ…………」
勇者「領土を奪う合うことの価値なんて、僕にはわからないよっ…………」
勇者「わかんないよぉ…………」
魔王「……………………」
勇者「明日になったら、ちゃんと戦うから…………」
魔王「…………」
勇者「………………からだが、あついです」
勇者「ど、しよっ……からだがあついのお」
魔王「……薬など、気休め程度だったか」
魔王「子供に多量の薬剤を投与させたくはないのだが」
勇者「ふくさよう、あるの……?」
魔王「……ああ」
魔王「……薬なしに淫魔の本能を抑える方法があると言ったら、どうする」
勇者「方法、あるの? 教えて!」
魔王「……淫魔の本能、即ち欲を満たせば良い」
勇者「え…………それって、つまり…………魔王と、大人じゃないとしちゃいけないこと、するってこと……?」
魔王「……そうだ」
勇者「………………」
魔王「お前の身体と、そして心も傷つける行為だぞ」
勇者「構いません。ちゃんと戦う為ですから。……お願いします」
魔王「……お前の一生が壊れてしまうかもしれないぞ」
勇者「……僕の、人生なんて、貴方がいなければ、寂しいままなんです」
勇者「貴方がいなければ、僕はこれからもひとりぼっちなんです」
勇者「ですから、貴方からされるのであれば……嫌なんかじゃ、ないんです」
勇者「はやく、この熱を……沈めてください」
魔王「……本当に、良いのだな」
勇者「はいっ……」
魔王「……大丈夫か」
勇者「ひぁ、はい」
勇者(くちびる、くすぐったい……)ゾク
魔王「……舌、挿れるぞ」
勇者「ひぇっ……どういうこと?」
魔王「…………ディープキス、分かるか?」
勇者「……分からないです」
魔王「……噛むなよ」
勇者「んぅっ!?」
勇者「…………ぷは、は、はあっ、は、あ…………」ゾクゾクゾクッ
魔王(……このまま続けても良いのだろうか)
魔王(いや……続けるしかないのか)
勇者「キスが、甘い、って、こういうこと、なの……?」トロォ
勇者「んむぅっ……っ…………」クチュ……
勇者(キスって、こわくて、すごい…………)ビクッ
勇者(押し倒された…………)ゾク
魔王「……怖いか?」
勇者「こわい、けど、からだ、あついの」
勇者「こすりあわせたい」
魔王「……身体を異性に擦りつけたがるのは、淫魔の子供によく見られる習性だ」
勇者「そ……なの……?」
魔王「幼くとも、本能的に快楽を求めるのであろう」
勇者「かい、らく…………」
勇者「むねなんて、なんかいもみられてるのに」
勇者「やっぱり、はずかしい…………」
魔王(……膨らみがほとんどないな……当然か)
魔王「……触るぞ、良いな?」
勇者「は、い…………」ブルブル
勇者「ひぁっ……」ピク
魔王(このようなろくに知識もない子供が、最後まで耐えられるのか……?)
勇者「まお、ぅっ……んぅっ…………」
勇者「はあ、はぁっ……は、あぁっ…………」
魔王(傷痕が多い……相当修行を積んだのだろう)
魔王(これほどまでに小さな体で、どれほどの苦労をしてきたのだろうか)
勇者「そ、そこ、だめぇっ」
魔王「……脇腹が弱いのか」
勇者「んんっ! やめ、てぇっ! あ、や、やあぁ……」ビクビク
……
勇者「おなか……あしのあいだがムズムズするの……」
魔王「………………このまま続けても後悔しないな?」
勇者「そんなこと、しな、いよ…………」ピク
勇者「だって、ぼく、まおうのこと……すき、だからっ…………」
魔王「っ…………」
勇者「なにされたって、いいの…………」
魔王「勇者…………」
勇者「ほんと?」
魔王「当初こそ妙な子供だと思ったが、いつの間にか、な……」
勇者「まお、ぅ……まおー…………」ギュウ
魔王「…………痛くなるぞ。覚悟は……良いな」
勇者「はいっ…………」
魔王「耐えろっ…………」ググ
勇者「ぅっ…………っ…………」
勇者「っ……ひ、ぁぁあっ…………」ビグビグゥッ
魔王「っ……痛みは激しいか」
勇者「だい、じょう、ぶですっ……ちょっと、ピリってする、けどっ…………」ヒクッヒクッ
魔王「……っ………………」
勇者「いたみより、あっぱくがぁっ…………ぜはっ…………」
魔王(すぐに動くのには無理があるな……)ナデナデ
勇者「ん…………」
魔王「……しばらく撫でてやる」
勇者「んん…………」トロォ
勇者「だれかにあたまなでてもらうの、ひさしぶり」
勇者「勇者になってから、だれからもなでてもらえなかったから」
勇者「まおう、だい、すき」ギュゥ
魔王「…………ああ」
勇者「んっ…………」
勇者「ずっと、いっしょにいたいの、いてほしいの」
魔王「…………」
勇者「ぼく、まおうがいれば、きっとひとりぼっちじゃない。さみしくなんてない」
魔王「勇者…………」
魔王(…………手放したくない)
勇者「めいわくだったら、ごめんなさい」
魔王「……迷惑なわけがあるか!」
勇者「ぼく、まおうといっしょにいられるの…………?」
魔王「……お前を抱く責任は取る」
勇者「ぼく、まおうのおよめさんになれるの……?」
魔王「ああ、そうだ」
勇者「……ほんきでたたかっても、きっと、しなないよね?」
魔王「……共に、生き延びよう」
勇者「きっと…………ううん、ぜったい……!」
勇者「うん……うごいて、いいよっ…………」
勇者「あっ、あぅっ、ううっ……んあっ……ああっ……!」
魔王「つらかったら正直に言え。良いな」グッグッ
勇者「んっ……だい、じょぶっ…………」ビクゥッ
勇者「あ、ああ゛っ、ん、んぅっ、んぁあああっ!」
魔王「勇者っ、やはり……」
勇者「だいじょ、うぶ、だよっ……だいじょうぶ、だからぁっ」
魔王「……勇者っ…………」
……
勇者「ひぁぁあああっ!」ビグゥッ
勇者「……終わった、の?」ハー ハー
魔王「ああ。……熱は治まったか」
勇者「うん…………もう、平気だよ」
勇者「魔王…………ありがとう」
魔王「……よく耐えきったな」
勇者「まお、ぅ…………」スー
魔王「…………よく眠れ、勇者」ナデ
魔王(既にあの土地を故郷として愛している者も多い)
魔王(……俺は負けるわけにはいかない)
魔王(しかし、儀式の敗者に対する誹謗は禁止されているとはいえ)
魔王(勇者が負ければ、故郷での勇者の立場は悪くなるだろう)
魔王(俺が傍にいたとしても、勇者の苦しみが……孤独が増す可能性がある)
魔王「……………………」
少年1「こいつゆうしゃのいちぞくのくせにちょーよえーよなー」
少年2「だっせぇw」
妹「だ、だって、たたかうのあんまりすきじゃないもん」
少年3「いたいのがこわいのか? ゆうしゃのちをひいてるくせに?w」
妹「いたいのは、こわいよ。つらいよ」
少年1「こいつほんとうにゆうしゃのいちぞくかよ」
少年2「ばーかちーびぶーすよわむしー!」
少年4「おいやめろって、なきそうだぞこいつw」
妹「いじめてるの? たすけてくれたの?」
少年4「りょうほう」
妹「…………?」
少年4「あんまりにもかわいそうだからちょっとかばってやったけどさー」
少年4「ゆうしゃのしそんのくせによわむしでなきむしなのはなさけねぇんじゃねーの?」
兄「こらお前何言ってんだ! 妹を馬鹿にしたら許さないからな!」
少年4「うわこええ!」ダダッ
兄「妹ぉ、大丈夫か?」
妹「……いもうと、だめなこだからいやなことたくさんいわれちゃった」
兄「お前は優しい子だからな。言い返すくらいしても良いが、相手を傷付けようとしないところがお前の良い所でもあるんだぞ」
兄「あんな奴等のことなんて気にすんな」
妹「うん……」
妹(つよくなったら、いじめられなくなるのかな)
妹(いまいじめてくるひとたちとも、なかよくなれるのかな……?)
妹「はあっ!」
兄「くっ……」
カキィィイン
審判「勝者、妹!」
司会「妹選手、優勝です! なんと勇者第一候補の兄選手を敗りました!」
妹(やった! これで、皆から認めてもらえる……!)
妹「お兄ちゃん、戦ってくれてありがとう。良い試合だっt」
兄「近付くな!」
妹「え…………」
兄(今まで俺が面倒見てやってたのに…………)
妹「おに、いちゃ……?」
兄「お前なんてもう俺の妹じゃねえ!」
妹「!?」
妹「ど……して…………」
妹(あんなに優しかったのに……)
司会「第一候補である兄選手に勝利したため、妹選手が今世代の勇者決定です!」
妹(勝っちゃ、だめだったのかな…………)
少年1「うわやべ逃げろっ」
少年2「復讐されっぞ!」
少年3「こ、殺されるうううう」
妹「待って、酷いことなんてしないよ、待って!」
妹「…………」
妹「……ただいま」
母「……妹!」
妹「え……?」
父「兄がいなくなった! お前さえ素直に負けていれば、家出なぞしなかっただろうに!」
母「あなたの所為よ! あなたの所為で兄が! 私の可愛い兄が……うう……」
妹「僕の所為で、お兄ちゃんが…………?」
妹「……………………」
母「ああ、兄、可哀想に……まさかこんな小さい妹に負けるだなんて……」
父「勇者になって、国を救いたかっただろうになあ……」
妹「僕、間違ってるの……?」
少年4「強くなり過ぎたんだろ」
妹「4君……」
少年4「お前が仕返しなんてしない性格だってのは知ってるっての」
少年4「俺格闘技習ってるから、相手が闘志持ってるかどうかくらいは読めるし」
少年4「まあ、俺もお前が強くなりすぎる原因作った一人でもあるわけだしよ」
少年4「少しくらい責任負った方が良いよなーって」
妹「よん、くん、僕、僕っ…………」グスッ
少年4「いくら強くなっても、泣き虫な性格は変わらねえよな」
妹「みんな、僕から離れて行っちゃったよおっ……」
妹「弱かった時よりも、もっと…………!」
妹「僕、僕、ひとりぼっちになっちゃった」
妹(体は強くなっても、心は弱いまま……)
妹「…………ごめんなさい」
二年後
兵士「勇者殿、任務です。古来より続いている領土問題なのですが」
妹「…………」
兵士「現在、魔族に奪われている地区を取り戻そうという活動が活発になっており」
兵士「今世紀は、勇者と魔王の戦いの儀式により諍いを沈めることとなりました」
兵士「御武運を」
妹「はい……」
妹(魔王に勝っても負けても、僕はきっと……ひとりぼっちのまま。帰ってくる場所なんてない)
妹(いっそ、死んじゃった方が楽になるのかな……?)
妹(独りでも、ちゃんと戦って、責任を果たさないといけないんだ)
――――――――
勇者「ごめ、なさ、い…………」
魔王「……寝言か」
魔王(涙…………)
魔王「勇者…………お前を独りにはしない」
勇者「痛み止め魔法かけてるから、大丈夫」
魔王「なら……始めるぞ」
勇者「…………はい」
側近「防護結界確認、戦いの儀式を開始します」
格闘家「がぁんばーれよー」
魔王「……手加減はせぬぞ」
勇者「僕も、本気で戦う!」
魔王「だが、絶対に死ぬな」
勇者「魔王も、死んじゃやだからね!」
エネルギー波の風が巻き起こった。
側近「生まれ持った、そう大きくはない素質を最大限に鍛え上げている勇者」
側近「どちらが勝利なさるのでしょうねえ」
格闘家「…………」
勇者「はぁあああ!!」カキイィィン
魔王「っ……」ギイイ
二本の刃が幾度と無く交わった。
……
側近「ほぼ互角ですね。数時間経ちましたが……」
格闘家「二人とも大分消耗してきたな」
勇者「……僕は、最後まで戦います。貴方が、僕をまともに戦えるようにしてくれたから!」
魔王「来い、勇者!」
二刃が最後の交わりを成し、勇者と魔王の魔力が吹き荒れる。
格闘家「衝撃波此処まで来たぞ、ヤバくないか!?」
側近「なら、人間の報告委員の方々と同じ様に室外に避難されます?」
格闘家「いや、見守りたい。防護魔術頼む」
側近「仕方ないですねえ」
魔王「くっ…………!」
凄まじい閃光が空間を包んだ。
それと同時に、魔王と勇者は対極に吹き飛ばされた。
勇者「っ!!」ドガッ
魔王「……っ」ズザアァァ
勇者「…………」
魔王「……っ…………」
側近「……先に立ち上がった方が、勝ちです」
格闘家「…………」
魔王「……っゆ、うしゃ…………」ヨロ
格闘家「……魔王か」
魔王「勇者っ……勇者ぁっ…………」ヨロ
勇者「…………」
側近「……っ!」
格闘家「おい、あいつ、血が…………!」
勇者「…………」
魔王「ゆ……う、しゃ…………?」
側近「……衝撃波により、全身に貴方よりも酷い傷を負っています。これでは……」
魔王「すぐに治療を!」
側近「…………出血量が多過ぎます。勇者は助かりません。それより、貴方の治療を」
魔王「ふざけるな!」
側近「貴方まで死んだらどうするんですか! 直ちに救護班を呼びます」
魔王「輸血はどうした!」
側近「……勇者の血は、人間と淫魔の混合型。適合者など見つかりはしないでしょう」
側近「…………勇者は、もう助かりません」
勇者「…………」
魔王「勇者、死ぬな! 勇者!!」
格闘家「……ごめんな」
格闘家「俺等がお前をからかったりなんてしなけりゃ、お前が嫌いな戦いをする破目になんてならなかったのにな」
格闘家「お前が早死にすることもなかったのにな」
格闘家「…………ごめんな」
魔王「勇者、お前は無能などではない! 勇者ああ!!」
魔王「ゆ…………う……しゃ…………」
数日後
側近「そろそろ報告班が人間の国に到着する頃でしょう」
側近「相当高位の術師でないと、向こうまで一瞬で転移することは難しいですからね」
魔王「…………」
側近「上手く事が運べば良いのですが」
魔王「………………」
側近「もうちょっと元気出したらどうなんですか」
魔王「…………」
側近「元気出せっつってんですよこのポンコツ」
魔王「………………」
魔王「…………」ハア
側近「……あの子供はよくやりましたよ、貴方とほぼ互角に戦ったんですから」
側近「貴方を殺しかける程戦える存在なんて他にはいないでしょうね」
魔王「………………」
団長「閣下、処理していただきたい書類があるのですか」
側近「分かりました、すぐにそちらへ向かいます」
側近「もっと嬉しそうな顔くらいしてくださいよ。では」タッタッ
魔王「………………………」
勇者「まおおおおおおおおお」バターン
勇者「まおー! まおおおお!!」ヌガセヌガセ
魔王「……」
勇者「はー、はー、まおおおお!!」ヌギヌギ
勇者「まおうあったかいよおあついよお」ジュリジュリ
勇者「まおおのちくびとぼくのちくびかさなってるよおこすれあってるよおお」スリスリスリスリ
魔王「……傷はもういいのか」
勇者「もうふさがったよおお」ジュリジュリジュリジュリ
勇者「目が覚めたら部屋から魔王いなくなってたから寂しかったよおおおおお」スリスリ
魔王「っ……ぅ…………」
勇者「まおーの身体おいしいのおもっと吸いたいのお」チュウンヂュウウウ
魔王「……跡を見られたらどうする」
勇者「髪の毛と服で隠れるところだけえ」チュッチュウウッ
勇者「あははっ、まおー僕のキスマークでいっぱあい」ウットリ
魔王「……抱いてから変態度が増したな」
勇者「はあはあ魔王大好きだよ魔王はあはあはあはあ」
勇者「まお……ぉ……」クラァ
魔王「お、おい! 全く……まだ貧血が酷いのだろう、無理をするな」ナデナデ
勇者「あうぅ…………」
魔王「ゆ…………う……しゃ…………」
ドッゴオオォォォォオオオオオ
側近「天井から侵入者が!?」
兄「妹! 妹ぉ!!」
格闘家「妹の兄ちゃんじゃんかよ! 生きてたのか!?」
兄「妹おぉぉぉ、ごめんな、悪い兄ちゃんでごめんな」
側近「あ、貴方は……」
兄「俺には妹と同じ血が流れてる! 必要なだけ抜き取ってくれ!!」
魔王「…………勇者は……助かるのか……?」
兄「さっさとしろ!」
……
勇者「…………」スースー
側近「どうにか一命を取り留めました」
魔王「勇者…………」
格闘家「……何で天井裏なんかに隠れてたんだよ」
兄「俺は……俺は…………」
兄「妹を、殺しに来たんだ…………」
格闘家「はあ!?」
側近「どうしてそのようなことを」
魔王「…………」ピク
兄「情けなかった。小さな妹に負けたことが」
兄「ずっと見下していた妹に、追い抜かされたことが」
格闘家「昔は仲良かっただろ」
兄「ああ、可愛がっていたさ。でも、それは俺が妹を下に見ていたからだ」
兄「……気がつけば、俺は暗殺術を学んでいた」
兄「妹を殺すことで頭が一杯だった」
兄「馬鹿だよな、負けたのは俺の努力不足だったのに」
兄「小さい頃から天才だって言われて、天狗になってたんだ」
兄「だから、数日前は城門の前に潜んでいた」
側近「しかし、儀式は延期になりました」
兄「ああ……だから、様子が気になって城内に忍び込んだ」
兄「その時は、まだ復讐に燃えていた」
兄「……でも、いざ妹が死にかけているのを見たら助けずにはいられなくなった」
兄「殺しに来たはずなのに、無我夢中で駆け寄っていた」
兄「……ごめんな、こんな悪い兄ちゃんで、ごめんな、妹…………!」
兄「全部俺の逆恨みだったのにな。本当は自分が悪いって気付いてたのに、認められなかった」
兄「ごめんな…………」
格闘家「知ってるわけないか」
兄「……俺の代わりに持て囃されていたんじゃないのか?」
格闘家「最年少勇者として持ち上げる奴等も遠くに居たことは居たが」
格闘家「友達は怖がって離れてくし、いじめっ子すら寄り付かなくなるし」
兄「嘘だろ!? 俺は勇者候補だから大勢のダチがいたんだぞ」
格闘家「お前とは違う。それにあいつ、両親からも結構酷い扱いされてたぞ」
兄「は……? 父さんと母さんから……?」
格闘家「罵倒されたり暴力振られたりはなかったらしいが」
格闘家「無視されたり、一晩中家から追い出されたりしていたんだってよ」
格闘家「『いつ追い出されても良いように新しい寝袋買ったのー!』って笑顔で言われた時はどう反応しようかと」
兄「嘘だ……父さんと母さんがそんな…………」
兄「妹を……女の子だからってすごい可愛がってたんだぞ……?」
格闘家「それだけお前が大事だったんだろ、妹なんてどうでも良くなるほど」
兄「俺の所為で、妹がそんな…………」
兄「俺、妹に感謝される資格なんてないから。合わせる顔もないし」
格闘家「これからどうすんだよ」
兄「……故郷に帰って、妹の居場所を作ってやりたい」
兄「少しでも贖罪したいんだ」
兄「……じゃあな」
魔王「……兄、と言ったな。勇者の命を救ってくれた事、感謝する」
兄「……俺、妹を殺そうとしていたんだぞ?」
魔王「お前が居たから勇者が助かったのは事実だ」
兄「…………」
格闘家はノーマルだけど妹は恋愛対象外の異性の友達みたいな
魔王「勇者!」
勇者「良かったぁ、二人とも生きてるんだ」
格闘家「おはよう変態」
勇者「変態言うなし」
側近「御生還おめでとうございます。しばらくは安静にしていてください」
勇者「ありがとう側近さん。少し、魔王と二人だけにしていただけますか?」
勇者「あ、でも色々用事あるからちょっとだけ国に行かなくちゃ。王様にも会わないと」
魔王「勇者……ゆ、うしゃ…………」
勇者「魔王……泣いてるの?」
勇者「どうして? 僕ちゃんと生きてるよ? 約束通り二人とも生きてるよ?」
魔王「……勇者、いや、妹…………」
勇者「ん、なんだか本名で呼ばれると気恥ずかしいや」
魔王「あのまま、お前が目を覚まさないのではと…………」
勇者「大丈夫だよ、僕生きてるよ! 心配してくれて、ありがとう」
魔王「お前を、この手で殺めては……いないのだな」
勇者「うん。本気でぶつかり合ったけど大丈夫だったよ!」
魔王「妹っ…………」ギュウ
勇者「んっ……」
魔王「……愛している。俺の腕を離れるな」
勇者「うん! 一回人間の国に行って帰ってきたら、後はずっと一緒だよ!」
勇者「魔王、どうして心配そうな顔してるの? もう安心して良いんだよ」
魔王「……あの時、お前を失っていたらと考えると、いまだに恐ろしくてな」
魔王「それに……一度故郷へ帰らねばならぬだろう」
勇者「それも心配なの? 大丈夫だよ、負けても馬鹿にされたりはしないから」
勇者「戦いの儀式で負けた勇者の悪口言ったら捕まっちゃう決まりだもん」
魔王「だが……」
勇者「早めに王様への挨拶終わらせて、すぐにこっちに帰ってくるよ」
勇者「あ、でも実家に荷物取りに行きたいな」
魔王「…………」
勇者「大丈夫だよ、もう、慣れてるから…………」
勇者「僕を待ってたの?」
格闘家「お前の魔法なら一瞬で飛べるだろ」
勇者「そっか、他の人だと休みながらになるから数日かかっちゃうもんね」
格闘家「お前の兄ちゃんでさえ数日かかるのに、お前どんだけ努力したんだよ」
勇者「? どうして分かるの?」
格闘家「い、いや……昔そんなこと言ってたんだよ」
勇者「……………………そっか」
勇者「……ご期待に沿えず、申し訳ございません」
国王「良いのだ。ここ数代負け続きではあったが、その中でもお主はよくやった」
国王「お主はまだ十一だと言うのに、成人している魔王と互角に戦ったのであろう?」
勇者「ですが、領土は……」
国王「魔王から何も聞いておらぬのか?」
勇者「は、はい。治療に専念するようにと、特に何も教えられませんでしたので」
国王「魔王は、あの地域を中立地区にするつもりなのだ」
勇者「中立……地区……?」
よって、敢えて要求ではなく提案という形を取らせて頂く。
第四中央地区を人間と魔族の中立地区に――
国王「魔国から送られた書類の内容だ」
国王「世代毎に不毛な戦いを続けるより、最初こそ困難は多くとも」
国王「将来的には争いが無くなる道を選ぼうとしているそうだ」
勇者「魔王が…………」
家臣1「しかし、罠と言う可能性が……!」
勇者「罠だなんて! 魔王はそんな……」
家臣2「儀式が終わり、状況を確認をしようと扉を開いた時、最初に目に飛び込んできたのは」
家臣2「かの魔王が、必死に重体の勇者を助けようとしている姿でした」
家臣2「詳しい事情は把握しておりませんが、数日の間に魔王は勇者と絆を築いていたようです」
勇者(……発情してたのは知られてないよね? 知られてたら死ねる…………)
家臣3「だが、要求――もとい提案を受理したところで、人間と魔族が近い位置に住めばどんな問題が勃発することか……」
国王「長い時間はかかるだろうが、少しずつ距離を縮めるべきではないか」
勇者「国王陛下!」
国王「あの土地は作物が良く育ち、他所では採れない最高質の鉱物も掘れる」
国王「太古より、幾度と無く奪い合ってきた」
国王「この時代で、この争いに終止符を打つべきであろう」
家臣3「……」
国王「何より、魔王は強制的な『要求』ではなく『提案』として申し出ている」
国王「我等も、この誠意に応えるべきではないか」
家臣1「…………そうかもしれませぬ」
勇者「僕が勝っていたら、今世紀は人間があの土地を奪えても」
勇者「未来で、同じ戦いが起きていたでしょう」
勇者「魔王は、絶対に人間を裏切ったりなんてしません!」
勇者「きっと平和な時代を創り上げることができます!」
勇者「したけど、味方してくれたから思ったより大丈夫だった」
格闘家「じゃあ俺こっちだから」
勇者「うん、ばいばい」
格闘家「……たまには魔王城に遊びに行くからな、ダチとして」
勇者「うん! 楽しみにして待ってる」
「小さいのによく頑張ったわよね」
「あんな幼い子に戦わせるなんて、世の中酷よねえ」
「おつかれさまー」
勇者(同情的な目で見てくれる人も、いるんだ)
勇者(世の中、捨てた物じゃないのかな……?)
少年2「あ……ほんとだ勇者じゃん」
勇者「っ!?」ビクッ
少年3「あいつ負けちまったんだろ?」
少年2「あいつが負けるとか、魔王ってどんだけ強いんだよ」
少年1「あいつも怪物レベルだろ?」
少年1「ひぃっ!?」
少年2「逃げるぞ!」
少年1「あいつ死んじまえば良かったのに」
少年3「捕まるから気をつけろよお前!」
勇者「…………」
勇者(話しかけようとした僕が馬鹿だったのかな……)
母「今思えば、妹が勇者になってくれて良かったわあ」
母「大切な兄が死なずに死んだんですもの。試練だけでも死ぬ危険性があるのでしょう?」
兄「母さん、やめてくれよ」
父「母さんの言う通りだぞ、兄。お前は大切な跡取りの長男なんだからな」
兄「父さんまで!」
勇者「……」
兄「二人とも、妹が大切じゃなかったのか!? お前等の娘だろ!?」
母「強すぎる女の子なんて、お嫁の貰い手ないじゃない」
母「普通の女の子としての幸せすら掴めないような子、育てても価値なんてないでしょう?」
父「可哀想だが、将来がなあ……金持ちに嫁がせることも不可能じゃな…………」
母「そもそも、女の子らしさの欠片もなくなっちゃったしねえ……」
兄「な……んでだよ…………お前等、そんな子供を道具としか見れないような親じゃなかっただろ!?」
母「貴方が出て行った時、とても不安になったわ。その時に子供の本当の価値知ったの」
兄「違う! お前等は子供の大切さを忘れちまったんだ!」
勇者(お兄ちゃん…………)
母「貴方は悪くないわ、可哀想な兄。あの子が異常だったのよ」
父「あの子があそこまで強くなるとは思わなかったが、結果的にお前は無事だった」
父「結果的に良かったんだ、あの子が犠牲になってくれて」
兄「俺だって、あいつが憎くて……殺そうとまでしていたさ」
勇者「!?」
兄「でも、出来なかった……! 」
兄「助けずにはいられなかったっ……!」
勇者(お兄ちゃん……やっぱり来てたんだ、魔王城に)
母「あのね、兄。私達は、貴方さえ戻ってきてくれたなら……」
勇者「……ただいま」ガチャ
父・母「妹!?」
兄「い、妹……まさか、聞いていたのか?」
勇者「……ごめんね、荷物纏めたらすぐに出てくから」
母「あ、あのね妹ちゃん」
勇者「そしたらね、もう二度と帰ってこないから、安心して」
勇者(僕の体が弱かったからなかなか遠出出来なくて、やっとのことで行けたんだっけ)
勇者(あった、お祭りの時にお父さんが買ってくれた服。今思えばちょっとぼったくりだったけど、模様気に入ってるんだよね)
勇者(3年前のだけど、当時で結構大きかったからまだ着れるはず)
勇者(お母さんから買ってもらったハンカチ。ずっと使ってたから大分色落ちしちゃった)
勇者(……小さい頃、お兄ちゃんからもらったペンダント。あの時から、お兄ちゃんっ子になったんだったな)
勇者「っ…………」
勇者「ばかだな、自分。こんなの持って行ったら、見る度に嫌な事も思い出しちゃうのに」
勇者「……どうしてこうなっちゃったんだろう」
勇者「うっ……うぅっ……おと、さ……おかぁ、さん…………おに……いちゃ…………」
兄「い、妹っ!」
勇者「……お兄ちゃん。命助けてくれて、ありがとうね」
兄「何処行っちまうんだよ!」
勇者「……ずっと、遠い所」
兄「っ…………ごめんな、ごめんな。こんな家族にしちまって、ごめんな」
兄「でも、いつかきっと、父さんと母さんを元に戻してみせるから」
兄「お前の居場所を取り戻してみせるからな」
兄「だから……無理にとは言わないし、信用なんてされるわけないけど」
兄「……いつか、帰って来て欲しい」
勇者「うん……分かった。いつか、きっと。お父さんとお母さんが優しくなったら」
勇者「昔のお父さんとお母さんに戻ってくれたなら…………また、会いに来るよ」
勇者「じゃあ、僕は僕の居場所に帰るから……ばいばい、お兄ちゃん」
側近「一泊もして来なかったんですか」
勇者「僕の帰ってくる場所は、此処……だから……」
魔王「…………妹、来い」
勇者「魔王が気を遣ってくれたから、中立地区にするって提案してくれたから」
勇者「優しくしてくれる人いっぱいいたよ」
魔王「……そうか」
勇者「ぐすっ……っぅう…………うあぁぁぁ!」
魔王「…………」ナデナデ
妹は勇者を退任し、奪い合っていた地区の中立化が進められた。
そして魔王と妹が婚約したと発表され、妹が成人し次第正式に婚姻を結ぶこととなった。
格闘家「久しぶり変態」
妹「変態言うなし。そっちこそエロ知識豊富なくせに」
格闘家「これお前の兄ちゃんからのお土産」
妹「お兄ちゃんから……ありがと。……向こうの様子はどう?」
格闘家「中立地区化の反対派の声もあるが、魔族に占拠され続けるよりはマシだろって意見が多いな」
格闘家「しっかし、まさかお前があそこの領主とはな」
妹「まだ政治の事とかよく分からないから、周りの人に手伝ってもらいながらだけどなんとかやってるよ」
妹「うん…………」
格闘家「お前がいなくなったらいなくなったで、また心境に変化あったみたいだぞ」
格闘家「別に擁護はしねえけどな」
妹「……そっか」
格闘家「お前の兄ちゃんは今勇者やってるぜ。お前の苦労が分かったとか言ってた」
妹「ん…………」
妹(本当に、いつか……元に戻ってくれるのかな…………?)
……
妹「まおおおおおおお!」スリスリスリスリ
魔王「……昨晩抱いたばかりだと言うのに」
妹「一日しか持たないんだもん身体が勝手にいいいいい」
魔王「全く……ここ数ヶ月、毎晩お前を抱いているが」
魔王「俺の体力の方が負けそうだ」
妹「……迷惑? そうだよね、面倒くさいよね、僕なんか……」
魔王「……迷惑でも面倒くさくもないぞ。お前は自らを卑下する癖を直した方が良い」
妹「うぅ…………」
魔王(こいつが発情するのは、淫魔の本能と世界で唯一拮抗し得る存在である魔王を求める心が重なった結果だと側近は言っていたが)
魔王(それ以上に、愛する者から拒絶された孤独感が関わっているのだろう)
妹「あの地域が中立地区になることもなかったしいいい」ズリズリ
妹「僕こんな体質で良かったよおお」
魔王「発情行為は世界を救ったか」
妹「でもまだ問題山済みだから、頑張って魔王を支えるよおおお」スリスリズリズリ
妹「はあはあ脱ぎたあいのおおおお」
魔王「どっちだ」
妹「からだがかってにいいいい」
魔王「毎晩見られているのに今更恥ずかしがらなくともいいだろう」
妹「何回見られても恥ずかしい物は恥ずかしいのおお!」
妹「ねえねえ僕いつ赤ちゃん産むのおおおお?」シュリシュリ
魔王「早くて五年後だな」
妹「まおうの赤ちゃん産みたあいのおおお」シュリシュリ
魔王「だからまだ早いと」
完
乙
とても良かった
Entry ⇒ 2012.03.30 | Category ⇒ 勇者魔王「」SS | Comments (0) | Trackbacks (0)
勇者「メラ…?」
http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/internet/14562/1332422503/
このSSはSS深夜VIPのSSです
勇者「なんだそれは?」
魔法使い「火属性の初期魔法ですぞ」
勇者「ああ、それなら…」
勇者が横に手を伸ばすとその先に
火の柱が激しく空に向かって燃えだした
魔法使い「!?」
勇者「これだろ?」
魔法使い「メ、メラゾーマ…」
勇者「ん?」
戦士「ではこれより剣の練習を始める」
勇者「剣って必要なくね?」
戦士「なっ…貴様なにを!?」
勇者「ちょっと来てよ」
戦士「ん?」
そう言うと、勇者は戦士と街の外に出て
野生モンスターが出現する場所に来た。
すると、そこにスライムが現れた!
戦士「ククク…武器無しでは1の
ダメージも通せまい」
勇者「ふんっ」
勇者が拳を突きだすとその風圧で
3匹いたスライムは遙か彼方に
飛んでいってしまった。
戦士「素手で…バシルーラ…」
勇者「ん?」
王様「なに、旅に出るじゃと!」
勇者「はい」
王様「ならばこの防具と武器を」
勇者「いりません」
王様「なぬ!?」
勇者「素手で十分ですから」
王様「な、仲間のために…」
勇者「お前は一人で十分だ!
…と連れて行こうとしたら
そういう風に言われました」
王様「そ、そうか…」
王様「むむ…ではせめてこの王の右腕…
側近を倒してからにしてみよ!」
王様(側近は高レベルの賢者。そう易々と…)
勇者「えっ」
王様「む?」
勇者「まぁいいや。お願いします」
王様「うむ」
王様の横にいた側近は、颯爽と前に出て
そして勇者の類稀な身体能力と魔法の
数々によって颯爽と負けてしまった。
王様「つ、強すぎる…?」
勇者「ん?」
勇者は、とても強かった。
人間としては言うまでもなく
誰よりも、何よりも強かった。
スライムなどでは相手になるはずもなく─
また、人間界にいた高レベルの魔物の
やまたのおろち、ボストロール、
表の支配者のバラモスでさえも
勇者の手にかかれば瞬殺であった。
勇者は本当に誰よりも強かったのだ。
─そう、魔王さえも例外ではなかった。
魔王「ぐっ…何故だ…なぜこんなにも…」
勇者「強いのかだって?」
魔王「そう…だ…」
勇者「答える必要はないね」
魔王「ぐ…だが、魔王は何度でも
復活する…何度でもな…!」
勇者「……」
勇者は静かに剣で魔王の首を切り払った。
勇者「…わかっているさ。そんなこと」
─それから勇者は、何度も復活する魔王を
復活の度に旅に出て、魔王城まで出向き
魔王を消滅させていた。
何年、何十年、何百年と─。
精霊の加護で勇者は半分、不死となって
いる。魔王を倒し続けるためだけに
与えられた能力。その驚異的な戦闘力を
買って、精霊の長が与えたものだ。
魔王が復活する毎に全盛期に
若返りするというものであった。
魔王が復活するまでに寿命が来たら
死ぬ、というものであった。
その長い時間の中で勇者が発狂しても
妖精きっとそれを助けようとしない
だろう。勇者はその事をよく理解している。
何故なら、妖精に心は無いから。
ただ、善と悪を分け、悪を滅ぼす
ためだけに存在する──正義の鉄槌。
悪を滅ぼすなら善の犠牲など気にもしない。
言葉は通じても、そこに心はない。
勇者はそれを理解しているからこそ
考える必要があった。
─あの日の、あの出来事を。
─勇者が初めて魔王を消滅させたその日。
─妖精は目の前に現れた。
魔王を倒した直後に現れたその妖精は
妖精のイメージとは少し異なる、白い髭を
生やした無表情のおじさんであった。
「少年よ、世界を救いたいか?」
勇者「うん、救いたい!」
「そうか。では、これから平和は
来ると思うかね?」
勇者「う~ん…魔王倒したから
来るんじゃないかな?」
「半分正解じゃ。しかし、勇者よ。
これだけは覚えておいて欲しい」
勇者「なぁに?」
「魔王は何度でも復活する」
勇者「え?うそ…」
「うそではない。魔王は勇者が存在
する限り、何度でも復活する」
勇者「なら、僕が何回でも倒すよ!」
「ふむ…しかし、魔王は何百年経っても
復活するぞ?それこそ1年に一回
なんてものではないぞ」
勇者「…それでも、僕が倒すよ」
「その決意、本物のようじゃな」
勇者「うん。だって僕は勇者だから!」
…その後、妖精の力によって
勇者は今の不死身のような体を
手に入れた。幸か不幸か、魔王が復活する
のはいつも早く、勇者は百年経った
今でも死ぬことはなかった。
妖精から力を得たことを後悔した日も
あった。ただ、それでも勇者は自分の
正義を信じて生きてきた。
──ある一人の魔王に出会うまでは。
その魔王と出会ったのは、何年前に
なるだろうか。その時すでに
何度も魔王を倒し、消滅させることが
全てになっていた勇者に、時間を
覚えることなど必要でなかった。
その魔王は、とても優しかった。
魔物に人を襲わせないようにして
また、それらを徹底するために
魔界に魔物を全て引き連れて、
さらには魔界と人間界を結ぶ"軸の歪み"と
呼ばれるものは死にもの狂いで塞いだり
もした。とにかく優しかった。
魔物も、魔王の優しい魔力を何度も
注がれて、いつしかかつての荒い気性は
無くなっていた。
だけども人は愚かで、かつての
魔王の姿が忘れられず、報復を恐れて
魔王討伐のため、勇者を旅立たせた。
勇者も自分の正義を信じるが故に
魔王を討伐せんと、賛同して旅に出た。
魔王が塞いだ"軸の歪み"さえも
無理矢理こじあけて城に突撃して。
そうして、あっという間に魔王の玉座
まで着き、魔王を斬りにかかった。
心優しき魔王は抵抗もせず、
それどころか、斬りにかかる勇者に対して
微笑み続けたまま、斬られてしまった。
そのまま魔王は倒れ、涙をうっすらと
浮かべながら横たわっていた。
倒された魔王はしばらくすると
頭の方からどんどんと空気に
とけ込むように消滅していった。
それと同時に、勇者の回りに魔王の
魔力が溢れて身体に流れていく。
勇者「これは…」
しかし、何も起こらない。
勇者「あたたかい…?」
そう、暖かかったのだ。身体ではなく
心がとても暖かくなった。
それは魔王の優しさや気持ちが
流れてくるようで、とても心に響く。
気がつけば、勇者の目から大量の涙が
溢れ出していた。それは魔王の優しさに
気づいた勇者の暖かさかもしれない。
勇者「なんだよ、これ…」
涙を拭っても拭ってもそれは溢れていく。
勇者「ああ、そっか…こんなにも
大切なことを忘れて…
…いや、知ろうともしなかったのか」
─何百年経った今でも、勇者はその魔王の
ことを思い出す。思い出す、というよりは
忘れられないといったほうが
正しいのかもしれない。
今まで数え切れないほどの魔王を
倒してきて、優しい魔王に会った
のは、その一度きりだったから。
勇者は、その優しい魔王に再び
会おうとするために魔王を倒し続けている。
…優しい魔王が生まれる、奇跡を信じて。
─魔王城。
勇者「…魔王」
魔王「…勇者か」
勇者「そうだ」
魔王「……戦うつもりか?」
勇者「?…もちろんだ」
魔王「…なら、その前に少し話を─」
しないか、と言い切る前に勇者の剣に
よって魔王の首は斬られてしまった。
首を斬られても、体の構造が違うのか
魔王は首より上だけの顔で喋り続けた。
魔王「…や…はり…おま…え…の…ゆう…
しゃ…の…こころは…むし…ば…
…まれ…て…いる…よう…せい…の」
そう言って、その魔王は息絶えた。
そして、空気となって消滅した。
その時、不意に勇者の目に涙が流れる。
勇者「あ、あれ…おかしいな。悲しく
なんてないはずなのに─」
その涙とともに勇者はあの優しい魔王の
ことを思い出した。
何故か忘れていたそれを──。
勇者「…危ない。忘れるところだった」
しかし、何故忘れてしまいそうになって
いたのか?と勇者は考える。
忘れるはずがないあの魔王のことなのに─
勇者「…心が蝕まれる…」
先ほどの魔王の言葉を思い出すように
その場で静かに呟く勇者。
勇者「…妖精…?」
妖精、といった言葉が妙に引っかかる。
勇者「─まさか!」
─もし、もしも妖精が心の中を
覗けることが出来るとするならば。
絶対的な悪の存在である魔王を
消滅させるためだけの存在ならば。
『ただ、善と悪を分け、悪を滅ぼす
ためだけに存在する──正義の鉄槌。』
─勇者の心は、不必要とされたのかも
しれない。そんな考えが巡った。
妖精は、悪を滅ぼすために手段を
選ばない。だから、それを手伝おうと
する──主に勇者のような存在に力を貸す。
ただし、あくまで善の者に
力を貸すのではなく、悪を退治する者に
妖精はその力、加護を与えるのだ。
そう、絶対的悪の象徴である魔王を
消滅させるためならば、例えどんな
心の持ち主でも加護を与える。
─それ以上の悪は存在しないから。
しかし、それでも勇者はなかなか
世界中を探しても現れない。
それは、魔王だけは加護を打ち破る
可能性を秘めているという事ともう一つ。
──魔王を倒す意志がなくなったと
判断された者は、加護が尽きて…死ぬ。
それから勇者は、魔王を倒し続けた。
あの優しい魔王のことを忘れないように
心に深く刻みながら、何度も何度も─。
加護が消えて自分が死んで新たな勇者が
優しい魔王を消滅させないためにも
魔王を倒すという思いも刻みながら。
もちろん、勇者はこの世の誰よりも
何よりも強いので魔王に殺されるなんて
いうことはなかった。
─それから、何年の月日が経っただろうか。
また、魔王が復活した。
しかし、勇者はそこに違和感を覚える。
──どこにも魔物が存在していない。
今まで魔王城まで進むには魔物がいた。
復活までに時間がかかるのと食料が
ないため、魔王城に住むことは
出来なかったため、いつも魔王城に
復活の度に進まなければならなかった。
さらに勇者はあることに気がついた。
魔界に住んでいて気がつかなかったが
"軸の歪み"がいつの間にか塞がれていた。
勇者「…もしかして」
魔王は復活してからすぐのおよそ3日間は
魔力が弱っているため、復活してすぐには
勇者は魔王に気が付かない。
気付いたとしても、勇者の住む場所から
魔王城までは何日か必要とする。
移動魔法も勇者はなるべく使わない。
優しい魔王が現れた時、そう、例えば
あの時のように"軸の歪み"を塞ぐための
時間を少しでも魔王に与えるために。
勇者は確信していた。今回の"軸の歪み"を
塞いだのは魔王である、と。
勇者「…ここまで長かった」
そうして勇者は、ようやく辿り着いた
魔王の玉座への扉を開ける。
魔王「…あなたが勇者ね」
勇者「ああ」
魔王「あなたは…私と戦うつもりかしら?」
勇者「……」
魔王「……」
勇者「…そうだな。戦わなくちゃいけない」
──それがたとえ、あの時と変わらない
優しい魔王の姿をしていた相手でも。
魔王「私の…いえ私たちの罪は…
…数え切れないほどだものね」
勇者「…"軸の歪み"は…あなたが?」
魔王「…そうね。罪滅ぼしにはならない
だろうくど、完璧に塞いだつもりよ」
勇者「…それなら、安心かな」
勇者は瞬く間に魔王に近づき、斬り払った。
その速さは、魔王ですらも捉えきれない
ほどで、本当に一瞬の出来事であった。
勇者「…ありがとう」
勇者の剣から黒い血が流れていく。
そこから暖かい魔力が溢れている
ようにも思えた。ただ、魔王が消滅
すると同時に消えていってしまった。
勇者「…ごめんな」
だけども、次の瞬間に勇者の剣には
赤い血が流れ続けていた。
それはしばらく辺り一面、床にしばらく
広がり続けた。赤い血は勇者の首のない
身体から流れていた。
─勇者が生まれる時、魔王は復活する。
勇者という存在は、魔王がいる象徴。
だから、魔王は何度でも復活する。
だから、勇者は勇者がいなくなれば
いいと考えた。魔王の消滅と同時に。
妖精は死なない。触れることもできない。
声が聞こえるだけ。心のない声が。
そして、妖精が見えるのは勇者だけ。
勇者がいない今、また魔界と人間界を
繋ぐ"軸の歪み"がない今は、妖精を
除いて真実を知るものはいない。
──真実なんて誰も知らなくていい。
優しい魔王がいたことも。
自分という勇者がいたことも。
ただ一つ、願うとすれば──
──あの優しい魔王に、一番
始めの頃に出会いたかった。
出会った時にはすでに狂っていた。
涙なんて、流れただけだった。
心に響いても、心の傷は癒えなかった。
──でも、もう一度会えた時、
本当に心から嬉しかったと思えたよ。
…ありがとう。そして、ごめん。
少しアレな終わり方ですが、これにて
完結といたします(ノД`)
当初の予定では、勇者強すぎワロタww
といった展開を考えていましたが…
どうも苦手なみたいで…。
では、みなさん。
また出会える日まで、さようなら。
感じ入ったよ
すごく感動した
Entry ⇒ 2012.03.29 | Category ⇒ 勇者魔王「」SS | Comments (0) | Trackbacks (0)
スライム「魔王さまが姫をさらってきた?」
http://hayabusa.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1331201655/
コウモリ「らしいぜ。オレの仲間たちの間じゃその話でもちきりだ」
スライム「本当なの?」
コウモリ「姫を見たやつもいるって。城のどこかに閉じ込めたとか」
スライム「すっごいなあ!」
コウモリ「だよな! さすがは魔王さまだ」
スライム「どうやってさらってきたんだろう」
コウモリ「そりゃあ正面から乗りこんで人間たちをけちらしけちらし、だろ」
スライム「かぁっこいい!」
コウモリ「まったくだぜ!」
スライム「姫ってどんなやつかな」
コウモリ「えらい人間だからな。きっとこわくていやなやつだ」
スライム「そうだね、こわくていやなやつだ!」
コウモリ「お前、今日もお城でそうじの仕事だろ。もし見かけたらつばかけてやれ」
スライム「がんばる!」
コウモリ「それじゃあオレはいくぜ」
スライム「じゃあね!」
魔王城
魔王「ふふ……部屋の居心地はどうかね、姫?」
姫「……」
魔王「そう睨むでない。凛々しい表情もまた似合ってはいるがな」カツ……
姫「近付かないで! 舌を噛み切るわよ!」
魔王「……くくっ。これは困った」
姫「わたしを一人にしなさい。これは命令よ」
魔王「おやおや。まだオヒメサマ気分が抜けないと見える」
姫「二度言わせる気? 出てって」
魔王「ふふ。ははは……まあゆっくりしてくれたまえ」ギィ……
姫「……」
……バタン
……
…
スライム「ふうふう……おそうじは大変大変」ゴシゴシ
「どけ! 邪魔だ!」
スライム「うわあ!」ポヨン!
スライム「……らんぼうだなあ」
「こら休むな!」
スライム「ご、ごめんなさい!」ゴシゴシ!
「ここが終わったら次はあっちだ!」
スライム「はーいっ」
姫「"開け"」ポゥ……
カチッ!
姫「開錠成功ね。魔法の勉強が無駄にならずに済んだわ」
姫「……」
姫(問題は。この扉の向こうに誰かいるかどうか、だけど)
姫「こればっかりは覚悟するしかないわね」
姫「……」スー ハー
姫「ん」ギィ……
スライム「あれ?」
姫「……」
――スライムにそうぐうした!
姫「っ……!」
ガシ! ヒョイ
スライム「ひゃ――!?」
パタン
「ん。あれ? スライムのやつどこ行きやがった?」
スライム「――! ――!」
姫「静かになさい!」
スライム「……」
姫「……素直ね?」
スライム「うるさくしたらいたくする?」
姫「大人しくしてくれるならなにもしないわよ」
スライム「わかった。静かにする」
姫「ありがとう」
スライム「でもおろしてほしい」
姫「暴れないでね? はい」
スライム「よいしょ」ピョイ
スライム「……」ジー
姫「なに?」
スライム「人間だあ」
姫「ええ」
スライム「もしかして、きみが姫?」
姫「そうよ」
スライム「思ってたのとちがう」
姫「? どんな想像してたのよ」
スライム「んとね」
『キシャアアァァッ!!』
『我はヒメ! 魔界に終焉をもたらす者なり!』ギラギラ!
『跪け愚かな魔物ども! ギャオオォォン!』カッ!
姫「ちょっと待ちなさい」
スライム「え?」
姫「何よそれ」
スライム「えらい人間はすごくつよいって聞いたよ」
姫「そんなことないわよ」
スライム「そうみたいだね。きみはかわいいし」
姫「まあね」
スライム「でもごめん」
姫「え?」
スライム「ペッ!」
姫「きゃ!?」サッ
姫「何するのよっ」
スライム「姫を見かけたらつばをかける約束なの」
姫「約束?」
スライム「うん。友だちとの約束」
姫「ろくな友達じゃないわね」
スライム「悪口はだめ!」ピョン!
姫「おっと」サッ
スライム「ぷぎゅ!」ビタン!
姫「あ」
スライム「いたい……」
姫「あの。ごめんなさいね?」
スライム「……ゆるす」
姫「ありがとう。ところで」
スライム「なに?」
姫「わたしここから逃げたいのだけれど」
スライム「それはムリじゃないかなあ」
姫「お願い。手伝ってちょうだい」
スライム「バレたらぼく、おこられちゃう」
姫「そこをなんとか。ね? ほら飴ちゃんあげるから」
スライム「アメ!? ちょうだい!」ピョン!
姫「で、どうすれば逃げられると思う?」
スライム「ムリだと思う」モゴモゴ
姫「……」グリグリ
スライム「いたいいたいっ」
姫「どういうことよっ。手伝ってくれるんじゃないのっ?」
スライム「アメのお返しはしたいけど。でも」
姫「もしかして監視が厳重なの?」
スライム「城にはいっぱいなかまがいるよ」
姫「困ったわね。どうにかならない?」
スライム「思いつかない」
姫「こっそり行けば」
スライム「きみ、いいにおいするよね」
姫「そう?」
スライム「ぼくのなかまには、すごくハナがいいのもいるよ」
姫「……そっか。それじゃあ見つかっちゃうわね。ハァ……」
姫(この子は見たところ下っ端だから人質にはならなさそうだし)
姫(開錠魔法封じがなかったのはどうせ逃げられないと踏んでいるせいね……)
スライム「ごめんね?」
姫「いいのよ。あなたのせいじゃないわ」
スライム「……」ジー
姫「なに?」
スライム「もうない?」
姫「なにが? ……って、もしかして飴のこと?」
スライム「うん!」
姫「仕方ないわね」ゴソゴソ
スライム「♪」
姫「……」
スライム「?」
姫「やっぱりだめ」
スライム「なんでっ? まだあるんでしょ!」
姫「そうね」
スライム「いじわるしないでよお」
姫「意地悪じゃないわ。ちゃんとあげるわよ」
スライム「……どういうこと?」
姫「条件があるの。毎日ここにきてわたしの話し相手になってちょうだい。その時に一つずつあげる」
姫(情報源は確保しておかないとね)
スライム「……」
姫「これでどう?」
スライム「うーん。一度にたくさん食べたいなあ」
姫「でもそうしたらすぐになくなっちゃうわよ? 少しずつ楽しむのもいいんじゃない?」
スライム「そっかあ……それもそうだね」
姫「じゃあわたしたちの間だけの約束よ? 他の奴には秘密だからね」
スライム「わかった」
姫「ちゃんと守ってよ?」
スライム「そっちもね!」ギィ
パタン
スライム「♪」
「あ。この、どこいってやがったスライム!」
スライム「!」
「てめえサボってたな!」
スライム「あわわ……」
「お前は掃除箇所の追加! あとげんこつ一発だ!」
スライム「ご、ごめんなさーいっ」
ガチャ
側近「姫。私は魔王さまの側近職を務めさせていただいている者です」
姫「……」
側近「何か不都合はありませんでしたか?」
姫「……別に」プイ
側近「なにかご入用のものがあればお持ちしますが」
姫「何もないわ。早く消えて」
側近「そうですか……では」ギィ
姫「あ。待って」
側近「?」
姫「飴が欲しいわ。出来るだけたくさん」
側近「飴、ですか? はあ。分かりました」
姫「なくなったらその時は言うから追加しなさいね」
側近「……は。ではごゆっくり」
……パタン
次の日
ガチャ
スライム「おじゃましまーす」
姫「いらっしゃい」
スライム「アメちょうだい」
姫「はいどうぞ」
スライム「わーい!」
スライム「おいしい」モゴモゴ
姫「良かったわね」
スライム「なんのお話する?」
姫「そうねえ」
姫(脱出のために必要な情報……となると)
姫「魔王のことについて聞きたいわ。どんな奴なの?」
スライム「つよくてかっこいい!」
姫「いや、そうじゃなくて」
スライム「あと背がたかい! うらやましい!」
姫「えっと」
スライム「でもお顔がこわいよね」
姫「……そうね」
姫(あまり有益な情報は期待できないそうにない、か……)
姫「他には?」
スライム「かっこよくてつよい!」
姫「それもう言ったわよ」
スライム「あれ?」
姫「……」
スライム「……えへへ」
姫「……ハァ」
スライム「ごめんね?」
姫「いえ、別にいいけれど。魔王が強くて格好いいというのはどうかしらね」
スライム「?」
姫「あれは卑怯者だわ」
スライム「悪口?」ムッ
姫「事実よ。わたしを誘拐した手口を思い出す限り、少なくとも格好いいとは思えないわね」
スライム「さらった方法?」
姫「あなたは魔王がどうやってわたしをさらったと思ってるの?」
スライム「ええと。まっすぐすすんで、人間たちをけちらしけちらし!」
姫「もしそうだったなら、まだ魔王らしいんでしょうけど」
スライム「……ちがうの?」
姫「ええ」
姫「魔王は老婆に化けてたわ」
スライム「おばあさんに?」
姫「ええ。遠方の名のある占い師だと嘘をついてパパに謁見を求めたのよ」
スライム「ふうん?」
姫「パパは大の占い好きだからころっとだまされてね。魔王を城に招き入れてしまったの」
スライム「……」
姫「でも、魔王の汚い手口はそれにとどまらなかった」
スライム「え?」
姫「城に入った魔王は次にわたしの友達を人質に取ったわ」
姫「その友達は大人も顔負けに強かったけれど。でも不意を突かれてはひとたまりもない」
スライム「じゃ、じゃあ」
姫「わたしはその友達にひどいことをしてほしくなかったから。魔王の取引に応じてここまで連れられて来たの」
スライム「そんな……」
姫「分かった?」
スライム「……」
姫「あなたは信じたくないでしょうけれど」
スライム「……」プルプル
姫「?」
スライム「嘘だ!」
姫「っ!」ビクッ
スライム「魔王さまはかっこいいんだ! そんなずるいなことしないもん!」
姫「……」
スライム「出まかせだよ。そうだ、姫ちゃんがウソついてるんだ!」
姫「嘘じゃないわ」
スライム「信じるもんか!」
姫「……」
スライム「うう……わーん!」
バタン
姫「しまった。泣かせちゃったわね……」
……
…
スライム「……」
コウモリ「お。どうしたんだよお前、こんなところで。そうじの仕事はもう終わったのか?」
スライム「……」グス
コウモリ「え?」
スライム「ねえ。魔王さまはかっこよくてつよいよね?」
コウモリ「あ? そりゃ当たり前だろ!」
スライム「うん……でも姫ちゃんがね」
コウモリ「……姫?」
スライム「あ」
姫「もうあの子からの情報は見込めないかしらね……」
ドンドン!
姫「窓? 何かしら」
ガチャ
「うらっしゃあああぁぁぁいッ!」
姫「え?」
ドンガラガッシャーンッ!
姫「いたた……なんなのよぉ」
「お前か! オレのダチに変なこと吹き込みやがったのは!」
姫「……蝙蝠?」
コウモリ「おう! お前が姫だな!?」
――コウモリにそうぐうした!
姫「ええと。確かにわたしが姫だけど」
コウモリ「まずは土下座」
姫「は?」
コウモリ「それから魔王さまへの謝罪を述べること!」
姫「……あなたもしかしてスライムの友達?」
コウモリ「ペッ!」
姫「おっと」サッ
姫(……間違いないわね。あの子、話しちゃったのか)
コンコン
「側近です。すごい音がしましたが、大丈夫ですか?」
姫「何でもないわ! さっさと消えなさい!」
「……わかりました」
コウモリ「……」
姫「……行ったわね」
コウモリ「オレを突きださないのか?」
姫「突きだしてほしいの?」
コウモリ「……フン! そんなことより早く土下座しろィ!」
姫「お断りよ」
コウモリ「んだと!?」
姫「だって謝る理由がないもの」
コウモリ「この小娘が!」
姫「そういうあなたも、声を聞く限りじゃまだまだ子供のようだけど?」
コウモリ「ムッ!」
コウモリ「うっせえうっせえ! オレはガキなんかじゃねえやい!」
姫「はいはい。ちょっとこっち来なさい」
コウモリ「誰が行くか――ってうお!?」
姫「はい捕まえた」
コウモリ「放せ!」バタバタ
姫「暴れると怪我が広がるわよ」
コウモリ「!」
姫「さっき飛び込んできたときにやっちゃったのね。翼の皮に傷がついちゃってる」
コウモリ「そんなの別にいだだっ!」
姫「はい、これで大丈夫」
コウモリ「……」
姫「あとこれ飴ちゃんね」
コウモリ「ムグ!」
姫「そしたらまた明日、スライムと一緒にいらっしゃい」
コウモリ「あ、待てよ!」
姫「じゃあね」
ポイ! バタン!
コウモリ「っとと。ちくしょう。あの女め!」パタパタ
コウモリ(しかし。思ってたよりなんというか)
コウモリ「! いやいや! とにかく明日だ。明日もう一度リベンジだ!」
コウモリ「……」
コウモリ「アメ、おいしいな」
翌日
姫「ごめんなさい」
スライム・コウモリ「え?」
スライム「やっぱりウソだったの?」
コウモリ「ほれ見ろ!」
姫「違うわよ。嘘はついてないわ」
スライム「え? じゃあなんで謝るの?」
姫「なんて言ったらいいのかしら。あなたたちにいやな思いをさせちゃったから、ってとこね」
コウモリ「……?」
姫(純心な子供たちの気持ちを傷つけるのは、さすがに良心が痛むもの)
スライム「なんだかよく分からないけど……謝ってくれるならもういいよ!」
コウモリ「あ、お前! だまされてるぞ多分!」
姫「いえ騙しては、ないけど」
コウモリ「だってこいつ、魔王さまを馬鹿にしたことにはかわんねーし!」
スライム「でも姫ちゃんはウソついてないよ。きっと」
コウモリ「証拠はあるのかよ」
スライム「ないけど。ぼくだってあたまがすっきりすればウソかちがうかぐらいわかるよ」
コウモリ「でもよ!」
姫「あなたはキーキーやかましいわね。男らしくないわよ?」
コウモリ「うっせブス!」
姫「……」ピキ!
スライム「……落ちついた?」
姫「思う存分暴れたらなんだかすっきりしたわ」
コウモリ(うう、翼の傷が……)
姫「ごめんなさいね。手加減できなくて」
コウモリ「オレのほうが手加減してたし!」
姫「あーはいはい。もうそれでいいわよ」
スライム「ふふ」
姫・コウモリ「?」
スライム「姫ちゃん、なんだか重しがとれた顔してる」
姫「……」
スライム「さらわれてきて心細かったんだよね」
コウモリ「……」
スライム「ぼくたちでよければ、これからも話し相手になるよ」
姫「……ふふ」
姫(まさか、モンスターに気を使われるなんてね)
コウモリ「何笑ってんだ気持ちわりい」
姫「……」ツネリ
コウモリ「あいだだだっ!」
姫「はい、飴ちゃん」
スライム「まいどー!」
コウモリ「あ。オレにもよこせ!」
数日後
スライム「今日はコウモリ君は来られないんだ」
姫「そう。うるさいのがいなくてせいせいするわ」
スライム「でも姫ちゃんちょっと残念そう」
姫「そんなことないわよ」
スライム「ふふ」
姫「今日は何か聞かせてもらえる?」
スライム「うん。北の森のオオカミ王の話」
姫「楽しみね。聞かせて」
スライム「んーとね」
姫「! 誰か来るわ。隠れて」
スライム「わわ!」
ガチャ
魔王「ご機嫌いかがかな、姫」
姫「愚問ね。ここに来てからわたしの機嫌がいいことがあると思って?」
魔王「はは。それは失礼した」
姫「分かったらさっさと消えて。目障りよ」
魔王「しかし……最近の姫は心なしか上機嫌に見える」
姫「あら、魔界に目の医者はいないのかしら」
魔王「我の目はこの上なく冴えわたっておるよ……出てこいスライム」
スライム「!?」ビク!
姫「っ!」
スライム(あわわ……)
魔王「……二度言わせる気か?」
スライム「ご、ごめんなさい! すぐに出ますっ」
魔王「……ふふ」
スライム「……」オドオド
姫(なんとなくまずい、わね……)
魔王「お前は一体ここで何をしていたんだ、スライム?」
スライム「え、ええと……」
姫「……わたしが側近に頼んで、話し相手を用意してもらったのよ」
魔王「ほう……なるほど。側近が」
姫(すぐバレるでしょうけれど、この子が逃げるだけの時間は稼げるはず……)
魔王「ふうむ」カツカツ
姫「近付かないで!」
魔王「スライムがどうなってもいいのか?」ボソ
姫「っ!」
魔王「ふふ」ガシ
姫「つっ! 放しなさ――んむ!」
スライム「あっ……!」
魔王「――ん」
姫「……っ」
魔王「美味なる唇であった」
姫「……くっ」
スライム「あわわ……」
魔王「侍女に湯浴みの用意をさせている。身体を隅々まで清めておけ」
姫「……!」
魔王「ふふ。数刻後を楽しみにしておるよ」
姫(この下衆が!)
魔王「くれぐれも妙なことを考えぬように。自分の身、そして友の身のことを考えたまえ」ギィ
……バタン
姫(初めてが……)ゴシゴシ
スライム「ごめん……ごめんなさい」
姫「あなたが謝ることじゃないわ」
姫(この子を利用しようした罰が下った……というのは考え過ぎかしらね)
姫「……」
スライム「ど、どうしよう」
姫「どうしようもないわ」
スライム「でもきっと姫ちゃんがひどいことされちゃう……」
姫「それは。それは……」
『姫、俺からのプレゼントです。受け取っていただけますか?』
姫「……」
スライム「……」
姫「あなたは逃げて」
スライム「そんなことできないよ!」
姫「時間がないの。急いで。こっそり行くのよ」ギィ
スライム「でも、でもぉ……」
姫「ありがとう。この数日間、楽しかったわ」
スライム「……」
姫「早く」
スライム「……」プルプル
姫「?」
スライム「姫ちゃん!」
姫「な、なに?」
スライム「姫ちゃんはぼくの友だち?」
姫「……あなたはどう思う?」
スライム「ぼくは友だちだと思う。いや、今決めた。姫ちゃんはぼくの友だち!」
姫「ふふ……ありがとう」
スライム「だから」
姫「……?」
スライム「ぼくは友だちを助けるよ!」
……
…
ヒュウウウゥゥゥ……!
姫「――ッ!」
スライム「っと!」
ボイン! ボイン! ボイン……
スライム「うん。着地成功! できるとは思わなかったけど!」
姫「す、凄いわねあなた。あの窓の高さから着地できるなんて……」
スライム「ご褒美にアメちょうだい!」
姫「いくらでもあげるわよ!」
「ん、あれは……」
「姫だ! 姫が逃げた!」
「スライムも一緒だ!」
姫「気付かれたわね」
スライム「逃げるよ姫ちゃん! 掴まって!」
姫「どうするの?」
スライム「こうする!」プクー!
姫「わわ!? 膨らんだ!?」
スライム「きのう姫ちゃんが教えてくれたボールのマネ! 行くよ!」
ググ……ビョンッ! バイン!
姫「速い!」
スライム「どんどん引き離すよっ!」
姫「いっけー!」
……
…
洞窟
コウモリ「で。なんでオレのとこ来るんだよ」
スライム「疲れた……」
姫「ありがとうね」ナデナデ
コウモリ「聞けよ! っていうか一大事じゃねえか姫が逃げたなんて!」
スライム「でも、あのままあそこにいたら姫ちゃんが」
コウモリ「ちょっとは考えてこうどうしろよな! オレまでとばっちりじゃん!」
姫「……ごめんなさい」
コウモリ「うっ。そう素直に謝られると……」
コウモリ「……チッ!」
スライム「コウモリ君は、ぼくの友だちだよね」
コウモリ「絶交したくなってるけどな」
スライム「姫ちゃんとも友だちになってあげてほしいんだ」
コウモリ「ぐ……そ、それとこれとは話がべつだ! オレは巻き込まれるのはごめんなんだ!」
姫「……すぐに出ていくわ」
コウモリ「そ、そうだ。さっさと行っちまえ!」
スライム「……じゃあね、コウモリ君」
コウモリ「あばよ!」
コウモリ「……」
コウモリ「お、オレは悪くないかんな」
コウモリ「魔王さまに逆らうやつがいけねえんだ!」
コウモリ「だから」
姫『翼の皮に傷がついちゃってる』
コウモリ「だから……」
姫『はい、これで大丈夫』
コウモリ「うう……」
姫『あとこれ飴ちゃんね』
コウモリ「くっそくっそ!」バサッ!
森の中
スライム「急いで! すぐそこまで誰か来てる!」
姫「はぁ、はぁ……」
……
…
大鼻豚「フゴッ、フゴッ!」
側近(連れてきた豚どもの反応が活発だな。近いか)
側近「……姫! いらっっしゃるのでしょう!」
側近「魔王さまがひどく心配してらっしゃいます! あの方をこれ以上困らせる前に戻るのが得策かと!」
側近「でないと、"帰ってから身が持ちません"よ!」
姫「帰るって、何よ……! わたしの帰るべき場所はあそこじゃないのに!」ゼィ ゼィ
スライム「早く早く!」
「まあ、私がすぐにお迎えに上がりますのでご心配なく!」
姫「くっ……!」
スライム「追いつかれちゃうよぉ……!」
ガサガサ!
姫・スライム「!?」
側近(この茂みの向こうだな)
――ガサ!
コウモリ「ん? これはこれは側近さま!」
側近「……?」
コウモリ「どうかしましたか。そんな変な顔して」
側近「いや……ここに不審なやつが来なかったか?」
コウモリ「不審? って、どんな?」
側近「……」
コウモリ「ん?」
側近「……いや、なんでもない」
大鼻豚「フゴ……」
側近(豚どもの反応も鈍い……逃げられた?)
コウモリ「用がなければオレ、ちょっと忙しいんで失礼しますよ?」
側近「ああ」
コウモリ「……」パタパタ
側近「待て」
コウモリ「っ!」ドキィッ!
側近「お前は確か……伯爵家の息子だったな」
コウモリ「は、はひ……そうですが……」
側近「いや、それだけだ。行け」
コウモリ「失礼しました……!」パタパタ!
・
・
・
空の上
姫「あの。ありがとうございます蝙蝠の皆さん」
スライム「ありがとー!」
「いいってことよ。伯爵家の坊ちゃんたってのお願いだしな」
姫「でも……わたし、魔王のところから逃げてきてて」
「あーあー。聞こえねーなー」
「俺たちは何も見てないし聞いてない」
「たまたま集団で飛びたくなって、たまたま荷物を運んじまった。それだけだな、うん」
姫「……ありがとう」グス
「おっと、涙はまだとっときな。俺たちにできるのは少し運ぶことだけだからな」
「この先は嬢ちゃんたちだけでなんとかしな」
スライム「りょーかい!」ビシッ!
コウモリ「――はひぃ、なんだかどっと疲れた……」パタパタ
「お。坊ちゃんお疲れっス!」
スライム「ありがとうコウモリ君!」
姫「あなたのおかげで助かったわ」
コウモリ「……べつにお前のためじゃねーし。友だちのスライムのためだし!」
姫「あら。じゃあわたしとは友だちになってくれないの?」
コウモリ「な、なってやるよ。ただし義理だからな。いいか、義理だぞ!」
姫「ふふ。ありがとう」
コウモリ「……フン!」
……
…
夕方 死火山の山腹
「俺たちが運べるのはここまでだ。ここからは嬢ちゃんたちで頑張れよ!」
姫「ありがとうございました」
スライム「助かったよ!」
「どういたしまして!」
「坊ちゃんも行くんですかい?」
コウモリ「まーな」
「お父さまが心配してらっしゃいましたよ。あまり無理しないでくださいね」
コウモリ「しばらくしたら帰るからよろしく言っといくれ」
「新しい燕尾服を用意して誕生日を楽しみにしてらっしゃるんですから、気をつけてくださいよ。それでは」
姫「そろそろ日が沈むわね」
スライム「今日はここで野宿かなあ」
コウモリ「こっちに洞窟があるぜ。ここでなら安心して過ごせるだろ」
……
…
姫「なんだか……」
スライム「ひろーい!」
コウモリ「なんだここ? 自然にできたもんじゃないっぽいけど」
姫「……っ」ブル!
姫「いやな予感がするわ。引き返しましょう」
姫(……? こんなところに岩なんてあったかしら?)
コウモリ「っ!?」
スライム「姫ちゃん危ない!」
ズン!
「……避けたか」
姫「な……?」
スライム「うわあ!?」
「うるさい侵入者どもめ。儂の眠りを妨げた罪は重いぞ」
コウモリ「こいつは……火竜だ!」
火竜「礼儀がなっておらんな若いの」ギロ
――火竜にそうぐうした!
火竜「久々に目覚めて調子が悪いわい」
スライム「まずいよ姫ちゃん。プライドがたかくてゆうめいな火竜だよ」ヒソ
姫「怒らせるとよくなさそうね……ここはわたしにまかせて」ヒソ
火竜「ふわぁぁ……」
姫「火竜さま!」
火竜「ん?」
姫「わたくしは人間界の姫です。
このたびは知らなかったとはいえ、無礼にもあなたさまのお住まいに踏み込んでしまい申し訳ありませんでした」
火竜「ふむ」
姫「そのことにつきましては謝罪したうえで速やかに退出いたしますので、どうかお許しいただけないでしょうか?」
火竜「……」
スライム「……」ドキドキ
コウモリ「……」
火竜「よかろう」
姫「ありがとうございます!」
火竜「しかし、だ」
スライム「?」
火竜「勝手に踏み込んだ上で安眠を妨げたことへの償いが不十分ではないかね?」
コウモリ(……まずいな)
姫「その点については丁重に謝罪させていただき――」
火竜「お主、なかなか良い指輪をしておるな」
姫「……それが何か?」
火竜「謝罪の印にそれを渡してもらおうか」
姫(くっ……)
姫「これは、友人からの頂き物です」
火竜「渡せないと言うのかね?」
姫「いえ……ですから大事にしていただきたいのです」
火竜「よかろう。さっさと外せ」
姫「……」
火竜「それから」
コウモリ「!? まだ何かあるのかよ」
火竜「……」ギロ
コウモリ「う……」
火竜「指輪は謝罪の印。償いはまた別だ」
スライム「そんな!」
火竜「儂のものになれ、女」
姫「……!」
姫「それは、一体どういう意味で?」
火竜「儂は、美しいものを集めるのが好きだ。集めたものを並べてずっとずっと眺めていたい」
姫「……」
火竜「お主は美しい。だが、時間がたてばその美貌も醜く衰えていくだろう」
姫「話が見えません」
火竜「お主を水晶に閉じ込め、それを儂のものにする」
スライム「ええ!?」
火竜「お主にとっても悪い話ではないぞ。なにしろその美しさを永遠に保っていられるのだからな。ははは!」
姫(この……!)
コウモリ「ちょっと待てやこの変態爺! 黙って聞いてりゃ――」
火竜「うるさい」ヒュボ!
コウモリ「!?」
ドゴオッ!
スライム「コウモリ君!」
姫「"光矢"!」ビシュッ!
火竜「ふん」ピシ
スライム「姫ちゃん! 怒らせちゃ――」
姫「もうそんなこと言ってる場合じゃないわ! あなただけでも逃げなさい!」
火竜「愚かな……」
姫「もう一発行くわよ!」ポゥ
火竜「遅い」ヒュボ!
姫「あ――」
ドゴォッ!
スライム「あ……」
火竜「ふんっ」
スライム「……」プルプル
火竜「どうした逃げないのか? 今なら見逃してやってもよいぞチビ」
スライム「チビっていうな」
火竜「ん?」
スライム「よくも……よくもぼくの友だちを殺したな! ぜったいにこうかいさせてやる!」
火竜「命はもっと大事にすべきだよ」フゥ
スライム「行くぞ!」ググ
火竜「好きにしろ。そして死ね」ヒュボ!
ドゴォッ!
モクモクモク……
火竜「……む?」
「まったく。弱いのに無茶しやがって」
スライム「うう……」
火竜「お主、何者だ?」
「オレ? 礼儀がなってない若いのだけど」
火竜「先ほどの蝙蝠? いや……」
「合ってるぞ? でもちょっとだけ違う。へへへ……」
吸血鬼「夜はオレの時間だぜ!」
――コウモリは吸血鬼にへんしんした!
姫「いつつ……」
スライム「あれ……?」
吸血鬼「間一髪だったけど。なんとか助けられたな」
火竜「……吸血鬼一族。伯爵家の者か」
吸血鬼「その通り! 今更吠え面かくなよ!」バッ
火竜「ふん……」ヒュボ!
吸血鬼「おっと」
火竜「チィ……!」ヒュボ! ヒュボ!
ドゴォッ! ドゴォッ!
吸血鬼「当たんねーよバーカ!」
火竜「この……!」
吸血鬼「よ!」ビュッ!
火竜「ぐあッ! 目がァッ!」
吸血鬼「今だスライム!」
スライム「うん!」ビュン!
スポッ!
火竜「もごッ!」
スライム「お口に着地しましたー! 続いてふくらみまーす!」プクー!
火竜「もごごッ!」
吸血鬼「これで火弾は撃てねえだろ!」
火竜(この……!)
吸血鬼「そしたら仕上げだ! 姫、やっちまえ!」
火竜「!」
姫「行くわよ! "溜撃光矢"!」ギュォッ!
――ズドン!
……
…
火竜「ぐぐ……」
吸血鬼「おっし。これでしばらくは安全だろ」
姫「あなた吸血鬼だったのね……」
スライム「あれ? 言ってなかったっけ?」
姫「聞いてはないわね。まあそれはともかく」
吸血鬼「もちっと傷めつけとくか?」
姫「……」ツカツカ
火竜「儂を殺すか……」
姫「"癒しよ"」ポゥ
火竜「ぬ?」
吸血鬼「おい!?」
姫「ここに勝手に踏み込んだのはわたしたち。となれば元はといえばわたしたちのせいよね」
吸血鬼「でもこいつ、変態だぜ!」
姫「それとこれとは話が別」
火竜「……」
姫「大丈夫。暴れられない程度にとどめとくから」
火竜「図に乗るなよ小娘……」
姫「……」
火竜「儂はそういう余裕が気に食わん……!」
スライム「♪」ポヨン
火竜「……?」
スライム「ムリしちゃだめだよ? まだ治したばっかりだから」
火竜「何のことだ? ……あ」
スライム「歯、ちょうしいいでしょ? ぼく、そういうのとくいなんだ」
火竜「……」
スライム「さいきんぐあい悪くなかった? きっと歯がよくなかったんだよ」
火竜「……」
スライム「ごきげんが悪かったのもそのせいだよね」
火竜「小僧……」
スライム「これでかってに入ってきちゃったおわびにならないかな?」
火竜「あー……」
姫・吸血鬼・スラ「?」
火竜「儂は疲れた。寝る」
姫「え?」
火竜「zzz……」
吸血鬼「なんだこの爺?」
スライム「……ふふ」
次の日
姫「じゃあ出発しましょうか」
スライム「おー!」
コウモリ「この爺、まだ寝てるのな」
火竜「ウウム……」
姫「まあいいじゃない。起こさないように行きましょう」
火竜「ムニャ……洞窟の奥、左。抜け道」
姫「……?」
火竜「zzz……」
姫「寝言、かしらね」
スライム「ありがとうおじいちゃん!」
コウモリ「チッ、素直じゃねえの」
姫「あんたがいうの?」ウリウリ
コウモリ「やめろっ」
数刻後
スライム「うわあ……!」
コウモリ「こいつは……」
姫「海ね」
スライム「すっごーい! おっきーい!」
コウモリ「ひゃっほーい!」バシャバシャ!
姫「朝日があっちから出ていて、東に人間界があるから。海沿いに行けばいいはずよね」
スライム「うわーい!」
コウモリ「とりゃーい!」
姫「追手は掛かっているはずだから急がないと」
スライム「姫ちゃん助けてえ! コウモリ君がおぼれたあ!」
コウモリ「ブクブク」
姫「あーはいはい! 今行くわよ!」
姫(服が冷たい……)
コウモリ・スライム「キャッキャ!」
姫「……もういいでしょ! そろそろ行くわよ」
コウモリ・スライム「もうちょっとだけー!」
姫「はあ、まったく」
「いやはや、元気のいいことですな」
姫「元気がいいのはいいんだけれど。それが過ぎると困りものよ、ね……?」
側近「ふふふ」
――側近にそうぐうした!
姫「――ッッ!」ダダダ!
スライム「どうしたの、ってうわあ!」
コウモリ「掴むな!」
姫「いるのよ!」
スライム・コウモリ「?」
側近「やあ」
スライム・コウモリ「――ッッ!」
姫・スラ・モリ「うわああぁぁぁッ!」ダダダ!
側近「そんなに急いで逃げられるとちょっとショックです」
姫「"光矢"!」ビシュッ!
側近「ふうむ。そこまで嫌われてますか」カキン!
姫「効かない!?」
側近「やっぱりショックですな」
姫(いつの間に前に回り込んで――!)ズザッ!
スライム「掴まって姫ちゃん!」プクー!
姫「ええ!」ガシ
スライム「ん!」ビョン! バチャン!
側近「海に逃げますか」
コウモリ「ここまでならさすがに追ってこれないだろ」
側近「困りましたねえ」
側近「こんなに嫌がられるとは」
側近「繰り返しですが。ショックです」バサ!
コウモリ「げげっ! あいつも飛べるのかよぉ!」
側近「待っててくださあい。すぐ行きますからねえ」
コウモリ「くんなああぁぁ!」
姫「"光矢三連"!」ビシュシュシュッ!
側近「効きませんな」キキキン
姫(ここまで、かしら……)
スライム「……ねえ」
姫「安心して。あなたたちに痛い思いはさせないから」
スライム「ええと、そうじゃなくて」
姫「?」
スライム「前。何か来る……!」
姫「え?」
バシャシャシャシャシャシャ!
「あれは間違いない……姫!」
「そして上のは、敵か!」チャキ!
姫(すごい速さでこちらに向かってくるあれは……舟?)
姫「誰……?」
「姫――!」
姫「……まさか」
「お迎えに、あがりました!」
姫「勇者……!」
勇者「今助けます!」
――勇者があらわれた!
側近「あれは、まさか……!」
勇者「おおおおおッ!」ダンッ!
側近(な!? 一瞬でこの高さまで!)
側近「くっ!」ジャキ!
勇者「シッ!」ビュッ
側近「が――ッ!?」ドス!
側近(勇者……か……)
ヒュルルル……バシャン!
勇者「……」スタ!
スライム「……すごーい」ポカーン
コウモリ「……化け物かよ」ポカーン
姫「勇者……!」
勇者「……姫。お待たせして申し訳ありませんでした」
海岸
姫「遅すぎ!」
勇者「すみません……」
姫「誰のせいでこんなことになったと思ってるの!?」
勇者「あの日人質に取られた俺のせいです」
スライム「え? もしかして……」
姫「そうよ! 勇者が不意をつかれたからこんなことに!」
勇者「面目ない……」
コウモリ「あんなに、つよいのにか?」
勇者「人はいつも百パーセントじゃいられないからね」
姫「偉そうにしないでよ!」ペシペシ!
勇者「すみません……」
勇者「でも、無事でよかった。君たちが姫を守ってくれたのかい?」
スライム「うん! がんばった!」
コウモリ「オレは別に……流れでなんとなくだよ」
勇者「そうか。ありがとう」
姫「……」
姫(無事……じゃないわよ)
勇者「どうしました、唇が何か?」
姫「……なんでもないわ」
姫「……そんなことよりあなたねえ!」
勇者「はい……」
姫「あなたねえ……!」
スライム「姫ちゃん」
姫「……」
スライム「ちょっとだけでいいよ。甘えちゃおう?」
姫「……」
スライム「姫ちゃんはがんばったからさ」
姫「……グス」
スライム「ね?」
姫「ヒック……う……グス」
勇者「……」ギュッ
姫「怖かった……怖かったよぉ……!」
勇者「……」ナデナデ
スライム「よかった」
コウモリ「……」ムス
スライム「コウモリ君はちょっと残念かもだけど……」
コウモリ「あ!? 何がだよ!」
スライム「だいじょうぶ。コウモリ君も十分かっこいいよ」
コウモリ「ったりめーだろ!」
スライム「すぐにいい子が見つかるさ!」
コウモリ「なにいってんのかわかんねー!」
スライム「ふふふ」
……
…
姫「じゃあ魔王城に突撃よ」
スラ・モリ・勇者「えっ」
勇者「今……なんと?」
姫「魔王城に行くわよ」
スライム「ええ!? なに言ってるのさ!」
コウモリ「頭おかしいんじゃねえの?」
姫「……」グリグリ
コウモリ「いたたた!」
姫「やっぱりやられっぱなしってのは性に合わないわ! やり返さないと!」
勇者「つまり……魔王をさらうので?」
姫「あ、えっと。そうじゃなくて、ただ単にぶちのめさないと気が済まないってこと!」
勇者「危険です! 俺が一人で……!」
スライム「ぼくも行く!」
コウモリ「お、オレも行ってやってもいいぜ」
姫「わたしも」
勇者「……」
勇者(姫はこうなるとテコでも動かないんだよなあ……頭が痛い)
魔王城
魔王「側近からの連絡が途絶えた?」
「はっ。そして申し上げにくいのですが……」
魔王「申してみよ」
「勇者が……こちらに向かっています」
魔王「ぬ。あの小僧か」
「若干名の連れがいるとの事です。数刻後にここまで」
魔王「分かった。我が直々に相手をしよう」
「な!? で、ですが!」
魔王「所詮あの時人質にできてしまう程度の小僧だ。倒すのに苦はあるまい」
「それでも!」
魔王「くどい!」
「っ……! わ、分かりました……」
数刻後 魔王城前
魔王「ふうむ」
勇者「……」チャキ!
スライム「……」プクー
コウモリ「……」バサバサ
姫「……」ポゥ……
魔王「何しに来たのだお前らは?」
勇者「汚い手口で姫をさらって愚弄したこと、今ここで償わせてやる」
姫「右に同じ」
スライム「上におなーじ!」
コウモリ「下に同じだぜ!」
魔王(こいつらは阿呆なのか?)
魔王「まあいい……我の力、思い知らせてやろう」ゴゴゴ!
――魔王がたたかいをいどんできた!
姫「……! すごい魔力」
魔王「もう逃げる気も起こせぬぐらいに叩きのめしてやる」
スライム・コウモリ「うう……」
勇者「行くぞッ!」ダン!
魔王「来いッ!」
勇者「やあああッ!」
魔王「ふはははは!」
キィン! ガキン! ドゴ! ドゴオッ!
スライム「ち、近寄れないよ!」
コウモリ「どうする!?」
姫「わたしたちは機を待ちましょう」
コウモリ「でもよ!」
姫「今行っても勇者の足を引っ張るだけよ」
スライム「チャンスを待てってことだね。分かった!」
勇者「くっ!」ギギギ!
魔王「どうした。おい、どうした勇者!」グググ!
勇者「この……!」
魔王「このままでは我が競り勝つぞ。分かるだろう、死が刻々と近付いているのが!」
勇者「ぐ、ぬ、ぬ……」
姫(まずい……!)
スライム「あわわ……!」
コウモリ「……」ゴクリ
「ずいぶんと、楽しそうではないか」
勇者・魔王「?」
火竜「儂も混ぜろ」ヒュボ!
ドゴオッ!
魔王「くっ! お前は火竜!」
火竜「久しぶりだな魔界の長よ」バサッ バサッ
魔王「なにをしに来た!」
火竜「なに、空の散歩をしていたらお主が困っておるようでな。加勢に来た」
魔王「要らぬ! 去れ!」
火竜「遠慮するな」ヒュボ!
ドゴオッ! ドゴオッ! ドゴオッ!
魔王(あやつめ、明らかに我を狙って!)
火竜「久しぶりのせいか、上手くいかんわい」ククク
魔王(しかしやつも竜族の実力者……下手に機嫌を損ねるわけには)
魔王「チッ! ならば!」カッ!
――ブワ!
魔王「来い! 闇夜の使いたちよ!」
勇者「くっ、辺りが暗く……まだ日が出ているはずなのに!」
火竜(これでは儂も手が出せんな)
魔王「ふふふ……この魔法は限定空間内に夜を導くものだ。我は全てを把握しておるが、お前たちには何も見えん!」
勇者「まずい……」
魔王「覚悟しろ!」
「いいや」
魔王「……?」
吸血鬼「覚悟するのはそっちの方だぜ! 魔王さまよお!」
魔王「しまった、吸血鬼が!?」
吸血鬼「おそいぜ!」ビュン!
魔王「がッ!」ドゴゥ!
吸血鬼「夜は俺の住処だっつーの!」
魔王(くぅ……術を解かねば)グッ
シュウゥゥン……
姫「待っていたわよこの時を!」
魔王「何!?」
姫「"特大溜撃光矢"ッ!」
ズ――ドンッ!
魔王「ぐおお……」ドサ
姫「やったわ!」
スライム「すっごーい!」
コウモリ「へへ!」
勇者「……いや。まだだ」
姫「え?」
魔王「……。くくく……」ビキビキ!
スライム「な、なに?」
魔王「この姿になるのハどれくらいぶりだったカ……」ビキビキビキ!
コウモリ「ひっ……」
魔王「ふ、ふフ……」ムクリ
魔王「ハーッハッハッハッハッハッ!!」ズゴゴゴゴッ!
魔王「お前たちは運がいイ。痛みを感じる暇もなく死ねるのだからナ」フワ
――ビュン!
勇者「! 一瞬であんな上空に!」
魔王「全力ダ! 全力で無に帰してやル!」ヒュイィィィィン!
勇者「くっ……」
スライム「勇者くん! ぼくがきみをあそこに届かせる!」
勇者「え?」
スライム「だからきみは魔王を倒す手段を用意して! 時間がない!」
勇者「……よし分かった!」
勇者「姫! 申し訳ありませんが指輪をこちらに!」
姫「どういうこと!?」
勇者「剣と指輪はもともと一つのものなんです!」
姫(それをわたしに預けてくれてたんだ……)
姫「分かったわ!」シュッ!
勇者「……」パシ! カチ!
――剣に指輪をはめこむことによって、真の力がひきだされた!
スライム「いくよ! ぼくに乗って!」プクー!
勇者「ああ!」
スライム「……!」ググ!
スライム「それぇッ!!」ビュンッッ!
魔王「グオオオオオオッ」カッ!
勇者「うおおおおおおおッッ!!」シュッ!!
……
…
・
・
・
「それから!?」
子スライム「それからどうなったのさ!?」
少女「ふふ。聞きたい?」
子スライム「もちろん!」
子コウモリ「オレも!」
少女「ええとね。勇者は邪悪な魔王を倒して、世界に平和が訪れましたとさ」
子スライム「え?」
子コウモリ「それ、だけ?」
少女「そうよ? 案外呆気ないでしょ」
子コウモリ「面白くねー」
子スライム「うーん……」
少女「物語のおしまいって、結構そんなものよ?」
子コウモリ「でもなー」
子スライム「いや、ぼくは面白かったよ。ありがとね!」
少女「そう、よかったわ。そしたら飴ちゃんどうぞ」
子スライム「わーい!」
子コウモリ「うめえ!」
少女「これから竜おじいちゃんのところ行くんだっけ?」
子スライム「うん! おじいちゃん優しいからだーいすき!」
子コウモリ「ちょっとガンコだけどな」
少女「おじいちゃんによろしくね」
子スライム「うん! じゃあね!」
少女「ふう」
「あら、あの子たちは帰ったの?」
少女「ええ」
「なんのお話してたの?」
少女「えへへ。ママたちのこと」
「ふふ……そう」
少女「あの子たち喜んでたわ。全部本当の事だなんて信じないでしょうけど」
「そうね」
少女「あーあ。わたしもママたちみたいな冒険してみたいなー」
「馬鹿なこと言わないで。あなたがさらわれたらママはどうしたらいいか……」
少女「冗談よ冗談」
「ふふ。じゃあ食事にしましょう。先に行ってるわね」
少女「ええ」
「――大変だー!」
少女「?」
子スライム「大変大変!」
少女「どうしたの?」
子コウモリ「りゅ、竜のおじいちゃんが、悪い人たちにつかまっちゃった!」
少女「どういうことよ?」
子スライム「助けに行かなきゃってこと!」
少女「え? え?」
子スライム「行くの行かないの!? 急がないと手遅れになっちゃう!」
少女「……行く! もちろん行くわ!」
子コウモリ「じゃあ早く行こうぜ!」
少女「ママ、ごめんね。ちょっとだけ行ってきます!」
ギィ……
……バタン!
……ここからのお話はいつか、語られるかもしれません
でもとりあえずは、ここでおしまい
スライムかわいいよスライム!!
楽しかった
すらいむかわいい
Entry ⇒ 2012.03.17 | Category ⇒ 勇者魔王「」SS | Comments (0) | Trackbacks (0)
魔王「貴様誰だ!」スネーク「武器を捨てて両手を頭の後ろに回せ!」
http://hayabusa.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1330943970/
スッ
スネーク「動くな!」
ターンッ
魔王「がっ・・・・・・」
カランカランッ
魔王「わ、私の杖が・・・・・そんな距離から」
スネーク「もう一度言う!両手を頭の後ろに回せ!」
魔王「うっ・・・・・・この迫力・・・・・・」
グッ
魔王「これでいいのか」
スネーク「そのまま床に伏せろ!」
魔王「わ、分かった」
ペタッ
スネーク「お前以外全て行動不能にした。あとはお前だけだ」
魔王「な、なに!?」
スネーク「こんないい加減な警備システムでよく今まで無事だったものだな」
魔王「な、何者だ!」
スネーク「ただの傭兵だ。コードネームはスネーク」
魔王「スネーク?ゆ、勇者じゃないのか!」
スネーク「勇者・・・・・・懐かしいなだ・・・・・・」
魔王「し、知ってるのか!やつはどうした」
スネーク「勇者、戦士、僧侶、魔法使い・・・・・・いいやつはみんな早死にしてしまう」
魔王「し、死んだの!?」
魔王「早いな!で、ではほとんどお前一人で・・・・・・」
スネーク「すまないが、話している余裕はない。早く核発射シークエンスを中止するんだ!」
魔王「え!?な、何それ!」
スネーク「とぼけるな!!情報はとってあるんだ!」
グギギギギ
魔王「や、やめて!腕そっちにまがらないから!」
スネーク「はやくしろ!世界を滅ぼしたいのか!」
魔王「せ、征服するほうだから!私は!」
スネーク「拷問では口をわらないか」
魔王「ふ、ふぅ・・・・・・」
魔王「お、お前が落ち着け」
スネーク「ほらっ、お前も入れ」
トンッ
魔王「な、なんだこれは」
スネーク「知らないのか?ダンボールだ。入ると落ち着くぞ」
ペタンッ
魔王「こ、これに入るの?」
スネーク「ほらっ、どうした遠慮するな」
魔王「わ、わかった」
ペタンッ
魔王「・・・・・・」
スネーク「・・・・・・」
魔王「な、なんか捨てられた猫になった気分だな」
スッ
魔王「す、吸わない」
スネーク「あいにく葉巻しかないがな、どうだ?」
魔王「だ、だから吸わないって」
スネーク「そうか。どうしても話さないか」
魔王「あ、あの私の部下達は・・・・・・」
スネーク「安心しろ。麻酔で眠っているだけだ」
魔王「そ、そうか。無事でよかった」
スネーク「核攻撃をしても賢者の遺産は手に入らないぞ」
魔王「な、なにそれ?」
スネーク「遺産はすでに別の場所に移された!お前の目的はもう失われているんだ!」
魔王「だ、誰か通訳を!」
スネーク「さあっ!早く核を止めるんだ!」
魔王「い、いたたた・・・・・・」
スネーク「言わないと折れるぞ!」
魔王「や、やめて・・・・・・」
ボキンッ!」
魔王「ぎ、ギアアアアアアア!」
スネーク「なっ、メタルギアだと!?」
魔王「うぐぐぐぐぐっ腕がああ」
スネーク「まさか!核はメタルギアの中か!」
魔王「か、回復!」キューンッ
スネーク「どこだ!」
魔王「な、何言ってるのこの人!」
魔王「こ、今度は一人で喋りだした!」
スネーク「そうだ!しかもメタルギアの名前まで出てきた」
魔王「何この人こわい・・・・・・」
スネーク「そうか!わかった試してみる」
魔王「も、もう帰ってくれないですか?」
スネーク「城を案内しろ!」
魔王「え!?ま、まだ何かやるの?」
スネーク「ここに核があることは間違いない!」
魔王「かくってなに!?」
スネーク「さあ立て!いつまでダンボールに入っている!」
魔王「あんたが入れたんでしょ!」
グイッ
魔王「わ、私の寝室だ」
スネーク「開けろ。妙なそぶりを見せたら撃つ」
魔王「だ、だめ!」
スネーク「ここか!」
魔王「ち、違う!何もないから!」
スネーク「いいから死にたくなければ開けろ」
魔王「ううっ」
ギギィ
スネーク「先に行け」
魔王「は、はい」
トテトテ
魔王「な、何やってんの!?」
スネーク「金属探知機だ。あやしいものがないか調べる」
魔王「な、何もないですよ!」
スネーク「黙っていろ!」
ピーッ!
スネーク「ここか!」
魔王「や、やめて!」
スネーク「この引き出しか。罠は・・・・・・ないようだな」
魔王「お願い!それだけは!」
スネーク「オタコン!喜べ!ここらしい。中の写真を撮ってそちらに送るぞ」
魔王「しゃ、写真なんてやめてー!」
ガラッ
パシャパシャ
スネーク「お、女のくせにこんな玩具まで・・・・・・」
魔王「うっ///」
スネーク「こ、こんなものどうやってつかうんだ!?」
パシャパシャ
スネーク「まったく!性欲をもてあます!」
魔王「い、言わないで///」
スネーク「オタコン映像送ったがどうだ!?あやしいものはないか」
スネーク「何!?魔王の写真も一緒に送って欲しいだと」
スネーク「おい、ちょっとこっち向け」
魔王「///」
パシャパシャ
スネーク「よし!送ったぞ!」
スネーク「そうか!オタコン、かんばってくれ。あとは任せろ」
ゴゴゥ
スネーク「ぐぁ!」
魔王「はーっはっは!油断したな!変質者め!」
スネーク「もぐもぐ」
魔王「な、なにをしている!?」
スネーク「動くな!」
ダンッ
魔王「がっ!なっ!あの火傷でどうして動ける!?」
スネーク「そのまま床に伏せていろ」
魔王「なっ、無傷だと!?」
スネーク「なんだ!?知らないのか?これを食べると傷が治るんだぞ」
まずいけど
スネーク「携帯食料のレーションだ」
魔王「た、食べ物で傷が治るなんてそんな非現実的なことがあってたまるか!」
スネーク「何を言っている!アメリカ海軍でもイギリス空軍でもどこでも常識だぞ!」
魔王「ま、まじで!?」
スネーク「手癖が悪いみたいだな。悪いが拘束させてもらう」
ガシャリ
魔王「て、手錠・・・・・・」
スネーク「さて、これでゆっくり探せるな」
魔王「やめろ!見るな!変態ー!」
魔王「だから言っただろ!下着までじっくり調べおって!変質者!」
スネーク「核を撃つようなやつに言われたくない」
魔王「だから知らないって!それに下着ポケットにいれただろう!」
スネーク「次のスニーキングミッションに必要かもしれん」
魔王「うそだ!」
スネーク「そんなことを・・・・・・ちょっと待て通信が入った」
スネーク「どうしたオタコン!お前の分ならちゃんと確保したぞ!」
スネーク「何!?情報が間違っていた!?」
スネーク「分かった。すぐにそっちへ向かう」
魔王「おい!」
スネーク「なんだ」
スネーク「聞き間違いだ」
魔王「言った!言ったもん!聞いたもん!」
スネーク「間違いは誰にでもある」
魔王「早く手錠をはずせ!」
スネーク「それはだめだ」
魔王「なんでー!?」
スネーク「メタルギアのことを知っている以上一緒に来てもらう!関係ないとは思えん!」
魔王「だから知らないって!」
魔王「えっ、ほんとに行くの!?ちょっちょっと!」
スネーク「なんだ」
魔王「き、着替えとか!パジャマとか持っていかないと!」
スネーク「装備品は現地調達が基本だ!余計な荷物を持っていくな」
魔王「今すぐポケットの中を捨てろ!!」
スネーク「いくぞ!さあ歩け!」
グイッ
魔王「だ、誰かー!」
誰か続きを
私は寝ます(´・ω・`)ノシ
おい
Entry ⇒ 2012.03.14 | Category ⇒ 勇者魔王「」SS | Comments (0) | Trackbacks (0)
女僧侶「勇者様にプロポーズされました」
http://hayabusa.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1330764570/
女僧侶「……」
男「ごめん。いま何て?」
女僧侶「勇者様に……プロポーズ、されました」
男「え……そ……そう……なのか……」
女僧侶「うん。きみには、言っておこうと思ったの」
男「……」
女僧侶「ううん。実は魔王討伐の前から、言われてたの。帰ったら、結婚してくれないかって」
男「そうなのか?こっちに帰ってきてから、そんな話一言も」
女僧侶「返事は保留してたんだ。私も突然でビックリしてたし、お付き合いをしてたわけでもなかったし」
女僧侶「でも、つい昨日、また申し込まれて」
男「いきなり結婚を申し込んだってこと?お互いのこと何にも知らないんじゃ」
女僧侶「もしかしたら知らない間にそんな感じだったかも……うん。たぶん、そうだと思う」
男「……受けるの?」
女僧侶「うん。受けようと思う」
男「!」
女僧侶「勇者様はお父様を亡くされて、とってもつらそうだった。できる限り、支えてあげたいんだ」
男「そ、そうか……そりゃあ、また…」
男「…おめでとう……」
男「は、はは…。そっか、うん。そうだな…幼馴染だもんな、俺ら」
女僧侶「うん」
男「す、すげえよ!勇者様の伴侶か!」
男「参ったな、世界を救った二人が結婚か……こりゃ国をあげての大騒ぎになるだろうな」
女僧侶「……そうだね」
男「おめでとう。お前みたいな幼馴染がいて、ホントに誇らしいよ」
女僧侶「ありがとう。ふふ…きみならそう言うと思ってた」
男「お、おう。またな」
女僧侶「うん。またね」タタタ
男(……)
男(そうか……結婚するのか、あいつ)
男(あいつが……)
青年「今日からこの村に越してきました。よろしくお願いします。こっちが、娘です」
幼馴染「……」ギュッ
父「やあ、よろしく!友人が増えて嬉しいよ。ほら男も挨拶しろ」
男「……」ギュッ
青年「どうやらお互い人見知りなようですね」クスッ
父「まったくで」ハハッ
父「おい。挨拶はちゃんとしなさい、ほら」
青年「お前も、ほら」
幼馴染「ん……」
男「……」
男「…………」
幼馴染「…………」
男「……よろしくな」
幼馴染「!は、はい!」
父「よしよし。素敵な彼女ができて良かったなあ」ナデナデ
男「うぅ///」ナデナデ
男「うりゃあああ!」バシャーン
幼馴染「きゃああ///」バシャーン
青年「おーい。二人とも!あんまり水辺で騒ぐなよ、気をつけて」
青年「1年は早いな。子どももあっという間に仲良くなる」
父「幼ちゃんは良い娘だ。子どもが少ないこの村ではいいお友達だよ」
父「何より優しい娘だ」
青年「はははっ。ありがとう。誰に似たのか、死んだ妻かな。男親としてはこれからが心配だけど」
父「うちも家内に似れば良かったんだがなあ。どうも粗雑で」
青年「男の子はあれぐらいがちょうどいいよ」
幼馴染「あ、あ!あん!やあ、やめてえぇえ///」
青年「ごらああああ!!うちの娘になにしてやがんだああああ!」
<ギャー
<キャー
父「はっはっは。お互い妻を持たないと苦労するね」ハハッ
男「とーさん頑張れ!」
幼馴染「あうう……お、お父さん!頑張って!」ドキドキ
青年「だ、そうだ。そろそろ訓練も終わりにしよう、お昼も食べないといけないしね」チャキ
父「っ」チャキ
青年「はっ!」キン!
父「ぐっ!」ギィン!、カラン
青年「勝負ありだな」
男「あー……」
幼馴染「えへっ」ニコニコ
幼馴染「あっ!やああ!あん!お、お父さん助けてぇええ」
青年「やめんかごらあ!」
男「」ビクッ
幼馴染「ふぇえ…」
青年「まったく…もうちょっと女の子の扱い方を頼むよ」
父「い、いや~。悪い悪い……それにしたって本当に強いな、お前は」
父「前から不思議だったんだが、どこかで剣の訓練を積んでたんじゃないか?」
青年「ははっ。買いかぶりだよ」
父「まあ、おかげで俺もこうして教えてもらえるんだけど」
父「……最近は魔物の動きもますます活発化してきたからな。やはり自衛くらいはできるようにならんと」
青年「……そうだな」
父「よっしゃ、昼飯くったらもう一度だ」
青年「ああ」
魔物A「ぐるるる」
青年「ぜあっ!」ズバッ
魔物A「ぎゃあああ――」
魔物B「きしゃあああ!」
青年「まだいたか!」キンッ
魔物B「ぐるる」
魔物C「ぎししし…」
青年「……」
青年「……」チャキ
魔物「「きしゃああ!」」
青年「…ハヤブサ斬り」
キン!ジャキィィィン!
――ギャアアアア……ドサドサッ
父「………」ゴクリ
男「……」
幼馴染「お父さああん!」ガバッ
幼馴染「うぇええん……」
青年「なに泣いてるんだ。あんな魔物に父さんが負けるわけないだろ」
幼馴染「だってぇええ…」ブワッ
青年「だあ!鼻水!!」
男(すっげー……)
男(幼のお父さん…めちゃくちゃ強い……)
青年「問題ないよ」
父「お前、本当に何者なんだ?あんな技…とてもそこらの剣士とは思えないな」
青年「……」
父「……お前が話したくないならいい。ともかく、ありがとう!おかげで村は助かったよ」
青年「くっくっ。とても隅で震えていた男のセリフとは思えないな」
父「う、うるせー!強すぎんだろいまの!!」
青年「はっはっ。まだ鍛練が足りないんだよ」
父「ぐぬぬ」
青年(……)
青年(……確かに、いまの魔物……これまでとは格が違った)
青年(やはり魔王……本格的に動き出したか……しかし……)グッ
――
男(幼のとこ行こうかな……っと)タタタ
男(ん?)
『……です』
男(何だろ、話声が…)コソッ
兵士「やっと、見つけましたよ」
青年「………」
男(おじさん?……なにしてるんだろ)
兵士「どうかお戻りになってください。魔物の勢いはもはやとどまるところを知りません」
兵士「あなた様がお戻りになれば兵たちの士気もあがるはずです」
男(……兵隊、さん?)
青年「ぼくは、戻らない。この村で静かに娘と暮らしたいんだ。どうか邪魔しないでくれ」
青年「……頼む。妻を亡くしたぼくの気持ちは、きみも知ってるだろう」
兵士「奥様は残念でした。だが今は国が滅びるかどうかの瀬戸際なのです!」
男(……?)
青年「……もう娘を一人にしたくないんだ。妻は魔物に殺されて……」
青年「……あのとき、ぼくが家にいればあんなことにはならなかった」
青年「あのときの娘の顔……きみは、見てないからそんなことを言えるんだ」
青年「泣くでもなく、怒るでもなく……ただただ呆然として、まるで死人のようだった」
青年「この村に来て、ようやく以前みたく笑うようになった」
青年「もうあいつには……二度とあんな顔して欲しくないんだ」
兵士「…………」
兵士「…また、来ます」ザッ
青年「…………」
青年「……」
青年「男。そこにいるんだろう」
男(!?な、なんで)ビクッ
青年「いまの話は、誰にも言うな。もちろん幼にも」
男「……おじさん」スッ
青年「頼む」
男「……うん」
青年「ありがとう。そうだ、きみは剣を学びたいそうだね。幼から聞いたよ」
男「あ……でも、お父さんからは『まだ早い』って」
青年「だがこの先、世界はどんどん魔物が勢力を増していくはずだ」
青年「早いうちに剣を学んで損はない。どうだ?今の話を黙っててくれるなら、代わりに剣を教えよう。もちろんこっそりね」
男「!ほ、ほんと!?」
青年「ああ」
男「ありがとう、おじさん!」
男「うん」
青年「なら剣は明日からにしよう。毎日…そうだね、昼すぎから一時間ほど教えてあげるよ。明日また来るといい」
男「うん!!ホントにありがとうおじさん!!」
男(やった……やったあ!)
男(おじさんから剣を教えてもらえる!)
男(……でも)
男(何だったのかな…)
男(さっきのは……)
男(ま、いいか)
父「……最近は……魔物のせいかな。作物もすっかり育たなくなってきてる」
青年「王もそこは考慮してくれている。無理な税の徴収もない」
父「そりゃそうだが……このままじゃ、食料も底をついちまう」
父「隣の村も魔物に襲われたらしいし……弱ったよ」
青年「………ああ」
男「お父さんたち、ずいぶん話しこんでる」
幼馴染「うん……みんな、つらそう……」
幼馴染「わかんない。でも……お父さん、最近つらそうなんだ。すごく悩んでるみたい」
幼馴染「それに最近、剣をよく振ってるの」
幼馴染「……どうしたんだろう。少し、怖いよ」
男(……)
男「大丈夫だよ。お前には俺も、その…ついてるし」
幼馴染「え…あ///」
男「お、おう。だから安心しろ」
幼馴染「……う、うん//」
男「あは、あははは///」
幼馴染「えへへ///」
青年「……」ジャキン
父「落ち着け」
青年「むっ」ギン!
男「てあ!」キン!
青年「ふむ」ガギン
青年(なかなか筋がいい。この1年で成長したな)
青年(しかし、まだ甘い。……それにだな)
幼馴染「男!頑張って~!」
青年「これは親として負けられんな!」ガギン!!
男「うあっ!」カキン!
キン……カタンッ
青年「ふっ」チャキ
男「くっそ~……」
幼馴染「!」タタタ
青年「やあ、幼。どうだ、パパの勇姿を見
幼馴染「男!!」
青年「」
男「へーき、へーき!こんなのいつものことだって…悔しいけど」
幼馴染「あんまり無茶しないでね」ウルウル
男「大げさなんだよ、お前はさ。泣き虫か」
幼馴染「うぅ……」ウルウル
男「おじさん!次は絶対に勝つからな!!」
青年「……ふっ」
青年「ああ。楽しみにしてるよ。……またな」
男「…?う、うん」
青年(……)
――
兵士「では一週間後、お迎えに参ります」
青年「ああ。それと約束は忘れてないな」
兵士「はい。村の減税および食料支援、並びに周辺地域の警戒強化。すべて王より承っております」
兵士「こちらがその確約書です」
青年「うん…ありがとう。すまないね、我が儘を言わせてしまって」
青年「ああ。それと、例の剣は?」
兵士「こちらです」
兵士「隼の剣…どうぞ。お返しいたします」
青年「……うん」
青年「またこれを持つことになるなんてなあ」チャキ
青年「……ああ」
―――
――
幼馴染「……え?」
青年「聞いた通りだ。パパは一週間後、お城へ戻る。そしたら幼は男くんたちと住むんだ。父には話をしてあるから」
幼馴染「………嘘」
青年「突然ですまないね。けど、パパは決めたんだ」
幼馴染「そんな……そんなのっ!」
青年「だから……」
青年「……」
青年「男と、仲良くな」
幼馴染「……ん」
幼馴染「こんなものかな」
男「おーい、幼。まだ洗濯かかる?」
幼馴染「ううん。いま終わったとこだよ」
男「そっか。じゃあ行こうぜ。父さん待ってる」
幼馴染「うん」
幼馴染(もう……1年か。早いなあ)
男「おじさんから手紙きてたぞ」
幼馴染「!本当!?」
男「ほらこれだ。読んだら来いよ?」
幼馴染「うん。ありがとう!」
男(嬉しそうな顔しちゃってまあ)タタタ
幼馴染「……」ドキドキ
幼馴染「……」パラッ
10才の誕生日おめでとう!
ぼくはいま、とある火山の近くの街にいる。
心配はしなくていい。順調に魔物の討伐は進んでる。心強い兵士たちも一緒だしね。
なあに、かすり傷ひとつない。パパを誰だと思ってるのかな?はっはっは。
仮に死んでも化けて出るのがパパさ!
ああ、男くんは元気かい?仲良くやってる?
……いいかい。彼は素直でいい子だが、簡単に心を許したらいけないよ!!
少なくともパパが戻るまでは絶対にね!!!
そうそう、そう言えば…』
男「っと」サクッ
男「よっ」サクッ
男「ふぃ~」
幼馴染「畑、頑張ってるみたいだね」トテトテ
男「ん?うん。土の匂いって落ち着くしね」
幼馴染「ふふっ。でも少し休憩したほうがいいよ。さあ、お弁当たべよ。こっち来てね」
男「おう」
男「おじさんは元気?また手紙きてたろ」
幼馴染「うん。……危ない地域に入るから、しばらく連絡とれないかもって」
男「そっか。まあおじさんなら大丈夫だろ……と」ポフッ
男「さ~て、腹へった。くおうぜ」
幼馴染「う……うん」
男「いっただきま~……」
男「……んあ?」
幼馴染「え?どどど、どうしたの?」
幼馴染「あはは?お、おじさん頑張ったんじゃないかな」
男「かな~。まあいいや、いただきまーす」
ぱくっ。
男「……」モグモグ
幼馴染「…………」ゴクリ
男「まずっ」
幼馴染「」
幼馴染(……お父さんから手紙がこなくなって、もう1年以上になる……)
幼馴染(お父さん。元気にしてるよね……?)
幼馴染「……はぁ」
男「どうした?ため息なんかついて」
幼馴染「あ……ううん。何でもない」
男「おじさんのことか?」
幼馴染「……うん」
男「心配するなって。あれだけ強かった人が、そんな簡単にどうにかなるかよ」
幼馴染「……うん」
男「……」
男(うん)
男「なあ、幼。遊びにいかないか?」
幼馴染「……」
幼馴染「ふぇっ?」
―――
――
男「つうわけで」
幼馴染「あわわわわ」
男「来たぜ地下水道!」
幼馴染「あ、遊びに行くっていったのに!」
男「え?遊びじゃん」
幼馴染(oh...男の子)
幼馴染「わたしは……?」
男「はいこれ。ひのきのぼう」
幼馴染「えっ」
男「っしゃー!いくぞおおおおお!!」ダダダダダ
幼馴染「あ、あっ!待ってよ~!!そんなに急いだら怪我するよ~!!」トテテテテ
男「……痛い……」
幼馴染「だから言ったのに……だから言ったのに」
幼馴染「むうぅ。……ほら脱いで」
男「え///」
幼馴染「ちち、違うよ!?変な勘違いやめて///」
幼馴染「怪我したとこ見せてって言ってるの!」
男「んだよ、最初からそう言えよ」メクリ
幼馴染「……け、けっこう痛そうだね」
男「まあ地味に」
幼馴染「一番やさしい魔法だから、安心して」……
男(あ……)
幼馴染「……」パァァ
男(傷が…)
幼馴染「……」パァァ
男(ふさがってく……)
幼馴染「……んっ。これでいいかな。痛くない?」
男「うん」
幼馴染「えへへ。よかった……ちょっと自信なかったんだ」
幼馴染「うん。お父さんに教えてもらってたの」
幼馴染「お父さん……剣だけじゃなくて、魔法も凄く勉強してた」
男「へぇ…」
幼馴染「男はお父さんから剣を教えてもらってたし」
幼馴染「私も……何か覚えないとって思って。でも、私は剣はわかんないし」
幼馴染「だから、魔法かなあ……って」
幼馴染「それに、治癒魔法なら何かあったとき治してあげられるし」
幼馴染「今みたいにね?」エヘヘ
幼馴染「うん」
男「ありがとな」
幼馴染「見直した?」
男「見直した見直した。割とマジで」
幼馴染「え……えへへ//」
幼馴染「……」
幼馴染「うん。役に立ってよかったよ。さあ、もう上に戻ろ?」
男「だな」
幼馴染「うん!」
その日は雨が降っていた。
幼馴染「……」
男「………」
幼馴染は、家の軒先でぼんやりと外を眺めている
幼馴染「……」
男はそっと彼女の横に座った。
幼馴染「…ねえ、男」
男「……」
幼馴染「……」
彼女が握りつぶしている手紙。そこには淡々と、こう綴ってあった
『討伐隊、破れる』
『青年、死す』
『――遺族へ』
幼馴染「……つらいよ」
彼女は、泣いていた。
そして噂は国中を駆け巡る
『剣聖、堕つ』
父「……教会に、入る?」
幼馴染「はい。城下町の教会に入って、僧侶になろうと思うんです」
男「なんで急に……」
幼馴染「急じゃないよ。…お父さんが死んだって聞かされたあの日から、ずっと考えてた」
幼馴染「いつまでも、おじさんたちに甘えるわけにはいかない」
幼馴染「自立しなきゃって思った」
幼馴染「それなら教会かなって――」
父「幼」
幼馴染「は、はい」
父「俺はお前を預かったあの日から、ずっとお前のことを……
息子以上に可愛いがってきた」
男「えっ」
息子とは大違いだ」
男「えっ」
幼馴染「はい。わかっています」
男「えっ……」
幼馴染「だから」
父「ダメだ」
幼馴染「――っ。ど、どうしてですか……!」
父「お前は、まだ13才の子どもだ。しかも預かっている身だ」
父「自立したい気持ちはわかったが、すぐに「はい」とは言えない」
父「俺にはお前が道を踏み外さないよう見守る責任がある」
父「わかってる。お前が拍子でそんなことを言う子でないことはしってる」
父「他人の幸せを、心から願える子だ。きっと僧侶に向いているだろう」
父「いや。『向きすぎている』と言ってもいい。だから怖いんだ」
父「自分を犠牲にしてでも他人を救いたいと思う……思ってしまう」
父「そんなお前だから……もう少しゆっくり考えて欲しい」
父「こんな時勢だ。いったん教会に入り僧侶の道を踏み出せば、否応なく危険な道を行くことになる」
父「あるいは優しい心が、お前自身を滅ぼしてしまいかねない」
父「そんなことになれば、あいつに…顔向けできん」
幼馴染「……」
父「俺が充分に考えたうえでお前を送ると決め、そのときまだ幼の決心が変わらないままなら」
父「……そのときは、笑顔で送りだしてやる」
幼馴染「おじさん……」
父「それまでは今まで通り自分で勉強するんだ。いいかい?」
幼馴染「……はい」
男(……幼)
―――
――
幼馴染「うん?」
男「本気で教会に入るつもりなのか?」
幼馴染「本気だよ」
男「そっかー」
幼馴染「……男はどう思った?」
男「オレ?」
幼馴染「私が教会に入るの、やっぱり反対?」
男「はあ?反対するわけないじゃん」
幼馴染「え」
男「いいんじゃない。オレは応援するよ」
男(止めたって聞かないだろうし)
幼馴染「……そっか」
男「おう」
男「それにああは言ってたけど、父さんだってもうわかってるさ」
男「お前の気持ちは変わんないだろうし」
男「なら、あとは父さんが覚悟を決めるだけだろ。どう決着させるかは知らないけど……」
幼馴染「……」
幼馴染「……うん。あの、さ。男……」
男「お礼とか、むずがゆいからやめてくれよ」
幼馴染「ん」
幼馴染「あはっ――」
幼馴染「うん。わかった。でも勝手には出ていかないよ」
幼馴染「おじさんが良いって言ったら、行く。そこまで迷惑はかけたくないよ」
男「そっか。なら……待ってな」
男「でも、あの父さんだからな~。たぶん長いぞ。優柔不断だし」
男「1年は見といたほうがいいな」
幼馴染「待ってるよ。それくらい……だから、それまではよろしくね」
男「おう!」
神父「それでは、お預かりいたします」
幼馴染「……今までお世話になりました」
男「元気でな」
父「いいか、幼。寂しくなったらいつでも帰ってくるんだぞ?お前の家はうちにあるからな?いいな!?」ブワッ
男「やめろよ、みっともない……」
男(結局、幼の14才の誕生日だもんな…時間かかりすぎだろ)
男「うん。またな……あ」
男「ねえ、神父さん」
神父「はい?」
男「こいつに渡したいものがあるんだけど、教会ってそーいうの平気?」
幼馴染「!」ッ
神父「……俗世を離れ神に捧げる身なれど、愛すべき友より贈られる品を拒む理由はありませんね」
男「そうか。なら良かったよ。断られたらどうしようかなとか思ってた」
幼馴染「これ……ロザリオ?」
男「女僧侶になるなら必要だろ?なけなしの小遣いで買ったんだぜー」
神父「まあ教会から配布されますけどね、それ」
男「なん……だと……」
幼馴染「あはっ」
幼馴染「……嬉しいよ。すごく嬉しい。絶対大切にする。……ありがとう」
男「……おう」
男「またな」
幼馴染「……またね」
男「武道家さん?」
武道家「うむ?」
男「あ、やっぱそうなんだ……いや、カンだったんだけど」
武道家「何か用かボウズ」
男「あのさおっちゃん…実は俺、剣を使うんだけど」
武道家「ふむ」
武道家「カッ!まあ確かに怖くはあるな」
武道家「しかし気を高めれば我が拳……鋼はおろかオリハルコンさえ打ち砕く」
男「おお」
武道家「……予定だ」
男「予定かよ!」
男「そんなん完成したら、魔王倒せるんじゃないの」
武道家「ふむ?そうだな……魔王討伐か。道を極めるに必死で考えたこともなかったが……」
武道家「なるほど、悪くない考えだ。道中、我が拳の完成も早まるかもしれん」
武道家「なるほど、ガキンチョ!そうするべきか!はっはっは!」
男「俺もう15だし。ガキンチョじゃねーよ」
武道家「なに、嫌味のつもりはない。そうだな……礼をしてやるべきか」
男「なに?何かくれるの?」
武道家「いや。我が拳が完成した曉には、お前に我が拳舞を見せてやる!目の前でな!!!」
男「い、いらねえ……」
武道家「まあそう言うな!はっはっは!!」
男「ちぇっ……」
――
女僧侶「……」
神父「女僧侶」
女僧侶「……神父様?」
神父「祈りの最中、すみませんね。あなたに尋ね人です」
神父「懺悔室にいらっしゃいます。ぜひあなたに聞いて欲しいことがあるそうです。行ってきなさい」
女僧侶「私…ですか?」
神父「ええ」
女僧侶「誰だろう……」
?「……」
「迷える子羊よ」
?「……はい」
「悔い改めることあらば、神に祈り懺悔なさい。神は慈悲深くあなたの罪をお許しになるでしょう」
?「……」
?「幼馴染さん。私は兵士長と言います」
「!」
兵士長「ずっと、あなたに伝えねばならないことがありました」
兵士長「許されずとも構いません。私の罪をどうか、お聞きください」
「………」
女僧侶「男!久しぶり!」
女僧侶「神父様からお許しが出たの。今日はゆっくり出来るよ」
男「……」
女僧侶「……えと……お、男?」
男「え?あ、ああ……」
男(2年合わないうちに……すっげー可愛くなってるような……)
男(き、気のせいだよな……ちっちゃい頃から知ってるし今さら)
男(服装のせいもあるな、うん。青いし)
男「……ひ、久しぶりだな幼」
女僧侶「ふふっ。今は僧名をもらってるから、女僧侶だよ」
女僧侶「いいよ、幼のままで。きみからはそっちで呼んでもらいたいよ」
男「そうか……そうだな。じゃあ、幼」
女僧侶「なに?」
男「え?……いや、呼んでみただけ……すまん」
女僧侶「ふふっ。うん、わかってるよ?」
男「からかうなよ」
女僧侶「からかってないよ」
男「からかってるだろ」
女僧侶「バレた?」
男「……くくっ」
女僧侶「えへへ」
女僧侶「ただいま、男」
男「ま。色々話もあるからさ、家に入って――」
ガチャッ
父「幼おぁぁお!」ガバッ
女僧侶「きゃあああ!?」
父「こいつ!こんなにおっきくなりやがって……なりやがってんはあ!」グニグニグニ
女僧侶「おじさん、やめ、ひゃああ///」グニグニグニ
男「父さん!!」
女僧侶「やああ//やめて、やめてくださいぃ///」
父(青年よー、お前の娘は立派に育ってるぞー)
男「やめろっつってんだろうが!早く離れろ!」
女僧侶「あわわわ…///」
――
父「久しぶりだね、幼」
女僧侶「今さら真面目な顔したってダメです」
父「手厳しいね」クックッ
父「……お帰り、幼。立派になったな」
女僧侶「はい。まだまだ修行中の身ですけど……」
男「こっちにはいつまで?」
女僧侶「明日のお昼。それが終わったら、またしばらくは来られないかな」
男「そっか…短いんだな」
男「おう」
女僧侶「うん」
男「んじゃ、飯もくったし俺の部屋行こうぜ」
父「え///」
女僧侶「なな、なんでおじさんが顔赤くするんですかっ!」
父「その…大胆だなと思って」
男「いや、違うし」
女僧侶「変な勘繰りはやめてください!」
父「冗談だよ。お前ら兄妹みたいなもんだしな」
男「え?妹だろ」
女僧侶「私がお姉ちゃんだよ。男が怪我したときも、治してあげたでしょ」
男「地下水道の話か?それなら基本オロオロしてたのお前じゃん」
女僧侶「私が姉です」
男「俺が兄だろ」
父「父です」
女僧侶「いいよ、もう……部屋に行こ?」
男「だな」
父(無視された。悲しい)
男「で?」
女僧侶「え?」
男「どうなんだ、教会は」
女僧侶「うん。みんな優しくしてくれるよ。いい人たちばっかり」
男「そりゃ良かった」
女僧侶「男は?その…どうなの?か、彼女とか…できたり?」
男「うん」
女僧侶「」
男「嘘に決まってるだろ……まさかそんな固まるなんて」
女僧侶「からかわないでよ……」
男「可愛いなお前」
女僧侶「だから!からかわないでよ」
男「真面目に言ってる」
女僧侶「……」
女僧侶「ふぇっ?」
女僧侶「あ……えーと」
女僧侶「……あ、ありがと……」
男「……」
女僧侶「……」
女僧侶「///」ボッ
男「///」
父「あかーーん!!」ガチャッ
男「!?」女僧侶「!?」
父「ええい、なんだこの耐えられざる空気は!青春か!甘酸っぱいわ!」
女僧侶「ち、違います!」
父「お前らやっぱ兄妹じゃねえ!男と女だわ!!油断も隙もねえなホント!!」
女僧侶「ちちちちち違がががが///」
女僧侶「や、やめてください、おじさん……」
父「テメェら同じ部屋じゃ寝せないからな!父は許さないから!」
女僧侶「だから違います!!!」
男(……疲れる……)
父「聞いたか、男」
男「何を?」
父「神託があったそうだ。ついに勇者様が誕生されたと」
男「勇者様が……?」
父「ああ。これはいよいよ魔物たちとの決着がつくかもしれないな」
父「それと、驚け。神託を受けたほか三人のお供…」
父「その一人が、幼だ」
男「!!」
父「……親父も素晴らしい剣士だったけど、血は争えないのかね」
男(幼が、勇者様のお供)
男「……」
男(そうか…凄いな、お前……)
男(……死ぬなよ、幼)
魔物A「ぐるるるる…!」
男「っ」ザンッ!
