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玄「彼女居ない歴0年です!」
玄「彼女居ない歴0年です!」
穏乃「うん、知ってるけど」
憧「冬にその格好は無いでしょ」
穏乃「え?ちゃんと防寒してるよ」
穏乃「手袋もマフラーもしてるし」
憧「それの前にもっと重要なところ防寒しようよ!」
憧「足とか見てて超寒い!」
穏乃「でも着込むと動き辛くなるし……」
玄「霜焼けとかしちゃうよ?」
穏乃「私そういうのは平気だから大丈夫!」
憧「信じられない……でもよく考えたら小学生からそうだった……」
穏乃「あ、12月といえば玄さん!」
玄「なに?」
穏乃「クリスマスイブの日って暇ですか?」
憧「麻雀クラブの子達とクリスマスパーティーする事になったんだよね」
穏乃「私と憧がサンタとトナカイやるんだー!」
憧「もう皆サンタとか信じてる年じゃないけど盛り上がりそうだし」
玄「多分大丈夫だと思うよ」
穏乃「やったー!」
憧「でも本当に良いの?」
玄「なにが?」
憧「だって折角のクリスマスイブだよ?」
憧「千里山の人と一緒に過ごさないの?」
穏乃「あ、そっか」
玄「……どうかな」
憧「え?予定とか話し合ってるでしょ?」
玄「ううん」
憧「何で!?」
玄「何でって言われても……話題に出なかったし」
玄「してないよ。普通に仲良しだもん」
憧「じゃあ誘ってみれば?」
玄「でももう予定入ってるかもだし……」
穏乃「とりあえず聞いて玉砕とか」
憧「玉砕したらダメでしょ……」
憧「でもしずの言うことにも一理ある」
憧「クリスマス会はダメだったらで良いし、一度聞いてみなよ」
穏乃「クリスマス会は朝から晩までやってるから、いつ来ても大丈夫!」
玄「うん……」
玄(あれからもう3ヶ月経ってるんだよね)
玄(一応名目上で恋人になってもらってるけど……)
玄(毎日メールや電話してるしお休みの日も時々一緒に遊びに行ったりもする)
玄(これ、普通に仲の良いお友達って感じだよね)ムムム
玄(本当の意味での恋人だったら躊躇無く誘えたりするんだけどなあ……)
玄(あの時は何も考えてなかったけど、考えると凄い微妙な関係だよ)
玄「文面どうしよう……?」
玄「普通に24日あいてますか?とかでいいかな」カチカチ
玄「送信っと。ふう……」
玄「断られたら断られたらですごいショックだよ!」
ブブブ……ブブブ……
玄「あ、メールきたかな……って電話?!」
ピッ
竜華『もしもし玄ちゃん?』
竜華『突然電話してもうてごめんなー』
玄「いえっ、全然大丈夫ですっ」
竜華『クリスマスの事なんやけどな?玄ちゃんその日開いてるん?』
玄「一応聞いてから埋めようかなって思ってたんですけど……」
竜華『午前中はちょっと用事あるから無理なんやけど』
竜華『午後からは予定入れてへんから、玄ちゃんがええなら一緒に過ごそー』
玄「え、良いんですか?」
竜華『どこ行くとかまだ決めてへんやろ?それちょっと話そうかー』
玄「はい!」
……
ピッ
玄「……ビックリ」
玄「OK貰っちゃった!」バタバタ
玄「午前中はクリスマス会に参加できるし!」
玄「クリスマスを2人で過ごすって如何にも恋人ってかんじ!」
玄「……まあ実際は違うんだけど」ハァ…
玄「ってことで午前中なら行けることになったよ」
憧「そう?良かったー……」
穏乃「みんな玄さん来れないかもって聞いたときのテンションの下がりっぷり凄かったよね」
憧「ほんとほんと」
玄「あはは、ちょっと嬉しいかも」
穏乃「玄さんの分のトナカイもあるから安心して下さいね!」
玄「え……私もやるの?」
穏乃「大丈夫大丈夫。玄さんにもきっと似合うから!」
玄「私もサンタさんが良かったなー」
憧「あー、ほら。玄の名前的に黒いサンタって不吉だから」
穏乃「え、そうなの?」
憧「そうそう。あくまで迷信だけど」
玄「うーん、残念かも」
憧「メリークリスマース!」
ギバ子「サンタさんだあああああ」
綾「もうそういう歳でも無いけどね」
穏乃「ケーキ開けようケーキ!」
憧「まだ始まったばっかだから!」ビシッ
晴絵「いやー、懐かしいなこの面子」ハハハ
灼「何で私まで……」
晴絵「あれ、麻雀部といえば宥の姿は見えないけど?」
灼「そういえば」
玄「あ、お姉ちゃんなら朝から居ないんです」
晴絵「何?……あいつ抜け駆けでもしたのか」
憧「もしかして白糸台の人と?」ヒソヒソ
玄「うん、多分 」ヒソヒソ
ひな「まだ私たちには早いお話の様子ー」
穏乃「ケーキ食べたいケーキ!」
ギバ子「ケーキ!」
憧「その前にプレゼント交換します!」
晴絵「ふっふっふ、私のが当たった奴は当たりだぞー?」
灼「社会人なのに学生よりしょぼいプレゼントは無いと思……」
ワイワイ オカネノカカッテルヤツガイイナー アカドサンノキニナルー
穏乃「私のは何かなー?」ワクワク
晴絵「お、玄のやつが私のじゃないか」
憧「晴絵のプレゼントって何よ」
玄「これ……本ですか?」ガサゴソ
晴絵「ふふふ、開けてみ?」
玄「えーっと……麻雀入門?」
晴絵「値段張ったんだぞー?」
晴絵「いやー、チビッ子どもにあげるつもりだったんだけどさ」
綾「え、そんなのもういらないよー!」
灼「微妙……」
穏乃「部室に常備すればいつか使えるかも!」
晴絵「あ、あれ?そんな微妙だったかな……」ションボリ
玄「あれ灼ちゃん?」
灼「特に思いつかなかったから」
ギバ子「やったあああああ」
ひな「私もボーリングしたい所存ー」
憧「お小遣いの少ない小学生にはお宝か」
晴絵(素直に図書券とかにしとくんだった…… )
玄「あ、それ私のプレゼントだよ」
憧「え、しず当たりじゃん」
晴絵「玄の手作りか?」
玄「はい。一応みんなの分も持ってきたのでプレゼントの意味無くなっちゃうけど……」
ギバ子「憧ちゃんのはー?」
憧「ふっふっふ」
憧「今からサンタさんのプレゼント争奪麻雀をします!」
玄「あ、だから交換に加わって無かったんだ」
穏乃「うおおおおお」
灼「結局麻雀なんだ」
憧「晴絵みたいに微妙なやつじゃないから安心してね」
晴絵「言ってくれるな」
灼「でも麻雀だと私達有利すぎだとおも……」
晴絵「ふふ、どーれ。久しぶりに本気出しちゃおうかなー?」
灼「大人げな……」
ギバ子「憧ちゃんのプレゼントだああああ」
……
穏乃「ロン!6400!」
晴絵「ぐああああ!」
憧「ねえ玄」ヒソヒソ
憧「もう行かなくて良いの?時間じゃない?」
玄「あ、もうそんな時間なの?あっという間だったよ」
憧「適当に言っといてあげるから行きなよ」
玄「ごめんね憧ちゃん。ところでプレゼントって結局何だったの?」
憧「あー、夢の国のペアチケットだよ」
玄「そんな高いやつ大丈夫だったの?」
憧「お姉ちゃんから貰ったやつだから平気平気」
玄「打算って?」
憧「小学生組がペアチケットなんて貰っても微妙でしょ?ていうか縛りしてたって多分私達の誰かが勝つし」
玄「憧ちゃん何だかせこいよ……」
憧「賢いって言って。ま、私が勝ったら玄にあげるから行ってきなよ」
玄「え、悪いよ」
憧「何なら宥姉のほうにあげてもいいし。ほら、時間だよ」
玄「う、うん」
玄(映画とかならまだしも、夢の国なんてハードル高いよー……)トボトボ
……
玄(約束の20分も前に来ちゃった……)
玄(いや、でもこれは電車とかが止まったりするかもしれないことを見越して来ただけであって)
玄(というか憧ちゃんが急かしたのもあるしっ)
玄(楽しみすぎて早く来たとかそういうことではないのです!)ウン!
ピトッ
玄「わひゃ!?」
竜華「だーれだー?」
竜華「あったりー」
竜華「早く来すぎたなあとか思ってたんやけど、玄ちゃんが居たからビックリしたわ」
玄「あ、え、えっと、これは電車の遅延とかを見越して来たらですね……」アタフタ
竜華「あー、今日雪降るとか言うてたしな」
玄「そう、そうなのです!」
竜華「何や、私と同じかなー思ってたのに。残念」
玄「へ?」
玄「!」
玄「あ、あの、私も、」
竜華「まあでも予定より早く会えたってことで結果オーライやんな」
竜華「早いけど、もう行こか?」
玄「はい……」
玄(私のバカ……素直に楽しみだったって言っておけば良かったのに……)ションボリ
竜華「さて、映画館に来たわけやけど」
玄「なに見るか決めてませんでしたね」
玄(今話題の恋愛小説ものとー、長編ファンタジーの一作目)
玄(あとなんか口コミで有名になったホラーに、女の子向けアニメのやつか……)
玄「何か見たいものとかあります?」
竜華「特に決めてきてないからなあ。今やってる映画も把握しとらんかったし」
竜華「玄ちゃん決めてええよ」
玄「じゃあえーっと」
>>60
玄「このホラーとかどうですか?」
竜華「玄ちゃんホラー好きなタイプなん?」
竜華「うちも怖いもの見たさでよく見るんよ」
玄「そうなんですか?」
玄(実はあまり好きじゃないんだけど……)
玄(所詮作り物だし……うん大丈夫大丈夫)
玄「口コミで有名になったらしいので、みんなそれで来たのかも」
竜華「クリスマスにホラー見るとか物好きやんなー」ハハハ
玄「それ、私達もですよ」
玄(大丈夫大丈夫)
……
「○○が行方不明?」
「どうしよう……絶対あれの仕業だよ!」
玄(始まったばかりなのに……)
玄(ううう……既に怖いよぅ……)ビクビク
ドタン!バタン! キャーーー!
「何今の悲鳴……」
「もうこんなところ居られない!私もう帰るから!」
「あ、今行ったら……!」
玄(やっ、やっぱり違うやつにしとけば良かったよーーー)ギューッ
玄(竜華さんは……?)チラッ
竜華「」ジーッ
玄(映画に見入ってる……)
玄(も、もう目を開けられない……)
「誰か、誰か居ないの!?」
「扉が開かない!!」
「ね、ねえ……あんたの肩……」
ピトッ
玄(わひゃあっ!?)ビクゥッ!!
竜華「うわっ」
玄(あ、い、今の手竜華さんのか……)
竜華「玄ちゃん大丈夫?」ヒソヒソ
玄(竜華さんはずっと見てたし、途中で出るのも悪いよね……)
玄「まだ大丈夫です……」ビクビク
竜華「そんならええけど……」ヒソヒソ
竜華「あ、じゃあ手繋ご」ギュッ
玄「え?」
竜華「実を言うと私もかなり怖いねん」アハハ
玄(……多分嘘だよね……)
玄(でもこれならまだ大丈夫かも……)
ザワザワ チョーコワカッタネー
竜華「めっちゃ怖かったなあ」
玄「今日の夜、私寝れないかも……」
竜華「最近はホラー系でハッピーエンドって見いひんもんな。今回のもそうやし」
竜華「あれきっと続編出るで」
玄「怖かったけど、続きは気になりますね」
竜華「そしたらまた一緒に見に行こか?」
玄「うっ」
玄「今度は違うやつ見ましょう!」ウン!
玄「どうしたんですか?」
竜華「いや、あれ玄ちゃんのお姉ちゃんやない?」
玄「え?あ、ほんとだ……」
竜華「また奇遇やんな?あの子らも映画見るんかな」
玄「そりゃここに居るんですし……」
竜華「どうする?話しかける?」
玄「うーん……」
>>75
竜華「そうする?おーい」
菫「!」ビクッ
宥「あ、玄ちゃん……」
玄「お姉ちゃん達も映画だよね?」
宥「うん……」
菫「」ダラダラ
竜華「?」
宥「えっとね……」
菫「ゆ、宥!もう時間だぞ!」
宥「え?あ、ほんとだ人入ってる……」ワタワタ
宥「ごめんね玄ちゃん」
玄「ううん楽しんでね」
玄「……結局何見るんだろう?」
竜華「それなら入り口の前に書いてあるんやない?」テクテク
玄「イメージ的にファンタジーのあれじゃないですか?」
竜華「あー、弘世さんに恋愛もののイメージ無いからなあ」
竜華「あ、でもギャップでそうやったらおもろくない?」
玄「それもそうですね。それにお姉ちゃん、恋愛系割とよく見るし」
竜華「2人が入ったんはあそこか。えーっと」
竜華「……プリキュア?」
玄(物凄いギャップだーーー!)
