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伊藤香苗「文化祭なにするの?」
梨穂子「んーとね、確か今日のHRで色々と話し合うみたいだよ~」
香苗「へー」
梨穂子「香苗ちゃんは何がしたいとか、あるの?」
香苗「別に特にやりたいことなんてないけど……まぁ、楽しめればいっかなぁって」
梨穂子「そうだねぇ、最後の文化祭だし、思い出に残る事をしたいなぁ」
香苗「……思い出」
梨穂子「どうかしたの?」
香苗「あ、ううん、なんでもない」
香苗(文化祭……かぁ)
絢辻「───それでは、今年の文化祭で私たちのクラスの出し物を決めます」
絢辻「なにか提案がある人、挙手をお願い」
香苗(わお、凄いね絢辻さん。なんていうか、
本当に私らと同じ年代なのかってぐらい大人びてるわ~)
梨穂子「はいはーい」びっ
絢辻「はい、桜井さん」
梨穂子「えーっとですね、その喫茶店とかどうかな~って」
絢辻「喫茶店。なるほどね、じゃあ…喫茶店と」カキカキ
絢辻「じゃあ次は───そこの暇そうにしてる梅原君」
梅原「うぇっへっ!? お、俺!?」ビクゥ
絢辻「ぼーっと外を眺めてる余裕があるのなら、提案の一つもあるでしょう?」
梅原「そ、そのー……あははは」
絢辻「笑ってごまかさない」
梅原「なっ…オイ! 棚町ぃっ!?」
薫「あーら、本当の事じゃないのよ? ねえ、純一?」
純一「すぴー」
薫「ちょっと、純一?」ゆさゆさ
純一「んあっ…やめろよっ…もう食べれないからっ…」
薫「……ふんっ!」ドス!
純一「ふごっ───ハッ!? あ、ごめんなさい絢辻さん!?」
絢辻「私はなにもしてないわよ」
純一「えっ!? じゃ、じゃあ梅原か!? お前、振られたからって僕に八つ当たりするなよっ!」
梅原「してねぇーよ!? つうか振られた振られたうるさいぞお前ら!」
純一「え?」
梅原「あーもう……なんなんだよ、お前らは…俺がそんなに振られた事おもしれえのか!」
梅原「さ、桜井さんまでっ」
薫「あれだけの大人数の前で告白しちゃあ、誰だって面白がるわよ」
純一「しかも、振られたというオチ付きだもんな」
梅原「く、くそっ…!」
薫「フツー卒業式に告白しちゃうかしら? あんなの見せ物になってます。
って言ってるようなもんじゃないの」
純一「いや、梅原的には色々と作戦は考えてたんだよ。一つ目ね?」
梅原「橘ァー! おまっ、なに恥ずかし黒歴史を語ろうとしてるんだ!」
絢辻「ゴホンッ!」
薫「あちゃーっ…怒ったわよ、静かにしなきゃ」ペロ
純一「お前の所為だろ…梅原!」
梅原「ち、違うわ! お前ら二人の所為だろ…!」
絢辻「静かに」
三人『はい…』
絢辻「──確かにあの三年生の卒業式で、
厳粛な空気をぶち壊した梅原君の告白は私にとってもとても印象に残ってます」
梅原「うっ…」
絢辻「いくら卒業する三年生に後悔なく告白をしたいと思ったとしても、
もっと場所を選ぶべきだと今頃ですが、忠告しておきます」
梅原「…ハイ、スンマセン」
絢辻「そしてそこの二人も、そんな梅原君の頑張りを笑ったりしたらいけないのよ?」
薫「は~い」
純一「え? でも、あの後一番笑ってたのあやつ──ふがっ!?」ゴス!
絢辻「あら、ごめんなさい。チョークが滑ったわ」
純一「……えらくまっすぐ僕に飛んできたよね、チョーク」ヒリヒリ
絢辻「それでは話し合いを続けます。次に誰か提案がある人は?」
香苗「………」
純一「本当の事だろ? いくら何カ月経とうが笑いもんのまんまだよ…」
香苗「……」
香苗「……はぁ」
梨穂子「…香苗ちゃん? どうしたのため息なんてついて」
香苗「ふぇっ? あ、ううん! なんでもない! あははっ」
梨穂子「そお? けっこう深刻そうに見えたけど…大丈夫?」
香苗「うん、平気平気~。まったく桜井は本当に心配性だね~」
梨穂子「あはは、だって香苗ちゃんがため息つくなんて珍しいからね~」
香苗「え? あ、うん……そう思う?」
梨穂子「うん、いつだって元気なのが香苗ちゃんじゃない」
香苗「……。このこのっ、いってくれるじゃないの桜井っ」ぐりぐり
梨穂子「あ、ちょっと…やめてよ香苗ちゃん…くすぐったいよぉ」
香苗(は……ため息、かぁ。そりゃ付きたくもなるよ)
香苗(…本当に、本当に)
純一「──じゃあ、はい! 絢辻さん!」
絢辻「次、誰か提案がある人はいますか?」
純一「絢辻さん!? 僕は!?」
絢辻「…しょうがないわね。じゃあ橘くん」
純一「しょうがないってなんなのさ……えっと、ゴホン」
純一「僕から一つ、提案があるんですが!」
絢辻「却下」
純一「まだ何も言ってないよっ」
絢辻「早くして」
純一「ううっ…最近はみんなが居る時も冷たくなって…つらい…」
絢辻「早くしなさい」
純一「わかりました!」
絢辻「もとから一人一つよ」
純一「出鼻をくじかないでください……」
薫「…くっひひ、アイツの顔見てよ? すごいでしょ?」
梅原「何時の間に顔に落書きしたんだ棚町…」
梨穂子(額に肉って書いてある…)
純一「それはですね!」
純一「───このクラス皆で、劇をしようと思わない!?」
香苗「……劇?」
純一「おっ? 香苗さん、もしかして興味ある?!」
香苗「えっ? いやーそこまではー……」
純一「ほらほら! 絢辻さん! もう一人居たよ!」
絢辻「…伊藤さんも劇を推薦するの?」
香苗「えっ!? い、いやだからその…っ!」
純一「だろ? ほら、二人目だよ!」
香苗「た、橘くん? 私は別にやりたいってわけじゃなくてさ…!」
純一「えー? やろうよ、みんなで劇。絶対に思い出に残ると思うよ?」
香苗「…思い出…?」
純一「うん! そう思わない? 三年生最後の文化祭、みんなで劇をするんだ」
純一「──一人一人役割を決めて、役者の人、裏方の人、衣装を用意する人。
みんなみんな頑張って一つの劇を作り上げるんだ」
香苗「………」
絢辻「…簡単に言うわね、どれだけ大変かわかってるのかしら」
純一「うっ、そうですよね……」
薫「でも、最後ってのは一発大きいのやっておかなきゃダメじゃない?」
絢辻「…まぁ、その気持ちも分からないでもないけど」
「橘が乗り気だ…」
「劇かぁ~、ま、面白そうだよね」
「そういって女の子の衣装見たいだけだろ橘!」
純一「ち、違うよ!」
絢辻「それが狙いだったのね、はぁ…」
純一「絢辻さん!? ち、違うってば…!」
薫「アンタ、そんなこと思ってるのなら女の子の役やらせるわよ?」
純一「やめて!」
香苗「………」
梨穂子「あはは、みんなすごくやる気だね香苗ちゃん」
香苗「あ、うんっ…そうだね、劇ね…」
梨穂子「色々と大変そうだけど、やってみたいなぁ~」
香苗「…桜井もやってみたいの?」
梨穂子「…大きな大きな思い出が残りそうだなぁって思うんだぁ~」
香苗「……そうね、大きな思い出ね」
純一「ほらほら! 梅原はどう思うんだ!」
梅原「お、俺か? いや、劇っていうと…こう、良いイメージが出来ねえんだが…」
薫「大丈夫でしょ、あんだけ大胆に告白出来る度胸があるじゃない」
梅原「ま、まだいうか棚町…!」
香苗「……」
梅原「──はぁ……まぁ別に嫌って言うわけじゃねえさ、結構面白そうだって思うしな」
香苗「っ…」
純一「うんっ! それじゃあ梅原も───」
がたっ
香苗「──私も劇に賛成する!」ばっ
純一「うえっ?!」
香苗「ううん、そんなことないよ! 私も劇するわ!」
香苗「…橘くん、絶対に成功させようね」すっ
純一「……香苗さん…」すっ
ぐっ!
香苗「…出来る限りの事は、全てやるよ私」
純一「…頼りにしてるよ、僕だって全てを出すから」
梨穂子(仲いいなぁ…)
絢辻「盛り上がってる所悪いけど、判断は多数決よ」
「どうする? なんの劇にするかな?」
「面白そうなのがいいよね~、私裏方とかやってみたかったし~」
「衣装とか私の部活にいっぱいあるから、出来ればロミジュリとか~」
絢辻(…はぁ、もう決まったも当然ねこれは)
絢辻「──それじゃあここで多数決を取ります、やりたい項目にみんな手を上げてね」
絢辻「じゃあ、クラスで劇をした人!」
バッ!
絢辻「はい、決定」
~~~~~~
梨穂子「香苗ちゃん、今日はどこか寄っていかない?」
香苗「ん? どっしたの、桜井から誘ってくれるなんて珍しいじゃん」
梨穂子「えへへ~」
香苗「……。あーなんとなくわかった、何処かでスィーツ新作出た感じ?」
梨穂子「…だめ?」
香苗「ううん、別にかまわないよ」
梨穂子「わぁ! ありがと~! 香苗ちゃん!」
「──そこの二人、ちょっといいかしら?」
薫「ごめんなさいね、話の腰を折っちゃって」
梨穂子「ううん、別にいいよ~」
薫「てんきゅ、そのね。これからちょっと文化祭の話し合いをするんだけど…」
薫「…伊藤さんも桜井さんも、参加しないかしら?」
伊藤「話し合いって…誰が集まるの?」
薫「ん」ぴっ
伊藤「…あっち?」すっ…
純一「…待ってください、あれには訳がありまして」
絢辻「どういうワケかしら」
純一「僕的には、みんなで楽しめるような文化祭にしたいと思ってる所存でして」
絢辻「へぇ、だから私が指揮を務める会議を壊しても良いと?」
純一「…そんな事は思っていません、ええ、決して」
梨穂子「怒られてるね、あはは」
香苗「…!」
梅原「まぁまぁ絢辻さん──……ん? よっ!」
香苗「っ……よ、よっ!」
梅原「……ありゃ駄目だぜご立腹だ」すたすた
薫「くひひ、でしゃばるからいけないのよ」
梅原「ちげーねえ、それっと誘ってんのか? 集まりに?」
薫「そそそ。ほら、劇に乗り気だった二人じゃない?」
梨穂子「え? 私はそこまで言ってなかった気がするんだけど…?」
薫「あら? やりたいって言って無かったかしら?」
梨穂子「うぇっ!? き、聞こえてたのー…?」
薫「バッチシねっ」
梅原「──伊藤さんは行かねえのか?」
香苗「ひゃいっ!?」
話し合いをしようと思ってるんだがー…駄目ならいいんだぜ?」
香苗「あっ…う、うんっ…えっと…そのっ…」くるくる…
梅原「なにか用事でもある感じか、なら仕方ねぇな!」
香苗「い、いやっ! 違うよ! ないない! 全然ないからねっ!」
梅原「お、おう! そ、そうか」
香苗「はっ!?」びくっ
香苗「あっ………うん、そんな感じ……ごめん……大きな声出して……」ぷしゅー
梅原「いいっていいって、楽しみにしてるんだろ? 乗り気だったしよ、わかるわかる」
香苗「………うん」モジモジ
薫「スィーツ? あ、そこなら今から行く場所よ?」
梨穂子「ホントにー? よかったぁ、ねぇねぇ香苗ちゃん! …香苗ちゃん?」
香苗「ワ、ワタシッタラモウチョット…オチツイテ……ふぇあっ!? な、なに桜井!?」
梨穂子「一緒に話し合いも参加させてもらおう?」
香苗「そ、そうなのっ? そりゃラッキーだわー! あはははっ!」
梨穂子「う、うんっ」
香苗「じゃ、じゃあさっそく向かおう! そうしよう!」ガッタ
薫「おっけー! じゃあ二人参加で、そろそろ行くわよそこの二人ぃ!」
絢辻「ん、わかったわ。……行くわよ橘くん」
純一「わん」
梨穂子(わんっ!?)
梅原「うっし、行こうぜ伊藤さん」
香苗「う、うん!」
ファミレス
梨穂子「───ふっわぁぁっ…!」キラキラキラ
香苗「桜井…これは一体…?」
薫「私もここで働いてて初めて生で見るわ…」
純一「新作じゃないの?」
絢辻「…メニューによると隠しメニューらしいわね」
梅原「さ、桜井さんこれ食べんのか?」
梨穂子「…うん、これだけ綺麗に盛り付けられたパフェを食べるなんてもったいないよねっ…」
梅原「お、おう…」
絢辻(量に突っ込みを入れたと思うんだけど…)
薫「アンタは何か食べるの?」
純一「ドリンクバー」
薫「しけてるわねー」
純一「うるさいなっ。香苗さんは何頼む?」
香苗「あ、じゃあ私はコーヒーでお願い」
絢辻「コーラ」
みんな『こ、コーラッ!?』
絢辻「え、えっ? ど、どうして皆びっくりするのよ…っ?」
薫「いや、まさか絢辻さんがコーラなんて飲み物を頼むなんて…」
香苗「紅茶とかいいそうなのに…」
梨穂子「でも、コーラはたまに飲むと美味しいよね~」
純一「おい、昨日一昨日と飲んでる姿を僕は見たぞ梨穂子」
梅原「俺見たぜ…」
梨穂子「ええぇっ!? か、隠れて飲んでたのにぃ~…!?」
香苗「あ、今日も飲んでたのよ桜井の奴。なんか言ってあげてよ橘くん」
純一「無理だよ、だって梨穂子だし」
梨穂子「ちょ、ちょっと純一ぃ~!」
梨穂子「そ、そうだよ~! 絢辻さんの言う通りだよ~!」
香苗「…で、今日は何本飲んだの桜井」
梨穂子「え? 三本ちょい…だけど?」
純一「こりゃまたダイエット始まるな、すいませーん注文良いですかー?」
梅原「おい、まだ俺の聞いてないだろ大将っ」
絢辻「…ごめんなさい桜井さん、それはちょっとどうかと思う」
薫「逆に尊敬するわ~。お腹痛くならないの?」
香苗「桜井は食べ過ぎで体調悪くなった事無いよ、一回も」
梨穂子「あ、ありますぅ~! お腹が痛くなったことぐらい、ありますぅー!」
香苗「そうなの? じゃあ桜井がお腹痛くならないように、
そのパフェはみんなで食べていい?」
梨穂子「……」すっ…
絢辻(そっと伊藤さんから視線を外した…)
香苗「んー、結局は皆が知ってるような奴がいいんじゃないの?」
薫「そうよねー、全然知らないのやって滑ったら身も蓋もないし」
絢辻「出し物で報告に行った所、聞いた話だと他のクラスでも劇をするみたいよ?」
純一「本当に?」
梅原「あー、マサの奴が言ってたな。俺のクラスでも劇をするって」
梨穂子「もぐもぐ」
純一「それは大変だ…見に来る人だって、別に僕らの演技を楽しむわけじゃないし…」
絢辻「物珍しさから見る、というのが大半でしょうしね」
薫「あ~、簡単に行くって思えばそうでもないのね~」
香苗「………」
梅原「…伊藤さんはなにか良い案とかあるか?」
香苗「えっ? わ、わたしっ?」
梅原「おうよ、なにか考えてるようだったし」
絢辻「なにかあるの?」
香苗「あーうん、ちょっと良い案っていうのかわからないけど…」
薫「あっ、ちょっと! 純一! あんた何零してるのよ!」
純一「えっ? あ、本当だ……ごめんごめん」ふき…
薫「なっ!? 何処触ってんの……よッ!」ブンッ!
純一「ぐはぁっ!?」どたっ
梨穂子「むぐぅ!? げほってこほっ!」
絢辻「さ、桜井さん!? 大丈夫…!?」
梨穂子「むぎぅ~! むぎぅ~!」プルプル
絢辻「…むぎぅ? あ、水! 水水!」
香苗「え、ええっ…?」
梅原「なにやってんだ皆……で、伊藤さん」
香苗「あ、うん!」
香苗「…そのね、みんなが知っていて、かつ物珍しさも兼ねそろえている」
香苗「──他のクラスと一線を越えるかもしれない、そんな演劇になるかも…」
梅原「おお、結構自信満々じゃねえか」
香苗「う、うん…っ」
梅原「それで? 一体どうすればいいんだ?」
香苗「ええ、それはね───」
~~~~~
絢辻「いいわね」
薫「…面白いわ、いや、本当に」
梨穂子「香苗ちゃんすご~い」
香苗「そ、そうかな? あはは」
絢辻「確かにそれは、他のクラスの劇を圧倒するでしょうね」
薫「いいんじゃないかしら? それなら誰だって知ってると思うし」
梨穂子「わぁ~! いいな、いいな。今から楽しみになってきたよぉ~!」
香苗「えへへ…」
絢辻「明日にでも皆に報告してみましょう、そして所で───男子二人」
純一「……」
梅原「……」
絢辻「えらく不服そうね、どうしたのかしら」
純一「…どうしたもこうしたもないよ」
梅原「…クラスの男子が全員こんな顔になるぜ、きっと」
梨穂子「どうして?」
薫「あっははは! 楽しみねぇ、どんな劇になるのかしら~! ぷっ、くすくすっ」
純一「笑いすぎだっ」
梅原「…いいよ、伊藤さん。俺だって面白いもんには俄然乗り気になる」
梅原「──それに伊藤さんが考えてくれた事だ、ゼッテー成功するに決まってらぁ」
伊藤「っ……あ、ありがと梅原君…」
純一「何カッコ付けちゃってんの梅原…」
梅原「しかたねーだろ、だったら大将が提案しやがれよ」
純一「……ん、無理」
梅原「だろうが、俺だって出来ればしたくねぇけど…ま、面白いって思っちまったからな!」
純一「それには僕も同感だ、これは絶対にウケると思う。凄いよ香苗さん」
香苗「あはは、二人とも褒めすぎだから」
梨穂子「んー、それじゃあこれで決まりなのかな?」
薫「良い感じにまとまりそうね、明日の話し合いは~」
純一「楽しそうだな…」
絢辻「…いいわよ、ちゃんとメモっておいたわ」
絢辻「───性別反転ロミジュリ、で決まり!」
薫「イェーイ!」パチパチ
梨穂子「わぁ~~!」ぱちぱち
香苗「あはは」ぱちぱち
純一「木の役ってのもあるよな?」
梅原「多分だが、橘は絶対に女役をやらされると思うぞ」
純一「……だよね、なんとなくわかる」
梅原「……ああ、そして多分俺もだ…」
純一「頑張ろう…」
梅原「そうだな…」
~~~~~
香苗「あ、コーヒー無くなっちゃった」
純一「…ん、そしたら僕のドリンクバーでおかわりしたら?」
純一「いいだろ、薫にお金渡しとくからさ」
絢辻「犯罪よ」
梨穂子「純一?」
純一「うっ……じゃ、じゃあ僕が持ってきて香苗さんにあげるのはどうだ!」
香苗「あ、コーヒーはおかわり自由って書いてるけど」
純一「え?」
薫「パスタ美味しかったわ~、ずっと気になってたからスッキリスッキリ」
絢辻「美味しそうだったわね、今度私も食べてみようかしら」
梨穂子「ここのチーズケーキも美味しいんだよ~」
純一「三人とも!? 実は知ってて怒ってたでしょ!?」
香苗「くすっ…じゃあ行ってくるね」
香苗「えっと、コーヒーコーヒー…っと」
香苗「あった、これね」コト
ジジジジジジジ…
香苗「……」
香苗(今日は来て良かった…よね、うん。だって色々と話せたしさ)
香苗(普段は桜井も居て、橘くんもいて……それなのにちっとも話す機会が増えずに)
香苗(はたまた同じクラスになっても、とんと会話する機会も来なず仕舞い…)
香苗「……はぁ」
コポポ
香苗「おっとと、危ない危ない…」コト
香苗「……」
香苗「…もっと頑張らなくちゃいけないんだろうけど、なぁ」
香苗「でも……そんなのこと、無理に決まってるから…」
香苗(…よっし、ウジウジしてたってそんなの私らしくない!)
香苗「……」
ごくっ
香苗「ぶぇっ…に、ににゃいっ……ぐすっ、だけど! 私の想いはもっと苦い!」
香苗「全然意味が分からないけれど! 頑張る!」
香苗「……」ぐっ
香苗「それはそれで、ミルクたっぷり入れないと…ミルクミルク…」
すっ
「──これでいいのか?」
香苗「あ、どうも。ありが」
梅原「おう、どういたしまして」
香苗「……と……」
梅原「ん? どうした?」
香苗「う、うめひゃらくんっ!?」
梅原「お、おう。そうだが…俺の顔忘れたのか?」
香苗「っ…っ…っ…」ブンブンブンブン!
梅原「だよな、びっくりしたぜ」
香苗「あっ…がっ…そっ……その!」
梅原「どした?」
香苗「き、聞いてたっ!? さっきの独り言!?」
梅原「…独り言? いや、別になにも聞いてねえけど?」
香苗「…………」
香苗「……そっかぁ~~~~っはぁ~~~よかったぁ~~~」
梅原「そんなに聞かれちゃヤバい事言ってたのかよ?」
香苗「う、ううん! 違うよっ! そんなことないから!」
梅原「逆にそこまで言われると気になってくる…ま、聞きだしたりしないからよ」
梅原「ん、それでミルクはいらねえのかい」
香苗「い…イタダキマス」
梅原「ほらよ」
香苗(わっ、わわっ…梅原君が…私のコーヒーにミルクを入れてくれてる…!)
梅原「これぐらいか?」
香苗「へっ!? あっ…その、もうちょっとお願い…」
梅原「結構入れるんだな、ほら」
香苗(ひゃ~ぁ! なんだろっ、なんだろっ……凄く恥ずかしい…!)
梅原「うっし、ここまででどうだ」
香苗「…ぅ、うん…ありがと…」
梅原「はは、これぐらいでお礼は要らないぜ」
香苗「……うん…」
香苗(はっ!? い、いまって二人っきりだよね!? そうだよね!?)
香苗(そしたら会話できるチャンスじゃん! よ、よし…やってやるわよ…)
香苗「っ……その、梅原君…」
梅原「お茶お茶っと。ん、なんだー?」
香苗「す、すこしだけ、聞きたい事があるんだけど…っ」
梅原「話?」
香苗「う、うん。だめ……かな?」ちら
梅原「別にかまわねーけど、あっちじゃだめなのか?」
香苗「…うん」
梅原「……。まあいいけどよ、なんだ話って?」
香苗(来た───!!!)
香苗「その、ね。今回って私たちのクラス……演劇する事になったでしょ?」
香苗「そ、それでねっ……梅原君はなにかやりたい役とか、あるのかなってさ~」
梅原「やりたい役、かぁ。んー特にねえな…ずずっ」
香苗「そ、そっか」
香苗(ううっ…話が続かないっ…)
梅原「───あ、でもよ」
香苗「え、なに梅原君?」
梅原「俺はさ、伊藤さんで見たい役ならあるぜ」
香苗「え、私っ?」
梅原「おうよ、今回はロミジュリをやるんだろ?」
香苗「う、うん」
梅原「そしたらロミオ役をやってる伊藤さん、俺は見てみたいねぇ」
香苗「ろ、ロミオ役!?」
香苗「嫌って言うか…その、ロミオなの…?」
梅原「性別反転なんだろ? 出来ればジュリエット見てみたいけどよー」
香苗「あ、そっか…うん…」
梅原「ははは、そう考えると女子も色々と大変だな。男子はそれ以上大変だろうけどよ」
香苗「あの…」
梅原「おう?」
香苗「……で、でも…私たちのクラス可愛い子他にいっぱいいるじゃん…だけど、私のロミオが見たいの…?」
梅原「んー、確かに可愛いって言うか人気の高い女子が集まってるよな、俺らのクラス」
香苗「………っ」ぎゅっ
梅原「──でも、俺はそれでも伊藤さんのロミオを見てみたい」
香苗「え…」
梅原「どうして、と聞かれても…はは、ちっと恥ずかしいけどよ」
梅原「───すっげー似合いそうだから、としか言えねえよ…」
香苗「……」
梅原「くはぁー! なんだなんだ、恥ずかしいなオイ…俺、顔真っ赤になってるか?」
香苗「…ちょっとだけ」
梅原「だよなー! …くっそ、照れてんじゃねえよ俺。ただ見てみたいって言っただけだろうが…」
香苗「…くす」
梅原「わ、笑わないでくれっ…とんだチキンやろうってのは分かってるんだ…」
香苗「あははっ、そうだね。女子になって欲しい役を言うぐらいで、なに照れてるんだ~このこの」ぐりぐり
梅原「やめろ…やめてくれぇ…」
香苗「ふふふっ」
梅原「あん?」
香苗「その、言ってくれて…ありがと、嬉しかったわ」
梅原「嬉しかったって、別に大したこといってねーだろ?」
香苗「ううん、それでもね」
香苗「梅原君にそう言ってもらえて、嬉しかったから」
梅原「………」
香苗「えへへ」
梅原「お、おう…そっか」
香苗「うんっ」
梅原「………その」
香苗「ん? どしたの?」
梅原「いや……なんでもねえよ」
香苗「えー? 気になるじゃん、ハッキリ言いなよ」
香苗「ん~…?」ずいっ
梅原「……」
香苗「どうして顔を見てくれないのよ、梅原君?」
梅原「…なんでもだ」
香苗「嘘だって、なにか隠してるじゃん。どしたどした?」
梅原「っ…」ぷいっ
香苗「おっ? じゃあこっちに来ようっと」すたすた…
香苗「んふふ、ね?」
梅原「うっ、なにが…ね? なんだよ」
香苗「さあ?」
梅原「よくわかんねーけど…なんだか伊藤さん…しつこいぞ…」
香苗「しつこくないよ~? 黙ってる梅原君のほうがしつこいんじゃないの?」
香苗「わぁっ?!」
梅原「──じゃあ言ってやるぞ、いいんだな?」ずいっ
香苗「うっひ! ……か、顔が近くない…?」
梅原「良いんだよなっ? なっ?!」
香苗「ぁっ…ぇっ…っと…」ドキドキ
梅原「…じゃあ言うぞ」
香苗(息が頬にっ)ゾクゾク
梅原「はぁ、あのな伊藤さん…」
梅原「…あんまり、男に対して期待させるようなことを───」
純一「そんなに至近距離で何やってるの二人とも?」
梅原&香苗「うぇっ!?」
純一「………」
梅原「た、橘ァ!? なにを思った!? 何を考えたぁ!?」
香苗「ち、違うからね! たちばばばば!」
純一「え? ごみを取ろうとしたんじゃないの?」
梅原「えっ…がっ……そ、そうだぜぇ! なぁ伊藤さんん!?」
香苗「そ、そうだよねぇ梅原君!? いやーまいったわー! あはっはは!」
純一「なんだろう、違うんだったら……あっ! も、もしかしてキ───」
香苗「ふんっ!」ドス!
純一「フングォッ!?」ドタリ…
梅原「いとっ…伊藤さん!? 橘ァ!?」
香苗「あ、なんとなくやっちゃった…」
梅原「ええぇええっ!?」
絢辻「──どうしたのよ、騒がしいわね……橘くん!?」
薫「え? 純一が妄想してる?」ひょこ
梨穂子「なにやってるの純一?」ひょこ
絢辻「わからない、だけど──……これは事件ね」
梅原&香苗「えっ!?」
薫「じ、事件ですって…!?」
梨穂子「…うん、犯人は誰かな」
香苗「さ、桜井…? 何言ってんの…?」
絢辻「──いいわ、ここは私に任せて伊藤さん」
香苗「へ?」
絢辻「この事件、絢辻詞に任せて頂戴…絶対に犯人を見つけ出して見せるから!」
薫&梨穂子「おー」ぱちぱち
梅原「…いや、なんとなくわかった、みんなで覗いてたんだろ」
香苗「え、えっ?」
梅原「それで橘が空気を読まずにここに来たから、色々と誤魔化しにかかってると…」
香苗「つ、つまり……みんな隠れてみてたって事…?」
梨穂子「…えっと、パフェを食べきらないとね~」
絢辻「話し合った結果をまとめないと…」
薫「ほら、起きなさいアンタ」ぐいっ
純一「ぐえっ」ずりずり…
梅原「…はぁ」
香苗「ぜ、全部見られてたって事…っ? えっ? えっ? じゃ、じゃあさっきの私のっ…ぎゃー!」
梅原「俺らも戻ろうぜ、伊藤さん」
香苗「あ、うんっ…だけど、そのっ…!」
梅原「大丈夫だろ、ちゃんと誤解を解けばよ」
梅原「すまねえな、変な勘違いをさせちまってよ」
香苗「…うん、そうだね」
梅原「おう、じゃあ戻ろうぜ。コーヒー忘れずにな」
香苗「うん」
梅原「うっし───…おい、何を勘違いしてるか知らねえけどな!」すたすた…
香苗「……」
香苗「…勘違い、か」コト…
香苗「ずずっ…」
香苗「……まだ、苦いなぁ」
~~~~~~
薫「それじゃーまったね~」
絢辻「さようなら、気を付けて帰るのよ」
薫「なにその子供扱いっ!」
純一「正当な心配だと僕は思うよ?」
梨穂子「わぁー…純一が宙を回ってる…」
純一「なれたもんさ…」
薫「ふぃ、んじゃ改めてさいなら~」
絢辻「さようなら、それじゃあ私たちも帰るわよ」
純一「えっ? 今日は用事があるって言ってなかった?」
絢辻「………」
純一「…あはは、了解」
純一「それじゃあ梨穂子、梅原、香苗さんバイバイ」
梅原「おうよ、明日学校でなぁ」
梨穂子「ばいばい~」
香苗「まったね~」
絢辻「みんな、さようなら。…ほら行くわよ」ぎゅっ
純一「そうだね、行こうか」ぎゅっ
絢辻「…うん」
梨穂子「ね~」
香苗「…なんていうか、豹変レベルよね」
梅原「あれも大将がすげーからだろうな、うっし俺らも当てられないうちに帰るか」
梨穂子「あはは、そうだね~」
香苗「そうね、ふぁーなんだかすごく疲れた気がするわ…」
梨穂子「みんなで色々と話し合ったしね。香苗ちゃんだってあの案、良く思いつたって思うよ?」
香苗「ん~、以前からこんなことやったら面白いかも~なんて考えてたの、実はね」
梅原「ほー、性別反転をか?」
香苗「…なんだか変態さんに思えるから、やっぱ聞かなかった事にして」
梅原「そりゃ無理な相談だ」
梨穂子「くすくす…なんだか純一みたいだね、香苗ちゃん」
香苗「どういうことー!?」
梨穂子「そうなの?」
梅原「おうよ、橘って男は何を考えてるのかさっぱり見当もつかねえ奴なんだ」
梨穂子「…うむうむ、それには同意かも」
梅原「だろ? この前なんてよ、放送室でカギを借りてきて───」
梨穂子「え~! どうしてそんなことに───」
香苗「……」
香苗「……」すたすた…
梅原「──だからよ、アイツには絶対に悩み事を打ち明けちゃ…ん?」
香苗「んっ? どしたの梅原君、話を続けてていいよ?」
梅原「そうか? いや、なんか隣に来たから話でもあるのかなと」
香苗「な、なんでもないよ。気にしないで良いからね」
梅原「…おう、わかった」
梅原「んでもって、話の続きなんだけどよ」
梨穂子「あ、うん。それで純一がどうしたの?」
香苗「………」
香苗(…今はこの距離でいい。近くもなくて、遠くでもない)
香苗(私に話しかけてくれてるわけでもないし、二人っきりで居るわけでもない)
ぎゅっ…
香苗(──だけど、隣で歩けてる。声も聞こえてる)
香苗(私にとっての第一歩は、今この一歩)すた…
香苗(決して見逃しはしない、だって歩きだしたのは私だから)
香苗(一歩一歩、またどんどんと……彼に近づいて行けばいい)
香苗(この二人の距離が、ゼロになるまで)
香苗(なんの後悔もなく、私が貴方に触れる時まで───)
~~~~~
『性別反転ロミオとジュリエット』
絢辻「これで決定よ! じゃあさっそく報告をしに行ってくるから」
「すげーもんが出来そうだな!」
「えー男装するの?」
「でもでも、女装とか面白そう! 化粧するんでしょう?」
「ぐぁー! マジかー!」
香苗「……」ドキドキ
「──どうやら皆も気に行ってくれたみたいだね」
香苗「あ、橘くん…もうなんだろう、気が気でなかったわよ…」
純一「ははっ、どうして? 僕なんて安心しきって寝ちゃってたよ!」
香苗「…それはそれでどうかと思うけど、うん、でも良かった」
香苗「やりたいって──言って、本当に良かったって思ってる」
純一「………」
香苗「え? 変わったって…変なキャラになってる…?」
純一「ううん、そうじゃないよ。ただ雰囲気が変わった…というのかな?」
純一「──前よりもっと魅力的な女の子になったなぁ、って思ったんだ」
香苗「みっ…魅力的ぃ!? わ、私が…?」
純一「そうだよ、今の香苗さんなら大抵の男はころっといっちゃうだろうね」
香苗「ううっ…あんまりそう言う事言わないでよっ…恥ずかしいじゃん」
純一「あはは、そうかな? ホントに思ってるんだけどなぁ」
香苗「…ぅぅっ」
薫「コラ、なにか弱き女子高生を困らせてるのよ。あんたは」
純一「え? 困らせてる?」
香苗「……」
薫「アンタは余計な事は言わなくていいの、出る幕じゃないってことぐらいわかりなさいよ」
純一「えー、なんだよその言い草…」
純一「いたた!」ずりずり
香苗「あ…」
「──なんだなんだ、相変らず元気だなあの二人は…」
香苗「…梅原君」
梅原「おうよ、良かったな無事に決まって」
香苗「あ、うんっ……本当に良かった。みんなも喜んでくれてるみたいだし」
梅原「おう! 全て伊藤さんのお陰だなっ!」
香苗「そ、そんなこと……全然…!」
梅原「んな謙遜するなって、本当の事だろ?」
香苗「…あ、ありがと」
梅原「後はそうだな、役割と担当を決めなくちゃいけねーとなぁ」
香苗「…梅原くんは、まだ何をやりたいか決まったない感じ?」
香苗「…そっか、裏方ね」
梅原「伊藤さんはどうなんだ、そこの所は」
香苗「私は特には……あ、でも梅原君的にはロミオがいいのかね~?」
梅原「うっ、まだ言うか…忘れてくれ! もう!」
香苗「ふっふっふ、いーや。忘れないよ~」
梅原「くっそ…こんなからかわれるなら言わなきゃよかったぜ…」
香苗「まあまあ、そういわないでよ。ね?」
絢辻「──みんな、ただいま」
梨穂子「…よいしょっと」ぽすっ
絢辻「ごめんなさいね、荷物運び手伝ってもらちゃって」
梨穂子「いいよ~。ちょうど部活の話し合いの帰りだったしね~」
純一「それで? 申請は通ったの絢辻さん?」
絢辻「数分で了解を得て来たわ。そして私だけ一人、申請会議を抜けてきたの」
薫「へ? そんなことして大丈夫なの?」
絢辻「当たり前よ、私を誰だって思ってるのかしら」
純一「流石だ…」
梅原「…行こうぜ、なにやら始まるみたいだ」
香苗「うん、そうだね」がたっ
~~~~~
絢辻「文化祭での資金は既に貰ってあるの」
薫「準備いいわね、まだ先の話だって言うのに」
絢辻「元から話をしておいたのよ、資金だけは直ぐに取れる様にしておいてくださいってね」
純一「あー、だからあんなに忙しそうだったんだ…」
梅原「それで? 絢辻さん、この荷物は?」
梨穂子「衣装らしいよ~、以前に文化祭で使われてた奴らしくてね」
香苗「けほっ…すごく埃っぽいっ」
純一「着れるのこれ…?」
絢辻「カビも生えてるでしょうし、それでもいいのなら着てもいいわよ?」
純一「…勘弁してください」
薫「クラスの中に、衣装を作りたいって言ってる子がいるんだけど?」
絢辻「ええ、把握してるわ。これを持ってきたのは別の理由よ」
梅原「あーつまり、参考にしろって話か」
絢辻「そういうこと、もとになるモノがあれば短期間で作れるはずよ」
薫「ひゅ~♪ さっすが絢辻さん、ねー! みんなー! これ見てみなさいよー!」
「うわ、なにこれすっご!」
「きれぇー!」
「きたねえけど、すげえ作り込まれてるな…」
香苗「そういえば絢辻さん、担当とかどうするの? まだ決まってないけど?」
純一「揉めちゃうの?」
梨穂子「揉めると思うよ…」
純一「え? なんで?」
梅原「じゃあ橘、ジュリエットやれって言われたらやるか?」
純一「やらない!」
梅原「だろう」
梨穂子「あ、でも純一のジュリエットとか似合いそう~」
純一「やめろ梨穂子っ…そう言うと本当になりそうで怖いからっ…!」
絢辻「私の独自のアンケートだと、トップは橘くんだったり」
純一「ぐぁー! やだー!」
香苗「あはは、でも、似合いそうだよね橘君だとさ~」
絢辻「当たり前じゃないの、さあ! みんな! ちゃっちゃと決めて演劇の準備に入るわよ!」
~~~~~
絢辻「…これで村人aは決定と」かつ
絢辻「だいたい決まってきたわね、後は───」
絢辻「──お待ちかね、ロミオとジュリエットの役を決めるわよ」
クラス一同『………』
絢辻「…誰かやりたい人は?」
薫「はいはーい! 推薦なんだけど、純一むぐぅっ!?」
純一「な、なんでもないです! 気にしないでください!」
薫「むぅー!」
絢辻「…でも、そうね。自主的に手を上げるのは少し難しいかしら」
絢辻「──では推薦したい人を上げて行って下さい、文句なしの多数決で決めましょう」
絢辻「既に担当が決まってる人は除外してね、
決まってないのはロミオとジュリエットに幾つかの役…あとは裏方の担当ね」
絢辻「どれも演劇には不可欠で、重要な担当よ。それなりの覚悟を要いると考えて頂戴」
香苗「……」
純一「余計な事は言うなよ薫…! お前がやればいいじゃないか!」
薫「無理に決まってるじゃない、あたしはもう裏方担当よ? 化粧係のね!」
純一「それ、絶対に他人を男を化粧して楽しみたいだけだろ…」
梨穂子「…香苗ちゃんはどうするの? まだ決まってないけど」
香苗「うん、そうだね。桜井は?」
梨穂子「私は~……その、実はちょっとロミオを狙ってたりして」
香苗「ま、マジでいってるの?」
梨穂子「やっぱり駄目かなぁ」
香苗「いや、駄目って事無いけど…桜井がやりたいっていうのが、ちょっと不思議でね」
香苗「それに? なんなの?」
梨穂子「…やるなら、後悔をしたくないなぁって」
香苗「…後悔?」
梨穂子「うん、だってそうじゃないかな? 最後の文化祭で、なにか悔いが残っちゃ嫌じゃない?」
香苗「…確かに、そうだわ」
梨穂子「でしょ? 香苗ちゃんだって、絶対にやりたいことをやった方が良いと思うよ」
香苗「…」
梨穂子「ね?」
香苗「……───」
がたっ
絢辻「誰か挙手を──あら、どうしたのかしら伊藤さん?」
香苗「……」
香苗「私、ロミオ役をやりたい」すっ
香苗「ううん、違うのよ」
香苗「──絶対にやりたいの、ロミオ役を」
絢辻「………」
「うぉっ? すげーやる気だ伊藤の奴…」
「でも似合いそうだよね、香苗って」
「男装したらキリッとした良い男になりそうだわ」
薫「伊藤さーん! アタシも推薦するわよー!」
香苗「…え、ホントに?」
薫「勿論! それにアンタも…推薦するでしょ?」
純一「え? いいんじゃないかな、香苗さんってロミオが似合うと思うよ!」
香苗「あはは、それって褒めてるの? 貶してるの?」
梨穂子「あはは、えーと私も香苗ちゃんを推薦しまーす」
香苗「桜井、アンタやりたいって…」
梨穂子「えへへ、えっと…そんな事言ったかな?」
梨穂子「うん? あはは」
絢辻「ということらしいけど、みんなはどう思う?」
絢辻「──やる気は十分、誰よりもあると思う。私も伊藤さんを推薦するわ」
香苗「あ、絢辻さん…」
絢辻「絶対にやりたいんでしょう、ロミオ役を」
香苗「……うん! やりたいのよ私!」
絢辻「結構、じゃあどうかしら皆?」
「いいんじゃね?」
「あたしもさんせーい!」
「伊藤なら全然不自然じゃないよなー」
香苗「だーれだ今、不自然じゃないって言った奴!」
絢辻「ではロミオ役は───伊藤香苗さんに決まりって事で」カツカツ
薫「ピュー! ピュー!」
純一「頑張ってね! 香苗さん!」
梨穂子「香苗ちゃんなら、どんなロミオよりもカッコ良くなると思うよ!」
パチパチパチパチワーワーヒューヒューパチパチパチ
香苗「あはは…照れるなぁ、やめてよ皆」ちら
梅原「…ん?」パチパチ
香苗「んっふふ」ぐっ
梅原「っ……はぁ…」
梅原「…」ぐっ
香苗(やった、返してもらった!)
絢辻「……では、ロミオが決まった所で。この流れに乗ってジュリエットを決めましょうかしら」
純一「──ハイハイ! 絢辻さん!」
純一「違うよ!? 推薦だって言ってたよね!」
絢辻「そういえばそうだったわね、それで誰を推薦するのかしら」
純一「びっくりした……えっとね、実は以前からある男が
ジュリエットに向いてるんじゃないかと思ってたんだよ」
絢辻「ほう」
純一「例えるのなら、そう誰に対しても男気溢れる日本男児であり」
薫「……」
純一「約束の為ならいつだって身体張って気を張って頑張る奴であり」
梨穂子「……」
純一「僕としても大いに尊敬している、そんな男がいるんだよ」
香苗「……」
純一「僕はそんな肝っ玉のある奴をジュリエットに推薦したいんだ!」
絢辻「なるほど、では誰なのかしら?」
梅原「ま、待ってくれ!」
梅原「ひ、非常に嫌な予感しかしねえんだが…橘、それ誰の事を言ってやがる」
純一「え?」
絢辻「まだ誰とは言ってないわよ? ねえ橘くん?」
純一「言ってないけど? …まさか、もしかして梅原自分の事だと…?」
「はっずー」
「梅原ちょっと空気読めよー」
梅原「うるせぇー! な、なんなんだ…絢辻さんと橘!」
梅原「なんだかそこの二人、組んでるような空気を感じるぞ俺は!?」
薫「馬鹿言っちゃ困るわよ、梅原君」
薫「こんな大役を個人の意見で螺子負けるわけないでしょ?」
梅原「だ、だがよっ…なんだか仕組まれてるような気がして…」
「梅原君、ちょっと落ち着きなヨ~」
梅原「ぐっ……確かに、そうかもしれねえな…」
香苗「……」
梨穂子「香苗ちゃん香苗ちゃん」つんつん
香苗「…へ? なに桜井?」
梨穂子「大丈夫だよ、わかってるから」
香苗「な、なにを?」
梨穂子「──これはね、全部絢辻さんが考えた事だから」
香苗「…どういうこと?」
梨穂子「みてれば分かると思うよ」
絢辻「──少し落ち着いたらどうかしら、梅原君」
梅原「お、俺はっ…」
絢辻「いいの、確かにわかってる。橘くんが言っている事は…少なくとも貴方を推薦している事は」
絢辻「だけど、これは只の推薦よ? そう焦る必要はないじゃないの」
梅原「そ、そうだがっ…橘の野郎が言うと、それで決まっちまいそうな気がして…」
純一「僕にそこまでの権限はないぞー?」
絢辻「橘くんが言っている通り、彼にそこまでの権限は無いわよ?」
梅原「っ……」
絢辻「時に梅原君、話は変わるけど……目立っちゃったわね?」
梅原「えっ…?」
絢辻「この場での話よ、えらく梅原くんの存在が表立ってないかしら」
梅原「………」
「…梅原かぁ、面白そうかもな」
「女装とか似合うかな?」
「いけるんじゃない? こう、お嬢様って感じになりそう」
「ぴったりじゃん! いいねいいね!」
絢辻「橘くん、推薦者は誰なの?」
純一「梅原です」
絢辻「わかりましたじゃあこの推薦に賛成の人手を上げてっ!」
ばっ!
絢辻「決定、これにてジュリエット役は梅原正吉くんに決定されました」かつかつ
絢辻「はい、盛大な拍手を送りましょう!」
ぱちぱちぱちぱちぱちぱち!!
梅原「……ってちょっと待てェ! なんだ今のスピード解決!? 置いてけぼりじゃねえか俺!」
薫「うだうだいうなー」
純一「そうだそうだー」
絢辻「…文句なしの、多数決よ? 梅原君?」
梅原「ぐっ…ごっ…!」
香苗「………」ポカーン
梨穂子「おおっ…流石絢辻さん~」
梨穂子「絢辻さんがね、二人にロミオとジュリエットをやらせてあげたかったんだって」
香苗「絢辻さんが…?」
絢辻「! ……ふふっ」パチッ
香苗「……」
梨穂子「そうだよ~、それで純一も色々と考えて今の状況…なんだよね~」
香苗「……」
梅原「くそっ…やりやがったな、橘のやつ…」
香苗「……そっか、はは」
香苗「──梅原くん! 一緒にがんばろうね!」
梅原「うぇっ? ……ぐぉおお! ここまで嵌められちまったらやってやろうじゃねえか!」
梅原「──いいジュリエットを演じてみせるぜ! 俺はぁよぉ!」
香苗「私も頑張るわ!」
ワァーーーーー! パチパチパチパチ!!
絢辻「詳しいことはまた後日に」
香苗「りょーかい」
梅原「…了解」
絢辻「ごめんなさいね、梅原君」
梅原「…悪いと持ってんなら、やらないでくれよ」
絢辻「ふふ、たしかにそうだわ。それじゃあ私はこれから報告書を書かなくちゃいけないから」
絢辻「また明日に」くる…
香苗「えっと、絢辻さん!」
絢辻「…なにかしら?」
香苗「その、さ…なんて言ったらいいのかわからないけど」
絢辻「お礼はいらないわよ」
香苗「っ……で、でも!」
絢辻「だって気まぐれだもの。たいした理由もないし、感謝されるような覚えもないわ」
香苗「……」
香苗「っ……──ありがと! この御恩、絶対に忘れないから!」
絢辻「…大袈裟よ、くす」がらり…
香苗「……」
香苗(…恩が出来ちゃったわね、いつかちゃんと返さないと)
香苗「……」
純一「良かったじゃないか、ジュリエット役」
梅原「なんにもよくねーよっ」
純一「ははっ、そういは言いつつも。実は嬉しいんだろ?」
梅原「このっ…このっ!」
純一「痛い痛い!」
香苗「…くすっ」
香苗「ふぅー」ドサリ
香苗「……ロミオ役、かぁ」
香苗「ふっふっふー、やっちまったぜ~」
香苗「……んきゃー!」ぽふっ
ぱたぱたぱた!
香苗「………ハズい、すっごくハズい」
香苗「はぁ、思わずやりたいって言っちゃった…私ってば本当にどうしようもない…」
香苗「……」
香苗「彼が……ジュリエット役、かぁ」
香苗「……っ……」ドキドキ
香苗「…どうしよ、心臓が強くなる」
香苗「頬が、熱くなっちゃう…」
香苗「……」もぞっ
香苗「…これでよかったんだよ、香苗」
香苗「ちゃんとあれから、一歩ずつ…歩き出してる筈だから」
香苗「あの日から…私は…」
すっ…
~~~~~
香苗「………」
『──俺は! 貴女のことが大好きだ! 今までずっと! 貴女のことしか見て来なかった!』
『部活だってなんだって、貴女に近づけるのならっ…全てをやってきたつもりです!』
香苗「梅原君…」
「おいおい、卒業式になんてやつだ…」
「梅原だろ? アイツ?」
「三年生に告白してるんだよな? 勇気あんなー」
『俺は貴女にこうやって告白することができます! この場であっても好きだと伝えられるんです!』
「在校生の言葉で、なにやってるんだアイツは!?」
「止めろ止めろ!」
『どれだけ抵抗があろうとも! 俺は貴女に伝えたい!』
『──どうか俺と、付き合ってください! お願いします!』
香苗「………っ…」
~~~~~
香苗「───んっ……」
香苗「あれ、寝ちゃったんだ…ふぁ…」
香苗「………」
香苗「…またこの夢をみたんだ、私」
香苗「……やっぱり、忘れられないよね」
香苗「っ…すぐ泣くんだから…」ぐしっ
香苗「流れるんじゃないわよ…なに勝手に悲しんでるのよ」
香苗「───泣く権利なんて、無い癖に…」
香苗「………」
香苗「…頑張らなくちゃダメよ私」
香苗「もう、遠くから見てるのを……やめたんだから」
香苗「今度はもう、あの時の彼を見たくないんだからっ」
香苗「……絶対に」
放課後
絢辻「これ、台本よ」
梅原&香苗「え?」
絢辻「どうかしたの?」
梅原「もう、台本の準備できたのか…?」
絢辻「ええ、早いほうがいいでしょう? こういうのは」
絢辻「別にすべての仕事をやり切るワケじゃないわよ、これはってこと」
梅原「お、おう」
絢辻「台本は少なくとも基盤があるわけだから、そこから少しずつアレンジを加えていけばいいと思うわ」
絢辻「…橘君、貴方もキチンと台本をおぼえるのよ」
純一「僕は少ししか無いから大丈夫だよ」
絢辻「油断してると足元を救われるのが貴方よ」
純一「…厳しい言葉です」
梨穂子「絢辻さ~ん、ここの所どうするのかな~?」
絢辻「はーい、今行くわね。……それじゃ二人共、後は任せたわよ?」
梅原「……」
香苗「……が、頑張ろっか!」
梅原「そうだな、頑張るしかねえよな」
梅原「おー、ロミオ…どうして貴方はロミオなのぉ?」
「ぷーくすくす」
「梅原上手いぞ!」
「もうちょっと女の子っぽく言ってみたら?」
梅原「ぐっ、うっせーな!」
香苗「…っ…っ…」ぴくぴくっ
梅原「そして一番笑いすぎだ伊藤さん!」
香苗「ご、ごめっ…ちょ、ちょっとツボに入って…はははっ!」
梅原「ったく」がしがし
梅原「俺だって恥ずかしいのを我慢して言ってるんだぞ? そこの所をもうちっとだなぁ…」
香苗「う、うんっ…ごめ、ごめんねっ…わかってるん、だけどっ……くひっ…!」
梅原「はぁ~、まあ、これが狙いだから仕方ねえけどよ」
香苗「あははっ! やっぱだめだわ! ごめんね梅原っ…くんっ…あははは!」
香苗「ご、ごめんねっ…くすくすっ…いや~、ここまでツボるとは予想外だわ~」
梅原「俺も予想外だよ…演技でコレなら、本番で女装したらどうなるんだ…」
香苗「ぶふぅっ!」
梅原「想像して噴出すんじゃねえっ」
薫「ねえねえ、アンタ達。ちょっといいかしら?」
香苗「ど、どしたの…けほっ……棚町さん?」
薫「あのね、少し化粧してどんなもんか確かめておきたいのよね」
香苗「っはぁ……あ~、化粧の伸びとか?」
薫「そそそ。出来れば肌に合うのを使いたいじゃない? でしょ?」
香苗「まあね」
梅原「お、俺は本番だけで十分だ…!」
薫「ダメよ、こっちは男に化粧は初めてなんだから。慣れておかないと」
梅原「…そっちの実験台を使い続ければいいだろ」
純一「うん?」
「あ、コレも使ってみない?」
「いいねぇ、これも使おうよ!」
純一「ふふん、よくわからないけれど綺麗にしてくれるって言うからさ!」
梅原(馬鹿だ…)
薫「足りないのよ純一だけじゃ、他の男子も嫌がってやらせてくれないし~」
梅原「俺だって嫌だ!」
薫「そんな事言わないでよ、ね? ジュース奢ってあげるから!」
梅原「ジュース一本と男のプライドを踏みにじるのは一緒かよ…」
香苗「梅原君、してみればいいじゃん。色々とイメージがつきやすくなるかもよ?」
梅原「…イメージ?」
香苗「そうそう、いきなり女の役をやれって言われても。
簡単に慣れるわけじゃないし、そしたら身体から女の子になってイメージを持ちやすくするのよ」
香苗「──そうすれば今よりは上手く、ジュリエットになりきれると思ったりするよ?」
薫「そそそ! 伊藤さんの言うとおりよ梅原君! イメージよイメージ! それを大切にしていきましょ!」
梅原「…本気でそう思ってるのか? 信じるぞ? 信じちまうぞっ?」
伊藤「もちろん」
梅原「……ぐぬぬ───わ、わかった棚町…よろしく頼む」
薫「おっけ、まっかせないさーい」
薫「あはっ」ぐっ
香苗「んっ」ぐっ
梅腹「…どうしてそこで親指を立て合うんだよ、
やっぱ普通に化粧させたいだけ──ひ、ひっぱるなよっ…」
梅原「…へ、ここに座るのか? ま、まってくれ! いきなりなにをっ……うぁあああー!」
香苗「おおー手早い対処ー」
~~~~
「橘くぅーん、こっちみて! あははは!」
純一「こうかな」キリ
「こっちこっち!」ぱしゃぱしゃ
梅原「ううっ…」
薫「──いやー、見事に女の子に出来たわ~」
香苗「っ……っ…っ…」ぷるぷる
梨穂子「笑いすぎだよ、香苗ちゃん~」
香苗「だ、だって梅原君もっ…橘君もっ…似合いすぎだからっ…なにそれ、ほんとっ…!」
香苗「ころされっ…る…助けて、桜井っ…!」
梨穂子「あはは、確かに似合い過ぎだよね~」
薫「そりゃー頑張ったもの、というか、頑張った程度で似合うランクまで行くあんたら何者なのよ」
梅原「知るかっ!」
純一「ほほう…なるほどなぁ、女装ってこうやってなれるのかぁ」
「このカツラとかつけてみる?」
純一「お、いいねぇ。本格的じゃないか、どれどれ」
香苗「ぶっはぁー!」
薫「似合っててムカツク」
純一「…どういうことー」
梨穂子「かわいいよ~!」
純一「ありがとう! 梨穂子!」
梅原「い、いや! 俺はカツラいらねえから!」
「いいからいいから、ね?」
「つけてみなって~」
「……梅原、お前のことは忘れない」
「ひとまず生贄になってくれ」
梅原「うぉい! 結局お前らもやらされるんだからなっ!?」
パサ…
香苗「……」
梅原「…な、なんだよ伊藤さん…」
香苗「ぶはっ」
香苗「ひっ…はっ……くっ……」
薫「本気で大丈夫かしら…」
梨穂子「息出来てるの? 香苗ちゃん…?」
香苗「ひっは…ひっは……くひっ」
純一「…過呼吸じゃないよね、これ」
梅原「なわけ無いだろ、過呼吸なら倒れこんでもおかしく──」
香苗「きゅはっ……くぅー」バタリ
梅原「──倒れたぁー!!」
薫「やばっ…保健室連れて行くわよ!」
梨穂子「香苗ちゃん! 香苗ちゃん!?」
純一「梨穂子落ち着いて──まずは好きな食べ物を数えるんだ、いいな?」
梨穂子「シュークリームが一個、2個、3個、えへへ~」じゅる
薫「馬鹿なことやってないで連れて行くわよ!」
純一「僕も付いて行く! 他の人は絢辻さんに報告しておいて、後先生にも!」
薫「私も行くわよ! 桜井さんお願い!」
梨穂子「わ、わかったよっ」
~~~~
香苗「う、う~ん……」
香苗「…はれ? ここは?」もぞっ
香苗「……」
香苗(消毒液の匂い…それにシーツ…)
香苗「保健室? どうして私ここに…」
香苗「…ん?」ちら
梅原「すぴー…すぴー…」
香苗「…梅原君」
梅原「すぴ……うっ…」ビクン
香苗「…!」びくっ
香苗(お、起きたと思った…)
香苗「というか私、どうして…」
香苗「…あ、そっか。笑いすぎて息が段々できなくなってから」
香苗「……それでぶっ倒れちゃったような、くぉ~…私…ったら何をしてるのよ…」
香苗「………」
香苗「…梅原君、もしかしてずっと見ててくれたの?」
梅原「すぅ……すぴー…」
香苗「……」
香苗(何だか、腕が暖かいような気がする…誰かに握られてたような…)にぎにぎ
香苗(まさかね、そんなわけない。だって、それは……)
香苗「……梅原くん?」
梅原「すぴぃ……ふへへ…」
香苗「………」
梅原「むにゃむにゃ…」
香苗「……」
香苗「こんなところで、座ったまま寝たら風邪……引くよ」
すっ…
香苗「身体冷えちゃうし、それに……」
すすっ…
香苗「……それに」
すっ…
梅原「すやすや…」
香苗「……」
ぴと
香苗「それに……そんなに無防備だと、キス…されちゃうよ…」
香苗「……っ…」ドキドキ
香苗(…だめ、そんなことして嫌われちゃったら身も蓋もない)
香苗(私は決して彼を傷つけたいわけじゃないんだから、ただ私は…あの時の梅原くんを見たくないだけ)
香苗(遠くから見てるだけなんて、そんな後悔をしたくなくて)
香苗(ただ近くで…貴方を見ていたいだけ…)
香苗「…だけど」
梅原「すぷゅぅ……すぅー」
香苗「………」ドキドキ…
香苗「……ごめんね、今の私はどうも…コレ以上…」ドキ…
すっ
香苗「──我慢、出来ないと思う…から」
……ちゅっ
香苗「──……」すっ…
香苗「…ぁ……」
香苗(…唇が凄く熱い)
香苗(自分のじゃない熱が唇に残ってる…)
香苗(私、しちゃったんだ……彼にキスを…私)
~~~~
『───貴女がいるから……よね』
~~~~
香苗「っ!」びくっ
香苗「あっ…わた、し……っ」
梅原「──ぅあ? はっ!? やべ、寝てた!」ジュル
香苗「………」
梅原「おおう、起きたのか伊藤さん? すまねえ、なんか俺寝てて…伊藤さん?」
香苗「……」ぽろぽろ…
梅原「ちょ、ちょっと伊藤さん…? なんで泣いてるんだっ?」
香苗「…ごめん…っ」ぎゅっ
香苗「ごめんね…私、私またやっちゃった…」ポロポロ…
梅原「はいっ? 何言ってやがんだオイオイ。まだ苦しいのか?」すっ…
香苗「………っ…」ぎゅうっ
梅原「苦しいなら無理するなよ……ほら、大丈夫か」さすさす
香苗「………ごめんね、梅原君…」
梅原「謝るなよ、気にすんなって…先生呼んでくるか? 平気なのか?」
香苗「うん、うん……ぐすっ」
梅原「おう…」さすさす…
香苗「………」
~~~~
香苗「…あはは、ごめんね。急に泣いちゃってさ」
梅原「おーびっくりしたぜ、でも今は平気なんだろ?」
梅原「あらかた帰ったと思うぞ。まあ何人かは文化祭準備で残ってるかも知れねえが」
香苗「そっか」
梅原「…悪いことをした、とか思ってるんじゃねーだろうな?」
香苗「えっ?」
梅原「別に倒れたからって、雰囲気壊れてなんかいねーからな?
むしろあのクラスは盛り上がったわ、死んだ伊藤さんの為に頑張るぞ! …みたいな感じでよ」
香苗「死んでない死んでない、でも…そっか。うん、ありがと」
香苗「安心した、その言葉を聞いてね」
梅原「ったくよー、笑い過ぎで過呼吸とか普通有り得ないだろ。何やってるんだよ伊藤さん」
香苗「…あはは、なんだろ。やけにツボに入ったんだよね」
梅原「そんなに面白かったのか…俺らの女装姿…」
香苗「くすくす、うん! 稀に見ぬ似合いっぷりで」
梅原「…はっは、そりゃすげーぜ」
香苗「…ふふっ」
香苗「…? どうしたの梅原君?」
梅原「あ、いやっ……大したことはねえけど」
梅原「一つだけ、伊藤さんに言っておこうと思ってな」
香苗「え?」
梅原「お、俺はよっ…その~」ポリポリ
梅原「演技がさ、すっげー苦手なんだ…実は…」
香苗「……」
梅原「ほら! 昔っから嘘とか苦手でさ、よく橘にも騙されたりなんかしてさ…!」
梅原「……まあ、なんていうか。すっげー不安なんだわ、ジュリエットの役」
香苗「…それで?」
梅原「もしかしたら……伊藤さんにはこれから迷惑をかけるかもしれねえってことだ」
香苗「別に私は…だって誰だって演技をしろって難しいじゃん、でしょ?」
梅原「…まあな」
香苗「……」
梅原「初めてだからって、苦手だからって、んなもんで言い訳してる場合じゃねえんだ」
梅原「最後の最後の文化祭だ、みんなだって驚くほどヤル気を出してる」
香苗「…そうだね、うん」
梅原「だろ? だったら俺も本気でやんねーとダメなんだ、例えジュリエット役だったとしてもな」
梅原「──俺は後悔なんてものを心に残して、卒業するのだけは嫌だから」
香苗「……すごいな、梅原くんは」
梅原「なんでだよ、ただの頑固者だけだ」
香苗「ううん、凄いって。みんな真似できないよ、そんな強い所はさ」
梅原「そ、そうか? はは、照れちまうなそう言われると…」
香苗「……」
梅原「ん?」
香苗「私と梅原君、二人で秘密の特訓……してみる?」
梅原「秘密の特訓?」
香苗「そう、演技が苦手な梅原くんのために。私と二人でどこか河原とかで練習するの」
香苗「…二人だけだと、ほら。色々とやりやすくない?」
梅原「まあ、確かにそうだな」
香苗「どう? やってみる?」
梅原「……」
香苗「……」ドキ…
梅原「──うっし、やってみっか! 秘密の特訓とやらを!」
香苗「え、本当に?」
梅原「オウヨ、不安がってる今よりちっとは良くなりそうな気がするしよ」
梅原「どーしてだ? …もしかして」
香苗「えっ!?」
梅原「──伊藤さんも、実はロミオ役が不安だったオチか?」
香苗「……」
梅原「ははっ、俺と一緒か! んじゃ頑張ろうぜ二人でよ!」
香苗「……ばか」もぞ…
梅原「って、おい。伊藤さん? どうして毛布の中に戻るんだ…? おーい?」
香苗「……」
梅原「伊藤さ~ん?」
香苗「……バカ…」
香苗「……私の、馬鹿」ぼそっ
がら…
絢辻「失礼します」
梅原「ん、おう絢辻さん」
絢辻「…あら? 貴方だけ?」
梅原「まな、伊藤さんか?」
絢辻「ええ、そろそろ最終下校時間だから」
梅原「なるほどな、あ~伊藤さんなら先に帰ったぜ、親御さんが迎えに来てよ」
絢辻「了解したわ、じゃあ梅原くんは何をここで呆けているの?」
梅原「うっ…」
絢辻「まさか文化祭の準備をサボってる訳じゃあ」
梅原「ち、ちげーよ! って、違います。本当にそんなつもりはなねえからさ…」
絢辻「じゃあ理由はなんなの」
梅原「……れ、練習してたんだよっ」
絢辻「練習?」
絢辻「本番はもっと大人数に見られるから、今のうちに慣れておかないと」
梅原「ぐっ…だがよ! 今はその、台本を覚えなきゃいけないだろ? 集中力ってのは大切な筈だぜ?」
絢辻「時に慣れない現場だと、どれだけ時間を掛け覚えた記憶も、ふとしたきっかけで全て忘れるわ」
梅原「…勘弁して下さい、絢辻さん」
絢辻「ふふっ、つまらない言い訳をしたお返しよ」
梅原「……お見通しってわけか、敵わねえな絢辻さんには」
絢辻「もちろん、伊藤さんが帰ったのなんて嘘でしょ?」
梅原「……」
絢辻「お手洗いに行っているか、もしくは他のところへ行っているか。
どちらにせよ梅原くんが伊藤さんの帰りを待ってることぐらい、見てわかるから」
梅原「…まいった、降参だ」
絢辻「正直で結構、だけど早く帰ってちょうだいね? 私も戸締りして帰るつもりだから」
梅原「わかった、すぐに買える支度するぜ」
絢辻「ありがと、ふふっ」
梅原「あー、ちょっと待ってくれ絢辻さん」
絢辻「ん、なにかしら?」ちら
梅原「…少しだけ、話したいことがあるんだが」
絢辻「話し?」
梅原「おう、少しの時間でいいからよ」
梅原「───あの卒業式のことについて、『また』話しをしたいんだ」
絢辻「………」
~~~~
香苗「…ふぅ、よかった間に合った」
香苗「カバンカバンっと、あった。私のと梅原くんの」ぎしっ
香苗「よし、これからどこか広いところでも行って練習───」
「──あれ、香苗さん?」
純一「元気なったの? よかった~」
純一「ううん、香苗さんが来にすることじゃないよ。寧ろあのあと、僕ら凄く怒られたし」
純一「──あなた達の格好は、もはや凶器よ! 扱いには注意しなさい! って絢辻さんに…とほほ」
香苗「凶器って、くすくす。確かにそうかもしれないね~」
純一「香苗さんまで……でも、それほどのインパクトが
あったほうが本番でもバッチシだろうね、きっとさ」
香苗「あったりまえじゃん! だからもっともっと可愛くならなきゃだめだね~」
純一「どうしよう、僕の可愛さには限度がないのだろうか…」
香苗「あはは」
純一「ははっ、おっと…そういえば誰か待たせてるの? カバン2個持ってるしさ」
香苗「え? あ、うん。梅原くんを保健室に…」
純一「梅原を? そうか、ずっと寝てた香苗さんを見てたのか……なにか悪戯されてないよね? 大丈夫?」
香苗「えぇっ!? だ、大丈夫って思うけど…?」
裏では何を考えてるかわからないからね。きっとそれは…口ではいけないことをドロドロと…!」
香苗「ま、まかさ…というか橘くん、あれだけ良い奴だってジュリエット役に推薦してたじゃん」
純一「え? まあ絢辻さんが言えって言ったから、僕は言っただけだよ」
香苗「へ? えっと、特になにも…橘君的に思うことはなく?」
純一「うん、丸々絢辻さんが言った言葉を言っただけだね」
香苗(もしかして、気づいてないの? 私の…彼への気持ちとか)
純一「?」
香苗(あー……気づいてないっぽい、絢辻さんよく振り向かせられたなぁ…この橘くんを…)
純一「…なにか良くないことを思われてる気がする」
香苗「う、ううん! そんなことないってっ」
純一「本当に?」
香苗「ホントホント!」
純一「ならいいけど、よし。元気そうな香苗さんも見れたことだし、教室の戸締りするよ」
純一「うん、僕も香苗さんと同じで絢辻さんを待たせてるからさ、早く家に帰ろうよ」
香苗「ええ、そうね」
保健室前廊下
純一「……ん、あれは」
香苗「あれ? 梅原くんと……絢辻さん?」
絢辻「…」
梅原「…」
純一「……なんだろう、変な雰囲気だ」
香苗「えっ? そ、そうなの?」
純一「うん、何となくだけどね…多分アレは絢辻さん、怒ってる…?」
香苗「怒ってる? 梅原くんにってこと?」
純一「………」
香苗「…橘くん?」
香苗「え、ちょ、ちょっと橘くんっ…!?」
たったった
香苗(な、なんなのよ……怒ってるって、絢辻さんどうして梅原くんに…?)
香苗「っ……私も気になるじゃんっ」だっ
絢辻「──ホラきたわよ」
梅原「……」
純一「…絢辻さん、落ち着いて」
絢辻「貴方は黙ってなさい、今は梅原くんと会話してるの」
純一「黙ってられないよ、絢辻さんが怒ってるんだ。訳を知る権利は、僕にだってあるはずだよ」
梅原「……」
香苗「えっと…なにがあったっていうの…?」
梅原「…なんでもねえよ」
純一「…梅原、なんて声出すんだよ。びっくりしてるじゃないか、香苗さんが」
梅原「……」
絢辻「ねえ梅原くん。なんでもなくは無いでしょう、
私に聞くぐらいなら、一番あやしい人に聞くべきじゃなくて?」
梅原「…だから俺の勘違いだった、で、終わりでいいだろうが」
絢辻「良くないわよ、変に疑われたまんまだと気持ち悪いわ」
絢辻「貴方だってわかってるんでしょう? …伊藤さんが一番怪しいのだと」
梅原「……」
香苗「わ、私…? なにがどうなってんのっ?」
純一「…梅原?」
梅原「──はぁ、なんだよ本当に…こんなつもりはなかったっていうのによ…」
絢辻「……」
梅原「なあ、伊藤さん。覚えてるか?」
香苗「なにが…?」
梅原「──俺が卒業式で、先輩に告白した時のことだよ」
香苗「っ……」
梅原「まあ誰だって忘れることは出来ねえよな、今になっても誰だって覚えてる」
香苗「…覚えてるけど、それがどうかしたの?」
梅原「おう、あのあと直ぐにきっぱり断れたろ?」
梅原「『──ごめんなさい』ってな、覚えてるか?」
香苗「うん、覚えてる」
梅原「んだからって何のことも無いんだけどよ、実にその通りだし、なんの意味も篭ってない」
梅原「…だけどな、実はあのあとこっそりまた──先輩に会ってるんだ、俺」
香苗「………」
梅原「卒業式が終わって、先輩が一人の時を狙って、もう一度会いに行ったんだ」
梅原「…卒業式での謝罪を込めて、話をしにいったんだ」
絢辻「……」
梅原「──その時よ、実はもう一回だけ……考えてみてくれないかって、言っちまったんだ」
純一「…情けないな、梅原…」
梅原「わかってるよ、言ってくれるな。だけど、やっぱ後悔が残っちまってたんだよ……ちっとばかし」
梅原「きちんと二人っきりで先輩の話を聞きたかったんだ、
どうして、なんて聞いちまえばもっと辛くなるのはわかってたけどよ」
梅原「──そしたら先輩は、こう言ってくれたんだ」
『──四時にここで、待ち合わせ。そこで話しをしよう』
梅原「ってな」
絢辻「……」
香苗「……」
梅原「…いや、何も話してねえよ」
純一「え?」
梅原「《すっぽかされたんだ、約束の時間が過ぎても、夜になっても先輩は来なかった》」
純一「っ……!?」
梅原「…おうよ、すまねえな。橘、こんな話しを聞かせちまって」
純一「梅原……お前…」
梅原「同情すんなって、本当に情けなくなっちまうから」
純一「……」
梅原「…だけどよ、俺は信じられねえんだ。あの先輩が約束の場所に来なかったことが」
梅原「どうして、なんでだって、いくら考えても分からなかった」
梅原「…泣きてえのに、全然泣けねえんだ。何が起こってるのかちっとも頭が理解しやがらねえ」
梅原「──そうしてるうちに、ふと、思いついたんだ」
梅原「俺と合う前に、誰か先輩と会ってたんじゃねえかって」
梅原「──もしくはその他の誰かに、俺への言付けを頼んだんじゃねえかってな」
絢辻「…それで私を疑ったというわけ、なんて言ったって、あの卒業式で梅原くんが告白するように」
絢辻「手配したのは全て、私がやったことだもの」
純一「あ、絢辻さんがっ?」
絢辻「ええ、それなりに対価は貰ったわよ。大いにね」
梅原「……」
絢辻「だけど、私は卒業式内でのことはやってあげると言ったはずよ」
梅原「ああ、あれは確かに俺の独断だった。絢辻さんは関係ねえよな」
絢辻「……」
純一「ちょ、ちょっと待って! とにかく約束の場所に先輩が来なかったことはわかったけど…!」
純一「──どうして、香苗さんが怪しいの…っ? 全然、関係無いじゃないか!」
純一「だ、だよね? 香苗さんは別に関係ないよね…?」
香苗「………」
純一「…香苗さん?」
梅原「やっぱり、なにか知ってんのか。伊藤さん」
香苗「っ……」
梅原「…んだよ、やっぱりそうか。はぁ、あの人は本当に…」
香苗「……」
梅原「…すまねえ伊藤さん、あの人はなんて言ってたんだ?」
梅原「どういう経緯であの人が伊藤さんに言付けを頼んだかは、わからねえけど」
梅原「どうか教えてくれ、先輩は俺になんて言ってたんだ?」
香苗「…」
香苗「……《もう大丈夫》って言ってたよ、先輩は」
梅原「…そっか、先輩はそういってたか」
絢辻「……」
純一「大丈夫って…」
絢辻「…もういいわよね、私たちは行くわよ」
梅原「すんませんした。変に疑っちまって」
絢辻「いいわよ、それよりちゃんと話を聞いておきなさいよ」
絢辻「──文化祭に支障をきたさないよう、しっかりとね」
香苗「……」
絢辻「さあ、帰るわよ橘君」ぐいっ
純一「えっ? でも…!」
絢辻「いーから、早く!」ぐいぐいっ
純一「う、梅原ぁー! 香苗さーん! 喧嘩はしちゃだめだよー!」
香苗「………」
梅原「場所移すか、近くの公園でもいいか?」
香苗「…うん」
公園
梅原「……その、な」
香苗「……」
梅原「他に先輩は何も言ってなかったのか?」
香苗「…それだけ、特に何も言ってなかった」
梅原「そうか、そうだろうなぁ」
香苗「……」
梅原「──いやー! あんがとな! すっきりしたぜ!」ぱんっ
梅原「まっさか本当に伊藤さんが先輩の話をきいててくれてたとはよぉ~!」
香苗「…梅原君」
梅原「おう、なんだ伊藤さん!」
香苗「…どうして、怒んないの」
梅原「へ? 怒る?」
香苗「…さっきの絢辻さんの時みたいに、どうして私に怒ったりしないの」
梅原「怒ったりしないのって……そりゃ、起こる必要がないからだろ?」
香苗「っ…だ、だって今まで! ずっと黙ってたんだよ私…っ?」
梅原「……」
香苗「ずっとずっとっ…梅原くんにとって大切な言葉を、私だけが一人で隠し持ってた…!」
梅原「…伊藤さん」
香苗「それなのにっ……私、私はっ…!」ぎゅうっ…
梅原「……」
梅原「…いいって、気にすんなよ。伊藤さんは悪くねえから」
梅原「いーや、悪かねえよ。……悪いのはあの先輩だ」
香苗「…っ…!」
梅原「俺は怒ってやりたいんだ、先輩に。どうして俺に言わずに、伊藤さんに言付けを頼んだのかってよ」
梅原「そんな重たい責任を、どうして伊藤さん何かに背負わせたのかってよ!」
香苗「梅原くん…」
梅原「…だけど、あの人は理由なしにこんな無責任な事はしねえ。絶対だ」
香苗「……」
梅原「今は先輩と簡単に会話できるような状況じゃない、
今直ぐにでも理由を聞きに行きてえが我慢しなきゃいけない」
梅原「とにかくいまの現状で、伊藤さんが悪いってことは…絶対にないからな」
香苗「でも…」
梅原「でももクソもねえよっ! 伊藤さんっ!」
香苗「っ…」
香苗「…それはっ…」
梅原「わかってるよ、俺ってば振られてから……ちょっと低飛行気味だったろ?」
香苗「……」
梅原「まあ原因は先輩が来てくれなかったことだったけどよ、だが、あの時に…」
梅原「…伊藤さんが正直に言ってくれてたら、もっと落ち込んでたと思う」
梅原「裏切られたって思ってた気持ちは治るだろうけどよ、
それでも…振られて荒んでた気分は更に悪化してたと思うぜ?」
香苗「……」
梅原「あんがとよ、嬉しかったぜその気遣い。そしてごめんな、変に気苦労させちまってよ」
香苗「……っ…」
香苗(…嘘つき、本当は教えて欲しかったくせに…)ぎゅっ…
梅原「んーーーーーーーーーーー! くっそー! やっぱ振られちまってたかぁ~! だよなって思ってたぜ~!」
梅原「はぁーあ──」ぎゅっ
梅原「──後悔したくない、なんて言い訳だろ…そんなのっ…ただの諦めが悪いだけじゃねえかっ…」
梅原「くそがっ…くそっ…!」
香苗「………」
~~~~
絢辻「どうして伊藤さんが怪しいと分かったのかって?」
純一「…うん、確かに香苗さんは認めたけど。
それでも外れてたらどうするつもりだったの?」
絢辻「…はあ」
純一「え? どうしてため息をつくのさ…」
絢辻「本当にわかってなかったのね、
相変わらずきっかけがないと本当に頭が働かない人だわ」
純一「む」
絢辻「拗ねないの、だって本当のことじゃない」
絢辻「ええ、余計なことをする前に釘を差しておくわ。きちんとね」
絢辻「──ここ数日の伊藤さん、変じゃなかったかしら?」
純一「え…?」
絢辻「そうね。わかりやすく言えば…そう、文化祭の準備が始まるぐらいの時期ね」
純一「……」
絢辻「やけに前に出てくる節がなかった?」
純一「…そういわれれば、そうかも知れない」
絢辻「でしょう、それに梅原君のこと」
純一「梅原?」
絢辻「ええ、伊藤さんは特に梅原くんの前に出たがってるように思えたのよ」
純一「うーん…」
絢辻「言い換えれば、『梅原くんの役に立ちたいと感じる立ち振舞』ね」
絢辻「──恋するオトメ、のようだったと?」
純一「そうそう! それだそれ! やっとすっきりした…って恋!?」
絢辻「いやいやちょっと待ちなさい、そこもう驚くところじゃないわよ」
純一「そ、そうなの…? えっ! でも香苗さん梅原にっ…?」
絢辻「まあ、確かにそう思わせる雰囲気だったわよね。だけど…」
絢辻「…私が思うに、もっと伊藤さんはガッツリ向かう性格だと思ってる」
絢辻「自分の恋には、正直に、熱く燃えるように走っていくような気がするのよ」
純一「…うーん、女の子はわからないよ? どんな顔だって持ってるし…」
絢辻「…誰を見てそんな事言ってるのかしらねぇ」
純一「は、ははっ…どんな絢辻さんだって愛してるってことだよ!」
絢辻「…ま、まあいいわ。それなら」
絢辻「とにかく私は伊藤さんがらしくないと思ってた、まるで出そうになる感情を押しこらえてるような」
絢辻「──恋することを、頑張って押し留めてるような。そんな頑張りを感じたの」
純一「恋することを、押し止める頑張り…?」
絢辻「そう、例えばこの私とあなたの距離」
絢辻「…どう思うかしら?」
純一「近いよ、ちょっと緊張するぐらいに」
絢辻「私もよ、だけど伊藤さんはこれを…決して近づけないようにしてるはず」
純一「……」
絢辻「きっと、できれば、いつかは、未来に。──そうやって今から始めようとはせず」
絢辻「…将来はこの距離を近づけられるのだと、自分を騙しこんで」
絢辻「梅原くんのために、役に立ち続けようと思ってると」
純一「…そういわれれば、そうだったかもしれない」
絢辻「多分、それは…後悔してるんでしょうね」
絢辻「──梅原くんの先輩から貰った言付けを、言えなかったことに」
純一「……」
絢辻「伊藤さんはそれをずっと後悔してる、だからこそ、梅原くんにあそこまで頑張るのよ」
絢辻「──不自然な恋の頑張りを、ね」
純一「…絢辻さん」
絢辻「無理よ」
純一「まだ何も言ってないじゃないか」
絢辻「言わなくたってわかってる、私達にできることなんてなにもないわ」
純一「そ、それでも! 可哀想だよ…! そんなの、僕は…!」
絢辻「見過ごしなさい、絶対に」
純一「どうしてさっ」
絢辻「私達まで後悔することになる」
絢辻「…出来るっていうのかしら、本当に?」
純一「っ…絢辻さん!」
絢辻「出来るわけない、わかってるでしょう。私たちは幸せになったばかりよ」
純一「…だけど」
絢辻「人の幸せを願うには早すぎる。それに、
手を出していい問題でもないことをわかってちょうだい」
純一「……」
絢辻「…それにね、橘くん。もう遅いわよ、きっと」
純一「え…?」
絢辻「もう既に伊藤さんは決断をしてるはずよ、バレてしまったからには…きっとそう思ってるはず」
純一「絢辻さん…? ど、どういうこと…?」
絢辻「さあ? …でも、私たちは明日に分かるはず」
絢辻「──あの二人は今日、覚悟を決める筈だろうけど」
香苗「───梅原君…」すっ…
梅原「っ…すまねえ、ちっとどうしようもなくなっちまってさ…」
香苗「……」
梅原「これじゃあ…はは、文化祭でも迷惑かけちまいそうだよな、俺…」
香苗「……」
梅原「すまねえな、俺って本当にどうしようもない───」
どがっ!
梅原「──痛っ!?」
香苗「はぁっ…はぁっ…」
梅原「えっ? あれ? い、伊藤さん…? 今、背中殴った…よな?」
香苗「うじうじするなッ! 梅原正吉ッ!」
香苗「アンタがそんなんでどうするのよッ! いっぱいっぱい、なんで頑張ろうとしないのよ!!」
香苗「頑張ったんだよね!? その人のために、好きでありたいって頑張り続けたんだよね!?」
香苗「それなのにっ…たった二回振られただけで、諦めちゃっても言いワケ!? ねえそうなのッ!?」
梅原「い、伊藤さん…?」
香苗「アンタはっ…! そんなヤツじゃない! 私はそれを知ってるよ!!」
梅原「っ…」
香苗「あの時の先輩はっ……きっと本当に梅原くんを思ってたはず!」
香苗「だけどやっぱりッ…なにかしらの理由があって頷くことが出来なかったかもしれない!」
香苗「それを簡単に確かめることができないってッ…言わないでよっ! 弱虫! ばかっ!」
梅原「……」
香苗「あ、アンタはっ…後悔してるわけでも、諦めが悪いわけでもないよそれ!!」
香苗「──答えを知ることを逃げてる!! 今の梅原くんはただの弱虫だもん!!」
香苗「ばかっ…! 言わないでよ、そんな事っ…!」ぼろぼろ…
香苗「そんなの、駄目じゃんっ…きっと、そんなのっ…梅原君が…」
香苗「…可哀想でしょっ…! ぐしっ」
香苗「っはぁ…ふざけないでよ、そんなの許さないんだからっ…!」
梅原「え…」
香苗「絶対絶対、許さないっ…あーもう! コレでよかったんだよ最初から!」
香苗「……告白するよ、また先輩に」
梅原「こ、告白って……まさか三回目をしろってか!?」
香苗「あったりまえじゃない! 絶対にさせてあげるんだから!」
香苗「…梅原くんにまだ悔いが残ってるって、思ってるんだったら!」
香苗「──その気持はちゃんと相手に届けなきゃ、いけないんだよ絶対に!」
梅原「ど、どうやって…だよ?」
香苗「──文化祭がある」
梅原「っ…文化祭の劇で、やれっていうのか…? ムリムリ!」
香苗「…無理じゃない、梅原くんならきっと出来るよ」
梅原「ど、どうしてだよっ…俺はもう先輩のことは諦めようとしてるんだぜ…?」
香苗「じゃあ、ポケットに入ってる生徒手帳の…中の写真、今ここで破って見せて」
梅原「っ……何で知ってるんだ…!」
香苗「いいから」
梅原「ぐっ…わ、わかったよ! 破けばいいんだろっ? なんだよ…」すっ…
ぺら
梅原「…コレを破けばいいんだな、そしたらその意味のわからねえ目的をやめてくれるんだな?」
香苗「うん…ぐすっ…」
梅原「んなの、簡単に決まってらぁ……」ぐっ…
梅原「……あれ?」
梅原「く、くそっ…そんな訳──」
香苗「──結局はそうなんだって、梅原君」
梅原「ち、違う…俺はもう…!」
香苗「違うもんか、それがアンタの答えなんだよきっと」
香苗「──先輩のことを諦めきれてない、それが梅原くんの答えだって!」
梅原「っ……」
香苗「だったら…立ち向かわなきゃ、ちゃんと現実にさ!
逃げないで男らしく突っ込んでいきなよ! 前みたいに!」
香苗「男がグジグジと悩んでんじゃないやい!!」
梅原「っ───……」
香苗「はぁっ…はぁっ…平気だよ、私もちゃんと付いててあげるから…」
香苗「ね? だから…」すっ
香苗「頑張ろうよ、今度こそ…キチンとスッキリさせよう梅原君?」
香苗「…大丈夫だから」ぎゅっ
香苗「この手に握ってる、写真の人は……必ずアンタにとって大切な人になる」
梅原「……」
香苗「きっと、そうなるから」
梅原「…なんで、そこまで…」
香苗「うん…?」
梅原「俺の為に…やってくれるんだ…?」
香苗「ぐすっ…えへへ、なでかってそれは……」
香苗「……私がロミオ、だからじゃないの? ねえ、ジュリエット」
梅原「……は、はは、なんだよそれ…」
梅原「ロミオだから…手助けしてくれるのか? 俺のことを?」
香苗「そうだよ、なんか文句でもあるの? うん?」
梅原「……無い、全く無いぜ」
香苗「ふふっ、んじゃ決まりね!」
香苗「…三回目の告白、絶対に成功させるわよー!」
梅原「…おう」ぎゅっ
香苗「声がちっさーい! おー!」
梅原「お、おー!」
香苗「おー!」
~~~
その日、夢を見た。
遠い記憶の片隅に、だけど忘れることの出来ないモノで。
ただひたすらに、その時の私は焦っていたことを覚えてる。
香苗「はぁっ…はぁっ…」
何故そこまで息を切らしていたのだろう。
何故そこまで急いでいたのだろう。
一体何時の記憶なのか、今の私には少しも分からなかった。
香苗「はぁっ…だめだ、もう間に合わない…」
何度見返したのだろう腕時計を確認し。前方へと視線を向ける。
先には白い霧しか無く、目指しているものなんてちっとも見えはしない。
香苗「っ……」
焦燥がゆっくりと、諦めへと変わっていく。
もう私だけの力では無理だ。この霧は晴れ渡すことなんて出来ないのだから。
───その時、風が吹いた。
立ち込めていた霧は急激に一掃され、私の視界はよりクリアのものになっていく。
「……」
霧が消え去った先に、一人の男性が立っていた。
その人はゆっくりと私に手を伸ばし、そして優しい声色で話しかけてくる。
「──もう大丈夫、後は俺に任せておけ」
続きを見たいと思っても、私はもう見れることは出来ないと分かってしまっていた。
香苗「──……」ぱちっ
香苗「……朝」
──もう続きなんてものは、私自信が諦めてしまったのだから。
香苗「さーて、学校だぁー!」
ばさぁ!
~~~~
シィーーン…
梅原「……」
香苗「……」
純一「っ…ゴクリ…」
薫「何この空気…」
絢辻「シッ! 静かに!」
梅原『お父様と縁を切り、家名をお捨てになって!もしもそれがお嫌なら、せめてわたくしを愛すると、
お誓いになって下さいまし。そうすれば、わたくしもこの場限りでキャピュレットの名を捨ててみせますわ』
香苗『 黙って、もっと聞いていようか、それとも声を掛けたものか?』
梅原『わたくしにとって敵なのは、あなたの名前だけ。たとえモンタギュー家の人でいらっしゃらなくても、
あなたはあなたのままよ。モンタギュー――それが、どうしたというの? 』
梅原『手でもなければ、足でもない、腕でもなければ、顔でもない、他のどんな部分でもないわっ…』
梅原「けほこっ…駄目だ、息が続かねえ!」
香苗「だ、大丈夫っ…?」
梅原「お、おう。ちょっとはマシになったと思うんだがよ…いまいちダメだな、こりゃ」
香苗「そんなことないって、前より随分と上手くなってるって!」
梅原「そ、そうか?」
純一「………」
梅原「…ん? どうした大将?」
純一「──凄いな梅原ぁああ!何なんだ今の演技力! もうジュリエットにしか見えなかったぞ!」
梅原「何の冗談だよ橘っ…!」
絢辻「いいえ、冗談では決してないわ」
薫「やるじゃない梅原君っ! 前世はジュリエットだったんじゃないの?」
梅原「えっ? えっ?」
香苗「ふふふ」
梨穂子「香苗ちゃんも凄かったよ~! あの迫真の演技…本当に陰ながら見てるような、
そんな怪しさや気遣いを感じるような……とにかく凄かった~!」
香苗「さ、桜井っ…褒めすぎだってば」
梅原「なんだか…えらく褒められるな、はは、頑張ったかいがあったぜ」
マサ「……」
梅原「…ん、マサ? なにやってるんだこっちのクラスを覗いて?」
だだだだっ!
梅原「ちょ、おまっ! 何言ってやがる!」
「振られたから女に走ったって本当か梅原!?」
「応援するよ!」
「次は男子だな! …俺は無しな方向で」
ぞろぞろ
梅原「うおっ…なんだなんだ、一気に来すぎだろお前ら!」
薫「あらら、えらく人気者だったのね梅原君って」
純一「前の告白で一気に名前が知れ渡ったからね、当たり前だよ」
絢辻「……」
純一「凄い奴さ、梅原って男はね」
香苗「……」
梅原「だぁーもう! ちげーって! これは演劇の役でなっ…!」
香苗(…頑張らないっと、私も!)ぐっ
香苗「うっしー! 梅原くん、練習の続き行くよー!」
梅原「お、おう! ちょっと待ってくれ! …だから、違うっての!」
香苗「あはは」
梨穂子「………」
夕方
香苗「──ふぅ…こんなもんじゃない? けっこう出来たと思うけど」
梅原「そうだな、疲れた…声を出し続けるのって大変なんだな…」
香苗「あ、飲み物買ってこようか?」
梅原「公平にジャンケンだ」
香苗「おっけー、じゃんけんっ」
梅原&香苗「ぽんっ」
香苗「…あいこか、そんじゃ次にっ」
香苗「え? いいの?」
梅原「おうよ、どっちにしろ二人とも疲れてんだ…労働はお相子にしようぜ」
香苗「りょーかい、んじゃ行こうか」
梅原「おう」
~~~~
すたすた…
梅原「しっかし、なれねえもんだなぁ…演じるってのは難しすぎる」
香苗「私たちが特別、意識しまくってるからじゃない? 気入り過ぎっていうかさ」
梅原「…確かに、頑張りすぎてる所は否めないな」
香苗「だけど、ね。大切だよ、今の私たちの頑張りはね」
梅原「わかってるよ、ちゃんとな」
香苗「…うん」
香苗「あ、私はコーヒーでお願い」
梅原「あいよ、コーヒー好きだなぁ…」ガタン…
香苗「そお? 人それぞれ好みはあるもんでしょ」
梅原「そりゃわかってるけどよ、なんつぅーか…飲み過ぎじゃね?」
香苗「ふーんだ、べっつにいいじゃない。飲み過ぎたって」
梅原「いじけるなよっ…はは。おらよっ」ぽいっ
香苗「わわっ、わっ…!」
梅原「落とすなよっ」
香苗「ととっ…むー! 意地悪しないでよね! まったく…」かしゅっ
梅原「すまねえすまねえっと、俺はどうすっかな。ん~」
香苗「ぷはっ、お茶じゃないの?」
ガタン…
梅原「…俺もコーヒーを飲んでみようと思う」
香苗「どうして? コーヒー好きだったっけ?」
梅原「いや特別好きじゃねえな。むしろ好きではない」
香苗「…断言しないでよ」
梅原「はは、いいじゃねーか。人それぞれの好みはあるんだろ?」
香苗「む、そうやって直ぐ人の上げ足を撮るんだからっ…」
梅原「上げ足を取ったのではなく、訂正をしただけだ」かしゅっ
梅原「ん、ちょっと遅れたけど」
香苗「あ、うん」
かつん…
梅原「今日もお疲れ、伊藤さん」
梅原「おう! ……ごく、ぶへぁっ! 駄目だ苦いっ」
香苗「なにやってんのよっ…ぷっ」
梅原「緑茶の苦みとは比べ物にならねえな…あっちは平気なのによぉ」
香苗「あったり前じゃない、苦いのが苦手ならミルクたくさん入れれば?」
梅原「お、そうか! その手があったか~…って、缶コーヒーだぞ」
香苗「家で作った時にやってみれば?」
梅原「俺ん家にコーヒーなんぞ洒落たものは置いてねえ!」
香苗「自慢した言い方しないでよ…じゃあ何時もなに飲んでるの? ただの水?」
梅原「お茶って選択肢はないのかよお前さんには…」
香苗「そ、そんなんじゃないし! コーヒーばっかり飲んでるわけじゃないからっ!」
梅原「嘘だ…四六時中飲んでるんだな…もう既にカフェイン中毒なんだろ…」
梅原(何時も飲んでるように見えるけどなぁー)
香苗「…ったく、なによもう…」
梅原「……」
梅原「……なあ伊藤さん」
香苗「なに、梅原君…また変な事言ったら怒るからね」
梅原「言わねえさそんなこと。……いや、もしかしたら、怒るかもしれねえわ」
香苗「…どっちよ」
梅原「俺にはわかんねえな、なんつぅーか…俺個人の意見じゃ決められねえんだ」
香苗「…?」
梅原「………」
香苗「…梅原君?」
香苗「こ、恋ぃ? どーしたのよ急に…」
梅原「いいからよ、ちょっと答えてくんねーか」
香苗「え、ええっ……そりゃーまぁ、ちょっとぐらいは…」
梅原「そうか、そりゃそうだぜ。
だって花の女子高生だもんな、恋の一つや二つしてるに決まってる」
香苗「一つや二つって…そこまで気移りしやすい性格じゃないわよ、言っておきますけどね」
梅原「そうなのか、そりゃ失敬。すまんすまん、謝っておく」
香苗「……それで? 結局は何が言いたいワケ?」
梅原「……俺的な意見だから、気にはしなくていいんだ」
梅原「ただよ、一つ思っちまったんだ」
梅原「──恋は、いつになったら恋になるんだってさ」
梅原「どう思う? 伊藤さん?」
香苗「…良く分からないけど、好きになったら恋じゃないの?」
梅原「おっ! 良い所を付くねぇ、確かにその通りだ」
梅原「俺はその人のことを──気になりだした瞬間から、それは恋だと思う」
梅原「他の誰よりも違う、どんな人間よりも……近くに居たいと心から望んじまう」
梅原「そんな相手を見つけちまった時、それは恋だって言っても良いんだってな」
香苗「……」
梅原「…もう一つ、最後に伊藤さんに聞きてえんだが」
梅原「──その恋を、忘れる時って何時だ?」
梅原「つまりは失恋、って奴だな」
梅原「──気になりだした人のことを忘れたいと願った時が、失恋なのか?」
梅原「──それとも別れを告げられた時、それが失恋なのかね?」
梅原「それとも──なんだ、想いを受け取ってくれなかったときは、失恋になっちまうのか」
香苗「それは…人それぞれじゃない、どうその現実を受け止めるかが大切でしょ」
梅原「まあ、その通りだ。だが、それだと俺は納得できねえ部分がある」
梅原「──最初に言った恋は何時になったら恋なんだって話だ」
梅原「恋は好きになった時から、恋だと言うんならよ」
梅原「……じゃあ失恋しちまった時は、好きだって思いを忘れないと駄目なのか?」
香苗「それはっ……当たり前じゃん、だって辛いだけでしょそういうの…」
梅原「…そうだな、辛いだけだな」
香苗「もう自分の気持ちを伝えられないんだから、いくら好きだって思いを持ってても…忘れた方が良いわよ」
香苗「…なんなの、こんな事聞いてきて…不安なの? 先輩に告白するの?」
香苗「でも…! やるって決めたのなら、最後までやり通さなきゃ!」
梅原「わかってるって。それはちゃんと心に決めてる」
梅原「──きちんと先輩に告白するってよ」
香苗「じゃあ…どうして…」
梅原「…だから、気付いちまったんだ」
香苗「え?」
梅原「どうして俺は失恋なんかしてもー……あの人のことを好きでいられるのか、その理由を」
梅原「俺は気付いちまったんだ、いまさっき」
香苗「…どういうこと?」
梅原「なあ、伊藤さん。どうして俺の為に頑張ってくれるんだ」
香苗「え、だから……」
梅原「ロミオだからって? そうじゃねえと、今の俺は思ってる」
梅原「いや、そう思いたがってるが正しいかもな。だってそれは俺の我儘だから」
梅原「とんだ勘違い野郎って蹴っ飛ばしてくれても良い、
馬鹿だな根性ねえ奴だって、また背中を殴ってくれても良い」
梅原「…だがよ、俺は思っちまったんだ」
梅原「今まで文化祭の為に、俺たちは演技の練習をやるだけやって来たよな」
梅原「…たまに喧嘩もしたよな、それに、お互いの演技を褒め合ったりもした」
梅原「それから告白の仕方の作戦も考えて、数日後の文化祭の為に頑張り続けたよな」
香苗「なにが、言いたいの…?」
梅原「……俺だって、なにが言いたいのかわかんねえよ」
梅原「だけど…」すっ
梅原「これだけは、必ず自信を持って言えると思う」
香苗「え…?」
梅原「──俺、伊藤さんのこと好きだ」
梅原「ああ、何だそれって思うよな。俺だって…そう思ってる」
梅原「だけど俺は、今誰よりも近くに居てほしい奴は──伊藤さんだけだ」
香苗「っ…そんなの…! だって、梅原君は先輩のことがっ…!」
梅原「ああ、好きだ」
香苗「だ、だったらっ…変な事を言ってないで、まっすぐあの人の事を見てればいいじゃないっ…!」
梅原「……」
香苗「っ…」
梅原「…さっきも言ったけどよ、俺は、どうして先輩のことが好きで居続けるのか分かったんだ」
梅原「だって、それは───伊藤さんと俺の繋がりだったから」
梅原「そして伊藤さんの頑張りに後押しされて、俺も…先輩を好きで居続けた」
梅原「…だけど、伊藤さんのお陰で好きで居続けられた」
香苗「……」
梅原「俺は少し道を逸れちまったんだ。本来行く場所とは違った所に来てしまってる」
梅原「──そして伊藤さん。俺は今、君の隣にいるんだ」
香苗「っ…」
梅原「本当はもっと違った場所に居るはずだったと思う。
だが、それでも、今は…ここで一緒にコーヒーを飲んでる」
梅原「全て伊藤さんの所為だとはいわねえ、全部ハッキリと言わなかった俺の所為だ」
梅原「俺が素直にならねえから、あの時…ちゃんと写真を破けば良かった話だからな」
香苗「……」
梅原「だからもう後悔は、しないって決めたんだ。
何度だって後悔の連続で、全然その思いを守れてこなかったけど…」
梅原「…今はハッキリと伊藤さんにこの想いを伝えたい」
梅原「…だけど、伊藤さんのお陰で好きで居続けられた」
香苗「……」
梅原「俺は少し道を逸れちまったんだ。本来行く場所とは違った所に来てしまってる」
梅原「──そして伊藤さん。俺は今、君の隣にいるんだ」
香苗「っ…」
梅原「本当はもっと違った場所に居るはずだったと思う。
だが、それでも、今は…ここで一緒にコーヒーを飲んでる」
梅原「全て伊藤さんの所為だとはいわねえ、全部ハッキリと言わなかった俺の所為だ」
梅原「俺が素直にならねえから、あの時…ちゃんと写真を破けば良かった話だからな」
香苗「……」
梅原「後悔は、しないって決めたんだ。
何度だって後悔の連続で、全然その思いを守れてこなかったけれど…」
梅原「…それでも今、はハッキリと伊藤さんにこの想いを伝えたい」
梅原「とんだふがいねえ男だってことは、アンタが一番知ってると思う」
梅原「俺の気持ちは…確かに伊藤さんで一番だ、だけど! 先輩に告白する勇気はここにある!」
梅原「…矛盾してることぐらいわかってる、けどよ! 俺はちゃんとやりたいんだ!」
梅原「──伊藤さんへの気持ちと、伊藤さんの頑張りをっ…俺は認めてぇんだ!」
ぐっ…!
梅原「ちゃんと、ちゃんと…っ! この数日間の想いを、裏切りたくはないっ…!」
梅原「どれだけっ…伊藤さんに嫌われても、俺は自分の気持ちに嘘を付きたくなんかねえ!」
香苗「……」
梅原「好きだって想いはっ…ここにあるんだ、だけど…!」
梅原「俺はっ…俺は……」
梅原「俺は……」
カラン…
梅原「! 伊藤さん…?」
梅原「伊藤、さん?」
香苗「っ……やめてよ、そんなこと…」すた…
梅原「ど、どうしたんだ?」
香苗「やめて…言わないでよ、好きなんて…駄目だってば…」
香苗「それじゃあっ…私、どうしたらいいのよ……今までの頑張りを…どう認めればいいのよ…っ!」
梅原「おい、大丈夫かっ?」すっ
パシィッ!
梅原「痛っ…!」
香苗「はぁっ…はぁっ…!」
梅原「伊藤さん…」
香苗「はぁ…一人に決めて……梅原君、アンタはキチンと先輩に告白してよ」
梅原「っ…告白はする、だけど俺は…!」
香苗「私が好きとか言わないでっ!」
香苗「私はっ…梅原君が先輩に告白して、きちんとスッキリするのが…目的だったのよっ…!」
香苗「──それなのに、どうして私のことっ…! なんで、好きになっちゃうのよっ!」
梅原「……」
香苗「だめ、でしょそんなのっ…だって、だって、梅原君はっ…!」
梅原「…こんな時でも、伊藤さんは俺の心配するのか」
香苗「っ…!」
梅原「何が言いたいんだ伊藤さん。もし、アンタが俺の告白を受け入れられない…その理由が」
梅原「──俺の為だなんて言ったら、本気で怒るぞ」
香苗「わ、私はっ…」
梅原「卒業式に、堂々と告白したのに。だけどすぐさま他の女子にうつつを抜かす奴と、思われたくないってか」
香苗「んぐっ…それはだって、そうじゃないのっ…!」
香苗「わかってない、全然分かってないよ梅原君は! あの卒業式の告白がっ…どれだけ周囲に広がってるのか!」
香苗「そしてまた同じような事をして、更にっ…私が好きだとか言ってるアンタは!」
香苗「当然のように周りから人が居なくなるわよっ! 最低な奴だって…どんな神経をしてるんだって!」
梅原「……」
香苗「ぜんぜんっ……わかって、ないよ…!」ぎりっ
香苗「っ……その告白、今ここで、断らせてもらうから」
梅原「…伊藤さん」
香苗「やめてよっ! 気安く呼ばないでっ!」
梅原「…そっか、ごめん」
香苗「……っ……私、もう帰るから」
香苗「……好きなんて、どうして思ったのよ…」
たったった…
梅原「……」
梅原「……うぁー」バタリ
梅原「…やっちまったぜー」
梅原「あー…このまま廊下のシミになりたい…」
梅原「……」
梅原「…馬鹿だなホンット、俺ってよぉ…」ぼそっ
梅原「…何が好き、だ。虫が良すぎるだろうがッ…」ゴツッ…
梅原「…正直にも程があるだろッ…ふざけるなよ俺ッ…」ゴツン…
梅原「…」ゴツ
梅原「──あー、やれるのかよ…これで、文化祭とか…」
「──やれるだろ、お前なら」
梅原「あ…?」
梅原「…見てたのかよ、趣味悪いなオイ」
「ははっ、仕方ないだろ? トイレに行ってたら、なぜか二人が喧嘩してるんだもの」
純一「──思わずトイレの中で数十分、立ち聞きだよ。どうしてくれるんだ」
梅原「…じゃあそのままトイレの亡霊さんにでもなっとけ」
純一「いやだ、男子トイレなんてまっぴらごめんだ」
梅原「…そう言う問題かよ」
純一「そう言う問題だよ、よいしょっと」
梅原「……」
純一「なあ、好きな子って良いな」
梅原「…は?」
純一「突然そう思った」
梅原「突然すぎるだろ…なんだよ急に…」
純一「それに好きな子からもっともな事を言われたら、口応えが出来ないだろ?」
梅原「…さっきの俺の事を言ってやがるのか」
純一「どうだろう、そう思うの梅原は?」
梅原「ドンピシャだな」
純一「ふふっ、なんだよ梅原。今日はやけに素直だ、気持ち悪いぞ」
梅原「うるせーよ」
純一「…うーん、結局はさ。梅原ってちょっと変わってるよな」
梅原「…お前さんに言われたくない言葉、ナンバーワンだ」
純一「そうだろう、僕もそう思う」
純一「絢辻さんにだって良く言われるよ、貴方は何を考えて生きてるの? 死ねば?って」
梅原「死ねって良く言われてるのか…可哀そうにな…」
純一「…だけど、それが僕には嬉しいんだよ、梅原」
梅原「……」
純一「──素直な自分を出して、素直な気持ちを伝えてくれる」
純一「そんな好きな子を、そんな大切な子を僕は見つけることが出来たんだから」
梅原「……」
純一「だから僕等二人、梅原と僕は変わってるんだ」
純一「──好きな子から本音を言ってもらえることに、喜びを感じてるんだもの」
純一「…どうだった? 好きだって伝えて、怒ってもらった時の気持ちは」
梅原「……」
純一「凄くスッキリしなかったか? 自分の想いを相手にぶつけて、それを否定してもらって」
純一「だけど分かってもらえなかった辛さより、理解してもらえなかった苦脳より」
純一「お前はきっと───なによりも嬉しかったはずだ」
純一「一人の女の子に、ちゃんと答えを貰ったことに」
純一「……どの感情よりもやる気を出したはずだよ、絶対に」
純一「…うん、一人ぼっちは寂しいよな。なんだって、言葉が欲しい時はあるよ」
純一「お前だってそれを経験してるはずだ、
誰も来ない約束の場所でずっと待ち続ける寂しさを」
純一「例え後で来れなかった意味を知ったとしても、そのときの寂しさは…決して無くならない」
純一「…絶対に、無くならないんだ」
梅原「……」
純一「ん、だからさ梅原」
純一「逃げるなよ、真正面から立ち向かって行け!」
純一「どんなに否定されても! 社会的死を宣告されても!」
純一「──好きだって想いに、勝てるモノなんてないぞ!」
純一「…だろっ?」キリッ
梅原「っくは、台無しだな…最後の決め顔で」
純一「だ、台無しとかいうなよっ!」
梅原「本当の事だろうがっ……くく、なんだよ本当にっ…」むくっ…
梅原「──はぁ~あ、成功者に色々と言われちまえば…」
梅原「…俺も頑張りたくなっちまうだろうがよ、大将」
純一「…おう、頑張れ。きっと良い明日が待ってるよ」
梅原「明日ねえ、そりゃ楽しみだ」
梅原「今日より良い明日になれるといいな…」
純一「……なあ、帰りに本屋寄って行かないか?」
梅原「…すまねえ、ちょっとやらなくちゃいけねえことがあるんだ」
純一「そうなのか…それは残念だよ」
純一「へぇ、それは僕も見れる事が出来るの?」
梅原「特等席で見せてやるよ、楽しみにしときやがれっ」
純一「了解、じゃあ僕はそろそろ帰るよ…」すっ
梅原「おう、その……ありがとな」
純一「なんの、同じ悩みを抱える同士だ」
純一「…いっちょ幸せ、掴んで来い梅原」
梅原「あいよっ! 大将!」
~~~~~
教室
梅原「ふぅー……はぁー……」
梅原(──文化祭まで残り数日、練習期間も限られてるな、
ついでにいうとロミオ役との合わせ練習は出来ないと考えるべきだ)
梅原「──だからどうした! 俺には関係ねぇ!」カッ
梅原「……」
梅原「…よしっ」
~~~~
文化祭当日
絢辻「……これでいいわ」
薫「ひゅ~♪ やるわねえ絢辻さんっ」
絢辻「そんなことないわよ、ふふっ」
絢辻「他になにか不備がある人はいないっ? 今のうちに色々と済ませておかなくちゃ駄目よー!」
クラス一同『はーい』
純一「あの、絢辻さん…」もじっ
絢辻「どうかしたの?」
純一「と、トイレに行きたいんだけど…っ」
薫「ハァッ!? 先に済ませておきなさいって言ったでしょ!」
薫「アンタが馬鹿みたいにがばがば飲むからいけないんでしょうが…」
純一「ううっ…ヤバい、これは駄目だよっ…スカートでトイレって、立ちション駄目なの…っ?」
絢辻「私は構わないけど、貴方はどうなのかしらね」
純一「うぁー! 目も当てられない光景が浮かび上がるよ!」
純一「っ…だけど我慢の限界だ! 行ってきます!」だだっ
梨穂子「あっ、純一~! カツラはちゃんと載せて行ってね~!」
純一「あ、うん! わかった…ってカツラいらないだろ!?」
梨穂子「宣伝の為だよ~えへへ~」
絢辻「はぁー」
「大変そうだね、絢辻さん」
絢辻「…そうね、まだ始まってないって言うのにこの騒動。本当に無事に終わる事──」
香苗「…? どしたの?」
絢辻「──凄く似合ってるわね、伊藤さん」
絢辻「そう? とても高級感のある王子様に見えるわ、思わず惚れちゃいそうになったもの」
香苗「ええっ!?」
絢辻「くす、冗談よ」
香苗「も、もう! ちょっと冗談に聞こえなかったよっ」
絢辻「冗談だってば、くすくす……あら」
ズズズズ…
絢辻「──このオーラは、みんな『ジュリエット』が帰って来たわよ!」
クラス一同『ジュリエットが…!?』
がらり…
「──今帰った、保健室の仮眠、ごめんな皆」
薫「い、いやっ…いいのよ? 色々と、ね~うんうん!」
梅原「…そうか、ならよかった、俺も安心だ」ズズズズ…
絢辻「──いいわね、私たちは最終項目。他のクラスが演劇が終わり、観客の目も肥えてる間際」
絢辻「たいしたものでなければ、それは全て一掃されてしまうほどにシビアな空気よ」
ごくり…
絢辻「…でも、大丈夫。けっして怖がらなくていい」
絢辻「私たちがしようとしている事、それは既に──観客からは注意をひくものなんだから!」
「うぉー!」
絢辻「だったらやってあげようじゃないの! 全てのクラスを圧倒させるほどの劇を!」
「うぉー!!」
絢辻「絶対に負けないわよ! 全てはこのクラス、みんなの頑張りなら成功するはずだから!」
「うぉおおおおー!!」
薫「あ、来たわよ純一っ…こっちこっち」
純一「ご、ごめんねっ…ふぅ…間に合ってよかった~」
クラス一同『あはははっ!』
絢辻「くす、それじゃあ行くわよ! 性別反転ロミジュリ、開始!」
カッ!
梅原『……』
どっ!ぷっはっはっはっは!
美也「こ、これはっ…」
紗江「わぁー……」
七咲「…」
田中「ぶっは! あはは! 梅原君!」
舞台裏
絢辻「よしッ! 受けてる!」
純一「晒しもんだよね、やっぱりこれ…」
絢辻「いいのよ受ければ!」
梅原『──……』
梅原『…ああ、ロミオ様、ロミオ様! なぜあなたは、ロミオ様でいらっしゃいますの?』
紗江「っ……!」キラキラ…
七咲「…凄いね」
田中「…」ぽかーん
梅原『 お父様と縁を切り、家名をお捨てになって! もしもそれがお嫌なら、せめてわたくしを愛すると、
お誓いになって下さいまし。そうすれば、わたくしもこの場限りでキャピュレットの名を捨ててみせますわ』
絢辻「………」
純一「…な、なんだアイツ」
薫「いやー何度見てもヤバいわよねアレ…」
絢辻「……凄いじゃない、梅原君」
カッ!
香苗『……』
絢辻「っ…来たわ、ロミオよ! 頑張って…!」
梅原『……?』
美也「…どうしたんだろうね?」
紗江「ふぁー……女装って凄いよね…っ」
七咲「トラブルでもあったのかな?」
田中「せ、せんせぇー!」
高橋「ごめんなさい、遅れちゃったわね…あら? どうかしたの?」
絢辻「…まさか」
薫「ちょ、ちょっとぉ! 伊藤さんなんでセリフ言わないのよっ?」
純一「…緊張して、全部忘れちゃったとか?」
絢辻「大いにあり得るわ、伊藤さん…何処か気持ちが浮いてたような気がするモノ…」
薫「ど、どうするのよっ! ここからカンペでもみせる!?」
梨穂子「…どうしたの?」
純一「い、伊藤さんが大変なんだ! セリフを忘れちゃったみたいでっ…
二人だけの場面だし、フォローも入れること出来なくて…!」
香苗『………』
ドッドッドッド…
香苗(なに、コレ…頭が真っ白に…なにも思いだせない…え…?)
香苗『あっ……う…』
香苗(っ…あれだけ必死に練習したのに! 声が出ない、出さなきゃいけないのに!)
香苗(だって───)
観客『………』じっ…
香苗(──ひっ…視線がみんな…私に──)びくっ
香苗(だめ、足が震えて立てない、もう倒れちゃう───)
ぽすっ
梅原「ふぃー、間にあったぜ」
香苗「え?」
全員『えっ?』
香苗「う、うん…」
梅原「──よし、なら良い。じゃあ続けるぞ…」
香苗「つ、続ける…?」
薫「な、何が起こってるのよ!? 舞台の二階から飛び降りて!」
純一「…絢辻さん、これは…」
梨穂子「…うん、やるしかないよっ…」
絢辻「……」
絢辻「──ええ、続行よ! 二人にライト浴びせて! 音もb-1に変更! 早く!」
薫「つ、続けるのっ? 台本めちゃくちゃよ!?」
絢辻「やるのよ、二人の信じなさい棚町さん」
純一「…仕方ないよ、元はあの二人が主役なんだ」
梨穂子「うんっ」
薫「うっ……~~~~! わかったわよ!
なにかしらのアドリブが入ったらこっちに寄こして!」
梅原『──この世で一番、美しい…』
香苗「……」
梅原(乗っかれ乗っかれ! 良いから良いから!)
香苗『っ…それは嬉しい言葉だ、だがしかし、そなたはあのベランダからどうして飛び降りてしまったのか』
梅原『我慢できなかったのです、ごめんなさい』
香苗「…ぶふっ」
美也「にしし! 我慢できなかったんだって!」
紗江「ほぇ~」
七咲(絶対にこれアドリブだ…)
田中「なんだかすごい事になってますよぉ…」
高橋「よくわからないけど…ロミオとジュリエットなのよね…?」
香苗『……───……』
ぷっ…くすくす……あははは…
純一「…なんだか静かだった客席が、騒がしくなってきてない?」
梨穂子「なってるなってる~!」
薫「っ…ちょっと待って、梅原君がなにか合図してるわよ!」
絢辻「え? どこどこ!?」
梅原『私はそなたと何処までも行きましょう、銭湯に寿司屋。日本の素晴らしき文化を───』ちょいちょい
絢辻「──橘くんを指さしてない?」
薫「純一が出て来いって言ってるの?」
純一「でも僕、キャピュレット夫人だよ!? 出てきたらおかしくない!?」
梨穂子「で、でもっ…面白いかもしれないよ~!」
絢辻「う、ううっ…行くしかないわよ! 行ってきなさい!」ドンっ
純一「……」すた…
梅原「…」
香苗「…」
純一「…」
純一『──そこの二人、なにをしているのですかっ! ワタクシにも日本の文化を教えなさい!』
絢辻「乗ったー!」
薫「ナイス! アドリブ最高よ純一ぃ!」ぐっぐっ
梨穂子「頑張れ純一~!」
純一『月も嘆くような寂しい夜に……薔薇のような匂いを感じ、着てみれば…』
純一『何と羨ましい事をっ! ワタクシだってそのような逢引きをしてみたかったのよ!』
梅原『…お待ちになって、お母様。これは確かに逢引き…のように見えるかもしれません』
純一『あら、違うのかしら。ではいってごらんなさい、私の愛しい愛娘よ』
梅原『──今の時代は、そう……逆ナンですわよお母様!』
純一『んんまぁ! 逆ナンですってぇっ!』
あっはっは! くすくすっ…!
美也「にぃに…」
紗江「橘先輩っ…梅原先輩っ…ふぉおおおおっ…!」キラキラキラ…
七咲「………」(ガン見)
田中「おー!」
高橋「もっとロミオとジュリエットはおごそかで美しさも兼ねそれた…」
梅原『…時代に乗り遅れてますのよ、お母様。ねえロミオぉ?』
香苗『そ、そうだ! 時代は逆ナン! 草食系男子万歳!』
あははははっ…!
薫「ぱ、パリス! ここで出てきたら本当にめちゃくちゃね!」
絢辻「いいのよ、見てみなさい。この空気を」
梨穂子「……みんなが笑ってる」
薫「…絢辻さん、やるっていうの? というか出来るの?」
絢辻「………」
絢辻「──生徒会長に、不可能は無いわ…」すた…
きゃーーーー! わはっはっはっはっは!
~~~~~~
薫「はぁっ…はぁっ…」
梨穂子「ひっく…体力がもう、残ってないよ…っ」
純一「あ、ああっ…僕ってば何回突っ込みを入れたのか憶えてないよっ…」
絢辻「お疲れ様、後は──なんていうのかしら、ちゃんとお墓のシーンにいけるのね…」
純一「いや、それよりもキャピュレット夫人とパリスが剣撃戦を始めたときはもう、意味が分からなかった…」
梨穂子「それよりも、登場人物全員で盆踊りってなんなの~っ!? よく音声データあったよねっ!?」
絢辻「…大変だったけれど、舞台はもうクライマックス」
梅原『……』
香苗『ああっ…』
絢辻「最後ぐらいは、きちんと締めるわよ」
三人『…うんっ!』
香苗『ジュリエット…私はなにもしてやれることはできなかった…!』
香苗『ただひとつの命さえも、尊き魂さえも、この手に残す事が出来なかった…!!』
美也「うっうっ…」
紗江「ひっく…そ、そんなっ…」
七咲「……グス…」
田中「……」ボロボロ…
高橋「……」ボロボロ…
梅原『──どうして、なぜこのようなことが…!』
梅原『私は貴方と何処までも一緒に愛し続けていたかったのに…!』
梅原『これから先、私はなにを信じ、何を愛し、行き続けなければならないのですか…!?』
梅原『私は……私は……』
梅原『…………』
純一「今度は梅原が…?」
薫「嘘でしょ、ああもう。ここまで来たら何も言わずに短剣ぶっさしなさいよっ」
梨穂子「それはちょっと…」
絢辻「……何かする気じゃないでしょうね」
純一「え? …どうしてそう思うの?」
絢辻「梅原君、私が卒業式で告白できるよう手配したと言ったわよね」
純一「う、うん」
絢辻「そこで対価の話をしたじゃない、それは数えて二つ。一つは橘くんを私の物にするって言う約束」
純一「なにを約束してるの? 僕は梅原の物なんかじゃないよ!?」
絢辻「二つ目が実は言いたかった事なんだけれどね」
純一「…うん、早く言って」
絢辻「それは───必ず告白を成功させること」
純一「え…?」
純一「…でも」
絢辻「そう、それは失敗した。告白は見事に玉砕、二つ目の約束は守られなかった」
純一「……もしかして、梅原また…?」
絢辻「ええ、もしかしたら。だけど」
純一「ど、どうするの!? ここまできたらっ…もう割り込むことなんてできないよ!?」
絢辻「………駄目」
純一「えっ?」
絢辻「駄目よ、思いつかない……」
純一「絢辻さん…」
絢辻「もうあの場所は、二人だけの空間っ…どう考えても、策なんて思いつけない…!」
純一「…今日のお客さんにあの先輩が来てるのかな」
薫「へ…? 梅原くんが告った先輩?」
純一「うん、どうやら梅原は──また告白をするつもりらしいんだ」
薫「でも、アンタそれ…」
純一「……それが梅原の選択なら、仕方ないよ」
薫「っ…で、でも! アンタだって言ってたじゃない! 梅原君の幸せは、絶対に伊藤さんだって…!」
純一「………」
薫「だからアタシだって色々と頑張ってきたのよ!?
明らかに不仲になっていたあの二人をここまで見守って…!」
純一「…ごめん、僕だってこうなるとは思わなかったんだ」
絢辻「……」
薫「……なによ、それっ…」
梨穂子「──諦めちゃ、駄目だよみんな」
梨穂子「信じるんだよ、あの二人を」
絢辻「桜井さん…」
薫「…信じるって、何を信じればいいのよ。梅原君は…きっと…」
梨穂子「違うよ、そうじゃないと思う」
梨穂子「梅原君は決して、嘘をつかない正直な男の子だもん」
梨穂子「──今の今まで、あの梅原君の頑張りをみんな見てきたハズだよっ!」
純一「……」
絢辻「……」
薫「……」
梨穂子「その頑張りは、努力は…絶対に自分の為じゃなかった…そうでしょう?」
純一「……ああ、確かにな」
絢辻「梅原君は…ずっと何かと…」
薫「……立ち向かいながら、練習してたわね…」
梨穂子「梅原君はちゃんと、前を向いて、後ろを振り向かずに!」
梨穂子「──ただまっすぐに、一人の女の子を見つめていたんだから…っ!」
純一「梨穂子…」
梨穂子「…梅原君は、だいぶ前から香苗ちゃんのこと。好きだったと思うよ」
薫「えっ……」
梨穂子「でも、それでも初めて好きになったのは先輩だからって…そう決めて、あんな告白をしたんだと思う」
絢辻「…自分に枷を嵌めるために、ってこと?」
梨穂子「うん、多分だけどね。ずっと二人を見てきて…そう思ったの」
梨穂子「──だって、二人の距離はいつだって一緒だったから」
梨穂子「──片方が寄り添ったら、いつかは触れ合うのに、いつまでも触れ合えないんだもん」
梨穂子「……だから、私は…」
梨穂子「……梅原君を信じるの、きっと、梅原君は覚悟を決めてるはずだから…っ!」
梨穂子「だけど、大切に出来るのは、後悔なく出来るのはきっと…! ひとつだけってわかってるはずだから!」
梨穂子「──だから、信じるんだよ! あの二人の絆を…!」
純一「……わかった、梨穂子を信じるよ」どすんっ
薫「じゅ、純一…?」
純一「そして梅原も信じる。僕はアイツの頑張りを、否定する馬鹿な親友にはなりたくないんだ」
薫「っ…なによ、かっこつけちゃって。しょうがないわねっ」とすん
薫「私だって、あんなに負のオーラを纏った梅原君が…何も考えずにやってないってことは、わかってるわよ!」
梨穂子「うんっ…!」
絢辻「──そうね、信用しましょう」すっ
絢辻「あの二人がどんな結末を望むのか、私たちは傍で見守っててあげましょう」
梨穂子「わたしもだよっ」どすん
梨穂子「──きちんと、答えを出した時…その時になって、私たちは助けてあげるべきなんだと思うから」
絢辻「…」
薫「…」
梨穂子「…」
梨穂子(信じるよ、二人とも……今の距離はちゃんと近づいてるはずだから)
梨穂子(ほら、だって、あんなにも近い距離で抱き合ってるんだもん…大丈夫、正直になれるはずだから)
梨穂子(───梅原君、そして香苗ちゃん。頑張ってね)
梅原『……私は、聞こえなくなった貴方にひとつのことを言っておくことがあります』
香苗『……』
梅原『っはぁ~……俺は、単純な奴だから。すぐに人を好きになって、その人の為ならって何処までも着いて行く癖がある』
香苗『っ…』
梅原『だけど、好きって想いは。誰にも負けるつもりなんてねぇ、
絶対に他の奴らに引けを取るつもりなんて、これっぽっちもねえんだ』
梅原『だけどよ、俺は……そうだ、梅原って男は!』
梅原『そんなちっぽけなプライドを持って生きるつもりなんてこれっぽっちもねえんだよっ!』
梅原『──んな小せえモンぶら下げて、なにを気取って生きてやがんだよッ…本当に馬鹿見てえじゃねえか!』
梅原『何処も格好よくねえんだ! 好きだって思って突き通せる俺、かっけーとか馬鹿だろう! なぁそう思うだろ!?』
梅原『自分の前で泣いてっ……私の事を好きだと言わないでとっ……小さい体に感情を押し隠して、歯ぁ食い縛ってっ!』
梅原『───そうやって他人の為に頑張れる奴の方が、よっぽどカッケーじゃねえか!』
梅原『俺はっ…俺は、結局は自分だけのことしか考えてない…人を好きになるって、凄いもんだって言ってるくせに…』
梅原『一人の女の子がっ…泣いて去っていく背中を、追いかけることすらできねえんだよっ……!』
香苗「っ……」
梅原『俺はよう、嫌われても良いって言ったよな』
香苗「……」
梅原『だけど、それは撤回だ』
梅原『…俺は答えを、そうやって伊藤さんに授けただけだ。許してくれるか、許してくれないかってな』
梅原『だけど、それは違うだろ。そういうのは違うんだぜ』
梅原『俺は───伊藤さんにとって、最高の男になってやる…!』
梅原『見てろ! これが梅原正吉って男の───』がばぁっ
香苗「んにゃっ!?」ぐいっ
梅原『───一世一代の、大告白だッ!』バッ!
梅原「この会場に居るであろうっ…先輩ぃいいい! 俺はアンタのこと、大好きだぁああああああああ!!!」
梅原「だけど、それよりもこの子をッ……俺はもっともっと大好きなんだぁああああああああ!!」
梅原「アンタへの好きな気持ちなんてのは、そんなもんだったっていうわけだよくそったれ!!」
梅原「後悔してもしらねえからなぁ! アンタが逃したこのデッカイ魚は!!」
梅原「──伊藤香苗って女に、身も心も全て!! やっちまうよていだからなぁああああ!!!」
梅原「はぁっ……はぁっ……」
香苗「……」きょとん
梅原「絶対に聞こえたよなっ…ここにいるのなら、あの人にもちゃんと聞こえたはずだぜっ…はぁっ…」
梅原「良し! 立ってくれ伊藤さん!」
香苗「あ、うん……」とん…
梅原「じゃあ、聞かせてくれ」
香苗「……え?」
梅原「答えを、どうか俺の告白に対して答えをここでくれ!」
梅原「ダメだぞ、もう逃げられねえからな」
香苗「に、逃げられないって…」
梅原「答えは必ず、今、聞かせてもらう」
香苗「い、今…?」
梅原「そうだぜ、もう遠くへ行かせたりはしない」
梅原「伊藤さん、アンタの悩みは…俺が乗り越えてやる」
梅原「わかってる心配ない、俺はいつだって……」
梅原「…アンタの隣に、立ってるからよ」
香苗「っ……となりに…?」
梅原「ああ、離れたりしない。絶対にいつまでも離しはしないぞ」
梅原「何処まで歩き続けて、伊藤さんが遠くへ歩きさってしまっても」
梅原「──ずっと、俺は伊藤さんを支え続けてみせるから!」
梅原「…ありがとうよ、いつまでも俺の隣に…立っててくれて」
梅原「ずっとずっと、感謝してたぜ。今度は俺の番だからさ、もういいんだよ伊藤さん」
梅原「───今度は俺のほうが寄り添っていく番だ」
香苗「あっ……わ、私っ…そんな事思ってっ…なんか…っ」
梅原「……おう、泣くなよ…」
香苗「ごめんなさっ…私は、梅原くんを困らせたくなくてっ…だから…!」
梅原「……」
梅原「…あーもう、うるせえなオイ」ぐいっ
香苗「ふにゅっ…」ぽすっ
梅原「───良いから俺の彼女になってくれ、伊藤さん」ぎゅう
「──ライトアップ! 全部のライトを二人に!」
「──花びらの用意! みんな一斉にふらせて!」
「──全力でぶちまけるわよ、いいわね!」
クラス一同『うぉおおおおお!!!』ドドドドド!
梅原「うぉっ?!」
香苗「ひぁっ!?」
純一「ふらせ! 花びらだ!」
絢辻「声をだすのよ! お祝いの言葉をできるだけ大きな声で!」
薫「小さいわよ! もっと腹から出しなさい!」
梨穂子「おめでとうぉおー! 二人共っ! おめでとぉおー!!」
ひらひらひら…
梅原「これは…」
「まーたこんな事してくれちゃって! 先生に怒られてもしらないからね!」ばっばっ
「きちんと大切にしろよ! 梅原ぁ! ちくしょう!」ばっばっ
梅原「お前らっ…」
「やるじゃん香苗! なになに熱いことこのうえないじゃないの!」
「一生大切にしてもらいな! 絶対にね! 絶対にだよ!」
「ちくしょー! 伊藤さん! 梅原の奴をの頼むぜ!!うぉおおお!!」
香苗「みんな…」
梨穂子「香苗ちゃーんっ! 本当によかったねぇ~うわぁ~んっ!」
香苗「さ、桜井…ちょっと泣きすぎだって…」
梨穂子「かなえちゃ~んっ…!」ぎゅうっ…
ひらひら…ひらひら…ひらひら…
香苗「うん、ありがと…アンタはいつもそんな子だよ…本当にさ…」
梨穂子「うんっ…うんっ…」
香苗「…ありがとう、本当に」ぎゅっ
ひらひら…
純一「んー……どうだ、今の幸せは」
梅原「…どうしようもねえぐらい、幸せだ」
純一「だよなー…どうだよ、この花ビラ。
みんなで急遽、紙をちぎって作ったんだぞ」
梅原「…おう、綺麗だ」
ひらひら…
純一「…じゃあちょっくら、聞いてこい。ちゃんとさ」
梅原「おうよ、大将!」すたっ
香苗「……梅原君」
梅原「…聞かせてくれ、伊藤さん」
香苗「……」
梅原「俺の気持ちは、いつまでも一緒だ」
香苗「…うん」
梅原「ずっと伊藤さんを、好きで居てもいいか?」
香苗「……───」
香苗「──うん! 私も梅原くんのこと好きだからっ…!」
ばっ
ぎゅっ…!
梅原「お、おおうっ…びっくりした」
香苗「好き、好きだよ梅原くん…絶対にもう、離したりしない」
香苗「私だって、これからもずっとずっと…そばから離れたりしないから…」
梅原「…おう、俺もだ!」ぐいっ
香苗「きゃっ…!」
梅原「───やったぜぇえええ! 彼女できたぁああああああ!!」
会場『うぉおおおおおおお!!』
梅原「もうクリスマスは一人で過ごさなくてもいいぜぇええええええ!!」
会場『うぉおおおおおおおおおお」!!』
梅原「うぉおおおおおおおおおおおおおおお!!」
香苗「や、やめっ! はずかしい、恥ずかしいから!」
絢辻「…えらくノリがいいわね、会場の人たち」
純一「それはね、だって梅原が主役だもん」
純一「──みんな何処かで、期待してたんだよ」
純一「あの梅原正吉は……なにかしでかすってさ!」
純一「うん? どうかした?」
絢辻「うん、一つだけね。貴方に私も言っておかなくちゃいけないような気がするのよ」
純一「えっと…それはなにかな?」
絢辻「それはね…」
絢辻「──橘純一は何を仕出かすのか、全くわからないってこと」
純一「……」
絢辻「どうかしら? くすっ」
純一「……さすがだね、ちょっと見破られたことに驚いてる」
絢辻「何を仕出かすのか、楽しみにしてるわ」
純一「うん、楽しみにしてて良いよ」
純一「───もうすぐ、来るはずだからさ」
ばぁーんっ!
梅原「あああ…あ?」
香苗「え、体育館のドアが急に空いて…」
薫「あれ、なにかしら…何処かで見たことのあるような…」
「──ハッローーーーー! ヒィーーーーハァーーーーーー!!」ヒヒィン!
「だ、誰だ!? 何かに乗ってるぞ!?」
「う、馬だァ!? 馬に乗ってるぞ!? なんでだ!?」
「───見て! あの暴れ馬を乗りこなしてる人っ……あれってもしかして!!」
森島「わお!」
在校生『森島先輩だぁあああああああ!!?』
純一「──流石だな、梅原。まず先に僕を疑うなんて」
梅原「ど、どうしてあの人をっ…〝このタイミングで呼んだんだ大将!?〟」
純一「さて?」
梅原「とぼけるなっ! あの人はっ…楽しそうな場所であれば何処にだって現れて!」
梅原「そして最大限に楽しんで、周りを盛り上げ、そして最後に残っちまうのは!」
梅原「──なぜか森島先輩一人という、恐ろしい伝説を知らねえとは言わせねえぞ!」
純一「ふっふっふ」
梅原「っ……」
純一「これは…僕からの最後の試練だ、梅原!」
純一「──そのつかみ取った幸せで、森島先輩に勝ち残って見せろ梅原正吉!!!」
梅原「はぁっ!? 何を言って──」
「きゃああああっ!」
香苗「う、梅原くんっ…!」
森島「──ふふっ、この子がターゲットの女の子ね。ボーイッシュで実に好みよ! ハイヨー!」ぱしんっ
ヒヒィイインン!
「う、うわぁっ!? こ、こっちくる!?」
「うわぁああああああ! 暴れ馬だぁあああああああ!!!」
美也「うっわー! 椅子がなぎ倒されていく…」
紗江「み、美也ちゃんっ…! 早く逃げないと…!」
七咲「そこの水泳部のキミ、はやく塚原先輩探してきて。近くに居るはずだから」
田中「ひぁあああー!」
高橋「ちょ、ちょっとぉ!? 森島さんっ!?」
純一「……………」
絢辻「今さら後悔してるでしょう、橘くん」
梅原「今の状況が既に魔に落ちてしまってるよな!? 阿鼻叫喚だよな!?」
薫「ふぁ~、さーて。恵子ー! 文化祭回りましょ~」
田中「あ、薫~!」
絢辻「そういえば、お昼ご飯まだだったわね。食べましょうか桜井さん」
梨穂子「えっ? う、うん~?」
紗江「きゃあああっ!?」
美也「にっしっし! こっちが面白そうだからねー!」
七咲「…へえ、美也ちゃん。森島先輩側に付くんだね」
森島「ハイヨー! たっちばなくーん! これからどうするのー?」
塚原「──どうもしないわ、はるか」すっ
森島「に、逃げてぇえええ! タネウマくぅうううんっ!」
「ちょ、これ危ないっ…危なくてあぶっ!?」
純一「…」
梅原「…」
純一「…と、とにかくだな!」
梅原「お、おう!」
純一「幸せ、なんだよな? 梅原?」
梅原「当たり前、だぜ? 大将?」
純一「……」
梅原「……とにかく、この状況をどうにかする案を考えやがれ! 橘ぁ!」
純一「いや、どうにかするって…あはは」
梅原「お前がやっちまったんだろ!?」
梅原「マジか!? なんだそれ、早く出しやがれ!」
純一「よ、よしっ……ピュ~イ!」
梅原「指笛…? なんだ、なにか呼びだすつもりなのかよお前───」
かっぱら かっぱら
馬「ひひーん」
純一「馬だ」
梅原「どう見てもハリボテだよな!? 誰か入ってるよな!?」
マサ&ケン『はいってないぞー』
梅原「マサケンーーーー!!」
純一「いいから梅原、突っ込んでる暇じゃない。助けに行くんだ!」
梅原「な、なんだよっ…! これに乗れって言うのかよっ」
純一「と、とりあえず森島先輩から香苗さんを奪え返せば大丈夫! ほら、行って来い!」
マサ『あっ…くそ、重てぇなちくしょう…』
ケン『しかたねえよ、後で伊藤さんの臀部の感触を楽しもうぜ!』
梅原「良いから走れ! お前ら!」ぱしっ
馬「ひ、ひひーん」
森島「はぁ…はぁ…なんとかひびきちゃんを巻けたわ…むっ?」
梅原「森島先輩っ!」
森島「来たわねっ! 掛かってきなさい!」
香苗「梅原君っ…!」
梅原「っ……俺は絶対に離れねえと決めたんだ…!!」
森島「ふふふっ」
森島「──かかってきなさい! ジュリエット!」
梅原「負けるかよっ…うぉおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
~~~~~~
香苗「…こりゃまた、すごい事になったよね~」
香苗(これが体育館の中…だとは思えないわ、ちょっとばかり)
香苗「……」
絢辻「次はそこよ! 素早く動きなさい!」
純一「はい! はい!」
絢辻「次はそこ!」
純一「はぃいいい!!」
薫「あ、これってまだ使えそうじゃない?」
梨穂子「え~でも、食べれないよ?」
薫「いや、これ、食べ物じゃないのよ桜井さん…?」
梨穂子「えっ!? じょ、冗談だよ~っ! あはは~っ」
マサ「ぐぁー! なんで俺等までー!」
ケン「自業自得だよな…」
塚原「……」ゴゴゴゴ
森島「ちょっとしたお遊びのつもりだったのよ~…」
塚原「怪我人が出るかもしれない事が、ちょっとした遊び?」
森島「ひっ」
七咲「美也ちゃん、大丈夫?」
美也「いや~! やっぱり逢ちゃんは強いよね~! だけどアレは引きわけだよ?」
紗江「はわわっ…二人とも、大丈夫だよねっ?」
七咲&美也「次は勝つよ!」
紗江「ふぁ~!」パチパチパチ
田中「大丈夫ですか~先生~?」
高橋「も、もうっ…なんてこと…」
香苗「……」すたすた…
香苗「……」
「──ん、どうしたんだ伊藤さん?」
梅原「こっちは俺の担当だったはずだろ?」
香苗「…うん、確かにそうだったわ」
梅原「…。一緒に掃除するか?」
香苗「いい? やっても?」
梅原「もちろんだ」
さっさっさ…
香苗「…なんだか、一瞬の事だった気がする」
梅原「え?」
香苗「ここ数週間のこと、長かったようで。あっという間な気がするんだよね」
梅原「…なんだか俺もそんな気がしてきた」
香苗「………」
ざぁああああ~……
香苗「……正吉」
梅原「ん?」
香苗「──正吉くんって、呼んでも良い…かな」
梅原「お、おおっ……別に構わねえけど…そしたら、その」ポリポリ
香苗「香苗でいいよ」
梅原「…いいんだな? 呼んじゃうぞ俺?」
香苗「もちろん、下の名前で呼ぶのは嫌なの?」
梅原「馬鹿言え! そんなわけないぜ!」
香苗「んっふふ、じゃあ香苗。さんはいっ!」
香苗「……」すっ
香苗「んっ」
梅原「かな、むぐっ!?」ちゅっ
香苗「……ぷはっ…」
梅原「………は?」
香苗「あはは、呼べなかったね。下の名前でさ~」くるっ
梅原「ちょっ、えっと、今の…っ?」
香苗「──これで二回目、我慢できなかったのは」
香苗「だけど、もう我慢する…必要無いんだよね?」
梅原「……」
梅原「……ああ、いつだってしてこいよ! その為に、何時だって傍にいてやるから!」
読んでくれる人いたのか疑問だけど終わりだよ
香苗ちゃんのss増えてください。
次もまためんどくせえ話で会えたら
ご支援ご保守ありがとう
ノシ
お疲れ様でした
Entry ⇒ 2012.10.23 | Category ⇒ アマガミSS | Comments (0) | Trackbacks (0)
梨穂子「……ごめんなさい、橘くん」
純一「え?」
梨穂子「………」
純一「ちょ、ちょっと待てよ梨穂子……橘くん…?」
梨穂子「………」
純一「な、なんだよ…前みたいに純一って呼べばいいだろ…?」
梨穂子「その…」
純一「あっ、うん!? なに梨穂子っ? あ、もしかして冗談だった?
おいおい、それちょっと冗談としてなら笑えないから───」
梨穂子「………」くる…
梨穂子「……ごめんなさい、私ちょっと急いでるので」
すたすた
純一「…え?」
純一「…なんだよそれ」
たっ
純一「──梨穂子!? おいって、どういう意味だよそれ!?」ぐいっ
梨穂子「きゃっ…!」
純一「な、なんでそんな他人行儀なんだよ…!? 僕だよ僕!? 橘純一で…!」
梨穂子「っ…は、離してくださいっ…!」
純一「ッ…!? くださいって……梨穂子!? どうして───」
梨穂子「……っ…」
純一「──そりゃっ…久しぶりに会って、最近は全然喋っても無かったけど…!
いくらなんでも、そんな態度はないんじゃないか…!?」
梨穂子「……っ」
純一「おいって! なんとか言えってば! 梨穂子!?」
梨穂子「───離してくださいっ!!」ばっ
純一「あっ……」
純一「うっ…えっと……梨穂子…?」
梨穂子「はぁっ……うんくっ…」きっ
純一「っ…」
梨穂子「もうっ……これから…っ」
純一「…え?」
梨穂子「もうこれからっ……私に近づかないでないで…っ!」
純一「なっ……!?」
梨穂子「私はっ……私はっ……」
純一「ど、どうして……そんなこと言うんだよ…? 梨穂子…?」すっ…
梨穂子「こないでっ! もっと叫びますよっ…!!」
純一「っ…」びくっ
梨穂子「はぁっ……はぁっ…私はっ……私はっ…!」
梨穂子「───貴方のことなんて全然知りませんっ!」だっ
純一「っ……ちょ、待ってよ!? 梨穂子ってば!?」すたっ…
「…何、アイツ?」
「さっきのって、リホだよね?」
「きも、もしかしてファンとか? かわいそー」
純一「……っ……」すたすた…
純一「………」
純一「………どういうことだよ、知らないって…」
純一「梨穂子…?」
~~~~~~
教室
梅原「お前が悪い」
純一「……どうしてだよ」
梅原「………」
純一「なのに……貴方のことなんて、知りません。だってさ…なんだよ一体…」
梅原「……幾つか言わせてもらっていもいいか、橘」ずいっ
純一「な、なんだよ。急に顔を近づけて…」
梅原「いいから、言わせて貰ってもいいかって」
純一「お、おう…」
梅原「あのよ、お前さんは確かーに……桜井さんの幼馴染かもしれねえ」
純一「…かもじゃなくて、その通りだよ」
梅原「黙って最後まで聞け」
純一「………」
梅原「ことさらに言えば、長年付き合いのある伝統長し立派な幼馴染だ。そうだろう?」
純一「…そうだよ? だから言ってるだろ、あんな梨穂子初めてだって」
純一「どういう意味だよ」
梅原「じゃあ聞くが、お前さんはだな……」
梅原「……〝アイドルになった桜井梨穂子〟という人間を、知ってるのかって話だよ」
純一「…知るわけ無いだろ、そんなこと」
梅原「んだろーが、でもってさっきお前さんが言った言葉はなんだ?」
純一「あんな梨穂子初めてだってコト?」
梅原「おう、それだ。今回のことはおめーさんの仲とはいえ、はたまた幼馴染っつーところであっても」
梅原「───んなもん関係の無い、全くもって無関係な問題ってことだぜ」
純一「…すまん梅原、もうちょっとわかりやすく言ってくれ」
梅原「……。ワザと遠まわしに言ったんだが、ハッキリ言わせるのか俺に」
純一「ああ…良いんだ、言ってくれ」
梅原「…そうか、じゃあ言うけどよ」
梅原「何時まで幼馴染の仲でいるつもりだ、大将。あっちはもう世間的なアイドルだぜ?」
梅原「いーや、言い訳は聞きたくねえぞ俺は。だからさっきの出来事があったんじゃねえのかよ」
純一「………」
梅原「いくらなんでもお前さんは、あのアイドル桜井リホに対して──」
梅原「───馴れ馴れしくし過ぎなんだよ」
純一「僕は、そんな風にしたつもりは…」
梅原「そうだろうな、確かに橘はんなつもりはなかったかもな」
梅原「…だけどよ、ちょっとは考えろ。あっちはアイドル、こっちはただの幼馴染」
梅原「でっけー壁がありまくりだって思わねえか?」
純一「……だけど、知ってるだろ梅原も」
梅原「ん?」
純一「あの桜井梨穂子だぞ? おっちょこちょいで、食べることが大好きで、誰からでも好かれて」
純一「…それでふわふわとしてて、すぐに歌を歌って、まあるくて、それで……誰よりも優しい奴だって」
純一「だろ? なんのに、おかしいよあんな態度は……仮にホントにアイドルだからって、
高飛車になるようなそんなタマの人間じゃないってことは…」
純一「……誰にだってわかることだよ」
梅原「…んでもよ、それもあれだろ、俺らの勝手なイメージだろ?」
純一「………」
梅原「例え桜井さんがそうだって思ってもよ、あんな遠くまで行っちまったら。
ただの学生の俺らが全てを分かってやれることなんて、出来るわけがねえ」
梅原「……こう考えろよ、大将」
梅原「──桜井梨穂子は、もう変わってしまったんだってさ」
純一「変わってしまった……」
梅原「ああ、そうだぜ。もう俺らの知ってる桜井さんはここには居ないんだ」
梅原「もう、桜井リホというアイドルしかいねーんだって」
梅原「…そうだろ、こんなことよ、桜井さんがアイドルになった時から分かってたことじゃねえか」
梅原「橘自身が言ってたろ? ……アイツは遠い所に行ってしまった。ってさ」
梅原「お前さんは何気なく話しかけたつもりだったかもしれねえけど」
梅原「…そんなことも、もう許されるような関係性じゃなくなっちまったということだ」
純一「……梅原、お前さ」
梅原「なんだよ」
純一「……容赦ないよな」
梅原「ったりめーだよ、はっきり言えって言ったのはお前だろ」
純一「……うん、わかってるよ」
梅原「はぁ……俺だってこんなこと言いたくねえ、本当の所はよ」
梅原「だけど、俺はもっと…そんな大将の顔が見たくねえんだ」
純一「え…?」
純一「………」
梅原「まーそういうこった、だからよ。これから先───」
梅原「───なんでか知らねえけど、アイドル活動休業してまで……」
梅原「…この輝日東に帰ってきてる、この三週間まで」
梅原「出来るだけ桜井リホにあわねーように、気を付けるこった」
純一「………」
梅原「……わかったか、わかってるのか大将」
純一「…わかってるよ」
梅原「いいか、絶対に問題を起こすなよ? お前さん、絶対にだぞ?」
純一「わ、わかってるって! ……なんだよ、僕が問題を起こすとでも言うのかよ…」
梅原「ああ、思ってる!」
純一「起こさないよ!」
梅原「──へたすりゃ捕まるぜ、本当に」
純一「わ、わかってるって! んだよ、僕を信用しろよ…!」
梅原「あいよ、元気も出てきたみてーだし。ほら、そろそろ授業も始まる……ぞ!」ぱしんっ
純一「あいたっ」
すたすた…
純一「…ったく、手加減をしろよ…」
純一「………」
純一(もうアイドルだから──……か)
純一「………そうだよ、な」
純一「確かに、そうだよなぁ……」
純一「………」
~~~~~~~~~~
放課後
純一「梅原ぁ、僕はちょっと職員室に用があるからー」
純一「わからん、だけど先に帰っていいからさー」
梅原「あいよーこってり麻耶ちゃんに絞られてこーい」
純一「まだ怒られるとは決まったわけじゃないからな!?」
職員室・ドア前
純一(───だけど、どんなことで呼び出されたのか全く分かって無い…)
純一(もしかして本当に怒られる為に呼ばれたのかな? でも、課題だって昨日ちゃんと怒られてたし…)
純一(居眠りしてた時も、呼び出されることも無く…テストの点でも呼び出しはまだ猶予がある…)
純一(んっ!? もしかして、ただ単純にイラついてるから僕を呼びだしたとかありえるかも…!?)
純一(橘くん、先生ちょっとストレス気味だから。二時間だけ椅子になってもらえないかしら?)
純一(…とかなんとか言われる可能性も……うむ、アリだなっ!)
がらり
純一「ひっ…!? ち、違います! 高橋先生僕はただ先生の臀部の感触を───……あれ?」
純一「……りほ、こ…」
梨穂子「………」
純一「………あ」
梨穂子「………」
すっ…
純一「っ……」
梨穂子「……」すたすた…
すたすた…
純一「……なんだよ、無視しなくたって…」
ヴィイイヴィイイイ…
純一(あれ? なんだろこの音……)
純一「……?」
ヴィイイヴィイイイ…
純一(この音、梨穂子から聞こえてるのか…?)
梨穂子「……」
梨穂子「……」ごそごそ…
ぴっ
純一「…なんだ、ポケベルか」
梨穂子「………」
純一(……なにやら真剣に見てるな、アイドル関係の内容かな)
純一(もう少し、もう数歩近づけば内容が見れる距離に行けるけど……)
純一(…って、何をやってるんだ僕は! そんな人のプライバシーを侵害するようなっ…)
純一「侵害するようなっ……」すた…すた…ちら…
「───橘くん?」
純一「ひぃいいいいいい!?」
純一「あ、へっ? す、すみませんっ! すみません! ごめんなさい! 本当にすみませんでした!」ぺこぺこ
高橋「そ、そんなに謝られても先生も…困るんだけど…」
純一「ハッ!? そ、そうですよねー! あは、あははは!」
高橋「……? まあいいわ。それよりも、先生の呼び出しのこと。ちゃんと憶えてるの?」
純一「は、はい! 椅子になら何時間でもなりきってみせます!」
高橋「椅子…? よくわからないことを言ってないで、早く職員室に入りなさい」
純一「そ、そうですね……失礼します…」ちらっ
純一(梨穂子は……もう居ないか)
高橋「橘くん!」
純一「はい! 失礼します!」
~~~~
高橋「橘くん、君を呼びだしたのは少し相談があってのことなのよ」
純一「…相談、ですか?」
高橋「そう……先生も出来るだけこのことは内密にしておきたいのだけれど」
純一「は、はあ…」
高橋「──桜井梨穂子さんが、今学校に戻ってきてることは知ってるわよね?」
純一「っ…は、はい」
高橋「アイドル活動とかで……先生はそういうの疎いから分からないけれど、
学校側も公認で、長い間学校をお休みしてたんだけど」
純一「…そ、そうですね」
高橋「テレビでも新聞でも言われてる通り、彼女は今、三週間の休みを取っている」
高橋「それで学校に戻ってきてるわけだけど……ちょっと、実は問題があって」
純一「問題…?」
高橋「ええ、それが今回貴方を呼びだした理由です」
高橋「……このことは、誰にも公言しちゃだめよ。いい?」
高橋「先生は、例え課題やテストの点数が悪くても。
そういった約束事は守る橘君だって信用しているから、こんなことを言うのよ?」
純一「だ、大丈夫です! 決して先生の信頼を裏切ることはしません!」びしっ
高橋「………よろしい、じゃあ少し小声で話すわね」こそ…
純一「は、はい…」こそ…
高橋「今回、桜井梨穂子さんがお仕事を休業しているわけ……それは、一般的に
学生としての身分を全うするため。かつ、義務的なものとして公式では発表されてるの」
純一「し、知ってます…! テレビでも報道されてましたし…!」
高橋「ええ、だけどね。本当の所はちょっと違うの」
純一「な、なんですって!?」
高橋「こ、こら! 大きな声を出さないの!!」
純一「す、すみませんっ…! 思わず…!」
高橋「本当に静かにしてなさい…! これがもし世間にも広がりでもしたら、とんでもないことになるのよ…!?」
高橋「っはぁ~……じゃあ続けるわよ? だけど、どうしてここまで秘密裏にしなければならないのか、
と君も不思議に思ってくるんじゃないかしら?」
純一「…ええ、さっきからそう思ってます」
高橋「そうでしょう。これは本当に世間に出回ってはダメなこと。
先生だって彼女から直接、相談があるまで全然知らなかったことよ」
純一「…梨穂子から直接、ですか?」
高橋「そう。だから、このことは誰に行っちゃダメ、私だって君も含めて少数にしかこの事を言ってないのよ」
純一「……言っちゃってるじゃないですか」
高橋「ち、違うわよ?! 先生はっ…彼女の親しい人たちに伝えたんです!
誰かれ構わず言ってるわけじゃありませんからね!?」
純一「じょ、冗談ですよ…! すみません…!」
高橋「くっ…で、ですからっ! このことは秘密裏にしておくこと! そして、それがどのようなことかというと────」
~~~~
茶道部
純一「…お邪魔します」
「───黒幕登場」
純一「ええ、お久しぶりです。それと黒幕とか言わないでください」
夕月「ははっ、そう言うなって橘ぁ。なんてったって、これがあたし達だろ?」
愛歌「通常通り」
純一「…確かにその通りですけど」
夕月「そんでもって、今日は見学かい? やっと茶道部に入ろうって気になったワケかー!」
愛歌「風前の灯」
夕月「おいおい、そりゃまだ早いぜ愛歌。まだまだイケるって」
愛歌「……夢の跡」
夕月「厳しい言葉だよ」
純一「あのー……上がっても?」
夕月「おう、あがんなあがんな。愛歌が茶を丁度、入れてる所なんだ」
愛歌「愛がこめられてる………飲んで溺死せよ」
純一「……」ぴしゃっ
愛歌「つっこみ万来」
純一「……」すたすた
夕月「そりゃ無理って話だよ! 人いねーじゃねーか! あたしらだけだぜ? あっはははっはは!」
純一「……」すとん…
愛歌「残念無念」
純一「お茶をください」
夕月「くっく、あんたもあたしらの扱いに慣れ過ぎだよ」
愛歌「常時運転」
純一「…どれだけここに、来てると思ってるんですか」
夕月「そうだね、確かにそうだ。ま、ここの所とんと来てなかったけどな」
純一「……」
夕月「まあ、ゆっくりしていきな。………こっちも話したいこと、沢山あるからよ」
夕月「───何も隠すことはねえだろ、アレはただの〝病気〟だ」
夕月「ずずっ……ふぅー…誰にだってある問題であって、一般人も掛かっちまう普通の病気だよ」
純一「…そうで、しょうか」
夕月「ん?」
純一「確かに……それは言ってしまえば〝病気〟なんでしょうけど…」
純一「本当に……ありえるんでしょうか…」
夕月「信用しないのかい? あいつが言ったことを」
純一「………」
夕月「あのりほっちが言った言葉を、例えそれが、先生からっつーさ。
つまんねえ言付けみたいな感じで伝わってきたものだったとしても」
夕月「お前さんは、信用しねえのかい?」
純一「……ですけど、やっぱり…」
純一「───記憶を、失ってるなんて…」
純一「常識的に、本当にそうだったとしても信用とか、そういったことじゃもう…」
夕月「……詳しいことはわからねえけどさ、ずずっ」
こと…
夕月「アイツってば、思うに。無理をし過ぎてたんだと思うんだよ」
純一「無理を…?」
夕月「ああ、そうさ。あの子はアイドルって肩書がとんでもなく重たすぎたんだって、あたしゃーそう思う」
純一「………」
夕月「言いかえれば頑張りすぎたんだよ。運が運を呼んで、とんでもない場所まで上り詰めちまったけど、
はたしてそれがあの子の器量でやりきることが出来るもんだったかと言えば、そうじゃねーんだろうさ」
夕月「今回のことを、考えれば」
純一「………」
夕月「橘も知ってるだろうけど、あの病気は…精神的なものからくる記憶障害……だったか?」
愛歌「ずずっ…通称、心因性記憶障害」
夕月「しん、いん…?」
愛歌「心因性記憶障害───……心因性記憶障害健忘」
愛歌「区分すると4つ、一定期間のことすべてを思い出せない限局性。
一定期間内のいくつかの事しか思い出せない選択性。
人生すべてを思い出せない全般性。
ある特定の時期から現在の事を思い出せない持続性健忘。
発症年齢は、青年や若い女性に多く見られ、高齢者には稀にアリ。
心理的・社会的ストレスによって引き起こされると言われる」
夕月「…愛歌はなんでも知ってんな、本当に」
愛歌「調べた」
純一「そ、それで…梨穂子は?」
愛歌「予想すると……選択性の心因性記憶障害」
夕月「とある期間内のことをおもいだせないって奴か?」
純一「っ……でも、僕のことは全く覚えてなかったですよ…!?」
愛歌「怒るな……だから、予想だと言っている」
純一「ぐっ……すみません…っ」
夕月「まあまあ、橘だって困ってんだ。そんなに冷たくすんな愛歌」
愛歌「心因性記憶障害───……心因性記憶障害健忘」
愛歌「区分すると4つ、一定期間のことすべてを思い出せない限局性。
一定期間内のいくつかの事しか思い出せない選択性。
人生すべてを思い出せない全般性。
ある特定の時期から現在の事を思い出せない持続性健忘。
発症年齢は、青年や若い女性に多く見られ、高齢者には稀にアリ。
心理的・社会的ストレスによって引き起こされると言われる」
夕月「…愛歌はなんでも知ってんな、本当に」
愛歌「調べた」
純一「そ、それで…梨穂子は?」
愛歌「予想すると……選択性の心因性記憶障害」
夕月「とある期間内のことしか、しかも少しだけしか思いだせないって奴か?」
純一「っ……でも、僕のことは全く覚えてなかったですよ…!?」
愛歌「怒るな……だから、予想だと言っている」
純一「ぐっ……すみません…っ」
夕月「まあまあ、橘だって困ってんだ。そんなに冷たくすんな愛歌」
純一「いえ、僕の方こそ急に熱くなってしまって……」
純一「で、でも! それは決して良くならない病気ではないんですよね!?」
愛歌「…回復は可能、再発も滅多に皆無」
純一「っ……よかった…!」
夕月「じゃあどうやって治すんだ?」
愛歌「調べてない」
夕月「…調べろよ」
愛歌「知らぬ顔の半兵衛」
夕月「…あ? だったら───ああ、そういうことか」
夕月「まあ、いいよ。確かに治る病気ってんなら安心だな、橘」
純一「………」
夕月「ん? 橘? どうしたさっきから俯いて───」
純一「───だったら、治しましょうよ、病気…!」
純一「治るんですよね…? ちゃんと治るんだったら、どうにかして…!」
純一「僕たちで治しましょうよ! 梨穂子の病気を!」
愛歌「…」
夕月「い、いやっ……治すってお前さん…やりかたわかるのかい?」
純一「いいえ、全くわかりません!」
夕月「おいおい! それじゃあ話になんねーじゃねえか!」
純一「だけど! ただ見てろって言うんですか!? あの梨穂子を!?」
夕月「……そりゃあ、あたしだって見たくはないけど」
純一「でしょう!? だから僕が、そして茶道部のみなさんで梨穂子を治してやるんです!」
純一「──梨穂子の記憶を、僕たちで治してやりましょうよ!」
夕月「…簡単に言うねえ、おいおい」
愛歌「妄想主義者」
純一「これなら梨穂子とも話せる機会が増える、そしたらきちんとアイツと会話が出来ることも…!」
ぐっ…
純一「先輩! どうですか!? 僕と一緒にやってくれませんか!?」
夕月「やってくれませんかって、こういったことは大人しく見守っておくのが…」
純一「ダメですよ! それじゃあ! だって三週間しかないんですよ!?」
純一「そんな悠長なことを言ってたら、アイツはまたあの世界に…
しかも治らなければ、記憶が不安定のままに、またずーっと頑張り続けてしまう!」
純一「そしたらもうっ……アイツはっ…梨穂子は! どうなっちゃうか分からないでしょう!?」
夕月「……」
純一「どうにかするしかないんです! このことを知ってるのは…先輩と僕、この三人だけのはずです!」
純一「……お願いします、どうか、梨穂子の為だと思って……」
純一「──僕に協力をしてください、お願いします!」ぐっ
純一「……」ぐぐッ…
夕月「はぁ……あのなぁ、橘───」
愛歌「───その心意気、乗った」
純一「ほ、本当ですかっ!?」
夕月「愛歌…?」
愛歌「乗ってやろう……橘純一」
愛歌「りほっちの治療……茶道部全部員で」
純一「やってくれるんですね!? 夕月先輩!?」
夕月「えっ? あ、お、おう……?」
純一「ありがとうございます! ありがとうございます!」
夕月「い、いや! 違う! そうじゃなくて───」
愛歌「──詳しい内容は後日」
純一「わかりました! 明日ですね!? そ、それなら僕も色々と徹夜で考えてきます…!」
純一「頑張ります! じゃ、じゃあこれで! いそいで帰って作戦を練らないと…!」だっ
純一「──お茶ありがとうございました! 失礼しました!」
がらりっ…ぴしゃっ
夕月「………」
愛歌「ずずっ…」
夕月「…おい、説明してくれるんだろうな」
愛歌「………」こと…
夕月「分かってんだろ? つぅうか、愛歌が分かって無いはずがないもんな」
愛歌「………」
夕月「──アイツ……橘だけど。ちょっとオカシイぞ、あれ」
愛歌「そうかもしれない」
夕月「そうかもじゃないだろ、必死すぎるっていうかよ、なんか周りが見えてないように感じる」
夕月「急に治すとか言いだして、此処に来たときだって、変に思いつめた顔してやがって」
夕月「…今の橘は、ハッキリ言って〝危険〟だと思わねえのかい?」
愛歌「…」
夕月「冗談じゃねえよ、本気で言ってるんだ。あの馬鹿がとんでもねえ事しでかす前に……教えろ愛歌」
夕月「一体ぜんたい、何がしたいんだお前」
愛歌「…長いものには巻かれろ」
夕月「は?」
愛歌「そう言う本心……るっこもわかってるはず」
夕月「……。めんどくせーこと考えるのは苦手なんだよ、あたしゃ」
夕月「ま、とにかく約束しちまったことは守んねーとな」
夕月「はぁ~……どうなるんだろうねぇ、この三週間は」
愛歌「波乱の予感」
純一「はぁっ…はぁっ…! やってやる! やってやるぞ僕は!」たったった!
純一「家に帰って、色んな事を考えて…! 梨穂子の為に、色んな事を頑張ってやるんだ…!」
純一「僕は…! 大丈夫だ、絶対に梨穂子を治すことが出来るはず…!」
たったったった!
純一「───やってやるぞ! 梨穂子! 待ってろよ!」
次の日
純一「………」
純一(色々と夜なべして考えてきたけど、その内容を茶道部の先輩たちに言う前に…)
純一「…梨穂子に対しても、ちょっと了解を得ないといけないよな」
純一(僕と梨穂子は他のクラス。会えない可能性も格段と上がってしまう……それならどうすればいいか)
わいわい がやがや
純一(登校中の梨穂子を、話しかければいい)
純一(登校ルートはほぼ一緒だから、こうやって道を歩いていればじきに出会うはずだ……)
純一(もうちょっと待てばあいつは来るはず──来た…!)
純一(…梨穂子だ、前方から坂を上ってきてる。俯いて歩いてるようだから、
まだこちらには気付いてない……よし、近づくまで待ってよう)
純一「…」
梨穂子「……」すたすた…
純一「…」
梨穂子「……」すたすたすた…
純一(今だ!)
純一「りほ──」
伊藤「──やっほ、桜井ー」
梨穂子「っ……」
伊藤「おっはよーさん!」
梨穂子「……───」
梨穂子「──おはよう、香苗ちゃん~」
純一「え……?」
梨穂子「えへへ、今日も元気だね香苗ちゃんは」
伊藤「あったりまえ、あたしだは元気が取り柄だからさ」
梨穂子「くすくす」
伊藤「そういう桜井だって、アイドルだからって全然元気じゃん」
梨穂子「え~? だから言ってるでしょ香苗ちゃん、アイドルアイドルって言わないでよって~」
伊藤「言わないでって言われても、あんだけゆうめいになっちゃったらイヤでも思っちゃうでしょうが」
梨穂子「…そうなの? うーん、でもなぁ」
伊藤「あんまそう思ってほしくないなら、あたしも言わないでおくけど?」
梨穂子「……」
梨穂子「…ううん、全然いいよ。だってアイドルってことは本当のことだし…」
梨穂子「──それに、私がなによりも大好きな事だから」
純一「っ……」
梨穂子「ちょ、ちょっと…! そんなこと大きな声で言わないで…ね?」
伊藤「あはは、んな恥ずかしがらなくてもいいじゃん───って、あれ?」
伊藤「橘くん?」
純一「…あっ……」
伊藤「橘くんじゃん、おはようー」
純一「お、おはよう……」
伊藤「ん? えらく元気ないけど、どかした?」
純一「あ、うん……えっと、その…」
梨穂子「………」
純一「………」
伊藤「…はは~ん、なるほどねぇ。あたしはお邪魔虫って訳ですかぁ」
梨穂子「も、もうっ! 香苗ちゃんっ……?」
純一「───香苗さん、ちょっと僕と梨穂子の二人だけにしてもらってもいいかな」
伊藤「…え?」
純一「いいかな、させてもらっても」
伊藤「あ、う、うん……いいけど…どしたの急に?」
純一「…ごめん、詳しくは言えない」
伊藤「………」
純一「………」
伊藤「…わかった、よくわかってないけど」
純一「っ……ありがとう、今度なにかお礼するよ」
伊藤「いいっていいって、それよりも……」すたすた…
伊藤「……あんまり桜井を困らせたことさせたら、怒るよ」ぼそっ
純一「………」
伊藤「んじゃ、桜井ぃ。教室でねー」
伊藤「うぃー」すたすた
梨穂子「………」ふりふり…
梨穂子「………」ふり…
すっ…
梨穂子「………」
純一「っ……梨穂子…」
梨穂子「…私に近づかないで」
純一「そ、それは……昨日聞いた」
梨穂子「…じゃあ今日も近づかないで。明日も明後日も、この三週間ずっと」
梨穂子「───私の視界に一切、映らないようにしてください」
純一「ぐッ…どうして、そんなこと言うんだよっ」
梨穂子「………」
純一「僕はっ……知ってるんだぞ、お前の…その〝病気〟のこと…!」
梨穂子「っ…」
梨穂子「………」
純一「憶えていたことが全く憶えて…なくて。
だから今はアイドルを休業してまで…学校に来てる」
梨穂子「………」
純一「憶えてる部分がどんな所かは知らないけ…だけど、僕に対する対応でなんとなく理解できるよ」
純一「…梨穂子、僕のことを忘れてるんじゃないかって」
梨穂子「………」
純一「だからあんな風に、僕に冷たい対応をしたんだろ?
今だってそうだよ、こんなの、全然梨穂子らしくない」
純一「…お願いだ、梨穂子。正直に話してくれよ」
梨穂子「………」
純一「辛いのかもしれないけど、言いたくないのかもしれないけど……忘れてしまってるんだろうけど」
純一「僕とお前は、幼馴染なんだ。正直に言ってくれ…」
梨穂子「………橘くん」
純一「っ…な、なんだ?」
梨穂子「……っはぁ~、あのねちょっといいかな」
梨穂子「──リホは別に、病気でもなんでもないよ?」
純一「えっ…?」
梨穂子「もう一回言ってあげようか? 橘くん、これは病気じゃないんだよ」
梨穂子「一般的に公表されてる通り、ただの休暇期間……ただのオヤスミってだけで」
梨穂子「周りが噂してるような、病気だとか記憶喪失とかじゃなくて───」
梨穂子「──このリホがまねーじゃーさんに我儘を言って休ませてもらってるだけ」
純一「……う、嘘だよ…だって! 高橋先生が…!」
梨穂子「高橋先生? …ふーん、そっか~」
梨穂子「信用しちゃったんだ~? くすくす、橘君って……本当にお豆腐みたいな脳みそなんだね~」
梨穂子「アレは単に、同情をさせて不登校気味だったものを緩和させる為に言っただけなんだー」
梨穂子「…他の子もやってることだって、まねーじゃーさんに教えてもらったんだよ」
純一「そ、そんなことっ…だって、茶道部の先輩たちも…! それに、僕に対しても…!
だったらどうして僕のこと橘って呼ぶんだよ!? 記憶が無いとしか理由がないだろ…!?」
梨穂子「あはは、違うよー…もう!」
梨穂子「じゃあ呼んでほしいなら呼んであげるよ、ねえねえ───」
梨穂子「───純一ぃ、おはよう~」
純一「っ……や、やめろ…!」
梨穂子「えー? どうして? だって純一が呼んでって言ったんでしょお?」
梨穂子「だからわざわざ呼んであげたのにぃ…ひどいよ、そういうのって」
純一「ち、違う…! そんなの、梨穂子じゃ…!」
梨穂子「…何が違うっていうの? あはは、だってみてたでしょ?」
梨穂子「香苗ちゃんだってリホのこと、まったく心配してる風じゃ無かったよね?」
梨穂子「昨日、クラスで一日中過ごしたのに。まったくリホのこと気にかけてる様子はなかったよね?」
梨穂子「リホはリホで、三週間の学校生活を楽しみたいってだけで、別にそんな大した理由があるわけじゃないんだよ」
梨穂子「……桜井梨穂子は、ただのお仕事のずる休み中。なんだよ?」
純一「ち、違う!」
梨穂子「違わないよ、本当のことだから」
純一「っ…じゃあ、どうして僕にそんな態度なんだよ!? 梨穂子、そんなお前らしくないだろ…!?」
梨穂子「…さっきからその〝らしくない〟って、何なのかな」
純一「だってそうじゃないかっ! そんなっ…そんなっ…人を小馬鹿にしたような喋り方っ…梨穂子らしく───」
梨穂子「──らしくない、とか言わないでよ」
純一「っ……」
梨穂子「じゃあ言ってあげる、純一。あのね、わかってないようだから言ってあげるけど」
梨穂子「……これが今の〝私〟なんだよ。これがアイドルの桜井リホなんだよ」
梨穂子「いつまで自分が知ってる幼馴染の〝桜井梨穂子〟だって思ってるの?」
梨穂子「…やめてよ、もうそんな私なんて居ないんだから」
梨穂子「あの時、廊下で会った時……リホは貴方のこと知りませんって、言ったよね」
梨穂子「あれは記憶喪失とかじゃなくて、精神的にとかじゃなくて」
梨穂子「…貴方を拒絶する為に、そう思わせる様に言ったんだよ」
純一「拒絶…っ…」
梨穂子「でも、安心したよね? 別に病気じゃなくて、記憶障害じゃなくて。
大丈夫だよ、平気平気~♪ リホはちゃーんと純一のことを憶えてるから」
梨穂子「───だけど、リホにはもう近づかないで。橘くん」
純一「っ…」
梨穂子「リホはそう望んでるんだよ、そう心から願ってるから」
梨穂子「……そういうことで、じゃあね橘くん」すたすた
純一「……────」
純一「──待てよ!! 待てって梨穂子!!」がっ
梨穂子「………」
お前は絶対にそんな事言う奴じゃない! 僕はそれを知ってる!!」
梨穂子「………」
純一「な、なにか訳があるんだろ!? 記憶が無いってことが嘘ならっ…また別の理由が!
そうじゃなきゃお前が僕に対して、そんな冷たくなる理由がわからないだろうが!?」
梨穂子「………」
純一「そうやって黙ってちゃなにもわからないだろ!? 教えろよ! どうした梨穂子!?」ぐいっ
梨穂子「………───」すっ
ぱあああんっ…
純一「──え……」
梨穂子「………」
純一「今……え……叩かれ……」
梨穂子「…次、もう一回腕掴んだら警察呼ぶから」
純一「っ……」
梨穂子「そうなると橘くん、犯罪者になるよ? この意味、わかってるよね」
梨穂子「…気安く下の名前で呼ばないでくれるかな、今の私は桜井リホだから」
梨穂子「桜井梨穂子はもう……貴方の中にいる幼馴染の桜井梨穂子はもう」
梨穂子「───何処にも居ないんだよ……」すっ…
すたすた…
純一「………」
純一「………梨穂子…」
純一「………そんなこと…」
純一「ぐっ……だめだ、ちゃんと理由を聞かなくちゃ…!」
純一「梨穂子!」だっ
だだだだだっ…
純一「梨穂子! ダメだ! 僕はちゃんとお前の口から───」
「よし、今だ!」
純一「──えっ……うわぁああ!?」
どしゃあああっ
「うぉおおおお!!」
純一「な、なんだ…!? え、待ってそんなに圧し掛かれたら…!」
どしゃ!
純一「うっぐっ…!?」
「すみません、リホちゃん! 後は我々【桜井リホお守り隊】にお任せください!」
梨穂子「……遅いよ、昨日あれだけちゃんと言ったのに」
「はっ! ですがまさか登校中のリホちゃんを襲うとは…我々も不覚です、警備の強化を実施させます!」
梨穂子「うん、お願いだよ?」
「は、はいいいいい! 四番隊ぃ! 犯罪者の尋問にかかれぇ!」
「はっ!」
純一「息がっ……痛いっ…あれ、なんだよ…!? 何処に連れて行くつもりだ…!?」
梨穂子「あんまりひどいことはしちゃダメだよ? 警察沙汰になったら、私だって何もできないから」
梨穂子「…そっか、みんな良い子だって知ってるから。リホも安心だよ~」
「ええ! では安心して登校されてください! 五番隊を護衛につけます!」
梨穂子「うん、ありがと~」
純一「っ…梨穂子…! 梨穂子ー!」ずりずり…
「こら、暴れるなっ…!」
純一「梨穂子っ……これはどういうことだよ!? なにがお前をそんなにっ…!」
梨穂子「……」
純一「教えてくれよっ…!? どうして教えてくれないんだ!? 僕はっ…僕はっ…!」
梨穂子「……」くる
すたすた…
純一「梨穂子っ……!」
~~~~~
校舎裏
純一「うっ……」
純一「はぁっ…くそ、沢山蹴りやがって…」
純一「っ…いたた……何だよ、僕がなにをしたって言うんだよ…!」
純一「…はぁ…」ごろり…
純一「…………」
純一「……何だって言うんだよ…」
「───おい、立てるかそこの犯罪者さんよぉ」
純一「っ……立てません、太もも思いっきり蹴られてるので」
夕月「だろうねぇ、三人に寄ってたかって蹴られまくってたもんな」
純一「…見てたんですか」
夕月「まあな。それにしちゃー案外、平気そうだね、どれ見てやるよ…」すっ
純一「………」
夕月「おうおう、頬がちょっと擦り?けてやがんな」
純一「…大丈夫ですよ、これぐらい」
純一「……」むくっ…
夕月「ん、もうちっと寝とけばいいじゃねえか」
純一「…いいんです、もう大丈夫ですから」
夕月「いいから、もうちっと寝とけって」ぐっ
純一「は、はい? だ、だからもう平気だって──」
夕月「──寝とけっていってるだろーがッ!」ボスッ!
純一「うごぉっ…!?」ぱたり
夕月「よしよし、いいこだ。素直は良い奴の証拠だぜ」
純一「ねっ…寝かせたの間違いっ…でしょっ…!?」ぷるぷる
夕月「んまー固いこと言うなって。どうだい、あいつ等の蹴りより効いたろ? くっく」
純一「え、ええっ……今が一番、重体ですっ…!」
夕月「…あんたはりほっちにやりすぎた、だからあたしからも一つ制裁ってな」
純一「………」
夕月「そこで大人しく寝ときながら、あたしの話しもついでとばかし、聞いておくれ」
純一「……なんですか、一体…」
夕月「あたしも手伝ってやるよ、りほっちを治すってやつをさ」
純一「っ……先輩、それは…!」
夕月「遠くからだったけどよ、話の内容は想像できたぜ。…んな病気はないって言われたんだろ?」
純一「…はい、だから治すも何も…」
夕月「…信用するのかい? あの子が言った言葉を?」
純一「え…? いや、夕月先輩……昨日言ってることと違うじゃないですか…っ?」
夕月「へ? あたしゃ、なんか言ったかい?」
純一「いいましたよ…! あいつのこと、梨穂子の言ってる事を信用しないのかって…!」
純一(この人こそ記憶障害なんじゃないのか…)
夕月「…ま、でも。それは違うんじゃねえの?」
純一「…違う?」
夕月「おうよ、ありゃ桜井梨穂子のことを信用しろって言ったわけでさ」
夕月「───別に桜井リホまでを信用しろ、とまでは言ってねえよあたしも」
純一「なにが違うっていうんですか…どっちも同じ、桜井でしょう」
夕月「いーや、違うね。天と地の差があるよ」
純一「………」
夕月「確かにあんたにとっちゃ、同じことなのかも知れねえけどさ。
だけど落ちついて考え直してみるんだよ、お前さんならちゃーんとわかるはずだ」
純一「…そんなの、梨穂子がなにも言ってくれない限り…」
夕月「なにいってんだい、あんたはりほっちにとって……唯一の幼馴染じゃないのかい?」
純一「……」
純一「…じゃあ、どうすればいいんですか…! 僕だって、アイツのことを信用したいですよ!?」
純一「だけど、アイツが…梨穂子が! あんな態度をし続けるなら、もう幼馴染だからって何も出来るとはっ…!」
夕月「んだから言ってんだろ、信用しろって」
純一「っ…なんですか、信用しろって! 意味が分からないですよ!」
夕月「そのまんまの意味だよ、あの子をいつまでも信用するんだ。
どんなに冷たい事を言われても、どんなに暴言を吐かれて拒絶されたとしても、だ」
夕月「お前さんはそれを耐え抜いて、耐え抜いて、ずっとずっとりほっちのことを信用し続けるんだぜ」
純一「そんなっ……こと、僕には…っ…」
夕月「──いいや、出来る」
純一「っ……」
夕月「あるだろ、その耐え抜く覚悟……その原動力が」
夕月「あえてあたしも、何も言わねえでおくけど。
あんたには……あるはずだ、りほっちにたいしての〝頑張らなきゃいけない理由〟がよ」
夕月「だからこそ、昨日のお前さんの異常な……いいや、これはいいか」すっ…
夕月「とにかく、その心の中にある抱えたモンを……そう簡単に諦めるなってこった」
純一「………」
夕月「信じ続けろ。りほっちを、それがお前さんが出来る、今現状での最高の〝治療〟だ」
純一「…信じ続けろ…」
夕月「おうよ、それからはじめて行けばいい……そしたら、あたし達も手伝ってやんよ」
夕月「ま。頑張りな、応援してっからさ……んじゃhrに遅刻しないようにな~」
すたすた…
純一「…………」
純一「どういうことだよ……信じ続けろって…」むく…
純一「勝手すぎるよっ…誰もかもっ…わかったように言いやがって…ッ」
純一「……僕は、アイツの幼馴染…」
純一「分かってやれるのは、僕だけ──………」
純一「………」
純一「………はぁ」
梅原「おうおう、どうした大将。浮かない顔してよお」
純一「…ん、梅原」
梅原「今日一日、全くもって元気ねえじゃねえか。どうした?」
純一「…なんでもない」
梅原「……、そうかい。お前さんがそういうのなら、俺も何も言わねえよ」
純一「………」
梅原「………」
梅原「っはぁー、俺もお人よしだなホンット…」
純一「? なんだよ、どうした急に」
梅原「ほらよ」
ぽすっ
純一「…これは? メモ帳?」
純一「う、うん……なんだこれ、なにかの予定表?」
梅原「おう…『桜井リホ守り隊』の計画スケジュールだぜ」
純一「……。なにっ!? こ、これを何処で手に入れたんだ梅原ぁ!?」
梅原「しぃー! 声がでかいぞ橘ぁ!?」
純一「す、すまん……!」
梅原「はぁ…誰にもバレてないようだな、いいか? これがもしバレたら俺もただじゃ済まされないんだからなっ?」
純一「お、おう……だけどこんな凄いもの、何処で手に入れたんだ?」
梅原「『桜井リホ守り隊』のメンバーの中に……実はユウジが居るんだよ」
純一「…なにやってるの、アイツ」
梅原「ファンだからな」
純一「知らなかった…」
梅原「まあ色々と交渉をしてみたらよ、なんとかスケジュール表を映してもらえることに成功した」
梅原「だろ? 頑張ったぜ、アイツの好みのお宝本を揃えて…それからどれだけ価値があるか散々語りまくってさ───」
純一「ふむふむ、今日一日はずっと護衛か…」
梅原「……おい、聞いてんのか大将」
純一「うんー、聞いてるよー」
梅原「……」ぱしっ
純一「あー! なんだよ、どうして奪うんだよ!」
梅原「…お前の態度次第によっちゃ、これを譲渡させてもいいぜ」
純一「え……本当に?」
梅原「おう、態度次第だがな」
純一「…お宝本か?」
梅原「ああ、そうだ。……と、今回は言ってやりたい所だが違う」
純一「え…? 違うのか?」
梅原「そうだぜ、今回はとあるお願いをかなえてもらおうか……それはユウジの頼みでもあり、
あの『桜井リホ守り隊』の悲願でもある」
純一「……笑顔?」
帰宅路
純一「ふむ、明日は街にお出かけか」
純一(色々と読んでみると、三週間の予定がみっちり書いてある…つまりそれは、
逆に言えば梨穂子自身のこれからの予定ってなるわけだ、流石に確執にそうだとは言い切れないけど)
純一「はぁ…」ぱたり
純一「いやはや、梅原には悪い事をしたな……後で個別にお宝本を貸してあげよう」
純一「…だけどどういう意味だろ、笑顔って…」
~~~~
梅原「あいつ等が言うには、どうも桜井リホは……何時も通りでは無いらしいぜ」
純一「……そうなのか」
梅原「ああ、よくわからねえけど、俺たちの大好きな桜井リホの笑顔はもっと輝いてるぅ! …らしい」
純一「………」
梅原「俺は詳しくねえから語れねえけど、ユウジも心配そうにしてたんだよ」
梅原「…だからこそ、あの『桜井リホ守り隊』も熱が入っちまってるみてーだな」
純一(それは僕も含まれてるんだろうか…)
梅原「流石にひでーって、先生らも色々動いてるみてえだが…実際はどうなるか分からん」
純一「まあな、生徒が自主的にやってる事だし…まだ大した問題になって無いんだろ?」
梅原「……それも時間の問題かもしれねえ」
純一「え?」
梅原「ユウジが言うにはどうも……〝過激派〟と〝穏便派〟に隊が分かれつつあるらしい」
純一「過激派に…穏便派?」
梅原「ああ、アイドルファンに多い傾向らしいけどよ…そういった思想に違いが出てきてるらしいぜ」
純一「ユウジは?」
梅原「穏便派だ、安心しろ」
純一「…そっか、良かった」
梅原「今回のお願いも、実は穏便派からのことだったりするんだよ」
梅原「…あいつ等は願ってる、本当の桜井リホの笑顔を見ることを」
梅原「だけど、それは俺らには無理だって。ここ数日で色々と…判断したらしい」
梅原「──そこでお前の出番だ、大将」
純一「ぼ、僕?」
梅原「そうだ、ユウジ共々…そして穏便派はお前に全てを託すと言っていた」
梅原「大将、これはお前にしかできない事だ。わかるよな?」
純一「え、でも…お前、梨穂子にもう関わるな的なこと言ってなかったか?」
梅原「………忘れた!」
純一「ええっ!」
梅原「い、いいんだよ! 忘れろ! …とにかく、お前は託されたんだ」
梅原「その手帳を使って、上手く立ち回ってどうにか桜井さんに……」
梅原「……満点の笑顔を、咲かせてやってくれ!」
~~~~
純一「……とにかく、やれるよことはやってみよう」
純一「…そして、夕月先輩たちも」
純一「僕は……やらなくちゃ、いけないんだよな」
ぐっ…
純一「…あの梨穂子を、どうにかしないといけないと」
純一「だってそれは、僕自身も──強く望んでる事の、はずだから」
純一「………忘れるな、橘純一」
純一「──その思い、アイツがアイドルになってから決めた〝心の覚悟〟は…」
純一「絶対に蔑にしちゃいけない、大事なことだってことを」
純一「…………」
純一「っはぁ~……よし、やれるぞ僕になら!」
純一「まずは、家に帰ってどうするか考えよう! 作戦会議だ!」だっ
「──や、やめてくれよっ…! うあぁああああ!」
純一「! な、なんだ…? どっからか叫び声が…?」
「──どういうことだ、どうしてそんなことをした!」
ユウジ「ち、違うって! 別に俺は…!」
「言い訳をつくな! おい、お前らも何か言え!」
「…っ…俺たちは別に…」
「なにもしてないよ…」
「な、なあ? 隊長、アンタの勘違いだって…」
「嘘をつくんじゃない! 正直に言え! お前らは我々の機密事項を横流ししただろう!」
ユウジ「だ、だから! 俺らはそんなことしてないって!」
純一「……あれは…」こそっ
純一(ユウジ…? それに今朝に見かけた人が何人かいるな……何をやってるんだ?)
「はっ!」
ユウジ「えっ…? いや、待ってくれよ! そりゃやりすぎだろ!?」
「やりすぎじゃない、これは制裁だ。隊を乱す者を粛正するだけだ」
ユウジ「粛正って……ぐっ、離せよ! おい!」
「やれ」
ユウジ「うぐっ…かはぁっ」
「どうだ、吐く気になったか」
ユウジ「はぁっ…ふざけるなよ! やりすぎだアンタ!
馬鹿げてる! 本当に隊長になったつもりかよ!? 俺らは只の学生だぞ!?」
「……やれ」
ユウジ「ぐふっ……お前らやめろよ! なにがそこまでお前ら動かすんだよ!?」
「じゃあ聞くが、お前はどうして隊に入った」
「じゃあどうして隊の乱れを起こす、正直に話せ」
ユウジ「ッ……ああ、そうだよ! 俺がやったさ! 俺が情報を漏らしたよ!」
ユウジ「だからどうした! 俺は…俺はもうアンタらみたいな中二病みたいなことはできねえんだよ!」
ユウジ「守ってる気になって、やりたいことやりまくってるけどよ!?
それは本当に桜井リホの為になってるのかよ!? 絶対に違うだろ!?」
「………」
ユウジ「アンタらがやってることは、ただの自己満足だ!
普段の日常ではやれなかったことを、今やれてる現状に浮かれちまってるだけだ!!」
「……お前らも、そのような思想を持ってるのか」
「えっ……」
「いやー…えっと…あはは」
「………」
ユウジ「っ……あいつ等は関係ねえよ! 俺が一人でやった事だ!」
「い、いやっ…もうその辺にしておいたら…」
「口答えをすれば、お前も制裁だ」
「っ……」
隊長「……では、続けるぞ」
ユウジ「うぐっ……ああ、殴ればいい! 殴り続ければいい!
そうやって拳を振るって、その殴った感触を覚えておけ!」
ユウジ「そして一生その感触を忘れずに、この先を生き続けろ!」
ユウジ「なにもかもっ…全部が終わった時っ…うぐっ…!」
ユウジ「アイツが……アイツが全部終わらせた時! 後悔するのはテメーらだからなっ!!」
隊長「やれ」
ユウジ「ッ……橘ぁっ───」
「───ああ、任せろユウジ!!!!」
隊長「っ…!? だ、誰だ!?」
「──お前が言ったその言葉、僕はしかと心に受け止めたっ!」トン!
「──大丈夫、平気だ、やってやる。お前がやってくれたことは絶対に無駄じゃない!」
「──あの桜井梨穂子の……幼馴染である、この僕が!」
純一「橘純一が、お前の願いッ……叶えてやるよ!!」
ユウジ「たち、ばなぁ……っ!」
純一「…大丈夫か、具合は悪くないか?」
ユウジ「ぐすっ……へへっ、馬鹿言うんじゃねえよ。だってそうだろ?」
純一「…ああ、そうだな」
ユウジ「俺らはいつだって、本当に大切なものを失くした時…」
純一「…本当の辛さはそこにある」
純一&ユウジ「お宝本が、ある限り! 男は泣かない!」
純一「…ユウジを離せ」
隊長「おやおや、手出しをされては困る。
これは此方側の問題、更に言えば……お前も」
隊員「……」ぞろっ…
隊長「──粛正対象なんだぞ?」
純一「……ハッ、だからどうしたんだよ」
隊長「なにっ…!」
純一「ううん、ただ単に…人数で勝って良い気になってるだけの奴らだなって」
純一「…そう思ってるだけだよ?」
隊長「なっ…」
純一「………」ぷるぷる…
ユウジ(橘っ…本当はビビってるくせにっ…くそ!)
純一「…あのさ、考えてみてよ。これって普通に考えたら傷害事件だよ?」
隊長「……」
純一「今すぐに僕が近所の家に飛び込んで、警察を呼べば……どうなるか分かってるよね?」
隊長「………」
純一「…それに、その人たちだってそうだろう?」
純一「───彼らがこれから、君たちのことを通報しないと言う道理もない」
純一「周りが見えなさ過ぎてるよ、君たちは絶対じゃないんだ」
純一「…それはただの、アンタのわがままでしかないと思う」
隊長「………」
純一「…離してよ、そいつは僕の友達なんだ」
隊員「っ……」ぱっ
ユウジ「くっ……」どさっ
純一「ユウジっ! …だ、大丈夫か…?」
ユウジ「大丈夫だ…それよりも…」
純一「う、うん」
純一「っ…待てよ! その前にすることがあるだろう!?」
隊長「……我々は桜井リホを守るために結成された守り隊」
隊長「その思想を邪魔する者は、排除するのみ。精鋭者で隊を再構成させる」
隊長「…お前らはクビだ」
純一「っ…なに言ってるんだよ! そういうことじゃない! ちゃんとユウジに謝罪を──」
隊長「──そんなものは、しない!」
純一「なっ…」
隊長「我々は神聖なる番人だ……誰に屈する事もない」
純一「馬鹿げてるよ…!?」
ユウジ「……っ…」
隊長「………」
すたすた……
ユウジ「…いいんだ、橘…」ぐいっ
純一「で、でも…! これはあんまりだよ!」
ユウジ「いいんだよっ……これで、これでいいんだ…」
純一「ユウジっ…?」
ユウジ「…ちょっと、制服の中に手を入れてもらってもいいか…?
中に入ってる奴を、取ってもらいたいんだ…」
純一「制服の中…? 腹の方?」
ユウジ「おう…」
純一「えーっと……あ、これか」ごそっ
純一「あ、これって…!」
ユウジ「ああ、お宝本だ……ふふ、あいつ等の拳。全然効いてないぜ俺にはよ!」
純一「ユウジ……」
ユウジ「…はっ、なんのことだよ」
「ユウジっ…!」
「す、すまん俺たち…!」
「ごめんなっ! なんもできなくて…!」
純一「この人たちは…?」
ユウジ「梅原から聞いてないか? …俺と一緒の穏便派の奴らだ」
純一「なるほど…」
ユウジ「いいんだよお前ら…俺がヘマをしたせいだ、俺の責任だ」
「だけど、俺たち…」
「俺だってアイツに言ってやりたかった…!」
「…ごめん、本当にごめん」
ユウジ「…いいってば、俺だってわかってるよちゃんと」
ユウジ「…というわけで、橘。俺らはもうあの隊員ではないからな」
純一「お、おう…」
ユウジ「色々と、迷惑かけたな。すまん…」
純一「い、いやっ…いいよ、僕の方こそ手帳の件…ありがとう」
ユウジ「それは…おう、俺らの頼みの綱はお前なんだ」
ユウジ「俺ら全員、お前に託したんだぜ」
純一「っ……」
ユウジ「どうかお願いだ──あの過激派にも負けず、桜井リホの笑顔を…」
ユウジ「…取り戻してくれ、橘」
純一「……出来ることはやるつもり…」
ユウジ「情けないこと言うなよ!」
純一「うっ…わ、わかった! やってやるよ! ぜ、絶対に!」
「頼むよ…笑顔をまた、あの笑顔見せてくれ!」
「橘! お前にならできるんだろ!?」
「…俺らの為にも、お願いだ」
純一「……」
純一「…うん! 僕に任せろ!」
~~~~
自宅
純一「………」prrrrr
純一「………」prrrrr
がちゃっ
純一「…もしもし」
『……───』
純一「待て、切ろうとするな……梨穂子」
『………』
『………』
純一「どうして僕が今日、電話をしたか分かるか」
『………』
純一「……。分からないのなら言ってやる、今日お前を守ってる…守り隊だったか」
純一「そのメンバーが、隊長の命令とやらで暴行されていたぞ」
『………』
純一「この意味、理解できるよな? 暴力をふるわれていたんだ、人がだ」
純一「拳を握って、相手の身体を殴るんだ。わかるよな?」
『………』
純一「…いいか、言うぞ梨穂子、あの守り隊とやらを解散させろ」
純一「このままじゃ悪い方向にしか進まない。だけど、まだ間に合う」
純一「梨穂子が一言、もうやめてと。そう言えばあいつ等も辞めるはずだ」
純一「どんなに頑固者だったとしても、絶対に説き伏せるんだ」
『………』
純一「…お願いだ、梨穂子。どうして返事をしてくれないんだよ」
純一「お前は許せるのかよ、自分の周りで暴力が行われてる事を……」
純一「…僕は、そんなことを見過ごすような奴じゃないって…お前のことをそう思ってる」
純一「梨穂子……お願いだから声を聞かせてくれ、頼むよ…」
『……橘くん』
純一「っ…な、なんだ梨穂子!」
『リホはもう、無理だよ。止められない』
純一「ど、どうしてそんなこというんだよっ…! だってそうしなきゃお前の評判だって…!」
『…違うよ、どうせ変わらない』
純一「変わらないって…」
『橘くんはアレが非常識なものだって思ってるかもしれないけど…実際はそうじゃない』
純一「あれ以上…?」
『うん、だから……リホが何を言っても彼らは止まってくれないと思う。
ああいった隊が出来ることがすでに……もう手遅れなんだよ』
純一「そんなっ…それじゃあ、これから起こることを見過ごすのかお前は!?」
『…そうだよ』
純一「そんなことっ! そんなことっ…言うなよ! お前なら! 梨穂子ならどうにかできるだろ…!?」
『…できないよ』
純一「っ…どうして!」
『………』
『…どうして、だろうね。わかんないや……あはは』
純一「っ…梨穂子…?」
『……切るね、橘くん』
純一「ま、待て! まだ話は──」
ぷつん
純一「……ダメだ、つながらない。電話線を抜かれたのか…?」
純一「なんだよっ…無理ってッ!」
ガチャンッ!
純一「はぁっ…はぁっ……」
純一「くそっ…!」
美也「…にぃに…?」こそっ
純一「あ、すまん美也……驚かせた…ごめん」
美也「う、うん……電話はゆっくり置かないとだめだよ? 居間にまで聞こえてたし…」
純一「…ごめん」
美也「えっと、そのっ……冷凍してるまんま肉まんあげよっか? おいしいよ?」
純一「いや……いいよ、ありがとう…僕はもう部屋に戻るから…」すたすた…
美也「えっ! あ、にぃに……」
純一「………」よろ…
ぼすっ
純一「……なんだよ、どうしてそんなこと言うんだよ…梨穂子…」
純一「わかんないとか、いうなよ…」
純一「できないとか、どうして言えるんだよそんなこと……」
純一「梨穂子……馬鹿野郎…っ」
~~~~~
部屋
梨穂子「…………」
梨穂子「…………」
梨穂子「……あ、電気つけ忘れてた…」
かち…かちかち
梨穂子「…………まぶしい」
梨穂子「…………」
梨穂子「……」すとん…
梨穂子「……怒ってたなぁ」
梨穂子「当たり前だよね……あれだけ酷い事を、言っちゃったんだもん」
梨穂子「……誰だって怒るよ」
梨穂子「……」ぱたり…
梨穂子「橘くん……か」
梨穂子「……」
梨穂子「……なんだか、口がモゴモゴする言い方になるなぁ」
梨穂子「……言いなれて、ないんだろうなきっと」
梨穂子「純一……」
梨穂子「……ああ、やっぱり」
梨穂子「こっちの方が、私の口は言いなれてる……みたい」
梨穂子「そうすれば…また、そうすれば……」
梨穂子「…もう色々と、思い返すことも無いのに……」
~~~~~
次の日・放課後
純一「………」じっ
純一「……よし!」ぱたんっ!
梅原「…ん、行くのか大将」
純一「ああ、行ってくる。今日は街でお買いものらしいからな」
梅原「準備は大丈夫なのかよ」
純一「大丈夫だよ、心配するな」
梅原「…おう、俺が出来る事があればなんだってするぜ」
純一「…ありがと、じゃあ、行ってくる!」
梅原「……頑張れよ、大将」
~~~~~
純一(全然見つからない……!)
純一(街に出れば普通に梨穂子のことを見つけられると思ったけど、
大見え切って教室でてから、もう数時間たっちゃってるよ…!)
純一「なにやってるんだ僕は……はぁ~」すたすた…
純一「…もう帰っちゃったかな、梨穂子達」
純一「空がもうオレンジ色だ……そろそろ直ぐに夜になるだろうな」
純一「………」
すたすた…
純一「…梨穂子」
すた…
純一「……」ぐぐっ
た…たったった!
純一(学校では周りの目もある、それに守り隊も人数が多くて直接話もできない…!)
純一(だけど、放課後なら守り隊の人数も減る! それに学校関係に見られることも少ない…!)
純一「今、この瞬間しかないんだっ…! 梨穂子と、会話できるチャンスは…!」
たったったった!
純一「───…梨穂子っ…! どこにいるんだよ…っ」
~~~~~
純一「はぁっ…はぁっ……やっぱり、どこにも居ない…っ…」
純一(これだけ探して居ないんだ、そろそろ周りも暗くなってきた…
…家に帰ったと判断して、もう今日は諦めよう───)
「──やめてくださいっ…!」
純一「こ、この声はっ…梨穂子!?」
路地裏
梨穂子「っ……その人たちは、関係無いから…!」
「…関係はなくないっしょ、こいつ等、俺のこと金属バットで殴ろうとしたんだぜ?」
梨穂子「…だけど、痛そうにしてるじゃないですか…っ」
「こっちは死にかけたんだけど、それでもやめろっていうの?」
「おらっ!」
隊長「ぐふっ」
「…他の奴らは? 確か五六人ぐらい居ただろ?」
「逃げたんじゃね? ははっ、根性ねー奴らだなw」
隊長「に、逃げたのではないっ…皆、仲間を呼びに行ったのだ!」
「…なにこいつ、頭イカれてんの?」
「いわゆるオタク奴じゃね? 聞いたことあんだろ?」
「うっわーw まじか~、こんなのに付きまとわれてる彼女可愛そ~」
隊長「ぐっ……馬鹿にするな! 我々は由緒正しき…!」
「由緒正しき……なんだって?」
「さあ?w まあ由緒正しいんなら鉄バットで殴りかかってくんなって話だよなー」
梨穂子「っ……」
「ま、そんな感じだね。あーあ、あんなに人が居たのに…もう一人だけ」
隊長「ひっぐ…ぐすっ…」
梨穂子「………」
「あらら、泣いちゃったよ。そんなに強く蹴ってるつもりなんてないのにね~」
「口では大きなこといってるくせによっ」
「俺らが何だって? 大犯罪者って言ってたよな? …ただ声をかけただけ、だろーがっ」
「鉄バット持ってくるお前らの方が大犯罪者じゃねーかよっ」
隊長「うっぐっ…ひぐっ…えぐっ…」
「…その辺でやめとけ、おおごとになったら面倒だろうが」
隊長「ぐっ…」
「めんごめんご、ちょっと脚が引っ掛かっちまってさ~」
「おいおい、そりゃワザとだろw」
「あっははw …ばれた?」
梨穂子「…やめてください」
「…ん? なに?」
梨穂子「やめてと……言ってるのっ!」
「おー、怖。なになに、俺らに言ってるの? 度胸あるねー」
「…ちょっとまて、この子って……あ! やっぱり!」
「なんだよ?」
「どっかで見た事あるって思えば……桜井リホだよ! 桜井リホ!」
「…リホって、ああ、KBTとかなんとかの」
梨穂子「………」
「サインとか……お前…」
「へー…そうなんだ、桜井リホちゃん?」
梨穂子「…き、気安く呼ばないでっ」
「…わー、ファンとして超ショック」
「くははw いわれてやんのw」
「怖い怖い、というかそんなに俺らに敵意丸出しにしなくてもよくね?」
梨穂子「………」
「別に俺ら悪いことしてないってw」
「アンタの周りに居る奴ら、すっげーウザかっただろ?」
「傍か見てて異常だったしねー、やっぱりそうだったでしょ? うん?」
梨穂子「……今の、貴方達のほうが…よっぽど…うざいよ」
梨穂子「そうやって…力だけで押し切る貴方達のほうがっ…なんでもかんでも、強いからって…!」
梨穂子「弱い人を痛みつけることにっ…躊躇しない、貴方達の方がよっぽど最悪だよっ…!」
梨穂子「なにも知らないくせにっ…その人たちがどんな人だって、知らないくせに…!」
梨穂子「馬鹿だって、オタクだからって…そうやって否定するだけのことしかできない貴方達方のがっ…!」
バン!