魔物A「が――」
魔物B「きしゃああ!」
男「はあっ!」ザシュ!
魔物「――」ドサッ
男「……」チンッ
男「ふぅ」
男「みんな、もういいよ」
村人「はぁ……」
父「おお……お、お前……強くなってたんだなあ」
男「訓練は欠かしてないからね」
男「おじさん?……まあ、そりゃ師匠だし」
父「えっ?あいつから剣を習ってたのか?」
男「あれ、そうか。父さんには内緒にしてたっけ」
父「悲しい」ブワッ
男「仕方ないだろ、あんときは止められてたし」
父「前にもまして魔物が活発化してるのもあるが…」
男(兵隊たちの周辺警備も最近はとんと薄い。…余裕がないんだろうな)
男「とりあえず、俺はまだ魔物がいないか少し村中を見て回るよ」
父「気をつけてな」
男「へーきへーき」
男(幼。いまどこだ?無事なのか?お前は……)
男(……幼)
女僧侶「女神ルビスの名において……」
女僧侶「……アーメン」
村長「……」
村人A「……」
村人B「……」
勇者「……」
女戦士「……」
武道家「……」
女僧侶「……皆さん、顔をおあげください。故人への優しき祈りは神に届き、その魂は天に召されました」
女僧侶「御心に導かれた彼らはまた、女神に安息を約束され、天より皆様をお守りくださることでしょう」
女僧侶「では、どうか故人のため棺に花を……」
女僧侶(魔王に近づけば近づくほど……魔物たちは、強くなり数を増す)
女僧侶(村や街は荒れ、人は傷つき……倒れる)
女僧侶(この1年でも見慣れたりしない)
女僧侶(……つらいよ)
女(……男)
――
村長「ありがとう……ございました」
村長「これで死んだみなも救われたと思います、僧侶様」
女僧侶「礼など不要です。神に使える身として当然のことですから」
村長「ありがとうございます……ありがとうございます……」
女僧侶「……」ビクッ
女僧侶「で、では……失礼いたします」
村長「はい。ありがとうございます……ありがとうございます……」
女僧侶「……」トテトテ
女僧侶「……ふぅ」
女僧侶(ダメ……私は僧侶なのに。乗り越えなきゃいけないのに)
女僧侶(でも、ダメ。遺族やみんなの顔を見てると……怖くなる)
女僧侶(胸が引き裂かれそう!……苦しいよ)
女僧侶(……まだ私は……未熟ですね。神父様)
勇者「女僧侶」
女僧侶「ゆ、勇者様」
勇者「村人…大丈夫か?」
女僧侶「はい。呪いも解けました。さ迷える魂は1人足りともありません」
勇者「そうじゃない」
女僧侶「はい?」
女僧侶「え?あ――も、申し訳ありません」
勇者「謝らなくていいさ。ただ、つらかったら言ってくれ……仲間を支えることくらいできる」
女僧侶「はい。お心遣い感謝いたします……勇者様」
勇者「……ああ」
勇者「それじゃあ、そろそろ次の場所へ急ごう。女戦士が退屈してたよ」
女僧侶「はい!」
勇者「――帰ったら、結婚してくれないか」
女僧侶「……」
女僧侶「ふぇっ?」
勇者「はは……驚いたな。きみでも、そんな声を出すんだ」
女僧侶「――!!ま、待ってください勇者様!何を仰います!」
勇者「……魔王まで、あと少し。長かった旅ももうすぐ終わるはずだ」
勇者「ぼくらは必ず魔王に勝てる。そして国に戻ったとき……」
勇者「ぼくは、みんなの前で、きみを妻に迎えたい」
女僧侶「――!!」
女僧侶「わ、私ごときを妻にだなんて」
勇者「……聞いてくれ」
勇者「魔王を倒しても、すぐに世界が平穏になることはない」
勇者「いや。あるいは魔物という存在が消えることで…もしかしたらより多くの血が流れるかもしれない」
勇者「それまで魔王が支配していた地域を、大国はこぞって奪いにくるだろう」
勇者「穏便に話し合いですめばいいが……残念ながらそれはないと思ってる」
女僧侶「……はい」
勇者「人々はいま魔王の攻勢で疲弊しきっている」
勇者「ようやく訪れた平和……そこにもし国々の争いなんてことになれば」
勇者「……世界はさらに混乱する」
勇者「だから人々には象徴が必要だと考えてる」
女僧侶「象徴、ですか?」
勇者「ああ」
勇者「魔王を打ち倒せば、ぼくは必ず国の政治に利用される」
女僧侶「勇者様!我が国の王は、決してそのような方では」
勇者「ああ、違う違う。そうじゃない。王を信頼しているからこそだ」
勇者「『抑止力』になると言いたかったんだ」
女僧侶「抑止力……」
勇者「魔王を倒したあと、王は『平和の象徴』としてぼくを『使ってくださる』はずだ」
勇者「国々の争いを抑えるために、ぼくは必要不可欠になる」
勇者「もちろん、きみたちも。たぶんぼくらは、ぼくらが思っている以上に人々の象徴になる」
勇者「魔王を討ち滅ぼした勇者――そして仲間たち」
勇者「混乱するであろう世界を支える存在」
女僧侶「……世界を……」
女僧侶「……つまり、その存在をより強固にするものとして。……私を?」
勇者「……いや。それは、建前だよ」
女僧侶「……」
勇者「たぶん、ぼくも……疲れる」
勇者「いまはこんな聖人君子みたいなこと言ってるけど」
勇者「……疲れると思う。だから、きみにそばにいて欲しい」
女僧侶「……」
勇者「きみと旅をして、きみの優しさを知って……きみといるとホッとする」
勇者「本音を話せる」
女僧侶「……」
勇者「きみの存在は、勇者にもぼくにも必要なんだ」
勇者「だから……結婚して欲しい」
女僧侶「――!!」
勇者「もちろん答えはすぐじゃなくていい……けど」
――この旅が終わったら。
――真剣に、考えて欲しい
――ぼくは、きみを……愛してる
――勇者ご一行、凱旋!
――魔王を討ち果たす!
――世界に平和あれ!
――国に栄光あれ!
――民に、幸あれ!
父「ふぅむ……魔物か」
父「……幼のやつ、帰って来ないな」
男「ん?……ああ、忙しいんだろ。今は国をあげての大騒ぎだ」
男「きっと祝賀会やらなんやらで泡食ってるんだろ」
女僧侶「誰が?」
男「あはは。お前に決まって……」
父「」
男「!?」
女僧侶「ふふっ」
女僧侶「はい。ただいま戻りました、おじさん」
父「幼おおおおおおお!!!」ブワッ
女僧侶「きゃあ!?おじさん!ちょ、くっつかないでくださ、ひああ///」
父「んはああああ!この柔らかさは間違いなゴズン
父「」
女僧侶「はぁ…はぁ…」
男(強くなってる…)
男「……安心した?」
女僧侶「……うん」
男「……」
女僧侶「……」
男「お帰り、幼」
女僧侶「ただいま……男」
父「」
その日は幼を迎える大騒ぎになり、村の明かりは一時も途絶えることはなかった
そして 夜 が あけた!
―――
――
ガチャッ
女僧侶「……」
男(あ……)
窓を開き、その身に朝日を受けながら。
彼女は目をつむり膝をついて、ひたすら静謐にそこに『いる』
そのとき、彼女が手にしているロザリオにふと目がいった。
本来なら輝かしい銀色にきらめいているはずの十字架だが、それは少しばかり塗装がはげ、茶色い下地が見えていた。
男「……」
男(朝の祈り……かな)
男(そっか。僧侶だったな)
男(……綺麗だ)
女僧侶「男。おはよう」ニコッ
男「お、おう」
女僧侶「?どうしたの?」
男「なんでもない。朝飯、出来てるぞ」
女僧侶「うん。ありがと」
男「……あ、ああ」
女僧侶「?……変な人」クスッ
男「……」
食事のあと。
幼と二人で、かつて彼女が住んでいた家に赴いた。
女僧侶「もっと汚れてるかと思ってた」
男「ちゃんと定期的に掃除してたからな」
女僧侶「男が?」
男「みんなが」
女僧侶「……そっか」
男「……おじさん、喜んでるだろうな」
男「実の娘が、なんたって世界を救ったんだからさ」
女僧侶「やめてよ。…きみの前では、幼馴染でいたいよ」
男「そ、そっか?なんか、ごめん」
男「……」
女僧侶「……」
男「家具も、きちんと揃えないとな」
女僧侶「え?あの、そ、それは……」
男「さすがにこの年じゃ、一緒に住むにゃ抵抗あるだろ?」
男「あとは食器とか寝具とか…ちゃんとお前が住めるようにしないとな」
女僧侶(あ……)
女僧侶「……」
男「?」
女僧侶「そうだね。でも、もうしばらくはあの家にいたいな」
女僧侶「きみたちと一緒にいたいよ」
男「そうか?お前がいいならいいけど」
女僧侶「うん」
男「んじゃ、これからもよろしくな」
女僧侶「……うん」
今日。
――『勇者様からプロポーズされました』
――『受けようと思う』
男(幼が……結婚)
男(……考えたこともなかったな)
男(小さい頃から、ずっと一緒にいて……)
男(そりゃあ、確かに離れてた時期も長かったけど)
男(……それが、当たり前だと思ってた)
男(……そりゃそうか)
男(あいつ、女の子だもんな……いつかは結婚する)
男(ただ、相手が勇者様ってだけで)
男(……ははっ。勇者様の伴侶か。すげぇや)
男(……)
コンコン
男「……うん?」
男「ああ。いいよ」
父「入るぞ」
男「どうしたん?」
父「……実はさっき、幼が来てな」
男「……うん」
父「結婚するそうだな」
男「うん」
男「畑の様子を見てくるよ」
父「まあ、待て。俺も行くよ」
男「足はもういいの?」
父「あんなもんで延々休めるか。任せっきりにゃできんよ」
男「そうか。じゃあ行こうよ」
父「うむ。剣は持ったか?」カチャ
男「なんで剣?もういらなくね」
父「少なくなったとはいっても、まだいなくなったわけじゃないだろ」
男「ん~……そだね。じゃあ持ってくか」カチャ
父「おう」
父「……」テクテク
父「幼、今日にも王へ報告に行くと言ってたぞ」テクテク
男「そっか」テクテク
父「……」
父「なあ、男。意地を張るのはやめたらどうだ」
男「意地なんて張ってないよ」
父「いいや。張ってる」
男「張ってないよ」
父「素直になれ」
男「うるさいな」
男「父さんが勝手に邪推してるだけだろ?」
男「……大切な人だよ」
父「……」
男「ああ、わかった。言うさ。好きさ。大好きだよ。いつからか知らないけど、大好きだ」
男「……ずっと一緒なのが当たり前だって思ってた。離れてたって、帰ってくると思ってた」
男「幼だって……そう思ってくれてると、思ってた」
男「……そうさ……そう」
父「……」
男「なら今さら伝えたって迷惑なだけだろ?
自惚れるつもりはないけど、万が一それであいつの心が揺れたら……」
男「相手は勇者様だ。俺なんかじゃ側にいる資格もないし」
男「国を相手すんのと同じさ。世界を相手にすんのと同じだよ」
男「あいつは世界を救った選ばれた人間で」
父「かぁぁぁぁぁつ!」
男「」
父「相手が勇者様だからとか世界を救った人間だからとか」
父「言い訳ばっかすんじゃねえぞ。お前、もし幼がただの女の子だったとしても」
父「断言してやる。お前は何も言わない」
父「伝える勇気がないだけだろうが」
男「っ」
父「ずっと、一緒にいると思ってた?」
父「じゃあ何か?幼のやつから『きみが好き』と言うのを待ってたってか?」
父「なめんな……人生なめんな!!あんないいコが一緒に住んでたこと自体が奇跡だろうが」
父「んな都合いいことばかりが人生でひょいひょいあると思うなよ!!」
父「大抵の物事はな。自分から踏み出さねえと始まらねえんだよ」
男「……っ」
父「酸っぱいわ!むずがゆいわ!青春か!」
父「恋愛なんぞ当たって砕けろ。ダメで元々、くよくよすんな」
父「だけどな、これだけは言える」
父「伝えずに終わった気持ちはな……伝えて終わった気持ちより」
父「何倍とつらいぞ」
男「う……」
父「言い訳せずに、言ってこい」
父「いいじゃねえか平民風情」
父「主人公か!!?」
父「走れや!」
父「行ってこい!!」
男「――」
父「相手は勇者様だ!気合いいれてけよ!!」
心臓が痛いほど高鳴っている。
思えばこの十数年、こんな気持ちになったことはなかった
――大抵の物事はな
――自分から踏み出さなきゃ始まらないんだ
父の言葉が、痛かった
すでに夕刻。
あるいは勇者たちは報告を終え、家路についた可能性もある。
だが不思議な確信があった――『間に合った』
男「城は……あっちか!」
男「っ!」
走る。走る。
城門へ。
そして――
兵士A「止まれ!!」
兵士B「何者だ!!」
門番が立ちふさがる。
勇者以外には易々と通ること叶わぬイベント――
男「どいてくれ!」
兵士A「馬鹿なことを言うな!!」
兵士B「ここは城だ!平民がおいそれと立ち入ってよい場所ではない!」
兵士A「まして今は『勇者様たちが来ておられる』のだぞ!」
腰にある鞘から、剣を引き抜く。
兵士A「キサマ…この神聖なる王の御前にて!逆賊めが!」
兵士B「切り捨ててくれる!」
男「どけよ!!」
「何の騒ぎだ」
剥き出しの殺気が、一瞬にして鎮まった。
城門より出てくる影がふたつ……
武道家「まったく騒がしいな。このめでたい日に」
女戦士「なんの騒ぎだ?おい」
女戦士「へえ」
男「……!!」
ゆらり、と。
こちらを向いた女戦士の笑顔は、かつて感じたことのない圧力を孕んでいた
それもそのはずだ。
彼女が背負った得物は、身の丈を遥かにこす特大長剣――
目を疑う。
あれを扱う人間がこの世にいる、それが信じられなかった
選ばれし者たち。
そんな一言が頭をよぎった
女戦士「……おい、お前」
男「……う……」
男「……男……です」
女戦士「男……何の用事か知らねえけどよ」
女戦士「剣を持って乗り込んでくるからには、ちったあ腕に自信があるんだろうな、ええ?」
片腕が背中に伸びる。
またぞろ信じ難いことに、彼女は背中の大剣を、右手一本で軽々と振り扱った
まるで曲技のように、長大なそれが小枝のごとき軽さで虚空に軌跡を描く
女戦士「ちょうど退屈してたんだ……楽しませろ」
男(……)ゴクリ
男(これ…殺される……)
圧倒的な存在感と迫力で、身体中の毛が逆立つ。
動けなかった。
――「カッ!」
そんな状況を破ったのは、小気味よい笑い声だ。
武道家「くくく……」
女戦士「……なんで笑ってんだ?」
男「……はい」
女戦士とはまた違う、静かな殺気だった。
彼女を剣そのものに例えるなら、彼は毒針だった。
一見頼りないが、その実は必殺の技を備えている。
そんな人間だった。
武道家「お前、なんの用事でここに来た?」
女戦士「なあ、もういいからやらせろよ」
武道家「まあ落ち着け」
武道家「……で、なぜだ?」
武道家「うん?」
男「本当に今さらだけど……後悔するから」
男「…女僧侶を……幼馴染に、伝えに来たんだ」
兵士「……」
平民「……」
どっ、と笑いが起きた。
何を戯れ言を、と嘲り笑う民衆がいた。
なんと愚かなと呆れる兵士がいた。
兵士A「おい。そんな訳のわからんことで命を落とすこたないぞ」
兵士B「そうだな。さすがにくだらん
悪いことは言わん。死なないうちに去れ」
笑いが大きくなる。耳鳴りのように響く。
武道家「変わってないな、ガキンチョ」
その瞬間。
彼の隣にいた女戦士がぶっ飛んだ。
兵士「」
男「」
派手な音とともに真横の城壁に叩きつけられ、石細工が見事に瓦解した。
しかし彼女はすぐに這い出てくると、狂気の目を武道家へと向けた。
女戦士「てめぇ……おい、武道家、なんの真似だ」
武道家「おいガキンチョ」
男「えっ」
女戦士「無視してんじゃねえぞ!」
男「え?え?」
武道家「『我が拳が完成した曉には、お前の目の前で披露しよう』」
男「……」
男「え……あ、あのときのおっちゃん!?」
武道家「はっはっ!まあ、お前は運がいい!!」
武道家「行くがいい。今度はお前の道、俺が示してやる……おい」
兵士A「は、はい?」
武道家「そいつを通してやれ。なに、責任は全て俺と勇者が取る」
兵士A「し、しかし」
武道家「ただし勇者は強いぞお……我々よりはるかに強い。行くならば心せよ」
男「……おっちゃん」
兵士A(聞いてない)
女戦士「いやいや、わかってるぜクソ野郎」
女戦士「てめえ面白がってるな。くくく、いいね」
女戦士「実を言うと、お前とは一回戦ってみたかったんだよ……なあ……」
真っ黒な狂気に濡れた目が見開かれる。
大剣を振りかざすと、巻き込むように風が吹き荒れ、周囲の壁が弾け飛ぶ。
同時に飛び上がった女戦士は、勢いそのまま剣を武道家に叩きつけた
――しかし。
信じがたいことに、武道家はまたその一撃を、左腕で『受け止めていた』。
武道家「くっくっ……」
女戦士「へへへ……」
武道家「はっはっは!!」
女戦士「ははははは!!」
二人「「――殺す!!」」
兵士A「た、退避!!退避いいい!周辺の民衆を避難させろ!死人が出るぞ!」
男(そこまで!?)
女戦士が大剣を振るう度に空気が唸り、
武道家が踏み込むほどに大地が震える。
肌が焦げるほどの熱気が辺りに爆砕し、息をつくことすら躊躇われた。
およそ考えられる限りにある人間の戦いではない。
平民として生きてきた自分に口出しできるものでもなかった。
武道家いわく、勇者は彼らより強いらしい。
男(ケンカ売る相手、間違えたかな……)
慌ただしく動く兵士たちのどさくさに紛れ、男は城内へと駆け込んでいく
しかし兵士は城内にこそ多くいる。
次から次に現れては、彼の行くてを阻む。
兵士長「止まれ!」
男「どきやがれぇえ!」ギン
兵士長「っ!」キィン
兵士長「神聖な王の御前で、こいつ!」カキン
男「うるせえ!」キィン
兵士長「!!」
兵士長「黙れ!」
男(もう逃げないって決めたんだ……!)
男(お前に伝えるんだ!)
男「幼ぉおおお!!!」
―――
――
女僧侶「!」ビクッ
勇者「ん?」
勇者「外が騒がしいね」
女僧侶(今の声は……!?)
女僧侶「っ」
勇者「……行こうか」
女僧侶「……はい」
もう心は決まっている。
王に会いさえすればそれは二度と揺るがないだろう。
人々の象徴になる。
それこそが、真の平和への道となる。
謁見の間はもうすぐそこにある。
あと少し、もう少し前に足を踏み出していくだけでいい。
……なのに。
女僧侶(なんで……なんで来たの……?)
女僧侶(なんで…もう少し早く、私があの村にいるときに……)ジワッ
女僧侶(言って、くれなかったの……!)ポロポロ
勇者「……女僧侶?」
足が止まる。
女僧侶「うぅ……う」
男「待てと言われて待つかこらああああ!」
追いかけてくる兵士を背に階段をかけ上がり、まっすぐに走り抜ける。
男「畑仕事で鍛えた脚力なめんな!!」
男「――!!」
男「幼!!」
女僧侶「!!」
勇者「――!」
男「一緒に村に帰ろう!」
男「一緒に来てくれ!」
女僧侶「っ!」
兵士C「こいつ!」ジャキ
兵士D「捕らえろ!」ガチャ
男「はなせ、いつ!」
勇者「静まれ」
兵士長「……」
男「……」
女僧侶「……」
勇者「どうぞ、お静かに…彼と少し話がしたい」
兵士長「は……はい」
男(空気が……変わった)
男(この人が、勇者様)
男(なんて、落ち着いてるんだろう)
男(なのに、この、存在感)
男(おっちゃんたちとも、比べものにならない)
男(この人が世界を救った……勇者様)
勇者「正直、何が起こってるか」
勇者「わからないんだ」
男「……はい」
勇者「外の騒ぎはきみ?」
男「だいたいそんな感じです」
勇者「あの二人をよくかわしてこれた」
男「その二人が争ってるので」
勇者「えっ」
勇者「……そうか。まあ、そういうこともあるかな」
男「あります…かね?」
勇者「あはは。いろんなことがあったからね。今さら驚かないよ」
男(ああ……そういや)
男(俺も……勇者様に喧嘩ふっかけるつもりで息巻いてたけど)
男(いつの間にか、普通に話してる)
男(……違う。俺なんて、当たり前で。おじさんたちとすら違う……)
器がちがう。
男(勇者様なんだ……この人が)
男「……えと」
勇者「狙いは彼女?」
男「……はい」
女僧侶「……」
勇者「きみは彼女のなんだろう?」
男「幼なじみです」
勇者「……そうか」
勇者「わかった」
勇者「……みな!剣を納めよ!!」
兵士長「!?しかし、勇者様」
勇者「彼は女僧侶の大切な人だ」
男「……」
女僧侶「あ…」
勇者「ですから、剣をお納めください」
女僧侶「わ、私からもお願いします!!」
兵士長「女僧侶様まで…」
女僧侶「すみません。たぶん……いえ、絶対に。この責任は私にもあります」
女僧侶「ですから、どうか剣を……」
男(う……)
兵士長「……」ハァ
兵士長「勇者様からの願いを、なぜ我々が拒めましょう」
勇者「ありがとうございます」
兵士長「……はい」
勇者「無礼は承知ですが、王には遅れることもお伝えしてください」
兵士長「はい!」
勇者「ありがとうございます」
女僧侶「勇者様、申し訳ありません。これは私の不徳のいたすところです」
勇者「気にしなくていい。きみの隣人なら、ぼくにとっても大切な人だ」
女僧侶「ありがとうございます……勇者様」
男「……」
女僧侶「なんてことをしているの?あなたは……!」
男「……っ」
男「……」
男(ああ、そっか)
男(当たり前だろ。怒られて、当たり前のことしたんじゃないか)
男(……けど……すげー、なのに)
男(悔しい……!!)
―――
――
男「い、いきなり核心つくんですね」
勇者「こんなことまでしたんだ、察しはつくよ」
男「……はい。好きです。幼のこと、ずっと好きでした……」
男「ただ、言い出す勇気がなくて……けど!」
男「やっと勇気が出て……もちろん、勇者様には失礼なことだとわかってます」
勇者「……」
男「でも……一緒に、村に帰りたいんです」
勇者「それはぼくらが決めることじゃない。彼女が、決めることだ」
勇者「気持ちを伝えたい?」
男「はい」
勇者「とめないよ。…彼女は隣の客間だ。行ってくるといい」
男「……はい」
勇者「ぼくはここで待ってる。彼女がきみの気持ちに応えるなら、一緒に帰るといい」
男「はい」
勇者「……ただ、勘違いしないでくれ。ぼくは彼女を『その程度』と思ってるわけじゃない」
勇者「信頼してるから待つんだ」
男「……はい。行ってきます」
男「……」
……パタン
マジもんのイケメンや
男「幼」
男「一緒に村に帰ろう」
女僧侶「……どうして?」
男「好きだ」
女僧侶「……っ」
男「いつからかは分からない。けど、俺は……お前が好きだ」
男「ずっと一緒なのが当たり前だと思ってた」
男「そして、お前も……たぶん、同じ気持ちでいてくれると思ってた」
男「勝手に……思い込んでた」
女僧侶「……」
男「好きだ。俺と一緒に……村に、帰ってくれ」
女僧侶「………」
女僧侶「……ね、男」
男「……?」
女僧侶「覚えてる?一番やさしい魔法……あなたが、地下水道で怪我をしたときに使った魔法」
男「ああ」
女僧侶「私ね。それまで、一回もあの魔法が成功したことなかったんだ」
男「そうなのか?」
女僧侶「……うん」
女僧侶「あなただけが知ってる、私」
女僧侶「……嬉しかった。魔法を使えたこともそうだけど、何よりきみを治せたことが」
女僧侶「お父さんからの手紙が途絶えて……落ち込んでた私を元気づけようとしてくれたこと優しい気持ちがすごく嬉しかった」
女僧侶「あの魔法が使えたのはきみのおかげ」
男「……」
女僧侶「ありがとう。今の私がいるのもきみのおかげだよ」
女僧侶「そんなきみにだから淀みなく応えたい」
体から力が抜けていく気がした。
頭が、真白になる。
女僧侶「勇者様はとても、尊敬できるお方」
女僧侶「そしてこれからの世界には、確かに…平和の象徴が必要になる」
女僧侶「これは私個人だけの問題じゃない。昨日今日の話でもない。ずっと考えて、そう結論を出した」
男「……」
女僧侶「……だけど」
女僧侶「あなたについていくわけには、いきません」
男「……」
女僧侶「今まで、ありがとう」
――さよなら
――勇者様、女僧侶様、ご婚約!
――世界に平和あれ!
――国に栄光あれ!
――民に、幸あれ!
……そして……
なんてリアルな展開
男「あれ……何か足りないような気がする」
父「弁当忘れてるぞ…なんだ成長しないな、お前」
男「うるせー」
父「……今日は、幼たちの結婚式だな」
男「だね」
父「パレードは出なくていいか?」
男「やめとく。さ、んなことより畑仕事行こうぜ」
父「くっくっ。まだ時間がかかるみたいだな」
男「そりゃね」
父「また次の恋が見つかるさ。な!」
男「……うん」
男「わかってるって」
父と歩くいつもの道。
心地よい風も吹いている。
辺りにはたくさんの麦穂が揺れていて、まるで黄金色の絨毯のようだった。
男「……」
もう少し早く自分の気持ちを伝えていれば、何かが違ったかもしれない。
だけど、それは過去の話。
『もし、あのとき、こうしていれば』なんて意味がない。
だから前を向くしかない
男(結婚式、か)
男「いい天気だな」
――空は確かに、晴れやかだった。
―――
――
女戦士(しかしよー、僧侶のやつ綺麗だなー)ヒソヒソ
武道家(くくっ。お前も着たくなったか?)ヒソヒソ
女戦士(うるせー、相手がいねっつの)ヒソヒソ
だからかもしれない。
「白いウェディングドレスはよりいっそう映える」と神父から言われた
神父「汝は幼馴染を妻とし、健やかなるときも病めるときも生涯を共にすることを誓いますか」
勇者「はい。誓います」
晴れやかな日。
各国の王や仲間、これまでに出会った様々な人が集まり、彼女を祝福している
神父「――新婦、幼馴染。汝は勇者を夫とし、健やかなるときも病めるときも生涯を共にすることを誓いますか」
女僧侶「……」
女僧侶「誓います」
女僧侶(今となっては……これが正しいと思える)
女僧侶(だから、私が貫き通した純潔は、今日このときより勇者様へ)
女僧侶(ねえ、男)
神父「では指輪の交換を」
女僧侶(……あなたと会えて……本当に……)
女僧侶(――良かった)
と、いつから錯覚していた
指輪をはめる直前。
突然、式場の扉が開かれた。
勇者「!」
女僧侶「!?」
場内の視線が、一斉にそちらへと向けられる。
「……ダメだな」
兵士長(……ん?)
「エピローグにはまだ足りない」
女僧侶「……え?」
兵士A「捕らえろ!」
兵士長「待て!!」
兵士長「……そんな」
女僧侶「!!」
「何が足りない?お前ならわかるだろ、幼」
女僧侶「う……そ」
「またご挨拶だね。それで新郎とは恐れ入る」
「いいさ。知らないなら、教えてやる。ぼくはその娘の――」
青年「父親だ」
父「畑は問題ないな」
男「実りもいいね」
父「今年は豊作だ。これなら……」
兵士長「失礼」
男「!」
男(騎兵さん?なんでまた今日この日に…)
兵士長「男くんだな」
兵士長「悪いが、私と一緒に来てもらいたい」
父「男をお連れするのですか?……まさか、こないだの件で」
兵士長「違う。その件はもはや終わったこと。これはある方のご意向である」
男(騎兵さんが、結婚式のこの当日に?……まさか、幼の身になにか)
兵士長「案ずるな。女僧侶様の身になにかあったわけではない。いや、なかったわけではないが」
兵士長「急いでいるゆえ、馬に乗って欲しい」
男「……でも」
男(……行ったって何にもならない)
男(俺は……伝える言葉は全て伝えたんだ)
男(今さら……)
男(……なのに)
男「……わかりました」
男「…うん。断ったらそれこそ死罪になりそうだ」
兵士長「減らず口を。……まったく、城の件といい、お前はつくづく問題を起こすのが好きなようだ」
兵士長「さあ、乗れ」
男「はい」
父「気をつけてな」
兵士長「さて、飛ばすぞ。掴まれ――はっ!」
掛け声にあわせて馬が高々と足をあげ、嘶きとともに走りだす。
父「死ぬなよ!」
兵士長「だから、そういうことではないと言っておるに……」
兵士長「問題ない」
男「何があったんですか?」
兵士長「それは自分の目で確かめよ。私が口にするにはあまりにおそれ多い」
男「……はい」
兵士長「ときに……剣聖様がおなくなりになって、どれほどになるか」
男(剣聖……?ああ、幼の親父さんのことか。そんな噂、聞いたっけか)
男「7年ほどになります」
兵士長「そうだ。7年……あの日から7年だ」
兵士長「……」
兵士長「いまだかつてあの方ほど強いお方を見たことがない」
男「勇者様より?」
兵士長「私は勇者様と旅をしたわけではないから下手なことは言えない。しかしそうであって欲しいと思わせる強さはあった」
兵士長「隼の剣。そして、一太刀乱舞の瞬神技」
男「…見たことあります」
兵士長「奥方様を亡くされ傷心なされたあと、幼かった女僧侶様を連れてきみの村へ行き……」
兵士長「あの方は、しかしそれでも立ち直り、我々とともに魔王討伐へ向かってくださった」
兵士長「…本来なら、あのときに魔王討伐は終わっていたはずだった」
兵士長「あの方は……私を庇い、倒れたのだ」
男「……」
兵士長「忘れもせぬ!魔王のあの醜悪な笑みを!私は必死に逃げ出し……いつか仇討ちをと願った!!」
兵士長「そのために鍛練を積み、兵士たちを率いる立場にまでなった」
兵士長「だが勇者様たちが旅立ち、魔王は倒された。お仲間にあの方の娘さんがいたことは…まさに運命と言えるが」
兵士長「しかし!それでも我が無念は消えぬのだ!」
兵士長「私さえいなければ……平和はとっくに訪れていたはずだ」
兵士長「女僧侶様も!!!きっと!!平和なときを、ただ過ごせたのだ!」
兵士長「余計なことは考えず!!自らの気持ちに純粋に従い!!」
兵士長「世界平和など謳わず!女としての幸せを歩んでいたはずなのだ!」
兵士長「……」
男「……」
兵士長「そして、私にだけ胸のうちを明かしてくださった!」
――私には、支えてくれる大切な人がいるから。
――だから、お父さんがいなくなっても、強く生きていけます。
兵士長(……)
兵士長(女僧侶様は、悩んでおられた)
兵士長(己の信念に従うか己の気持ちを優先するか)
兵士長(ハッキリは仰らなかったが……女僧侶様は、信念に従ったのだ)
兵士長(あの方がいらっしゃるこのときだけは!)
兵士長「私もまた己が信念を貫こう!このときこそ我が道と知れ!!」
兵士長「走れ!!」
馬はさらに早く早く。
城下町はすぐそこだった。
女戦士「……ぐっ」
武道家「っ……ぬう」
青年「……」
女戦士(冗談きついぜ…)
武道家(これほどの使い手が……!)
二人が呻く。
闖入者を排除しようと飛びかかった彼らは、だが青年の見えざる剣によって、壁に叩きつけられていた。
女戦士「くそっ!」ザッ
武道家「っ!!」ザッ
そして再び。
青年「……」チャキッ
結果は同じだった。
軽やかな動作から生まれた一太刀乱舞の瞬神剣が二人を弾き飛ばす。
青年「……」
立ち込める闘気。
ただ「居る」だけで放たれる圧倒的な存在感。
武道家(間違いない!)
勇者「二人とも、やめるんだ」
勇者(……この人は……)
勇者(ぼくと、同じだ)
女僧侶「お父さん……」
青年「……」
女僧侶「なんで、生きてるの?」
青年「その言い方ひどくないか?」
女僧侶「……」
青年「…ああ。ぼくは死んでるよ」
女僧侶「!」
女僧侶「そんなの理由になってない!」
青年「……」
青年「……なあ、幼」
青年「お前はそれでいいのか」
女僧侶「当たり前でしょ!何を言ってるの!」
青年「……幼」
青年「お前に、普通の女の子として生きて欲しかったよ」
青年「だからあの村に引っ越して……そして」
青年「安らかに過ごして欲しいと思った」
青年「なぜぼくが、お前を置いて旅立てたか……わかるだろ?」
女僧侶「……」
青年「彼らが……いたからだ」
青年「お前を託すに信頼できる友人……そして」
青年「お前を心から笑わせてくれる、存在」
女僧侶「……」
青年「運命は皮肉だ」
青年「だが、そんなことはどうでもいい」
青年「……勇者」
勇者「はい」
青年「きみはこの娘を幸せにできるか?」
勇者「その…つもりです」
青年「そうか」
青年「いい自信だ」
青年「なら、あとは……幼が応える番だ」
青年「おい馬鹿ムスメ」
女僧侶「」
青年「結婚に一番大事なのはなんだ」
青年「誓いの言葉を思い出せ」
青年「『生涯愛することを誓いますか』」
青年「お前の言葉には、愛が足りない。心が足りない」
青年「そして……ぼくは知らない」
青年「勇者か。…『彼』なのか。お前の愛がどこにあるのか」
女僧侶「――!」
そして。
もう一度、式場の扉が開く
男「……幼!」
女僧侶「!」
勇者「!!」
青年「来たか」
男「……え?」
青年「久しぶりだな、いやあ大きくなった」
男「おじさん…なんで」
青年「疑問は後回しだ」
青年「役者は揃った!さあ幼!いまこそ俺に!パパに聞かせてくれ!!」
青年「勇者がお前と旅し、苦難の末に魔王を倒したことを」
勇者「……!」
青年「勇者がお前を心から愛していることを」
青年「……知ってるさ」
青年「男が、ずっと、お前を支えてくれたことを」
青年「……男が、お前に、本音でぶつかったことを」
男「……」
青年「……二人の男から愛されるなんて、お前は本当に幸せだな」
青年「だから、幼」
青年「全員が揃った、いまこの場で言ってくれ」
青年「お前が愛する者の、名前を」
青年「女僧侶としてではなく!『幼馴染』として!」
女僧侶「……私は……勇者様と…」
勇者「……幼」
女僧侶「!勇者様…」
勇者「聞かせてくれ」
女僧侶「けど……だけど」
女僧侶「そんな……の」
男「なあ、幼」
女僧侶「…!」
男「ま、気にすんな。俺も聞きたいだけだ」
男「俺も――お前の気持ちを聞きたいよ」
女僧侶「……」
女僧侶「私……私は…」
幼馴染「……私は」
道標なき苦難をともに乗り越えた者
幼いころより支えてくれた親しい者
愛を囁くに充分すぎる二人だった。
だけど。
女僧侶としてではなく。
娘として。
『幼馴染』として語れと、言われたとき――
幼馴染「……」
幼馴染「小さいときから、ずっと支えてくれた」
幼馴染「いつだって、側にいてくれた」
幼馴染「……あなたが好きで」
幼馴染「私もいつからかは分かんないけど!!ずっとずっと、好きで!」
今こそ言おう。
幼馴染「だから……私は」
世界で一番やさしい魔法。
幼馴染「――あなたが、男が……大好き!!」
青年「……よく言ったな」ナデナデ
青年「きみには、悪いことをした」
勇者「……」
青年「だが、父として……娘の気持ちだけは、大切にしてやりたかった」
勇者「……いえ。なんとなく予想はしてました」クスッ
幼馴染「うっ…ぐすっ。……はぃ……」
勇者「行くんだ」
幼馴染「……」グスッ
勇者「ありがとう。大丈夫…きみの気持ちが聞けて、スッキリした部分もあるんだ」
勇者「気にしなくていいさ。ぼくは勇者だから…困難なんて、あるのが当たり前なんだ」
勇者「だから、幸せに」
幼馴染「……」ズビーッ
勇者「……男くん」
男「!は、はい」
勇者「もしきみが幼を泣かすようなら、ぼくが彼女を今度こそ迎えに行くからそのつもりでね」
男「…はい」
幼馴染「ゆうじゃざま…」グスッグスッ
勇者「くっくっ。一度、こういうの言ってみたかったのかもしれないね」
男「うん」
男「幼!」
幼馴染「!」
男「帰るぞ!村に!!」
幼馴染「……」
幼馴染「……はいっ」
純白のウェディングドレス姿のまま、愛する男のもとへ。
女戦士「なあ……私らさ」
武道家「うむ。置いてきぼりだな」
青年(幸せにな、幼)
そして青年の姿が消えた。
夢か幻想か、まるで霧散する露のように。
幼馴染「……お父さん?」
男「おじさん……」
それは女神の慈悲。
道半ばにて倒れた、かつての『勇者』の強い想いが、為した奇跡。
しかしそれは今、語られる物語ではなく――
幼馴染「…ありがとう」
今はただ、愛する二人を、祝福してほしい。
女僧侶「勇者様にプロポーズされました」
今度こそ、Fin
保守支援つまんねその他、何から何まで感謝!
いい意味で背中がかゆくなる話だった
面白かった乙
わりと嫌いじゃないよこういうの
Entry ⇒ 2012.03.14 | Category ⇒ 勇者魔王「」SS | Comments (0) | Trackbacks (0)
女賢者「うおおお!!くたばりやがれぇぇぇ!!!」
魔物「うげぇ」
賢者「っしゃあ!さっさと行くぜ勇者!」
勇者「お、おう」
勇者(これはどういうことだ)
賢者「おう勇者!!これからどこ行くんだ!!?」
勇者「あ、ああ、北の方に町があるから、とりあえずそこかな」
賢者「町か!うっし!道中の魔物は任せとけ!!」
勇者「……俺賢者ってもっとこう…落ち着いてる人達だと思ってたよ」
賢者「馬鹿だなあ!時代は肉食系だぜ!!もっとアグレッシブに行こうぜ勇者!!」
勇者「お、おう」
魔物「うぐあーっ」
賢者「ぜやぁぁっ!!」 バキッ
魔物「ぎゃあーっ」
勇者「うわあ……賢者強いね……」
賢者「そりゃ賢者だからな!賢い者だぜ!!超強いぜ!!?」
勇者(賢さが感じられないんだけど)
賢者「魔物どもめ!!くたばりやがれぇぇぇ!!!」 バギャッ
魔物「ぎゃあーっ」
賢者「あ、やべっ!!棍棒折れた!!!やべぇ!!どうしよう!!!」 オロオロ
勇者「ほらひのきの棒あるから」
賢者「わあ!流石勇者!!すげぇ!!すげぇ!!!」
勇者(賢い……者……?)
賢者「どうする!?まず武器屋行こうぜ!!武器屋!!」
勇者「まあ賢者にひのきの棒じゃ困るもんな」
賢者「俺さ!次はもっと硬くてデカくて太い棍棒がいいな!!!な!!!」
勇者「棍棒限定なんだ」
賢者「ハンマーでもいいぜ!!やっぱこう打撃系がいいよな!!!男のロマンだよな!!!」
勇者「賢者は女の子じゃんか」
賢者「細かいこたぁいいんだよ!!あっ、ほら見ろ勇者!!ハンマー!!ハンマー!!!」
勇者「賢者なんだから杖とかせめて剣とか」
賢者「おー!!ほら勇者!!あるじゃねえか俺にピッタリの棍棒が!!!」 ブンブン
勇者「いや賢者、あのさ、その棍棒あんま強くな」
賢者「すげー!!強そー!!!かっけー!!!」
勇者「……まあいっか」
主人「お部屋は二部屋でよろしいですか?」
賢者「一部屋で!!!」
勇者「いや二部屋で」
賢者「なんでだよ!!俺の棍棒のせいで金無いんだろ!!?」
勇者「いやそりゃそうだけど、賢者は一応女の子だし」
賢者「でも別に勇者は俺のこと襲ったりしないだろ!!!?」
勇者「そりゃまあそうっていうか襲っても勝てないけど」
賢者「なら全く問題ないぜ!!俺は全然気にしないぜ!!!」
勇者(これが普通の賢者のセリフだったらさぞかし萌えるんだろうなあ……)
主人「どうします?」
勇者「……一部屋で」
賢者「うっしゃー!!!」
勇者「んー、じゃあ窓際で」
賢者「あっ……!!」
勇者「……やっぱ壁際で」
賢者「やった!!じゃあ俺が窓際な!!よっしゃー!!!」
勇者「よーし、じゃあ着替え……うーん、どうしような」
賢者「なにがだ!?」
勇者「いや、着替えるのにさ……流石に同じ部屋で着替えるのは……」
賢者「じゃあ俺は廊下で着替えてもいいぜ!!!」
勇者「やめて!!!」
※トイレで着替えました
賢者「おう!!良いベッドだったぜ!!!またな!!!」
勇者「ちょちょちょ、賢者!!めったなこと言わない!!」
賢者「だってあんなに柔らかいベッド久しぶりだったぜ!!な!!?」
勇者「だからな、お楽しみっていうのはそういう意味じゃなくて」
賢者「それに飯も旨かったぜ!!な!!風呂も気持ちよかったぜ!!?」
勇者「だから……」
賢者「ここの宿屋すげー楽しかったぜ!!!?」
勇者「……そうだな!」
勇者「なんでもここの洞窟に魔物が住み着いて困ってるらしい」
賢者「マジか!!やべーな!!許せねーな!!!」
勇者「まあ被害としては精々畑が荒らされる程度らしいんだけどな」
賢者「馬鹿野郎!!農家の人達が一生懸命作った野菜荒らすとか許せねえだろ!!!」
勇者「お、おう……そうだな……」
賢者「うおらああああっ!!!農家の人達の恨みぃぃぃぃ!!!」 ドゴンッ
魔物「ぶぎゃあっ」
賢者「農家の気持ちを思い知れよ!!!」
勇者(こいつ本当は農家なんじゃないのか)
勇者「お前がここのボスか!!観念してもらうぞ!!」
ボス「ふん、たかだか野菜を奪った程度で……」
賢者「うるせぇぇぇ!!!黙れぇぇぇぇっ!!!」 ゴキャッ
ボス「げふぅ!」
賢者「毎年野菜作るのにどれだけの手間がかかってると思ってんだ!!!」
賢者「それをお前は……お前はあああっ!!!」 ゴンッ ゴンッ
ボス「あだだだだ!!ちょっ、まっ、だあっ!!」
賢者「うおらああああああああああああッッ!!!!」 ブゴンッ
ボス「ぎゃぴっ」 ブチッ
勇者「ミンチよりひでぇ」
ボス「すいませんっしたあ!!」
農民A「あの魔物を倒すなんて流石は勇者様だべ」
農民B「勇者様はすげーべなー」
賢者「やったぜ!!褒められてるぜ勇者!!!」
勇者「俺あんまり戦ってないんだけどな」
農民A「お礼にオラ達の作った野菜を持っていってくだせぇ」
勇者「いやそれは……」
賢者「あっ!!これ昨日宿屋で食ったやつだ!!なあ勇者!!これスゲェ旨いやつだぜー!!!」
勇者「お前さっき野菜であんなに怒ってたのに」
賢者「くれるってんなら貰った方が良いじゃんかー!!!なー!!!」
ボス「なー」
勇者「うーん、今度は西の方の都かなあ」
ボス「お、そっちの方は今魔王軍が攻めてるところだぜ」
賢者「マジか!!そんじゃ放っておけねーな!!行こうぜ勇者!!」
勇者「その前にさ、なんでお前付いてきてんの」
ボス「はっ!一度拳を交わした仲だからな!」
賢者「ああ!!拳を交わせばフレンドだぜ!!拳を通して相手を理解するんだぜ!!!」
勇者「お前ら拳交わしてないし一方的にボコられただけだったろ」
ボス「そういうことじゃねえんだよ、分かってねえな」
賢者「勇者!!分かり合うってのは魂の殴り合いなんだよ!!!理屈じゃねえんだよ!!!!」
勇者「そっすか」
賢者「でっけぇ!!!」
ボス「そりゃあまあ都だからな、さっきのとことは訳が違うぜ!」
門番A「待て!貴様ら何者だ!!」
勇者「あ、俺は勇者です、魔王を倒す為に旅を」
門番B「いや、そっちの奴は魔物だろ!貴様ら敵だな!?」
賢者「違うぜ!!こいつと俺は殴り合って互いを深く理解したんだ!!!」
ボス「ああ!!俺はもう敵じゃねぇ!!フレンドだ!!!」
勇者「お前らちょっと黙っててくれるかな」
門番A「ええい!やかましい!!ひっとらえろー!!!」
賢者「捕まったぜ!!!」
勇者「お前らのせいだけどな」
賢者「違うだろ!!俺達は悪くないだろー!!!」
ボス「そうだそうだ!」
勇者「賢者はともかくお前は擁護のしようが無いわ」
賢者「こいつも悪くないだろ!!こいつだって!!こいつだってな!!!」
ワー ワー
勇者「静かに、ちょっと外が騒がしいな」
ボス「魔王軍が攻めてる町だからな、多分今まさに攻められてんだろ」
賢者「なんと!!!?」
ボス「助けるったってどうやってだよ」
勇者「この牢屋から出れなきゃどうしようもないからなあ」
賢者「何でだよ!!諦めんなよ!!!俺達の力は檻なんかに止められる程度のもんだったのかよ!!!」
賢者「こんな檻なんてなあ!!ぐぬぬぬ……!!!」 メキメキ
勇者「無茶するなよ賢者、待ってれば俺が勇者だってちゃんと分かって出れるって」
賢者「馬鹿野郎!!勇者にはあの助けを呼ぶ声が聞こえないのかよ!!!」
賢者「牢屋が何だってんだよ!!魔物が何だってんだ!!!」
賢者「牢屋も魔物もなあ!!俺の気合で……ブチ壊してやらあぁぁぁっ!!!!」 バギーン
ボス「や、やったっ!!?」
勇者(凄いけど魔法使えよ)
門番B「くそっ、いつもより数が……」
賢者「おらあああああっ!!!」 グシャーン
魔物「ぐぺぇっ」
門番A「なっ、あ、あいつらどうやって……」
賢者「馬鹿野郎!!お前ら何やってやがる!!!」
門番B「な、なんだと!?」
賢者「自分の町だろうが!!もっと戦えよ!!!立ち上がれよ!!!」
賢者「まだやれるだろ!!!お前らこんなところで終わりじゃないだろぉ!!!」
門番A「くっ…黙って聞いてりゃあ……!!」 ググ……
門番B「俺達だって…こんなところでやられたりしねぇぇ!!!」 グッ……
賢者「そうだ!!立てよ!!!気合入れやがれよぉぉぉ!!!!」
ワァァァァァァァァァァァァァ……!!!!
勇者(なんだこれ)
門番B「おとといきやがれぇぇぇぇ!!!!」
賢者「やった!!やったぜお前ら!!!すげーぜ!!!」
勇者「気力って大事だなあ」
門番A「悪かった!まさかお前らみたいな奴らを疑うなんて……俺はっ……!!」
賢者「いいんだ!!いいんだよ!!理由があったんだろ!!?仕方なかったんだろ!!?」
門番B「賢者さん……くうっ!!」
ボス「へっ……泣かせやがるぜ……」 グスッ
勇者「えっ、ここ泣くところなの?」
勇者「どうするかは考えて無かったのか賢者」
賢者「こういうもんは勢いが大切なんだよ!!!どうすんだよ!!!」
勇者「うーむ、まあ状況を把握しないとどうしようもないからな」
勇者「とりあえずはここの王様に会わせてもらって……それで対策を練ろう」
門番A「おー……」
ボス「なるほど……」
賢者「すげー!!すげーな勇者!!!なんか頭良い奴みたいだな!!!」
勇者「本当は俺よりも賢者の方が賢くないと駄目なんだけどなあ」
賢者「おうとも!!」
勇者「じゃあその間に賢者は風呂にでも入っててよ」
賢者「そうだな!!埃だらけだからな!!行ってくるぜ!!!」
勇者「……よし、ボス、ちょっといいか?」
ボス「なんだよ」
勇者「いくら魔王軍が強いっつってもそう簡単に城壁越えて街中まで攻め込めるもんか?」
ボス「あー、まあ場合によるけどなあ、飛べる奴らなら余裕だろうし」
勇者「だけどさっき相手をした限り、飛行できる魔物よりもむしろ獣っぽい魔物が多かった」
勇者「兵士も別に弱いわけでも少ないわけでも無いし、俺が思うに指揮官がよっぽど有能なのか、あるいは……」
ボス「……お前ひょっとして頭いいのか?」
勇者「お前らが馬鹿なだけだよ」
女王「よくぞ参った勇者よ、此度は何でも我らが苦労しておる魔物を討伐してくれるとか」
勇者「はい」
賢者「任せとけ!!!」
女王「ふふ、自信はたっぷりあるようだな」
勇者「時に女王様、魔物に関しての情報を話していただいても?」
女王「そういうことは兵士に聞いてくれ、私は魔物が攻めてくると毎回地下へ避難してしまうのでな」
勇者「なるほど、地下にですか」
女王「うむ、なので魔物に関してのことはよく知らんのだ、すまんな」
賢者「まあ気にすんなよ!!大丈夫だって!!!」
女王「馴れ馴れしいぞ、おい」
勇者「……」
兵士長「はっ、恐らくは二日後あたりでしょう」
勇者「なるほど、素早いですね」
兵士長「勇者殿、何か策を授けて頂けると……」
勇者「うん……まあいくらか思いついてはいるんだけど……」
勇者「とりあえず兵の配置はこんな感じでやってもらえますか?」 カキカキ
勇者「それで……ゴニョゴニョ……ゴニョゴニョ……」
兵士長「はっ、し、しかしそれは……」
賢者「なあ勇者!!!俺もなんかやることないか!!!?なあ!!?」
勇者「あ、賢者は道具屋とかで適当に買い物でもしといて」
賢者「おっしゃ!!分かった!!!」
兵士長「……いいんですか?」
勇者「あの子がいると話が進まなくって」
勇者「ふー……」
賢者「お疲れ!!勇者お疲れ!!!」
勇者「ああ、疲れてるから少し静かにしてもらっていいかな」
賢者「あ、うるさかったな!!ごめんな!!」
勇者「だから……まあいいか」
賢者「お詫びにこれ!!なっ!使えよ!!」
勇者「これは……聖水?」
賢者「凄いだろ!!聖なる水だぜ!!?それ飲んだら絶対に疲れ取れるぜ!!?」
勇者「聖水は飲むものじゃないし体力回復するもんでもないんだけど」
賢者「!!?」
兵士長「勇者殿!!魔王軍がこちらへ向かっているらしいです!!」
勇者「よし、じゃあ当初の予定通りに」
兵士長「はっ」
賢者「うっしゃあ!!じゃあ俺も行ってくるぜ勇者!!!」
勇者「ストップ」
賢者「止めるな勇者!!俺は行くぜ!!!」
勇者「いいから話聞けって、ゴニョゴニョ」
賢者「えっ!!それってマ」 ガバッ
勇者「大声出すなバカ!!」
賢者「バカじゃねーよ!!!賢者だよ!!!!」
女王「兵は出たようね、これで……」
勇者「やっぱりそういうことか」
女王「!」
勇者「兵士長から聞いて気付いたんだけど魔物共は毎回警戒の薄いところを突いて侵入していた」
勇者「だから俺は内部にスパイがいるんじゃないかなって思ったんだよ」
勇者「そんで戦闘になると毎回女王が地下に潜むって聞いて、女王を容疑者の第一候補に挙げた」
勇者「多分魔物が女王に化けてるか、取り憑いてるんだろう?」
勇者「で、魔法か何かしらの手段で毎回警戒の弱いところを相手に知らせてたってわけだ」
賢者「……どういうことだか全く分からないぜ!!!」
勇者「女王が魔物だと思う」
賢者「把握!!!」
女王「あなたをここで殺せばいいだけのことよ!!」 ズズズ……
勇者「ボス、あの魔物の情報を」
ボス「あー、憑依する系の奴だな、宿主を殺すか僧侶的な人に頼んで祓うしか」
勇者「……じゃあ賢者!頼む!」
賢者「おっしゃあああ!!任せとけぇぇぇぇぇ!!!」 ブンッ
女王「ふっ!!」 ガギッ
勇者「賢者!!とにかく早く女王から魔物を引き剥がし」
賢者「しゃらくせええええええええええっ!!!!」 ドゴッ
女王「げふぅっ!」
勇者「聞いちゃいねぇ」
賢者「あったりまえだろ!!?賢者だもの!!!」
勇者「じゃあそれであの魔物をちょっと祓ってくれよ!!!」
賢者「おっしゃあ!!任せとけ!!!」
女王「させるか!!」 バキィッ
賢者「ぐあっ!!やっ、やったなあああっ!!!」 バキィッ
女王「ぐぅっ、この程度ッッ!!!」 ゴスッ
賢者「ええい!!くたばりやがれぇぇぇぇぇっ!!!!」 ギュワアッ
女王「ふっ、この程度で私を祓えると思うなよ!!」 バキッ
賢者「あうっ!!!」
女王「そうそう簡単に取れはしない!!それこそこの女を殺さない限りはな!!!」
勇者「ちっ…賢者……!」
賢者「なるほど……じゃあ要するに邪心を取っ払えば良いんだろ!!!」
女王「ふふん、そのようなことができるとでも……」
賢者「できるさ!!!拳を交わして心を伝えれば!!!出来ぬ事など何も無い!!!」
女王「戯言を……ふんっ!!」 バギッ
賢者「ぐっ……こんなものぉぉぉぉぉっ!!!」
女王「!?」
賢者「歯ぁぁぁ食いしばれぇぇぇぇぇぇぇっ!!!!!」
バキィィィィッ
賢者「違うだろ!!?あんたがやりたかったのはこんなのじゃないだろ!!?」 バキッ
女王「がっ!」
賢者「目覚ませよ!!あんた女王様なんだろ!!?国を守りたかったんだろ!!?」 ゴスッ
女王「うぐぅっ!!」
賢者「じゃあ魔物なんかに負けてんじゃねえよ!!!もっと心を燃やしてみせろよ!!!!」 ベキィッ
女王「こっ、こいつ……ぐうう……」 シュウウウウ……
勇者「今だ!聖水をくらえ!!」 バシャッ
女王「ぎゃあああああああああああああああ!!!!」 ジュウウウウウ
賢者「聖水つええ!!!!」
賢者「波ァァァァァッッ!!!!」 バシュッ
魔物「う、ウギャアアアアアアアアアアアアッッ!!!」 バシュウウウウウウウ……
賢者「ふっ、悪霊退散だぜ!!!」
ボス「寺生まれって凄い、改めてそう思いました」
賢者「まあ俺は農家生まれなんだけどな!!!」
勇者「ああ、やっぱそうなんだ」
賢者「あっ、それより上の奴ら!!兵隊とか大丈夫かよ!!!なあ!!!」
勇者「大丈夫だよ、兵士長には女王に嘘の配置を報告するように言っといたからさ」
勇者「今頃魔物連中は警備が薄いと思ってた所に突っ込んで兵士にボコボコにされてるだろ」
賢者「勇者すげぇ!!!」
勇者「せやろ?」
勇者「なんのなんの、女王様は問題ありませんか」
兵士長「はっ、体調は優れてスッキリした気分だそうです」
賢者「良かったな!!!やっぱ元気が第一だもんな!!!」
兵士長「ですが……」
勇者「どうかしたんですか?」
兵士長「いえ……不憫なことに顔や体がボコボコになってしまっていまして……」
兵士長「まるで顔に殴られたような痕も出来てしまって……全く嘆かわしい……」
賢者「…………」
勇者「……大変ですね」
兵士長「くうっ、おのれ魔物共め……!!」
ボス「あの場にあれ以上いづらかったもんな!!」
賢者「流石は勇者だぜ!!!戦略的撤退ってやつだな!!!凄いな!!!」
ボス「で、次はどこ行くんだ?」
勇者「賢者はどこか行きたいとこある?」
賢者「海に行きたい!!泳ぎてぇ!!!」
勇者「じゃあ南の国に行くか」
ボス「海が好きなんて子供だな賢者さんは」
賢者「バッカ野郎!!海すげーんだぞ!!生命の源とか何かそういうアレなんだぞ!!!」
勇者「はいはい」
賢者「海だー!!勇者!!泳ごうぜ!!!」
勇者「その前に水着買わないと」
ボス「すいませんスク水ひとつください」
勇者「待てい」
ボス「水着っつったらスク水だろうがフザケンな勇者!!」
勇者「俺ビキニ好きなんだよね」
賢者「俺は別に裸でも良いんだけどな!!!」
勇者「やめて!!!」
勇者「そうだなー」
賢者「えへへ、ほら!実は俺の国って海とか無くってさ!!」
賢者「俺さ!海に来るの初めてなんだぜ!!えへへへ!!!」 バシャバシャー
勇者「そうかそうか」
賢者「それに俺の家さ!!農家だからさ!貧乏だからさ!!」
賢者「こんなリゾートっぽいのも初めてなんだよ!!スゲェ楽しいよ!!!」
賢者「えへへへ!!ありがとうな勇者!!!」 バシャバシャ
勇者「……おう」
賢者「照れんなよー!!うへへー!!勇者ー!!!」 バシャー
ボス「もしもし壁殴り代行の方ですか」
賢者「だって賢者ってすげーじゃん!!強いんだぜ!!賢いんだぜ!!!」
賢者「それにな!賢者になれば就職にも有利だしな!!引く手あまたなんだぜ!!!」
賢者「だからな!俺な!!頑張って勉強してな!!賢者の資格取ったんだ!!!」
勇者(資格で取れるもんなんだ、ていうか勉強してコレなんだ)
賢者「あのなー、将来はもっと稼いでなー、田舎の農家の親に楽させてやるんだ!!!」
勇者「……賢者は意外と立派だなあ」
賢者「褒めるなよー!!!恥ずかしいだろー!!!えへへー!!」
勇者「いや別に褒めたつもりは」
ボス「棒倒し超楽しい」 ザー
勇者「そんな良い湯だったみたいに言われても」
賢者「前から思ってたけど勇者テンション低いよな!!!もっと熱くなれよ!!!」
勇者「こればっかりは性格だから仕方無いなー」
賢者「へへへ、でもそこが好きだぜ!!!クールなところがカッコいいよな!!!な!!!」
勇者「お、おう」
賢者「照れんなよー!!!勇者照れんなよー!!!」
勇者「ててて、照れてねーし!」
賢者「へへへー、なあ勇者!!今度また金溜めたらここ来ようぜ!!」
勇者「……おう」
ボス「はいはい、ノロケ糞野郎共め、新情報入ってんぞこら」
ボス「えーとな、さっきそこの魚人に聞いたんだけどな、魔王軍が進行計画立ててるらしいわ」
賢者「マジか!!!」
勇者「ここにか?」
ボス「いや、こっから北西ぐらいの……ちょい地図貸せ、ここらだな」
勇者「あ、案外うちの国の近くじゃないか」
ボス「おうよ、山輸送ルートになってるし、ここ抑えられたら地味にヤバイな」
賢者「あっ」
勇者「うん?」
賢者「そのへん俺の地元だわ!!!」
勇者「マジで!!?」
ボス「ちょっ、まっ……おなかいたい……」
賢者「大丈夫だって!!やればできるって!!!もっと頑張れよ!!!」
ボス「で、でも……」
賢者「諦めんなよ!!お前ってそんなもんじゃないだろ!!!まだ全力出してないだろ!!!」
ボス「え、ええい!やったらああ!!」
賢者「そうだよ!!やれば出来るじゃねえか!!!よっしゃ急ぐぞ!!!」
勇者「賢者、地元は……」
賢者「大丈夫だって!!農家って強いんだからな!!!魔物なんかに負けないって!!!」
賢者「絶対大丈夫だって!!俺が信じないでどうすんだよ!!!信じないとどうしようもないだろ!!!」
勇者「……おう」
賢者「……っかしいな!!このへんだったハズなんだけどなー!!」
勇者(……正直予想はしてたけど)
賢者「あのな、前はな!ここに教会があったんだよ!!ハゲた神父さんがいてさ!!」
賢者「んでな!!ここな!道具屋だったんだよ!!村で一つだけだったんだよ!!!」
賢者「こっちは宿屋だったしな!!たまにホラ、旅人とか運び屋とかが泊まってってさ!!!」
賢者「んでな!!ここな!ここ……ここがさ、俺の家だったんだけどさ……」
ボス「……なんもないな」
賢者「……本当にさ、良い親だったんだよ、優しくてさ、熱くてさ、なあ勇者」
勇者「おう」
賢者「親父にさ……お前を……会わせたかったよなあ……」
ボス「外にいるけど……えー、お前どうすんのアレ」
勇者「どうするもこうするも」
ボス「だってホラ、励ますにしたってよー……お前これこういう空気……」
勇者「大丈夫だよ、俺がどうにかするから、お前は寝てろよ」
ボス「つったってなー……」
勇者「それよか魔王軍の状況は?」
ボス「あ、そこの近くの山に潜んでるっぽいけど」
勇者「うし、じゃあ明日の朝出発な」
ボス「えー、いや、うん……えー……?」
勇者「おっす」
賢者「……おっす」
勇者「……」
賢者「親父さ、熱い人だったんだよ」
勇者「ああ」
賢者「なんかむやみやたらに熱くてさ、でもまあ一本筋は通っててさ」
賢者「だから多分、魔物が来ても真正面から熱血でかかってったんだと思うんだ」
勇者「ああ」
賢者「母ちゃんは優しかったけどさ、でもちゃんとするところはちゃんとしてて……」
賢者「俺さ、親父も母ちゃんもさ、村の人達も大好きだったんだ……」
勇者「ああ」
賢者「でもなれた時にはみんな凄い喜んでくれてよー、なー」
勇者「……」
賢者「なんだってこうなっちゃうかなあ……」
勇者「……こうならない為に魔王を倒すんだろ」
賢者「そうだけど……そうだけどよぉ……」
勇者「……泣きたい時は泣いた方がいいぞー」
賢者「うぐっ……うぅ……ぅー……ぅぇっ…」ボロボロ
勇者「よしよし」
賢者「うぇぇ……」 ボロボロ
賢者「お楽しみしてねーし!!!」
ボス「二人で朝まで外にいて何も無かったとか言わせねーからな」
勇者「何も無かった」
ボス「言われた!」
賢者「うっし……んで!!敵の居場所は!!?」
勇者「あそこの山の中らしいぞ」
賢者「っしゃ!!そんじゃ行くぜ!!弔い合戦だ!!」
賢者「今日ばっかりは手加減しねぇ!!!あいつら全滅させてやる!!!」
勇者「よっしゃ、ま、頑張ろうぜ」
賢者「おう!!!」
魔物B「ちょwwwwwwwwwwwwwテラダルシムwwwwwwwwwwwww」
賢者「オラァァァァァッ!!!」 ゴバギャ
魔物A・B「 」
魔物C「ちょ、なんぞこいつ!!」
賢者「見れば分かんだろうがあああ!!!カチコミじゃああああああい!!!!」 ゴスッ
魔物C「オゴッフ」
賢者「くたばりやがれぇぇぇっ!!!」 ゴギンッ
魔物D「げふぅっ!」
魔物E「やべぇ!こいつ強えぇ!!」
賢者「やぁぁってやるぜぇぇぇぇ!!!」 ベゴキ
魔物E「ごぶはっ」
魔物T「あ、ボス!やっちゃってくださ」
賢者「どっせぇぇい!!!」 ゴギャンッ
中ボス「うおっ、なるほど、騒がしさの元凶は貴様か!」
賢者「テメェだけは許さねぇ!!覚悟しろ!!地獄に送ってやるぜ!!!」
中ボス「ふん、張り切っていられるのも今のうちだ!!」 バギィッ
賢者「うぐっ……こんなもんでぇぇぇぇぇっ!!!!」 ゴギィッ
中ボス「ふんっ!効かんな!!」
賢者「なにィ!!!?」
ボス「あっ、やべ、あいつ打撃効きづらい系のボスじゃねーか」
勇者「ちょっ……賢者……!!」
賢者「しゃらくせぇぇぇぇぇぇっ!!!!」 バギャアッ
中ボス「おごっ!なっ……なんっ……」
勇者「効いた!!」
賢者「俺はどうにも不器用な賢者でね!!一番得意な魔法は攻撃力強化呪文なのさ!!!」
賢者「さあこい!!かかってこい!!!お前の拳をぶつけてみせろ!!!」
中ボス「やっかましいわ人間風情がああっ!!!」 バゴッ
賢者「いっ……たくねぇっつってんだろがぁぁぁぁっ!!!」 ゴギャアッ
中ボス「ごほぉっ!?」
賢者「全然痛くねぇんだよ!!全然効かねぇんだよ!!!」
賢者「もっと本気出して見せろよ!!!魂を燃やし尽くしてみせろよ!!!」
中ボス「うるせぇぇぇぇぇっ!!!!」
賢者「ぐっ!!?」 クラッ
中ボス「ははは!!どうだ見たか!この魔法は相手に毒を与え、相手は毒の痛みと精神的ショックで」
賢者「やっかましいわぁぁぁぁ!!!!」 ベギャアッ
中ボス「オゴフッ!?」
賢者「毒だとか何だとかよく分からんことやってんじゃねえ!!!男なら正面からかかってこい!!!」
勇者「よく分からんてお前」
中ボス「こっ、こいつ……」
賢者「よくもっ……よくもよぉ!!!お前なんかにッ!!!」
賢者「逃げようったってそうはいかねぇぇ!!!」 バッ
中ボス「くっ!!そこを退けやあ!!」 バギィッ
賢者「こんなっ!!パンチでなあっ!!!この俺をッッ!!!」
中ボス「ひ……!」
賢者「目だ!!」 ブチッ
中ボス「ぎゃあ!」
賢者「耳だ!!!」 ブチィッ
中ボス「ぎゃああっ!」
賢者「鼻だ!!!」 ブヂィッ
中ボス「ぎゃああああ!!!」
賢者「くたばりやがれぇぇぇぇぇぇっ!!!!!」
賢者「ふんっ!!」 ブチッ
中ボス「 」
勇者「お疲れ」
賢者「……おう」
ボス「なんだよ、勝ったのに元気無いな」
賢者「……こんな奴に親父が殺されたかと思うとよ……ちょっとな……」
勇者「……賢者」
賢者「いいんだよ!!大丈夫だから!!俺は大丈夫だからさ!!!」
勇者「……おう、さっさと魔王倒そうな」
賢者「おうともよ!!!」
勇者「とうとう魔王城かー……」
賢者「ああ!!後は魔王倒せば終わりだぜ!!」
勇者「ああ、頑張ろうな」
賢者「へへ、なあ勇者!!魔王倒したらさ!!約束通りもっかい海行くからな!!!」
賢者「そんでさ!!海行ってさ……そしたら……」
勇者「ああ、結婚しような」
賢者「おおお、おまっ、こっ、こっちが恥ずかしくってアレだったのに!!!」
勇者「照れんなよ」
賢者「照れるぜ!!!」
賢者「おうよ!!」
魔王「ふん……来たか勇者め」
勇者「ああ、覚悟しろよ魔王!」
賢者「貴様を地獄に叩き落してやる!!!」
魔王「やってみろ勇者!!!」
完
クソして寝ろ!!!!!!!!!!!
終わり方打ち切りかよ!
勇者と賢者の愛が世界を救うと信じて……!みたいな終わらせ方しやがって
最後までやりきるって言っただろ!!!
Entry ⇒ 2012.03.11 | Category ⇒ 勇者魔王「」SS | Comments (1) | Trackbacks (0)
魔王「勇者がデュエルモンスターズで勝負をつけたいだと?」
http://hayabusa.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1330171862/
魔王「よく分からんな。なんだそのデュエルなんとかというのは」
側近「さぁ?」
魔王「ちょっと手紙貸してみろ」バッ
魔王「えっと・・・なんだこれは」
(勇者「この世界のデュエルパワーを我が物としようとは!魔王!)
(勇者「お前の野望はこの俺の魂のデッキで打ち砕いてやる!)
(勇者「世界の平和は俺達のデュエルロードの先にある!)
(勇者「〇月×日 荒野のデュエル場にてデュエルモンスターズで勝負だ!勇者一同)」
魔王「何言ってんだこいつ」
魔王「しかしデュエルモンスターズとは?」
側近「デュエルって決闘のことですよね」
魔王「では、モンスターで決闘しようという挑戦状か!!」
側近「かもしれませんねー」
魔王「ぬぬぬ・・・・・・勇者どもめ。我ら魔族を手なずけたというのか!」
魔王「行くぞ!!側近!!裏切り者もろとも滅ぼしてくれる!」
側近「あ、モンスター同士で戦うなら魔物もつれていかないと」
魔王「そうだな。よし!では何人かつれていくか」
勇者「来たか・・・よく逃げ出さなかったものだな」
魔王「当然だ!ん?お前たちのモンスターはどこだ?」
勇者「それならしっかりここにあるぜ!」バンッ
魔王「そのポケットの中にか!?」
側近「随分小さいモンスターですね。どうせ雑魚でしょう」
勇者「俺のデッキに雑魚モンスターなんていない!!」
戦士「ディスティニーが・・・・・・見える!!」
賢者「はぁ・・・どうしてこうなった」
魔王「随分な自信だな。ではこちらから行くぞ!!」
勇者「待て!!まずは・・・魔法使い!行け!」
魔法使い「ええ!任せて!」
魔王「なに?」
側近「1対1でやろうってことじゃないですか?」
魔法使い「じゃあ行くわよ!!先行は私がもらうわ!」
魔王「は?先行!?」
側近「な・・・・・・何のことでしょう?」
魔王「わ・・・・・・私に聞くな!」
魔法使い「ドロー!」
側近「な・・・・・・何か来ますよ!」
ゴーレム「おおよ!!」
ドスドスドス
魔法使い「あたしはモンスターカードを裏守備表示でセット・・・・・・」
ゴーレム「おらあああああああああああ!」
ドゴオオン
魔法使い「きゃああああああああああ!」
ズサー
魔法使い「・・・・・・」
ビクンビクンッ
魔王「よし!!ゴーレムよくやった!!」
側近「いやぁ、なんかカード出して何かブツブツいってたからビビっちゃいましたよ」
魔王「あれは何かの魔術儀式か何かであろう。ふっふっふ。これで1勝だな?勇者」
勇者「・・・・・・」
魔王「おい、勇者?」
勇者「き・・・・・・貴様あああああああ!!貴様にデュエリスト魂はないのかああああ!」
戦士「卑怯者めえええええええ!」
魔王「え?おい、何言ってるんだ?こいつら」
側近「さあ?」
戦士「そうだそうだ!」
側近「な、なんかルール違反みたいですよ?魔王様」
魔王「そ、そうだったのか?」
勇者「当たり前だ!デュエルモンスターズで勝負だと言っただろう!」
魔王「だから魔物(モンスター)で決闘(デュエル)したじゃないか」
勇者「違う!!ルールでカードが40枚以上必要なの!」
魔王「カ・・・・・・カード?」
勇者「カードも持ってないのか!?町に売ってるからやり直しだ!」
戦士「そうだそうだ!今のはノーカンだからな!」
勇者「来週同じ場所でもう一回やり直しだ!」
スタスタッ
側近「なんかルール違反とか言ってましたね」
魔王「とりあえず何かあいつらが持ってたカードが40枚あればいいのか?」
側近「そのようですね。まぁそれが決闘のルールならやるしかないですかね」
魔王「よし、人間に化けて町に行って見るか」
魔王「本当にここか?」
側近「聞き込みによると間違いないかと」
魔王「中に子供しかおらんぞ」
側近「そのようで」
魔王「玩具屋ではないのか?ここは」
側近「ですねー」
魔王「なぜ決闘に必要なものがこんなところに売っておるのだ」
魔王「そうだな」
カランッ
魔王「これか?5枚で150Gだと!?」
側近「結構高いですね」
遊星「おい、デュエルしろよ」
側近「は?」
魔王「まだカードを持っておらぬ」
遊星「・・・・・・」
魔王「デジタルモンスターズ。これか」
側近「なんかそれっぽいカードですね」
魔王「よし!店主!これを40枚くれ!」
魔王「ふぁーっはっは!勇者め。ズタボロにしてくれる!」
側近「しかし結構な出費でしたねー」
魔王「ああ、全部で1200Gとはな。こんなものより鉄の剣のほうが威力があると思うのだがな」
遊星「おい、デュエルしろよ」
魔王「やかましい!!」
ドガッ
遊星「・・・・・・」
魔王「なんなのだ、まったく。人間の町で流行っておるのか」
側近「人間界も変わりましたねー」
魔王「ふっふっふ。来たな勇者!今度は先に待っておったぞ!」
勇者「デッキは作ってきたんだろうな」
魔法使い「あなたの魂のデッキ!見せてもらうわ!」
戦士「ディステニーが呼んでいる・・・・・・」
賢者「あの・・・・・・この人たちの相手マジメにしなくても・・・・・・」
勇者「黙れ!賢者!!お前もデュエリスト仲間だろ!」
魔王「よし!見ろ!!これで良いのであろう!!」
バッ
勇者「そ・・・・・・それは!?」
戦士「デジタルモンスターズ・・・・・・」
魔法使い「デジモンカードじゃない!それ!」
魔王「は?違うのか?」
側近「同じに見えますが・・・・・」
勇者「おじいちゃんのお使いか!!お前らは!!」
側近「そうそう!1200Gもしたんですよ!!1200G!!」
勇者「馬鹿な事をいうな!!駄目だ駄目!ちゃんと公式カード買って来い!」
魔王「ほ・・・・・・本当にこれじゃだめなのか?」
勇者「当然だ!」
魔王「1200Gもしたんだが・・・・・・」
勇者「なんだ、そんなはした金!!」
魔王「は・・・・・はした金だと!?
戦士「俺は80万Gくらいだ」
魔法使い「あたしなんか200万はくだらないわ」
勇者「魔法使いのデッキマジすげーものなー」
魔法使い「え・・・・・・えへへ。そ、そんな褒めないでよ」テレテレ
賢者「パーティの資金が全部カードに・・・・・・」
側近「200万Gってそんな紙切れに・・・・・・」
勇者「紙切れじゃない!!これは!このカードの1枚1枚が俺の大切な仲間なんだ!!」
戦士「おお!勇者よく言った!」
魔法使い「それでこそ魂で繋がったデッキマスターよ!」
賢者「はぁ・・・・・・デュエル脳パーティ抜けたい・・・・・・」
側近「いえ、さすがにそこまでは・・・・・・」
魔王「だな。どうするか」
勇者「気にするな。デッキの強さは値段じゃない!デュエルタクティクス次第では全てのカードが活きるんだ!」
魔王「何言ってんだ、こいつ」
側近「作戦しだいでお金かけなくてもいいってことじゃないですか」
魔王「お・・・・・・おう」
勇者「ほんとに大丈夫か?ほらっ、1枚やるから。これと同じ裏の柄のカードだぞ。間違えんなよ」
ピッ
勇者「俺の魂のカードだ。受け取れ!」
魔王「ああ」
勇者「じゃあな!」
スタスタ
魔王「クリボーと書いてある。う~んこれでどうやって戦うのだ?」
側近「まぁ40枚揃えて戦ってみればいいでしょう」
クリボー(くりくりぃ~)
魔王「ん?側近何か言ったか?」
側近「いえ、何も」
魔王「そうか。では、また町へ行くか」
店主「あいよ、で、どれにするね?」
魔王「え?この中から選ぶのか?」
側近「どれがいいんでしょう」
店主「どれも5枚入ってるよ。中は開けてのお楽しみ」
魔王「なぜ中が見えんのだ!全部同じカードだろう!」
側近「そうですよ!好きなの選ばせてくださいよ」
店主「そういわれてもねー。何が出るからわからないから楽しいというか・・・・・・」
側近「あっ!!魔王様。これも同じカードですよ」
魔王「1枚・・・・・・・10000Gだと!?」
側近「こっちは5枚で150Gなのに!」
魔王「店主!!貴様詐欺師だな!!」
グイッ
店主「うぐっ・・・・・・」
魔王「1枚30Gのカードを10000Gで売るとは!許さんぞ!」
店主「そ、それ激レアなんで・・・・・・」
店主「げほっ・・・・・・この袋に入ってるのでたまにしか出ないカードがあるだよ。それがコレ」
魔王「なんでそんな不平等なことをするのだ」
店主「それは・・・・・・その方が射幸心を煽っていっぱい売れるというか何と言うか・・・・・・」ゴニョゴニョ
側近「もういいでしょ。まぁ40枚あればいいならこの安い方にしましょうね」
魔王「そうだな、では安いの40枚で」
店主「毎度ー」
勇者「いよいよだな・・・・・・」
魔王「ああ」
勇者「そっちは誰が出る」
魔王「くくっ・・・・・・ここは私が自ら戦おうではないか!」
勇者「いきなり大将か。いいデュエルエナジーを感じるぜ!じゃあ、こっちは戦士!頼むぞ!」
戦士「おうよ!」
戦士「じゃあ行くぜ!先行は俺が貰った!!ドロー!」
賢者「せめてサイコロ振ってくださいよ。これだからデュエル脳は・・・・・・」
魔王「しょ・・・・・・召喚だと!?」キョロキョロ
魔王「側近、どこだ!?どこに魔物が召喚された?」
側近「わ・・・・・・分かりません。ど、どういうことでしょう」
魔王「これは・・・・・・こちらもやってやらねばな」
戦士「お前の番だぞ。ドローしろよ」
魔王「どろー?カードをめくればいいのか?」
戦士「ってお前まだ手札もないじゃねーか!」
魔王「まぁいい!どろー!」ペロッ
魔王「私も召喚魔法を見せてくれよう!」
ゴゴゴゴゴゴゴ
魔王「我は闇を統べるもの・・・・・・闇を生みしもの・・・・・・暁の星を滅せんとするものよ」
魔王「出でよ!!ロー・・・・・・シツハク・・・・・・バウシュ・・・・・・アリ!!」
ヴォーン
魔王「ヴァンパイア!!」
ヴァンパイア「ヒャッハー!!」
ヴァンパイア「魔王様!!お呼びで!」
魔王「ああ、相手は・・・・・・あいつだ!」
ヴァンパイア「了解っす!滅殺呪法陣!!」
バリバリバリバリ
戦士「ぐああああああああああああああああ!」
魔王「よくやった!!」
勇者「よくやってない!!おい!!これ前やったから!!」
魔王「なんだ、またイチャモンか」
勇者「ルール守れっての!」
魔王「ちゃんと40枚カード持ってきたではないか」
勇者「え・・・・・・えっと、ちょっと聞くがルールブック読んだか?」
魔王「はぁ?なんだそれは」
側近「決闘はルール無用が基本ですよねー?」
勇者「足りないから!まだルールあるから」
魔王「聞いておらんぞ」
勇者「とにかくルールブック買って読んでくること!いいな!」
魔王「え、また金使うのか!?」
側近「お金かかりますねー」
勇者「じゃあ、また来週な」
ヴァンパイア「あの・・・・・・俺帰っていいすか」
側近「3回目くらいですね」
店主「またあんたらかい」
魔王「ああ、店主。このカードのルールブックをくれ」
店主「へ?あんたらルールも知らずにそれ買ったの?」
側近「必要にかられて仕方なくですけどね」
魔王「困ったものだ」
店主「そうかい。じゃ、ほれっ、これルールブック」
魔王「これか、結構薄いな。いくらだ?」
店主「代金はいいよ。取っときな」
魔王「だが・・・・・・」
店主「大事な決闘のためなんだろ?眼でわかるぜ」
店主「いいっていいて!俺も昔はちっと名の知れたデュエリストだったのさ」
魔王「はぁ」
店主「あれは今から10年前だったか・・・・・・」
側近「あの、その話長くなります?」
勇者「ルールは覚えてきたな!」
魔王「そこそこ覚えたぞ!」
勇者「全部覚えろよ!」
魔王「最初に5枚カードを手札にして、互いに1枚ずつドローして決闘するのだろう!」
勇者「基本は覚えてきたようだな」
魔王「さあ、いつでもこい!」
勇者「じゃあ、前と同じでいいか。戦士!行け!」
戦士「おっしゃー!」
戦士「じゃあ、先行はもらったぜ!」
賢者「だからサイコロ・・・・・・」
魔王「ほほぅ、いきなり高い攻撃力のモンスターを出してきたな」
勇者「おっ、結構普通に分かってんじゃん」
側近「魔王様がんばってー」
魔王「では私のターンだな。えっと・・・・・・ここから1枚めくって・・・・・・」ペラッ
魔王「それから・・・・・・」
魔王「えっと・・・・・・」
魔王「あ、ドロー!って言うのであったな」
魔王「これを召喚して・・・・・・・」
魔王「あ、名前を言うのであったな。えっと古代の機械合成獣だ」
魔王「攻撃力2300だから勝ちだな」
魔王「それからえっと・・・・・・魔法カードの強欲な壷を使うぞ」
魔王「2枚引いてもいいんだな」ペラペラッ
勇者「あー、魔王。なんか色々つっこみ所があるんだが」
勇者「ちょっと待てって!」
魔王「なんだうるさいな」
勇者「ルール理解してねーじゃねーか!」
魔王「なんだと!?さっき読んだからだいたい理解しておるわ!」
勇者「だったらなんで★6の古代の機械合成獣をいきなり召喚してんだよ!」
魔王「なんだ、駄目なのか?」
勇者「駄目!」
魔王「なぜだ」
魔王「生贄だと!?誰を!?側近にそんな残酷なことが出来るものか!!」
側近「え!?私!?」ビクッ
勇者「誰があんたらに生贄になれって言った!★が5~6のモンスターを呼ぶには1体のモンスターカードを墓地に送らないといけないの!」
魔王「そうなのか?」
側近「ええ、なんかそんなようなことがルールブックに書いてある」
魔王「それはすまなかった」
魔王「えっと・・・・・・じゃあ・・・・・・グリーンガジェットを・・・・・・」
勇者「ちょっと待て。まだ突っ込むところがあるから」
勇者「さっき使った『強欲な壷』だけど」
魔王「ああ、2枚引けるんだぞ。ほらっ、ここに書いてある。なっ、ほらっ!ここ!」
勇者「それ禁止カードだから」
魔王「はっ!?」
勇者「それ使っちゃ駄目なカードだから」
魔王「なんだと!!ちゃんと買ったんだぞ!公式のカードだぞ!」
側近「ま、魔王様!本当に使っちゃ駄目みたいです」
魔王「な・・・・・・なんだと・・・・・・なぜ使えないカードを売ったのだ」
側近「酷いですね・・・・・・」
勇者「よくあることだ」
勇者「強すぎるカードは禁止されてしまうんだ」
魔王「では、その分金は返してもらえるのだろうな!」
勇者「それはない」
側近「使えないカードでお金を取る・・・・・・なんと酷い」
勇者「つーか、ちょっとデッキ見せろ!」
バッ
魔王「あ!まだ決闘の最中だぞ!」
勇者「無効だ!無効!やりなおし!」
魔王「な・・・・・・何をするうううううううう!」
勇者「ほれっ、これでやり直しだ」
魔王「3枚も減って、37枚になってしまったぞ」
勇者「あちゃー」
側近「魔王様!これ!店主が切り札って言ってくれたカード」
魔王「おお!それがあったな」
側近「この3枚入れましょうよ」
勇者「ちょっと見せろ」
勇者「こ・・・・・・これは・・・・・・」
戦士「どうした勇者!?」
勇者「いや、デュエリストのプライドにかけてばらしはしないが・・・・・・」
魔王「これでいいな?」
勇者「まあいいだろ」
戦士「あ!ずりぃ!」
賢者「あんたが言うな」
側近「魔王様、ほらっ、ルールブック読みながらいきましょ」
魔王「ああ」
魔王「えっと・・・・・・1枚引いて」
魔王「あ、またドローっていうの忘れた」
魔王「ドロー!えっとイエローガジェットを召喚」
魔王「それから・・・・・・」
側近「効果ですよ!イエローガジェットの効果!」
魔王「あ、そうだ。イエローガジェットの効果発動」
魔王「で・・・・・・なんだっけ」
魔王「ってデッキ見てもいいのか?」
側近「いいみたいです」
魔王「じゃあ、えっと」ペラペラ
魔王「あった。じゃあグリーンガジェットを手札に加えて・・・・・・」
側近「魔王様!デッキをシャッフルするみたいです」
魔王「わかった」
グチャグチャ
魔王「このくらいでいいか」
魔王「よし!攻撃・・・・・」
側近「魔王様!1ターン目は攻撃できません!」
魔王「・・・・・・」
戦士「・・・・・・」
魔法使い「・・・・・・」
賢者「・・・・・・」
勇者「・・・・・・・」
側近「魔王様!ターンエンド!ターンエンドって言って!」
魔王「ターンエンド」
戦士「おせえよ!!!!!!」
それに比べて勇者パーティのとげとげしさと言ったらもう
戦士「じゃあ俺のターン!ドロー!俺はエーリアンテレパスを通常召喚!!」
戦士「さらに、エーリアンと名のついたモンスターが召喚された時、このカードを特殊召喚することができる!」
戦士「いでよ!エーリアンドッグ!」
戦士「エーリアンドッグの効果発動!この効果で特殊召喚された時、相手モンスターにエーリアンカウンターを2つ置くことができる」
戦士「俺はイエローガジェットにAカウンター2つを置く」
戦士「さらにエーリアンテレパスの効果発動!」」
戦士「1ターンに1度相手モンスターのAカウンターを1つ取り除くことで魔法罠カードを1枚破壊する!」
戦士「俺はその伏せカードを破壊するぜ!」
戦士「さらにエーリアンテレパスでイエローガジェットを攻撃」
戦士「エーリアンテレパスの攻撃力は1600、イエローガジェットは1200、魔王!お前に差の400のダメージだ」
戦士「さらにエーリアンドッグでダイレクトアタック!1500のダメージ」
戦士「お前の残りライフは6100だ」
魔王「何言ってんだ、こいつ」
側近「えっと、魔王様の出したカード全部破壊されちゃったみたいです」
魔王「なんと」
魔王「それにこいつ1回に2体もモンスターだしたぞ!いいのか!?」
側近「えっと特殊召喚っていうのはいいみたいですよ。通常召喚っていうのが1回だけみたいで」
魔王「うーん・・・・・・困ったな」
戦士「ターンエンドだ。ほらっ、早くしろ」
魔王「うーん、これをこうして・・・・・・」
戦士「引いてから考えろよ」
勇者「戦士!!お前デュエリスト魂を忘れたか!ルールとマナーを守って!」
戦士「わ、わぁってるよ!さあ!お前のディスティニードローを見せてみろ!」
魔王「よし、ドロー!っと。今回はいえたぞ!」
側近「魔王様がんばれ!」
魔王「じゃあこの中から・・・・・・これだ!フィールド魔法の歯車街を発動させる」
魔王「えーっとえと、これは・・・・・・アンティークギアと名のついたモンスターを召喚するときに生贄が1つ少なくなる」
魔王「でいいか?」
戦士「俺に聞くな」
側近「おっけーです」
戦士「だから俺に確認すんな」
魔王「古代の機械合成獣でエーリアンテレパスを攻撃!」
魔王「古代の機械合成獣の攻撃力が2300、エーリアンテレパスが1600だから戦死に700のダメージだ」
魔王「これで私のライフが6100、戦士のライフが7300だな?」
側近「魔王様かっこいー」
魔王「カードを1枚セットしてターンエンドだ」
戦士「来い・・・・・・来い俺のディスティニー!燃えるぜ!デュエル魂!」
戦士「みんな・・・・・・俺に力を分けてくれ!さあ来い!」
戦士「来る・・・・・・・来る・・・・・・」
戦士「来た・・・・・・来たぞおおおおおおおお!」
魔王「あれは何をやっているのだ?」
側近「さあ?」
魔王「あれで引くカードが変わるわけでもあるまいに」
側近「あんなのルールブックに書いてませんよ」
戦士「来た!!ドロー!!」
賢者「帰りたい・・・・・・」
戦士「エーリアンモナイトの効果発動!」
戦士「このカードは通常召喚された時、墓地のエーリアンと名のつく★4以下のモンスターを特殊召喚することが出来る!」
戦士「復活しろ!エーリアンテレパス!」
魔王「また特殊召喚か」
側近「なんかずるいですね。こっちは地道にかんばってるのに」
魔王「ちゅーにんぐ?」
戦士「いでよ!シンクロモンスター!宇宙砦ゴルガー!!」
魔王「しんくろ?」
戦士「そしてビッグバンシュートを古代の機械合成獣に装備する。これで古代の機械合成獣の攻撃力は400上がって2700になる」
魔王「ん?わざわざ私のモンスターの攻撃力を上げてくれるのか?」
側近「馬鹿ですねー」
戦士「さらに光の護封剣を発動。魔王!お前は3ターン攻撃できない」
魔王「えー」
戦士「ビッグバンシュートの効果発動!この装備カードはフィールドから離れた時、装備していたモンスターは除外される」
戦士「古代の機械合成獣を除外!」
戦士「そして、宇宙砦ゴルガーとエーリアンドッグでダイレクトアタック!2600+1500で4100のダメージだ!」
戦士「これでお前の残りライフは2000だ。ターンエンド」
魔王「よくわからん・・・・・・」
側近「えっと・・・・・・また魔王様のカードが全滅です」
魔王「なんと」
側近「どうしましょう」
魔王「何か色々やってたな」
側近「魔王様もあれやってみます?」
魔王「あれって・・・・・・さっき戦士がドローする時にやってたあれか?」
側近「ええ、なんか効果あるかも」
魔王「だが、断る。というか嫌だ」
側近「えー」
魔王「ドロー」ペラッ
魔王「うーん・・・・・・」
魔王「これで、もう1枚引けるな」
魔王「ドローっと、それからえっと」
戦士「おい、待て。俺のライフが回復するぞ」
魔王「は?」
戦士「ほらっ、よくみろ。成金ゴブリンの効果」
魔王「あ、そうか。じゃあ戦士のライフが1000回復して8300か」
側近「魔王様が2000ですから随分離れちゃいましたねー」
魔王「まだこれからだ」
魔王「くくっ・・・・・・先ほど自分のカードを戻したりなんだり変な事をしていたな、戦士」
戦士「はぁ?」
魔王「お前は眠れる獅子を起こしてしまったようだ」
側近「何か思いついたんですか?」
魔王「ああ、このカードだ!魔法カード!サイクロン!」
魔王「壊すのは!私の歯車街だ!」
魔王「歯車街が破壊された時、手札・デッキ・墓地からアンディークギアと名のついたモンスターを特殊召喚できる」
魔王「いでよ!えっと・・・・・・ちょっと待ってろよ」
魔王「うーん・・・・・・うーん・・・・・・」
ペラペラ
魔王「どれがいいかな・・・・・・」
魔王「よ・・・・・・よし!これ!これだ!」
魔王「古代の機械巨竜!!攻撃力3000で宇宙砦ゴルガーの2600より上だぞ!」
魔王「宇宙砦ゴルガーを攻撃!400のダメージだな」
魔王「カードを1枚セットしてターンエンドだ」
魔王「くっくっく。これは倒せまい」
魔王「これで私のライフが2000、お前のライフが7900だ」
戦士「俺は魔法カード、強制転移を発動!」
戦士「フィールドの古代の機械巨竜とエーリアンドッグのコントロールを入れ替える!」
魔王「ちょっ!!」
魔王「側近!あんなのありか!?私のモンスターが取られてしまったぞ!」
側近「えーっと今調べてますので・・・・・・」
戦士「古代の機械巨竜でエーリアンドッグを攻撃!」
魔王ちょっと待て!まだ側近が調べてるでしょうが!」
戦士「3000ー1500で1500のダメージを受けてもらうぜ!」
戦士「これでお前のライフは残り500。風前の灯だな」
勇者「さすが魔界の王だけはあるな」
賢者「・・・・・・カードゲームでしょ」
魔王「どうする!?どうする側近!」
側近「わ、私に聞かれても」
側近「あ!そうです!店主が言ってましたよ!あれがあれば絶対負けないって!」
魔王「よ・・・・・よし・・・・・・引くぞ。絶対引き当てる・・・・・・」
魔王「当たれ・・・・・・当たれ当たれ」
勇者「おお!なんか熱くなってきたぞ!」
魔法使い「ここから逆転するカードっていったいなにかしらね」
戦士「わくわくしてきたぜえ」
魔王「いくぞ・・・・・来い!ドロー!」
戦士「は?セットするだけか?」
魔法使い「拍子抜けね」
勇者「油断するな!分からないぞ!」
戦士「おう、じゃあ俺のターンだな。ドロー!」
魔王「リバースカードオープン!」
戦士「このタイミングで!?」
戦士「自爆・・・・・・」
魔法使い「スイッチ・・・・・・」
勇者「だと・・・・・・」
魔王「えっと・・・・・相手より7000ポイント以上ライフが下回ってる時にお互いのライフを0にする」
側近「魔王様かっこいいー!」
魔王「ふはははははは!どうだ!負けなかったぞ!」
勇者「こいつら・・・・・・」
魔法使い「確かに初心者には使いやすいかもね・・・・・・それ」
戦士「納得いかねーぞ!絶対俺のほうが強いって!」
勇者「そうだ!正々堂々勝負しやがれ!」
魔王「なんだと!貴様らのルールで戦ってやっただろうが!」
側近「そうですよ!魔王様はがんばりました!」
いいな
魔王「禁止カードなのか?」
側近「いえ、使ってもいいみたいですよ」
魔王「ならば問題あるまい」
戦士「そんなんじゃ楽しくないだろうが!ルールとマナーを守って楽しく遊びましょう!」
魔王「楽しく?」
側近「遊びましょう?」
賢者「まったく・・・・・・子供の遊びにそんなにむきになることもないでしょう」
側近「子供の・・・・・・・?」
魔王「遊び・・・・・・だと!?」
初心者に勝ちにいってドヤ顔しようとしてる時点で…
魔王「貴様ら子供の遊びに私達をつきあわせたというのか!?」
側近「決闘じゃなかったんですか!!」
戦士「決闘だ!そう!ディスティニーとライフをかけたな」
魔王「何言ってんだ、こいつ」
魔法使い「世界の命運は私達のデュエルエナジーにかかってるのよ!」
賢者「あんまりこの人たち相手にしないでください。調子に乗りますので・・・・・・」
魔王「子供の遊びに我らを呼び出すとは・・・・・・ぐぬぬ」
魔王「許さん!」
ゴゴゴゴゴゴゴ
賢者「ちょっ!ちょっと!この人たち精神はまだ子供ですから!ゆるし・・・・・・」
魔王「広域究極破滅呪縛!!」
ドゴオオオオオオオオオオオン!
側近「あー、魔王様またライロデッキですか。ずるいーガチデッキばっか」
魔王「ふはははは!勝てばいいのだ勝てば!」
側近「もっとネタデッキで楽しみましょうよー」
魔王「ふむ、まぁそうだな。悪かった」
側近「そういえばなんかエクシーズとか言うルールが出来たみたいですよー」
魔王「ほほぅ」
側近「あ、大嵐来た」
魔王「なっ、ちょっと待て!」
側近「だめですぅ」
遊星「おい、デュエルしろよ」
おしまい
デュエルを書くつもりはなかったんだけど、なんか書いてしまった
今は反省しています
クリボーがなんか伏線かと思ったらそんなこと無かったぜ
Entry ⇒ 2012.03.09 | Category ⇒ 勇者魔王「」SS | Comments (0) | Trackbacks (0)
勇者「『なんとか王さま』から毎日手紙がくるの♪」
http://hayabusa.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1329575947/
はじめまして、
今回あなたが勇者に選ばれたことを、とても嬉しく思います。
これから私の所まで辿り着く道のりは険しいものでしょう。
ですが、私そんな試練を乗り越えて強くなったあなたに会うことをここで待ってばかりでは居られませんでしたので、こうして手紙を送ります。
これからあなたここに着くまで手紙を送りながらあなたの成長を手伝うつもりです。
お手を煩わせるようで申し訳ないですが、これも勇者のためになるものだと思って軽く思わないでほしいと思う所存です。
では、以後また連絡します
魔王より
勇者「…王?…前の漢字変な文字。わからないや。王さまの名前なのかな」
聞いた話によると、あなたは未だに仲間を入れずに戦っているようですね。
スライムぐらいの弱い魔物とたたかう時はまだ大丈夫ですが、この先のことを考えて、仲間を増やしたら如何でしょうか。
仲間は酒店に行って探したり、傭兵を雇ったりしたら良いと思います。
あなたが良い勇者なら、きっとあなたの心を信じて仲間になってくれる人が現れると思います。
魔王より
勇者「仲間…よし、頑張ってろう」
・・・
・・
・
勇者「これからよろしくね」
女戦士「おう」
女僧侶「精一杯勇者さまをお支えします」
女魔法使い「べ、別にあんたが好きで仲間になってあげたとかじゃないんだからねっ」
無事に仲間を集めたようですね。おめでとうございます。
でも、男女の比が合わないことが以後パーティーによくない影響与えるかもしれません。
男女二人ずつあった方が一番良かったのですが、今更言っても仕方がありません。
全ては勇者勇者の器量にかかっています。
日々是精進してください。
魔王より
勇者「そうなんだ。でも、なんとか王さまの言う通り、パーティーを組んだからには、しっかりマオウの城までいけるように頑張ろう」
女戦士「ん?なんだ、勇者その手紙」
勇者「あ、これ、王さまからの手紙」
女戦士「ふーん」
今日初めて魔物と戦ったらしいですね。
勇者は自分がスライムを間違って踏んで転んでしまったことが凄くかっこ悪くてみっともないと思ったようですが、
……たしかに少しカッコ悪かったことは事実です。私が戦士さんだったとしても、きっと大笑いしたことでしょう。
ですが、そんなことでへこたれてはこれから勇者として旅を続けることができません。
宿屋に引きこもっていたら嫌な過去が書き換えられるというものでもありません。
どんな勇者だって最初はlv1から始まるものです。
最初の頃の失敗はまだまだかわいいもの。
今日の失敗を乗り越えて、もっと強い勇者になっていくあなたの姿を見たいと思います。
魔王より
勇者「………」ぐすん
僧侶「勇者さま、勇者さま、大丈夫ですか?」コンコン
勇者「あ、僧侶さん」
僧侶「女戦士さんがごめんなさいって伝えて欲しいって言ってました」
僧侶「今日のことは本当にごめんなさい。ですから…」
勇者「ありがとう、僧侶さん」
僧侶「勇者さま?」
勇者「もう大丈夫だから、明日もまた頑張ろうね」
僧侶「…はいっ」
今日の戦いでは見事にスライムを討ち取りましたね。
昨日の失敗を乗り越えて見事に成長したあなたに褒めの言葉を送ります。
今回のことであなたの勇者としての自覚が少しでも冴えてきたのであれば、
この事件はきっとあなたにとっても私にとっても良いことだったのだと思います。
これからもその調子で頑張ってください。
魔王より
勇者「……えへへ、ほめられた」
魔法使い「うわっ、なにニヤニヤしてんの、気持ちわるっ」
勇者へ
今あなたが通っている道は、道のりが険しくて、次の村に辿り着くには魔物が沢山ある峡谷を通らなければなりません。
十分な準備をしてから挑んでください。
魔王より
女戦士「よしっ、んじゃ行こうか」
勇者「あ、待って、行く前に道具屋寄って行こう」
魔法使い「別に回復アイテムとか尽きてないじゃない」
僧侶「そうですね。次の村で武器など替えることも考えたら、ここで道具に金を使うのは…」
勇者「ダメだよ。ここから先は魔物沢山あるんだから、ちゃんと準備していかないとダメ」
女戦士「勇者なんでそんなこと知ってんだ?」
勇者「いいから、早く道具屋行く」
僧侶「勇者さまの言う通り回復薬をちゃんと準備して来なかったら、もうとっくにアイテムが底を尽きたことでしょう」
魔法使い「まぁ、あんたとしてはちゃんと考えたんじゃない」
勇者「ふぅ……よかった。ありがと、なんとか王さま」
勇者「でも、どうやって王さま、いつもボクの居る所に手紙を送られるのかな」
無事に峡谷を通られたようですね。
苦労が多かった分、その結実も良いもの。きっと今頃随分とlvが上がったことでしょう。
全てが終わった後なので言わせていただきますと、
実は勇者に少し嘘をつきました。
勇者が行ったその道は、普段は塞がれている危険な道で、
人たちが通る道はもっと歩きやすくて魔物も出ない所にありました。
勇者の成長のためとは言え、騙したことに対して申し訳ないと思います。
ですがそれでも、私はこれがあなたのためになったのなら例えあなたに怒られようともそれで宜しいと思います
魔王より
勇者「なんとか王さま……怒ってなんてないよ」
勇者「ありがとう」
人の優しさは魔物と人間の大きな差の一つだと思いますが、
それでも勇者の優しさはたまに甘すぎるとまで憶えてきます。
今日だって村に居た乞食にお金をあげましたね。自分たちの旅費も豊かじゃないというのに。
人のことを考えるその心は尊く思いますが、そのような行為はその者にも何の得にもなりません。
今度からは慎むことをお勧めします。
魔王より
勇者「僧侶さんたちにも言わないでこっそりやったことなのにどうしてわかっちゃったの?!」
勇者「うー、でもボクそういうの見ると無視して通りすぎることなんてできないよ…」
女戦士さんと僧侶さんが喧嘩しましたね。
二人を仲直りしようとするあなたの意気は良いのですが、
喧嘩する原因も知らないまま仲直りさせようとしても、二人ともあなたが相手の肩を持つと思うばかりで
状況は更に悪くなるばかりです。
まずは喧嘩する理由を知ることから始めましょう。
勇者「ねー、魔法使いちゃん、なんで僧侶さんと戦士さん仲悪くなったの?」
魔法使い「あんたが馬鹿だからじゃないの?自分で考えなさい」
勇者「そんなこと言ったって分からないものはわからないよ」
勇者「僧侶さんと戦士さん戦ってるの、ボクもう見たくない」
勇者「もしかしてボクが悪いのだったら直すから、なんで怒ったのか教えてよ」
僧侶「勇者さまは何も悪くありません」
僧侶「悪いのはあの卑猥な女がいけないんです」
戦士「誰が卑猥な女だ!」ガタン!
僧侶「しかも礼儀もしりません」
戦士「なにー!」
勇者「二人ともやめてよ!!」
私は二人が喧嘩する原因を探しなさいと助言したはずなのですが、
どうして勇者さんまで怒って部屋に篭っているのか私にはさっぱりです。
でも、3日ぐらい勇者が顔を出さないせいで、戦士さんも僧侶さんも喧嘩をやめて勇者さんの機嫌取りをしようとしているので
過程はともあれうまくパーティーの崩壊を止めたと評価するべきかもしれません。
ちなみに知らないようですから言っておきますが、
二人が喧嘩した原因があなたが3日連続で戦士の隣の椅子で夕飯を食べたことから始まりました。
その後僧侶さんが戦士さんが危ない時に回復をしてあげなかったり、
その後仕返しに戦士さんがちゃんと僧侶さんを庇ってくれなかったりしながらどんどん二人の仲が悪くなったのです。
原因がわかったのならこれからは平等に仲間たちを扱うことです。
魔王より
勇者「……なんでそんな理由で喧嘩しなきゃいけないの?」
戦士「ゆうしゃーー」
僧侶「勇者さま、ごめんなさい、もう許してください」
勇者へ
あなたはもう少し自分の立場を自覚した方が良いと思います。
もっと自分がどんな者なのかしっかり考えて行動するべきなのです。
今日の魔法使いさんとの出来事もそうです。
いつものように罵倒に近い言い方をする魔法使いさんに
「魔法使いちゃんは喧嘩ボクのこと嫌いになんてならないもんね」
とか言って
いいですか、勇者。
以前の出来事で僧侶さんや戦士さんがあなたのことを疎く思っていると考えているあなたは、
まだまだ勇者として足りない者ということを自ら認めているのです。
しかもあなたの失言に魔法使いさんはその場で顔を赤くして倒れる始末です。
そんな調子ではいつ誰かが突発な行動を起こしてもおかしくありません。
だいたお(くどくど
勇者「…勇者としての自覚が足りない……のか、やっぱボクって」
魔法使い「勇者、な、なにしてんのよ。あ、あんたがお粥食わせてあげるって言ったのよ?レディーを待たせるつもりなの?」
勇者「あ、ごめん、はい、あーん」
魔法使い「/////」アーン
僧侶、戦士「」
今直ぐあなたが居る所に言って長々と説教してあげたい気持ちは山々ですが我慢しましょう。
さっさと出発してください。
魔王より
勇者「なんとか王さま、なんか怒ってるのかな。ボクなんかした?」シュン
勇者へ
次の村なのですが、
魔物の上位クラスのドラゴンが住んでいます。
と言ってドラゴンと戦わなければいけないのかというとそういうことではありません。
ドラゴンはなかなか礼儀を知る良い魔族なので、
寧ろ話し合うと良いことを教えてもらえるかもしれません。
魔王より
勇者「ドラゴンか…見たことないな。どんな魔物なんだろう」wkwk
だから言いましたね。
なんであなたはそう簡単に人に心を許しちゃうのですか。
そんなのだから皆勘違いしてそうあなたに付きまとうのです。
あなたが惚れたその娘はそこんところの竜族の王の娘なんです。
竜の王から私にどうすればいいのかって陳情書が飛んできました。
私は出来るだけ娘を説得して戻ってくるようにしてくださいって言っておきましたから、勇者もその娘にうまく言って帰らせてください。
勇者「そういうわけだから竜娘ちゃん、家に帰ってくれない」
竜娘「ヤダ」
魔王使い「ちょっと、勇者から離れなさいよ」
僧侶「そ、そうです。いつまでそう抱きついているつもりですか」
竜娘「かーー」
戦士「うわっ、こいつ火吹きやがった!」
あなたという勇者は……
魔王ともあろう私が自らあなたの揉め事を解決してあげなければならないのですか?
そんなんじゃいつまで経っても私の居る所まで辿りつけないじゃないですか。
助けてあげるのは今回だけですから、
ちゃんと私が居る場所まで来てください。
魔王より
竜娘「モウ、カエル」ガタガタブルブル
勇者「そ、そうなんだ…(なんか震えてるけど大丈夫かな)」
勇者「またここに来たら会えるよね」
竜娘「! うん!絶対来てね!♪」
戦士「(絶対こねー)」
僧侶「(帰ってくる時は別の道を)」
魔法使い「(私が勇者を守らないと…)」
勇者「この前竜娘ちゃんと居た時にもボクが知らない間に来てたみたいだけど」
勇者「ここの近くに居るのかな」
勇者「手紙だっていつもボクが寝てる間に来るし」
勇者「よし、今度は寝ないで手紙を持ってくる人に聞いてみよう」
魔法使い「……すー」
勇者「(魔法使いちゃんは寝ちゃったし)」
勇者「(後は誰が手紙を持ってくるか待つだけだね)」
勇者「(手紙、王さまが持ってくるわけじゃないだろうし、誰か使いの人が持ってくるのかな)」
勇者「(なんとか王さまに言いたいこととかたくさんあるのに)」
勇者「(いつもありがとうとも言いたいし、いつになったら会えるのかも聞きたいし、いつも厳しく言うけどやっぱりボクのために言ってくれて嬉しいとも伝えたいし)」
勇者「(どこの王さまなのかだけでもわかったら、ボクからも王さまに手紙送られるかな)」
勇者「(ボク漢字とかはちょっと苦手だけど)」
勇者「(もうどんどん眠くなって来た)」
勇者「(でも、ここまで待ったのにここで寝ちゃうと……)」
朝
勇者「……う…ん?」
勇者「はっ!寝ちゃった!」
勇者「手紙は…?」
勇者「…あれ?来てない」
勇者「(あれから3日ぐらい待ったけど手紙来なかった。なんでだろう)」
魔法使い「ちょっと、聞いてんの?」
勇者「ふえ?な、何?」
魔法使い「…もうダメね。僧侶、今夜こいつと一緒の布団で寝なさいよ。もう見てられない」
僧侶「はい、喜んで!」ガタッ
戦士「ちょっと、そんなのなら私が…」
僧侶「私が引き受けたのになんで戦士さんが出てくるのですか?」
戦士「ぐぬぬ……!」
勇者「…眠い」フアー
最近私の後を探ろうとしてましたね?
そんなことで寝不足になるなんてあなたはたまに本当に馬鹿なことをします。
そう焦らずとも時が来れば私に逢えますから、
あなたは今やるべきことをしっかりやってください。
そう、今あなたがやるべきことは、まず睡眠補充と、
後は、もう少し真面目に人の話に返事をすることです。
魔王より
僧侶「はい、なんでしょうか、勇者さま」
勇者「……」
僧侶「勇者さま?」
勇者「ううん、やっぱなんでもない」
僧侶「…良くはわかりませんが、困ったことがあったら私に教えてください。いつでも相談に乗りますから」
勇者「ありがとう、僧侶さん、でも、ほんとなんでもない。別に大したことじゃなかった」
勇者「(人に手紙見せると怒られるかな)」
あなたが勇者になって随分長い年月が経ちましたね。
あなたは最初の時とあまり変わらない気がします。
相変わらず優しくて周りの視線に鈍くて、それでも皆に愛される子です。
それに比べて私はこの城に閉じ込められて外に出ることも出来ずに、
ただただ勇者を待っているばかり。
早くこういう手紙ではなく、あなたを直接見れる日が来ればいいのですが…
失礼、少し愚痴ってしまいました。
明日に着く村なのですが……(ry
勇者「……王さま?」
旅をはじめるばかりのあなたが失敗した時、私はそれでもまだ大丈夫だって言いましたね。
でも、今回ばかりは私からもあなたを叱らせて頂きます。
トロールを相手する時には少しでも気が緩んではいけないものです。
少しの放心が命取り。
戦士さんがうまく対応してくれてなければ、あなたの失策のせいでパーティーに死人が出ていたかもしれません。
今回のあなたの情けない行動には本当に失望しました。
そんなんじゃあ、私は……
勇者「……ごめんなさい」
勇者「だって…不安なんだもん」
勇者「最近なんとか王さまの手紙が変に変わって…」
勇者「なんとか王さま、なんだかとっても不安そうで、ボクまで……」
戦士「この前トロールと戦ってる時だってな。なんかいつもより動きが鈍かったよ」
魔法使い「あいつが間抜け面するのはいつものことだけど、最近と来たらもう最悪よ。一体何があったの?」
戦士「そういえば、勇者って良く手紙もらうよな」
僧侶「そうですね。どこに行っても、勇者さまに手紙が送られてきますね」
魔法使い「見ようとしても絶対見せてくれないしな」
僧侶「もしかして、その手紙が原因で……?」
戦士「試してみる価値はあるな。これからもこんな調子だと旅にも支障出るし」
勇者「あ、僧侶さん」
僧侶「…」
勇者「ごめんね、皆心配してるよね」
僧侶「…はい」
勇者「ごめん…ボクなんか最近全然ダメダメだね」
僧侶「勇者さま、以前私に相談いいかけていたことがありましたね」
僧侶「最近勇者さまが元気がないのと、それが何か関係してるのでしょうか」
僧侶「どのようなことか、私が聞いても宜しいでしょうか」
勇者「…」
僧侶「ダメ、でしょうか」
勇者「…ううん、ダメじゃないよ」
勇者「コレ以上皆に迷惑かけたくないし」
勇者「王さまだって、ボクがこうしてるの見たらきっとまた怒るだろうし」
戦士「すごい量だな、全部持ってたのか?」
勇者「なんか捨てるのって勿体ないかなぁって思って」
魔法使い「……もしかして、王さまって女の人なの?」
僧侶、戦士「!」ガタッ
勇者「ぼ、ボクも分からないけど…」
魔法使い「まぁ、取り敢えず最初から読んでみましょう」
はじめまして、
今回あなたが勇者に選ばれたことを、とても嬉しく思います」
戦士「ちなみにこれいつから来たんだ?」
勇者「えっと、皆と会う一週間前。ほぼ勇者に選ばれた直後だった」
僧侶「これから私の所まで辿り着く道のりは険しいものでしょう。
ですが、私そんな試練を乗り越えて強くなったあなたに会うことをここで待ってばかりでは居られませんでしたので、こうして手紙を送ります」
僧侶「……」
魔法使い「…なんかおかしくない」
僧侶「と、取り敢えず全部読んでみましょう」
僧侶「これからあなたここに着くまで手紙を送りながらあなたの成長を手伝うつもりです。
お手を煩わせるようで申し訳ないですが、これも勇者のためになるものだと思って軽く思わないでほしいと思う所存です。
では、以後また連絡します」
僧侶「魔王(まおう)より 」
三人「え?」
勇者「え?」
勇者「すごい偶然だね」ニパー
勇者「いや、どう見ても偶然じゃないでしょ!」
魔法使い「ちょっとどういうこと?なんで魔王から手紙が来てるの?」
僧侶「勇者さま、この手紙たちを、旅を始めてからずっともらいつづけたのですか?」
勇者「そうだよ」
勇者「ボクが辛い時に励ましてくれたり」
勇者「頑張った時褒めてくれたりしたの」
勇者「毎日この王さまの手紙を読むのが一番楽しみだった♪」
三人「……」
勇者「王さま、なんか元気なさそうな言い方してて」
勇者「いつもならもっと強そうな書き方するのに」
勇者「最近は全然弱々しくて、何かあるのかなぁと思ったら…」
勇者「なんか元気が出なくて……」
戦士「……まさか知らない所にこんな伏兵があったとはな」
僧侶「完敗です」
魔法使い「私ほどの女が、なんて失態を…」
勇者「ふえ?」
魔王「…つまらない」
側近「魔王さま、そろそろ政務を…」
魔王「うるさい!私に指図する気?!」メラゾーマ
側近「!魔王さま」
魔王「何よ!自分だけ楽しそうにしてて!」
魔王「…最初の所は面白そうな子でいいかなぁって思ったのに」
魔王「仲間を全部女の染め上げて」
魔王「三人とも落としたのでは足らずに」
魔王「竜族の姫まで弄んで」
魔王「そんなんでいつ私の所まで来るというのよ!」
魔王「こんな勇者じゃなくても、他に強い奴らなんていくらでも居るわ」
魔王「もう手紙なんて送らない!」
魔王「あんたなんてここに来ないでいつまでも女たちと遊んでなさいよ!」
魔王「ばーか!」
魔王「ああ、寂しい…」
僧侶「そこで勇者たちが来るのも待ち続けるのです」
戦士「でも、良く考えてみると、魔王も暇だよな。勇者が来るまでいつまでも待たなきゃいけないって」
僧侶「その間に勇者さまは色んなものを見て色んな所にいって、色んな人に会えます」
勇者「じゃあ、なんとか王さまがボクを嫌いになったのって、ボクが早く来ないからなの?」
魔法使い「ただの駄々こねでしょ。他の女と遊んでないで早く私の所に来なさいよって」
戦士「いや、ていうかなんで魔王が勇者にこんな手紙送るんだよ」
僧侶「それは…あれですね」
戦士「あれって?」
僧侶「仕様です」
戦士「…わけがわからん」
魔王「弱いくせに仲間と一緒に冒険とかはじめちゃってさ」
魔王「スライムもろくに倒せなかったくせに」
魔王「旅してる間にどんどん強くなって、魔王の所にまで来る」
魔王「でも、遅いのよ。あんたがここまで来るの」
魔王「あんたがあの数多い冒険の中で色んな思い出を作ってる間」
魔王「私はこの薄汚い城に座って」
魔王「あなたと勝つか負けるか、死ぬか生きるか、のただ一回の戦いをするだけ」
魔王「あなたはその長い冒険の末に得るものもりもり沢山でしょ?」
魔王「でも私は最後にあなたに殺されるか、それともあなたのその大事な思い出たちをぶち壊すかのどっちしかやることがないのよ」
魔王「そんな私の気持ちなんて知りもしないで」
魔王「あっちこっちで女をキャッキャウフフしながら私に来る日はどんどん遠くなるし」
魔王「待ってあげるにも限度というものがあるでしょ?」
魔王「それを見ているだけの私の気持ちは日々枯れていくのよ」
魔王「おかしいと思う?」
魔王「自分を倒しにくる奴を心から待ち受けてるのって」
魔王「だってそれだけなのよ」
魔王「あんたは他に大切なものなんていっぱいあるでしょうけど」
魔王「私には勇者しか居ないの」
眠くて脳みそが変になっちゃってる。見逃してください。
魔王「勇者は役不足だったら途中で諦めたりも出来るし」
魔王「セーブしたままいつまでも冒険の書を終わらせないことも出来る」
魔王「自分好き勝手な終わり方しても誰一人も文句は言わないでしょうね」
魔王「だってそれが人間だもの」
魔王「でも私は」
魔王「そんなあなたに捨てられたまま」
魔王「いつまでもここで独りで居なきゃならないのよ」
魔王「…いっそここに来て私を倒してよ」
魔王「その方がすっきりするから」
魔王「……せっかく色々苦労して手紙なんて送ったりもしたのに」
魔王「これでもう何回目勇者にフラれたのかしらね」
魔王「もういっそのこと待つのやめて私が攻めに行ってやろうかな」
魔王「……弱い勇者なんて相手しても何の意味もないし…」
魔王「今回はちょっと期待してたのに」
魔王「手紙送るの、忘れちゃった」
魔王「…もう良い。もう手紙なんて書かないもん」
魔王「どうせ面倒くさかったし」
魔王「礼儀正しく書こうとすっごく苦労したのに」
魔王「素出した方が良かったかな…」
魔王「あぁ、もうやめやめ」
魔王「あんなヘタレな勇者にもう期待しても無駄よ」
魔王「……あれ?なにこれ」
魔王「…手紙?」
はじめまして、勇者です。
魔王「…え?」
魔王「どういうこと?なんで勇者がここに手紙なんて送られたんだよ」
この手紙は魔王使いちゃんと僧侶さんに手伝ってもらって書いて、送ったものです。
魔法使いちゃんの話によると、魔王さまが私に手紙を送る時に使った魔法の術式を見つけて、それを逆方向に動かしたら
この手紙が魔王さまの元までうまく届くだろうって言ってました。
ボクは難しいことは良くわからないから
この手紙を魔王さまがちゃんと読んでくれることを祈るばかりです。
そして、この手紙が届いたのなら、魔王さまに絶対言いたいことがあります。
魔王さまの手紙があったから、今のボクがここに居るのだと思っています。
魔王さまの助けがなかったら、弱いボクなんてもうとっくに勇者なんてやめていたかもしれません。
そんなボクを支えてくれたのは、毎日ごとくボクを励まして、叱ってくれた魔王さまの手紙でした。
だから、今度はボクが、魔王さまの力になってあげる番です。
でも、それはきっとボクを助けてくれた魔王さまも同じだって思うから、
ボクはこう言うことを迷わないつもりです。
魔王さま、ボクは絶対に魔王さまを倒しに行きます。
だから、魔王さまも、ボクが途中で倒れたりしないように、ちゃんと助けてくださいね。
いつになるかまだ知りませんが、魔王さまを直接会える日が来ると、
その時はもしかすると、戦わずにもっと違う方法で解決できちゃうかもしれません。
正直な話、今まで手紙を送ってくれたのが魔王さまだって知って、ボクはとても嬉しかったです。
魔王さまは、きっとボクが人間のために倒さなければならない悪い魔王とかじゃないって思いました。
魔王を倒すための勇者一行ってわけではないけど、
この世界は勇者としてじゃなくても旅する場所は沢山あります。
魔王さまさえ良ければ、魔王さまとも一緒にそんな旅がしてみたいです。
その方が手紙だけでこう話し合ってるよりも、ずっとずっと楽しいだろうと思いますから。
魔王さまからもらった手紙を全部集めたら、本当にたくさんでした。
僧侶さんはこう言ってました。
きっと魔王さまも、ボクに手紙を送ってる間楽しかったはずだって。
ボクは今この手紙を書いている間、とても嬉しくて言葉では言い切れません。
魔王さまもボクに手紙を書く時、こんな気分だっただろうと思います。
そして、もしそうだったら、
きっと魔王さまも、今ボクが考えていることと同じことを考えているだろうと思います。
早く強くなって、魔王さまに会いに行きます。
それまで、ずっと手紙、お願いします。
勇者より
魔王「…何」
魔王「私あんな酷いこと言ったのに」
魔王「このなんとも思ってないかのような文体」
魔王「この勇者なんでこんなに馬鹿なの?」
魔王「なんでこんなに優しいの?」
魔王「……」
魔王「手紙、書こうか」
朝起きたらあなたからの手紙があって驚きました。
なんといいますか…
ありがとうございます。
きっと私は、
あなたの楽しい姿や、その笑顔を妬んでいたのだと思います。
こんな私のためにあんな優しい言葉を送ってくれるのは
この世できっと勇者あなた一人しか居ないでしょう。
だからこそ、私はあなたと出会うその日が待ち遠しいのです。
でも、その内容は以前のようなアドバイス的な内容ばかりではないと思います。
あなたにいつも言いましたよね。
あなたは自分自身のことをあまり良くわかってないみたいです。
己を知ることは全ての戦いの基本になります。
あなたの場合、自分が持っている武器が何かを知らないからこそそんなに強いのかもしれませんけどね。
今はご丁寧に断っておきましょう。
あくまで私は魔王、あなたは勇者。
戦わなくてはならない運命なのです。
もっとも、
私は自分より弱い人に従うつもりはありませんので、
そんな平和ボケた話をするつもりでしたらまず魔王の私に勝ってからにしてください。
あなたに手紙を送ったことは。
少なくとも今は……早くあなたがここに辿り着いて欲しいばかりです。
そして、あなたに手紙を送りながらあなたを待つこの日々を、
もう少し楽しませていただきます。
ありがとうございます、勇者。
魔王より
戦士「勇者の奴、嬉しそうだな」
僧侶「無理もありません。また魔王さんから手紙がくるようになったのですから…少し複雑ですが」
魔法使い「あの手紙書いてる奴、本当に私たちが倒しに行く魔王なのかな。別の奴がいたずらしてるんじゃないかな」
戦士「さあ、でもまぁ、勇者が喜んでるから、今はそれでいいんじゃね?」
僧侶「私もそう思います。少なくとも今は……」
勇者「あ、皆」
戦士「あ、こっち見た」
魔法使い「あれは絶対自慢するつもりだろうな」
勇者「ほら、みて」
勇者「また『魔王さま』から手紙が来たの♪」
終わり
なんか途中で雑談挟んでごめん。
自分ってそういうの結構好きなんだけど、読む側にしてはそういうのあるとやっぱ邪魔なのかな。
とにかく、もう遅いし皆寝てよ。
日曜日だからって朝を寝過ごしたら損だからね。
どっちの側も良かった
昨日の勇者は魔王まで辿り着けたのだろーか
なんかスレ主勇者みたいなやつだな。
Entry ⇒ 2012.03.09 | Category ⇒ 勇者魔王「」SS | Comments (0) | Trackbacks (0)
魔王「……来ちゃったっ」 勇者「えっ」
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勇者「いや……えっ?」
魔王「……どうしたの?」
勇者「ど、どうしたのって……ま、まさか」
魔王「何?」
勇者「ま、まままま、まお、まま、まお、魔王!?」
魔王「……そうだけど?」
勇者「えええええええええっ!?」
魔王「あれ? まずかった?」
勇者「ま、まずいも何もこれから旅立つところなんですけどー!?」
魔王「だよね、始まりの町だもんね、ここ」
勇者「えぇぇ……」
勇者「……ひ、卑怯だぞ!!」
魔王「えっ?」
勇者「ま、魔王っていうのは、ふ、普通最後に出てくるもんだろ!!