竜華「きっと小学生くらいから見とったんやな」
玄「そうですよね多分」
玄(最近お姉ちゃんが日曜日に早起きするなーと思ってたら……)
玄(これ見てたのかな?菫さん、お姉ちゃんに付き合って見てあげてるんだ。凄い)
竜華「意外なもん見たわあ……」
玄「大分外暗くなっちゃってますね……」
竜華「あの映画結構長かったしな」
玄「それに日が暮れるのも早くなったし……」
竜華「春が待ち遠しいなあ」
竜華「玄ちゃん、この後どっか行きたいとかある?」
玄「いえ、特にないですけど……」
竜華「そんなら、ちょう行きたいところあんねん」
玄「あ、それ雑誌で見たかも」
竜華「見に行かへん?ずっと見に行きたかったんやけど」
竜華「1人で見に行くのってめっちゃ寂しいやん?」
玄「私も見たいです!」
竜華「良かったー……。大分歩くけど平気?」
玄「田舎で歩きなれてるので!」
玄「……くしゅっ」
竜華「大丈夫?ちょう曇ってきたからなあ」
竜華「風邪引かんように温かくせんと……」
玄「大丈夫ですよ、私健康がとりえなので!」
竜華「そうは言うてもな……ほら」ギュッ
玄「あ……」
竜華「手、めっちゃ冷たいやん」
玄「竜華さんも大して変わらないですよ?」
玄「そこのコンビニでホッカイロとか買います?」
竜華「うーんそれもええけどな」
竜華「手ぇ繋いだら温かいで?」
玄「……どっちも冷たいですよ」
竜華「人肌が一番なんやで?ほら、行こ」テクテク
玄(でも何だか温かいかも)
玄(そういえば、誰かと手を繋いで歩くなんて最後にしたのいつだったかな……)テクテク
竜華「人めっちゃおるなー!さすが有名スポット!」
玄「ごった返してますねー」
竜華「こんだけ人おったらムードも何も無いやんなー?」アハハ
玄(……でも人は確かに多いけど)
玄(みんなカップルだよね……2人で行動してる人が殆どだし)
玄(うう、気持ち的に何か場違い感が……)
玄(表面上だけで、実際は違うし……)ションボリ
竜華「人混みとかあかんかったかな?」
玄「あ、いえ、そういうんじゃなくて」
玄「ちょっと場違い感がですね……」
竜華「場違い……ああ」
竜華「でも平気やろ?うちらも端から見たらカップルみたいなもんやで?」
竜華「手ぇ繋いどるし」
玄(端から見たら、ってだけだもん……)ションボリ
竜華「それ言われると何も言えへんなるわ」
玄「……ほんとにごめんなさい」
竜華「何?」
玄「何か私のつまらない意地に付き合わせちゃって……」
竜華「別に気にしとらんで」
竜華「いや、むしろ嬉しかったかも」
竜華「きっかけはまあ、ちょっと変わってるけどそれでも仲良うなれたわけやし」
玄「……確かにそうですね」
竜華「弘世さんとか、色々面白いもんも見れたしなあ」
竜華「もしかして玄ちゃんと結婚したら弘世さんをお義姉さん呼ばなあかん感じやんな?」
玄「!」
竜華「何かあの人怖いイメージあるから、そうなったら大変やろうなー」
竜華「実際は違うんやろうけど、大体の人は怯んでまうで?」
玄「う……確かにお姉ちゃんはどうやって仲良くなったんだろう」
竜華「世の中不思議な巡り合わせがあるもんなんやなあ」
竜華「あ、ほらイルミネーション見えてきたで」
竜華「綺麗やけど何か電気代気にしてまうな?」
玄「……確かに電気代凄そうですけど…」
竜華「まあそんなん気にしても何にもならんしな?」
竜華「素直にこれ堪能しよ」
玄(もしかしてお姉ちゃん達も映画見たら行くのかな?)
玄「お姉ちゃんとか喜びそう……」
竜華「あ、そういえば寒がりなんやっけ」
玄「はい。いつもは完全防備で……」
玄(……そういえば完全防備じゃなかったよね)
玄(……確かにデートでマスクとメガネは嫌だけど、大丈夫なのかな?)
竜華「玄ちゃん、こっちこっち」グイグイ
玄「え?でもそっち道から外れて……」
竜華「ええからええから」
竜華「もうちょい奥行くと全体が見渡せるんやってー」
玄「そうなんですか」
竜華「もうすぐ着くでー」
……
竜華「おお、確かによう見えるわ」
玄「ほんとだ!」
玄(穴場なだけあって人少ない……急に静かになっちゃった)
玄(それに完全にカップルだけしか居ない……)
玄「そうですね。人混みって案外体力を使いますし……」
竜華「私もそこまで人混み得意なわけやないから」
竜華「ここで休憩できたらなって計算もあったん。綺麗やし」
竜華「まあそれだけやないんやけど」
玄「他にも何かあったんですか?」
玄「それってここからのほうが綺麗とかじゃなくて?」
竜華「元々ここにはここらで有名なジンクスみたいなのがあるって聞いてん」
竜華「あとは願掛けみたいなのも兼ねてかな」
玄「どんなジンクスがあるんですか?」
竜華「ん、まあそれはおいおいな。ジンクスが成立するか分からんし」ボソッ
玄「??」
玄(何だかここに居ると目のやり場に困るような……)
玄(な、何も無いのに緊張してきた)ドキドキ
竜華「……きっかけはどうであれ、仲良うなれて嬉しいって言うたやん?」
玄「え、あ、はい!」
竜華「まだ短いけど玄ちゃんと一緒におると楽しいねん」
玄「それは私も……です」
玄「私もしてますよ?」
竜華「休みの日に遊びに行くんも楽しいしな?」
玄「私も楽しいです」
竜華「まあ、うん、それでそれは玄ちゃんやからやとうちは思うねん」
玄「私も竜華さんだからこんなに楽しいんだと思ってますし」
竜華「……」
玄「……??」
竜華「回りくどいんは駄目やな私」ハハ
竜華「ちゃんと言葉考えてたんやけど、頭真っ白になってもうた」
玄(……ひょっとして、ひょっとする?)ドキドキ
竜華「玄ちゃん」
玄「は、はいっ」
竜華「好きです。付き合って下さい」ペコッ
玄「え、えっと、その、」アワアワ
竜華「今までの名目だけの恋人やなくて、本当の恋人になりたい」
竜華「まだ仲良くなって3ヶ月くらいやし、いきなり好きとか言われても信用できへんかもしれんけどっ」
玄(も、もしかして竜華さんテンパってる?)ワタワタ
竜華「時間とかはこれから埋めていけると思うし、」
玄「……竜華さん」
竜華「いや、これ私が勝手に勘違いしとるだけで玄ちゃんにとっては迷惑やったかもやけどっ!」
玄「竜華さん!」
竜華「」ビクッ
竜華「……うん」
竜華「……それで、返事教えてくれると嬉しい」
竜華「駄目やったら恨むとかそんなん全然無いから、正直に答えて欲しいと思ってる」
玄「竜華さん本当は迷惑だとか思ってないのかなって」
竜華「そんなことないって!」
玄「それで、最初は皆に嘘を通せたことでホッとしてたんですけど」
玄「段々寂しくなってってる自分も居て」
玄「何でなのかなって最初不思議だったんですけど、私、」
玄「……私も竜華さんのこと、好きです」
竜華「……玄ちゃん」
玄「はい、本当に」
竜華「……」ポロポロ
玄「え!?ど、どうして泣いちゃうんですか?」
竜華「あ、これ嬉し泣きやから心配せんとって……」
竜華「ほんまはめっちゃ不安やってん……映画とか見てる時からずっと……」
竜華「人に告白なんてしたこと無いし、断られたらほんまどうしたらええんか分からなくて……」
玄(竜華さんもこうやって泣くんだ……)
玄(……最初に告白するほうが怖いんだもん。当たり前だよね)
玄「私も……ってのはおかしいですね」
玄「えっと……よろしくお願いします」ペコッ
竜華「うん。大事にする……って言い方もおかしいなあ」
玄「……それで一つ聞きたいことがあるんですけど」
竜華「ん?」
玄「ここのジンクスって何ですか?」
竜華「凄いありがちなもんやで?特別なこととか何も無いし」
玄「聞きたいです」
竜華「……ここに来たカップルはずっと一緒で居られるとかそんなん」
玄「そういうジンクス、自分にはずっと無縁なものだと思ってたんですけど」
玄「……何か凄い嬉しいです」
竜華「……うん、そやな。最高のクリスマスプレゼントになったわ」
玄「……ん?」
玄(プレゼント……?)
玄(あーーーー!)
玄(クリスマス会の時に置いてきちゃった!)アワワワ
竜華「玄ちゃん?」
玄「……ごめんなさい竜華さん 」
竜華「……え」
竜華「……それはやっぱりキャンセルとかそういう……」
玄「そういう事じゃなくてですね、プレゼント持ってくるの忘れました……」
竜華「あ、なんや、そんな事か」
竜華「今日、午前中まるまる使おうて探したんやけど見つからんくて」
竜華「せやから気にせんといて?」
玄「……でも……折角だったのに……」
竜華「ふむ」
竜華「そんなら……うーん」ムムム
玄(何で忘れてきたんだろう私……)
竜華「玄ちゃん、念の為に聞きたいことあるんやけど」
玄「何ですか?」
竜華「ファーストキスはまだやっとらん?」
玄「……したことないですけど」
竜華「ああ、そんなら良かった」
玄(……え、もしかして……)
玄「そ、それだと竜華さんはファーストキスじゃないみたいですよ」
竜華「いや、ファーストキスやで?玄ちゃんにとってのプレゼントになるか分からんし」
玄「プレゼントですよ!嬉しいです!」
竜華「そんならええ?」スッ
玄「……で、でも人目があるし」
竜華「元々ここそういう所やし。皆目の前の子ぉに夢中で周りなんか見てないで」
玄「う……」
竜華「玄ちゃん」
玄(どどどどうしよう、緊張して心臓が)バクバク
玄「わ、私も……」ドキドキドキ
竜華「そのうち慣れるとええなあ」
玄「はいっ」
竜華「目ぇ、瞑って?」
チュッ
玄「」
竜華「玄ちゃん」
玄「」ドキドキドキ
竜華「玄ちゃん、もう終わったで」
竜華「せやからキス終わったって」
竜華「でも私も冬なのにめっちゃ体火照っとるわ」フーッ
玄「私も汗かいてます……」
玄(何だか今凄い幸せかも)
玄(何だかんだいって、これは皆のおかげなのかな?)
玄「竜華さん」
竜華「うん?」
玄「これからも恋人としてよろしくお願いします!」
竜華「勿論!」
カン
恋人としてのイチャラブデート編も期待してます
真面目な竜華と玄の恋愛を書いてみたかったんだ
あとこれは宣伝になってしまうが、密かにこのSSの続きとして近いうちに渋のほうに小説上げると思う
乙!
Entry ⇒ 2012.11.19 | Category ⇒ 咲-Saki-SS | Comments (0) | Trackbacks (0)
智葉「……ついてくんな!」照「……」
智葉「……ついてくんな!」照「……」
智葉「……はぁ」
智葉(一人になりたい気分だったとはいえ、ちょっと遠くに来過ぎたか)
智葉(……)
智葉(明日で全ての決着が着く)
智葉(清澄、阿知賀……そして、忌まわしき白糸台!)
智葉(今度こそ、と思いたいが……本当に倒せるのだろうか)
智葉(チーム虎姫、と言ったか。最後まで油断出来ない実に恐ろしい相手だ)
智葉(チーム全員が高いポテンシャルを秘めている、特に今年大将に選抜された一年が不気味だ……)
智葉(……それに、何よりも……)
智葉(あの宮永照と……彼女とまた激突する)
智葉(……今度こそ、勝てるのだろうか……?)
智葉(今の私は、彼女に本当に届いているのか……?)
智葉(……分からない)
智葉(ちょっと考え過ぎだな、私らしくもない)
智葉(頼れるチームメイト達もいるんだ、何も恐れることは無い)
智葉(……とにかく、勝負は明日だ。今弱気になっても仕方ない)
智葉(今度こそ、必ず……潰す)
智葉「……」
智葉「こんなところにいてもしょうがないし、もう少し風に当たったら帰って休むか」
智葉「しかし会場はあれだけ盛り上がっているのにこちらはまた随分と静かなもんだな」
智葉「まぁ、当然か……一人になりたくてここまで歩いてきた訳だし」
智葉「こういう東京の良さも全国から来てる奴らに少しは分かって欲しいものだ」ブツブツ
智葉「……」
智葉「ってホント、勝手にぶつくさ何言ってるんだか」
智葉「あっつ、いい加減かえろ」
智葉「ん?」
智葉「……あれは?」
照「……」
智葉(あれは……あいつは……間違いなく)
智葉(……宮永照!)
智葉(……?)
智葉(って、こんなところでなにやってるんだ、あいつ)
智葉(……なんか、悩んでる……のか?あれは)
智葉(うーん)
智葉(……声をかけた方がいいのか?)
智葉(……)
智葉(いや、やめておこう……あいつとは敵同士だし、ここで馴れ合うことはないしな)
智葉(……どうせ、大した用事でも無いんだろ)
智葉(ほっとくか)
智葉「……ん?」
智葉(お、おい……そっちは工事中だぞ)
智葉(突っ込んだら危ないが、声をかけるべきか……?)
智葉(……)
智葉(い、いや……あいつ私と同い年のはずだし)
智葉(流石にそこまで心配するのは高3を舐め過ぎだろう……だ、大丈夫だよな……)
智葉(だ、大丈夫……だよ、な……)
照「……」トットットッ
智葉(大丈夫……)
照「……」タッタッタッ
智葉「……」
この先、通行止め
照「……」
照「……えい」
智葉「……いやえいじゃねーよお前!そっち通れないから!」
照「……あなた、誰?」
智葉(……どうしてこうなったのだろうか)
智葉「……はぁ」
智葉「……辻垣内智葉、アンタに個人戦でボコボコにされた三位だよ」
照「……?」
照「……嘘」
智葉「いやなんでだよ」
照「私の知ってる去年の三位は眼鏡をしてたし髪も結わいていたと思う」
智葉「……」
智葉(ああそうか、こいつと卓以外で顔を合わせるのは初めてだったな……どうでもいいけど)
智葉「……普段は眼鏡もかけてないし、髪も結んでないだけ」
照「……そうなんだ」
照「……」
智葉(き、気まずいな……)
智葉「……と、とにかくそっちにはいけないから」
照「……!」
照「どうやらそうみたい」
智葉(今気づいたのか……)
智葉「……」
智葉「それじゃあ私はこれで」
照「……」コクン
トットッ
智葉「…………」
トットットッ
智葉「………………」
トットットットッ
智葉「……………………おい」
照「……何?」
智葉「なんでお前が私の後をついてきてるんだよ」
照「……?」カクン
智葉「何故首を傾げる」
智葉「どうした」
照「……率直に言うと」
智葉「うん?」
照「……道に迷った」
智葉「……は?」
照「……」
照「だから、道に迷った」
智葉「いや、二度言わなくていいから」
照「……」
智葉「どこから突っ込んだらいいんだ……」
照「私に聞かないで、これでも皆とはぐれてから二時間は歩いてるんだから」
智葉「……それはご苦労なことで」
照「うん」
智葉「……」
照「……」
智葉「で、私にどうしろと?」
照「ついていけば帰れるかなと、後喉が渇きました」
智葉「……私とお前は帰る場所が違うんだからついていっても無駄だぞ、そして後とか付け足して当然のように催促するのやめろ」
照「うう」
智葉「……お前、大体見たところ手ぶらのようだが財布とか持ってないのか?」
照「それが、忘れてしまって」
智葉「はぁ、ちゃんと持ち歩いておけよ……」
照「ほら、身につけてて落とすと大変だから」
智葉「そこはもう前提なんだな、というかさっき忘れたって言ってなかったか」
照「……」
照「とにかく、それで困っている」
智葉「……」
智葉「お前本当に私と同い年か?色々と呆れて物も言えないぞ……」
照「馬鹿にしないで、これでも学校の成績は悪くない方」
智葉「良いとは言わないのかよ、しかもこれでもって言うあたり自覚はあるんだな……」
照「自分のことはよく分かってるつもり」
智葉「……」
智葉「……はあぁぁぁぁ……」
智葉「……とにかく、お前の帰る場所なんて私は知らないしわざわざ飲み物を奢ってやる義理も無い」
智葉「悪いが付き合えそうもない、自分でどうにかしろ。じゃあな」
トットットッ
……トットットッ
智葉「……ついてくんな!」
照「……」
智葉(……)
智葉(……う、うーん)
智葉(無理やり振り切ってしまったが、宮永照は本当に大丈夫なのだろうか?)