梨穂子「んくっ……」
「…うるせえよ」
「んー、強い女の子って素敵だよねぇ」
「ひ弱な女より、強い女の方が居て楽しいしなー」
梨穂子「っ……殴るなら、殴ればいいよ…貴方達が、もっと世間に居られなくなるだけだから…!」
「残念、女の子を殴る趣味はないんだよね。だから、ちょっとばかし…こっち来てくれるかな?」ぐいっ
梨穂子「きゃっ…!」
「あ、連れてく感じ? そうだよなーw アニキとか喜びそうだしw」
「あ~、確かに。すっげー喜びそうだな」
梨穂子「や、やめてっ…」
梨穂子「っ…!」
「心配無いよ、悪いことなんて起きないから。……ちょっとした社会勉強になるかもね」
「それ言いすぎ~w 勉強とかー!」
「人によっちゃ引いちゃうだろその言い方w」
梨穂子「や、やだ…やめてっ…!」
「………」
ぐいっ
梨穂子「ひぅっ…!」
「──抵抗するなって、女の扱い方なんて、俺はちょっと知らないんだ」
梨穂子「……っ…」
「じゃあ行くぞ……直ぐそこだって、心配無いからさ」
梨穂子「っ………────」
「──待て…」
「離せよ、その手」
梨穂子「っ…?」
「誰だよ、テメー」
純一「……そいつの幼馴染だよ」
「幼馴染ぃ? っは、どうして幼馴染がこんな所に居るんだよ」
純一「…助けに来たんだ」
「おいおいw 助けにだってよ、コイツの仲間か?」
隊長「ひっぐ…ぐすっ…」
純一「……残念だけど、違う。僕は個人で梨穂子を助けに来た」
「助けにって、はは。また俺らは悪者扱いかー」
純一「別に悪者にするつもりはないよ…だけど、その手を離してくれたらの話だ」
「…離して、どうする?」
純一「連れて帰る。ただ、それだけだから」
純一「…しない、そう誓うから」
純一「お願いします、その手を離してください」
「…おい、お願いされたよ?」
「どうする?」
「……」
梨穂子「……」
純一「……」
「…じゃあ、土下座だ」
梨穂子「っ……」
純一「…土下座?」
「そうだよ、土下座。まあ仲間じゃないって言ってたけど、でも、知ってる顔なんだよね?」
純一「……はい」
隊長「っ…っ……」
純一「…そうなんですか」
「ああ、下手すりゃ死んでもおかしくない。だけどよ、それも土下座してくれるのなら許してやるよ」
「…そして、この彼女も返してやる」
「だけど、土下座だ。このきったねー路地裏の地面でね、額を擦りつけて土下座しろ」
純一「………」
「うっわーw ひどいなぁーw」
「ここら辺って、良く誰か吐いてるよな~」
純一「………」
「どうした? やらないの? だったら、いいよ。この話は無しだ」
純一「………」
梨穂子「っ……」
梨穂子「──やめて! そんなことする…義理なんて貴方にないから…!」
梨穂子「いいからっ…私のことは放って置いてっ…その人を連れて、遠くに逃げて…!」
「おーおー、いいねえ純情だねー」
「ま、逃がすわけ無いけどw」
「…お前が一人でどっか消えるんなら、それでいいんだぜ?」
純一「……」
梨穂子「橘くんっ…! お願いだから…!」
純一「……梨穂子」
梨穂子「っ…なあに…?」
純一「僕は、今の今まで…ずっと立ち竦んでたんだ。
この場の現状に入り込むことに、とても怖がってた」
純一「だけど……梨穂子がそいつらに連れて行かれそうになった時、僕の脚は…一歩進んだ」
純一「だから、僕は分かったんだ。絶対にこれは、逃げてはダメな時なんだって」
純一「もう…梨穂子から逃げては駄目なんだ、やっぱり、そう思ったんだよ」すっ…
純一「───お願いします、どうか、その金属のバットの件含めて…」
純一「彼女を離してやってください、お願いします…!」ずりっ…
梨穂子「っ……!」ばっ
「うわっ…マジでしやがった──って、うおっ!?」
梨穂子「や、やめてよっ…! 土下座なんてしないで!」たたっ
純一「お願いします…どうか、許して下さい」
梨穂子「たちばなっ…やめてって…! そんなこと…!」ぎゅっ
純一「……お願いします」
「…お、おい」
「うっわー…綺麗な土下座だぜー」
「………」
純一「っ……どうか、お願いします! 許してやってください!」
「───ワーオ、ナイスガイ!」
「ミーが見てきた誰よりもナイスガイ、とんでもないぐらいハートにズッキューン…」パチパチ…
かん…
「ユーたちも見習うべきですねー、おーけー?」
「っ……」
「あ、マイケル……兄貴…!」
「うっふん、ノウノウ。それはちがうでショーウ───」
マイケル「──maike.kid……そう〝毎夜ベットの中で〟そう教えてるでしょーう?」
「は、はいっ! マイクアニキっ!」
「すませんっ!」
「う、ういっす!」
マイケル「オーケー、良い子たちねー! ウッフッフッフ」
純一&梨穂子「……」ぽかーん
純一「えっとその…?」
マイケル「ユーのネーム…教えてくださーい!」
純一「ぼ、僕ですか…?」
マイケル「ウッフッフッフ…そうですー! どうかミーに教えてみてー!」
純一「橘…純一ですけど…」
マイケル「タチバナ、グーイチ?」
純一「純一です!」
マイケル「オーケー、タチバナ! タチバナでいいですかー?」
純一「ま、まあそれで…」
マイケル「次でーす! ユーのこのみおしえてくださーい!」
純一「……え?」
「…ギャラガーのアニキ…それは…」
マイケル「ふんぬっ!」
マイケル「…ミーのナンパの邪魔するのは、ノンノンデース…それにマイクと呼びなサイデース」
純一(今…!? 何が起こったんだ!? 腰あたりをなでただけに見えたけど…!?)
マイケル「それでー? どうナンデスかー? んんー?」
純一「うわぁっ…か、顔が近いっ…!」
マイケル「ウッフッフッフ…そんなにこわがらないでくだサーイ!
モウマンターイ! ひどいことはしませんヨー?」
マイケル「…ちょっとだけ、ダーツにつきあってほしいだけデース…?」
「マイク兄貴が…ダーツに誘っただと…!?」
「ば、馬鹿なっ!? 相当気にいった奴しか誘わないのに…!?」
純一「えーと、お断りします…はい…」
マイケル「えー!? ホワイ!? どうして!?」
純一「どうしてって…その、あはは」
梨穂子「……」
マイケル「……」くるっ
マイケル「ユーたち、ミーは振られてしまった! 慰める準備をしなサーイ!」
「は、はいっす!」
「だ、ダーツの準備だ! 店に戻るぞ!」
「あ、ああっ…わかったよ!」
マイケル「………」
純一「えっと…その、マイケルさんでいいんですか…?」
マイケル「ノン!」ぐるっ
純一「ひっ…!」
マイケル「ユーは……ウッフッフ、タチバナはミーのこと……ギャラガーって呼んでもオーケーデース!」
純一「……お断り済ます…」
マイケル「ノーン!」
純一(なんなんだこの人は一体……)
純一「え? あ、梨穂子……うん、大丈夫だよ」
梨穂子「っ…待ってて…」ごそごそ…
純一「?」
梨穂子「額が汚れてるよっ…拭いてあげるから大人しくしててっ」
純一「だ、大丈夫だよっ……それよりも梨穂子のハンカチが汚れちゃうだろ」
梨穂子「いいからっ」
純一「……う、うん」
マイケル「…ソーリー、あの子たちが迷惑をかけましたー…」
純一「え? いや、でも、あっちもあっちで理由があったわけですし…」
マイケル「イエス! その通り、通りに叶ってないことはさせるわけないよう躾けてマース!」
純一「し、しつけ…?」
マイケル「ですがー…それでもやり方にはもっとナイーブな方法があったはずデース…」
マイケル「…オゥ? この子は?」
隊長「…っ…っ…」
純一「…色々と、今回でのことで問題になった人です」
マイケル「フゥム、オーケー」つかつか…
ひょい
マイケル「仕方ないのでー、この子を店につれていくことにしシマース!」
純一「はい…?」
マイケル「大丈夫でーす、酷いことはしませんー! ただ、社会勉強をしてもらうだけでーす!」じゅるっ
純一「今、涎が…」
マイケル「オーウ! もうこんな時間です! 急がなければいけませーん!」
マイケル「ではナイスガイ、バァ~イ!」かんかんかん…
純一「ば、ばーい……」
純一(隊長さん……どうか、社会を学び更生されて戻ってきてください)
梨穂子「……」
純一「梨穂子、もういいよ。ありがとう」
梨穂子「……うん」
すっ…
梨穂子「……」
純一「ありがとうな、そのハンカチ洗って返すからさ」
梨穂子「…いいんだよ、気にしなくて」ごそ
純一「いいのか? だってここら辺の汚れって、結構酷いんだぞ?」
梨穂子「っ…だったら、もっとあなたのほうがっ…!」
梨穂子「……っ……あなたのほうが、酷いよっ…」
純一「あはは、そうだな…僕も直ぐに風呂に入って。それから制服を洗濯しないと」
梨穂子「………」
純一「…よいしょっと、梨穂子。もう夜になるし、まっすぐ家に帰れよ?」
純一「ここら辺は…まあ分かってると思うけど、ちょっと治安悪いしさ。
また誰かに絡まれないよう急いで帰るんだ、僕もそうするから」
純一「それじゃあ、梨穂子。また明日、学校で」
すたすた…
梨穂子「ま、待って…!」
純一「……ん、なんだ?」
梨穂子「そのっ……どうして、何も言わないのっ…?」
純一「……」
梨穂子「こんなにも酷い目にあってるのにっ…私に、リホにっ…どうして文句の一つも、言わないの…?」
純一「……どうして、か」
純一「おい、梨穂子……そんなの当たり前だろ?」
純一「──お前と僕は、幼馴染だからだよ」ニコ
純一「ああ、そうだ……大丈夫、お前が今僕に対してどう思ってるかなんて。僕はちゃんと分かってるから」
純一「舐めるなよ、長年の幼馴染を」
梨穂子「………」
純一「…そんなワケだから、まあ、色々と話したいこともあるけど───…うわぁ!?」
ぎゅうっ…
梨穂子「………」ぎゅっ
純一「えっ、なに…どうしたの梨穂子? 急に後ろから抱きついてきて…えっ?」
梨穂子「…純一」
純一「あ、うん……純一だけど…えーと、その?」
梨穂子「…だめ」
純一「え?」
梨穂子「…やっぱり、ダメだよ」
純一「どういうことだ?」
梨穂子「………やっぱり、ダメだ……やっぱり、純一のこと…」
純一「……」
~~~~
公園
梨穂子「……」きぃーこ…きぃーこ…
純一「つまり、昨日の今朝に言ったことは…嘘、だったと」
梨穂子「…うん、そうだよ」きぃこ…
純一「…どうしてそんな嘘ついたんだよ、それに…」
梨穂子「…あの時のこと、だよね」
純一「……」
梨穂子「それはね、橘くん……私があなたを心配させたくなかったからでね」
梨穂子「私は……あなたが悲しむ顔を見るのが……怖かった、の」
純一「それで…僕に冷たくしてたのか?」
梨穂子「…うん、勝手だよね、わかってるんだよちゃんと…」
そして橘くんにしてしまったこと……それがどんなに取り返しのつかない事だって…」ぐっ…
きぃーこ…
梨穂子「だけど、だけどね…? それでも私は、やめようって思わなかった…」
きぃーーこ…
梨穂子「そんなあなたの顔を見ても、傷ついた顔の橘くんを見たとしても……それでも」
梨穂子「私はあなたに〝嘘〟をつくことを、やめようって思わなかったんだー……」
梨穂子「例え記憶が無いと知られても、それを違うって嘘つけたりー…」
梨穂子「本当に記憶がないことを、知られたくないって嘘ついたりしてもー…」
きぃーー……こ…
梨穂子「……あなたが悲しんでも、嘘をつくことを止めなかったと思う」
純一「梨穂子…お前は、一体何がしたいんだよ…?」
梨穂子「……」
純一「僕は……全然、梨穂子がしたいことがわからないよ…?」
ただ単に、僕に対して嘘をついて…僕を惑わせようとしてるだけじゃないか」
梨穂子「…そうだね」
純一「……」
梨穂子「最初から全部、わかってることなのに…どうして私、あなたに嘘をつくんだろう」
梨穂子「……わからないんだよ、それが、私には」
梨穂子「初めは悲しませたくないって……それだけだったのに」
梨穂子「…今の私は、ごちゃごちゃなんですよ」ニコ…
純一「…記憶のせいなのか?」
梨穂子「…ううん、わかんない、どうだろうね…」
純一「っ…記憶が無いから、そうやって…梨穂子は意味もなく嘘をついてしまうような…」
純一「よくわからない自分に、なってしまうのかよ…?」
梨穂子「…どうもそれだけじゃないっぽいから、困ったさんかな?」
純一「どういうこと?」
梨穂子「……。さっきも言ったけどね、橘くんのこと…私は憶えてない」
純一「っ…う、うん」
梨穂子「それなのに、私はあなたを悲しませたくないって…思った」
梨穂子「それからわたしはあなたに冷たくしようって思った、
記憶が無いことは悪いこと、ダメなこと、それを知られるぐらいなら…冷たくしようと」
梨穂子「それなら罪は無いって、
純一を巻き込んでしまうような……思い出を巻き込んでしまうようなものは無いって…」
梨穂子「今の記憶の無い私は、そう思ってしまったんだよねー…」
純一「……思い出が良ければ、今はいいって言いたいのか?」
梨穂子「うんっ…そうだよ?」
梨穂子「だって、そうじゃない? 橘君だって、私のこと……遠い存在だって思ってるでしょう?」
梨穂子「ううん、思ってるはずだよ。橘くんは…ううん、橘君だけじゃない…香苗ちゃんも他の人たちも…」
梨穂子「全員、私のことをとおいとおーい存在だって…そう思ってるはずだよ」
純一「………」
梨穂子「だったら、それを期に……すべてぶったぎればいいかなぁー…なんて、思っちゃったりして」きぃーこ…
梨穂子「アイドルになった桜井梨穂子、学校に滅多に来ない桜井梨穂子、友達関係が疎遠になった桜井梨穂子…」きぃーこ…
梨穂子「それが今の〝桜井梨穂子〟であって〝桜井リホ〟なんだよって──」きぃこー
ぴょんっ!
梨穂子「…そう皆に分からせて、全てを断ち切ろうって思ってるんだよね」すとんっ
純一「そんなのっ…!」
梨穂子「…出来るわけ無い? あはは、それができるんですよ~」
梨穂子「遠い存在って、それだけで知ってる人を疎遠に出来る魔法の言葉だよ。
だからこそ、私はそれを望んで〝演じて〟周りと疎遠になって見せるの」
梨穂子「…だってもう、記憶が無いんだもん」
純一「っ…」
梨穂子「周りは昔の私を知ってる、だけど今の私は昔の自分を知らない」
梨穂子「それは…なによりも悲しい事だよ、周りの人たちにとってね」
梨穂子「だから~、周りには〝昔の桜井梨穂子〟をずっとずっと…記憶しててほしいんだ」
梨穂子「今の記憶の無い私に塗り替えることなく、良い子で元気な……桜井梨穂子を」
梨穂子「ずっとずっと…憶えてて、欲しいんだよ…橘くん」ニコ…
梨穂子「このまま上手く行けば、みんなを騙して…〝アイドルで変わってしまった私〟として理解してくれるはず」
梨穂子「……誰にも〝あの時の桜井梨穂子はもう居ない〟ってことを、バレずにね」
純一「…どうして、それを僕に言ったんだよ」
梨穂子「…うん?」
梨穂子「…うん、言ってないよ」
純一「じゃあ…どうして、僕にだけ言ったんだよ」
梨穂子「………」
純一「そうしたら僕はっ……お前のことを放っておけなくなるだろ…!」
梨穂子「…そっか、橘くんはそう言ってくれるんだね」
純一「っ…当たり前だろ!? 僕は、お前の幼馴染なんだぞ!?」がしゃんっ…
純一「それなのに、その幼馴染がっ…周りに嘘をついてまで!
記憶が無くて自分が一番つらいのに、それなのに周りにショックを受けてほしくないって…!」
純一「記憶が無くなったことを隠してまで、周りとの思い出を大切にするとかっ…馬鹿かよ!」
純一「しかもっ…しかもなんだよ! 隠し切るなら、アイドルになって変わったんだよって偽るつもり!?」
純一「ふざけるなよ梨穂子っ…! 僕は怒ってるぞ…!」
梨穂子「………」
純一「単純にっ…記憶が無いって、だからしょうがないんだよってっ…そうやって病気に甘えない所は凄いよ!」
純一「───だけど! そうやって嘘を吐かれた人たちの身にもなってみろよ!!」
純一「僕はそんなの絶対に許せない、梨穂子に対してじゃないっ…それを分かってあげらなかった…!」
純一「───自分に対して、ずっとずっと悔やみ続けるはずだから!!」
梨穂子「……そうだね」
純一「梨穂子っ……聞かせろ、どうか僕に聞かせてくれ!」
梨穂子「うん、なあに? 橘くん?」
純一「どうして僕にその話を聞かせた! どうして僕にそうやって秘密事を話してくれたんだ!?」
梨穂子「……」
純一「お前がこの三週間、誰にも言うこと無くっ……それでずっと隠し通そうとしたその悩みを!」
純一「どうして幼馴染の僕に! 言ってくれたんだ!?」
梨穂子「……それは…」
梨穂子「それは……それは…」
梨穂子「…わからないけど、たぶんだけどね…」
梨穂子「…色々と、思いだせないのに…」
梨穂子「…ほとんどのことを、ぜんぜん憶え出せないのに…」
梨穂子「……だけど、だけど一つだけ……これだけは、言えるんだよ…」
梨穂子「…もしかしたら、言ってしまえばどうにかなるんじゃないかって…」
梨穂子「…この人だけには、言ってもいいって…顔も名前も…憶えてないはずなのに…」
梨穂子「…なのに、私は…今の桜井梨穂子は……ずっと言いたいことがあって…」
梨穂子「あなたの…顔を見たときから、ずっとずっと……この言葉だけを…」ぎゅうっ…
梨穂子「…………助けてよぉ、純一ぃ…っ」
梨穂子「いやだよぉっ…みんなにちゃんと、言いたいよぉっ…! これは違うんだよって、
香苗ちゃんや先輩たちにっ…ひっぐっ…言いたいよ純一っ…!」
梨穂子「仕事だからってぇっ…ひっぐ、秘密にしなきゃいけない事だからっ…!」
梨穂子「だけど、昔の私をっ……知ってくれてる人たちに、わるっ…く思われたくないよぉっ…!」
梨穂子「私はっ…アイドルだから、ひっぐえっぐっ…病気はっ…秘密にしなきゃダメだから…っ」
梨穂子「だからもうっ…アイドルとして頑張んないとっ…もう、ダメになっちゃいそうでっ…ぐすっ…」
梨穂子「顔も名前もっ…思い出も、全部全部……
憶えてないのにっ…周りの人の思い出なんて、これっぽっちも憶えてないのにっ…」
梨穂子「だけどっ…けほっこほっ…! 私はっ…どうしてもっ…忘れることが出来ないよっ…!」
梨穂子「───この人たちが、大切な人だっていうことを…! ずっとずっと…憶えてるから…っ」
梨穂子「私はっ……私はっ───」
純一「───良く言った、梨穂子」ぎゅう…
梨穂子「ひっくっ…ひっく…」
純一「十分だ、いいよ。それ以上は言わなくていい」
梨穂子「ぐすっ…すんすんっ…ごめ、ごめんねっ…私…」
純一「ああ、いいんだ」
梨穂子「なんにもわかってないのにっ…純一にた、頼って…ひっぐ…」
純一「大丈夫、僕がついてるから」
純一「ああ、そうだな」ぽんぽん
梨穂子「だけどっ…だけどっ…」
純一「平気だ、どうにかする」
梨穂子「どうにか、して……してくるのっ…?」
純一「当たり前だよっ……こんなに泣いて、頼みこんできてくれて…」
純一「…しかも、僕にだけには頼りたいって思ったんだろ?」
梨穂子「うっ…うん…ひっぐ…」
純一「…顔も名前も憶えてないのに、ただ、それだけは思っててくれた」
純一「───僕を頼れば、どうにかなるってことを」
梨穂子「すんすんっ……う、うんっ」
純一「だったらどうにかしてやる、その期待に! 全力で叶え切ってみせるぞ僕は!!」
純一「任せろ、梨穂子……お前の幼馴染は絶対に」
純一「今の梨穂子の期待を、裏切らない」
梨穂子「……」
純一「というわけで、連れてきました」
夕月「はえーよ、こっち頼るのよ」ぱしんっ
愛歌「時期早漏…ずずっ」
梨穂子「あはは…」
純一「だ、だってしょうがないじゃないですか…!
こんなこと知ってるの、二人だけなんですから!」
夕月「だとしてもおめえさん、りほっちは只一人、アンタに頼ったんだろ?」
純一「そ、そうですけど…」
夕月「じゃあアンタ一人でやんな。それがりほっちの願いなんだからさ」
純一「え、ええっ! 無責任ですよ! この茶道部!」
夕月「…おい。どうして文句を言うようなタイミングで茶道部の単語を使ったァ…? ええ、オイ?」
純一「いや深い意味は無いです本当ですすみませ──あー……」
梨穂子(一瞬で女装させられた……)
夕月「うっし、それでどうするんだい? 連れてきたってことは、それなりに考えちゃーいるんだろ?」
純一「えっ!? 一緒にやってくれるんですか!?」
夕月「半ば強引的にりほっちの話を聞かせたくせによ…良く言えるぜ、んなこと」
愛歌「腹黒優男」
純一「うぐっ……」
夕月「とりあえず、いーから考えること言いな」
純一「わ、わかりました……じゃあ梨穂子、いい?」
梨穂子「う、うん……ぶっ」ぷいっ
純一「…どうして笑うんだよ」
梨穂子「だ、だってぇっ…純一の恰好が、もう、ちょっと似合いすぎててっ…あはははっ」
純一「むー……夕月先輩!? これ脱いでも良いですか!?」
夕月「だめだー」
純一「僕が思うにですね───それはもう、記憶を取り戻せばいいって思うんですよ!」
夕月「だろうな」
愛歌「当たり前」
梨穂子「そ、そうだよね~」
純一「みんな話は途中だよ! …こほん、それでですね? じゃあどうすれば記憶を取り戻せるのか」
純一「…という話になってくるわけです!」
梨穂子「どうすれば…」
純一「まあ僕が思うに……色々と調べると、一番僕らに向いている治療法を発見しました」
愛歌「それは?」
純一「はい、それはこれです!」トン!
『ショック療法! 過去の自分を取り戻せ大作戦!』
夕月「…ボードまで用意して何やってるんだって思えば」
愛歌「至極簡単」
純一「現在、記憶を失っている梨穂子に…なにかしら過去を思い返させるほどの、ショックを与えればいいんです!」
夕月「殴ればいいのかよ?」
梨穂子「えっ…?」
純一「ち、違います! もう、夕月先輩はすぐにそんな暴力沙汰を起こす…ごはぁ!」ドタリ
夕月「チッ、胸に入れたパットで威力が削がれたか……おら、どういう意味だ橘ァ!」げしげしっ
純一「や、やめてっ、ずれちゃう! パッドがずれちゃいます!」
梨穂子「えーっと……」
愛歌「だが良い方法…だ」
梨穂子「愛歌先輩?」
愛歌「橘純一が言ったことは……一理ある」
梨穂子「ほ、ほー…」
愛歌「やってみる価値は…十分」
純一「で、ですよね! ではさっそくやってみようよ!」
愛歌「……」
梨穂子「わぁー…凄い、仕事でも着たこと無いよ~」
純一「──ザ・着物!」
純一「茶道部と言えば和服! そして着物!」
純一「梨穂子が過ごしてきたこの部活でのイメージ…それは大きく記憶に関して
関わり合いを持っているはずです! ですから着物着ることにより───」
純一「和と身体を調和させ、精神を洗礼させるんです! ほら、着物着ると気が引き締まるっていうじゃないですか!」フンスー
夕月「いや、確かにその通りだが…あんま着物なんて着た事ないぞ」
愛歌「創設祭、文化祭以来」
梨穂子「あはは…」
純一「…」じぃー
夕月「…んだよ、こっちずっと見つめて」
愛歌「試着要望?」
夕月&愛歌「……は?」
純一「ほら、夕月先輩は身体がスレンダーで…和服って意外と身体のラインが浮き彫りになるじゃないですか」
夕月「お、おうっ…?」
純一「だけど無駄が無く、鮮麗な身体は…とても着物が似合ってるなって、あはは」
夕月「…なんだい、照れるだろ…っ」
純一「それに愛歌先輩も!」
愛歌「っ……」ぴく
純一「やっぱり黒髪は着物にジャストですよね~、背中まで伸びてる傾れた髪先はとても色気を感じます!」
愛歌「…色気…」
純一「ええ! 日本人女性らしい、奥ゆかしくも気品あふれる雰囲気が…とても素晴らしいと思いますね」
梨穂子「……」ちょんちょん
純一「…ん? どうした梨穂子?」
梨穂子「そのー…えっと、ちらっちらっ」
純一「?」
梨穂子「……、はぁー…」ズーン…
純一「え? どうして急に落ち込むんだよ梨穂子…?」
夕月「ありゃ駄目だ」
愛歌「幸薄りほっち」
梨穂子「…多分だけどね、こういう時、私も褒めるべきだって思うよ…」
純一「えっ!?」
梨穂子「前の私も…たぶんだけど、そう思ってたはずだから…うん…」
純一「そ、そうなのか…?」
梨穂子「あはは…だって、そうでしょ?」
純一「う、うーん…でも、敢えて言葉にしないってのも良いかなって思ってたんだけど…」
梨穂子「え…? どういうこと?」
純一「……それじゃあ、言ってほしい?」
梨穂子「え、あ、うんっ…言ってほしい、かな?」
純一「──まず言わせてもらうとその首元に垂れた髪先、梨穂子の汗をかきやすい体質で
少し湿った髪先が肌に張り付き色気を出してると思う。そして首元から十六一重に
重なった由緒正しき着物羽織り方、気品もあふれかつ上品さも兼ねそろえた規律の
取れたものだってうかがえて、しかも着物と言うのは着る人を選ぶと言われている
ハードルの高い服でありながら先ほども述べた通り気品さかつ上品さも失われてお
らずさらに着物を着たことによって底上げを行われてるような気がしてくるから不
思議なもんだよね。あとそれと帯に巻かれた腰のライン。普通は着物が重なる部分
だから誰しもが分厚く楕円形になってしまう所梨穂子はきちんとそれを失くすよう
身体を押しこみ華麗に着こんでいる。一般的な着方ではないにしろ着物にたいする
思い入れと綺麗に着たいという感情をうかがえて素晴らしいって思う。あとそれに……」
梨穂子「っ~~~~~…ちょ、ちょっとまったー!」びしっ
純一「…なんだよ、まだ途中だぞ? 帯と首もとしか褒めてない、まだまだこれから袖口からと
指先の形のよさまで褒めて、それから───」
梨穂子「わ、わかったよ! ど、どれだーけ褒めたいのかってのはっ…! 十分わかったから…!」
純一「本当に? まだ十分の一も…」
梨穂子「お、お願いだから! ねっ? もう、その変にして……ください…お願いします…」ぼそぼそ…
梨穂子「う、うんっ……」
純梨穂子「っ……っ…」ぱたぱた…
梨穂子「…」ちらっ
純一「……」じっ
梨穂子「っ! ……~~~っ…えへへ」
純一「照れてるの?」
梨穂子「えっ! あ、いやー……えっと、その~……」
梨穂子「……かも、しれない、かな」
純一「あははー! なんだよ、梨穂子僕から褒められて照れるなんて───あれ?」
純一「どうして先輩たち…着物をもう一着手にしてるんですか…? ちょ、ちょっと!?」
純一「やめて、あ、いやっ! 着物はだめ! 恥ずかしいから! やだー………」
梨穂子「…すみません、今日はこの辺で」
純一「あ、送って行くよ梨穂子」
梨穂子「ううん、いいよ。だって着物脱ぐの大変でしょ?」
純一「まぁー…うん、ちょっと時間かかりそうかも…痛っ!?」
夕月「ほれ、余所見すんなよ」
純一「ううっ…今は仕方ないじゃないですかっ」
梨穂子「あはは、だからね。今日はこの辺でお別れしよ」
純一「わ、わかった…でも、すぐになにかあったら連絡しろよ?」
梨穂子「うんっ」
梨穂子「それじゃあ先輩たちもさようなら」ぺこ
夕月「おう、また明日も来るんだろ?」
愛歌「俄然準備態勢」
梨穂子「…はいっ! お願いしますっ!」
純一「っ…おう、またな梨穂子」
がらい…ぴしゃ
純一「………」
夕月「…あんたにしちゃ、頑張った方だよ橘」
純一「……あはは、そうですかね」
夕月「当たり前さ、大した度胸だよ。…なんだい、あんなに脚を震わせながら」
夕月「りほっちを褒めるなんて、くっく、見てるこっちが恥ずかしくなってくるよ」
純一「………」
夕月「だけど、今日は駄目だったみてーだな」
純一「…まだ時間はあります」
夕月「だからって悠長に構えてる暇なんてねえだろ? …うっし、取れた」
純一「……そうですね」
純一「なんですか?」
夕月「……あんたに言っておくことがひとつだけあるんだがよ」
純一「…?」
夕月「よっと…まあ、大したことじゃないよ。別に問題になるようなことじゃない」
夕月「だけど、あんたをちょっとだけ困らせることになるかもしれないけど、聞くかい?」
純一「…ええ、聞きます」
夕月「良い度胸だ、そっちの部屋で着替えたら居間に来な」
夕月「……多分だが、りほっちの問題を教えてやるからよ」
純一「梨穂子の、問題……───」
~~~~~
夕月「───あの子は、精神的なモンで記憶を失ってるって言ったよな」
純一「ええ、まあ」
夕月「それは仕事をする若い女性に発症する場合が多いと、こうも言ったよな」
夕月「…だけど、それは本当に仕事だけかって思わねえか?」
純一「どういう意味ですか?」
夕月「あの子自身に、何かあったとは思わねえかって話だ」
純一「梨穂子、自身に…?」
夕月「おう、仕事つーのもあの子が悩む大した程の原因だ。
だけどよ、それはあまりにも……早すぎやしねえかと思う」
純一「……ストレスを感じるのには、時期が短いと?」
夕月「そういことだ、アイツはアイドルになって…まだ二カ月ちょい」
夕月「だからといって売れてないわけでもなく、御笑いにアイドル、しかもドラマまでに出演が決まっちまってる」
純一「…何が言いたいんですか、ただ単にあいつの凄さが一般受けしただけじゃ…」
夕月「本当に、そう思うのかよ」
純一「………」
夕月「もう一度聞くぜ橘、本当にそう思ってるのかよ?」
夕月「あたしがいった仕事内容は、実際にちほっちから聞いたもんだ。嘘はねえと思う」
夕月「それを聞いた時は嬉しかったさ、売れないよりはドンドン
テレビに出てファンが増えて、それからもっと有名になって」
夕月「アイドルとしての株がすっげーあがんの、こっちは楽しみにしてるつもりだ」
純一「じゃあ…楽しみに思い続ければいいじゃないですか」
夕月「…わかるだろ、あたしが言いたいこと」
純一「っ……なんですか! 一体何を言いたいんです! 僕にっ…!」
夕月「………」
純一「そんなのっ! 僕に言ってどうするんですか…っ!?」
夕月「…あんただから、これは言うんだ。そして、これも言わせてもらう」
夕月「──りほっちは、可能性として枕」
バンッッ!!!!!
夕月「っ……」
純一「───いい加減にしろッ…言ってもいいことと、悪いことがあるぞッ…!」
純一「…ダメだ」
夕月「こっちもダメだ、いいから落ち着け」
純一「………。言わせてもらいますけど、先輩」
夕月「…なんだい、橘」
純一「今、この瞬間から…僕は貴女を尊敬する人から除外しました」
夕月「…気にしねーよ別に、それよりも尊敬されてた事にびっくりだぜ」
純一「ですけど、それはもう過去の話です」
純一「貴女は今、一番…人として言ってはダメな事を言った。
あの梨穂子に向かって、アイドルとして頑張る桜井リホに向かって」
純一「──この世で一番、最悪の言葉を言った!」
夕月「……」
純一「あいつの頑張りをっ…最低な言葉で、否定した!
記憶を失ってまで、そんな病気にかかるまで頑張る梨穂子を…!!」
夕月「…聞けよ、話はまだ終わってねえ」
純一「聞けるかよ!! アンタみたいな最悪な人間の言葉なんて!!」
純一「ッ……帰ります、ここにいたら先輩ッ…僕は手が出そうになる!」がたっ
夕月「待て!」
純一「イヤです! 帰ります!」
純一「…今日はお世話になりました、だけど、明日からは僕だけで頑張ります…ッ…」
純一「……今まで、ありがとうございました」
がらりっ……ピシャッ!!
夕月「橘っ!!」がらっ
たったったった…
夕月「………ったく、思いっきり炬燵殴りやがって…」ぴしゃっ
夕月「あーびびった……はぁーあ、なんつー立ち位置だよほんっと」ぽりぽり…
愛歌「るっこ」
夕月「…おう、なんだよ愛歌」
夕月「…ん、そうだな」
夕月「辛いかもしんねー…けどさ、やっぱり『現実』は変われねえんだ」
夕月「……世の中、絶対的に〝優しくて本当のことばかりじゃないんだぜ…〟」
夕月「…橘ぁよう」
~~~~~
「はぁっ! はぁっ!」たったったった!
「っ…そんなのっ! そんなの嘘だ! あり得るわけ無い!」
「梨穂子がっ……そんなこと! そんなことで仕事をしてるなんてっ…!」
「ありえるわけないよっ! 絶対にっ!」
~~~~~
「はぁっ……はぁっ……」
「梨穂子の、自宅……家に居るのか…?」すた…すたすた…
「梨穂子…に、聞かなくちゃ…ちゃんと…」
「っ……」さっ
(…梨穂子の家から誰か出てきた? 男? それに、梨穂子も一緒だ…)
「───」
「───」
がちゃ…パタン
(一緒に車の中に……)
(もしかしたら、近づいて中の様子を見れるかもしれない……)キョロキョロ
「…よし、少しだけ…少しだけなら、いいよな…」すた…
「……」すたすた…
(この距離なら、中の様子は見える───)
「…………え…」
(嘘だ……そんなの…)
(僕の見間違いだ…あり得るわけがない、だってそんなの…………)
「ッ……!」くるっ
たったったった…
~~~~~~
三日後・放課後
梅原「…すまん、今日も来てないぜ」
梨穂子「…そうなんだ」
梅原「おう、俺も連絡とってるんだけどよ…ちっとも出るつもりもないみてえでさ」
梨穂子「うんっ…ありがと、梅原君」
梨穂子「…うん?」
梅原「橘と、その……なにかあったのか?」
梨穂子「えっ? 別になんにもないよっ…?」
梅原「そっか、ならいいんだけどよ」
梅原「…アイツがこの期間で休むなんて、何かあるとしか思えないんだがな…」
梨穂子「……」
梅原「あ、すまん! 忘れてくれ!」
梨穂子「うん……ごめんね」
梅原「どうして桜井さんが謝るんだよ、関係無いんだろ?」
梨穂子「…そう、だと思うけど」
梅原「じゃー平気だ、大将だって直ぐによくなって戻ってくる!」
梅原「信じて待とうぜ、桜井さん!」
梨穂子「……」ぴんぽーん
「──はーい、今開けまーす」
「…あれ? りほちゃん?」
梨穂子「こんばんわ~美也ちゃん」
美也「ひっさしぶり~! わぁ! りほちゃんだー!」
梨穂子「うんっ、久しぶりだね。元気にしてた?」
美也「にっしし! いっつもみゃーは元気な子だよっ」
梨穂子「そっか、それは良かった~」
美也「えーと、今日は……もしかしてにぃにのお見舞い?」
梨穂子「…うん。たち…純一は今は大丈夫かな?」
美也「…えっとね、うーん……りほちゃんだから、正直に話すけどね…」
美也「最近、にぃに部屋から一歩も外に出てないんだよ。ご飯だって…ほとんど食べてないんだー…」
美也「…うん、みゃーもよくわからないんだけど…」
美也「…でも夜になるとね、隣の部屋から小さく独り言が聞こえるんだよ…」
梨穂子「ひ、独り言…?」
美也「何て言ってるのかまでは、わからないんだけど…途中で泣き声に変わったりして…」
美也「……だけど、にぃに。みゃーには何も言ってくれないし…」
梨穂子「………ねえ、美也ちゃん」
美也「…うん…?」
梨穂子「純一の部屋に行ってもいいかな」
美也「えっ…? も、もちろんいいケド…会ってくれないかもだよ?」
梨穂子「うん、それでも声をひとつかけてあげたいんだよ」
美也「…そっか、いいよ、にぃにの部屋はわかるよね?」
梨穂子「…ありがとう、美也ちゃん」
梨穂子「……」コンコン
「……美也か、晩御飯は要らないってお母さんに言っておいてくれ」
梨穂子「…違うよ、梨穂子だよ」
「……何しに来た」
梨穂子「何しに来たって……忘れちゃったの? その…」
「………」
梨穂子「…私の〝問題〟について、色々と考えてくれるって…コト」
「………」
梨穂子「………そっか、忘れちゃったか…えへへ」
梨穂子「うんっ…ごめんね、そしたら帰るからー……」
がちゃっ
梨穂子「っ……」
純一「……入ればいい」
梨穂子「あ、うんっ……ありがと」きぃ…
純一「……」
梨穂子「なに、これ…」
純一「…すまん、ちょっと散らかってる」
梨穂子「散らかってるって…これ、写真……だよね?」ひょい…
純一「触るなっ!!」
梨穂子「ひぅっ……!?」びくっ
純一「はぁっ…はぁっ…い、いやっ! すまん…急に大声を出して…」
梨穂子「う、うん…びっくりするよっ…そんな大声あげたら…」
純一「…ごめん、でも僕が片づけるから…梨穂子は触らないでくれ…」
梨穂子「…う、うん」
純一「……はぁ、それで…なにしに来たんだ。僕の所へ」
梨穂子「え……それは、さっきも言った通り…」
梨穂子「そ、そうだけド……でも、今の橘くんを見てたら…やれるような体調じゃない、よね」
純一「…やれるさ」
梨穂子「っ……で、でも。無理してまで…! 具合も悪そうだし、私の為にそこまで───」
純一「──僕はやっちゃいけないとでも言うのかよっ!?」
梨穂子「ひぁっ!?」
純一「はぁっ…はぁっ…んくっ…はぁっ…」
梨穂子「橘…くん?」
純一「っ……ホントのことぉっ…本当のことを言ってくれよ! 梨穂子っ…!」
梨穂子「え…」
純一「お前はぁ! 僕にどうしてほしいんだよぉっ! この僕にっ!」
純一「どうして欲しいのかっ……言ってくれよ、お願いだからっ…!」
梨穂子「どうして欲しいって……だから、私の記憶を…」
梨穂子「っ……」びくっ
純一「だけど、それは本当にお前の悩みか!? それが一番の悩みか!?」
純一「教えろよ僕に! この僕にちゃんとその口で教えろ梨穂子っ!?」
梨穂子「た、たちばなっ……」
すた…
純一「なぁっ…! お前は一体、どうして記憶を失ったんだ…!?
どうしてそこまでお前を追いつめたんだ!? 仕事か!? ストレスか!?」
すたすた…
純一「それが原因でお前は記憶を失ったのか!? それがホントに事実なのかよ!?」
ぐいっ!
梨穂子「きゃっ…!」
純一「──お前はもっと僕に隠してる事があるんじゃないのかよ! それを教えろ!」
純一「そうだよっ! お前はぁっ…僕に、僕に言わなくちゃいけないようなことがあるはずだろ!?」
梨穂子「………」
純一「例えそれが言いにくいことだったとしてもだよ! 僕はっ…ちゃんとお前の口から聞きたいんだよ!?」
梨穂子「………」
純一「っ……どうして言ってくれない!? お前はっ…僕に助けてほしかったんじゃないのかよ!? なぁっ!?」
美也「……にぃに!? なにやってるの!?」
純一「っ…美也は黙ってろ! 僕の部屋から出て行け!」
美也「っ…」びくっ
純一「なにしてる…早く、出て行けよ!」
美也「で、出て行かないよ…っ! りほちゃんが困ってるじゃん! にぃにやめなよ!」
純一「っ…くそ、くそくそ!」ばっ
梨穂子「……っ…」
純一「……梨穂子、頼む。お願いだから、これで最後にするから…聞かせてくれ」
純一「お前が一番助けてほしいことは、なんだよ……」
純一「……」
美也「……」
梨穂子「…それは、それは……」
梨穂子「………」
梨穂子「──〝記憶〟のことだけ、だよ?」
純一「───………」
純一「あははっ…そうか、そうかっ……あはは!」
美也「にぃに…?」
梨穂子「………」
純一「僕に頼ったことはっ…! 記憶のことだけか梨穂子! その失った原因じゃなくて! 記憶のことだけか!」
純一「これは傑作だよっ…本当に、僕はとんだピエロだっ…!」
梨穂子「…橘くん」
純一「…………」
純一「……なあ、梨穂子。三日前、夜に家の前で車が止まってたろ」
梨穂子「───っ……!?」
純一「…っは、どうした? 梨穂子、なんでそこまで驚くんだ?」
梨穂子「…み、見てたの…?」
純一「ああ、バッチリな……それに、お前と一緒に男の人が乗るのが見えた」
梨穂子「っ……」
純一「それでさー……僕、気になっちゃって車の中を見たんだよね」
純一「…そしたら? なにが見えたと思う?」
梨穂子「…やめてよ…」
純一「な、なんだよっ……あんなこと慣れてるんだろ!? そうやって仕事をやってきたんだろ!?」
純一「あんな風に男に抱き寄せられて…! それがお前がやってるアイドルの仕事なんだろ!?」
梨穂子「っ……!」
純一「それがっ…! お前のやってる辛くても楽しいアイドルの仕事なんだろ!?」
純一「はっ…なんだよそれ、それに、お前だって全然抵抗するような素振りもなかったし…」
純一「……なんなんだよ、お前は。僕に一体、何をさせたかったんだよ」
梨穂子「………」
純一「僕は……お前に頼ってもらえて、本当にうれしかった」
純一「記憶を失ってでも、梨穂子が僕に頼ろうって思っててくれたことが……」
純一「……本当にうれしかった」
純一「だけど! あれはなんだよ! あの男は!? あいつは!?」
純一「あれがお前の病気の原因じゃないのかよっ…! それを本当はどうにかして欲しいんじゃないのかよっ!?」
純一「なのにっ…! お前は、僕に記憶を取り戻すことしか望まない! どうして言ってくれない!?」
純一「僕じゃっ……ダメなのかよっ…! 梨穂子ぉ!」
純一「ふざけるなよっ…どうして結果的に治りもしないものを、僕が頑張らなくちゃいけないんだっ…!」
梨穂子「………」
純一「………」
純一「…そうか、お前は僕が梨穂子の為に奮闘する姿を…アイツと一緒に笑ってたんだな…?」
梨穂子「……」
純一「いつ記憶を戻すのだろうって! んなことしても無駄なのにって! 二人して僕のことを嘲笑ってたんだろ!?」
美也「っ……にぃに! やめて!」
純一「お前はそうやって人をからかって! 頑張る奴を笑ってたんだろ!?
そうだよなぁ…だって簡単に人のことを騙せるような、嘘つきだもんなっ!?」
美也「にぃにっ…!」
純一「何とか言えよ! 違うならちがうって! ハッキリ言えよ梨穂子っ!」
梨穂子「………」
梨穂子「……いって、どうするの」
梨穂子「そんなこと、橘くんに言ったとして…どうなるの」
純一「なん、だと…?」
梨穂子「だってそういうこと…だよ、これって」
純一「お前………本気で、そういってるのか…?」
梨穂子「うん、言ってる」
梨穂子「橘くん……あなたがいったこと、全部あってるよ?」
梨穂子「あえて原因のことも言わなかったのも、あなたが言って通りで正解だよ」
純一「…梨穂子」
梨穂子「それに、記憶のことしか言わなかったのも。あなたが言ってることで正解だし」
純一「…梨穂子っ…!」
梨穂子「最後に言った頑張る姿を……というのも、あなたがいってることが当たりだからね」
純一「──梨穂子ッ!」
梨穂子「…なあに? 橘くん?」
梨穂子「………」
純一「それはっ…もうっ! 俺の知らない、違う梨穂子だ!」
梨穂子「…そうだよ」
梨穂子「アイドルになったから変わった私じゃない」
梨穂子「──〝記憶を失った、違った梨穂子だもん〟」
純一「ぐっ……あっ……くッ…!」
純一「───あああああああああああああああ!!」
美也「っ……」びくっ
純一「っはぁ………ああ、梨穂子…そうだな」
梨穂子「……」
純一「お前は違うよ、もう……僕も疲れた」
純一「……出て行ってくれ、もう顔も見たくない」
純一「……」
梨穂子「…だけどね、こだけは言わせてほしいな」
梨穂子「…今まで、ありがとうございます」
純一「……帰れ、桜井」
梨穂子「……うん」
きぃ…ぱたん
純一「…………」
美也「に、にぃにっ…?」
純一「…美也、すまなかった。びっくりしたろ」
美也「みゃーのことはどうだっていいよ…! だけど、りほちゃんが…!」
純一「……いい、放っておけ。それに…もうあいつは僕とは関係ない」
ずっとずっと仲良しだった、にぃにとずっと……!」
純一「うるさいっ!」
美也「っ…あぅ…」
純一「っ……ごめん、今は僕…どうしようもないんだ…」
純一「ごめん…美也…そっとしておいてくれ…ごめん…本当に…」ぐっ…
美也「…………」
きぃ…ぱたん
純一「……………」
純一「……なんだよ、僕は…」
純一「僕は…アイツの為にっ……だから、アイドルになってもっ…!」
純一「ソエンになったとしてもっ…応援し続けようって…っ…」
純一「思ってたのにっ……さぁっ…!」
純一「どうしてっ……どうしてだよ!」
純一「ぐっ……ぐすっ…っはぁ……馬鹿野郎…」
純一「僕のばかやろうっ…」
~~~~~
それからのことを語るのは、それほどの物は残って無いと思う。
純一「………」
あれから何事もなく、予定の三週間は過ぎて行き。
純一「………」
そして学校中のだれもが惜しむ中、桜井リホはアイドルへと復帰を果たした。
純一「………」
桜井リホがどれだけの人たちを、これから魅了し続けて行くのかはわからない。
テレビの中で歌を歌い、声を発し、笑い声を上げ、泣かせるような演技をし。
彼女が発する全ての──アイドルとしての力は、決してくすんでる様には見えなかった。
果たして本当のことだったのだろうかと、ふと考えることがある。
しかしそれは、もう答えが無い。答え自体を、僕自身が捨てたのだから。
純一「……梅原」
それが良いことなのだと、自分自身に言い聞かせて。
何物にも代えられない、唯一無二の幸せなんだと信じて。
僕も彼女も、思い出としての〝二人〟を消し去ることに成功した。
純一「今日はもう帰る、先生には具合が悪くなったと言ってくれ」
はたしてそれが、世間一般的に不幸だと言われてしまったとしても。
僕はそうは思わない。互いに傷をつけあう優しさに、なにが幸福をもたらすだろうか
だったらいっそ、全てを捨ててしまって。なかったことにして。
純一「……ふぅ」
───全部のことを、忘れてしまった方がいいじゃないか。
純一「僕が…この名前を呼べるのは、写真に向かってだけだよな」
純一「もう誰にも、この名前を呼び掛けることなんて……出来はしない」
純一「出来やしないんじゃなくて、もう〝居ないんだ〟」
純一「…そう呼べる人が、テレビの中で歌っていたとしても」
純一「そいつはもう…僕の知っている桜井梨穂子じゃない」
純一「新しくて、かっこよくて、強くて、可愛くて…」
純一「歌が上手で、まあるくて、誰よりも誰よりも優しい……」
純一「……そんな桜井梨穂子なんだよ」
純一「僕の知っている、僕がそう呼べる〝桜井梨穂子〟はもう……」
純一「……居ないのだから」
ぱたん…
───ピチュン!
純一「な、なんだ……」
純一「急にテレビがついた…?」
『──えーこちらは、今、空港からの中継です』
『──今回、KBT108で人気爆発中の……』
『桜井リホさんに繋がってまーす!』
純一「………」
『こんにちわー! 大丈夫ですかー? お具合の方は?』
『──はい、大丈夫でーす! 世間の皆さんは、わたしが病気ー…とか思ってるみたいですけどぉ!』
『そんなことありませんよ~! えへへ、実はちょっと食べすぎでお腹を壊したぐらいかなぁ~って…』
『ドッ! わははははは!』
純一「……元気そうだな」すっ…
純一「…じゃあな、桜井リホ」かち…
『──それで、今回から海外での活動を主にされるようですが!』
純一「……」ぴた
『はーい! 実は極秘に社長が練っていたプランだったらしく~、見事選ばれちゃいました~!』
『それは凄い! 流石はリホちゃんですねぇ!』
『えへへー! がんばりまーす!』
純一「…海外?」
純一「なんだそれ、一体何を言ってるんだ…? 桜井リホは海外に行くって…」
ぷるるるるるるるる!
純一「っ…電話?」
『それですねぇ! 主に映画での活動をやっていこうかなーなんて───』
ぷるるるるるるるる!
純一「…気になるけど、電話が先か…」たたっ
~~~~
純一「…はい、もしもし。橘です」
『──たーちーばーなーくぅん?』
純一「ひぃいっ!? た、高橋先生!?」
『ええ、そうですよぉ……どうして自宅に電話をかけたら、平気そうな声で君がでるのかしらねぇ…?』
純一「そ、それはですねぇ! えーと、あははは!」
『もしや、と思ってかけてみれば! 先生、ズル休みは許しませんよ!』
純一「……す、すみません」
『もうっ! 今からでもいいです、戻ってきなさい! 先生が特別に便宜を払ってあげますから!』
『弱音を吐かないの! 具合悪くないことはお見通しですからね! …まったく、桜井さんを見習いなさい!』
純一「っ……そ、そうですね」
『そうですね、じゃあ…ありません! まったくもう、私は君にどうして彼女のことを相談したかわかってるのかしら…』
純一「え、それはっ…僕と…桜井が、幼馴染だからって知ってたからじゃあ」
『ええ、まあそれもあります。ですけど、根本的には私は彼女みたいな強い精神を持って参考にしてほしかったのよ?』
純一「……どういうことですか?」
『…忘れたの? 彼女のことは内密だからって、君が忘れることはないでしょう』
『───親御さんが大変な時期に、学校に来られたことにです!』
純一「……は?」
『……なんですかその返答は』
『なんですか、私…変なこと言ったかしら?』
純一「い、言いました! 言いましたよ!」
純一「梨穂子の親御さんが大変って…なんですかそれ!?」
『……え?』
純一「ちょ、ちょっと待ってください…え、それってあの生徒指導室で言った事ですよね?」
『え、ええ…そうですけど、先生そう言わなったかしら?』
『──病気で御記憶を失くされてるから、大変だって』
純一「あ……言ってましたけど、それ……梨穂子のことじゃあ…?」
『はぁ? それじゃあどうして学校に来てたんですか! ちょっとは考えなさい!』
純一「……………ですよね」
『意味が分からないこと言わないで、早く学校に───』
純一「………なんでだ、どうして僕、梨穂子だって勘違いをした…?」
純一(しかし先生は…それを親御さんの病気だと言ってる)
純一(──まずはそこ、どうして僕はそう思った?)
純一(っ…ダメだ、思いだせない…もしかして、色々と不安定のままに聞いたせいなのか…?)
純一(だから僕は、梨穂子の病気だと勘違いを………いやいや、それもおかしい!)
純一(だったらそんな僕の勘違いは、あの茶道部の人たちに訂正されたハズ………)
純一「………………茶道部?」
純一「──────…………嘘だろ、おい」
純一「はぁっ…はぁっ……!」
がらり!
純一「はぁっ…はぁっ…!」
「───ん、なんだい。珍しい奴が来たねえ」
「───黒幕登場」
純一「なんっ……ですか、それ…! なんかのnpcみたいな喋り方はっ…!」
夕月「なんとなくだよ」
愛歌「特に意味無し…ずずっ」
純一「はぁっ…ちょ、ちょっと…だけっ…待ってくださいっ…!」
純一「家から全速力でっ…走ってきたので、ちょっと…喋れなくてっ…!」
夕月「いいよ、待っててやっから。落ちついてから喋りな」
純一「っ…んく、やっぱりだめです! この状態で言いま、す…!」
純一「───あんた等、僕を騙してたな!!!」
愛歌「義理セーフ」
夕月「…そうかい? あたしゃもう手遅れだって思うけどねえ」
純一「ちょ、ちょっと!? どうしてそんな無反応気味なんですか!?」
夕月「ん? だって、いつかは気付くだろうって思ったしよ」
愛歌「勘違いから生まれるのは……ただの勘違い」
夕月「いやはや、アンタが神妙な顔で来て……病気病気、梨穂子が…」
夕月「なーんて言ってきたら、あはは、ちょっと騙したくなってきたってだけさ」
純一「ふぅー……はぁー……」
夕月「…お?」
純一「最低だ! アンタらは!!」
夕月「くっく、そうだよあたしらは最低さ」
純一「…聞かせてくれるんでしょうね、どうして騙したかを」
夕月「簡単な事さ、はっきりいうぜ?」
夕月「──桜井梨穂子は、記憶を失った事実は一切ない」
純一「っ……」
夕月「それが現実、そしてあんたの勘違いだ」
夕月「…最初の方は、アンタ何言ってるんだがわからなかったさ」
夕月「りほっちのことで、頭が混乱してるのかって思ってれば」
夕月「…面白い方に勘違いしてるしよ、はっは、参ったぜあんときは」
夕月「だから言わせたのさ、アンタに。どんな勘違いをしてるのか、直接的に言わせる為に」
夕月「憶えてるかい? ───りほっちの記憶を失ったと言ったのは、お前自身だぜ?」
夕月「……そしてあたしら二人は、その話に乗っかっただけ」
夕月「ただただ、それだけだよ」
純一「……どうして、そんなことをしたんですか」
夕月「意味なんて無いさ、その時の場のノリだよ」
純一「じゃあ、後はどうなんですか」
夕月「……後?」
純一「はい、その時が……先輩たちの乗りだったとして。その後の…」
純一「…僕の頑張りに対して、どうして口を出さなかったんですか」
夕月「………」
純一「教えてください」
夕月「…それは、まあよ、わかるだろ橘」
純一「……梨穂子、ですか」
夕月「…そうだよ、りほっちがやったことだ」
純一「っ……どうして、そんなことっ…!」
夕月「あたしらはアンタが帰った後に、すぐさまりほっちに伝えたんだ」
夕月「…アンタの考えたズル休みの理由が、なぜか、面白いように伝わっちまってるよってな」
純一「……」
夕月「だから変な事してきたら、面白いように扱ってやんなってさ。
だけど……りほっちは、全く浮かないような顔をしてやがった」
夕月「『…チャンスかもしれないです』って、最後に言ってな」
純一「チャンス…? なんですか、チャンスって…!」
夕月「さあな、だけどあたしら二人はそれから……りほっちの言う通りに、動いただけだよ」
夕月「アンタの頑張る姿を、知らぬ存ぜぬで突き通せってな」
純一「じゃあ、僕に言った…梨穂子を愚弄した話も…?」
愛歌「…我の発案也」
純一「っ…愛歌先輩が…?」
愛歌「りほっちの意図を汲んでのこと……」
愛歌「橘純一……りほっちは分かれることを望んでいた」
純一「わかれる、こと?」
愛歌「分かるだろう…それは、つまり」
ぴっ
愛歌「こういうことだ」
『さて、海外へ向かう飛行も…あと五時間を切りました!
これからは桜井リホさんのデビュー当時の映像を───』
純一「……海外?」
愛歌「……ずずっ」
夕月「そうだよ、橘…りほっちは学校に来た理由は親御さんの病気としてたけどよ」
夕月「本来は皆とお別れする為に、挨拶としてここに来てたんだ」
夕月「あたしらには、そう言っていた。だけど、本当にあたしらだけみたいだな」
夕月「職員室…今は大パニックらしいぜ? まあ、事情を知っていた先生も居るみたいだがよぉ」
純一「っ……なんで…梨穂子はっ…」
純一「どうしてっ! 僕には何も…! ただ、僕の勘違いに対してっ…! それしか言ってないかったのにっ…!」
純一「いままで記憶が無いふりを、僕の勘違いだって言うのにっ…それを演じ続けたって…こと?」
純一「なんでだよっ…! お前は一体何をしたかったんだ…!? 梨穂子…!」
夕月「………」
純一「じゃ、じゃあ……な、なんなんだよお前っ……あの時、僕に泣きながら言ってくれたことは…嘘かよ…?」
純一「記憶を取り戻したいと…顔をぐしゃぐしゃにして、泣いたお前は…あれは、演技だったとでも…?」
純一「記憶が無いからって…皆に嫌われたくないって、言ったのも全部……演技?」
純一「…はは、ははははっ……そ、そうか……全部全部、アイツの計算通りってわけか」
純一「じゃあ、最後に僕の部屋で言った事も……アイツにとって、望まれた答えってワケか…!」
夕月「…その話は知らねえけど、たぶん、コイツじゃねえか?」くいっ
『ワァーオ! 桜井リホー!』
『わっぷっ…社長さ~んっ! いきなりのハグはやめてくさ~いっ!』
純一「」
愛歌「とどめの一撃」
夕月「…馬鹿だねえ、ほんっと」
純一「……う、嘘だ……あはは…」
夕月「認めたくないようだから言ってやるけど、これは全部よ」
夕月「橘純一の勘違いで始まって、橘純一の勘違いで終わった話だよ」
純一「うっ……!」
愛歌「だがりほっちの作戦勝ち」
夕月「…だな、ここまで心の距離を離しちまったんだ、アイツの勝ちだね」
純一「……どうして、そんなにも嘘をついてまで、僕と別れたかったんだよ」
純一「僕は……ただ単純に、別れを告げられた方が、まだよかった」
純一「あのままじゃ僕は……お前を一生、遠い存在だって思い続けただろ…」
夕月「だから、それを望んでたんだろ?」
純一「……」
夕月「悲しませたくないから、あんたを、分かれっていうもので思わせたくないから……いいや、これは違うね」
夕月「──アンタが心に決めた覚悟を、打ち壊したくてやったことなんだよ」
純一「僕の覚悟を…」
夕月「だろうって思うぜ? ……知ってるよ、りほっちがアイドルになるって決まった時」
夕月「アンタ、ずっと傍で応援してやるって言ったんだって?」
純一「………」
夕月「その時のあんたは、ただ単に……頑張る幼馴染を応援したつもりだったかもしれないよ」
夕月「だけど、それは桜井梨穂子にとって重みになっちまったわけだ」
純一「……」
夕月「知らねえから、ずっと傍で応援してやるって言ったんだろうね」
純一「……どういうこと、ですか」
夕月「…本当にわからないのかい? あの子のアイドルになる理由が?」
純一「…はい」
夕月「そうかいっ…あーあ、あの子が諦めた理由ってのも分かった気がするぜっ…!」
純一「えっ…?」
夕月「テメーに振り向いて欲しかったからに決まってるだろうが!」
純一「っ……」
夕月「んなのによ、お前さんは何だって? 傍で応援してやる? 馬鹿言えよ、そんなことする暇があったのなら──」
夕月「──あいつの頑張りを認めてやって、もう頑張らなくていいよって伝えるべきだったんだよ!」
夕月「応援しやがんなよ! わかるだろ!? あの子が無茶して頑張ってたこと! わかってただろテメーはよ!」
夕月「ハァ!? んだとこら!?」
純一「だってそうじゃないかっ…! 僕の…僕に振り向いて欲しいからとか、そんなことっ…!」
純一「直接言われなきゃわかることも分からないだろ!?」
夕月「あーそうかいッ! じゃあ言わせてもらうがよ、橘ァ!」
夕月「テメーは何時も、りほっちに何て言ってた? ああん? 言ってみろ!」
純一「ぐっ…何時もっ…?」
愛歌「……幼馴染に言葉は要らない」
純一「───あっ……」
夕月「ッ……優しくすんじゃねえよ、愛歌ッ…!」
愛歌「…それぐらいにしておけ」
純一「………………」
夕月「……ケッ」ぱっ…
夕月「…わかったかよ、これが現実だ」
純一「…………………」
夕月「もう一度言う、お前は……一つの勘違いを起こした」
夕月「それはちょっとした勘違いで、すぐにでも治せる問題だった」
夕月「だけど、その勘違いを使用たいと願った奴が居た」
夕月「その願った奴は、お前の事をすげー大事に思ってた」
夕月「だけど、大切に思うがゆえに…綺麗に気持ちを終わらせる為に…その勘違いを使って」
夕月「分かれる原因として、使ったんだよ」
純一「………………」
夕月「わかったこの朴念仁っ!」
純一「………だけど」
夕月「…あ?」
純一「………だけど、梨穂子は泣いてた」
純一「……そう、アイツは確かに泣いてた」
愛歌「……記憶の事に関してか」
純一「そう、だよ……どうして泣いたんだ…あそこまで…フリだったとしても…」
純一「全てが僕と別れる為に、全部が全部梨穂子の演技だったとしても…」
純一「あの場面で、泣く必要なんてなかった……要らない演出を増やしただけじゃないか…」
純一「どうして、泣いたんだ? どうして、僕に記憶の事に対して……取り戻したいって、泣いたんだ?」
純一「そんなの、全く余計だろ…?」
『…………助けてよぉ、純一ぃ…っ』
夕月「あ? 何言ってるんだよ…?」
純一「あいつは、僕に対して……初めて、あの時…! 助けてと、言ったんだ…っ」
愛歌「…その時、りほっちの表情は」
純一「っ…泣いてた、ずっとずっと記憶してきたどんな梨穂子よりも…っ!」
純一「ぐしゃぐしゃにっ……泣いてたんだっ…!」
愛歌「……そうか」すっ
夕月「な、なんだ愛歌…?」
愛歌「橘純一」
純一「え…? なんですか…?」
愛歌「──これを見るがいい」バサバサバサ!
純一「…なんですか、これ」
愛歌「りほっちの取材記事だ、ドラマの」
純一「……」
愛歌「読んでみるがいい」
愛歌「……」
夕月「…おい、愛歌?」
愛歌「黙ってみとけるっこ」
夕月「ど、どういうことだよ?」
愛歌「すぐにわかる……ふふっ」
純一「……」
愛歌「そこだ」
純一「ここ…ですか?」
愛歌「口に出して読んでみろ」
純一「は、はい……」
純一「『では、ドラマの演出で一番苦手なことは何ですか?』」
純一「『はい、一番と言いますか、何事も初めてなので全てが上手くできずに悪戦奮闘してます…ですが』」
純一「『───なによりも、泣く演技が……一番の苦手です』」
純一「…………………」
愛歌「…理解しろ橘純一」
愛歌「己の瞳に移させたその誰よりも…悲哀の籠った表情の彼女は」
愛歌「──嘘ではない、心して立ち向かえ」
純一「…………」
純一「………」
純一「……っ……!」ばっ!
夕月「わぁ!? な、なんだよ急に立ち上がって!?」
純一「……行ってきます」
夕月「は?」
純一「──梨穂子の所へ、行ってきます!」だっ!
夕月「……」ぽかーん
愛歌「ふ・ふ・ふ」ふりふり
愛歌「るっこもツンデレ」
夕月「あぁんっ? なんだよ、どういう意味だよッ」
愛歌「橘純一が……ここまで努力する理由は」
愛歌「──るっこが橘純一にかけた言葉のお陰」
夕月「っ……テメー、あの今朝のコト見てたのかよっ…!」
愛歌「──そのまんまの意味だよ、あの子をいつまでも信用するんだ。
どんなに冷たい事を言われても、どんなに暴言を吐かれて拒絶されたとしても、だ」
愛歌「お前さんはそれを耐え抜いて、耐え抜いて、ずっとずっとりほっちのことを───」
夕月「だぁああああああああああああああ!!! 一字一句憶えてるんじゃねえよ!」
愛歌「ふ・ふ・ふ」
夕月「はぁっ! クソッ! つぅーかよ、あの馬鹿はどうするつもりなんだ?」
愛歌「難解」
夕月「…ったく、世話を書かせる奴だぜ、ほんっと……」
prrrrrr
夕月「……ういっす、夕月瑠璃子だ。わかるだろ? おう、ちょっと頼みたいことがあるんだけどよ───」
純一「はぁっ…! はぁっ…! んくっ……はぁっ……はぁっ…」
純一「はぁっ……はぁっ……はぁ………」
純一「──だ、ダメだっ……駅まで、全速力で走れるっ……体力が無いっ…!」
純一「はぁっ……ハァ……はぁ……」
純一「んくっ……ダメだ、純一! 諦めるな…っ!」ぎりっ
純一「なんとしても───絶対に、梨穂子が行く前にっ…!」
純一「ちゃんと、あの言葉をっ…! 言わなくちゃっ………はぁっ! はぁっ!」たったった…
純一「くそ、動けよ僕の足! いいんだっ…これから先、もう動けなくなったって…!」
純一「絶対に伝えるまでっ…! 動き続けろっ…!」
「───よう、大将。かっこいいところすまねえけどよ」
純一「え……?」
梅原「言っちゃ悪いが、自転車の方が断然…早いぜ?」ちりんちりーん
梅原「おうよ、ちっと出前中だぜ」
純一「で、出前中ってっ……お前学校はっ!?」
梅原「ああん? サボったにきまってるだろーが!」
純一「……なんで?」
梅原「おいおい、言わせるなよ大将?
……お前さんの様子がおかしかったから、後で麻耶ちゃん先生に聞いておいたんだよ」
梅原「そしたらなんだ、電話つながったまんまどっか消えやがったと言いやがるもんで」
梅原「──はは! それならオメー! 絶対になにかやらかすと思うだろうがよ! こっちも!」
純一「か、カンが良すぎるよ梅原…!」
梅原「ばーろう! どれだけお前と……長年つきそったと思ってるんだ大将ぉ!」
純一「っ……うん!」
梅原「つぅーこって、後ろに乗ってくれ! 駅まで俺が送ってやる!」
純一「で、でも梅原…? 出前は…?」
梅原「おっとと、落ちを言っちゃ困るぜ橘?」
梅原「───大将の想いを届ける出前だって、ことはよぉ!」ぐぉ!
梅原「はぁっ……はぁっ…! い、いけっ…! 大将っ…!」
純一「ありがとうっ…! 梅原っ…この恩はどんなお宝本だって返しきること出来ない…っ」
梅原「ば、ばかっ……いってるんじゃ…ねえよ、こら……!」ぐいっ
純一「うわぁっ…?」
梅原「約束しただろーが……俺はちゃんと見てるぜっ…テレビでよっ…」
梅原「───お前が咲かせる、彼女の満点の笑顔ってやつよぉっ…!」
純一「っ……おう、見とけ梅原!」ぐっ
梅原「ああっ…行って来い! 俺はもう…ダメだ!」とん…
梅原「きばって、いっちょやってこい大将っ!」
純一「…うんっ……!」たたっ
~~~~
ホーム
純一「はぁっ…はぁっ…」
純一「電車はっ……十五分で着く!? そんなっ…!? 一本先の奴に乗りたかったのに…!」
「──こっちだ、ストーカー」
純一「っ…え? この声は……?」
隊長「……こっちだ、早く来い」
純一「守り隊の隊長さん!」
隊長「そ、そう呼ぶな! 恥ずかしいだろ!」
純一「え、すみません……でも、どうしてここに?」
隊長「……兄貴がお呼びだ」
純一「兄貴?」
隊長「はやく外に出ろ! そうしないとっ───あふんっ!」
純一「っ!?」
「──ノウノウ、十五秒で連れてくるように言ったじゃあーりませんか!」
純一「こ、この声はっ…!」
マイケル「イェース! ユーの愛しいギャラガーデース!!!」
マイケル「ノンノン…タチバナ! ギャラガー……オーケー?」
純一「マイケルさん!」
マイケル「ノーウ! そんな冷たいユーも……中々デリシャース…」
純一「顔が近いですっ……」
「あ、兄貴! 急いでください!」
「そろそろやってきますよ!」
「やばいですって!」
マイケル「オーゥ…シット! もうちょっとでタチバナを落とせるかとおもいましたのにー」
純一(何言ってるんだこの人…)
隊長「…は、話はっ……あの人から聞いてるっ…!」
純一「隊長さん! ……え、話って?」
隊長「……茶道部の、部長だ」
純一「えっ!? 夕月先輩から…!?」
隊長「実はだな……私が『桜井リホ守り隊』に隊長へと就任できたのはっ…」
隊長「あの人のっ…おかげなのだ…」
純一「えー! ……あの人に借りを作るとか…大丈夫なんですか…?」
隊長「だから! 今はこんなめにっ…ひぅん!」
マイケル「オー、間違ってダイアルを全開にしてシマイマシター! HAHAHAHAHAHA!」
純一(わ、わかった…多分この人、マイケルさん……夕月先輩とつながりがある! 勘でわかる!)
マイケル「それでぇー……急にお店に電話が来たときはビックリしましたがー!」
マイケル「……タチバナ、ユーはなにをしてほしいですカー?」
純一「え…?」
マイケル「ウッフッフッフ…いいんですよー? 正直に言って…ミーはタチバナのこと大好きデース!」
マイケル「どんなことだって、叶えて見せマース!」
純一「っ……本当に、ですか…?」
マイケル(get!)
マイケル「ハーイ! なんだってしてますよー! カモンカモン!」
マイケル「…ンー?」
純一「僕の大事な人が……いや、手の元から逃げてしまった人を……」
純一「取り戻しに、行きたいんです…!」
マイケル「……」
純一「あの子は誰にも真実を…キチンと明かさずに、誰に対しても演技を行って…」
純一「最後の最後までっ……皆を騙し続けました!」
純一「だけど! 僕はそれをどうにかしに行くつもりです!」
純一「──お願いします、ギャラガーさんっ! どうか僕を助けてください!」
「────オーケー……ンッフッフ、ワーオ! 本当に素晴らし……グレイト、グレェーーーーート!!」
パァンッ!
ギャラガー「タチバナァ! 後はミーに任せないサーイ!」
純一「ほ、本当ですか……っ!?」
ギャラガー「イェス! ……そこのユーたち、アレの準備カモン!」
純一「………」
ギャラガー「ンンンンンンー……クレイジー!何時に無くこのバイクの音はモンスターデース!」
純一「あの……ギャラガー…さん?」
ギャラガー「ハーイ?」
純一「その、免許……持ってます?」
ギャラガー「ハイ! モッテマスヨー!」
純一「………」
「あ、兄貴!? 単車のハンドルは両手で持ってくださいね!?」
「ち、違います! それアクセルですから! ぶっとびますよこの機体だと!?」
「マジで軽く空も飛べそうになるやつだから、危険ですからね!?」
ギャラガー「オーケーオーケー!」
純一「………」がくがく…
隊長「…おい、ストーカー」
純一「な、なんですか…?」
純一「え、ええっ……そうです!」
隊長「…そうか、そしたら私も見れるのか」
純一「え…?」
隊長「……いや、なんでもない」くるっ
隊長「さっさと行け、顔も見たくない」
純一「……見せますよ、ちゃんと!」
純一「待っててください! テレビの前で!」
ギャラガー「それではぁー? ウッフッフ…モンスターは実は他人のもなのデース」
純一「……へ?」
ギャラガー「ちょいと借りてキマシター! オーケー! シンパイムヨウ!」
ギャラガー「──It is only me that can ride very well…」
ブオオオオオオオオオオオオオオオオン!
純一「ぎゃ、ギャラガーさんっ…!」
ギャラガー「…行きなさい、タチバナぁ…ぐふっ」
純一「で、でも…! 飛行場はもう目の前ですよ!?」
ギャラガー「ウッフッフ…ミーには少しばかり、遠いようデース…」
純一「だけどっ…こんな所で倒れてたらっ…!」
純一「運転酔いして、倒れてたら…! 誰かに引かれちゃいますって…!」
ギャラガー「……タチバナ」
純一「え…?」
ギャラガー「ミーは…本当に、タチバナのことを尊敬シテマース…」
純一「なんですか、急に…」
ギャラガー「ウッフッフ…最後に言いコト言いたいんですよ、ミーも…」
純一「…じゃあ、なんですか? 言いたいことって?」
ギャラガー「タチバナ…手を繋ぐことから始めましょ──がふっ」コトリ
純一「と、とりあえずっ…端の方に寄せてっ…」ずりずり…
純一「あのバイクは……誰も動かせることなんてできないだろうなぁ…」
純一「本当にありがとうございます、貴方がいなければ僕は…絶対に間に合わなかった……」
純一「──よし、ゴールは目の前だ! 行くぞ!」たっ
~~~~~
梨穂子「……」
『それではー? そろそろ桜井リホちゃんが搭乗されるようです!』
梨穂子「……」
『リホちゃーん? 最後に一つ、なにか言い残すことはあるかな?』
梨穂子「…え、あ、はいっ! 頑張って海外でもやって行きたいと思います!」
『んー、言い言葉だね! だけどもっと言ってもいいんだよ?』
梨穂子「あっ…はい! えっとー…その……」
アナ(なんだっよこのニュース……マジでこれで視聴率取れるとか思ってんの?)
アナ(つぅか、ただのアイドルが飛行機乗るだけで、どんだけ時間使ってるのかつぅーの…)
梨穂子「えーとですね…」
アナ(あーあ、つまんないの。これならもっと刺激的な報道アナになるべきだったかなー)
梨穂子「…その、一つだけ言いたいことがありますっ」
アナ『あ、うんっ! なにかなー?』
梨穂子「それは……その、もしかしたらテレビを見てくれてる人の中に…」
梨穂子「───私が、ずっとずっと大切にしときたい…人たちが居ると思います」
~~~~~~~
夕月「……」
愛歌「……」
~~~~~~~
『こんな私をずっと見守っててくれた人たちで───』
ユウジ「………」
~~~~~~~
『…こんな私を、守り続けた人たちも───』
隊長「………」
~~~~~~~
『みんながみんな、見てくれると思って……この言葉を送らせていただきます』
『───ありがとう、わたしはとっても幸せでしたっ…!』
『わたしのために努力を惜しまなかった人に』
『……私は、本当の感謝を送りたいです』
梨穂子「───ありがとう、そしてごめんね……っ」
アナ『…リホちゃん? それってつまり…?』
梨穂子「ぐすっ……あはは、ちょっと大げさすぎたかな~? 辺に勘ぐっちゃだめですよっ?」
アナ『そ、そうよねー!』
梨穂子「えへへ、それじゃあ! 桜井リホ! 行きます!」
アナ『……今! あの人気をはくしたKBT108の桜井リホが! 搭乗口へと向かっていきます!』
梨穂子「………」すたすた…
アナ『搭乗口の前には、駆け付けたファンが波のように押し寄せております! 凄いですね!』
梨穂子「……ごめんね、純一…許してなんて言えないけれど…」
梨穂子「……それでも、私はあなたのことをずっとずっと…」
がしっ!
梨穂子「──え…?」
梨穂子(誰かに腕をつかまれ、ファンの人…?)
ざわざわ…
アナ『…おや? なにやら搭乗口で少しトラブルの様ですよ!?』パアアアア!
梨穂子「あ、あのっ…ごめんなさい! 離してもらってもいいです───」
「はぁっ…はぁっ…!」
梨穂子「───か……」
梨穂子「…………なんで此処に居るの…?」
「…なんで、って? おいおい、そんなことっ……!」
純一「お前を止めに来たに……決まってるだろ!!」
純一「………」
アナ『────おっとおおおおおおおおおおお!これはなんだぁ!一体ぜんたい何が起こってやがるのかァー!?』
梨穂子「っ…いや! これは違うんですっ! えっと、その…!」ばっ!
純一「…梨穂子」ぐいっ
梨穂子「そんな疑ってるような、ふぇ…」とすんっ
ぎゅうっ…
純一「…ダメだ、絶対に逃がさない」
梨穂子「……えっ?」
アナ『うわぁああああああああああ!!! 抱き寄せたァ!
強引に引き寄せて、後ろから抱きよせたァ!なにこれめっちゃ興奮する!』
梨穂子「っ~~~~…!? じゅ、純一っ!? わ、わかってるの!? こ、これ全国ネットでッ…!」
梨穂子「か、関係無いって…っ! そんな、こと…!」
純一「──関係無いっていってるだろ!」
梨穂子「っ……」
アナ『っ……ゴクリ…』
純一「僕はもう絶対に梨穂子を離さない! お前が何度、僕を突き離そうとしてもっ…!」
純一「もう梨穂子からは絶対に逃げないから!」
梨穂子「じゅん、いち…」
アナ『男の人……』
梨穂子「っ……でも、だめだよっ…まだ間に合うから! なんとか説明して、純一は無事に日常に戻って…!」
純一「………」
梨穂子「…純一?」
~~~~~~~~
教員「…あれ、高橋先生のクラスの子ですよね」
高橋「…シリマセン」
梅原「ははっ…おいおい、なにもったいぶってんだよ」
梅原「──早く言っちまえ大将!」
~~~~~
「お、おいっ…! あれって橘じゃね!?」
「おい、みんな! 教室のテレビつけてみろ!」
ユウジ「…頼むぞ、橘っ…!」
~~~~~~
隊長「……早く言え」
隊長「そして見せてくれ、俺が心から欲したモノを」
~~~~~~
「兄貴ー!」
ギャラガー「シッ! ラジオの音が聞こえないでショーウ!」
~~~~~~
愛歌「信じろ、己の意志の強さ」
夕月「…ぶつけちまえ、橘!」
純一「──梨穂子、言わせてほしい」
梨穂子「っ……?」
純一「お前は言ってくれたな──ホントの自分を分かってほしいと」
純一「あれはお前の演技じゃ無く、ホントの…気持ちだと僕は受け取ってる」
純一「違うのか、梨穂子?」
梨穂子「…違うよ、そんなこと」
純一「…ああ、そう言うと思った」
純一「だけど、僕はそうは思わない」
梨穂子「…なんで、そう言えるの…」
純一「だって梨穂子……さっきからずっと…泣いてるだろ?」
梨穂子「うっ……くっ…だから、何だって言うの…」
純一「じゃあ、それは嘘だ。僕にはわかる、まあ受けおりだけどね」
純一「…なあ、梨穂子言わせてくれ」
純一「───この世で一番、お前が大好きだ」
『──この手をずっと離したくないって望んでしまうほどに』
『──ひとつひとつ零れおちるその涙も独占したいぐらいに』
『──お前の全てを僕の物にしたい、全部を僕色に染めてやりたい』
『──アイドルだからって、凄い奴だからって、そんな肩書はいらないよ』
『──僕はただただ、梨穂子が傍に居るだけで十分なんだ』
純一「……だから、梨穂子」
梨穂子「……」
純一「僕からずっと離れないでくれ」
純一「一生、傍にいてやるから……もう、あんなことは絶対に…しないでくれ…」ぎゅうっ…
梨穂子「…純一…」
アナ(うわぁ…すっげ聞いててハズいwwww)
梨穂子「……純一、あのね」
純一「…うん、なんだ?」
梨穂子「…えへへ、ありがと~」ぎゅっ
純一「…おう、こっちこそ」
梨穂子「頑張ったんだよ、わたし…わかってるよね」
純一「…うん」
梨穂子「あなたと別れる為に…色々、がんばったんだよ」
純一「…うん、わかるよ梨穂子、本当にすまなかった」
梨穂子「…だけど、純一は…あはは」
梨穂子「ここまでのこと…しちゃうんだね、敵わないですよ、ほんっと」
純一「…だろ、いつだって僕は凄い奴だ」
梨穂子「うんっ! …だからね、純一」
純一「…なんだ梨穂子」
梨穂子「………本格的に犯罪者として捕まる前に、色々と手段を打つよ!」
梨穂子「──……」くるっ…
梨穂子「純一っ! ありがとうっ…! 本当に、そんな事を言ってくれて……!」
純一「……」
梨穂子「ひっぐ……ぐすっ…」
アナ『…おやおや、何やら発展があるようですよー! 視聴者の皆さん! とくとご覧あれ!』
純一「…梨穂子、お願いだよ」
梨穂子「……ううん、確かに…貴方の言ってくれたことは、本当にうれしい」
梨穂子「──だけど、私は……もうアイドルなんだよ?」
純一「っ……だけど! それは…!」
梨穂子「……ごめんなさい、私は…もう貴方とは…立場が違うの…」すっ…
純一「っ…梨穂子! 行くなよ! 僕はっ…!」
梨穂子「………」
純一「僕はお前のことが好きなんだよ…!」
純一「……お願いだ、梨穂子、こっちを向いてくれ」
梨穂子「…………」
純一「…梨穂子!」
梨穂子「……」
くる…
純一「っ…梨穂子…!」
梨穂子「……」ボロボロボロ…
純一「───お前……」
梨穂子「うんっ…! 私も大好きだよっ……!」たたっ
ぎゅっ…!
梨穂子「大好きで大好きで、仕方なくてっ…!」
梨穂子「───純一のこと、心から愛してるからっ…!」
梨穂子「……」
ぱち…ぱちぱち…
「リホーコ……パーフェクト! パーーーーーフェクト!」パチパチ!
梨穂子「……えへへ、やっぱりそうでしたか?」
社長「ワンダフォー! ユーは本物の女優だ! 素晴らしい演技だった!」
梨穂子「社長さんなら分かってくれると…わぷっ!」
社長「ンーンー! 将来はパーフェクトな女優になるはずダ!」
社長「…それにィ、ユー!!」
純一「は、はいっ…! えっと、その僕は…わぷっ!」
社長「ンッフン! ユーも最高の演技だっタ! 男優として働かないカ?」
純一「い、いやそれはっ…すみません…!」
アナ『あのー……社長…?』
社長「ん、なんだね?」
アナ『これは…どういうことでしょうか?』
社長「おやおや…わかりませんでシタか? アターシは桜井リホを海外で…」
社長「…立派な女優にすることを、計画してマシタ!」
社長「しかも極秘デ、誰にも報告セズ、社員の殆んどが知らない計画デス!」
社長「…そんな大事なプロジェクトの門出が、こんなお別れ会みたいなハズないでショー!」
マナ『それは……つまり?』
社長「サプラーイズ……イベントですが?」
アナ『なっ……なっなっななななんとぉ! そういうことだったんですねぇ!』
アナ『つまりあの二人の告白はっ…海外での桜井リホの女優活動としての……アピールだったと!?』
社長「………」すたすた…
社長「───ソウイウコトデーーーーーーーーーーーース!!」
純一「あはは…凄い拍手だ…」
梨穂子「…何とかなって、よかったよ~」
純一「う、うん…とりあえず梨穂子の乗りに乗って見せたんだけど…案外出来るもんだな」
梨穂子「そうだね~……というか、あの告白は嘘だったとでもいうの?」
純一「ち、違うって! 結果的にそうなっちゃってるだけで!」
梨穂子「…ほんとにぃ?」じっ
純一「ホントホント!」
梨穂子「…まあいいよ、信用してあげる。それよりもホラ、そろそろ来るよ」
純一「え? なにが?」
梨穂子「あはは、頑張ってねぇ純一~」ふりふり
純一「だから、なにがだよ梨穂───」
アナ『そこの男優の方! ご質問があります!』
アナ『…実際の所、桜井リホとはどんなご関係で?』
純一「ええっ!? そ、それはっ…」
梨穂子「…くす」
社長「…梨穂子」
梨穂子「あ、社長……今回は、本当に…」
社長「良い。私は逆に感動して居るよ、あの危機的状況を乗り切った…その君の度胸にね」
梨穂子「…ごめんなさい、迷惑をおかけしました」
社長「良いと言ってるだろう、私は若い人間が起こす奇跡をまた…見れただけで満足だ」
社長「だからこそ、この仕事はやめられない」
社長「…彼は君の彼氏かね?」
梨穂子「………」
純一「同じクラスメイトでっ…その、色々とみんなでやろうって話になって…!」
アナ(ぜってー嘘だろ! 化けの皮剥いでやるぜ! おらおら!)
社長「…ふむ、良い関係の様だ」
社長「梨穂子、そろそろ飛行機が飛ぶ時間だ」
梨穂子「………」
社長「私は確かに若い人間が起こす奇跡が、なによりも大好きだ」
社長「…だが、これは一社を動かした極秘プロジェクト」
社長「社員である桜井リホには、働いて貰わなければならない」
梨穂子「……はい、わかってます」
社長「……そうか、ならいい」
梨穂子「………」
社長「……だが、数十分だけ時間を延ばしてやらなくもない」
梨穂子「えっ…?」
社長「それに、周りの野次馬どもも退かしてやろう」
社長「…お礼だ、そしてこれからも私に夢を見せ続けてくれ」
社長「桜井リホ──……」くるっ
梨穂子「…ありがとう、ございます…っ」ぺこっ
社長「…」
社長「ハァーイ! そこら辺にさせて置いてクダサイ! 彼も可哀そうです!」
純一「ぼ、僕はっ…あんまんがすきでっ…へっ?」
アナ『っち…そ、そうですか! それではさっそく桜井リホの出発ですね!』
社長「イエイエイ! その前に、アタクシの演説をお聞きくだサーイ!」ぐいっ
純一「おっとと…」
梨穂子「…純一、こっちこっち!」
純一「おう…?」
純一「…こんな所勝手に」
梨穂子「大丈夫だよ、社長さんが多分…裏に手をまわしてるはずだから」
純一「そ、そうなのか……いや、ちょっとまって梨穂子……僕、凄い疲れてきた…」
梨穂子「え? だ、大丈夫…純一…?」
純一「あは、あはは…無理し過ぎたのかも…今日一日、凄い動いたし…」
純一「……だけど」すっ
梨穂子「えっ…」
なでなで
純一「こうやって…梨穂子に触れられるだけで、僕は本当に…頑張ったかいがあって思うよ?」
梨穂子「…うん」
純一「……もう一回、言ってもいいか?」
梨穂子「…うんっ」
純一「好きだよ、梨穂子」
梨穂子「…私もだよ、純一」
梨穂子「…私もだよ…純一、これからはずっと一緒に居たいって…心からそう思ってる」
梨穂子「…あれだけのことをしたのに、純一はここまで、追いかけてくれた」
梨穂子「私は……とても幸せ者でっ…だからそんな純一に…私も! 私も…これから幸せをあげたくてっ…」
純一「馬鹿言え……今回の事も、そして…お前のアイドルの事も」
純一「全部僕の所為だろ? …わかってるよ、僕も馬鹿だったんだ」
梨穂子「う、ううんっ! 私が何も言わなかったから…! だから純一はずっと悩んでたままで!」
純一「でも、幼馴染とか…口ではカッコいいこと言ってるけど、自分自身が全然伴ってなくて…!」
梨穂子&純一「だからっ…!」
純一「……梨穂子から言ってくれ」
梨穂子「……純一から言ってよ」
純一「じゃあ…いっせーのーで」
梨穂子「わ、わかったよ」
「──いっせーのーで」
純一「…やっぱり謝ったな、僕ら」
梨穂子「…くす、そうだね純一」
「あははっ…くすくすっ……ははっ…えへへ…」
~~~~~
純一「……梨穂子」
梨穂子「ん~……なあに、純一?」
純一「梨穂子のさー…膝枕って、素晴らしいよね」
梨穂子「えへへ~…ありがと」
純一「だってさ、疲れが取れて行くようなんだ…これだけ走ったに…
テレビの前で寿命が擦り切れるほどのドラマを演じたり…したのに…」
梨穂子「うん…」なで…
純一「梨穂子の膝枕のお陰で、全部がとろけて…消えて行くようなんだ…」
梨穂子「そっか、ふへへ」
梨穂子「ふんにゅっ」
純一「ほっぺもやわらかいな…」
梨穂子「ふんひちはっれ!」
純一「おむゅ! …はひふふんは」
梨穂子「ふんひちふぁふぁふぅい!」びしっ!
純一「…何言ってるか分からないよ」
梨穂子「ふぇっへっへ~」
純一「…あはは、本当に可愛いなぁ梨穂子は」
梨穂子「……」
純一「ごめん、ちょっと瞼が重く……て」
梨穂子「うん……」なでなで
純一「ちょっとでも……寝息を立ててたら…起こして梨穂子…」
梨穂子「わかったよ…それならゆっくりとまどろんでて…純一」
純一「…うん…ありがと、梨穂子…………すぅ…すぅ…」
純一「すぅ……すぅ……」
梨穂子「そっか…寝ちゃったか~」
梨穂子(くすっ、本当に小さい時から…無邪気な寝顔は変わらないよねぇ)
梨穂子「…ほれほれ」くりくり
純一「う、うーん……すぅ……」
梨穂子「あはは、やっぱり眉毛をつつかれると唸る癖も治って無い…」
梨穂子「……あのね、純一」
梨穂子「桜井梨穂子は、海外に行ってしまいます」
梨穂子「…それはとおーい、とおーい場所でありまして~」
梨穂子「昔、純一と過ごしてきた場所とは……とても離れてて」
梨穂子「そう簡単に、これからは会えないのですっ」
梨穂子「っ…だから…こうなる前にもっと、純一とね~」
梨穂子「ぐすっ…色々とおしゃべりして…好きなもの一緒に食べて…」
梨穂子「……でも、それはもう時間切れ」
梨穂子「純一……本当にありがとう、追いかけてきてくれて…本当にありがとう」
純一「……すぅ…すぅ…」
梨穂子「……私っていう存在を認めてくれて、繋ぎとめてくれて」
梨穂子「──ありがとね、ずっと好きだよ…純一」すっ…
ちゅっ
~~~~~~
純一「ここは…?」
ギャラガー「…屋上デース」
純一「ぎゃ、ギャラガーさん! 無事だったんですか?!」
ギャラガー「ええ、モチロン! ですがタチバナ…今はそれどころじゃないデス!」
純一「え……?」
ギャラガー「見てくだサイ」
ひゅごおおおおおおお……
純一「…飛行機…?」
ギャラガー「そうです、あれはユーの大切な彼女が乗ってマス」
純一「っ…!? 今何時だ!?」
ギャラガー「……」
純一「嘘だろ…? どうして、梨穂子…起こしてくれなかったんだよ…?」
純一「えっ…?」
ギャラガー「……I love you forever」
ギャラガー「……幸せ者です、ユーは」
純一「…梨穂子…」
純一「ッ…!」だっ!
純一「っ…りほこぉおおおおおおおお!!!」
純一「僕っ…僕だってなぁあ! お前のことをずっと好きでいてやるぞおお!!」
純一「ぐすっ…絶対に、絶対にかえってこいよおお!!」
純一「ずっとずっと、待っててやるからなぁあああ!!」
純一「大好きだりほこぉおおおおおおおおおおおお!!」
それからのことを語るのは、それほどの物は残って無いと思う。
純一「………」
あれから何事もなく、数年の時が経っていた。
純一「………」
昔懐かしい輝日東高校は、久しぶりに訪れると懐かしいものを感じてしまって。
純一「………」
あの時、僕らが奮闘した三年間は。本当にもう戻って来ないのだとしみじみ感じてしまう。
同じ時間を過ごしてきた皆は、既に別々の場所へと移り変わり。それぞれを時間を過ごしているのだ。
誰もがあの〝三年間〟を思い出しつつも、今の新しい世界に身を投じていく。
自分が本当に正しい事をしているのか、そんな漠然とした悩みを持ったりした時代とは違って。
純一「……」
責任が問われ続ける、自己との闘いが今の僕たちの世界だ。
暇を弄ぶことさえ出来ず、ただひたすらに前へと進み続けなければならない。
辛くて大変で、何度もやめたいと思ってしまうこともあった
純一「……」
はたしてそれが、一般的に逃避だと思われてしまったとしても
僕も確かに、そう思ってしまう。大した理由もなく否定なんて、子供がすることなのだから。
だったらいっそ、全てを認めきればいい。
純一「……ふぅ」
───全部のことを、ちゃんと考え続ければいいのだから。
「…うん、そうだね」
純一「僕が…この名前を呼べるのは、お前に向かってだけだよな」
「あったりまえでしょ~?」
純一「あははっ…もうこれから、この名前を呼び掛ける奴なんて……一人しかいないよ」
「…他に誰がいるっていうのかな?」
純一「というか一人しかいないとかじゃなくて……もう〝目の前にお前しか居ないから〟」
「………」
純一「…そう呼べる人が、他に居たとしても」
純一「そいつはもう…僕の知っている桜井梨穂子じゃない」
「…どうして?」
純一「だってさ……新しくて、かっこよくて、強くて、可愛くて…」
純一「歌が上手で、まあるくて、誰よりも誰よりも優しい……」
純一「……そんな桜井梨穂子なんて、僕の目の前に居る女の子意外に、誰かいるんだ?」
純一「……目の間にしか居ないんだから」
純一「おかえり、梨穂子」
梨穂子「…ただいま、純一」
純一「よく…帰ってきてくれた、歓迎するよ」
梨穂子「うんっ!」
純一「…とりあえず僕の家に上がってくれ、寒いだろ?」
梨穂子「へーきだよ~、これでも結構! 強くなってるからねぇ」
純一「本当に? そりゃーすごい、やっぱり女優は違うなぁ」
梨穂子「…うん、でもね純一…」こつん…
梨穂子「あなたの知ってる私は…今までどおりの、好きなままの時のわたしだよ…?」
純一「…ああ、わかってるよ」
梨穂子「……」
純一「これからまた、互いにわかっていけばいい。それだけで僕たちは十分なんだ」
きぃ…ぱたん…
──遠い存在だった彼女が、僕の手元へと戻ってくる事態に。
──あの時二年の出来事と、全く同じような出来事だった。
純一「……ははっ」
───だけどそれは、過去のお話だ。
──既に時は動き出し、過去の過ちはもはや過去なのだ。
純一「とりあえず、梨穂子」
───未来の僕は、過去の僕とは違った選択が出来るはず。
───果たして僕の違った選択肢に、いったい彼女はどう反応するだろうか
純一「…この着物を来てくれない?」
純一「まだあの時の感想が、言い足りてなかったんだよね!」
今から楽しみで、しょうがない。
とりあえず分かりにくくてごめんなさい
終わり
ご支援ご保守
ありがとうです
ではノシ
おもしろかったよ
マジで乙、面白かった
楽しかった
Entry ⇒ 2012.10.09 | Category ⇒ アマガミSS | Comments (1) | Trackbacks (0)
棚町薫「アタシが〝薫〟と呼ばれる理由」
橘「ご、誤解だって! 僕は決して…っ!」
棚町「誰だってそう言うのよ、こういうときは絶対にね」
橘「違うよ! いや、違わなくも無いけど……でも、絶対にそうとは言い切れないって!」
棚町「へェー、じゃあ認めるのね?」
橘「ち、ちがっ……そうじゃない! そうじゃなくてッ!」
棚町「……アンタの意見はもうどうだっていいの、このアタシがいる時点で」
棚町「アンタの罪はもう決まったも当然」
橘(ぐぉっ……な、なんなんだこの娘っ…!?)
棚町「いいから、大人しくそれなりの……アタシからの対処を受けなさい」ズチャッ…
橘「ひっ…!」
棚町「この、ストーカーッ!!」
駅前ゲーセン
橘(……ふぅ)
橘(確かこの辺に来てたはずだ、後ろ姿しか見えなかったけど…)
橘「…居るのかな、この近くに」
橘「少し、探してみるか……この辺は僕も詳しいし」すた
どんっ
橘「───あ、すみません…!」
「あ、こっちこそすみませんっ」
橘「前を向いていなかったもので……」
棚町「まあ、こっちも見てなかったので……」
橘「ん?」
橘(あれ、この髪型どっかで見た事あるような……)ちらっ
棚町「…?」
橘(………。あ、輝日東中の核弾頭!!)
棚町「………」
橘(残した伝説は数知れず、ムカツイた男子を歩道橋から突き落としそうとしたり!
何も関係のない女子を転校にまで追いやったと言われる中学生の悪魔ッ……!!)
橘(……えーと、それで、名前はなんて言ったんだっけ?)
棚町「…まあ、いいわ。ちょっとアンタに聞きたいことがあるんだけど、いいかしら?」
橘「うぇっ!?」びくぅ!
棚町「…うぇ?」
橘「あ、あははっ……いや、なんでもない! 何でもないよっ!」
棚町「あ、そうなの…? 変なやつね」
橘(あ、危なかった…! 変にご機嫌損ねたら、僕まで何をされるかわかったもんじゃないよ…っ!)
棚町「…それで、ちょっと聞きたいんだけど」
橘「は、はいィ! なんでしょうかっ!?」
棚町「……この辺で、ここまでの髪の長さの女の子。見なかった?」ちょんちょん
橘「え? えーっと、女の子…?」
棚町「ま、知らないっていうならそれでいいわよ」
橘「あ、うん……ごめん、別に僕は見かけてはない……かな?」
棚町「そっか、ん、まあてんきゅ。それじゃあこれで」
橘「う、うん」
棚町「…ったく、どこ言ったっていうのよ恵子は」すたすた…
橘「………」
橘(誰か探してるのかな? ここのゲーセン、けっこう広いし…)
橘「……あのっ」
棚町「……ん? なに?」
橘(あ、なに呼び止めちゃってるの僕!?)
棚町「……なによ?」
橘「あっ……えっと、あのその…!」
棚町「……」じぃー
橘(めちゃくちゃ見られてる…! そりゃそうだ! 呼び止めたの僕だもの!)
棚町「僕も?」
橘「───僕も一緒に、探そう……かな?」
棚町「は?」
現在
棚町「覚悟しなさいよッ!」
橘(それからどうしてこの流れになったんだ……)
棚町「最初からな~んか、怪しかったのよね~……このアタシを見る目つきとか、まるで品定めしてるよな感じでッ」
橘「し、品定めって……!」
棚町「いいからおとなしくしてなさい、警備員着ちゃうじゃない…その前に一発、腹にドカンと……」すた…
橘「うひっ…!?」
橘(こえええ! 恐いよ! これが普通の女の子が出していいオーラなの?!
僕は絶対に、これからさきこんな恐い女の子は出会わないはずだよ…! くそ、なんとして切り抜けなきゃ…!)
橘(……ッ! どうする、まずは何をしてくるか確認を───)
ゴビュッ!
橘「……!?」
棚町「───あら……」すた…
橘(な、なんだっ…!? 今の速さは…!)
棚町「…避けるのね、やるじゃない」
橘「っ…!」
棚町「アタシの回し蹴りを避けるのは───……ふふっ」
棚町「アンタが初めてよッ!」ブン!
橘「うわあああっ!?」ひょい
棚町「ッ…そう躱すと思ってたわ! おりゃっ!」ぎゅるびゅる
橘(何!? 回転蹴りで行った威力を抑えること無くまたその場にて回転…!
そして勢いに乗ったまま、力強く放つその左手は……!)
ブン!
橘「───ごはぁっ!?」ドス!
橘「ぐっ……」よろ…
棚町「…嘘、耐えるんだ、ひゅ~♪」
橘「……っはぁ!」
棚町「………」
橘(…い、今の拳の重さはなんなんだよ…バケモノかよ、女の子なのかよ本当に…!)
棚町「だけど、そんな対応じゃー…アタシの気も少し、晴れないわね」
橘(ああ、よかった…! お腹の中に、三冊分お宝本を隠しておいて…! だいぶ、衝撃が薄れたよ…!)
棚町「………」すっ
橘(だけど──この次が来る、次はお腹以外にくる可能性だってあるはずだ……!)ババ!
棚町「…逃げないのね」
橘「ッ……あ、当たり前だよ! 言われもないことでっ、振るわれる暴力にっ…!」
橘「僕はっ……決して屈しないのだから!」
棚町「………」
橘(───でも、どうして僕…ストーカーって呼ばれてるんだろう…)
橘(んー、なにが行けなかったのかな……もしかして、彼女に僕が)
橘(今日はどんな悪事を働いてるの? とか、今日はどれだけの男子を泣かしたの?)
橘(とか、言ったからかなぁ……え、でも不良とかってそれを誇りに思ってるとか漫画に書いてたようなきがするんだけど…)
棚町(コイツは絶対にそうだわ……! 最近、アタシの後ろで視線を感じる正体…!)
棚町(しかも、コイツが言ったこと全部……最近アタシがやったこと言い当ててるし、なによ…どうして男子を殴ったこと知ってるのよ…)
棚町(ちょっと酷くやりすぎちゃったから、誰にも言わないようソイツに強く言っておいたのにッ……)
棚町&橘(とにかく、コイツは危険……ッ!)
橘「……くっ」
棚町「くっ……」
橘「……僕は、ひとつだけお前に言いたいことがある!」
棚町「……なによ」
橘「お前は……」
橘(えーと、何を言おうかな……)
橘「───そんなんじゃ、探してる人には会えないぞ!」
棚町「ッ……!?」
橘(こ、こんな感じかな…? そ、そうだよ! こんな風に騒ぎを起こしてしまったら、
探し人にも逢えるはずなんてないよ、絶対に…!)
棚町(こ、コイツッ……! 恵子の場所を知ってるの!?
もしかして、アタシがどれだけ探しても見つからない理由って……もしかしてっ!)
棚町「……良い度胸ね、アンタ」
橘「え?」
棚町「いいわよ、受けて立ってあげる……このアタシが目の前に居るんだから、そんなフザけたことはしなくもいい……」ぎりりっ
橘「え?」
棚町「その腐った人格を……このアタシの拳で、叩きなおしてあげるから…ッ」
橘「え、ちょ、まって!」
棚町「問答無用ッ!」
橘「ふぇっ!?」
棚町「アンタをボッコボコにした後にッ……恵子の居場所も、吐いてもらうわよっ!」だっ
橘「ひぃいい!?」
「───きゃあっ!?」
棚町「っ……!?」ぴたっ
橘「っ……ひぃいっ……」がくがく…
棚町(この声……恵子、の声よね…?)
棚町「───恵子っ!? どこにいるのっ!?」ばっ
橘「ううっ…顔だけは、顔だけはやめて……」
橘「……ん? あれ?」きょろ…
橘「……」
橘「どっか、居なくなった…?」
~~~~~
棚町「恵子っ!?」
「や、やめてくださいっ…」
男子「ねえ、いいじゃん? 暇なんでしょ?」
「だ、だから私は友達と待ち合わせをしててっ…」
男子「なーにいってるの、どこにも居ないじゃん。それにここまで付いてきたんだから、それなりの…ね?」
「う、ううっ……」
棚町「………居た…」ズンズン…
男子「ね? ほら、こんなゲーセンよりもいいところ知ってっから───」
棚町「──それなら、アタシも知ってるわよ…この場所よりも、良い所」
男子「え?」
「あっ……」
棚町「それは……こんな場所よっ!」ぐいっ!
男子「うわぁっ!?」
どん!
棚町「………」
男子「なッ……ちょっ…お前ッ…!」
「あ、か、薫……!」
棚町「もう大丈夫よ、恵子。アタシがついてるから」
田中「あ、うん…!」
男子「なん、だよッ……お前! 力強っ…!」
男子「がっ……ぐっ…」ぐいっ
棚町「無駄よ、アンタみたいなヒョロヒョロに…解けるような力じゃー無いわよ」
男子「や、やめっ…!」
棚町「ええ、やめてあげる。だけど、アンタが知ってる情報を全部吐きなさい」
男子「意味がっ…わかっ…!」
棚町「………」ぐりっ
男子「うぎっ…!?」
棚町「───良いから、無駄なことは言わない」
田中「っ…っ……っ…」おろおろ…
男子「ッ…!」
棚町「早くしないと、気を失うわよ。答えるなら縦に一回、答える気がないのなら横に一回首を振りなさい」
男子「…ッ……」
棚町「どうしたの、早く」
「───おーい、まだナンパしてるのかよ…早く、ってうお!?」
「み、見ろよ…! なんか捕まってるぞ!」
「ええっ!?」
棚町「……仲間?」
田中「ふぁっ…?」
男子「けほっ……た、助けてくれ!」
「……おい、なにやってるんだお前」
棚町「…いいわね、もっと聞き出す相手が増えたじゃない」ぱっ
ドサ…
「だ、大丈夫…!?」
男子「ゲホッ…カホッ…! 急にソイツが掴みかかって…!」
男子2「どういうことだ、お前。こいつが言ってることは本当か」
棚町「………」
女子「ひ、酷い…ねえ! 警察呼ぼうよ警察!」
男子2「いいから答えろ、どうしてこんなことをした」
棚町「それはアンタ達が答えることじゃないの?」
男子2「はぁ…?」
棚町「アンタ達が何を隠してるかは知らない、だけど…」
棚町「…アタシは絶対にそれを聴きだして、全力でそれをぶっ潰すだけ」
女子「…何言ってるの?」
男子2「………」
棚町「…いいから吐きなさい、さもないと」
男子2「──調子に乗ってるんじゃない、ふざけるな」
棚町「っ……」
男子2「意味わんねーこと言ってるんじゃねーよ」
棚町「ハッ……反抗する気?」
男子2「………」
棚町「…アンタは早く、誰か呼びに行きなさい」ぼそっ
田中「えっ…!?」
棚町「いいから、早く」
田中「で、でも…」
棚町「良いから!」
田中「っ………う、うん……」
たったった…
男子2「…あの子をどうして逃した」
棚町「さあ? その倒れてる奴に聞けばいいじゃない」
男子「けほっ……」
男子2「お前、なにかやったのか?」
男子「……な、なにも…」
棚町「しらばっくれてんじゃないわよ……」
男子2「…俺が知ってるのは、さっきの女の子をナンパしてたことしか知らない」
男子2「もし、それがしつこいようだったのなら……謝る」
棚町「………」
男子2「だが、ここまでやられるようなことをしてないのなら……」ずいっ
男子2「──いくら女だからって、許さねえ」
棚町「…へぇ、いい度胸ね。それってなに、仲間意識ってやつ? 笑えるわね」
男子2「…殴るぞ」
棚町「こっちも殴るわよ」
男子2「……」
棚町「……」
女子「ちょ、アンタらやめなって…!」
棚町「──先手必勝……」ばっ
男子2「なっ……」
「───ちょいと待ったぁ!」
棚町「っ…!?」
男子2「……!?」
「待った待った! 待つんだそこの人た……ごはぁっ!?」ドサ…
棚町「あ…反射的に殴っちゃった」
男子2「……」
「…痛いよ! どうして殴るんだ!?」
棚町「あ、アンタが急に前に出てくるから悪いんでしょ!?」
橘「違うよ! お前が拳を止めてから前に出たろうちゃんと!?」
棚町「そ…それでも! アタシの喧嘩に割って入ったことは罪に決まってるじゃない!」
橘「罪ってなんだ罪っ! お前は神様にでもなったつもりかよ! 僕はだな、ただ、こんなことを───」
橘「だから違うって! ……ん、僕? それは逆に僕が聞きたいよ! お前誰だよ!」
棚町「あんたも仲間なんでしょ!? ……言ってやりなさいよ、コイツ邪魔だって!」
男子2「え、ええっ!?」
橘「なんだよ…! 君をかばったせいで僕は殴られたんだぞ!」
棚町「あんた仲間ならコイツどうにかしなさいよ! 邪魔なのよさっきから!」
男子2「…? …!?」
橘「邪魔ってなんだよ! せっかくお前の喧嘩を止めようとしたのに!」
棚町「ハァッ!? 誰がそんなこと頼んだのよ! 」
橘「誰も頼まれてない! ただ、僕がやろうと決めただけで!」
棚町「あーわかった! そいつらに頼まれたんでしょう!? それで後からアタシを罠にはめるために…!」
橘「はぁっ!? なにいってるんだこの…!」
棚町「あ、あんたこそ何言って…!」
男子2「……………」
棚町「………」バチバチバチ
男子2「…お、おい」
橘&棚町「ああんっ!?」
男子2「……いや、なんでもない」
橘「あ! ほら、そうやって相手をビビらせるから無駄な喧嘩になるんだろ!?」
棚町「なにをわかったような口、聞いてんのよゴラァ…! 元はといえば、全部あんたのせいでしょ!?」
男子2「………」
「──あのーよ、そこのヤツ。ちょっといいか?」
男子2「……え?」
「どうも聞いた限りだと、こんな雰囲気だとは思はなかったんだが…まあ、いいぜ」
梅原「ちょいと、顔。貸してくんねえかな? あ、いや。別に喧嘩しようってワケじゃない」
男子2「…アイツらの知り合いか?」
梅原「おう? んー、どうだがなぁ……まあ、片方は知り合いだな」
棚町「……死にたいらしいわね、ありがとう、その名前で呼んでくれたのを感謝するわ」ゴキ!
男子2「…よくわからないが、大変だなお前」
梅原「しゃーなしだ、友達だからな」
梅原「というわけで、こんな感じでいいか?」くる
田中「う、うん……ありがとう! 梅原くん…で、いいんだよね?」
梅原「おう、同じクラスの子の頼みって言われちゃー断ることなんてできやしねえぜ」
田中「なんてお礼をいったら……」
梅原「いいってことよ、後はキチンと俺に任せな」
梅原「……とりあえず、田中さん。あんたはあっちのことを任せたぜ?」
橘「うぉおおおおおおお!!」
棚町「ぐっ……やるわねアンタ!! 負けないわよ!!」
田中「う、うん……出来るかな私に…」
橘「はぁっ……はぁっ……」
棚町「はぁっ……ふぅっ……」
田中「…あの」
橘「…ま、まだだ…っ」
棚町「そ、そうねっ……」
田中「じゃあ、次の勝負に入るの…かな?」
橘「あ、ああっ……ジャッジを頼むよ……田中さん…!」
棚町「け、恵子っ……後、ジュース買ってきて……!」
田中「え? あ、うん……炭酸でいいの?」
棚町「いや、最近出た限定品のトマトジュースで……いいから…」
田中「わ、わかったよ…橘くんもなにかいる?」
橘「み、水で……!」
田中「うんっ」たったった…
棚町「……当たり前でしょ…狙うんじゃないわよ」
橘「し、失敬な! 僕はそんなホイホイと女の子を狙うようなっ…!」
棚町「っはー……わかってわよ」
橘「え…?」
棚町「そんなこと、こんな馬鹿らしいことやってれば嫌でもわかる」
橘「…どういうこと?」
棚町「………」
橘「お、おい」
棚町「……ひとつ聞いていいかしら」
橘「なんだよ…?」
棚町「アタシって、もしかしてなにか勘違いしてる感じ?」
橘「…はあ?」
棚町「だ、だからっ…その、なんかいつもと違うなって思うワケよ! こう…スッキリしないっていうか…!」
棚町「っ……なんでもない、わよ」ぷいっ
橘「……?」
田中「──あ、薫~! ごめんね、限定品のトマトジュースなかったからラーメンの缶詰を……」
棚町「恵子!」
田中「は、はいぃっ!?」びくっ
棚町「…か、帰るわよ!」ぐいっ
田中「えっ? えっ?」
棚町「いいから! とにかく帰るの!」
田中「えっ、でもっ……!」
棚町「ぐっ……」
橘「………」
棚町「そこのアンタ!」
橘「な、なんだよ…」
橘「は? もっと大きな声で言ってくれ」
棚町「っ……アンタの名前! 教えなさいよ!」
橘「…え、ええ…それはちょっと…」
棚町「なんで嫌がるのよ!?」
橘「う~ん……」
田中(…薫の聞き方が悪いって思うんだけど…言ったら怒られるだろうな)
棚町「いいから早く! 言いなさい! あと学年も!」
橘「うっ……し、仕方ないなぁ…」
橘「───橘純一、三年だよ」
棚町「…へ? 同じ学年?」
橘「そうだけど」
棚町(年下だと思ってた…)
棚町「っ……な、なんでもない、とりあえず聞いただけ…よ」
棚町「そ、それじゃあ! 帰るから! ついて来ないでよ!」
橘「だ、だから別に僕はストーカーじゃないって!」
棚町「…フン!」
田中「あはは……またね、橘くん」ふりふり
橘「あ、うん…またね田中さん」
橘「………」
橘「…なんだっていうんだよ、本当に…あいてて…頬が、痛いよ…ぐすっ」
梅原「───波乱がありそうだな、うむうむ」
橘「うおわぁっ!? う、梅原!?」
梅原「よう! 元気か大将!」
橘「げ、元気かって…この顔を見てみろよ、元気にもなれそうにもないから」
橘「うん……絶対に明日、腫れてるよねこれ」
梅原「まあ言うだろ? 怪我は男の勲章だってよ、なあ大将?」
橘「時代を考えてくれ…」
梅原「ははは、それでそれで……ちょっとばかし橘にお願いがあるんだが」
橘「…ん、なんだよ?」
梅原「ジュース三本分の代金、もらおうか?」
橘「へ?」
~~~~~~~
橘「……もうからっぽだよ…」
梅原「しかたねーだろ、ちゃんと説明しなかったお前が悪い」
橘「だ、だからってさ~…普通は殴ってくるか? おかしいだろ?」
橘「…うん」
梅原「そんなヤツ相手にまともにやっかむ方が罪ってもんだぜ?」
橘「……んなこと、わかってるよ僕だって」ごにょごにょ
梅原「はぁ~……いーや、わかってないな橘は」
梅原「───今回のことで、お前は相当なことをやっちまったんだよ」
橘「……どういうことだよ」
梅原「はぁー……いいか? 大将、俺はお前のことを大層信頼してるし、そこまでの男だと思ってるつもりだ」
橘「あ、ありがとう……なんだよ、気持ち悪いな急に…」
梅原「ああ、だけどよ? こういった場合、お前さんはどうなっちまうのかってのは……俺にもさっぱりわからねえんだ」
橘「つまり?」
梅原「つまり、俺もわかってない」
橘「…何が言いたいんだよ、お前は」
橘「いっ…!?」
梅原「…大丈夫だって、お前ならなんだってやって退けるだろ? な? うん?」
橘「……い、意味がわからない! どうして僕は叩かれた!」
梅原「あっはっはっは! それじゃー家まで競争だ!」だっ
橘「なっ…ちょ、お前部活やってるんだから卑怯だぞ!」
梅原「剣道部舐めるなよー!」だだだだだ!
橘「くそっ…待て! さっきのジュース代のワケを教えてもらおうか!」だっ
橘(あーもう、どうして今日はこんな目に…! 僕はただ…)
橘(…あの子の姿を、見に来ただけだっていうのに!)
橘「待て! 梅原ァー!」ダダダダ!
~~~~~~
学校
橘「おはよー」
橘「おう、今日もお宝本か?」
ケン「あったりめーだろが」
マサ「俺らに油断はありえない」
橘「…後で僕も参加させてくれ」
ユウジ「ああ、良いぞ! 橘の目利きは俺らは信頼してるからな!」
ケン「そうだな、今度またお宝本説明会を開いてくれよ」
マサ「男子はこぞってやってくるぞ、絶対に」
橘「ああ、まかせろ!」
ユウジ「…ところで、その頬の湿布は何なんだ?」
橘「……うん、聞かないでくれると嬉しいよ」
ケン「ま、まさか…! 前に言っていたローアングル探偵団の実行を…!?」
マサ「ヒュ~♪」
橘「……」
橘「───それは、お前らにはまだ荷が重いからだよ!」
ユウジ&ケン&マサ「なん、だと……?」
橘「言うべきか、言わざるべきかと悩んでいたが……ふふ、しかし、ここは男同士の約束にて結束された仲間…」
橘「…僕も正直に言うが、お前らにはまだ早いんだ!」
ケン「くっ…橘がいうと説得力があるぜ…」
マサ「ああ、だなっ…!」
ユウジ「なるほどな…それで、お前は一体全体…誰にそのローアングルアイを行ったんだ?」
橘「え?」
ケン「気になるな、教えろよ橘」
マサ「参考程度に教えてくれ!」
橘「あ、うん……えっと、あはは…! それはねぇ~…うーん…」
橘「う、うーん……それは内緒かな?」
ユウジ「おいおい、橘ともあろう男が……出し惜しみだと?」
ケン「わかちあおうぜ、その勇姿をよ」
マサ「大丈夫、俺らにはわかってるよ」
橘(なんだよその生暖かい目は…! コイツら、絶対に僕が失敗して殴られたと思ってるな!)
橘(くっそ~…見てろよ、そしたら、適当に誰か名前をあげて…あっと言わせてやるからな…!)
橘「あ、ああっ…! いいだろう、じゃあ言ってやろうじゃないか!」
ユウジ「おお! 誰なんだ一体?」
橘「う、うん! それはだな! 同じクラスの蒔───」
「───失礼するわよー!」がらり
橘「……ん?」
ケン「お、おい…馬鹿!」
マサ「……!」
ユウジ「あわわわっ…!」
ケン「…なんで、このクラスに…!」
マサ「ひぃいっ…!」
「──………」きょろきょろ
ユウジ「…だ、誰か探してるぞ…!」
ケン「エモノだ! 獲物を探してやがるんだ!」
マサ「誰だよ…あの核弾頭を怒らせた奴は…!」
橘「………………ちょっと、僕、トイレに行ってくるね」ダラダラダラダラ…
「───あ、居た」
「───探したわよ、ヘェ…やっぱ三年だったんだ。知らなかったわね」
橘「………」ダラダラ…
「───何よ、さっきからそっぽ向いて……こっち向きなさいよ、アンタ」
橘「……な、なんだよ…僕に何の用だよ!」
棚町「んー? 別に? 特に用なんてないけど…あって欲しいの?」
橘「い、いやっ……そうじゃなくて、そうじゃなくて! どうして僕を!」
棚町「だから、特に意味ないってば」
橘「う、嘘だ! あ、あれだろ!? 昨日のことで……!」
棚町「………昨日のこと?」
橘「…え?」
棚町「いやー、アタシって基本馬鹿だからさー。色んな事忘れちゃうのよね、あははー」
橘「あははーって…嘘だよね? 昨日のこと忘れるとかありえないよね…?」
棚町「うーん、アタシにとってけっこう日常茶飯事のことだし……アタシが覚えてるのって」ちらっ
橘「っ…?」
棚町「んふふ───……アンタの顔ぐらいよ、本当に」
橘「…は?」
棚町「そういうコトだから、今日の放課後開いてるでしょ?」
棚町「ちょっと付き合いなさい、一緒に行きたい所あるからさ」
橘「へ…? いやちょっと待って…!」
棚町「いいから、いーから、ね? そんじゃまった~」ふりふり
がらり…ぴしゃっ
橘「……なん、だったんだ一体…」
ユウジ「……お、おい」
ケン「あ、ああ……」
マサ「た、橘……」
橘「…え? なに?」
ユウジ「お前…もしかして、あの棚町薫に……」
ケン「…手を出したっていうわけじゃ…」
マサ「な、ないよなっ! なっ!?」
橘「……ええっ!? 何言ってるの!?」
ユウジ「っ……すっげええええええ! 橘! おま、お前!」
ケン「あの悪魔にローアングル決めやがったとでも言うのかよ!」
マサ「大物だ……怖いもの知らずだ…命が惜しくないとでもいうのかよ!?」
梅原「───ちぃーす、どうした、今日も元気だなお前ら」
梅原「は?」
ケン「死ぬ気なんだってよ! 止めてくれヨォ!」
マサ「お前なら出来るだろ! コイツを止めることをよ!」
橘「い、いや…お前ら勘違いっていうか…その、ちょっと黙っててくれ五月蝿いから!」
「ねえ、今の訊いた…?」
「橘くん、自殺するの…?」
「というか棚町さん、橘くんのこと誘ってなかった…?」
橘「っ……ほら! 黙って! 勘違いが広がる前にさ!」
「───ねえねえ、橘くん」
橘「っ……あ…!」びくっ
「さっきのって、薫だよね?」
橘「……あ、うん。そ、そうだよ…うん」
橘「───蒔原、さん…」
橘「うぐっ……えーと、なにか言いたいことでもあるのかな…?」
蒔原「ううん、べっつに~……なんだかちょーっとだけ、なんだけど」
こそ…
蒔原「……悔しいかなって、思ってさ」ぼそ
橘「えっ……?」
蒔原「あははー」
橘「そ、それって……」
梅原「だぁーから! お前らさっきから何言ってるんだって!」
ユウジ「うめはらァ…! 惜しいやつをっ…! 惜しいやつをッなくそうとしてるんだぞぉ~…!」
ケン&マサ「橘ぁー!」だだっ!
橘「え…? あ、ちょ…お前ら! こっちに走り寄ってくる────」
橘「……」
「…ねぇねぇ、どうなるんだろうね?」
「うんうん、気になるよねー!」
橘「……」
「来るのか……あの悪魔が…」
「来るだろう…絶対に……」
橘「……」
「ううっ…橘ァー」
「…もういいってそのノリ」
「どうしてそこまで橘が好きなんだよお前」
橘(なんだろう、この注目されてる感じ……!)
橘(…だけど)ちら
「…おい、アレが橘か?」
「ひょろひょろしてんな、本当にアイツなのかよ」
橘(っ…どうして他のクラスの人達も僕を見に来てるわけ!? どうしてさ!)
梅原「よう、大将」
橘「う、梅原……」
梅原「おう、なんていうかよ」
橘「う、うんっ…」
梅原「……」ぐっ
橘「人事だと思いやがって……ッ!」
梅原「あっはは、すまんすまん……だがよ、俺が言ったとおりじゃねーか」
梅原「───いやはや、とんでもねえことしちまったな? 橘?」
梅原「大丈夫だ、俺もわかってねーから」
橘「……」
梅原「…まあ、とにかく、俺が大将に居ることはこれぐらいだ」
橘「…え?」
梅原「色んな道を、見てこいってよ」
橘「…う、うん…?」
梅原「それだけだ、俺に言えることはそんだけだよ」
梅原「…んじゃ、帰るわー。頑張れよ~」すたすた
橘「えっ、お、おい…! どういう意味だよ梅原…!」がたっ
梅原「自分で考えろって、お前ならわかるってもん──」
がらり
梅原「──って、おう!?」
「──残ってるでしょうね!」
梅原「──おう、棚町さんよ…アイツならそこにいるぜ」
棚町「あん? ……アンタそういえば、昨日ゲーセンに居た…」
梅原「お、覚えててくれてんのかい? 嬉しいねぇ」
棚町「…いや、違う。恵子がちょっと頼ってたやつじゃない、なに、恵子とどんな関係よ!」
梅原「ええっ!? そこ疑われてる感じ!? い、いやっ…俺は部活の集まりでちょっと話す程度でよっ…!」
棚町「…本当にぃ~?」じっ
梅原「本当だって!」
棚町「…ま、信用してあげなくもないけど。とにかく、恵子に酷いことしたら許さないから」
梅原「だからしねーって…!」
棚町「ま、そんなことより! ……ん~、あ! いたいたっ」
橘「っ……」びくっ
棚町「なによ、用意万端じゃない。立ち上がって待っててくれたの? んふふ」
橘「えっ? いや、そういうことじゃなくて…これは」
橘(…正直、行きたくないとは言えない…!)
棚町「それじゃあ、さっそくだけど。行っくわよ~」ぐいっ
橘「えっ…? ちょ、まって…!」
棚町「カバンは置いて行きなさい、どうせ中身なんて入ってないんでしょ? わかるわかる、アタシもそうだからさ~」すたすた
橘「そ、そうじゃなくって…!」
棚町「…なによ、なにかまだいいたいことでもあるわけ?」
橘「い、いや…その、お前は一体なにがしたいんだよ…?」
棚町「…さあ?」
橘「へ?」
棚町「知らないわよ、そんなこと考えてないし。ただただ、やりたいことだけをやってるだけ」
棚町「───アタシという女に、行動する理由はやりたいって気持ちだけよ?」
棚町「さぁー? んじゃ、聞きたいことは終わったみたいだし、行くわよー」ずりずり…
橘「おおっ…! 力、強っ…!」
棚町「それぇー!」
びゅんっ!
橘「うわぁああああああああああああああああ!!」
ぱたん
「…おお、連れて行かれた…」
「きゃー! 棚町ってば大胆!」
「安らかに眠れ……橘…」
「お前の残したお宝本は…俺らが後生大事に使ってやろう…」
「うむ……」
蒔原「…………」
梅原「…はっ、やっぱ面白いなぁ大将は」
棚町「───着いたわよっ」
橘「はぁっ…! はぁっ…! こ、ここは…っ?」
棚町「見れば分かるじゃない、ファミレスよファミレス」
橘「い、いやっ…わかるけど! そうじゃなくてどうしてここにっ…!」
棚町「いーから、入るわよ黙って!」
かんからーん
橘「えっ、ええっー! どうして僕が……」
~~~~~
棚町「んー、どれにしようかしらね~……あ、これとか美味しそうじゃないっ」
橘「…おい」
棚町「ん、なーにー?」ぺら
橘「…どうして僕をココに連れてきたんだよ」
橘「食べたかったものって……」
棚町「その商品はちょっとアタシ一人じゃ食べれないものでさ、だからアンタも連れてきたってワケ」
橘「いやいや、どうして僕なんだよ。だったら…田中さんでもいいじゃないか」
棚町「ダメよ、恵子は。というかアンタ……どうして恵子の名前知ってるの?」
橘「え? だって元同じクラスだし…」
棚町「へェー、そうなんだ。ふーん」
橘「…なんだよ、さっきの梅原みたいに僕を怒るつもりか? 言っとくけどな、あの時も行った通り…」
棚町「知ってるわよ、そんな男じゃないって言いたいんでしょ?」
橘「あ、うん……覚えてるじゃないか」
棚町「だっから行ってるじゃない、アンタのことなら覚えてるって」
棚町「んふふ、そういうことっ」
橘「っ……」
橘(なんだよ、そういうのちょっと卑怯だと思うよ!)
棚町「…ん~、やっぱり余計なモノ頼むと食べれなくなりそうね、これだと」
橘「…おい、一体何を頼む気なんだ」
棚町「来れば分かるわよ……すみませーん、注文いいですかー」
橘(…なんだろう、一体何を頼む気なんだ…?)
~~~~~~
店員「おまたせしましたー、超ラブリーエキサイティングプロレスパフェです」
ドンッ!!
橘「……っ!?」
橘「えっ……あ、はい……」
棚町「さぁー食べるわよ~」
橘「ちょ、ちょっと待て! これって一体…!?」
棚町「パフェじゃない」
橘「パフェだね! い、いやそうじゃなくって…これ、なんていうかその~……」ちら
橘「……うっ…」
橘(なんだかこう、カップル御用達のっ…! イチャイチャするようなパフェじゃないかっ!?)
棚町「なんなの、アンタって甘いの嫌いなタイプ?」
橘「えっ? す、好きだけど…」
棚町「じゃーいいじゃない、食べましょ食べましょ」
橘「んぐっ……で、でも! その……お前、気づかないのか…? 周りの視線とか…っ」
橘「ええっー……」
棚町「言っとくけど、これ割り勘だから」
橘「なにっ!?」
橘(ね、値段はっ!? ……なんだこの値段は!? 酷いよ! 流石にこれは酷い!)
棚町「ぱくぱくっ……早くしないと、アタシが全部頂いちゃうわよ~?」もぐもぐ
橘「あっ……く、くそっ…!」
橘「っ……し、仕方ない! 据え膳食わぬは男の恥だ!」ぐっ
棚町「ふっひっひ~、いい度胸ふぉほうひゃふぁい!」
橘「い、イチゴは僕のものだぞ! 食べ過ぎだ!」
棚町「ぱくぱくぱく」
橘「あー! バナナはだめだよ! 僕が食べるから! もぐもぐ!」
棚町「──ふぃー……もう、当分甘いモノは食べなくていいわ~……」
橘「うっぷ……僕も一生食べなくてもいいかも…」
棚町「くっく、だめね~…それじゃあ」
橘「お前……よく食えたな、こんだけの量を…僕、半分も食べてないぞコレ」
棚町「だって女の子だし、甘いモノは別腹よ別腹」
橘「…そういうものか、だめだ座ってるのもキツイ」ぱたん
棚町「ぎょーぎが悪わね、牛になるわよ?」
橘「牛になってもいいよ……というかもう、生クリーム食べ過ぎで本当に牛になりそうだ…」
棚町「…しょうがないわね、んしょっと」ぱたり
橘「……」
棚町「……ん、なに?」
橘「…いや、机の下で視線が合うのって不思議な感じがして…」
棚町「ふふ、そうね…確かに」
棚町「…そおーかしら?」
橘「そうだって、二人してソファーに寝転がってるんだぞ? 対向かい側でさ」
棚町「んふふ、言われてみれば確かにそうかも」
橘「……なぁ」
棚町「ん」
橘「結局…お前って何がしたかったの?」
棚町「どーいうこと?」
橘「…こうやって僕を教室から釣れだして、みんな僕達のことに注目してただろ」
棚町「そうだっけ?」
橘「そうだよ、そして今朝のこともそうだし……そしてファミレスに連れてきたこともだ」
棚町「………」
橘「…なんだよ、言えないっていうのか」
橘「だ、だめだ」
棚町「どうしても?」
橘「どうしてもだっ」
棚町「……特に、意味なんて本当に無い」
橘「嘘だ」
棚町「ホントよ、アンタを連れだしたのも…こうやってファミレスに来たことも」
棚町「───ただただ、アタシの興味本位でやったこと」
橘「ただの興味で、人を釣れ出すことが出来るのか?」
棚町「ふふん、それが棚町薫って女よ?」
橘「…大した自信だ、だけど自慢になってない」
棚町「…かもね、ふふっ」
橘「……」
棚町「あ、でもっ! ここのファミレスに連れてきたことは…ちゃんと理由はあるわよ?」
棚町「そそそ。それはね…ほら、アタシたちの学校ってバイト禁止じゃない?」
橘「…そうだな」
棚町「それでさー、高校になったら色々なバイトしようと思ってて~。まずは下調べってのをしたかったのよね」
橘「ここで働くつもりなのか?」
棚町「うん、そのつもり。だからまずはその場所の名産品って奴を味わってみたかったの」
棚町「…そうすれば、ここはどういう場所なのかなってわかったりするし、それに店側に印象が残ったりするじゃない」
橘「…確かにな。こんなデカイの頼めば印象にも残るだろうさ」
棚町「そーいうのも含めて、ちょっとここには来ておきたかったのよ。
だから恵子とはこれなかった感じ、だって男女じゃなきゃアレ頼めないし」
橘「………」
棚町「まあ、理由も言わず連れてきたことは……うん、きちんと謝る。ごめんなさい」
棚町「…だけど、やっぱり、来たかったのよ。ちゃんとね」
ちゃんとした考えも持ってるんだな。意外…でも無いか、普通に考えれば)
棚町「…それに」
橘「…うん?」
棚町「………」もじ
橘「…なんだよ、どうした?」
棚町「……アタシだって、その……恥ずかしかったわよっ…こういうのっ」
橘「えっ……?」
棚町「だ、だからっ…………パフェとか、男子と二人で食べたこと無いし……」
棚町「その…………けっこう、照れるというか……うん、そんな感じ! いーーーだっ!」んべっ
橘「いーって……いやいや、恥ずかしいなら頼むなよ」
棚町「ふんっ」ぷいっ
棚町「え?」
橘「僕はそれで納得してやる。お前はお前で、それなりの理由があった」
棚町「う、うん」
橘「だから僕をココに連れてきて、パフェを一緒に食べた」
棚町「そ、そんな感じ」
橘「じゃあそれで納得する」
棚町「…納得しちゃうの?」
橘「いいってば、嘘だったとでも言うのかよ」
棚町「う、嘘じゃないわよ!」
橘「うん、じゃあそれでいいじゃないか。僕は信用するから、お前の言ってること全部さ」
棚町「………」
橘「ん、なんだよ。なんか変なこと言った?」
棚町「……アンタって、その」
棚町「……ううん、やっぱり、なんでもない……うん」
橘「……?」
橘(なんだよ、急に黙って……変な空気になっちゃっただろ。
変なことを言ったと思ったのなら、怒ればいいものの…いや、怒られる意味が分からないけど)
橘「というか、それよりもたち───」
店員「───お客様」
橘&棚町「はいぃいっ!?」ばっ
店員「店内でおくつろぎの所、申し訳ございません。ですが、当店は他のお客様の目がある為…もう少し」
橘「わ、わかりました! すみません!」
棚町「あ、あははっ! どーも! ごめんなさい~!」
店員「いえいえ」にこ
すたすた…
橘「……」
棚町「……」
棚町「…そ、そうね…目的の物は食べたし」
橘「……」
棚町「……」
橘「じゃあ、先に出てくれ……僕が払っておくから」
棚町「えっ…?」
橘「お勘定、僕が払うよ」
棚町「はっ? いや、だって割り勘って言ってたじゃない…」
橘「…いや、僕だってちょっといい経験ができたんだ」
棚町「へ? 経験?」
橘「う、うん……だって、僕だって初めてだったから」
橘「お、女の子とっ……一緒に、パフェ食べたの」
棚町「………」
橘「そういうことだから! 先に出てくれ、なっ!」
橘「な、なんだよ! お前だって、恥ずかしがってただろ!?」
棚町「だからって……全部払うとか、なに、男らしさアピールそれ?」
橘「ぐぬぬっ……払ってやらないぞ、そんなこと言ってると!」
棚町「あはは~! では、おねがいします~」たたっ
橘「くっそ……なんだよ、正直に言えばからかいやがって」
橘「………」
橘「……なんだよ、本当に」
橘「…よくわからないな、アイツも…」すたすた
~~~~~~
棚町「ごちそーさまですっ」
橘「うむ」
棚町「本当に奢ってくれるなんて、なになに、アンタっていいところの坊ちゃんなの?」
橘「…違うよ、たかろうとしても無駄だからな」
橘「………」
棚町「うっ……なによ、その目は…!」
橘「別に、僕はなにも言ってないよ、ただ見つめてるだけだから」
棚町「な、なんか言いたそうにしてるじゃないっ! その感じの眼は!」
橘「べっつにー…」すたすた
棚町「んぐっ……この、背がアタシより小さいくせにっ」
橘「っ」カチン!
棚町「…あ、もしかして気にしてた?」
橘「───男にとって、女の子から背を馬鹿にされることは屈辱なんだ……」
橘「……幾ら僕でも、怒るときは怒るぞ!」
棚町「あはは~」
橘「笑って誤魔化すな!」
棚町「だ、大丈夫よ! こ、これからがあるじゃない! …もう三年だけど」
橘「ぐぉー!」
そういえば三年って行った時、驚いてたよな!? そうか背が小さいから年下だと思ってたのか!?」
棚町「ひゅ、ひゅ~……♪」
橘「口笛へたくそ! くそっ…悪かったな! 僕の家系は背がみんな小さいんだよ!」
棚町「そ、それは……ご愁傷様です」
橘「哀まれた!? なんだこのっ……!」
「──あ、純一~!」
橘「…え? この声は……」
橘「───……梨穂子?」
梨穂子「う~ん! こんばんわ~、学校の帰り~?」
橘「うん。そうだけど……梨穂子も帰りか?」
梨穂子「そうだよ~、ちょっと街に用があってね~……あれ?」
棚町「……」
梨穂子「あ、棚町さ~ん。こんばんわ~」
棚町「…こんばんわ」
梨穂子「同じクラスだよ~、ね?」
棚町「…そうね」
梨穂子「え、えっと~……その、えへへ」
橘「おい、お前……なんだよ、いきなり素っ気ないな」
棚町「……ちょっとアンタ」ぐいっ
橘「な、なんだよ…うおっ!」
棚町「……あの子、桜井さんよね」
橘「そ、そうだけどっ……?」
棚町「…友達? アンタと?」
橘「お、幼馴染みだよっ…それがどうした…!」
棚町「…ふーん、そうなんだ」ぱっ
橘「……?」
棚町「──あ、ごめんなさい桜井さん。急に変な空気出しちゃってさ~」
梨穂子「あ、うん……大丈夫だけど、純一こそ棚町さんと知り合いなの?」
橘「えっ? 知り合いっていうか…うん、なんというか…」
棚町「ただの知り合いよ」
梨穂子「え? そうだんだ、けっこう仲良良さそうに見えたけど~…?」
橘「…おい、何を疑ってるんだ梨穂子」
梨穂子「ふぇっ!? あ、うんなんでもないよっ! うんうん!」
棚町「あのね桜井さん、コイツの言ってる通りアタシらはなんの関係も───」
店員「───お客様~! 超ラブリーエキサイティングプロレスパフェを頼んだお二人様~!」
店員「完食の場合に出される、景品のほうを貰われてないようですけどー!」
棚町&橘「……」
棚町「…逃げるわよ」
橘「…ああ、今僕もそう思ってた所だ」
梨穂子「えっ?」
棚町&橘「うぉおおおおおおおっ!」
ダダダダダダダダ!!
梨穂子「ひぁっ!?」
店員「──あ、逃げた! 完食カップル二人、逃走! 追跡用バイト準備!」
店員ab「ラジャー!」
店員「射ッーーーーー!!!」
店員ab「ゴオ!!」ズバッシュッ!
梨穂子「ひゅわぁっ!?」
ダダダダダダダダ!!
~~~~~
橘「はぁっ……はぁっ……まいたか?」
棚町「しっ!」
「どこへ行った……絶対に逃さん!」
「探さなければ、俺達がどやされる!」
橘「……」
棚町「……」
ダダダダダダダダ……
棚町「───行った、見たいね……ふぅう」
橘「な、なんだあの人達は……えらく執拗に追いかけてきたけど、そこまでする必要はあるのか一体…!」
棚町「…あそこのファミレスは情熱が凄まじいのよ、噂に聞いてたとおりね」
橘「…えらい所にバイトする気なんだな、お前」
棚町「…だってソッチのほうが楽しいじゃない」
橘「よくわからないよ…僕には」
棚町「うふふ、でしょうね」
橘「……というか完全に逃げなくても良かったんじゃなかこれって、
そもそも梨穂子に変に疑われることを避けるために………」
棚町「………」じっ
橘「ん、なんだよ僕のこと見つめて」
棚町「…アンタってさ、こう、なんていうのかしら」
橘「なんだよ」
棚町「……面白いやつよね、やっぱ」
橘「馬鹿にしてるのか」
棚町「そうじゃない、そうじゃなくて……」
棚町「……上手く言えないけど、最初に会った時から初めてな感じがして…」
棚町「………」
橘「……おい、なんだよ。もしかして走りすぎて具合でも悪いのか?」すっ
棚町「っ……」びくっ
ばしっ
橘「いたっ…!」
棚町「───あ、ごめんっ…!」ばばっ
橘「お、おう……?」
棚町「ごめん、急に手を叩いて…」
橘「いや、僕の方こそ変に近づいて悪かった……」
棚町「う、うんっ……だけど、アタシも何も叩かなくても…」
橘「気にし過ぎだって、お前はそういったやつだろ? 僕もキチンと理解してるよ」
棚町「……うん」
橘「おう、それにしても凄い力だなぁ~…なにか鍛えてるのか?」
橘「へえ、そうなんだ」
棚町「………」
橘「……いや、本当に大丈夫か? 具合悪いんなら、無理せず家に…」
棚町「……ねえ、アンタ」
橘「ん、なんだよ」
棚町「アンタってさ……その」
橘「うん?」
棚町「────好きな人、いるの?」
橘「………」
橘「え?」
~~~~~~
自宅
橘「ただいま~」
橘「ん」ずい
美也「なにそれ? おわぁっ!? こ、これってあそこのファミレスの有名な…!」
橘「それ食べてきたんだ、そしたら貰った」すたすた
美也「でもあれってカップルじゃないと食べれないんだよ!? に、にぃにもしかして……」
橘「梅原と食べた」
美也「……なにそれー」
橘「あはは」
美也「期待しちゃったみゃーに謝ってよ! もうっ~……あ、美味しそう。クッキーなんだねこれ」
橘「美也が食べていいよ、全部」
美也「ほんとっ! にっしし、にぃに好きだよー」すたすた…
橘「ったく、こんな時だけ言いやがって……」
橘「………好き、か」
~~~~~
橘「ど、どういうこと?」
橘「っ……どうして、お前がそんなこと気にするんだよ…?」
棚町「いいから、答えて」
橘「……」
橘(ど、どういうことだ…? え、もしかして僕に……ちょっと好意を寄せてるってことか!?
どうして!? 何があってそうなってるの!? いや、でも恋は唐突にってよく言うしな……)
棚町「……」
橘(この思いつめた表情……間違いない、これは僕に恋をしている表情だ!)
橘(なんて僕は罪づくりな男なんだろう……こんな悪魔とまで謳われた女の子を…ふふ、恋に落とさせるなんてさ!)
橘(…だが、僕はこれでもれっきとした男。そして、きちんとした日本男子!
女子に恥をかかせるべきでもないし、そして自分の気持ちに正直にならなければならない!)
橘「……居るよ、好きな子」
棚町「っ……本当に、居るの?」
橘「ああ、居るよ」
橘「……」
橘(ああ、居るんだ……僕には好きな子が。そしてそれは───お前じゃない)
橘(三年になってからずっと憧れていた、あの子……僕はあの元気な笑顔を見るだけで、それだけでいいのだから)
棚町「…でも、その好きな奴とは付き合って無いんでしょ?」
橘「えっ? あ、うん……まだ僕の片思いだけど?」
棚町「…そう、よね。どうもそれっぽいし」
橘「……?」
橘(まさか! 付き合ってないのなら、アタシにもチャンスはあるわよね!? 的な流れ!?
なん、だと……そんなこと、お宝本でしか聞いたこと無いよ!?)
橘(そうなると、僕は……いやいや待て待て! 橘純一! しっかりしろ! 僕の好きな女の子は一体誰だ!?)
橘(その子のためなら、なんだってすると決めていたはずだ! だから……よし、ここはちゃんとお断りを…っ)
棚町「──わかったわ、よし!」
橘「…うえ?」
棚町「そういうこっとね~……うんうん、アタシもお人好しね~ほんっと」
橘「…えっと、どういうこと?」
棚町「とにかく、アタシの中で整理は着いたわ。これでアンタ…にたいして引け目無く」
棚町「これからちゃんと付き合っていけると思う」
橘「…はい?」
棚町「だーかーら、こう……なんていうのかしら。さっきみたいにさ、誰彼に勘違いされるときに」
棚町「表立って、嘘偽りなく、アンタの……トモダチだって言えるってコト!」
橘「トモダチ?」
棚町「そそそ! 友達、友達よアタシと」くいっ
棚町「アンタはねっ」
橘「…友達…」
棚町「いや?」
棚町「そーよ? やっぱりこういうのって、中学生だと恥ずかしいノリかしら?」
橘「いや、そういう訳じゃなくてっ……友達? なの?」
棚町「しつこいわね……嫌なら嫌ってハッキリ言いなさいよ」
橘「………」
棚町「………」
橘「……よ、よろしく」
棚町「よろしくっ」
~~~~~~
自宅
橘「はぁー……何だったんだ、本当に…」
橘(あのあと、店員に見つかって無理やり景品渡されたけど…あっちはあっちで…)
橘(嬉しそうに景品貰ってるしさ……意味がわからないよ)
橘「アイツ、どうして僕に…友達なんて言ってきたんだろう」
橘「……全くわからない」
橘「……友達、か」
~~~~~~
風呂場
棚町「………」
棚町(──あー…本当今日は疲れた、人生の中で一番疲れたかも)
棚町(まあ、でも、それなりに収穫はあったし…ま、いっか)
棚町「………アイツってば、変な顔してたわね」
棚町「うふふっ……まったく、どーせ下らない勘違いでもしてたんじゃないかしら」
棚町(あそこで普通は誰だって、勘違いすると思うし……好きな奴入るかって聞けばさ)
棚町(アタシがイジワルな聞き方したせいよね、うんうん)
棚町「……友達、か」
棚町(こうやって言葉にして友達……とか、ちょっとこっ恥ずかしいわよね)
棚町(アタシも何をやりたかったのか、なんて、ちっとも自分でわかってないし)
棚町(……だけど、アタシはこれだけは分かってる)
棚町(ちょっとだけ、ほんのちょっとだけ、アイツのことを気に入ってると)
棚町(他人から知り合いに、それから……友達になりたいって)
棚町(…なんだかとっても、居心地がよくて、まるで……)ぶくぶく…
棚町「ッ……ぷはぁ!? し、死ぬ!? 溺れ死ぬっ…!?」
棚町「はぁっ…はぁっ……ふふっ、あははっ」
棚町「はぁーあ、久しぶり……こういう感じ」
棚町「…早く明日に、ならないかなぁ」
次の日
橘「おはよう、梅原」
梅原「うっす、橘」
梅原「おう、もうじき冬だぜー…大将…」
橘「……」
梅原「……受験」
橘「言うな」
梅原「…おう」
すたすた…
橘「……そんなことはわかってるんだよ、梅原」
梅原「おう、だがよぉ……考えなくちゃいけないことだろ」
橘「…まあな、うん」
梅原「…まだ大将は良いぜ、得意科目があるんだからよ」
橘「梅原は……頑張れ」
梅原「……応援してくれよ、大将」
「──な~にあんたら、辛気臭顔して~」
棚町「ぐんもっ!」びしっ
梅原「ぐんもって……お、おう…おはよう棚町さんよ」
棚町「おはよう梅原君、それに……」ちら
橘「…なんだよ」
棚町「…んふふ、ぐんも!」
橘「………」
棚町「あら? 返してくれないの…?」
橘「…おはよう」
棚町「よろしい」
梅原「…なんだなんだ、急に昨日から仲良くなってやがるな二人共ぉ!」
棚町「わかる? そうなのよ~…コイツとアタシ、ちょっと距離が…ふふ!」
梅原「な、なんだぁその意味深な回答は!? 橘!? どういうことだ!?」
棚町「やーねー、こういうことも出来ない友達だなんて…アタシは、嫌」
橘「だからって…! ちょっと、くっつきすぎだって!」
梅原「ん? ん? 結局どっちなんだ?」
橘&棚町「友達!」
梅原「…そ、そうか」
橘「友達ならもっと節度ある付き合い方をだな…!」
棚町「そんなの誰が決めたのよ? アンタ? 違うでしょ?」
橘「一般的に、ってことだよ! お前は一般的思考が欠けてる!」
棚町「アンタも人のこと言えないでしょー? 同類よ同類!」
梅原「………」
梅原「…おい、ちょっと待ってくれ、俺を置いていくな二人共!」
橘「…はぁー」
橘(疲れた……朝から疲れた…色々と考えなくちゃいけないことがあるっていうのに…)
橘「…なんだっていうんだよ、本当に」
「おはよー、橘くん」
橘「…え? あ、ううん、おはよう……」
橘「って、おはよう! おはよう蒔原さん!」
蒔原「うん、おはよ~」
橘「あ、えっと~……あはは! ごめんね? なんか雑な挨拶になっちゃって…」
蒔原「いいよー。気にしてないから~」
橘「そ、そっか……」
蒔原「…大丈夫? ちょっと顔色悪い気がするけど…?」
橘「えっ!? あ、うんっ…大丈夫だよ! 平気平気!」
橘「…うん? 僕の顔に何かついてるかな…?」
蒔原「ちょっとごめんね、よいしょっと」ぴた
橘「っ~~~~!?」
橘(ま、蒔原さんの手がっ……! 僕のおでこに…!?)ドキドキドキ!
蒔原「う~ん、ちょっと熱が……あるかもね」
橘「…ふぇっ!?」
蒔原「橘くん、熱がすこしあるかもよ? 気をつけないと、受験も近いんだしさ」
橘「そ、そうだね! うん! 気をつけるよ!」
蒔原「そうだよ、気をつけなきゃダメだからね?」
橘「あ、ありがとうっ…!」
蒔原「ううん、いいんだよ、それじゃね」すたすた
橘「……」ぽやー…
橘(ああ、蒔原さんっ……なんていい子なんだろう…!)
橘「………」
橘「…しばらく、おでこは洗わないようにしておこう…」
昼休み
橘「さて、ごはんごはんっと……今日の弁当はなにかな~」
がらり!
棚町「はろー! きたわよー!」
橘「……さて、弁当食べようかな」
棚町「今日は一緒に……あら?」
橘「確かー…ここにあったような、あれーないなー」
棚町「んー、なになに? 無視ってワケ? へーそうなの、そういう感じ…よいしょっと」すとん
橘「どこにしまった───…うおっ!?」
棚町「ふんふーん♪」
橘「お、おい! お前っ……ちょっとどうして僕の机に座るんだよっ」
橘「机の上ってなんだよ!? おかしいだろ!?」
棚町「どこで食べようとアタシの勝手じゃない」
橘「そうかもしれないけど、ここは僕の机だ!」
棚町「あら、机の上が嫌なら……アンタの膝の上にでも~」
橘「………わ、わかった。了解した!」
棚町「膝の上で食べていいの?」
橘「ち、違う! それはそれは……じゃなくて! …い、一緒に食べるから勘弁してください」
棚町「うふふ、最初からそーいえばいいのよ、まったく」すとん
橘「ぐぬっ…」
棚町「さーて、ちょっとこの辺の席を勝手に借りてもいいわよねー」ガタガタ…
橘「…いいんじゃなか、僕は知らないけど」
棚町「冷たいわね~。ま、勝手に座るけど」すとん
棚町「アンタって弁当なの? いいわね、家の人に作ってもらってる感じ?」
橘「…そう、だけど。お前は今日はパンなのか」
棚町「そそそ。お母さんが働いてるからさ」もぐもぐ
橘「あ、そうなのか…僕の所も共働きでさ、だけど弁当だけは作ってくれるんだ」ぱか
棚町「感謝しなさいよ、そういうのって本当に大変なんだから」
橘「わ、わかってるよ。五月蝿いな……」もぐ
「……なんかいい雰囲気だな二人」
「昨日一体、なにがあったというのだ…!?」
「橘ァ……橘ぁー!」
橘(なにか、また注目されてるような気がする……)
「──あの、ちょっといいかな」
橘「え……? あ、蒔原さん…?!」
棚町「ん、蒔原じゃない。どうしたの?」
蒔原「…あのさ、薫。ちょっと私も……一緒に食べていいかな?」
橘「えっ!?」がった!
棚町「ちょ、アンタ五月蝿い! …アンタも? 一緒に?」
蒔原「ダメ?」
棚町「…別に構わないけど、アンタは平気?」
橘「う、うんうん! だだだっだ、大丈夫だよ!」こくこく
蒔原「本当に? ありがとう、橘くん!」
橘「う、うん…!」
「きゃあ! マッキー言ったよ!」
「まけるなー!」
橘「……?」
棚町「あ、そういえば忘れてたけどこっちも人を呼んでるのよね」
棚町「そうよー、そろそろ来ると思うけど……あ、きたきた」
田中「薫~? あ、やっぱり居た…」
梨穂子「…えーと、おじゃましま~す」
棚町「こっちこっち! 二人共~!」
橘「田中さん!? それに……梨穂子!?」
田中「あはは~…こんにちわ、橘くん」
梨穂子「えへへ」
橘「ど、どいうことだよ…!」
棚町「アタシが呼んだの」
橘「ど、どうしてっ?」
棚町「な~に言ってるのよ、アンタのためでしょ?」
橘「…はい?」
棚町(アンタのためを思って、やっとの思いで連れてきたんじゃない…! わかりなさいよ、そういうところ!)
橘(ま、まったく意味がわからないんだけど…っ!)
棚町(ハァ!? アンタが昨日、アタシに向かって好き───)
梨穂子「───あの、その~」
棚町「あ、うん! どうしたの桜井さん?」
梨穂子「う、うん…やっぱりその、私は自分のクラスで…」
棚町「え~! そんなこと言わないで、桜井さん一緒に食べたらいいじゃない~」
梨穂子「でも……」ちら
橘「?」
棚町「ほら、アンタからも何か言いなさいよっ」どすっ
橘「うごっ! ……よくわからないけど梨穂子…いいよ食べよう一緒に…うん」
梨穂子「い、いいのかな?」
梨穂子「あ、うん…! いいよ、私も大丈夫だから!」
棚町「じゃあみんなで仲よく、食べましょ!」
橘「……」
蒔原「…なんだか、人が多くなってきたね橘くん」こそっ
橘「えっ!? あ、うん…そうだね!」
蒔原「…やっぱり、ちょっと嫉妬しちゃうな」
橘「え……それって…」
蒔原「…橘くんの周りって、いろんな人が集まるよね」
橘「あ、うん…?」
蒔原「そういうの、ちょっと憧れる…かな? あはは」
橘「えっ……そ、そうかな…? あはは、えへへ!」
棚町「ちょっとそこの二人、机動かすの手伝って!」
橘「お、おおっ!」すたすた
蒔原「……………」
梅原「──よう、マサ……何やってるんだ廊下で」
マサ「っ!? う、梅原! ちょっと見てくれ!」
梅原「なんだよ…こっちは早く飯を食べたいんだがよ……」ちらっ
梅原「っ……!?」
ケン「…信じられるか、俺は信じられねえ」
ユウジ「橘ァ! 橘ァ…!」
棚町「アンタのそれって、卵焼き? アタシのちょっとくれない?」
橘「嫌だ」
田中「あはは、薫…これなら上げるよ?」
梨穂子「わぁ~美味しそう! それって手作りなの?」
蒔原「橘くん、このおかずいる?」
橘「えっ!? じゃ、じゃあもらおうかな……」
棚町「ぱくっ」
橘「あああああっーーーー!!」
蒔原「ど、どうも」
田中「…薫、行儀悪いよ」
梨穂子「あはは~」
橘「許せんっ…お前は! お前は!」
棚町「むぐぅっ!? んっ!? けほっ!?」
橘「ど、どうした!? 喉に詰まったのか!?」
棚町「っ……っ……っ…」こくこくっ
橘「え、ええっ! なにやってるんだよお前はっ……梨穂子水!」
梨穂子「は、はいっ」ずいっ
橘「コレをゆっくり飲むんだ……って、カラじゃないか!」
梨穂子「あ、全部飲んじゃったの忘れてた……えへへ」
橘「えへへ、じゃないよ! ど、どうしよう!」
蒔原「それよりも、誰かに水をもらったほうが…!」
橘「いや、それよりも僕のがある!」ずいっ
橘「ゆっくり飲めよ……そうそう」
棚町「ごくっ…ごく……こく……」
橘「ど、どうだ…?」
棚町「ぷはぁー…けほっ、けほ……うん、大丈夫…」
田中「よ、よかったー……」
梨穂子「一時はどうなるかと思ったよ~……」
蒔原「……でも、それって間接キスだね、二人とも」
橘&棚町「!?」
蒔原「あ、ごめん。余計なこと言っちゃったかな…? えへへ」
棚町「こんの、変態っ!」
橘「え、ちょまて理不ぐはぁ!」どたっ!
マサ「くっそくっそ……くやっしい~!」
ケン「…アイツは、なんだってそうだったさ…あの時だってそう、何も知らぬ女の子を…」
ユウジ「橘ぁああああ!!」
梅原「……はぁ、色々大変だな…ほんとによ」
~~~~~~
放課後
橘「いてて……」
棚町「ごめんって言ってるじゃない…もう」
橘「ごめんって言えば治るものじゃないよ、これって!」
棚町「だからってそう、見せつけるようにしなくたっていいじゃない」
橘「見せつけたくもなるよ! ったく……まあ、お前が無事だからいいけどさ…」
棚町「あ、うん……ちょっとさ、また付いてきて欲しい所が~…あったりして」
橘「………」
棚町「っ……で、でも! 別にアンタが嫌だっていうのなら無理に誘わないけど…」
橘「……なんだよ、いつもらしく強引に連れて行けよ」
棚町「えっ…?」
橘「お前さぁ……いや、ワザとそうしてるかわからないけど、時々ひ弱になるよな」
棚町「………」
橘「…そういうの、見てるとなんかこう……」
棚町「…アタシらしくない?」
橘「…まな」
棚町「そっか、そうよね……うん」
棚町「んじゃ、アタシらしくいうけど。ちょっとこれからアタシに付き合ってくれない?」
橘「断る!」
橘「…冗談だ、行ってやるよ」
棚町「な、なによそれ…! びっくりするじゃないっ」
橘「あはは、どーだ。僕もやられっぱなしじゃないんだぞ?」
棚町「ぐぬっ…」
橘「あはは」
棚町「…と、とにかく一緒に来てくれるんでしょうねっ」
橘「ああ、いいよ。もうどこにでも連れていけばいいさ」
棚町「……後悔しても遅いんだから」くるっ
橘「………」
すたすた…
「………」
蒔原「……………」
「──さあ、棚町だし何も考えてないんじゃない?」
「──あはは、それ言いすぎだから~!」
蒔原「………」
「──だけど知っててアレやってるなら最低だよね~」
「──そうそう、蒔原が可哀想じゃん」
「──どっちにしたって、あれだよ。マッキーが……」
蒔原「…ううん、別に平気だから」
「本当に? でも…」
蒔原「ちょっと悔しいよね、でも、やっぱさ」
「橘くんってわかり易いほど、マキのこと好きだもんね~」
蒔原「……」
「こういうのって、ちょっと負けた気がしないでも……あ、ううん、なんでもないよ!」
蒔原「───アタシにベタ惚れだって思うよ?」
「きゃー! 大胆!」
「いうねぇーマッキー!」
蒔原「だから、そういうのってちゃんと期待に沿わなくちゃだめじゃん?」
蒔原「負けたとか、勝ったとか、そういうのって……もとから」
蒔原「無いに等しいんだよ、こういうのって」
~~~~~~
街
橘「ここは…?」
棚町「…その、紳士服売場かしらね?」
橘「………」
棚町「さ、さーて! 入るわよー!」うぃーん
棚町「そ、そうね……」
橘「…ところで、どうして僕をこんなところに?」
棚町「っ…え、えーと! その……うん!」
橘「いや、うん! じゃなくて」
棚町「なによー、このアタシから問いただそうってわけ?」
橘「普通に聞いてるだけだ」
棚町「っはぁ……そうね、確かにこんな場所に連れてくるにはそれなりの理由が必要よね」
橘「おう」
棚町「それはね」
橘「なんだ?」
棚町「………やっぱり言えない」ぷいっ
橘「おい!?」
棚町「あ、アンタは黙って…! 大人しくスーツを着ればいいのよ! ほら早く!」
橘「……ん、これとかどうだ? 僕に似合ってない?」
棚町「……」
橘「……なにか言ってくれよ」
棚町「あ、うん! に、似合ってる…かも?」
橘「似合ってないならそういえばいいじゃないかっ」
棚町「あはは~」
橘「ったく……それで、お前はなにを買うつもりできたんだ?」
棚町「え? アタシは別に買うつもりなんて…」
橘「いいよ誤魔化すな、こんな用も無さそうな所に来たんだ……元から何を買うつもりか決めてるんだろ?」
棚町「……」
橘「手伝ってやるよ、昨日みたいに」
棚町「アンタ……」
棚町「……うん、ありがと」
橘「ネクタイ?」
棚町「うん、ネクタイ……こういうのってセンスとか意外と問われるじゃない?」
橘「まあな、ブランドとか…よく偽物も多いらしいし」
棚町「だからちょっとアタシも不安でね…うん、まあアンタに聞いたってしょうがないことは分かってるけど」
橘「お前的には、それがいいって思ってるの?」
棚町「…うん」
棚町「赤色が……凄く似合うって、そう思うから…コレを選ぼうって思うんだけどさ…まだ少し、踏ん切りがつかなくて」
橘「…プレゼントなのか」
棚町「へっ? あ、うんっ……そういう感じ、かな? あはは~」
橘「………」
棚町「どうなのかな…やっぱ、もっとお金を貯めて…マシな奴を買ったほうが…」
橘「それでいいと思うよ、僕は」
棚町「え…?」
橘「───お前みたいな奴が、そんなにも一生懸命に悩んで買うやつなんだ……」
橘「……ちゃんと相手も、嬉しがってくれるに違いないよ」
棚町「………」
橘「そういうもんだろ? プレゼントってさ」
棚町「…そう、よね」
棚町「………」
棚町「…うん、わかった。コレ買ってくるから、ちょっと待ってて!」くる
橘「おう」
棚町「…ありがと、助かったわ」
橘「いいってことよ」
棚町「…てんきゅ」
すたすた…
橘「ほれ、トマトジュース」ぽいっ
棚町「おっ? てんきゅ!」ぱしっ
橘「…限定品とか書いてあったけど、本当にそれでよかったのか?」
棚町「そそそ、これが飲みたかったのよ。何処にも売ってなくてさ~……マズッ」
橘「だろうと思った」
棚町「ナニコレ~……うげぇー…まぁ全部飲むけどっ……ううっ…!」
橘「…あはは、変なやつだな本当に」
棚町「んぐっ……なによ、急に失礼なことを言って」
橘「いや、やっぱり変なやつだよお前」
橘「……そのジュース、今日プレゼントする人の好物のやつだろ?」
棚町「っ……な、なんでわかったのよ!」
橘「赤色」
棚町「…そ、それだけ?」
棚町「…こっちはまんまとはめられた気分よ」
橘「はは、ここ最近好き勝手してくれたお返しだよ」
棚町「……ほんと、なによアンタってさ」
橘「…ん?」
棚町「…どうして、あの時アンタ…アタシを止めたのよ」
橘「あの時って……ゲーセンの時のこと?」
棚町「うん」
橘「それは……なんとなく?」
棚町「嘘、そんなのありえない…だって、アタシはアンタを殴ろうとしてたじゃない」
棚町「それから後すぐのことだったのに……アンタはアタシの喧嘩を止めに来た」
橘「………」
棚町「今になっては全部、勘違いってわかることだけど…その時はアンタも全部を理解してたはずじゃないでしょ?」
棚町「じゃあ、どうして止めれたのよ」
橘「…なに、それが気になってるのか?」
棚町「…まあね、それなりに」
ごく…
棚町「ぷはっ……そんなヤツ、アタシは初めて会ったから」
橘「ふーん、初めてか……」
棚町「…それで? どうしてアンタは止めにこれたのよ?」
橘「別に理由なんてないよ」
棚町「だから、そんな嘘をついても───」
橘「──嘘じゃないよ、これは」
棚町「………」
橘「本心さ、ただたんに駄目だって思ったからお前の喧嘩を止めただけ」
橘「そこにたいそれた理由なんて無いし、志があるわけじゃない」
棚町「…止めたいから、止めたってワケ?」
橘「そのとーり、お前と一緒さ僕は」
橘「お前もやりたいから、こうやって僕を連れて回れる。
僕もやりたいから、ああやって人の喧嘩を止めることが出来る」
橘「簡単に言えば、空気が読めないお人好しってわけだ、僕の場合はな」
棚町「………」
橘「今までそうやって生きてきたし、まぁ実際の所……いい目にあったことも少ないけれど」
橘「これが僕だから、しょうがないんだよ」
棚町「……なんか、カッコいいわねアンタ」
橘「…だろ? 惚れてもいいぞ、答えるつもりはないけど」
棚町「なによそれ、惚れていいって言うなら責任取りなさいよ」
橘「いやだー、お前みたいな女は責任取りきる自信が無い」
橘「…それはどうも、すみませんねぇ」
棚町「………」
橘「………」
棚町「くすっ……」
橘「ぷっ……」
棚町「あははっ……くすくすっ…なによ、惚れていいって…ばかじゃないの」
橘「お前こそっ…いくじなしって、僕が良いよって言ったらどういうつもりだったんだよ」
棚町「…はぁーあ、アンタってホント馬鹿よね」
橘「お前に言われたくない」
棚町「アタシもアンタに言われたくない」
橘「…まあお互いに馬鹿ってことで、ここはひとつ」
棚町「…ま、それでいいわ。だけど、これから先、そういった事言ったら怒るわよ」
橘「肝に銘じて置きます」
橘「ん、どうした……っておいおい!」
棚町「よいしょっと…」
橘「ぷ、プレゼントなんだろ? どうして箱から出すんだよ…!」
棚町「んーん、いいから黙ってなさい……ほら、動かないで」くいっ
橘「お、おお……」
しゅるる…
棚町「ん……こうかしら、うん」
橘「……」
棚町「───よし、出来た。どう? 着けた心地は?」
橘「おとなになった気分、かな」
棚町「うふふ、馬鹿っぽい返事」
橘「そりゃ悪かったな」
棚町「……。でもよかった、サイズはぴったりみたいね…」
棚町「…本気で言ってるの?」
橘「まさか。そろそろ僕だって気づいてるよ」
棚町「ど、どう気づいてるっていうのよ」
橘「───お父さんにだろ、このプレゼントは」
棚町「……」
橘「それに、昨日のファミレスのパフェ…
…それもまあ、なんだ、お父さんと食べに行くつもりなんじゃないか?」
棚町「そ、それは……っ」
橘「…どうなんだ、ここまで付き合ったんだ、教えてくれてもいいだろ」
棚町「…………」
橘「…うん?」
棚町「……そうだけど、それがなにっ」ぷいっ
橘「別にぃ? いやいや、ちょっとお前にも可愛い所あるんだな~ってさ」
橘「や、やめてください……」
棚町「……」
橘「で、本当の所はどうなんだ?」
棚町「…………っはぁー、そうよ全部アンタの言うとおり…」
棚町「…お父さんのために、色々としてたのよ」
橘「………」
棚町「誕生日が……近いから、アタシも……色々と送りたくて」
棚町「だからー……らしくないなって思っても、アタシは……一応お礼としてさ」
棚町「……こうやってものを贈ろうって、そう思ってるのよ、悪い…?」ちら
橘「悪くないよ、かっこいい」
棚町「……うん」
しゅる…しゅるしゅる
橘「ん」
棚町「……」
棚町「…アンタの身長、馬鹿にしてごめんね」
橘「別にいいよ、本当のことじゃないか」
棚町「…なんかね、こう…いつも通りにしちゃったのよ」
橘「いつも通りって?」
棚町「……お父さん、との」
橘「どうしてそこで、お父さんが……あ、もしかして」
棚町「気づいちゃった? そうなの、アタシのお父さんも…アタシより低くてさ」
棚町「──そしてちょっと、アンタにそっくり…くす」
橘(だから……最初から僕に馴れ馴れしかった、という訳か?)
橘「…ふーん、そうなんだ」
棚町「…ん、取れたわ」
橘「…おう」
棚町「………」
橘「………」
棚町「…本当にアンタって不思議なやつ」
橘「…そればっか言ってるな、お前」
棚町「それしか思えないのよ、アタシは…アンタにそうとしか思えないの」
棚町「…びっくりするじゃない、それだけ、そっくりだとさ」
すっ…
棚町「う~っん! っはぁー、今日も付きあわせちゃってごめんなさいね」
橘「うん…」
棚町「それじゃ、これで。帰り道わかるでしょ?」
橘「わ、わかるよっ」
橘「………」
橘「……なんだよ、本当に」
橘(お父さんのために、とか…不思議な奴とか……ごめんなさい、とか)
橘(僕が知っている…周りが知っている、棚町薫ってヤツと……全然印象が違うぞ)
橘「……でも」
橘「どうして、あんなふうに……寂しそうに笑うんだろう」
橘「…全く意味分からないよ」
~~~
「………」
蒔原「……」すっ…
蒔原「───いい雰囲気とか、ムカツクなぁ……くすくす」
橘「………」
橘(今日はアイツ、全然姿を見せないな…なにかあったのかな)
梅原「よう、大将。今日も辛気臭い顔してやがんな」
橘「…なんだよ、梅原」
梅原「はは、本当のこと言っただけだろ?」
橘「……」
梅原「まあ周りの奴らの受験やらで忙しそうだしな、みんな同じ空気だって」
橘「まあな…」
梅原「…それで、今日は着てねえみたいだな、棚町さんもよ」
橘「うん、それは…僕も気になってた」
梅原「おっ? お前さん……もしかして?」
橘「ち、違う。変に勘ぐるなよ…お前はそうやってすぐになっ」
梅原「オー怖い怖い、大将はすーぐ怒るんだからよ~」
橘「………」
橘(最近はアイツ、あれから全然姿を見せないな…なにかあったのかな)
梅原「よう、大将。今日も辛気臭い顔してやがんな」
橘「…なんだよ、梅原」
梅原「はは、本当のこと言っただけだろ?」
橘「……」
梅原「まあ周りの奴らの受験やらで忙しそうだしな、みんな同じ空気だって」
橘「まあな…」
梅原「…それで、今日も着てねえみたいだな、棚町さんもよ」
橘「うん、それは…僕も気になってた」
梅原「おっ? お前さん……もしかして?」
橘「ち、違う。変に勘ぐるなよ…お前はそうやってすぐになっ」
梅原「オー怖い怖い、大将はすーぐ怒るんだからよ~」
梅原「…そんなに気になるんなら、教室に確認行けばいいじゃねえか」
橘「…それは」
梅原「なんか違うってか、はぁーん。それはそれは…なんていうか、恥ずかしいのか?」
橘「っ……違うって言ってるだろ、もう!」がたっ
すたすた…
梅原「…ありゃ、少し押しすぎたか。怒らせちまったぜ」
梅原「…………」
梅原(…大将、もっといろんな物を見てくれ。コレはチャンスだからよ…)
梅原(答えはひとつだけじゃない、そのことを…もしかしたら棚町さんは…見せてくれるかも知れねえから)
梅原「……頑張れ、橘」
~~~~~
渡り廊下一階
橘「……っはぁー…」
橘(僕も、気にし過ぎなんだよ…本当にさ)
橘「水でいっか……」きゅ…
じゃばじゃば…
橘「……冷たっ」
「──あら、そこにいるの…」
橘「え?」
棚町「はろー」
橘「んぐっ……お前!」
棚町「な、なによ。そんな大きな声を出さなくもいいじゃない……びっくしりした」
橘「あ、うん…ごめんごめん」
棚町「ひっさしぶりに顔を見れば……もう、アタシをびっくりさせるなんてやるじゃない」すたすた
橘「別にびっくりさせようとしたわけじゃ…」
棚町「あっはは、知ってるわよそんぐらいのこと」
きゅっ
棚町「…というか、水を出しっぱなしにしないの。もったいないでしょ」
棚町「…んー?」じっ
橘「な、なんだよ…?」
棚町「アンタ、ちょっとまた顔色悪くなってない?」
橘「えっ? …別に具合は悪くないけどな」
棚町「そうよねぇ、別に熱なんて……無いと思うし」すっ
橘「っ……」
棚町「───ん、やっぱり無いわね。ちゃんと平温だし」
橘「……」
棚町「…なによ? アタシの顔を見つめて」
橘「…女の子って、そんな風にオデコ触るのって……普通のことなのか?」
棚町「え? んー……普通ってことはないと思うけど、まあ、それなりに仲良ければするんじゃない?」
橘「…そ、そういうものか」
橘「……それで、どうして最近は顔を見せなかったんだ」
棚町「へ?」
橘「ここの所、僕がいる教室……来なかっただろ」
棚町「もしかして……寂しかったの?」
橘「違う、急に居なくなったから…教室の奴らがうるさいんだよ」
橘「橘くんふられちゃったの? やら、残念だな~とかさ」
棚町「あらあら、まあまあ」
橘「来れば騒がしくって。来なくても騒がしいって…どういうことだ本当に」
棚町「前者は謝る、だけど後者は知らないわよ」
橘「全部お前のせいだっ」
棚町「言いがかりよ、ぜーんぶはアタシのせいじゃない」
橘「……ぐむ…」
棚町「ま、来なかったのには色々と……理由があったのよ、隣いいかしら?」
棚町「聞いてくれるんだ、てんきゅ」
橘「ぐっ…いいから、話せって」
棚町「まー色々と? ちょっと問題があってさ~……特にアンタに話せることはそんなに無いんだけど」
橘「……」
棚町「ちゃんと、あのプレゼントは渡せたわよ。無事にね」
橘「そうか、喜んでたか?」
棚町「そりゃーもう! 当たり前よ、好みに合わせて買ってあげたって言ったら、凄く喜んでた」
棚町「…本当に、びっくりするぐらい、喜んでた」
橘「………」
棚町「…ありがとね、感謝してる」
橘「いいよ、それを聞けただけで僕も安心だ」
棚町「…うん」
橘「それじゃあ、後はあの……超ラブリーパフェだっけ? あれを一緒に食べるだけだな」
橘「まあ、僕が思うに。あんなの二人じゃ絶対に食べきれないと思うけどな…僕も頑張ったところもあるし」
棚町「……」
橘「お父さん甘いの好きなのか? そうだったとしても、年配の方にあれだけ糖分を取らせるのは…
…あ、それならお母さん連れて三人で食べれば────」
棚町「………」
橘「──ん、どうした?」
棚町「………」
橘「お、おい?」
棚町「あっ、うんっ! そうよね! 三人で食べれば…いいわよねっ」
橘「う、うん……」
棚町「…そうよね、確かに」
橘「……?」
棚町「………」
「薫ぅー!!」たたたっ
棚町「えっ?」
橘「な、なんだ?」
田中「はぁっ…はぁっ…やっと見つけた…」
橘「田中さんどうしたの? そんなにも焦って…」
田中「橘くんっ…えっと、薫にちょっと用があって…っ」
棚町「どうしたの、恵子?」
田中「そ、そのねっ…えっと、輝日南中の方でっ……色々と問題が起こったらしいのっ…」
橘「…問題?」
田中「…うんっ、っはー……そのね? 落ち着いて聞いてね?」
田中「───輝日東中の生徒が一人、輝日南中に連れて行かれたらしいのっ…!」
橘「…え、どういう意味?」
田中「よくわからないんだけどっ……その、やっぱり…この前のことじゃないのかな…?」
橘「この前って……もしかして、ゲーセンの時の…?」
田中「う、うん…どうやらあの時の女子中学生を、輝日南が探してるみたいで…っ」
田中「それでっ……色々と聞き出すために、とりあえず誰かを連れて行ったって…」
棚町「っ………」だっ
橘「なんだよ、それ───ちょっ! お前どこに行くつもりだ!?」
棚町「行ってくる! 恵子とアンタは、先生に具合悪くなったって言っておいて!」だだだっ
田中「か、薫っ……!?」
橘「なにを無茶なことをっ……それで!? 田中さんもっと詳しく教えて!」
田中「えっええ!?」
橘「いいから、もっとくわしく教えてくれ!」
橘「はぁっ…はぁっ…!」
田中『あのね、どうやら連れて行ったのは…輝日南の女子生徒たちって言われてるみたい…』
橘「んくっ……アイツ、足早すぎだろ…!」
田中『聞いた感じだと、まったく無関係の女の子みたいで…しかも、薫のことも全然知らない子で…!』
橘「くそ、このままじゃ間に合わないっ…あ、そうだ!」
橘「だけど、ここから教室も遠い……仕方ない、アレをやるかっ……!」
橘「すぅううううう────」
橘「───うめはらまさよしぃいいいいいいいいいいい!!!」
「な、なんだ…!?」
「外から声が…!」
がら…がらり
橘「うめはらぁああああああ!! 自転車のかぎぃいいいいいいいいいい!!」
「…あれ、橘?」
「なにやってるんだ、授業もう始まるぞ…」
橘「はぁっ…はぁっ…お願いだ、気づいてくれ…梅原…!」
「──おらよ!!」ぶんっ
橘「っ……!」ぱしっ
梅原「──行ってこい大将! よくわかんねーけど、急いでるんだろ!?」
橘「っ……ああ、ありがとな! 行ってくる!」だだっ
梅原「おうよっ!」
橘「ありがとう、梅原……!」
~~~~
橘「はぁっ…はぁっ…!」ぎぃぎぃ!
ぎぃぎぃ……
橘「──はぁ、ふぅ……でも、どうにか着いた…!」がしゃんっ
橘「はぁっ…はぁっ…静かだな、授業始まってるだもんな、そりゃそうだよ…」
橘「…んく、駄目だ。怖気着いたってしかたない」
橘「アイツ……大人しくしてろよ、本当にっ…!」だっ
~~~~
輝日南 廊下
橘「……」こそっ
橘(…どうにか入り込むこと出来たけど、どうしよう! これって不法侵入だよね!?)
橘(凄く今更だけど、怖くなってきた! ど、どうしよう…受験で問題になってきたら、あわわっ…!)
橘(と、とにかく…早急にアイツを見つけて、連れて行かないと…っ)こそこそ…
がやがや…
橘「あれ? なんだろう、授業中だっていうのに…騒がしいな…?」
がやがや…
橘(もしかしてあそこにいるのか…? ううっ、でおm知らない生徒ばっかり……どうしよう、僕…!)
橘「っ……恐れるな、橘純一…っ…! 大丈夫!」パンパン!
橘「……よし、行くぞ」すたっ
~~~~~~
「……なんか静かになったよね?」
「さっきの子のせいなのかな…?」
「やっぱり先生呼んでこようよ…」
橘「あの…すみません」
「…え? あ、誰?」
橘「えっとー……その、輝日東中の~」
「あ、さっき入っていった女子の知り合いっ?」
「そうそう!」
「貴方、その人と関係者!?」
橘「ま、まあ…そうなるかも」
「じゃ、じゃあ止めてあげて!」
橘「と、とめ…?」
「さっきからトイレの様子が変なんだよっ! いや、あの、それなりに理由は知ってるんだけど…」
「…いいっていわなくて、問題になったらどうすんの」
「だ、だって…このままじゃ…」
橘「…えっと、もう少し詳しく状況を教えてくれないかな?」
「あ、あのねっ……ウチの学校の生徒が、その、輝日東の人に聞き出すって話しをしてて」
「それを女子トイレで話してたんだけど…そのとき、いきなり輝日東の女子が入ってきて…」
橘「…連れ出す、話しをしてた?」
「そうそう!」
「貴方、その人と関係者!?」
橘「ま、まあ…そうなるかも」
「じゃ、じゃあ止めてあげて!」
橘「と、とめ…?」
「さっきからトイレの様子が変なんだよっ! いや、あの、それなりに理由は知ってるんだけど…」
「…いいっていわなくて、問題になったらどうすんの」
「だ、だって…このままじゃ…」
橘「…えっと、もう少し詳しく状況を教えてくれないかな?」
「あ、あのねっ……ウチの学校の生徒が、その、輝日東の人に聞き出すって話しをしてて」
「それを女子トイレで話してたんだけど…そのとき、いきなり輝日東の女子が入ってきて…」
橘「…聞きだす、話しをしてた?」
「ほら、余計なこというからっ…」
橘「どういうことかな、聞き出すって…僕らの学校の生徒で、なにか問題でもあったの?」
「…うっ……」
「その…色々と…あってさ…」
橘「…詳しく教えて」
「……」
「……その、ね。この前のことなんだけど…ゲーセンで輝日東と輝日南の生徒でいざこざがあったらしくて…」
橘(ゲーセンって言えば、やっぱり僕がいた時のこと…かな)
「それで、そのときの女子生徒を……探しだそうって、話になってて…」
「まあ、ホントにやるかってのはわかってないけど……その…」
橘「…そっか、ありがとう」
橘「じゃあ誰かが連れて行かれたとか、そういったことじゃないんだね」
「えっ? まさか、そんなこと!」
「ありえないよっ…!」
橘「…うん、だと思った」
橘(田中さんが言っていたことと、
少し矛盾がある…どこから聞いた話か分からないけど、所詮は噂程度)
橘(ったく、それを真っ向から信じやがって……何やってるんだよ、アイツはっ)
橘(…だけど、あれから全く女子トイレから出てこないだなんて)
「…ど、どうする?」
「やっぱり、先生を呼びいったほうが…ちょうどウチら自習中だし…職員室に行けば…」
橘「っ……ちょっと、だけ待ってくれないかな!」
「えっ…?」
「で、でもっ…」
橘「お願い、いきなりこんな事言われて…迷惑だってのもわかってる!」
橘「…だけど、コトを大きくしたくは無いんだ…っ! どうか、お願いします!」ばっ
「……」
「……でも、どうするの…?」
橘「──僕がどうにかするから!」
「えっ?」
「どうにかするって…そりゃ、アタシたちも生徒だけでどうにかしたいけどっ…」
橘「だ、大丈夫! 僕が…僕が絶対にどうにかするから!」
「え、ええっ…!」
橘「……」
「でも、〝女子トイレ〟だよ…? 入ったらそれだけで、問題になるんじゃ……」
橘(確かにそうだ……場所は他校の女子トイレ、例え止める言葉目的だったとしても…
その場所に足を踏み入れるのは、なんていうか、僕としての立ち位置が今後変わってしまう…)
橘「………っ…」
『───…びっくりするじゃない、それだけ、そっくりだとさ』
橘「……ああ、わかった…僕はアイツに…」
橘「──悲しい顔をして、ほしくないんだ……」
橘「…アイツは何時だって笑ってて、我侭で、そして元気で…」
橘「…今の僕に無いものを、沢山持っている」ぐっ…
橘「それは決して、僕が見過ごしていいものじゃない……ちゃんと、ちゃんと…っ」
橘「……友達として、アイツの横にたってやらないとダメなんだ!」すたっ!
「え、あっ……!」
「は、入った…!」
橘「──薫!! ここにいるんだろ!!」
「な、なに…?」
「きゃああ! だ、男子!」
橘「ぐっ、お、お前っ…やめろそういうことは! 例え薫が怒ったとしても、
それは勘違いであって、それにお前が出るような場所でも無いんだよ!!」
薫「あ、うんっ…って、そうじゃないわよ!」
橘「そうなんだよ! 僕はだな、お前がまた変なことをして受験に失敗でもしたら…
…お父さんに顔見せ出来ないだろ!? と、友達としてな! 友達としてだぞ!!」
薫「え、ちょっ…アンタ!」
橘「なんだよ!」
薫「ちょっと落ち着きなさいって! 何を急にわけのわからないことを…っ」
橘「だから言ってるだろ!?」
薫「っ…だから何よ!」
橘「お前が心配なんだよ!! 薫!!」
薫「っっ…」
お前は僕の気持ちなんてっ…さっぱりだろうけど! でも、僕はお前を止めに来た!」
薫「止めに来たって…」
橘「友達だから! 僕ら友達なんだろ…そういったよな!?」
薫「う、うん……!」
橘「友達なら、友達っていうのなら……僕は薫の間違いを訂正してあげなくちゃいけない」
橘「なにかをしようとしてるのなら、全力で手伝ってあげるさ!」
橘「だけど! 今のお前は……間違ってる! だから友達として、僕は薫を止めてやる!」
橘「───そんな僕が邪魔だと言うのなら殴れ。だが、それでも僕は薫を止めるぞ!」
薫「………」
「………えっと…」
「……棚町さん、その人は…?」
薫「……っはぁ~、ただの馬鹿よ」
橘「ふぅーっ! ふぅーっ!」
橘「なんだよっ」
薫「アンタ、ちょっと少しは冷静になって…この状況を見て、アタシが何かしでかすように見える?」
橘「えっ?」
「あはは…」
「こ、こんにちわ…?」
橘「……」
橘「え?」
薫「……はぁー、何を勘違いしてるのかわっかんないけど、あれ?」
薫「───もしかして、アタシが喧嘩してるとでも思ってたわけ?」
橘「う、うん……違うの?」
薫「ちっがーうわよ! どーしてアタシがそんな無茶なことしなきゃいけないのよ!」
橘「だ、だって…薫だし…核弾頭だから…」
薫「フンっ!」ブン!
薫「…それ、言ったら怒るって言ったわよね」
橘「…は、はい…」
薫「…なんかごめんなさいね、びっくりしたでしょ?」
「う、うん……なんていうか、ちょっと」
「で、でも…心配しにきてくれたんでしょ…?」
薫「うっ……そう、みたいだけどさ…」
橘「……」ぴくっぴくぴく
薫「あのね、そのまま聞いてて欲しいんだけど…」
薫「…アタシは別に、恵子が言ったこと信用してないわよ」
橘「で、でもっ……お前、凄い速さで走っていったから…」
薫「馬鹿ね、そういうことじゃないわよ。ただ単に、情報が欲しかっただけ」
橘「じょ、情報…?」
薫「そう。最近さ、アタシ誰かに見られてるような気がしてたのよ」
薫「そう、だから恵子が言ってたことが少し…関係があるのかもって」
薫「それに、ちょっとばかし野暮用もあったから」
薫「…もう一度言うわね、あの時、本当にごめんなさい」
「あ、うんっ! いいんだよ……アイツも悪かったんだし、あのあともこっ酷く叱っておいたから」
薫「でも…首を締めるほどじゃなかったと思うし」
「そんなわけないよ! かっこいいよ、そういうのって、憧れるし」
薫「あ、憧れるって…ま、嫌な気分じゃないけど」
「アタシたちも、その御礼っていうか…そういうの言いたくってさ」
「色々と探してたんだけど…なんていうか、これでチャラになったね」
薫「あはは、そうねっ」
橘「…大変わかりました…」
薫「よろしい、それで…あら?」
「あのー……」
薫「えっと…まさか、結構人……集まっちゃってる感じ? それ?」
「う、うん……だけど、さっきの人が入ってから…みんな聞き耳立てるから…状況は、はい…わかってるかな?」
薫「そ、そっか…ふぅ、アンタもなにしでかしてるのよ! 女子トイレよここ!」
橘「わ、わかってるよ……」
薫「あら、復活早いわね」
橘「…そりゃ慣れてるからな、友達として」
薫「そ、そお…?」
「それと…すみません、もうひとつ報告が…」
「先生がこっちにきてます、騒ぎを聞きつけて…っ」
「だから、そのー……にげたほうがいいのかなって、あはは」
橘「……」
薫「……」
橘「──薫、トイレの窓から行くぞ!」
薫「──りょーかい、アンタ達! その先生とやらを足止めしといてくれない!?」
「はいよー!」
「は、はやく逃げて逃げて!」
橘「いけるか? 足持つぞ?」
薫「勢い付けて飛ぶから、手で支えてて…!」ぴょん!
橘「よいしょっと!」
薫「届いた! アンタも……───」
薫「───純一も、早く手を貸して!」
「……」
純一「おう! 引っ張ってくれ! 薫!」
純一「うおおおおっ!」
薫「っ…ヤバ、先生とやら着てるわよ!」
純一「おおお!!」
薫「もうちょっと静かに走りなさいよ!」
純一「うん、そうだな……」
薫「それで……ああもう、この坂を降りてるところで後ろ姿がバレそう…!」
純一「……」
薫「もっと早く移動できるものがあればっ…!」
純一「あ、そうだ! 自転車がある!」
薫「あるのっ!? はやくそれに乗るわよ!」
純一「わ、わかった! あ、あったアレアレ!」
薫「純一が漕ぎなさいよ!」
純一「わかってるって! 早く乗れ薫!」
ぎい…ぎいい…
薫「ちょ、ちょっと…アンタ大丈夫なの!? 遅いわよ!」
純一「だ、だいじょうぶだって…坂に入れば……スピードは出るから…!」
薫「来てる来てるわよっ! はやくはやくっ!」ドスドス!
純一「いって、痛い! 殴るなよ!?」
薫「しょうがないでしょ!?」
純一「もう、坂に入るからさっ…よいしょっと!」ぐぉっ!
しゃー!
純一「……入った!」
薫「ダメよ! 油断してないで漕ぎなさい!」
純一「あいよっ!」きぃきぃ!
薫「早い早い! イケるわよ純一!」
純一「あったりまえだよ!」
純一「うぉおおおおおお!!」
薫「あっは! きもちぃい…!」
純一「ああ、そうだな…! 風が気持ちいな!」
薫「…くっす、あはは! うふふ…なによこれ…っ」
純一「えっ? なにか行ったか薫!?」
薫「うんっ! ───アンタ…薫って呼んだわね!」
純一「お前だって! 僕のこと純一って呼んでるじゃないか!」
薫「アンタが下の名前で呼ぶからでしょ!?」
純一「そりゃまあな!」
薫「どうしてっ……下の名前で呼んだの!?」
純一「どうして!? そんなの当たり前だろ!?」
純一「──お前と僕は、友達だからに決まってるじゃないか!」
純一「ああ、そうだ! 僕はお前と友達! だったら下の名前で読んだって不思議じゃないだろ!?」
薫「っ……あはは、そうね! 確かにそう!」
薫「だけど、友達っていうのは…ちょっと違うかも!」
純一「えー! どういうことだよ!?」
薫「こんな馬鹿みたいなことやって、受験だってもしかしたら問題になるかもって思うのに!」
薫「なのにアンタはそんなアタシに加担してくれて! ここまでのことをしてくれてる!」
純一「おう!」
薫「それってさぁー! 所謂アレってやつじゃない!?」
薫「──悪友って言う奴よ!!」
純一「なんだそれ! あはは! 上手いな薫!」
薫「でしょ!」
薫「あははっ」
純一「だったら僕はっ……その言葉通り、もっとお前と付き合ってやる!」
薫「どういうことー!?」
純一「お前の我侭に、ずっと付き合ってやるって言ってるんだよ!」
薫「我侭って! ぶっ飛ばすわよ純一!」
純一「あはは! 御免被る!」
薫「っ……アタシだって、純一にずっと加担して上げてあげるわ!」
薫「どんなことがあろうと、アタシはずっと純一に付き添っててあげる!」
純一「嬉しいこといってくれるじゃあないか! それ、もっとスピード出すぞ!」
薫「きゃー!」
純一「あははは!」
薫「んーー、なにー?」
純一「……ありがとうな、お前のお蔭で元気が出たよ」
薫「え? なにー? 聞こえないー?」
純一「…いや、いいよー! 聞こえなかったらそれでー!」
薫「なによー! 言いなさいよはっきりとー!」
純一「秘密だ!」
薫「何よ本当にー! もうっ……」
薫「……馬鹿なんだから、純一は」ぎゅっ…
~~~~
純一「はぁっ……」
薫「はぁっ…死ぬかと思った…」
純一「ああ、あの坂の後のカーブ…よく曲がれたよな僕達…」
薫「絶対に頭ぐっしゃーいったと思ったわよアレ…」
薫「平気だし……いいわよね?」
純一&薫「……ぷっ」
「あははっ……」
「うふふっ……」
数十分後
梅原「おう、おかえり大将」
純一「おう、ただいまー」
梅原「こってり絞られてきたか?」
純一「ん、まあな!」
梅原「そうかそうか、んなのに元気だな…」
純一「まあな!」
梅原「…いや、本当に元気だな橘」
梅原「おう、そうか。そりゃまーよかったぜ」
純一「……色んな物が見えたよ、なんていうかさ」
梅原「……」
純一「小さな事で悩んでた僕は、本当に小さな人間だったんだなって…」
純一「できることと、できないこと。そうやって二つに分けて自分のことをわかってたつもりだったけど…」
純一「…まあ、なんていうか、出来るんだな人って奴は」
梅原「そうか、んまー……いつもの大将に戻ってくれただけで、いいんだぜ俺は?」
純一「え?」
梅原「──受験、頑張ろうぜ?」
純一「うぉおおっ……思い出させるなよ、お前…!」
「───あの、橘くん……」
純一「あ、蒔原さん」
蒔原「だ、大丈夫だった? なんかい色々とやってたみたいだけど…?」
蒔原「…橘君?」
純一「うん、大丈夫だったよ! 大変だったけど、全部どうにかしたからさ!」
蒔原「そ、そうなんだ…」
純一「…それでさ、蒔原さん」
蒔原「あ、うん! なにかな?」
純一「……ちょっとお話があるんだけど、いい?」
~~~~~~
屋上
棚町「……」ずずっ…
棚町「…やっぱまずわね、これ」
棚町「トマトジュースとか、どうしてのめるのかしら……」
「───ここにいたんだ、棚町さん」
棚町「…んむ?」
梨穂子「こんにちわ~」
梨穂子「…ちょっとだけね、うん」
棚町「……?」
梨穂子「隣、いいかな?」
棚町「いいケド……どうぞ」
梨穂子「ありがとう」すっ
棚町「……」
梨穂子「…今日は、純一と色々とやってたみたいだね」
棚町「ぶはぁっ……あ、やっぱりいろんな人が知ってる感じ?」
梨穂子「うん、輝日東中の殆どが知ってるんじゃないかな…?」
棚町「そ、そおなんだ……やっば~…本当にアタシって馬鹿…」
梨穂子「…くす」
棚町「…何よ桜井さん、笑わなくたっていいじゃない」
棚町「え?」
梨穂子「……純一が、やっと純一らしくなったなって」
棚町「アイツが、アイツらしく…?」
梨穂子「…うん、そうなんだよ。最近の純一って、ちょっと…暗くてね」
梨穂子「棚町さんは……あれがもしかして純一だって思うかもしれないけど」
梨穂子「もっともっと、笑う人だったんだ~……うんっ」
棚町「へえ……」じゅるる…
梨穂子「それでね、今日…廊下でたまたま純一の顔を見た時…あ、いつもの純一だって思ったの」
梨穂子「───いつもの、私が知っている純一だって…そう思えたんだ」
棚町「…そんなに違ってたの? アイツ?」
梨穂子「うん、すっごーく違ってたよ? びっくりするぐらいにね」
梨穂子「…だから、ありがとうって言いたくて。棚町さん」
棚町「あ、アタシに? 別にアタシは特になにも…っ」
梨穂子「純一があんな風に笑えるようになったのは……」
梨穂子「……私には無理だったから、ね」
棚町「……でも、アイツは…」
梨穂子「……純一は、好きな子がいるんだよ」
棚町「っ……そ、それ…!」
梨穂子「だけど、私じゃないんだ」
棚町「……え?」
梨穂子「えへへ、やっぱり~…棚町さん勘違いしてたでしょ?」
棚町「ち、違うのっ? だってアイツ、え?」
梨穂子「私と純一は幼馴染、そういってなかったかな?」
棚町「…う、うん」
梨穂子「だからね、それ以上はなくて…それ以下でもなくて」
梨穂子「私と純一は、そんな関係なんだよ?」
梨穂子「……」
棚町「…桜井、さん?」
梨穂子「純一が、女の子を好きになるのって……多分、今回が初めてなんだなって思うんだ」
梨穂子「だから純一がどんな子を選んでも…それが、純一が本当に好きだって思えるのなら」
梨穂子「…それは、ただしい『恋』なんだなって思うの」
棚町「…どういう意味、それ?」
梨穂子「……あはは、どうなんだろうね、これって」
梨穂子「私には……うん、わからないよ、ごめんね」
棚町「………」
梨穂子「…それじゃあ、これで」すっ
梨穂子「──純一を、これからもよろしくね?」
すたすた…
棚町(一体…なにがいいたのか、さっぱり……)
棚町「…………」
棚町「…アイツが好きなら、それが正しい恋か」
棚町「……どうしてそんな達観したようなこと、言えるのかしら」
棚町「幼馴染だから…?」
棚町「……………」
「──今度のクリスマスにっ…」
棚町「…ん?」
「──その、僕とで、デデデ!」
棚町「なにあれ、校舎裏で誰か……純一!?」
「──デートを……してくれませんか!?」
棚町「デート!? えっ? えっ? 相手は誰───」
蒔原「………」
棚町「………!」ぐっ
棚町「純一ッ…!」くるっ
「───待てよ、棚町」
棚町「っ…?!」
「どこ行く気だ、ええ?」
棚町「ッ…どきなさいよ、アンタには関係無いでしょ」
「いや、関係あるな。アイツの所に行こうってんなら」
梅原「───俺は、お前を止めなくちゃいけねえ」
棚町「…いいからどきなさいよ」
梅原「駄目だ、落ち着け棚町」
棚町「っ…何も知らないくせに、いいからはやくアタシは純一の所に…!」
梅原「──今回の件、黒幕は誰か俺は知ってるよ」
梅原「お前がどうして輝日南に行ったのか、そしてどうして行かなければならなかったのか」
梅原「…大体は予想がつく、そしてどうしてそうなったのかもな」
棚町「アンタッ…!」
梅原「棚町もわかってるんだろ? だからそんなにも怒ってる」
梅原「……アイツと蒔原が、近くにいることに対してな」
棚町「わかってるんならっ…そこをどきなさいよ! アイツがどんな奴に何を言おうとしてるか…!」
梅原「………」
棚町「わかってるなら! 止めなきゃダメじゃない!」
梅原「…駄目だ」
棚町「どうしてよっ!」
梅原「っ……アイツが選んだことだからだよ!」
梅原「あの橘が、ちゃんと考えて、選んだことだからだ!」
梅原「アイツはっ…口では色々というけどよ! すっげー臆病者なんだよ!」
梅原「恋に対して…これでもかってぐらい、真剣に悩むやつで…!」
梅原「好きな女の子にたいして、真面目に考える馬鹿なやつで…!」
梅原「だから、そんなヤツが……今回、キチンと自分の考えを持って…」
梅原「……ああやって、女の子を誘えたんだ」
梅原「そんな橘の努力と勇気を、邪魔するわけにはいかねえだろ!」
棚町「──だからって! なんでアイツなのよ!」
棚町「アイツは! 絶対に……なにか裏でものごとを考えてるやつよ!?」
棚町「今回のことだってそうじゃない! わかるわよ、どうせアタシを罠にはめようとかそういうことだったんでしょ!?」
棚町「気に入らないから、アタシをっ…輝日南に向かわせて、問題を作ろうとした…!」
棚町「そこから何が待ってるのかなんて、結果がどうなろうと、アイツは全く…ッ!」
梅原「…それでも、駄目だ」
棚町「ぐっ…アンタに何を言っても無駄ね、退きなさいさもないと殴るから!」
梅原「駄目だ」
棚町「な、なんでよっ!」
梅原「…ダメだって、棚町」
棚町「っ……なんでよ、どうして…っ…!?」
梅原「……」
棚町「どうして……ダメなのよ、アタシは…アイツに……」
梅原「……俺だって、アイツを止めてやりたい」
棚町「っ……」
梅原「どうしてあんな奴を好きになったんだよって、俺だって…そう言ってやりたい」
梅原「だけど……だけどよ! …だけど、それは…言えるわけねえだろ……」
梅原「…アイツが一生懸命に悩んで悩んで…それでも、好きだって思った相手をよ」
梅原「──この俺が、ダメだって言えるか?」
棚町「っ……」
梅原「俺は、ダメな親友だ……なんでもわかってるつもりでも、なんにもアイツを救ってやれねえ…馬鹿な男だ」
梅原「だが、それでも……やっぱり、俺はアイツにとって親友でありたいんだよ」
梅原「橘純一ってやつを、認めていたんだいよ!」
棚町「………」
梅原「絶対に…今回のことは、否定してやっちゃいけねえ! アイツの本当の気持ちを、蔑ろにしちゃいけねえんだ!」
梅原「あの男は正しいんだって! 唯一、全部知ってる俺だからこそ! 言わなくちゃいけない言葉だろ!?」
棚町「………」
梅原「……その後に、何が待ってるかなんて。考えたくもねぇ…信じたくもねえし、なってほしくないと思ってる…」
梅原「…だけど、それでも俺は…こうやって、お前を止めるアイツの『親友』でありたい思ってる!」
棚町「……」
梅原「殺す気でかかってこい、俺もそれなりの覚悟で挑む」
梅原「───俺は命を張ってでもアイツの覚悟を守り切るからな」
棚町「……なによ、それ」
棚町「…アンタはただ、そうやっていい親友って奴を…演じたいだけじゃない」
梅原「……」
棚町「アイツにたいして…現実を突きつけるのが恐いから…アイツがショックを受けるのが…恐いから」
棚町「──ただ単に、それが恐いからそんなこを言えるんでしょ!? 最低よアンタはッ!!」
梅原「………」
棚町「そんなものッ……アタシがやってやるわよ! アイツがどんなに傷つこうとも!