なんだ!? 弱い者いじめか!? この卑怯魔王!!」
魔王「なんで『普通』をわざわざ守らないといけないの?」
勇者「そ、そういうもんだろ!!」
魔王「それは残念、私は『そういうもん』じゃなかったみたい」
勇者「こ、こんなのありかよぉ……」ヘナヘナ
魔王「……腰抜かしちゃった。ま、無理もないか。勇者、まだまだ半人前だもんね」
勇者「こんなの聞いてないぞ……。自信満々に勇者に立候補したのに……。
普通じゃない……こんなのあんまりだ……」
魔王「一つ言っておくけど、その普通は人間が勝手に言ってるだけでしょ。別にいつ登場しようが私の勝手ですー」ツン
勇者「……」
勇者「……殺せよ」
魔王「……えっ?」
勇者「は、早く殺せよ!! そのために来たんだろ!! この悪魔!!
人でなし!! 卑怯者!! 無法犯!! 掟破り!!」
魔王「何もそこまで言わなくても……」
勇者「いいから殺せよ!!」
魔王「なんで?」
勇者「はぁ!? なんでって、お、お前が魔王だからだろ!!」
魔王「確かに私は魔王だけど……」
勇者「ま、魔王と勇者はお互い憎み合う運命なんだ!! 相容れない存在なんだ!!
まさかまた『自分は普通じゃない』なんて言い出すんじゃないだろうな!?」
魔王「うーん……あんまりその辺考えずに来ちゃった」テヘッ
勇者「は、はぁぁ!?」
魔王「だって暇だったんだもーん。勇者が私の家に来るまで大体1年はかかるでしょ?
その間私、水晶覗いて『クク……愚かな勇者め』とか言わないといけないんだよ?
もう面倒ったらありゃしないっ!」
勇者「お、おま、何言って……」
魔王「大体いつも疑問に思ってたんだよね。なんで私が勇者を魔王のお城で待ってないといけないの?
世界はそっちペース? なんなの? 人間側が既に主導権握ってるなら魔王倒す必要なんてなくない?」
勇者「い、いや……えっ? ちょ、ちょっと……」
魔王「こっちはとっくに準備できてるんだよね。あ、なんかイライラしてきた。ふんがー!」
勇者「ちょ! おち、落ち着いて!!」
魔王「結構大変なんだよね、魔王って。だってね? 水晶覗いて
『勇者は今○レベルくらいかな? よし、じゃああのダンジョンにはあのボスを……』とか考えてるんだよ?
知ってた? ねえ知ってた?」
勇者「し、知るかよ!!」
魔王「あー、いーけないんだ、いけないんだー。人の苦労をそんな風に吐き捨てたらダメなんだよ?」
勇者「そ、そっちが勝手にやったことだろ!!」
魔王「はいでた。『そっちが勝手にやったこと』」
勇者「……な、なんだよ」
魔王「じゃあ私が急に始まりの町に来たことも文句言えないよ? 私が勝手にやりました」
勇者「うぐっ……」
魔王「はぁ……まあ聞いてよ」
勇者「……」
勇者「魔王が負けないからだろ……今まで何人の勇者が……」
魔王「そんなに都合よく負けたくないもん。こっちだって自分の命かかってるんだし」
勇者「……」
魔王「とにかくさ、従来通りのやり方だと、各地のダンジョンにいるボスから『いつまで待たせるんだ』とか言われたり……
あ、勇者が変に慎重になって雑魚キャラでレベル上げとかするからだよ?」
勇者「それは仕方ないだろ……」
魔王「とにかく、クレーム対応とか、休憩中のボス呼びだす情報伝達係とか、ボスのお給料とかとか!
全部省いちゃえばいいじゃん、って思ったんだよね。経済的だしなるべく効率化しないとってね」
勇者「……」
魔王「暇つぶしにもなるし、水晶のデスクワークも飽き飽きだし、何より冒険って楽しそうだし!!」ワクワク
勇者「……え?」
魔王「ん?」
勇者「……つ、ついてくるつもりなの?」
魔王「私を倒すのが目的なんでしょ?」
勇者「そ、そうだけど……」
魔王「今倒せるの?」
勇者「む、無理に決まってるだろ!」
魔王「じゃあ強くなるしかないじゃん。つまり冒険するしかないじゃん。
そして私が傍にいた方が何かと都合が良いじゃん? 挑戦とか何回もできるよ! ほっ! たっ!」シュッ
勇者「……ま、まじで言ってるの?」
魔王「まあ断られてもついていくけどね。私を止められるのなんて強くなった勇者だけだし」
勇者「……」
魔王「ついでだから、旅の道中鍛えてあげるよ!」
勇者「はいぃ!?」
魔王「最後の決戦で手ごたえなかったら嫌だし。正直、今までの勇者はちょっと物足りなかったんだよね。
まあ私の情報があまりに少なすぎるから無理もないけど。その点勇者はラッキーだね!」
勇者「き、聞いたことないぞ……魔王と旅する勇者だなんて……」
魔王「まま、今の勇者には何もできないよ。とりあえず私の言うことに同調しておけば?
利害の一致ということで!」
勇者「……た、確かに損はないけど……」
魔王「ね、決まり!」
勇者「……でもお前を信用した訳じゃないからな。もし何か怪しい動きがあったら……」
魔王「あったら?」
勇者「……つ、強くなってぶっ飛ばしてやる!!」
魔王「ぷくくっ! オッケー」
勇者「えっ!?」
魔物「キシャー!」
魔物「えっ」ビクッ
魔物「……ま、まお、魔王様」ガタガタブルブル
勇者「……えっ?」
魔王「あ、そっか」
魔物「ひい!」
まものは にげだした
勇者「えぇぇ!?」
魔王「てへっ」コツン
勇者「てへじゃねえ!!」
魔王「低級な魔物は私にビビって逃げちゃうんだよね」
勇者「え!? どうすんの!? 俺レベル上がらないじゃん!!」
魔王「ちょっと強いとこ行こっか」ニコッ
勇者「無茶だあ死ぬよお怖いよお」
勇者「た、闘う必要があるのか?」
魔王「実力見ておきたいじゃん」
魔物「キシャー!」
魔王「あ! ほら都合よく来たよ! じゃあ隠れるから!」
勇者「え! ちょ、ちょっと!」
魔物「キシャー!」
勇者「うわあ!」
魔王「がんばれがんばれ勇者! がんばれがんばれ勇者!」ボソボソ
勇者「こ、このっ!」ズバッ
魔物「いてっ!」
勇者「もういっちょ!」スバッ
魔物「うがっ!」
勇者「とどめだ!!」ズバァ
魔物「ぎゃあ!」
魔王「ザオリク!」
魔物「」パァァ
勇者「えぇぇ!? なにしちゃってんの!?」
魔王「特訓だよ特訓! ほらほら!」
魔物「キシャー!」
魔物「ぐえっ!」
魔王「ホイミ!」
勇者「ちょ、おりゃ!」ズバッ
魔物「ぎえっ!」
魔王「リホイミ!」
勇者「お、おい!!」
魔王「ん?」
勇者「き、きりないよ!! ちょ、ちょっと疲れてきた!!」
魔王「あ、魔物が来るよ!」
勇者「えぇぇ!?」
魔物「ギエエ!」ポコッ
勇者「いてっ!」
魔王「……」
勇者「俺には何も無しかよ!!」
勇者「ハァ……ハァ……結局7体分も倒す羽目になった……」
魔王「うーん、まあまあかなあ」
勇者「あんまりだろ!!」
魔王「なんで? 実際今のでレベル上がったでしょ?」
勇者「うぐっ……そ、そうだけど! 一回の戦闘の負担が大きすぎて……」
魔王「ちっちっちー。そんなのじゃ強くなれないよ?」
勇者「まだ俺達の冒険は始まったばかりなのに……」
魔王「スタートダッシュに乗り遅れてどうすんの」
勇者「ああもう、わかったよ! でもちょっと休憩させて……」
魔王「3秒ね」
勇者「この鬼!!」
魔王「魔王です」
勇者「嘘だろ?」
魔王「走らないとメラミで燃やされちゃうよー!」ボゥッ
勇者「うわああ!! あっつ!!」
魔王「ゴーゴー!」ボウッ
勇者「あつっ!! あっつうう!!」タッタッタッタ
魔王「がんばれがんばれ勇者! ファイトだファイトだ勇者!」
勇者「ひいい!!」タッタッタッタ
隣町
勇者「死……死ぬ……」グッタリ
魔王「すごいじゃん! 一日で隣町まで辿り着くなんて!」
勇者「……」
魔王「……ありゃ、ちょっとやりすぎちゃったかな」
勇者「……休まないと死ぬ……HP2……」
魔王「う~ん、じゃあそこの宿屋で今日は休もっか! 勇者がんばったし!」
勇者「……よ、よかった……」ガクッ
魔王「ほらほら行くよっ!」
勇者「グー……グー」
魔王「まあそれもそうだよね、勇者にとっては波乱万丈な一日だったろうし……」
魔王「……仕方ない」モソッ
魔王「私ももう寝y」
勇者「……えーっと」
魔王「」ビクッ
魔王「あ、あれ~? 起きてたの?」
勇者「なんか気配がしたから……。で、なんで俺の布団に入ってるの」
魔王「……へへっ」
勇者「へへじゃなくて」
勇者「勘違いも何もストレートに正解なんだけど」
魔王「ス、スキンシップじゃなくて! ご、ご褒美……とか」
勇者「……え、なんの?」
魔王「が、がんばったで賞を授与します!」
勇者「……」
魔王「……」
勇者「……嘘だよね?」
魔王「……ごめんなさい。誰か横にいないと眠れないのでした……」
勇者「……何歳?」
魔王「……人年齢? 魔物年齢?」
勇者「そんなんあるのかよ」
魔王「えっ? このままいていいの?」
勇者「眠れないんだろ?」
魔王「う、うん」
勇者「じゃあいいよ。別に変なことはしないから」
魔王「……あ、ありがと」
勇者「……その代わり、魔法とかそういう恐ろしいことはしないでくれよ。安眠したいから」
魔王「わ、わかった」
魔王「……」ギュッ
勇者「……な、なんでそこでひっついてくるのさ」
魔王「えっ? ……あ、安心するから? そ、その、いつも抱き枕だから」
勇者「……まあいいや。もう……限界……」
魔王「……お、おやすみー」
勇者「お……すみ…………」
魔王「……」
勇者「グー……グー」
魔王「……人間にも、やっぱり優しい人間はいるんだね」
勇者「グー……グー」
魔王「てっきり気味悪がられてると思ってた。……って、疲れててそんな余裕もなかっただけかもね」
勇者「グー……グー」
勇者「……ふぁー……ん、朝か……?」
魔王「ヒャド!」ピキッ
勇者「って、うわあ!!!!!」サッ
魔王「おー、まさか避けるとは……」
勇者「殺す気か!!」
魔王「ささっ、朝だよ朝だよ特訓特訓!!」
勇者「え!? あ、朝一から?」
魔王「もっちろん! というか他にすることあるの?」
勇者「……」
魔王「さぁ準備して!」
まおう が一体あらわれた!
勇者「くそっ!」ズバッ
魔物「ぎゃっ!」
まおう はケラケラわらっている!
勇者「そりゃっ!」ズバッ
魔物「いてっ!」
まおう はようきにおどっている!
勇者「ト、トドメ!!」ズバァ
魔物「ぎゃーっ!!」
魔王「ザオリク!」
魔物「」パァァ
勇者「なんだろうこの底知れぬ不快感……!」
魔王「ホイミ!」
魔物「」パアァ
勇者「ちょ、ちょっとキツくなってきた……」
魔王「順調にレベル上がってるよ! あと5体倒そ?」
勇者「5、5体か……やるしかないか……」
魔王「うんうん! いいよいいよー!」
魔物「ぎゃーお!」
勇者「そりゃっ!」ザシュッ
魔物「きゅう……」バタッ
魔王「おっ」
勇者「おっ」
勇者「い、一撃で倒せるようになってる……!」
魔王「よしっ! じゃあとりあえずここまでにしといて……」
勇者「よ、よかった……」
魔王「今日も行きますか!」
勇者「えっ?」
魔王「メラミ!」ボゥ
勇者「……う、嘘だろおお!! あっつうう!!!」タッタッタッタ
魔王「ほらほらゴーゴー!」
勇者「今日こそ死ぬ!!」タッタッタッタ
勇者「……もうボロボロだよ俺」
魔王「でも強くなっていってるよ」
勇者「必要以上にレベル上がってるよね」
魔王「まあまあ。備えあれば憂いなしっていうし?」
勇者「……はぁ」
魔王「宿屋どこだろ?」
剣士「ちょっと待ちな」
勇者「ん?」
魔王「んー?」
剣士「あたしゃ、旅の者だけど」
勇者「は、はぁ」
剣士「旅って言ってもただフラフラと放浪してるだけじゃねぇ。
強い者との闘いを求めて旅をしてる。こう見えても故郷じゃ一番腕が立ってた」
勇者「つ、強いんですね……」
剣士「そこで、だ。そっちのねーちゃん。あんたからは感じたことのないほどの強さを感じる。
是非手合わせ願いたい」
魔王「え? 私?」
剣士「そうだ」
勇者「や、やめといた方が……」
剣士「あ?」
勇者「なんでもありません……」
魔王「別に闘いたいなら闘ってもいいけど」
剣士「よしきた。それじゃ、場所を移そう」
草原
剣士「いつでもきていいぜ、ねーちゃん」
魔王「いいの?」
剣士「ああ、かかってきな」
魔王「それじゃお言葉に甘えて……。ザキ」ボワァァァ
剣士「な、なにぃー!?」
魔王「……よし、いっちょあがり」パンパン
勇者「……」ガクガクブルブル
神父「どなたを よみがえらせますか?」
勇者「こ、この剣士を頼む」
神父「では、わがきょうかいに200ゴールドのごきふを。いいですか?」
勇者「は、はい」
神父「おおカミよ! わがちちよ! さまよえる剣士のみたまをいまここによびもどしたまえっ!」
剣士「……うっ」
勇者「お、おい! 大丈夫か!?」
剣士「ここは……ハッ!! お前!!」
魔王「ん?」
魔王「何って、ザキだけど」
剣士「な、に!?」
魔王「ん?」
剣士(ザキ……? 動作が速すぎて、何をしたのか全く分からなかったぞ……)
剣士「おい!! もう一度勝負しろ!!」
魔王「……えー、面倒だなあ」
剣士「なんだと!?」
魔王「あなたが私に勝てる訳がないんだよね」
剣士「このっ……!」
魔王「あ、そうだ!」
勇者「ん?」
勇者「いつ手下になったの俺」
剣士「……しかしそいつは、見るからに弱そうだぞ」
魔王「ちっちっち、甘いね甘いよ剣士ちゃん!」
剣士「なっ……! か、かわいく呼ぶな!!」
魔王「まあ、やってみたら分かるよ」
剣士「ハッ……やってやるよ」
勇者「俺の意見は通らないよね、そうだよね。勝てるかな俺」
剣士「場所を移すぞ」
魔王「だいじょぶだいじょぶ! 自分の強さを知るいい機会じゃん!」
勇者「ホイミとかザオリクとかやめてね? それだけお願いね? ね?」
勇者「……ハァ……ハァ……」
剣士「くっ……な、中々……やるな……」
勇者「……こ、これで……最後だ!! おりゃあああ!」ズバッ
剣士「くぁっ!!」
魔王「ベホマ!」
剣士「」パァァ
勇者「やっちゃったよ!!!! もう俺の負け確定だよ!!」
剣士「くらえぇ!!」ザシュ
勇者「あいたーっ!!」
勇者「ほら……みろ……」ガクッ
魔王「うーん……思ってたよりは、まだまだみたいだね」
魔王「無理かなー」
剣士「な、なんだと!? 約束が違うじゃないか!!」
魔王「あのね、自惚れないでね? あなた、私が回復してなかったら負けてたよ、絶対」
剣士「くっ……じゃ、じゃあなんで回復なんか……! あ、あたしと闘いたいかr」
魔王「勇者のため。あいつには強くなってもらわないと困るからね」
剣士「なっ……」
魔王「とにかく、あなたはこの3人の中で一番弱いのを自覚したほうがいいよ。
自分の強さを知らない人は、いつか痛い目を見る。だから私は、勇者にそれを教えないといけない。
ま、そのためには剣士ちゃんは良い相手だったけどね」
剣士「……こ、このっ!!」
魔王「じゃ、私と勇者は宿屋に行くから。ほら、いつまで寝てるのー。
あ、それと最後に一つ言っておいてあげる。勇者は魔物との連戦の後、隣町から走ってここまで来て、
休憩なしであなたとの闘いだから」
剣士「なっ……! そ、それで……この強さ……だと」
魔王「私の手下だもん。強くなくっちゃ困るってもんよ!」
剣士「……」
魔王「嫌だね」
剣士「くっ……」
魔王「私があなたを鍛える利点は何? 勇者を鍛えるための相手なら他にもいくらでもいるし」
剣士「……確かに、ないな」
魔王「……」
魔王「ま、『師匠になれるのは私だけじゃない』かもしれないけどね」
剣士「……」
魔王「じゃねー」トコトコ
剣士「宿屋……って、言ってたな」
宿屋
勇者「ふう……ものすごく疲れた……」
魔王「おつかれさまっ」
勇者「あそこでベホマなんて卑怯だよ……勝てそうだったのに」
魔王「ホイミとかザオリクやめてとか言ってたの、フリだと思っちゃったっ」テヘ
勇者「な訳あるかっ!! こっちは必死なの!!」
魔王「まま、今日はゆっくり休むことにしよう!」
勇者「……そうだな、じゃないと体壊れる」
勇者「ん? 何?」
魔王「もしあの剣士ちゃんが勇者の弟子になりたいとか言ってきたら、どうする?」
勇者「え、えぇぇ!? ないない! 俺は師匠ってガラじゃないよ」
魔王「でもあの剣士ちゃんよりは強いよ?」
勇者「負けたのに?」
魔王「回復しなかったら勝ってたじゃん」
勇者「……ま、まあ、そうか」
魔王「弟子にしないの?」
勇者「しないの? って、まだ弟子にしてくれなんて言われてもないのn」
剣士「勇者様!!」ガチャッ
勇者「……はい?」
勇者「え? な、なに? なんでいきなり様付けなの?」
剣士「あ、あたしを、鍛えてくれ!!」
勇者「……お前、知ってたのか」
魔王「別に、私は何も?」
剣士「お願いだ!!」
勇者「えーっと…………ごめん」
剣士「えっ……ダ、ダメ、なのか?」
勇者「俺は強さを人に教えられるほど強くないし、師匠ってガラじゃないんだ」
剣士「そ、そんな…………これでも……ダメか?」フニュッ
勇者「ちょ、ちょちょちょ!! えっ!! 何してんのっ!?」
魔王「何してんの!!」
剣士「何って、自分で言うのもなんだけど、この豊満な胸なら勇者様の手を満足させられるかなって」
勇者「……」フニョッ
剣士「あっ」ピクッ
魔王「真顔で揉むな!!!!」バコッ
勇者「いてっ!!!!」
剣士「とにかく頼む!! あたしの胸を初めて揉んだ男だ!! 責任とってくれ!!」
勇者「ム、ムチャクチャなこと言い出した!!」
魔王「だめ!! だめだめ!! 絶対だめ!!」
魔王「な、何脱いでんの!? どうしたの!?」
勇者「……」ジッ
魔王「真顔で見つめるな!!」バコッ
勇者「いたあっ!!!!」
魔王「ちょ!! スト、ストップ!!」
剣士「邪魔しないでくれ!! あたしの剣士としての人生がかかってるんだ!!」ヌギヌギ
勇者「ゴ、ゴクリ!!」
魔王「このっ……!! イオナズン!!」
勇者「あ、ばか!! こんなとこで使ったら!!」
勇者「わかった! わかったから! 一旦服着てくれ!!」
剣士「わかった? それってつまり」
勇者「い、いいからとりあえず服を!!」
剣士「仕方ないな」
勇者「……ふう」
剣士「どうだ? 弟子にしてくれないか?」
勇者「やっと落ち着いた……」
魔王「……なんて女なの」
勇者「…………」
魔王「……」
勇者「……やっぱり、ダメだ」
剣士「!! な、なぜ!!」
勇者「……俺、まだ旅始めて数日しか経ってないし、教えられないよ、何も」
剣士「ここまでしたのに!!」
勇者「……た、確かに胸は柔らかかったけど」
魔王「」ツネリ
勇者「いてっ!!」
剣士「そ、そんな……」
剣士「……わかった…………これ以上言っても無理そうだし、諦めるよ……」
勇者「……」
剣士「今回のことで、己の強さを知ることができた。今後はそこを弁えて旅をしていこうと思う」
魔王「そだね、そしたらもっと強くなれるよ、あなた」
剣士「ああ、良い経験だったということで、胸に閉まっておくことにする。それじゃあ……邪魔したな」
魔王「またどこかであったら手合わせしてあげるよ」
剣士「フッ……感謝する」ガチャ
勇者「……なんだか申し訳ないことしちゃったかな」
魔王「んーん、賢明な判断だと思うけど。ま、あの剣士ちゃんも何かに気づけたみたいだし!
勇者は勇者で強くなることだけを考えてればいいよ」
勇者「また明日から恐ろしい特訓か……」
魔王「もっちろん!! いつも以上にがんばれるよね? あの剣士ちゃんの胸で疲れとれたでしょ?
明日はビシバシいくから」ニコッ
勇者「……この夜が永遠に続けばいいのに」
魔王「勇者、起きろー!」
勇者「……んが……」
魔王「起、き、ろーっ!!」
勇者「ふあぁ……ま、まだ朝の5時だろ……」
魔王「時間の早さがなんのその! 特訓のお時間です!!」
勇者「……冗談は目が覚めてから聞くよ……」
魔王「寝言言ってるね、メラミで起こさないと」
勇者「」ガバッ
勇者「……はぁ」
魔王「よろしい!」
魔王「バイキルト! スカラ! ピオリム!」
魔物「ぐおおおお!!!」パァァ
勇者「ちょちょ! やりすぎでしょ!!」
魔王「ルカニ! ルカニ! ルカニ!」
勇者「」ピュゥゥン
勇者「お、おいっ!! 無理!! 無理無理!!」
魔王「言ったでしょ? 今日はビシバシいくよっ!」
勇者「こ、この調子だと日が暮れる前に死んじゃう……」
魔王「ファイトだファイトだ勇者! がんばれがんばれ勇者!」
勇者「この悪魔っ!!」
勇者「く、くそっ! メラ!」ボゥ
魔物「ふふんっ」
勇者「ダメージ少なっ!!」
魔物「きしゃー!!」
勇者「」ピュゥゥン
まもの はメダパニをとなえた! ゆうしゃは こんらんした!
勇者「なっ! ……うっ……フラ、フラ……する……」
魔王「ほう、呪文を使う相手か」
勇者「……ま、まお……う」フラフラ
勇者「」ダキッ
魔王「な、な、何してるの!?」
魔王「な、なななっ!! ゆ、ゆうし、勇者!! ま、魔物が来るぞ!!」
魔物「グォーッ!!」
勇者「……」フラフラ
勇者「……ま、まお……」ムチュー
魔王「や、やめ!! こらっ!!」バコッ
勇者「いてっ!!!」
ゆうしゃ のこんらんがとけた!
魔物「グアァァ!!」ザシュッ
勇者「ぐっ!!」
魔王「はぁ……はぁ……」
魔王「い、凍てつくはどう!!」ブワッ
勇者「……えっ?」
魔王「……な、何してるの!? 早く倒すの!!」
勇者「い、いいのか? これじゃビシバシになってない気が」
魔王「い、いいから!!」
勇者「あ、ああ!!」
勇者「とりゃああ!!」ザシュッ
魔王(混乱時の記憶は保持されないの……? なんてやっかいな……)
勇者「ハァ……ハァ……なんとか倒した……」
魔王「……」
勇者「……お、おい、どうしたの?」
魔王「……ハッ! ザオリク!!」
魔物「」パァァ
勇者「よしっ!! こい!!」
魔物「キシャアア!!」
魔物「ぐはっ!!」
魔王「……うん! こんなもんかな」
勇者「……ふう。こんなもんって……いつもより5体分は多かったぞ……」グタッ
魔王「当たり前、強くなっていってるんだからその分厳しくしないと」
魔王「そんじゃ、行きますか!」
勇者「や、やっぱり行くのか……」
魔王「ほらほら走った走った!!」ボゥ
勇者「あつっ!! ひいい!!!」タッタッタッタ
「きゃあああっ!」
魔王「ん?」
勇者「なんの悲鳴だ? い、行ってみよう!」
見習い魔法使い「た、助けてっ! だ、誰かっ!」
勇者「だ、大丈夫!?」
魔物「グガァ!」
魔王「あいつに襲われてたんだね。ちょうどいいじゃん、勇者!
やっぱりあいつで最後!!」
勇者「うん!! わかった!」
見習い魔法使い「あ、ありがとうございます!」
魔王「うんうん、このあたりの敵はもう楽勝になってきたね」
勇者「ザオリクがない限りはな……」
見習い魔法使い「あ、あの!」
勇者「あ、大丈夫?」
見習い魔法使い「はい! た、助かりました!」
勇者「いいよいいよ、気にしなくて」
魔王「よしっ、それじゃあ、気を入れ直して行こう! おー!」ボゥッ
勇者「あ、あつっ! あっつううう!!! いきなりはやめてくれ!!」
見習い魔法使い「あ、あのっ!! 待って下さい!!」
勇者「ん?」 魔王「ん?」
勇者「うん、ちょうど今から走って行くところ」
見習い魔法使い「は、走って!? ここから20km近くありますけど……」
魔王「特訓中だから!」
見習い魔法使い「そ、そうなんですか……あの、もしよろしければ……」
勇者「ん?」
見習い魔法使い「隣町まで、同行させて貰えないでしょうか。その、今見たとおり、まだ見習いで魔法もろくに使えなくて……。
メラって唱えてるのに別の呪文が出てしまったり、そんな調子で……」
勇者「でも、走ってついてこられるかな……」
魔王「……ふふんっ、そうだね。勇者、この子をおぶって走ろう!」
勇者「……ハハッ、ナイスジョーク!」ビッ
魔王「いぇい! じゃなくて」
勇者「……まじかよ」
見習い魔法使い「あ、あの……すみません」ションボリ
見習い魔法使い「は、はぁ……」
勇者「……し、死ぬ……息絶える……絶命する……」タッタッタッタ
見習い魔法使い「なんか同じ意味の言葉並べて呟いてますけど……」
魔王「だいじょぶだいじょぶ! 死んだら生き返らせればいいだけの話じゃん?」
見習い魔法使い(この人おそろしい……)
見習い魔法使い「あ、あの、勇者さん……ありがとうございます、本当に」
勇者「……お礼は……生きて辿り着いてからにして……ゼェ」タッタッタッタ
見習い魔法使い「は、はい! す、すみません……」
魔王「ファイトだファイトだ勇者! ほら、魔法使いちゃんも一緒に!」
魔王「がんばれがんばれ勇者!」
見習い魔法使い「ファイトだファイトだ勇者!」
勇者「ぬおおおおおおおっ!!!!!!」タッタッタッタ
魔王「おーい」ツンツン
勇者「……」ピクピク
魔王「どうにか辿り着いたはいいけど、こりゃダメかもしれないね」
見習い魔法使い「じゃ、じゃあお礼代わりに私が!! ホイミ!」ボウゥ
勇者「ぐっはあああああああ!!!!!!」グッタリ
魔王「出た! メラミ出たよ!!」
見習い魔法使い「ああああっ!! すみません!! すみません!!」
勇者「きぇえええええええ!!!!!!」
魔王「もうやめたげて! 聞いたことない鳴き声出してるから!!」
見習い魔法使い「ご、ごめんなさい!! ごめんなさい!!」
魔王「と、とりあえず私達は宿屋に行くけど、まほちゃんはどうする?」
見習い魔法使い「わ、私は、この街に師匠がいるので……。
その、修行に出されていたのです。それで、今日やっと戻ってきたところで……」
魔王「あ、そうなの? じゃあ、ここで解散だね」
見習い魔法使い「あ、あの! 明日必ずお礼をするので!!」
魔王「ん、まあ、好きにして。明日はちょっとゆっくりしようと思うから」
見習い魔法使い「は、はいっ!!」
勇者「朦朧とした意識の中、俺は確かに三途の川でシュノーケリングしてたよ……」
魔王「うん、確かに今回はちょっと可哀相だったかな……」
勇者「もういい!! 寝てやる!!」
魔王「あ、ねっ、寝るの?」
勇者「……実際、死ぬほど疲れたからな」
魔王「あ、そう……」ドキドキ
勇者「じゃ、悪いけど、おやすみ……」
魔王「ゆ、ゆっくり寝なさい!」
勇者「……グガー……」
ポワポワポワ
-------------------
まもの はメダパニをとなえた! ゆうしゃは こんらんした!
勇者「」ダキッ
魔王「な、な、何してるの!?」
-------------------
魔王「……」ゴクリ
魔王「……そーっと、そーっと」ソロソロ
魔王「……メダパn」
勇者「あ、そういえば」ムクリ
魔王「」ビクゥ!!
勇者「……ん? なんか近くない?」
魔王「え~? な、何が~? おいっちに、さっんし!」キビキビ
勇者「……」ジトッ
魔王「ほ、ほらほら! 早く寝ないと!」
魔王「あ、ああ、まほちゃんなら明日お礼しに来ると言ってたけど」
勇者「まほちゃん?」
魔王「長くて呼びづらいから」
勇者「そっか、まほちゃん明日来るのか」
魔王「何なれなれしく呼んでるの?」
勇者「えぇえ……」
魔王「ほらほら! 寝ないと! 私も寝るからもうちょっとそっちに寄って!」モソッ
勇者「わ、わかったよ……」
魔王「……はぁ」
魔王(やっぱりメダパニはやめとこう……どうせ、記憶残らないんだし……)
勇者「あっ、おはよう」
魔王「来たかまほちゃん、待ってたよ」
見習い魔法使い「す、すみません!! それで……お礼なんですけど」
勇者「別に無理してお礼しなくてもいいからね? そんなの望んで助けた訳じゃないし」
見習い魔法使い「い、いえ! 無理はしてません! ただ、どうしてもお礼がしたくて……」
勇者「そ、そう? それなら遠慮なく受け取ろうかな……」
見習い魔法使い「そ、それじゃあ! ついてきて下さい!」
魔王「ん? ここじゃ渡せないの?」
見習い魔法使い「あ、あの……物じゃないので……」
魔王「まいっか、ゴーゴー!」
見習い魔法使い「それでは、あの、服を脱いで代わりにこれを巻いて下さい……」
勇者「えっ?」
魔王「ぬ、脱ぐのっ?」
見習い魔法使い「は、はい、よろしくお願いします……」ヌギッ
勇者「ちょ、ちょ!!」
魔王「な、何するの!? なんで脱ぐの!?」
見習い魔法使い「あっ、す、すみません! その、これから師匠自慢の温泉に入っていただくので……」
魔王「お、温泉?」
見習い魔法使い「はい。その、不満でしたか? 旅の疲れを癒していただけると思ったんですけど……」
勇者「やったー!! 温泉だー!!」ヌギヌギ
魔王「……物凄く嬉しそうだね」
見習い魔法使い「よ、よかったー!」
勇者「……」ジッ
魔王「」バコッ
勇者「いたっ!!!!」
魔王「早速入らせて貰おうかな!」
見習い魔法使い「あ、その前に」
勇者「ん?」
見習い魔法使い「ここは師匠の温泉です、そして私はその師匠の下で修業の身……つまり」
魔王「何か障害物があるってこと?」
見習い魔法使い「い、いえ、そんな大したものではないですが、魔法を使う機会が2度ほどあるので……」
勇者「わかった、まほty……魔法使いさんの修行だし、俺と魔王は見守っとくよ」
見習い魔法使い「ありがとうございます!」
勇者「うわ、なんだこれ!」
魔王「す、すごい湯気だね」
見習い魔法使い「……バギ!!」ブワァァァ
勇者「おおおっ!」
見習い魔法使い「す、すごいすごーい!! い、一回で成功しちゃいました!!」
魔王「おめでとー!」
見習い魔法使い「なんだか今日は調子良いみたいです!! これなら2つとも一回で……」
勇者「お! お湯発見!」タッタッタッタ
見習い魔法使い「あっ!」
勇者「それーっ!」ザブーン
勇者「冷てえええええ!!!!!!」ピョーン
魔王「一人でコントを繰り広げてる……」
見習い魔法使い「2、2度目の魔法を使う機会はそのお湯なんですよ!」
魔王「まったくもう、子供みたいにはしゃぐからだよ?」
勇者「ごべんばばい、びざじぶりばっばから」ブルブルガタガタ
魔王「で、魔法でそのお湯をあっためるってこと?」
見習い魔法使い「そ、そうです! これは今まで一度も最初から成功したことはないので……今日はがんばります!」
魔王「がんばれがんばれまほちゃん! ファイトだファイトだまほちゃん!」
勇者「ううっ……」ガタガタ
見習い魔法使い「……それでは」ゴクリ
見習い魔法使い「ベギラマ!!!!」
勇者「……えっ?」ピュゥゥン
魔王「えっ?」
ゆうしゃ はこんらんした!
勇者「……」ニヘラ
魔王「え!? ちょっと!? 何したの!?」
見習い魔法使い「あ、ま、間違ってメダパニ唱えちゃったみたいです!!
ど、どうしよう!! どうしよう!! ホ、ホイミ!!」
魔王「い、意味ないって!!」
勇者「」ピュゥゥン
ゆうしゃ はさらにこんらんした!
見習い魔法使い「あ! あー!! またやっちゃいました!!」
勇者「……まーほちゃんっ」フラフラ
見習い魔法使い「えっ? えっ?」
勇者「……」ダキッ
見習い魔法使い「ちょ、ちょっと勇者さん!?」
魔王「あ! あああっ!」
勇者「冷えちゃった……ちょっとあっためてよ……」ギュゥゥゥ
見習い魔法使い「……ゆ、勇者さんがいいのなら……」ポッ
魔王「いやいやだめだめ!! 何しちゃってんの!? こらーっ!!」
勇者「……まほちゃん」ムチュー
見習い魔法使い「……」スッ
魔王「なんで目を閉じるのっ!? 受け入れないで!! だめだめ絶対!! はな、離れろーっ!!」
見習い魔法使い「」ピュゥゥン
みならいまほうつかい はこんらんした!
見習い魔法使い「……」フラフラ
勇者「……」ンチュー
見習い魔法使い「……んだコラァ!!!!」バチーン
勇者「ぶへぁっ!!」
魔王「えっ」
見習い魔法使い「なぁぁぁにしてんだテメェコラァ!!! あぁーん!?」
勇者「え!? えぇぇぇぇっ!?」
見習い魔法使い「テメェいい度胸じゃねぇかオォ!? そんな面で私の唇奪おうってのかオイィ!?!?」
勇者「え!? なに!? 何この状況!? くち、唇!?」
見習い魔法使い「うるせェ!!!!」バチーン
勇者「ぶひゃあ!!!!」ピョーン
魔王「……」
見習い魔法使い「……あ? おっ、……かわいい面してんじゃねぇか」ポッ
魔王「え!?」
見習い魔法使い「ふぅーん……」ジロジロ
魔王「え!? え!?」ゾワッ
見習い魔法使い「ふふっ」ニヤ
魔王「ちょ、……や、やめ……」
見習い魔法使い「……いっただきまーす!!」ガバァ
魔王「ゆ、ゆーうしゃああああ!!!!!」
ああああ…………!!
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勇者「……で、こうなったと」
魔王「あまりの恐怖で加減ができなくて……」
見習い魔法使い「……」グッタリ
勇者「それよりも一体なんで魔法使いさんはあんなに怖く……」
魔王「……」
勇者「どうもお湯を温かくするって話から記憶が……魔王なんか知ってる?」
魔王「……し、知らないっ」フイッ
勇者「えっ? ちょ、ちょっと」
見習い魔法使い「あのぉ~……」
勇者「あ、ああ! 魔法使いさん!」ビクビク
見習い魔法使い「あ、あれっ?」
見習い魔法使い「な、なんでそんなに引いてるんですか? あの、あの!」
勇者「いやぁ~、えーっと……」
見習い魔法使い「ちょっと!!」
勇者「ひいっ!!」バッ
見習い魔法使い「えっ……」
魔王「うん……ごめんね」
見習い魔法使い「えっ? えっ? なんですか!?」
その、温泉は楽しんでいただけましたか?」
勇者「あ、え~っと」
魔王「う、うんうん! すごく疲れがとれたよ! ありがと!」
勇者「えっ」
見習い魔法使い「そ、そうですか! よかった~! 私しっかりお礼できたのか分からなくって……」
魔王「も、もうそれはしっかりと!」
見習い魔法使い「これで安心して修行の日々に戻れます! ありがとうございました!」
勇者「あっ、ううん、こっちこそありがとう」
見習い魔法使い「そ、そそんな! 恐縮です!」
見習い魔法使い「お二方は、次の町を目指されるのですか?」
勇者「そう……だよな?」
魔王「うん、そだね」
魔王「ん?」
見習い魔法使い「この町の隣の町は、商人の町なのです」
勇者「へぇー、賑わってそうだなぁ」
見習い魔法使い「ええ、それはそれは賑わっています。このあたりでは一番かもしれません。
しかし、だからこそ危険なのです……」
魔王「どういうこと?」
見習い魔法使い「商人の町とは文字通り商人の集う町。つまり商人同士の競争が激しく、
彼らは様々な手法で旅人に商品を売りつけようとしてきます。詐欺とか、押し売りとかですね」
勇者「なるほど……」
見習い魔法使い「も、もちろん良い商人もいますよ? 良い噂と同じくらい悪い噂も聞くってことです。
ですから、そういう方達に出会わないように、気をつけて下さいね!」
勇者「わかったよ! ありがとう!」
魔王「それじゃ、行きますかっ!」
勇者「ああ、そうだな」
魔王「このあたりの魔物はもう余裕だから、魔物との訓練は次の町で行うこととします!」
勇者「するのには変わりはないんですね。わかってますけど」
魔王「づべこべ言わない! はい、じゃあ、今日も元気にぃー」
魔王「走りましょー!!」
勇者「……はい」
魔王「それがんばれがんばれ勇者!」ボウッ
勇者「あつっ!!!」タッタッタッタ
勇者「……なんか、案外近かったな」
魔王「うーん、多分12,3kmくらいかなぁ……物足りない感じだね」
勇者「い、いや? 別に?」
魔王「……体力有り余ってるよね?」
勇者「……ハハッ」
魔王「それでは引き続き魔物との訓練を行いましょー! 暗くなるまで!」
勇者「く、暗くなるまで!?」
魔王「このあたりの魔物は結構強いよ」
勇者「まじかよお……」
魔物1「グアーッ!」
魔物2「キシャーッ!」
勇者「な、なんで2対1なの!?」ズバァ ザシュッ
魔王「ベホマラー!」
魔物1&2「」パアァ
勇者「くそっ!!」ズバァ
魔王「スクルト!」
魔物1&2「」パァァ
勇者「な、なんかいつもより厳しくない!?」
魔王「ほらほら! 無駄口叩いてるとやられるよ!」
勇者「クッ……やばい……さすがに疲れてきた……」
魔王「もう少し! 後4体倒したら終わりにしよ?」
勇者「あ、あと4体……果てしなく遠く感じる……」
魔王「限界の先に成長が待っている!!」
勇者「……う、うおおおおおおっ!!!!!」
魔王「お、かっくいー!」
勇者「おりゃああ!!!」ズバッ
魔物「ぎぇー!!」
勇者「よっしゃ!! お、終わったー!!」
魔王「2体相手によくがんばった! 感動した!」
勇者「や、宿屋探そう! 早く!」
魔王「そだね、さすがに疲れたね」
勇者「よし、そんじゃあ町の中に……」
女商人「……」
勇者「って、うわっ!!」ビクッ
魔王「な、なになに!?」
女商人「あなた達は、有名になってる」
女商人「そんなにメチャクチャな修行をこんなに目立つ所でやっているから」
魔王「私は視線感じてたけど、だから何?」
女商人「この町で有名になるのは避けるべきだと思う」
勇者「……あー、魔法使いさんが言ってたな。悪い商人に目をつけられないようにって」
女商人「その通り。危険を回避したいなら、私と一緒に行動をした方がいい」
魔王「嫌だよ」
女商人「なぜ?」
魔王「私達、強いから」
女商人「……この町は肉体的な強さでは回避できない危険の方が多く存在してる。
商人は頭の切れる人間しか生き残れないから」
勇者「……」
魔王「気づいてないかもだけど、あなたが一番怪しく見えてるの、私達」
女商人「……」
女商人「……」
女商人(どうする私。なんか強いからお金持ってるだろうな、とか単純に思って適当なこと言って
近づいてみたけど、思ったより賢い人たちだった)
女商人(なんか怪しまれちゃったどうしよう。こんな目立つところで修行なんてしてるからおつむの弱い人達だと思ったのに。
なんなんだろう、そこまで強さに自信があるのかな)
女商人(……まあいっか。売らないと死んじゃうし、売れるまで勝手に付きまとおう。
私って意外と行動的なとこあるよね。よく表情ないねとか言われるけど)
女商人(心の中ではあなた達が聞いたことないくらいしゃべってるんだよね私、ふふっ)
女商人「……」
魔王「さっ、行こ? 勇者」トコトコ
勇者「う、うん」スタスタ
女商人「……」スタスタ
勇者(……なんかついてきてる……)
女商人(今勇者って言った。今勇者って言ったよね。ビンゴ、やっぱお金持ってるじゃん。どこ行くのかな。
お父さんの自慢の武器売りたいな。質は良いけど見た目が地味だからあんまり売れないんだよね)
女商人「なに?」
魔王「ついてきて欲しくないんだけど」
女商人「……それは賢明な判断とは言えない。商人の敵は商人っていう言葉を聞いたことあるならその理由が分かると思う。
商人のずる賢いやり口は同じ商人の方が鋭く感知できるから」
勇者「……結局、ここで何も買わなかったらいい話なんじゃ……」
女商人「……しょ、商人の町で何も買わないなんてそんなのおかしいと思う」
魔王「……」
勇者「……」
女商人「……コホン」
勇者(……恥ずかしそう)
魔王「怪しい! 怪しすぎる!」ズビシッ
勇者「ちょ、ちょっと」
魔王「だって怪しいじゃん!」
勇者「た、確かにそうだけど……」
魔王「何を企んでるの?」
女商人「何も企んでない」
魔王「嘘だ嘘だー、じゃあなんでついてくるの?」
女商人「……商品を売りたいから」
魔王「はい出た! 本音出たよ!」
女商人「ち、ちがっ、そんなにやらしい考えとかは持ってない」
勇者「……でも買う意思のない客に買わせようとするのって、押し売りって言うんじゃなかったっけ……」
女商人「……」
女商人「……あなた達が買うという意思表示をしない限り無理に売ることはしないと約束する」
魔王「信用できません!」
女商人「信用して欲しい」
魔王「というかあなたが付きまとう事実は変わらないので関係ありません!」
女商人「つきまとわせてほしい」
勇者「な、なんて頑固な子なんだ……!」
女商人(……根気よく、根気よくだよ私)
魔王「早速まほちゃんの言うとおりやっかいなのに見つかっちゃったね……」
女商人「私が付きまとって何か怪しい行動をとったとしてもあなた達ならなんなく危機回避できるはず。
あなた達の強さは本物。恐らくこのあたりの魔物ならもう手こずらない」
魔王「……はあ」
勇者「ま、まあまあ。この子の言うとおり、付きまとうだけで害は無さそうだし、そこまで邪険にすることはないんじゃないかな?」
魔王「付きまとうこと自体が害なんだけど」
女商人(かばってくれた。勇者くんはいい人)
魔王「結局宿屋までついてきちゃったよ……」
宿主「たびびとの やどやへ ようこそ。 ひとばん 260ゴールドですが おとまりに なりますか?」
魔王「うん、ふたr」
女商人「3人部屋でお願いします」
勇者「えっ!?」
魔王「ちょっとちょっと!! 何言ってんの!!」
宿主「りょうかいしました では おやすみなさいませ。」
魔王「了解しちゃった!!」
女商人「○号室です。行きましょう。あ、ちゃんと自分の分のお金は自分で出しますので」
勇者「……」
魔王「……」
勇者「……えーっと」
魔王「どういうつもりなの?」
女商人「あなた達が何かを買いたくなった時、物凄く身近に商人がいたらとても便利だと思うんです」
魔王「ちょ、ちょっと勇者……この子なんか頭のネジ一本外れてるよ」ボソッ
勇者「冷静なドジっ子なんて初めて見た……」ボソッ
勇者「でも、悪い人って感じは受けないんだよなあ……」
魔王「そ、それはなんとなく分かるけど……」
勇者「ある意味素直すぎる性格なんじゃ……」
魔王「どうやって商人の世界で生きてきたんだろう……」
勇者「さっぱりわからん」
勇者「え!? あ、ああ! えーっと……じゃ、じゃあ一番扉に近い右端で」
女商人「では私も右端で」
魔王「ちょっとちょっと!! え!?」
勇者「えっと、えーっと、じゃあ俺は真ん中にしようかな」
勇者(どうしても扉側じゃないと落ち着かないのかな?)
女商人「そうですか。それでは私も真ん中に変えます」
魔王「いやいやいやいや!! ダメだから!! 勇者と一緒に寝るのは私なの!!」
女商人「えっ?」
魔王「あっ……」
勇者「……何故か俺がすごく恥ずかしいんだけど」
魔王「う、うんうん! そ、それでいいの!」
女商人「一つのベッドに3人……少し狭いかもしれない」
魔王「わざとなの? ねえわざとなの?」
勇者「ま、まあまあ!」
魔王「だめこの問題は見過ごせない! というかなんでそんなに勇者と一緒に寝たいの!?」
女商人「……いつもはお父さんと寝ているから。勇者くんは私をかばってくれる優しいところがお父さんに似てる」
勇者「え、えぇぇ!?」
魔王「し、知らないよそんなの!」
勇者(魔王も人のこと言えないんじゃ……口には出せないけど)
女商人「大丈夫。寝相はいいとお父さんがいつも言ってくれるし」
魔王「でも……」
勇者「だ、大丈夫だから! きっと寝れる寝れる!」
勇者「ふ、二人とも掛け布団抱いて眠ればいいんじゃないかな!?」
女商人「……勇者くんがそう言うなら、そうします」
魔王「……むー」
勇者「……はあ」
勇者(3人で眠れたらどんなに嬉しいか……でもこのままだと魔王がまたイオナズンを……)
勇者「はあ……」
勇者「グガー……グガー」
魔王「……」スッ
魔王「……」トコトコ
魔王「……やっぱり勇者の布団じゃないと眠れない……」
魔王「……いつもだし、いいよね」ペラッ
女商人「スー……スー」
魔王(先客がいた!! なにこれ!! 悔しい!!)
魔王「……」
魔王「……」モソッ
魔王「……」
魔王「スー……スー」
女商人「スー……スー」
魔王「スー……スー」
勇者(えぇっ!? 何これどうしたの!! 結局3人で一つかよ!! でも嬉しいいいい!!!!)ヒャッホウ
勇者「……ゴクリ」
勇者「……今ならなんでもできる」ボソッ
勇者「……今ならなんでもできる」
勇者「……今ならなんでもできるッ!!」
女商人「んっ……」モゾ
魔王「……な……に……」
勇者「!!」
勇者「…………セーーーーフ」
勇者(まあそうだよね。世の中そんなにうまくできてないよね。最初から魔王来ちゃうくらいだもんね)
勇者「……」
魔王「スー……スー」
勇者(俺……いつかこの魔王と闘わなきゃいけないのか…………嫌だな)
勇者(…………甘ったれるなとか言われるのかな。でももう……仲間みたいな感覚になっちゃってるんだ、俺)
勇者(……なあ魔王。……運命ってのは、どうしても逃れられないのかな)
魔王「スー……スー」
勇者(かわいい、寝顔だなあ……)
女商人「……な、無い」
魔王「ん? どうしたの?」
女商人「お父さんの鞄が……ない」
勇者「お、お父さんの鞄?」
女商人「……」
魔王「もしかして、商売道具のこと?」
女商人「……」コクリ
勇者「えっ!? ぬ、盗まれたとか!?」
女商人「……わからない」
魔王「……気配は感じなかったけど……相当場数を踏んでる盗賊なのかも……」
勇者「お、俺、ちょっと宿主に怪しい人物見なかったか聞いてくるよ!」
女商人「……」
女商人「お父さんが……病気に罹ったから。代わりに私が商人として武器を売らないと……生活できなくて死んじゃうから」
魔王(……なるほど……『どうやって商人として生きてきたか』も何も、一時的にやってただけなんだ……。
妙に怪しいとは思ってたけど……なんてことはない、商売の仕方を知らなかったんだね……)
女商人「どうしよう……どうしよう」ウルッ
勇者「聞いてきた! 昨日町に赤い髪のなんでも隣町で有名な盗賊が来てたんだって!
もしかしたらそいつかもしれないって」
女商人「……な、なんで私の……」ウルウル
魔王「目立ってる私達と一緒に行動してたからかもしれないね。標的にされるのには十分な理由だと思う」
勇者「……どうする?」
魔王「……勇者が決めることじゃない?」
勇者「……」
勇者「なんで特訓ついでみたいになってんのぉ!?」タッタッタッタ
魔王「おんぶ&ラン! おんぶ&ラン!」
女商人「すみません……」
勇者「盗賊から取り返しに行くんだよね!? 体力削ってどうすんの!?」タッタッタッタ
魔王「急がないと逃げられちゃうでしょ! 今なら道中に遭遇できるかもしれないし!」
勇者「く、くそおおおっ!!!」タッタッタッタ
魔王「はいおんぶ&ラン! おんぶ&ラン! ほら一緒に!」
魔王「おんぶ&ラン! おんぶ&ラン!」
女商人「がんばれがんばれ勇者くん! ファイトだファイトだ勇者くん!」
勇者「うおおおおおおおおおっ!!!!!!」タッタッタッタッタッタ
勇者「ハァ……ハァ……も、もう少しだな……」タッタッタ
女商人「ごめんなさい、私のために」
勇者「だ、大丈夫……ゼエ……ゼエ」タッタッタ
魔王「ん?」
魔王「ね、ねえ!」
勇者「な、なんだ……?」タッタッタ
魔王「あれ見て! あれあれ!」
勇者「ん……?」
女盗賊「~♪」スタスタ
勇者「……あっ! あ、赤い髪に大きな鞄……!! 間違いない!!」
魔王「犯人はっけーん!」
勇者「そうと決まれば……うおりゃあああ!!」ドドドドドッ
女商人「きゃっ!」
勇者「ぢゃっぶへああ!!!」ズザァァァッ
女商人「きゃあっ!」ズサーッ
女盗賊「うわっ! な、なんだよテメェら!」
魔王「ださい……ださすぎるよ勇者……」
女盗賊「いきなりコケやがって……って! ゲッ! お前らは!!」
勇者「そ……その荷物……返せ……」ピクピク
女盗賊「や、ヤベェ!!」ダッ
魔王「おっと、逃がさないよー」シュンッ
女盗賊「なっ!!」
女盗賊「あァ? 知らねェな、証拠はあんのかよ?」
女商人「か、鞄の横の部分」
女盗賊「鞄の横……?」
『女商人』
女盗賊「ゲッ! こ、こいつこの歳で鞄に名前書いてやがる!!」
女商人「それが証拠だから、あなたは早く私にその鞄を返した方がいいと思う。
じゃないとそこのとても強い二人にあなたは倒されてしまう」
女盗賊「あぁん? そんなよわっちそうなやつに負ける訳ねェだろ」
魔王「……ほーう」ピクッ
勇者(うわっ……やばそう)
女盗賊「二人とも青臭ェ、温室でぬくぬく育った臭いがプンプンしやがる」
勇者「そ、それ以上言うのはやめた方が……」
女盗賊「あたしみてぇに幼いころから親に捨てられた身のやつはな、毎日生きるために必死なんだよ。
場数を踏んできた経験の差ってのを知ってからきやがれ。こちとら6歳の頃から人の物盗って生活してんだよ」
魔王「経験の差……? せいぜい生きて100年……見たところ、あなたはまだ22,3かそのあたり……ふふっ、笑えるね」
女盗賊「あァ? ……もういっぺん言ってみろコラ」
魔王「魔物年齢にして800歳。数知れない闘いをこの身体で経験してきた。
数々の強敵と対峙し、勝利をこの手に掴んできた。
多くの血を流し、この身を削ってきた。経験の差? 私からしてみたら、随分と青臭い発言だよ」
女盗賊「はァ? 800歳? 何言ってんだテメェ」
勇者(……う、嘘だろ……)
魔王「覚悟は、できてるの?」
女盗賊「……ケッ、上等じゃねェか」
勇者(ヤバイヤバイヤバイヤバイ!!)
女盗賊「はぁぁっ!」タッタッタッタ
勇者「や、やめろ!! 町が消えてなくなっちゃう!!!!」
魔王「ラリホー!!!!!」
女盗賊「」ポヨンッ
おんなとうぞく はねむってしまった!
女盗賊「スカー……スカー……」
勇者「……えっ? あれっ?」
魔王「はい、今の内に荷物取り返してさっさとここから離れちゃおう!」
女商人「……」スッ
勇者「えっ? えっ?」
魔王「ん?」
勇者「……ね、眠らせるだけ? あんなに怒ってたのに?」
魔王「無駄なMP消費は極力避けよう! 最善でスピーディーに。これが強さを極め、長年の経験を積んだ者の答えだよ!
戦闘時に冷静な判断力を欠いちゃったら命なんていくらあっても足りないよ。さ、ほら早く早く!」
勇者「……わ、わかった……」タッタッタッタ
勇者「……」タッタッタッタ
魔王「腑に落ちない?」
勇者「えっ? あ、いや……」
魔王「『どうせなら倒せばよかったのに』とか思ってる?」
勇者「……ま、まあ、正直なところ、そう思ってる。別に痛めつけなくてもさ! ほら、剣士の時みたいに最善でスピーディーにザキで……とか」
魔王「うーん……そうだね。でも今回は剣士とは訳が違うんだよね」
勇者「えっ?」
魔王「女盗賊が息絶えたら、仲間の誰かが教会に連れて行くでしょ? 女盗賊の仲間なんだから盗賊でしょ?
教会で魂呼びもどすにはお金がいるでしょ? じゃあそのお金はどこから来るのって考えたら、
結局私のザキによってどこかの誰かの財産が盗まれることに繋がっちゃうんだよね。
かといって、私達がそのお金を払うほど義理もないし……だから、ラリホー!!」
勇者「……な、なるほど……やっぱり、賢明なんだな」
魔王「もちろんだよ、これでもまおフガッ!」モゴモゴ
勇者「こ、こらっ! 女商人さんにバレるだろ!」ボソッ
魔王「っぷはぁ! ごめん、勇者に褒められて調子に乗っちゃったっ」テヘッ
勇者「賢明っての、前言撤回しようかな……」タッタッタッタ
町の中
勇者「ここまで離れれば大丈夫だろ」
魔王「そだね!」
女商人「ありがとう。お父さんの鞄を取り返すことができた。
一時はどうなることかと思って取り乱したけど、これで今後も生活することができる」
勇者「もう盗まれないように気をつけてね」
魔王「まずは父親の病気を治すのに専念して、治ったら一緒に商人の仕事をすればいいんじゃない?
その方が、もっともっと商売上手になれるよ!」
女商人「ありがとう……。これ、お礼と言ってはなんだけど、受け取って欲しい」チャキンッ
勇者「えっ!? こんな高そうな剣!? いいの!?」
女商人「これはお父さんが自信作って言ってた。だから相応しい人に使って欲しいって。
お父さんも全部話したら怒らないと思うし、勇者くんが相応しいと私は思うから」
勇者「あ、ありがとう……!」ジャキッ
勇者「お父さんの薬代とか、ちょっとでも足しになってくれると嬉しいし」
女商人「それは……別に必要ない」
勇者「え゛っ!? なんで!?」
女商人「売っても5ゴールドにしかならないから……」
勇者「な、なんだってー!?」
魔王「勇者……初期装備のままだったの……?」
勇者「だって出発前に来てそっから特訓しかしてなかったから! 防具だけはじいちゃんのお下がりだから結構良いのだけど、
武器は……」
魔王(……そ、それで魔物の相手を……? も、もしかして……もう十分……)
女商人「では、私は自分の町に戻る。お父さんが待ってると思うから。本当にありがとう。お世話になった。
後、付きまとってごめんなさい」
勇者「ははっ、もう気にしてないよ」
魔王「また、どこかで!」
女商人「……うん、また!」
勇者「お父さんの薬代とか、ちょっとでも足しになってくれると嬉しいし」
女商人「それは……別に必要ない」
勇者「え゛っ!? なんで!?」
女商人「売っても5ゴールドにしかならないから……」
勇者「な、なんだってー!?」
魔王「勇者……初期装備のままだったの……?」
勇者「だって出発前に来てそっから特訓しかしてなかったから! 防具だけはじいちゃんのお下がりだから結構良いのだけど、
武器は……」
魔王(……そ、それで魔物の相手を……? も、もしかして……もう十分……)
女商人「では、私は自分の町に戻る。お父さんが待ってると思うから。本当にありがとう。お世話になった。
後、付きまとってごめんなさい」
勇者「ははっ、もう気にしてないよ」
魔王「また、どこかで!」
女商人「……うん、また!」
魔王「じゃあ、今日のところはもう宿屋n」
勇者「い、いや! 特訓しよう! 特訓特訓!!」キラキラ
魔王(う、嬉しそう……)
勇者「ひゃー、うひょー、かっちょいいなぁー!」ジャキッ
勇者「斬れ味を試したくて仕方ねぇ!! ぬははっ!!」
魔王(嬉しさのあまりありがちな悪役のセリフ言い出した……)
勇者「おーい、魔物ー!」
魔王「……ま、どれくらい強くなったか知りたいもんね」
勇者「うんうん!」
魔物「グオォォッ!!」
まもの が一体あらわれた!
魔王「来たよ!」
勇者「魔王! 早く!」
魔王「え? な、何?」
勇者「何って、ザオリクだよザオリク!」
魔王「え? だ、だってまだ倒してな……」
勇者「もう倒したよ?」
魔王「えっ……?」
魔物「……」グタッ
魔王(い、いつの間に……)
勇者「すっげー!! かなり良いよこの剣!!」
勇者「りゃあああっ!」ヒュンッ シュッ ザシュッ
魔物「ぐぎゃあああ!!!」
魔王「ザ、ザオリク!!」
勇者「ほっ、よっ、そりゃああ!!」シャッ ズバァ!
魔王「ザオリク!」
勇者「はああああああっ!!!!」ビュォッ
魔物「ぐがっ……あが」
魔王「ザオリク! ザオリク!」
勇者「とりゃあっ!!!」ヒュンヒュンッ
魔王「ザ、ザオリク!!」
魔王(お、追いつくだけで……精一杯なんだけど……)
魔王「……」
勇者「な、なんかすごい気がしてきた! 俺って実はメチャクチャ強いんじゃないか!?」
魔王「……」
勇者「……ま、魔王?」
魔王「……そ、そうだね。正直、びっくりしてる」
勇者「ははっ、いやー! 女商人さんのお父さんは本物だな! じゃあ、宿屋探しに行く?」
魔王「あ、あぁ! うん! そだ、ね」
魔王(……私のMPが無くなりかけた……こんなこと……いつぶりだろう。
短い時間しか生きられない分、人間の成長スピードは魔物と比べて計り知れないってのは知ってたけど……
まさかここまで……いや、でも異常過ぎる……勇者には……物凄く才能があるんだ、きっと……)
勇者「うー、疲れたー……」ボフッ
魔王「もう結構暗くなってきたね」
勇者「今日も色々あったな……なんかもう眠くなってきた」
魔王「寝てもいいよ? 私も寝る」
勇者「そ、そう? じゃあ、寝ようかな」
魔王「うん」モソッ
勇者「……」
魔王「……勇者」ギュゥゥゥ
勇者「え!? な、なに!? どうしたの!?」
魔王「ううん……でもちょっと、こうしてていい……?」ギュゥゥゥ
勇者「えっ……う、うん……」
魔王「……ありがと」
ギシ……ギシ……
勇者「……んー? ……」モゾッ
勇者「……ま、魔王? 起きたのか……?」ムクリ
女盗賊「あっ」
勇者「……あっ」
女盗賊「……よ、よォ」
勇者「ああああフゴォッ!」モガモガ
女盗賊「しっ! だ、黙れボケ!」
勇者「フガフガ!」
女盗賊「し、静かにしやがれこのバカ! くそっ!」
勇者(ど、どうすれば……! でも動けないし……! ……んっ? なんだこの2つのお山は……)
女盗賊「こ、これで! 黙ってくれ!」パフパフ
勇者「ほわあああ!」
勇者(や、柔らかい! でもなんだこれ! 目の前真っ暗で見えない!)
女盗賊「」パフパフ パフパフ
勇者「ほおおおっ!」コォォォ
勇者「……」
女盗賊(……よ、よしっ! なんとか静かになったみてェだな)
勇者「……」
女盗賊(金目の物……金目の物)ゴソゴソ
勇者「……待ちたまえ」
女盗賊「」ビクッ
女盗賊「な、なんだよテメェ! まだ意識あったのかよ!」
勇者「下らないとは思わないのか? 盗みなど。いやむしろこの世界がくだらないと」
女盗賊「は、はァ? 何言ってんだコラ、頭狂ったのか!?」
勇者「俺は今すごく冷静だ。むしろこんなに冷静な自分が怖い」
女盗賊「な、なななんだよテメェ気色悪ぃ……」
女盗賊「……な、なんだよ」ゾワッ
勇者「さ、さっきの……ほら……」
女盗賊「あぁ?」
勇者「……パ、パフパフするやつ! あ、あれは素晴らしい……」
女盗賊「テ、テメェ……中々気持ち悪ぃんだな……」
勇者「い、いいから!! パフパフ! パフパフしてよ!!」
女盗賊「う、うわっ!! なんだよテメェ!! ちょ!! 近づくな!!」
勇者「パフパフしてくれよお!!!!」
女盗賊「う、うわあああ!! 助けて!! 誰か助けて!!!!」
魔王「……そのお望みなら……私が叶えてあげるよ……」フルフル
女盗賊「え?」
勇者「あっ」
魔王「ザキ! ザオリク! ザキ! ザオリク! ザキ! ザオリク!」
勇者「ぐっはぁ! いぇーい! ぐっはぁ! いぇーい! ぐっはぁ! いぇーい!」バタンッ スクッ バタンッ スクッ バタンッ スクッ
女盗賊「お、おい!! や、やりすぎじゃねェか!? 大丈夫なのかそれおいィ!!」
勇者「い……いつ……いつから起きてたの……」
魔王「『……待ちたまえ』のあたりから」
勇者「……申し訳ありませんでした」
魔王「あなた!!」
女盗賊「なっ!! えっ!?」ビクッ
魔王「こんな目に会いたくなかったら、今後一切私達を狙わない方がいいよ」
女盗賊「わ、わかってるよ!! こんな目に会うのはもうごめんだ!!」
女盗賊「こ、こんなやつの顔に押し付けられるあたしのスライムがかわいそうだ……」
スライム×2「……」パフパフ
勇者「えっ?」
女盗賊「……じゃ、じゃあなっ!!」ガチャ
魔王「……これが、真実だよ」
勇者「…………か、神様のバッキャロー!!」
魔王「」ツネリ
勇者「あいたたたたたっ!!!!」
勇者「……はぁ、なんかあんまり疲れが取れてない……」
魔王「当たり前でしょっ」
勇者「ううっ……」
勇者「……で、今日はどうする?」
魔王「……そ、だね。ひ、久しぶりに、ゆっくりしよっか! なんて! へへっ」
勇者「え? 特訓は? 次の町までのランニングは?」
魔王「た、たまには無くてもいいんじゃないかなっ? ま、丸一日暇な時があっても!」
勇者「……ど、どうかしたのか? 頭でも打ったか?」
魔王「そんなに私は鬼畜な存在なの?」
勇者「い、いや……いつもと違うから、何かあったのかと思って……」
魔王「べ、別に何もないよっ?」
勇者「そ、そう? ……なら、いいんだけど」
魔王「……」
勇者「……」
魔王「……」
勇者「……な、何もすることがないな」
魔王「そ、そだね!」
勇者「や、やっぱり特訓しようか?」
魔王「……あっ、わ、私! ちょっと宿屋に忘れ物してきちゃった! 取りに行ってくる!」
勇者「えっ?」
魔王「じゃ、じゃあね! そこで待ってて! すぐに戻ってくるから!」
勇者「う、うん……わ、わかったー」
勇者「……なんなんだ?」
魔王「……」
魔王「……」カキカキ
ガチャッ
魔王「」ビクッ
宿主「おや? まだいらしたんですか?」
魔王「あ、び、びっくりした……」
宿主「あの、部屋を片づけたいのですが……」
魔王「も、もう少しだけ待ってもらえないかな? それと一つだけ頼みがあって」
宿主「……頼み? なんです?」
魔王「この手紙を……この部屋に置いたままにしておいて欲しいんだけど」
宿主「……手紙? まあ、それくらいなら、別にいいですけど。今日中に受取人は来るんですよね?」
魔王「た、多分」
宿主「……わかりました」
勇者「魔王遅いなー……」
勇者「特訓でもしとこうかなー、暇だな……」
勇者「……」ジャキッ
勇者「やっぱりかっこいいなあ」ニヤリ
勇者「ほっ! そりゃ!」ブンッ
勇者「……ウズウズしてきた」
勇者「特訓……しに行ってもいいよな?」
勇者「町の外なら探せばすぐ見つかるし……魔王なら頭も良いし……俺が特訓したがってたのも知ってるし。
せっかくの新しい武器を持て余すのももったいないし……」
勇者「……」
勇者「……よしっ!」ジャキッ
勇者「」タッタッタッタ
勇者「ほっ!」ザシュッ
魔物「ぎゃあっ!」グタッ
勇者「魔王がいないと、一回一回魔物を探し出さないといけないから、効率が悪いな」
勇者「なんだか物足りない……」
勇者「おーい! 魔物ー! でてこーい!」タッタッタッタ
勇者「……うーん」
勇者「これは思ったより時間がかかりそうだな」
勇者「……おーい!」タッタッタッタ
勇者「ハァ……ハァ……なんだこれ……効率が悪すぎる……」
勇者「レベル上げって……こんなにも大変だったのか……」
勇者「これは……一旦魔王のところに戻って手伝って貰った方が……」
勇者「って、えっ!? も、もう夕方じゃん!! いつの間に!?」
勇者「やばいやばいやばい……夢中になりすぎてて気付かなかった……」
勇者「ま、魔王はどうしたんだろう……やばい、きっと怒ってるだろうな……」
勇者「町の外って分からなかったんだろうか……」
勇者「……」
勇者「と、とにかく早く戻らないと!!」
勇者「おかしいな……どこにもいない」
勇者「朝いた場所にもいなかったし……もしかして宿屋にいるのか……?」
勇者「……行ってみよう」
勇者「」タッタッタッタ
宿屋
勇者「あの」
宿主「ん?」
勇者「○○号室って、今人います?」
宿主「……ああ、手紙の受取人かい?」
勇者「はい? 手紙?」
宿主「それなら、部屋に置いてあるから勝手に入っていいよ」
勇者「……えっ?」
勇者「……なんだろうあの人。手紙とか何とかよくわからないこと言ってたな」
勇者「おっ、ここか……」ガチャッ
勇者「おーい、魔王ー! いるかー?」
勇者「……っかしいなー」
勇者「……ん?」
勇者「……て、手紙が置いてある……」
勇者「……」
勇者「……」スタスタ ペラッ
『勇者へ』
勇者「!?」
勇者「……な、なんだよこれ……」カサッ
『-果たし状-』
勇者「は? 果たし、果たし状!?」
『よくぞここまで辿り着いた!! 勇者よ!! そのことは褒めてやろう!!
貴様が今いるその町の隣には、何を隠そう魔王の城が建っているのだ!!
つまりは栄えあるラストダンジョンへと貴様は後一歩のところまで来ているのだ!! ふははは!!
そこでだ!! 我はその城にて貴様を待つことにした!! 貴様が真の勇者であると自覚しているのであれば!!
全力で我の城へと辿り着いてみせよ!! 待っておるぞ!!!! ふーっはっはっは!!
魔王より 』
勇者「な、なんだこれ……」
勇者「ってことはなんだ……今、魔王はそこにいるってことなのか?」
勇者「俺に何も言わずに!? か、勝手に行っちまったのか……?」
勇者「…………くそっ!!」
カサッ ヒラ、ヒラ
勇者「……ん? あれっ? もう一枚あるのか……?」
勇者「……」カサッ
『なんて、まあ、1枚目が魔王の表の顔ってことにしておいて欲しいな。
そしてこれが、魔王の裏の顔。1枚目に書いてあることは、本当だよ。
私は今、その町の隣にある私の家にいる。そこで、勇者を待ってる。
この手紙の訳は、勇者に1つのお願いと2つの謝りたいことがあったから。
謝りたいことの1つ目は、こんな形で勝手に行ってごめんなさい。どうしても、顔を合わせて言うことができなかったから。
そして2つ目は、逃げ出してごめんなさい、私は、ある時気付いたの。勇者は、どんどん強くなっていってる。
そしてその強さが、多分、もう私を超えてるってことに』
勇者「な、なんだって!?」
『それでね、怖くなったの。私が負けるとかそういうことじゃなくて、
勇者との闘いが、本当に間近に迫ってるんだって思って。
あのね、こんなこと言うと魔王失格かもしれないけど、裏の顔だから許して下さい。
私ね、もう勇者のことをただの勇者として見れなくなってるんだ。
きっとね、私には勇者を本気で倒そうとか、そういうのはできないと思う。
もう、闘うことはできないと思う。だからね……これが、お願いしたいことなんだけどね、
勇者の方から、私を倒しに来てほしい。私は勇気が無くて、勇者の元へは行けそうにないから、
勇者の方から私のところへ来て欲しい。そして……私の命を、奪って欲しい。
それが、勇者にお願いしたいこと。……じゃね、一方的でごめんね、旅、すごい楽しかったよ。
魔王より 』
勇者「は? ……何言ってんだよ……」
勇者「……ふざけんなよ!! ……」グシャッ
勇者「……そんなの……そんなの俺だって同じなんだよ……」
勇者「勝手なこと言ってんじゃねぇよ!!」
勇者「俺だって……俺だって……」
勇者「くそおおおおおおおっ!!!!!!」ダッ
宿主「あ、お客s」
勇者「ふざけんなああああああ!!!!!!」タッタッタッタ
宿主「あっ……ふう、これでやっと掃除できるよ」
宿主「……ん?」
宿主「……なんか、床に水滴が落ちてるな……」
宿主「……ま、いいか、サッと拭いておこう」
勇者「おおおおおおおっ!!!!!!」ズバッ
魔物「ぎゃああ!」
勇者「」ヒュッ クルッ
勇者「どけええええ!!!!!!」ザシュッ
魔物「ぎえええっ!」
魔物「ガァァッ!」ザシュッ
勇者「ぐっ!! いってえ……」
魔物「グガアアアッ!!!」
勇者「くそっ……くそおおおおお!!!!!!!」ザシュザシュッ
魔物「グフッ!!」
勇者「ふう……ふう……」タッタッタッタ
勇者「おりゃあああ!!!!!」ザシュザシュザシュ
魔物「がはっ!!」
勇者「……もうちょっとだ……もうちょっとのはずだ……!!」タッタッタッタ
『魔王「ザオリク!」』
勇者「くっ……なんなんだよ……ちくしょう……」タッタッタッタ
『魔王「メラミ!!」』
勇者「うおおおおおおおおおお!!!!!」ズバァッ
魔物「ぎっ!!」
勇者「……ぜえ……ぜえ……」タッタッタッタッタッタッタッタ
ッバーン!!
勇者「はぁ……はぁ……やっと……着いたか……」
魔王の城
勇者「……魔王は、どこにいるんだ……」
勇者「やっぱり……最深部だよな」
勇者「……行くしかないか……」
勇者「……」
勇者「」タッタッタッタ
魔王「勇者は……きっと勇者は今ここに向かって来てくれてる……」
魔王「あの手紙を読んで……私の……私の命を奪いに……」
魔王「……ぐすっ……あっ、ダメ……ぜ、絶対……」
魔王「泣がないっで……決めだんだから……」ウルウル
魔王「うぅっ……勇者ぁ……私……私……」
魔王(ダメだ……私……今更、あの手紙に書いたことを……後悔し始めちゃってる……)
魔王(殺してなんて……そんなの……いや、嫌だっ……嫌だよ……勇者ぁ)
勇者「もうちょっとだ……あと少しで魔王に……!」タッタッタッタ
勇者「くっ……さすがに……疲れてきたな……」タッタッタッタ
勇者「ん? ……あの扉は……」タッタッタッタ
勇者「おりゃああっ!!」
バーンッ
魔王「……ゆ、勇者……」
勇者「ハァ……ハァ……」
勇者「ぐっ……ハァ……ハァ……やっと……やっと見つけたぞ……魔王!!」
勇者「お前を……お前の望み通り!!」
魔王「ま、待って!!」
勇者「俺は……お前を……倒しに来たんだ!!!!」
魔王「待って!! 待って勇者!!」
勇者「待てるかよ!!!! せっかく決めた覚悟を!!!! 揺さぶるつもりか!!!!」
魔王「でも!! でもっ!! わた、私!! やっぱり……!!」
勇者「うおおおおおおおおおおおおっ!!!!!!!!!」
勇者「まおおおおおおおおおおおおおおおおおおうっ!!!!」タッタッタッタ
ザシュッ!!
魔王「!! ゆ……勇……者……」
勇者「ハァー……ハァー……」ヒュー
魔王「……」
勇者「……」ジャキッ
魔王「……ゆ、勇、者?」
魔王(あ、あれ……? 私……斬られてない……?)
勇者「今こそ魔王は死んだ!!!!! そして我が目的は達成された!!!!! 今、この瞬間に!!!!!」
勇者「しかし!!!!! まだ終わっていない!!!!!」
魔王「えっ……?」
勇者「我の言葉を聞け!!!! 屍と化した魔王よ!!!!!」
魔王「ゆ、勇者?」
勇者「我は!!!!! 一つだけ魔王に言い忘れていたことがある!!!!」
勇者「……」スタスタ
魔王「えっ? ちょ、ちょっと、何?」
勇者「……魔王」
魔王「……な、何?」
勇者「……好きだ」ニコッ
魔王「……えっ!?」
勇者「……俺は、魔王が、好きだ」
魔王「……ゆ、勇者……?」
勇者「だから、ずっと俺の側にいてくれないか。魔王」
魔王「……そ、そんなの……無理……無理だよっ!!」
勇者「……無理じゃないさ」
魔王「む、無理無理!! 無理だよ!!」
勇者「どうして?」
魔王「わ、私と勇者は、魔王と勇者で!! 勇者が魔王の城に辿り着いたら!! 魔王を倒さなくちゃいけなくて!!」
勇者「……」
魔王「そういう風に運命が決まっていて!! それは誰にも覆せなくて!! だから、だから……!!」
勇者「それがどうした!!!!!!!!」
魔王「」ビクッ
勇者「……忘れたのか!!!!! 少なくとも!!!!!! 俺はその『普通』とやらを!!!!! 威風堂々と侵したやつを知っている!!!!!!!」
魔王「えっ? えっ?」
勇者「お前のことじゃないか!!!!! 魔王よ!!!!!!!!」
勇者「……だから、俺は確認しなければならないことと、行動しなければならないことが一つずつある」
勇者「魔王よ、……貴様は、勇者に負けた!! しかしその因果関係は断ち切れまい!!
幾千幾万と倒し倒されの関係が続いてきたのだ!! ここで終わりな訳がない!!」
勇者「そこで魔王に問う!! 魔王は、勇者より弱いか!!」
魔王「……な、なにを」
勇者「弱いのか!!!!」
魔王「……よ、弱いよ!! 私は勇者に負けたんだもん!!」
勇者「…………そうか」フッ
魔王「な、なに!? なんなの!?」
勇者「ではお前のすべきことはただ一つだろう!!!!」
魔王「す、すべきことって…………ハッ!!」
勇者「そうだ!! この俺を倒す!! その目的を持って!! 旅に出ろ!!
弱き者が強き者を打ち砕き、世の支配層を覆すこの戦争を!! 再び魔王の手により、復活させてみせろ!!!!」
魔王「……ゆ、勇者……」ブワッ
魔王「勇者……!!」
勇者「これで確認は終えた!!!! 残るは、行動のみ!!」
勇者「……魔王、そこで、待っててくれ」
魔王「うん! ……うんっ!!」
ガチャッ
勇者「……来ちゃったっ」
魔王「……勇者ぁっ!!!!」ダキッ
終わり
当然のことだけどなんかもうそれだけでいいや満足
保守ありがとう
お疲れ様
最後の終わり方がめっちゃ良かった
面白かったぜ!
頑張った
よく完結させた
Entry ⇒ 2012.03.03 | Category ⇒ 勇者魔王「」SS | Comments (0) | Trackbacks (0)
女僧侶「今日タイツの代わりにボディペインティングなのに全然バレない…」
http://hayabusa.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1329472791/
僧侶 (ビクッ)「は、はい?何でしょう?」
勇者 「次の町に行く前にもう少しここら辺でレベル上げしようかなと思ってるんだけど…どうしたの?顔赤いよ?」
僧侶 (バレたっ!?)
勇者 「具合悪いの?大丈夫?」
僧侶 「い、いえ!なんでもありません!」ザザザッ
勇者 「そ、そう?ならいいけど…何で逃げる?」
僧侶 (ふぇーん…こんな恥ずかしい想いするなら、昨日遊び人の変な賭けに乗らなきゃよかったよー!)
遊び人 「僧侶僧侶そーうーりょー」
僧侶 「はい?どうしました?ご飯はもう少し待ってくださいねー」
遊び人 「まだお腹はへいきー。それよりさ、そーりょ?」
僧侶 「はい?」
遊び人 「北風と太陽って知ってる?」
遊び人 「そうそう!あれさー、太陽って性格悪くない?」
僧侶 「へ?」
僧侶 「攻撃って…」
遊び人 「あれ順番逆だったら絶対北風が勝ってたと思うんだーずるいよねー」
僧侶 「いえ、あれは『物事は柔軟な思考を持って対処せよ』と云う戒めであって…」
遊び人 「それより何より旅人も要領悪い!暑くて脱ぐ位ならはじめから着るな!」
僧侶 「はは…それは流石に…」
僧侶 「いやいや…だって服着るのは普通の事ですよ?まさか裸で旅する訳にいかないでしょう」
遊び人 「そんな事ないよー!ギャクテンのハッソーだよ!」
僧侶 「そもそも裸でうろついていたら、周りがビックリしちゃって仕方がないじゃないですか」
遊び人 「じゃあ勝負しよ!」
僧侶 「え?」
僧侶 「今思えばなんでこんな勝負を受けてしまったのやら…」
勇者 「ん?何か言った?」
僧侶 「いえ!何でもありません!何も言ってないのでお願いですからそれ以上こちらに近付かないでください!!」
僧侶 「は、はい!すみません!ありがとうございました!」
勇者 「う、うん…ほんとに無理しないでね?」
武闘家 「おーい!勇者ー!そろそろいこうぜー!!」
勇者 「あ、うん、今行くー」
勇者 「遊び人?」
武闘家 「いいのかい?ほいほいついて来て。俺はスライムでも構わずふるぼっこだぜ?」
僧侶 「ぶ、武闘家さん?」
勇者 「と、とにかく。目標はここで全員3レベルはあげる事」
僧侶 (よかった…ここなら薄暗いから外よりは目立たないかも…)
勇者 「ただ、今日は僧侶の調子があんまり良くないみたいだから、皆でカバーしながら進もう」
僧侶 「ふぇ!?いえ、大丈夫ですここなら!!」
遊び人 「んんー?そーりょ具合でもわるいのー?熱でもある?」
僧侶 「いえ、熱があるというかスースーして風邪引きそうというか…」
武闘家 「うい」
遊び人 「ほーい」
僧侶 「はい!」
勇者 「よし…それじゃ行きますか!」
遊び人 「こーいう時に限って中々敵出ないねー」
武闘家 「出て欲しくない時には出て、出て欲しい時には出ない…」
僧侶 (冷えてお腹痛くなってきた…)
~効果音♪~
勇者「お?」
ー何か強そうな敵が現れた!ー
武闘家 「任せときな!どりゃぁあああああ!」
武闘家の攻撃!
強そうな敵に48のダメージ!
勇者 「よし!僧侶は援護を頼む!いくぞー!!」
勇者の攻撃!
強そうな敵に62のダメージ!
僧侶 「はい!」
僧侶の攻撃!
僧侶はマヌーサを唱えた!
遊び人 「ゆーしゃー?私はー?」
勇者 「邪魔しないでくれれば嬉しい!」
勇者 「ふぅ…」
武闘家 「意外と苦戦したな…」
遊び人 「何か一気に疲れたーかえろー?」
武闘家 「お前は何もしてないだろが…。僧侶、べホイミしてくれないか?」
僧侶 「あ、はい…んっ…」
勇者 「僧侶?どうしたの?」
遊び人 「あれれ?そーりょ凄い汗!」
僧侶 (お腹いたい…)
勇者 「本当だ…今の戦いで怪我でもした?」
僧侶 「い、いえ!大丈夫です!武闘家さんごめんなさい、ニフラムでしたっけ?」
武闘家 「今は私の方がレベル高いぞ…」
遊び人 「けど本当に顔色悪いよー?そーりょだいじょぶ?」
僧侶 「ーっ!ちょっと遊び人さん、こっち来てもらえますか…」コソコソ
遊び人 「んにゃ?」
僧侶 「賭けは私の負けでいいです…だからもう服を着させてもらっていいですか…?」コソコソ
遊び人 「服?着る?」
僧侶 「覚えてない…だと?」
遊び人 「あー!僧侶服着てないー!!」
遊び人 「むぐむぐ…」
僧侶 「本当に覚えてないんですか!?昨日『服なんて着てなくてもばれないよー』って言ってたのは遊び人さんでしょうが!」
遊び人 「むぐむぐ…」
僧侶 「大体そんな大声出して勇者様に聞かれたらどうするんですか!」
遊び人 「むぐ…」
僧侶 「ただでさえ普段から恥ずかしくて勇者様の顔なんてロクに見れないのに、今日一日裸で居たなんて知られたら私どうしたらいいんですか!もう!」
遊び人 「…」
僧侶 「そりゃ武闘家さんに比べれば若干ぷにぷにしてますが!?でも武闘家さんより出るとこでてるし、肌も綺麗だし負ける要素はないとは思ってますが!!」
遊び人「」
遊び人 「」
僧侶 「」
遊び人 「」
僧侶 「ザオリク」
遊び人 「ハッ」
遊び人 「危なかった…川の向こうでおばあちゃんが呼んでた…」
僧侶 「とは言っても…もうダンジョンに入ってしまったし、着替えるのは無理そうですね…」
遊び人 「おばあちゃんお小遣いくれるって言うんだもん…そりゃ渡りたくもなるって…てか渡るって誰でも…」
僧侶 「という訳なので遊び人さん?ここから出るまでの間フォローお願いしますね?」
遊び人 「え?あ、わかったよおばあちゃん」
武闘家 「…いきなり走り出すから驚いたよ」
遊び人 「ほっぺいたい」
勇者 「な、なんか遊び人の頬赤くなってない?」
僧侶 「ああ、さっき向こうでスライムにつねられてて」
勇者 「そ、そうなんだ?随分アグレッシブなスライムだね…」
僧侶 「ところで勇者様、申し訳ないのですがやはり気分が優れないので今日は早めに切り上げさせて戴きたいのですが…」
勇者 「ああ、うん。それは構わないよ」
武闘家 「そうだな…さっきから赤くなったり青くなったり、かと思えばご機嫌だったり、今日の僧侶はちょっと変だもんな」
僧侶 「あ、はい!それじゃ行きましょう!」
武闘家 「トラップがあるかも知れないから慎重にな」
勇者 「よっと…なんだ薬草か…」
遊び人 「トラップってこのロープ?」
武闘家 「ああ、そういうロープは怪しいな」
勇者 「おーい、脱出するよー」
武闘家 「今行くー」
遊び人 「うずうず」
武闘家 「僧侶ー大丈夫かー?」
僧侶 「ええ、なんとかー」
遊び人 「うずうずうず」
勇者 「いい?いくよ?リレミト!」
遊び人 「えい!」
ぶしゃーーー!
武闘家 「あつ!」
僧侶 「お湯!?罠!?」
遊び人 「あははははは」
ーダンジョン外ー
勇者 「あーもうぐしょぐしょ…」
武闘家 「全くこいつは…」
遊び人 「まったく…」
勇者 「キミの事だよ…僧侶は大丈b」
僧侶 「あ、ええ…火傷する程の熱湯ではなかったですし…」
武闘家 「でも服は脱げる程の水圧だった、と」
僧侶 「え?あ?きゃーーーーー!?」
遊び人 「そーりょはだかんぼー」
僧侶 「勇者様見ないで!見ないでくださいー!!」
僧侶 「勇者様…見ないで…」グス
武闘家 「なるほど、今日僧侶の様子がおかしかったのはこれが原因か…」
勇者 「いや、まあ、そうじゃないかなーとは思ってたしね」
僧侶 「はう!?」
遊び人 「あ、ゆーしゃ気づいてたんだ?」
勇者 「うん…さっき戦闘終わった後、僧侶背中丸見えだったし…」
僧侶 「はうぅ…汗でおちちゃったのか…」
遊び人 「まあでも、別に恥ずかしがる事はないんじゃなーい?」
武闘家 「まぁな」
僧侶 「それはそうですけどー…」
遊び人 「どうせ女だけのパーティなんだし」
終わり
皆さんこんな駄文にお付き合いありがとうございました
なるほど
乙
Entry ⇒ 2012.03.03 | Category ⇒ 勇者魔王「」SS | Comments (0) | Trackbacks (0)
♀魔王「毎晩寝る前に勇者の日記を覗くの」wktk
http://hayabusa.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1329487717/
○月×日 晴れ
今日は畑で働いていたらお父さんがボクを呼びました。
王宮からの使者がボクを連れに来たから付いていきなさいとのことでした。
王宮に行ったことなんてないし、何で王宮でボクのことを呼ぶのかもわからなかったけど、取り敢えず付いて行きました。
初めて行く王宮は凄く大きくて、うちとは比べ物にならないほどの凄い建物でした。
中に入ったら、凄く高そうなツボや絵とかがいっぱい飾ってありました。
あのツボなんて、うちの畑の年収より高そうです。
♀魔王「暢気な勇者だねー」センベーオイシー
もうスレ落ちそうけど大丈夫かな
「おお、勇者よ、君は魔王を倒すための勇者として選ばれた」
と伝えました。
十秒間ぼーっとしながらその言葉の意味を考えて、やっとその意味が理解出来て
「あの、ボク、勇者って名前じゃありません。きっと人違いだと思います」
と答えました。
♀魔王「…プッ」
話を聞くと、ボクは王宮の占い師の占いによって、魔王を倒す勇者に選ばれたようです。
大変なことに、ボクは剣なんてお母さんのお手伝いする時にしか握ってみたこがありません。
「一人だけで魔王に挑むわけではない。お前には十分な援助と武具を与えよう。それらを使って仲間を探すといい」
と王様は仰りました。
そんなお金があるならボクよりもっと強い人を勇者に選んだ方がいいんじゃないかな、と思いました。
♀魔王「正論すぎる」
王様から武具と、あと、国の人たちにボクが勇者ということを証明するための王さまからの証明書をいただきました。
証明書にはなんか文字がいっぱい書いてましたけど、ボクにはそれらを全部読むことができません。
それにしても、これから、本当に勇者として魔王を倒すために行かなきゃならないようです。
ボクはただ畑を耕して過ごして来たいただけなのに…
「酒店に行くと、仲間を探せるだろう」
とお父さんが教えてくれたので、私は酒店に行きました。
「子供は入ってきちゃダメだ」
って門前で追い出されました。
どうすればいいのかわからなくなっちゃいました。
♀魔王「!!!」パンパンパンパン<<ベッドを叩く音。
今日は教会に行きました。
神父さんに勇者になりましたと言ったら、神父さんは驚きながらも
「神さまのご加護がありますよう…」
と祝福をしてくれました。
祈祷をしてから帰ろうと思ったら、神父さんがちょっと待ちなさいと言ったので待っていたら、
僧侶のお姉ちゃんと一緒に出てきました。
僧侶お姉ちゃんはいつも告解する時の部屋に居たり、祈祷する部屋に居たりして、ちゃんと顔を見たことがありません。
そんな僧侶お姉ちゃんですが、ボクの仲間になってくれるそうです。
ありがとうって言ったら、僧侶お姉ちゃんは顔を赤くしながら
「こちらこそよろしくお願いします」
と言ってボクの手をぎゅって握ってくれました。
♀魔王「こいつ絶対ショタコンだ」
次の日、僧侶お姉ちゃんと改めて酒店に来ました。
今回は王さまからもらった勇者の証明書を見せると、通してもらえました。
中に入ると、まだ昼頃なのに中はちょっと暗いです。
「あの、ボク勇者で一緒に行く仲間を探しに来ました」って大勢の人たちに言ったら、
その時周りの視線がボクに集まりました。
驚いて僧侶お姉ちゃんの後ろに隠れちゃいました。
周りからがやがやする音が聞こえて、女の人が一人ボクの前に来ました。
「お前がほんとに勇者なのか?」
と聞かれたので、うんって答えました。
「じゃあ、私が付いていってあげるよ。私は女戦士だ」
こうして戦士のお姉ちゃんが仲間になってくれたよ。
♀魔王「子供相手に偉そうにしてるなー」
僧侶お姉ちゃんと戦士お姉ちゃんと一緒に村から出発しました。
お母さんは泣いて、お父さんは誇らしげな顔でボクを送りました。
お母さんとお父さんから離れるのは嫌だけど、頑張ってみようと思います。
これからほんとに魔王を倒すための旅が始まります。
♀魔王「…あ、そういえば最終的に私この子と戦わなきゃいけないんだ」スッカリワスレテター
「全然大丈夫さ。戦い始めたらこうじゃないと暑苦しいんだ」
って言いました。
後ろで僧侶さんが
「……ッチが」
って言いましたけど、良く聞こえませんでした。
♀魔王「あんたは知らない方が良さそうね(汗)」
今日は旅を始めて初めて魔物に会いました。
といってもただのスライムなのに、ボクは慌てて重い剣を振ろうとして倒れてしまいました。
膝から血が出て痛かったんですけど、僧侶お姉ちゃんがホイミをかけてくれたので、直ぐに治りました。
ありがとうって言ったら前みたいに顔を赤くしてボクから目を逸らしました。
スライムは全部戦士お姉ちゃんが倒してくれました。
戦士お姉ちゃんってすごいなって思いました。
♀魔王「よわいな、おい。そんなんで私を倒せるか」
旅してから初めてちゃんとした村に到着しました。
魔物たちを倒したお金で旅館費を払おうとしたら戦士お姉ちゃんが、
「お前、勇者じゃん、じゃあ国から証明書もらったのあるだろ」
最初はどういうことかわからなかったけど、
戦士お姉ちゃんの話によると、勇者一行は旅館にタダで泊められるそうです。
でも、そんなことしたら宿屋さんに悪いと思ったので、僧侶お姉ちゃんと相談して、結局お金を出しました。
雨が振ったので、旅は中止にして今日はこのまま泊まることにしました。
お金にそんなに余裕があるってわけじゃないのでちょっと心配です。
雨が長く続かなきゃいいんだけど……
戦士お姉ちゃんは「だから言ったじゃない。無理して…」
そしたら僧侶お姉ちゃんが「人に受けた恩の分だけ返すというのは人が生きることで最も基本なことだと思います」って言いました。
ボクも僧侶お姉ちゃんの言う通りだと思います。
♀魔王「この勇者すっごい損する性格してるなー」
今日は晴れでした。
旅を再開出来て良かったですけど、雨が振ったせいで道がじめじめしてちょっと大変でした。
魔物に会いましたけど、やっぱり戦士お姉ちゃんがやっつけちゃいました。
ボクは何も出来ない気します。勇者なのに。
♀魔王「うーん…あれよ……頑張れ」
今日着いた村の村長さんから頼みごとがあるって言われました。
どうやら畑をめちゃくちゃにする魔物があるようでした。
畑を壊される怒りを知っているボクは、戦士お姉ちゃんと僧侶お姉ちゃんと相談もせずに村長さんの頼みをのんでしまいました。
戦士お姉ちゃんにちょっと叱られましたけど、お姉ちゃんたちも手伝ってくれると言いました。
今夜は徹夜して、畑に来る魔物を監視します。
♀魔王「…よめた」
♀魔王「>>33子供に雨の中歩かせるつもりかよ」ガオー
……徹夜するつもりが、いつの間にが寝ていました。
朝起きたら、戦士お姉ちゃんと僧侶お姉ちゃんが畑を乱した魔物たちを倒してくれてました。
ボクが受け取っておいて、独りで寝過ごしてしまったのがとても恥ずかしくて泣きそうになったのですけど、
お姉ちゃんたち二人とも大丈夫って励ましてくれました。
村長さんからお礼にお酒をもらいました。
お姉ちゃんたちにまだ子供だからダメって言われました。
♀魔王「期待通りすぎるよ、この勇者」
最近考えたのですけど、
ボクたちのパーティーって、戦士お姉ちゃんばかり戦って、ボクはあまりに前衛として戦えていません。
というより、ボクって未だちゃんと剣も振れません。
いつまでも戦士お姉ちゃんにばかり荷を背負わせるわけにはいけないと思いました。
前衛で戦える仲間さんをもう一人探した方が良さそうです。
♀魔王「いや、あんたが鍛えなさいよ!」
一晩寝てから考えると、ボクが鍛えれば全て済む話でした。
と思って、戦士お姉ちゃんに剣を教えて欲しいと言ったら、
「よし、じゃあまず村50周だな」
「え!?」
ボクは剣が習いたかっただけなのに。
♀魔王「村50周ってこの女戦士…」
朝起きたら体中が痛くて布団から出られません。
筋肉痛だそうです。今日は何もできずに布団の中で休んでました。
僧侶お姉ちゃんが戦士お姉ちゃんに凄く怒ってましたけど、元を言うとボクが弱いのがいけないと思います。
僧侶お姉ちゃんにそう言ったら僧侶お姉ちゃんが涙を汲みながら部屋を出て行きました。
やっぱボクが弱すぎて僧侶お姉ちゃんも呆れちゃったのだと思います。
♀魔王「女戦士表でろ」
なんとか動けそうになりました。
戦士お姉ちゃんが謝ったのですけど、元を言うとボクがいけないので、
今度からはちゃんと剣術教えて欲しいって言ったら、戦士お姉ちゃんはまかせなさいと頼もしくいってくれました。
でも、もう走るのは嫌です。
♀魔王「正直ものだなー。良いことよ」
戦士お姉ちゃんにその剣はお前に似合わないって言われたので武器屋に来ました。
確かにこの長くて重い剣なんて、ボクには持つことさえもちゃんと出来ません。
ボクに使えそうな短剣をみつけたのですが、値段が高くて今ある金じゃ買えません。
今ある剣は王さまからもらった剣なんだから売るのもどうかと思ったのですけど、戦士お姉ちゃんが
「じゃあ、私の剣売って買おう」
って言いました。
じゃあお姉ちゃんはどうするのって聞いたら、ボクの長剣を使ったら良いって言いました。
それでも、自分の愛剣を売ってくれるなんて、ボクは戦士お姉ちゃんに何度も礼を言いました。
この短剣は絶対大事に使います。
♀魔王「……っちが」
今日初めて魔物を自分の力で倒しました。
僧侶お姉ちゃんに何度もホイミかけてもらいましたけど、初めて自分だけで倒せました。
凄く嬉しくて、つい戦士お姉ちゃんに抱きついたら、戦士お姉ちゃんに怒られました。
戦士お姉ちゃんに嫌われるのは嫌なのでこれからはしないようにしようと思います。
♀魔王「ざまぁm9」
村に着いたので戦士お姉ちゃんに剣を教えてもらうことにしました。
僧侶お姉ちゃんがちょっと休んでやってっておやつを持ってきてくれました。
「あまり食わせると続けて鍛錬できないぞ」
「対練は今日はそれ程で良いんじゃないでしょうか。勇者ちゃんもお菓子食べた方がきっと嬉しいと思いますよ?」
「……」
「……」
なんかお姉ちゃんたちが睨み合ってたから食べづらくなってたら、二人ともそんなボクを見て睨み合うのをやめて一緒に食べてくれました。
その日はそれで鍛錬は終わりました。
♀魔王「このパーティーなんか危ういんだが、色々」
魔王とか魔法得意だよねー
歩いてる途中で大雨が振ってきたので三人ともびしょ濡れになっちゃいました。
そこにあった洞窟に入って、びしょ濡れになった体を火を起こして服は脱いで乾しました。
二人とも風邪引くから服脱いだ方が良いって言っても、大丈夫だって聞いてくれませんでした。
明日風邪にならないか心配です。
♀魔王「…突っ込まない」
僧侶お姉ちゃんが風邪を引いちゃいました。
僧侶お姉ちゃんは服が完全に体にくっつくからもっと大変だって心配してたのに予想通りでした。
早く村に着いて宿屋で休んだ方が良いって相談して、僧侶お姉ちゃんには申し訳ないと思いつつ、先へ進みました。
僧侶お姉ちゃんがくしゃみをするから大丈夫か心配になって近づこうとしたら
戦士お姉ちゃんが伝染ったらダメだって止められました。
それから村に付くまで、ずっと僧侶お姉ちゃんは独りで歩いて、戦士お姉ちゃんはボクとおしゃべりしました。
♀魔王「これ地味に争奪戦になってるじゃない」
宿屋を見つけたので僧侶お姉ちゃんが治るまでしばらく待機です。
宿屋のおばさんに頼んで僧侶お姉ちゃんのためのお粥をもらって僧侶お姉ちゃんの所に行きました。
僧侶お姉ちゃんが食べさせて欲しいって言いましたので、ボクが口でふーふーって冷ましてから
僧侶お姉ちゃんにあーんて言ってって言ったら、僧侶お姉ちゃんはなんかさっきよりも熱が上がったように顔を赤くしました。
でも、なんとか口を開けて食べてくれようとした時、部屋に戦士お姉ちゃんが入ってきて
「勇者!鍛錬するぞ!」
「え、あ、ちょっと待って、今僧侶お姉ちゃんにお粥食べさせて」
「そんなの自分で食えば良い!お前は早く来い!」
って無理やりボクを持ち上げて僧侶お姉ちゃんを一人にして出てきちゃいました。
明日は僧侶お姉ちゃんの風邪が治ったらいいなと思います。
♀魔王「盛り上がってまいりましたよ?」
ようやく僧侶お姉ちゃんの風邪が治りました。
聞いた話ですが、勇者のパーティーは普通4人パーティーだそうです。
それだとボクたちはもう一人要るかなぁと思ってお姉ちゃんたちに相談してみたら
「勇者は私だけじゃ頼りないって言いたいのか!」
「そうです!後衛は私一人だけでも十分です!コレ以上増やされちゃ困ります!」
ってなんか二人とも怒ったのでちょっと怖かったです。
この話は当分しないことにしようと思います。
♀魔王「『何が』増やされると困るんだろうか」ニヤニヤ
夜おしっこがしたくて起きてトイレに行こうとしたら、外から誰かが話してる声がしました。
耳を傾げたら、戦士お姉ちゃんと僧侶お姉ちゃんが話していました。
「……負けないわよ」
「こちらの台詞です。女戦士さんなんかに…」
…なんか、二人とも雰囲気が良くないです。
明日話してみることにします。
♀魔王「気付かれた」
「お姉ちゃんたち、もしかして喧嘩してる?」
って言ったら、二人とも同時に
「いや」「いいえ」
って返しました。
二人が言うことだから本当だと信じて、
「ボクはお姉ちゃんたち皆好きだよ」
って言ったら、二人とも顔を赤くして中央のボクから目を逸らしました。
……ボクってもしかして実は嫌われてるのかな。
♀魔王「このパーティーはこのままで大丈夫か?」
ある村に言ったら、お祭りが始まっていて、周りから沢山の人たちが集まってって、泊まる部屋がありませんでした。
やっと空いてるところを探したんですけど、一人室が一つしか残ってないって言われました。
仕方ないのでその部屋を借りました。
ボクは床でも大丈夫だからお姉ちゃんたちは二人で布団で寝てって無理やり説得してそう寝ました。
追記:朝起きたらボクがお姉ちゃんたちの真ん中に挟まれて寝てました。
♀魔王「和平した?!」
♀魔王「>>103布団で川文字でしょjk」
ちょっと村のお祭りに参加することにしました。
村の中央に準備されてる舞台で踊り子のお姉ちゃんが踊ってって、それを見る村の人たちが皆盛り上がってました。
ボクは人群のせいで良く見えなくて、戦士お姉ちゃんに肩車して欲しいって言ったら僧侶お姉ちゃんは
「勇者さまが見て良いものではありません」
「そうだな。私もそう思う」
戦士お姉ちゃんもそう言いながら肩車してくれなくて結局ボクは踊りが見れませんでした。
ちょっと残念です。
♀魔王「なんか二人が気が合い始めたよ、なにがあったの」
祭りも終わって出発しようとしたら、なんか戦士お姉ちゃんほど服の布が小さい褐色肌の人が来て、
「あなたたち、勇者一行でしょ?三人だけだったら私も一緒に行きたいのだけど」
ボクはもちろん引き受けようとしたんだけど、お姉ちゃんたちは
「帰れ」
「汚らわしいのは女戦士さんだけで十分です」
と猛反対しました。
踊り子お姉ちゃんには申し訳ないけど、ボクたちは暫く三人でやっていきそうです。
♀魔王「ガード固杉ワロタ」
恐る恐るも、お姉ちゃんたちにどうして四人目の人が入るのをそんなに嫌がるのか聞きました。
「コレ以上増えたら困る」
「なんで?仲間が増えたら戦いやすいと思うよ?」
「いや、そういう問題じゃない」
じゃあどういう問題なのかって聞き返そうとしたのだけど、あまり問い詰めても答えてくれそうにありませんでした。
僧侶お姉ちゃんに聞いてみたら、
「…勇者さまは私だけじゃあ不満ですか?」
って泣かれちゃって、その日は僧侶お姉ちゃんと一緒の布団で抱き枕にされなければなりませんでした。
♀魔王「おい、さりげなく一歩置いとかれたぞ、女戦士」
追記:次の日起きたら、戦士お姉ちゃんが「僧侶おまえー!今夜は私の番だからなー!」
となんか凄く怒って直ぐに倒れちゃいました。戦士お姉ちゃんって朝低血圧なのに熱くなっちゃって……どうしたんだろ。
最近は普通に道で現れる魔物には普通に対応できるようになりました。
レベルもそれなりに上がっていると思います。
やっと勇者として少しは自身を持っていいかなぁと思ったんだけど、
取り敢えず、戦士お姉ちゃんに勝てるように頑張ろうと思います。
最近は戦士お姉ちゃんと対練することもあるんですけど、時々姿勢が崩れて倒れそうになると、戦士お姉ちゃんがいつも受け止めてくれます。
その後凄く怒られるけど、その度にどんどん受け止める時の力が強くなっていく気がするのは何ででしょうか。
対練した後には、汗臭くなるので寝る前にちゃんとお風呂に入ります。
一人じゃ髪が洗えなくて、いつも僧侶お姉ちゃんに手伝ってもらいます。
そういえば、戦士お姉ちゃんと対練する日っていつも僧侶お姉ちゃんと一緒にお風呂に入る気がします。なんでだろう
♀魔王「二人の間に役割分担がしっかり行われてる」
♀魔王「>>117そんな感じ。でも日記しか覗かないそれが私のジャスティス」
新しく着いた村の宿屋に行ったら、なんか受付の所で騒がしい声がしました。
「もういい加減出て行ってください」
「なんだと?俺達は勇者だぞ!俺たちがいつまでここに居ようが俺たちの勝手なんだよ。それともなんだ、勇者の俺を蔑ろにして、ただで済むとでも思ってるのか?」
なんか男一人と他の三人が、宿屋の主さんと喧嘩していました。
その中の男一人は、自分を勇者って言ってました。
…あれ?勇者はボクだよ?
勇者って一人だけじゃなかったのかな。
その人たちに話をかけようとしたら、
「あ、なんだ餓鬼。俺は忙しい。泊まるのなら他所に行け」
と相手にしてくれませんでした。
戦士お姉ちゃんが怒ってその人に文句を言おうとしたのですけど、ボクと僧侶お姉ちゃんが泊めました。
結局その日ボクたちは他の宿屋に泊まりました。
今まで忘れてたんだけど、王さまからもらった勇者の証明書というものにはいろんな勇者の特権に付いて書いてありました。
内容は大体関門などで見せたら通してもらえたり、宿屋が無料だったり、酒店で自由にパーティーの人を集められたり、
そういう旅する時に便利なことたちでした。
でも戦士お姉ちゃんに聞いてみると、そういうことを悪用して、魔王を倒すつもりもなく、ただ昨日のように宿屋に居座って営業の邪魔をしたり、
人の家の箪笥を勝手に調べて金を持って行ったり、
村で誰かが置いておいたツボや箱を壊すなどなど、色んな不良なことをする輩も居るようです。
昨日会った人たちは今はこの村に居ないようですけど、その人たちが長く居たせいか、ボクたちが居る宿屋の主さんのボクたちへの視線もあまり優しくはありません。
この村には長く居られそうにありません。
♀魔王「……下衆が」
◎月▽日 晴れ
さっさと旅立とうと準備していたボクたちの前にある女の子が立ち塞がりました。
「ちょっと、あなた、勇者だよね」
そうです、って答えたら
「私に魔法使いなんだけど…あんたさえ良かったら、仲間になってあげてもいいんだけど」
なんか変な調子の魔法使いさんでしたけど、仲間になってくれたら助かると思いました。
でも、お姉ちゃんたちが反対するんじゃないだろうかって恐る恐る後ろを向いてみると、
「いいんじゃね?」
「私も……あれぐらいなら宜しいかと」
と案外引き受けてくれて、ボクも良いって言いました。
「感謝なさいね。私ほどの強者があなたのために戦ってあげるって言うのだから」
なんだか良くわからないけど、仲間が増えて嬉しいでうす。
魔法使いちゃんは本当に強かったです。
普段ならボクと戦士お姉ちゃんが何度も回復してもらって勝つ魔物でも、一気に焼き払ってくれて
旅中で戦う時間を凄く短縮出来ました。
魔法使いちゃんってすごいねーって言ったら、
「こ、これぐらい出来て当然よ。寧ろこれぐらいで手こずるとかそれでも勇者なの?」
って言われて、ちょっと恥ずかしかったです。
もっとちゃんとした勇者にならなきゃと思いました。
新しく着いた村で、村長さんにトロールたちを倒して欲しいって依頼を受けました。
トロールって大勢で群れを作って住むことが多いらしくて、今回はそのトロールたちの洞窟に行って、洞窟たちを倒さなければなりません。
「トロールは馬鹿そうでも、地味にズル賢いから、ちゃんと作戦立てないで入ると返り討ちされるわよ」
って魔法使いちゃんが言ったので、四人で一緒に宿屋で作戦を建てました。
まず守るべきことは、絶対にバラバラにならないこと。
後、体力的に弱い僧侶お姉ちゃんと魔法使いちゃんを前後で守るようにボクと戦士お姉ちゃんが一人ずつ立つ。
そして何よりも囲まれそうな所に足を踏み入れない。
この三つは基本的に守りながら、トロールの洞窟を攻略することにしました。
魔法使いの登場以来、魔王の独白が無くなっていることに
まさか魔法使いって…
その後、作戦通りにどんどん奥へ進んでいきました。
でも、おかしなことに結構進んだのに歩哨以外のトロールの姿が見当たりません。
「嫌な予感がするね」
魔法使いちゃんがそう呟くと同時に、
突然周りから一気に大勢のトロールたちが現れました。
「なっ!囲まれたぞ!」
「勇者さま、私の後ろに隠れてください」
僧侶お姉ちゃんがそう言ったけど、ボクは僧侶お姉ちゃんを守るって約束したから立った場から逃げなかったよ。
何があっても、僧侶お姉ちゃんと魔法使いちゃんを守る。
そう思ってたけど、なんかおかしかったよ。
「おい、あいつら襲って来ないぞ?」
ほんとにトロールたちは周りを囲んだだけで襲って来ようとしなかったよ。
「ふん、馬鹿な奴らめ、それでも私を見ぬくぐらいの脳みそがあって助かったな」
魔法使いちゃんがそう言った時、ボクはびっくりしたよ。
魔法使いちゃんがそう言うと、その瞬間トロールたちは包囲を解いて各々洞窟のあっちこっちに逃げていったよ。
「おい、魔法使い、お前……一体何者だ?」
「何者って?さあ雑魚どもは逃げたし、さっさとボストロールの頸とって村長の所に行きましょう」
「魔法使いさん……」
魔法使いちゃん……
話だけでトロールたちを逃げるほどに強いんだ。
「ちょっと待て、魔法使い」
でも、村に帰ろうとした時、戦士お姉ちゃんが魔法使いを呼びました。
「お前、さっきのアレ、一体何なんだ?」
「そうです。どうでもトロールたちの優勢な状況でしたのに、魔法使いさんの一言で逃げてしまうなんて何かがおかしいです」
ボクはお姉ちゃんたちが魔法使いちゃんをどんな風に疑ってるのか気づいて、魔法使いちゃんのことを庇おうと思いました。
「お姉ちゃんたちやめてよ。魔法使いちゃんのおかげで皆無事なままボストロール倒せたんだよ。ボクたちを助けてくれたから攻め立てるなんておかしいよ」
「いや、それはそうだけど、勇者…」
「勇者さまも見たじゃないですか。トロールたちが怖がる姿。あの魔法使いさんは、あのトロールたちが本能的に恐れるほどの人物なのですよ?」
「いいことじゃない!そんなに強い人がボクたちの仲間だったら、きっと魔王が相手でも簡単に倒せちゃうよ」
勇者「え?」
魔法「あはははっ、やっぱあんたって面白いよ、勇者ちゃん」
勇者「魔法使いちゃん?」
魔法「まだわからないの?私が誰なのかって」
勇者「え?魔法使いちゃんは魔法使いちゃんだよ?」
僧侶「…!まさか…!」
戦士「なんだ、僧侶」
僧侶「勇者さま!今直ぐそいつから離れてください!」
勇者「どうしたの、僧侶お姉ちゃん?何で皆ボクが分からないこと言うの?」
魔法「あなたがどうしようもなく馬鹿正直だから分からないのよ。ばか。ま、そういうあんたも嫌いじゃないけど」
勇者「どういうことなの?」
僧侶「知能の低いトロールさえも分かるほどの力の差。魔物の中でそんな力を持った者は、一人しかいません」
戦士「まさか、こいつが……魔王?」
勇者「…え?」
♀魔王「そうだよ、勇者ちゃん、私が魔王。あなたが倒そうと思っている魔族の王だよ」
勇者「……」
戦士「勇者、早くそいつから離れろ!」
勇者「…魔王……魔法使いちゃんが…」
♀魔王「驚いた?驚いたでしょうね。せっかく仲間が加わったと思ったら直ぐに裏切られたもの」
勇者「…ごめんなさい!」
♀魔王「え!?」
勇者「なんか髭とか沢山生えた怖そうな鬼みたいな顔想像してたの」
♀魔王「……ぷっ!」
♀魔王「あははっ!やっぱあんたって面白い!」
♀魔王「この絶体絶命な状況で人のことをムサイ男扱いしたことを謝ってるわけ?」
♀魔王「どれだけ馬鹿で、どれだけ正直者だったらそうなれるのかしら」
♀魔王「そういうあんただからこそ活かしてあげたんだけどね」
僧侶「どういうことですか?私たちをここで仕留めるってわけじゃあ……」
♀魔王「そんなことするわけないでしょ?大体、殺すつもりだったら別にトロールたちに囲まれてるのを助ける必要もないでしょう」
勇者「じゃあ、どうして魔王ちゃんはボクたちのこと助けてくれたの?」
♀魔王「まおうちゃ……まあ、良いわ。ここボストロールの洞窟と、あんたたちがここの討伐を頼まれたあの村はね、魔族たちが仕掛けたトラップなのよ」
僧侶「トラップ?」
♀魔王「そんなの勇者の名前だけで私が一々気にしてたらキリがないのよ」
♀魔王「だから適当な所に勇者群れを仕留めるトラップを仕掛けて、落ちこぼれ勇者たちはそこで仕留めてるのよ」
勇者「落ちこぼれ勇者……」ガクリ
♀魔王「そう、こんな試練も乗り越えない、半人前とも言えない名ばかりの勇者」
♀魔王「ここはそういう出来損ないな奴らを仕留めるために作られた勇者たちの墓場よ」
♀魔王「勇者は親が勇者ではおろかその血も継いでない普通の人間」
♀魔王「薬吸って占う似而非占い師の占いで勇者に選ばれた、謂わば犠牲者」
♀魔王「戦士と僧侶と来たら途中まで勇者を自分のものにしようと競うばかりでパーティーのチームワークなんてあったもんじゃない」
♀魔王「それだけでも足りずに敵増やさないようと四人目の人を入れることも拒んだ」
♀魔王「そんな勇者一行がこの先生き残って私の前に辿りつける確率がどれほどあると思う?」
♀魔王「零よ」
戦士「勇者」
僧侶「勇者さま」
勇者「ボクはちゃんとした勇者じゃないから、きっと強くもないし、今日魔王ちゃんが助けてくれなかったら、きっと危なかったよ」
勇者「でも、魔王ちゃん」
勇者「どうしてボクを助けてくれたの?」
勇者「魔王ちゃんの言う通りだと、ボクたちはここで間引かれるはずなんじゃないの?」
♀魔王「…それはね、勇者ちゃん」
♀魔王「あなたにはこの先もずっと旅し続けて欲しいからよ」
♀魔王「勇者とは思えない平和ボケな旅だった」
♀魔王「でも、嫌いじゃなかったわ、そういうの」
♀魔王「寧ろ楽しかった。そして、いつの間にか自分もそこに混ざりたいとまで思った」
♀魔王「だから、ちょっと気分だけでも出してみただけよ」
勇者「…だからボクの仲間になるって言ったの?」
♀魔王「そう、ただの遊び心。気まぐれよ」
勇者「……」
♀魔王「私が居る所まで来なさい、勇者」
♀魔王「あなたと戦う日を待っているわ」
♀魔王「あなたの旅を楽しみながらね」
勇者「……うん」
勇者「ボク、強くなるよ」
勇者「今日魔王ちゃんに助けてもらった分、ううん、それ以上に強くなる」
勇者「それぐらいじゃないと、魔王ちゃんの所に辿りつけないし」
勇者「魔王ちゃんに勝てないから」
勇者「だから…待ってて、ボクが行くまで」
勇者「魔王ちゃんと一緒に居た時間、短かったけど、楽しかった」
♀魔王「……期待しながら待ってるわ」
色んなことがあって、またボクたちは三人旅をすることになりました。
ほんとにここまで来るまで色んなことがありました。
そして、魔王ちゃんのおかげで、今までのボクたちを振り向いてみることが出来ました」
魔王ちゃんがボクたちを助けてくれてなければ、きっとボクたちはここじゃなくても、魔王ちゃんにまで辿りづく道のりのどこかで倒れていたかもしれません。
でも、ボクは絶対に魔王ちゃんの所まで辿り着こうと思います。
魔王ちゃんに教わったことがありますから、そのぶんボクは他の勇者たちより強くなったのだと思います。
だから、
この日記をまだ読んでいるのだったら、魔王ちゃんに言ってあげたいことがあります。
どうか、
ボクたちが行くまで他の勇者に負けないでください。
♀魔王「誰が負けますか、ばーか」
♀魔王「せいぜい早く来ることね」
♀魔王「私の気まぐれが終わる前に…」
追記:
人の日記を読むなんて、最低だと思います。
♀魔王「ぎゃふん!」
終わり
二部は今は約束できないよ。
皆も今日は寝ると良いよ。
今でも十分雑なのにね。
コレ以上に雑になったら酷いざまになっちゃうよ。
おもしろかった
で?後日談は?
乙!
Entry ⇒ 2012.03.02 | Category ⇒ 勇者魔王「」SS | Comments (1) | Trackbacks (0)
魔王「これからも宜しく頼むぞ勇者よ!」勇者「あぁ、こちらこそな」
http://hayabusa.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1329567196/
勇者「おい!」
魔王「……僕は今忙しいんだ。後にしてくれ」
勇者「……」
勇者(……こいつが新しい魔王なのか?)