智葉(……)
智葉(って何私はさっきから同じことばかり考えてるんだ!あんな奴のことどうでもいいだろ)
智葉(あいつにやられた時の屈辱を思い出せ、あいつに手を貸す必要は無い)
智葉(そもそも迷ったのだって財布を持ってきてないのだって自業自得だし)
智葉(ほっとけ)
智葉(……)
智葉(…………う)
智葉(な、なんだこの心のざわめきは……何故こんなに良心が痛む……)
ジリジリ
智葉(……)
智葉(暑い、な……)
智葉(あいつ、そういえば喉渇いたとか言ってたな……)
智葉(今年も脱水症状で倒れる人は多いって聞くし……)
智葉(……大丈夫、かな……)
智葉(……)
智葉(……ほんと、なんで私があいつの心配なんてしなきゃいけないんだよ……)
智葉(……でも気になるものは気になるし……)
智葉(……そうか!)
智葉(もしあいつがどこかで倒れたりして後で私の名前なんか出されたらこっちが困るしな)
智葉(……別にあいつのことなんてどうでもいい、あくまでこれは自分の為だ自分の為)
智葉(……)
智葉(そうと決まったら、早速様子を見に探しに行った方が良さそうだな)
智葉(まだ別れた場所から離れてないといいが……)
智葉「……」キョロキョロ
智葉(見当たらないな……どこに行ったんだ、あいつ)
智葉(あいつ、またどこか変なところに足突っ込んでないだろうか……)
智葉(……考えれば考えるほど心配になってきた)
智葉(うーん……これは不本意だがどこかで引っかかるかもしれないし)
智葉(名前を呼びながら探した方がいいかもしれないな)
智葉(あ、でもあいつのことなんて呼べばいいんだ……?)
智葉(……いや外でそれは恥ずかしいだろう、それに最悪あいつに伝わらないかもしれないし……)
智葉(……)
智葉(……て、てるー……?)
智葉(……いやいやいや!何考えてるんだ!いくらなんでも馴れ馴れしすぎだろ!)カアァァ
智葉「……こほん」
智葉「おーい、宮永……さん?いたら返事をしろー」
智葉「おーい……」
智葉(全然見当たらないな……)
智葉(まさか、もうこのあたりからは離れてしまったのか……?)
智葉(うーん、となるともう少し別の場所を探す必要があるな……)
智葉(あいつがいきそうな場所ねえ……正直卓以外じゃほとんど初対面な訳だし全然検討が付かないな……)
智葉(しょうがないな、片っ端から歩いて回ってみるか)
智葉(……)
智葉(……はぁ、ほんと決勝前日に何やってるんだろ、私……)
照「……う」
智葉(今何か聞こえたような……)
照「……う、うーん……」
智葉(……)
智葉(この声は、間違いなく……!)
智葉(……でもどこにいるんだ?見当たらないが)
智葉「おーい、探したぞー!どこに隠れてる」
照「……こ、ここ……」
智葉(……木の陰……か?)
智葉(……)
智葉(あ、間違いないな……裏から角が見えるし)
智葉「お前こんなところにいたのか、探したぞ」
照「……か、陰に入ってもあんまり涼しくない……」
智葉「そりゃあこの暑さじゃ焼け石に水みたいなもんだろ」
智葉「はぁ……」
智葉「全く、しょうがないな」
智葉「今何か飲み物買ってきてやるからそこで待ってろ」
照「……」
照「スポーツドリンクでお願い……」
智葉「……お前、抜けてる割にそういうところはちゃっかりしてるな」
智葉「ほら、わざわざお前の為に金を出して買ってきてやったぞ」
智葉「お前がお望みのスポドリだ、受け取れ」
照「……!」パアァ
照「ありがとう……」
智葉「……そりゃどういたしまして」
ゴクゴク
照「……あー、生き返る……」
智葉「はぁ、私がこなかったらどうなってたことやら」ヨッコラセ
智葉「せめて自分の事ぐらいしっかりしろよな、全く」
照「う、これからは気をつける……」
智葉「ほんと、倒れられたら困るんだからな」
照「……え?」
智葉「……っ!な、なんでもない!お前を見捨てた私が悪いみたいなことになるのが嫌なだけ!」
智葉「だから、今のは決して心配してたとかそういう意味じゃないからな!」
照「……あの」
智葉「な、何!?」
照「……そんなに慌ててどうしたの?」
智葉「あ、慌ててない!」カアァァ
照「……でも、どうしてあなたが私を?」
智葉「……だからさっきも言ったろ、お前にあの後倒れられたらまるで見捨てた私が悪いみたいになるじゃないか」
智葉「そんなのはごめんだからな……それだけだよ」
照「……」
智葉「……おい、急に黙ってどうした」
照「いや、辻垣内さんって意外と優しい人だなって……」
智葉「だーかーらー!別にそんなんじゃないって言ってるだろうが!」カアァァ
智葉「はあぁぁぁっ~……ほんと、お前といると調子が狂う」
智葉「ほら、もう少し休憩したらいくぞ」
照「行くって……どこに?」
智葉「お前、迷子になって帰れないんだろ……しょうがないから付き合ってやるよ」
智葉「……」
智葉「か、感謝しろよな……」
照「……うん」
照「ありがとう、辻垣内さん」
智葉「……ふ、ふん」プイッ
照「……?」
照「ホテルから離れる途中ではぐれた」
智葉「それじゃあ、取り合えず一度ホテルに戻れば良さそうだな」
智葉「で、そのホテルの場所は?」
照「……」ウーント
照「会場の近く」
智葉「いやその表現はちょっとアバウト過ぎだろ、もうちょっと何か無いのか?」
照「……辺境の地のことはちょっと……」
智葉「……いやここは辺境どころかど真ん中だろ!というかお前西東京代表の三年目だし!」
照「……うう」
智葉「はぁ……」
智葉「とにかくそれじゃあ一旦会場を目指すぞ、近いんだしそこまで行けばどうにかなるだろ」
照「……うん、分かった」
智葉「じゃあ私について来い……目を離すなよ」
照「……うん」コクン
智葉「……」
照「……」
智葉「……あれから結構歩いたな、一時間位か」
照「……後どの位……?」
智葉「やっと半分ってとこだろ、ぼちぼち歩くしかないな……バスも何故か通ってないし」
照「……そう、まだかかるね」
智葉「そうだな、まぁこんなところまで来た自分が悪いんだから気張って歩け」
照「……」
照「……ところで」
智葉「ん、なんだ?」
照「私は迷子になってたけど、辻垣内さんはあんなところで何を……?」
智葉「そ、それは……」
智葉(まさか目の前にいるこのぽんこつを倒せるかどうか考えてたなんて言えないよな……)
智葉「別に大したことじゃない、一人で下らない考え事をしてただけだよ」
照「……」フーン
照「……もしかして、恋の悩み?」
智葉「は、はぁ?違うに決まってるだろうが!」
智葉「天然かどうか知らんが変にからかうな!」チョップ
照「あう……ごめんなさい」
智葉「ほら、つまらないこと言ってないでしゃかしゃか歩く!」
照「……うん」シュン
智葉「しっかし暑いな、夏とはいえ暑すぎるだろ……」
照「……」
智葉「朝から大分歩いてるし、ちょっと休憩挟んだ方がいいか……?」
照「……」
智葉「おい、お前は大丈夫か?疲れてるなら少し休むが」
照「……」
智葉(あれ、反応が無い……何か嫌な予感が……)
智葉「おーい、って……宮永……さん……?」
照「……う」ガクン
智葉「ちょ、ちょっと!今度はどうした!」
照「……」
智葉「ま、マジかよ……おい!意識はあるか?」ホッペタペチペチ
照「……」
智葉「ど、どうしよう……」アワアワ
智葉「……と、とにかく考えるより一刻も早く救急車を呼んだ方がいいな……えっと携帯はどこに……」アワアワ
照「……」
照「…………」
照「………………お」
智葉「……」
智葉「……お?」
照「なかすいた……」
グウゥゥ……
智葉「……」
照「朝から何も食べてない……」
智葉「いや、朝食べてるなら十分だろ……」
照「一日三食欠かさず食べてた私は一食でも抜くと……」
智葉「……」
智葉「……抜くと……?」
照「……」
照「死ぬ」
智葉「……随分直球な表現だな」
智葉「はあぁぁぁ~……ほんとしょうがない奴だな」
智葉「……まぁでも色々言いたいこともあるが、もう二時も過ぎてるし腹が減るのは当然か」
智葉「……」
智葉「ほら、何か食わせてやるからそこのコンビ二までは頑張って歩け」
照「……!」
照「ほ、ほんと?」パアァ
智葉「ぐ、その上目遣いはやめろ……」
智葉「……ああ、だからさっさと行くぞ」
照「……うん」
照「涼しい……」
智葉「急に生き返りやがって……でも確かに外で歩き続けた私達には実際天国みたいなもんだが」
智葉「で、何食べる?買ってやるから適当に選べ」
照「……」ジー
智葉「……ん、どうした」
照「……プリン、美味しそう……」キラキラ
智葉「……」
智葉「……あのな、あくまでお前のメシを買いに来ただけであって誰もスイーツを奢るとは……」
照「……いや、美味しそうと思っただけ、誰も買ってなんて言ってない」
智葉(目が買って欲しいと頑なに語ってたような気がするんだけどな……)
照「辻垣内さんは、プリンは好き?」
智葉「なんだよ急に……まぁ嫌いじゃないけど?」
照「……そう」
照「この中でどれが美味しいと思う?」
智葉「さっきからなんだよ藪から棒に……この焼きプリンとか美味しそうじゃないか?」
照「焼きプリンも美味しいよね、でも私は普通の方が好き」
照「三個入りのだといっぱい食べられるし……最近はちょっと高めのが美味しそうで迷うことも多いけどね」
照「前に食べたこれが美味しくて……」
………………
智葉(な、なんか突然語り出したぞ……)
智葉(……)
智葉(……意外、か……)
智葉(そういえば、私は今日この日まで宮永照という人間は化け物だと思っていた……)
智葉(いや、実際彼女は化け物かもしれない……あの異能と才気、並の人間には絶対に辿り着けるものではない)
智葉(……)
智葉(……ただ、それはあくまで麻雀の中だけの話)
智葉(どこか、私は今までこいつ……宮永照が『恐かった』)
智葉(まぁこいつと打った奴は誰しもそう思っても不思議じゃないかもな、きっと私だけではないだろう)
智葉(でも……本当の宮永照は、きっとそんな恐がるようなものじゃないかもしれない……)
智葉(……だって……今は……)
智葉(……)
智葉(……って!何を考えるだ私は!まるでこれでは宮永照に気があるみたいじゃないか!)