このっ…このっ! 悪友のアタシが! ちゃんとしっかりとアイツに───」
梅原「──……」ぼそっ…
棚町「──えっ…?」
棚町「……なに、それ、マジで言ってるの…?」
梅原「…ああ、本当のことだ」
棚町「うそ、ありえない、どうして……」
梅原「……そうだな、確かにありえないだろうな」
梅原「だけど、アイツはそういうやつだって俺は知っている」
棚町「ばか、なんじゃないの…?」
梅原「……いいや、馬鹿じゃない、アイツは本気だ」
梅原「───今回の件のこと、黒幕のこと、アイツは全部知っている」
~~~~~
梅原「アイツは変えようとしてるんだ…蒔原のことを」
棚町「…なんで」
梅原「…好きだからに決まってるだろ」
純一「──……!」
蒔原「───……?」
梅原「あの男は……あそこで頑張ってやがる男は、そういう奴なんだよ」
棚町「………」
純一「───……!?」
蒔原「───くすくす…」
棚町「……どうして、言い切れるのよ」
梅原「なんで知ってるかってか? …そりゃまあ、俺だって知りたい」
梅原「だけど、アイツは知ってた。俺にそうやって…伝えてきたんだ」
『──僕はそれでも、好きだから』
梅原「っ……アイツは、馬鹿なやつだ。本当に、俺だって…止めてやりてぇよ」
梅原「だけど、橘は……好きだからって、自分が初めて好きになった女の子だからって…」
棚町「……」
梅原「意味がわっかんねーよな、俺だって……さっぱりだ」
梅原「ずずっ……だけど、やっぱ期待したくなっちまうだろ。言い切られちまうとよ…」
梅原「…だから、俺はアイツを信用する」
棚町「………」
梅原「もしそれがダメだったとしても、俺は…絶対にアイツの側に居てやるんだ」
梅原「そして毎年クリスマスによ…男どもで盛大に祝ってやってさ、馬鹿だったなぁあの頃はって」
梅原「…笑ってやりたいんだよ、俺は」
棚町「……」
梅原「…アイツに次の大事な人ができまで、俺は……おう、一緒にいてやるんだぜ」
棚町「………」
梅原「…ばかだって思うだろ?」
梅原「くはは! だろだろ! …それに俺たちも馬鹿だ」
棚町「……」
梅原「こうやって…アイツの恋の頑張りに、一生懸命になっちまってる」
梅原「…大丈夫だ、なにがあっても幸せしか残ってねえよ、これってよ」
棚町「……」
梅原「…棚町、お前もずっとアイツのそばに居てやってくれ」
棚町「……」
梅原「しあわせになろうが、不幸になろうが、それでも…ずっとその『悪友』のままでいてくれ」
棚町「……」
棚町「……言われなくたって、そんなの」ぼそっ
梅原「そうか、そりゃーよかったぜ。俺も安心だよ」
棚町「……」
蒔原「───……」こく…
棚町「あーあ、あんなに嬉しそうにしちゃって…」
棚町「馬鹿ね、本当に……アンタってどうしてそこまで、こうなのよ…」
棚町「……ばか、それじゃあアタシも…」ぎゅっ…
棚町「……応援したく、なっちゃうじゃない…」ぼそ…
梅原「……。さーて、飯でも食いに行くかぁー」すたすた
棚町「…アタシは、もうちょっとここにいる」
梅原「そうかい、おう……んじゃまたな、棚町」
棚町「………」
ざぁあああああ~……ひゅうう~……
棚町「…寒いわね、今日も」
棚町「…クリスマスってアンタ、当分先じゃない」
棚町「ぷっ……テンパりすぎよ、ホント」
棚町「あーあ、そこまでアイツ……ちゃんと真っ直ぐにすきでいられるのかしらねえ~…」
棚町「……」
棚町「……仕方ない、このアタシが最後までキチンと!」
棚町「メンドウ見てあげようじゃないのっ!」
棚町「…このアタシが、悪友としてね」
棚町「…………」
ざぁあああああ~………
「………」
「……っはぁー…寒いなぁ」
「一段と冷えてきた気がするよ……あはは、なんといっても…」
「僕の心がぽっかりと、穴が開いてる……からかな」
「……どうして、来てくれなかったんだろう」
「やれることは、やったつもりだったのに。色んな人に女の子の喜びそうなものを聞いて…」
「それから、デートではどんな場所で過ごせばいいのか…一生懸命、一生懸命…」
「…だけど、彼女は来てくれなかった」
「…………」
「……あはは、寒いなぁ」
「ああ、そうだな…それは…受験とか恋とか、そういうことで悩んでた時期かな」
「あの時の自分は、自信がなくて…度胸がなくて、そして……周りに迷惑ばっかりかけてて」
「どうしようもない僕で、どうしようもなかった僕で……」
「………」
「…だけど、いつの時からか…それは急にガラリと変わって」
「僕は、色々と頑張ることが出来たんだ」
「………なんでだっけっかな。どうして僕は頑張れたんだっけ」
「あ、そうか……あの時、僕はアイツと──出会ったから…」
「彼女と、あの…僕より背の小さくなった女の子と一緒に…」
「ここまで頑張ってこれたから……かなぁ」
「………」
「彼女に、ここまで僕を強くしてくれて……ありがとうと、この気持ちを伝えたい」
「ここまで頑張れたのは、君のお陰だよって……感謝の気持ちを彼女に伝えたい」
「…あはは、僕も弱ってるなぁ。アイツに感謝なんてさ」
ふわ…
「──あれ、これって……まさか雪?」
ふわふわ…
純一「ホワイトクリスマスだなんて…今年も寒かったからなぁ」
純一「………」
純一「この景色を……僕は、一体誰と見たかったのだろう」
純一「雪の降る夜景が広がる……この公園で、僕は」
純一「僕は、誰と……」
きぃ…
純一「…ん?」
純一「…なんだよ、心配して見に来てくれたのか?」
薫「さあ? なんのことかしら?」
純一「すっとぼけるなよ、全部わかってたくせに」
薫「…くす、見事にふられちゃった感じ?」
純一「…泣くぞ」
薫「いいわよ、アタシの胸の中でたーんとお泣きなさい」
純一「え、いいの?」
薫「…コラ」
純一「あはは、冗談だよ……ほら、見てくれ薫…雪だよ」
薫「知ってるわよ、自転車でここまで来たんだから」
純一「そっか……でも、雪だ。雪が降ってるんだ」
薫「………」
薫「……」
純一「ゆっくりと……ゆっくりと……」
薫「…純一」
純一「…だけど、僕は……雨が良かったな」
薫「……」
純一「そうすれば、そうすれば……色々と隠せたのに…」
純一「…こんなにも綺麗で、ゆっくりと降るのなら……、っぐす……」
純一「……もう、隠せないよ……」
薫「……馬鹿ね、本当にアンタは馬鹿よ」
純一「…ああ、そうだな……」
薫「……それに、頑張りすぎよ……本当に」
純一「あはは、だな……うん…ぐすっ…」
純一「っはぁー……泣いちゃだめだよな、こういうのってさ」
薫「…うん」
純一「ちゃんと、前を向かなきゃいけないよな……わかってるんだ」
薫「うん」
純一「だけど、だけどっ……やっぱり悲しくって、僕は…」
薫「……うん」
純一「…あーもう、嫌だ嫌だ。お前に甘えてばっかりで、嫌になるよ」
薫「うふふ、甘えればいいじゃない。今日ぐらいは、許してあげなくもないわよ?」
純一「……本当にか?」
薫「うそ」
純一「くそっ、ジュースの一本でも驕らせようと思ったのに…」
薫「甘い甘い、それぐらい棚町さんなら見破れるってもんよ」
薫「当たり前でしょ、それがアンタにとってアタシじゃない」
純一「…そうだな、確かに…」
純一「───そうだったな、お前はさ……」
薫「………」
薫「さーて、純一! 今日はいっぱい騒ぐわよ!」
純一「……あはは、言うと思った」
薫「なーによそれ、可愛くないわね。そこは『え…薫…?』とか言ってくるもんでしょフツー」
純一「言って欲しいのか?」
薫「気持ち悪いから、ヤダ」
純一「だろ、だから言わなかったんだよ」
薫「…んふふ、ちょっと調子が戻ってきたんじゃない?」
純一「ん、そうかもな」
薫「あったりまえじゃない! どこにだって連れてってあげるわよ?」
純一「んー、例えば?」
薫「そうね~……あ、ファミレスとか!」
純一「また~…?」
薫「またってなによ、またって。じゃあアンタが行きたい場所言いなさい、それなら」
純一「結局人任せかよ……いいよ、だったら連れってやる。自転車借りるぞ」
薫「あ。アタシも載せなさいよ」
純一「当たり前だろ? …いつまでも一緒にいるって言ったじゃないか」
純一「…ほら、またあの時のように。二人乗りするぞ!」
薫「…ふふ、そうね」すとん
薫「じゃあー! 純一&薫号! はっしーん!」
純一「あいよっ!」
きぃこきぃこ…
薫「ん?」
純一「…その、ありがとな」
薫「えー? なに? きこえないー?」
純一「う、うそつけ! 今回は聞こえてただろ!」
薫「あっは、バレた? ついでに言うと、前の時も聞こえてたわよ?」
純一「なっ……!」
薫「…ありがとうな、お前のお蔭で元気が出たよ……ぶっほ! ひっひ、ひぃ~! か、かこよすぎ純一っ! あっははは!」
純一「な、なんで一字一句覚えてるんだよ!?」
薫「あんなの忘れようにも忘れられるわけないでしょ、ずっとずっと覚えててあげるんだからっ」
純一「や、やめてくれ!」
薫「だーめっ」
ぎゅうっ
純一「おわぁっ…!? ちょ、急に抱きついたら危ないだろ薫……!」
純一「お、おう……」
薫「だったら大人しく、真面目に漕ぐの! …その代わりアンタを応援しててあげるからっ」
純一「途中で運転変わったりとか僕、望んでるんだけど…」
薫「だめよ! 頑張りなさいっ!」
純一「うわぁっ!? だから抱きつくなっての…!」
薫「あははっ……純一!」
純一「な、なんだよっ…?」
薫「ちょっと薫って、呼んでくれない?」
純一「え、いつも呼んでるじゃないか……」
薫「ちっがーうのよ、それはいつも通りの『薫』でしょ?」
純一「…なんだよ、これからは違うとでもいうのか?」
純一「ああ、もう…甘えるなよ…わかったから、呼ぶよ呼んでやるって」
薫「うんっ」
純一「はぁ……じゃあ言うぞ?」
薫「…うん」
純一「薫」
薫「っ……なあに、純一?」
純一「へ? いや何も考えてないけど…?」
薫「えっー! 考えて起きなさいよ! ばか純一!」
純一「馬鹿ってなんだよ…って、コラ! 怒るぞ暴れると!」
薫「あはは! うりうり!」
純一「っだあああああ! 薫! やめろって!」
薫「やだー! ずっとずっと、こんな風にやってあげるんだから!」
薫「…覚悟しておきなさいよね、純一? んふふ!」
久々にアマガミやろうかな
また書いてください
あったわー
Entry ⇒ 2012.10.01 | Category ⇒ アマガミSS | Comments (2) | Trackbacks (0)
橘「夏だし女の子の腋汗パッドの匂い嗅ぎたい」
橘「どんな匂いがするんだろう…すごく気になるよ…」
梅原(大将…お前、どこまで大人の階段を…)
橘「よし!じゃあさっそく頼んで みよう!最初は…そうだな、一番頼みやすそうな…」
田中「わ、私からだね!?」
橘「うん!薫からにしよう!」 ダッ
田中「」
棚町「純一?どしたの?深刻な顔して」
橘「薫、お前に頼みたいことがあるんだ…!」
棚町「た、頼みたいこと?…なんか嫌な予感するけど…まぁいいわ、言ってみなさい」
橘「…お前の…お前の腋汗パッドの匂いを嗅がせてくれ!!」
棚町「………」
橘「………」
棚町「………っ」
棚町「オラッ!!」ゴスッ!
橘「あふゅっ!!」ズサー!
橘「た、頼む薫!どうしても今腋汗パッ ドの匂いが嗅ぎたいんだ!でも、こんなこと頼めるのは薫しかいないし…」ズキズ キ
棚町「…わ、私しか…?」
橘「そうだ。薫だったらノリノリで嗅がせてくれると思ったんだけど…そうだよな…普通は嫌だよな…」
棚町「………」
橘「…ごめんな、薫。僕がバカだったよ…他の人に頼むことにするよ」
棚町「…ちょっ!ちょっと待ちなさい!」
棚町「…い、いいわよ」
橘「ええっ!?」
棚町「嗅がせてあげるって言ってんの! その遊びにノッてあげるわよ!」
橘「薫…ありがとう。やっぱりお前は最高の悪友だよ」
棚町「そ、そう?」テレテレ
橘「それじゃさっそく」
棚町「えっ、ああ、はい…」パサッ
橘「こ、これが女の子の腋汗パッド…何だか少し湿ってて…すごく興奮するよ!」
橘「ああごめん、興奮しすぎた」
橘(よしっ!いくぞっ…!)
クンカクンカ
橘(!?)
橘(こっ!これは!)
橘(な、なんて言うんだろう…カブトムシの入った虫かごの匂い…!?)
橘(これって樹液の匂いだっけ?…臭い、というより…なんだか懐かしい…)
橘(うん!懐かしい匂いだこれ!…小学校の夏休みを思い出す…)
橘(梅原とよくカブトムシとりに行ったなぁ…そしてスイカ食べて花火やって…あの頃は楽しかった…)ポロポロ
棚町「ど、どうなの!?ずっと黙ってないで何とか言いなさいよ!…って、なっなんで泣いてんの!?」
棚町「えっ…泣くほど…臭かったの…?」ションボリ
橘「ち、違う!違うんだ薫!」グシグシ
橘「すごく…すごくいい匂いだ…大切な何かを思い出せた気がするよ…ありがと う」
棚町「な、何だか大袈裟な表現ね…ま、臭くないならよかったわ!」
橘(しかし、腋汗パッドの匂いを嗅いだだけで泣かされるとは…腋汗パッド奥が深い…)
橘(もっと…もっといろんな人の腋汗パッドを嗅ぎたい!!)ダッ
棚町「えっちょっ純一!?…行っちゃった…」
棚町「いい匂い、か…えへへ」
橘「梨穂子ー!」ガラッ
桜井「純一~?どうしたの~?」
橘「腋汗パッドの匂いを嗅がせてくれ!」
桜井「…えっ?」
桜井「えええー!?」
橘「頼む梨穂子!どうしても嗅ぎたいんだ!」
桜井「えっえっ?ど、どうして急に…?」
橘「お前の匂いが嗅ぎたくなったんだ」
桜井「~~~!」
橘「ああ、すごく嗅ぎたい!」
桜井「…そ、そこまで言われたら断れないよ~」
橘「!じゃ、じゃあ!」
桜井「うん、いいよ…はい」パサッ
橘「ありがとう!」
橘(…ぽっちゃり幼馴染みの腋汗パッド…こ、これは興奮する)
橘(それではさっそく…)
クンカクンカ
橘(なんだこれ!?甘い!甘ったるっ!すごく甘ったるい匂いだ!!)
橘(嗅覚より味覚が反応しまくってるよ!!匂いとかの騒ぎじゃないよ!!)
桜井「えっと…純一?ど、どんな匂いなの?まさか…臭い…?」
橘(!し、しまった…あまりの甘さに意識が飛びかけた)
橘(しかし、これはどう表現したらいいんだろう…実際臭いわけでもないし…)
橘(いやいや、それよりもこれ…病気とかじゃないのか…?)
橘(梨穂子は甘いものばっかり食べてるから…ここは幼馴染みとして注意しておかないと)
猿こわいのでこっから少し減速します
桜井「は、はい!」
橘「臭くはないよ」
桜井「!よ、よかったぁ」
橘「…でもな、甘いモノは控えたほうがいいと思うぞ…?」
桜井「えっ?それってどういう…」
橘「…っ…ごめんな、これ以上はっ」 ダッ
桜井「じゅ、純一!?…行っちゃった」
桜井「どういう意味だろう…お菓子食べながら考えよう」ポリポリ
橘(しかし…まさかまた泣かされそうになるとは…腋汗パッド奥が深い)
橘(さて…次はあや…いやうん、他学年にも手を出しておこう!)
橘(中多さんあたりが良さそうだ)
橘「中多さーん!」ガラッ
中多「しぇ、しぇんぱい?」
橘「中多さん…その、中多さんっていい匂いがするよね?」
中多「えっ!?き、急にどうしたんですか?そ、それに恥ずかしいです…」
中多「えっと意味がわかりません」
橘「…中多さん、僕にいい匂いがするって言われて安心しきってるんじゃな い?」
中多「!?」
橘「人間の一番臭う部位…つまり腋汗が臭くないと認められて初めて安心できると思うんだ」
中多「…つまり、体はいい匂いでも腋汗が臭ければすべて打ち消されると…?」
橘「…そういうことだ」
中多「………わかりました。橘しぇんぱい!私の腋汗パッドの匂い…嗅いでくだしゃい!」
橘「よしきた!」
橘(…中多さんの腋汗パッド…前の二人より湿ってるな…)
橘(それではさっそく…)
クンカクンカ
橘(!?)
橘(!?わっ!わわっ…これは…!!)
橘(牛乳を絞った雑巾の匂いだっ!!うわっ生臭っ!!)
橘(た、確かに中多さんの体臭はミルクのいい匂いがしてたけど…!腋汗ではこんなになるのか!!)
橘(単純に臭い!薫とは違う意味で小学校を思い出したよ!!おえっ!生臭っ…)
中多「しぇ、しぇんぱい…?ど、どうですか?」ウルウル
橘(ど、どうしようこれ、すごくゴミ箱に捨てたい…)
中多「と、ということは…」ウルウル
橘「すごく生臭い」
中多「う、うわああああああああん!!」ダッ
橘(本当にごめん…中多さん…この腋汗パッドは供養しておくよ…)
ゴミバコポイッ
橘(いやぁ…強烈だった…中多さん泣いてたし、悪いことしたな)
橘(…いやでもここまで来たらもうあとには引き返せない…!)
橘(次は七咲だ!)
七咲「…はい、一部始終見てましたよ」
美也「みゃーもいるよっ!」
橘「…事情はわかっただろ?…つまりそういうことだ」
七咲「…無理矢理女の子の腋汗パッドの匂いを嗅いで臭いと罵り、最後は泣かせるなんて…とんでもない変態ですね」
橘「…でも…七咲、用意してるんだろ?」
七咲「もちのろんです!」パサッ
橘「ははっ!さすが七咲だよっ!…ではさっそく…」
クンカクンカ
橘(こ…これは一体っ…!)
橘(な、なんてことだ…!)
七咲「そ、そんなに強烈でしたか!?」 テレテレ
橘「…美也、お前も嗅いでみろ」
美也「えっ?み、みゃーはいいよ…」
橘「いいから!」
美也「…えー…じゃあ嗅ぐね?」
クンカクンカ
美也「!?」
美也「そ、そんな…」
美也「逢ちゃん…失望したよ…」
橘「ああ、まったくだ…」
七咲「えっえっ?」
橘「まさか………無臭だなんて…」ハァ
クンカクンカ
七咲「あ…そうか…水泳部の昼練の時に汗が…」
七咲「でっ、でもこれは不可抗力です!普段なら強烈な匂いが…も、もう一度チャンスを!」
美也「見苦しいよ逢ちゃん…」
橘「…七咲…アポなしだからこそ興奮するんだ…造られた腋汗なんて何の意味もない…」
七咲「!?」
橘「…七咲なら『1週間替えてません。節約です』とか言ってくれると思ったのに…」
七咲「あ…」ガクッ
美也「…わかった」
七咲「あ…先輩…」ガクガク
橘「…七咲…これをバネに精進することだ…期待してるからな?…じゃあな」ダッ
七咲「あ…あ…」ブルブル
橘(…少しきつく言い過ぎたかな?…いや七咲にはもっと強くなってもらわないと)
橘(さて、次は…ラブリーか)
森島「わおっ!橘くんいいところに!」
橘「え」
森島「私、ちょうどキミにお願いしたいことがあったの!」
橘「な、なんでしょうか?」
森島「あのね…言いにくいことなんだけど…」
橘「は、はい…」ゴクリ
森島「私の腋汗パッドの匂い…嗅いでくれない…?」
橘「!?」
森島「だったら他人に嗅いでもらえばいいと思ったんだけど、こんなこと頼める人がいなくて…」
森島「そこにちょうどキミが!どう?お願いできるかしら?」
橘「あ…はい…いいですよ」
森島「わお!グッドなお返事ね!」
橘(しまった…先手を取られた…これじゃ恥ずかしがる顔が見れないじゃないか…さすがラブリー)
森島「それじゃあ…はい」パサッ
橘「あ、はい…では」
クンカクンカ
橘(!?なんだこれは…………お、おかしい!!)
橘(い、イチゴのいい匂いだ!!こ、香水か…!?)
橘(ま、まさか森島先輩…)
森島「どう?どんな匂いなの!?」ドヤァ
橘(森島先輩のあのドヤ顔………この僕がハメられたっていうのか!?…くっ、しかしここは負けるわけには…)
橘「あ…あの森島先輩?」
森島「うん?」
橘「この匂い、僕がよく知っているアレの匂いと似ています…」
森島「?アレって何かな?」
橘「その…言いにくいんですが…」
橘「『種子』がたくさん含まれてて…」
橘「男性よりも女性のほうが口にする事が多くて…」
橘「液体がこぼれないようにティッシュを用意しないといけないアレと同じ匂いがします」
橘「は、はい…」
森島「そ、そんな…今まで気付かなかった自分が恥ずかしいわ………いえ、ここまで来たらはっきり言ってちょうだい!」
橘「は、はい………イ」
橘「…イチゴの匂いです!」
森島「わお!正解よ橘くん!」
橘「…ぐぬぬ…でも森島先輩…どうして僕が腋汗パッドの匂いを嗅ぎたいってことわかったんですか?」
森島「腋汗嗅いで回ってるわんちゃんの噂を聞いたの!それがキミだってことはすぐにわかったわ!」
橘「うぅ…完全に僕の負けです」
森島「楽しかったわよ?…でも腋汗はまだ通行止めなんだから!」タタッ
橘(森島先輩が一枚上手だったか…)
橘(しかし、くよくよしていられない… 次が最後だ…)
絢辻「…橘くん、あなた…またしょーもないことしてるようね」
橘「!噂がここまで…いや、手間が省けた!絢辻さん!腋汗パッドの匂いを嗅いがせてください!」
絢辻「…覚悟はいい?」
橘「あ、はい」
ゴスッバゴッメリッ!!
橘「ぐふぁっ!!!」ザザー!!
絢辻「……嗅ぎたい?」
橘「え?」
絢辻「…私の腋汗パッド…嗅ぎたいの?」
橘「そ、そりゃもちろん!!」
絢辻「………」
絢辻「…いいわよ」
橘「ごめんなさっ…え?」
橘「そ、それじゃあ…!」
絢辻「…毎日丹念に体洗ってるし、そんなに臭くはないと思うわ…はい」パサッ
橘「ああ、ありが…」
橘(!!?)
橘(な、なんだこれっ!?わ、腋汗パッドから禍々しいオーラが…)
橘(今までこんなことなかったよね!?これ…嗅いじゃいけない気がする…)
橘(いや、違うだろ橘純一!!女の子が腋汗パッドを差し出してくれてるんだ!!ここで逃げるとか紳士じゃない!)
橘(………いくぞ)スゥ~ハァ~
クンカ…クンカ…
ビリビリッ
橘「痛っ!?えなにこれなにこれ!?は、鼻が痛い!!」
橘「はぁ!?あぁ!?痛っ!目!!目も痛い!!鼻っ!!」
絢辻「えっえっ?た、橘くん!?」
橘「臭っ!!いや痛いよ!!わおっ!!なう!!」
絢辻「…え、えっと…水いる?」
パシッ
橘「うっうううううううぅぅぅ……」ゴクゴク
橘「…はあっ!はあっ!」
絢辻「お、落ち着いた…?」
橘(…はあ…はあ…ま、まだ痛い……すごいよ絢辻さん…キミの腋汗は臭いの次元を越えてるよ…)
橘(…酸っぱくて、苦くて、辛い…すべての負の匂いを最大限に引き出している…)
橘「メチャクチャ臭い」
絢辻「うわああああああああああああああ!!!」ダッ
橘(…本人にはわからないものなんだね…ごめんね絢辻さん)
橘(………でも、なぜだろう…)
橘(…もっと)
橘(もっと嗅ぎたい!!)
クンカクンカ
橘(…!?)
橘(こ、これは…一回目と違ってほろ苦く甘酸っぱい………鼻が慣れた!?)
クンカクンカクンカ
橘(…これ、麻薬じみてるな…クセになりそう)
クンカクンカクンカクンカ
橘(………まだ、まだいける!!)
クンカクンカクンカクンカクンカ……………
橘「ここは…」
田中「保健室だよ」
橘「たっ田中さん!?」
田中「もーびっくりしちゃったよー。絢辻さんが泣きながら教室飛び出したと思ったら、今度は橘くんが倒れちゃうんだもん」
橘「あ…あはは…」
田中「…原因は…やっぱり腋汗パッドなの?」
橘「えっ?ああそうか、そういえば最初聞いてたもんね」
田中「えー!ひどいなー」
田中「…あっ、じゃあ…私のも嗅いでみる?」
橘「えっ?」
田中「あ…ほらっ、リハビリだと思って!」
橘「ああ、そういうことなら」
田中「ちょ、ちょっと恥ずかしいね、えへへ」パサッ
橘「それじゃあ…いくね」
クンカクンカ
田中「えっ」
田中「えええええええぇぇぇぇぇ!!?」
*end
?「あ…めちゃめちゃ臭そうな顔してる…かっこいい…」
?「あっ!橘くん、優しいから断れないんだ!きっとそうだよ!」
?「…橘くんは私のものなのにっ!」
?「あ!そうだ!私もマーキングすればいいんだ!」
?「橘くんも私の匂いを嗅いだらきっと虜になるはず!うん!」
?「そ、それに恥ずかしいし…」
?「あっじゃあ…間接的に………うん!それがいいよ!」
?「待っててね橘くん」
橘(…よく寝たけど…絢辻さんの腋汗パッドの匂い、まだとれないや…ははっ)
橘(田中さんが戻ったあと、また寝ちゃったから大分時間が経ってるはずだな…ってもう下校の時間じゃないか…)
橘「…今日はもう帰るか…」ゲタバコパカッ
モワッ
橘「ん?」ピクッ
橘(…なんだ、この匂いは…)
橘(…あ、アレの匂い…じゃないか!)
橘(…匂いの元は…これか!)パサッ
橘(…って腋汗パッド!?なんで僕の下駄箱に!?というか誰のだよ!?)
?(あっ!橘くんが私の腋汗パッドを…きゃー///)
橘(…あ、名前が書いてある…『上崎』…?)
?(名前もちゃんと書いたし、たくさん熟成させたから、匂いは十分ついてあるはず!これで橘くんは私の虜だね!えへへ~)
橘「………」
橘(…よく考えろ橘純一…『僕の下駄箱』、『腋汗パッド』、アレの匂いもとい『イカ臭』、誰だか知らない名前『上崎』…)
橘(これが意味するものは…)
『橘、お前だけが女の子の腋汗パッドの匂いを嗅げると思うなよ?俺なんてその上をゆく腋汗パッドオナができるんだからな。上崎より』
橘(ってことかー!?これは挑戦状なのか!!)
橘(く、くそっ…この学校で僕より上級者がいるなんて…)
上崎(あっ橘くん、私の腋汗パッド持ってずっと見つめてる…と、虜になっちゃった!?)
えっと…勢いで始めたんですがなんか変な方向に行ってる気がする…
最初から変な方向を向いて出発した以上、そうなるのは当然だ
橘(…きっと上崎とやらは今の僕の姿をどこかで観察してるはずだ…ならば…)
橘「上崎~~~~~!!出てこい!!」
上崎(!?た、橘くんが私を呼んでる!?それも男らしい叫びで!かっこいい!)
上崎(か、隠れてちゃダメだよね?うん!気付いてくれたんだもん、出て行かなくちゃ!)
上崎「たちばなく…!」
橘「やっぱりそこにいたか上崎!さっきからイカ臭かったんだよ!!」バッ
上崎「えっ」
橘「えっ」
おしまい
可愛い女の子がワキガ
興奮するじゃないか
保守とかさるよけありがとうございました
ギャップがいいよね!
Entry ⇒ 2012.07.13 | Category ⇒ アマガミSS | Comments (1) | Trackbacks (0)
絢辻「あなたをあたしのものにします」中多「ふぇ……?」
中多「あの、先輩? これ、先輩のですよね……?」
絢辻(しかもよりによって拾ったのが1年生なんて……橘君は同じクラスだからまだ監視しやすくてよかったのに)
中多「先、輩……? あ、あの……?」
絢辻(……そうよ、まだ焦る必要はないわ。問題は手帳の中身を見られたかどうかであって)
中多「そ、そのぉ……ぐすっ……」
絢辻「拾ってくれてありがとう。あなた、1年生よね? お名前は?」
中多「あ、な、中多です。1-Bの中多紗江です」
絢辻「私は絢辻詞。これ、すごく大切な手帳なの。拾ってくれて本当にありがとう、中多さん」
中多「え、えっと……ど、どういたしまして」
中多「あ、それは……」
絢辻「もしかして……中を見て確かめたり?」
中多「ち、違います! その、先輩が手帳を落とすところをちょうど見てて……」
絢辻「そうだったの。ごめんなさい、プライベートなことも書いてあるから少し気になって」
中多「だ、大丈夫です。気にしてませんから」
絢辻(嘘は……吐いてなさそうね。見るからに嘘を吐けるような子じゃないし、今回は大丈夫――)
橘「絢辻さーん、言われたとおり資料持ってき……あれ、中多さん?」
絢辻(ああもう、また面倒なのが……)
絢辻「ううん、私の手帳を拾ったから届けに来てくれたの」
橘「ええっ、絢辻さんの手帳を!? な、中多さん大丈夫!? 変なことされてない!?」
中多「へ、変なこと……?」
橘「急にネクタイを締め上げられたりとか、復唱を強いられたり――いっ!?」
絢辻「橘君? なに言ってるのかな?」
橘「い、いえ……なにも」
絢辻「次、余計なこと言ったらこの学校にいられなくするわよ?」ボソッ
橘「は、はひっ」
橘「僕の妹が中多さんと同じクラスなんだ。それで話すようになってね」
中多「そ、そうなんです。せんぱ、あ、橘先輩にはすごくお世話になってて……」
絢辻「……お世話になってる? 橘君に?」
橘「あはは、照れるなぁ」
絢辻「橘君、ちょっと」
橘「え?」
絢辻「あなた、この子にいかがわしいことしてないでしょうね」ボソボソ
橘「し、してないよっ」
中多「……?」
中多「え、え? 隙?」
絢辻「男子はみんな狼なの。だから気をつけないと」
橘「ちょっと絢辻さん!?」
中多「えっと、よくわかりませんけど……た、橘先輩は信頼できますから!」
絢辻「え……」
橘「中多さん……ありがとう!」
絢辻(……なんか面白くないわね)
橘「え、でもまだ仕事が」
絢辻「今日はいいわ。あとは私ひとりでやるから」
橘「うん、わかったよ。じゃあ帰ろうか、中多さん」
中多「はい」
絢辻「中多さん? 手帳の件、本当に助かったわ。ありがとう」
中多「あ、そ、そんな……」
絢辻「あと橘君、わかってると思うけど……くれぐれも送り狼にならないようにね」ニコニコ
橘「……了解です」
橘「ねえ中多さん、絢辻さんとは本当になにもなかったの?」
中多「ふぇ? どういうことですか?」
橘「例えば……絢辻さんの態度が急に変わったりとか」
中多「そんなことはなかったと思います」
橘「そっか……中多さんは手帳の中を見たりしなかったよね?」
中多「はい、持ち主は絢辻先輩だってわかってたので」
橘「ならいいんだ。とにかく、あの手帳のことはすぐ忘れた方がいいと思うよ」
中多「忘れる……ですか?」
橘「うん……今までどおりの学校生活を送りたいならね」
中多「え……」
絢辻「あら、中多さん。おはよう」
中多「あ、絢辻先輩。おはようございます」
絢辻「結構早いのね。いつもこの時間なの?」
中多「その、電車が止まったりしても大丈夫なように……」
絢辻「ふふ、心配性なのね」
中多「あ、す、すみません……」
絢辻「どうして謝るの? 私はいいことだと思うわよ」
中多「あ、ありがとうございます」
絢辻(調子狂うわね……)
中多「橘先輩と、ですか?」
絢辻「ええ。なんだかふたりが話してるところって想像できないから気になったの」
中多「その、橘先輩とは……と、特訓をしてます」
絢辻「特訓? なんの?」
中多「あ、アルバイトを始めたいんですけど……わ、私は人見知りなので、それを克服する特訓をしてもらってます」
絢辻「アルバイトね。中多さんってすごいのね」
中多「そ、そんなことないです」
絢辻「あるわよ。なにか目標を持って行動するって、簡単に見えてすごく難しいことだから」
中多「あ、う……ありがとうございます……」
絢辻(むしろ問題は橘君ね。特訓、特訓ねぇ……)
中多「えっと……誰とでも淀みなく話せるようになる練習とか」
絢辻「うん、他には?」
中多「大きな声を出す練習やお茶汲みの練習もしました」
絢辻(案外普通ね。杞憂だったかしら)
中多「あとは……は、早着替えの練習を」
絢辻「ふーん、早着替えねぇ……え、早着替えっ!?」
中多「は、はい。アルバイトの服装に素早く着替えるために必要だからって」
絢辻(あの変態……やっぱりしてるじゃないの、いかがわしいこと)
橘「それじゃあ今日も特訓を始めたいと思うんだけど……その前にひとついいかな?」
中多「はい?」
絢辻「なに?」
橘「どうして絢辻さんもいるの?」
絢辻「中多さんがアルバイトを始めるために頑張ってるって聞いたから、私も手伝いたいと思ったの。昨日のお礼も兼ねてね」
中多「お、お礼だなんて……」
絢辻「気にしないで、私がそうしたいだけだから。それとも私がいるとやりにくい?」
中多「そ、そんなことないです! 絢辻先輩がいてくれると心強いですっ」
絢辻「ふふ、そう? じゃあ私も良いお手本になれるように頑張るわ」
橘(ぼ、僕の立場が……)
絢辻「……教官?」
中多「あ、これは特訓中は橘先輩のことを教官と呼ぶようにしてて」
絢辻「それ、橘君に言われたの?」
中多「そうです」
絢辻「中多さん、ごめんね? 橘君、ちょっとこっちに」
橘「はい……」
絢辻「中多さんがおとなしいのをいいことになにさせてるの?」ボソボソ
橘「いや、そっちの方が雰囲気出るかなぁって……」
絢辻「教官に関しては彼女も気にしてないからいいけど、もしあたしの前で変なことやらせたら……わかってるわね?」
橘「わかってます……」
橘「今日はこのくらいにしておこうか」
中多「は、はい。ありがとうございました」
絢辻「中多さん、お疲れ様」
中多「絢辻先輩……ど、どうだったでしょうか?」
絢辻「うん、初めて見たけどよかったんじゃないかな。自分に自信を持てばもっとおもいきりよく話せると思うわ」
中多「自信、ですか……」
絢辻「急に自信を持つなんて無理な話だから、これから少しずつ自信をつけていけばいいのよ」
中多「……はい! 頑張ります!」
絢辻「私も時間があるときは手伝うから、いつでも声かけてね」
絢辻「ええ、今から片付けるわ」
橘「じゃあ僕も手伝うよ」
絢辻「いいわよ。それよりそろそろ暗くなるから、あなたは中多さんを送ってあげて」
橘「でも今からひとりでやるのは大変じゃない?」
絢辻「慣れてるから平気。ほら、中多さんも待ってるから」
橘「……中多さんを駅まで送ったらまた戻ってくるよ」
絢辻「その頃には終わってるわよ」
絢辻「うん、委員の仕事を少しね」
橘「絢辻さんは委員をかけ持ちしてるから仕事が多いんだ」
中多「そ、それなのに特訓に付き合ってくれたんですか?」
絢辻「可愛い後輩のためだもの。中多さんが気に病む必要はないわ」
中多「……その仕事、私も手伝います」
絢辻「ダメよ。帰りが遅いと親も心配するでしょ?」
中多「ま、まだ大丈夫ですっ。それに3人でやったらきっとすぐ終わりますから」
橘「そうだよ、絢辻さん。中多さんを送るのはそれからでも遅くないでしょ?」
絢辻「まったく……それじゃあ手伝ってもらおうかしら」
中多「終わりましたぁ……」
絢辻「中多さん、ありがとう。あ、ついでに橘君も」
橘「ついで!?」
絢辻「ふふっ、冗談よ。助かったわ、ふたりとも」
中多「あ、絢辻先輩……委員の仕事、また手伝ってもいいですか?」
絢辻「え……? 今日やってわかったと思うけど、なにも面白くないわよ?」
中多「絢辻先輩が特訓に付き合ってくれるから、そのお返しというか……ダメでしょうか?」
絢辻「別に気にする必要はないって言ったのに……わかったわ。そのときはよろしくね」
中多「は、はいっ! ありがとうございます!」
絢辻「もう、お礼を言うのは私の方なのに……さて、外も暗いしはやく帰りましょう」
橘「絢辻さんはそっちだったよね? 僕たちはこっちだから」
絢辻「……私も駅まで付き合うわ」
橘「え、どうしたの?」
絢辻「橘君が中多さんに変なことをしないように見張っておかないと」
橘「だ、だからそんなことしないって!」
絢辻「いたいけな後輩に早着替えをさせるような人の言葉を信用できると思う?」
橘「な……なんでそれを?」
絢辻「中多さん、その人の近くにいると危険よ? こっちに来て?」チョイチョイ
中多「あ、はい……」スッ
橘「中多さぁん!?」
絢辻「うん、もうバッチリね」
橘「そうだね。僕たちから教えられることはもうないよ」
中多「絢辻先輩、教官……ありがとうございます!」
橘「お礼を言うのはまだ早いよ。アルバイトに受かることが目標なんだから」
絢辻「たしかファミレスが希望だったかしら?」
橘「薫がバイトしてるところだね」
中多「あ、でも……商店街にある喫茶店もいいかなと思ってるんです」
絢辻「いいんじゃない? ファミレスよりも落ち着いた喫茶店の雰囲気は中多さんによく合ってると思うわ」
橘(商店街の喫茶店……あの制服が可愛いところかな?)
中多「か、可愛いだなんて……」
絢辻「橘君、セクハラ禁止」
橘「ただ可愛いって言っただけだよっ!?」
絢辻「中多さん、面接で緊張したときはこの特訓を思い出してみて。きっとうまくいくわ」
中多「はい……この特訓を無駄にしないためにも、絶対受かってみせますっ」
絢辻「ふふっ、面接なんて通過点に過ぎないんだからそこまで気張らなくても平気よ。今の中多さんなら大丈夫」
橘(やっぱりこっちの絢辻さんはいいこと言うなぁ)
中多「あ、それじゃあお手洗いに行ってきます」
タッタッタッ……
橘「絢辻さん、僕からもお礼を言っておくよ。ありがとう」
絢辻「なによ、急に。気持ち悪いわね」
橘「僕ひとりだったらきっと中多さんもここまで成長することはなかったと思うから」
絢辻「なに言ってるのよ。あなたがいたからこそ、でしょ。あまり自分を過小評価しない方がいいわ」
橘「そ、そうかな?」
絢辻「あ、反応がむかつくからやっぱり今のなし」
橘「ええーっ!?」
絢辻「別に……ただの気まぐれよ」
橘「本当に?」
絢辻「あとはしいて言うなら、あなたを見張っておくためにね」
橘「僕はそこまで信用されてないのか……」
絢辻「いいじゃない、中多さんからは信頼されてるんだから」
橘「それは絢辻さんも一緒でしょ?」
絢辻「違うわよ。彼女が見てるのは所詮猫被ってるあたしだもの」
橘「僕はそうは思わないよ。むしろそれが普通じゃないかなあ」
絢辻「そうなの? なにが普通なのかってよくわからないのよね」
橘「いっそのことばらしてみちゃうってのはどう?」
絢辻「無理よ。きっと幻滅させるわ」
橘「中多さんは……そんな子じゃないと思うよ。受け入れてくれると思う」
絢辻「でも保証できるわけじゃないでしょ」
橘「保証はできないけど……」
絢辻「別にいいわ。もともと彼女にばらす気はないから」
絢辻「どうせ彼女がアルバイトに受かったらこのおママゴトもおしまい。そしたら変な罪悪感に苛まれることもなくなるわ」
絢辻「関わる理由がないじゃない」
橘「絢辻さんにはなくても、向こうにはあると思うよ」
絢辻「ふーん、例えば?」
橘「具体的なことは言えないけど……中多さんは絢辻さんを慕ってるから」
絢辻「それだけ? そんなの今のクラスメイトと変わらないでしょ」
橘「うーん、なんていうか……結局絢辻さん次第なんじゃないかな」
絢辻「じゃあ余計無理ね。言ったとおり、彼女に今のあたしを見せる気はないから」
橘「でも、見せたくなるときが来るかもしれないよ? それこそ今回特訓に付き合ってくれたみたいに、気まぐれに」
絢辻「さぁ、どうかしらね……」
絢辻「ううん、大丈夫よ。それじゃあ帰りましょう」
橘「そうだね」
中多「あの、先輩……?」
橘「ん? どうしたの?」
中多「もしかして、なにか大事な話してました……?」
橘「んー……大事な話ってわけじゃないけど」
絢辻「そうよ。他愛もない話しかしてないわ。ほら、中多さんも鞄持って?」
中多(どうしたんだろう……どこか変な空気のような……)
橘「今日は時間もあるし、どこか寄って帰ろうか」
中多「あ、いいですね」
橘「中多さんはどこか行きたいところある?」
中多「私は……先輩たちがいるならどこでもいいです」
橘「中多さん、君って子はまったく……絢辻さんは?」
絢辻「そうね……神社に行きたいわ」
橘「じ、神社?」
絢辻「ええ。橘君には悪いんだけど、中多さんとふたりで行きたいの」
中多「え、え……?」
橘「……うん、わかったよ。じゃあ僕は先に帰ってるね」
中多「せ、先輩?」
絢辻「ごめんなさい、急に神社だなんて。つまらないわよね」
中多「私は大丈夫ですけど……橘先輩はよかったんですか?」
絢辻「ええ、きっと察してくれてるだろうから」
中多「察する?」
絢辻「実はね……中多さんに話さなきゃいけないことがあるの」
中多「橘先輩がいると言えないようなことなんですか……?」
絢辻「彼がいるとやりにくいの。あ、橘君に隠し事があるってわけじゃないから安心して」
中多「ほっ……よかったです。もしかして、先輩たちが喧嘩しちゃったんじゃないかと思って」
絢辻(本当にいい子ね……優等生を演じてるだけのあたしとは大違い)
中多「へ……猫?」
絢辻「つまり、普段はいい子を演じてるだけなの。今まで中多さんが見てきた私も演技してる姿なの」
中多「は、はぁ……」
絢辻「もっと驚いていいのよ?」
中多「その……実感がなくて」
絢辻「じゃあ今から本当の私を見せるわ。いい?」
中多「は、はいっ」
絢辻(……どうすればいいのかしら)
絢辻「ご、ごめんなさい。なんだか会話がないとダメみたいで」
中多「あ、そんな焦らないでいいですから……」
絢辻「う、うん。わかってるんだけど……あーもうっ、やっぱり橘君を連れてくるべきだったかしら?」
中多「あ……もしかして今の、ですか?」
絢辻「そ、そうね。こんな感じだわ」
中多「せ、先輩、頑張ってくださいっ」
絢辻「う、うるさいわねっ。どうして年下のあなたに応援されないといけないのよ!」
中多「ふぇっ……!?」
絢辻「ああっ、ごめんなさい、じゃなくて、あーホント調子狂うわね!」
絢辻「というわけで、これが本当のあたしなの。わかってくれた?」
中多「……はい」
絢辻「どう? 驚いた?」
中多「なんだか、意外でした……」
絢辻「まあ当然よね。幻滅した?」
中多「し、してませんっ」
絢辻「正直に言ってくれていいのよ。自分でもこんな人間が好かれるなんて思ってないから」
中多「本当です! こ、こんなことで先輩を嫌いになったりしません!」
絢辻「そう……変わってるわね、あなた」
絢辻「ええ。このことを知ってるのはあなたと橘君だけよ」
中多「そ、そんなに少ないんですか?」
絢辻「そもそも誰にも教えるつもりはなかったのよ。橘君のときも偶然が重なっただけで」
中多「じゃあ、どうして私に……?」
絢辻「彼に唆されたっていうのもあるけど、結局は気が咎めただけね。あなたを騙しているようでなんだか嫌だったのよ」
中多「私は……騙されたとは思ってません」
絢辻「本当に? 今までの優しい絢辻先輩は全部演技だったのよ?」
中多「今の絢辻先輩も……きっと優しいと思いますから」
絢辻「ちょっとあなた、本気で言ってるの?」
中多「だってこうして教えてくれたから」
絢辻「はぁ……おめでたいわね」
中多「え、あ、はいっ」
絢辻「じゃあ帰りましょ。駅まで送るわ」
中多「あの、先輩っ!」
絢辻「なに?」
中多「私……先輩の秘密を教えてもらえてよかったです」
絢辻「……だから調子狂うって言ってるのよ」ボソッ
中多「え?」
絢辻「なんでもないわ。グズグズしないではやく帰るわよ」
橘「絢辻さん、昨日はどうだったの?」
絢辻「どうもこうも、別になにもないわよ。ただあたしの本性を教えてあげただけ」
橘「中多さんはなんだって?」
絢辻「びっくりしたって、それだけよ」
橘「そっか。やっぱり中多さんはいい子だね」
絢辻「そうね。いい子すぎてこっちが戸惑うわ」
橘「でもよかったじゃないか。可愛い後輩に嫌われなくて」
絢辻「はぁ? あたしは別に嫌われたってよかったわよ。鬱陶しい後輩につきまとわれなくて済むし」
橘「あれ? 昨日は幻滅されるから話したくないって言ってなかったっけ?」
絢辻「っ……! 橘君、これ以上無駄口叩くとお仕置きよ」
中多「あ、先輩」
絢辻「あら、どうしたの? 今日は特訓はないはずよね?」
中多「今日は先輩のお仕事を手伝おうと思って」
絢辻「特訓のお返しでもないのに、物好きねぇ。なにもいいことないわよ?」
中多「いえ、その……せ、せ……」
絢辻「なに? ウジウジしないではっきり言っちゃいなさい」
中多「せ……先輩のおそばにいられるだけで嬉しいですから」
絢辻「ああ、そういうこと? じゃあ図書室で待ってて。橘君も呼んでくるから」
中多「え……?」
絢辻(薄々わかってはいたけどやっぱり橘君なのね。まあ彼は少し、ううん、だいぶ変わってるけど……お人好しだから好かれるのかしらね)
絢辻「中多さん、どうしたの? 手が止まってるわよ?」
橘「ははっ、疲れちゃったかな?」
中多「あ、違うんです。その……少し、気になることがあって」
絢辻「どこがわからないの?」
中多「お仕事のことじゃなくて……先輩たちのことなんですけど」
橘「え、僕たち?」
絢辻「中多さんにしては珍しいわね。あたしたちのなにが気になるの?」
中多「えーっと……せ、先輩たちはお付き合いしているんですか……!?」
絢辻「……は?」
絢辻「ちょっと、なに嬉しそうにしてるのよっ!」
橘「いや、だって……本当に嬉しいから」
絢辻「このバカっ……あたしは不本意だわ!」
橘「ひ、ひどいよ絢辻さん……」
絢辻「はぁ、もう……なんでそんなふうに思ったのよ」
中多「橘先輩が絢辻先輩の秘密を知ってたのは付き合ってるからなんじゃないかって思って……」
絢辻「昨日言ったでしょ。この人に知られたのはただの偶然だったの」
橘「というより、あれは絢辻さんの早とちりじゃ……」
絢辻「橘君、なにか言った?」
橘「いえ、なんでもないです」
橘「ああ、それは僕が絢辻さんの秘密を知っちゃったから脅され――いたっ!?」
絢辻「橘君が善意でお手伝いしてくれてるの。そうよね、橘君?」
橘「……そうです」
絢辻「中多さん? あたしたちはあくまでただのクラスメイトなの。付き合うことなんて絶対にありえないから安心してちょうだい」
橘「そ、そんなぁ……」
絢辻「またっ、あなたはっ……!」
絢辻(中多さんの前でそんな反応したら彼女が傷つくってわからないの!?)
絢辻「本当よ、まったく……ところであなたと橘君はどうなの?」
中多「え、ええっ!? わ、私と橘先輩はなにもないです……!」
絢辻「どうかしらねぇ。あなたが親しく話せる男子ってだけで充分特別だと思うけど?」
中多「あ、あう……」
絢辻「橘君はどう思ってるの?」
橘「ぼ、僕? そりゃあ中多さんに好かれてたらすごい嬉しいよ」
絢辻「あら、お互い満更でもないみたいじゃない」
中多「あ、絢辻先輩っ、からかわないでください……!」
絢辻「ふふ、ごめんなさいね。反応が面白いからつい」
橘「そうだね。そうだとしたら僕は今頃薫と付き合ってることになるよ」
中多「薫?」
絢辻「あたしたちのクラスメイトよ。橘君と仲が良いの」
中多「橘先輩……やっぱり女の子と仲が良いんですね」
橘「いや、それほどじゃ……」
絢辻「大丈夫よ、今橘君と1番仲の良い女の子は中多さんだから」
中多「そ、そういうことじゃないですっ」
橘「絢辻さんが中多さんをからかってた時間が1番長かったけどね」
絢辻「うるさいわね。それよりも中多さんはこの後時間ある?」
中多「この後は……特に用事はないです」
絢辻「昨日はあんなことになっちゃったから、今日こそどこか寄って帰らない?」
中多「はい、喜んでっ」
橘「あのぉ……絢辻さん? 僕にお誘いの言葉がないような」
絢辻「え、当たり前でしょ? あなたは誘ってないもの」
橘「ひ、ひどい!」
絢辻「冗談よ。あなたも付き合いなさい」
絢辻(むしろあなたがいないと中多さんが喜ばないのよ)
橘「中多さんが働きたいのはこんな感じの喫茶店?」
中多「はい。あ、でももっと制服が可愛いです」
橘(制服が可愛い……やはりあそこか)
絢辻「橘君、やらしいこと考えてないでしょうね」
橘「ま、まさか。中多さんだったらどんな制服でも映えるだろうなと思っただけだよ」
絢辻「ふーん……まぁそのとおりね。あなたならきっとどの制服でも似合うわ」
中多「あ、あんまりおだてないでください……」
絢辻「お世辞なんかじゃないわよ? そもそも今のあたしはお世辞なんて言わないから」
橘「絢辻さんのウェイトレス姿……あだだっ!?」
絢辻「声に出てるわよ、声に」
橘「ほ、本当に似合うと思っただけなのに……」
中多「もし私がアルバイトを始めたら、絢辻先輩も制服を着てみませんか?」
絢辻「え……いやよ」
中多「そんなぁ……」
橘「中多さんのじゃたぶんサイズが合わないんじゃないかな?」
中多「あ……そうですね。絢辻先輩は背が高いから」
橘「それもあるけど、む――いででででつ!?」
絢辻「橘君、それ以上言うと耳が裂けるわよ?」
中多「はい。今週の土曜に面接だそうです」
絢辻「そう。受かるといいわね」
橘「面接官が男の人だったら間違いなく受かるよ」
絢辻「でもそれはバイト先で中多さんがセクハラされないか心配ね。橘君にも騙されてたのに」
橘「だ、だからあれはあくまで特訓の一環であって……!」
絢辻「あーはいはい。もうその言い訳は聞き飽きたわ。中多さん? バイト先で男性に変なことされたらすぐあたしに言うのよ」
橘「絢辻さんに言ってどうするの?」
絢辻「もちろん……その男を社会で生きていけなくするわ」ニコッ
中多「あ、ありがとうございます……?」
絢辻「は、はぁ!?」
橘「だって中多さんのことばかり気にかけてるから」
絢辻「特訓に付き合ったんだから最後まで面倒見ようと思ってるだけよ」
橘「最後までってどこまで? バイトを始めてからのことも気にしてるようだけど」
絢辻「ああもう、うるさいわね。ただ中多さんのことが心配なだけよ、悪い?」
橘(なんていうか、子離れできない親を見てるような気分だ)
中多「わ、私は絢辻先輩が気にかけてくれてすごく嬉しいですっ」
絢辻「別に……あなたのためじゃないわよ。ただの自己満足」
絢辻「昼休みに来るなんて珍しいわね。どうしたの?」
中多「お昼をご一緒しようと思って……あ、もちろん迷惑じゃなければですけど」
絢辻「いいわね……と言いたいところなんだけど、橘君はもう学食に行ったみたいなのよね」
中多「絢辻先輩はこれから学食ですか?」
絢辻「ええ。中多さんも学食?」
中多「はい」
絢辻「ならふたりで行きましょうか。運が良ければ橘君も捕まるだろうし」
絢辻「橘君いないわね。テラスで食べてるのかしら」
中多「そうかもしれません」
絢辻「ごめんなさいね、ふたりきりになっちゃって」
中多「いいんです。先輩がいれば」
絢辻「ふふ、ありがと。いつもはクラスのお友達と食べてるの?」
中多「はい。美也ちゃ、あ、橘先輩の妹の美也ちゃんと食べてます」
絢辻「ふぅん。今日はどうしたの?」
中多「朝、先輩に会えなかったから……その、どうしても一目顔が見たくて」
絢辻「くすっ、なぁにそれ? 放課後になったら会えるのに、おかしな子ね」
絢辻「くれるって言うならもちろん頂くけど……わざわざ作ってくる気なの?」
中多「と、特訓のお礼にと思って……」
絢辻「お礼ならあたしの仕事を手伝ってもらってるじゃない」
中多「でも、それだけじゃ足りないような気がしたんですっ」
絢辻「そんなことないわよ。すごく助かってるわ」
中多「う……だ、ダメでしょうか?」
絢辻「ちょっと、ダメとは言ってないでしょ。楽しみにしてるわ。その代わり半端なものは許さないわよ?」
中多「は、はい。腕をふるって作ってきます!」
中多「先輩さえよければ、明日にでも」
絢辻「わかったわ。橘君にも声をかけておいた方がいいのよね?」
中多「えっと……あの、それは……」
絢辻「別に恥ずかしがらなくてもいいのよ」
中多「そ、そうじゃないんです……今回は、絢辻先輩だけで……」
絢辻「言われてみれば、お弁当を3人分作ってくるのも大変ね」
中多「は、はい。橘先輩にまた別の機会にと思って……」
絢辻(要はあたしで先に練習しておくってことね)
絢辻「遠慮しないでいいわよ。なに?」
中多「たまにでいいので……またこうしてお昼をご一緒してもいいですか?」
絢辻「……? 別にかまわないけど。そもそも許可を求めるようなこと?」
中多「ほ、本当にいいんですか?」
絢辻「嘘吐く理由がないでしょ。あなた相手ならあたしも猫被らなくていいから楽だもの」
中多「しぇんぱい……ありがとうございますっ」
絢辻「いちいち大袈裟ねぇ」
中多「先輩、お待たせしました。あれ、橘先輩はいないんですか?」
絢辻「少しやることがあるから遅れるって。どうせ下らないことだろうけど」
中多「そ、そうなんですか?」
絢辻「下らないだけならマシだわ。犯罪になるようなことをしてなければいいけど」
中多「あ、あはは……」
絢辻「まあいいわ。彼が来るまではふたりでやりましょう」
中多「はい」
中多「ふぇ?」
絢辻「ん、すぅ……」
中多「せ、先輩?」
絢辻「あ……ごめんなさい。少しウトウトしてたみたい」
中多「疲れてるんですか?」
絢辻「昨夜遅くまで起きてたから、そのせいね」
中多「先輩、少し寝てていいですよ? 私だけでも進められますから」
絢辻「ほんと? じゃあそうさせてもらおうかしら……橘君が来たら起こしてちょうだい」
中多「わかりました。先輩、おやすみなさい」
絢辻「うん、おやすみ……」
中多「あ、橘先輩」
橘「絢辻さん、寝てるの?」
中多「昨日徹夜して、疲れてたみたいで」
橘「絢辻さんが寝てるところなんて初めて見たよ。絢辻さんは授業中も絶対に寝ないから」
中多「え? そ、それって普通じゃ……」
橘「うっ……ほ、ほら! 絢辻さんって他人に隙を見せようとしないタイプでしょ? だからこうして無防備に寝てる姿が意外だなぁって」
橘「中多さん、絢辻さんから信頼されてるんだね」
中多「え、そ、そんな……でも絢辻先輩、寝顔も素敵です」
橘(たしかに、この寝顔は犯罪級の可愛さだな)
中多「え、髪ですか?」
橘「うん。すごくサラサラできっと最高の触り心地だと思うよ」
中多「橘先輩、触りたいんですか?」
橘「そうしたいところだけど、ばれたら僕の社会的立場が危ういからね。だから中多さんにやってもらおうと思って」
中多「わ、私は別に……」
橘「触ってみたくないの?」
中多「……触ってみたいです」
橘「こんなチャンス滅多にないよ! するなら今しかない!」
中多「う……」
サラッ……
中多「ふあっ……す、すごいサラサラ……」
絢辻「んぅ……んー?」
中多「っ……!?」
絢辻「中多さん……? もぉ、なにしてるのよ。悪戯なんてあなたらしくな――え? 橘君?」
橘「え、え? ぼ、僕は見てただけでなにもしてないよ?」
絢辻「はぁ……困ったわね。どうやって躾けようかしら、この駄犬」
橘「だ、だから僕はなにもしてな――」
中多「先輩の寝顔がかわ、じゃなくて、すごく気持ちよさそうに寝てたので、気が引けて……」
絢辻「あたしのためを思ってくれたのは嬉しいけどね……一生の不覚だわ。彼に寝顔を見られるなんて」
中多(また見たいなぁ……)
絢辻「あとあの悪戯はなに? どうせ橘君に唆されたんでしょ?」
中多「で、でも私も触ってみたいと思ってましたから……」
絢辻「あたしの髪を?」
中多「は、はい……」
絢辻「はぁ……言ってくれればいくらでも触らせてあげるわよ。あなたならね」
中多「サラサラで触り心地がいいから、触ってるとなんだか気持ちいいんです」
絢辻「それってそこまでいいものかしら」
中多「あと……先輩はいい匂いしますから」
絢辻「……匂い?」
中多「先輩の近くにいると、先輩のいい匂いがして……なんだかドキドキするんです」
絢辻「自分じゃよくわからないわね。あなたはあたしの匂いが好きなの?」
中多「好き、です……」
絢辻「ふーん……」
中多「ん……もう少し近づかないと……」
絢辻「それならあたしによりかかっていいわよ」
中多「え……?」
絢辻「ほら、もう少し椅子を寄せて」
中多「は、はいっ」
ガタガタッ
絢辻「もっと体を預けて……どう? これならわかる?」
中多「はい……先輩のいい匂いがします」
中多(先輩……)
絢辻(……ん? この腕に当たってるものって、もしかして……)
中多(先輩、先輩……)
絢辻(ちょっと……おかしいでしょ、あたしより1歳年下なのにこれなの!?)
中多(先輩の匂いに包まれたい……抱きしめてほしい)
絢辻(大きいとは思ってたけど、ここまでなんて……一体なにを食べて育ったらこうなるの?)
中多(しぇんぱぁい……)
絢辻(とりあえず橘君にはあとでもう1回お仕置きしておきましょう)
よく思い付いたもんだ
中多「へ……? あ、はいっ!」
絢辻「ぼーっとしてたみたいだけど大丈夫?」
中多「す、すみません……先輩の匂いと体温が、すごく心地良かったから……」
絢辻「眠くなっちゃった?」
中多「そ、そうです」
絢辻「じゃあさっさと残りの仕事を片付けちゃいましょう。そろそろ橘君も復活するだろうから」
中多「あ、あの……橘先輩が起きるまで、このままでもいいですか?」
絢辻「……もう、しょうがないわね」
絢辻「ごめんなさい、待たせちゃった?」
中多「大丈夫です。私も今来たところですから」
絢辻「よかった。さて、どうしましょうか。もう食堂は埋まってるかしら」
中多「かもしれません」
絢辻「天気もいいし、中庭でも行く?」
中多「先輩がそれでいいなら」
絢辻「じゃあ中庭で食べましょう」
中多「私はパンが1つありますから」
絢辻「それだけで足りるの?」
中多「少食だから大丈夫です」
絢辻(少食でここまで育つですって……?)
中多「どうかしましたか?」
絢辻「ううん、なんでもないわ。それじゃあ早速頂いていい?」
中多「はい。ど、どうぞっ」
中多「……」
絢辻「……」
中多「あの、先輩……?」
絢辻「はぁ……」
中多(も、もしかして……美味しくなかったのかな……?)
絢辻「中多さん……とっても美味しいわ」
中多「え……」
絢辻「とっても美味しいって言ったの。聞こえなかった?」
絢辻「ふふ、そんなに緊張した?」
中多「せ、先輩が急に押し黙るから、お口に合わなかったのかなって……」
絢辻「あなたのオロオロする顔が可愛いからついからかっちゃったのよ」
中多「うぅ……先輩、ひどいです」
絢辻「言ったでしょう? あたしは優しくないって。それにしてもあなた、料理もできるのね」
中多「で、できるってほどじゃ……」
絢辻「高校1年生でこのレベルなら充分できるって言っていいと思うわよ」
中多「そうでしょうか?」
絢辻「自分をおとしめるのはあなたの悪い癖よ。もっと自信を持てって前も言ったじゃない」
中多「え? 橘先輩?」
絢辻「ええ。次は橘君に食べてもらうんでしょ?」
中多「いえ、橘先輩にはまた別のお礼をしようと思ってます」
絢辻「は……? あたしは橘君の前の練習台じゃなかったの?」
中多「練習だ……ち、違います! 先輩を練習台に使ったりなんてしません!」
絢辻「そ、そうだったの……ごめんなさい、勘違いしてたみたい」
中多「先輩、もしかして美味しいっていうのも……」
絢辻「あ、それは違うわよ。本当に美味しいから美味しいって言ったの」
中多「変な質問……?」
絢辻「中多さんって橘君のことが好きなのよね?」
中多「す、す……っ!?」
絢辻「橘君には言わないから、本当のことを教えてほしいの。あなたは橘君が好きなのよね?」
中多「……橘先輩にはすごく感謝してます。でも、好きではないです」
絢辻「あたし、今までなにやってたのかしら……」
中多「せ、先輩?」
絢辻(つまりこの子は本当にあたしにお礼がしたいだけでお弁当を作ってきたり、仕事を手伝ってくれてるのね……)
中多「あの、私からも1つ聞いていいですか?」
絢辻「え……なに?」
中多「先輩は……好きな人っているんですか?」
絢辻「好きな人? いるわけないでしょ」
絢辻「ずっと優等生を演じて生きてきた人間なのよ? 誰も本当のあたしを知らない」
絢辻「誰もあたしを好きにならない。好きになってもそれはあたしの表面だけ。そんな人をあたしが好きになるわけないでしょ?」
中多「でも……これからはわかりませんよね? 先輩の秘密を知ってる人なら……」
中多「た、橘先輩じゃないですっ」
絢辻「じゃあ誰?」
中多「それは……」
絢辻「ふぅ……この話はもうやめましょう。あたしに恋愛なんてできると思えないわ」
中多「あ、諦めちゃうんですか?」
絢辻「少なくとも、今はね……ごちそうさま。お弁当、美味しかったわ」
中多「……」
橘「……」
絢辻「……」
中多「……」
橘(なんだか空気が重いな……いつもは絢辻さんの隣に座る中多さんが、なぜか今日は僕の隣だし)
橘「ねぇ、ふたりとも――」
絢辻「ああもうっ……面倒くさいわね!」
橘「うわっ。あ、絢辻さん?」
絢辻「橘君、悪いけど少し席を外してもらえる?」
橘「う、うん。わかった」
中多「は、はい」
絢辻「こっちに来て。あたしの隣に座って」
中多「え、え、え?」
絢辻「いいから、はやく。あたしの言うことがきけないの?」
中多「き、きけますっ」ガタッ
絢辻「いい子ね。じゃあ座って。はい、昨日みたいにあたしにもたれかかって」
中多「あ、絢辻先輩……?」
絢辻「ちゃんとあたしの匂いを感じる?」
中多「感じます……」
絢辻「そう。じゃあ少し話をしましょう」
中多「好きな人のことですか?」
絢辻「それ以外ないでしょ」
中多「す、すみません」
絢辻「謝らないでいいわ。あの質問をした理由は?」
中多「う……」
絢辻「答えたくないならいいわ。次ね、あなたはあたしに好きな人がいないと困るの?」
中多「そ、そうじゃないです。でも、先輩が恋愛を諦めちゃうのは……いやです」
絢辻「あたしの勘違いだったら笑ってくれてかまわないから」
絢辻「あなたは、中多さんは……あたしのことが好きなの?」
中多「あ、わ……わ、私は……は、い」
絢辻「そう、やっぱりそうなのね。ふふ、今度こそ勘違いじゃなくてよかった」
中多「ご、ごめんなさ……」
絢辻「だから、謝らないでいいって言ってるでしょ。あたしはそういうことに偏見はないから」
中多「本当ですか……?」
絢辻「ええ。じゃなきゃ今頃あなたのことを突き飛ばしてるわよ」
絢辻「あなたが好きになったのは今のあたしじゃないでしょ? 特訓に付き合ってた頃の猫を被ってたあたしよね?」
中多「好きになったのは、そうです……でもっ、今の先輩も好きです!」
絢辻「あなたならそう言ってくれると思ったわ」
中多「先輩は、先輩ですから」
絢辻「それで、あなたはあたしとどうしたいの? 付き合いたいの?」
中多「そこまでは……わかりません。私も、こんなこと初めてで……」
中多「ただ、先輩のそばにいたいです」
絢辻「あなたに好かれているという事実は純粋に嬉しいと思う。でも」
絢辻「あたしは、あなたのことは好きじゃないわ」
中多「っ……!」
絢辻「というより、よくわからないの。誰かとここまで親しくなったことがないから」
絢辻「今あなたに抱いてる気持ちが恋なのかどうかも、判断できないの」
絢辻「でも、あなたがあたしにとって特別な人なのは間違いないわ」
絢辻「自分からこの秘密を話す気になるなんて今までありえなかった。それだけでも、あなたは他の人とは違う」
絢辻「さっき、あなたと少し気まずい空気になったとき、すごく嫌だった」
絢辻「あなたがあたしから離れてしまうんじゃないかと思うと辛かった」
絢辻「今、あたしの口からたしかに言えることはね……あなたにそばにいてほしいってこと」
中多「ふぇ……?」
絢辻「なによ、その反応は。いやなの?」
中多「あ、いえ、嬉しいですっ。そばにいてもいいんですよね?」
絢辻「いてもいい、じゃないわ。いなきゃいけないの。あなたはこれからあたしのものなんだから」
中多「は、はい! 先輩のそばにいます!」
絢辻「あたしの方だけ気持ちをはっきりさせてないことはどうでもいいの?」
中多「先輩のそばにいられるだけで嬉しいですから」
絢辻「単純ねぇ……そんなことじゃいつか悪い男に騙されるわよ」
中多「先輩は騙したりしないって信じてます」
絢辻「もう……調子狂うわね、ほんと」
絢辻「ちょ、ちょっと……図書室なんだから、あんまりそういうのは……」
中多「でも、先輩から離れたくないです」
絢辻「抱きつかなくてもいいでしょ?」
中多「ダメなんです、先輩のものだからもっとくっつかないと」
絢辻「どういう理屈よ、もう……しょうがないんだから」
ナデナデ
中多「んっ……しぇんぱぁい」
絢辻「橘君が戻ってくるまでだからね」
橘(そろそろ終わったかと思って戻ってみれば……なんだこれは)
中多「戻ってきてもらいたいんですか……?」
絢辻「そうね……もういいかなって思ってきてるところよ」
中多「えへへ、私もです」
絢辻「でもこれじゃあいつまで経っても仕事が片付かないのよね」
中多「じゃあ、あと5分経ったら始めませんか?」
絢辻「あら、5分でいいの?」
中多「……やっぱり10分はほしいです」
橘(なにを話してるんだろう……出ていくタイミングがつかめない)
絢辻「なに?」
中多「あの……き、き……」
絢辻「木? 木がどうしたの?」
中多「し、してほしいです……キ――」
橘「もう話は終わった?」
中多「ひぇっ……!?」
絢辻「橘君、今戻ってきたところ?」
橘「うん。そろそろいいかなと思って。仲直りできたみたいだね」
絢辻「そもそも喧嘩してたわけじゃないわよ」
中多「ぐすっ……」
絢辻「ふん、当然でしょ」
橘(しかしこうして並んでいると、本当に大きさの差がよくわかるな……)
絢辻「橘君、どこ見てるのかなぁ?」
橘「な、中多さんのリボンが曲がっているような気がして……あ、あはは」
絢辻「へぇ、そうなの。でもおかしいわね、曲がってないみたいだけど」
橘「あ、あれー? 僕の気のせいかな……?」
絢辻「下手な嘘ね……いい? 今後中多さんをいやらしい目で見たら承知しないからね」
橘「今までそんな目で見たことは一度も……」
絢辻「わかった?」
橘「わ、わかりました」
絢辻「これは過保護とは違うわよ」
橘「いや、どう見ても過保護じゃ……」
絢辻「あなただって自分のものを人に取られるのはいやでしょ? それと一緒よ。言わば所有権の主張ね」
橘「そんな身勝手な……中多さんを所有物みたいに言うのは聞き捨てならないよ」
中多「い、いいんです」
橘「え、いいの?」
中多「はい。だって私は……絢辻先輩のもの、ですから」
絢辻「ね、わかってくれた?」
橘(本当になにがあったんだ、ふたりの間で)
橘「あれ?」
梅原「大将、どうした?」
橘「いや、絢辻さんがいないなぁと思って」
棚町「絢辻さんだったらさっき1年生の子とどっか行ったわよ」
橘「ああ、中多さんか」
梅原「そういや俺もよくその子と絢辻さんが一緒にいるのを見かけるな」
橘「仲良いからね」
棚町「最近休み時間になるとよく来てるけど、なにしてんの?」
橘「さあ。そこまでは僕もわからないよ」
中多「先輩、どうですか?」
絢辻「うん、心地良いわ。あなた、本当に柔らかいわね……このまま寝ちゃいそう」
中多「休み時間、終わっちゃいますよ?」
絢辻「残念ね。次の昼休みもしてくれる?」
中多「はい、喜んで」
絢辻「じゃあよろしくね」
中多「……えへへ」
絢辻「そう……ねぇ、中多さん」ムクッ
中多「はい?」
絢辻「抱きしめていい?」
中多「ふぇ……? きゃ!」
絢辻「あなたに触れてるとすごく落ち着くの」
中多(先輩、やっぱりいい匂い……)
絢辻(ダメね、あたし……すっかり甘えちゃって。まだ自分の気持ちもはっきりさせてないのに)
絢辻「あら、デートのお誘い?」
中多「で、デートなんでしょうか」
絢辻「それとも、あたし襲われちゃうのかしら」
中多「お、おそ……っ!?」
絢辻「冗談よ。日曜日ね、わかったわ」
中多「ありがとうございます。それじゃあそろそろ戻りましょう」
絢辻「そうね。また昼休みにね」
これ、橘さんの一人負けじゃね?
絢辻「予想はしていたけど、あなたってお嬢様だったのね」
中多「わ、私はお嬢様なんかじゃ……」
絢辻「豪邸と言っても差し支えない家じゃないの」
中多「すみません……」
絢辻「別に責めてるわけじゃないわよ。ベッドに腰掛けてもいい?」
中多「あ、どうぞ」
絢辻「ほら、あなたもこっちに来て」
中多「はい。失礼します」
中多(せ、先輩の吐息が耳に……!)
絢辻「学校じゃ誰もいない場所を探すのが大変で……中多さん?」
中多「は、はい?」
絢辻「顔赤いわよ。大丈夫?」
中多「だ、大丈夫ですっ」
絢辻「緊張してるの?」
中多「あう……」
絢辻「あなたの部屋なのに、面白いわね。緊張するとしたら普通あたしの方でしょ」
絢辻「あたし? そうでもないわね。あなたといると不思議と落ち着くから」
中多「うぅ、私だけですか……」
絢辻「あなたこそなんでそんな緊張してるの? 学校でふたりで話してるときと変わらないじゃない」
中多「そ、そうですけどぉ……」
絢辻「けど……なにかしようと思えばなんでもできるのはたしかね」
中多「な、なにかって……?」
絢辻「例えば……あなたをこのまま押し倒したりとか?」
中多「ふぇっ!?」
絢辻「もう、本気にしないでよ。するわけないでしょ」
中多「あ、あのあのっ……!」
絢辻「へぇ、意識してるのね」
中多「あうぅ……」
絢辻「純情そうに見えて、意外とエッチなのね」
中多「ちが、違うんですっ! 私が考えてるのは、そうじゃなくて……」
絢辻「どんなこと考えてるの?」
中多「……言えません」
絢辻「つまり、言えないくらいのことってわけね」
中多「な、なんでそうなるんですかっ」
中多「先輩、ひどいです」
絢辻「ふふ、ごめんなさい。そういえばバイトの方はどうなの?」
中多「順調です。先輩たちの特訓のおかげです」
絢辻「男の人から変な目で見られたりしてない?」
中多「……たぶん」
絢辻「どうかしらね、あなたが気づいてないだけかもしれないわよ」
中多「そ、そんなことないです」
絢辻(あるのよ……最近男性客が急に増えだしたもの)
中多「だ、大丈夫ですっ」
絢辻「あたしのものを邪な目で見る人間がいるって事実だけで腹立たしいわ」
中多「そんな怒らなくても……」
絢辻「怒るわよ。あなたはわかってないだろうけど、あたしはあなたがすごく大切なのよ?」
中多「え……」
絢辻「他の誰よりも大切なの。だからもう少し自覚してちょうだい」
中多「……はいっ♪」
絢辻「来ない方がいいわよ」
中多「え……どうしてですか?」
絢辻「つまらない家だもの。あたしは今すぐにでも家を出たいわ」
中多「お家、好きじゃないんですか……?」
絢辻「ええ、大っ嫌いよ」
中多「そんな……」
絢辻「なんであなたが悲しそうな顔するのよ。あなたのそんな顔は見たくないわ」
中多「ひゃうっ」
絢辻「せっかくふたりきりなんだから、もっと楽しみましょう」
中多「く、くすぐったいです」
絢辻「くすぐってなんかいないわよ?」
中多「話すたびに、吐息が、耳に……」
絢辻「じゃあこういうのはどうかしら……ふー」
中多「ひゃわっ!?」
絢辻「あはは、可愛い反応ね」
中多「え?」
絢辻「こんなことしたいとか、こうしてもらいたいとかよ。今日は好きなだけ甘えていいのよ?」
中多「あ……ありますっ」
絢辻「なぁに? 教えて」
中多「あ、でも……」
絢辻「遠慮しないで。言ってみて」
中多「あの、その……せ、先輩と……」
絢辻「あたしと?」
中多「……キス、したいです」
中多「あ、す、すみません! い、今のは聞かなかったことに……!」
絢辻「待って、違うの。いやってわけじゃないの。ただ……」
中多「や、やっぱりいやなんですね……ぐすっ」
絢辻「だから違うって言ってるでしょ! 本当にしていいものか考えてるのよ」
中多「私は……先輩としたいです、キス」
絢辻「あなたもよく考えて。あたしたちはまだ付き合ってるわけでもないのよ?」
中多「ま、まだ付き合ってないだけです……っ!」
絢辻(そうよね……結局はあたし次第ってことよね)
絢辻「あたし、は……」
中多「先輩は……私のこと、どう思ってるんですか……?」
絢辻「……」
中多「嫌い、ですか?」
絢辻「そんなわけないわ!」
中多「でも、好きじゃないんですよね……」
絢辻(好きよ、好きに決まってる。でも本当にいいの? あなたはあたしを……裏切らない?)
中多「あの、先輩っ。お腹は減ってませんか?」
絢辻「え……お腹?」
中多「近所で美味しいって評判のケーキを買っておいたんです。よかったらどうですか?」
絢辻「あ……そうね、せっかくだし頂こうかしら」
中多「じゃあすぐ持ってきますね」
タッタッタッ……
絢辻「はぁ……気を遣わせちゃったみたいね」
絢辻(それにしても最低ね、あたし……散々彼女の優しさにつけこんでおきながら、好きの一言も言えないなんて)
橘「絢辻さん、今日もこれから委員の仕事?」
絢辻「そうよ」
橘「僕も手伝った方がいいかな」
絢辻「中多さんがいるから大丈夫よ」
橘「ははっ、それもそうか。ふたりはあいかわらず仲が良いね」
絢辻「実際はそう単純でもないんだけどね」
橘「ん、どういうこと?」
絢辻「……ちょうどいいわ。少し話があるから付き合いなさい」
橘「中多さんはいいの? もう図書室にいるんじゃ」
絢辻「少しくらい待たせても平気よ。それよりも、今から話すことは絶対に中多さんに言っちゃダメよ」
橘「うん、わかった。それで話っていうのは?」
絢辻「うーん、そうね。どこから話そうかしら……あなたからは今のあたしと中多さんの関係はどう見える?」
橘「今の絢辻さんと中多さん? 仲の良い先輩後輩、かな」
絢辻「やっぱりそう見えるわよね。でも実際は違うの」
橘「絢辻さん……後輩いじめはよくないよ」
絢辻「なに勘違いしてるのよ! あたしが彼女をいじめるわけないでしょ!」
橘「こ、告白っ!? 中多さんが絢辻さんに!?」
絢辻「告白って言っても、普通に好きって言われただけよ」
橘「中多さんが絢辻さんに……そ、それで絢辻さんはなんて返事したの?」
絢辻「適当にお茶を濁したわ。そのときは自分の気持ちもよくわかってなかったし」
橘「そうなんだ……今のふたりの様子を見るに、普通にOKしたものかと思ったよ」
絢辻「たしかにそう見えるでしょうね。だって今はあたしも彼女のことを好きだもの」
橘「ああ、絢辻さんもね……え、絢辻さんも好きなの!? 両想いってこと!?」
絢辻「彼女が心変わりしてないかぎり、そうなるわね」
絢辻「問題はそこなの。あたしたちは付き合ってもいいのかしら」
橘「両想いなら断られることはないと思うけど」
絢辻「そうじゃなくて、同性と付き合って問題ないのかってことよ」
橘「それは……問題ありまくりじゃないかな」
絢辻「やっぱり付き合うべきではないわよね」
橘「そうかな? 女の子同士でも両想いなら付き合っちゃっていいと思うけど」
絢辻「でも結婚もできないし子供もできないのよ? それで本当に幸せになれるの?」
橘「そこまでは考えてなかったなぁ……だけど、今自分の気持ちを我慢するのはいいの?」
絢辻「……」
橘「絢辻さんはそれで幸せなの?」
橘「善意で言ったつもりなのに……」
絢辻「今付き合っても別れたら意味ないじゃない」
橘「普通付き合う前に別れることなんて考えないよ」
絢辻「女同士なんて……長く続くはずないわ」
橘「中多さんが絢辻さんに愛想を尽かす姿は想像できないなぁ」
絢辻「なにが起こるかわからないでしょ」
橘「そんなこと言ってたら誰とも付き合えないよ……」
絢辻「……中多さん、あたしを嫌わないでいてくれるかしら。こんなあたしを」
橘「それは大丈夫だと思うよ。僕が保証する」
絢辻「あなたに保証されてもねぇ……」
橘「少しは信じてよ……」
絢辻「とりあえず、あたしが余計なことを考えすぎてるのはわかったわ。ありがと」
橘「中多さんと付き合うことにしたの?」
絢辻「そうは言ってないでしょ」
絢辻「待たせちゃってごめんなさい」
中多「大丈夫です、気にしてませんから」
絢辻「早速で悪いんだけど、もう帰りましょう」
中多「えっ? お仕事はいいんですか?」
絢辻「今日はいいわ。それよりも寄りたいところがあるの。付き合ってくれる?」
中多「もちろんです、先輩」
絢辻「ありがと。じゃあ行きましょ」
中多「ここ、ですか……」
絢辻「覚えてる? あたしがあなたに初めて本性を見せたとき」
中多「忘れるはずありません」
絢辻「あなた、すごく驚いてたわね」
中多「だって、本当に意外でしたから」
絢辻「ふふっ……でもあなたが受け入れてくれて嬉しかったわ」
中多「私が先輩を拒むはずありません」
絢辻「あなたは優しいものね」
中多「え? 甘えてたのは私の方で……」
絢辻「ううん、あたしは甘えてたの。あなたの好意につけこんで、自分の寂しさを紛らわせてた」
中多「寂しさ……?」
絢辻「わからないわよね。でもそのまま聞いて」
絢辻「あたしはね、あなたが考えてるような人間じゃないの。面倒なことは大嫌いだし、寂しがり屋だし、臆病者なの」
絢辻「今まで曖昧な態度をとってたのもそう……ただ怖かったの」
絢辻「ずるいわよね。あなたの気持ちを無理矢理聞き出しておいて、自分はなにも言わないなんて」
絢辻「でもやっぱり怖くて……もしあなたに拒絶されたらって思うと、なにも言えなかった」
絢辻「ごめんなさい……こんな姿、幻滅するわよね」
中多「……幻滅なんて、しません。でも、先輩はずるいですっ!」
絢辻「っ……!」
中多「先輩は……私に言いました。自分に自信を持てって」
中多「なのに、その先輩が自分に自信を持てないのは、ずるいと思います」
中多「私は先輩のこと、好きですっ。何度でも言えます。先輩が好きです」
中多「だから、怖がらないでください……私は、先輩を拒絶したりしません」
中多「先輩……私のこと、信じてください」
中多「離れたりしません。ずっと先輩のそばにいます」
絢辻「こんなわたしでもいいの?」
中多「先輩じゃなきゃ、いやです。先輩が好きなんです」
絢辻「わたしも……わたしも、好き。中多さんのことが好きよ」
中多「えへへ……先輩の気持ち、やっと聞けました」
絢辻「ごめんなさい、こんなに遅くなってしまって」
中多「いいんです。ずっと待つつもりでしたから」
絢辻「わたしはそのつもりよ」
中多「じゃ、じゃあ……これからは名前で呼んでほしいです」
絢辻「もちろんいいわよ、紗江」
中多「はう……しぇんぱぁい……」ギュッ
絢辻「ねぇ、紗江……この前できなかったこと、しない?」
中多「ふぇ? できなかったこと?」
絢辻「もう、とぼけないでよ……キスに決まってるでしょ」
中多「あ……し、したいですっ」
絢辻「いやだって言われたら泣いてるところだったわ……好きよ、紗江。愛してる」
中多「んっ……」
絢辻「紗江……」
中多「しぇんぱい……」
絢辻「もう眠い?」
中多「少しだけ……」
絢辻「疲れちゃったのね。わたしはここにいるから、そのまま寝ちゃいなさい」
中多「先輩……おやすみのキス、してほしいです」
絢辻「甘えんぼなんだから、しょうがないわね……ちゅっ」
中多「んぅ……えへへ♪ 先輩、おやすみなさい」
絢辻「おやすみ、紗江」
乙
Entry ⇒ 2012.06.29 | Category ⇒ アマガミSS | Comments (0) | Trackbacks (0)
田中恵子「恋する」薫「ハニカミ!」
某遊園地にて
薫「いや~!今日は絶好の遊園地日和ってやつね~!」
田中「うんっ!ホント、晴れて良かったよ~」
薫「なーんて、お決まりの会話なんてしてたら時間がもったいないと思わない?」
田中「あ、あはは…」
薫「ほらほら、早く早く!」
薫「せっかくのデートなんだし今日は時間いっぱい楽しみましょうよ!」
田中「えへへ、そうだね!」
橘「…と、その前にちょっと待った!」
薫「せっかく人がノリノリで遊園地に乗り込もうって時に…」
橘「そっちこそ、もう今日のルールを忘れたのか?」
薫「ルールって…それって、もうやるの?」
薫「別に遊園地の中に入ってからでも良いじゃない」
薫「ねぇ、恵子?」
田中「……」
薫「…恵子?」
田中「私は今からでも全然構わないんだけど…///」モジモジ…
薫「なんでまんざらでもない顔してるのよ…」
薫「…ったく」
薫「わかったわよ~」
薫「まぁ、あたしも恵子相手なら全然問題無いし」
薫「はい、恵子」スッ…
田中「あっ…」
田中「うんっ!」ギュッ…!
【ハニカミルール】
デート中は必ず手を繋がなければいけない
薫「恵子!誕生日おめでと~!」
田中「あっ、ありがと~」
田中「覚えててくれて嬉しいな~」
薫「も~、あたしが恵子の誕生日を忘れるわけないじゃないの」
薫「恵子はあたしの一番の親友なんだからさ!」
田中「薫…」
田中「えへへ…ありがとう♪」
薫「ふふっ♪」
橘「そんな二人に!」
橘「僕からのプレゼントがあります!」
薫「わっ!?」
田中「ひゃっ!?」
田中「び、びっくりした~…」
橘「そんなことよりも田中さん」
橘「誕生日おめでとう!」
橘「そして、これは僕からの誕生日プレゼント!」ハイ
田中「えっ?」
田中「あっ、ありがとー…!」
薫「唐突過ぎるでしょ…」
橘「ほら、薫にも」ホイ
薫「ん?なんで、あたしにもなのよ?」
橘「良いから、ほら」
田中「えーと…」
田中「遊園地の招待券?」
薫「ていうか、ペアチケット?」
薫「純一、アンタこれどうしたのよ?」
橘「あぁ、商店街の福引きで当てたんだ」
田中「ええっ!?凄いね!」
橘「一等ハワイは無理だったけど遊園地ぐらいなら僕の力を持ってすれば…」
薫「どんな力よ…いや、凄いけどさ」
田中「でも、せっかく橘くんが当てたのに私が貰っちゃっても良いの?」
薫「いや、恵子に渡すのはともかくよ」
薫「どうせなら純一と恵子で行ってくれば良いじゃないの」
田中「ええっ!?」
橘「いや、僕は僕でちゃんと自分でチケットを買って付いていくよ」
薫「……」
薫「…はぁ?」
橘「僕は二人の思い出を残す為のカメラマン役として付いていくってことさ!」
薫「…その心は?」
橘「田中さんは少女漫画が好きだよね?」
田中「え?う、うん…」
田中「好きだけど…」
橘「そういうことさ」
薫「いや、わかんないんだけど」
橘「つまり、僕からの誕生日プレゼントは遊園地のペアチケットだけじゃない!」
橘「田中さんには少女漫画でありそうな思わずはにかんでしまうロマンティックなシチュエーションをプレゼントするんだ!」
薫「…!!」
田中「…?」
薫「いやいや、やっぱり良くわかんないんだけど」
橘「二人には僕が用意したハニカミプランを所々で実行してもらう」
田中「(ハニカミプラン?)」
橘「僕はそんな二人の姿を写真に収める!」
薫「…えーと」
薫「つまり、あたしと恵子に恋人ごっこをさせて…」
田中「ええっ!?恋人!?」
薫「アンタはその姿を写真に残したいと」
橘「そういうことだな」
薫「……」
橘「写真の流出は絶対に無いから!」
橘「ちゃんと僕のお宝として…!」
ドコッ!
橘「ぐふっ!?」
薫「ごめん、なんか殴りたくなった」
田中「薫と…恋人…」
田中「……」
田中「(わ、悪くないかも…///)」
薫「遊園地っていうのは悪くは無いわね!」
橘「ぐ…ぐーで殴るのは反則だろう…」
薫「ねぇ、恵子?今度の日曜日とかは…」
田中「……」
薫「…恵子?」
田中「は、はいっ!」
田中「わ、私なんかで良ければ…///」
薫「…はぁ?」
橘「……」
橘「(これは次の日曜日が待ちきれないな…)」
薫「しっかし、まさかホントに自腹で付いてくるとはね…」
橘「当たり前だろう」
橘「年に一度の田中さんの誕生日なんだ」
橘「多少の出費なんか惜しくないよ」
薫「……」
薫「…あんた、恵子のこと狙ってるわけ?」
橘「いや、GAME OVERになるからそれは出来ないよ」
薫「なんの話よ」
橘「背景だと思ってくれて構わないから!」
橘「二人は存分に遊園地を楽しんでくれよ!」
田中「は、背景だなんて…」
薫「…まぁ、確かにこれ以上話してる時間も惜しいっちゃ惜しいわね」
薫「純一が良いって言ってるんだから今日は二人で存分に楽しみましょ?」
恵子「うーん…良いのかなぁ?」
橘「良いの、良いの!」
橘「あっ、そうだ!」
橘「せっかく手も繋いだことだし入口の前で1枚撮っとこうよ!」
橘「今日は二人で遊園地に来ました~!」
橘「…的な感じで!」
薫「アンタ、最高に気持ち悪いわよ」
薫「まぁ、最初の1枚目だしね」
薫「確かに入口の前で撮るのも悪くは無いか」
薫「恵子もそれで良い?」
田中「わ、私は薫が良ければ…」
薫「そっか。んじゃ、ここで撮りましょうか!」
田中「う、うん!」
橘「……」
橘「(よし!ついにハミカミプラン決行だ!)」
薫「(遊事前に純一から、なんか紙を渡されてたけど…)」
薫「……」
薫「(まぁ、恵子相手ならいっか)」グッ…
田中「ひゃっ…?」
指令①
薫は最初の写真を撮る時に田中さんの肩を抱き寄せてあげる
田中「か、薫…?///」ドキドキ…
薫「(むぅ…)」
薫「(友達感覚で無意識にやってることはあるけど…)」
薫「(こう…意識的にやると…結構恥ずかしいわね…)」
橘「(良いぞ!二人ともとても良い表情だ!)」
橘「(付き合い始めて間も無いカップルがちょっとステップアップしようと大胆になってみたけど…)」
橘「(やっぱり照れくさい!)」
橘「(いやー我ながら思わずはにかんでしまうな!)」
田中「(そんなのいつものことなのに…)」
田中「(こ、こんな風に抱き寄せられると…///)」ドキドキ…
薫「じゅ、純一!」
薫「は、早く撮りなさいよ!」
橘「あぁ、今撮るよ」
橘「…よし、二人ともこっち向いて!」
橘「撮るよー!」
カシャ
橘「…よし!」
橘「(1枚目でこの出来なら2枚目、3枚目はもっと凄い出来になるぞ!)」
薫「……」テクテク…
田中「……」テクテク…
田中「(うわー…)」
田中「(私、まだ顔熱いよー…)」
田中「(最初に手を握った時はそうでも無かったのに…)」
田中「(なんだか今はそれだけでも…)」
薫「(ヤバイわね…)」
薫「(あたし、意識しちゃってるわけ?)」
薫「(恵子相手に…?)」
薫&田中「あ、あのさ…!」
薫&田中「…!!」ドキッ
田中「なぁに、薫…?」ドキドキ…
薫「い、いやいや…恵子こそ…」ドキドキ…
薫&田中「……」
田中「(うぅ~…言葉に詰まっちゃうよ~…)」
田中「……」
田中「(…あっ、そうだ!)」
田中「(事前に橘くんから渡された紙…)」
田中「(確かにこれに…)」ガソゴソ…
田中「…!」
田中「(え、ええっ!?)」
田中「(で、でも…このままの状態でいるよりは…)」
田中「(よ、よし!)」
田中「か、薫!」
田中「メ、メリーゴーランドに行かない?」
薫「メリーゴーランドねぇ…」
田中「い、いやだった…?」
薫「いや、そういうわけじゃないんだけどさ」
薫「この歳になってメリーゴーランドの前に並ぶ女子校生二人ってどうなんだろって思ってさ」クスッ…
田中「……」ポカン
田中「ふふっ…確かにそうだね」
田中「でも素敵な恋人とメリーゴーランドとか憧れたりしない?」
薫「えー私はジェットコースターとかの方が…」
田中「えー」
橘「(よしよし、緊張もとけて良い雰囲気になってるぞ!)」
橘「(これで後は田中さんがハニカミプランを無事に遂行してくれれば…!)」
橘「(きっと田中さんにロマンティックなムードをプレゼントしてあげることが出来るはずだ!)」
田中「う、うん…」
薫「どうする?どれに乗ろっか?」
薫「無難に馬車とかに…」
田中「……」ドキドキ…
薫「…恵子?」
田中「か、薫!」
薫「な、なに!?」ビクッ…
田中「私…白馬に乗りたい…!」
薫「…~///」ドキドキ…
田中「あぅ…///」ドキドキ…
指令②
田中さんは薫とメリーゴーランドの白馬に乗って後ろから思い切り抱きしめる
田中「(ど、どうしよー…)」
田中「(これ絶対、心臓バクバクいってるのばれてるよ~!)」バクバク…
薫「(…多分、これも純一の出した指令ね)」
薫「(あたしへの指令じゃなくて良かったわ…)」
薫「(じゃなきゃ絶対に恵子に心臓の音、聞かれてたもん…)」ドキドキ…
橘「(いや、これも実に良いぞ!)」
橘「(田中さんが前のめりになって思い切り薫に抱きついてる姿が実に良い!)」
橘「(ベストショットは…ここだ!)」
カシャ
薫「…///」
田中「…///」
薫「あ、あはは…」
薫「なんか童心に帰ったーっていうか、なんていうか…」
田中「……」
田中「ねぇ、薫…?」
薫「な、なに…?」
田中「私の心臓の音…」
田中「聞こえてた…?」
薫「…!!」ドキッ…
薫「え、と…」ドギマギ…
田中「……」ジッ…
薫「…うん」
薫「ずっと聞こえてたよ…」
田中「…!」
田中「(や、やっぱり聞かれてたよ~…)」
薫「で、でも!」
田中「えっ?」
薫「あたしも!」
薫「あたしも、ずっと心臓バクバク!って鳴りっぱなしっだった!」
薫「多分、恵子と同じ…いやそれ以上に…!」
田中「薫…」
田中「そ、そうなんだ…///」
薫「う、うん…///」
薫「(いやー…流石に取り乱し過ぎでしょ、あたし…)」
薫「(相手は恵子なのに…)」
薫「(いや…)」
薫「(なのに、じゃなくて…)」
田中「…薫?」
薫「えっ、あっ…」
薫「ど、どしたの?」
恵子「あっ、そろそろお昼だし…」
恵子「ご飯でも食べたいなって思ったんだけど…」
薫「あっ、もうそんな時間か~」
薫「恵子と一緒だと時間が経つの早いわね~」
恵子「ホント?嬉しいなぁ」ニコッ
薫「…!」ドキッ
薫「(こんな当たり前の言葉にも反応してる…)」
田中「あっ、待って薫!」
田中「私、今日お弁当作ってきたんだ!」
薫「えっ、お弁当?あたしの分まで?」
田中「うんっ!」
田中「だからベンチに座って食べよ?」
薫「……」
田中「…薫?」
薫「アンタってば、どんだけ健気な良い子なのよ…」
田中「ふぇっ?」
橘「(まさか手作り弁当とは!)」
橘「(流石、田中さん!)」
橘「(これは次のハニカミプランも捗るぞ!)」
田中「はいっ!これ、薫のぶんね!」ハイッ
薫「いやー手作りお菓子は貰ったことはあったけど…」
薫「まさか手作りお弁当まで貰うことになるなんて…」
田中「あはは」
田中「薫の為を想って早起きして作りましたっ」ニコッ
薫「…~///」ドキッ
田中「……」
田中「…!」
田中「(わ、私…なに普通に恥ずかしい台詞を言っちゃってるの~!?)」
薫「(健気…純粋…いや、違う…)」
薫「(最早、そんな言葉では表せない…)」
薫「(田中恵子は…田中恵子…!)」
薫「(しっかし、恵子の笑顔は…ホント反則ね…)」ドキドキ…
田中「あ、ど、どうぞ!」ドキマギ
パカッ…
薫「…おー」
薫「(おにぎり、ハンバーグ、オムレツ、プチトマト…)」
薫「(シンプル…だけど王道…)」
薫「(とても美味しそうだわ)」
薫「これ全部恵子が作ったの?」
田中「あっ、ハンバーグとオムレツはちょっとお母さんに手伝ってもらって…)」
薫「ってことは実質全部手作りなのね」
薫「どれ、早速一口…」
田中「あっ、ま、待って薫!」
薫「ふぇっ?」
薫「……」
薫「(…これはまさか)」
田中「…薫はどれから食べたい?」
薫「…オムレツかしらね」
田中「そ、そっか」
田中「それじゃあ…」ヒョイ
田中「あ、あーん…」
指令③
田中さんは薫に食事を「あーん」して食べさせてあげる
薫「(これも王道過ぎでしょ、純一!!)」
橘「……」
橘「(…いいなぁ、女の子からの「あーん」…)」
田中「…薫?」ウルッ…
薫「うっ…」
薫「あ…」
薫「あーん…///」」
田中「…!」
田中「はい、召し上がれっ」スッ…
薫「んっ」パクッ
薫「んぐんぐ…」モグモグ…
田中「ど、どうかな…?」
薫「……」ゴクン
田中「……」ドキドキ…
田中「も、もしかして…」
田中「お、美味しくなかった…?」ショボ…
薫「すっごい美味しいじゃないっ!」
田中「わぁっ!?」ビクッ
薫「何よ、恵子ったら!」
薫「健気で純粋でいじらしいだけじゃなくて…」
薫「料理までこなしちゃうなんて…」
薫「もうどこに行っても良いお嫁さんになれるわよ、アンタ!」
田中「えっ…」
薫「ん…?」
田中「良い…お嫁さん…?///」
薫「あっ…///」
薫「いや、今のは…!」
薫「いや、確かにそういう意味なんだけど…!」
田中「えへへ…///」
田中「薫にそう言ってもらえるなんて凄く嬉しいな///」ニコッ
薫「~!!///」ドキーン
薫「(だ、ダメだ…)」
薫「(最初はいつも通り友達のノリで出かけて…)」
薫「(純一のくだらないプランも軽いノリでこなしていくつもりだったのに…)」
薫「(なのに…あたし…)」
橘「(よし!やはり手料理を「あーん」は信頼と実績のイベントだな!)」
橘「(二人の雰囲気も良いし、これなら最後の指令も…)」
橘「(…っと写真、写真と)」
カシャ
薫「はぁー!今日はたくさん遊んだわねー!」
田中「えへへ、そうだね」
薫「……」
田中「……」
薫「…ねぇ、恵子」
田中「…なぁに?」
薫「最後に観覧車に乗らない?」
薫「きっと今なら頂上から見える夕日が綺麗よ」
田中「…うんっ」
田中「私も薫と観覧車に乗りたい…」
橘「(さぁ、ついに最後のハニカミプランだ…)」
橘「(このプランは写真にきちんと収めることが出来ないのが残念だけど…)」
橘「(きっと今の二人なら…!)」
薫「……」
薫「(最後の純一からの指令…)」
薫「(この指令…軽い気持ちなら出来るかもしれない…)」
薫「(けど、今の私には…)」
田中「…薫」
薫「…ん?」
薫「あ…ど、どしたの?」
恵子「私ね…」
恵子「今日一緒に遊園地に行ったのが薫で良かったよ」ニコッ
薫「…!」
薫「(…そうね、軽い重いはただの言い訳に過ぎない…)」
薫「(あたしがしなきゃいけないこと…)」
薫「(あたしが、恵子としたいこと…)」
薫「そうね…」
係員「どうぞー」
恵子「ねぇ、薫?」
薫「ん?どしたの?」
恵子「隣に座っても…良い?」
薫「……」
薫「ええ、もちろんよ」ガタン…
恵子「えへへ、良かった」ガタン…
橘「(頑張れよ…薫、田中さん…)」
薫「……」
田中「……」
薫「ねぇ、恵子?」
田中「なぁに、薫?」
薫「朝も言ったけど今日は絶好の遊園地日和だったわよね」
薫「だって、もう夕方なのにあんなに遠くの景色まで見えるんだもの」
田中「ふふっ、そうだね」
田中「そんな日に、こうして一緒に遊園地で凄く嬉しかったよ」
田中「招待券をくれた橘くんには感謝だね!」
薫「…そうね」
薫「(アイツがいなければ、今頃私達はこうして過ごしていることは無かった)」
薫「(親友として日々を過ごしていくだけ…)」
薫「(けど、今は…)」
薫「ええ、そうね…」
田中「……」
薫「……」
薫「…恵子」
田中「…うん?」
薫「目、瞑ってもらっても良い?」
田中「……」
田中「…うん」
薫「……」スッ…
チュッ…
田中「……」
田中「…?」
田中「…え?」
薫「…純一もよくこんな物、用意出来たわよねー」
指令④
観覧車の頂上で薫は田中さんにプレパラート越しにキスをする
田中「……」
田中「…えへへ」
田中「た、橘くんも凄いねー」
田中「夕日をバックにガラス越しのキスなんて確かにロマンティックそのものだよ!」
田中「ホント…ロマンティック…」
薫「……」
田中「ね、ねー!」
田中「た、橘くんも少女漫画とかよく読んだりするのかなー?」
薫「ホント、少女漫画やラブロマンスの映画かってーのよ」
田中「えっ?」
薫「恵子」
田中「な、なに?」
薫「あたしさー」
薫「アンタのこと、好きよ」
薫「……」
田中「え、えっと…」
田中「わ、私も薫のことは好…」
薫「それは親友として?」
田中「えっ?」
薫「それとも恋愛対象として?」
田中「か、薫…」
薫「あたしはいつからわからないけどさ…」
薫「アンタのこと恋愛対象として好き」
薫「ずっと前からだったかもしれないし、今日芽生えた感情かもしれない」
薫「けど同性、異性とか関係無くたまらなくアンタのことが好きなの」
田中「薫…」
薫「…恵子はどう?」
薫「こんなあたしを気持ち悪いとか思っちゃう?」
田中「そ、そんなことない!」
田中「わ、私も…!」
田中「薫のことが好きっ…!」
薫「…!」
田中「今日1日一緒にいて、ずっとドキドキしっぱなしだった…」
田中「それは普段、教室で一緒にいる感情とは違う…」
田中「もっと特別な…」
田中「…うん!そうだよ!」
田中「私、田中恵子は…!」
田中「棚町薫って女の子に恋をしてるの!!」
薫「恵子…」
薫「あたし、ガサツだけど一応女の子なのよん?」
田中「薫こそ…私なんかで良いの?」
田中「私、地味で何のとり得も無い普通の女の子だよ?」
薫「…バカね」
薫「そう思ってんのはアンタだけよ…」グッ…
田中「あっ…」
薫「…もう、プレパラートは必要ないわね」
田中「…!」
田中「…うんっ」
田中「私…薫とキス…したい…」
薫「あたしもよ…」スッ…
チュッ…
薫「…///」
田中「…///」
橘「お疲れ様、二人とも」
薫「純一…」
田中「橘くん…」
橘「薫、ちゃんと僕が用意したプレゼントは田中さんに届けてくれたか?」
薫「…まぁ、やれるだけのことはやったつもりよ…///」
橘「そうか」
橘「田中さんは僕からプレゼント、喜んでもらえた?」
田中「…うんっ///」
田中「私、あんなに素敵な誕生日プレゼント初めてだったよ!」
田中「ありがとう、橘くん!」
橘「そっか、気に入ってもらえて良かった」
薫「……」ギュッ…
田中「……」ギュッ…
橘「今さら伝えるまでも無かったかな?」
田中「えへへ…///」
薫「そうね。むしろここから始まりみたいなもんだし」
橘「ははっ、それもそうだよな」
薫「ていうわけで、純一…」
薫「そのカメラ、よこしなさい」ニコッ
橘「…えっ?」
薫「なんでもなにも」
薫「なんであたし達カップルの写真をアンタに持ち歩かれなきゃいけないのよ?」
田中「そんな…カップルだなんて…///」
橘「で、でも!今日の企画をしたのは僕であり!」
橘「僕には二人の初々しい写真を一人で部屋眺めるぐらいの権利は…!」
ドコッ!
橘「ぐはっ!?」
薫「あたしの恵子を性的な目で見られたらたまんないわ」
薫「はい、カメラは没収」ヒョイ
純一「だ、だから…グー…は…」
純一「…ぐっ」バタリ…
田中「えと…良いのかなぁ…?」
薫「良いのよ、コイツにはこれぐらい方が」
薫「てんきゅ、純一♪」
橘「……」
薫「って、聞こえてないか…」
田中「えーと…橘くん、どうするの…?」
薫「まぁ、そのうち起きて、ちゃんと一人で帰るでしょ」
薫「今は恵子との二人きりの時間を楽しみたいわ」
田中「薫…///」
薫「さぁ、帰りましょ!」
田中「うんっ!」
香苗「橘くん!私にもハニカミプランやって!」
香苗「相手は無論あの人ね!」
橘「えっ…香苗さん、なんでハニカミプラン知ってるの?」
香苗「まぁ、風の噂でね!」
香苗「とにかくお願い!この通り!」
橘「……」
橘「ぐーで殴らないしカメラも没収しない?」
香苗「へ?」
おわり
乙
乙
Entry ⇒ 2012.06.14 | Category ⇒ アマガミSS | Comments (0) | Trackbacks (0)
橘純一「もっとみんなと、イチャイチャしようよ+!」
森島「ねえ、橘君」
純一「……ん? はい、どうかしましたか?」
森島「うーんっとねぇ~……ちょっといいかしら?」じぃー
純一「は、はい…?」
純一(な、なんだなんだ? 先輩、僕の顔をずっと見つめて……ハッ!?
まさか先輩っ……そんな、こんな昼間っから駄目ですよ……っ!)ドキドキ…!
森島「………」すすっ…
純一「も、森島先輩っ……?」
純一(か、顔が近いっ…! やっぱりそうだ! これは、これはっ……!)ぷるぷるっ…!
森島「えーいっ!」ぷちっ
純一「優しくお願いしまっ───……あたぁっ!?」
森島「んー……おっ、やっぱりそう! すっごく長い白髪を見つけたよ!」ふりふり
純一「あたた……え? あ、白髪が……なるほど…ありがとうございます森島先輩……」
純一「みんなと、イチャイチャしよう!」
純一「もっとみんなと、イチャイチャしよう!」
純一「色々みんなと、イチャイチャしよう!」
橘純一「みんなとイチャイチャしよう+!」
純一「みんなで、イチャイチャしようよ+!」
純一(なんだ、期待して損したよ……いや! でも、あの至近距離で先輩の顔を見れたんだ!
それだけで……その、彼氏的なことでは十分幸せだよね! そうだよね!)
森島「一見、白いってだけで別に普通の髪と一緒よねぇ~」まじまじ…
純一「……あ、あの、先輩? そんなに僕の白髪をまじまじと見つめるのは…」
森島「え? だめなの?」
純一「駄目じゃないですけど、ちょっと恥ずかしいというか……その…」もじもじ…
森島「そうなの? ふーん、私は別になんにも思わないけどなぁ~」くいくいっ
純一「…………っ」ぴくっ
純一(あれ? なんだこの、少しずつ溢れ出る感情は……?
先輩が僕の白髪を指先で弄ぶ姿に……なにか、不思議な猛りを感じ始めているのか…?)ドキドキ…
純一(ま、まさかっ! 僕は確かに変態紳士として曲がりなく謳歌する者だと自負しているつもりだけど……
そこまでのレベルにまで達しているとは到底思って……)
森島「あ、切れちゃった」ぶちっ!
純一「っ……」ドキン!
純一(な、なんだっ…? 今の心臓の高鳴りは…っ?
びっくりした、本当にびっくりした……先輩が僕の白髪を引きちぎった瞬間……!)
純一(───とっても、興奮……しちゃったかもしれない…っ!)
森島「?」
純一(これは……これはおかしいこと、だよねっ? 違うよねっ?
変態紳士とか、そういったことで説明できるほどのことじゃないよねこれって!)
森島「……橘くん?」
純一(ただ単に先輩が白髪をちぎったことに、ちょっと驚いただけだよこれって!
ば、馬鹿だなぁ……そんなこと、そんなことありえるはずがないのに────)
森島「たちばなくーん! どうかしちゃったの? 具合でも悪いのかなー?」ぱらっ…
純一「!?」ドキン!!
純一(せ、先輩がっ……! 千切った僕の白髪を無造作に地面にす、捨てたぁっ!)ドキドキドキ…!
純一(す、凄い…! なんだこれ、ものすごく僕は……その行為がとても……!)
純一(こ、興奮しているのかもしれない……!)
純一「……えっ? あっ、え、か、顔真っ赤ですか……?」ドキドキ…
森島「うんうん、すっごーく顔が真っ赤よ? やっぱり風邪とか引いちゃったのかしら……んー、どれどれ」ぴとっ
純一「も、森島先輩っ…?」
森島「あ、ほら動かないのっ。こうやっておでこ同士をくっつけあってね?
体温を測ったりするんだけど……あ、やっぱり顔が熱い、かも…? あれ?」
純一「………?」
純一(あ、あれ? 何時もだと僕、こんな事してもらったら嬉しくて熱が上がって誤解されることが多いのに……)
純一「………っ」
純一(───まさか、僕……嬉しくなってない? 先輩とおでこをくっつけあってるのに、こうやってイチャイチャできて
いるのに……あんまり興奮してないとでもいうのか…っ?)
純一(馬鹿な! あり得るわけがない! ……だけど、現実は僕の興奮が下がりつつある、のかもしれない)
森島「あれれ? おかしいなぁー……確かに熱っぽかったのに、今は大分よくなってるみたいよ橘く───」すっ…
ぶちっ
純一「っっ!?」びくん!
森島「あ、ごめんなさいっ! おでこ近づけたときに、橘君の髪の毛を一緒につかんでたみたいで……だ、大丈夫かな?」
森島「そ、そお? まあ大丈夫よね! まだまだ若いし、そんなこと気にしなくていいお年頃だもの!」
純一「え? あ、あー……なるほど、大丈夫ですよ!」
純一「うん……」
純一(……今の髪を引きちぎられたことは、別に興奮しなかったな僕…いや! 当たり前だよ!
まあ、それに、さっきも白髪を引きちぎられたことは別にどうだって思わなかったしね…)
純一「……ん?」じっ
森島「とりあえず、天然ものだし自然に吸収されることを願って……ぽいっと」ぱらっ…
純一「っ!?」ドッキン!!
純一(き、きたーーーー!! こ、これだよ! この言葉に出いない溢れ出る猛りっ!!)
純一(なんだなんだ!? どうしてこうも僕、嬉しいんだろう!?
……え? もしかして…僕、こうやって僕の一部を蔑にされることに……)
純一(興奮するのだろう、か……?)
純一(……大丈夫かな、僕。これってちょっと流石に頭おかしいのかもしれない…そんな気がする)
森島「ふぅー、うん、オッケー!
ごめんなさい、橘君……さっきの痛かったよね? 赤くなってない?」
純一「だ、大丈夫です! そのっ……ハァハァ…せ、先輩!」
森島「うん? なにかな?」
純一「そ、そのですねっ……ハァ…ハァ…せ、先輩もっと…!」
森島「もっと?」
純一「もっと……僕のこと、をですねっ……!」ドキドキ…!
森島「キミのことを?」
純一「………ぐっ!」ぎりっ…
森島「??」
純一「───罵ってほしいです! 先輩!」
森島「え?」
純一(だぁああああー!? 何言っているんだ僕はァー!)
純一(こ、これが僕が我慢の限界のライン……だったんだ。流石にあれやこれを言っていたのなら僕を飼いならす超人の森島先輩でさえ……ドン引きだっただろう)
純一(───罵ってほしい、これが僕が口に出せた最上級の上品な言葉だったんだ。くそっ、恐ろしいな僕の紳士的な向上心は……果ては無いのかもしれないよ……)
森島「………」ポク…ポク…
純一(……あ! 先輩、森島先輩が悩んでらっしゃる!いやこれは、僕が言った言葉をゆっくり解釈しているのかもしれない……ああ、どうか先輩、無事に受け取ってください…!)
純一(確かに堪え切れずに言った言葉ですが! 只のギャグとして受取ってくれて構いませんから! お願いします! 先輩!)
森島「───………なるほど、ね」チーン
森島「うん、なるほど。君が言ったことはキチンと私に伝わったわ!」
純一「あ、ありがとうございます!」
純一(伝わったんだ!?)
森島「どういたしまして! ……でもね、橘くん。私は君の願いを叶えることは無理かもしれないわ…」
純一「えっ…?」
純一(どうして悲しがっているんだ僕は! これでいいんだよ!)
純一「はい、そうですね……女装とか、女装とか…」
森島「ふふっ! それでね? キミと一緒にやってきたことはみーんな楽しくって、
私の中で一生の思い出として残り続けると思うの!」
純一「……ありがとうございます、先輩」
森島「ううん、こっちこそお礼をいいたいぐらいよ? だから橘君はとっても素敵な……ご、ごほんっ。
わ、わたしの彼氏なんだからねっ…?」
純一「は、はいっ……!」
森島「ッ……だ、だからね! そんな、素敵な私の彼氏は……どぉーんなに頑張っても!」
森島「キミを悪く言う言葉を、思いつくことが出来ないのっ」びしっ
純一「……僕の悪い部分が、思いつかないって事ですか?」
森島「そ、そうなのっ! 君はとっても……か、かっこよくて! 年下なのに頼りがいがあって……
そんな君と一緒にいると、私はいっつも……ドキドキしっぱなしだから……うん、言えないの!」
純一「森島先輩……」
どんなに橘君が望んでも私はそれに答えることは出来やしないの」
森島「私には……君が欠点のないべリグーな男の子って思ってるから、そんなこと言えないわ。
……でも、ちょっとだけエッチなのはどうかなーって思うけど……」
純一「あ、ごめんなさい……」しゅん…
森島「あ、ううん! 別に気にしなくていいからね? ……だって、私は…その…」もじもじ…
純一「え……?」
森島「その、ね? そんなところも………すき、だって思ってるから……気にしちゃダメ、よ?」
純一「そんな所もって……あ…」
森島「あ、ちょ…違うんだからねっ! ただ、好きになった君が変態さんだっただけで…!
えっちなことをするのが好きってわけじゃ…っ」
純一「えっ、あっ、はいっ! わ、わかってます! 大丈夫です!」
森島「……むー、絶対にそう思ってたさっき!」
純一「お、思ってません! 命の誓ってそう言いきれます!」
森島「……本当かなぁー」じぃー
純一「あ、あはは……」
純一(先輩、こんなにも僕のことを思っててくれたんだな……僕なんか白髪で興奮していたド変態なのに…)
純一「………先輩」
森島「むむむ? なにかな?」
純一(顔真っ赤だな先輩……)
純一「あはは、その、ですね……あの、ちょっといいですか?」
森島「だめ」
純一「こっちもだめです」
森島「……反抗的だなぁー、もっと先輩を敬わなきゃダメだぞっ」ぴっ
純一「ええ、わかってます。でも…僕は森島先輩の彼氏なんで」
純一「先輩とは、対等のつもりですよ」すっ…ぎゅっ
森島「あっ……」ぴくんっ
純一「森島先輩、今日は手をつないで帰りましょう!」
森島「あ、うんっ……手をつなぐの久しぶりな感じがする、かも」
森島「そ、そういうことをはっきりいわないっ」ぎゅう ぎりり!
純一「いたぁー!?」
森島「あ、ごめんなさいっ! 大丈夫だった橘くんっ?」
純一「………」
森島「た、橘君っ? 俯いてどうかしたのっ? 」
純一「………」
森島「橘君……?」すっ…
純一「えいっ」ちゅっ
森島「んっ!」
純一「───あははー! ひっかかりましたね、森島先輩~!」
森島「っ……ひ、卑怯よ橘君! そんな手を使ってくるなんてっ……」
純一「ええ、まぁ、先輩は帰宅路時はあんまり……キス、させてくれないんで」
純一「ちょっと痛がったふりをしてみました、どうでしたか?」
森島「………」
森島「……ふんっ!」ぷいっ
純一「え、あっ……先輩!」
森島「橘君なんか、もうしーらないっ」すたすた…
純一「そ、そんなぁ! せ、先輩! スミマセンでした!
ちょ、ちょっと先輩を驚かせたくて僕……!」すたすたっ…
森島「………」ぴた
純一「先輩……ごめんなさい、どうしてもしたくて…そうですよね、ちゃんと
確認取ってからとか、雰囲気を大切にしながらのほうが……」
森島「………」
純一「……すみませんでした! 許してください!」ばっ
森島「…顔、上げて橘君」
純一「はい……」
ちゅっ
純一「っ……はい?」
森島「…ん、ふふっ……お・か・え・し」
森島「だって癪じゃないっ、私だって橘君のこと騙して良い気になりたいもの!」フフン
純一(とは言ってるけど、顔は真っ赤で恥ずかしそうだ……可愛いな、森島先輩は)
純一「…見事に騙されました、流石です森島先輩」
森島「わお! でしょでしょ! うーん、これならもっと君の事をからかうことができそうねぇ~」
純一「え、だめですよ! 僕は先輩がすることだったらなんだって信用しちゃいますから!」
森島「そ、そうなの? ふーん、そうなんだ~……へ~…」
純一「な、なんですかその悪そうな顔は……」
森島「……それじゃー、橘君、ちょっといいかしら?」
純一「え? ……このタイミングでなにかするつもりですか?」
森島「うん、そうだよー?」
純一「でも、流石に僕でも騙されることは無いと思うんですけど……」
森島「この下僕~」
純一「───っっっっ!?」
森島「うん? どうかしたのカナ?」
純一「なんでっ、急にそんなこと…を?」
森島「んー……なんとなくだよ? ド変態な橘君!」
純一「っっっっっ!?」ドキン!!
森島「……あれれ~? 虫より価値が低い橘君、どうかしたのかな?」
純一「っっ……せんぱっ…やめて…!」ドキドキドキ
森島「やめて? おっかしいなぁ~……どうみても君の表情は嬉しそうに見えるよ?」
純一「そ、そんなワケない…でふ!」ぶるぶるっ…
森島「ねえねえ橘君……ちょっと靴の裏汚れちゃったから、綺麗にしてくれないかなぁ?」
純一「靴の裏は、汚くなるのが普通……」ぐぐっ…
森島「え、そうなの? でもでも、私は汚れてるって言ってるんだよ?」
純一「っ……森島先輩が、そう言っている…?」ドキドキ…!
純一「………」ピシリッ
純一「───それは汚れています!」
森島「綺麗にしてって言われたら?」
純一「ハァハァ……な、舐め取ってでも綺麗にします!」
森島「ふーん、でも橘君の唾液の方が汚いから……イヤかも」
純一「えッ……!」
森島「フフッ、でもね? 橘君にはもっとふさわしいところがあるかもしれないなぁ~」
純一「ど、どんなところですかっ!? な、なんだってします! お願いします! やらせてください!」フンスフンス!
森島「えっとね~それじゃあ~」
純一「わ、わんっ!」
森島「……あ、そうだ! これなんかどうかなっ?」
純一「わん?!」
森島「私の家の、ボロ雑巾の役目とか!」
純一「オッフ!」
純一「わん! ………え、あ、いや……御冗談ですよね…?」
森島「……」にこにこ
純一「わ、わん! 喜んでぇ!」
森島「うふふっ、それじゃ橘君! 私の家まで四足歩行で行くわよっ!」
純一「わんわーん!」だっ!
森島「───はぁーあ! すっごい楽しかったぁ!」テカテカ
純一「えっ………」ぴたっ…
森島「ほんっと橘君ってサイコーよね! わおわお!」パチパチパチ!
純一「あ、あのっ……これって…?」
森島「うん! ちょっと橘君を……騙してみた感じかなっ」
森島「さっきも言ったけどね、橘くんを罵るなんて私には無理だから……
思っても無いことを言ってね、君を騙してみようかなーってやってみたら」
森島「ふふっ、意外とおおハマりだったわね! う~~~んっ!
橘君も本当はわかってたくせに、ここまで乗ってくれるなんて……本当に流石よね!」
森島「前から思ってたけど、橘君の迫真の演技って目を見張るものがあるわよね!
こう……なんていうのかしら、躊躇が無いというか、身体全体で感情を表しているというか……とにかく凄いわ!」
純一「あははっ……それは、そうですよ。僕はなんてたって紳士ですからね…」
森島「わぁお! なるほどねぇ~……恐るべし紳士ね! 私も見習なくちゃ!」
純一「…………」ほろり…
森島「うーん、でも……さっき自分でしておいてなんだけど。橘君…」
純一「……はい、なんでしょうか?」
森島「人にね、暴言を吐かれるとか……罵られるのってどんな気分なのかしら?」
純一「えっ?」
森島「そういうことで……嬉しがる人がいるってのは、まあ、知っているんだけどね。
でもでも、私は普段の生活で暴言とか吐かれたとこ全くないから……ぜんぜんわからないの」
純一(まあ、森島先輩に対して暴言を吐く奴なんていないだろうなぁ……塚原先輩でさえ、文句止まりだし)
森島「だからね、橘君……ちょっとお願いがあるんだけど…いいかな?」
純一「はい? おねがい、ですか…?」
森島「そう! お願いなんだけど……ちょっと私を罵ってみてくれないかな?」
森島「へ、変なことをいってるのはわかってるんだからねっ?
でもね、今のうちに経験しておかなくちゃ駄目かなって……思ってるんだけど、いけないことかな?」
純一「あっ、いや! 別に悪くは無いと思いますけど……僕が先輩を罵るんですか?」
森島「そ、そうなのっ! やっぱりできないかな…?」ちらっ…
純一「う、うーん……ものすごく難しいですけど……はい、やってみます…! 先輩の頼みですし…!」
森島「わぁお! 流石ね橘君! じゃあ早速お願いするわ!」すっ
森島「わくわく…」
純一(わくわくしていらっしゃる……なんだろう、この人を罵る日が来るとは思いもしなかったよ…っ)
純一(く、くそっ……なにも思いつかないよ! でも、先輩の頼みだ…!ちゃんと考えて、きちんと期待にこたえなきゃ…!)ぐぐっ…
純一「──こ、この天然悪女!」びしっ
森島「………………」
純一「………………」
森島「……………」
森島「……………っっっ!」ぞくりっ
純一「……えっと、森島先輩…?」
森島「………ぇ…ぁ…ん…?」
森島「ハッ!? えっ!? ち、違うのたちばなくっ…!」ぶんぶん!
純一「は、はあ……?」
森島「っ………あ、そのっ……えっと~……」
純一(ど、どうしたんだろう先輩……顔真っ赤にして…もしかしたら怒っちゃったのかな!?)
純一「せ、先輩! やっぱりっ───」
森島「た、橘くんっ…!」ばっ
純一「──え、はい…?」
森島「あのね…? その、なんというかな……えっと、あの……もう一回、お願いできるかな…?」もじもじ…ちらっ
純一「えっ? な、なにをですか?」
森島「……の、罵るの……もう一回だけ、言ってくれない…?」じぃー…
純一「……ええっ!? も、もう一回ですか!?」
森島「だ、ダメならいいのっ…! ただのお願いだから、ダメっていうのならそれで……」
森島「……っ……っっ……」もじっ…
純一(…いや、そんな顔で言われちゃったら断りようが…)
純一「わ、わかりました! ではもう一回先輩を……罵りますよ!」
森島「ぐ、グーット! どんときていいわよっ…!」
純一「こ、このっ……男たらし!」
森島「んっ……!」ドキン!
純一「っ……」
純一(なんだこの反応は…っ? 先輩がすっごく、可愛く見える…!
いや、普段から天使のように可憐な方だけど! 今日の森島先輩はなんだか……!)ドキドキ!
純一「………むっつりスケベ」ぼそっ
森島「ひっ…!」ぶるっ…
純一「……空気読めない…」
森島「っ……」びくんっ…
純一「こ、このラブリー!」
森島「ひゃぁうっ……!?」びくびくん!
純一「せ、先輩っ……どうでしたか…?」
森島「…あ、うんっ…! ……その、ね……よかったよ、うん…!」
純一「そ、そうですか? 良かったとは……その、僕の罵り具合がってことです、よね…?」ドキドキ…
森島「………」もじっ…
純一「………」
森島「……うん、そうかな…うん……」ちらっ…
純一「……森島先輩、その…」
森島「なに、かな……?」ドキドキ…
純一「……まだ僕が、先輩を罵り足りないって言ったら……どう、しますか?」
森島「えっ……?」
純一「……どうしますか?」
森島「っ………そ、それは………そのっ……」
森島「っっ……」ぎゅっ…
森島「とっても、良いと思う……かな?」
森島「……橘くん…手、つないで良いですか…?」
純一(敬語!?)
純一「あ、うん……いいですよ…?」すっ…
森島「ありがと……」ぎゅ…
純一「………えっと、その……これから…どうしますか…?」
森島「………橘くんの好きな所で……いいよ?」ぎゅう…
純一「じゃ、じゃあ…僕の家とか……ちょうどいいかもしれませんね!」
森島「たちばなくんのお家……?」じっ…
純一「あっ…いや、ダメだったらいいんですけど…!」
森島「…………」ぶんぶん…
純一「……えっと、首を横に振るっていうことは…」
森島「……ふつつか者ですが、よろしくおねがいします…」
純一(なにを!? なにをよろしくされたの僕!?)
森島「………」ぴたっ
ぐいっ
純一「あ、あれ? ……先輩? どうかしましたか?」
森島「…………」じっ…
純一「……えっと、そんなに見つめられても……どうしたらいいのか、僕には…」
森島「…………」じっ…
純一「………っ」
純一(───わかる、わかってしまう! あの瞳は! あの訴えかけてくるあの瞳は!
森島先輩の絶大的な魅力を至らしめている魔の瞳!)
純一(先輩が何を思い、何を欲し、何をするか。あの瞳によって全てを相手に分からせることが出来……
……そして魅了された相手は決して逃げることなどできない、魔の輪廻!!)
純一「……ごくり」
純一(───期待に、答えるしかない! 僕は……森島先輩は僕の彼女なんだ!
橘純一、変態紳士の名をかけて……いざゆかん!)
純一「……こっちにこい、はるか。オレの家にいくぞ」
純一(はっずぅううううううう!!)
なんだこれ……やってしまった、流石に森島先輩も引いて───)
森島「……キャー…」キュンキュンッ…
純一(あ、すっごい嬉しがってるっぽい! 見たことも無いよあの表情!)
森島「はいっ! たちばなくんっ……!」だだっ…ぎゅっ!
純一(ぬわぁー! や、やわらかっ……違う! こんな反応じゃ先輩を喜ばすことは出来やしない!)
純一「───これから、もっと可愛がってやるからな。あんまり離れんなよ」
森島「………」こくこくっ
純一「じゃあ行くぞ……」すたすた…
森島「はいっ!」
~~~
美也「……ん? あれ、にぃにだー」
七咲「あ、森島先輩もいるね」
中多「すっごく仲良さそう……あれ、橘先輩の手、森島先輩の胸に──」
塚原「───はい、そこまでよ」がばぁ!
美也&七咲&中多「きゃあー!?」
七咲「こ、この声はっ……塚原先輩ですかっ!?」
中多(っっ……!? さっきのってやっぱり……っ! えっ? えっ? きゃぁー!!)
塚原「……ふぅ、突然ごめんなさい三人とも。ちょっと教育上に悪い光景が見えたから塞がせてもらったわ」
塚原(……まったく、あの二人は本当に人の目を考えないわね。
橘君と付き合えば少しはしっかりすると思っていれば、ますます悪くなってるじゃないの…)
塚原(……まあ、お熱いことはいいことじゃない。でも、橘君……はるかの胸を…しながら歩くのはどうかと…
…それにはるかも! どうして止めようとしないの!)
塚原「……はぁ、なんだか、お守りが増えたような気がしてならないわ……」
塚原「まだまだ、眼が離せないわね……あの二人」
響ちゃんの万能さは異常
次は七咲かなー
うんこいってきます
>>75
トイレ行ってきます故に遠目に
今回のスレは+と言うことで前回に書きました
純一「みんなと、イチャイチャしよう!」
純一「もっとみんなと、イチャイチャしよう!」
純一「色々みんなと、イチャイチャしよう!」
のお話の続きを書いています
+での書き済みのキャラ
裏表
ひびにゃん
麻耶ちゃん!
みゃー
です、それ以外ならオッケーで
ではでは
把握です
その次は梨穂子をかくよ
ちょいおまち
純一「ん~……」
裡沙「うふふっ、もう純一くん……そんなにしたらくすぐったいよ」
純一「え? でも、裡沙の膝枕とっても気持ちがいいからさ……こうやって寝転がってると、どうもこう……」
裡沙「あっ……だめだってばっ、もう! 本当に純一くんは甘えん坊なんだから……」なでなで
純一「あはは」
裡沙「ふふっ……あ、純一くん……っ」
純一「うん? どうかしたの?」
裡沙「う、動いたんだよ…っ? お腹の中で、少しだけ…!」
純一「えっ!? 本当に!?」ばっ
裡沙「うんっ…! ほら、わかるかな……っ?」
純一「………あ、本当だ…動いてる…!」
裡沙「だよねだよねっ? 元気な子が、生まれてくるといいね~……」
純一「当たり前だよ! 僕と裡沙の子供だよっ? ……もう想像だにできなほどの元気な子が生まれるはずだよ!」
裡沙「うんっ! そうだよねっ!」
裡沙「……だって、純一くんとあたしの…愛の結晶なんだもん───」
裡沙「…純一くんみたいな…かっこいい男の子がいいな………」
裡沙「あんっ……あ、純一くん、だめ…中には赤ちゃんがいるからまだ────」
じりぃぃいりりいいいいいいいいいいいいいい!!
裡沙「───はぅあっ!?」がばぁっ
じりりりりりりりっりりりいりりっりりりりい!!
裡沙「…………」ばんっ
裡沙「…………」
裡沙「………夢…」
裡沙「…………」ごしごし
裡沙「………うっ…うーーーんっ……」ぐいー…
裡沙「………っはぁ…」ぱさぁ…
裡沙「…………」
裡沙「はっ!?……もっかい寝れば、同じ夢見れるかも!」ばばっ
裡沙「はうッ!」ガン! (壁に頭をぶつけた音)
あたしの名前は上崎裡沙なんです、よろしくおねがいします。
裡沙「ふんふーん……♪」さっささ…
朝からとってもいい夢を見れてすごく機嫌がいいです。
いつもこんな夢を見れたらいいなーなんて思ったりしてます。
裡沙「……よし」ぐっ
ですが、夢じゃなくていずれ現実でも……なんて思ったりなんかして、きゃー!
裡沙「きゃぁー! どうしようどうし、きゃうっ!?」ガン!
いけないけない、いつもはこんなことはないんですけどね。
今日は少しだけテンションが高くなってます、ごめんなさい。
裡沙「もぐもぐ……」
朝は毎日ちゃんと食べてます。
痩せすぎってよく友達から言われるけど、あんまり太らない体質でして。
裡沙「ごくごく……」
そんなことをとあるクラスメイトに言ったら、筆舌に尽くしがたい顔をしてました。
どうしたんだろう、なにか駄目なこと言ったかな…?
いってきますの挨拶をすませて、あたしは学校へと向かいます。
ですが結構、遅刻ギリギリでの登校です。
裡沙「…………」すたすた…
家と学校はそんなに離れてはいません。むしろ近い方です。
朝起きるのも苦手じゃないので、どうして? と思う方も多いと思います。
裡沙「……このへん、かなぁ…」きょろきょろ
それはですね、とある人を待つためにこの時間に登校するんです。
とある人、というのは……
「はぁっ…はぁっ…!」
裡沙(あ、きたっ……!)ささっ
きました、あの人です。
純一「はぁっ…はぁっ…! や、やばい! また遅刻だよ…!」だっ…だっ…だっ…
裡沙(──きゃあ! きゃあああー!! た、たちっ…橘君っ!)はぁはぁ…
前方の方から息を切らせて走ってくる男子生徒。
そう、彼が橘純一……あたしの想い人です!
裡沙(橘くんがっ…息を荒くしてるんだよ! う、うへへっ! すっごく色っぽいよねっ!)
興奮が収まりません。もし手元にカメラがあったのなら、すぐにでも写真に納めてたでしょう。
ですがそんなものはなくて、あたしは必死になって脳内hdに画像保存させます。
裡沙「はぁっ!はぁっ! …んくっ、はぁんっ…!」ドキドキ!
もう幸せすぎて堪りません。橘くんのこの姿を見るために今日は、少し遅れての登校でした。
調べによると昨晩の橘くんはお宝ビデオを鑑賞したために、遅刻の可能性があると断定してたんです。
裡沙(あ、ああっ~……もっとみてたいけど、あたしも遅刻寸前だよっ…急がなきゃ!)だだっ
名残惜しいですが、橘くんを置いてあたしは学校へと向かいます。
体力には何かと自信があるので、全速力で走っていきます。
裡沙「……ふぅ、着いた」
モノの数分で校門前へと付きました。
今だに登校している生徒の姿もちらほら見えます。
裡沙(……橘くんは、今日も遅刻かな)
ことあるごとに時間ギリギリに登校することが最近多い橘君。
裡沙「…………」
それはつまり、彼がお宝ビデオを見る回数が増えていることに繋がるんです。
なぜでしょうか、確かに彼はお宝本を大多数を学校に隠すという強者ですけど。
裡沙「……溜まってるのかな」
なんて思ったりしたりするけど、結局は現場を見ることは無いのでわからないです。
彼は何を思い、そして何を考えそのようなことを続けるのでしょうか。
裡沙(ま、いずれ調べればいいよね!)すたすた…
わからないのなら、調べればいい。
それがあたしのモットーです。
~~~~
裡沙「………」
授業は退屈です。もちろんそれは橘くんの姿を見ることができないからです。
裡沙(なにしてるのかな、橘君……ちゃんと起きて授業受けてるかな…)1
裡沙 もんもんっ……!
ですが、逆に言えば……色々と想像し放題なんですよねこれって。
だからあたしは橘くんともし初デートに行くならどこに行くかと想像を膨らませます。
裡沙(まずはっ……映画とか見るんだよ! そしてそしてっ…その後はゲーセン、かな?
ああいう所入ったこと無いから、橘君にリードしてもらって……えへへっ)にやにや
こういった想像はとっても楽しいです。
にやにやがとまりません。
黒沢「………?」
隣席の子がすごい目で見てきますけど、今のあたしは気づいてないと思います。
裡沙(ああ、橘君っ! もう大好きだよぐへへ~……)
高橋「こら、上崎さん!」ぽん!
裡沙「ふぇっ!?」ばばっ
高橋「授業中に寝てはいけません、わかりましたか?」
裡沙「は、はい……すみませんでした…」シュン…
こういったケースは、いつも反省してます。
お昼休みです。今は教室の中で友だちと一緒に御飯を食べてます。
裡沙「………」ぼぉー…
ちょっと意外、と思ってる方がもしかしたらいるかもしれません。
昼休みなら彼の元へと行き放題じゃないか、とか。
裡沙「もしゃもしゃ……」
ですが、このタイミングで彼の尾行は危険なんです。
それはなぜなのか、なんて言われちゃえばそうですね。
裡沙「……絢辻、詞…」ぎりっ…
そうです、彼と一緒のクラスメイト。
あの分厚い鉄面皮で覆った悪魔みたいな女が。
彼と一緒に行動する事が多い昼休みは、危険なんですよ。
裡沙「じゅるっ……じゅるるるるるるッッ!」
梨穂子「あ、上崎さんそのジュース……」
裡沙「え? あ、ごめんなさっ……これ、桜井さんのやつだったよね…っ?」
梨穂子「い、いいんだよ! ダイエットだって思えば……思えば、ね…」ほろり…
午後の授業は合同体育です。
他のクラスと一緒に授業受けるんです、中々楽しいですけど、嫌なこともあります。
絢辻「…………」
裡沙「っ……!」
そうです、見たくない顔を見てしまうことですよね。
できれば存在自体を消し去りたいのですが、そうも行きません。犯罪は流石にアウトだと思いますから。
裡沙(だけど、だけどねっ…!
女子の方の授業は……ドッチボール!! これはチャンスだよ裡沙!!)
天はあたしに味方をしてくれたようです、これなら合法的に痛みつけることができるじゃないですか!
裡沙(今に見てなさい、絢辻詞……普段から橘くんにしていること、このあたしが仕返ししてあげるんだから…っ!)
気合を入れ、闘魂注入。
ぱんぱんと頬を叩き、いざコートの中へ。
棚町「……おっ? なんだか気合はいってる子がいるわよ恵子ぉ~」
田中「う、ううっ……」
棚町「なに怖がってんのよ! だーいじょうぶ、アタシがきちんと守ってあげるから~」
惨敗でした。これでもかってぐらいに負けてしまいました。
裡沙「うっ、うう~……」ぐすっ…
あたし的には活躍したほうなんですが、どうも周りの動きがおかしくて。
調子が狂わされ、上手く動くことができませんでした。
裡沙「……はぁ~…」
しかも、ここぞというばかりに!
相手チームに渡ったボールを……絢辻詞がキャッチし!
裡沙「くっ、くううううう……っ!」ぎりっ…
……あたしを綺麗なフォーム……
裡沙「っっ……………はぁ…」とぼとぼ…
悔しがっても、仕方がありません。
こうなった結果があるのだから、あとからとやかく言ってもしょうがないです。
裡沙「………おでこ、怪我しちゃった」
保健室にいって、バンソーコーをもらいにいこうとおもいます。
裡沙「……あれ? あの姿は…」
どう見ても橘くんです、神様ありがとう!
裡沙「たちばなくんだっ……!」ささっ
……ここで安易に駆け寄ったりはしません、むしろ駆け寄る勇気がありません。
橘くんもあたしのことを憶えているはずがありませんし。
あたしの方もこのタイミングで思い出して欲しくもありません。
裡沙「………」じっ…
静かに、気配を消し去り、いつも通りに壁と一体化を済ませます。
そうなるとあたしの姿は誰にも発見されることはないんです、凄いでしょ?
裡沙「たちばなくんっ…たちばなくんっ」
体育終わりの、汗で濡れた髪もとてもセクシーで、これはもう一週間は色々と困りません。
裡沙「はぁはぁ………ふぇ…?」
すると、橘くんの影に隠れるようにしていた人が、廊下側へと出てきました。
どうやら保健室に入ってたようです。
裡沙「あ、あれはっ……!」
どうみても絢辻詞です、神様のばか!
裡沙「ぎりりっ……なんなのかなっ…いつもこうやってあたしと橘くんを邪魔してっ…!」
あたしはそう言いつつも、少しづつ後ずさりをすませます。
あの女、この距離からでも感づいて来る場合があるのです。恐ろしい事この上ないんです。
裡沙「仕方ないよっ……ここは、ひとまず───……え?」
後ずさった足が、不意に止まりました。
裡沙「………泣いて、る…?」
信じられない光景が、目の前に広がっていました。
あの、絢辻詞が……静かに泣いていました。
裡沙「………泣くんだ、あんな人でも…」
なんだかわからないけど、すこしだけ、ほんとうにすこしだけ。
あの女が「人間味」をだしているところを見て、あたしは……
裡沙「──あっ!!あの女橘君に抱きついた!!! くにぃいいいいいいいいい!!!」ぎりりりり!!
やっぱりそんなことは勘違いだったようです。
裡沙「…………」
それはどうしてか、なんて聞かれれば。
それはあたしがあえて尾行をしないからです。
裡沙「屋上の風、やっぱ冷たいよ……」ぶゅううう……
橘くんの尾行について。
あたしはひとつの約束事を一人で決めていました。
裡沙(……頑張ってるのかな、橘君)
それは橘くんが、あのトラウマを持ちつつも。
恋愛という大きな壁に向かって立ち向かう姿を。
裡沙「…………」
見たくはなかったからです。
裡沙「………どうして、頑張れるんだろう」
あたしには、今の橘くんは理解できません。
いや、理解したくないといったほうがいいのかも知れません。
約束事───それは、彼が頑張ってる姿を決して見ないこと。
なぜか、なんて聞かれれば単純にそう……見たくないからです。
裡沙「…………」
彼はあんな辛い思いを抱え、それなのにまた恋愛をしようと頑張っている。
どうしてなんでしょうか、まったく理解不能なんです。
裡沙「だって、あたしは……貴方のことはなんだってわかってるから…」
彼が経験した重いトラウマは、あたしにしか理解ができない。
だからこそ同じ傷の痛みを知っているあたしは、彼の行動が理解できません。
裡沙「……あたししか、彼をわかってあげられないんだよ…橘君」
それは現実味を全く帯びてはなく、あたしだけの妄言なのかもしれない。
……なんて誰かが言いたいのかも知れませんけど、そんなことはありません。
裡沙「…………」じっ…
現実はそこまで甘くはない。
彼がどれほどの奇跡を起こそうとも、どれほどの頑張りを見せようとも。
裡沙「貴方が経験したトラウマは……絶対に貴方を不幸にするんだよ」
それを理解しているはずなのに、彼は次の恋愛へと踏み出した。
裡沙「…………」
彼はまったく悪くはないんです。こうなった運命が悪いんです。
……そして、あたしが悪いんです。
裡沙「…………」
屋上から見える、グラウンドの端っこ。
木々に隠れて見えにくい場所ですが、上からは丸見え。
裡沙「…………」
そして今、あたしの眼下ではひとつの恋愛が終りを迎えました。
裡沙「…………」
走り去っていく女子生徒。
黒い髪がはためき、なにやら顔を抑えている姿は泣いているのでしょうか。
裡沙「………橘くん」
その後に残された、一人の男子生徒。
項垂れ、頭を垂れ、そして今にも膝をついてしまいそうなぐらいに落ち込んだ。
彼の姿でした。
あたしはその姿を見ながら、カバンからひとつの紙を取り出します。
それはさんざん女の子の………橘君に近づき、怪しい関係を作ろうとした女の子たちの。
そして橘くんの悪口を書いた紙切れでした。
裡沙「…………」
大量に用意されたその紙は、あたしが三日三晩寝ずに作り上げた最高傑作。
あたしが調査し、尾行し、時間を惜しまず作り上げたものでした。
裡沙「……橘君、ごめんね」
その大量の紙の中で一枚を手に取り、あたしは空へと掲げます。
絢辻詞の悪口が書かれた、その紙は。
裡沙「……………」
その紙は、一枚も使われてはいません。
裡沙「……使えるわけ、ないんだよ」
───びりびりと、その一枚をやぶきます。
風にのって、その千切れた紙は空へと浮かび、そして流れていきます。
あたしは、謝り続けました。
ごめんなさい、本当にごめんなさい……何もかもを橘くんに打ち明けたくて。
でも、それをしたらダメだってことはわかっていて。
裡沙「……そしてごめんなさい、絢辻さん」
あたしは彼女のことは嫌いです。
ほんとうに嫌いです、心の奥底からだいっきらいです。
裡沙「………」
なにかと突っかかってきて、橘くんを虐めて、あたしの尾行を邪魔して。
これほどまで人を嫌いになれるのかって思うぐらいに人を憎んだことは初めてで。
裡沙「……でも、貴方と橘くんが…」
絶対にうまくいかないことを、わかってたのに。
そのことを、彼のトラウマを、彼の悪い部分を。
裡沙「……きちんと言わなくて、ごめんなさい」
──風にのって流れていく、あたしの努力の結晶。
あたしが書いた悪口は、けっして悪い方向に行くとは限らない。
トラウマを抱えた彼は、決してそのトラウマを口にしない限り。
あの人は、いつまでたっても恋愛は出来やしないと思いながら。
乗り越え、突き進み、その先に待っている答えに立ち向かえたはず。
裡沙「……あたしの邪魔は、ただのいい起爆剤だったはず」
だけど、それをわかっていたからこそ。
あたしは絢辻さんに強く尾行をしなかった。
裡沙「……嫌な女の子、だよね」
眼下にみえる、彼の姿。
薄暗くなっていくうちに、彼の姿はもう見えなくなるだろうと思います。
裡沙「……まだ、大丈夫だよ。橘君」
貴方はまた、トラウマをおった。
トラウマのせいでトラウマを負い、そして次へと進んでいくはずです。
裡沙「そんな馬鹿で、可愛い貴方を……あたしは好きになりました」
どんなに傷つこうとも、先へと進む貴方。
頑張り、頑張り続けてなおも答えを求めようとする貴方。
裡沙「……ずっとずっと、ずっと…」
……あたしは、そんな可愛い貴方を見続けます。
彼が望むことならなんだってしようと、あの冬の公園で誓ったはずなのに。
それでもあたしがすることは、彼を悲しませることばかり。
近頃、そんなふうに思い始めたあたしは。
そんな自分の過去をどうすることもできやしません。
だったらどうすればいいのでしょう。
あたしには、ひとつの名案がありました。
裡沙「…………」
時間はギリギリ、遅刻間際。
既にあたしの走りでも学校に付くことは叶わないと思います。
裡沙「……もうすぐ、かな」
家は学校からそう遠くありません、むしろ近いです。
朝は別に弱くはなくて、むしろ強い方だって自負しています。
裡沙「───あ、きた……」
そしたらどうして?
なんて疑問を持つ人がいるでしょうけど、あたしはとある人を待っているんです。
「はぁっ…はぁっ…はぁっ…」
裡沙「っ……っっ……!」
その人は、とてもちから強くて。
その人は、とてもお馬鹿さんで。
「んくっ…はぁはぁ……!」
その人は、とても頑固者で。
その人は、とても強がりで。
その人は、とても淋しがり。
裡沙「………今だよ、裡沙っ…行くならいましかないんだよ…っ」
あたしは、そんな貴方を好きだから。
裡沙「っ……にょし! あ、かんじゃっ──ひゃうっ!?」バターン!
だからこそ、あたしも頑張りたいって思い始めたんです。
「おわっ!? だ、大丈夫……っ?」
裡沙「いひゃいっ……」
「た、立てるかな…? すっごい勢いで転んでたけど…?」
裡沙「え? あ、ははははいっ…! だ、だだだっだだだだ………」
「……えっと、本当に大丈夫?」
「お、おうっ! そっか……それなら安心だよ!」
あたしは、そろそろ頑張らないといけないから。
貴方の頑張りに合わせて、あたしも頑張らないといけないから。
裡沙「えっとその、ね……貴方も遅刻寸前なのかなっ…?」
「……。あ!!そうだった!! 遅刻だよ遅刻! 急ごうよ!」
今もなお、三年になっても頑張り続けてる貴方に。あたしは最後まで、付き合い続けます。
裡沙「は、はい……!」
「う、うん! あ、そういえば……君の顔、けっこう見るんだけど名前を聞いてなかったよね…っ?」
裡沙「え、えええー!? けっこう……っ!?」
「え、うん……なんだか最近、よく見るんだけど……名前、聞いてもいいかな?」
裡沙「あ、うんっ! あたしの名前は……上崎 裡沙っていいます…!」
「上崎さんか……なるほどね、ああ、それじゃあ僕の名前も言っておこうか!」
純一「僕の名前は橘純一! よろしくねっ」
裡沙「………はい!」
───この彼の笑顔を、一生壊させないように。あたしは、これからの生き方を変えていく。
このおはなしの後に、前回の裡沙編に入るとお考えください
次はりほっちでごわす!うんこ!
梨穂子「……」ぐぅ~
純一「……もしゃもしゃ」
梨穂子「……」ぐぅ~~
純一「もぐ……」
梨穂子「……」ぐぅうう~ぐう…
純一「ごくごく……」
梨穂子「……」ぐううううううぅうう~~
純一「もぐ……ごくん」
梨穂子「……」ぐうううううううううううううううううううううううう
純一「………」すっ…
梨穂子「!」パァァァアアア!
純一「……ぱくっ…もぐもぐ…」
梨穂子「……」ずーん
梨穂子「………」ぐぅううううう……
純一「そろそろ、やめたほうが見のためじゃないか……?」
梨穂子「………」ぐううううううっ! ぐぐ!ぐう!
純一「もしゃもしゃ……あの、腹の音で会話してる感じになってるしさ、そういうのって女の子的に…」
梨穂子「………」ぐぅ~…
純一(か、会話してんのかこれ! もしかして……ッ!?)
純一「……り、梨穂子?」
梨穂子「………」ぐぅ?
純一「ごくり……うそ、だろ?」
梨穂子「………」ぐっぐうっ! ぐぅうー!
純一「……ごめん、ちょっと可愛いかもって思ったけど、そうでもないかも」
梨穂子「ええぇー! どうしてぇ~!?」
純一「いや、ちょっと……腹踊りみたいな印象を受けて、なんかこう……萎えた?」
梨穂子「ひっ…ひっどぉ~い! ちょっと期待した感じで言ったくせに~~~!!」
梨穂子「ちゃんと目を見ていってよぉ~! ……女の子に、可愛いって言う時はきちんと目を見て言わなきゃダメなんだよっ?」
純一「リホコカワイイ」
梨穂子「だーめ! そんなんじゃ、だ~~めっ!」
純一「リホコノオナカカワイイ」
梨穂子「むぃいいいいいい!! ほんっと純一ってばイジワルだよ~~!!」
純一「イジワルなんかじゃないよ、幼馴染としての愛情だよ」
梨穂子「デマカセばっかり! そうやってす~~~ぐ逃げるんだから!」
純一「じゅるじゅる……」
梨穂子「もうっ…! さっきも食べさせてくれるのかな~、なんて思ってればやっぱり食べさせてくれなかったしっ」
純一「あれはまぁ、イジワルだったけどさ……いやいや、お前だってダイエット中だろ?」
梨穂子「そ、そうだけど……でも! 可愛い幼なじみがお腹すきすぎて「おなかすいたよー!」ってお腹鳴らしてるんだよ?
そこは純一、ドンッと男らしくやんなきゃだめだよ~」
純一「いやだ、なぜか、それはこれは僕の昼飯だから」
梨穂子「……ふんだっ」
梨穂子「そこは自信を持って行って欲しかったりするんだけど~……?」
純一「いやいや、梨穂子。それは流石に高望みしすぎじゃないか?」
梨穂子「えっ……どういうこと?」
純一「僕が梨穂子のこと、可哀想だなって思うことについて」
梨穂子「……えっ? 純一は…可哀想って思ってくれたり、しないの…?」
純一「うん、しない」
梨穂子「…どうして?」
純一「このダイエット企画が六十七回目だから」
梨穂子「………うん、だよね。っはぁ~…」
純一「流石にもう、可哀想とかそんなこと思う気力もわかないよ」
梨穂子「ううう……どうしてこんなことになっちゃったんだろ……夏までには痩せたいのにぃ~」
純一「ああ、あのビキニ着るってやつ? ムリムリ! 梨穂子ムリムリ!」
梨穂子「ちょ、ちょっと! そんな断言しなくてもいいでしょ~!」
梨穂子「報われないなら教えきれてないよぉ!」
純一「……はぁ~、まあ、あえて今まで聞かないでおいたけどさ梨穂子」
梨穂子「えっ? なに?」
純一「どうしてそこまで……痩せようとするんだ?」
梨穂子「どうしてって……それはまあ、痩せたほうがね、着たい服とか着れるとか~…」
純一「うんうん」
梨穂子「あとはさっきもいったけどね、ビキニ~とか可愛く着れたりとか~……」
純一「そうだね、痩せるって言えば定番な答えだよ」
梨穂子「あとはね、駅前のケーキ屋さんに売ってるシュークリームをいっぱい食べれたりとか~……」
純一「うんう……うん?」
梨穂子「あとはあとは! おなかい~~~っぱいリンゴパイを頬張ってぇ~~~……えへへ~…」ジュルル
純一「おい」
梨穂子「う、うぇっ!? そ、そうかなっ…?」
純一(無自覚だと……っ? そもそも梨穂子の発想自体が食に侵されすぎてる…!グルメ細胞でも有るのかコイツには…)
純一「───仕方ない、どうやら……ここにきて僕が立ち上がらなければならないようだな」がたっ…
梨穂子「えっ…?」
純一「驚く無かれ、この橘純一……実はこのかた太ったことがない!」
梨穂子「う、うん…幼馴染だからしってるよ?」
純一「ああ、実におかしな話なんだよこれが……ね」
梨穂子「?」
純一「お正月」
梨穂子「おもち!」
純一「…誕生日、七五三、ひな祭り、春休み、夏休み、秋の季節!」
梨穂子「ケーキ! 金太郎飴! 雛あられ! お団子! 焼肉! おいもおいも!」
純一「……パーフェクトだ、そして本当にどうしようもないな梨穂子…」
梨穂子「えっへへ!」
純一「これらすべて、僕はお前と同じ時間を過ごし……そして同じ量を食べてきたんだよ僕は!!」
梨穂子「…………はっ!?」
純一「どうやら理解したようだな梨穂子……僕はお前とほぼ同じく、いずれとして食を嗜んできた人間だ…」
梨穂子「でも、太ってはない……!」
純一「そうだ。だが一方、梨穂子は……うん、太った!」
梨穂子「……ポッチャリナダケダヨ」
純一「やかましい! 梨穂子、だから僕はお前に伝授してやる!」
純一「どうやって痩せるのか……この僕が、本気になってね」
梨穂子「っっ………ほ、本当に…出来るの純一が…?」
純一「まかせろ、お前の知っている幼馴染は……役に立つぞ」
梨穂子「じゅん、いちっ…!」
純一「さあ! 僕の手をとれ梨穂子! お前を美のコロシアムに連れてってやろう!」
梨穂子「さぁー! いえっさぁー!」ぴしっ
梨穂子「運動? ……純一、それは基本的なこと過ぎてどうかな~」
純一「ほほう、いうねえ梨穂子……なら梨穂子はきちんと運動はしているのかな?」
梨穂子「あったりまだよ! 仮にもダイエットを口にしているからね~」
純一(仮にも……?)
梨穂子「だから私はダイエット関係の運動はっ! おちゃのこさいさい~なんだよ~うふふ!」
純一「……ま、まあえらく自信満々だけど、とりあえずやってみよう!」
梨穂子「おっけぇー!」
三十秒後
梨穂子「はぁっ…! はぁっ…!」ぐたー
純一「おい、よくあんなコト言えたな言えたな三十秒前の梨穂子……腹筋五回でヘロヘロじゃないか!」
梨穂子「うへぇ~……だめだよ、飲み物頂戴じゅんいち~」
純一(ぐっ……だ、ダメだこいつ…! ダイエットなんて言いながら、絶対にこれまできちんとした基礎を行なってきてないよ!)
純一(運動後にりんごジュース…ッ!? しかもたいして動いてないくせして……!!)
純一「……わかった、なるほど、十分に理解できたよ梨穂子…」ぐぐっ…
梨穂子「うん? なにがわかったの~?」
純一「……お前の、その腐れ切った根性にだ!!」ばっ
梨穂子「くされっ……えええっ!?」
純一「駄目だ、そんなんじゃダメだぞ梨穂子……絶対に将来後悔することになるぞ……
…良いのか、歳をとっても消えないたるみ、そして余った腹回りの皮膚……」
梨穂子「ひっ……」
純一「お尻は垂れ、二の腕はぷるっぷる、太ももハリが無くなり最終的には………」
純一「二つの胸も、ダメになる!!」びしっ
梨穂子「ッ……!?」
純一(あ、これってナチュナルにセクハラったな僕……)びしっ
梨穂子「そ、そんなぁ~……残酷過ぎるよぉ~……」しくしく
純一「お、おうっ……だからなっ! 梨穂子……がんばろうよ?」
梨穂子「うっうっ……そうだよねえ、頑張らないとだめだよね~……うっうっ」
梨穂子「……うん? ひっく…なあに、純一…?」
純一「大丈夫、今まで失敗続きだったけど……これからはそうじゃないはずだよ」すっ…
梨穂子「純一……」
純一「さあ、がんばろう! 僕はちゃんと最後まで付き合ってやるから……あの時だって、
そうだっただろう?」
梨穂子「あの時って……あ、私が風邪を引いた時の…?」
純一「うん。その時だって僕は最後までお前の面倒を見切ったんだ……今回だってやれるさ」
梨穂子「……うん、ありがと純一…」
純一「よし! そうと決まれば電話だ!」
梨穂子「……電話?」
純一「おっ、いいところに公衆電話が……ぴっ、ぽっ、ぱっと!」prrrrrrr
梨穂子「えっ? えっ? ど、どこに電話かけてるの純一……?」
純一「───あ、もしもし! こんにちわ、おひさしぶりです! あ、いえいえ……そんなっ…あはは!
……なるほど、また今度伺わせて頂きますね……あと、それと例の件ちゃんと繋がりましたよ」
純一「ええ、ええ……はい、大丈夫だと思います。いえ、大丈夫です! お任せ下さい!」
梨穂子(誰なんだろー……すっごく親しそうだけど、女の子かな…?)ちらちらっ
純一「はい、はい……わかりました! では、また今度に! ───梨穂子お母さん!」がちゃ
梨穂子「えっ……ちょ、純一!? な、ななななっ……お、おかっ……!?」
純一「うん、お前んちのお母さんの電話だよ」
梨穂子「どうして!?」
純一「いやー実は前回でさ、梨穂子の風邪の面倒みた時えらく気に入られちゃってさ~…いやまあ知らない中じゃないから、
気に入られるも何もあれなんだけどね!」
梨穂子「え、ええー……お母さん、私に黙ってなにやってるのっ…!」
純一「まあいいじゃない、それよりも、喜べ梨穂子! ダイエットの運動ができるぞ!」
梨穂子「えっ? どういうこと……?」
純一「ああ、それがさ────」
梨穂子「お、おおーっ……!」
純一「……お前のお母さんが、前もって用意してくれてたんだよ」
梨穂子「…みたいだね、色々とそそっかしい人なんだから…」
純一「こら、お前の為に用意してくれてたんだぞ? きちんと後でお礼を言っておくように!」
梨穂子「もう言ったよ~! そ、それよりも……純一っ…あのね……!」
純一「うん? どうかした?」
梨穂子「どうもするよ~! ど、どうして私……! スクール水着なのっ?」
純一「えっ……だってそれしか梨穂子、切れる水着無いんじゃ……」
梨穂子「あ、ありますぅ~! ちゃんと、うちにある水着できれるやつが……きれるやつが……」
純一「……あるの?」
梨穂子「………ぐす」
純一「な、ならいいじゃないか! ほら、一番お前にあったヤツのほうがいいって絶対!」
梨穂子「う、うんっ……そう、だよね……これから着れるようになればいいだもんねっ…」
梨穂子「は、はい!」だっ つるっ びたーん!
純一「あ……」
梨穂子「……よいしょっと、行くっよ純一ぃ~!!」だっ
純一(ッ……ノーダメージ……だと…ッ!?)
~~~
梨穂子「これって……ウォータースライダー…?」
純一「そうだ、しかも中々に有名なところらしいぞ!」
梨穂子「有名って~……どういう意味なの?」
純一「乗ったら分かるさ、それじゃあ二人お願いします」
「はい、こちらにどうぞー」
梨穂子「じゅ、純一……なんだか怖くなって…」
純一「大丈夫だって、ほら、見てごらん梨穂子」
梨穂子「えっ? あ、これって……ゴムボート?」
……しかも二人で乗れるすぐれものらしいよ?」
梨穂子「ふぇ~~」
純一「じゃあ梨穂子が前の方に……」
梨穂子「え、純一が乗ってよ~!」ぐいぐいっ
純一「え、え~っ? だ、だってそれはっ…!」
梨穂子「そこは男の子として先に乗るべきだよ~」
純一「お、おいっ…ちょ、そんなに押すなよ…!」
梨穂子「そらそら~! えへへ~!」
純一(な、なんだなんだ急に梨穂子積極的になって……ハッ!?
そういえば梨穂子は僕の幼馴染! 僕の苦手分野を知っているやつだ…!)
梨穂子「ほらほら~! お前、高いトコロ恐いんだろ~! ぶへへ~!」(純一アイ)
純一(って顔が言っているような気がしてならない!)
純一「くっ……仕方ない、じゃあ僕が先に乗るよ……」ぼすん
梨穂子「あ、ありがと~! ごめんね純一~……」どすん
純一「あ、ああ……いいよ、大丈夫。梨穂子もしっかりと座れよ……」ドキドキ
登ってる時は大丈夫だったけど、滑ってる時は大丈夫かな……)
梨穂子「うわー……恐いけど、ちょっと楽しくなってきたかも~」ドキドキ
「それじゃあ、行きますねー。しっかりとお掴まりくださいね」ぐいっ
純一「は、はいっ……う、うわぁああああー!」ずさぁあああー!
梨穂子「え、え、え、えええきゃあああああー!」ずさぁあああー!
純一「えっ、あっ、ちょっ……!! こええええええええ!!」
梨穂子「きゃああー!! きゃあきゃあー!!」
純一「うわぁああああああああ!! ……ぐっ…!」
純一(あ、あんまり叫び続けるのも男としてどうなんだ!?
精一杯の紳士道を呼び覚ませ! 僕は……僕は……!!)
純一「うおっ……うおおおおおお!! 楽しいぜっ────」
梨穂子「きゃあああー!」もにゅん!
純一「───うぉおおおっ!?」びくん!
純一「な、なんだろう!? 急に背中に柔らかいものがっ……梨穂子!?」
純一「り、梨穂子……あのそのっ!」
梨穂子「うっきゃああー!? ご、ごめっ…純一、でもっ…勢いが乗りすぎて離れられっ……!」ぐいぐいっ
つるっ
純一「っ……」もにゅにゅ!
梨穂子「ひぁっ…!」びくっ…
純一「……僕、このゴムボートから飛び降りようか?」
梨穂子「ふえっ!? だ、だめだよっ! そんなコトしたら怪我しちゃうから~……っ!」
純一「で、でも…梨穂子はこんなくっつき合ってる状況…嫌だろっ? だからっ…!」
梨穂子「………!」ぎゅうっ
純一「り、梨穂子……っ?」
梨穂子「っ……わたしは大丈夫だからっ……純一も、お願い……このまま腰に手を回させてくれないかな…?」
純一「あ……うんっ…僕は、大丈夫だけど…!」ドキドキ
梨穂子「わたしも、へいきだから……」ドキドキ
ずさあああああああ……ばっしゃーーん!
純一「……えっ!? あ、いや違いますこれは…!」
梨穂子「……」ぎゅう…
純一「り、梨穂子っ…!? もう終わったよ!? 離れて離れて!」
梨穂子「う、うん……」すっ…
純一「……っ?」
「くすくす、それではボートの回収をさせていただきますね~」
~~~~
純一「……はぁ~、ただたんに滑っただけなのに変に疲れちゃったよ」
梨穂子「そうだね……」
純一「?……どうしたんだよ、梨穂子…さっきから様子が変だぞ」
梨穂子「え? そう、かな……そんな事、ないよ」
純一「そう…か? じゃあ、さっそく次に行くぞ?」
梨穂子「うんっ」
純一「よし、次は……あの流れるプールにでも行くかっ」すたすた
梨穂子(……顔のほてりが収まらないよ、う、うう~…ばかばか、変に意識しない意識しない!)
梨穂子(でも、純一のふっきん………ちょっと割れてたな、えへへ…ぽこぽこってしてた…)によによ…
梨穂子(……はっ!? だ、だめだめっ! なんて変なことを考えてるのわたし!)
梨穂子「う、ううっ……」ぷしゅー… すたすた…
~~~~
純一「浮き輪を借りてきたよ、梨穂子これに掴まって泳ごうよ!」
梨穂子「う、うんっ! けっこう人がいるね~」
純一「プールといえばココ、って言うぐらいだと思うしな。
よし、それじゃあ入ろう!」
梨穂子「結構深いね~……あ、純一浮き輪浮き輪~!」
純一「大丈夫だって、掴ませないとかそんな意地悪しないよ」
梨穂子「絶対に考えてたでしょ~!」
純一「うっ……ちょ、ちょっとだけだって! ちょっとだけ!」
梨穂子「む~」
純一「とりあえず泳ぐよ! ほらほら! すぃーって!」
純一「そりゃそうだよ、流れるプールだもん」
梨穂子「でもでも、わたしこんなの初めてだから結構新鮮だよ~!」わくわく
純一「へ~……じゃあ、もうちょっと楽しませてやろう…!」
梨穂子「えっ……何する気なの、純一っ……?」
純一「梨穂子、浮き輪の上に乗って!乗って!」
梨穂子「ふぇ? ……えっと、こうかな?」
純一「おっけー! よし、じゃあ行くぞ~」ばしゃばしゃ
梨穂子「わぁー! はやいはやーい!」すぃー
純一「あはは、だろ? 流れるスピードと、僕の泳ぎですごく早く感じるんだ」
純一「まあ、周りの人に迷惑に成らない程度に泳ぐから心配しなくても大丈夫だよ」
梨穂子「…………」すぃー…
純一「……うん? どうした梨穂子、あんまり楽しくないか?」
純一「昔?」
梨穂子「……よく昔はね、純一と私と二人で…こうやって泳ぎに行ったなぁ~…なんて思ったりして」
純一「ああ、そうだな~……確かに夏休みとかよく学校のプールに行ってたよ」
梨穂子「うんうん、純一はすっごく泳ぐのが得意で……私は全然泳げなくて」
純一「そうだな、それで僕がいっつも泳ぎを教えてた」ばしゃばしゃ
梨穂子「……そうだね、そしてまた今日も…純一が私に色々と教えてくれてる」
純一「……あの頃から全く変わってないな、僕ら。あはは」
梨穂子「………」ぱしゃ…
純一「……梨穂子?」
梨穂子「………」ぎゅいぎゅい!
純一「え、ちょ……あんまり浮き輪の上で暴れるなよっ。ひっくり返っても知らないからな……って…」
梨穂子「……純一」じっ…
純一「えっ? あ、その……梨穂子? 顔が近いんだけど…?」
梨穂子「知ってるよ……わざとそうしてるの」じぃー
純一「そ、そうなのか…あんまりこっちに体重を載せるなよ…本当にひっくり返っても知らない…」
梨穂子「……ねぇ、純一、あのね」
純一「あ、うん……どうかした?」
梨穂子「…………」じっ…
純一「………っ?」
梨穂子「………」ぱしゃ…
純一「っ? ……梨穂子?」
梨穂子「純一って……本当に変わらないよね、普段は私にちょっと冷たく接してくるけど。
ここぞって時にはキチンと構ってくれる」
純一「そ、そうかな……? ちょっと、梨穂子…手をおでこに置くのやめろって…っ」
梨穂子「…えへへ、いやなの?」
純一「別に……ちょっとくすぐったいだけだよ」
梨穂子「そっか~……あはは、じゃあ耳とかも弱いよね~純一は~」
純一「あっ……ちょ、やめろって梨穂子…! うひっ…! あ、ほら変な声出ちゃっただろ…!」
純一「…何がいいたんだ、梨穂子は?」
梨穂子「うーん? なんだろうね、私には……まだいつも通りの子供の私には、よくわかんないよ…」
純一「…………」
梨穂子「身体ばっかり大きくなっちゃって、それに見合って大きくならなかった……モノは、
全然子供のままでどうしようもなくて……」
純一「……そんなことないだろ、いつかちゃんとそのモノってやつも成長するはずさ」
梨穂子「そうかなー? あはは、でも、ありがと純一……キチンと話を聞いてくれて。
絶対に誤魔化して、なにそれ胸のこと? なんて聞いてくると思ってたけどね~」
純一「僕だって空気ぐらい読めるさ」
梨穂子「……そう、だよね。えへへ~…純一はやっぱり大人だな~」
純一「あっはっはっは!」
梨穂子「そうやってすぐに調子乗るトコロは、まだ子供っぽいけどね~」
純一「うぐっ…」
梨穂子「くすくす………でもね、純一」
梨穂子「私は……今度のダイエットはぜったーいに諦めないんだ」
純一「おっ、どうした急に。やる気だな?」
梨穂子「…うん」
純一「……?」
梨穂子「ねぇ……純一、ひとつだけ。約束してもいいかな」じっ…
純一「どうした? 約束って?」
梨穂子「あのね、純一………私がもし今回のダイエットに成功した時はね」
純一「お、おう……」
梨穂子「………」
純一「梨穂子…?」
梨穂子「……キスしていいか、な?」
純一「ぶっはぁ!? はい!?」
梨穂子「………だめ?」こくん…
純一「だ、だめって……だ、ダメに決まってるだろ!? どうしてそんなこと急に…!!」
純一「っ………お前、梨穂子、僕のことからかったな…?」
梨穂子「……にへへ~、純一~私から迫られても、ちゃんと焦るんだね~えへへ~」にやにや
純一「あっ…あったりまえだろっ? 急に変なこと言われたら、誰だって…!」
梨穂子「ふ~ん……そうなんだ、純一はキスしていいって言ったら焦るっと…メモメモ」
純一「メモるんじゃない!」
梨穂子「あはは~!」
純一「ったく……そんなこというんだったら、僕から今この瞬間にキスしていいぞ梨穂子!」
梨穂子「えっ……」びくんっ
純一「ほらほら~? どうだ、したいんだろ~? ぐへへ、ん~? むちゅ~?」
梨穂子「…………」ぴくっ
純一「あははー! どうだ、それが僕のさっきの心境だ────」ちゅっ
純一「……った、んだ……?」
梨穂子「…………」ドキドキ…
梨穂子「…えへへ、しちゃった」カァアア…
梨穂子「……っ……っ……」もじもじ…
純一「……今の、どうして…えっ?」
梨穂子「…やだった?」
純一「えっ!? あ、いやー……じゃ、なかったよ、うん」
梨穂子「…わたしも、嫌じゃなかったよ…うん」ボッ
純一「……でも、なんで、お前…」
梨穂子「………あ、あれかな~…その、前払い的な感じ…かな?」
純一「前払いって……さっきのダイエットのやつ、か?」
梨穂子「う、うん……そう、だよ。これからダイエットを成功するために…景気づけみたいな感じだよ…?」
純一「お、おうっ……それなら、そんなことなら……別にいいのかもしれない、きがしないでもないかな…?」
梨穂子「いいと思うんだよ…っ! だ、だからねっ……その、純一……」ちらっ
純一「な、なんだっ…?」
梨穂子「……こ、今度は…ダイエット成功したら……その時は、純一のほうから……」
梨穂子「して、ほしいな……?」
梨穂子「…………」こく…
純一「…………お、おう……り、梨穂子が言うのなら……うん、してやっても……」
純一「……いいと、思わなくもない!」ぼっ
梨穂子「……えへへ、ありがと純一…」
純一「…………」ポリポリ…
梨穂子「……純一、今日はとっても楽しかったよ」
純一「…そっか、それはよかった。でも、な梨穂子」
梨穂子「うん?」
純一「…まだまだ今日は終わってなんかいないんだ。まだまだ、これからだぞ」
梨穂子「……うん、そうだね、純一」
純一「あはは」
梨穂子「にへへ」
~~~~~
梨穂子「ふぁあ~~~~~……今日はたのしかったぁー!」
純一「そうだなー、久しぶりに泳いだしなぁ」
純一「……ノーコメントで」
梨穂子「……だよねー、ただ単に遊んだけで───えっと、その……あれだったしね…うん…」もじもじ…
純一「そ、そうだなっ……あれだったしな…うん…」ポリポリ…
梨穂子「……あのさ、純一」
純一「…うん? どうした梨穂子?」
梨穂子「今日はその~……手をつないで帰ろっか? えへへっ」
純一「手……繋いで? あはは、なんだか昔みたいだなこれって」
梨穂子「うんっ、なんだか今日はずっと昔の話ばっかりしてたから……どうかなーなんて思って」
純一「そっか……ああ、いいよ梨穂子」ぎゅっ
梨穂子「あっ……うん、ありがと純一…」
純一「あはは、どうしてお礼をいうんだよ」
梨穂子「うーんと……色々、かな?」
純一「色々? ……結構なんだか思い当たるフシがいっぱいあるきがするな…」
梨穂子「っ! ぜ、絶対に私が思ってることと純一が思ってること違うよそれ~!」
梨穂子「あっ……うんっ!」たった…
純一「………今日は、僕の方もありがとな」すたすた…
梨穂子「え、どうして?」すたすた…
純一「……色々、と。だよ」
梨穂子「……あはは、色々と、だね」
純一「うん、梨穂子……ダイエット絶対に成功させろよな」
梨穂子「あったりまえだよ! 今度はちゃんと成功……うーん…」
純一「おい、どうしてそこではっきり言わないんだよ…」
梨穂子「……えっとね、あはは、その…もし成功したら…純一からって……ことは覚えてる、かな?」
純一「えっ? あ、うん……男に二言はないぞ!」
梨穂子「そ、そっかー……でも、ね。それって成功したら……一回きりってことなのかなって」
純一「え、どういう意味だそれ?」
梨穂子「……だったらね、これからもずっと…ずっと、純一が私にダイエット教えてくれるのなら……」
梨穂子「………また、キス、できるのかなぁー……なんて、えへへっ」
梨穂子「あ、ち、違うよっ!? そのっ……あのねっ! 私はそのー……なんていうかね、えっと~…っ」
純一「…………梨穂子」
梨穂子「は、はいっ!」びしっ
純一「………」
梨穂子「………」ドキドキ…
純一「……ふぅ、わかった! だったらいつだって、お前のリバウンド時には……キスしてやる!!」
梨穂子「ふぇっ!? ……ほ、ほんとに?」
純一「ああ! もし成功しても、いつだってしてやる!!」
梨穂子「お、おおっ~…!」ぱちぱち
純一「っ……だ、だから頑張れな! 梨穂子!」
梨穂子「うんっ! 私…ダイエット頑張るんだよ!」ぐっ!
純一「……というかさ、どっちもキスってもうもはや、約束もなにもないような気が…」
梨穂子「……」ぐぅー?
純一「……お腹で返事をするなよ」
りほっちは苦手でしたすみません
次は七咲で
茶道部
愛歌「………」ズズッ…
愛歌「梅昆布茶、素晴らしく……美味」コト…
愛歌「…………」
愛歌「そう思わないか……橘純一」
純一「ええ、まあ、確かに……でも僕は味のある梅昆布茶よりは…」
愛歌「………」じっ
純一「……ええ、梅昆布茶大好きです僕」ズズッ…
愛歌「だろう……」ずずっ…
純一「……でも、あまり飲み過ぎるとまたトイレに行きたくなりますよ」
愛歌「……」ぴくっ
愛歌「………それは互いに忘れろといったはず」ことっ…
純一「……すみません」
あの時のことはなかなか…)
純一(だ、だって一緒にトイレに入って……まあ、その、聞いてしまったわけだから…
僕としては何事も無くこうやってお茶を飲んでいる関係のほうがどうかと…)
愛歌「……あまり、性的な目で私をみるな」
純一「み、見てませんひょ…!」
愛歌「……」じっ…
純一「………」ずずずっ…
純一(……正直、気まずいよ。何度かこうやって飛羽先輩からお呼ばれしてお茶を飲んでるけど…
うん、断らない僕もどうかと思うんだけどね…)
純一「……ふぅ、素晴らしいお手前でした」ことっ…
愛歌「うむ」こくり
純一「……それで、その、今日はどういったご用件でしょうか?」
愛歌「要件……とは?」
純一「えっと、まあ……こうやって呼ばれたわけですから、なにかしらの意味があったのかなぁっと」
愛歌「これといって……特になし」
純一「……あ、はい。なるほど…そうでしたか…」
愛歌「……」ことっ…
愛歌「橘純一」
純一「えっ? はい、なんですか…?」
愛歌「今日は……感謝する」
純一「あの……どうして?」
愛歌「身勝手な誘いを……断らなかっただろう」
純一「えっとまぁ、そうですね……飛羽先輩からのお誘いでしたし…それに僕も暇でしたしね」
愛歌「そうか……ならよし」ずずっ…
純一(せ、先輩がお礼を述べた…っ!? なんだこれ!? 貴重過ぎる!)
純一「……っ~~~……あの、先輩…」
愛歌「なにかな」
純一「……その、先輩は……あれですよね、なんというか…」
愛歌「うむ」
純一「…………か、可愛らしい人、ですよね…」
純一「あ、あははっ…! えっと、そのですね…あの~
こういった機会ですし、普段思ってることを言ってみようかなっと~…」
純一(ああ、駄目だ…! 会話がまったくもたない! 梅原が言ってたけど、
女の子と会話に詰まったときは、女のこのいいところを取り敢えず褒めとけ!
……なんて言ってたから試してみたけど……)
愛歌「………」
純一(ほら、やっぱりだめだ! まったくもって会話が繋がらない!
そもそも僕は飛羽先輩に嫌われてる可能性があるんだから……こんな事言っても…!)
純一「あっ……えっと、そのっ…ごめんなさい、忘れてください……はい…」
純一(ああ、もう! なんだっていうんだ本当に! この人相手に僕は紳士パワーなんて出しきれるわけ……)
愛歌「………」かぁあ…
純一(わけ……)
愛歌「………」ぼっ
愛歌「…そん、なこというなっ……橘純一…!」ぷいって\
純一(………あれ?)
愛歌「っ………っ……」ずずっ…
純一「…………」
愛歌「………」ちら
純一「…………」じっ…
愛歌「っ!……」ぷ、ぷいっ
純一「…………」
純一(……あ、あれ? なんだこの反応は……えっと、もしやすると…これ……)
愛歌「…………」もじもじ…
純一(───て、照れてる……ッ!?)
純一(う、嘘だそんなことーっ!? だ、だがしかしあの表情は確かに照れてるように見えなくもない…!)
愛歌「……あ、あんまり…」ぼそっ
愛歌「……こっちをみるな、ばか…」
純一「っっっ!?」
純一(ばか!? 飛羽先輩がっ……馬鹿と言ったのか!?
普段なら「こっちを見るな……橘純一」なんて気取って言うはずなのに…!)
愛歌「………っ」ぴくっ
純一「……飛羽先輩、可愛い」
愛歌「っっ……」ぴくぴくっ
純一「…………」
愛歌「…………」もぞっ…
純一「………かわ」
愛歌「っ……んっ!」ぐわっ!
純一「う、うわぁ!? あぶなっ!?」ばっ…!
愛歌「…………」ぴたっ
純一「………さ、流石に…湯のみを投げるのは、ダメですよ…?」
愛歌「っ……わかっているっ……」すっ…
純一「…………」すっ…
愛歌「………」
純一(顔真っ赤だ…)
愛歌「………なんだ」
純一「えっと……えらく、その……」
愛歌「まて」ずいっ
純一「は、はいっ?」
愛歌「その先を言うのは……少し、待て」
純一「…はあ」
愛歌「…………橘純一、その…」もじもじ
純一「な、なんですか飛羽先輩…?」
愛歌「っ……そのさっき…」
純一「さっき…?」
愛歌「……ごくりっ…」ぎゅっ
愛歌「───さっきいった、可愛いというのは……本当か?」
愛歌「…………」ちらっ
純一「え、ええ……それはまあ、本当にそう思って言ったんですけど…」
純一(なんだろう、僕確かに飛羽先輩のことは可愛い人だなって思って入るけど…
そ、それほどまで照れることだったんだろうか……いや、まぁ、急にカワイなんて言われればそうなるかな…?)
純一(いやでもしかし、それでも、相手は飛羽先輩だ……ここまで照れるなんて予想だにしなかったよ)
愛歌「……事実だと橘純一はいうのか」
純一「は、はいっ! 確かに僕は飛羽先輩を可愛いって───」
愛歌「っ」ぴくんっ
純一「──思って、ます……よ?」
愛歌「…………」ぷしゅー…
愛歌「………そう、か」ズズっ…
純一(なんだか嬉しそうだ……)
愛歌「橘純一……おかわりは、いるか?」
純一「えっ? あ、はい…ありがとうございます──ですけど、これからちょっと用事がありまして…」
愛歌「え……用事?」
純一「は、はい……まあ大したことはないので、また戻ってくることも……出来ますけど…?」
愛歌「…………」
純一「…………」
愛歌「いや、いってくるがいい……」
純一「わ、わかりました……それでは、お茶美味しかったです」すくっ…
愛歌「……うむ」
純一「………」すたすた…
愛歌「───橘純一…」
純一「え、はい? なんですか?」くる
愛歌「……次回、誘ってもいいか」
純一「…かまいませんよ、いつでも来てください」
純一「…………」
愛歌「…そう、か。なら次もまた誘うだろう」
純一「は、はい……ではこれで」
愛歌「………橘純一、またこい」にこ…
純一「っ!………」
愛歌「どうした?」
純一「あっ……いえ、わかりました……では、これで…」がらら…ぴしゃ
純一「………っ?」ドッドッドッド…
純一(な、なんだなんだっ……先輩、飛羽先輩っ…あんなふうに笑う人だったっけ…っ?)
純一(も、もっと不敵に怪しく笑う人だって思ってたのに…なんだよ、か、可愛いなって思ってないんだからな!)
純一(……なんだろう、今の僕のテンションは。少し、落ち着こう……はぁ~)
純一「……先輩、なんだか最近になって少し…僕に対してちょっと友好的になってる気がするなぁ…」
純一(……先輩、もしかしたら僕のこと……嫌ってはいないのかな)
純一「…………」
~~~~~
教室
純一「ふぃ……高橋先生は今日も綺麗だったなぁ」がらり
純一「課題を忘れてただけで、あそこまでの指導っぷり……流石だね、僕のハートもずっきゅばっ──」
愛歌「………」
純一「きゅん………飛羽先輩!?」
愛歌「……きちゃった」
純一「え、ええっ!?」
梅原「──おっ? 大将! どこいってたんだよぉ!」がしっ
純一「うわっ…梅原! え、それは昼休みに先生に課題の提出を忘れたから謝りに……って、ちょ、梅原…!
これはどういったことなのか分かるか…?」ぴっぴっ
純一「えっ……?」
梅原「せっかくの……出来た彼女なんだから、きちんと大切にしやがれよ!じゃあな!」たっ
純一「う、梅原っ!? か、彼女って……ええっ!?」
くいくいっ…
純一「えっ……飛羽、先輩…?」
愛歌「………」
純一「ど、どうしたんですか…僕の袖を引っ張って…?」
愛歌「一緒に、御飯をたべよう………橘純一」
純一「……はい?」
愛歌「私が作ってきた……愛妻弁当だ」ぱさぁ
純一「えっ、うぇえええー!? あ、あいさっ……あ、でも美味しそう…」
愛歌「橘純一の好物で……全て揃えてきたぞ」
愛歌「たべるがいい」
純一「ごくり………」
愛歌「手に縒りをかけて作ってきた」
純一「……本当に、先輩が僕に…」
純一「じゃ、じゃあ……頂きます!」ぱくっ
愛歌「どうだ?」
純一「もぐもぐ……あ、すっごく美味しいです! 先輩!」
愛歌「……………」
愛歌「───そうか、それは私も……とっても嬉しい」
純一「………」ぽろっ…
~~~~
純一「───んはぁっ!?」がばぁっ
純一「はぁっ…はぁっ…! あ、あれ……っ?」
純一「こ、ここは……茶道部…?」
純一「……ということは、さっきまでのは…夢?」
純一(い、いやっ……だとしたらどこから夢で、どこまでが夢だ…?
先輩に誘われてお茶をしたところまでは現実だった気がするけど…!)
純一(僕はその後、茶道部を後にして……いや、それもまた夢か!?
やばい、どうしようとってもテンパッて……!?)
愛歌「……なにをそんなに慌ててる」すすっ…
純一「う、うわぁああ!?」
愛歌「っ……いきなり大きな声を出すな、心臓に悪い」
純一「えっ、あ、ごめんなさい……えっと飛羽先輩…?
僕って何時ぐらいから寝てましたか…?」
愛歌「………お茶を飲んで世間話をしてからすぐ」
純一「え、えっと……それじゃあ僕、あのー…」
愛歌「なんだ」ずずっ…
純一「…せ、先輩に……可愛いっていったことは、ないですよね…?」
愛歌「…ないな」
純一(じゃああれは夢か! ほっ……あんな先輩の表情、夢じゃなかったらおかしいよ…)
純一「あ、ありがとうございます……あれ? これ…」
愛歌「……どうした橘純一」
純一「えっとその、先輩って……梅昆布茶好きでしたよね…?」
愛歌「よくしってる……確かに好物」
純一「じゃ、じゃあ……これはなんで緑茶なんですか…?」
愛歌「…………」ぴくっ
純一「…………」
愛歌「………別に、なにも理由など…」
純一「かわいい」
愛歌「っ」びくん
純一「…………………」
愛歌「…………………」
愛歌「なんだ、橘純一……」
純一「……その、えらく可愛らしい反応しますね…」
愛歌「……」
純一「その反応、前に見たような気がしないでもないんですが……気のせいですよ、ね?」
愛歌「……気のせいだ」
純一「そっかー……よかった、よかった~……」
愛歌「…………」
純一「………」ずずっ…
純一(絶対に気のせいじゃない…!!これ、絶対に前に行ってるはずだ…!!
そしたら僕は、先輩に可愛いって言った後に寝てしまったということか…!?)
純一「……」
純一(……でも、よくそのタイミングで寝れたな…なんか気が動転して寝れるどころじゃなかった気が…)
純一「気が……」くらっ
純一「!?」
純一「……っ!?」
愛歌「…………」
純一「……飛羽、先輩」
愛歌「……無念、二回目は駄目だったか」
純一「どういうことかまったくもってわかりませんけど……先輩、あの…」
純一「お茶に、なにか仕込んでます…?」
愛歌「……ザ・睡眠薬」ずいっ
純一「なっ……睡眠薬!? どうしてそんなものを……というかどこで手に入れたんですか!?」4
愛歌「企業秘密」
純一「企業が関連してるんですか!? ちょ、先輩…僕にこんなの盛ってなにを…!?」
愛歌「………」
純一「か、可愛いって言ったからですかっ…? いや、違う……それ以前に僕はお茶に仕込まれてたはず…なら、どうして…っ?」
愛歌「…………」
純一「気づいたこと…? いや、薬を盛られたこと以外なにも……ハッ!?」
純一(…と、トイレに行きたい!?)もじっ…
愛歌「今頃か……なかなかに我慢強い」
純一「飛羽、先輩……?」
純一(あ、だめだっ……体の力が抜けて……)ごろん…
愛歌「………」すっ…
愛歌「……気分はいかが?」
純一「なに、を……?」
愛歌「なにもしない……ただ、見ているだけ」
純一「それがっ……なんの…?」
愛歌「………仕返しだ」
純一「しかえし…?」
愛歌「そうだ……以前に仕返し」
愛歌「私がトイレで起こした粗相の……仕返しを橘純一に」
愛歌「私は満足……一本満足」
純一(うそ、だろっ……こ、このまま寝てしまったら確実に……ぐっ!
飛羽先輩やっぱすごく恨んでた! あの時のこと!)
愛歌「ふ・ふ・ふ」
純一(ぐっ……ど、どうにかこんなことをやめさせないとっ…!
でも、今の状況でどうにか打開する策なんて……!)
愛歌「心配するな……もし粗相を起こしても、きちんと処理しよう」
純一(い、いやだァー! 女の人に掃除してもらうなんて嫌だぁあー!!)
純一(……どうしよう、本当にどうしよう! 絶対に先輩は本気だ!
ぐっ……くぅううー! だめだ、抓っても全然眠気が収まらない…!)
純一(どうにかっ……なにか、策を講じなければ……!
横にしゃがんでいる先輩をどうにどければ、まだ……!)
愛歌「……なにかな?」くすくす…
純一(ええいっ! ままよっ!)ぐいっ
愛歌「っ……なに、をっ…!」
ぽすんっ
愛歌「は、はなせっ……橘純一…!」ばたばた
純一「───可愛いよ、愛歌…」ぼそっ
愛歌「っ……!?」びくんっ
純一「可愛い愛歌、もうすっごく可愛い」
愛歌「ひっ……や、やめ……っ」びくびくっ
純一「どうして? こんなにも可愛いのに、前髪なんかで隠してないでもっと見せてよ」
愛歌「さ、さわっ……!」
純一「ほら、やっぱりかわいい」
愛歌「…………」ぼっ
マジでやっちまったわ
あれが夢じゃないというのであれば……僕はこれをするために躊躇はない!!)
純一(今、漏らしてしまうよりは後の報復を選ぶ!
いざ行かん紳士橘!! 打倒の時はもう目の前だ!)
愛歌「はぁ…はぁ…」
純一「……愛歌」
愛歌「気安く……人の名前を呼ぶな…!」
純一「ごめん、でも……僕は愛歌のことは…もっと近い距離でいたいんだ」
愛歌「………えっ…?」
純一「───愛歌、とってもかわいいよ。僕はそんな風に気取って喋るところも…
…いつもみたいに、不思議な空気を纏わせている所も…可愛いって思う」
愛歌「………」ぞくぞくっ…
純一「だから……愛歌、僕は可愛いって言わないで。なんて言われても…困るんだ。
こんなにも可愛いって思っているのに、君はそれを認めてくれない…」
愛歌「や、やめ……はなせっ……たちばなじゅん───」
純一「…本当に可愛い女の子だよ。愛歌…」ちゅっ
純一(おでこにだよ! 口とか責任取れないからね!)
愛歌「………ふぁ……っ?」
純一「かわいいよ」
愛歌「………ぁ…」ぷしゅー…
純一「…………」
純一(───来た!! これで勝った!! 僕の勝利は決まった!!)
愛歌「…………」もぞっ…
純一(……よし、ここから恥ずかしがってる飛羽先輩をどうにか押し切り!
そしてこの場からどうにか逃げ出してトイレに駆け込む! もうそのあとはどうにだってなればいい!!)
純一(まずはっ……トイレだ!!)ぐいっ
愛歌「あ……橘…」
純一「……すみません、もう僕は行きます…やらなくちゃいけないことがあるので」
愛歌「……置いていくつもりか…?」
純一「何言ってるんですか、僕は何も悪くはない…それは先輩にだってわかっていることでしょう」だっ
愛歌「…………」
純一(トイレトイレトイレ!!!)
純一(気が……ぐっ、駄目だトイレまで持たせるんだ!!)だだっ!
「きゃっ……!?」
純一「うぉおおおおおおー!」だだだ
「な、何だったんだぁー? アイツは……ってオイ!? 愛歌!?」だっ
愛歌「……るっこ…」
夕月「おまっ…どうしたんだよっ? お前さんがそこまで弱ってんの始めてみたぞ…!?」
愛歌「…………」
夕月「ど、どうしたんだ? なにがあったん──……っ!……アイツかぁっ!?」
愛歌「少し……待てるっこ」ぐいっ
夕月「な、なんだっ…? 何処か痛むのかっ? 酷いことされたんだろ…っ?」
愛歌「橘純一は……なにも、悪くない」
愛歌「悪いのは……この、わたし」
夕月「お、おまえっ…愛歌っ…なにもそこまでかばわなくてもっ…!」オーイオイ…
愛歌「感謝する……るっこ」
愛歌「心配してくれて……私は大丈夫だ」
夕月「っ……!」
夕月「うぉおおー! 愛歌ぁあああー!!」ぎゅうっ
愛歌「………」ぽんぽん…
愛歌「………にやり」
~~~~
純一「ぐがぁー……すぴー……」
梅原「フンフーン……っておわ!? た、大将!? 何で寝ながらションベンしてやがんだっ!?」
梨穂子「……純一は、ちゃんと責任取れる男の子ってわかってるからね」
夕月「死ねッ! 鬼畜ポルノ野郎!!」
純一(なんて言われるし……なんだっていうんだ、一体…はぁ~)
愛歌「やっほー」しゅた
純一「うわぁ!? せ、先輩…!?」びくぅ
愛歌「久しぶりだな……橘純一」
純一「え、ええまぁ……というかこの前は本当になんてことしてくれたんですか!」
愛歌「イッザ……ジョーク」
純一「ジョークで済まされるほどの問題じゃなかったですよ!?」
愛歌「まあ待て……少し落ち着け橘純一」ずいっ
純一「……まあ、僕も色々とやっちゃった感は否めないのであれですけど…」
愛歌「だろう……そして私が来たのもその件だ」
純一「その件?」
純一「えっ……」ぎゅー
愛歌「……何をしている」
純一「えっと……先輩が謝ってるので、また夢じゃないかって思って…」
愛歌「これは夢じゃない……れっきとした現実」
純一「は、はあ……まあ僕の方こそスミマセン、あんな事言ってしまって…」
『かわいいよ』
純一「…はい、そんな感じのこと言ってしまっ──……え?」
愛歌「……」カチッ
『愛歌……かわいいよ、たまらないぐらいにかわいい』
純一「…テープ、レコーダー……?」
愛歌「うむ」
純一「っ……なぜ、そんなものを……?」ダラダラダラダラ…
愛歌「この前の謝罪は済ませた……そして次」
純一「……トイレの件、まだ根に持って…?」
愛歌「こくり」
純一「ぐっ…そ、それでなにを脅そうっていうんですか!
ぼ、僕は負けませんよ…!」
愛歌「…………」
愛歌「いや、このテープレコーダーは……使用しない」ぶんっ ガッシャーン!
純一「えっ……なにを…?」
愛歌「橘」
純一「は、はいっ?」
愛歌「私は……橘の生が良い」
純一「……どういう意味ですか?」
純一「ま、まあ…それなりのことをしたと、わかってますしいいですけど…!」
愛歌「つまりはあれだ……また、あの手を使うなのつもりだろう?」
純一「……かもしれません」
愛歌「なら、その時まで待っている」
純一「えっ……?」
愛歌「ふ・ふ・ふ」
純一「せ、先輩もしかして……また、可愛いって言われたいんですか…?」
愛歌「っ……」ぴくっ
愛歌「……多くは語らない、それが主義」
純一「かわいい」
愛歌「フライングは効かない」
純一「…ですよね」
純一「くっ……なら、僕も立ち向かうまでです!」
愛歌「……なおよし、その意気込み…買って出る」
純一「………」バチバチバチ…
愛歌「………」バチバチバチ…
~~~
物陰
夕月「まあ、うん、こんなこったろうと思ってたよあたしゃ」
梨穂子「え~~!? そうなんですか!?」
夕月「当たり前だよ、あの愛歌がアイツごときに凹ませられるとは思えないからね」
夕月「……というか、ほんっとアイツらはバカップルすぎやしないか?」
梨穂子「まあそうですね~……多分ですけど、付き合ってる自覚ないの学校の中であの当の二人だけですよ?」
夕月「校内じゃ有名だもんなぁ~…」
夕月「…りほっちも、大変だね。だが、まあ自覚ない二人だから付け入る隙はたくさんあるはずだぜっ?」
梨穂子「もぉー先輩ったら……私は愛歌先輩の幸せを願ってるんです! ……あと、純一のも…」
夕月「……大人だね~、だから好きだよりほっちは」なでなで
梨穂子「えへへ~」
夕月「───さてさて、あの二人……まだキスも済ませてないだろうにね。
あんなふうにじゃれあってんのはいつまで続くことやら…」
夕月「まあでも、愛歌……橘って呼べたことは、一歩リードなんじゃないか? ええ?」
途中、ちょっと粗相起こしてスミマセン
次で最後にする
やってない娘は次回 全部終わらせるつもりでやるよ
じゃあ最後の娘
>>315
橘家 純一部屋
七咲「あーせんぱい~」ごろごろー
純一「……ん? どうしたの?」ぺら…
七咲「いえ、特に用はないんですけどね……」
純一「うんー?」
七咲「ちょっと、こっち向いてくれませんか?」
純一「えー? なになに……」
ちゅっ
七咲「んはっ…はい、ありがとうございました。では」ごろごろー
純一「………」
純一(!?)
七咲「……ん? はい、どうかしましたか?」ごろ…ぴた
純一「うん、僕のベットの上で楽しんでる所すまないけど……今のは…?」
七咲「………」ぎゅう
七咲「キス、ですけど…?」こくん…
純一「……いや、うん、わかってるけどね。その、僕の枕を抱きしめながらいうのやめて欲しいな…」
七咲「え? どうしてですか? ……別にくさくなんかありませんよ?」くんくん
純一「こう気持ち的にね…っ! くさくないって思ってるけど、あんまり気分的に…!」
七咲「……センパイのにおい、私は好きですよ、ふふ」
純一「あ、ありがとう……じゃなくて! 七咲! 女の子としてだな…男の部屋でそうベットの上で…!」
七咲「ベットの上で?」
純一「ああの、そのっ……ううっ……だぁー!!」ばっ
七咲「あっ……せんぱいの枕を! 返してください! せんぱい!」
七咲「今は私が楽しんで使ってる枕です! せんぱいは寝るときにでも使ってください!」がばぁっ がしっ
純一「た、確かに……いや! そうじゃなくて! 楽しんでるって何?!」ぐいぃいー!
七咲「楽しんでるっていうのはそのままの意味ですっ! くぃー!!」ぎりぎり……
純一「ちょっ……こら! 七咲の全力なんてっ…僕がかないっこなんか…っ!」じりじりっ…!
七咲「なら離したらどうですかっ! 私は絶対に負けを認めませんよぉ……っ!」みちみちっ…
純一「……あっ!? まって、なんか枕から変な音───」ぶちん!
七咲「え……あ、きぁああー!?」バターン! ゴッ!
純一「七咲!?」
七咲「きゅいー……」
~~~~~~
七咲「いたた……どうしてこんな目に…」
純一「いや、うん……行動通りの目にあったと思うよ僕は」
七咲「……」むっすー
七咲「…どういう意味ですか、もっといたわってください、、もっと慰めてください、もっとかわいがってください」
純一「要求が多いなぁ……じゃあ、ほら。こっちおいで七咲」すっ…
七咲「…………」すすっ… ぎゅっ
純一「さあ、僕の胸の中でたんと甘えるんだよー」
七咲「……なんだか、今のセンパイちょっと気持ち悪いです」
純一「せっかく七咲の要求にノッてあげたのにっ?」ガーン
七咲「……ふふっ、冗談です。本気にしないでください」すりすり
純一(猫みたいな仕草だな……)
純一「…七咲の言うことは、全部本当に聞こえるから困るんだよね」
七咲「そうなんですか? ……じゃあセンパイ、大嫌いです」すりすり
純一「今言われても、どうも感じないな僕…」なでなで
純一「…七咲って、そうやっておでこ摺り寄せるの好きだよね。前世猫なの?」
七咲「え? いや、そう言われても答えられませんけど……まぁ、確かに好きですねコレ」すり…
純一「いわゆる、マーキングって行為だよね。自分の匂いを他人につけ、自分のものだという証明行為だ」
七咲「……別に自分は、そこまで独占欲は強いほうじゃないって思いますけど」
純一「そうなの? でも本能がそうさせてるんじゃないかな……でもさ、おでこ擦り寄せても匂いってつかないよね普通?」
七咲「まあ、人と猫では違いますし」
純一「…………」
七咲「……せんぱい、なにか考えてませんか。えっちなこと」
純一「えっ!? そ、そんなことないよ! も、もう七咲は僕のことを何だって思ってるんだよー!」
七咲「………」じぃー
純一「……あはは、大丈夫、まあ考えてたってのは本当だけど。七咲が疑ってるようなことじゃないよ?」
純一「さっきのマーキング行為についてだよ、おでこっていうのは人ではあんまり匂いはつかない……
だからもっと効率のいいやり方が有るんじゃないかなって僕は思うんだ」
七咲(そもそも猫はおでこじゃなくて、首あたりを擦り付けますけど……ま、いっか)
純一「だからね七咲、僕からひとつ提案があるんだ」
七咲「提案?」
純一「うん、そのマーキング行為……匂いをつけるにはどう行ったらいいのか。
それはね───」ごにょごにょ
七咲「ふんふん………なるほど、なるほど───」
~~~~~
純一「───よし、こんな感じかなっ」じりりっ…
七咲「さ、最後まで占めるんですか…っ?」
純一「当たり前じゃないか! そうしないと匂いが逃げちゃうだろ?」
七咲「は、はあ……」
純一「よし、じゃあ命名しよう……これは『ジャージ二人羽織』だ!」
ここにあるのはひとつのジャージ、それを一人が着用する!!
そして後に二人目がジャージの中に潜り込み、予め少しジッパーを開けておいたジャージの中に入るのだ!!
純一「うん! 僕って説明下手くそだね!」
七咲「なんとなく雰囲気でわかるじゃないですか…それにしても、ちょっと、せんぱっ…!」もぞもぞ…
純一「どうかしたの? あんまり動かれるとちょっと……」
七咲「いえ、少し狭いなって思って……う、ううんっ…!」もぞっ…
純一「そりゃあ一着のジャージに二人はいってるわけだからね。狭いのは当たり前だよ」
七咲「は、はい……ですが、ちょっとこれは……!」ぴくっ
純一「七咲……?」
七咲「……………」
純一「……気にし過ぎじゃないかな? さっきだってキスしたし…」
七咲「あ、あれとこれは違うんです! センパイは黙っててください…!」
純一(女の子ってわからん……)
七咲「う、うんっ……ん、はぁっ……ふぅ」もぞっ…
純一「……えっと、良い感じになったのかな?」
七咲「え、ええ…大丈夫です。これで安心できました」
純一「安心……ああ、なるほど。あれがずれてたのなら言ってくれれば───」
七咲「ふんっ」どすっ
純一「おごっ! ……じゃ、ジャージの中の無防備な脇腹を狙うなんてっ…七咲……!」
七咲「センパイがデリカシーの無いことを言うからです!」
純一「ご、ごめん……でも、七咲のこと思っていたまでで……!」
七咲「わ、わかってますから! ……もうこの話はやめにしてください…」ぼそぼそ…
純一「う、うん。わかったこれでオシマイにしよう! ……じゃあ続きといこうかな!」
純一「別になにもしないよ、ただこうやって───……こうかなっ」ごろりっ
七咲「きゃあっ!?」
純一「あっははー! ちょっと驚いたかな?」
七咲「……なにするんですか、せんぱい~…」
純一「うん? 転がっただけだよ、ごろごろーってね」
七咲「それはわかってます…! なにかするなら、まずは言ってからやってください!」
純一「そっかそっか、それはごめん。じゃあ次は失礼して……」ぎゅっ…
七咲「あっ……」
純一「……どうかな、こうやって抱きしめられるのは」
七咲「…えっと、なんだか変な気分ですね…」
純一「だよねーあはは」
七咲「まるでこう……センパイの中に入ってしまったような。ぱくって食べられてしまったような…うふふ」
七咲「そんな気分です、おもしろいですね」
純一「がははー!そうだぞー! 僕は七咲を食べる怪人だぞー! もぐもぐー!」
七咲「え……せんぱい…っ?」
純一「もしゃもしゃー! げははー! このおなごは丸呑みじゃー!」
七咲「え、きゃあー! やめてー! 私なんか食べても美味しくなんかないですー!」
純一(おっ、七咲もノリがいいな! じゃあもっと僕も…!)