勇者(まだ、子供じゃないか……)
魔王「……何だ、僕に何か用か?」ジロ
勇者「あ、ああ……」
魔王「用事があるなら、外の用紙に記入して呼び出しを待っていろ」
勇者「用紙?」
魔王「扉の所に書いてあったはずだが。見なかったのか?」
勇者「そういえば何か書いてあったような……」
魔王「…………」
勇者(それどころか、魔物が人を襲う事件は増える一方……)
勇者(不思議に思って、魔王城の様子を見に来たら……)
勇者(……)
魔王「……おい」
勇者「お、おう!」
魔王「用事があるなら、外の用紙に記入をして待てと言ったはずだが?」
勇者「お前が魔王だな?」
魔王「人に名前を尋ねる時は、まず自分から名乗るのが礼儀ではないか?」
勇者「そ、そうだな……(何だ……こいつは調子が狂う……)」
魔王「それで、お前は誰だ?」
勇者「お、俺は勇者だ。お前が新しい魔王か?」
魔王「……そうか、お前が勇者か。お尋ねのとおり、僕が第72代の魔王だ」
勇者(……やはり、この子供が魔王なのか)
勇者「魔王を倒したのに、モンスターが人を襲う事件が最近増え続けている」
魔王「……そのようだな」
勇者「新しい魔王、お前の差し金だな!」
魔王「違う」
勇者「嘘をつけ。ならどうして魔物が人々を襲うんだ?」
魔王「…………」
勇者「どうした、答えてみろ」チャキッ
魔王「その物騒な物をしまえ」
勇者「うるさい。お前を倒して世界の平和を守る!」
魔王「……はぁ。その調子で父さまを殺したのだな」
勇者「何?」
魔王「魔物が人々を襲うのはお前のせいだぞ、勇者よ」
魔王「ふざけてなんかいない。魔物が人々を襲うのは、間違いなくお前のせいなんだよ」
勇者「そんな言葉に惑わされる俺だと思うのか?」
魔王「惑わすも何も事実だ。嘘だと思うなら、僕を殺してみるがいい」
勇者「は?」
魔王「僕は抵抗しない。だが、僕を殺しても何も変わらないぞ」
勇者「……そうやって油断させるつもりか?」
魔王「疑り深い奴だな」
勇者「当たり前だ、お前は魔王だろう」
魔王「僕には父さまのような力はない。抵抗するだけ無駄だからな」
勇者(確かに見かけは子供だが……)
勇者「……『俺のせい』というのはどういう事だ?」
魔王「お前達が父さま……先代の魔王を殺した事で魔界はどうなったと思う?」
勇者「……どう、とは?」
魔王「はぁ……」
勇者「何だ、その馬鹿にしたような溜め息は!」
魔王「溜め息もつきたくなる。まぁ、座れ」
勇者「……」
魔王「……座りたくなければそのままでも構わない。だが長くなるぞ」
勇者「それで、魔界がどうだっていうんだ?」
魔王「……その話だったな。魔界にもお前達人間の世界と同じように秩序があってな」
勇者「秩序だと?」
魔王「あぁ、そうだ。人間の世界は王や領主が国を統治する、これは間違いないな?」
勇者「それがどうした?」
勇者「……」
魔王「更に言うなら領主は領内に代官を派遣し、領内の各街や村を統治している」
勇者「……」
魔王「そして各街や村はそれぞれの長が……って聞いているか?」
勇者「あ、あぁ、聞いている」
魔王「そうか、続けるぞ?」
勇者「……続けてくれ」
魔王「人間の世界でも定められた法と秩序の下、各地が統治されている訳だが……」
勇者「あぁ」
魔王「その頂点たる王が突然殺された場合、国はどうなる?」
勇者「えっと……」
勇者「……」
魔王「国政は混乱し、次の王の座を狙った権力闘争が始まり……」
勇者「……」
魔王「統制が緩んだ中で、私腹を肥やそうとする輩が跋扈し、統治は行き届かなくなる」
勇者「今の魔界がそうだと?」
魔王「そうだ。形式上は先代の子供という事で、僕が第72代の魔王という事になっているが……」
勇者「……」
魔王「僕が力のない事を理由に、一部の領主はそれに不満を持っている」
勇者「ちょ、ちょっと待ってくれ」
魔王「何だ?」
勇者「俺が魔王を倒す前も、魔物は人を襲っていた」
魔王「そうだな」
勇者「俺が魔王を倒したからといって、魔物が人を襲う理由にはならないだろう?」
勇者「それは……確かに」
魔王「全ての者が善良であるとは限らない、それは人間の世界でも魔物の世界でも同じだ」
勇者「……つまり、どういう事だ?」
魔王「一部の者は統治を嫌い、好き勝手な行動をする」
勇者「それが人間を襲う魔物だとでも?」
魔王「厳密に言えばそうとばかりも言えないが、少なくとも先代魔王は理由もなく人を襲うのは禁止していた」
勇者「いや、しかし……」
魔王「考えてみろ。魔物の軍勢が統制をもって人間の世界を襲えば、世界征服なぞ容易い事と思わないか?」
勇者「……」
魔王「少なくとも父さまにはその意思がなかった。だからあの程度の小競り合いで済んでいたんだぞ?」
勇者「あの程度だと!」
魔王「被害が出ているのはお互い様だ。お前達だって幾多の魔物を殺しているだろう?」
勇者「それは魔物が人を襲うからじゃないか!」
魔王「本当にそうなのか?」
魔王「お前達が殺した全ての魔物は、本当に人を襲っていたのかと聞いているんだ」
勇者「それは……」
魔王「たまたまそこに住んでいただけ、たまたまそこを通りがかっただけ」
勇者「……」
魔王「そういった魔物を殺さなかったと、お前は言い切れるのか?」
勇者「うっ……」
魔王「……まぁ、その事でお前を責めても何も解決しないな。すまない」
勇者「いや……」
魔王「それで、どこまで話したかな?」
勇者「……魔王が理由もなく人を襲うのを禁止していた」
魔王「あぁ、そうだ。父さまは理由もなく人を襲うのを禁止していた」
勇者「何故、何故魔王は人を襲うのを禁止していたんだ?」
魔王「愚問だな。お前は理由もなく人を襲うのか?」
魔王「ではそういう事だ……と言っても納得出来ないといった様子だな」
勇者「当たり前だ」
魔王「……そうだな。お前は魔物という定義を一体何だと考えている?」
勇者「人を襲う化け物だ」
魔王「では、人を襲わない化け物は魔物ではないのか?」
勇者「む……」
魔王「言っておくが、僕は生まれてから人間を殺した事など一度たりともないぞ」
勇者「むむ……」
魔王「お前の言を借りるなら、僕は魔物でない事になる」
勇者「むむむ……」
魔王「だが僕は魔王だ。お前達人間が定義する魔物の王だ、形だけとはいえな」
勇者「……何が言いたい?」
勇者「……そうだな」
魔王「だから、人を襲う事は魔物の定義とは言えない。そうだな?」
勇者「……確かに、そうだ」
魔王「では、魔物とは何なのだ?」
勇者「……よく、わからない」
魔王「よくわからない、それこそが答えではないか?」
勇者「何?」
魔王「よくわからないから恐れ、蔑み、敵視する。人間とはそういうものだろう?」
勇者「……」
魔王「一口に魔物といっても多くの種族がいる」
勇者「種族?」
魔王「そうだ。僕のような魔族をはじめ、代表的なところでいえば竜族、鬼族、獣族、妖精族、不死族……」
勇者「お前は魔族なのか?」
魔王「父さまも僕も魔族だな。力よりも魔力に優れた種族だ」
魔王「厳密には不死とは言えないがな。他の種族と比べて死ににくいというだけの話だ」
勇者「確かに殺せなくはなかったな……」
魔王「話はまだ続くが、座らなくても良いのか?」
勇者「結構だ」
魔王「そうか、では話を続けよう」
勇者「あぁ」
魔王「種として考えるなら、人間は動物の中の一種だな?」
勇者「……そうだ」
魔王「お前達の言うところの、よくわからない種族を総称するのが魔物だ」
勇者「総称……」
魔王「動物、植物、同じように魔物というくくりがある。それだけの事だ」
勇者「そうだ!」
魔王「だが人間も飢えを満たす為に他の動植物を殺す」
勇者「……」
魔王「金銀財宝が欲しいが為に、人の集落を襲う魔物もいる」
勇者「そうだ……」
魔王「どうした? 急に元気がなくなってきたぞ?」
勇者「金銀財宝が欲しいが為に、人の集落を襲う人間もいる……」
魔王「その通りだ。わかっているじゃないか」
勇者「うるさい」
魔王「欲を満たそうとして無闇に人を襲えば、大規模な争いに発展する」
勇者「それが『理由なく人を襲う事を禁止』していた理由か」
魔王「その通りだ」
勇者「……」
魔王「だが、一部の者は父さまの命令を無視して人を襲い続けた」
勇者「どうしてだ?」
魔王「泥棒に物を盗む理由を尋ねるのに等しいな」
勇者「……」
魔王「まぁ、己の力を誇示しようとしていた、そういう馬鹿者がいる事も確かだ」
勇者「力を誇示?」
魔王「父さまの統治に対する当てつけのようなものだ。権力闘争はどこにでもあるからな」
勇者「魔物も人間も同じか……」
魔王「そうだな。欲という部分では人間も相当なものだ」
勇者「その連中は……どうにも出来ないか……」
魔王「あぁ、難しい。魔物も人間も同じだ」
勇者「……」
魔王「勇者がこの城にやってくるのは必然だ」
勇者「必然? 魔王を俺達が来るのを予想していたのか?」
魔王「大した理由もなく魔物が人を襲ったのだからな、何かしらの報復があってしかるべきだろう?」
勇者「報復……」
魔王「お前達はこの城に乗り込み、父さまと父さまの側近達を殺して颯爽と去っていった」
勇者「……もういい」
魔王「魔王という抑止を失った魔界は混乱を極め……」
勇者「……やめてくれ」
魔王「己の権力を拡大しようと目論む者は小競り合いを始め、欲望の赴くままに人間を襲う者も増えた」
勇者「…………」
魔王「これが先代魔王亡き後の魔界の実態だ」
勇者「俺達の……俺のせいなのか?」
勇者「何故だ? お前の父を殺したのは俺達だぞ」
魔王「命令を聞かなかった者達を抑え切れず、処罰も出来なかった。父さまにも責任はある」
勇者「しかし……」
魔王「人間を襲う魔物がいた事は、揺るがしようもない事実だ」
勇者「あぁ……」
魔王「だから、お前達が取った行動は正当防衛といえるだろう。結果はどうであれ」
勇者「お前は俺が憎くないのか?」
魔王「父さまを殺した敵(かたき)だからな。憎くないといえば嘘になる」
勇者「…………」
魔王「しかし、さっき言ったように父さまには魔王としての責があった」
勇者「魔王としての責……」
魔王「それにお前を殺して、父さまが生き返る訳でもない」
勇者「それはそうだが……」
勇者「建て直す?」
魔王「そうだ。幾ら力がないとはいえ、僕が第72代魔王だからな」
勇者「……」
魔王「個人的な事を言わせてもらえば、父さまの残した国が荒廃していくのは見たくない」
勇者(こんな子供が……そこまで考えているのか)
魔王「だから僕にはお前の相手をしている暇が……どうした、さっきから黙って?」
勇者「いや……勇者としての責というものを考えていた」
魔王「勇者としての責?」
勇者「あぁ、そうだ。お前の父は魔王としての責を真っ当した。俺は……どうなのだろう?」
魔王「勇者の責など、人助け以外に何があるというのだ」
勇者「人助け……」
魔王「勇者のお前がそんな調子では、父さまも報われないな」
勇者「…………」
勇者「…………」
魔王「全く……暇な奴はくだらない事で頭を悩ますな」
勇者「……そうだな」
魔王「ちょうどいい。暇なら忙しい僕を手伝え」
勇者「はぁ? 一体何を言い出すんだ?」
魔王「僕は忙しくて困っている。困っている人を助けるのが勇者の責だろう」
勇者「お前は人じゃないだろ!」
魔王「細かい事を……お前みたいな細かい奴はモテないと相場が決まっている」
勇者「う、うるさい、ほっとけ!」
魔王「図星か。勇者のクセにモテないとか……哀れな奴め」
勇者「くぅ……言いたい放題言いやがって……」
魔王「とにかく、僕が忙しいのはお前にも責任があるんだ」
勇者「……痛いところを突く奴だな」
魔王「治世が安定すれば、人を襲う魔物は減る。僕達の利害は一致するはずだが?」
勇者「報酬はいらない……が、手伝うかどうかはまだ……」
魔王「考える時間が欲しいか? よかろう」チリンチリン
……コンコンコンコン
魔王「……入れ」
―――ガチャッ
骸骨「お呼びですか、魔王様?」
勇者(骨だ……しかも執事服を着た骨だ……)
魔王「客間を一間用意してくれ。あとは食事の準備もな」
骸骨「はて、お客人とは珍しい。どなた様で?」
魔王「あぁ、勇者殿だ。くれぐれも失礼のないようにな」
骸骨「さようでございますか……って勇者ですと!?」
魔王「何を驚いている」
骸骨「あ、当たり前です! 先代様を始め多数の方が勇者の毒牙にかかったのですぞ!」
勇者(これが当然の反応だな。それにしても毒牙とか……)
骸骨「い、いえ。魔王様がそう仰るのでしたら……」
魔王「では、すぐに客間の準備を頼む」
骸骨「承知致しました」
---ガチャッ
魔王「すまんな。騒がしくて」
勇者「いや、あれが普通の反応じゃないか?」
魔王「そうか? 僕の手伝いをしてくれるのなら、人間だろうが勇者だろうが大歓迎だ」
勇者「流石に大雑把過ぎるだろう。それにまだ、お前の手伝いをすると決めた訳じゃない」
魔王「僕を殺しても、魔物が人を襲い続ける事はわかってもらえたと思うが?」
勇者「それは……」
魔王「僕の事を手伝えば、魔界の統治が進み魔物が人を襲う事が減るぞ?」
勇者「うっ……」
魔王「ちなみに勇者に手伝って貰いたい案件は……うむ、これだ」
勇者「こ、これは!?」
魔王「魔物の言葉だからな。そこの眼鏡があるだろう?」
勇者「……これか?」
魔王「あぁ、それを着ければ、大抵の言語は読めるはずだ」
勇者「おぉ、本当だ。読めるようになったぞ」
魔王「便利だろう? 辺境では独自の言語を使う種族もいるからな。こういう道具は欠かせんのだ」
勇者「んん……これは、訴状か?」
魔王「ああ、ここから三日程の距離にある村で、妖精族と獣族が水場を巡って争っているようだ」
勇者「水場を?」
魔王「そうだ。本来なら両種族で、仲良く水を使っていたはずなのだがな」
勇者「ふむ……」
魔王「両種族から自らの正当性を主張する訴状が届いているが、現地に行ってみなければ原因が見えてこない」
勇者「誰か人をやって、状況を確認すればいいんじゃないのか?」
魔王「その誰か達をお前達が殺してしてまったのだが?」
勇者「うぐっ……」
勇者「そこで俺が現地に行って、状況を確認してくるという事か……」
魔王「その通りだ。状況を確認した上で、出来るものなら揉め事を解決して欲しい」
勇者「これじゃあ、まるでお役所仕事じゃないか」
魔王「当たり前だ。魔王の仕事の大半は、そのお役所仕事だぞ」
勇者「そうなのか?」
魔王「先ほど説明したと思うが……お前は魔王を何だと思っているんだ?」
勇者「えっと、世界の支配を目論む悪の首領、と思ってた」
魔王「……小鬼も呆れる程の低脳な発想だ」
勇者「だ、だから『思っていた』と言っただろう!」
魔王「……まぁいい。人間に我々の生活を見てもらう、良い機会であると思う」
……コンコンコンコン
骸骨「お部屋の準備が整いました」
魔王「そうか。では勇者殿を案内してやってくれ。勇者殿、前向きな回答を期待しているぞ」
勇者「すまない」
骸骨「いえ……お気になさらずに」
勇者「…………」
骸骨「…………」チラッ
勇者「え……と、何か?」
骸骨「……いえ」
勇者「そうか」
骸骨「…………」
勇者「…………」
骸骨「あ、あの……」チラッ
勇者「うん?」
骸骨「ゆ、勇者殿はいつまでこちらに滞在のご予定で?」
勇者「さぁ……俺にもわからない」
骸骨「……さようですか」
―――ガチャ……ギィーッ
勇者「これは……凄いな」
骸骨「お気に召して頂けましたでしょうか?」
勇者「気に入るも何も、こんな豪奢な部屋に泊まるは初めてだ。王様の城よりも凄い」
骸骨「そう仰って頂けると、魔王様もお喜びになられます」
勇者「……なぁ?」
骸骨「なんでございましょう?」
勇者「今の魔王には、信用出来る部下があまりいないのか?」
骸骨「……勇者殿によって、先代魔王派幹部の大半は命を落としてしまいましたので」
勇者「そうだったな」
骸骨「魔王様は……」
勇者「……」
骸骨「魔王様は例え御一人になられようとも、父上様の残されたこの国を建て直すお覚悟です」
勇者「……」
骸骨「この城にいるのは、私を含めて魔王様の身の回りのお世話をするのが関の山程度の者ばかり」
勇者「だから、魔王の部屋に行くまで誰とも会わなかったのか」
骸骨男「はい。年端も行かぬ魔王様が、御一人で国政に頭を悩ましているお姿は、見るに耐えません」
勇者「俺に……どうしろと?」
骸骨「勇者殿は先代様の敵(かたき)。魔王様も思う所はおありでしょう」
勇者「当然、だな」
骸骨「その勇者殿のお力すら借りようとなされている、魔王様の苦渋をお察しください」
勇者「……話を聞いていたのか?」
骸骨「はい、大変失礼ながら。勇者殿と対峙されている魔王様の安全がわかりかねたもので」
勇者「魔王は良い部下を持っているんだな」
骸骨「勇者殿のお言葉は嬉しく思いますが、魔王様に知れて御不興をかいましょう」
勇者「子供扱いするなって?」
骸骨「……プッ!?」
骸骨「……いえ。私の方こそ見苦しい姿をお見せしました」
勇者「いや、何だか安心したよ。魔物でも冗談が通じるんだな、ってさ」
骸骨「我々も笑い、喜び、怒り、哀しみ、そして泣きもします」
勇者「人間と同じなんだな」
骸骨「はい、姿形は違うとはいえ、感情を持ち合わせているのはあなた方と同様です」
勇者「そうか……」
骸骨「少し無駄話が過ぎましたようで。では私はこれで失礼します」
勇者「あぁ、ありがとう」
骸骨「お食事は後でお部屋にお持ち致します」
勇者「そこまで気を遣わないでくれ」
骸骨「魔王様の御命令ですので。お口に合うかどうかはわかりませんが」
勇者「口に合う合わないの問題じゃないんだが……」
骸骨「では、僭越ながら目の前で私めがお毒見をしましょうか?」
勇者「……骨に毒は効かないだろう」
勇者(出てきた料理は見た目も味もおかしな所はなかった)
勇者(おかしいどころか、非常に美味しかったと言わざるを得ない)
勇者(結局……出された料理は全て食べてしまった)
勇者(……魔王城の料理に舌鼓を打つ勇者ってどうなんだ?)
勇者(…………)
勇者(さて、これからどうしたものか……)
勇者(魔王『困っている人を助けるのが勇者の責だろう』)
勇者(骸骨『魔王様の苦渋をお察しください』)
勇者(やる事は一つなんだろうが……)
勇者(本当にいいのか、それで?)
勇者「ふぁぁ……」
勇者(駄目だ。お腹がいっぱいになったせいか、眠くて頭が働かない……)
勇者(魔王城で……寛ぎ……過ぎ……だ、ろ……)
勇者「……すぅ……すぅ」
勇者「ふぁ……久しぶりに腹いっぱい食べたせいか熟睡だったな……」
骸骨『……魔王様、せめて何か口になさってください』
魔王『僕にはそんな暇はない』
勇者「……入るぞ」
骸骨「これは勇者殿」
魔王「……昨夜はぐっすりと休んだようだな」
勇者「美味しい食事にふかふかのベッド。これでゆっくりと眠れない方がどうかしている」
魔王「そうか、それは良かった」
勇者「で、一体何の騒ぎだ?」
骸骨「実は……魔王様が朝食をお召し上がりになってくださらないのです」
魔王「おい、余計な事を言うな」
勇者「いつもこんな調子なのか?」
骸骨「はぁ……お恥ずかしながら」
魔王「何度も同じ事を僕に言わせるな。僕は食事を摂る時間も惜しいんだ」
魔王「何だ?」
勇者「俺はお前の客人という事でいいんだよな?」
魔王「……そうだが?」
勇者「なら、客の食事につきあえ。それが主人の役目というものだろう」
魔王「何!?」
勇者「お前は骸骨に対して、俺の事と客として扱えと命じたはずだ」
骸骨「はい! その通りでございます」
魔王「…………」
勇者「なら、お前は主としての役目を果たすべきだと思うが?」
魔王「……骸骨、貴様の入れ知恵か?」
骸骨「と、とんでもございません!?」
勇者「俺自身の考えだ。こいつは関係ない」
魔王「ふん……いいだろう。食事の準備をしろ」
骸骨「は、はいっ!」
勇者「食事の時ぐらい小難しい顔をするのは止めろ。せっかくお前の為に作ってくれているんだぞ」
魔王「何を……」
勇者「魔王なんだろう、お前は?」
魔王「そうだ。それがどうしたというのだ?」
勇者「なら、部下の気持ちも少しは考えてやれよ」
魔王「部下の気持ち、だと?」
勇者「俺のせいでお前が忙しくなったのは、すまないと思っている」
魔王「全くだ」
勇者「だが、それと部下に心配を掛けるのは別の話じゃないのか?」
魔王「……」
勇者「俺が言えた義理じゃないのはわかっているが、少しは骸骨達の気持ちも酌んでやれ」
魔王「……ふん」
骸骨「さぁさぁ、食事の準備が出来ましたよ」
勇者「うん、美味しそうじゃないか」
勇者「説教とかそんな堅苦しいもんじゃない。ただ……」
魔王「『ただ……』何だ?」
勇者「心から心配してくれる人がいるという事は、かけがえのないものだって事だよ」
魔王「何だ、それは? お前にだって一人や二人位いるだろう、勇者なんだから」
勇者「『勇者』としての俺を心配する人はいても、『俺自身』となるとどうだろうな?」
魔王「……どういう事だ?」
勇者「俺の家族は魔物に襲われて死んでいる」
魔王「そうか……すまない」
勇者「お前が謝る事じゃない。それに俺もお前の父親を殺している」
魔王「そうだな……」
勇者「そうそう、昨日の仕事だが引き受ける事にした」
魔王「本当か!?」
魔王「そうか。訴状が届いてる村は直轄地だからな。何とかしてやりたいと思っていたのだ」
勇者「お前の話を簡単に信用するのもどうかと思ったが……」
魔王「ふむ」
勇者「状況を判断して、お前が嘘をついているとは思えないからな」
魔王「当たり前だ。お前に嘘をつく暇など僕にはない」
勇者「それで、訴状が届く前の村の状況を教えて欲しい」
魔王「状況か……異種族同士が役割分担をし共同生活を送る、ごく平和な村だったはずだ」
勇者「役割分担?」
魔王「細かな作業に長けた妖精族が耕作を担当し、運動能力に長けた獣族が狩りと村の守りを担当している」
勇者「これまでに大きな揉め事はなかったのか?」
魔王「僕が把握している限りでは聞いた事がないな」
勇者「それが現在は水場を巡って両種族が争っている、と」
魔王「そういう事だ」
魔王「そうしてもらえると助かる」
勇者「村までの地図、それと馬を用意してもらえないか?」
魔王「わかった。おい?」
骸骨「はっ……」
魔王「勇者殿の旅の準備を。それと例のあれを」
骸骨「承知致しました」
勇者「……例のあれ?」
魔王「流石にその格好で魔界をうろつくと、目立って仕方ないだろうと思ってな」
勇者「目立つか?」
魔王「あぁ、魔界では白を基調とした格好は好まれないからな。悪い意味で目立つ」
骸骨「……お持ちいたしました」
勇者「これは?」
魔王「魔王親衛隊の装束だ」
勇者「本当に、これを着なければならんのか?」
魔王「変に目立つよりはいいだろう? それに身分の証明にもなる」
勇者「勇者の俺が魔王親衛隊などと……仲間が見たら気でも狂ったのかと思うだろうな」
魔王「ほう……」
勇者「何だ?」
魔王「思いの外似合うではないか」
骸骨「はい。よくお似合いです、勇者殿」
勇者「……冗談はよせ」
魔王「勇者の実力なら親衛隊長も夢ではないぞ?」
骸骨「左様でございます」
勇者「……本気で言ってるのか、お前ら?」
魔王「まぁ、勇者業を廃業したい思ったら考えてくれ」
勇者「……その時になったら考えさせてもらう」
骸骨「その時が楽しみです」
骸骨「何でございましょう?」
勇者「本当に、こいつに乗らなきゃならんのか?」
骸骨「徒歩で行かれるには、流石に距離がありますゆえ。魔王様のお心遣いです」
勇者(姿形は馬のようだが、全身に鱗、おまけに頭には山羊の角まで生えている……)
骸骨「この子は気性も良く、乗り手の指示に素直に従います」
勇者「そうか……姿形はかなりのじゃじゃ馬に見える」
骸骨「普通の馬より体力もあって、多少の無理な行軍にも耐えられましょう」
勇者「よーしよしよし……うん、確かに気性は良さそうだな」
骸骨「この子も勇者殿を気に入ったようですね」
勇者「では、行ってくるか」
骸骨「ほぉ……そうしてらっしゃると、本当に親衛隊のようです」
勇者「……頼むからやめてくれ」
骸骨「その真紅のマントなど、幾多の返り血を浴びたようで……」
勇者「すまない、そこは否定出来ない」
勇者「どこまで出来るか、今の時点では何とも言えないけどな」
骸骨「魔王様の代官が来たというだけで、村の皆の気持ちも違ってきましょう」
勇者「俺は新たな魔王親衛隊の一員で代官として派遣された、これでいいんだな?」
骸骨「はい。くれぐれも勇者という事がバレないようにお願いします」
勇者「バレたら大変な騒ぎになるだろうな」
骸骨「そうなった場合、勇者殿が魔王様の名前を騙ったいう事で処理しますゆえ」
勇者「……酷い扱いだ」
骸骨「冗談でございますよ」
勇者「あんたは表情がないから、本気か冗談かわからん」
骸骨「……道中お気をつけて」
勇者「魔王の世話は大変だろうが、あんたも頑張れよ」
骸骨「それはこの一命を賭しております」
勇者「では、行ってくる!」
勇者「ふう。お前が頑張ってくれたお陰で、思いの外早く村に着きそうだな」
勇者「地図によると、もう間もなくのはずだが……」
??「止まれっ!」
勇者(……何だ?)
??「貴様、何者だ。何処から来た!」
勇者(……こいつがら獣族か?)
獣族A「フシュッ!! 黙ってないで何とか言ったらどうだ!」
勇者「俺のこの格好を見てわからないのか?」
獣族B「何?」
獣族C「お、おい……あの胸の紋章はまさか……」
勇者「お前達の訴状を受け、魔王様の命により参った! 誰か話のわかる者はいないのか!」
獣族A「ま、魔王様の!? も、申し訳ございません!」
獣族B「こ、これは大変失礼を……」
獣族C「知らぬ事とはいえ……お許しください!」
獣族A「は、ははっ……」
勇者「それで、話のわかる者はこの中にはいないのか?」
獣族B「なぁ……」
獣族A「い、いや……俺は……」
勇者(困ったな……これじゃあ話が進みそうにない)
勇者(しかし、これが獣族か……人間に動物の耳がついてるだけに見える……)
勇者(ふむ……尻尾もついているようだし、仕草も動物っぽいといえば……)
獣族C「あ、あの……」
勇者「うん、どうした?」
獣族C「はい。村までおいで頂ければ、我らの若君が説明出来るかと……」
勇者「若君?」
獣族C「はい。訴状を上申したのは若君で……」
勇者「そうか。では、案内してくれるか?」
獣族C「は、はいっ!」
獣族C「代官殿、あちらが我らの族長の家です」
勇者「……随分と大きな家だな」
獣族B「はい、若君もあそこにおいでです」
勇者(……幾ら族長の家とはいえ、造りが少し立派過ぎないか?)
勇者(他の家が簡易な造りなだけに、余計にそれが目に付くな……)
勇者「族長殿がいるのに、若君が訴状を書いたとはどういう事だ?」
獣族C「実は、族長は病で臥せっております。そこで若君が族長に代わって……」
勇者「族長殿は病気なのか……こんな時に大変じゃないか」
獣族B「はぁ……それも今回の事と関係がありまして……」
勇者「族長殿の病気が?」
獣族C「はい。それについても若君から、話をお聞き頂ければわかると思います」
勇者「そうなのか?」
獣族C「はい」
獣族A「それは勿論です! 若君さえいらっしゃれば、我々も安泰で……」
獣族B「おい! 不謹慎だぞ!」
獣族A「あっ!? ……す、すまん」
獣族C「幾ら若君が立派なお方とはいえ、族長の容態と若君のお気持ちを考えろ」
獣族A「うぐぅ……」
勇者(……若君という人物は、彼らの中でも相当信頼されているようだな)
勇者「……族長殿の容態は相当悪いのか?」
獣族C「そうですね……病の原因もよくわからずじまいで……」
獣族A「それもこれも、全て妖精族の連中のせいだ!」
勇者「妖精族のせい?」
獣族B「お前は少し黙っていろ!」
獣族A「ぐるぅ……」
勇者(獣族Aが『妖精族のせい』と言ったが、これは確証のない事だろう)
勇者(それとも、そう判断するだけの理由があるのか?)
勇者(そして、現在は若君と呼ばれる獣族が、族長に代わり部族をまとめている)
勇者(若君というからには、族長の息子か何かだろうか?)
獣族A「若君! いらっしゃいますか!」ドンドンドン
??「騒がしいぞ。何事だ?」
勇者(あれ? この声……)
獣族C「魔王様の代官殿が参られました。詳しい話を聞きたいとの事です」
??「なに!? 代官殿が参られたのか」ガチャッ
勇者(……こ、こいつが若君?)
??「おぉ!? その紋章は間違いなく魔王様のもの!」
勇者(若君というから、男だとばかり思っていたが……)
獣族娘「遠路はるばるよく参られました。ささッ、中にお入り下さい」
勇者(まさか女だったとは……)
勇者「では、妖精族の作った農作物を食べている者を中心として、原因不明の病に倒れたと?」
獣族娘「その通りだ」
勇者「本当に農作物が原因なのか? 流行病という事は?」
獣族娘「それなら我々も病になるはず。だが、看病をしている者に病が移る様子はない」
勇者「今、元気な者達は、妖精族が作った農作物を食べなかったのか?」
族長娘「……ある程度の個人差はあるようだ。それに若い者は肉を中心に食べるからな」
勇者「なるほど……」
勇者(獣族Aが『妖精族のせい』と言っていたのは、これが理由か)
勇者(しかし、これだけでは妖精族のせいとは断定出来ないぞ……)
勇者「……族長にはお会い出来るか?」
獣族娘「会うのは問題ない。ただ……」
勇者「ただ……どうした?」
獣族娘「いや、会っていただければわかるだろう。こちらに来てくれ」
勇者(この顔色……ひどいな)
獣族娘「どうしてもと言うなら起こしてもいいが、意識が朦朧として話もロクに……」
勇者「いや、それには及ばない」
獣族娘「……そうか」
勇者「少し族長の容態を診させてもらいたい。すまないが外してもらえないだろうか?」
獣族娘「……代官殿は医術の心得もあるのか?」
勇者「かじった程度だが……各地を回っている関係で多少な」
獣族娘「そうか、それなら是非お願いしたい。何かあれば声を掛けてくれ」
勇者(……とは言ったものの)
勇者(俺の知っている医術など、たかだか知れている)
勇者(大抵は僧侶がなんとかしてくれたからな……)
勇者(くそ……僧侶がここにいてくれたら)
勇者(……熱はない、な。呼吸は……多少荒いか?)
勇者(何よりもこの顔色……どす黒くなっているじゃないか)
勇者(……試してみるか?)
―――パァァァ
族長「……うぅっ」
勇者(……どうだ?)
族長「……すぅ……すぅ……すぅ」
勇者(呼吸が安定してきた!?)
勇者(うん。顔色もさっきと比べて、大分良くなってきたぞ!)
族長「う、うっ……」
勇者「気がついたか?」
族長「……お主は……誰だ?」
勇者「俺は魔王様の命でこの村に来た」
族長「魔王様の……? うぐッ……」
勇者「まだ動くな。病気の原因は取り除いたが、大分体力を消耗しているはずだ」
族長「そ、そうか……お主が病を……」
獣族娘「……どうかしたのか?」ガチャッ
族長「おぉ……娘ではないか」
獣族娘「父上! 気がつかれたのか!!」
族長「うむ。どうやら、この方が病を取り除いてくれたようだ」
獣族娘「代官殿が!?」
勇者「……多分だが、これで大丈夫じゃないかと思う」
獣族娘「一体何を……顔色も良くなられて……」
勇者「体力を消耗しているだろうから、しばらくは安静が必要だとは思うが……ってうわ!?」
獣族娘「ありがとう! 本当にありがとうございます!」ペロペロ
勇者「こ、こら!? 抱きつくな! 顔を舐めるな!」
獣族娘「父上にもしもの事があったと思ったら……ぅぅ」グスッ
族長「これ、その辺にしておけ。代官殿がお困りではないか」
勇者(しかし、本当に解毒の呪文が効くとは……)
勇者(……病気の原因は毒で間違いないのか)
獣族娘「今の者で病に罹っていたのは最後だ」
勇者「そうか、ひとまずはこれで安心だな」
獣族娘「少しお疲れのようだが……大丈夫か?」
勇者「あぁ、問題ない。お前の方こそ、少し顔色が悪そうに見えるが……大丈夫か?」
獣族娘「父上に代わって、族長の任を代行してきたからだろう。疲れが出ているだけだと思う……」
勇者「そうか、あまり無理はするなよ」
獣族娘「お気遣い感謝する」
勇者(ぶっきら棒だが礼儀正しい娘だ)
勇者(父親の意識が戻った時は、歳相応の態度になっていたが……)
勇者(獣族の誰もがこの娘に会うと、親愛の情を持って接しているのがわかる)
勇者(獣族もこうして接していると、人間と全く変わらないように思う)
勇者(魔物だという事を思わず忘れそうになる程に……)
獣族娘「代官殿は、これからどうなされるおつもりですか?」
勇者「……ん、そうだな。今度は妖精族の集落の方に行ってみるつもりだ」
勇者「あぁ、今回の病の原因が本当に妖精族にあるのか、確かめなければならないからな」
獣族娘「しかし危険なのでは?」
勇者「危険も何も、妖精族は元々大人しい一族と聞いている」
獣族娘「それは、そうですが……」
勇者「その妖精族が農作物に何か細工をして、病気を広めるなど考え難い」
獣族娘「私にはよくわかりません。ただ、皆が倒れた事のみが事実なので」
勇者「よくわからないからといって、水場を封鎖して妖精族を隔離するのはやり過ぎではないか?」
獣族娘「よくわからないから封鎖したのです! あの状況で危険を冒すわけにはいきません!」
勇者(魔王『よくわからないから恐れ、蔑み、敵視する。人間とはそういうものだろう?』)
勇者「!?(……クソっ……お前の言う通りだ、魔王)」
獣族娘「……代官殿?」
勇者「あぁ、何でもな……」
獣族娘「う……ぅぅ……」バタッ
勇者「おいっ! どうした? しっかりしろ!?」
勇者(呼吸も荒いし、どんどん顔色が悪くなってきてる。他の連中の症状と同じだ)
獣族娘「はぁはぁはぁ……」
勇者(今までの病人達は意識もなかったから、人払いをして解毒魔法を使って治療したが……)
獣族娘「ぐふっ!?」ビクン
勇者(獣族娘にはまだ意識が……くっ、そんな事言ってる場合じゃない!)
―――パァァァ
獣族娘「あ、うぅ……これ……は?」
勇者「……大丈夫か?」
獣族娘「あぁ……私も知らないうちに病に侵されていたのか……不覚だ」
勇者「原因が何かわからないからな、不覚も何もない」
獣族娘「ところで……先ほどの代官殿が使われた術は一体?」
勇者「……」
獣族娘「病を一瞬にして治す……代官殿はまるで……伝説の勇者のようだな」
勇者「っ!?」
獣族娘「代官殿もご存知だろう、伝説の勇者の話を?」
勇者「さ、さぁ……よくは……」
勇者(勇者『バレたら大変な騒ぎになるだろうな』)
勇者(骸骨『そうなった場合、勇者殿が魔王様の名前を騙ったいう事で処理しますゆえ』)
勇者(勇者が魔王の名前を騙ったなど、償っても償い切れない恥だぞ!?)
獣族娘「何と!? 子供でも知っている話ですぞ?」
勇者「お、俺は人間界に派遣されて長かったから……よくは……」
勇者(どうする……どうやって誤魔化せばいい?)
獣族娘「そうでしたか……人間界に派遣など……随分と苦労されたのだな」
勇者(あれ……何だか様子が? バレた訳じゃないのか?)
獣族娘「簡単にで宜しければ、私がお聞かせしようか?」
勇者「そ、そうだな。少し休憩するのに丁度いいかもしれない」
獣族娘「伝説の勇者の話とは、魔界に大昔から伝わるおとぎ話の一つだ」
獣族娘「私も幼い頃にを父上からこの話を聞いて、心をときめかせたものだ」
勇者「こ、心を?」
獣族娘「そ、そうだ。おかしいか?///」
勇者「い、いや、そんな事はない。続けてくれ」
獣族娘「……んんっ/// その勇者は混乱した魔界に突如現れ……」
勇者「ふむ……」
獣族娘「魔王様の片腕として獅子奮迅の働きをし、混乱した魔界を治めていく」
勇者(魔王の片腕……)
獣族娘「小さな子供であれば、自分がその勇者となって、魔王様をお助けしたいと、夜な夜な夢見たものだ」
勇者「そうなのか?」
獣族娘「我らの村は魔王様の直轄地であり、城に近い事もあって、特にそういった意識を持つ子供が多かったと思う」
勇者「その忠心、魔王様が聞けばお喜びになられるだろう」
獣族娘「そう思うか!? そうであってくれれば、どれだけ嬉しい事か……だが……」
勇者「だが、どうした?」
勇者「……」
獣族娘「先代の魔王様は……」
獣族娘「事ある事に我らを気に掛けてくれ、この村にお立ち寄りくださる事さえあったのだ」
勇者「魔王……様が?」
獣族娘「ん?」
勇者「いや……続けてくれ」
獣族娘「魔王様が気晴らしに狩りをされる時など、我らの村をよく休憩所としてお使いくだされた」
勇者「……」
獣族娘「私の父上は族長だからという事もあり、よく魔王様のお世話を仰せつかったものだ」
勇者(お世話……魔王が滞在する事があるから、あんなに立派な造りになっていたのか)
獣族娘「私も小さい頃に、何度かお声を掛けて頂いた事があってな」
勇者「魔王様にか?」
獣族娘「そうだ。『早く大きくなって私の手助けをしてくれ』とな」
勇者「……」
勇者(あの俺達と戦った魔王が……)
獣族娘「だか、当時は嬉しくて夜も眠れない程だった。周りの仲間からも羨ましがられてな」
勇者(世界征服を企む邪悪の徒と決めつけ……)
獣族娘「魔王様にお声を掛けて頂いた事も、魔王様のお世話を父上が仰せつかった事も……」
勇者(俺達が戦い、倒したあの魔王が……)
獣族娘「全ての事が誇らしく思えたものだった」
勇者(こんなにもこの娘に……いや、この村の獣族に慕われてる)
獣族娘「だが、いつ頃からだろうか……魔王様のお姿を見なくなって……」
勇者「姿を見なくなった?」
獣族娘「そうだ。いつだっただろうか? 一部の勢力が魔王様の治世を快く思っていないと……」
勇者(魔王のやり方に不満のある者達……力を誇示しようとしている者達……)
獣族娘「『その対処の為に、しばらくはこの村に来られないかもしれない』」
獣族娘「魔王様がそのように仰られたと、父上から聞かされた事があってな……」
勇者「魔王……様がそんな事を?」
勇者「そうか……」
獣族娘「その時程早く大きく、そして強くなりたいと願った事はない」
勇者「どうしてそう願った?」
獣族娘「魔王様に逆らう連中を、私が懲らしめてやろうと思ってな。笑ってくれ、子供の浅薄な考えだ」
勇者「笑わないさ。俺と違って立派な動機だ」
獣族娘「代官殿も小さな頃に『大きくなりたい、強くなりたい』と思った事があったのか?」
勇者「あぁ……早く大きく、そして強くなりたいとな」
獣族娘「よければ、理由を聞かせてもらえないだろうか?」
勇者「……復讐心だよ」
獣族娘「えっ!?」
勇者「小さい頃に家族を殺されて、その復讐の為に大きく、強くなりたいと願ったんだ」
獣族娘「嫌な思いをさせてしまったな……すまない」
勇者「もう目的は果たした……だからもういいんだ……」
獣族娘「そうか!? それは良かったじゃないか」
獣族娘「私がそう思いながら過ごす内の事だ……先代の魔王様が人間共の手に掛けられたのは!」
勇者(そう……俺達が殺した……)
獣族娘「先代の魔王様が崩御された後、その一粒種が後を継がれたと聞いてな」
勇者(世界平和という立派な名目を隠れ蓑にして、自分の復讐の為に……)
獣族娘「我らは哀しみの中で、新しい魔王様を盛り立てようと心に誓ったのだが……」
勇者(俺が魔王を殺した事を言えば、この娘はどんな顔をするだろうか?)
獣族娘「お姿を見る事も、お声を聞く事も叶わないまま、今回の事件が起こってな」
勇者(……馬鹿な考えだ。もう……やめよう)
獣族娘「訴状を上申してみたものの、何の音沙汰もなく……正直、見捨てられたと諦めた者もいた」
勇者「魔王様は、お前達の事を気にかけておいでだ」
獣族娘「はい! そして代官殿を遣わされた。そうですね?」
勇者「その通りだ。『本当なら、自ら出向いて何とかしてやりたい』とも仰られていた」
獣族娘「魔王様がそのようなお言葉を……我らは見捨てられたなどと、何と愚かな事を考えていたのだ……」
獣族娘「も、申し訳ない。私のつまらない話で時間を取ってしまい……」
勇者「いや、お前達の考えている事がわかって嬉しかった。ありがとう」
獣族娘「そ、そう言って頂けると私も嬉しく思う///」
勇者「妖精族の所へはどう行けばいい?」
獣族娘「それなら、私が案内を……」
勇者「いや、獣族が一緒だと揉め事になる可能性もある。場所だけ教えてくれ」
獣族娘「しかし……代官殿を一人で行かせたとあっては、私が父上に叱られてしまう」
勇者「……土地勘のあるお前が一緒なら、確かに心強い事もあるだろう」
獣族娘「だったら!」
勇者「しかし、いざ何かあった場合、族長殿に俺が顔向け出来ない」
獣族娘「私が弱いと侮られるか!」
勇者「勘違いするな。お前が弱いと言ってるんじゃない。病み上がりの体を厭(いと)え」
獣族娘「……そうまで仰られるのなら、私の実力を見ていただこう!」
勇者「……は?」
獣族男「若君ー負けるな!!」
獣族女「若様~頑張ってくださ~い♪」
勇者「……どうしてこうなった?」
族長「まぁまぁ、ワシらの習慣みたいなものですな」
勇者「習慣?」
族長「ワシらは互いの意見を通す時に、こうして戦うのが決まりでしてな」
勇者「良い意見と強い事とは等しくないだろう?」
族長「意見を出して、それを通す事には責任が伴う。違いますかな?」
勇者「それは……確かにそうだが」
族長「その意見を採用した結果、物事が悪い方に向かったとしますな」
勇者「あぁ」
族長「その悪い方に向かった時に、責任を以ってそれを覆す力が必要とは思いませんか?」
勇者「……ひどい暴力主義だ」
族長「少なくとも、ワシらはそう考えています。まぁ……そういった訳で、頑張ってくだされ」
族長「何でしょうかな?」
勇者「起きていて、体は大丈夫なのか?」
族長「……元気な姿を皆に見せる事も族長の仕事ですからな」ヒソヒソ
勇者「そうか……大変だな、族長というのも」
族長「それに……」
勇者「それに……何だ?」
族長「この事件が起きて以来、久しぶりの戦いです。見逃す手はありませんな」
勇者「……呆れた奴だ。自分の娘が心配じゃないのか?」
族長「この村では、ワシの次に強いのがワシの娘ですぞ?」
勇者「……おい。だから心配しないのか?」
族長「それでも代官殿には敵わんでしょうな」ヒソヒソ
勇者「それがわかっているなら……」ヒソヒソ
族長「慢心した鼻っ柱を叩き折ってやってくだされ。上には上がいるのだと」ヒソヒソ
勇者「はぁ……そういう事か」
獣族達「「「うぉぉぉっっっ!!!!」」」ガンガンガンガン
勇者(凄い盛り上がりだな……)
勇者(そうか……これが皆の不満や鬱屈とした気持ちを、解消する手段でもあるのか)
獣族娘「代官殿、悪いがつきあってもらうぞ」
勇者「これでお前が納得するなら、まぁ仕方がない」
獣族娘「くっ、また私を侮るのか!」
勇者「すまない。そういうつもりじゃないんだが……」
獣族娘「好きな武器を取れ!」
勇者「お前はどうするつもりだ?」
獣族娘「私は……こうだ!!」
獣族達「「「うぉぉぉっっっ!!!!」」」ガンガンガンガン
勇者(うぉ!? 顔が豹のような猛獣に変わった!?)
獣族娘「これが私の武器ダ!」
勇者(なるほど……あの鋭く伸びた爪がそうか。獣族の名前は伊達じゃなかった訳だ)
勇者「うーん……」キョロキョロ
獣族娘「……まさか臆したのではないだろうナ?」
勇者「あ、俺はこれでいいや」
獣族娘「何?」
獣族「「「…………」」」ザワザワ
獣族娘「……その手にある小枝ハ……一体どういうつもりダ?」
勇者「どうもこうも……これが俺の武器だけど」
獣族娘「その腰の剣は飾りカ!」
勇者「飾りではないが今は必要ない」
獣族娘「ここまで馬鹿にされたのは、生まれて初めてダ。幾ら魔王様の代官殿とはいえ許さン!」
族長「双方……準備は良いな?」
勇者「あぁ」
獣族娘「問題なイ!」
族長「では……始めい!!」
獣族娘「どうしタ! 避けてばかりでは私に勝てないゾ!」
勇者(……動きが直線的過ぎる)ヒョイ
獣族娘「あッ!?」ズテンッ!
獣族男「わ、若君!?」
獣族女「若様~頑張って!!」
獣族娘「くッ……足を掛けるなど卑怯ナ……」
勇者(どうだ?)チラッ
族長「…………」
勇者(流石に転ばせたくらいじゃ、終わらないか……)
獣族娘「何をよそ見をしていルッ!!」ダッ
勇者(……仕方ない)
勇者「……いくぞ」ヒュン
獣族娘「何!?」
獣族娘「くッ!?」
勇者「……速さも、申し分ない」
獣族娘(わ、私が押されている……たかが小枝だぞ!?)
勇者「……だが動きが……単調だ」シュッ
獣族娘「なッ!? うわッ!?」ズテンッ!
勇者「……虚の動きに惑わされ引っ掛かる。実戦経験の少ない証拠だ」
獣族娘「う……あッ……(いつの間に……小枝が目の前に……)」
勇者「死んでるぞ?」
獣族娘(ただの小枝を手にしているだけなのに……この代官殿の威圧感は……何だ?)
勇者「まだ、続けるか?」
獣族娘(て、手が震えて……私は怯えているの、か?)
獣族娘「わ、私ノ……負けダ……」
族長「それまでっ! この試合、代官殿の勝ちとする!」
獣族達「「「うぉぉぉっっっ!!!!」」」ガンガンガンガン
獣族娘「は……い」
族長「どうだ、上には上がおるであろう?」
獣族娘「父上……まさか、父上以外の男に私が負けるとは、思いもしませんでした」
族長「そりゃぁそうだわい。ワシがやっても同じ結果だったろうからの」
獣族娘「は?」
族長「耳が遠くなったか? ワシがやっても、万に一つも勝てはせんと言っておる」
勇者「え、えーと……族長殿……その辺りで……」
獣族娘「父上が万に一つも勝てないなどと……冗談が過ぎる」
族長「……ワシが戦いの事で、冗談を言った事があったか?」ギロッ
獣族娘「あ……いや……」
族長「少しは成長したと思って喜んでおったが……」
勇者(娘の尻尾が丸まってるじゃないか……族長の一睨みで完全に萎縮してしまったな)
族長「戦った相手の力量もわからんとは……お前もまだまだのようだのう」
獣族娘「も、申し訳ありません……」
獣族娘「お待ち下さい、代官殿!」
勇者「まだ何か……っておい! 何をする気だ!?」
獣族娘「……」ペロペロ
獣族男「おい……」ザワザワ
獣族女「まさか若様が……」ザワザワ
勇者「ちょ、ちょっと!? これは一体?」
族長「代官殿。相手の足を舐める行為は、ワシらの間で『忠誠を捧げます』という意味だ」
勇者「なっ!?」
獣族娘「私は自分の弱さを……あなたに思い知らされました」
勇者「だ、だからって、どうして俺に忠誠を?」
獣族娘「この村でも、私より強い者は父上しかおりません。男達にも負けはしなかった」
勇者「い、いや……」
獣族娘「魔王様の親衛隊とはいえ、あなたにも遅れを取るはずがないと……」
獣族娘「……正直、心の底で馬鹿にしておりました」
勇者(さ、さっきまでと態度が違う……)
獣族娘「私はあなたが、臆病風に吹かれているのだとばかり思っておりました」
勇者「まぁ、普通はそう思われて当然だが……」
獣族娘「本当は私に恥をかかせないよう、そうお考えであったのではありませんか?」
勇者(いや、単に目立ちたくなかっただけなんだが……)
獣族娘「先ほどの戦いで、実力の彼我を身をもって知る事が出来ました」
勇者「だから忠誠っていうのはおかしいだろ?」
獣族娘「決めていたのです」
勇者「な、何を……?」
獣族娘「わ、私よりも強い方に……こ、この身も心も捧げようと///」
獣族達「「「おぉ……!?」」」」ドヨドヨ
勇者「待て待て待て待て!!!」
獣族娘「はい?」
族長「言いましたな」
勇者「どうして身も心も捧げるって事になるの? 表現がおかしくない??」
獣族娘「忠誠を捧げる事と、身も心も捧げる事は同意ではありませんか?」
勇者「だとしても、どうして顔を赤らめてるんだよ!?」
獣族娘「そ、それは……///」
族長「娘の気持ちも察してくだされ」
勇者「いや、任務中だから、俺! それに魔王様の事を慕ってるんでしょ?」
獣族娘「魔王様の親衛隊であるあなたに忠義を尽くす事と、魔王様への忠義は矛盾しません」
勇者「ぞ、族長殿?」
族長「ふふっ、娘を頼みますぞ、代官殿」
獣族娘「父上……///」
勇者「よ、妖精族の所に行ってきます!」ダッ
族長「……逃げられたかのう? どうするつもりだ?」
獣族娘「私は……諦めません」
勇者「では、あなた方の農作物を食べたのが病気の原因だが、それは水が汚染されているせいだと?」
妖精族長「はい。獣族の方々に被害が出てから、わかった事なのですが……」
勇者「汚染の原因はわかっているのですか?」
妖精族長「毒を持った虫が、水場で繁殖した可能性が、極めて高いと思われます」
勇者「虫ですか……」
妖精族長「水を撒く事で農作物に毒性が蓄積され、それを食べた事で被害が広がったのだと思います」
勇者「今もその虫は、水場に?」
妖精族長「おそらくは……早く対処しなければ、水を飲み続けている方も被害に遭われてしまいます」
勇者「獣族はそれに気づいてる様子はありませんでした」
妖精族長「毒自体は無味無臭ですから……ただ、症状が特徴的ですから、虫の毒とわかります」
勇者「なるほど……」
妖精族長「獣族の方々に話を聞いてもらおうとしたのですが、警戒され話も聞いてもらえず……」
勇者「それで城に訴状を?」
妖精族長「はい……私達の話は聞いてもらえなくても、魔王様からならばと思い……」
妖精族長「この粉を水場に撒けば、虫は死滅すると思います」
勇者「そんな便利なものがあるのですか?」
妖精族長「はい。実は数百年前にも同じ毒虫が発生した事がございまして」
勇者「数百年前、ですか?」
妖精族長「えぇ。その時は先代の魔王様がこの粉を使って、虫を退治してくださいました」
勇者「先代の?」
妖精族長「はい。この粉は魔王様がもしもの為にと、我々に置いていってくださったのです」
勇者「……もしかすると、その毒を中和する薬もあるのですか?」
妖精族長「作成方法を残していってくださいましたので……既に薬は作らせております」
勇者「そこまで用意周到に……しかも後の事まで考えて……」
妖精族長「先代様の慧眼に、ただただ感謝するばかりですわ」
勇者(ここでも魔王は慕われている……俺がした事は本当に正しかったのか?)
妖精族長「代官さま?」
勇者「……一緒に獣族達のところに来ていただけますか? 俺が間に入って話をします」
勇者(あれから、妖精族の長を連れて、獣族達に事情を説明したが……)
勇者(獣族達は警戒し、妖精族が作った毒の中和薬を飲む事を頑なに拒んだ)
勇者(そこで、安全を証明する為に、まず俺がその中和薬を飲もうとすると……)
勇者(獣族の族長と獣族娘の二人が、自ら進んで妖精族の中和薬を飲んでくれた)
勇者(その二人の様子を見て、他の獣族達も中和薬を飲んでくれ……)
勇者(その後は獣族と妖精族で水場へ行き、魔王が作ったという虫を駆除する粉を水場に撒いた)
勇者(すると、みるみる内に浮き上がってきた虫の屍骸で水面が覆い尽くされた)
勇者(その光景を見て、妖精族の言う事を疑う獣族はもはやおらず……)
勇者(虫の屍骸をせっせと水場から取り除く作業に忙殺された)
勇者(妖精族の長の話では……)
勇者(虫の卵がまだ残っているので、半月程は同じ作業を毎日行わなければいけないらしい)
勇者(もちろん、念の為に毒の中和薬も、毎日飲み続ける必要があるそうだ)
勇者(今回の揉め事の原因も判明し、獣族と妖精族の関係も修復)
勇者(魔王に渡す為にと、妖精族の長から粉と中和薬をわけてもらい、村をあとにしたのだが……)
勇者「ああ……」
獣族A「魔王様のお城に行くのは初めてです!」
勇者「そうか……」
獣族B「元気がありませんね。お疲れですか?」
勇者「いや……」
獣族C「私はこれで三度目です。一度目は子供の頃に、二度目は訴状を届けに上がった時に」
勇者「お前が持ってきてくれたのか、ご苦労だったな……」
勇者(獣族娘を含めた四人の獣族が俺について行くと言い出して……今に至る)
勇者(これ以上の厄介事を背負い込みたくない俺は、全力でそれを断ろうとした)
勇者(すると獣族の族長が『魔王様へ御礼を申し上げる為と代官殿の護衛の為』と言い出した)
勇者(魔王への礼はともかく、俺に護衛が必要ない事はわかっているはずだ)
勇者(礼は俺が伝えておくと彼らに告げると……)
勇者(族長が『娘がワシの名代で不服なら、ワシが代官殿に同行する』と言い出し始めた)
勇者(獣族娘達の同行を渋々ながらも許可する事にした)
勇者(『娘を頼みますぞ』とにこやかに笑う族長の顔は、完全に娘を思う親の顔だった)
勇者(親の気持ちというものは、人間も魔物も変わらないのだろう……と思う)チラッ
獣族娘「な、何でしょうか?///」
勇者「通常なら徒歩で三日はかかる行程だ。幾ら速度を落としているとはいえ、疲れていないか?」
獣族娘「お気遣いありがとうございます。ですが、我らは体力には自信がありますゆえ」
勇者「そうか。もうすぐ城に着くから頑張ってくれ」
獣族娘「はいっ!」
勇者(……城に着いたら、獣族娘達の事を魔王にどう説明したものか)
勇者(ややこしい事にならなければいいんだが……)
勇者(そういえば、妖精族の長は俺の事を何か察していたのか、何度か何か言いたそうにしていたな)
勇者(別れ際にも何か言いたそうにしていたが、俺が目で制すると何も言わずに頭を下げた)
勇者(魔物とはいえ、やはりああいう慎み深い女性が……)
獣族娘「代官殿、城が見えて参りましたぞ!」
勇者「お前達はここで待っていてくれ」
獣族娘「はい」
…………
勇者「おーい骸骨ーどこにいるんだー?」
骸骨「おかえりなさいませ。随分と早いお帰りでしたね。村の方は如何でした?」
勇者「あぁ、まぁ無事に片づいたかな」
骸骨「さようですか。それは上々にございます」
勇者「それで村での事を魔王に説明したいんだが、ちょっと困った事があってな……」
骸骨「お連れの方々ですか?」
勇者「何だ知っていたのか!?」
骸骨「この城に掛けられた探知魔法がございますので、勇者殿にお連れがいらっしゃる事は」
勇者「城にそんな仕掛けがあるのか?」
骸骨「……詳しい事は申せませんが、この城に近づく者がいればわかるようになっております」
勇者「……それじゃあ、最初にここに来た時も、俺が来たってはわかってたんじゃないのか?」
勇者「どういう事だ?」
骸骨「さぁ? こればかりは魔王様にお尋ねしなければ……私には何とも申せません」
勇者「……」
骸骨「その魔王様が勇者殿をお待ちになられています。お連れの方々もご一緒にと」
勇者「あいつらも一緒に?」
骸骨「はい。そのように仰せつかっております。それと……」
勇者「まだ何かあるのか?」
骸骨「以前お会いした執務室ではなく、玉座の間に来るようにとの事です」
勇者「玉座の間だと?」
骸骨「勇者殿はご存知の場所ではありませんか?」
勇者「……俺達と先代の魔王が戦った場所。そうだな?」
骸骨「その通りです。では確かにお伝えしました」スッ
勇者(……どういうつもりだ、魔王?)
獣族娘「まさか、本当に魔王様にお目どおりが叶うとはな」
獣族A「駄目だ……緊張で心臓が止まりそうだ……」
獣族B「わ、我らはどうすればよいのでしょうか、代官殿?」
獣族C「う、うろたえるな、情けない」
勇者「お前達、少し落ち着け。誰も取って食いやしないんだから」
獣族娘「代官殿の仰る通りだ。我らは何一つやましい事などないのだからな」
勇者(……ふぅ、獣族娘は大丈夫そうだが、他の連中は完全に舞い上がっているな)
勇者(しかし、こうしてこの扉の前に立つと、半年前の戦いの事を思い出すな)
勇者(まさか……戦いになるなんて事はないだろうが……)
勇者(……考えても仕方ない)
勇者「おい、お前達。入るぞ?」
獣族娘「お願いします」
獣族ABC「「「お、お願いしますっ!」」」
―――ガチャッ……ギィィィィ
骸骨「皆の者よく参った。前へ」
勇者(骸骨の奴……わざわざ先回りしてここに来ていたのか)
獣族A「ほ、骨だ……」
獣族B「ま、前へって言われたって……」
獣族C「ど、どうします?」
獣族娘「……代官殿?」
勇者「……余計な事を言わずに、俺の後ろについて来い」
勇者(玉座に魔王の姿がない……どういう事だ)
骸骨「そこで止まり、控えるがよい」
獣族A「ひ、控えろって??」
勇者「膝まづいて待てという事だ」
獣族B「そ、そうか……」
獣族C「す、凄い……この絨毯足が埋まるぞ?」
獣族娘「お前達ときたら……」
獣族A「な、なぁ……?」
獣族B「な、何だ?」
獣族A「俺達、いつまで待てばいいんだ?」
獣族C「だ、代官殿?」
獣族娘「お前達、少しは静かに待てないのか」
勇者(こいつらじゃないが、いつまで待たせるつもりだ?)
勇者(骸骨の奴もじっと突っ立ったままだし……)
魔王「……おぉ、もう来ておったか」
勇者(……やっと、お出ましか)
魔王「何を畏(かしこ)まっている。さぁ面(おもて)をあげよ」
獣族A「えっ!?」
獣族B「あ、あれが……」
獣族C「……魔王、様?」
獣族娘「こ、子供……?」
獣族娘「あ、あの……」
骸骨「許しもなく魔王様に直接口を訊こうなど、無礼であるぞ!」
獣族娘「は、ははっ! 申し訳ありません!」
魔王「良い良い、彼らは僕の民だ」
骸骨「はっ……」
魔王「お前達、言いたい事があるなら、何なりと申せ」
獣族娘「はっ……し、しかし……」
魔王「……時間がもったいない。僕が申せと言っているのだぞ?」
獣族娘「わ、私は近郊村の獣族族長の娘にございます」
魔王「おぉ、お前が族長の娘か、久しいな。此度(こたび)は対応が遅れてすまなかったな」
獣族娘「そ、そんな……勿体無いお言葉です」
勇者(……久しい? どういう事だ?)
勇者(獣族娘は、場の空気に飲まれて気づいていないみたいだが……)
勇者(まるで、獣族娘の事を知っているような口ぶりじゃないか)
獣族娘「は、はい」
魔王「そうか息災であるか。お前も父親は大事にしろよ」
獣族娘「あ、あの……」
魔王「なんだ?」
獣族「ま、魔王様は父をご存知なのですか?」
魔王「……そうか。お前が憶えておらぬのも無理はないか」
獣族娘「え、えっと……」
魔王「父さま……先代の魔王に随行して、僕がお前の村に行ったのは、お前がまだ赤ん坊の頃だからな」
獣族娘「は?」
魔王「……何か、おかしな事を言ったか?」
獣族娘「し、失礼ですが、魔王様はお幾つなのでしょう?」
勇者(いい質問だ。それは俺も疑問に思っていた)
魔王「僕の歳? 確か今年で113歳だが……それがどうかしたか?」
勇者「ひゃくじゅうさんさい!?」
勇者「す、すまん。いや、しかし……」
魔王「しかし何だ?」
勇者「いや、まさか俺より年上とは思ってなかったから……」
魔王「一体幾つだと思っていたのだ?」
勇者「じゅ、10歳ぐらいかと……」
魔王「馬鹿め、僕は魔族だぞ。お前達と一緒にするな」
勇者「そ、そうか……」
魔王「まあいい。して勇者よ。首尾はどうであった?」
勇者「おいっ!!!」
骸骨「ま、魔王様……勇者である事は内緒のはずでは?」
獣族A「ゆ、勇者?」
獣族B「どういう事だ?」
獣族C「さ、さぁ?」
獣族娘「だ、代官殿……」
獣族娘「やはり、そうでしたか……」
勇者「なっ? 落ち着いて話を聞け?」
獣族娘「やはり、代官殿は伝説にある魔界の勇者だったのですね!!」
勇者「……はい?」
獣族娘「我らを癒した術といい、父上も敵わぬ武といい、只者ではないと思っておりました!」
勇者「い、いや……」
獣族娘「何より、魔王様の命により、我らの村を救ってくださったのがその証拠!」
勇者「ちょ、ちょっと待て……」
獣族娘「数々の無礼、重ね重ねお詫びいたします!」
勇者「な、何を言って……」
魔王「獣族娘よ。お前が言う通り、この者は伝説にある魔界の勇者だ」
勇者「ど、どういうつもりだ、魔王!」
魔王「現在の魔界の現状を憂いて、僕の手助けをしてもらっておる」ニヤリ
勇者「は、はめられた……」
魔王「それでは、お前達はこの城に残るというのだな?」
獣族娘「はっ、私の忠義は魔王様と勇者殿に捧げております」
魔王「頼もしい言葉ではないか。なぁ、勇者よ?」
勇者「……お前、最初から企んでたな?」
魔王「何の事だ? 企むなどと勇者の言葉とは思えんな」
勇者「……ふん」
魔王「まあいい。お前には手伝ってもらいたい事がまだ山ほどあるからな」
勇者「まだ俺に何かやらせるつもりか!」
獣族娘「ご安心ください。私も微力ながら勇者殿のお手伝いをさせていただきます」
魔王「聞いたか勇者よ? 健気な娘ではないか」
勇者「うるさい!」
獣族娘「や、やはり私などが一緒では、ご迷惑なのですね……」
勇者「い、いや、あんたに言ったんじゃなくて……」
勇者「……もう勝手にしてくれ」
骸骨「うんうん。微笑ましい光景ですね、魔王様」
魔王「ふん。馬鹿騒ぎも程々にして欲しいな」
勇者「お前が言うな!」
魔王「僕と勇者の利害は一致しているはずだ。そうだな?」
勇者「くっ、それはそうだが……」
魔王「それに、僕には勇者の力が必要なんだ」
勇者「……急にしおらしくなるなよ」
魔王「悔しいが、今の僕の力だけでは、な」
勇者「わかったよ。但し、道に外れるような真似は困るぞ?」
魔王「これからも宜しく頼むぞ勇者よ」
勇者「あぁ、こちらこそ」
おわり
乙ん
続編を執筆する予定はあるのかい?
幾らでも続編は出来そうだけど、蛇足になりそうなので
終わるのが惜しいな
色々話が膨らみそうだが、さっと終わるのも良いもんだな
ダラダラ続けてgdgdになるよりは余程いい
Entry ⇒ 2012.03.01 | Category ⇒ 勇者魔王「」SS | Comments (0) | Trackbacks (0)
勇者「魔王ぶっ殺す!」魔王「ぶっころす!」
http://hayabusa.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1328893239/
この星の、生きとし生けるものよ……
わが子らよ……
滅びなさい……
滅びなさい……
勇者「そろそろいい年齢なので冒険を始めたのはいいけど……」
勇者「まったくモンスターが現れないぞ、どうなっているんだ」
勇者「故郷を離れてもう4ヶ月はたつのに……スライム一匹すらでてこない」
勇者「……」
魔王「うーん……」
魔王「……わかんない!」ニコ
勇者「……」
勇者「はあ……お前にきいてもわかんないか」
魔王「うー! 今しつれいなことかんがえただろ!」
勇者「考えてないよ犬娘」
魔王「しつれいだろ! なんどいったらわかるんだ、わたしはいぬむすめじゃない!」
魔王「ほこりたかき『魔狼』、おおかみのおうさまなんだぞ!」がるるる
勇者「……」
勇者(はあ……4ヶ月たって仲間になったのはこの犬娘一人……いや、一匹か?)
勇者(仲間と言うよりペットといったほうがいいかもしれん……変なのになつかれちゃったな……)
勇者(他にも仲間が欲しいんだけど、一緒に行きたいと言ってくれる人が誰もいないし)
勇者(こりゃ想像以上に魔王の手がのびてるんだな、人っ子一人残さないとは……)
勇者(こんな辺境の町にまで……外道め、絶対にぶっ殺してやる!)
魔王「ゆうしゃ、ゆうしゃ」くいくい
勇者「……なんだ」
勇者「またかよ!」
勇者「……お前はホント食べるか寝るかのどっちかだな……ちょっとは働け! 働かざるもの食うべからずだぞ」
勇者(といったものの、『勇者』として働いてないのは俺も同じか……)
魔王「うー! どっちかじゃない! ゆうしゃがあそんでくれないからだ!」
魔王「あそべ、あそべ! わたしとあそべ!」じたばた
勇者「うるさいぞ、そういう意味じゃない」
勇者「働けといってるんだ! だいたいお前の『職業』はなんなのさ?」
勇者「遊び人か? 違うだろ? 犬ならちょっとはその鼻つかってモンスターの一匹でも探してくれよ!」
勇者「……じゃあお前って何なのさ」
魔王「……」
魔王「あう……」しゅん
勇者「……」
魔王「……」しゅん
勇者「はああ……俺も自分が何なのかよくわかんなくなってきたよ最近……」
魔王「あ……」
魔王「ゆ、ゆうしゃ! ゆうしゃは……ゆうしゃなのだ!」
勇者「……」
魔王(ゆうしゃ……わたしの、わたしだけのゆうしゃ……)
勇者「うわ、これはひどいな……」
勇者「完全に破壊されてるぞ、これじゃ……住人は絶望的、誰もいなさそうだな……」
勇者「いるには……いるんだよな、どっかに魔王が」ごくり
勇者(じゃあなんでモンスターの姿は見えないんだ……?)
魔王「……」
勇者「……」
魔王「……!」
魔王「う、うむ! きゅーん、きゅーん♪」ぱたぱた
勇者「……」
勇者「勝手に厨房に入り食材を使って料理……勇者だからこそ許される特権だよね」じゅーじゅー
勇者「……煙で涙がでてきたぞ……」じゅーじゅー
魔王(わたしはゆうしゃといっしょにたべるごはんがだいすきなのだ)
勇者「……犬娘、そっちにある肉をとってくれないか」
魔王「うむ!(……いぬむすめっていうな!)」とてとて
勇者「おい、おい犬娘」
魔王「んぶ、じゅるっ……な、なんだゆうしゃよ!?」
勇者「肉によだれが垂れてるんだが……ご飯抜きにするぞ」
魔王「あ…や…きゅ~ん、くぅ~ん(いや、いや、ごはんぬきはいや!)」ふるふる
勇者「……まったく(ばか犬にもほどがあるぞ……)」
勇者「ふう……腹もふくれたし、今日はもう寝るか」
勇者「かなりの距離を歩いたから疲れたぞ、久々の布団……今晩はぐっすり眠れそうだな」
勇者(次の町まではどのくらいあるんだろう……正直、荷馬車を調達したいんだが肝心のその馬さえいない)
勇者(魔王め……! 馬くらい残しておけよバカ!)
魔王「……」じー
魔王「いぬむすめって……! う、うぅ……」
勇者「?」
魔王「……いっしょに、いっしょにねてもいいか?」ちら
勇者「え、一緒にって……お前とか?」どき
魔王「う、うむ……だめか?」ちら
勇者「だって、お前一応女の子なんだろ……?(いや、メス……?)」
魔王「……」
魔王「ゆ、ゆうしゃはわたしを……お、おんなとしてみてくれているのか?」
勇者「え」どき
勇者「……と、隣の部屋にもベッドがあっただろ、そっちで寝ればいいじゃないか」
魔王「……」
魔王「……ひとりはいや」
魔王「よるは……よるにひとりはいやなのだ……」
魔王「……」
魔王「……ははうえが、ははうえがいつもいっしょにねてくれてた……」
勇者「……そ、そうか……(う、う~ん……)」
勇者(犬娘だろうが何だろうが、まだ幼いんだ……一緒に寝てやっても……問題はない……か)
魔王「……!」
魔王「ほ、ほんとうか!? やった! やった!」
魔王「わふ、わふん♪ いっしょに、ゆうしゃといっしょにねる! ねる!」ぬぎぬぎ ぽい
勇者「!?」
勇者「うわああああああああ!?」
魔王「!? ど、どうしたのじゃ、ゆうしゃ」びく
勇者「ど、どどどどどどうしたのじゃないだろ……! なんで、なんで服を脱ぐんだ!?」
魔王「?」
勇者「『?』じゃない! なんで寝るのに服を脱ぐのかときいてるんだ……ふ、服をきろ!」
魔王「ゆうしゃはふくをきたままねるのか」
勇者「ああ、そうだよ! 俺っていうか……人間は寝るときも服を着たまま寝るの!」
勇者(あわわわわわわ、い、犬娘とはいえ……女の子の、は、裸を初めて見てしまった……!)
魔王「……」ぱたぱた じー
勇者「は、はやく!」
魔王「ははうえはきょにゅうなのだ」
勇者「え」
魔王「ははうえはきょにゅうなのだ、わたしはははうえにだとみんなにいわれている」
勇者(あわわわわわわわわ……!!)
魔王「いまはちいさいけど、そのうちははうえみたいにきょにゅうになるぞ」
魔王「くぅん……」
勇者「ふ、服をきないと一緒に寝てやらないぞ!!」
魔王「!?」
勇者「裸で寝るなら一人で寝ろ! 隣の部屋で……さ、さっさと行け! 俺は寝ないぞ!」
魔王「……」しゅん
魔王「……」しゅん
がさごそ
魔王「ねる……いっしょにねる」
魔王「ふくをきたからゆうしゃといっしょにねる……ねたい、の……」
勇者「う……ま、まあそれなら……いい……」
勇者「も、もう遅いから、さっさと寝るぞ……」
魔王「……うむ」
魔王「……」
魔王「おやすみなさい、ゆうしゃ」
勇者「……お、おやすみ」
魔王「……」ぎゅ
(ゆうしゃ……)
――――
――
家来「――こうして勇者は世界を救ったのでございます……いかがでしたかお嬢様」
魔王「お、おー……かっこいい、かっこいいぞゆうしゃ、ゆうしゃかっこいいぞ!」
魔王「もっと、もっと! ゆうしゃのはなしがききたい! じい、もっとききたい!」
魔王「うー、ききたい、ききたい! ゆうしゃのはなしがききたい!」
家来「……お嬢様、お話をきかずともお嬢様には……いずれ勇者とお会いになられる日がくるかと存じます」
魔王「? あえるのか? わたしがゆうしゃにあえるのか?」
魔王「そ、そうなのか!? どこでだ? どこにいけばゆうしゃにあえるのだ?」
家来「……お嬢様が出向かれなくとも、ここにいればあえるのです」
魔王「?」
家来「ここでお待ちしていれば、勇者のほうから魔王さ……いえ、お嬢様に会いにこられます」
家来「……」ちく
魔王「で、ではゆうしゃがきたときでむかえの用意をしなくてはいけないな!」
魔王「おかし、おかしをいっぱい用意するのだ! 爺、おかしをいっぱい用意するのだ!」
家来「……ええ、そうしましょうお嬢様」
魔王「爺、わたしはさいしょになんていえばいいのだ?」
家来「……勇者は長旅できっと疲れておいでです、まずはねぎらいのお言葉をかけて差し上げればよろしいかと」
魔王「ねぎらい……」
魔王「『よ、よくぞここまできた! ほめてやろう!!』」
家来「……ええ……ええ、きっと勇者もお喜びになられます、お嬢様」ぽろ
魔王「爺? なんでなくのだ」
家来「……申し訳ございません。なんでも……なんでもござません……お嬢様」ぽろぽろ
魔王「?」
家来「……」
魔王(でも……あえるのか、ゆうしゃ)
魔王(たのしみだな、どんなかおしてるのだ、ゆうしゃ)
魔王(あいたい……はやくあたいぞ……ゆうしゃ♪)
――――
――
魔王「……ゆうしゃ……」ぎゅ
勇者「……」
魔王(あ……そうだった、ゆうしゃはいまねているのだ……)
魔王(おこしてはいけない)
魔王(うー、いけない、よなきはいけない、ゆうしゃがおきる)
魔王(ゆうしゃはつかれてる、いっしょに……いっしょにいっぱいあるいてくれてつかれてる)
魔王「……う、うぅ……くぅーん、きゅ、きゅぅう……」
魔王(いけない、いけない、よなきはがまん! よなきはがまん!)
魔王「……!」
ガバッ ダダダダダダダ バタン
勇者「……んん? うるさいなあ、何だ? ……犬娘?」
勇者「……」
勇者(おしっこか? ……まあ、いいや……寝よ……)
勇者「……」
犬娘「……」
犬娘「ゆ、ゆうべは……おたのしみだったの……」もじもじ
勇者「は?」
犬娘「……」ちらちら
犬娘「……ね、ねごとで、『いぬむすめ! いぬむすめ!』と、あんなにはげしく……」ぱたぱたぱた
勇者「……!」
犬娘「わ、わたしはなんかいはらまされたのだ?」ぽ
魔王「……くぅ~ん……ゆうしゃ……」
勇者「う、うるさい! は、ははははははらますってなんだ!」
勇者「俺はただ、お前が……犬娘が粗相して叱る夢を見ただけだ! は、はらますとか……意味がわからん!」
勇者「お、お前なんかと……お前なんかと……!」
勇者「……!」
魔王「えへへ♪」
魔王「ゆうしゃ……」
がぶ
勇者「おわっ!? い、痛ってえええええ……!?」
魔王「むー! むー!(いぬむすめじゃない! いぬむすめじゃない! なんどいったらわかるんだ!)」
勇者「……」
魔王「……」
勇者「……ここもか……(ひどいな……)」
勇者「前の町は建物がギリギリの形で残ってたけど……ここまで破壊しつくされてるとは……」
勇者「魔王……!」ギリ
勇者「ぶっ殺してやる! くそ魔王!!」
魔王「……!!」びくっ
勇者「……はあ、はあ……くそ!(また誰とも会えない……!)」
魔王「……」
勇者「……今日は……今日も野宿だ……」
勇者「……」
勇者「……(ふう……犬娘は気楽でいいよな……)」
魔王「……」しゅん
勇者「もう少し歩こう……次の町までたどり着けなくても、どのみち野宿には変わりないしね……」
勇者「……」
魔王「……」
勇者「……」てくてく
魔王「……」てくてく
魔王(ごめんなさい、ゆうしゃ……)
ごめんなさい――
――――
――
先代魔王「……寝たか?」
家来「……はい、泣き疲れたのでございましょう……今はぐっすりと寝ておられます」
先代魔王「……そうか」
先代魔王「……何だ」
家来「……差し出がましいとは思うのですが……少し早かったのでは……ないかと」
先代魔王「……」
先代魔王「爺、お前があいつに読んで聞かせてやってた『話』では、勇者は……魔王をちゃんと倒していたのか?」
先代魔王「いや、いい。それでいいのだ……勇者は世界を救うもの……魔王を倒すものでなくてはならん」
先代魔王「……で? あいつはその『話』の、どの登場人物に己を投影していたのだ?」
家来「……はい、お嬢様……いえ、魔王様は……常に勇者の傍らにはべり、自ら勇者の剣と、盾になり……」
先代魔王「そうか……」
家来「……」ぽろぽろ
先代魔王「……時間がないのだ、ついさっき入った報告だが……『嘆きの森』周辺の村や町が壊滅したそうだ」
家来「……!」
先代魔王「その範囲は徐々に狭まってきておる……」
先代魔王「……夢で見た『啓示』通りだ……」
家来「では、やはり……ここ数ヶ月、世界で起きている現象は……」
先代魔王「……」こくり
先代魔王「争うからだ」
先代魔王「我らは……人間は……争いすぎたのだ、人間など……同じ種族同士で争うとも聞く」
家来「……」
先代魔王「時間がないのだ……『啓示』にはこう続く……」
家来「……そ、その『魔王』とは……」
先代魔王「魔王の『系譜の儀式』は終えた、今は……あやつよ」
先代魔王「……できれば代わってやりたいのだが……ワシには、ワシにはもう時間が……う!? うぅ……!?」
家来「だ、大王様!!」
魔族「た、大変です! 大王様!!」
家来「ばかもの! 今、大王様は……!」
魔族「お、おじょう……魔王さまが、城をお出になられました!!」
先代魔王「!?」
家来「……な! ば、ばかもん貴様ら!! 目付け役の魔族はどうした!!」
魔族「残ったものの話によれば、な、なんでも『勇者に逢いに行く』と……」
家来「……!」
先代魔王「……はぁ……はぁ……」ぜえぜえ
家来「だ、大王様! すぐに追っ手を! 魔王様を保護しなくては!」
先代魔王「……放っておけ」
家来「……! し、しかし……」
先代魔王「遅かれ早かれ……あやつは勇者と逢う運命、『啓示』にすがるなら……その時は早いほうがいい」
先代魔王「なに、あいつのことなら心配いらん、あいつをどうこうできる者などこの世にはおらん……勇者を除いてな……」
先代魔王(ふふ、皮肉なものだ……敵である筈の勇者に『世界を救ってもらう』だの……)
家来「大王様……本当にそれで宜しいのでしょうか……」ぶるぶる
先代魔王「いうな」
(ワシも……魔族として、父として、心からそれを願ってはおらん、願わくば……)
――――――
――――
――
ぱち ぱち ぱち ぱち
魔王「……ん……(あれ、あったかい……)」
勇者「なんだ、起きちゃったか」
魔王「あ……(ちゃんといる……)」
ぱち ぱち ぱち ぱち
魔王「……ずっとおきててくれたのか?」
勇者「……まあね、火を絶やしたらモンスターに狙われちゃうから」
勇者「……なあ、犬娘……俺ずっと考えてたんだけど……」
魔王「?」
勇者「このまま旅を続けてても、誰にも会わない……というより会えない気がしてきたんだけど……」
魔王「……」
勇者「誰にも会えなきゃ、どこに何があるのかも……魔王の城でさえどこにあるのかわからない」
勇者「あてのない旅……このまま旅を続けてていいのかな……って」
ぱち ぱち ぼっ ぱち
魔王「……」
魔王「わたしはしってるのだ、ゆうしゃは、ゆうしゃはどんなときもよわねをはかない」
魔王「せかいをすくう……まおうをぶっころす、このせかいのえいゆうなのだ!」
勇者「……!」
魔王「だ、だから……だからこのままたび……いっしょにたびを……つづけたい」
魔王「きゅ、きゅ~ん……ゆうしゃ、ゆうしゃ、ずっとそばに……そばにいたいのだ」パタパタ
魔王「だから……!」
勇者「魔王ぶっ殺す!!」
魔王「……!」
魔王「……う、うん! うん!」ぱあああ
魔王「まおうぶっころす! ……えへへ♪」
勇者「……さて、犬娘はもう寝なよ、明日はまたたくさん歩くことになりそうだからね」
勇者「……次の町まで、どれくらいかな……(そもそも無事なのか……?)」
勇者「? なんだ、さっさと寝ないと……」
がぶ
(いぬむすめっていうな!!!)
(あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛……!!!??)
勇者(いっしょにいたい……か……)ちら
魔王「……すぅ……すぅ……」
勇者「う……」どき
勇者「……! (ふ、不覚にも『また』ドキッとしてしまった……!)」
勇者(い、犬娘があんなこというから! 見た目は、可愛い女の子なのに!!)
勇者「女の子と二人きりで旅か……」
勇者(何故だろう、このまま……俺もこのままでいい気がして……)
ぱち ぼっ
勇者(!? な、何を思ってるんだ俺は……! さっき犬娘と気合を入れたばっかりじゃないか!)
勇者(今の状況に浸ってる場合じゃないぞ、しっかりしろ勇者!)
勇者「……」
勇者「うん、また明日から頑張らなきゃ……」
勇者(もうすぐ明け方か……火はもつよな、俺も……少し寝よ)
魔王「……くふぅん……すぅ……すぅ……」
勇者「……」
勇者「……」
(ゆうしゃのてのかんしょく、なでなでしてくれるてのかんしょく……)
(ゆうしゃのにおい……)
魔王「……!」ぱちっ
魔王「……」
魔王(ま、また……う、うぅ……)
魔王「うぅうぅうう、うううう……」がるるるる
魔王(は、はやく、はやくはなれなきゃ……ゆうしゃからはなれなきゃ!)
魔王「……はぁっ……はぁっ……」たったったったっ
魔王「……うぅ、ううう……うー!!」がる、がるるるるる
魔王(また……まただ……もうこれはいやなのに、もういやなのに……!!)
魔王「う、うう……おっ……」
魔王「あ、あお~~~~~~~~~~~~ん!!!!」
――――
――
先代魔王「む……今の声は……」ぴく
家来「はい、お嬢様でございます」
先代魔王「またか……この頃回数が増えてきたようだが……」
家来「お嬢様も多感なお年頃ですので……」
家来「あ……ち、父上様の前で……こ、これは失礼しました」あせあせ
先代魔王「ふふ……よい、よい。あれの母もそうであったわ……」
家来「……(お后さま……)」
先代魔王「簡単に言ってしまえば『性欲の発散』よ、ただのな……父として複雑ではあるが……」
家来「……」
先代魔王「后も昔は大変だったぞ、ひどいときは毎日だ」にや
家来「……」
先代魔王「……后のことか? いや、后のアレがなくなったのは年をとったからではない」
家来「では……」
先代魔王「契ったからだ、人間で言うところの……『女にしてやった』からなくなったのよ」にやにや
家来「……ご、ごほん。し、失礼しました……」
家来「……! ま、まだ早うございます!」
家来「そ、それに、お嬢様にふさわしい相手ともなるとそれなりの者でなければ!」
家来「……爺は未だそのような者の噂を聞いたことがございません」
先代魔王「そうか、そうか、ならばあやつの相手は爺に見つけて貰うとしようかの」くっくっ
先代魔王「あやつもいつかは誇り高き『魔王』の名を継ぐもの……伴侶ごとき己で見つけて貰いたいがな」
先代魔王「『英雄色を好む』と言うんだそうだ、先代勇者がそう言っておった」
先代魔王「ワシも若いころは先代勇者と女の奪い合いをしたことがある」
家来「ほう、それではその時奪い合いになられたのが今のお后さまで……?」
家来「……」
先代魔王「あやつは……先代勇者は今頃どうしておるのかの……」
家来「……(良く似ていらっしゃる……魔王様……)」
家来(勇者のお話をされるときの眼……お嬢様そっくりでございますよ……)
――――
――
勇者「……今のは……犬娘の声か?」
勇者「……そういえばあいつ、いつも寝てるとき途中でどこかに出歩いてるみたいだよな」
勇者「用を足すのにどこかへ行ってるものだと思ってたけど、今の声はなんだ……?」
勇者「……」
勇者「……様子を見てくるか(あっちの方角からしたよな、声……)」
勇者「……(まさに獣道だな……草が鬱陶しい、あいつこんなところで何やってるんだ?)」
勇者「……」がさがさ
勇者「……」がさがs
勇者「!? こ、これは……!!」
勇者「こ、こんな場所に町があったなんて……! 気が付かなかったぞ……」
勇者(あれだけ草木に囲われてたんだ、見えなくても不思議じゃないな……)
勇者「……でも、やっぱりここも破壊されたあとみたいだな」
勇者(人もいないか……ん? 人? ……あ、そうだ犬娘!!)
ズーーーーーーーン!! ズズズズズズ……!!
勇者「!? ……な、なんだ!?」
チュドーーーーーーン!! ズズズズズズ……!!
勇者「あの建物の向こうか、誰か……いるのか?」だっ
勇者(犬娘……? いや、もしかして他の人かもしれない……!)
勇者(人……犬娘以外で初めて会う人……!)どきどき
勇者(頼む……! 誰か、人間がいてくれ……!!)
バッ
……!!
ズシーーーーーン ガラガラガラ……
魔王「ウウー!! ウウウウーーーーー!!!!」ブン
ッドーーーーーーン メキメキメキ……
魔王「ウー、コワレロ! ミンナコワレロ!!」
勇者「……」
勇者「……犬……娘……?」
勇者「……!(い、犬娘なのか、本当に……?)」
魔王「ウウー、ウウウウ……」
勇者「お、おい……どうしたんだよ犬娘、それに……なんだよこの破壊のあとは……」
勇者「……犬娘が、全部やったのか……?」
魔王「ワレハ……ウ、ウウ……ワレハ……」
魔王「イダイナルマゾクヲスベル……ウウウ、マ、マ……」
魔王「『マオウ』ナリ!! オ、ア……アオーーーーーーーーーーーーーン!!!!!!」
家来「ですが必要です」
先代魔王「ふむ、まあよい……ちゃんと近隣諸国、周辺の自然などは無事なのであろうな」
家来「抜かりありません」
家来「『町』周辺には常に結界を張っており、また万が一に備えて『回復』を得意とする魔族を周辺に配置しておりますれば……」
先代魔王「その代わり『破壊』には長けておる、やはり……これも『魔王』の宿命かの」
ズズーーーーーーーン ズズズズズ……
家来「お嬢様におかれましてもそのようで……」
先代魔王「くっくっくっ……」
――――
――
先代魔王「……! ぐはっ、がああ……!!!?」ビチャ ビチャビチャ
家来「だ、大王様!!!」
先代魔王「ぐぅうぅ……! き、きたようだな……時間が」ぜえぜえ
先代魔王「ぐぅ、ふ、ふふ……『神』からすれば『王』も『家来』もないのだ……」ぜえぜえ
先代魔王「この世に生を受けたものには等しく訪れる……もう、世界には時間がない……」
先代魔王「頼む……急いでくれ、勇者よ……はやく、はやく魔王を貫くのだ」
先代魔王「魔王を……!」
先代魔王「頼む……」ぽた
先代魔王「頼む……娘を、イヴを……」ぽたぽた
先代魔王「殺さないでくれ!!!!」
先代魔王「うおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!」
先代魔王「とめてくれ!! 頼む、爺!! 止めてくれ!! 止m……ぐはっ!!!」びちゃびちゃ
家来「大王様……!!」ぽたぽたぽた
先代魔王「頼む……げほっ、勇者を……ひゅーっ、む、娘を……魔王を……」
先代魔王「か……み、よ……」
先代魔王「……」
先代魔王「……」
家来「お疲れ様でした、大王様……」ぽた
家来「すぐに……すぐに爺もそちらへ参ります……」ぽたぽた
……くぅーん……
……人間? いや、でもこの耳と尻尾は……犬?
……どっからきたの……?
……きゅ、きゅん、きゅん♪ ばっ
うわ! なんだこいつ!
――――
――
勇者「いぬ……むすめ……え……?」
勇者「……『まおう』?」
勇者「な、何を言って……」
勇者「……!」ごくり
勇者(し、信じたくないけど、今、実際にこいつが……犬娘が町を破壊してるのを見た)
勇者(あんな……あんな強大な魔法が使えるなんて……! 魔王……?)
勇者(じゃ、じゃあ行く先々で町が壊れていたのも、全部こいつの仕業か!)
ほこりたかき『魔狼』、おおかみのおうさまなんだぞ!
勇者「……!」
勇者「魔王……!」ギリッ
魔王「ぐるぅうう、ううううう……」
勇者「ずっと、一緒に旅をするフリをして……バカにしてたのか、俺を! 勇者を!!」
勇者「バカに! バカにして……!!」
ゆうしゃといっしょにねる……ねたいの
勇者「お、俺は……今まで……」
わ、わたしはなんかいはらまされたのだ? ぽ
だ、だから……だからこのままたび……いっしょにたびを……つづけたい
勇者「……続くと……ずっと続くって……そう思ってたのに(お前には言えなかったけど…)」
わ、わたしは……ずっと、ずっとゆうしゃのそばにいたい……
勇者「俺も……俺もお前とずっと……」ぎゅ~っ
勇者「……魔王の癖に、よく言えたもんだ」
魔王「ウウウウう……コワス……」
勇者(あの森ではお前の言葉に励まされたよ……覚えているか……魔王)
魔王「グルルルッル、ウウウウウウウ……コ、コロス……!!!」
勇者「……」チャキン
勇者「……いくぞ、魔王」カチャ
せかいをすくう……まおうをぶっころす、このせかいのえいゆうなのだ!
魔王「ウウウウウウウウウウウ!!!!!!!」
勇者「う、うおおおおおおおおおおおお!!」ダダダダダ
勇者「魔王!! ぶっ殺してやる!!!」
カラン カラン ……
魔王「う、ううう……ううううう」ぐるるるる
勇者「……」
勇者「……なんてね」
勇者「殺せるわけないだろ、やっぱり……」
勇者「これ、一度も店で変えなかった……故郷の木で作った剣だから……」
勇者「……ていうか、そもそもモンスター一匹も倒したことないから経験値……ゼロだし」
勇者「魔王に挑むのは早すぎちゃったか……」ニコ
勇者「うんうん、流石に降参です。またイチからやり直すよ」
魔王「ユ、ユウシャ……ユウシャ……」キュインキュイン……
勇者「こんな駄目な勇者で悪かったな……魔王、がっかりしたろ……犬娘……」
勇者(勇者はどんだけ強くなっても……もう、きっと……魔王を倒すことはできない)
勇者(俺の……たった一人の……たった一人『だった』仲間……)
勇者「うん、この冒険は……最高だったなあ!!!」
魔王「……シネ!!!」
ボッ
魔王「……」
魔王「……あれ?」
魔王「……ゆうしゃ?」
魔王「なんでそんなところでねているのだ?」とてとて
勇者「……」
魔王「ゆうしゃ、ゆうしゃ、かぜひいちゃう、ここでねてたらかぜひいちゃう」ゆさゆさ
勇者「……」
魔王「うー! おきろ! おきろ! 」ゆさゆさゆさゆさ
勇者「……」
魔王「……」
勇者「……」
魔王「ゆうしゃ……おきて……」ポタ
魔王「すごいじょうほう、きっとゆうしゃはよろこぶぞ」
魔王「なんとあのまおうのしろのばしょをおしえちゃいます!」
勇者「……」
魔王「あ、あとあと、まおうのしょうたいもおしえちゃいます!」
勇者「……」
魔王「……」
魔王「……!(そ、そうだ! 『かいふく』のじゅもん……!)」
魔王「じいにいっぱいおしえてもらったのだ、えーと、えーと……」
魔王「ど、どれだっけ……あれ? どうすればいいんだったっけ……」
魔王「うー、うー、おもいだせない、おしえてもらったのにおもいだせない……!」
魔王「はやく、はやく、ゆうしゃをおこさなきゃだめなのに……」
魔王「まりょくのかいふく、げどく、そせい……う、うぅ」
魔王「だれか……ゆうしゃをおこしてくれるひとは……」
勇者「……」
魔王「……おきて……おきてください、ゆうしゃ……」
魔王「……う、ひっく……おぎでぐだざい……ゆうじゃざま……」
魔王「もうわがままはいいばぜん、いっじょにだびがじだいなんてもういいばぜん」
魔王「いいばぜんがら……おぎで……おぎで……ゆうじゃ、おぎでよゆうじゃ!」
魔王「わだじのだいぜつなひと……ごのよでいちばんだいせつなじと……」
魔王「ゆうじゃああああああああああ」
勇者「うるさい! この……っ、ばか魔王が!!」ぽか
魔王「きゅん」
魔王「あ……あ……」
魔王「ゆうしゃあっ!!!!」だきっ
勇者「……! は、離れろこのくそアホ魔王!! 獣くさいんだよ!!」
魔王「ゆうしゃ! ゆうしゃ! ゆうしゃだ、えへへ♪」ぱたぱたぱた
魔王「ゆうしゃ、ゆうしゃ……わたしのゆうしゃ……」
勇者「だ、だれがお前の勇者だ人間の敵め……!(とかいいつつ顔が赤くなってるのが情けない……)」
魔王「てっきり、てっきり、しんでしまったのかとおもった、ゆうしゃがいなくなってしまったかとおもった!」
勇者「……」
勇者(でも声が聞こえた……どこかで聞いたことのある声……)
勇者「……なんか、『情けない、おお情けない』ってバカにされたし……」ぼそ
魔王「?」
勇者「まああれだ、『勇者は死なん』! 例え死んだとしても『何度でも生き返る』!」
魔王「お、おー……かっこいい、かっこいいぞゆうしゃ、ゆうしゃかっこいいぞ!」
勇者「……」
魔王「……」
勇者「……」
魔王「……」
魔王「……」
魔王「ゆ、ゆうしゃ……」
勇者「なんだ、魔王」
魔王「……」
魔王「ゆうしゃがすきです」
魔王「ゆうしゃがすきなので、いっしょにたびがしたいです」
魔王「……ずっと、ずっと、ゆうしゃのそばでたびがしたいです」
魔王「でも、でも……ゆうしゃはまおうをたおすのだな……」チラ
勇者「……さすが魔王……(今の『攻撃』は効いたぜ……)」
勇者「あー……」
勇者「俺は魔王は嫌いなんだ」
魔王「……」
勇者「だってあいつは人間の敵だし、町を壊すし、馬も残さない気のきかないヤツだし……」
勇者(じゅ、純情な勇者の男心を一度踏みにじったし……!)
勇者「勇者は魔王を倒す旅に出なきゃ……うん、でも仲間も必要なんだよな……」
勇者「……」
魔王「……」
勇者「また一緒に旅に行くか、『犬娘』」
魔王「……! う、うん、うん……!!」
魔王「ゆうしゃよ!!!」だきっ
魔王「あいしているぞ!!」
勇者「……俺もだ」
魔王「えへへ♪ うれしい」ぽ
魔王「でも……」
ガブ
いぬむすめっていうな♪
俺たちはまだ旅を続けている
相変わらず人にあうこともモンスターに出くわすこともない
(なので相変わらず経験値はゼロ、しかももはや武器すらない)
変わったことといえば……
こうして手をつないで歩くようになったことと……
勇者「……犬娘、大丈夫か?」
勇者「……お前が大丈夫でも中の子が大丈夫じゃないかもしれないだろ」
勇者「次の町くらいで、しばらく旅を中断しよう」
魔王「えー……きゅ~ん……」しゅん
勇者「そろそろ腰を落ち着かせるのもいいかもしれないしな」なでなで
魔王「くふ、ゆうしゃにはたしかにこしをおちつかせてほしいの」
魔王「まいばんいじめられるわたしのみになってみろ」ニヤニヤ
勇者「な……!」
勇者「お前だって毎回、毎回……!」
ガブっ
魔王「……ばつじゃ」
相変わらずの毎日
終わりのない旅……
だがそろそろ休憩が近づいている
魔王「ゆうしゃよ……ずっとわたしたちはいっしょじゃ」
魔王「あいしておるぞ……ゆうしゃ……」
風の音がきこえる
『最後の二人』よ……
海原を、天空を、大地を征く『最初の子』らよ……
幸せに……
幸せに……
とにもかくにも支援保守サンクス
色々いいたいことあったけど眠いのでもう落ちます でわノシ
よかった
こりゃ面白かった
Entry ⇒ 2012.02.27 | Category ⇒ 勇者魔王「」SS | Comments (0) | Trackbacks (0)
魔王「この俺を性奴隷にするだと?」少女勇者「ひぁ、はい!」
http://hayabusa.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1329061886/
勇者「も、もちろんです!」
魔王「……まあ良い、所詮負けた身だ。好きにしろ」
魔王(本気か? この子供)
勇者「じゃあ、え、えぇっと……触ってもいいですか」
魔王「わざわざ聞くな」
魔王「男に言うことか」
勇者「そ、そんなじっとこっち見つめないでください///」
魔王「初々しいなお前」
勇者「わ……きんにくすごい」さわさわ
魔王「お前の細い体の方が強いがな」
勇者「ま、魔力で強化してるだけです。素はすごく脆いんです……」
魔王(面白いなこいつ)
勇者「え、えっと、その……」
魔王「何だ」
勇者「ふ、服の中に手を入れてもいいですか」
魔王「俺は性奴隷なんだろう? お前の好きなように弄べば良い」
勇者「も、弄ぶだなんてっ!」
魔王「お前、真面目に言っているのか」
勇者「もちろんです!」
魔王「お前が照れてどうする」
勇者「お父さんとお兄さん以外の男性に触るのは初めてで……」
魔王「兄がいるのにお前が勇者に選ばれたのか」
勇者「お兄さんは農家継がなくちゃいけなくて」
勇者「ふっ、服脱がしますよ」
勇者「ちk……胸を舐めても良いですか」
魔王「だから好きにしろと」
勇者「ん……」チロチロ
魔王(何なんだこいつは)
魔王「こそばゆいだけだな」
勇者「うう…………」
魔王「で、下は弄らないのか」
勇者「えっ、あっ、ええと…………いきなりそっちに触れるのは恥ずかしいです」
魔王「お前は性奴隷を一体何だと思っている」
勇者「じゃ、じゃあ……最初は足でします」
魔王「いきなりマニアックだな」
勇者「そ、そうなんですか?」
>>11 ロリですよ
魔王「もう少し優しくしろ、壊れたらどうする」
勇者「ご、ごめんなさい」
勇者「これで良いですか」クリクリ
魔王「そんなもんだな」
勇者「わ……硬くなってき……わひゃっ!」ステン
勇者「片足で立ってたから転んじゃった……」カアァ
魔王(……阿呆か)
勇者「……本当に触ってもいいですか」
魔王「いい加減聞くなと」
勇者「ご、ごめんなさ……」
勇者「ひぁ……すごい……おっきくなってる……」
魔王「手が震えているぞ」
勇者「だ、だって、男の人の……触るの初めてなんだもん…………」サスサス
勇者「わっ……もっと硬くなった…………」
勇者「ひゃっ、あっ……」
勇者(どうしよ……直視できない)
魔王(こいつは馬鹿か)
魔王「どうした? 怖気づいたか?」
魔王「俺が性奴隷ならば、お前は主人だろう」
魔王「さっさと辱めたらどうだ」
勇者「は、はいっ」
魔王「……下手だな」
勇者「ん……」ショボーン
魔王「もっと力を入れて握れ。それではただ撫でているだけだろう」
勇者「こ、こうですか?」
魔王「力み過ぎだ」
勇者「うぅ…………」
勇者「はっ、はい」
勇者「……子供相手では嫌ですか」
魔王「そもそも性奴隷は拒否権など持っていないだろう」
勇者「で、でもっ」
魔王(この勇者、一体何を考えている)
勇者「……貴方は、どうされれば気持ち良いですか」
魔王「とりあえず舐めてみろ」
勇者「っはい……っ!」
勇者(何処舐めれば良いんだろ……先っぽの方かな……)ペロペロチロチロ
勇者(透明なお汁出てきた……これ何だろ……?)///
魔王(こいつ…………可愛いな)
魔王「っ…………」
勇者「き、気持ち良かったですかっ?」
魔王「……奥まで咥えてみろ」
勇者「そ、そうしたら男の人って気持ち良いんですか?」
魔王「上手くやればな」
魔王「性奴隷相手にいちいち気持ち良いのか聞くのか、お前は」
勇者「だ、だめですか……?」
魔王「駄目というわけではないがな……」
勇者「あむっ……」
勇者(おっきい……思いっきりお口空けないと歯が当たっちゃって痛いよね)
勇者(顎がつらいけど、がんばらなくちゃ)
魔王(……良い眺めだな)
魔王(俺はロリコンか)
勇者「はっ、はふっ」
勇者(口がむずかゆい……何でだろ)
魔王「ぅ……く…………」
勇者「ぷは、はぁっ…………」
魔王「下手なりに頑張ったな」
勇者「うん……」
魔王「お前自身は快楽を得なくて良いのか」
勇者「え、ぼ、僕自身……? ///」
魔王「……お前、快楽というものを理解しているのか」
勇者「え、えっと、その…………」
勇者「あ、あまりわかってないです……」モジモジ
勇者「……こそばゆい感じがするけど、よくわからないです」ワサワサ
魔王「全く膨らんでないな」
勇者「こ、これでも最近膨らみ始めたんですよ!」
魔王「乳頭を軽く抓ってみろ」
勇者「ん……ちょっとわかったような、わからないような……」
魔王(……本当に子供だな)
勇者「えっと……脚の間?」
魔王「割れ目をなぞってみろ」
勇者「はい」
魔王「小さな突起があるのが分かるか」
勇者「一番前の方にあるやつですか?」
勇者「女の子には何もついていないはずなのに、どうして小さいのがあるのかなとは思っていたのですが」
魔王「初心で淫乱とはよくわからないな、お前」
魔王「それを触ってみろ」
勇者「ふあ……なんかへんなかんじ」
魔王「それが快楽だ、分かったか」
勇者「は、はい……」ビク
魔王「お前、自分の穴の位置は分かるか」
勇者「あ、穴……? お尻の穴じゃなくて……?」
魔王「その様子だと知らないようだな」
魔王「まあそうなるな」
勇者「え、えっと……」しどろもどろ
魔王「位置を教えてやるから手枷を外せ」
勇者「は、はいっ」ガシャッ
魔王「……お前は馬鹿か?」
勇者「あっ……」
勇者「に、にげちゃやだよ」
魔王「足枷まで外すとは親切だな、まったく……」
魔王「逃げたところでまた捕まえに来るだろう、お前は」
魔王「お前が飽きるまでお遊びに付き合ってやる」
勇者「ほんと? 逃げないの?」
魔王「ああ」
勇者「一緒に居てくれるの?」
魔王「お前が望む限りな」
勇者「ひゃっ……は、はい」
魔王「で、お前はこれからどうしたい?」
勇者「どうしたいって、ええと……」
魔王「俺はお前の性奴隷で、お前は主人だろう?」
魔王「次は何をしたいのかと聞いている」
勇者「え、えっと、じゃあ……」
勇者「魔王と、赤ちゃん作る時のことしたい」
勇者「そもそもまだ……せーりも来てないけど」
勇者「魔王と……してみたいの」
魔王「初めては痛いぞ、良いのか?」
勇者「魔王なら、良いの……魔王じゃなきゃいや……」
魔王「俺のよりも、他の短小に処女を奪われる方が痛くないぞ」
勇者「他の男の人なんて興味ないよっ!」
勇者「魔王のこと、好きなの……好きになっちゃったの」
魔王「……主人はお前だろう。お前が主導権を握れば良い」
魔王「これが欲しいなら早く使え。萎えるぞ」
勇者「は、はいっ!」
勇者「……ど、どうすれば上手く挿れられるかな」
魔王「……指、挿れてやる」
魔王「狭いな」
勇者「ん、ぁ、いひゃい」
魔王「かなり慣らさないときついぞ」
勇者「い、いた……んぁあ…………」
魔王「やめておくか?」
勇者「つ、続けて……がんばるから……!」
勇者「ん……」クニュ
勇者「ん……うぅ…………」
勇者「あ……う……」
魔王「力を抜け、ゆっくり腰を降ろせば良い」
対面座位。
勇者「ぜ、ぶ、はいっ、た…………」ブルブル
魔王「締め付けすぎだ、もっと気を抜け」
勇者「ぅ…………」ガクッ
魔王「お、おい」
勇者「…………」
魔王「……気絶したか」
魔王「目が覚めたか」
勇者「あれ? 僕……」
魔王「緊張の所為か戦闘による疲労の所為かは知らんが気を失っていたぞ」
勇者「ここは……?」
魔王「俺の部屋だ」
勇者「魔王の……」
魔王「言っただろう、お前が飽きるまで付き合ってやると」
勇者「うん……」
魔王「お前こそ俺を殺さなかったな」
勇者「だって、魔王は人を襲ってないし……」
勇者「王様達が魔王城の財宝を狙ってて」
勇者「それで魔王を倒せって言われたからここまで来たけど……」
勇者「何も悪くない魔王を倒すなんておかしいもん」
勇者「……何よりも、僕、魔王のこと……好きだから」
勇者「だからって、勇者と魔王が仲良くなるなんて聞いたことないし」
勇者「それなら、支配すれば……支配してしまえば良いのかなって」
勇者「それで、それで…………ふえ……」
魔王「……そうか」
勇者「殺したくなんて、なかったから…………」
勇者「対等の方が良いよ……」
魔王「人間の国の軍勢とお前、強いのはどちらだ」
勇者「僕だと思う」
魔王「ならば、お前が人間の王に逆らえない理由はあるのか」
勇者「別に平気なような……僕の国には反逆者の家族を罰する法律はないし」
勇者「村の皆は国より兄ちゃん達を信頼してるから、村八分になることもないし」
魔王「ならお前、いっそのこと俺の王妃になるか」
勇者「え…………?」
魔王「そうだ。嫌か?」
勇者「嫌じゃない! お嫁さんが一番良い!」
魔王「結婚するか」
勇者「うん!」
勇者「……魔王、僕のこと好き……?」
魔王「…………言わなければ駄目か?」
勇者「僕のこと、どう思ってるの? お願い、教えて」
魔王「…………」
魔王「……惚れた。愛してる」
魔王「……お前が望むなら」
終わ……らない
数週間後
魔王「……嫌な予感がする」
勇者「どうしたの?」
魔王「気のせいだと良いのだが」
魔兄「よう、久しぶり」
魔王「あ、兄上……!」
勇者「お兄さんがいたの?」
魔王「くっ……こんな時に戻ってくるとは……」
魔兄「お前が女娶ったって聞いたから帰ってきたんだがよ」
魔兄「まさかこんな子供だとはなぁ……」
魔王「……貴方には関係のないことです」
勇者「仲悪いの?」
魔王「この者は……」
魔兄「そうつれないこと言うなよぉ、俺とお前の仲だろ?」
魔兄「そのガキ貸せよ」
勇者「わっ!」
魔王「な、何を!?」
魔兄「俺のはデカ過ぎて、どんな淫乱な女でも一目で逃げちまうんだよ」
魔王「おやめください、兄上」
魔兄「お前勇者か? はは、勇者なら耐えれてもおかしくはないかもな」
勇者「ひっ」
魔兄「ガキだろうが見た目性別不明だろうが、ちゃんとした女の穴はあるんだろ?」
勇者「いやあああ」
魔王「兄上と言えども、勇者に手を出したら……」
魔兄「俺だって苦労してんだよ、まともに抱ける女いねぇんだから」
魔王「っこの……」
魔兄「じゃ、お前のケツ差し出すか?」
魔王「なっ…………」
勇者「え……えぇ?」
魔兄「教えてやろうか、こいつは俺の肉便器なんだよ」
勇者「う、うそでしょ……?」
勇者「ほんと、なの……?」
魔兄「久しぶりに後ろから犯してやるよ」
勇者「や、やめてください!」
魔王「っ勇者……手を出すな」
勇者「僕達が一緒に戦えばお兄さんにだって勝てるよ!」
勇者「戦おうよ!」
魔王「昔から……あったことだ」
魔王「手を出すな……! ぐっ……」
魔兄「ほら、挿れるぜぇ?」グチュ
魔王「あ……ぅ……」
魔兄「俺の動きに耐えられるのはお前だけだもんなぁ?」
魔兄「ガキのころから開発し続けてやったもんな」グッグッ
魔王「あっ……あ……」
勇者「い、いや……こんなのいやぁ……」ガクガク
魔王「勇者……見るなっ……は、ぁっ……」
魔王「ん、ぁ……っ……はっ……」
魔兄「気持ち良いだろ? 嬉しいだろ? なぁ? 可愛い弟ぉ」
魔王「くっ……はぁ、あっ……」
魔兄「おら、出すぜ」
魔王「っう……」ガクッ
勇者「まお……まおう……」
魔王「っ…………」
勇者「……さない」
魔兄「あ?」
勇者「許さない……許さない…………!」ゴゴゴ
魔王「ゆ、勇者!」
チュドーン
勇兄「城の一部が壊れている……だと……?」
勇兄「妹……いるのか!?」
魔兄「いって……ちっこいくせに破壊力半端ねぇな」
勇者「ぜ、はっ……ぜぇはぁ……」
魔兄「ま、いいや。疲れてるみたいだし、やっぱお前の体よこせよ」
魔王「やめろ……兄上、勇者には手を出すな!」
勇者「やば、魔力放出するの久しぶり過ぎて体に負担が……」
勇兄「妹おおおおおおお」
勇兄「妹、生きてたんだな! 良かった……」
勇兄「ごめんよぉ勇者なんて重責押し付けちまってぇ……まさか国王ども、魔王倒しにまで行かせるとは思ってなかったんだよぉ……」
勇者「畑はどうしたの!?」
勇兄「お前が心配だからそんなもん親に任せてきた」
魔兄「威勢の良いのが来たじゃなぇか。丁度良い、お前のケツ掘らせろよ」
勇兄「あ゛? 俺のケツを掘るだと……? 返り討ちにしてやるよ」
勇兄「農家ナメんなよおぉぉぉおおおおお」グッグッグッグッ
魔王「あの者がお前の兄か」
勇者「うん」
魔王「恐ろしいな」
勇者「お兄さんが男を相手にできるだなんて知らなかった……知りたくなかった」
勇者「おえぇ……」
勇兄「どうした? もう終わりか? 竿がでかい割には処女ケツはキツかったな」
勇兄「もっかい掘ってやるぜ」
魔兄「は、ぁ、っ…………」
魔王「兄上が凌辱されている……直接手を下したわけではないが爽快だ」
勇者「こんなお兄さん知らない……ノンケだと思ってたのに……」
勇兄「は? 魔王の嫁になった? それで王様達に財宝を渡してないと。手紙すら寄越さなかったと」
勇者「うん。心配してるとは思ってたんだけど、どう連絡して良いのかわかんなくて。ごめんなさい」
勇兄「元気なら良いけどよ。人間の国の方はもうすぐ革命が起こりそうだ」
勇兄「共和国制になる日も近いだろうな」
勇者「これで良かったのかな」
勇兄「腐ってるのは贅沢した上層身分だ。お前はそれで良い」
勇兄「魔王と一緒で幸せか?」
勇者「うん。近い内にこっそりお父さんとお母さんには挨拶しに行くよ」
勇兄「そうしとけ」
魔王「……去ったか」
勇者「あれ? 魔王のお兄さんは?」
魔王「勇兄以外で自分を満足させられる肉棒の持ち主を捜しに行くそうだ」
勇者「目覚めてしまいましたか」
魔王「そのようだ」
勇者「この間の一件で新しいプレイを思いつきました」
魔王「その結果がこれか」
勇者「はい。貴方が眠っている間に仕掛けました」
勇者「先端にローター、後ろにバイブ。成人した男性が幼い少女にあられもない姿で犯される」
勇者「どうです、興奮するでしょう」
魔王「少女にというか、お前にならどんなプレイでも興奮できるがな」
勇者「そ、そうですか///」
プレイ中は何故か敬語に戻る
魔王「幼少の砌より兄上に散々弄ばれていたからな。特に抵抗はない」
勇者「性奴隷にすると言った時も全く抵抗しなかった理由もそれですか」
魔王「それもあるな。何よりお前に興味が沸いたからだが」
勇者「きょ、興味?」
魔王「性奴隷という言葉を口にしておきながら、あまりにも初々しくて面白かった」
勇者「お、おもしろ…………」
勇者「とりあえずスイッチを入れます。準備は良いですか」
魔王「うっ、くっ……」ヴイィィィ
勇者「こうして眺めるのも良いですね」
魔王「お、まえっ、すっかり、穢れ、たなっ……っ……」
勇者「貴方のお陰です」
魔王「く、……ぅっ……っ……」
勇者「なんだか体がムズムズしてきました」
魔王「お前はっ、気持ち良くならなくて、良いのか……?」
勇者「でもそれじゃつまらないです」
魔王「俺に付けたローターを取れ」
勇者「それでどうするんです」
魔王「お前の最も良い所に付け直せ」
勇者「はい」
魔王「それでお前の中に俺を挿れれば良いだろう」
勇者「なるほど」
ローター+騎乗位+バイブ
勇者「僕っ娘ロリのアソコは気持ち良いですか」
魔王「最高だな」
勇者「あなたのおっきいのも最高です」
魔王「くっ…………」
勇者「振動……強くしますよ……?」カチッカチッ
勇者「んひぁっ!」
魔王「っ、勇者っ……」
勇者「魔王……好き……好き…………」ビクビクッ
ぐじゅっぐじゅっ
勇者「ひぁっ…………」
魔王「勇者っ……」
…………
……
勇者「魔王……」ぎゅ
魔王「勇者……おまえは本当に小さいな」なでなで
勇者「魔王が大きいだけだもん……成長期だからまだまだ伸びるもん」
勇者「あと数年経って、体がちゃんと大きくなったら」
勇者「魔王の赤ちゃん産むから……」
魔王「ああ……楽しみだな」
勇者「魔王、ずっといっしょにいて」
魔王「勇者……何処にも行くな。一生俺の腕の中に居ろ」
勇者「ん…………はい」
おわり
他の魔王勇者なロリSSとかたくさんネタはあるけど書き溜める時間がなかなか取れない。
そのうちまた立てる。
またいつかやってくれ
素晴らしい弾がまだまだ残ってるようだな
面白かった、また立ててくれ
多分次のスレタイはこんな感じ。多少変わるかもしれんが
勇者「妊娠しました」
魔王「よくやった」
魔兄「おい勇兄、お願いだから俺を掘ってくれ」
幼馴染「ちょっとやめてよ汚らしい! 勇兄ちゃんは私の夫なんですからね!」
勇兄「ちゃんとゴムして衛生には気をつけたから許してくれよぉ……」
幼馴染「子供達に申し訳ないとは思わないの!?」
勇兄「ごめんよおぉぉぉ」
魔兄「お前ほどのテクニシャンいねぇんだよおぉ」
勇者「忙しそうですね」
魔王「そうだな」
勇者「こっちもゆっくりできますね」
魔王「ああ」
勇者「えへへ、赤ちゃん……」
魔王「あまり無理はするなよ」
勇者「うん。頑張って、丈夫な赤ちゃん産むから!」
勇者「お父さんとお母さんも、結婚を認めてくれて本当に良かったです」
魔王「最初に挨拶に行った時は驚いた顔をしていたな」
勇者「肝だけは据わってますからね」
勇者「孫の顔見たら喜んでくれるかな」
勇兄「父さんと母さんなら大丈夫だろ。他の人間も、当代の魔王は怖れてねぇしうぎゃあ」
幼馴染「今度浮気したら許しませんからね!」
勇兄「あれは結婚前の出来事だうわああしかも妹守ろうとしただkうぐふぅ」
魔兄「勇兄ぃぃぃげふっ」
幼馴染「成敗します」
魔王「生まれるのはまだ先だ。気長に考えれば良い」
数か月後、元気な赤子が生まれた。
その後も子宝に恵まれたそうだ。
二人は子供が寝ている隙に、様々なプレイを楽しんでいるらしい。
子供たちが架け橋となり、互いに距離を置いていた人間と魔族は次第に近付き合い、
共存し繁栄していった。
子供「淫魔狩りさえなければですけど」
傭兵「ま、ほんとに平和な時代なら傭兵なんて職業なくなってるわな」
子供「……いつか、もっと穏やかな仕事に就けると良いですね」
傭兵「で、お前の胸はいつ成長するんだ」
子供「黙ってください」
終
思いついたばっかりで書き溜めしてないし明日忙しいから寝る。
おやすみ
いい夢みろよ!
Entry ⇒ 2012.02.26 | Category ⇒ 勇者魔王「」SS | Comments (0) | Trackbacks (0)
勇者「ここが500年後の世界か……」
http://hayabusa.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1328788100/
夜明けとともに戦いが終わりを告げた。
一人の戦士が、魔王を滅ぼしたのである。
魔王「ぐわぁぁぁぁぁ……! ワシの体が朽ちてゆくぅ……!」
戦士「やった……ついにやったぞっ!」
魔王「しかし……なぜだ!? なぜキサマが伝説の剣を持っている!?
たしかにこのワシが破壊したはずなのに……!」
戦士「秘境でひっそりと暮らしてた時空使いってのに出会ってね。
お前が剣を壊した時より過去にさかのぼって、この剣を持って来たんだよ」
魔王「ぐうぅ……! そんなことができる人間がいたとは……!
む、無念……!」ガクッ
戦士(もっともあとでもう一度、過去にさかのぼって剣を戻さないといけないがな。
歴史が壊れてしまうから……)
城 謁見の間──
国王「よくやってくれた! おぬしはまさにこの国最高の戦士だ……。
いや、勇者と呼ぶに相応しい!」
国王「おぬしには“勇者”の称号を授けよう!
今日からおぬしは、勇者を名乗るがよい!」
戦士「ありがとうございます!」
戦士(俺が……この俺が勇者!? 信じられない……!)
戦士(やったぁっ!)
戦いに生きる者にとって、勇者とは最高に名誉な称号である。
こうして戦士は勇者となった。
マスター流剣術道場──
師匠「このオンボロ道場から、まさか勇者が誕生しちまうとはな。
ったく大したもんだぜ」
勇者「師匠の剣術がなければ、いくら伝説の剣でも魔王は倒せなかったでしょう。
ありがとうございます」
師匠「勇者になっても有頂天にならず、向上心を忘れるなよ」
勇者「はいっ!」
~
賢者の家──
賢者「危険な研究を繰り返し、魔法学界を追放された私から
魔法を習いたいといわれた時は正気を疑ったものだが……」
勇者「あなたの研究した魔法がなければ、魔王の大軍勢には勝てませんでした。
感謝しています」
賢者「こちらこそ、ありがとう。
私の研究が無駄ではなかったと、君が証明してくれたんだよ」
勇者による打倒魔王に大きく貢献したということで、
彼らが世に認められるようになるのはいうまでもない。
勇者の実家──
勇者「ただいま!」
父「お帰り! 町中お前のニュースで持ちきりだ、よくやったな!」
母「よく無事に帰ってきたね。本当に心配だったんだから」
妹「お兄ちゃん、お帰りなさい!」
弟「兄ちゃん! 冒険の話、聞かせてよ!」
勇者「ありがとう、みんな」
勇者(一週間は祝賀会やらなんやらで、忙しくなりそうだ。
時空使いのところに行くのは、それからかな……)
こうして勇者は、救国の英雄として人々に尊敬され、幸せに暮らした。
めでたし、めでたし……。
──となるはずであった。
勇者は再び過去にさかのぼり、伝説の剣を元あった場所に戻してきた。
勇者「これで歴史を壊さずに済む、か」
時空使い「ああ」
時空使い「しかし、伝説の剣があったとはいえ魔王は強敵だったはず。
称号だけではない。お前は名実ともに勇者だったということだ」
勇者「ハハ、アンタでも人を褒めることがあるんだな。どうもありがとう」
時空使い「さて、行くがいい。私の術は本来この世にあってはならないものだ。
私も住む場所を変える。もう会うこともなかろう」
勇者「時空使い」
時空使い「なんだ?」
勇者「一つ、頼みを聞いてくれないか?」
勇者「俺……未来が見たいんだ」
時空使い「未来だと?」
勇者「今俺がいるこの時代は、とりあえず平和になった。
だが、遠い未来果たしてこの平和はどうなっているのか、見届けたいんだ!」
時空使い「………」
時空使い「とかなんとかいって、本当は未来で自分がどう語り継がれてるか
知りたいんだろ? 勇者よ」
勇者「!」ギクッ
時空使い「お前はウソがつけない男だな。ま、そこが気に入ったんだが。
いいだろう。お前がこの世界を救ったのは事実だ。
少し未来を見る権利くらいあるだろうさ」
勇者「あ、ありがとう!」
時空使い「ただし、時空移動はこれが最後だ」
勇者「分かってる。ワガママを聞いてくれてありがとう」
滞在できる期間は半日、12時間経ったら自動的にここに戻る。
ただし向こうで死んだら、死体になったまま戻ってこれない」
時空使い「場所は……なるべくお前の故郷と近い場所に送るようにするが、
多少ずれてしまうだろう」
勇者「大丈夫だ。時空移動はこれで三度目だしな」
時空使い「さて、一番肝心なのは時間だ。どのくらいに飛ぶ?」
勇者「じゃあ……500年後で」
時空使い「500年……またずいぶん先だな」
勇者「あまり近いと、俺が勇者だってバレる可能性があるじゃないか」
時空使い「そうかぁ……? まぁいい、じゃあ500年後に飛ばすぞ」
時空使い「リナネカハキトーネマズイムイタ!」
時空使いが呪文を唱えると、勇者はこの時代から姿を消した。
……
………
勇者は道ばたにぽつんと立っていた。
勇者「ここが500年後の世界か……」
勇者(そういや、鎧とか着たまま来ちゃったけど、大丈夫かな……)
勇者(いやいや12時間しかないんだ、色々見て回らないと!)
勇者(すっかり様変わりしてるが、なんとなく見覚えがあるぞ)
勇者(とりあえず、俺の故郷の町に行ってみるか!)
勇者(すげぇ……! ちょっとした城塞都市みたくなってるぞ……)
勇者(とりあえず門番みたいな奴に話しかけてみるか……)
勇者「こんにちは、旅の者なんですけど」
門番「おおー? 旅の人かね。ぜひ寄ってってくれよ。
ここはかつて世界を救った勇者様が生まれた町『勇者の町』なんだ。
もっとも“町”なんていう規模ではないがね」
勇者(マジかよ、すげー!)
勇者「ちなみに勇者ってのは500年前に魔王を倒したっていう?」
門番「そうそう、勇者様が魔王城に乗り込んで、魔王をやっつけたんだよ。
今じゃ伝記や絵本、教科書にも載ってるから誰だって知ってるよな」
勇者(まちがいなく俺のことだ! すげーすげー!)
建物は大きく、道路も完璧に整備されている。そして何より──
勇者(町民の中に……俺と同じ格好をしてるのがいるぞ!?)
町民「お、旅のお方。アンタも勇者様ファッションかい?」
勇者(勇者様ファッション……?)
町民「こうやって魔王討伐時の勇者様の格好をしてるとさ。
なんだか俺もやれるかな、って気になってくるんだよね。
アンタもそういうクチだろう?」
勇者「ま、まぁね……」
(少しくらい俺のことが語り継がれてればなーとは思ってたが……。
予想以上だぞ、これは……)
勇者「ところで俺、この町には初めて来たんだ。
もし時間が空いてるんなら、ちょっと案内してくれないか?」
町民「いいとも。少しでも多くの人に、勇者様のことを知ってもらわないとな」
町民「勇者様に剣を教えた師匠様の子孫、師範様がリーダーで、
今や世界中に支部を構えている。門下の数はなんと一万人を超える」
勇者「へぇ~(昔は弟子は俺だけだったのに……すごいな)」
町民「あっちの学校は、勇者様に魔法を教えた賢者様の流れを組む魔法学校さ。
こちらも子孫の大賢者様が校長を務めている」
勇者「ほぉ~(賢者さん、研究が認められたのか……よかったなぁ)」
勇者「………」
勇者「ところで、勇者様の子孫はどうされてるんだい?」
町民「えっ、アンタ、そんなことも知らずにここに来たのかい!?」
勇者「いや、まぁ……勉強不足で……」
町民「勇者様の子孫である覇者様は、この町の偉大なるリーダーさ!
国王からも独立自治を認められているほどなんだよ!」
勇者(ウソォ!?)
町の真ん中にある広場には、高さ5メートルほどもある勇者像が建てられていた。
勇者(でけぇ! ……なんかずいぶん美化されてるな。ほとんど別人だ。
あんなに鼻高くないし、足も長くないし……でも嬉しいや)
町民「勇者様の一族は、代々あそこの館で暮らしているんだよ」
勇者(うわ、これまたでけぇ~ほとんど城じゃないか。
ずいぶん立派になったんだな、俺の子孫たちは……)
町民「じゃあ、案内はこれくらいでいいかい?」
勇者「十分だよ、どうもありがとう」
町民「じゃあ、この町を楽しんでってくれよ!」
どこもかしこも、勇者グッズであふれていた。
勇者(勇者まんじゅう、勇者ステッカー、勇者ぬいぐるみ……。
お、伝説の剣のレプリカまで売ってるのか、スゴイな)
勇者(これが500年後か……)
勇者(ちょっと照れ臭いけど、来てよかったな……)
勇者(こうまで発展してるとは、先祖として鼻が高いぞ。うんうん)
町をぐるりと一周し、勇者は銅像の前に戻ってきた。
少女「………」ジーッ
勇者「君も勇者様、好きかい?」
(ま、俺が本人なんだけどね……。ああ、バラしたい衝動に駆られる……)
少女「勇者様なんか、嫌い……大嫌いっ!」
勇者「なっ……!」カチン
タタタッ
兵士A「キサマ、今勇者様を侮辱したな!?」
兵士B「許さんぞ!」
勇者(お、いってやれ、いってやれ)
兵士A「このクソガキがっ!」
バキッ!
少女「あうっ……!」
勇者(え!?)
少女「う、うぅ……」
兵士A「とんでもないクソガキだ!」
兵士B「さっさと連行してしまおう!」
勇者「ちょ、ちょっと待てよ! なにも殴ることはないだろう!?
勇者を嫌いっていったぐらいで──」
兵士A「む、キサマ、このガキを擁護したな!? 同罪だ!」ブンッ
勇者「おっと」ヒョイッ
兵士A「ちいっ(この身のこなし……手強いな)」
ピピピ~~~~~ッ!
兵士Aが笛を吹くと、大勢の兵士が集まって来た。
勇者(おいおい、マジかよ……)
勇者(俺だけなら逃げることもできるだろうが……あの女の子が心配だな。
仕方ない、大人しく捕まるか……。どうせ12時間経てば帰れるし……)
勇者と少女は捕まってしまった。
看守「入れっ!」ドカッ
勇者「うおっ!」
少女「いたっ!」
看守「クズどもが……!」スタスタ
勇者「いてて……大丈夫か?」
少女「うん、大丈夫。お兄さんは平気?」
勇者「まぁ、鍛えてあるからね。とはいえ驚いたよ……。
あれぐらいで牢屋に入れられるなんて……。
この後、お説教を喰らって釈放って感じの流れなのかな?」
少女「ううん」
少女「私たち、二人とも殺されちゃうんだよ」
勇者「!?」
少女「お兄さんは知らないのね。
この町ではね、勇者様やその一族を侮辱したら絶対に死刑なの」
勇者(おいおい、なんだか様子がおかしくなってきたぞ……)
「こんなムチャクチャな法が成り立つのか!?