智葉(うぅー……熱にやられたのは私の方だったりしてな……いやきっとそうだ……)
智葉「……なっ、なんだ今度は?もうプリンの話なら聞かないぞ」
照「いや……そうじゃなくて……」
照「……顔が真っ赤……大丈夫?熱でもあるの……?」
智葉「――っ!な、なんでもない!ほ、ほらさっさと選べ!プリンが食べたいんだろう?」
照「……え、でもさっきは駄目だって……」
智葉「はぁ……」
智葉(ほんと、こいつといると調子が狂うな……私も一体どうしたんだろう……)
智葉「……いいよ、買ってやるからどれでも好きなのを選べ」
照「でも……」
智葉「あーもう!私がいいって言ってるんだからいいんだよ!」
智葉「お前のプリン好きには私の負け負け!降参!……だからさっさとしろ」プイッ
照「……」
照「ありがとう……」
智葉「……決まったか?」
照「……これとこれ、辻垣内さんはどっちが良いと思う?」
智葉「だから私に振るなよ」
照「……」シュン
智葉「……う、ほんとしょうがない奴だな!」
智葉「……うーん」
照「……」クス
智葉「な、何故笑う」
照「いや……悩んでるなって」
智葉「し、仕方ないだろ……どっちも美味しそうなんだし……」
照「……そうだよね」
智葉「……」
智葉「わ、私は右のが美味しそう……かな?」
照「じゃあこれをお願いします」
智葉「……いいのかよ、私じゃなくてお前が食べるんだぞ?」
照「ううん、いいの」
智葉「……」
智葉「そ、そうか……じゃあこれな」
照「……それじゃあ早速レジに」
智葉「……」
智葉「……ちょっと待て」
照「……何?」
智葉「まだメシの方を選んで無いだろ」
照「……えっ?」
照「……」
照「でもそこまで厄介になるのは……」
智葉「はぁ、だからもうさっき私がいいと言ったらいいって言っただろ……いいからさっさとしろ」
照「……ありがとう」
智葉「だから、いいって言ってるだろうが……」
照「……んー」
照「それじゃあ、このサンドイッチ……」
智葉「はいはいこれね、それじゃあさっさと買っていくぞ」
照「……うん」
照「あの……」
智葉「……腹が減ってるのは分かるがそこの公園までちょっとは我慢しろ」
照「……そうじゃなくて、辻垣内さんの分は良かったの……?」
智葉「……いいよ私の分は……そんな腹が減ってる訳じゃないし」
照「……本当?」
智葉「本当だっての、ほらさっさと歩け」
照「……」
照「……ごめんね」
智葉「なんだよ……急に」
智葉「はぁ、今更かよ……いいよ別に謝罪なんて、もうお前には慣れたし……」
智葉「……」
智葉「それに……ちょっとは楽しかったしな……」ボソ
照「……?」
智葉「い、今のは無しだからな……」
照「……なんで照れてるの?」
智葉「て、照れてない!」
智葉「ほら、それじゃあさっさと食べろ」
照「うん……」
照「辻垣内さん、頂きます」
智葉「はいはい、どーぞ召し上がれってか」
照「……」モグモグ
智葉「……」
照「……美味しい」
智葉「そりゃ良かった」
照「……」
照「辻垣内さんも、食べる?」
智葉「いいよ、私は……腹減ってないし……」
グウゥゥ……
照「……」
照「……お腹、鳴ってた」
智葉「――っ!私のことはほっといてさっさと食べろ!」
照「いいから、食べて」
智葉「い、いやなんでお前が唐突に主導権握ってるんだよ」
照「……私も辻垣内さんに倒れられたら困るから」
智葉「お前と一緒にすんな」
照「ほら、早く……」
智葉「……う」
智葉「しょ、しょうがない奴だな!食べるからこっちによこせ!」
照「やっぱり、お腹が空いてたんだ……」
智葉「ち、違う……!」カアァァ
照「気にしなくていいのに」
智葉「うるさいな!黙って食べろ!」
照「……」ジー
智葉「人が物食べてるんだからあんまこっちジロジロ見んなよな……」
照「いや、なんだか顔が怖いし……美味しくないのかなって……」
智葉「……別にそういう訳じゃなねーよ」
照「……本当?」
智葉「……ああ、これでもちゃんと味わって食べてるから人の心配はするな」
照「そう、それなら良かった……」
智葉「いいからお前も自分の分を食えよ……そんな見られながらだと恥ずかしいだろ……」
照「……」コクン
智葉「……」モグモグ
照「……」モグモグ
照「久しぶりだな……」
照「菫や淡達以外とこうやってご飯を食べるのが、久しぶりだなって」
智葉「菫……淡……弘世菫と大星淡のことか?」
照「うん……虎姫の皆は優しいから、別に辛くは無いけれど」
智葉「……」
照「それでも……やっぱり他の人達は私のことを『恐がってる』ように見える」
智葉「はぁ、まぁあれだけ常人離れした強さを見せ付けられたら仕方ない気もするけどな」
智葉「……」
智葉「実際私もお前にビビってたし」
照「……そうなの?」
智葉「……言うつもりは無かったけどな」
照「……」
智葉「ようやく自分の本性を認めたか」
照「……それは皮肉のつもり?」
智葉「その通りだとも、特にお前は食べ物に関してはわがままを通り越して意地汚いな」
照「……むっ」
智葉「はは、否定はしないのか?」
照「……奢ってもらってる立場だし、今日は簡便してあげる」
智葉「そう言ってる割に偉そうな態度をどうにかしろ」
照「ふふ」
智葉「はぁ……」
智葉「お前はやっぱりわがままだよ」
智葉、照「ご馳走様でした」
照「美味しかったね」
智葉「いやそこで当然のように私に振るなよ」
智葉「……」
智葉「ま、まぁ美味しかったけどさ」
照「照れなくていいのに……」
智葉「照れてない!……あんまりからかうとプリンを没収するぞ」
照「あ、それは困る」
智葉「じゃあほら、つまんねーこと言ってないでプリンも食べろ」
照「うん……辻垣内さん、頂きます」
智葉「……もうさっきも聞いたしいいよそういうの、いいからさっさと食え」
照「……凄く美味しい」パアァ
智葉「……」
智葉「ふむ」
照「……?」
智葉「いや、あまりに幸せそうに食べてるなと」
照「そ、そう……?」
智葉「生きてるということの至福を感じてる顔だったな、間違いなく」
照「……」カアァァ
照「……は、恥ずかしいからあんまり見ないで……」
智葉「……ん、ああ……そ、それは悪かったな……」
智葉(な、なんだこの空気は……こっちが恥ずかしくなってきた……)
智葉「……」
照「……ねえ」
智葉「なんだよ」
照「目、つむって……」
智葉「はぁ、今度は何を言い出すかと思ったら」
照「……いいから、早く」
智葉「わ、分かったよ……ほら、これでいいのか?」
照「……うん」
照「……」
智葉「……」ドキドキ
智葉(な、何されるか分からないが緊張するな……)
照「……あーん」
智葉「あーん」
智葉「……」
智葉「ってちょっ、ちょっと待て!」
照「あっ、動かないで……折角食べさせようとしてたのに」
智葉「おい!こ、この歳になって……その……あ、あーんは無いだろ!」
照「……そう?淡とはよくやってるけど?」
智葉「いやお前らの事情なんて知るかよ!余計な気は使わなくていいから一人で食べろ!」
照「でも、元はと言えば辻垣内さんが美味しそうって選んだ物だし……」
智葉「う、それを言われると……というかまさかお前あの時ここまで考えて……」
照「ふふふ」
智葉「その不敵な笑いやめろ」
智葉「……でなければ?」
照「無理やりにでも……」
智葉「……食べさせるってか、全く呆れるな……」
智葉「……」
智葉「……く、食わせる気ならさっさとしろ!」
照「……ヤケになってる?」
智葉「なってない!」
照「それじゃあ……あーん」
智葉「……そ、そのあーんって言うのはどうにかならないのか?」
照「……駄目、ほら……あーん」
智葉「わ、分かったよ……あ……あーん」カアァァ
智葉「……」モグモグ
照「……美味しい?」
智葉「ん……あ、ああ……」
照「じゃあもう一口」
智葉「ま、まだやるのかよ……」
照「……あーん」
智葉「……あ、あーん」
照「美味しかった、辻垣内さんご馳走様」
智葉「そりゃどうも……私は凄い疲れたけどな」
照「……」
照「……ふあぁぁ……」
智葉「……」
智葉「もしかして、今度は眠いのか……?」
照「……お腹が一杯になったら、眠気が……」
智葉「……お前、本当に私と同い年なのか?」
照「失礼ね、歩きっぱなしだったしこの眠気は当然のものだと思う」
智葉「……そういうところが幼いんだよな、お前」
照「そ、そう……?」
智葉「はぁ、そうだよ」
智葉「……まぁでも、このペースだと夕方には着けそうだし……」
智葉「食休みということで一時間位ここでゆっくりしてもいいか……」
照「いいの……?」
智葉「まぁいいだろ……今更一時間ちょっと早かろうが遅かろうがどうにかなる訳でもないし」
智葉「という訳で寝たけりゃ寝ろ……ただし一時間だけだからな」
照「……ありがとう」クタッ
智葉「……」
智葉「……誰も寄りかかっていいとは言ってないけどな……」
照「……」スヤスヤ
智葉「……もう聞こえてないし」
照「……」
照「……ねえ」
智葉「もう起きたのか……まだ寝ててもいいぞ」
照「……」
照「私は……そんなに『恐い』のかな……?」
智葉「なんだよ……さっきの続きかよ」
照「……確かに、麻雀は強いかもしれないけど」
智葉「……」
智葉「いや実際強いだろ、それも……果てしないレベルで」
照「でも……だからと言って何もかもが完璧な訳じゃない」
智葉「……まぁ今日一日お前を見てそれは実によく分かったな、うん」
照「それでも皆の期待に応え続けるのって、結構辛い……」
智葉「……ま、贅沢な悩みだと思うけどな」
照「そうかもしれないけど……ううん、違う……」
智葉「……違うって、何がだよ」
照「私は……期待に応えることが辛いんじゃない」
照「正確には『皆の期待に応えるような宮永照であればあるほど私から皆が遠ざかっていく』ことが堪えられないんだと思う」
智葉「……その持ち前の強さやあの営業スマイルと言い、確かに世間はお前のことを錯覚するだろう」
智葉「どうしても、完璧な人間には近寄り難いもの……妬みだって増えるだろうし、お前の言ってることは分からないことじゃない」
照「……でも……たとえそうだとしても……私は世間を欺き続けなければいけない」
智葉「……それは、どうしてだ?」
照「……」
照「……私には、麻雀しかないから」
照「私から『それ』を取ったら……多分、私には何も残らない」
照「誰からも見向きもされず、何も出来ずに消えていく……そんな存在になるのが、私は怖い……」
智葉「……」
智葉「考え過ぎだ、例えお前がトップから降りたところでお前のその強さが揺るぐ事は無い」
智葉「お前の価値はそんな人の目から映る宮永照では無いだろうが……価値があるとするならそれはお前自身の強さそのもののはずだ」
照「……!」
智葉「……だから、あんま無理するなよ」
照「……ありがとう」
智葉「……ふん……」
智葉(う、言った後から何か恥ずかしくなってきたな……)
照「……」
照「……ねえ」
智葉「な、なんだよ……」
照「辻垣内さんは……私のことが恐い?」
智葉「……」
智葉「正直、今までは……恐かったのかも……いや、私はお前のことが恐かった」
照「……」
智葉「圧倒的な強さ……お前に私は打ちのめされてからずっとお前のことを恐れていたし、どこかで憎んでいたのかもしれない」
照「……そうなんだ」
智葉「……でも今は違うと言い切れる。少なくとも、そんな感情は微塵も湧いてこない」
照「……」
照「……それは……どうして?」
智葉「……」
照「か、からかわないで」
智葉「可愛いやつめ」ナデナデ
照「ちょっ、急に頭を撫でるのやめて……子ども扱い禁止」
智葉「お前の今日一日の行動を見て子ども扱いしない方が無理な話だと思うぞ」
照「――っ!……辻垣内さん、意外と意地が悪い……」ボソ
智葉「何か言ったか?」
照「……」
照「いえ、何も」
照(……)
照(こうやって撫でられてるのもわりかし気持ちがいいし、まぁいいかな……)
智葉(じ、自分から撫でておいてなんだが……結構恥ずかしいな、これ……)
智葉(……うーん、でも髪はサラサラだしこいつはこいつで気持ち良さそうにしてるな……)
智葉(まぁたまにはいいか……)
智葉(しかしほんと、子供というか、気まぐれなところが猫みたいな奴だな……)
智葉(はぁ……こんな奴に怖気づいて一人考え込んでたのが馬鹿みたいだな)
智葉(ああでも、あそこで悩んでなければこいつと出会うことは無かったのか)
智葉(ふふ、まぁ……こういうのも悪くない、かな……)
照「……ねえ?」
智葉「なんだよ……」
照「手」
智葉「はぁ?」
照「手が止まってる、続けて」
智葉「……お前さっきやめてだの子供扱い禁止だの言ってなかったっけか」
照「先に撫でてきたのはそっち」
智葉「う……分かったよ」
智葉「……ほら、これでいいんだろ……」ナデナデ
照「うん……」
照「……」
照「あの、辻垣内さん……?」
智葉「……智葉でいい」ボソ
照「……えっ」
智葉「ほ、ほら……つじがいとって長くて呼びづらいだろ……」
智葉「……だ、だから呼ぶときは智葉でいいっていってんの!」カアァァ
照「……」
照「……あの……智葉……?」
智葉「な、なんだよ」
智葉「う、今度はそうきたか……」
照「私がちゃんと智葉って呼んであげてるんだから、これは当然」
智葉「……はぁ、お前はいちいち偉そうだな」
照「……」
照「お前じゃなくて……?」
智葉「……あー、分かったよ!もう!……て、照……こ、これでいいんだろ」
照「……うん」
照「……それじゃあ、手……続けて智葉」
智葉「……はいはい、撫でればいいんだろ……照」
智葉「……」ナデナデ
照「……」
智葉「……それじゃあ、そろそろ行くぞ」
照「……」
照「もう行くの?」
智葉「大分ここでゆっくりしただろうが……というか本来の目的を忘れてないか?」
照「……本来の……目的……?」
照「……んー」ナンダッケ
智葉「……はぁ」