純一「ぬわーはっはー! んむぅ~? なんじゃなんじゃ…このおなごは、いいふとももしておるのぉ~?」なでなで
七咲「あ、ちょっ……センパイっ…そんな撫でないでくだっ…!」びくんっ
純一「んなぁにぃ? ワシはセンパイなんて名前じゃねえーぞぉ! 怪人様じゃ怪人様じゃー!」
七咲「っ……か、怪人様ぁー! 私の太ももなんて、美味しくありませんよー!」
七咲「えっ!? ちょ、頭の匂いを嗅がないでください…!」
純一「じゃあ丸かじりじゃー! がぶー!」ちゅっちゅ
七咲「ひゃ、ひゃうっ……!」びくん
純一「びみじゃー! がっはっはっはぁー!」
がちゃ
純一&七咲「!?」
美也「…にぃに、逢ちゃん。となりに丸聞こえ」すっ…
純一「あっ……うん! ゴメン美也…! あは! あはははは!」
七咲「みやちゃっ……!」ぼっ
美也「…もっと静かにじゃれあってね。お願い」ぎぃ…がちゃ
純一「………」
七咲「………」
七咲「……いえ、私の方こそ悪乗りが過ぎました…」
純一「うん……」ぽりぽり…
七咲「……センパイ、あの…」もぞっ…
純一「ん? どうかした?」
七咲「……こうやって、じゃれあうのって…久しぶりな感じしませんか」
純一「……確かに、そうだね。最近は僕の受験とかで忙しくて遊ぶことも少なかったし」
七咲「…………」
純一「だからたまに休日にこうやって会ってるけど……あはは、ちょっと寂しかった?」
七咲「…ちょっとなんかじゃないです、すっごく…寂しかったです」
純一「……そっか、ごめんね、七咲」ぎゅっ…
七咲「せんぱい……受験、頑張ってください。応援してますからね」ぎゅ…
純一「うんっ、頑張るよ……七咲も部活頑張るんだよ、僕は僕で頑張るからさ」
純一「……七咲?」
七咲「…僕は僕で、なんて言わないでください」
純一「え、どうしたの急に…?」
七咲「………。センパイは今だって頑張ってます、ずっとずっと…受験のために時間を費やして一人で頑張ってます」
七咲「でも、一人で頑張り過ぎないでください。もし、悩みがあったのなら私に…
辛いことがあったのなら……彼女の私に、キチンと相談してください」
純一「……七咲…」
七咲「私は、センパイともっと分かち合いたいです。いっぱいいっぱい会話して、じゃれあって、
イチャイチャして……そうやって楽しくこれからを過ごしていきたいです」
純一「…ありがと、そういってくれると本当に僕は……嬉しくてたまらないよ」ぎゅっ…
七咲「ぐすっ……センパイ、大好きですから…」
純一「ああ、うん……僕も大好きだよ七咲…」
純一「……そんなことないさ、七咲はとっても強い子だよ」
七咲「そんなこと、あるんです。センパイ、橘センパイ……私は貴方と一緒にいなきゃ…本当に弱くて…」
七咲「これからさき、どう一人で生きていければいいのか……そんな漠然とした悩みが止まらないんです」
純一「七咲は、大げさだなぁ……あはは」くすっ
七咲「あははっ…ですけど、せんぱい。私はこうやってセンパイとじゃれあってると……とっても心が休まるんですよ。
今まで悩んでいたことが溶け出して、まっさらな自分へと変わっていくんです」
純一「……………」
七咲「センパイは……もう、どこにも行かせません。私だけの……大切な、大切な…」
七咲「男の人、なんですから……」
純一「……ありがとう、七咲」
七咲「せんぱい……」
純一「僕だって……こんな可愛くて、ちっちゃくて、気の強い……いや、気の弱いのかな?
───そんな君を、僕はどこにも行かせやしないさ」
純一「七咲───……逢、君は僕のモノだ。離させはしないよ」ぎゅっ…
七咲「………はい」
純一「こうやってまた……いつも通りにじゃれあってさ」
七咲「………」ぎゅっ
純一「お互いに好きだって……言い合って、キスなんかしあってね」
純一「……何処か遠く二人で、旅行なんて行ってみたいよ」
七咲「…じゃあ行きましょう、センパイの合格記念旅行に」
純一「うん、そうだね!」
七咲「ふふっ」
七咲「…何時だって呼んでください、私は何時何時だって駆けてきます」
純一「それはすごい! じゃあ七咲も、困ったときがあったら僕をすぐに呼ぶんだよ?」
七咲「はい、その時は……?」
純一「誰よりも早く、七咲の元へ駆け寄っていくよ。負けやしない、だって七咲は……僕のモノなんだから」
七咲「ふふっ……そう、ですね。頑張ってください」
純一「…むむ、そうなると天敵は塚原先輩か…」
七咲「あー、難敵ですね……センパイ、勝てますか?」
純一「か、勝てるさっ! つ、塚原先輩だって……ううむ…」
七咲「……じゃあ、とっても期待して待ってますよ?」
七咲「大好きな先輩なら……私の元に一番に来てくれるって」もぞもぞ
純一「……ああ、まかせろ」すっ
七咲「はい……」
ちゅっ
七咲「…先輩は、嫌いですか?」
純一「ううん、七咲とのキスが……僕は大好きだ」
七咲「同じです……ふふっ、せんぱいとのキスが一番好きなんです」ちゅっ
純一「あはは」
七咲「くすっ…もう一回、します?」
純一「…これからまた、できなくなるかもだしね。……うむ、いっぱい今のうちにシておこう!」
七咲「じゃあ……どうぞ」すっ
純一「………」
ちゅっ
七咲「んっ……せんぱっ、んむっ…ちょ、そんなコトしたら止まらなく────」
~~~~~~
七咲「それじゃあ、先輩……また今度に」ぺこ
純一「え、家まで送っていくよ?」
純一「そっか、うん……わかった。じゃあ気をつけてね、七咲」
七咲「はいっ! 先輩も、夜はきちんと勉強してくださいねっ」
純一「えっ……?」
七咲「……部屋にあったゴミ箱、あの中───」
純一「わー!わー! わ、わかったよ! 頑張るから! 七咲も頑張ってね!」あたふた!
七咲「くすっ……はい、それではまた」たったった…
純一「またね」ふりふり…
純一「………ふぅー…」すぅー……
純一「今日も、寒いなぁー……」
純一「……でも、星が綺麗だ。あれは───……くす、なんていったかな……
もう、覚えてないや……なんでかな、まあ、理由はわかるんだけどね……」
純一「…………」ぶるるっ…
純一「寒い! う、ううっ……風邪を引いたら怒られるどころの話じゃないぞ…!」たったった…
純一「ああ、今行くー!」たったった…
純一「…………」たっ…
純一「…………」
純一「…………」くるっ だっ!
純一「すぅううううううう────」ぐぐっ…
純一「───なっなっさぁあああきぃいいいいいいいいいいいいい!!!!」
「………っ?」
純一「だいすきだぞぉおおおおおおおおおおおーーー!!!!」
「……………」
純一「はぁっ……はぁっ……あはは!!」ぶんぶんぶん!!
「っ~~~~………」
「───わたしもでぇええええええええすっ!!」
純一「あははっ……僕もだぁああぁあああああ!!」
「……」くるっ
「…」たったったった……
純一「……ずずっ…」
純一「……本当に、僕は幸せものだな」
純一「これから先、僕はどれほどの幸せを抱えて生きていくのかな……あはは、楽しみでしょうがないや」
ばん!!
美也「に、にぃに!? 外でなに叫んでるのっ!? ギニャー!!」ばっ!!
純一「え、ちょっ、その素早さは何美也っ……!」
~~~~~~
「ぎゃああああー!!」
七咲「っ……」くるっ
七咲「……くす」
七咲「………先輩、大好きですよ。これからもずっと、ずっと…大好きです」
取り敢えず今日はここまで
途中の寝落ちすみみみみませんでした
ご支援ご保守感謝感激です
このようにながらクオリティで良ければ次回もまたお付き合いください
次はどのくらいで立てるかは不明です
それまでの間に、また違ったアマガミss書くかもですが宜しくです
ではではノシ うんこいってきます
乙
Entry ⇒ 2012.06.09 | Category ⇒ アマガミSS | Comments (0) | Trackbacks (0)
橘純一「ほら?今日って僕の誕生日らしいだろ?」
田中「私は覚えてたよ!」
田中「誕生日おめでとう!橘君!」
橘「た、田中さん!」
田中「橘君!」
橘・田中「うぇーい!」
橘「……とね。茶番はここまでにして」
田中「うんうん」
橘「さっきから、ずっと気になってたんだけど」
田中「どうしたの?」
橘「何であそこのワカメはリボンで可愛くラッピングされてるんだろうね?」
田中「あはははっ、私にもわからないことくらいあるよ?」
橘純一「が、頑張ってみた結果がこれだよ!?」
橘純一「うぅ……バレンタインか……」
橘純一「た、田中さんに彼氏が出来たって!?」
橘純一「GWッ!その素敵な好奇心が僕をッ!」
橘純一「夏っていいよね!みんな薄着になるし!」
橘純一「秋といえば、読書!読書の秋だよね」
田中「あ、そうかも!何が流行るか分からない世の中だもんね」
田中「海草にリボン……あると思うな」
橘「おや、ワカメがこっちに流れてきたぞ?」
田中「あーワカメきたワカメ」
棚町「な、何よ!?人のことを珍獣でも見るような目で見て!」
田中「薫?……珍獣じゃなくて、海草だよ?」
棚町「そんな訂正いらないわよ!」
橘「……で、何の真似なんだ?」
棚町「えっ?」
橘「そのリボンは何の真似なんだと、僕は訊いてるんだ」
棚町「こ、これはね!?」
田中「ボケを説明させちゃうなんて、さすがに薫に失礼だよ!?」
橘「そ、それもそうだね!」
田中「……というわけで、薫?」
橘「ささっ、予定通り好きなだけボケ倒してくれよ」
棚町「……あ、あのさ!純一って今日誕生日でしょ!?」
棚町「だから……そのね?」
田中「『プレゼントは、あ・た・し!』」
田中「……なんてうすら寒い事を、まさか薫がやるわけないよね?あははっ……」
橘「それはさすがに失礼だよ、田中さん」
橘「あ、ごめん。話の腰を折ってしまったね。続けて?」
棚町「……うぇーい!その通りよ!」
田中「ごめん……」
棚町「や、やめて!あたしをそんな哀れみの視線で見ないで!?」
棚町「い、一度やってみたかっただけなのよ?そ、そう!魔が差しちゃってね!?」
橘「……薫?追い打ちをかけるようで悪いんだけど」
棚町「な、何よ?」
橘「そのネタは、もう愛の伝道師こと森島先輩が使ったよ?」
棚町「えっ!?嘘!?」
橘「昨日の夜……うちに訪ねてきてね?」
棚町「そ、そんな……。フライングだなんてズルいわ……っ!」
田中「はい!その話を詳しく!」
田中「場合によっては……」
橘「く、詳しく話すから!落ち付いて?ね?」
橘「……これまたラブリーなリボンをお胸元にお召しになられてて」
田中「そこは頭じゃないんだ?」
橘「迷ったらしいんだけどね、カチューシャを外したくなかったんだってさ」
棚町「トレードマークだしね」
橘「うん。……それでね?今度は何を企んでるんだろうと思って」
橘「『何をしてるんですか?』って素っ気なく訊いてみたんだよ」
橘「そしたらさ……『橘君!誕生日おめでとう!』ってね」
橘「隠し持っていたらしい、クラッカーをパーン!と」
田中「ご、ご近所迷惑だよ!?」
棚町「うわっ……やりたい気持ちはわかるけど」
田中「薫?出張バイト?」
棚町「あ、あたしは関係ないでしょ!?」
橘「安心しろ。薫の方がモジャモジャしてるから」
棚町「!?」
田中「よかったね、薫!」
棚町「くっ……それで?あんたはその後どうしたの?」
橘「玄関で立ち話もアレだし、これ以上うちの玄関先でクラッカーを鳴らされるのもご近所迷惑だったから、家に上がってもらったんだけど」
田中「そう、そこから!そこからが問題なの!」
棚町「ほら、さっさと話しなさいよ!」
田中「け、結論から言えば!?」
棚町「ま、まさか……アンタ!?」
橘「森島先輩はね……お茶漬けを食べて御満悦の表情で帰っていったよ」
田中「へ?」
棚町「どういうことよ?」
橘「ほら、京都の方だと帰って欲しい客にお茶漬け出すらしいだろ?」
橘「……僕、どうしても一度やってみたくてっ!」
橘「森島先輩なら、こんな失礼なボケも許してくれる!そう思ったら、ついっ!」
橘「……問題は『わおっ!ちょうど小腹が空いてたの!気が利くわね!』って、僕のボケが全く通じてなかったことなんだけど」
橘「2杯もおかわりもしていったしね……はははっ……」
橘「う、うん。そこは僕を信じて欲しいな」
橘「森島先輩もさ、薫と同じで『一度やってみたかったのよね!うふふっ!』だったらしくて、あの行動に特に深い理由はなかったらしいんだ」
田中「そうなんだ」
棚町「あたし、あの人と同類か……」
橘「でもさ、色々と大変だったんだよ!?」
橘「急に『で、でも!本当に橘君に求められたら……私っ!私っ!!』って発作が始まってさ!」
棚町「ほ、発作!?」
橘「床にお茶漬けこぼすわ、周りを確認せずに頭を抱えてダイナミックにゴロゴロするわで!」
橘「あんな酷い目にあったのは、夏にあった家庭内スイカ割り大会以来だよ!」
田中「あはははっ……お疲れ様」
棚町「本当、苦労してんのね……」
橘「うん……」
橘「まさか、ここまで続くとは思わなかったよ!本当に一生続く気すらする!」
棚町「……前から思ってたんだけどさ、それってプロポーズの言葉よね?」
橘「えっ?」
田中「……私もそう思うよ?」
橘「えっ……えぇぇぇぇ!?」
橘「そ、そうなの!?」
棚町「はぁ。……恵子、気を付けなさいよ?」
棚町「今の森島先輩が純一のことをどう思ってるのかは知らないけど、万が一があるからね?」
田中「う、うん!寝取られとか笑えないよね!」
橘「ね、寝取られ!?そんなのもあるのか!?」
棚町「……あのさ、わかってると思うけど、一番気をつけるのはさ、純一よ?」
橘「う、うん……」
橘「あ、絢辻さん!?いつの間に!?」
絢辻「『私は絶対に浮気はしません!』」
絢辻「はい、大きな声で元気よく!……そうね、オマケして10回くらい復唱して貰おうかしら?」
橘「こ、ここ教室だよ!?」
絢辻「あら?場所は関係ないでしょ?」
絢辻「それとも……誓えないのかしら?」
田中「か、薫~……うぅっ」
棚町「あ、アンタ!?恵子を泣かせる気なの!?」
橘「わかったよ!誓う!誓うよ!」
絢辻「はい、それでは!どうぞ!」
・
・
橘「私は絶対に浮気はしません!!!!!!!!!!」
絢辻「その言葉に嘘、偽りは?」
橘「ありません!!!!!!!!!!!」
絢辻「はい、ご苦労様」
橘(くっ……みんなの視線が痛い!)
棚町「ぷっ……くくっ……よかったわね、恵子?」
絢辻「えぇ、こんなに田中さんを想ってくれてるらしいわよ?……って田中さんん」
田中「……」
棚町「あ、ダメだこりゃ。恥ずかし過ぎて気絶してる」
絢辻「あらあら、田中さんったら」
棚町「ま、とりあえず?」
絢辻「……そうね。やっとこうかしら」
絢辻・棚町「うぇーい!」
絢辻「はい。橘君?誕生日おめでとう!」
橘「こ、これは……」
絢辻「あたしからのプレゼントよ」
橘「あ、ありがとう!さすが絢辻さんだ!細かい気配りも忘れない!」
絢辻「どういたしまして」
絢辻「……といっても、それの中身はネクタイだけど」
橘「えっ?ネクタイ?」
絢辻「ほら、あたしが引っ張り続けたせいで一本ダメになったでしょ?」
橘「はははっ、そんなこともあったね」
絢辻「……さすがに申し訳ないからね。せいぜいあたしに引っ張られないよう、大事に使ってね?」
橘「……それって引っ張らなきゃいいだけじゃ」
絢辻「えっ?何?何か言った?」
橘「な、何でもないよ!大事に使わさせてもらうね!」
橘「お前のプレゼントは『あ・た・し!』なんだろ?」
棚町「アレはネタよ!ネタ!もう終わったことをグチグチと……アンタは京都の女子か!」
橘「そこまで陰湿になった覚えはないよ!」
棚町「……はい、あたしからはこれよ?」
橘(うん?本屋の袋……?)
棚町「恵子が気絶してるうちに、中身を確認してみなさいよ?」
橘「こ、これはっ!?」
棚町「……欲しかったんでしょ?それ?」
橘「か、薫!?これ……っ!」
棚町「か、買うの恥ずかしかったんだから!心して読みなさいよ!?」
橘「あ、ありがとう!薫!」
橘(ま、まさか!薫が僕にお宝本をプレゼントしてくれるなんて!)
絢辻「……あ、読み終わったらいいなさいよ?燃やすから」
橘「……ですよねぇ」
絢辻さんは鬼だ!
橘(あ~、今日は皆に祝われちゃって祝われちゃって……最高の日だったよ!)
橘(……それに、まさかみんながプレゼントを準備してくれてたなんて!)
橘(僕は今日この日を一生忘れないぞ!)
橘(しかし、プレゼントってその人の人となりが出るというか……面白いよね)
橘(この中多さんから貰った枕!びっくりする程ふかふかだよ!)
橘(この枕で眠ったら、きっといい夢を見れるね!間違いない!)
ピンポーン
橘(……ん?こんな時間に誰だろう?)
橘(ま、まさか!?また森島先輩か!?)
橘(……昼間のことのせいで、何だか変に意識しちゃうなぁ)
橘(で、でも!出ないわけにはいかないよな!)
橘「はいは~い!ただいま~!」
橘「た、田中さん!?どうしたの?」
田中「あ、あのね?プレゼントを……学校で渡せなかったからね?」
橘「え?じゃあ、わざわざ?」
田中「こ、これでも橘君の彼女だからね?」
田中「……ちゃんとしなきゃな~って」
橘「田中さん……」
田中「あ、あのさ?お家にお邪魔してもいいかな?」
橘「う、うん。どうぞどうぞ」
田中「えへへっ、お邪魔しま~す!」
橘「はははっ、ごめんね?」
田中「それで……プレゼントなんだけどね?」
田中「そ、その……」
田中「……ねぇ?純一?目を閉じて貰えるかな?」
橘「目を?」
田中「うん。お願い」
橘「……」スッ
田中「わ、私からのプレゼントは……」
田中「えへへっ、リボンとかで綺麗にラッピングはされてないけどね?」
ギュッ
田中「……私、だよ?」
橘「け、恵子!?」
田中「ま、まだ!目を開けないで!!」
田中「……でも、私もやってみたくなっちゃって」
橘「はははっ、僕も散々バカにしたのに」
橘「……好きな人にやられると、意外といいものだよね」
田中「じゅ、純一……っ!」
田中「わ、私の初めてを……貰ってくらるかな?」
橘「け、恵子?いいの?」
田中「うん……貰って欲しいな?」
田中「あっ!や、優しく……してね?」
橘「恵子……」
田中「純一……」
ギュッ
橘「……あ、あのさ!折角のムードを壊すのは大変忍びないんだけどね?」
田中「……うん、わかってるよぉ」
田中「ベランダにもいないよ!」
橘「ま、まさか!ベッドの下に!?」
田中「だ、大丈夫!いないみたいだよ!」
橘「ふぅ……何でこんなに疑心暗鬼にならなきゃいけないんだよ」
田中「の、覗き屋さんが毎回いるからねぇ」
橘「こうさ!ベタにドアの裏で聞き耳を立ててたりして?」
ガチャッ……ドササッ!
絢辻「あら?奇遇ね?」
棚町「あ、あたし達のことは気にしなくていいから!続けなさいよ!?」
美也「にぃにのエッチ!」
・
・
橘「え~と、キミたちが正座させられてる理由はわかるよね?」
絢辻「いえ、全くわからないから説明をしてくれるかしら?」
橘「はははっ、絢辻さんは意外とお馬鹿さんなんだなぁ!」
田中「や~い!ばーか!ばーか!」
橘「……毎回!毎回!僕と田中さんがいい雰囲気になる度に覗き行為をしてるからに決まってるだろ!?」
田中「薫!?いい加減私も堪忍袋の緒が切れるよ!?」
棚町「ち、違うのよ!まさか今回、恵子がこんなに積極的になるとは思わなくて!」
美也「にぃにが!エッチなにぃにが悪いんだよ!?」
橘「うるさい!黙れ!」
棚町・美也「ひ、ひぃ!」
絢辻「あ、あのね?く、クラス委員としては!不順異性交遊を見逃せなかったというか!」
田中「……え?何か言ったかな?」
絢辻「……すみませんでした、もうしません」
田中「森島先輩みたいに!森島先輩みたいに!」
棚町「そ、そういうことなら……サラサラっといただいちゃおうかな!」
絢辻「……た、棚町さん?ここは素直に帰りましょう」
絢辻・棚町「お、お邪魔しましたー!」
絢辻「いいっ!あ、足が痺れて!」
棚町「あ、絢辻さん!しっかり!」
ドタバタドタバタ……
美也「……ねぇ?取り残されたみゃーはどうすればいいの?」
橘「美也はもうしばらく正座な」
美也「えぇぇぇ!?も、もう足の感覚ないよ!?」
田中「えへへっ、美也ちゃんの痺れてる足をグリグリしちゃおうかな」
美也「え?や、やめ……みゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
・
・
田中「あ、そろそろ私も帰るね?」
田中「……なんだか、そういう雰囲気じゃなくなっちゃったし」
橘「あ、家まで送るよ」
田中「うん、お願いしていいかな?」
橘「……というわけで、美也?」
美也「……うん、いってらっしゃい」
橘「さ、田中さん?行こうか?」
田中「うん!お邪魔しましたーっ!」
橘・田中「うぇーい!」
美也「……にぃにと田中先輩、手を繋いで出てちゃったよ」
美也「……うぅ、もう内通者なんて絶対にやらない!」
橘「う~ん、僕の誕生日も終わったし……年内に残ってる行事といえば!」
田中「うん!クリスマスだね!」
橘・田中「今年は一人じゃないから、寂しくないもん!うぇーい!」
棚町「あ~、もう!純一も恵子も!爆発しちゃえばいいのに!!」
絢辻「……ねぇ?忘れてない?クリスマスって模試の日よ?」
橘・田中「えっ……」
絢辻「ふふっ、せいぜい世の中の不条理を恨むことね」
橘「そ、そっか……模試なら仕方ないな」
田中「う、うん……受験生の辛いところだよね」
橘「よし!ここは原点に返ってだな!」
田中「か、空元気だね!?」
橘・田中「うぇーい!」
完
乙
田中さんうぇーいかわいい
Entry ⇒ 2012.06.08 | Category ⇒ アマガミSS | Comments (1) | Trackbacks (0)
純一「みんなで、イチャイチャしようよ+!」
こんこん…
梅原「ん、なんだろうな。こんな時間に…」
純一「さあ? とっくに消灯時間過ぎてるし、高橋先生じゃないかな」
梅原「どうして俺達の部屋に……あんまり騒ぎ過ぎたか?」
純一「それほどまで騒いでないはずだけど……お宝本鑑賞してただけだし」
こんこん…
梅原「…うーむ。ちょっくら開けてくるか」
純一「先生かもしれないよ? まだおきてるのかっー! なんて怒られるかも」
梅原「そんときゃそん時だ。つか、修学旅行で就寝時間きっちり寝てる奴なんて誰も居ねーよ」すたすた…
純一「そりゃそうだけど……」
梅原「はいはーい。今開けますよいっと──うおっ!?」
純一「ん? どうしたんだよ梅原───うわぁあっ!?」
絢辻「──……しぃー! 静かに! 二人共!」ぼそぼそ…
絢辻「……この私を誰だと思ってるのよ? きっちり時間を見ながら巻いてきたに決まってるじゃない」フンスッ
純一「どうして見回りの時間帯を知ってるの……」
絢辻「うん? 企業秘密?」
純一「……なるほど、口には言えないんだね…」
梅原「つか話はそれぐらいにしておいて、とりあえず絢辻さん、中に入ろうぜ?」キョロキョロ…
絢辻「あ、ごめんなさい梅原くん。そうしたらお言葉に甘えて……」そそくさ… ばたん
絢辻「──ふぅーっ。緊張したぁ〜……ちょっぴり怖かったわっ…うふふっ」
純一「現れた時、物凄く堂々としてたけど…」
絢辻「だって自信はあったもの。それよりも二人共、急に押しかけてきてごめんなさい」ぺこ
梅原「いいってことよー! こんなむさ苦しい男どもの部屋によくぞ来てくれました! なんて言いたいぜ俺は」
絢辻「あら、ありがと梅原君……何処の誰かみたいに反応が悪いとは大違い」
純一「調子がいいやつめ……」
純一「見たところ一人みたいだけど……確か同じ部屋って薫だったよね?」
絢辻「そうね、今回はちょっと棚町さんに手助けしてもらってココに来てるの」
梅原「……ははーん。なるほど〜…そりゃまたご苦労さま、絢辻さん」
絢辻「うふふっ、話が早くて助かるわ。梅原君」
純一「……? 二人共、どういうことなの?」
梅原「あーあ、俺もこんな可愛いかわいい彼女が欲しいぜえー……つぅーこって大将!」ばしん!
純一「あいたっ!? なんだ急に…っ!」
梅原「俺はちょいとマサの部屋に用事ができちまった。ということで今からちょっと行ってくる」
純一「……は? ちょ、待ってよ。お前こんな時間に外に出たら…!」
絢辻「今はちょうど交代の時間で、このフロアには先生居ないわよ梅原君」
梅原「さんきゅー絢辻さん! んじゃ橘、あとはよろしくなぁ〜」すたすた…
純一「ま、待てって梅原……!」ばたん
絢辻「──そぉーれっ!」ばっ
純一「え、ちょ、絢辻さんっ…!?」
絢辻「うふふっ……んん〜っ」ぎゅう…
純一「ど、どうして急に僕に抱きついてくるの…っ? ちょ、ジャージだから生地が薄くて…そのっ…!」むぎゅむぎゅ
絢辻「むふふっ……ん〜? だって当ててるんだもの、わかってるでしょ?」ぐいっ
純一「え、ええっ!? どうしてそんなに積極的っていうか……あわわっ! 絢辻さん、耳元で喋らないでっ…!」ぞくぞく…
絢辻「……橘くんって、耳弱かったのかしら? うん?」
純一「そ、そういうわけじゃないけど……ひぃいっ!?」びくん!
絢辻「ふぅっ〜…ふっふ〜…ふふっ」
純一「っ〜〜〜〜〜〜!!」ぞくぞく…っ
絢辻「……随分と気持ちよさそうね、そんなにあたしの息……気持よかった?」
純一「はぁっ…はぁっ……うん、気持よかった…」
絢辻「うふっ、正直でよろしい」すっ…
純一(あ、これでオシマイか……もっとして欲しかったな…)
純一「ぐっ……いきなり絢辻さんがそんなことしてくるからじゃないかっ…!」
絢辻「……あら、それじゃあ嫌だったの? してほしくなかったのかしら?」
純一「……いえ、とても良かったです」
絢辻「またまた素直でよろしい。……ご褒美にキス、する?」
純一「い、いいのっ!?」
絢辻「ふふっ、だーめ。そんなにがっついてしてくるのは、あたしは嫌いだもの」くるっ
純一「そうなんだ……」シュン…
絢辻「でも」ちら…
純一「……でも?」
絢辻「──あたしからがっつくのは、とても大好き」
純一「お、おおっ……さらっと凄いこと言うね、絢辻さんは」
絢辻「だってだって……このあたしだもの。貴方の予想通りに行かない女よ?」
純一「ごくり…」
絢辻「……貴方からしてくれる…?」ぼそっ
純一「う、うん…」
絢辻「じゃあ、お願い……」すっ… ぎゅっ…
純一(お、おお……首に両手を回された……! 顔がお互いにとっても近いよ…!)
絢辻「……」こくん?
純一(首を傾げる絢辻さん可愛い! ……こ、これはもう僕からちゃんとするかしかない…!)
絢辻「……純一くん、あたしに何かしたいの…?」
純一「うん、僕は………絢辻さんに、キスしたい…」
絢辻「そうなんだ……うん、じゃあしていい」
純一「……するよ?」すっ…
絢辻「うん……」すっ…
ちゅっ
純一「──……二回目は?」
絢辻「──んっ……貴方に任せるわ、ふふっ」
純一「ちゅっ、ちゅ───……はっ!?」
絢辻「──んっ、はあ……え、どうしたの…?」
純一「勢いのままにずっとキスしてたけど、その前に絢辻さん! どうして僕の部屋にきたの?」
絢辻「……」
純一「あ、あれ…? 僕、なんか変なこと言ったかな…?」
絢辻「……今更、そんな疑問なの…?」
純一「う、うん。どうしてなのか気になって……」
絢辻「…はぁ。橘くんって時にとってもかっこ良くて、時にとってもムードを読めないわよね…」
純一「えっと、それって褒めてるの…?」
絢辻「褒めてない」
純一「だ、だよね…あはは」
絢辻「………」じぃー
純一「……すみません、反省してます…」
絢辻「……ここまであたしにキスしておいて、まだ分からないのって言いたいのよあたしは」
絢辻「…………」
純一「……うーん、と…」
絢辻「………もうっ! どうして貴方って人はそう抜けてるのかしらっ」
絢辻「あ・な・た・に! 会いに来たの!」
純一「ぼ、僕に会いに来た…?」
絢辻「そう! あたしが部屋を抜けだしてまで、橘くんに会いたくて会いたくて仕方なくてっ……
……それでここまで頑張ってきたってわけ! わかったっ?」
純一「絢辻さん……そんなに僕に……」
絢辻「い、今更そんな風にしても駄目よ…! もう呆れてるんだから貴方にはっ!」ふんっ
純一「ごめん……だって絢辻さんがそんなにも、僕に会いたがってるなんて思わなくて…」
絢辻「…………」ちらっ
純一「ううっ……」
絢辻「……っ〜〜〜……」
絢辻「……だ、だってしょうがないじゃない…っ」
純一「え…?」
純一「え、でもっ…ちゃんと晩ご飯の時とかっ、廊下ですれ違ったときはちゃんと挨拶とかしてたし…」
絢辻「………それで、満足なの?」
純一「ま、まんぞくって……」
絢辻「貴方はそれで、今日は満足できたのっ…?」
純一「……できっこないよ、多分」
絢辻「……記念すべき修学旅行だっていうのに貴方と一緒に行動できないなんて…あたしは耐え切れない。
だからこうやって少しでも多く、橘くんと同じ時間を過ごしたくて…過ごしたくて、あたしは……」
純一「絢辻さんて……」
絢辻「……あたしは貴方の部屋まで頑張ってきたのよ…?」
純一「そうだったんだね…ごめん、僕ってば無神経で…」
絢辻「……いいの、そんな橘くんを好きになったんだから」
純一「っ……絢辻さんっ……!」ぎゅうぅっ
絢辻「んっ……褒めてくれる? 頑張ったアタシを」
純一「うんっ……頑張ったね、すごいよ絢辻さん…っ!」
純一「………僕も寂しかったよ、絢辻さんと一緒に今日は行動できなくてさ」
絢辻「……ホント? うそじゃない?」
純一「本当だよ。僕だって絢辻さんと一緒に、いつだって同じ時間を過ごしたいんだ。
……これは僕の本心からの気持ち、嘘は絶対にないよ」
絢辻「……そっか。嬉しい」
純一「……絢辻さんが嬉しいのなら、僕も嬉しいよ」
絢辻「………」ぎゅっ…
純一「よいしょっと」ぐいっ
絢辻「ひぁっ!? え、なに急に…!」
純一「うん、お姫様抱っこだよ」
絢辻「ど、どうしていきなり…っ?」
純一「かわいくて、つい」
絢辻「か、かわいくてって……ちょ、ちょっと! 下ろして…!」ばたばた…
純一「だめだよ、ほらほら、いくよーそれー!」すたすた…
純一「どこって…とりあえずそうだなぁ…ここ、とかかな?」
絢辻「こ、ここって……ベットの、うえ…?」
純一「では、一緒にベット上に……よいしょっとぉー!」どさぁっ!
絢辻「きゃぁー!」ぽすんっ
純一「──あははは! どう、絢辻さん? ちょっとしたスリリングな気分味わえたかな?」
絢辻「っ……こ、恐いじゃないっ! 怪我をしたらどうするつもりなの…!」
純一「でも痛くなかったでしょ?」
絢辻「……ま、まあ…橘くんが下地になってくれたから、痛くなかったけれど…そうじゃなくて!」
純一「あはは、そんなに怒らなくてもいいじゃないか、絢辻さん。気分転換だよ、気分転換」
絢辻「気分転換って……」
純一「ちょっとした遊び心だよ、絢辻さんと一緒に過ごすのなら…こういったこともないとね」
絢辻「……なによ、もうっ」ぷいっ
純一「………」じぃー
絢辻「……ど、どうしたのよ。そんなにあたしの顔見つめて…」
絢辻「や、やめなさいよ……まじまじとそんなに見つめないで……っ」もじもじ…
純一「やっぱり絢辻さんって、可愛いよね。改めてそう思った」
絢辻「っ! ……な、なによ。急に…」
純一「うん、こうやって近くで見つめるとほんっと綺麗で、かわいくて……
……こんな子が僕の彼女なんて今でも信じられないよ」
絢辻「か、彼女じゃない……実際に!」
純一「……そうだね、絢辻さんは僕の彼女だ。僕の一番大好きな女の子…」
絢辻「っ………」もじもじ…
絢辻「や、やめてよ……改めて言われると、恥ずかしいから…」
純一「どうしてさ、だってもっと言ってあげたいよ絢辻さんに。
僕が絢辻さんのどんな所が好きなのか、惹かれたの、恋したのか……もっといってあげたい」
絢辻「それが恥ずかしいって言ってるんじゃない…なに、橘くんあたしを虐めたいの…っ?」
純一「そうじゃないよ、虐めるだなんて。そんなこと僕はしないさ」
純一「──ただ、そうやって恥ずかしがってる絢辻さんの表情がとても可愛くて…もっと見てみたいだけなんだ」
純一「…僕に好きだって言われるの、嫌かな?」
絢辻「っ…………嫌じゃないけど…」
純一「じゃあ、嬉しいんだ。絢辻さん、大好きだよ?」
絢辻「っ! ……で、でもっ…急に言うのはだめ…っ」
純一「じゃあ何時言うのさ、僕はいつだって絢辻さんのこと好きなのに。
この溢れかえる感情を……僕はいつ絢辻さんにぶければいいの?」
絢辻「そ、それはっ……その、あれよ……っ…」ちらっ…ささ、ごにょごにょ
純一「………」
絢辻「………………いまが、いいです…」ぼそっ
純一「…………」
絢辻「…………ううっ…」もじもじ…
純一「───絢辻さん、顔上げて」
絢辻「なによっ……んっ」ちゅっ
絢辻「……四十三回目、このキスは」
純一「おおう! ちゃんと数えてたんだ、やっぱり凄いね絢辻さんは。
……もしかして、今までしてきたキスの回数も知ってたりするのかな」
絢辻「そんなわけ無いでしょう…! ど、どんだけあたしがキスが好きって思ってるのよっ」
純一「……あれ? どうしてそこで焦るの……まさか、本当に───」
絢辻「ち、違う違う! 違うってばぁ…!」あたふた…
純一「ん」ちゅっ
絢辻「んむっ……ん〜〜〜!?」
純一「ん、んっ………ぷは。今のは今までの合計で、何回目?」
絢辻「…………三百二十一回目……はっ!?」
純一「おおっ……!」
絢辻「ち、違うのっ…! こ、これはそういうのじゃなくてっ……ああ、もうっ…ニヤニヤしないっ!」
純一「だって本当に数えてて、僕は嬉しいんだ。ありがとう、絢辻さん」
絢辻「っ〜〜〜〜……ど、どうしてお礼をいうのよっ…!」
そのキスのことを……きちんと覚えてる。それって何よりも嬉しいことだから」
絢辻「っ〜〜………」ごそごそ…
純一(あ、毛布をかぶってしまった……でも、顔だけのぞかせてる。可愛い!)
絢辻「ううっ……こ、こんなの……変態じゃないかしら…?」ひょこ…
純一「変態なんかじゃないよ! むしろ淑女だよ!」
絢辻「……それって、いいこと?」
純一「いいことだよ! とってもいいことだよ! どんどん誇っていいことだよ!」
絢辻「……橘くんがそういうのなら、そう思うことにする」
純一「うん! だから絢辻さん……」もぞ…
絢辻「うん…? なに、橘くん?」
純一「もっともっと、僕とキスをしようよ……もう、絢辻さんがきちんと覚えきれないぐらいに。
沢山キスの思い出をつくって、キスのことで頭をいっぱいにさせようよ!」
絢辻「キスで、いっぱいに…?」
純一「そうだよ! だって絢辻さん、キス好きでしょ?」
絢辻「……………」もぞもぞ…
絢辻「……………すき…」もぞ…
純一(毛布の中に顔を隠した……恥ずかしかったんだね、可愛いなぁ!)
純一「……だからさ、絢辻さん。もっとキスしようよ」
絢辻「………これから、いっぱい?」
純一「うん、いっぱいに。お互いに唇腫れあがるまで、イチャつこうよ」
絢辻「………そしたら明日、みんなにバレちゃうわよ」
純一「ばらしたっていいよ! むしろ魅せつけてやろうよ!」
純一(一昨日のバスの時のことも、普通にみんな噂になってたしね! もう逃げられないし!)
絢辻「…………橘くん、こっち」くいっ
純一「…うん? こっちって、毛布の中に?」
絢辻「……」こくん…
絢辻「…………」
純一「よいしょっと……あはは、また顔が近くなったね」
絢辻「…………」
純一「……絢辻、さん? どうかしたの?」
絢辻「…………」ぐいっ
純一「あやつ──……むぐっ!?」ちゅっ
絢辻「んっ…ふっ……ちゅ、ちゅうっ…」
純一「ん、んむっ!? ん、ちゅっ……!?」
絢辻「ちゅ、ろ……ちゅううっ……ぷはぁ……」
純一「んっ……んはっ……はぁっ…はぁっ…あ、あやつじさん…?」
絢辻「……いまので、三百二十二回目……ちゅっ」
純一「あ、ちょまっ……んっ!」
絢辻「────……んっ、今のでっ…はぁっ…はぁっ…三百二十五回目…」
純一「あ、絢辻さんっ…? どうしたの……急に…?」
純一「え……?」
絢辻「もっともっと……純一くんと、キスがしたいの…」
純一「そ、それは分かってるけど……こんなにもハイペースじゃなくても…!」
絢辻「……キス、嫌い…?」
純一「大好きです!」
絢辻「あたしも大好き……はぁはぁ……だから、純一くん…もっともっと…」ぐいっ
純一「あ、そこは耳だよっ…やめっ───ッ〜〜〜〜!」ぞくぞくぞく…
絢辻「ん、ちゅる……はむ…ぷは、もっともっと……ちょうだい、貴方を……あたしに…」もぞもぞ…
純一「っ〜〜〜〜!? …だ、だめだよ…! 流石に、そこは…!」
絢辻「───まだ覚えてるから、とめられないの……」
純一「ど、どういうこと……っ? うあっ、だめだって、絢辻さん…!」
絢辻「まだ覚えてる…橘くんとどんなことしたかって、あたしは覚えてる……だから…」
純一「…だ、だから…っ?」
絢辻「あたしを、あたしの頭の中を純一くんで───……いっぱいにしての」
純一「え……?」
絢辻「もっともっと……純一くんと、キスがしたいの…」
純一「そ、それは分かってるけど……こんなにもハイペースじゃなくても…!」
絢辻「……キス、嫌い…?」
純一「大好きです!」
絢辻「あたしも大好き……はぁはぁ……だから、純一くん…もっともっと…」ぐいっ
純一「あ、そこは耳だよっ…やめっ───ッ〜〜〜〜!」ぞくぞくぞく…
絢辻「ん、ちゅる……はむ…ぷは、もっともっと……ちょうだい、貴方を……あたしに…」もぞもぞ…
純一「っ〜〜〜〜!? …だ、だめだよ…! 流石に、そこは…!」
絢辻「───まだ覚えてるから、とめられないの……」
純一「ど、どういうこと……っ? うあっ、だめだって、絢辻さん…!」
絢辻「まだ覚えてる…純一くんとどんなことしたかって、あたしは覚えてる……だから…」
純一「…だ、だから…っ?」
絢辻「あたしを、あたしの頭の中を純一くんで───……いっぱいにしてほしいから」
純一「っ〜〜〜〜〜〜」ぞくぞくぞく…
純一「……だ、だめじゃない…よ」
絢辻「……本当に? だめじゃない…?」
純一「うん、駄目じゃない……もっともっと、僕で絢辻さんの頭の中をいっぱいにしてあげる…」
絢辻「あたしが…あたしで居られなくなるぐらい、に?」
純一「うん、普段の絢辻さんとは大違いなほどに……めちゃくちゃにしてあげるよ」
絢辻「……」ドキドキ…
絢辻「………この気持は、嬉しいだと思う。貴方にそう言われて、あたしは嬉しがってる…」
純一「あはは……絢辻さんって、ちょっとMっ気あるんじゃないかな?」
絢辻「………」
純一(あ、殴られるかな…?)
絢辻「……んっ」ちゅっ
純一「んむ…っ」
絢辻「っ……はぁっ…はぁっ…そうかも、しれないわね…うふふっ」
純一「……嬉しいよ、どんどんおかしくなって欲しいぐらいだ」
絢辻「……もっと普段らしくないこといってもいい?」
純一「どうぞどうぞ」
絢辻「………」ぎゅうっ…
純一「っ……ど、どうしたの耳元に顔を近づけて…」
絢辻「うふふっ……そうね、そうしたら……こういってあげようかな」
絢辻「───純一くん、もっとあたしを……めちゃくちゃにして頂戴」
純一「っ………」
絢辻「貴方のキスで、貴方の……身体で、ね?」
純一「──お、お安い御用だよ。つかさ…っ」
絢辻「………ありがとう、純一君」
純一「お礼は…め、めちゃくちゃした後にね…!」
絢辻「…そお? そしたら、そうしとくわ…ふふっ、じゃあ純一君───」
絢辻「───これからもっと、あたしを壊し続けてね?」
純一「…………」うつらうつら…
梅原「……大将、大丈夫か? 飯が口の端からこぼれ落ちてるぞ…」
純一「…………」ぐらぐら…
純一「はっ!?」びくん
純一「だ、だめだよ…! もう僕、でないからぁ───って、あれ?」
梅原「よう」
純一「え、あ、あれ……梅原…? ここは……?」
梅原「大広場だ。修学旅行組で使われてる食事する場所だぜ」
純一「お、おう……そうか、ごめん…」
梅原「……どうしたんだよ、本当によぉ。朝からずっとそんな感じで…なんかあったのか?」
純一「……う、うん……なんというかその……」
梅原「あーいいって、言いたくないんなら言うな。……こっちが聞きたくねえ話しっぽいしな、うん」ずずっ…
レスが飛んでる気がするぞ
梅原「おうよ、マサとケンで朝までお宝本鑑賞会だったんだぜ〜? いやーなんというか、
ああいうのが修学旅行の醍醐味だよなぁ、うんうん」
純一「そっか……僕もそっちがよかったかもな……」
梅原「……っておい、お前さんがそれを言うなよ。大将こそ、修学旅行の最大的イベントを経験してたじゃねえか!」ぐいぐい
純一「肘で押すなよ……まあ、そうなんだろうけどさ。いや、なんというか…あそこまで行ってしまうと…」
梅原「うん?」
純一「ちょっとした、今後の僕の体力が心配になるっていうか……」
梅原「どういうことだよ? 絢辻さんとなんかあったのか───」
「おはよう、ふたりともっ」
純一「ッ……」びくん!
梅原「──ん、おう! おはようさん絢辻さん、なにやら今日は一段と元気そうで!」
絢辻「──あら、そう見えるかしら? うふふっ」ツヤヤカ
絢辻「でもそうね……確かに今日はすごぶる機嫌がいいわね。そう思わないかしら? た・ち・ば・な・くん?」
純一「そ、そうですね……あはは、あっははは!」
梅原「?」
絢辻「さて、今日もはりきって修学旅行を満喫するわよ! 二人共! 朝の朝食はきちんと済ませること!」
梅原「うぃーすっ」
純一「…はい……」もぐもぐ…
梅原「ん、絢辻さんは朝飯食べずにどっかに?」
絢辻「そうなの、ちょっとミーティングにね……言ってるあたしが食べれないようじゃ、身も蓋もないわね」
梅原「あんまり働き過ぎて、倒れないようにしないとな……ほら、橘。お前も一言いってやれって」
純一「……あ、絢辻さん…」
絢辻「うん、なにかな?」
純一「が、がんばってね…!」
絢辻「頑張るわ!」ピカー!
純一「いや、僕のはいいよ…後で自分でつぎにいくから…」
梅原「あいよー」すたすた…
絢辻「………」
純一「……元気そうだね、絢辻さん」
絢辻「当たり前じゃない。委員長が元気なくてどうするの、だって修学旅行だもの」
純一「そっか、そうだよね」
絢辻「……それに比べて貴方は、なんなの? そのクマといい…もっとしゃっきりとしなさい!」
純一「う、うん……」
絢辻「もうっ。───じゃあ仕方ないわね……橘くん、こっち向いてくれる?」
純一「え、なに───」
ちゅっ
純一「──っ!? あ、絢辻さんっ…!? み、みんながいるのにっ…!? 誰かに見られたら…!」
絢辻「……んふふ、元気でた?」
絢辻「それぐらいで恥ずかしがらないの、あれだけあたしを夜に…めちゃくちゃにしたくせに」
絢辻「気にしない、あたしは気にはしない」
純一「僕がきにするよ…!」
絢辻「だったら気にしないぐらいに、もっとしてあげよっか?」
純一「……気にしませんっ」
絢辻「素直でよろしい。では、橘くん……最後にもう一つ」
純一「なにかな、絢辻さん…」
絢辻「……今日もまた、ずっと一緒にいるわよ? いい?」
純一「………」こくり
絢辻「返事は口でするものよ、もう一回」
純一「わ、わかったよ絢辻さん! 今日もまた、ずっとずっと……」
純一「一緒に同じ時間を過ごそうねっ!」
絢辻「よろしい!」
絢辻さんが前スレをあたしだけで落としたら許さないって言ったから
こうやってまた書き直してる所存あれ、こんな時間にだれか(ry
前回はすみませんでした
仕事のミスで帰ってこれずに保守ありがとうございました
次はひびきちゃん
四時半に書く
ザァアアアア…
響「───んー、凄い雨ね…」
響(部活終わりに降りだして、どうせ濡れて帰ってもいい。なんて思ってたけど……
……ここまで本降りになるなんて、ついてないわ)
響「……これだと、あの子も濡れてかえってそうね」
ザァアアアアア…
響「……今頃、なにをしてるのかしら───…橘くんは」
橘家 玄関
「うひぁあー! すっごい降ってきたよっ……あ〜、制服がびちゃびちゃだ…」ぱっぱっ
純一「明日には乾くかな……まあ除湿機にかければ大丈夫だろう」
純一「………それにしても急に降りだしてきたなぁ。これだと先輩──……塚原先輩、無事に帰れてるかな」
純一「……ただいまー」がちゃ
「──ん? あ、にぃにお帰り〜」
純一「ああ、ただいま美也って……七咲?」
七咲「どうも」ぺこり
美也「みゃーがね、途中で雨宿りしてた逢ちゃんを見つけてね〜」
七咲「…雨が弱くなるまで家に上がっててもいいといってくれたので」
純一「なるほど、まあ何も無いけどゆっくりしていってよ……って待てくれ七咲!」がしっ
七咲「はい、わかりまし──……はいっ!? な、なんですか急にっ…!?」
美也「ちょ、ちょっとにぃに!? 逢ちゃんになにしてんのっ!」
純一「ちょっと美也は黙っててくれ! そ、それってつまり部活帰りに雨宿りをしたってことだよなぁっ!?」がくがくっ
七咲「は、はははいっ…! 今日は先輩は水泳部のマネージャー休んでたので、知らないと思いますけど…!」
純一「知らないよ! だって補修だったもの! そ、それで! 先輩は!? 塚原先輩はっ!?」がくがく
七咲「つ、塚原先輩ですかっ…? せ、先輩はっ…ちょっと部室に用事で残ってたので、今頃帰宅していると…!」
純一「……今頃、帰宅?」ぴた…
七咲「え、あ、はいっ……!」
純一「………先輩がもしかしたら、困ってるかも知れない」だっ! がちゃ! ばたん!
七咲「え、ちょ先輩……!?」
七咲「うん……別にいつものあんな感じだから、機にはしてないけど…」
七咲(……塚原先輩を迎えに行ったのかな。傘も持たずに)
七咲「……大丈夫かな、先輩」
とある路地
「はぁっ…はぁっ……」ぱしゃぱしゃ…
純一「──ふぅっ……はぁっ…はぁっ…!」ぱしゃっ…
純一(先輩の帰宅ルートはこのへんだったはず……以前に行ったことあるし、間違いは無いと思うけど…)きょろきょろ…
純一「───……あっ、いた!」
響「……ん?」
「──せんぱぁーい! つかはらせんぱぁー!」ぱしゃぱしゃ
響(なにかしら、どこからか声が……この声は橘くんっぽいけれど。まさかね…)
響「…って、橘くんっ!?」
純一「は、はいっ! どうも! こんな所で雨宿りをしてたんですねっ……ちょっと探しちゃいましたっ…!」
純一「え? あ、本当だ……あはは。すみません、なんか無我夢中で家を飛び出してきちゃって」
響「どうして家を飛び出してきたのよ……聞く分だと、なにやら私を探しに来たみたいだけど…」
純一「はい! そうなんです……七咲から今頃、塚原先輩が帰宅していると行ってたんで。
もしかしたら困ってどこかで雨宿りしてるんじゃないと思って…こうやって走って着ちゃいました」
響「きちゃいましたって……そんな格好でどうするの。
来てくれたことは素直に感謝したいけど、雨を防ぐものをもってこずにどうするつもりだったの?」
純一「あはは、なんにも考えずに来てしまったんです…すみません…」
響「……はぁ。とりあえず中に入ってくれないかしら、風邪を引いてしまうわよ」
純一「あ、ありがとうございます……うひゃー! びしょ濡れだ…!」
響「雨で制服の色が変わっちゃってるわよ。これは乾かすのが大変そう」
純一「まあ何とかなりますって、あはは……へっくしょん!」
響「ま、そうよね。男の子だもの、それぐらい平気よね」くすくす…
純一「……す、すみません。お見苦しいところを見せてしまって」
響「別にいいわよ。きにしてないから」
純一「はい、ありがとうございます……へえええくしょん!」
純一「だ、だいっ、大丈夫……でふぅえくっしょん!」
響「大丈夫じゃなさそうね、どれどれ……」すっ… ぴとっ
純一「っ……つ、塚原先輩…っ?」
響「動かないの、ちゃんと熱を測れないじゃない」
純一「は、はいっ…!」
純一(う、うわぁー! 塚原先輩の顔がこんなにも近くにっ…!
おでこを合わせて熱を測るだなんて、塚原先輩って本当に母親気質だなぁ!)
響「───うん、熱はないようね。 身体も冷たくはないし…
…だけど後から熱が出るって場合もあるから気をつけるのよ?」
純一「…………」ぼー
響「橘くん、聞いてるの?」
純一「は、はいっ! 聞いてますお母さん!」
響「……お母さん?」
純一(これは物凄く失礼なことを行ってしまったのでは…っ!?
確かに塚原先輩はとってもお母さんっぽくて、優しくて、強くて、凄い人だけど…!)
響「……お母さん…」
純一(あ、ほらやっぱり気にしてる! どうしよう……怒ってしまったかな?
なんて謝ればいいのだろう、お母さんっぽくて大好きです。とかか…?)
響「………ねえ、橘くん」
純一「は、はい! なんでしょうか塚原先輩…?」
純一(だめだ、怒られる───)
響「───もう一回、言ってくれないかしら、その……」
純一「……え? も、もう一回…?」
響「…うん。もう一回、さっきの言葉を」
純一「………お母さん?」
響「…………」
純一(なんだろう、この間は……)
純一(……笑ってる!? え、どうしてっ…なにか僕おもしろいこといっただろうか?)
純一「塚原、先輩…どうかなされたんですか…?」
響「……えっ? あ、うん…なんでもないの。こっちの問題だから…フフ」
純一「は、はあ……」
純一(なんだろう、笑いが堪えられないみたいだけど……やっぱりこれって───)
純一「──……お母さん」
響「っ」ぴくん
純一(あ、反応した! どうしてだろう、お母さんって呼ばれるがもしかして……)
純一「……先輩、あの…」
響「え、あ、ど、どうかしたのかしら?」
純一「………その、先輩って。お母さんって呼ばれるの……けっこう好き、だったりしますか…?」
響「………」
純一「………」
響「……そ、そんなわけないじゃない…」すっ…
響「ば、馬鹿なこと言わないの。それよりもほら、濡れた髪ぐらいは拭いおきなさい」ごそごそ…
純一「え、そ、そそそそれって…先輩が部活で使ってた、バスタオルですかっ!?」ぱさっ…
響「そうよ、それがどうかしたの?」
純一「……」じぃー…
響「…あ。私が使ったあとが嫌だったら…」
純一「そんなことないです! このバスタオルだからこそ良いんです!」
響「そ、そうなの?」
純一「そうなんです! じゃあ早速、このタオル借りますね………」
純一「…………」ドキドキ…
響「…橘くん?」
純一「くんくん……」
響「橘くん!?」
響「え? じゃなくてっ…ど、どうしてバスタオルの匂いをかぐの…!」
純一「え、だって普通…嗅ぎませんか?」
響「普通は嗅がないっ」
純一「そうなんですか……でも、良い匂いでしたよ? 塚原先輩のシャンプーの匂いがしましたし…くんくん」
響「か、かがないのっ…! やめてちょうだいっ…!」
純一「え〜……じゃあもっとかがせてください、お母さん」
響「っ───……だめでしょ! お母さんの言うこと聞かなきゃっ!」
純一「…………」
響「って、あ……私、いまなんて…!」
純一「…あはは。本当にお母さんに怒られた気分でした、塚原先輩」
響「っ〜〜〜〜…こ、これは違うのっ。なんていうかそのっ…!
ご、ごめんなさい…橘くん…急に変なこと言ってしまって…っ」
純一「僕は気にしてませんから、大丈夫ですよ」
響「で、でも……ああ、もう。私ったらなんてこと口走って…」
響「い、居るわけ無いでしょ!」
純一「あはは、ですよね。すみません…
…でも、どうしてそんなにも『お母さん』って呼ばれるのが気になったりするんですか?」
響「そ、それは急に言われたら誰だって……」
純一「それはそうですけど、なにやら塚原先輩…お母さんって呼ばれること、好きみたいに思えるんですよ」
響「だからそれも違うって言ってるじゃないっ」
純一「でも、さっきまで笑ってましたよ?」
響「えっ……本当に?」
純一「…気づいてなかったんですか」
響「う、うん…」こくり
響「……笑ってた? 私が?」
純一「はい」
響「………」
純一「あの、塚原先輩…?」
純一(あ、あれ…? なんだか落ち込んでしまっている…?
さっきはあんなに嬉しそうだったのに……笑ってたって自覚したら急に…)
響「…私って、そんなにお母さんっぽいかしら」
純一「………」
響「…正直に答えて、橘くん」
純一「……ちょ、ちょっとだけ」
響「ちょっとだけ…? 思わずお母さんって呼んだしまったのに…? ちょっとだけ…?」
純一「……とてもお母さんぽいって思います、はい」
響「……そう、そうなのね───わかってたことだったけど、うん……」
純一「で、でもっ…! 僕、そういう風な面倒見がいい母親気質の人って……とても良いって思いますよ!」
響「………」
純一「そ、それに…! 別にお母さんって思われても、特段悪いってことでもないような…」
響「…どうしてかしら? だって…お母さんよ? それって言い換えれば、そう呼んだ人にとってその人は……」
響「……何でもないわ、気にしないで」
純一「え? どうして……」
響「気になるかも知れないけれど、この話はここでオシマイにして」
純一「…わ、わかりました」
響「…ありがとう」
純一「………」
響「………」
ザァァアアアア…
純一「…………」
響「……雨、止まないわね」
純一「そうですね……」
響「──橘くん、別に私なんか気にせずにもう帰ってもいいわよ?」
…こうやって時間が過ぎていくよりも、むしろ急いで濡れて帰ったほうがマシじゃないかしら」
純一「……」
響「私も様子を見て走ってでも帰るつもり、だから橘くん───」
純一「──いやです、塚原先輩」
響「えっ…?」
純一「僕は帰りません。先輩が無事に家についたと確認するまで……
その安否がわかるまで、僕はここを動きません」
響「何を意地になってるの…帰ったら電話でも何でもするから」
純一「いやです、絶対に帰りません」
響「……もうっ、なにをいってるのよ。馬鹿な子ね…」
純一「…馬鹿で結構です」
響「…風邪を引いてしまうかもしれないわよ?」
純一「じゃあ先輩がつきっきりで看病してください」
響「それは……無理よ、部活があるんだもの。そして貴方も、水泳部のマネージャーの仕事があるじゃない」
響「意固地にならないの、そうやって意地になっても駄目なものは駄目」
純一「…どうしてですか、僕はただ先輩と一緒にいたいだけなのに」
響「……今日はいられるかも知れない。でも、明日からどっちかが風邪を引いた時、
もっと長い期間一緒に居ることが少なくなるわよ?」
純一「…そんな難しいことは僕にはわかりませんよ」
響「難しくなんかないでしょう。ただ、君が考えることをやめているだけ」
純一「………」
響「…私と一緒にいたいって思ってくれてることは、素直に嬉しい。実際に……私も同じ気持を感じてる」
響「でも、きちんと現実を捉えてられてないことはいけないことよ」
響「その場の感情に流されては駄目な時もある。今が、その時なの」
純一「………」
響「……わかってくれたかしら?」
響「………君が動かないのなら、私から動く」すたすた…
純一「え、先輩…!」
響「もう帰るわ。ごめんなさい、ここまで来てくれたけど…それは感謝してるから」すた…
響「じゃあね、また明日……橘くん」
純一「……───」
〜〜〜〜〜
橘家
美也「え? にぃにって彼女いないよ?」
七咲「……え、どうして?」
美也「どうしてって……そりゃあのにぃにだもん。できっこないよ〜」
七咲「で、でもっ…最近色々と先輩は仲良くしてる女の人がいて…!」
美也「……あー、もしかして塚原先輩とのこと?」
七咲「あ、知ってたの…? うん、そうなんだけど…」
……なんだか曖昧っていうか、はっきりしないっていうか…」
七咲「…どういうこと?」
美也「うん、にぃにはすっごく塚原先輩のこと──好きだって思うんだよね、寝言でもゴニョゴニョ言ってたしさ」
七咲「そ、そうなんだ……」
美也「なのに、それにたいする塚原先輩がね…ちょっと一歩引いてるっていうか、近づかないようにしてるっていうか…」
七咲「…塚原先輩は、橘先輩のこと好きじゃないのかな」
美也「う〜んっとね……好きだと思うけど、それってちょっと違う好きかもしれないかなって思うんだ、みゃーはさ」
七咲「違う、好き?」
美也「そうそう。塚原先輩ってとっても面倒見がいい人だって思うんだよね。それに比べてにぃにはだらしなくて、
お馬鹿さんで、頭悪くってしょうがないにぃにだもん」
七咲「……う、うん」
美也「知ってるでしょ? にぃにはそんな性格だから、塚原先輩も……まるで親みたいな感じで接しちゃうんじゃないかなぁって。
みゃーはそう思ってるんだ、うんうん」
七咲「へぇ〜美也ちゃん、何でも分かってる…すごいね。まるで大人の女性みたい」
美也「えっへへ〜……まあでもね、これは人から聞いた話だからみゃーが考えたわけじゃないんだー」
美也「ところどころ、みゃーの解釈も入れて話してたけれど。元の話をしてくれたのは……とある先輩なのだっ」びしっ
七咲「…とある先輩?」
美也「そっだよー! 多分だけど、みゃーが思うに───」
「──その人は塚原先輩、にぃにのことをいろんな事知っててね」
純一「………」
「──その人はお互いの気持ちを、よく理解してる」
響「………」
「──その人は二人の幸せをいっつも願ってて」
純一「──塚原、せんぱい…!」
「──その人はいつも見守り続けてるんだよ」
響「……まだ何か用?」くるっ
七咲「それって……もしかして」
美也「そうだよ、逢ちゃんの想像通りだと思う」
美也&七咲「───森島先輩!」
純一「──これ、誰かの置き忘れでしょうか…?」がさ…
響「え…?」
純一「そこに置いてあったんです、綺麗な傘だけど…」
響「それ、私の傘…!」
純一「えっ? 本当ですか? 今日は傘を持ってきてなかったんじゃ……」
響「元々学校においてあったのよ、忘れたままだって言い換えてもいいけれど……
…今日に限って誰かに盗られちゃったかな、なんて思ってればこんな所に…」
純一「そうなんですか…偶然ですね、どうぞ」すっ
響「ありがと───偶然、そうかしらね」
純一「え? どうしてですか?」
響「…………」
響「……」バッ! くる!
響「………」じぃー
純一「…塚原先輩?」
響「──気のせい、かしらね。誰かに見られてると思ったのだけれど…まあいいわ」
響「………」
純一「とりあえず、こうやって塚原先輩の傘が見つかったということで…
…良かったですね、先輩。僕もこれで安心して家に帰れます」
響「………」
純一「それでは、これで。風邪を引かずに夏の大会、頑張りましょうね」
純一「じゃあこれで───」
響「──ま、まって…!」ぐいっ
純一「……え?」
響「ちょっと……待ってくれないかしら、橘くん…!」
純一「えっと…はい、別に構いはしませんけど」
響「そ、そう……ありがとう、ごほんっ」
純一「…?」
純一「はい?」
響「…………」じぃー
純一「先輩……?」
響(───ああ、もう! やっぱり私には無理よ…! はるか!)
響(……貴方が言うとおり、まったくもってはるかの言うとおり!
この子は雨宿りしているところまで私を探しに来てくれた…)
響(そしてこうやって、私のことを心配してくれてて…)
響(しかも私のことをお母さんみたいだと思ってるみたいってことも合ってるし、
それにこっちが帰りなさいって言ったら、意地を張って帰りたがらなくなった)
響(───すごいわね、はるか…全部あたってる)
響(普段はあれだけ空気を読めないっていうのに…こういう時に限ってあれなんだから…)
響「……はぁ、私もどうしてはるかの作戦に乗っかっちゃったのかしら…」
純一「……え? 今、なんて言ったんですか?」
響「っ……な、なんでもないわ! うん!」
こうやって雨宿りしているのは、全部はるかが考えた作戦……)
響(……君がこうやって私を探しに来てくれるのか。どう普段思っているのか。
なんてことを図るためにやってしまったこと…)
純一「………?」
響(…言ったら怒るわよね、はるかはバラしても怒らないって言ってたけれど。
流石にここまでやってしまったら……だめよね、うん)
響(どうしよう……後はこの傘で一緒に帰って作戦は終わるのだけれど。
ううっ…なかなか言い出しづらいわ…なんて顔をしながら言えばいいのよ…!)
響「………橘、くん…」
純一「……なんですか? 僕になにか言いたいことでも…?」
響(……言いたいことは沢山、ある。君に言いたいことは、いっぱいあるわ)
響(なんだって言いたい、どんなことだって伝えたい。でも…私はそれに躊躇してしまっている。
君が私のことを……お母さんって呼んでしまったように)
響(……私も、君のことが本当に好きなのかって。きちんと一人の子として……ううん、違うわね)
響(──一人の男性として、本当に好きなのかって。戸惑いが残ってしまっている)
純一「───……」すたすた…
響(でも、それが本当に君のために、自分の本心で言ってることなのか…とてもじゃないけど自信がないの…)
純一「………」ぴた
響(あの時の、私の料理を食べに来てくれた日のこと……私は一日たりとも、今まで忘れたことはないのに…)
響(……どうして、ここまで曖昧なのかしら。最低ね、わたしって……)
純一「……先輩、ちょっといいですか」すっ
響「──……え? どうしたの、たち……」ぴとっ
響「っ〜〜〜〜!? な、なにっ? 急にどうしたのっ?」
純一「動かないでください、きちんと体温を測れないじゃないですか…うーむ」
響「測れないってっ……で、でもおでこを当てなくてもいいじゃない…っ」あたふた…
純一「先輩だってやってくれたじゃないですか」
響「そ、それはそうだけどっ……ううっ…」ぷい…
純一「……ちょっと熱っぽいですね、というか先輩。貴方だって雨に濡れてるわけですから、寒いんじゃないんですか…?」
純一「でも女の子です。強がっちゃダメですよ」
響「お、女の子……?」
純一「そうです! 塚原先輩は一人のか弱い女の子です!」
響「……でも、お母さんっぽいのでしょう?」
純一「そうですけど、それは別に塚原先輩が強いってことにはなりませんし。
それに、お母さんっぽいってだけで…僕は塚原先輩を蔑ろにするつもりはこれっぽっちもないですよ」ぎゅっ…
響「っ……」
純一「……ほら、こんなにも手がつめいたい。さっきから変に強がってると思ってましたけど、こんなにも身体冷えてるじゃないですか」
純一「やっぱりダメです。一人で帰らせるなんて、僕には出来ません。
傘は見つかりましたけど、それでもやっぱり僕は心配です」
響「だ、大丈夫よ…」
純一「だめです。とりあえずここからどっか行きましょう、先輩の家は……遠いからちょっとあれですね」
響「え…まあ、そうね…でも、他に行く場所なんて…」
純一「ありますよ、ここから近くて雨宿りができるところ」
純一「───僕の家です、塚原先輩」
がちゃ…
純一(せ、先輩……どうぞ!)こそこそ…
響(こ、ここまで来ておいてなんだけど…やっぱり私は…!)こそこそ…
純一(何言ってるんですか…っ! これから帰ったら、逆にあそこから遠くなってますよ…!
だからもう雨が止むまで、ここにいてください…!)
響(で、でも…! 七咲だって居るのでしょうっ…? もしバレたら明日どんな顔をすればいいのか…!)
純一(見せつけてやればいいですよ! ほら、はやく上がってください…!)
響(あ、ちょっと…背中を押さないで…!)
自部屋
純一「───ふぅ、なんとかバレずにここまでこれた…」ばたん…
響「…………」きょろきょろ…
純一「あ、すみません。とりあえずなんか拭くもの持ってきますね、先輩」
響「えっ、あ、うんっ…ありがとう、橘くん…」
純一「いえいえ」がちゃ ばたん
響「………」
響「……勢いで来てしまったけど、まさか橘くんの家にあがることになるなんて」
響「……。これも予測してたのかしら、はるか…」
響「へくちっ……ああ、我慢してたくしゃみが…」
響(あの子を心配させないために、我慢してたけれど…そろそろ限界ね)
響「……それにしても、ここが橘くんの部屋なのね。ふーん、意外に綺麗なものね……」ちらっ
響「ってあれは、なにかしら?」すたすた…
響「……押し入れが半分、開いてる。なにか挟まってるみたい」ずずっ…
響「あ、落ちた……なになに──…雑誌?」
響「なんの雑誌かしら……っ!?」
響「こ、これって……」きょろきょろ…
響「……ごくり」
数分後
純一(やけに美也と七咲に絡まれて少し遅くなってしまった……あれ、なんだか静かだなぁ)
純一「先輩、ちゃんと部屋にいますか───」
響「………」
純一「あ、ちゃんといた…なにやってるんですか? 押入れの前に座り込んで…」
響「………」
純一「…ん? 先輩、なにをして………」
純一「………先輩? それって僕のお宝本…」
響「っ〜〜〜〜!? た、橘くんっ!?」ばっ
響「ち、違うのっ! こ、これは押入れから勝手に…!」あたふたっ…
純一「……か、勝手に押し入れから取り出して読んだんですか…?」
響「そ、そうじゃなくてっ…! 押し入れから出てきて…!」ぶんぶんぶん
純一「…………」
響「ち、違うのよっ……別に興味が惹かれてたわけじゃなくて……そのっ……」
純一「……でも、えらく興味津々によまれてたみたいですけど…?」
純一「………」じぃー
響「……なにっ…? そんなに見つめて…っ」ちら
純一「……興味があるんですか? 先輩ってそういうの」
響「……きょ、興味があっちゃ悪いっていうの…っ?」
純一「えっ! い、いや…悪くは無いですよ、一応……女子高生ですしね…うん…」
響(……って私ったらなんてことを! 勢いでなんてこと言ってるのよ…っ!)ぷるぷる
響「い、いい今のは忘れて…! 忘れなさい! 橘くん!」
純一「忘れろって……そんな、無理ですよ」
響「無理じゃないのっ…忘れないさいっ」すたっ
純一「えっ…!?」
響「いいっ!? このことは忘れるっ! わかった!?」がしっ
純一「は、はははいっ…! わ、わかりました…!」
響「よ、よろしい……じゃあこれは、私が没収します…」
響「……橘くんにはまだ、早すぎると思うの。こういうのは」ぱちんっ
純一「かばんに仕舞われた……って塚原先輩!? それってただ自分が読みたいだけなんじゃ…!」
響「ち、違うわよっ。私は別にそんなこと……」
純一「……はぁ、わかりました。じゃあとりあえず、没収という形で…」
響「形じゃなくて、ちゃんとこれは没収…っ」
純一「……わかりました。没収で」
響「うんうん……」
純一(えらく気に入ってるみたいだけど、ジャンルはなんだったのかな……多分、お姉さん系だな。
昨日、寝る前に読んでたし…)じぃー
響「………な、なに?」
純一「…あ、いえ。なんというかその、先輩も……お姉さんっぽくて良いですよねって思って」
純一「はい、大人っぽくて頼り甲斐があって……僕が想像する通りのお姉さん、って感じがしますよ」
響「へぇ〜……そう、なんだ……ふ〜ん…」
純一(あ、嬉しそう…塚原先輩ってなんだか家族で例えられるの好きなのかな…?)
響「そんなことより! 橘くん、そのバスタオルかしてくれるかしら?」
純一「あ、はい! どうぞ!」すっ…
響「ありがと、それじゃあ借りるわね」す、すすっ…
純一「あ、先輩が髪を解くのって初めて見るかも知れませんね」
響「…そうかしら?」
純一「はい、なんだか髪を下ろした先輩って……いつも見ている姿と変わって、ちょっと新鮮ですよ」
響「ふふっ、そういうものかしらね。私にはちょっとわからないけれど……」ごしごし…
純一「……とりあえず、吹き終わったらですね…先輩、ちょっとお願いがあるんですけど」
響「なにかしら?」
純一「えっとその、あれです……制服、脱いでもらってもいいですか?」
純一「……あ、いや! 別に変な意味はこれっぽっちもないですよ! ただ、乾かすためにそういってるだけであって…!」
響「ふふっ…わかってるわよ、そんなに慌てないの」
純一「そ、そうですか……」
響「それじゃあそうね、上着をお願いしてもいいかしら」
純一「え、だめですよ。ちゃんとシャツもスカートも乾かさないと!」
響「え、でも……」
純一「着替えは…僕の服を貸してあげます。えっと確か……ああ、あったあった」
純一「ちゃんと洗ってあるので、大丈夫です。ど、どうぞ…」すっ
響「あ、ありがと……」すっ…
純一「………」
響「…そして君は?」
純一「えっ!? あ、そうですよね! 僕がいたら着替えられないですよね…あはは!」
純一「わ、わかりました! じゃあまたあとで…!」
響「う、うんっ……」
がちゃ… ばたん
響「……橘くんの服かぁ…くんくん」
響「……洗剤の匂い…って私っ…! これじゃあ橘くんに言える身じゃないわね……」
響「……とりあえず、着替えましょうか」ごそごそ…
数分後
純一「……また、お宝本読んでるってことは無いよね。うん」がちゃ
純一「───せんぱい、着替え終わりましたか…?」
響「…終わってるわ。それとノックはきちんとしなさい」
純一「すみません……─────」じぃ
響「…ん、どうかしたの? 黙りこんで…」
純一(せ、先輩が……ぶかぶかの僕の服を着て……髪を下ろしてベットに腰掛けてる…!)
純一(どうしよう……とてつもなく無防備だよ塚原先輩!
ベットに腰掛けるだなんて……もしそのまま押し倒してしまったらどうするつもりなんだろう…!)
純一(…まあ、そんなことはしないけど)
純一「着替えたみたいですね、サイズは大丈夫でしたか?」
響「うーん……意外と着れたわね。身長がキツイかなって思ってたけれど、案外君って身体が大きいのかしら」
純一「あはは、先輩よりは大きいつもりですよ。それじゃあ制服をこっちに…」
響「はい、それじゃあよろしくお願いするわね」
純一「わかりました、それじゃあ乾燥機に入れてきます」
数十分後
純一「だからどうして美也と七咲はやけに僕に絡んでくるんだよ……また時間がかかってしまった…」
純一「せんぱい、すみません……遅くなってしまって…」がちゃ
響「すー……すー……」
純一「……塚原先輩?」
響「すぅ……すー…」
純一「……先輩、塚原せんぱーい…?」
響「すぅ……」
純一「………」
純一(───え、本当に寝てしまってるのか? 嘘だろ…)
響「すぅすう……」
純一「本当に無防備すぎるっ…先輩、貴方には身の危険というのはないのですか…」
純一(…まるで森島先輩みたいだ…塚原先輩はそういったことはしないって思ってたのだけれど…)
純一「この眠りようだしなぁ……うん」ぎしっ
塚原「すぅー……すー…ん、んんっ…」ごろり
純一(わわっ……胸元がはだけて、中が……見てませんよ! 僕は見てません!)ちらっ
純一「──ぶっはっ!? え、先輩……こ、これって…!」
純一(下着をつけて……ない!)
純一(ど、どうして…あ、そうか! さっきのたたんでいた制服の中に入れ込んでおいたのかな…
…すると下着まで濡れてたのか…ふむ、なるほど……)
純一(って、なるほどじゃないよ! こ、これは大変なことになった…まさか塚原先輩、なにもつけずに…
…僕の服を着ているとでもいうのかっ!?)
純一(──この服は、一生洗わずに置いておこう)
純一「……それにしても、塚原先輩。なんでこうも無防備なのだろう…」
塚原「…すぅ…すぅ…」
純一「……僕が、お母さんって読んでしまったからかな。だからこうやって、何も気負わずにできるのだろう…」
純一(それは、僕にとって嬉しいことだけど…だけどやっぱり、そういうのってどうなのかなぁ)
純一「……やっぱり、僕って男して見られてないのかもしれない、のかな」
純一「…………」
塚原「……すぅ……」
純一「──仕方ないかな、僕ってばどうしようもないし……先輩、ほら風邪を引いてしまいますよ」
純一「──よし、これでいいね。ちゃんと毛布を被せられた」
響「すぅ……」
純一「………」ぎしっ…
純一「───先輩、塚原先輩。僕は先輩のこと大好きです」
純一「あの時に告白してから……ずっと僕は先輩の専属マネージャー、まではいかないけれど。
水泳部の一員として先輩の側で頑張って来ました」
響「すぅ…すぅ……」
純一「たった数カ月の事だったけれど、この塚原先輩と過ごしてきた日々は……僕にとってなによりも大切な一時でした」
純一「………」
純一「……でも、それも。僕はやめたほうがいいのでしょうか」
純一「こうやって曖昧な関係のまま……側に付き添って行くのは、塚原先輩にとって迷惑ではないですか…?」
響「すぅ……」
純一「貴方がごくまれに、見せる表情で───困った顔をしているのを知っているんです」
純一「───やっぱり、無視はしてはいけないことだと思うんです」
純一「僕は先輩のことが好きで、ずっと傍にいたくて……でも、それが塚原先輩にとって迷惑なのなら…」
純一「……僕は、貴方の側から離れても良いと思ってます」
純一「……それはとっても辛いですけど、耐え切れないほどに、泣きたくなってしまうけれど……」
純一「僕は、塚原先輩のためならなんだってするつもりです。だから、だから───」
純一「───僕を嫌いになるのだけは、どうかしないでください……」
純一「………」
純一「………こんなこと、絶対にいえないや。言える自信なんてこれっぽっちもないよ」
純一(だけどこれは僕の本心だ───いつかは言わなくちゃいけなくなるって分かってる。
きちんと話をして、決心をしなくちゃいけないことだ)
純一「……でも、もう少しだけ…先輩、響先輩……貴方の側にいさせてください」すっ
ちゅっ…
純一「───ごめんなさい、こんな形で奪ってしまって。二度目の…キス、ですけどね」
純一(──さて、僕は……ちょっと外に行って雨の様子でも見てくるかな。
この部屋の窓からでも確認できるけど…あはは、先輩も寝てるしね)
純一「……それじゃあ、先輩。おやすみなさい」
純一「七咲が帰ったのが確認できたら、また起こしに来ますから……では」
純一「よいしょっと……」ぎしっ…
ぎゅうっ
純一「───え、なんだ……うわぁっ!」ぐい
ばたん……
純一「な、なんだ……っ?」
「───行かないで、お願い…」
純一「え、つ、塚原先輩……?」
響「…………」
響「…お願い」
純一「え、ええっと……お願いと言われましても…!」
響「…本当にお願い。行かないでくれたら……嬉しい」ぼそ…
純一「……わ、わかりました。何処にも行きませんよ…」
響「うん……ありがと、橘くん」
純一(う、うわああー! 服越しにっ…柔らかいのが、二つ腰にあたってる…!)ドキドキ
響「………橘くん」
純一「は、はい…なんでしょうかっ?」
響「………」
純一「…………」ドキドキ
響「……私のこと、嫌い…?」
純一「…え、そんなことないですよ…!」
純一「っ……辛くはない、って言いたいですけど……」
響「………」
純一「……今の関係は、僕にとっては辛いです」
響「…そっか、そうよね」
純一「…はい」
響「…………」
純一「…先輩は、辛くは無いですか」
響「…私は───……うん、辛いわ」
響「君と曖昧の関係のままで……どうしようもなくて、辛くて、わけがわからなくなってる」
純一「…僕もです。先輩とうやむやのままで、どうしたらいいのわからなくて…とっても辛いです」
響「うん、わかってる……わかってるの……ちゃんと、私にも」
純一「………」
響「でも、どうしよもない……考えても、一生懸命に考えても…どうしたらいいのか、全くわからない…」
響「……この気持は、君と一緒。どうにかしたいって思ってるのに、どうにもできない…
……だって悩んで考えてることと、思ってることに…とても違いがあるんだもの…」
響「必死に考えても、結局はこうじゃないのって…思ってしまって。最初からやり直し」
響「私は結局───……君のこと、本当に…好きなのかって思ってしまう」
純一「………」
響「……君はなにも悪くない。むしろ私にとってとても良くて、何度も何度も助けられたことだって…
…この数ヶ月でいっぱいあったわ。だけど…それに答えるほどに…わたしは…君に…」
響「…してあげられることなんて、考えても思いつかなくて……」
純一「………」
響「だから、なにも思いつかない私は……本当に君のことを大切に思ってるのか、不安でしょうがなくて…
…なにかしてあげたいって思うのに、それなのに……」
純一「……先輩、ちょっといいですか」
響「…なに、橘くん…?」
純一「……この際、はっきりといいますけど……僕はべつに塚原先輩からお返しを欲しがってるわけじゃないです」
純一「当たり前です。僕はお返しをして欲しくて…先輩の側にいるわけじゃないです。
ただただ僕の自己満足を満たすために、塚原先輩に近づいてるだけなんです」
純一「そんな馬鹿で、みっともない僕の行動に……先輩がきにすることなんてこれっぽっちも無いですよ」
響「……でも、君は…」
純一「…たしかに、そうやって僕の勝手に塚原先輩が何も言わないのは……凄く辛いです」
響「………」
純一「でも、ですよ」
響「……でも、なにかしら…?」
純一「でも、僕は───…そうやって先輩が一人で悩まれてるほうがとっても辛いです。
僕の事で凄く悩まれてること……それは僕にとって一番に辛いことです」
響「私が悩むことが…?」
純一「はい、だって……先輩が僕の事で悩むだなんて」
純一「──とっても苦しくて、悲しくて……そして何よりも嬉しいんですから」
響「……嬉しいの?」
純一「はい、どんな感情よりも…僕はとっても嬉しいです」
先輩にとって……僕にたいするお返しでもあるんです」
響「お返し……」
純一「そうですよ、僕はもうちゃんと貰っていたんですよ……塚原先輩。
先輩から僕にきちんと返していたんです」
響「…こうやって悩むことが、君にとって嬉しいから。それがお返しになるってこと?」
純一「はい、こうやって先輩が悩んでることを言ってくれただけで……僕はとっても幸せです」
純一「…だから今の僕は、全くもって辛くはありません」
響「橘くん……君は…」
純一「……僕は、そんな奴なんです。きちんとしたお返しがなくても、たったそれだけで嬉しがる馬鹿な奴なんです」
純一「だから塚原先輩………いや、ひびき先輩。僕は貴方の側にずっといたいんだ」
純一「片時も離れず、貴方の側で……同じ時間を過ごしたい。
そうして響先輩も…いっぱいいっぱい悩んでください、辛がってください」
純一「僕はそれをずっと受け止め続けますから。一瞬も気も抜かずに、これからずっと」
純一「……先輩を好きで居させてください」
響「……これからずっと…」
純一「……はい、これからずっと」
響「わたしは……まだちゃんと自分の思いに収拾がついてないけれど…それでも、いいの?」
純一「いいんです、だったら僕と一緒に見つけましょう。その先に何が待ってるか…僕と一緒に」
響「君と、一緒に……こらからずっと…」
純一「……僕は今、そうしたいって思ってる。響先輩はどうですか?」
響「……私は…」
純一「…今、僕にこう言われて。今思っている気持ちはどうですか」
純一「───嬉しかったのなら、そうしたいって思ってくださったのなら……頷いてください」
響「………」
純一「………」
響「………」
響「………うん、そうしたい」こくり…
響「………」ぎゅう…
純一「あはは、先輩……痛いですよ」
響「……たちばなくん…っ…」ぎゅう…
純一「どうかしましたか…?」
響「……ごめんなさい、本当に私は…我侭で…どうしようもなくて…」ぎゅっ…
純一「いいですって。だって僕も馬鹿で、どうしようもないですから……似たもの同士ですよ、僕らって」
響「……うん、うん…」
純一「だから、似たもの同士なら…これからもずっと仲よくやって行けれますって!
心配なんていりません。反省なんて入りません…だって僕らは似たもの同士だから」
響「お互いに思ってることは……もう、わかってる」
純一「そうです、考えたことも悩んだことも……僕らは言葉にする前にわかってしまっている。
こんなのって、家族以外にいませんよ。響先輩ぐらいですって」
響「…私も、橘くんぐらいよ…本当に」
純一「あはは」
純一「感謝だなんて、大げさですよ」
響「ううん、言わせて欲しい。これは……ケジメだから」
純一「…ケジメ、ですか?」
響「そう、私のケジメ……言葉にすることによって私も君も。
そうしなきゃいけないってことを決めるための──…けじめなの」
純一「どんな…ケジメですか?」
響「……こっちをむいてくれるかしら、橘くん」
純一「はい…」くる…
響「……」じぃ…
純一「……先輩?」
響「……抱きついてきて」
純一「……え?」
響「〜〜〜……その、私にっ…そのまま抱きついてきて欲しいの」
純一「本気でいってるんです、か……?」
響「ほ、ほら……ね? 私はいいから……君から私に抱きついて…」
純一「っ……わ、わかりました…! じゃ、じゃあ……」ぎしっ…
ぎゅ、ぎゅう……
純一「こ、こうですか…先輩…?」
響「んっ……そう、そんな感じ…」
純一「……あ、暖かいですね…!」
響「そうね…暖かい……」
純一「……そ、それでっ…あの、これはどういった理由で…?」
響「……今、必死になって考えた…君へのお返し、かな」
純一「…お返し…?」
響「そう……君は悩んでくれるだけでいいって言ってくれたけど、私はやっぱり…
…行動で表したほうがいいって思う。だから…こうやって抱きついてみた感じかな、うん…」
純一(……あ、よくよく思い返してみるとこれって響先輩に没収されたお宝本と同じ展開だ…)
響「……ど、どうかな? 嬉しい、橘くん…?」
響「そ、そっか……うん、よかった頑張って…」かぁあ…
純一「えっと、それじゃあ先輩……」
響「…うん?」
純一「このあとの展開って……あはは、考えてたりしてます…?」ドキドキ…
響「それは…まだ考えてなかったりする、わね」ドキドキ…
純一「そ、そうですか……だったらその、僕の方で良い展開を思いついたんですけど…」
響「……そうなの? あ、でもまって…私もちょっと思いついたかもしれない」
純一「え、本当ですか…? 奇遇ですね、それじゃあお互いに……思いついた展開を、やってみますか…?」どき…
響「……いい、考えね橘くん。私もいいと思うわ、それって……」どき…
純一「……じゃ、じゃあその…」すっ…
響「……うん、橘くん……」すっ…
響「───私も、好き……橘くん」
すすっ……ちゅっ
純一「っ……もっと、しますか…?」
響「……君の展開は、そう望んでるのかしら…?」
純一「それは響先輩と一緒のはずですよ、ちゃんと」
響「ふふっ……そうね、確かにそうだわ」
響「とっても奇遇ね、私も……まだまだ展開が思いついてくるわ…」
純一「凄いですね、もしかしたら僕とまったくもって一緒だったりするんじゃないですか…?」
響「……かもしれないわ、例えるなら……そう、さっきの雑誌みたいな展開、とかかしら?」
純一「っ……な、なるほど。それはとてもいいことですね…!」
響「うふふっ……なるほどね、こういうのって…素直にうれしくて、楽しいわ…橘くん…あのね」
純一「はい、なんでしょうか…?」
響「私は…君のこと大好き。だから、お願いしてもいいかしら───」
響「──これからも、ずっと私のそばに居てくれること。最後まで、ずっとね」
途中なんども寝落ちすんませんでした
次は安価でもしようかな>>190を書きます
ではうんこ
話のつながりはなく
みんなとイチャコラするのが目的です。それと前回の続きってことで
八時十分に書きます
高橋「ごくごく……ぷあぁ…」
高橋「今日も暑いわねぇー……」
純一「……それはもちろん、夏ですからね」
高橋「そうよねぇ、こんな日はクーラーがきいた部屋の中でキーンと冷えたビールを一杯……」
純一「先生、お酒弱いじゃないですか…」
高橋「弱くたって飲みたいものは飲みたいんですっ!
ですから橘くん、さっささとすませて帰りますよ!」
純一「…はぁ、そうしたいのはやまやまなんですが……終わりそうもありませんよ、これって」
高橋「初めから諦めてかかってはダメです! 始まりがあるものは必ず終わりがある、
この言葉を忘れてはダメですよ?」
純一「まあ、そうなんでしょうけど……でも」
純一「この量の仕事は……流石に、僕と高橋先生だけじゃ無理ですって…」
高橋「うっ……そ、そう言われると……」
純一「……よくもまあこれほどまで貯めこみましたね、先生…」
純一「…まあそうなんだろうと思いますけど、先生…なんというか、その…最近ちょっとだらしなくないですか…?」
高橋「えっ? だ、だらしない…?」
純一「ええ、少しだけそう思ったんですけど……こうやって放課後まで事務室で書類の分担を残してるし。
それに昨日も僕が手伝わないと終わらなかった仕事が残ってたじゃないですか」
高橋「うっ……」びくん
純一「そんな感じで、最近の高橋先生って…だらしないというか、気が抜けてるというか」
高橋「…そ、そうかな? 自分じゃなんにも気づいてなかったけれど…」
純一「そうでしょうね、というかそれも…だらしないっていうのは普段の授業ではあんまり見せてませんし。
どっちかというと、僕と一緒にいるときに限ってだらだらしてるというか…」
高橋「そ、そんなことないわよ…! 先生は誰にだって区別なく接しているつもりよ…!」
純一「…じゃあ僕は今日、何時に帰れるんでしょうかね。とっくにもうみんな帰ってしまってるのに」
高橋「そ、それはっ…その………うん……ごめんなさい、橘くん…」
純一「…はぁ。いいですよ全然、僕は気にしてませんし……というか先生がきにしてください」
純一「はい、そんな風にだらけるのって……大人として、というか女性としてどうなのかなって思いますよ、僕は」
高橋「大人の女性として……」
純一「昔の先生はもっとしゃきっとして、かっこよかったのになぁ〜…」
高橋「……今の私って、橘くんから見て…かっこよくないのかしら…?」
純一「…見る影もないですね、はい」
高橋「そんなっ……」ガーン
純一「それはそれで…まあ僕は面白くて好きですけどね」
高橋「えっ……そ、そうなの?」
純一「ええ、そうです。好きです、今の感じの先生も」
高橋「ええ、そんな……もう、橘くんったら……えへへ」もじもじ
純一「…先生、手を動かしてください」
高橋「あ、はいっ…!」びくん
純一(───やっぱり、おかしい!)
高橋「よいしょ…よいしょ……」
純一(な、なんなんだッ───この、先生の優しすぎる優しさは……ッ!
なんとなくワーワーと言ってしまったけれど、物凄く素直に聞いてくれたし……ッ!)ダラダラ…
高橋「これは、これで……うん?」ちら
純一(しかも僕が先生を窘める展開が普通に起こってしまっている…!
どうして僕が場の流れの主導権を握ってるのだろう…!なんだこれ!)じぃー
高橋「…」にこっ
純一「…あ、あはは…」
純一(微笑みかけられた……くそ、可愛いからいいか)
純一(って駄目だろ僕! これは駄目なんだ……僕が好きになったのはこういった甘いところがあるから、
ってのもあるけれど…! それよりも僕は以前までのキリッとした先生も好きだったんだよ…!)
純一(あの頃の先生に戻って欲しい、と。僕は思ってる……また当時みたいに怒ってくれる先生に会いたい!)
純一(僕はまた先生にお尻をはたいて欲しいんだ! だから……くそ、考えるんだ僕…!)
純一「どうしたら……どうしたら、いいんだ…」
純一(──あ、そっか! 先生に怒られるぐらいのことをしたらどうだっ?)
純一(怒られるほどなことをしてしまえば、先生も当時の自分を思い出してくれるかも知れない…ものは試しだ、やってみよう!)
高橋「うんしょっと──……うん? なにかしら橘くん」どさっ
純一「ちょっと、失礼します……そこの書類がとりたくて…」すっ…
高橋「え、どこかしら? 先生がとってあげますよ」
純一「いや、大丈夫です。僕が取りますから───」すすっ…
さすり…
高橋「───きゃっ…!」ぴくんっ
純一(ど、どうだ…!? 遠くの物を取ると見せかけ装い、先生の背筋をさするこの行為…ッ!
ポイントはさり気なさを醸し出しつつ、実は思いっきり狙ってたよと分かる風にすることだ!)
高橋「………」
純一(これなら先生も…流石に怒るに決まっている! さあ! 怒ってください先生!)
高橋「……も、もうっ…くすぐったいじゃない…」ぷいっ…
純一「えっ……?」
高橋「今度から、気をつけなさい……先生、背中弱いんですから……」かああ…
高橋「い、いいですよっ……先生は気にしてませんから…っ」
純一(いや気にしてください! どうみてもわざとがっつりとさすってたじゃないですか…!
それにどうして恥ずかしがるだけなんですか……なんなんですか…)
高橋「っ……」もくもく…
純一(……ってあれ? なんだか気まずい雰囲気になってる…?
先生、本気で恥ずかしがってるじゃないかっ……いや、違います! こんな雰囲気が欲しかったわけじゃないです!)
高橋「……先生は、きにしてませんから…ほら手が止まってますよ」ちらっ
純一「あ、はいっ……ごめんなさい…」
高橋「わ、わかればいいんです…っ」がさごそ…
純一(完全に気まずくなってしまった…恥ずかしがりすぎだよ先生!可愛い!
くそ、これじゃ駄目だ…もっと強引でわかりやすいようにしないと今の先生にはだめだ…!)
純一(どうすれば、いいんだ……打開策を、なにか……うーん…)
純一「……あ、そうだ。これがあるじゃないか…」
高橋「……ん? どうかしたの?」
純一「えっと、先生……ちょっと言い忘れてたことがあったんですけど…いいですか?」
純一「えっと、あはは…それはですね」
純一「───僕、明日の提出の課題…まったくやってないです!」
高橋「え……?」
純一(定番中の定番! 課題のど忘れ! この流れは僕が高橋先生が担任になってからずっと行われてきた
スタンダードな問題だよ! どうだ先生……へっへ、これなら僕のこと怒ってくれるでしょう…?)
高橋「………」
純一「すみません、すっかり忘れてて……あはは」
高橋「………───」ぐぐっ
純一(う、うおおっ……先生が身構えたっ! くるのか、くるのか!? あの一撃が!?)
高橋「…………」ぐぐっ…ぐっ…ぐす…
純一「えっ…?」
高橋「ご、ごめんなさいっ…私が最近、色々と仕事を手伝わせちゃったから……貴方が課題をする暇がなかったのね…」ポロポロ…
高橋「まさか貴方がそんな風に困ってただなんて……わたし、わたしっ…教師失格よね…っ…ぐしゅっ…」
純一「そ、そんなことないですよ…! 僕がただ、課題のことを忘れてただけで…!」あたふた…
高橋「で、でもっ……ぐすっ…忘れてしまうほどにっ…私が手伝わせてたせいでしょう…?」
純一(違います! まったくもって本当に忘れてました!)
高橋「本当にごめんなさい……私ったらっ…ひっくひっく…」
純一「先生……別に僕は先生のせいだって言いませんよ…?
僕が好きで先生の仕事の手伝いをしているだけで、なにも高橋先生は悪くありませんから…」ぎゅっ…
高橋「ぐすっ……ほんとうに…?」
純一「ええ、本当です。だから…泣かないでください、どうかお願いします…」
高橋「ぐしゅっ……ふふっ…そっか…うん、わかったわ……ごめんなさい、急に泣き出しちゃって…」にこ
純一「はい…」
高橋「すぐっ…年下に慰められるなんて、先生も駄目ね。えへへ……」
高橋「…ありがと、橘くん。もう離してくれていいわ…先生、大丈夫だから」
純一「あ、はい……」
高橋「…そうね、君も大変だって分かったから。今日はぱぱっと終わらせてしまいましょう、
仮に終わらなくても先生一人で残って終わらせますから、橘くんは気にしなくて大丈夫よ?」
純一「わ、わかりました……」
純一(……どうしよう、なんだか先生恐いよ…優しすぎるのを通り越して、ちょっと恐怖を感じるよ…)
純一(もう、今の先生になにをしても怒らないんじゃないか……?
なんかもうどんなことしても平気な気がするよ…)
純一「……先生、あの」
高橋「どうしたの?」くるっ
純一「………」
高橋「うん?」
純一「あたま……撫でていいですか?」
純一「……急に撫でたくなってきてしまって、とりあえず聞いてみようかなって…」
高橋「………」
純一「あはは、困りますよね? すみません変なこと言ってしまって…」
ずいっ
純一「……高橋先生?」
高橋「っ……ほ、ほら…いいわよ…?」
純一「え、」
高橋「撫でたいんでしょう…? だ、だから……ね?」
純一「………」ポカーン…
純一「あ、はい…」なでなで…
高橋「………」ドキドキ…
純一「あ、はい……もっとなでさせください…」なでなで…
純一「……あ、そうだ。匂いも嗅いでいいですか?」
高橋「……えっ!?」
高橋「っ〜〜〜〜……い、いいわよ…!」
純一(いいのっ!? じゃ、じゃあ遠慮なく……)くんかくんか…
高橋「え、あ、ちょ……そこはっ…首だから──んっ…」ぴくっ
純一「……嗅いでいいっていってくれたじゃないですか…くんくん…」
高橋「んっ! 息が首にっ……そ、それは髪の匂いだって思ってたから……っ」
純一「大丈夫ですって……先生、何処を嗅いでもいい匂いですから……」もぞもぞ…
高橋「あっ…そこは、ちが、う……んっ」
純一(凄い! もうなんだってありだよ!)
素晴らしい、素晴らしすぎる……)
純一(……なんかもう当初の目的忘れちゃったな…何がしたかったんだっけ、僕…)
高橋「たち、ばなくん…っ…」じぃっ…
純一「っ……高橋、先生……」ドキドキ…
がたっ……すた、すた…ぐいっ…
純一(勢いで壁に押し付けてしまった……)
高橋「はぁ…はぁ……たちばなくん…?」
純一「…先生、息が荒いですけど…どうかしましたか…?」
高橋「……だって、そんなことするから…」ぷいっ…
純一「そんなことって…なんですか? 言ってくれなきゃわからないですよ…僕」
高橋「……もう、意地悪しないで…」ぎゅっ…
純一「意地悪だなんて、僕はただ……生徒として、先生に質問してるだけですよ」
純一「……あはは、そうですかね? だって困ってる先生の顔、可愛いですから」
高橋「………ほんとうに、イジワルね」かぁあー…
純一「先生…顔を、上げてくださいよ」
高橋「…いや」
純一「どうしてですか、僕は上げて欲しいです」
高橋「……キスするつもりなんでしょ、だからイヤ」
純一「ダメですか?」
高橋「………だめじゃないけど、私は顔をあげないの」
純一「……」くいっ
高橋「っ……えっ…たちばな、くん…?」
純一「──じゃあ僕が顔を上げてあげました、ちゅっ」
高橋「んっ……!」
高橋「──…………」
純一「先生?」
高橋「え、あっ……うん、すっごくいい…と思います…先生は……」
純一「……もう一回したいですか?」
高橋「……」こくり…
純一「じゃあ、お言葉に甘えて……」
ちゅっ…ちゅ
高橋「ふぅ──んっ……たち、ばなくん……」ぎゅうっ…
純一「……良かったですか?」
高橋「うんっ……すっごくいい…先生、とってもキュンキュンしてるから…もっと…」
純一「わかりました、それじゃあもう一回……」
純一(デレデレすぎるよ!!!!!)
なんということだ、今まで妄想してきたノリを全部実現できてる…!)
高橋「………」じぃー…
純一(どうしてこんなにも先生は素直になったのだろう……わかんないや、これって僕に…惚れてるから?)
純一(……いやいや、確かに僕と先生は付き合ってるけれど。それでも、そこまで行くのはさすがに…)
高橋「……だいすき、橘くん…」ぎゅうっ…
純一(──あり得るかも知れない! どうだろう、またものは試しに……こんな事、言ってみるとかどうだろう…?)
純一「……高橋先生、僕…貴方に言いたいことがあるんです」
高橋「なに、かしら……?」
純一「あのですね……昨日…」
高橋「昨日…?」
純一「……昨日、先生の仕事の手伝いの後…」
高橋「仕事の手伝いの後…何かしら?」
純一「───他の女の子と、一緒にかえゴハァッ!?」ドス!
純一(ボディー…ブロー……っ!? こ、こんな一撃…今まで貰ったことがない…!)
純一「くっ…かはっ…たかはしっ……せんせぇ…っ?」ぷるぷる…
高橋「………」
純一「どう、して……こんなこと、を…?」
高橋「───先生は先生として、不純異性交遊を見逃すわけにはいけません」キリッ
純一「せ、先生が言ってもっ…なんら説得力がないんですけど…っ…」
高橋「口答えは許しません」
純一(暴君だ…)
高橋「……橘くん、君には色々としっかりいって置かなければならないことが沢山あるようね。
いいかしら、男子高校生たるものきっちりとした生活習慣を身につけなければなりません!」
純一「は、はいっ……」
高橋「それはいずれ大人になる為に──……ってこら、いつまでうずくまってるの! 正座よ正座!」
純一「わかりました……」ささっ…
純一(う、ううっ……そうだった、先生は自分に甘いくせに…他人のことになると物凄く怖くなる人だった…
そんな自分勝手なところがあるって知ってたけれど、ううん…違うな。そうだって最近になって知ったんだけど…)
純一(そこがまた、先生の可愛い所なんだってしって……僕はまたさらに好きになったんだった…)
高橋「つまりはです、私が言いたいのは───」
純一(先生はとってもかっこよくて、綺麗で、素晴らしい人だって……そんなことはとっくにわかってる。
みんが知っていることで、誰にだって周知の事実だ)
純一(……でも、こんなふうに身勝手に振る舞う先生を知っているのは──…僕だけだ。
僕にだけ、そう先生は僕にだけ勝手を押し付けてくれる)
純一(だからそれは先生が変わってしまったというわけじゃない)
純一(──先生が、僕に対して変わってくれたんだ)
純一(自分の想いを素直にぶつけてくれるんだって、先生として生徒としてじゃなくて。
……一人の人間として、一人の女の人として…僕と付き合ってくれてるんだ)
純一「……やっぱり、可愛いな麻耶ちゃんは」
高橋「……なんですか、今ぼそっていったのは! 聞いてるの? 先生の話しを!」
高橋「まやっ……こらっ! 急に下の名前でよばない!」
純一「じゃあ何時呼んであげたらいいんですか。僕はいつだって麻耶ちゃんって呼んであげたいです」
高橋「そ、それはっ…時と場合で……その、あれよ…」
純一「じゃあ今、僕は呼びたいです。麻耶ちゃん」
高橋「っ……もう、さっきから呼んでるじゃないの…っ」
純一「あはは、そうでした。だからもっと呼びたいですよ、麻耶ちゃん」
高橋「………下の名前で呼びすぎよ、もう…!」
純一「……照れてるんですか?」
高橋「照れてませんっ!」
純一「やっぱり可愛いです、麻耶ちゃん」
高橋「や、やめなさいっ…! ほんっとにもう、やめて…!」ばたばた…
純一「まやちゃーん」
純一「………」ぴた
純一「……今は、僕ら二人だけですよ」
高橋「え、あ、そうだけど……それでもっ!」
純一「それでも? なんですか高橋先生…?」
高橋「……それでも、私はそんな風に…」ごにょごにょ
純一「ああ、なるほど。下の名前で呼ばれるのは……もっと大切にして欲しいってことですか」
高橋「そ、そうよっ……あんまりそうやって気軽に呼ぶのは、先生はどうかって思うから……」
純一(名前を呼ぶぐらいで、いちいち気にする麻耶ちゃん可愛い)
高橋「……だ、だから! 先生は…っ!」
純一「──わかりました、先生。僕はこれからそんなに気軽に下の名前で読んだりしませんよ」
高橋「…本当に?」
純一「ええ、本当です。もっと時と場所を選んでいってあげます」
高橋「あ、ありがと……」
高橋「え、なに……急に近づいてきて…?」
純一「先生がいう、その……時と場所をですね」
純一「……この瞬間に、つくろうと思います」
高橋「ど、どういうこと……かしら…?」
純一「……僕が思うに、先生は…イチャイチャしているときに呼んで欲しいんでしょう?
雰囲気がいい時に、ここぞってときに言って欲しい。そうじゃないですか…?」ぐぐっ…
高橋「そ、それはっ……というか、たちばなくん顔が近い…」
純一「近づけてます。だから、ね……麻耶ちゃん」ぼそっ
高橋「うっ…ひっ…!」ぴくん
純一「───もっと今から、イチャイチャしましょう。仕事なんて放っておいて、僕と一緒に……ね?」ぼそぼそ…
高橋「っ〜〜〜!……だ、だめですっ…先生は、きちんと仕事は…っ」
高橋「っ……そ、それはっ……」
純一「大丈夫です、先生がもし教師をクビになっても……僕が養ってあげますから」
高橋「──え、それって……」
純一「……どうとでも受け取ってください。それぐらいに、僕は麻耶ちゃんのこと好きなんです」
高橋「たちばな、くん……」
純一「……いいや麻耶ちゃん、それは違うよ」
高橋「え、え、ええっ…!?」
純一「───純一、じゃないか。ほら、言ってごらん」ぼそぼそ…
高橋「っ〜〜〜……じゅんいち…」
純一「はい、お利口さんですね。頭を撫でてあげますよ」なでなで…
高橋「………」なでなで…
純一「…うん? どうしたの? なんだか嬉しそうだね麻耶ちゃん…?」
純一「そっか…それじゃあもっと、撫でて欲しいかな?」
高橋「う、うん……撫でて欲しい…」こくり…
純一「………」なでなで
高橋「………」
純一(すっごい嬉しそうだ……猫みたいだね、猫麻耶ちゃん!)
純一(さて、ここまでやっておいてなんだけど……どう収拾つけようかな…)
純一(仕事サボるのは流石に……うん、どうしよう!)
高橋「……純一、くん……」ポソ…
純一「あ、はい……ごほん。──なにかな、麻耶ちゃん…?」
高橋「そのね…あのね……」ごにょごにょ…ちらっ
純一「…うん?」
高橋「………───」
高橋「───……キス、したいかな?」
純一(このタイミングで! いや、いいタイミングではあるのだろうけど…
…いや、僕はただ怒られるのをやめたかっただけで…!)
高橋「…だめ?」
純一「だ、だめじゃないです! けど…その…!」
高橋「じゃあ……私から、するわ…」ぐぐっ
純一「え、でもちょっと待ってください…! やっぱり仕事とか…!」
高橋「…そんなのもう、どうだっていい。今は君しか見えてないから」
純一「うっ……」
純一(目が本気過ぎる…!)
高橋「…ねえ、こんな風に迫ってくる……大人の女性は、嫌い?」
純一「……き、嫌いじゃないです…はい…」ドキドキ…
高橋「そう、よかった……それじゃあ、いい?」
純一「いい、です………」
ちゅ
純一「……やっぱり…?」
高橋「貴方とキスするのは、とっても楽しくて……とっても嬉しい」
純一「ぼ、僕もです…」
高橋「ありがとう、ふふっ……もっと、したい?」
純一「もっとしたいです…!」
純一(…あれ? なんだか主導権がいつの間にか───)
高橋「そう、だったらいっぱいしましょう……もう、何もかも忘れるぐらいに。
仕事とか、課題のこととか……全部、忘れて…」すすっ…
純一「先生が…そんな事言っていいんですか…?」
高橋「うん? いいのよ、だって───」
高橋「───今は貴方の前にだけに居る、一人の女だもの」にこ
うんこ長すぎてすまん
便秘野郎なんだ
次はどうすっかな
美也らへんでも書くかな 十二時にかえってくる
落ちたらそれまで
じりりりりいりいりりり……
純一「───う、うーん……」
純一「……もう、朝か…早いな……うぅーん…」ごそごそ…
純一「……」ばん
純一「……もう、あと五分だけ……むにゃむにゃ…」
純一「………」
純一「………ん?」
純一(なんだこれ、暖かい物体が腹の上に……)ごそごそ…
「にゃー」
純一「……にゃー?」
純一「ってまさか!?」ばさぁっ
美也「ぐぅー…ぐぅー…」
純一「美也っ!? またお前、僕のベットの中に潜り込んできやがったなっ…!?」
純一「……そしてなんだよ、その下手くそな嘘寝は。起きてるんだろう?」
美也「すやすや……オキテナイヨ-……むにゃむにゃ…」ぽそっ…
純一「………」
純一「とぅおりゃっ!」ぐいっ!
美也「──にゃああー!?」がばぁっ
純一「うぉおおおおおー!!」ぐいっぐいっ
美也「にゃあ! にゃああああああー!!」
純一「どうだキツイだろう!? いきなり抱えられたらキツイだろう!?」
美也「にゃああああー!! にぃに下ろしてぇええー!」
純一「あっははははは! どぉーだ朝っぱからのこのハイテンションは!!
うざいだろうっ!? 面倒くさいだろう!? あっはははは!!」
数分後
純一「おえっ…気持ち悪い……」
美也「みゃーは楽しかったよ? にっししし」
純一(くそっ…最近、こんなノリが多くて慣れてきやがったなコイツ…)
素晴らしい…
美也「みゃーのお陰だねっ」ドヤッ
純一「ドヤ顔するなよ……さて、朝ごはんでも食べようかな。ほら、ベットの上からどけって美也」
美也「………ごろごろー」ゴロー
純一「………」イラッ
純一「───ふんふーん、今日はいい天気だから布団でも干そっかなー」すすっ
美也「……え、ちょ、にぃにっ…みゃーはまだお布団の上にいるからっ…畳んじゃだめ、うにゃー!」ばさっ
純一「んー? なんか声が聞こえたかなぁ、わからないなぁ」てきぱき
美也『にぃにー…!』
純一「よいしぉっと、うん?……なんだか近くで美也の声が聞こえた気がする……気がするだけか…」すたすた…
美也『にゃぁああー!!』ばたばた
純一「おかしいなぁ…暴れだすお布団なんてぼくしらないなぁ…」すたすた…
純一「もぐもぐ……明日は晴れか」
純一「よかったよ、明日はあれだったし───ん?」
ばたばたばた…… がちゃ!
美也「はぁーっ…はぁっー……!」
純一「よっ! 美也、今日は遅かったなぁ〜」
美也「はぁっ……はぁ……もう少しで、にぃに…お母さんに本当に干されそうになったんだよ…っ!」
純一「へぇーそっか。大変だったなぁ……もしゃもしゃ…」
美也「大変だったじゃないよっ! もう、ちょっと甘えたらすぐ怒るんだからっ!」
純一「朝っぱらからそうされたら、誰だって怒る」
美也「ふんだッ、にぃにはまったくもってわかってないよ! こうやって妹に起こされる兄が、
どれだけ恵まれてるかってねっ!」
純一「そっか、僕はそんなこと一生わからなくていいよ、うん」
美也「ぐぬぬっ…にぃにのばかっ!」ばたん!
純一「もぐもぐ……なんだよ、一体…ごくん」
美也「……くぅう…最近、にぃにってばちょっとみゃーに冷たい気がするっ…!」
美也「………」
美也(前は──……前の時は、自分に向かってえすこーとしやがれって言ったくせに……なんなのかな、あの態度っ!
みゃーはみゃーらしく、やってるつもりなのに。当の本人があれじゃ意味ないよ!)
美也「……はーあ。なんでこんな頑張ってるんだろ……みゃー…」
美也「………」いじいじ…
美也「───そんなこと……いまさら考えなくてもわかってるけど、ね」
美也「………」
美也「──とにかく今日も頑張ろぉっと! 元気にね、うん!」ぐっ!
美也「あ、そういえば明日って………」
居間
純一「ごくん……うっし。ごちそうさまでした!」ぱん
純一「今日一日は暇だなぁ〜……明日はあれだし、どこかでかけるのもなぁ〜…」がちゃ
美也「………」じぃー
美也「……もうとっくに食べたよ」
純一「あ、そうなんだ」
美也「………」じぃー
純一「な、なんだよ……とりあえず入って来いって」
美也「………」がちゃ… すたすた…
純一「…どうしたんだよ、まだ怒ってるのか? だったら謝るからさ…うん、面倒くさいけど」
美也「………」
純一(あれ、怒んないや……機嫌が悪いんじゃないのか?)
美也「…あのね、にぃに。ちょっと聞きたいんだけどいい?」
純一「どうしたんだよ?」
美也「……明日、修学旅行だよね。おみやげちゃんと買ってきてくれるんだよね」
純一「……やだ」
美也「えー!? 買ってきてよ!」
美也「……もっと?」
純一「……なんでもない、おみやげ? ああ、買ってきてやるよ。なにがいいんだ?」
美也「ほんとぉー! そしたらねぇ、にっしし。みゃーは京都版まんま肉まん八つ橋がいいなぁ!」
純一「…なんだそれ、ちゃんとした食べ物なのか?」
美也「ちゃんとしてるよ〜! みゃーはそれがいーい!」
純一「わかったよ、まんま八つ橋な。りょうかいりょうかい」
美也「違うよっ! 京都版まんま肉まん八つ橋だよ!」
純一「わかってるって。ごめんごめん、ちょっと間違ったよ」
美也「ものすごく違うからねっ! もう、ちゃんとわかってるのかなぁー……」
純一「大丈夫だって! ……それよりも美也、今日は暇か?」
美也「え、どうして?」
純一「うん、だったらさ───」
純一「やっ!」ぱしん
美也「えいっ!」ぱしっ
純一「おっ、打ち上げたな……そしたらここだぁ!」ぱしん!
美也「──ふっふっふ〜、にぃにの癖はわかりきってるんだよ!」ぱしっ!
純一「んなぁにっ! 僕の最高に決まったスマッシュがいとも簡単に…っ!」ぱしっ
美也「にっしし! それぐらい妹のみゃーだったらお茶の子さいさいだよ〜?」ぱしん
純一「くそっ…伊達に数年、僕とバトミントンしてるだけあるな……美也!」ぱしん!
美也「なんのっ! にししー!」ばん!
純一「こ、これもだめか……あ、しまった───」ぽすん
美也「いぇーいっ! みゃーのかっちぃー!」
純一「ぐ、ぐううっ……兄であるこの僕が…妹に負けてしまうなんて…っ」
美也「これでみゃーが通算でいうと……勝ち越しだけどね!」
純一「くそうっ……仕方ない、そしたら美也は何が欲しいんだ」
美也「素直でいいね、にっしし!」
純一「罰ゲームだしな、ここは素直に負を認めるよ」
美也「ひっどーい! そんなの罰ゲームにしないでよね!」
純一「冗談だって……それで? 美也はなにを欲しいんだ?」
美也「う〜んっとね……えっとね〜……あ、そうだ!」ぽん!
純一「あんまり高いものは買わせるなよ……」
美也「ううん、高いものじゃないよ? というか買ってほしいものなんてみゃーないし…」
純一「え? じゃあどうするんだよ、普通にまんま肉まんアイスバーとかでもいいぞ?」
美也「…………えっと、ね。そのぉ〜…」そそくさ…ちらっ
純一「なんだよ、はっきりしないなぁ…」
美也「……言っても怒らない、かな?」
純一「怒るものってなんだよ、そんなのが欲しいのか?」
美也「…うん、そんなのが欲しいんだ。みゃーは」
純一「うーん、まあとりあえず聞いてから決めるよ……どんなのが欲しいんだ美也?」
純一「…僕の?」
美也「……にぃにの、口にね……」いじいじ…
純一「僕の口? なんだよ、タバスコでも塗りたいのか……それはやめてくれ…」
美也「ち、違うよ! そ、そうじゃなくて…そういうことじゃなくて……っ」
純一「じゃあなんだ?」
美也「っ……っ………」もじっ…
純一「…なんだっていうんだ、そんなにも言いにくいことなのか?」
美也「えっ!? ん、まあ…そう、かな…?」
純一「…この際、ハッキリといってくれ。僕までドキドキしてきたから…」
純一(どんな罰ゲームを言ってくるかわかったもんじゃないし…美也は僕の出来る限界を把握してるからな…)
美也「じゃ、じゃあ……言っちゃうよ? いいの?」じっ…
純一「う、うん……」
純一(それにしても…さっきから美也のやつ。顔が赤いな…どうしたんだろう)
純一「お、おう……」
美也「にぃにと……その、ね………」
純一「その……なんだ?」
美也「………………………」
純一「……美也?」
美也「……っ〜〜〜〜……にゃあああー!!」ばっ
純一「…え? なに、美也っ! どうして飛びついてきて……!」
かぷっ
美也「んっ、んんんっ〜〜〜!!」
純一「あ、ちょ、こ、こらっ! 美也!? なんでお前、鼻に噛み付いてくるんだ…っ!」
美也「むむむっ! んん! んん〜〜〜!!」
純一「あ、暴れるなって!? 暴れるに決まってるじゃないかっ!? 痛いからやめてくれ…!」
純一「こ、これが罰ゲーム…!?」
美也「そうだよ、これが罰ゲーム……にぃには大人しくみゃーに噛まれてばいいんだよっ」かぷ
純一「ちょ、そこは耳だからっ…! うひゃひゃひゃひゃ!」
美也「もぐもぐもぐ……」
純一「く、くすぐったい! や、やめてくれっ…僕が悪かったから! 本当にやめて…!ひゃひゃひぁ!」
美也「もぐっ……ぷはあ───……最近、みゃーに冷たくてごめんなさいはっ?」
純一「えっ!? 美也、お前何言って……ひゃひゃひゃ! わかった! ごめん美也! 冷たくしてごめん!」
美也「もぐもぐ…ぷは、もうしませんはっ! もぐもぐ!」
純一「も、もうしませんっ! もう美也にはこれからずっと冷たくしません誓います!」
美也「ぷはっ……そ、それじゃあ……にぃには、みゃーのこと……ちゃんと、見てくれてるって…」
純一「ひゃひゃっ……えっ? なんてっ…?」
美也「……がぶうっ!」
純一「痛ぁああああああああ!?」
純一「いたた……まだ耳がひりひりするよ…」
美也「………」ムスー
純一「…なんなんだよ、一体。これほど好き勝手しておいて、まだ何か不満なのか?」
美也「……べっつにぃ。みゃーは何も思ってないよ、ふん!」ぷいっ
純一「………」
美也(……謝らせたことはできたけど、やっぱりにぃには朴念仁だよっ。
なーんにも乙女心がわかってない……やっぱりにぃには、にぃにだ)
美也(……というか朴念仁ってどういう意味なんだろう? なんとなく使ってるけど…うーん)
純一「……美也、ちょっとこっちを向いてごらん」とんとん
美也「…え、なに? にぃに──」ぷにゅっ
純一「やーい! ひっかかったぁ〜」
美也「……にぃに?」
だめだぞ美也! これは僕からの愛情表現なのだから!」
美也「……こんな愛情表現、みゃーは嫌い」
純一「そう冷たく言うなよ……いくら不死身の僕だって傷つくんだぞ?」
美也「身体は強くても、にぃには心と頭は、お豆腐さんみたいにふっにゃふにゃでしょ」
純一「豆腐メンタルか……これは言い返せないな」
美也「それでなんなの? ただいたずらしたかっただけ?」
純一「うん? いや、まあ、そうだけどさ……ちょっと機嫌は直ったかって思ってさ」
美也「…どういうこと?」
純一「今も機嫌が悪いみたいだけど、さっきとは違った機嫌の悪さだなってことだよ。
……いくらか顔色も良くなってるみたいだし、やっぱ外で運動ってのが良かったのかな」
美也「…えっと、さっきとみゃーの機嫌……違うかな?」
純一「全然違うな。それぐらい兄だったらわかるさ」
純一「自分のことなんて、案外自分では気づけなかったりするもんだ。
むしろ他人のことのほうが上手く気づけたりするもんだぞ?」
美也「それって…にぃにの経験談なの?」
純一「とりあえずね。まあ美也には関係のないはなしだよ、うん」
美也「なにそれー! またみゃーに隠しごとっ?」
純一「またってなんだよ、僕は美也には別に隠しごとなんてしてないだろ」
美也「してるよ! 今も……そして今までもしてるよ!」
純一「今は……まあ認めるけど、今までってのはなんだよ」
美也「っ……だ、だって……」
純一「だって?」
美也「……にぃには、あれから……ずっと何も言ってくれないから……っ」
純一「あれからって……何時のこと?」
純一「信用できなくなるって……なにか僕、隠してるかな?」
美也「っ……───」
美也「───もう、もうっ……知らないっ!…にぃにのばかっ…!」
純一「お、おい……泣いてるのか?」
美也「ないて、なんかっ……いないよっ! どうしてみゃーが泣かなくちゃいけないのっ…ぐすっ…」
純一「泣いてるじゃないか…実際に」
美也「う、ううっ……ぐすっ…ばかっ…にぃにのばかっ…すけこましっ…変態さんっ…!」
純一(えらい言われようだ……)
純一「ああ、もう…泣くなって。ほら、好きなもの買ってやるからさ、な?」すっ…
美也「ひっく……ぐすっ……」
純一「なにがいいんだ? 今は手持ち少ないけど、買えるものならなんだって──」ごそごそ…
ばしんっ
美也「──みゃーは、なにも買ってほしくないっ! いらないよ!」
美也「みゃーはっ…なんにも欲しくなんか無いっ…にぃにから、なんにもっ…!」
純一「………」
美也「そうやって…そうやってすぐにごまかすにぃにからはっ…もう、なにも欲しくない…!」
純一「………はぁ、そっか。わかった、今の僕からは何も欲しくはないんだな」
美也「ひっくっ…ぐしゅっ……けほっ…」
純一「……」すたすた…
純一「だからって、財布をはたき落とすなよな……小銭が散らばっちゃったじゃないか…」ひょい…
純一「───なぁ、美也。ちょっといいか」ひょい
美也「ぐすっ……なに…?」
純一「───僕は別に、あの時のことを忘れてなんかいないよ」ひょい…ひょい…
美也「……え…?」
純一「ちゃんと覚えてるって言ってるんだ。それに、それを隠してるつもりもない」すた…
純一「…出すわけ無いだろ、そんなこと。一応、兄妹なんだからさ」
美也「………ぐす…」
純一「僕は僕なりに──考えてやってるつもりだよ、美也。お前がそうであるように、僕もまた…
…僕なりに考えているんだ。きちんと、ないがしろにせずに」
純一「あの時に行った言葉は──……あの時に伝えた気持ちは、今だって忘れない」
純一「お前を好きになるための準備は出来ている。だろ?」
美也「……うん、にぃには…そういってくれた…」
純一「ほら、ちゃんと憶えていたじゃないか。うん、それでどうしたって話だけど……あのさ、美也」
美也「なあに、にぃに…?」
純一「───僕はきちんと、お前のことを好きになってるよ」
美也「………え、でもっ……えっ…?」
純一「家族とかじゃない、妹だからとかじゃない……きちんと、一人の女の子として。
僕はお前を好きになってるよ」
純一「ふっふっふ……どうだ、気持ち悪いだろう? だから言いたくなかったんだ……うん」ぽりぽり…
美也「………」
純一「まあ、お前がそんな風に悩んでたなんて、正直な話……今までわかってなかった。
こういうことってちゃんと話しておかないといけないんだな、家族だからって甘く見てたよ」
美也「み、みゃーも……そんな風に考えてただなんて…思ってもなかった…」
純一「ははっ、そこは血の通った兄妹だなホント。
でもいいさ、こうやってまた分かりあえたんだ。きちんと、家族として人としてさ」
純一「心配させてゴメンな、美也。僕はきちんと……お前のことを見ているよ」
美也「っ……本当、に? みゃーのこと、ちゃんと見てる…?」
純一「ああ、見てるよ。僕の前で、僕のために泣いている娘が一人、見えてる」
美也「そ、そうだよっ……みゃーは、みゃーは……にぃにを思って…泣いたんだよ…!」
純一「そうだな、凄いよ美也は。人のために泣くなんて、そうそうできることじゃない」
美也「うんっ……うんっ……ぐすっ…」
純一「……泣くなって、ほら。おいで美也」ちょいちょい
純一「こっちだこっち──……よし、つかまえた」ぎゅっ
美也「ぐしゅっ…ひっく……」
純一「ああ、ほら…そんなに泣いちゃうと目が腫れるぞ?」
美也「ひっくひっく……けほ、ぐすっ…」
純一「本当に美也は泣き虫だなぁ……昔っから変わんないよ」
美也「……ぐすっ……」ぎゅうっ…
純一「本当に昔から……変わらないな、美也は…可愛い妹だよ、本当に…」なでなで…
純一「──そんなに心配するなって。僕はちゃんと側に居続けてやるから、ずっとな」
美也「……ずっと、ずっとだよっ…?」
純一「ああ、ずっといてやる。美也の側に…こんな僕で良かったら、いてやるよ」
美也「にぃにっ……ひっく…」
純一「…うん? どうした、美也?」
美也「あのね、にぃにこと……みゃーは…本当に、好きだから…っ」
美也「ほんとうはねっ……にぃにが修学旅行に行っちゃうの、寂しいんだよっ…!」
純一「…だから今日は布団の中に潜り込んできたのか?」
美也「そうだよっ……昨日の夜、そう思って…忍び込んだんだっ…」
純一「あはは、どれだけさびしんぼうさんなんだよ」
美也「だってだって……五日間もにぃにとあえないなんてっ……」ぎゅっ…
純一「たった数日じゃないか。これまでの時間と比べたら、これっぽっちだろ?」
美也「それでもっ…みゃーは、みゃーは……」
純一「…そっか。寂しいのか、困ったなぁそれは…」なでなで…
美也「………ぐすっ…」
純一「──あ、そうだ! そしたら美也! これなんてどうだ?」
美也「え、どうしたの…?」
〜〜〜〜^
「ありがとうございましたー」
純一「……ふぅ、なんとか所持金で買えたなぁ。よかったよかった」
純一「それが欲しいって言ったのは美也だろ…」
美也「そうだね、みゃーはこれが欲しかったんだっ」ちゃり…
純一「…猫のキーホルダーか。美也らしいな」
美也「そしてこれがにぃにのだよっ」ちゃりっ
純一「え、いつの間に…」
美也「隙を見て買っておいたの、にぃに貰ってくれる…?」
純一「…ありがとうな。嬉しいよ」
美也「おそろいだね!」
純一「ああ、そうだな……そしてもう寂しくなんか無いな」
美也「本当はもっと大きなぬいぐるみとか買って欲しかったけど……贅沢は言えないよね〜」
純一「それは…いくらになるのかわかったもんじゃないからな…」
美也「うんっ! どーんっと行って、みゃーにいっぱいおみやげ買ってきてよね!」
純一「一杯は無理だ……出来れば京都版まんま肉まん八つ橋ぐらいにしておいてくれ…」
美也「あ、覚えててくれたんだ…」
純一「ん? おいおい…当たり前じゃないか、だって買ってきて欲しいんだろ?」
美也「うん……楽しみにしてるからね、にぃに」
純一「ああ、待っとけって」
美也「……にしし、それじゃあ帰ろっかにぃに!」ぐいっ
純一「えっ? あ、こら…こんな町中で腕を組むなよ…!」
美也「これぐらいへーきへーきっ。兄妹なら誰だってしてるよー」
純一「で、でも……ああ、もう!わかった! んじゃ帰るぞ美也!」
美也「おっけーなのだっ!」
すたすた…
「っち………」
「──橘、さん……どうして君は……」
「……くそっ」がんっ
「……こんなの、絶対に間違ってるんだッ…! 絶対に…!」
翌日 二年教室・放課後
美也「ふんふーん…♪」ニコニコ
七咲「今日は一日、ご機嫌だったね美也ちゃん」
紗江「…なにか、いいことでもあったのかな?」
美也「えー? ごきげんに見えるかなぁ? にっしし!」
七咲「うん、とっても嬉しそうっていうか……良いことがあったみたいな感じで」
紗江「うんうん……あ、そのキーホルダーかわいいね美也ちゃん」
美也「わ、わかるかなっ!? かわいいよねこの猫さん!」
紗江「う、うん…! 最近はやりの、中に磁石が入ってて…もうひとつのキーホルダーとくっつくやつでしょ…?」
紗江「う、ううん……別にいいけど…」
七咲「そういえばそのキーホルダーを見て、ずっとニヤニヤしてたけど…誰からかのプレゼントなの?」
美也「うん? そうだよ! これはねぇ〜……にっしし! にしし! 秘密だよっ!」
紗江&七咲(絶対にお兄さんからだ……)
七咲「…そうなんだ、ともあれ良かったね美也ちゃん」
紗江「いいなぁ…私もプレゼントしてもらいたい…」
美也「大丈夫だよ! 紗江ちゃんなら、望めば誰からだってプレゼントしてもらえるよっ?」
紗江「え、ええっ…! 誰からでもって…そんなこと、ないよ…っ」
美也「え〜? そんなことあるよね、逢ちゃん?」
七咲「確かに…中多さんなら、誰だってプレゼントしたくなるかも」
紗江「ええっ…! 逢ちゃんまで…!」
七咲「うん、バイバイ美也ちゃん」
紗江「また明日…っ」
美也「ばいばーい、また明日ね〜!」ぶんぶんっ
ぱたぱた…ばたん
「………」すっ…
「………」たったった…
帰宅路
美也「今日も寒いねぇ〜……へくちっ」
美也(今頃、にぃにはご飯でも食べてるのかな…好き嫌いが激しいから、
梅ちゃんに押し付けたりしてるかも…しょうがないなぁにぃには)
美也「さぁーて、早く帰ってまんま肉まん食べながら、ビーバー三国志でもよもっと……」
「あの───」すた…
美也「…うん? 誰だろ──……あっ」
「──久しぶり、って言ってもいいのかな」
美也「うん。二年になってから、まったくお話ししてないし…」
「そう、だよね……」
美也(……以前に、みゃーに告白してきたクラスの子だよね)
男子「その、いきなり話しかけてごめん。迷惑だったかな…?」
美也「ううん、大丈夫。迷惑なんかじゃないから…」
男子「そっか、よかった……」
美也「…それで、私に何か用事?」
男子「……ちょっとそこの公園まで、いいかな」
美也「ここじゃ言えないことなの?」
男子「うん、そうなんだ」
美也「…わかった」
男子「……………」
美也「……それで、話ってなにかな」
男子「…うん、話ってのはもうなんとなく分かってると思うけど」
美也「…………」
男子「もう一度、橘さんに……想いを伝えたくて、こうやって君を呼び止めたんだ」
美也「…………」
男子「しつこいってのはわかってる、わかってるんだ…でも、どうしても諦めつかなくて。
俺はやっぱり橘さんのこと……とっても好きなんだって、今になって更に思い始めてるんだ」
美也「…………」
男子「この気持は、どうやっても止まらないんだ。橘さん……もう一度だけ、考えてみてくれないかな?」
美也「……私は、あの時から変わってないよ」
男子「………」
美也「貴方のことは色々と聞いてる、すっごく部活を頑張ってるんだってね。
女の子にモテてるってのも聞いてる」
男子「そ、そんなのただの噂だから! 俺は、橘さんを一目見かけた時からずっと…君のことが!」
男子「……あの時と、返事とかわらないってこと…かな」
美也「うん。気持ちはとても嬉しいけど、私は貴方とは付き合えない」
美也「ただ、それだけなんだよ…ごめんなさい」
男子「………」
美也「……私、もう帰るね。これからも部活、がんばって───」すっ…
男子「───めだよ、そんなの……」
美也「え…?」
男子「だめだよそんなのっ…橘さん! それはだめなんだよ…!」
美也「な、なに…? どうしたの急に…?」
男子「っ……ごめん、いきなり大声をあげて。でも、俺は言いたんだッ…」
男子「橘さん、君は…駄目なことをしようとしてるって! だってそれは…」
男子「……橘さんのためには、絶対に成らないよ…!」
美也「…どういうこと?」
美也「っ……」
男子「お互いに浮かべてる表情は……まるで恋人同士のようで、俺はすごく寒気がした」
美也「そ、それはっ……」
男子「それに街で腕を組んで歩いて、お互いに買いあったプレゼントを見せ合ってた。
……これは流石に俺も仲のいい兄弟だって思ったけれど、でも…」
男子「…橘さんは、きっとそうじゃないって思ってたはずだ」
美也「…………」
男子「そしてあのお兄さんも、そう思ってるはず。兄妹で仲がいいんじゃなくて、
その先の関係に歩もうとしているってことを」
美也「貴方に、なにがわかるっていうの…っ」
男子「わかるよ! だって、俺は橘さんのことが好きだから!」
美也「……っ」
男子「好きだから……君がお兄さんに向ける笑顔が、とても輝いてることがわかるんだ」
男子「でも、それは駄目だって思うんだよ! 俺は、俺は…橘さんのことを思って…!」
美也「──黙って、くれないかな」
美也「いくら私でも、怒るときは怒るんだよ。だからちょっと黙ってくれないかな」
男子「いいや、黙らないよ! 俺はキチンと話しが通じるまで…!」
美也「………」
男子「通じるまで……っ……」
美也「………」
男子「っ………くっ!」
美也「きちんとお話は、私の耳に届いてる。聞こえてるし、ちゃんと理解もしてる」
美也「でもね? 私はそんな話を貴方から聞きたくないっていってるんだよ」
男子「……そんなに、お兄さんのことを…」
美也「うん、好きだよ」
男子「……一人の男性として…?」
美也「好きだって思ってる。心からね」
男子「そんなのっ、間違ってるよ…!」
美也「好きだっていう気持ちは、もうどうやっても止まらない。
だから私はそれに従って突き進むだけ」
男子「………」
美也「…わかって欲しいなんて贅沢なことはいわないよ。でも、これだけはわかってほしい」
美也「──貴方が私を好きだって言ってくれたのと同じように、私もお兄ちゃんのことが好きなんだって」
男子「っ……」
美也「ただ、それだけなんだよ」
男子「くっ……でも、それでも……俺は、俺は……!」
美也「………」
男子「俺は君の幸せを願いたいんだっ……だからっ!」
美也「…やめて」
男子「っ…橘、さん…?」
美也「そんなの、聞きたくなんか無い…にぃにとみゃーの関係を壊そうとするのなら、本当に怒るよ」
美也「───流石ににぃに以外に本気で怒ったこと無いけど、どうなっても知らないから」
男子「橘、さん…っ」
美也「…でもまだ大丈夫。みゃーは怒ってない、寸前で止まってる」
美也「そもそも怒ることって嫌いだから、したくないしやりたくもない」
男子「………」
美也「……だからね? 今日は大人しく帰ってほしいんだ。そしてもう、これから邪魔をしないで欲しいんだよ」
美也「みゃーはいつだって、にぃにのそばにいることを決めた……だから、そのためにだったら何だってするよ」
男子「っ……そんな怖い表情、するんだ」
美也「するよ、にぃに以外に見せたこと無いけどね」
男子「……にぃに、にぃに…か」
美也「……」
男子「──そうだよ、あの人が悪いんだっ…彼女は、橘さんは悪くなんか無いっ…!」
美也「……何を言ってるの…?」
美也「…?」ちゃり…
男子「───そんなものが、そんなものがあるから……君はおかしくなってしまうんだ…っ」すたすた…
美也「っ…な、なに? や、やめてよ…!」
男子「こんなものがっ…あの男がいるから…!」ぎちっ
美也「あ、返して! みゃーのキーホルダー…っ!」
男子「ッ……」ぶんっ!
ぽちゃ…
美也「あ、ああ…!」
男子「はぁっ…はぁっ──……あ、俺なにをして…」
美也「にぃにからもらったキーホルダーが池の中にっ…!」すたすた…
男子「あ、橘さん…!? どこに…!?」
美也「にぃにからっ…初めてもらった…プレゼントなのにっ…!」バシャバシャ…
男子「ぐっ……だめだよ! こんな寒い中で、しかももうすぐ夜になる!」
美也「キーホルダー……みゃーのキーホルダー…っ」ばしゃ…
男子「っ………くそ、俺はどうしたいんだよっ!」ばしゃっ
美也「え……?」
男子「お、俺も探す! 自分でやっておいて何言ってるんだって思うかもしれないけど…っ」
美也「………」
男子「…なにも、言わないでくれ。わかってるから」
美也「…じゃあ貴方はそっち、みゃーはこっち探すから」
男子「…わかった」
二時間後
美也「………………」すたすた…
美也「………………」すた…
美也(見つからなかった──……猫のキーホルダー……)
美也「………」
美也(……クラスの子、とても反省してたな。悪いのはこっちなのに)
美也(投げられたことは、確かに悪いけど……あんな言い方しちゃったら、誰だって怒るよね)
美也(……彼も、みゃーのことを思ってやったわけだから……ううん、こんなこと考えたって意味ない)
美也「……もう、見つかんないのかなキーホルダー……にぃにから、買ってもらったプレゼントだったのに…」ぽろ…
美也「……あれ? 雨ふってきたかな───あ、そっか…また泣いてるんだ。みゃー……」
美也「えへへっ…本当にみゃーってば泣き虫だなぁ。また買って貰えればいいのに、全然それですむのに…」
美也「……それで、簡単にすむのに」
美也「───ひっく、ぐすっ……でも、だめなんだよねっ…やっぱり…それじゃあ……ひっく…」
美也「あれだったから……みゃーはうれしくって……だから、だからっ……」
美也(どうにか泣きやんで、赤くなってないか確認してから帰らないと……)
美也「ぐすっ……ずず、っはぁ。にぃにに……会いたいな」
美也(思いっきり抱きついて、今日あったことを話したい…頑張ったんだって、
にぃにのために辛くても立ち向かったんだって…なでなでしながら褒めてもらいたい)
美也「にぃに……にぃには、いま…どこにいるのかな…修学旅行を楽しんでるのかな…」
「───いいや、お前の後ろにいるよ」
美也「ッにゃあああああああああー!?」
純一「えっ!?な、なんだなんだ!? どうしたんだよ美也!?」
純一「そ、そうだよ。びっくりしたぁー…急に叫ぶなよ!」
美也「そりゃ叫ぶよ! 急に後ろから話しかけられたら、誰だって叫んじゃうよ!」
純一「ま、それはそうか……ふむ」
美也「ふむ、じゃなくて! え、どうしてにぃにがここに……修学旅行はっ? まさか乗り遅れちゃったのっ?」
純一「バカ言え、ちゃんと飛行機の時間には間に合ったさ。でも中止になったんだ」
美也「ちゅ、中止ぃ? どうしてそんなことに…」
純一「なんだかわからないけれど、飛行機が飛ばなかったんだ。雪が何とか言ってたけど…詳しくはわからん」
純一「だからこうやって、時間だけが過ぎて…今帰宅になったというわけだ」
美也「じゃあ修学旅行は…?」
純一「明日に延期になったみたいだよ。そのぶん、期間が減っちゃったけどね」
美也「そ、そうなんだ……」
純一「それよりも──なんだよ、美也。また泣いてたのか?」
純一「泣いてるじゃないか、しょうがないやつだなぁ……ほら、抱きしめてやろうか?」
美也「か、からかってるでしょにぃに…!」
純一「あはは、バレたか」
美也「ぐすっ……もうっ、本当ににぃにってば…!」ぽかぽか…
純一「な、なんだよっ? いきなり殴ってくるなって!」
美也「ばかばかっ! にぃにのばかっ!」
純一「……あーもう、よくわからないやつだなぁ。ほら、ちょっと黙っとけって」ぎゅっ…
美也「っ……ぐすっ、にぃにのばか…」ぽか…
純一「ああ、馬鹿でいいよ」
美也「…………」
純一「……じゃあそんな馬鹿なにぃに教えてくれよ、美也。どうして泣いてたんだ?」
美也「それは……」
純一「どうしたんだ、寂しくなってたのか? キーホルダー買ってあげたじゃないか」
純一「……ん? まさかお前、もう失くしたとか言うんじゃ──」
美也「………」ボロボロ…
純一「──って、どうしてそこで号泣するんだよ…」
美也「に、にぃにっ…あのねっ…」ぼろぼろ…
純一「ああ、うん……聞いてやるからゆっくりと話してくれよ、な?」
〜〜〜〜
純一「…ふーん、なるほど。元同じクラスの男子にね」
美也「……そうなの。その子も一生懸命探してくれたんだけど…見つからなくて…」
純一「そっか、そこの子も探してくれたんだ。いい子じゃないか」
美也「それは、そうだよ…みゃーの事を思って言いにくいことを言ってくれたほどだもん…」
純一「えらくカッコいい奴に好かれたじゃないか。どうなんだ、実際のところは? ん?」
美也「……みゃーはにぃにのものだから、だめ」
純一「お、おう……そ、そっか…」
純一「…そうか、ならだんだんと慣れていくよ。いきなりは流石に無理だから」
美也「そっか、そうだよね。今までだってそうだったし」
純一「そうだよ、それが僕達が進んでいく道なんだから」
美也「……でも、にぃに。ごめんね、せっかく買ってくれた猫さんのキーホルダー…」
純一「良いってば。仕方ないことだったんだよ、僕らにとってはさ」
美也「……うん」
純一「…どうしたんだ? やっぱり気になる?」
美也「……………うん」
純一「うーん、でもなぁ…美也とその子で二人がかりでも見つかんなかったんだろ?
それをどうやって探せばいいのか───あ……」
美也「……どうかしたの? にぃに?」
純一「……出来るかも知れない、見つけるの」
美也「えっ…本当っ!? 猫さんのキーホルダー見つけられるのっ!?」
純一「とにかく、その池に落ちたっていう美也のキーホルダーを見つけられるかも知れないぞ!」
美也「どうやって見つけられるの!?」
純一「──それはだな、ちょっとばかし人の手助けが必要だな」
美也「人の、手助け…?」
純一「ああ、そうだ。こんな時間に呼び出しても引き受けてくれる……お人好しで、面白くて、
なのに全然モテないかわいそうな奴がね!」
美也「……誰だろう、そんな人居たかなぁ…」
純一「お前も知ってるやつだよ、ああ、そいつの名前は───」
数十分後
「───待たせたな、大将」
「───いや、時間ぴったりだ梅原」
純一「流石は梅原、時間にうるさいだけはある」
梅原「ったりめーよ。寿司は時間が命だぜ? いつだってー俺は時間を守るナイスガイだ!」ぴしっ
梅原「ああ、大将こそな…あの飛行場での、暇を持て余すクラスメイト共を沸かした…最強のギャグ、
俺は一生忘れないぜ…」
純一「忘れてくれお願いだ……それよりも梅原、例のブツは?」
梅原「バッチリよ。ここにきっちり持ってきておいたぜ」
純一「すまん、本当にありがたいよ。こんな時間に親父さんにバレずに来るのは大変だったろ…ほら、報酬だ」がさ…
梅原「……うほっ。これお前、秘蔵中の秘蔵の…!」
純一「それぐらいの仕事をこなしてくれたってことだ、対価に見合った報酬だよ」
梅原「……なるほどな。大将、これから男を磨きにかかるってワケか?」
純一「ご想像にお任せするさ」
梅原「おう、大将……俺は何時だてお前の味方だ。どんな道を歩もうとも、俺はその背中を見守るぐらいはしてやっからよ」
純一「…ありがとう、恩に着るよ」
梅原「ばーろぅ。このお宝本の前にして、感謝の言葉をくちばしんじゃねーよっ」
梅原「おうよ! ソレはそんまま大将の家に置いといてくれ!
修学旅行の帰りにでもとりくるからよっ! んじゃまったなー!」
純一「ああ、それじゃあ……」
美也「……お話、終わった?」
純一「終わったよ。どうだ? 最高のやつだろ、僕はアイツ以上の最高のやつを知らないよ」
美也「まあ梅ちゃん、にぃにのこと大好き過ぎるからね……ちょっと心配になるぐらいに」
純一「え? どういうこと?」
美也「なんでもないよーだ、それよりもにぃに……その梅ちゃんが持ってきたのってなんなの?」
純一「これか? これはだな、ふふっ……」すぅー……
純一「……釣竿だよ、美也!」
美也「つりざお…? どうして釣竿なんか梅ちゃんに借りたのって……まさかキーホルダーを釣るつもりなのっ?」
純一「うむ、実にその通りである!」
美也「……みゃー、にぃにがばかだって言ってるけど。本当にお馬鹿さんだったんだね…」
美也「うん、そう思ってるけど……違うの?」
純一「大丈夫、僕に任せるんだ美也……なんてたって、この思いの強さには自信がある!」
美也「…想いの強さ?」
純一「そうだ! 僕が美也に対して…想ってる、この強さだよ」
美也「っ……きゅ、急に変なこと言わないでよ…!」
純一「照れるな照れるな、さて……作戦開始だ」
純一「作戦名『猫大好きホールド』だ!!」
美也「……にぃにってセンス悪いよね」
純一「う、うるさいっ!」
公園
純一「それじゃあ行くよ、美也」
美也「うん、というかにぃに…その釣り糸の先に何をつけてるの?」
純一「これか? これは───…美也が買ってくれた、猫のキーホルダーだよ」
純一「怒るなよ…きちんと説明するからさ」ひゅんっ ぽちゃ
美也「ああっ…! せっかくにぃにのために買ってあげたのに…っ!」
純一「美也に僕が買ってあげた奴と、同じやつだろ?」
美也「そうだよっ! なのに、にぃにはそんなぞんざいに扱うんだ……そうなんだ……」
純一「ああ、もう泣きそうになるなって! 違うよ!」
純一「あのキーホルダーにはだな! 特定の磁気に反応する、小さな磁石が入ってるんだよっ」
美也「…磁石?」
純一「そう、それが飛行場の検問所で反応しちゃってさ…色々と大変だったんだけどね」ひゅんっ
純一「…そんなことはどうだっていいんだ。その磁石ってのが意外と優秀でさ、同じキーホルダーに
入ってる磁石にしか反応しないっていうシロモノなんだ」
美也「そ、そうなの…? あ、でも紗江ちゃんもそんなこと言ってた気がする…」
純一「そんな訳で、こうやって釣り糸に垂らして頑張ってれば…釣れるんじゃないかって…おっ?」くいっ
美也「───あっ…! に、にぃに…!」
純一「うん、そうだね。ちょっと汚れてしまってるけど…僕が美也に買ってあげたキーホルダーだ」
美也「ほん、っとに…見つかった…もう見つからないって思ってたのに…!」
純一「バカ言え、どんなことをしたって僕が見つけてやったさ」
美也「うんっ、うんっ……ありがとにぃに…!」
純一「ううん、いいんだ。むしろお礼は梅原に言っておいてくれよ」
美也「梅ちゃんにも後で、きちんとありがとうっていうよ…!」
純一「よし、お利口さんだ。それじゃあほら……後で洗ってあげろよな」
美也「綺麗に洗ってあげるよ…大切だからね、にぃにから…買ってもらったものだから…っ」
純一「うん、ついでに僕のキーホルダーも洗いっこしてもらってやってくれ」
美也「……じゃあ、にぃにもついでに洗いっこする?」
純一「ぼ、僕はいいよ…! またあとで一人で洗いっこするから…!」
純一「それは良い提案だけど、今日はとりあえず…そのキーホルダーたちを洗ってやってくれ」
美也「…わかった、でもにぃにの背中はいつかみゃーが洗うからね!」
純一「お、おう! いつだってかかってこい!」
美也「かかってこいってなんなのさ……」
純一「あはは……って、あれ…? これって…?」
美也「え……あ、雪かな…?」
純一「………ホワイト修学旅行か。そりゃ飛行機も飛ばないよ」
美也「…明日、つもったりするのかな」
純一「うーん、どうだかな。積もられるとこっちはちょっと困るけど」
美也「……みゃーは積もって欲しいな、雪」
純一「ん、どうしてだ?」
美也「だって……積もったらにぃに、また修学旅行延期になるんでしょ?」
美也「なら明日だってまた───……にぃにのお布団の中に、潜り込めるかも知れないしねっ! にっしし!」
では次、という感じで生きたいのですが
お仕事の時間です。すみませんがここまでで
出来なかった娘は次スレを建てようと思う
このようなながらクオリティでよろしかったら次もまた出会うことを
ご支援ご保守ありがとう
次は森島先輩でもかきたいな
ではではノシ
乙
良かった
Entry ⇒ 2012.06.03 | Category ⇒ アマガミSS | Comments (0) | Trackbacks (0)
橘純一「みんなとイチャイチャしよう+!」
絢辻「───橘くん?」
純一「ひぃわぁ!?」びくん!
絢辻「貴方はここで、一体全体なにをしているのかしら?」
純一「あ、絢辻さん…! えっとこれはね、その〜……あははっ」
絢辻「笑ってないで、理由を言ってちょうだい」
純一「あはは……ごめん。立ち読みしてました…」
絢辻「へぇ、そうなの。じゃあ聞かせてほしいな、どんな雑誌を立ち読みしてたの?」
純一「えっ? えっとそれはなんというか……あまり口に出せれないっていうか…」
絢辻「どんな雑誌を読んでいたの? 口に出してちゃんとはっきりといってくれたら嬉しいな」
純一「っ……ろ、ローアングル探検隊、です…」
絢辻「…ふーん、そうなんだ。へぇー」
絢辻「──君は修学旅行に来てまで、そんな雑誌にうつつを抜かす人だったとわね。あきれたわ」
絢辻「別にいいわよ? そんな人だってわかってたし、それに貴方のこともちゃんと理解もしてるわ」
純一「で、でも聞いて欲しいんだ! 僕は決してこの本を立ち読みしたくて本屋に着てるわけではなくて…!」
絢辻「ではなくて?」
純一「そもそも僕はっ、この隣のお店にある和菓子屋に寄りたくて……でも、それよりも先に僕の興味を確実に奪い去った
……この店頭に立ち並ぶ、ローアングル探検隊京都限定版に僕は……」
純一「……気を取られてしまったんだよ、絢辻さん…どうか、わかってほしいんだ」
絢辻「全然わからないわ」
純一「……だよね」
絢辻「貴方がそういう人だって知ってるけれど、その常識をあたしに押し付けるのはいかがなものかって思うんだけど」
純一「はい……すみませんでした…」
絢辻「……はぁ。もういいわ、とにかく橘くんを見つけられたから」
純一「え、僕の事を探してたの絢辻さん…?」
絢辻「……あたりまえでしょ」じー…
純一「え、うん……そ、そうなんだ」
純一「うん、したね。一緒にベットに潜り込みながら…」
絢辻「や、約束した時のことをいわなくてもいいのよ!大事なのは約束自体のことでしょ!」
純一「あはは。……でも、昨日の夜のことは忘れそうにもないよ僕は」
絢辻「っ〜〜〜〜……め、迷惑だったかしらっ…突然、あたしが押しかけてきたから…!」
純一「え? なわけないじゃないか! 確かに驚きはしたけれど、夜中に来てくれたことは凄く嬉しかったよ!」
絢辻「そ、そうなの…?」ちらっ
純一「そうだよ! あの時は梅原が気を使ってくれて、他の男子の部屋に行ってくれたから…色々と、イチャイチャできたし」
絢辻「そ、それは…梅原くんには後でお礼を言わなくちゃいけないわね…うん…」もじもじ…
純一「うん、だよね」
絢辻「うん……───じゃなくて! どうして昨日の話をしているの!」
純一「え、あそうか! その時にキスしながら約束したことをちゃんと守らなきゃいけないよね!」
絢辻「な、ななななにをいってるのよ! 人がたくさんいる中で……ばかっ!」
絢辻「むぅ〜……ったく、いいわ。それじゃあ行きましょう」ぐいっ
純一「え、あっ、絢辻さん…? どうして腕を……」
絢辻「……嫌なの?」
純一「嫌なんかじゃないよ! で、でも…他の人に見られたら…特にクラスメイトの人たちとか…」
絢辻「あたしは気にしないわ。だから貴方も! 気にしないできちんと歩くの!」
絢辻「いい? 分かったら返事をする」
純一「は、はい! わかりました!」
絢辻「よろしい。そして最後にもう一つ」
純一「え、なにかな?」
絢辻「絢辻ではなくて、詞で呼ぶこと。つ・か・さ、わかった?」
純一「つ、つかさ……」
絢辻「声が小さい!」
純一「つかさ!」
絢辻「うん、ありがと純一くん」
純一「へぇ〜…見てみなよ、つかさ。ここのお店って着物を試着できるらしいよ」
絢辻「もぐもぐ……ほぇー、ほうなんら…もぐもぐ…」
純一「……絢辻さん? さっきから色々と食べ過ぎじゃ…」
絢辻「っ……ごくん。だ、だってしょうがないじゃないっ…今朝から委員会の仕事で、
朝食を食べる暇がなかったんだから…!」
純一「そうなんだ…お疲れ様、絢辻さん」
絢辻「ふんっ…それよりも純一くん、また絢辻って呼んでるわよ」
純一「え、あ、本当だ…」
絢辻「なんなのよ、もう…せっかくこのあたしが名前で呼んでいいって言ってるのに」
純一「苗字で呼ぶのが長かったしね…でも、ちゃんとベットの中ではきちんと下の名前で僕は!」
絢辻「ちょっ、んなこと聞いてない!」げしっ
純一「あたぁっ!?」
「──そこのお二人さん、どうかよって行ってみてはいかがですか」
絢辻「…え、あ、すみません。店前で騒いでしまって…」
定員「いいんですよ、そのように仲慎ましい方がよく来られますから」
絢辻「褒め言葉でしょ、それぐらいわかりなさい…」ひそひそ…
純一「え、そうなの? 僕はそうだって思うけれど…
絢辻さんは僕と仲よく見えるのは嫌なのかな?」
絢辻「えっ、べ、別にそういうわけじゃないけど…」
純一「じゃあ嬉しい?」
絢辻「っ……う、うん」こくん
純一「そっか、じゃあ僕も嬉しいよ」
絢辻「そ、そうなんだ……って違うでしょ! どうしてあたしが責められる感じになってるのよ!」
「ふふふ…本当に仲がよろしいようで。では、如何ですか? カップル専用の試着がありますよ」
純一「だってさ、絢辻さん。時間にはまだ余裕があるしよってみない?」
絢辻「わ、わかったわよ……それじゃあちょっとだけ」
純一「じゃあよろしくおねがいします」
「はい、ではこちらに」
純一「うわぁー……色んなのがあるんだね、凄いよ!」
絢辻「ほんと、これなんか染色がとても綺麗……」
店員「京都といえば着物、ですからね」
純一「あ。あれなんか絢辻さんにとっても似合いそうだよ!ほらほら!」
絢辻「え、どれ? あの白と黒のやつかしら?」
純一「うんうん、なんだか絢辻さんの性格を表してるようでとっても似合ってる気がするんだよね」
絢辻「…そんなにもあたしにまた、蹴られたいのかしら?」
純一「え、そ、そんなことないよ…っ!」ドキドキ…
店員「では、あちらを試着されますか?」
絢辻「え、あ、はい。彼が選んでくれたので……それにします」
店員「わかりました。では男性の方もお選びください」
純一「僕のだってさ。絢辻さんが選んでくれていいよ」
絢辻「そうね……じゃあ、あれなんてどうかしら? 純一君にあってると思うなぁ」
純一「どれどれ……って子供用じゃないか」
絢辻「んふふ、だからあってるっていったのよ?」
絢辻「冗談よ、真に受けないの。これはバスの時のお返しよ」
純一「……まだあの時のこと根に持ってたんだ」
絢辻「当たり前じゃない、あの時のことは一生忘れませんからね」
絢辻「ま、とりあえず。あれなんか純一くんに似合いそうだじゃないかしら」
純一「今度は本当に? ……あ、いいね。あの黒のやつかぁ」
絢辻「貴方が好きそうな色じゃない?」
純一「うん、よくしってるね」
絢辻「よくしってなきゃ、貴方と付き合ってられないわよ」
純一「そっか……嬉しいよ、僕の事を知っててくれて」
絢辻「そ、そうかしら? そこまで喜ばれると、まぁ、うん…ちょっとあたしも嬉しいかな…うん」
店員「……では男性の方は、こちらに?」
絢辻「え、はいっ! そ、それでお願いします……」ぷしゅー
店員「はい、わかりました」くすくす
絢辻「へぇー……試着はしてもらうか、自分でするか選べるらしいわ」
純一「じゃあ、自分でしようよ絢辻さん」
絢辻「え、ちょっと待って。着物の試着ってなかなか───」
純一「自分でしますんで、Bコースをお願いします」
店員「わかりました。ではこちらに」すたすた…
絢辻「ちょ、ちょっと…! 純一くん、貴方着物一人で着れるの…っ?」
純一「うん、着れるよ? よく正月とかに着てたりしてたしね」すたすた…
絢辻「そ、そうなんだ……でも、あたしは……」
純一「それも大丈夫だよ。僕、よく妹の着物も昔にやってあげてたりしてたからさ」
絢辻「…できるの? 女性物も?」
純一「出来るよ。意外かな?」
絢辻「意外すぎるわよ…そんな特技を持ってただなんて」
純一「特技って言えるほどじゃないよ、あはは」
純一「どうかしたの?」
絢辻「女性物も出来るって、その話の前に。どうして貴方があたしの試着をするってことが前提に──」
店員「──おまたせしました。ではこちらでお願いします」
純一「あ、はい…」
店員「Bコースですので、試着はご自身でお願いします。試着なので、仮にもしものことがあった場合でも、
お金は発生しませんのでご了解を」
純一「はい、わかりました」
店員「では、ごゆっくりと」すたすた…
絢辻「……もしものことって、なにかしら?」
純一「多分、着物を痛めちゃった時とかじゃないかな。凄いね、試着もそんなにお金かかってないしさ、いいお店だよ!」
絢辻「そうね……なんだか、怪しいわね…」ぼそっ
純一「とりあえず、中に入ろうよ。部屋になってるみたいだしさ」がちゃ
絢辻「っ…ってそれよそれ! どうしてあたしと貴方が同じ部屋で着替えなきゃ──……え?」
絢辻「なに、これ…」
ぅぃーん…
純一「あ、ベット……回ってる…」
あんあんあんあん(ry
絢辻「テレビも何か流がれ───っ〜〜〜……!!!」ぴっ!
純一「………」
絢辻「………どういうこと、これ?」
純一「あ、あはは……えっと、なんというかその」
絢辻「………」
純一「……ラブ、ホテルかな?」
絢辻「………」
純一「あ、ちゃんと言っておいた着物がかけてある……」
絢辻「ちょっと待ちなさい」
純一「うん、人通りが多いとろこにあったね」
絢辻「そして店の外観も、老舗っぽくて雰囲気があるところだった」
純一「うん、店員さんもお婆さんで雰囲気がとてもあってたよ」
絢辻「……じゃあこれは、なんなのかしら」
純一「……あ! そういえば!」
絢辻「なに、何かこの展開を頷けるようなことを知ってるの」
純一「うん、さっきBコースを選んだんだけど…その下に書かれてた説明文にね」
『着せて脱がせてヌキヌキ試着コース』
純一「って書いてた気がする、かな……?」
絢辻「………どうしてそれを選んだの貴方は」
純一「自分で試着ってところしか、読んでなかったよ……ごめん」
絢辻「………」
純一「やっぱり今からでもコースを変えてもらおっか? 僕が店員さんにいってくるよ」
純一「こっちの勘違いだって言えば、お金ももしかしたら発生しないかもしれないしさ」すた…
絢辻「──待って」ぐいっ
純一「…え、絢辻さん?」
絢辻「待ってちょうだい、純一くん」
純一「待ってって……でも、こんな所は絢辻さんも居たくないでしょ?」
絢辻「………だ、大丈夫よ。あたしは別に平気よ」
純一「……顔、真っ赤だけど本当に?」
絢辻「だ、大丈夫っていってるじゃない! こ、こんな部屋なんともないわっ!」
純一「……掴んでる手、震えてるけど…」
絢辻「む、武者震いよ!」
純一「そ、そうなんだ……そんなに絢辻さんが言うのなら、これでいいのかな」
絢辻「い、いいわよ? どんときなさいな!」
純一「う、うん…」
だったら別に、そのあれでしょ…こ、この部屋では試着をするだけで十分もとはとれるわっ」
純一「あ、そっか。別に他のコースも料金は変わらなかったしね」
絢辻「そ、そうよ…! むしろこんな場所を経験できたことはプラスに成るわ!
だからほら! 貴方も気にしないでいいから、ね?」
純一「わかった、そうするよ」
絢辻「よ、よろしい……」
きらきら…
純一「……」
絢辻「……」
純一「…じゃ、じゃあその。試着しようか、着物…」
絢辻「へっ!? あ、うんっ! そうね……!」
純一「………」ごそごそ…
絢辻「………」ごぞごそ…
純一「あ。絢辻さんそれ…」
絢辻「ひゃぁいっ!?」びくん
絢辻「ご、ごめんなさいっ、急に変な声をあげちゃって……ど、どうかしたの?」
純一「う、うん…その着物裏表が逆だって言いたくて」
絢辻「え、本当に? こっちが表?」
純一「そうそう、それでね。ここをこうして……こうするんだよ」
絢辻「へぇ……なるほど、やるじゃない純一くん」
純一「あはは。でもまずは、制服を脱がなきゃいけないよ? 上から羽織るだけじゃちゃんと帯びが結べないしね」
絢辻「ま、まぁ……そうよね、たしかにそう…」
純一「………」
絢辻「………」
純一「僕が脱がせてあげよっか?」
絢辻「それぐらい自分でするわよ!ばか!」
絢辻「──ねぇ、ここはどうしたらいいの?」
純一「うん? あ、そこはね。ここを引っ張って…」ぎゅっ
絢辻「うっ」
純一「あ、ごめん…苦しかった? これぐらいしっかりしないと、後々解けたりするからさ」
絢辻「へ、平気よ……大丈夫大丈夫…」
純一「そ、そう? ならいいけど……よし、こんなもんかな!」ぱっ
絢辻「これでいいのかしら?」
純一「うん! おっけーだよ、しっかり着れてる着れてる」
絢辻「ふーん……へぇー……」くるくる…
純一「……どう? 着た感じは?」
絢辻「…悪くないわね。それよりも、貴方こそどうなの?」
純一「もちろん! 可愛いよ、絢辻さん」
絢辻「ふふっ、ありがと。お世辞でも嬉しいわ」
純一「お世辞なんかじゃないよ! 本当に、心からそう思ってるんだから!」
純一「うん! 魅力も三十倍ましになったように見えるね!」
絢辻「それは褒めすぎよ…もう!」
純一「あはは、じゃあさ。もうひとつやってみない?」
絢辻「もうひとつ? まさか、やらしいことするんじゃ……」
純一「ち、違うよ! いや、違くはないけど……そうじゃなくて!」
純一「髪をさ、ちょっとやってみないかな」
絢辻「髪? 髪をどうするの?」
純一「うん、そしたらここに座ってみて」
絢辻「……ベットの上に? やっぱりやらしいことするつもりなんじゃ……」
純一「違うってば! 結ぼうと思うんだよ絢辻さんの髪をさ!」
絢辻「結ぶって……そんなこと出来るの?」
純一「まあ一応ね。これも紳士たるもの、常備しておかなきゃいけないスキルだよ!」
絢辻「よくわからないけど……まぁ、任せるわ。よいしょっと」
絢辻「じゃあ、お願いするわ」
純一「よいしょっと……えっとね、ポニーテールでいいかな?」
絢辻「貴方の好きにしていい」
純一「うん、わかった」
絢辻「………」
純一「…ねえ、絢辻さん」すすっ…
絢辻「ん、なに?」
純一「僕は今、とっても幸せだよ」
絢辻「……突然なによ」
純一「警戒しなくてもなにもしないよ、ただ…これだけ言いたかったんだ」
純一「こんな僕と付き合ってくれて、本当にありがとうって」
絢辻「……そおかしら? だってそもそも、あたしから付き合って欲しいっていったじゃないの」
絢辻「えらく自分を低評価するのね、まぁ、そんなところをあたしは好きになったわけだけど」
純一「あはは、そっか」くいっ
絢辻「貴方はいつだって、自身の返りみを期待せず。他人とために頑張れる人……」
絢辻「それがあたしにはとても不思議で、歪で、意味不明だった」
絢辻「……でもそれが、貴方が持っている素敵な所なんだって…気づけたアタシは」
絢辻「もうこれからさき、ずっとずっと……貴方の虜なんだからね?」
純一「…絢辻さんはえらく僕を高評価するんだね。そうやって褒めてくれる君を、僕は好きになってんだけどさ」
絢辻「ふふっ、あたしは本当のことしか言わないわ。純一君に対しては、ね」
純一「そうだね、ありがたい話だよ」
絢辻「だって好きなんだもの。自分が言いたいことを言えて、素直に返してくれる……そんな人がいるなんて思いもしなかった」
純一「僕は何時だって、絢辻さんの前では素直で居るよ」
絢辻「ありがと、本当に好きよ。貴方のこと」
純一「うん、僕も大好きだよ」
絢辻「もう終わったの?」
純一「うん、綺麗に結べたと思うよ。ほら、そこの鏡で見てみなよ」
絢辻「どれどれ……ふむ、なかなかいいじゃない」
純一「ふふん、でしょうでしょう」
絢辻「案外出来る男じゃないの、純一くんってば」
純一「もっと褒めてくれもいいよ、絢辻さん!」
絢辻「調子にのるな」
純一「ごめんなさい……」
絢辻「ふふっ、嘘よ嘘。調子に乗っていいわ、あたしが褒めてるんだもの」
純一「……そう、かな?」
絢辻「そうなの、だからもっと胸を張ってしゃきっとする!」
純一「こう、かな!」きりっ
絢辻「うむ、いいわね。よろしい」
純一「うん、いいよ。こういったふうに着流すのがコツなんだ」
絢辻「へぇー、似合ってるじゃない。いいわね、着物姿」
純一「そ、そうかな?」
絢辻「身長も合ってるしね、うん。かっこいいわよ純一くん」
純一「えへへ…」
絢辻「それじゃあ……その、アレする?」
純一「え、アレ…?」
絢辻「……そう、アレよ」
純一「……。っ!? ま、まさか絢辻さん…!」
絢辻「もう、みなまで言わないの……わかるでしょう?」
純一「ごくり……で、でも…修学旅行中にそれは…!」
絢辻「嫌なの、かしら…?」
純一「い、嫌じゃないです! アレを僕はしたいです!」
純一「う、うん……」すたすた…
絢辻「もっとこっちに、ううん、それじゃまだ遠いわ……もっと、こっちに」
純一「で、でも…それじゃあ絢辻さんとくっつくことに…!」
絢辻「……くっつかないで、どうやってするの?」
純一「っ……そうだよね! 確かにそうだよ!」すすっ…
絢辻「うん、いいわね。いい感じよ」
純一「あ、絢辻さん……」
絢辻「…なぁに?」
純一「僕っ……僕、絢辻さんのこと大好きだから…!」
絢辻「うん、しってるわ。そしてあたしも貴方のこと、大好きよ?」
純一「ごくり……絢辻、さん…!」すっ…
絢辻「純一くん……」
ぱしゃり
純一「……え?」
純一「……絢辻、さん?」
絢辻「ん? ああ、ありがとね純一くん。たぶん綺麗に撮れたと思うわ」すっ
純一「か、カメラ…?」
絢辻「そうよ、だってただ着てるだけってもったいないじゃないの。
だからこうやって記念に……ね?」ぱしゃ
純一「まぶしっ…!」
絢辻「うん、純一くんの分も撮れた。後はあたし一人」
純一「な、なんだ……そういうことだったのか…」
絢辻「……うん? なにかしら、貴方はもっと過激なことを期待してたの? ん?」
純一「…だって絢辻さんがアレって言うから。期待したじゃないか…」
絢辻「あら、あたしはただアレって言っただけよ? 勝手に落ち込んで勝手に他人のせいにするのはやめてよね〜」
純一「ぐ、ぐう……」
純一(く、悔し……! また絢辻さんに一本取られてしまった!
またバスの時みたいに、絢辻さんを困らせることは出来やしないのか…あ!)
なんといことだ、教えてげなきゃ……いや、待てよ)
絢辻「?」
純一(ここは…僕はあれをしなきゃいけないのではないか?
男して、彼氏として……僕はアレをしなければならないのではないか!?)
絢辻「どうしたの?」
純一(でも、それは…後の絢辻さんをとても怒らせてしまうことに……否!
橘純一、紳士たるもの運命が司るもの立ち向かわなければならない! 詞だけにね!)
純一「──絢辻さん、ちょっといいかな」
絢辻「…なによ、なんだか嫌な気配を感じるわね」
純一「そ、そうじゃないよ…! ほ、ほらここ! 帯がほどけかけてるんだ!」
絢辻「帯……? あら、本当…えっと、どうすればいいのかしら…っ?」
純一「えっと、そうだね。ちょっとそっちをむいてくれるかな…?」そわそわ…
絢辻「…こう?」くる
純一「ごくっ……う、うん。そんな感じだよ…」すっ…
純一(あと、少し……ここに手をかければ、もう……)
絢辻「……純一くん?」
純一「……うん、今からするよ」
絢辻「そう、だったら早くお願いね。ちょっと首元が見られるの恥ずかしくて……」
純一「そ、そうなんだ。でも、首筋とってもきれいだと思うよ絢辻さん……」すっ…
絢辻「そ、そおかな? ふふっ、おもしろこと言うわね純一く───」
純一「それぇええええええー!!」ぐいっ!
絢辻「──え、なに……きゃぁああー!?」ぐるぐるー!
純一「うぉおおおおおおおおー!」ぐいぐいぐいぐい
絢辻「っ〜〜〜〜〜!!?」ぐるぐるぐるー!
純一(──た、楽しい! なんだこれ!? すごく楽しい!
僕が引っ張ることによって、あの絢辻さんが回ってる! 回ってしまっている!)
純一(流石は日本代々から伝わる素晴らしき文化だよ! これは未来に受け継がれていかなければならない意思だよ!)
純一(僕は大切なことを忘れてしまっている…! これをしなければ何が伝統か!)
純一「よ、よいではないか! よいではないか!」ぐいぐい!
純一(い、言えた!感動モノだよ! こんな言葉を言える日が来るなんて……!)
絢辻「あなっ──た、なにを───……きゃぁあー!」ぐるぐる!
純一「違うよ絢辻さん! そこは『おやめになって! あーれー!』だよ!」ぐいぐい!
絢辻「なにを──いって、ちょ──やめ………いやぁあああー!」ぐるぐる… ぽす
純一「はぁっ……はぁっ…」
絢辻「はぁっ……はぁっ…」
純一「やって、しまった……ごめん、絢辻さん……」
絢辻「はぁっ……うっ」
純一「えっ!? も、もしかして吐きそうなの…っ?」
絢辻「…………」
純一「だ、大丈夫? なにか水でも──」がっ
純一「……え? なに、なんだか腰に違和感が────」
絢辻「──男の人の着物って、帯は女性物より細くて短いけれど」
絢辻「できないって訳じゃないのよね、ああいう風に」
純一「あ、あはは…なにをいってるんだろう、絢辻さんは───」
絢辻「とりゃああああああー!」ぐいぐいぐい!
純一「う、うわぁああああああああああ!!!」ぐるぐるー!
絢辻「よいではないかっ! よいではないかっ! あっははははは!」ニコヤカ
純一「うわぁあああー! ……おふっ」ぱたん
絢辻「はぁっはぁっ……あはは、いいわねぇこれ。楽しいじゃない、貴方がやってみたくなった気持ちもわかるわ」
純一「わ、わかってもらえて嬉しいよ……うん……って絢辻さんっ!?」がばぁ!
絢辻「なによ?」
純一「あ、えっと、そのっ! ま、前がっ…!」ちらっ
絢辻「前って………」
絢辻「………」(帯がほどけて半裸に気づく)
絢辻「き、きゃあああああー!!!」ばばっ
絢辻「こ、こないでっ! こっちに来ないでよ!」
純一「こないでって……そもそも着替え見てるし、そんなにも恥ずかしがらなくても…」
絢辻「一応は見ないようにって言ってたでしょう!? やっぱり見てたのね!?」
純一「男して…着替えは見ないとなぁって…あはは」
絢辻「あははじゃないわよ! とにかく! こっちをみないこと! わかったっ?」
純一「わ、わかりました!」ばっ くる
絢辻「も、もうっ……アタシなんてことしてるのよっ…ああ、色々ぐちゃぐちゃじゃない…」ごそごそ…
純一「一人で出来るかな、絢辻さん」
絢辻「みるな!」
純一「み、見てないよ…本当だよ!」
絢辻「う、うぅっ〜…!」
純一「……本当だって。神様に誓って見てないよ」
絢辻「っ……じゃあ、そのままでいないさい…!」ごそごそ…
絢辻「……っ……っ」ごそごそ
純一(まあ、絢辻さんの困った顔が見れて良かったし、結果オーライかな?)
純一(……それにしても絢辻さん、最近すごいよなぁ…)ごくり
絢辻「あ、あれ…ここどうやったかしら……」
純一(なんといかそのっ……ここ、が。すごく成長したっていうかね、うん)
純一(あれは輝日東で一二を争うレベルまで成長をはたしたんじゃないだろうか……)
純一「……回してた時も、ぷるんぷるんだったしね…」キリッ…
絢辻「───ね、ねえ……ちょっと……」
純一「はいっ!? なんでしょうか絢辻さんっ!?」
絢辻「あの、えっとね……ちょっといいかしら」
純一「なんだって申し付けください!」
絢辻「? とにかく、こっちをむいてくれる…?」
純一「え、いいの…? じゃあ振り向くけど……」くる
純一「…………」
絢辻「……なに、そんなにじっと見つめて…!」かぁあ…
純一「えっ!? あ、ごめん…なんだかちょっとはだけた着物姿でベットの上にいるってちょっと…」
絢辻「い、言わないで! 言わなくても……ちゃんと自分が陥ってる状況は判断できてるから…!」
純一「う、うん……それで僕に何のようかな?」
絢辻「そ、そのっ……」もじもじ
純一「うん?」
絢辻「また……む、結んでくれないかしら、帯……」ごにょごにょ…
純一「帯を? お安い御用だよ!」
絢辻「あ、ありがと。でも目をつぶってやること!」
純一「それは難しいよ…」
絢辻「難しくてもやるの!」
純一「…わかった、やってみるよ」
絢辻「…薄目開けてない? きちんと閉じてる?」
純一「男に二言はないよ!」
絢辻「そう、じゃあ……その、お願いするわ」すっ…
純一(うっ……なんだか目を閉じてることによって、逆に興奮が高まったような…)ぴた
絢辻「ひゃうっ…つめたっ…」ぴく
純一「あ、ごめんねっ? 手が冷たかったかな…?」
絢辻「……だ、大丈夫よ。そのまま続けて」
純一「う、うん……これが帯びかな?」
絢辻「そう、それであたしがココ」のしっ
純一(う、うわぁあー! 絢辻さんが僕の膝の上に…!)
絢辻「は、早くしてくれるかしら……お願い」
純一「わ、わかったよ…!」ごそごそ
…絢辻さんが僕の膝の上に腰掛けている。それって何だかえっちぃような…)
純一(いやいやだめだ純一! そんな邪な考えを捨てるんだ! これは絢辻さんのためにやってることだよ!
その行為に一編足りともやらしい意味合いは含まれていないんだ! 紳士であれ!僕!)
純一(……あ、でも絢辻さんってやっぱ良い匂いがするよね。トリートメントかな? くんくん…あ、いいね。
もっともっと、絢辻さんのたくさんの匂いを嗅ぎたいな───)
絢辻「んっ……ちょ、ちょっと…息が耳にあたってるわよ…」
純一「あ、ごめんね…!」
純一(いけないいけない! そのまま押し倒しそうになってしまった…!
なんという魅惑な匂いだろう、もうこれは悪魔の所業だよ! 悪魔絢辻さんだよ!)
絢辻「さっきから、鼻息が荒いのだけど……?」
純一「き、気のせいだよ。うん」
純一(と、とりあえずは心を沈めて……ふぅ。よし、絢辻さんの着替えを済ませてしまおう!)
絢辻「……んっ、ちょっときつい…」
純一「また解けないよう、着物自体もきつく閉めとくよ」
絢辻「そう、わかったわ……でも、案外出来るものね。目をつぶってても」
純一「そうだね、絢辻さんの身体は隅々まで、目をつぶっててもわかるしさ」
絢辻「だ、黙ってやりなさいっ」
純一「は、はい…」
絢辻「………ねえ、純一くん」
純一「うん、なにかな」
絢辻「………。やっぱり変かな、こういう反応って」
純一「どういうこと?」
絢辻「だって……君とはもう、恋人がするべき色々なことは……やってきてるじゃない」
純一「う、うん…そうだね」
絢辻「なのに、こうやって着替えを見られたぐらいで騒いじゃって……だめね、やっぱりあたしって」
絢辻「…そうかしら? だって貴方の彼女として、あたしはきちんとすべきところはきちんとすべきだって…」
純一「…あはは。そう思ってくれてるだけで、僕は嬉しいよ、実際にそうならなくても気持ちだけで十分だよ」
絢辻「………」
純一「僕はそうやって、なにもかも真面目に考えてくれる絢辻さんが……好きだよ」
絢辻「純一、くん……」
純一「なんだっていいんだ、絢辻さんが僕と一緒にいてくれるだけで僕は幸せだよ。
どんなことがあっても、絢辻さんは悪くないし、むしろとってもいいことだって思ってる」
純一「なにもかもひっくるめて、僕は絢辻さんは絢辻さんとして。心から愛してるよ」
絢辻「………」
純一「あはは、ちょっとくさかったかな…?」
絢辻「……ううん、とっても良かった。貴方らしくて、とっても良かった」
純一「そっか。そうだね、これは僕の本当の気持だからさ」
純一「………」すすっ…きゅ
絢辻「何も変わらなくていい。これがあたしであって……貴方が好きな絢辻 詞」
純一「うん」
絢辻「その貴方に好きなあたしは……誰かからほめられると、とても嬉しく思ってるあたしがいる」
絢辻「大切にしたいって、本物にしたいって、心からそう思ってる」
純一「いつだって本物だよ、絢辻さんは。裏があっても表があっても、僕が大好きな絢辻さんだから」
絢辻「……ありがと、そういってくれるとあたしも嬉しい」
純一「僕も絢辻さんにそう言ってもらえると、本当に嬉しいよ」
絢辻「………」
純一「……うん、もうちょっとで終わるよ。もう少し待っててね」
絢辻「………」
純一「……絢辻さん? どうかしたの?」
純一「え、でもそうすると帯が結べなくなって……わわっ」ぽにゅん
絢辻「いいのよ、今はまだ」
純一「そ、そうなの…?」
絢辻「………」
純一「………」ぽりぽり…
絢辻「もういいわよ、目を開けても。だいぶ肌も見えなくなってきてるし」
純一「ん、そっか。じゃあ開けるね」
絢辻「………」じぃー
純一「……あ、あれ? あっちを向いてたんじゃ……あれ?」
絢辻「背中を預ける前に、こっちを向いておいたの。気づかなかった?」
純一「……すごく胸に柔らかい衝撃があった気がする、かな」
絢辻「ふふっ……正直でいいじゃない。もしかして気づいてて何も言わなかったの?」
純一「そ、そうじゃないよ! で、でもこの格好は流石に…!」
純一「で、でも……」
絢辻「でもじゃない」ぐっ…
純一「あ、絢辻さん…? 両腕を首に回したら…!」
絢辻「だって、くっつかないとできないじゃない」
純一「できないってなにが…?」
絢辻「アレよ、アレ。ふふ、でしょ?」
純一「あ、アレって……ああ写真だね! いいよもっともっと撮って………」
絢辻「………」
純一「……うん、ごめん」
絢辻「よろしい。じゃああたしはここまで、後の展開は貴方に任せるわ」
絢辻「……アタシの恋人なら、きちんと最後までいけるでしょう?」
純一「…うん、大丈夫だよ。つかさ」
純一「楽しかったよ、つかさと色々と回れて。こうやって最後に君とくっつき合うことができてる。
なんて幸せだろうね、なにものにも変えようがないよ」
絢辻「そおなんだ、ふーん。嬉しいこと言ってくれるじゃない」
純一「うん、僕も嬉しいからね。なんだって言ってあげるよ」
純一「──つかさ、僕は君を心から大好きだよ」
絢辻「…あたしもよ、心から貴方のことが……大好き」
純一「着物姿可愛いよ」
絢辻「純一も、とても似合ってる」
純一「…でも、それもオシマイだね」
絢辻「どうして?」
純一「だって、脱がしてしまうから」
絢辻「…あらら、それは残念ね。無理な相談よ?」
純一「どうしてかな?」
純一「…大胆な発言だよ、びっくりした」
絢辻「そお? ふふ、いいじゃない。これがあたしだもの」すっ
純一「かっこいいね、だから大好きだよ」
絢辻「うん、知ってるわ」ぎゅう…
純一「でも、やっぱりここは譲ることはできないよ」
絢辻「……どうしてかしら?」
純一「だって、僕は絢辻さんの……恋人だから」
絢辻「それが、なに?」
純一「うん、だってさ。恋人なら、好きなことの相手の全てを…みたいじゃないか」
純一「表だって、裏だって。その着物の中にだって」
純一「僕はつかさのすべてを見てみたい」
絢辻「……お好きにどうぞ、あたしは貴方にならなんだって見せてあげる」
絢辻「だって、貴方に暴かれることなんてもう。一つもないんだから」
純一「そしてつかさも、僕のことはなんだって知ってる」
絢辻「おたがい隠し事なし、なら……もう、いいわよね」
純一「いいも悪いもないよ、僕はただ全力でつかさに立ち向かって、そして…」
絢辻「うん?」
純一「…君とずっとずっと一緒についていくんだから」
絢辻「…いい言葉ね、きゅんってしちゃった」
純一「そっか、えへへ……」
絢辻「……」
純一「……」
絢辻「……キス、する?」
純一「いや、しないよ」
絢辻「しないの?」
純一「うん、しない。でもその代わりに……僕はキスの代わりに」
純一「つかさの恥ずかしがってた首筋に、思いっきり吸い付きたいな」
ここからはエロはなしの方向でございます
ご了承ください
今回は前回にあった
純一「みんなと、イチャイチャしよう!」
純一「もっとみんなと、イチャイチャしよう!」
純一「色々とみんなと、イチャイチャしよう!」
でイチャコラしました話の+的なお話です。
ながらクオリティなのでご了解を
Entry ⇒ 2012.05.30 | Category ⇒ アマガミSS | Comments (2) | Trackbacks (0)
橘純一「あのー……田中さん?」
純一「あの、その……僕の机でなにやってるのかな…?」
田中「た、たちたちちっ……たちばひゃくんっ!? あ、あのっ…これふぁあっ!」
純一「待った!!」ずびしっ
田中「ふぇっ?」
純一「…………」
田中「…っ…っ……?」ドキドキ…
純一(この状況……放課後、教室にて田中さんが僕の使っている机に何かしていた。主に机の角で。
彼女の背中で何が行われていたかまでは分からないかったが……うむ)
純一(……でも、僕にはわかる。これは、女の子としてはちょっとアレなことなのかもしれないし…
……僕としてもあまり口にすることはためらってしまう内容だから…)
田中「……あの、橘君…?」ちらっ…
純一「田中さんっ!!」
田中「は、はいっ!?」
純一「──結婚しよう!!」
純一「ああ、そうだよ田中さん……僕は、なんというか…その……」もじもじ…
純一「───あんまり、しっかりしてなくて……大人っぽくもないし、そして根性無しだけど…」
純一「そ、それでもっ! 僕はキチンと責任のとれる紳士な男だって自負してるんだ!!」
田中「…………けっひょん…」
純一「だからっ……僕は、ちゃんと田中さんをお嫁さんにするから!!」すたすた……がっ!
田中「おっ…およめさんっ!? えっ? えっ? なになになに、どういうことっ…えっ!?」
純一「────田中さん、いきなりこんなこと言われてびっくりしていると思う」
田中(び、びっくりどころじゃないよ……っ!)
純一「でもね!! 僕は……それでも、田中さんとは良い夫婦関係になれるって思うんだ…」キリッ…
田中「…………」
田中(……よ、よくわからないけど…)
田中(……今の橘君の表情……すっごくカッコいい……っ!)
も、ももももしかしてっ……もう、占いが効いてきたのかなっ…?)ドキドキ…
田中(両想いになりたい人の机の角に……小さく十字架の傷を入れて、そして自分の机の角にも傷を入れる…
あんまり効果は期待してなかったけど、こんなに早く効き目がでるなんて……!)
純一(……どうしよう、思わず勢いでプロポーズみたいなことをやってしまったけど……
……僕、ちゃんと責任とれるのかな…)
純一(た、田中さんとは確かに親しい間柄だけど……よく、そんなには知り合いでもないし…
……それに、プロポーズの理由は? なんて聞かれたら僕……ああうっ! そんなこと恥ずかしくて言えないよ!)
田中(わぁー……こんなに橘君を間近で見たの初めてかもー……やっぱり、かっこいいよね橘君ってー…
……ああ、もっと近くでみたいなっ。もうちょこっと近づいたら怒られちゃうかな…?)
純一(あああー! やっぱり言った方がいいのかなっ!?
……ぼ、僕の机の角で…その、お宝本的なことっ…してたのかな?みたないなっ?)
田中&純一(ああっ……やっぱりそんなこと、ムリムリ!!)ぶんぶんっ!
田中「…………」
純一(……しかし、ここまで言い切ってしまったんだ。
男として、紳士として、最後まで突き通さなければならないよ)
田中(で、でもっ……橘君がここまで言ってくれたんだから……わ、私もっ!
きちんと、お、おおおおお……………お嫁さんとして、ね、うん…言わなくちゃ…だよねっ…?)
田中&純一「あ、あのっ……!」
田中&純一「っ……!?」びくっ
純一「……さきに、どうぞ?」すすっ…
田中「えっ!? あ、うん……いや! 橘君のほうからどうぞ…っ?」すすっ…
純一「うぇっ!? あ、僕はー……その、あの……」
田中「……あっと、うん……えっと〜……」
純一「…………」
田中「…………」
純一&田中(は、恥ずかしいやっぱり……!!)
う、ううっ〜……でもでも、私、告白されたことないから〜……うう〜…)
純一(……なんだか田中さん、苦しそうに眉間にしわを寄せてるな。
───あっ! 僕ってばなんてことをしてるんだっ……女の子は、えっと、その…)
純一(そ、そういった行為中は……とってもデリケートだって本に書いてあったじゃないかっ!?
紳士たる僕としたことが……くそ、ここはもっと優しく扱うべきだよね!)
純一「───田中さん……」
田中「うぐぐっ〜……ふぁいっ!? な、なんでしゅかっ!?」
純一「……あのね、僕はそこまで女の人ってものがよくわかってなくて…その。
だからね、あんまり無理しなくて大丈夫だよ…? 上手く説明は出来ないけど…」
田中「た、橘君っ……」
田中(……な、なんて優しいことを…っ……あんまり無理して、自分の告白を考えなくていいなんてー……
お、大人だよ橘君……!)
田中「う、うんっ……も、もしかして顔に出ちゃってたかな…? ご、ごめんなさいっ…!」
純一「えっ!? あ、いやっ…! だ、大丈夫だよ! 気にしてないからっ! うんっ!」
田中(気にしてないだなんて……う、ううっ、やっぱりカッコいいなぁ橘君はっ…
こんなにしっかりしてて……凄いよ〜…)
よ、よしっ! 後はー…うん、さっき自分が言ったことをもう一度、田中さんに伝えよう!)
田中(……でも、でもだよ恵子! 橘君は落ち着いて考えてほしいって言ってくれたけど、
お、おおお嫁さんとしてっ…ここはしっかりとした所もみせなくちゃ! だめだよね!)
純一「たな───」
田中「───た、たちばなくんっ……!」
純一「あ、あいっ!? な、なにかなっ!?」
田中「あのっ……わたし! そのっ……あのね!」
純一「う、うん……」
田中「っ………」
田中「……ゴニョゴニョ……だからっ…」もじもじ
純一「え、なに……? ごめん田中さん、ちょっと聞き取れなかったけど……なんていったの…?」
田中「っ……!」
田中(ああ、もうっ! わたし、しっかり! ちゃんと言わなくちゃダメなんだから…!)ぐっ…
田中「───わ、わたし! 毎日っ……美味しいみそ汁つくってあげるからぁ!」ぐわぁっ
純一「………!?」
純一「…………」ぼー…
純一(───ま、毎日……美味しいみそ汁をっ…!?
えっ!? どういうことだ!? そ、それって………それって……)
純一(ま、毎日……あれこれして、美味しいアレでワカメとか机の角とか貝殻とかダシが出て────)
純一「………っ」ぼっ!
純一(そ、そんな暗喩な表現を使ってくるなんて……田中さん! 君はそんなにも、そんなにもっ……!)
純一「………」タラリ…
田中「……ふぇっ!? た、橘くん!? お、お鼻から鼻血でてっ…!」あたふた…
純一「……え? あ、ホントだ…! ティッシュティッシュ…!」がさごそ…
田中「私が持ってるよ…! 貸してあげるからちょっとまって───」ぽろっ…
がたん
田中「あ……」
純一「え、田中さん何か落としたよ───……!?」
純一(えっ!? なんだこの、リモコンみたいなやつはっ……!?)
純一「き、気にしないでって……それ…」
田中「っ! な、なんでもないから! 橘くんは、知らなくて大丈夫だよ!
それよりもホラ! ティッシュあるから使ってね…?」すっ…
純一「……う、うん」
純一(い、今の……田中さんのポケットから落ちた奴…丸っこいフォルムに、
ピンク色の配色で…中央部分にダイアルみたいなものが備え付けられたのは……)ぐりぐり…
純一(………僕も実際には拝見したことのない、アレなのではないか…まさか、そんな……
でも本で確認した時は確かにあんな感じの形だった───つまり、それは……)
田中「………っ?」じっ…
純一(………女性用、マッサージ器……とか?)
田中(な、なんだろー……ものすごく橘くん、私のポケットを凝視してるけど…や、やっぱりバレちゃったかな!?)
田中(───机を傷つけるためのカッターナイフ……けど、小さくてカッターナイフっぽく見えないし大丈夫だよね…?)
純一(……生で初めて見たけど、田中さん…使ってるんだ……えっ!? も、もしかして……今もかな!?)
田中「…………」
田中(で、でも……やっぱり言わなくちゃいけないかなー……うん、勝手に傷を付けたことは悪いことだし……
キチンとあやまれば、橘くんも許してくれるよね……そうだよね、うん!)
そんなは、破廉恥なことをする女の子だなんて………)
純一「………!」
純一(いや! そんなわけないよ! 田中さんが、そんな子な筈がない!
思わずと言った気の迷いは、誰にだってある! 僕にだってあったさ! だからさっきのことはいい!)
純一(でも、さっき零れおちたリモコンらしきものは……流石に僕の勘違いだろう。
っはぁ〜……僕もなかなかに洞察力が落ちたものだね、勘違いしなくてよかったよ……ふぅ〜)
純一(さて、改めて田中さんに僕の気持ちを───)
田中「橘くん……」もじっ…
純一「えっ? あ、うん。どうしたの?」
田中「っ………あの、その、ね……えっと〜………〜〜〜〜っ……うん、しっかりっ……」ボソボソ…
純一「?」
田中「………あ、あのね! 橘くん、これなんだけど……っ」すっ…
純一「っ!? ……そ、それは…っ」
純一(マッサージ器のリモコ、違う! 違うってそう決めたじゃないか!)ぶんぶん
純一「っ……そ、それがどうしたのかな…っ?」
純一「……………」ゴクリ
田中「お、怒らないで……聞いてくれるかなー…?」
純一「う、うんっ! 大丈夫だよ!」
田中「……えへへ、そっか。ありがとね、橘くん……その、ね」カチカチ…
純一(……す、スイッチを入れた!?)びくぅ!
田中「さっき落とした時……私、ちょっとおかしな反応してたでしょ?」
純一「そ、そうだね」ダラダラ…
純一(どんなふうになってるんだろう!? た、田中さんすっごく自然体だけど……っ?)
田中「これね、橘くんに言わないでおこうって思ってたんだけどー……」
純一「……そ、そうだよね。こういうことって、あんまり口にしたらダメだよね!」
田中「えっ……?」
純一「ぼ、僕はね! た、田中さんがどんな風に考えてるかってのは……よくわからないけど!
で、でも……田中さんがしたことは全部、僕としては……」
純一「………う、嬉しいことだなって、思うんだ」
田中「………!?」
これは受け止めるべき問題だ! プロポーズをした身として、責任を負うべきことだよ!)
純一(田中さんが……そういったこだってことは、もう、勘違いじゃないって分かってしまった今…
……僕がすることはただひとつ、全てを認めて、受け止めることなんだから……)
田中「…………」ぼー…
田中(た、橘くんっ……そ、それって……最初から、私の想いに気付いててっ…
…それで、オマジナイのことも…全部わかってて……こんな浅ましい私の行動を全て知ってて……)
田中(それでも、こうやって……やってくれてることが、自分にとって嬉しいことって……)
田中(そう……思ってて、くれてるの…?)ポロ…
純一「……えっ!? た、田中さん……っ?」
田中「え……あ、ごめんなさいっ……わたし、なんで急に…!」ポロポロ…
田中(わ、わたしなんでっ───ああ、そっか……嬉しいんだ。こうやって橘くんに私のことを
分かっててくれたことが、とってもとっても嬉しいんだ…)
田中(なんてばかだったんだろー……わたし、自分だけが空回りして…橘くんはずっと考えてて
くれたのに……ばかばか、わたしのばか…っ)
純一(な、泣いてる……ちょっと嬉しそうに笑ってる……)
純一(………き、気持ちいいのかな?)
さすが紳士だな
純一「ひゃいっ!? な、なにかな……?」ドキドキ…
田中「……上手く、いえないけど…今、私も…とっても嬉しいんだ」
純一(う、嬉しい!? そ、それは見られ的な感じですか……? すごい、マニアックだよ!)ドキドキ…
田中「えへへ……ぐすっ、そうやって橘くんが面と向かって…言ってくれるの、
私はもしかして……うん、そうだよね、ずっとずっと…待ってたのかも」
純一(ずっと夢見てたシチュエーションだったってこと!? そ、それは……)
田中「……だから、ありがと。橘くん、感謝してます」ぺこり…
純一「あっ! うえっ!? ……こ、こちらこそ…!」ぺこり!
田中「……じゃあ、ちょっと気分も落ち着いてきたし…」
純一(落ちつくの!? それが普通なのかー……そうなのかー……)
田中「……もう一度、貴方にキチンとお返事をしても良いかな…?」ちらっ
純一「お返事……」
純一(あ、そっか! プロポーズのか! う、うん……なんだかよくわからなくなってきたけど…!
僕はそもそもその話を進めたかったんだよ! うん!)
いつも通り過ぎるな
田中「……はい、今度はちゃんとお返事をします」
田中「すぅ……はぁー……」
田中「……ふぅ〜、うん、おっけーだよ。じゃあ言うね?」
純一「う、うん……」ドキドキ…
田中(……大丈夫、私は、大丈夫…なにも不安がることなんてない。
自分自身が掲げた目標は今…ちゃんと成就しようとしてるんだ)
田中(今しかできない恋をしたい───それが、あとちょっとで成功するんだから)
田中(…私は前を向いてる。後ろを振り返ったり、寄り道なんかしないでキチンと……彼を見つめてる)
純一「…………」ドキドキ…
田中「あのね、橘くん……わたしは───」
田中(これから先、どんなことが待ってたとしても……私はしっかりとこの恋を大切にするだろう)
田中「───貴方のことが好きです………!」
田中(私は、それほどの覚悟を……彼から、橘君から、貰ったんだから…!)
でも、橘くんは……ちゃんと、私のことを、わかかっててくれて……」
純一「……」
田中「貴方がそんな言葉をっ……軽はずみに言うはずがないってことはわかるから…!
わたしは、その言葉を……ちゃんと真面目に、考えます…!」
田中「結婚……なんて、今まで考えたことも無いから実感もわかなくて……橘くんは!
しっかりしてて、大人っぽいから……先のことも色々考えてると思うんだけど…」
純一「…そんなことないよ、さっきも言ったけど、僕はまだまだ子供で…」
田中「う、うんっ……でもねっ? 私はー……それでも、そう自分自身を評価してても…
キチンと言い切った橘くんはっ……とっても、とっても……凄いと思うんだ…」
純一「…ありがと、そう言ってくれると、あはは……嬉しいよ」
田中「えへへ……うん、だから、ね? ……こ、こんな私でよかったらー……」
田中「……貴方の、およめさんにしてください」ぺこり
純一「………顔、上げてよ田中さん」
田中「…うん」すっ…
田中「うん……」
純一「僕は、田中さんに頭を下げられるような……そんなたいそれたことはしてないよ」
田中「あはは、そうかな…? でも、私は……嬉しかったんだ、だから……」テレテレ
純一「っ……そ、そっか。あんなプロポーズだったけど……」ポリポリ…
田中「…橘くんらしかったよ?」
純一「そ、そうかなっ? あははっ」
田中「えへへ」
純一(お、おおっ? なんだか良い雰囲気に……さっきまでの色々と混沌としたもやもやは何処に……)じっ…
田中「……うん?」こく…
純一(…そっか、そういうことか。僕は……田中さんのこと、なにもわかってやしなかったんだ。
己の目でみたことでしかわかろうとしなくて、田中さん自身の……内面を全然知ろうとしてなかった)
純一(僕は……うん、田中さんに悪いけど軽はずみで告白してしまったのは、否めない。
責任を取らなくちゃなんて思ってたけど、それでも……それはただの、現実逃避だったのかもしれない)
純一(……最低だ、僕は。彼女はこんなにも真剣に僕の告白を受け止めてくれたのに、キチンと考えてくれたのに)
純一(だから、だから僕は……田中さんの気持ちに応えたい!
彼女の想いに、彼女の本気に……僕は今、決意をしたい!)
田中「あ、うんっ……いいよ、なにかな?」
純一(僕の言葉は例え軽はずみだったとしても……! それを覚悟する思いと、強さは!
今からでも遅くは無い筈だから!)
純一「ありがとう、田中さん……僕、君に言いたい言葉があるんだ」
田中「…はい」
純一「僕は……どうしようもない奴で、出来の悪くて、勘違いも酷いし……なにより子供っぽい」
田中「ふふ…うん、続けて」
純一「う、うんっ……だから、そんな僕ができることはたかが知れてるって思う!」
純一「でも、だからといって! そんな悪い自分に……甘えるつもりなんてない!」
田中「っ………」
純一「出来が悪いからって、こんな僕だからって……良い訳なんてしたりしない!
僕が出来る、僕がやれる、最大限のことを……! 田中さんにっ……」
純一「僕はっ……絶対にするって、ここに誓う!」
純一「……僕は、本気だよ。こうやって言葉にすることは簡単で、誰にだってできるけど」
田中「うん…」
純一「でも、この言葉を使った……僕の想いは、誰にも負けるつもりは無い」
田中「んっ……ぐす……うん…!」
純一「……こんな安っぽい僕でよかったのなら、田中さん…」
純一「──僕と、どうか結婚してください!」
田中「…ぐしゅっ………えへへ、うんっ……たちばなくん…」
田中「──わたしの方こそ……よろしくお願いしますっ」
純一「…たなか、さん……」
田中「あはは、もう……そうやって他人行儀読んでほしくないなー…」
田中「……恵子、ってよんでいいよ?」
田中「………ふふ、純一くん?」こく…
純一「っ!」
田中「…言ってくれない、のかな」
純一「…け、恵子さん!」
田中「あ、さん付けなんだ…そっか…」
純一「えっ!? だ、だって……そっちも君づけだったし…」
田中「っ………じゅ、純一っ!」
純一「あっ……」
田中「……こ、これでいいのかな、純一…?」
純一「………っ〜〜〜〜……わ、わかったよ…僕も、男だっ…!」
田中「う、うんっ! がんばって…! 純一…!」
純一「お、おうっ! ……よし、行くぞ…っ」
純一「──け、恵子……」
田中「……えへへ、ありがと、純一……むふふっ…」
そんなに嬉しいのかな…いや、僕自身が嬉しがってるからそうなんだろうな…あはは)
純一「……あはは」
田中「………えへへ」
純一(──まさか、こうなるなんて思いもしなかったよ。最初はただ、責任責任って思ってたのに…)
純一(僕は、この一時の間に……色々なことを学んだのかもしれない。
いや、知れないじゃない。学んだんだ、彼女で……)
純一(……これからはきっと、今までにない楽しい学生生活が始まるんだろう。そんな予感がする。
僕はそれを十二分にかみしめて、彼女と……恵子と、歩んでいかなくちゃいけないんだ)
純一「あっ、そういえばまだ…言ってなかったな」
田中「うんっ? どうかしたの?」
純一「うん、たな……あはは──恵子に、ちゃんと言っておかないといけないことがあるって気がついたんだ」
田中「…えっと、なんだろう」
純一「ご、ごほんっ。それはね───」
純一「──好きだよ、恵子。大好きだ」
田中「ふぇっ…? ……あ、ああっ、うんっ!………………わ、わたしもだよ〜……!」
田中「…そっ、それじゃあっ…か、かえろっか?」
純一「う、うんっ! ……もちろん、一緒にだよね?」
田中「……うん、一緒に、かえろ純一…」テレテレ…
純一「あはは……じゃあ、一緒に」すっ…
田中「えっ……?」
純一「手、繋いじゃだめかな…?」
田中「あっ、う、うんっ…! いいよ、いいよ! 全然いいよ…!」ふきふきっ!
田中「は、はいっ! どうぞ!」しゅびっ
純一「そ、そんなに緊張しなくても……僕までなんだか…」かぁああ…
田中「あぇっ!? ご、ごめんねっ……わたしったら、ちょっとおかしくなっててっ…!」
純一「…そ、そうなんだ。でも、そう思っててくれるのなら…僕も嬉しいよ」
田中「んっく!? ………は、はい…」ぷしゅー…
純一(顔、真っ赤だ…)
純一「うん……」
ぎゅっ…
田中「っ……よろしく、ね?」
純一「う、うんっ……!」
すたすた…
田中「………」ドキドキ…
!
純一「………」ドキドキ…
すたすた…
田中「………」ドキ…
純一「………」ドキ…
すた…
田中&純一「……あのっ!」
田中&純一「……お、お先にどうぞ」
田中&純一「っ…!」
純一「あ、うん……どうかしたの?」
田中「あのね……その、じゅ、純一ぃー……えっとね…」もじっ…
田中「……か、かぷっ!」
純一「…かぷ?」
田中「……ごめんなさい、噛んじゃった…」プシュー…
純一「あ、あはは……うん、いいよ。最初からまた言ってくれたら」
田中「う、うんっ……その、カップル…繋ぎ、ってのをやってみたいんだけど……だめ、かな?」
純一「カップル繋ぎっていうと……?」
田中「あ、知らない? えっとね、こうやってお互いの指を隙間に…そうそう、でね」
田中「指と指をからませて……こう、繋ぐんだけど……〜〜〜〜っ……ああう、うう〜…!」
純一「あ、うんっ……なんだか、ちょっと凄いねっ!」
田中「そ、そうだねっ…! う、うん…!」
田中「そ、そんなに真面目に考察しなくていいよっ……それよりも、早く帰ろ…?」もじもじ…
純一「あ、うんっ…! じゃあ行こっか」
すたすた……
帰宅路
田中「…………」
純一「…………」
純一(おかしい! 今、突然そう思った!)