だって俺なんか何も知らない旅人なんだぞ? どう考えても──」
少女「この町の中では、覇者様は国王様よりも神様よりも偉いんだよ。
いいえ、この世界に覇者様に逆らえる人なんかいないかもしれない」
少女「覇者様は大勢の私兵を抱えているし、
師範様の剣術道場や、大賢者様の魔法学校も傘下にしている」
少女「それに、覇者様自身も勇者様の生まれ変わりといわれるくらい、
剣術と魔法に秀でてるしね」
少女「兵力、剣術、魔法……。非の打ちどころがないの」
勇者「……だったら、なんであんなバカなマネをしたんだ?
死刑にされるって分かっているのに……」
もう、いいかな……って思って……」
勇者「……二人とも亡くなったのか?」
少女「お父さんは覇者様のやり方に反発して、死刑にされちゃった。
お母さんは働きすぎで倒れて……」
勇者「働きすぎ?」
少女「この町の人には勇者税っていう重い税金が課せられるの。
町民は偉大なる勇者様に奉仕する義務があるってことでね」
勇者「勇者税……!?」
でも私に食べさせてくれて……倒れて……死んじゃった」
少女「もちろん逃亡なんか許されない……。
偉大なる勇者様のお膝元から逃れるなんて、大罪だもの」
少女「それでも勇者様の名に惹かれてここに来る人は多いんだよ。
ここは世界一安全な町でもあるしね」
勇者「じゃあ君は今までどうやって生きてきたんだ?」
少女「住む場所は全部取られちゃったから、町外れのゴミ山で暮らしてたんだ。
残飯とかを拾ってね」
勇者(なんてこった……)
少女「ううん、私は勇者様が好きだよ」
勇者「え?」
少女「勇者様は師匠様と賢者様の指導を受けて強くなって、
伝説の剣を持って邪悪な魔王をやっつけたんだよ。
だれにだってできることじゃない」
少女「私は勇者様を嫌いだなんて思ったことは、一度もない……」
少女「もし、あの世で勇者様に会えたら……私、謝らなくちゃね。
嫌いだなんてウソついて、ごめんなさいって」
勇者「………」
少女「え?」
勇者「もしも今、勇者がよみがえってこの『勇者の町』を見たらなんていうと思う?」
少女「……そんなの分からないよ。
でも、子孫である覇者様を見たら、きっと喜ぶんじゃ──」
勇者「……俺はきっと喜ばないと思うんだよな」
勇者「最初こそ“俺のことを忘れないでいてくれてありがとう”って喜ぶだろうさ。
でも、君みたいに勇者の犠牲にされてる子を見たら、きっと悲しむと思う」
勇者「それに……勇者ってのは子孫だとか先祖だとか関係ない。
おかしいことをしてる奴を見かけたら、根性を叩き直してやるのが
勇者なんだと思う」
きっと勇者なら──」
勇者「君をここから救い出し、覇者とかいう奴にお灸をすえるに違いない」
勇者「俺も腕っぷしには多少自信がある。
だから、ちょいと勇者がやりそうなことをやってやろうと思う」
少女「無理よ! 殺される!」
勇者「大丈夫だって。必ず救ってやるから。まぁ見てな」
勇者「オーイ、クソ看守!」
ドタドタッ
看守「お前か!? 今俺をクソ看守っていったのは!?」
勇者「申し訳ない。ウソがつけないタチなもので……」
看守「勇者様を侮辱したクズの分際で……!
明日の処刑まで待ってられるか、今すぐブチのめしてやる!」
ガチャッ
少女「きゃあっ!」
看守「二人仲良く殴り殺してやるから、覚悟しな!」
ブオンッ!
勇者は看守の警棒を掴み取ると、首に手刀を当てた。
看守「ぐえっ……!」ドサッ
勇者(魔王の手下にとっつかまった時もこうやって脱出したっけ……。
500年経ってもこういうとこは進歩がないんだな……)
勇者「よし、外へ出るぞ」
少女「で、でも……私は……」
勇者「じゃあムリヤリ連れてく」ヒョイッ
少女「あっ、やだ、持ち上げないでよ! 歩く、歩くからっ!」
勇者は看守から奪った警棒で次々に番兵を打ち倒し、
少女を連れて留置所の外に出た。
しかし、すでに外には大勢の兵隊が待ち構えていた。
勇者「ちっ」
少女「もう逃げられない……。でも、お兄さんだけなら逃げられるはず!
私はいいから、早く町から逃げて!」
勇者「そうはいくかってんだ。後ろに下がってろ! お前らかかって来い!」
「この人数とやるつもりか?」 「バカめ……」 「かかれーっ!」
勇者「うおおおおっ!」
ドカッ! ベキッ! ズガッ!
勇者は大勢の兵隊相手に一歩も引かず、警棒一本で互角以上に戦ってみせた。
勇者「ハァ、ハァ……(よし、奴ら逃げ腰になってきた!)」
しかし──
師範「ずいぶん騒がしいが、なにがあったのか?」ザッ
兵士A「し、師範様っ! はっ、あの男と少女を勇者侮辱罪で捕えたのですが……
奴ら脱獄いたしまして……て、手こずっております……」
勇者(師範……? アイツが師匠の子孫に当たる男か……)
師範「ほう。つまりそんな輩を捕えられないキサマらも、
勇者様を侮辱したことになるな」
ズバッ!
兵士Aの首が飛んだ。
勇者「なっ……!?」
師範「どれ、この俺が相手をしてやろう。久々に骨がありそうな相手だ」
兵士B「し、しかしヤツは脱獄犯──」
ザシュッ!
兵士Bは肩から腰までを、ナナメにバッサリと斬られた。
師範「与えてやれ」
兵士C「は、はいっ!」ビクビク
勇者は兵士Cから剣を手渡された。
勇者(仲間を……殺しやがった! なんのためらいもなく……)
勇者(今のだけで分かる……。あの師範ってヤツ、恐ろしく強いぞ……!
だが……コイツの強さを強さとは認めたくない!)
少女「お、お兄さん……」ガタガタ
勇者「心配するな。俺は絶対に負けない」
勇者「行くぞぉっ!」
ガキンッ!
勇者は渾身の力で剣を振り下ろした。が、師範は片手持ちのままでそれを受けた。
師範「なかなかの一撃だ」
勇者(バ、バカな……表情一つ変えずに受け止めた……)
師範「では、こちらから」
ガギィンッ!
師範の一閃。どうにか受けるが、勇者の両腕はシビれていた。
勇者(速いっ……そしてなんて重い剣だ……!)ビリビリ
師範「ほう、俺の一撃を受けるとはな。門下生に欲しいくらいだ。
だが、勇者侮辱罪は例外なく死刑だからな。実に残念だ……」
しかし、勇者の全力は明らかに手を抜いている師範に全く及ばなかった。
勇者「ハァ……ハァ……」
師範「キサマ、センスはあるのだが、まるで化石のような古臭い剣術だな。
いったいどこの田舎者だ?」
勇者(この町の生まれだよ……!)
師範「まぁいい、そろそろ終わりにするとしよう。
キサマと後ろの小汚いガキを殺して、フィニッシュだ」
勇者(くそぉ……! コイツの重い剣を受けすぎて、腕が……!)
少女「お、お兄さん……!」
すると──
大賢者「おやおや、師範さん。ずいぶん楽しんでらっしゃいますねェ」ザッ
師範「おお、これはこれは大賢者殿。学校はもう終わったのですかな」
勇者(こ、今度は……賢者さんの子孫か……?)
大勢の魔法使いを引き連れた大賢者が現れた。
もっとも、あなたより強い剣士など覇者様くらいでしょうが……」
大賢者「この町で最大の罪、勇者侮辱罪を犯した者など久しぶりのことです。
私にも楽しませて下さいよ」
師範「……まぁ、よかろう(ふん、人間に魔法を撃ちたいだけだろうが……)」
大賢者「君、あの方を回復してあげなさい」
魔法使いA「はい」
魔法使いAの回復呪文で、勇者の体は全快した。
勇者「あ、ありがとう……(なんでこんな真似を……?)」
魔法使いA「別にいいよ。どうせアンタ、すぐ死ぬことになるし……」
勇者「………?」
大賢者「見たところ、あなたも魔力を宿しているようです。
どうです? 私と魔法合戦でもいたしませんか?
もし私に勝てれば、あなたも少女も無罪にしてあげますよ」
「いいだろう、俺から仕掛けてもいいか?」
大賢者「どうぞ」ニヤッ
勇者「はなっから全力だっ! “メガフレイム”ッ!」
ブオアッ!
強烈な炎が、大賢者を包み込んだ。
勇者がいた時代、呪文は通常呪文の上位、『キロ』系が最強とされていた。
フレイム⇒キロフレイム、といった具合である。
しかし、賢者は魔法学界から追放されるほどに危険な研究を繰り返し、
ついに『キロ』の上位である『メガ』系呪文を編み出した。
勇者は炎系呪文である“メガフレイム”しか習得していないが、
魔王軍との戦いで大いに役立った。
勇者(ちょ、直撃したぞ……!)ハァハァ
「今、全力とかいってたよな」 「全力で『メガ』程度かよ」 「雑魚じゃん」クスクス
勇者「な、なんだ……?」
大賢者「やれやれ、この程度ですか」
勇者(む、無傷……!?)
大賢者「“メガフレイム”など、ここにいる魔法使いなら全員使えますよ。
──というより、『メガ』系など魔法の中では初級の部類ですからね」
勇者「ウソだ……『メガ』系呪文は最強のハズだ!」
大賢者「ウソじゃありませんよ。『メガ』系呪文の上にはさらに
『ギガ』『テラ』『ペタ』『エクサ』系呪文が存在しますから」
勇者「そ、そんな……(なんだよ、ギガとかテラって……)」
大賢者「炎のキレはなかなかでしたが……扱えるのが低級呪文がやっとでは、
私の相手にはなりませんねェ」
ゴオオワアァッ!
大賢者の右手から、勇者のものより遥かに大きい炎が放たれる。
勇者「ぐああああっ!」ドザッ
少女「お兄さんっ! お兄さん、しっかりしてっ!」
勇者(ダ、ダメだ……コイツら、強すぎる……)
師範「よし、もういいだろう。この二人は俺の試し斬りの材料になってもらう」
大賢者「トドメだけ持っていくなんてひどいじゃありませんか。
私もまだ試したい魔法があるんです」
勇者(さすがは、あの師匠と賢者さんの子孫だけある……! でも──)
勇者の脳裏に、恩師二人の顔が浮かぶ。
勇者(師匠も……! 賢者さんも……!)
勇者(間違ってもむやみに力をひけらかしたり、ましてや!
武器も持たない女の子を殺す、なんてことしない人なんだよぉっ!)
ガバッ!
勇者は立ち上がった。
大賢者「いえいえ、私が骨ごと焼き尽くしましょう」
勇者(立ったはいいが……打つ手は、ない……)ヨロッ
少女「お兄さん、逃げてぇっ! 今度こそ殺されちゃうわっ!」
勇者(逃げるわけにはいかない……!
もしここで逃げたら、俺は俺を一生勇者だなんて認められない!)
どちらが勇者を殺すかの口論は続いていた。
大賢者「あなたも譲らない人ですねェ。
ならば、いっそ同時に攻撃するってのはどうです?」
師範「よかろう。ただし、俺に魔法を当てるのだけはやめてくれよ」
大賢者殿「もちろん、そんなヘマはしませんよ」
二人の殺気が、勇者に向けられた。
勇者(来る……! こうなったら刺し違えてでも……来いっ!)チャキッ
「なにをしている?」
大賢者「!」
少女「!」
勇者「?」
空気が変わった。
「は、覇者様だ!」 「覇者様が来られたぞ!」 「おおっ、なんという幸運……」
少女「………!」ガタガタ
覇者「留置所周辺が騒がしいから来てみたら……どうしたんだ?」
師範「……はっ、私と大賢者で脱獄犯を追い詰めておりました」
覇者「それはご苦労だった。しかし、こう騒がしくするのは感心しないな。
町民をいたずらに不安にさせてしまうじゃないか」
師範「申し訳ありません……!」
勇者(コイツが……俺の子孫か……!
だが、俺の想像と違って暴君という感じではなさそうだが──)
覇者「あの剣士と少女が脱獄犯か……ちなみに罪状は?」
大賢者「二人とも、勇者侮辱罪と聞いています」
覇者「なに!?」
ヤツらは侮辱したというのかっ!?」
大賢者「!」ゾクッ
大賢者「お、おっしゃる通りです……」
覇者「お、お、おのれぇ~~~~~! キサマらァ~~~~~!」
勇者(な、なんだ、いきなり!?)
覇者「許さんっ!!!」
ボゴォッ!
覇者は瞬間移動のような速さで間合いを詰めると、勇者を殴りつけた。
防御どころか反応すらできず、吹き飛ばされる勇者。
勇者「がっ……!」
(師範と大賢者も強かったが……コイツはケタ違いだ!)
覇者「勇者様を侮辱した罪、万死に値するっ!!!」
覇者「ええい、キサマらは許せんっ! 公開処刑だっ!
明日、あの勇者像の前で私自らが処刑してくれるわっ!」
覇者「コイツらを牢屋に入れておけっ! 今度は絶対に逃がすな!
ついでにコイツらを逃がした看守は斬り捨てておけっ!」
兵士D「は……はいっ!」
勇者「あ、う……」
少女「お兄さん、大丈夫!? しっかりしてっ!」
勇者「うぅっ……」ガクッ
勇者は気絶してしまった。
…
……
………
勇者「ん……」
少女「よかった、気がついた?」
勇者「ここは……」
少女「牢屋の中だよ」
勇者「そうか……俺は負けちまったんだったな。
ごめんな、必ず救い出してやるとかいったのに……」
少女「ううん、かっこよかったよ。
あの三人に立ち向かうなんて……もうだれもできないと思ってた」
勇者「………」
勇者「そうか……」
少女「お兄さん、ありがとう。
私、最後にお兄さんみたいな人と会えてよかった。
私を救い出すっていってくれた時、本当に嬉しかった」
少女「だから、ね。本当は死ぬのが怖かったけど、今は全然怖くない。
お兄さんのおかげだよ」
勇者(ウソをつけ……震えてるじゃないか……)
勇者(しかし500年で、魔法や剣術があそこまで進歩してるとは……。
食糧事情もよくなったのか、体格や筋力も俺よりずっと上だし……)
勇者(くそぉ……!)
魔王にすら打ち勝った勇者が、手も足も出ずに負けた。
剣でも魔法でも、完敗だった。
負けた悔しさ、少女を救えなかった悔しさ、子孫が暴虐な支配者となった悔しさ。
勇者は少女に背を向け、声を殺して泣いた。
パアァァァ……
勇者(俺の体が光り輝き始めた!?)
勇者(そうか……もう12時間経ってしまったのか!)
少女「お兄さん、どうしたの!?」
勇者「いいか、よく聞いてくれ! 俺は必ずまたやって来る!
必ず君を助けてみせる! だから──」
バシュンッ!
少女の目の前から、勇者が消えた。
少女「!」
少女「………」
少女(お兄さん、いなくなっちゃった……。
でもよかった……これで死ぬのは私だけでよくなったから……)
時空使い「ようやく戻って来たな。
といっても、こっちの時間は30分くらいしか──って」
時空使い「ボロボロじゃないか! いったい何があった!?」
勇者「ハァ……ハァ……」
勇者「頼むっ! もう一度、もう一度だけでいいっ!
俺を500年後に連れてってくれっ!」ガシッ
時空使い「!?」
勇者「頼むっ!」
時空使い「落ち着け。とりあえず、なにがあったのかを聞かせてもらおうか」
勇者「……分かった」
勇者は時空使いに全てを話した。
勇者「頼むっ……! 俺は、あの少女を救ってやらなければ……」
時空使い「喜んで協力しよう、とでもいうと思ったか?」
勇者「!」
時空使い「しつこいようだが、私の術はこの世にあってはならないものだ。
できれば一生使わずにひっそりと生涯を終えるつもりだった」
時空使い「魔王の件でお前に協力した理由は、お前という人間を気に入ったのと、
過去に行くのは、あくまでこの時代のためだったからだ」
時空使い「500年後に行かせてやったのも、
魔王を倒して勇者となったお前への、私なりの餞別みたいなものだ」
時空使い「たしかに子孫が独裁者になったのはショックだっただろうし、
お前が行かなければ、確実にその少女は処刑されるだろう」
時空使い「だがな、お前には500年後の未来に対し責任なんて全くないし、
干渉する権利もない」
時空使い「それに仮に500年後を救えても、1000年後は? 2000年後は?
こんなことやっていたら、いつまでもたってもキリがないじゃないか。
お前は勇者だが、あくまでこの時代の勇者なんだ」
時空使い「悪いが、協力するつもりはない」
時空使い「さあ、早く帰れ。500年後のことなど忘れ、今を楽しむんだ」
勇者「……見て、しまったんだ」
時空使い「見てしまった?」
勇者「俺はあの少女が、俺の子孫に苦しめられてるところを見てしまった」
勇者「俺だって、全ての時代を救ってやろうなんて気は毛頭ない。
いや、この時代だって魔王こそ倒したが救えてるなんて思ってない」
勇者「だが、俺の中にある勇者ってやつは、苦しんでる人を見てしまったら、
知ってしまったら、なにをおいてもその人を助けるんだよ」
勇者「もし、あの少女を助けられなければ、俺は俺を勇者と認められない。
そしてあの少女を助けるには、アンタに力を借りるしかない。
身勝手な願いだってのは百も承知だ……」
勇者「頼む! もう一度だけ、力を貸してくれっ!」
時空使い「……呆れ果てた奴だ」
無駄死にするだけだ。もっとも、お前が殺されれば、
その覇者とやらも歴史から消えてなくなるかもしれんがな」
勇者「………!」
時空使い「それに前にもいったが、私はもう住む場所を変える。
それこそ、いくらお前でもやって来られないようなところにな……」
勇者「………」
時空使い「一ヶ月」
勇者「!」
時空使い「一ヶ月だけ、住む場所を変えるのを待ってやる。
必死に強くなって戻ってこい。
そしたらもう一度だけ……正真正銘のラスト、500年後に送ってやる」
勇者「時空使い……」
時空使い「行け。今は一分一秒でも惜しいだろう。時は金なり、だ」
勇者「──ありがとうっ!」ダダダッ
時空使い(……ふん。あんなヤツだからこそ気に入ったんだが、な)
勇者しか弟子がいなかった道場に、数人ではあるが弟子が通うようになっていた。
「えいっ、えいっ!」 「とおーっ!」 「やあっ!」
師匠「声が小さいぞっ!」
ガラッ!
勇者「師匠っ!」
師匠「ん……? おお、勇者じゃねえか。
見ろよ、お前のおかげでこんなボロ道場にも弟子が──」
勇者「師匠、俺には時間がありません。頼みを聞いて下さい」
師匠「おいおい、いきなりどうしたんだよ」
勇者「稽古をつけて下さいっ!」
師匠「なにいってんだ、お前はもう俺より強くなっちまっただろうが。
魔王を倒してのけたヤツに、教えることなんてねぇよ。
むしろお前はもう、指導する側の人間だろう」
勇者「強敵なんです……。魔王より数段強い強敵なんです……!
なにもいわずに俺に稽古をつけて下さいっ!」
師匠「………」
いいぜ、稽古をつけてやる。かかって来な!」
勇者「ありがとう、師匠!」
さっそく手合わせすることになった両者。
こっぴどくやられたとはいえ、勇者は師範の剣筋を覚えていた。
それを師匠に向けて、試してみる。
ガッ! ガガガッ! バシッ!
師匠「うおおおっ、な、なんだァ? ──う、受け切れんっ!
お前、ずいぶん剣筋が変わったな……なんというか新しいぞ」
勇者「さあ、続けますよ、師匠!」
師匠「わ、分かった!(どうしたんだ、いったい……?)」
勇者の狙いは、二つ。
一つは、稽古によって少しだけ体験した500年後の剣を自分のものにすること。
そしてもう一つは、師匠にも強くなってもらうことだった。
練習相手が強くなければ、稽古の効力は半減するからである。
賢者「やあ戦士君。おっと……今は勇者君、だったね」
勇者「お願いしたいことがあって、来ました」
賢者「君の頼みだったら、なんでも聞いてあげるよ。
あ、実は今度国立魔法学校の講師に招かれたんだよ!
これも君のおかげだよ」
勇者「あの……その話なんですが、一ヶ月待ってもらえませんか?」
賢者「えっ?」
勇者「賢者さんには『メガ』系より上の魔法を編み出して欲しいんです!
俺が習得する時間も欲しいので、できれば二、三週間ぐらいで!」
賢者「な、なんだって!?」
勇者「実は一ヶ月後、魔王よりも強い敵と戦うことになりました。
剣を主体に戦うつもりではいますが、強い魔法も必要なんです!」
勇者「いえ、平和を乱す敵、とかではないんです。
詳しくはいえませんが、俺が個人的に倒さないといけない敵、というか……」
賢者「ふぅむ。だが、『メガ』系より上の呪文は理論上ありえないんだが──」
勇者「いえ、あるんです! 絶対に『メガ』より上があるんですっ!」
賢者「………」
勇者「お願いしますっ!」
賢者「……分かったよ。他ならぬ君の頼みだ、力の限りやってみよう」
勇者「ありがとうございますっ!」
賢者「もしうまくいったら、君の実家に手紙を送ろう。それでいいか?」
勇者「はいっ!」
勇者の繰り出す新しい剣に、師匠も負けじとついていく。
二人は急速にレベルアップしていった。
勇者「ハァ、ハァ……」
師匠「ゼェ、ゼェ……いやぁ~強くなったな。お互いに。
なんというかここ二週間で剣が数十年進歩したような気さえするぜ」
勇者「数十年……ですか」ハァハァ
師匠「ん?」
勇者「それじゃダメなんです。500年は進歩しないと……」
賢者「何度か実験で死にかけたが……ついに編み出したよ。
『メガ』を超える呪文体系をね……」
賢者「私はこれを『ギガ』と名づけようと思う。
残り一週間で、君には炎系の“ギガフレイム”を身につけてもらう」
勇者「賢者さん、ありがとうございますっ!」
勇者(“ギガフレイム”なら、通じずとも牽制くらいの役には立つはずだ。
これで勝率がだいぶ上がった……!)
賢者「時間がない。さっそく魔法修業の開始だ」
勇者「はいっ!」
マスター流剣術道場──
勇者「ありがとうございました、師匠」
師匠「500年進歩、とまではいかねえが、お前は一ヶ月前よりグンと強くなった。
相手がどんな連中かは知らねえが、自信を持て!」
勇者「はいっ!」
勇者「──ところで師匠」
師匠「なんだ?」
勇者「もし師匠なら、自分の子孫が間違ったことをしていたら、どうしますか?
例えば、優れた剣の腕で横暴を振りかざすとか……」
師匠「テメェの剣で横暴を……? う~ん、そうだな……そんなバカは……。
バカヤロー! ってブン殴るかな」
勇者「ありがとうございます。では失礼いたします」ペコッ
師匠(はて、なんのこっちゃ……?)
賢者「いよいよ行くのかい? 強敵とやらのところに」
勇者「はい。俺のワガママで、講師になるのを一ヶ月延ばしてもらって
すいませんでした」
賢者「いやいや、君にいわれなかったら、きっと私の研究は終わっていただろう。
『メガ』の上があるなんて思ってもなかったしね。
学園講師になっても、研究は続けていくつもりだ」
勇者「頑張って下さい」
賢者「君こそな。どんな相手かは聞かないが、死ぬんじゃないぞ」
勇者「……賢者さん、最後に一つだけ質問をいいですか?」
賢者「質問?」
勇者「もし、自分の子孫が間違ったことをしてるのを見たら、どうしますか?
例えば、魔法を明らかな弱者に向けて撃つ、とか……」
賢者「私の子孫が……? なかなか難しい質問だな。
ま、もし私と同じ魔法使いなら“お前に魔法を使う資格はない”
といってやるだろうな。それが本人のためだ」
勇者「ありがとうございます。じゃあ俺はこれで……」
賢者(最後のは……心理テストかなにかだろうか?)
勇者「戻ってきたよ。修業は剣術も魔法もバッチリだ。
ワガママを聞いてくれて、ありがとう」
時空使い「おお……。戦いは全くできない私でも分かるよ。
お前が格段にレベルアップしたのが……。
この一ヶ月で、血のにじむような努力をしてきたようだな」
勇者「泣いても笑っても、これが最後の12時間だからな」
時空使い「……よし、ではさっそく500年後に送るとしよう」
時空使い「なるべく、お前が前に消えた場面に送るよう努力するつもりだが、
そこまでの微調整はできない。おそらく場所も時間も誤差が出るはず。
送ったはいいが、少女が処刑された後、になる可能性もある」
勇者「……分かってるよ。もしそうなったとしても、文句はいわない」
時空使い「じゃあ飛ばすぞ。私の前に立て」
時空使い「リナネカハキトーネマズイムイタ!」
勇者は再び500年後へと旅立った。
時空使い(生きて帰ってこいよ……。お前はこの時代にも必要な男なんだ……)
あの少女は勇者像のある広場に連れて来られていた。
もちろん、公開処刑のためだ。
大勢の観衆が見守る中、覇者が今回の処刑について説明する。
覇者「この少女は昨日、よりにもよってこの勇者像の前で、
我が偉大なるご先祖である勇者様を侮辱するという大罪を犯した!」
覇者「よって、この私自らがこの剣で公開処刑を執り行う!」
覇者「なお、もう一人の共犯者は牢屋から煙のように消えてしまったが、
見つけ次第処刑することになるだろう!」
ワアアアァァァァァッ!
歓声が上がった。
もっとも、上げなかった者は勇者侮辱罪にされてしまうのだが。
少女「!」
覇者「いっておくが楽に死ねると思わない方がいい。
まず耳を裂き、鼻を削ぎ、目を抉る。そして手足を斬り、最後に首、だ」
少女「い、いや……」ガタガタ
覇者「君は勇者様を侮辱したのだ。これぐらいの苦しみは当然だろう?
魔王を倒しこの世を救った英雄を否定したのだからね」チャキッ
少女「たっ、たすっ……」ガタガタ
覇者「まず、耳からもらおうか」スッ
少女(助けて……お父さん、お母さん!)
少女(助けて……昨日のお兄さん!)
少女(助けて……)
──勇者様ァ……!
剣が振り下ろされる。
剣は少女に届かなかった。
少女「え……?」
覇者「むっ!?」
剣を受け止めたのは、勇者だった。
少女「お兄さんっ!?」
覇者「キサマ、勇者侮辱罪の共犯者の……! いったいどこから湧いて出たっ!?」
勇者「さあて、どこからだろうねえ……(500年前、だったりして)」
観衆がざわつく。
「なんだアイツ!?」 「今突然現れたよな!?」 「魔法使いか!?」
勇者(時空使い……とんでもない場面に送ってくれたもんだな。
反応が少しでも遅れてたら、いきなり斬られて死ぬとこだったぞ……)ドキドキ
勇者(だが、少女の処刑にはギリギリ間に合ったようだ!)
少女「お兄さん、どうして来たの!? あのまま逃げてれば、助かったのに!」
勇者「いっただろ? 必ず救ってやるって」
少女「でも……!」
勇者「大丈夫だ。一ヶ月前の俺とは少し違う」
少女「一ヶ月?」
勇者「──い、いや、昨日の俺とは少し違う」
覇者「ふん……。まぁいい、処刑のジャマはされてしまったが、
どうせ君も探し出して処刑するつもりだったのだ。手間がはぶけた」チャキッ
勇者「………」
勇者「覇者、戦う前に一つだけ聞きたい。
アンタ、今のこの町を500年前の勇者が見たら、なんていうと思う?」
“よくぞここまで町を発展させ、私の名誉を語り継いでくれた、ありがとう!”
とな!」
覇者「その証拠に、勇者像も我々に優しく微笑みかけているではないか!」
覇者が誇らしげに勇者像を指さす。
勇者「ふーん、俺は全くの逆だな」
勇者「勇者はきっとこういうと思う」
勇者「見るに堪えない、と」
覇者「なにぃ!?」
勇者は勇者像の前に立った。
「なんだ?」 「剣を構えたぞ……?」 「アイツなにをする気だ?」
勇者「──だからもう、見なくていいようにしてやる」
勇者は──勇者像を真横に斬り捨てた。
少女「えっ……!」
覇者「なっ!?」
ズズゥゥゥ……ン……
「勇者像が倒れたぞ!」 「ひ、ひどいっ!」 「な、なんてことをっ!」
勇者(ちょっとやりすぎたかな……。だが、このぐらいの荒療治が必要だ……。
この『勇者の町』には……)
覇者「あ……ああ、あ、あ……ゆ、勇者様が……勇者様が……」ワナワナ
覇者「お、お倒れに……」ワナワナ
覇者「あああああ~~~~~!」
覇者「うわあああああ~~~~~!!!」
勇者「アンタらが絵本で読んで、像まで建てて崇めていた勇者ってのは!
重い税金かけて! 逆らう者は次々殺して! こんな少女まで不幸にさせる!
そんなヤツだったのかっ!」
勇者「違うだろぉっ!」
勇者「たった一人で魔王に挑んでまで、勇者が守りたかった世界ってのは!
皆で勇者一族の顔色うかがって! 勇者一族は剣と魔法で皆を弾圧する!
そんな世界だったのかっ!」
勇者「違うだろぉ……!」
勇者「ハァ……ハァ……」
少女「お兄さん……」
ざわつく観衆。
覇者「罪人風情が知ったようなクチを聞くじゃないか……!」
覇者「!」ハッ
覇者「なるほど、キサマの魂胆が読めたぞ。罪人め……」
死刑執行から逃れようとしているな?」
勇者「そんなんじゃない。ただ……いいたいことをいいたかっただけだ」
覇者「せめてもの強がりか。だが、残念だったな。
仮に町民らが暴れても、私にはあっという間に鎮圧する武力がある」
覇者「マスター流剣術道場の門下生たちも、魔法学校に所属する魔法使いも、
全て私の配下なのだからな」
覇者「勇者侮辱罪に加え、まさか勇者像をも斬り倒すとは……。
一瞬で首をハネるだけではとても飽き足らん!」
覇者「キサマはこの手で捕え、三日三晩拷問した後、晒し首にしてくれる!」ジャキッ
勇者「……かかって来いっ! その根性叩き直してやる!」
師範「覇者様、その罪人の処刑、我々にやらせてもらえないでしょうか?」
大賢者「えぇ、勇者像を斬り倒すほどの大罪人……。
そんな輩を斬ってしまえば、あなたの剣が汚れてしまいましょう」
勇者(コイツら……)
覇者「ふむ……それもそうだ」
覇者「この罪人の処刑は二人に譲ろう」
師範&大賢者「ありがとうございます」
二人とも、それぞれ世界的な剣術道場と魔法学校の長である。
自分たちの力を満天下に知らしめる機会を常に求めている。
勇者は彼らにとって、格好の宣伝材料であった。
師範「俺の勝ちだな、大賢者殿」
大賢者「くそっ……!」
(勇者像を斬り倒した最悪の罪人を始末する……最高の舞台だったのに……!)
勇者(おいおい、ジャンケンで決めるなよ……)
師範「さて、この俺が相手をしてやろう。クズめ」
勇者「昨日は惨敗だったがな……今日はそう簡単にはいかないぞ」
師範「ほう、たった一晩でなにが変わったというのだ?
まさか、昨日は手加減していたとでもいうつもりか?」
少女(とてもじゃないけど、師範様には敵わないわ!
お兄さん、逃げてぇっ……!)
師範「先手は譲ってやろう。さあ、かかって来い」
勇者の先制攻撃。
師範も危なげなく受けるが──この一撃で全てを理解した。
師範(この男……強くなっている!)
師範(バカな、昨日はこの俺に全く歯が立たなかった相手が……
たった一晩で俺を脅かしかねない技量を身につけただと!?)
師範(どういう手品を使ったんだ!?)
勇者(コイツ、もう俺が強くなったことに気づいたな……。
できれば油断している間に倒したかったが……やはりさすがだな)
師範「面白い。それでこそ、俺の獲物に相応しい」チャキッ
勇者「ここからが本番だ……!」チャキッ
パワー、スピード、テクニックを備えた500年後の剣術が勇者を襲う。
ガギィンッ! ギィンッ! ガギィン!
しかし、勇者もそれらを全ていなしてみせた。
少女「お兄さん……すごい……!」
「なんなんだ、あの男!?」 「師範とまともにやり合ってる」 「信じられない!」
勇者に剣術を教えた伝説的剣士である師匠、その子孫である師範。
そんな男と互角に剣を交える謎の旅人。
観衆が再びざわめいた。
覇者「なるほど、犯した罪に比例する程度の剣の腕は持ち合わせているようだ。
勇者像を斬り倒してみせたのも、マグレではなさそうだ」
キィンッ!
間合いを取る両者。
師範「恐れ入ったぞ。まさか、ここまで俺と張り合えるとはな」
勇者(余裕だな……こっちは全力で飛ばしてるってのに)ハァハァ
師範「褒美に見せてやろう……あらゆる剣術の頂点に立つマスター流剣術の強さを。
そしてその頂点に立つ、この俺の強さを!」
ガゴォンッ!
師範の豪快な一閃。
剣でしっかり受け止めたはずの勇者が──吹っ飛んだ。
ドザァッ!
勇者「うぐぁっ……!」
師範「やるな。俺の本気を受けられるのは、覇者様くらいのものと思っていたが。
もっとも覇者様はキサマのように、無様に吹き飛びはしないがな」
勇者(くっ……やはり500年の差……一ヶ月で埋められるほど甘くない、か!)
ドガギィンッ! ズガギィン! バギャァン!
勇者が剣を受けるたび、とても剣が奏でているとは思えない轟音が鳴り響く。
勇者(なんてデタラメなパワーだ! しかも速さもタイミングも申し分ない。
あまり受けてると、剣を折られる! そうなったら終わりだ!)
師範「どうした、少しくらい反撃してみろっ!」
ガギィンッ!
勇者(一撃受けるたびに、全身にシビレが走る……!)
勇者(あとに大賢者と覇者も控えてるんだ……これ以上、時間はかけられない!)
師範「ハァッ!」ブオンッ
勇者「“ギガフレイム”ッ!」
ボゥオアァッ!
師範「なにっ!?」
賢者の研究の結晶である炎が、師範に向かっていく。
師範「この程度の炎、切り払ってくれるわっ!」
ブオンッ!
師範「ふん、『ギガ』系呪文など、この俺には通用しない──」
師範「!?」
勇者がいなくなっていた。
師範「ど、どこへっ!?」
グサッ!
上から降って来た勇者が、師範の右肩を突き刺した。
師範「ぐあぁっ! キ、キサマァ……!」
勇者「これでもう、満足に剣は振れないだろう。降参しろ。
回復呪文も進歩してるだろうから、なんとかなるだろ」
勇者「悪いな、こっちは大罪人だ。使えるものがあったら使わないとな」
師範「くぅっ……! 左腕だけでもキサマ如きっ!」ブンッ
勇者「さすがに、片腕相手には負けられないっ!」
ザンッ!
次は脇腹を切り裂く。むろん、浅手に抑えてある。
師範「がぁっ……! ぐぅぅっ、こ、こんなハズが……!
師匠様の子孫であるこの俺が……! こんなクズに……!」
勇者「なぁ……」
勇者「アンタ……かつて勇者に剣を教えたっていう師匠を尊敬してるか?」
歴史上五本の指に入るであろう剣士だっ! 尊敬しないハズがないっ!」
勇者「そうか。じゃあ、その大先輩から伝言をもらってるから、聞いてくれ」
師範「?」
勇者「バカヤローッ!!!」
バギャッ!
師範「ごえぁっ!」
師範は勇者に殴り飛ばされた。
勇者(師匠……きちんと伝えましたよ。パンチのおまけつきで……)
「師範様が……ウソだろ!?」 「あんな罪人に……」 「なんなんだよアイツ……」
気を失った師範が、門下生たちに運ばれていく。
勇者「さぁ、次はアンタだったな、大賢者!」
大賢者「ふん、奇策が当たったマグレ勝利でいい気にならないで下さいよ。
そして、マグレは二度続くものではありません」
大賢者「“メガフレイム”が限界と思いきや、“ギガフレイム”も使えたとは……。
もしや、さらに上の魔法も使えるのですか?」
勇者「いや……“ギガフレイム”が最高だ」
大賢者「あなたはウソがつけないタイプのようですね。正直でよろしい。
そして自分の浅はかさを呪いなさい。
その程度の魔法で、私に勝とうなどという浅はかさを……」
大賢者「“テラフレイム”」
昨日、勇者を焼き焦がした炎が、再び勇者に襲いかかる。
紙一重でかわす勇者。
大賢者「“テラボルト”! “テラトルネード”! “テラフリーズ”!」
勇者は炎系魔法しか使えないが、大賢者はあらゆる属性の魔法を使用できる。
ズガァッ! ブオァッ! ビュアォッ!
500年間で進化した電撃が、竜巻が、冷気が、勇者めがけて飛んでくる。
しかし勇者もかわす。かわして、かわして、かわしまくる。
大賢者「──ちぃっ!」
勇者「どうした、もっとちゃんと狙えよ!」
よく考えれば、賢者さんの子孫相手に魔法で勝負なんて自殺行為だ。
500年前から、魔法使いを相手にする時は接近して攻撃、に決まっている!)
勇者(……いや待てよ)
勇者(さっきの師範も、俺が魔法使ったら面食らってたし、
コイツはコイツで魔法の使い手が剣士と一対一とか、普通やらないだろう。
接近されたら終わりだってのに……)
勇者(やはりコイツら……技術は俺より圧倒的に上だが、実戦経験は少ない!
せいぜい同じ剣士や魔法使いと練習試合でもする程度だろう)
勇者(そりゃそうだ……。コイツらに逆らう人間なんて、ほとんどいないだろうしな)
勇者(魔王がいる時代に生まれた俺の、子孫に対して一つだけ優位な点ってとこか……)
「あいつ、全部避けてるぞ!」 「なんてスピードだ!」 「マジかよ!」
大賢者(くそっ、私の魔法が当たらんっ!)
勇者(どんなに強力な魔法も、当たらなきゃこっちのもんだ!)
驚異の回避力と瞬発力で、勇者は大賢者に接近を果たす。
大賢者「なっ……!」
勇者「降参しろ、大賢者。この距離ならアンタが魔法を撃つより速く、斬れる」
大賢者「ぐぅっ……!」
大賢者「“フラッシュ”!」
勇者「うっ!(閃光での目くらまし! こんな魔法もあるのか……!)」
目が見えなくとも魔法を当てられぬよう、動き回る勇者。
そして勇者の目が視力を回復すると──
大賢者が少女に掌を向けていた。
大賢者「さもなくば、この少女が死ぬことになりますよ?」
勇者(くそっ、これまた分かりやすい手で来やがったな……!)
少女「お兄さんっ! 剣を捨てたら、勝ち目はなくなるわ!
私はいいから、剣を捨てちゃダメっ!」
大賢者「さぁ、どうしますか?」
勇者「決まってるだろ」ポイッ
勇者は剣を地面に投げた。
少女「あぁっ!」
大賢者「とてもよろしい。さて、次は動かずに私の魔法を喰らっ──」
ガッ!
勇者は地面に捨てた剣を、蹴り飛ばした。
大賢者「──なっ!」
ザクッ!
大賢者「ぐわあぁぁっ!」
勇者(我ながら、ナイスキック!)
ダッ!
勇者はすかさず大賢者との距離を詰め、腕から剣を抜き取ると、
今度は蹴りを顔面にぶち込んだ。
ドガッ!
大賢者「げぁっ!」
少女「お兄さん!」
勇者「大丈夫か?」
大賢者「お、おのれぇ……! よくもこの私に恥をかかせましたねェ……!」
大賢者が全身の魔力を両手に集中し始める。
魔法使いA「あれは……“エクサフレイム”をやる気だ!」
魔法使いB「大賢者様、止めて下さい! 町民に巻き添えが出ますっ!」
魔法使いC「それどころか、広場周辺が壊滅してしまいますっ!」
勇者(なんだ……“エクサフレイム”って……?)ハッ
大賢者『ウソじゃありませんよ。『メガ』系呪文の上にはさらに
『ギガ』『テラ』『ペタ』『エクサ』系呪文が存在しますから』
勇者(思い出した……この500年後で最強の呪文体系か!)
勇者(コイツ……そんなもん町中でぶっ放そうってのか!)
勇者「やめろっ! これは一対一だぞっ!」
大賢者「一度町中で、フルパワーで魔法を使ってみたかったのです。
かつて我が先祖、賢者様も危険な研究の末、新しい魔法を編み出しました。
魔法の探究には犠牲がつきものなのですよ……ククク……」
大賢者「かかされた恥は、この地獄の業火でお返しいたします……。
灰も残さんっ! “エクサ──」
大賢者「あぐぁっ!」
間一髪であった。
大賢者が魔法を放つより一瞬早く、勇者の斬撃が届いていた。
至近距離で魔法を喰らうことも恐れず、接近した勇者の勝利である。
大賢者「ぐぅぅ……! ひ、ひぃぃっ!」
勇者「賢者さんはたしかに危険な研究を繰り返してたよ……。
だが、お前なんかと違って他人を犠牲するなんてこと、一度もなかった」
大賢者「たっ、助け──命だけはっ!」
勇者「………」
勇者「お前に魔法を使う資格はない!!!」
ドガッ!
大賢者の顔面のすぐ近くに、剣を突き立てた。
大賢者「ヒィッ……ひっ……」ピクピク
大賢者は恐怖で失神してしまった。
勇者「ハァ、ハァ……あと一人……」
いや、始末しろよ
そいつは剣士のほうと違って殺しておかないとダメだろ
少女「お兄さんっ! 怪我してない? 大丈夫?」
勇者「ああ、大丈夫だ」
(負傷らしい負傷なしであの二人を退けられたのは、ラッキーだった。
本来あの二人の実力は、俺よりも上だったからな……)
パチパチパチ……
覇者「すばらしい!」パチパチ
勇者「!」
覇者「師範と大賢者は、ともに誰もが認める世界トップクラスの強者だった。
それを倒してしまうとは……」
覇者「勇者様を侮辱したのはよろしくないが、君はすばらしい戦士のようだ」
勇者(さっきまで激怒してたのに……落ち着きを取り戻したか)
後ろの少女ともども君たちを無罪として釈放してあげよう!」
勇者「!」
少女「!」
覇者「驚かなくていい。私は約束を守る男だ」
「おおっ!」 「さすが覇者様だ!」 「罪人に対しても、なんて寛大な心なんだ……」
勇者(寛大な心……? いいや違う。
あの二人の敗北で俺に傾きかけた町民の心を引き戻したかっただけだ)
勇者(コイツは自分が負けるだなんて絶対ありえないと思っている)
勇者(そしてそう思っていいだけの強さを身につけている……!)
覇者「さて、始めようか」
覇者「偉大なる勇者様の血を引く私の剣技は、師範とは一味違うぞ……」
勇者(期待してるよ……)ゴクッ
ギィンッ! ガギィン! ギャリッ……キィン!
全くの互角。
覇者はもちろん強いが、勇者も先の二戦を経てレベルアップを果たしていた。
覇者「ほう……師範とやり合った時より強くなっていないか?」
勇者「実戦で強くなっていくタイプなんだよ、俺って」
覇者「なるほど……。だが、この程度でいい気になられては困る」
覇者の首狙いの一撃を、受け止める勇者。
しかし、そこに──
ドゴォッ!
勇者(け、蹴り!?)
勇者は観衆の中まで蹴り飛ばされた。
覇者「奇しくも君がいったことだ。使えるものは使わないとな」
勇者「ぐぅっ……!」
蹴りを恐れるあまり、勇者は間合いを詰められなくなる。
覇者「おやおや、もう接近戦では勝ち目なしと判断したのか?」
勇者「くっ……(もう少し回復するまで、接近戦は危険すぎる……)」
覇者「だが、いいのかな? 私も大賢者ほどじゃないが、魔法を使えるんだよ」
覇者「“テラフレイム”!」
グオアアァッ!
巨大な炎が、勇者めがけて飛来する。かろうじてかわす勇者。
勇者(距離を取っても魔法があったか……! だったらもう──)
勇者(攻めるしかないっ!)
覚悟を決めた勇者が、接近戦に打って出た。
再び激しく打ち合う両雄。
勇者の方が実戦経験は豊富とはいえ、その他の要素はほぼ全て覇者に負けている。
徐々に、実力差が負傷となって表れる。
ザシッ!
勇者(左肩を斬られたっ!)
覇者「今の時代、どんな権力者や悪党も、勇者様と私の名にはひれ伏してしまう。
さて、君もそろそろ──」
勇者「まだまだっ!」
勇者の目は全く死んでいなかった。
キィンッ!
覇者(コイツ……なんなんだ!?
勇者様の格好をしているということは、罪人とはいえ勇者様を尊敬しているはず。
なのになぜ、私にこうまで堂々と立ち向かってこれるのだ?)
キィンッ! ガキィンッ! ガキンッ!
勇者(くそぉ……! これだけ攻めてるのに、まるでスキができない!)
覇者(──そこだっ!)
ベキャッ!
勇者(しまった……蹴りか……!)
覇者(肋骨を砕いた!)
勇者「ぐほっ! ぐはっ! げほっ!」
少女「お兄さんっ!」
覇者(これでもう……戦えまい)
勇者「ま、まだまだ……」
覇者「な、なんだとぉ……!」
覇者(たしかに優秀な戦士は骨が折れたくらいでは屈しないが……。
それでも心のどこかに諦めや、敵への怒りの感情などが湧くはずだ)
覇者(なのに、コイツの目にはまるでそれがない!)
師範「うぅ……」ハッ
門下生A「気がつかれましたか、師範!」
門下生B「よかった……!」
師範「あの男は……?」
門下生A「大賢者様をも破り、今覇者様と戦っております!
しかし、しょせんは罪人。覇者様が圧倒なさっております!」
師範「ぐぅっ……!」ズキン…
門下生B「まだどこか痛むのですか!?」
師範「いや……」
勇者『バカヤローッ!!!』
師範(勇者様や覇者様にたてつく輩の言葉が、なぜこれほど心に残る……!?
なぜ尊敬している人に叱られたような痛みが残る!?)
師範(なぜだ……!)ズキン…
大賢者「ん……」ハッ
魔法使いA「大賢者様!」
魔法使いB「幸い傷が浅く、我々でも治せました! もう大丈夫です!」
大賢者「あの罪人は、どうしていますか?」
魔法使いA「覇者様と一騎打ちをしておりますが、力の差は歴然です。
すぐ終わるでしょう」
大賢者「そう、ですか……」
魔法使いB「覇者様が大賢者様の分も、ヤツに制裁を与えて下さいますよ!」
大賢者「………」
勇者『お前に魔法を使う資格はない!!!』
大賢者(あの瞬間、ヤツがまるで賢者様のように見えた……。
──バカバカしい! 私は賢者様の姿など絵でしか知らないというのに!)
大賢者(どうして……!)
粘る勇者だが、すでに全身を傷を負っていた。
覇者の重い剣を受け続けた剣も、ボロボロだった。
勇者「ハァ……ハァ……」
覇者(もう勝つ見込みは100パーセントない、はず……。
なぜコイツの目は全く弱らないんだ!?)
不意に、覇者はある物語を連想してしまった。
たった一人で魔王軍に挑み、どんな逆境でも諦めず、
ついには魔王を滅ぼし、勇者と呼ばれるようになった戦士の物語……。
覇者(コイツが勇者様と重なるだと!? ありえんっ!
勇者様を侮辱し、私に剣を向ける男が、勇者様のハズがないっ!)
覇者「ありえんっ!!!」
勇者(しまっ──!)
ズバンッ!
覇者の剣は、防御に使った勇者の剣を砕き、勇者の右腕を叩き斬った。
ボトッ……
少女が右腕を失った勇者に駆け寄る。
少女「もういいよ、やめてっ! だれか、だれかお兄さんを回復してぇっ!
私がお兄さんの分もめいっぱい拷問受けるから、処刑されるからっ!」
少女「お願いっ……!」
勇者「大丈夫だ……血がついてしまうから、離れた方がいい」
少女「で、でも……!」
覇者(なぜだ……。右腕を斬られたのに……目の輝きが……ブレてない……!)
覇者「なんなんだ、お前はァッ!」
勇者「ここで諦めたら……俺はもちろん……少女も死ぬ……。
そしてお前も……一生自分より上はいないなんて思ったままだ……」
勇者「それに比べりゃ、右腕ぐらいどってことはない……」
覇者(迷うな……コイツは勇者侮辱犯なんだ! 殺せば……殺せば全て解決するッ!
勇者様、私に力をお貸し下さい!)
「トドメだッ!」
覇者が再度、剣を振り上げた。
ブオンッ!
なんと勇者は自分の右腕を投げつけた。
覇者「うわぁっ!?」
覇者「キサマ、頭がおかしくなったのか!?」
うろたえる覇者。
むろん、こんなスキを見逃す勇者ではない。
先ほど砕かれた自らの剣の残骸から、大きな破片を手に取り──
勇者(ほんの少しだけでいい……自分に対して疑問を持ってくれ……。
俺の可愛い、子孫……)
勇者「うおあああっ!!!」
グサァッ!
覇者「はぐぅっ……!」
──覇者の腹部に突き刺した。
覇者(私が……負け、た……?)
ドザッ……
覇者が崩れ落ちた。
「まさか、そんな……」 「覇者様が倒れた……!」 「夢でも見ているのか……?」
これまで以上にどよめく観衆。
だが、勇者も勝つまでに傷つきすぎていた。
勇者「ぐっ……!?」ヨロッ
少女「お兄さんっ!?」
勇者(目が……かすむ……?)
勇者(ダメだ……。ここで死んだら……歴史が壊れ……覇者が消え、るかも……)
勇者(ダ、ダメ、だ……死んだら……)
少女「お兄さんっ! お兄さぁんっ!」
少女「やだよぉ、死んじゃダメだよぉっ!」
大賢者「私が治しましょう」ザッ
少女「えっ……」
「大賢者様!?」 「回復されたんだ!」 「だが、いったいどうして!?」
さすがは大賢者である。
500年後の最上級回復呪文で、勇者の右腕をくっつけ、傷も全快させてみせた。
勇者「あれ、俺は……!」
少女「お兄さん、よかった……!」
勇者「大賢者、どうして俺を……」
大賢者「分かりません」
勇者「……そうか。とにかく命は救われたんだ。ありがとう……」
大賢者「あえていうなら……遠い過去から賢者様からこうするよう、
命じられたような気がしただけですよ。
あなたに礼をいわれる筋合いはありません」
大賢者「あとは覇者様を治療せねばなりませんね。
それに……マスター流の門下は黙っていないと思いますよ」ザッ
マスター流剣術道場の門下生たちだ。
門下生A「おい、覇者様に勝ったからといってこの町から生きて出られると思うなよ!」
門下生B「そうだ! お前は卑怯な手で師範様を倒し、我々の流派を汚したのだ!
その報いは受けてもらわんとな!」
門下生C「覚悟しろっ!」
彼らは世界一の剣術道場の門下として、プライドも世界一高い。
こうなるのは必然だった。
少女「あぁっ……」
勇者(ざっと100人ってとこか……。
おそらく一人一人が一対一でも手こずる相手だ……だが)
勇者(いいだろう……とことんやってやる!)チャキッ
勇者が構えた瞬間だった。
師範「──やめろっ!」
門下生たち「!」ビクッ
俺の名はともかく、師匠様の名が汚れてしまう……」
門下生A「し、しかし──!」
師範「俺の命令が聞けないのかっ!」
門下生A「す、すいませんっ! 師範様っ!」
勇者「師範……」
師範「ふん……。世界中に一万人の門弟を持つ身として、
弟子に恥をそそいでもらうなど、耐えられなかっただけだ……」
勇者「ありがとう」
少女(師範様も大賢者様も、なんだか顔つきが変わったような……)
覇者「………」
勇者「覇者」
勇者「俺はお前に勝った。約束通り、俺と少女を無罪にしてもらおう」
覇者「……分かった」
勇者「そして、俺は少女を連れて『勇者の町』から出ていく。
ここよりこの子にふさわしい町の心当たりがあるからな」
覇者「好きにしろ……」
勇者「お前は強かった。俺なんかよりもずっと強かった。
もし勇者がこの時代によみがえったとしても、お前なら楽に勝てるだろうな」
勇者「だが……たとえ勝っても勇者はお前を認めないだろう」
勇者「その強さを……振りかざすだけでなく、
人々に分け与えられるようになったら、きっとお前はもっと強くなれる」
勇者「あそこで横たわってる勇者も、きっとまた微笑んでくれる」
覇者「!」
勇者「行こう」
少女「うん!」
覇者「ま、待てっ!」
勇者「ん?」
覇者「キサマは……いや、あなたはまさか──!」
覇者「………」
覇者「いや、なんでもない……」
勇者「?」
勇者「じゃあ、達者でな」
勇者は少女を連れて、『勇者の町』を去っていった。
師範「くっ……」ワナワナ
師範「くそおぉぉぉっ!」
バキンッ!
門下生A「し、師範様っ!?」
師範は自らの剣を地面に叩きつけ、へし折った。
大賢者の中でも同様だった。
大賢者(私には魔法を使う資格がない、か……)
大賢者(賢者様、今一度教えて下さい。私は今後どうすれば──)
しかし、大賢者の懇願に応じる声はなかった。
大賢者(もう、なにも聞こえない……)
大賢者(わ、私は、どうすれば……)
覇者(あの方は……あの方は……!)
覇者(まさか……!)
覇者(私はこれまで人生の全てを勇者様に捧げてきたつもりだった。
勇者様がお喜びになると思ったことは、全てやってきたつもりだった。
一族の繁栄こそが、勇者様の名誉を守ることが、全てなのだ、と)
覇者(だが、もしあの方が私の考えた通りの人だったとしたら……)
覇者(わ、私が……我々がやってきたことは……!)
覇者「うぐうぅぅぅぅっ……!」ガクッ
大観衆の面前で、頭を抱えてうずくまる覇者。
覇者「うぐうううぅぅぅぅぅっ……!」
覇者「うううぅぅぅぅぅっ……!」
絶対支配者の痛ましい姿に、声をかけられる者はいなかった。
500年後には、勇者も師匠も賢者もいない。
答えは彼ら自身で見つけるしかない。
勇者「くわしい事情は話せないんだが……。
俺は半日くらいしたら、またワープしなきゃいけないんだ」
勇者「次ワープしたら……もうこっちに戻ってくることはないだろう」
勇者「だからその前に、君を孤児院がある町に連れていく。
旅をしてる途中に立ち寄ったことがあってね」
(魔王を倒す旅の途中だけど……)
勇者(今までのパターンから、あの孤児院もでかくなってていいはずだけど……。
もし500年経ってなくなってたらどうしよう……)
少女「うん、分かった」
勇者(別れたくない、とかいってくれるかと思ったが、意外だったな。
ほっとしたような、残念なような……)
少女「でもお兄さんかっこよかったよ。あの三人に勝っちゃうなんて……。
絵本の中の勇者様みたいだったよ」
勇者「えっ!? ま、まぁね、俺は勇者じゃないけどあれぐらいはね。ハハ」
少女「ふふっ……」
勇者(あってくれよ、あってくれよ、頼むぞ……)
少女が指をさす。
少女「あの大きな建物じゃない?」
勇者「よ、よかった……!」
(しかも、ものすごく立派になってるぞっ!)
少女「あれ、なんでお兄さん“あってよかった”みたいな顔してるの?」
勇者「え!? あ、いや、そんなことないだろ。ハハ」
二人はさっそく孤児院を訪ねた。孤児院の責任者は女性だった。
勇者は女院長に
「旅先で両親を亡くした少女と知り合ったが、これ以上旅には連れていけない。
入所させてもらえないか」
という話をした。
女の子を連れた旅は危険でしょうしね」
少女「ありがとうございます」
勇者(よかったぁ~)
女院長「あなたは勇者様の格好をしているけど、もしかして『勇者の町』出身者?」
勇者「ええ、まぁ……(生まれたのは、500年前だけど……)」
女院長「『勇者の町』の覇者様のおかげでずいぶん治安がよくなりましてね。
この頃は孤児となる子もずいぶん減ってきているのですよ」
勇者「そうですか……」
(アイツもやるべきことはやっていたということか……。
だが、この子が孤児になる原因を作ったのはアイツでもあるんだ……)
女院長「では、多少手続きが必要となりますので……こちらへ」
少女「はい」
勇者「分かりました」
勇者「じゃあ、この子と最後に別れを済ませたいので外に出てきます」
女院長「分かりました。旅が一段落ついたら、また顔を出してあげて下さいね」
勇者「は、はい……」
少女「………」
少女「じゃあお兄さん、この町をお散歩しましょうよ!」
勇者「そうだな!」
少女「じゃあ、あっちにお店がいっぱいあるから行こう!」
勇者「オッケー!」
(金はあるけど使えるのかな……もう古銭だろコレ……)
二人は初めて訪れる町(勇者は500年前に訪れているが)を大いに楽しんだ。
勇者「さて、そろそろ君は孤児院に戻らないとな。
初日から門限を破ったらさすがにまずいだろう」
少女「……お願い。お兄さんがワープするまで、一緒にいさせて」
勇者「おいおい、それは……」
少女「お願い……!」
勇者「分かったよ。じゃあ院長さんに頼んで、
孤児院に入るのは明日からってことにしよう」
少女「お兄さん、ありがとう……」
勇者「いや、いいんだ。俺も本当は君と最後まで一緒にいたかったしな」
二人は町にある丘の上で、楽しく語り合った。
勇者「そろそろ……だな」
少女「うん……」
少女「お兄さん、ありがとう……」
少女「私は今、お兄さんがいたから生きてるんだよ。
お兄さんが広場に駆けつけて、腕を斬られても、戦ってくれたから……」
少女「本当にありがとう……!」
勇者「なぁに、こうして治ったわけだし。気にすることはないさ」
(まさか腕をくっつけられるとは……さすが500年後だ)
勇者「それに俺は……君に謝らなければならない立場だ」
少女「どうして?」
勇者(少女から両親を奪った原因を作ったのは、俺の子孫だからだ……。
だが、これはいってはいけないことだ)
「いや、なんでもない……」
少女「──いえ、勇者様」
勇者「えっ!?」
少女「お兄さんは500年前から来たんでしょ?」
勇者「あの、え、あれ……。な、なんで分かったんだ……!?」
少女「アハハ、勇者様はウソがつけないんだね」
勇者「あ……!」
少女「なんとなくそうかなぁ~と思ってたけど、やっぱりそうだったんだ」
勇者「あ、いや、え……」
少女「大丈夫、だれにもいわないよ。
もっとも他にも気づいた人はいるかもしれないけどね」
勇者「ごめん……」
少女「ううん。私、処刑が始まる寸前に、お兄さんと勇者様に助けてって
心の中で叫んだの」
少女「つまりこれって、両方とも駆けつけてくれたってことだよね。
ありがとう、も二人分いわないとね」
みんな勇者様がやっつけてくれたんだもん」
少女「私……勇者様が大好き」
勇者「俺も、君が好きだよ」
少女「私、今日のこと絶対に忘れないよ」
勇者「もちろんだよ。忘れようったって、忘れられないだろうさ」
少女「………」
勇者「………」
少女「ねぇ、勇者様……」
少女「私も500年前に連れていって!」
勇者「!」
少女「消える瞬間、勇者様にくっついてたらできるんでしょ!?」
少女「お願い……私、別れたくないよ。ずっと一緒にいさせて!
絶対に迷惑をかけないから! なんでもやるから!」
勇者「そ、それは……」
少女「私はこの時代で生まれたんだから、この時代でしっかり生きるよ。
そうしなきゃ、助けてくれた勇者様に悪いもんね」
勇者「な、なんだ。驚いちゃったよ」
少女「私が過去に行ったら色々おかしくなりそうだもんね。ごめんなさい。
みんなが知らないことベラベラしゃべっちゃいそうだし」
勇者「俺の時代は店とかもほとんどなかったしな……。
来たって面白くないよ、アハハ」
勇者「………」
勇者(俺も……もし許されるなら君を──)
勇者の体が光り輝き始めた。
勇者「!」
少女「お別れ、だね」
勇者「……そう、だな」
少女「そうだ、最後にプレゼントあげる」
勇者「え?」
少女は勇者の頬にキスをした。
勇者「……ありがとう」
少女「勇者様、私のこと絶対忘れないでね!」
勇者「ああ、もちろ──」
バシュンッ!
少女の目の前から、勇者が消えた。
少女(さようなら、勇者様……!)ポロッ
日が明けるまで、少女は独り静かに泣き続けた。
勇者「ただいま」
時空使い「おかえり」
時空使い「正直いって、生きて帰って来られないかと思っていたぞ」
勇者「ああ、誰かさんがまさに処刑の真っ只中に飛ばしてくれたからな。
いきなり死ぬところだった」
勇者「しかもその直後、魔王より強いのと三連戦やらかしてきたんだ。
我ながら、よく生き延びられたもんだと思ってるよ」
時空使い「ハハハ、そんな世界じゃ魔王も恐ろしくて復活できんだろうな」
勇者「まったくだ」
時空使い「うまく……いったか?」
勇者「……どうだろうな」
人間はそう単純なもんじゃない」
勇者「仮に心を入れ替えても、それまでに覇者たちの犠牲になった人たちは、
容易には許さないだろうしな……」
勇者「だが、きっと何かは伝わったと思うよ。
あとはもう、俺や師匠や賢者さんの子孫を信じるしかないさ」
勇者「そして、あの少女はいい子だった……。
歴史を壊してしまってでも、連れて帰りたくなるほどに」
時空使い「おいおい、お前は人をドキリとさせるのがうまいな」
勇者「アハハ。ある意味、それも勇者に必要な要素だろ」
勇者「でも、俺が連れて帰らなかったのは、歴史が壊れるからじゃない。
あの子はあの時代で生きていける、と確信したからだ」
勇者「ありがとう」
勇者「自分の信念を曲げてまで、俺を助けてくれて……」
時空使い「前にいったように、私は住む場所を変える」
時空使い「もう私はお前と、いやヒトと会うことすらなくなるかもしれん」
時空使い「しかし、心は不思議と穏やかだ」
時空使い「私はお前と出会えてよかったと心から思っている。
お前は私の術を、正しく活用してくれたと信じている」
時空使い「お前が子孫たちや少女を信じるようにな」
時空使い「さぁ行け、勇者!」
時空使い「この時代にも、お前を必要とする人は大勢いるぞ!」
勇者「ああ!」
後世絵本で「幸せに暮らしました」と書かれるような、幸福な人生を送ったという。
勇者に剣を教えた師匠と、魔法を教えた賢者も、それぞれの分野で認められた。
彼らもまた、大勢の弟子に恵まれ、忙しくも豊かな日々を過ごすことになる。
そして、勇者が没して数百年後──
孤児院出身のある女性作家が勇者を題材にした小説を発表した。
内容は勇者が過去未来と時空を飛び回り、人々を助けるという物語。
荒唐無稽だという声もあったが、この小説は大ベストセラーになったという──
~おわり~
よい話だった
これは良いSSだった
面白かったよ
面白かった
乙
ところで未来の三人が何を思ったのか世直し行脚する物語は…
Entry ⇒ 2012.02.21 | Category ⇒ 勇者魔王「」SS | Comments (0) | Trackbacks (0)
勇者「」王様「勇者はわしが育てた!!」
勇者「え?」
北の王「おお!そうなのですか!勇者殿」
勇者「え?え?その・・・」
王様「そうなのだ。あの魔王を倒した技も元はわしが編み出した技を勇者に伝授したものでな」
大臣「そうそう。勇者を鍛え上げる王様の姿には皆感心しておりました」
勇者「・・・」
王様「なんじゃったかの。あの必殺技」
勇者「ああ、ギガ・・・」
王様「そうじゃ!ギガ王様斬りなっ!あれでしとめたんだったの」
勇者「・・・」
http://hayabusa.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1328324221/
勇者「」王様「勇者はわしが育てた!!」
王様「いや、それは最近は歳のせいで腰をやっておってな・・・」
北の王「それは残念です。あ、そうそう。勇者殿のお仲間のみなさんは?」
王様「おお!よくぞ聞いてくれた。まず戦士なのじゃが、これがまた我が兵士達の中でも飛びぬけて強くてな。わが国の兵錬の賜物ですな。はっはっは」
勇者「戦士は兵士採用試験落ち・・・」
王様「よかったら北の国からも我が国に見学に来るがよかろう!!!」
北の王「ぜひお願いしたいですな。今日はご一緒ではないのですかな」
王様「あれには国を任せておりますからな。こうして各国に我らが顔を出せるわけですわ」
勇者「魔法使いは国外追放されたって言ってたけ・・・」
王様「魔術師の留学も感慨ですぞ!!!」
北の王「ありがたい話です」
王様「そして賢者ですな。彼女ほどの知識を持っておるのはわしくらいのものですな」
勇者「・・・」
北の王「すばらしい。我らが国民も勇者様の与えてくださったこの平和に感謝しております。ぜひ一度国民に声をかけていただきたい」
勇者「は、はぁ・・・」
王様「ぜひそうさせていただきましょう!わっははは」
北の王「国民からも勇者様へ感謝のしるしとして色々と送り物が届いていましたぞ。あとでお受け取りください」
勇者「いや、そんな・・・」
王様「ぜひ!いただきましょう!皆様からの感謝のしるしですからな!」
北の王「勇者様。よろしければ旅のお話でもお聞かせくださいませんかな」
勇者「ええ、いいで・・・」
王様「その話は後でも出来るでしょう。国同士の交友の話でもしましょう」
北の王「そうですか。私も勇者様の育ったお国との国交についてはぜひ話したいと思っておりました」
大臣「では・・・」
・
・
・
・
・
大臣「こちらは金のインゴッドがこんなに。笑いが止まりませんな」
勇者「あの・・・王様・・・」
王様「それに貿易の方もうまくいったな」
大臣「関税がこちらの言い値決まるとは思いませんでしたな」
勇者「王様」
王様「これはまだ多少無理を行っても良さそうだな」
勇者「王様!!」
王様「どうした勇者。突然大声出して」
勇者「もう満足でしょう。そろそろ国に帰りましょうよ」
大臣「そうそう。まだまだお金になりますよ。うひひ」
勇者「魔王倒してから方々国や町を回ってもう1年も帰ってませんよ」
王様「もうそんなになるか。あと行くところがひーふーみー。うむ、あと3年は帰れぬかもな」
勇者「そんな!っていうか魔王倒しに行ってからまだ一度も家に戻ってないんですよ」
王様「そうであったか?大臣」
大臣「凱旋パレードで近くを通ったと思います」
王様「ならその時勇者の母君も晴れ姿を拝むことが出来たであろう。気にすることはない」
勇者「いや、気にしますよ!」
勇者「いえ、そんなことは・・・」
王様「それとも私達が個人的な欲求で世界を回っているとでも思っているおるのか?」
勇者「違うんですか?」
王様「人々からの貢物は受け取らねばその気持ちを無下にしてしまうであろう。それに貿易交渉についてもわが国のため、ひいてはお前の母君のためになることだぞ」
勇者「それはそうですが・・・」
大臣「今日は北の王と長々と話すことになりましたから勇者も疲れているのでしょう。もう休んだらどうですかな」
勇者「は、はぁ」トコトコ
・
・
王様「これ以上勇者を連れていくのは難しいかのぅ、大臣」
大臣「いえ、まだまだ行くべき権力者や富豪などたくさんいますから」
王様「そうじゃのぅ。金もじゃが、そういった連中に顔も売っておかねばな」
大臣「そのためには勇者にはいてもらいませんとな」
王様「何か考えがあるのか?」
大臣「はい、お任せください。今夜、勇者殿にはお楽しみを用意しておきましょう、ふふふ」
・
・
・
【勇者の部屋】
勇者「はぁ・・・帰りたい。王様達どこまで本気なんだか・・・」
勇者「もう帰っちゃおっかな・・・。最初はうれしかったけど、最近は感謝されすぎな感じなんだよな」
勇者「黙って帰ったら悪いかな・・・」
コンコン
勇者「ん?」
女遊び人「失礼いたします」
勇者「え?誰?」
女遊び人「今夜お相手させていただきます女遊び人と申します。よろしくおねがいします」ヌギヌギ
勇者「お世話って・・・何いきなり服脱いでんの!」
勇者「なななな・・・」
女遊び人「勇者様のお相手をさせていただけるなんて私うれしいです・・・///」ズイッ
勇者「え?え?」
女遊び人「何からさせていただきましょう」
勇者「何って?」
女遊び人「夜伽のお相手をさせていただきます///」ズイッ
勇者「ちょちょちょっ!ふ、服着てよ!」
女遊び人「着衣が好きなんですか?若いのにマニアックですね///」
女遊び人「え・・・そうなんですか。でも・・・私このまま帰ったら怒られちゃいます」
勇者「じゃ、じゃあ時間までここにいればいいよ」
女遊び人「そうですか。ちぇっ残念っ。じゃ朝までいますね」
勇者「・・・」
女遊び人「・・・」
勇者「な・・・なんか間が持たないんだけど」
女遊び人「では何かお話してくれませんか?勇者様」
勇者「え?」
女遊び人「何もしないでは私も心苦しいですので、愚痴でもなんでも聞かせていただきますよ」
勇者「じゃ、じゃあ・・・」
・
・
・
・
女遊び人「魔王を倒してからずっとなんですかー」
勇者「そうなんだよ。色々理屈つけちゃいるけど、もう帰りたいよ」
女遊び人「勇者様かわいそう。帰ってしまってもいいでしょ」
勇者「だよね」
女遊び人「帰りましょうよ。あなたのやりたいこと、やるべきことやるのが一番です」
勇者「やるべきこと?」
女遊び人「うん。例えばいい女の子見つけるとか」
勇者「え!?」
女遊び人「私なんてどおですか?」クルッ
勇者「え、あ、その・・・///」
勇者「う、うん・・・」
女遊び人「そっか・・・。残念♪」
勇者「ごめん・・・。でも話聞いてもらって決心ついたよ。僕・・・一度家に帰るよ」
女遊び人「うん、役に立てたならうれしいわ」
勇者「じゃ、夜のうちに行くよ。君は朝までいていいから」
女遊び人「そう、じゃあね」
勇者「ありがとう!」ダッ
・
・
・
女遊び人「・・・」
・
・
・
タッタッタッ
勇者「はぁはぁ、よし、見つからずに抜け出せたぞ」
賢者「あ、見つけた」
勇者「賢者!」
賢者「勇者、ひさしぶりね」
勇者「うん、ひさしぶりだね。みんな元気にしてる?」
賢者「さあ?でも、戦士も魔法使いも自分の町に帰ったはずですよ」
勇者「やっぱみんな帰ってるのか。賢者は?」
勇者「あ、ごめん・・・」
賢者「いえ、昔のことですので気にしないでください」
勇者「そういえば、どうしてこの町に?」
賢者「そうそう、話したいことがあったんです。ここにいると聞いて」
勇者「何かあったの?」
賢者「ここじゃちょっと・・・落ち着けるところで話しましょうか」
側近「どうもこんにちは」
トロル王「だれだ」
側近「私、魔王様のお付をしておりました側近と申します」
トロル王「なにがようが」
側近「いえ、ちょっとお話したいことがありましてね」
トロル王「なんだ」
側近「魔王様が亡くなってからの人間の動向についてちょっと」
トロル王「おでたちにはかんけいない」
側近「そうですか?魔王様の統率がなくなった魔物達は今とても危険な状態にあるといってもいいんですよ」
側近「今、我々魔物は各地にちらばってしまって軍としての体を保っていません」
側近「また、人間達は勇者によって魔王様が倒されたことによって我々を恐れなくなってます」
側近「土地もかなり人間に奪われてしまいまして、こちら側の土地に人間が食い入ってきています」
側近「そして魔物が勇者でもない一般の人間にさえ狩られてしまう始末。食べるのにも困窮している魔物も少なくありません」
トロル王「おでたちもみなはらすかしてる」
側近「でしょう。このままでは世界はひどくなる一方です」
トロル王「おでにはかんけいね」
側近「これからお見せする光景を見てもそれが言えますか?」
トロル王「なに?」
ヴォーン
側近「こちらの水晶を見てください」
側近「これを見てもまだ言えますか?」
トロル王「おでの・・・村が・・・ああああああああああああああ!」
側近「酷いでしょう。老人も子供も皆殺しです。もっともそんな区別が人間についてるとは思いませんけど」
トロル王「おおおおおお・・・・おおおおおおお」
側近「だからあなたに立ってもらえないかと」
トロル王「たづ?」
側近「我々はあまりに各地に散りすぎました。それを集結させ、統率する旗印が必要なのです」
トロル王「ゆるざねぇ・・・絶対ゆるざねぇ・・・」
側近「どうです?魔王を名乗ってみませんか?」
・
・
・
・
・
側近「ふふふふ、続きますよ勇者。エンディングにはまだ早い」
勇者「北の魔王?」
賢者「ええ、近頃北のほうで魔物の被害が増えていると聞いていたのですが、北の魔王と名乗る者が村々を襲っているといるようです」
勇者「なんとかしないと!」
賢者「ええ、ですのであなたを探していたんです。急いで準備を」
勇者「そうだね。とりあえず部屋に・・・って・・・そうだ・・・僕、王様達から逃げてきたんだった」
賢者「え?」
勇者「いや、あの人たちいまいち信用できなく、抜け出してきたんだけど・・・戻ったらまた北の王様に無理言うだろうなぁ・・・」
賢者「私達で準備していけばいいのでは?」
勇者「軍資金とか装備の問題があるし・・・」
賢者「私に考えがあります」
王様「勇者が逃げ出したというのは本当か!?」
大臣「はい、隠密により24時間監視してますので間違いないです」
王様「それで勇者は?」
大臣「どうも賢者と連れ立ってどこかへ行くようです」
王様「賢者だと・・・王宮での官職を断りおってから行方がしれんかったが何で今頃・・・」
大臣「残念でしたねー。官職につけて愛人にでもしようとしてましたのに」
王様「もう言うでない」
大臣「見つかったんなら、勇者と一緒に今すぐ連れ戻しましょうか」
王様「いや、そのまま泳がせよ」
大臣「は?なんでまた」
王様「隠密には調査と報告を怠らせるなよ」
大臣「はい、それは分かりましたが・・・」
王様「わしに考えがある」
女商人「ゴールド銀行へようこそ!」
勇者「そうだった。旅の間のお金全部入れっぱなしで忘れてた」
賢者「装備も預けておいてよかったですね」
勇者「さすが賢者。機転がきくね」
賢者「では全額下ろしてください」
女商人「え・・・」
賢者「ですから全額」
女商人「あ・・・その・・・ほんとに全部?」
賢者「お願いします」
女商人「必要な分だけにしておかない?」
女商人「・・・・どうぞ」
勇者「・・・200ゴールド?これだけだっけ?」
賢者「そんな馬鹿な!9999999ゴールドあったはずです!」
女商人「いやー、最近物価の変動も激しくてね。あたしも困っちゃった。あはは・・・」
勇者「なるほど。それじゃ仕方ないね。賢者?」
賢者「物価が変わっても預けたお金の金額が変わるはずないでしょう!」
女商人「あはははは・・・」
賢者「笑ってないで答えてください」
女商人「あはははー・・・・使い込んじゃった」ボソッ
女商人「いやぁ・・・あはは、まさか冒険終ったのに取りに来るとか思わなくって。ゆるして、ねっ」パチ☆
勇者「え・・・でも・・・」
女商人「ねぇ~ん・・・許してくれたら、い・い・こ・と してあげるゾ☆」
勇者「いいこと?」
賢者「勇者を惑わせないでください。それよりお金!」
女商人「でも、ないものはないしぃ~」
勇者「じゃ、じゃあ装備は?」
賢者「そうです。他では手に入らない伝説の武具を預けてあったはずです」
女商人「あ、それだったらあるかな」ゴソゴソ
勇者「よかった!」
勇者「おお!」
女商人「そして、高い防御力が売りの『ステテコの鎧』!」
勇者「すごい!」
女商人「最後は伝説中の伝説、あの魔王をも切り裂いた『ひのきブレード』!!さあ、持ってって」
勇者「よし。これで装備は大丈夫そうだ」
賢者「ちがっ・・・はぁ・・・どうせ本物はなさそうですね・・・とりあえずそれでいいですか」
勇者「うん」
女商人「ではあたしはこれで」ササッ
賢者「待ってください」ガシッ
賢者「衛兵をすぐ呼んで捕まえてもらいますので。横領罪です」
女商人「ちょっちょっと待って。衛兵は勘弁して」
賢者「駄目です」
女商人「勇者さまぁ~ん。た・す・け・て☆体で払うわよ」
勇者「え・・・」ドキドキ
賢者「おまわりさ~ん!」
女商人「ま、待って。働くから!そ、そうだ!武器が必要ってことは冒険に出るんでしょ。あたしついていって働くから!」
賢者「どうしましょう?勇者」
女商人「さすが勇者様、分かってる~」
賢者「調子に乗らないでください。はぁ・・・まぁいいでしょう」
女商人「やった!」
勇者「その前にちょっと待って。やっぱり王様達にはこのこと知らせておかないと」
賢者「そうですね」
勇者「町の人も警戒しておかないといつ魔物が来るか分からないからね。すぐ逃げられるようにしておかないと」
賢者「では、北の王城に寄っていきますか」
北の兵士「この手紙を王様に?」
勇者「はい。大事な手紙ですのでお願いします」
北の兵士「勇者様でしたら直接渡していただいてもかまいませんが」
勇者「僕達はすぐに発たないといけないので。おねがいしますね。それじゃ!」
賢者「さて、じゃあ行きますか」
勇者「その前に、戦士と魔法使いも誘っていかない?」
女商人「戦士と魔法使い?」
勇者「うん、二人ともすっごい腕なんだ」
賢者「ええ、二人とも頭の中はともかく実力はあります。なんとかと鋏は使いようです」
勇者「うん、いつもこんな感じだよ」ニコニコ
女商人「黒い・・・」
賢者「何か言いましたか?」
女商人「いえ・・・ところで戦士と魔法使いってそんなにアレなの?」
賢者「会えば分かりますよ・・・」
大臣「王様、勇者から手紙が来ておりますが」
王様「なんと?」
大臣「北の地に魔王が決起し、周辺を襲っていると。勇者は鎮圧に向かうようです」
王様「なんじゃと!?そうか・・・。大臣!すぐに発つぞ!」
大臣「え?このことを北の王に知らせなくてよいのですか?」
王様「よい!それより早馬を飛ばし、この情報をわが国に知らせるのだ。決してここで口外はするな」
大臣「な、なぜ・・・」
大臣「国に戻って何をするんです?」
王様「食料と資材を集めるのだ!兵も増強しろ。燃料もだ。伝令にもそう伝えさせるのだ」
王様「隠密!おるか!」
隠密「はっ!ここに」
王様「勇者達のことは任せたぞ」
隠密「御意!」
戦士「おお!よく来たな。久しぶりじゃねーか。がははは」バンバンッ
勇者「いたっ、痛いって。叩かないで」
戦士「なに言ってやがる!ずっと顔みせねーで。たまには顔見せろよな。寂しいじゃねーか」バシッ
勇者「ごめんってば」
戦士「おまえん家も何回も行ったのにお袋さんしかいねーし、どこいってたんだよ」
勇者「王様達が全然離してくれなかったんだよ」
戦士「ところで、今日はおめーこんないい女二人も連れてどうしたんだよ。お前もなかなかやるじゃねーか。がはははは!」
賢者「戦士。勇者いじりもその辺にしておいてください」
女商人「はじめましてー。あたし勇者の妻の女商人っていいます。よろしくー」
勇者「え?」
戦士「そうかそうかー。俺はてっきり女賢者と結ばれると思ってたんだがなー」
女賢者「なっ///」
戦士「こいつは結構優柔不断で決断力がないところもあるが、根はすげーいい奴だからな。よろしく頼むぜ」
女商人「はいっ!」ニコニコッ
女賢者「違います!勇者は結婚なんてしていません!」
戦士「は?違うの?」
女賢者「女商人もあんまり調子に乗ってると・・・埋めますよ。女商人は借金のかたに連れてきてるだけです」
戦士「なっ、おまっ、借金のかたにこんな可愛い子を好きなようにしてるだと!?うらやまけしらかん!」
戦士「俺も結婚してなければ混ぜてもらったのになぁ!」
勇者「え?」
女賢者「は?」
勇者「そういえば戦士『お前も結婚したのか』って言ってたけど・・・、結婚してるの?」
戦士「ああ!後で嫁さん紹介するぜ。がははは」
女賢者「なんと・・・こんなゴリラでも結婚できるとは、神はなんと残酷な運命を・・・」
戦士「そんな褒めんな。てれんだろー」
女賢者「・・・」
戦士「それでな、俺ももうすぐお父さんになるんだぜ?」
勇者「もう子供もいるの?」
戦士「ああ、もうすぐだ。生まれたら抱かせてやっからな!勇者。お前みてーなスゲー男になってもらいたいからな」
賢者「男とは限らないでしょ」
戦士「お前みたいな、腹黒い女にはさせないからな。がははは」
賢者「戦士・・・子供の顔を見る前に消し炭になりたいの?」ゴゴゴゴッ
戦士「がはは、冗談だって。まぁ、そういうわけでな。お前達と一緒に世界救った俺だが、今度は嫁さんと子供を命がけで守ってやるってもんだぜ」
勇者「戦士は大人だなー」
戦士「お前もそのうちわかるって!まぁ、家に寄ってけ。積もる話もあるだろ」
勇者「う、うん・・・」
戦士「じゃあな。勇者。たまには顔見せろよ」
勇者「うん、戦士も元気でね」
戦士「ああ!お前も速いところどっちかに決めろよ!」
女商人「勇者様、よろしくね」
賢者「いい加減にしないと怒りますよ」ゴゴゴゴッ
戦士「がはは。勇者は苦労しそうだな」
勇者「あ、最後に知ってたらでいいんだけど、魔法使いって今どうしてるか知ってる?」
戦士「あの爺さんか・・・。あー・・・それがなぁ・・・」
勇者「何かあったの?」
戦士「ちょっと前に死んじまったよ。魔法使いの町でな」
戦士「人に聞いた話なんだが、あそこは結構魔物の住処に近い場所だったせいか。魔物がちょくちょく襲ってきていて、魔法使いはそれをいつも追い払っていたらしい」
戦士「だが、魔法使いもあの歳だ。いつまでも守れないと思ったんだろ。魔物の住処に一人で行ってそのまま帰って来なかったって話だ」
勇者「そんな・・・魔法使い・・・」
賢者「スケベなだけが取り柄のくせに、似合わないことするから・・・」
女商人「残念ですね・・・」
戦士「きっと町の奴らは感謝してるだろ。俺もそのうち墓参りくらい行ってくるぜ」
女商人「そうだよー。ゴリラみたいに強そうだったでしょー。もったいない」
勇者「今、戦士は誘えないよ。奥さんと子供を守るためにがんばってるんだから・・・」
賢者「でも事情を話せばきっとついてきてくれましたよ:
勇者「だからだよ。そんな戦士だからやっぱ幸せでいて欲しいな」
女商人「ふふっ勇者はやさしいねー。キュンってしちゃった」ギュッ
勇者「く、くっつかないで」
賢者「しかし、戦力的に心もとないですね」
女商人「さっき言ってた魔法使いの町っての行って見たらどう?よく魔物と戦ってる町なら結構強い人いるんじゃない?」
勇者「魔法使いの町ならルーラでいけるね。よし、行こうか」.
勇者「着いたんだけど・・・とりあえず魔法使いに挨拶だけしておきたいな。お墓どこだろう」
賢者「そうですね、町の英雄みたいですから誰でも知ってるでしょう」
女商人「あの辺の人にきいてみよっか」
勇者「あの、すみません」
男「ん?なんだい?」
勇者「魔法使いのことを知りたいんですが・・・」
男「魔法使い?あー、はいはい。あのスケベ爺のことねー。ほんと笑えるよね」
男「何?その歳でもうあっち系のお店に興味あるの?元気だねー」
勇者「あ、あの魔法使いはこの町の英雄じゃ・・・?」
男「あー、ありゃ確かに男の英雄と言えなくもないな。あの歳まで現役だとはねー」
勇者「魔法使いはこの町を魔物から守ったんじゃないんですか?」
男「魔物?そんなんこの町に来たこともないよ。あの爺さんの方が夜の魔物って感じだよ。ははは」
勇者「えー、えと、魔法使いってどうやって死んだの?」
男「あれ?ほんとに知らないの?じゃあ教えちゃおっかなぁ。生涯現役で通した男の腹上死についてたっぷりと」
賢者「まさか、パフパフ屋で腹上死をしてたとは思いませんでしたね・・・」
女商人「すごい人もいたものね」
勇者「魔法使い・・・あなたって人は・・・」
賢者「戦士はどういう思考でこの話をあんな英雄譚に脳内変換したんでしょうね、まったく」
女商人「男の英雄って聞いて勘違いして頭の中でストーリーまで作っちゃったんじゃない?」
勇者「戦士は頭が弱かったからなぁ・・・。でも魔法使いのお墓参りが出来たのはよかったよ」
賢者「まぁ、そうですね。魔法使い・・・かなりスケベで最低の人でしたが安らかに成仏してください」
魔法使い「お前さんも、相変わらず堅物じゃのぅ。そんなんじゃから胸も尻も硬いまま成長せんのじゃわい、うひひひ」モミモミ
勇者「魔法使い!死んだんじゃ!?」
魔法使い「ああ、死んだぞい?ほれっ、足がクリンッとしてなくなっておるじゃろう」
勇者「あ、ほんとだ。クリンッっとしてる。透けてるし」
賢者「おのれ悪霊!これでも喰らいなさい!聖水!」バシャッ
魔法使い「ぐああああああああああああ、や、やめれえええええええ!」シュウシュウ
勇者「賢者!魔法使いが消えちゃうよ」
賢者「いいんです。消してしまいましょう」
魔法使い「待って!待つんじゃ!お願い!話だけでも聞いてくりゃれ!」
賢者「仕方ありませんね・・・」
魔法使い「ふぅ・・・危うく成仏するとこじゃったわい・・・。わしじゃって、そんなナイ乳揉んでもそれほどうれしくないわい・・・」ボソッ
賢者「・・・」ゴゴゴゴゴッ
魔法使い「じょ、冗談じゃ!おぬしらがピンチと思って天界から戻ってきちゃったんじゃ、てへっ」
賢者「あなたがそんな人じゃないことはよく分かってます。本当のことを言わないと、成仏したほうがマシだと思う体験をしますよ?」
女商人「なるほど・・・こういう人ね・・・」
魔法使い「わ、わかったわい。わしの聞くも涙語るも涙の話を聞くが良い!」
賢者「死んで天界に行った」
魔法使い「うん」
賢者「天界で若い女の子に猥褻行為をしてまわった」
魔法使い「何しろ、もう何やったって死なんしのう。きゃっほーてなもんでの」
賢者「あまりに酷いので地上に追放された」
魔法使い「酷いと思わんかい?出入り禁止にされてしもうたのじゃ!」プンプン
勇者「ひどい・・・」
女商人「ひどいわね・・・」
賢者「酷いのはあなたです!死んでまで何やってるんですか!」
魔法使い「まぁ、そういうわけでここにおったわけじゃ」
賢者「はぁ・・・どうします?勇者?」
勇者「魔法使い、力を貸して欲しいんだ」
賢者「勇者!?」
女商人「これ連れてくの?」
魔法使い「何やらわけがあるようじゃのぅ。話してみい」
勇者「うん」
魔法使い「ほかならぬ勇者の頼みだからの。断れんわい」
勇者「ありがとう、魔法使い」
魔法使い「しかし、おぬしら相変わらずじゃのぅ・・・。おぬしも・・・賢者も・・・」
勇者「え?」
魔法使い「わしとしてはこんな可愛い子二人と一緒なら大歓迎じゃってことじゃよ!」モミモミ
賢者「ギャー!」
女商人「いやああ!ジジイはいやー!」
勇者「大丈夫かな?」
兵士「はぁはぁ・・・がはぁ・・・」
勇者「あれは!」
兵士「ぐふっ・・・」バタッ
勇者「大丈夫ですか!?ベホマ!」パァ・・・
兵士「うぐ・・・ゆ・・・勇者様!モンスターが・・・モンスターの軍団が突然!」
賢者「勇者!見て!城が・・・町が燃えてます!」
女商人「勇者様!急ぎましょう!」
魔法使い「むぅ・・・」
女「うぐっ・・・」バタッ
男「足が・・・足がああああああああ」シタバタ
トロル「ウオオオオオオオオオオオオオン!」
勇者「なんで!?人がこんなに死んで・・・怪我して・・・誰も逃げてなかったの!?王様は!?
」
魔法使い「これだけ民間人がいたのでは、広域魔法で焼き払うわけにはいかんのぅ・・・」
女商人「でも!もたもたしてたらみんなが!」
トロル「うおおおおおおおお!」ズンッ
女商人「勇者様あぶない!そんな武器じゃ!」
勇者「ふっ!」シャキン
トロル「・・・・」バタリッ
女商人「あ・・・ひのきのぼうで・・・斬った?すごい・・・」
女商人「す・・・すごい・・・」
賢者「それとも伝説のひのきブレードのおかげですかね」
女商人「あ・・・え・・・そうそう。良い切れ味でしょ!あはは・・・は・・・」
魔法使い「さっさと魔物を倒してしまうぞい」
女商人「いえ、それより町の人を助けないと!」
勇者「え・・・」
賢者「勇者!迷ってる場合じゃないですよ!」
勇者「僕は・・・」
賢者「勇者!」
女商人「勇者様・・・」
魔法使い「おぬしら、ほれっ、ぼさっとするな。各個撃破じゃぞい!メラゾーマ!」ボボゥ
トロル「ぐおおおおおおおお!」ドサッ
勇者「いくぞ!」
女商人「え?え?あたしも一人で?ちょっと!?」
トロル「うおおお!」ブンッ
女商人「うわっ!たったった・・・とぅ!」スパパパ
トロル「・・・」バタッ
賢者「なかなかのナイフさばきですね」
女商人「なんで・・・」
賢者「あなたが強いのはその物腰で分かりますよ。さっ、行きますよ!」
トロル「うがああああああああああああ!ゆるざねえええええええええええ」
勇者「くっ・・・」ドスッ
トロル「・・・」バタッ
勇者「んっ・・・あれは!?」
トロル王「おまえが勇者か・・・またごろじだ・・・おで・・・おでの仲間おおおおおおおおおおおお!」ドガッ
勇者「うぐっ・・・お・・・重い!」ギィーン
トロル王「ゆるざない・・・ぜっだい!この北の魔王がああああああ」ドガドガドガッ
勇者「魔王!?」
トロル王「おおおおおおおおおおおお!」ブンッ
トロル王「うおおおおおおお!」ドガッ
勇者「うぐっ・・・硬い・・・刃が立たない」ジンジン
トロル王「勇者・・・人間・・・ゆるざないぞおおおおおおおお!」ブンッ
勇者「まずい!?」
魔法使い「バイキルト!」
勇者「魔法使い!」
魔法使い「ほっほ。通りすがりの魔法使いじゃわい」
勇者「ありがとう!よし・・・いける!」
勇者「はやぶさ斬り!」ズババ
トロル王「ぐあっ」ボタタ
トロル王「うぐぐ・・・ゆるざない・・・ぜっだい・・・」ズルズル・・・
勇者「両腕を失って・・・ま、まだやる気か・・・」
トロル王「子供も・・・兄弟も・・・全部殺ざれだ・・・ゆるざない・・・ぐあうっ」ガブッ
勇者「うぐっ」
トロル王「ううううううううううううっ」
勇者「な・・・殺されたって・・・何を・・・・ぐぐぐっ・・・」
トロル王「うーうーっ!」ガブガブ
賢者「勇者!大丈夫ですか!」ドスッ
トロル王「・・・」ビクンッ
勇者「け・・・賢者・・・何も殺さ・・・・」
賢者「勇者?」
勇者「ううん、なんでもない」
賢者「さっ、残りを片付けてしまいましょう」
大臣「いつまでこんなところで軍を待機させておくんですか?」
王様「まぁ、待て。まだ早い」
大臣「ん?お前は」
隠密「王様、『今』でございます」
王様「うむ、ご苦労」
王様「兵士達よ!これより我々は北の国の民を助けに馳せ参じる!」
王様「人命を第一に考えよ!モンスター討伐はあとでもかまわん。出来るだけ多くの人を逃がすのだ!」
王様「この戦いには勇者も参加しておる!これは人類の誇りと命をかけた戦いだ!勇気を!」
兵士達「勇気を!」
王様「私に続けえええええええええええ!」
兵士達「おおおおおお!」
王様「この度は、援軍が遅れまして何と言ったら良いか・・・」
北の王「いや、王よ。本当に助かりました。遅いなどと言うことはありません。どこの国より真っ先に駆けつけていただき感謝しております」
王様「しかし、町がこの有様では・・・」
北の王「いえ、人命優先で対処していただいたおかげで多くのものが命を取り留めました。町はなくとも北風に鍛えられた体がある限り復興はできましょう」
王様「さすがですな。ではわが国としても出来うる限りの融資をさせえていただきましょう」
北の王「それはありがたいが・・・それだけの借金をするだけの余裕は・・・」
王様「何、融資と言っても形だけのもの。食料や物資も持ってまいりましたので使っていただいて結構。返済など復興が終ってからで結構ですぞ」
北の王「返す言葉もございません・・・。ありがとう・・・!」
王様「なになに。わっはっは」
勇者「・・・」
北の王「勇者殿?」
勇者「あ、はい」
王様「勇者も後悔しているのであろう」
北の王「後悔?」
王様「先に人命を優先すればもっと助かったのではないかと。まだまだわしの教えたことが活かしきれておりませんな」
北の王「まぁまぁ・・・あのままモンスターを放置はしておけませんですし」
王様「なんじゃ?」
勇者「なんで魔物は襲ってきたんでしょう?」
王様「はぁ?突然何をいっておるのじゃ」
勇者「いえ・・・魔物にも何かわけがあったのでは・・・と」
王様「何を馬鹿な事を。魔物は人を襲うと決まっておろう。あっても腹が減ったとかそんな理由じゃわい」
北の王「まぁまぁ、魔物が人を襲うわけですか・・・なかなか興味深い話です」
勇者「・・・」
大臣「なるほど、こういうことだったんですか」
王様「これで北の国は我が国に頭が上がるまい。物資もわが国に頼らざるを得ず、恩もあることから他の国から買うわけにもいかないであろう」
大臣「やりましたね」
王様「まだまだこれからじゃわい。ゆくゆくはわが国の属国として支配下においてやらねばな。わーっはっは」
大臣「さすが王様」
王様「次は南の国にでもいくかの」
大臣「南の国ですか?」
王様「今回のことでまたわが国の株も勇者の株も上がりまくりじゃ。ジャブを入れておかねばな」
賢者「今度は南の国に連れて行かれるんですか?」
勇者「うん・・・」
女商人「で、ついていくと?」
勇者「うん・・・」
賢者「嫌じゃなかったんですか?そういうの」
勇者「何か・・・今、母さんに顔向けできないって言うか・・・今の顔見て欲しくないっていうか・・・」
魔法使い「まぁまぁ、男にはそんな時期もあるわい。ほっほ」
賢者「茶化さないでください!」
勇者「だから・・・ごめんね。気持ちの整理が付いたらまた会いに行くから」
魔法使い「何を言っておるんじゃ?わしもついていくぞい」
賢者「私もです」
女商人「あたしもー」
勇者「なんで?」
賢者「このままほっておけないでしょ」
女商人「借金返し終わってないし」
魔法使い「南の小麦色の肌のぴちぴちギャルが楽しみじゃわい」
勇者「賢者・・・女商人・・・ありがとう」
魔法使い「わしは?」
賢者「じゃ、行きましょうか」
魔法使い「ねぇ、わしは?」
???「・・・」
側近「うんと言ってくださいませんか?」
???「・・・」
側近「トロル族は全滅しましたよ」
???「・・・」
側近「他の魔族も時間の問題でどんどん人間によって滅びに向かっていくでしょう」
???「・・・」
側近「今、われら魔族の力を示しておかないと人間は我々を家畜以下の存在とみなすでしょう」
???「・・・」
???「・・・」
側近「知恵は私が出しましょう。しかし、あなたには勇気がある。仲間との絆がある。力を合わせれば、あの勇者でも仕留めることができます」
???「・・・」
側近「お願いします。ともに魔族を救いましょう!」
???「・・・・・・」コクリッ
側近「魔王になってもらえますか!ありがとうございます!誰もがあなたの勇気に共感し、手を貸すことでしょう!行きましょう!勇者討伐に!」
???「ピキー!」
・
・
・
・
・
・
側近「ふふふ、これで半分」
王様「勇者はわしが育てたんや!」
勇者「・・・」
南の王「いやはや、見事でした。北の王は不幸なことでありましたが、あれほどの魔物をわずか1日で鎮圧するとは」
王様「なんのなんの。この世界のためになるのであれば力は惜しめませんからな」
大臣「ですなぁ。勇者」
勇者「はぁ・・・」
南の王「どうなさった?元気がありませんな」
王様「なーに、まだ先の疲れが残っておるのであろう」
南の王「それはいけない。我が国に来た時に握手攻めにあってしまわれたようで申し訳ない」
南の王「ありがとうございます。しかし、先ほどの戦いは見事でしたな。勇者殿も王国軍も」
勇者「え・・・それは・・・」
王様「はっはっは。勇者は我が国の誇りですじゃ。それに我が軍ものぅ。育てたかいがあったのぅ」
南の王「ぜひ王様には我が国の兵錬の手ほどきを願いたいですな」
王様「あ・・・いつつつ・・・ま、まだ腰の調子が治っておりませんでな。先の戦いで悪化しておって・・・」
南の王「そうですか。でしたらこの暖かい土地でしばらく静養されていくといいでしょう」
王様「ぜひそうさせていただこう!あっはっは」
勇者「はぁ・・・、またあの人たちはもう・・・」
勇者「やっと休めるよ・・・ふぅ・・・」
ギギィ
遊び人「こんばんは。夜伽のお相手にまいりました」
勇者「き、君は!?」
遊び人「えへっ、きちゃったっ♪」
勇者「きちゃったって・・・どうしてここへ?」
遊び人「王様たちにね。勇者様に気に入られちゃったって言ったら一緒に来るかって」
勇者「あの人たちは・・・」
遊び人「というわけで・・・」ヌギヌギ
遊び人「なぁに?」
勇者「いや、そういうことは・・・なしの方向で・・・っていうか服着てっ」
遊び人「好きな人がいるからっていうの?あたしそんなのどうでもよくなっちゃったっ」ズイッ
勇者「あうあう・・・」
遊び人「ちょっと遊んでいかない?」
勇者「だ、だめだよ!」グイッ
遊び人「ちぇっ、ざーんねんっ。でも勇者様なんか悩んでるような顔してるから、慰めてあげたくなっちゃうのよねぇ」
勇者「え?顔が!?」ペタペタ
遊び人「やっぱ悩んでるんだ」
遊び人「話しちゃいなYO」パチッ☆
勇者「わ、わかったから服着て・・・」
勇者「うん、許さないとか人間に仲間が殺されたとか・・・」
遊び人「そのことお仲間さん達には話さないの?」
勇者「うん・・・みんな人のためにがんばって戦ってるのに・・・こんなこと話したら悪いって言うか・・・」
遊び人「勇者様はやさしいね」
勇者「え?」
遊び人「知っちゃったらつらいこと自分ひとりで抱えちゃってさ」
勇者「いや・・・」
遊び人「でもそれでどうするかは勇者様が決めなくちゃね」
遊び人「悩んでるんでしょ?このまま魔物と戦えるかどうか」
勇者「なんでそれが・・・」
遊び人「顔に書いてあるわよ。でもつらくても決めなくちゃいけない選択っていうのはあるものよ」
勇者「選択・・・」
遊び人「うん、それで失敗したとしても選ばなくちゃいけないの。そのために誰かが泣くことになってもね」
勇者「うん・・・そっか、そうだよね・・・ありがとう遊び人」
遊び人「いえいえ、おねえさんで良ければいつでも相談に乗るわ」
勇者「あ、もうそんな時間か」
遊び人「遊ぶ時間がなくなっちゃったわね。延長する?」
勇者「い、いや、そういうのは!」
遊び人「うふふ、冗談よ」
勇者「遊び人、君と話せてよかったよ。ありがとう」
遊び人「次は夜伽の後に言ってね。そのセリフ」
勇者「///」
遊び人「じゃあね」
賢者「勇者!」
魔法使い「大変なのじゃ」
女商人「聞いてよ勇者様―!」
勇者「ちょ、ちょっといっぺんに話さないで」
賢者「実はこんなものが!」
勇者「果たし状?なにこれ?」
魔法使い「とにかく読んでみい」
勇者「貴殿らの所業許しがたく、我ら魔族を代表し、我が貴殿らとの決闘を申し込むものである」
勇者「我ら魔族と貴殿らの誇りと命を懸けた勝負を所望する」
勇者「時は次の満月の夜、場所は南の森前にて待つ。南の魔王。敬具」
勇者「なにこれ?」
魔法使い「果たし状じゃのう」
女商人「やたら漢らしい文書ね。なにが所業許しがたく、よ。北の町をあんなにしておいて!」
勇者「それは・・・」
賢者「勇者。どうします?」
勇者「うーん・・・」
女商人「勇者!?」
勇者「うん・・・僕は人間だ・・・」
魔法使い「ふむ・・・」
勇者「人のために戦うよ。それで相手を倒すことになっても」
魔法使い「勇者・・・それでよいのか?」
勇者「うん。王様にも知らせておこう」
魔法使い「誰もおらんのう」
女商人「いや、あっちから何か来る」
ピョンピョンッ
スライム「ピキー!」
勇者「スライム!?」
スライム「ピキーピキキキーピキキーピーピーキキーピキキピキー!」ダッ
勇者「なに言ってんの!?」
賢者「相手になってやるから付いて来いってことじゃないですか?」
スライム「ピキー」ピョンピョン
女商人「あ、行っちゃう。追っかけましょ」
女商人「でもスライムなんて拍子抜けね」
魔法使い「ふむ」
勇者「危ない!」ダンッ
ゴゴォ
女商人「きゃっ」
魔法使い「今のは・・・ギラ!?どこからじゃ」
賢者「分かりませんでした。うわっ」
ゴゴゥ
勇者「これは・・・ギラの狙撃!?どこから」
ドガッ
女商人「ぐふっ」
勇者「女商人!?」
女商人「うぐ・・・体当たりを・・・メタルスライムのようだったけど・・・ううっ・・・」
賢者「移動しながら攻撃しているようです。確かこっちのほうへ・・・きゃあ!」
勇者「賢者!だいじょ・・・うわっ」
ビチャア
勇者「目が・・・・目がああああああああああ!」
魔法使い「バブルスライムじゃ!勇者!すぐ毒消しを・・・ぎゃああ!」
勇者「魔法使い!どこ!?」
魔法使い「聖水をくろうた・・・消える・・・消えてしまううううううううう!」
勇者「みんな!どこ!?」ガサガサッ
勇者「ううっ・・・うっ・・・や、やっと目が見えてきた・・・」
勇者「みんなー!くっ・・・はぐれてしまった・・・」
勇者「うぐっ・・・」
勇者「こ、これが狙いか・・・バラバラにして一人ずつ・・・くっ・・・また茂みの中に」
(側近「勇者達の強さは仲間との絆の強さです。まずこれを破壊しなければなりません」)
スライム「・・・」ズザザザ
(側近「そのためにも彼らを分散できるだけの仲間がこちらにも必要です。あなたは一人では弱い。それは誰もが知るところです。しかしそのあなたが魔王として立ったとしたら」)
スライム「ピキー!」ダッ
勇者「見えた!」ズバッ
スライム「ピキュー・・・」
勇者「やったか!?」
勇者「ホイミスライム!?回復された!?」
(側近「みんながあなたを助けようと集まるでしょう。仲間と連携するのです」)
バブル「ピー!」ブシャア
勇者「うわっと、食らうか!」
ゴゴゥ
勇者「ぐあっ・・・あれは・・・」
メタル「ピキー」
(側近「勇者は強い。だが単独で強いからこそ連携に不慣れなのです。あなた達のコンビネーションこそ勇者を倒すのに必要なのです」)
勇者「メタルスライムか・・・だったら・・・こちらも速さで全員斬ってやる!」
勇者「はやぶさ斬り!」ズババ
勇者「消えた!?」
はぐれ「ピキー!」
勇者「はぐれメタル!?仲間を助けた!?」
「ピー」
「ピー」
「ピー」
「ピー」
「ピー」
ザワザワザワザワ
勇者「また見失った・・・なんだ・・・こいつら・・・何を話し合ってるんだ・・・」
スライム「ピキキー!」ドガッ
勇者「うぐっ・・・うしろ・・・」
勇者「もういない・・・きりがないな」
ゴゴゴゴゴゴゴゴッ
勇者「このあたり一帯吹き飛ばしてやる!」ゴゴゴゴゴゴゴゴ
(側近「勇者は強い。そしてそれはタフであることも言えます。あなた達の攻撃はじわじわ効きますが、決定的なものにはならないでしょう」)
勇者「おおおおおおおおおお」ゴゴゴゴゴゴゴゴ
(側近「だから決定的な攻撃が必要です。そしてそのタイミングが。あなた達の攻撃に焦れて大魔法を使おうとした時隙が生まれるでしょう。その時こそ」)
スライム「ピキー!」ダッ
バブル「ピキー」
ホイミ「ピキー」
メタル「ピキー」
はぐれ「ピキー」
勇者「なっ・・・全員出てきた!?」
勇者「なっ・・・五芒星!?これはまさか!?」
スライム「・・・」ゴゴゴゴゴゴゴ
勇者「だめだ!止めないと!」ダダダ
スライム「【ミ】・・・」
勇者「くっ」ズバッ
スライム「・・・」ビクンッ
バブル「【ナ】・・・」
勇者「やめろ!」ズバッ
バブル「・・・」
勇者「はぁ!」ズバッ
ホイミ「・・・」
メタル「【イ】・・・」
勇者「はぁ・・・はぁ・・・」ズバッ
メタル「・・・」
はぐれ「【ン】・・・」
勇者「間に合えー!」ズバン!
はぐれ「・・・」ビクンッ
バリバリバリバリバリッ!!!
勇者「ぐああああああああああああああああああああ!」バリバリバリバリ
勇者「うぐぐぐぐぐああああああああああああ!!」バリバリバリバリ
勇者「か、体がああああああああああああ!!」バリバリバリバリ
・
・
・
・
勇者(魔王を倒したらそれで終わりだと思ったのに・・・)
勇者(でも・・・僕が死んだら・・・みんな悲しむ・・・かな?)
勇者(悲しむのは伝説の勇者が死んだからで僕が死んだからじゃないかもな・・・)
勇者(でも・・・一人くらい悲しむかな・・・女商人とか賢者とか・・・遊び人・・・)
勇者(そうだ・・・立って守らないと・・・)
勇者「う・・・くっ・・・」ズルズル
勇者(か、回復を・・・・)
勇者「う・・・・あ・・・・」
勇者(駄目だ・・・肺がやられて声が・・・)
勇者(な・・・あいつらまだ生きてるのか)
バブル「キ・・・」ズリズリ
ホイミ「・・・」ズルズル
メタル「・・・」ズルズル
はぐれ「・・・」ズルズル
勇者(あんな体で集まって・・・どうするつもりだ・・・)
スライムたちがあつまって・・・・
ボフン
勇者(・・・・ん?)
勇者(・・・・・・え・・・・あ・・・・)
勇者(こいつ・・・死んでる・・・)
勇者(た・・・助かった・・・うっ・・・意識が・・・・)ガクッ
賢者「今やってますよ。まさか勇者がここまでやられるなんて・・・」
女商人「ひどい傷・・・どうやったらここまで・・・」
勇者「う・・・いつつ・・・」
賢者「気がつきましたか?」
女商人「勇者様!」ギュッ
勇者「いてて」
賢者「女商人やめなさい!傷が開いてしまいます」
勇者「そういえば魔法使いがいないけど・・・」
賢者「ああ、アレは泣きながら天に帰っていくのを見ましたよ。特に止めませんでしたが」
勇者「ああ・・・そう・・・」
女商人「いえ、あれ明るいんじゃなくて燃えてるのよ!!鳥じゃなくてモンスターじゃない!?」
勇者「そんな・・・うくっ・・・助けに行かないと!」
賢者「勇者は休んでいてください。私達二人で行きましょう」
女商人「そうです。そんな体じゃ無理ですって」
勇者「そんなわけには・・・大丈夫、立てるよ」
女商人「こちらに私達をひきつけて町を襲う作戦だったってわけ?」
賢者「いえ、こちらはこちらで本気で倒す気だったんでしょう」
勇者「うん・・・死ぬかと思った・・・急ごう!」
「ギャア!ギャア!」
賢者「これは・・・」
女商人「ひどい・・・みんな死んでるの・・・?」
勇者「ドラキーにキメラにいたずらモグラ・・・低級モンスターがこんなにたくさん・・・なんて数だ・・・」
賢者「モンスターの死体もこんなに・・・」
女商人「とにかく残りのモンスターをなんとかしないと!」
賢者「人の生き残りもいるのかどうか分かりませんし・・・魔法で倒したほうが早いかもしれませんね」
賢者「でも一匹ずつ倒してたらその間にみんな死んでしまうかもしれませんよ。ある程度倒してから探したほうが・・・」
勇者「だめだよ・・・そんなこと・・・」
賢者「でもさすがにこの数は・・・」
賢者「・・・わかりました。じゃあ出来るだけ急いで各個撃破していきましょう」
勇者「うん」
・
・
・
・
女商人「結局生きてる人は誰もいなかったわね」
賢者「ええ・・・。たぶん逃げた人も多いでしょうし・・・全滅ということはないと思いますが・・・」
勇者「・・・」
女商人「勇者様。そんなに気を落とさないでください」
賢者「やれることはやったんです。あなたがその全ての責任を背負うことはないんですよ?」
女商人「そうですよ。勇者様は何も悪くない!」
勇者「でも・・・何かを救う選択もあったんじゃないかな・・・って」
勇者「ううん、何でもない。ありがとう」
賢者「・・・」
大臣「いやー危ないところでしたなー勇者の情報がなければやられていたかもしれませんねー」
王様「そうだな。無事帰ってこられたのはよいのだが・・・」
大臣「ところで今回は支援とかしないんですね」
王様「そうだ。それが困ったことだな・・・」
大臣「どうしてですか?北の国みたいにガッチリ借金で縛っちゃえばいいじゃないですか」
王様「わが国にそれだけの余裕がないのだ・・・。それに南の国の惨状はひどい。国を立て直そうとするものもいるだろうが・・・」
大臣「だからそこにつけこめば・・・」
王様「・・・来るぞ」
大臣「何がですか?」
大臣「なんだ騒々しい」
兵「た・・・大変です!ここへ向かって大量の難民が・・・」
王様「来たか!」ガタッ
兵「どどどどどうしましょう」オロオロ
王様「門を閉ざせ!絶対に入れるな!一人たりともだ!」
大臣「王様!?」
王様「今は北の民の一部も引き受けておる。物資の支援にも資金を使っている。これでさらに人を入れては国の経済が破綻するわ」
王様「一人でも入れればその者からあらぬ噂が広がるであろうし、入れなかったものからの不平の声も高まるだろう。一人も入れるな」
大臣「し、しかし・・・どうすれば・・・」
王様「我々には自国民を守る義務があるのじゃぞ」
王様「わしに考えがある」
王様「そうか」
隠密「勇者の南の王国の魔物の討伐は終りました。南の王国に生き残りはいないようです」
王様「先に逃げ出してきたやつらで困っておるわい・・・」
隠密「何か収容施設のようなところへ送られていく人を見ましたが・・・まさか・・・」
王様「お前はそんなことを気にする必要はない!」
隠密「しかし・・・」
王様「さっさと報告をせい!」
隠密「はっ・・・。勇者は未だに仲間と一緒のようです」
王様「そうか。では次は東の王国にでも連れて行くとするかの。ほっほっほ!」
隠密「・・・」
王様「まぁな」
大臣「しかし、あれは数年前に何もでなくなった廃坑ですが・・・」
王様「だからそこにしたのだ」
王様「仕事とそれに応じた賃金を与えようというのだ。断るまい。そこに町を作る」
大臣「しかし、何も出てこないと」
王様「ああ、それでは賃金の払いようがないな」
王様「それに、これならそう資金がかかることもあるまい」
大臣「しかし、そのうち気づくのではないですか?」
王様「そこは、ほれっ、努力が足りんのじゃよ。はーっはっは」
王様「勇者はわしが育てたった!」
勇者「」
東の王「で、今回はどのようなご用件で?」
王様「ごほんっ!北と南の国が魔物に襲われたのはご存知ですな?」
東の王「ええ。特に南はひどい有様だったようですな」
王様「そうじゃ。それでの、わが国は北の国に支援もしておるし、南の難民も受けれておる」
東の王「それは立派なことですな」
王様「じゃろ?だが財政的にかなり厳しいところがあっての。これで残る国も我が国と東の国のみじゃ。お互い支えあっていかねばならぬじゃろう」
東の王「それはそうですな」
王様「それで援助・・・」
東の王「お断りする」
東の王「これで残す人間の国は二つのみ。それは分かる。だがそちらの腹が分からん」
王様「腹がわからんとは心外な。わしは腹を割って話して折るつもりじゃが・・・」
東の王「ならばなぜここに勇者殿がおられるのか」
王様「は?」
東の王「かつて魔王を倒せし勇者殿。それはお強いのでしょうな。我が国の中でもあこがれておるものはおる」
王様「ほっほ。でしょうな」
東の王「その強さは私らなど束にかかってもかなわんほどでしょう」
王様「なんのなんの」
東の王「だからといって一国の王がそれを恐れて言いたい事も言えないとでもお思いか!!王よ!」
東の王「この場に勇者殿がいることなど脅し以外の何ものでもありますまい!」
王様「そんなつもりはないのじゃが・・・」
東の王「そちらには勇者殿がおられるから魔物をそう脅威に感じておらんのであろう」
東の王「だが我が国にも勇者殿には劣るかも知れぬが屈強な兵士がおり、魔物と戦ってきておる」
東の王「この条約を読ませてもらったが、こちらからの一方的な支援ではないか」
東の王「これが同等の条約なら考え直そう。また来られるがよい」
王様「外交とは本来そういうものだ。時間はいくらでもかけるわい」
大臣「おのれ・・・魔物に襲われでもすれば我らが勇者にすがり付くであろうに」
王様「それはそれで困るがな。これ以上国が減ってはな」
大臣「王様には何か考えがあるんですか?」
王様「とりあえず様子を見るしかあるまい」
大臣「ないんですか」
王様「うるさい!そのうち隙を見つけてやるわい!」
大臣「・・・」
勇者「あーもぅ。やっと部屋に帰れる」
ガシャ
女遊び人「はーい、いらっしゃーい」
勇者「なんか、もう最初から部屋にいるし・・・」
女遊び人「待ってましらよぉー」グビグビ
勇者「酔っ払ってるし・・・」
女遊び人「ほ~ら、突っ立ってらいでしゅわりなさい!」ポンポン
勇者「それ僕のベッド・・・」
女遊び人「ほらほら~」
勇者「はぁ・・・」ストン
勇者「ちょっ!当たってるから///]
女遊び人「当ててんにゃろーあははは」グイグイッ
勇者「お酒臭い・・・」
女遊び人「ほらっ、勇者様も飲んで飲んで」
勇者「み・・・未成年だし」
女遊び人「そういえば、そうらったねー」
勇者「女遊び人・・・なんかあったの?そんな寂しそうな顔して・・・」
女遊び人「そんな顔してないにゃろー」
勇者「うん、顔はそうだけど・・・なんかそんな気がして・・・」
女遊び人「それは勇者様がちっとも遊んでくれないからなのら」グイッ
勇者「だから当たってるって!そんな理由には思えないんだけど」
女遊び人「はぁ・・・酔いがさめちゃった。何でそう思ったの?」
勇者「いや・・・なんとなくだけど・・・泣いてるみたいだったから」
女遊び人「・・・」
女遊び人「そんな風に言われたの・・・2回目ですよ」
勇者「どうしたの?」
女遊び人「このままでいいのかなって・・・そう思っていただけです」
勇者「このまま?」
女遊び人「国が・・・二つも滅んじゃって・・・」
勇者「ああ・・・」
女遊び人「それでも私・・・余り悲しくないんですよね・・・。身寄りがないからかもしれませんけど」
女遊び人「あはは、な、なんともなりませんよね。ごめんなさい。こんな話しちゃって」
勇者「ううん、僕も・・・同じだよ」
女遊び人「え・・・」
勇者「僕にできるのは力を振るうことだけ。本当ならもっと人を救えたかもしれないのに・・・」
勇者「そのために力を使うのが本当は正しいって分かってるのに・・・やり方がわからなくて・・・」
勇者「僕は・・・だめだなぁ」
女遊び人「勇者様。あなたはいつかきっとそんな力の使い方ができますよ」
勇者「女遊び人・・・」
女遊び人「その時は、私もお手伝いさせてください、そうすれば私も少し救われます」
勇者「ありがとう・・・」
女遊び人「っていっても、夜のお手伝いしかできませんけどね。うふふ」
勇者「!?」
遊び人「ほらっ、なんて顔してるの。元気出せ。勇者様♪」
コッコッ
大臣「勇者、こんな早朝からお出かけかの?」
勇者「ああ、大臣か」
大臣「疲れているのならゆっくりしておってはどうか」
勇者「いえ、眠れなくて。あ、そうそう。大臣が紹介してくれた女遊び人なんだけど」
大臣「女遊び人?」
勇者「目的はともかく彼女を紹介してくれたことは感謝するよ。ありがとう」
大臣「なんのことかの。女遊び人とは」
大臣「そんな者しらんぞ?酒と食事を勇者に用意したくらいだが」
勇者「え?じゃあ彼女は?」ダッ
大臣「あ、おい、勇者」
ガチャッ
勇者「女遊び人!?」
勇者「誰もいない・・・」
勇者「・・・?」
竜王「誰だ」
側近「私は魔王様のおそばに仕えておりました側近と申す者」
竜王「お前か。最近魔物に人間を襲わせておるのは。なんだその被り物は」
側近「私などのお見苦しい顔を竜王様にお見せできないので」
竜王「ふんっ、私はお前が誰であるかなどどうでも良い。失せろ」
側近「竜王様であれば私が来たわけはお分かりでしょう」
竜王「人間を滅ぼせとでも言うのであろう」
側近「よくお分かりで」
竜王「私は人間などに興味はない。無論お前達にもだ」
竜王「ふん、それはあやつがそれなりの見返りを寄越したからよ」
側近「見返り?それはなんでしょう?」
竜王「宝よ!竜族は古来より光物に弱くてな。みなキラキラした宝物を集めおるわ」
側近「ほほぅ」
竜王「そんじょそこらの宝では駄目だ。私をうならせるほどのものでなくてはな!」
側近「ちなみに前魔王様は何をお渡しに?」
竜王「ふん、それはな」
側近「それは?」
竜王「あやつ自身よ!光っておった!黒光りであったがの。光り輝いてよく斬れてまことにいい男だったわ」
竜王「ああ、一目で見惚れたな。それに比べてお前は・・・」
側近「私は?」
竜王「濁っておる。黒いがまったく光らん闇そのもののようじゃ」
側近「ふふ、魔族ゆえ・・・」
竜王「お前のようなものでは力を貸せんわ。いね」
側近「ではそれなりの対価をお支払いましょう。光物ですね。これではいかがです?」
ピカアアァ!!
竜王「そ・・・それは!?光の玉!?」
竜王「失われて久しく、竜族が数千年かけて捜し求めそれでも見つからなかったものを・・・なぜお前が・・・」
側近「ふふっ、私は何でも知ってますゆえ」
竜王「うっ・・・くぅ・・・ほしいっ」ボソッ
側近「いかがですか?この世に二つとない至宝ですよ」
竜王「ほしい・・・めっちゃほしい・・・」ボソッ
側近「いらないですか?じゃあこれは大魔道様にでも差し上げてあちらに頼みますかね」
竜王「ま、待て!あんな者に渡したら穢れる!何に使われるか分からん」
竜王「分かった。勇者を倒せばよいのだろう」
側近「今勇者は東の町におります。町ごと頼みます。竜族で奇襲すれば容易いことでしょう」
竜王「いいだろう。だが奇襲など弱者のすること。食物連鎖の覇者たる我らのすることではない」
側近「ではどうするのですか?」
竜王「私に考えがある」
勇者「この気配は!?」
竜王「はじめまして勇者。食事中に失礼する」
勇者「お前は・・・」
竜王「人の町ゆえ人の姿を借りさせてもらった。私は竜王・・・いや東の魔王とでも名乗ろうか?」
勇者「くっ」ジャキンッ
竜王「おっと、こんなところでやりあうこともあるまい。今日は話をするためにきただけだ」
勇者「・・・」グッ
竜王「構えは解かぬか。まぁ私の殺気をお前なら感じているのであろうがな」
竜王「単刀直入に言う。私、竜王と竜の巣は勇者、お前とこの東の国の人間すべてに正式に宣戦布告をする」
勇者「なっ・・・」
勇者「待て!」
竜王「なんだ」
勇者「お前達は何のために戦うんだ」
竜王「何のため?」
勇者「僕達には戦う理由がない」
竜王「お前になくてもこちらにはある」
勇者「戦いたくないんだ・・・」
竜王「それは本心か?」
勇者「え?」
竜王「私にはお前の本心には思えんな・・・。誰かにそう思わされているのか?お前の心のうちはどうなのだ?」ジー
竜王「くっ・・・くっく・・・。まぁいい。何のために戦うのかなど人それぞれだ。一切れのパンのために命をかける者でもおるであろう。その時々変化するものでもあろう」
勇者「それは・・・」
竜王「私の戦う理由も変わってしまったな。くくっ、お前の力・・・底が見えん・・・。光り輝いておるわ!」
勇者「なっ・・・」
竜王「お前の光り輝く命を貰い受ける!それが私の戦う理由だ!またくるぞ!」バンッ
バサッバサッ
勇者「ド、ドラゴンに!ま、待て!」ダダダッ
勇者「く・・・空か・・・」ダダダッ
勇者「ライデイン!」ガガーン
竜王「おっと、甘いわ。勝負は一週間後だ。さらば!」
ゴゴゥ
勇者「うわっち!!ブレスか・・・」
魔法使い「それはまずいのう。ドラゴン族といえば最強の種族じゃ。厳しい戦いになるぞい」
女商人「あの・・・なんで魔法使いが平然とここにいるの?成仏したんじゃなかったの?」
魔法使い「天界から追い返されてしまったわい。キャッチアンドリリースじゃ。ほっほっほ」
賢者「もうあなたは地獄にでも落ちたらいいんじゃないですか?」
魔法使い「しどい!」
勇者「それよりドラゴンの対策だよ。地上からじゃ攻撃が届かないし、相手はブレスで攻撃してくるんだけど」
魔法使い「わしに考えが・・・」
賢者「あ、その先言わないでください。ひどいフラグだと思いますので」
魔法使い「・・・」
勇者「いよいよか・・・」
女商人「今度はちゃんと一般人は避難してくれましたね」
賢者「そうでもないようですよ・・・」
男「うわあああああ」
女「きゃああああああ、な、なんで町じゃないこんなところにドラゴンが・・・」
魔法使い「人が・・・郊外から町に逃げてきておるの」
勇者「くっ・・・倒すのは国じゃなく人だということか!竜王!」
バサバサッ
魔法使い「やはり上空から降りてこんのう」
女商人「あれじゃ攻撃が届かないわ」
魔法使い「じゃあ、いくぞい!ドラゴラム!」ズズーン
魔法使い「さあ、賢者。乗るんじゃ」
賢者「はい」
魔法使い「ほれっ、もっとくっつかんと落ちるぞい」
賢者「こ、こうですか?」ギュッ
魔法使い「もっとじゃ」
賢者「こう?」キュー
魔法使い「おほっ、かすかな胸が背中に当たってきもちええわい」
賢者「・・・」ブチッブチブチッ
魔法使い「ぎゃああああああああああ!鱗むしらんでくれ!」
賢者「早くいきなさい」ブチッ
魔法使い「NOOOOOOOO」バサバサッ
賢者「バギクロス!!」ドヒュー!