智葉「おま……照が迷子になってたからそれを私が見つけて一緒にここまで歩いてきたんだろうが」
照「ああ、そうだった」
智葉「おま……照、それはギャグでやってるのか?」
照「ふふ、冗談」
智葉「やれやれ……とにかく後少しで着くんだから、もうちょっと頑張るぞ」
照「うん」
智葉「……じゃあ、行こうか」
照「……?」
照「……この手は?」
智葉「こ、ここまできておま……照とはぐれたら台無しになるからな!」
智葉「……」
智葉「手、繋いでおけばはぐれないだろ……」
照「……そうだね、ありがと」ギュ
智葉「――っ!さ、さっさと歩くぞ!」
照「……?(智葉、なんで真っ赤なんだろう……)」
智葉「やっと着いたな……」
照「うん」
智葉「な、長かった……ここに来て急に疲れが……」
照「智葉……大丈夫?」
智葉「誰のせいで疲れたと思ってる……全く」
智葉「……さて、何はともあれ会場についた訳だが、ここから分かるか?」
照「いやそれが全然」
智葉「おい」
智葉「……はぁ、しょうがね……まぁでもここまでくれば人に聞いても分かりそうだしどうにでもなるだろ……」
照「……」
照「いや……」
智葉「ん……?」
照「見つけた」
智葉「いやだからどっちだよ……」
智葉「……あれは……」
淡「テルー?」
菫「あいつ、どこ行ったんだ全く」
智葉「……弘世菫と大星淡か、ようやく保護者が見つかったな」
照「保護者じゃないから」
智葉「じゃあ飼い主か、今度ははぐれないように首に縄でもかけてもらうんだな」
照「むぅ」
智葉「……」
智葉「……ほら、分かったらさっさといけ……照」トン
照「……うん」
智葉「……じゃあな」
照「……」
照「待って、智葉」
照「……」
照「……智葉、また会える……?」
智葉「はぁ?何を言うかと思ったら」
智葉「……明日、ぶつかるだろ……私と、照は……」
照「……」
照「そうだけど……そうじゃない……」
照「……」
照「智葉と……また今日みたいに過ごしたい……」
智葉「なっ……何をいきなり言い出すんだ」
智葉「……」
智葉「というか『今日みたいに』は流石に簡便、疲れるから」
照「ひ、ひどい……」
智葉「割と事実」
照「むむ」
照「駄目……なの……?」シュン
智葉「う……じょ、冗談だよ冗談……ほんと、しょうがないな!」
智葉「……お互い東京なんだし大会が終わってもいつでも会えるだろ……」
智葉「……」
智葉「……だから」
照「……だから……?」
智葉「……だから……決着がついて……この大会が終わったら……」
智葉「……私から迎えに行くよ、必ず」
智葉「ほんと」
照「絶対?」
智葉「絶対」
照「約束してくれる?」
智葉「くどいな……ああ、約束だ」
智葉「……ほら、小指」
照「……」
照「そういうの……子供っぽい」ボソ
智葉「照には言われたくない」
照「うう」
智葉「……」
智葉「……ほら、分かったらいけ……ずっと待ってた仲間達のことも考えろ、きっと心配してるぞ」
照「……うん」
照「……そうだね」
智葉「……」
智葉「今まで言い忘れてたが……負けないからな!」
照「こっちこそ」
智葉「……」
智葉「……じゃあな」
照「うん」
照「……」クルッ
照「……待ってるからね」ニコッ
智葉「――っ!いーからさっさといけっての!」
菫「お前、ほんとどこ行ってたんだ……」
照「いや、ちょっと迷ってしまって……ごめんなさい」
淡「ちょっとってレベルじゃないよー」
菫「これからは首に縄をつける必要がありそうだな……」
照「そ、それは簡便して」
菫「はぁ、分かったらさっさと戻るぞ……お前もお腹減っただろ」
照「……うん」
淡「いやあ夜ご飯も楽しみだなー」
菫「お前ら、少しは決勝前の緊張感というものをだな……」
照「……」
淡「テルー?」
照「……ううん、なんでもない……大丈夫」
菫「……そうか、それじゃあいくぞ」
淡「ほらほら、早く早く!」
菫「お前はもう少し落ち着け」
淡「えーだって私もう――
照「……」
照(待ってるからね……智葉……)
―――――――――
――――――
智葉「……」
照「……」
智葉「……お待たせ、照」
照「……」
照「遅い、待ちくたびれた」
智葉「はぁ?照がちゃんと待ち合わせ場所にいないのが悪いんだろうが」
照「う……」
照「……」
照「それはその……そういう趣味なの?」
智葉「……はぁ?」
照「智葉がそんな子だったなんて知らなかった……意外」
智葉「……縛り付けて家で飾ってやろうか?」
照「じょ、冗談よ、本気にしないで」
智葉「……」
照「……」
智葉「にしても……」
照「……どうしたの?智葉」
照「ふふ」
照「でも前より凄く強くなってたと思う、結構苦戦した」
智葉「……なんだその上から目線、凄いムカつく」
照「ふふ、勝者の特権」
智葉「……」
智葉「……まぁでも、優勝をかっさらっていくのがまさか清澄だったとは意外だったな」
照「……うん」
智葉「残念無念、これでトップから転落だな」
照「……ほんと、三連覇が出来なかったのは残念だった」
照「……」
照「でも」
智葉「……でも?」
照「私は……変わってないよね?」
智葉「当たり前だろ」
智葉「照の間抜けさと方向音痴さと食い意地は前と全く一緒だな」
照「……なにそれひどい」
智葉「事実だからな」クスクス
照「むぅ」
智葉「ほら、それじゃあそろそろ行くぞ」
照「……」
照「うん」
照「……今日も楽しかった」
智葉「……」
智葉「こうなることは分かっていたが、私はどっと疲れたぞ……」
智葉「相変わらずお前はすぐふらふらどっか行こうとするし食べ物に釣られるし……」
智葉「これが子供を初めて持った母親の気分なのだろうかと思う位だ、全く」
照「ふふ、お疲れ様」
智葉「……照、何か調子に乗ってきてないか?」
照「それはきっと気のせい」
智葉「……はあ、そうかい」
智葉「……」
智葉「……それじゃあ、今日はこの辺で」
照「待って」
智葉「な、なんだよ」
智葉「……べ、別にまた遊ぼうと思えばいつでも遊べるだろ……近いんだし」
照「……そうじゃなくて」
照「……」
照「……これ」
智葉「ん……」
智葉「これはまた綺麗なブローチだな、どうしたんだよ」
照「この前の……お礼にと思って……」
智葉「い、いいよ別にお礼なんて……高そうだし」
照「……大丈夫、安物だから」
智葉「そこは言い切るんだな」
智葉「でも、本当にいいよ……私には似合わないというか、勿体無いしな」
智葉「気持ちだけで十分だし、照が付けてた方がよっぽど良いと思うけど」
照「……」
照「そんなこと無い」
照「……ほら」クイ
智葉「……お、おい!」アワアワ
智葉「ちょっ、ちょっと!こら!ち、近いって!」
照「いいから、動かないで」
照「ほら、見立てたとおり……やっぱり似合ってる」
智葉「……」
智葉「……う、それは卑怯だぞ……照」
智葉「こ、こんなことされたら受け取るしゃないじゃないか……」
照「元々智葉の為に買ったものなんだから、それは当然だと思うけど?」
智葉「……相変わらず変なところが強引な奴だな」
智葉「……」
智葉「……その……」
照「……その?」
智葉「あ、ありがと……な……」
照「ふふ、どういたしまして」
智葉「……」
智葉「……大切にするから」
照「……うん」
照「……」
照「……ねえ、智葉……?」
智葉「……な、なんだよ……」
照「……」
照「今度は、私のお願い……聞いてくれる……?」
智葉「……いや、これは前のお礼のはずじゃなかったのか」
照「ねえ、駄目……?」
智葉(ぐ、なんだか照の奴急にしおらしくなったな……)
智葉「わ、分かったよ……」
智葉「……で、私にどうしろと……?」
照「……」
照「……それはね……」
―――――――――
――――――
ダヴァン「それにしテモガイトサン、最近はオフの時いっつもそのブローチ付けてマスネ」
智葉「ん……ああ、これか……?」
智葉「まぁちょっとした貰い物だよ」
ダヴァン「モライモノ……ひょっとしテ……」
智葉「な、なんだよ……」
ダヴァン「ガイトサン、マサカ……オトコデスカ?」
智葉「――っ!ち、ちげえよ!」
智葉(……よく考えると似たようなものな気はするけど……)
智葉「……」
智葉「……」
ダヴァン「……アノ……ガイトサン……?」
智葉「……ん、ああ」
ダヴァン「顔が真っ赤デスヨ」
智葉「え、ええっ……」
ダヴァン「ヤッパリオトコ絡みのようデスネ……」
智葉「ち、違うってさっきから言ってるだろうが!こ、こっち見るな!」ブンブン
ダヴァン「マタマタ」
智葉「だーかーら――
智葉(……)
智葉(あの後のことを思い出すと、否が応にも顔にほんのりとした熱を帯びてしまう……)
智葉(……だって――)
―――――――――
――――――
照「……」
照「智葉、目をつむって……」
智葉「ま、またそれか?それは嫌な予感がするんだが……」
照「……」
照「いいから、早く」
智葉(な、何故だろうか……前と全く同じ流れなのに断れないぞ……)
智葉「わ、分かったから……」
智葉「……」
智葉「これでいい、のか……」ドキドキ
照「……」
照「うん、そのままにしててね」
照(……)
照(……好きだよ)
智葉「……」
智葉「……え」
照「ち、ちょっ……」
智葉「――っ!ま、まさか……て、てるぅ!お、おま、おまええっ!」
照「ま、まだあけていいなんて言ってない!」
智葉「こ、こここ、これがあけられずにはいられるか!て……照!お、おま……」
智葉「……」
智葉「わ、私に……き、キス……を……?」
照「ち、ちがっ……これは、その……」
照「……」
照「……台無しになった、責任取って」
智葉「……」
智葉「……大体責任取れって言われても……わ、私にどうしろと……」
照「き、決まってるでしょう!それは……」
智葉「……」
智葉「そ、それ……は……?」
照「そ、それ……は……」カアァァ
智葉「……」ドキドキ
照「……」
智葉「……」
照「…………さ」
智葉「……」
照「…………さ?」
照「とは……の方から……して……」ボソッ
照「――っ!」カアァァ
照「さ、智葉の方からしてって言ってるの!」
智葉「え、え、え……わ、私の方から……?」
照「う、うん……」
智葉「て、てるに……き……キスを……?」カアァァ
照「い、言わないで……恥ずかしいんだから……」カアァァ
照「……」
照「……お願い……」
智葉「……て、照……」
智葉(……)
智葉(……はぁ、ほんと……呆れるな……)
智葉(……でも……いや、きっと……そんなどうしようもないところに私は惹かれたのかもしれないな)
智葉(……しょうがね)
智葉「分かったよ……」
智葉「は、恥ずかしいから……お前もめ、目を閉じてろ……」
照「う、うん……」
照「……ん……」ドキドキ
智葉「……」ドキドキ
智葉(しかし……き、緊張するな……)
智葉(……ん)
智葉(こいつ……照……震えてるのか……?)
照「……」フルフル
智葉(……さっきは……あれは照なりの覚悟の仕方だったのかもしれないな……)
智葉(……こいつ、態度はでかいけど臆病なところがあるからな……)
智葉(……まぁ、そこが可愛げがあるというかなんというか……)
智葉(……)
智葉(……してやるか……私から……き、キスを!)
智葉「……」
智葉「ごめんな、照……」
照「……え……?」
智葉「責任……取るから」
智葉「今度は……私からちゃんとするから……」
智葉「……」
智葉「好きだよ、照」
カン!
照のキャラが全然安定してない悲しみ
憩ちゃんもそのうち出してあげたいと思った(小並感)
お疲れ様でした
これはすばらですわ
この組み合わせ流行るといいね
すばらだったぜ
憩さん参戦も待ってる
Entry ⇒ 2012.11.18 | Category ⇒ 咲-Saki-SS | Comments (0) | Trackbacks (0)
ダヴァン「Fucking Jap」
ダヴァン「Fucking Jap」
ダヴァン「ファッキンジャップ!!本当に日本人っていうのは救えまセン!!」
ネリー「あー。ダヴァン帰って来た。おかえり~」
ハオ「どうしたアル?ダヴァン」
ダヴァン「どうしたもこうしたも無いデス!今度という今度こそ、ワタシはジャップどもを見限りまシタ!」
ハオ「はあ」
ネリー「なになに?今度はジャップ共に何されたの?本当あいつら悪魔だよね~」
ダヴァン「聞いてくだサイ!」
ハオ「まあ、私も日本鬼子共の鬼畜っぷりにはほとほと酷い目に合わされてるから、聞いてやろうアル」
ダヴァン「行きつけの、例のラーメン屋が今日潰れまシタ!」
ハオ「!!」
ネリー「!!」
ダヴァン「許せナイ!!無知蒙昧なファッキンジャップどもは、結局最後まで大将の作る煮干出汁の中華そばの深い味に理解を示さなかッタ!」
ハオ「れ、例のラーメン屋って、あの、品川のラーメン屋の事アルか!?」
ネリー「そんな!あそこのおじさん、私が行ったら、小さい子だからってナルト一個おまけしてくれるくらいナイスガイだったのに!」
ネリー「そうだったんだ…」
ダヴァン「大将、今日が最後だからって、メニュー全品半額ってやってまシタ…」
ハオ「…」
ダヴァン「許せナイのは、それで店が盛況だったコト。半額になった程度で普段来てない店に来るようになるナラ、いつも通えよ糞ジャップどもって、気分デス」
ダヴァン「それに、大将も所詮ジャップでスネ。シンプルな中華そば頼んだのに、ラーメンが鹿みたいにしょっぱくって仕方なかったでスヨ。…ハハ。最後の最後に味付け間違えるなンテ」
ネリー「ダヴァン…」
ダヴァン「しかも、私が常連だったからって、支払いの時に大将直々に挨拶に来てくれて、お会計は要らないよッテ。『お嬢ちゃん留学生でしょ?勉強頑張って』ッテ…。私は麻雀で留学してきたんだよ馬鹿な大将デス」
ダヴァン「最後の最後に精神攻撃とかマジ卑怯デス。その言葉を聞いた後、私、思わず崩れ落ちてしまいまシタ…」
ネリー「うわ…想像するだけで泣ける」
ハオ「最悪アル。最後にそんな置き土産して、私達までブルーな気持ちにするとか。流石日本鬼子アル…」