純一(この状況は……まぁ、自分が言った通りの結果だと認めるけど……)
純一(だけど! たな、恵子の……あれが、なんだかピュアな気がする! 僕レベルに!)
純一(……彼女はものすごく、ハードなプレイを望んでいると、僕はそれを受け止めなければと、
ついさっきまで思っていたはずなのに……場の流れって怖いな…)
純一「っ…………」
純一(こ、これはもしやっ………なにかしら、勘違い、ってものが発生している可能性も……あるのか?)
純一(…どうやら、そんな気がしてならないよ。こうやってお互いに思いを言いあった仲だからこそわかる。
僕がさっきまで思考していたことは全て……勘違いであって)
純一(彼女は机の角でなにがしではなくて、マッサージ器のリモコンなど持っておらず、味噌汁なんて暗喩は使わずに)
純一(……恵子は純粋で、恋にあこがれる乙女で、他人のことを思いやることできる素敵な女の子で、
好きだって思いをずっと大切にして、相手の想いを尊重する………)
純一「……とっても、かわいい女の子…」ぼそっ…
田中「? ……どうしたの、なにか今…」
純一「…………」
田中「じゅんいちー…? …あ、えっと…ど、どうかしたのかなっ…?」あせあせっ
純一「……恵子…」
田中「っ……けいこ……えへへ〜───あ、うん! どうしたのっ?」
純一「……僕、本当に君のこと…好きだよ」
田中「ふぇぁっ!? な、なになにっ? う、うん……さっきも聞いたから…何回も言わなくても…」
純一「だめだよ、何回も言わせてくれ、恵子」ずずいっ
純一「……好きだ、本当に好きだ」
田中「っ〜〜〜〜…そ、そんな間近でい、言わないでよっ…! ううっ…!」
純一「……だめなんだよ、どうしても、もっともっと近くで言いたい…」
純一(この罪悪感を、彼女で癒すんだ! じゃなきゃ、僕は明日から君と顔を合わせる勇気が無いよ!)
田中「う、ううっ……むいぃ〜!」ぐぃいいー!
純一「わ、わぷっ…っ?」
田中「だ、だめっていってるでしょ…! こ、こんな近い距離で…! その、だめなんだから…!」
純一「……嫌なの、恵子は」
田中「……えっ…?」
純一「僕にスキって……言われるの、嫌なんだね…」
田中「あ、えっ!? そ、そんなことっ…!」
純一「でも、さっきは手で押しのけたし……」
純一「怖くて? ……ご、ごめん…ちょっと強引だったかな…?」
田中「ふぇっ!? あ、う、ううん! いいの! 私が勝手に……だから、その……」もじもじ…
純一「………?」
田中「………」ちらっ
田中「っ〜〜〜〜! ……えっと、ね、そのね……もっと優しく……好きっていってくれたら…」
田中「…嬉しい、かな…?」
純一「っ……優しく、だね?」
田中「う、うんっ……! や、やさしく…!」
純一(優しく、優しく、そうだ……僕の目の前に居る女の子は……大事な大事な、女の子なんだ…よし!)
純一「……好き、だよ。恵子……」
田中「…うん……」とくん…
純一「好き、大好きだ……」
田中「んっ……えへへ、やっぱりその……恥ずかしいね、うん……」てれてれ
田中「………」ドキドキ…
純一「……恵子、も言ってみてくれないかな…?」ドキ…
田中「えっ……わ、わたし…が、いうの……?」
純一「だめ、かな……?」
田中「………っ〜〜〜〜……す、すす…」ぐぐっ…
純一「……す…?」
田中「………す、す………すきぃぃい〜……」ポヒュウ〜…
純一「……あはは! ちょっと気合入れ過ぎて、途中で空気漏れてるよ?」
田中「う、ううっ……わ、笑わないでよ〜っ…」
純一「ごめんごめん、でも……かわいいね、恵子は」
田中「っ! そ、そんなことっ……ゴニョゴニョ…っ」もじもじ…
純一「あはは」
純一(お、おうっ? あ、あれ……なんだかちょっと目つきが……怒らせちゃったかな?)
田中「っっ〜〜〜……」ぐぐっ…
純一「あ、えっと、恵子……ご、ごめ───」
田中「──好きぃ!」
純一「へ……?」
田中「好き好き、大好き! もうっ…貴方の顔が見れないってぐらいにっ……本当に大好きぃ!
だから、だからっ……ど、どうしようもなくてっ…わわ、わわたし…!」
田中「っ〜〜〜〜……えーいっ……!」だっ
純一「う、うぇっ!? な、なにたなかさっ…!」
どしんっ
純一「あいたた……急にどうしたの…? 歩道に転がっちゃったよ────」
田中「………」じっ…
純一「………えっと、ん…?」
純一「……えっとー…あはは、ど、どうかしたの…?」
田中「……私、こんなことするのはじめてなんだよ」
純一「えっ……?」
田中「っ……こうやって、男の人と帰るのとか…一緒に手をつないでとか…
あ、あとっ……好きだって、言えることとか…全部全部全部…」
田中「………………初めて、なんだよ」
純一「………」
田中「…だから、こうやって過ぎて行く一秒一秒が…私はとっても大変で……そして辛くて…
……そして、とってもとっても嬉しくて……」
純一「うん……」
田中「……貴方も、そう思ってる、のかな…?」
純一「…当たり前だよ、うん、あたりまえさ」
純一「僕も……とっても大変で、すっごく辛いよ。
でもだからって、この空間からすぐにいなくなりたい……とは思わない」
純一「……だって、幸せなんだもん。でしょ?」
田中「……う、うんっ…!」こくこくっ
田中「………」
純一「急に好きだなんていいだしてごめん、雰囲気とか……色々、壊しちゃったよね。
恵子も色々と考えて一緒に居るんだし……僕も、もうちょっと空気を読むべきだったよ」
田中「……わ、私の方こそ…じゅ、じゅんいちのー……うん、純一の気持ちを考えなくて…ごめんなさい」
純一「……はは、僕らってあやまってばっかだね」
田中「そうだねー……あはは」
純一「……でも、もう。あやまることなんてさせないさ」ぐぐっ…
田中「きゃっ…?」ぐいっ
純一「よいしょっと、………だってね? 僕らもう、隠し事のない二人同士だ」
田中「うん……?」
純一「こうやって思いを言いあった僕らに、もう勘違いや戸惑いなんて起こるはずがないよ!」
田中「………」
純一「……じゃないの、かなっ? えへへ!」すっ…
田中「……ふふっ、そうだね。もう、隠し事なんてこれっぽっちもないよ、わたしも」すっ…
ぎゅっ
田中「大丈夫! ……今は貴方がいるから……って言ってみたり〜」
純一「さ、さぁー行こう!」すたすた…
田中「……くすっ」
「あ、そういえば恵子の家ってまだ僕知らないよね……」
「そうだね、これから寄っていく?」
「……まずはお父様と呼ぶべきかな?」
「あはは〜……殺されちゃうかもよ?」
「ま、負けないよ! だ、だって……プロポーズのオッケーは貰ったんだから!」
「そ、それもそうだよね〜……うんうん、じゃあいっちょ気合入れてぇ〜!」
純一&恵子「ごぉー!!!」だっ
ええ…麻耶ちゃん可愛かったんだけど、田中さんの方が可愛かった異論は認める
これにて終わり
ご支援ご保守どうもでした
ではではノシ ウンコ行ってまいる
乙
Entry ⇒ 2012.05.29 | Category ⇒ アマガミSS | Comments (0) | Trackbacks (0)
橘純一「秋といえば、読書!読書の秋だよね」
橘「こうして僕のお宝本が燃やされているのは、おかしいと思わないか!?」
田中「えっ?何が?」
橘「『えっ?何が?』じゃないよ!?」
橘「こ、この中には歴史的価値のある……っ!そう!戦前の日本の風俗を現代に伝える貴重なお宝本もあるのに!」
絢辻「あら、そうなの?でもね、あたしは特に興味ないから」
棚町「同じく。……しっかし、よくこんなに学校に溜め込んでたこと」
田中「あはははっ、運ぶの大変だったよね」
田中・絢辻・棚町「うぇーい!お疲れ様でしたーっ!」
橘「うぅ……こんなのあんまりだよ……」
橘純一「が、頑張ってみた結果がこれだよ!?」
橘純一「うぅ……バレンタインか……」
橘純一「た、田中さんに彼氏が出来たって!?」
橘純一「GWッ!その素敵な好奇心が僕をッ!」
橘純一「夏っていいよね!みんな薄着になるし!」
棚町「そうそう、あんたが言い出したんでしょ?」
棚町「『そろそろ学校に保管してあるお宝本処分しなきゃ』ってさ」
絢辻「……それで処分方法を話し合った結果、焼くことに決まってたじゃない?」
橘「だ、だけど!せめて一声かけてくれてもいいじゃないか!?」
田中「な、何回も声をかけたよ!?」
田中「でも『ごめん。後にしてもらえるかな?今はそれどころじゃなくて……』って取り合ってくれなかったよね!?」
橘「あっ……」
橘(そういえば、校庭で縄跳びしてる女の子を観察していたとき……田中さん達に何度か話しかけられたっけな……)
橘(だって仕方ないじゃないか!あんな揺れ、滅多に見れるもんじゃないよ!)
棚町「あたし達のは、あんなに揺れないし?」
田中「うん……ごめんね?橘君?」
橘(し、しっかりバレてる!?)
絢辻「……それでさ、あたし達に何かいうことはないの?」
橘「……わざわざ重い物を運んでいただき、さらに焼却炉の使用申請までしていただいたようで」
橘「ほんっとうに!すみませんでした!」
絢辻「うん、わかればよろしい」
棚町「で?どうあたし達の苦労を労ってくれるの?」
田中「あ〜、一仕事した後はな〜」
橘「わかったよ!食欲の秋だからね!」
橘「お兄さんがキミ達にご飯をご馳走してあげよう!」
田中・絢辻・棚町「うぇーい!」
・
・
絢辻「……ねぇ?何であたし達は橘君の家にお邪魔してるの?」
棚町「おっかしいわよね?ご飯をご馳走になる予定だったはずなんだけど」
田中「うんうん。いつものファミレスじゃないんだね?」
橘「……ファミレスでキミ達の胃袋を満足させられるほど、僕のお財布事情に余裕はないんだ」
橘「……だから!今日は橘家の食卓で我慢していただきたい!!」
絢辻「なるほど。手料理を振舞ってくれるのね?」
棚町「でも、あんたチャーハンくらいしかまともに作れないじゃない?」
田中「あはははっ、橘君のチャーハン美味しいけどね」
橘「ふっ……くくくっ……フゥー、ハハハハハッ!」
橘「いつまでも僕がチャーハンだけの男だと思うなよ!?」
橘「いやさ、ここ一ヶ月くらい注文の多いお客様こと、森島・ラブリー・はるか氏が晩ご飯を食べに来るんだよ、うちに」
絢辻「ほんっとうに暇なのね、あの人」
田中「……続けて?」
橘「『シェフ!私はお腹が空いたわ!早くして頂戴っ!』ってうるさいから、初めは適当にチャーハン出してたんだけど」
橘「『チャーハン飽きた〜!他の物が食べたい〜!』って駄々をこね始めてね」
絢辻「ご馳走になってるのに贅沢な人ね。気持ちはわからないこともないけど」
橘「さすがの僕も困ってしまったんだけど、そしたら……」
田中「……そしたら?」
橘「『わかったわ!私は食べたい料理の材料とレシピを準備すればいいのね!?』……と、ラブリーに解決してくれまして」
棚町「……何その正しいようで間違ってる解答」
橘「……まぁ、それで毎日毎日いろんな物を作ってた結果!」
絢辻「『僕、料理に目覚めちゃったよ!僕のことは鉄人と呼んでくれ!』って?」
橘「うん……そこは言わせて欲しかったな……」
橘「あ、うん。それなんだけど……」
田中「わ、私にはご馳走しないのに、森島先輩にはご馳走してたんだ!?しかも内緒で!?」
橘「た、田中さん!?」
絢辻「あー、これは……」
棚町「……恵子、やっておしまい」
田中「このっ!浮気者っ!信じてたのにっ!」
橘「ち、違うんだよ!内緒にしてたのは悪かったけど、これにはワケがあるんだ!!」
田中「う、浮気にワケもなにもないでしょ!?」
橘「お願いだ!ここは冷静に僕の話を聞いてくれ!」
絢辻「あたしも橘君の釈明聞きたーい」
棚町「……納得いく理由があるんでしょうね?」
田中「うぅ……話してよ?」
森島「……と、私が焚きつけたからね!」
田中「も、森島先輩!?」
美也「たっだいまー!あ、今日はみんないるんだ?」
森島「あのね?田中さん?」
森島「私は橘君の料理を食べられて満足だし!橘君は田中さんの為に料理の腕を磨けるし!」
森島「……誰も損しないじゃない?」
森島「だからこうして毎晩ご馳走になってたんだけど……橘君!?ちゃんと説明しとかなきゃダメじゃないの!?」
橘「……というわけなんだよ、田中さん。」
橘「内緒にしてたのは本当にごめん。田中さんを驚かせたくて……」
田中「……なんだ、そうだったんだ!」
橘「わ、わかってくれたかな?」
田中「……わからないよ!このラブリー脳ッ!」
棚町「け、恵子!?落ち着いて!?意味がわからないことを口走ってるわよ!?」
田中「だ、だって!だったら初めから私を実験台にしてくれてもいいよね!?」
絢辻「……橘君?橘君は橘君なりに格好つけたかったのよね?」
橘「う、うん。田中さんには、ちゃんとしたものを食べて貰いたかったんだ」
田中「……だったら!今すぐ料理持ってきて!怒ったらお腹が空いたよ!」
橘「えっ?」
田中「は、早くして!私、空腹で怒りが収まらないよ!?」
橘「わ、わかった!少しだけ待ってて!」
・
・
橘「……田中さん?」
田中「……なに?」
橘「さっき『す、少しだけ待ってて!』とはいったんだけど……」
田中「……うん。料理はまだ?」
森島「あはははっ……ごめんね、田中さんん?こんなことになるとは思ってなかったから……」
森島「今日は秋野菜のカレーライスにしようと思ってね?」
田中「……そういえば、カレーの美味しいそうな匂いがするね。で、まだかな?」
橘「そ、それが!パパッと材料を切って鍋に放り込んできたけど、あと30分は煮込みたいところなんだ……」
橘・森島「お客様!お待たせしてしまい!本当に申し訳ありません!」
田中「も、もう!ご飯に生野菜載っけたのでもいいから食べさせてよ!?」
棚町「け、恵子!?」
橘「うん……ごめんね?」
絢辻「だからさ……こう……」
絢辻「『はい!30分煮込んだ品がこれです!』的なことはできないの?」
森島「わおっ!あなたもラブリー脳だったのね!?」
橘「そ、そんなこと出来るわけないだろ!?絢辻さんと違って、僕に七不思議はないんだッ!」
絢辻「はぁ……仕方ないわね。ちょっと台所借りるわよ?」
橘「な、何を!?まさか……煮込んだ物があるとか!?」
絢辻「そんなわけないでしょ!?すぐに摘めるものでも、と思ったのよ」
棚町「さすが絢辻さん、気が利くわ!」
橘「ま、待って!僕も行く!絢辻さんの不思議をこれ以上看過できない!」
・
・
絢辻「はい、お待たせ」
田中「……これは?」
絢辻「カレーの材料の余りと冷蔵庫の中にあったもので、サラダを作ってみたの」
棚町「へぇ!余り物でこんな綺麗なサラダを作れるものなのね!」
橘「……」
棚町「ん?あんた、どうしたの?」
橘「うちの冷蔵庫にあんなものが入ってたなんて、僕も知らなかったよ……」
橘「また不思議を一つ知ってしまった!僕の命は風前の灯火なのか!?」
美也「バカなことをいってるにぃには放っておいて、早速このサラダを食べようよ!」
田中・絢辻・棚町・森島・美也「うぇーい!」
橘「なんだか酷い疎外感だよ……うぅっ……」
おまえレス時間すごいぞ
橘「大変お待たせしましたっ!」
橘「これが輝日東の鉄人・橘の秋野菜カレーです!」
棚町「へぇ、見た目は美味しそうね?」
森島「彼の料理の腕前は私のお墨付きよ!もし不味かったら、橘君を好きにしちゃって構わないわっ!」
橘「も、森島先輩!?」
絢辻「何を急に不安になってるのよ?カレーなんて不味く作る方が難しいじゃない」
美也「えぇ!?そうなんですか!?」
田中「あはははっ、もし不味かったらお口直しに東寿司の特上の出前とっちゃうよ?」
橘「……無理無理無理。それは無理だよ、田中さん」
橘「と、とにかく!冷めないうちに!」
一同「いただきます!」
棚町「純一のことだから『辛すぎる!』とかあると思ったのに、絶妙な辛さよね」
森島「……ふっ、また腕を上げたわね?」
美也「さすがにぃにだね!」
橘(ふぅ……どうやら好評みたいだぞ!)
橘「あ、田中さんの感想も聞かせてもらえるかな?」
田中「……まずいよ、これ」
橘「えっ……」
田中「橘君!?信じられないよ!?こんなカレーを作って!!」
橘「そ、その……ごめ」
田中「こんなカレー作られたら、私食べ過ぎて太っちゃうよ!?信じられない!?」
橘「えぇ!?じゃ、じゃあ?」
田中「ハフハフッ……というわけで、おかわり!うぇーい!」
橘「は、はい!今すぐ!」
絢辻「……田中さん?カレーは逃げないから落ち着いて食べたら?」
田中「だっ、だって!橘君のカレー美味しくて!……ゴフッ」
絢辻「ほ、ほら!お水、お水!」
橘「いやー、よかったよ。『このカレーは出来損ないだ、食べられないよ』も覚悟していたし」
森島「わおっ!『明日またここへ来てください、本当のカレーをお見せしますよ』なのね!?」
棚町「ならさならさ!怒った恵子のアームロックで『がああああ お…折れるぅ〜』もあったかもよ?」
美也「……よかったね、にぃに。障害沙汰にならなくて」
橘「うん……本当によかったよ……」
・
・
一同「ご馳走さまでしたー!」
田中「うぅ……苦しい、もう食べられないよぉ……」
棚町「あ、あんた食べすぎなのよ!」
絢辻「さてと、洗い物は……」
橘「あ、いいよ?僕がやっておくから」
絢辻「あら?そう?悪いわね」
森島「あぁ!?」
橘「ど、どうしたんですか!?」
森島「いっけない!明日提出期限のレポートあるのすっかり忘れてたわ!」
森島「ごめん!橘君?私、帰るね!?」ドタドタッ
棚町「あらら、大学生も大変ね」
絢辻「……何を他人事みたいなことをいってるの?あたし達も明日までの数学の課題あるわよ?」
棚町「えぇ!?そうだっけ!?あははっ……」
棚町「純一、ご馳走!また明日ね!」
田中「ま、待ってよ!薫〜」
棚町「あんたはもう少し食休みしてから帰りなさいよ?」
絢辻「その方が賢明よ?」
田中「う、うん……」
絢辻・棚町「お邪魔しました〜」
橘「何だよ、みんな急に……」
美也「はーっ!?」
橘「ど、どうした!?美也!?」
美也「みゃーもよくわからないけど用事があった気がする!さ、紗江ちゃんあたりと!」
美也「と、というわけで、みゃーはこれから出掛けるから!」
橘「お、おい!何だよ、それ!」
橘「……何なんだよ、まったく」
田中「あはははっ、二人っきりにされちゃったね」
田中「う、うん……そうしようかな」
田中「あ、横になるんだったら橘く……純一に膝枕してほしいかも」
橘「えっ?膝枕?」
田中「……ダメ?」
橘「か、構わないさ!僕の膝でよかったら、いくらでも使ってよ!」
橘「よいしょっと……どうぞ?」
田中「じゃ、じゃあ。失礼しま〜す……」
橘(た、田中さんの頭が、僕の膝の上に……っ!)
橘「……柔らかくするつもりはないよ?」
田中「わかってるよ〜」
橘「……」
田中「……」
橘「……苦しいならさ、ブラウスの襟元とスカートのウェストを緩めたらいいんじゃないかな?」
田中「……えっち」
橘「ち、違うよ!?下心でいってるんじゃなくて」
田中「……え?下心ないの?」
橘「……ごめん、下心あったかも」
田中「ふふっ、正直だね」
橘「……悪かったよ」
ゲームだったら10回くらいリピートして聞くわ
田中「……緩めてくれるかな?」
橘「えっ?」
田中「今、動くの億劫だから……純一が緩めてくれると助かっちゃうな」
橘「いいの!?」
田中「あはははっ、お願いしてるのに『いいの!?』はないよ」
橘「じゃ、じゃあ!緩めるよ?」
田中「うん……お願い」
橘(お、女の子の服を脱がせる……いや!脱がせるんじゃないぞ!)
橘(そう!胸元とウェストを緩めてあげる日がくるなんて……っ!)
橘(こんなことになるんだったら、もっと練習しておけば……っ!)
橘(れ、練習ってなんだよ!?動揺しすぎだろ、僕っ!!)
橘(ネクタイ!ネクタイをまず緩めよう!)
橘(……よっと)シュルシュル
橘(そ、それで!次は!ぼ、ボタンを……一つずつ!一つずつ丁寧に!)ゴソゴソッ
田中「んっ……」
橘(丁寧に!一つずつ!)ゴソゴソ
田中「……純一?」
橘「う、うん?」
田中「どこまでボタンを外してくれるの?その……私の下着が丸見えになってるよ?」
橘「あ、あぁぁ!ごめん!悪気はなかったんだ!」
田中「もう……別にいいけど」
橘「い、今戻すよ!」ゴソゴソ
橘(はわわわわっ!僕としたことが!緊張してついつい!)
橘(スカートのウェストを緩めてあげよう!)
橘(……ん?)
橘(は、はぁぁぁぁぁ!?)
橘(な、なんてことだ……僕、僕!)
橘(制服は大好きだけど、スカートの脱がせ方なんて知らない!)
橘(いつも偉そうに制服の魅力を語っていたけど、こんなんじゃみんなに顔向けできないよ……)
橘(うぅ、恵子?……ごめんね?)
橘(ここからは紳士・橘ではなく、開拓者・橘だよ……)
橘(僕は西部の男だ!抜きなよ?どっちが速いか……勝負しようぜ?)
橘(……よし!バカなことを考えてたら少し落ち着いてきちゃったぞ!)
橘(え、え〜っと……なんだ、ホックがあるじゃないか)
橘(これを外して……)プチッ
田中「……んんっ」
橘(あ、あとはこのアジャスターを緩めればいいのかな?)ジャリジャリ
田中「……んっ……ふぅ……」
田中「……ありがとう、純一。楽になったよ」
橘「ぼ、僕こそありがとうだよ!」
田中「へっ?」
橘「い、いや!何でもないよ!はははっ……」
橘「う、うん?」
田中「頭を……ナデナデしてほしいな?」
橘「頭を?」
田中「えへへっ、ダメ?」
橘「……」ナデナデ
田中「はぁ〜、落ち着くなぁ……」
橘(け、恵子の髪の毛ってサラサラモフモフしてるなぁ!)
橘(このキューティクル!どこぞのワカメも、恵子を見習え!)
田中「純一の手……大きいね」
橘「そ、そうかな?」ナデナデ
田中「うん……」
橘「ごめん、少し大きな声を出してもいいかな?」
田中「う、うん?どうしたの?」
橘「いや、ちょっとね……」
田中「えっ?……ま、まさか!?」
橘「いい画はたくさん撮れたろ!?なぁ!?」
橘「今の橘君は不完全燃焼なんだろ?そうなんだろ?そうなんだろって?……じゃないよ!早く出て来い!!」
森島「わおっ……気付かれてたのね?」
絢辻「毎度毎度ご馳走様です」
棚町「もちろんバッチリ撮れてるわよ?」
美也「にししっ!にぃにのえっち!」
田中「……うわぁ、やっぱり」
橘「……もうね?白々しいにも程があるよ!?」
橘「……何か僕らにいうことはないの?」
絢辻「いうこと?……あ、今日はね?写真じゃなくて動画にしてみたのよ!」
橘「あ、それ!最新のハンディカムじゃないか!何で持ってるん……うん、そりゃお持ちですよね」
棚町「お、おお!純一の慣れない手つきが!恵子の制服を脱がせる慣れない手つきが堪らないわね!」
美也「みゃーももう一回見る!棚町先輩!巻き戻し!巻き戻し!」
橘「ぬ、脱がせたわけじゃないよ!?」
森島「もう……お姉さんの知らないところで、橘君は大人になっていくのね……寂しいなぁ」
絢辻・棚町・森島・美也「うぇーい!」
橘「……」
田中「……あはははっ」
橘・田中「うぇーい……」
橘「森島先輩がさ、『私からはもう何もいうことはないわ!』ってことで、晩御飯食べにくるのやめるって」
橘「一人前と認められたってことなんだけど……要は森島先輩が飽きただけだと思うんだよね」
田中「あはははっ、間違いないね」
橘「あ、それでね?田中さん?今晩もうちにご飯食べにこない?」
田中「え?いいの!?」
橘「うん、一人前になった僕の料理を是非振る舞いたいんだ」
橘「……あ、何か期待した顔をしてるそこの二人は呼ばないからな?」
絢辻「そ、そんな!?ひどい!?」
棚町「あたし達が飢え死にしてもいいってのね!?この人非人!!」
田中「……橘君?私も許せないところはあるけど、ご飯はみんなで食べた方が美味しいよ?」
橘「……だってさ。田中さんが優しくてよかったな」
橘・田中・絢辻・棚町「ご飯はみんなで美味しくね!うぇーい!」
完
田中さんうぇーいかわいい
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Entry ⇒ 2012.05.28 | Category ⇒ アマガミSS | Comments (0) | Trackbacks (0)
橘「な、七咲!?なんでパンツをはいてないんだ!?」
橘「だ、だからね?何でパンツはいてないのかな〜って?」
七咲「……」
橘「は、ははっ……」
七咲「……いや、はいてますし」
橘「そっか……七咲にはガッカリだな」
七咲「えっ?」
美也「ふぅ、逢ちゃんはダメダメだねぇ……」
七咲「み、美也ちゃん!?」
中多「し、失望……したよ?」
七咲「な、中多さん!?」
美也「お、にぃに!?元気だしなよ!?」
中多「せ、先輩!?早まらないで下さい!」
七咲「な、何ですか!?私はパンツをはいてちゃいけないんですか!?」
橘「そ、そこじゃないよ!七咲のわからずや!」
七咲「わ、わからずや!?」
美也「逢ちゃん?にぃにはね、逢ちゃんの反応にガッカリしたんだと思うな」
七咲「……えっ?」
中多「パンツをはいてるのなんて当たり前だよ……?へ、変態さんじゃないんだから」
七咲「ど、どういうことなの!?」
美也「にぃにはね?逢ちゃんに叱られたかったんだと思うんだ」
美也「『な、何を馬鹿なことをいってるんですか!この変態ッ!』って」
七咲「あっ……」
中多「な、なのに逢ちゃんときたら……」
七咲「で、でも!そんなのわかるわけないよね!?」
美也「はぁ……普通は気の利いたリアクションの一つくらい準備してるものだって」
中多「あ、遊びでやってるんじゃないんだよ?」
七咲「なっ……じゃ、じゃあ!美也ちゃんならどうしたの!?」
美也「……仕方ないなぁ」
美也「お兄ちゃん?悪いんだけどさ……」
橘「う、うん……」
美也「ちょ、ちょっと!声が大きいって!?」
橘「だ、だって!お前……!ぱ、パンツ!パンツが!……はいてない!?」
美也「パンツパンツうるさい!」
橘「ま、まさか……お前……高校生にもなってお漏らしを……」
美也「!?」
橘「えっ……そ、そうなのか!?」
美也「……ぃにの」
橘「み、美也?」
美也「にぃにのバカ!信じらんない!」
橘「み、美也!?落ち着け!な?」
美也「みゃーーーーーーーっ!」
橘「そ、そんなに暴れたら!見えちゃう!見えちゃうぞ!?」
・
・
・
中多「先輩、美也ちゃん……お疲れ様でした」
橘「み、美也のお陰で少し元気になっちゃったかな!ははっ!」
七咲「……な、中多さんは!?」
中多「え?」
七咲「中多さんも、こんなリアクション準備してるの!?」
中多「あ、当たり前だよ……」
七咲「な、なら……!」
中多「……先輩?だそうですよ?」
橘「や、やってみよう!」
中多「は、はい!」
橘「そ、そのね?……何でパンツはいてないのかな……?はははっ」
中多「み、見えましたか?」
橘「う、うん……ごめん」
中多「こ、これはですね……」
中多「せんぱ……いえ、教官が『人前でパンツをはいてないよりは、恥ずかしくない!』とおっしゃっていたので……」
中多「……こ、克服する為に」
橘「中多さん……」
中多「……教官のおっしゃる通りでした!これに比べたら男の人とお話しすることくらい……!」
中多「だから……私っ!」
橘「中多さん!」
中多「きょ、教官!」
・
・
・
七咲「……くっ」
橘「僕さ!本当にはいてないんじゃないかって気さえしてきちゃったよ!」
美也「……それに比べて、逢ちゃんときたら」
橘・美也・中多「はぁ……」
七咲「ま、待ってください!」
中多「……い、言い訳は見苦しいよ?」
七咲「ち、違うんです!そ、その!」
七咲「美也ちゃんと中多さんは急にふられたわけじゃないですよね!?」
七咲「そ、そう!わ、私より有利な条件です!」
七咲「……ですから!」
美也「あ、あそこにちょうど森島先輩がいるからさ」
橘「うん。僕ちょっと行ってくるよ」
森島「あ、橘君!どうしたの?」
橘「そ、その……」
森島「うん?」
橘「な、何でパンツをはいてないんですか!?」
森島「えっ?」
橘「……」
森島「ふふっ、バレてしまっては仕方ないわね!」
森島「これはノーパン健康法よ!」
橘「の、ノーパン健康法!?まさかの!?」
森島「うん!橘君に教えてもらったじゃない?」
森島「……だから、試してみたくなっちゃってね!」
森島「ちなみに三日目!なんだか身体が軽くなって気さえするわ!」
橘「そ、そんな……森島先輩が本当にノーパン健康法を……」
橘(僕は……僕はどうしたらいいんだ!?)
橘(も、森島先輩!その健康法は男共に刺激的すぎます!)
森島「ふっふっふっー、私の勝ちね?」
橘「……えっ?」
森島「もう、本当に困った顔をしちゃって!可愛い〜!」
橘「あっ……」
森島「どうしたの?顔真っ赤だよ?」
橘「し、失礼します!」
森島「顔を洗って出直してらっしゃい!私はいつでもキミの挑戦を待ってるわ!」
・
・
・
美也「さすが森島先輩だったね!」
中多「……く、悔しい!……けどっ!」
七咲「……ちょっと待って下さい」
橘「うん?どうしたの?」
七咲「あの人は別格ですよね?……色々な意味で」
美也「もう!また言い訳!?」
中多「……逢ちゃん?これ以上生き恥晒すのは……」
七咲「ほ、他の人!他の人にも訊いてみましょう!」
七咲「ほ、ほら!あそこにちょうどよく棚町先輩がいらっしゃるじゃないですか!」
橘「薫か〜……。まぁ、何とかなるかな」
棚町「あ、純一じゃん」
橘「突然で悪いんだけどな……」
橘「お前がそんな変態だったなんて……僕は知らなかったぞ?」
棚町「は?何の話?」
橘「……何ではいてないんだ?」
棚町「だから何の話よ?」
橘「なぁ!?何でパンツをはいてないんだ!?何が狙いなんだよ!?」
棚町「なっ……!」
棚町「……」
棚町「ち、違うの!そういうわけじゃないのよ!?」
橘「じゃあ、どういうわけなんだよ!?」
棚町「こ、これは……」
棚町「ついさっきね?屈強な男に無理矢理脱がされちゃったのよ……」
だから次は田中さんで行こう?
棚町「えぇ……一瞬の出来事だったわ」
棚町「……廊下の向こうから、世紀末覇者みたいな風貌の男が歩いてきて」
棚町「い、いきなり!あたしを押し倒して……っ!」
橘「だ、大丈夫か!?怪我は!?」
棚町「幸いパンツを無理矢理剥ぎ取られただけで、怪我はないんだけど……」
棚町「うぅ……純一、どうしよう!あたし、あんな辱めを受けたら、もうお嫁にいけないわ!」
橘「か、薫!?」
棚町「……ご、ごめんなさい。あなたという人がいるのにこんなことになっちゃって」
棚町「あたし……もう死ぬしかないわ!」
橘「薫!早まるな!僕はそんなことでお前を捨てたりはしない!」
棚町「ほ、本当に!?」
橘「あぁ……本当さ」
橘「何度もいわせないでくれよ……」
棚町「純一……」
橘「薫……」
橘「ところでさ、世紀末覇者みたいな男はやっぱり馬に乗ってたの?」
棚町「えぇ、山みたいな大きさの馬に乗ってたわ……」
橘「そっか……うぬぅ」
棚町「で?本当は何の用なのよ?」
橘「薫?僕は今大変機嫌がいいから、ジュース奢ってやるよ」
棚町「あ?本当に?てんきゅ!」
・
・
・
美也「お兄ちゃん?私のジュースは?」
橘「あ、はいはい。ほら、中多さんと七咲も」
中多「あ、ありがとうございます……」
七咲「すみません、気を遣わせてしまったみたいで」
橘・美也・中多・七咲「……」
七咲「……次は普通な人にしましょう。普通な人に」
美也「えぇ!?まだやるの!?」
中多「あ、諦めが肝心……だよ?」
七咲「先輩?あそこの普通そうな人に訊いてきてもらえますか?」
橘「えぇ!?あの子に!?」
橘「……わかった。やってみる」
田中「あ、橘君?何してるの?」
橘「あ、あのさ……?」
田中「うん?」
橘「……田中さん、何でパンツをはいてないの?」
田中「えっ?」
橘「だから、何でパンツを……」
田中「橘君……何でわかったの?」
橘「えっ?」
田中「何で私がパンツはいてないってわかったの?」
橘「えぇぇぇ!?」
橘「……なんではいてないの?」
田中「そ、それは……占いでね?」
橘「占い?」
田中「うん。占いによると、今日はパンツをはかずに帰ると素敵な出会いがあるって」
橘「そ、そっか!なら仕方ないよね!」
田中「うんうん、恥ずかしいけど頑張ってみたんだ。あはははっ」
橘「……田中さん?」
田中「……うん」
橘「……出会ったのが、よりによって僕で大変申し訳ないんだけどね?」
田中「……うん」
橘「……はこうか?パンツを」
田中「…….うん」
美也「……うん」
中多「……そうですね」
七咲「……びっくりしました」
橘・美也・中多・七咲「……」
七咲「な、なら!今度は常識人にしましょう!そうしましょう!」
橘「……常識人?」
七咲「あ!あそこにいるのは創設祭実行委員長の絢辻先輩!」
橘「……七咲?僕を亡き者にする気なの?」
七咲「えっ?何でですか?」
橘「わかったよ!骨は拾ってくれよ!?」
橘「うん。僕が悪かったよ」
橘「だからさ、校舎裏じゃなくて……もうちょっと賑やかな場所でお話しようよ?ははははっ」
絢辻「……橘君はシュレディンガーの猫って知ってる?」
橘「あ、うん。箱を開けてみないと中の猫の生死はわからないってヤツだよね?」
絢辻「えぇ、観測されるまでは二つの可能性が重なっている。量子力学の有名なお話よね。」
橘(な、何がいいたいんだ!?僕の死は観測されたも同然じゃないか!?)
絢辻「……だからね?あたしのパンツも観測されるまでは、ここにあるかどうかわからないでしょ?」
橘「う、うん?」
絢辻「理系の橘君が、量子力学的な観点から、あたしのパンツに知的好奇心を持つのも仕方ないわよね。男の子ってSFが好きさ」
絢辻「……ねぇ?観測実験してみる?」
橘「……すみませんでした」
絢辻「ま、あたしも鬼じゃないから」
絢辻「顔は勘弁してあげるわよ?」
橘「……優しくしてね?」
橘「わかったろ?世の中には冗談が通じる人と通じない人がいるってことが……」
美也「でも、逢ちゃんよりはノリがあったよ?」
中多「た、橘先輩を折檻する絢辻先輩……物凄くイキイキとしてました」
橘「……ちなみに、今日の絢辻さんは機嫌がいい方の絢辻さんだよ?気を付けてね?」
七咲「さ、さぁ!気を取り直して!次にいってみましょう!」
美也「……逢ちゃんが納得するまで続ける気?」
中多「み、美也ちゃん?もうこの子も引けないんだよ……」
七咲「ほ、ほら!あそこのほんわかした子とか!多分何も反応できませんよ!?」
橘「梨穂子か……」
橘「えぇぃ!やってやるよ!」
梨穂子「あ、純一!」
橘「なぁ?梨穂子?僕、気になることがあるんだけどさ?」
梨穂子「え?なぁに?」
橘「梨穂子ってパンツ……」
梨穂子「な、な、な、何のこと!?」
橘「えっ?」
橘(まだ言い終わっていないうちから食い気味に……さては何か隠してるな?)
橘「なぁ?梨穂子?お前、パンツを」
梨穂子「こ、これは手違いなの!?」
橘「手違い?」
梨穂子「そ、そう!手違いなのです!」
橘(ま、まさか!田中さんに続き梨穂子も!?)
橘(そ、そんな……っ!)
梨穂子「だーかーらー!手違いなの!」
梨穂子「今朝遅刻しそうだったから、間違えてお母さんの下着をはいてきちゃって!」
橘「えっ……おばさんのを?」
梨穂子「ま、まさか純一に見られてるとは思わなかったよ……あははっ」
橘「そ、そっか!次から気をつけろよ?」
梨穂子「もう!言われなくてもわかってますよ〜だ!」
橘「はははっ、このドジっこめ!」
梨穂子「ドジっこっていうな〜!」
・
・
・
かわいいなあ!!
かわいいなあ!!!
橘「うん。事故だからね……はははっ」
美也「事故でも逢ちゃんよりは〜」
中多「美也ちゃん?それは死人に鞭だよ?」
七咲「しかし、困りましたね。次はどうするか……」
七咲「あ、あそこの木の影からこっちを見てる女の子は、橘先輩のお知り合いですか?」
橘「い、いや?知らない女の子だけど……えっ?まさか?」
七咲「そのまさか、です」
橘「えぇぇぇ!?……やらなきゃダメ?」
七咲「はい。お願いします」
橘「……わかったよ」
美也(あ、あの子は!?)
?「は、はい!?」
橘「僕、二年の橘純一というものなのですが……」
?「う、うん。知ってるよ?」
橘「そ、そうなんですか!?光栄だなぁ、あははっ……」
橘「お、お気を悪くしないで下さいね?」
?「え?うん……なに?」
橘「その……どうして下着をお召しになららてないのかなって……はははっ」
?「えぇ!?た、橘君!?」
?「た、橘君はそっちの方が……好きなの?」
橘「す、好きというかなんていうか……まぁ、好きですけど……」
橘(ぼ、僕は初対面の女の子と何て会話をしてるんだ……)
?「そ、そうだったんだね!?」
?「あ、あなたがそっちの方が好きなら……あたし、ここで脱いでも……」
橘「……えっ?」
?「み、美也ちゃん!?」
美也「二人はもっとちゃんと出会わなきゃダメなの!こんなのみゃーは認めないよ!?」
橘「み、美也!?この子を知ってるのか?」
?「あ、あたしは二年の!」
美也「だからダメ!日を改めてもう一度!」
?「そ、そんなぁ」
美也「ほら、帰って帰って!」
?「美也ちゃん、ひどいよ……うぅっ」
?「でも仕方ないよね……橘君?またね?」
橘「う、うん。またね」
橘「あと、変なことを聞いてごめん」
?「ううん、大丈夫だよ?だから、気にしないで?」
美也「さっさと帰れーっ!」
・
・
橘「なんだか大変なことになっちゃったんだけど……」
七咲「ど、どうなってるんですか!?」
橘「なぁ?七咲……?」
橘「今日はもう遅いし……終わりにしないか?」
美也「うん、お腹空いた」
中多「ね?みんなでラーメンでも食べて帰ろ?」
七咲「な、何をいってるんですか!?これからですよ!?」
橘「そ、そんなことをいっても!もう校舎に残ってる人なんて誰も……」
?「あら?七咲?橘君?こんなところで何をしてるの?」
七咲「塚原先輩!」
橘「うわぁ……また冗談の通じない人が……」
塚原「う、うん?どうしたの?」
塚原「えっ?何かしら?」
橘(七咲のヤツ……なんて強引な真似を!)
橘(こうなったら、引くに引けないし……)
橘(よし!ここは素直に塚原先輩にぶっ転がされて帰ろう!)
橘「塚原先輩!なんで先輩はパンツをはいてないんですか!?」
塚原「な、な!?」
塚原「……ねぇ?橘君?」
橘「は、はい!」
塚原「明日、暇はあるかな?」
橘「あ、明日ですか?放課後でよろしければ……」
塚原「じゃあね、放課後に手伝ってもらいたいことがあるんだけど……いいかな?」
橘「な、何をすればいいんですか?」
塚原「はるかにさ、復讐するから手伝ってもらえるかな?」
橘「ふ、復讐!?」
塚原「私ね?はるかにパンツ盗まれたみたいで……」
橘「えぇ!?森島先輩に!?」
塚原「うん。あの子にパンツ盗まれちゃって」
橘(なんてことだ……全く意味が分からないなんて……)
塚原「……今はブルマを代わりにはいてるんだけど」
橘「ぶ、ブルマを!?」
塚原「こら!いやらしい想像をしないの!」
塚原「……で、まぁね。さっきも話した通り、明日はるかに復讐するから」
塚原「あ、詳しいことは明日話すわね?」
橘「は、はい!わかりました!」
塚原「ふふふっ……橘君が協力してくれるなら、はるかを十二分に辱められそうね……」
塚原「あ、それじゃあ私は失礼するわね。あ、みんなも気を付けて帰るのよー?」
橘「は、はい!お疲れ様です!」
七咲「はい。天にまで見離されてるようなので」
美也「もう!逢ちゃんは認めるのが遅い!」
中多「ま、負け犬の匂いがするよ?」
七咲「……よく考えたら、先輩に面白いリアクションをしなければならない理由がありませんでしたよ、ふふっ」
美也「うわっ、元も子もないよ!?」
中多「こ、ここにきて開き直りとか……」
橘「まぁ、いいや。今日は色々疲れたし……」
橘「みんなで食事でもしてから帰ろうか!」
美也・中多・七咲「おーっ!」
橘「……勿論、七咲の奢りで」
七咲「えっ?……はい。500円までなら、なんとか」
完
黒沢ちゃん…
乙
Entry ⇒ 2012.05.26 | Category ⇒ アマガミSS | Comments (0) | Trackbacks (0)
純一「色々みんなと、イチャイチャしよう!」
アパート
純一「………」ごと…
純一「──よし、こんな感じでいいかな。だいぶ片付いたと思うけど…」きょろきょろ…
純一「まあ、大丈夫だろ。美也が来るだけだしな」
純一「………」
純一(……綺麗に片付いたら、ちょっと一服してきたくなったなぁ。
美也が来るのはもうちょっと後だし、少し経てば匂いも取れるだろう)
純一「………」かさかさ… じゅっ
純一「……ふー…」 ガチャ!
美也「にぃにー! 遊びにきったよぉ……ってああ!!」
純一「ぶほっ!?けほっけほっ……美也!?」
紗江「え……美也ちゃん、どうしたの…? あ……」
美也「にぃにまたタバコすってる! こらぁー!」
美也「そうだけど! でもにぃにを驚かせようとして早めに来てみればぁ……にぃに!駄目だよそんなの!」どたどだ!
純一「あ、ちょ……危ない美也…! わかったわかった、捨てる! 捨てるから!」
紗江「み、美也ちゃん…!」
美也「だ、大学生になったからって、すぐオトナっぽいことするんだから!
そんなことしても女の子にもてないよ!」
純一「べ、べつにモテようってわけですってるわけじゃ…!」
紗江「せ、せんぱい……」
純一「ていうか紗江ちゃん! どうしてここに紗江ちゃんが…っ?」
美也「さっき買い物してる時に、そこでバッタリあったんだよ…!もう、これ捨てるからねにぃに!」ぽいっ
純一「ああっ…! 最後の一箱が…!」
美也「いいの! これで最後の一箱にしてよね! ったく……ごめんね紗江ちゃん?」
紗江「…………」
純一「しっかりしてるよ…! ほら、ちゃんとアパートで一人暮らしもしてるし…!」
美也「こんなことしてるにぃには、ぜんぜんまったくしっかりしてないよっ!」
純一「え、えぇぇ……」
紗江「──み、美也ちゃんっ……」
美也「うん? 紗江ちゃんどうかしたの? タバコの煙きつかった?」
純一「煙出るほどすってないよ……」
紗江「う、ううん…大丈夫っ…そ、それよりも先輩許してあげて…」
美也「え〜! でも許したら、すぐタバコ吸っちゃうよ〜?」
純一「そこまで中毒じゃない!」
紗江「せ、先輩もこういってるし…! ね? 美也ちゃん、もういいでしょ…?」
美也「……紗江ちゃんがそこまでいうなら……もうすっちゃ駄目だからねにぃにっ」
純一「わ、わかったよ……」
紗江「は、はいっ…! おひさしぶりです、せんぱい…!」
純一「うん。僕が輝日東高卒業してからだから……一年ぐらいかな?」
紗江「そ、そうですね……でも、ちょくちょく先輩の姿は町でお見かけしてましたので…
わ、わたしてきにはっ…一年ぶりではない、です」
純一「そうなの? だったら話しかけてくれればよかったのに」
紗江「あっ……その、先輩が…知らない方と、歩いていたので…ちょっと話しかけにくくてっ…」
純一「知らない人? ──あー、サークルの人かぁ……それだったら仕方ないね。
でも、僕が一人の時に見かけたらちゃんと話しかけてね? 僕もそのほうが嬉しいからさ」
紗江「う、嬉しいですか…っ?」
純一「当たり前だよ! こんなかわいい後輩に呼びかけられるなんて、大学で有名になっちゃうかもね僕!」
紗江「っ……か、かわいいって……せんぱいっ…」テレテレ
美也「──にぃにー! 冷蔵庫勝手に開けるよー! ……ってろくなものはいってない…」
純一「し、仕方ないだろ…! 今日は美也が夕ごはん作ってくれるって約束だったから、何も買ってないんだよ…!」
純一「はぁ……冷凍庫に、買ってきたアイスが入ってるよ」
美也「本当にっ? あ、みゃーの大好きなまんま肉まんアイスバーだっ。にっししし!」
純一「……ったく、現金な奴…」
紗江「っ……っ……」キョロキョロ…
純一「ん、紗江ちゃん。とりあえずゆっくりしていきなよ、何も無いところだけどさ」
紗江「あっ……はい、わかりましたっ…!」すとん!
純一「そんなに勢い良くすわんなくても……とりあえず、テレビでも見る?」
紗江「あ、ありがとうございます…!」
純一「どういたしまして」ぴっ
美也「みぃひみぃひ〜! ほらべってほこにはるほ〜?」もぐもぐ
純一「なんでもうアイスを食べてるんだ美也……とりあえず、食べながら喋るなよ」
美也「ごくんっ……ごめんごめん、にししっ。えっとさ、土鍋ってどこにあるのにぃに?」
純一「土鍋? それだったらキッチンの下の段に入ってるよ」
美也「えっとね〜……今日はなんと、お鍋さんなのだ!にしし!」
純一「ほ〜…鍋料理かぁ。いいね、寒い時期だし、ちょうどいいじゃないか」
美也「でしょでしょっ、しかもちょっとお洒落で良い感じのお鍋なんだよ〜?」
純一「鍋でおしゃれ……大丈夫なのか、美也…?」
美也「だいじょうぶだよ? だって美也が作るんじゃないし」
純一「え? なにをいってるんだよ…? じゃあ誰が…」
紗江「よいしょ……よいしょ…」ごそごそ…
純一「……えっと、紗江ちゃん。なんでエプロンに着替えてるの…?」
紗江「えっ? えっとその、美也ちゃんがどうしてもっていうから…」
美也「買い物中にばったり紗江ちゃんとあって、それから今日のことを言ったんだけどね。
そしたら紗江ちゃんが鍋がいいんじゃないかなっていうからさ」
純一「…それで紗江ちゃんにお願いしたのか?」
美也「だってにぃにと会いたいっていってたから、ちょうどいいかなぁ…って。
に、にぃに……こ、怖い顔しないでよ…!」
美也「そ、そうだけどっ…! でも、みゃーが作る晩御飯よりも絶対に紗江ちゃんのが美味しいよっ」
純一「それはそうだと思うけど……これは、これだぞ。美也」
美也「う、うぅ〜……っ」
紗江「せ、せんぱい……っ」
純一「──ごめんね、紗江ちゃん。こんな我が儘な妹につきあわせちゃってさ…
今日はお客さんとしてゆっくりして行っていいからさ。全部、美也のやつにまかっせきりでいいよ?」
美也「えー! そ、それはやだよー…!」
紗江「えっと、そのっ……私はだいじょうぶです……よ…っ?」
純一「でも……いきなり連れてこられて、ばんごはんをつくれって……家の人にも迷惑だろうし、
それに紗江ちゃん自身が迷惑なんじゃ…」
紗江「心配してくださってありがとうございます……でも、今日はもう両親には美也ちゃん家に泊まるっていってあるので…
それに…きょ、今日はっ……せんぱいに、晩ご飯作ってあげたくて…きたので……その…」
純一「紗江ちゃん……」
美也「ほ、ほら! 紗江ちゃんだってそういってるし…! ねっ! にぃに、いいんでしょ…?」
純一「っ〜〜〜〜〜〜………わかった、わかったよ。じゃあ紗江ちゃん、お願いできるかな…?」
純一「うん、よろしく頼むよ。……美也、ちゃんと紗江ちゃんにお礼」
美也「ありがとね、紗江ちゃん…?」
紗江「ううん、いいいの。ほら、美也ちゃん一緒につくろっ…?」
美也「おっけー!」
純一「ったく……僕はとりあえず、なにもしなくていいんだな?」
美也「にぃにはいつもみたく、だらーだらしとけばいいよー」
純一「いつもはしてないよ!」
紗江「ふふふっ……美也ちゃん。ほら、エプロンしてね…?」
美也「はいなのだー!」ごそごそ
純一「………はぁ」
純一(美也だけがくるってだけでも、色々と騒がしいのに……紗江ちゃんまで連れてきて。
というか男住まいの所に、女の子を連れてくるなよ……まったく)
純一「……でも、紗江ちゃんと久しぶりに会えたし。それもまたいっか」
純一(煙草が吸いたい……)ちらっ
美也「え、これって切るものなの紗江ちゃん?」
紗江「え、だってそれは……御ダイコンさんだよ? まるごといれちゃだめだよ…」
純一(二人は料理に夢中……今、さり気なくベランダに出てすぐ戻れば…なんとかなる、かな…?)すっ…
純一「………」しゃっ!
美也「……んっ? にぃに、急にカーテン閉めてどうしたの?」
純一「っ……あーいやー! その、そろそろ暗くなってきたし、閉めようかなーって……あはは!」
美也「あ、もうそんな時間か〜。はやく作っちゃお紗江ちゃん」
紗江「そうだね、はやくつろっか」
純一「…………」
純一 がらら…… ぴしゃ
純一「……ふぅ、どうにかこれたぞ。よかった、まだベランダに置いてあった煙草が残ってたのを思い出して」かさかさっ
純一「……あの娘の忘れ物かな。たぶん、銘柄違うけど別にいっか」
純一「ふー……なんというか、僕も煙草をやるって思わなかったなぁ…」
純一「……高校生の頃は、紳士たるもの俗物に染まるべからず! なんて思ってたけど…」
純一「……案外、こうやってすぐに染まっていっちゃうものなのかな」じりり…
純一「……ふぅー…。やっぱ銘柄違うと、ちょっと舌に味が残っちゃうな…
よくこんな重いの吸えるなぁ、あの娘……」
キッチン
紗江「──それと、これはね……あれ、せんぱい…?」
美也「なるほどなるほど……うん? にぃになら、たぶんベランダだよ」
紗江「え、どうしてベランダに…? 外、寒いのに……」
美也「どーせぷーすかしてるんでしょ、タバコ」
紗江「えっ……えっと、美也ちゃん。とめなくていいの…?」
美也「いいよどうせ、止めたって聞きやしないんだから」
紗江「…………」
美也「──まあね、本当はやめて欲しいけど。にぃにはもう……大学生だしさ。
妹と兄ってのも……融通が利かないってこともあるって思うんだみゃーも」
美也「……にしし、でもね!こうやって家に遊びにこさせてくれるってだけでも、みゃーは嬉しいんだよ?
にぃにはにぃになんだって、改めてそう思うしさ」
紗江「…………」
美也「だからね、紗江ちゃん……にぃにがどんな風に変わっていっても。幻滅とか、嫌ったりしてあげないでね…?
みゃーはいつでもにぃにのこと、にぃにだって思ってるし」
美也「頼りにならなくて、ふぬけで、でも……いつまでも優しいにぃにだって保証するからさ。
妹のいうことなんだから、物凄く信用できる言葉だよ! これ!」
紗江「……うん、美也ちゃんがいうなら絶対そうだって思うよ」
美也「そっか、そっかそっか。にししし、ありがとね紗江ちゃん!」
紗江「うん……それじゃ、先輩が凍えないように…ぱぱっとつくっちゃおう…っ」ぐっ
美也「おっけー! まっかせとけー!」
ベランダ
純一「……なんだか中が騒がしいなぁ。バレちゃったかな…?」
純一「…………」
純一「さむい……どうしよう、戻るタイミングを図ることが難しいことが今わかっちゃったよ…!」
純一「……ふー…」 がらら…
「──せんぱい…?」
純一「っ……あ、あれ…? 紗江ちゃんっ…?」さっ!
紗江「はい、こんばんわ……」すた…
純一「う、うんっ…こんばんわ…! ど、どうかしたのっ…?」
紗江「あ、いえ…そのせんぱいのお姿が見えなかったので…ベランダに入るのかなって思って」
純一「そ、そうなんだ……あれ? もしかしてもう料理できちゃった…?」
紗江「お鍋の方はもうできたんですけど、お箸と御茶碗が足りないことに気づいて……今、美也ちゃんが
お家に取りに行ってるところです…」
純一「あー……確かに、そこまで考えてなかったなぁ……」もくもく
紗江「っ……せ、せんぱいっ…! う、後ろから煙が……っ」
純一「え? あ、ああっ! 服に火がっ……!」バタバタ!
紗江「だ、だいじょうぶですか……っ?」
純一「あ、うんっ…だ、大丈夫! ほら、消えた!」もく…
紗江「よ、よかったぁ……」
紗江「………」
純一「……えっと、その……ごめんね、なんかその…」
紗江「え、あっ、いえっ……だいじょうぶです、その…」
純一「……………」
紗江「……………」
純一「と、とりあず……となり座る? 寒けど…」
紗江「は、はいっ……ちょっと、お邪魔します…よいしょ」すとん
純一「………………」
紗江「………………」
純一「きょ、今日は本当にありがとうね紗江ちゃん…!」
紗江「えっ!? あ、はいっ……その、私が来たいって美也ちゃんに言ったからで…
べつにそこまで感謝されることではない、です……」
純一「そ、そっか…そう言ってもらえると嬉しいよ…うん、嬉しいな」
紗江「…………」
純一「うん……」
純一「あ、うんっ…! どうかした紗江ちゃんっ?」
紗江「……その、先輩って…いつから、あの……」
純一「うん?」
紗江「……タバコを、吸い始められたのですか…?」
純一「………えっと、その……僕もよくはわかってないんだけどさ…」
紗江「…………」
純一「……そうだね、正直に言うよ。
サークルでさ、ちょっときになる子がいてね……その娘が煙草を吸ってたんだよ」
紗江「気になる娘、ですか……?」
純一「うん…気になるって言っても、その…恋人とか、恋愛の好きっていうのかどうかはわからないけど…
とにかく気になる人がいて、その人が…とても綺麗に煙草を吸うんだよね」
紗江「きれい、に……」
純一「……それをみてたらさ、僕もあんなふうに吸えたら良いなって思って…もう単純なんだけどさ…。
それで今、僕はこうやって隠れながらタバコを吸ってるってわけんだ」
紗江「…………」
純一「……えっと、その。幻滅、したかな…あははっ……ごめんね、紗江ちゃん」
梅原にだって言われてるしさ、薫とかにも…」
紗江「……どうしてですか…?」
純一「うん…? どうしてって……その、煙草のこと…?」
紗江「あ、いえ……そうじゃなくてその、どうして、わたしに……」
紗江「……謝るんですか…?」
純一「……だってさ、煙草なんか吸ってても…悪いイメージしか無いじゃない?
美也だってやめてほしそうにしてるみたいだし、紗江ちゃんだって…知り合いに煙草すってる人がいたら嫌でしょ?」
紗江「っ…………」
純一「だからほら、こうやって辞められないでいる僕は……悪いじゃないか。だから紗江ちゃんに───」
紗江「───べつに、わたしは大丈夫です…っ」ぐいっ
純一「えっ……?」
紗江「わ、わたしはっ……せんぱいがタバコ吸ってらっしゃってもっ……」ぐいぐいっ
純一「う、うん……っ!」
紗江「むかしのせんぱいとくらべたりっ……げ、幻滅したりなんか…したりなんか……しましぇん…っ!」かち
紗江「かんひゃった……」
紗江「だ、だいひょうぶれふ……! んんっ〜……!」ぎゅう…
純一(恥ずかしそうに頬を包んでる……かわいいなぁ、相変わらず紗江ちゃんは)
紗江「……っっ……だ、だからせんぱいっ…! わたしは、今のせんぱいでも……大丈夫ですからっ…!」
紗江「謝ったりなんか……しないで、ください…お願いします…」ぺこり
純一「ど、どうして紗江ちゃんがお願いするの……むしろ僕がお願いしたいぐらいだよ」
紗江「…え、お願いですか…?」
純一「うん、だってさ…こんな僕でも嫌いにならないでいてくれてる紗江ちゃんに……これからも、
よければ僕を嫌わないでいてくれたら…いいなって、お願いしたいんだよ」
紗江「そ、そんなことっ……全然かまいません…!」
純一「…そっか、ありがとう紗江ちゃん」
紗江「……えへへ…はいっ!」
純一「…………」
純一(──本当にいい子だなぁ、紗江ちゃんは。人を思いやって、きちんとしてる……美也も、
いや、僕も見な習わないとね)
純一「……うん? 紗江ちゃん、やっぱり寒いの?」
紗江「あっ、いえっ……私に気にせず、美也ちゃんが帰ってくる前に…もう一本すってどうぞ…!」
純一「気にせずって……僕はもういいよ? タバコももう少ないし…」
紗江「………あの、そのっ…じつは、お願いがあって…」
純一「うん…?お願いって…?」
紗江「何度もお願いしてすみません…でも、一回だけでいいんですけど……そのっ…」
紗江「せんぱいが、タバコを吸ってる姿が……みてみたいんです、私…」
純一「え? 僕がタバコを吸ってる姿が……見たいの?」
紗江「よ、よければ…の話しですけど…」
純一「…吸ったら一緒にちゃんと部屋に戻ってくれる?」
紗江「も、もちろんです…!」
純一「……。わかった、それじゃ一本だけ吸ってあげるね」すっ…
純一「ありがとうございますって……あはは。タバコを吸うだけでそんな事言われたの初めてだよ」
紗江「え、えっと……えへへ…」
純一「それじゃあ、吸うよ? 煙がそっち行かないようにするから……でも、苦しくなったらすぐ言ってね?
即座に火を消すからさ」
紗江「わ、わかりました……っ! どうぞ……!」
純一 かさっ……じゅぽっ
紗江「…………」じぃー
純一(…すっごい見てる、なんか気まずい…)じりり…
紗江「わ、わわっ…火がついた…」じぃー
純一「………」じりり…
紗江「わぁー……まっかになって、ちょっと綺麗ですね……」
純一「………」じりりり……
紗江「……そ、そんなに一気に吸っちゃうものなんですかっ…?」
純一 ぱっ……ぷかー
純一「……あはは、どう? すごいでしょ?」
紗江「はいっ…! すごいです! せんぱい、今のってどうやったんですか…っ?」
純一「どうやったのかって言われると難しんだけど……煙を口いっぱいに貯めてね」
紗江「っ…っ……」こくっこくっ
純一「こうやっておちょこ口にして……ぽってするんだよ?」
紗江「へぇ〜っ……たばこでこんなことできるなんて、はじめてしりました…!」
純一「あはは、そっか。それじゃあもっと色んな技を見せてあげたいけど……煙草が凄く早くなくなっちゃうから、
また今度に見せようかな」
紗江「っ……ま、また今度ですか…?」
純一「うん、また今度。あ、でも美也には秘密だよ…?」
紗江「み、みやちゃんには内緒……わ、わかりましたっ…隊長!」ぴしっ
純一「おっ、それ懐かしいなぁ。あはは、わかったかね中多君!」
紗江「は、はいっ…! 今後またご指導…お願いしますっ…!」
紗江「は、はい…わかりました」
純一「……ふー……大丈夫かな? 煙たくない?」
紗江「だ、大丈夫です…! お気になさらずに…!」
純一「そっか、ありがと……」じりり…
紗江「…………っ」ぶるる…
紗江(──ちょっと、寒くなってきちゃった…けっこうベランダにいたし…せんぱいは、さむくないのかなっ…)ちら
純一「……ふー…」
紗江(…タバコを吸ってるせんぱい、って…とっても大人って感じがするなぁ…美也ちゃんは大人ぶってるって言ってたけど…。
わたしにも、いまのせんぱいは…とっても綺麗にタバコを吸ってるようにみえるけれど…)
紗江「…………」ぶるっ…
紗江(……高校の頃から、先輩はいっつも頼り甲斐があって……ご迷惑をかけぱなしだった…
でも、こうやってせんぱいと…べらんだで、ぼーっとしていることが出来て…私はとっても嬉しい…)
紗江「っ………」どきどき…
とすっ……
純一「ふー……げほっ!? けほっ、さ、紗江ちゃん……っ? どうしたの急に寄りかかって…!」
紗江「は、はい…わかりました」
純一「……ふー……大丈夫かな? 煙たくない?」
紗江「だ、大丈夫です…! お気になさらずに…!」
純一「そっか、ありがと……」じりり…
紗江「…………っ」ぶるる…
紗江(──ちょっと、寒くなってきちゃった…けっこうベランダにいたし…せんぱいは、さむくないのかなっ…)ちら
純一「……ふー…」
紗江(…タバコを吸ってるせんぱい、って…とっても大人って感じがするなぁ…美也ちゃんは大人ぶってるって言ってたけど…。
わたしにも、いまのせんぱいは…とっても綺麗にタバコを吸ってるようにみえるけれど…)
紗江「…………」ぶるっ…
紗江(……高校の頃から、先輩は頼り甲斐があって……今もこうしてる先輩は、とっても……かっこ良く見える。
昔と変わらない、わたしの……わたしだけの、王子様……)
紗江「っ………」どきどき…
とすっ……
純一「ふー……げほっ!? けほっ、さ、紗江ちゃん……っ? どうしたの急に寄りかかって…!」
純一「えっ、それじゃあ…! 僕も早く吸っちゃうね…!」
紗江「………い、いんですっ…ゆっくり、ゆっくりすってください…」
純一「で、でも…」
紗江「…こうやって、私はせんぱいから……体温をもらってますから、大丈夫です…あったかいですよ、せんぱいの身体…」
純一「その、あのっ……け、煙とかっ…髪にしみついちゃうよ…!」
紗江「っ……………せ、せんぱいにだったらっ…………その、いいですっ…」
純一「い、いいですって…家の人になんて説明するの…?」
紗江「…後でお風呂にでも入れば、おっけーなんですよっ……隊長っ…」ぎゅっ…
紗江「…それでも、だめ…ですか?」ちらっ
純一「っ……い、いやっ…うん! だめじゃないぞ中多くん…! おっけーだぞ…!」
紗江「は、はいっ……ありがとうございます、隊長…っ」ぎゅう…
純一「すぅー……けほっこほっ!……ふ、ふー……」
純一「ふ、ふー………」どきどき…
紗江「………せんぱい、あの…」
純一「う、うん…? ど、どうかした紗江ちゃん…?」
紗江「あのですね……そうやってタバコ吸っている先輩は、とってもかっこいいですよ…」ぎゅっ…
純一「ほ、本当に……? あ、ありがとう…嬉しいよ!」
紗江「はい、前と違ったせんぱいが見れて……わたしはとっても嬉しいです…」
純一「そ、そっか……うん、こんな僕でよかったら何時だって見においでよ…!」
紗江「………本当に、ですか…? 見に来てもいいんですか…?」
純一「うん、紗江ちゃんの都合が良ければ…いつだって見に来てもいいよ…?」
紗江「……会えなかった一年間を、埋め合わせるぐらい…いいんですか…?」
純一「え…?」
紗江「せんぱいと、ずっと会えなかった……一年間。わたしはとっても、悲しかったです…」
純一「紗江ちゃん……?」
紗江「さっきは、冗談みたいにいっちゃいましたけど…先輩、私は……本気にしちゃいますよ…?」
せんぱいがさっき行った言葉、いまいってくださった言葉……全部、信じてもいいんですか…?」
純一「………」
紗江「……わたしは、その言葉を信じて…これからさき、せんぱいの家に…来たいと思います…
それでいいのなら、どうかせんぱい……もう一度、もう一度だけでいいですから…」
紗江「…わたしに、このアパートに来ていいと……いってください…お願いします」きゅ…
純一「……紗江ちゃん…」
紗江「………」
純一「……ごめん、紗江ちゃんがこんなにも……僕、気づけなくて…」
紗江「っ……せ、せんぱいは悪くありませんっ…! わ、わたしが正直に言わなかったから…それで…!」
純一「…うん、でも気づけなかった僕も悪かったよ。紗江ちゃん、ごめん」
紗江「せん、ぱい……」
純一「…じゃあ、紗江ちゃん。もう一度言うね?」
紗江「は、はい……お願いします…っ」
紗江「…はい、せんぱい…」
純一「……ご飯を、つくりにきてもいいよ?」
紗江「はいっ……わかりま──ええっ…?」
がたん!
純一「え、どうしたの声をあげ──…誰だそこにいるの!」がらら!
美也「いたた……おでこぶつけちゃったよ…っ」
純一「み、美也……!お、おまっ…!」
紗江「み、みやちゃ…っ!」
美也「あかくなってないかなぁ〜…大丈夫、紗江ちゃん?」ずいっ
紗江「う、うんっ…だいじょうぶ、だよ…?」
美也「そっか〜! よかったよかったぁ……じゃないよにぃに!ばかにぃに!」ぐわっ
純一「い、いきなり現れて、いきなり怒りはじめて…! なんだよ美也!」
純一「…な、なんだよ…そんなに睨みつけて…!」
美也「……ほんっと、にぃにったら朴念仁の唐変木なんだからっ…!」ぷいっ
純一「ど、どういう意味だよ…!」
美也「なんでもない! ……ほら、紗江ちゃんいこ! 手がこんなに冷たくなってるよ?」
紗江「あ、うんっ……」
美也「…あとにぃに! タバコ吸うならもうちょっと、あたま使ってよね! バレバレだよ!」
純一「ば、ばれてたか…美也なら騙せると思ったのに」
美也「む〜! それみゃーのことばかにしてるでしょ!」
純一「してないしてない」
美也「う〜…そんなにぃにはベランダで一人、反省しておきなさい!」ぴしゃ!
純一『え、こら! 美也! 外はすっごく寒いんだぞー!』
美也「べぇ〜っだ!」しゃっ
紗江「み、美也ちゃんっ…だ、だいじょうぶかな…っ?」
純一『美也ー! ごめんってば! 本当にごめんー!』がたがた
紗江「っ……っ……」おろおろ…
美也「それじゃー紗江ちゃん! お鍋も煮てきた頃だろうし、食べよう食べようっ」
紗江「え、あ、うんっ……!」ちらっ
純一『ごめんよぉー…! もう、馬鹿だなんていわないからさぁー…!みやぁー!』
数分後
「「「いただきまーす」」」 ぐつぐつ…
美也「じゃあ、開けるよ〜? それ〜!」ぱかっ
純一「おぉ〜……!白いなぁ!」
紗江「はいっ…今日のお鍋は、牛乳を使ったミルク鍋です…!」
美也「おいしそぉ〜! すごいすごい! オシャンティーだね!」
純一「すごいなぁ…これ、紗江ちゃんが作ったんでしょ?」
美也「紗江ちゃん特性ミルク鍋だね!にししっ」
純一「ほう……紗江ちゃんミルク鍋、か」
美也「それじゃーたっべよー!」
紗江「うんっ…それじゃあ、私がよそってあげるね、美也ちゃん」すっ
美也「うんうん! みゃーね、このお肉とお肉がいい!」
純一「野菜も食べろよ…」
美也「たべるよ〜。でもまずはお肉って決まってるでしょ!」
紗江「──はい、どうぞ美也ちゃん」
美也「わはぁー! ありがとう紗江ちゃん!」
紗江「……それじゃあ、せんぱいも。小皿を渡してください」
純一「あ、うん。ありがとう」すっ
紗江「い、いえっ……なににしますか…?」
紗江「そ、そうですか……わかりましたっ…!」いそいそ…
純一「……うん、ありがと。そんな感じでいいよ」
紗江「は、はいっ…じゃあ、熱いうちに…食べてください、せんぱい」すっ…
純一「そうだね、そしたら紗江ちゃんの分は僕がとってあげるよ…」すっ…
紗江「えっ、そんなわたしは…」
純一「いいからいいから……よし、こんなもんでいいかな?」す…
紗江「……あ、ありがとうございます…」
純一「うん、どういたしまして──それじゃあみなさん、ご一緒に!」
いただきまーす
美也「おっいしぃいー! なにこれ、とっても美味しいねにぃに!」
純一「ああ、びっくりだよ…流石は紗江ちゃんミルク鍋……!」
紗江「そ、そんなっ…おおげさですっ…」テレテレ
純一「あ、こら! もっとちゃんと味わって食べろよ、それと確認は最後まで取ってくれ!」
紗江「み、美也ちゃん…そんなに慌てて食べなくても、いっぱいあるから…っ」
純一「あ、紗江ちゃん。お茶のおかわりいる?」
紗江「あ。ありがとうございます…せんぱいは?」
純一「うん? 僕はちょっとね……」
美也「!……にぃに、冷凍庫に入ってたアレ飲むんでしょ!」
純一「そうだよ! こんな美味しい鍋なんだから、飲まずにはいられないさ!」すたすた…
純一「……ふふっ。予め冷凍庫から取り出し、すでに解凍済みだ……このチューハイだ!」
紗江「わ、わぁ〜……お酒…!」
美也「すぐ酔っちゃうくせにね〜」
純一「う、うるさい! 美也にはあげないぞ!」
美也「みゃーは飲まないよ!ばかにぃに!」
純一「…うん? どうしたの、紗江ちゃん。綺麗に手を上げて…」
紗江「っ……わ、わたしっ……飲んでみたいのであります、たいちょー……っ」
美也「えぇぇー! 美味しくないよあんなの〜! やめときなって紗江ちゃん!」
純一「…まぁ、待て。美也」
美也「に、にぃに…?」
純一「……中多くん。その度胸、真のものか?」
紗江「っ……は、はいっ…たいちょう……私の覚悟は、ほんものですッ…!」
純一「───そうか、わかった…わかったぞ、中多くん……」かしゅっ こぽぽ…
紗江「………っ」どきどき
純一「コップ半分だ、一応未成年だからね。これぐらいで許してほしい」
美也「半分でもアウトだけどね……にぃに」
紗江「ご、ごくり……そ、それじゃ…その、いただきますっ……」ぐいっ
純一「え、イッキなの!? 紗江ちゃんそれは……!」
美也&純一「紗江、ちゃん……?」
紗江「…………」
純一「だ、大丈夫……?」
紗江「………せんぱい?」ちら
純一「う、うん…僕だよ? わかる?」
美也「紗江ちゃん、顔真っ赤だけど…」
紗江「美也ちゃん…うん、大丈夫、大丈夫だよ…」
純一「本当に大丈夫かな……まさか一気飲みするなんて…」
美也「み、美也もまさか紗江ちゃんが一気に飲むなんて思わなかったよ…」
紗江「……心配しすぎです、二人共……ひっくっ」
純一「そ、そっか……ん?」
紗江「……よいしょ、よいしょ…」ぬぎぬぎ
純一「え、あっ、ちょ紗江ちゃん!?」
紗江「…ふぇ…?どうしてとめるんですか、せんぱい…?」
純一「どうしてって…! そりゃー服を脱ぎ始めたら、止めるに決まってるよ…!」
紗江「……。あはは! あは! せんぱいったら〜…おもしろいこというんですねぇ〜…えへへ」ぬぎぬぎ
純一「あははー…僕、面白い事言ったかなって脱がいない脱がない!」ぐいぐいっ
紗江「……ぷぅ」
純一「ほ、ほほを膨らませてもだめなものはだめなんだよ…!」
紗江「……せんぱい、えっちです」
純一「僕は脱がそうとしてないよ!?」
紗江「じゃあ、脱いでもいいですよね…あつくてあつくて……よいしょ、っと」ぬぎっ!
純一「どうして!? どうしてそうなるの……美也! 助けてくれ! 紗江ちゃんは僕だけじゃ──」
美也「にぃひにぃひ〜!」のしっ べたぁ〜
純一「……え?」
純一「ちょ、あ、こらっ…! 僕の上で暴れるな…! なんでこんなことに───」カラン…
純一(……チューハイの缶が、空っぽだと…!)
純一「ま、まさか美也…お前残りの半分をぜんぶ……いつのまに飲んだんだよ!」
美也「え〜……それはねえっとぉ…わかんにゃい!にしし!」
純一「なんだよそれ! あーもうちょっとまて、これじゃあどうしろって…」
紗江「……ふぅ」
純一「どうして紗江ちゃんもう下着姿なの!? だめだよ、ほらっ…ちゃんと着なきゃ…!」
紗江「さむいです…」がたがた…
純一「だろうね! ほら、とりあえずこたつの中に…!」
美也「にぃには♪こたつの中で♪まーるくなる♪」
純一「あー耳元で歌うな…! とりあえずは紗江ちゃんはこたつの中、美也は水でも飲んどけ!」
美也「みゃーはもっとぽやぽや飲みたい〜!」
美也「え〜……でも、紗江ちゃん飲んでるよ〜?」
純一「え……?」
紗江 ごきゅ ごきゅ
純一「さ、紗江ちゃん!? なんで男らしく立ちながら一気飲みを…!
だめだよ、ほら、離して紗江ちゃん…!」ぐいぐい
紗江「ぷはっ……あふぇ〜? しぇんぱいが、五十人もいる……しぇんぱぁい!」ぎゅう
純一「おぶっ! ぷはぁ! ちょ、さえっ……おむっ!?」ぽにゅ
美也 ごきゅ…ごきゅ…
純一「…ぷはぁ! み、美也…!? なんでお前も飲んでんだ…!」
美也「…ぷは……にぃに……にぃにはどこ…?」
純一「め、目の前でお前の同級生に捕まってるよ…!」
美也「ほんとだ……にぃには、にぃにはみゃーのだよ! 紗江ちゃん!」
紗江「……だめ」
美也「っ……!」
美也「……なにいってるのかな、紗江ちゃん…付き合いはみゃーのほうが長いんだよ…?」フシャー
紗江「……そんなの、同じ時を一緒に過ごしたことが大切なんだよ。だから、美也ちゃんは私に……負けてるの」
美也「っ……そんなことないよ! みゃーは…みゃーはっ……にゃあああああああ!!」がりがり
純一「え、どうしてそこで僕を攻撃す──ぐわぁあー!」ばたん
紗江「せ、せんぱいっ……だいじょうぶですかっ…?」
純一「あ、うん…大丈夫だけど…ってこの状況は駄目だよ! 紗江ちゃん、流石に下着姿で膝枕は…!」
紗江「せんぱい…!」
純一(下からみる揺れぐらいも素晴らしいな……)
美也「みゃーもひざまくら!」ずさー! ごちん!
純一「あたっ!? あたまから突っ込んでくるなよ美也!」
美也「えっへへ〜…紗江ちゃんの膝枕、きもちいねにぃに〜」
純一「そ、そうだな……」
純一「───……う、う〜んっ……」ごそっ
純一「………」ごしごし…
純一「……今、何時だ…?……夜中の三時、か……ふわぁ〜」
純一(…思い出したくないけど、鮮明に思い出せてしまう数時間前…
僕もやけっぱちになって、チューハイ飲んで阿鼻叫喚だったな…うん)
純一「……次の日が休みでよかった。美也たちも休みだろうし…」ぽりぽり…
純一「…みんなこたつで寝ちゃってるのかな。風邪引かないといいけど」
純一(僕も…もうすこしだけ、寝るか……)ごそっ…
「……せんぱい…」コソッ…
純一「………ん?」
紗江「………」くいくいっ
純一「あ、紗江ちゃん……ごめん、起こしちゃった…?」コソコソ…
紗江「あ、いえ……元から起きてたんです。色々とさっきまでの出来事が思い出せなくて…考え事してました」
純一「そ、そうなんだ……た、たいしたことはしてなかったから。安心していいよ? うん」
純一「だ、大丈夫だよ…! ね、ほら今日はもう遅いからさ、ゆっくりと眠ろうよ」
紗江「……はい、せんぱいがいうなら…」
純一「うん……それじゃあ、おやすみ。紗江ちゃん」
紗江「はい、せんぱい……」
純一「…………」
紗江「…………」
純一「……あはは、寝れないね。なんだか」
紗江「そう、ですね……なんだか寝れないです」
純一「……今日は楽しかった?」
紗江「…もちろんです、とっても楽しかったです…本当に」
純一「そっか、それはよかったよ」
紗江「…………せんぱい」コソッ
純一「うん?」
純一「えっ? えっと、紗江ちゃんがいいって言うなら…」
紗江「──はい、わたしは先輩の方にいきたいです……では…」ごそっ… ぴと
純一「っ……ち、近いね…」
紗江「そ、そうですね……」
純一「あはは…こうやって暗い部屋の中、こたつでぴったりくっつきあうなんて…まるで恋人みたいだよ」
紗江「……みたい、ですか…?」
純一「うん、だってさ…お鍋食べて飲んで騒いで、そのまま泊まるって…なかなか無いことだと思うし…」
紗江「………」
純一「……紗江ちゃん? 寝ちゃったかな…?」
紗江「……せんぱい…」
純一「あ、うん…どうかしたかな?」
紗江「……キス、したことありますか…?」
紗江「っ…あ、いえっ! す、すみませんっ……わたしったら、なんてことをっ…!」
純一「あ、うんっ……いいよいいよ。落ち着いて、美也が起きちゃうからさ」
美也 ぐーすかぴー
紗江「っ……ご、ごめんなさいっ…へんなこといってしまって…!」
純一「大丈夫、気にしてないからさ」
紗江「は、はい……」
純一「…うーんと、キスだっけ? 僕はしたことないよ」
紗江「っ……ほ、本当にですか…っ?だ、だってサークルで…気になる人がいるって…」
純一「…んーとね、その人はたまに僕の家に泊まりに来るけど。キス、なんてことはならないよ」
紗江「…その人は、女の人ですよね…?」
純一「そうだよ、僕の先輩なんだけどね。でも、そんなことはならないよ……たぶん、これからさきずっとね」
紗江「……振られちゃったんですか…?」
純一「…ううん、恋をする暇もなかった。感じかな? 僕にはとうてい追いつけない…そんな領域にいる人だったんだ」
純一「うん、僕がタバコを吸い始めた原因の人だからね……そういうと、いっつも怒るんだけどさ。あはは」
紗江「………」
純一「まぁ、そうやって…馬鹿みたいに話して、家に気軽に泊まりに来る関係……ってもの悪く無いかなって思っててさ」
純一「そうやって、どんどん距離が近づくかなって思ったりしてたけど…もっと距離が明白になってきて、結局はものすごく逆効果だったんだけどね」
紗江「……もう、諦めちゃたんですか…?」
純一「……うん、そういうことだよ。さっきは誤魔化した感じで言ってたけど、やっぱりあの人のことが…
その、好きだったんだなって」
紗江「…………」
純一「あはは…こんなこ、紗江ちゃんに話してもつまんないよね」
紗江「………」ぎゅっ…
純一「……ん、紗江ちゃん…?」
紗江「せんぱい、どうして……」
純一「うん?」
紗江「どうして、そんな弱気なんですか……?」
純一「……うーん、と。なんでだろうね、というか僕っていつも強気だったかな?」
純一「そっか…そしたら、ごめん。僕ってばこんなに弱いやつだったみたいだよ…」
紗江「っ……そん、なことないですっ…ぜったいに…っ!」ぎゅっ…
純一「…紗江ちゃん…?」
紗江「例え、今の先輩が…弱くなってたとしても……
──強かった、昔の先輩もしっています……!」
純一「………」
紗江「…強かった先輩は、なんだってがんばってました…いいことだったら全力でやって、
悪いことだったら無理矢理でもして……」
紗江「…たとえ報われなくても。それにまっすぐ突き進む度胸と心をもった人で……っ」ごそっ…
純一「っ…さ、紗江ちゃん…顔が…」
紗江「っ…き、気にしないでください……だから、どうか、元気になってください…わたしは…わたしは、せんぱいが本気になれば…
誰とだって付き合えだだって思ってます、から」
純一「…僕が、本気になれば…?」
紗江「……はい、それがせんぱい……橘先輩のすごいところって思ってますから…ね?」テレテレ
紗江「いいんです……せんぱいの、お役に立てれれば…それで」
純一「うん、でも…紗江ちゃんに行ってもらえたお陰でちょっと元気が出てきたよ」
紗江「それは、よかったです……はい」
純一「……でも、こうやってこたつの中に入るってのは予想できないけど…まぁ、頑張ってみるよ」
紗江「………じゃあ、せんぱい…その…」ごそっ…
純一「……うん? あれ、紗江ちゃん…?」
紗江「練習……してみませんか、わたしと…」
純一「れんしゅう…?」
紗江「せんぱいが、高校時代にやってくださったように……今度は、私が教官となって…」
紗江「……せんぱいに、すこしだけ…ほんのちょっとだけ…おしえてあげます」
純一「え……なにを、する───」
ちゅ
紗江「…ほら、どうでしょうか……練習、です…」
純一「……さ、紗江ちゃん…これ、もしかして…」
紗江「こ、こら! 教官にためぐちはだめ、ですよ…?」
純一「え、えぇー…! だって、でもこれは…!」
紗江「……つぎ、いきますよ…!」ぐぐっ
純一「ちょ、さえ──んむっ」
紗江「……えへへ、せんぱいのたばこの味がしますね…」
純一「……っ…」どきっ…
紗江「──せんぱいは、ずっと大きくいてください…」
純一「えっ…?」
紗江「せんぱいが…どんな風になっても、どんな方をすきでいても…
わたしの…あの時の頃の……王子様だということは、いつまでも変わりはありません…」
ずっとずっと…せんぱいを支え続けて見せます、から」
純一「さえ、ちゃん……」
紗江「…ふふっ…わたしも、いつまでも弱い私じゃいなんですよ…?
こうやって、せんぱいに……イタズラだってしちゃうんですから…」ちゅ
純一「……す、すごいね…紗江ちゃん、見ないうちに…すっごく大人だ」
紗江「いいえ、大人なんかじゃないです。ただ、ただ……せんぱいに鍛えられた一人で…」
紗江「…せんぱいがいないと、なんにもできない…ただの弱い子です」
純一「………」
紗江「さぁ、まだ練習はつづきますよ…! せんぱい?」
純一「……うん、紗江教官…!」
紗江「よろしいっ……えへへ、それじゃあせんぱい……」
紗江「キス、つづけましょうか……?」
長かったな、うん
次は裏表ないさん
ちょっと一時間だけ寝させてくださったらすんまそん
今回も ながらクオリティなのであしからず
ついに絢辻さん来るか
純一「………」ぼぉー…
絢辻「………」じぃー
純一「………」ぼぉー…
絢辻「………」すっ…
ぱちんっ
純一「───…あいたっ。え、なに…っ」
絢辻「なにをぼーっとしてるの、橘くん?」
純一「……。えっ! 僕ってばまたボーってしてた…!?」
絢辻「してたわ。ものすっごくしてた」じっ…
純一「う、ううっ…! ご、ごめん…! さっきも同じ事言われたのに……僕ってば…」
絢辻「もうっ! しっかりしてよ! そうよこれ言うの何度目なのかしら……本当に、橘くん。しゃきっとしなさい」
純一「ご、ごめん……そうだよね、移動中だからってぼーっとするのはいけないよね!」
絢辻「当たり前よ、今だってちゃんとした授業……そう───」
絢辻「───修学旅行なんだから」
絢辻「普段、見慣れない光景だものね。その気持ちはわかるわ」
純一「うんうん、ほら。あそことか、僕らが住んでる街にはないだろうし」
絢辻「…そうかしら? あたしは街で同じようなもの見たことあるわよ」
純一「え? そうなの? そしたら今度、一緒に二人で見に行こっか」
絢辻「そうね、修学旅行が終わったら──……って。どうしてもう終わった時のことを話ししているのよ」
純一「それもそうだね、あはは」
絢辻「ったく……貴方と会話していると、馬鹿が伝染してくるわ…こわいこわい」
純一「こわいってなにさ、これもれっきとした僕の……ふふっ、魅力だよ?」キリッ
絢辻「窓に映る自分にでも言っておきなさい」
純一「えぇー……」
絢辻「とにかく、ぼーってする暇があるのなら……持っている修学旅行のしおりを読んでおきなさい。
これから向かう先の予定とかを、もう一度おさらいしておくのはいいと思うわよ?」
純一「そうだね、でも…それは昨日までに絢辻さんと夜中まで一緒に考えてたから。
もうなにもおさらいすることないけどね」
絢辻「…ちょっと、そういうことをさらって言わないの。誰が聞いてるかわからないんだから…っ」
純一「…誰も聞いてなかったかな?」
絢辻「大丈夫よ、さっきまでやってたカラオケ大会のお陰で…みんなちょっとお休み中だから。
目的地につくまで、ずっとぐっすりしていると思うわ」
純一「移動に四時間かかってるもんね……何人かは起きてるみたいだけど、すこし声のトーン落とすかな…」こそこそ…
絢辻「まあ、そこまで気にしなくていいわよ? 仮に聞こえていたとしても、あたしならどうにか誤魔化せる自信あるし」
純一「そ、それを言われると尚更…小さく声をだそうって思っちゃうよ…」
絢辻「あら? ふふっ…どうしてかしら? 手荒いことはしないわよ?」
純一「しようという欠片も思っちゃ駄目だよ…! よ、よしっ……小さく喋ります、はい」
絢辻「ふむ、よろしい。じゃあ橘くん……いや、純一くん」こそっ…
純一「…うん? どうかしたの?──お、それは…」
絢辻「ん、たべる?」すいっ
純一「ポッキーか、いいねっ。たべるたべる」
絢辻「そお?じゃあ……はい、どうぞ」くいっ
絢辻「あら、何を……手で受け取ろうってしているの? そこはく・ち…でしょ?」
純一「う、うん……そっか。それじゃあいただきまーす……あれ?」すいっ
絢辻「まあ、ごめんなさい。ちょっと照準がずれちゃった、もういっかいお願い純一くん」
純一「わ、わかったよ……あーん」すいっ
絢辻「またズレちゃったわね、くすくす……ごめんなさい」
純一「……わざとやってるでしょ、絢辻さん…っ」
絢辻「べっつに〜……いらないっていうのなら、これはもうあたしが食べちゃうわよ?」ぱくっ
純一「あぁっ…!」
絢辻「ぽりぽりっ…うーん、甘くて美味しい」
純一「っ…あ、絢辻さん……僕にも…っ」
絢辻「…食べたいのかしら? うん? だったら──……おねだり、してみなさいよ。ほら」すいっ
純一「っ……た、たべたいですっ…絢辻さん、それをっ…!」
絢辻「くすくす……ほら、もっとしっかりおねだりして」
絢辻「うん? ちょっと小さくて聞こえないわよ? なんていったのかしら…くすくす」
純一「っ……声を小さくっていったのは絢辻さんじゃないか…!」
絢辻「…あら、口答えするのね。じゃあこれはもうあーげない」ぽりぽり…
純一「あぁっ……そんなぁ…」
絢辻「…はやくおねだりしないと、全部たべちゃうわよ? ほらほら、はやくはやく」
純一(くそ〜……えらく楽しそうな絢辻さんだから、べつに僕はいいけど…ちょっとやりかえしたくなったぞ…!)
絢辻「ほれ、ほれほれ〜」くるくる
純一「っ……わかったよ、絢辻さ──いや、詞…」ずいっ…
絢辻「え……?」
純一「……詞、僕は君が持ってるポッキー…どうしても食べたいんだ、いいかな…?」ボソボソ…
絢辻「っ〜〜〜〜!……こ、こらっ…耳元に近づいてしゃべらないのっ…くすぐったいでしょっ…!」
純一「どうして? だっておねだりしろっていったのは、絢辻さんじゃないか……」ボソボソ…
純一「…大丈夫だよ、ほら。昨日みたいに…もっとイチャイチャしようよ、ね?」ぼそ…
絢辻「んっ……こ、こら! そんなことすると、もうポッキーあげないわよ…っ」ぐいっ
純一「…あ、くれるんだ? そしたら…ぱくっ」ぽきっ
絢辻「あ……」
純一「う〜んっ…美味しいね、やっぱり〜」ぽりぽり…
絢辻「っ……じゅ、純一くんのくせに中々策士じゃない…ふんっ。今の負けを認めてあげるわ…!」
純一「ごくん……負けって、絢辻さん。まぁ仕返しできたから僕はいいけど……ハッ!」
絢辻「……ふ〜ん、そうなの。仕返しだったのね、へ〜……わかってたけど」
純一「い、いや……そのね? でも、こうやってイチャイチャしたいなって思ってたのは事実で…あはは…」
絢辻「目的がべつになってるわよ、それ……わかったわ、そしたらあたしも仕返ししてあげる」すっ
純一「え…? あ、絢辻さんっ…それって…!」
絢辻「…ひゃい、ひゅうひきくん…ふぁーん」すっ…
純一「う、噂でしか聞いたことのないっ……ポッキーゲーム……!?」
こうやって生で見るのは初めてだよ…! しかも、相手は絢辻さん!)
絢辻「……ひゃべないの?」くいっ
純一「た、たべます…! すっごくたべたいです…!」びしっ
絢辻「ほう? ひゃ……ふぁい、ふぉうふぉ」すいっ
純一「っ……ご、ごくり…」ぷるぷる…こり
絢辻「っ……ふっふりと、ね…?」
純一「う、うんっ……!」こくこく
絢辻「………」ポリポリ…
純一「………」ポリポリ…
絢辻「………」じぃー… ポリポリ…
純一(う、うわー…すっごく僕のこと見てるよ、絢辻さんっ……普段とは違った近づき方で、どうしよう赤くなってないかなっ…)ポリポリ…
絢辻「…………」ポリポリ… すっ…
純一(あ、目をつぶった……こ、これって…あの、そうだよね…っ!)ぽりぽり…
純一「っ……」すっ… ポリポリ…
純一「………」ポリ…
ちゅ…
絢辻「──ふっ、ん……はい、オシマイよ純一くん。ふふ、楽しかった?」
純一「もぐもぐ…うん、なんだかすごく……すごかったよ」
絢辻「そ、そお? ならあたしも、仕返し成功ね」
純一「うん、そうだね……そうだね…」
絢辻「っ……な、なによっ…もうポッキーはあげないわよ?」
純一「………もっかい、しないかな? 今のさ」
絢辻「え…? 今の、もう一回したいの…?」
純一「あ、うん……なんだかあっというまでさ、もう一回やって記憶に残しておきたいなぁっておもって」
絢辻「っ……も、もう一回…」
純一「だめ、かな…?」
絢辻「っ……だ、だめじゃないわよ。うんっ、どんどんきてらっしゃい…!」
純一「本当にっ? ありがとう、絢辻さん!」
純一「うーんと、でもさ……またポッキーでやるのはちょっとあれだし…」ごそごそ…
絢辻「え、他になにかあるの?」
純一「うん、僕もお菓子持ってきてたんだ……ほら、こういうのとかはどうかな?」
絢辻「……そ、それって…」
純一「うん、ジャガリコだよ。ざくざくって美味しいやつ」
絢辻「し、しってるわよっ……でも、それ…ちょ、ちょっと短くないかしら…?」
純一「そうかな? そんなにポッキーと変わんないよ、じゃあ…はい。今度は僕からだからね」すっ…
絢辻「わ、わかったわ……それじゃ」すっ…
純一「………」ぽりぽり…
絢辻「っ……」ぽりぽり…
純一(…あれ、さっきより何だか恥ずかしそうだな絢辻さん…やられる側だと、慣れてないのかな…?)ぽり…
絢辻「………」ちらっ
純一(あ、ちらってこっちみた……眼があって恥ずかしそうだな、あはは)
絢辻「……っ」ぽり… ちゅっ
純一「……うん、ありがと。絢辻さん、ちゃんと味わえたかな?」
絢辻「う、うんっ……美味しかったわ、ちゃんと…っ」
純一(…ちょっと悔しそうに上目づかいしてくる絢辻さん、かわいい…!)
絢辻「……ふ、ふぅ〜…塩辛いの食べちゃって、ちょっと喉が渇いたわね…うん…っ」ごそごそ…
純一「あ、お茶だったら僕のがあるよ?」
絢辻「じ、自分のがちゃんとあるわよ!」
純一「そっか、それは残念」
絢辻「も、もうっ……ごくごく…」
純一「………」じー…
絢辻「ごくっ……ぷは、なにかしら純一くん? 貴方も飲みたいの?」
純一「え、ああ、うん……そうじゃなくてね。お茶ってさ……こう、できないかな?」
絢辻「え…? どういうこと…?」
純一「えっとそのさ、ポッキーゲームみたいに……こう、口に含んでやるみたいな」
そ、それもちょっとマニアックなっ…!」
純一「でも、楽しそうじゃないかな? なんて思ったりして、あはは」
絢辻「楽しくなんかないわよ…っ! もう、何を見てるかと思えばっ…!」
純一「あはは…ごめんごめん」
絢辻「ごくごく……ぷはっ──……そ、それで…もうオシマイなのかしらっ…?」
純一「え、なにが?」
絢辻「…なにやら勝ち誇った表情してるみたいだけど、あたしはまだ負けを認めたわけじゃないわよ…?」
純一「まけって……これって勝負だったの?」
絢辻「いま、そうなったの。だから、かかってきなさい……その余裕綽々の顔。へしおってやるわよっ」
純一「お、おおう……わかったよ、それじゃあ次ぎで勝敗を決めるために、実はこれぞってものがあるんだ」
絢辻「な、なにかしら…? いいわよ、なんだって受けてみせてあげるわ」
純一「…後悔しいても遅いからね? いいんだよね?」
絢辻「っ……そ、そんなにすごいものなの…?」
絢辻「……こ、これって…あの…!」
純一「……そう、あのお菓子。僕はこっち派なんだけど、美也は…たけのこ派なんだよね。
だから今日の修学旅行にはこっちをもってきたんだ」
純一「──……きのこの山。これをつかって、今からポッキーゲームをしようじゃないか、絢辻さん…!」
絢辻「で、でもっ……それじゃ小さすぎてすぐに…」
純一「だからね、このおかしの先端……傘の部分を絢辻さんに咥えてもらってさ」
絢辻「う、うん…っ」
純一「そして…クッキーの部分を、僕がざくざく食べていくんだ。それは僕だけが食べ進めることになるから、
絢辻さんはそのまま待っててくれるだけでいいんだよ」
絢辻「な、なるほどね……それだと、すぐにはなくならないわね…うん…」
純一「でしょ? それじゃあ、さっそくだけどはい……絢辻さん、これ咥えてね」すいっ
絢辻「っ……わ、わかったわ───……こ、こうかな…っ?」
純一「おっけーだよ。そしたら、行くよ…?」
絢辻「っ……」こくっ…
純一「よし、そしたら……」ずい…
絢辻「っ………っ……」ぷるぷる…
純一(ものすごく震えてる……恐いのかな…? いや、これは緊張してるんだ…
生徒会長になった時だって、あんなにも堂々としてたのに…僕とこんなゲームをするだけで、緊張してる…)かり…
絢辻「っっ………」ぷるぷる…
純一(なんだか必死だなぁ…かわいそうだけど、その表情…とってもとってもかわいいよ絢辻さん……)かり…かり
絢辻「………っ…」ぷる…
純一「………」かりかり……かりっ…
ちゅ
絢辻「んっ──……」
純一「…………」
絢辻「……んん…? んっ! んん!」
純一「…ぺろり」
絢辻「…!?」ぴくんっ
純一「もぐ……うん、やっぱチョコレートは食べないとなって思って」
絢辻「思って、じゃないわよ…! い、いま…し、舌が……口の中に…!」
純一「え、だってそれは昨日の夜にもやったから別に大丈夫じゃ──ごふっ…!?」どすっ
絢辻「い、言わないの…っ! な、なにを急に口走って…!」
梅原「──う、うーん……あれ、たいしょー…?」ごしごし…
純一「っ…う、梅原…!」
梅原「…ふわぁ〜…どうやら寝ちまったようだな、って大将…!? どうしたんだよ、悶絶して…!」
絢辻「あっ、えっとこれはね梅原くん…! ちょっとバス酔いしちゃったみたいで…!」
梅原「おいおい…大丈夫か大将…?吐きそうなのか?」
純一「だ、大丈夫だ……気にしなくて、うんっ……」
梅原「お、おう……そうか、ならいいんだが…ん?」
梅原「……あっ、いやー…その、俺の勘違いだったらいいんだけどさ、絢辻さん」
絢辻「う、うん…?」
梅原「…くちびるによ、チョコレートがついてるって言いたいんだが………大将と同じ位置に」
絢辻「っ……う、うそ…!」ささっ
梅原「………。一緒にお菓子を食べてたみたいだが、
一緒の位置につくってのいささか…出来過ぎだと思うわけだよなぁ、うん」
絢辻「っ…ご、ごめんなさい……見苦しい所御見せちゃって…っ…」ごしごし
梅原「い、いいってことよー! なぁ大将! お前も幸せもんだな…? おい?」
純一「あ、ああっ……なんてたって、僕の彼女だからなっ…!」
梅原「おおう、否定もしないでやんの……ったく、お菓子で何やってたんだが……まぁ想像できるけどよ」
絢辻「っ…………」ぷしゅー…
純一「……ふぅ…なんとか痛みもおさまった…絢辻さん、あのさ」
絢辻「な、なにかしらっ…? じゅ、橘くん…?」
絢辻「つ、ついてるわよ…?そ、それがどうかしたのかしら?」
純一「そっか……なるほどね」
絢辻「……なにが、なるほどなの橘くん…?」
純一「あ、えっとさ。ちょっと考えたんだけど……こうお互いにチョコレートを唇に塗ってさ。
舐めあうっていうのもいいんじゃないかなって思って…」
絢辻「っ〜〜〜〜……!! な、なんてこと口走るの…!」
梅原(おおう、あんな絢辻さんの顔は初めてみたぜ…大将やるなぁ…!)
純一「じゃあ、今日の夜さ。部屋に遊びに行った時にでも……」
絢辻「ば、ばかっ…! 本当に貴方って人は…!」ぽかぽかっ…!
純一「い、いたいってば…! 全然痛くないけど、あはは…いたいよ絢辻さん……っ」
絢辻「もう、知らないんだからっ……今日の自由時間、もう一緒に行動してあげないからっ」
純一「え、えぇぇー…! それは嫌だよ! ごめん絢辻さんっ…!」
絢辻「……そしたらそうねぇ…今から行く目的地の動物園だけど…
そこでゴリラの飼育小屋にはいって、ゴリラちゃんと戯れてきなさい。それで許してあげるわ」
純一「え、ええぇー! 僕、ぜったいに死んじゃうよ…!」
絢辻「そうかしら? あ、そしたらメスのゴリラとポッキゲームしてきなさいよ……案外、盛り上がるかもよ?」
純一「い、いやだっ…想像するだけでもいやだ…!」
絢辻「拒否権はナシよ」
純一「本気なの…!?」
絢辻「当たり前よ、こんなばかな高校生は……動物園で見世物になるのが十分だわ。
ほら、もうすぐつくみたいだから、服をぬいで準備しておきなさい」
純一「い、いやだよ…! ごめんなさい、絢辻さん…! 僕調子にのってました…!」
絢辻「遅い、もう遅いんだから」ぷいっ
純一(ど、どうしようっ……ゴリラは冗談だろうって思うけど、機嫌が悪くなったのは事実だし…
調子に乗って変なこと言わなきゃよかった…)
純一「──あっ、絢辻さんっ……!」ばっ
絢辻「……なによ、どうしたの」
純一「えっとその、出てるよ…! あれが…!」
絢辻「でてる? なにがでてるの?」
純一「……は」
絢辻「は?」
純一「………鼻血、がでてるんだ…」
絢辻「……え?」
純一「絢辻さんの…その、小さいお鼻から…!」
絢辻「………」たら…
絢辻「っ……!」ばっ…
純一「あ、ちょ、触っちゃ駄目だよ…! 手が汚れちゃうから…ねっ?」
絢辻「み、みないで…! とにかく、みないで…!」
絢辻「あ、あたしも持ってるわよ…! それ、とり出すからちょっと待ちなさい…!」ごそごそ…
純一「ま、間に合わないよ…! ほら、僕によくみせて……」
絢辻「いいってば…!」ぱしっ
純一「あっ…ハンカチが座席の下にっ…!」
絢辻「後であたしが拾ってあげるから、とにかくハンカチかティッシュ…!
あれ、ない…まさかキャリーのほうに…!」たらり…
純一「あ、ああっ…もう、垂れてきそう…! どうにかしないと……!」
絢辻「こっちもないっ…こっちのほうにもない、どうしようここは…周りに人に借りるしかっ…」
純一(だめだ、それじゃ間に合わない…! 座席の下のやつを取るのも惜しい時間なのに……)
純一(……だから──だからこれは、彼氏として僕がどうにかきゃいけないことなんだ…ッ!)がたっ
絢辻「で、でもみんな眠ってて…起きてくれるかしら──……」
純一「…あ、絢辻さん…っ! こっちのほう向いて!」
絢辻「え、なにか拭くものでもあったのかし───」
純一「…えいっ」ちゅ… ちゅるるっ…
純一「じゅぶ…ぺろ……ふぅ、これで大丈夫だと思うよ。絢辻さん…!」
絢辻「っ……っ……!?」
純一(きょとんってしてるな……うん、まぁ、普通はこんな表情はするよね…)
絢辻「……た、橘くん…いまあたしになにか…?」
純一「う、うん……ちょっと啜った、かな…?」
絢辻「…す、啜った…? え、どういうことなのかしら……よく状況がわからなく…ちゃんと教えてくれる?」
純一「え、えっとその……鼻血が制服に垂れそうだったから、もうここは僕がすするしか無いって思って…」
絢辻「…思って…?」
純一「……吸っちゃいました」
絢辻「………」
純一(ふたたびきょとん……あ、これは来る。主に打撃が)
純一「は、はい…っ」
絢辻「正座」
純一「えっ…?」
絢辻「目的地まで、ずっと正座」
純一「え、だって…目的地まであと一時間ぐらいあるよ…?」
絢辻「だからなんなのかしら? いいから、はやくしなさい」
純一「はいっ…!」ささっ…
絢辻「よろしい、じゃあ次は」
純一(ま、まだあるのか…っ! どうしよう、次はなにがくるんだろう…!)どきどき…!
絢辻「………」ごそごそ…
純一「っ……なにを、とりだそうとしているの絢辻さん…?」
絢辻「黙ってなさい」
純一「はい……」
純一「──え、それってさっきのポッキーじゃ…」
絢辻「食べなさい、早く」
純一「あ、うんっ……わかった。ぽりぽり……」
絢辻「……美味しい?」
純一「う、うん……普通に美味しいよ…?」
絢辻「…そう、ならよかった」
純一(…どうして急にポッキーを渡してきたんだろ…?
……あ、もしかしてまたゲームをしたかったとか…?)
絢辻「…違うわよ、ばかね」
純一「っ!…けほっこほっ……どうして心の声が…!?」
絢辻「貴方が考えてることぐらい、すぐにわかるわよ。はぁっ……ほんっと貴方って思考が足りてないわよね」
純一「ご、ごめんなさい……でも、どうしてポッキーを…?」
絢辻「っ……く、口直しよっ……口直し!」
純一「……口直し?」
純一「う、うんっ…そうだけど…?」
絢辻「だからその、あれじゃないっ…そんなの、橘くんに悪いからっ……だからその、あれよ!」
純一「あ、あれ…?」
絢辻「と、とにかく! 口の中が血の味がしてたらっ……貴方も気持ち悪いでしょ…っ」
純一「…………」
絢辻「はぁっ…はぁっ……なんで、そこできょとんとした表情になるの…っ?」
純一「……あ、いや、だってさ。べつに絢辻さんの血ぐらい、どうってことないよ?」
絢辻「なっ……そ、そんなわけ…!」
純一「むしろ嬉しいくらいだよ。うん、ありがとう飲ませてくれて絢辻さん」
絢辻「ちょ、ちょっとやめてよ…! そんな感謝の仕方なんて全然うれしくないわ…っ!」
純一「あはは、じゃあどうしたらいいかな…?」
絢辻「っ……もう黙ってなさい…!」
原作一通りプレイし終えたら多分お前も立派な紳士や
絢辻「っ………」ぷいっ
純一(あはは…なんだかちょっと怒ってるなぁ。すこしまた調子に乗りすぎたかな、まぁそれはいいかなって思ってるんだけどさ)
絢辻「……ねぇ、橘くん」
純一「…うん? どうかしたの絢辻さん?」
絢辻「…………」
純一「………?」
絢辻「……そのね、ありがと…」
純一「!……いいよ、どういたしまして。あはは」
絢辻「っ…わ、笑わないの!……とにかく正座は続行なんだから…!」
純一「うん、わかってるよ……」
絢辻「…………」ぷいっ
純一(……バスの中でもこんなに楽しいことが出来るだなんて、
これから先の三日間、もしかしたらこれ以上なことがおこるんじゃないかな…?)
純一「絢辻さん、修学旅行楽しみだね……?」
絢辻「──……ふふっ、そうね…本当に、楽しみだわ」
予想は心のなかで!これはファミ通からのおねがいだよ!
ここで昼ごはんタイム
&安価です
麻耶ちゃんは次の次で書く
この安価は『いままで一度イチャイチャしたヒロインも可』です
>>205をかきます
おまえ・・・
お前…絢辻さんによりによってお姉さんによるNTR体験させようとか…
鬼畜やな
なんでそんなにネガティブなんだよ
ここは姉妹丼目指そうぜ
姉さんか
イチャ済みキャラだったらハーレムもう一人安価して
ハーレムかくつもりだった
お話は地続きじゃないのでご了解を
四十分に戻る
河原
純一「………」 ひゅう〜 ざわわぁぁ〜…
純一「───よし、行くか……」ざりっ
純一「…………」ぐっぐっ…
純一(天気も晴れ、河原の土具合も良好。
僕の体調も今日という訓練のために……万全の態勢に整えてきた)
純一「今日こそは、あの領域にいけるはず…!」
純一(自分を信じろ……橘純一…ッ!
なにごとも信じることから得られるんだ! もとより諦めてかかったら出来たはずのことも出来やしない!)
純一(──全ては、全てはここにある……体の奥にある、ひとつの可能性。それを引き出して、
呼び覚まして、覚醒させる……───)
純一「──野性的、本能…!」
純一(人が本来持つその本能……それを、僕は今日出しきるのだ……そう、この瞬間に全てを)
純一「っ……行くぞ、僕…!」ぱん!ぱん!
純一(今日という日が……僕の人生で最良の日となることを願って──……よし!いくぞ!)
純一「わんわんわん!!!わぉーん!!」ばたばたっ…!
純一「ハッハッハ…ッ!」ざりりっ!
純一(──そう、このコーナリング! 野生の犬は身体を少し斜めにし、一度足りとも速さを緩めることなく!
維持したままコーナーを曲がり切るんだ…!)
純一「ハッハッ…ヘッヘッヘ…!」ぎゅん!
純一(そしてこのダッシュ力! 四足歩行が可能にした、人間の領域を脱したスピード…ッ!
それは初速にして最速! 常に両手足によって最速を維持し、目的地まで駆け抜ける…ッ!)
純一「ヘッヘッヘ!……ぱく!」ぴょん!
純一(最後のこの運動性能…ッ!投げたボールを自らキャッチ!
そのためには驚異的な瞬発力と共に、何処に落ちるのか予測観測も長けてなければならない…ッ!)
純一「………」ずさぁー…
純一「──……完璧、だ。流石は、僕……なんという犬だ…!」
純一(今日の日のために、色々と筋トレしておいてよかったなぁ…)ごろごろ…
純一「…とりあえず、喉乾いたし水でも飲むか。よいしょ」ごろり! よちよち…
純一(お皿でいただくアクエリも中々どうして……ふむ、これもメモっておくかな)めもめも…
純一「……ふぅ。だいぶ落ち着いたかな、僕の野性的本能も…」
純一「………」
純一(……元々、森島先輩の気持ちに答えるために。全力で犬になろうとした計画だったけれど…
なんだか僕自身がいぬになることに、ハマりつつあるようなきがするよ…あはは、どうしてかな?)
純一「僕はちゃんとした人間なのにね、おかしいはなしだよ」
純一(……さて、休憩もそこら辺にして…次は二段階目の本能に目覚めるため、さらなる過酷な訓練に…)
わんわん! きゃいーん!
純一「…ん?あれは───」
「…こらぁ〜!だめでしょ? 小さい子をいじめちゃ!」
グゥーグルルルル…!
「もぉ〜う! そんな風に涎を垂らしても、この晩御飯はあげませんよー?」
「あらまぁ〜……そんなに騒いで、なにがそんなに楽しいのかな〜?」クゥーん…キュンキュン…
「ん〜だいじょうぶよ〜? このおっきな御いぬさんはね〜 ちょっとお腹が減ってるだけだから〜」
グルルルッ……
「あら、どうしたの〜? こっちににじり寄ってきて……──」
ルル……がうっ!! ばっ
「あっ…─────」
だっだっだっだ…!!
純一「わぉおおおおおおおおん!!」だだだ だん!
キャイン!? ずさー…
純一「はっはっはっ……わんっ!わんわん!」じりじり…
ウ、ウ〜 ワ、ワン!
純一「…………」じぃー
ワ、ワン…!
純一「………わん」じぃー
ワ、ワッフ……キャインキャイン! だっだっだ!
純一「…へっへっへ…」くるっ
純一(……うわぁー! なんだこの人…! すっごい美人だ…!
びっくりしたよ、ものすごくびっくりした!)
「………───」
純一(あ…でもしまった、こんな野生的な僕をみても…一般の人ならドン引きしちゃうって知ってるから…
ここはともかく、この人の胸元だけを記憶に残して去ろう───)
「──……なんて、お利口さんなお犬さんなのかしら〜!」
純一(え……?)
「ご飯が食べたくて我慢出来なかったお犬さんをおっぱらってくれるなんて〜すごいすごい〜」ぱちぱちぱち
純一「わ、わんっ……」
「うんうん! いいこね〜 よしよし〜」なでなで
純一「く、くぅん……へっへっへ…!」
「あらあら、甘えてきちゃって…うふふ、かわいいわぁ…」
思わず犬のままで接しちゃったよ…!)ちらっ…
「んん〜…かわいいでちゅね〜」こしょこしょ
純一(おっ…おっふ…! じゃなくて! どうしよう、この人まさか…僕があまりにも
野性的すぎて、人だって気づいてない…?)
純一「…………」くるっ…
「…あら? どうしておなか見せるのやめちゃったの〜?」
純一(だめだ、この人を騙しているようで申し訳ない……僕は人を騙すために、犬になったわけじゃないんだ…
ここでさよならをしとこう───白色だったなぁ…)
純一「わふっ!……わんわんっ」よちよち…
「……いってましまったわ…残念、おうちに上がらせてご飯でも食べさせてあげようかなって思ってたのに…」
純一「………」よち…
「そしたら、貴方が一緒に来る〜?子犬ちゃん?」
くぅーん…わんわんっ
「あらそぉ〜? ふふっ、それじゃあ行きましょうね〜」
純一「…………」だっ
ジョン「わんわん! わぉ〜ん!」くるくる
縁「こらこら、わたしのまわりをうろうろしちゃだめよ〜?」すたすた…
ジョン「わん…っ!へっへっへ……」ぴた…
縁「いいこね〜 ふふっ、それじゃーつきましたよ〜!」ぎぃ…
ジョン(──この人の名前は、緑さん。家に来る途中で教えてもらったけれど…
なんてお美しいひとなんだ……まるで聖女だよ!)
縁「まずは足をふきふきしましょね〜」ふきふき
ジョン(こんな野生的な僕を家に上がらしてくれるなんて……すごい人だなぁ!尊敬しちゃうよ!)ふきふき…
縁「じゃー二人共、居間の方にごーごー!」だっ!
ジョン「わんわん!」だっだっだ!
わんわん! だっだっだ!
ジョン「わんわ──……」だっだっだ
詞「………」ぺら…
ジョン「…………」だっ!
ジョン「わ、わふっ……ゲホコオッ…わんっ…!」ガクブル…
ジョン(えっ…!? なんで!? どうしてあ、絢辻さんがっ…この家で…
居間で雑誌を読んでるの……!?)
ジョン「………っ!」ぴきーん
縁「?」
ジョン(よくよく思い返してみると……玄関のあった名前…絢辻、だった…っ?
うそだろ……ということを僕は…!)
縁「ジョン〜? どうしたの〜?」
ジョン(あの、絢辻さんのおうちに……あがってしまったとでもいうのか…っ!)ぴしゃーごろごろ!
ジョン「………」
縁「ジョンくーん…? 大丈夫かな〜…急に元気なくなっちゃったけど…よしよーし」
ジョン「わふっ……わん…」
ジョン(ど、どうにかっ…まだバレてないうちにこの家から出るしか無い…!
絢辻さんにバレてしまったら…なんというか、僕はクラスで終わっちゃう気がする…!)
ジョン(と、とりあえずっ…玄関のドアをかりかりやっとけば、外に出してくれるかな…)かりかり…
縁「ふんふふーん…♪ あ〜! あったあったぁ〜 うふふっ」
ジョン(うん…? どうしたんだろう、緑さん嬉しそうだけど──)かちゃん
ジョン(えっ…?)
縁「前に使ってた首輪だよ〜? なんとなんと、お犬さんの肌にも優しい特別な皮で作られたやつなんだから〜」
ジョン(えっ……なんだってー! と、とれない!)かちゃかちゃ
縁「あ〜だめだよ? そんな風にイタズラしちゃ〜…めっ」
ジョン「わ、わふぅっ……」
縁「いいこいいこ〜…ちょっとの間だけだからね? 詞ちゃんが、暴れるわるい子は嫌いだから〜……ね?」
ジョン(そんなわるい子はもう帰りますから! 外してください! お願いします…!)ずりずり…
縁「それじゃあ居間にれっつご〜」すたすた
かちゃ
縁「ただいま〜」
詞「──っ……お姉さん。おかえりなさい」
縁「うん〜! 詞ちゃんもさっき帰ってきたところ〜?」
詞「チ……今朝に言ったでしょ、今日は学校は休みだからって」
縁「そっかぁ〜…そういえばわたしも大学やすみだったよ〜」
詞「はぁ…そう───それで、その抱えている子犬は……どうしたの?」
縁「あ、この子〜? この子はね、河原でおっきなお犬さんに虐められたところをみかけて〜」くぅーん
詞「…やめて、そういうの。また…お父さんに怒られてもしらないから」
縁「あ、うん〜…ごめんねぇ?」
詞「どうして私に謝るの、それと…もうひとつ。その握ってる手綱はなに…?」
「っ……」びく!
縁「あ、この子はね〜…そんな虐められてた子を助けてくれた〜 とってもとっても勇敢なお犬さんなんだよ〜!
ちょっと恥ずかしがり屋さんで、今はソファーの後ろに隠れちゃってるけれどね〜」
詞「──……それ、大型犬用の首輪なのに。ちゃんとサイズ合ってるの?」
縁「ぴったりだったよ〜? だって、おっきなお犬さんだったし〜」
詞「……ふーん、そう…大型犬にしてはやけに静ね。荒い息を吐くものだって思ってたけど」
ジョン「っ……はっはっはっはっ…!!」
詞「……あら、聞こえたね」
縁「心配しなくても大丈夫だよ〜? ちゃーんと大人しくしてるし、それにこうやってリードもつけてるから〜
……だからその、ね? ちょっとの間だけでいいから…おうちに上がらしてもいいでしょ?」
詞「……いいけど、私に近づけさせないでねお姉さん」
縁「わかった〜 それじゃあいこっか? ふたりとも〜」ぐいっ
ジョン(え、ああぁ…! ひっぱらないで…! 姿がっ! ソファーからはみ出て絢辻さんに…!)
詞「………」ぺら…
ジョン(……あ、あれ…? 絢辻さんもうお姉さんのこと見てない…まるで、はなしが終わればそれまでって…
ひどく無関心みたいな雰囲気をかんにじるよ)
縁「私の部屋まで、いくよー?」たんたん…
ジョン(ごふっ!……ちゃ、ちゃんと登らなきゃ…!)たんたん…
緑べや
ジョン(お、おおっ…なんだか女女の子してる部屋だなぁー…くんくん、あ。良い匂い…)
縁「ちょっと着替えるから、まっててね〜」すすっ…
ジョン(もちろんです!)くるっ
ジョン(……さて、着替えを見ないようにまずは…この部屋にあるものとか眺めておこうっと)
ジョン「…………」きょろきょろ…
ジョン(……ぬいぐるみが多いけど、これって全部買ってるのかなぁ…すごい量だ…あ、これは…)すたすた…
ジョン(家族全員が写ってる写真だ…絢辻さんも写ってるし、もちろん緑さんも写ってる)
ジョン(──でもなんでだろう、なんだか家族写真……って感じがしないなぁ。どうしてだろう?)
縁「おまたせー じょぉんっ」ぎゅう…
ジョン「お、おふぅっ…!?」
ジョン(ふ、ふわわ! ふわふわ!)
縁「ふふっ…あーやっぱりおっきなお犬さんはいいなぁー…抱き心地がとっても素敵〜」ぎゅう〜
ジョン(ぬ、ぬわーっ……これはすごいよ!たまらないよ!)
縁「くんくん…あ、ちょっと土の匂いが残ってるねー…あとで一緒にお風呂はいる?」
ジョン「……わん」キリッ
縁「ん〜? それはだめだ! って顔をしてるね……そっか、お風呂は苦手なのかな?」
ジョン(さすがにそれは……欲を言えば男として、一緒に入りたいですけどね!)
縁「う〜〜〜んっ……はぁ〜! 堪能した〜! よいしょっと」
縁「うふふっ……こらこら、子犬ちゃん? そんなに引っ付かなくても大丈夫よ〜?」きゃんきゃん!
ジョン(素敵な方だ……僕の飼い主になってほしい…ってだめだ! ぼ、僕にはちゃんと森島先輩っていう
可憐な飼い主が……でも、こっちも…)
ジョン(……というか、この人が絢辻さんのお姉さんなんだよな…なんだか全然似てないや…
…主に性格面とか…あ、でも目元とか少し似てるかな…?)
ジョン「…………」
縁「うふふっ〜…楽しいわね〜───むかしは、こうやってよく詞ちゃんと遊んでたっけ〜」
ジョン「!………わふっ…」
縁「うん? ジョン君も気になるかな? 詞ちゃんのこと」
ジョン(気になる気になります!)
縁「お〜! 興味津々な目だね〜……じゃあ、特別だよ? じゃあベットの上においでー」ぽんぽん
ジョン「わふっ…!」いそいそ… すっ…
縁「うふふー……よしよし…あのね、昔はね詞ちゃんは〜…とっても泣き虫さんだったの」
ジョン(な、なんだってー…!?)
縁「今はあんなにすっごくかっこいい娘だけど、昔は本当にすぐ泣いちゃって…
わたしが夜、同じ布団の中でいつも慰めててあげてたの」
当時のわたしは、その詞ちゃんの言葉がもうほんっとに大好きでね……」
ジョン「…………」
縁「……今は、そんなこと言ってくれることもなくなっちゃったけど。
でも、いつまでも詞ちゃんは…わたしのかわいい妹で、素敵な妹なの……うふふ、なかなか言えないけれどね」
ジョン(…お姉さん、絢辻さんのこと……大好きなんだな。こうやって犬な僕にぼやくぐらいなんだろうし…うん。
やっぱり素敵な方だ…)
縁「昔の詞ちゃんも大好きだけどー……今のかっこいい詞ちゃんも大好きなんだよ。
でも、最近の詞ちゃんは…ほんのちょっとだけ、冷たい感じがする…かな?」うんうん
ジョン(……そ、そうかな…?
居間で見た時、パッと見ただけの僕でも…すごくなんだか絢辻さん、お姉さんのこと苦手ぽかったけど…?)
縁「だからいつか……前みたいに、一緒にオフロに入って。一緒に髪を乾かしっこしてー……それから同じベットで眠るってことを
したいんだけど……ふふ、いつになったらできるのかな〜? ねぇ〜ジョン〜? うりうり〜」
ジョン「お、おっふっ…!」
縁「はぁー……」ぱたん…ころん
ジョン「………?」
ジョン(縁さん……)
縁「──すぅ……すやすや…」
ジョン(ってあれ……もしかして、寝ちゃった…?)ゆさゆさ…
ジョン「わおわおん?」ゆさ…
縁「くぅー……くぅー……むにゃ…」
ジョン(ね、寝ちゃったよ…寝るタイミングが掴めないぐらいに、素早かった…!
まるでのび太くんだよ…!すごい!)
ジョン「………このうちに、この家から出とくかな…ともかく、綾辻さんにバレずに帰れれば
それでいいんだ、居間をどうにかすれば……」すたすた…
縁「むにゃむにゃ……ジョン…君……すぅー…」
ジョン「…………」すた…
ジョン「──今日は、家に上がらしてもらってありがとうございます。
この御礼はまた今度、僕が人間の時に……渡したいと思いますね」
ジョン(──では、縁さん…これで)
ジョン(……か、階段を上がってくる音…! 僕の野性的感が告げている…!急いで隠れないと!)ばばっ
こんこん…
「…姉さん、入るわよ」がちゃ
詞「──姉さん、そろそろ晩御飯の……あら?」
ジョン「っ……」どきどき…
詞「……またそうやって寝て…風邪を引いたらどうするの」すたすた… ぐいっ
ジョン「…………」どきどき…
詞「──これでよし…晩ご飯は後もう少し、伸ばしてもらうから。一時間後にくるからね」
縁「つかさちゃーん……えへへ、まって〜……」
詞「っ……」ぴくんっ…
詞「──……ったく、貴女って人はどうして……ぎりっ」ぐ…
ジョン(……絢辻、さん…?)
詞「……っはぁー…!……もういいんだから、もう大丈夫。もう……」くる
詞「……私は……あたしは、貴女には負けてないんだから……」すた…
関係があるのかな…?)
詞「……あら、そういえば…」すた
ジョン(……ん?)
詞「姉さんが連れてきた……もう一匹の大型犬はどうかしたのかしら。子犬の方はベットの上だし…」
ジョン(し、しまった……ここは、どうにかくぐり抜けるしか無い…!)
ジョン「わ、わぉーん……!」
詞「……ベットの下? そこにいるの?」すたすた…
ジョン(馬鹿だ僕! なんでいるってことにしたんだ! 帰らせたってことにしとけばよかっただろ!
あ、あわわ…! どうしよう、絢辻さんがリードに繋がれてベットの下に隠れた僕を見つけてしまう…!これはおわった!)ごそごそ…
詞「──よいしょっと……」すっ…
ジョン「っっ………!!」
ジョン「っ………」どきどき…
詞「──……あれ、なにもいない…?」
ジョン「……っ……」どきどき
詞「確かに、声がここから──……あら、ベットにもう一つの膨らみが」
ジョン(──た、助かったァー! なんだこの奇跡! 絢辻さんが屈んだ瞬間に、急いでベットに潜り込んでみたけど…
成功するなんて……もう僕ってば明日には死んじゃうんじゃないかな…!)どきどき…
詞「いつの間に…まぁ犬ならやってのけるか。ふぅ…あんまり毛とか付けないでよね、掃除が大変なんだから」
ジョン「わ、わふっ…!」
詞「あら、返事をしてくれるなんて……お利口さんな犬なこと」
ジョン「……わ、わふっ…」どきどき…
詞「……さて、晩御飯の手伝いでもしてきますかぁー」すたすた…ばたん…
ジョン「──た、たすかったぁー……もうダメだって思った…!本当に…!」
ジョン(この家に来てから、なんど奇跡を行っただろう……もう、僕へにゃへにゃだよっ…!
色々と面倒な事にならないうちに、この家から出よう…!)
ジョン「とりあえず、この首輪をどうにか外して……あれ、案外軽く取れた…落ち着いてやれば出来るもんなんだ…」かちゃ
純一「えっ…?」ばさぁ…!
純一(ベットの中に引き込まれっ…!?むぐっ!)ぽにょ!
純一「むぐぐっ……ぷはぁ! なにこれ、やわらかむふっ!?」
「う、う〜ん……はれぇ? ジョン君…?」ぎゅう…
純一「ゆ、縁さん…!?って…あっ!」ぱしっ
縁「うーん……パチパチ……うん?」
純一(やばいっ! ものすごく凝視されてる…! 目の前で、胸に抱かれながら…!)
縁「……あれ? ジョン君だったと思ったのに……あはは、いつも詞ちゃんといる子だぁ〜」
純一「え…? あ、はい…どうも…?」
縁「どうもー……ふわぁ〜…何だか不思議な夢〜…ジョン君が、あのこに変わっちゃうなんて〜…」
純一(も、もしかして…これ夢だって思ってるっ…?まさかそこまで都合がいいこと…!)
こんな夢を見られるなんて……ちょっと神様に感謝しないとね〜」
純一(どうやら本気で思ってるっぽい!)
縁「……ん〜〜……こうやってお話するのは初めてだよね?君とは」
純一「あ、はいっ……そうですね、確かに…」
縁「あははー! そこまでかしこまらなくてもいいんだよ?取って食べるわけでもないからね」
純一「そ、そうですか……」
純一(というか、いつまで僕は抱かれたまんま何だろう…!
たとえ夢だと思ってたとしても、この人にとってはそれでいいのか…っ?)
縁「……うーんとね、君ともし会ったら色入とお話ししたいことがあったんだけど…夢の中だし、いいかなー?」
純一「えっとその、ちゃんと話しをきいたらっ…手を離してくれますか…?」
縁「うん、いいよー」
純一「……わ、わかりました。それじゃあ聞きます…」
純一「はい、1つだけ…?」
縁「うん、それはね……つかさちゃんのこと」
純一「…絢辻さんこと、ですか?」
縁「そうなの、つかさちゃん…私の妹なんだけどね。
あのこ、最近ずっとずぅーっと……笑った所、見たことないの」
純一「ずっと、ですか?」
縁「……どれぐらいたつかなぁ〜…もう、忘れちゃうぐらいにだと思うよ。
それぐらい見てないつかさちゃんの笑顔をね……実は、最近になってみたんだよね」
純一「え、本当ですか…っ?」
縁「うん! わたしもびっくりしてー…そこで一時間ぐらい立ちっぱなしでいてね。
今でも足がちょっと凝っちゃってるんだ〜」
純一「は、はぁー…そ、それでいつ絢辻さんが笑ったんですか…?」
縁「うん? 君と一緒にいるときだよ?」
純一「え……?」
純一「は、はい……」
縁「…そしてそんな笑顔の先にね、君がいたんだよ? わたしそこでもっとびっくりしちゃってね」
純一「なるほど……」
縁「……家ではよく笑ってはいるんだけど、あれは少し…違うんだって思わせるぐらい、綺麗な笑顔を…
君だけに、君のためにしていて……ものすごく、びっくりしたんだー…うん」
純一「…………」
縁「……だから、聞きたいんです。君に…どうやったら、つかさちゃんに…」
縁「あの笑顔を、してくれるようになるのか……私は知りたいの」
純一「……知りたいっていわれましても、僕は…」
縁「う〜〜〜〜んっと……たしかに、これは私の夢であって〜〜〜…君本人じゃないから、
本当の答えじゃないけど〜〜〜…でも、君に聞いてるわけだから、それは答えで〜〜〜うーっん…まぁいいや!」
純一「え、えぇー…いいんですか…?」
縁「いいのいいの! わたしがすっきり出来ればそれでいいんだから」
縁「わたしも、あの笑顔を…つかさちゃんから向けて欲しいの。ものすごく、いっぱいに」
純一「……っ……あの、その…正直にいいますと、ですね…」
縁「うん?なになに?」
純一「……わ、わからないです……はい…」
縁「え〜〜! それは嘘!」
純一「う、うそじゃないですよ…! 本当です! ……本当に、僕は…」
純一「…絢辻さんが、その、綺麗に笑ったってことは……よくわからないです」
縁「…そうなの?」
純一「……まぁ、たしかに。最近はよく笑ってくれるようになって来ましたけど…
それは以前までも、変わらずに笑っていたと思います…確かに、種類が違いますけどね…」
縁「でしょでしょ! わたしもずっと悩んで悩んでわかったことだから…すっごく自信があるの!」
純一「そうですか……でも、僕は絢辻さんは…いつだって笑顔が可愛い人だって思ってます」
縁「……うんうん、それでそれで?」
純一「だからその……貴女がいった、綺麗な笑顔っていうのは…ただ、貴女が久しぶりに見た笑顔が…
とても印象深かっただけなんじゃないかって思いますけど…?」
純一「……貴女が見た久しぶりに絢辻さんの笑顔が眩しくて、そこにちょうど僕がいただけの話なんですよ…」
縁「ふむふむ……わかった、わかったよ君ー!」
純一「ほ、本当にですか…? よかったぁー…!」
縁「うんうん、やっと君があほのこだってわかったよ〜」
純一「……え?」
縁「つかさちゃんも大変だなぁ〜…なるほどね、だから好きになったのかなぁ〜…」
純一「えっと、お姉さん…?」
縁「──……ふぅ、そしたら。最後にひとつだけいおっかな」
純一(……あれ、なんだか雰囲気が…どこかで見たことのある感じの…?)
縁「……君が、どれだけの子をね? 元気にしてあげても。強くさせてもだよ?」
純一「は、はいっ…?」
縁「数あるこの中で──……幸せにできるのは、必ず一人だけだからね?
それだけを覚えておいて……橘純一くん?」
縁「うん〜? ひ・み・つ。だよー?」
純一「え、ええぇ〜…! すごく気になりますけど…! 秘密なら、しかたないですね…」
縁「……ふふふ、やっぱりつかさちゃんが気に入ったのもわかるわぁ。いいこね君は」なでなで…
純一「そ、そうですか…?」
縁「うん、とってもいい子よ。こんな子なら…ちゃーんとつかさちゃんを悲しませずにしてくれそうで、
お姉さんとっても安心したよー?」ぐりぐり
純一「わ、わっぷ……ちょ、苦しいですって…!」
縁「うふふっ……ありがと、今日は私の話しをきいてくれて…感謝してる。
貴方も頑張ってね…お姉さんも応援してるから、ね?」
純一「は、はい…?」
縁「いろんな事があっても、大変な目にあっても……くじけずに頑張らなくちゃだめだよ?
でも、もし……だめになりそうになったときは、またここにおいで」
縁「……もう一度、こうやって抱きしめてあげるから」ぎゅう…
縁「───大丈夫、君はただひたすらに……わんわんって走っていけば。それだけでいい」ぎゅう…
純一「…………」ぎゅっ…
縁「君はとってもすごい子。なんだって出来る子。そんな自分に自信を持ってね…?
その自信が高ければ高いほど、君もっと凄くいい子にしていくはずだから…」
純一「……はい、縁さん…」
縁「……つかさちゃんを、どうかよろしくお願いします。橘くん……」
純一「……─────」
数分後
純一「──………ハッ!」がばっ
純一「こ、ここどこ…!? え、あ、か、河原だ……」
純一「ど、どうしてここで僕は寝てるんだ…? えっ!?恐い!?」
純一「というか寒い……ってあれ、そんなに寒くない…冬なのに…?」
純一(なんだか、さっきまで誰かに抱かれていたような…そんな暖かさが残ってる…)
純一「…………だめだ、思い出せない…!どうしてだろう、こんなにも…」
純一「…こんなにも、すっきりした気分で要られてるのに…どうして、なにも覚えてないんだろう…」
純一「──……帰るか、うん」すっ……
純一「……絢辻さん、かぁ…」すたすた…
ちゃりり…ちゃり…
絢辻家
縁「きょーのごはんはなんだろうなー!」
詞「今日はカレーライス」
縁「え〜? ほんとにー! 大好きよカレーライス〜」
詞「そう、じゃあいただきます」
縁「いっただきまーす……もぐもぐ、おいひぃ〜!」
詞「あ、ほら。そんなにこぼして食べないで!」
縁「えっへへ〜……やっぱり、いいことした後っておなかがすくよね〜つかさちゃん!」
詞「はいはい、そうねそうね」ふきふき…
次は麻耶ちゃんいくよ頑張る
ちょっと三十分ぐらいうんこ
次も期待だ
純一「──おじゃましまーす…」がちゃ…
純一「……えっと、高橋せんせーい…いらっしゃいますか〜?」
純一「…………」
純一(──あれ、いないのかな…鍵はあいてるし。
それにチャイムが壊れてるみたいだから、確認も取れないしなぁ…)
純一「うーん……どうしよう、勝手に上がってもいいものなのか…だめだよなぁ」
純一「……。とりあえず、要件のものだけ玄関においておくか……それだけで、いいよね」こと…
純一「……」しーん…
純一「本当にいないのかな…? 鍵も閉めないで外出なんて、とっても無用心だよ……」
がたんごとん!
純一「ん……? なんだ、今…物音が…」
がしゃんぱりーん!
純一「っ…!? 先生!? 高橋先生っ!」だっ
純一「高橋先生っ…! いるんですか!? いるんですよ───……ねって…」
高橋「……きゅー」
純一「……たかはし、せんせっ…! な、ちょ、どうしてバスタオル一枚で大の字にっ…!?」
高橋「……ふぇ…?」むく…
純一「ちょ、ちょっと……先生! しっかりしてください、本当に…!
あ、やっぱだめですしっかりしないで!僕が後で怒られそう…!」
高橋「…た、たちばな……くん…?」
純一「は、はいっ…! そうです、僕は橘純一です…!」
高橋「…………」
純一「せ、先生っ……?」
高橋「……たちばなくん、遅刻はだめですよっ…」ばたん
純一「せ、せんせぇー! ど、どうして最後まで…僕の心配をっ……」
純一(ってちがうちがう!…のってる場合じゃないよ…!どうやらのぼせてるのかな…?
冷やしてあげないとっ…でも、その前にこの格好をどうにかしないと…!)
純一(ど、どうしようっ…先生の家だし、勝手にあさくるのも……!)
高橋「はぁっ…はぁっ……くっ……」
純一「……くそ、もう怒られるのは慣れてるよ! ここはもう紳士魂すべて込めて、
全力でやってやる…!」
高橋「っ……はぁっ……あ、あれ……たち、ばなくん…?どうしてここに───」
純一「──行きますよ、先生。あとでたくさん怒ってもいいですから……」
高橋「え……?」
純一「今だけは、ほんの今だけは……全部、許してくださいっ!」がばっ
高橋「きゃっ…!た、たちばなくんっ…? 急になにをっ…!」
純一「いきなり抱き抱えてすみません!とりあえず!先生はまたお風呂場に戻って下着を履いてください!
僕はその間に、氷とか水とか用意しておきますので……お願いします!」だっだっだ!
高橋「あ、はいっ…できます…!」
純一「わかりました! じゃあ僕はちょっと台所を借りますよ!」だっだだだ!
高橋「…………」
高橋「あっ…わたしったらぼーっとして…………下着、下着…」
高橋「…………」いそいそ…
高橋「ってなにこれ…!? えっ!? たちばなくんっ! なんで貴方がここにいるのっ!」だっ
純一「え、なんでってそれはっ……」
高橋「わ、わたしのアパートですよ…! というか、わたしっ…なんでこんなかっこうっ…!
たちばなくん! ちゃんとせつめいをしなさ──きゃっ…!」ずりっ
純一「え、あ、ちょ、なんで自分の下着を踏んづけて……先生ッ!」だっ
ばたーん
高橋「──いたた……どうして急に、なにか足元にあったのかしら……」ひょい
高橋「……っ!?」ばっ
純一「いたた……せ、先生大丈夫ですか…っ?」
ちょ、ちょっと先生の……し、下着が落ちてますから…!」ささっ…
純一「…えっと、そうなんですかって言いたいんですが……あの、その」かぁぁー…
高橋「な、なによ…! どうかしたんですかっ…!」
純一「……すみません、とりあえず謝っておきます…その…」すっ…
高橋「えっ……────」
純一「………まる、みえぐはぁあああ!?」ごすん!
高橋「っ…!…っ…!…っ…!」ばっばっ(バスタオル回収中)
高橋「っっっ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!」ぎゅうう…
高橋「た、たちばなくんのっ───…ば、ばかっ……!!」だっ
がらら ばたん がちゃ!
純一「………」
純一「……大丈夫ですよ、先生。大事なところはふとももで見えませんでした」
『ちょ、ちょっと黙ってなさい! もうっ!』
高橋「───っはぁ〜〜〜〜〜…………」
純一「あはは、はは……なんというか、災難でしたね先生」
高橋「っ……災難、ってどころの話じゃないでしょう…!もう、またなんてことを私は…あぁ〜…」
純一「まぁまぁ、先生。別に減るもんじゃなしに……すみません、減りますよね色々と」
高橋「ぐぐっ……わ、わかればいいんですっ…! っはぁ〜……もう、本当にわたしは…教師失格です…」
純一「…………」とく…とくとく…
高橋「教師生活を始めて五年目……今までいろんな事があったけど…貴方の担任を持った以来、
全ての失敗を覆すほどのことばっかりやってるわ……はぁ〜…」
純一「へー……高橋先生も、僕以外の前で色々と失敗してたんですか。はい、どうぞ」
高橋「あ。ありがとう橘くん……橘くんっ!それってどういう意味かしら…っ?」
純一「え、だって…先生が失敗する姿なんて、僕と一緒にいる時ぐらいしか見ませんし……」
純一(絢辻さんとかの色々は秘密として)
純一「だから、僕の時のことをはぶいたら…先生って結構、完璧な女性じゃないですか?」
高橋「……わたしが、完璧な女性……?」
高橋「そ、そうかしらっ……? わたしって、ちょっといけてるかしら…っ?」
純一「いけてますよ! すっごいいけてます!」
純一(…ふぅ、機嫌治ってきたかなちょっとは)
高橋「……ま、まぁ…おだてても、何も出ませんからね。橘くん!」
純一「え? いやー僕はなにもいりませんよ、高橋先生」
高橋「そ、そうなの…? なにも、いらないの…?」
純一「ええ、僕は何も要りません。だって僕は……」
ちゅ
純一「……ほら、もう先生を手に入れてますから。ね?」
高橋「お、おでこにっ……こら! なんてことを…!」
純一「あはは、ちょっと大人ぶってみました。どうです?具合の方は?」
高橋「っ〜〜〜……す、すこしだけよくなりましたよ…たぶん…!」
先生…具合がわるいんですか?」
高橋「……そ、そうなのよ…今日はちょっと朝から風邪気味で…」
純一「なるほど、だから学校に来てなかったんですね」
高橋「…え? 何で知らないの? 一応、学校には連絡しておいたのに…」
純一(……多分、絢辻さんが裏で何かしたな。有益なことをするために)
純一「え、えっとぉ〜…なんでですかねっ?たぶんだけど、代わりの先生がきたとき……
梅原が色々と騒いでたから、その時に連絡が聞こえづらかったのかも〜…しれないです」
高橋「……梅原君っ…覚えておきなさい、みっちり指導してあげるんだから…!」
純一(すまん、梅原っ……後生だ…!)
高橋「……それで、橘くんは今日はなにしにここにきたの?」
純一「あ、それなんですけどね…」ごそごそ
純一「──これです、進路希望調査紙を持ってきたんですよ」
高橋「ああ、確か今日が締切の……」ぱらぱら…
もしかしたら一周目だと見つけられないかもね
高橋「ふーん……そう、なのね…」ぱらぱら…
純一(スルーされた……)
高橋「……あら、橘くん。大学希望なのね、大丈夫?」
純一「どういうことですか!? せ、先生から言われると……あれなんですけど…!」
高橋「うふふっ。冗談よ、じょーだん…いやね、てっきり専門とかに行くと思ってたから」
純一「…そうですね、一年の時はそう書いてましたね」
高橋「じゃあどういった心変わりなの? なにか君に、変化を与えてくれたことでもあったのかしら?」
純一「…………」
高橋「……うん? 先生の顔に、なにかついてる?」
純一「……いえっ、その……先生が居たからです…はい…」
高橋「…えっと、なにがどういうこと?」
純一「せ、先生を…知ってから。僕はやってみたい職業ができたんです…」
高橋「──えっ…それって、もしかして……教師、に?」
純一「……っ……」こく…
純一「っ〜〜〜〜っっ! そ、そうです! 僕は先生を見て…教師になりたいって思いました…!」
高橋「橘くん…」
純一「へ、変なことを言ってるってわかってます…けど! 先生みたいに…いろんな人に慕われて、
生徒たちに勉学を教える立場ってのが…どれほど素晴らしいものなのか…知ってみたいって思ったんです…!」
高橋「……………」
純一「…だ、だからっ……その、いつかは輝日東高校で教鞭をとって、先生と…高橋先生と一緒に……先生?」
高橋「…………」ボロボロ…
純一「え、ちょ……なんで泣いてるんですかっ? えぇー…!」
高橋「たち、ばなくんっ……わたし、わたしっ……ぐすっ…」
純一「え、はい…っ? どうしたんですか…? 具合が悪くなったんですか…?」
高橋「ううん、違うの……そうじゃなくてね…?…ぐしゅっ…」
高橋「とっても、とっても……すっごく、嬉しいのっ…!…ぐすっ…君が、私を見て…
…きょ、教師になりたいって言ってくれて……本当に、わたしは…っ…」
純一「先生……」
純一「…願い、ですか?」
高橋「そう、そうなの……これから先、生徒たちを教えていく立場になっていくけれど…
でも、もしかしたらいずれ…私と同じように、教師という立場を目指してくれる子がいればいいって…」
純一「…………」
高橋「…そん、な子がっ…ひっく……一人だけ、一人だけでいいから先生……っ…」
純一「…わかりました、わかりましたよ。先生の気持ち…」
高橋「ひっく……ほ、ほんとうに…っ?」
純一「ええ、本当にです。先生は、ちゃんと願いは叶えられましたよ…ここで、いま」
高橋「ひっくえっぐ……でも、橘くんっ……むっ…ぐすっ…無理じゃない…?」
純一「無理じゃないですよ! 頑張ります!」
高橋「…ぐすっ……」
純一「実はちょっと自信が持てなかったんですけど……今の、高橋先生の……いや」
純一「麻耶ちゃんの願いを聞いて、僕は完全に決意しましたよ」
高橋「た、たちばなくん……っ」
純一「待っててください、先生。僕は必ず先生に……なります」
純一「それがなんだっていうんですか! 麻耶ちゃんは麻耶ちゃん年ですよ!いつまでも!」
高橋「なに、それ……ふふっ…麻耶ちゃん年って…あははっ」
純一「あはは。だから先生、僕は絶対に…貴方と一緒に教鞭を取ります。必ずです」
高橋「ぐすっ……そう、なのねっ…! 決意は、決まってるのかしら…っ?」
純一「ばっちしです!」ぐっ
高橋「ぐしゅっ……ふぅ。うん、ごめんね。先生急に泣き出して」
純一「あ、いえ……可愛かったですよ、泣き顔も」
高橋「こ、こらっ…! 年上に向かってなにをいうの…っ!」
純一「あはは…」
高橋「もうっ……そしたら、橘くん。今まで以上に貴方をちゃんと指導しなきゃ駄目ね、こうなったら」
純一「ん……?え?」
高橋「だってそうでしょう? 貴方が教師という……神聖な立場になりたいというのなら、まずは…
その垂れ流し状態の煩悩をどうにかしないとだめね」
純一「垂れ流しって……そこまでひどくはないですよ…!」
純一「え、ええー…そんなぁ〜!」
高橋「とりあえず! 先生はこれまで以上に、きつく指導していきますからね?
はい、返事!橘くん!」
純一「は、はいっ…! 麻耶ちゃん!」
高橋「麻耶ちゃんじゃありません…! た・か・は・し先生です!」
純一「はい! 高橋先生!」
高橋「はい、おりこうさんです」なでなで
純一「ふへへ〜……」
高橋「…だらしない顔をしないの!それは駄目ですよ!」
純一「えっ!? これも駄目なんですか…?」
高橋「そうですよ! だって先生になでられただけで…そうだらしない顔になっては駄目です!」
純一「えー……先生以外の人になでられても、僕は嬉しくないですよ?」
高橋「……そ、そうなの…? そうなんだ……えへへ、って違います!」
高橋「な、なってません! なってませんから…っ!」
純一「そ、そうですか……と、とりあえず落ち着きましょう、先生。熱が上がっちゃいますよ…?」
高橋「えっ? あ、そういえば私…風邪ひいてたんだっけ……」
高橋(でも、今朝よりもすごく身体が軽い……)
純一「……あ、それと氷枕ありますから。これで寝てくださいね」そっ…
高橋「あ、うん……ありがとう…」
高橋(…あれだけ怠くて、お風呂にも頑張って入ったのに…今は全然普通…)
純一「…まだ何か飲まれますか?」
高橋「ううん、大丈夫……大丈夫よ───」
高橋(…これも全て、君のおかげなのかな…感謝、しなくちゃね……君に)
高橋「───ありがとう、純一くん…」
純一「っ………はい!」
高橋「──……た、橘くん…? 本当に大丈夫?」
純一「大丈夫ですって! これぐらいのことだったら僕にだって出来ますから〜」
高橋「…………」おろ…
高橋「やっぱり、先生も台所にたったほうが…っ」
純一「…いや、高校生ですからそれぐらい信用してくださいよ…というか、出来ましたよ」すたすた…
高橋「っ……そ、そう…?」
純一「はい、じゃあ開ますよ? それ〜」ぱかー!
高橋「わぁぁ…! 案外、美味しそうにできてるわねぇ…」
純一(案外…?)
高橋「ふふっ…そんな顔しないの。冗談よ」
純一「本当にですか…? せっかく麻耶ちゃんのために作ってあげたのに……」
高橋「ほ、本当よっ…! 本当に、嬉しいんだから…!」
純一「…………」
高橋「……ほ、本当よ…?」
純一「……じゃあ、あーんさせてください」
高橋「えっ!? そ、それはぁー……だめ、じゃないかしら…?」
純一「じゃあ嬉しくなかったんですね」
高橋「そ、そうじゃなくてっ…! ど、どうしてそうなるのよ…っ…」
純一「───あーんっ」ずいっ
高橋「っ……え、ちょ、た、橘くん…っ?」あたふた…
純一「ほら、麻耶ちゃん。あーんしてください」
高橋「っ……っ……」きょろきょろ…
純一「…………あーん」
高橋「っ…………あ、あーん…っ…!」ぷるぷる…
純一「……ぱくっ」
高橋「っ……」ぷるぷる…
高橋「……あれ…?」
高橋「……………」
純一「…ってあれ、先生。どうかしましたか? うん?」
高橋「……………………」もぞもぞ…
純一「あ、ちょ、先生っ…どうして無言で布団の中に…!」
高橋『しらない』
純一「え、ええぇー…しらないって、先生…!」
高橋『意地悪な橘くんは、わたし知らない』
純一「ご、ごめんなさいっ…! ちょ、ちょっと先生をからかってみたくて…!」
高橋『…………』
純一「そ、その……ごめんなさい、高橋先生…」
高橋『…………』
高橋『麻耶ちゃん』
高橋『…………』
純一「なにか、いま言いましたか…?」
高橋『いってない』
純一「ぜ、絶対にいま言いましたって…!先生!お願いします!もう一度だけ…!」ぱんっ
高橋『……………』
純一「………っ…」ぐぐぐ…
高橋『麻耶ちゃんごめんなさい』
高橋『…って言ってくれたら許してあげなくもない』
純一「っ……言ったら許して、くれるんですか…?」
高橋『うん』もぞっ…
純一「……ま、麻耶ちゃんっ…」
高橋『…………』
純一「ごめんなさい……でしたっ!」
最高だな
純一「っ〜〜〜……」
高橋『……エヘヘ』
純一(わ、笑った…?)
高橋『……コホン』もぞもぞ…
高橋「──う、うんっ…反省しているようなら、それでいいわっ…!
もうこんなことはしないこと!いいっ?」
純一「わ、わかりました…っ!」
高橋「よ、よろしい……じゃあ、そのっ…」ちらっ
純一「…?」
高橋「……さ、さっきの……つ、つづきは…っ?」
純一「!……はい、そしたら──…あーん」すっ…
高橋「っ……ごくり…」
高橋「……あ、あーん…」
ぱくっ
純一「……どうですか?美味しいですか…?」
高橋「こくん───……」
純一「…………」どきどき…
高橋「……美味しいわ、純一くん…すごいじゃない!」
純一「ほ、本当ですか…!」
高橋「うんっ! もっと食べたいわ……純一くん、はやくはやく」
純一「え、あっ、はいっ…どうぞ!」
高橋「あーん……もくもく…うん、美味しいっ」
純一「ありがとう、ございます…! たくさんありますから、ゆっくり…!」
高橋「実は朝から何も食べてないの……だから、もっとちょうだい…純一くん…?」
純一「っ…はい!…あーん…!」
高橋「あーん……ぱく!」
純一「──よし、洗い物も終わったし……」ぱっぱ…
純一「……まやちゃーん、僕もうそろそろ家に──」
高橋「くー…くー……」
純一「───寝ちゃいましたか…先生…」すっ
高橋「くー……純一、くん……」
純一「はい、なんですか…? はは、寝言で僕名前を言うなんて…先生もかわいいなぁ」
純一「……先生、高橋先生」
純一「僕はいつだって、いつまでも……先生と一緒に居ます。これだけは、信じてください」
高橋「くー……くー……ううん、わたしもよ……むにゃ…」
純一「……あはは。ありがとうございます、麻耶ちゃん…」すっ…
ちゅ
純一「……さて、帰ろうかな。うん!」
はい、これにて一応
仮定していた目標人数に達しました
みなさん、本当にありがとう!
これを読んでくれた方で、より多くのアマガミストが増えることを願って
これにてイチャイチャスレに
終わりを告げたいと思います
ご保守ご支援本当にありがとう
なんというか、期待に答えれたものだったら嬉しいですノシ
で、イチャイチャのあとの修羅場SSはまだかい?
Entry ⇒ 2012.05.22 | Category ⇒ アマガミSS | Comments (0) | Trackbacks (0)
橘純一「夏っていいよね!みんな薄着になるし!」
田中「海の家で食べる不味い焼きそば!」
棚町「だ、誰の髪型が不味い焼きそばみたいだって!?」
絢辻「あら?確かにこれは不味そうね?」
橘・田中・絢辻・棚町「うぇーい!」
橘「と、まぁ、浮かれてはみたものの」
橘「『高校生活最後の夏!』とか、僕らには特に関係ない話だったよ……」
田中「遊んでる場合じゃないもんね……私達受験生だし」
絢辻「えぇ……あたし達に出来ることといえば夏期講習の合間に学食で燻ることくらいよ」
棚町「……せっかくの夏なのにねぇ」
絢辻「朝から夏期講習に参加して」
絢辻「講習が終わったら、みんなで図書室で勉強会!」
絢辻「……で、適当な所で勉強会を切り上げて、自販機でジュースを買って駄弁りながら帰る」
絢辻「ふふっ、意外と青春っぽくない?」
橘「……そう言われてみれば確かに」
棚町「で、でも!夏らしさが足りないのよ!」
棚町「夏らしい要素なんて、冷房の効きすぎた図書室くらいじゃない!?」
橘「うんうん。それでみんな上着を羽織るから、僕としては大変面白くない」
橘「こうっ……ブラウスから透けた下着とかさ!すごく素敵なのに!」
絢辻「……えっ?何?」
田中「透けた下着?」
橘「昨日の夜のことなんだけど」
絢辻「蚊が鬱陶しくて寝れなかった?」
橘「そ、そんなこと一々報告しないよ?」
棚町「じゃあ何よ?」
橘「いやさ、昨日の夜に突然の来訪者がね」
田中「来訪者?お客さん?」
橘「うん。僕を困らせることに至上の喜びを感じるラブリーな大学生こと、森島はるかさんがね」
橘「……金属バット片手に殴り込みにきた」
田中「えっ……?」
絢辻「何それ怖い」
棚町「で!?で!?」
橘「『橘君!?夏といえばスイカ割りよ!?』ってさ」
絢辻「あぁ、だからバット持参なのね?」
橘「うん。だけど、肝心のスイカなんてないし、夜だから外真っ暗だし……」
橘「だから『はははっ、明るいうちにスイカを持って出直してきやがれ!この暇人め!』って言い返したんだけど」
橘「……それが全ての間違いだったことにすぐに気付かされたよ、うん」
田中「……というと?」
橘「まず、何故かうちにスイカがあった。しかも冷やされてた」
田中「えっ?」
橘「……あとで美也に問いただしたらわかったことなんだけど、森島先輩から連絡があったから、こっそりと準備しといたそうでね」
絢辻「獅子身中の虫、ね」
棚町「それで?どうしたの?」
橘「それに夏期講習の予習があったし、今からは出かけられないと、先輩へ告げたんだよね」
橘「そしたら……」
棚町「ま、まさか!?」
橘「『むむむっ!ならここでスイカ割りをすれば解決ね!』とか言い出して」
橘「目隠しをしながら『バットに額を当てて10回回ればいいのよね!?そーれ、一回!二回!』とか僕が止める前に始めちゃってさ」
絢辻「……自由すぎるわね」
田中「家の中でスイカ割りはエキセントリックすぎるよ」
橘「いやー、もうね。久し振りに必死になっちゃったよ!」
橘「『あぁ〜!橘君!目が回るわ!』とかいって危なっかしいったりゃありゃしないし!」
棚町「……ねぇ?その後どうしたの?」
絢辻「あぁ、そういう体にしたのね?」
橘「台所でスイカを切り分けて、縁側で二人で美味しく頂いたよ。月を見ながら」
棚町「風情があることをしてんじゃないわよ」
橘「まぁ、それで満足したらしく帰ってくれたんだけど」
橘「去り際に『これで終わったと思わないことね!?覚えてなさい!?』って言い捨てていったのが、気になって気になって……」
絢辻「……そう、受難はまだまだ続くのね」
田中「あははっ、本当に退屈させない人だよね、森島先輩って」
棚町「ホント、どんな大学生活を送ってらっしゃるのか気になっちゃうわよね」
田中「今日は花火大会だよね!」
絢辻「そういえば、そうだったわね」
田中「あっ……でもっ……」
橘「ははっ……花火の音を聞きながらの勉強も悪くないかもね……」
棚町「純一……あんた……」
絢辻「う〜ん……そうね。よし、決めた!」
絢辻「今日の勉強会は中止とします!」
橘「えっ?」
田中「ななな、何で!?」
絢辻「他ならないあなた達だから、歯に衣着せぬ言い方をするけどね?」
絢辻「毎日毎日!バカの相手をするの、疲れたの!たまには休みを頂戴!?」
棚町「おぉ、ついに本音が出たわね」
絢辻「そんなの睡眠時間を削ってやりなさい!花火を見に行くことはもう決定事項!」
棚町「お、横暴よ!?」
絢辻「いーやーだー!みんなと花火を見にいーきーたーいーのー!」
田中「あ、絢辻さんが……いつも冷静な絢辻さんが駄々をこねるなんて!」
橘「わ、わかったよ!今日の勉強会は中止にしよう!」
絢辻「……初めからそうすればいいのよ」
橘「……ただし条件があるよ?」
絢辻「条件、ねぇ?試しに言ってご覧なさいよ?」
橘「ぜ、全員浴衣でくること!以上!」
田中「ゆ、浴衣で!?」
棚町「そうね!こんなことがないと着ないし!」
絢辻「……わかったわ、その条件を飲みましょう」
橘・田中・絢辻・棚町「うぇーい!」
欲望をねじ込む人間を紳士と言えるのか…
それを人は変態紳士と呼ぶ
・
・
絢辻「純一?花火……綺麗だね?」
棚町「恵子……君の方が綺麗だよ……」
絢辻「も、もう!純一ったら!」
棚町「恵子……」
絢辻「純一……」
棚町「……みたいな?」
絢辻「あー、あると思うわ」
絢辻・棚町「うぇーい!」
橘「い、いくら僕でも!そんなのないよ!?」
田中「そ、そうだよ!陳腐すぎてびっくりだよ!?」
絢辻「妄想する時間を与えてやったんだから、感謝しなさいよ?この変態」
田中「……で、どうかな?」
橘「す、スゴくいいと思います……」
棚町「ん?誰の浴衣姿が?」
橘「み、みんな違ってみんないい!」
絢辻「はぁ?そんな言葉聞きたいわけじゃないんだけど?」
橘「で、でも!僕としては……た、田中さんの浴衣姿が……一番グッときたかも」
田中「……ありがとう、橘君」
絢辻「はー、これだからカップルは嫌ね!棚町さん?」
棚町「ホントよねー!あたしも素敵な彼氏がいたらなー!」
絢辻・棚町「うぇーい!」
橘「くっ……こいつら……」
田中「まぁまぁ、抑えて抑えて」
絢辻「確かに。男の人って持ってないイメージがあったけど」
田中「……橘君のことだから、何か由来があるんだよね?」
橘「あー、うん。これはね……」
橘「森島先輩の従姉妹にジェシカさんって方がいらっしゃるんだけど」
棚町「セクシーさんのこと?」
橘「そうそう、セクシーさん。森島家はミドルネームからして攻めの姿勢なのが素晴らしいよね!」
絢辻「で?そのジェシカさんがどうかしたの?」
橘「あ、うん。ジェシカさん、つい最近来日されたんだけど」
橘「……先週くらいかな、急に二人で訪ねてきてさ」
橘「ジェシカさんが『ジュンイチ!何でニッポンジンなのにワフクを着てないの!?』とか言い出して」
橘「そこに森島先輩も悪ノリも加わってね?……うぅっ」
田中「……無理矢理買わされたんだね?」
橘「うん……」
絢辻「橘君……」
橘「……あ、でも!あの二人が浴衣の代金の殆どを払っていったから、経済的にはそこまで打撃はなかったんだけどね!」
棚町「……それは不幸中の幸いだったわね」
橘「まぁ、こうしてみんなと浴衣で出かけることもできたし。悪いことばかりではないかな。ははっ」
田中「じゃあさ?その浴衣は森島先輩とジェシカさんが選んだんだ?」
橘「う、うん。二時間くらいあーじゃないこーじゃないが続いた結果かな」
棚町「……ん?恵子?……これはもしかして?」
田中「嫉妬!……というか、焼き餅かな!その浴衣ね、橘君にバッチリ似合ってて悔しい……」
田中「こ、今度は私と買いにいこうね!?」
橘「う、うん!?そ、そうだね!はははっ……」
絢辻「みなさーん!また見せつけてくれちゃってますよー!」
・
・
橘「……とか何とか言ってる間に会場についちゃったね」
田中「わぁ!やっぱり見にきてる人が沢山いるね!」
棚町「恵子……人だかりではぐれないよう、手を繋ごうか?」
絢辻「……う、うん。純一?頼りにしてるね?」
棚町「……あるわね」
絢辻「……間違いないわ」
絢辻・棚町「うぇーい!」
橘「い、いい加減にしろ!」
田中「まぁまぁ、落ちついて」
棚町「とりあえずさ、出店で何か買って食べながら花火をみない?」
絢辻「あ、共食いがみれるのね?」
棚町「あ、あんたねぇ!?誰の髪型が焼きそばみたいだって!?」
橘「……落ち着けよ、薫」
・
・
ヒュー……ドーン!パラパラパラ……
棚町「綺麗ね……」
絢辻「……うん。これは見にきた甲斐があったわ」
田中「来年も……またこうしてみんなで花火を見にきたいね」
棚町「……そうね。あ、でも絢辻さんはあたし達とは志望してる大学が違うし……」
絢辻「あたしね?……あの家にはあまり帰りたくないけど」
絢辻「……みんなと遊ぶためなら、帰ってくるから」
橘「うん、待ってるよ!」
絢辻「ま、今から来年の話をしても仕方がないけどね!」
絢辻「明日からも勉強頑張りましょう!」
橘・田中・絢辻・棚町「うぇーい!」
・
・
絢辻「さて、花火も終わったことだし」
棚町「ぼちぼち帰りますか!」
絢辻「あ、橘君?田中さんを頼んだわよ?」
棚町「恵子に何かあったら、タダじゃおかないからね?」
橘「えっ?みんなで帰れば……」
絢辻「……あなたねぇ?あたし達の気遣いを無に帰する気?」
棚町「……仕方ないわね。ほら、絢辻さん!帰るわよ!?」
絢辻・棚町「うぇーい!」
カランコロンカランコロン……
橘「ふ、二人とも!?下駄を履いたままなのに何てスピードで!?」
田中「あははっ……じゃあ、私達も帰ろうか?」
橘「そ、そうだね!」
橘「公園によって、お話でもしようか?」
田中「うん!そうしよう!」
田中「えへへ、実は下駄なんて履き慣れてないから、足が痛くて痛くて」
橘「ははっ、普通はそうだよ」
橘「……おかしいのはあの二人だ。自分の目で見たことなのに、やっぱり信じられないというか……」
田中「……多分、あの二人は都市伝説になると思うよ、あははっ……」
・
・
・
橘「あ、あのベンチにでも座ろうか?」
田中「うん。そうだね」
橘「……ふぅ、今日はお疲れ様でした」
田中「……うん、明日からも頑張ろうね」
橘「……花火、綺麗だったね」
田中「わ、私とどっちが?……なんちゃって」
橘「……そんなの田中さんに決まってるだろ?」
田中「た、橘君……ううん、純一……」
橘「け、恵子……」
チュッ……
パシャッ!!
橘・田中「!?」
棚町「いい絵が撮れたわよ!絢辻さん!」
絢辻「ふふふっ、褒めてつかはすわよ?棚町さん」
橘「ふ、二人とも!?先に帰ったんじゃ!?」
橘「というか!その立派なカメラは何!?」
絢辻「……橘君?質問は一つずつにしてね?」
橘「じゃ、じゃあ……何でここにいるの!?」
棚町「……あんたもバカねぇ。こんな面白いの、あたし達が見逃すわけないでしょ?」
橘「そ、そっか!じゃあ、その高校生が持つのには立派すぎるカメラは!?」
絢辻「……あたしが買ったのよ?いつか使う日が来るだろうと思って」
橘「ざ、財源は!?財源はどこなの!?」
絢辻「そうね……絢辻さんの七不思議ってことにしとこうかしら」
橘「くっ……そういわれてしまうと、何も言い返せない……!」
棚町「まぁまぁ、高校生活最後の夏の思い出ってことで」
棚町「あ、ちゃんとあんた達の分も焼き増しして渡すから、安心してね?」
橘「そんな心配してないから!」
棚町「じゃあ何が不満なのよ!?わっからないな〜!?」
絢辻「棚町さん?きっと彼らは写りを心配してるのよ?」
絢辻「だから……今度は隠し撮りじゃなくて、堂々と正面からとってみない?」
棚町「あ、いいわね!それ!」
橘「ふ、ふざけるのも……!」
田中「た、橘君!」
橘「えっ」
チュッ……パシャッ!
絢辻「はい、大変いい絵がとれました〜!」
橘「あ〜、夏ももう終わりか……」
田中「あははっ、勉強しかしない夏だったね」
棚町「は?なにいってんのよ?ここにあんた達が一夏の思い出を作ってる証拠が……」
田中「が、学校でそれを取り出すのはやめて!?」
絢辻「……そういえば、模試の結果はどうだったの?」
橘「僕はA判定」
田中「私はBだよ!」
棚町「Cよ!悪かったわね!?」
絢辻「はぁ、橘君はともかく、他の二人はもう少し頑張らなきゃね?」
絢辻「来年も……浴衣を着て、みんなで花火を見に行くんでしょ?もちろん笑顔で」
橘・田中・絢辻・棚町「うぇーい!」
完
次は何だろう
乙
田中さんうぇーいかわいい
Entry ⇒ 2012.05.22 | Category ⇒ アマガミSS | Comments (1) | Trackbacks (0)
橘純一「GWッ!その素敵な好奇心が僕をッ!」
田中「……僕を?」
橘「……僕は」
田中「……う、うん。僕は?」
橘「僕は無力だ……」
田中「あははっ、橘君が無力なことくらいみんな知ってるよ?」
橘「おっと!さすが田中さん!今日も手厳しいや!」
橘・田中「うぇーい!」
橘「……明日から本当にゴールデンウイークなんだな……うぅっ」
田中「た、橘君!?躁と鬱の差がいつもより酷いよ!?」
田中「うん?」
橘「薫は連日バイトで」
田中「い、忙しい時期だから仕方ないよ」
橘「暇を持て余した大学生こと、森島先輩は家族でイギリス旅行だし」
田中「み、美也ちゃんと遊べば!?美也ちゃんと遊べばいいんだよ!?」
橘「美也は……七咲と中多さんと三人で旅行だってさ……」
橘「こ、こうなったら!いつも通り田中さんと!」
田中「あ……ごめん」
田中「……私も家族で旅行」
橘「えっ……」
橘「そっか……そうだよな、はははっ」
橘「梅原は自家の寿司屋修行!船で遠くまで行っちゃうよ!」
橘「そのせいでご立腹な香苗さんがGW中は梨穂子を連れ回すから、僕の遊び相手は全滅だ!」
橘「くっ……一人がこんなに辛いなんて!」
田中「ねぇ、ねぇ?橘君?」
橘「何だよ!たまには僕も嫉妬に乱れてもいいだろ!?」
田中「あ、あははっ。そうじゃなくて……」
橘「こ、この期に及んでみっともないからやめなさい!なんて言うつもり!?」
田中「……はい、ここで絢辻さんから有難いお言葉だよ」
絢辻「あ、あたしを!あたしを意図的に無視するなんていい度胸じゃない!?」
家族と一緒に旅行とか行くイメージ無いわ
橘「『はぁ?あたしは橘君と遊んでるほど暇な人生を送ってないの。お分かり?』」
橘「とかいうのは、目に見えてるだろ!?」
絢辻「……訊いてみないことにはわからないでしょ?」
橘「じゃ、じゃあ!絢辻さんはGW暇なの?暇だったら、僕と……」
絢辻「はぁ?あたしは橘君と遊んでるほど暇な人生を送ってないの。お分かり?」
橘「ほ、ほら!やっぱりそうじゃないか!?」
絢辻「田中さん?せーのっ」
田中「う、うん!」
絢辻・田中「うぇーい!」
橘「くっ……腹立つ……!」
田中「えっ?何で?」
絢辻「まさか『孤独死高校生!押入れから発見される!』って朝刊に載るから、とか言わないわよね?ね?」
橘「……ほら、やるなら早くやりなよ?」
絢辻・田中「うぇーい!」
橘「……それで?」
絢辻「へっ?」
橘「絢辻さんはそんなことをやる為に文句を言いにきたの?」
絢辻「そうよ?何を隠そう、あたしも『うぇーい!』したかったの!」
橘「……さてと、僕は色々と忙しいから帰ろうかな」
絢辻「ま、待ちなさい!この暇人!」
田中「うんうん。すぐにバレる嘘は美しくないよ?」
橘「おっと!布団に入る時間に遅れる……」
絢辻「だから、待ちなさいって!」
田中「おーい!そんな意地になるものじゃないよ!?」
絢辻「……本当に帰っちゃったし」
田中「もう、絢辻さんも素直じゃないなぁ?」
絢辻「……うん」
田中「まぁ、明日になればコロっと忘れてるだろうし」
田中「絢辻さん?」
絢辻「なに?」
田中「今回は絢辻さんに譲るよ、私の定位置」
絢辻「……いいの?」
田中「少し……いやいや。とっても悔しいけどね。誰に振り向くのは、あの人次第だし」
ピンポーン!
橘「……う〜ん……ダメですよ、塚原先輩……」
ピンポーン!
橘「……そんな可愛い顔しても、子どもは怖がっちゃいますって!……むにゃむにゃ」
ピンポーン!
橘「……」
ピンポーン!
橘「……美也ー!……出てくれ!」
橘「……っと、美也は旅行か」
ピンポーン!
橘「はいはい、今出ますよー!」
橘「……あれ?絢辻さん?何で?」
橘「……今って何時?」
絢辻「朝九時」
橘「……絢辻さんは早起きだなぁ」
橘「それで……僕に何か用事があるの?」
絢辻「暇。あたしと遊びなさい。以上」
橘「……えっ?何だって?」
絢辻「……暇だから遊んでって言ってるの!」
絢辻「……昨日は変な意地を張って悪かったわよ」
橘「……うん、まぁ。上がって?」
絢辻「うん!お邪魔するわね?」
絢辻「……ねぇ?家族の人は?」
橘「両親は僕を放置して旅行へ行ってしまったよ」
橘「美也も友達と旅行へ」
絢辻「……あたしと同じね」
絢辻「……といっても、あたしは自分から拒否した方だけど」
橘「そっか」
絢辻「あれ?何も訊かないの?」
橘「わかってる地雷を踏む程、僕はマゾっ気ないよ?」
絢辻「ふふっ、それもそうね」
橘「まさかGWに引き篭もってテレビゲームなんてしないよね?」
絢辻「あったりまえでしょ?出掛けるわよ?」
橘「だよね!そうだよね!」
橘「ど、どこに出掛けよう!」
絢辻「ふふふっ、これを見なさい!」
橘「え〜と?これ、旅券だよね?」
絢辻「えぇ、旅券よ?」
絢辻「一泊二日で温泉旅館を手配しておいたわ」
橘「温泉か!温泉ね。うん、ゆっくり出来そうな気がするよ」
橘「えっ?温泉……?絢辻さんと二人で?」
絢辻さん、完全にかなり前から計画練ってただろ…
絢辻「飛行機、今からでも取れるかな……」
橘「ま、待って!そうじゃなくて!」
橘「……色々と質問があるんだけど」
絢辻「はい、どうぞ?ただし一つずつにしてね?」
橘「ま、まず!この旅券はどうやって!?」
絢辻「え?旅行会社で手配をして、お金を振り込んだだけだけど?」
絢辻「あ、普段お世話になってるからお金はいいわよ?」
橘「そ、そうじゃなくて!」
絢辻「あぁ、資金源の話?」
橘「う、うん!」
絢辻「……本当に知りたい?」
橘「い、いや!いいです!」
橘「な、七不思議!?じゃあ全部知ってしまうと……?」
絢辻「……知りたい?」
橘「よ、世の中には知らない方がいいことって沢山あるよね!」
絢辻「そうそう。あなたもわかってきたわね」
橘・絢辻「うぇーい!」
橘「あ、もしかして!この旅券はいつから準備していたのか、とかも?」
絢辻「そうね。昨日の今日で準備できるわけないものね」
橘「七不思議……なんだね?」
絢辻「……えぇ」
橘・絢辻「うぇーい!」
橘「……お、恐るべし!七不思議!」
絢辻「他に質問は?」
橘「ぼ、僕と二人で温泉旅行だなんて!本当にいいの?」
絢辻「嫌だったら、ここにこうして来ないし」
絢辻「……卒業旅行って名目で森島先輩と塚原先輩に拉致された男が何を今更?」
橘「そ、それを言われてしまうと、何も言い返せないな!ははっ」
絢辻「橘君は紳士だからね。襲われることなんてない、とあたしは踏んだわけ」
橘「ま、万が一があるかもよ!?」
絢辻「……その時はその時で、ね」
絢辻「国家権力のお世話にでもなろうかしら」
橘「わ、わかりやすい!とってもわかりやすいぞ!さすが絢辻さんだ!」
橘・絢辻「うぇーい!」
絢辻「というか、そろそろ出ないとスケジュールに色々と影響が」
橘「ま、待ってよ!温泉なんて聞いてなかったから、何も準備なんて」
絢辻「女の子と違って、準備にそんな時間かからないでしょ?」
絢辻「40秒で支度ッ!はい、開始ッ!」
橘「くっ!絶対にそれが言いたかっただけだ!」
絢辻「ほらほら!急いで、急いで!」
橘「うぉぉぉぉぉぉ!」
絢辻(……騒がしい人ね、全く)
絢辻「うん、67秒!やるじゃない!」
橘「ははっ、下着と着替えと歯ブラシ位あれば足りるからね!」
ピンポーン!
橘「えっ?こんな時に誰だろう?」
絢辻「あ、駅までのタクシーよ。手配したから」
橘「えっ……いつの間に……」
絢辻「……手際が良すぎるって?」
橘「う、うん……」
絢辻「七不思議……」
橘「ははっ、こ、細かいことを気にしたらダメだよね!」
橘・絢辻「うぇーい!温泉へいっくぞー!」
・
・
橘「と、到着!」
絢辻「……我ながらいい場所を押さえたと思うわ」
橘・絢辻「うぇーい!」
橘「うぅ……この卵の臭い!この臭いだけでお肌がツルツルになる気がするよ!」
絢辻「そうね。あたしもこの臭いがないと温泉へ来た気がしないと思うわ」
橘・絢辻「うぇーい!」
絢辻「……っと、こんな所で浮かれてる場合じゃないわね」
絢辻「早いところチェックインしないと」
橘「そ、そうだね!そうしよう!」
・
・
若女将「ごゆっくり〜」
橘「絢辻さん!若女将だよ!若女将!」
絢辻「……綺麗な人だったわね」
橘「若女将って響きは素晴らしいね!女将って響きだけでも素晴らしいのに、そこに『若』がついてるだなんて!」
絢辻「はいはい、感動したのは分かったから」
橘「さて、何をしようね。温泉街をブラブラしてみる?」
絢辻「なら浴衣に着替えないと、雰囲気出ないわよね」
橘「ゆ、浴衣に!絢辻さんが!?」
絢辻「……テンション高いのはね、あたしとしても嬉しいんだけど」
絢辻「……わかったなら、さっさと出ていけ!この変態!」
橘「あぁ……変態って久し振りに言われた気がするよ……!」
GWだから仕方ないのか、絢辻さんが本気なのか
・
・
橘「さて、僕らは浴衣に着替えて温泉街へ繰り出したわけなんだけど」
橘「う〜ん、風情溢れる街並みだね!」
絢辻「日本にまだこんな所があったのか、って感じね」
橘「絢辻さん!玉こん!玉こん!」
絢辻「あら、いい匂いがしてるわね」
橘「た、食べたい……!玉こん食べたい!」
絢辻「そうね。小腹も空いてるし」
橘「すみませ〜ん!玉こん二つ!」
※玉こん……玉のようなこんにゃくを串に刺して煮たもの。東北、特に山形ではメジャーな食べ物。場合によってはタダで配られることも!?
・
・
橘「うん!しみてる、しみてる!」
絢辻「……ゲフッ」
橘「あ、絢辻さん?大丈夫?」
絢辻「か、辛子をつけ過ぎちゃって、ね?……ハフッ」
橘(あ、絢辻さん……あんなに涙目でむせながら玉こんを頬張るなんて……!)
橘(イケない想像をしても仕方ないよね!紳士たる僕はしないけど!)
橘(お、おぉ!?そんな食べ方が!?)
橘(ごめんね?でも、仕方ないよね……?)
絢辻「何をジロジロ見てんのよ?そんなにおかしかった?」
橘「ご、ごめん。何でもないんだ、はははっ……」
※玉こんに辛子をつけ過ぎると死ぬ。時々店員が調子にのって沢山つけるから要注意だ!
・
・
絢辻「さて、温泉街も満喫したところで……」
橘「そろそろ宿に戻って、温泉へ入ろうか!」
絢辻「そうね。宿での夕食の前に一同入りましょうか」
橘「しかし、こうして絢辻さんと肩を並べて下駄をカランコロン鳴らすことになるとは思いもしなかったよ」
絢辻「へぇ?誰なら想像出来るの?」
橘「そ、そういうことじゃないよ!?」
絢辻「ふふっ、分かってるわよ」
絢辻「ほら、そうと決まったら早く戻るわよ?温泉があたしを待ってるから!」
橘「あ、待って!まだ下駄に慣れてないからそんなに早く歩けないよ!」
絢辻「このノロマ!早くしなさい!」
橘「……酷いよね、はははっ」
・
・
絢辻「いいお湯だったわね」
絢辻「……って、何で落ち込んでるの?」
橘「……混浴な気がしたけど、そんなことはなかったからかな」
絢辻「……それは温泉といえば湯けむり殺人事件くらいあって然るべし、と同じレベルの無理難題だから」
橘「……デンデンデーン、なの?」
絢辻「デンデンデーン!よ?」
橘・絢辻「うぇーい!」
橘「そんなことより夕ご飯だよ、夕ご飯!」
絢辻「えぇ、楽しみね。少しばかり奮発してやったからね」
橘「こう……四季折々の食材が……!」
絢辻「そうね。郷土料理もならんでみたり」
橘・絢辻「うぇーい!」
・
・
橘「ふぅ、美味しかった」
絢辻「えぇ、期待通り!って感じだったわね」
橘「……」
絢辻「どうしたの?」
橘「ほら、僕ら二人で一部屋だろ?」
絢辻「……ごめんなさい。絢辻さんの謎パワーでも二部屋は無理だったの」
橘「せ、責めるつもりはないんだよ?」
橘「ただ……ね?」
絢辻「……何?」
橘「よし!確認する為に一度部屋へ戻ろう!」
絢辻「え?うん、戻ろっか」
絢辻「あら?お布団が並べて敷かれてるわね?」
橘「……」
絢辻「……」
橘・絢辻「うぇーい!」
橘「ぼ、僕らはそんな関係じゃないのにさ!困っちゃうよね!」
絢辻「そ、そうよね!いらぬ気遣いもいい所よ!」
橘「は、ははっ!とりあえずお布団を離そうか!」
絢辻「……あたしは別にこのままでもいいわよ?」
橘「えっ……?」
絢辻「……二度も言わせないでよ、馬鹿っ」
・
・
橘「……ダメだよ、絢辻さん!僕らは高校生なんだよ!?」
橘「……えっ?高校生である前に男と女だって!?」
橘「そ、そんな!絢辻さんに襲われるなんて……僕は!僕はっ……!」
橘「……」
橘「……なんだ、夢か」
橘「そりゃそうだよね……何だよ、七不思議って。はははっ」
橘「……うぅ……自己嫌悪だよ」
橘「……もう夕方か。GW初日から爆睡しちゃったな」
ピンポーン!
橘「……ん?誰だろう?」
橘「ゆ、夢なのに夢じゃなかった!?」
絢辻「……は?何が?」
橘「い、いや。こっちの話なんだよ……ははっ」
絢辻「もう、いつまで寝呆けてるの?」
絢辻「はぁ、GW初日から弛んでるとしか思えないわ」
橘「……うん、その通り」
絢辻「ねぇ?……お邪魔するわよ?」
橘「ちょ、ちょっと!絢辻さん!?」
橘「……僕を放置して旅行へ行ってしまったからね」
絢辻「ま、そんな一人で寂しい橘君の為に」
絢辻「あたしは晩御飯を作りに来たわよ?」
橘「……えっ?」
絢辻「何を間抜けな顔をしてんのよ?顔を洗ってきたら?」
絢辻「あ、お台所借りるわね?」
橘「う、うん。好きに使ってよ」
絢辻「はいは〜い、了解したわ」
・
・
絢辻「はい、お待ち遠様」
橘「おぉっ……生姜焼き!」
絢辻「簡単で美味しいからね」
橘「しょ、食欲をそそるいい匂いがするぞ!」
絢辻「えぇ、我ながらいい出来だと思うわ」
橘「で、では……」
絢辻「えぇ、そうね」
橘・絢辻「うぇーい!いただきまーす!」
・
・
橘「ご馳走様でした!」
絢辻「お粗末さまでした」
橘「いやぁ、助かったよ!僕はチャーハンしか作れないし!」
絢辻「そこまで喜んで貰えると、わざわざ作りに来た甲斐があったってものね」
橘「……そういえば、絢辻さんは僕の両親が留守にしていることを知っている節があったよね?」
絢辻「ふふふっ……何でか知りたい?」
橘「ま、まさか!『絢辻さんの七不思議、』!?」
絢辻「ひ、人を怪談呼ばわりしないで!?」
絢辻「橘君のご両親って留守にされることが多いって聞いてたから、もしかしてと思っただけよ!?」
橘「あっ……そうか、そうだよね」
橘「うん、何?」
絢辻「単刀直入に聞くけど、橘君って田中さんのことが好きなの?」
橘「えぇ!?な、何を!?」
絢辻「……いいから、素直に答えなさい」
橘「う、うん……僕は田中さんのことが好き……なんだと思う」
絢辻「煮え切らない返事。少しは梅原君を見習ったら?」
橘「……うん。田中さんに失礼だよね」
絢辻「ま、あなたの気持ちはよくわかったわ」
絢辻「……あたし、帰るね」
橘「あ、絢辻さん!?」
橘「えっ?……そ、そんなつもりは」
橘「と、というか、絢辻さんって僕のことを!?」
絢辻「好きだけど、何か?」
橘「……」
絢辻「……ごめん。今のはあたしが悪かった」
絢辻「……今日は一人で泣かせてちょうだい。じゃあね」
橘「うん……」
絢辻「……あっ、でもね?明日も晩御飯を作りに来てもいいかな?」
絢辻「……あたし、明日も独りで暇だから」
絢辻「あ、明日は……ちゃんと面白い話を準備してくるから。いつもの絢辻さんに戻ってるから」
絢辻「……ダメかな?」
橘「……僕も面白い話を準備しとくよ」
絢辻「……ふふっ、いっそ来るなって言ってくれればいいのに」
絢辻「……でも、ありがとう」
橘・絢辻「うぇーい!」
田中「な、なんだか知らないけど、二人が物凄く仲良くなってる!?」
絢辻「……あたしはこのGWで田中さんが大嫌いになったけどね!」
田中「えぇぇぇ!?そんなことをストレートに言われちゃったよ!?」
絢辻「……まぁ、今のは絢辻ジョークなんだけど」
絢辻「ほら、橘君!田中さんにいうことがあるでしょ?」
橘「う、うん!田中さん!僕、田中さんに伝えなきゃいけないことがあるんだ!」
橘「……だから!放課後に校舎裏に一人で来い!」
田中「お、穏やかじゃないことを言われちゃったよ!?」
絢辻「……はぁ、この場で勢いで言ってしまえばいいのに」
橘「そ、それって?こんな感じに?」
橘・絢辻「うぇーい!」
完
橘「田中さん……」
田中「た、橘君?話って何かな?」
橘「絢辻さんに習って単刀直入に言うと!ぼ、僕は田中さんのことが……!」
田中「ま、待って!まだ言わないで?」
橘「えっ?」
田中「あははっ。ちょっと深呼吸させてね?」
田中「……うん、いいよ?」
橘「僕は田中さんのことが……好きだ」
田中「……私で本当にいいの?」
橘「た、田中さんだからいいんだ!」
田中「……他にも可愛い子が沢山いるのに?」
橘「えぇぃ!何回も言わせないでよ!?」
橘「僕は田中さん……いや、恵子のことが好きなんだ!大好きなんだ!」
田中「私も……好きだよ?」
田中「ほら?クリスマスの時さ、公園でキスしそうになったでしょ?」
橘「あ、あぁ……梅原のお陰で未遂だったけどね」
田中「あははっ、そうだったね」
田中「私が橘君を好きになったのはあの時……」
田中「きっとあの雰囲気にやられちゃったんだね、ドキドキしたし」
田中「……ねぇ?また私をドキドキさせてくれないかな?」
橘「えっ?それって?」
田中「お、女の子に恥をかかせちゃダメだよ?」
田中「じゅ、純一……」
チュッ……
田中「……んっ、ドキドキしたよ」
橘「ぼ、僕もドキドキしちゃったよ」
橘・田中「ふふふっ、あははははっ!」
ガサッ
橘「えっ?」
田中「だ、誰!?誰かいるの!?」
棚町「あ、あんたが押すから!見つかっちゃったじゃないの!?」
絢辻「あら?あなたが勝手にずっこけたんでしょ?」
橘「絢辻さん……と、薫?」
田中「な、何してるの!?」
絢辻「な〜にも違わないわよ?あたしが悪いみたいな言い草はやめてちょうだい」
絢辻「ま、とりあえず。ね?」
棚町「……そうね」
絢辻・棚町「うぇーい!おめでとう!」
橘「あ、あぁ……うん」
田中「う、うん?……って、えぇぇぇ!?」
絢辻「ふふっ、今日は祝賀会でしょ?悪いんだけど、時間が押してるから動いてもらえるかな?」
棚町「細かい文句は後で聞くから!ほらほら、歩いた歩いた!」
橘「ちょ、ちょっと!」
田中「……こ、こういう時はとりあえず!」
橘・田中・絢辻・棚町「うぇーい!」
完
乙
田中さんうぇーいかわいい
Entry ⇒ 2012.05.21 | Category ⇒ アマガミSS | Comments (0) | Trackbacks (0)
純一「もっとみんなと、イチャイチャしよう!」
塚原「…………」
純一「…………」
塚原「……い、行くわよっ…? 準備はいいかしら、橘くんっ…」
純一「は、はいっ……! 大丈夫です!……どうぞ!」すっ…
塚原「っ……う、うん……それじゃあ───」すっ……
塚原「あ、あーんっ……」すい
純一「っ……あ、あーん……ぱくっ……もぐもぐ……」
塚原「……ど、どうかしら?お味のほうは……?」
純一「もぐもぐ……あ、あれ?…もぐもぐ…」
塚原「!……も、もしかして……ちゃんと出来てたかし───」
純一 バターン!
塚原「た、橘くんっ…!?」
純一「──う、うーん……?」むくり
塚原「っ!……た、橘くん! だ、大丈夫っ!?」
純一「え、あ、はい……なんだか頭が朦朧としてますけど……あれ?」
塚原「……ごめんなさい、私、また失敗しちゃったみたいで…」
純一「……え、えーと…もしかして、塚原先輩の料理でまた…?」
塚原「……そう、なのよ……まったく、その通り…」
純一「そ、そうですか……なんというか、その……大丈夫です!
こ、今回はほら! すぐに目を覚ましましたし!」
塚原「……料理で人を気絶させるなんて、結局は変わらないのね…」
純一「き、気にしたらまけですって!
くやんじゃ駄目です、次行きましょう! 次!」
塚原「…………」
純一「塚原先輩………」
純一(すっごい落ち込んじゃってる……どうしよう……!
今日はなんだか張り切ってたしなぁ……)
なんて意気込んでたしな……あの時の先輩、とても可愛かったぁ…)
塚原「………」
純一(って思いだしてる場合じゃないよ!
……こ、ここはひとつ。落ち込んでしまった先輩をどうにか元気つけないと…!)
純一「せ、先輩! 塚原先輩…!」
塚原「……なにかしら、橘くん…?」
純一「そ、その…そのですね!今度は、一緒に料理を作りませんか…っ?」
塚原「一緒に……?橘くんと、私が…?」
純一「そうです! その、僕が食べさせてもらってるばっかじゃあれですし…
だから一緒につくって、一緒に出来た料理を食べましょうよ!」
純一「そうすれば悪いところとか、僕がみつけてアドバイスできるかもしれませんし……」
塚原「……一緒に料理、か…」
純一「だ、だめですかね……?」
塚原「……ううん、いいアイデアじゃない。やるわね、橘くん」
純一「ほ、本当ですかっ!?それじゃあさっそく、一緒に料理を作りましょう!」
塚原「……ふぅ、それじゃあ行くわよ? 準備はいいかしら」
純一「おっけーです。それじゃあまずは、何を作りますか?」
塚原「そうね、そしたら……冷蔵庫の中身できめましょうか」
純一「そうですね……えっと、中身はっと…」ごそごそ
塚原「卵が安かったから、たくさん買ってあるのだけれど……それ、使ってみる?」
純一「おっ。いいですね、それじゃあオムライスとかどうですか?」
塚原「うん、いいわね。それだったら簡単そうだわ」
純一「わかりました。それじゃあオムライスってことで、まずは───塚原先輩…?」
塚原「……ん? なにかしら橘くん?」ごそごそ…
純一「ど、どうして冷蔵庫から……キムチの素を取り出すんですか…?」
塚原「えっ……どうしてって、それはオムライスに使うためじゃないの?」
純一「……オムライス、ですよね?」
塚原「え、あ、うん……あ、あれ? だ、だめだったかしら…っ?」
塚原「………。そんなに得意じゃないわね」
純一「ですよね、前に激辛たこ焼き食べて……悔しそうにしてましたもんね」
塚原「そ、そんなことは覚えてなくていいのよっ…!」
純一「す、すみません! えっと、それに僕もあんまり辛いのは好きじゃないですし…
入れるのやめませんか?」
塚原「…た、たしかにそうよね……たしかに、そう……なんで私入れようって思ったのかしら…」
純一「と、とりあえずそのキムチの素はおいて……はい、おいてください。
その隣にある卵と、お肉。あとは玉ねぎとか色々お願いします」
塚原「わ、わかったわ…! 頼りになるわね、橘くん…!」
純一「それほどでもないですよ…!」
純一(本当にそれほどでもないよ……先輩、本当に料理苦手なんだな……)
塚原「──よいしょっと。これでいいかしら?」ごと
純一「……あ、はい! それでけっこうです───って、なんで味噌がおいてあるんですか…?」
塚原「……入れたら、美味しくならない?」
純一「たぶんなりません! たぶん!」
純一(……か、かわいい!しゅんとしてる先輩かわいい……けど!ここは心を鬼にしていかなきゃだめだ!)
純一「そ、それじゃあ改めて、オムライスを作りましょうか」
塚原「……そうね、じゃあ張り切って行きましょうか」
純一「えっと、まずはエンプロん付けて……」ごそごそ…
塚原「はい、これ橘くんの」すっ
純一「あ。ありがとうございます」すす……きゅ
純一「──よし、それじゃあ先輩。まずは具材を切ってから……」
塚原「んん……んっと、あれ……ど、どうしてかしらっ……?」あたふた…
純一「どうされたんですか、先輩…?」
塚原「え、えっとそのあの、エプロンがうまく……っ……」
純一「……結べないんですか?」
塚原「ち、違うわよ! そうじゃなくて、エプロンが勝手に私に巻き付いて…!」
純一「そ、そうなんですか……いや、まぁ、それじゃあ僕が結んであげますから。
まずはちょっと落ち着いてください」
純一(……なんだろう、先輩。今日はいちだんとドジっこだなぁ…あんなにいつもは、
後輩から慕われてオトナっぽいのに。緊張しているのかな…?)
純一「それじゃあ後ろを向いて、そうです、はい。ありがとうございます」
純一(そんな先輩も可愛いけど……ってうおおお!!)
塚原「っ………」すすっ…
純一(エプロンを結びやすようにって、髪を掻き上げてくれてるっ…!
つ、塚原先輩のうなじ……いい!)
純一「なんだかえっちいなぁ……はっ!?」
塚原「……橘、くん?」
純一「い、いいえ! なんでもないです! 塚原先輩のうなじがちょっといいなって思ったりとかそんな!」
塚原「っ……ど、どこを見ているのよ…!ちゃんとエプロンを結んで…っ」
純一「す、すすすすみません! そ、それじゃあ結びますね……よいしょ、よいしょ…」すすっ…
純一「──こ、これでいいですか?」きゅっ
塚原「っ……ふぅ。いいわ、ありがとう橘くん」くるっ
純一「あ、あはは……いえいえっ」
純一「……えっと、塚原…先輩…?」
塚原「……はぁ。とりあえず、君には感謝しているんだから。
今日もまた私の都合につきあってくれてね」
純一「は、はい……それはもう、僕が好きでやってることですから」
塚原「そ、そうなの? それだったら……いいわ」
塚原「だ、だけど!」ぴっ
純一「は、はいっ…?」
塚原「っ……そ、その……色々と勘違いしちゃだめだからねっ」
純一「か、勘違いですか……?」
塚原「そ、そうよ……今日は私の家はだれもいないけれどっ…
私と橘くん、二人っきりだけれど……」
純一「……え、あ、ああっ! ええぇー!?
いや、僕これっぽっちも考えてませんでしたけど……」
塚原「……じゃあ、さっきのアレはなに?」
純一「あ、あれはその……先輩がちょっと無防備で、可愛かったからで…」
塚原「っ……そ、そういうことははっきりといわないっ」
塚原「っ〜〜〜……はぁ、本当に君ってば素直な子よね…あの子が気にいるわけだわ」
純一「え、あの子って誰ですか…?」
塚原「あの子はあの子でしょう。はるかよ」
純一「はるか……森島先輩!? 森島先輩が僕の事を……!?」
塚原「……急に元気になったわね、橘くん」
純一「……え? いやいや! そんなことないです!」
塚原「いいのよ、誰だってあの子に気に入ってもらえてるって知ったら喜ぶに決まってるわ」
純一「で、ですから……! 僕はその、先輩…!」
塚原「──作るんでしょう。オムライス」
純一「え、あ、はい……」
塚原「私一人じゃ不安だから、橘くんが色々と私に教えてくれたら嬉しいわ」
純一「わ、わかりました……」
純一(……空気でわかる、塚原先輩…なんだか機嫌が悪くなっちゃったぞ)
塚原「…………」とんとん…
純一(ど、どうしよう…僕が変な反応したからだよな、絶対に。
ううっ…どうしてくれるんだよ僕! 先輩を怒らせちゃったじゃないか…!)
塚原「……橘くん、手が止まってるわよ」
純一「は、はい! すみません…!」とんとん…
純一(どうにか挽回しないと……僕は塚原先輩と仲良くなるために、ここにいるんだから!
先輩と一緒に料理……いくらだってチャンスはある)
塚原「………いたっ…!」とんっ…がた!
純一「……ん? え、先輩!? どうしたんですか…!?」
塚原「ちょ、ちょっと包丁で指をきって……」
純一「すごい血がでてるじゃないですか…! どうしてそんな力強く切って……!」
塚原「っ……そんなこと、どうだっていいじゃないの…っ」
純一「───どうでもよくなんかないですよ!」
塚原「えっ……」
純一「ほら、早く水で洗い流してください……こっちにきて!」ぐいっ
塚原「え、あっ、ちょっ……!」
純一「…バイキンが入ったら大変なことになりますよ。水泳の部長なんですから、気をつけてくださいね」
塚原「っ……え、ええ…気をつけるわ…」
純一「──よし、こんなもんかな。それじゃあ救急箱ってどこにありますか?」
塚原「………えっ? ああ、うん! そこの戸棚の奥に……」
純一「わかりました。それじゃあ行きましょう」ぎゅ…すたすた
塚原「………」すたすた…
純一「よいしょっと……えーと…あったあった、これだ」
純一「ちょっと染みるかもしれませんが、先輩だったら大丈夫ですよね?」
塚原「あ、あたりまえよっ……」
純一「ですよね! ……それじゃあ、ちょいちょいっと」
塚原「んっ……」ぴくん
純一「…大丈夫ですか? 染みちゃいましたか…?」
塚原「だ、大丈夫よ…! 平気平気!」
塚原「………」じぃー…
純一「ん、どうしたんですか? 僕の顔を見つめて」
塚原「…意外と手際よく治療してくれたわね、っと思ってたのよ」
純一「あー…えっと、その。僕の妹がよくケガをするんで、それで慣れてるんです」
塚原「なるほど……こんなにも捌けるのなら、水泳部のマネージャーになってみないかしら?」
純一「え、マネージャーにですか?」
塚原「…そう、まぁ、ちょっとした思いつきだからいいのだけれど……いいのよ、本当に思いつきだから」
純一「………なってもいいですよ?」
塚原「っ……ほ、ほんとうに? けっこう重労働多くて大変よ?色々と」
純一「いえ、それはわかってますけど……でも、塚原先輩と」
塚原「私と?」
純一「…放課後まで一緒に残ってるって、なんだかいいなぁって思うんで」
純一「あはは……なんて思ったりするんですけど、迷惑ですよね…?」
塚原「…………」
純一「えっと……すみません、くだらないこといって…」
塚原「く、くだらなくないわっ……いいこと、だって思う、わよ…?」
純一「……本当にですか?」
塚原「ほ、本当に本当よ!」
純一「おおっ……そ、それじゃあ僕、塚原先輩の専属マネージャーになりたいです!」
塚原「せ、専属って…プロの人じゃないんだから」
純一「でもでも! 他のマネージャーの仕事もこなしますから!
それ以外の時は、ずっと先輩の泳ぎを見てたりとかしても……」
塚原「………そ、そんなに私の泳ぎがみたいの?」
純一「みたいです! すっごくみたいです僕!」
塚原「…………」
純一「…………」ワクワク…
純一「本当にですか…!? やったー!」
塚原「よ、喜び過ぎじゃない橘くん…っ」
純一「これが喜ばずに要られますか! だって先輩と一緒にぶかつって……はぁ〜…!」
塚原「……もう、本当に君ってば……」ぷいっ…ごにょごにょ
純一(なんって、幸せだろ……先輩のマネージャーになれるなんて!
──も、もしかしたら専属ってことで…先輩の疲れた身体をマッサージできたりとか……!?)
純一「じゃあ明日からでもいいんですかね!?」
塚原「は、速いわね…! ま、まぁ…明日にはきくつもりだったけれど…君はそんなに早くて大丈夫なのかしら」
純一「全然構いませんよ! よっし、それじゃあ明日からはりきって行くぞ!」がたんっ! ぐらぐら…
塚原「っ!…た、橘くん危ない!」ばっ
純一「えっ──戸棚が、倒れ……駄目です先輩!」ぐいっ
塚原「え、きゃ……!?」
がしゃーん!
塚原「ん、んんっ……あっ…橘くん…!? 大丈夫…!?」
純一「え、ええ…なんとか」すす…がしゃ、ぱりーん…
純一「──どうやら、倒れてきた戸棚は台所においてあった机で支えられてるみたいで…
僕には倒れこんで来ませんでしたよ…いてて…!」
塚原「で、でも中に入ってた食器とかは橘くんに……!」
純一「ええ、そうですけど……まあ大丈夫ですから。先輩の方は、怪我とかは?」
塚原「わ、私は大丈夫だけどっ……それよりも君が…!」
純一「僕は気にしないでください、それとあと……僕を簡単にかばおうとするの、やめてくださいね」
塚原「えっ…ど、どうして…?」
純一「なにいってるんですか、水泳部部長。僕はもう先輩専属のマネージャーなんですよ?