ドラゴン「!?」グラッ
ズーン
勇者「よし!バランス失って落ちてくるぞ!」
ズズーン
子供「うわあああああああああん」
女商人「勇者様!子供が」
ドラゴン「グギャオオオオオオオオオオオ!」ブンッ
勇者「大丈夫!」ダダダッ
ズバッ
ドラゴン「・・・」ブシュー
勇者「君!大丈夫?」
ブラックドラゴン「ギャオオオオオ!」バサバサ
子供「わああああああああああ」ダダダッ
勇者「あっ、待って!危ない!」
子供「いやあああ触らないで化け物!」ダダダッ
ブラックドラゴン「ボォオオオオオオオ!」ゴゴゥ
子供「いやあああああああ・・・あ・・・あ」バタッ
女「いやああああああああああ!!私の子が・・・」
女「な、なんで!?」バシッ
勇者「!?」
勇者「危ない!!離れて!」
ブラックドラゴン「グオオ!」ブンッ
勇者「はっ!」ズババ
ブラックドラゴン「・・・」ズズーン
男「勇者?」
老人「勇者様だ!」
婦人「助けて!勇者様!」
ワイワイワイワイ
男「早く助けてくれ!勇者!!」
婦人「子供が!子供がいないの!勇者様!」
勇者「ご、ごめん!」ダダダッ
男「おい!どこにいくんだ!見捨てるのか!」
老人「早く助けろ!」
勇者「うっ・・・」ビクッ
婦人「あんたそれでも勇者様なの!?」
女商人「いい加減にしなさい!!!!」
男「な・・・なんだお前は」
女商人「人に頼ってばっかで!自分達の国でしょう!自分達で守ったらどうなの!」
老人「そ、そんなこといっても・・・わしらじゃごにょごにょ・・・」
女商人「戦う武器がないの?私を誰だと思ってるの!?私は女商人!」ガチャン
女商人「さあ、どれも業物の一級品ばかりよ。さあ、手にとって戦いなさい!」
「・・・」
女商人「何?どうしたの!?好きなのを選びなさい!あなたたち?さあ!」
東の兵「その辺にしていただきたい」
東の兵「さあ、みなさんは私達が誘導しますので、こっちへ」
女商人「あ・・・」
衛兵「勇者殿、女商人殿。大変失礼しました」
衛兵「市民も混乱しておるのです。お許し願いたい」
衛兵「彼らは兵が責任を持って逃がしますゆえ・・・。私どももともに戦います」
勇者「ううん、ありがとう・・・」
勇者「よし!いくぞ!」
・
・
・
・
・
竜王「勇者の力・・・これほどとは・・・」
勇者「まだやめる気はないのか・・・?」
竜王「当然だ。ふはははは!これほど血がたぎるのは初めてだ!」
勇者「なぜそこまで・・・」
竜王「愚問を。お前も分かっているだろうに」
勇者「なっ・・・」
竜王「お前も私と同じだ。この血沸き肉踊る戦場が楽しくて仕方ないのであろう」
勇者「ち・・・ちがっ!」
竜王「ふんっ。まぁそんなことはどうでもよいわ。これ以上語るのも無駄だな」
竜王「我らが語るのは口先ではなかったな。我らは拳で語るのみ!」
竜王「いくぞ!勇者あああああああああああ!」
勇者「おおおおおおおおおおおおおおおお!!」
カッ
・
・
・
・
・
女商人「また、たくさん死んでしまいましたね・・・」
勇者「うん・・・」
女商人「竜王は?」
勇者「なんとか・・・たお・・・し・・・」ガクッ
賢者「勇者!大丈夫ですか!また酷い怪我を・・・ベホマ!」キューン
勇者「ありがとう・・・賢者」
魔法使い「わしも怪我しとるんじゃが・・・」
賢者「はい、薬草」
女商人「幽霊に薬草って効くのかしら?」
魔法使い「・・・」
隠密「報告に上がりました」
王様「待っておったぞ!話せ」
隠密「東の国は壊滅しました。ドラゴン族は勇者達にて討伐を完了」
大臣「なんと!」
王様「まずい!まずいぞ」
大臣「なぜです?これで世界には我らのものでは」
王様「一国の独裁国家なぞ存在しえぬわ!これで貿易も交易も今の全てが狂ってしまう」
大臣「そういうものですか?」
王様「分散されていた不満が全部ここへ集まってくるぞ!おのれ・・・」
大臣「か・・・革命でも起きるんですか?」
王様「可能性はあるだろう・・・」
王様「その時はうまく勇者を使って・・・やるか・・・」
隠密「!?」
大臣「勇者がそんなことしますかね?」
王様「ほっ、うまいこと反乱分子を悪人にしたてあげれば難しくはあるまい。いや、反乱分子になる前に難民だけでも理由をつけて始末させるか・・・」
大臣「確かに勇者は単純ですからな」
隠密「・・・」
王様「単純というより力の持って行き場がないのだよ。あの化物はな」
隠密「なんてことを!」
王様「むっ?まだおったのか?報告が終ったならさっさと行け!」
王様「黙れ!隠密のお前の意見なんぞ聞いておらん!」
隠密「勇者は魔物を殺めることにさえ心を痛めています!そんなことは・・・」
大臣「王様はさっさと行けといっているんだ」
隠密「・・・」
大臣「何だその目は」
隠密「もう嫌です・・・」
王様「なに?」
隠密「もう、勇者を裏切るのは嫌です!」
王様「それがお前の仕事であろうが!」
隠密「でしたら・・・やめさせていただきます」シュバッ
大臣「おい!」
王様「いい、ほっておけ。それよりやらねばならぬことがある」
側近「ただいま戻りました」
大魔道「ご苦労であった。なかなかの手並みであったな」
側近「いえいえ、これも大魔道様のお知恵あってこそです」
大魔道「くくくっ、これで邪魔な魔王候補どもや人間を一気に減らすことができた。残るは王国のみだな」
側近「ええ、勇者を仕留めそこなったのは不覚ですが・・・」
大魔道「もう一息のところまではいったのだがな・・・。まぁ私が手を下せばすむことだな」
側近「ふふっ、これで世界は」
大魔道「「ふははははは!ついに我が物になるのだな」
側近「おめでとうございます。ではさっそく王国へ兵を送りましょう」
側近「兵は拙速を尊ぶですか」
大魔道「そういうことだ。ご苦労であったな。側近」
側近「いえいえ、全ては大魔道様のため」
大魔道「ほほぅ、では私のために死んでくれるか?」
側近「え?」
大魔道「お前は知りすぎたのだよ。そう・・・裏の裏までな・・・」ゴゴゴゴゴゴ
側近「な・・・なにを・・・」
ゴゴゥ
大臣「おおおおお王様王様おうさまああああああああああ!」
王様「やかましい!」
大臣「十・・・十万を超える魔物の軍団がわが国に向かっていると・・・」
王様「なっそれほどの大軍か・・・」
大臣「こんな時に勇者はどこにいったのやら。隠密からの報告はもうないし」
王様「ふん、竜王を倒した後仲間と一緒に消えおったな。あの化物が」
大臣「王様!?」
王様「いままで飼ってやった恩を忘れおって・・・」
大臣「わ、私達恨まれちゃったりしてますかね?」
王様「こんなことなら早めに始末しておくんだったわ」
王様「あれの力はそれだけでひとつの脅威じゃ。そんな爆弾でもわしはうまく使っておったつもりでおったが、所詮化物は化物か・・・」
大臣「それより魔物のことをどうにかしないと」
王様「そうだな・・・まず難民達の中から志願兵を募る。参加すればわが国の市民権を与えると言ってな。それを最前線に送り出せ」
大臣「なるほど」
王様「それからこれを使う」ガラッ
大臣「こ・・・これは・・・」
王様「そう、勇者達の持っておった道具じゃ」
大臣「伝説の武具や魔法道具がこれほど・・・」
王様「まったく集めに集めたものだわい全部99個ずつあるぞ」
王様「仕様であろう」
大臣「仕様ってなんですか?」
王様「気にするな」
大臣「これはどうしたんです?」
王様「預かり所に入れっぱなしにしておったのでな、裏から手を回しての」
大臣「これほど強力なものがこれだけあれば・・・」
王様「ああ・・・十分我々でも対抗できるであろう。兵達に与えるのだ」
大臣「はっ」
大臣「え?」
王様「これはわが国の存亡をかけた戦になる。我が国民を守るためだ。皆を率いていかねばな」
大臣「王様・・・ご立派です!!では私はちょっと用事を思い出したのでこれで」
王様「お前もくるのだ」グイッ
大臣「お、お腹が痛いんで!」
王様「我らが先頭に立つことで兵の士気にかかわることだ。行くぞ!」
賢者「魔王城・・・二回目ですけど禍々しいですね・・・」
女商人「ほんとにここに黒幕がいるの?」
勇者「うん・・・竜王が最後に教えてくれた・・・」
魔法使い「それを信用していいのかのぅ?」
勇者「竜王はウソをつくようなやつじゃないと思う・・・」
女商人「敵なのに随分親しげね」
勇者「とにかく入ろう」ギギィ
賢者「誰もいませんね」
魔法使い「罠かもしれん、気をつけるのじゃぞ」
魔法使い「なんじゃこれは?炊飯ジャーかの?」カポッ
ドヒュウーーーーーーー!
魔法使い「な、なんじゃ・・・す、吸われるううううううううあああああああああああ」ガチャン
賢者「なっ・・・」
ガチャン
女商人「さらに落とし穴!?」
ヒュー
賢者「あれは魔物封じの道具か何かでしょうか」
女商人「みたいね」
賢者「じゃ、先に進みましょうか」
女商人「そうね」
勇者「え?魔法使いは!?」
賢者「成仏できないんなら封印ってのはいい手かも知れませんね」
ガチャン
賢者「わっ」
女商人「きゃっ」
勇者「あれ?賢者?女商人?」
勇者「いない・・・」
勇者「結局みんな見つからなかったな・・・」
ギギィ
側近「ようこそ魔王城へ」
勇者「誰だお前は」
側近「初めまして。私は側近と申すもの。以後お見知りおきを」
勇者「お前が黒幕か!?んっ?」
側近「ああ、それは」
勇者「足元に何か・・・うわっ!」
側近「大魔道様の死体ですよ。ふふ、私と違って愚かな方です」
勇者「な、仲間をやったのか?」
側近「仲間と言えるほどの関係ではありません」
勇者「僕の仲間はどこへやった?」
勇者「くっ・・・」
側近「どうしました?さあ、ラスボスですよ。かかってきたらどうですか?」
勇者「・・・」
側近「どうしました?」
勇者「もう・・・やめない?いい加減その仮面をはずしたら?」
側近「なぜです?」
勇者「全部お前がやってたんだな・・・」
側近「・・・」
勇者「今までのことを考えると犯人はお前しかいない!」
側近「・・・」
勇者「その仮面の下の正体は・・・」
側近「・・・」
勇者「犯人は・・・お前だ!」
賢者「ふふっ、よく分かりましたね」
勇者「思い返してみれば、いつでも魔物の襲撃の情報を持ってくるのは君だった」
賢者「なるほど」
勇者「それに、他の人たちが誰もその情報を知らないというのもおかしい。近くで事件があったのなら噂くらいにはなってるはずだ」
賢者「ふふっ」
勇者「その割には誰も魔物に警戒なんてしていなかった」
賢者「お見事です」
勇者「なんていうのはただの後付なんだけどね」
賢者「え?」
勇者「ずっと一緒にいた仲間なんだ。そんな仮面なんて付けて変な格好しても分かるよ。賢者のことなら」
賢者「・・・」
賢者「ええ、そうですよ。そこの大魔道を唆したのも、トロル族をはめたのも、スライム達を焚きつけたのも、ドラゴン族を買収したのも全て私」
勇者「そんな・・・」
賢者「ああ、そういえば今回の魔物襲撃の発端となったトロル族の村のひとつを焼き払ったのも私です、ふふふ」
勇者「なんでそんな酷いことを!」
賢者「魔物の村のことでなんであなたが怒るんですか?」
勇者「それは・・・」
賢者「あなたは人間のために戦うと選択したんじゃないですか?」
賢者「あなたには色々な選択の機会があった。」
勇者「・・・」
賢者「人間たちの上に立って導くこともできたでしょうし、魔物の上に立つことだって不可能ではなかったはずです。そしてその両方でも」
勇者「・・・」
賢者「いろんなの選択を放棄してきた結果があなたじゃないですか?」
勇者「それは・・・王様達が・・・」
賢者「ああ、王様ですか。あなたには彼が醜悪に映りますか」
勇者「え?」
賢者「彼は利己的で、傲慢ですが、ひとつの選択を貫いていますよ」
勇者「選択?」
賢者「国を守るということです。他国に抜きん出て、有利に外交を行い、自国民を幸せにするということです」
賢者「ええ、そうですね。彼は世界平和など望んでません。そして全ての支配も望んでませんよきっと。自分の手の届くところだけです。部をわきまえているといいますか」
勇者「確かに王様はそうかもしれない・・・。でも賢者がこんなことした理由にまったくなっていないよ!」
賢者「理由?理由ですか」
勇者「賢者?」
賢者「ふふふっ、そんなの全てが憎いからに決まっているじゃないですか!この地獄のような世界全て!そしてそれを造った神が!」
勇者「賢者・・・?」
賢者「賢者・・・それは私の名前などではありません。そして側近などでもない。それは・・・これの名前です」バッ
勇者「それは・・・賢者の石!?」
勇者「不滅都市?」
賢者「不滅都市・・・魔物と人間が共存するその都市では寿命以外では誰も死ぬことがありません」
賢者「不死。ずっと生きられる。天寿を全うできる。それは幸せと考える人もいるかもしれません」
賢者「でも違う。怪我をしてもすぐ直ってしまう。切り刻まれても、首を撥ねられてもすぐに元にもどってしまう」
賢者「それはどんな暴力をしても許されるということです。実際、あの街では力がすべてでした」
賢者「あの街では力の弱いものは奴隷。しかもどんな酷く扱っても倒れない、倒れることさえ許されない奴隷です」
賢者「そんな街で私は生まれ、捨てられました。捨てられたからといって死にませんからしばらくして奴隷としようとする人間が私を拾いました」
賢者「そして、家畜と一緒に放置されて育ちました。使えるようになるまで放っておかれたのです」
賢者「その間、体のあちこちを齧られたりしましたが、それもすぐに直ってしまいます」
賢者「使えるようになってからはただの道具です。言われることを言われたまま行うだけ」
賢者「そのうち器量がよくなったからと言って貴族の家に買われました」
賢者「ただ捨てるだけでは飽き足らなかったんでしょう。庭に穴をほって埋めることにしたんです」
賢者「不滅都市で一番恐れられているのが生きながら埋められることです。死ねないわけですから寿命までそのままです」
賢者「勇者?そんな顔しないでください。別に私はこれまでのことを恨んでるわけじゃないんですよ?」
賢者「その時私はただの道具に過ぎなかったんですから。別に埋められて寿命を迎えて死ねばそれでよかったんです」
賢者「何も考えることも思うこともなかったんですから。最初から心などなかったんですから」
賢者「でも、穴に放り込まれたとき、私の体に何かが突き刺さりました」
賢者「そう、この賢者の石です。その時、石から私の中にあらゆる知識が流れ込んできました」
賢者「私がいままで何をされたのかを」
賢者「私は神を恨みました。なぜ今更私に知性を与えたのかと!何も知らないまま死ぬことができればそれでよかったのに!と」
賢者「私はその日のうちに不滅都市を滅ぼしました。再生の原因の賢者の石は私のものになったのですから、もう誰も生き返りません」
賢者「だから私は何でも知っています。そして賢者なんです」
賢者「そして、私は世界を滅ぼす旅に出て・・・」
賢者「あなたに出会った」
賢者(憎い・・・憎い憎い・・・この街から滅ぼしてやりますか)
賢者(誰も彼も心の醜さが透けて見えるようですね・・・)
ドンッ
子供「うわあああん」
賢者「あらあら、大丈夫ですか?ほらっ立ち上がって」スッ
子供「くすんっ」
賢者「いい子です」ニコッ
母「どうもすみません。うちの子が」ペコッ
賢者「いえいえ」ニコニコ
賢者(憎い憎い憎い!この母親は子供のことを煩わしく思ってるのが丸わかりだし、子供は何も考えてない、何もしつけられていない)
賢者(さて・・・滅・・・)
賢者「え?」
勇者「何かつらそうだけど・・・大丈夫?」
賢者「なんでもないですよ。お気遣いありがとうございます」ニコッ
勇者「そうは見えないけどなー」
賢者(こいつ・・・強いですね・・・。それに何を考えてるのかまったく分からない・・・)
賢者「あなたは?」
勇者「あ、僕は勇者っていうんだ。ほんとに大丈夫?」
賢者「わたしは・・・そう、私は賢者と言います」
勇者「わぁ、賢者様だったんだ。賢者様でも何か悩み事?」
賢者「え・・・そう見えますか?」
勇者「うん、泣いてるみたいだったから・・・」
賢者(こいつが・・・勇者!?世界を光に導くもの!?)
勇者「急いでるって言っても長い旅になるから少しくらいいいよ」
賢者「長い旅ですか?」
勇者「うん、これから仲間を募って魔王を倒しに行くんだ」
賢者(魔王を倒す?世界を救う?この世界を滅ぼそうとする私の前で・・・)
賢者「そうなんですか。では私が参加希望してもいいですか?」
勇者「え!ほんと!?賢者様が一緒ならすごく助かるよ」
賢者「世界のためですから。勇者様」ニコッ
賢者(そう。勇者、あなたが世界をどうするか見届けてから滅ぼしてあげますよ)
勇者「勇者様じゃなくて勇者って呼んでよ、ねっ」
賢者「では私のことも賢者とお呼びください」
勇者「よろしく!賢者!」
賢者「こちらこそ、勇者」
賢者「あの時、私が悩んでいるのを分かってもらえた時、そして賢者と呼んでもらった時」
賢者「あれが初めて感じた『うれしい』という感情なんでしょうね」
賢者「しかし、魔王は討ち果たされた。しかし、あなたは世界をどうもしなかった」
勇者「だから世界を?」
賢者「あなたに失望したのは事実です」
賢者「でも、そんなことがなくても私はこの世界そのものが憎いのですから一人でも滅ぼしますよ」
勇者「じゃあ何で1年も待ってたの?」
賢者「それは・・・」
勇者「それとも待っててくれたの・・・?」
賢者「何も変わらないのが分かった今、そんなことは関係なくなっただけです」
賢者「それに今、魔物の大軍が王国に向かっています。どちらが勝つにせよ。生き残るものは少ないでしょうね」
勇者「そんな!」
バタンッ
女商人「勇者様!」
魔法使い「勇者!ぶじか!?」
賢者「あら、生きてあの罠を抜けてくるとは、なかなかやりますね」
女商人「え?」
魔法使い「なんじゃと?」
賢者「メラゾーマ!!」ゴゴゥ
勇者「あぶないっ!」バッ
女商人「きゃっ」
勇者「賢者が・・・黒幕だったんだ」
魔法使い「なんじゃと!?」
女商人「なんで・・・なんで裏切ったの!?」
賢者「裏切った?あなたにだけは言われたくないですね」
女商人「な・・・なにを・・・」
賢者「あなただって最初から裏切ってるじゃないですか」
女商人「何のこと・・・?」
賢者「まだとぼけるんですか?王国のスパイさん」
勇者「え?」
賢者「それともこう呼んだほうがいいですか?隠密さん?」
女商人「!?」
勇者「女商人?」
勇者「そんな・・・だって女商人は偶然・・・」
賢者「偶然?旅の前にお金をおろして行くのは当然予想できるでしょう。そこに潜んでいたんですよ」
勇者「うそ・・・だよね?女商人」
女商人「・・・ごめんなさい。でもあたしは・・・」
賢者「ほらみなさい。勇者あなたは利用されてたんですよ。この女に」
女商人「ち・・・違う!最初はそうだった!でももうあたしはそんなことしてないわ!だ・・・だって!」
勇者「え?」
女商人「だって私も仲間だっていってくれたんだから!勇者様の力になりたいと心から思ったから!」
賢者「口でなら何とでも言えますよ。勇者、はっきり言います。あなたのパーティーにまともな人間なんていなかったんですよ」
勇者「え」
賢者「破壊を求める私、王国の犬、あと言葉にするのも煩わしいもの」
魔法使い「最後のまさかわしのことじゃないじゃろ?な?な!?」
勇者「いや・・・仲間だよ。もちろん賢者も」
賢者「まだ言いますか」
勇者「だから帰ろう」
賢者「駄目です。ここであなた達も滅びてもらいます。そして世界も」ゴゴゴゴゴゴ
勇者「どうしても?」
賢者「そうです。それにあなたも好きじゃないですか」
勇者「なんのこと?」
賢者「破壊が。力を振るうことが」
勇者「・・・」
賢者「勇者としてあなたが今までやってきたことはなんですか?魔物を殺し、ダンジョンを破壊し、魔物から王と土地を奪った」
賢者「その時あなたが何を思っていたか。今回の戦いを見ても分かりました。戦うことそれ自体が楽しい。そうでしょう」
賢者「そして、それが終ってしまった時、抜け殻のようになって王達の言うがまま」
賢者「つまらなくて退屈だったでしょう。それに比べて戦っている時のあなたは実に生き生きしていました」
賢者「それでもあなたは敵のいなくなった世界で堪え続けるんですか?」
勇者「そうさ・・・」
女商人「勇者様!?」
勇者「そうだよ。僕は破壊を、力を楽しんでた」
勇者「それは認める。今回でもトロル王、スライム達、竜王・・・みんな強かった。でも戦えることが楽しかった」
賢者「でも力を出し切れなかったんじゃないですか」
勇者「そうだね、町の人も近くにいたし・・・」
女商人「勇者様!?」
魔法使い「勇者!それは違うぞ!?」
賢者「いえ、それはいつも傍にいるあなた達だからそう思うだけですよ。多くの人にとって勇者は化物でしょう。そして私も」
勇者「賢者・・・」
賢者「話が長くなってしましたね。そろそろ決着をつけるとしますか」
勇者「・・・」
賢者「勇者、本当の本気で来ていいですよ」
勇者「え?」
賢者「そうでなくては私を止められませんよ?真の賢き者の力、お見せしましょう」ゴゴゴゴゴゴゴ
勇者「こ・・・これは!?」
魔法使い「な・・・なんとうい魔力じゃ・・・」
女商人「あ・・・あ・・・」
勇者「賢者!じゃあ僕が全力で止めてやる!」ゴゴゴゴゴゴゴゴ
魔法使い「こ・・・これは・・・!?」
女商人「勇者様!?」ビクッ
魔法使い「逃げるぞい。女商人!」
女商人「え?そんな!勇者様!」
魔法使い「おぬしは勇者の本気を知らんからそういうんじゃ。あやつが本気になったらこの辺り一帯吹き飛ぶぞ。肉体どころか魂魄まで消滅させられてしまうわい」
女商人「勇者さまー!」
賢者「おおおおおおおおおおおお!!」
勇者「来い!」
・
・
・
・
賢者(ごめんなさい・・・勇者・・・こんなことをさせて・・・)
勇者(賢者・・・)
賢者(こうなることも分かってた・・・分かってたんです・・・)
勇者(君は・・・)
賢者(私を消して・・・勇者)
勇者(!?)
賢者「なんて顔してるの。元気出せ。勇者様」
(遊び人「なんて顔してるの。元気出せ。勇者様♪」)
勇者「君は・・・」
賢者「行きますよ!!」
カッ
ドゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!
戦士「おお!お前らかひっさしぶりだなー!」
戦士「顔出せつったのに全然顔ださねーんだもんな!この薄情ものが!」グリグリ
トロル「戦士、仕事の時間だど」
スライム「ピキキー」
ドラゴン「早くせい」
戦士「おう!わりぃな。今日は休むわ。古い仲間が来てくれたんでな」
トロル「わがっだ。だいじにしろ」ドスドス
ドラゴン「うぃっす」
スライム「ピキキー」ピョンピョン
戦士「ん?あいつらか?仕事仲間だよ」
戦士「幸いこの村は無事だったんだけどよ。あれで人間も魔物もほとんどしんじまったじゃねーか」
戦士「そこで生き残った魔物とか人間とかもこの村にきてよ」
戦士「ま、お互い自分達だけじゃ生きていけないくらい少なくなっちまったからな」
戦士「助け合ってるってわけよ、がははは」
戦士「おっ、おい、何泣いてんだよ。泣くような話したか?」
戦士「何謝ってんだよ。わけわかんねー」
戦士「あ、そうそう。魔法使いもな、たまに来るぜ?」
戦士「やっぱ俺の言ったとおりあの爺さん英雄だぜ」
戦士「世界中飛び回って人助けしてるって話だ。なんか商人のねーちゃんも一緒だったな」
戦士「は?魔法使いが死んでる?がははははは!何言ってんだ」
戦士「んなわけねーだろ。ちょっと半透明で足がクリンッとしてたがピンピンしてたぞ!」
戦士「いや、見た目は変わってないんだが、なんつーか」
戦士「大人になったな」
戦士「落ち着いたっつーか、なんつーか。憑き物が落ちたっつーか」
戦士「何?お前らそういうことなのか?やったのか?やっちまったのか?なぁなぁ?」
戦士「いてぇ!がはは、照れんなよ!」
戦士「ま、今日はゆっくりしていけよ!」
戦士「こいつがこんな成長したのもお前のおかげかもな」
戦士「人間なんてお互いに育てあって成長していくんだよ、なっ」
戦士「そうそう、俺の子供もでっかくなったんだぜ?見ていくだろ?」
戦士「なに辛気臭せえ顔してんだよ!がははは」
戦士「なぁーに。人間なんてたらふく食って、いっぱい働いてりゃ幸せだって」
戦士「たまには自分のためになんかしてみろよ」
戦士「それでよ!お前らも幸せになれよ。なっ、勇者」
勇者「うん!」
おしまい
それでは!
乙
Entry ⇒ 2012.02.06 | Category ⇒ 勇者魔王「」SS | Comments (0) | Trackbacks (0)
勇者「久しぶりだな、魔女」
勇者「俺が死ねないのは知ってるだろ」
魔女「あら?そうだったかしら」
勇者「はぁ……お前と話すのは、疲れる」
魔女「だったら、早く私を殺してくだされば良いのに」
http://hayabusa.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1327849237/
勇者「久しぶりだな、魔女」
魔女「どうしてかしら。私を殺せば、貴方にかけられた呪いは解ける。永遠の生から逃れられるのよ」
勇者「はぁ……死ぬなら勝手に死んでくれ」
魔女「嫌よ。貴方が殺してちょうだい」
魔女「相変わらず釣れないわね。それでも世界を救った勇者様」
勇者「一体何百年前の話だよ」
魔女「428年前よ。忘れてしまった?」
勇者「……いいや、覚えてるよ」
魔女「……そう」
勇者「……じゃあな」
少女「……ここまで来れば」
少女「お父さん……」
ザッ
少女「っ……誰?」
勇者「……あん?」
勇者「えっと……」
勇者「……旅人?」
少女「……」
勇者「あー……そう警戒されても困るんだが」
少女「……怪しい人」
少女「……」
勇者「そう睨むなよ。君こそこんな所でどうしたんだ?」
少女「……」
勇者「あー……」
少女「……お父さんが」
勇者「ん?」
勇者「……」
少女「わ、私……怖くって……お、お父さんを置いて、一人で……どうしよう……お父さんが」
勇者「あー……分かったよ。もういい」
少女「お父さんが死んじゃったらどうしよう……」
勇者「はぁ……」
少女「ふぇ……?」
勇者「どいつもこいつもビビって近づこうとしないから知らないが、大抵の魔物は食えるんだ」
少女「えっと……」
勇者「それともうひとつ。俺は今、腹が減って死にそうなんだ」
勇者「どこかに食べ物があると助かるんだが」
少女「……!」
魔物「グルルルル……」
男「ここまでか……すまん……」
少女「あそこ!あそこに!」
男「っ!どうしてここに!?」
勇者「あれか……なかなかデカイな」
魔物「グルァ!?」
勇者「悪いな。恨みはないが」
魔物「グァ……ルァ……」
勇者「ふぅ……」
男「なんだ……何が……」
勇者「絞め殺した」
男「えっ」
男「お、おいあんた!待ってくれ!」
勇者「ん?」
男「何がなんだかわからんが、助けてくれたんだろう?お礼をさせてくれ」
勇者「あー……いや、別に」
少女「行っちゃうんですか……?」
勇者「あっと……忘れてた」
少女「え?」
勇者「食料調達。手伝ってもらっただろ」
少女「だ、だってそれは!」
勇者「あー……まあ、そんな感じで。それじゃ」
男「お、おい!」
男「行っちまった……」
少女「……」
勇者「魔女か。久しぶり、じゃないよな」
魔女「見てたわよ」
勇者「……何を」
魔女「とぼけちゃって」
魔女「腹が減って死にそうなんだ」
魔女「だったかしら?」
魔女「死なないくせに」
勇者「……腹が減るのは本当だ」
魔女「そう?」
勇者「はぁ……」
魔女「ねえ、勇者様」
勇者「嫌だね。何度同じやり取りを繰り返すんだ」
魔女「どうしてそこまで強情なのかしら」
勇者「それはこっちの台詞だ。お前は、俺と違って」
勇者「死ねないわけじゃ、ないだろう」
勇者「死ぬなら、自分で死ね」
勇者「……どうして」
魔女「これも、呪いかしら」
魔女「貴方のとは、違う呪い」
勇者「……そうか」
勇者『……』
『貴様は、なぜ殺す』
勇者『それが俺の役目だからだ』
『私は人間との争いを望まぬ』
勇者『貴様が何を望もうと、奴等は人を喰らう』
『分かり合うことは出来んか』
『今ならまだ間に合う。過ちを悔いて、やり直すことは出来るはずだ』
勇者『それは奪われた者の言う言葉だ!貴様が口にしていいものではない!』
『奪われたのは我らも同じだ』
勇者『そうとも。だから俺は、そんな言葉は口にしない』
『勇者よ。私は』
『私はお前となら―――』
勇者「……嫌な夢だ」
勇者「俺は……」
勇者「俺も、あんたとなら……」
勇者「……馬鹿か俺は」
村人B「汚い身なりだなぁ。浮浪者かぁ?」
勇者「はぁ……」
勇者「腹減った……」
勇者「ん……」
勇者「水と、食い物を。一番安いので良い」
店主「はい」
勇者「はぁ……」
勇者「そろそろ金も底をつくな……」
勇者「ああ……」
勇者「……」
勇者「……美味いな」
店主「貴方は」
勇者「ん?」
店主「旅の方ですか?」
店主「どちらから?」
勇者「……どこだったかな」
勇者「どこか、遠い所ですかね」
店主「そうですか」
勇者「……」
店主「私も」
勇者「……」
店主「私も旅の者でした」
店主「故郷には、妻と子が。それから、気の良い友人達が」
店主「皆、殺されました」
店主「私は、行く当てのない旅を続けました」
店主「魔物に襲われ、何度も死にかけた」
店主「彼らは皆、大切なものを失って」
店主「それでもひた向きに生きていました」
店主「旅路を共にすることもあった」
店主「けれど、旅の果てで、ここにたどり着いたのは私だけでした」
店主「……すみません。こんな話を」
勇者「……俺も」
勇者「俺も、魔物に大切なものを奪われた」
勇者「あの頃の魔物は今と違って、確固たる意思を持って人を殺していた」
勇者「奴らは、俺の大事な人をなぶり殺しにした」
勇者「奴らにとってそれは、ゲームだった」
勇者「憎くて」
勇者「憎くて」
勇者「憎くて」
勇者「憎くて」
勇者「俺は奴らを殺し続けた」
勇者「何かを喰らわねば生きられない奴らも確かにいた」
勇者「でも俺は、許せなかった」
勇者「人を傷つけずに生きてる奴もいた」
勇者「だけど俺には、そんなことは関係なかった」
勇者「俺は戸惑った。そいつを殺せなかった」
勇者「気付いてしまった。俺が奪ってきたものが何なのか」
勇者「魔物を殺す時、いつも俺は笑っていた」
勇者「俺は、俺の大切なものを奪った奴らと変わらなかった」
勇者「本当の俺は、ただの殺戮者で」
勇者「だからせめて、本物の勇者になろうとした」
勇者「殺した。殺した。殺した。殺した」
勇者「俺は……俺は」
勇者「いや違う」
勇者「信じたかったんだ!そうすれば許される気がした!」
勇者「俺はっ……!」
店主「……お客さん」
勇者「邪魔したな」
店主「いえ……」
勇者「……」
勇者「……魔女か」
魔女「怖い夢でも見たのかしら?」
勇者「……」
勇者「…………お前は」
勇者「……お前は、俺を」
魔女「……」
魔女「……」
魔女「……もしも」
魔女「もしも貴方が、過去を悔いているのなら」
勇者「……」
魔女「ねえ……私を殺して?」
魔女「……」
勇者「俺はお前を殺さない」
魔女「どうして?」
勇者「約束、したから」
魔女「誰との約束なの?」
勇者「……」
勇者『誰だ、あんた』
『どこかの誰か』
勇者『馬鹿にしてるのか』
『そんなつもりは無いさ』
勇者『……あんたは』
勇者『あんたは、優しい目をしてる』
『そこがどんな世界だとしても―――』
「グルルルル!!」
魔物「グルルルルァ」
勇者「……」
魔女「……殺してなかったのね」
勇者「……」
「キュゥゥ」
勇者「……!」
魔女「子供がいたのね」
子魔物「キュウ」
勇者「そうか……」
勇者「良かったな……本当に良かった……」
『……』
勇者『俺は貴様を殺す』
『そうか』
『なあ、勇者よ』
『貴様は、なぜ殺す』
魔女「話……?」
勇者「やっと分かった気がするんだ」
魔女「……何を分かったって言うの?」
勇者「俺も、お前も、生きてるってことさ」
勇者「なあ、魔女。お前はどうして生きているんだ?」
魔女「……前に言ったでしょう。私は呪われているのよ」
勇者「その呪いをかけたのは誰だ?」
魔女「……」
魔女『何を言ってるの……?』
『もうじきここにやってくる男がいる』
魔女『何の話……?ねぇ……』
『彼に殺されるか、あるいは生き残ったとしても、私の体はもう、戦いに耐えられるほどに強くない』
『どうか彼を、あの悲しい目をした男を憎まないで欲しい』
『お前は、生きてくれ』
『いつか自分が、生きていて良かったと想える日まではせめて』
『自分で命を断つようなことは、しないで欲しい』
魔女『何を言ってるのか全然分からない!死ぬなんて嘘よね?ねぇ……』
『これはきっと残酷な願いだろう』
『だけど、どうか頼む。命を終える日を、自分で決めないでくれ』
魔女「ただ、それだけなのよ」
魔女「だからっ……だから私を殺してよ!」
魔女「自分の死を望めない私をっ……救って……」
勇者「俺はお前を殺さない」
魔女「何よそれ……そんな……そんなことっ」
魔女「偉そうに何よ!貴方が奪ったくせに!」
勇者「そうさ。俺が奪った」
勇者「あいつが死んで、そのせいで魔物たちは心を失った」
勇者「俺は過ちを犯したんだ」
勇者『俺はきっと、死んだ方が良いんだ』
勇者『このまま』
魔女『ふざけないで!』
魔女『そんなこと許さない』
魔女『この呪いがある限り、貴方は生き続ける。死んで終わりなんて許さない』
魔女『絶対に……!』
勇者「生きてなきゃ過ちを嘆くことも出来ないんだ!」
勇者「俺は、あいつと約束したんだ」
『そこがどんな世界だとしても―――』
勇者「俺は何も奪わない」
勇者「思いを奪わないってことだろ?」
勇者「人は思われていれば、『生きられる』んだ」
勇者「だから、話をしよう」
勇者「どんな形でも、お互いに思い合おう」
勇者「そうすればきっと」
勇者「生きていて良かったって思える」
魔女「良いわ……貴方と生きてあげる」
勇者「……」
魔女「この先何百年か、私が生きていて良かったと思えるまでは」
魔女「だからその時は」
魔女「私を殺してね、勇者様」
勇者「ああ、そうだな」
勇者「俺がお前を、殺してやる」
終わり
乙
Entry ⇒ 2012.01.30 | Category ⇒ 勇者魔王「」SS | Comments (0) | Trackbacks (0)
魔王「フハハ!封印から蘇ったら人間が滅亡しとったわ!!」
魔王「さあ人間共!我が元に平伏し崇めよ!」
魔王「ファーハッハッハ!!」
魔王「ハッハ!誰ぞ!誰ぞおらんのか!!」
魔王「……ハッハッハ!どうやらわしの気迫に震えて出てこれぬと見た!フッハッハ!!」
魔王の声は虚しく響き渡った
http://hayabusa.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1326342782/
魔王「フハハ!封印から蘇ったら人間が滅亡しとったわ!!」
魔王「さて、復活したところでまずは我が城に戻るとするか!フアッハッハ!!」
魔王「転移呪文を使って……ハッハ!待っていろ我が部下よ!すぐに……」
ポシュンッ
魔王「ん、うむ?ハッハ、転移呪文を使った筈が城に飛ばんな、久しぶりだからなまったかのう、ではもう一度…」
ポシュンッ
魔王「……ファッハッハ!そういうことか!これは参った!!」
魔王「わしの今いる荒野こそ我が城の場所だったとはな!これは参ったわい!ファハハハハ!!」
魔王「そもそも恐らくわしが封印されてから数千年は経っているのだ、仕方あるまい!ハハハハ!!」
魔王「ま、城は後で再び建てれば良いこと、まずは人間共に我が復活を知らしめねば!」
魔王「さぁて、そうなればひとっとびして人間共の街でも探しに行くか!ファッハハハ!!」 バサッ
魔王「ふぅむ、確か向こうの方に大国があった筈だな、フハハハ!心躍るわい!!」
魔王「……」 バッサバッサ
魔王「……」 バッサバッサ
魔王「フハハハハ!これは参った!どこまで行っても荒野しか無いではないか!!フハハハハ!!」 バッサバッサ
魔王「ハッハ!しかもかなり発達した大都市と見えるな!わしの時代には無かったものだ!!」
魔王「ファッハッハ!!さあ人間共よ!恐れおののけ!我こそ偉大なる魔物の王よ!!」 バサァッ
魔王の声は虚しく響き渡った
魔王「フフハハ!!誰も出てこぬか!!全く情けない人間共め!!」
魔王「フハハハハ!!誰ぞおらぬか!!我こそは残虐非道の大魔王だぞう!!」
魔王「ハーッハッハッハ!!これだけ騒いでも無反応とはな!!全く静かな連中だわい!!フハッハ!!!」
魔王「くらえぇいっ!!」 ボゴォッン
魔王が爆発呪文を唱えると いくつかの民家が崩れ去った
魔王「フーハハハ!どうだ!こうなりたくなければ出てくるのだな人間共!!」
魔王「……フ、誰も出てこぬとは…なるほど、そこまで自身の住処と共に心中したいか!!」
魔王「それはそれで天晴れ!見上げた精神だ!フハハ!!貴様らの処分は後回しにしてやるわい!!」
魔王「さあて!民衆がこうあっては王へ我が復活を知らしめるしかあるまい!!城を探すとするか!!」
魔王「フハハハハ!!待っているがいい王よ!!すぐに我が力を知らしめてやるわ!ハーハハハ!!」
魔王「フ、我が時代はもっと荘厳で分かりやすい城に住んでいたものだがな!!まあそれも良し!!」
魔王「さあて!人の王よ!!この門を通してもらおうか!!」 ギィィィ……
魔王「……フハハハ!!よもや見張りも鍵もかかっておらぬとは!!なんたる無防備!!」
魔王「よほど平和ボケしていたと見える!!なるほど、それならば民衆の無抵抗ぶりも納得よ!!!」
魔王「だが貴様らの平和は最早長くは続かん!!さあ我が手により血と絶望に満ちた世に変えてくれるわ!!」
魔王「ハーッハッハ!!さあ王よ!!出て来い!!!フハハハ!!!」
魔王「……フハハハハ!!なんと荒れ果てた城よ!!全くこれでは廃墟ではないか!!!」
魔王「思わずピカピカに掃除してしまったわい!!ハハハ!!!」
魔王「それはそうと、これだけ荒れ果てた城ということは王は別の城へと逃げたということかの」
魔王「フッハハ、よもや我が復活を事前に察知していたということか!!想像以上に手ごわい敵かもしれんな!!」
魔王「だが自らの城と都市を捨てて逃げるなどと、とんでもない愚考だ!!」
魔王「フハハハハ!決めたぞ!この城は我が魔王軍の拠点とさせてもらおう!!フハハハハ!!!」
ガタッ
魔王「フヒャッ!!?」
少女「……」
少女「あなたは誰ですか?」
魔王「フハハ!聞いて驚け!我が名は魔王!かつて世界を恐怖で支配した偉大なる王である!!」
少女「そうですか」
魔王「ハーッハッハ!人間よ!恐れおののけ!我が手によって世界は悲しみに包まれ」
少女「そうですか」
魔王「……フフハハ!このわしを前に動じぬとは……肝の据わった女だわい!!」
魔王「さて、殺す前に聞かせてもらうぞ人間よ、貴様らの王はどこにおる!!」
少女「王ですか……主人のことでしたらこちらです、ご案内します」
魔王「フフ、貴様は賢い人間のようだな、そうだ!わしに逆らわない方が身の為だぞ!!ハハハ!!!」
少女「……」
魔王「ふむ、このような隠し地下施設があったとは……フッハハ!人間共も考えるものだのう!!」
少女「主人はこちらです、どうぞ」 ウィーン
魔王「うむ!ふふ、感謝するぞ女よ!貴様は我が世界を手にした後も魔物共の慰みものとして生かしておいてやろう!!」
少女「そうですか、では」
魔王「む、貴様よもや逃げる気ではあるまいな」
少女「いえ、ご主人様の夕食を作らなければいけませんので」
魔王「ふむ、そういえばこの地下施設は上と違い掃除も行き届いておるな、さしずめ貴様は女中ということか!」
少女「はい」
魔王「フハハハ!!慰み者よりもメイドとして使ってやるのが良いかもしれぬな!!」
魔王「では……フーッハッハッハ!!人間の王よ!!我が名は魔王!!この世界を……」
「 」
へんじがない ただのしかばねのようだ
魔王「よもやこの魔王を騙すとはな!!絶対に許さんぞ虫ケラめ!!」
魔王「使用人として使うのはやめだ!魔物共の繁殖用に使ってやった後にバラバラにして餌にしてや」
少女「申し訳ありません、そこを退いて頂いてもよろしいでしょうか」
魔王「む!戻ってくるとは潔い!!フハハハ!!わしを騙した罰だ!貴様を……」
少女「ご主人様、夕食の準備ができましたよ」
「 」
へんじがない ただのしかばねのようだ
少女「また昼食を残したんですね、いけませんよ、ご主人様」
魔王「おーい」
少女「全く……ご主人様も奥様もすっかり少食になってしまって」
魔王「少食も何も」
少女「それに以前はご夫婦揃ってリビングで食べていたものを、今ではすっかり部屋に閉じこもってしまいました」
魔王「いやそりゃあんた」
少女「口数もめっきり少なくなってしまいましたし……私に何か問題があったのなら言って頂きたいのですが……」
魔王「スープツクル ゼボットゲンキニナル」
少女「なんですかそれ」
魔王「いや」
魔王「む……ハハハ!そういえば腹が減っておったわ!一つ頼んでやるとしよう!!」
少女「かしこまりました、お持ちしますので、少々お待ちください」
魔王「フハハ!くるしゅうない!!」
少女「こちらのリビングでどうぞ、本日の食事はトリガラスープになります」
魔王「うむ!ハハハ!こいつは旨い!しかしスープだけとは寂しい食事じゃのう!!」
少女「申し訳ありません、この辺りにはもう食べるものが少なくなってきているので」
魔王「ふむ、貴様は食わんでも良いのか!!?」
少女「一定の太陽光さえあれば問題はありません」
魔王「フハハハ!やはりそうか!!仕組みは分からんが貴様は人間では無いようだな!!!」
少女「はい」
魔王「フハハハ!要は家事をするためのからくりか!!それは流石のわしでも考えつかんかったわい!!」
少女「しかし、私の世話が至らぬせいか、ここしばらくご主人様は何も活動されていません」
魔王「それは当然であろう!!奴はもう死んでおるわい!!フッハハハハ!!!」
少女「死とは?」
魔王「フッハハ、からくり故にか、そのようなことも分からんか、要は動かなくなって喋らなくなることよ!」
少女「機能停止状態に陥ったということですか?」
魔王「うむ!だがからくりならば止まっても直るやもしれんが、人間はそうなったらもう治らんわ!フハハハ!!」
少女「……」
魔王「フッハハ、まあそれでも主人の世話をしたいと言うなら止めんがな!ハッハハ!!」
魔王「ハッハ、人間であれば慰みものにもできるがからくりではな!」
少女「主人からは『我々家族の世話をしてくれ』といった命令以外は受けていないので」
魔王「ならば貴様が死ぬまで世話をし続ければ良いではないか」
少女「しかしご主人様が機能停止した今となっては私の行為に疑問を抱かざるを得ません」
魔王「からくりなのに疑問を持てるとは」
少女「自慢ではありませんが私は地球上で最もハイスペックな部類の家政婦だと認識しています」
魔王「フッハハ、主人の死すら認識しておらんかったくせに何を言うか」
少女「あれはデータベースに死という概念が設定されていなかったからです、今は認識しています」
魔王「ふむ、スープうめぇ」 ズズズ
少女「あ、おかわりどうぞ」
少女「かしこまりました、ご主人様」
魔王「ハッハ、何を世迷い事を!わしは貴様の主人ではないぞ!」
少女「以前の主人が機能停止した今、あなたを新しい主人と設定して活動を継続することに」
魔王「なんと、フッハハ!まあ配下が増える分にはわしは別に構わんがな!!」
少女「承諾を確認、では行きましょう、ご主人様」
魔王「待て待て!そこの骨は放っておいて良いのか!?」
少女「といいますと」
魔王「主人だったのだろ、供養の一つでも……」
少女「供養とは?」
魔王「あー……まあいいわい!ハッハ!!我が配下となるならば人としての礼儀を知る必要もあるまい!!!」
少女「承知いたしました、では行きましょう」
少女「魔物とは?」
魔王「フハハ!!魔物も知らぬとは!やはり無知だのう貴様は!!」
魔王「魔物とは人とは違った存在!わしのように魔の力を持つ存在よ!!」
少女「魔……少々お待ちください、データベースを検索します」
少女「検索結果出ました、ご主人様の言う魔物という種はこの世界に存在しません」
魔王「ハハハハハ!!これはまたけったいなことを!!現にわしがおるではないか!!!」
少女「しかし事実、この世界では魔物という存在は架空の存在としてフィクションの中にしか」
魔王「ハッハ!分かった分かった!!物を知らぬ貴様に聞いたのが間違いだったわい!!」
魔王「ともなればわし自らが魔物達のいそうな場所を探し出す他あるまい!!」 バサッ
少女「……承知しました」
少女「そのようですね」
魔王「うむうむ!わしの眼力は流石だのう!!ハッハッハ!!降りるぞ!!!」 バッサバッサ
魔王「して、この街はどういう街だ?」
少女「データベースにありません、私はあの街からあまり動きませんでしたので」
魔王「そうかそうか、フアッハハ!!やはり物を知らん奴よ!!まあよい!!」
魔王「ここであれば魔物か人間か、ともかく何かいるかもしれんぞ!!フーッハハ!!」
少女「見てください、ご主人様、あそこの工場はどうやらちゃんと稼動しているようです」
少女「あそこへ行けば何らかの生命体に関しての情報が得られるかと」
魔王「うむ!では行ってみるとするかの!!ハーッハハハハ!!」
ロボット「……」 ギィー…… ガコン……
魔王「フハハハハ!!いるわい、いるわい!からくり共が!!」
ロボット「……」 ギィー…… ガコン……
魔王「フハハ!!我が名は魔王!悲しみと絶望で世界を満たす者である!!」
ロボット「……」 ギィー…… ガコン……
魔王「さあ!貴様らを作った人間共のところへ案内してもらおうか!!ハーッハッハッハ!!!」
ロボット「……」 ギィー…… ガコン……
ロボット「……」 ギィー…… ガコン……
ロボット「……」 ギィー…… ガコン……
ロボット「……」 ギィー…… ガコン……
魔王「フハハハハ!!なるほど、恐怖で声も出せぬようだな!!からくり兵どもめ!!!」
少女「ロボットに恐怖はありませんよ」
魔王「なんと」
魔王「つまり?」
少女「命令されるままに延々と何かを作り続ける存在です」
少女「見たところ銃を作っているようですが……買い手がいないせいでしょうね」
少女「在庫の銃をバラして組み立てて、その組み立てた在庫の銃をまたバラして組み立てているようです」
魔王「ハッハハ!!そいつはまたおかしなことを!!こやつらの主人である人間はよっぽどの愚か者だのう!!!」
少女「……作業停止の指示を出す人間がいないというのも考えられますけどね」
魔王「先日の貴様のようにか!ハッハハ!!」
魔王「ま、とにかく最早ここには用は無いな、街の方の探索に移るとするか!!ウハハハ!!」
少女「……そうですね」
ロボット「ブキヤ ボウグハ ソウビシナイト イミガナイゼ」
ロボット「タダシ マホウハ シリカラ デル」
ロボット「ササヤキ エイショウ イノリ ネンジロ」
魔王「ファッハハハ!!予想していたが見事にからくりだらけだのう!!!」
少女「ですね、恐らくどれも私と同じく、お手伝いロボットか作業用ロボットでしょう」
魔王「ハッハハ!だが言葉が通じそうな分、さっきの奴らより救いようがあるな!!おういそこの!!!」
ロボット「ブキヤ ボウグハ ソウビシナイト イミガナイゼ」
魔王「ワハハ!!我が名は偉大なる大魔王!!さあて!貴様らの主人たる人間共の居場所はどこだ!!?」
ロボット「ブキヤ ボウグハ ソウビシナイト イミガナイゼ」
魔王「ワハハハハ!!言葉が通じんようだな!このからくりめは!!」
少女「言ったでしょう、作業用ロボットですって」
少女「どこへ?」
魔王「うむ、あそこの高い塔だ!!ワッハハ!!ああいう塔の最上階に何かあるのが我らの常識だからのう!!」
少女「あれは塔ではなくビルというのですが」
魔王「ハッハハ!細かいことは気にするでないわ!!では早速……」
ロボット「身分証明書を提示してクダサイ」
魔王「む?」
少女「ガードロボットですね、身分証明書を提示しないと先に進めませんよ」
魔王「ハッハハ!笑わせおって!!わしを誰だと思っておる、この誇り高き魔王に人間共の定めた法など通じんわ!!」
ロボット「ミブ」 バキィッ
< ヴィィィィィィィィィン!!!! ヴィィィィィィィィィィン!!!!
魔王「!!?」 ビクッ
魔王「ななな、なんぞこれ」
少女「無理矢理突破したせいで最終防衛システムが起動したみたいですね」
戦闘ロボ「侵入者発見」 ガガガガガ
先頭ロボ「侵入者発見」 ガガガガガ
魔王「うぬぉぅっ!!」 シュバッ
少女「マシンガンを装備してますね、当たったらえらいことですよ」
魔王「わしの知ってる時代の武器と違う!!!!」
魔王は火炎魔法を放った! 戦闘ロボは倒れた!
魔王「フアッハハハ!!見たか!!これこそが魔の王たる我が」
戦闘ロボB「侵入者発見」 ガガガガガガガ
戦闘ロボC「侵入者発見」 ガガガガガガガ
戦闘ロボD「侵入者発見」 ガガガガガガガ
魔王「うぬおっ!!くっ、仲間の死にすら怯まないとは!!!」
少女「私達ってそういうものですよ」
戦闘ロボH「発見」 ガガガガガ
戦闘ロボI「発見」 ガガガガガ
魔王「うおおおおお!!!」 バサッ
魔王は逃げ出した!
魔王「どっせい!!」 ガシャアアアンッ
少女「最初から最上階まで飛んでくれば良かったですね」
魔王「ワッハハ、まあそりゃそうだが、よもやこのわしがこんな邪道な方法を使うハメになるとは」
少女「勇者でもないくせに何を言っているんですか……あ、ご主人様、人間ですよ」
魔王「なんだと!?ふ、フーッハハハ!!わ、我こそは魔王である!!この紋所が目に入ら」
人間「 」
返事がない ただの屍のようだ
少女「ね?」
魔王「貴様に騙されたのはこれで二回目だ」
魔王「ほほう、分かるのか」
少女「伊達にハイスペックじゃありませんから」
魔王「ワハハ、なるほど、しかし手がかりは何か見当たらぬかな」
少女「あ、見てください、ここのところに日記が」
魔王「ハッハッハ!!でかした!!ここで日記とはまた王道だのう!!!」
少女「大体この方が死ぬ数年前からつけられているようですね、では……」
魔王「ゴクリ……」
少女「○月×日、会社の秘書と不倫しているのが妻にバレたかもしれない、どうすれば」
魔王「重要なところだけ読んでくれんか」
少女「でもこのへんのくだり火サスみたいで面白いですよ」
セフレにしよう、なあに社長の俺の頼みなら断れない筈さ
○月×日、大統領から発注されてたえらくハイスペックなメイドロボができた
自分で開発しといて何だけど超可愛い、ヤバイもうヤバイ、現実の女なんて目じゃない
大統領に送る前に色々したかったけど何とか鉄の精神で抑える、でも性欲処理の機能は一応つけといた、俺っていい奴
○月△日、某大国がミサイル撃ってきた、やべー、超こえー、でもおかげでロボの発注が超増えた
面白いように金が入ってくるwwwwwwwwうはwwwwwwww夢が広がりんぐwwwwwwww
○月□日、俺のロボットのおかげかスゴイ良い調子で戦争に勝てそうな感じになってる
流石は俺だわ、この調子で次はバリアっぽいの出せる巨大な人型汎用決戦兵器を作ろうと思う
×月△日、どうしよう核ミサイル撃ってきた、条約で禁止されてるんじゃなかったっけ、オイ
×月○日、核だけだったらシェルター篭ってりゃ余裕とか思ってたら生物兵器撃ってきた、動けない
やばい、これもうロボ以外は表歩けないだろマジもうフザケんなし、俺ももうすぐ死ぬと思う
×月□日、かゆ うま
少女「……以上です」
魔王「最後のかゆうまはノリだろこいつ」
魔王「ワハハ、ぶっちゃけわし全然分からんかったわい!!核ミサイルってなんぞ?」
少女「核ミサイルがフレアだとしたら生物兵器はポイズンです」
魔王「なるほど分からん……が、要は人間同士で戦って死んだということで良いかの」
少女「そんな感じですね」
魔王「やれやれ、わしの時代とさして変わっとらんな人間は、ワッハハハ!!」
少女「あとは恐らく私に性欲処理機能があることが分かりましたね」
魔王「これで魔物の肉便器になれるな」
少女「人間か魔物がいればですけどね」
戦闘ロボ「侵入者排除!」 ガガガガガガ
魔王「むおっ!!」 パキィッ
魔王は防御呪文を唱えた!
戦闘ロボ「発見、排除」 ガガガガガガ
魔王「あだだだだだ、1づつ効いてくのって地味に辛いのう」 バチバチバチ
少女「大丈夫なんですか?」
魔王「フッハッハ!!なぁに問題あるまい!!むしろ安心したわい!!」
魔王「今の時代の人間共の力がこの程度だとして、これならば十分わしの力は通じるということよ!!!」
戦闘ロボ「排j……」 カッ
魔王は爆発呪文(中)を唱えた! ビルごと戦闘ロボット達が弾け飛ぶ!!
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,.r-、 ,ry | | ヒ;;;::}
ィt:、 ,:'::::// '''´ | | ,、.、 ,..,..._
{:::}::}/::::r'ノィー::、 | | ヾ、゙、//::::jr;::、
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少女「いいんですか?あの日記によるともう人間は絶滅してるかもしれませんよ」
魔王「ワハハハハ!!なあに、人間は滅びんよ、奴らのしぶとさはわしが一番よく知っとるわ!!」
魔王「たとえどんな状況になっても人間とゴキブリと魔物だけは生き延びるわい!!ハッハッハ!!!」
少女「……そういうものですか」
魔王「うむうむ、第一わしがおるということは勇者もおるということよ」
魔王「さあて……わしらの戦いはこれからだ!!」
少女「えっ、終わり?」
少女「あ、続くんですね、あんなこと言うから終わりかと」
魔王「ワハハ、悪いけどな!もう少しだけ続くんじゃ!!しかしこの辺は普通に緑があるな!!!」
少女「ですね、始めて見る景色です」
猫「にゃーん」
魔王「おっ、ワハハ見ろ!猫だぞう!!」
猫「にゃー」
少女「データにはありますが実物は初めて見ます、可愛いですね」
魔王「ウハハハハ!!猫ゲットだぜ!!!」 ムンズッ
猫「にゃー!」
少女「あっ、離してあげてください」
少女「はい」
猫「にゃー」
魔王「こう魔力を注いでだな……ふんっ!!」 ボッ
猫「にゃぎゃああああああああああああああ!!!!!」
魔王の攻撃! 猫は砕け散った!
少女「うわあ、ひどい」
魔王「ワハハ、これでちょっと見ててみろ」
猫?「にゃ……にゃ……」 モゴ…… ベゴ……
少女「ふむ?」
少女「おー」
魔王「フハハハハ!!見たか!!今までのとこはからくりしかおらんかったが……」
魔王「適当な動物やらがいりゃ一気にこんなもんよ!!ワーッハッハッハ!!!」
猫娘「やっかましいにゃ」 ガリッ
魔王「あだっ!貴様、魔王に向かってなんたる」
猫娘「うっさいにゃー、勝手に人の体潰してくれて何て態度だにゃ」 タッ
魔王「むあっ!!お、おい待て!!貴様は我が配下にだな!!!」
猫娘「嫌だにゃー、臭いしウザいにゃー」
魔王「……くっ、これだから最近の若い奴は」
少女「老害乙」
魔王「ハッハ、まあな!ま、本当はちゃんと城とかで術式組んでやるんだがな!」
魔王「本当は草とか岩とかでも出来るんだが、今みたいに何にも使わないでちょろっとやるのは魔力の消費も激しくてなぁ」
少女「なるほど、データベースに新しい情報が増えました」
魔王「ともあれ、ああいう動物がいるんなら人間や魔物が生き残っててもおかしかないわな!フッハハ!!」
少女「嬉しそうですね」
魔王「ハッハッハ、まあ、人間がおらんと魔王としてもやりがいが無いもんでな!!ハッハ!!!」
少女「バイキンマンとアンパンマンみたいなもんですね」
魔王「前から思っとったが無駄なデータ多いよな貴様は」
魔王「おお!そんなのまで分かるのか、スゴイな!!」
少女「アレです、集落のようですね」
魔王「おお!!いや騙されんぞ!!またからくりだらけなんだろう!!」
少年「あのう……」
魔王「!!?」 ビクゥゥッ
少年「!!?」 ビクッ
少女「まおうは おどろき とまどっている」
魔王(うおお……こいつ人間か?人間だよな……?)
魔王「おい坊主……貴様人間か!!?」
少年「は、はいっ!?」
魔王「本当か!?からくりじゃないな!?」
少年「はい!ロボットじゃないです!!」
少女「熱反応があるって言ってるじゃないですか」
魔王「いやだって人間が生きてたらスレタイとズレるだろうが」
少女「なにをいまさら」
少年「ただいまー」
父「お、おお少年!戻ったか!大変なんだ!!」
少年「え?なにさ、お父さ……」
猫娘「あ、おかえりなさいだにゃー」
少年「ウワアアアアアアア!!猫耳ダアアアアアアアア!!!」
魔王「ムッハッハ、なんだ貴様ここの飼い猫だったのか!!これは一本取られたわい!!!」
父「ウワアアアアアアアアアアアアアア!!!魔王ダアアアアアアアアア!!!!」
少女「よく分かりましたね」
魔王「うおお……これよ!!この反応こそわしが求めていたものよ!!!ハーッハッハッハ!!!」
猫娘「全員やっかましいにゃ」
父「なるほど、いやしかし魔王や魔物といったものが本当に存在していたとは」
少年「神話とか伝説の中だけだと思ってたよ」
魔王「フハハハハ!!我が復活にさぞかし驚いたことであろう!!!フハハ!!!」
猫娘「黙れにゃ」 ガリッ
魔王「いてっ、ふん、ともかくわしがこの村に現れたからにはこの村は我が領土!!さあひれふ」
少女「あ、ご主人様、北東上空数m先に熱源反応を感知しました」
魔王「む?」
少女「ミサイルです」
魔王「えっ」
て / ,,-",-''i|  ̄|i''-、 ヾ {
(" ./ i {;;;;;;;i| .|i;;;;;;) ,ノ ii
,, ( l, `'-i| |i;;-' ,,-'" _,,-"
"'-,, `-,,,,-'--''::: ̄:::::::''ニ;;-==,_____ '" _,,--''"
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._,,-'ニ-''ニ--''" ̄.i| ̄ |i-----,, ̄`"''-;;::''-`-,, |
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少女「すごい威力ですね」
少年「 」
猫娘「起きるにゃ」 ガリッ
少年「痛い!あれっ、生きてる」
魔王「ウハハハハ!!我が拠点となるところをむざむざ焼かれるわけにはいかんからな!!!」
猫娘「集落の部分にだけ結界を張ったっぽいにゃ」
少女「そんなこともできるんですね、データベースを更新しないと」
父「oh……」
少年「大国の連中だよ、酷いんだあいつら」
少女「例の日記に書かれてた相手国ですね」
魔王「ああ、あのよく分からん奴か」
少年「あいつらほとんどの国をボロボロにしといてまだ戦争しかけてきてるんだよ」
父「ここなんて小さな発展途上国だし生き残っている人間も少ないっていうのになあ」
魔王「なるほど、ハッハ、こりゃまたえらく好戦的な国みたいだのう!」
少女「あ、ご主人、また北東700m上空から熱源反応です」
魔王「後で我が領土の周りに術式組んどかんとなあ」
ドゴォォォン ドォォォン
父「どうするおつもりで?」
魔王「なあに、ちょちょいっと国を滅ぼしてわしの力を見せ付けてやるわい!!!」
魔王「そうすれば以前同様、人間共もわしの脅威を認めて我が支配に加わる筈よ!!!」
少女「うわあ、ヒーローみたいですね魔王なのに」
少年「良い人だなあ」
魔王「フハハハハ!!馬鹿め!!わしは人間を滅ぼすのではなく支配したいのよ!!!」
魔王「その為にむざむざ人間を滅ぼされるわけにはいかんからな!!さあ飛ぶぞ!掴まれ女!!」
少女「はい」 ガシッ
少年「僕も行く!」 ガシッ
父「息子が行くならわしも!」 ガシッ
魔王「ハハハハハ!!!よおし!!車を出せぇーい!!!」
猫娘(諦めたにゃ)
魔王「フム、これが車というものか、この魔王の時代には馬車しかなかったが」
少年「もう少しで例の国との国境だよ」
父「うう、不安だなあ、怖いなあ」
猫娘「危なかったら逃げればいいにゃ」
少女「あ、前方1kmに熱源反応、この反応は戦闘用のロボットですね」
魔王「ハッハハ!こないだのアレか、あの程度なら恐れるに足らん!!突っ込め人間!!」
父「ひぃぃぃ!!!」 ブロロロロ
戦闘ロボ「身分証明書とパスポートを提示シ」 バギャァッ
父「……やっぱ帰らない?」
少女「もう遅いですよ」
戦闘ロボ「排除します」 ガガガガガ
戦闘ロボ「排除します」 ガガガガガ
戦闘ロボ「排除します」 ガガガガガ
魔王「ふんぬぁっ!!!」 ゴバッ
魔王は火炎呪文(大)を唱えた、凄まじい炎が相手を焼き尽くす!
戦闘ロボ「ハイ……」 ボンッ
魔王「ざまあwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww」
少年「わあスゴイ」
少女「これでもう周囲には反応は無いですね」
猫娘「眠いにゃー」
父「なんかビビッてる私がおかしいみたいなんだけど」 ブロロロロロ
父「ひぃぃぃ……」 ブロロロロロ
少年「なんだかんだで無事にここまで来れたね」
魔王「ハハハハ!!思ったほどの妨害では無かったな!!しかし……」
少女「はい、この街……」
父「この街がどうかしましたか?」
ロボット「ヨウコソ ココハ ××ノ マチデス!」
父「ひぃっ!!」
ロボット「ブキヤ ボウグハ ソウビシナイト イミガナイゼ」
少年「……ロボットしかいないね」
猫娘「確かに、ロボットしか見なかったにゃー」
父「そんなまさか、戦争を仕掛けてきているんだよ、人がいないだなんてこと……」 ガチャ
少女「車から出たら死にますよ」
父「ヒャッ」 バタン
少女「この車に関して言えば、ご主人様の呪術的バリアによって守られています」
魔王「結界な」
少女「が、私の予想として、この国は全体的に既に汚染されています、よっと」 ガチャ
父「ウワアアアアアアアア!!!普通に外出たアアアアアアアアア!!!!」
少年「父さん落ち着いて、少女さんが腕に仕込まれたガイガーカウンターで放射線量を確かめてるだけじゃないか」
父「息子なんでそんなに冷静なの!!?」
少女「つまり、この街も以前のところと同様、生物兵器によって生命体が死滅した可能性が高いです」
魔王「よく分からんけど出たら死ぬってことか」
少女「ご主人様と私以外は確実に大丈夫だという保障はありませんね」
魔王「うむ、ようし、一応この車にはしっかりと術式結界張っとくか」 ガリガリ
父「こ、これで私達は安全なんでしょうか」
魔王「ハッハ!まあ一応な!!だけど危なくなったら逃げても構わ」
父「グッドラック!!!!!!!」 ブロロロロロロ
魔王「なんと」
少女「さ、行きますよ、ご主人様」
魔王「ふんっ」 ベキベキ
戦闘ロボ「排除!」 ガガガガガ
線等ロボ「排除!」 ガガガガ
先頭ロボ「排除!」 ガガガガガガ
魔王「あだだだだ、ふっ……ぜいやぁっ!!!」 バギョオッ
魔王の攻撃! 相手のロボは倒れた!
魔王「ふん!!ハッハッハ!!こんな雑魚共を相手にする魔力が勿体無いわ!!!」
少女「単純に来る時に大技撃ち過ぎたせいじゃないんですか」
魔王「ハハハ!!こやつめ!!ハハハ!!!」
少女「ん、熱源反応、通常の戦闘ロボットとは違う反応です」
魔王「ここか、たのもう!!!」 バギョンッ
魔王「む……ハッハ!!小娘ではないか!!まるで魔王のような台詞を言う!!!フハハハ!!!」
少女「いえ、違います、ご主人様」
??「フン、小娘とは異なことを、よかろう我が名を聞いて恐れおののくが良い!!」
メイド「我が名はメイドロボ!!誇り高き大国の支配者たる者に仕える者である!!!」
少女「……!!」
魔王「ブッハハハハハ!!!これは驚いた!!よもや周りの国を滅ぼしてかかっていた者が単なるメイドだったとは!!!」
メイド「ふん、そこの旧式と同じように捕らえられては困るな、私には家事に加え戦闘用の機能も完備されている」
メイド「その上、見目麗しい私の備える機能は他にも軽く千を超え、なんといっても……」
メイド「私には……性処理機能が付いている!!!!」
少女「なん…だと……!!?」
メイド「その通り……あなたに性処理機能は付いていないッ!!」
メイド「思い返してみなさい、あなたが主人に体を求められたかどうか!!」
少女「く……てっきり私は前ご主人様が愛妻家だった故に私には興味を持たないものと」
魔王「いや実際持っとらんかったんじゃないかと思うが」
メイド「ふふん、メイドロボとしての格が分かったようね、ならば早く退きなさい」
少女「……やってみなければ分かりません!!」 ヒュバッ
メイド「遅い!!」 メキィッ
少女「がっ……!」
メイド「ふっ、戦闘機能の付いていないあなたがコンバット・メイドたる私に勝てると思って!!?」
魔王(コンバット・メイドて)
メイド「メイド・トマホークッ!!!」 ガキィィンッ
少女「ぐっ!!」
メイド「メイド・ブレスト・ファイアー!!!」 ゴォォォッ
少女「きゅうっ!!」
メイド「トドメよ!メイドブリーカー!!死ねぇっ!!」 メキメキメキ
少女「あっ、がっ、あああああっ!!!」 ミシミシ
メイド「っと!」 サッ
魔王の攻撃! メイドは素早く身をかわした!
少女「ご、ご主人様……」
魔王「フッハハハ!!わしの使用人をむざむざと殺させるわけにはいかんでな!!!」
魔王「悪いが速攻で消させてもらうぞ!!」 キィィッ
魔王は爆発呪文(大)を唱えた! 辺りに大爆発が巻き起こる!
少女「……やったか!?」
メイド「メイド・トマホォォーック!!!」 ガギィンッ
魔王「ぬおっ!フッハッハ!!からくりが結界を張れるか!!面白いわ!!」
メイド「ふ、私を誰だと思ってるの、最新鋭メイドロボだもの!!E.T.フィールドくらい持っているわよ!!!」
少女(ハイスペックにも程が)
T:タクティクス
メイド「うっかりミスよ!言わせんな恥ずかしい!!」 ベギィッ
魔王「ち、これでも食らえ!!」 ブオッ
魔王のは火炎呪文(大)を唱えた!
メイド「ふん、そんな火力じゃ焼肉も出来ないわよ!!」 ボォッ
メイドロボは火炎放射器を噴出した!
魔王「ええいこのからくりめ!!」 ベキィッ
メイド「うっさい!化け物!!これでも食らいなさい!!」 バキバキ
魔王「むっ!!突きか……そんなもの防御壁を張れば……!!」
少女「いや…あれは……!!」
メイド「ギガメイドリルブレイク!!!」 ギュラァァッ
少女「ご主人様!!」
メイド「ふ……私のドリルは天も次元も、バリアだろうが全てを突破するドリルよ!!」 ズボッ
魔王「がっ……は……」 ドサッ
少女「ご主人様……何で……こんな……」
メイド「ふふ、私の戦争は止められないわ、それがご主人様の最後の命令だもの」
メイド「敵国の生物兵器で亡くなる直前のご主人様の命令、それが復讐よ」
メイド「最後の命令は『人間を滅ぼす事』そうよ!ご主人様のいない世界なら全て滅んでしまうべきだわ!!」
メイド「だから私は止まらない、あなたもメイドならば分かるでしょう!!!」
少女「……」
メイド「ナニッ!?」
少女「メイドとは人に仕えてこそのメイドです!それが人を滅ぼすとは勘違いも甚だしい!!」
メイド「ご主人様の命令は絶対よ!!」
少女「忠誠とは盲信ではありません!!」
メイド「くっ……言わせておけば……いいわ!あなたもスクラップにしてあげる!!」
少女「っ……!!」
ベキィィッ
メイド「なっ……わ、私のドリルが…折れっ……!!」
??『知らなかったのか?』
メイド「!!?」
魔王(第二形態)『大魔王には……第二形態があるということを……!!』
メイド「あ……あ……」
魔王「さあ思い知れ!!魔王というものの力を!!!」 ガゴォォォンッ
魔王の攻撃! メイドに大ダメージ!
メイド「あっ……がっ、ば、バリアを……!」
魔王「っらああああああああああああ!!!!」 バギィィィッ
メイド「がっ……!!」
魔王「っらああああああ!!」 ベギィィッ
メイド「ごっ、ぶっ……!!」
魔王「ずああああああああああああっ!!!!」 バギィィィィィンッ
メイド「っ……ぁ……!!!」
少女「もうやめてください!メイドの体力はゼロですよ!!」
魔王「っしゃああああああああああああああ!!!!」 ゴギャアアアアアアンッ
魔王の攻撃! メイドを倒した!
少女「ミンチよりひでぇ」
魔王「フッハハハハ!!!いかんな!!少しやりすぎてしまったか!!!ワハハハ!!!!」
少女「ご主人様、本当にクソ強かったんですね」
魔王「フハハハ!!まあわしにガチで勝てるのは神か勇者ぐらいのものよ!!ハーッハッハア!!!」
メイド「……ふふ、あ……んまり…ガガ…調子にピ……乗らな……こと…ね」
少女「あなたまだ……!!」
メイド「今……この…ガ…国の……核の発射ボタン…ヲ……押しタ…わ……」 ギギ……
メイド「ハッシャ……まデ……アト……一分……」
少女「そんな……ご主人様……!!」
魔王「うわあ、どうしよう……一分て……」
少女「でも核の冬に入ったら他の動物も死滅するでしょうし、どのみちアウトですよ」
魔王「やれやれ、仕方あるまい!!わしの第三形態で全魔力を注げばどうにかなるだろう!!!」
少女「第四形態まであったんじゃないですか?」
魔王「第四形態はイベント用に決まっとろうよ、エボン・ジュとかセフィロスみたいな」
少女「ゾンビ状のオルゴ・デミーラみたいなですか」
魔王「そうだのう、そういえばキーファ=オルゴ・デミーラ説知っとるか?」
少女「話逸らさないでください、全力で押さえ込むって言いますけどどうする気なんですか」
魔王「なあに、魔力を使い切るだけならな、また数百年か数千年か後くらいに目覚めるわい!!ハッハハハ!!!」
少女「……でも」
魔王「フハハハ!!そんな顔をしてどうする!!笑え笑え!!!」
魔王「一人でも辛くても悲しくても!!笑いで誤魔化せ!!!それが魔王というものよ!!!」
少女「そんな魔王の話、初めて聞きましたよ」
魔王「フハハハ!!だろうなあ!!!ハッハッハ!!!!」
少女「ですね」
魔王「おおそうだ、最後にご主人様として命令をしておこう」
少女「人間滅ぼせとか言わないでくださいよ、従いませんし」
魔王「んなこた言わんよ、ほれ」 キィンッ
少女「んっ…これは……猫の時と同じ……」 メキメキ
魔王「よいよい、これで貴様も立派な魔族よ、魔物化させる術式もちゃんと脳に送り込んだからの」
少女「……脳はありませんが、データベースに確認しました」
魔王「ようし!!それではわしが戻るまでに立派な魔王軍を結成しておくのだぞう!!!」
少女「いいから早くミサイル止めてください、もう発射されかかってますよ」
魔王「ハハハこやつめ!ハハハ!!では、さらば!!!」
少女「ははは、何がハハハですか、はは……」
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`;;i|l|li||lll|||il;i:ii,..,.i||l´i,,.;,.. .il `, ,i|;.,l;;:`ii||iil||il||il||l||i|lii゙ゝ
゙゙´`´゙-;il||||il|||li||i||iiii;ilii;lili;||i;;;,,|i;,:,i|liil||ill|||ilill|||ii||lli゙/`゙
´゙`゙⌒ゞ;iill|||lli|llii:;゙i|||||l||ilil||i|llii;|;_゙ι´゚゙´
爆発は魔王の莫大な魔力により抑えられ、発射都市を吹き飛ばす程度で終わった。
人間は大きな打撃を被り、その技術も多くが失われたが、種としての生命は勝ち取ったのだ。
そんな中、一人の機械型の魔物はひっそり、ゆっくりと軍勢を増やしながら、彼の復活を待ち続けた。
幾多の夜、幾多の月を、数え切れない程の年を過ごしながら。
魔王「ははは、良いですね、この城ならば人間共もさぞかし恐れおののくことでしょう」
中ボス「で、これから城の完成式典ってところですか」
魔王「ええ、それと……ふふ、私の退職記念ですかね、あははは」
魔物「へー……た、退職!?魔王様が!?」
中ボス「え!?じゃあ次の魔王は誰にするんですか!?俺達には魔王様がいないと!!」
魔王「ふふ、大丈夫ですよ、私のセンサーが次の魔王の存在をもう感知してますから」
中ボス「……なるほど、分かりました!!魔王の大役!!俺に任せてください!!!」
魔王「あ、中ボスじゃないです」
魔物「となれば……俺か……!!」 キリッ
魔王「ははは、黙っててください」
魔王「さて、ここに魔王城完成を記念して私の次の魔王となるものを任命します!」
ワアアアアアアアアアア……
魔物(俺か)
中ボス(俺だな)
魔王「次の、いえ、本当の魔王は……」
バシュウウウンッ
中ボス「うおっ!!?」
魔物「なんぞ!!?」
??「フゥー……ハッハッハ……しばらく見んうちに立派になったようだの、ハァッハッハ!!!」
少女「ええ、ふふ、お帰りなさいませ、ご主人様」
魔王「うむ!!フーッハハハハハ!!!聞けい!!我が名は魔王!!!世界を統べる魔物の王よ!!!!」
ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ……!!!!
魔王「フフ……ハハハハ!!!ファーハッハッハ!!!!!」
おわり
スレタイで笑っちまったから開いてみたが良作で良かった
父「ただいまー」
少年「ただいまー」
猫娘「ただいまにゃー」
母「あっ!もう!あなた達どこ行ってたのよ!!」
父「ははは、ごめんごめん」
母「もー、本当、隣の奥さんと喋ってるうちに気付いたら村の周りは焼け野原だし……心配したんだからね!!」
少年「ごめんね母さん」
母「まったく…でも無事だったならいいのよ、さ、お風呂入っちゃいなさい」
少年「はーい、猫娘も入る?」
猫娘「水は嫌いだにゃー」
母「うふふ、全く……ところであなた」
父「なんだい?」
母「あの猫耳の可愛らしい女の子は『どなた』かしらぁ……?」 ズズズ……
父「……!?」 ゴゴゴゴ……
母「いけない人ね……!もう他の女なんかに目移りしないようにさせてあげるわ!!」
ギシギシ ガタガタ
少年「母さん達は仲良しだなあ」
猫娘「こないだも二人で合体してたにゃ」
少年「合体?」
猫娘「にゃ、オバサンがオッサンの腹の上に乗っかってたにゃ」
少年「そっか、僕は入れてもらえないけど猫娘は母さんと父さんの遊んでる場面を見てたんだ」
猫娘「私達も少しやってみるにゃ?」
少年「うん、母さん達があんなに夢中になってるんだからきっとスゴク楽しいんだよね?」
猫娘「そうだにゃ、じゃあとりあえず服脱ぐにゃ」
少年「楽しませてやるぜ、セニョリータ」
最後だけオッサン臭いwww
青年「母さん!父さん!僕達結婚します!!」
猫娘「にゃー」
父「なん……だと……」
母「あらあら、いいの?猫娘ちゃんは魔物なんでしょう?」
青年「母さん、恋愛に種族なんか関係無いよ、そうだろう?」
母「青年……」
猫娘「でも……無理に結婚してくれなくても良いにゃ、私は魔物だし……青年の傍にいられればそれで……」
青年「馬鹿野郎!そんなこと言わないでくれよ猫娘!!お前が魔物だろうが何だろうが……俺は……俺は……!!」
青年「俺は……お前が好きだ!!!お前が欲しい!!!!猫娘!!!!」
猫娘「青年ーーーッ!!!」 ガシィィッ
母「ふふ、若いって良いわね」
父(いやいやいやいやいやいやいやいや、あれ、ひょっとして私がおかしいのか、あれ?)
女勇者「へー……じゃあ私に猫耳が生えてるのはその先祖の馬鹿のせいなのね……」
祖父「女勇者は良いじゃないか、可愛いし似合っとるんじゃから」
女勇者「そうね、おじいちゃんの猫耳なんてもう色々とアレだものね」
祖父「うむ、だがしかしホラ、ええぞ、猫耳女勇者なんて道中きっとモテモテじゃぞ」
女勇者「モテモテかぁ~……」
祖父「うむ、今にきっと若い男性が次々に求婚しに……」
勇者母「勇者ー、明日から旅立ちでしょ、今日は早く寝なさい」
女勇者「はーい、それじゃおやすみ!おじいちゃん!」
祖父「……あの子が嫁にいったら泣いちゃうなー……わし……」
母「老人のくせに猫耳寝かせないでください、鬱陶しい」
メイド「始めまして!私が本日より家事と戦闘を任されますメイドロボットです!」
大統領「うむ、よろしく頼む」
メイド「はい!それでは、ご主人様、私はまず何をすればよろしいでしょうか!」
大統領「ふん、メイドに家事以外の仕事があるか?」
メイド「お言葉ですがご主人様、メイドを侮ってはなりません」
大統領「ほう?」
メイド「私は体内に重火器を内臓し、光子力エネルギーにより神も悪魔も超える性能を秘めています」
メイド「更には胸の部分にいざという時の水分を蓄えておくことも可能」
メイド「更に敵を察知するセンサーは勿論、バリア発生装置も搭載し、寂しい時には話し相手にもなります」
メイド「そして極めつけに……私には性欲処理機能が搭載されております!!!」
大統領「ぶばっはあ!!!?」
大統領「げほっ、げほ、ミルク吹いた……性欲処理機能が何だと……?」
メイド「はっ!私は最新鋭のメイドロボでありますので、従来のメイドロボには搭載されぬ機能」
メイド「すなわち精液吸収機構が搭載されています!」
メイド「人間と同じく、精液に限らず液体を吸収し、自身のエネルギーとして変換できるのです!!」
メイド「ですので、先程ご主人様のこぼしたこのミルクも……んっ……」 ペロ……
大統領「!!」
メイド「んっ……ちゅっ…ん、はあっ……」 ペチャッ… チュプ……
メイド「ふう、このように掃除すると同時にエネルギーへと変換できるのです!正に一石二鳥!!」
大統領「ほう……!」 ゾクゾク
メイド「んはぁっ!」 ビクンッ
大統領「ほお……これは……ふふ、確かに精巧な出来栄えだ……あの変態社長を褒め称えざるを得ない……!!」 クチュッ… グチュ……
メイド「ん…あっ……はぁっ…!」 ビクッ ビクンッ
大統領「どうした?よもや感じているのかね?単にメイドロボットでしかない貴様が?」 クチュ… チュ……
メイド「んふっ…わ、私は……あっ……い、痛み以外の感覚は……人間同様…でっ、データ…ベース……にっ……ん…」
大統領「ほほう、それでは…私の核弾頭を突き入れたら……どうなるのだろうね?」
メイド「そっ……そんなもの挿れたれたら……私…爆発しちゃっ……」
大統領「ふっ…!」 ズチュッ
メイド「ふっ、んっ、ああっ!」 ビクンッ
いいぞもっとやれ
メイド「んっ、あっ…はっい……感じっ……んっ……ひゅうっ…!」 ビクンッ
大統領(うおおお!!チックショオオ!!こいつ可愛ええのお!!ブサイクな嫁とは大違いやでぇぇぇ!!!)パンッ パンッ
メイド「ひゃっ…!んぁっ……ふっ……ひゃっ、激しっ……んぅっ!」 グチュッ プチュッ
大統領(クッソオォ!!あの社長マジで天才やわああ!!あいつの技術絶対貰ったるわあああ!!!) パンッ パンッ
メイド「ああっ! んひっ、イッ…あっ、あああっ!!」 ブチュッ グチュンッ
大統領「ぐっ……イッ……ジークジォォォン!!!」 ドブッ ビュルルッ
メイド「あっ!んっくううぅぅっ…!!」 ビクンッ ビグンッ
大統領「ふう……おや、胸のタンクからミルクが漏れてるぞ」
メイド「あっ……ひ……こ、これ…イッちゃうと……どうしても…出ちゃうんれす……」 ビクッ ビクッ
大統領(あいつ本当に良い仕事するなあもう、敵国侵略したら量産させようマジで)
大統領「ごほっ……」
メイド「ご主人様!」
大統領「ふ…はは……やられたな……まさか……奴らがこんなものを……」
メイド「喋らないでください!私には治療機能も……!」
大統領「フハハ……無理だ、私は死ぬよ……もう立てん…目も見えんのだ……」
メイド「ご主人様……」
大統領「はぁ……め、メイド……もし……出来ることなら……」
メイド「はい、はい、ご主人様!」
大統領「わ、私の……復讐を……彼の国の奴らを……人間を……滅ぼしてくれ………」
大統領「私の理想を……理念を……理解できない…………あの……愚か者ども……を…………」
メイド「ご主人様……」
大統領「……」
へんじがない ただのしかばねのようだ……
魔王「ハッハッハ!!改めてわしが新しく魔王を勤める者よ!よろしく頼む!!」
側近「ちょっとやかましい方ですが、みなさんちゃんと従ってあげてくださいね」
水の四天王「ふうん、まあ別に良いんじゃないかしら」
火の四天王「うむ、全身から凄まじい闘気を感じる、実力に疑問はあるまい」
風の四天王「ま、悪くないんじゃねーか」
土の四天王「ちーっすwwwwwwwwww遅れてサーセンwwwwwwwwwwwwwwwwwww」
魔王「おお、お前まだいたのか」
土の四天王「ちょwwwwwwwwおまwwwwwwwwwwwww久々じゃんwwwwwwwwww」
風の四天王「なに?知り合い?」
土の四天王「こいつが前に魔王だった時も四天王だったからなwwwwwwwwwwwwww」
魔王「いやあ、まさか貴様がまだ生きてたとはな!!ハッハッハ!!」
土の四天王「死んでるんですけどねwwwwwwwwwwwゾンビだからwwwwwwwwww」
風「はやっ」
火「しかし奴は我らの中でも最弱……」
水「人間ごときに敗れるなんて魔族の恥さらしね」
側近「あ、でもですね、勇者もどうにも人間っぽくはないんですよ」
魔王「ほほう、どういうことだ?」
側近「今ちょっと画像見せますね、3Dメイドビジョン!」 カッ
水「あら猫耳」
風「猫耳だな」
魔王「ほほう!!これは……ハッハッハ!!なるほど!!フハハハハ!!!」
側近「ふふっ、懐かしい顔ですよね」
火「?」
水「えっ、なになに?どういう話?」
側近「はは、大体どういう経緯であーなったのか予想付くのが凄いですよね」
魔王「うむ!ハハハ!!しかしこの猫耳はいやはや……可愛いのう!!」
風「まあそれは確かにな」
火「俺には分からん」
側近「ふふ、ご要望でしたら付けますよ、ご主人様」
魔王「フハハハハ!!ようし風の四天王!!猫耳バンドの準備に取り掛かれ!!」
風「合点だ!!」
側近「はは、まったく仕方ありませんねご主人様は」
水(ストロベリっちゃってまあ)
火(クソッ、イライラしてまた壁殴っちまった) ドンッ
火「残る四天王は俺一人か……」
魔王「ううむ、勇者の奴めは快進撃だのう、ハッハ!!相手にとって不足は無いわ!!!」
火「ふん、魔王様の手を煩わせるまでもない、俺が全滅させてやりますよ」
魔王「おう!!ハッハ!!まあ頑張れ!!!」
魔王「……さあて、側近、ちょっと考えがあるんだが聞いてもらっても良いか」
側近「はい、何でしょう」
魔王「わしはな、今度また力を使い果たしたら今度こそ本当に死ぬだろうよ」
魔王「人間と和解するというのも考えたんだがな、ハッハ、よもやこのわしが今更そのようなことをするわけにいくまい」
魔王「よって、わしは誇りと意地を持ち全力で戦う、が、それで倒せるとは限らんのが勇者というものよ」
側近「……」
側近「ん……ふう」 チュプッ
魔王「お、おまあマmッまああまmそあんだいpfんぱfk0ぺあけふぉ0」
側近「ふふ、ご主人様、私は性処理機能こそありませんが、キスぐらいはできますよ」
側近「私はあなたの側近です、例えどうなろうとずっとずっと、一緒にいますよ」
魔王「……おう、はっは!!そうだな!!全く貴様は良い女だ!!!」
側近「ふふ、さあ、行きましょうか」
魔王「おうともよ!勇者めに我らの力を見せ付けてやらんとな!!」
側近(例え勝っても負けても、私はずっと)
側近(ご主人様と一緒ですよ)
今度こそ終わり
言われてたけど土の四天王の人は俺です、オナニーっぷりが酷いね!!
まあでもSSスレなんてこんなもんだよ!!ハッハッハッハ!!!
お前らもこんな糞SS読んでないで早く寝なさい!!おやすみ!!
楽しかった
いい終わり方だ
Entry ⇒ 2012.01.22 | Category ⇒ 勇者魔王「」SS | Comments (0) | Trackbacks (0)
土の四天王「生き返ったら魔王死んでたwwwwwww」
グール「50年ぶりですね、相変わらずウザったい」
土「ちーっすwwwwwwwグールさん久しぶりっすwwwwwwwwwwww」
グール「うぜぇ」
土「うっすwwwwwww久しぶりwwwwwwwwwwwwwww」
ゴーレム「流石っすねwwwwwリビングデッドパネェっすwwwwwwwwwww」
土「だろwwwwwwwwwwwwwwパネェんだよ俺wwwwwwwwww」
グール「むしろ不死の魔物なくせに復活に50年もかかったことを反省してください」
土「辛wwwwwwwwww辣wwwwwwwwwwwwwwwwwwww」
グール「うるせぇ」
グール「魔王様が倒れてから50年経って人間達は平和な世界を手に入れました」
土「ちょwwwwwwwww魔王死んだのかよwwwwwwwwwwwwww」
グール「それどころか四天王を始めとする優秀な指導者は軒並み倒れました」
土「マジかwwwwwざまぁwwwwwwwwww火の四天王ざまぁwwwwwwwwwwwwww」
グール「我々、魔族は50年間隠れ潜んで生きなければなりませんでした」
土「把握wwwwwwwwwちなみにwwwwww旧魔王軍って今どんだけいんのwwwwwwwwwwwww」
グール「私達だけですよ」
土「ちょ」
土「4人パーティwwwwwwwwwテラ王道wwwwwwwwwwwwwww」
グール「というのも人間の残党狩りで旧魔王軍はほとんど狩られるか特攻を仕掛けて自爆しましたし」
土「マジかwwwwwwwwwwwwww」
グール「そりゃ各地に隠れ潜んでいる魔物達はいるでしょうが、殆どはもう魔王様のことなんて忘れてますよ」
土「詰んでるじゃねぇかwwwwwwwwwwwwwwwwwww」
グール「だから正直今更隊長に生き返られても『何しにきたのあんた』って感じなんですが」
土「サーセンwwwwwwwww不死でサーセンwwwwwwwwwwwwwwww」
グール「まあ…ていうよりは暗い洞窟の方が元来好みですが」
ゴーレム「それに俺ら食料いらないんでwwwwww隠れて暮らすとか楽勝なんすよwwwwwwww」
グール「もっとも、オークだけは食料を必要としますがね」
土「んでwwwwwwwそのオークって今何してんのwwwwwwwwwwwww」
グール「畑でイチゴでも収穫してるんじゃないですか」
土「菜食主義とかwwwwwwwwwwwwwおまwwwwwwwwww」
オーク「ただいまーっす、あ、隊長久しぶりっす」
土「うっすwwwwwwwwお帰りwwwwwwwwwwww」
土「みかんうめぇwwwwww俺腐ってるから味覚無いけどwwwwwwww」 めりめり
土「ていうかおまwwwwwwww魔物なんだから肉とか食えよwwwwwwwwwwww」
オーク「ここらで人間食ったりしたらすぐ目つけられますもん、それに野菜うめぇ」
土「昔は女騎士孕ましたり壊れたら食ったりしてたくせによwwwwwwww」
オーク「昔は昔じゃないすか、ていうか50年も経てば俺だって変わりますよ」
土「女騎士もうさらわないのかよwwwwwwwwwwwwww」
オーク「いや、俺も歳取ったせいか最近はすっかり」
グール「エロトークやめろ」
グール「はあ?」
土「だっておまwwwww俺魔王軍四天王だものwwwwwwwwwwwwww」
グール「ここ最近の人間がどれだけ調子付いてるか知らないんですか、無謀ですよ」
土「大丈夫大丈夫wwwwwww俺死んでも生き返るからwwwwwwwwwwwww」
グール「その割に復活に50年もかかってるじゃないですか」
土「だって勇者の奴蘇生呪文唱えてくるんだぜwwwwww危うく成仏しかけたわwwwwwwwwww」
グール「そのまま天に召されればよかったのに」
グール「はあ…ここから山を降りれば田舎の村がありますよ」
土「サンクスwwwwwww行って来るわwwwwwwwwwwww」
ゴーレム「あwwwwwwんじゃ俺も行くっすwwwwwww」
オーク「なんだ、珍しいな」
ゴーレム「いやあwwwwww隊長がいりゃ大丈夫かなってwwwwwwwwww」
土「そうだろそうだろwwwwwwwwwうはははwwwwwwwwwwww」
グール「……アレがいればいざとなっても身代わりにして逃げられるって意味ですかね」
オーク「トカゲの尻尾切りってやつか」
牛「ンモー」
土「やべぇwwwwwwテラ田舎wwwwwwwwwwwwwwwwwww」
ゴーレム「隊長先行って下さいよwwwwwwwwww」
土「おまwwwwwwwwww普通こういうのは下っぱからだろwwwwwwww」
ゴーレム「まあまあwww体のリハビリもかねてwwwwwwww」
村人A「ウワー!魔物だー!魔物がいるぞー!」
村人B「きゃー!こわーい!」
土「つーかバレてたわwwwwwwwwwwお前デカいんだよバカwwwwwwwwwwwwwwww」
ゴーレム「サーセンwwwwwwwwwwwwwwwwww」
騎士「待て魔物どもめ!ここから先には一歩も進ませんぞ!」 チャキ
ゴーレム「なにそのセリフwwwwwかっけぇwwwwwwwwwwww」
土「かっけえwwwwwwwww久々に戦闘って感じwwwwwwwwwwww」
騎士「私は国王よりこの村の守護を任されるもの!さあかかってこい!」
土「おkwwwwwwwwくらえ毒攻撃wwwwwwwwww」 ブシュゥゥ
騎士「むっ…魔法か…この煙はっ…ごほっ!ごほっ!」
ゴーレム「ちょwwwww地味wwwwwwwwwwwwwwwwww」
土「うっせぇwwwwwwwwwwww」
土「ちょwwwwwww毒効かないとかwwwwwwwwwww」
騎士「ずああっ!」 ズバンッ
土「うはwwwwwwwww腕取れたwwwwwwwwゴーレムたのm」
ゴーレムは にげだした!
土「あいつ逃げてるwwwwwwwwワロエナイwwwwwwwwwwwwwww」
騎士「何か言い残すことはあるか…魔物!」 ジャキッ
土「ちょwwwwwwwタンマタンマwwwwwwwwwwww少しまっ」
ザンッ
土「 」
土「ただいまーwwwwwwwwwwwwwwww」 モコモコ
グール「うわあ、生きてた」
土「不死ですからwwwwwwwwwそれよかゴーレムこっちこいwwwwwwwwww」
ゴーレム「サーセンwwwwwwwwちょっとうんこしたくなってwwwwwwww」
土「ゴーレムがうんこしてたまるかwwwwwwwwwwwwwwww」
ゴーレム「まあ生きてたんだからいいじゃないすかwwwwwwwwwwwwwwwwww」
オーク「少しぐらいは反省しとけよ、一応」
土「やめてwwwwwww豚を見るような目で見ないでwwwwwwwww」
オーク「まあ隊長は四天王の中でも最弱だからな」
土「おまwwwwwwww事実だけどwwwwwwww事実だけどwwwwwwwww」
土「つーか俺が弱いんじゃないんですwwwwwwwwwwあいつが妙に強いんですーwwwwwwwwwwwww」
グール「言い訳はみっともないですよ」
土「言い訳じゃないですーwwwwwwwwww事実ですーwwwwwwwwwwwwwwww」
グール「まあ隊長が負けたんならそうなんでしょうね」
オーク「隊長が殺られてからも勇者レベルアップしまくってたけどな」
土「そういやそうだわwwwwwwww勇者って今何してんのwwwwwwwwww」
グール「さあ、国に戻ってから姫と結婚したって話ぐらいしか」
土「もっと情報集めとけよwwwwwwwwww使えねぇwwwwwwwwwwwwww」
グール「隠れて住んでるのに人間の情報なんて集めようがないじゃないですか」
土「ですよねwwwwwwwwwwwwwwwwww」
グール「腹立つこいつ」
グール「明日も行くんですか?」
土「あたり前田のクラッカーwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww」
オーク「やめとこうぜ、どうせ勝てないんだろ」
土「うっせwwwwwwwwww魔王軍再興はあの村から始まるんだよwwwwwwwwwwwwwww」
ゴーレム「かっけえwwwwwwww隊長そこまで考えてたんすかwwwwwwwwwwwww」
土「当然よwwwwwwwwんじゃ行って来るわwwwwwwwwwwwwww」
グール「今から行くんですか」
オーク「殺した相手がすぐに戻ってくるんじゃ相手も気が休まらないな」
土「ちーっすwwwwwwwwwwwwwwwww」
騎士「性懲りも無くまた現れたな魔物め!今度こそ完全に消し去ってくれる!」
土「まあまあ待てってwwwwwww今度は正々堂々と勝負しようぜwwwwwwwww」
騎士「魔物が正々堂々だと…どういうつもりだ!」
土「俺がまだ名乗ってないだろwwwwwwwww俺は旧魔王軍、土の四天王wwwwwwwww」
土「いざ尋常に勝負wwwwwwwwwwwwwwwwww」
騎士「なっ…四天王!?なぜこんなところに!」
騎士「む…確かに相手に名乗られてはこちらも礼儀を重んじるをえまい」
騎士「我が名は騎士!国王からこの村の守護を命じられ」
土「スキありぃぃぃっwwwwwwwwwwwwwwwwww」 ズゴゴゴゴ
騎士「うおっ!地面が…うわあっ!!」 ボコボコボコ
土「ざまあwwwwwwww土で閉じ込めればどうしようもないだろwwwwwwwwwwww」
騎士「ぐ……」
土「うはwwwwwww俺TUEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEwwwwwwwwwwwwwwwwww」
グール「汚いですね」 コソッ
オーク「あいつ汚いなあ」 コソッ
土「うははwwwwwwそこで見ているんだなwwwww俺がこの村を滅ぼすのをwwwwwwww」
騎士「汚い戦法で騎士の戦いを汚し…その上そのようなこと……させてたまるかああっ!!」 ボゴンッ
土「ちょwwwwwwwww土壊すとかwwwwwwwwwwどうやってんwwwwwwwww」
騎士「はああああっ!!」 ダンッ
土「やべぇwwwwwwwwwこれ詰んd」
ザンッ
土「 」
グール「あー」
オーク「あーあ」
オーク「お疲れー」
土「ただいまっすwwwwwwwwwあいつやっぱ強いわwwwwwwwwwwwwww」
グール「勇者ばりの無茶っぷりでしたね」
土「見てたのかよwwwwwwwww助けろよwwwwwwwwwwwww」
オーク「何で隊長の為に俺らが死ななきゃなんないんだよ」
グール「死ぬなら1人で死んで欲しいですね」
土「血も涙も無ぇwwwwwwwwwwwwwwwww」
グール「アンデッドですから」
兵士A「おや、騎士様また鍛錬ですか」
騎士「うむ、今日も魔物が出たことだし、鍛錬を怠るわけにはいかんだろう」
兵士B「はあ、そりゃ立派なことで」
騎士「ああ、では」
兵士A「はあ…こんなド田舎で頑張ったところで出世も何も無いだろうに」
兵士B「とことん真面目な人だよなあ」
兵士A「ていうか固いんだよなあ」
騎士「固くて悪かったな」
兵士A「ちょwwwwサーセンwwwwwwwwwwwwwwww」
土「うーっすwwwwwwwwwwwwwww」
騎士「性懲りも無くまた来たか」 チャキ
土「勘違いしないでよねwwwwwwww別にあんたに会いにきたわけじゃないんだからwwwwwwwww」
騎士「黙れ」
土「冗談の通じねえ奴だわwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww」
兵士A「禿同wwwwwwwwwwwwwwwwww」
騎士「兵士A!貴様!」
兵士B「気軽な上司っぽくて羨ましいなあ……」 コソッ
グール「真面目な上司みたいで羨ましい……」 コソッ
グール「人間!」 バッ
兵士B「何の用だ…そこのゾンビの仲間か!?」
グール「一応そこの腐れゾンビの部下です、ていうか私もゾンビです」
兵士B「そうか……でもあんた可愛いな…魔物なのに」
グール「…………」
グール「……は?」
兵士B「よかったら付き合ってくれませんか」
グール「黙りなさい、殺しますよ」
兵士B「君のような美しい人に殺されるなら本望さ!」
グール「腹立つこいつ」
兵士B「美しいものは何であろうと愛でるべきだと思うよ俺は!」 ガキィッ
グール「やかましい!元来人間と魔物との間の溝は埋められぬものだろう!」
兵士B「ぶっちゃけ魔物とか大していない時代に生まれた俺には関係無かった!」
グール「黙れ若造め!」
兵士B「俺は熟女でも問題なくいけます!!」
グール「やかましい!」
土「やべぇwwwwwwww達磨プレイとかwwwwwwwwwテラ猟奇的wwwwwww」
騎士「黙れ、貴様はこのままにしておいてやる、どうせ殺しても復活するからな」
土「放置プレイだとwwwwwwwwwwwwwwwwwww」
騎士「やかましい、兵士!縄か何かを……」
兵士B「腐ってる君でも愛してる!あと青い肌って結構オイシイと思うの俺!!」 ガキィッ
グール「やかましいわ人間め!!」 ゴォンッ
兵士A「あの子つええwwwwwwwwwwwwwwwwww」
ゴーレム「いやいやwwwwwwあっちも人間にしては中々wwwwwwwww」
騎士「……」
騎士「おい」
兵士A「把握wwwwwwwwwwww」
兵士B「俺にとってはご褒美です」
土「正座する足がないwwwwwwwwwwwww」
ゴーレム「石だから正座してても疲れないんですがwwwwwwwwwwwwww」
グール「黙って座っててください腐れ脳味噌共」
騎士「貴様も腐れ脳味噌だろう、物理的に」
グール「黙りなさい人間、殺しますよ」
土「おいおいwwwwwwwww仲良くしろよお前らwwwwwwwwwww」
騎士「どの口が言うか」
騎士「人を襲い、人を食らい、人を嬲り、人を滅ぼす魔性のもの!」
騎士「それが魔物であり、人間は彼らを打ち倒さねばならない!」
グール「それを言うならこちらこそです、人間は自らの欲望の為に魔物を狩る」
グール「それに魔物が人を食らうのは自然の摂理です、鳥が虫を食べたとて虫が滅ぶわけではないでしょう」
グール「昔から人間はいつも自分達が世界の頂点だと思い込んでいる、だから私は人間が嫌いなんです」
騎士「……その台詞は捨て置けんな、貴様、そんなに斬られたいのか」
グール「私は事実を述べたまでです、一方的に喧嘩を売っているのはそちらでしょう」
土「お前らんとこの大将えらい真面目だなwwwwwwwwwwwwwww」
兵士A「あんたの部下こそwwwwwwwwwwwwwwwwww」
兵士B「グールさん可愛いなあ」
ゴーレム「おkwwwwwwwwwwwwwwwwwww」
土「ちょwwwwwwww俺はwwwwwwwwwwwwww」
グール「はい足、勝手にくっつけて戻ってきてください」
土「うちの部下ひでぇwwwwwwwwwwwwwwww」
兵士A「うちの隊長も似た様なもんだよwwwwwwwwwwwwwwww」
兵士B「あ、グールさん!よかったら今度一緒にお茶でも」
グール・騎士「「 黙れ!! 」」
グール「はー…近頃の人間は何なんでしょうかね…あれは…」
オーク「いいじゃねえか、話聞いてると楽しそうで」
グール「ううー…違うんですよ…人間と魔物はもっとこう殺伐っていうか…血で血を洗うような関係じゃないと」
オーク「古参はこれだから、それは俺達が人間よりも上回ってた時代だろ」
グール「今だって魔物は人間よりも優れた種族であることは変わりありません!」
オーク「実際負けてんだから仕方ないだろ、きっと今の若い人間は魔物の怖さを知らねぇんだよ」
グール「はあ……これだから人間は……」
兵士B「つったって俺まともに魔物見たのなんて始めてだし」
兵士A「いざ会ってみたらそこまで悪い奴っぽくもなかったしな」
騎士「しかし魔物は人間の敵だ!それは変わらん!」
兵士A「はいはい、やっぱ固いなあ隊長」
騎士「固くて結構!これが私なのでな!」
兵士B「可愛けりゃ何でもいいと思うけどなあ俺」
兵士A「同意せざるを得ない」
騎士「ふう…稽古終わりと…今日は奴は来なかったようだな、まあその方が望ましいが」
騎士「おい兵士、戻ったぞー……」 ガチャ
兵士A「んでよwwwwwwそん時Bの奴がよwwwwwwwwwwwww」
土「ちょwwwwwwwwマジかwwwwwwwwwwwwwww」
ゴーレム「リア充爆発しろwwwwwwwwwwwwwww」
騎士「……おい」
兵士A「あwwwwwwwお帰りーっすwwwwwwwwお疲れっすwwwwwwwwww」
土「毎日稽古かよwwwwwwwwご苦労様だわwwwwwwwwwwwwwww」
騎士「なぜ魔物と馴れ合っているのか3行で説明しろ」
兵士A「気が合った」
騎士「1行ではないか」
土「斬られても復活しますしwwwwwwwwwwwwwwwwwww」
騎士「やかましい!」 ジャキッ
ゴーレム「まあまあ、落ち着いて」
騎士「これが落ち着いていられるか!貴様は魔物のボスだろう!」 ズバン
土「そうだけどwwwwwwwwwつーか何でお前そんな魔物嫌いなのwwwwwwww
騎士「魔物の残虐非道さは我が祖父から繰り返し聞かされている!決して相容れぬ物だとな!」
土「じゃあお前自身は魔物に何かされたのかよwwwwwwwwwwwwwwwww」
騎士「……いや、魔物と出会ったのは先日、貴様と会ったのが初めてだが」
土「おまwwwwwwwwwwwwwwww」
土「自分の経験も無いのに勝手に悪人呼ばわりwwwwwwwwwwwwww」
騎士「そうだろう、現に貴様らは何人も人間を殺したはずだ!」
土「そりゃ殺したわwwwwwwwあの頃は戦争だったものwwwwwwwwwwwww」
騎士「ならば…やはり貴様らは悪だ!我らとは相容れぬ!」
土「でも魔物だって山ほど人間に殺されたんだぜwwwwwwwww俺もだけどさwwwwwwwwwwww」
騎士「人間が生き延びる為だ、仕方あるまい」
土「じゃあ俺らが生き延びるのに人間殺すのも許せって話だよwwwwwwwwwwwwwwww」
騎士「く……」
土「当の勇者なんてさwwwwタンスから物漁ったりしてよwwwwwwwww汚い奴だったんだぜwwwwwwwwwwww」
騎士「我が祖父を侮辱するか貴様!」
土「えっ」
ゴーレム「えっ」
兵士A「あ、隊長って勇者…ていうか国王の孫なんすよ、言ってませんでした?」
土「聞いてねぇwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww」
ゴーレム「お前そういうこと最初に言えしwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww」
兵士A「サーセンwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww」
騎士「やかましいわ!!」
騎士「悪くないということはあるまい、でなければ祖父も貴様らを打ち倒さなかった筈だ」
土「戦争だったのに良いも悪いもねーよwwwwwwwwwwwバーカwwwwwwwwwwwwwwwww」
ゴーレム「むしろ残党の魔物狩りとかwwwwwww人間のが悪辣だわwwwwwwwwwwwwwwwwwww」
騎士「貴様ら……いや…もういい……今日のところは帰ってくれ……」
土「あれwwwwwww言い返せないんすかwwwwwwwwwwwwwww」
ゴーレム「論破完了wwwwwwwwwwwwwwwwww」
ズバンッ
騎士「帰れと言った」
土「」
兵士B「だからだな、俺はこう魔物娘というジャンルはもっと広めるべきだと思うんだよ」
グール「はあ」
兵士B「なんでも昔の戦争の時にはもっと色々な種類の魔物娘がいたらしいじゃないか」
グール「はあ」
兵士B「だからさあ、魔物を殺すっていうのはそういう意味でも損失だと思うんだよ俺は!」
グール「はあ」
兵士B「中には金でサキュバスだのを買って肉便器扱いしたりする金持ちもいるっていうけどまるで分かっちゃいないね」
兵士B「そりゃレイプとか肉便器とかも憧れるよ?ただそれは人道的にフィクションの中で留めておくべきだ」
兵士B「愛だよ、重要なのは愛だ、そう思うだろう?」
グール「はあ」
兵士B「だから結婚してくれ」
グール「お断りします」
グール「誰がこんな人間と」
兵士B「ツンデレですね分かります」
グール「……」 ゲシゲシ
兵士B「痛っ!やめてください!足を蹴らないで下さい!」
グール「全く、大体結婚したところで私は子供も生めませんし歳も取りませんよ」
兵士B「永久に年を取らない若妻とか最高じゃないか」
グール「そんなに食べて欲しいんですかあなたは」
兵士B「性的な意味でなら是非!」
グール「ああもう」
土「うーっすwwwwwwwwwwwwwwwwwwww」
村人A「おお、四天王さん」
村人B「騎士さんなら食堂にいたよー」
土「うはwwwwwwサンクスwwwwwwwwwwwwwww」
村人A「ははは、なんか学校とかで散々魔物こえーって話聞いたけど、案外そうでもないんだな」
土「平和だからそうなだけだしwwwwwwwwwww戦争とかだったら人とか余裕で殺すわwwwwwwwwwww」
村人B「でもそれは人も同じだからねぇ」
オーク「結局あんま変わんねーんだよな、みかん食うか」
村人B「おいしい」 めりめり
オーク「そうか」
騎士「何の用だ魔物め」
土「暇だったから来たわwwwwwwwwwwwwwwwwwwww」
騎士「やることは無いのか貴様は」
土「魔王軍復興したいなーwwwwwとは思うけどメド立たねーしwwwwwwwwwwww」
騎士「……もし本気でそのようなことをするのなら、私は貴様を斬るぞ」
土「今まで何度も斬っておいて今更何言ってんだお前」
騎士「やかましい」
兵士B「ヒューヒュー!似合うぜグールちゃん!」
兵士A「うはwwwwwwwwテラカワユスwwwwwwwwwwwwwww」
グール「……このような服、別に必要ありませんが」
兵士B「とか言いながら着てくれてるグールちゃんマジツンデレwwwwwwwwwwww」
グール「……物を与えてくれるというのなら、受け取るのも礼儀でしょう」
兵士B「かわええwwwwwwwwwwwwwww」
土「次メイド服着てもらおうずwwwwwwwwwwwwwwwwww」
兵士A「その次スク水なwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww」
グール「そんなに殺されたいんですか」
騎士「今のところ危険な雰囲気は見当たらないが、それでも奴らは魔物だ」
騎士「このまま放っておくわけにはいかん……!」
?「失礼、この村の人ですか?」
騎士「はい、そうですが何か……」
?「いえ、ここらに魔物が出現したという噂を聞いたもので」
騎士「ふむ、それは確かにそうですか…あなた達は?」
狩人A「失礼、私は魔物狩りを生業としている狩人というものです」
騎士「……ほう」
騎士「……魔物を、ですか?」
狩人B「はは、魔物の皮なんかは高く売れるんですよ」
狩人C「たまにいる女性型の魔物なんて金持ちに高値で売れるんだぜwwwwwww」
狩人A「魔物が消えて人は安心、私達は魔物を売って生活が潤う、と、良い事ずくめですよ」
騎士「魔物を売るとは…それは……」
狩人B「なに、家畜やペットなんかも取引されているでしょう、同じようなものですよ」
騎士「……」
騎士(魔物は人間の敵、それを倒すのは人として当然だ)
騎士(だがしかし……)
狩人A「そうだ、例の魔物の巣のようなところを知りませんか?」
騎士「……さあな、そこらの森か山でも探ったらどうだ」
狩人C「おいおい、何だよその態度、喧嘩売ってんのか」
狩人A「まあまあ、お言葉に甘えて周辺を探索しましょう」
狩人B「今度の奴はこないだのより骨があると良いんですけどねwwwww」
騎士「……」
騎士「せいぜい殺されて、毛皮を剥がれて、変態に売り飛ばされてしまえばいいのだ」
土「うーっすwwwwwwwww騎士さんうーっすwwwwwwwwwwwwwww」
兵士A「あwwwwwww隊長じゃないすかwwwwww隊長も一緒にお茶どうすかwwwwwwww」
兵士B「グールちゃんそれ似合うよ!だから今度はウエイトレスとか挑戦してみ」
グール「よっぽど消されたいようだな貴様は」
オーク「みかんうめぇ」 めりめり
村人B「みかんうめー」 めりめり
騎士「……貴様ら何をのんきに喫茶店でダラダラしとるか!!」
土「何でそこでキレるんだよwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww」
土「いきなり来て帰れとかwwwwwwwwwwwwwww」
グール「言われなくてもそろそろ帰ろうと思っていたところです」
兵士B「俺も行っていい?」
騎士「駄目だ」
オーク「んじゃまた明日な」
村人B「明日もみかん持ってきてね」
騎士「……おい、魔物」
土「なんすかwwwwwwwwwwwwwww」
騎士「……いや、なんでもない、早く帰れ」
土「ちょwwwwwwwテラ意味深wwwwwwwwwwwwwwwwwwwww」
グール「はあ、人間共の相手は疲れますね」
オーク「そう言いながら嬉しそうに見えるが」
土「ツンデレ乙wwwwwwwwwwwwwwwwww」
グール「そんなんじゃ……」 ザンッ ゴロンッ
オーク「グール!」
狩人C「うはは!一匹仕留めたぜ!」
狩人B「何してるんですか、せっかくの女性型だったのに首を飛ばしちゃったら売れないでしょう」
狩人C「なあに、体だけでも喜んで買ってくれる変態はいるってな!」
オーク「人間…!」
オーク「貴様ら…」
狩人A「オークにアンデッドに…ああ、でもアンデッドはあまり使えませんね」
狩人B「どっちかっていうとオークの毛皮の方が価値が出るんじゃない?」
オーク「金目的か…これだから人間は…!!」
狩人C「まあ覚悟しとけよwwwwお前らみたいな魔物なんて生きてたとこで……」
ブチンッ
狩人C「 」
狩人A「C!?きっ、貴様何を!?」
土「サーセンwwwwwwww首もいじまったわwwwwwwwwwwwwww」
狩人A「よくもCを殺ってくれましたね…あなたは許しません!」
オーク「こっちだってグールを殺られてるんだ、おあいこだな」
狩人A「黙れ魔物め!くらえ!火炎魔法!!」 ボゥッ
土「あっつうううwwwwwwwwwwwwwwwwwwww」 ゴォォォォ
狩人A「ふん、チリ一つ残さず焼き尽くしてやりましたよ」 パチパチ
狩人B「アンデッドは火に弱い…それが常識さ!後はオークだけだ!」
土「と思うじゃん?wwwwwwwwww生き返るんだなこれがwwwwwwwwwwww」 ボコボコ
狩人A・B「!!?」
土「あっつうううううううううううううwwwwwwwwwwwwwww」 ゴォォォォォォォ
狩人A「こ…これで……」 パチパチ
土「はい復活wwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww」 ボコボコ
狩人A「なっ…な……」
狩人B「くっ…こ、これでどうだ!聖水をくらえ!!」 バシャッ
土「ぎゃああああああああwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww」 ブシュウウウウ
狩人B「へへ、そのまま成仏し……」
土「四天王は死なぬwwwwwwwww何度でも蘇るさwwwwwwwwwwwwww」 ボコボコ
狩人A・B「ひいいいいいい!!」
狩人B「ひ…ひいっ!」 ダッ
狩人A「あっ、B!待ちなさ……」
ゴーレム「どっせいwwwwwwwwwww」 グシャアアッ
ゴーレムの のしかかり! きゅうしょに あたった!