ダヴァン「取り敢えず連絡先だけは確保しておいてマス。私がステイツに帰る時、大将がまだ在野だったら、私がプロになった時の契約金でNYに連れて行って、店を構えさせるって言っておきまシタ。大将は苦笑いしてましたケド」
ネリー「おお!一風堂ごときが天下取ってるNYなら、大将が店構えたら革命だね!」
ハオ「やるアルね。それは実現したら確実に小日本の国力を削る結果になるアル。憎き小日本に一泡吹かせるためにも頑張るアルよ」
ダヴァン「ありがとう皆サン。…しかし、今日は本当に冷えますね。私もコタツにお邪魔しまスヨ」
ハオ「まったくアル。ネリーなんて、今日は智葉が持ってきたこのコタツから一歩も出れなかったアル」
ネリー「本当、ジャップは悪魔だよ~。こんな人を怠惰に貶める悪魔の兵器を生み出すなんてさ~」
ハオ「昼なんて、掃除のために一回退かそうとしたらコイツ、マジ泣きでコタツの足にしがみついて、凄い剣幕で母国語でなんかまくし立ててきやがったアル。グルジア語なんてわっかんねーアル」
ネリー「だって、あの時は本当に寒くて死ぬかと思って…」
ハオ「お前寒冷地仕様のコーカソイドだろ。アル」
ダヴァン「ネリー、前も注意しましたけど、コタツの中で寝たら駄目でスヨ?風邪をひいちゃいますカラ。私も来日当初はそれで酷い目に会いまシタ。リポDがなければ今頃どうなっていタカ…」
ネリー「ん~…」
ハオ「コラ!コタツの中に潜り込むなアル!」
ダヴァン「しかし、卓上に随分とお菓子の空箱が沢山置いてありまスネ」
ネリー(コタツの中から)「全部ハオが買ってきたんだよ~」
ダヴァン「ハァ…本当に貴女はお菓子好きでスネ。幾らジャップの食べ物がヘルシーだからって、太りまスヨ?」
ハオ「…」
ダヴァン「…」
ダヴァン「…ま、まサカ」
ハオ「…こっち来て3キロ太ったアル」
ダヴァン「Oh…」
ハオ「でもでも!私悪くないアル!悪いのは日本鬼子共の菓子アル!」
ダヴァン「確かにジャップどものお菓子が、その場に有ったらそれ全部食べるまで止まらない程度には美味しいの認めるのにも吝かではないでスガ…」
ネリー「私は果物が好き~。特に柿とか梨とか桃とか」
ハオ「止めろアル!食べたくなる!」
ダヴァン「けど、流石に自制が利かないのはジャップのせいじゃなくって自分のせいデス。私なんてこっちに来てむしろ痩せましタシ」
ハオ「ギギギ…今でもうちの寮で一番食ってる癖に、メリケンでどんな食生活してたアルかこの女…」
ダヴァン「フフン」
ハオ「…いいアル。わかったアル」
ダヴァン「?」
ハオ「貴様がそんな腹立つ事を言うなら、私にだって考えがあるアル」
ダヴァン「…何をする気でスカ?」
ダヴァン「ホウ!ヘルシーでいいでスネ」
ハオ「智葉呼ぶアル」
ダヴァン「?いいでスネ。楽しくなりマス」
ハオ「その時、アレ持ってきて貰おうアル。アレ」
ダヴァン「アレ?」
ハオ「ふははははは!そう!枝豆!!」
ダヴァン「くっ!卑怯ナ!」
ハオ「お前、枝豆食ったら止まんなくなるアルもんなぁ!私達が楽しく鍋突いてる間、お前は猿みたいに枝豆食ってるが良いアルよぉおおお!」
ダヴァン「こ、この、卑怯者ぉおおおおオオ!!…って、別に鍋捨て置くまで好きじゃ無いデスけど…」
ハオ「しかも鍋はすき焼き!!」
ネリー「やったー!」
ダヴァン「NOOOooooooooooo!!」
ハオ「割り下駄目なお前は楽しみ半減アルなぁ?」
ダヴァン「ぐっ!日本人のサトハやチャイナのお前はともかく、何故ネリーとミョンファも生卵大丈夫なノカ!」
ダヴァン「るろうに…ああ、サムライXの事ですか?フランス人ってなんで気合入ったギーク多いんでしょウネ」
ハオ「おっ。そう言えば、ミョンファ今日るろ剣の映画見に行くって言ってたアルね」
ネリー「最近バタバタしてたからね~。ようやく見に行けるって、朝から凄く機嫌良さそうだったよ。アニメ放映当初からのファンだったんだって」
ダヴァン「珍しいでスネ。あの子がアニメの実写映画化に素直に喜ぶなんて」
ハオ「電王でサトケンのファンにもなってたかららしいアルよ」
ダヴァン「電王?」
ハオ「仮面ライダー」
ダヴァン「ああ…」
ネリー「あれ面白いよね~。プリキュアと一緒に毎週見てるよ~」
ダヴァン「ハリウッドアクションに比べたら安っぽいし爽快感が無いって言ったら、ミョンファに正座で3時間説教喰らいました」
ハオ「ほんと気合入ったオタクアルねあいつ…」
ミョンファ「ファッキンジャップ!!」
ネリー「あ、帰ってきた」
ダヴァン「噂をすればなんとやらでスカ…なにやら荒れてまスネ」
ネリー「どうしたの?やっぱりアニメの邦画化は糞だった?ジャップに思い出汚されちゃった?ドラゴンボールレボリューションみたいに」
ダヴァン「さり気なくこっちの古傷抉らないで下サイ…」
ミョンファ「ノン。映画、面白かッタ」
ハオ「ほー?珍しいこともあるアルね」
ネリー「本当だね~。ジャップのアニメの実写化は大抵コケるのに。デビルマンとかキャシャーンとかキューティハニーとか鉄人28号とか」
ダヴァン「じゃあ、何をそんなに怒ってるんデス?」
ミョンファ「るろ剣、面白かったデス!期待してた以上とは行かなくても、及第点、あげてイイ!サトケン格好良い!殺陣意外と凄い!刃衛怖い!武田観柳マジ武田観柳!薫微妙!」
ハオ「へえ」
ネリー「面白いなら今度見に行こうかな~」
ミョンファ「けど、サトケン、私裏切った!!ノン!裏切る事強いられた!許せない!ジャップ!ジャップ!ジャップ!」
ダヴァン「…はぁ?」
ハオ「…いまいち訳わかんねぇアル」
ミョンファ「マエダアツコ!!私の倒すべき女の名!!」
ネリー「…」
ハオ「解散」
ミョンファ「私から良太郎と剣心奪ウ!許せナイ!」
ダヴァン「また微妙に古い上に怪しいネタを持って来られましタネ…」
ハオ「ほら。こいつまだ日本語の読み書き下手だから。多分映画見て興奮して色んなサイト見回してる内に、やっと情報得たとかじゃないアルか?」
ネリー「なんで私達の中で日本愛が一番有ったのに、一番上達遅いんだろうね~」
ダヴァン「やはり歪んだ愛だったカラ…」
ミョンファ「サトケンがあの程度の女と付き合ウ、ダメ!世界の損失!」
ダヴァン「興味ないからよく知らないですケド、その子日本のトップアーティストとかじゃないんでしタカ?お似合いなのデハ」
ミョンファ「ノン!ノン!!」
ハオ「どうでもいいアル。真実かガセとか、それすらも」
ネリー「私も~」
ミョンファ「ノン!ノン!!ノン!!!」
ハオ「や~かましいアル」
ダヴァン「サトハ何時頃に来るって言ってました?」
ハオ「ん~。7時頃までにはって言ってたし、あと30分ってとこじゃないアルか?」
ダヴァン「じゃあそろそろ鍋の準備しましょウカ」
ハオ「そ~アルね。ほれ、手伝うアル。ネリー」
ネリー「やだ~。寒ひ…」
ハオ「私だって寒いっつってんだろアル」
ネリー「私はこのコタツというジャップが創りだした悪魔の兵器に取り込まれた哀れな犠牲者ですので」
ハオ「日本鬼子のせいにしてんじゃないアル。ほら、潜ってんなアル」
ダヴァン「割り下は苦手でスガ、すき焼きは好きデス。ジューシーな牛肉に、しいたけ春菊しらたき~」
ミョンファ「ウエ~~~ン!!」
ハオ「ほれ、ミョンファもいつまでも泣いてないでさっさと支度手伝うアル。どうせ最初から異国の芸能人なんて遠い世界の存在って自覚してろアル」
ミョンファ「小野大輔も結婚した!もう生きる希望無い~~~~~!!」
ハオ「救えねぇアル…」
ネリー「あれ?それって確かガセ…まあいいや」
ハオ「あっ!ちょ、ダヴァン!?」
ダヴァン「デハ!」
ハオ「まっ…!ああああああ!逃げられた!!」
ハオ「…仕方ない、かくなる上は、3人で…って」
ネリー「コタツぬくぬく~」
ミョンファ「ビェエエエエエエエ~~~~!!」
ハオ「この使えねぇ二人、どうしてくれようかアル…」
智葉「ほう。そんな事が」
ネリー「そうそう。結局なんだかんだハオが全部鍋の準備してくれたんだよね~」
ダヴァン「適材適所デス。やはり料理はアジア人のものに限る……ん。この甘酒ってのも中々。原料米だけでこんな甘露を作り出すとは、やりまスネ日本人」
ハオ「お前だって甘酒暖める位の事は出来るだろうにアル…」
智葉「…ふふ。なんだ、慧宇お前、まだ律儀に語尾に『アル』付けてたのか」
ネリー「あはははは!!ね~?変だよねぇ~?」
ハオ「昨日の部活の最後の対局で、ビリだった奴罰ゲームって言い出したの、お前アルだろネリィィィイイイイイ!!」
ネリー「そ~だっけ?」
ハオ「…もうつかれた」
智葉「雀はもう落ち着いたのか?」
ミョンファ「ん。ごめんサトハ。心配かケタ?」
智葉「まあ、それなりにな」
ミョンファ「エヘヘ…私、もう大丈夫。失恋は女、綺麗にスルヨ…」
ハオ「アホアル」
ミョンファ「ハオ、アルってまだ使っテル」
ネリー「あはは。使ってる使ってる。てるてる~」
智葉「止めろヴィルサラーゼ。テルテルと言われると、あの仏頂面思い出して不快だ」
ハオ「人のこと言えない…ゲフンゲフン。わかった。もうアル使うの止めるよ。っていうか、こっちから願い下げだよ」
ネリー「お肉美味しい~」
ハオ「コラ!肉ばっか食べんなアル!」
ネリー「ん?」
ダヴァン「…んあ?」
ミョンファ「…ふあ?」
智葉「…おい。慧宇」
ハオ「…あれれ?」
ネリー「ウケ狙い?キャラ作り?」
ハオ「…おかしいア…おかしいな…?ん?あれ?なんかしっくり来ない…アル?」
智葉「…まさか、今までの『アル』の付け過ぎで、それが自然になってしまったか?」
ネリー「あっはっはっは!!」
ハオ「笑うな!!誰のせいアルか!!」
ネリー「もう可愛いからそれで良いじゃん」
ハオ「ふっざけんなアう……お前マジ覚えてろアル」
ダヴァン「プフッ」
ミョンファ「アハハハ」
ハオ「お前らも!笑うなアル!!」
智葉「くくっ…」
ハオ「智葉まで!?」
ネリー「ほらほら、喋ってばかりだとお肉全部食べちゃうよ~」
ハオ「おお!?」
ダヴァン「ふふ。私も肉食べたいデス」
ハオ「ちょ!」
ミョンファ「私もお肉食べタイ」
智葉「ははは…それじゃあ、私も肉を頂こうかな」
ハオ「うえ!?」
ネリー「あれ、もうお肉終わりじゃない?」
ハオ「なぁあああああ!?」
ネリー「ねぇねぇ、サトハ。明日学校も部活もお休みだよね?私、東京タワー見に行きたい!」
ダヴァン「美味しい蕎麦食べたいデス」
ミョンファ「前連れて行ってクレタ、キティーちゃんいっぱい居るトコ!」
ハオ「おい!お前ら!この鍋誰が用意したと思ってるアルか!」
智葉「また東京観光か…」
ネリー「いいじゃんいいじゃん~。帰国前にもっと、もっと!この国の事、色々見て回りたいんだもん!」
ダヴァン「私は今年で最後ですシネ…」
ミョンファ「思い出、大事ヨ?異国来た思い出もソウ、ミンナと出会えた思い出も、大事。いっぱい、いっぱい、思い出、作らなきゃ」
智葉「そうか…ふふ。まあ、そう言われては、な。世話の焼ける奴らだ」
ハオ「きぃいいいい!無視すんなアル!!」
ハオ「…へ?」
智葉「どこか行きたい場所はあるか?」
ハオ「…なんで私まで一緒に出かける話になってるアルか」
ネリー「え?」
ハオ「なんで私が日本鬼子共の街なんて観光しに…」
ダヴァン「じゃあ、留守番しマス?」
ハオ「…」
ミョンファ「サトハ、優しイヨ?お出かけ、楽しイヨ?」
ハオ「そ、そりゃあ、智葉は確かに他の日本鬼子共と違うのわかってるアルけど…」
智葉「けど?」
ハオ「…」
智葉「…」
ハオ「…は」
ネリー「は?」
ネリー「おお!箱根!!」
智葉「…ふふ。箱根ね。まあ、ちょっと遠出だが、今まで東京を出ることもあまり無かったし、それも有りかな」
ハオ「温泉入りたいアル」
ダヴァン「おー、温泉いいでスネ~。こう、露天風呂とか、温泉卓球とか、お風呂上りのコーヒー牛乳とか!」
ハオ「あと、紅葉見て…」
ミョンファ「テレビで見タ!綺麗ダッタ!」
ハオ「…あとは」
智葉「あとは?」
ハオ「…みんなと大笑いして…はしゃぎたい…アル」
ネリー「ほえ?」
ハオ「…だって、みんなと一緒だったら、何処行っても結局楽しい、し」
ミョンファ「…ふふふ。ハオ、いい子ネ。撫でてあげヨウ」
ハオ「…うっさい、触んなアル。名前だけ中国人」
智葉「…はは。なんだ慧宇。それじゃあお前」
ネリー「なんか最近毎週こんな感じだね~」
ミョンファ「サトハ!サトハ!それじゃあ私、今度北海道と沖縄と大阪と福岡と広島と京都行きタイ!」
智葉「調子に乗るな!」
終わり
が、ふと思ったらダヴァンさんと辻垣内さん意外喋ってすらいないのに気付いた
まあ、もう書いちゃたし投下しちゃったから、仕方ないよね
おやすみ
よかった
臨海SS増えて欲しいぜ
Entry ⇒ 2012.11.17 | Category ⇒ 咲-Saki-SS | Comments (3) | Trackbacks (0)
煌「スバラーメン作ってみましたが」
煌「スバラーメン作ってみましたが」
優希「そんなものよりタコスバラをつくるんだじぇ!」
和「ラーメンのことならいい知り合いがいますが紹介しましょうか?」
煌「本当ですか和?ぜひよろしくお願いします」
優希「私もなかなか味にはうるさいんだじぇ」
煌「では、優希にも協力してもらいますよ?」
和「こっちも連絡がつきました。明日4人でくるそうです」
煌「それはすばらです!」
煌「では、私は今のうちにネタの最終段階をしておきます」
和「しかし、どうして急にラーメンなんて作ろうとしてるんですかね?」
優希「博多ラーメンに感化されたんじゃないのか?」
和「本当にそれだけなんでしょうか?」
和「あの花田先輩ですよ?もっと別の理由があるはずです」
優希「そんなことはないと思うじぇ。花田先輩は意外と単純なんだじぇ」
和「そうなんでしょうか」
優希「まぁ、細かいことは気にするなってことだじぇ!」