先輩がもし僕なんかを庇って怪我なんかしたら、マネージャー失格じゃないですか」
塚原「それとこれとは…」
純一「……僕は、一緒だと思ってます。だから、先輩をこうやって守れて嬉しいんです」
塚原「……橘くん…」
純一「よいしょ……あー…すみません! お皿がこんなに割れちゃって…!」
純一「で、でもっ…あとでちゃんとバイトでもして弁償しますよ…!」
塚原「……そうしたら、部活のマネージャーはどうするの?」
純一「あっ…そ、それはっ……」
塚原「2つをこなせるほどの器量が君あるって、失礼だけど思えないわ。
……それに、その…」
純一「その…?」
塚原「わ、わたしの専属のマネージャーになるんだから……勝手なことは許さないわよ…っ」
純一「……は、はい…!」
塚原「い、良い返事ね。おりこうさん」なでなで
純一「えへへ……って、おとと…というかどうしましょうかこの状況…」
塚原「……ええ、そうね。下手に動いたら散らばった皿の破片が突き刺さりそう…」
純一「確かに……えっと、親御さんが帰って来られるのはいつごろですか?」
塚原「……だいぶ遅くなるって言ってたから、それは期待できないかもしれないわ」
塚原「……ねえ、橘くん」
純一「は、はい…? どうかしましたか…?」
塚原「その……腕、きつくないかしら?」
純一「っ……えっと、なんといいますか……この腕ですか…?」
塚原「ええ、その…多分だけど、私に覆いかぶさらないようにしてるんでしょう…?」
純一「ま、まぁ……この状況だとちょっと先輩に……」
塚原「軽く腕立て伏せしている感じだものね」
純一「は、はい……!」ぷるぷる…
塚原「……べ、べつに気にしなくていいわよ?」
純一「え…? それって、力を抜けってことですか…?そ、それだと先輩の上に僕が……」
塚原「ええ…そ、そういうことになるわね」
純一「……で、でも…」
塚原「私はだ、大丈夫だから……その、橘くん。いいわよ」
塚原「──ほら、おいで。受け止めてあげるから」すっ…
塚原「…ほら、遠慮しないで。腕の力を抜いて、私に覆いかぶさってもいいから」
純一「………………い、行きますよ? 本当に行きますからね?」
塚原「ええ……おいで、橘くん」
純一「……っ…じゃ、じゃあ…行きます…!」ぐぐっ…
塚原「………」
純一「…………───」ぽすっ…
塚原「はい、着陸。……腕疲れたでしょう? 頑張ったね」
純一「は、はいっ……せ、先輩! 僕重くないですか…!?」
塚原「大丈夫よ。だからほら、もうちょっと力抜いて……そうそう、そんな感じ」
純一「っ……こ、こんな感じですかっ…?」ごそごそ…
塚原「んっ…!」
純一「えっ……す、すみません! 僕、どこか変な所触っちゃいましたか…!?」
塚原「だ、大丈夫よ…遠慮せずに抱きついていいから」
塚原「噛んでるわよ、橘くん……まぁ、気持ちもわかるけれど」
塚原「…とりあえず、私をお母さんだと思って抱きしめなさい。
そうすれば色々と恥ずかしく無いでしょう?」
純一「そ、そうですね……わ、わかりました…!」……ぎ、ぎゅ…
塚原「っ……ん、そう。私の頭の後ろに手を回して……そうそう」
純一「…………」ぎゅう…
塚原「…………」ぎゅ…
純一(───や、やわらかい! ふわふわ!
せ、先輩の体温がものすごく体中に広がって……息遣いとかダイレクトに僕の耳に届いてる!)
純一(塚原先輩……とっても大人だなぁ…!
僕がこんなにくっついても、柔らかく受け止めてくれて……なんだかいい気分だよ…)
純一(そ、それにそれに…と、特に僕の首下辺り……すごいことになってるよ!すごいことになってるよ!
せ、せんぱいって…着痩せするタイプだったんだなぁ───あ、やばい)
塚原「っ……どうかしたの、橘くん…?」
純一「い、いえ……その、なんというか……!」
こればっかりは本当に駄目だ! このままじゃ直接先輩に───)
塚原「……?」
純一(一、男子高校生として……それだけは避けたいんだ!
絶対に、絶対に塚原先輩にバレてしまっては……あ!)
塚原「───……え?」
純一「っ……先輩……!」
塚原「えっと……これって……」もぞもぞ…
純一「っ!……ちょ、先輩っ…! すみません、それはちょっと…!」
塚原「………………」もぞもぞ…ぎゅっ
純一「っ………───」
塚原「…………」ぎゅ…
塚原「………え、あっ、ひゃぁあ…!?」カァァ…
純一「っ〜〜〜〜! ご、ごめんなさい! 本当にごめんなさい…!!」
塚原「こ、ここここれって…! に、にに握ったのって……!!」
純一「ごめんなさいっ! どうにか、我慢しようと思ったんですけど…!
やっぱりできなくてっ……!!」
塚原「や、やっぱりそう、なの…ね………っ〜〜〜〜〜!!
わ、わたしったらっ…に、にぎっ……い、痛くなかったっ…?」
純一「逆に気持ち、いえ! なんでもないです!」
塚原「っ〜〜〜〜〜!! ば、ばかっ!」
純一「ご、ごめんなさいっ…! と、とにかく僕ここからどきますから…!
ほんっとーにすみません……!!!」ぐいっ
塚原「え、あ、でも──きゃっ…!?」ぐいっ
純一「えっ……ええぇええー! 先輩の服がめくれ上がって……!?」
純一(僕が着ているジッパーが先輩のセーターに引っかかったのか…!?)
塚原「なっ、ちょ、下ろして…!橘くん、戻ってきて…!」ぐいっ
純一「え、あ、塚原先むぐっ!」ぽすっ
塚原「っっ〜〜〜〜〜!!!!」
純一「っ…ぷはぁ! 先輩…!! だ、大丈夫ですか…!?」
塚原「……た、橘くんっ……!」
純一「ど、どうかしましたか……っ?」
塚原「そ、そのっ……き、君のもっと…おっきくなってない…っ?」
純一「え、ああ! 先輩のピンクの下着見たらちょっとあれでして……!」
塚原「っ! い、色のことは聞いてないわよ…!」
純一「す、すみません! でも、先輩これじゃおもいっきり塚原先輩に押し付けて…!」
塚原「っ……っ………が、我慢する、わ…!」
純一「え、ええぇー! 我慢って先輩…!」
塚原「だ、だって……そ、それぐらいのことはちゃんとわかってるわ…!
君だって、その、高校生だもの…!」
純一「は、はいっ……正直言うと、すっごくヤバイです…!」
塚原「だ、だから…大丈夫! 私は大丈夫!」
こんなにも押し付けてしまって……嫌がられるよりはいいけど…)
塚原「っ………!……」ぷるぷる…
純一(先輩──僕は、こんなにも先輩に我慢させて、僕はそれでいいのか…?)
純一(しょうがないからって、こんな状況だからってしかたないからって。
それで済ましてもいいものなのか…?)
純一「っ……せ、先輩…!」
塚原「な、なにかしら……んっ…橘くん、ちょっと、そこに当てるのはっ……」
純一「すみません、だけど……こんな状況ですけど、先輩に言いたいことがあるんです…!」
塚原「っ……な、なにかしら…?」ぴくんっ
純一「ごくり……その、先輩…僕……!」
がらり
「──ごめんくださーい!」
七咲「輝日東高水泳部の七咲 逢というものですがー! 塚原先輩はおられますかー!」
純一&塚原「………っ!?」
純一(七咲!? ど、どうして……って当たり前か!先輩の家だもん!
来るぐらいの間からでも不思議じゃない!)
七咲「……えっと、だれもいないのでしょうか…?
チャイムが壊れているようなので、こうやって呼びかけて見てるのですが…」
塚原「っ……な、七咲…!いるわよ!」
純一「せ、先輩…!?」
塚原「し、仕方ないじゃない…! このままだと、七咲あがってくるはずだから…!」
純一「ええっ!? あがってくるんですか…!?」
塚原「ええ…私が居ないとき、水泳部で使ってる部活日記を部屋に置きに行ってもいいと言ってあるの…!
私の母も信用しているし、だから今日もそれで着たのだと思うわ…!」
純一「そ、それじゃあ…七咲がこの光景をみる可能性が…っ?」
塚原「ありえるってことなの……正直助けてもらいたいけれど……今の橘くん、七咲に見られたくないでしょ…?」
純一「も、もちろんです…!」
塚原「とりあえず、七咲には玄関においてもらって帰ってもらうわ…!
後はもうどうにかして、ここから抜け出すしか無い…!」
純一「わ、わかりました…! 塚原先輩に任せます…!」
塚原「そ、そうよ…! 用事は日誌かしら…っ?」
純一 ドキドキ…
七咲「そうです、とりあえずあがってもよろしいですか」
塚原「ご、ごめんなさい…! ちょっと今、手が離せなくて…
日誌だけ玄関においてもらってていいかしら…っ!」
七咲「手が離せないって……別に私がそちらに向かいますから、大丈夫ですよ?」
塚原「っ……えっと、そのね! あ、あんまり七咲には…み、見られたくないことしてるのよっ…!」
七咲「見られたくないこと…? 一体なんだって言うんですかそれ──あれ?この靴……男子用の革靴…」
純一「……っ!」
七咲「………この踵の傷…どこかで、見覚えが」
塚原「っ───………七咲! 今日は貴方にいい知らせがあるわ!」
七咲「え? なんですか?」
塚原「そ、それはねっ……た、橘くんがいるでしょ! その子が貴方にプレゼントがあるって言ってたわ!」
純一「……っ?」
塚原「えっと、その…相談されたのよ! 七咲になにをあげたらいいのかって……だから、それでね!
私も触発されて……貴方に作ってるところなのよ…!」
七咲「えっ……塚原、先輩が…私にプレゼントですか…?」
塚原「え、ええ……ここでばらしちゃうのは、ちょっともったいないけれどね…!」
七咲「い、いえっ…私ったらそんなことも察しられずに……もしかしたら」
七咲「──この玄関にある革靴が橘先輩ので、いま台所で塚原先輩を押し倒して危機敵状況だって思ってました…」
純一(ほぼあってる…!)
七咲「そんなこと、思ってくれてたなんて……ごめんなさい、塚原先輩効き出すようなことをしてしまって…」
塚原「い、いいのよ…! ほら、とりあえずは今日のことは忘れて……明日になったら橘くんも渡してくると思うわ!」
七咲「わかりました……本当にありがとうございます。先輩……それでは、明日に」がらり…ぴしゃ
純一「……い、行きましたかね…?」
塚原「た、たぶん……もう大丈夫だと思うわ……はぁ〜……疲れた…」
塚原「……そ、そう? それはよかったわ……うん、本当に」
純一「先輩、とりあえず…僕のことを思って頑張ってくれて。
ありがとうございます……」
塚原「いいのよ…これもまた、私が料理に誘わなきゃならなかったことだから」
純一「…そ、そういえば料理をしようとしてましたね…あはは、もう色々とあって忘れてましたよ」
塚原「え、ええ…そうね。本当にそう……」
純一「…………」
塚原「…………」
純一「なんというか、その……今日は本当にすみませんでした…」
塚原「……いいのよ、これもまた橘くんの面白みなんでしょうから」
純一「……面白み、ですか?」
塚原「……はるかが言ってたのよ。君と行動すれば、絶対に面白いことが起こるって」
純一「もりしませんぱいが…そんなことを」
塚原「ええ……ふふっ、たしかに。こんなこと日常ではありえないわね」
普段の私ならどんなにひっくりかえっても起こらないわ」
純一「あはは……なんというか、すみません…」
塚原「うん? ふふっ、別にいいのよ。これはこれで。
でもね……こうやって君と一緒にいることは……果たしていいことなのか、って思ってしまうの」
純一「…どうしてですか…?」
塚原「だって君は、いろんな子に気に入られてる。
はるかだってどうにかすれば君の彼女になるかもしれない」
純一「そ、それは……ありえないですって」
塚原「そうかしら? それじゃさっきの七咲は、どうかしら。
プレゼントがあるって言った時、七咲は嫌だって思ってなかったみたいよ?」
純一「そうですか…?」
塚原「意味もなくもらうプレゼントだなんて、普通は嫌がるものだもの。
でも、君からもらうプレゼントは……いつだってもらってもいい、って思ってる証拠じゃない」
純一「……………」
塚原「……だから、ね? 君は誰とだって関係を深めれる状況にいる……それを、私は知っている」
塚原「え……? 私?」
純一「はい、先輩は……僕と関係を深めれることを……知っているんですか…?」
塚原「わ、わたしはその……だって、あれじゃない?」
純一「……あれってなんですか?」
塚原「ほら、はるかのおまけっていうか…可愛くなくて、おせっかいで、怒ってばっかで。
はるかの引き立て役みたいな感じじゃない……これははるかに悪いかな、ふふっ」
純一「………」
塚原「そうだって自分自身、わかってるつもりだし。それにそれ以上のことは望んでも居ない。
だから、君との関係を深める…なんて、ことはありえ──」
純一「………」ぎゅう…
塚原「──え、あ……橘、くん…? 急に抱きしめて、どうかしたの…?」
純一「そんなこと、言わないでください……」
塚原「……橘くん?」
塚原「そんなことって……私はただ、事実を──」
純一「仮に先輩が……そう思った現実だとしても、です。
僕は、そんなふうに先輩は見えてないです……」
塚原「……えっと、慰めてくれてるのかしら…?」
純一「違います!」
塚原「あ、ご、ごめんなさい……」
純一「あ、僕こそごめんなさいっ……急に大声上げて。で、でもですよ…!
僕には先輩が…そんな小さな人だって思ったりしてません!」
純一「塚原先輩は……いつだってキラキラ光って見えて、部活の時も部長としてとってもかっこよく見えますし綺麗です!
それにそれに…先輩がする癖っぽい、顎の下に手を置くのとか…僕はとっても好きです!」
塚原「よ、よく見てるわね…私のこと…」
純一「あ、当たり前じゃないですか…! だって、だって僕は先輩のことが───……」
純一「とってもとっても、誰よりも……好きなんです。大好きなんです!」
純一「そ、そうですよ…! この前だって料理のこと誘ってくれて……ほんとうに嬉しくて。
先輩とまた距離が近づいたかなって。毎日毎日布団の中でにやにやしてて…」
塚原「…………」
純一「先輩とこうやって、二人っきりで会話して……学校でも僕に挨拶とかしてくれて!
学校生活も物凄く幸せで幸せで……しょうがなかったんですよ…!」
塚原「そん、な風に……おもってたの…?」
純一「思ってました……ずっと!」
塚原「……私のこと、誰よりも……好きだって…?」
純一「そうです! 塚原先輩が…その、考えてる森島先輩とか!七咲とか!
どぉーだっていいんです!塚原先輩がそばにいるだけで、僕はそれだけでいいんです!」
塚原「っ………はるか、も……君のこと気に入ってて……それに、君もはるかのこと…」
純一「先輩」ずいっ
塚原「っ……な、なにかしら…?」
純一「キスしてもいいですか?」
塚原「………………………え、あ、はいっ?」
塚原「え、ちょ、ちょっと……! どうして…っ?」
純一「……これは僕の勝手な考えですけど、先輩。僕の事……嫌いじゃないですよね?」
塚原「そ、それは……そう、ね。は、はるかが気に入った子が嫌いになるわけ無いもの…」
純一「──それ、やめませんか?」
塚原「えっ……」
純一「はるかはるかって……先輩だって、一人の女の子ですよ。親でもないし付添人でもないです」
塚原「そ、それはっ……わたしだってっ…!」
純一「……いや、わかってないです。僕が見る限り先輩は、なにもわかってない」
純一「僕は貴方のことが好きです、ひびき先輩」
塚原「っ………」
純一「これに答えてください、なんてわがままなことはいいません……でも、先輩にはわがままになってほしい!」
純一「──先輩、どうか自分が欲しいものは自分で決めてください。
他人がどうとかじゃなくて、逃げるんじゃなくて……ああ、もう! なんで僕がこんなこと言わなくちゃいけないんだろう…!」
塚原「そ、そんなこと……ないわよ…!ちゃんと考えて行動はしてるわ…!」
純一「……」
塚原「……してる、つもりよ……」
純一「じゃあ、どうなんですか」
塚原「…………」
純一「ぼくのこと、嫌いじゃないのなら……どうなんですか?」
塚原「っ………」
純一「…………」
塚原「……わ、わたしは……そのっ……あの……っ…!」きょきょろ…!
純一「……その?」
塚原「……き、君のこと……が、わたしは………」ちらっ…
純一「……僕のことが?」
塚原「っ………す…!」ぎゅっ…
塚原「……………すき、です……」
塚原「っ〜〜〜〜………こ、これでいいの、かしら…?」
純一「え、あ、ああああ、はいっ! そ、それでいいです……!」
純一「……あ、やっぱり。もう一回お願いします…」
塚原「え、えぇ!……も、もういっかい言って欲しいの…?」
純一「は、はいっ…! もういっかいお願いします…!」
塚原「……た、橘くん…!」
純一「はい…!」
塚原「す、好きよ……君のことが、私は……好き、なの」
純一「………」ぶるぶる…
純一「──もう一回、もう一回だけ…!」
塚原「すき……」
純一「さ、最後にもう一回だけ……最後に!」
塚原「す、すき…! 橘くん…だ、大好き…!」
純一(てんごくだ…)
塚原「………」こく…
純一「僕はもう、幸せでどうにかなりそうです…!」
塚原「……ほ、ほんとうに…? 私に好き、っていわれただけなのに…?」
純一「先輩だから、僕は嬉しいんです。先輩に好きだって言われるから、僕は幸せなんです」
塚原「……そう、なの。ありがとう、橘くん……」
純一「こちらこそ、ありがとうございます……」
塚原「…………」
純一「………さ、さーて…その、とりあえずはここから抜け出すことを…」ぎゅっ…
塚原「………」ぎゅう…
純一「あ、あれ? 先輩? なんで抱きしめて……」
塚原「───……は…?」ボソボソ…
純一「えっ…? なんですか…?」
塚原「───キス、は…しないの…?」
塚原「…………」ぎゅっ…
純一「で、でも……さっきはそう言いましたけど、あれは景気付けというか…っ!」
塚原「……いいよ、しても」ボソッ…
純一「っ……!」どくん
塚原「っ………」
純一「…す、すみません…! ちょっと先輩の声が僕…!」
塚原「……いい、気にしない。私は大丈夫」ボソボソ…
塚原「……だって、君だから。君のだから私は平気よ」ボソ…
純一「っ〜〜〜〜〜…!!」ぞくぞく…
塚原「……ほら、橘くん」すっ…
純一「……塚原、先輩……」
塚原「……おいで、ほら。こっちに」ぎゅ…
ちゅ
長かった 疲れた
とりあえずうんこ休憩
次は決めてないけど梅原でも書こうかな
>>90kakimasu
kskst
五十分にはもどるよ
とりあえずこれは即興なので誤字脱字はご勘弁を
麻耶ちゃんは今回はおっけーで。たぶんかける
茶道部 縁側
夕月「ずずっ……はぁ〜、今日もいい天気だねぇ」
純一「ずずっ……はぁ〜、確かにいい天気ですねぇ…」
夕月「ん? おお、見てみ橘! これこれ〜」ずい
純一「なんですか……おおっ! 茶柱!」
夕月「だろだろ〜! 今日はもしや、いいことがあるかもしれないぞ〜」
純一「でも、いいことってなんですかね……るっこ先輩が、喜ぶことってことですか?」
夕月「んん? あたりまえだろー? あたしが喜ばなきゃ、なんになるってんだ」
純一「ですよね……だとしたら、るっこ先輩がなにをされたら嬉しいんですか?」
夕月「そうさねー……例えばの話だが! こういきなりそらから桜餅がふってくる〜……
……なんてことがあったら、りほっちが喜びそうだなこりゃ」
純一「あはは。確かに……って梨穂子はいいとして。るっこ先輩の喜ぶことってなんですか」
夕月「ん? ははっ、んなこと教えるかよ」ばしん
純一「あたっ!? あつィ!?」
夕月「すまんすまん……まあ、でもあれよ? あたしにとって嬉しいことっていうのはさ…
こうやって茶道部が続いてくれればいいってもんだけどね〜」
純一「ははー……なるほど」ずずっ…
夕月「……あたしらも数ヶ月たちゃ卒業。ここの部員も数が限られてるし…このままじゃ廃部かねぇ」ずず…
純一「でも、梨穂子がいますし……あ、すみません。大丈夫じゃなかったです」
夕月「……びっくりしたよ。まさか幼馴染のアンタが梨穂子を信用するようなこと言ったと思ったから」
純一「そうですよね……アイツもまぁ、頑張ってるんでしょうけど…」
夕月「……というかアンタが入れば、それで万々歳なんだけどさ」
純一「え? 僕は駄目だって言ったじゃないですか」
夕月「しってるよ! アンタも本当に頑固者だよ……こうちゃちゃっと入部届に名前を書いてくれるだけでいいのによ」
純一「…なんですかその、悪徳商法みたいな」
夕月「悪徳いうな、これもまた一つの戦略だ」
純一「なんで戦略が必要なんですか……」
あっちに言っては不評を垂れ流し、こっちにいっては勧誘を邪魔したり……」
純一(冗談に聞こえないのが恐ろしい……)ずず…
夕月「そうやって頑張ってみても、素直に頑張ってる正当法の部活には……
まー負けちまうんだけどよ」
純一「だったらこっちも正当法でいけばいいじゃないですか、そもそも頑張る方向性が間違ってますし」
夕月「……橘、それ本気でいってんの?」
純一「……ごめんなさい。嘘です」
夕月「わかればよろしい。こっちは愛歌とあたしとりほっちだぜ?
……このメンバーでどう頑張って正当法なんか思いつくんだよ…ちったー考えろよ」
純一「嘘だって言ったじゃないですか……」
夕月「んにゃ! ここは何処かで聞いてる奴にもいってやらん問題だ!
……部員が集まらないのは、あたしの勧誘方法のせい…?バカ言え!」がたっ
夕月「あたしらがどう頑張って正当な勧誘できるって思うんだ! ばーか!!」
純一「ずずっ………」
夕月「──はぁ、すっきりした……お茶お茶…ずずっ……」
夕月「ん? あんだよ?」
純一「茶道部って…よくよく考えると、けっこう勧誘の時に使えそうな物いっぱいありませんか?」
夕月「おおっ…なんだなんだ、いいアイデアでもあるのか?」
純一「ええ、まぁ……」すっ…
夕月「……おいおい。なんでそこで目を反らすんだ、もっとしゃきっと自信持って言え自信持って!」
純一「……怒りません?」ちら…
夕月「はぁ? なんであたしが怒らにゃいけないんだ……?」
純一「思いついたことは思いついたんですけど……でも、なんだかるっこ先輩怒りそうで…」ずず…
夕月「そう簡単にあたしは怒らねーよ、なんだよ。アンタ、あたしのことすぐ起こるやつだって思ってたのかよ」
純一「そ、そうじゃないですけど……まぁ、それじゃ言いますよ?」
夕月「ばっちこい!」
純一「それじゃあ、その茶道部って言えば────」
純一「………まだですかー?」
『……ま、まだだよっ……ちょっとまっとけって…!』
純一「………ずずっ…ぬるくなっちゃったな……ごくごく…ぷはぁ!」
ピーヒョロロロー
純一「……いい天気だなぁ…」
『──う、うっし! できたぞ橘…! 準備オッケーだ!』
純一「おっ、それじゃあ開ますよ?」
『え、あ、あんたの方から開けるのか…?そ、それはちょっと……!』
純一「……なに恥ずかしがってるんですか。ほら、開けますよ」がらり
『あ、ちょ…! まだ心の準備がっ───』
純一「………おおっ」
夕月「……な、なんだよっ…! なんか文句でもあるのか…っ?」
純一「いえいえ、凄く似あってますよ。着物姿」
な?
純一「……ええ、見直しました。口だけじゃなかったんですね」
夕月「どういうことだ、橘……ッ!」ぐぐっ…
純一「嘘です嘘です……ほら、せっかくの着物姿なんですから。もうちょっとお淑やかに」
夕月「……良い風に言いくるめやがってっ……んま、確かに。
この格好してるんだからちっとは大人しくすんのも一興か」
純一「一興って……まあとやかく言いませんけど。髪も整えたんですね、それって部室の櫛ですか?」
夕月「おうっ。これな、以前茶道部にいたogの山口先輩の私物なんだよ」
純一「へぇー……綺麗ですね」
夕月「だろ? 高いもんだと思うんだけどさー、あの先輩ったら意外にルーズでよー」
純一「あ、いや。そうじゃなくて」
夕月「……ん? なんだいなんだい、もしやこれをつけてるあたしが綺麗って話か〜?ベタだなー!おいおい!」
純一「………」
夕月「そんな小さいネタじゃ、あたしは驚かないぞ。ふふっ……ってあれ? 橘、なに赤くなって───」
純一「そ、そうなんですよ…! いやーまさかネタがすぐバレるなんて…あはは!はは!」
純一「っ……ち、違いますよ! だってほら、先輩が意外と気も姿にあってたとか、
櫛でかきあげられた首元とか…色っぽくていいとかそんな事言ってもあれですし…!」
夕月「なっ……お、おまっ…! いってるじゃねーか!!」げしっげしっ
純一「いた、いたっ…! せ、先輩…! お淑やかに!お淑やかに!」
夕月「はぁっ…はぁっ……着物姿だと、蹴りにくいな……!」
純一「着物姿で蹴ろうという発想はなかったでしょうしね……作った人も…いたた…」
夕月「ったく……もう変なコト言おうとすんなよ! 着物着崩れちまったじゃねえか……」すすっ…すっ…
純一「………」じぃー
夕月「んだよ、そんなにじっと見つめるな」
純一「やっぱいいですね、着物って」
夕月「…だろ? こうやっていつもとは違う物を纏う。それだけで心ってもんが引き締まんだ。
特にアンタみたいな頭ゆるゆるなやつなんかにもってこいの代物だぜ?」
純一「ゆるゆるって失礼な」
夕月「くくっ、本当のことだろ?」
純一「…え、あ、はい。そうですね……そうですよね……うーん…」
夕月「……おい、まさか。考えてなかったとかじゃないよな…うん?」
純一「ま、まさか…! ほ、ほら着物姿でチラシ配る! とかやってみたらどうですか?」
夕月「この格好、でか?」くるくる…
純一「そうです、だってそのほうがインパクトもあるし。こうやって綺麗に着物も着こなせますよ、
っていう宣伝にもなるじゃないですか」
夕月「……。なるほど…」ぴた…
夕月「でも、それもうやったわ。去年」
純一「えっ! やったんですか…!?」
夕月「うん。あたしと先輩と愛歌で…着物着てチラシ配って、色々とやってたわ。今、思い出した」
純一「思い出したって……なんでそんなこと忘れるんですか」
夕月「さぁ?」
純一「さぁって……本当にるっこ先輩って、適当ですよね……いたいいたい!」がっがっ!
純一「……えっと、覚えてない。かな…?」
夕月「ほら、あんただって覚えてないだろ? だったらあたしだって忘れるよ」
純一「……いや。やった本人と見かけたかどうかは、一緒にしちゃいけないと思うんですけど…」
夕月「めんどくせーな……つべこべいうな、この変態ポルノ野郎」
純一「お、その呼び名…懐かしいですねぇ…」
夕月「いや、これを懐かしく思われてもあたしゃ困るんだが……」
純一「梨穂子の時でしたっけ?……あの時はびっくりしましたよ」
夕月「それはこっちのセリフだろうがよ! ったく…本気で驚いたんだぞ、あの時は」
純一「……まぁ、若気の至りってことで。あ、お茶入れようと思うんですけど入りますか?」
夕月「ん? いや、あたしが入れるよ。こんな格好だしよ」
純一「えっ……!? る、るるるっるっるっこ先輩が……お茶を…ッ!?」
夕月「……驚きすぎだ、ゴラ」
夕月「さっきもいったろーが。今回は大人しくするのも一興、なら普段しないこともやってやるって話だ」
純一「……全然おとなしくなってないけど…」ぼそっ…
夕月「なんかいったか、橘……?」
純一「お茶っ葉はここにありますんで、お願いします」そそくさ…
夕月「ったく……待て待て。今回はそれじゃないの使うからさ」
純一「え、違うのってなんですか?」
夕月「この格好だし、茶を立ててやんよー」
純一「茶を立てる……まさか、本格的なあれですか…っ!」
夕月「まあな。あんただって初めてだろ?」
純一「……ええ、確かに。結構な割合でここに入り浸ってますけど……一度も見たことなかったですね」
夕月「めんどくせーからな、あれの準備。よし、とりあえず色々準備すっぞ」ぐいっ
純一「おおっ…二の腕二の腕……ごっほッ!」ぼぐっ
純一「おおっ……全然、めんどくさくなかった…!」
夕月「そりゃー男の力があれば、あっという間だろうよ」
純一「……小さな箱取り出して、下にひく絨毯みたいなの取り出せば終わったじゃないですか…」
夕月「さーて、そんじゃ茶ーたてるぞー」
純一(スルーされた……)
夕月「ういしょっと……はぁー、着物姿だと座んのも一苦労だわ〜…疲れたー」ぐたぁー
純一「ちょっとちょっと。なんて神聖な場所っぽいところで寝転がるんですか……」
夕月「……思うんだけどさ、別に型にはまったことをしなくてもよくないか?」
純一「それっぽいことをするから、いいんじゃないですか」
夕月「……確かにそうだ。忘れちまってたわ…なにやってんだ、あたしは…」むくり
純一「……前に梨穂子が、るっこ先輩は粋なものが好きって言ってましたけど。
その欠片も残ってない姿でしたよ、さっきのは」
夕月「………そうだな。本当になにやってんだあたしは……」
純一(……あ、あれ…? 割りとショック受けてる…?なんでだろう…)
純一「あ、はい……お願いします」
夕月「────…………」すっ…
純一(……おお、なんだかんだいって。すごく様になってるなぁ…るっこ先輩の姿)
夕月「……………」かしゃ…カシャシャ!
純一(へー…結構力強くやるもんなんだ。体力も必要みたいだな……うん?)じっ…
夕月「…………」シャカシャカシャカ…
純一(───力強くやってるせいで、若干着物が着崩れを……こんなにしやすいものなのかな…?
いやでも、さっきあんだけ暴れてたし…崩れやすくなってるのかもしれない)
純一(とりあえず、先輩にそのこと伝えて───……ッ!?)ぎょろ!
純一(若干だったのがっ……む、胸元がよりいっそう着崩れしかけてる…!!)
夕月「…………」シャカシャカシャカ…
純一(な、なんということだっ……このことは、もうちょっとたってから先輩に伝えよう…!
うん、それがいい…! だって先輩、凄く一生懸命お茶をたててるし…!)
夕月(──ん? おやおや、橘。どうやらあたしの茶を立てる姿に見とれるのか?)
純一「っ……おお…!」ちらっ
夕月(……ふん! ちっとは後輩らしく可愛らしとこあるじゃないか。
だいたいこれぐらいでいいもんだけど、もうちっとたてつづけてやるか……)
純一「……もうちょっと、もうちょっとで…」ぼそぼそ…
夕月(おお? もうちっとで終わるってことわかってるのか…すごいじゃないか)
純一「見え───……ぶっはぁっ!?」
夕月「よし、こんなもんってなんだぁ!? ど、どうした橘……っ?」
純一「つ、つけてッ…いや! なんでもないです! なんでもなくわないですけど!」
夕月「なんでもなくわないだろっ? 急に吹き出して…おいおい、大丈夫かよ?」すっ
純一「っ! あ、ちょ先輩…! 近づいてきたらもっと見え……あ、ぴん」
夕月「え? 見えるって……」ちら
夕月「…………………………………」
純一「くッ……だ、だだだだ大丈夫です! 見てません! ほら、僕めかくしてますから!ね!?」ばっ
純一「………な、なんですか…?」ちら…
夕月「殺す」
純一「ひっ……! る、るっこ先輩…! お、おちおちち落ち着いて……!」
夕月「目ン玉抜いて、腸ぜんっぷ抜き取って梨穂子に食べさせる……」
純一「梨穂子がかわいそうですよ!それ!」
夕月「いや、あの子は喜んで食べるさ。ずんいち〜おいしいよ〜ってなぁ……」ゆらぁ…
純一「い、いやだ! そんな死に方絶対に嫌です…!」
夕月「そうか、だったら…今、ここで殺しちまうからよ!」ばっ ぐい… ぐぐっ!
夕月「え、あっ、きゃっ……?」よろよろ…
純一「ひっ!……ん? あれ、るっこせんぱ……むごぉ!?」ばたーん
純一「あたた……急に倒れてきて、どうしたんです───……か…」
ぷるん…
純一(……なんだろう、この二つのさくらん───)
着物ドーム内
夕月「っ〜〜〜〜〜〜!!」
純一「な、んあああなななななんで付けてないんですか…!?」
夕月「その前にみるなバカ! 変態ポルノ野郎!!」
純一「だ、だって両手は着物に絡まってて、うまく取れなくて……!」
夕月「眼つぶればいいだろう!ばか!!」
純一「そ、それは男として……」
夕月「死に急ぐって言うなら、かまわねえけどな……!!」
純一「閉じます!」ぎゅっ
夕月(くそっ……とりあえずはいいとして、着物が両手に絡まってうまく抜けだせない…!
なんだこの状況…! どうしてあたしがコイツの上に覆いかぶさってんだ…!)
純一「…………」
夕月(横に転がるって案もあるが……それだと着物を脱ぎ捨てないとだめだ……!
どうして橘にも着物が絡まってんだよ…! このばか!!)げしっ!
純一「いたいっ! ちゃ、ちゃんと眼はつぶってますよ…!」
夕月「……ここはしょうがねえ。おい、橘。顔を上げてあたしの顔だけを見るんだ」
夕月「…あ、ああ…とりあえずはあたしの顔だけをみるんだ……ってさっそく下を見るんじゃない!」げし
純一「あうっ……は、はい…改めて、こんにちわ…るっこ先輩」
夕月「こんにちわって言ってる暇じゃないだろうがよっ!
…と、とにかく…今はあたしだけの行動じゃ、ここからは抜け出せないんだよ…!」
純一「えっと……どういう状況かわからないんですけど…っ」
夕月「……感覚的に分かんのは、あたしが着ている着物が…あんたとあたしの両手に絡まってるってことだよ…!
器用に絡まりやがって……くそっ、本当に抜けだせん…!」
純一「な、なるほど……でも、先輩が横に転がれば大丈夫なんじゃ…?」
夕月「……あんたは女に、一糸纏わない姿になれっていうのかよ……あん?」
純一「そうですよね……す、すみません…!」
夕月「ふぅ……だからよ、ここは共同作業で行くんだ」
純一「……つまりは、この絡まってるのを二人でどうにかしようと…?」
夕月「それしかないだろうがっ……橘! 本気でやれよ…っ? 少しでも…い、いやらしいことしたら大声上げるからな!」
夕月「お、おう……そしたら…右手のほうが若干、拘束がゆるい感じがするな。そっちをどうにか解け!」
純一「りょ、了解です……」ぐいぐい…
夕月「っ……あ、あんまり揺らすなっ……!」
純一「し、仕方ないですよっ…!こうしないと、中々取れなくて…!」ぐいぐいっ
夕月「くっ……」ぷるぷるん…
純一(……し、視界の端でなにか揺れてるっ……でも、気にしちゃ駄目だ!平常心!)
夕月「ま、まだか…っ?と、とれたかよ……っ!」
純一「も、もうっちょっとで……あ、とれた!」ぐいっ ばっ もにゅ
夕月「んっ……!」
純一「──あ、勢い余って……!!」もにゅ
夕月「っ〜〜〜〜〜!!! すぅうううううう……」
純一「え、ああああ!? だめですって大声出しちゃ!」ばっ
夕月「んむぐっ!? んんー!んんんー!!!!」もがもが…
純一「落ち着いてください! まずは落ち着いて!!るっこ先輩!!」
純一「い、いたっ…!?」
夕月「───ぷはっ…こ、殺す気かあんた…! 鼻まで塞ぎやって…! はぁっ…はぁっ…!」
純一「す、すみません……でも! こっちも本気でやらなくちゃ先輩絶対に叫んでたでしょう…!」
夕月「あ、あたりまえだろーが! 人様の、む、むむねさわって置きながら……っ!」
純一「あれも不可抗力ですって…!」
夕月「あたしゃ気づいてたぞ! 触ったって気づいてから、もっかいもんだだろテメー…!?」
純一「……あ、それはその……」すっ…
夕月「目をそらすなこら……っ!」
純一「で、でもっ…!ほら! もう右手が抜け出せましたし…!これでやっと打開策が見えましたよ…!」
夕月「〜〜〜〜〜っ………あ、ああっ…そうだなっ! じゃあ早く他の拘束の所、どうにかしろ…っ!」
純一「は、はい……わかりました…!」ごそごそ…
夕月(く、くそっ……あとで覚えて起きやがれっ…! みっちりし返してやるからなっ…!)
夕月「っ……こっちは見るんじゃねえぞ…!」
純一「わ、わかってますって……これは、こう……よし、ほら僕の両手が自由になりました」
夕月「上に上げるな! ま、また触ろうとしてるかあんたはっ…!」
純一「ち、ちがいますって! そ、それじゃあ足元なんですけど……」
夕月「っ! そ、そこなんだけどよ……実はどうやら帯がからまってるみたいなんだよ……!」
純一「帯ですか……なるほど、じゃあ手を伸ばさなくて──」
夕月「いいんだよっ! ほら、あたしが手をついてる場所の横にあるから! それをひっぱればいいんじゃねえのか…っ?」
純一「ああ、確かに帯だこれ。わかりました、それじゃあ引っ張ってみますね……よいしょっと」ぐいぐいっ
夕月「っ……ど、どうだっ…?とれそうかっ…?」
純一「え、えーと……たぶん、はい。頑張りたいと思います…!」ぐいぐい
純一「こうかな…? いや、こう引っ張れば……」
夕月(愛歌やりほっちに合わせる顔がないよっ…! 茶道部でこんなはれんちなことをしちまってさ…!
くそう……これもあれも、全てこいつのせいだ…!)
純一(な、なんだか物凄く睨まれてる気がする……)
夕月(と、とにかくっ…ここから抜け出すことが肝心だ…はやくしろ橘っ……!)
純一「──ん、あれ?なんだかたるみが出来たぞ…もしかして、取れるかもしれませんよ!」
夕月「ほ、ほんとうかっ…? じゃ、じゃあ早く引っ張れ! おもいっきりな!」
純一「は、はい! それじゃあ思いっきり引っ張って……よいしょっと!」ぐいー!
夕月「こ、これでやっと───……へっ?」ぎゅっ
夕月(な、なんだいっ…! 頭の上に、急に圧力が……!まさか、帯が頭の上に……!)
夕月「や、やめろ橘っ…! それ以上引っ張ると───」
純一「───よいしょっとぉおー!」ぎゅ…しゅるるるう…
夕月「なっ、あ、ちょ…っ!」ぐぐっ…ぐぐっ…
純一「んん〜!!」ぐいっ!ぐいっ!
夕月「や、やめろっ…それ以上引っ張ると、腕が持た───」ちゅっ
夕月「っ〜〜〜〜〜……ん、んんっ!」ばたばた!
純一「ん、んんっ! んふ、んん……!」あたふた…
夕月「んっんんーーーーーーー!!! 」ばたばた…!!
純一「───ん………」すっ…
夕月「んーーーっ……ん、んん……?」ちらっ…
純一「………」じ…
夕月「………んん…っ?」
純一「………」ぎゅう…
夕月「っ……んん!? んんーーーー1!!!」
純一「っ……んん、ちゅ…」
夕月「んんっ!? ん、んっ……っ!」ぴくん
純一「ちゅ……ちゅっ……………れろ」
夕月「んんーーーーー!?!?」
夕月「──んはっ…! んはっ……!」ぐたー…
純一「…………」じい…
夕月「……んんっん!? んん! んんん!!?」ぷんすか
純一「………ちゅっ…」ぐいっ
夕月「っっ!? んん…!?」
純一「ちゅ、れろ……────!!」
夕月「んんっーーーー!!!─────」
数分後
純一「ちゅる………ぷは、あれ…頭にあった拘束が緩んでる……」しゅる…
夕月「……はぁっ…はぁっ…はぁっ…」
純一「…先輩? ほら、もうとれましたよ」
夕月「っ……はぁっ……はぁっ…!」ぎろっ…
純一「……声も出ませんか? まぁ、ずっとキスしてましたしね……うん」
夕月「はぁ……はぁ……けほっ……はぁっ……」ぎゅっ
お互いの顔が帯に巻き込まれて、ひっつきあったってわかったんですけど…」
夕月「っ………はぁっ……はぁ……」
純一「……なんていうか、我慢できなくなって。あはは…!キス、しちゃいました…」
夕月「……っ……はぁ…はぁ……」
純一「その、苦しかったですよね? いやでしたよね……し、舌とかも入れましたし…
あの状況だと、キスしてたら強制的にでも入ったと思うんですけどね……」
夕月「………はぁー……っ……」
純一「……先輩、落ち着きました?」
夕月「…た、たちばなっ……」
純一「……はい、なんでしょうか。先輩」
夕月「なんで……──泣いてるんだ、よ……っ?」
純一「───えっ…僕、泣いてますか…?」
夕月「はぁ…はぁ…ああ、泣いてる、ぞ……!」
夕月「あ、あたしも……出てるけど…!…はぁ……息苦しかっただけで、あんたほどじゃないっ…はぁ…はぁ……」
夕月「けほっ……はぁ、ふぅ………」
夕月「……何で泣いてるんだ、橘純一…まずはそれを聞かせろ」
純一「……きっとあれですよ、先輩と、るっこ先輩とキスが出来て嬉しくて」
夕月「…………」
純一「嬉しくてその……いっぱいいっぱいな気持ちになったんじゃないですかね…?」
夕月「…………それが、本音か?」
純一「……いや、ちがうと、思います……いえ、違います……きっと」
夕月「………ひとつ、そんな橘にあたしから言っておきたいことがある」
純一「っ……なん、ですか…?」
夕月「───ふぅ…いいか、言うぞ?」
純一「……はい、どうぞ」
夕月「あんたのこと……別に嫌いになったりしねーよ」
純一「っ……!」
自分からやったくせによう……本当にあんたって頭ゆるゆるだよ」
純一「…………」
夕月「……いっちゃーなんだが、その。別に…あれってわけよ…うん」
夕月「い、嫌じゃなかったってー……途中で思っちまったさー……」
純一「……そう、なんですか……?」
夕月「そ、そこで聞くかフツー…!?……ま、まぁ……そうだな、これはあたしの意見だし…
聞かれたら答えるってのが筋か……そうさね…」
夕月「……そうだよ、橘。あんたにき、キス……されてて。アタシはいやじゃなかった、さ…っ」
夕月「…だ、だってほらっ! と、途中から……………………………ア、アタシカラモシタダロ…!」ゴニョゴニョ…
純一「……確かに。どちらかというと、途中から先輩のほうが積極──ぐはっ!?」ごすっ
夕月「そ、そそそそういうことをさらっというなってばッ!!あんただってずいぶんと、
ごっちゅんごっちゅんやってくれたじゃねぇか! そ、そそそれに…!」
夕月「き、キスしながらッ……む、胸とか触りやがって……!!」
純一「ば、ばれてました…?」
夕月「バレるわ! がっつりわかってたっつーの…!」
夕月「………──と、とりあえず、ほら……もう出れるだろ?」
純一「え、あ、はいっ……」ごそごそ…
夕月「………」ポリポリ…
純一「……出ましたよ、るっこ先輩」
夕月「お、おうっ……じゃあちょっと着替えるからよ。すこし外に出ておいてくれ」
純一「わかりました……」がらり… ぴしゃ
夕月「…………」
夕月「……はぁ〜…なんだろうねぇ〜…」
数分後
純一「…………」ずずっ…
ピーヒョロロロー
純一「お茶、熱い……」
『───……橘、そこにいるのかー?』
純一「は、はいっ…!ここにいます!」
純一「あ、ありがとうございます……」
純一「──………はぁー…だめだ、先輩と素直に話せる自身がない…っ…!」
純一「……。なんてこと、してしまたんだよ…僕……」
純一「………もう、これから茶道部に…」
純一「……これなくなっちゃうのかな───」
夕月「──んなこたぁねえだろ!おい!」ばしん!
純一「いたぁっ!?あつィ!?」
夕月「ははっ、しけた顔しやがって! 数分前まで熱いキスをした男かよそれが!」
純一「ちょっ、それは……!」
夕月「んだよ、ちげーっていうのかよ? 本当のことだろう?」
純一「そ、そうですけど……」
夕月「なら、ちったー自信持てよ! このあたしから…ファーストキスを奪いやがったんだぜ…?
くくっ、どんな物好きってもんだよー」
純一「物好きって……僕は、先輩が!」
夕月「ん? なんだよ、あたしがどうしたって?」
くくっ、そりゃーなんて面白い冗談だよ。んな小さいネタだとあたしゃ───」
純一「──そうです、好きです」
夕月「……ふーん、そうなのかい。それで続きは?」
純一「……僕は先輩のことが、好きです。好きでしょうがなくて…こうやっていっつも、
茶道部に入り浸って…先輩といつも会うようにしてました」
夕月「ふむふむ……」
純一「でも、先輩はもうすぐ卒業…だから、僕もはやく……先輩に告白しとこうって思ってて。
だけど、なかなかできなくて……それで……」
夕月「……それで、あの状況になった時。爆発したってわけかい」
純一「……はい、でも、気持ちは本当に先輩だけで…他の誰かってのは、全く考えられなくて…
……だから先輩!僕は……!」
夕月「…いいよ、続けな」
純一「っ……貴方のことが、好きです…!
どうかこんな変態ポルノ野郎だけど…………」
純一「……僕と、付き合ってください……!」
純一「っ……る、るっこ先輩……!」
夕月「ん? なんだい、そんなに震えてさ。まるで小動物みたいじゃないか」
純一「…………」
夕月「くくくっ……ほんっとあんたってば、いじり甲斐のある可愛いやつだよ」ぐいっ
純一「え……?」
ちゅ
夕月「…いいよ、橘純一。そのネタはセンスがあった」
純一「……せ、先輩…っ」
夕月「あたしのここに、どんっ! ってきたよ。ばっちりとね」
純一「……それじゃあ、僕とっ……!」
夕月「──なーに、みなまでいうなって。とっくにあたしゃアンタに染まっちまってるんだ」
夕月「……一緒に、粋な人生歩んでみようぜ、な?」
次は梅原決めた
るっこちゃんのらぶらぶちゅっちゅ見れたから心置きなく寝れるぜ
今から思い返せばだいぶ経ったように思うが、それは多分、違うのだろう。
「……へっくしゅんっ」
12月の冷たい風が、寒さに凍えた体をさらに冷やしていく。
耐え切れずに上着のポケットに両手を突っ込むと、俺はその場へとゆっくりしゃがみ込んだ。
「おせぇなぁ……まったく、なにやってんだか」
はぁ、と。ため息が肺の底からこぼれ落ちる。実は長い間、この河原へと俺は待たされていた。
──長い間。というのはいささか表現が大きすぎるかもしれないが、それでも俺という心境では。
とても、とても、永遠とも思えるほどに。時の流れを長く感じたものだった。
「はぁー……大将、はやくこいよ」
吐き出した吐息が、冷たい空気に白く散っていく。それはまるで──あの時の、一年前の俺を表してるようで。
すこしばかり、なんというか。
──面白く、思っちまった。
【梅原正吉】
時ってもんはものすごく早いもんで、あっといまに卒業を迎える時期になっちまった。
「…………ふぅ…」
高校生となって、何か残そうと躍起になっていた頃が懐かしいほどに。
今の俺は廃れた──いや、からっぽな大人へと変貌しつつあるのをひつひつと感じていた。
「───寂しいねえ……なんでこう、もっと頑張らなかったんだろうか」
なんて嘆いてみせるが、実際の所、心の中はもはや後悔の残滓も残っていない。
……そんなつまんねぇ男になっちまったことは、今やどうしようもなかった。
「…………」
当時の俺はクリスマスまでに恋人作る! なんて粋がってたもんだったが。
今考えてみるとなんて馬鹿なことをやっていたんだろうと思ってしまうのがオチで。
「まぁ……当時は本気だったんだよなあ……」
だが、そんな思い出からにじみ出てくるのは、正直に言うと苦笑いだけだった。
自然と俯きかけていた顔を起き上がらせると、広々とした空へと視線を伸ばす。
河原の寒さに答えるよう広く高く昇った冬の空は、雲ひとつない晴れ晴れとした晴天だった。
「──確か、あん時もこんな空だっけか………」
今からちょうど一年前だったな。
記念すべき二年目のクリスマスが無事に終わっちまって。
なんというか、まぁ、つまりは。自ら変えようとしていた日常は、ほとんど何も変わらずに。
次の日からまた、時が流れていくだけの高校生活が始まっちまっていた。
「…………」
クリスマスを充実させる。なんて目論んでいた俺にとって、そのような日常が始まることは。
胸の奥底からため息が出ちまうぐらいに悔しいことで……だが、それでいて。
「……なんも変わらなかったことが……すっげー安心してたんだよなっ」
───なんて声に出してしまうぐらいに、心の底から安堵した瞬間だったんだ。
「…………」
おかしな話だと思うだろ。なんつーか頭大丈夫か? とか問いただしたくなっちまうと思う。
俺が過ごしてきた高校生活を、なんら変わらなかったことを結局は安堵した自分。
──ちぐはぐだらけの、一体どれが俺の本心なのかがわからない。
そんな別々の心を持った自分が、当時の俺の心境だった。
「結局は、お前はなにがしたかったんだよって……話だよなぁ…」
馬鹿みたいに頑張ったくせに、なにも手に入れられなかったことがなによりも嬉しかった。
ひたすら頑張った努力が実らなかったことが、一番の幸福だなんて。皮肉すぎやしねえかそれって。
「ま。事実だからしょうがねえわな」
──これもまた、俺は苦笑いしかでてこなかった。
若いっていうのは本当に素晴らしいもんだ、結果なんて考えずに行動ができるってもんだからな。
「……………」
つまりは、まぁ、あれだ。
クリスマスを充実させようとか、恋人を作ってうはうはな日常にするとか。
んなーことはどうだってよかったんだ。実際のところは。
───この緩くて暖かい、居心地のいい日常から、どうにか逃げようとしていただけなんだ。
なにか目標を立てて、それに向かってがむしゃらに走っていれば、最後にはどうにかなるって。
なんの根拠もない小さな思いを胸によ、こう頑張って逃げ出したかっただけだったんだ。
「…………」
いつまでもこんなぬるま湯に浸かりっぱなしじゃ、俺は後々に絶対に後悔することになる。
そうなる前に俺は頑張らなくちゃいけなかった。逃げ出すことを、本気で考えねえといけなかった。
「………失敗、しちまったけどな」
……そういった覚悟はあった。だが、結局は駄目だった。
もしかしたら何処かに甘さが残っちまってたのかもしれない───結果的には俺は安堵をしちまっているしな。
「…………」
つまりは、俺は日常から逃げ出すために……恋人づくりを始めたんだ。
日常を充実させる為の行為じゃなく、日常から逃げるための《努力》だったんだ。
「………ふぅ」
──なんて、色々と考えちまっていると、すっきりしていたはずの頭がごちゃごちゃとしてきて。
あれから一年の時がたったというのに、後悔のひとつも無くなってきたというのに。
すこしばかり、溜息をつきたくなってきた。
「ん……? おう。遅いじゃねぇか大将!」
一つの声に、俺は見上げていた視界を河原へと戻す。
長く遠く続く河原の端に見慣れた顔がひとつ、そこにはあった。
───そう、それは俺の大親友である友人。小さい時からずっと一緒に居続けた奴。
「あはは、すまん梅原。ちょっとヤボ用があってさ」
「そうなのか……まぁ、こっちも今来たところだぜ」
そうなのか、それは良かった。と笑いながら近づいてきた友人は、俺の横へと自然にしゃがみ込んできた。
……何ら変わりなく、あの時と、一年前と同じように俺の横へと並んで。
「…………」
「今日も寒いなぁ……なぁ、梅原」
「だな。今日も明日も寒いだろうよ」
いつもと変わりない、何気ない会話。これからさきもずっとこうなるだろうとわかってしまう程に。
頑固で力強い、変化の起こることのない俺と奴との日常だった。
「ん? いや、大丈夫だったよ。お前が僕を呼びつけるなんてけっこう珍しいことだったしね。
だったら他の用事なんて全部、放ってくるさ」
隣で寒そうに白い息を吐きながら、友人はそう答えてくれる。
それはなんともソイツらしい答え方で、本当にそう思っているのだろうとわかってしまい。
俺は、ほんのちょっと嬉しくなっちまう。
「はははっ……そうか、そりゃー悪いことしちまったな!」
「いいってば。それよりもほら、今日はどうしたんだよ?
……こんな所に呼ぶぐらいだからさ、しょうもない話しじゃないってことはわかってる」
白い両手をさすりながら、奴は俺に話しを促してきた。
……ここまで察しられると、こんな風にコイツは察しがいい奴だったか、多少そう疑問に思ったりするが。
これもまた高校生活の中で色々と経験をしたおかげなんだろうと、すぐにわかってしまった。
「……いや、あれよあれ。そろそろ俺らも卒業だろ?」
そう言うと奴は、すこしばかり意外そうな表情を見せた後。そうだなと、頷いて返してきた。
なにやら言い難そうに言った奴の言葉に、俺は出そうになった苦笑を堪える。
一応は気にしてくれてんのな、なんて思ったりするが口には出さないでおいてやろう。
「……たりめーよ! 俺はなんてったって寿司屋の次男坊だぜ?」
「次男坊だからってなんだよ……普通は長男とかだったらわかるけどさ」
ははは、と。そのもっともな突っ込みに俺は笑って誤魔化した。
確かにその通りで、何も言い返せないって問題じゃない。もとより、そのつもりもないしな。
「……本当に、よかったのか? 大学に行かなくて───」
「何度もいわせんなって。俺は自分で決めたんだからよ」
「……そうか、それならいいんだ。うん」
そう言いつつ全然納得できていない表情をしながら、奴は俺からそっと視線を外した。
───いいんだよ、お前さんは気にしなくて。そう言ってやりたくもなるが。
俺はもう、口に出す言葉は全て出し切ったつもりでいた。だからもはや、語るものは何も無いんだ。
「……なぁ、大将。お前さん」
「ん? なんだよ、梅原」
ふたつの目ン玉はじっと俺のことを見つめていて、なんら混じりけのない眼光に身体が竦むような感覚に陥ってしまう。
「……いや、なんでもねぇ。とりあえず今日は最後にってことでよ、これをもってきたんだぜ!」
その感情を押し切るようにして、俺は話しを無理やり口から押し出させ。
ずっと隣に置いていた紙袋の中に手をつっこんで、とある物を目の前に取り出した。
「おおっ……! こ、これは……っ!」
「へへっ……わかるか大将っ! 俺の秘蔵のお宝本だぜ!」
そうやって空気に晒したのは、ひとつのお宝本。
俺が後生大切にと、部屋の奥深くに保管していたレア物中のレアだった。
「表紙を見ただけでわかるよ! と、というかどうしたんだよ…? 河原なんかまで持ってきて…」
奴もそれがわかっているのか、ちらりと表紙を見ただけでこの興奮度だった。やはり見る目がある。
というかそもそもフェチや趣味が殆ど一緒なのだから、好きなモノがかぶるのは当たり前だった。
「おうよ。これをな、大将にやっちまおうと思ってな」
「……えっ!? 本当にか!?」
心底びっくりしたように声をあげ、一瞬嬉しそうな表情をした後。
すぐに疑うような色をみせてきた。やはり察しがいいなお前さん。
「本当にだ、くれてやるよ」
「ど、どうしてだよ? なんでそんなにも気前がいいんだよ…?」
「進学祝いってやつだ。なに、俺も大将に気前よく何かプレゼントなんて出来るほど余裕もないからよ。
こうやってお前さんが気に入りそうなやつを全部、もってきてやったんだぜ?」
──そうやって予め用意していた言葉を、ぽんぽんと口から放り出していく。
なんともまぁ、我ながらもっともらしい話だと思う。出来すぎにも程があった。
「梅原……そんなの、べつにいいのに…」
「お? だったらいらねえのかーそりゃ残念だったぜー」
「………まて、梅原。すこし話をしようか」
「……くっくっく。遠慮んなんかするんじゃねえよ大将ぉ!もってけもってけ!」
「……ありがとう、梅原。僕なんかのために…」
「いいってことよ。俺は───お前さんの、一番の親友だからよっ」
そうだ、これはただの勘違いだろう。そうじゃないと、もうだめなのだから。
「な、なんだよ……改まって。恥ずかしいだろなんか」
「へへっ! いいじゃねぇか、俺だって偶には臭いこと言いたい時があんだよ」
「……そうか、なら仕方ないな」
──それから二人で、多愛ない会話をし続けて。前と変わらない落ちもない話を終わらせて。
やがてはわかれる時間となっていくだけだった。
「──はははっ……さーて、んじゃーまぁ、用ってのはこれだけなんだけどな」
「ん、そうか。とりあえずありがとうなこれ…一生大切にするよ梅原」
「そうしろよー? そんじゃ大将………おっ?」
そういって別れを切りだそうとした瞬間、ヤツの肩越しの向こうに。
「───どうやら、お迎えが来たようだぜ? このこの〜! 幸せもんめ〜!」
俺が気づかせるように肩をつつくと、それに合わせて奴も視線を向ける。
一瞬驚いたように肩を揺らすと、小さな笑みをこぼして、こちらへと振り向いた。
「や、やめろよ……からかうなって!」
「はははっ。 ───そんじゃ大将、今日はわざわざありがとな」
「ん、梅原こそお宝本ありがとな!……それじゃまた明日、梅原」
「おうっ!」
俺の隣から先へと進んでいっちまう背中を、俺はただただ、静かに黙って見届けた。
「…………」
いずれその見慣れ続けた背中は、その先に奴を待っている小さな人と隣同士となって。
俺の見慣れない姿へと変わっていくのだろう。
「……また明日、大将」
俺はそっと小さく言葉を呟いて。見上げるようにして空へと視線を伸ばした。
さっきと全く変わりない澄んだ青を湛える冬の空は、雲ひとつなく薄い霞でさえも浮かんではいなかった。
「……行くか」
───自然と足は動き出し、俺はゆっくりと自分の道を歩きだす。
一人で砂利を踏みしめ、一人で行き先を見つめる。それが如何に寂しく、つまらないことであっても。
今はもう自分の隣には誰もいない、ほんとうの意味で誰もいないんだ。だから俺は一人で歩き出さないといけない。
「……へっくしゅんっ」
寒さに凍えた身体がぶるりと震える。
これはもしや風邪を引いちまったか、とすこしばかり不安に思いながら。
───誰一人として見えないよう、小さく俺は苦笑を零した。
これを読まれた方は、これからさきアマガミを見てる時
梅ちゃんと大将がイチャイチャしているように見えるだろうという狙い
疲れた
次は紗江ちゃんか田中さん書きたいけど
少し寝ます お昼には起きるともう
落ちてたらそれまででノシ
乙
次は田中さんだといいな
ほす
田中さん今から書く
教室 放課後
薫「恵子〜」
田中「……ん〜? どうしたの薫?」
薫「ちょっとさー……あんたに聞きたいことがあるんだけど。ちょっといい?」
田中「なによ、改まって……はいはい。どうぞ」
薫「…………」じぃ…
田中「?」
薫「あんたってさ……もしかして、もしかするとだけどさ」
田中「うん、なに?」
廊下
純一(ふんふふーん♪……今日も高橋先生に怒られたぞ!
やっぱり麻耶ちゃんはきれいだなぁ〜)
純一(……ん? あれ、まだ誰か教室に残ってる…あれは田中さんと薫…)
薫「───純一のこと、好きでしょ?」
田中「……え、ええええっ…!?」
純一「っ……!?」
紳士は一々さすがだよな…
なんだこれ……すこし、教室に入るのやめておこう…!)ささっ
教室
田中「……な、なにをいってるの薫っ…も、もうっ!変な冗談はやめてよ〜…!」
薫「アタシの眼はごまかせないわよ、恵子。あんたが純一を見る瞳は……
恋する乙女にしか見えないんだから」
田中「乙女って……い、いやいや! 違うからねっ? そればっかりは違うよ…!?」
薫「……ふーん、あくまで違うって言いたいのね」
田中「あ、あたりまえだよ〜…もう、急に何を言い出すのかって思えば…はぁ〜…びっくしりした」
純一(……なんだなんだ…? 状況がうまくつかめないんだけど、とりあえずは…
薫が田中さんに、僕のことが好きなんだろうって言い寄ったってことかな…?)
純一「………………」
薫「……じゃあさ、恵子。あんたは純一のことは……嫌いなの?」
田中「嫌いってことはないけど…クラスメイトだし、好きも嫌いもないよ…」
薫「…………」
田中「……ううっ…どうしてそこで怖い顔するのよ薫〜…?」
なんて言ったらいいのか考えてたのよ」
田中「っ……あたしのこと信用、してないの…?」
薫「してない。今回ばっかりは」
田中「…………」
薫「……あたしは恵子と親友のつもり。だから言いたいことははっきり言うし、
それにあんたもそう出会って欲しいって思ってる。お互いに隠し事なしが一番じゃない」
田中「………っ…」
薫「だから、あたしには正直に恵子の口から言って欲しいのよ……純一のこと、好きなのかって」
薫「───クラスメイトとかじゃなくて、あたしの悪友だからって……嫌いとかじゃなくて。
本当に、一人の男として……アイツのこと好きなのか、あたしは聞きたいの」
田中「………薫…」
薫「どうなの、恵子。教えて」
田中「っ………」
廊下
純一「……………」ドキドキ…
田中「………っ……」ぎゅっ…
田中「………薫、その、あのっ……!」
薫「……うん、なに恵子」
田中「っ……あたし、あたしはっ……」ぶるぶる…
薫「…………」
田中「───……ぐすっ……うぇええんっ…!」
薫「……えええぇー! なに急に泣き出してるのよ…! え、ちょ…ごめんってば!」あたふた…
田中「か、かおるっ…あたし、あたしっ……!」
薫「泣くのやめてってばっ…あ、あたしがきつく言い過ぎたから…っ? それならごめん、恵子…
…だってそうしなきゃ、絶対に言わないって思ったから……っ!」
田中「うぇえええん…っ……ち、違うのっ……ぐすっ…違うんだよ、薫……っ」ぐしぐし…
薫「え、違うって……どういうこと…?」
田中「ぐすっ…ひっく……あのね? ひっく……あたしは、薫が言ったとおり……ぐす…」
田中「……た、橘くんのこと…すき、だよ……?」
……ありがとう、正直に答えてくれてさ」
田中「うんっ……でもね、でもね…? 泣き出しちゃったのは、また別のことなの…ぐすっ…」
薫「……別のこと?」
田中「うん……きいてくれるかな、薫……?」
薫「当たり前でしょ! あんたの相談だったら、なんだって聞いてあげてきたじゃないの!」
田中「……ありがとう、薫……やっぱりすごいね、薫は……」
純一(え、えええー! た、田中さん……僕のことが、好き…だって!?
なんということだよ……まったく気づいてなかった……!)
純一(……し、しかも僕もこのタイミングで聞いてしまった……明日からどう田中さんと顔を合わせたらいいのかっ…!)
薫「……落ち着いたかしら? どう、もう喋れそう?」
田中「ぐすっ……うん、大丈夫。もう泣き止んだから………」
薫「それで、なんで急に泣き出したのよ。正直に好きだって言ったから泣いた……じゃないのよね?」
田中「そう、だね……そうじゃないの。それはいつか言うつもりだったし…
急に言われたから、ちょっと戸惑って否定しちゃったんだけど……」
田中「……あのね、薫が…橘くんのことあたしが好きだって、もう気づいたのに…」
薫「うんうん、最近になってだけどね」
田中「……橘くんは、全然っ………気づいてくれないの……まったくこれっぽっちも…」
薫「……え?気づいてくれないって……もしかして、アンタ結構アタックしてたの?」
田中「……が、頑張ってたよ、うん…」
薫「すごいじゃない! 恵子が男の子にアタックだなんて……キス野郎以来の快挙でしょそれ!」
田中「き、キス野郎って……まぁ、そうだけど…」
薫「それでそれでっ? 気づいてもらえないってことは……ちょっと押しが弱かったってワケ?」
田中「……そう、なのかなぁって……ちょっと思っちゃって…。
それでちょっと涙が出てきて…ぐすっ……橘くんは、あたしのこと嫌いなのかなって……」
薫「あーもう、泣かない泣かない……うーんと、あたしが思うにアイツはアンタのこと、
嫌いじゃないって思うけどね」
田中「……本当?」
薫「そそそ。だからさ、ちょっとどんなふうにアタックしたのか…ちょっと教えなさいよ」
田中「……うん、そしたらアドバイスちょうだい薫」
薫「ぃよし! じゃあいっちょ聞いてあげますかー」
田中「ありがとう、薫……えっとね、あれは一ヶ月前からなんだけど────」
一ヶ月前 廊下
田中「っ……た、橘くんっ…!」
純一「…ん? やあ田中さん、おはよう!」
田中「お、おはおはようっ…! きょ、今日もいい天気だね…!」
純一「……えーと、今日は曇り空だからいい天気ってほどじゃないけど…?」
田中「えっ、あっ、そうだったっ……ご、ごめんなさい…私ったら変なこと言って…!」
純一「あはは。面白いなぁ、田中さんは。朝からセンスが冴え渡ってるね」
田中「あ、あはは…そうかなっ…?」
田中(──橘くん、今日もかっこいいなぁ…なんて言えたらいいけど、そんなこと言えないよね…うん)
田中(……でもでも、頑張ってればいつか…言える日がくるかもしれないし。
今日もこうやって朝の挨拶も出来たから……うん! 頑張っていこうっと…!)
薫でも待ってるのかな?」
田中「え、あうん……そ、そうじゃなくて……えっと、そのー…」
純一「うん?」
田中「ごくっ……あ、あのねっ…! た、橘くんに…ちょっとお話があって……」
純一「え、僕に? どうしたのかな」
田中「そ、そのっ……今日の放課後、暇とかあるかな〜…って思って…!」
純一「放課後になにかるの?」
田中「そ、そうなの! えっと…あ、あたしのねっ? か、買い物に付き合ってくれないかなぁって…」
純一「買い物って……田中さんの買い物に、僕が付き合って欲しいってこと…?」
田中「う、うんっ…! あ、あのね! 今日は薫が忙しいっていうから、ちょっと一緒に買物行くのが
つぶれちゃって……そ、それなら橘くんを誘えばいいって薫がいうからっ…!」
純一「……なるほど、薫のやつ…また適当なことを言いやがって。僕がなにかいってやろうか?」
田中「えっ!? い、いやそれはいいんだよ…! わ、わたしは気にしてないから…!
だからそのー……だめ、かな?」
田中(さ、誘っちゃった〜〜〜〜っ……!! ううっ…! 大丈夫、だよね…?
変な誘い方じゃなかったよね…何度も何度も、布団の中で練習したもの…大丈夫、大丈夫…!)
純一「今日は、梅原と遊ぶ約束があった気がするけど……」
田中「…えっ、あ、そう、なんだ……じゃあ、暇は……」
純一「……いや、べつにいいよ? アイツとはいつだって遊べるしさ、田中さんと買い物なんてめったに無いと思うし」
田中「そ、それじゃ…! 今日は大丈夫……かな?」
純一「うん。おっけーだよ! 放課後すぐに行く感じでいいのかな?」
田中「う、うんっ…! あ、ありがとう!…そ、そしたらその…裏門近くで待ち合わせでいいかな…?」
純一「え、校門前じゃなくていいの? というか教室から一緒に行っても……」
田中「そ、それはだめっ……!」
純一「そ、そうなの? わかった、それじゃあ裏門で待ち合わせね」
田中「う、うんっ……よ、よろしくおねがいします…っ」
薫「──やるじゃない恵子ぉー! なになにあんたってあたしが居ない間にんなことやってたの!」
田中「う、うん……が、頑張ってみたんだ…!」ぐっ
薫「いやー……あの臆病で引っ込み思案の恵子が、男一人をデートに誘えるなんて…本当にすごいわね」
田中「…これも、薫のおかげだよ」
薫「え、あたしのおかげ?」
田中「う、うん……そのね。前にいってたキス……問題があったじゃない。
あの時薫ってば男子生徒に掴みかかって……ものすごい剣幕だったでしょ?」
薫「そ、そうだったかしら…? そんなに怖い顔してたあたし?」
田中「怖くはなかったよ、ただ凄く……かっこよかった。
正直に自分の気持をぶつける薫の姿は……わたしにはかっこよくみえた」
田中「───だから、わたしも頑張って…自分の気持をぶつける勇気を持とうって…思ったの。
だから買い物に誘えたのも……全部、薫のおかげなんだよ」
薫「恵子……このこのっ! 嬉しいこと行ってくれるじゃないのよっ」
田中「えへへ〜。………でも、ね…これにはつづきがあるの薫……」
薫「……うん?続き?」
田中「う、うんっ……それは、その…できたんだけどね…」
薫「……なにやら煮え切らない表情ね。この際、全部話してみなさい恵子」
田中「わ、わかった……それじゃあ続きを言うね────」
一ヶ月前 ショッピングモール
田中「ふぅ…やっぱり建物の中って暖かいね、橘くん」
純一「そうだね、外は冬真っ盛りだし。そろそろ雪でも降ってくるんじゃないかなぁ」
田中「…そうなると、通学の時に困っちゃうなぁ〜…雪で転んだら大変だし…」
純一「あはは、心配性だね田中さんは。大丈夫だって」
田中「えへへ〜…そうかな?」
純一「うん、そうだよ。……そしたら今日は買い物って言ってたけど、なにを買うつもりなの?」
田中「えっとね、ちょっとした小物とか……あとは、圧力鍋が欲しいかな…?」
純一「……圧力鍋?」
田中「う、うんっ…! お母さんが買ってきてって言うから…その、へんだよね…?」
田中「強うそう……だ、だよねっ! それじゃあさっそくいこっか…?」
純一「うん、行こうか!」
小物ショップ
純一「いっぱいあるね……とりあえず、色々と見てまわろっか」
田中「だね。…あ、これかわいい……」そっ…
純一「ん、それは……猫の置物だね。ネコ好きなの?」
田中「う、うん……家でもむかし飼ってたんだ」
純一「へー、僕はペット買ったことないなぁ……」
田中「うんっ。とってもかわいいんだよ、こう学校から帰ってきたら…玄関でまっててくれて。
そして足元にすりすりって……頭をすりよってくるの」
純一「………」
田中「それでそれでねっ……あ、私ったら自分の話ばっかりで…」
純一「ううん、田中さんがうれしそうに話してるから。本当にネコが好きなんだなって思ってさ」
純一「うん! それはもうね!」
田中「そっか……そうなんだ……そしたら、これ買おっかな」
純一「気に入ったの?」
田中「うん、模様とかそっくりで顔も似ているような気がするの。だから、ちょっとお気に入りかな」
純一「そっか。そしたらもう、このお店はいいの?」
田中「そうだね、橘くんが欲しい物あったりするのかな…?」
純一「…僕は特になにもないかなぁ」
田中「……あ、そしたら洋服を見に行こうよ。橘くん」
純一「洋服?」
田中「うん、だって橘くんの私服って見たこと無いから……ちょっとどんなふうな物買ってるのかなって。
気になって……」
純一「僕の私服が気になるって…またおかしな興味だね、田中さんは」
田中「えっ!? そ、そうかなぁ〜……ほ、ほらっ! 薫っておしゃれの鬼じゃないっ?
だからその薫と友達の橘くんってどれほどおしゃれなのかなって思って…!」
田中「…ふふっ。わたしもいっつも薫に言われてるよ、もっと女の子はおしゃれしなさいって」
純一「え、田中さんも? 僕も男子たるもの女性を魅力するほどのおしゃれをしなさいって言われるよ…」
田中「あはは…薫もおせっかいだよね〜」
純一「本当だよっ」
服屋
純一「メンズメンズっと……ここかな」
田中「わたし、メンズショップに入るのは初めてかも……」
純一「そうなの? じゃあ初体験だね!」
田中「……えっ!? あ、う、うんっ…! 初体験…かな…?」
純一「とりあえず…僕、なにか欲しかったものあったかな…」すたすた…
田中「……あ、これなんて橘くんに合いそうだね」すっ…
純一「え、どれどれ…これ、僕に合うかな…?おしゃれすぎない…?」
田中「え? あはは…おしゃれすぎないってどういうこと橘くんってば…!」けらけら
みたことないよ僕…」
田中「でも、橘くんって背が高いし……すらっとしてるから、こういったキレイ系な服とか
合いそうだって思うけどなぁ…」
純一「そ、そうかな…?」
田中「うん、後はこういったオプションつけて……アクセサリーとかもいいかな。
それと髪もこんな感じみたいにセットすれば、良い感じになるとおもうよ?」さわさわ…
純一「ほほう……それは考えたことなかったよ!すごいなあ田中さん…」
田中「す、すごくなんかないよっ…! ただ思ったことを言っただけだから…!」
純一「でも、やっぱり女の子なんだなって思ってさ。おしゃれに敏感っていうか」
田中「…も、もうっ! 褒めても何も出ないんだからね…っ」
純一「あはは」
田中「……とりあえず、この服はおすすめするよ。
値段もちょうどいい感じだし、今度買いに来てみたらいいんじゃないかな」
純一「うん、田中さんのオススメだしね。今度買いにきてみようっと!」
田中「う、うん……!」
田中(橘くんが喜んでくれたっ……うれしいなぁ。こうやって男の人に喜ばれるのって、
けっこう楽しいことなんだぁ…ちょっと新鮮な気分)
わたしったらなんてことを〜っ……でもでも、さり気なく触ったから大丈夫だよね…!)
純一「……おっ」
田中(……いつかこうやってまたお買い物に来て…橘くんと一緒に服を買いに来たいなぁ〜…
今度はわたしが橘くんの洋服を買ってあげて、色々とコーディネートしてあげたいな…)
純一「よいしょっと……ふむ…」
田中(そしてそして〜……うふふっ、後は一緒に選びあった服を着て…何処かへ出かけるの。
うわ〜…いいなぁ、そういうのやってみたい…!)
純一「……たなかさーんっ」
田中「……あ、え? どうしたの橘くん──……きゃ」ぽす
純一「ほらこれ、田中さんに似合ってると思うんだけど。どうかな?」
田中「これって…帽子?」
純一「そうそう! メンズショップにあったやつなんだけど…なんだか田中さんに似合いそうだって思って。
ふわふわじゃないかな?」
田中「う、うん…! あったかい帽子だね……!」
純一「もうちょっと小さいサイズがあればいいんだけど……まあメンズだし仕方ないか…
…よいしょっと。そしたらレディースのほうでも探してみようよ!」
田中「えっ…そしたら、橘くん…わたしの服も見てくれるの…?」ちら
純一「当たり前だよ! だって僕のコーディネートもしてくれたし…だったら田中さんのも付き合うよ?」
田中「そ、そう……かなっ? そ、そしたら……お願いします、橘くん」
純一「おっけー。んじゃ行こうか」
レディースショップ
純一「おおっ……なんだか、ちょっと男では入りにくい雰囲気だ…」
田中「あはは。だと思うよ、でも私がいるからへいきだよ〜」
純一「そ、そうだよねっ……じゃあはいろっか」
田中「うんっ…!」
純一「──へぇ〜。中はこうなってるんだぁ……中までは道からは見えないから、
色々と新鮮だよ〜……」
田中「でしょ〜。レディースって洋服よりも、小物がいっぱいあったりするんだよ?」
純一「あ、本当だ……これって何するものなの? 首に巻くの?」
田中「え、ええぇ!? そ、それは女性用のベルトだよ…っ?」
田中「う、うん……女性用って細いの多いから、か、勘違いしても……おかしくないかな?うん!」
純一「だよねだよね…! あ、えっとこれは何に使うものなの?」
田中「それは頭に巻くやつでね、手首に巻いてもおしゃれになるんだよ〜」
純一「へ〜……あ、本当だ。シュシュって書いてある……ふーん」びよんびよん
田中「あ、だめだよ橘くんっ…商品をそんなふうに扱っちゃ…!」
純一「え、あ、ごめん! なにやってんだ僕……!」そっ…
「──なにかお探しでしょうか?」
純一「え、あ、はい……?」
「色々と新作を仕入れてますので、よかったらご紹介させて頂きますが」
純一「え、えーっと……!」
田中(……た、橘くんっ……)ポソポソ…クイクイッ…
純一(え、あ、田中さん…?)
田中(あの人は店員さん、わたしたちがちょっと騒いじゃったから…近づいてきたんだよ…!)
純一(そ、そうなの…? それは悪いことをしてしまったよ…!)
純一(でも…わ、笑ってる……! なんて鋼の心なんだ…!)
田中(お、驚き過ぎだよ橘くん……と、とにかく店員さんは私達の所に
お話ししにきたんだよ…!)
純一(新作がどうとか言ってたな……なるほど、そうやって懐柔するつもりなのか…!)
田中(ど、どうしてそこまで勘繰りぶかくなるの…?)
純一(だ、だって僕が洋服を選ぶときは…こんなにも店員さんはずいずいこないよ…?)
田中(そ、そうなんだ……で、でも!とにかく!
店員さんが話したそうにしてるから話しをきいてあげよう!)
田中「あの……す、すみません…ちょっと話し込んじゃって…」
「いえいえ、そのようにされるお客様はたくさんいますのでお気になさらずに」
純一「たくさん、ですか…?」
「はい。このお店はカップルがよくこられたりしますので、そのようにされても大丈夫ですよ」
田中「っ〜〜〜……か、かかかっぷぷぷ…!」
純一「あ、あはは……えっと、そうなんですか〜」
純一「ちょ、ちょっと田中さん落ち着いて……」ゆさゆさ…
田中「え、だって橘くんっ……!違うって、ちゃんといわなきゃ…!」
純一「あ、いや、大丈夫だよ。こういうの慣れてるからさ」
田中「…えっ…なれてる、の…?」
純一「うん? けっこう薫と買い物行ったりするし、あとは美也とか…
美也の友達の中多さんとか七咲とか、梨穂子といったりするし」
純一「あとは高橋先生とか…うーんと、愛歌先輩とか夕月先輩とかもあるし」
田中「え、えっと…いっぱい…あるんだね」
田中(……何か今、学生として聞いちゃいけない人の名前を聞いた気が…するんだけど…)
純一「だからそうやって勘違いされるのは慣れてるんだ、だから大丈夫。気にしないでね!」
田中「そ、そうなんだ……わ、わかったよー…」
田中「───えっと、それからね。あとはちょっと何か食べようってしてね……」
薫「ちょっと待ちなさい、恵子」
田中「…え、あうん。どうかしたの薫?」
薫「……いやいやいや、本当にちょっと待ちなさいって。
今軽く話してたけど、どういうことなの?ぽろっといったアイツのこと!」
田中「アイツって……橘くんのこと?」
薫「当たり前でしょ! あたしと買い物に行ったのはいいとして……その他の連中はなんなの?
た、高橋先生とか……純一いつの間にそこまで……」
田中「そうだよね〜! わたしもびっくりしたよ〜」
薫「びっくりしたよ〜……じゃないわよ! それってあれじゃないのっ…!
アンタの恋敵がいっぱいってことじゃないの!」
田中「……えっと、それって薫も?」
薫「それは除外して。やめて本気で」
田中「わ、わかった……」
田中(あの顔は、本気で言ってる時の顔だ……)
ほいほいいろんな所にいったんでしょうね…っ」ぎぎっ…
田中「か、薫……?」
薫「恵子を悲しませたら容赦しないんだからッ……!」
田中「ちょ、ちょっと薫ってば…! ま、まだ話は終わってないよ…!」
薫「ッ……ふぅ…わかったわ。とにかく今はその話は今度ってことにする」
田中「う、うん……そしたら続き言うね? そのあとは────」
一ヶ月前 メロンパン屋前
純一「美味しそうな匂いがすると思ったら、駅前のメロンパン屋ここにも出来てたんだね」
田中「あそこのメロンパン美味しいよねぇ! ここでも食べられるのかな?」
純一「同じ店の名前だし、そうだと思うけど……よし、じゃあちょっと買ってくるから待っててよ」
田中「あ、うん……でも、お金は…?」
純一「いいよ、さっき洋服選んでもらったし。ごちそうさせてよ」
田中「で、でも私が今日買い物に付きあわせたから…わたしが払うよ?」
田中「気にしない訳ないよ! だからここは私が───」
「んぅー? 騒がしいって思えばァ〜…なんだいなんだいぃ、カップルがいちゃつきあってんブルァ!」
純一「お、おう……こ、こんにちわ…!」
田中「か、かぷぷっ……イチャイチャなんかしてません…!」
「どぅーあっはっはァー! そうかいそうかい、そしたらごめんよぉう!メロンパン買っていくのかァ?」
純一「は、はい……そしたら二つください」
「まぁいどありぃ〜!…と、言いたいところだが…二つは駄目だ少年ん〜」
純一「え、どうしてですか…っ?」
「そこの看板、みてみんしゃい」
田中「……えっと、今日限り…カップル限定特大メロンパン注文可…って書いてある…」
「そうなのよぉ〜! んでもってこれが特大メロンパンだぜぃ!」どん
田中「え、でも料金は…?」
「……本当は普通の二倍って料金だが、あんたらの仲良しさん具合でただにしちゃうよぉ〜!」
純一「え、ええぇー! これをただですか…!?」
田中「だからカップルじゃないって……!」
「恥ずかしがんなっとぅえ! ほら、もってけもってけ〜!」
純一「あ、ありがとうございます……! じゃ、じゃあ行こうか田中さん?」
田中「う、うん……いこっか」
「またきてぬぇ〜!」
純一「なんだかすごい人だったね……なんでパン屋で働いてるんだろうって位の迫力ある人だった…」
田中「う、うんっ…そうだったね。そしたらどこかで座って食べる?」
純一「そうだね……あ、あそこのテラスとかどうかな? ガラス張りになってて、寒くはなさそうだし」
田中「うんっ!」
純一「──…おまたせ、お茶でよかったかな?」こと…
田中「う、うんっ! ありがとね橘くん」
純一「いいよ、これぐらい。よし、それじゃあたべよっか!」
田中「……それにしても大きいね…食べきれるかな?」
純一「どうだろう…二人して頑張れば、なんとか食べれるって思うよ」
田中「男の子だもんね、橘くん。いっぱい食べれるよね」
純一「ま、まかせておいて!」
田中「あはは。それじゃいただきます」
純一「いただきます、っと」
田中「よいしょ…よいしょ……」むりり…
田中「うわぁ〜…湯気が出てるよ、すごいすごい〜!」
純一「出来立てほやほやなんだね、いただきまーす」
田中「ほんとうに? もくもくっ……あ、ほんとうだ! おいしいね!」
純一「でしょ? すごいなぁ、こんなにもサイズが違うのに美味しさがかわってない…これが職人の技なんだろうか」
田中「あはは、大げさだよ橘くん。でも味が変わらないってすごいよねぇ〜……あ」
純一「もぐもぐ……ん? どうしたの田中さん?」
田中「あ、ううん…! な、なんでもない……」
田中(た、橘くんのほっぺに……パンのかけらがついてる…!)
田中「っ………!」じぃー
純一「もぐもぐ…?」
田中(こ、こここっここれって…! ちゃ、チャンスなのかなっ…!
とってあげて、ぱくっ! みたいな少女漫画でよくあるあのっ…!)1
純一「……ごくん───……あ」
田中(よ、よしっ……いくっきゃない…! がんばって、手を伸ばしてそっととってぱくっ!
それだけでいいんだからっ……うん、三秒かぞえてゼロになったら手を伸ばそうっと…!)
純一「田中さん、ほら」すっ
田中「にいてんはちっ……って、え…?」
純一「ほっぺたにパンのかけらついてたよ? どじっこだなぁ田中さんは、あはは」ぱくっ
田中「っ〜〜〜〜〜…っっ!つ、ついてたの!? わたしの顔にっ……?」
純一「うん、ちょっと唇の横にさ」
田中「く、くちっ……そ、そうなんだ………ごめんね……」ぷしゅー…
純一「なんであやまるのさ。本当に田中さんは面白いなぁ」もぐもぐ…
田中「っ………た、たちばなくんっ…!」ちら
純一「もぐ……うん? どうしたの田中さん?」
田中「っ……〜〜〜っ……!」すっ
純一「え……」
田中「っ………ぱくっ…」
純一「え、そうだったの? あはは、それはまいったなぁ〜。僕もドジっちゃったよ」
田中「……う、うんっ…橘くんも、どじっこだね……!」もくもく…
純一「だね〜」もぐもぐ
現在
薫「───だねぇ〜……じゃねぇええええええええええっつのッッッ!!!」
田中「きゃっ…! か、薫…! 橘くんの席をけっちゃ駄目だよ…!」
薫「はぁッ…はぁッ……ごめん、恵子ぉ…あたしちょっと我慢できなくて…ッ!」
田中「び、びっくりしたよ〜…! 薫が暴れだしたら、私止めようがないよ…?」
薫「だ、大丈夫よ…落ち着くから、ふぅ〜……」
田中「う、うん……落ち着いてね? お願いだから…」
薫「わかってる……わかってるのよ……でも!」ぐわっ
田中「きゃっ…!」
こんなにも恵子が頑張ってアピールしてるのに、恥ずかしがる様子も一切無いとか!舐めてんの!?」
田中「か、薫…! 落ち着いて?ね?」
薫「──……なんだか、だんだんとわかってきたわよ。この流れ」
田中「え? それって、好きだって気付かれない理由のこと…?
や、やっぱり私のやり方が悪かったのかな……」
薫「……はぁ〜。まぁ、いいわ。とりあえず最後まで聞いて上げる。
それから純一を殴りに行きましょ」
田中「わ、わかった……えぇえー! なんで橘くんを殴りに行くの…っ?」
薫「いいから、ほら続き続き」
田中「う、うん……なんだか話しづらくなってきちゃったけど───」
一ヶ月前 帰り道
田中「──今日はありがとね、橘くん」
純一「ん、いやいや。どうってことないよ」
田中「そ、そっか。ならよかった……」
幸せすぎて、神様に怒られないかなぁ…)
田中(……ちゃんと圧力鍋も買えたし、今日は万々歳だよ。よかった、頑張って誘えて〜)
純一「……おっ。ほら、見てみなよ田中さん」
田中「え? あ、夕日……」
純一「ココらへんからだと、海が近くて綺麗に見えるね」
田中「……そうだね。すごく綺麗な夕日…」
純一「…………」
田中「……ね、ねぇ…たちばなくんっ……!」
純一「…うん? どうかしたの田中さん」
田中「そ、そのっ……その圧力鍋もってくれてありがとう…!」
純一「いやいや、だってけっこうこれ重いからさ。家まで持って行ってあげるよ」
田中「そ、そう?……ありがとう、でもね……」すっ…ぎゅ
純一「え、田中さん…?」
田中「ほらっ…! こ、こうやって二人で持てば…もっと軽く、なるでしょ…?」ちら
田中「っ……う、うん…! でしょ! だ、だから…このまま、歩いて帰ろ?」
純一「うん、わかった」
田中「っ…………」テレテレ…
純一「…………」
田中「…………」ぎゅ…
純一「───あのさ、田中さん。今日は僕も楽しかったよ」
田中「……うん…」
純一「こうやって田中さんと二人っきりで出かけるなんて…今まで考えたこともなかったけど」
田中「…………」
純一「でも、初めてにしてはとっても楽しかった。
もうちょっとどぎまぎするっておもってたけど、案外僕ら、相性がいいのかもね」
田中「……そ、そうかな…?」ドキドキ…
田中「えっ……あの、その…いいの?」ちら…
純一「うん、田中さんが良ければ…あはは。こうやって出かけるのは楽しいしさ。
田中さんもそう思っててくれると……嬉しいんだけどね」
田中「う、ううんっ…! わたしもっ…すっごく楽しかったよ!」
純一「……そう? ならよかった」
田中「うん、とてもとてもっ…楽しかったんだよ……!」
純一「……ありがとう、田中さん」
田中「……っ……うん…!」
純一「…………」
田中(……こ、これって…デートのお誘い、だよね…!
橘くんからの、もう一回わたしと出かけたいっていう…あれだよねっ)
田中(ひぁわわぁ〜っ……嬉しいっ…すっごく嬉しいよっ……どうしよう、
手のひら汗書いてないかなっ…大丈夫かな…っ)
田中「…………」ちら…じぃー…
田中(──橘くん、今日は本当にありがとう…いきなり誘ったのに、私の買い物につきあってくれて…
そしてまた、一緒に行きたいって行ってくれて…わたし、とっても嬉しいよ)
田中(……そう、言いたいけれど。まだまだ言える自信はないなぁ……いつか、またこうやって買い物に
行ったときに、そういればいいなぁ〜…)
田中(だから、今日はここまでにしとこうっと。明日はまた色々と頑張って…橘くんにアタックするの。
いつかはそうすれば、素直に気持ちを話せる時がくるはずだから───)
純一「…っ……田中さん……っ!?」ぐいっ!
田中「──え、あっ、きゃっ…!?」ぽすっ
ブイーン!
田中「っ……!?……!?」
純一「───ぼーとしちゃ危ないよ…! ほら、歩道から踏み出してたんだよ…?」ぎゅう…
田中「……え、そ、そうだったのっ…?」
純一「…何やってるんだ僕は…元から車道側を僕が歩くべきなのに…!」
田中(ど、どどどどどどうしよぉ〜…!橘くん、すっごくあったかい……)
純一「…大丈夫だった? 急に引っぱちゃったけど、怪我とかしてない?」
田中「っ……っ……!」こくっこくっ
純一「そっか……よかったぁ〜」
田中「…………」
純一「…………」
田中「……た、たちばなくんっ…そろそろ、離してくれると……」
純一「え、ああ! ごめんごめん! 僕ってばずっと抱きしめちゃってたよ!」ばっ
田中「あっ……う、ううん! 大丈夫だから!」
純一「そう? でも、ごめんね。苦しかったよね」
田中「へ、平気だったよ…! 本当にほんと!」
田中「……え、手……?」
純一「だってほら、一緒に持つんでしょ? だから」すっ…ぎゅっ
田中「っ……う、うんっ…! そうだね、そうだったよねっ…」
純一「よし、じゃあ田中さんの家まで行こうか。どこら辺なの?」
田中「えっとね、ここからまっすぐいって─────」
現在
田中「───……そして後は、家まで送ってもらった……ってことなんだけど…」
薫「…………………………………………………………………………………………………」
田中「……か、薫…?」
薫「決まったわ」
田中「え、なにが決まったの…?」
薫「純一、殴りにいくことが」
田中「……や、やっぱり殴りにいくの…?」
田中「ふとももは地味に痛いよ……」
薫「じゃあ腹ね。それなら一発で決めて落とせるだろうしッ!」だっ
田中「か、薫……っ!」ぐいっ
薫「…なによ、これ以上に止めたらアンタまで殴るわよ。恵子」
田中「ほ、本当に殴りそうで怖いけどっ……暴力は駄目だめだよ薫…!」
薫「……はぁ。じゃあ言ってあげるけど、あたしはあんたのアピールが悪かったと思わない。
むしろ頑張ってたと思う、ものすごくね」
田中「そ、そうなの? よかった〜」
薫「よかったじゃないわよ……それがあいてに伝わってないってことなら、なんら意味ないじゃない!
……それも全て、あいつ、純一が鈍感糞野郎のせいで…ッ!」
田中「薫…口が悪くなってるよ…っ」
薫「悪くもなるわよ!」
田中「……そ、そうなんだ…」
薫「……恵子、あんたは…」
田中「……いいんだよ。だって、私のアタックがおかしくないって…薫が言ってくれたなら。
これから先もっともっと頑張れば……いつかは橘くんも、私に振り向いてくれるかもそれない…」すっ…
田中「それが、それが……わかっただけでも。私はとっても安心できるの。
ありとう、薫……やっぱ薫が親友でよかった」
薫「恵子……」
田中「……えへへ。橘くんのこと、好きだっていうの…遅れてごめんね?
ちゃんとこれから、頑張るから……応援してくれたら、嬉しいよ薫…」
薫「───…ふふん!当たり前でしょ、ばか恵子。あたしはアンタの親友!
いつだって、いつまでもあんたのこを応援し続けるわよ!」
田中「……うんっ! ありがとう、薫……!」 がたっ
薫「っ…誰!? そこにいるのは……!?」
田中「えっ……誰か、いるの…!?」
純一「…………」すっ…
田中「た、橘くんっ……!? どうしてここに……!」
純一「……………」
薫「───ッ…! あんたまさか、ずっと聞き耳を立ててたんじゃ…!」
田中「…え、ええぇー! そ、そんにゃ…! まひゃひあー!」あたふた…
純一「……………」
薫「なにか、言いなさいよこの鈍感純一ッ!
全て聞いてたんなら、全部聞いたんならなにかいうことあるでしょ…!!」すたすた…
田中「あわわっ……橘くんっ…! に、逃げて! 殴られちゃうよ…!」
薫「なにずっとうつむいてんのよ……こっちをハッキリとみな───」ぐいっ
純一「ひっぐっ……げほっ……じゅるるる……ぐしゅっ…」ぼろぼろ…
薫「………え?」
純一「げぼっ…ぐしゅしゅ……ずずっ……」ぼろぼろ…
薫「な、なに…ガチ泣きしてんのよアンタは…?」
その発想はなかった
薫「あ、うん……そ、そうよ! あんたはばかで最低でスケコマシで鈍感の…
……あれよあれ!もはや橘鈍一よ!」
純一「あ、ああっ……僕はもはや、鈍一だッ……ぐすっ…なんて、ばかなことを…」
田中「っ………」おろおろ…
鈍一「……田中、さん……ぐすっ……!」
田中「──っ……は、はい!」
鈍一「ぼ、ぼくは……なんて君にひどい事をしてしまったんだと、今、気づいてたんだ……ごしゅっ…」
田中「そ、そんなっ……これは私がハッキリ言わないせいでもあるから…!」
鈍一「い、いやっ……全部、男の僕がわるいんだっ……だって、だって…」
鈍一「──よくよく思い返してみると、いっぱいいっぱいっ…田中さんがしてくれたことが、
思い返されてきてっ…ぐす……それに気づけなかった僕が悪いんだよっ……!」
田中「橘くん……」
鈍一「ぐしゅっ……あ、ああ……そうだな…けほっ……ぐすっ」
純一「──……ちゃんと、田中さんに……言わなくちゃいけないことがあるよな」
田中「っ……た、たちばなくん…」
純一「田中さん…さっきまでの話してた会話、全部僕も聞いてたんだ」
田中「っ……やっぱりそう、なんだ……」
純一「盗み聞きしてたみたいで、本当にごめん。だけど…そうやって田中さんの気持ちを…
…僕を好きだっていう気持ちを、ちゃんとしれたのは……本当に良かったって思ってる」
田中「…………」
純一「……だから、今度はおかえしに僕の気持ちを──……君に、届けたいと思う」
純一「……いい、かな?」
田中「……う、うん…いいよ。橘くん」
田中「ちゃんと、聞いてるから……橘くんの気持ち、いってください」
純一「……君のことが、好きだと思ってる」
田中「──っ……ほ、本当に…? 本当に、わたしのこと…?」
純一「うん、本当に。田中さんのことは好きだよ」
田中「……でも、全然そんな素振りを見せてくれなかったから…わたしのこと、すきじゃないのかなって…!」
純一「…それは、僕の勘違いだったんだ…田中さん…」
田中「かん、ちがい……?」
純一「そうなんだ……僕、けっこう色んな人と…女の子と出かけてたりしてて…だから、失礼な話だけど…
田中さんもその一人だったんだ…」
田中「………う、うん……そうだよね、やっぱり…」
純一「でも……!田中さんは、田中さんは……一緒にいても全然苦じゃなくて…楽しくて、
まるで昔からの友達だったんじゃないかって…思うぐらいに、仲良く出来て…」
純一「……もしかしたら、田中さんも…僕の事、友達だと思って接してたんじゃないかって思い始めてたんだ…」
友達より先に進んだ関係……そうだね、薫みたいに親友だと思ってた」
田中「親友……」
薫(こら恵子。それで嬉しそうにしないの……口に出さないけど)
純一「……でも、それがさっきの田中さんの言葉で……勘違いだってわかった時。
──僕の中でものすごく、感情が高ぶって……これはもう、わかったんだよ……」
純一「……この気持は、恋だっていうことを」
田中「……橘くん、そしたら…わたしは……!」
純一「うん、ごめんね……今まで不安がらせてばっかで。
だからいいんだよ、もう…頑張らなくて」
純一「僕はもう、君の気持ちを知ったから。好きだって、その気持ちを知った」
田中「たち、ばなくんっ……!」ぼろぼろ…だっ…!
純一「いままでずっと頑張らせてごめん……もう、大丈夫だから…」ぎゅう…
薫(──いい話しねぇ…なんて、終わりたいところだけど。少し気になることがあるわね…)
田中「たちばなくんっ……たちばなくんっ……」ぎゅう…
薫(……そして純一の反応。やけに真摯だけど…恵子の扱い方やけにうまい気がする…)
純一「………」なでなで…
薫「…ま、勘ぐるのは野暮ってもんね。そしたらお二人さん!」
純一「あ、薫……今日はすまないな。なんだか怒らせてしまったみたいで」
薫「いいのよー。こうやって恵子が幸せになってくれたんなら、あたしは問題ないわ」
田中「か、薫……ぐすっ……ありがと、ほんとうに…っ!」
薫「なーに泣いてんのよ。ほら、せっかく幸せをつかみとったんだから、離さないよう頑張るのよ?いい?」
田中「…ぐすっ……うんっ!」
薫「おっけー!そしたらおじゃま虫はそろそろ退出させて頂きます〜! ではでは〜」がらり…ぴしゃ
すたすた…
薫「……ふぅ、なんだか疲れたわねぇ…」
『──うん、橘くん……!』
薫「ん? ふふっ…急に思いが通じ合ったらラブラブね」
『そしたらそうだ……また、二人で混浴入ろうよ』
『え、あ、いいねー…! あそこの温泉でしょ?』
薫「…………ん?」
『一週間前にいったとき、だいぶ人が少なかったから…今回も二人っきりかもだよ?』
『そ、そうかな…? ちょ、ちょっと恥ずかしいよ…!』
薫「……………」
薫(───恵子が話していた過去の話は一ヶ月前。それが初めてのデートだった。
それから今日にいたるまで純一は恵子の気持ちに全く気づいていない…)
薫(………それで、一週間前に混浴風呂にはいった……?)
『それからお風呂から出たら、またあそこの旅館にとまろっか』
『うん! 今度は二人でバイトしていこうね…!』
薫「………………」
薫「…………」
薫「……」
……バッッ!!
これが紳士か
田中「そ、そうだねっ…だって、橘くんといっぱい会いたかったから…」
純一「そっか……」
ばん!!!!
薫「はぁっ……はぁっ……」
純一「か、薫…?どうしたんだよ息荒げて、また戻ってきたのか?」
薫「……あんた、恵子と…どんな感じでこの一ヶ月過ごしてきてたか…教えなさい…!」
純一「え、どうって……それはまぁ、一緒に混浴風呂入って、旅館に泊まって。
田中さんのご家族とご飯食べて、遊園地行って、外国に日帰りで旅行に付き添って…」
薫「……」
薫「……これ、本当に?」
田中「え、あ、うんっ…? そうだよ、これから話そうって思ってたら橘くんが教室に入ってきたから…
ちゃんと言えなかったんだけど…」
薫「………ふぅ、そう。そうなのね……」こき メキゴキバキッ…
純一「……か、薫っ…? なんだか拳からしちゃいけないような音が……!?」
純一「な、なにがどうしたんだよ薫……!?」
薫「………恵子が頑張ったって話じゃない……これは全て、まるっきりあんたのせいじゃない……」メキュッ!
純一「だ、だからそうだって認めたじゃないか…!!」
薫「認めてどうにかなるって話しじゃないわよ………はぁぁぁー……」コホー…
純一「た、田中さん…!!とりあえず逃げて…!!」
田中「え、あ、うんっ……!でも、橘くんっ……!」
純一「──ぼ、僕は大丈夫だからっ……だって、僕は田中さんのことが───」
「すき、だからさ……」
薫「死ね腐れ鈍感男がぁあああああああああああッッ!!!」ゴリメキャゴシャメキャ…クチャッ…
田中「た、たちばなくーーーーーん……!!!」
このお話は、晩飯で食べた焼きたてのパンのかけらをほっぺたにくっつけ
それを愛犬がぺろぺろ食べたことが元になっています
どうでもいいので次安価
>>435を書くよ
ちょい休憩
君は素晴らしい
うーむ、頑張る
二十五分には戻る
下駄箱 玄関
ざぁぁー……
伊藤「………どうしようかなぁ。むっちゃ降りだしてるし…
今日は天気予報晴れだっていってたんにさー」
伊藤「…………」
伊藤「……今日に限って桜井もいないしなぁ…置き傘もとっちゃうってのもあるけど…」
ざぁぁー……
伊藤「しかったない。ここはいっちょ、濡れて帰りますか───」
「──あれ、伊藤さん?」
伊藤「──んん? おっ、この声は桜井の幼馴染橘くんじゃん!」
純一「……うん、なにやら詳細な自己紹介ありがとう」
伊藤「あっははー! あれ、いまごろ帰り?」
純一「そうなんだ、先生に提出するはずだったプリントを片付けててね」
伊藤「……ははぁーん。さてはまた忘れたなぁ〜? 相変わらずだねぇ君も」
伊藤「……んん〜? 内緒、かな?」
純一「内緒って……なんだか意味深だなぁ」
伊藤「気にしたらだめだめ〜……お、そういえば橘くん。今日は歩き?」
純一「うん、そうだよ。雨がすごいけど、家に車出してくれる人間がいないからさ」
伊藤「そっかー……そりゃ残念だね」
純一「……あれ? 伊藤さんは迎えの車待ってるの?」
伊藤「んにゃ、そうじゃないっさ。ちょと天気予報にふられちゃってねー。
見事に傘を忘れちまったのよ」
純一「ふーん、そうなんだ……」
ざぁぁー……
純一「───そしたら、僕の傘に一緒に入る?」
伊藤「……絶対に橘くん言うと思ったよ、それ」じとっ…
伊藤「……はぁーあ。桜井って子がいながら、なんって女ったらしなコトを言うのかな君はぁ〜」
純一「梨穂子は関係ない、と思うんだけどなぁ……」
伊藤「……関係はあるよ、すくなくとも私にはね」
純一「……えっと、そうなんだ」
伊藤「当たり前じゃん! だからほら、気にしなくていいから橘くん。さきにかえったかえった」ぐいぐい
純一「う、うん……というかそんなに押さないでよ…!」
伊藤「ほれほれ!」ぐいぐい
純一「あ、ちょっ───……あれ? あの人、どうかしたんだろうか…?」
伊藤「──ん? どうかした?」
純一「いや、あそこの立っている人……濡れてるのに傘なんか刺さないで…」
伊藤「どれどれ〜……っ…!」
純一「うーん…雨でよく見えないけど、一年の子かなぁ……あっ! 伊藤さん!?」
伊藤「っ………」ぱしゃ…ぱしゃっ…!
純一「ちょ、ちょっと…!!」
純一(急に外に走りだして……どうしたんだ、伊藤さん…。
外は雨がすごいっていうのに…!)
純一「……あれ、あの一年の子の前で止まった…」
『──……っ──……』
『────……っ〜〜……──!?』
純一(……雨音で聞こえないけど、なにやら喧嘩してる…?
いや、喧嘩じゃないな…伊藤さんが一方的にまくし立ててるみたいだ…)
『───…………──』
『─……っ!──……』だっだっだ…
純一「あ、戻ってきた……──伊藤さん、急に走りだしてどうしたの…?」
伊藤「はぁっ…はぁっ…橘くん、どうかお願いがあるんだけど…っ…!」
純一「うん、どうしたの?」
純一「え、あの子に…?」
伊藤「そう、なんだけどね……はぁ、ふぅ……あの子。そこら辺の傘渡しても、
絶対に捨てて帰っちゃうって思うだよね。だから、君のを貸して欲しいのよ」
純一「………」
伊藤「君の……傘が捨てられるって可能性もあるけど、そんな時はちゃんとあたしが弁償するから。
……どうか、今だけ、お願い…!」すっ…
純一「……まぁ、伊藤さんにはいっつもお世話になってるし」
純一(梨穂子が)
純一「……はい。なにがなんだかわからないけれど、これ使ってよ」
伊藤「…あ、ありがとっ。ほんと感謝するよ…!…じゃあ、いってくるね!」
純一「うん」
だっだっだ…ぱしゃぱしゃ…
純一「……安請け合いしたかなぁ。ま、それもいっか」
伊藤「うひぁ〜……びしょびしょになっちゃったよ〜。まいったねこりゃ〜」
純一「そりゃ、この雨だもんね……えっと、あの子は帰ったの?」
伊藤「……うん、そうみたい。ちゃんと風邪ひかずに帰れたらいいんだけどね…」
純一「…………」
伊藤「……へくちっ…うーさむいさむいっ…教室に戻ってジャージに着替えるかなぁ…」
純一「……え? でも今日って体育あったっけ?」
伊藤「………そういえばなかったわ」
純一「…………」
伊藤「あちゃ〜…仕方ない、か。もう雨が止むまで待つのもやめようかな…
ああ、橘くん。あんたはこれ使ってよ」ばさ…
純一「……え? これって伊藤さんの制服だよね…?」
伊藤「うん、それで雨風を防げるとは思えないけどさ…へくち!
一応、なにか橘くんに渡しておかないとあれじゃない」
伊藤「あたしは〜……うん、まぁ、どうにかするつもりよ」
純一「…………」
伊藤「……まーたそうやって心配そうに見る! 悪い癖だよ橘くん」
純一「え、そんな表情してたかな…?」
伊藤「してたしてた。……とにかく、橘くんが置き傘を使うって言うならそれでいいし、
あたしの制服を使うっていうのならそれもよし」
純一「…………」
伊藤「どっちにするの? 前者なら一応、あたしに制服を返してくれると嬉しいんだけどさ」
純一「……うん、そしたらさ」
伊藤「うん?」
純一「僕も一緒に、伊藤さんと残る。を選ぶよ」
伊藤「っ……橘くん。同じ事はにども言いたくないんだよあたしも…っ」
純一「それでも、僕は残るよ」
伊藤「…………」
伊藤「あ、あれは…橘くんには、関係ないことだし……」
純一「…僕の傘を貸したのに? それはちょっと薄情じゃないかな」
伊藤「っ……そんなところ、たまに意地悪になる所…全然変わってないよねホンット!」
純一「あはは。とりあえず、この制服は乾かそうよ」
伊藤「………」
純一「……あと、伊藤さんは僕の制服を着ようか。ほら、僕はジャージ置きっぱなしだしさ」
伊藤「っ……た、橘くんの制服を…っ?」
純一「うん、だめかな?」
伊藤「う、うぅ〜っ………」
純一「そんなに気にしなくても。放課後だし、誰も見る人なんていないって」
伊藤「っ………わ、わかったよ…そしたら、その…へくちっ…」
伊藤「…橘くんの制服借りる…からね…!」
純一「……どう着れた? やっぱりおおきかった?」
『……ちょっとね。着替えたから入ってきていいよ』
純一「うん、わかった」がらり…
伊藤「……っ……」
純一「おおっ……見事にぶかぶかだねっ」
伊藤「…何でちょっと嬉しそうにいうのさ!」
純一「だって男のものの制服をきる伊藤さんって、ちょっと新鮮で……」
伊藤「っ〜〜〜……ったく、もういいよ! ほら、とりあえず持ってる上着をあたしに」ずいっ
純一「はい、これ」
伊藤「ありがと。──とりあえず、このへんにおいておけば…おっとと…やっぱり歩きにくい…」
純一「…………」
伊藤「──これでおっけー。ふぅ、なんだかとても疲れたよ……」
純一「風邪なんかひかないようにね。伊藤さんってけっこう、免疫力弱いんだから」
純一「……ん? どうかした、伊藤さん?」
伊藤「……ううん、今日はやけに橘くんが口を出してくるなって思ってね」
純一「……そうかなぁ? あ、でもそうかもしれないや」
伊藤「…じゃあどうして? 今日に限って、なんでそういってくるの?」
純一「………」
伊藤「………言いにくい、ことなの?」
純一「──……いや、そうじゃないよ。大丈夫」
純一「ただ、その……あれだよ。
───さっきの一年の子がさ、ちょっと似ててさ」
伊藤「っ……さっきの子が?」
純一「そうそう。まぁ、誰かってことはいわないけれど……」
伊藤「…………」
純一「それでちょっと───……一年前の時のこととか、思い出しちゃって。
あはは、まぁ…この話はいいや、うん」
純一「…そうだね、ちょっと入っちゃうかもしれない。だから言わないでおくよ」
伊藤「そっか、それじゃあ話を変える感じで……あの一年の子のこと、教えてあげよっか」
純一「ん? 教えてくれるの?」
伊藤「……傘も借りちゃったんだし、言わなきゃあたしが悪いやつみたいじゃん。そんなの嫌だからさ」
純一「そっか。そしたら聞こうかな…よいしょっと。
伊藤さんも椅子に座りなよ、立ったまんまじゃキツイだろうし」すっ…
伊藤「あいよー」すっ…
純一「……それで、どうしたのさ伊藤さん。あんなに必死になって色々とやってたみたいだけど」
伊藤「……まね。とりあえずは簡潔に言うとね」
伊藤「──あの子に今日、放課後……告白されちったのよ」
純一「ほほう……なるほどなるほど」
伊藤「そんでまぁー……だめです、と言ったわけ」
純一「…断っちゃったの? どうしてさ?」
純一「……なんというかさ、色々と変わるチャンスだったんじゃないかなって思うんだけど…違う?」
伊藤「……そうだね、確かにそうだよ」
純一「じゃあ……どうして?」
伊藤「……だってまだ、色々と…解決してないこととか…たくさんあるじゃない」
純一「………」
伊藤「だから、そうやってすぐに新しい……恋、みたいなのさ。飛びつくってのは駄目だって思うのよ、あたしは」
純一「心配性だなぁ…伊藤さんは」
伊藤「……そうかもしれないけど、でも。ダメだって思う」
純一「……そっか」
伊藤「…ねぇ、橘くん。あんたがその、あたしのこと………」
純一「うん?」
伊藤「…伊藤さん、って呼ぶようになったのって……何時からだっけ」
純一「……えーと、今年に入ってからかなぁ。うん、そうだね。三年になってからだよ」
純一「まあね。懐かしい話だけど、クラスで同じ名前の子がいたからって事で。
名前を呼ぶようになったんだよ、確か」
伊藤「そうそう! んでもってそのくせが今だに抜け落ちずに…去年まで続いてた」
純一「……まぁ、いまは呼んでないけどさ。もう同じ名前の子はいないから呼ぶ必要もないし…それに」
純一「…呼ぶことも、これから一生ないと思う」
伊藤「……まね。それがいいってあたしも思ってる」
純一「…うん。わかってるよ、ちゃんとわかってる」
伊藤「……はぁーあ。なんでこんな話しちゃってるんだろ! 毎回毎回、飽きないよね〜」
純一「そうだね、確かに。伊藤さんと会話していると、いつもこの話になっちゃうよ」
伊藤「名前のことは……まあ今日はじめて聞いたけどさ。
またまた昔の話を掘り返してさ〜……ったく。これじゃあ桜井に合わせる顔がないよ」
純一「……そうかな? さっきも言ったけど、梨穂子は関係ないと思うけどな」
伊藤「……どうしてよ? 桜井は関係あるでしょ?」
だってもうアイツは……あれじゃないか」
伊藤「……アイドルやってるから、もう大丈夫ってこと?」
純一「うん」
伊藤「……はぁ? なにいってんの橘くん、それ本気で言ってるの?」
純一「一応、本気で言ってるよ?」
伊藤「はぁ〜……あのね? 桜井は別に去年のことでアイドルになったってわけじゃないんだよ?」
純一「知ってるよ、だって幼馴染だもの」
伊藤「…知っててどうしてそんなこというのよ、あんたは」
純一「…梨穂子がアイドルになった理由が、なにかしら別の理由があったとしてもだよ?
でも梨穂子は……アイツは、絶対に忘れてなんか居ないんだよ」
純一「だから、アイドルになったことが去年のことから……逃げ出すためじゃないって
ことだったとしても、アイツは今の状況が…アイドルって場所が居心地がいいはずだ」
伊藤「…なにそれ、橘くん…それはちょっと桜井をばかにし過ぎじゃない?」
純一「ばかにはしてないよ。逆にすごいって思ってる、本当だよ?」
……例えば伊藤さんと友達をやめる、とか」
伊藤「……そんなの、あたしは嫌だよ」
純一「わかってる、でも…友達のままならもっと嫌な関係になってたと思う。
……なんというか、自分が言うのもなんだけどさ」
伊藤「…本当にだよ! 橘くんの女ったらし!」
純一「……おお、それを伊藤さんに言われると応えるなぁ…うん」
純一「でもまぁ…アイツはそれを選ばなかった。どっちも大切だったんだろうな、って思ってる。
今の関係性を保ったままで…ここから居なくなるってことが、アイツにとって一番だったと」
純一「……そう思ってるはずなんだ、幼馴染の僕から言わせると」
伊藤「…なんだか、アンタが言うとそれっぽく聞こえるから困るよね」
純一「そう? どうだかなぁ…本当のところはわからないけれど、でも…ちょっとはあってるとおもうよ」
伊藤「…………」
純一「だって、伊藤さんも。そういうふうに思ってたり……してるんじゃないかな?」
純一「…梨穂子は何時だって、他人の事ばっかり考えてるからな。あとは食うことか」
伊藤「あははっ…そうだね、桜井はそんな奴……」
純一「…………」
伊藤「……ねぇ、橘くん」
純一「……どうかした? 伊藤さん」
伊藤「…あたしは、さ。こうなってよかったって思ってるんだよ、本当に」
純一「うん……僕もそう思ってるよ」
伊藤「こうやって……橘くんと、他愛のない話が出来る関係。それが一番だって本当に思ってる」
純一「………」
伊藤「だから……いつか、いつの日か…この場所に桜井が戻ってきて。
この場所にある関係がどう見えて…あの子はどう考えるのかが…とても、とても…不安でしょうがなくもあるのよ」
純一「梨穂子は…そうだね、どう思うだろうね」
自分を責め続けるかもしれない…」
純一「…………」
伊藤「………あたしは、でも。これでよかったって思ってる。
全部全部ひっくるめて……こうなって、全てなくなって…よかったって」
純一「……。さっきの、伊藤さんに告白してきた一年の子。いたじゃない?」
伊藤「う、うん……それがどうかしたの?」
純一「それが僕が……誰かに見えるっていったでしょ?
この話になるからって、やめておこうって言った奴」
伊藤「結局はしてるけどね……うん、確かに言ってた」
純一「あの誰かっていうの……実は言うと、伊藤さんなんだよね」
伊藤「あ、あたし…?」
純一「そうそう。雨にぬられてさ、何かを探しているような…でも、もうそれがないって知っているような。
そんな表情した、伊藤さんみたいだった」
伊藤「なに、それ……それがあたしに似てるってワケ?」
伊藤「………」
純一「──なんというか、まぁ。もうこの際さ、ハッキリ聞いておこうって思うんだけど」
伊藤「え……なに、橘くん…?」
純一「あの時、去年の……クリスマス。あれから僕らは」
伊藤「………」
純一「……別れてしまったわけだけど、それでもあの時。伊藤さんは、僕に何を言おうとしたの?」
伊藤「………あの時、は…」
純一「うん、あの時。最後にってお別れを言おうとして……別れ際に僕の手をつかんだよね?」
伊藤「………」
純一「──…あの時の表情が、今日見た一年の子にそっくりなんだ。だから、少し思い出しちゃってさ」
伊藤「………あたしは、その…」
純一「…言いたくなかったら、いいんだけどさ。でも、僕はいいチャンスだって思ってる」
付き合ってた期間と、その分かれ目を語り合える仲…それって変だって僕は思ってる」
伊藤「っ………」
純一「……多分それは、あの時の。伊藤さんが…いや、香苗ちゃんが言えなかった言葉が…」
純一「……原因だって僕は思ってるんだよ」
伊藤「…………」ぎゅっ…
純一「僕は伊藤さんがやりたいようにやって、これから先をどう進んでいくのか…
…それにあわせるつもりでいたんだ、でも…それはもうオシマイにしようと思う」
伊藤「…………」
純一「伊藤さん──いや、香苗ちゃん。君は、あのとき…」
純一「…何を伝えたかったの?」
伊藤「………………」
純一「…うん、あのとき?」
伊藤「……あんたに、橘くんに…………純一くんに…」
純一「………」
伊藤「っ……」ぎゅっ…
純一「……頑張って、香苗ちゃん。ちゃんと僕は聞いてるよ」
伊藤「………純一、くん…」
純一「あの時、僕に言えなかったこと……今度はもう聞き逃さないからさ」
伊藤「……っ……でも、これをいったら…あたしはっ……あたしは……」
純一「………」
伊藤「あたしはっ……また、あの時を…去年のように、また……!」
純一「──ならないさ、絶対に」
伊藤「っ!……どうして、そんなこといえるの…?」
純一「……僕らはもう、大人だよ。もうすぐ卒業だし、もうそんな子供っぽいことは…
…出来たくてもできなくなってくるはずだ」
もうできないんだ…こういった関係を今後ずっと続けるのなら」
伊藤「………」
純一「言えないのなら、僕はもう……伊藤さんの前から居なくなるつもりだよ」
伊藤「っ…ど、どうして…!」
純一「……だから、これはいいチャンスなんだ。
僕は君の生き方についていくつもりだった、でも…」
純一「いつまでもこの関係が続くことは、いいって思ってはない。
それに、それを伊藤さんが悪いって思ってないのなら……尚更だよ」
伊藤「だ、だってそれは……桜井のため、に…!こうしなきゃ、いけないくて…!」
純一「だから、梨穂子は関係ないんだ。いつまでたっても、アイツは関係ない」
伊藤「っ……そんなこと…そんなことは絶対にない…!
あの子は、いつだってあんたのことを考えてた…!な、なのに…あたしが、あたしが…!」
純一「……もっかい言うよ? 梨穂子は関係ないんだ。アイツはアイツなりにやったことがあった。
でも結果が残せなかった。僕は結局……香苗ちゃんと付き合った」
伊藤「っ………」
純一「僕は香苗ちゃんと幸せになると決めて、君を好きになったんだ。
……アイツはその僕の思いをちゃんと理解してくれたって思ってる」
純一「言ってないだろうね、その前にアイツはアイドルになったから。
……何も言わずに、梨穂子はここからいなくなった」
伊藤「っ……それじゃあ、あの子はやっぱりあたしのことを恨んでるんだよ…っ…」
純一「………」
伊藤「あたしが、純一くんをあの子から……奪って…それで、なにもかも全て壊して…っ
あの子がどれだけ悲しんだのか、わかってて…わかってたつもりなのに…」
伊藤「あたしは、目の前の幸せに夢中だったっ…だから、もうそんなことは、もう…!」
純一「………───」
純一「──…本当にそうかな」
伊藤「……え…?」
純一「本当に、梨穂子は伊藤さんを恨んでいるのかな」
伊藤「だって、あんただって……ぐすっ…あの子がここから逃げ出すためにって…
優しい子だけど、なにもいわなかったことが…あの子の答えだって…」
純一「……。そしたら、これを聞いて欲しいんだ」こと…
純一「そう、そして中にはいってるのは……」ぴっ
〜〜♪〜〜〜♪
伊藤「……こ、これ…桜井の…!」
純一「───そう、これは桜井リホの新曲。そして次は」
〜〜〜♪〜〜♪
純一「……初めてアイツがソロで出した、新曲」
伊藤「……ほんと、あの子は歌はうまいね…いっつも歌ってたから…」
純一「そうだね、確かにアイツはいっつも歌ってた。
…嬉しかった時とか、楽しかった時とか。いっつも歌ってた」
伊藤「……でも、これがどうしたの…?」
純一「……わからないかな、伊藤さん」
伊藤「え……?」
純一「これさ……歌ってる歌詞が──……全部、恋の応援歌なんだよ」
〜〜〜♪〜♪
純一「……全部が全部、出してる曲は全て…恋愛を応援する歌ばかりなんだ」
純一「調べてみたら……どうやらプロデューサーの反対を押し切って、
こういった応援歌しか歌わないようにしてるらしいよ」
伊藤「……そ、そんなっ……どうして、そんなこと…!」
純一「──僕にはわかるよ、そして香苗ちゃんもわかってるはずだ」
伊藤「っ……」
純一「……梨穂子は、本当に優しいやつだよ。それは僕だって香苗ちゃんだってわかってることだ。
だからこれが……何を伝えたいのか、僕らにはわかるはずなんだ」
伊藤「……さく、らい……っ…」
純一「………」
伊藤「あんたって……ばか、本当にっ…なにやってるのよ…こんなことまでして…!」
純一「……香苗ちゃん」
伊藤「ぐすっ……あの子って、本当にばかだよね、純一くん……っ…」
アイツも君も……そして僕も。本当にばかなやつらだ」
伊藤「ひっくっ…桜井っ……」
純一「…香苗ちゃん」ぎゅっ…
伊藤「……ぐすっ…じゅんいち、くん……ひっく…」
純一「──どうか、聞かせて欲しい。あの時の言葉を」
伊藤「ぐすっ…ひっく…」
純一「あの時言えなかった、君の言葉を僕はどうしても聞かせて欲しいんだ」
純一「……香苗ちゃんはあの時、なにを僕に伝えたかったの?」
伊藤「ぐしゅ…あ、あたしは……あ、あの時っ……!」
純一「うん、続けて……」
伊藤「別れようとっ……した、時っ……君の、手を掴んでっ…」
純一「僕の手を掴んで、どうしたの……?」
伊藤「……───っ……純一くんに、言いたかったの…っ」
伊藤「行かないでってっ…ひっく……あたしの側から、離れないでって……ぐすっ…」
伊藤「でもっ…ひっくひっく…!…そんなこといったら、だめだって…ぐすっ…わかってて…っ…」
純一「…そうだね、あの時の僕らは。あれが正しいって思ってた」
伊藤「だ、だから…っ…あたしは、君とっ…前の関係に、ひっく…戻るのが一番で…っ…」
純一「…うん、うん…」
伊藤「でも、桜井はもうっ…いなく、いなくなっててっ…ぐすっ…どうにもできなくてっ…
このまま、ずっと…ぐしゅしゅ……ずっと、桜井とは会えないんだって…!」
純一「……でも、アイツは遠くから応援してくれてたよ。ちゃんと、僕らのことを思ってた」
伊藤「…う、うんっ……桜井は、ちゃんとあたしらのこと見てた…ひっく…」
純一「うん、だね……香苗ちゃん、顔を上げて」
伊藤「なっ…ひっく……なに? ずずっ…じゅんいちくんっ…?」すっ…
純一「……ほら、そんにこすると眼が真っ赤になるからさ、やめとこう」
伊藤「…うんっ…ごめん、心配させてっ……」
伊藤「……ど、どうしてっ…ひっく…?」
純一「だって、僕はもう伊藤さんの……からかい相手じゃないんだよ」
伊藤「……じゅん、いちくん…」
純一「僕は、君の……香苗ちゃんの恋人なんだ。
伊藤さんはもう、ここにはいない。呼ぶ人も、呼ばれる人も」
伊藤「で、でもっ……あたしは、じゅんいちくんも……傷つけて…!」
純一「僕はいいんだ、大丈夫。そうやって香苗ちゃんが…素直に泣いてくれれば。
素直に気持ちを出してくれれば、それだけでいい」
伊藤「…………」
純一「だから、さ。どうかもう一度、香苗ちゃんに言わせて欲しい」
伊藤「………わ、わかったよ…そしたら、聞いてあげる」
純一「うん、ありがとう。そしたら言うね?」
純一「──僕は、香苗ちゃんのことが……好きだ」
純一「この世の誰よりも、君が好きだ。他の誰かと比べ用がないぐらいに、
……君のことを好きでいるんだ」
純一「…うん、ありがと。それでご返事は?」
伊藤「へ、返事は……そのっ…」
純一「うん?」
伊藤「あ、あたしも……君のことが、心から…」
伊藤「……好き、だよ…?」
純一「…そっか。よかった、そう言ってもらえて」
伊藤「……うん…」
純一「………」
伊藤「………」
純一「……今日は頑張ったね、香苗ちゃん。最後に、遅れちゃたけど…
クリスマスプレゼント、いいかな?」
伊藤「…クリスマス、プレゼント…?」
純一「うん、ちょっとクサイけどね……これでよかったら。受け取って欲しいかな」
香苗「……っ…じゅ、じゅんいちくん…?」
純一「……大好きだよ香苗ちゃん…」すっ…
香苗「……あ、う、うぅっ…───」ぎゅっ……ちゅ
純一「──ありがとう、受け取ってくれて。僕も嬉しいよ」
香苗「っ……こ、こちらこそっ……ど、どうもっ…!」
純一「あはは…今度はさ、二人で桜井リホのライブでも見に行こうよ」
香苗「え、ライブ…?桜井の?」
純一「そうそう、そしてさ……大きな声で入ってやろうよ」
純一「──はやく戻って来いって。僕はお前を何時でも待ってるぞ! ってさ」
香苗「……そんなこといったら桜井、本気にするよ?」
純一「いいんだよ、本気にしてやろうよ」
純一「……僕らをここまで本気にしあってくれたんだ。だったらさ」
香苗「──なるほどね、おかえしにってことか〜……本当に純一くんって」
香苗「……ときに意地悪な性格になるよね…っ!」
このお話は呼名を間違った所から作られました。
ここでほごうこく
お仕事の時間がはじまりそうなので
ここで終わらせていただきたいと思います
ご支援ご保守本当にありがとう
途中で休みまくってすみませんでした
次は麻耶ちゃんと紗江ちゃん書きたいので
次も来ます ではではノシノシ
楽しみに待っとくわ
できれば絢辻さんも書いてほしいな
良かった、麻耶ちゃん楽しみだ
Entry ⇒ 2012.05.20 | Category ⇒ アマガミSS | Comments (0) | Trackbacks (0)
橘純一「た、田中さんに彼氏が出来たって!?」
橘「くっ……!嫉妬だよ!この裏切り者ッ!」
橘「ぼ、僕だって頑張ってるのに!」
橘「……というか、田中さんに彼氏なんて出来ちゃったら、僕は……僕はっ!」
田中「た、橘君?落ち着いて!?」
橘「こ、これが落ち着いてられるか!」
田中「きょ、今日は何月何日!?」
橘「え?今日は四月一日……あっ!」
田中「えへへ、早速嘘を吐いてみたよ?」
橘「……そっか、嘘だったんだ。はははっ……」
橘・田中「うぇーい!」
橘「あ?そうだったんだ?……なら大成功だな」
田中「だ、大成功!?どういうこと!?」
橘「いくら僕でも、今日が何の日かくらいわかるよ?」
橘「だからさ、田中さんの嘘にノってみたんだ」
田中「えぇぇぇ!?そ、そうだったの?」
田中「……で、でも!もしかすると嘘から出た誠だったかもよ!?」
橘「ははっ、田中さんはバカだなぁ」
橘「……仮に田中さんに彼氏が出来たしたら、真っ先に僕に伝えるだろうお喋りなヤツがいるじゃないか」
田中「あ、そっか!薫が絶対にバラしちゃうもんね!」
田中「橘君に嘘はつけないなぁ……」
橘・田中「うぇーい!」
田中「えっ?誰?」
橘「それはね?」
田中「あっ!美也ちゃんでしょ!?朝一番で騙されたんだ?」
橘「……残念。美也じゃないんだ」
田中「えっ?じゃあ、誰?誰なの?」
橘「……まだ学校が始まらないからか、暇を持て余してる大学生にやられちゃってさ」
田中「……大学生?」
橘「ほら、先月卒業なされた森島先輩」
田中「あ、そっか!森島先輩って大学が近いもんね!」
橘「『私はまだこの街にいるから。ふふふっ……せいぜい油断しないことね!』とは言われてたけどさ」
橘「まさか、今日やられるとは僕も思ってなかったよ……」
田中「ねぇ?どんな嘘を吐かれたの?」
田中「うんうん。でも何かされたんだよね?」
橘「そうそう、予想だにしてなかったんだけどね?」
橘「……朝起きたら、うちの台所で森島先輩がご飯を作ってたよ」
田中「……えっ?」
橘「どうやら美也と共謀してたらしくてさ」
橘「……それはもう、僕は面白いリアクションをしてしまったよ!朝一番で!」
田中「あははっ、その時の橘君を簡単に想像出来るよ」
橘「鼻歌で『ふんふ〜ん♪』ってやりながら、包丁をトントンしててね」
橘「……いや、あれは心臓に悪いよ」
田中「し、新婚さん!?いらっしゃったの!?」
橘「……あまりの事態にさ、僕も『な、何が!あなた♪、ですか!?』とか意味わからないことを口走ってたし」
橘「……完全敗北だったよ、ははっ」
田中「……うん。仕方ないよ、それは」
橘「しかも、僕が何て喚こうが『すぐ出来るから!待っててね〜♪』の一点張りで流されちゃってさ」
橘「……あぁ、この人には勝てないな、と悟ったよ」
田中「あはは……誰も勝てないって、それは」
橘「出てけ!ともいえないし、折角だから二人で朝食をとったよ」
田中「あ、味は?味はどうだったの?」
橘「……これがまた悔しいんだけどさ、美味しいんだよ。森島先輩の作った味噌汁」
橘「訊いたら、随分と練習してきたようでさ」
田中「えぇぇぇ!?……ってことは!?」
田中「『うん!こんな味噌汁なら、僕は毎日飲みたいですね!』とか言っちゃった!?」
橘「な、何故それを!?」
田中「……はぁ、本当に言っちゃったんだ」
橘「し、仕方ないだろ!?素直にそう思ったんだから!」
橘「……でも、何で先輩はあんなに顔を真っ赤にしてたんだろう?」
橘「……褒めすぎちゃったかな?」
田中「そ、そういう問題じゃないと思うよ?」
橘「あ、うん。どうやら先輩はエイプリルフールをドッキリ企画をやる日だと思ってたらしくて」
田中「うわぁ……大胆で素敵な解釈だね?」
橘「さすが、としか言えないよ……」
田中「あははっ……」
橘「……ちなみにさ、この素敵な解釈をしてるのは森島先輩だけじゃないみたいなんだよね」
田中「えぇぇぇ!?そんな人が他にもいるの!?」
橘「うん。残念だよね……」
田中「うん?あそこのサラサラヘアーのウェイトレスさんのこと?」
橘「うん、そうそう。あそこで僕らのツッコミを今か今かと待ってる子のことだよ」
橘「……何やってるんだろうな、あいつ」
田中「……あれってそういことだったんだ?」
橘「……僕は意地でもツッこまないことにしたよ」
田中「あっ!職務放棄してこっちにくるよ!?」
棚町「う、うっさいわね!?分かってたなら早くツッコミなさいよ!?」
棚町「け、恵子もよ!?見てはいけないモノを見るような目であたしを見て!」
橘「ま、ここはとりあえず、さ?」
田中「そ、そうだね!」
橘・田中「うぇーい!」
棚町「く〜っ!は、腹立つ!!」
田中「あ!わかったよ!自分に嘘を吐いたんだよね?」
棚町「……はいはい、安易な真似をしたあたしが悪かったわよ」
橘「でもさ、その髪型も似合ってるぞ?」
田中「うん。薫の新しい可能性を見た気がするよ!」
棚町「ほ、本当!?変じゃない!?」
橘「あっ……違うから!今日がエイプリルフールだからってこんなことを言ってるわけじゃないからな!?」
田中「そ、そうだよ!?今のは嘘じゃないからね?」
棚町「だったら!そんな余計なことを言わなきゃいいでしょうが!?」
橘「た、確かに……!」
田中「そ、そうだよね!」
棚町(こ、こうなればヤケよ!)
橘・田中・棚町「うぇーい!」
橘「……折角の春休みだってのに、やることが何もなくてさ」
田中「……私なんて暇過ぎて朝から晩までラジオを聴く日々だったよ」
橘「……ラジオ?FMで流行りの曲をチェックしてたとか?」
田中「……ううん、AM。深夜は至高だよ?」
橘「そ、そっか……」
田中「うん……ごめん」
橘・田中「………はぁ」
棚町「な、何勝手にテンション落としてんのよ!?」
棚町「あたしは何でここに二人でいるのか訊いてるの!」
田中「久しぶりの外出で立ち寄った本屋で〜」
橘・田中「二人は〜出会った〜」
橘・田中「うぇ〜いっ」
棚町「まだるっこしい!普通に喋りなさい!普通に!」
橘「うん。つまり、たまたま本屋で出会ったからさ」
田中「他に行く所もないし、取り敢えず薫のバイト先で時間を潰そうかなって」
棚町「なるほどねぇ。だからドリンクバーと山盛りポテトで、ずっとお茶を濁してるんだ?」
橘「うん。その通り。あ、僕らのことはポテト部と呼んでくれても構わないよ?」
田中「それ、いいね!今度梅原君も誘って部活の立ち上げやろうか?」
棚町「あ、あたしも!あたしも混ぜなさいよ!?」
橘「う、梅原は呼んでもこないと思うよ……?」
田中「……あははっ」
棚町「えっ?なになに?どういうことなのよ?」
橘「あいつ……バレンタインにこっそりと本命を受け取っててさ」
田中「……私が橘君に「嫉妬!」とか言ってる間にね」
橘「だからね、今日は彼女とデートだってさ……」
田中「嫉妬の嵐が輝日東に吹き荒れてるよ……」
棚町「そ、そうなの!?このあたしが知らなかったなんて!?」
橘「……そりゃそうだよ、嘘だもん」
田中「薫?……本気で騙されたの?」
棚町「くっ……やられたわっ」
橘・田中・棚町「うぇーい!」
田中「うん……そうなんだよねぇ」
棚町「え?どういうこと?」
橘「梅原がバレンタインに本命チョコを受け取ってたのは本当のこと」
田中「それを知ったのは、ホワイトデーになってからだけどね」
橘「ほら、ホワイトデーに僕は学校中を走り回ってたろ?」
棚町「あぁ、『折角準備してきたのに!みんなに出会えないよ!』とか言ってたわね」
橘「それでさ、放課後にやっと七咲に校舎裏で出会えてね」
橘「……あの時息切れしてたから、七咲に軽く引かれたっけなぁ」
橘「それでね?七咲が去った後、しんどいからその辺に座って休憩してたんだ」
田中「あ、それって私が飲み物を差し入れに行った時だよね?」
橘「うん。あれはナイスタイミングだったよ、田中さん」
田中「えへへっ」
橘「それで、田中さんからの差し入れを飲みながら二人で話してたんだけど」
田中「そしたら私達の存在に気付かずに、校舎裏で青春を始めちゃった2人組がいてね?」
棚町「……それが梅原君だったわけね?」
橘「その通りだよ、薫」
田中「うん!熱い告白だったよね!」
棚町「……つまり、梅原君に彼女が出来たのよね!?これは大ニュースじゃない!」
橘「うん。先を越されちゃったよね……」
田中「……嫉妬で胸が苦しい毎日だよ」
棚町「ねぇ!?相手は!?相手は誰なのよ!?」
橘「伊藤香苗さんだよ、別のクラスの」
棚町「あぁ、桜井さんのお友達の」
棚町「へぇ!お似合いなんじゃない?」
橘「お似合いって言うな!……何か悔しいから……」
田中「橘君?それが嫉妬だよ?……ふふふっ」
棚町「梅原君と伊藤さん、付き合ってるんでしょ?」
橘「あ、それはね?」
田中「だって、今のも嘘だし」
橘・田中「うぇーい!」
棚町「……ここがバイト先じゃなかったら、ぶっ飛ばしてるわよ?あんた達……?」
橘「お、落ち着け!薫!」
橘「い、今から話すことは本当だから!」
田中「に、二度あることに三度目はないよ!?信じて!?」
薫「……話して?」
田中「で、でもね?梅原君の返事は……」
橘「『お、俺!正直どうしたらいいかわかんねぇ!』」
橘「『普段は橘に偉そうなことを言ってるけど、いざ自分が当事者になると混乱しちまって!』」
橘「『だから……男らしくないのはわかってる!すまねぇ!もう少しだけ考えさせてくれ!』」
橘「……だったんだよね」
棚町「ふむふむ」
橘「あ、ちなみに香苗さんはこう返したよ?」
田中「『わかったわよ。それだけ真剣なんでしょ?だったら私は待つわ。だから……納得できる答えをお願い』」
田中「……だって!」
棚町「へぇ?伊藤さんの方が男前だったのね」
棚町「……そんなに梅原君と伊藤さんにあったことをベラベラしゃべっていいの?」
橘「あー、うん。普段の僕なら喋らないさ」
田中「私もさすがに喋らないかな、あははっ」
橘「むしろ薫に喋ってくれって、さっき梅原に会ったときに言われたから」
棚町「へっ?」
田中「実はここに来る前に梅原君とばったり会っちゃって」
橘「『頼む!橘、田中さん!俺の退路を絶ってくれ!』って頭を下げられちゃったらね……」
棚町「も、もしかして!今日返事するとか!?」
橘「いや、今日だと『嘘』っていう逃げ道があるから、明日するってさ」
棚町「変な所で律儀なのね」
田中「それだけ真剣なんだってことなんじゃないかな?」
棚町「梅原君……あたしの知らない所でオトコを上げて……!」
棚町「純一!恵子!おめでたいわ!」
棚町「今から梅原正吉の男が上がったことを祝って、ささやかながら祝賀会やるわよ!」
橘「えぇ!?本人のいないところで!?」
棚町「いいじゃない!さらに退路が絶たれるし!」
田中「う、梅原君が伊藤さんに返事をしてからでもいいんじゃないかな?」
棚町「何言ってんのよ?その時はもう一度祝賀会か……もしくは残念会よ!」
橘「祭り好きめ」
棚町「ほら!あたしのオゴリよ!すきなものを頼みなさい!?」
田中「えー!?じゃあね?」
・
・
橘「そ、それでは!梅原正吉の男が急上昇中なことを祝しまして!」
橘・田中・棚町「うぇーい!」
他のフロアスタッフ「うぇーい!」
客「よ、よくわからないけど……うぇーい!」
橘「……自由なファミレスだな」
田中「あはは……客層まで自由な人みたいだよ?」
棚町「いいの!いいの!細かいことは気にしない!」
田中「そ、そうだよ!そんなことより橘君!?」
橘「あぁ……そのふざけたパフェを食べなきゃね」
田中「ノルマは一人一つだよ?」
棚町「あ、残したら許さないわよ!?」
橘「薫?その言葉を後悔することになっても知らないからな?」
橘・田中・棚町「うぇーい!」
・
・
橘「うぅ……甘いものもういらないよ……」
田中「あ、あと一口……!あと一口なのに……!?」
棚町「ど、どこのバカよ!?こんなのメニューに載せたの!?」
橘「何だ、薫?元気じゃないか?」
田中「一番ペース遅いの薫だよ?」
棚町「わ、分かってるわよ!今から本気出すから!」
橘「よし!いくぞ!」
橘・田中・棚町「うぇーい!」
橘・田中・棚町「……うぇっ」
・
・
棚町「ありがとうございましたー!また来なさいよー!?」
橘「うん、次は梅原も一緒だな!」
田中「伊藤さんも一緒だといいよね!」
橘「しかし……まだお腹が苦しいよ」
田中「あははっ、本当だよね……」
橘「梅原は……今、もっと苦しいのかな?」
田中「……苦しいんじゃないかな?」
田中「あ!わ、私も……ね?食べ過ぎじゃなくて……」
田中「……ううん、何でもない」
田中「あ、私……こっちだから!またね!」
橘「う、うん!梅原のことがはっきりしたら連絡するよ!」
橘(……僕も早く答えを出さなきゃいけないな)
完
なんだ次でついに進展するのか!?
田中さんうぇーいかわいい
乙
Entry ⇒ 2012.05.20 | Category ⇒ アマガミSS | Comments (0) | Trackbacks (0)
純一「みんなと、イチャイチャしよう!」
自宅 夜
純一「……ふぅ、いいお風呂だったなぁ。やっぱり寒い冬には、
あつーいお風呂にかぎるよ───」
がたがた!
純一「──って、えっ!? なんだ!? 急に窓が震えだしたぞ……!」
純一「ものすごく揺れてる……こ、これが遅れてきた怪奇現象ってやつなのか……っ!?」
がたん!
純一「ひっ!」
薫「はろー! 棚町さんの登場よー!」がらり!
純一「へっ……なっ……薫!? どういうところから現れるんだよ!」
薫「よいしょっと……いやーちょっと、アンタを驚かせてみたくって
こんな夜中に窓から入ってみたのよー。あ、靴はここに置かせてもらうわね」
純一「そ、それだけかよ……というか身体はり過ぎだよ! ここ二階だぞ!」
薫「ふふふ。アタシは冗談のためにだったら命だってかける女よ!」
純一「やめてくれ……朝起きたら玄関先に、お前の亡骸なんてものがあったらトラウマもんだから…」
純一「ちょっと待て。つまりなんだ、またこれから先もこうやってくるつもりなのか……?」
薫「あたりまえでしょ? だって、こんな夜中に訪れちゃ家の人に迷惑かけるじゃないの」
純一「僕に迷惑をかけるという考えはないのかお前には……」
薫「つまんないこといわないの! ほら、アタシがせっかく来てあげたんだから。
茶の一つぐらい出しなさいよね〜」
純一「……はぁ。わかったよ、お腹は減ってるのか?」
薫「おっ。なにか食べさせてくれるの?
というかよくアタシがお腹へってるってわかったわね……」
純一「カップラーメンしか無いぞ……どうせ、バイトの帰りに直接ここに来たんだろ?
だったらお腹の一つぐらい減ってるだろうと思ってさ」
薫「ふふっ。てんきゅ! できれば豚骨がいいわね」
純一「うちは塩派だ」
薫「えー! それだと食べた気がしないじゃないの〜……もっとこう、どん!
ってくるもんじゃないとアタシやぁだぁ〜」ぐだぁ
純一「あー……もう、へばりついてくるなって……わかったわかった。
そしたら、晩御飯の余り物の豚丼でいいんだな」
薫「んっ。おっけー!」
純一「はぁ〜……急に家に来やがって…
親にバレたらどうするつもりなんだよ。というか僕だけが怒られるだろこれって」すたすた
純一「えっと…残り物の豚肉は……あったあった。ご飯に乗せて、あとはチンだな」
美也「…あれ? にぃにキッチンで何してるの?」
純一「っ!?───や、やぁ美也! ちょ、ちょっと残り物を食べようかなって思ってさ!」
美也「晩御飯の? もうにぃにったらこんな時間に食べたら太っちゃうよ〜」
純一「だ、大丈夫だよ!ほら、僕ってば太りにくい体質だし………」カチャカチャ…
美也「……手が震えてるけど、大丈夫にぃに? 具合でも悪いの?」
純一「えっ!? あ、ああ大丈夫大丈夫! と、というか美也はキッチンになにかようなのか!?」
美也「みゃーは牛乳のみにきたのだ! さえちゃんみたいに大っきくなるためにね〜」ごくごく…
純一「……それは、なんというか無謀じゃないだろうか……」ぼそ…
美也「むっ。にぃに! なにか今、いった……!?」
純一「な、なんでもない! なんでもないから…あはは…」ちーん!
純一「──よし、チンできた! それじゃあな美也! 頑張っておっぱい大きくなれよ!」だっだっだ
美也「あ、こら! 言われなくてもおっきくなるよ! ばかにぃに!」
薫「おぉ〜! 美味しそうな匂いねぇ〜……いっただっきまーす」もぐもぐ…
薫「おいひぃ〜……!」
純一「味わって食べろよな。苦労してとってきてやったんだからさ」
薫「わかってるわかってる……もぐもぐ…それにしても、アンタって本当に兄弟の仲いいわよね…」もしゃもしゃ
純一「ん、なんだよ。聞こえてたのか?」
薫「ごくん……んまぁ、ほんの少しね。アンタが妹に対してセクハラ発言したところとか」
純一「セクハラいうなよ。あれはいつも通りの会話だっ」
薫「ごくっ…ごくっ……ぷはぁ──それがすごいってアタシは言ってるのよ。
フツーは兄妹でもあんな会話なんてしないもんだと思うわよ?」
純一「それはあれだよ……お前が兄妹いないからであって。どこの家庭も一緒なもんさ」
薫「……そうかしらねぇ。ま、でも。アンタもしアタシの兄だったらとしたら…アタシもああ言う風に
おおっぴろげな会話をしそうだわ、うん」
純一「……褒めてるのか、それって?」
薫「うん? ふふふ、自分で考えなさい〜」
純一「絶対にバカにしてるな…その笑顔は」
薫「ふぅー……食べた食べたぁ。ごちそうさまでした、純一ぃ!」
純一「うん。ちゃんと僕のもお礼をいってくれ」
薫「はいはい、持ってきてくれてあんがとね〜」
純一「どうして持ってきた僕に対してはぞんざいなんだよ……まったく」
薫「あははー! 気にしないきにしな〜い」
純一「……んで、お前はこんな夜中に何しにきたんだよ。
ただたんに飯を食いに来たってわけじゃないんだろ?」
薫「えっ?」
純一「………まさか、それだけなのか?」
薫「あ、これってアンタのアルバム? ちょっと見せて〜!」
純一「話しをそらすなよ! 薫、お前本当に…!」
薫「……もう、なによ? はいはいそうです、アタシはご飯をもらいに純一の家にきました。
これで文句ないってわけ?」
純一「あーはいそうですか。なんて返すわけないだろ!
おいおい……てっきり何か用事があるって思ってれば……」
薫「……………」
純一「なんだよ、タダ飯ぐらい。お別れの言葉か?」
薫「ちっがーうわよ。そうじゃなくて、アンタにちょっと言いたいことがあんのよ。
とりあえず、アタシと一緒に……そこに正座しなさい」
純一「……急に改まってどうしたんだよ。まぁ、聞くけどさ」すっ…
薫「うむ。よろしい」
純一「………」
薫「………」じぃー
純一「………はやくいえってば」
薫「………───」
薫「とぅるぅやー!」がばっ!
純一「おっ、おま……どぅあ!?」ばたん!
薫「んっふっふっふ〜……」ニヤニヤ
純一「ちょ、薫…ッ……なんだよ急に飛びついてきて…!おもい…!」
薫「こらっ。乙女に向かって思いなんて言わないの純一!」
純一「だって本当のこと……おふっ!? 肘をみぞおちに入れるなよ!」
ねぇ、純一ぃ……」
純一「な、なんだよ……ちょ、息を耳に吹きかけるな…っ…!」
薫「なによ…くすぐったいの? ふふ、んじゃもっとふきかけてあげる…ふぅ〜」
純一「お、おふぁ〜!? ば、ばかやめろってば…!」
薫「んもう、大げさねぇ……これぐらいのことでウダウダいわないの」
純一「僕にとっては強がるものじゃないぞ…これって…!」
薫「耳が弱いってことを、アタシにバレたことは…後々後悔するんじゃないかしら?」
純一「それは……たしかにそうだけど、急にやられたら僕としても対処ってもんができないだろ…!」
薫「急にやるからいいんじゃないの。まぁ、それは今後にとっておくとして……純一。
今、アタシの心臓の音……聞こえる?」
純一「な、なんだよ……急に」
薫「いいから。これだけ密着してれば耳に届くよりも、身体で感じない?」
純一「ま、まぁ……確かに。聞こえるし、感じるよ。薫の心臓の音」
薫「でしょ。んで、その聞こえる心臓の音は……今はどんな感じかしら」
純一「……速い、かな?」
薫「……そそそ。当たりよ純一……今、アタシはものすごく鼓動が速いの。
それはなんでかしら?……純一にはわかる……?」すっ…
純一「それは……というかま、まて。それよりも……か、顔が近いぞ…薫…」
薫「答えになってないわよ…? それとも、答えたくないのかしら…?」す……
純一「こ、答えるから! 答えるから顔を近づけのを辞めるんだ薫……!」
薫「ん? どうして純一…?顔を近づけたら、アンタは何が困るっていうの…?」すす…
純一「そ、それはー……い、色々とだよ! 色々と!」
薫「そう、色々……色々と困るね。アンタは……」すすすっ……
純一「わ、わかってて…どうして更に近づけるんだよ!」
薫「だって、困ってるアンタの顔は……アタシは、大好物だもの。知ってるでしょ?」
純一「し、しらないよ…!」
薫「うそおっしゃい。ほら、ちょっと口の端がにやけてるじゃないの」
純一「え、本当にか……!?」ばっ
薫「う・そ」
薫「騙してないわよ? ただ事実を言っただけよ、ほら……アンタがアタシの心臓の音が聞こえると同じで、
アタシにも純一の心臓の音は聞こえてるの……」
薫「だから、ね? 口でなにをいっても……アンタが、ナニカを期待しているのはお見通しってワケ」
純一「むぐぐ……」
薫「うん? あはは、悔しそうね純一ぃ……ふふっ」
純一「な、なんだよ…笑うなって! こ、これは男としては普通の反応であってだな…!」
薫「はいはい、わかってるわかってる。アンタは紳士でかっこいい男なんでしょ…?」
純一「そ、そうだよ! ちゃんと紳士らしく…こうちゃんとやってるつもりだよ!」
薫「へぇ〜。耳に息を吹きかけられただけで悶えてたのにぃ?」
純一「そ、それは………!あれだよ……」ゴニョゴニョ…
薫「あはは。アンタって本当に単純ね〜」
純一(く、くそぅ……なんだか薫に手玉に取られて悔しいな…ちょっと仕返ししてやるか…)
薫「──あー面白かった。うん、からかってごめんね純一。
アンタが釣れない事言うから、ちょっとからかってやろうって思ってさ───」すっ…
純一「……薫、ちょっとまて」ぐいっ
純一「………」ぎゅう…
薫「ちょ、ちょっと…! なによ引っ張って…は、離しなさいよ…!」
純一「…………」ぎゅう…
薫「な、なに純一…? 怒ってるの…? ま、まぁ…ちょっとやりすぎたって思ってるけど…
というか、抱きつく理由はなにかあるっていう───」
純一 ふぅ〜……
薫「──ひゃぁいっ!?」
純一 ふっふっふ〜……
薫「っっ〜〜〜〜!!! ひゃうっ……じゅ、じゅんいちっ…アンタっ…!」
純一 ふぅ〜……
薫「や、やめて……ッッ〜〜〜〜………い、いやっ!……あ、ちょ…だめだから…!」
純一 ぺろぺろ
薫「ひゃあああああう!?」
純一 はむはむ
薫「ッッ〜〜〜!!」びくん!
純一(───どうだ! 思い知ったか薫!
お前がいつもジャングルに隠し持っているその耳……それがちょっと弱点だってことは実は僕も知ってたんだよ!)はむはむ
薫「や、やめてっ──ほんとっ……それは、だめ──ひぅっ…!?」
純一(いいややめないね! 男心を弄んだお前には……ちょっと躾が必要だよ!)ぺろぺろ
薫「ひっ…! な、なめるのは…反則でしょ……ッ…!純一ぃ……っ」びくびく…
純一(反則なんかじゃないさ……これは紳士の行いだ!
紳士且つ紳士の為の荒業……全てはここにある!)ぺろぺろぺろぺろぺろぺろ
薫「─────」びくんっ…!
純一「……ぷはぁ……ふふ、どうだ薫……思い知ったか!」
薫「っ……っはぁ……っはぁ……あ、あんた……本当に、馬鹿よね……!」ぐたぁ…
純一「馬鹿じゃないさ! これは正当な反撃なのさ!」
薫「っはぁ……はぁはぁ……もう、ばかに馬鹿だといっても無意味ね……耳がべとべとじゃないの…!」
もじゃもじゃが可愛いいと思えてしまう
なに言ってんだおめぇ?もじゃ子はもともと可愛いだろ
……というかかおる相手じゃないと、ここまで僕も反撃できないよ」
薫「あ、当たり前でしょ…! 他の人にやってみなさい……いの一番でお縄になるわよ……!
……はぁー……疲れた、ほんっとにつかれたわ……よくもやってくれたわね純一……」
純一「ああ、僕も舌が疲れたよ……」ぎゅう…
薫「でしょうね……というか、いつまで抱きついてるのよ」
純一「もう少し?」
薫「どうしてよ……?」
純一「だって、離したら薫から反撃が来るだろ?」
薫「……あら、わかってたのね。それはいい覚悟ね」
純一「う、うん…だからさ、ほら…薫がどうでもよくなるまで、こうやって抱きついておこうかなって」
薫「…悪化する一方だと思うけど?」
純一「なら、また舐めるだけだよ」
薫「っ……そ、そしたら今度はアタシが舐め返すわよ?」
純一「っ……そしたら、こ、今度は僕がおかえしに舐め回すぞ?」
薫&純一「…………」
純一「……そうだな。確かに」
薫「──でも」
純一「うん?」
薫「…………」
純一「…どうした、薫」
薫「……まだ……まだ──」
薫「──まだ、こうやって抱きついてても……いいわよ。純一」
純一「……いいの、か? こうやって抱きついてても」
薫「……うん。こうやって、アタシのことを止めててもいい。
暴れださないように、仕返ししないように、逃げ出さないように……ね?」
純一「そ、そっか…そしたら抱きついておこうかな。うん」
薫「…………」
純一「………さ、寒くないか?」
薫「…うん、あったかいわよ。純一」
純一「…………」ポリポリ…
薫「──……ん。純一、やっぱり寒いわ」
純一「…え?」
薫「確かにアンタあったかいけど……よく考えたら、普通にこの部屋さむい」
純一「そ、そうだな……暖房つけるか?」
薫「……」ふるふる
純一(もじゃもじゃが当たって痛い…)ぺちぺち…
薫「……暖房はいいの。だって、アンタ寝るとき暖房つけっぱにしないでしょ?」
純一「う、うん。まぁそうだけど……?」
薫「だ、だから……そのっ……あれよあれ!」
純一「あ、あれじゃわかんないよ……なんだよ、薫」
薫「……も……」
純一「も?」
薫「っ………も、毛布とかに包まれば……いいんじゃないかしら……っ?」
薫「み、みなまでいわないの…!
あ、アタシは寒いから……!そのっ、毛布にくるまりたいっていっただけよ…!」
純一「お、おう……毛布にくるまりたいだけ……なんだよな?」
薫「そ、そうよ? なんか文句でもあるっ?」
純一「い、いや。ないけど……それじゃあ、その……布団、行くか…?」
薫「っ…………」こくっ…
純一「わ、わかったよ……それじゃあ…」すっ
薫「…あ、まって純一…!」
純一「ど、どうした薫…?」
薫「と、とりあえず……アタシから離れないでくれないかしら……ッ?
あ、あたし…そうじゃないとに、逃げ出しそうで…!」
純一「逃げ出しそうって……」
薫「あ、アンタがそれでいいっていうんなら……アタシはとやかく言わないけど……っ…」
純一「………」
薫「とにかくアタシは…その……」ごにょごにょ
薫「きゃっ……!?」
純一「お姫様抱っこだ。これでくっついたまま動けるよな?」
薫「えっ? あ、うん……そうね、そうよね! た、たしかに……!」
純一「……さっきは思いって言ってごめん。めちゃくちゃ軽いな薫」
薫「そ、そうでしょ…! アタシはこれでも体調管理はやってるほうなんだから…!」
純一「そうか、そしたら……布団の上におろす、からな?」
薫「あ、うんっ……おねがい、純一…」
純一「…よいしょっと」
薫「…………」ぽす…
純一「………」
薫「……な、なによ…純一、じっと見つめて…?」
純一「い、いや……自分のベットに他人が寝てるのを見るのって……なんかちょっと新鮮で…」
薫「そ、そうかしら……? と、とにかく毛布…お願いできる…?」
薫「て、てんきゅ……」どきどき…
純一「──ほら、これでいいか?」ふさ…
薫「う、うん……いい毛布ね! うん、すごいいい毛布!」
純一「そ、そうか……ありがとう」
薫「……じゅ、純一も…べっとに座ったら…っ?」
純一「えっ!? あ、うんっ……わかった。よいしょっと……」ぎしっ…
薫「っ………」
純一「………っ」
薫「──そ、その……も、毛布をさ、じゅんいち…その…アタシにかけてくれない…?」
純一「う、うん……わかってる──……こう、か?」ばさぁ…
薫「…………」
純一「えっと……薫…?」
薫「………お、おっけよー!」ぴょこ…
薫「………」じぃー…
純一「な、なんだよ…薫…毛布から顔半分だけだして……?」
薫「……純一は?」
純一「えっ……?」
薫「……純一は、入らないの?」
純一「えっと、その毛布にか……?」
薫「………」こく
純一「あ、あはは……えっと僕あせかいてるし、汚いかなって…うん…!」
薫「……あたしは、気にしない」
純一「ぼ、僕が気にするんだよ…!」
薫「……大丈夫よ。だってアタシは今、純一の匂いに包まれてるし」
純一「……そ、そういうこと……いうなよ、薫……」
薫「どうしてよ? くさくないわよ、ほら……」すっ…て
薫「おいで、純一……一緒に、入りましょ?」
薫「……ほら、熱気が逃げちゃうじゃないの…はやく、純一」
純一「………………………わ、わかった。入るよ…」ごそっ
薫「…………」
純一「よいしょっと……」もぞ…
薫「う、うんんっ……」もぞもぞ…
純一「あ、ごめん…髪の毛頭に敷いちゃったか…?」
薫「っ! ち、違うわよ…? ちょっとその…あれだけよ! わ、わかるでしょ…?」
純一「えっ? あ、うん……そ、そうだな! あれなだけだよな! うん!」
薫「…………」
純一「…………」
薫「……ねぇ、純一ぃ…」
純一「ひゃい!?」
純一「す、すまん……なんだよ、薫…?」
薫「……なんとなくだけど…その、手……繋がないかしら…?」
純一「……手をか…?」
薫「そ、そそ……っ…というか、その……これはお願いっていったほうがいいかしらね…うん」
純一「…えっと、その…薫。お前は……僕に手を繋いで欲しいってこと、か…?」
薫「そ、そうなるわねっ……」
純一「お、お安い御用だ……う、うむ……」ごそっ
薫「………」すっ
純一「…………」すっ…
すすっ……ぴと……ぎゅ…
薫「──アンタ、手のひらあっついわね」
純一「……薫こそ、ものすごく熱いな」
薫「……ねぇ、そっち向いてもいい?」
純一「え、う、うん……どうぞ…」
薫「………」ごそっ……
純一「っ……ち、近いな。薫……」
薫「───そうね……近いわね」ぎゅっ…
純一「…そ、そんなに手を握らなくても、逃げやしないって…」
薫「うん、わかってる……わかってる純一」
純一「そ、そうか……」
薫「…………」じっ…
純一「……か、薫…?」
薫「……純一、ありがと…」
純一「ど、どうした。急に…」
薫「こんな我侭なことを聞いてくれて……ありがとうね、純一」
純一「い、いいっってことさ…!だって、薫と僕だよ?
そんな遠慮なんて、いらないだろうさ」
純一「…うん、そうだよ」
薫「いつだって…素直に話して、いつだって一緒にいる」
純一「…こうやって、ベットの中にはいったりな」
薫「ふふふっ…そうね。そして仲良く手を握り合って」
薫「……顔が触れ合いそうな距離で、こうやって話してる」
純一「そう、だな」
薫「……ねぇ、純一。いってもいい?」
純一「…うん? どうした、薫」
薫「好き」
純一「……と、唐突だな…薫…」
薫「ふふっ…もう一回ってあげる」
薫「好きよ、純一。大好き」
純一「う、うん……ありがと。薫」
純一「え、僕は……」
薫「アタシのこと、嫌い?」
純一「嫌いじゃないよ!」
薫「…じゃあ、好きなのね?」
純一「………ま、まぁ…そうなるな。うん…」
薫「…………」じっ…
純一「…………わ、わかったよ…ちゃんと言えばいいんだろ…?
ご、ごほん……」
純一「好きだよ、薫」
薫「──アタシも、大好き。こんな単純なことしか言えないぐらいに、
アンタのこと……もう好きでしょうがない」
純一「…………」
薫「どうしよもないの…今日だって、アンタに会いたくて会いたくてしょうがなくて…
こんな夜中にきちゃったんだもの」
純一「…そっか。そしたらごめん…色々と迷惑がってさ」
薫「なにいってるの。あれが当たり前の反応よ、あれはアンタが正しいの」
純一「…確かにな、それもそうだよ」
薫「でもそれが、そのお人好しが……アタシだけに向いてくれてるなら。
……そうね、もしかしたらアタシ……発狂しちゃうかも」
純一「…嬉しすぎて?」
薫「…そそそ。純一がアタシだけに優しくて、かっこよくて、好きだって言ってくれてる。
それが現実になったのなら、アタシはアタシでなくなっちゃうと思うわ」
純一「そこまでか…」
薫「そこまでよ。そこまでのことを………アンタに今、アタシは思ってる」
純一「そっか。素直に……そうだね、嬉しいよ薫の気持ち」
薫「うんっ……てんきゅ……純一、ねぇ、純一…」
純一「…どうした、薫」
薫「今、アタシは純一の前にいるかしら?」
純一「…ああ、いるよ。薫の顔が目の前にある」
薫「てもつないでる?」
純一「ああ、つないでるさ。ついでに言うと一緒に毛布にくるまってるぞ」
純一「…そうだな。確かに夢みたいなことやってるな」
薫「……」ぎゅ…
純一「……」ぎゅ…
薫「───……純一、好き」
純一「…うん、僕も好きだよ。薫」
薫「…………」
純一「…………」ごそ…
薫「……純一…?」
純一「好きって入ってくれたから、お返しだよ」
薫「おかえし…?」
純一「さきにいわせちゃったからな……だから、お返しだ」
薫「……ふふっ。そう、お返しね…」すっ…
純一「ああ、これはお返しだ薫…」
ちゅ
薫「──……仕返し、出来たかしら?」
純一「──……ばっちりだ、うん」
薫「それじゃ、次はアタシの番ね」
純一「え?」
薫「言ったでしょ? 仕返しを受けたら、やりかえすって」
純一「え、あ、うん…言ってたな。うん、確かに」
薫「でしょ。だから、ほら……今度はアタシの番」ぐいっ…
純一「か、薫……そんな強く引っ張らなくても…!」
薫「純一…純一……大好き、本当に大好き……」ちゅっちゅ
純一「あ、ちょ、き、キスじゃないの…っ? そこは、首筋っていうか──おおう!?」
部屋の外
美也「…あ、あわわわ……に、にぃにが…にぃにが……」
美也「ベットで独り言をいってる……!?」
美也「……そ、そっとしておこうっと……うん……みゃーは…いつも味方だからね……」ほろり…
これから書く全員エロはないのでご勘弁を
目標はアマガミ登場人物全員とイチャコラです
ではうんこいってきます
十分で戻る
支援なり!!
美也「にぃに……にぃにってば!」
純一「う、うーん……なんだよ美也…今日は学校休みだろ…?」
美也「それは知ってるよ! とりあえず起きってってば!」
純一「う〜ん……むにゃむにゃ……寒い! え、なんだこの寒さは……!」
美也「も〜うっ! にぃに、昨日おかあさんがいってたでしょ? 明日は寒くなるからって」
純一「いってたっけそんなこと……ふわぁ〜…寒いから、もうちょっと布団の中に……」
美也「ふんにゅるぅ〜!!」がばぁ!
純一「う、うわぁ!?」ごろん
美也「っもう! にぃに、今日はみゃーと遊んでくれるっていったでしょ!」
純一「え……いったっけ…?」
美也「いった! いったもん!」
純一「…えー……」
美也「えーじゃないよ! ほらほら、早く着替えてにぃに!」
純一「さっむい! 今日は格段とさむいよ…!」
美也「今夜は雪降っていってたよ、明日が楽しみだねっ」
純一「え〜……寒いの嫌だよ、僕……」
美也「雪だよ、雪なんだよにぃに? 」
純一「だからどうした…」
美也「白いのがふわぁーって舞って、いっぱいっぱい積もるんだよ?
そしたら積もった雪をざくざくって踏んで歩くの」
純一「……で?」
美也「……もう! にぃにってばロマンチックのかけらもないんだね…。
こりゃ彼女もできませんわ〜」
純一「あ、こら! 彼女ができないのは関係無いだろ!」
美也「あっりますよーだ。みゃー一人えすこーとできないにぃになんて、
一生彼女なんてできっこないよ!」
純一「……いったな、美也」
美也「ふんだ。あたりまえでしょっ……にぃにってばいっつも、ぐーたら
ぐーたらしてるだけなんだから」
純一「わかった。それじゃ見せてやるよ」
美也「えっ……?」
純一「そこまでいうのなら、みせてやるっていったんだ。僕の、本気をな…っ!」
美也「に、にぃにの本気だなんて…たかがしれてるよ…っ!
どうせ牛丼屋なんか連れてって、肉大盛りでいいよ。なんて言うんでしょ?」
純一「これを見ろ。美也」ぴらっ
美也「なにそれ?」
純一「とあるレジャー施設の…カップル招待券だ。ついでにいうと期限は今日まで」
美也「へ〜! なんでそんなのもってるのにぃに?」
純一「……聞くな、美也。これは色々と事情があってだな…うん」
美也「…よくわかんないけど、とりあえず深く聞かないでおくことにするよ…」
純一「そんでもって美也! 行くぞ!」
美也「えっ? どこに?」
純一「このレジャー施設に、だ!」
美也「え、え〜!? で、でもそれってカップル専用って…にぃに…」
純一「エスコートしてやる」
美也「……ま、まさかにぃに…みゃーと行くつもり…?」
純一「この際、色々と思うことは全て無くすんだ美也。
お前は今から、全て僕に任せて……全力で楽しめばいい」
美也「楽しめばいいって……にぃに、本気で言ってるの?
えすこーとできないっていったのは謝るからさ……」
美也「素直に公園に行って、バトミントンとかしようよ」
純一「だめだ……美也、僕のハートには火がついてしまったんだ。
連れて行くったらつれて行くからな!」
美也「え、ちょ、にぃに……!?」ずりずり…
一時間後
純一「さて、チケットも渡したし……行くぞ美也!」
美也「……はぁ。本当にきちゃった…」
これはちょうどよかった! 美也、どうやら僕のアピールチャンスがいっぱいあるようだぞ」
美也「妹のみゃーにアピールチャンスがあってどうするのにぃ───」
純一「こら、美也!今はにぃにじゃない、純一だろ?」
美也「えっ……そこまでするの…?」
純一「当たり前だろ。入るにはまず形から、にぃにだなんて呼ばれてたら…僕、変態扱いされちゃうし…」
美也「で、でも……名前で呼ぶなんて、ちょっと恥ずかしいよ…っ」
純一「にぃにって呼ばれる方がもっと恥ずかしいよ…っ!」
美也「ぐむむっ〜………」
純一「その…なっ? 中で好きな食べ物買ってやるからさ、お願いだ美也!」
美也「………」
純一「………」ちらっ
美也「──はぁ…わかったよ、そしたらにぃにはやめればいいんだね…」
美也「…っ……じゅ…じゅんちい…」
純一「誰だよそれ! 僕の名前はじゅ・ん・い・ち。ほら、繰り返して」
美也「じゅ、じゅ・ん・い・ち………っ」
純一「そうそうそう。そしたら今度は、呼びかけるようにいってみな」
美也「………じゅ、じゅんいち……」ぷいっ…
純一「こら、そっぽを向くんじゃない。ちゃんと僕の顔を見ながら言うんだよ、さんはい!」
美也「っ……〜〜〜っ………」くる
美也「じゅ……」
美也「───できっこないよ!!!ばかにぃに!!!」がりがりがり!!
純一「ぎゃああああああああああ!!」
数分後
純一「そ、そうだそれでいい……それなら、僕も文句はないから…!」
美也「純にぃに……これで、本当にいいの…?」
早速中に入ろうか……」すたすた…
美也(大丈夫かなにぃに……本当に、みゃーのことえすこーとできるのかな…?)
純一「──よし、さっそくだが今回はこれだ美也」すっ
美也「嘘発見器…? なにこれ、純にぃに」
純一「えっと、パンフレットによるとだな……恋人同士の信頼度を図るための機械らしいよ。
二人席に座って、手首に機材を巻いて……」まきまき
美也「うんうん」まきまき
純一「真ん中にあるボタンを、押す」ぽち
美也「押したよ?それからどうするの?」
純一「それから……前方の画面に映る質問に答えつつ、計測を待つだけ…だってさ」
美也「…なんだかウソっぽいね。嘘発見器なのに。にししっ」
純一「まぁ、とりあえずやってみるか…」
『第一問 二人の間に隠し事はない いえす・のー』
純一「イエス。隠し事すらないな僕」
美也「イエス。みゃーもない……なんだかニィにと一緒だなんてやだな…」
純一「純にぃにだよ!」
『第二問 二人の関係性は家族よりも厚い』
美也「これはどうこたえるべきなの……」
純一「……ふ、普通にイエスでいいんじゃないのか…?」
美也「実際家族だもんね。イエスー」
『第三問 お互いに思う気持ちは、いつまでも一緒』
純一「うーん……とりあえず、イエスだな」
美也「イエスなの?」
純一「うん、だって妹だし」
美也「それ、いっちゃだめだとみゃー思うんだけど……」
純一「速い…!? もう、質問終わりなのか…!?」
美也「…パンフレットを見ると、十五問はあるってかいてるけど……どうしてだろうね」
『ぶっちゃけ、好きで好きでたまらない』
純一「ぶっちゃけってなんだ……」
美也「これ作った人、絶対に頭悪い人だよ…みゃーでもそう思うもん」
純一「美也に言われたらオシマイだな……とりあえず、イエスで」
美也「こ、これも…イエスなの…?」
純一「思い出したんだけど、これって美也を恋人に置き換えて質問に答えなきゃいけなかったよなって思って」
美也「今更だよ純にぃに…じゃあみゃーも、い、いえすで……」
ぴろろーん
『集計しています──しばらく、お待ちください。機材を取り外しお待ちください』
純一「いったい、どうなるんだろう…」べりべり…
美也「どうせ、ろくでもない結果が出るにきまってるよ。みゃー占いとか信じないし」
『集計結果がでました。中央に出た紙をお取りください──』
純一「ん。出たみたいだ……なになに──」
純一「──なん、だと……?」
美也「ん? どうしたの純にぃに……よいしょっと」ひょい
美也「えっとー……なになに…
『二人の関係は──兄妹。仲がよろしいことは素晴らしいですが、この機会は恋人同士の観測機です。
ですが特別に集計した結果を下記に載せておきます』って…えー! ばれてるよにぃに!」
純一「侮ってた……まさか、ここの嘘を見破ってくるとは……だから質問が少なかったのか…?」
美也「でも、結果はあるって……ふぇ〜…ちゃんと二人の愛情度ってのも乗るんだね。ふむふむ……ッ!?」
純一「意外とすごい機械だった…それだと、結果も信用するしかないよな。なぁ、美也──」
美也「だ、だめっ……!!」ささっ
純一「──え? どうしたんだよ、美也。僕にもみせてくれよ…」
美也「だめったらだめ! にぃには呼んじゃダメ!」
純一「え、え〜……なんでだよ。いいからみせろって!」
美也「あっ……!」
純一「なになに、女性側の観測結果……彼女は、男性のことをベタ───」
美也「ふにゃぁああああああああ!!!!!」がぶっ
純一「ぎゃあああああ!!! み、美也!! 手にかみつくなよ痛い痛い!!」
美也「ふしゃあああ!!にゃあああ!!」ぶんぶん!
純一「ごめん、ごめん!!返すから!!返すから離してくれ…!!」
美也「ふしゃー……にぃに、にぃに! これはみゃーが預かるからね!絶対だよ!」
純一「わ、わかったよ……何だよ急に…いてて…」
美也「っ……」ぺら…
『女性側の観測結果、彼女は男性のことをベタ惚れしています。
だめなところや、いいところ。全てを知っている貴方は、こわいものなし。いつでも男性をとりこに出来ますよ』
美也(こ、こんなの見せられないよ……た、例えそう思ってなくても……う、ううっ…よかった、にぃにに見られなくて…っ)
やっぱり嘘っぱちなんだよ……!)
純一「いてて…歯形がびっしり……」
美也(──それに、にぃにも全然だめ。もっといいイベントとか、あったと思うのにこれだもん……ダメだね、にぃにはやっぱり)
美也「……はぁーあ…こなきゃよかったなぁ…」ぼそ…
純一「──………」
美也「……ふぅ。ねぇ、純にぃに」
純一「……うん、どうした美也?」
美也「みゃーお腹へっちゃった。あっちに良い匂いがするお店あるから、お昼ごはん食べよ」
純一「ん、そだな。食べようか」
レストラン
美也「うわぁー……高級そうなところだねぇ〜」
純一「だな。でも、チケット半券を見せれば半額になるらしいぞ」
美也「ほんとに!? じゃ、じゃあ、みゃーこれたべたいな!」
美也「ち、違うよ! そのとなり! とろとろオムライスのほうだよ!」
純一「あ、そうか。ごめんごめん……そしたら僕はその隣りのハンバーグにしようかな」
美也「あ。それも美味しそうだね〜」
純一「そしたら、あとで分け合うか?」
美也「いいねっ。いいねっ! そしたらこのデザートも良いかな!」
純一「いいよ、好きなの食べな。すみませーん」
「はい、ご注文をどうぞ」
純一「えっと、このオムライスをひとつ。それとこのハンバーグセット。
あとはー……このデザートをひとつ」
「かしこまりました。それではご注文はこれで?」
美也「はい、おねがいしまーす」
純一「──あ、すみません。さっきのオムライス…少し冷ましてから持ってきてください」
美也「え、にぃに……?」
純一「彼女が、猫舌のものでして。あ、ほんのすこし冷ますだけでいいんで」
「かしこまりました。少々お待ち下さい」
純一「お願いします」
美也「…………」じぃー
純一「…ん? どうした、美也。僕の顔をみつめてさ」
美也「……別によかったのに、にぃに」
純一「よくないだろ。猫舌のくせして、火傷したら痛いんだぞ?」
美也「べ、べつにみゃーは子供じゃないし…慌てて食べたりなんかしないよ…っ」
純一「知ってるよ。お前はもう高校生だからな、そういうことはしないってわかってる」
美也「…なら、どうしてあんなこといったの?」
純一「……うーんとだな、お前がちょっとつまらなそうな顔をしたからだよ」
美也「えっ…?」
純一「だって、お前がそんな顔した時って必ず……相手のペースに合わせようとするだろ?
自分が楽しくないのなら、他の人を楽しませて…一緒に楽しくなろうってやつ」
美也「……よくしってるね…にぃに」
純一「一応、美也とは付き合い長いしな。ははは、まるで恋人みたいなだな、このセリフ」
美也「っ〜〜〜……で、でもそれがなんの関係があるっていうのっ?
その癖はあるけど、オムライスとは関係無いように思うんだけど…!」
そしたらここで時間を取る暇はないって思うお前は、とりあえず二人して遊ぶ時間を優先するはずだ」
美也「…………」
純一「個人で楽しむ時間を少なくして、二人の時間を増やそうとする。
……いつもの美也なら僕に対してしない気遣いだけど、今日は特別だって思ってくれてるみたいだし」
純一「まぁ、つまりはオムライスを急いで食べようとする姿が目に見えてたからってわけだよ」
美也「………」ぼー…
純一「なんだよ、不満か?──あ、僕のハンバーグセットもちゃんと冷ましてからあげてやるから、心配すんなって」
美也「……ち、ちがうよっ……もう、ばかにぃにっ…」ぷいっ
純一「な、なんだよ……あ、ほらきたぞ。速いなぁ……」
美也「………」
「おまたせしました。こちらハンバーグセットと、注文を通り少し覚ましたとろとろオムライスでございます」
純一「ありがとうございます」
「では、ごゆっくり」
美也「…………」
純一「どうした、美也。たべていいんだぞ?」
美也「……食べるよ、ちゃんと食べる。でも」
純一「でも?」
美也「……もうちょっとだけ、冷ましてから食べるから…いんでしょ、純にぃに」
純一「……ああ。好きなときに好きな熱さで食べろ美也。ちゃんと味わって食べろよ」
美也「う、うん……にぃには食べないの?」
純一「…うん? ああ、僕もどうやら今日は熱いのはダメみたいでさ。ちょっと冷ましてから食べるよ」
美也「それ、みゃーに気を使ってじゃ……ないよね?」
純一「当たり前だろ。ははは、面白い事を言うなぁ美也は」
美也「──にししし。そうだね、そうだよねっ」
数十分後
純一「あー…美味しかった。すごいなまた来たいよ」
美也「デザートも美味しかったね〜!」
美也「うんとねー、そしたらここがいいかなっ」
純一「ここって……おいおい。そこは出口じゃないか美也…」
美也「うん、そうだよ。美也、もう満足したもん」
純一「満足って……ほら、まだもっともっと楽しそうな施設がいっぱいあるぞ?
ここのおさかな天国っていうやつ、すごく楽しそうじゃないか」
美也「ううん、いいの。みゃーはちゃんとわかったから」
純一「わかったって……なにをだよ?」
美也「………にぃにのすごい所!」ぎゅっ
純一「あ、こら急に抱きつくなって……!それとにぃにはやめろ…!」
美也「にぃにはにぃにだよ? もう、純にぃにとかやめやめ!」
美也「今日はにぃにのえすこーとできるところを見たかっただけでしょ?
それはもう十分みれたよ!」
純一「見れたって……まだろくになにもやってないぞ?」
美也「……ん、まぁそれを言われるとそうだけどね」
純一「おいおい」
純一「なんだよ?」
美也「……美也はべつに、にぃにのえすこーとが見たくてここにきたんじゃないんだよ」
純一「そうなのか…?」
美也「うん…今日は、本当ににぃにと……遊びたかっただけ。一緒に遊んで、楽しんで。
いっぱい笑ってそれだけで…よかったの」
純一「………」
美也「もともとの約束は、一緒に遊ぶってことだったでしょ?
だからみゃーが満足したら今日の約束はおしまいってことだよにぃに」
純一「……なるほど。そういうことか」
美也「だから、みゃーはもっとお気軽な所がいいなぁ〜。にぃにと遊ぶんだったら、こんなところじゃなくてさ。
もっともっと楽しいことがいいよ」
純一「…………」
美也「今度は、一緒に映画とか見に行こうよ! パンチキックとかアクション映画!」
純一「そうだな。今度は映画でも見に行こうか、それだったらお互いに無理せず遊べるもんな」
純一「おう。そしたら帰るか」
帰宅路
美也「……夕日が綺麗だね、にぃに」
純一「うん? そうだな、確かにそうだ」
美也「…………」
純一「……なぁ、美也」
美也「うん? どうしたのにぃに?」
純一「今日は──楽しかったか?」
美也「もうっ。何度も言わせないでよにぃに……楽しかったってば!」
純一「本当にか?」
美也「ほんとうに、本当にだよ。ちゃんと楽しかったって逢ちゃんの交換日記にも書くよ?」
純一「……そうか。それならいいんだ、うん」
美也「にしし、にぃにも心配性だなぁ〜」
にぃにってば…本当に編に鋭い所あるよね〜……はぁ、楽しかったけど)
美也(……やっぱり、信用出来ないよね。占いとかそういうのって)かさっ…
美也(……さっきの嘘発見器の紙のつづき
『特に検査を行った今日、貴方はとても頑張れることを理解できるでしょう。
それは貴方の人生を深く変えるものであり、今後を左右するほどのものです』)
『──理解は簡単ですが、認めることはたやすくない。ですがその壁を乗り越える力を与えてくれるのは……男性の方です。今日という日を必ずお忘れにならぬよう、ご注意ください』
美也(なーんて仰々しく書いてあったけれど、なんともなかったしね……)
美也(……でも、なにが欲しかったんだろ…にぃにに、みゃーは…)
美也(人生を深く変えるもの……そんなこと、まったく考えたことなかったけど…
でも、今のみゃーは、ちょっぴりがっかりしてる)
美也「……今日は、にぃにと出かけられて…嬉しかったのになぁ…」
純一「よいしょっと!」ぐいっ!
美也「にゃぁあ!? え、なになに!?」
純一「なにって、お姫様抱っこだけど?」
美也「……えっ?!どうして急にそんなことするのっ…!」ばたばた!
純一「あ、こら暴れるなって。ちゃんとだっこできないだろ」
美也「暴れるにきまってるよ…! どうしてこんなことするの!」
純一「エスコートだよ、決まってるじゃないか」
美也「えすこーとって……もう終わったんじゃないの…?」
純一「確かにお前は満足したかもしれないけど──僕は満足してない」
美也「満足も何も……とにかく誰かに見られたら恥ずかしいよっ…!」
純一「我慢するんだ。僕も、がんばってる」
美也「に、にぃに……?」
純一「………な、なんというかその…あれだよ、あれ…」
美也「な、なに……?」
純一「──すまん、実は嘘発見器の紙……全部読んでたんだよ、最初に」
美也「えっ………」
純一「えっとその、な……? 美也の集計のところも、全て読んでしまったんだよ…うん」
純一「あ、ああ……その、お前が隠そうとしたところとか…さ。全部わかって」
美也「……────」
純一「たんだけどって美也!? 顔が真っ赤だけどどうした!?」
美也「に、にぃに……の…ばかっ……」ぐすっ…
純一「え、あ、ちょ……どうして泣くんだよ!? ごめんごめん…悪かったって!」
美也「ぐすっ……ばかばかっ……にぃにのばかぁっ…!」ぐしぐしっ
純一「わ、悪かったよ……盗み見してさ! ほら、でも……あれだろ?
所詮は機械がだしたもんじゃないか! 勘違いだって!勘違い!」
美也「でもっ……ぐしゅっ……にぃに、あの機械すごいって言ってた…っ!!」
純一「そ、そうだけどな……確かに」
美也「ひっく………」ぷるぷる
純一「あーごめん! 違う、違うから……もう、なんでこうなるかな……!」
美也「うぇーん……にぃにのばかぁ…!」
純一「ばかばかいうなって……聞けって美也!」ぐいっ
美也「ひっく……なに?……ひっく…」
純一「お前は悪くない! 全然悪くないからさ!」
美也「え……?ぐすっ…どういうこと…?」
純一「お、お前が……その僕の事をす、すす好きだって……思ってても。
まったくもって、それは悪いことじゃないんだよ!うん!」
美也「で、でも……兄妹、だよ……? 悪いことじゃないの…?」
純一「そうかもしれない! でも、だ!」
純一「……僕と美也、二人はいっつも笑顔だ。満点が付くぐらいにな、それはもう大きな満点だ」
美也「う、うん……」ぐすっ…
純一「言ってたろ? 僕らは笑顔でいることで、満足だって。
だったらずっと笑ってればいいんだよ、ずっとな!」
美也「どういうこと……?」
美也「それは、ぐすっ……それなね……にぃにが、にぃにが…」
美也「にぃにが……好き、だから…だよ?」
純一「お、おう。そうか、好きだら……お前は笑顔になれるんだな?」
美也「うん……」こくっ
純一「だったら、もしお前がその好きだって気持を否定されて…ダメだって言われて。
なくさないとダメだって言われた時…お前は僕といるときに……笑っていられるか?」
美也「それは……できない、と思う……」
純一「だろ? だけど、僕と一緒にいるときは……いっつも笑顔じゃないと駄目だ。
でも、それはお前の気持ちを否定してしまったらできない……」
純一「ここで僕の意見だ。僕はだな、美也……お前と一緒にいて、笑顔がなくなるのなんて嫌だ」
美也「……に、ぃに…?」
純一「何度だって言ってやる。僕はお前の表情から笑顔がなくなるのは、とてもつらい」
純一「だから、お前のその好きって……気持ちは、悪いことだって思いたくない。
むしろいいことだって思いたい!」
純一「っ……え、エスコートだ! 女性の気持ちを促すのは、いつだって男の役目だからな!うん!」
美也「…………」
純一「──美也。僕はお前の気持ちは、否定しない。むしろ快く思ってるし、心からの本心だ」
美也「ほんとうに…こんなみゃー、きもちわるくない…?」
純一「きもちいいさ! よくわからないけれど、いいってことにしろ美也!」だっだっだ!!
美也「きゃ…!」
純一「お互いに気持を知りあっても、簡単に関係が崩れるとは思わないよ美也…!」だっだっだ!
純一「──それでも、不安なら。今ここで言ったっていい」
美也「にぃに……?」
純一「美也、にぃにはお前のことが……好きだよ」
美也「っ……それ、ほんとうに…?」
純一「ああ、だけどまだ……兄弟の好きってものだ。恋人かじゃない」
美也「っ………!」
海辺
ひゅうう〜………
美也「…………」
純一「──もう一度言ってやる、美也。この夕日に誓って、お前にやくそくしてやろうじゃないか」
美也「……」
純一「好きになる覚悟は出来た、美也。次はお前が僕をエスコートしてみろよ」
美也「───……手n」
純一「そしたら……その、もしかしたら美也のこと……好きになるかもしれないしな!」
美也「……なにそれ、にぃに。かっこわるい」
純一「自分でもそう思ってるよ、ああ、かっこわるいだろうな」
美也「……でも、そんなにぃにが好きだよ。みゃーは」
純一「ん、ん? そうか……照れるな…っ」
純一「うん…?」
美也「あ、にぃに。あそこに逢ちゃんがいるよ?」
純一「な、なにっ!? 例のゴミ拾い中か……!?」ばっ
美也「………にしし──」
ちゅ
純一「なっ───」
美也「──美也も、覚悟は出来たよ」
純一「お、おう……」
美也「妹にキスされたぐらいで照れない照れない……ま、でもね!」
美也「ありがと、にぃに。大好きだからね」
なんか異様に疲れたのでうんこしてくる
キャラ安価したほうがいいかな?
ヒロインのみ?
その方がモチベ保てるでしょ
ヒロイン以外でもいいよ
ファラオとか誰得でもいい
>>175
次の一個は安価やってみようかなって感じです
モチベは大丈夫多分
とりあえず>>185を書いてみる
十五分にくるうんこ
ごめんながら
速攻で考えてるよ
今から書く
明日まで残ってると信じて寝る
梨穂子「じゅ、純一……ひぅっ…だめだよ…そんなところ、舐めちゃ…ひゃぁう!」
純一「どうしてだよ、なんで舐めちゃいけないんだ?」ぺろぺろ
梨穂子「だ、だってぇ〜……き、きたないもん……んっ…!」ごそっ…
純一「汚くなんか無いさ……ほら、こんなにも綺麗じゃないか」
梨穂子「や、やぁっ……み、みないでぇっ……そんなに、やぁ…!」
純一「こらこら、閉じるなって。ちゃんと開かないと、見えないだろ」ぐいっ…
梨穂子「きゃっ…!?…じゅんいちっ……やだ、見ないで……お願い…!」
純一「なにいってるんだよ。こんなにも濡らしてるくせに……ほら、もうこんなにトロトロだぞ?」
梨穂子「やぁっ…見せないで…っ…は、はずかしいから…tね!」
純一「…ったく。梨穂子はかわいいなぁ……ほら、もっと感じてもいいんだよ?」すっ…
梨穂子「や、やだっ!…これ以上なめらちゃ…おかしくなっちゃうよぉ……っ!」
純一「───じゃあ、おかしくさせてやるから。覚悟しときな梨穂子……」
梨穂子「や、やぁっ……やぁ……あっ……んっ!…じゅ、純一…っ…!」
じりりりりりりりりりいりりり
「…………!?」
じりりりりりっばん!
「…………」
「…………」(回想中…)
「……!?……!?」
「───な、ななななっ………」
梨穂子「なんてハレンチな夢を、みてっ……みてっ……!!?」ドキドキドキ…
梨穂子「…………」(回想中…)
梨穂子「ぎゃわわわぁあああー!!」ぼっ
梨穂子「これはヒドイよ! なんというかその、全部ひどいっていうか……っ!」あたふた…
梨穂子「こ、こんな夢を見るような私じゃ……えー!?なんでだろう!? どうして!?」
梨穂子「じゅ、じゅんいちにっ……じゅ、じゅじゅじゅじゅいじゅっじゅじゅj」
梨穂子「しゅないだぁあー!!」ぎゅう!
梨穂子「ひっく…えっぐ……梨穂子は…梨穂子は…しゅだないだー…
とってもハレンチな子になってしまったようですよ…ぐすん…」
《や、やぁっ……やぁ……あっ……んっ!…じゅ、純一…っ…!》
梨穂子「っ〜〜〜〜……!!!」ぽこぽこぽこ!!
梨穂子「!!〜〜〜……………」ぽこぽこ……
梨穂子「…………」ぽこ…
梨穂子「………今日、どんな顔して純一に合えばいいのかわかんないよっ…これじゃあ…」
梨穂子「……学校、休もうかな…」
学校・教室
純一「えっ。梨穂子休み…?」
「そうみたい。風邪を引いたとか何とか……って先生がいってたよ」
純一「そ、そうなんだ…どうもありがとう」すたすた…
純一(梨穂子が……風邪で休み?んな馬鹿な、あのお花畑の梨穂子が風邪…?)
純一(……ちょっと心配だな。学校を休みぐらいだし、ちょっと帰りによってみるか…)
純一「…………」
純一「……駅前の、シュークリームも買っていってやるかな」
純一「………」ぴんぽーん
「はーい……あら、純一くん? あらあらあら久しぶり大きくなったわねぇ!」
純一「え、あ、この前合ったばっかりですけど…?」
「あららそうかしら? ふふふ、ちょっとぼけでもはいっちゃったかしら?ふふふ!」
純一「い、いや…まだまだ梨穂子のお母さんはお若いですよ!」
「あらまぁー嬉しいこと言ってくれるじゃない! あがってく? お菓子食べる?」
純一「えっと上がらせてもらいたいんですけど……その、梨穂子は?」
「梨穂子? ああ、そういえば具合悪いっていってたわね……お見舞い?」
純一「はい。一応、梨穂子の具合が悪かったら…これだけでもおいて帰ろうかなって」すっ
「まぁ! 気が利くわね橘さんとこの子供はやっぱり教育がなってるわぁ!」
純一「あ、いえ…そこまで…」
「とりあえずあの子に聞いてくるわね。あがってまってらっしゃい」
純一「え、でもお邪魔に鳴るんじゃ……」
「いいの、いいのよ。ほら、新しいお菓子とかあるから。食べていきなさい」
純一「………」もぞもぞ…
純一(き、きまずい……小さい頃はよく来てたけど、最近はとんと来てないからなぁ…
あ、あの柱の傷は……よく梨穂子と背比べしてたよなぁ)
純一「……とりあえず、梨穂子のお母さんの返事を待ってみるか…うん…」ぱりぱり…
純一「…あ。このお菓子うまいなぁ!」ぱりぱり
「──おかあさーん……」
純一「ぱりぱ…うごっごほっ!……梨穂子っ……!?」
「あれ、おかあさーん…? どっかいったのかなぁ……ま、いいや。オヤツは自分でも取れるしねぇ〜」
純一「や、やばい……確実にこっちに来る感じの───」
「うんん? あれ、この匂いは……貰ったお菓子のやつ、お母さん! それ私が食べるっていったじゃないっ!」がらり!
純一「………」びくっ
梨穂子「………いい?」
純一「………や、やっほ。梨穂子ー」
梨穂子「……………………………」
がらら……すとん
純一(というかパジャマ姿かぁ……久しぶりだな、ああいう姿を見るのも)
「あらあらごめんなさいね〜ちょっと、電話がきちゃって。今からあの子に聞いてくるわね〜」
純一「あ、はい。よろしくお願いします」
純一「……とにかく、まぁ。元気そうだったな、お菓子食おうとする気力はあるみたいだしな」
純一「とりあえず、顔を見れたからそれでいいかな」
純一「………」
「はいはいはいおまたせ〜」
純一「…どうした? 会えそうですか?」
「うーんとね、なんかあの子純一くんに会いたくないそうなのよ〜」
純一「えっ……僕に会いたくない…?」
「そうなの。なにかあの子、純一くんにしたかしら?」
純一「い、いえっ……なにもされてませんけど…?」
純一(まず梨穂子を疑うっていうのは…流石は梨穂子の親だなぁ…)
純一「えっ。いいんですか?」
「どうせ仮病だと知ってるし、純一くんが会いに行ってくれれば元気もでるわよ。うんそうだわ」
純一「は、はぁ……」
「部屋はわかるわよね? それじゃあ不甲斐ない娘をどうかよろしくね」
純一「は、はい……わかりました……?」
梨穂子べや
梨穂子「っ………!!」
梨穂子(じゅ、じゅんじゅんじゅんいち……がいたよぉ!!どうして!?)
梨穂子(こんな時に限って……お、お見舞いにきたのかな…?
いつもだったらこないくせにぃ〜〜!!)
梨穂子「で、でも大丈夫だよ……ちゃんとお母さんに、今日は会えません。
って言っておいてっていったし…」こんこん
「おーい、梨穂子ー! 入るぞー!」
梨穂子「ちょ、ええええええ!?」
「お母さんが入っていいって言うから、とりあえずはいるなー」
梨穂子(もうっお母さんのばかぁああー! ど、どうしよう…っ…ど、どこか隠れる場所っ…!)
廊下
純一「……返事がないなぁ。とりあえず入るか…」
純一「梨穂子ぉ…入るぞ…?」がらり
純一「…………」
純一(……なんだ、あの部屋の隅っこに置かれた……異様に盛り上がってる掛け布団は)
純一「…………」ぽりぽり…
純一「おじゃまするぞー……」がらり…ぴしゃ
毛布 ぴくんっ!
純一「………。どうやらだれもいないみたいだなぁーうんー」
毛布「………」
純一「せっかく、駅前のシュークリームを買ってきて……梨穂子に食べさせようって思ったのになぁ」
毛布 もぞっ…
毛布「…………」
純一「……ふんふふーん♪……あ、そうだ。とりあえずここに箱をおいておくかな」すと
毛布「………!」
純一「落として崩しでもしたら、大変だもんなぁ。もうちょっと部屋の端においておくかな」すすっ…
毛布「………!!」
純一「……ふふーん♪……おっと、そういえばトイレにいっておきたかったんだ。
梨穂子は居ないみたいだし、その間にトイレに行っておこうかな」がらり… すたすた…
毛布「………」
梨穂子「………」ばさぁ!
梨穂子 くんくん…
梨穂子「──これは確かに、駅間の伝統シュークリムだよ……純一すごくいいのかってきたんだ…ごくり」
梨穂子「………ちょっとだけ。ちょっとだけ味見を…」こそりこそり
純一「してどうするんだ、梨穂子」
梨穂子「きゃうっ…!?じゅ、純一……っ!?ふ、襖の隙間から見てたの……っ?」
純一「ああ、全てな。まるっきり全てを見てたよ……」すぅー……
純一「やあ、梨穂子。元気そうだな?」
梨穂子「…………っ…!」ばっ
純一「そんなに元気そうで──…っておいおい、そんなに遠ざかんなくてもいいだろ…?」
梨穂子「えっ…!? あ、うん…ごめんね純一…!
その、悪気があってやったことじゃなくてね…?」
純一「そ、そうか…? なんだか避けられてるような感じがしたんだけど……何か僕、したか?」
梨穂子「し、舌かぁ……っ!? 」
純一「え、うん? ……僕、お前になにか悪いことでもしたかなぁっておもってさ…」
梨穂子「あうあうあ……ち、違うんだよ純一…っ! ごめんなさい、ちょっと私…急にお見舞いに来て戸惑ってて…!」
純一「…そうなのか? いや、それは僕も悪かったなって思ってるんだけさ」
梨穂子「う、うん……びっくりしたよぉ…本当にぃ……」
純一「そ、そうか………」
梨穂子(──う、うぅ……気まずいよぉっ…ちゃんと純一の顔がまっすぐ見れないよ……っ)
純一「…………」
こんな態度を続けてちゃ…もっと失礼だよ…明日にはしゃきっとして、謝りに行けば大丈夫…だよね?)
純一「…………」
梨穂子(──ふぅ。心を落ち着かせて、よし!)
梨穂子「じゅ、じゅん───」
純一「梨穂子、少しいいか」
梨穂子「…ふ、ふぇっ!? なに純一っ!?」
純一「え、あっ、ごめん! 梨穂子からいっていいよ…!」
梨穂子「あ、えっと…純一からさきにいいよ…?」
純一「…………」
梨穂子「…………」
純一「……えっとさ、梨穂子。また謝っておくな、急に見舞いに来てすまなかったよ」
梨穂子「い、いいんだよっ……私もうれしかったし…うん、嬉しいからね?」
純一「そ、そっか……それはよかった」
純一「それでさ…もうひとつ、いいたいことがあるんだけど……」
梨穂子「……? どうしたの、純一…? 言いにくいこと…?」
純一「……えっと、ちょっとな。でも、今日の梨穂子に言うってのもあれかなって思うしさ。あはは」
梨穂子「…………」
梨穂子(……あれ? なんだか純一、今日は余所余所しい感じがする……どうしてだろう)きらっ
梨穂子「あっ………」
梨穂子(──なに、この鏡に写った私の表情……こんな顔しながら純一と喋ってたのっ…?
ものすごく、迷惑そうな顔してる…純一が気を悪くしちゃうのも、あたりまえだよ〜〜〜〜!)
梨穂子(……しゃ、しゃきっとしなきゃ! 全部、私のせいなんだから…!
勝手に恥ずかしがって、純一の気を悪くしちゃってるんだもん……ここはしっかりしないと…!)
梨穂子「……じゅ、純一……!」
純一「え? どうした、梨穂子」
梨穂子「えっとぉ…その、ね……!」
純一「う、うん?」
梨穂子「わ、わたしはっ……その! べつに純一のことがじゃ、邪魔に思ってるとかじゃなくてね…!?」
純一「え? あ、うん…そうなのか?」
あ、あれ? これは別に言わなくてもよかったかなっ……?」
純一「り、梨穂子……? とりあえず落ち着けって!な?」
梨穂子「う、うん…わかった〜…すーはーすーはー……」
純一「……なんというか、わかったよ。梨穂子、別に俺は…ここにいてもいいんだな?」
梨穂子「そ、そうなんだよ! それが言いたかったの!
お見舞いに来てくれたことも嬉しいし、こうやって一緒に部屋にいることもいいと思うよ!」
純一「──そうか、梨穂子……お前の寛大な心の広さ。素晴らしいと思うよ僕は」
梨穂子「え、うん。ありがとう〜…って、あれ? どうして私がほめられてるの?」
純一「えっ? またまた御謙遜なさるなって梨穂子──……だって、あれだろ?」
純一「さっきから汗でパジャマが透けて上に……その下に、何も履いてないってのを…
僕にならいいっていってくれたんだろ?」
梨穂子「………」
梨穂子「え?」
純一「え? だから、ずっとそれが気になってたんだけど…
お前が何も気にしてないようだったから早く部屋を出ようかなってさ…」
梨穂子「ひゃ」
純一「……ひゃ?」
梨穂子「ひゃ…ひゃ…」
純一「……ひゃひぁ?」
梨穂子「ひゃ───」
梨穂子「ひゃぁああぶしょんっ…!」ばたーん
純一「お、おおう……なんて豪快なくしゃみだってオイ!梨穂子!!?
どうした急に倒れて……!」
梨穂子 きゅー…
純一「ちょ、おま……身体ものすごく熱いじゃないか! 本当に風邪ひいてるなら早くいえよ…!」
梨穂子「……ふぇ…? ずんいち…? はれぇ〜…なんでここにいるろ?」
純一「なんでって…さっきまで会話してただろうがよ…!
どうしよう、とりあえずお母さんを読んでから…ああ!
でも今の梨穂子の姿見たら誤解される気がする!ぜったい!」
梨穂子「ずんいち〜 かたぐるまして〜」
純一「ちょ、くっつくなってば……今から布団引き直すから、ちょっとまってろ…!」
純一「う、うわぁあ…!?」どさっ…
梨穂子「えっへへ〜……くんくん。あ、ずんいちのにおいだぁ〜…こしょこしょー」
純一「なっ、ちょ……あはは! や、やめろってくすぐるのは反則…あはは!」ばたばた
純一(病人相手だから下手に抵抗出来ない…!なんだこれ、梨穂子いきなりどうしたっていうんだよ…!)
梨穂子「ん、んん〜……えへへ。純一ぃ……ここ、あっついよねぇ〜…」ぱたぱた…
純一「え?ま、まあ確かにな…」
純一(くすぐる手が止まった……今がチャンスだ!)ばっ
梨穂子「──あ、そうだ。服をぬげいいって話だったよー!」がばっ ぐいっ
純一「え、あ、まっ───」ずぽっ ぽにょん
純一(……えっ? なにこれ、ものすごく良い匂いで…やわらかくて、しめってて…)
純一「まるで、大きな谷間みたないな───谷間だこれ!」
梨穂子「…んー? あれぇ、純一……どうして私の服の中にいるのぉ…?うん?」
梨穂子「ひゃうっ……もう、純一ったらぁ…えへへ、くすぐったいよぉ〜」
純一「もがー! けほっ、もがもが!」(あ、ちょっと身体動かすな! おっふ、柔らかい!)
梨穂子「もうっ……純一は甘えん坊さんなんだから〜…ほら、いいよ?」すっ
純一「もがが!?」(なにが!?)
梨穂子「──純一なら、ね? わたしは……いいんだよ…?
こうやってべったりくっつきあって、汗まみれになってね」
梨穂子「もう、どっちの汗なのかわかんないぐらい……べったべたになって…そしたらもう、
お互いに……気持ちよくなるだけなんだよ……?」
純一「もががっ……もが!」(だめだこいつ……完全に頭いってる!)
梨穂子「ふふふっ……えへへ〜……ずんいちぃ〜……………なめてあげよっか…?」
純一「もがが、もが……ふぐもがが…」(しかたない、これは……これはやりたくなかったけど…)
梨穂子「例えばほら……おでことか」ぺろ
純一「もが!?」
梨穂子「しょっぱいね……えへへ、おいしいよ純一……うふふ」
梨穂子「……うん? 純一、急におとなしくなったよ…?どうかしたの…?」
純一「もがが……」(いくぞ……)
梨穂子「………えっと、それってたしかシュークリームが入った箱じゃ──」
純一「もがが、もがっがが!」(そうだな、それをこうする!)ぶん!