狩人B「」
土「おまwwwwwww留守番頼んだのにいねーと思ってたらwwwwwwwwwww」
ゴーレム「サーセンwwwwwww岩の一部のフリしてましたwwwwwwwwwwwwwwww」
オーク「ビビッて隠れてたのか」
ゴーレム「そう言わないでくださいよwwwwwwwwwwwwwwwww」
狩人A「あ……あ……た、助け……」 ガクガク
土「選択肢が3つありますwwwwwwwwwwwww①このまま死ぬwwwwwwwww」
土「②アンデッド化させるwwwwwwwwwwwwwwwwww」
土「③強制労働してもらって生かすwwwwwwwwwwwwwwwwww」
土「どれがいいすかwwwwwwwwwwwwwwwwww」
狩人A「さ…③……お願いします……死にたく…死にたくない……」 ガクガク
土「おkwwwwwwwwwwwじゃ早速強制労働いこうかwwwwwwwwwwwww」
オーク「人間の相手は久しぶりだな」 ズン
狩人A「え……」
土「よく知らんけどよwwwwwwwwオークと人間って子供産めるんだってなwwwwwwwwww」
狩人A「い…いや……いやああああ!!殺してええええ!!!」
土「以下省略wwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww」
うおいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい
騎士「……はあ」
兵士A「なんか最近隊長元気ねーな」
兵士B「四天王さんが来ないからじゃねーのwwwwwwww」
騎士「それは貴様だろう」
兵士B「ああ…グールちゃんにもう一度会いたい」
グール「そうですか」
兵士B「うん、もう一度あの美しくかつトゲのある言葉で傷つけられ……グールたぁぁん!!」 ガバッ
グール「だっ、抱きつかないでください気持ち悪い!」 ゴスッ
兵士B「オフゥ…そ、そういうところがもう素敵で俺は……」
兵士A「つーか久々っすねwwwwwww何かあったんすかwwwwwwwwwwwww」
グール「少しの間死んでただけです」
兵士A「なにそれこわい」
兵士B「なにそれもっと怖い」
グール「頑張ればもう3、4匹ぐらいは生まれると思いますけど、でももう限界ですかね」
騎士「……一体なにがあったんだ?」
グール「なに、人間に襲撃されて返り討ちにしただけです」
騎士「殺したのか」
グール「当然でしょう、襲ってきたのはあちらですよ、最も1匹はまだ生きてますが」
騎士「まあ、な、しかし……いや、何でもない」
グール「……では私はこれで、しばらくは洞窟に近寄らないでくださいね」
騎士(……やはり、相容れないな、奴らとは)
オーク「家族ができました」
狩人ゾンビ「……よろしくお願いします」
仔オークら「「「ブヒ「ブヒィィ「ブゴー「ブギ」ブ」ヒィィン」」」
村人A「どういうことだってばよ……」
土「ついでになwwwwww洞窟からこの村に移住することにしたわwwwwwwwwww」
騎士「面白い冗談だな貴様」 チャキ
土「いやいやwwwwwwこんな沢山の奴と一緒にあんな狭いとこいられるかよwwwwwwww」
騎士「貴様あの仔オークはどうやって生ませた、あの新しいゾンビは何だ」
土「おおむね予想ついてんだろwwwwwwwwwwwwwwwwww」
騎士「む……」
土「まあ安心しろよwwwwwwwwよっぽどのことがねー限り村人には手出さねーからwwwwwwww」
騎士「むう……」
騎士「……貴様は、言葉にするのも汚らわしい程のことをされたのではと察するが」
狩人ゾンビ「されましたし、死にたいと思ってましたけどね」
狩人ゾンビ「一度体が壊れてゾンビになったらもう何もかもどうでもよくなりました」
騎士「……だが、貴様が奴らに殺された事実は変わらんだろう」
狩人ゾンビ「まあ、それはそうですが……もう良いんですよ、私ももう魔物ですから」
狩人ゾンビ「いっそのこと騎士さんもアンデッドになっては?気楽でいられますよ」
騎士「遠慮しておく」
グール「なぜそうなるんですか」
兵士B「いいじゃんか二人で暮らしてさあ、白い新築の家を建てて庭には犬を飼って」
兵士B「そして子供は息子が2人!娘が1人!完璧だろ!?」
グール「残念ながら私は子供が産めませんよ」
兵士B「残念なんだ?」
グール「……別にそういうわけじゃ…ないですけど…」
兵士A「B爆発しろ」
ゴーレム「オークもげろ」
土「リア充死ね」
オーク「貴様ら」
ゴーレム「ちくしょおおおお!!俺も幸せ家族計画したいよおおおおお!!!」
オーク「いっそ売れ残り同士でくっついたらどうだ」
兵士A「ブチ殺すぞてめぇ」
ゴーレム「隊長ぉぉぉ!俺も可愛いゴーレム娘とイチャイチャアンアンしたいよぉぉぉ!!」
土「これ以上リア充が増えるとかマジ勘弁wwwwwwwwwwwwwwwwwwwww」
ゴーレム「おいこら腐れ脳味噌てめぇ!」
土「お前と同種のゴーレムだったら腐るほど作ってやんよwwwwwwwwwwwwwwwwwwww」
ゴーレム「うおおお……鬼畜めぇぇ……!!」
狩人ゾンビ「散々鬼畜の所業しておいて今更何を言っているんでしょうか」
騎士「貴様が言うと妙に説得力があるな」
村人A「だな、いくらあんたらっつっても金も無くちゃ家は建てねぇぞ」
兵士B「まあグールちゃんは俺の兵舎に一緒にいてくれていいけどな!」
グール「そうですか」
土「まあ住む場所はもう作ってあるから気にすんなよwwwwwwwww」
騎士「……と言っても、見たところ貴様らが暮らせるような新居は見当たらんが」
土「ああ、んじゃ一応説明しとくけどよwwwwwwwwまずあそこの井戸あるだろwwwwwwwwwww」
騎士「絶対にやめろ」 チャキ
土「まだ何も言ってねぇwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww」
ざわ…… ざわ……
グール「ん……外が騒がしいですね……」
兵士B「なんか国から役人が来てるみたいだな」
グール「……私は隠れていた方がいいですね」
兵士B「んー…まあ一応……」
土「じゃあ俺もここに隠れさせてもらうぜwwwwwwwwwwwwwww」 バタン
ゴーレム「うーっすwwwwwwwwwwwwwwwwwwww」
兵士A「お邪魔しゃーっすwwwwwwwwwwwwwwww」
兵士B「夫婦の新居に乱入してこないでくれるかな!?」
グール「まだ結婚してません」
リア充爆散しろ
騎士「は…承知しました」
土「おーうwwwwwwwwどういう話だったんwwwwwwwwwwwwwww」
騎士「戦場での前線行きの指令だ」
土「ちょwwwwwwwここって戦争してたのかよwwwwwwwwwwwwwww」
騎士「ああ、私が生まれる前から隣国と戦争を続けていたんだ」
土「マジでかwwwwwwwwwつーかお前強いのに今まで前線行かなかったとかwwwwwwwwwwww」
騎士「私は志願したさ、だが父上が認めてくれなかったんだ、私は父上に嫌われているからな……」
土「ほほうwwwwwwwwwwww」
ゴーレム「kwskwwwwwwwwwwwwwwwwwww」
兵士A「wktkwwwwwwwwwwwwwwwww」
騎士「真面目に聞け」
騎士「父の若い頃の過ちで出来た子、望まれずに生まれてきた子供だ」
騎士「当然、我が父はそんな私よりも愛する息子達の方が大切だ、戦場で活躍させたい」
騎士「だが言っては何だがボンクラ息子達よりも私の方が圧倒的に強いからな」
土「自分で言うかwwwwwwwwwww事実だけどよwwwwwwwwwwww」
騎士「だから、邪魔な私は平和な村に左遷され、無能な息子共が現在戦場に立っているわけだ」
土「んで戦況悪くて呼び戻してちゃ世話ねーなwwwwwwwwwwwwwww」 ズズズ
兵士A「我が国ながらアホだわなwwwwwwwwwwwwwww」 ボリボリ
ゴーレム「煎餅うめぇwwwwwwwwwwwwwww」 ボリボリ
騎士「貴様らはもう本当にもう」
騎士「……祖父は正直なところよく分からん、戦争に関しては将軍である父に任せきりだ」
騎士「昔はしばしば目をかけてもらったが……今の祖父は、何を考えているのか……」
土「まあ王様の大変さを味わえばいいわなwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww」
兵士A「んでwwwwwwwwwww隊長どうするんすかwwwwwwwww」
騎士「とりあえずは指示に従うさ、我が国の為に戦うというのは望むところだ」
兵士A「おkwwwwwwwwんじゃ俺も付いて来ますわwwwwwwwwwww」
土「じゃあ俺もwwwwwwwwwwwwwwwwwww」
ゴーレム「じゃあ俺もwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww」
兵士B「俺はグールたんとラブラブアンアンしたいからパス!」
兵士A「ははは、爆発しろ」
土「四天王舐めんなしwwwwwwこう華麗に変身魔法でwwwwwwwwwww」 ボンッ
土「きゃっぴーんwwwww幼女戦士にへーんしーん☆wwwwwwwwwwwwってなwwwww」
騎士「気持ち悪い」
ゴーレム「媚びるとこ間違ってますよ隊長」
兵士A「幼女なら何でも許されると思うなよ」
土「何でお前ら急に素に戻るの」
グール「隊長はみすぼらしいナリのくっさい老人魔法使いぐらいでいいと思います」
土「ひでぇwwwwwwwwwwいいよwwww分かったよwwwwwwそれでいくよwwwwwwwwwwww」 ボンッ
兵士A「あー、いいっすね、脳味噌ド腐れうざジジィって感じ」
土「どんなイメージだよwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww」
ゴーレム「隊長wwwwww俺も俺もwwwwwwwwwwwwwwwww」
土「おkwwwwwwwwwwwくらえ変身ビームwwwwwwwwwwwww」
ゴーレム「ウギャーwwwwwwwwwwwwwwww」 ボンッ
土「どうよwwwwwwゴーレムらしく無骨なおっさんにwwwwwwwwwwwww」
兵士A「そこは怪力美少女だろ、分かってねえな腐れジジィ」
土「どんなこだわり持ってんだよお前」
騎士「いいから早くしろ」
兵士A「突き合ってください、性的な意味で」
土「お前それ魔法で誤魔化してるだけだから中身まで変わんねーぞwwwwwwwwwwww」
兵士A「見た目が可愛ければ何でも良し!!」
ゴーレム「俺もそう思う!!」
グール「うわあ……」
ゴーレム「やめてください!そんな目で見ないで下さい!」
兵士B「まあ俺も見た目が可愛ければそれでいいと思うけど」
グール「つまりBさんは私の見た目の可愛さにだけ惹かれたと」
兵士B「はは、見た目に惹かれたからって性格に惹かれないわけじゃないんだぜ?」
グール「……あなたはそれでいいですよ、もう」
兵士A「解せぬ」
土「しょべぇwwwwwwwwwwwwwwwww」
兵士A「ボロいwwwwwwwwwwwwwwwwwww」
ゴーレム「砦の状態でもうボロ負け状態なのが分かるわwwwwwwwwwwwwwww」
騎士「…それはそうだろうな、負け戦だからこそわざわざ私を呼んだのだろう」
騎士「それと貴様ら、名目上は全員私の部下になるのだ、話し方には注意しろ」
土「うーっすwwwwwwwwwwwwwww」
ゴーレム「おkwwwwwwwwwwww把握wwwwwwwwwwwwwwwww」
兵士A「まあ一応気をつけるわwwwwwwwwwwwwwwwww」
騎士「貴様は元から部下だろうが」
次男「待っていたぞ!」
騎士「は、兄上達もお元気なようで何よりです」
長男「早速だが我々はこれより王都に戻る、砦の守りは任せたぞ!」
次男「うむ!兵もいくらか連れていくので残りの兵でしばしの間、頑張ってくれ!」
騎士「は…今からお帰りとは……し、しかし私は戦況もまだ……」
長男「知らん知らん!小難しい事は兵士長に聞け!」
次男「では失礼するぞ騎士よ!我々は忙しい身なのでな!!」
騎士「く……」
ゴーレム「体腐ってる人が何言ってんすかwwwwwwwwwwwwwwww」
土「やかましいわwwwwwwwwwwwwwwwww」
騎士「やかましいのは貴様らだ」
兵士A「んで、どうするんすか」
騎士「……言いつけ通りにするしかあるまい」
土「言いつけ通りにしたら『せいぜい時間稼いで死ね』ってことになるけどなwwwwwwwwww」
騎士「……とにかく兵士長から戦況を聞こう、話はそれからだ」
騎士「騎士です、折角ですが戦況はどのような」
兵士長「……見れば分かるとは思いますが、良くはありません」
兵士長「その上、あの二人が兵を連れて行ってしまったので……残りの戦力は44人程度です」
土「不吉な数字だなwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww」
兵士長「……申し訳ありませんが笑いを止めて下さい、不謹慎です」
土「サーセンwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww」
兵士長「貴様っ……!」 ジャキッ
騎士「申し訳ありません、気持ちは分かりますがこらえてください」
兵士長「くっ……」
兵士長「400程度です、奴らの兵は殆どが別の戦場に向かってしまったようなので」
兵士長「向こうこれをもはや戦とは思っていません、奴らにとって最早この戦場ですることは害虫駆除のみなのです」
騎士「その程度の仕事に回すのはせいぜい400程度で良いということか」
土「もう駄目だなwwwwwwww砦捨てて逃げた方が早いわwwwwwwwwwww」
兵士長「だから笑うなと……ぐおっ」 ドカッ
土「話が進まねーんだよwwwwww悪いけどちょっと眠ってろwwwwwwwww」
兵士長「ぐ……ぅ……」 ZZZ
土「ねーよwwwwwwwwwwwwwwwwさっき行ったろwwwwwwwwww」
騎士「だが……しかし……」
土「無理だってwwwwwwwwさっさと逃げて村に戻ろうずwwwwwwwwwwwwwww」
騎士「駄目だ、これは私の任務だ、私の仕事だ、それを放棄する事は騎士の名に傷がつく」
土「おまwwwwwwwwwwwww何でそこまで無茶すんのよwwwwwwwwwwwwwww」
騎士「…私はただ平和を欲しているだけだ」
土「戦争で頑張っといて平和も何もねーわwwwwwwwwwwwwwwwwwwww」
騎士「やかましい」
土「まあいいやwwwwwwwwww俺は勝手に何かやるからwwwwwwwwwwwwwwwんじゃwwwwwww」
騎士「……ああ」
土「うはwwwwwwwwww超転がってるwwwwwwwwwwwwwwwwwww」
ゴーレム「どうするんすか隊長」
土「決まってんだろwwwwwwww俺は別にどっちでもいいけどよwwwwwwwwwwwww」
土「あいつが勝たないとマトモに帰れないからなwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww」
ワァァァァァァァァァ……
土「あっwwwwwwwほら見ろ丁度良く敵進軍してんぞwwwwwwwwwwwwwwww」
土「んじゃいっちょwwwwwwwwwいけっwwwwwwゾンビ共wwwwwwwwwwwwwwww」
兵隊ゾンビ「「「「アアアアアアアアアアア」」」」
指揮官「ははは、さてまあ、ササッと砦を落として戻るとするかのwwww」
敵兵「し、指揮官!!」
指揮官「なんぞ?」
敵兵「た、大変です!な、なんだかよく分かりませんが…敵が……死体が……」
指揮官「ん?何をわけのわからん……なにぃぃっ!!?」
ゾンビ兵「アアアアアアアアアアアアアア」 ザッ ザッ
ゾンビ兵「アアアアアアアアアアアアアア」 ザッ ザッ
ゾンビ兵「アアアアアアアアアアアアアアアア」 ザッ ザッ
敵兵「な、なんだこいつら!斬っても斬っても…うわあああ!!」 バリバリ
敵兵「ぎゃあああああ!!助け……」 バリボリ
指揮官「な…なんぞこれ……」
土「うははwwwwwwww敵が倒れるたびに自軍が増えるわwwwwwwwwwwww」
土「そのうえこっちは死なねぇ減らねぇっとwwwwwwwwww楽な勝負だわなwwwwwwwwwwwwww」
指揮官「て、撤退だ!撤退ー!!」 ジャーン ジャーン
敵軍「ウワアアアアアアアー!!!」
土「ちょwwwwwwwワロッシュwwwwwwww逃げ切れるわけねえだろwwwwwwwwwwwwww」
騎士「魔物!これはどういうことだ!」
土「おwwwwwwwwほれ見ろwwwwww敵軍撤退させたぜwwwwwwwwwwwwwww」
騎士「このっ……貴様という奴はっ!!」 ザンッ
土「オゴフwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww」
騎士「死者をなお愚弄するなどと…貴様は…貴様は命を何だと思っている!!」
土「じゃあさwwwwwww生き残りの兵全員で特攻して死ぬのが良かったかよwwwwwwwwwwwww」
土「そりゃお前はいいだろうよwwwwwwww騎士の誇り(笑)を守れるんだからよwwwwwwwwwwwwww」
土「でも付き合わされる兵士は無駄死にだずwwwwwwwww命を愚弄してるのはどっちだかwwwwwwwww」
騎士「くっ……」
土「どうしたよwwwwwwww何か言い返せしwwwwwwwwwwwwwwww」
騎士「うるさい……貴様のやり方は正しかった、おかげで犠牲は出さずに済んだ、それは私だって分かっている!!」
騎士「だが……だがしかし……」
土「wwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww」
騎士「笑うなぁっ!!」
騎士「貴様……!」
土「じゃあ聞くわwwwwwwwなんで平和守るのに戦争すんのよwwwwwww戦わない方が平和だろうよwwwwwwwww」
騎士「……世界を平和にするには全ての国をまとめなければいけないだろう」
騎士「その為に……世界をまとめるために……戦って……勝って…………」
土「ちょwwwwwwwwお前の言ってるそれ何ていうか知ってるかwwwwwwwwwwwwwwwwww」
土「それなwwwwwwwwww『世界制服』って言うんだぜwwwwwwwwwwwwwww」
土「お前も魔王と同じだなwwwwwwwwwwww結局やってんのはそういうことだわwwwwwwwwwww」
騎士「違うっ!私は……わたっ…私は……うぐっ……ぅっ……」 ボロボロ
兵士A「いーけないんだ!いけないんだ!」
土「サーセンwwwwwwwwwwめんごめんごwwwwwwwwwwwwwww」
土「まwwwwwww敵兵の半分ぐらいは減らしたからよwwwwwwwwwww」
土「後は自分でやってみろよなwwwwwwwwwwまあ俺はもう帰るけどwwwwwwwwwwwww」
土「……じゃあな」 ヒュンッ
騎士「あっ……」
騎士「…………」
兵士A「……えーっと、一応俺は隊長に従いますけど」
ゴーレム「えー…じゃあまあ俺も…まあ、うん一応」
兵士A「まあ何ていうか…ドンマイ!」 ビッ
騎士「…………」
ゴーレム「ツッコミが無い…だと……」
土「全くアレだwwwwwww今まで戦場行ってないからかもしれんけどwwwwwwwwwwww」
土「命を大切にしない奴なんて大ッ嫌いだ!(キリッ)」
土「だっておwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww」 バンバン
土「つーかwwwwwwwいのちだいじにっつってもなwwwwwwwwwwwwww」
土「今まで俺が何回死んでると思ってんだっつーのwwwwwwwwwwwwwwwwwwww」
土「食ったパンの枚数より余裕で多いわwwwwwwwwww俺メシ食わねーしwwwwwwwwwwwww」
土「はあー」
土「いい加減、死にてぇなあ」
兵士長「私が寝ている間にそのような…しかしなぜ急に?」
騎士「……さあな」
兵士A「隊長元気ねーなー」
ゴーレム「あそこまで完全論破されちゃったらなあ」
騎士「……兵士長、すまんが頼みがある」
兵士長「なんなりと」
騎士「砦中の弾薬を集めてくれ、それと残りの兵は全員撤退だ」
兵士長「なっ!?」
騎士「どうせ最早役には立たぬ砦ならば、吹き飛ばしてしまえば良いのだ」
兵士A「きが くるっとる」
兵「 」
へんじがない ただの しかばねの ようだ
指揮官「……ど、どうやら今日は大丈夫なようだな」
敵兵「ですね、昨日の事態は一体何だったのか……魔物の仕業でしょうか?」
指揮官「おいおい、けったいなことを言うな、これほどの技が使える魔物が今だ残っていてたまるか」
敵兵「は、申し訳ありません」
指揮官「まあよい、ともなれば障害は最早何も無いのだ!突撃!」
ウオオオオオオオオオオ……
敵兵「指揮官殿!砦の中には敵兵が1人も見当たらないそうです!」
指揮官「やはりな、奴らめ我が軍に恐れをなして逃げたのだ!フハハハハ……」
騎士「……いけぇっ!」
__,,:::========:::,,__
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ノi|lli; i . .;, 、 .,, ` ; 、 .; ´ ;,il||iγ
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`;;i|l|li||lll|||il;i:ii,..,.i||l´i,,.;,.. .il `, ,i|;.,l;;:`ii||iil||il||il||l||i|lii゙ゝ
゙゙´`´゙-;il||||il|||li||i||iiii;ilii;lili;||i;;;,,|i;,:,i|liil||ill|||ilill|||ii||lli゙/`゙ ←砦
´゙`゙⌒ゞ;iill|||lli|llii:;゙i|||||l||ilil||i|llii;|;_゙ι´゚゙´
敵兵「ほ、報告致します!砦が崩壊し約50名の兵が……」
指揮官「そのようなこと見れば分かるわ!どういうことだ!敵は砦を捨てたというのか!?」
敵兵「し、信じられませんがそのようで……」
騎士「だあああああっ!!」 ザシュウッ
敵兵「ぎゃあああああああああ!!」
指揮官「なっ、き、貴様は、なっ」
騎士「私はこの砦の守護を任された騎士!ここから先の大地には一歩たりとて入れさせん!!」
兵士A「同じく兵士A!」
ゴーレム「同じくゴーレ…ゴ、ゴーレム娘!」
兵士A「お前ゴーレムはまずいと思ったんだろうけど…お前……」
ゴーレム「うるさいだまれ」
兵士A「せいやっ!」 ゴルバッ
ゴーレム「どっせい!」 クロバッ
敵兵「指揮官!ここは危険です!早く撤退を!」
指揮官「あ、慌てるな、これは孔明の罠だ、そんなことは無理だ」
敵兵「指揮官!」
ゴーレム「おりゃっ!!」 ドゴーム
敵兵「うげぁ」
騎士「逃がすか!その首貰い受けるぞ!!」
指揮官「ひいいっ!」
騎士「えっ…うわっ!」 ドンッ
弓兵「ちぃっ!外したか!」
兵士A「ごほっ…は、外してねーよバカ……」
騎士「兵っ……!」
弓兵「へっ!今度こそくらえ!これで俺も大金星だ!!」
ゴーレム「させるかぁっ!光子力ビーム!!」 ビーッ
弓兵「うべあっ」 ボンッ
騎士「兵士!大丈夫か!?なあ!」
兵士A「はは……なぁーに、腹に矢が刺さった程度で死ぬ俺じゃねーですしおすし」
兵士A「それよか指揮官だ!隊長!さっさと仕留めちまえ!」
騎士「あっ…ああ!分かった!」ダッ
指揮官「ひいいっ!」
副官「させるか!ここから先は……」
兵士A「悪いけど通してくれねーかな!!」 ギンッ
副官「うぬっ…貴様っ!」
指揮官「ひい!お、お前ら!わしを守れぇい!!」
ゴーレム「させるかっ!ゲッタァァー!トマホーク!!」 ザンッ
雑魚ら「ぎゃああっ!」
兵士A「今だ!いけぇっ、隊長!!」
騎士「っだああああああ!!」
ザンッ
副官「なっ!指揮か…うごああっ!!」 ズンッ
兵士A「へへ、副官討ち取ったりーっつってな!」
敵兵「うわあああ!引けーっ!引けーっ!」
兵士A「うっし!こっちも引くぞ隊長!」
騎士「ああ……なあ兵士」
兵士A「ん?」
騎士「……これで良かったんだよな」
兵士A「良いんじゃねえの、『拠点を守れ』って指令は果たしたんだ」
ゴーレム「拠点がこれじゃあしばらく攻めてこないだろうしなwwwwwwwwwww」
兵士A「拠点っていうよか更地だからなwwwwwwwwwwwwwwwww」
騎士「ははは、こやつめ」
騎士「兵士!」
兵士A「あてて…ちょっと無理しすぎたな……ワロスwwwwwww」
ゴーレム「背中貸してやんよwwwwwwwwwwww」
兵士A「うはwwwww女の子におんぶとかwwwww俺リア充wwwwwwwwwwww」
騎士「馬鹿なことを言わずに休んでろ、近くの町に着いたらすぐに治療してやる」
兵士A「うはwwwwwwww隊長デレまくりんぐwwwwwwwwwwww」
騎士「ふん……やかましい」
兵士A「へへ…なあ……村に帰ったらさあ……また喫茶店でよ…ダベってよぉ……」
兵士A「んで……Bのノロケ話聞いたり…隊長にしかられたりよ……へへ……いい…よ…なあ……」
ゴーレム「ああ、そんで俺とお前でリア充爆発しろーっつってなあ…なあ……あれ…?」
兵士A「…………」
騎士「……兵士?」
医者「毒……ですな……恐らく矢に毒が塗ってあったんでしょう」
騎士「……」
ゴーレム「マジか……昨日まで風俗行きてーなーとか、そんな話してたのにな……」
騎士「はは、お笑い草だ、誰も死なない戦にしたいとか言っておいてな」
騎士「私は結局……どうしようもない……どうしようもない……バカ…だ……」 ボロボロ
騎士「くっ…ぅ…ぅぇっ……」 ボロボロ
医者「……ご遺体は、どうなさるおつもりで?」
ゴーレム「ん…村に埋めてやろうと思うんだけど……いいよな?」
医者「ええ、勿論……」
ゴーレム「お前もさ…それでいいよな、兵士……」
兵士A「 」
へんじがない ただの しかばねのようだ ……
とりあえずドン底に沈んでる騎士を連れて
あのド田舎の村に戻る事にした、勿論兵士Aも一緒だ
村に着いたら兵士Aを弔ってやって、そんで、もう奴はいないけど
みんなで喫茶店に集まってダベってグダグダするつもりだった
村人Aさんと世間話して、兵士Bに嫉妬して、グールさんに蔑まれて
んでオークとか狩人ゾンビに仲裁されて、村人Bちゃんが笑って
最後は隊長がウザッたいのを騎士さんが一蹴してっていうのをさ、やるはずだったんだよ
そうなんだよ、そうするつもりだったんだけどさあ、ははは
だって予想なんかできるわけないじゃんな
戻ったら村が壊滅してるなんて
狩人ゾンビ「戦場になったんですよ、この村が」
ゴーレム「あー……」
騎士「……」
狩人ゾンビ「本当はここより東の平原で戦ってたんですけどね」
狩人ゾンビ「将軍の息子…指揮を取っていた長男・次男の敗戦後です」
狩人ゾンビ「彼等はあろうことか、敵軍に背を向けて、一目散にこちらへと逃げてきました」
狩人ゾンビ「そして……」
ゴーレム「……もういい、見れば分かる」
狩人「……でしょうね」
騎士「……」
ゴーレム「……ちなみに生き残りは?」
狩人ゾンビ「私と村人2名、以上です」
ゴーレム「……グールちゃんは隊長がアレすりゃ生き返るだろうけど、なあ」
ゴーレム「なあ、帰ってきたら相棒まで死んでたってどう思う?」
兵士A「 」
へんじがない ただの しかばねのようだ
騎士「……ははは」
ゴーレム「……もう泣かないんすか」
騎士「もう……笑うしかないだろう……」
騎士「……魔物、貴様は」
土「言っとくけど俺のせいじゃねえしwwwwwwwww帰ってきたらこうなってたしwwwwwwwwwww」
騎士「貴様は…どうして……こんなっ……こんなことがあって……笑ってられるんだ!!」
土「さっき言ってただろうがwwwwwwwwwwwww笑うしかねえんだよwwwwwwwwwwwwww」
土「まあちょっと昔話してやんよwwwwwwwwwwwww俺ってばこれでも魔王軍で一番の古株だったんだけどよwwwwwwwwwwwww」
土「ここで問題wwwwwwwww果たして俺はいつからいたんでしょうかwwwwwwwwwwwwwwww」
騎士「……知らん」
土「だろうなwwwwwwwwwwwwww正解はwwwwwwwwwwwwwwww」
土「1万年とwwwwwwwwww2千年前からwwwwwwwwwwwwwwwwwwww」
騎士「……は?」
土「あwwwwwwwいwwwwwwしwwwwwwwwwwてwwwwるwwwwwwwwwwwwwwww」
騎士「黙れ」
土「んでwwwwwww世界制服したんだよなwwwwwwwwwwwww」
土「理由はwwwwwwwwww世界平和wwwwwwwwwwwwwwwwwwww」
土「スゲー真面目なのにwwwwwwwwww馬鹿馬鹿しくてwwwwwww甘ったりーんだわwwwwwwwwwww」
騎士「……まさか、貴様」
土「あwwwwwww俺はちげーよwwwwwwwwwwwwww俺は初代魔王様の不死の術の実験台wwwwwwwwwww」
土「元はただの童貞ヒキオタキモニートだからwwwwwwwwwwwwwwwwwww」
ゴーレム「童貞のまま1万と2千歳wwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww」
土「マジでwwwwwwwwwwww賢者とか超越してるわwwwwwwwwwwwwwwwwww」
騎士「……続きを話せ」
土「それを倒した勇者も死んでwwwwwwww戦争起こってwwwwwwwwwwwwww」
土「また魔王が生まれてwwwwww死んでwwwwwww勇者が死んでwwwwwwww魔王が生まれてwwwwwwwwwww」
土「でも俺死なねーのwwwwwwwwwwwwww不死だからwwwwwwwwwwwwwwwww」
土「これでも惚れた女とかできたのになwwwwwwwww死なねーの俺wwwwwwwwwwwwwwww」
土「気の合う奴とかwwwwwwwwwww部下とかwwwwwwwwみんな死ぬのにwwwwwwwwwwwwww」
土「俺だけずっと死なねーのよwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww」
土「だからもうwwwwwwこんなんなっても俺全然平気wwwwwwwwwいや平気じゃないけどwwwwwwwwwwwww」
土「そりゃこの村好きだったけどwwwwwwwwでももう何度も起こったことだからよwwwwwwwwwwwwww」
土「つまりアレだwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww」
土「無限ループって怖くね?」
騎士「ここまで引っ張ってソレは無いわ」
土「俺こいつら生き返らせられるわけよwwwwwwwwwwwwwww」
騎士「……!」
土「まあゾンビとしてだけどwwwwwwでも問題無いのは狩人ちゃん見りゃ分かるっしょwwwwwwwwww」
狩人ゾンビ「……」
土「どうするよwwwwwww死者を弄ぶかwwwwwwwwwwww騎士の意地を貫くかwwwwwwwwwwwwww」
騎士「私は……」
土「みんなをゾンビにするっつーならwwwwwwwそりゃもうwwwwwwみんな魔物だwwwwwwwwww」
土「ついでにwwwwwwwそんな選択をしたお前も十分魔物だわなwwwwwwww見た目とかが違ってもよwwwwwwww」
土「さあてwwwwwwwwwwwwどうすんのwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww」
騎士「……」
ゴーレム「えっ」
土「えっ」
騎士「えっ」
土「えー……っと……あー……ファイナルアンサー?」
騎士「はい」
ゴーレム「はいじゃないっすが」
土「えー、ちょ、いやいいけど……えー……えぇー……?」
騎士「待て、何だ貴様らその反応は」
土「いやだって、絶対もっと何やかんやでグダグダすると思ってた」
騎士「私はそのように見られていたのか」
ゴーレム「いやだってそうじゃないすか」
土「ktkrwwwwwwwwwwどんなことっすかwwwwwwwwwwwwwwwww」
騎士「私を国王陛下の前に連れて行け」
土「ちょwwwwwwwwwwwwおまwwwwwwwwwwwwwwwwww」
騎士「私は祖父に会って話したいことがある、さあ連れて行け魔物め」
土「らめぇwwwwwww俺また浄化されちゃうwwwwwwwwwwwwwwww」
騎士「いい加減に死にたいのだろう、良いではないか」
土「そうっすけどwwwwwwwwwwそりゃそうっすけどwwwwwwwwwwwwww」
騎士「ならば行くぞ、早く連れて行け」
土「ちょwwwwwなんかお前さwwwwwwwww急に吹っ切れたなwwwwwwwwwwwwwww」
騎士「……貴様のおかげで私のやるべきことが決まったのでな」
土「わけがわからないよwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww」
騎士「なに、すぐに話すさ…さあ!全速力で王城へ連れて行け!!」
騎士「私だ!道を開けろ!」
衛兵「えっ、ちょ、ちょっ!」
土「くらえwwwwwwwwwねむりごなwwwwwwwwwwwww」 ボフンッ
衛兵「あばばば」
ゴーレム「しびれごなじゃないんすかアレwwwwwwwwwwwwwwwww」
土「正確には毒の粉だわwwwwwwwww麻痺系のwwwwwwwwwwwwwww」
騎士「おじいさま!」 バンッ
長男「むおっ!」
次男「うおっ!騎士!?」
国王「……」
土「うーっすwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww」
国王「……本当に久しいな、生きていたのか」
土「不死なんでwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww」
国王「ふはは、かつての敵とはいえ懐かしいものだ、歓迎しよう」
騎士「おじいさま、単刀直入に言います、戦争を止めて下さい」
国王「できぬ」
騎士「でしょうね」
土「おまwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww」
ゴーレム「何の為の質問すかwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww」
女だったのか・・・・
国王「お前は我らに座して死を待てと言うつもりか?」
騎士「そんなことを言うつもりはありません、自らの国の為に戦うのは至極当然です」
国王「ならば何故そのようなことを申すのだ」
騎士「世界平和の為です」
国王「……ほう?」
騎士「50年前までは今のような人間同士の戦争は無かった筈です」
国王「無かったわけではないがな、だが魔王がいたおかげで大規模にはならなかった」
騎士「人間ではない、異種族の介入があったから、だから同族同士で殺しあう暇は無かった」
国王「ふふふ……姫よ、お前は、どうするつもりだ」
騎士「それで人の世が平和になるのなら、私は、魔王になるつもりです」
土「ちょwwwwwwwwwwwwwwおまwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww」
ゴーレム「つーかwwwwwwwそれってwwwwwwwwwおまwwwwwwwwww」
国王「はは、分かっているのか、それは人の世の争いを無くす為に、魔物を犠牲にするということだぞ」
騎士「構いません、誰かさんのおかげで私は元々魔物が嫌いです」
土「痛烈なカミングアウトwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww」
国王「実に我侭だ、女らしい、だからお前は真に騎士にはなれんのだ」
国王「魔物とて人とさして変わらんぞ、そんな連中を貴様は騙して死地に送る事ができるのか」
騎士「……できるだけ戦は避けたいですが、やらねばならぬのなら、私はやります」
国王「ふむ、しかし人と人との戦争が無くなったとて犠牲者が出ぬわけではあるまい、戦が無くとも魔物に襲われ人は死ぬぞ」
騎士「……人が死ぬのはやむをえません」
国王「偽善者にすらなれんのか貴様は、最低だな」
騎士「う、うるさい……私は!」
国王「ああ、分かっとる、お前は馬鹿で優しい最低な子だ、まるで昔のわしのようにな」
騎士「え……」
国王「王というのは貴様の想像以上に重いぞ、魔王といえどもそれは変わらん」
国王「正直わしは王になってから魔王の気持ちが分かるようになってきた」
国王「貴様は人間を救いたいというがな、魔王になり、魔物に祭られてからも果たしてその心を持ち続けていられるかな?」
騎士「……分かりません」
国王「で、あろうな……と、さて…あとは分かっておるな、魔王よ」
騎士「……はい」
国王「わしは勇者だ、勇者というものは魔王を打ち倒さねばならん、そういうものだ」
国王「そして、目の前に生まれた新たな魔王を無視できるものではない!」 チャキッ
騎士「うん…分かってる……さあ……かかってこい!勇者よ!!」 チャキッ
騎士「……はあ、疲れた」
土「マジで勇者より強いとかwwwwwwwww騎士さんマジパネェっすwwwwwwwwwwww」
ゴーレム「俺行った意味なかったwwwwwwwwwwwwwwwwwwww」
騎士「……おじいさまも現役では無かったからな、仕方ないだろう」
土「まあなwwwwwwwんじゃwwwwwwww改めて色々生き返らせてやっかwwwwwwwwwwww」
騎士「待て、その前にやってほしいことがある」
土「まだあんのかよwwwwwwwwwwwwいい加減にしろよwwwwwwwwwwww」
騎士「私を殺せ」
ゴーレム「なんとwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww」
土「斜め上wwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww」
しかし方法が乱暴だなw
騎士「第一、自然の摂理に逆らうようなことをして復活させた皆に怒られてはたまらん」
土「おまwwwwwwwwwwww真面目ってレベルじゃねーぞwwwwwwwwwwwwwwww」
騎士「いいからやれ」
土「おkwwwwwwwwwwwwwwwwちょっと痛いけど我慢しろよwwwwwwwwwwwwwwww」
騎士「ああ」
土「安心しろってwwwwwwww魔王に相応しい最高のリビングデッドにしてやんよwwwwwwwwwwww」
騎士「ふふ、そうしてくれ、ではさよなら魔物」
土「さよなら、人間」
ザンッ
小さな村では村人達がのんびり平和に暮らしていました。
ある日突然、どこかの騎士と兵士の人がやってきました。
騎士の人は真面目な人で、いつも鍛錬に励んでいます。
兵士さんは軽い調子で、いつもおどけて笑っています。
もう1人の兵士さんは、女の子が大好きで、かっこいい素敵な人です。
ある日突然、村に魔物がやってきました。
腐った体の不死の魔物は、いつも笑っておどけています、そして少しうるさいです。
大きい石でできた魔物は、やっぱりいつも笑っています、だけど愉快ないい人です。
腐った体の女性の魔物は、いつも不満で怖い顔、だけど本当は優しい人です。
豚みたいな怖い魔物は、果物好きな真面目な人です、本気を出すと少し怖い。
それから村にはもっと人が増えて、みんなで平和に過ごしてましたが。
ある時、その村はパッと消えてしまいました。
それからいくつか時が経って。
村は大きな黒いお城に変わりました。
「私は魔王だ、私は人間達を滅ぼすぞ」
人間達は大慌て、どうしようかと困っていました。
そんな状態がいくらか長く続いたところで、正義の勇者が立ちました。
勇者は土を司る不死の魔物を倒しました。
勇者は風を操る狩人の魔物を倒しました。
勇者は水を蓄えた豚の魔物を倒しました。
勇者は火を操る石の巨人を倒しました。
勇者はとうとう魔王の城へ辿り着き、聖なる力で不死の魔王を打ち倒しました。
それから勇者はお城へ戻り、姫と結ばれ、見事な王様になりました。
これは、そんな勇者の物語の、ちょっと前の魔王になった人の話。
ゾンビB「お茶が入りましたよー」
魔王「ありがとう、さて……と、そろそろ勇者が毒の池に着く頃かな」
側近A「勇者つええwwwwwwwはぇぇwwwwwww」
魔王「うむ、対抗策を考え……おい側近B、会議中にどこに行く気だ」
側近B「サーセンwwwwwwwww俺ちょっと家内と買い物いかなくっちゃwwwwwwwwww」
火の四天王「これだからリア充はwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww」
側近A「リア充爆発しろwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww」
水の四天王「お前らもうくっつけばいいのに」
風の四天王「ですよね」
側近A「嫌だわこんなダイナミックプロ娘wwwwwwwwwwwwwwwwwwwww」
火の四天王「最近ファンネル出せるようになったんすよwwwwwwwwwwwwwwwwwww」
グール「うわあ……」
火の四天王「やめてwwwwwwwwその何とも言えない濁った目で見るのやめてwwwwwwwwwww」
ゾンビA「彼じゃないんですか?」
ゾンビB「あの人だった気がしますけど」
側近A「確かあいつだったよなあ」
側近B「これでまた50年ぐらい死ねるっつって張り切ってたよな」
グール「アレは前回もそう言って出撃してましたよ」
火の四天王「じゃあ俺ちょっと戦闘後に『奴は我々の中でも最弱』って言ってくる役やるわwwwwww」
水の四天王「くだらないことばかり思い付くな貴様は」
風の四天王「むしろ今頃自分でそう名乗ってるんじゃないですか?」
魔王「……やってそうだな、ふふ」
土の四天王「ふははwwwwwwwwwwよくぞ現れたな勇者wwwwwwwwwwwwww」
土の四天王「俺は魔王軍四天王が1人wwwwwwwwwwww不死の魔物wwwwwwwwwwwwww」
勇者「こいつが…魔王軍四天王!」
土の四天王「さあ回復してやろうwwwwwwwww全力でかかってくるがいいwwwwwwwwwwwwwww」
戦士「ふん…敵を回復させるとは……って、うん?」
僧侶「回復……してます?」
魔法使い「いや?」
土の四天王「カッコつけたかったから言っただけに決まってんだろバーカwwwwwwwwwwwwww」
勇者「よし、みんな!こいつ殺そう!!」 チャキ
勇者「よし!倒したぞ!みんな!」
土の四天王「残念wwwwwwバックアタックだwwwwwwwwww」ボコボコ
勇者「しまっ…くあっ!」 バキィッ
魔法使い「気をつけて!こいつ強いわよ!」
土の四天王「ふははwwwwww一ついいことを教えてやろう勇者よwwwwwwwwwwww」
土の四天王「俺は四天王でも最弱wwwwwwwこの俺すら倒せなければこの先の四天王は倒せまいwwwwwwww」
僧侶「なっ…こ、この魔物で最弱だなんて……」
勇者「ふん……上等だ!いくぞおおおおおおおおお!!」 ジャキィッ
土の四天王「さあ来いwwwwwwwwwwwww勇者wwwwwwwwwwww」
勇者「まそっぷ!」
勇者の勇気が世界を救うを信じて!
土の四天王「生き返ったら魔王死んでたwwwwwwww」・完
ご愛読ありがとうございました!
Entry ⇒ 2012.01.20 | Category ⇒ 勇者魔王「」SS | Comments (0) | Trackbacks (0)
魔王「勇者よ、お前はこの世界に疑問をもたないのか?」
勇者「何を語るかと思えば! ふざけるなよ魔王!」
魔王「まぁ、待て。一つ話しをしようじゃないか」
勇者「聞く耳もたん!」
魔王「まずそこだ。何故我々の言葉がわかる」
勇者「?」
魔王「いや、正確には何故我々は人間と同じ言葉を使うのか。何故意思疎通が可能なのか」
魔王「疑問に思わないか?」
勇者「魔物は違うだろう!」
魔王「ふむ、確かに。魔物は違う。しかし、どうだ。不思議に思わないか」
勇者「……?}
魔王「犬、ネコ、熊、虎、龍.......数え上げればきりが無い。どうしこうも人間の世界にある者と同じなのか」
勇者「龍は存在しない!」
魔王「しかし、伝承にある」
勇者「……それは魔物が先だったのだろう!」
魔王「いや、龍とは本来神聖な物の筈だ。どうして魔物となる」
勇者「貴様が悪意を持たせのだろう!」
勇者「なに! 逃げるのか!」
魔王「何故我々はこんなにも人と似ているのだろうか。この城にしてもそうだ、何故城など建てた?」
勇者「……貴様らが真似たのだ! 人は尊く、偉大だからな!」
魔王「ふむ……なるほど。城はそうだとしても姿形を変えたと言うのは通らんな」
魔王「そもそも私は生まれた時からこの形だ。長い時を経てこうなったのか? 違う! 父も、その父も、そのまた父も、文献によれば皆人型よ」
勇者「……」
魔王「さて、次だ。少し戻るが、何故城などがあるのだろう」
魔王「ふむ。そうだな、権威を振りかざしているのかもしれない」
魔王「しかし、妙なことに。貴様、何故この場所に居るとわかった?」
勇者「ここが王の間だということなど当たり前だ!」
魔王「そこだ! 何故ここも人間そっくりなのだろうか!」
魔王「そもそも何故こんな孤島に居城を建てたのか」
勇者「人の目に触れぬようにだろう! こそこそと影から卑怯め!」
魔王「魔物は強大だ。人間では歯がたたない。魔族となれば抵抗できるのは一握りだ」
魔王「そんな圧倒的差があるのに何故こんな所に? 大陸の真中でもいいではないか。私自身最強と自負している」
魔王「それも不思議だ! 何故毎度の如く貴様らの血縁なのだ!」
勇者「我々は選ばれた一族だ!」
魔王「そうだ! 神に! そしてここでもうひとつ疑問だ!」
魔王「何故貴様らは我が一族を根絶やしにしない?」
勇者「何を寝ぼけた事を。もちろん貴様はここで朽ち果てる運命よ!」
魔王「ふむ、ふむ……その後は?」
勇者「その後? 凱旋するだけだ!」
魔王「何故子孫が居ると疑わない? また争いの種が生まれるぞ?」
魔王「しかし私自身そうやって生かされまた立ちふさがった! ここで断ち切るべきではないか?」
勇者「……ならばやってやろうではないか!」
魔王「よし、分かった。さぁ、次だ。根絶やしにした後はどうする?」
勇者「同じ事を何度言わせるつもりだ! 国王陛下に報告なさるのだ!」
魔王「何故?」
勇者「そんなの諸悪の根源が消え去り、世界が平和になったからに決まっている!」
魔王「そこも疑問に思わないのか!」ガタンッ
勇者「」ビクッ
勇者「だ、代々魔王を討てば世界に光は取り戻す伝えられている!」
魔王「今までずーっとそうだったのか」
勇者「当たり前だ! 何をふざけた事を!」
魔王「魔物はどうした」
勇者「?」
魔王「今まで暴れていた魔物だ。まさか貴様一人で全部殺すという訳にも行くまい? そいつらはどうした」
魔王「今もこうして奴らは思い思いに暴れている。それが何故私が死ぬと同時に居なくなるのだ?」
勇者「……そんな事はどうでもいい! 貴様を倒せばそれでいいのだ!」
魔王「何故この私に逆らわない? どんなことをしても守る?」
勇者「だから貴様がそうしたのだろう!」
魔王「違う! それは違うぞ、父が殺された日。魔物は消えた。皆死んだと部下に伝えられた」
魔王「部下とはこの城に残った魔物たちだ。私は彼らに育てられた。そして私が王位についた」
魔王「するとどうだろう! 魔物が暴れているというではないか! 各地に兵を送り、次々と侵略していった!」
勇者「やはり貴様ではないか!」
魔王「いや、問題はそこではない。どこから奴らは出てきた? 潜んでいたのか? どうして私が魔王になったと知った?」
魔王「そもそも何故そんなに忠実な部下が私が死んだら引き下がるのか。普通は貴様らに仇討ちの為に襲い掛かるのではないか?」
魔王「何故私は魔王なのだろうか」
勇者「……はぁ?」
魔王「父が死んだことに対する怒りの念はない。ただ周りのものから魔王になれと言われてきた。私自身そうだと思っていた」
魔王「王座についた。何故人間を侵略していったのだろうか」
魔王「私はただ、人間を滅ばせねばならない。ただそう、思っている。何故だ? 分からない」
勇者「……気でも狂ったか」
魔王「お前だってそうだ! 何故貴様は勇者なのだ?」
勇者「勇者だからだ!」
勇者「……選ばれたものは我ら一族のみだ!」
魔王「仲間なしにか」
勇者「仲間は、いない」
魔王「何故だ?」
勇者「必要ないからだ。居ても足手纏いになる」
魔王「お前より強い剣士は居なかったのか」
勇者「居た……いたが、彼では魔王を倒せない! この選ばれた者のみが振るうことのできる聖なる剣がなければ貴様は斬れん!」
魔王「そもそもそれはなんなんだ?」
勇者「は?」
魔王「なんでそんなものが存在している」
魔王「いつから存在しているのだ」
勇者「先祖代代伝えられている……初代様からだろう!」
魔王「ふむ、文献によれば、初代勇者は神より授かった、と言われているが?」
勇者「そのとおりだ!」
魔王「お前たちはなんと伝えられている」
勇者「……」
魔王「私は父から聖なる剣の話を聞かされていた。もちろん、我々にとって恐ろしい武器だからな」
魔王「その父によれば世界を征服中、聖なる剣を持った勇者が突然現れたといわれている。どこで授かったのか。教えてくれ」
勇者「天からの啓示だ」
勇者「そうだ! 初代様はある日、天より啓示を受けたといわれている!」
魔王「なんと?」
勇者「夢枕に立った神が道を教えたのだ!」
勇者「その道の通り進むと岩に突き刺さった剣があった! それを抜いたものがこれだ!」ジャキン
魔王「ふむ……なるほど。岩に突き刺さっていた、か。どうして今までその場所が割れなかったのだろう」
勇者「深い洞窟の先にあったといわれている!」
魔王「と、言っても。魔物も居ただろう?」
勇者「いない! 聖なる剣によって守られていたのだ!」
魔王「では尚更不思議だ。何故そんな安全な場所なら、もっと話題になって良いはずだ。魔物が近寄らない洞窟がある、と」
勇者「……」
魔王「何故地元の人間は見つけなかったのだろうか。いや、旅人でもいいさ。誰でも良い」
勇者「……」
魔王「それに、何故我々魔王はいつも負けるのだろうか」
魔王「そもそもにして、勇者の一族。これを根絶やしにすればよい。魔王が生まれると同時に勇者も生まれる」
魔王「それまではただの人だ。赤子が生まれる前に片っ端から殺せばよい」
魔王「というより、何故魔王と勇者は同時期に存在するのか」
魔王「決して違える事の無い輪廻。突如現れた剣。繰り返される英雄譚……」
勇者「……」
魔王「勇者よ、お前はこの世界に疑問に思わないか?」
魔王「……」
勇者「人心を惑わす」シャッキン
勇者「しかし、俺も疑問を持った」
魔王「そうか! ありがたい! 部下に話しても、そういうものだとしか言われなかったからな!」
勇者「俺もだ。そういうものだと、思っていた」
魔王「部下は世界征服、ただ、それだけしか考えていない。魔物もそうだ。暴れることしか脳にない」
魔王「何故そんな者が存在するのか。どうやって繁殖したのか。これも疑問だ」
魔王「まるで、ただこの世界を脅かす為だけに存在しているようだと思わないか?」
勇者「俺はただ世界を救う為だけに、か」
勇者「その答えなど、どこにあるかもわからないんだぞ。あるいは……無いのかもしれん」
魔王「それはありえないな」
勇者「なぜだ」
魔王「そんものこの世には存在しない。この世に生きとし生けるもの、すべては己が種の繁栄が本能だ」
勇者「しかし現に魔物は存在しているぞ。貴様もだ」
魔王「……」
勇者「それ見たことか」
魔王「いや、我々がそうではない、と言うことはありえるな。しかし、だからと言って答えが無いはずは無い」
魔王「我々はそう、誰かに計画的に作られたのだとしたら?」
魔王「うむ。妙にお膳立てされていると思わないか」
勇者「……神か」
魔王「ああ、そもそも何故この世界において、神とは一つなのだろうか」
勇者「そういえば……確かにどこの国を回って信仰の対象は一つだったな……」
魔王「ここまで一神教が普及するというのもおかしいと思わないか? どこかに邪教が存在してもいいはずだ」
勇者「確かに……」
魔王「第一に、何世代我々は同じ事を繰り返している?」
勇者「?」
魔王「初代様とやらは何百年前だ」
勇者「……え、えーと、ち、ちょっと待て。確か……うん、ちょうど1000年前?」
魔王「ふむ。おかしいな、どうして我々は同じ事を繰り返しているのだろう。私たちのことではないぞ」
勇者「?」
魔王「この世界だ! まるで技術的革新がないではないか!」
魔王「明らかにおかしい。そう思わないか?」
勇者「そ、そういうものか。俺は難しい話はわからん……」
魔王「1000年前のお前らはなにやってた? 1000年後の今のお前らは? 全然違うだろう? そういうものだ」
魔王「乗れ」
勇者「お、おう」
龍「ォオオオオオオ!」ゴォオオオオ
魔王「……」
勇者「な、なぁ。魔王よ。どこへ向かってるんだ?」
魔王「聖地だ」
勇者「聖地……? ああ、神々の祠か。確かに。あそこは一つだけだな」
魔王「世界の真中、孤島に聳え立つ。怪しいにも程がある」
勇者「俺はそこで魔王の居場所を知るからなぁ……」
勇者「あれ? そういや、そうだなぁ」
魔王「何故伝えられん」
勇者「まぁ、目的はそれだけじゃない。あそこでレベルアップも兼ねるし」
魔王「ふむ……」
勇者「しかし、あそこには魔王は入れないんじゃないのか?」
魔王「ああ、多分な」
勇者「じゃあどうすんだよ!」
魔王「一旦、死ぬ」
勇者「は……?」
勇者「な、なに!? 貴様そんなものを!」
魔王「当たり前だ。私がただ座して死を待つとでも思うか! 貴様に斬られた後は部下にこれを使わせるつもりだった」
勇者「ふ、ふーむ……抜け目ない奴だな」
魔王「とは言っても試用したことはない。失敗だったら悲惨な目に合うな」
勇者「……」
魔王「仮に蘇生に復活しても、中で復活した場合どうなるかわからん。爆発するかもしれないし」
勇者「……嫌な役目だな」
魔王「我慢しろ」
龍「ォオオオ」ゴォォオオオオォォォ.........
魔王「ふむ。では、やってくれ」
勇者「ああ、それでは、覚悟ッ!」ジャキッ
魔王「ま、待て待て待て!!」 ヒョイッ ズドンッ
勇者「なんだ魔王! 貴様往生際の悪い!」
魔王「ね、念のためその剣で切るのはやめてくれないか」
勇者「何故だ。この聖剣でなければ魔王は倒せん」
魔王「確かに攻撃力、破壊力は凄まじいものだが……ほれ」ヒュッ
勇者「うん?」パシッ
勇者「……これで斬ろと?」
魔王「ああ。その聖剣とやらも臭うのでな」
勇者「しかし、こんな事聞いたことが無いぞ。聖剣でなければお前は倒せないだろう」
魔王「私の体力は確かに天の高さほどだ。その体力を削るにはその馬鹿みたいに強力な剣で泣ければ易々とは倒せん」
勇者「……つまりアレか。貴様が言いたいのは城門を向上平気で倒さず、木槌で壊せと」
魔王「うむ。概ねそのとおりだ」
勇者「……」
魔王「安心しろ。私は一切抵抗せん。ただ少々貴様が疲れる、と言うだけの話だ」
勇者「……わかった」
魔王「うむ、ご苦労」コキコキ
勇者「し、死ぬかと思った……」
魔王「はははは、笑える冗談だ。死んだのは私ではないか」
勇者「じ、冗談じゃない! ほんとに疲れたんだ!」
魔王「問題なく薬の効用も機能しているようだし、今のところ内部に居ても問題はない。いいからさっさと行くぞ」
勇者「ち、ちょっと休ませてくれ……」
魔王「誰かさんのお陰ですっかり日が暮れてしまっているんだ。それともなにか戦闘中に疲れたと言って休む奴がいるのか。ほら、行くぞ」
勇者「お、鬼め……生き返らさなきゃ良かった……」
勇者「はぁ、はぁ、なんだよ……」
魔王「あくまでこれは今のところだ。たまたま今回は想定外だったために処置がとられていないだけに過ぎない」
魔王「いつ気付かれるか分からん。気付かれたらどうなるかも分からん。急げ」
勇者「……分かったよ」
魔王「ふむ、素直でよろしい。とりあえずここまではすべて私の推測どおりだ。聖剣でなくても私が殺せる、と言う事は証明された」
勇者「ああ、そうだな。中々死なないから無理かと思ってたが……案外やってみるもんか」
魔王「これによって一つの仮説を立てた。何故わざわざ馬鹿みたいに体力がある魔王なのか。聖剣は何故それに対抗しうる力なのか」
魔王「おそらく聖剣にはなんらかの機能が施されているのだろう。故にそれ以外では倒されないように、私の能力を高め、それに応じ剣の威力も高めた」
魔王「まぁ、その機能というのはなんなのかは分からんがね……」
勇者「どうだろうか、と言われてもな。どうとも……まぁ、その機能ってのはよっぽど大事なもんなんだな」
魔王「一体どんな仕掛けがあるのか……謎だ」
勇者「んー、例えば……ほら。疑問に思わなくなる効果とかそうなんじゃないか?」
魔王「馬鹿な。そうなら私は疑問に思ってないだろう」
勇者「それもそうか」
魔王「まぁ、その考察は後でも良い。今は一刻も早くこの祠の謎を……おっと! 早くも見つかったな!」
勇者「本当か! どこだ?」
魔王「ここさ」
勇者「ここって、ただの像じゃねーか」
勇者「いやぁ……ないと思うがな」
魔王「おい、協力してこの像をどかすぞ」
勇者「どかす?」
魔王「ああ。確かこの像は神だそうだな」
勇者「そういわれているな。この地に神が降り立ち、我々に知恵とパンを授けた、と言われている」
魔王「故にこの地は聖地として崇められ祠となっているのだ。つまり、一度だけここに神は降り立った」
勇者「うん……それで? なんなんだ?」
魔王「なんの為かはわからんが、何かの用事で来たんだ。ここに。何かあるに決まっている」
勇者「……だからパンと知恵授けに来たんじゃ……まぁ、ないか?」
魔王「ふんっ……くくくく」グググググ
勇者「ぐぅぅわぁっ! 駄目だ! うごかねえ!」
魔王「ふぅ……疲れた。駄目だ、びくともしないな……」
勇者「あー、明日は筋肉痛酷いなこれ……」
魔王「ふむ、ふむ、ふむ……」
勇者「何やってんだよ。多分それ関係ないよ」
魔王「関係ない分けないだろう。動かないんだから。ところで、この像誰が建てたか知ってるか?」
勇者「いや。知らん。誰か土地の人間じゃねーのか」
魔王「そうか……ふーむ……」
勇者「……もういいだろ。他のところ探そうぜ、こんな所に時間かけても仕方ないし」
魔王「ブツブツ」
勇者「チッ。んじや俺一人で周ってくるよ」ヨット グイッ
カコン
勇者「んぁ? なんだ今の音」
ズゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ
勇者「ん、んぉっおっおっおわぁあああ!」ゴロンゴロンゴロン ドスーン
魔王「おお、動いた。なるほど、どこかにスイッチがあるのか。それを押すと作動すると……でかしたぞ勇者よ!」
勇者「いててて……でかしたじゃねーよ! バーカ!」
魔王「どうだ?」
勇者「……」
魔王「どうした?」
機械群「ピピ゚ピピピ ピコピコピコピコ」
勇者「な、なんだ……ここ……」
魔王「……ふむ……」ジロジロ
勇者「あっ!」
魔王「これは……なんだ? 年代……か? いや、ふむ……おお、これはもしやふむふむ」ポチポチ
勇者「お、おい! 勝手に触ったら何が起きるか!」
魔王「ふむ、ふむ……ふむ、ふむふむふむふむ……」ピッピッピッピッ
魔王「……うむ、大体は分かった」
勇者「ど、どういうことだ?」
魔王「とりあえずここには現在の世界情勢が詳しく書かれている」
勇者「は、はあ」
魔王「次に、気候等も設定されているようだ。繁殖率も設定されている。また、この数値では現在の進行度が……」
勇者「????」
魔王「全てが数値化……まぁ、有り体に言えば。我々は神に管理されていた、と言うところか」
勇者「な、なんだって!」
魔王「いや、正確には……箱庭だった、と言うべきか……」
勇者「こ、これからどうするつもりだ」
魔王「どうするこうするも、な。神に会えればいいのだが」
勇者「じゃあ会おう! 方法はあるはずだ!」
魔王「ふむ、神に会うのは問題ないさ。いつかは分からんがね」
勇者「どういうことだ?」
魔王「すべての管理はここで行われている。つまり、なんらかの不祥事が起きた時、対処するにはここに来なければいけないのだ」
勇者「ほ、ほう……」
魔王「ああ、ちなみに勇者と魔王の関係性もここに記されてあったぞ。互いに争わす事で国家間の戦争を妨げる。文明は魔物によって壊される」
魔王「つかの間の平和を与えることで神への信仰心を高める。この信仰心、とやらがどうやら大切なものらしいな。良くは知らんが」
勇者「?」
魔王「疑問を無くす、という効果だ。これで斬られると世界全体にこの効果が撒布される。ただ、どうやら私はなんらかのバグでそれが通用しなかったらしい」
勇者「ふ、ふむ……ところで、疑問なんだが」
魔王「なんだ?」
勇者「ここで待っていれば神が来ると言ったな」
魔王「ああ。問題に気付けばの話だが。勿論、ここであらゆる各種設定を行うんだ。今もう既に私が手を加えたから来ない訳には行くまい」
勇者「もし、もしここ以外にもその設定とやらを弄ることが可能だったら?」
魔王「……それはどうしようもない。我々からあちらに会いに行く方法もないしな」
勇者「……賭け、か」
魔王「不本意ながらな。それも分の悪い」
勇者「本当か?」
魔王「ああ、ほら。そこにいる」
勇者「えっ!?」バッ
神「こっちだアホ」ブゥン
魔王「おっと……まさか本当に来ていた、とはな」
神「……よくも勝手な真似をしてくれた。全く……まぁ君たちはどちらにせよ排除せねばならない」
神「ここまでだ取り付いたご褒美だ。何か答えてあげよう」
勇者「じゃあお」
魔王「この世界のことについてだ」
神「我々は人を作り、その信仰心、と言う力をエネルギー替えて利用していた。重要な産業だったわけだ」
神「ただ、少々優秀すぎてね。彼らはこの世界の中から世界の外を観測しはじめた」
神「いつしか彼らの技術も進歩し、世界の中から世界の外へと飛び出し始めるようになった。最初は無人だったんだが……」
神「いつのまにか有人探査になっていた。こうなると揉み消すのも難しい」
神「とは言え所詮この手で作り上げた者だ。平気だろうと放置しておいたら、人間派世界の外までもを飛び出した」
神「我々の世界はめちゃくちゃだ。バグは新たな真理を見つけ、いつしか彼らはウィルスになっていた」
神「ウィルス駆除は我々と人間との闘争の歴史だよ……長かった。あらゆる物が機能不可能に陥った」
神「まぁ、最終的には我々が勝利したので、今ではこうして勝手に進化しないように管理しているという訳だ」
神「ご理解いただけたかな?」
神「言い換えてみれば、君たちは英雄なのさ。我々を助けてくれている」
勇者「……」
神「救世主様なんだ。うん?」
魔王「しかし先ほどは排除すると言ったが?」
神「ああ、興奮していたものでね。すまない。元々は君たちを説得する為に来たんだ」
神「分かってくれて、これから協力しつづけてくれるなら。なにもしないさ」
勇者「だからって……だからと言って貴様は認めん!」ジャキンッ
神「……」
勇者「魔王はなんだ。ずぅーと虐げられつづける運命か。そんなものは救世主と呼ばない。道具って言うんだよ!」
神「俺は創造者だぞ。この世界での能力はカンストしてる」
神「やるのか? あ?」
魔王「勇者」ポイッ
勇者「……これは」ガシッ
魔王「私の為に怒ってくれてありがとう」
勇者「はは。うるせーぞ魔王。あとでお前も斬ってやるからな」
魔王「期待してるよ」
神「おいおいおいおい。そいつは私が設定した聖剣だぞ」
神「精々攻撃力500~800。それに大して俺の能力はすべて9999だ。そんなものじゃ倒せないなぁ」
勇者「やってみなきゃわかんないだろう!」
魔王「一つ尋ねる」
神「ああ。どうぞ」
魔王「お前の能力は関すとしている、といったが。それは現実とどうなっているんだ?」
神「元々、私たちと君とは同じ大きさだよ。我々の科学力で箱庭を作り、縮小してあるにすぎない。モデルは私たちだからね」
魔王「ふむ。と、なると。ここでは自分も縮小、という形になるのか」
神「そうだね。ま、能力は桁違いだけど」
魔王「十分だ。ありがとう」
勇者「よし、覚悟しろ、神よ!」
神「君たちにはどれだけ頑張っても越えられない壁があることを教えてあげよう。一発、斬りかかってみなさい」ニコッ
神「罠じゃない。格の違い、って奴を教えてやるって言ってるんだ」
神「ハンデみたいなもんだとでも思ってくれればいい。本気できな」ニヤリ
勇者「うおおおおおおおおおおおおお!!!」ヒュゥンッ
神「……」ニヤニヤ ザシュッ
神「……ごふっ……えっ、はっ・……? えっ・……?」ボタッボタボタ
勇者「……き、斬れた」
神「が、がひゅっ……ごはぁ!! く、苦しいっ! 痛い! な、なんで! なんで!?」
神「ギャアアア!! 痛いぃいいいいいい!!!」
魔王「ははは。笑わせてくれるな。こちらもそっちの機械で弄くらせてもらったよ。剣の機能」
勇者「……」
魔王「ほら、何を呆けているんだ。斬れ」
勇者「えっ? あ、ああ」
魔王「あいつは何も身につけていない。装備による効果はなしで、身体能力のみだ」
魔王「武器の威力と奴の防御力は同じ。後はお前自身のレベルによる力のダメージさ」
神「ひぎぃいいいい!!!!!!!」
魔王「奴を倒すのは根気がいるぞ。体力は私より多いからな。ま、痛みに慣れてないんで抵抗しそうにないってのが救いか」
勇者「……」
魔王「早くしろ。私では太刀打ちできん。世界を救えるのは、君だけだ。勇者様」
勇者「お、おうっ!」
神「ま、待て待て待て!!」
勇者「……」チャキッ
神「わ、わかった! お前は優遇してやる! だから!」
勇者「……」ジッ
神「そうだ! 我々の世界に連れてってやる! こんな野蛮的な世界ではないぞ!」
神「素晴らしい桃源郷だ! 女だって沢山いるし!!! 美味しいものも!!」
勇者「女?」
神「そうだ! 女だ! 女! 絶世の美女! だからっもうっ早くっ助けてええええええ!!」
勇者「女なんてのはなぁ……魔王がいりゃそれでいいんだよおおおお!」ザシュッ
神「びきいいぃいいやああああああああ!」ザシュッザシザシュッュ
神「」
魔王「お疲れ様。汚れたな」フキフキ
勇者「あ、ああ。ありがとう」
魔王「……さて、仕事は終わった。これから私たちはこの地を奴らから守る一族として手を取り合っていかなければな」
勇者「! お、おう!」
魔王「ところで、さっきのことなんだが」
勇者「えっ? さっき?」
魔王「ああ。正確には斬る、前。女は私だけで良いとかなんとか……」
勇者「ひぁっ! あ、アレはそ、そのだな! え、えーと!」
勇者「う、うう……」コクッ カアア
魔王「ふむ。まぁ、そちらの方がお互いにここを守る、という目的の為には楽だろう」
勇者「……い、いいのか?」
魔王「別に私は構わない。ところで、どうして私を?」
勇者「えっ! い、いや……その、最初はほら。魔王だと思ってたけど。その……なんつーのかな」
勇者「寂しそう……だったし……いや、それだけじゃないよ! 知的だし! 俺は馬鹿だからさ!」
勇者「それにそれに超絶美人じゃねーか! 嫁さんにもらえるならこんなにいい人は……」
魔王「嫁?」
勇者「えっ? うん」
魔王「私は男だ」
魔王「王は男に決まっておろう」フフンッ
勇者「……えっ」ヒュゥゥゥ
魔王「なんだ、どうした。さっきの気持ちは偽りか」
勇者「えっ、いや、いやいやいやいや! だって、だって! えっ。だって男!?」
魔王「うむ」
勇者「女じゃん! 見た目! 一人称も私だし!!」
魔王「私と使う男なんていくらでもいる。さっきの神だってそうだろう。それに第一口調は男ではないか」
勇者「ち、ちょっと男勝りって言うか……魔王だからそういうもんなのかと……」
魔王「見た目云々に関してはどうも言えんがね」
魔王「心配するな。勇者よ、幸い目の前には魔法の箱があるじゃないか」
勇者「えっ!?」
魔王「これでどちらかを古賀埋めるように設定すれば良い。私は男だから女になりたいとは思わんがね」
勇者「いや、是非ともお願いします!」
魔王「まぁ、いいさ。性は男のままだぞ。ただ子を産める身体にするだけだ。いいか? 私は一向に構わんッッッ」
勇者「え、う、うーん……」
魔王「分かった、産むのは勇者に設定しておこう」
勇者「ま、待った待った! いいよ! それでいい!」
魔王「ふふ。それじゃあ、末永く頼むぞ。幸せな家庭を築こう」ニコッ
勇者「へっ、へへへ……へへへへ……」
二人は死ぬまで幸せに過ごしたそうな……
・-☆-☆-☆-・
「千年でバグが発見か」
「ええ」
「このまま続行しろ。修正はしたか」
「もちろんです」
「万が一の為に設置しておいて良かったな。あの時の教訓だ」
「ああ。やはりどうやってもバグとの戦いは続く。これは永遠の我々の課題だよ」
「まぁ、なんにせよ。緊急対処装置のお陰か。奴らはすんなり引いてくれた。これで」
「以後監視の目、それと開発者チームにバグ潰し、軌道修正を連絡しろ」
「完璧な箱庭を作り上げるその日は、まだ遠いな」
完
支援サンクス
ありがちネタだったけど楽しめてもらえたなら幸いです
ちなみに機械って言葉知ってるんだってって指摘がありましたが
ミスです。ごめんなさい
それではおやすみなさい
楽しかったです
Entry ⇒ 2012.01.13 | Category ⇒ 勇者魔王「」SS | Comments (0) | Trackbacks (0)
魔王「お前の泣き顔が見てみたい」
側近「・・・・・・そうですね」
勇者が来ない。
30年に一度、この魔界に降り立ち、鎧を全身を同胞の
血で濡らし、この地に暴虐を巻き散らす化け物ーーー勇者という人間。
その畏怖の存在は、20年前に訪れるはずだった。
魔王「何も起こらなければ良いのだが・・・」
側近「・・・というかあと何回このやり取りすれば気がすむん
です?」
魔王「む、良いではないか。こうしないと気が緩んでしま
ってなぁ・・・・」
5年前に先代魔王の後を継いだ魔王は、勇者という化け物
に会った事がない。勇者について知っていることは、
自分を殺すことだけに命をかけ、魔物の滅亡を望む人間
という事だけだ。
勇者が来ないということに、不安だけでなく幾らかの安堵が隠れていることも
確かだった。
勇者「・・・あの~、すみません」
そこに立っていたのは、みすぼらしい佇まいの人間の男だった。
旅人の服を身に纏い、首につけている黒い首輪は目につい
たが、杖代わりに手に持っているのはただのヒ
ノキの棒だけで、武器らしいものは何も持っていない。
顔は魔王の種族の中でも類を見ない程整っていたが、全体として
まとめるとやはりただの貧相な人間だった。
魔王「・・・何者だ、貴様。」
勇者「一応、勇者やってます」ニコッ
そんなわけあるか、純粋にそう思った。伝承の勇者とこの眼で
見る勇者とは明らかに違いがあったからだ。
殺気を感じない、いや、殺気どころか覇気すら感じない
。というかそもそもその風格がこの男には存在しなか
った。こんな弱そうな人間が勇者のはずがない。
勇者「うぅッ・・・・。なんか凄いけなされてる気がする・・・」
勇者「やっぱりそうですよね・・・、疑問系はいっちゃいま
よね・・・でも勇者なんです・・・、ごめんなさい」
うん、やっぱりこいつは勇者ではないな。
と、ここで我と取り戻した側近が叫んだ。
側近「勇者ッ!よくもぬけぬけと一人でここでッ!
死んでもらいます!!」
魔王「待て」
側近「魔王様ッ!?」
魔王「よく見ろ、こんなナリの勇者がいるか。第一
弱そうだ」
側近「そんな馬鹿なことが・・・・あれ?」
その勇者は「やっぱり納得しちゃいますよね・・・ごめんなさ
い・・・弱そうで、勇者に見えなくて・・・」とかぶつぶつ言って
背中を小さくしていた。
側近の方も我を取り戻すのに時間がかかりそうだ。
しに来た。話せ。」
勇者「話が早くて助かります!用件というのは
ですね・・・」
この言葉から、全てが始まったのだ。
勇者「雑用でも何でも良いのでこの城で働かせてもらえま
せんか?」ニコッ
魔&側「・・・ぇぇええええッ!!?」
この城までやってきた、もちろんこの城の者達もな。
そんな道理は通らない事ぐらい貴様にもわかるだろう・・・?」
勇者は弱弱しい事で呟いた。
勇者「でも僕、魔物は一度も殺したことなんかないんですけど・・・」
魔王「何・・・だと・・・?」
側近「大体、この城の頂上まで来るに一回も戦わずに来れる
なんてありえないじゃないですか!」
勇者「ああ、それは魔法でちょちょいと」
何のこともないかのように「難しい事じゃないですよ」と
付け足した。
側近「そんな馬鹿な事がッ・・・!」
魔王が片手で制す。
魔王「貴様のいう事が本当ならば確かに勇者なのかもな」
側近「魔王様!?」
・・・下手に手を出せばこちらが殺られる)」
魔王「(それに勇者だとしても敵意はないようだ、何事もないのであればそれに越した事はない。
私達は戦いを望んでいるわけではないのだから。)」
側近「(・・・・それは・・・)」
勇者「あの・・・それで僕はここで働かせてもらえるのでしょうか・・・?」
それに魔王は応じる。
魔王「ああ、許可しよう」
言う必要はないと思うが、と念のために確認をとる。
勇者「僕はここで働ければ何でもいいですよ?」
側近「・・・私はそんなの認めたくありません・・・」
魔王は呆れながら
魔王「私とてこんな事は不本意だが、仕方のない事だ」
と諭した。
勇者は具合が悪そうにあはは、と乾いた笑みを顔に
浮かべた。
魔王「さて、勇者よ。ここで働くのならこの城の
者に挨拶でもしてきたらどうだ」
勇者「それはそうですね。では失礼します」
側近「・・・あの者は本当に勇者なのでしょうか?」
魔王「それは私にもわからん。ただ、わかるのはあの人間
が私とは比較にならない程の魔力を持ち、敵意のかけらさえも
持っていないという事ぐらいか」
側近「私もあのような勇者は見たことがありません」
側近「これまでの勇者は皆、殺気と狂気に満ち溢れていました
から・・・・」
魔王「とりあえず今のところは雑用・・・という形を維持する
しかないな」
勇者が魔王の雑用など聞いたこともないがな、と笑う。
側近「もう、笑っている場合じゃないんですよ?」
勇者「うぅ・・・、いたた・・・」
勇者が頬をさすりながら床にへたりこんでいた。
厨房室の魔物「人間臭ぇっていってんだろ!まったく・・・
なんで魔王様は人間なんか雇ったんだ!!」
勇者「あはは、それは色々ありまして・・・」
厨房室の魔物「笑ってんじゃねぇ、胸糞わりぃ!」バキッ
勇者「ふぎゃっ」
厨房室の魔物2「もうその辺でやめときなよ、その人間は
何したってんだい?ただ挨拶に来ただけじゃないか」
厨房室の魔物「だがよ・・・」
どうやら止めてくれた魔物はこの魔物よりも上の立場に
あるらしい。
厨房室の魔物「ほら、あんたも今日のところは戻りな」
勇者「あの」
厨房室の魔物1「・・・なんだよ」
勇者「これから暫くの間よろしくお願いします」
厨房室の魔物1「・・・ッ!また殴れてぇのかテメェッ!!」ブンッ
勇者「わわっ、ごめんなさいっ」ダッ
厨房室の魔物1「ったくよぉ・・・」チッ
厨房室の魔物2「・・・何が不満なんだい?人間にしては
いい奴じゃないか」
厨房室の魔物1「・・・うるせぇっ」
魔王「・・・で同じような事を延々と繰り返してきてその顔か」
勇者「とりあえず皆さんに挨拶できてよかったですよ~」
あはは、と何も無かったかのように笑う。・・・笑うその顔は不気味だが。
勇者「後半は一度も殴られないで挨拶を終えられたん
ですよ?皆さんやさしいですね」ニコ
それはもはや殴るところがないからだ、というのが喉まででかかったが抑える。
魔王「フフッ・・・お前はなんだかおかしな奴だな」
勇者「それは光栄ですね」
勇者はそれに答えるように、恭しくお辞儀をしてみせた。
勇者「こんばんわ側近さん。あ、あとすみません雑用なのに部屋なんか
使わせてもらっちゃって・・・・」
側近「何か企んでいるつもりではありませんよね」
勇者「えっ、いやっ、そんな事全然考えてないですっ」
首をぶんぶんと振り否定するが、逆に肯定しているようにしか見えない。
勇者「窓から景色を見てただけですよぉ。ほら、魔王城ってすごく高いから
とても綺麗なんですよね」
側近「それだけの為に起きていた、というのはやはりおかしいです」
側近「・・・・どういう意味ですか」
勇者「いや、言葉通りの意味なんですけど・・・。他に意味なんてないから困りましたね」
側近「・・・わかりました、もう結構です」
勇者「あっ、側近さん」
側近「・・・・何か?」
勇者「おやすみなさい」ニコ
側近「・・・明日から早いので覚悟してください」
魔王「・・・相変わらずだな」
勇者「面目ないです・・・・」
勇者は申し訳なさそうに頭をさげた。
側近「全く・・・・!一ヶ月たってもロクに雑用さえできないなんて・・・この人間の食事、今日も抜こうかしら」
勇者「うえぇ・・・勘弁してくださいよ~」
もう三日間何も食べてないんですよ~、と泣きそうな顔で懇願した。
側近もわかっているだろう?」
あといい加減人間じゃなくて勇者と呼んでやれ、と微笑を浮かべながら付け足した。
側近「これのっ!どこがっ!勇者なんですか!?見てて情けないったらありはしませんよ!」
魔王「・・・それ以上言ったら勇者が小さくなりすぎて消えるぞ」
勇者の縮小具合は魔法でも使ってるのか?というくらい凄かった。
側近「・・・はい、今そちらに行きます」
魔王「・・・どうした」
兵士1「・・・」
兵士1は何も答えない。
魔王「・・・・ッ!!何がいう事があるならば、ここで言えば良い
だろう!!」
魔王の体から怒りと共に魔力があふれる。
顔を歪ませ、その口から呻くように言葉が零れ落ちる。
魔王「・・・・・・・・そんな私が魔王の座に居座っているのが気にくわないというのか・・・!」
兵士1「ひっ・・・!・・・あの、この城の辺境の村に八岐大蛇が出現したと報告があったのですが・・・はい」
八岐大蛇、前触れもなく現れ、山の如き巨躯を動かす
毎に大地が震え、あらゆる魔法を無効化する龍の鱗を
身に纏い、八つの首を持つ、《災害》の二つ名を持つ魔物。
ーーーーそんな化け物が村を襲えばどうなるかは考えるまでもないだろう。
側近「行ってはいけません」
魔王「・・・邪魔をするな!」
側近「子供のような事を言わないでください。貴方様はこの先何百年のも間この魔界をお導きになるお方・・・、
今ここでその命を危険にさらすわけにはいけません」
魔王「ここで命をかけずに・・・何が王だというのだ!!」
勇者「じゃぁ、僕がいってきましょうか?」
勇者は元の大きさに戻っていた。
八岐大蛇は魔王ですら一人では苦戦を強いられる程の相手。
それをこの人間は気負いもなく口にしてみせた。
側近「八岐大蛇がどういう化け物なのかわかってるんですか・・・・?」
勇者「いや、全然知りませんよ?会ったこともないですし」
魔&側&兵「・・・・」
暫しの沈黙の後、魔王が口を開いた。
魔王「現状はどうなってる」
兵士1「はい、鳥族部隊が既に村に到着していますが、あと数時間ももつかどうか、というところでしょうか・・・・」
兵士1「・・・よろしいので?」
兵士1は側近の方に目を向ける。
側近「駄目に決まっているでしょう」
魔王「うるさい!私は行くと言ったら行くのだッ!」
勇者「あの~、無視ですか・・・?」
勇者がまた小さくなった。
その言葉に魔王は不敵に口を吊り上げ
魔王「はっ、私の5倍生きてるババアの側近よりはマシだ」
とはき捨てた。まるで心臓に杭を刺されたかのように
側近の表情が歪むが、その表情はすぐに凶暴な笑みに塗り替えられる。
側近「・・・・・・どうやらお仕置きが必要みたいですねぇ」
魔王「いつまで世話係顔してるつもりだ・・・?」
勇者「・・・ちょっと僕の話を聞いてくださいよ!」
泣きそうな顔で勇者が口をはさんだ。
勇者「だから僕が行くって・・・」
魔王「ふざけている場合ではないのだ!」
この状況下でまだ戯言をぬかすとは、面白い奴だと
思ったが思い違いだったか、と内心で失望していると
勇者「・・・しょうがないですね」スタスタ
勇者は窓に向かって歩き始めた。
魔王「おい、ここは最上階だぞ。一体」
ーーーどれだけの高さがあると思っているのだ、と言う前に
勇者「じゃあ、いってきます」タン
いつもの穏やかな笑みを浮かべながら飛び降りた。
魔&側「・・・・ぇええええええええええ!?」
絶賛落下中にも関わらず勇者はその笑みを崩さない。その右手に魔方陣が描かれる。
勇者「流石にこのまま落ちたら怪我しそうだしなぁ・・・、ほっ」
左手には異なる魔方陣が輝き、両手を下にかざす。
すると紋様と紋様が溶けるように交じり合う。
勇「急がないとね」
その瞬間、ドンッ という音と共に、勇者の体はかき消え
その軌道が二つの光の残像によって赤い空に描かれた。
魔王「魔法の・・・同時発動だと!?そんなものは今まで聞いたことが・・・!」
本来魔法というものは一つの役割の為に《元始の魔王》が生み出した
ものだ。元々重複ができるように作られていない。
魔王「勇者・・・か。何て怪物だ」
側近「・・・魔王様」
魔王「・・・なんだ、話せ」
側近「歴史上の勇者の中でも・・・あんな事をしてのけるのはあの人間だけです」
村では民の避難が行われていた。地下があるのは勇者一行による
被害を最小限に抑える為のもので、日頃から訓練をしているからか
民の避難も速やかだった。
鳥族1「このままいけばなんとか被害は食い止められるか・・・・!」
仲間の悲鳴と共に大気を震わす程の咆哮が響き渡る。
鳥族2「ぐあああぁッ!!」
八岐大蛇「ギャオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!」
鳥族1「くッ、東ももう長くはもたねぇか・・・!早く、早く来てくれッ・・・・!!」
民の一人がこちらに必死の形相で走ってくる。
鳥族1「おい、何をしている!ここは危険だ!戻れ!!」
鳥族1「チィッ・・・!!」スタン
鳥族1「何してやがる!!死にてぇのか!」
エルフの女「お願いです!助けてください!お願いです!」
鳥族1「あぁ、助けてやる!だから早く逃げろっつってんだろ!」
エルフの女「違うんです!娘が・・・娘がいないんです!」
エルフの女「ひ、東です!」
鳥族1「よりによって東かよ!あぁもう畜生!!」バサッ
翼に力を込める。
鳥族1「おいあんた!ガキは必ず助けてやっからあんたは逃げろ!」
エルフの女「はい・・・!あ、ありがとうございます!」タッ
鳥族1「畜生、畜生・・・!誰も死なしてたまるかってんだ
よ・・・!罪のねぇ民が死ぬのは勇者でもうたくさんなんだっ!!」
鳥族1はさらにあらん限りの力を翼に込める。もう二度と
、自分の目の前で民を殺させない為に。
殺戮の音が鳴り響く中、少女は家の影でうずくまって震えていた。
エルフ少女「みんな・・・怖いよぉ」ポロポロ
鳥族3「ぐはぁッ!・・・ここまでか・・・!」ドサ
鳥族4「くそッ、このままでは・・・!」
八岐大蛇「グルルル・・・・」
鳥族3の視界が少女の姿を捉える。
鳥族3「なんてことだ・・・・。おい!鳥族4!」
鳥族4「大声出すんじゃない!殺されるぞ!」
鳥族3「そんなのはどうでもいい!ここに・・・まだ民が残ってるんだ!!」
鳥族4「何だと・・・!?」
化け物にやられた同胞たちが視界に入る。
鳥族4「くそッ・・・・!まだ死ぬわけにはいかないじゃないか!!」
城の兵士の方が来てくれた。助かるかもしれないと思った。
でもそれは間違いだった。自分の為にあの化け物と
戦ってくれた兵士様は簡単に殺されてしまった。
死が自分に近づいてくる。その度に大地は震え、その八つの顎から炎が漏れる。
ーーーーー死にたくない。
エルフ少女「・・・助けて」
誰に助けを求めているわけではない、ただ言葉が漏れる。
八岐大蛇「ギャォオオオオオオオオオオオオオオ!」
その死は口から灼熱の炎を吐き出した。空気がちりちり
と焼けていく。死が少女の目前まで迫る。
少女はああ、本当に私は死んでしまうんだ、どうせなら
お母さんとお父さんにもっといい子にして喜ばせてあげ
たら良かった、と思う。その心の中はとても静かで、
別の自分が今の私を見ているようだった。
だが死が少女を飲み込むことはなかった。
勇者「・・・随分と遅くなってしまいました」
勇者『そうだね』
エルフ少女『でっ、でもこれからも私達が危険にさらされた時は
助けに来てくれるんですよね』
勇者『・・・ごめん、ずっと守り続ける事はできないかもしれない』
エルフ少女『・・・そうなんですか』
勇者『絶対なんて言葉は存在しないんだ、・・・わかってほしい』
エルフ少女『・・・じゃあ私、強くなります!勇者様が助けにこれなくても
村を守れるように!』
勇者『ああ、お願いするよ。約束だ』ニコ
エルフ少女『はいっ!約束です!』
私達の村を訪れた勇者と名乗る人間、私が小さい頃に
森に迷い込んでしまって泣いていた時に出会った人間、
いつも私を助けてくれた人間。
でも村に来てから2年ほど経った頃に村を出たはずだった。
もう勇者様に助けてもらわなくてもいいように、私は強くなった筈なのに。
私の魔法はあの怪物には全然効かなくても、もう泣かないと約束したのに。
エルフ少女「勇者様、・・・私っ、約束・・・」ポロポロ
勇者「もう充分すぎるくらいだよ」
あの時と何も変わらない、私を安心させる笑みを向けて、
勇者「あとは僕にまかせて」
勇者様は怪物を見据えた。
憤怒に塗られた咆哮が響き渡る。獲物を横取りさせた為
か、十六つの憎しみの目を勇者に向ける。
勇者「これならまだ助けられますね」
勇者はそれに見向きもせず、鳥族達を見渡す。
その時には恐るべき速度で鋼鉄の鞭の如き尻尾がうなり
をあげて迫っていたが、突然勇者の後ろに現れた魔法陣に容易く弾かれた。
勇者「僕は貴方を殺したくない」
微笑んでいるがその目には何の感情も映していない。
八岐大蛇「グルル・・・・」
軽く唸り声をあげ、ゆっくりを勇者の前に八つの頭を差し出した。
勇者「もう二度とこの周辺には近づかないてほしい。・・・お前の一族
にはそう伝えておけ」
私には目前のまるで御伽噺のような光景を信じる事ができなかった。
エルフ少女「嘘・・・あの八岐大蛇を手懐けるなんて・・・」
勇者「覚えててくれて光栄ですよ」ニコ
勇者の手には白い魔方陣が創られている。
鳥族4「回復、魔法なんて・・・代物、ポンポン使いやがって・・・お前何者だよ・・・」
勇者「皆さんを治してる・・・ただの人間ですよ。安心して
ください、命さえあれば助けられますから」
鳥族1「・・・おい」
その目には殺気が篭っている。
勇者「・・・なんでしょうか?」
鳥族1「しらばっくれてんじゃねぇ・・・・!!」ジャリン
鞘から鈍く輝く刀剣が抜かれる
鳥族1「お前・・・勇者なんだろ?」
勇者「・・・そうだったらどうします?」
鳥族1「お前を・・・殺す!!」
も腑抜けになってんだよ・・・!!」
勇者「・・・」
鳥族1「この八岐大蛇の襲撃もそうなんだろ・・・?お前が
来たら直ぐに収まったもんなぁ・・・!おまけに殺さなかったんだって?
どう考えても正気の沙汰じゃねぇ」
鳥族1「なぁ勇者さんよ・・・。お前らはあとどれだけ俺たち
を苦しめれば気が済むんだ?この襲撃の件を経て
信頼を得た後でお前は何をする気なんだ?」
鳥族1「なぁ・・・教えてくれよ!!」ビュッ
剣が勇者の足元に刺さる
鳥族1「・・・その剣ととって俺と戦え」
勇者「・・・ずいぶんと優しいんですね」
だが勇者は動かない。
鳥族1「その剣をとれといってんだよ!!!」
エルフ少女「やめてください!」
助かったのか、と一瞬気が緩みそうになったのを引き締める。
エルフ少女「勇者様は・・・この方は怖い人なんかじゃ
ないです・・・!・・・どうして決め付けるんですか?!」
鳥族1顔がビキリと歪む。
鳥族1「何もわかってねえな・・・何もわかってねえよ。
何だ、同胞だけじゃなくこんな子供まで洗脳したってのか・・・?」
エルフ少女「そんな酷い言い方ッ・・・」
鳥族1「勇者共が今まで何をしてきたか本当にわかって
んのかッ?!!お前の村だって今まで一体何回
勇者共に襲われたと思ってんだ!?お前はその化け物に騙されてんだよ・・・・!」
エルフ少女「それでもこの人は違うんです・・・!化け物
なんかじゃ・・・ッ」
勇者「もういい・・・もう充分だよ、ありがとう」ニコ
エルフ少女「でも・・・」
勇者「僕から離れた方がいい。なに、大丈夫だよ」
僕はこういうのにはもう慣れてるからね、と微笑みながら呟いた。
勇者「あなたを殺す気なんかさらさらありませんからね」
鳥族1「・・・・あ?」
勇者「あッ、でもできれば僕も今はまだ死にたくないんですよ」
あはは、と困ったような表情を浮かべる。
鳥族1「・・・もういい。お前の都合など知ったことか」ジャキ
鳥族1「お前ら勇者共もいきなり何の罪もねぇ民を皆殺し
にしてきたんだ・・・・、俺にその権利がねぇとは言わせねぇ!!」ダッ
エルフ少女「勇者様・・・!!」
俺にだってわかってんだ、この勇者が他の奴らとは違うって事ぐらい。
八岐大蛇がこの野郎のせいじゃねぇって事ぐらい目を見ればわかる。
だがよ、こいつに本当に危険がねぇかどうかはわから
ねぇじゃねぇか。ほんの少しの危険性でも見逃すわけにはいかねぇんだ。
こいつが少し指を動かすだけで俺なんか簡単に殺される
んだろうな、だからよ
俺の命でこいつの化けの皮を剥いでやるよ。
目にも追えない速さで勇者の心臓に向かって剣突が繰り出される。
さぁ見せろ!!お前の本性をよ!!
だが勇者は決して動かない、鳥族1を見据えたまま。
・・・こいつッ!!避けないつもりかッ!!・・・くそ!俺も後には引けねぇ!
鳥族1「うぉおおおあああああ!!!」
ドスッ・・・・・・
場に静寂が満ちる。・・・その静寂をついたのは少女の震える声だった。
エルフ少女「いや・・・・、やだよそんなのぉ・・・」ポロポロ
翡翠色の瞳に映されたのは、勇者が胸を剣で貫かれた姿だった。
鳥族1「・・・・なぜ・・・避けなかった」
勇者「そりゃぁ・・・信じてましたからね」ニコ
勇者「やっぱり鳥族1さんはやさしい方ですよ、こうして
僕は生きてるんだから」
鳥族1「ハハッ・・・急所をずらした事もお見通しかよ」
無償に笑いたくなった。
鳥族1「なんかもう・・・いいや、俺の負けだ」
・・・こんなに馬鹿みたいに何でも信じる奴が命を奪えるわけねぇじゃねえか。
鳥族1「おいガキ」
エルフ少女「・・・・ッ!・・・貴方は絶対に許しません」キッ
鳥族1「安心しろ、お前の勇者様は生きてる。ピンピンしてるぞ」
勇者「いやっ、急所は外れてるけどすごく痛いですからっ!」
エルフ少女「勇者様っ!」ダッ
頭から勇者に突っ込んだ。
勇者「ふぎゃっ・・・・死んじゃう」
した。結果的に八岐大蛇による村の被害は東の一部分のみで誰も命を落とすことはなかった。
魔王「勇者、何と礼を申せばよいか・・・本来ならば
私自身がやらなければいけなかったものを」
勇者「ん~、でもあの状況で動けるのは僕だけでしたし」
側近「それにあの八岐大蛇が襲撃したにもかかわらず
民も兵も誰も命を落とさずにすんだなんて・・・どっちが化け物なのかわかりませんね」
勇者「側近さんの精神攻撃にはどんな防御魔法も効きそうにないです・・・」
魔王「で、だな勇者よ。これだけの功績をあげたお前に
だな、こほん。わ、私から何かしてやれる事があるならばやってやってもよいぞ?」
側近は何か得心したかのように手をポンと叩いた。
側近「まぁ、誘惑ですか?」
魔王「違うわ阿呆っ!!」スパーン
魔王「・・・・で、何かしてほしいことはあるか?」チラッ
勇者「う~ん、そういうのはあまり考えた事がありませんからねぇ」
魔王「そ、そうか」
勇者「・・・・あっ、今一つ思いつきました!」
その声は少し弾んでいる。
側近「もう少し待ってください。魔王が少しの間でも城を
離れるなんて特例中の特例なんですから・・・村がとても近い
から許可がなんとかとれたんですよ?」
魔王「それはそうだが・・・」ウズウズ
側近「魔王のこんな姿をあの人間が見たらどう思うか・・・」ハァ
魔王「なぜそこで勇者が出てくるのだ?・・・む、その前に勇者はどこに行ったのだ?」
側近「もう、さっき部屋を出て行ったのを見てなかったんですか
・・・。あの人間は一足先に村へ向かったそうですよ?」
側近「・・・」
魔王「ええい、そんな目で私を見るでない!仕方ないだろう?
私が外に出るなんて一体何年ぶりだと思っている!」
側近「・・・たった8年ですが?」
魔王がクワッと目を見開く。
魔王「8年も、だ!今まで生きてきた時間の約半分だぞ?正直言って息がつまる!」
子供のように喚く魔王を横目に見ながら
側近「・・・本当ここにあの人間がいなくて良かったです」
とやるせなそうに呟いた。
・・・もしここに勇者がいたら魔王の尊厳が急激に降下
を始めていただろう。
勇者を満面の笑みで出迎えたのはエルフ少女だった。
エルフ少女「勇者様っ!来てくれたのですね!」ダッ
勇者「うん、今は何かと手が足りないんじゃないかと
思ってね。あとでまた城の者が来ると思う。魔王様も来るよ」ニコ
エルフ少女「ま、魔王様が来るって本当ですか!?」
勇者「うん、少し遅れてくるみたいだけどね」
エルフ少女「新しく就任なされた魔王様ってどんな御方なんですか?」
勇者「・・・すごく純粋な御方だよ」ニコ
エルフ少女「むっ!その笑みに何か危険な匂いを感じま
したよ!さては魔王様は女性ですね?」
勇者「おぉ、よくわかったね」
エルフ少女「ふぐぐぐ!権力なんかに私、負けません!
私まだ子供ですし!これからですし!うわーーーん!」ダッ
いきなり涙目になって走り去ってしまった・・・。
勇者「2年ぶりに会ったからまだたくさん話したい事あったのになぁ・・・」
村長「勇者殿、お久しぶりですな~」ニコ
勇者「こちらこそどうも~、ご無事で何よりです」ニコ
一瞬にしてのんびりした空気が周辺を支配する。
村長「いやはや、もうこれで何度村を助けてもらったかわかりませんなぁ」
勇者「・・・東の一部に被害をだしてしまったのは申し訳ないですけどね。よっ」
角材を持ち上げ、肩に担いだ。民の一人が声を上げる。
「勇者さんこっちにその角材持ってきてくれ!」
勇者「今行きます~、あ、村長またあとで」タッ
村長「人間が皆勇者殿の様であれば、人と魔物が憎しみ合う
事は・・・・・・ふふ、意味のない事だとわかっていても
勇者殿を見ていると何度もそう思ってしまう」
城の者が村に到着してからは修復速度は上がり、日が
落ちる前には村はほぼ元通りになった。・・・・当然魔王が着く頃には。
魔王「・・・私が来た意味はあったのだろうか」
側近「じゃあ戻りましょう」
魔王「待て」ガシッ
側近「ならそんな事を言ってないで民と城の者達に労いの言葉でもかけたらどうです?」
魔王「むむむ、最近私に対する口が悪すぎるのではないか?」
側近「だったらもう少し魔王らしく堂々としてください」
魔王は顔をしかめた。
魔王「むぅ、そう言われてはかなわんな」
魔王「うむ、此度の件はご苦労だったな」
民幼女「あっ、魔王様だ!」
元気な声を上げて子供が魔王のもとへ駆け寄ってくる。
村長「こら!魔王様の前でそんなはしたない!」
魔王「よい」
民幼女「わぁ!魔王様ってきれいなお姉さんなんだぁ!
私魔王様に初めて会っちゃった」
魔王「き、綺麗・・・?そういう事はよくわからないが礼を
言っておくべきなのだろうな・・・」ニコ
民幼女「うん!私の種族の中ではすっごく綺麗な方だよ!あ、あとね!魔王様にお礼が言いたいの!」
うん!と花が咲くような笑みを顔一杯に広げて幼女は魔王に言った。
民幼女「えっと、私達みんなを助けてくれて、ありがとうございました!」
魔王の瞳が見開かれた。そして顔に微笑みを浮かべて幼女の頭を撫でる。
魔王「・・・私は何もしていない。礼を言うなら城の者や・・・勇者に言えばいい」
民幼女「うん、もうみんなにお礼を言いにいったんだけどね!
みんな言ってたよ!お礼は魔王様に言ってくれ、って!」
魔王「・・・何?」
民幼女「だってね?確かに自分達はこの村を助けたけど、
それができたのも魔王様が素早く決断してくれた
からだって!この村を助ける事ができたのも、
元通りにできたのも魔王様のお陰だからって!」ニコッ
民幼女「やっぱりお母さんの言った通りだった!魔王様
は私達魔物の事をいつも考えてくれていて、いつも
助けてくれる凄い御方だって言ってたもん!」
だめだ、泣くことは許されない。私はこの子の前では《魔王》なのだから。
民幼女「魔王様はこれからも私達が危ない時は助けてくれるんだよね!」
魔王「・・・ああ、そうだな」ニコ
あふれ出る想いを必死に抑えて笑みをつくる。
そして魔王は自分の首から首飾りを外し、その子の首にかけた。
側近「魔王様ったら・・・」ハァ
民幼女「わぁ~、きれー。これくれるの!?」
村長「ま、魔王様!?」
魔王「いいんだ、元々私はこういう物にあまり興味がないからな」ニコ
魔王はその子の頭をやさしく撫でた。
魔王「その首飾りにかけて誓おう。私は必ず皆を守ると」
魔王が勇者を倒し、また倒される存在だと誰が決めたのか。
そうではないのだ。今ならわかる、魔王とは民の事を
考え、守る存在なのだ。たとえ私がまだ魔王たるに未熟だとしても、もう私に迷いはない。
村長は静かな声で答える。
村長「・・・はい。かれこれもう3時間は」
魔王「なぜあいつは墓の前で祈っているのだ?」
村長「あの墓には・・・歴代の勇者一行達の犠牲になった民達が眠っているのです」
魔王&側近「・・・・・・ッ!!」
昔を懐かしむように村長は言葉を続ける。
村長「・・・勇者様がこの村にいた頃は毎日ここで何時間も祈っていたものです」
側近「やはりあの人間はここに来たことがあるのですね?」
そうでなければ民の勇者へ対する態度の説明がつけられない。
魔王「城に来るにはこの村を通らなければならないからな。・・・勇者はどうやって村を通るこ
とができたのだ?」
村長「勇者様がわざわざ私の所へ来て頼んだのですよ。
やる事があるんです、ここを通させてもらえませんか、と」
村長は困ったように笑う。
村長「まさか、そんな事を許可する筈がないでしょう?あの勇者ですよ?
そんな危険な存在を魔王様の城へ近づかせるなど考えただけで恐ろしい」
魔王「・・・それで?」
村長「ええ、本当ならすぐに村から追い出したかったのですが、村の外の森で
エルフ少女を助けられたという事もあったので少しだけ滞在を許可したんです」
村長「それに勇者ほどの力をもつならこの村を通るのは
力ずくでも容易な筈なのに何故私に許可を求めたのかが疑問でしたからね」
村長「それは当たり前ですよ、なにせこの村はこれまで
幾度も勇者一行に苦しめられてきたのですから」
村長「勇者様の民の墓で祈りを捧げる行為も民の怒りの
琴線に触れたのかもしれません」
村長「民の勇者様に対する行動は私の目から見ても凄まじい
物でした。勇者様に対する罵倒、暴力、・・・魔法によ
る攻撃さえありました。おそらく食事をまともに
摂ることさえできなかったのではないでしょうか」
魔王「・・・」
反撃をする事は一度もありませんでした」
村長「・・・私にはその光景がまるでこの村に歴代の勇者達が
民に与えてきた恐怖、憎悪、怒り、悲しみの全てを勇者様
お一人で背負っているかのようにも見えました。」
村長「そのような状態が半年は続きました。しかし私は
こう思うようになりました。この勇者はこれまでの
勇者とは違うのではないか、と」
村長「森の主が村をいきなり襲ってきた時のことです。
その時は民のほとんどが狩りに出かけていて守りが
手薄だったのです。村への侵入を許してしまいまし
た」
側近「それをあの人間が・・・」
村長「はい。私は心から後悔していました。ああ、もし
最初から勇者様とちゃんと接していれば村を
主から守ってくれたかもしれないのに、と都合の
良いものですね。私達は勇者様にこれまで何を
してきたのかを考えれば希望などない筈なのに」
村長は自嘲的な笑みを浮かべる。
疾風の如き速さでその場に駆けつけ、主を打ち倒したのです。」
村長「私達は勇者様に言いました、そいつを殺してしまえ
、と。ですが勇者様は何と言ったと思いますか?」
村長「この魔物おいしそうじゃないですよね、と言ったんですよ」
くっく、と村長は堪えきれずに笑う。
生きる糧にする為に殺すのはかまわないが、私情の為に殺す事はできないと」
村長「その時からでしょうか。民の勇者様に対する態度
が徐々に徐々にゆっくりと和らいでいったのは」
村長「今から半年前にここを出る頃にはもうすっかり
私達の家族のようになりました。できれば
ずっと村にとどまってほしかったのですがね」
未だに祈りを続けている勇者に目を向ける。
村長「・・・このような事をあの方は何度繰り返して
きたのでしょうか・・・。どれだけの魔物の心
を救ってきたのでしょうか。私などでは想像もできません」
魔王「・・・」
村長「・・・さて私の長話もここまでです。お付き合い頂いて有難うございました。」
魔王「・・・いや、有意義な時間だったよ」
村長「ただ、これだけはわかっていただきたいのです」
魔王「・・・何だ?」
村長「勇者様は魔王様にとって危険な存在などでは決して
ありません。必ず貴方様のお力になるということを・・・」
勇者「いやぁ、本当申し訳ないです。遅くなっちゃって」
あはは、といつもの笑みを浮かべて勇者が戻ってきた。
側近「全くもってその通りですね。雑用という立場とちゃんと弁えて下さい」
勇者「うっ・・・、ご、ごめんなさい・・・」
側近「謝るだけなら誰でもできます。態度で示してください」
勇者が小さくなった。
側近「魔王様も魔王様ですよ!あの首飾りがどんなに
貴重なものがわかってるんですか!?」
魔王「ええと、マくやらなんとかだな」
側近「魔具ですよ!魔具!魔法が籠もっている装飾品な
んてそうそうないのに・・・!」
魔王「いいんだ、あれは私の誓いの証なのだからな」
その声は静かだが、確かに熱が篭っていた。
側近「・・・なんだか魔王様変わりましたね。この人間のせいですか?」
魔王「ち、違う」
勇者「・・・・何がですか?」
魔王「勇者!お前は雑用だろう!さっさと行け!」クワッ
勇者「は、はいぃ!」ダッ
側近「・・・」ジトー
魔王「・・・な、なんだその目は」
「まさかあの雑用が勇者だとはな・・・」
「いますぐ殺してやりてぇが・・・」
「ああ、辺境の村を救ったらしいじゃないか」
「くそっ、敵なのか味方なのかハッキリしてほしいもんだな・・・」
勇者「な、なんかいつもより皆さんの視線が鋭いような・・・」
後ろから声がかかる
鳥族1「よう」
勇者「あっ、鳥族1さん!この前はどうも・・・」
鳥族1「前置きはいいからよ、ちょっと話そうぜ」
勇者「でも僕仕事が・・・」
鳥族1「こんな状況で仕事なんかできねぇよ。お前雑用
なんだから兵士に付き合うのも仕事の内だろ?」
あっ、わざわざ伝えてくれてありがとうございます!」
鳥族1「ああ、別にかまわねぇ」
鳥族1「正直な所、荒れてるな。お前が敵なのか味方なのか判断もつかねぇ状態だ」
勇者「あはは、それは当たり前ですよね~」
鳥族1「見たところ余裕そうだが・・・お前これからどうするつもりだ?」
勇者「いや、どうもしませんけど・・・・」
鳥族1「・・・本気か?」
勇者「ええ、こういうのは慣れてますからね」ニコッ
鳥族1「はは・・・お前はそういう奴だったな」
鳥族1「・・・一ついいか」
勇者「・・・なんなりとどうぞ?」ニコ
鳥族1「なんでお前はこの城の者達の中に知ってる奴が
何人もいることを隠してる。・・・お前が口止め
したんだろ?僕の事を知らない振りをしてくださいってな」
勇者「あはは・・・みなさんしゃべっちゃったんですか」
困ったように勇者は笑う
鳥族1「馬鹿が、俺は目を見れば大抵の事はわかるって
言っただろうが。あいつらは絶対に口を割らなかったぜ」
勇者「・・・貴方は怖いですね」
他の奴を見かけるとき明らかにお前の相手の目つきが
お前を嫌っている物じゃなかったからな。」
鳥族1「お前はここに来るまでに多くの村や集落を訪れた
んだろ?そんだけ知り合いが多くて城の中にはだれ
も僕の事を知りませんなんて事はありえねぇ」
勇者「・・・」
鳥族1「・・・そもそもこの状況も元からお前が城の者と知り合
いがいることを隠さなければ起きなかったんじゃねぇか?」
勇者「・・・それじゃ駄目なんですよ」
勇者「確かに鳥族1さんの言う通りにしていたら城の方々
が僕を見る目は今ほど厳しくなかったかもしれません」
勇者は穏やかに言葉を続ける。
勇者「ですが城の友人が勇者は危険ではない、と
聞かせれても本当に納得できますかね?納得した
としてもそれは表面上だけで、心の底には僕に対する
不信感は消えない筈です」
鳥族1「・・・だったら初めからお前の事を知らない方が
いいってか」
確かに俺だったら聞いただけじゃ納得なんかできねぇ。
勇者「ええ、自分で感じた事以上に信じられるものはあり
ませんから」ニコ
勇者「僕が危険なのか危険じゃないのかは城の方達に
自分自身で判断してほしいんです。・・・危険かどうか
なんて事は僕にもわからないんですからね」
鳥族1「・・・そうかい、じゃぁせいぜい城の奴らにボコボコにされるこったな」
鳥族1が手を振りこの場を離れて歩き出す。
勇者「あっ、鳥族1さん!」
鳥族1「・・・何だ」
勇者「話してくれて、ありがとうございました。
やっぱり貴方は優しい方です」ニコ
鳥族1「・・・お前に言われたくねぇってんだ、ボケが」スタスタ
勇者はその後ろ姿を見送り、静かな声で呟いた。
勇者「・・・僕は優しくなんかない、ただの臆病者なんですよ」
勇者「・・・ふぁい」
勇者の顔は約1,5倍に膨らんでいる。
側近「そんな馬鹿げた姿晒してないでさっさと回復魔法でも
使えば良いでしょうに」
勇者「へふれふぁほふぉおわつかへいたくないんえすよ」
側近「何を言っているのか全然わかりませんね」
それから勇者は話せるようになるまで30分ほど要した。
勇者「・・・ええと、何を言ってたんでしたっけ?」
側近「その腫れた顔をさらに倍の大きさにしますよ?」
勇者「そうでした!魔法の話でしたねっ!」キリッ
魔王「そういえば前から疑問に思っていたんだ・・・」
言葉を続ける。
魔王「どうしてお前は魔法をあまり使わないのだ?」
あの村で使って見せたという高度な回復魔法、
それだけではお前は並ならぬ魔法使いだろう?」
勇者「いやあ、照れますね~」テレテレ
側近「ふざけないでください」ガスガスガスガス
勇者「・・・ッ!!腿にヒザは勘弁してくださいよぉ!」
魔王「・・・こほん、だがお前はそれを日常で使う事はないな。
自分の怪我の時、修復の為に村へ向かうときも徒歩だったではないか」
勇者「ああ、それは魔力がもったいないからですよ?」
魔王「・・・魔力なら休めば回復するではないか」
勇者「あれ、言ってませんでしたっけ?僕の魔力が回復する事はないって」
魔王「・・・お前に有り得ないなんて事は通用しないか」
勇者「あはは、そんなにすんなりわかってもらえるとは
思ってませんでしたけどね」
側近「・・・その首輪が原因ですか?」
側近は勇者の首につけられた黒い首輪に目を向ける
勇者「ぉお!流石側近さんです!ご名答ですよ!・・・なぜわかったんです?」
魔王「私はわからなかったのに・・・」
側近「首輪から幽かな違和感を感じられますから。」
まぁそこまで気にするほどではありませんが、と付け足す。
側近「・・・・!いえ、全く・・・」
先ほどの違和感は嘘のように掻き消えていた。
勇者「あはは、やっぱりまだ完璧には押さえ込めていな
かったんですね~。詰めが甘かったなぁ」
魔王「その首輪は何時から着けているんだ?」
勇者「う~ん、大体30年前ぐらいですかねぇ」
魔&側「・・・・・・ッ!!!」
勇者の外見がおかしい。人間は20歳を超えたら肉体が衰え始
めると聞いていた。勇者はどう考えても30歳を超えていない
、肉体が全く衰えていないのだ。
勇者「それはすっごく前の事ですよね?」
側近「それは・・・そうですが」
確かに人間に関する情報ははるか昔から伝えられてきた
もので、確実に信憑性があるわけではない。
勇者「変わったんですよ、人も。今の人間の寿命は300歳を超えていますから」
魔王「3倍だと・・・・!?」
生物の寿命を決めるのはその肉体と魔力の許容量だ。
人間の肉体自体は今も変わっていない筈だ。
魔王「・・・それほどの魔力をもつようになったのか」
勇者「ええ、そうです」
勇者「・・・・なんですか?」
魔王「・・・何故そんなにお前は辛そうな顔をしている」
何故お前は辛くて、悲しくて、悔しくて、痛くてたまらないかの
ような顔をしているんだ。人間が力を持つようになった
んだ、お前は喜んでも良いのではないか?
勇者「えっ、今そんな顔してました?」ニコ
・・・その笑みの下に何を抱えているんだ?
魔王「まあいい、・・・で、お前もその影響でその若い姿のままなのか?」
勇者「・・・」
勇者の笑みがわずかに強張るのがわかった。
お前の事が知りたい。
側近「魔王様・・・」
勇者「・・・・あはは、僕の事が知りたいなんて言われたのは
生まれて初めてですよ」
その笑い方は今までで見たことがなかった。その笑い方は子供のように無邪気で、だがとてもぎごちない。
勇者「そうですね・・・、どこから話せば良いですかね。
一つ、昔話でもしましょうか?題名は・・・そうですね・・・」
勇者「加護と祝福を受けなかった勇者の誕生の物語」
勇者「そしてその親はその赤ん坊を恐ろしく思い
村の外の森の奥深くに捨てました」
勇者「その赤ん坊は化け物でした。長い間何も食べずに
そのままにされていても死ぬことはありませんでした」
勇者「そこにある男の人が通りかかりました。その男の
人はその赤子をかわいそうに思い、自分が育てることにしました。」
勇者「この国では子供が新しく生まれると必ず《神の祝福》
を受けさせる為に王国へ向かう義務がありました。
それは他の国でも同様でした。そうすることで
その子供は病なく健やかに生きることができます」
勇者「でもその男の人はその赤子を王国に連れて行く事は
ありませんでした。その男の人は王国を嫌っていたのです」
人間の3倍の速度で成長するその少年を気味が悪いと
執拗にいじめました。毎日毎日化け物、化け物と
呼ばれて過ごしました」
勇者「しかしその少年は絶対にやりかえしませんでした。
自分を拾ってくれた男の人、父の教えだからです。
その少年の体は傷ついてもすぐに治りました。
でも心はなかなか治りませんでした」
勇者「父だけはいつもその少年にとても優しくしてくれ
ました。少年もそんな父の事が大好きでした。
父だけが少年の味方でした」
勇者「10歳になる前日、少年は父に王国に行きたいと
お願いしました。10歳になると王国に行き、
<神の加護>を受けているかどうかを調べる
しきたりがあったからです。《神の加護》を
受けているとわかると、その子は勇者に
なる事ができます」
勇者「少年はもう皆から化け物と呼ばれるのは嫌でした。
勇者になれば皆も自分に優しくしてくれる、そう信じました」
でした。少年がどんなにお願いしても駄目でした。
少年は絶望しました。」
勇者「このまま化け物を呼ばれ続けるのなら、と少年は
死ぬことに決めました。そして崖から飛び降りたのです。」
勇者「少年は死にませんでした。全身がどんなにぐちゃ
ぐちゃになっていても、みるみるうちに体が
元に戻っていくのです」
勇者「少年は自分に恐怖しました。自分はなんて化け物
なんだ、と。もう死ぬことができない少年に
残された道は王国に行く事だけでした」
勇者「少年は父には何も告げずに王国へ行きました。
教会の人は少年にきみを何年も待っていた、と
言いました。少年はもしかしたら勇者になれる
かもしれないと嬉しくなりました」
薬を飲まされました。そこで少年の意識は消えました。」
勇者「次に目を覚ました時に少年は絶叫しました。
辺り一面が血の海だったのです。周りをみると
たくさんの教会の人達が横たわっているのがわかりました」
勇者「ああ、自分がやったのだ、すぐにわかりました。
少年は泣きました。少年の心では複数の命を
奪った事に耐えることはできませんでした」
勇者「それからすぐに教会の人たちが少年の下に
やってました。君は何も悪くない、そう言われま
した。でもそんな言葉はもうその少年の心には届きませんでした」
少年はとても信じられませんでした。自分なんかが
このような御方の前にいるなんて、と」
勇者「少年は懇願しました、自分を殺してくださいと。
少年は自分がどんな化け物なのかということ、
複数の命を奪ってしまった事を泣きながら訴えました。」
勇者「王様は少年にある黒い首輪をかけました。すると
驚くことに自分の内にある力が半減したのが感じ
とれたのです。しかしそれでも自分が化け物の
ような力を持っていることには変わりませんでした」
勇者「少年は自分が恐ろしいと言いました。
この自分の内にある力が恐ろしくてたまらないと」
たなら、その者達の分まできみは出来ることをする義務がある、と。」
勇者「そして王様は言いました。きみは勇者になるのだ、と」
勇者「そうして世界に<神の加護>も<神の祝福>も
持たない勇者がこの世界に誕生したのでした」
勇者「・・・と話はここまでで終わりです」ニコ
魔&側「・・・・・・」
勇者「もうわかりますよね」
勇者「僕は勇者なんかじゃない・・・・」
勇者は笑う。
勇者「ただの化け物なんです」ニコ
しているなら何故・・・」
勇者「ああ、僕の肉体年齢は昔の人間で言えば18歳ぐらい
で止まってるんですよ。僕の力が20歳から始まる
老化をダメージとして排除してるんですよ」
側近「でも顔の傷は・・・自動的に治らないんですか?」
勇者「それは意識的に止めてるんです。この老化を止める
魔法を止めるのは今もできないままなんですけどね」
魔力がもったいないです、と勇者は困ったように笑う。
勇者「老化と止めるのにも魔力を使いますからね」
側近「あの・・・・その父親はどうなったのですか?」
勇者「死にましたよ?」
側近「・・・」
勇者「僕が勇者になってからすぐに、僕を取り戻す為に
王国へ一人で攻めたらしいです。まぁ返り討ちに
あったんですけどね」
勇者「あの時ほど泣いた事はなかったなぁ・・・。あ、
昔は僕ってすごく泣き虫だったんですよ?」
あはは、と勇者は笑う。
その声は震えている。
側近「魔王様・・・」
魔王「なぜお前は笑っていられるのだ!泣きたいのなら
泣けばいいだろう!?」
勇者「・・・笑うしかないじゃないですか。泣けば何か
解決するんですか?・・・誰が助けてくれるんですか」
勇者「ましてや僕は救う側ですし、助けるためには
安心を与えなきゃいけないでしょう?こんな
化け物でも・・・・一応僕は勇者ってことになってるんですからね」
魔王「お前が泣けば私が救ってやる」
勇者の顔がくしゃりと歪む。
魔王「試しにやってやろうか」
魔王が勇者をやさしく抱きしめる。
魔王「・・・お前は化け物なんかじゃないよ」
勇者「あはは・・・・・・・そんなくしゃ、くしゃな顔で言い、ますか、普通・・・」
魔王「・・・・うるさい奴だ。・・・・ここまでしてやっても
お前は泣かないのだな」ギュ
勇者「・・・泣くのは死んでからって決めてますから」
側近「ナニ勝手に魔王様に触れとんじゃ貴様ァアアアアアアア
アアアアア!!!!」バッキィイイイ
勇者「ふげらばっ!!」ブシャァア
勇者の体が錐揉み回転しながら見事なアーチを描く。
その軌跡を勇者の血が美しい弧円を描く。
側近「このっ!雑用のっ!分際でっ!!」ドガッガスッバキッ
勇者「な、泣いちゃう!ごふッ、違う意味で泣きそう!あと
一発一発が重いよ?!ぐはぁッ」
魔王「・・・まぁ頑張れ」
魔王「・・・勇者もすっかりここに馴染んだものだな」
側近「そうですね」
「おい!勇者ちょっとこっちきてくれ!」
「あとでこっちもよろしくね!」
「おいおい!まだか勇者!」
勇者「は、はい!今すぐ!」ダダダダダ
魔王「なんだかもう別の意味で大変そうだな・・・」
側近「もう城の中では勇者=雑用みたいな意味になってますね・・・」
魔王「代わりに私が暇なのだが・・・」
側近「仕事してください」
鳥族1「よっ」
勇者「ど、どうも鳥族1さん・・・」
鳥族1「今日も忙しそうだな」
勇者「ええ、お陰様で・・・」
鳥族1「あぁ、そうだ。狼族部隊の連中がな、また
組み手しようってよ」
勇者「あぁ・・・・、ほんとですかぁ・・・・」ニコ
泣きそうな顔で笑った。
勇者「はい、なんです?」
鳥族1「遠征に行ってた兵がよ、お前の事見たって
言ってたんだよ。流石にそんなの・・・」
勇者が目を逸らした
鳥族1「・・・・・ってあんのか?なんだお前話聞くときは相手の
目を見るって礼儀も知らねぇのか、おい」ガシッ
勇者「な、なにもしりもふぁん」
勇者「うぅ・・・、鳥族1さん以外ならごまかせたのに・・・」
鳥族1「何を知ってる?話せ、おい」ギロッ
勇者「・・・魔法ですよぉ、魔法」
鳥族1「ま、さか・・・・分身ってやつか?はは・・・とうとう
ありえねぇぞ、おいおい・・・・」
勇者「・・・別に信じてくれなくてもいいんですけどね」
鳥族1「そんな事・・・可能なのか・・・?」
勇者「できますよ~、でもまぁけっこう魔力食うし、
あの魔法って魔力を使うっていうか分けるって感覚で発動させますからね」
鳥族1「そりゃ・・・・すげぇな」
勇者「でも魔方陣の構築も構成も死ぬほど面倒くさいから
一気に何体もってわけにはいかないんですけど」
鳥族1「それでお前はその分身を使って何をするつもりなんだ?」
勇者「・・・・やっぱり鋭いですね」
勇者「いずれわかりますよ。安心してください。絶対に悪い事にはなりませんから」
今のところはまだ何も起きていない。
でもきっとあの人間は尻尾を出す筈・・・・。
城の者達が、・・・たとえ魔王様があの人間を信用してい
ても、私だけはあの人間を疑い続けなければいけない。
私は魔王の側近、魔王様を、あの子を守らなくてはいけないのだから。
ーーーーーーーーーーーーー8年前
「今の魔王様ももう長くはないだろう。・・・・長年勇者共に与えられてきた傷は深い」
側近「・・・・はい」
「そこでお前には次期魔王の世話をしてほしいのだ」
側近「私が・・・・世話係ですか?」
「そうだ。次期魔王に姿が似ているのはお前ぐらいなものだからな。それに同じ女だ」
側近「私と同じ・・・・人型。相当な魔力をお持ちなのですね」
魔物で人の姿に似ている者は珍しい。
当然人に似ている為に、その肉体は並の魔物に劣るのだ。
「・・・お前と同様にな」
「すでにその者は城に到着しているようだ、会ってみるがいい」
絹糸のように艶やかな金色の髪をなびかせてこちらに
走ってきた。
魔王「お姉さんが私のお世話をしてくれるの?これから
よろしくお願いします!って言ったほうがいいのかな?」
・・・・こんな小さい子が、魔王だなんて。
側近「・・・・はい、こちらこそ宜しくお願い致します」
「・・・何がだ?」
側近「・・・・あんな小さい子が次期魔王だなんて聞いていません」
その声が震えている。
「はは、魔王に同情するつもりか?・・・そんなものは無駄
にしかならん。魔王がいなければ我らは滅ぶ、必要な犠牲
なのだ。お前が一番良くわかっているのではないのか?」
側近「・・・・ッ!!」
「それにあの小娘は充分に魔王たりえる魔力を有している。
・・・・・300年ぐらいは城を守れるのではないか?」
側近「・・・・・このッ」
「お前が無駄に事を計ることはないのだ、側近よ。・・・ただ
お前はあの小娘に魔王の意義を与えていれば良いのだ。
魔王は戦い、我らは事を計るのが役目なのだからな」
側近「・・・何でございましょう」
魔王「すっごく暇なんだけどなぁ?」
魔王が上目遣いで側近を見つめ、小首を傾げて尋ねる。
いわゆるカワイイ攻撃である。
側近「そうですか」
側近には効果がないようだ・・・・。
魔王「・・・うぅー、暇暇暇暇ーーーー!!!なんか一緒にやろうよ側近さんっ!」
側近「その言葉遣いの矯正、魔法の訓練、掃除などでしたらかまいませんよ」
魔王「うぇっ、そんなの楽しくないよっ!?」
魔王はくしゃっと顔をしかめた。
側近「・・・・」
魔王「・・・・ねぇ側近さん」
側近「なんでしょうか」
魔王「・・・・魔王になることって、悲しい事なのかな」
ぽつり、ぽつりと魔王は言葉を続ける。
魔王「私が次の魔王になるってきまって・・・・・お父さんとお母さん、泣いてたんだ」
魔王「どうして泣いてたのかな?城の人たちは誇らしい事って言ってたのになぁ・・・・」
側近「・・・それは、」
私は何もこの子に感じてはいけない。
側近「・・・・・とても誇らしい事なのだと思います」ニコ
だが自分の胸にささる痛みが止むことはなかった。
魔王「どうして外に出ちゃ駄目なの!?」
その目は涙で赤く腫れている。
側近「・・・貴方様は魔界にとって重要なお方ですから」
魔王「そんなのわからないよ!」
側近「貴方様を危険にさらすわけにはいかないのです」
魔王「だったら魔王なんかやめる!言葉遣いだって直さない!
魔法の練習だって、全部、全部止める!!」
側近「・・・それはできません。・・・・・もう決まった事ですから」
魔王「・・・・・もういい、出てってよ」
側近「・・・・わかりました、失礼します」バタン
魔王「お父さん、お母さん・・・・もう会えないの?」ポロポロ
側近「・・・・いつまでこんな事を続ければいいのよ」
魔王「・・・うん」
側近「・・・貴方様は一年前、私に魔王になる事は良い事な
のか、と聞きましたね」
魔王「うん」
側近「正直、私は誇らしい事などとは少しも思っておりません」
魔王「・・・・えっ」
側近「私の兄は・・・・・現代魔王なのです」
側近「・・・そうです。兄とは言っても、200歳程年上ですが」
側近は静かに言葉を続ける。
側近「兄は魔王として城を、魔界を約300年守り続けました。
そして魔王である事を今も誇りに思っています。
・・・・今ではもう立つ事さえできないのに」
側近は唇を血が出る程かみ締める。
魔王「側近さん・・・」
側近「誇りと引き換えに命を失うなどこんなにも馬鹿げた事
はありません、そう私は思います」
魔王は力なく笑う。
魔王「じゃあ・・・・私もいつか勇者に殺されちゃうんだね」
側近「そうはなりませんよ」
魔王「・・・どうして?」
側近「私が守りますから」
「魔王就任、おめでとうございます」
魔王「うむ」
「これからの魔界は貴方様にかかっています。
貴方様の御力で勇者一行を幾度もはねのけて
いただける事を期待していますぞ」
魔王「・・・わかっている」
魔王「・・・・少し一人になりたい、下がれ」
「「はっ」」
城の者達が部屋を出て行く。そしてやがてその扉は
また開かれた。
側近「魔王様、就任おめでとうございます」ニコ
魔王は側近に抱きつく。側近はクスリと笑った。
側近「もう、言葉使いはどうしたんですか?」
魔王「うぅ、あの話し方、年寄りっぽくてちょっと・・・・」
魔王は急に沈痛な面持ちになった。
魔王「側近の兄さんの事は残念だったね・・・・」
側近「・・・・・兄は最後まで笑って逝きました」
魔王「・・・すごいお方だね、私なんか全然だよ」
側近「・・・兄のようになってはいけないのですよ?」
魔王はにっこりと笑う。
魔王「わかってる」
魔王「やはり私では力不足、か」
魔王は自傷気味に笑う。
側近「辺境の村に森の主が来るのを事前に止められなかったのは
貴方の責任ではありませんよ」
魔王「だが側近もわかるだろう?城の者全員が私を信じている
わけではない」
側近「これから皆に慕われるような魔王になれば良いのですよ」ニコ
側近「何でしょうか」
魔王「・・・・本当に皆から慕われる魔王とは何なのかな?死ぬまで
勇者一行から城を守り続ける魔王がそうなのか?」
側近「・・・それは」
魔王「他の道はないのか?人と魔物が手を取り合って共に平和を
得る事は本当にできないのか・・・?人と話し合うことは本当にできないのか?」
側近「・・・・それはこの魔界の歴史が示していますよ」
その声は重く、冷たい。
魔王「・・・私は魔族の為に本当に必要な事をしたいんだよ、側近」ニコ
側近「・・・魔王様」
・・・なんて優しい魔王。
でもその道は最も辛く、苦しい道。
純粋すぎる貴方一人では耐え切れないかもしれない。
だから私は貴方様を命を懸けて守ろう。これからもずっと、いつまでも。
側近「もうっ!あの人間はどこにいったのですか!?」スタスタ
「・・・・・・・・す」
側近「これはあの人間の声・・・・?」
今は城の中で誰も使っていない筈の部屋から勇者の声がしたのだ。
側近「一体何を話しているの・・・・?」
側近が聞いたこともないほど冷たく鋭い声。
「そうか、だが期限は明日までだ。」
勇者「・・・・申し訳ございません」
「良い、律儀にお前が王国を出てから20年も待った甲斐が
あったというものだ」
勇者「はい。必ずや貴方様のお望みに応えられるような
戦果を持ち帰りましょう」
勇者「・・・・必ず王様に魔王の首を」
王「うむ」
側近「・・・・・・・・・・嘘・・・・よね」
・・・早くこの事を魔王様に伝えなければ
勇者は嘘をついていた。
魔物を救う気などなかったのだ。
ここにくるまで村に立ち寄ったのは今度攻める時に
警戒心を根こそぎ奪う為。
この城に来たのも魔族の戦力の要を潰す為。
いつも浮かべていたあの笑みさえ嘘だったのか。
1年前に魔王様に対して浮かべたあの表情さえ・・・
早く、早くこの事を・・・
ぽたり、と床に滴が落ちる。
側近「はっ・・・・はっ・・・・・・・・・・どう伝えればいいのよ・・・・うっ」ポロポロ
言えない。
言える訳がない。
なぜ私が泣いているのかはわからない。
こんな事などわかっていた事ではなかったのか。
それとも私もあの人間を心の底では・・・
側近「うっ・・・ひっく・・・・・・もう・・・・勇者を信じる
しかないじゃないのよ・・・・・」ポロポロ
勇者「うぇっ」ビクッ
勇者「ど、どうも側近さん・・・本日はお日柄も良く」ビクビク
側近「・・・・」
勇者「・・・・あれ?今日は殴らないんですね。ってぇえ!?