和「そういえば優希、花田先輩のラーメンを食べたことあります?」
優希「ないんだじぇ。明日が楽しみなんだじぇ」
しず「のどかー!遊びにきたよー!」
和「皆さんも、お久しぶりです」
憧「やっほー」
玄「お久しぶりです!」
宥「はじめまして……かな?」
和「直接お話するのは初めてですね」
和「少し急かされているので急ぎましょう」
しず「しかし、ラーメン楽しみだよ!」
玄「何味なの?」
和「私も食べたことないですからわかりませんね」
玄「あっ、優希ちゃんだ!」
優希「おぉー玄ちゃん久しぶりだじぇ!」
煌「しばらく、時間がかかるのでゆっくり話しておいてもかまいませんよ?」
しず「楽しみにしてます!」
煌「その心意気すばらっ!」
しず「しかし、どんなラーメンが来るのかな!?」
憧「しずってば本当にラーメンのことになると変わるよね」
しず「だって楽しみじゃん!スバラーメンと、キラメーン!」
和「そうですね。私も少し楽しみだったりします」
憧「和までそう思ってるんだ……」
しず「あこは楽しみじゃないの?」
しず「そうだよね!」
優希「ほぉー、この人玄ちゃんのお姉さんだったのかー」
玄「そうなのです!」
宥「私、試合出てたけど、見てない?」
優希「ご、ごめんだじぇ……その時の時間が飛んでる気がするんだじぇ」
宥「それなら……しょうがないね」
玄「すみません!すこしおトイレに!」
和「突き当りを左です」
玄「ありがとう和ちゃん!」
玄「えー、と突き当りを左だったよね」
玄「おーあったあった!」
<スバラスバラスバラスバラスバラバラバラバラバラバラバラッ
玄「花田さんなにか歌ってるのかな?」
玄「……少し見てみよっかな」
煌「あれ?どうしたんですか松実さん?」
玄「ひゃあぁ!」
煌「うおっ!急に叫ぶのはすばらくないですね!」
玄「あ、あれ?台所にいたんじゃ?」
煌「さっきまでおトイレに行っておりましたよ?あっ!もちろん手は綺麗に洗いますよ!」
玄「おトイレ……あっ、私おトイレに行くんだった!」
煌「そんなこと忘れたら駄目ですよ!」
玄「えへへ、ごめんなさい」
優希「おっ、玄ちゃんが帰ってきたじぇ!」
和「迷子になってなかったんですね」
玄「迷子になんてならないよー」
優希「玄ちゃんはなんかそそっかしいじぇ」
宥「クロチャーは頑張れば……出来る子だよ?」
玄「そうなのです!」
憧「そんなことでいばらない!」
優希「そうだじぇ……ちょっと遅すぎるじぇ」
和「少し見てきましょうか」
煌「皆さんお待たせしました!スバラーメンです!」
しず「きたー!」
煌「では、私はキラメーンを作ってきます!」
煌「味は後で教えてください!」
しず「まぁ、早速いただきまーす」
しず「……なんかびみょーだね」
宥「私はあったかくて好きだけど……」
玄「味が薄いのです!」
憧「あー、なんとなくわかるね」
和「でも、まずくはないですよ?」
優希「……」ポロポロ
優希「は、花田先輩は……やっぱりいい人なんだじぇ……」
玄「どうしたの?」
優希「うっすらとだけど、タコスの味がするんだじぇ……」
しず「えっ!本当ですか!……本当だ……」
優希「うぅ……私のリクエストに答えてくれて、わざわざ薄味にしてくれたんだじぇ」
しず「なるほど、ラーメンの味でタコスの味を消さない為にこの薄味にしたのか……」
憧「それってどれくらいすごいの?」
しず「役満しかあがれない人ぐらいすごいことだよ!」
しず「うん!さっきびみょーって言ったけどやっぱりおいしい!」
しず「気付かない人にしか気づかないおいしさ!」
優希「私にとってはとってもおいしいんだじぇ!」
優希「花田先輩に感謝してくるじぇ!」
しず「まってください!」
優希「どうしたんだじぇ?」
しず「きっと、花田さんは今凄い集中をしていると思います!」
しず「さっき急いでいたのは、多分私達がお腹が減ったのに気づいて料理を放置してきたからだと思います!」
和「つまり、今はその時間を挽回しているということですか?」
しず「そうなるね」
宥「これ一杯食べたらお腹いっぱいになるね……」
憧「あとで、食べればいいじゃない?」
優希「麺が伸びるんだじぇ」
憧「私は伸びたのが好きなんだけど……」
和「人それぞれ違いますね」
玄「いざとなったら私が食べる!」
憧「うん、よろしくね玄」
玄「あこちゃんのも食べるの!?」
優希「ぷはぁー、食ったじぇ!」
しず「ごちそうさまでした!」
宥「二人とも凄いね……」
優希「今日の為にお腹をすかしてきてたからだじぇ!」
しず「おぉ……見ているだけで食欲を誘われる!」
優希「花田先輩さっきはありがとうだじぇ!」
煌「気づきました?急に味を変えたんで少し心配だったんですが」
優希「一口目から気づいたじぇ!」
煌「それはすばらっ!」
宥「これも、あったかいね……」
和「ラーメンは温かいものですからね」
煌「私ですか?食べたいのは食べたいんですが」
煌「この髪が汁に浸かってしまいますからねー」
優希「切ればいいんだじぇ!」
煌「私のトレードマークはそう簡単に切れませんよ!」
和「言ったら失礼かも知れませんけど、その髪で器挟めそうですね」
煌「挟めません!」
しず「では、いただきます!」
煌「どうですかね?」
和「こ、これは」
しず「麺と絡みあう汁!絶妙な味の濃さ!麺の固さ!おいしい!」
憧(私としずも絡み合う!)
優希「キラッて感じだじぇ!」
宥「そういえば具が入ってないね……」
煌「スープに味が入ってますからね!」
玄「おいしいです!」
煌「優希、さっき言ったように私はラーメンが食べれないんですよ?」
優希「私が食べさせてあげるじぇ!」
煌「おぉぅ……それはなんか恥ずかしいですね」
優希「恥ずかしがることはないんだじぇ!」
煌「で、では一口……」
優希「あーんだじぇ」
煌「あ、あーん」
煌「……じ、自分で言うのもなんですが、すばらっ!」
しず「すばらっ!私も是非弟子入りさせてください!」
和「そんなオカルトありえません!」
憧「ほんとだ……温かい」
宥「あ、あれ?味も変わってる気がする?」
和「だからそんなオカルトありえまえん!」
優希「のどちゃん……科学では証明できないこともあるんだじぇ」
しず「くぅ、残しておけばよかった!」
憧「しず、私の食べてもいいよ?」
和「温かいなんて……そんなオカルト……」
優希「認めるんだじぇ!花田先輩の愛の力だじぇ!」
玄(ん?んん? 花田さんが優希ちゃんに向けて作ったラーメンだから)
玄(花田さんは優希ちゃんが好きなのかぁ……)
玄「ふぅ~む、なるほどなるほど」
宥「なにに納得してるの?」
玄「なんでもないよ!」
煌「きてくださいますかね?」
優希「間違いなくくるじぇ!」
しず「あっ、ごめんあこ。全部食べちゃった……」
憧「別にいいよ」
宥「これ、持って帰ろうかな……」
煌「さすがに食べて帰ってくださいね!」
しず「いえいえ、こちらこそおいしいものを有り難うございました!」
宥「そろそろ、電車の時間だね……」
しず「名残惜しいですが、これでさようならですね……」
煌「ふっふっふ……私がお店を出せばいつでも会えますよ!」
玄「さようならー!」
煌「また来てくださいね!」
憧「すばらでした!」
煌「すばらっ!」
和「いえ、私たちは当然のことをしただけですから」
優希「そうだじぇ!花田先輩には感謝してるじぇ!」
煌「この行為を当然と言えるとは、すばらです!」
煌「おっと……もうこんな時間ですか」
優希「もう少し遊ぼうじぇ……」
煌「わがままを言ってはいけませんよ優希」
煌「それでは、お二人ともさようならです」
和「はい、また今度」
優希「グスッ……バイバイだじぇ!」
和「優希、見てくださいこの記事」
優希「なんだじぇ?」
『今話題のラーメン
スバラーメン!キラメーン!』
優希「こ、これ花田先輩のだじぇ!」
和「そうですよ。つまりもしかしたらこっちに来るかもしれません」
優希「そ、そうなのか!?」
ピンポーン
和「今出ますよ」
煌「どうも、お店をだしてる花田煌です!売り上げに貢献おねがいしますね!」
優希「うぅ……花田せんぱーい!」
優希「そんなこと関係ないじぇ!」
優希「スバラーメン一つ下さいだじぇ!」
和「私はキラメーンでお願いします」
煌「残念ですが……優希に上げるスバラーメンはもうないのです……」
優希「え……どういうことなんだじぇ……」
煌「優希には私が特別作ったこれ、タコスバラッをあげましょう!」
優希「ほ、本当に作ってくれたんだじぇ……」
煌「えぇ、優希が食べたいって言ってたので、知らぬ間に出来ていたんですよ」
和「そんなオカルトありえますか?」
和「あっ、追加で三人分頼みます。咲さんたちにも食べさせてあげたいので」
煌「わかりました!」
優希「」スイー
煌「こ、こらっ優希!そんなに顔近付けたらいけませんよ!」
優希「ちょうど挟まれそうだじぇ……」
煌「挟めませんから!」
優希「すばらだじぇ!」
煌「すばらっ!」
宥「あっ、花田さんのラーメン……」
憧「本当にお店出したんだ……」
あらた「これがみんなが言ってたラーメン?」
玄「そうなのです!」
しず「ウぅ……はやく奈良までこないかな!」
あらた「玄もラーメンとか作ってみれば?」
玄「お任せあれ!」
『新発売!ドラメーン!
これを食べればあなたもドラ7確定!』
照「私これ食べたことあるけど……」
菫「ん、本当にドラが来たのか?」
照「焼き鳥になった……」
淡「テルを焼き鳥にするなんて凄いね!」
亦野(食べなくて良かった……)
カン!
Entry ⇒ 2012.11.15 | Category ⇒ 咲-Saki-SS | Comments (0) | Trackbacks (0)
淡「中間試験?」
淡「中間試験?」
菫「そうだ。一週間後だから明日から部活は休みだ。休みの間しっかり勉強しろよ?」
淡「嫌ですよ。淡には麻雀があるから勉強なんかしなくても推薦で大学行けますし」
菫「あのなぁ大星…」
淡「だいたい虎姫のみんなだって推薦で大学行けるんですから勉強なんてしないでその分麻雀の練習しましょうよー。淡勉強なんて嫌ですー。照も何か言ってよー」
照「私に振られても困る」ペラッ
淡「照は部活休みになってもずっと家で本読んでそう」ボソッ
照「私だって試験前くらいは勉強する」ペラッ
菫「照だってこう言ってるんだからお前も勉強しろいいな?いくら麻雀で大学に行けるからといって、高校生の本分は学業だ。最低限の教養くらいは身に着けておかないと大学に行って恥を晒すぞ。だいたい私たちはチーム虎姫として全国的な注目集めているんだ・・・」ウンタラカンタラ
淡…(大体なんで私だけ…)
尭深「・・・・」ズズー
誠子「腕立て腕立て蛙跳びっと」ハァハァ
菫「おい大星聞いてるのか?おい?」
淡「あー、ほんと菫の話は毎回長いなー。早く終わらないかなー」
淡…(嫌だなー。聞いてるに決まってるじゃないですかー)
尭深「淡ちゃん逆」ズズー
菫「いいな、明日からちゃんと勉強するんだぞ。もし追試なんかに引っかかったら分かってるよな?」ゴッ
淡「ひぃー。分かりました。ちゃんと勉強しますよー。」
照「sinがsakiに見えてきた」
照「sinθを求めよ?」
照「咲ーお姉ちゃんだよー。咲ー」ハッ
照「だめだ数学はやめよう。咲の事を考えてしまって集中できない…」
尭深自室
尭深「今日届いた茶葉をさっそく飲み比べてブログ更新しないと」ズズー
尭深「明日からは部活休みだし。新しいお茶を飲むのが捗りそう」ズズー
尭深「あーこのお茶美味しい」ズズー
誠子「はぁはぁ…995 996 997 998 999 1000 ふぅ」
誠子「腕立て1000回終わり。あと2セットやって次は腹筋だ」
誠子「明日から部活休みだし。釣りにも行きたいなぁ」
淡自室
淡「菫はあんな事言ってたけどやっぱ勉強したくないよー」ゴロゴロ
淡「あと30分テレビ見たら勉強しよ」ゴロゴロパクパク
30分後
淡「あと30分だけ。うん後30分だけなら」
3時間後
淡「結局勉強できなかった…。まあ明日からやればいいよね」
淡「やっと試験終わったよもー。あー疲れたー。これでも後半はちゃんと勉強したんだよもー」
淡「慣れない事をしたせいで変な口癖がついちゃったよもー」
淡「さあ部室行って久しぶりにみんなと会おう」
ガチャッ
淡「おつかれー」
淡「みんな試験どうだったー?」
照「咲のおかげで完璧」(震え声)
菫「ばっちりだ。私は前から計画的に勉強してたしな。だいたいお前らは直前から勉強しようとするから・・・・」クドクド
尭深「しっかり点数を収穫できた」ズズー
誠子「よし次は背筋だ」ハッハッ
淡「あ、淡もちゃんと勉強しましたし余裕でしたよ」
菫「では今日の部活を始めるか」
担任「先日の中間試験の結果が出たから返すぞー。追試の者は一週間後に行うからしっかり勉強して臨むように」
部室前
照尭誠淡「・・・・・・まさか追試に引っかかるなんて・・・・・・」ズーン
淡「ど、どうしよう菫にバレたら。菫にバレるのだけは避けないと」
照「部室で試験の話しは今後一切禁止いい?」
淡堯誠「了解」
菫「おい、お前らなんで部室に入らないんだ?」
照尭誠淡「ビクッ」
淡「いやー。部室前でたまたまばったり遭遇ってやつー?あはは、さあ部活部活ー♪」
菫「まあいいか早く部活始めるぞ」
淡「照~」ダキッ
照「おい淡そんなにくっつくな」ペラッ
淡「いいじゃないですかー」キャッキャ
菫「お前たちいい加減にし」コンコン
菫「誰だろう。入っていいぞ」
モブ「私生徒会のモブと言います。先日の中間試験の追試の日程が変更になったのでお知らせに来ました。えっと対象者は宮永照さん、渋谷尭深さん、亦野誠子さん、大星淡さんですね。こちらのプリントをどうぞ。では失礼します」
照尭誠淡「」カタカタカタカタ
照「実は今日通院の日だったのを思い出してな。診察の予約に遅れると私の先生えらい怒るからなぁ」
淡「はい、その病弱アピール辞め!」
堯深「・・・・・」ズズー
誠子「腹筋腹筋」ハッハッ