ぐしゃぁああ!!びちぁぁああ!!
梨穂子「…………」ぱたた ぱた
梨穂子「…顔に、なにかかかったよ…?」ぺろ…
梨穂子「これ、シュークリーム……崩れ落ちた、シュークリーム……?」
梨穂子「………」ぱたん…
もぞもぞ…
純一「……ふぅ、やっと抜けれた。どうやら成功したみたいだな」
梨穂子「シュークリームがっ…シュークリームがっ…!」
純一「梨穂子はいつだって、食べ物は美しくあってほしいと思ってる。
それが壊されるというのは心から嫌うやつだ」
どうやら成功したみたいだな」
梨穂子「う、う〜ん……クリームが……すやすや……」ごろり
純一「……はぁ。都合よく眠りについてくれたかな、よかった。いや、全然よくないけど。
この部屋の状況をどうにかしないと…!」あたふた…
梨穂子「うーん……純一、ごめんなさい…許して……へぷちっ…ぐすっ…」
純一「───……ったく、お前ってやつは……よいしょっと」
純一「うっ──よ、よし。だいじょうぶだ、ちゃんと運べるさ目的地までな!」ずりずり…
梨穂子「うぅん……けほっ…」
純一「よ、よし……これでとりあえずは暖はとれるな。ちゃんと毛布をかけてっと……
あとは部屋の片付けだ!」
梨穂子「さ、さむいよぉ……」がたがた…
純一「えっ……梨穂子、なんでそんなにも震えて──汗が、冷たくなってる…?」
梨穂子「かちかちかち……」がたがた…
純一「な、なんだよ…普段は暖かそうなボディしてるくせに……くそっ! もうやけっぱちだ!」
純一「梨穂子のお母さん! ちょっといいですか!」
「あら、どうかしたのかしら?」
純一「え、ええ…ちょっとシュークリームを……少しだけ、こぼしてしまって。それでなにか、
拭くモノはないかなって思って……!」
「あらあら、そしたらおばさんが拭きに行くから……」
純一「い、いえ! 大丈夫です! あとそれと、梨穂子のパジャマにもこぼれちゃったんで、
雑巾とかじゃなくて……フェイスタオルとかそういうのを、ちょっとお湯で湿らせたのが欲しいんですけど!」
「あらまぁ、色々と要求が……」
純一「って全部、梨穂子が言ってました! 本当ですよ?」
純一(許せ、梨穂子。これもお前のためだ!)
「あらそうなのあの子ったら本当に……すぐに用意するわ。まっててちょうだいね」
純一「よろしくおねがいします!」
「本当に一人で大丈夫かしら? おばさんもいったほうがいいんじゃない?」
純一「だ、だだ大丈夫ですから…! ちゃんと僕が掃除しておきます!はい!」
「そおう? それじゃあよろしくね」すたすた…
純一「………。よし!」ぱたん
梨穂子「っ……っ……」がくがく…
純一「梨穂子……まってろよ、今楽にしてやるからな」すっ
ぷちぷち…ばさあ …ぷるんっ
純一「………大丈夫だ。眼は閉じてる、見てない見てない」すすっ…
ずりずり……
純一「…ちょっと、おしり持ち上げるぞ…よいしょっと…」ずりり…
純一「ふぅ……大丈夫だ。僕はダイジョブ……平常心平常心…」
純一「体を拭くだけだ。見ないでふくだけ、汗を拭きとって、
あとは裸で放っておいて大丈夫だろ…一応、布団に寝かせるけどさ」
梨穂子「んっ……」ぽにょ
純一「………」ぐっぐっ…
梨穂子「んっ…んんっ…」ぽにょぽにょ
純一「………」
純一「………」すっ
純一(生を受けて早十数年……今、橘純一。一つ現実を知りました)
純一(……胸は、拭きにくい!)
純一(柔らかさがすごすぎるよ……何ら抵抗もなく流れてっちゃうもん!
……これは、がっつりやんないとダメなのか……?)
梨穂子「へくちっ……ぐすっ…」
純一「……よし。いくっきゃない!」
数十分後
純一「ぜはぁー……ぜはぁー……つ、疲れたー…精神的に、ものすごく疲れた…!」
梨穂子 すやすや……
純一「……はぁ。幸せそうに寝やがって、こっちの苦労も知らないでさ」
梨穂子「むにゃむにゃ……えへへ、純一…大好きだよ……むふふっ…」
純一「……そうか、それを聞けただけで頑張ったかいがあったってもんだよ、梨穂子」
純一「……ふぅー…さて、どうすっかなぁー…」
純一(──この頭の中に沸き起こってる、煩悩。
ああ、やっぱり途中で諦めて目を開けてやったのがわるかったのかなぁ…へへっ。男って辛いぜ!)
純一「でも、ま。家に帰ればお宝本あるし……それで間に合わせようっと」
梨穂子「すやすや……」
純一「…よし、じゃあ帰るな梨穂子。もう風邪なんかひくなよ?」なでなで…
梨穂子「……えへへっ…うん、純一…!」
純一「……はは。なんだよ、タイミングのいいねごと言いやがって。
というか本当は起きてるんじゃないのか…?」
純一「…なんてな。さて、帰ろうか…ちゃんとおばさんにお礼行っとかないとな……」
がらり… ぴしゃ すたすた…
すぅー…ぱたん
「……あら、ぐっすり眠ってること」
梨穂子「……むにゃむにゃ…」
「どれだけあの子が素晴らしく介抱してくれたかわかるってものね。ふふふ」
梨穂子「ずんいち〜……」
「……それにくらべて、アンタはなにも発展させないんだから。お母さん、毎晩毎晩頑張ってるのよ?」すっ
「この、エロ小説を寝ているアンタに聞かせて……登場人物を純一くんにしてあげてるんだから」
梨穂子「う、う〜ん……」
「ちょっとはそれで、女性の魅力ってものを出すように頑張りなさい。今度は、既成事実よ!」
梨穂子「う、う〜ん……純一…逃げてぇ…だめだから…!」
「───ふふふ。将来は、アンタのことを橘さんって呼べる日が来るかしらね…?」
次は決めてないけどとりあえず愛歌先輩か七咲
うんこ
乙!
今から書くよ
愛歌「………」すたすた がらり…
愛歌「───……」
愛歌「どうやら一番乗り」
愛歌「………」すたすた…
愛歌「………」かちゃかちゃ… こぽぽっ…
愛歌「………」すたすた…こと
愛歌「………ずずっ…」
愛歌「おいしい」
愛歌「………?」
愛歌「ほお……これは珍しい」すっ…
愛歌「二人羽織の用の……ちゃんちゃんこだとは」
愛歌「るっこかりほっちの忘れ物か」
愛歌「…………」すすっ…すっ…
愛歌「装・着」
愛歌「ふふ、ふ……これでりほっちたちを驚かそう」
愛歌「…………」ごそごそ…
しーん…
愛歌「…………」ワクワク…
がらり…
純一「しつれいしまーす……あれ? だれもいないのかな…?」
愛歌(……! この声はりほっちの幼なじみ)
愛歌(橘 純一……)
純一「茶室……にもいないか、ってうおお!?」
愛歌「…………」
純一「な、なんだこれ……あー、なんだ。ちゃんちゃんこか…それにしても大きいなぁ」
愛歌(!……しまった。出るタイミングを逃した)
愛歌「…………」
愛歌(これがりほっちが惚れているという……男か)
愛歌(見れば見るほど普通の人間だ、な)
純一「……寒いなぁ。というか、そういえばここってこたつがあったんじゃないか…入らせてもらおうっと…」
愛歌(残念無念)
純一「よいしょっと……あれ? スイッチが見当たらないぞ…あれっ!? コードもない!」
愛歌(先日にてobの泥酔状態の山口亜弓が持っていった……非常に素早い行動だった)
純一「えー……どうしてだよ…まったく、ここの茶道部はちゃんとなってないなぁ」
愛歌 ぴくっ…
純一「まったく……あたっ!?」げしっ
愛歌「…………」
純一「…えっ!? なんで茶筅が急に頭に…!? えっ!?」
愛歌(ふ・ふ・ふ)
愛歌(む……ばれてしまったか)
純一「……」きょろきょろ…
愛歌(………?)
純一「よいしょっと……ふぅー」こきこき…
愛歌(去っていくのだろうか。だが、またそれも人生……)
純一「よし、じゃああのちゃんちゃんこを着ようかな!」
愛歌「…………えっ?」
純一「ちょっと誰かのかなって迷ってたけど…よくよく考えたら、これだけでかいのは学校の
備品だろうしさ……僕がきても大丈夫でしょ!」
愛歌(自由奔放なことを……いつか必ず天罰が下るぞ)
純一「こたつに雪崩かかってるだけみたいだし……ひっぱれば、どうにかっ…」ぐいぐいっ
愛歌「………」ぎゅぅ…
純一「あれ、とれない…?」
純一「うーん…? なんかにひっかかってるのかな…? そっちにいってみるか……」ごそっ…
愛歌(っ……なん、だと…こっちにくるな。姿がばれる…)
純一「……ん? 今、ちょっと動いた…?」
愛歌「…………」じっ…
純一「………気のせいか。当たり前だよ、まさか誰か入ってるわけでも無いだろうしさ」
愛歌(実にその通り)
純一「しかたないや、とりあえず……」ごそごそ
愛歌「………? なにを───」
純一「……よいしょ。僕からちゃんちゃんこへ潜り込んでみようっと」ごそごそ…
愛歌(なっ……馬鹿な。どこからそんな発想が生まれる…っ)
純一「……よし、これでおっけー。あれ? なんだかすっごく暖かいぞ…?」
愛歌「……っ」
愛歌(どうにか中央部分に収まることで事無きを得た……)
愛歌(だが、バレるのも時間の問題………少しでも上半身を下げられると正体がバレる)
愛歌(……身体が小さくてよかった)
純一「うーん……まるで、誰かが入ってたようだよ…」
愛歌(入ってるぞ……早く何処か行け)
純一「………」もぞもぞ
愛歌(…………っ!)びくん!
純一「……あれ? なんだろうこれ…」さわさわ
愛歌(なっ───どこ、さわ……!)
純一「やわらかい……っ!? あっ!まさか…!」
愛歌(っ……とうとう、正体が見破られたか───)
愛歌(……馬鹿だろう、貴様)
純一「すごく暖かい……まるで本物みたいだ」
愛歌(生を受けた人間だ……当たり前だ)
純一「……ちょっとこれで、暖をとってみるかな…」ぎゅう…
愛歌「っ……!?」びくっ
純一「おおっ………細い体だけど、しっかりと柔らかさがある…まるで女の子みたいだ…!」
愛歌(み、耳元で……喋るなっ……!)ぴくん…
純一「……えっ、今震えた?」
愛歌(もういいだろうっ……もう、正体が見破られても───)ごそっ…
純一「……まさか、バイブ機能もあるのか……!?」
愛歌(我慢の限界だっ……大声を出すまで、三秒後。一、二…)
がらり
梨穂子「こんにちわ〜」
もっと愛歌に愛を!
愛歌「っ……!」
梨穂子「あれ〜…この上履きは…」がらり
梨穂子「やっぱり、ずんちいだ〜。やっほ〜」
純一「おう。ちょっとあそびにきてるぞ」
愛歌(し、しまった───これでは、余計出られなくなった……!)どきどき…
愛歌(この状況で出てしまったら……りほっちに誤解される)
梨穂子「そうなんだ〜えへへ〜……純一は何を着てるの?」
純一「これか? これはちゃんちゃんこだよ。さっき見つけたから来てみたんだ」
愛歌(のんきに説明している場合か……この脳天気野郎)
純一「よいしょっと……」ぎゅう…
愛歌(っ……や、やめろ……そんなに抱きつくな……!)
愛歌(り、りほっちが……見てる…のだから…!)
純一「膝の上に載せてみるか……」ぽすん
愛歌「っ……」
梨穂子「?」
純一「そして抱きつく……あったかいなぁ〜」ぎゅう
愛歌「っっ〜〜〜〜〜……!」ぐるぐる
梨穂子「さっきから、なにをしているの〜?」
純一「ん? それはだなぁ……あた!」ぐりっ
愛歌(ば、馬鹿野郎っ……言っては駄目だ。りほっちにはバレては駄目だ……!)
純一「えっ………ふともも抓られた…?」
愛歌(この際……この馬鹿野郎にバレてしまってもかまわない。だが、りほっちだけは…)
純一「まさか……」ごそごそ
純一「………」
愛歌「………」じぃ…
純一「………」ばっ!
純一(───な、ななななななんで……!?
どうして、飛羽先輩が……僕に抱きつかれながらちょっと涙目で上目遣いをしているんだ…!!?)
純一「……!?……!?」あたふた…
愛歌(少し、移動を)ごそ…
純一「えっ…あっ…ちょ……!」
愛歌(……ふぅ。聞こえるか、橘純一)ぎゅう…
純一(え、あはい……聞こえます…というかなんで僕に抱きついてる体制になってるんですか…?)
愛歌(体積を少なくするためだ……こうすれば、一人だけに思えるだろう)
純一(そ、そうですか……)
愛歌(だからもう少し、膝を広げろ……その間に座る)
純一(は、はいっ……)ごそっ…
愛歌(よろしい。では……さっきまでの不祥事は忘れてやる)
純一(は、はぁ……ありがとうございます)
愛歌(感謝するのだな。ここで叫んでは…りほっちにバレる)
純一(……今、梨穂子は台所でお茶の準備してますから…その間に出るっていうのは…?)
愛歌(駄目だ。上履きを隠しているから……居ないことは証明済みだ)
純一(あっ、そうか…でもいつまでこの状況に…?)
愛歌(どうにかしてりほっちを……部室から出て行かせろ)
純一(どうにかって……)
愛歌(バレてしまっても…構わないというのなら)
純一(が、がんばります…!)
梨穂子「茶菓子はちゃっぱぱぱ〜♪…純一もお茶のむ〜?」
純一「え、ああ、うん…! 飲む飲む…!」
愛歌「…………」
純一(……と、と言ってもっ……この状況はっ…ものすごく精神的に悪いよ…!)
愛歌(……こら、もっとちゃんと抱きしめろ。この体制は少々きつい)
純一(は、はい…!)ぎゅう…
愛歌(っ……よ、よろしい)
純一「あ、ありがとう……」ずずっ…
梨穂子「えへへ〜…お菓子もあるよ?」
愛歌「………」
純一「お、おう……食べる食べる…」
純一(さ、さて……どうするか…片手で人一人を抱きしめて…
もう一人の人と会話をするなんて……どんな経験だよ…っ!)ごそっ
愛歌「っ………」ぴくん
純一(あ、やばい…ちょっと触ってしまった……!)
愛歌(き、きにするな……仕方ないことだ)もぞもぞ…
純一「っ……すみません…!」
梨穂子「? どうして謝るの?」
純一「あーいや! なんでもないよ! あははは!」
愛歌(……ふぅ。この調子で行けば、どうにかいけるだろう──)ぴく
愛歌(……!? なんだこれは……まさか、まさか……)
愛歌(………なんということだ、トイレに行きたい…!)
純一(……ん?どうしたんだろう、先輩……なんだかもぞもぞと…)
愛歌(っ……なんたることっ…んっ……!)ぴくぴく…
純一「えっ……そんなに動いたら、ばれる……!」
梨穂子「ずんいち? どうしたのもぞもぞして……トイレ?
純一「い、いやーそうかもね…!」
純一(…トイレ!? まさか、先輩トイレ行きたいのか……!?)
愛歌(う、うう……っ……)もぞもぞ
純一「あ、あれー? ちょっと上着が熱いなぁ……ちょっと脱ごっかなぁ…」もぞもぞ
純一(……せ、先輩…!? どうしたんですか…!?)
愛歌(た、たちばなっ……じゅんいちっ……!)
純一(顔真っ赤じゃないですか……! ま、まさかトイレですか…?)
愛歌(っ……そう、だ…)ぷい
純一(そ、そうですか……ど、どうしようっ…このままじゃ…まだ梨穂子をどっかいかせられるとは思えないし…!)
純一(い、いや…そもそも僕がこんな所に入ったのが悪くて……)
愛歌(も、もういいぞ……)
純一(えっ……?)
愛歌(もう、貴様だけが……ここからでていけば…それでいい…)ぷるぷる…
純一(なにを、いってるんですか…?)
愛歌(そうすれば、どうにか自分だけでっ……んっ……どうにかするつもりだ…)
純一(…………)
愛歌(確かに貴様も悪いが……はやくバラさなかった自分もわるい……っ…)
愛歌(この状況は、もはや己だけの過ち……)
純一(飛羽先輩……)
愛歌(迷惑かけて、すまなかった……あとはこのまま、トイレでも行くといい……)ぷるぷる
愛歌(わたしみたいな……貧弱の身体に抱きつかれて、迷惑だったろうしな……)
純一「──そんな、ことはないです…!」
愛歌(……え…?)
愛歌(橘、純一……?)
純一(とってもやらかくて…女の子の体って…こんなにも、触り心地のいいものだって思いました…!)
愛歌(……そっち、なのか…?)
純一(ええ! 当たり前です! 女の子が……どんな体型だって、男が反応しないわけがないですよ!)
愛歌(あ、あまり恥ずかしいことをいうな……っ)
純一(僕も恥ずかしいです……! でも、今の先輩の表情を見て…決めました…!)がたっ
愛歌「きゃ……っ」
梨穂子「じゅ、じゅんいち…?どうしたの急に立ち上がって……」
純一「梨穂子!」
梨穂子「は、はい…っ! な、なにかな?」
純一「うんこいってくる!」だっ!
梨穂子「え、えええ!? 言わなくてもいいよそんなこと〜!」
愛歌(所詮は人間……仕方ないことだ。さて、あとは……くっ…どうにかして───)
純一「ただいま!」
愛歌「っ……!」
梨穂子「えー! 速いね純一……本当にトイレ言ってたの…?」
純一「いってたよ! いやーやっぱ寒いなぁ…」ごそごそ…
愛歌(な、なんでもどってきた……っ…)
純一(……先輩。もう少しまっててください…)
愛歌(……え…?)
純一(もう少しで、来ますから……)
愛歌(なにが──)
「やっほー。櫻井いるー?」
梨穂子「……え。この声は…香苗ちゃん?」
伊藤「お、いたいた。櫻井、ちょっと先生が呼んでるよアンタのこと」
梨穂子「えっ……本当にっ?」
純一「や、やあ!」
伊藤「……おんやぁ〜…? どうやらおじゃましてしまったみたいだねぇ〜」
梨穂子「ちょ、ちょっと香苗ちゃん……!」
伊藤「あっははは! まぁ、そんなわけだから! まったね〜」
梨穂子「っもう……そういうことみたいだから、ちょっといってくるね〜」
純一「お、おう。いってこい」
梨穂子「はいは〜い」すたすた… がらり ぴしゃ
愛歌「ど、どういうことだ……橘純一…?」
純一「あ、いや。今日の用事を思い出して……それで梨穂子を探してたんですよ」
純一「アイツ、提出するはずのプリント出してないって……それで先生を呼びに行ったんですけど、
だけど途中で伊藤さんをみかけて、行き先がどうやら茶道部だったみたいででして…もしかしたら、と」
愛歌「……結局は、橘純一はなにもしてない」
純一「あ、あはは…結局はそうみたいですね…! でも、早くことが終わってよかったじゃないですか」
……でも、先輩気づいてないしそれでいいかな!)
愛歌「…………」ぎゅう…
純一「……えっと、先輩? とりあえず梨穂子はいなくなったし…もうそろそろいいんじゃないですか…?」
愛歌「っ………」ぎゅう…
純一「せ、先輩……?」
愛歌「……きゅ、急に安心したら……そのっ……」ぷる…
純一「……ま、まさか…も、漏れそうとか…?」
愛歌「………」ぎゅっ……
純一「え、ええ!? ちょ、ちょっとまって……いや、どうしよう…!」
愛歌「……──…だめだ、もう……」ぴくん…
純一「あっ………」
愛歌「ふぇ……?」
純一「おおおおおおおおおおお!!」だだだだだだだ!!
愛歌「た、たちばなっ……!」
純一「が、がまんです! とにかくがまん!ほら、もう見えた! トイレ見えた!」だだだだだ!
がちゃん!
純一「勢い余って女子トイレに入ってしまった……まぁいいや! 先輩!はやく!」
愛歌「わ、わかった……」すた…
純一「開けられますか? 自分でドア開けられますか?」
愛歌「あ、あけられる……っ!」ぎぃ
がやがや…
純一「……えっ!? 誰かと入れに来ようとしている……!?」
愛歌「っ……こ、こっちにこい橘純一…!!」ぐいっ
純一「えっ……!?」
純一「せ、先輩……!?」
愛歌「み、みるな……っ…と、とにかく…あっちむいてろ…!」
純一「は、はい……っ!」
すすっ……ぱさっ…
純一「っ……せ、先輩……まさか…!」
愛歌「き、きくな……しょ、しょうがないだろう…っ!」
ちょろ…ちょろろ
純一「っ!?……は、はい……!」
愛歌「っ………」ぴくぴく…
純一「っ………」どきどき…
愛歌「に、匂いも……嗅ぐんじゃ、ないぞ……!」
純一「は、はい……っ!!」
愛歌「…………」
純一「…………」
愛歌「今日のことは……互いに忘れる必要がある」
純一「そ、そうですね……はい…」
愛歌「なにもなかった。それでいい」
純一「はい……」
愛歌「…………」
純一「…………」
愛歌「……すまなかった」
純一「えっ……どうして、先輩があやまるんですか…?」
愛歌「………。迷惑しか、かけていなかった。それを謝りたい」
純一「そ、それこそお互い様じゃないですか…!」
愛歌「…………」
愛歌「…………」
純一「先輩が……色々とやってしまったこと。忘れて欲しいって言うなら、忘れますし…」
愛歌「…………」
純一「ですから、そんなに落ち込まないで……いつもみたいな、その…
不思議な雰囲気をだしてください…お願いします」
愛歌「………」
愛歌「……了解した。橘純一の願いのどおり…いつも通りに接することにする」
純一「は、はい…よろしくお願いします」ぺこ…
愛歌「………」
純一「……? えっと、僕の顔になにかついてますか…?」
愛歌「っ……な、なんでもない…!」ぷい
純一「……?」
夕月「あの子が……愛歌が、いつも通りに接するということを言ったという、意味を」ごそっ
夕月「……いやー。まさか押し入れの中に隠れていれば……とんだ状況を見てしまったもんだよ」
愛歌「………」じぃー
純一「…?……??」
夕月「……知っているかい。橘純一、愛歌はいつも通りに接しないことを…モットーにしているんだよ」
夕月「だから突拍子も無いことも言うし、抜け目ないことを言うし、それにとらわれないことを言うんだ」
夕月「他人が理解できる人間に成り下がらない……それを生きたかにしている愛歌に対して
そんなことを言わせたアンタは……どれだけのことをやってしまったのか……
ははっ、いつになったらわかるのかねぇ」
夕月「……応援したいけど、ここはやっぱり……りほっち優先だよ。愛歌」
夕月「ま。一応は応援しとくけどさ!」
愛歌「……橘純一」
純一「な、なんでしょうか飛羽先輩…?」
愛歌「…………」
愛歌「……あまり、性的な目で見るな」
純一「み、みてませんよ……!!ほんとうにですって!!」
次は七咲かなー
とりあえずうんこ
やっと昨日徹夜した俺報われる
七咲「…………」
純一「……ん? どうしたんだ、七咲?」
七咲「あの雲……なんだか先輩に見えて、面白くありません?」
純一「まってくれ。何処をどう見ても僕に見えないし…面白い要素がないんだけど…?」
七咲「ふふっ。言ってみただけですよ、先輩」
純一「……はぁ。本当に七咲は、僕をからかうのが好きだなぁ」
七咲「そうですか? そこまで先輩をからかうのは……あ、やっぱり好きです。すみません」
純一「……からかってるのか、七咲」
七咲「はい、そうですよ?」
純一「……はぁ。まぁ、そんな七咲も好きだけどさ」
七咲「そうやって、すぐに順応してくれる先輩も大好きですよ」
純一「…………」
七咲「ふふっ」
七咲「はい、先輩もだいぶ拾ったみたいですね」
純一「そりゃーねぇ……頑張ったし、なんといってもご褒美があるからさ!」
七咲「…やっぱり、それが目的だったんですね先輩は」
純一「えっ!? い、いやー……うん。そうじゃないんだよ? ちゃんとゴミ拾いも大好きさ!」
七咲「…………」じぃー
純一「……あっ、うんっ……ごめんなさい。ちょっとたのしみにしてました…」
七咲「……はぁ。でも、確かにおかしいって思ったんですよ。先輩からゴミ拾いがしたいって
行って来ましたから」
純一「で、でもっ……予めそんな事言われてたら、誰だって期待しちゃうよ…!」
七咲「…そうですか? 先輩は、そんなにもご褒美が……わたしからの欲しいんですか?」
純一「う、うん……!」
七咲「わかりました…それじゃあゴミの数を教えて下さい、先輩」
純一「えっと……大きものだと、十七個ぐらいかな。空き缶とか大きものばっかだったし」
純一「う、うん」
七咲「そしたら──…先輩。ご褒美は十七回、でいいですか?」
純一「えっ!? ほ、本当にしてくれるの……?」
七咲「……あ、当たり前です。一応、先輩の楽しみを無下にするつもりはありませんから」
純一「そ、そっか……そしたら、その…」おろおろ…
七咲「うろうろしないでください。ほら、先輩…背が高いんですから。少し屈んで…」
純一「こ、こうかな……?」
七咲「はい、おっけーです。 それじゃあ行きますよ……」
純一「っ………」どきどき…
ちゅ
七咲「──まずは、一回目。あとは十六回です、先輩」
あと一回が何回も続くんだろワッフルワッフル
七咲「……先輩?」
純一「はっ!? あ、いやいや……えっ!? あと十六回もしてくれるの!?」
七咲「ええ、そういう約束でしたし……嫌でしたか?」
純一「っ…っ…っ…」ぶんぶんぶん
七咲「ふふっ…そうですか。そしたら後、十六回分のキスですよ?」
純一「う、うんっ……お願いするよ!」
七咲「せっかちさんですね、先輩は……」ちゅ
純一「お、おうっ……!」
七咲「……あと、十五回。まだまだ先は長いですよ」
純一「ね、ねぇ…七咲」
七咲「はい、どうかしましたか?」
純一「これって、僕からしても……いいのかな?」
純一「そ、そっかー……そしたらその…いいかな?」
七咲「…ふふっ、なんで確認を取るんですか。いつでも先輩のタイミングでいいですよ」
純一「……わかった。じゃあ七咲……」
七咲「はい……」すっ…
純一「んっ……」ちゅ
七咲「……はい、十五回目おわりで──」
純一「………」ちゅ、ちゅっ
七咲「──え、ちょ先輩……!キス、しすぎですって…!」
純一「七咲っ……ごめん、我慢できないや…!」ちゅちゅ
七咲「あっ、もう先輩ったら……ちょ、んむっ……!」ちゅ
純一「………」ちゅうぅ……れろ
七咲「んっ……んんっ!?」ぴくん!
七咲「っ……せ、先輩…っ……ちょっと、強引すぎますよ…!」ぐいっ
純一「いや、ちょっと我慢できなくて……!」
七咲「い、今のでだいぶ消費しちゃいましたよ……っ!
もう、ゆっくりやっていこうと思ってたのに……」
純一「だって、七咲と……キスが出来るって思うと。こう、弾けちゃうんだよ色々と」
七咲「だからって、これはやりすぎです! 首筋までキスして…跡が残ったらどうするんですか」
純一「え、残しちゃダメなの?」
七咲「だ、だめにきまってます! もう、先輩は本当に変態なんですから……!」
純一「ご、ごめん……」しゅん…
七咲「……はぁ。そしたら、今のは三回分ってことにしておきます」
純一「……えっ? 三回分でいいの? よくよく数えてみると、十回ぐらいキスしたような…」
七咲「い、いいんです。私がいいといったんですから、それで構いませんから!」
純一「う、うん…わかったよ。それだとあと十一回、かな?」
純一「…………」
七咲「……どうかしましたか?」
純一「あっ、いや……なんだか幸せすぎて。ぼーってしてた」
七咲「そ、そうですか……」
純一「……七咲も、幸せかな?」
七咲「えっ…?」
純一「ぼ、僕と…その、キスできて……七咲も幸せになれてるかなって…思ってさ」
七咲「そ、それはもちろん……」
純一「もちろん?」
七咲「せ、先輩と……き、キスできて……幸せですよ?」
純一「……そっか。それを聞けて安心したよ、うん」
七咲「は、はい……」
純一「………」すっ
七咲「んっ……」ちゅ
七咲「……はい、そうですね。何処か行きますか?」
純一「そうだね。とりあえず拾ったゴミを僕の家に持って帰って……
それから何処かご飯でも食べに行く?あ、でも郁夫がいるか…」
七咲「あ、今日はお母さんがいるので大丈夫だと思います。
ご飯も連絡すれば、いけるかと」
純一「そっか。それじゃあ行こうか、七咲」
七咲「はい、先輩」
数十分後 自宅玄関
純一「よし、これでゴミはおっけーだね」
七咲「はい、そしたら……」
純一「な・な・さ・き」
七咲「え、何ですかせんぱ……んっ!」ちゅ
純一「ん〜……びっくりした?」
七咲「も、もう…先輩たら……美也ちゃんにバレたらどうするつもりですか…!」
七咲「そ、それでも…こういった人通りが多い所でするのは…っ」
純一「七咲は心配性だなぁ……」
七咲「先輩が無神経なだけですっ」
純一「じゃあ、ほら。もっかいしようよ、そしたら大丈夫だってわかるはずだし」
七咲「なにがですか…!?」
純一「んー…七咲…」ぐいー
七咲「あ、ちょ、せんぱいっ……や、やめてください…! んんっ!」ちゅ
ばたん
美也「にぃにー! 逢ちゃんがいるってほんとー?」
純一&七咲「……っ!?」
七咲(せ、先輩……!?)
純一(だ、大丈夫だ……! 一応、七咲の姿は僕の背中で死角になってるはずだから…!)
純一「あ、美也!? ちょっとお腹がいたくなってだな…!ちょっと我慢してたんだ…!」
美也「それなら家ですればいいでしょ……というか、逢ちゃんは?帰っちゃったの?」
純一「う、うん。まぁね! ちょっと用事があるってさ!」
七咲「………」どきどき…
純一「ほら、美也。そろそろビーバー三国志の始まる時間だぞ…!」
美也「えっ! あ、ほんとだ! いそがなくちゃ……にぃに、ちゃんと録画しとくからねー!」
純一「ああ、たのむ…!」
がちゃん ばたん
純一「……ふぅ…びっくりした…」
七咲「もし、バレてたら……学校でからかわれること間違いなしでしたよ…」
純一「……よし、それじゃあ気を撮り直していこっか」
七咲「……あと、八回ですからね。先輩」
純一「わ、わかってるよ……」
純一「……よし、これでいいかな」
七咲「わたしもこれで」
純一「七咲とファミレスに来るのって初めてじゃないか?」
七咲「そうですね。確かに」
純一「いやー…ここの焼きそばがおいしいんだよ。今度食べてみな七咲」
七咲「焼きそばですか…でも、わたし麺類には少しうるさいですよ?」
純一「ラーメン好きなだけじゃなかったの?」
七咲「いえいえ、麺という料理にこだわりを持ってるんですよ」
純一「そうなんだー…そしたら今度は、七咲の作ったご飯食べたいなぁ」
七咲「……そしたら、今度は私の家に遊びに来ますか?」
純一「えっ、いいの…?おじゃまにならない?」
七咲「……こ、今度…郁夫が修学旅行に行くんです。
それでその、両親もいなくなる時期がかさなって…ですね」
純一「え、ええっと……うん。そしたらいい時期だね!」
七咲「はい……出来れば、その時に来てくだされば…嬉しいです」
七咲「はい……」
純一「………」
七咲「………」きょろきょろ
純一「……ん? どうかしたの、七咲。周りを見渡して…」
七咲「あ、いえ……」
七咲「………」じっ
純一「……?」
七咲「こほんっ……こ、これはお返しですからね…!」すっ
純一「えっ……んむ!」ちゅ
七咲「っ……ふふっ……やってやりましたよ、せんぱい」
純一「な、七咲……! こ、こんな人がいっぱいの場所で…!」
七咲「さっきの先輩のおかえしです。これで懲りましたか?」
純一「う、うん……」
七咲「………」テレテレ
純一(あ、でも七咲も恥ずかしかったのかな…ちょっと顔赤いや)
「おまたせしましたー」
純一「あ、きたきた」
七咲「わ〜…美味しそうですね、ファミレスですか本当に…?」
純一「でしょ? そこがここのすごいところなんだよね。豪華っていうか」
七咲「それでいて格安みたいですしね」
純一「それじゃあ食べようか、七咲」
七咲「はい、いただきます」
数十分後
「ありがとうございましたー」
純一「ふぅ、お腹いっぱいだよ」
七咲「そうですねぇ…私もお腹いっぱいです」
七咲「あと、七回ですよ」
純一「そっか、七咲の7か。これは縁起がいいね」
七咲「……なにが、ですか?」
純一「言ってみただけだよ、それじゃあちょっと…夜風に辺りにでも行く?」
七咲「散歩ですか、いいですね。いきましょう」
純一「…………」すたすた…
七咲「…………」すたすた…
純一「…ねぇ、七咲。ちょっと聞いていいかな?」
七咲「はい、なんでしょうか?」
純一「七咲って、声いいよね。なにか秘訣でもあるの?」
七咲「……はい?」
純一「あ、いや。ちょっと思ったんだよ。
七咲の声って……ちょっとエロいなって」
七咲「はいっ!? 本当に急になにいってるんですか先輩…!?」
純一「だ、だってさっきのキスの時とか……ちょっと凄くえっちかったし。
七咲わざとやってるのかなって……」
七咲「わざとってなんですか…! ちょ、ちょっと…声はわざともなにもないでしょう…!」
純一「そ、そうなの? いやー、もしかしたらって思ってたんだけど…」
七咲「もしかしてもないです! 変態先輩!」
純一「ご、ごめん……でも、思ったことだったからさ」
七咲「……そ、そんな風に思っているんでしたら、もう一回キスしましょうか…!?」
純一「え…?」
七咲「わ、わたしの声が…え、エッチっぽく聞こえるんでしたら…っ…
それが空耳だって証明するために、キスをするんです!」
純一「ん、まぁ…回数は残ってるし。いいけど…でも、本気でやるよ?」
七咲「え、本気…ですか?」
そうしなきゃ、声だってでないだろ?」
七咲「本気って……なに、するつもりなんですか。き、キスだけですよ…先輩…?」
純一「当たり前だよ! キスだけ、キスだけを本気でするつもり」
七咲「キスの…本気…?」
純一「そうそう、ちょっとここじゃなんだし……あ、そうだ。あそこの公園とかどうかな」すたすた…
七咲「えっ、ちょ…先輩!」
公園 べんち
純一「…よいしょっと」
七咲「………」
純一「ほら、七咲も座りなよ」
七咲「…えっ、あ、はいっ……」すとん…
純一「…どうして離れて座るのさ。もうちょっとこっちに来なよ」
七咲「っ……そ、そうですよね、わかりました…」すすっ…
七咲「……そうじゃなかったら、どうするつもりなんですかっ」
純一「だね。あははは」
七咲「…………」
純一「──七咲……」ぎゅっ…
七咲「っ……な、なんですか先輩……」
純一「…急にどうしたの? 静かになったけどさ。
こうやって手をつないだだけでも、びっくりしてるみたいだし」
七咲「そ、それは……そのっ……」
純一「……キス、恐いの?」
七咲「っ……そ、そんなことありません…っ」
純一「だって…僕が本気で、なんていってから静かになってるじゃないか」
七咲「ち、違います…!私は別に、怖くなんて…」
純一「…いきなり温泉で抱きついてきた七咲は、どこいったんだろうね?」
七咲「あ、あれは……っ! その、告白がうまく言って……嬉しくて、つい…!」
七咲「せ、先輩に言われたくありません…!」
純一「そうだね、確かに」
七咲「………」
純一「………」
七咲「──………き、キスしましょう…先輩」
純一「……いいの、七咲?」
七咲「い、いいんです。先輩が……先輩の好きに、してください…」
純一「好きに、していいの?」
七咲「だ、だってわたしは……先輩の、彼女なんですから!
先輩の…その変態な部分も全部、好きなんですから……大丈夫ですよ!」
純一「ほほー…それはありがとう、七咲。
凄く嬉しいけど……容赦しないけど、大丈夫かな」
七咲「か、回数には限りがありますからね…っ」
純一「大丈夫大丈夫。ちゃんと後、7回分……いや、七回分するぐらいの本気で、
七咲に本気のキスをしてあげるよ。頑張って」
純一「うん、頑張る」
七咲「……ふぅ。……よし…!」どきどき
七咲「っ……ど、どうぞ…先輩…!」ぐぐっ
純一「っ!……七咲……」
七咲「せん、ぱい……」ぶるぶる…
純一「………」ちゅ
七咲「んっ………」ぎゅっ…
純一 ちゅ、ちゅっちゅぅ
七咲「んっ……んん……せん、ぱい……」
純一 ちゅるちゅる…ちゅ、れろ…
七咲「んっ!……んむぅっ……ぷはっ…せん、ぱい息がくるっ…んむ!」
純一 れろっ……ちゅっちゅ……じゅるる…
七咲「んんっ…んっんっ!…………レロ…」
純一 !……ちゅるる…ちゅっ
俺「んっ………」ぎゅっ…
俺 ちゅ、ちゅっちゅぅ
俺「んっ……んん…………」
俺 ちゅるちゅる…ちゅ、れろ…
俺「んっ!……んむぅっ……ぷはっ…息がくるっ…んむ!」
俺 れろっ……ちゅっちゅ……じゅるる…
俺「んんっ…んっんっ!…………レロ…」
俺 !……ちゅるる…ちゅっ
これはひどい
ところてんでも食ってるのか?
純一「くらくらする…?…僕もだよ、さっきからくらくらしっぱなしだよ」
七咲「はぁっ……はぁっ…せ、先輩もですか…はぁっ……?」
純一「……うん、ずっと…七咲とキスしていると弾けちゃうって言ったろ?
こうやって、鼻と鼻が触れ合ってる距離で…会話してることが…」
純一「僕にとっては、ものすごく嬉しいことなんだよ…七咲…」
七咲「……せ、せんぱい…」
純一「ほら、今度は七咲かやってごらん……唇あわせて、そう、舌を伸ばすんだ」
七咲「んっ……ひょう、でふか…?」れろ
純一「ぷはっ…そうそう、それから…相手の舌と合わせて…んむっ」
七咲「ちゅる……れろ…ちゅうぅ…」
純一「い、いひゃいいひゃい…! ななひゃひ、いひゃい!」
七咲「……っ! す、すみません…! 痛かったですか…っ!?」
純一「だ、だいじょうぶ…ちょっと舌が持っていかれそうになっただけだから…!」
純一「そ、そっか…僕も初めてだから。一緒にがんばろう、七咲」
七咲「は、はいっ……でも、変に手馴れていませんか?先輩……」
純一「え? そりゃーもちろん、お宝本で頑張って妄想してるからね!」
七咲「……そうですよね、ちょっと心配した私が馬鹿だったみたいです…」
純一「気にしちゃ負けだよ七咲! ほら、続きと入ろうじゃないか…!」
七咲「わ、わかりました……つ、次はどうしたらいいんですか?」
純一「そ、そうだね……そしたら、もう──好きにしようか?」
七咲「好きに、ですか…?」
純一「うん、もうお互いにやりたいことをやって……やりまくるんだ!
難しいことを考えずに、やりたいことだけをするんだよ!」
七咲「やりたいことだけ……」
純一「う、うん……だめかな?」
七咲「……。いえ、大丈夫です。それで行きましょう先輩」
七咲「…よっこいしょっと」とすっ
純一「……え? 七咲、どうして僕の膝の上に…?」
七咲「好きな事を、していいんですよね先輩?」
純一「う、うん……そうだけど。それでもこの体制はちょっと…」
七咲「……だめ、でしょうか?」
純一「い、いや! だめじゃないよ!」
七咲「それはよかったです。では、やりますね……」すっ
純一「え、なにを……おふっ!?」ちゅぅうう
七咲 ちゅっ ちゅぅうう…ぷはっ
七咲「──はい、これでキスマーク……出来上がりですよ、先輩」
純一「な、七咲…! 首筋にまさか…!?」
七咲「はいっ…くっきりついちゃったみたいですよ? それはもうくっきりと」
純一「な、七咲…っ」
七咲「だって、お互いにすきなことしてもいいんですよね?
だったら、わたしは……先輩にたくさんのキスマークをの残したいです」
純一「ちょ、ちょっとそれは……っ」
七咲「先輩も…やってもいいんですよ?」ぎゅっ
純一「えっ……僕も…?」
七咲「ええ、お互いに好きなこと……好きなところにキスマークを残しましょう。
先輩が好きな場所に、大きく残してください……ちゅっ…」
純一「っ………」ぶるるっ…
七咲「……だめ、ですか…?」
純一「………わかった。明日後悔してもしらないからな…?」
七咲「そうですね。お互いに、後悔しないよう……いっぱいいっぱい残しましょう、せんぱい?」
純一「じゃあ、お返しに……首筋に」ちゅ
七咲「んっ……せんぱい、くすぐったいですって……」
純一「ぷは……ほら、くっきりのこったぞ。七咲」
七咲「ふふっ…そうですか。そしたら今度は、ほっぺたに……」ちゅ
七咲「……ここ、にしたいんですか?せんぱい?」
純一「っ……あ、いや…無理ならいいんだけどさ…うん」
七咲「いえ、好きにしてください。せんぱいにならいいですよ…?」もぞもぞ…じりり…
純一「さ、寒くないか…七咲?」
七咲「ちょっとだけですから。よいしょっと……」ぷちぷち…
純一「……ごくり…」
七咲「……はい、どうぞ。せんぱい──ここに、キスをして……いいですよ?」
純一「…………っ」すっ
七咲「………っ!………せん、ぱいっ…そこは、ちがっ……!」ぴくん!
純一「っ………」ちゅうう
七咲「……っもう…せんぱいったら、甘えん坊さんなんだから……んっ!」
純一「七咲……僕、もう……!」
七咲「……ふふっ。それじゃあもっと…いいですよ、せんぱい…好きなだけ……センパイが満足するだけ……」
七咲「キス、してください……ね?」
>>530ワロタ
次は決めてないけど安価しようかな?
誰得でもいいよ
>>548を書きますです
ちょいうんこ
安価なら響ちゃんで
このままヒロイン制覇かな嬉しい
三十五分に戻る
森島「ふんふーん……できたぁー!」
純一「……出来ましたか、先輩?」
森島「もう、ばっちぐーよ!素晴らしすぎる出来だわぁ!」
純一「そ、そうですか……ちょっと鏡を見ても…」
森島「あ、それはだめっ」
純一「えっ……どうしてですか?」
森島「その前に! まずは響ちゃんに見せてあげなきゃ!
おーい、ひびきちゃーん!」
塚原「……できたの、はるか?」がらり
森島「そうなのそうなのっ! それはもうす〜〜〜〜ごっくキュートにできたわよ!」
塚原「えらく上機嫌ね。それほどまで──……あら、誰かしら貴方?」
純一「えっ!? 僕ですよ! 橘です!」
塚原「………………」
森島「ん〜……やっぱりびっくりしたでしょ? ひびきちゃん、この子……いや、違うわね!」
塚原「違うわね」
純一「違いますよ…っ!!」
森島「…もう、ノリが悪いぞ二人共っ!」
塚原「でも──女の子だって言われたら、普通に信じてしまいそうだわ。うん、本当に」
純一「それほど、までですか……?」
塚原「うん。素晴らしいぐらいに女の子してるわ、橘純子くん」
純一「ちょ、塚原先輩…!」
森島「えへへ〜! これも響ちゃんの化粧道具のおかげね!」
塚原「まぁ、演劇部から借りたものだったけれど……」
森島「あとはあとは〜…このかつらを、よいしょっ」ぽす
純一「わわっ……こ、これでいいんですか…?」
森島&塚原「…………」
純一「え? どうかしましたか先輩たち…?」
森島「う、うん……自分でやったことだったけれど…びっくりして何がなんだかわからなくなったわ…」
純一「ど、どういうことですか…?」
塚原「えっとね……橘くん、可愛すぎるわ」
純一「えっ…!?」
森島「た、橘くん……抱きついていい?というかもう、抱きつくわねっ!」だっ
純一「え、えええ!?」
塚原「待ちなさい、はるか」ぐいっ
森島「たちばなくぅーん! だっこさせてー!」ずりずりっ
塚原「とりあえず橘くん……はるかの機嫌はよくなったみたいだから、感謝するわね」
純一「は、はぁ……まさか女装させられるとは思わなかったですけど…」
塚原「……はぁ。私もそうだとは思わなかったけれど、ただ単に化粧がしたいからって話だったのに」
森島「だっこだっこ〜!」
塚原「そうね。はるか、これで満足したんでしょ?」
森島「ん〜? え、でも〜これでおしまいってのはちょっともったいなくないかなぁ…」
塚原「……まぁ、ここまできれいにできたのだから。それは、ちょっともったいないわね」
純一「……えっと、先輩方…?」
森島「そうねぇ……こういうのはどうっ? ひびきちゃん…」ごにょごにょ…
塚原「……ふむふむ。なるほど、なるほど……」
純一「………?」
森島「ってのは、どうかしら!」
塚原「……ときどき、はるかの発想は驚かされるわね…いいと思うわ」
純一「つ、塚原先輩……? 何を言われたんですか…?
何か嫌な予感しかしないんですけど……」
塚原「……とりあえずは、私は用済みのようだから教室に帰るわね。
化粧道具と、その着ている女子生徒用の制服はこの部室に持ってきてちょうだい」
森島「あいあいさー」
塚原「…頑張ってね、純子くん」がらり…ぴしゃ
純一「そ、そんな……っ」
森島「──橘くん、うふふ。橘くん!」
純一「ハッ……せ、せんぱい…?」くるっ
森島「だっこさせて〜!」ぎゅうう…
純一「う、うわぁああ! せ、せんぱい…! そ、それはちょっと…!?」
純一(や、やわらかい…!)
森島「ん〜〜っ……いいわぁ! すごくいいわね! 本当に橘くんって男の子なのっ?」
純一「お、男ですよ! がっつり男の子です!」
森島「うそうそ! そんなこといっても、ここは騙せ無いぞ〜」ぽにょん
純一「い、いや…それは先輩が詰めたパッドじゃないですか……!」
森島「d……いや、Eはあるわね……恐ろしい子ね橘くん!」
純一「……もう、好きにしてください……っ…」
純一「そ、そうですか……」ぐたー…
森島「こらこら、男の子がそんなんじゃダメよ?
もうちょっとしゃきっとしなきゃね!」
純一「こういう時だけ男の扱いするんですね……いいですけど…」
森島「さーて、そしたら橘くん。これから校舎の中を歩くわよ〜」
純一「……え? この格好でですか…?」
森島「当たり前よっ。じゃなきゃ意味ないじゃないの、ねっねっ?
いきましょ〜よ〜」ぐいぐい
純一「い、いやですよ! 他の人に見られたらどうするんですか…っ!」4
森島「だいじょうぶよー! だってだってバレやしないわ!ぜったいに!」
純一「ぜ、ぜったいにですか……?」
森島「うん、それはもう……この美少女はだれ!? ってぐらいによ?」
森島「グゥート! いい心意気ね、橘くん!
それじゃあさっそくだけど……よいしょっと」ぐいっ
純一「えっ…なんで腕を組むんですか…!?」
森島「え? いや、かな?」
純一「ぜ、全然嫌じゃないですけど……でもどうして…」
森島「だってだって、このほうが雰囲気でていいじゃない。
ほらほらいくわよ〜」ぐいぐい…
純一「なんの雰囲気ですかっ……って、森島先輩っ…そんなに引っ張らないでください…!」
廊下
森島「さーて、さっそく何処に行きましょうか? 橘くん?」
純一「僕は着替えて帰りたいです……」
森島「そんなツレナイこといわないの〜……ほらほら、さっそくだけど前方から人よ!」
純一「人って……な、七咲!?」
七咲「…あ。森島先輩、こんにちわ」
森島「うんっ。今日も逢ちゃんはクールね!」
七咲「ありがとうございます。……えっと、そのかたは?」
純一「っ!……」
森島「あ、この人? この人はねぇ〜…うーんと…」
七咲「随分と仲良くされてるみたいですが…えっと、はじめまして」
純一「……ハジメマシテ…」
七咲「……?」
森島「──うん、そうね! この子は私の友達の純子ちゃん! 同じ年なのっ」
七咲「そうなんですか、そしたら先輩だったんですね」
純一「っ……っ……」こくこくっ
森島「うふふっ〜……可愛いでしょ? この娘?」
七咲「…………」じっ
純一(そ、そんなに見つめないでくれ七咲ぃ〜……ううっ…)
森島「よかったわね純子ちゃん! 可愛いって言われたわよ?」
純一「……っ……」こくっ
七咲「……………」じっ
森島「それじゃあ逢ちゃん、また会いましょう! ひびきちゃんなら教室にいるわよー!」
七咲「わかりました。ありがとうございます……」
純一(な、なんだか七咲……ずっと僕の事を見つめてるな……ま、まさかバレてるとか…!?)
森島「行くわよ純子ちゃん! 早くしないとおいてっちゃうぞ〜」すたすた…
純一「あ、まってください……」
七咲「──すみません、純子先輩」
純一「えっ……ど、どうかしたノカナ……?」
純一(や、やばいっ……やっぱりバレてたか……!!?)
七咲「…………その、髪にゴミがついてますよ?」
純一「えっ……ほんとうに…?」
七咲「はい、それがずっと気になってて……すみません。失礼でしたよね」
純一(な、なんだそういうことだったのか……焦って損したよ…)
純一「あれ、どこかな……ここ…?」さわさわ…
七咲「──あ、もうちょっと右です。はい、いや行き過ぎで……」すたすた…
七咲「……これですね、とってあげますよ」ぐいっ
純一「あ、ありがとう……」ずりっ!
ぱさ………
純一「えっ………」
七咲「えっ………」
純一(………か、かかかかかかかつらがぁー!?
外れて七咲の手の中に────)
びゅん
塚原「──七咲、ここにいたのね」
七咲「っ!? え、塚原先輩…!? いつのまに…!?」
七咲「──って、あれ……さっき衝撃的な光景がいま……?」
七咲「えっ……だって、さっきまでそこに人が……あれ?」
物陰
純一「はぁっー……はぁっー……た、たすかった……っ!」
森島「さすがひびきちゃん! ものすごい早業だったわね〜」
純一「なにがなんだかわからなかったんですが……えっと、とりあえず塚原先輩がたすけてくれたと…?」
森島「そうなのよ。まず、橘くんを突き飛ばして私に渡してね?
そのあと意表を突かれた逢ちゃんの手からカツラを奪って、こっちに投げ渡したってコトなの」
純一「なにものですか、塚原先輩……」
森島「すごいでしょ! あれ、わたしの友達のひびきちゃん!」
純一「しってますよっ……はぁー…とにかくあぶなかった…」
森島「ほらほら、かつらをかぶって……そうそう。じゃあ次に行くわよ!」
純一「ま、まだどこかにいくんですか……っ?」
森島「あたりまえよ! ほらほら〜 つぎつぎ〜」
森島「うふふっ……わかるかしら? ここはねぇ」
純一「……文化祭実行室?」
森島「ぴんぽーん。ほらほら、ここに入るわよ〜」
純一「え、ちょ…なんでですかっ……?」
森島「いいからいいから〜…うふふっ」ぐいぐい
がらり
森島「こんにちわ〜」
純一「……っ……!」
「───あら、こんにちわ。森島先輩」
絢辻「ここになにかごようですか?」
絢辻「……参加者? というと、その隣にいる方ですか?」
純一(あ、ああああ絢辻さん……!? これはだめだ……バレる以外の結果が見当たらないぞ…!)
森島「うん! そうなんだけど、ちょっとわけありでねぇ〜」
絢辻「はあ……ワケあり、というのは?」
森島「うんとね、この娘……実は他校の子なのよ。
だからここの文化祭に参加できるのかなって思って」
絢辻「他校の……なるほど。すみませんが、すこしばかりその人と話しをさせてもらってもいいですか?」
純一「っ……」
森島「えっ? いいけど…乱暴に扱っちゃだめよ?」
絢辻「……はい? えっと……わ、わかりました。乱暴に扱いませんから」
森島「おっけーよ! それじゃあ純子ちゃん、ちょっと廊下に出てるわね〜」
純一「えっ…あっ……森島せんっ……」がらり ぴしゃ
絢辻「…………」
純一「は、はいっ……!ど、どうも……!」
絢辻「……もしかして、先輩の方でした?」
純一「い、一応……」
絢辻「なるほど。わかりました……では、純子先輩。
貴方は文化祭当日、本校でイベントをこなす時間を割くことは可能なのでしょうか?」
純一「い、いべんとですか…?」
絢辻「はい、今回の文化祭では……女子のランキングを決めるイベントがあります。
それに参加の希望ですよね?」
純一「…………」
絢辻「……純子先輩?」
純一「えっ……あ、はいっ…とりあえず……は…?」
純一(な、なんだそれっ……そんなこと全然聞いてないよ…!)
絢辻「…………」じぃ
『えっ……あ、はいっ…とりあえず……は…?』
森島「………ふむふむ…」
森島「うふふっ……ふふっ…困ってる困ってるっ」
森島「このままいけば、どうにか橘くんをイベントに……
引き入れることができるんじゃないかしらっ?」
森島「……いいわぁ!どきどきしちゃう!」
森島「押しに弱い橘くんなら、絶対に参加するって言い出すわ……
ひびきちゃんの後押しもあるし、頑張ってね橘くん!」
室内
純一(ど、どうしよう…ともかくここは、絢辻さんに疑われる時間を少なくするために、
とりあえず…いいですって言っておくべきなのかもしれない…!)
絢辻「…………」じぃ…
純一(ううっ…ものすごく見てるっ……はやく、いわないと…!)
絢辻「──橘……」
純一「………っ!?!?」
純一「えっ……今、なにか……」
絢辻「いえ、ちょっと参加者メンバーで橘美也さんの名前を見かけたものですから…」
純一「そ、そそそうですか…っ…」
純一(び、びっくりしたぁー! ば、ばれたのかと……!?)
絢辻「……………」じっ
純一「っ……えっと、その…なにか…?」
絢辻「すみませんが、ちょっと失礼なことを言ってもかまいませんか?」
純一「は、はい……」
絢辻「胸のパッド、どこで手に入れたんですか?」
部屋
森島「っ………」ぴくんっ…
森島「むむむ…あれをパッドだと気づくなんて、この娘只者じゃないわね…」
森島(なにか、嫌な予感がするわ…もしかして、私が出ていったのは間違いだったかしら?)
純一「そ、それはその……森島せん、はるかちゃんが…つめろって…その…」
絢辻「そうだったんですか、それもイベントのための工作とかですか?
……いささか不正というのは、こちらとしても見逃せないのですが」
純一「す、すみません……」
絢辻「……まぁいいです。それでは、純子さん。さきほどの質問に戻りますが…
時間を間に合わせることは可能なのですか?」
純一「えっとその……」
純一「はい、だいじょうぶです…よろしくお願いします…」
廊下
森島「わぁお! やったわひびきちゃん! 橘くんの参加を成功させたわ!
うふふっ…これでイベントは大波乱よ〜…バッチグーね橘くん!」
『わかりました……では、そろそろ茶番も終わりにしましょうか』
森島「……んっ? 何か今、聞こえたかしら…」そっ
『私も、こんな茶番に時間を咲いてる余裕はないの……』
『えっ…あっ…ちょ、あれ…?!』
森島「っ!? こ、これってもしかして……!」
純一「あ、絢辻さんっ……!?」
絢辻「……あら? どうして私の名前を知っておられるんでしょうか…純子先輩?」
純一「っ……!? そ、それは……!!」
絢辻「……ったく。誰か連れてきたと思えば、こんな変態な人を連れてくるなんて…」
純一「…っ……!」
絢辻「こっちはこっちで文化祭の仕事で忙しいっつーの……
ちょっとはストレス発散になるかとおもって虐めてやろうと思ったけど…もういいわ」
絢辻「──なにしているの、橘純一くん?」
純一「っ…や、やっぱりきづいて…!」
絢辻「当たり前でしょう? 私を誰だと思ってるの?ばかなの?」
純一「ば、ばかじゃないです……」
絢辻「馬鹿じゃなかったら、女装癖の変態野郎ね。貴方はっ」
純一「ひっ……」びくん
廊下
森島「た、橘くんっ……これはいけないわ! た、助けなきゃ…で、でも……!」
こんな時、ひびきちゃんがいればいいのだけれど……」
『おらおら! その下はどうなってるんだこの!』
『や、やめて絢辻さん…! あ、いやっ…!』
森島「っ! こ、このままじゃ…橘くんが汚されちゃう……!」
森島「……た、橘くんを女装させたのは私……責任をもって、最後まで面倒を見なきゃ…だめじゃないの!」
森島「っ………!」キリッ
室内
絢辻「……ふーん。えらく詰め込んでるのね、橘くん。巨乳が趣味なのかしら?」
純一「ち、ちがうよ……僕はどんな大きさでも…っ!」
絢辻「んなこと聞いてないのよ! 変態!」ばしん
純一「…ああっ…ひどいっ…」しくしく…
絢辻「なにをめそめそないてるのかしら……この変態は。もう切り落としちゃえば?」
純一「ひっ……!」
「まつのよ! そこの強姦者!」
ちゃらちゃちゃー!
絢辻「──な、なにやつ…!?」
純一「えっ……?」
「私の名前は──……イナゴライダー!愛と正義の味方よ!」ばーん!
絢辻「いなご…ライダー…?!」
純一(絢辻さん、えらくノリがいいな……)
イナゴ「……そこの火憐な美少女ちゃん。待ってるのよ!いまたすけてあげるわ!」
純一「えっとその……はい、わかりました…!」
イナゴ「とうっ!」がたっ
イナゴ「いたっ……」ずさ…
イナゴ「よくも……良くもやってくれたわね! 怪人裏表!」
絢辻「なにもやってないけれど……うるさいわ!このイナゴライダー!!」
絢辻「なっ……それは…!イベント用で使われるはずだった、弾幕用の煙…!こほっ…こほっ…」
純一「こほっ…こほっ…!」
イナゴ「げほっ…ごほっ……ごほっ…!」
ずさぁ……
イナゴ「………」
絢辻「…………」
純一(さ、さっきと何も変わってないけど……なんだろう、このお互いのノリは…!
なんだか一つの戦いを終わらせたような雰囲気を漂わせてるけど…なにもしてないよね!)
絢辻「……やるわね、イナゴライダー」
イナゴ「ふふっ……でしょう。でも、戦いはこれからよ!」
絢辻「あら、どうかしら? こっちには……人質がいるのよ?」ぐいっ
純一「きゃっ……」
イナゴ「なっ……貴方! なんという卑怯なことを!」
絢辻「くっくっく……あっはっはっは…! どうかしら、惨めなものねぇ…正義の味方さん?
一人の命すら守れない…正義のイナゴライダー……ここでオシマイよ!」ばっ
イナゴ「っ……!?」
イナゴ(あ、あれはっ──)
純一「………先輩っ…」キラキラ…
イナゴ(ッ……か弱い女の子のため、わたしは正義に尽くすと決めた……!!
ここでまけてしまっては、正義の名が泣いてしまうわ……!!)ぐっ…
絢辻「しねぇえー!」がっ
純一(死ねって絢辻さん!?)
イナゴ「………───チェンジ…」
イナゴ「イナゴォオオオオオオオオ!!」きゅいんきゅいん!
絢辻「なっ……それは、まさか……!?」
イナゴ「……スピードタイプよ。ついてこれるかしら?」ひゅん
絢辻「なに、そんな馬鹿なことは……きゃん!」がたん! ばたん!
純一「え、絢辻さん……!? どうしたの急に倒れこんで…!」
イナゴ「…………怪人裏表。強敵だったわね……」キリッ
純一(え、ええええー!?先輩、一歩もそこから動いてないけど……!?)
森島「──橘くんっ! 大丈夫だったかしら!?」
純一「え、あっ、はいっ…だ、大丈夫でしたよ……?」
森島「……そう、どこかの正義の味方がたすけてくれたようね……よかったわ」
純一「あ、はい……?」
森島「ここは危ないわ。はやく、逃げましょ!」ぐいっ
純一「は、はいっ……森島先輩…!」だっだっ…
だっだっだ……
「……………」
絢辻「……ふぅ。疲れたわ」
絢辻「…………」こきっ こきっ
絢辻「──そろそろいいんじゃないでしょうか……先輩」
「──そうみたいね。あの二人の姿も見えないみたいだし」
塚原「ありがとう、感謝してるわ。絢辻さん」
絢辻「ええ、これぐらいのことでしたら」
塚原「これでばっちり、文化採用ビデオ……森島はるかの日常が取れたわ、ばっちりね」
絢辻「……毎回それが大ヒットを起こしているなんて、不思議に思ってたのですが…
なるほど、そういった影の努力があったんですね」
塚原「普通にとっても面白みが欠けるもの。とにかく参加をありがとうっていいたいわ」
絢辻「……ふっ。いえいえ、ですが約束は守って頂きますよ?」
塚原「わかっているわ……このビデオを作った関係者含め、上映を見た人全員に…
生徒会長の投票を貴方に推薦するという、約束でしょう」
絢辻「ええ、ありがとうございます」
塚原「……だけど、推薦でいいのかしら? 強制にしても構わないと思うのだけれども…」
絢辻「いいんです。だって、これに参加するだけで……ここは投票を手に入れたと思ってもいいんですから」
塚原「……なるほど。ギャップ戦略か」
絢辻「…このようイベントの参加に快く参加をする絢辻 詞……素晴らしいと思いませんか? ふふっ…」
塚原「……心底、貴方を敵に回さなくてよかったとおもってるわ」
絢辻「いやですよ、先輩……後はとにかくよろしくおねがいしますね」
塚原「わかったわ。それでは」
森島「……………」
純一「はぁっ……はぁっ……せ、先輩……」
森島「ん? どうかしたかしら?」
純一「あのっ……今日は、なんで僕と……」
森島「うん?」
純一「──僕と、こうやって……遊んでくれたんですか…っ?」
森島「あら、どうしてかしら?
だっていつもこうやって遊んでるじゃない橘くん」
純一「そ、そうですけど……でも、今日は……」
森島「……うふふっ。今日はなにかしら?」
純一「だって、先輩が転───」ぴっ
森島「だーめっ」
純一「むぐっ」
森島「それは言わない約束よ? 言ったじゃない、そのことを言った日に……
……いなくなるまで、そのことは口にしないこと!ってね?」すっ…
純一「……せ、先輩…」
なんというか、橘くんと一緒にいると本当に飽きないわね!」
純一「…………」
森島「やりたいことはできるし、わぁお!これだと橘くんに悪いわねっ。
……でもでも、感謝してるし嬉しく思ってるのよ?」
純一「はい、僕も楽しいですよ……先輩と一緒に遊ぶの」
森島「わお! 嬉しいこと言ってくれるじゃない……ふふっ、そうね。
──橘くんに、そんなこといってもらえたら…私は本当に、嬉しいわ」
純一「………」
森島「──うん、決めた! ねぇ橘くん……ちょっといいかしら?」
純一「は、はい…? なんでしょうか?」
森島「──キス、しましょうか……?」
純一「……………んっ? はいっ!?」
森島「き、キスよキス! しちゃだめ…?」
純一「へっ!? あ、いや、そのっ……だめじゃないです!……けど…!」
森島「じゃ、じゃあしましょう!んん〜〜〜〜〜…」ぐぐっ
森島「あら? どうして?」
純一「えっと、その……と、とりあえずこの格好をどうにかしたいです僕…!」
森島「え〜! かわいいのにぃ……」
純一「で、でも……せ、先輩との……さ、最後のき、きっききすをするのにこういう格好というのは……」
森島「でもでも、この格好のほうが……すっごく思い出に残ると思うよ?」
純一「がっつり残るでしょうね……でも! いい思い出のほうが僕はいいですよ!」
森島「……これは、いい思い出じゃないのかしら?」
純一「うぐっ……そ、それは……!」
森島「…橘くん、ひとつだけ言わせて」
純一「は、はい…?」
森島「わたしはどんな橘くんだって……好きよ?」
純一「あ、ありがとうございます…」
森島「うん! でもね? そうやって……意固地になってる橘くんは、嫌い」
純一「えっ!? そ、そんな…!」
純一「そ、そうですか…!」
森島「うふふっ……ふふっ。いいわぁやっぱりいいわぁ!橘くん…本当に素敵な女の子だわ!」
純一「男の子です!」
森島「………ふふっ。それじゃあ橘くん、いい?」
純一「っ……やっぱり、この格好でですか?」
森島「うん、その格好で」
純一「………わ、わかりました…それじゃ、その…」
森島「…………」じっ
純一「…………」
森島「──最後の、本当に最後の……キスだからね?
ちゃんと、思い出に残すように……しっかりとすること、いいかな?」
純一「は、はい……しっかりと、しっかりとします…!」
純一「っ………」ぎゅうっ…
ちゅ
森島「──……ふふっ、ちゃぁんと…あたまに残せたかしら?」
純一「……は、はい……先輩。ちゃんと残せました…!」
森島「……橘くん、好きよ。大好き」
純一「ぼ、ぼくも……先輩のことが……」
純一「大好き、です…!」
…………
……
…
キーラキーラキラメークユーキガー セイヤヲスベーテヲツーツムヨーナー
塚原「──ここまでのご視聴ありがとうございました。みなさま、どうか盛大な拍手を!」
ワァアアアアアアアアアアアアア!!88888888888888888888!!!!
塚原「今回の『森島はるか の 日常』……これにてファイナルでございます!」
紗江「そうだね美也ちゃん……最後のところとか、ものすごく感動的だったね…!」
絢辻「……フフフ」
薫「いや〜……今回のクオリティはすごかったわね。毎回すごいと思ってたけどさ」
田中「だよねぇ〜!……ファイナルだけあって、ものすごいできだったよ〜」
梅原「俺はぁ……すっげぇ感動してるぜぇっ……!」
伊藤「ちょ、梅原くん泣きすぎ! 桜井みてよこいつ〜」
梨穂子「わ、わわ! 梅原くん泣き過ぎだよ〜!」
夕月「……なかなかのもんだったなぁ。愛歌、こりゃー茶道部も負けるわぁ〜」
愛歌「無念惨敗」
七咲「………わたし、取られてたんだ…」
高橋「ひっぐ……ぐっす……いいはなしねぇ……ひっく…」
森島「わぁお! すっっっっごい、いいできだったわぁ!!
もう胸がどっきどきよ! ねぇ橘くん!橘くん!」
純一「……………先輩、これは…?」
森島「んっ? これはね! なんとなんと……全てお芝居でした!ちゃんちゃん!」
純一「……じゃ、じゃあ…転校のはなしは……?」
森島「うそよ?」
純一「な、ななっ……えぇえ……?」
森島「もーうっ! こんな変な時期に転向するわけ無いじゃない!
……えっ。もしかして、本当に転向するって思ってた……の?」
純一「…………」
森島「……あ、その…ごめんなさい…わたしたたらてっきり、全部知ってて乗ってるのかと…」
純一「…………」だっ
森島「た、橘くん……!?」
純一「くっ………ぐすっ……!」だっだっだ!
純一「けほっ……ぐしゅっ……!」だっだ……がっ
純一「あっ──いたっ……」ずさぁ…
純一「っ………」むく…
純一「……………」
森島「──た、橘くんっ…はぁっ……はぁっ……!」
純一「……………」
森島「そ、その……だ、だいじょうぶかしら…?」
純一「…大丈夫です、ぐすっ……」
森島「っ……な、ないてるの…?」
純一「な、ないてなんかいないですよっ……男ですから、泣いてなんか居ないです…!」
森島「………」
純一「………森島先輩っ…ぐすっ…」
森島「っ!……なに、橘くん…?」
森島(……すごく、彼を傷つけてしまったわ…どうしよう…!
また、また……こうやって橘くんを傷つけてしまった…)
純一「………」
森島(……前に告白された時も、その場の感情でふって…もう、そんなことしないって決めたのに…
適当にやらないって、ちゃんと心に決めたのに……また、橘くんを傷つけた…)
森島(…あの時は、橘くんがしっかりしてたから……よかったけれど。
今回ばかりは、もう、もう………)
純一「──先輩、森島先輩……」
森島「っ──……なに、かしら……橘くんっ…」
純一「…転校が、嘘でよかったです…先輩」
森島「えっ………」
純一「だって、僕はその……もっと、先輩といっしょにいたいですし…それに」
純一「もっともっと、先輩と……キスがしたい」
純一「えへへ、あの…やっぱり少し、傷つきましたけど。それが先輩ですもんね!
そんな先輩が僕はだって──……」
純一「大好き、ですから」
純一「あはは………あ、あれ…? 森島先輩…どうかしました?」
森島「──怒らない、の?」
純一「え? なんでですか?」
森島「なんでって……貴方を、君を…また傷つけて私……」
純一「………。あの、森島先輩……」
森島「っ……なに、かしらっ?」
純一「僕、大丈夫ですよ?」
森島「で、でもっ……」
純一「確かに傷つきましたけど……でも、先輩と一緒に入られる。
それでチャラってさっき、転んだ瞬間に思いました」
森島「チャラって…」
純一「あはは、だって……転んだ時。すぐに森島先輩が…心配そうにきてくれて」
純一「こうやって、僕のところに来てくれた。これがなによりも……僕にとっては、
一番の幸福ですから」
森島「っ……た、たちばなくん……!」だっ
森島「たちばなくんっ……たちばなくんっ…!」ぎゅううう
純一「あ、ちょ、本当にどうしたんですか先輩……っ?」
森島「大好きよ、本当に大好き……こればっかりは、本当のこと……!」
純一「え、あ、はい……そ、そうですか…っ?」
森島「信じて、お願いっ……橘くん……!」
森島「だいすき、だからねっ……?」
純一「…………」
純一「……はいっ!」
とある場所
「……すべて、うまく行ったわ。はるか」
塚原「これで懸念なく……卒業できるわ、ふふふ」
塚原「………今日もいい天気ね」
塚原「…………」 ひゅうぅ…ざぁああ……
次は塚原先輩かな…多分
ちょっと三十分ぐらい休憩
落ちちゃったら、今度いつか立てて書くよ
やっぱり次は安価で
>>700を書きます
遠いかな
ここでスト子か
今から書くよ
上崎「………」
上崎「………」チラッ…
上崎「………まだ、かな…」
上崎「…………あっ…!」
「──お、おまたせ…!もしかして、またせちゃった…?はぁ…はぁ…!」
上崎「う、ううんっ! ぜ、ぜんぜん! ぜんぜんまってないよ…!」
「そ、そっか……ふぅ〜……よし、じゃあ…いこっか?」
上崎「う、うんっ…!…いこう、橘くん……!」
純一「うん、いこうか」
上崎「っ…………」ドキドキ…
上崎(────し、しあわせすぎるよぉおおー!!きゃああああー!!)
上崎(えっ!?……お、おまたせって……いわれちゃった…おまたせだよ!?
待ってないのに…全然構わないのに……心配してくれたんだひょ……噛んじゃった…)
上崎「っ………が、がんばろうっ……今日はっ…!」
純一「?」
純一「………」すたすた…
上崎(ちゃ、ちゃんと……ちゃんとちゃんと日記にかかなくちゃ…!
花丸もして、蛍光ペンでおっきく書くんだから…!)
純一「……あ、そういえば裡沙ちゃん…」
上崎「……それでそれで……」ぼそぼそ…
純一「……ん? おーい、理沙ちゃーん…?」
上崎(この日の思い出として、眼に見えるもの全て覚えておくの…!
脳内ハードディスクに保存!保存だよ裡沙!)
純一「──りーさちゃん」すっ
上崎「ひゅぅわぁっ!?」
純一「お、おう……ごめん、そんなに驚くとは思わなくて…!」
上崎「えっ、たっ、たひばひゃくん…!?きゅ、きゅうに顔ちかづけちゃ……!
びっくりしちゃうから…!」
純一「う、うん……ごめんね?」
上崎「あっ……ち、ちがうの! あたしこそっごめんなさい……!!」
しっかりしなきゃ!うん!裡沙しっかり!)
純一「……えっと、今日は本当にありがとね」
上崎「……えっ? どうして?」
純一「えっと、その……僕となんかとで、デートしてくれて…いやー、すっごく嬉しいんだよ」
上崎「っ!……わ、わたしも……う、うれしいんだよ…っ!」
純一「そ、そうなの?……あはは、そっか…ありがとう、理沙ちゃん」
上崎(そ、その笑顔は卑怯だよぉおー! 保存!保存!)
純一「あはは、それじゃ……そうだね。映画でもみようか?」
上崎「はぁはぁ……う、うんっ! 映画あたし見たい!」
純一「本当に? よかった〜……裡沙ちゃんが映画嫌いだったらどうしようかと…」
上崎「そんなことないよ! ぜんぜん大好きだから…!」
上崎(人ごみとかちょっと苦手だけど……橘くんとだったらなんだっていい!
そ、それに映画館だったら……暗くて、二人の距離も近くて……きゃああー!)
ちょっと抱き、つい、ちゃったり…ごほっ!けほっ!……ちょっと興奮しすぎ…けほっ…)
純一「……?」
上崎(と、とにかく…! 映画を見に行く!しっかりとね!)
映画館
純一「色々とあるみたいだなぁ……えっと、裡沙ちゃんなにかみたいのある?」
上崎「あ、あたし…っ?え、えっとその……」
上崎(たしかにいっぱいある……動物感動モノはだめ。嫌いだし。
それに…恋愛物……橘くんが暇になっちゃう可能性もあるからダメだよね…!)
上崎(そしたら、このホラー物でいいかなっ…これなら橘くんも暇にならないだろうし、
ちゃんとアタシも楽しめる……そ、それに…っ…うふふ、ふふっ……)
純一「うーん、けっこう面白いのたくさんあるけどなぁ…」
上崎「た、橘くん……!あたし、あれが見たいかなっ…?」
純一「うん? どれどれ……ホラーものだけど…裡沙ちゃん、こういうの平気なの?」
上崎「だ、だいじょうぶだよ…! ほ、ほらっ…女の子ってスプラッター物って平気とかいうでしょ?」
純一「たしかに……わかった。そしたらチケット買ってくるから、ここでまっててね」
上崎「…………」ふり…
上崎(っはぁああ〜……っ! な、なんという破壊力なの……!
妄想で色々とっ…予行練習したのにっ…動機が収まらない…!)
上崎(……もうっ、橘くんが好きで好きでたまらないよっ……
一緒のことをしているだけで、一緒の時間を過ごしているだけでっ…!)ぶるぶるっ…!
上崎「………ふぅ…」
純一「──おまたせ裡沙ちゃん」
上崎「──……うん、ありがとう橘くん。ちょっと、その…いいかな?」
純一「え、どうかした?」
上崎「ちょ、ちょっとトイレに……行きたいんだけど、い、いいかなっ?」
純一「あ、うん! いいよ!いってらっしゃい…!」
上崎「ご、ごめんなさい…! すぐ戻ってくるから…!」たったった…
上崎(か、替えの下着もってきてよかった…!)
純一「あ、うん。大丈夫だよ、それよりもほら……」すっ
上崎「…あ、ありがとう…! 買ってきてくれたんだ?」
純一「うん、飲み物とポップコーンだよ。飲み物が迷ったんだけど……オレンジジュースでよかったかな?」
上崎「うんっ……! ありがとう橘くん!」
純一「そこまでのことはしてないよ、ほら。もうすぐ始まるみたいだし、なかにはいろっか?」
上崎「だね、入ろう」
館内
純一「うわー……大きいね。さすが町内最大の映画館だよ!」
上崎「わぁ…ほんとだ、おっきぃ……」
純一「っ……」
上崎「っ?……どうか、したの?橘くん?」
純一「い、いや…! なんでもないよ!うん!」
上崎「う、うんっ……!」
上崎(…あ、あたしにわかってるよ橘くん…!
放映中に出ても、迷惑にならないよう端の席をとったんだよねっ…?)
純一「よいしょっと…うわぁ!なんだか椅子がふかふかだよ裡沙ちゃん!」
上崎「本当だね…! ふかふかしてるっ」
上崎(……それにそれに、トイレが近くならないようにお茶とかじゃなくてオレンジジュースにしてる…
もうっ…もうもうなんてっ……気が利いててかっこいいのかなっ……!!!)
純一「……もう少しで始まるみたいだね、でも、本当に大丈夫?」
上崎「っ……映画のこと?かな?」
純一「うん、恐いのだけど……ほら、美也とかこういうの苦手だし。いや、妹を理由に言うのもあれだけどさ…!」
上崎「……ううん、大丈夫だよ? 心配しなくても、ちゃんと大丈夫だから…!」
純一「……そっか。そしたらよかったよ…うん、よかった」
上崎「…………橘くん…」
びー!
純一「おっ! はじまるみたいだよ!」
数十分後
キャァアアアアアアアア…!
純一「…………」
上崎(わ、わわっ……! すごい迫力…なかなだけど、でも恐いってほどでもないなぁ…)
上崎(それよりも、いつもの橘くんを追っかけてて…
…夜の墓場に潜り込んだ時のほうがこわかったし…あれはもう、すごかったもん…!)
上崎「………」ちらっ…
純一「………」
上崎(…はぁはぁ……って、横顔で興奮してる前にっ……橘くん、こういうの得意だったんだ。
すごく冷静にみてるね……楽しくはない、ってわけじゃなさそうだけど)
純一「……ん、裡沙ちゃん?」
上崎「っ! あ、ごめんなさい…! 見てるの邪魔しちゃったかな…っ…?」
純一「ううん、大丈夫だよ。……もしかして、映画つまらなかった?」
上崎「えっ!? ぜ、ぜんぜんそんなことないよ…っ! すっごく面白いから!」ぶんぶん!
純一「そっか、でも僕の顔見てたみたいだし……もしかしたらって思ってさ」
純一「…うん、そっか。ありがとう、裡沙ちゃん」
上崎「………っ…」
上崎「……ほ、本当に楽しいんだよっ……」とん…
純一「!……り、裡沙ちゃん…っ?」
上崎「──ご、ごめんなさい……でも、ちょっとだけでいいから…よりかからせて…くれないかな…?」
純一「う、うん……別大丈夫、だよ?」
上崎「うんっ……ありがと、橘くん……」
純一「…………」ポリポリ…
上崎「…………」
上崎(…さっきの橘くんの笑顔……あれはダメっ。
これから先、今日のデートでは……あの笑顔をさせちゃいけないんだから…!)
上崎(……させちゃ、いけないんだから…)
純一「い、いやー! すごくおもしろかったね〜!」
上崎「う、うんっ……!cgだって思えないぐらいに、すっごくリアルだったし…!」
純一「そうそう! それにあの骸骨とか……すっごくこわくてさー!」
上崎「うふふっ……えっと、それじゃあ橘くん。これからどこいくのかな…?」
純一「あ、そうだね。そしたら……ちょっとゲーセンでも行ってみない?」
上崎「ゲーセン……あたし、行ったことがないけど…大丈夫かな…?」
純一「大丈夫だよ! 二人用の機材とかあるしさ!」
上崎「そうなんだ…橘くんがそういうのなら、あたし…行きたいな…!」
純一「っ……」
上崎「? どうかしたの?」
純一「う、ううん! じゃ、じゃあいこっか!」
上崎「う、うん……?」
純一「あ、ほら。ああいうのってどうかな?」
上崎「えっと、これはどうやって遊ぶの?」
純一「こうやって、拳銃を持って……重いから気をつけてね?」
上崎「う、うんっ…よいしょっと…」
純一「よし、こうやって前に出てくる画面に映る敵を……こうっ!」ばんばん!
上崎「うわぁ〜…!橘くん、かっこいい…!」
純一「そ、そうかなっ…! ほら、裡沙ちゃんもやってみなよ」ちゃりーん
上崎「わ、わわ…! これを打てばいいの…っ?」ばんばん
純一「そうそう! 良い感じ良い感じだよ!」ばんばん!
上崎(こういった遊びがあるんだ〜……はじめてしったなぁ。
橘くんがゲームセンターが好きってのは最初からしってたけど……)
純一「それそれ!」ばんばん!
上崎(……ふふっ…こうやって無邪気にはしゃぐ橘くん。
昔の彼を思い出しそうになるよ……可愛かったなぁあの頃の橘くん)
あたしだけがしってる橘くんの過去……きゃああー!なんだかちょっと恋人っぽいかな…?)
純一「あっ! り、裡沙ちゃん! やられてるやられてる!」
上崎「……えっ! あっ、うそ…!」ばんばん
純一「そうそう、そうやって…おっけー! 持ち直したよ!」
上崎「ご、ごめんね…! ちょっとぼーとしちゃってて…」
純一「あ、大丈夫…? 面白くなかった?」
上崎「っ…お、面白いよ! ほら、こうやってうつんでしょ?」ばんばん
純一「お、おお……うまい…!」
上崎(いけないいけない…! またあの笑顔をさせるところだった……
ちゃんと目の前のことに集中しなくちゃ!うん!)
上崎(そうだよ……ためにし敵を誰かに置き換えてみたらどうかな…?
──このおっきい奴は、あの同じクラスの子!)ばん
純一「おおっ! すごいなぁ!いっぱつで弱点をつくなんて…!」
上崎(次にこの……もじゃもじゃした敵は、橘くんをいじめてる子!)ばんばん!
純一「え、ええっ…!?こいつ二発で倒せたのか…!?」
上崎(このふっかふかした……いやらしい敵は一年の子!!)ばばばばばばば!
純一「武器転換がすばやい……!?」
上崎(あとは……この、くるくる裏表になってる敵! 粉砕!)ばかーん!
純一「裏が弱点の敵のタイミング……難しいのに、一発で……!」
上崎(そこの…素早く動いてる奴! 水泳部のあの子!)しゃきん!
純一「えっ!? なに今の効果音…!?」
上崎(そして最後に……このキラキラ無駄に光った……ヤツ!!)
純一「あ、ラスボスだ…! ワンコインでここまでこれるなんて…!」
上崎(こいつはぁー……無駄にエロい身体しててむかつく先輩…!!)ずががががががががが!!
純一「人差し指打ちっ……!? しかも全て正確に弱点をついて……!!」
fin
上崎「っ……ってあれ? おわり、かな…?」
上崎「えっ…うん! はじめてだったけど……だ、だめだったかな…?」おろおろ…
純一「全然だめじゃないよ! むしろ凄くて……ほら、後ろ見てみなよ…!」こそっ…
上崎「えっ……えぇえっ…! 人がいっぱいいるよ橘くん…っ?」
純一「裡沙ちゃんのプレイがうまくて、人が見にきたんだよ……それぐらい、すごいんだよ!」
上崎「そ、そうなんだ…えへへ〜」
純一「まさか裡沙ちゃんにこんな才能があったなんて……また今度、街のゲーセンでも行こうよ!」
上崎「え、本当にっ……? 梅原くん、とかおじゃまにならない…?」
純一「なんでアイツの名前が出てくるのさ! 置いていくよあんな奴!」
上崎「そ、そうなんだ……うんっ! じゃあその時、またさそってね…!」
純一「当たり前だよ! それにしてもすごかったなぁー…あいつ、二発で死ぬのがびっくりしたよ〜」
上崎「……」
上崎「………よしっ! 約束ゲットだよ!」ぐっ
純一「そろそろお腹すいてきたと思うんだけど……どうかな?」
上崎「うん! あたしもちょうど、おなかすいてきたよっ!」
純一「そっか、そしたらどこか……」
上崎「っ……たち、ばなくん…!」
純一「……ん? どうかした裡沙ちゃん?」
上崎「えっとあのねっ……これ、作ってきたんだけどっ…!」ぐいっ
純一「これって……」
上崎「──お、おおお…お、おべんとう……なんだけどねっ!? うまく出来たと思うからっ…その!
たべないかなっ……って、思うんだ……ううっ…!」
純一「…まさか裡沙ちゃんが、作ってきたの…?」
上崎「そ、そうなのっ……た、たべてほしくてっ……が、頑張って…つくってきたんだ…よ…?」ぷるぷる…
純一「──あ、ありがとう! たべよう!」
上崎「……ほ、本当に…?たべてくれる、の…?」
うわーまさか作ってきてくれなんて…嬉しくて、泣きそうだよ…!」
上崎「お、大げさだよ…! そ、そこまで…豪華なものじゃないし…」
純一「いいや、裡沙ちゃんが作ってきてくれた。それだけで…ものすごく豪華だよ!」
上崎「っ……あ、ありがとう…橘くん…」テレテレ
純一「それじゃあ…あそこに座って食べよっか?」
上崎「うんっ!」
ベンチ
純一「…開けていいかな?」
上崎「ど、どうぞっ……!」
純一「──うわぁあー! すごい! 僕の好物なものばかりだよ!」
上崎「ほ、本当に…っ? すっごい偶然だねっ…!」
純一「うんっ! すごいや……裡沙ちゃん僕のことまるでわかってるみたいだね!」
愛のメモリーと言いたまえ
橘くんの好きなおかず、ご飯のふりかけ、飲み物!)
上崎(好きなタイプに、好きなお宝本! 橘情報通と歌われたあたしに…死角はないの!)
純一「それじゃあ、いただきます」
上崎「うん。美味しくできてると思うからっ…ゆっくり食べてね?」
純一「味わって食べるよ!……もぐもぐ……」
上崎「…っ…っ……」ドキドキ…
純一「ごくん………」
上崎「ど、どうかなっ……? お、美味しいかな…?」
純一「……美味しいってはなしじゃないよ、旨すぎる…!」
上崎「っ……ほ、本当に…!?」
純一「い、いや……なんというか、痒いどころに手が届きまくってるっていうか…
からあげとか…味付けが濃い所が好きなんだけど…このからあげは、ベストすぎる…!」
上崎「いっぱい、いっぱい揉んだんだ、それ。だから味が濃くなってるんだよ?」
純一「へ、へー……すごいや。この卵焼きは……もぐもぐ…甘くて美味しい…!」
純一「いや、実は玉子焼きの焦げって好きなんだ……それも素晴らしいと思うよ!」
上崎(うん。知ってる!)
純一「すごいなぁ…ご飯のふりかけも僕の好きなたらこのやつだし…文句のつけようがない…!」もぐもぐ!
上崎「…………」じぃ…
純一「……あれ? 裡沙ちゃんは食べないの?」
上崎「あ、うんっ……あたしはいいの!」ぶんぶん
純一「え、でも……」
上崎「えっと……あのね? 橘くんが、そうやって美味しそうに食べてくれるだけで…」ごにょごにょ…
上崎「あたしは、おなかいっぱいだよ……?」
純一「そ、そうなんだっ……あはは…!」
上崎「っ……っっ……」テレテレ
純一「………」もぐもぐ…
上崎「……うん? どうかしたの、たちばなくん?」
純一「…………」どきどき…
上崎「………?」
純一「……よし、じゃあ……あ、あーん…」すっ…
上崎「えっ……えええ!? そ、それって…!」
純一「う、うんっ……!ぼ、僕の箸でってのがいやだったら…あれだけどさ…」
上崎「それはダイジョブだよ!……そのっ…い、いいの…かなっ…?」どきどき…
純一「い、いいよっ…! たべてくれるとうれしかな、うん!」
上崎「っ………!」
上崎(き、きたぁああー!! あーん、きたよぅ!
この時を……この時をまってたんだよ!!)
上崎(アタシが食べないってしったら、ぜったいに橘くん……こうやってくるはずって思ってた!
あ、でも…弁当を半分こしよっか。なんて言ってくることも可能性として考えてたけど!)
上崎(……わざと弁当の中身を少なくさせて、わけあうのを未然に防いだんだよ……!
……はぁああっー……なん、て…幸せ……)
俺もだ
上崎(う、浮かれ過ぎちゃダメよ裡沙…!
またあの笑顔を浮かべられちゃ身も蓋もないんだから…!)
上崎「っっ……」チラッ…
純一「っ……ど、どうぞ…!」
上崎「う、うんっ……それじゃあ……あーん……」ぷるぷる…
上崎(もう目の前…! 夢に見た、夢に見続けてきた……橘くんからの…あーん…!
それが現実で前にあるっ……あるんだよ裡沙……───)
ぱく
上崎(────………ひんっ…!)びくんびくん
純一「……えっ!? どうかしたの裡沙ちゃん!?」
上崎「っ……っ……」ぷるぷる…
純一「え、あちょっ……大丈夫…っ?」ぽんっ…
上崎「ひゃぁああうっ!?」びくん!
純一「え、ええ!? 本当に大丈夫!?」ふぅっ…
上崎「ッ……み、耳元でっ……んっ……ひっ!……」ぴくっ!
上崎(……なんて、ことなの…っ…!
あーんされただけなのにっ……だけなのに…!)ぴくん…
上崎(──や、やばいよぅ……これはだめだよ…!
死んじゃうぐらいにしあわせだよっ……というか身体が、しんじゃう…!)
上崎(このままだと、本当に頭がばかになっちゃうっ……ううっ…!)
純一「ど、どうしようっ……!」
上崎「っはぁー…っはぁー……だ、だいじょうぶ…たちばなくん…平気、だから…」
純一「あ、裡沙ちゃん…本当に?本当に大丈夫……?」
上崎「う、うんっ……大丈夫、大丈夫だから…ちょっと、舌噛んじゃってね…!」
純一「そ、そうなの…? ものすごく肩とか背中、震えてたけど…?」
上崎「び、びっくりしちゃって……それで色々と…!」
純一「背中さすろうか…?」さすさす…
上崎「っ〜〜〜〜〜!!!」びくんびくん!
上崎「っ……っっ…!……!!」びくん!
純一「だ、大丈夫……?」さすさす…
上崎(だ、だめひゃぁ……このまま、橘くんの虜にされひゃう…!
背中なでられてるだけ、らのり……!)
純一「………」おろおろ…
…
上崎(っ……もう、グショグショだよっ……どうしよう、スカート大丈夫かな…!)
上崎「た、たちばなひゃくんっ……!」
純一「え、うんっ? どうかした? お水飲む?」
上崎「っ……」ふるふるっ…
純一「そ、それじゃあなに裡沙ちゃん?」
上崎「……お、おトイレに…いかせて…くだひゃい…!」
純一「えっ、うん…! かまわないけど、大丈夫?一人で立てる?」
上崎「た、たてるよ……うん!がんばれるから…!」
上崎「い、いってきます……っ」とととっ…
純一「………だ、大丈夫かな…裡沙ちゃん」
純一「あれ?もどってきた…?」
上崎「……か、かばんもっていくねっ……」とととっ…
純一「う、うん! 転ばないようにね…!」
純一「………」
純一「───あーんが、だめだったのかな…?」
数十分後
上崎「ご、ごめいわくをおかけしました……」ぺこ…
純一「い、いや……いいんだよ。そうやって無事そうだったら、それでね」
上崎「うん…途中で何度も抜けだしてごめんなさい…」
純一「いいんだよ! 裡沙ちゃんだって、ほら……女の子出しさ。
色々とあると思うし!」
上崎「うっ…うぅ……ごめんね、橘くん…」
純一「僕は気にしてないよ。ほら、元気出して!」
もっともっとっ……あーんとか、お互いにしあいたかったのにっ…!)
純一「………今日は、裡沙ちゃん。楽しかった?」
上崎「……えっ? うん、楽しかったよ…?」
純一「そっか。うん……」
上崎「……えっと、まだまだ時間はあるから…楽しかったってのはおかしいけどっ…!」
純一「そ、そうだよね! あはは、ははっ……」
上崎「っ……た、橘くん! 今度はこれ見ましょ!」
純一「えっ……これは、室内プラネタリウム…?」
上崎「そ、そうなの…! さっき、ちょっと気にになってて…! ほら、橘くんって星、好きでしょ…っ?」
純一「よく知ってるね。好きだよ」
上崎「だ、だからどうかなーって……いいかな?」
純一「…うん、行こうか。僕も見てみたいしさ」
上崎「うんっ…! じゃあさっそく行きましょ…!」
純一「はじまるみたいだね」
上崎「うん、楽しみだね……」
きらきら…
純一「おぉ…」
上崎「綺麗……すごいね、本物とはちがった…綺麗さがあるね…!」
純一「うんっ…本当だ、すごいよ……!」
上崎「うんっ……!」
きらきら…
純一「…………」
上崎「…………」
純一「……今日は、ありがとう理沙ちゃん」
上崎「……え?」
純一「……えっと、そのね。僕となんかデートをしてくれてさ」
上崎「……ううん、こっちこそ…あたしとデートに誘ってくれて…」
純一「……色々な偶然が重なってさ、裡沙ちゃんと出会って、
こうやってデートに誘えて…」
上崎「うん…」
純一「こんな僕は、とっても……幸せなんだと思うんだ」
上崎「………」
純一「……あはは、なんだか変なこといってるかな…?」
上崎「……ううん、変じゃないよ。ぜんぜん…へんじゃない」
純一「そっか。でもね───…こうやって星を見ていると、思い出してしまうんだ」
純一「……色々、前にやってしまったこととかさ」
上崎「………」
純一「……ちょっと、思ってることいってもいいかな?」
上崎「うん、いっていいよ。橘くん……」
純一「ありがとう、理沙ちゃん……実はね」
純一「僕は今年に入ってから……色々と、頑張ってたんだよ」
純一「……クリスマス、誰かと過ごせるよう…色々とさ」
純一「それでね。この人だ!って人を見つけたんだけど……その、結局振られちゃって」
上崎(それも知ってる。だって、邪魔をしたのは──…あたしだもの)
純一「でも、振られた理由が……あれなんだよ、僕の過ちのせいなんだ」
上崎「…………」
純一「僕が……優柔不断なばかりに、その人を…怒らせてしまったんだ」
上崎(──そう、それも知ってる。結局は、貴方が悪かった)
上崎(あたしが邪魔をしたって言っても、それはただの邪魔でしか無い……障害には生ったかもしれないけれど。
それでも、恋が実らないようになるってことは……ありえない)
上崎(貴方が振られたのは……貴方のせい。自分がやった過ちが、全ての元凶)
上崎(……あたしはそれを、知っている)
純一「それはもうっ…ものすごく反省したよ。取り返しの付かないことをしてしまった
どうにかしようって、思ったけど。 全ては後の祭りでさ……僕の回りには、もう誰も居なくなってた」
上崎「…………」
まぁすべて、自業自得だけどね……」
上崎「…橘くん……」
純一「…ごめんね、いきなりこんな話しをしちゃってさ。迷惑だったよね…」
上崎「……迷惑じゃないよ。続けて橘くん……」
純一「そっか……うん、ありがとう…」
純一「……だから、さ。こうやって何かをつかもうとしている自分…
裡沙ちゃんとこうやってデートをしている自分が… なにかこう、間違っているんじゃないかって…
いっつも不安になるんだ」
上崎(……だから、そんな笑顔をするんだよね。橘くん)
純一「僕は……また間違いをしてしまうんじゃないかって。
君を…裡沙ちゃんを傷つけてしまって、前みたいに……壊れた関係になってしまうじゃないかって…」
純一「……思ってしまうんだよ、馬鹿みたいに…ね」
上崎「…………」
純一「でも、ね? こうやって裡沙ちゃんがデートしてくれて…僕は本当に嬉しかった!
もともとこんな事言うつもりはなかったんだけど……あはは、どうしてかな。口がすべったみたいだよ」
上崎「……ううん、橘くんが…その、よかったのならそれでいいんだよ」
純一「そっか……すごいね裡沙ちゃんは、なんでも受け止めてくれるんだ」
上崎「…………」
上崎「───……なんでも、じゃないよ?」
純一「え……?」
上崎「……うん、今の橘くんの表情を見て──決めたよ。
あたしは、何でもは受け止められない……全部が全部、受け止めることはできないよ」
純一「裡沙、ちゃん…?」
上崎「橘くん──……いい? きいてくれるかな?」
純一「う、うん……どうしたの?」
上崎「あたしは──……貴方のことが好きです」
純一「っ……ほ、本当にっ……?」
上崎「はい、本当です……でも」
純一「……でも…?」
上崎「……あたしは、あの人の代わりじゃないです」
上崎「貴方が振られた……あの人の代わりじゃない。代用でも無いです……
貴方の心の隙間を埋めるための、代用品でもない……」
上崎「──……ちゃんとした一人の、女の子です」
純一「……そ、それはっ…」
上崎「……ううん。わかるよ、橘くん。あたしにはわかってる…
──そうじゃないって思ってても、そう思ってしまうんだよね…?」
純一「………」
上崎「優しい橘くんは、そう思わないよう……気をつけてるんだと思う。
でも、そう思ってしまう自分がいる……どうしようもない、自分が」
上崎(……その卑しいところがあるって、わかってながら今日のデートに来たのはあたしだけど…)
上崎「……でも、あたしは。そんな気持ちを少しでも…思ってる橘くんは、いやです」
上崎(……あたしなら、昔のあたしなら…そこをついて突き進んだと思う。絶対に)
上崎「そんな気持ちで、あたしと…これからさき付きあうってことになったら…耐えられないと思う」
上崎(でも、あたしはもう……子供じゃない)
上崎「……橘くん。あたしは、何でもはうけとめられない。今の貴方は……あたしは、好きではありません」
上崎(今まで通り…やってきたことは全て、続くとは思わない…だってもう、大人なんだもん)
上崎「……橘くん。あたしは…貴方に変わって欲しいの」
純一「っ……僕が、かわる…?」
上崎「そう、かわってほしい。今日のデートは……それを含めたことでもあったんです…」すっ…
純一「り、裡沙ちゃん……」
上崎「橘くん、貴方は……すごいひとなんだよ?」
純一「僕がすごい、ひと…?」
上崎「はい、貴方は……一人の女の子を…ものすごく、強くしてくれたんです」
上崎「どんなつらいことがあっても、この人のために頑張れる……嫌なことがあっても、この人のためにならめげずに頑張れる。
そんな強い心を持たせてくれた……すごい、すごい人なんです」
純一「それって…もしかして…?」
上崎「……くすっ…だれでしょうね?…案外、近くにいるかもですよ?」
純一「…………」
上崎「貴方は、とっても強い人。誰にだって優しくて、かっこよくて、素晴らしい人。
──……だから、めげずに頑張って…ってね?」
純一「…………」
上崎「……橘くん、あたしは…その人と同じように、頑張って欲しいと思ってる…!」
純一「…裡沙ちゃん……」
上崎「あたしは、そんな橘くんが……大好きなんです。
頑張ることの大切さ……それをしってる、貴方が…」
上崎「……だいすき、なんです」
純一「……………」
上崎「…こわい、よね?」
純一「……うん、すごく怖いよ」
上崎「うん、頑張るって言葉って……ものすごく恐いものだと思う」
純一「そうだね…簡単に言えるけど、頑張ることは……とても難しいよ」
上崎「……」
純一「──……でも」
上崎「…でも……?」
純一「……がんばることを、見守ってくれてる人が…ううん、そうじゃないな」
純一「頑張った先に、待っててくれる人がいるっていうなら……僕は、頑張れるかもしれない」
上崎「……橘くん…」
純一「……あはは、なんて簡単なことだったんだろう。裡沙ちゃん、あのさ」
上崎「うんっ…なにかな?」
純一「僕は君のことが……絶対に、心から好きになる」
上崎「…うんっ…ありがとう、橘くん」
純一「えっと……まってて、くれるかな…?」
上崎「………ずっと、ずっとずっと…待ってるよ」
上崎「貴方が、好きだから……!」
上崎「いいんだよ、橘くん……それでいいんです」
きらきら…
純一「……でも、あれだよね。待ってて、というのはあれだし…」
上崎「うん……?」
純一「──少なくとも、今の気持ちは…確かに裡沙ちゃんが好きなだから…
今後また先で、不安定になる前に……」
純一「……うん。そうしようかな」
上崎「どうしたの? 橘くん…?」
純一「……え、えっと…その裡沙ちゃん…」すっ
上崎「た、たちばなくん…!? か、顔がちかいよ…!」
純一「う、うん…近いと思う…! でも、そうしなきゃ…できないしさ」
上崎「な、なにをするつもりかなっ…!?」
純一「き、キス……しようかなって…さ!」
上崎「え、ええぇー! そ、そそそそれはぁー…!?」
純一「だ、だめなかな…?」
上崎「ふぇっ!? だ、だめじゃないよっ! い、いいけど…すごくいいけど…!」
純一「じゃ、じゃあ……その、うん……」すっ…
上崎(ひゃ、うひぁぁああー! た、たちばなくんっ!?
なんてことなのっ……き、ききききすって……!?)
上崎(ど、どうしよぉー! こ、これってあたしがっ……もう少し、顔を近づけろってことだよね…!?
そうだよね!? ええぇー! ひぁぁ〜!)
上崎「っ……ごくっ……い、いくっきゃない…!」
上崎「ん、んー……」ぷるぷる…
ちゅっ…
純一「……ん、上映終わったみたいだね。裡沙ちゃん」
純一(……あれから、だいぶ大人しかったけど大丈夫かな…)ちらっ
上崎「…………」ぽけー…
純一「……!? 裡沙ちゃん!? なんだかすごい顔に……!」ゆさゆさっ
上崎「……あれぇ? にぃに…?」
純一「えっ……?」
上崎「あー! にぃにだー! きぁはは! にぃにー! にぃにー!」
純一「え、あっ、ちょ……裡沙ちゃん!?」
上崎「っ……っ…」ちゅっちゅ
純一「あ、裡沙……んむっ…ぷはっ…それはダメだって人が……んむぅ!?」
上崎「ぷはっ……大好きだよ、にぃに!」
理沙ちゃんは一番書くのがにがてだった
ここでご報告
しごとの時間となってしまいました。
今回はここまでとさせていただきます
ご保守、ご支援、本当にありがとう
残りのキャラはいつか立てて書くよ
質問があったら受け付けます
ない場合はお好きにどうぞ
ではではノシ
次も楽しみにしてる!
すごく良かった、乙
最後に裡沙ちゃんで良かった
Entry ⇒ 2012.05.19 | Category ⇒ アマガミSS | Comments (0) | Trackbacks (0)
伊藤「私は梅原君のことが…!」
橘「お、おーい、梅原」
梅原「ん? なんだ大将か。何か俺に用か?」
橘「え、えっと、うん、そうなんだ」
梅原「おいおい、どうしたんだよ橘。そんなに言いづらいことなのか?」
橘「い、いや、そうじゃないんだけど…」
梅原「…あっ、もしかしてお宝本のことか? …桜井さんっていう恋人がありながらお前は…」
橘「ち、違うよ!! そんなわけないじゃないか!!」
梅原「うおっ! 急になんだよ。本当に大丈夫か?」
橘「う、うん。…あのさ、今度の日曜日なんだけどさ…」
梅原「ああ、確か桜井さんと遊園地デートするんだろ? いやはや、羨ましいねえ」
橘「そ、それなんだけど…梅原も一緒に来ないか?」
梅原「は?」
橘「だ、だから梅原も僕たちと遊園地に行かないか?」
梅原「いやいやいや、お前自分が何言ってるのかわかってるのか?」
梅原「だったら何でそんな罰ゲームみたいなことしないといけないんだよ!!」
橘「お、落ち着け梅原! 香苗さんも来るから!」
梅原「…え? 伊藤さん?」
橘「そ、そうだ! それなら大丈夫だろ?」
梅原「い、いや、俺にはかえって状況が酷くなってるようにしか思えないぞ…」
橘「ま、まあ、香苗さんもいればとりあえず僕たちに気をつかう必要はないし、どうかな?」
梅原「…うーん、そこまで言われたら行くしかねえけどよ…いったい突然どうしたんだ?」
橘「な、何が?」
梅原「お前たちのデートに俺を誘うってことだよ。俺にはよくわからんが、そういうのって二人きりで行きたいものなんじゃねえのか?
橘「い、いいんだよ細かいことは。じゃあ今度の日曜日はよろしくな!」
梅原「あ、ああ」
橘「それじゃあ、またな梅原!」
梅原「お、おい! …って行っちまった」
梅原「どういうことなんだかなあ…」
・
・
桜井「純一、おかえり〜」
橘「ただいま梨穂子。…こ、これでいいんだよね、香苗さん」
伊藤「うん、ありがとう橘君。面倒なことを頼んじゃったわね」
橘「いやいや、別にこれくらいどうってことはないよ。それに言い出したのは僕たちだしね」
伊藤「ふふっ、そう言ってもらえると助かるわ」
橘「…それにしても梅原か〜、なんだか意外だなあ…」
桜井「む〜、香苗ちゃんに失礼だよ〜!」
橘「あっ、ごめん! そういうつもりじゃ…」
伊藤「あはは、別にいいわよ。私もそう思ってるしね」
橘「そ、そうなんだ…」
桜井「あ〜、そういえば純一、途中で急におっきな声出してたよね? あれってどうしたの?」
橘「あっ、いや、それはだな…」
桜井「え〜、でも気になるよ〜」
伊藤「そんなことより、当日の作戦を一緒に考えてくれるんでしょ?」
桜井「あっ…えへへ、そうだったね。よぅし、頑張ろう!」
橘(た、助かった……ありがとう香苗さん…)
伊藤「…はい、じゃあこれから先は橘君は聞いちゃダメよ」
橘「ええ!? な、なんで!?」
桜井「だって純一は女の子じゃないもーん。男子禁制なのです!」
橘「う、うーん、納得できないんだけど…」
伊藤「いいから、帰った帰った。じゃあね、橘君」
桜井「ばいば〜い」
橘「そ、そんなあ…」
・
・
・
橘「じゃあ、明日は絶対に来いよ」
梅原「な、なあ、本当にいいのか? どう考えても邪魔になるだろ?」
橘「おいおい、大親友のお前を邪魔なんて思うわけないだろ」
梅原「大将…」
橘「梅原…」
梅原「…と、冗談は置いといて、時間と集合場所はこの前聞いた通りでいいんだよな?」
橘「うん、問題ないよ」
梅原「よし、わかった。それじゃあ俺はちょっと行く場所があるから」
橘「ん? そうなのか。じゃあまた明日な」
梅原「おう! またな!」
・
・
・
梅原「えーっと、伊藤さんは……おっ、いたいた。桜井さんと話し込んでるみたいだな」
梅原「明日のことの相談かねえ」
梅原「おーい、伊藤さん!」
桜井「ふぇ?」
伊藤「う、梅原君!?」
梅原「話してるところに悪いね。ちょいと伊藤さんに話があるんだが…」
桜井「え、えっと、うん、いいよ! 行ってらっしゃい香苗ちゃん!」
伊藤「ええ!? ちょ、ちょっと桜井!」
梅原「ごめんな、桜井さん。すぐに済むからさ」
桜井「えへへ、大丈夫だよ〜」
梅原「それじゃあ行こうか、伊藤さん」
伊藤「…う、うん……」
伊藤「そ、それで話って何かな?」
梅原「あー、明日の話なんだけど…」
伊藤「ゆ、遊園地のこと? そういえば梅原君も来るのよね? 明日は私…」
梅原「…あのさ、俺たち行くのはやめないか?」
伊藤「えっ…」
梅原「なんていうか、あいつらの邪魔しちまったら悪いしよ」
梅原「多分あいつらなりに俺に気をつかったんだろうけど…」
伊藤「…いやよ」
梅原「へ?」
伊藤「いやって言ってるのよ」
梅原「い、伊藤さん?」
伊藤「私たちも一緒に行くのよ。桜井たちにそんな余計な気遣いなんて必要ないわ」
梅原「だ、だけどよ…」
伊藤「いいから行くのよ! こんな急に断ったらかえって桜井たちが気にするでしょ!」
伊藤「いいわね、絶対に来なさいよ! それじゃあまた明日ね!」
梅原「お、おい、伊藤さん!?」
梅原「……遊園地、行くとするか…」
・
・
・
伊藤「それにしても橘君遅いわね〜」
桜井「もう…純一ったら…」
梅原「まあまあ、あんまり責めないでやってくれ」
桜井「え〜、でも〜…」
伊藤「…あっ、あれ橘君じゃない?」
橘「お、お〜い!」
梅原「おーい、こっちだぞ大将!」
橘「ご、ごめん、寝坊しちゃって」
伊藤「あはは、橘君らしいわ」
桜井「まったくもう〜、いっつもこんな感じなんだから」
梅原「いつもっていうと?」
橘「なっ、それを言ったら梨穂子もだろ! この前なんて…」
伊藤「…はあ、見てるこっちが胸焼けしそうな惚気っぷりね」
桜井「あっ…」
橘「うっ…」
梅原「ははは。…ま、こんなところで時間を潰すのはもったいないし、さっさと中に入っちまおうか」
伊藤「それもそうね」
・
・
・
橘「うん、久々に来たけど結構アトラクションも多いな」
梅原「確かに。地元の遊園地だからといって舐めてたな」
伊藤「それで、まずは何に乗るの? 私はジェットコースターとかいいと思うんだけど」
橘「ジェットコースターか…」
伊藤「え?」
桜井「…ねえねえ、それよりも純一…」
橘「…あっ、そうだった」
梅原「ん? どうしたんだ?」
橘「…ぼ、僕たちはちょっと二人で回るから」
梅原「え?」
伊藤「へ?」
桜井「ご、ごめんね〜、それじゃあ香苗ちゃんたちも楽しんでね!」
梅原「お、おい!」
伊藤「ちょ、ちょっとこんなの聞いてな…」
梅原「い、行っちまったな…」
伊藤「う、うん…」
梅原(いよいよ意味がわからなくなってきたな…あいつらは何がしたいんだ?)
梅原(それにしても……この状況すごく気まずいな)
梅原(さっきは桜井さんたちがいたから大丈夫だったが、伊藤さんは昨日のことをまだ怒ってるかもしれねえし…)
伊藤「ね、ねえ!」
梅原「うおっ! ど、どうしたんだ伊藤さん」
伊藤「…せっかくだから、私たちも遊ばない?」
梅原「う、うーん、それもそうなんだが…」
伊藤「うん?」
梅原「伊藤さんは昨日のこと怒ってないのか?」
伊藤「昨日のこと? …ああ、あれね。別にもう怒ってないわよ」
伊藤「うん。こうして梅原君がちゃんと来てくれたんだから怒ることなんてないわよ」
梅原「伊藤さん…」
伊藤「…さて、それじゃあさっそくジェットコースターに乗らない?」
梅原「ああ、そうだな!」
・
・
・
桜井「ねえ、こんなことして本当に大丈夫かなあ?」
橘「大丈夫だよ。梨穂子もそう思ってこの作戦に同意してくれたんだろ」
桜井「そ、そうだけど…」
橘「だったら平気だよ。梅原たちならなんとかなるよ」
桜井「う、う〜ん…」
橘「…おっ、梅原たちが動き出したぞ! 追うぞ梨穂子!」
桜井「ええ!? ま、待ってよ〜!」
???「彼氏を作るきっかけを勉強するため……」
誰かと思えば、一人二役の田中さんじゃないか!
伊藤「ありゃ、結構混んでるわね」
梅原「休日だしな、仕方ないさ」
伊藤「ん〜、まあそれもそうね。あ、そういえば橘君にジェットコースターに乗ろうって言った時、微妙な反応してたのはどうしてかしら」
梅原「あー、それはだな…」
伊藤「あ、何か理由があるの?」
梅原「…これ言っていいのかね?」
伊藤「言っちゃいなさいよ。私、口は堅い方だしそういうのは安心よ?」
梅原「よし、それじゃあ……あいつ、実は高所恐怖症なんだよ」
伊藤「え? そうなの? …でも、誰だって高いところは苦手じゃない?」
梅原「いや、そういうレベルじゃねえんだ。なんでも、高いところに行くと足が震えたりするらしい」
伊藤「…あー…そういえばそんなことを桜井から聞いたことあるような…」
梅原「あ、これ結構本人が気にしてることだから秘密にしてくれるか?」
伊藤「ええ、もちろんよ。さすがにそんなことを言いふらすほど趣味は悪くないわ」
係員「次のお客様どうぞ〜」
伊藤「あ、順番来たみたいね」
梅原「おっ、本当だ」
・
・
・
伊藤「あー、すっきりした!」
梅原「なかなかスリルがあってよかったな」
伊藤「うん! 女の子同士で行くと、こうはいかないからいいわね〜」
梅原「ん? どういうことだ?」
伊藤「さっきの橘君の話じゃないんだけど、女の子ってこういうのが苦手な子が多くて…」
梅原「ああ、なるほど」
伊藤「いっつも乗るの我慢してたのよね〜。今日は梅原君と遊べてよかったわ!」
梅原「お、おう…」
伊藤「ん? どうしたの?」
伊藤「ん〜、じゃあ…コーヒーカップはどう?」
梅原「なるほど、コーヒーカップか。確かこっちだよな」
伊藤「うん、そうみたいね」
梅原「なら、さっそく行くとしますか」
橘「…う、梅原のヤツ…!」
橘「僕の弱点を香苗さんに言うだけではなく、ジェットコースターに乗ることによって尾行している僕たちにもジェットコースターに乗せるなんて…」
橘「…ううっ…死ぬかと思ったよ…」
桜井「ま、まあまあ、落ち着いて純一」
橘「…こうなったら梅原たちの邪魔をしてやろうかな」
桜井「ちょ、ちょっと純一!?」
橘「ははっ、冗談だよ。僕がそんなことするわけないじゃないか」
桜井「そ、そうだよね、よかった〜」
橘「さて、梅原たちはコーヒーカップの方に向かったみたいだし、僕たちも急ごう!」
梅原「う〜ん、そろそろお腹が減ってきたな」
伊藤「あ、私も。どこかでお昼ごはんにしない?」
梅原「そういえばさっきレストランを見かけたな。そこに行かないか?」
伊藤「うん、いいわね」
レストラン
梅原「おっ、結構メニューが豊富だな」
伊藤「本当ね。もうちょっとこじんまりしてるかと思ってたわ」
梅原「それじゃさっそくメニューを決めようかね……うーん、じゃあ俺はこのハンバーグにするか」
伊藤「あ、そのハンバーグおいしそうね。…それじゃあ私はサンドイッチにするわ」
梅原「ん、そのサンドイッチもおいしそうだ」
伊藤「ふふっ、そうでしょ?」
梅原「よし、すいませーん!」
店員「あっ、はい! ご注文お決まりでしょうか?」
???「尾行はいいから男の子と仲良くなる方法が知りたいよ」
???「今日は二人だし、あなたは一緒に乗って来てもいいよ」
???「ジェットコースターはちょっと……ね」
???「あ、次はコーヒーカップに行くみたい。あ、ちょっと、そんなに顔出しちゃダメ」
伊藤「私はこのサンドイッチをお願いします」
店員「かしこまりました。少々お待ち下さい」
梅原「ん?」
伊藤「あれ?」
梅原「なんかやけに注文が決まるのが早いような…?」
伊藤「あっ、私もそれ思った!」
梅原「……あっ、そうだ、橘がいねえからだ!」
梅原「…あいつ、メニュー決めるのすごい遅いんだよ…」
伊藤「あっ、ちょっと待って。桜井もそうだよ」
梅原「ん? そうなのか?」
伊藤「うん。あれがいいこれもいいって、いっつも悩んでるのよねえ〜」
梅原「ははは、なんだかすぐに想像できるな」
伊藤「ま、食べてる時の幸せそうな顔を見てたら、待たされたのも許せちゃうんだけどね」
梅原「…なんというかお似合いのカップルだよな…」
???「うぅ〜〜ええっと、あの〜」モジモジ
???「あー、そっか。ここからならゴーカートの辺りのが一番近いよ。いってらっしゃい」
???「ありがと、いってきます」
???「待ち時間で良かった……はあ、あたしも仲良くお喋りしたいな」
梅原「あ、そういえば伊藤さんは誰かと付き合ったりしないのか?」
伊藤「ええ!? な、なんで!?」
梅原「あー、いや、今羨ましいって言ってたからさ」
伊藤「え、えっと、その…付き合いたい人は……いるわよ」
梅原「そ、そうなのか! それはいったい…」
伊藤「い、言うわけないでしょ! バカ!」
梅原「ご、ごめん…」
伊藤「まったくもう…」
梅原「…はあ手こんなんだから俺には彼女ができないんだろうな」
伊藤「そ、そんなことないと思うわよ!」
梅原「…慰めてくれてありがとう、伊藤さん」
伊藤「な、慰めなんかじゃなくて本当に私は…!」
店員「ご注文のハンバーグとサンドイッチです。ごゆっくりどうぞ」
伊藤「あっ…」
伊藤「う、うん…」
梅原「…ん、このハンバーグうまいな!」
伊藤「…あ、このサンドイッチもおいしいわね」
梅原「どうやらこの店は当たりだったみたいだな」
伊藤「本当ね〜。…あ、そのハンバーグ一口ちょうだい」
梅原「え? でも、これは…」
伊藤「なーにケチくさいこと言ってるのよ。いただき!」
梅原「あっ!」
伊藤「もぐもぐ……うん、おいしいわね」
梅原(い、伊藤さんは気にしねえのか…? というか俺が気にしすぎなのか?)
伊藤「もー、なによ、ちょっと食べたくらいで…はい」
梅原「な、なんでサンドイッチを突き出してるんだ?」
伊藤「え? これでお互い様でしょ?」
梅原「あ、えーっと…」
???「入らないの?食事中の会話は絶対聞いとかなきゃ」
???「待って。えーっと、あのテーブルが空いて……うん、今なら近くに座れそう」
???「す、すごいね。そんなの分かるんだ……」
???「驚天動地風林火山パフェ食べたり、本屋でバイトしたり、家政婦見習いやった経験上、ね」
???「すごい行動力……薫と同じかもしかしたらそれ以上じゃない?羨ましいな……」
梅原「い、いります!」
伊藤「…どうして敬語に…」
梅原(行け、行くんだ梅原正吉! ここで怯んだらかえって変になる!)
パクッ
梅原「もぐもぐ…おおっ、おいしいな、このサンドイッチ!」
伊藤「……」
梅原「ん? どうしたんだ伊藤さん?」
伊藤「い、いや…手渡しするつもりだったんだけど、まさか直接食べてくるとは思わなくて…」
梅原「あ」
伊藤「ちょ、ちょっと恥ずかしいかなって…いや、別に構わないんだけどさ」
梅原「す、すまねえ…伊藤さん……男、梅原正吉一生の不覚…」
伊藤「そ、そんなに気にしてないから大丈夫よ!」
梅原「いや! それじゃあ俺の気がすまねえ。この贖罪に何か俺に申し付けてくれ!」
伊藤「オ、オーバーすぎるんじゃ…」
???「今月のおすすめバーガー……これでいいよね。私は、えっと、オレンジジュースにしようっと」
店員「ご注文はお決まりでしょうか?」
〜
???「お似合い、か……そうだよね。わかってるんだけど、ね」
???「ふむふむ、共通の知り合いについて……これは要チェックだね、ってどうしたの?お水入れようか?」
???「あ、うん。ありがとう」
???「うんうん、なるほど、そんな感じで恋愛方面に持っていけば……」
???(真っ直ぐ、だね……あたしもコソコソしたりせず、そうやって真正面から行けば……はぁ、未練がましいな)
伊藤「そ、そうね…じゃあ……私のこと、名前で呼んで?」
梅原「な、名前?」
伊藤「そう。前に同じ苗字の人がいるから名前で呼んでって言ったのに、梅原君はまだ私のこと苗字で呼んでるし…」
伊藤「ねえ、この機会にどうかな?」
梅原「そ、そんなことでいいのか?」
伊藤「うん。だって私はさっきのこと本当に気にしてないし」
梅原「わ、わかったよ……香苗さん」
伊藤「…っ!」
梅原「ん? 顔が赤いけど大丈夫か?」
伊藤「だ、大丈夫よ! そ、それよりどうして今まで苗字で呼んでたの?」
梅原「あー…どうにも女子を名前呼びするのは恥ずかしくてな…」
伊藤「そ、そうなんだ…ふふふっ」
梅原「なんか嬉しそうだな?」
伊藤「んー? そうでもないわよ〜」
???「うん、そう!そうやって距離を詰めて!そうだよね、私ももっとアピールしなきゃいけな
店員「お待たせしました……通路に身を乗り出して、どうかなさいましたか?」
???「すっすみません!なんでもないです!」
店員「はぁ……では、ご注文の今月のおすすめバーガー二つと……ミルクティーのお客様は?」
???「あたしです」
???「オレンジジュースは私です、ありがとう」
店員「ごゆっくりどうぞ」
梅原「あっ、そうだな」
橘「おい梨穂子、早くしないと梅原たちが行っちゃうぞ!」
桜井「ちょ、ちょっと待って〜。あとちょっとで食べられるから〜!」
橘「まったく、メニューを決めるのに時間を掛け過ぎなんだよ!」
桜井「だ、だってこんなにおいしいそうなメニューがいっぱいあったら迷っちゃうよ〜。それに純一だって同じくらい迷ってたよ〜」
橘「うぐっ…で、でも梨穂子よりは早く決めたぞ」
桜井「う〜…」
橘「…仕方ない、僕も食べるの手伝うよ」
桜井「ありがとう! …でも、もう尾行するのやめない?」
橘「え? なんでだよ?」
桜井「だってもう香苗ちゃんたちは私たちが見てなくても平気そうだし…」
橘「…いや、そういうわけにはいかないんだ」
桜井「ど、どうして?」
桜井「え? そうなの?」
橘「うん。梅原がクリスマスの1ヶ月前に僕のやる気を出させてくれて…」
橘「そのあとも梅原は色々と僕にアドバイスとかをしてくれたんだ。だから今、僕は梨穂子とこうして恋人になったんだ」
桜井「そうなんだ…」
橘「だから今度は僕が梅原をサポートする番なんだよ!」
橘「…けど、ごめんな、梨穂子を巻き込んじゃって…」
桜井「…ううん、そんなことないよ。だって純一が梅原君に助けてもらったおかげで、私は今幸せなんだから…」
橘「…梨穂子」
桜井「えへへ、だから急いでこのお昼ごはんを食べちゃおう!」
橘「ああ!」
・
・
・
田中「店員キャンセルは向こうも……か。上崎さんも今のうちに食べようよ」
上崎「そうだね。いただきます」モグモグ
田中「いただきます」モグモグ
上崎・田中「苦ッ!!!」ブフェッ
上崎・田中「」ゴクゴク
上崎「うぅっ!」
田中「ふぅ〜……って、上崎さん、どうしたの?お水?」
上崎「」ゴクゴク
上崎「ふぅ〜ありがとう。それよりこのバーガーの中身ってまさか……」
田中「うん、多分……」
パカッ
上崎・田中「ゴーヤ……だね」
・
・
梅原「ここが『ファラオ謎の入り口』か」
伊藤「うわっ、見るからにおどろおどろしいわね…」
梅原「い…香苗さんはこういう怖いのは大丈夫なのか?」
伊藤「うん、まあ。余裕ってわけではないけど、怖くて動けなくなるとかはないと思うわよ」
梅原「おっ、それならよかった。じゃあさっそく入るか」
伊藤「そうね!」
桜井「はぁ…はぁ……や、やっと追いついた〜…」
橘「や、休んでるヒマは無いぞ梨穂子。僕たちもここに入らないと」
桜井「うん……って、ええ!? こ、こんなところに入るの!?」
橘「梅原たちが入っていったんだから仕方ないだろ。よし、行くぞ!」
桜井「こ、怖いのやだよ〜!」
・
・
・
田中「あ〜うん、でも、分かってたら意外と……食べられるよ」モグモグ
上崎「あたし、ゴーヤも牛乳も嫌いなんだ」
田中「そうなんだ……じゃあなんでミルクティーを?」
上崎「ミルクティーも頑張って飲めるようになったのと、そうだね……好きだった人が、自分の苦手なものを克服したから……かな」
上崎「その頑張ってる姿が格好良くてね……色々あったんだけど、他の人と付き合うことになっちゃったんだ」
上崎「それで、あたしも彼みたいに変わりたかったんだ」(特に牛乳は……ね)
田中「そうなんだ……じゃあ、私も協力するよ!ゴーヤも食べられるようになろう!それで、一緒に新しい恋を見つけようよ!」
上崎「え?」
田中「きっと上崎さんも変われるよ!私一人で彼氏を作るっていうのも心細いから、親友の薫とも一緒にいい人探そうって言ってるんだ。上崎さんも、ね?」
上崎「あ……うん、そうだね。そうしよっか」
田中「じゃあそのゴーヤバーガー食べられるように頑張ろう!」
上崎「ふぅぅぅ〜〜〜〜。……うん、やろう!」
田中「では改めて……」
上崎・田中「いただきます!」
梅原「ああ、俺も怖くなってきたよ…」
伊藤「え? 私はまだ怖くないんだけど」
梅原「そ、そうかい…」
伊藤「う〜ん、暗くて先がよく見えないわね」
梅原「確かに。こんな暗いところで何か出てきたら…」
『ウォォォオオオオォォ〜〜ン!』
伊藤「きゃっ!!」
ギュッ
梅原「うおっ! って香苗さん!? て、手が!」
伊藤「あ、ごめん! つい驚いちゃって…」
梅原「そ、そうか…」
梅原(勝気なところもあるけど、やっぱり女の子なんだな…)
伊藤「ね、ねえ…ここを出るまでこのまま手を繋いでていい…?」
梅原「へ? …ああ、もちろん!」
伊藤「それにしてもこれ、よく出来てるわね〜…」
梅原「声も相まってビックリしちまったよ…それじゃ、奥に進もうか」
伊藤「うん、そうね」
梅原「ん? なんだか広い場所に出たな?」
伊藤「あ、本当だ。ここで何か起きるのかしら?」
梅原「かもな。ちょっと気を引き締めた方がいいかもしれねえな」
伊藤「う、うん…」
ゴゴゴゴゴゴゴ
梅原「な、なんだ!?」
伊藤「う、梅原君! あれ!」
キング『ウォオオオォ〜ン!』
梅原「うおっ!! な、なんだありゃ!」
キング『我の眠りを妨げる者よ、千年王国の呪いを受けるがいい!』
伊藤「ちょ、ちょっと、なんか意味わからないことを言ってるわよ!」
伊藤「きゃあ!!」
梅原「か、香苗さん!!」
梅原「香苗さん、大丈夫か!?」
梅原「ってあれ? 香苗さんがいないぞ…? いったいどこに?」
梅原「香苗さ〜ん!?」
伊藤「こ、ここよ、梅原君…」
梅原「ん? 香苗さんの声はするが姿が…」
伊藤「こ、こっちよ!」
梅原「そっちか、香苗さん!」
伊藤「そう、そこよ!」
梅原「……え? ただの本しかないぞ…?」
伊藤「ええ!? ちゃ、ちゃんと私はここにいるわよ!」
梅原「じゃ、じゃあこの本が香苗さん…なのか?」
ヒョイ
伊藤「きゃっ!! ちょ、ちょっと急に持ち上げないでよ!」
梅原「ほら、やっぱり…」
伊藤「あっ…本当だ……で、でもどうして?」
梅原「こ、こういうアトラクションなのかねえ?」
伊藤「あー、ダメだ。意味わかんない。どうしてアトラクションで本にされなきゃいけないのよ…」
梅原「ん?」
伊藤「どうしたの梅原君?」
梅原(今までよく見てなかったから気づかなかったが……この本…)
梅原「お宝本じゃねえか!!」
伊藤「は? お宝本?」
梅原「ど、どうなってんだ…本になるのさえわけがわからねえってのに…お宝本だと…?」
伊藤「ね、ねえねえ、お宝本って何のこと?」
田中恵子 輝日東高校2-A
−食事?ううん、そんなもんじゃなかった。 あれは一人の人の尊厳を賭けた戦いだったよ。
−噛みちぎり、咀嚼し、嚥下する。それだけで見る間にやつれていったんだよ。
−食事って栄養を摂取るのが目的でしょ?じゃあやっぱりあれは闘争でしたよ、間違いなく。
上崎「ごちそうさま」
田中「ご、ごちそうさま……」(すごかった……これは、予想以上だよ)
上崎「ところで……田中さんは確か、振られちゃったんだよね」
田中「……えっ?あ、うん……」(今の見せられたら、どうでもいいことにすら思えてきたよ……)
上崎「あたしは結局告白も出来なかったんだ……田中さんは告白、したんだよね?どうやって勇気を出したの?」
上崎「それに、振られて新しい恋に……なんて、あたしはそんな直ぐに切り替えられない。田中さんはなぜそんなあっさり切り替えられたの?」
田中「う……ん、私も一人じゃ絶対に告白なんて出来なかったよ。さっきも言った、私の親友の薫はね、とっても頼りになるんだよ」
田中「薫は私には出来ないことをパッパとやっちゃってね。今度のことも、私が相談したら『あたしにまっっかせなさい!!』って」
田中「ふふっ、本当にこんな感じだったんだよ。胸を張って、堂々と……自慢の親友だよ、薫は」
田中「でね、ラブレター出したり、告白に付き添ってもらったり……結局振られたんだけど、私には薫がいる、って」
田中「私は、そこまでしてくれた薫の方が大切に思えたから……かな」
田中「羨ましい、なんて……。私は今日ここで、上崎さん、いや、裡沙ちゃんが変わるの見届けたんだよ」
田中「一緒に彼氏を作ろうって言ったでしょ、裡沙ちゃんももう友達だよ!きっと薫とも仲良くなれるよ」
上崎「田中さん、ありがとう。棚町さんのことは知ってるし、あたしともきっと仲良くしてくれると思うけど……けじめは、つけないとね」
田中「え?最後になんて言ったの?」
上崎「なんでもないよ。本当にありがとうね。それより……」キョロキョロ
田中「あっ!みんな……どこか行っちゃった」
上崎「ごめんね。あたしが話に付き合わせたから」
田中「ううん、今日は裡沙ちゃんと仲良くなれて良かった。せっかく遊園地に来てるんだから、一緒に遊ぼうよ!」
上崎「うん!」
伊藤「そ、そうなの? はぁ、それにしてもこの状況どうしよう…」
梅原(うーむ、表紙を見るに普通のお宝本ってところだが…)
梅原(…ん? 小さく何か書いてあるな、どれどれ…)
伊藤「と、とりあえずここから出てみない? アトラクションだとしたら、外に出れば元に戻るだろうし…」
梅原(な、なにぃ!! 伊藤香苗、衝撃の袋とじ写真だって!?)
梅原(つ、つまりこの本には香苗さんの、それはもうすごい写真が載ってるのか!?)
伊藤「…ね、ねえ、梅原君? 聞いてる?」
梅原「は、はい! なんでしょうか香苗さん!?」
伊藤「…私より梅原君の方が混乱してない?」
梅原「い、いや、そんなことはないぞ!」
伊藤「…はぁ、ともかく先に進むわよ」
梅原「お、おう…」
・
・
・
梅原「そ、そうだな…」
梅原(気になる…すごく気になるな袋とじ…)
伊藤「さっきから様子がおかしいけど、どうしたのよ? 見えないからわからないけどそんなに私の本の姿がおかしいの?」
梅原(あっ、なるほど、香苗さんからは自分が今どんな本になってるのかわからねえのか…)
梅原「いや、ちょっとビックリしてるだけだ…」
伊藤「あ、だよね。私もまさかお化け屋敷みたいので、こんなことになるとは思わなかったもん」
梅原(あーダメだ、袋とじが気になりすぎる!)
伊藤「…梅原君?」
梅原(香苗さんは自分の姿が見えてねえみたいだし、ちょっとだけなら…大丈夫か!?)
伊藤「ど、どうしたの…きゃっ!!」
梅原(ど、どこだ、袋とじのあるページは!?)
伊藤「んんっ、く、くすぐったいよ梅原く…あっ!」
梅原(えーっと、多分この辺に…)
伊藤「いやっ、ちょ、ちょっと本当にや、やめ…きゃっ!」
伊藤「…はぁ……はぁ…ほ、本当にどうしたの梅原君?」
梅原(伊藤香苗、衝撃の袋とじ写真…うん、間違いねえな)
梅原(これを破けばそこには香苗さんの…!)
伊藤「…う、梅原君?」
梅原(……)
梅原「すまん、香苗さん…」
伊藤「へ?」
梅原「……ちょっと、本の内容が気になっちまってよ!」
伊藤「…もー、何よそれ。すっごく、くすぐったかったんだから!」
梅原「ははは、本当にごめんな」
伊藤「ま、いいけど。それより本の内容ってどんなだった? 生憎私からじゃわからないのよね〜」
梅原「え!? …えっと、まあ普通の雑誌だったな」
梅原(…俺にとっては)
伊藤「なーんだ、そうなの。てっきりコンピューター関係の本とかかなあって思ってたんだけど…」
伊藤「あれ、言ってなかったっけ? 私、コンピューターをいじるのが好きなのよ」
梅原「へー、そうなのか、そりゃあ意外だ」
伊藤「ふふっ、よく言われるわ。…その関係の本もよく読むし、私がなるならコンピューターの本だと思ったんだけどなあ」
梅原(これは…本当のことは言わない方がよさそうだな)
梅原「…ん?」
伊藤「どうしたの?」
梅原「奥に光が…多分出口だ!」
伊藤「ほ、本当?」
梅原「ああ! じゃあさっさとここから出るとしますか」
伊藤「まったく、ひどい目に遭ったわ…」
梅原「うわっ、日の光が眩しいな…」
伊藤「さっきまでずっと暗いところにいたからね〜」
梅原「おっ、香苗さん元に戻ってるじゃないか」
伊藤「当たりでしょ。ずっと本のままにされたらたまらないわよ」
伊藤「そうね……もう時間も遅くなってきたし次で最後にしない?」
梅原「ん? もうそんな時間か。あっという間だな」
伊藤「うん、本当に…」
梅原「…それでどこに行くんだ?」
伊藤「……」
梅原「香苗さん?」
伊藤「…観覧車に行きましょ」
橘「ひ、ひどい目に遭った…」
桜井「それは私のセリフだよ〜。まさか純一のシャツに貼り付いちゃうなんて…」
橘「ははっ、大変だったな」
桜井「他人事だと思って〜!」
橘「ごめんごめん。…ってあれ? 梅原たちがいないぞ!」
桜井「ええ!? ど、どうしよう!!」
桜井「う、うん!」
・
・
・
梅原(か、香苗さんが言ったから観覧車に乗ったが…)
梅原「……」
伊藤「……」
梅原(二人きりで観覧車に乗るってすげえ緊張するじゃねえか!!)
梅原「…あ、あのさ……け、結構高いとこまで来たな」
伊藤「…う、うん」
梅原「き、きっと橘はこんなのに乗ったら卒倒しちまうんだろうな!」
伊藤「そ、そだね…」
梅原「……」
伊藤「……」
梅原(ていうかなぜ香苗さんも黙るんだ! 香苗さんが誘ってきたのに!)
梅原(さっきまではあんなに話してくれたのに、観覧車に入った途端無口に…)
梅原(…ん? ま、まさか…? い、いやそんなわけが…)
伊藤「…ねえ、梅原君」
梅原「な、なんだ!?」
禿同
伊藤「梅原君って…」
梅原(き、来たのか!? ついに俺に春が!?)
伊藤「…自分のこと、あまり話さないよね」
梅原「え、えっと、そうだなあ!! ……ん?」
伊藤「今日一緒に遊んで、色々なこと話したけど…梅原君の話はほとんどしなかったよ?」
梅原「え? ……あ、そうかもしれねえな」
伊藤「それってどうしてなの? それにちょっと違うけど、クリスマス前も橘君のサポートばっかりしてたみたいだし…」
梅原「…うーん、なんていうか……そういう性分なんだろうな」
伊藤「性分?」
梅原「ああ、昔っからこんな感じでよ。他の人の手助けばっかりしちまうんだ」
梅原「これじゃいけねえって思って、クリスマス前に橘と一念発起したつもりだったんだが…今回も失敗しちまったしな」
伊藤「…そう、なんだ…」
梅原「いやはや、まったくバカな性格だよな。こんなんだから…」
伊藤「そ、そんなことない!!」
伊藤「バカな性格なんかじゃない! そこは梅原君のすごくいいところよ!」
梅原「…ありがとな、香苗さん。…でも、俺を見てくれる人がいないんじゃ意味がないんだよ」
伊藤「……」
梅原「…慰めてくれて嬉しかったぜ。……よし、この話はここまでにして…」
伊藤「……い、いるわよ…」
梅原「へ?」
伊藤「こ、ここに梅原君を見てる人がいるわよ!」
梅原「そ、それって…」
伊藤「そう、私は梅原君が好き! そんな損ばっかりする性格の梅原君が好きなの!!」
梅原「か、香苗さん…」
伊藤「…だから…自分のことをそんなに卑下しないで…」
梅原「……いや、香苗さん。俺は大バカ野郎だよ」
伊藤「…梅原…君?」
梅原「こんなに俺のことを好きでいてくれる子に気が付かなかったなんて……本当に大バカ野郎だ」
梅原「本当にすまねえな…これも昔っからの悪い癖だ」
伊藤「…ううん、梅原君は悪くないわ…」
梅原「…そうかい? …じゃあ、俺にもちょっと言わせてくれないか?」
伊藤「へ?」
梅原「今日一日、香苗さんと遊んで思ったこと」
伊藤「う、うん…」
梅原「…今まで俺は香苗さんのことを勝気で、男らしい女の子だと思ってたんだ」
伊藤「ちょ、ちょっと梅原君!」
梅原「…でもよ、それは勘違いだった」
梅原「レストランでのこと、変なお化け屋敷でのこと、その他にも色々…」
梅原「一緒に遊んだことで香苗さんのことをよく知ることができたんだ」
梅原「…本当は告白する時に泣きそうになっちまうくらい、かわいらしい女の子なんだってな」
伊藤「…梅原君……」
梅原「……俺もそんな香苗さんが好きだ」
梅原漢らしいマジイケメン
伊藤「…そこが私の一番好きなところだから問題ないわよ」
梅原「おっ、そうかい、そりゃよかった」
伊藤「…えへへ、バーカ」
梅原「そんな真っ赤な顔で言われてもな」
伊藤「う、うるさい! これは夕陽のせいよ」
梅原「ん? ああ、本当だ。きれいな夕陽だ」
伊藤「うん…」
梅原「……な、なあ…その……」
伊藤「うん?」
梅原「……キ、キスしていいか?」
伊藤「…そ、そんなこと聞かないでよ…バカ…」
梅原「わ、悪い……」
伊藤「…まったくもう……」
伊藤「そ、そんなの私もよ…」
梅原「ははは……」
伊藤「……んっ」
梅原「え? 香苗さん?」
伊藤「……あんまり恥ずかしいことさせないでよ…」
梅原「あっ、す、すまん…」
伊藤「…は、早く……この姿勢恥かしいんだから…」
梅原「…おっ、おう……じゃ、じゃあ…するぞ…」
伊藤「……うん」
チュッ
橘「あっ、本当だ! おーい、梅原ー!」
梅原「おう、大将!!」
橘「…あれ? そ、その様子は…!」
梅原「ああ、俺はやったぞ大将!!」
橘「おおお!! よかったじゃないか!!」
桜井「やったね香苗ちゃん!!」
伊藤「は、恥ずかしいからあんまり騒がないでよ…」
橘「いやいや、そうは言ってられないよ! 今日はパーティーだ!」
桜井「うんうん!!」
伊藤「ちょ、ちょっと!」
騒がしい友達に囲まれて恥ずかしい思いをしつつも、私はそれ以上に幸せな気持ちでいっぱいだった。
ずっと抱えていたこの想いを、ひょんなことから橘君に知られてこの遊園地デートを考案してもらって…。
今まで停滞していたのが嘘みたいにトントン拍子に進んでいって、いまだに私はこの状況を信じられない。
むしろ夢である方が自然に思える。
…だけど、たとえ夢だとしてもこれだけは言える。
私には最高の友人と、最高の彼氏がいるということを。
観覧車のところだけを書きかっただけなのにどうしてこうなった
最後まで梅原の口調やらキャラやらがよくわからなくて大変だった
梅原に興味を持ってほしい→梅原の興味のあるもの→お宝本
っていう流れ
香苗ちゃん可愛いよ香苗ちゃん
Entry ⇒ 2012.05.19 | Category ⇒ アマガミSS | Comments (0) | Trackbacks (0)
橘純一「うぅ……バレンタインか……」
田中「チョコレイトディスコ♪」
橘・田中「チョコレイト……ディスコッ♪」
橘・田中「うぇーい!」
梅原「……今日はバレンタインだもんな」
橘「……うん。こんな気持ちになるくらいなら、学校を休めばよかったよ」
田中「……私も。チョコを渡す相手なんていないのに、何しに来たんだろう」
橘「一縷の望みでさ、鞄の中も机の中も探したけれど、何も見つからないよ……」
田中「あ、それより私と踊りませんか?」
橘「ゆ、夢の中へ行ったみたいと思いませんか!?」
橘・田中「フフッフー♪」
橘・田中「うぇーい!」
梅原「あ、諦めんなよ!今日は始まったばっかりなんだぜ!?」
田中「このクラスの浮かれてる空気、正直堪らないよね!?」
梅原「あぁ……堪らねぇよな」
橘「こ、こうなるのは分かってたのに!何かを期待して、いつもより早く登校しちゃった自分が悔しい!」
田中「まさかの一番乗りだもんね!」
梅原「……ちなみに二番は俺な」
橘・梅原「はぁ……」
棚町「ぐっもーにーん!……って朝から何て顔してんのよ、あんた達は」
橘「あぁ、薫か……」
梅原「放っておいてくれよ……」
田中「薫……」
棚町「ちぇっ、せっかく学校に来る途中に買ってきたのにさ」
橘「えっ?」
梅原「お、おい!まさか!?」
棚町「ふふっふー、あんた達のご所望はこれよね?」
棚町「ほら、勿論義理だけど受け取りなさいよ!」
橘「薫……お前って物凄くいい奴だったんだな!」
梅原「た、棚町様!一生ついて行くぜ!」
棚町「こ、こんなに喜ばれると渡した甲斐があるってものね」
田中「薫ー?私にはないの?」
棚町「……ん?あ、ごめん。忘れてた」
田中「えぇぇぇ!?……そんなぁ」
田中「う、うん。そうなんだけどね」
田中「……早速、橘君達に嫉妬だよ」
橘「大丈夫だよ、田中さん」
梅原「あぁ、これが最初で最後になるはずだからな」
田中「……本当に?信じていいの?」
橘「な、ならさ!田中さんは僕の真後ろの席なんだし、僕の一番近くでそわそわしては落ち込んでる僕を観察してていいよ?」
田中「えっ?橘君の傍で?」
橘「う、うん!この無様な男の生き様をしかと見届けてよ!」
田中「た、橘君!」
橘・田中「うぇーい!」
棚町「ま、また何か始まってるわね……」
橘「あ、おはよう。絢辻さん」
梅原「うーっす!」
田中「おはよー」
棚町「あれ?今日は遅かったわね?」
絢辻「う、うん。ちょっと家を出るのに手間取っちゃってね」
絢辻「あ、橘君?あとでちょっといいかな?」
橘「え?何か僕に用事でもあった?」
絢辻「え、えぇ。野暮用だけどね。じゃあ、またあとで」
・
・
・
田中「こ、これは嫉妬の予感だよ!」
橘(絢辻さん……一人で屋上に来いだなんて、僕に何の用事だろう?)
橘(はっ!?ま、まさか!?)
橘(屋上に呼び出しといえば!決闘か!?)
橘(そ、そんな……僕、何か絢辻さんの気に食わないことをしちゃったのかな!?)
橘(ひ、酷いことになる前に謝らなきゃ!)
絢辻「遅いっ!もっと早く来なさいよ!?」
橘「ひ、ひぃ!ごめんなさい!僕が悪かったです!こ、この通り!許して下さい!」
絢辻「えっ?あ、うん。そ、そんなに待ってないから……」
絢辻「そ、それでね!橘君……」
橘「す、すみませんでしたー!」
絢辻「ま、まだ何もしてないでしょ!?」
絢辻「さすがのあたしも、ちょっと傷つくんですけど……」
絢辻「あ〜、もう!何であたしが気を遣ってるのよ!?」
絢辻「はい!これ!受け取りなさい!」
橘「えっ」
絢辻「あ、あなたのことだから、自慢して回るのは目に見えてるし、結局は同じことなんだけど」
絢辻「さすがにクラスのみんなの目の前で渡すのは恥ずかしかったというか……」
橘「こ、これって!まさか!?」
絢辻「ぎ、義理だからね!?そこを勘違いしないように!」
橘「ぎ、義理でも嬉しいよ!絢辻さん、ありがとう!」
絢辻「よ、用事はこれだけだから!じゃあね!」
橘(な、なんてことだ!あの絢辻さんから義理とはいえ、チョコを貰えちゃうなんて!)
・
・
橘「スマン、ありゃウソだった」
田中「橘君の嘘つき!やっぱり裏切り者は裏切り者だよ!」
橘「し、仕方ないだろ!?予想外だったんだから!」
田中「嫉妬!急にふわふわし始めた橘君に嫉妬!」
橘「こ、今度こそ!今度こそ打ち止めだから!」
田中「本当に……?私、橘君を信じていいの……?」
橘「ぼ、僕を信じて欲しい!」
田中「た、橘君!」
橘「た、田中さん!」
橘・田中「うぇーい!」
梅原(なんだ?この茶番は?)
森島「橘く〜ん?いるー?」
塚原「は、はるか?下級生の教室に堂々と入らないで?」
橘「森島先輩に塚原先輩!?」
橘「ぼ、僕に何か?」
森島「早速だけど、お姉さん達からプレゼントよ!」
塚原「えっ……ここで渡すの?」
森島「ほらほら、恥ずかしがってないで早く!」
塚原「う、うん」
森島「はい、チョコレート!」
塚原「お、お口にあうか分からないけど……よかったら受け取って?」
橘「えっ?」
橘「えぇぇぇぇぇぇ!?」
森島「……昨日、ひびきと頑張って作ったから受け取って欲しいな?」
塚原「本当はこんなことしてる場合じゃないんだけどね」
森島「もう!いい息抜きになったから、いいの!」
橘「お、お忙しい所をわざわざありがとうございました!」
橘「このご恩は一生忘れません!」
森島「うんうん!そんなに喜んでもらえると、チョコレート冥利に尽きるわね!」
塚原「は、はるか?用も済んだし帰るよ!?」
森島「あ、ちょっと!ひびき!?待ってよ〜!」
森島「た、橘君!それじゃね!」
橘(う、嬉しい!森島先輩と塚原先輩からチョコを貰えちゃうなんて!)
橘(で、でも……教室中から物凄い殺気を感じるよ……)
バレンタインとか思い出したくもないがな
橘「あっ……田中さん……」
田中「ゆ、許せないよ!こんなの!」
橘「そ、そのね?」
田中「はぁ、私……信じてたのにな?」
橘「も、もう一度僕を信じてくれないか!?」
田中「……う〜ん、デラックス定食で手を打とうかな?」
橘「た、田中さん!?」
田中「あははっ、こうなったらやけ食いしかないよ!……ダメかな?」
橘「ぜ、是非!僕にご馳走させて下さい!」
橘・田中「うぇーい!おかえりんりん!」
橘(ふぅ。トイレってこう、誰にも邪魔されず自由で……なんていうか救われる場所だよね)
美也「あ、お兄ちゃん!ちょうどいい所に!」
橘「美也か……何だ?何か用か?」
美也「ん〜とね、用があるのは私じゃなくて」
美也「ほら!紗江ちゃん!」
中多「せ、先輩。こんにちは」
橘「あ、こんにちは。中多さん」
中多「あの……その……」
美也「紗江ちゃん!頑張って!」
中多「こ、これ!受け取って下さい!」
橘「えっ?これは……」
中多「バレンタインなので……」
橘「あ、ありがとう!中多さん!」
美也「誰からもチョコ貰えずに『寂しいよ〜』ってなってたんじゃない?」
橘「な、なんだと!?」
中多「み、美也ちゃん?失礼だよ!」
橘「そうだ!そうだ!僕に失礼だぞ!」
美也「……だって事実じゃん」
橘「美也!?僕だってなぁ!?」
中多「美也ちゃん!こんなところで兄妹喧嘩始めちゃダメだよ!」
中多「ひ、人の目も集まってきちゃうし……」
中多「先輩……私達はこれで失礼しますね」
中多「美也ちゃん!ほら!」
美也「さ、紗江ちゃん?引っ張らないで!」
橘(美也め……覚えてろよ!)
橘(でも、まさか中多さんからも貰えちゃうなんて!僕、確変中なのか!?)
田中「……そう思ってた時期が私にもあったかな、あははっ」
橘「田中さん……ごめん」
田中「はい、そしてこれが四度めだよ!」
橘「えっ?……これ、田中さんから?」
田中「ち、違うよ!?」
田中「さっき知らない女の子から『橘君に渡して!』って託されちゃって」
田中「初めて会った子だけど、何故か他人とは思えないから引き受けちゃった」
橘「そ、そうなんだ。ちなみに何ていう子なの?」
田中「あっ……私、あの子の名前を聞くの忘れてたよ」
橘「じゃあさ、もし次にその子と出会った時にお礼を伝えて貰えるかな?」
田中「うん、わかった!」
おいやめろ
橘「う、うん」
田中「『午後のティーセット』っていうのが食堂のメニューにあるよね?」
橘「あ、うん。最近始まったヤツだよね?」
田中「うんうん。女子に大人気なんだけどさ」
田中「今日はバレンタインだから特別なケーキがつくらしいんだよね!」
田中「……私、それに興味があったりなかったり?」
橘「わ、わかったよ!デラックス定食と一緒に頼めばいいだろ!?」
田中「えへへっ、話が早くて助かるよ」
橘・田中「さ・さわやかサンシャイン!うぇーい!」
田中「ハムッ ハフハフ、ハフッ!!」
棚町「恵子……あんた……」
梅原「おいおい、いい食べっぷりだな」
橘「これはご馳走した甲斐があったかな、うん」
田中「橘君!?ケーキもう一つ!」
橘「えぇ!?」
梅原「さ、さすがに食べ過ぎだろ……」
棚町「……太るよ?」
田中「食べなきゃやってられないよ!」
橘「田中さん……そんな梨穂子みたいなことをいうのはさ」
梨穂子「えぇ!?私、そんなに食意地はってないよ!?」
橘「梨穂子!?いつの間に!?」
梅原「桜井さん?橘にでも、何か用事あったんじゃないのか?」
梨穂子「あ、そうだそうだ!」
梨穂子「あのね?今年もケーキ作ってきたよ?」
橘「お、今年も作ったのか!?」
梨穂子「えへへっ、今年は大きいの作ったからさ。今日の放課後みんな一緒にどうかな?」
梅原「そ、そうか!バレンタインといえば桜井さんの作るケーキ!」
棚町「ふ、不覚だったわ!今日バイト入れちゃったじゃない!」
田中「た、食べます!勿論食べます!」
橘「じゃあ、放課後僕の家でいいかな?」
橘・梅原・田中「うぇーい!」
棚町「く、悔しい……」
橘(このわざとらしい甘さ!)
橘(これだから雪印コーヒー牛乳はやめられないよ!)
七咲「橘先輩」
橘「お、七咲。七咲もジュースを買いに?」
七咲「えぇ、喉が乾いたので」
七咲「……あ、ちょうど良かったかも」
七咲「すみませんが、少しここで待ってて貰えますか?」
七咲「すぐに戻ってきますので」
橘「え?あ、うん」
タタタタッ……
橘「……何だろう?」
橘「う、うん」
七咲「今日はバレンタインってことなので」
七咲「はい、先輩?これどうぞ」
橘「えっ?こ、これは……」
七咲「ふふっ、爆発したりなんかしませんよ?」
橘「あ、ありがとう!まさか七咲が僕にチョ、チョコをくれるなんて!」
七咲「……本当は中多さんと一緒に渡しに行く予定だったんですけど」
七咲「少し用事があったので、今になってしまいました」
橘「わざわざごめんね?」
七咲「いえ、折角作ったのに渡さないのは勿体無いので」
橘「七咲……」
キーンコーンカーンコーン……
七咲「あ、授業始まっちゃいますね?」
橘「うん。戻ろうか」
田中「……」トントン
橘(ん?田中さん?)
田中「……」スッ
橘(……手紙?え〜と?)
橘(『そ、そんな!桜井さんのケーキをより楽しむ為に、お高い紅茶葉を買いにいかなくてもいいよ!?』)
橘「……」
橘(うぇーい!っと)カキカキ
橘「……」スッ
田中「……」ペラッ
田中(うぇーい!)
橘「さて、と……」
橘「僕はとある使命の為に、商店街へ買い物に行かなきゃいけないんだ」
梅原「おいおい?桜井さんのケーキはどうすんだ?」
橘「あ、うん。梨穂子と美也に校門で待っててって頼んでおいたからさ」
橘「梅原と田中さんは、校門で二人と合流して先に僕の家まてま行っててもらえるかな?」
田中「あ、お茶っ葉買いに行くんだよね?なら私も行くよ!」
田中「橘君に任せるの不安だし……あははっ」
橘「……確かに。僕、紅茶のこと何も知らないよ」
梅原「お、そういうことか?よ、大将!粋だねぇ!」
梅原「それなら、俺は先に橘の家に向かうぜ?」
橘「うん、じゃあまた後でね」
店員「ありがとうございましたー」
橘「田中さんって紅茶に詳しかったんだね」
田中「えへへっ、紅茶占いってのがあってね?」
田中「それがきっかけで、紅茶について色々と調べてるうちに詳しくなっちゃった」
橘「……でも、そのお陰で僕の財布が再起不能になりつつあるけどね」
田中「あははっ、ごめんごめん。今日は橘君におねだり沢山しちゃったもんね」
田中「だから……これはお返しだよ!」
橘「こ、これって?」
田中「え?チョコレートだけど」
橘「田中さんが?僕に?」
田中「どうやら、私の考え過ぎだったみたいだね!あははっ」
橘「田中さん……僕の為にわざわざそこまで気を巡らせてくれてたのか……」
橘「……ありがとう、田中さん」
田中「もう!私と橘君の仲なんだし!」
田中「急にシリアスなのは、ドキッとしちゃうからやめて!」
橘「はははっ、ごめんね?僕、感動しちゃってさ」
橘「いや〜、しかし田中さんって義理堅い子だったんだね!」
田中「……というのは口実で」
田中「……意外と義理でやってるんじゃないかもよ?」
橘「……えっ?」
田中「あ、みんなを待たせてるんだった!早く行かなきゃ!」
橘「そ、そうだね!少し急ごうか!」
橘「な、なんてことだ……ホワイトデーのお返しは三倍返しなんて風潮があるなんて……」
梅原「ご愁傷様だな、大将」
田中「えへへっ、人気者は辛いね」
橘「仕方ない……お年玉貯金を崩すしかないな……」
梅原「おっ!いいぞ!景気良くいこうぜ!」
田中「えぇぇぇ!?そこまでしちゃうの!?」
田中「これは私もお返しに期待できるね!」
橘「はははっ、僕はみんなが思ってる以上に義理堅い男なのさ!」
橘「あ、ただし田中さんには義理でやるわけじゃないから」
田中「えっ……それって……?」
橘・田中「うぇーい!」
完
乙
お疲れ様でした
さて、ホワイトデーの話だが…
Entry ⇒ 2012.05.17 | Category ⇒ アマガミSS | Comments (0) | Trackbacks (0)
橘純一「が、頑張ってみた結果がこれだよ!?」
田中「悲しかった出来事を消し去るように〜♪」
橘・田中「……」
橘・田中「うぇーい!」
梅原「た、橘?田中さん?二人とも、どうしちまったんだよ?」
橘「いやさ、梅原?僕、一ヶ月位前に『今年は頑張ってみようと思うんだ!』とか言ったろ?」
橘「……頑張ってみた結果がこれだよ!」
梅原「お、おう。来年に期待だな!」
田中「わ、私も!今年こそはクリスマスまでに彼氏が欲しいな〜、と考えてたんだけど」
田中「ごめんね?でも仕方ないよね……?」
梅原「お、俺に謝られても……なぁ?」
橘「うぇーい!」
田中「うぇーい!」
橘・田中「うぇーい!」
田中「うんうん!幸せオーラを私にも分けて欲しいよ!」
橘・田中「うぇーい!」
梅原「二人とも……えらくテンションが高いじゃないな?」
橘「梅原?……これは空元気ってヤツさ……」
田中「……虚勢でも張ってなきゃやってらんないよね……」
橘・田中「うぇーい!」
梅原「ごめんな……?俺、二人がそこまで追い詰められてるなんて知らなかったぜ……」
橘「あ、謝るなよ!僕たちの惨めさが余計に際立つだろ!?」
田中「そうだよ!梅原君も一緒に笑おうよ!」
梅原「お、おう!そうだな!」
橘・田中・梅原「うぇーい!」
田中「あ、いいね!私も前からあの浮かれた赤い衣装が気に食わなかったんだよね!」
梅原「おいおい、二人で朝刊の一面記事を独占か!?」
橘・田中・梅原「うぇーい!」
橘「……ま、実際は一日中押入れに篭って毛布を被りながら、この世の中を呪ってるだろうけどね……」
田中「……私は一人で七面鳥でも焼こうかな……あははっ」
梅原「……何だよ?みんなで笑うんだろ?なぁ……?」
橘「ちなみに梅原はどうするんだ?」
田中「あ!意外にもデートとかだったり!?」
梅原「お、俺は……聞くなよ!?なぁ!?」
橘「……ごめん」
田中「……だよね、ごめん」
橘「……うん?」
田中「……どんなアイディアなの?」
梅原「二人ともちょうど暇なんだからさ、デートでもしたらいいんじゃないか?」
橘「え?僕と田中さんがデート?」
田中「わ、私と橘君がクリスマスに?」
橘・田中「……」
橘「何を言い出すかと思えば!それはさすがにないだろ?」
田中「そうだよ!それはないってば!」
梅原「だ、だよな!さすがにないよな!?」
橘「もうね、僕と田中さんがデートだなんて!」
田中「橘君とデートとかさ!」
橘・田中「……」
橘「ねぇ?田中さん?本当にクリスマス暇なの?」
田中「た、橘君こそ。暇なんだよね?」
( ゚д゚ ) ガタッ
.r ヾ
__|_| / ̄ ̄ ̄/_
\/ /
田中「……橘君?」
橘「か、勘違いしないで欲しいな!これはあくまで暇つぶしなんだからね!?」
田中「も、もう!橘君こそ勘違いしないでよね!?」
橘「そ、そう!これは実験なんだよ!」
橘「クリスマスの浮かれた雰囲気に僕らがどこまで耐えられるかって実験!」
田中「じ、実験!?心踊る響きだね!」
田中「そういうことなら、是非ぜひ協力させてよ!」
橘「じゃ、じゃあ!当日は〜」
田中「うん!集合場所はさ〜」
・
・
・
梅原「……あれ?俺は冗談のつもりだったんだぜ?」
橘(うぅ……僕としたことが)
橘(た、田中さんと遊ぶだけなのに、家にいるとそわそわしちゃって落ち着かないなんて!)
橘(お、落ち着かないから家を早めに出たんだけど……)
橘(なんと!待ち合わせに30分も早く到着しちゃいそうだよ!)
橘(これじゃ、なんだか田中さんを意識しちゃってるみたいじゃないか!)
橘(……ん?待ち合わせ場所にいるのは?)
田中「……」
橘「た、田中さん!?もう来てたの!?」
田中「あ、橘君!やっと来た!」
田中「……じゃなくて!わ、私も今来た所だよ?」
田中「う、うん!一時間前行動とか基本だよ?」
橘(い、一時間前行動!?)
橘(そんな基本があったなんて……僕、知らなかったよ!)
田中「さてと。じゃあ、予定通り実験しようか!」
橘「う、うん!実験開始だ!」
田中「え〜と、始めは〜」
橘「デートの定番!映画館から!」
田中「映・画・館!その響きが既に浮かれてるよね!」
橘・田中「うぇーい!行くぞー!」
ガヤガヤ……
橘「うわぁ……さすがクリスマスだね」
田中「うん、見事にカップルだらけだね」
橘「だけどさ?僕たちは実験をしなくてはならないんだ」
田中「そう、実験のためにはハードルを上げるべきだよね」
橘「だから!僕たちが見る映画は勿論!」
田中「甘々でベタベタなラブストーリーだよ!」
橘「これは命懸けの実験になるよね」
田中「……橘君?二人で生きて帰ろうね?」
・
・
・
橘「な、なんてことだ……こんなに幸せオーラが充満してるなんて……」
田中「うぅ……既に私の許容範囲を超えそうだよ……」
橘「で、でもさ!満席になりそうなところを、二人分チケットとれてよかったよね」
田中「うん。これは絶対に一人では無理だよ」
ビー……(ブサー音)
橘「お、始まるみたいだね」
田中「私さ、実はこの映画見たかったから楽しみなんだ」
橘「……あ、そうなんだ。何かごめんね?」
田中「ううん、こんな機会でもなければわざわざ見にこなかったと思うし。気にしないで?」
・
・
・
・
・
橘「うぅ……相原のバカ!何で星乃さんとサヨナラしちゃったんだよ!」
田中「うん……泣けるよ。うぅ〜……」
橘「僕さ、その後の星乃さんのことを考えると涙が止まらないよ!」
田中「最低だよね!私許せないな!」
橘「……でもさ」
田中「……うん」
橘「ラブストーリーだと思って見に来たカップルが、僕ら以上にダメージを負ってるのを見るのは愉快だよね」
田中「そういう意味ではとても甘いラブストーリーだったよね。蜜の味だよ」
橘・田中「うぇーい!」
田中「次は薫のバイト先のファミレスで少し早めの夕ご飯だよ!」
橘「う〜ん、今日のファミレスは戦場なの間違いなしだよ」
田中「浮かれたヤツらの溜まり場だからね」
橘「きっと他愛ない会話で盛り上がってるんだろうなぁ……」
田中「恋人達からでてる幸せオーラだけで、お腹一杯の胸焼けになりそうだよ!」
橘「今日は無料でおかわり自由だもんね!」
田中「タダより高くつくものはないの好例だね!」
橘「よーし!じゃあ薫のバイト先へ……」
田中「レッツゴー!」
・
・
棚町「いらっしゃいませー!何名様ですかー?」
棚町「……って、あんた達……何してるの?」
橘「実験、かな」
田中「か、勘違いしないでね?デートじゃないよ?」
棚町「じ、実験!?」
棚町「……ま、そういうことにしといてあげるわよ」
橘「……含みのある表現だな」
田中「か、薫?だからね、違うよぅ!」
棚町「はいはい、仲のよろしいことで」
棚町「では、席までご案内しますねー」
・
・
橘「田中さん……僕はクリスマスのファミレスを過小評価していたのかもしれないな……」
田中「うん、クリスマスがついに牙を剥き始めたね……」
橘「右を見ればイチャイチャカップル!」
田中「左を見れば談笑する親子連れ!」
橘「……僕たちみたいな存在はさ、場違いっていうヤツなんだろうね」
田中「……うん、お呼びじゃないよね」
橘・田中「はぁ……」
棚町「な〜に、二人ともシケた顔してんのよ!」
田中「……薫ぅ」
棚町「ちょ、ちょっと!クリスマスなんだから、テンション上げなさいって!」
橘「そ、そうだ!僕たちには空元気しかないんだ!」
田中「そうだね!私達の限界はこんなもんじゃない!こんなんじゃないよ!」
橘・田中「うぇーい!」
棚町「……ねぇ?見ての通り混んでるから、早く注文して欲しいんだけどな?」
田中「あ、それじゃあね……このクリスマスディナーセットをお願いしていいかな?」
橘「あ、僕もそれにするよ」
棚町「はいは〜い。期待して待ってなさいな!」
・
・
橘「そんな……クリスマスに食べるフライドチキンがこんなにも美味しいなんて!」
田中「こ、このホワイトシチューも物凄く美味しいよ!?」
橘「ク、クリスマスディナーセット恐るべしだね!」
田中「本当、『食べたくなるなる』だよ!」
橘「そうなってくると、突然このファミレスの雰囲気が心地よくなってきちゃうな!」
田中「私、みんなが笑顔になってる理由がわかったよ!」
橘・田中「うぇーい!クリスマスうぇーい!」
棚町(……単純ね、二人とも)
ノリが多少ウザイからか
きっと全力で空回ったんだろうな
或いはスト子が頑張ったか
田中「次は今日のメインイベントだよ!」
橘「そう!輝日東のクリスマスといえば!」
田中「うん!創設祭だね!」
橘「きっと浮かれた同級生の姿が沢山見れるぞ〜!」
田中「これは堪らないよね!身近な人だからこそ嫉妬しちゃう!」
橘「よーし!自分を強く持って創設祭を楽しむぞ!」
田中「わ、私も!」
橘「それじゃあ……」
田中「うんうん!」
橘・田中「状況開始だッ!」
・
・
・
橘「うぅ……そんな……!」
田中「ど、どうしたの!?」
橘「も、森島先輩が……僕の知らない男と……!」
田中「早速嫉妬タイムだね!?」
橘(森島先輩は、僕なんかじゃ手の届かない人だってことはわかってる!)
橘(……けどっ!けどっ!)
森島「……ん?あ、橘く〜ん!」タタタッ
田中「こ、こっちに来たよ!?」
田中「どうしよう!どうしよう!」
森島「むむむっ!クリスマスなのに暗いぞ!ほら、笑って笑って!」
橘「せ、先輩?さっき一緒にいた男の人は?」
森島「えっ?……あ〜、一人でブラブラしてたら、あの人にしつこく話しかけられてただけだよ?」
橘「か、彼氏とかではなくですか?」
森島「……意地悪。そんな人いないって知ってる癖にさ」
森島「橘君こそ、その隣にいる女の子は彼女だったり?」
田中「わ、私は!そういうのではないです!」
田中「た、ただ……お互いに暇を持て余してたから遊んでるだけで……」
森島「……ふぅん?そうなの?」
橘「えっ」
森島「橘君が暇なら一緒に遊ぼうって誘っておけばよかった、ってね」
橘「……」
森島「そうそう!私さ、今年はひびきとベストカップルコンテストに出るんだ!」
森島「衣装、結構頑張ったからさ!絶対に見に来てね?」
橘「は、はい!絶対に見に行きます!」
森島「わお!いい返事をもらっちゃったわね!」
森島「あ、私、そろそろひびきと衣装合わせとかあるから」
森島「じゃあね!バイバイ!」
橘「失礼します!」
橘「……だってさ?」
田中「……橘君に嫉妬することになるなんて!」
田中「この裏切り者ッ!」
田中「あの森島先輩といい感じだったよね!?」
橘「そ、そんなことないよ!?」
橘「も、森島先輩は誰にでもあんな感じだから……」
橘「……だからさ、勘違いしちゃう男が沢山出てくるんだよ……」
橘「僕なんか、その他大勢の一人だからね……」
田中「う〜ん、橘君がそういうならそうなのかもしれないけどさ……」
橘「……田中さん!」
田中「は、はい?」
橘「今はそんなことより、創設祭を回ってみようよ!実験!実験!」
田中「そ、そうだね!今日は実験の日だったよ!」
・
・
田中「嫉妬!やっぱり橘君に嫉妬!」
橘「えぇ!?何で!?」
田中「水泳部のおでんの屋台でも、茶道部の催物でも可愛い女の子が橘君をお出迎えしてくれるし……」
田中「仕事中の絢辻さんもわざわざ手を休めて話しかけにくるし……」
田中「そ、それにさ、ふかふかした可愛い一年生の女の子にも話しかけられてたよね?」
田中「……な、何より!みんな揃って『もしかして……あなたは橘君の彼女?』と心配そうに尋ねてくるのは何故なの!?」
田中「うん、これには嫉妬を隠せないよ!」
橘「そ、そんなこと言われても……ねぇ?」
田中「はいはい!全部私の思い過ごしなんだよね!?」
田中「世の中不公平だよー!」
橘(な、なんて自分に素直な言葉なんだ!)
橘(こんな田中さんが見れるのはきっと今日だけだな!)
田中「……あっ、でもね?嫉妬する中にもいいことがあったよ?」
橘「いいこと?」
田中「こう、橘君が女の子に話しかけられる度に優越感?みたいなものを感じちゃって……気持ちいいかも!」
橘「……え?何でそんなことに?」
田中「私にもわからないよ、あははっ」
・
・
橘「何だかんだで創設祭を楽しめたね」
田中「うんうん!私、一年分は嫉妬って単語を使った気がするよ」
田中「嫉妬といえば……ベストカップルコンテストでの森島先輩!」
橘「あぁ……あれは、ね」
田中「まさかマイクパフォーマンスで『橘くーん!ちゃんと見に来てるよねー!?』って、びっくりしたよ!」
橘「……あのマイクパフォーマンス、壇上から僕のことをイジリ倒そうとしたところを塚原先輩に半ば無理矢理止められて終わったよね」
田中「会場中から嫉妬されてる橘君、輝いてたよ?」
橘「僕は生きた心地がしなかったかな……」
橘「解散するのにはまだ勿体無い感じがするんだよね」
田中「あ、私もそう思ってたところなんだ」
橘「じゃあさ、ちょっと歩きながら話そうか?」
田中「それいいかも」
橘「それなら……」
田中「うん!」
橘・田中「聖なる夜のお散歩!うぇーい!」
橘「……あ、こんな所まで歩いてきちゃった」
田中「浮かれてたから、あっという間だったよ」
橘「……少しベンチに座って休もうか?」
田中「そうだね、結構歩いたもん」
スッ……
橘「……」
田中「……」
橘「今年はホワイトクリスマスにはならなそうだね。星が綺麗だもん」
田中「本当、綺麗な星空だよね」
橘「……」
田中「……」
橘(さ、さっきまであんなに話してたのに)
橘(きゅ、急に沈黙が訪れると……何だか意識しちゃうよ!)
橘「は、はい?」
田中「少し寒いから、橘君の方に寄ってもいい?」
橘「か、構わないよ?」
田中「よっこいしょっと……んっ」
橘(田中さん近くない!?ほぼ密着してるよ!)
田中「えへへっ。橘君ってあったかいね?」
橘「そ、そうかな?」
田中「うん。ぽかぽかしてる」
橘「……」
田中「……」
橘(ぼ、僕の心臓……凄くドキドキしてる!)
田中「私達……傍目から見たら浮かれたカップルに見えるかな?」
橘「あ、あははっ。そう見えるかもね」
田中「……カップルならさ」
橘「うん」
田中「キス……とかしちゃうのかな?」
橘「し、しちゃうかもね!なんといっても浮かれてるからね!」
田中「わ、私達も……してみる?」
橘「……えっ?」
支援
田中「今日見た映画でもそんなのあったし!」
田中「今日は実験の日だから、色々やってみようよ?」
橘「で、でも……いいの?」
田中「だから!実験だよ?」
田中「……下心とかそういうのはなしでね?」
橘「う、うん!それなら実験してみようか!」
田中「じゃあ……目瞑るから」
田中「橘君……?い、いいよ……?」
橘「う、うん……いくよ?」
田中(橘君……!)
梅原「あれ?二人ともこんなところで何してんだ?」
橘「えっ?」
田中「う、梅原君?」
梅原「暇だからぶらぶらと散歩しててよ」
梅原「それで浮かれたカップルを見つけた思ったら、お二人さんか」
梅原「……なぁ?今のってさ?」
橘「じ、実験だよ!」
田中「そう!実験!実験なの!」
梅原「そ、そうか!実験か!」
梅原「ご、ごめんな!実験の邪魔しちまって!」
橘「ははっ、気にすんなよ!」
田中「あははっ!」
橘・田中「うぇーい!」
梅原「浮かれてんな……相変わらず」
橘「だ、だってさ!来月の今頃はバレンタインだよ!?」
田中「そ、そうだよ!男の子も女の子も買ったり負けたり大忙しで、はた迷惑な行事が迫ってるんだよ!?」
橘「これがまともな精神で受け入れられるかってんだ!」
橘・田中「うぇーい!」
梅原「なぁ?次はバレンタインの浮かれた空気にどこまで耐えられるか、とか実験するつもりか?」
橘「梅原?それは愚問というものだよ?」
田中「実験は勿論やるよ?でも橘君への嫉妬の嵐の予感!」
橘・田中「うぇーい!」
完
バレンタイン編まだー?
Entry ⇒ 2012.05.16 | Category ⇒ アマガミSS | Comments (0) | Trackbacks (0)
橘純一「ぼ、僕は!おっぱいを揉みたいんだ!」
橘(まずいぞ……今は授業中だっていうのに……)
橘(急にっ……その、なんていうかね)
橘(おっぱいを揉みたい!それしか考えられない!)
橘(うぅっ……昨日梅原から借りたお宝ビデオがいけなかったのかな?)
橘(ど、どうする!?どうする、僕!?)
橘(そ、そうだ!窓から空でも見て気分を紛らわそう!)
橘(あぁ、今日は天気が良くていい空だなぁ!)
橘(おぉ、あの雲の形は!?)
橘(なんてことだ!ふかふかなおっぱいにしか見えないじゃないか!)
橘(ははっ、思わず手を延ばしたくなっちゃったよ!)
梅原「なぁ、大将……大丈夫か?」
棚町「何か物凄く深刻な顔をして窓の外を眺めてたわよね?」
田中「頭……大丈夫?」
橘「え?僕そんな顔してた?」
梅原「あんな顔した橘、中学のとき以来だぜ?」
棚町「あんた……また何か抱え込んでるの?」
棚町「そうなら話してスッキリしちゃいなさいよ!」
梅原「おぅ、そうだぜ!」
橘「うぅ、ありがとう!みんな!」
橘「実は……実は、僕!」
橘「おっぱいを揉みたくてしかないんだ!!」
棚町「……仕方ないわよね。あんたも男だもん」
田中「頭……大丈夫?」
橘「そうなんだよ!何だか自分の衝動が抑えられないんだ!」
橘「確かにこんな気分、中学のとき以来さ!!」
梅原「棚町」
棚町「えぇ……わかってるわ」
棚町「成敗!!」
ドゴッ
橘「へぶっ!!」
田中「頭……大丈夫?」
棚町「心配してきてみれば、何が『おっぱいを揉みたくてしかたないんだっ!』よ!?」
棚町「あー、心配して損した!」
梅原「でも、大将の気持ちは男子ならみんなわかるぜ?」
梅原「何を隠そう、俺だって揉みたい」
橘「だよね!さすが梅原だ!!」
棚町「で?何?『今すぐにおっぱいを揉まないと死んじゃうかも!?』とか言い出すわけ?」
橘「……もしそうならどうする?」
棚町「い、命には変えられないわよ!揉ませてあげるわ!」
橘「えぇ!?」
棚町「恵子のを」
田中「えぇぇぇ!?」
田中「か、薫?冗談だよね?」
棚町「純一の命の為だもの……ごめんね?」
田中「ちょ、ちょっと!?薫!?」
ガシッ
棚町「さぁ、純一?気が済むまでやっちゃいなさい!?」
橘(田中さんが薫に羽交い締めにされた上に、何だか胸を強調するようなポーズになってるから……これはスゴイぞ!!)
橘「た、田中さん……」ワキワキ
田中「や……優しくしてね?」
橘「も、勿論だよ!僕に任せ ぐはっ!」
?「はい!教室で馬鹿なことはやめなさい!!」
橘「な、何をするんだ!?僕のおっぱいが!!」
絢辻「変態さん?お黙りなさい?」
梅原「お、絢辻さん。お務めご苦労様です」
絢辻「梅原君?こうなる前に止めて欲しかったな?」
梅原「で、でもよ?こう……クラス中の男子の視線が集まってたら……なぁ?」
棚町「そ、そうよ!今、恵子の胸にはクラス中の期待が集まってるのよ!?」
橘「そ、そうだよ!夢、希望、そしてラブが田中さんのおっぱいに!」
田中「えぇぇぇ!?……だったら、私揉まれても」
絢辻「た、田中さん!?」
絢辻(はぁ……何でこう……馬鹿なのかしら)
絢辻「と、とにかく!クラスで猥褻な行為は私が許しません!!」
絢辻「あ、橘君?あとで二人っきりで話があるから」
絢辻「……逃げないでね?」
橘(絢辻さんの胸は揉むほどないじゃないか!)
橘(……って言ったのまずかったかな?本気で怒ってたし)
橘(気にしてたのかな?あとでもう一度謝っておこう)
橘(でも、仕方ないじゃないか……揉みたいんだもの。おっぱい)
橘(あー、頭がどうにかなっちゃいそうだよ!!)
橘「おっぱい揉みたい!!」
橘(しまった!つい口に出ちゃったよ!)
橘(周りに人は……)キョロキョロ
橘(よし!誰もいない!)
?「キミの心の叫び!しかと聞いたわ!!」
橘「えぇ!?だ、誰!?」
橘「あんな所から!?飛んできた!?」
?「私は愛の戦士!ラブリーイナゴよ!」ジャキーンキュイーン
橘「……あぁ、森島先輩ですか」
森島「むむむ……ノリが悪いなぁ」
橘「す、すみません!びっくりしちゃったから、素になってしまって!」
森島「う〜ん、びっくりさせられたなら……まいっか!」
森島「それで?橘くん?何だって?」
橘「え?何がですか?」
森島「もう!さっき大きな声で叫んでたでしょ!?」
橘「……聞いてたんですね」
森島「うん!だからもう一回!もう一回キミの叫びが聞きたいな!」
橘「で、でしたら……」
橘「ぼ、僕は!おっぱいを揉みたくて揉みたくて仕方ないんです!!」
森島「グッド!いい叫びね!!」
橘(ま、まさか!?森島先輩が僕の願いを叶えてくれるのか!?)
橘(あ、あのナイスバディをモミモミさせてくれるのか!?)
橘(さすが愛の戦士だ!僕、感動して泣きそうだよ!)
森島「じゃあ、橘くん?行きましょっか?」
橘「ど、どこにですか!?」
森島「ふふっ、『いいところ』よ!」
橘「い、いいところ!?何て甘美な響きなんだ!!」
森島「さ、私についてきて!レッツゴー!」
橘「ど、どこまでもついて行きます!!」
橘「こ、ここは……!」
橘「プール、ですか?」
森島「うん、プールね!」
橘「プ、プール!?」
橘(プールで!?どんなことを!?)
橘(あれかな?溺れたってシチュエーションで心臓マッサージ的な!?)
橘(……て、ことは人口呼吸も!?)
橘(なんてことだ……先輩!そんなプレイ僕には刺激的過ぎます!)
森島「とりあえず、中に入ろっか!」
橘「は、はい!入りましょう!!」
橘「は、はい!」
森島「それ以上進むと見つかっちゃうから」
森島「どれどれ、ひびきは……」キョロキョロ
森島「いたわ!ふふっ、これから自分の身に起こることもわからずに、あんなに真面目に後輩の指導しちゃって!」
橘「……え〜と、塚原先輩に何かあるんですか?」
森島「あれ?言ってなかったっけ?」
森島「私……いえ、私達ね」
森島「これからひびきちゃんのおっぱいを揉むことになってるんだけど……」
橘「えぇ!?」
森島「シッ!橘くん声が大きいよ!」
橘「は、はぁ……何で急に?」
森島「……そういうときってあるじゃない?」
橘「た、確かに!僕もまさにそれですし!」
森島「そう!私と橘くんはおっぱい仲間よ!」
橘「お、おっぱい仲間!?」
橘(おっぱい仲間!なんていい響きなんだ!)
橘(最初思ってたのとは違うけど……これはこれでいい!!)
橘「で、でも先輩?どうやって揉むんですか?」
森島「ふふっ、ひびきが一人になったときを狙うわ!」
橘「で、でしたら!わざわざプールにこなくても……」
森島「何をいってるの!?それじゃ燃えないじゃない!」
橘「た、確かに!一見不可能な方が燃えるのは間違いない!」ズガーン
橘「は、はい!見張りましょう!」
・
・
・
森島「なかなか一人にならないわねぇ」
橘「部活中ですしね。仕方ないと思います」
橘「あ、そういえば……きっと塚原先輩の異変に気付いて部員がよってきますよね?どうするんですか?」
森島「そんなの野となれ山となれ、よ!」
森島「むしろ、よってきた部員も揉んじゃうわよ!?」
?「へぇ、楽しそうなお話ですね?」
橘・森島「!?」
橘「な、七咲……」
七咲「……わかってますね?」
橘・森島「はい」
森島「私にもわからないわ……あ、これはきっと新しいプレイなのよ!」
橘「ザ・ニュープレイですか!?」
森島「こう……正座して痺れた足をえいっ!えいっ!てやったりしてね!」
橘「な、なんですか、それ!?文字通り痺れますね!」
森島「えぇ、痺れちゃうわね!」
塚原「二人とも……本当に反省してるの?」
橘「すみませんでした……あまりにも現実が厳しくて受け入れられなくて……」
森島「ごめん……反省はしてるよ?後悔はしてないけど」
塚原「そう。じゃあ、もうしばらく正座、ね」
橘「そ、そんな!」
森島「あんまりだわ!」
橘「な、七咲……それは……」
森島「そんなの決まってるじゃない!おっぱいを揉むためよ!」
橘「も、森島先輩!?」
森島「ほら!橘くんも!恥ずかしがらずに!」
橘(そ、そうだよ!今更保身なんて考えても仕方ないよ!)
橘(むしろ、逆に正直に話した方が許してもらえるかもしれない!)
橘「そ、そうさ!僕達はおっぱいを揉むためにここにいるんだ!!」
七咲「はぁ……最低ですね。もう私に近寄らないで下さい」
橘「な、七咲!?ま、待って!僕の話を聞いて!?」
森島「あーあ、嫌われちゃったね」
橘「何で嬉しそうなんですか……」
森島「ふっふー、人の不幸は……何だっけ?」
橘「蜜の味ですよ……」
森島「えぇ!揉みたくて揉みたくて仕方ないわ!」
森島「橘くんもそうよね!?」
橘「は、はい!僕も揉みたくて揉みたくて……もう!」
塚原「橘君?はるかに付き合って無理しなくてもいいんだよ?」
橘「い、いえ!僕は無理なんてしてませんよ!」
森島「私がここにくる決意をしたのも、橘くんの心の叫びを聞いたからだしね」
森島「彼の気持ちに嘘や偽りはないわ」
森島「そんな橘くんだから……一緒に願いを叶えようと思って」
橘「森島先輩……」
塚原「へぇ?はるか?つまりあなたは橘君の願いを叶えたいのね?」
森島「えぇ!一緒に幸せになりたいのよ!」
塚原「じゃあ……揉ませてあげたら?あなたのを」
橘・森島「えっ」
塚原「あなたは橘君の願いを成就させられて幸せ」
塚原「悪い話じゃないと思うけど?」
森島「そ、それはー、そのね?」
森島「まだ早いかなーって、あははっ」
塚原「まだ?まだってことはいつかは」
森島「こ、言葉の綾よ!ひびきちゃんのいじわる!」
森島「そ、それに橘くんに私のを触らせるなんて……////」チラッ
橘(そ、そんな目で僕を見ないで下さい!)
森島「そんな変態なこと!橘くんの将来を考えるとやらせられないわ!」
橘・塚原「えっ」
塚原「へ、へぇ?そうなの?」
森島「彼は子犬ちゃんの仮面を被った狼よ!?絶対にそれだけじゃ終わらないわ!」
森島「ここから先は通行止めなの!まだ許可してないんだってば!?」
森島「そ、それに……わ、私の為にもよくない!その、も、揉まれるのが癖になったらどうしてくれるのよ!?」
森島「そうなったら、もう責任をとって貰うしか!?なにそれこわい!?」キャーキャー
橘「も、森島先輩!?」
塚原「…………」
塚原「あー、ほっといてあげて?ただの発作だから」
橘「ほ、発作!?」
塚原「えぇ、発作」
橘「よくあるんですか?」
塚原「最近は特に、ね」
橘「そうだったんですか……」
・
・
塚原「……はるか?落ち着いた?」
森島「う、うん。橘くんには恥ずかしいところ見せちゃったね?」
橘「い、いえ……気にしないで下さい」
塚原「でさ?はるか?何で私の胸を揉むのはよくて、はるかのはダメなの?」ニヤニヤ
森島「そ、そんなの!ダメものはダメだからに決まってるでしょ!?」
塚原「う〜ん、いってることがメチャクチャよ?」ニヤニヤ
森島「だ、だって!橘くんに触られたらきっと気持ちよくて癖に……じゃなくて!」
塚原「うんうん、それでそれで?」
森島「ひ、ひびきのはいいの!減るもんじゃないし!」
塚原「失礼ね……じゃあさ?橘君が私のを揉むのが癖になっちゃうのはいいの?」
橘「えぇ!?」
森島「え!?ダメ!そんなのダメだって!!」
森島「むしろ増えるかも……ってそうじゃなくてね!?」
森島「ひ、ひびきちゃん卑怯よ!?その持て余した身体で橘君を骨抜きにするなんて!?」
塚原「持て余したって……ちょっと言ってる意味がわからないわね?つまり、どういうこと?」
森島「だから〜!……むむむ!?」
森島「もう!知らないんだから!!」サッ
橘「あ、先輩?今そんな勢いで立ち上がったら……」
森島「し、痺れる〜!」ビリビリ
ビターン
森島「いった〜〜っい!」
塚原「大丈夫?はるか?」
森島「ふんっ、だ!ひびきちゃんの手は借りないもん!」
森島「足が痺れて歩けないなら……這ってでもここから出て行くわ!」ジリジリ
橘「ちょっ、先輩!?」
橘「ぼ、僕はどうしたら……」
塚原「あれだけの痴態よ?忘れてあげたら?……ってそんな簡単に忘れられないか」
橘「は、はぁ……」
塚原「あ、橘君ももう帰っていいよ?」
橘「え?いいんですか?」
塚原「ふふっ、キミのお陰で面白いものが見れたしね」
塚原「でも、またプールに忍び混んだりしたら……」
橘「は、はい!もう二度とこんなことはしません!約束します!」サッ
塚原「あっ、だから今立ち上がると」
ビターン!
橘「……忘れてました」
塚原「もう、キミらしいね。ほら、外まで肩を貸してあげるから」
橘「あ、ありがとうございます……」
橘「は、はい。すみません」
ムニッ
橘(……ん?僕の指先に一瞬触れたこの感触は……?)
塚原「じゃあ、歩くよ?」
橘「お願いします」
橘(う〜ん、何だっけな……この感触)
橘(柔らかくて、でも適度にハリがあって……)
橘(こう……このどこかで触ったことのある感触……)
橘(これは……うん、間違いないよ!)
橘「二の腕だ!!」
塚原「に、二の腕がどうかしたの?」
橘「あ、なんでもありません」
塚原「そ、そう?ならいいんだけど」
橘「わざわざ外まですみませんでした」
塚原「ちゃんと痺れが取れてから歩くんだよ?今度は助けられないからね?」
橘「は、はい。ありがとうございました」
塚原「ふふっ、気を付けてね。じゃあ、またね」
橘(ぼ、僕としたことがこんな所に見落としがあったなんて……)
橘(そうだよ!『二の腕っておっぱいと同じ感触なんだぜ?』って梅原達と一時期盛り上がったじゃないか!)
橘(しかも!二の腕を触るくらいなら捕まらない!……はず)
橘(これに気付いちゃったら、もう行動に移るしかないよ!)
橘(そう!時代は二の腕!いざ!新世界へ!)
橘「……というわけで、二の腕を触らせて欲しいんだ」
絢辻「……は?意味がわからないんですけど」
橘「だからね、僕は気付いちゃったんだよ!おっぱいと二の腕って同じ感触だったことに」
絢辻「へぇ、そうなんだ?」
橘「それに二の腕ならおっぱいほど抵抗もないはずだろ?」
橘「だから絢辻さんの二の腕を」
絢辻「それを言ったら、触らせてくれる女の子なんているわけないでしょ!?馬鹿なんじゃないの!?」ゲシッ
橘「い、痛いよ!蹴らないで!!」
絢辻「変態!変態っ!ド変態っ!」ゲシッゲシッ
橘(あ、あぁ……蹴られるのが段々快感に……)
橘「……じゃなくて!」
橘「やっぱりダメかな?」
絢辻「あ、当たり前でしょ!?」
梨穂子とかもっとハードルの低そうな相手がいるのに
絢辻「あら?偉く諦めがいいわね?」
橘「本当は理由を説明せずに二の腕を触ることも出来たんだけども……」
橘「絢辻さん相手にそんな紳士失格な真似をしたくないから、ちゃんと説明したんだけどさ」
橘「そりゃ、そうなるよね……」
絢辻「ま、まぁ……それはそうよ」
橘「もうダメだ……僕は堕ちるところまで堕ちるよ。梅原達を誘って田中さんの二の腕でも触りに行こう」
絢辻「えっ」
橘「ふふっ、薫も誘って本当に同じかどうか確認をして貰うんだ」
橘「これは楽しみだなぁ……」
橘「じゃ!絢辻さん!僕は行くから!」
絢辻「……だから、クラスで面倒なことを起こすなって言ってるでしょ!?」
絢辻「わかりました!ほら、触りなさいよ!」スッ
橘「いやっほぅ!」
絢辻「た、たかが二の腕でしょ!?さっさと触りなさいよ!?」
橘「し、失礼しまーす」ムニムニ
絢辻「あっ……」
橘「こ、これは……」
橘「一見、女の子らしいか細い腕のようで、その実態は引き締まった筋肉と程よい脂肪が!」ムニムニ
橘「筋肉と脂肪の織りなすハーモニーが心地よすぎる!これはいつまでも触っていたい!」ムニムニ
橘「なんてことだ!僕はいきなり至高の二の腕に出会ってしまったぞ!」
絢辻「か、感想を事細かに声に出さなくてもよろしい!」ゲシッ
橘「あ、足を踏まないで!?」
絢辻「なんだか……あたし、物凄く穢された気がするわ」
橘「えぇ?たかが二の腕なのに?」
絢辻「うっさいわね!この変態!!」
絢辻「……責任、取りなさいよね?」
橘「せ、責任!?」
絢辻「そうね、橘君には男らしく……」
橘(男らしい……責任の取り方!?それって……)
橘「わかったよ!詞!僕と幸せになろう!」
絢辻「あ、うん。委員会の仕事手伝ってね」
絢辻「それじゃ、また後で」スタスタスタ
橘「……ですよね」
梅原「ま、マジか!?大将!?」
棚町「へぇ、二の腕と胸ねぇ」
田中「頭……大丈夫?」
棚町「そう言われてみれば似てる気も……」ムニムニ
橘・梅原「おぉ!?」
棚町「な、何見てんのよ!?」ボカッ
橘「へぶっ!な、何で僕だけ殴られてるんだ!?」
棚町「いやらしい目であたしを見るからよ!」
田中「頭……大丈夫?」
梅原(田中さん……橘に恨みでもあるのか?)
梅原「おう!やることは一つだよな?」
棚町「何?『みんなの二の腕を揉んでみよう!』とか言い出すわけ?」
橘「薫……お前には心底ガッカリだよ」
梅原「あぁ……正直見損なったぜ?」
田中「薫……頭、大丈夫?」
棚町「な、何!?じゃあ何が正解なの!?」
橘「至高の二の腕は見つかったんだ!」
梅原「とくれば、だ!」
田中「うん、究極の二の腕探しだね!」
棚町「……あ、うん。そうね」
橘「至高の二の腕、つまり!」
梅原「至高のおっぱい、だな?」
橘「そう、その通り!つまり!究極の二の腕は!?」
田中「きゅ、究極のおっぱいだね!」
橘「そう、その通りさ!!」
橘・梅原・田中「いやっほぅ!」パシーン!
棚町(うわぁ……そこでハイタッチしちゃうんだ?)
橘・梅原・田中「薫?」
棚町「い、いやっほぅ!」
梅原「究極の二の腕、となるとな……」
橘「本来ならば、一生をかけて探すべきものだと思うんだよね」
梅原「あぁ、だが俺たちには……」
橘「そう!田中さんがいる!!」
田中「えぇぇぇ!?私の二の腕究極なの!?」
橘「いや、そんなことはないと思うけど」ムニムニ
橘「うん、至って普通の二の腕だよ。ある意味究極かもしれないけど」
田中「うぅ……じゃあ、どういうことなの?」
橘「田中さん!自分特技を思い出して!」
田中「わ、私の特技……あ!」
田中「占い!占いで探すんだね!?」
橘「そう、その通りさ!」
橘・梅原・田中「いやっほぅ!」パシーン
棚町「い、いやっほぅ……」
田中「うん!任せて!」
田中「えーと、探し物だから……うん、タロットで占おう!」
梅原「た、田中さん?そんなものを持ち歩いてるのか?」
田中「えぇぇぇ?基本だよ?少し待ってね」シャラシャラ……
・
・
・
田中「で、出たよ!」
橘「ほ、本当に!?」
梅原「で、どうなんだ?田中さん!?」
田中「えー、とね」
橘「え?どうしたの?」
梅原「た、田中さん?」
田中「橘君?梅原君?本当に究極の二の腕の持ち主を知りたい?」
橘「も、もちろんだよ!」
梅原「お、おう!ここまで来たんだ!知りたいに決まってらぁ!」
棚町(うわぁ……何この盛り上がり?)
田中「夢は夢のままの方がいいかもしれないよ?」
橘「そ、それでも!僕は知りたいんだ!!」
梅原「よく言った、大将!で、誰なんだ!?」
田中「え、えーとね……」
田中「占いには……橘君の妹って出てるよ?」
橘「えぇぇぇぇ!?」
梅原「意外と近くに居たんだな、究極の二の腕って」
田中「お、面白みにかけるよね!?」
橘「確かに面白みにはかける……」
橘「でも……は、背徳感が堪らないよね!?」
棚町「は!?あんた!?」
橘「じょ、冗談だよ!僕が美也をそんな目で見るわけないだろ!?」
橘「でも……」
梅原「あぁ、分かるぜ?……燃えないんだろ?」
橘「あぁ……その通りだよ、梅原」
田中「頭……大丈夫?」
・
・
橘(美也……か)
美也「あ、にぃにおかえりー!」
美也「まんま肉まんあるけど食べる?」
美也「あ、あとねー!駅前のケーキ屋さんで……」
橘(美也の二の腕が究極だなんて……酷だよ)
橘(頼めばすぐに触らせてくれるはず……でも、それじゃダメだ!)
橘(だって、究極だぞ!?有り難みってものが……)
橘(で、でも……触ってみたい!揉みしだきたい!)
橘(うーん!まさに究極の選択!)
美也「にししし!紅茶と一緒にどう?」
橘「……うん。さすがに安直すぎて、それはないな」
美也「えぇ!?いらないの!?」
橘(燃えないなら!ドキドキしないなら!ハードルを上げたらいい!)
橘(僕は……美也に気付かれることなく美也の二の腕を……揉む!揉みしだく!)
橘(うぅ……ハードルを上げた途端、ドキドキが止まらないよ!)
橘(よし!やるなら今夜だ!)
橘(美也がぐっすり寝てる時に……僕はやる!やってやる、やってやるぞー!)
美也「にぃに?何ニヤニヤしてんの?」
橘「い、いや……急に楽しくなって来ちゃって」
美也「へぇ?何をするのもにぃにの勝手だけど、みゃーには迷惑かけないでよ?」
美也「そうそう!逢ちゃんから聞いたよ!?にぃに、プールに忍び込んだんだって!?」
美也「そういうのは、みゃーが恥ずかしいから……」
橘(ふふっ……せいぜい騒いで疲れるがいいさ……)
橘(美也!疲れてぐっすり眠るといい!)
・
・
橘(僕は今!美也の部屋に忍び込んでいる!)
橘(美也のヤツ……グッスリと寝ちゃって……ふふふっ)
橘(ほう?意外にも可愛い寝顔じゃないか!妹ながら、やるじゃないか!)
橘(さて……そんなことより二の腕だ!)
橘(ふむ、お誂え向きに布団から腕を出してるじゃないか……なんて都合がいいんだ!)
橘(よし!では……早速!!)
ムニムニ……
橘(こ、これは!?)
橘(成熟した女性とも違うこの柔らかさ!まさに若さ……いや、幼なさの為せるお宝!至宝!)
橘(いや、成熟した女性の身体なんて触ったことないけど……それでも!これは!この柔らかさは!!)
橘(なんてことだ……幸せの青い鳥は僕のすぐ側に居たんだ!)
橘(まさに究極!究極の二の腕!)
橘(僕、少しだけロリコンの気持ちがわかっちゃったよ!)ハァハァ
美也「にぃに……何してんの?」
橘「!?」
橘「起きてた……のか?」
美也「うん」
橘「えっ」
橘(な、何が!?何がいいんだ!?僕にはさっぱりわからないよ!?)
橘(で、でも!こうして見ると美也って可愛いな!)
橘(こんな可愛い子に『いいよ』って言われたら……僕、僕!!)
美也「え?じゃないよ!」
美也「みゃーの二の腕を触りたいなら、こんなことしなくても普通に触らせてあげるっていってるの!」
橘「あ、あぁ……そういうことか」
美也「?」
美也「とにかくさ、みゃーは寝たいから出ていってよ?」
橘「う、うん。ごめんな、美也」
橘(……って何を考えてるんだ、僕は)
橘(に、二の腕!二の腕が悪いんだ!!)
橘「……というわけで、究極なのは間違いないよ!」
橘「僕は美也を!可愛い妹を誰にも渡さないと決心した次第さ!」
梅原「そ、そうか!大将は妹思いなんだな!」
棚町「うわぁ……シスコンここに極まれり、ね」
田中「ごめんね?もう頭については触れないよ?」
絢辻「あら?じゃあ、私の二の腕はもういいの?」
橘「そ、それは……」
絢辻「……幸せにするっていった癖に」
橘「えー、その件につきましては、ですね」
梅原「……責任とれよ、大将?」
棚町「このケダモノッ!」
田中「わ、私も狙われてる!?」
橘・絢辻・梅原・棚町「いや、それはない」
完
しかし二の腕と言えばりほっち、りほっちといえば二の腕だろうが!!
梅原「おう、どうした?」
橘「至高だとか、究極だとか……そんな二元論で語っていいのかな?」
梅原「お?つまり、どういうことだ?」
橘「田中さんの普通すぎる二の腕も魅力的だよね!って話」
梅原「つまり……?」
橘「いらない子なんていないよねーって話だよ」
梅原「やる気か?」
橘「うん、やってやろうと思うんだー」
梅原「高橋先生か……で?どうしたってんだ?」
橘「僕さ、成熟した大人の女性に触ったことなんてないのに……至高だ!究極だ!って言ってたんだよね」
梅原「何だ?自信がないのか?」
橘「いや、至高と究極に関しては間違いないと思うよ?」
橘「だけど……触ってみたいよね、30歳近くのだらしない二の腕とかさ」
梅原「確かに……一理あるな!」
橘「他にもさ、沢山の魅力的な二の腕が僕を待ってるの思うんだ」
橘「だから……僕!僕は!」
田中「揉むんだね!?二の腕を!?」
棚町「はぁ、あんたも好きねぇ……」
絢辻「知的好奇心を持つのはいいことだと思うわよ?だから私も止めないからね?」
橘「僕……揉んでくる!」ダッ……タタタタタ……
橘「精度を求めるには、沢山のサンプルが必要なんだ!」
橘「だから、梨穂子!頼む!揉ませて欲しいんだ!」
梨穂子「ちょ、声が大きいよ!?誤解されちゃうって!」
橘「ご、ごめん」
梨穂子「でも、純一がそんなに本気でやってるなら、協力したくなっちゃうよ〜」
橘「あ、ありがとう!梨穂子!」
橘「これは世の為人の為!いや!世の中の男の為、そして僕の為でもあるんだ!」
梨穂子「ス、スケール大きすぎるよ!?」
梨穂子「でも、世の為人の為……純一の為になるんだったら……」
梨穂子「いいよ!私のを揉んで!」
橘「いやっほぅ!」
橘「えっ?」
梨穂子「い、いや!直に触った方がいいのかなって!」
橘「じ、直に!?」
梨穂子「じゅ、純一が嫌じゃなければだけど……」
橘「……いいのか?梨穂子?」
梨穂子「う、うん。純一の為なら……恥ずかしいのも我慢できるから」
橘「ありがとう……梨穂子」
梨穂子「う、うん!じゃあ、脱いでも大丈夫そうな場所に行こっか!」
橘「誰も……いないな」
梨穂子「えへへ、お誂え向きだね」
梨穂子「じゃあさ、ベッドの方に行かない?」
橘(べ、ベッドの方へ?)
橘(なんだか大変なことになっちゃったぞ!)
橘「そ、そうだな!カーテン閉められるもんな!」
梨穂子「うん!じゃあ……あそこのベッドで」
・
・
・
梨穂子「カーテンはこれでよしっ、と」
梨穂子「純一?覗いちゃダメだからね〜?」
橘「あ、当たり前だろ!?紳士として、覗きなんてぜったいにするもんか!」
梨穂子「絶対だよ〜?覗いたらさすがに私も怒るからね?」
シュルッ……パサッ
橘(き、衣擦れの音が……僕の想像力を掻き立てちゃうよ!)