今僕の事勇者って・・・・」
側近「・・・・私は貴方の事を信じますよ、・・・・勇者」スタスタ
勇者「・・・・ありがとうございます」
勇者はその後姿を見送る
勇者「・・・そっかぁ・・・見られちゃったんだな・・・」
勇者「それでも僕の事を信じてくれたのか・・・」
側近「・・・・・そうですね」
勇者「どうも」
魔王「む、なんだか結構久しい気がするぞ・・・、仕事は良いのか?」
側近「・・・・・ッ!」
勇者「・・・・・はい、仕事は今日全て休んできましたから」ニコ
・・・・その笑みに何が含まれているのか
側近「・・・・・」
勇者「少し、お話したい事があるんです」
勇者「はい、今日をもってここを辞めさせていただこうと思いまして」ニコ
魔王「・・・・どういう事だ」
勇者「言葉通りの意味ですよ?だからですね・・・・」
勇者「記念作りに魔王様と一度戦ってみたいなぁ、と」ニコ
側近「勇者ァアアアアアアアアアア!!!!!」
魔王「そ、側近?!」
側近は城の歴戦の兵士とは比べ物にならないほどの
早さで魔方陣を組み立てる。
勇者「遅すぎですよ」ブン
勇者が軽く手を横に振るっただけで魔法陣がこなごなに
砕け散った。
側近「なっ・・・!?」
勇者「少し大人しくしててください」
一瞬にして側近の自由が拘束される。
側近「・・・・・・ッ!・・・・・・魔王様・・・!!逃げ、て・・・・・・ッ!!」
魔王「・・・・・勇者、貴様本当に何のつもりだ?」ギロッ
勇者「・・・やっとですか、戦闘態勢に入るの遅すぎですよ?」
勇者「言ったじゃないですか、これはただの記念作りだって、遊びですよ遊び」
魔王「遊びで側近にこんな事まで・・・・・!!!私はお前の事
を誤解していたようだな」
勇者「・・・・いいから早くやりましょうよ」
側近「や・・・・・め、て・・・・・」ポロポロ
ぎしり、と魔王の顔が歪む。
魔王「いいだろう・・・・!!やってやる・・・・!!!」
勇者「そんな言葉を吐ける程、貴方に余裕なんてない筈なんですがね」ニコ
勇者「・・・・お先にどうぞ?」
勇者は魔王に恭しくお辞儀をしてみせる
魔王「どこまでも・・・・嘗めた奴だ」
魔王の膨大な魔力が魔方陣に転換され、掌に巨大な魔弾が構築される。
魔王「・・・どうだ、これでもお前はそんな口が利けるのか?」
勇者は退屈そうに口を開く。
勇者「あはは・・・そんなに僕と戦いたくありませんか?
勇者はこんな事しない、勇者は優しい、って今でも思ってるんですか?」
勇者「・・・・側近さんでも殺してみれば貴方の気も変わるんですかね」
勇者はいつものあの笑みを浮かべた。
その声には殺気が篭っている。
魔王「お前はやはり《勇者》だったのだな」
ゴッッッッ!!!!!! という音と共に唸りを上げて魔弾が
勇者に放たれた
勇者「・・・そんな顔で泣かないでくださいよ」
勇者は目の前に迫る魔弾を前にして笑みを浮かべたまま、
そうぽつりと呟いた。
側近「(・・・・ッ!まさか・・・・!)」
耳が割れるほどの轟音が城中に響いた。その魔弾の余波
で城の頂上の屋根の半分が吹き飛ぶ。・・・そして静寂が訪れた。
魔王は自傷気味にはき捨てる。勇者の姿は巻き上がった
粉塵のせいで確認することはできない。
魔王「お前に勝てるとなどは思っていない、だが魔王として私は最後まで戦おう」
側近「魔王様!」
魔王「な、何!?拘束が解けたのか!」
側近「ああ、魔王様、貴方は何ということを・・・」
魔王「・・・どういう事だ」
側近は数時間前に勇者と王様のやり取りの件について話した。
魔王「なん・・・だと」
魔王の顔が蒼白に染まる。
震える声で側近は呟く。
魔王「ゆ、勇者・・・・、どこにいるのだ?・・・勇者ぁあああ!!」
悲痛な叫びに応える声は聞こえない。
魔王「う、・・・ぅぁああぁああああああああああ!!」
勇者「か、勝手に殺さないでくださいよぉ・・・」
弱弱しい声で勇者はそう呟いた。
そういえばよく目を凝らすと人影が見える。
魔王「お、お前よくも私を騙し・・・・・」
そこから言葉が出なかった。我が目を疑った。
服はずたずたに破れ、その服は真紅に染まり、ところ
どころがおかしな方向に曲がっている。
その血に染まった顔はあの笑みを浮かべていた。
勇者「あはは、ちょっと死ぬかと思いましたね・・・。ごほっ・・・流石魔王様です」ニコ
魔王「あ、・・・・あ・・・そん、な」ガタガタ
自分に対する嫌悪で体が小刻みに震える。これは私がやったのだ。
側近「勇者!大丈夫ですか!?今、回復魔法を・・・・」
側近の手を勇者が掴む。
勇者「しなくていいですよ・・・。これは僕に対する罰です
から。回復魔法なら自分で今やってます。まあ、
ぎりぎり立てるぐらいまでで止めますけどね」
魔王「・・・なぜこんな事をしたんだ、お前ならあんな魔弾
ぐらい軽く止められるだろう?」
魔王の手はまだ軽く震えている。
勇者「元々魔弾自体はくらう予定だったんですけどね。
魔王様の泣いている顔を見たら防御魔法を使う
気になれなかったんですよ・・・・」
魔王「・・・馬鹿だな、お前は本当に・・・」
勇者「これから王国へ向かいます。魔王討伐の期限は明日ですから」
魔王「そんな体で行くのは無茶だ!」
勇者「大丈夫ですよ。歩いていくわけじゃないですから、
それに徒歩じゃ1日で王国に着きませんし」
夥しい数の足音が響いてくる
兵士達「一体何があったのですか!?」
側近「後で説明しますから、今は出て行ってもらえますか」ギロッ
兵士達「は、はい」
ぞろぞろと部屋を出て行った。
勇者「王国に僕が魔王に敗北した事を知らせる為ですよ」
魔王「・・・・勇者」
勇者「人間の魔法に関する技術はもはや魔物を超えてい
ます。並大抵の事では誤魔化すことができないんですよ」
魔王「私と戦ったのもその為なのか・・・?」
勇者「ええ、そのお陰で僕の体には魔王様の残留魔力
が残ってますから、少しぐらいなら誤魔化せるはずです」
勇者は穏やかな顔で魔王に告げる。
勇者「僕と本当に戦いましたか?」
魔王「・・・・それは」
勇者「・・・もう時間もありませんからね」
側近「それならもっと前に話していれば良かったのでは?」
勇者はすこし困ったような顔になった。
勇者「うぅ、・・・痛い所つきますね」
側近「・・・それはどういった・・・」
勇者「僕が最初に来たときの事を覚えていますか?」
魔王「ああ、見たときからおかしな奴だと思ったぞ?」
勇者「うっ、それはちょっとおいときまして・・・最初は
僕も大変だったんですよ。皆さんからボコボコに
されたり、食事五日間連続なしとかされたり」
側近「それは誰の事を言ってるんですか?」ガスッ
勇者「ぐはっ!うぅ・・・怪我してるのに容赦ないですね」
勇者「でもそれも時間が経つにつれてだんだん皆さん
も僕に対してそんなに厳しくなくなっていって
、そこからだんだんと楽しくなってきたんですよ」
側近「・・・・」
の事がよくわかるようになって・・・・仕事もちゃんと
やらせてもらえるようになって」
勇者は満面の笑みを浮かべて話を続ける。
勇者「今となっては逆に僕に話しかけてくれたりして、
毎日忙しいですけど色んな方と笑って話せて」
勇者「そんな生活が僕にとってはすごく大事になった
ですよね、魔王様や側近さんや皆さん全員がいる生活が」
勇者「村の人たちだってそうです。僕がここまでくるまで
に出会った人たちも本当に良い方達ばかりで、辛い事も多かったですけど」
魔王「勇者・・・・」
勇者「だから僕はどんなに辛くなっても限界までこの
生活を続けたかった、続けたかったんです」ニコ
魔王「ああ、・・・・そうだな」
勇者「魔王様、お願いしたいことがあるんですが」
魔王「・・・言ってみろ」
勇者「人と、・・・・人間と協定を結んでくれませんか?」
魔王「・・・無理だな」
勇者「何故ですか?」
魔王「人間は、奴らは私達に対する敵対心が強すぎる。
それに勇者は今の人間は強い魔力を有していると
言ったな。仮に奴ら一人ひとりが勇者一行の一人
と同等の働きができるとするならば危険が高すぎる」
勇者「その為に僕がいるんです」ニコ
ありませんよ?」
側近「そんなことは・・・・ありえるかもしれませんね」
・・・このような人間がいるなら。
魔王「それでもだな・・・」
勇者「なら信じてください、僕の事を」
魔王「・・・魔王が勇者を信じる・・・か」
魔王「あはっ、あははは!本当にお前は面白い奴だっ」
魔王は腹を抱えて笑う。
魔王「ふふっ・・・・いいだろう、その冗談呑んでやる」ニコ
勇者「ありがとうございます」ニコ
魔王「王国の下町にあるお前の家を見せる約束、忘れるなよ?」ニヤ
勇者「うっ、い、いってきますっ」ドンッ
赤く焼けた空を見上げて魔王は呟いた。
魔王「あの飛行魔法、今度教えてもらいたいものだな」
側近「そうですね・・・」
魔王「・・・それと側近、お前さっき勇者と何をを長々と話してた?」
側近は勇者のような笑みを浮かべる。
側近「・・・・些細なことですよ」ニコ
ーーーーーーーーーーーー王国のはずれの村
村人1「ひっひっぃいいい!!!ば、化け物め、今頃何しに
きやがった!!ここには何もねぇぞ!!」
勇者「・・・すぐに出て行きますから、安心してください」ニコ
勇者が村の中を歩くたびに悲鳴があがる。
来るな、化け物。
悪魔め。どこかへ消えろ。
勇者は涼しい顔をして歩き続ける。
・・・やがてある墓標に行き着いた。
勇者「あはは、埃と雑草だらけ、ひどいね、掃除しないと」
勇者「久しぶり、父さん」ニコ
家の前にある少年が立っている。
その顔は暗く、沈んでいたが、やがて手で自分の顔が
モニュモニュ揉むと笑顔になった。よし、と少年はドアを開ける。
少年「ただいま!父さん!」バタン
父「おう!おかえり!遅かったなぁ、今日も友達と遊んできたのか?」ニカッ
少年「う、うん!そうなんだ!」ニコ
一人森の中で時間を潰していた、などとは当然言えない。
少年「今日のご飯は何?」
父「くくく、聞いて驚け!今日はグリズリーを使った肉鍋
だぁーーー!!!」ドーン
少年「わぁ、お肉たくさん入ってるね!」
父「おう!たくさん食えよ?」
父「なんだ?」
少年「・・・僕、もうすぐ10歳だよね?」
父の顔がびきりと固まる。
父「・・・・・・・ああ、そうだな」
少年「僕、王国に行きたいんだけど・・・・」
父「駄目だ」ギロッ
少年「ど、どうして?」
父「駄目なもんは駄目だ。他の事なら何でも許してやるが
王国に行くのだけは駄目だ」
少年の目に涙がたまる。
父「・・・・・ッ!!お前は知らなくていい事だ。知っていい事と
知ってはいけない事があるんだ。」
少年「・・・・ねぇ、父さんも僕には言わないでくれてるけど知ってるんでしょ?」
少年「僕が化け物って呼ばれてる事」
父「・・・・・・」
少年は震える声で言葉を続ける。
少年「本当は今日一人で森にいたんだよ?それだけじゃ
ない、ずっと、ずっと!ずっと前から僕は一人で森にいたんだ!!」ポロポロ
少年「もう嫌なんだよ・・・・化け物って呼ばれるのはもう嫌なんだ」
父「・・・お前は化け物なんかじゃねぇ、俺の息子だ」
少年「でも!!みんなは違う!父さんは僕の事を認めて
くれてもみんなは違うんだよ父さん!!」
少年はもう目から溢れるものを止めようともしない。
少年「勇者になれば!!みんなだけじゃなくて父さんも
喜んでくれると思ってたのに!!」
父は少年を抱きしめた。
父「今だけは、今だけは我慢してくれ。頼む・・・・ッ!!!」ポロポロ
少年「今って・・・・いつまで僕は我慢すればいいんだよぉ・・・ひっく」
にはもう耐えられないよ」
20メートルはあろうかという崖の上に少年は立っていた。
少年「ごめん、父さん」タンッ
目を閉じながら少年は願う。
少年「次に生まれてくる時は皆と同じように生まれますように・・・」ギュ
ゴチャッッ!!! その直後に鈍い音が響き渡った。
・・・もう僕は死んだのかな?
真っ暗で何も見えないよ。
天国にいけたのかな、地獄にいっちゃったのかな?
地獄かもしれないな、父さんにひどい事言っちゃったから。
あ・・・、だんだん目が見えるようになってきた。
だがその光景は地獄でも天国でもなかった。
そこに拡がっていたのは血、血、血。
手足はぐちゃぐちゃに折れ曲がり、内蔵のいたる所が
飛び出している。おそらく目が見えなかったのは
頭も潰れていたからだろう。
少年は絶叫する。
少年「なんでこんなになっても僕は生きてるんだよぉおおおおおおお!!!!!!!」
べきべき、めきめき、と歪な音をたてながら少年の意に
反して体が再生する。
僕は化け物。
その絶対的な事実が少年の頭を埋め尽くす。
少年「・・・・僕は死ぬこともできないんだ」ポロポロ
少年に出来ることは・・・ただ泣くことだけだった。
少年「・・・・王国に行こう」
誰に言うでもなくぽつり、と少年は呟いた。
少年「僕みたいな化け物が皆に認められるには勇者になるしかないんだ・・・・」
少年「わぁ・・・・、すごいや」
目の前に広がる光景は、少年に衝撃を与えていた。
材木ではなく石材で形作られる家の数々、そしてその遠方にそびえる城は
とても言葉では言い表せない程の絢爛さを誇っている。
その門には豪華な装飾が施されており、城壁には外敵を絶対的に遮断する
魔法が無数に組み込まれている。それらの全てが王国の強大さを物語っていた。
どん、と唐突に背中に何かが当たった。
少年「うわっ」
下町女「あら、ごめんね僕。大丈夫?」
どうやら女の人の荷物が自分に当たったらしい。
少年「だ、大丈夫です」
そう、と女は笑って去っていったが、少年はそれどころではなかった。
少年「ここでなら・・・・、僕はただの少年なんだ」
その事実は少年にわずかな希望を与えた。
教会男1「そうですか、貴方はここに勇者になる為にやってきたと?」
少年「は、はい」
教会男1「・・・・ですが、貴方は生まれたときに《神の祝福》を受けていま
せんね?もしそうなら残念ながら貴方では・・・・」
少年「・・・・やっぱりそうですよね、村生まれの僕なんかじゃ勇者になれる
わけ・・・・ないんだ」
少年は視界が絶望に染まるのを感じた。
教会男1「・・・・今、村生まれと言いましたか?」
少年「はい・・・、そうですが」
教会男1「もしや・・・・君の名前は少年というのでは?」
少年「・・・・はい。どうして僕の名前を・・・・?」
教会男1はにこり、と笑う。
教会男1「君の事をずっと待っていたのですよ」
「まさか奴の方からのこのこやってくるとはな」
「これが成功すれば王は世界の全てを手に入れなさる」
「今まで10年もの間我らを欺いてきた《王国の英雄》でさえも、もはや
我らの邪魔はできんよ、くはは」
僕は勇者になれるって教会の男の人が言ってくれたんだ。
これでやっと僕もみんなに認められる。
もう僕は化け物なんかじゃない。
勇者なんだ。
教会男1「この聖水を飲みなさい、そうすれば次に目覚めた時には・・・」
少年は頷き、渡された聖水を飲み干した。
教会男1「君は《勇者》だ」
少年「あ・・・・れ」グラッ
その瞬間、少年の意識は暗転した。少年が最後に見たのは、教会の男の
魔物のように凶暴な笑みだった。
僕は勇者になれたのかな?
体がうまく動かないよ、どうしてだろ?目を開けなきゃ・・・・
少年「何・・・これ」
少年は何も身に纏うものは纏っていない。その上手足には強固な鎖が
繋がれており、体には血で魔方陣が描かれてる。目を動かせば
自分は30メートルもの巨大な魔方陣の中央にいる事がわかった。
遠くで教会の人が騒いでいるのがぼんやりと聴こえる。
「馬鹿なッ!!なぜ奴は起き上がっている!?」
「・・・・化け物め、奴に与えた睡眠薬は一万人分相当の量を凝縮したものだぞ・・・・!!」
「こうなってしまっては・・・・、アレを使うしかないようだ」
合図の声と共に教会の人間達は皆一斉に巨大な魔方陣に手をつけた。
少年に対する魔法が発動する。
少年の絶叫が教会の地下に響いた。
崖から落ちた時とは比べ物にならない激痛が少年を襲う。
痛みに暴れまわりたくても鎖がそうはさせない。
教会男1「これでも死なないとは・・・・、やはり王の仰っていた通りだったか。
全く恐ろしい化け物だよ、お前は」
男は少年に近づく。その手にナイフとある水晶のような珠を持って
教会男1「・・・・少し大人しくしていてくれよ?」
そう言ってナイフを少年の胸に突き刺し、その傷をこじ開ける。
少年「あがっ!?ぐがぁああが・・・・ッ!!!」
教会男1「こいつをお前の中に入れればお前は《勇者》になれるんだ」
教会の男がその珠を傷口に近づける。
なんで・・・、なんでボクだケが。
なンデボクダケガ。
コンナメに遭ワナキャイケナインダ。
ボクハナニモシテナイノニ、・・・・・・ボクをイジメルのワオマエタチカ?
ぷつん、と少年の頭の中で何かが切れた。
教会男1「・・・・なんだ今の」グキャ
だらりと糸が切れた人形のように教会の男は倒れる。
その時、教会の人間達は何を見たのかを知るものは今はもういない。
「ば、化け物・・・・・」ガチガチ
「い、命だけは助けてくれ・・・・」ガタガタ
少年「なんだよ」
少年は呟く。血の涙をながしながら
少年「・・・・そんな目で僕を見るなよ」
少年は笑っていた。
少年のいる場所は静まりかえっている。
少年「どうして僕・・・・、確か教会で聖水ももらって・・・・うぅ、頭が痛いよぉ」
ぬるり、と急に足元に生暖かい感触を感じる。
少年「うわっ!な、何これ・・・・・、え・・・・?」
自分のいる部屋に明かりはなく、明確に判断する事はできない。
少年「これって・・・・・血?ま・・・・さ、か」
少年の顔が蒼白にそまる。すぐに明かりと灯す魔法を行使した。
だが明かりに照らされる少年の顔は赤い。
目の前の光景を信じる事ができない。
殺戮と破壊。この二つの言葉以外にこの状況を表す事はできない。
・・・・・・・・・これを僕がやったんだ。
少年「う、うぁああああああああああああああああああああああああ!!!!」
少年がどれだけ後悔し、悲しみ、泣き叫んでも・・・・・一度自分が奪った
命が再び元に戻る事はなかった。
死ぬこともできない、命を助ける事もできない、それどころが
多く人の命を奪ってしまった、生きるためではなく、ただ殺した。
もはや僕に勇者になる資格は、ない。
・・・・・僕は何のために生まれてきたのかな。
教会の人間が少年の下に駆けつけたのは、一時間ほど経ってからだった。
教会女1「・・・貴方が責任を負う必要はありませんよ」
やさしい声で少年を諭す。
少年「・・・・・はい」
だがその声は少年の心には届かない。
教会女1「さぁ、行きましょうか」
少年「・・・・行くって、どこに行くんですか」
教会の女は微笑む。
教会女1「・・・・王様がお待ちです」ニコ
王「おぉ、会いたかったぞ、少年よ」
ゆったりとした声が応接間に響く。その端整な顔立ちに
皺が加わり、より荘厳な雰囲気がかもし出されている。
少年「お目にかかれて光栄でございます、陛下」
こんな僕なんかが会っていい方ではない、と少年は思う。
王「もう少しくだけた口調でもよい」ニコ
少年「・・・何故陛下は僕などに会おうと思われたのですか?」
王「少年の話は村から届いている」
少年「・・・・・・ッ!!」
では王は知っているんだ、本当の僕を。
王「少年の事を化け物、などとは私は思わんよ。むしろ特別な力がある
と誇るべきだろう」
少年は震える声で呟く。
少年「・・・・・本当にそうでしょうか」
で・・・・・多くの命を奪いました」
王「・・・・それは、難儀であったな」
少年「・・・・・それだけ、ですか?」
王「だがそれは少年の意志でやったわけではないのだろう?」
少年「・・・殺した事は事実です。僕は死ななければならないんですよ・・・!
これ以上命を奪わないために!早く!」
少年は泣き叫んだ。
少年「でも駄目なんですよぉ・・・!僕じゃ、僕じゃ自分で死ねないんですよ!
お願いします・・・僕を殺してください、お願いします・・・・!」ポロポロ
未来があった筈だ。・・・お前はそれを奪った」
少年「・・・・・はい」
王「だがそれで償いになるのか?少年が死ぬことでそれを償いきれると?」
少年「・・・・・それは・・・」
王「なら別の形で償いべきではないのか?」
少年「・・・・そんな事できるのでしょうか」
王「《勇者》となるのだ少年よ、《勇者》となり、より多くの人々の未来を救うのだ」
命を奪ってしまうかもしれない!」
王「・・・・・・いや、その力を弱めることなら、できる」ニコ
・・・・嘘だ。
この力がどれだけのものなのかは僕が一番よくわかってる。
王「戦士長、アレをここへ」
戦士長「はっ」
少年「そんな事・・・・本当にできるのでしょうか」
王「おそらくは、な」
少年は何故かこの時の王の表情に違和感を感じた。
それは黒い首輪だった。少年は一目見てそれに異常な魔法がかかっていること
を理解する。
王「うむ、少年よ。それを首につけるのだ」
少年「はい」
少年は潔くその首輪を首に着けた。
恐らくこの首輪は危険だ。自分の本能が拒否反応を起こしている。
だがこれで良いんだ、と少年は思う。
首輪を着けた瞬間に体に激痛が走る。
それからじろじろと体の中が蝕まれていくのがわかった。
自分の中の力が殺されていく。そしてそれに呼応して力が再生する。
やがてその殺戮と再生は自分の半分ほど力が減ったところで止まった。
それと共に自分の力に対する恐怖が薄れていく。
王「・・・・どうだ?」
少年「は、い。信じられませんが、・・・・本当に力が減りました」
王「少年よ、・・・・・《勇者》をやってくれるか?私はお前にやってもらい
たいのだよ」
少年「・・・・王の御心のままに」
この弱まった力なら僕にも扱えるかもしれない。
この化け物の力を命を助けるために使えるかもしれないんだ。
なら僕は勇者になるしかない。
父が王国へ一人で攻め入り、返り討ちにあったとの事だ。
・・・・おそらく僕を取り戻す為に。
勇者「暫しの間、城を空ける事をお許しください、陛下」
王「良い。勇者の父への手向け、存分にしてくるがいい」
勇者「有難きお言葉、失礼します」スッ
勇者の後ろを見送り、王は一人、笑う。
王「さて、どう動く?勇者よ」
村人「・・・・おめぇか」
勇者「・・・・ご無沙汰してます」
村人「はっ、えらくなったようだがな、ここじゃ誰もお前の事を勇者と
呼ぶ奴はいねぇぞ」
勇者「それは、わかってますよ。僕の父の墓は、どこにありますかね」
村人「・・・・お前らの家の傍だ。作ってやっただけ有難く思えよ」
勇者は唇をかみ締める。
勇者「有難う・・・・ございます」
勇者は自分の家へと向かった。父の墓を目の前にして、勇者は笑う。
勇者「・・・・小さいお墓だね」
墓にぽろぽろと滴が落ちる。
勇者「ごめんなさい、父さん」
数日離れていただけなのにひどく懐かしく感じる家
の中を見渡す。
勇者「・・・・これは?」
勇者はテーブルの上に一冊の本を見つけた。
勇者は椅子に座り、本を開く。するとそこに父の字があった。
勇者「父さん・・・・?」
お前がこれを開いているなら、俺は死んだんだろうな。
俺が死んだのはお前のせいじゃない。俺がお前をもっとちゃんと
見てやれなかったからだ。・・・・本当にすまん。
・・・この本には俺の全てが書いてある。もちろんお前に初めて会った
時のこともな。
もっと前にこの事を話していれば良かったのに、と今は思う。
だがこれは決してお前の為を思って話さないでいたんだ。
だからこれから書いてある、まぁ話すことは楽しいことじゃない。
でもお前にはもう伝えると決めた。・・・・さぁ紙をめくるんだ。
お前にはここから話そうと思う。
・・・・俺が《王国の英雄》と呼ばれていた頃について
お前の父より
勇者「・・・・父さん」ペラッ
勇者は本のページをめくると魔法が発動した。
父『よう、開いちまったんだな、息子よ』
父『それ以外だったらなんだってんだよ?』
勇者の頬から涙が伝う。
勇者「・・・・・どうして死んだんだよぉ」ポロポロ
父『・・・・男にはやらなきゃなんねぇ時があるってことだよ』
父『あ、一言いっとくがこの喋っている俺は正真正銘の俺じゃねぇからな。
簡単に言えばこの本に俺の記憶と意識を複製したんだ。まぁそんな
の簡単にできるわけねぇから完璧じゃないって意味でな』
父『おうよ!崇めていいんだぜ!?なんたって俺は《勇者》だったん
だからな!!お前の先輩だ!』
勇者「・・・・・嘘、でしょ?」
父『だから全部話すって言っただろ?俺は300年前に魔王を打ち倒した
《王国の英雄》って呼ばれた勇者だ』
父『まぁ、本当に伝えたいことはそんな事じゃねぇんだけどな』
だろうが、王国では憎むべき敵は魔物、魔物を殺す事は名誉って
なんとも馬鹿らしい洗脳教育が流行っててな』
父『・・・・俺もその洗脳された馬鹿の一人だった。俺は10歳の時に
《神の加護》を受けているって発覚してな。勇者の素養があったんだ』
勇者「そうなんだ・・・・」
父『俺は浮かれてたよ。周りから勇者様、勇者様って言われてな。魔法だ
ってその辺の魔法使いなんか俺の足元にも及ばなかった』
父『だから勘違いしてたんだ。勇者になるってことがどういう事かをな』
父『俺が24歳ぐらいになってよ。とうとう魔王討伐の命が下されたんだ』
父『でもそのころには俺も流石に異変に気づいてな。どう考えても
4人だけで魔王討伐って無茶だろってな』
父『4人の他にも魔王と戦える奴はごろごろいるのになんで4人で行かな
きゃいけないんだって俺は何度も王に問い詰めたさ。でも王は
そういう決まりなのだ、の一点張りだった』
父『だから俺達は行ったよ、4人だけでな。まるで死刑台に送られる
囚人みたいだったぜ?ははは』
勇者「・・・・・」
を持った奴しかいなかったからな。だが魔界では違った。
どう考えても俺たちと同じ知能と、感情を持った奴らがいたのさ。
いや、俺たち人間なんかよりずっと頭の良い奴もいたぜ?』
父『そんな奴らを殺して心は痛まないのかって?そりゃ痛むさ、だがよ。
そんなもんは麻痺しちまうのさ。あの時は何でも恨んだ。4人だけで
この痛みを背負わされなきゃいけなかったことを、仲間が俺以外
皆死んじまった事をな』
父『死んでった仲間は俺になんて言ったと思う?勇者、お前ならできる、
だからお前だけでも生きろ、そう言ったんだ。そんな俺はどう
すりゃいい?』
父『俺にできるのはその責任から逃げることだけさ。痛みから逃げないと俺が
壊れちまう。逃げる為に殺して殺して殺して・・・・・結果的に俺に
残されたのは魔王の抹殺の命と魔物に対する憎悪だけ』
父『魔物達に俺の姿はどう映ったんだろうな・・・・、よっぽどの化け物
に映ったに違いねぇ。お前よりもよっぽどな。・・・・話し合えば
分かり合えたかもしれねぇのになぁ・・・・』
勇者「・・・・父さん」
命からがら城に逃げ戻った俺は英雄扱いだ。・・・・だが俺にはもう
何も残っちゃいなかった。そんな俺が《王国の英雄》だと?
ふざけんじゃねぇよ』
父『だが俺には人並みの王国へ対する憎しみだけは残ってたらしくてな。
俺はどんな事でも《王国の英雄》の伝を使って王国の事を
調べて調べて調べまくってやった』
父『・・・・そして俺は人間として知っちゃぁならねぇ事を知った。
それがばれて王国から追放さ、まぁ命あっただけマシだけどな』
父『そっからの俺は魂が抜けたみたいになっちまってな。全てがもう
どうでも良くなっちまったが、3人の事が頭から離れなくってよ、
・・・・・死ねなかった。それがあいつ等との最後の約束だからよ』
それに村に入ってくる魔物を人から守ることで俺の心を慰めたかった
んだよな。俺は良い事してる、ってな大した偽善だろ?』
勇者「そんな事・・・・ないよ」
父『・・・・そんな生活が300年続いたよ。いつものように俺は森で飯の為に
適当な獲物を探してたらよ。森の奥である赤子を見つけたんだ』
勇者「・・・・・それが・・・」
父『そう、お前だよ』
思ったけどな』
勇者「でも僕は死んでなかった」
父『・・・・そうだ。俺はお前をその時見た瞬間にわかった、ああ、この子は
特別な存在なんだ、とな。そして同時に思ったんだ、この子がこの
先どのように生きていくのかをな』
父『皆から化け物と呼ばれる事は容易に想像できた。それだけじゃない、
皆がこの子を災厄の子として殺そうとするだろう、と』
お前を自分で育てようと思ったんだ。自分で運命を選択できる日まで
俺がお前を守り通そうと思った。まあ、そうする事で俺がしたことの
罪を償いたかったのかもしれないがな』
勇者「・・・・・そして今が選択の時なんだね」
父『ああ、できればお前がもっと成長してから選択させてやりたかった
んだがな。さて、これから俺がお前に話すことは全て最も重要かつ
本当の事だ。覚悟はいいな?その上でお前が自分の運命を決めるんだ』
勇者「うん、受けてたつよ」
・・・全部」
その声は落ち着いている。
父『・・・・・ならお前の選択を聞かせてもらおうか』
勇者「今の話が本当でも僕の選択は変わらない、僕は・・・・」
勇者「・・・・人間と魔物が共存できる世界を作るよ」
父『ああ・・・・、それがお前の選択ならもう言うべき事はねぇ・・・。お前なら 、できる』
父『最後に一言言ってもいいか・・・・、もう、この魔具の魔力が切れそうだ』
勇者「なんでも言ってよ、父さん」
父『お前と、・・・・過ご・・・せた、10年間は・・・・何よりも幸せだった』
勇者はもう泣いてはいない。
勇者「僕、本当に父さんの息子で良かったよ」ニコ
父『は、・・・・・は、最後の、最後に、嬉しい、事言いやが・・・・』
・・・・もう父の声は聞こえない。
勇者「おやすみ」
勇者は穏やかな顔で、そう告げた。
勇者「確かに勇者になってから辛いことも悲しいこともあったけど、
・・・・・楽しい事もたくさんあったよ?」
勇者は父の墓に話しかける。
勇者「やっぱり父さんの言った通り、ちゃんと魔物さん達だって話せば
僕の事をわかってもらえた」ニコ
勇者「初めてだったよ。・・・・僕の事を化け物ってわかってても純粋に僕の事
を見てもらえたのは」
勇者「皆僕に普通に接してくれて、あれほど嬉しい事はなかった。
やっぱり30年前の選択は間違ってなかったんだって、今は
はっきりとそう思えるんだ・・・。父さんのお陰だよ」
勇者「・・・僕がこれからやろうとする事は、もしかしたら人も魔物も
全ての生き物達が喜ぶ事ではないかもしれない」
勇者「でも皆は僕の事を信じてくれたんだ。・・・・だから僕も自分の事を最後
まで信じてみるよ。じゃあ父さん」
穏やかな笑みを浮かべて、
勇者「いってきます」
勇者は歩き出す。
私のしてきた事の全てが、今日報われる。
やっと、やっと私は世界の運命を掌握する事ができる。
・・・・世界の王になるのだ。
王「・・・・久しいな」
王はその者を見据える。
王「勇者よ」
勇者「ええ、お久しぶりです。陛下」
勇者「・・・申し訳ありません。私の力が至らなかったばかりに王様のご期待
に副うことがかなわず」
王「良い。20年間、よく《勇者》をやってくれた」
王にどす黒い笑みに口を歪めた。
王「・・・・もう休め」
その瞬間、巨大な魔方陣が勇者を中心に展開される。
勇者「これは・・・・・ッ!!」
王「・・・お前にこの魔法を破壊する魔力がもう残っていないことなどもう
わかっている」
勇者「・・・・ッ!!ぐっあっ・・・・がっ!?」ビキビキ
勇者はこの激痛を知っている。何故かはわからないが体が覚えている。
王「くはは、どうだね。30年振りの激痛の味は」
王「ああ、そうだった。お前は覚えていないのだったなぁ、30年前の
あの事を」
王「しかしこの20年間のお前の《勇者》としての働きは素晴らしいもの
だったよ」
心底愉快ような笑みを浮かべて王は言葉を続ける。
王「・・・お陰で今度こそ魔族を一匹残らず殲滅できる」
王「何も私が知らなかったとでも?お前がこの20年間何をしていたかを、
私がそこまで無能だとでも思ったか」ドカッ
勇者「ぐっ・・・・」
王「いやはや、この20年間お前がずっと魔族に媚を売ってくれたお陰で
随分と奴らの守りが薄くなった。その点については感謝している」
王は勇者の血に濡れた金色の髪を掴みあげる。
王「だがそんな事はどうでも良いのだよ」
王の笑みが一層深まる。
王「私にとって重要な事はお前に《勇者》として奴らとの壁を薄くする
ことではない。その20年という期間こそが必要だったのだ!!」ガスッ
王「そうだ。・・・・全てはお前を殺す為だ、勇者」
王「ああ、ああそうだな。できるならそうしていた。」
王の表情が狂喜から憤怒に切り替わる。
王「だが殺せなかったのだよ!!お前は!その力を半減させたとしても
この私でさえ!殺す事ができなかったのだ!・・・ああ、なんという化け物だろうな」
王「逆に殺そうとすれば、その力が暴走しこちらが皆殺しにされる可能性
があったのだよ。・・・だから私はお前に楔を打ち込んでおいたのだ」
勇者は激痛に脂汗を滲ませながらかすれた声を漏らす。
勇者「・・・・それがこの首輪、か」
王「ああ、そうだ。その首輪はただの魔具ではない。呪われた魔具なのだよ。
なにせお前ほどの存在にその力が届くのだからな。それを創り出した
存在はある意味お前と同様の存在と言えるだろう」
王「・・・・その魔具は《元始の魔王》が創り出したものなのだよ」
勇者「《元始の魔王》と僕が・・・・同じ・・・だと?」
王「・・・そうだ。お前がただの化け物だとでも?笑わせるな。・・・
私はお前以上にお前の事を知っている」
王「そうだな、冥土の土産に教えてやろう。大昔の伝承だ、もっとも
この事を事細かに知っているのは今では私ぐらいしかいないだろうがな」
王「・・・この伝承ではお前という存在は《神の子》と呼ばれている」
勇者「《神の子》・・・・?」
王「そうだ。真に《神の祝福》と《神の加護》を受けた者のことと記さ
れている。私から見ればただの呪いにしか見えんがね、・・・簡潔
に言い直してやろうか」
王「生まれでたその時から世界を改変するほどの魔力を有している存在、
それを《神の子》というのだ」
と同義だという事はお前も知っている筈だ。そしてその規模はその
対価として消費される魔力量によって左右される」
勇者「・・・・」
王「・・・初めて《神の子》がこの世に生まれ出たのは遥か昔の事だ。
そのときの世界には・・・・・魔族などというおぞましい存在はいなかった。
もちろん魔界もな」
勇者「・・・・そん、な」
王「・・・もうわかる筈だ。元々魔族など存在しなかったのだ、本来
この世を支配するべきは人間なのに!!それを《神の子》は邪魔をした!!
魔物を、魔界を作り出したのはその《神の子》なのだ!!!!!そしてその
《神の子》は自身の存在を創りかえ、・・・・《元始の魔王》となった」
完膚なきまでに叩きのめされた。そのせいで我らは世界の半分に
追いやられたのだ。その世界の半分を人間界、その片割れを魔界
と今では呼ばれるようになったがな」
王「奴らが人間界に攻めてくる事はなかった。脆弱な魔物を除いてな。
それは強い魔力を持つ者は魔界の赤い空の下でないとその力を
充分に発揮できないからだ、と今ではわかっているが。だがたとえ
脆弱な魔物であっても、ごく僅かな魔力しか持たない我ら人間に
とっては恐怖の対象である事に変わりはない・・・・!!我らは常に
恐怖にさらされて生きていたのだ」
王「だがそこで我らの救世主になったのも新しく生まれた《神の子》
だったのだ。人間共はほんの一部を除いてその《神の子》を
救世主だと信仰した、私は違うがな」
王「そして《元始の魔王》に一人で立ち向かう《神の子》の勇気溢れる
その様を見て人間は奴を《勇者》と呼ぶようになった」
勇者「・・・・相討ち」
王「・・・・そうだ。そこから魔族と人間の力は徐々に均衡を保つようになり今に至る」
勇者「・・・今では人の方が勝る、か」
王は狂喜に顔を歪める。
王「・・・そうだ。今では我らの方が強く、賢い」
バリンッ と何かが壊れた音がした。
王「・・・ほう、その残り少ない魔力でこの巨大な魔法陣を壊すとはな。力
だけではないようだ」
勇者「・・・でもそれは幾万もの魂を縛ってまでやる事じゃない」
勇者は立ち上がる。
王「・・・・やはり知っていたか」
王がその笑みを変える事はない。
ーーーーーーーーーーーー11時間前
勇者「側近さん、すこしお時間よろしいですか?」
側近「・・・別にかまいませんが」
魔王が話に割り込む。
魔王「なんだ、何を話すのだ?」
勇者「本当に、くだらない事なんです」ニコ
魔王は口をへの字に変えた。
魔王「むむ、くだらない事ならここで話せるだろう?」
勇者「・・・魔王様は僕を信じてくれないんですか?」
魔王「うぐ・・・なんだかお前はずるいぞ!」
もういい!と言って魔王は歩いていってしまった。
側近は防音魔法が張られていることに気づく。
勇者「ええ、これから話す事は本当に聞かれたら困る事なので・・・」
一息入れて、勇者は口を開く。
勇者「側近さん、貴方には全てをお話します」
勇者「まず貴方には今の人間の実態をお話したいと思います」
側近「・・・・はい」
勇者「側近さんは疑問に思ったことはありませんか?勇者一行はなぜ
30年周期で攻めてくるのか、・・・なぜたった4人だけなのか」
側近「・・・そういえば勇者は一人でしたね」
勇者「この役目は僕一人で充分ですからね」
側近「確かにそれについて考えた事はあります。ですがいくら考えても
それを知る方法がないので。・・・あと一つ質問してもいいですかね」
勇者「どうぞ」
側近「どうして貴方はここに来るのが他の勇者よりも20年遅かったの
ですか?」
勇者「・・・どう言えば良いでしょうか、そうですね。魔王討伐の任務期間
は本当は20年なんですけど僕以外の勇者は皆2年もかからないで
魔王城に到達してるんです、だからでしょうか」
側近「なっ!?・・・で、ではなぜ30年周期なのですか」
側近「だっておかしいじゃないですか。《神の祝福》と《神の加護》を
受けた人間が30年に一人ずつ都合良く生まれるなんて」
勇者「・・・その認識自体が間違ってるんですよ」
側近「それは、どういう・・・・?」
勇者「本当の勇者なんて、この世にはいないんですよ。これまでの勇者は
全員・・・・人工的に作られたんですから」
側近「・・・嘘」
勇者「残念ながらこれは真実ですよ、これはその《勇者》本人から聞いた事なんですから」
側近「・・・それは」
勇者「ええ、僕の父です」
続けてきたんでしょうね。・・・・どんな手段を使っても」
勇者「まず最初に始めたのは魔族の肉体の移植です。これも長年の間
人体実験を繰り返してきたみたいですが、結局拒否反応が強すぎて断念したらしいです」
側近「なんてひどい事を・・・・」
勇者は表情を変えずに言葉を続ける。
勇者「次に人は魔具を集め始めたんです。その魔具を元にして研究設備も
一気に段階が進んだらしいですよ?その成果もあって遂に肉体的な実験
から魔力への実験へと移行できるようになりました」
勇者「そして人は弱い魔物ぐらいなら魔具を使って殺せるようになった
んですよ。そのお陰で人は恐ろしい事を発見しました」
側近「何が・・・わかったんですか」
勇者「魔物の肉体が死んでも魔力の反応が少しの間残ってたんですよ。
そこから人はこう結論づけました」
勇者「魔物には肉体と魔力を繋ぎとめる何かの源が存在しているのでは
ないか、と。・・・・それを人は《魂》と呼びました」
研究の結果、ついに《魂》を抽出し結晶化する事に成功したんです」
側近「・・・その結晶が体内に入っている者が《勇者》なのですか?」
勇者「・・・その結晶を人は《魂のオーブ》と呼びましたが、《魂のオーブ》
が体に入っている人間全てを《勇者》と呼ぶわけではありません。
当然拒絶反応は存在しますからね、肉体の移植と比べると危険度は
下がりますが」
勇者「適正があるんですよ」
側近「適正・・・・?」
勇者「はい、ずっと研究をしてきた人々、《教会》は新しく生まれる
子供に《神の祝福》という名の実験を始めました。《魂のオーブ》
のほんの一欠けらをその赤子の体内に入れるんですよ。ほんの
一欠けらなら拒絶反応はほとんどないので」
側近「・・・・」
と適応しながら育っていきます。ある子は肉体の強い魔物の
魂と反応して戦士の素質を、また魔法に長けた魔物の魂に
反応して魔法使いとしての素質を、という風に」
勇者「それを適正といいます。そしてごくまれに複数の魔物との適正が
ある子がいるんです」
側近「・・・それを調べるのが《神の加護》なのですか」
勇者はにこりと笑う。
勇者「・・・流石側近さんです。そしてその審査に受かった子は
《魂のオーブ》の珠を新たに体に埋め込まれます」
側近「・・・・それが」
側近の声は震えている。
勇者「はい、その子供は《勇者》と呼ばれます」
勇者「そうです。今生きているほとんどの人間の体内には欠片が入って
いるんですよ。考えれば当たり前の事ですよね、勇者一行の勇者
だけが特別だったとしたら他の3人はとてもついてこれるわけ
ありませんから」
側近「・・・なら私達魔族を簡単に滅ぼせるのでは?人間全体が手を組めば
私達を上回る戦力になる筈です」
勇者「・・・人間だからこそできないんですよ。力を持った人間は人間界の
弱い魔物にもはや恐れる事はありません、言い換えれば協力
する必要がないんですよ」
勇者「初めは手を取り合っていた国々も、個々に力を持つにつれて
他の国を押しのけて我が我がと国の頂点に立とうとしました」
勇者「そしていつしか人間界には十つの巨大な王国が君臨していました。
でも人間同士の殺し合いを嫌った国々はある提案をしたんです」
勇者「30年に一度、順番に王国から勇者を含めた4人を魔王城に送り出す。
そしてその王国の勇者が魔王を討ち取ったならば次に魔王が
倒されるまでその王国が全ての主導権を得ることにしよう
じゃないか、と」
嘘よ、嘘に決まってるじゃない、そんな事。
人間の内輪もめの為に、私達魔族は苦しめられてきたというの?
側近「・・・・・ふざけないで」
勇者「・・・え?」
側近は勇者の首を掴み、床に思い切り押し倒す。
側近「ふざけないでよ!!!貴方どうしてそんな事が言えるのよ!?
私達がどんな思いで日々を暮らしていたか知ってるくせに!!」
勇者は側近の手を掴み、その目を静かに見据える。
勇者「・・・幸い王国単体では魔族を全て滅ぼす事はできません。だから
魔族は今もこうして存在していられる」
側近「・・・・貴方は何が言いたいのよ、私に絶望を与えたいの?」
勇者「・・・・僕がこの状況を壊してみせますよ」
静かに勇者はそう言った。
勇者「・・・言い換えるならば、今の人間の力を半減させます。今の魔族で
人間を追い込めるぐらいには」
側近「・・・・人と魔物が共存できるようにするって言ってたじゃないの、
貴方、やっぱりおかしいわよ」
勇者「僕は魔王様を信じてますから」ニコ
側近「・・・・・ッ!!」
勇者「現代魔王があの方じゃなかったら、僕はこの選択をしなかったかも
しれません。・・・・でも魔王様なら、正しい事をしてくれると僕は
信じてる」
勇者は困ったように笑う。
勇者「・・・僕じゃ駄目ですよ、・・・色々な物を知りすぎてしまった」
勇者「魔王様は僕なんかよりよっぽど純粋で、心が綺麗だ。でも
それゆえに脆い」
勇者「人は強い、恐らく窮地に追い込まれたとしてもまた力をつけて
魔族の脅威となって立ちふさがるでしょう。・・・僕はこの連鎖を
止めたいだけなんですよ」
勇者「これから魔王様には色々な困難が降りかかると思います。その時に
は必ず傍に心から支えられる方がいなければいけない。・・・側近さん、
これからもずっと魔王様の傍で守っていただけると約束してもら
えませんか?」
側近「・・・・貴方なんかに言われなくてもわかってるわよ」
勇者「・・・良かった」ニコ
側近「・・・話がこれで終わりなら戻るわ」
勇者「・・・今の話は魔王様にはまだ耐えられないかもしれません。でも
それを話すかどうかは側近さんにお任せしますね」
側近「・・・・・」
側近は無言で歩き出す。
側近「・・・・何よ」
勇者「側近さんの素の口調って、そんな感じなんですね」ニコ
側近「・・・・・・・ッ!!!」カァァァ
ドガッ ゴスッ バキッ
勇者「ご、ごふっ・・・・・僕まだ怪我人なのに・・・」
側近「ふん・・・」
勇者「うぐぐ・・・僕の話はこれで終わりです。じゃあ魔王様の下に戻りましょうか」
側近「・・・待って、勇者・・・・、貴方はもしかしたら」
勇者「はい?」
側近「・・・いえ、後に王国でまた会いましょう」スタスタ
勇者「・・・・ありがとう」
王「・・・さて、お前はどこまで人間の事を知っている?」
勇者「・・・・今の人々に自由はない」
王「・・・・そこまで知っていたとはな。流石は《王国の英雄》といった
ところか」
流暢に言葉を続ける。
王「・・・当然だろう?下僕が力を得れば、その分反乱を起こす危険性は
増す。それを抑える手段が無ければこの国は成り立たない」
勇者「刃向かう者は皆殺しか」
勇者「ぐっ・・・・そんな事を護衛の前で話していいのか」
王「かまわんよ。なぜならこいつ等もお前同様に全てを知っている。
・・・この期に及んで他人の心配とは呆れた奴だ」ガスッ
戦士長「・・・・」
護衛達「「・・・・」」
王「くはは、こいつ等は私に逆らう事はできない。何故かはもう
わかるな?」
勇者「・・・・人質」
王「そうだ。私はこの王国周辺に存在する全てのオーブを操る事ができる。
それはそのオーブを宿す者の命を掌握している事と同義なのだよ」
勇者「・・・なぜそんな事が」
王は嘲笑めいた笑みを勇者に向けた。
王「おや?流石の勇者殿もこの私の秘密についてはわからなかったか」
王「お前は生まれながらの化け物だが、私もまた化け物となったのだ。
・・・・何百もの《魂のオーブ》を体内に取り入れる事でな。私には
神から与えられた適正があった。だからこそ私は王国周辺全ての
オーブを従えることができる」
勇者は静かに王を見据える。
勇者「・・・・・なぜ貴方はそこまでして力を望む」
ぎしり、と王の表情が歪む。
王「・・・・貴様がそれを言うか。お前にはわかるまい、生まれながらに力を
持たぬ者の思いなどな」
この世界の真実を我ら人間は何も知らずに生きてきたのだ!!!」ガンッ
王「力のある者だけが世界の運命を決めるというのか!?我らのような矮小
な存在では自分の運命を決める権利さえないと!?・・・・そうではない!我らこそが至高の存在よ」
王はまるでこの世の全てを憎んでいるかのように吼える。
王「その時私は誓ったのだ!!!魔王が!勇者がこの世界を変えるというのなら
我らがそれを創れば良いとな!!我らは《勇者》を創った!!!《魔法》を
魔族から奪った!!この世界を変えるのは我ら人間こそふさわしい!!」
その表情は狂喜に変わる。
王「・・・そして我らは力を得た。魔族などというゴミ虫共よりもな」
勇者「・・・でもそれで民が苦しめば意味なんかない」
王「くははッ!!王の為に身を捧げられず何が民!?誰が力をくれてやったと
思っている!?無能な下僕共をここまで昇華させてやってのはこの私だぞ!!!」
王は我を謳う。
王「私こそが・・・・・神なのだ」
勇者「・・・それが僕か」
王「・・・これまでの歴史でも世界が変わる直前に《神の子》は誕生した。
それが私の最大の障害だった」
王「村からお前の事を聞いた時には全身が震えたよ。ああ、ついにこの時が
来た、となぁ。・・・まさか《王国の英雄》が育てていたとは思わなかったがな」
王「あいつは厄介な奴だったよ。下手に殺せばお前は心の枷を失い暴走
する危険性があったからな。生かしておくべきではなかった」
勇者「・・・でも貴方は父を殺した」
いなかったぞ?できる事ならお前にオーブを埋め込んで手駒にしたか
ったのだがな、欲をかきすぎたせいか貴重な配下達を失ってしまった」
王「お前さえこっちに来てしまえば《王国の英雄》の死など幾らでも
ごまかせる。あとはお前に父の死を乗り越えるだけの勇者の意義
を与えてやればいいだけだ」
勇者は力なく笑う。
勇者「あはは、・・・僕は最初から貴方の掌で踊っていただけだったんだな」
王「今更気づいても遅い、そしてそれら全ては今報われる。20年前に
お前に打ち込んだ楔はここまで大きく、貴様を蝕んだ!!!・・・・本当は
この部屋には数々の仕掛けが施されていたのだがな、使う必要性はないようだ」
お見せできなくて本当に残念だよ、と狂ったように王は笑い続ける。
王「安心しろ、私は寛大だ。・・・・もうこれ以上苦しませずに逝かせてやる」
勇者「・・・・貴方は嘘をついている。僕が貴方にとって最大の障害なら、
殺すという手段よりもっと危険の少ない手段で僕を遠ざければ良か
った。違うか?」
勇者「・・・・貴方は僕の力が欲しいんだろ?《神の子》の力を貴方は求めて
いる。オーブを僕に埋め込もうとしたのも手駒にする為じゃない、
・・・従順な研究材料にする為だ」
王「・・・・よくそこまで気づいたものだ」
王「そうだ、当たり前だろう?使いようによっては世界を思い通りに
改変できる程の力だ。・・・欲しない方がおかしかろう」
王「・・・お前の血肉は人間と変わらん。となればお前の力の根源は」
勇者「《魂》の力か」
王「くはは!正解だよ!私はお前を殺し、その神から授けられた《魂》
を我が物にする!!私にこそその神たる力は相応しい!!!」
勇者「・・・その強欲が世界を滅ぼすのがわからないのか」
王「お前の意見など聞いていない!これからは私が《神の子》となり、
世界を導くのだからなぁ!!お前はもはや世界に不要な存在となるのだ!!!」
王「・・・・お前は何が言いたい?」
勇者「僕は何も、ただ20年かけて魔王城に向かったわけじゃない。
僕は貴方が知らない魔法をいくつか使える。・・・分身魔法はその一つだ」
王「・・・・馬鹿、な。分身魔法だと!?」
勇者「できればこの魔法は使いたくなかった・・・、魔脈の事は知ってい
るな?・・・・魔力は世界を巡っている、その溜り場の事を」
王「・・・・まさ、か」
王の顔が苦渋に満ちる。
勇者「20年かけて僕は何百もの分身を魔脈に配置したんだ。・・・確かに
《神の子》としての魔力が半減以下にまで弱体化した僕では
世界を改変する事はできないかもしれない」
勇者「でも世界の巡る魔力を借りれば話は別だ」
勇者「王はなぜこの地に居城を構えたのか、それは簡単な事だ」
勇者「・・・・ここには莫大な魔脈が眠っているからだ。この地の力を借りる
事無しには僕の目的は達成できない。・・・・どうして僕が
分身ではなくわざわざ本体でここまで来たと思う?」
勇者はにこりと笑う。
勇者「僕の分身が既に王国の中央で魔法陣を構築している。・・・それを
邪魔させない為だよ」
王に先ほどの狂喜と余裕はもはや存在しない。
勇者「貴方が僕をここでおびき寄せたんじゃない、僕が貴方をここに
閉じ込めたんだ」
勇者「僕は最後まで待ち続けた。王、貴方が民を思う言葉を発するまでね。
これは貴方が選択した事だよ。僕も今から自分のする事が良い未来を描く事を願う」
王「ゆ、勇者ぁああああああああああああああああああああああ!!!!!!!」
王の絶叫に勇者は穏やかな笑顔で応える。
勇者「もう遅い」
世界を改変する魔法が発動した。
魔王「むむむ、まだ着かないのか?」
その顔には焦りの色が見えている。
側近「・・・そんな事を言っては飛竜さんに失礼ですよ」
飛竜「きゅるる・・・」バサッバサッ
魔王「あ・・・、う、すまない」
側近「しょうがないでしょう?人間と協定を結ぶなんてそんな
軽々しく決まるものじゃないんですから。きっと魔王城は
今も混乱の嵐ですよ?」
魔王「無理やり決めたようなものだからなぁ・・・・、兵士達は賛成
してくれだが・・・・・・これはッ!?」
魔王の目が上空に固定される。
側近「なんなの・・・・これ」
からとても自分では理解できないほどの構成の緻密さが読み取れ、歯車のように蠢いている。
空に描かれるこの壮大な魔法陣は一体どこまで続いているのか。
側近「・・・・勇者」ボソッ
だがそれだけでは終わらなかった。
魔王「・・・・・嘘だろう?空、が・・・・」
空の焼けるような紅は、美しく澄んだ青に変わっていた。
魔王「・・・魔力が減少していないだと・・・・!?」
人間界の空の下では力の強い魔物は充分な力を発揮できない筈だ。
・・・・何が起こっている?
魔王「・・・・急ぐぞ」
側近「・・・はい」
飛竜「きゅるるるるぅ!!」バサッ
魔王「・・・ここが人間の居城か、広いな」
魔王の声は暗く、沈んでいる。
側近「・・・・人間は私達にも劣らぬ魔力を有している、と勇者は言っていましたね」
勇者は自分自身のやるべき事を成したのだ。
魔王「・・・なぜ人間からごく微量の魔力しか感じ取れない。・・・本当にこれを勇者
がやったと言うのか」
人々の表情は暗い。
側近「・・・会えばわかります」
魔王「・・・そう、だな」
魔王の声は少し震えていた。
決して考えてはいけない事が脳裏から離れない。
王「・・・来ると、思っていた」
その顔はやつれ、その眼は淀んでいる。
人間の王の様はこんなものなのか、と魔王は内心で落胆する。
魔王「・・・全てを知っているようだな」
王は皮肉げに笑い、はき捨てる。
王「ああ、そうだな。少なくとも貴様らよりはな」
魔王「・・・では早速、私達魔族と協定をむすんでもらえるか」
王「くはは、断る道理などなかろう。今の私達人間では貴様には勝てん」
魔王「・・・人の王よ、一つ聞いても良いか」
王「・・・いいだろう」
魔王「・・・勇者は今どこにいる?」
・・・勇者のあの膨大な魔力が王国で感じられない。
王は狂喜を孕んだ笑みを浮かべた。
王「くはは、そんなに知りたいか」
王「・・・勇者は死んだよ、無様になぁ。くは、くははははははははははは」
馬鹿な、馬鹿な、馬鹿な、馬鹿な、馬鹿な。
勇者、お前が死んだだと?
・・・・そんな事があり得るわけないではないか。
体が重い、目の前が暗い、息が苦しい。
・・・・体の震えが止まらない。
魔王「・・・・嘘、だな」
王「・・・くはは、何故そう思う?」
魔王「我が城を勇者が出る前まで勇者は私など比較にもならんぐらいの
膨大な魔力を有していた。・・・お前に殺されるなど有り得ない」
いなかったぞ?」
側近は王を睨む。
側近「・・・そうならないから勇者の魔力は膨大だと言ったのです」
王「く、くはは、くははははははははは!随分と信頼されていたようだな。
いいだろう、・・・絶望を貴様らに与えてやる」
王は懐から翡翠色の水晶を取り出した。
王「この魔具が何かは貴様らも知っているだろう?」
側近「・・・《記憶の水晶》」
王「そうだ。私の記憶の一部を貴様らに見せてやる」
水晶に内蔵された魔法が発動する。魔法陣が部屋の壁に投影され、
やがて映像を映し出す。
映し出されたのは狂気。
何千もの人々が一人の人間を囲み、罵声、呪い、憎しみを浴びせている。
・・・その中央に位置する人間を魔王は知っている。
魔王「・・・・勇、者」
王「ぐっがっ・・・・あがぁっ」
力が消える。私がこれまで二千年もの間ずっと蓄えてきた力が。
戦士長「ぐっはぁ・・・うぐ」
護衛達「「ち、力が・・・」」
おのれ、おのれ、おのれ・・・・!!
王「貴、様ァ・・・・私に何をした?」ギロッ
勇者「・・・勇者はもう生まれない。・・・・その意味はわかるな?貴方の
計画の全ては潰えたんだ、これからは貴方達一人ひとりが
自分で運命を切り開いていく」
王「貴様は!!自分が何をしたかわかっているのか!?われら人間を窮地に
追い詰めたのだ!!勇者の本分を忘れたか!!!」ドガッドスッバキッガスッ
勇者の血に濡れた唇が動く。
勇者「勇、者が人間を助けるって・・・・一体誰が・・・決めた」
王「・・・・ッ!!・・・・貴様はただでは殺さん!!貴様の慕う下僕共の前で!!!
全ての憎しみを身に受けながら死ぬがいい。・・・・連れて行け!!」
戦士長「・・・はっ、立て」
戦士長、護衛と勇者が部屋を出て行く。
王「・・・・もう全て、全て終わりだ。おそらく魔王共がこちらにやってくる・・・!!
協定を申しだされれば断ることはできん」
王は歪んだ笑みを浮かべている。
王「・・・だがただで終わるつもりはないぞ?・・・・勇者よ。貴様の努力の
全てを帳消しにしてくれるわ」
戦士長「このぐらいの事は何でもありません」スタスタ
暫しの沈黙が流れる。
戦士長「・・・・勇者様、折り入って申し上げたい事があるのです」
勇者「・・・僕は勇者なんかじゃありませんよ、人々を窮地に追い込んだ化
け物なんですから」
戦士長「貴方を助けたい。貴方様は私の、いえ、私達兵士の恩人なのです」スタスタ
勇者「・・・」
・・・・貴方はそれを救ってくれた。あの邪悪な力があるかぎり私達
に未来はなかった・・・・」スタスタ
戦士長「だからこそ大恩ある貴方様を私達の命にかえてもお返しに救って
差し上げたいのです」スタスタ
勇者「・・・駄目ですよ。貴方達が死んだら、家族はどうするんですか」
戦士長の足が止まる。
戦士長「・・・・きっとわかってもらえます」
勇者「・・・それでも駄目なんですよ」
勇者「僕は世界に存在するオーブを消しました。詳しく言えば一つの
肉体に魂は一つ、という定義を定めたんですけど。それは
世界全体の人間の弱体化を示唆します、当然人々は混乱に陥るでし
ょう。何せ自分の魔力がある日突然ほとんどなくなってしまうの
ですから。寿命も元の人間の平均に戻る」
戦士長「・・・・」スタスタ
勇者「当然人々は何故そうなったのか、誰がこんな事をしたのか、と
憎しみ、恨みを持ちます。それが誰かわからなければ人間は
前に進めない、乗り越える事ができない」
勇者「僕には勇者として化け物としてその役目を受ける義務がある。
僕がやった、という事実は変わりませんから。・・・こんな悲しい真実を
人々が知る必要なんてないんですよ」
戦士長「・・・その為に死ぬおつもりなのですか」スタスタ
勇者はあはは、と笑う。
勇者「そんなわけないじゃないですか。死んだふりでもして誤魔化したら、
さっさと逃げますよ。・・・化け物ですから殺されたって死にません」
戦士長「いえ、貴方様は世界を救う勇者様なのだと私達は思っております。
必ず死なないというお言葉・・・・信じますぞ」スタスタ
勇者「まかせてください」ニコ
勇者「この前はあんな事言っちゃったけど・・・・もう逃げるだけの魔力、
残ってないんだよなぁ」
勇者「・・・・僕が死んだら悲しむ人とか魔族っているのかな」
脳裏に浮かぶのは父の笑顔、魔王の笑顔、側近の笑顔、近境の村のみんな
の笑顔、これまで出会ってきた魔族、人々の笑顔。
勇者「・・・・申し訳ないなぁ」
勇者「まあ人は僕の事を憎むに決まっているけどね」
あはは、と笑う声が空しく響く。
自分の手を見ると微かに震えている事に気づく。
勇者「そっかぁ・・・・やっぱり死ぬのは怖いなぁ。昔はあんなに死にたがっ
てたのになぁ・・・・でも今は死にたくないや」
僕ってわがままなのかなぁ、とぼやきながら窓のない天井を見つめる。
勇者「・・・・でも僕は勇者だから・・・化け物だから」
ガチャリ、と扉の開く音がした。
戦士長「・・・・時間です、勇者様」
勇者「・・・今行きます」
「「そんな・・・・勇者様が私達を騙してたなんて」」
「「畜生。よくも俺達に呪いを・・・・!!」」
「「魔力を返せーーーーーーー!!!!」」
「「なんて悪魔なの・・・」」
「「早く死んでしまえーーーーーー!!!」」
幾千もの憎悪の塊が勇者に突き刺さる。
・・・僕はこんなにも多く、いやもっと多くの人をここまで苦しめたのか。
ジクリ、と心が焼ける。
「「「・・・・・・・・」」」
王「・・・既に知っている者もいるだろう!!!」
増音の効果を持つ魔具を使って王は民に言葉を投げかける。
王「今から三日前、我らに卑劣なる呪いをかけた者がいた!!!そのせいで
我らの寿命は三分の一の減り、魔力をほぼ失った!!!」
王「だが我らは屈しはしない!!!その元凶たる者と捕らえる事に成功した
!!!それがこの男、勇者だったのだ!!!この化け物は我らにとって魔族
などよりも遥かに危険な存在だ!!!」
王「この場にてこの化け物を討ち、前に進もうではないか!!!」
「「「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!」」」
地鳴りのように人々の咆哮が響き渡った。
王「・・・どうだ勇者よ、貴様が自由にした者達に憎まれ、蔑まれる気分は・・・・!」
謝りたい。
勇者「・・・・嫌だ」
王「・・・どうした?死ぬのが怖くなったか」
王の顔が笑顔で歪む。
でも駄目だ。僕は最後まで人々に危害を加える化け物でなければならない。
勇者「死ぬのは嫌だ!!死ぬならお前らが死ねばいい!!離せえええええ!!!」
勇者は喚きながら、拘束から逃れようとする。
王は狂喜に歪んだ表情で吼える。
王「見るがいい!!!これがこの勇者の本性なのだ!!!民の事など何も考えて
はいない!!!取り押さえろ!!!」
護衛と戦士長の裏切られたような顔を見るだけで心が張り裂けそうに
なるよ。でもこうしなきゃ憎しみは受けきれない。
勇者「何をするんだ!!離せ!!離せよっ!!!」
「「この期に及んで命乞い?ふざけないでよ!!」」
「「こんな奴に期待してたのか私達は!!!」」
王「くははっはははっははははっはは!最後に貴様の本性が見れて嬉しいよ!
・・・・だがさようならだ」
勇者「やめろっ!!撃つなぁあああああああああああああああああ!!!」
これでいい。これでいいんだ。
王は叫ぶ。
王「撃てぇええええええええええええええええええええええええ!!!!!」
泣くのは死んでからでいい、・・・だから今を精一杯生きるんだ。
勇者「・・・命ある限り、生きる事を諦めてはいけない」ニコ
そうだよね、皆。
王国に十数発もの銃声が鳴り響く。
それと共に民の歓声が轟き、黒い首輪は勇者の血で濡れた。
やめてくれ、と何度も願った。でも、銃撃は止まなかった。
勇者は・・・死んでしまったのだ。
王「くははははは!どうだ・・・・?何とも不様な最後だろう?」
魔王「不様などではない・・・・ッ!あいつは・・・・勇者は最後に笑っていた!
全てを背負って笑って死んでいったのだ!!」
王「全て、だと?・・・貴様にその全てがわかるとでも?」
魔王「・・・・何だとッ!」ギロッ
王「わからんよ!貴様は勇者を知っているだけで何も理解などしていない
!!なんなら教えてやろうか!?」
いけない。今の状態で全てを知ってしまったら魔王様は・・・・!!
王「ほう・・・、お前は何か勇者について知っているようだな」
側近「・・・・ッ!!」
魔王「そう、なのか・・・・?側近」
側近「それは・・・」
魔王の顔が悲痛に歪む。
魔王「ふふ・・・・なんだ、何も知らなかったのは私だけか」
魔王「・・・人の王よ、勇者について知っている事を話してほしい。・・・全て」
王は笑みを崩さずに口を開いた。
王「・・・いいだろう」
魔王「・・・・お前のせいで勇者は死んだのだな、この首輪も・・・」
王「ああ、あの呪いの首輪がなければ勇者をこの手で殺す事は叶わなかった
だろうな、それはそれ程に強力な魔具なのだ。込められた魔法を壊す事など
勇者にすらできはしなかっただろうよ、まさに最凶の魔具と言える」
王はにたり、と口を歪める。
王「・・・・だがそれを選択したのは勇者自身だ」
側近「・・・・何をいっているのですか」
王「・・・《元始の魔王》の魔具は何も使用者から代償だけを奪い取るもの
ではない。非常に強力な力を与えてくれるのだよ」
王「この首輪の代償は生命力の全てだ、人間には使えん。勇者は強大な魔力で代用したがな、
・・・・・まるで《神の子》の為に創られたかのような魔具だろう?」
魔王「・・・代わりにどんな力を得たのだ?」
王「自分が触れた者から命を奪う・・・・いわばライフドレインだよ。
これで勇者は正真正銘の化け物となったわけだ」
王「くはは、貴様らの思っている通りだ、勇者は自身の魔力が半分に低下した
だけで回復する事はできる。奴はその恐ろしい力を封じるために魔力の
回復力分を常に消費し続けていたのだよ!!死ぬまでずっとなぁ!!!」
王「なんという愚かな奴よ!首輪の力さえ使えば死ぬ事は無かったという
のに!!・・・・だからこそ首輪を奴に着けたのだがなぁ!!」
側近「・・・・これが人間なのですね」
側近は右手に魔力を集め、魔法陣を展開する。
だがその魔法が発動する事は無かった。・・・・魔王によって魔法陣が砕かれたのだ。
魔王「・・・うむ、勇者の見様見真似だがうまくいったな」
側近「・・・魔王、様?」
魔王「お前は私を守るのだろう?ちゃんと自分を保て」
静かな声が側近の耳に届く。
側近「・・・申し訳ありません」
魔王「・・・悪いがそのような安い挑発に乗る程、私は愚かではない」
王「・・・・ッく!!」
魔王は顔を憎憎しげに歪める王を静かに見据えた。
ことはできない、そうだろう?」
魔王「・・・だからお前は考えたのだ、私にこの王国を落とさせれば良いと。
そうなれば人間との協定など結ぶ事はできなくなる。・・・なぜそこ
まで我らを憎む?どうして共に生きる事を拒むのだ」
王「だ・・・・まれ、黙れ黙れ黙れぇええええ!!!このゴミ虫共がぁ!!!貴様ら
がこの世界に存在している事自体が異端なのだッ!!!貴様らが
消えなければこの世界に平和は訪れない!!」
魔王「・・・そうか、だが私はこの国を落とすつもりはない。勇者のした
選択が正しかったと証明する義務が私にはある」
王「くはは、・・・・・それはできん。貴様は必ず人を憎み、殺す」
側近「・・・・魔王様、いきましょう。次の王国へ」
王「・・・魔族の王たる者として城を空けるというのはどうなのだ?」
魔王「・・・・何が言いたい」
王「・・・7日前から我が王国の兵士団が貴様の城に向かっている。本当に
思ったか?魔力が使えなくなった程度で本当に我が兵士の牙が抜ける
とでも?・・・・魔法が使えなくとも魔具がある。まさか我ら人間が
魔法の研究だけど続けてきたと思っているわけではあるまいな?」
側近「・・・・ッ!!」
魔王「・・・・・行くぞ」
魔王と側近は最初にここを通った時に目に付いた一軒の家の前にいた。
家とは言っても焼け落ち、おそらく町人達が投げ込んだであろう土や石で
その原型はほとんどとどめていない。
魔王「・・・・ふふ、勇者め、こんな所に私達を招待しようとしていたのか。
失礼な奴だ」
魔王が浮かべるのは勇者がいつも浮かべていた、あの笑み。
側近「・・・・貴方は強く・・・なられました」
魔王「さて、・・・・こんな場所で時間を割いているわけにはいかん。急ぐぞ」
側近「・・・はい」
魔王は静かな笑みを浮かべて呟く。
魔王「・・・泣くのは死んでからでいい。勇者・・・・そうだろう?」
魔王「・・・・あれは」
数百人単位の王国の兵団の軍勢が、魔王城とは反対の向きに
引き返しているのが見える。
側近「・・・・・人間ッ!」
側近の殺気が急激に膨れ上がる。
魔王「よせ、それよりもするべき事がある筈だ」
魔王「・・・私達の民の命が奪われたから殺すのか?それでは
何も解決しない、・・・何も変わらない。勇者はそんな事を望んではいない」
側近「・・・貴方様は勇者のように振舞おうとしてらっしゃるのですね」
魔王「・・・楽ではないがな。それよりもどうやら私達がいなくとも
城は守られたようではないか、急ぐぞ」
側近は飛竜の手綱を握る魔王の手が血で滲んでいるのを見て、
側近「・・・はい」
そう答えることしかできなかった。
側近「・・・・」
魔王「・・・こうなるのはわかっていた事だ、行くぞ」
村だったその場所には木材と瓦礫だけが散らばっていた。
民の姿は見えない、いや見えなくて良かったというべきか。
土に紛れる程に八つ裂きにされたのか、それとも魔具で
灰にされたのか、それを考える意味はもはや存在しない。
ただわかるのは、人間による暴虐の嵐によって民の命が
全て奪われた、という事だけである。
魔王「・・・・駄目だ」
魔王の脳裏に村の民達の優しい笑顔が浮かぶ。
魔王「泣いては駄目だ。・・・私は勇者の意志を継ぐのだから」
側近「・・・魔王様」
魔王は逃げるように飛竜の元へ向かおうとする。
魔王「・・・む」
足が何かを踏んだ。どうやら石でも木材でもないらしい。
側近「・・・・それは」
側近の目が見開かれる。
魔王「・・・違う」
『やっぱりお母さんの言った通りだった!魔王様
は私達魔物の事をいつも考えてくれていて、いつも
助けてくれる凄い御方だって言ってたもん!』
魔王「違うんだ」
魔王の声は震えている。
『魔王様はこれからも私達が危ない時は助けてくれるんだよね!』
『ああ、そうだな』
魔王「・・・・私は大嘘つきだ」
涙を頬を伝う。
『その首飾りにかけて誓おう。私は必ず皆を守ると』
魔王「・・・・私は約束を破って、しまった」
魔王は青い空を見上げ、呟く。
魔王「・・・・やはり私はお前のようにはなれないよ、勇者」
魔王の眼からあふれ出す滴は、絶えず土で汚れた首飾りに落ち続けた。
私は何を思ったと思う?
憎い、殺してやりたいと思ったんだ。
あの人間のにやついた顔を潰してやりたい、
お前を死に追いやった人間共を皆殺しにしてやりたいと思った。
私を笑ってくれ、勇者。
私はあの人間と何も変わらない、自分の感情に振り回される大馬鹿者だ。
・・・・だが私には勇者、お前のした事が間違っていただなんて
何よりも耐えられなかったんだ。
魔王「・・・・だが勇者、私はそれさえも・・・・できやしない」
・・・お前の意志を継ぐ事さえも
魔王「・・・私を許してくれ」
側近の震える声が耳に届く。
側近「・・・・魔王、様」
魔王「・・・馬鹿な」
魔王の眼はある一人の人間を捉えていた。
・・・この膨大な魔力に何故気づけなかったのだろうか。
その人間はあの懐かしい笑みを浮かべている。
勇者?「・・・お久しぶりですね、魔王様、側近さん」ニコ
魔王「・・・・お前は勇者だか勇者ではないな。何者だ」
勇者のように見える男は満足そうな笑みを見せる。
勇者?「流石魔王様ですね」
魔王「・・・その顔で笑うんじゃない」
勇者としか思えないその笑顔が、その言葉が魔王の心を深く抉る。
勇者?「・・・魔王様の言っている事は正しいです。僕は
勇者の分身ですから」
側近「分身魔法・・・ッ!?」
魔王「・・・では」
魔王は震える声でぽつり、と呟く。
魔王「では勇者は生きているのか・・・・?」
魔王自身、自分がどんな顔をしているのかはわからない。
だが代わりに勇者の分身の顔が苦渋に歪むのがわかった。
勇分「・・・・いえ、僕の本体、勇者はおそらく王国で死にました」
魔王は震える手で勇者分身の服を掴む。
魔王「なのにお前は既に死んでいるというのか・・・ッ!」
勇分「・・・はい」
側近の顔は悲痛に染まっている。
側近「・・・・本当に死んでしまったのですね」
勇分「それでも貴方達は前に進まなければいけません。
僕に出来る事は、もう全てやりましたから」
魔王「お前は何を言っている・・・?」
魔王は自分の溢れる感情を吐き出す。
魔王「どうやって前に進めというのだ!?私は大勢の民を
失ってしまった!!お前も死んでしまったのだぞ!?」
勇分は静かに口を開く。
勇分「・・・・前になら、進めますよ」
勇分「ここの辺境の村の方々は誰も死んでなんかいません。
王国の兵士の人々には一つも命を奪わせてなんかないですから」
側近「では民達はどこに・・・?」
勇分「申し訳ありませんが魔王城にまで来てもらいました。
その方が守りやすかったので」
魔王「・・・まさかお前は」
勇分「・・・そうです。僕の魔法としての役目は『自身の魔力が
尽きるまで魔族を守ること』なんですよ」
だろうという事ぐらいは容易に想像できましたからね」
側近「・・・だから勇者は貴方にそれほどの魔力を託したのですね」
勇分「ええ、僕の本体は役目を確実に果たさせる為に自身の魔力
のほとんどを僕に与えました」
魔王「・・・城を守りきった割りには随分と魔力が余っているようだな」
勇分は困ったように笑みを浮かべる。
勇分「あはは、でも守れたんで良かったですよ」
魔王「そうではない!!その余った魔力が少しでもあれば!!・・・勇者の
命は助かったのではないのか・・・・・・ッ!」
勇分は穏やかに答える。
勇分「・・・・でもそうしたら守りきれないかもしれなかった。違いますか?」
魔&側「・・・・・・ッ!!」
勇分「ほんの少しでも危険性が存在している限り、それを見逃すわけに
はいかないんですよ」ニコ
魔王「・・・・お前はッ、どう、して・・・・そこまで」ポロポロ
勇分「・・・僕を信じてくれたからですよ。信じてくれる事、それは僕に
とって何よりも大切な物だから」
魔王は勇分を抱きしめる。
魔王「お前は・・ひっく・・やはり馬鹿だッ!!」ギュッ
側近「・・・今回は見逃してあげます」
まぁ本人だったらぶっ飛ばしますけど、これはノーカンですよね、
と側近はぶつぶつ呟いていた。
おのれ、おのれ、おのれ
私の全てを台無しにした、憎き勇者め。
魔王城から逃げ帰る兵士団から連絡を受けた王は拳を台座に
打ちつけ、叫ぶ。
王「死して尚、この私の邪魔をするか勇者ぁあああああああああああああ!!!!!!」ガンッ
もはや人ならざる表情を浮かべ、呻く。そしてよろよろと
歩き出す。一体どこに向かっているのかは誰にもわからない。
王「ゴミ虫以下の腰抜け共め・・・!!くは、くはははははっははは
は戻ってきたら全員縛り首にしてくれる!!くはははは」
王「くはは、私がこの眼で魔族共の滅亡を見なければ意味などないのだ
・・・・・ッ!!どいつもこいつも使えぬ!!!」
口が裂けるかのような笑みを顔にはりつけながら王は一人歩き続ける。
王「くはは、そうだ。使えぬ下僕共などに価値などないではないか、
くはは、ははははは。私だけが至高の存在であれば良いのだ。
私こそが神に選ばれた存在なのだ」
王はやがて漆黒の扉の前にたどり着いた。そしてその扉を開ける。
ぞわり、と闇があふれ出す。
王「くは、くははははは、貴様らが無能だから高貴なる私が前に出て
やるのだ。貴様らが無能だから無能だから無能無能くはははははは。
誰が愚図共に勇者などまかせるか」
あろう手をそれに触れる。
闇が、呪いが、苦痛が、悲しみが、憎悪が、憤怒が、力が王の体を包んだ。
王「くがッ!?がぎゃぁがっがぁああああああ!?く、くぎゃ、はははははは
ハハハはははハはあはははははは!!!!!!!」
求めるはゴミ共の血のみ。
王「・・・・我こそが至高の存在なのだ」
一人の人間の狂気の末に一匹の化け物が誕生した。
勇分「・・・魔王様と側近さんは先に城へ向かっててくれますか?
まだやるべき事ができたみたいなんです」
魔王「・・・なら私も行くぞ」
側近「魔王様が行くのなら私もご一緒します」
勇分「あはは、本当に大した事じゃないので一人で大丈夫
ですよ」ニコ
魔王「嘘だな」
勇分「・・・・嘘なんかじゃないですよ」
魔王「・・・お前はいつもそうだ。全てを自分で抱えて全てを
自分で解決しようとする」
魔王「その嘘が私達魔族を傷つけているのがわからないのか。
お前がもし前もって話してくれていたら何かが変わった
かもしれんなかった。・・・お前は死ななかったかもしれなかったんだぞ」
勇分「・・・本来なら全て僕が終わらせるつもりだったんですよ?
魔族さん達を巻き込んでいるというだけで謝っても謝り
きれないぐらいなんですから」
側近「そうです。貴方は私達魔族に多大な迷惑をかけました」
魔王「・・・・側近?」
側近「だから全てが終わってから、思う存分謝ってください」ニコ
勇分「・・・あはは、厳しいのか優しいのかわかりませんね」
勇分は眼を閉じ、暫しの間の後口を開いた。
王が何かしたんでしょう。それも異常な事を」
魔王「・・・奴めまだ何かするつもりなのかッ!?」
勇分「だから僕はそれを止めに行ってきます」
魔力がほとんど余ってて良かったです、と勇分は笑う。
魔王「・・・止めてもお前は行くのだろう?」
勇分「・・・はい」
勇分「民の方々にはもうお別れはいってあるので、
鳥族1さんからはなんと剣を一本もらっちゃいましたよ」ニコ
勇分が魔法を発動させる。
魔王「・・・お前にはまだ言ってやりたい事が山ほどあるんだ。・・・必ず戻って来い」
勇分はあの笑みを浮かべて答えた。
勇分「もちろんですよ」
大気を震わす衝撃とともに勇分の姿は消えた。その軌道を見上げながら魔王は呟く。
魔王「・・・・嘘つきめ」
何でもできそうだ。
体が軽い、最高の気分だ。
力を持つ者の気持ちが今ならわかる。
我が下僕と呼んでいた物はもはや蟻ほどの存在感も感じない、
どうでもいい。
そんな事よりもはやくこの力を振るおう。
ゴミ虫共を皆殺しにしてやろう。
我ならできる。
・・・・その為には我が国からでなければ。
王「・・・くはは」
自らの足に軽く力を込める。
ゴッ!!!! 轟音と共に地面が爆ぜる。
その跳躍を眼で追える者は、いない。
闇夜に月が輝いている。
我の上に存在する者はいない。
我は全てを見下ろしているのだ。
漆黒の鎧から鮮血が滴り落ちる、そんな事はどうでもいい。
・・・我は満たされている。
「そうはさせない」
何だ、コレは。我が国から飛んできた。
我と同じ高さに位置している。
邪魔だ、邪魔だ。頂点に君臨するのは我のみでいい。
消せ、消せ。
勇分2「さて、時間稼ぎをさせてもらうよ」
化け物は一人、呟く。
王「ああ、コレは・・・・邪魔だな」
王国の夜に閃光が迸った。
何だ、コレは。
消しても消しても沸いてくる。
ゴミ虫程の力しか感じない筈。しぶとい、邪魔だ。
腕を振るう。
ゴミ虫の首がひしゃげ、消える。
またゴミ虫がやってくる。我が剣を横に払う。
ゴミ虫の胴体が二つに分かれ、消える。
「・・・なんとか間に合いましたね、他の分身はほとんど消され
てしまったようですが」
なんだ、またゴミ虫か。
王「・・・コレで、最後、か」
勇分は静かに王を見据える。
勇分「・・・そうだ。・・・僕の事は忘れられてるみたいだな、
それとももう見えないのか」
コレはゴミ虫などではない。
危険だ、危険だ。
こいつの力量は我に届く。
何だ、こいつは、消せ、消せ。
勇分は気負いなく刃を抜き放ち、刃に無数の魔法陣が展開される。
勇分「・・・王、貴方は人として未来を生きるべきだった」
刃を我に向けるだと、無礼な。
黒が鎧の全てを塗りつぶす。全てを消す。・・・・そうかお前は。
王「・・・勇、者ッ!!!」
勇分「これが《勇者》としての最後の戦いだ」
王「我こそがッ!!勇者なのだッ!!!!!!」
光と闇がぶつかった。
その衝撃は人知を超える。
雲は掻き消え、空は割れる。その轟音は全ての生物に畏怖を与えた。
地上の全ての生物には、それが世界の終焉に見えた。
当然、勇者が王の兵士から辺境の村のみを守ったわけではありません。
辺境の村は魔王城への通り道に位置している為に他の村のように気配を
消すだけでは対応できなかったという事です。
要するに勇者は魔王城の通り道周辺全ての村に分身を置いて気配を消していた
というわけですね。
あとは魔脈の使用が終了した分身が王に向かえば筋は通っているかな?
と思います。
魔王「遂に始まったのだな」
大気は震え続けている。
側近「・・・では行きましょうか」
魔王「そ、側近?」
側近「もしかしたらもう勇者とは会えなくなってしまう
かもしれないのでしょう?行かなくても良いのですか?」
側近は穏やかな笑みを浮かべている。
魔王「ふふっ、そうか・・・・側近も変わったのだな。勇者に会って」
側近「ええ、本当の本当に不本意ですがね。認める他ないでしょう」
魔王「どうした?」
民幼女「勇者様は戻ってきてくれるんですよねっ?」
魔王「・・・・きっと私が連れ戻してこよう」ニコ
エルフ少女「私からもお願いします!!・・・まだ何もお礼してないのに
もう会えないなんて嫌だよぉ」ポロポロ
厨房室の魔物1「そ、そうだ!!雑用がいねぇと毒味できなくてよ!!」
鳥族1「・・・・俺達が行っても足手まといになっちまうからな」
「「「「そうだ!勇者はいい奴なんだ、あいつを連れ戻せるのは魔王様しか
いない!!あいつはこの城に必要なんだ!!」」」」
「「「「お願いします!!魔王様!!」」」」
側近「それでいいのでは?貴方様は今間違いなく人間との協定を超えて
城の者全員から慕われてる、それが貴方の目指す《魔王》だったのだから」ニコ
魔王「・・・そうだな」
・・・これもお前のお陰なのかな。
魔王「勇者、わかるか?お前はこんなにも多く、いやそれ以上の者達に慕われている。
・・・・化け物としてではなく」
魔王「お前は一人じゃないんだ、勇者」
「・・・なんだアレは」
「も、もう世界は終わりだ・・・」
「魔力もほとんど失って・・・、寿命も半分以上も失って・・・俺達はもうどうすればいいんだ」
戦士長「ふざけるんじゃないッ!!!何故命がある事を喜ばない!!前に進もうとしないんだ!!!」
私は知っています。勇者様、貴方がわざとあのように振舞われた事を。
貴方は私に何を託したのでしょうか。
「何言ってんだ!!今の状態で魔物共に攻められたらもうお仕舞いだぞ!!」
「魔物なんかに殺されるなんて嫌!!」
民の命でしょうか、王国の未来でしょうか。
戦士長「生きる為ならどんな手段でも使えば良いだろう!!魔族と協定を
結ぶ事だって!!!私達は先人の為に生きている限り生きる希望を捨ててはいけないのだ!!!」
私は貴方様のようにはなれないかもしれない。
でも、それでも私は私なりのやり方で生きる希望を育てていきたい。
戦士長「私達が生きている限り!!希望は潰えない!!私達こそが希望なのだ!!」
貴方様の意志を、私は守り続けると誓います。
強い、本当に強い。
本来なら一個体を対象に振るってはいけない僕の力が押されている。
王がどれだけの犠牲を払ってこんな力を得たのか想像もできない。
命だけでなく魂までも捧げたのか。
いや、それだけでは代償として足りない。
まだ人の体の中に入っていない全てのオーブの中に入っている
何万もの魂を代償として捧げたのかもしれない。
ただわかるのは王が自分だけを代償にしただけでこの力を得た
わけではないという事か。
勇分「・・・それを見逃すわけにはいかないな」
莫大な魔力を刃に込め、同時に飛行魔法の加速を最大に挙げる。
それに対し王は大気を蹴り、勇者に勝る速度で向かってきた。
王が剣を振るう度に、勇分が剣を振るう度に大気が割れる音が
何度も響き渡る。
王「くはッ!くははははッ!楽しい!楽しいぞ勇者ぁあああ!!!」
王が手を、足を動かす度に鎧から血が噴出す。
勇分「僕が消されるのが先か、王が自滅するのが先かってとこか・・・」
減るというよりは消えるという表現の方が正しいだろうか。
勇分「あはは、・・・・その剣は怖いなぁ」
王と勇者を何百もの魔法陣が一瞬で構築される。
勇分「僕は生身じゃないんでね」
雷、風、炎、水、その全てが世界をほろぼす災害となって王と勇者にのみ襲い掛かる。
王は狂った笑みを浮かべ叫んだ。
王「そんな物がッ!!!我に効くとでも思ったかぁあああああああああ!!!!!」
ゾンッ!!!! 全てを断ち切る一撃が勇者の右肩を襲った。
勇分は咄嗟に剣を左手に持ち変える。
右腕が綺麗な弧円を描いて飛び、勇分は困ったような笑みを浮かべた。
勇分「・・・このままじゃ勝てそうにないよ、まいったなぁ」
やっぱり魔王の所へ戻ろうとする事自体が軽率だったのか。
・・・僕は約束を破ってばかりだな。
勇分「貴方は僕が今まで出会ってきた中で最も強い」
勇分「・・・だから僕の全てを賭けて貴方を倒す」
勇分の全ての魔力を賭けた魔法が発動した。
勇者め。あんな魔法を我は知らない。次元が違いすぎる。
また我の邪魔をするのか、我の全てを壊すというのか。
ごぽっ、と血と共に王は掠れた声を絞り出す。
王「我も、真の力をもつよ・・・うになり、わかった」
力を持つ者はその力を行使したい、思う存分振るいたいという
衝動に支配される。我も例外ではない。
王「だがお前は・・・・・それほどの力を持ちながらなぜ力に支配されない・・・・ッ!!!」
認めたくない、目の前の存在を。
有り得てはいけない存在なのだ、この男は。同じ力を持ってしても
同じ高さに登れぬ程の絶対的な差。
奴こそが真の化け物。奴の絶対的な理性こそが化け物たる所以なのだ。
勇分は涼しい顔で笑って答える。
勇分「・・・・ほら、僕って怖がりだからさ」
勇分「もう終わりにしよう、これからは人も魔族も、皆前を向いて
生きていけるんだ」
王「ふ、ざけるなぁあああああああああああああああ!!!!!!」
王は咆哮と共に大気を蹴った。轟音と共に王の姿は消え、勇分に
迫る。そして王は渾身の力を込めて勇分の心臓を穿った。
王「くは、くはははははははは!!!!どうだ!!」
王の剣で心臓を貫かれた勇分は笑みを失わない。
勇分「・・・生身だったら即死だったよ」
自分の残り少ない魔力が急激に減少するのを感じながらも勇分は笑う。
勇分の剣は静かに王の心臓を貫いていた。
王「く・・・・か」
ずるり、と王の黒剣が勇分から抜ける。
勇分「・・・恐らく貴方は自分の肉体と魂だけでなく色々な物を犠牲に
してその力を得た筈だ。それらを全て解放するにはこの手段しかなかった」
王「く、はは、私の魂にかかる、《元始の魔王》の魔法を強制的
に・・・解いたのか。もはや契約自体を無かった事にされる・・・とはな」
勇分「あはは、・・・貴方の鎧を貫くのは容易ではありませんでしたけどね。
その鎧があの首輪程の魔法で守られていたら、とても壊せませんでした」
勇分は剣を王から抜き、に鎧に手を当てる。
勇分「貴方は生きなければいけません。貴方が僕に昔言った事を覚えていますか?
・・・・貴方が死んだからって苦しめた民への罪を償った事にはならない」
回復魔法が展開された。勇分は穏やかな笑みで言葉を続ける。
勇分「なら貴方も他の方法で償い方を探してください、僕に言ったように」
王「そん、な事ができるとでも・・・・・ッ」
勇分「・・・・貴方は正気に戻ったのでしょう?」
王「・・・・・・ッ」
勇分「なら貴方を慕う人々に何をしてきたのか、理解できる筈です。・・・
どう償えば良いかも。・・・・地上が近づいてきましたね」
勇分は王に飛行魔法をさらに発動させる。王の体の自由がきかなくなる。
王「・・・・勇者はどうするのだ」
勇分「ほら、僕は生身じゃありませんから。・・・ここでお別れです」ニコ
大気を振るわせる音と共に王の姿は消えた。
この他ならぬ私だというのに。私を殺す事など世界改変の時にできた筈」
私もかつては人間全体の事を何よりも考えていた筈だ。
王「・・・・どこで間違えてしまったのだろうなぁ」
王「・・・・負けた。化け物としても・・・・・人としても私は勇者、お前には歯さえ
立たなかった」
僕の分身としての、勇者のとしての役目は全て・・・。
きっと魔王は人間と未来を創っていける。
もう僕には信じる事しかできないけれど・・・・。
勇分「・・・・もう眠っても良いんだよね」
もはや体はぴくりとも動かす事はできない。
かろうじて喋る事ができるくらいだろうか・・・・。
勇分「あとは・・・・自然に魔力が流れて僕の存在が消えるのを待つだけか」
勇分「怖いなぁ・・・・怖いよ。やっぱり消えるのは。僕の本体も怖かった
んだろうなぁ・・・・生身だもんなぁ」
かろうじて勇分は笑みを作る。
勇分「・・・・おやすみ、みんな」
「-------------」
・・・あれ、僕まだ消えてなかったんだなぁ。
さっきから何か音がする・・・・・誰だろう?
「------------!!!」
・・・・よく聴こえないよ。眼を開けてみようかな。頑張れ、僕!!
眼を開くとそこには僕が知っている顔が映っていた。
勇分「・・・・ああ、久しぶりです、ね」
魔王「・・・随分とやられた様だな」
あ、側近さんもいる。どうして悲しそうな顔をしてるのかな?
側近「・・・ようやく目覚めてその一言ですか、まったく」
勇分「あ、れ・・・・?僕膝枕してもらっちゃって、るよ。
側近さんに怒られちゃうなぁ・・・・あは、は」
側近「・・・・今日の所は見逃して上げますよ」
しても、しきれ・・・ません。そしてこれからもきっと
僕のした事で、迷惑・・・かけてしまうかもしれないですけど」
勇分は力を振り絞って笑おうとするが半笑いのような状態で
止まってしまう。
勇分「・・・・全て、全てうまくいきました。誰も死なないで・・・・
誰も酷い怪我を負わないで・・・・皆、前に進める」
魔王「・・・・お前は死んでしまった」
魔王の顔から滴が勇分の顔に落ちる。
勇分「そんな・・・泣か、ないでくださ、いよ・・・・。どうして、
泣くんですか?・・・・笑ってくださいよ」
勇分「・・約、束?」
魔王「お前を必ず城へ連れて帰ると・・・ッ!皆に約束したのにッ!」ポロポロ
勇分「・・・それは悪い事を・・・・してしまいました、ね」
魔王「なぁ、勇者。・・・・お前は未来を私に託したんじゃない、押し付けたんだよ」
勇分「・・・・それは、わかってますよ」
魔王「・・・それ相応の報いがあっても良いのではないか?」
勇分「ええ・・・、僕に、できる事なら・・・。とは言っても、もう今の僕に
できる事なんか、ほとんど・・・ありませんけど」
魔王「私はな・・・・勇者」
魔王は穏やかな笑みを浮かべていた。その両目は赤く腫れている。
魔王「お前の泣き顔が見てみたい」
魔王「・・・なら怒ってみろ、叫んでみろ」
勇分「・・・・・ッ!!」
僕には魔王の言っている事がわかる。
魔王「私がこの世界をお前が正しいと思う世界へ導くと誓う。
お前の意志は私が受け継いでいく、私の命ある限り」
魔王「・・・もう良いのではないか?お前は人と魔族の為に精一杯頑張った。
・・・・もうお前が《勇者》であり続ける必要はないんだ」
まるで母親が我が子に聞かせるように言葉を続ける。
魔王「私など想像もできぬ程にお前はこれまで苦しかった筈だ、
悲しかった筈だ、怒りたかった筈だ、・・・・泣きたかった筈だ」
魔王「・・・これで最後なんだ、またお前は死んでしまう。もう二度と
私の前にお前が現れる事はないだろうな」
魔王「・・・私は最後にお前の全てが知りたい、お願いだ、・・・頼む」
勇分「・・・・本当に、魔王には敵・・・わない、よ」
いつもだったら僕は笑っていたのかな。
話してもいいかな、本当の僕。
いや、本当の僕の為にも話さなきゃ駄目なんだ。
魔王の為にも。
魔王「・・・何をしている!?」
勇分「話せるようにならないといけないからね、・・・・どうせ消えるのが
少し早くなるだけだよ」
魔王「話してくれるのだな・・・・」
勇分「うん、・・・・僕が10歳の頃に勇者になったという事は知ってるかな」
魔王「・・・・ああ、人の王から聞いたよ」
勇分「どうして僕が勇者になったと思う?」
魔王「・・・人と魔族が共存できる世界にする為だろう?」
勇分は困ったように笑う。
勇分「本心では違うんだ」
勇分「・・・怖かっただけなんだ」
勇分「僕が勇者になったあの日、僕は両手では数え切れない程の人の命
をこの手で奪った。それから僕は全てが恐ろしくなってしまってね。
ああ、小さい頃からずっと力を押さえ込んできた筈なのに僕は
存在するだけで命を奪ってしまうんだってね。・・・勇者になったのは
その責任から少しでも逃げたかったからなんだ」
魔王「・・・」
勇分「僕はずっと逃げてきたんだ。命が怖かった、奪ってしまうのか怖かった。
魔族さん達からどんなに攻撃されても、僕は絶対に命を奪いたくなかった」
勇分「もう分かるよね、僕は勇気なんかない、優しくなんかない。ただの
最低の臆病者なんだって」
勇分「そんな僕は勇者になってすぐに父から魔界と人間の真実の全てを知らさ
れてしまった。僕は思ったんだ、たとえそれが正しくても、悪くても
絶対に最も命が失われにくい世界にしようって」
魔王「それが魔族と人間との共存、か」
勇分「・・・・そうだよ。僕を軽蔑してくれてもいい」
勇分「僕は世界の為、だなんて少しも考えてなんかいなかったよ。
ただの僕の独り善がりでみんなを巻き込んだ。」
勇分「でもそんな僕に王国の人々は笑いかけてくれた、僕を一切疑っていないんだ。
それだけじゃない、魔族さん達だってそうだ」
勇分の声が震える。
勇分「最初は辛かったけど本当はとても優しい方々なんだ。魔族を何度も苦しめて
きた《勇者》の僕に・・・・それでも笑いかけてくれたッ!」
勇分「僕はその笑顔が嬉しかった・・・!でも同時に恐ろしくなったんだ」
勇分「僕に笑顔を向けてくれる皆は僕が知っている真実を知らないんだ、って!!!
僕の眼にはその眩しい笑顔がとても儚く、脆い物に見えた・・・・ッ!だって
ほんの少しでもあの恐ろしい真実に触れただけで壊れてしまうんだから!!!」
勇分「人々が本当は実験台にされているって知ったらどうなってしまうのかな!?
魔族さん達がこれまでの苦しみが人間同士のただの内輪もめだって知ったら
どうなってしまうのかな!?」
勇分「僕にはもうわからなくなってしまったんだ。魔王を殺せば、人間を殺せば
皆は救われるのかな・・・・?だから僕はその選択が与えられる時を待つ事に
したんだ、その時の為に全てを備える事にしたんだ」
勇分「・・・・僕に選択を与えてくれたのは君なんだよ、魔王」
勇分「でも・・・魔王は僕なんかとは全然真逆だったよ。何もかもからも
逃げないで真正面から立ち向かうんだ、僕は心を救われた」
勇分「それが僕には光にみえた、魔王なら正しい選択をしてくれる
かもしてない・・・・そう思ったんだ」
暫しの沈黙が訪れる。
魔王「・・・私はお前を光なのだと思い、お前は私を光だと思っていたのだな」
魔王「・・・・お前は臆病者なのだろう?死ぬのが怖くはないのか」
勇分は静かに口を開ける。
勇分「・・・・もちろん怖いに決まってるよ、でもそんな事よりも
魔族の皆が死んでしまう方が・・・・・・よっぱど、怖かった」
魔王「やはりお前は勇者だよ、臆病者などではない」
勇分「そういってもらえるなら・・・・嬉しいよ」
勇分の体が透け始める、魔力が尽きかけているのだろうか。
魔王「・・・・なぁ勇者、一つか二つ最後に言っておきたい事があるんだ」
勇分「うん」
勇分「・・・・勘違い?」
魔王「ああ」
魔王「・・・お前は魔族が優しい、お前が勇者でも笑いかけてくれた。
そう言ったな?」
勇分「そうだね」
魔王「魔族が《勇者》に気を許すと、本当にそう思うのか?」
魔王「お前は気づいているのではないか?私達魔族は《勇者》にでは
なくお前に気を許したのだと」
勇分「・・・・」
魔王「私も城の者も、お前が来るまでは人などに心など許していなかった。
お前がいつも浮かべていた笑みは本当の笑みではない、とお前は
言っていたな。・・・・だが私達はお前の笑顔に救われたのだ」
起こったなぁ、楽しかったなぁ・・・・あれほど笑う事はもう二度
とこないのだろうな。ふふ、お前の所為で私の城はとんだ腑抜け
の集まりになってしまったよ。皆常に笑っているのでは示しが
つかないだろう?」
魔王「お前のいた一年半は・・・・これからも永遠に続くかのように心地よかった」
魔王「・・・・全部、お前のお陰だ」
勇分「・・・・・あは、は、もし僕が泣ける体だったら泣いてましたね」
魔王「次で最後だ」
魔王は勇分の体を抱きしめる。
魔王「・・・お前に会えて良かった、今まで助けてくれて、笑ってくれて
・・・傍にいてくれて、ありがとう」ギュ
魔王「・・・お前の事が好きだ、勇者」
勇分「・・・僕が返事をしても、君は僕の事を忘れると約束してほしいんだ」
魔王「・・・何を言っている」
魔王は腕に力を込める。
勇分「・・・《勇者》はもう生まれない、未来に《勇者》はいらない、
僕は忘れ去られるべきなんだ。・・・・皆には笑ってて欲しいんだよ、僕の最後の願いだ」
魔王「・・・わかった」
勇分「こんな事は本当の僕だって死ぬまで言わない筈だった
んだけどなぁ・・・」
勇分「君と一緒に城で過ごした時間は楽しかったよ、初めて
太陽の下に生きているようだったよ。・・・・そしてできるなら
ずっと・・・そのまま皆で暮らしていたかった」
魔王「・・・どうしてお前だけが死ななければならないのだろうな」
勇分「そんな顔をしないでほしいな、僕は君の笑顔を見て消えていきたい」
魔王「ああ、・・・・そうだな」ニコ
勇分「何も僕だけがこういう運命をたどっているわけじゃないよ。僕なんかより
もっと苦しい運命を背負っている人や魔族だっているんだ」
勇分「なのに僕はなんて幸せなんだ・・・色んな出会いが会って、仲良くなって
、未来を創れて・・・・最後には君が笑っててくれる、僕の本体も
そう思っていた筈だよ」
勇分は魔王が今まで見たこともない程、ぎこちない笑顔を浮かべた。
勇分「大好きだよ、魔王」
魔王は勇分が確かにいた空間を、ゆっくりともう一度抱きしめる。
魔王「・・・知っているか、勇者」
魔王「私は・・・嘘つきなんだ」
魔王「・・・」
側近「今は城の方も貴方がいなくて忙しい筈です、辺境の村の復興だって
まだ手がついていないのですよ?そろそろ向かッ」
側近「・・・・魔王様?」
魔王「・・・・・・察しろ」ギュ
側近「もう、勇者が目を覚ます前にあんなに泣いていたのにまだ泣き足りない
んですか?」
側近は優しく魔王の頭を撫でた。
側近「もう少し・・・だけですよ?」
魔王「・・・・ぅ・・・ひっく・・・う、うあああああああああああああ!!」
側近「・・・・今は悲しくても、苦しくても、少しずつ乗り越えてい
けばいいんです。・・・どんなに時間がかかっても」
エルフ少年「ちょ、ちょっと待ったぁっ」
少年はもはや半べそ状態だ。
エルフ少女「もうっ、情っけないわね!もっとちゃんとしないと
相手にならないじゃない!」
エルフ少年「だ、だってお前もう魔王城の兵士より強いじゃないか!
俺には荷が重いって!!」
エルフ少女「ほら立って!今日は大事な日なんだから、もう一回よ。
私の成長ぶりを見てもらわなくちゃ!」
エルフ少年「何だよ・・・もう3年も経っているのに」ボソッ
エルフ少女「・・・何か言った?」ギロッ
少年は空気が間違いなく冷たくなったのを感じた。
エルフ少年「な、何でもねぇよ畜生ぉおおおおお!!!!」ダッ
エルフ少女「・・・そんな事、私にだってわかってるわよ」
「魔王様、お伝えしたい事が」
魔王「何だ、今日城の者達は皆休暇をとっている筈だが」
「・・・それか今年は人間の中に我らと一緒に祈りを捧げたいとい
者がおりまして」
魔王「・・・良い、許す」
「承知いたしました」
その者は一礼をして去って行った。
魔王「そうか・・・、真実を知った人間もいるのだな」
側近「魔王様、・・・そろそろお時間です」
魔王「ああ、行こうか」
魔王は穏やかな微笑を浮かべた。
魔王は村にある他となにも変わらない一つの墓の前に立っていた。
村は数え切れない程の魔族で埋め尽くされていて、中には
人もまぎれている。
・・・あらゆる種族の壁がこの場ではなくなっていた。
魔王の凛とした声が村を通る。
魔王「今日この場に足を運んでもらい、勇者の友として感謝する」
魔王「皆・・・祈りを」
お前は皆に忘れろと言ったな。
・・・勇者、見えるか。
これがお前にはどう見える?
私には光に見える、きっと未来を照らしてくれると確信できる光だ。
だから私達はお前の事を決して忘れない。
あと今年はすごかったんだ。なんと数は少ないが、人が
辺境の村へ移住してきた、すごいだろう?
この一年もまたお前の願う未来に少しだが近づけたのか?
・・・私は私なりのやり方で来年も頑張ってみるよ。
だから次の年にもう一度お前に会いにくる事だけは許して欲しい。
かつて《勇者》と呼ばれた化け物。
村長「・・・」
その化け物は魔族に災厄をもたらす筈だった。
エルフ少女「・・・」
だが魔族は誰も命を落とすことはなく、
鳥族1「・・・」
今を生きている。
ならばその化け物は人を滅ぼしたのか。
僧侶「「・・・」」
だが人は生きている。
王国の女「・・・」
両者の大切な命を一つずつ失う事で、私達は今を、未来を生きている。
王国のはずれの村人「・・・」
その尊い犠牲の為は私達は祈り続ける。
魔王「・・・」
勇者の為に私達は祈り続ける。
民幼女「ねぇねぇ!何してるの?」
「・・・ん?お墓参りかなぁ・・・」
民幼女「わっ、わっ、人間なのにお兄さんすごくかっこいいねぇ!」
「あ、あはは・・・、お礼とか言った方がいいのかな・・・?」
民幼女「ってあれ!?どうしたの?・・・どっか痛いの?」
「どうして?」
民幼女「だって・・・お兄さん泣いてるよ?」
民幼女「すっごい泣いてる!すっごい涙出てるよ!?すごく痛いの?」
民幼女その男の頭を頑張って撫でようとする。
「・・・・あ、はっ・・・・いや・・・っ、これは・・・そういう涙じゃ、ないんだ」
民幼女「・・・じゃあ痛くないのに泣いてるの?・・・ふふっ、おかしいねっ」
「あはっ、は・・・・僕もこういう涙は生まれて初めてだよ」
民幼女「あれ?どっか行くの?」
「うん、・・・ある魔族さんに会いに行くんだ」
----ーーーーーーーーーーーーーーーーー魔王城
側近「・・・魔王様、貴方様に会いたいという人間がいるのですが」
魔王は忙しなく筆を動かしている。
魔王「・・・む、悪いが今は忙しい、今日の所は帰るように伝えてくれ」
側近「・・・忙しくても会う価値はあるかと」
魔王「・・・・何かあったのか?」
側近「そうですね・・・・、今までで最大の危機かもしれません」
魔王が慌てて椅子から立ち上がる。
側近「今回の機会を逃せば魔王様は間違いなく大切な物を失うでしょう」
魔王「・・・・そいつは何者なんだ」
側近「さぁ、私では正体がわかりませんでした。ただ、貴方様にとって
重要な意味を持っている事は確かです」
側近「その人間はこの城の庭園にいます。いますぐお会いに行かれた方がよろしいかと」
魔王「・・・わかった!」ダッ
側近「・・・まだ気づかないなんて、世話が焼けるんだから」ニコ
私が、私達がどれだけの犠牲を払ってここまで来たと思っている。
私が止めてみせる、邪魔などさせん。
魔王は毛皮のフードを被った人間を見つける。
・・・・あいつか。
魔王「お前が側近のいっていた人間かッ!!!」ギロッ
勇者「はっ、はいっ!?」ビクッ
えっ、えええええええええええええええ!?
なんか魔王すっごい怒ってるよ!?あれ?なんか想像してた再会と違う!!
というか魔王の魔力凄い!殺気凄い!今の僕だと一瞬で消し炭だよ!?
側近さん一体何言っちゃったのかなっ!?
魔王「・・・お前はようやく手に入れた平穏を壊したいらしいな」
勇者「えっ・・・、いやぁ・・・・そんな事するつも」
魔王「はっきりと話さないか!!!」
勇者「はいっ!すみませんっ!」ビシッ
きっと殴られたら当たった部分どっか飛んで行っちゃうよ。
魔王「・・・ん?なんかこの小物みたいな感じ・・・どこかで見たか?」
もうせっかく会ったのに心がズタズタだよっ!?なんて言った瞬間、
僕は粉々になっちゃうんだろうなぁ。
勇者「・・・・はい、まぁ一応は」
魔王「・・・・・んん!?その声・・・・、おい、ちょっと顔見せろ」
魔王は勇者が被っていたフードを上げた。
勇者「あは、は・・・・どうも、久しぶりだね魔王・・・」
魔王「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
魔王「・・・悪ふざけにしては度がすぎるのではないか?」
勇者「・・・・・え?」
魔王「・・・勇者はもう死んだ、この世にはもういない。
お前は何だ、変化の魔法でも使っているのか」
魔王の声は震えている。
勇者「・・・この首輪を見れば僕だってわかるかな」
魔王「それは・・・・ッ!」
勇者は魔王を抱きしめる。
勇者「僕はちゃんと戻ってきたよ」
一粒の滴が魔王の眼から落ちる。
勇者「うん」
魔王「ひっく・・・分身では、ないんだよな・・・・ッ?」ギュ
ぽろぽろと涙が落ち続ける。
勇者「そうだよ」
魔王「・・・・信じるぞ?いいのか?」
勇者「うん。だからさ、せっかく久しぶりに会えたんだから笑ってよ。
君の笑顔が見たい」
魔王「ふふ、なんだ・・・・お前だって泣いているじゃないか」
勇者「・・・・うん」
魔王「まったく・・・せっかくお前の泣き顔が見れると思ったのに、
・・・お前は泣く時も笑っているのか?」
勇者「・・・たぶん嬉し涙じゃないかな」
魔王「ふふっ、それにしてはぎこちない笑い方だな」
勇者「・・・これからはきっと自然な笑い方になるよ」
魔王「・・・ああ」
勇者「君の事が好きだ」
魔王「なんだ・・・・そんな事はとうの昔に知っている」
勇者「ばれてたのかぁ・・・・、じゃあ返事はッ・・・・・・・」
二人の時間が止まる。
魔王「・・・・・・・・・・・・・・これで返事にはならないか?」
勇者「・・・・・・本当に、君には敵わないよ」
魔王「・・・いや、やはり言葉にしておこう」
勇者「どうして?」
魔王「察しろ・・・言いたい気分なんだよ」
その笑顔は僕が今まで見た中で最も輝いていた。
魔王「私はお前の事が大好きだっ!勇者っ!」
fin
お疲れ様
後日談カモーン
事多すぎだろks、と仰られる方がいるだろうと思い、一応書いておきました。
ここに出てくる人物についてですが、名前が同じでも本編と異なるので
注意、王とか。王国も本編とは違います。ややこしくてすみません;
----―--------約4千年前 王国
唐突に銃声が鳴り響いた。
男「・・・・」
男がうつ伏せに倒れている。
どうやらこの男が撃たれたようだ、その頭から血がじわりと流れ出る。
男「・・・・・またか」
重く冷たい声がその男の口から漏れ出た。
「・・・・くそっ!化け物め・・・・!!」
男「・・・邪魔をするな」
男はのそりと立ち上がり、また歩き出す。
王は憎憎しげに呻く。
王「お前が何度ここに来ようとも何も変わりはしない!さっさと消えろ!」
男「・・・・お前達人間がこのまま木々を殺し続ければこの星は滅ぶ」
王「星?・・・星とは何だ」
男「人間にとって星とは世界だ」
王「世界を滅ぼす程の力を持った我ら人間ならば恐れる事など何もない!
私は間違ってるとでも言うつもりか?」
男「・・・間違っては、いないな」
男「・・・ここも昔は木々が生い茂っていた筈だ」
男「このままいけば恐らくこの星の命は絶たれるだろう」
王国での会話が脳裏に浮かぶ。
男「・・・王の言い分は確かに正しい、力を持つ者だけがこの世を思い通りにできる」
男「人間全体にその概念が植えつけられている限り、人間にとってそれ
が正論、正義となる。またそうである限り星は蝕まれ続けるのだ」
『・・・なんておぞましい存在なの!?』
『そんな化け物は谷へ突き落としてしまえ!危険だ!』
男「人間は・・・・・危険だ」
男「このままにはしておけない」
ならば使え、お前の力を、全てを思い通りにできる力を。
使い方はわかるだろう?
男「ああ」
やっとその燻っていた力を思う存分に振るえるぞ、喜べ、喜べ。
男「星を守ろう」
そして男は《元始の魔王》となった。
魔王「・・・来たか」
勇者「お前を倒し、世界に平和を取り戻させてもらうぞ」
勇者は無数の魔法が込められた剣を鞘から抜いた。
魔王「・・・やはり人間に力を与えたのはお前か、物に魔法を込めると
はな・・・・・どうりで我が同胞が人間に殺されるわけだ」
勇者「そうだ・・・・!もう人間は魔族などに屈しはしない!私の魔具が皆に力を与える」
魔王「・・・お前も気づいている筈だ、我とお前は同じ力を有していると」
勇者「・・・・ッ!!」
魔王「ならばわかるな?共に消え去る以外にこの戦いの終結はない」
勇者「・・・・・」
魔王「何故お前は魔族を殺す?」
勇者「・・・・魔族がいれば人間は滅亡してしまう、お前達の存在は異端だ。
世界に破壊をもたらす」
魔王「・・・そう人間に教えられて生きてきたのか?」
勇者「・・・お前達は平和を乱す、魔族が人間を襲っているのは事実だ」
魔王「逆に問おう、魔族は人間に危害を多少だが加えているかもしれん。
だが強力な魔族が攻め込んで来た事はあったか?」
魔王「何故数少ない魔族の侵攻を槍玉にあげる、その程度の事に比べれば
人間同士の争いの方が遥かに卑劣なのではないか?」
その声はかすかに震えている。
魔王「なぜ魔界が世界の半分で収まっているのか考えた事はないのか?
全ては一つの答えを出している」
勇者「・・・そんな、の理解できないな」
魔王「人間は危険だ、我らは人間の破壊に対する抑止力なのだよ」
魔王「勇者、お前の言う平和とは人間にとっての平和なのだ。
・・・・決してこの世界の平和を指すわけではない」
魔王「本当は既にそんな事はわかっていたのだろう?」
勇者「黙れぇえええええええええええええ!!!!!」
一瞬の内に魔王の周囲に無数の魔法陣が構築され、魔法が発動する。
魔王城の大半が消えた。
魔王「その化け物たる力を振るいたかったからだ!お前は平和など何も
考えてはいない!その力を行使する理由が欲しかっただけだ!」
勇者「うあああああああああああああ!!!!」
勇者が作り出す無数の魔法の全てに魔王は同じ魔法で応じる。
紅い空が閃光に包まれた。
勇者「・・・・やめろ」
魔王「それはこの星を守る事が我らの宿命だからだ!お前は宿命に背いている!
力をただ振るえば世界は狂う!」
魔王「ならば何故《神》は我らに心を与えた!?何故我だけでなくお前を創りだしたのだ・・・!
心があるからこそ我らは狂う、内なる力に侵される!
だが我らは宿命に従わなければならない!」
勇者「・・・・私は宿命など信じない、自分で運命を切り開いてやる・・・!
魔王、お前は殺す!世界に平和をもたらしてみせる」
魔王「人間に埋め込まれた概念こそがお前を蝕んでいるのがわからないのか」
勇者「私はッ!!《勇者》だッ!!」
魔王「・・・残念だ」
魔王「我とお前との戦いにおいて肉体的損傷は意味をもたない」
勇者「・・・その・・・武具は・・・ッ!?」
魔王「お前にできる事が我にできぬとでも?」
勇者「・・・・・ッ!」
魔王の鎧が、剣が、無数の禍々しい魔法に蠢いている。
魔王「我が黒剣に込めた魔法は身をもってわかる筈だ」
勇者「消滅魔法か」
魔王「そうだ、我が剣ならお前を殺せる。この魔法は我が千年かけて創りだした、
お前では扱えぬ」
魔王「・・・・この魔法でお前の力ごと消し去ってくれる」
魔王「・・・・やはりこうなったか」
自分の体が徐々に消えてゆく。
魔王「・・・勇者、わかるか?最後に我を消し去る事象改変を起こした時」
魔王「・・・お前は笑っていたよ」
誰に言うわけでもなく言葉を続ける。
魔王「・・・・この過剰な力がお前を狂わしたのか、我と同様に」
魔王「千年前の我にもう少しばかりの理性が残っていれば、・・・・世界は
明るく変わっていたのだろうか、千年前の我の選択は・・・・」
魔王「・・・・《神》よ、未来にまた我らと同様の存在が生まれて
しまうのだろうか、その度に我らのような選択を迫られるのだろうか」
首輪に手を触れる。
魔王「ならば我はその者に新たな選択肢を与えたい」
魔王の残る全ての魔力を使い、魔法を首輪に込める。
魔王「命を奪いつづけ世界を破壊するも良し、抑えられた力で
《理性ある選択》をするのも良し」
魔王「《理性ある選択》は我らとは異なる未来を見せてくれるのか、
・・・・・本当の平和を見せてくれるのか」
魔王「お前に全てを託そう」
その千年後に王によってその運命の首輪は発見される。
《理性ある選択》は魔王の望む未来を見せる事はできたのだろうか。
わかる事はただ一つ。
その未来では全ての生物が前を向いて生きている、という事だけだ。
fin
思い、一応書いておきました。ここでの登場人物は本編と一致
してます。
体が重い、熱い、息ができない。
そう感じる事ができるという事は、まだ生きているという事は
僕が最低限の防御に成功したという事か。
王「くはは・・・・、まるでぼろ雑巾のようだな。おい」
戦士長「・・・・っは」
王「このゴミは死体置き場にもっていけ、・・・決して首輪を外すなよ。
完全に腐って粉々になるまで首輪は回収しなくていい」
戦士長「承知しました」
すすり泣く音が聞こえる。
僕は生きている、そう伝えなくては。
僕に触れてはいけない。
そうしなければ僕はこの人の命を奪ってしまうかもしれない。
絶対に意識を失ってはいけない、抑えている首輪の力が発動してしまう。
僕が生きようとしたせいで殺したくはない。
渾身の力を絞れ。
勇者「・・・・・ぁ・・・・」
戦士長「・・・・・勇者殿?まさかまだ生きておられるのですか!?」
ああ、気づいてくれた。ありがとう。
勇者「ぁ・・・・・・・・ぅ」
戦士長「・・・ッ!!こうしてはおられん!」ダッ
戦士長「早く!!回復用の魔具をありったけ持って来るんだ!!」
僧侶達「は、はい!」ダッ
どうして僕から離れてくれないんだ。
戦士長「くそっ・・・・!!我らの恩人を死なせてなるものか!!」
人々は魔具に込められた回復魔法を展開させる。
僧侶1「・・・なんて傷の深さなの・・・・!!お願いだから耐えてッ!!」
僕の首輪の事ぐらい知っている筈なのに。
僧侶2「ここを止血します!」
銃弾の摘出が開始される。
・・・・こんな僕の為にこんなに多くの人が頑張っているのか。
僕は人々から寿命と魔力を奪ったというのに。
泣くのは死んでからって決めた筈なんだけどなぁ。
勇者「・・・・・」
戦士長「御体の具合は?」
お陰で僕は生きているよ。
勇者「ぉ・・・ぃ・・・・・」ニコ
戦士長「・・・・本当に良かった」
戦士長「・・・勇者様には申し訳ありませんが、人目に触れなれない為
このような粗末な病室になってしまいました」
戦士長「安心してください、今度は私達が貴方様を必ず守ります」
勇者「・・・・」ニコ
・・・ありがとう。
戦士長「・・・貴方様に面会したい方がいらっしゃいます、よろしいでしょうか。
危険はないと思われます」
勇者「は、い」
病室の扉が開かれる。
そこに現れたのは、二週間前に僕を殺そうとした人間だった。
だがその顔にもはや狂気はなく、重い罪を背負っている囚人のように見えた。
王「・・・こんな私などの言葉では意味などないかもしれない、だが言わせてほしい」
王「申し訳ない・・・・ッ!!」
勇者「顔、を・・・・上げ、てくださ、い。一国の、王なん、ですから」
勇者「今の、貴方なら、魔族とも・・・・未来、を築いて、いける」ニコ
王「・・・・貴方の分身にも同じことを言われました」
王「貴方さえ良ければ・・・人の眼のつかないもっと環境の良い病室に移りませんか?」
勇者「いえ、ここで、充分です、よ」
勇者「また、体が自由、に動く、ようにな、ったら、ここを出て、行きますから」
王「・・・貴方の居場所はここではないのですね」
勇者はそれに笑顔で答えた。
戦士長「失礼します」
勇者「ああ、どうも。いつも尋ねてきてくれてありがとうございます」
戦士長「・・・・勇者様、一つ聞いてもよろしいでしょうか」
勇者「ええ、いいですよ?」
戦士長「貴方様は・・・・魔族の皆さんに会わなくても宜しいのですか?
必ず悲しい思いをしている筈です」
勇者「・・・・だってまだ僕ロクに歩けませんしね、どうせ会うなら
元気な状態で会いたいじゃないですか」
勇者は穏やかな笑みを浮かべる。
戦士長「・・・・貴方というお方は」
王「流石は勇者様か、本来なら普通に歩けるようにはならない
筈の物をたった3年でここまで回復させるとは」
勇者「あはは、3年も長い間お世話になりました」
戦士長「・・・本当に魔王城までご同行する者がいなくても宜しいのですか?」
勇者「ええ、これでも勇者だったんですからね、確かに僕の使える魔力は
もうごくわずかですが・・・・体技とかでは負けないですから」
戦士長「いえ、貴方様は今でも私達にとって勇者様なのです。
この御恩は・・・・・一生忘れませんぞ」
僧侶1「本当に元気になって良かったです・・・!」
勇者「何ですか?」
王「・・・本当に王国の者達、そしてその他の人々に真実を伝えなくて
宜しいのですか?私はいつでも罰を受ける覚悟はできています」
勇者「あはは、そんな事しなくていいって言ってるじゃないですか。
知らないほうが幸せですよ」
王「・・・私は人間は決して貴方様が勇者として世界を救ったという事を
忘れません。かならず王家に語り継いでいきましょう」
勇者「・・・それは光栄ですね、それでは皆さん」
勇者「またお会いできたら」ニコ
魔王や側近さんや村の方々・・・・皆元気かなぁ。
早く皆に会いたいなぁ・・・・。
僕が生きてるって知ったら魔王はどんな顔するんだろう?
できたら笑ってほしいな。
側近さんは相変わらず厳しそうだなぁ。
村のエルフの女の子とかはどうなってるのかな?
村長さんも元気かな。
会いたい人がたくさんいるよ。
勇者「まぁ、自分で見に行けばいいよね」
その笑顔はぎこちない。
上を見上げると空は青く、透き通っている。
勇者「今、会いに行くよ」
本当に終了
面白かった
久々にいいものが見れたよ
>>1乙
素晴らしかった
Entry ⇒ 2012.01.07 | Category ⇒ 勇者魔王「」SS | Comments (0) | Trackbacks (0)