橘(このカーテン一枚向こうで梨穂子が服を脱いでるんだよな!?)
橘(最後に梨穂子の裸を見たのいつだったかな……?きっと今や成長して大変なことになってるに違いない!)
橘(……少しくらいなら覗いても?)
橘(い、いや!ダメだ!覗きなんて、紳士失格じゃないか……で、でも!)
梨穂子「純一?いいよー?」
橘「い、いいの!?」
梨穂子「じゅ、準備ができたってことだよ!?」
橘「だ、だよね!はははっ!」
橘「う、うん。頼む」
梨穂子「よいしょっと」ヌッ
梨穂子「純一……いいよ?触って?」
橘「う、うん!じゃあ、触るぞー」
ムニッ……
梨穂子「んっ……」
橘(こ、これは……!)
橘(予想していた通り……凄く柔らかい!柔らかいぞ!)ムニムニ
橘(で、でも……だらしないってわけでは決してなく……)ムニュ
橘(何だか落ち着くというか……温かいというか……)ムニムニ
橘(梨穂子の優しさが伝わってくるようだよ!)
梨穂子「じゅ、純一?どうかなぁ?」
梨穂子「ご、ごめんね!痩せなきゃとは思ってたんだけども……」
橘「い、いや!ダメだ!痩せるだなんてとんでもない!!」
・
・
梨穂子「えへへ、何だかドキドキしちゃった」
梨穂子「なんだか、いけないことをしちゃってるみたいでさ」
橘「梨穂子……」
梨穂子「あ、いっけない!次の授業、体育だった!着替えなきゃ!」
梨穂子「ごめん、純一!先に行くね!」
梨穂子「あ、実験の結果教えてね?」
橘「も、もちろんだよ!」
梨穂子「えへへ!またね!」
・
・
七咲「近付かないで下さい。変態がうつるんで」
橘「や、やだなぁ!うつるわけないだろ!?」
七咲「へぇ?自分が変態なのは否定しないんですね?」
橘「はい……僕は変態でした」
七咲「ふふっ、先輩ったら本当に素直で可愛いんですね」
七咲「で、私に何の用事ですか?」
橘「あ、あのさ?七咲!?怒らないで聞いてね?」
七咲「……聞いてから判断します。どうぞ?」
橘「ぼ、僕に!七咲の二の腕を揉ませてくれ!」
七咲「なっ……!?」
橘「……返す言葉もないよ」
七咲「まぁ……先輩が変態なのは前から知ってましたけど」
橘「うん、残念ながら僕は変態なんだ」
七咲「開き直りですか?」
橘「でさ?ダメかな……二の腕?」
七咲「だ、大体なんで二の腕なんですか!?」
橘「そ、それはね!こんな理由が……」
・
・
・
七咲「仕方ないですね、いいですよ?」
橘「だよね……普通は嫌だよね。でも……って、え?」
七咲「いいですよ、二の腕触っても」
橘「えぇ!?」
七咲「何ですか?嫌だっていって欲しかったんですか?」
橘「い、いや……だってさ」
七咲「こんな危険な変態を放っておいたら、世の中の女性が危険です!」
七咲「わ、私が……私が犠牲になって済むなら」
橘「七咲……」
七咲「か、勘違いしないで下さい!決して先輩の為ではないんですからね!?」
橘「あ、ありがとう!七咲!」
七咲「ほ、ほら!そうと決まったら、さっさとやりますよ!」
・
・
七咲「はい、どうぞ」スッ
橘「何だか味気ないなぁ……」
七咲「な、なんですか!?私にどうしろと!?」
橘「なんていうか……そのっ……」
七咲「わかりましたよ。一芝居打てっていうんですね?」
七咲「……せんぱぁい?私の二の腕……触っても……いいんですよ?」
橘「な、七咲!?」
七咲「ほ、ほら……先輩に触ってもらいたくてこんなに……」スッ
橘「……ノリノリだね」
七咲「い、いいから!早く触って下さい!!」
橘「ご、ごめん!では!」
ムニッ……
橘(火薬のようなポテンシャルというか……うん、物凄くハリのある二の腕だ)ムニッ
橘(……うん、これはアリだな)ムニムニ
橘(七咲……決して貧しくなんかないぞ!?)
七咲「ど、どうですか?私の二の腕は?」
橘「すごく……いいです」
七咲「は、はぁ。お褒めいただき光栄です」
橘「いや、しかしこれは本当に凄い」ムニムニ
七咲「さ、触りすぎですよ!?」
・
・
橘「鍛えられた身体って本当に凄いんだね」
七咲「ま、まぁ。それしかやってませんし」
橘「女性らしい柔らかさにしなやかな筋肉が加わると、こんなに素敵なことになるなんて!」
橘「僕は生まれてきてよかったと、今感動しているよ!」
七咲「ふふっ、大袈裟ですよ?でも、そんなによかったのなら触ってもいいですよ?ほ、他の所も……」
橘「え?何?」
七咲「な、なんでもありません!失礼します!」ダッ
橘「……足、早いな。さすがに」
・
・
中多「二の腕を……?」
橘「うん、触らせて欲しいんだ」
中多「そ、それは構いませんが……」
中多「せ、先輩って本当は……こっちに触りたいんじゃないんですか?」ムニュ
橘「な、中多さん!?」
中多「あ、冗談ですよ?ふふっ」
中多「逢ちゃんの言う通り……焦ってる先輩って本当に可愛いですね」
橘(ぼ、僕って……可愛いんだ?)
中多「じゃ、じゃあ……早速」
橘「うん、お願いできるかな?」
中多「はい!先輩!」
橘「う、うん!」
橘(な、何でだろう!?何か緊張しちゃうな!?)ドキドキ
橘「さ、触るよ?」
中多「は、はい!」
ムニッ……
橘(中多さん……こんなに震えて……)ムニムニ
橘(中多さんも緊張してるんだな……)ムニュムニュ
橘(しかし……ふかふかだなぁ)ムニッ
橘(こんなところまでふかふかだなんて……!)ムニムニ
橘(中多紗江……!恐ろしい子……!)ムニッ
中多「んんっ……」ビクッ
・
・
中多「どうでしたか?」
橘「なんていうか……うん、ふかふかだったよ」
橘「すごく優しい触り心地で気持ちよかった」
中多「ほ、本当ですか!?よかった……」
中多「先輩さえよければ……また触ってもらっても大丈夫なんで」
橘「ほ、本当に!?いいの!?」
中多「えぇ。構いませんよ?」
中多「わ、私……この後用事があるんで」
橘「う、うん。わざわざありがとうね!」
中多「はい!……失礼します」
・
・
森島「え?二の腕を?」
橘「は、はい!先輩の二の腕を!」
森島「……橘くん?この前のプールサイドでのこと覚えてる?」
橘「は、はい!それはもちろん覚えてますよ?」
森島「……じゃあ、私の返事はわかるよね?」
橘「ダメ……なんですね?」
森島「えぇ……ごめんなさい」グスン
橘「せ、先輩!?」
橘(な、なんで涙ぐんでるんだ!?)
ダッ……タタタタタタ……
橘「森島先輩!?」
橘「なんてことだ……僕は……僕は!!」
橘「……うーん、そういえばお腹すいたなぁ」
橘「よし!今日はラーメンでも食べて帰ろっかな!!」
森島「……橘くん?」
森島「もう!何で追いかけてこないのよ!?」
橘「あ、森島先輩も一緒にラーメンでも食べに行きませんか?」
森島「うぅ……橘くんがいじわるだ……」
森島「味噌バター……ご馳走してね?」
橘「あ、はい。コーンも載せますか?」
森島「もちろんよ!さ、いきましょ!!」
・
・
森島「ご馳走様ー!」
橘「チャ、チャーシューまで載せるなんて聞いてないですよ!?」
森島「で、何だっけ?二の腕?」
橘「あ、はい!二の腕です!……その、ダメですか?」
森島「うーん、さっきはノリでああ答えてみたものの……いいわ!そこまでなら許可しちゃう!」
橘「ほ、本当ですか!?ありがとうございます!!」
森島「うーん、でも学校出ちゃったし……どこでしようね?」
橘「そ、そういえばそうですね……」
森島「あ!じゃあ橘くんのお家にお邪魔していいかな!?」
橘「え!?うちですか!?」
森島「ダメかな?なら他の場所は〜」
橘「う、うちで構いません!」
森島「わお!じゃあ、いこっか!」
・
・
森島「わお!ここが橘くんのお部屋なのね!?」
森島「へぇ?意外と片付いてるじゃない!」
橘(よかった……昨日掃除しておいて)
森島「じゃあさ……」ボスン
橘(あ、当たり前のように僕のベッドに腰を降ろしたぞ!)
森島「……しようか?」
橘「は、はい!よろしくお願いします!」
森島「ふふっ、優しくしてね?」
橘「は、はい!頑張ります!」
森島「いきなり力んじゃってるじゃない?」
橘「あっ……」
森島「ふふふっ、可愛いんだーっ」
橘(も、森島先輩の二の腕……!)
橘「い、いかせていただきます!」ムニッ
森島「んっ……もっと優しく、ね?」
橘「は、はい!すみません!」ムニムニ
橘(こ、これが森島先輩の二の腕!)ムニムニ
橘(先輩の活発な部分と……)ムニムニ
橘(全てを包み込むような優しい部分と……)ムニムニ
橘(少し子どもっぽい、守ってあげたくなる部分が同居してて……)ムニムニ
橘(まさに森島先輩って感じだよ!)
橘(うん!この感触は森島先輩以外の何者でもない!)
森島「あんっ……橘くん?上手ね?」
橘(森島先輩……最高です!)
・
・
森島「ね?どうだった?」
橘「ま、まさに森島先輩って感じでした!」
森島「よくわからないけど、凄いってことね!?」
橘「は、はい!凄かったです!」
森島「ふふっ、橘くんにそこまで褒められちゃうと何だか嬉しいな」
森島「……次は、他のことも許可しちゃおっかな」
橘「え?今なんて?」
森島「な、何でもないよー?じゃ、お邪魔しましたー!」
橘「……むむむ」
・
・
橘「……って感じで頑張ってみたよ」
梅原「おいおい!一体どうなってるんだよ!?」
棚町「ていうか、森島先輩あんたの部屋に来たの!?」
田中「お、女の敵!!」
絢辻「……ま、別に橘君が何しようと私には関係ないんですけど」
橘(……みんなが怖いよ。特に絢辻さん)
梅原「でもよ?大将?何か忘れてないか?」
田中「年増は!?年増はどうしたの!?」
棚町「け、恵子!?」
絢辻「そうね……高橋先生はどうするのかしら?」
橘「そう、そこが問題なんだよね……」
橘「……なんて言えないよね?」
梅原「あぁ、軽く流されてお終いだな」
田中「年の功があるからね!」
棚町「だから恵子!?何でそんなに当たりが強いのよ!?」
絢辻「学生のノリでいっても流されてお終い、こんなの自明の理ね」
橘「でも……やってみるしかないよね?」
橘「僕……ちょっと行ってくるね」
絢辻「えぇ、頑張って。骨は拾ってあげるから」
田中「わ、私も拾うよ!」
梅原「大将……無茶しやがって」
棚町「……泣ける男ね」
・
・
高橋「に、二の腕!?」
橘「は、はい!二の腕です!」
高橋「た、橘君?気は確かなの?」
橘「ぼ、僕は本気です!本気で高橋先生の二の腕を触りたいんです!」
高橋「き、気持ちは……嬉しくないわね、うん」
橘「そこをなんとか!お願いします!!」
高橋「ねぇ?こんなおばさんの二の腕なんて何で触りたいの?」
橘「た、高橋先生はおばさんなんかじゃないですよ!?」
橘「それに……むしろその熟した感じがよかったり?」
高橋「し、失礼ね!?失礼よ!?」
橘「す、すみません……」
高橋「……きっと世間が許さないと思うよ?」
高橋「私は教師、あなたは生徒だもの」
橘(に、二の腕を触るのってそんなに重い話なのか……?)
橘「で、でも!」
高橋「でも、じゃないわよ?……諦めて?ね?」
橘「そ、そんな……」
高橋「ごめんなさい。ちょっとこの後会議があるから……」スタスタスタ
橘「た、高橋先生っ!!」
橘「……僕は無力だ」
・
・
橘「……やっぱり無理だったよ」
梅原「だよな」
田中「だよね」
棚町「そりゃそうでしょ」
絢辻「……で、諦めるの?」
橘「あ、諦め……きれないよ!」
絢辻「じゃあ、どうするの?具体案とかあるの?」
橘「そ、それは……そうだ!」
橘「高橋先生ってお酒に酔うとさ!」
絢辻「……それはダメでしょ、人として」
田中「えー?いいんじゃないかな?高橋先生だし」
棚町「……ねぇ、恵子?高橋先生に何かされたの?」
梅原「お、何だ?」
橘「僕が高校生だからいけないんだろ!?」
橘「だったら、卒業後に揉む!」
棚町「気が長い作戦ね」
絢辻「でも正攻法ね」
田中「無理矢理にでも揉んじゃえばいいのに」
橘「ははっ、田中さんは全く穏やかじゃないなぁ!」
橘「よし!待ってろよ!」
橘「きっと!きっとだ!僕は揉んでみせるぞ!!」
橘「僕の本当の戦いはこれから始まるんだ!」
完
・
・
橘「……ってのもないと思うんですよね」
高橋「……わかったわ、私の負けよ」
高橋「はぁ、何でその情熱を勉強に向けられないのかな?」
橘「興味のないことには力を注げないというか……」
高橋「橘君?私の前でそれをいうとは、いい度胸ね?」
高橋「ま、そこは興味なくても覚えちゃうくらいやらせるとして」
橘「えっ」
高橋「……触るんでしょ?二の腕?」
橘「は、はい!」
高橋「はい、どうぞ」スッ
橘「し、失礼します!」ムニムニ
高橋「……触り方、いやらしくない?」
橘「す、すみません。そんなつもりは……」
高橋「……正直にいいなさい?あるんでしょ?」
橘「はい!むしろそういう気持ちしかありません!」
高橋「えっ……ほ、ほら!もういやらしくてもいいから!」
橘「は、はい!続けさせていただきます!」ムニムニ
橘(だらしないとか言っちゃって……本当にすみませんでした!)ムニッ
橘(なんていうか……その……)ムニムニ
橘(うぅっ……大人ってズルいよ!)ムニムニ
橘(揉むたびに、そのズルさが僕を駆け抜けてって……)ムニッ……
橘(頭がクラクラするよ!これ以上いけない!!)
高橋「た、橘君!?大丈夫!?」
橘「高橋先生……ズルいですよ」ガクッ
高橋「ず、ズルい!?……ってそんなことより!ちょっと!?ねぇ!?」
・
・
橘「こ、ここは!?」
高橋「あ、気付いた?……よかった〜」
高橋「急に気を失っちゃうから、年甲斐もなく焦っちゃったわよ?」
橘「す、すみません……」
高橋「本当よ!?もう二の腕触らせて下さい!なんて言わないでね!?」
高橋「大体ね、あなたは普段の行いが……!」
橘(説教……長くなりそうだな)
橘(でも、これはこれでいいか。うん)
・
・
橘「二の腕って本当に素晴らしいね!」
梅原「そ、その話なんだけどな……」
絢辻「ごめんなさい……中々言い出せなかったんだけどね?」
棚町「……二の腕とおっぱいが同じ触り心地ってヤツさ」
田中「えへへ、悪質なデマでした!」
橘「えっ……」
橘「そっか……そうなんだ?へぇ?」
棚町「だ、だからね!け、恵子!?」
田中「お、お詫びに……といったらおかしいけど!」
田中「私の胸でよかったら……触って!?」
絢辻「だから!そういうのはやめろって言ってるでしょ!?」
今度こそ……完
乙
Entry ⇒ 2012.05.13 | Category ⇒ アマガミSS | Comments (0) | Trackbacks (0)
橘「裡沙ちゃんと美也」
URL:http://hayabusa.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1335791061/
【兄の彼女の】
裡沙「とりあえずカレーを作ってみました」
美也「こういうのって作る人によって味が変わるよね」
裡沙「そうだね。……ってなんであたしが美也ちゃんのご飯を作ってるんだろう」
美也「にしし、文句ならなかなか帰ってこないにぃにに言ってみればいいよ」
裡沙「ううー、本当は橘君にたべてほしいのにー」
美也「みゃーの舌を唸らせないと、裡沙ちゃんはみゃーの真のねぇねにはなれないのだ」
裡沙「美也ちゃん小姑みたいだよ」
裡沙「……あと、あたしと橘君が結婚したら自動的にねぇねだよ」
裡沙「あっ、結婚とか言っちゃった……で、でもでもやっぱりいずれはそうなって……きゃー」てれてれ
美也「裡沙ちゃんは最近いつも幸せそうだね」
裡沙「ふふふ、やっぱり新婚旅行は……」
美也「……人の話も聞かなくなるよね」
【暴走思考】
美也「裡沙ちゃん料理上手だよねー」ぱくっ
裡沙「あの人にたべてもらいたくてて練習したからねっ」えっへん
美也「ふーん、じゃあこれも裡沙ちゃんの味なんだー」
裡沙「……えっ……」
裡沙「……それは……つまり裡沙味」ぼそっ
美也「え?」
裡沙「橘君に食べてもらって、裡沙ちゃんの味だね、なんてささやかれた日には……」ポッ
美也「みゃーにはよくわかんないけど食べるのか照れるのかどっちかにしなよ……」
裡沙「じゃ、じゃあ、逆にあの人がつくったら橘君味、なんて……」
美也「みゃーが作っても橘味だよ!!」
裡沙「……美也ちゃんはひっこんでてよー!」
美也「な、なにをー」
美也・裡沙「ふぅ〜っ」
【料理スキル】
裡沙「……そもそも美也ちゃん料理できないよね」
美也「……み、みゃーだってやろうと思えばできるよっ」
裡沙「食べる人はいないけどね……」
美也「…………」
美也「……」
美也「……」
裡沙「み、美也ちゃん。ご、ごめんね……いいすぎたよね」
美也「……」
裡沙「おー、よしよし」なでなで
【眠気】
美也「ふぁ〜……ご飯を食べた後にコタツの中にいると……眠くなってくるね〜」
裡沙「う、うん……そうだね……」
美也「……なんで裡沙ちゃんはそんなに目をパッチリ開いて、眠気を我慢してるの?」
裡沙「……橘君が帰ってきたら『おかえりなさい』っていってあげないと……なんだけど」ウトウト
美也「へぇ〜」ウトウト
裡沙「えへへ……あと『ご飯にする、お風呂にする、それとも……』なんて言っちゃったり……」ウトウト
美也「……ふ〜ん……もう、夢の、、、、中で、、、、やれば……よ」
裡沙「…………うんそう……かも……」
美也「……」
裡沙「……」
美也・裡沙「zzz」
【猫はこたつで】
裡沙「明日は雪が降るかもしれないって、天気予報がいってたよ」
美也「……みゃーの明日の予定は決まったー」
裡沙「え?」
美也「コタツで丸くなるのだ」
裡沙「……それって今日と変わらないんじゃ」
【雪の日】
裡沙「本当に雪だよー」
美也「ゆきだーーーーーっ」
裡沙「あんなこと言ってたわりに元気だねー」
美也「にしし、そんな昔の記憶はみゃーにはもうないよ」
裡沙「………って、美也ちゃんなにしてるの」
美也「にしし、いまにわかるよ………これをこうして」てきぱき
裡沙「?」
美也「……えいっ」ポイッ
裡沙「きゃっ、つめたっ」
裡沙「……いつのまにそんなに」
美也「ていっ」
裡沙「きゃっ……美也ちゃん……あたしを怒らせたね……」
裡沙「もう許してあげないんだからっ」にぎりにぎり
裡沙「てぃ」
美也「ふみゃっ!?」
裡沙「ふふふ、たとえ美也ちゃん相手でも……仕方ないよね」ポイッ
美也「ふみゃっ!」
【彼女の暇の潰し方】
美也「うだー」
裡沙「…あ、今週は橘君最高の運勢だ……」ペラ
美也「……」
美也「ねぇ、裡沙ちゃん」
裡沙「?」
美也「暇だよー」
裡沙「えぇー、美也ちゃんはさっきまで漫画を読んでたじゃない」
美也「もうとっくに読み終わったのだ」
裡沙「あ、そうだ。暇を潰せるいい方法があるよー。ふふ、仕方ないから美也ちゃんにも教えてあげる!」
美也「えっ、なになに」
裡沙「えっとね、まず目を閉じてー」
美也「うん……」コクコク
裡沙「それで深呼吸して……」
美也「すーはー」
裡沙「橘君のことを思い浮かべるの!!」
美也「…………えっ?」
裡沙「え?」
美也「……それでおわり?」
裡沙「うん」
美也「………………えっ?」
【楽し】
美也「…………」
裡沙「………♪」
美也「……」
裡沙「……あ、そこはまだ駄目だよ橘君…………」
美也「……」
美也「……ねぇ、裡沙ちゃん」
裡沙「……うん?」
美也「これ楽しい?」
裡沙「うん」
【だめ】
美也「みゃーはつまんない!」
裡沙「えっー、せっかく教えてあげたのにー」
美也「つまんないものはつまんないー!」
裡沙「うー」
美也「……ていうかさ、裡沙ちゃん……」
裡沙「うん」
美也「その……た、例えばだよ……あ、先にいっておくと別ににぃにとかはどうでもいいんだけど……」
裡沙「?」
美也「……妄想の中でとはいい、……裡沙ちゃんが妄想してるようなことを……
みゃーがにぃにで妄想してても怒らないの」
裡沙「……」
美也「……」
裡沙「……やっぱりこれは駄目ーっ!!」アタフタ
【端からみれば……】
美也「そもそもそれで時間を潰せる裡沙ちゃんがちょっと信じられないよ」
裡沙「えー、なんでよー」
美也「というか、いつこんな時間のつぶしかたしてるの?」
裡沙「えっと、橘君とデートの待ち合わせをしてるときとか」
美也「うん」
裡沙「電車の待ち時間とか」
裡沙「あっ、橘君を見守ってたときとかも」
美也「……とりあえず外とかではやらないほうがいいよ」
裡沙「? ……なんで?」
美也「裡沙ちゃん暴走しすぎると少しおかしくなるから」
裡沙「……」
【カメラ越しに】
裡沙「そういえばこの前散歩した時梅の花が咲いてたよー」
美也「あ、そういえばこの前にぃにも同じこと言ってたよ」
美也「もう梅の花が咲いてるんだなぁ ってしみじみしてた」
裡沙「ふふ、橘君と同じものを見たのかな。そうだと嬉しいなぁ……」
美也「……」
美也「(にぃにが見てたのはテレビでだからそれはないって言わないほうがいいよね……)」
【女の子の日】
裡沙「今日は女の子の日だよ」
美也「えっ?」
裡沙「うん?」
美也「……裡沙ちゃん……あんまりそういうことは大きな声でいわないほうが」
裡沙「……?」
美也「その……重いの?」
裡沙「……」
美也「……」
裡沙「……!!」
裡沙「あのね美也ちゃん……桃の節句のことだよっ!?」
【惚気】
裡沙「ふふ♪」
美也「(……なぜか妙に裡沙ちゃんの機嫌がいいよ……)」
美也「(どうしt……いや十中八九にぃにが関係してるんだろうけど……)」
裡沙「……」チラッ
美也「(……聞いてほしそうな顔してるよ〜……)」
美也「あ、あの裡沙ちゃん?」
裡沙「えっ!なに!」
美也「(うわぁっ、凄く嬉しそうな顔)」
美也「(……めんどくさそうな惚気になりそう……みゃーはそんな気がするよ……)」
美也「やっぱりなんでもないよー」
裡沙「えーっ、なんでー! そこは聞く流れだよー」
【二人だけの秘密】
裡沙「ふふっ、ホワイトデーだから橘君にバレンタインデーのお返しもらっちゃった……」
美也「あー、なるほど〜。だからかー」
美也「ところで、なにをもらったの?」
裡沙「えへへ、ひみつ〜」
美也「……」
裡沙「……」
美也「裡沙ちゃんさっき聞いて欲しそうにしたよね!! なのになんでそうなるのさ!」
【大事なのはお返しする気持ち】
美也「ちなみにみゃーにはまんま肉まんだった」
裡沙「……」
美也「……」
裡沙「……えっと……」
美也「なっ!? まんま肉まんおいしいじゃん!」
美也「みゃーはまんま肉まんさえあれば生きていけるから、これでいいのー!」
裡沙「う、うん」
【だめにぃに】
裡沙「あれ、ってことは……」
美也「?」
裡沙「美也ちゃんもあげたんだねー」
美也「はぁ……にぃにが貰えないとかわいそうだからねー」
裡沙「……」
美也「……」
裡沙「くすっ、美也ちゃんも素直になればいいのにね」
美也「ふみゃ!? なんでそうなるの」
裡沙「(だって……あたしがあげることを知ってたのに、そんな心配するわけないよね)」
裡沙「ふふっ」
美也「み、みゃーは本当にダメダメなにぃにが一つも貰えないとかわいそうだなーって思ったから……」
裡沙「ふふっ♪」
【義理はあれど】
裡沙「ところでどうしてホワイトデーってホワイトっていうんだろう」
美也「なんでも白っていうのは、幸福とか祝福の意味があるらしいよ」
裡沙「あ、だからおめでたいときに紅白が使われるんだね」
美也「まぁ、でもバレンタインデーやホワイトデーがおめでたいこと、とは限らないけどね」
裡沙「?」
美也「…………去年までのにぃにとかうめちゃんとか」
裡沙「……なるほど」
裡沙「エイプリルフールって1年に1回嘘をついていい日なんだよね」
美也「あ、裡沙ちゃん」
裡沙「え?」
美也「そういえばにぃにがデートしようって言ってたよ。学校の校門のところで待ってるだって」
裡沙「……」
裡沙「……ぜぇ……はぁ……」
美也「おかえり、それとごめんなさい」
裡沙「……」
美也「(……なんでエイプリルフールの話をした直後に引っかかるんだろう)」
【脳内お花見】
裡沙「桜はもう満開だって」
美也「お花見したいね〜」
裡沙「橘君と夜のライトアップされた桜並木の下で過ごしたいなぁ」
美也「みゃーは?」
裡沙「それであたしたちの頬も桜みたいに薄赤に染まって……二人の顔は近づいていって……」
美也「だからみゃーはー?」
裡沙「もう、美也ちゃんは一人でまんま肉まんでお花見してればいいでしょー」
美也「裡沙ちゃんこそ、一人で桜の下で妄想してるといいよ!」
裡沙「なによー!」
美也「ふーっ!」
裡沙「ふーっ!」
【桜】
美也「桜って綺麗なイメージばかりだけど、そうでもないよね」
裡沙「どういうこと?」
美也「ほら、緑葉の季節になると毛虫とか……」
裡沙「うわぁ」
美也「それに桜って、本当に痛みやすい樹木みたい」
裡沙「……」
美也「人が枝を折ったその部分から死んでいくこともあるんだって」
裡沙「散るイメージもあるし……なんだか儚いね」
【儚】
裡沙「桜ってよく恋に結び付けられたりするよね」
美也「桜の木の下で告白とか?」
裡沙「歌とかでもそんな風潮があるかも。失恋ソングだったりもすることもあるけど……」
美也「やっぱり桜の色調とか散る様がどこか恋とかに重なるのかもね」
裡沙「……あたしは……」
美也「?」
裡沙「もし橘君に受け入れられなかったら……恋が散っちゃってたら……」
美也「……」
裡沙「桜みたいに、散った後も花を咲かすことができたのかな……」
美也「……どうだろうね……でも裡沙ちゃん次第だと思うよ」
【スタート】
裡沙「桜は新生活の象徴でもあるよ!」
美也「へぇ〜」
裡沙「新スタートの象徴だよ」
美也「学校とか社会とか……他には……」
裡沙「中学生は高校生になり、高校生は社会人や大学生に……ステップアップの季節でもあるんだよ」
美也「……妙にテンションが高いね裡沙ちゃん」
美也「……裡沙ちゃん」
裡沙「ねぇねだよ」
美也「……」
裡沙「ねぇね」
美也「……裡沙ちゃん」
裡沙「……」
美也「色々言いたいことがあるけど、にぃにはまだ17だよ……」
裡沙「!!」
美也「それににぃにと裡沙ちゃん付き合って1年も経ってないよね」
裡沙「ぐぬぬ……」
【一年を決める日】
美也「……なんだか裡沙ちゃんソワソワしてない?」
美也「春休みも終わって明日から学校だから?」
美也「え?違うの?」
美也「じゃぁ、なんでそんなに……あぁ」
美也「(……なるほどね〜、新学期のクラスわけかあ)」
【満面の笑みか半泣きか】
美也「にしし、今年も紗江ちゃんと逢ちゃんとも同じクラスだったのだ〜」
美也「あ、裡沙ちゃんだ」
美也「そういえばクラスわけどうだったんだろう」
美也「帰ってからにぃにに聞くって手もあるけど……」
美也「……」
美也「……裡沙ちゃんの顔見てたらなんとなく分かっちゃった」
美也「裡沙ちゃんはわかりやすいなぁ〜」
【ベタ】
裡沙「うぅ〜、どうしよう」
美也「なにを悩んでるの?」
裡沙「これ……」
美也「進路調査票……?」
裡沙「再提出って言われちゃった……」
美也「……ちなみになんて書いて出したの?」
裡沙「……橘くんのおy」
美也「あ、やっぱり想像つくからいいや」
【別の観点】
美也「それにしても本当にそんな漫画みたいなこと書いちゃう人がいたんだね〜」
裡沙「うぅ〜」
美也「にぃにもきっと悩んでると思うよ」
裡沙「……はっ!!」ピコーン
美也「……なにか思いついたの?」
裡沙「うん……美也ちゃんのねぇね、っと」かきかき
美也「みゃーを巻き込まないでよ!」
【甘えていいよ?】
美也「そっか……裡沙ちゃんもにぃにももう最上級生だから、もう1年で卒業しちゃうんだよね」
裡沙「寂しいの?」
美也「さ、さびしくなんかないよ!」
裡沙「美也ちゃん……」ガシッ
美也「ふぇ?」
裡沙「いつでもあたしのことはねぇねって呼んで甘えてくれてもいいよ!」
美也「…………よばないよ」
裡沙「ぐぬぬ」
【年下の言葉】
美也「にしても、はやいね〜」
裡沙「なにがー?」
美也「ついこの間ににぃにが高校に入学したと思ったら、もう卒業だよ」
裡沙「……」
美也「どんどん周りが変わっていくよね」
裡沙「……」
美也「あれ、どうしたの裡沙ちゃん」
裡沙「そのセリフどっちかと言うと橘君のほうが言う言葉だと思う。それになんだか美也ちゃんおじさんくさいよ」
美也「うみゃー!?」
【感謝】
美也「変わることと変わらないでいること、どっちが難しいんだろう」
裡沙「……」
裡沙「それは……わからないけど……」
美也「けど?」
裡沙「でも変われてよかったって思っている人は、今美也ちゃんの目の前にいるよ?」
【へたれ】
裡沙「もうすぐゴールデンウィークだよ」
美也「裡沙ちゃんの予定は?」
裡沙「橘君とデートしたいなぁ」
美也「……したい?」
裡沙「……まだ誘えてないよぉ……」
美也「……はぁ……前から思ってたけど裡沙ちゃん妙なところでヘタレになるよね」
裡沙「うぐっ……」
美也「変な行動力は発揮するのに、妙なところで奥手になるというか……」
裡沙「ぐぬぬ……」
【B級】
裡沙「ゴールデンウィークって映画業界からできた言葉なんだって」
美也「へぇそうなんだ〜」
裡沙「そっか映画かぁ……橘君と映画デートもいいよね〜」
美也「……」
裡沙「映画館には特別な個室もあるっていうし」
裡沙「真っ暗な中いい感じになった二人は、目の前の映画の主人公とヒロインと重なるようにいいムードになって……
やがてキスを……」ウットリ
美也「しようと思ったら、座っているソファーの中からゾンビが出てくるんだね」
美也「それで密室で逃げ場のない二人は襲われて共にゾンビに……」
裡沙「……」
美也「……どうしたの裡沙ちゃん?」
裡沙「なんでホラー映画なのよー!!」
【はっぴーらいふ】
裡沙「恋愛は人生を豊かにしてくれるなにかを得られるんだって」
美也「ふ〜ん」
裡沙「美也ちゃんは誰か気になる男の子はいないの?」
美也「……うーん、とくに……」
裡沙「そ、その、なにかあるなら……ね、ねぇねが相談にのってもいいよ?」
美也「…………裡沙ちゃんは恋愛でなにを得られたの?」
裡沙「えっ」
美也「さ〜ん、にー、い〜ち」
裡沙「あわわっ」
美也「はいタイムアップ」
裡沙「うわあ、えっと、あ、ちゃんとあるよ!!」
美也「?」
裡沙「……気配を消す方法とか?」
美也「……それは人生を豊かにするの?」
裡沙「うぅ……」
【一番近い男】
美也「あ、でも気になる男子ならいるよ」
裡沙「え!! 誰? クラスメイト?」
美也「ううん、にぃに」
裡沙「…………えっ?」
美也「にぃに」
裡沙「……えええぇー!!」
美也「まったくにぃにったらこの時期になっても進路先が曖昧で、みゃーも心配になっちゃうよ」
裡沙「(なんだ、そういう意味か)」ホッ
【暴走思考2】
裡沙「でも結構、人にとっては些細なことでも、恋に落ちることってあると思うよ」
美也「ふーん、たとえば〜?」
裡沙「例えば、その……嫌いなものを食べたり飲んでくれたり、とか……」てれっ
美也「えー、そんなのないよー」
裡沙「あるのー!」
美也「えー、でも小学生じゃないんだから」
裡沙「あの時は小学生だもん!」
美也「……」
美也「……えっと、裡沙ちゃん話ずれてきてない?」
裡沙「あっ」
【食】
裡沙「とにかく、そういうこともあるのー!」
美也「そんなもんかなぁ」
裡沙「……ちなみに、美也ちゃんの嫌いなものは?」
美也「うーん……あっ」
裡沙「なになに!」
美也「だらしない顔したにぃに」
裡沙「……」
美也「……食べるの?」
【暴走思考3】
裡沙「たべる…………」ぽっ
美也「裡沙ちゃん顔赤くして、停止しちゃったけどどうしたの? おーい」
裡沙「でもでも食べるというより……食べられるほうが……きゃー」
美也「……」
裡沙「……はっ!!」
【仮に】
裡沙「食べるのもありだと思う!」
美也「もう裡沙ちゃん自分でなに言ってるか理解できてないよね」
美也「それになにかよく分からないけど、仮に裡沙ちゃんがだらしない顔したにぃにを食べちゃったとしたら」
裡沙「えへへ」てれてれ
美也「……それみゃーが裡沙ちゃん恋に落ちることになっちゃうよー」
裡沙「……」
美也「……」
裡沙「ごめんね、美也ちゃん。あたしには橘君がいるから……」
美也「仮にの話だよっ!?」
【相手をするのがめんどくさくなった】
裡沙「でも、ねぇねにはなれるよ」
美也「……なんかもういいや」
裡沙「今から、ね…ねぇねって呼んでもいいよ?」
美也「……」
裡沙「あ、逃げちゃった」
【雇用主】
美也「そういえば、にぃにがアルバイトしようかなって言ってた」
裡沙「え……」
美也「あっ……」
美也「(これは言ったらダメなやつだった……にぃにに口止めされてるの忘れてた)」
裡沙「……あたしそんなの聞いてないよっ!?」
美也「(……そりゃあ裡沙ちゃんに言えるわけがないよね)」
美也「(……どうしよう)」
裡沙「……ねぇ美也ちゃん」
美也「えっ、あ、うん。なに?」
裡沙「橘君時給いくらなのかな」
美也「裡沙ちゃんが雇う気!?」
【橘君のためなら///】
美也「とりあえず裡沙ちゃん落ち着こう、ね?」
裡沙「うぅ……橘君なにか悩んでるならあたしにも相談してほしかったよ〜……」
美也「いや、裡沙ちゃんだからこそ相談できないというか……」
裡沙「どういうこと?」
美也「うーん……」
美也「(なんて誤魔化そう……あっ、そうだ)」
裡沙「?」
美也「そのえっちな本とか買うのにもお金がかかるでしょ。でもそんなことは裡沙ちゃんには相談できない、から」
裡沙「え」
美也「(ムリがあったかなぁ……)」
裡沙「……」
美也「(……)」
裡沙「それならあたしに言ってくれればよかったのに、えへへ。その、恥ずかしいけど橘君のためなら……」パァ
美也「(……なんか後から裡沙ちゃんが暴走したりしてにぃにが大変なことになりそうだけど、みゃーはしーらないっと)」
裡沙「あれ……?……でも橘君今まではアルバイトしてなくても大丈夫だったのに」
美也「あ、あれじゃないかな。その、ほら、えっと……
裡沙ちゃんと付き合ったことによって範囲がさらに広まって、買いたい本が増えた……とか……」
裡沙「えっ? …………えへへ」
美也「(……なんかにぃにがとんでもないえっちな本のマニアになっていってる気がするよ)」
【5月中旬】
美也「(にしても、裡沙ちゃんは本当に盲目だね〜)」
美也「(もうすぐなにがあるのかわからないなんて)」
美也「(みゃーなんて一ヶ月前からにぃにに通知してるのになぁ〜)」
美也「(なんで自分のことに思い至らないかなぁ……」
【すれ違う恋人達】
裡沙「ねぇねぇ、美也ちゃん」
美也「どうしたの?」
裡沙「じゃーん、今週の占い、あたしが1位なんだ〜」
美也「ふ〜ん、あ、ほんとだ」
裡沙「しかも恋愛運は最高で、週末はデート日和になるでしょう。だってー♪」
美也「よかったね、裡沙ちゃん……ってあれ?」
裡沙「え?」
美也「この星占い、にぃに最下位だよ……」
美也「しかも、恋愛運は最悪で、今週は女性に関わらないで過ごそう、だって」
裡沙「……」
美也「……」
【藁にもすがる】
裡沙「週末から雨だって」
美也「えぇー」
裡沙「もう梅雨の季節だから仕方ないね」
美也「嫌だなぁー、なんとかしてよ裡沙ちゃん」
裡沙「あたしに言われても……あ、てるてるぼうずでも作る?」
美也「さすがのみゃーもそんな子供騙し……」
美也「……」
美也「……」さっ
裡沙「(……ティッシュを手元に引き寄せて?……あっ、あんなこと言っても一応作るんだ……)」じっー
【読心】
美也「本格的に雨だねー」
裡沙「梅雨だもん」
美也「傘忘れないようにしないとね」
裡沙「そうだね……あっ!」
美也「雨の日にわざと忘れていって、にぃにと相合傘して帰ろうとするのはやめたほうがいいよ。
にぃにも忘れていくことあるから、どっちももってないなんてことになるかもしれないし」
裡沙「……なんでわかったの!?」
美也「それは……まぁ」
【毎日の手間<愛】
裡沙「あ、じゃあ美也ちゃんが橘君が傘を忘れていったときはあたしに電話で教えるっていうのは……」
美也「朝からそんなめんどくさいことやってられないよー!」
裡沙「うっー」
美也「そんな顔したってみゃーはやんないよ」
裡沙「あっ、そうだあたしが毎日傘を持っていけばいいんだ。そうすればいつか」
美也「……正直裡沙ちゃんがわからないよ……」
【ラブコメ】
裡沙「でも、お互いに傘を忘れて学校で雨宿りっていうのもロマンチックだよね」
美也「そうかな〜?」
裡沙「雨を見ながらやまないかなぁなんて話して……でも内心ではもうちょっと降っててほしいとか思って見たり」
美也「裡沙ちゃんは乙女だねえ〜」
裡沙「他にも用務員のおじさんが気づかずに鍵をしめちゃって体育倉庫に閉じ込められちゃったり……」
美也「(……ん?)」
美也「ちょっとまってなんで舞台設定が体育倉庫で雨宿りなの?」
裡沙「ドラマチック重視だよー?」
美也「それ……まず放課後に体育倉庫に行く用なんてほとんどないから心配しなくて大丈夫だよ」
裡沙「……ぐぬぬ」
【取られた】
裡沙「……」トボトボ
美也「(あ、あそこの渡り廊下を歩いてるの裡沙ちゃんだ……。今日にぃに傘を忘れて行ったし二人で帰るのかな)」
美也「おーい裡沙ちゃん」
裡沙「……」トボトボ
美也「あれ? ……一人だし……元気ないね」
裡沙「……う」
美也「裡沙ちゃん、にぃにと帰らないの? 雨だし前にいってた……」
裡沙「……とられちゃった」
美也「え?」
裡沙「うめちゃんに橘君が取られちゃった」
美也「?」
裡沙「どうやって誘おうか悩んでいるうちに、うめちゃんと橘君が一緒にかえっちゃた……」
美也「(……うめちゃん)」
【希望的観測】
美也「うぅー、晴れてたのに急に雨が降ってくるなんて〜」ぐっしょり
裡沙「梅雨だから仕方ないよね」ぐっしょり
美也「とりあえず早く着替えたほうがいいね。裡沙ちゃんにはみゃーの服を貸してあげるよ」
裡沙「うん、ありがとう美也ちゃん」
美也「えっと、はいこれ」
裡沙「……」
美也「……あれ、どうしたの?」
裡沙「ううん、なんでもないよ。ただ……」
美也「?」
裡沙「(ちょっと自分の成長状況を考えて……ううん、弱気になっちゃだめ。まだまだこれから大きくなるよねっ!)」ぐっ
美也「裡沙ちゃん?」
【ばかなこと】
美也「と、とにかく裡沙ちゃんそのままじゃ風邪引いちゃうよー」
裡沙「う、うん」
美也「はい、これタオル」
裡沙「ありがt……!!」
裡沙「……このまま風邪を引いたら、橘君が看病がお見舞いにきて……それで……」
美也「そんな馬鹿なこと言ってるとほんとに風邪引いちゃうってばー」
【その時はよんでね】
美也「ふぅ、やっと落ち着いたね」
裡沙「服、ありがとうね。美也ちゃん」
美也「にしし、どういたしましてなのだ〜」
美也「ほんとに急に降ってくるから困ったもんだよ〜。そういえばこの前にぃにもびしょぬれになって帰ってきたっけ」
裡沙「えっ」
美也「ちゃんと傘を持って行ったのに忘れてくるんだから、にぃにもだめだめだよね〜」
裡沙「……」
美也「……裡沙ちゃん?」
裡沙「美也ちゃん、橘君が風邪を引いたらあたしが看病するからね!」
【看病イベント】
裡沙「(あれ……でも、橘君にそんな苦しい思いしてほしくないし……)」
裡沙「(でも、お見舞いとか看病とかって一気に恋人同士の距離が縮まる気がするし……)」
裡沙「(やっぱり橘君には元気でいてほしいし)」
裡沙「あー、どうすればいいの〜!!」
美也「へっ?」ビクッ
裡沙「あっ……」
裡沙「……そうだ、やっぱりあたしが風邪を引いて……!」
美也「なにがあったか知らないけど、馬鹿なこと考えるのはやめなよ」
【嫉妬深い神様】
裡沙「6月は結婚の月だよ」
美也「あ、みゃーも知ってる。ジューンブライドってやつだよね」
裡沙「ジューンっていうのは結婚の神様の名前からきてるからなんだって」
美也「ふーん、そうなんだ」
裡沙「結婚の女神様ってどんな女神様なんだろうね」
美也「にしし、案外裡沙ちゃんに似てたりしてね」
裡沙「え?」
美也「うーん、なんとなく思っただけだよ」
【6月24日】
美也「裡沙ちゃん昨日泣いたでしょー?」
裡沙「え?」
美也「目、はれてるよ」
裡沙「え、嘘……」アタフタ
裡沙「あはは……つい嬉しくって」
美也「にぃにが部屋から降りてくる前にもう一度鏡を見てきたほうがいいかもね」
裡沙「そうだね……でも、ようやく橘君がアルバイトをしていたわけがわかったよ。美也ちゃんは知ってたんだね」
美也「にしし、みゃーは裡沙ちゃんが泣くだろうなってことまでお見通しだったのだー」
裡沙「そうなんだー……あ、美也ちゃんちょっと洗面台借りるね」
美也「うん……あ、裡沙ちゃん」
裡沙「?」
美也「その……お誕生日おめでとう」
裡沙「……ふふ、ありがとう美也ちゃん。それと……2日遅れだけど美也ちゃんもおめでとう」
【時間】
美也「6月は祝日がなかったけど、なんだか早く感じたよー」
裡沙「……」
美也「裡沙ちゃん?」
裡沙「あたしは、ずっとはやく感じてるよ」
美也「え?」
裡沙「もっとはやくに行動しておけばよかったって思うこともあるもん」
裡沙「そうしたらもっと橘君と思い出をつくって……それで……」
美也「裡沙ちゃん……」
裡沙「何度もチャンスはあったはずなのに、結局あたしはあたしのクビをしめてたんだね」
美也「……もうすぐ夏だね」
裡沙「え?」
美也「夏になったらみゃーとにぃにと裡沙ちゃんで海に行こう」
裡沙「……うん」
【いつかは2人で……】
裡沙「うーん、いやでも、海に行くなら橘君と二人きりのほうが……」
美也「!?」
裡沙「あはは、さすがに冗談だよ」
美也「だよね。びっくりしちゃったよ」
裡沙「二人きりで行くのはまた別の機会を見計らって行くの」
美也「その時もみゃーはいくのだー! にぃにと裡沙ちゃんだけじゃなにをするか心配だからね〜」
裡沙「ダメ」
美也「行く」
裡沙「だ〜め〜」
美也「みゃーも行く〜」
裡沙「ふっー!」
美也「ふっー!」
【学校が嫌になるくらい嫌い】
裡沙「一年に一度しか会えないんだって」
美也「……なんのはなし?」
裡沙「織姫と彦星の話だよー」
美也「あ、そっか今日は七夕か〜」
裡沙「それにしても神様もいじわるだよね」
美也「でもあれって、彦星も織姫もお仕事をさぼってたからああなっちゃったんだよね?」
裡沙「一年に一度っていうのもいじわるだけど……」
美也「?」
裡沙「だって、一年に一度会えるっていう日に天の川を渡れ、ってことだよ!?」
美也「それがどうかしたの?」
裡沙「最愛の人に会うためにミルクの川を渡らないといけないなんて……」
美也「……いろいろと突っ込みたいところはあるけど、とりあえず泳いで渡るわけじゃないと思うよ」
【年中晴れ】
美也「七夕って雨の時多いよね」
裡沙「旧暦と今の暦の違いのせいだね……」
美也「梅雨がまだあけてないときにあるんだもんね」
美也「……でも雨の時は織姫と彦星は会えないのかな?」
裡沙「あたし達に見えなくても、会えるよ」
美也「なんで?」
裡沙「だって雲の上だもん」
【子供】
美也「あれ、裡沙ちゃんその髪どうしたのー?」
裡沙「えへへ、七月七日はポニーテールの日でもあるんだって。だから……」
美也「ふ〜ん、そうなんだ……」
美也「みゃーもやってみよう」
裡沙「はい、ゴムかしてあげる」
美也「ありがとう裡沙ちゃん」
裡沙「……」
美也「……じゃーん」
裡沙「……なんだかより子供っぽくなったね……」
美也「『より』ってどういうことなのさーっ!!」
【3年の夏】
美也「もうすぐ夏休みなのだー!」
裡沙「……」
美也「あれ、どうしたの裡沙ちゃん」
裡沙「……」
美也「え? 3年生は夏期講習があることを忘れてたの?」
裡沙「……」コクコク
美也「あー、それは仕方ないねー」
裡沙「うぅ……」
美也「仕方がないからみゃーとにぃにで海は行って来るよ」
裡沙「だめ〜!! それに橘君も3年生だよ!?」
美也「ちぇ〜」
【発想の転換】
裡沙「はぁ……」
美也「まだ裡沙ちゃんショックうけてたの?」
裡沙「だって、高校生最後の夏休みなのに〜」
美也「(夏休みに入って、夏期講習に入ってもまだ言ってるんだもんなぁ……)」
美也「それじゃあ、毎日がデートって考えればいいよ」
裡沙「……どういうこと?」
美也「だって、補講がある日は毎日会えるんだよ? だから登下校をデートって考えたら……」
裡沙「!!」
裡沙「ありがとう輝日東高校!!」
【外堀を埋める】
美也「……」
美也「ねぇ、裡沙ちゃん」
裡沙「どうしたの?」
美也「将を射んと欲すればまず馬を射よ、って言葉知ってる?」
裡沙「……」
美也「目的は、まず周りからかためていけ、っていう意味なんだって」
裡沙「……とりあえず言っちゃうけど、将はもう射てしまってるし、
まんま肉まんを売っているところをそんな目で見ていても奢らないよ?」
美也「え〜」
【好み】
裡沙「新しい水着を買いに行こう」
美也「うん、いいけど」
裡沙「けど?」
美也「裡沙ちゃんと行くと、すごく長くなるからね……」
裡沙「えー」
美也「だって裡沙ちゃん、いちいちみゃーににぃにの好みを聞いてくるでしょ」
裡沙「……ぐぬぬ」
【サイズ】
美也「去年の水着を試しに着けてみて、普通にはいって……」
裡沙「……」
美也「……」
裡沙「美也ちゃん、この話はやめよう?」
美也「……うん」
【甘え上手】
美也「暑いね〜」
裡沙「8月だからねー……」
美也「うだ〜……」
裡沙「美也ちゃん寒さにも暑さにも弱いよね」
美也「……裡沙ちゃんが家に来るちょっと前に、にぃににアイスを買ってきてって頼んだのに帰ってこないし」
裡沙「あ、だから橘君いないんだ……」しょぼん
裡沙「……にしても美也ちゃんなかなかの妹力の高さだね……」
美也「?」
【すれ違う恋人2】
美也「あれ、裡沙ちゃんそのインスタントカメラどうしたの?」
裡沙「えへへ、あの人と一緒に写った写真がほしいなぁ、と思って」
美也「ふ〜ん、あ、でもにぃに今いないよ」
裡沙「……なんだかこういうこと多いね」とほほ
美也「(約束するか、電話してから来ればいいのに……っていうのは、なしなのかな……)」
【最初の】
美也「でも、なんで急に?」
裡沙「あの人と二人きりで写った写真なんてもってなかったから……」
美也「へぇ、だからインスタントカメラか〜」
裡沙「うん」
美也「へぇ……あっ」カシャ
裡沙「どうしたの?」
美也「間違えてシャッター押しちゃった」
裡沙「えー、記念すべき最初の一枚だったのにー!」
【連写しようが、ピンボケであろうが……】
美也「ごめんなさい」
裡沙「……うん、美也ちゃんも悪気があったわけじゃないししょうがないよ」ショボン
美也「……えっと、ほら現像した時にはどれが一枚目かなんてわからないよ」
裡沙「……うん」
美也「みゃーは、ほらあれだよ。そんなものにこだわらなくても毎回が記念すべき一枚だよって言いたかったんだよ」
裡沙「!!」
美也「だから、みゃーは小さいことに拘っている裡沙ちゃんに」
裡沙「そうだよね!」
美也「……」
美也「(……すごく罪悪感が)」
裡沙「えへへ、毎回が記念だよね〜」
【目的喪失】
裡沙「ふふっ、じゃあ……」
美也「?」
裡沙「えい」カシャ
美也「な、なに!?」
裡沙「もういつ撮っても同じだし、とりあえず美也ちゃんを一枚」
美也「!!」
裡沙「あはは、完全に油断した顔した美也ちゃんが写ってるよ」
美也「ふーっ、みゃーにもかしてー!」
裡沙「あっ」
美也「えい」カシャ
裡沙「あーー!!」
美也「にしし、これで裡沙ちゃんの油断しきっただらしない顔が収められたのだ」
裡沙「……やったね、美也ちゃん」
美也「最初にやったのは、裡沙ちゃんだよ」
……
…
美也「ハァ……ゼェ……」
裡沙「ハァ……ハァ……」
美也「……なんでみゃー達こんなことにあつくなってるんだっけ」
裡沙「さぁ……」
美也「……そもそも裡沙ちゃんが……あっ」
裡沙「?」
美也「にぃに帰ってきたかもね。今玄関のほうで音がしたよ」
裡沙「!!」
裡沙「……あっ……」
美也「?」
裡沙「……もうフィルムがない」
美也「……その……ごめん」
【炎天下】
裡沙「ここに来るとき、地面から熱気がゆらゆらっとしてるのを見たよ」
美也「陽炎?」
裡沙「うん。あれをずっと見てると催眠術を思い出さない?」
美也「うん?どういうこと」
裡沙「こうずっと見てるとクラっとしてくる、みたいな」
美也「……それは陽炎を見てるせいじゃなくて、陽炎ができるよう炎天下の中にずっと立っているからなんじゃ……」
裡沙「あっ」
【生きてて良かった】
美也「でもそんな炎天の中、ずっと外にいることなんて……」
裡沙「あるよ」
美也「……例えば?」
裡沙「……とにかくあるのー」
美也「……まさか裡沙ちゃんいまだににぃにを……」
裡沙「し、してないよ。去年までの話だよ」
美也「……去年まではしてたんだ……」
美也「……裡沙ちゃん熱中症で死ななくて良かったね」
裡沙「……うん」
【イカの合法セクハラ】
裡沙「……」
美也「どうしたの、裡沙ちゃん。昨日はにぃにとデートだったのになんだか元気ないね」
裡沙「……」
美也「あ、もしかしてにぃにになにかされた?」
裡沙「ううん違うの」
美也「じゃあなんで……」
裡沙「昨日デートしたときたまたまイナゴマスクのショーがやっててね」
美也「うん」
美也「うん」
裡沙「小学生に間違われた……」
美也「……」
裡沙「失礼だよね! ちゃんと私だって毎晩マッサージしたり我慢して豆乳飲んだりして努力してるのにーーっ!」
美也「……それだけ?」
裡沙「絶対に大きくなるんだからっー」
【あわよくば】
裡沙「夏休みもおわっちゃった……」
美也「そういえば今度、近くで縁日の出店がでるんだって」
裡沙「夏の締めだね」
美也「にしし、にぃにに連れて行ってもらうのだー」
裡沙「えー、ずるいっ!!」
美也「仕方がないから裡沙ちゃんも連れて行ってあげるよー」
裡沙「えっ?」
美也「まぁ、その……一応にぃにの彼女だしね」
裡沙「美也ちゃん……」
美也「にしし」
裡沙「その調子でねぇねって呼んでもいいんだよ」
美也「それは呼ばないよ」
裡沙「……ぐぬぬ」
【コンビニでどうぞ】
裡沙「うふふ、楽しみだなぁ……橘君とイカ焼きが食べたいなぁ」
美也「あるといいねー」
裡沙「美也ちゃんはー?」
美也「みゃーは金魚すくいとかをして、まんま肉まんとかりんごあめとかベビーカステラを食べるのだー」
裡沙「え?」
美也「うん?」
裡沙「美也ちゃん、もう一度言ってみて」
美也「金魚すくいとかをして?」
裡沙「そのあと?」
美也「りんごあめとかベビーカステラを食べる?」
裡沙「その前」
美也「まんまにk」
裡沙「さすがにまんま肉まんはないと思うよ……」
【70】
裡沙「ねぇねぇ、美也ちゃん。恋愛は人を成長させるんだって」
美也「またその話? 前も似たような話をしたよね」
美也「それに……」
裡沙「それに?」
美也「それでいうなら、裡沙ちゃんは……」
裡沙「?」
美也「成長してないよね……」
裡沙「……なんで目線を胸に落としながらいうのよー!」
美也「みゃーはこれからバインバインのふかふかになるんだよ!」
裡沙「あたしだってなるもん!」
美也「ふっー!」
裡沙「ふっー!」
美也「……なんの話だっけ?」
裡沙「あれ?」
【あるいは超ポジティブシンキング】
裡沙「乙女心は秋の空っていうよね」
裡沙「ちょっと理解できないけど……」
美也「たぶん……」
裡沙「?」
美也「……裡沙ちゃんには一生わかんないと思う」
裡沙「なっ!? なんでなのー」
美也「……だって裡沙ちゃん一直線な上に盲目だもん」
【変化の秋】
美也「秋だっていうのに、にぃにはいつもどおりで変化がないねー……」
裡沙「た、橘君だって秋を感じてるよ!」
美也「えー、例えばー?」
裡沙「読書の秋とか」
美也「みゃー、にぃにが読書しているところなんて……」
裡沙「そんなことないよ、あの人のコレクション増えてたもん!」
美也「……それはいつもどおりじゃないの?」
裡沙「……」
【暴走思考4】
裡沙「………んいち………さん……ううん、やっぱり呼び捨てのほうが……」ブツブツ
美也「裡沙ちゃん、なにをぶつぶつ言ってるの?」
裡沙「えっと……〜〜」
美也「にぃにの呼び方?」
裡沙「うん、その……もう付き合ってるわけだし……じゅんいちくんなんて、呼んじゃったり……」
美也「呼びたいの?」
裡沙「……」コクリ
美也「でもどんな呼び方をするか迷ってる、と?」
裡沙「……」コクリ
裡沙「こ、候補!? えっと、その……」
美也「うん」
裡沙「純一君……とか、他にも純一さんとかでも、あ、でも呼び捨てにしちゃったりとか」
美也「……」
裡沙「他にも、……旦那様とか……ご主人様とか……」
美也「ストップストップ、裡沙ちゃんなんか別の方向に行ってるからストップ!」
【おかしをくれないと……】
美也「トリックオアトリート」
裡沙「?」
美也「ハロウィンだよ〜。おかしをくれないといたずらしちゃうぞー、ってやつ」
裡沙「あ、じゃあはい。そういえば飴をもってたんだー。はい美也ちゃん」
美也「あ、本当になにかもってたんだ。半分冗談だったんだけど……ありがとう裡沙ちゃん」
裡沙「……」
美也「?」
裡沙「ねぇね、美也ちゃん。あたしもやってみていい?」
美也「ん? うん、なんだかよくわからないけどいいよ」
裡沙「えへん、じゃあ」
美也「(なにをそんなに改まって気合入れるほどなんだろう……)」
美也「…………うん?」
美也「……えっ?」
裡沙「えへへ……」
美也「誰に?……あ、ああやっぱり答えなくていいよ。聞くだけ無駄だもん」
裡沙「されちゃうぞー?」
美也「えっと……はいじゃあ、20円チョコ」
裡沙「……」
美也「裡沙ちゃん?」
裡沙「……なんで渡すの〜!?」
美也「ええっ、みゃーにどうしろっていうのさ!」
裡沙「欲張りになっていくことは悪いことなのかな?」
美也「え?」
裡沙「例えば、いつもあの人と別れるときはまたねって笑ってくれるけど、その後とても切なくなるときがあるよ」
美也「……」
裡沙「あと何度こうして過ごせるのかなっていう不安もあるよ」
裡沙「なんにせよ終わりは来るんだよ。でもそれを考えると……」
裡沙「……少し前のあたしにしてみればそれは凄く幸せなことなのにね」
美也「うーん……みゃーにはわかんないよ」
裡沙「そっか。うん、ごめんね変な話をしちゃって」
美也「うん……でも悪いことじゃないんじゃないかな、そういう気持ちも」
美也「……」プイッ
裡沙「あれ、美也ちゃんどうしたの。機嫌が悪いけど……あ、なるほど」
美也「……なにがなるほどなの?」
裡沙「ふふっ、あの人と喧嘩したんでしょー?」
美也「え、なんでわかったの?」
裡沙「それは美也ちゃんのねぇねだからだよ」
美也「……」
裡沙「なにか反応をしてもいいんじゃ……」
美也「で、なんでわかったの?」
裡沙「だって、美也ちゃんの怒ってる顔してるだけじゃなく、楽しくないことがあったーって顔してるよ。それに落ち着きないしね」
美也「でも、それじゃあ喧嘩の相手はにぃにじゃないかもしれないよ?」
裡沙「そっちは、今日橘君がどこかそわそわしてたからかな」
裡沙「美也ちゃんと橘君はそういうところ似てると思うから」
美也「うぅー……」
【映えるファッション】
美也「裡沙ちゃんなにを読んでるのー? なにかの通販雑誌?」
裡沙「うん」
美也「なにこれ……なんか色々な衣装が載ってるけど、うわぁこれなんかちょっとえっちぃね」
裡沙「この前橘君とうめちゃんがね、こういうのを着た人が載ってるお宝本を貸し借りしてたの」
美也「まったく……またにぃには……」
裡沙「それで参考に」
美也「……なんの参考?」
裡沙「えへへ、こういうのを着てみたらあの人も喜ぶかなぁって」
美也「……裡沙ちゃんの行動力にちょっと呆れたよ……」
美也「どうかなぁって言われても……うわぁ、これは……」
裡沙「どうかな」
美也「……これって胸のところが強調されてるけど、裡沙ちゃんがきたら……」
美也「…………とりあえずやめといたほうがいいよ」
裡沙「どういう意味よーっ!」
【毎日見てるよ】
裡沙「じゃ、じゃあ婦警さんとか」
美也「……微妙」
裡沙「お、女教師とか」
美也「裡沙ちゃんじゃちょっと子供っぽく見えるよー」
裡沙「美也ちゃんに言われたくないよっ! ……じゃあサンタクロース」
美也「少し時期が早いよ」
裡沙「むむむ、あ、じゃあ制服とか」
美也「……いつも着てるよね」
裡沙「……」
美也「……」
裡沙「盲点だったよ……」
【ひっかける部分】
裡沙「もうすぐ12月だよ!」
美也「はしゃぎすぎだよ、裡沙ちゃん」
裡沙「だって12月はあの人の誕生日に、記念すべきクリスマスがあるよ」
美也「(なるほどだからか〜……)」
裡沙「プレゼントはなにがいいかな」
美也「気が早いってば〜」
裡沙「はやくないよ!」
裡沙「そ、その定番ではあたしにリボンをかけて橘君に……」
美也「いろいろ突っ込みたいところはあるけど、体にリボンをかけるって……
それリボンを引っ掛ける場所があってはじめてできることだと思うんだけど」
裡沙「……なにが言いたいの?」
美也「いや、裡沙ちゃんには引っ掛ける場所がな……い……んじゃあ……ってごめん。
そこまで泣きそうになるとは思わなかったんだってばー」
【歓喜】
美也「せめて人がもらって喜ぶものを考えようよー」
美也「裡沙ちゃんがにぃにのリボン付きもらったとして、それ嬉しい?」
裡沙「……嬉しい!」
美也「もう重症だよ……」
【水鳥】
美也「うぇー、裡沙ちゃんのせいでリボンかけたにぃに想像しちゃった……」
裡沙「えー、あたしのせいじゃないでしょー。それにうぇーってどういうことなの」
美也「そのまんまの意味だし、裡沙ちゃんのせいだよっ!」
美也「……もうそんなこと悩むくらいなら、いっそにぃにに何が欲しいか直接聞くとか……」
裡沙「……美也ちゃん」
美也「?」
裡沙「……女の子の努力のあとは男の子には見せないものなんだよ……」
美也「う、うん……」
【愛情過多?】
裡沙「料理のコツは愛情です」えっへん
美也「みゃーだってそれくらいしってるよー」
裡沙「食べてもらいたい人のことを思いながら作るのことが最高の調味料です」
美也「だからわかってるよー」
裡沙「美也ちゃん、あたしは料理の話をしてるんだよ……」
美也「……」
裡沙「美也ちゃんのはそもそも……」
裡沙「どういう意味さー!!」
【怒るよ】
裡沙「もうすぐあれから1年なんだよね」
美也「なにか変わった」
裡沙「うん、いろんなことが」
美也「良かったね」
裡沙「良かったの、かな……」
美也「?」
裡沙「あたしは幸せだったけど、橘君は……」
美也「ストップ」
美也「それ以上言ったら、にぃにのかわりにみゃーが怒るよ」
裡沙「……うん」
【基準】
裡沙「今日も寒いねー」
美也「みゃーは寒いのだめー」
裡沙「ふふ、知ってるよ」
美也「どうせ寒いんだから雪でも降ればいいのに〜、積もるくらい」
裡沙「えー、それは大変だよ〜」
美也「せめてなにかいいことでもあればいいのに」
裡沙「冬だっていいことはあるよ」
美也「……そうだね」
裡沙「あれ、素直?」
美也「夏に食べるまんま肉まんもおいしいけど、やっぱり冬に食べるまんま肉まんは格別だよね」
裡沙「……そういうことじゃないと思うんだけどなぁ」
【予想通り】
美也「こたつでアイスを食べるのっておいしいよねー」
裡沙「ふふっ、なにか食べるときの状況って大切なのかもね」
美也「きっとそうだよー。裡沙ちゃんはなにかないの……あ、やっぱりいいや」
裡沙「えー、ちゃんと聞いてよー!」
美也「……じゃあ……裡沙ちゃんのそういう時って?」
裡沙「橘君と一緒の時」キッパリ
美也「ほらね、言うと思った! だからいいやっていったのに」
裡沙「本当のことなんだからいいでしょー」
美也「惚気られるこっちの身にもなってよ!」
【特別】
裡沙「と、とうとう明日はクリスマスだよ美也ちゃん……!」
美也「なんでそんな落ち着きがないの?」
裡沙「だ、だって明日は橘君とデートなんだよ」
美也「いつもしてるじゃん……」
裡沙「いつもとは違うのー! 特別な日なのー」
美也「?」
裡沙「どうしようー」
美也「なにが?」
裡沙「色々ー!! もしかしたらあんなことやこんなことになるかもしれないから……」
美也「(きっとその心配は杞憂に終わるんだろうなぁ……)」
【ねぇねの心配事】
美也「にしし、みゃーはこの時期は大好きだよ」もぐもぐ
裡沙「……」
美也「クリスマス万歳だね」もぐもぐ
裡沙「……」
裡沙「(クリスマス過ぎた後は売れ残りのケーキが安く食べられるからって……)」
裡沙「(……ねぇねは少し心配になるよ……)」
裡沙「美也ちゃんは彼氏とか作らないの?」
美也「?」もぐもぐ
裡沙「2年生の橘さんは男の子に人気あるって聞いたことあるよ」
美也「……うーん、まだいいや」もぐもぐ
裡沙「(……花より団子……)」
美也「いざとなったらにぃにと裡沙ちゃんと一緒に生きていくから」
裡沙「完全に小姑だよ!それ!」
【寂しさ】
裡沙「こんばんわ、美也ちゃん」
美也「いらっしゃい裡沙ちゃん。外は寒かったー?」
裡沙「うん……あれ、橘君は?」
美也「にしし、台所でおそば作ってる」
裡沙「そっか、大晦日だもんね。あ、じゃああたしもお手伝いしようかなぁ……」
美也「……」
美也「……一人残されると残されるでちょっと寂しい……」
美也「仕方ないからみゃーも手伝うとしますかー」
美也「にしし、にぃにのおそばはみゃー特製のにしてあげるのだー」
【願い事】
美也「はっつもうで〜♪ はっつもうで〜♪」
裡沙「ご機嫌だね裡沙ちゃん」
美也「にしし、そりゃ新年だからね〜」
裡沙「ふふっ、初詣か〜」
美也「もうお願いすることはきまってるの〜」
裡沙「うん」
美也「ふ〜ん、まぁ裡沙ちゃんだしね」にしし
裡沙「2つお願い事があるんだけどね……」
美也「へっ? ふたつ?」
裡沙「うん♪」
美也「一つはにぃにとラブラブでいられることでしょう? あと一つは?」
裡沙「えへへ、秘密」
美也「……ま、いっか。あっ、やっとにぃに来たよ! おそーい」タッタッタ
裡沙「(もう一つは……)」
美也「おーい、裡沙ちゃんはやくー」
裡沙「(よーし、美也ちゃんのねぇねになれるように頑張るよー)」
裡沙「うん、今行くよー」タッタッタ
前に絢辻さんとでやったから今度はラブリーとでもやろうかと思ったけど、安心安定の美也になった
支援と保守ありがとう
ほんわかで素敵だった
良い終わり方だ
存分に和ませてもらった
Entry ⇒ 2012.05.06 | Category ⇒ アマガミSS | Comments (0) | Trackbacks (0)
森島「うぅ、橘君の膝裏にキスしたいわ……」
橘「えっ……僕って変態だったんですか!?」
森島「へ、変態も変態!ド変態よ!」
橘(た、確かに変態!って罵られることは多い気がするけど……。僕ってやっぱり変態だったのか……!)
橘(し、しかし……意外にも森島先輩に罵られるのも悪くないぞ!も、もっとこの薄汚くて変態な僕を罵って下さい!)ハァハァ
森島「……おーい?橘君?」
橘「は、はい!時に厳しく!でも時に優しくでお願いします!」
森島「……でね?ひびきが私のことを心配するように、私もキミのことが心配になってきちゃってね」
橘(スルー!そんなのもあるのか!)
森島「だ、だから……!」
森島「キミに自分をキャッカンシ?させてあげるわ!」
橘「……というと、どうするんですか?」
森島「わ、私がキミにやられて恥ずかしかったヘンタイ行為を、キミにやりかえしちゃうんだから!」
森島「か、覚悟なさい!?」
橘「えぇ!?そ、そんな!?」
橘(な、なんてことだ……僕が森島先輩にやったことをやり返されるなんて……!)
橘(あ、あんなことやこんなことが僕の身に……!?)
橘(僕……僕っ……!!どうなってしまうんだ!?)
橘(……って、うん?冷静になれ。冷静になるんだ、純一!)
橘(森島先輩が僕にあんなことやこんなことを?)
橘(と、得をするのは僕だけじゃないか!いやっほぉぅ!)
橘(よ、よし!ここは話にのってしまおう!)
橘「ぼ、僕に客観視をさせて下さい!お願いします!」
森島「わぉ!いい返事ね!」
森島「わかったわ……じゃあ、早速始めようか!」
橘「は、はい!よろしくお願いします!」
森島「いい?途中で恥ずかしくなったからやめ!なんて許さないんだからね!?」
橘「も、もちろんです!……で、何からやるんですか?」
森島「……そうねぇ。ここは二人の出会いから始めましょう!」
橘「で、デアイから!?」
森島(こ、このラーメン……美味しいわ!)ズルズル
森島(三年もこの学校に通ってて気付けなかっただなんて……)ズルズル
森島(森島はるか、一生の不覚よ!)ズルズル
森島(あぁ……幸せっ)ズルズル
橘「お、おう!ねーちゃん!女にしとくには勿体無い食べっぷりだな!」
橘「そ、そんなねーちゃんにはこれをやるよ!え、遠慮はいらない……ぜ?」
カラアゲドーン!
森島「……えっ?」
橘「いや〜、いいものを見せてもらったよ!じゃあな!」スタスタ
森島「えっ?えっ?」
森島(そ、そもそもあの人って誰なの!?どこかで会ったことがある気がするんだけど……)
梅原「す、すみません!うちの大将が先輩にご迷惑を!」
森島「……キミは?」
梅原「お、俺は二年の梅原正吉って言います!さっき先輩にご無礼を働いたのは、同じクラスの橘純一ってヤツでして……」
梅原「あ、あいつには俺から厳しくいっときますんで!どうか、どうか……!」
森島「……別にいいよ?気にしてないし」
梅原「す、すみませんでした!失礼します!」
森島「……そう。橘純一君っていうんだ、彼」
森島「ふふっ、面白い子ね」
梅原「おぅ、大将!名演だったぜ!」
森島「……消えてしまいたい」
橘「ど、どうしたんですか!?」
森島「私……他人の目からああいう風に映ってたのね?」
橘「だ、大丈夫ですよ!フリーダムなところは先輩の一番の魅力じゃないですか!」
梅原「そうですよ!気にし過ぎですって!」
森島「う、梅原君……ごめんね?わざわざ付き合ってもらっちゃって……」
梅原「いや、楽しかったんで問題ないですよ?」
森島「うぅ……キャッカンシって怖いのね」
橘「……やめますか?」
森島「いいえ!続行よ!こんなことで挫けないんだから!」
森島「じゃあね……次は〜」
橘「お、おう!森島のねーちゃんか!」
梅原「どうしたんですか?そんなに息を切らせて」
森島「橘君達は今から帰り?」
橘「こ、これから梅原と買い物にでもいこうと思ってな!が、がはは……」
梅原「先輩もお帰りになられるところで?」
森島「う、うん!あ、あのさ!」
森島「も、もし問題がなかったらなんだけど……」
森島「ふ、二人の買い物に着いていってもいいかな?」
橘「えっ……」
梅原「あ、あの……えーと?」
橘「おいおい!ねーちゃん!本当に着いてくるのかい!?」
梅原「せ、先輩……?俺たちがこれから買いにいくのは……」
森島「ふぇ?」
橘「あ、あぁ!今日発売の新刊が熱くてな!」
梅原「ですから、先輩はその……おやめになられた方が……」
森島「……かまわないわ!行きましょう!」
橘「ね、ねーちゃん!?正気か!?」
梅原「ほ、本当にいいんですか!?」
森島「えぇ!荷物持ちでもいいから着いていくわ!」
森島「そ、それに……興味あるし……」
橘「見所のあるねーちゃんだな!俺の見込んだ通りだ!」
梅原「そ、そこまでおっしゃるなら……はい」
森島「じゃあ、早く行きましょう!」
森島「レッツゴー!」
森島「ひびきと下着を買いに行くとき、橘君はこんな感じに食い下がってきたのよ?」
森島「どう?思うところはある?」
橘「……なんで、僕のキャラがよくわからないことに?」
梅原「……不安定にも程があるよな」
森島「そ、そんなところはどうでもいいの!」
森島「ねぇ?どう感じた?」
橘「恥ずかしかったというよりも……何だかびっくりしちゃいました」
森島「そう!その通りよ!私もキミには驚かされっぱなしだわ!」
梅原「あ、まだ続けますよね?」
森島「もちろんよ!」
森島「次は〜……うん!アレにしよう!」
ラブリーの行動を客観視するとも一つ酷かったりする
橘「お、おう!俺が二年の橘だ!」
塚原「わ、私は三年の塚原響っていう者なんだけど」
塚原「と、突然でごめんなさい?あ、あのね?私……あなたにお話したいことがあって」
橘「?」
森島「じゃ、ジャストアモーメントよ!ひびきちゃん!」
塚原「は、はるか!?」
森島「それ以上は許可しないわ!」
塚原「きょ、許可!?そんなこと言われても……」
森島「と、とにかくダメなの!」
森島「ほ、ほら!こっちにきて!」
塚原「た、橘君?というわけで失礼するわね?」
橘「お、おう……」
橘「……何だったんだ?」
森島「んっふっふっー、口ではそんなこと言ってるけど、ノリノリだったじゃない?」
塚原「くっ……ノってしまった自分が悔しい……」
梅原「あー、そういえば煮え切らない橘を見てられなくて、こんなことしたっけな……」
森島「橘君?どう思った?」
橘「何だかこれから面白いことが起こりそうな……そんな感じはしました」
森島「うんうん!まったくその通りよ!」
橘「あ、あの!」
森島「うん?」
橘「今まで演ってきたのって、あんまり僕の変態さとは関係ないですよね?」
森島「ふふふっ、それなら次からギアを一個上げてくわよ!」
塚原「……ねぇ?帰っていい?」
森島「ねぇねぇ?橘君?」
橘「は、はい?何ですか?」
森島「……お腹空いた」
橘「……といわれましても」
森島「そうね……お菓子持ってない?もうお昼まで我慢できないの!」
橘「お、お菓子ですか?あ、あることはあるんですが……」
森島「わぉ!本当に!?」
橘「ら、ラーメンスナックなら」
森島「ねぇねぇ?飢えた私にお菓子を施してみない?」
橘「……いいですよ」
森島「さすが橘君ね!そう言ってくれると信じてたわ!」
橘「……ただし!」
森島「た、ただし!?条件?条件があるのね!?」
森島「て、手を!?使わずに!?」
橘「ほらほら、先輩?こうやって僕の手に袋から出してですね……」パラパラ
橘「……これなら手を使わずに食べられますよね?」
森島「むむむっ!人としてのソンゲン?を踏み躙られてる気さえするわ!」
橘「さすがの森島先輩もこんなの出来ませんよね?」ニヤニヤ
橘「負けを認めるなら一口くらいは……」
森島「で、でも……背に腹は変えられないわ!」
森島「えーい!」
パクッ……ペロペロ……
橘「!?」
橘(こ、これは……!)
橘(僕の手の平を森島先輩の温かくてヌルヌルした舌が這って……うっ!)
橘(な、なんてことだ!こんなことって!こんなことって!)
橘(あぁ……いけません!先輩!これ以上は!)ハァハァ
森島「橘く〜ん?おかわりは〜?」
橘「え!?おかわり!?」
森島「す、ステイなの……?」
森島「そんな……焦らしちゃイヤだよ?」
橘「は、はい!今!」パラパラ
梅原・塚原「廊下で何やってんだ!このバカ共っ!」
塚原「はるか?再現したかったのはわかるけど、みんなの見てる休み時間にやる所まで再現しなくてもいいでしょ?」
森島「えぇ〜?そこまでやらないとキャッカンシにならないでしょ?」
塚原「そ、それはそうだけど……ねぇ?」
梅原「あ、そういえば大将はキャラ作るのやめたのか?」
橘「う、うん。何だか方向性がわからなくなっちゃってさ」
森島「そんなことより!」
森島「ねぇ?橘君?今のはどう感じた?」
橘「そ、それは……そのですね」
橘「ぼ、僕の手を這う森島先輩の官能的な舌触り!」
橘「そこに廊下を歩く生徒の怪訝な視線が加わることで……新しい世界が見えた気がしました!」
森島「でしょ!?でしょ!?堪らないわよね!」
森島「……って、橘君?」
森島「シュウモク?に晒された状態で突然自分の手の平を舐められて、どう感じたかって話よ!?」
橘「そ、それは……嬉し恥ずかしというか……」
梅原「ダメだこりゃ」
塚原「……でも恥ずかしいと感じてはいるのね?」
橘「は、はい!森島先輩の奇行は、変態のそれだと思いました!」
森島「そ、それをキミは私にやったのよ!?わかる!?」
橘「……その節は申し訳ありませんでした」
森島「わ、わかればいいのよ!わかれば!」
塚原「ねぇ?はるか?橘君が自分が変態だって気付けたみたいだし、この企画はもう終わり?」
森島「……いいえ!まだやることがあるわ!」
梅原「俺達に手伝えることはありますか?」
森島「う〜ん、二人の手はもう借りるところないから……解散!」
塚原「……そう?じゃあ私は帰るけど」
梅原「先輩!また何かやるときは呼んで下さい!」
森島「うん、二人とも協力ありがとう!」
森島「……さて、橘君?次にやることはわかってるよね?」
橘「……ひ、膝裏ですか?」
森島「そ、そう!膝裏に……キス!」
森島「これをやらなくちゃ、私の受けた恥ずかしさは伝わってないも同然よ!」
橘(……きたか!)ゴクリ
森島(もうダメ!一日中そのことばっかり考えちゃう!)
森島(……ってあれは!)
森島「橘君!」
橘「も、森島先輩?どうしたんですか?」
森島「あ、あのね?私……橘君ともう一度キスを……」
橘「……もう、仕方ないですね」
橘「いいですよ?」
森島「ほ、本当に!?」
橘「ただし!」
森島「ま、また条件なのね!?」
橘「そうですね……では、こうしましょう」
橘「誰にも見つからずにキスできるところまで、僕を連れて行って下さい」
森島「そ、そんな!?」
橘「あれ?出来ないんですか?」
森島「……やる!やってやるわ!」
森島「こ、こっちよ?着いてきて?」
橘「期待してますよ?先輩?」
橘「……ここですか?」
森島「えぇ、ここなら誰にも見つからないでしょ?」
橘「さすが先輩ですね、こんな穴場を知ってるなんて」
森島「うん……だからね?い、いいかな?キスしても……」
橘「は、はい!」
森島「じゃ、じゃあ……!」
橘「あ、唇はダメです」
森島「えぇぇぇ!?」
橘「そうですね……森島先輩らしいところにキスして下さい。それなら構いませんよ?」
森島(そ、そんな……さすが橘君ね!私を試すなんて!)
森島(でも私らしい場所かぁ……う〜ん)
森島(あ、そうだ!あそこにしよう!)
森島「ひ、膝裏……」
橘「えっ?」
森島「橘君の膝の裏にキスさせて!」
橘「膝の裏か……あぁ、膝裏ね。そっか膝裏か……って、えぇ!?」
森島「わ、私ね!わんちゃんが大好きなんだけど!」
森島「ほ、ほら!わんちゃんって膝の裏を舐めてくるじゃない!?」
森島「あれってなんでなのかなーってね?気にならない?」
橘「そ、そう言われてみれば……気になります!」
橘(な、何て苦しい理由なんだ……!立場を逆にしてみて、自分のバカさ加減にうんざりしてきたよ!)
橘(……でも、ここでやめるわけにはいかないんだ!)
橘(そう!この先は……!)
橘「わかりました、それならば僕の膝の裏にキスして下さい!」キリッ
森島「わぉ!断られたらどうしようかと思っちゃったわ!」
森島「じゃあね?そ、その……」
橘「は、はい!膝の裏出さなきゃダメですよね!」カチャカチャ
森島「うん……ちょっと私も恥ずかしくなってきちゃった」
橘「う、上……見ないで下さいね?」
森島「わ、わかってる!」
森島(わ、ワイシャツの裾で隠れてるけど、橘君の下着が……)
森島(これがチラリズムなのね!)
橘(せ、先輩の前で制服のズボンを降ろすなんて……堪らないよ!)ハァハァ
森島「い、いくね?」
橘「は、はい!どうぞ?」
森島「……んっ」チュッ
森島「……んんっ」チュパチュパ
橘(こ、これは……!?)
橘(で、でも……!)
森島「……はぁ」チュッ
橘(先輩の舌の感触と吐息が膝の裏に当たって……)
橘(何だか物凄くいけないことをしてる気分だ!)
森島「……んっんっ」ペロペロ
橘(あ、あぅ……そ、そんなところ舐めちゃダメですよ!先輩!?)
森島(も、もうちょっと上まで……!上までしてもいいよね?)
森島「……あはぁ」ツーっ……
橘「いいっ!?ちょ、ちょっと先輩!?」
森島「わんわん!」
橘「ダ、ダメですよ!そこから先は通行止めで!」
森島「……本当に?」
橘「あ、交通規制が解除されたみたいですね」
森島「じゃ、じゃあ!」
バーンッ!
橘・森島「!?」
塚原「だから!何してんのよ!?あなた達は!?」
梅原「大将?大将はそうやって大人の階段登っていっちまうんだな!チクショイッ!」
橘「あ、あはは……」
森島「もう!変なタイミングで踏み込んでこないでよ!?」
森島「そ、そうそう!橘君?今のはどう思ったかな?」
橘「な、なんていうか……」
橘「……僕って救いようの無い変態なんだなって確信しました」
橘「な、何ですか!?『わんわん!』って!?」
橘「あ、頭おかしいんじゃないですかね!?僕って!」
梅原「……おいおい、今更か?」
森島「……私、その頭おかしいことをキミにされたんだけど」グスン
橘「す、すみませんでしたーッ!」ドゲザー
塚原「まぁ、はるかもノリノリでやってたし、橘君がなんで変態行為に及ぶのかわかったんじゃないかな?」
森島「そうなのよね!やってみると、意外とこれが楽しくなってきちゃって!」
森島「何だか変にドキドキするというか……し、仕方ないわよね!」
塚原「梅原君?私達がここにいても邪魔になるから帰るよ?」
梅原「は、はい!」
梅原「大将……お幸せにな?」
バタン
橘「えっ?ちょ、ちょっと?」
森島「……行っちゃったね、ひびき達」
橘「……どうします?」
森島「せ、せっかくだし!もうちょっとわんわんしてく?」
橘「あ、いいですね!それ!」
森島「じゃ、じゃあ!今度は橘君がわんちゃんの役ね?」
橘「わんわん!」
橘(なんてことだ……変態ライフ最高じゃないか!)
完
このまま大人の階段を登っていったか
アマガミは変態しかいないな!
Entry ⇒ 2012.05.02 | Category ⇒ アマガミSS | Comments (0) | Trackbacks (0)
森島「橘くーん?唐揚げにレモン絞っといたわよ?」
森島「うん?いけなかった?」
橘「せ、先輩!さすがですね!!」
橘「やっぱり唐揚げにはレモンですよ!」
森島「わぉ!よかったー、怒られちゃうかと思ってドキドキしちゃったわ!」
橘「僕……食事は『何を食べるか』ではなく『誰と食べるか』だと思うんですよ」
森島「え?どういうこと?」
橘「た、たとえ僕が唐揚げにレモンを許せない方の人だとしても……」
橘「先輩とのお食事であれば美味しくいただけちゃうってことです!」
森島「もうっ!またそういう恥ずかいことをサラッと言っちゃって!」
橘「あ、でも……ラーメンに唐揚げをいきなり投入するのはもう勘弁してくださいね?」
森島「あははっ、その節はごめんねー?」
ワイワイキャッキャッ
橘「あっ……七咲」
森島「あれ?逢ちゃんは唐揚げにレモン反対派だった?」
七咲「いえ、そういうわけではないのですが……」
七咲「嫌がる人がいる以上、確認をとってから絞るべきです!」
七咲「橘先輩は森島先輩相手だからって、甘い顔をしすぎなんじゃないですか!?」
橘「そ、そんなこと言われても……」
七咲「だ、第一!唐揚げにはレモンより、マヨネーズの方があいますから!」
森島「わぉ……高カロリー!高カロリーなのね!?」
七咲「はい。食べ過ぎると胸焼けしますけど」
橘「でも、そういうのばかり食べてるから七咲は太るんじゃ……」
七咲「う、運動してるからいいんです!それに女の子に太るだなんて失礼ですよ!?」
七咲「も、もう!この唐揚げにはマヨネーズをかけますからね!?」
橘「あっ」
橘「……ぼ、僕の唐揚げがなんだか大変なことに」
森島「わ、私も一個は貰おうと思ってたのに!」
橘「そ、そこじゃなくて……いやね、この唐揚げにはもうレモンが」
森島「レモンとマヨネーズならまだ大丈夫かな?」
七咲「マヨネーズは万能の調味料です!何も問題ありません!!」
絢辻「あらあら、これだから貧乏舌は……」
橘「あ、絢辻さん!?」
七咲「び、貧乏舌とは何ですか!?」
絢辻「……そんなにマヨネーズが好きなら、チューブから直で舐めてればいいのよ」
七咲「なっ!?」
ふぅ...
絢辻「言ってしまえば、先人の知恵よ知恵」
絢辻「それを無視して、唐揚げにマヨネーズをかける神経……どうかしてるわよ?」
絢辻「ま、あなたはせいぜい油に油をかけて、その貧相な身体を肥えさせるといいわ」
七咲「くっ……」
橘(あ、絢辻さん……自分のことを棚にあげて言いたい放題だなんて……)
橘「ち、ちなみに絢辻さんは唐揚げには何があうと思う?」
絢辻「あたしは……そうね、やっぱりさっぱりと食べたいからね」
絢辻「大根おろしとポン酢があうと思うわ」
絢辻「だから……この唐揚げにかけてくね?」
橘「えっ」
大根おろし+ポン酢最強説
橘「そ、そんな……何もここにかけなくても……」
七咲「な、なんてことをするんですか!?」
絢辻「じゃあ、あたしはやることあるから。またね?」スタスタスタ
橘「……どうしよう?この唐揚げ」
森島「た、食べる?食べちゃう?」
七咲「……私は遠慮します」
棚町「……ふふふっ、お悩みのようね?」
橘「か、薫!?」
棚町「ご飯を持ってきなさいよ、ご飯」
橘「ご、ご飯!?白米!?」
棚町「いいから!早く!!」
レモン汁+マヨネーズ+大根おろし+ポン酢
棚町「てんきゅ、純一!」
七咲「これでどうするんですか?」
森島「あ、わかった!ご飯をおかずに唐揚げを食べるのね!?」
棚町「い、いえ……そういうわけではないんですが」
棚町「え〜っと、この唐揚げをご飯ににのせて……」
棚町「このだし汁をかけると……」
七咲「あ、お茶漬けみたいですね」
棚町「そうそう、これが意外とさっぱりと唐揚げを食べられる方法でね!」
橘「薫?こんなこといいたくないけどさ」
棚町「あたしとアンタの仲でしょ?いいわよ、お礼なんて!」
橘「……バカか!?お前は!?」
橘「じょ、状況が悪化してるじゃないか!?お前は何をしに来たんだ!?」
棚町「あ、あたしはちょっと珍しい唐揚げの食べ方を伝授しに」
橘「……薫?」
棚町「……な、なによ?」
橘「一口食べていかないか?」
棚町「えっ、そんな悪いからいいって!」
橘「……薫?目を逸らさないで僕の目を見るんだ」
棚町「……あ!あたし、恵子待たせてるんだった!」
棚町「グッバイ!」タタタタ……
橘「お、おい!薫!?」
森島「う〜ん?唐揚げの魅力がみんなを狂わせたのかな?」
七咲「……どうするんですか?この特製お茶漬け」
橘「た、食べるしかないよね?」
森島「一つ一つは唐揚げの美味しい食べ方なのよね!だったら!」
七咲「……組み合わせって大事ですね」
橘「と、とにかく食べよう!」
橘「いただきます!」
森島「が、頑張って!」
七咲「先輩……頑張って下さい!」
橘「うぉぉぉぉぉぉぉ!」
・
・
橘「ご馳走様でした!」
森島「完食!完食なのね!?」
七咲「ふふっ、物凄い勢いで食べましたね」
橘「うん。見た目はアレだけど、食べてみたら意外と普通でさ」
橘「お腹も空いてたし、ついつい掻き込んじゃったよ!」
森島「へぇ?新発見ね!」
七咲「唐揚げは偉大ですね」
橘「まぁ、初めに『誰と食べるか』なんて偉そうなことを言った手前、引くわけにもいきませんし」
七咲「……先輩?先輩は誰と食べる唐揚げが一番美味しく感じるんですか?」
橘「えっ」
森島「あっ、それ気になるかも!!」
橘「せ、先輩!?」
Entry ⇒ 2012.05.01 | Category ⇒ アマガミSS | Comments (0) | Trackbacks (0)
橘純一「決めた!僕は紳士になる!」
http://hayabusa.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1335457040/
橘「……僕さ、このままではいけないと思うんだ」
梅原「お?急にどうしたんだ?」
橘「お宝本に目がなくて、女の子を見ればすぐに際どい妄想をして……」
橘「自分で言うのも何だけどさ、まさに女性の敵って感じだよね……」
橘「今年こそは、と息巻いてたけど……こんなダメな男に振り向いてくれる女の子なんているわけないよ……」
田中「うんうん、橘君なんて早く逮捕されちゃえばいいのにね!」
橘「だからさ……僕、ちゃんとしようと思って」
梅原「ほう?」
橘「ぼ、僕!紳士になろうと思う!!」
橘「煩悩まみれの生活とはサヨナラするんだ!」
梅原「……いや、無理だろ」
田中「あはは、頭大丈夫?」
橘「とりあえず、お宝本コレクションは処分するよ」
橘「……というか、実はもう処分してきたんだ」
梅原「な、何だって!?俺に一言も言わずにか!?」
橘「うん、ごめんね?」
橘「……今さ、焼却炉から煙が上がってるだろ?」
梅原「ま、まさか……?」
橘「うん、そのまさかなんだよ」
橘「今日、朝一番で登校して全部放り込んできた」
梅原「な!?も、勿体ねぇ!?」
橘「これは僕の決意表明なんだ!そう、退路は自分で絶った!」
田中「橘君のお宝本を燃やした煙を吸ってたかもなんて……頭がクラクラしてきた」
橘「うん、でもこれはまだまだ序の口さ!」
橘「まずね、生活態度を改めてようと思ってて」
橘「登校時間を少し早めにして、授業の予習でもしようかと思うんだ!」
橘「もちろん、放課後は図書室でその日の復習をするよ!」
橘「紳士たるもの、やっぱり皆のお手本にならなきゃいけないよね!」
梅原「何だか絢辻さんみたいだな」
田中「きゃ、キャラ被りはご法度だよ!?」
梅原「リアクション大きいもんな、大将」
田中「うん、最早リアクション芸の域だよね」
橘「だけど、いきなりそんな鋼の心臓を手に入れるのは無理だろ?」
橘「……だからさ」
橘「少なくとも、突発的な情事……そう!ラッキースケベに対しては平常心を保てるよう努めようと思うんだ!」
梅原「な、何だって!?それって……」
田中「か、考え直して!?ね!?」
橘「いや!最初に言ったけど、僕は煩悩とサヨナラするんだ!」
橘「色欲まみれのままじゃ紳士には……なれない!」
橘「僕は!紳士になるんだ!!」
生徒A「何だか……最近の橘君って凄いよね?」
生徒B「うんうん、前とは別人というか……格好良くなったよね!」
生徒C「え?私は前から格好いいと思ってたよ?」
ワイワイガヤガヤ
梅原「……本当に変わっちまうとはなぁ、大将」
田中「……うん、何だかね?」
絢辻「あら?喜ぶべきことじゃないの?」
絢辻「私の仕事も減ったし、クラスの雰囲気も前よりよくなったし」
梅原「いやさ、確かにそうなんだけどな?」
田中「毎日の生活に張りがないというか……」
棚町「最近のアイツ、つまんないのよ!」
絢辻「……あ、確かに面白味はなくなったわね」
田中「あー、さっき森島先輩に呼ばれて教室出て行ったよ?」
棚町「あらあら、早速紳士効果があったのかしらねぇ?」
絢辻「……何それ、面白くない」
梅原「ん?どうした?絢辻さん?」
絢辻「面白くない!はっ?何それ!?」
絢辻「……あたし、少し様子見てくる」
棚町「あ、ならアタシもご一緒しちゃおうかな?」
橘「森島先輩?お話というのは……?」
森島「うん、あのね?」
森島「……橘くんさ?私のこと嫌いになっちゃった?」
橘「……えっ?」
森島「だ、だって最近の橘君何かよそよそしいよ?」
森島「私がふざけても冷静に流しちゃうし……」
橘「そ、それはですね……」
森島「ねぇ!?私、何かした!?」
森島「謝るから!悪いことしちゃってたなら謝るから!」
橘「いえ、先輩に何かされたということはないのですが……」
森島「じゃあ何でなのよ!?」
橘「そ、それは……」
・
・
・
橘「えぇ、紳士になると決めたんです」
森島「うーん、紳士かぁ……橘くんらしい発想ではあるわね」
森島「でも、私は……前の橘くんの方が素敵だったと思うし、好きだよ?」
森島「あ!ねぇねぇ?紳士の橘くんとしてはさ?」
森島「えい!」ピラッ
森島「こ、こうして私が膝裏とか見せちゃったらどうするのかな?」
橘「え?いや……そのですね?」
森島「むむむっ……やっぱり反応小さいなぁ」
森島「……私決めた!」
橘「な、何をですか?」
森島「私が卒業するまでに、橘くんを前の橘くんに戻してやるわ!」
橘「えぇ!?」
橘「そ、そんな……僕、紳士になるために今日まで毎日頑張ってきたのに……」
森島「ふふふっ、私が全身全霊を持ってキミを前の可愛い子犬ちゃんに矯正しちゃうんだから!」
森島「覚悟なさい!?」
橘「か、覚悟!?僕、何をされるんですか!?」
絢辻「あ、森島先輩?あたしもそれ、協力します」ヌッ
棚町「アタシも協力しま〜す」ヌッ
橘「あ、絢辻さん!?薫!?」
絢辻「よく考えたら、あたしが勝ち取ってきたポジションを橘君風情に奪われるのは不愉快だし」
棚町「アンタねぇ、素直に前の純一の方がよかったことを認めなさいよ?」
森島「わぉ!三人寄ればなんとやらね!」
棚町「そうね、昼休みに食堂でご飯でも食べなから話し合いますか!」
森島「うんうん!そうしよ!そうしよ!」
絢辻「あ、橘君?紳士なあなたならまさかやらないとは思うけど」
絢辻「盗み聞きなんてしにきたら……埋めるわよ?」
橘「う、埋める!?どこに!?」
キーンコーンカーンコーン
絢辻「あ、チャイムなっちゃった」
棚町「ヤバッ!そういえば次の授業移動教室じゃん!?」
森島「わ、私は体育だったわ!」
絢辻「……急ぎましょう」タタタッ
棚町「えぇ、さすがにマズイわ」タタタッ
森島「じゃあね、橘くん!また後で!」タタタッ
橘「は、ははっ……僕どうなっちゃうの?」
橘(こうやって朝一番に登校するのも慣れればなんてことないよね)
橘(そういえば、結局昨日はあの後何もなかったなぁ……)
橘(いや、何もないに越したことはないんだけども)
橘(……僕、何かを期待しちゃってるのかな?)
橘(さて下駄箱に着いたことだし、上履きに履き替えますか)
ガチャッ
橘(……ん?何か入ってるな?)ゴソゴソ
橘(……よっと、何だろうこれ?)
橘「……こ、これは!?」
橘「僕が涙を流しながら焼却炉に放り込んだ、お宝本ランキング一位の『飛び出す温泉』じゃないか!?」
橘「な、何でここに……?」
橘(紳士はうろたえない!輝日東の紳士はうろたえないッ!)
橘(……そっか、これ森島先輩達の仕業か)
橘(まさかお宝本ランキング一位を下駄箱に忍ばせておくなんて……)
橘(……ってなんで僕のお宝本ランキングが把握されてるんだ!?)
橘(……)ゴクリ
橘(でも、どうしよう……このお宝本)
橘(ここに放置するわけにもいかないし……)
橘(よし、取り敢えず鞄に入れておこう)
橘(か、勘違いしないでよね!?べ、別にお持ち帰りして読んだりしないんだから!)
橘(うぅっ……鞄に入ってるお宝本のせいで、予習に全然集中できないよ)
橘(な、なんていうか……引き裂かれた自分の半身を見つけてしまったような……)
橘(い、今は教室にいるの僕だけだし……)
橘(気分転換に読んじゃおうかな?)
橘(……ってイカン、イカンなぁ!)
橘(煩悩は捨てたはず!僕は紳士なんだ!)
橘(こ、こんなお宝本……!)
橘(仕方ないな、梅原の机にでも入れておこう)
橘(こ、これは逃げなんかじゃないぞ!?)
橘(決して!『後で借りればいっか!』とかそういうことではございませんから!)
橘(よ、よし!そうと決まれば早速行動だ!)ゴソゴソ
絢辻「あら?今日も早いのね?感心感心」
橘「!?」
絢辻「おはよう、橘君」
絢辻「プレゼントは気に入ってもらえたかしら?」
橘「プ、プレゼント?」
絢辻「あら?下駄箱に入ってたでしょ?」
絢辻「お・た・か・ら・ぼ・ん」
橘「あ、絢辻さんが入れたの!?」
絢辻「えぇ、あたしが入れましたけど。それが何か?」
絢辻「あれ買うの、ものすっごく!恥ずかしかったんだから」
絢辻「気に入ってもらえると嬉しいな?」
橘「いやだなぁ、絢辻さん?僕は紳士を目指してるんだ」
橘「いくら絢辻さんが恥を忍んで買ってきたとはいえ、こんなもの受け取るわけには……」
橘「……って、絢辻さんが買ってきたの!?」
絢辻「えぇ、あたしが買いましたけど?」
絢辻「普通の書店じゃ置いてないみたいだから、少しいかがわしい本屋の暖簾もくぐり抜け……」
絢辻「やっと買えたのが、その『飛び出す温泉』よ?」
絢辻「……ちなみに制服で買いに行ったわ」
橘「制服で!?」
絢辻「本来18歳未満閲覧禁止の不適切な図書だけど、店員さんもさすがに苦笑いして売ってくれたわ」
絢辻「あの笑顔……あたしが穢されたようで屈辱だったけどね」
橘「な、なんてことだ……絢辻さんがそんな思いをしてまで……」
橘「そのシチュエーションをかんがえるだけで……僕、僕!」
橘「……って、その手には乗らないぞ!?」
絢辻「あら?十分面白い反応してくれたじゃない?」
絢辻「ふふっ、効いてる効いてる」
橘「よかった……お宝本を大事に抱えた女子高生はいなかったんだね?」
絢辻「えぇ、それは梅原君に借りたの」
橘「何だ……梅原も持ってたのか」
絢辻「あなたはあの時いなかったから知らないだろうけど」
絢辻「『う、梅原君!?私にお宝本を貸して欲しいの!!』って叫びを教室中に響かせてやったのよ?」
橘「ど、どっちにしろハードなことになってる!?」
絢辻「そんなあたしの痴態の上に成り立ってるお宝本を……受け取ってくれないんだ?」
橘「だ、だって……僕は……」
絢辻「そう……もっと恥ずかしいことをしろっていうのね?」
橘「えっ?」
絢辻「じゃあ、これも橘君にあげるわ」ゴソゴソ
橘「え〜と……これはお宝漫画?」
絢辻「さっきね、すぐそこのコンビニで買ってきたの」
橘「そ、そんな!?学校の近くのコンビニで!?朝ご飯を買うようなカジュアルな感覚でお宝漫画を!?」
絢辻「……店員さんのニヤついた笑いが凄く気持ち悪かった」
橘「……すっかりお宝女子高生じゃないか」
絢辻「……ねぇ?まだ足りない?足りないなら今からもう一冊買いに……」
橘「だ、ダメだよ!?そろそろ一般生徒の登校時間だ!」
橘「よ、よくないよ!」
絢辻「こんなのあなたにやられた、あの時の恥ずかしさに比べたら大したことないわ」
絢辻「……あたしね、以前のあなたを取り戻す為なら何でもしようって誓ったの」
絢辻「……だからっ」
橘「わかった!わかったよ!」
橘「とりあえず、このお宝本達は受け取るから!」
橘「それ以上いけない!」
絢辻「……仕方ないわね、今回はこれで引き下がってやるわ」
絢辻「……次、覚悟しておきなさい?」
橘(絢辻さん……あの目)
橘(こ、怖い!次は何をされるんだ!?)
橘(でも、僕は!紳士になるのを諦めないぞ!)
棚町「ねぇねぇ?純一?」
橘「うん?」
棚町「アタシ、ちょっとバイトのし過ぎか肩が凝っちゃってて」
橘「……お疲れ様です」
棚町「ちょっと!?アンタ紳士なんでしょ?こうなったら紳士的に判断して揉みなさいよ!?」
橘「……ここは紳士的に拒否をしたいんだけど」
棚町「あ、ありがとう!さすが紳士を目指してるだけあるわね!」
橘「話を聞いて?ね?」
棚町「ここじゃなんだし、二人っきりにらなれるところいこっか!」
橘「だから!僕の話を聞いてくれないか!?」
棚町「れっつごー!」
橘「……ごー!」
橘「……何でポンプ小屋?」
棚町「いや〜、はははっ。ここなら確実に二人っきりでしょ?」
橘「……うん、そうだね」
橘(ご丁寧に椅子まで準備しちゃって……確実にここで何かを仕掛けてくるな?)
橘(いいだろう!その挑戦、紳士的に受けてやる!)
棚町「……んしょっと」ゴソゴソ
橘「薫?何で髪を上げてるんだ?」
棚町「え?肩揉むのに邪魔にならない?」
橘「そういうものなのか?」
棚町「そういうものよ」
棚町「さ、揉んでちょうだい!」
棚町「んっ……あっ……気持ちいい〜!」
橘(このわざとらしいリアクション!)
橘(それに……髪を上げることでうなじまであざとく見せてきちゃって)
橘(『か、薫のうなじ……こ、これは!?』)
橘(……とでもいうと思ったか!?)
橘(残念だったな!薫?お前の企みなど、紳士の僕には明け透けて見えるよ!)
橘「お力加減はいかがですか?」
棚町「んっ……も、もっと強くして!」
橘「かしこまりました」モミモミ
棚町「あっ……いいっ!その力加減凄くいい!」
橘(ふふふっ、効かぬわ!薫よ、その程度か!?)
・
・
棚町「ふぅ、アンタのお陰でだいぶ楽になったわ」
棚町「……ねぇ?素敵な紳士さんにもう一つお願いがあるんだけど?」
橘「え?何?」
棚町「バイトって立ちっぱなしの動きっぱなしだから、足にも疲れが溜まってて」
棚町「だから足もマッサージしてくれない?」
橘「……確かに。薫の職場じゃ足にも疲れが溜まっちゃうよね」
橘「うん。この際だし、ついでに足もマッサージするか」
橘「……って足!?」
棚町「んふふっ、お願いね?」
橘「で、でも……」
棚町「何?スカートが気になるって?」
棚町「あははっ!あんた紳士なんでしょ?紳士はスカートの中を覗いたりしないはずじゃない?」
棚町「だから何も問題ないし……ほら!さっさとやりなさい?」
橘(くっ……こっちが本命だったんだな!?)
橘(さっきのわざとらしい演技は、僕を油断させる為に……意外な伏兵がいたもんだ!)
橘「薫の言う通りだ、紳士は覗きなんてしない!」
棚町「じゃ、足の裏から頼むわね?」
橘「わかったから、足だせよ!」
棚町「は〜い!」
棚町「気持ちいいよぉ……純一ぃ……」
橘(わ、悪ノリが過ぎるんじゃないか!?)
橘(それに……スカートを意識しなくても……)
橘(視界にパステルピンクが!桃色の布地がチラチラと!)
橘(……だ、ダメだ!こんなことで負けるわけにはいかない!)
橘(平・常・心!平・常・心!)
橘(煩悩は……ここから出ていけ〜!)
棚町「ね、ねぇ?次はふくらはぎを……」
橘「ふ、ふくら!?……わかった、任せてよ」
棚町「お願い……ね?あ、あん!」
橘(うぅっ……長期戦になりそうだ……)
・
・
橘「さ、さぁ!他に揉んで欲しいところはないのか!?」
棚町「ん……もうないわね」
棚町「すっごく気持ちよかったよ?純一?てんきゅ!」
橘(や、やっと終わった……)
棚町「ま、『今日の所は』だけどね」
橘「つ、次もあるの?」
棚町「は?当たり前でしょ?バイトはほぼ毎日あんのよ?」
棚町「ん〜、今日は身体も軽くなったし、思いっきり働けそうね!」
橘(必要以上に思いっきり働いて疲れを溜めてくるんだな?そうなんだな!?)
棚町「あ、昼休みも終わっちゃうし戻ろっか」
橘「そうだな、そろそろ戻ろう」
橘(ふぅ、今日の授業も終わりか)
梅原「大将?今日も図書室で勉強していくのか?」
田中「紳士の嗜みしてくの?」
橘「うん、日課になってるし」
橘「それに何だか最近勉強するのが楽しいんだよね」
田中「えぇぇぇ!?どうしよう!?今日は傘持ってきてないよ!?」
梅原「か〜っ!やっぱり変わっちまったんだな!」
梅原「じゃあな、橘!勉強頑張ってな!」
田中「えへへ、今度色々教えてね?」
橘「うん。じゃあ、また明日」
森島「橘く〜ん!」パタパタパタ
橘「あ、森島先輩。どうしたんですか?」
森島「ねぇねぇ?今から時間あるかな?」
森島「ちょっと買い物に付き合って欲しいんだけど」
橘「え、え〜と……」
橘(図書室で勉強するつもりだったんだけど……)
橘(森島先輩……僕が急に変わろうとしたせいで傷ついちゃったみたいだし……)
橘(あの時の森島先輩……泣きそうな顔をしてたな……)
橘(女性を泣かせるなんて、それこそ紳士失格だよね?)
橘(でも、勉強もしたいし……)
橘(よ、よし!こうなったら!)
森島「えぇ!?……マジメ君なんだから!」
森島「せっかく、今日はひびきの勉強会お休みだから誘いに来たのに……」
森島「フンだ!橘くんなんて、もう知らない!」
橘「待って下さい!ぼ、僕に一時間……いえ、30分でいいんで時間を頂けますか?」
森島「え?時間を?」
橘「はい!その時間で復習して、それが終わったらお買い物にご一緒しますので!」
橘「……ダメですか?」
森島「も、もう!仕方ないなぁ!」
森島「わかったわ、一時間だけ待ってあげる」
森島「でも、それ以上は一秒も待ってあげないんだから!」
橘「は、はい!ありがとうございます!」
・
・
橘「……先輩?お待たせしました」
森島「ん……?あ、もう一時間経ってたんだ?」
橘「はい、約束通りちょうど一時間です」
森島「ふわぁ〜、私寝ちゃってたのね?」
橘「大丈夫ですか?お疲れみたいでしたが……」
森島「うん、平気。それに橘くんと買い物に一緒に行けると思うと元気が湧いてくるわ!」
橘「ははっ、それは光栄です」
森島「じゃ、行きましょっか!」
橘「あ、そういえばどこへ買い物をしに?」
森島「ふふ、着いてからのお楽しみよ!」
・
・
橘(僕は!完全に油断していたッ!)
橘(そうだよ!そもそも紳士をやめさせるって、森島先輩が言い始めたことじゃないか!)
橘(なのに、ホイホイと着いてきちゃって……)
橘(よく考えれば、森島先輩とお買い物……この組み合わせから出てくるのは一ヶ所しかないだろ!?)
森島「わぉ!ねぇねぇ?この下着可愛くない!?」
橘「……ははっ、そうですね」
森島「もう!紳士なんだったら、このくらいでうろたえないでよ!?」
森島「それとも?橘くんは紳士廃業かな?」
橘「な!?僕は紳士です!廃業した覚えなどありません!」
森島「このブラとこっちのブラ、どっちが私に似合うかな?」
橘(なんてことだ……ラブリーなの?セクシーなの?どっちが好きなの?だなんて……)
橘(……って、何番煎じかわからない、くだらないことを考えてる場合じゃない!)
橘(ここは紳士的に……そう、あくまで紳士的に客観性を踏まえて選択しなくては!)
橘「え、えーっと、そっちの大人っぽい黒いのも素敵なんですが……やはり先輩にはこっちのちょっと可愛らしいヤツの方が」
森島「うんうん!私もそう思ってたところよ」
森島「よし!これ試着してくるね?」
橘「は、はい」
森島「……あれ?橘くんは下着売り場で一人になっても平気なのかな?」
橘「そ、それは……辛いですね」
森島「でしょ?でも、一緒にくれば解決よ!」
橘「な、なるほど!」
橘「……って、えっ?」
橘(そんな『森島はるかプレゼンツ!わぉ!ドキドキ生着替え!でもここから先は通行止めなの!このっ!このっ!』なんてあるわけないじゃないか……)
橘(……うん?何で僕は残念がってるんだ?)
橘(イカン、イカン!気を引き締めなくては!)
森島「橘くーん?ちゃんとそこにいる?」
橘「は、はい!ここにいますよ!」
森島「あのさ?ちょっと見て貰えるかな?」
橘「み、見るって……」
森島「うん?実際に身につけたところを見て欲しいんだけど?」
橘「……えぇ!?」
森島「え?それは恥ずかしいけど……」
森島「橘くんさ?紳士なんでしょ?下心満載のいやらしい目で見たりしないんでしょ?」
森島「……だったら、別にいいかなって」
橘「で、でも!さすがに……」
森島「もう!紳士を目指すなら女の子に恥をかかせないの!」
橘(た、確かに!一理ある!)
橘(そ、そうだよ!別に僕はいやらしい気持ちで先輩の下着姿を見るわけじゃない!)
橘(ただ紳士的に似合ってるかどうか教えてあげるだけだ!)
橘(そこには何の問題ないよ!むしろ問題があると思う方が汚れた考えなんだ!)
橘(……なら、迷うことなんてない!)
橘「せ、先輩……見せていただけますか?」
森島「……うん。私を見て?」
橘「で、ではカーテンの隙間から……」
橘(こ、これは!)
橘(やっぱり森島先輩はスタイルが……違う!そこじゃなくて!)
橘(紳士的に!あくまで紳士的に見ろ!橘純一!)
森島「ねぇ?黙ってないでさ……何か言ってよ?」
橘「……いいと思います。先輩の魅力をよく引き立てているというか」
橘「すごく……綺麗です」
森島「……うん、そう言って貰えると嬉しいな」
森島「じゃあ……これ脱いで制服着るから」ゴソゴソ
橘「は、はい!失礼しました!」
橘(し、紳士的に振る舞えたよな!?大丈夫だよな!?)
・
・
森島「んー!橘くんのお陰でいい買い物ができたわ!」
森島「早速明日つけて学校に行かなくちゃ!」
橘「はははっ、お役に立てたようでよかったです」
森島「……でも、橘くんの心にはズッガーンとこなかったかな?」
橘「ズッガーン、ですか?」
森島「うん。ショック療法で戻そうと思ってたんだけど」
森島「もうちょっと別の方法を考えなきゃいけないみたいね」
森島「よーっし!お姉さん頑張っちゃうぞ!」
橘(えっ?絢辻さんといい、薫といい……)
橘(まだ続くの?こんなことが?)
橘(……いや、これは紳士になる為の試練に違いない!)
橘(この際だ!僕の中の悪いものを出し切ってしまおう!)
橘「………おはよう、梅原」
梅原「おう、今日も朝からお勉強とは学生の鑑だねぇ!」
梅原「……って、おい。何か日に日にやつれ過ぎじゃないか?」
橘「ふふふっ……朝は絢辻さんが、昼は薫が、放課後は森島先輩が、毎日毎日僕の中のよくないものを刺激してくるんだよね……」
梅原「う、噂には聞いてたけどよ?相当過酷みたいだな?」
橘「う、うん……」
梅原「……なぁ?無理すんなって」
橘「む、無理なんかしてない……よ?」
梅原「いやいや、そんなにやつれた顔で言われても説得力ないぜ?」
橘「梅原……」
梅原「『紳士たるもの模範的であれ!』とはいうけどよ、少しは休むことも大事だぜ?」
橘「で、でも……僕は……」
田中「そうだよ!橘君は少し休んだ方がいいよ!」
橘「田中さん……いたの?」
田中「そんな頑張り方してたら、紳士になる前に死んじゃうよ?」
橘(べ、別にみんなが僕に変なちょっかいを出さなければいいだけなんじゃ?)
梅原「というかな、大将?こんな考え方もあるぜ?」
梅原「煩悩を捨て去るってのは、ストイックで格好いいんだけどよ?」
梅原「橘の周りにいる女の子にしてみれば、『お前に魅力などない!』って言われてるのと同じなんじゃないか?」
橘「そ、それは……」
梅原「……紳士ってのはよ、自己満足の為に女の子に失礼なことをするのか?」
橘「!?」
梅原「いつも斜め上だったお前ともう一度遊びてぇなって、我儘を言ってるだけなんだけどな、俺は」
橘「梅原っ……僕っ、僕!」
梅原「どうした?」
橘「自分の中の出来すぎた紳士像に囚われて、大事なことを忘れてた気がするよ……」
橘「そうだよ!僕はみんなともっと仲良くなる為に『ちゃんとしなきゃ』と思ったわけで……」
橘「みんなと距離を作る為に紳士を志したんじゃない!」
橘「……というわけで、梅原?」
橘「今日は休む!紳士休業だ!」
梅原「おう!……と、くれば?」
橘・梅原「お宝本しかないだろ!」
田中「えぇぇぇ!?き、切り替え早過ぎるよ!?」
梅原「おいおい!全部大将の好みど真ん中じゃねぇか!」
梅原「絢辻さん……さすがだぜ!」
橘「よし!このお宝本達で新しいランキングをだな……」
梅原「早速かよ!?どれだけ溜まってたんだ!?」
橘「ふふっふー、慣れないことはするもんじゃないよね!」
梅原「まったく調子がいいヤツだな!」
橘・梅原「ハーッハッハッハー!」
田中「うわぁ……極端すぎるてびっくり」
田中「でも、橘君の目が久しぶりに生き生きとしてる気がするよ」
田中「うん!よかった、よかった!」
橘「こ、これはね?絢辻さんが僕にくれたお宝本達が魅力的過ぎて我慢できなくてさ!」
絢辻「や、やめて!声が大きいって!」
ザワザワ……
絢辻「ちょ、ちょっと来なさい!話があるわ!」ガシッ
橘「ちょ、絢辻さん!?」
絢辻「行くわよ!?」ズルズル
橘「ひ、引っ張らないで!?」
橘「梅原!?黙って見てないで助け……うわぁぁぁぁぁ!!」
梅原「……絢辻さん、生き生きとしてんな」
田中「あははー、丸く収まった感じだね!」
・
・
橘「……というわけで、私橘純一はオンとオフを使い分けられる大人の紳士を目指そうかと思いまして」
絢辻「……どうせオフの時の方が多いんでしょ?」
棚町「えぇ、間違いないわね」
森島「わぉ!あの橘くんが帰ってきたのね!?」
橘「それでね、みんなには迷惑をかけちゃったからね。紳士として、何か埋め合わせをしたいんだけど……」
絢辻「ふふふっ、あたしなんてお宝ハンターの二つ名を得てしまったんだから……覚悟しなさいよね?」
棚町「そ、そんな!うちのファミレスに一ヶ月通うなんてしなくていいのに!純一ったら!」
森島「えー?じゃあ、私はね!」
橘「……紳士ってやっぱり大変なんだな」
完
乙
梨穂子の出番…(´;ω;`)ウッ…
Entry ⇒ 2012.04.28 | Category ⇒ アマガミSS | Comments (0) | Trackbacks (0)
橘純一「クリスマスは田中さんと過ごしてみよう!」
http://hayabusa.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1335271612/
田中「うん?」
橘「田中さんってクリスマスに予定あるかな?」
田中「あはは、それ聞いちゃうの?」
棚町「も、もし何も予定がなかったら……僕とデートしてくれないか!?」
梅原「えぇぇぇ!?わ、私でいいの!?」
棚町「も、勿論だよ!僕は田中さんじゃなきゃダメなんだ!!」
梅原「う、嬉しい!橘君が誘ってくれるなんて嘘みたい!」
橘・田中「…………」
橘「……ないな」
田中「えぇ!?ないの!?」
橘「あ、ありだったの!?」
田中「う、うん」
棚町「何よ?焦れったいから、あたしがあんたの気持ちを代弁してあげたんじゃない?」
梅原「ちなみに俺は田中さんの気持ちを代弁したぜ?」
橘「……話が進まないから、バカ二人は放っておこうか」
田中「そ、そうだね!」
棚町「ば、バカとは何よ!?」
梅原「そうだぜ!?名演技だったろ!?」
橘「あー、それでね?田中さん?」
橘「もしクリスマスに予定がなかったら、僕と創設祭を一緒に回って欲しいんだ」
田中「えぇぇぇぇ!?」
棚町「結局デートのお申し込みなんじゃないのよ!?」
梅原「お、おい!俺たちの見てる前でそんな大胆な!?」
橘「うん。むしろ田中さんしか考えられないよ!」
田中「……橘君」
橘「……田中さん」
棚町「おーおー、見せつけてくれるじゃない?」
梅原「そんな……なんで大将ばっかり!」
橘「田中さん……返事を聞かせて貰えるかな?」
田中「も、もちろん!OKだよ!」
橘「よかった!……これで絢辻さんに怒られずにすみそうだよ!」
田中「えっ?」
橘「本当は僕と絢辻さんで各部活の出店とか展示物を取材する予定だったんだけど」
橘「当日のタイムスケジュールが思ったよりも混み入っちゃって、絢辻さんが手を離せなくなっちゃってさ」
橘「そこで、急遽白羽の矢がたったのが……」
田中「私ってわけなんだね?」
橘「うん」
棚町「なんだ、つまんないの!」
梅原「俺……一人置いていかれたかと思ったぜ?」
田中「あはは、何だ。びっくりしちゃったよ!」
棚町「そういえば、何で恵子なの?」
梅原「そう言われてみれば……なぁ?何でなんだ?」
橘「そ、それは……」
棚町「そりゃそうよ」
梅原「おう、間違いないな」
橘「……うん。だから、薫とか梅原と回ればいいかって思ってたんだけど」
橘「僕一人より収集つかなくなるからダメって言われちゃってさ」
棚町「ちょっと!失礼ね!!」
梅原「おいおい!絢辻さん!?そりゃねーぜ!?」
橘「そこで……こうなったら田中さんしかないな、と絢辻さんが結論を出してさ」
田中「私って意外と絢辻さんに信頼されてたんだね!」
棚町「ぐぬぬぬ」
梅原「こういっちゃ悪いけどよ?そこで田中さんになる意味がわからないぜ?」
田中「えぇぇぇ!?わからないの!?」
棚町「悪いけど、あたしもわからないわ」
田中「か、薫!?」
田中「うんうん!橘君?この二人に私の凄さを教えちゃってよ!」
橘「……絢辻さんがいうにはね、『田中さんは特に問題ないから』だってさ」
田中「えっ」
棚町「そうね……さすが絢辻さん。その通りだわ」
梅原「……普通の代名詞だもんな、田中さん」
田中「ちょ、ちょっと!?」
田中「た、橘君!?絢辻さんには言い返したんだよね!?私の魅力を伝えてくれたよね!?」
橘「も、もちろんだよ!僕は必死に田中さんの魅力を語ったさ!」
田中「で!?それで絢辻さんは何て!?」
橘「『そ、そんなに田中さんが好きなら、田中さんと行動するのに何も問題ないでしょ!?この馬鹿っ!!』って何故か怒り出しちゃってさ……困ったものだよね!」
棚町(うわぁ……)
梅原(さ、さすがだぜ……大将)
田中「そ、そっか!何かごめんね?」
橘「遠くにいるやたらセクシーな女の子より、近くで微笑んでくれる素朴な女の子!!」
田中「えっ」
橘「そう!田中さんの魅力は!僕が手が届きそうな気がする、絶妙なラインに立っている普通さ!」
橘「これは最近のアイドルには欠かせないものでね!」
(省略)
橘「……それでいて、占いの的中率がほぼ100%という無駄なキャラ立ち!このギャップ!これが可愛くないわけがない!!」
橘「以上が田中さんの魅力さ!!」
橘「ふぅ……熱弁したら汗をかいちゃったよ!」
田中「た、橘君の……っ!」
橘「うん?」
田中「橘君のバカ!変態!!」ダッタタタタ……
橘「た、田中さん!?」
棚町「いいから、謝ってきなさい!!このド変態ッ!!」
梅原「……今のはお前が悪いよ、うん」
コンコンコン
橘「田中さん?準備はいい?」
田中「う、うん……準備は出来たんだけど」
田中「ほ、本当にこの格好で取材するの?」
橘「腕章つけてるよりも分かりやすいし、客寄せにもなるだろうからいいだろうって絢辻さんの提案だったんだけど……」
橘「やっぱり恥ずかしい?その、ミニスカサンタって?」
田中「は、恥ずかしいよ!」
田中「うぅ……やっぱり制服でやらない?」
橘「ダ、ダメだ!そんなのダメ!!」
田中「えぇぇぇぇ!?」
橘「たとえ絢辻さんが許可しても、僕が許さないぞ!!」
田中「な、なんでそんなに必死なの……?」
ヒロイン達にモテまくる状況より
ウメハラみたいな良いやつが親友ってのが見てて辛い 羨ましい
本当にそれは思う梅原いいやつすぎる
橘「田中さんは自分の魅力に気付いてないにもほどがあるよ!」
田中「そ、そんなこといわれても」
橘「田中さんの魅力!その1!!田中さんは!!!」
田中「わ、わかった!ミ、ミニスカサンタで取材に行くから!!大きな声で私の魅力を説くのはやめて!?」
田中「……そっちの方が恥ずかしくて死にそうだから」
橘「田中さん……ありがとう」
田中「うぅ……すっかり橘君のペースだよ」
田中「ど、どうかな?」
橘(こ、これは……!)
橘「田中さん……仕事とはいえ、創設祭を田中さんと回れることの喜びに僕の身体は打ち震えてるよ……」
田中「そ、そんな」
橘「今年のミスサンタは田中さんで決まりだ!!」
田中「橘君!?さすがに大袈裟だよ!?」
田中「でも……ありがとう」
橘「さ、田中さん!回るところは沢山あるから、ドンドン行こう!」
田中「う、うん!張り切っていこう!!」
橘「今、少しお時間よろしいですか?私達、創設祭実行委員の者で……」
七咲「あ、橘先輩」
橘「何だ、七咲か。屋台の方はどう?」
七咲「お陰様で今年も大入りですよ」
七咲「……そんなことより」
七咲「やっぱり、変態ですね。先輩は」
橘「な、何で僕いきなり変態呼ばわりされてるの?」
七咲「そんな女の子にコスプレさせて創設祭を連れ回すなんて……信じられません!」
橘「ち、違うんだよ!?これにはワケがあってね!?」
田中「た、確かに橘君は変態だけど!これは!」
七咲「……ふふっ、二人とも焦り過ぎですよ?」
七咲「で、創設祭実行委員のお仕事中なんですよね?」
橘「あ、そうそう!実は取材をしてて……」
橘「ありがとう、七咲!これでいい記事を書けそうだよ!」
田中「あ、ありがとうございました!」
七咲「ふふっ、ちゃんと真面目で面白い記事を書いて下さいね?」
七咲「……そういえば。そちらのミニスカサンタの方のお名前をうかがってませんだしたよね?」
田中「ご、ごめんなさい!私は田中恵子!田中恵子です!!」
橘「田中さんは僕のクラスメイトで、今日は急遽取材を手伝ってもらってるんだ」
七咲「田中先輩……ですね」
七咲「あ、私は水泳部一年の七咲逢といいます」
田中「よ、よろしく!七咲さん」
七咲「田中先輩?もしこの変態に何かされそうになったら、すぐに助けを呼んで下さいね?駆け付けますから」
橘「な、七咲!?」
田中「あはは!実はもう何かされたあとだったりして」
七咲「!?」
橘「ははは……田中さん?そういう冗談はよした方が」
田中「えっ?ものすっごく恥ずかしかったんだよ?なのに橘君が無理矢理……」
七咲「ど、どれだけ手が早いんですか!?この変態!!」
七咲「……まぁ、二人の仲についてとやかく言うつもりはありませんけど」
橘「ふ、二人の仲!?」
七咲「クリスマスに二人仲良く取材して回ってるってことは、そういうことなんじゃないんですか?」
田中「えぇぇぇ!?」
田中「わ、私と橘君は本当にただのクラスメイトで……」
橘「そ、そうだよ!僕と田中さんはそういう関係じゃないよ!?」
七咲「……なのに恥ずかしいことを強要したわけですね?」
田中「な、七咲さん!冗談!さっきの冗談だから!!」
橘「そ、そんな……」
七咲「田中先輩、どうぞ」スッ
田中「えっ、これ……いいの?」
七咲「はい、配布用に多めに作ったおでんなので」
田中「あ、ありがとう!」
橘「七咲?僕のおでんは?」
七咲「ありませんよ?」
橘「な、何で!?」
七咲「ですから、お仕置きです」
橘「そ、そんな……」
七咲「そ、そんな顔してもダメなものはダメです!」
七咲「あ……また混み始めてきたんで、そろそろいいですか?」
橘「あ、うん。じゃあ、僕らはこの辺で失礼するよ」
田中「おでんありがとうね!七咲さん!」
・
・
橘「ふぅ、大分取材したね!」
田中「茶道部の甘酒で酔っ払った高橋先生に絡まれた時はどうしようかと思っちゃったよ」
橘「でも、お陰で面白いネタが色々と仕入れられたよね」
田中「えぇぇぇ!?高橋先生の恋愛観なんて記事にしたら、大変なことになっちゃうよ!?」
橘「ははっ、さすがに僕も怖くてそんなことは出来ないかな」
田中「うんうん!だよね~!」
アナウンス「只今よりミスサンタコンテストを……」
橘「あ、忘れてた!ミスサンタコンテストも取材しなきゃいけないんだったよ!」
田中「い、急がなきゃ!」
橘「うん!行こう!」
・
・
司会「エントリーナンバー五番!やはり今年も優勝してしまうのか!?森島はるかさんです!」
森島「わぉ!私の出番ね!」
森島「みんな~!今年もよろしく~!」チュッ
会場「うぉぉぉぉぉぉ!!」
橘「さすがだなぁ、森島先輩」
田中「うんうん。これは今年も優勝間違いなしだね!」
田中「私なんかとは格が違うよ」
橘「え?」
田中「だから、森島先輩は私なんかとは格が違うって」
橘(こ、これは!チャンスだ!)
橘(そう!全校生徒に田中さんの魅力を伝えるチャンス!!)
橘(僕は田中さんの魅力をもっと沢山の人に知ってもらいたいんだ!)
橘(……こ、こうなったら!)
橘「ちょ、ちょっと待った!!」
橘「まだここに!ミスサンタ候補がいるじゃないか!!」
田中「え?どこどこ?」
橘「田中さんのことだよ!」
田中「わ、私!?私のことなの!?」
司会「で、ですが……時間の問題がありまして」
生徒A「別にいいんじゃねーの?」
生徒B「カタいこというなよ、実行委員!」
生徒C「そうだ!そうだ!」
司会(実行委員長?ど、どうしますか?)
絢辻(いいんじゃない?面白そうだし)
司会「で、では!ステージまでどうぞ!!」
橘「お、落ち着くんだ!田中さん!!」
橘「僕が熱弁した通り、田中さんは魅力に溢れている可愛い女の子だ!自信を持って!!」
田中「そ、そんなこと言われても!」
司会「あの~、そろそろよろしいですか?」
田中「あわわわわわっ……」
橘「こ、こうなったら!僕がステージ上で田中さんの魅力について演説を!」
田中「や、やめて!それだけはやめて!!」恥ずかしくて死んじゃう!!!」
田中「……あれ?」
田中「それに比べるとステージに立つなんてそんなに恥ずかしいことじゃない?」
田中「……私、行ける気がする!!」
田中「は、はい!!」ツカツカツカ
田中「わ、私!二年生の田中恵子!田中恵子です!!」
田中「と、特技は占いで……そう!必ず当たると評判なんです!!」
田中「私……普段は地味なんで!こ、こんなステージに立つことなんてないと思ってましたが、とある変態さんのせいでこんなことになってしまいました!」
田中「で、でも……その変態さんには少し感謝してて……」
田中「あ、私は変態じゃないですから!」
田中「そ、その……こ、こんな私ですけど!よろしくお願いします!!」
田中「え、え~っと……」
田中「えいっ!」チュッ
田中「……い、以上です!」
・
・
森島「ちょっと!橘くん!?こんなにカワイイ子がいるなんて聞いてなかったわよ!?」
橘「も、森島先輩!」
田中「森島先輩!優勝おめでとうございます!」
森島「ねぇねぇ?この子お持ち帰りしてもいい?」
田中「えぇぇぇ!?」
橘「だ、ダメです!」
森島「えぇ~、優勝賞品的な?ダメかな?」
橘「ですから、ダメです!」
森島「むむむ!そこまでして渡したくないとは……二人はデキてるのね!?」
橘「ち、違います!田中さんと僕はまだ創設祭の仕事があるんです!!」
田中「あ、森島先輩!ミスサンタ優勝者に取材なんですけど……」
・
・
田中「ふぅ、やっとお仕事終わったね」
橘「絢辻さんめ……取材だけって聞いてたのに、まさか撤収作業まで手伝わせるとは……」
田中「ヘトヘトだよ~」
橘「あ、田中さん」
田中「ん?」
橘「その……ミスサンタコンテストさ」
橘「準優勝おめでとう!」
田中「うん、ありがとう」
橘「もうちょっと票が伸びると思ったんだけどなぁ」
田中「ううん、森島先輩相手にあそこまで迫れただけで私は満足だよ」
田中「……ごめん、やっぱり悔しいかも。あははっ」
橘「来年!来年も出れば、きっと優勝だよ!」
田中「うん!私、来年こそは優勝するよ!」
田中「……ありがとう」
橘「え?何が?」
田中「強引だったけど、ミスサンタコンテストに出場させてくれて」
田中「私……今まで自信が持てなくて、やりたくても踏ん切りがつかないことが沢山あったんだけど」
田中「橘君のお陰……ううん、橘君のせいで、私吹っ切れちゃった!」
田中「だから、ありがとう!」
橘「う、うん」
田中「ねぇ?橘君?何であんなことしたの?」
橘「そ、それは……」
橘「ぼ、僕の好きな田中さんの魅力をより多くの人に知って貰いたくて……」
田中「……って、えぇぇぇぇぇぇぇ!?」
田中「た、橘君?それって……?」
橘「僕は田中さんが好きだ!大好きだ!!」
田中「!?」
橘「……うん、僕もやっと吹っ切ることが出来た気がするよ」
田中「うぅ……橘君と一緒にいると恥ずかしいことばっかりで心臓がドキドキ言いっぱなしだよ」
田中「だけど、今ドキドキしてるのは恥ずかしいのだけじゃなくて……」
田中「橘君……私も橘君のことが……」ギュッ
橘「田中さん……」
梅原「うぉーい!大将!!ここにいたか!!……ってあれ?」
棚町「……おほほ!お邪魔だったかしらね!?」
田中「み、見られてた!?」
田中「~~~~~~~~ッ!!」
フラッ……
橘「た、田中さん!?」
梅原「お、おい……田中さん気絶してないか!?」
棚町「け、恵子!?……きゅ、救急車!117に電話!」
橘「落ち着け!薫!それは時報だ!!」
梅原「と、とりあえず!橘!運ぶぞ!!」
橘「う、うん!!」
棚町「ごめん、恵子……悪気はなかったのよ?」
田中「でねでね!橘君が!!」
梅原「もう無理!聞いてるこっちが恥ずかしい!!」
棚町「恵子……もうお腹一杯なんだけど?」
田中「えぇぇぇ?まだ半分もきてないよ?」
梅原「なぁ?田中さん?気付いてると思うけど、一番悶絶してるのは……」
橘「恥ずかしいよぉ……やめてよぉ……」プルプル
田中「まだまだ!ここからだよ!?」
田中「続きまして!橘純一の魅力!その16!!」
橘「も、もうやめて!僕の魅力は十分に伝わったはず!!」
田中「えぇぇぇ?ダメだよ?もっとみんなに橘君の魅力を知ってもらわなきゃ!!」
完
次は七咲で書かんかい
Entry ⇒ 2012.04.26 | Category ⇒ アマガミSS | Comments (0) | Trackbacks (0)
絢辻「橘君が一人暮らしか……仕方ないわね」
http://hayabusa.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1331988591/
【まちぼうけ】
絢辻「橘君が一人暮らしをしはじめて、もう大分たつのね」
絢辻「……」
絢辻「にしても、帰ってこないわね」
絢辻「まったくどこにいったのかしら……」
絢辻「……それは急に来た私もどうかと思うけど」
絢辻「……合鍵もらったってことはいつでもきてもいいってことでしょ」
絢辻「……」
絢辻「……遅いわね」
【妻】
橘「ただいまー、ってあれ」
絢辻「おかえりなさい」
橘「あ、絢辻さん来てたんだ」
絢辻「なによ……なにか問題あったの?」
橘「ううん、驚いただけ」
絢辻「ふーん」
橘「あ、部屋もしかして」
絢辻「しかたがないからテーブルの上とかは片付けておいたわよ」
橘「ありがとう絢辻さん」
絢辻「普段からしっかり片付けなさい、まったく……」
橘「あはは、なんだか……」
絢辻「なによ?」
橘「通い妻みたいだね」
絢辻「……ばか」ボソッ
【センサー】
橘「……」
絢辻「どうかした」
橘「いや、いつもどおりだなぁと思って」
絢辻「?」
橘「(毎度のごとく、部屋の隅にはまとめて括られた雑誌類……)」
橘「(……なんで隠し場所わかるんだろうなぁ……)」
【増える】
橘「うーん」
絢辻「どうしたの?」
橘「いや、この部屋も絢辻さんの物が増えたなぁ、と思って」
絢辻「なっ」
橘「うん、なんか感慨深い」
絢辻「き、気のせいなんじゃないの?」
橘「(本棚とか見ても、絢辻さんの本が置いてあったりするし、気のせいじゃないと思うんだけどなぁ)」
【満足感】
絢辻「正直、あなたが一人暮らししたらもうちょっと堕落すると思ってたんだけどね」
橘「あぁ……絢辻さんがいなかったらそうなってたかもね」
絢辻「そう……まぁ、そういうのってあんまり好きじゃないから良かったわ」
橘「だよねー」
絢辻「でも……」
橘「?」
絢辻「なにか物足りない感もあるのよねぇ」
橘「……僕にどうしろと!?」
【残念】
絢辻「冗談よ、冗談」
橘「でも、背中に寒いものが走ったよ」
絢辻「なによ、いじめてほしいの?」
橘「いいえ、結構です」
絢辻「そう、残念」
橘「今、心の底から残念そうな顔したよね」
絢辻「……そうかしら?」
橘「(……絢辻さんに勝てる気がしない)」
ピンポーン
ガチャ
絢辻「お邪魔します、っと。あら、今日はいるのね」
橘「わざわざインターホンおさなくてもいいのに」
絢辻「いいのよ、こういうのってケジメが大事なのよ」
橘「そういうもの?」
絢辻「そういうものよ」
絢辻「じゃあただいま、っていえるようになってから、そうするようにしましょうか」
橘「今からいってもいいのに」
絢辻「え?」
橘「うん?」
絢辻「……」
絢辻「……た、ただいま」
橘「おかえりなさい、絢辻さん」
絢辻「やっぱり本当の意味での「ただいま」は将来までとっておくわ」
橘「将来、か」
絢辻「ふふ、責任重大ね」
橘「これは笑い事じゃないね」
絢辻「ふふ」
絢辻「あら、今日はいないのね……」
絢辻「……」
……
絢辻「……うーん、なんかこうやって待ってるだけっていうのも時間の浪費というか……」
絢辻「……」
絢辻「でもなんとなく悪くないと思うのは……」
絢辻「(あの人が帰ってくる安心感があるからかしら)」
絢辻「ま。こんなこと絶対に本人には言ってあげないけど」
【うたたね】
絢辻「……うん? あ、れ……」
絢辻「!!」
絢辻「も、もしかして私寝て……」
橘「おはよう絢辻さん」
絢辻「!?」
絢辻「あ、あなたいつ帰って……っていうか、帰ってきたなら起こしなさいっ!」
橘「いやぁ、いい顔しながらうたたねしてたみたいだから、つい見入っちゃって」
絢辻「!!」アタフタ
絢辻「ちょ、ちょっとまって、あたし変なところないわよね?」
橘「? とくにないと思うけど」
絢辻「う、嘘。ちょっとまって鏡みてくる」ドタバタ
橘「あはは」
絢辻「あなたね、こういうものばっかり食べてると……」
橘「いや、つい楽だし、それに僕も一人暮らしとはいえ自炊のレパートリーがないからね」
絢辻「笑い事じゃないでしょうに」
橘「慣れればおいしいよ?」
絢辻「そういう問題でもない」
絢辻「……まったく」
橘「はい、絢辻さん口あけて、あーん」
絢辻「えっ?あーん」パクッ
絢辻「あぁ、なるほど。まずくはないわね……ってだからそういうことじゃなく……あぁ、なんだかもういいわ」
橘「あ、そっか関節キスになっちゃうのか」
絢辻「だからそういうことでも……。……!!」カァ
橘「あ、でも今更か」
絢辻「……」
絢辻「……途中からあなた分かっててボケてるでしょ」
橘「あ、ばれた?」
絢辻「……ふふふふ」
橘「……」
絢辻「ふふふふ」
橘「あ、あはは……」
絢辻「笑っている場合かしら?」
橘「……はい」
絢辻「さて、私をからかった代償は重いわよ」
橘「……」
絢辻「あぁ、どんなお仕置きがいいかしら……そうね……あれもいいわね、いやでもこっちのほうが」
橘「(……良い顔してるなぁ、こうしてるときの絢辻さん)」
絢辻「たまにここにいると……」
橘「?」
絢辻「……」
橘「どうしたの?」
絢辻「ううん、やっぱりいいわ。」
橘「へ?」
絢辻「なんでもないわ。今は気にしないで」
橘「今は?」
絢辻「そう、今は。……えぇ、だって言葉にしてもどうしようもないときもあるもの」
橘「洗面台で、いつも思うんだけど」
絢辻「うん?」
橘「よくドラマとか漫画なんかで、二つの歯ブラシがひとつのコップに、ってシーンみたことあったけど」
絢辻「うん?」
橘「わが身になると感慨深いなぁ って」
絢辻「……そういうもの?」
橘「うん」
絢辻「……というより感慨深いとか言いながら朝から浸る暇があるなら」
橘「?」
絢辻「もっと早く大学に行く準備をしなさい!」
橘「うぅ」
絢辻「一限ある日なんていつも遅刻寸前じゃないの」
橘「いやぁ、つい寝ぼけてたりとか……」
絢辻「……あっ、寝ぼけついでにアタシの歯ブラシをくわえたりしてないでしょうね」
橘「さ、さすがの僕でもそれはしない、と思うなぁ」
絢辻「な、なんで他人事みたいにいうのよっ!!」
橘「えっと、起きた後の記憶って曖昧だったりしない?」
絢辻「……橘君、明日からあなた朝5時におきなさい」
橘「えっ、それはさすがに」
絢辻「返事」
橘「……はい」
橘「そ、そうだ。いい案を思いついた」
絢辻「は?」
橘「絢辻さんが泊まっていけばいいと思うんだ」
絢辻「えっ?」
橘「そうだ、うん、それしかないね」
絢辻「え、えっ」アタフタ
橘「そうして絢辻さんが泊まっていって朝確認すればいいわけだし」
橘「ね、絢辻さん」
絢辻「う、うん……。うん?」
橘「おはよう、絢辻さん」
絢辻「……うん……橘……くん?」
橘「あはは、絢辻さんのレア顔だ」
絢辻「……あ、そっか……昨日はどこかの誰かさんに勧められるまま……」 ←寝ぼけ目
絢辻「ふぁぁ………今何時かしら」
橘「……6時すぎたくらいかな」
絢辻「ふーん……えっ!?」 ←覚醒
絢辻「ちょ、ちょっとなんで橘君のほうが起きるのが早いのよ!!」
絢辻「こ、こんなことに全力出さなくてもいいでしょ!!」
絢辻「ま、まって。あなたいつからおきて……」
橘「絢辻さんが起きる30分前くらいかな」
絢辻「……ずっと見てたの?」
橘「え? うん」
絢辻「……」
橘「……」
絢辻「ば、馬鹿なんじゃないのっ!!……だいたいはやく起きたなら~~」アタフタ
【有言不実行】
絢辻「あらっ?」
橘「?」
絢辻「……あなた今30分くらい前に起きたっていった」
橘「う、うん」
絢辻「……5時起きっていったわよね」
橘「えっ」
絢辻「そう、たしかにわたしは昨日5時起きねって言ったわよ」
橘「え、それは……あいたたた、つねらないで痛いいたい、ああああ僕のほっぺたがああああ」
絢辻「言ったわよね!」
橘「はい!言いました!」
橘「(照れ隠しだってわかっていても痛いものは痛い……)」
絢辻「うぅ……」
橘「朝からどうしたの?」
絢辻「誰のせいよ、誰の……」
絢辻「……ん?」
絢辻「ちょっとまって」
橘「……?」
絢辻「そういえば、私が泊まった時にはいつもあなたのほうが早く起きていたような……」
橘「……」
絢辻「ま、まさか……ねぇ? 橘君」
橘「……あ、あはは……あ、良かったね絢辻さん今日は天気いいみたいだよ」
絢辻「……ふふふ」
橘「……あはは」
絢辻「橘君、朝ごはんなしね」
橘「えぇっ、そんな~」
絢辻「……ここにも……」ガサガサ
絢辻「…………ここでもない」ガサガサ
絢辻「……どうしよう」
ガチャ
橘「ただいま、って絢辻さんどうしたの?」
絢辻「……ないの」
橘「ないってなにが……」
絢辻「……鍵」
橘「えっ、それは大変だね。 絢辻さんの家の鍵ってどんな鍵だっけ」
絢辻「……違うわよ」
橘「え?」
絢辻「ここの鍵がなくなったの!!」
橘「あれ……なんだここの鍵か……なら、そんなに焦らなくても」
絢辻「よくない!」
【慌】
絢辻「だから探すの」
橘「う、うん」
橘「……あ、あれっ?」
絢辻「どうしたの?」
橘「あった」
絢辻「えっ?」
橘「ちょっと絢辻さんこっちにきて」
絢辻「なによ?」
橘「あったよ、ほらここに」サッ
絢辻「えっ」
橘「あはは、絢辻さんの衣服に引っかかってたなんてね」
絢辻「うっ……あ、ありがとう///」
橘「どういたしまして」
橘「……それにしても、絢辻さんでもあれほど慌てることがあるんだね」
絢辻「うぅ……///」
絢辻「うう、そのニヤケ顔やめないと殴るわよ~」
橘「え、別にそんなこと」
絢辻「……」
橘「にしても、そんなに慌てなくてもよかったのに」
橘「なんなら作り直してもよかったんだから」
絢辻「いいの、これで!」
絢辻「…………大事なものなの」ボソッ
バチッ
橘「あれ、停電かな?」
絢辻「停電かな じゃなく停電でしょうね」
絢辻「にしても、夜だから見事に暗闇ね」
橘「ちょっと見てくるよ」
絢辻「ええ…………いえ、ちょっとまった」
橘「え」
絢辻「この暗闇であなたが動くと、間違いなく……」
橘「あっ」
絢辻「きゃあ」ドサッ
絢辻「……で、橘君。今私に追いかぶさってるけど、どんな状態か把握してる?」
橘「え?」
絢辻「……まず手をどけなさい」
橘「(……手? そういえばさっきからなにか柔らかい感触が……こ、これは)」ムニュ
絢辻「も、もむなー!!」
橘「えぇっ……」
絢辻「……ったく、こうなるって言いたかったのに先に動くから……」
橘「返す言葉もございません」
/ \ / / i i i i i i i |
\ \ ヽ/ i i i | | | | | | i |
─\ \ | | | l ll |l./ ハ、,!! | | .| i |
/\ \ | | l |ル|゙ハ'||リレ"ゞ l,,_ルレl/ | |
\ / \| .| lレ| ` 二_ 、 ___ |/ l |
/\ \ .| /f | ´ ` '´ ` lリ/ |
\ \/ | l i `'! i /イ|. |
へ │ \/ | l l |. ヽ 、` , / | l i. |
\ \| .| l | | | ミr 、 ,イ | | | | |
/\ \ | ! ! !__.! イ `ヽミー'彡ノ`\| .| | | |
\ \亠''''´ ヽ ∧∧ 〉ミ―--=、,
\ \ ヽ、/´只`ヽ、/ 〃/`ト、
/ \ \ く /八ヽ / 〃/ / ヽ
/ \ \ ∨v レヘ/ 〃/ / |
│ \ \ ヽ / ノ / |
| 丶 l \ \ へ ミ彡l゙ ,/ |/ !
| ヽ } \/ へ | | /´ | ヽ
| 、ヽ | iく / /ヽ .|/ === { |
| ヽ | l、,、 ´ / )| } |
ヘ `| へ| ヽ ,//´⌒ヽ | / |
とりあえずケツにオナシャス!
おまえさんはかきなはれ
ガチャ
絢辻「あー、ったく……」
橘「あ、おかえり絢辻さん……って、なんかあった? 不機嫌そうっていうか、やりきれないって顔してるけど」
絢辻「……さっきここに帰ってくるとき、見られた……」
橘「見られた? 何を?」
絢辻「私が買い物袋もってここに帰ってくるところ」
橘「誰に?」
絢辻「棚町さんに」
橘「へぇ、薫に。」
絢辻「くぅ……不覚だわ」
絢辻「しかもしたり顔で、からかわれたー」
橘「あはは……その、た、大変だね」
絢辻「あ、絢辻さん?」
絢辻「へぇ、もしかして純一のところ?」
絢辻「ふーん、ラブラブね~」
絢辻「あー、まだ春なのに暑いわねー」
橘「……? なにそれ」
絢辻「全部さっき私が棚町さんにいわれたことよっ!」
橘「……」
絢辻「くぅ~、これが全部ニヤニヤしながら言われるのよっ」
橘「(薫……絶対後からこうなるってわかっててからかったな)」
絢辻「なんて屈辱」
橘「で、絢辻さんはなんていって逃げてきたの」
絢辻「……なにって……何も言い返せるわけないじゃない」
橘「へ?」
絢辻「だって、その……」
絢辻「……間違ってはいない気もするし」ボソボソ
橘「?」
【時代的には……】
絢辻「そういえばあなたの部屋にもあったけど」
橘「なんのはなし?」
絢辻「あれよあれ」
橘「あぁ、パソコン」
絢辻「……ねぇ、ちょっと見てみてもいい?」
橘「え゛っ……?」
絢辻「?」
橘「……」
絢辻「……」
橘「ふ、二日ほど猶予をください」
絢辻「な・ん・で?」
橘「……」ダラダラ
絢辻「へぇ、色々なフォルダがあるわね」 カチッ
橘「……」 ←正座
絢辻「ふーん、ウイルスなんて名前のフォルダがあるのね」 カチッ
橘「……」
絢辻「あ、きちんとジャンルわけもしてるのね。へぇ~」
橘「……あ、あの絢辻さん」
絢辻「これ何重のフォルダ構造になってるのかしらふふふ」
橘「ご、ごめんなさい」
橘「アイス買ってきたよー」
絢辻「またあなたはそんな……」
橘「あはは、まぁまぁ」
絢辻「あらっ?……ん? ……ところでなんで3つ?」
橘「一つは僕の。一つは絢辻さんの。もう一つは今度来たときの絢辻さんの」
絢辻「は?」
橘「いやぁ、その……絢辻さんがここに来やすいように理由付けを」
絢辻「……」
橘「……」
絢辻「馬鹿」
橘「はい……」
橘「う」
絢辻「……そんな馬鹿なことで」
橘「いや、だって絢辻さんが来るか来ないかで僕のやる気度がかわるから重要だよ!!」
絢辻「…………」
絢辻「……4つね。今度からは4つにしなさい」
橘「?」
絢辻「3つだと私しか食べられないでしょ、だから今度からは4つ」
絢辻「4つならまた来たときに二人で食べられるでしょ?」
橘「3つめを半分こにするという手も……」
絢辻「……」
橘「?」
絢辻「」ブンブン
橘「あーやつーじさん?」
絢辻「い、いいのよっ、これで」
絢辻「……」ペラッ
橘「あのさ、絢辻さん~~」
絢辻「……ん……」ペラッ
橘「~~だから~~して」
絢辻「うん…………」ペラッ
橘「……」
絢辻「……」ペラッ
……
…
絢辻「……ふぅ、これでこの本も読み終わったと」パタン
絢辻「あらっ、橘君は……」キョロキョロ
絢辻「…? なにを部屋の隅っこでいじけてるの?」
橘「絢辻さんがかまってくれない」
【当然】
絢辻「あら、珍しい。 自発的に勉強しているなんて」
橘「そ、それだったらよかったんだけど」カリカリ
絢辻「違うの?」
橘「課題を出すのを忘れてて……」
絢辻「課題って?」
橘「……の……課題」カリカリ
絢辻「あぁ、あれ……って、まだやってなかったのね」
絢辻「あぁ、なるほど。だからこれだけ本を積んで必死に辞書ひいてるわけね」
橘「絢辻さんも同じ授業とってるよね……ちなみに絢辻さんは?」
絢辻「愚問ね」
橘「ですよね」
絢辻「あ、そこ訳しかた間違えてるわ」
橘「え? どこ」
絢辻「ここよ」
絢辻「ここ。単語の捕らえ方が間違ってるから、こうなっちゃうのね」
絢辻「こっちの単語から調べ直しなさい」
橘「う、うん」
橘「……」カリカリ
絢辻「……あ、そこもね」
橘「うん…………ところで絢辻さん」
絢辻「なに?」
橘「何気なく楽しそうな顔してない?」
絢辻「そ、そうかしら? 気のせいじゃない?」
橘「そうかなぁ」
絢辻「ほ、ほら、早く手を動かしなさい」
橘「じゃーん」
絢辻「今度はなによ?」
橘「メロンパン」
絢辻「へぇ、懐かしいわね」
橘「あはは、たまたま見つけたんだ」
絢辻「ふぅん」
橘「はいこれが絢辻さんの」
絢辻「え…あ、ありがとう」
絢辻「………」
橘「?」
絢辻「……」
橘「絢辻さん、あたしならあと二つはもらえた、とか考えてない?」
絢辻「なっ、考えてないわよ」
絢辻「ほら、口をあけなさい」
橘「え?」
絢辻「ふふふ、こうするために買ってきたんでしょ?」
橘「え、いや普通にたべ…」
絢辻「いいから口をあける!」
橘「はいっ!」
絢辻「ふふ、ほらあーんっと」
橘「あーん」
絢辻「ふふふ、ほら次よ」
……
橘「あひゃふひさん? ひゃっひのおほっへる?」
(絢辻さん? さっきの怒ってる?)
絢辻「べつに怒ってないわよー? はいあーん」
【たまにはあるよ】
絢辻「……」イライラ
絢辻「(……どうみてもこれ、女の子ものの櫛よね)」
絢辻「(まったくきてそうそうこんなものを見つけるなんて……)」
ガチャ
橘「ただいま、っと……」
絢辻「ちょっと橘君、少し聞きたいことが」
橘「あー、ここにあったのか」
絢辻「……え?」
橘「美也のやつ泊まりにきたはいいけど、忘れていったうえに持って帰って来てとは……まったく僕をなんだと……」
絢辻「……え」
橘「あ、ごめん絢辻さん。それでなんだっけ」
絢辻「えー、あー、うんやっぱりなんでもないわ」
橘「え、でも」
絢辻「なんでもないったらなんでもないの」
橘「そうだ、今日は鍋にしよう」
絢辻「ふーん、まぁいいんじゃないかしら。にしても、一人鍋ね~」
橘「え?」
絢辻「え?」
橘「……」
絢辻「……」
絢辻「もしかしてわたしも数に入ってるの?」
橘「うん」
絢辻「……もうすぐ帰ろうとしてたんだけど」
橘「え?」
絢辻「え?」
絢辻「結局、こうなってしまった……」
橘「鍋っていいよね~」
絢辻「そう?」
橘「なんだかこう充足感っていうか、温かい気持ちになるっていうか」
絢辻「……わたしにはわからないわね」
橘「そうかな? でもこれからわかっていけばいいと思うよ」
絢辻「……」
絢辻「(……どうしてあなたはこうも……)」
橘「絢辻さん?」
絢辻「なんでもないわ」
橘「そういえば昔、絢辻さんに聞いたことあったよね」
絢辻「?」
橘「ほら、外食と家で食べるのどっちが好き、って」
絢辻「あぁ」
橘「外で食べるほうが好きっていってたけど……」
絢辻「えぇ、そうね。たしかそう答えた気がするわ」
橘「じゃあ、今ももう一回聞いて良いかな」
絢辻「……」
橘「絢辻さん」
絢辻「それは……」
橘「うん」
絢辻「……秘密、かな」
絢辻「あなたが一人暮らしをして、一番変わったのはわたしなのかもしれないわね」
橘「……? どういうこと?」
絢辻「……」
橘「……絢辻さん?」
絢辻「…………時間が経って」
絢辻「居たいと思う場所もできて」
橘「?」
絢辻「そして余裕ができたから」
絢辻「考える時間が生まれて」
絢辻「それで……ようやく過去の自分が見えるようになって」
絢辻「それに連ねられた色んな、本当に色んなことが見えてきて」
橘「……」
絢辻「……」
絢辻「ねぇ、橘君」
橘「なに?」
絢辻「私を――わたしをみつけてくれて本当にありがとう」
裡沙ちゃんだと超俺得だし、梨穂子だと俺が超和むし、薫だと俺が超ニヤケルし
七咲だったら超喜ぶし、紗江ちゃんだと超悶えるし、ラブリーだと超ハッピーになるから
あとひびきちゃんもオナシャス!!
裡沙ちゃんおやすみ!
お前らの脳内妄想ちょちょっとキーボード叩くだけだから、な?
乙
裡沙ちゃん書いていいんだぞ
Entry ⇒ 2012.03.20 | Category ⇒ アマガミSS | Comments (0) | Trackbacks (0)
橘純一「765プロに就職した」
http://hayabusa.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1330682288/
梅原「とか言い出したから何をするのかとかと思えばアイドル事務所だったとはな」
橘「いやーそこの事務所の社長さんにティン!とかきた!とか言われてそのままま入社しちゃったんだ」
梅原「大丈夫かそこ・・・・・超ブラックとかじゃないよな」
橘「確かに事務所の規模は小さいけど、いい雰囲気だったよ」
橘「それにだ・・・・事務員さんがだ・・・・・小鳥さんというんだがこれがまたナイスバデーでな」
橘「一見してみるとそうでもないんだが、事務服に隠されたその豊満なボディーを発見してしまったのだ」
橘「プロデューサーと事務員・・・・なんと甘美な組み合わせ・・・・・アイドルに隠れ・・・・事務室での甘いひと時・・・・」
梅原「くぅ~!大将!さすがだ・・・さすがだよ・・・就職した理由がそれとは・・・・恐れいった」
橘「ふふふ・・・・・恐れいったか梅原君・・・・これが人生の歩み方というものなのだよ・・・・」
代理ありがとうございます、以後このIDで行きます
梅原「大将!俺のトロ子も!ぜひプロデュースお願いします!」
橘「まあまあ待ちたまえ・・・今日は事務所所属のアイドル達と会うことになっている」
橘「その後でもトロ子ちゃんのプロデュースは遅くないだろう・・・待っていたまえ」
梅原「ははぁ・・・心してお待ちしております」
橘「うむ・・・・・私はタクシーで事務所に向かわせてもらう」
梅原「ははっ!大将様社長様、車は外でお待ちしております・・・・・」
橘「苦しゅうない・・・・」
社長「皆、今日から君たちのプロデュースを担当してもらうプロデューサーを紹介する、橘純一君だ」
橘「よろしくお願いします!」
春香「お願いします」
橘(うん、かわいい)
美希「よろしくなの」
橘(何・・・・この子は中学生だと・・・・けしからんな・・・・)
響「よろしく!」
橘(褐色の日焼け肌で元気っ子素晴らしい・・・・)
橘(胸はちょっと・・・残念だがそれは違う需要があるということ・・・そして少し冷たい視線・・・これもまたそそる)
真「よろしくお願いします!」
橘(ボーイッシュな女の子・・・いいね)
雪歩「よ・・・よろしくおねがいします・・・」
橘(怯える子というのは非常にそそるものがある)
亜美「双海亜美!」
真美「双海真美!」
亜美真美「どぉえーっす→!」
伊織「水瀬伊織ですぅ~よろしくお願いします~」
橘(この子達は数年後に光る・・・期待だな・・・)
貴音「よろしくお願いいたします」
橘(ちょ・・・ちょ・・・チョモランマ!)
橘(いかんいかん!さっきから見る点が違う、僕はプロデューサーとして就職したんだ)
橘(しかし女の子がいっぱいいるからか良い匂いがするな)
橘(ちょっといまのうちに嗅ぎだめしとこう)
橘「あ、すみません社長、大丈夫です」
社長「うむ、彼女たちが我社のアイドル達だ、よろしく頼むよ」
橘「はい!任せてください!」
こうして僕のプロデューサーとしての道は始まったのだった・・・
橘「まずだ、やることがある」
律子「はぁ・・・」
橘「この宣材写真だ」
律子「宣材写真ですか?」
橘「確かにこの写真は悪くない、それぞれの個性がよく出ている」
橘「しかしやはりこれではいけないと思うんだ」
橘「亜美と真美なんて猿の格好だし、これじゃ来る仕事も来ないよ」
律子「でも新しい衣装を注文したからお金ないですよ・・・・新しいのを撮るお金なんて・・・」
橘「だから僕が撮るよ」
律子「え?」
伊織「宣材写真を撮り直すっていうから期待して来てみれば・・・」
千早「まさかプロデューサーが撮るとは・・・・」
あずさ「こんな感じでよろしいでしょうか」
橘「あずささん!すごい似合ってますよ!」
あずさ「そうですか~ちょっと老けて見えないかしら」
橘「大丈夫です、早速撮ってみましょう」
あずさ「はい~」
橘「もう少し斜めに」 カシャ
橘「今度は座ってみましょう」 カシャ
橘(なんだかお宝本の撮影みたいで楽しくなってきたぞ)
橘「足を伸ばして・・・・そうですね・・・足を交差させてみて・・・・」 カシャ
橘「いいぞ!いいぞ!いい宣材写真になりそうだ、次は美希だ」
美希「はいなの、プロデューサー、美希は自分でリズムとってポーズするからそれをパシャパシャってとってね
橘「任せてくれ」 カシャ カシャ
千早「はい」
橘「千早もっと笑って笑って」
千早「こう・・・・ですか・・・・」
橘「う・・・・うーん」
千早「ごめんなさい、笑顔が不自然・・・・ですよね」
橘「確かにそうかもしれない・・・・・いやならばむしろそのままの千早を、ありのままの千早でいこう」
千早「ありのまま・・・ですか」
橘「そうだ、そのままの千早で十分かわいいからね」 カシャ
千早「な・・なにをいきなりそんな・・・・」
橘「よし・・・って響、なにしてるんだ」
響「何って自分は何もしてないぞ・・・ポーズが悪かったのか?」
橘「なぜ肌を隠す服を着ているんだってことだよ、響の強みとするところはそこじゃないだろ」
橘「もっと肩がはだけたような服を着るんだ、ああそうだ日焼け肌と焼けてない肌の境界線をみせるようにだ、そこが大事なんだ」
響「わ・・・・わかったぞ・・」
カシャ カシャ
イイゾヒビキ!
ツギハハルカダ
カシャ カシャ
律子「すごいスピードで撮影をこなして行ってるわ・・・・」
橘「ふぅ・・・・」
律子「お疲れ様ですプロデューサー」
橘「いや、後一人残ってる」
律子「え?だって全員分の撮影は終わりましたよ」
橘「律子先輩、貴方ですよ」
律子「え?私ですか、私はアイドルじゃないですよ」
橘「僕知ってるんです、律子先輩がアイドルやっていたの・・・・・」
律子「な!!////」
橘「僕の友達の梅原っていうんですけどね、彼に聞いたんです、その昔秋月律子というアイドルがいたと・・・・ね」
橘「プチピーマンといえばすべて分かってくれるはずだ・・・・奴がそう言ってました」
橘「プチピ・・・・梅原は今でもあなたのことを思っている、それを分かってほしい・・・・」
橘「そんなファンクラブNo.001、梅プチピー原に愛する人の生写真を与えてあげたい・・・・それが男の友情というものなんです」
律子「で・・・でも・・・あ・・・」
橘「心配はいりません律子先輩、俺が魂を込めて律子先輩の写真で撮ります」
律子「あ・・・あ・・あ~」 ズルズル
小鳥「写真、出来上がったんですって」
橘「はい・・・・これです」
小鳥「これ・・・本当にすごいですよ、プロのカメラマンも真っ青な出来です・・・」
橘「ありがとうございます」
小鳥「あれ?これ律子さん?」
律子「やめてください・・・・恥ずかしくて死にそうです・・・」
橘「そしてこの写真を使って早速宣伝してきました、そして仕事を頂きました」
律子「いつの間に・・・・・・ってこれローカル番組ですけど料理番組のメインじゃないですか!
律子「それも4人も使ってもらえるなんて」
橘「ええ、番組のディレクターと息が合っちゃって、今からこの番組の撮影に行ってきます」
あれ?何気に有能じゃね?
タッタッタ
律子「行っちゃた、まさか写真が出来て瞬時に仕事がくるなんて・・・・」
小鳥「プロデューサーさんがあちこち回ってくれたみたいですよ」
律子「あの原動力は一体どこから・・・・・」
律子「わ・・・私も頑張らないと!小鳥さん!竜宮小町についてちょっと社長に掛けあってみます!」
小鳥「はい」
タッタッタ
律子「プロデューサーさんが来てから765プロに活気が出てきたわね、ふふっ」
橘「最初はビーチフラッグのような競技だ、勝ったほうが有利な食材を貰えるぞ」
響「えーっとこの競技は自分と千早だったな」
春香「がんばってね、千早ちゃん」
千早(こんな番組が歌の役に立つのかしら・・・・)
~
司会蛙「それではスタートォー!GO!」
ピー
シュパパパパ
響「とったゲロ~!」
千早「ぺっぺ・・口に発泡スチロールが・・・いたた」
橘「あ、カメラマンさんコケた千早を撮って下さい」
カメラマン「あ、はい」
春香「あ、千早ちゃん!これお願い」
千早「うん、あ、春香!お鍋吹きこぼれてる!」
春香「あ、いっけないっ・・・キャア」 コケ
司会蛙「おーテレビ的においしいぞー!」
司会蛙「どうかなー如月選手、パートナーのこのリアクションは?」
千早「あの・・・・何が面白いんですか?」
司会蛙「え?」
橘「僕はおもしろいぞ」
千早「え?」
橘「可愛い子がちょっとおっちょこちょいなところを見せてくれる、それに興味がない男なんていないじゃないかな」
千早「・・・・」
橘「千早、ちょっといいか・・・」
橘(真面目な話だ・・・・顔もキメていかないと)
キリッ
千早「はい・・・なんでしょう」
橘「千早は料理をどう思ってる?」
千早「はい?」
橘「料理を美味しくする究極の隠し味・・・・知ってるか」
橘「月並みなんだけどやっぱりそれは『心』だと思うんだ」
千早「心・・・ですか?」
橘「ああ、おいしい料理を心を込めて作る、歌と同じだよ、精一杯頑張って心を込めて相手に届ける」
橘「それが人に何かを伝えるってことなんだよ」
千早「プロデューサー・・・・・」
橘「伝えたいのはそれだけだ・・・あとは千早が決めるんだ・・・・・じゃあ次からもがんばれ」
スタスタスタ
橘(そして橘純一はクールに去るぜ・・・・)
タッタッタ
ドシャーン
スタッフ「おい誰かが盛大にコケたぞ!大丈夫か!」
橘(痛い・・・・千早達の見えない舞台裏でよかった・・・・)
橘「千早、今日は良かったよ」
千早「ありがとうございます・・・・ごめんなさい私が迷惑かけてしまって」
橘「全然迷惑なんかじゃないよ、むしろ僕が自分の意見を突き通して逆に迷惑だったんじゃないかな」
千早「そ・・・・そんなことないですっ」
千早「プロデューサーがあんなに真剣な顔してる私に怒ってくれて・・・・最初はたしかにびっくりしましたけど」
千早「まだ会って日が浅いのに・・・・あんなに・・・」
千早「私たちのことをあんなに真剣に見ていてくれたんだなって・・・ちょっと感動しちゃいました」
千早「あの・・・迷惑かけたお詫び・・・といってはあれなんですが、もし良かったら何かお詫びをさせていただけませんか」
橘「お詫び・・・」
千早「はい・・・私にできることでしたら」
橘(千早にして欲しいこと・・・・頭とか撫でてみたいけど・・・・変なことになっちゃうよなぁ・・・・)
橘(変なこと以外で千早の為になることを考えなくちゃいけないな・・・・)
橘(そういえば春香が千早は一人暮らしだと言ってたな)
橘(ということは・・・・あれだ・・・あれしかない・・・俺にも千早の為にもなること・・・これだ!!)
橘「千早」
キリッ
千早「は・・・はい!」
橘「千早の暖かさを知りたいな」
千早「え?な・・・なにを」
橘「千早の暖かさを知りたいな」
千早「なんで二回言うんですか!」
橘「そして千早は一人暮らしだ、恐らく人の温かみというものを暫く感じていないだろう」
橘「だから僕の暖かさを千早に知ってほしんだ、そして僕は千早の温かみを知りたいんだ」
千早「な・・・な・・・・・」
橘「頼む千早・・・・僕と千早のためを思って・・・・ほんの少しでいいんだ」
千早「す・・・・少しだけなら・・・・・」 ボソ
千早「少しだけなら・・・・いいですよ」
橘「ありがとう千早・・・この恩は忘れないよ」
千早「早く終わらせちゃいましょう・・・どうぞ///」
千早「なんでいきなり膝立ちになってるんですか・・・ってその格好のまま近づいて来ないでください!!」
橘「この高さが一番よく見えるんだ」
千早「胸に顔を近づけないで下さい!!」
橘「うん、暖かい」
橘(しかし女の子ってのはどうしてこう良い匂いがして暖かいんだろうか・・・・世の中の7不思議の一つだ)
千早「~~///」
橘「本当に暖かい、よ~し千早の体温覚えたわん!」
千早「ば・・・馬鹿なんじゃないですか・・・・///」
暖かった……僕は、僕は小さい胸も好きになってしまったかもしれない
コンコン
小鳥「はーい!どうぞ~」
ガチャ
美也「おじゃましま~す、お兄ちゃんいますか」
小鳥「あれ、美也ちゃんおはよう、プロデューサーさんならお仕事行っちゃったわ」
小鳥「お昼前にはもどってくるはずだけど・・・・どうしたの?」
美也「あのバカにぃ・・お兄ちゃんがお弁当忘れてっちゃったの」
小鳥「あら、それをわざわざ届けに?さすが美也ちゃん頼りになるわね」
美也「えへへ~お兄ちゃんがダメだと妹は賢くなるのです」
春香「あれ、美也どうしたの?」
美也「あ、春香おはよう」
美也「いやーうちのお兄ちゃんがお弁当忘れちゃって届けに来たんだ」
美也「うん、小鳥さんに聞いたよ、だからちょっと事務所で待たせてもらおうとおもって」
春香「そうなんだ、じゃあ何かしようよ、モノ○リーあるよ!モ○ポリー!」
美也「うーん・・・あれあんまり得意じゃないんだ・・・それよりも、ねえ春香」
春香「どうしたの改まって」
美也「正直お兄ちゃんはちゃんと仕事してる?」
春香「え?」
美也「お兄ちゃん歳の割には子供っぽい所あるから心配で心配で・・・」
美也「春香はお兄ちゃんに変なこととかされてないよね?」
春香「だ・・・大丈夫だよ」
春香(この前転んだ時に膝すりむいちゃった時にすぐに消毒液と絆創膏持ってきてくれてすごい丁寧に手当してくれて)
春香(その時ちょっと格好いいなって思っちゃったけど、こんなこと美也に恥ずかしくて言えないよ・・・)
美也「心配・・・・」
美也「もしお兄ちゃんに変なことされたらすぐに言うんだよ!すぐに駆けつけるからね!」
春香「あはは・・・そんなに心配しなくても大丈夫だって」
ガチャ
橘「只今戻りましたー、春香、次の仕事についてなんだが・・・・って美也!なんでここに」
美也「お兄ちゃんがお弁当忘れるからでしょ、わざわざ届けに来てあげたんだよ?」
橘「あーそっか忘れてた、ありがとう美也」
美也「本当に頼りないんだから・・・」
>>67 ごめん普通に年齢勘違いしてた、まあめんどいからこのままでいきます
亜美「おはよ→」
美也「おはよーう」
あずさ「あら、美也ちゃんおはよう」
美也「おはようございます」
美希「なになに?ハニーの妹ちゃん来てるの?」
美也「ハニーって・・・・・」
ガチャ
雪歩「ううう・・・・・」
真「雪歩、大丈夫だよ今日はたまたま男の人が先生だっただけだから、明日がんばろう」
伊織「雪歩のせいで全然レッスンにならなかったわ・・・」
橘「雪歩に真に伊織、おかえり、なんだ今日は男の先生だったのか」
真「そうなんです・・・・だから雪歩が怯えちゃって」
橘「雪歩・・・ちょっといいかい」
雪歩「は・・・はい・・・」
橘「ごめんみんな、雪歩とふたりきりにさせてもらっていいか、入って来ないでくれよ」
ガチャ
美也「怪しい・・・」
【社長室】
橘「雪歩・・・・」
雪歩「は・・はい」ビク
橘「アイドルを続けていく上で避けては通れない道がある」
雪歩「はい・・・」
橘「それはファンとの交流だ、その中にはもちろん男もいるだろう」
雪歩「分かってます・・・それなのにわたしったら・・・・」
橘「だから僕と練習しよう」
橘「男の人になれる練習だよ、まず知っている僕からだ」
雪歩「で・・・でも何するんですか・・・・」
橘「そうだな・・・・まずはできるだけ慣れている場所で出来るだけ慣れている人と始めるのが大事だと思う」
橘「だからまず765プロ内で始める」
雪歩「は・・はい」
橘「肩車を」
雪歩「はい・・・・え?」
橘「僕が雪歩を肩車して事務所の中を走りまわる」
橘「もちろん皆は僕達を見るだろう・・・・・だが考えてくれ」
橘「見知った事務所の中、そして見知った顔の前だ、何を臆することがあるだろう」
雪歩「な・・・なるほど」
いつも俺たちの想像の斜め上を行きやがる
響「美也に千早に美希・・・・社長室の前で何してるんだ・・・・」
美也「しっ!!」
千早「我那覇さんちょっと静かにしてて」
美希「うーんハニーの声全然聞こえないの・・・・何してるのかな・・・・」
ヨシ ジュンヒ ハ イイガ
ハ・・ハイ
美也「ん?なんか動いてる気配が・・・」
ドン
美也「痛っ!」
美也「ちょっとにぃに・・・いきなりドアを開けないで・・・・・よ・・・」
千早「プロデューサー?雪歩?何してるの?」
橘「プロデューサーではない・・・・今の俺は・・・萩原純一だ・・・・・」
キリッ
橘「いたいけな少女のために立ち上がった正義の使者とでも呼んでもらおうか・・・・」
橘「いくぞ、雪歩」
雪歩「い・・・・いえーい!!!」
......そして僕達は事務所の中を肩車で走りまわったのであった
なんかすごい怒っていた美也が引っ掻かれたが
しかしよく考えたら女の子を肩車ってちょっとエッチだったかもな.....でも結構気持ちよかった.....
橘「暑い・・・・すごく暑い・・・・」
橘(エアコンが壊れるとは予想外だった・・・・
かなり仕事は増えたとはいえまだまだスケジュールが真っ黒に染まるには程遠い
つまり・・・・この暑い中で事務所一同することもなく・・・・暇)
亜美「暑い・・・・・」
春香「エアコン壊れちゃったんだからしょうがないよ」
真美「このままじゃバターになっちゃうよぉ・・・」
響「うー自分の家のすぐ近くは海だったからそこで泳げたんだけど・・・・ここじゃどうしようもないぞ・・・」
春香「海・・・・海!そうですよプロデューサーさん!」
橘「あつい・・・って・・・ん?」
春香「海行きましょう!海!慰安旅行ですよ!」
橘「海・・・・海!そうだ海だよ!海いこう!」
橘「明日にでもオフの皆を連れて海に行こう!このままじゃ皆の汗が集まって生物が出来てしまう」
橘「いや・・・・女の子と僕の汗の結晶体というのも見たい見たい気がするが・・・とにかく明日海に行こう!」
http://www.youtube.com/watch?v=SLDpwDPfFME
橘「いやっほおおぉぅ~っ! 海・水・浴! 海・水・浴!」 シュパパパパ
美希「待ってハニー!ミキが一番なのー!」
響「負けるかー」
真「させないよー!」
真美「目標まで30メートル!!」
律子「みんなー日焼け止め忘れないちゃだめよー!」
橘「いえーい」 バシャバシャ
伊織「しかしアンタが唐突に海に行くとか言い出してびっくりしたわよ・・・それも昨日の今日って」
橘「皆の水着が見たかったからな!」
伊織「変態・・・・」
伊織「うわ!やめなさいよ!」バシャバシャ
亜美「ふっふふ!水鉄砲をくらえ!!」
橘「ほらほら伊織掛かって来い!」
美希「ミキもまぜてー!」
橘「いいぞ・・・・・・・っは!」
橘(ふと・・・この時僕は思ったんだ、海水には彼女たちの汗が混じってると)
橘(そして考えた、どこが一番より効率良くそれを感じるのとができる場所なのかと)
橘(自然と僕は彼女たちの遊ぶ流れの下へと歩みを進めた)
橘(うん、この位置だ)
橘(少し潜ってみよう) ブクブク
橘(このふとももは美希か・・・・ううむ)
橘(うーむけしからん・・・・少し触ってみよう)
美希「ひゃ!」
真美「うわ!どうしたのミキミキ」
美希「もう・・・ハニーったら・・・・こうしてやるの」
橘(く・・・美希のおしりが顔に・・・・くっ・・・息苦しさと幸福感に溢れたこの感じ・・・初めてだ・・・)
橘(くるしい!だがこれもまた楽しみの一つ・・・・)
美希「ほらほら~」
橘(漢、橘純一ここで負けるわけにはいかない!)
橘(お返しに膝裏を舐めてみよう)
美希「はう!・・・・むぅ~」
~~~
橘「ふぅ・・・・・実に有意義な潜水であった・・・・」
やよい「あの~プロデューサーさん!皆の分のお昼買いに行くんですけど一緒に行ってもらってもいいですか?」
橘「ああ、いいよ」
橘「ん?やよいはスクール水着なのか」
やよい「あ、はい水着これしかもってなくって・・・やっぱり恥ずかしいですかね」
橘「やよいにはすごい似あってると思うよ」
やよい「あ・・・ありがとうございます!」
橘「しかし水に濡れたスクール水着ってのはどうしてこう・・・・・」
やよい「ぷ・・・ぷろでゅーさー・・・さん」
ペタペタ
橘(スベスベしてるだけじゃなく、ちゃんと質感があって・・・・)
ペタペタ
やよい「プロデューサーさんくすぐったい・・・・です・・・」
橘「あ、ごめんつい興味心が勝ってしまったんだ」
橘「ごめんね、お昼買いに行こうか」
やよい「は・・・はい・・・」
やよい(すごいくすぐったかったけど・・・・なんかちょっと嬉しかったかも・・・)
テクテク
やよい「あれ?すごい人だかりが出来てますよ」
橘「本当だ、なんだろう・・・って貴音!なにしてるんだ」
貴音「これはプロデューサー殿・・・ここでらぁめん3杯食べれば無料というきゃんぺぇんをやっていたので」
橘「なるほど・・・・」
橘「しかしまだまだアイドルとしては未熟だな・・・貴音・・・」
橘「周りを沸かせてこそのアイドル・・・・・だろ?」 キリッ
貴音「っは!」
橘「気づいたか貴音・・・・その領域に足を踏み入れられればお前も一人前のアイドルだ・・・・」
貴音「プロデューサー!ぜひご教授を!」
橘「実は・・・貴音には内緒にしていたんだが、ラーメンの食べ歩き番組の仕事を貰ってきてる」
貴音「なんですと・・・・」 ワクワク
橘「ラーメンの番組だ、つまりラーメンを食すわけだ」
貴音「その通りです・・・」
橘「つまりラーメンに勝たなければならない、ラーメンに負けるレポーターが果たしてレポーターが務まるだろうか、断じて否だ」
貴音「まさに・・・・まさにその通りです・・・プロデューサー殿!」 ドキドキ
橘「その特訓として最初に考えたのはまず、貴音の両手を縛る」
橘「そして僕がラーメンを食べさせて貴音はラーメンの誘惑に打ち勝つというものを考えた」
橘「この方法だと主導権はラーメンにあるわけだ、それではダメなんだ貴音がラーメンに勝つ為にはな・・・」
橘「だからそうではなく僕が縛られようと思う」
貴音「それはまた・・・面白い」
橘「だから貴音、縛ってくれ」
貴音「ええ」 シバリ シバリ
観客A「何やってるんだあいつら・・・・」
観客B「いきなり男を縛りだしたぞ・・・」
観客C「あ・・・ラーメンを食べさせ出したわ・・・・」
橘「あ・・・お願いします!ラーメンを!ラーメンをもっと!もっとください!」
貴音「ダメよ貴方は子犬・・・ご主人がダメといったらいつまでも待たなきゃだめよ」
橘「きゃ・・きゃぅーん・・・」
貴音「ほらお座りなさい」
橘「わん!」
貴音「いい子ね、それじゃあ餌をあげるわ・・・」
橘「くぅ~ん」
やよい「プロデューサーさん・・・・・」
やよい「プロデューサーさん・・・・・・・かわいい・・・//」
,,,,,,このあと貴音との交流は暫く続いた・・・帰りが遅いのを心配して伊織が
迎えに来て僕と貴音の交流を見られてしまった、伊織は非常に下賎なものを見る
ような表情をしていた・・・・しかしあの目もまた・・・目といえば貴音とラーメンを食べる
時どうせなら目隠ししてするんだった・・・・失敗だ・・・
伊織「あれはなんなの?」
橘「いや、貴音とラーメンを見ていたら縛られるしか思いつかなくて・・・」
伊織「ホントどうしようもない変態ね!ド変態!der変態!変態大人!」
橘「はい・・・はい・・・」
伊織「聞けば貴音のTV番組のための特訓だったらしいじゃない・・・」
橘「はい・・・」
伊織「この伊織ちゃんのお仕事はとってきてないのに?」
橘「あります!」
伊織「へ?」
橘「伊織の為の仕事もちゃんと取ってきてます!」
伊織「な・・ならいいけど・・」
伊織「ちなみに何の仕事なの?」
橘「シャンプーのCMです」
伊織「シャンプー?」
伊織「よ・・・よく分かってるじゃないこの伊織ちゃんのことを」
橘「だろ?だから伊織!伊織、髪触らせてくれ!」
バシン!!
伊織「あんたばっかじゃないの!」
橘(いたい、伊織にビンタされてしまった、頬がすごく熱い、でもなんか気持ちいいかも)
橘「伊織もう一回おねが・・」
バシン!!
橘(おぉおーぉー)
橘(いかんあくまでもクールにだ、このままでは叩かれて喜んでるただの変態じゃないか)
橘(だからもう一発やってもらってそうでないことを確かめないと)
橘「ごめん伊織右頬だけじゃバランス悪いから左頬もお願いできるか」
橘「そうすればこの前テレビで出てたアフリカの部族の戦化粧みたいで格好が付く」
バシーン!!
橘(あ、いい)
ワォーン!
バシーン!
ワォーン!
雪歩「真ちゃん・・・・なんかうめき声がするよぉ・・・・この旅館こわい・・・」
真「大丈夫雪歩・・・僕が付いてるよ・・・」
春香「この旅館・・・古いとは思ったけど・・・・こんなにはっきりと聞こえるなんて・・・」
真美「亜美~怖いよ~」
亜美「亜美だって怖いよ~」
真美「そういえば旅館のおばさんが昔この海で溺死してしまったカップルがいるって・・・」
真「え・・・じゃあこの声って・・・」
バシーン!
ワォーン!
雪歩「きゃあああああああああああ!!!!!!やっぱりおばけぇえええ!!!!」
さんつけるのは春香とあずささんだけじゃなかったっけ
橘「なに?あの旅館お化けが出たのか」
雪歩「もう怖くて怖くて・・・・プロデューサーさんどこにいたんですかぁ・・・」
橘「ちょっと私用で他の部屋にいたんだが・・・僕は聞こえなかったけどな・・・」
雪歩「やっぱりあの部屋に居たんだ・・・・憑かれてたらどうしよう・・・わたし死んじゃう・・・」
真「雪歩?雪歩!!しっかり!気をしっかり持って!」
橘「雪歩しっかりしろ、午後からファーストライブの会場の下見もあるんだ、しっかり」
雪歩「少し・・・休ませて下さい・・・・」 バタッ
>>117 ぐぐったら呼び捨てだった、ちょくちょく細かいとこ間違えるな、ごめんなさい
橘「ふーむここがライブ会場か」
律子「さすがにまだライブ会場の下見は速すぎるんじゃないですか?」
橘「いや、こういう現場を見せてあげることによって彼女達のモチベーションは上げようと思ってね」
真美「みてみてー!やよいっち!」
やよい「うわー!すごいキラキラですぅ!」
真「うわー」
雪歩「大きい・・・」
響「あ!あの一番大きいモニターに自分たち映ってるぞ!おーい!」
律子「確かに上がってますね・・・」
橘「だろ?」
千早「ふふ・・・みんな元気になっちゃったわね」
春香「だね」
橘「どうしたんだ、美希?ぼーっとしちゃって」
美希「あ、ハニー」
美希「ここすごいキラキラしてるなーって思って」
美希「ねえ、美希もここでキラキラできるかな?」
橘「ああ、できるさ、美希ならなんだって」
美希「そうだよね、ありがとなの♪ハニー」
橘「皆、聞いてくれ!僕がいろんな仕事を皆に持ってきて皆が早くここでライブ出来るようにする」
橘「だから皆も頑張ってくれ!」
一同「はい!(なのー!)」
橘「ん?」
美希「ミキね、ハニーに答えられるように精一杯頑張るよ」
美希「だからね、もし全部落ち着いて・・・・」
美希「それでもしもまだミキがハニーのことをまだハニーって思ってたらね・・・」
美希「ミキの本当のハニーになってもらっていい?」
橘「ん?何言ってるんだ、僕はいつでも美希のハニーだぞ」
美希「もう~そういうことじゃないのー!もういいよーっだ!」
スタスタ
橘(?、美希のやつなんなんだ?)
橘(本当のハニーってまさか・・・恋人ってことじゃ・・・いやまさかなーはっはは)
橘(僕が美希なんかと釣り合うはずないしな・・・)
橘(自意識過剰だよなぁ・・・いかんいかん!)
橘「響!真!午後から雑誌の取材があるの忘れるな?送ってくぞ」
響「あ、はーい!」
真「雪歩、行ってくるね」
雪歩「うん、行ってらっしゃい頑張ってね」
橘「それじゃあ律子先輩、皆をお願いします」
律子「ええ、分かってるわ」
橘「じゃあ行くぞー」
橘「2人とも乗ったか」
響「うん」
真「乗りましたよ」
橘「んじゃ出発」
ブロロロロ
響「しかしプロデューサーが運転してるとなんか違和感あるぞ」
真「確かにちょっとまだ慣れてないですよね。運転」
橘「う・・・うるさい!取ったばっかりなんだから仕方ないだろう」
真「あんまりふらふらしないでくださいよ・・・」
橘「そう言われると緊張してくる・・・」
橘「ま・・・真はいつまでお父さんと一緒にお風呂入ってたんだ?」
真「な・・・何言ってるんですかプロデューサー!!」
橘「ボーイッシュな女の子がいつまでお父さんと一緒にお風呂に入っていたかというのは今後の研究に大いに役に立つ」
真「なんの研究なんですか!」
橘「全国青少年健全育成委員会のレポートの期日が迫っていてな・・・」
真「そんな委員会はありません!!」
橘「は・・・早くしてくれないと俺が緊張でシートごと窓から飛び出すぞ」
真「う・・・プロデューサーが死んじゃうのは・・・・」
真「わ・・・・わかりましたよ・・・///」
ゴニョゴニョ
真「・・・・・歳です」
ギュオー!!
響「プロデューサー!!前!前!!信号!!赤だぞ赤!!!」
橘「ぐわー!!」
キキーー!!
真「し・・・・死ぬかと思いましたよ・・・・プロデューサー・・・」
響「一瞬沖縄が見えたぞ・・・」
橘「ご・・・ごめん・・・」
真「言っても言わなくてもこうなるんだったら言った損じゃないですか僕・・・」
橘「いや・・あまりの発言に思わずブレーキとアクセルを間違えたんだ・・・」
真「僕もう何も答えませんからね!」
橘「僕もちょっと黙って運転する・・・」
橘(何も喋らないといったがこの空気は耐え難い・・・)
橘(やはり何か喋ってないとおかしくなってしまう)
橘「ひ・・・・響は・・・」
響「え?じ・・・自分か!?」
橘「ど・・・どのくらいの頻度でムダ毛の手入れとかしてるんだ?」
響「っっっ!!!/////」 カァァ!
響「プロデューサー・・・・・」
橘「な・・・何かな響君・・・今あまり余裕のある状態じゃないんだが・・・・」
響「自分そういうの大丈夫なタイプに見えるかもしれないけど・・・・・」
響「う・・・・うわーん!!!変態!変態プロデューサー!!!」
バタバタ
真「響!だめだ!気持ちはわかるけどダメだよ!今ここで暴れたら!僕達本当に死んじゃうよ!」
橘「響!ごめん!でも今は待ってくれ!」
真「落ち着こう響!!ね?ほら僕は(ピー)歳までお父さんと一緒にお風呂入ってたんだよ!!」
真「ほらそれに比べたら全然恥ずかしくないよ!!ね?!」
橘「アイドルが大声でそういうことを口にするな!!」
真「プロデューサーが始めたんでしょうが!!」
響「バカー!プロデューサーのバカー!」
~~~
【雑誌インタビュー場】
インタビュワー「それでは菊地真くんと・・我那覇響さんに質問なんですが・・・」
インタビュワー「だ・・・大丈夫ですか・・お疲れのようですが・・・」
真「ふふ・・・なんでも聞いて下さい・・・なんでも答えられれますよ・・・今の僕なら・・・」
響「ふふ・・・自分はもう何も怖くないぞ・・・」
橘(あとで響にちゃんと聞いておかないとな・・・・しかし車に乘せてと質問をするという手は結構使えるな、うん)
小鳥「仕事、本当に増えましたねー」
橘「ええ、本当にスケジュール用のホワイトボードなんて殆ど真っ黒ですよ」
小鳥「これもあの真ちゃんと響ちゃんのあのインテビューがきっかけですよね、あれすごい反響でしたもん」
橘「いやーまさかのインタビュワーさんが善澤だったとは・・・・」
小鳥「ただの社長のお茶のみ友達じゃなかったですね」
小鳥「それに来週は念願のファーストライブ!」
小鳥「うぅう~!燃えてきたー!」
雪歩「だから真ちゃんの服はこうじゃなくて!!」
美希「真君の服はこっちのほうが絶対似合うの!」
橘「何してんるんだ、二人共」
真「あ、プロデューサー」
真「実は僕のライブの衣装についてで雪歩と美希が喧嘩しちゃって」
美希「ハニー!こっちのが絶対いいの!」
橘「うーんどっちも違うかな・・・」
美希「え?」
橘「確かに真にはそういう王子様やスーツのような服が似合うとは思う」
橘「だが僕の考えは・・・・これだ!」
バン!
雪歩「Yシャツ・・・ですか?」
橘「うん、Yシャツだ、その他には何もいらない、裸にYシャツ一枚でいい」
橘「考えてみてくれ・・・・確かにスーツを着た真が家に帰ってくるのは素晴らしい」
橘「王子様のような格好をして馬に乗り剣を構える真も素晴らしいだろう」
雪歩「はう!」
橘「裸では寒いからと、真は床にあった男物のYシャツを来てベットに潜り込んだ・・・・」
橘「もちろんサイズは大きい、袖の大きさなど合わなくて途中で袖が折れて手が隠れてしまっている・・・」
橘「そして眠気のある目をその袖でこすりつつ真は起きる・・・・そして後ろには朝日が差し込んできている・・・」
美希「ハ・・・ハニー・・・!」
橘「朝日でうっすらと透けるYシャツ・・・・そしてシルエットになる真のボディーライン・・・」
橘「見えそうで見えない・・・・チラリズムをここに極まれりだ、それも実際に見えるチラリズムではなく・・・」
橘「シルエットで作られるチラリズム・・・・」
橘「これが志向なんじゃないか、君たち!」
雪歩「プロデューサー!!!」
美希「さすがミキのハニーなの!!」
小鳥「プロデューサーさん!それいただきます!」
橘「さあ真!ぜひこの服でライブに!!!」
真「あ、ごめんなさい無理です」
響「おはよう皆・・・って何してるんだ・・・そんなに落ち込んで・・・ちょっと怖いぞ」
真「いや気にしなくていいよ・・・」
橘「ああ・・・響、おはよう」
響「お・・・おはようございます・・・・だぞ・・・・この世が終わったみたいな顔してるぞ皆」
橘「いや、年下の魅力的なスポーツ少女の魅力に騙されて現実を見ていなかったんだ」
橘「でも僕達は進むしか無いんだ、この栄光のYシャツロードをな・・・・」
響「そ・・・そうなのか・・・あ・・プロデューサー!この前いってた自分用の新しい挨拶を考えろってやつ」
橘「ああ、あれか、何か考えたか?はいさーいではただの方言だから弱いと思っていたんだが」
響「最近ずっと考えてたんだけどやっぱり思いつかないぞ」
橘「うーん正直僕もまだ思いついてないんだよな、やよいに負けないくらいいい挨拶は・・・うーん」
\スタジオの皆さん、今夜はアフリカの未開の地をご紹介します!/
真「あ、春香がナレーションやってる番組だ、もうそんな時間か」
\こちらのアフリカの部族では変わった挨拶があるんですよ~/
橘「これ」
響「え?」
橘「これいいんじゃないか」
響「いや方言が薄いからってアフリカの人の挨拶はちょっと違うと思うぞ・・・」
橘「こんな感じだったな」
ビシィ!
響「あ、こうやって見るとちょっと格好いいかも」
ビシィ!
橘「案外いいかもしれないな」
響「本当か!よーし自分今度からこれやってみるぞ!」
橘「僕も一緒にやってるよ」
響「頼んだぞ!」
伊織「おはよう」
響「おはよう!」 ビシィ!
橘「おはよう!」 ビシィ!
伊織「何やってるの?ばかじゃないの?」
~
ガチャ
あずさ「おはようございます~・・・って大丈夫ですか皆、この世が数分後に終わるみたいな顔してますけど・・・」
伊織「大丈夫よ」
伊織「さっさと顔を上げなさいよ、今日は皆でファーストライブの打ち合わせするんでしょ」
橘「ああ、そうだったな、ごめん・・・・・」
橘(この敗北感・・・・美也に僕のお宝本の位置をバラされた時並だ・・・)
橘「もちろん各自のソロもある」
千早「はい!」
橘「会場は数ヶ月前に皆で行ったあの会場だ、ついに僕達はここまで来たんだ」
橘「皆がこれまで積み上げてきたものをぶつければそれで素晴らしいライブになるはずだ」
橘「だから今更何をしろだとか本番はこうしろだとか言うつもりはない」
橘「皆頑張ってくれ、それだけだ!」
一同「はい!」
橘「春香、いつもの掛け声頼む」
春香「はい!」
春香「いくよー!ナムコプロー!ファイトー!」
一同「おー!!」
社長「ついにここまで来たか・・・・」
橘「はい」
社長「約1年前、君にティンときた、あの間隔は間違って無かったということになるかな」
橘「どうでしょうね、僕もまだわかりません」
社長「いや・・・君は彼女たちをここまで押し上げてくれた、彼女たちの夢を叶える手伝いをしてくれた」
社長「それだけでも十分だ」
橘「辞めてくださいよ、そういう話は全部終わった後、老後にでもゆっくり話しましょう」
社長「私のほうが歳だよ、橘くん年寄りの自慢話は聞いておくものだ」
橘「やめてくださいよ」
ガチャ
おはようございまーす
橘「おはよう皆、今日はがんばろう」
はい!
橘「よし皆、そろそろ本番だ、準備を頼む」
響「うーちょっと緊張してるぞ・・・」
橘「どうしたんだ響、あ、もしかしてムダ毛の処理してなくて恥ずかしいとかか!」
響「な!!そんなことあるわけ無いだろ!自分完璧だからな!プロデューサー!見ててよね!」
橘「ああ、見てるよ」
あずさ「プロデューサーさん」
橘「どうしたんですか、あずささん」
あずさ「私、前にプロデューサーさんが撮ってくれた写真で自信がついたんです、ありがとうございます」
橘「あれは殆ど俺の趣味ですよ」
あずさ「それでもいいんですよ、いってきます」
橘「行ってらっしゃい」
橘「ん?どうした」
千早「あの時・・・大事なのは心って言ってくれましたよね、それで私だいぶ楽になれたんです」
千早「なんでも歌につながってるって気づくことが出来たから・・・」
橘「ありがとう、千早」
千早「でも!あの変態行為は歌になんかつながりませんから!」
橘「なんにでもつながってるんじゃなかったのか?」
千早「あれで繋がれるのはプロデューサーとの心ですよ!」 コソッ
橘「え?ごめん聞こえなかった」
千早「ふふっ!なんでもありません、行ってきます」
橘「ああ、歌ってこい」
橘「うわ!いきなり抱きつくなって」
真美「真美達も歌って踊るからしっかりみててよね→!」
亜美「美也ねーちゃんも見に来てるんだよね?」
橘「ああ、一番前の席を用意してあげたからな、ステージからも見えると思うぞ」
亜美「りょーかい!」
真美「では真美達もいってきます→!」
橘「ステージではしゃぎ過ぎるなよー!」
橘「雪歩、今日は男のお客さんばっかりだぞ、大丈夫か?」
雪歩「は・・はい・・大丈夫です、プロデューサーさんが肩車してくれたから・・・」
雪歩「まだ男の人が得意じゃないですけど・・・・」
雪歩「でも歌えます・・・・」
橘「そういって貰えれば萩原純一、一生の誉れでございます姫さま、どうぞ今日はお気をつけて」
雪歩「はい!行ってきます!」
やよい「ほんとですか!でも・・・私今日下に水着きてるんですよ!」
橘「なんだって!」
やよい「へへープロデューサーとこれならプロデューサーと一緒にステージ立てますもんね」
橘「無茶するなよ・・でも衆人環視の中スク水でステージって興奮するかも」
やよい「いってきまーす」
貴音「プロデューサー・・・・今日のらいぶが終わったららぁめんに連れてって頂けますか」
橘「ああ、今度は目隠し忘れないからな」
貴音「ふふ・・・まことに夢多き人です・・・いってまいります」
橘「伊織!いきなり後ろに立つなよびっくりするだろ」
伊織「・・・・ビンタ」
橘「え?」
伊織「ビンタさせなさい!」
バシン!!
橘「痛い・・・」
伊織「ふん!行ってくるわ」
~
橘「ふふふ・・・そしてそこに隠れてる【ピー】歳までお風呂に入ってた真の王子様はどうしたのかな」
真「う・・・気づいてたんですか」
真「と・・・とにかくあの事は誰にも話さないでくださいよ!誰かに話したら僕、恥ずかしくて死んじゃいますから」
橘「ああ、二人だけの秘密だ」
真「へへ!じゃあ行ってきますね」
橘「うん、それと美希」
美希「ん?」
橘「前に言ってくれた約束忘れてない、今はまだ答えは出せないけどその時になったら必ず答える」
美希「は・・う・・・じゃ・・じゃあミキは行ってくるの」
~
橘「最後は春香か」
春香「プロデューサーさん今までありがとうございます」
春香「それだけです!行ってきます」
橘「転ぶなよーステージの上じゃ俺が治療してあげられないんだからなー」
春香「分かってますよ!」
橘「あれ?律子先輩なにしてるんですか」
律子「え?」
橘「先輩の衣装もちゃんと用意してあるんですよ、ほらあそこに」
律子「え?何勝手に!」
橘「プチピーマンもライブに呼んじゃったんですよね~」
律子「な!」
橘「ほーらあそこの最前列で緑のサイリウム振ってるのは誰かな~」
律子「わ・・・わかったわよ!行ってくればいいんでしょ!」
律子「一体いつサイズ測ったのよ・・・」
橘「全部目分量ですけど完璧なはずですよ」
律子「ほんとに貴方って人は・・・」
律子「行ってきます」
\いえーい!!!/
春香「でもその前に」
亜美「ふっふっふ~今日のサプライズゲスト~」
真美「我が765プロの鬼軍曹こと秋月律子でーっす!」
梅原「・・・・・・ほんとに出してくれたよ大将のやつ・・・」
テクテク
律子「こ・・・こんにちわ・・・・」
真美「あれあれ~緊張してるのかな~」
律子「うるさいわね!」
梅原「大将・・・・大将・・・ありがとよ・・・」
春香「全員揃ったところで!それでは私たちの新曲です、聞いて下さい!」
『私たちはずっと...でしょう?』
http://www.youtube.com/watch?v=L4HwKEQTOOQ
さすがに僕一人じゃ全員見きれなくなってきた・・・・社長はさらにアイドル増やしたいて言ってたし・・・
親戚の赤羽根さんにでも頼んで手伝ってもらおうかな・・・・・)
おわり
社長「きみきみ!そこの君だよ!」
???「ふえ?私ですか?」
社長「うむティンと来た、うちの事務所でアイドルやってみないか」
社長「怪しい者じゃない、こういうものだ」
???「765プロ・・・・ここって・・・・・」
社長「どうだね?君ならトップアイドルも夢じゃない」
???「やってみたいです・・・・でも出来たらプロデューサーは指名したいんですけど・・・」
社長「うちのプロデューサーは一人しかいないから指名も何もないぞ・・・名前はだな・・・」
???「知ってます・・・・橘純一、私の初恋の人だもん」
to be continued......
前に書いたのはアムロPってやつなんですが、あっちは書き溜めがある状態で始めたんですが
こっちは無かったので細かい修正点とかたくさんあるものになってしまいました、すみません
また何か思いついたら書きたいと思ってます、では
橘さんはプロデューサーが天職だったんだな
Entry ⇒ 2012.03.18 | Category ⇒ アマガミSS | Comments (0) | Trackbacks (0)