菫「・・・・・・」プルプル
照「まあ菫これでも食べて」
菫「これは黒糖?食べやすいのに風味があって美味しいな」ポリポリ
照「それが自慢」ニコッ
菫「ニコッじゃなくて、お前ら全員ここに正座!」
菫「はぁ。あれだけ一週間前に勉強しろって言っておいたのに。やっぱり今回も追試か…」
淡「えっ?今回もって事は?」
菫「大星は今回が初めての試験だけどそれ以外は一年の頃から毎回追試の常連だよ。ほんとなんでこいつらは学ばないかねぇ、はぁ」タメイキ
照「ごめん菫、今回は、その咲の事考えてて」
菫「それは毎回じゃないか。まあいい。他の奴らが何してたのかもだいたい想像がつく」
菫「説教するこっちもこう毎回だと疲れるしな。今回は何の科目が追試で何が原因だったのかをはっきりさせよう。そうすれば追試に向けての勉強もしやすくなるだろう?」
照「なるほどなるほどー」
照「ええと科目は現国なんだが、科目は関係ないんだ。問題は私の能力と関係している」
菫「と言うと?」
照「私は能力の影響で、試験を受けると前回の科目よりも点数を上げていかないといけないんだ。だから最初に受ける科目の得点を低めにしておかないと最終科目まで保たなくなる。今回の一科目目は現国だったからたまたま現国が赤点になってしまった。それだけ」
菫「お前の能力は試験でも影響があったのか。そんなの初めて聞いたぞ」
照「今まで黙ってきたから…。菫分かる?最終科目を受けてる時の私の気持ちが!右腕の風で問題用紙が吹き飛んでいきそうになるのを必死に抑えながら問題を解いてる私の気持ちが!」
菫「なんかすまなかったな、素直に同情するよ」
照「分かってくれればいい」グスン
誠子「私は保健体育の試験なんです。得意科目なんですがちょっと試験中に問題がありまして」
菫「ほう、何があったんだ?」
誠子「試験を受けてる時に、その、いきなり、したくなってきて、保健室に行こうと思ったんですが我慢できず教室で////」
尭深「///////」ズズー
誠子「筋トレを始めてしまいました/////」
誠子「だって保険体育の試験が悪いんですよ。問題用紙に筋肉なんて書いてあったら嫌でも意識しちゃいますよね?私達そういう年頃じゃないですか?」
菫「何がそういう年頃だ!お前にはほんとに呆れたよ。いいか、追試で筋トレは禁止だからな」
誠子「はい気をつけます」フッキンフッキン
尭深「はい。私は日本史の試験です。私も得意科目なんですが試験中にちょっと問題が」
菫「渋谷は何があったんだ?」
尭深「実は30分前に問題を解き終わり暇だった私はお茶を飲み始めたんです。そしたらそのお茶をマークシートに零してしまって、そのまま失格になってしまいました…」
菫「渋谷は試験中にお茶禁止な。まあ得意科目なら追試は心配ないだろう」
尭深「はい。追試では気をつけます」ズズー
淡「淡は数学です。数学だけはどうしても苦手でその赤点を取ってしまいました…」
淡「サインコサインタンヤオってなんなんですか?私サインもコサインも知りませんよ。だからローカル役は混ぜるなって言ってるんです。だいたい三辺の長さに1、9があったらタンヤオは求められないじゃないですかー。うがーーー!!」
菫「大星。数学は麻雀じゃないぞ…。他の三人とは違ったベクトルでお前も残念だよ。いいか追試までにしっかり勉強しろよ?きっと何とかなると信じてるからな」
淡「うぅ…。頑張ります…」
菫「わ、私は別に大した事ないぞ。もちろん追試じゃないがな」
淡「えー気になるじゃないですかー」
照「誠子」
誠子「ラジャッ」ヒュッ
誠子「菫先輩の試験結果を鞄から取って来ました」↑↓この間約1秒
照「ご苦労」
菫「おい亦野、部室で瞬間移動するの禁止」
誠子「すみません、でも宮永先輩の命令なんで…」
淡「菫すごすぎぃ、まさかここまでのレベルだったなんて」
照「せやろー、すごいやろー?」ドヤァ
菫「照お前は黙れ」
淡「ねー菫ー。私に勉強教えてよー。菫の協力があれば絶対追試で合格できるって」
淡「お願い!菫の力が必要なの!」
菫「大星。勉強は積み重ねが大事なんだよ。日頃からさぼってきて試験前だけ勉強して得点が取れる訳ないだろ?まあ私も鬼じゃないから今回だけは助けてやる。問題用紙を見せてくれ」
淡「さすが菫だね。はいこれ問題用紙。間違えたのこれとこれと・・・・・・・・ほとんど全部。4択だから適当に選べば当たるって思ったけどだめだったみたい…」
菫「問1はこれ、問2はこっち、問4は・・・・」
菫「ふぅ、だいたいこんな感じか」
淡「嘘、もう解き終わったの!?」
照「いくら一年の範囲とはいえこれは速すぎる」
尭深「まるで弓が標的を射抜くよう…」ボソッ
照誠淡…(弓?・・・・・・・・・・!!)ハッ
淡「何でそんなに慌ててるのかな菫。いや『シャープシューター菫』さん」ゴッ
菫「な、何のことだ。私はこれからプリキュアの再放送があるから帰らないといけないんだよ」アセアセ
照尭誠「・・・・・・・」ゴゴゴゴゴ
淡「これからゆっくりお話しようか」ニッコリ
菫「おいやめろ離せ。私はこれからプリキュアを見るんだ、うわあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
【カン】
淡って一人称かわいかった
乙
その通りです。菫さんは能力で全部の問題を解いてました
マークシートじゃなかったら詰みなのか?
それは菫さんの名誉ために答えないでおきます(震え声)
Entry ⇒ 2012.11.14 | Category ⇒ 咲-Saki-SS | Comments (0) | Trackbacks (0)
えり「今度結婚することになりました」咏「えっ」 side-B
えり「小鍛治プロです」
咏「」
ここから咏ちゃんとこーこちゃんが手を組んで互いの想い人を奪還する感じてよろしく
えり「それは、その……」
えり「……………」
えり「こ、心の準備がありまして、と言うか……」
えり「…………な、なんだか、気恥ずかしくて……」カァァ
咏「」
咏(やべぇ、この反応はマジだ……)
えり「…………」コクリ
咏「えっ……ええええええ!?」
えり「実は、数ヶ月前に小鍛治プロに……こ、告白……され、まして…」モジモジ
咏「…お、オッケーしたんだ……?」
えり「は、はい………///」
咏(すこやん……そうだったん……?)
えり「最初は、私なんかが小鍛治プロとなんて、と思っていたんですが……」
えり「その……なんというか……」
えり「一緒にいると、お互い自然体でいられるというか……」
えり「……ああ、もう。何言ってるんだろう、私……」カァァ
咏(………かわいい………///)
えり「………うぅぅ………///」
咏(この表情は……すこやんがさせてて……すこやんが、えりちゃんをこんなに可愛くしてて……)
咏(っつーことは…私では、ないわけで……)ズキッ
咏(………出遅れちまったか………)ズキズキ
えり「三尋木プロ……?」
咏「…………ん?」
えり「どうなさったんですか?顔色が優れないようで…」
咏「な、なんでもないよ」
えり「しかし、」
咏「なんでもねーっつーの!」
えり「っ!」ビクッ
えり「い、いえ……」
咏「き、急な話で、こっちもビビっててさ。つい…」
えり「私も、言うのが遅くなってしまって……すみません」ペコリ
咏「い、いいんだよ。心の準備ってやつがあったんでしょ?」
えり「………………」
咏「そ、それにしてもすこやんか~真面目そうなのがくっついたねぃ~」
咏「二人の子どもは、きっとめちゃくちゃ真面目なのができるんだろーなぁ~」
えり「こ、子どもなんて、そんな……まだ婚約したばかりで……///」
えり「先週、す……こ、小鍛治プロに…ゆ、指輪…を……」
えり「……~~~っ///」
えり「そんな根掘り葉掘り聞かないでください。さっきも言いましたが、…恥ずかしいんですよ……?」カァァ
咏「………………」ムカッ
咏(………あーあ、もう。……祝うしか、ないのかねぃ……)
えり「…でも、良かった。ちゃんと話せて」
咏「え?」
咏「………」
えり「今までずっと、仕事のパートナーとしてお世話になりましたから」
咏(…仕事の、ねぇ…)
えり「これから……小鍛治えりとして、お仕事は続けていきます」
えり「これからもご迷惑かけることが多々あるかと思いますが、よろしくお願いします」ペコリ
咏「お、おう………」
咏(小鍛治、えり……)
咏(……えりちゃんには、三尋木えりのが一番合うだろうが……)
夜 とある飲み屋
咏「はぁぁ………」ゲンナリ
恒子「はぁぁ………」グッタリ
咏「……どうよ」
恒子「……どーもこーも」
咏「だよねぃ………」
恒子「………あの二人が、なぁ………」
咏「………いっつの間に、そんな進んでたんだろーねぃ………」
恒子「今まで、ずっと恋人同士だったんだなぁ…」
恒子「私たちの扱いは?」
咏・恒子「「仕事のパートナー」」
咏・恒子「「………………」」
咏・恒子「「はぁぁ………」」
店主「ヘイお待ち!ビールと熱燗、枝豆、唐揚げ!」
咏「うぃっす」
恒子「あざっす……」
店主「なんだいなんだい、元気ないねェ!」
咏「いやー知らんし。なんもかんもわっかんねーって」
店主「失恋でもしたのかい?」
恒子「う゛っ」
咏「…あーもわっかんねー全てがわっかんねー。酒でも飲まねーとやってらんねー」グビー
店主「そーだそーだ、呑んじまえ。常連さんにそんなショボくれた顔されてちゃ、他の客まで暗くなっちまう」
恒子「んなこと言ったって大将~コレキツイっす~」
店主「はっはっは!人生色々!男も女もイロイロってねぇ!」ケラケラ
咏「いやもうマジ笑い事じゃねーって」
店主「で、どーするんだ?」
恒子「何が?」
店主「なーに言ってんだよ」
恒子「えっ……」
咏「ムリムリ、相手は婚約してんだぜ?」
店主「まだ籍入れてないじゃねーか」
恒子「カンタンに言ってくれるね~」
店主「お前らだから言ってんだろうが」
咏「あン?なんだそりゃ」
店主「俺の知ってるトッププロとスーパーアナウンサーは、そう簡単に諦めるような人間じゃなかったけどな」
恒子「……いや、だってエンゲージリングまで……」
恒子「ちょッ」
咏「…そーれを言うのはどうかと思うぜ?大将」
店主「エンゲージだかソーセージだか知らねぇが、惚れたヤツにアタックもせずに結婚させんじゃ女が廃るぜ?」
恒子「だ、だって………だって…………」グスッ
店主「だって?恋に理由も何もねーだろ?」
咏「……………」
店主「……ま、散々言ったが、これはお前らの問題だから、俺がとやかく言えるわけでもねーか」
咏「……大将」
店主「ンン?」
咏「……キッツいのちょーだい。酒」
店主「ヘイ、まいどあり」
咏「………婚約、か………」
恒子「……すこやん……」
咏「……………」ガッ
恒子「え」
咏「んぐっんぐっんぐっ………」グビグビー
恒子「ちょ、それ私のビール……」
咏「プハーッ!」ドンッ
恒子「もー、一気とか!相変わらず呑むの早いなぁ!」
咏「で、どうするよ」
恒子「え?」
恒子「いや、私のビール勝手に飲んだのは?」
咏「取り返そう」
恒子「おい無視……、……え?」
咏「告らずに終わってんじゃ示しがつかないからねぃ~」
恒子「…………!」
咏「忘れてたよ。私は三尋木咏」
咏「欲しいモノは、どんな手を使ったって手に入れる」
恒子「……三尋木プロ……」
咏「うぃっす!」
店主「あとイカリングな」
恒子「え?イカリングは頼んで……」
店主「サービスだ。…しっかりやれよ?」ニカッ
恒子「……………」
恒子「やってやろうか!」ニッ
咏「そー来なくっちゃねぃ!」
恒子「タイショー!ビールおかわりーッ!」
店主「まいどォ!!」
咏「……ぜってー、諦めねーからな」
咏(私のモノにしてやんよ。……えりちゃん)
針生宅
えり「…………」
健夜「どうしたの?窓の外なんて眺めて」
えり「あ、い、いえ。別に……」
健夜「……あ。空綺麗だね」
えり「……星が、見えますね」
健夜「……ふふ」
えり「………?」
健夜「意外と、ロマンチストなところあるよね」
えり「そうですか…?」
えり「あ………」
健夜「夜空は綺麗だけど、冷たいから…」
健夜「私は、綺麗で暖かいえりちゃんの方が好き」ボソッ
えり「ん………」
健夜「…えりちゃんは?」
えり「?」
健夜「…私だけに、こんな恥ずかしいセリフ言わせるの?」
えり「……健夜さん?」
健夜「なぁに?えりちゃん」
えり「……だいすき、です」
健夜「ふふ……知ってる」ニコッ
(隙間すら)ないです
健夜「ん?どうしたの?」ニヤニヤ
えり「………は、離してくれませんか………?」
健夜「どうして?」ギュー
えり「離して、くれないと……その……」
健夜「…ん?」
えり「…………じゃ、ないですか……」ボソッ
健夜「なぁに?聞こえないよ」
えり「後ろから、抱きしめられたら……」
えり「私が、あなたに……」
えり「………抱き、つけないじゃない………」ボソッ
健夜「…………」ニコッ
えり「あ……」
健夜「…ほら、おいで?」テヒロゲ
えり「え………」
健夜「えりちゃん?」
えり「…………」
ギュ
健夜「よしよし」ナデナデ
えり「…………///」ギュー
健夜「ね、えりちゃん」
えり「…なんですか…?」
えり「…幸せ、ですよ。健夜さんは?」
健夜「もちろん。とっても幸せだよ」
えり「…………」ギュー
健夜「えりちゃん……こっち、向いて?」
えり「…………?」
チュッ
えり「んっ……」
健夜「……えへへ」
えり「…もう!勝手に…」
えり「…急にそんな事する健夜さんは、嫌いです」プイッ
健夜「えー、ごめんごめん。嫌いにならないでよ」
えり「……………」ムー
健夜「ねーえりちゃーん」
えり「知りません」
健夜「……………」
グイッ
えり「きゃっ…!」
えり「んん……っ」
健夜「ん、…チュ…」
えり「ふ、ぁ……っ」ピクンッ
えり(舌…入ってきて……)
健夜「ンン……ピチャ……」
えり(ぁ……だめ、力…ぬけちゃ……)
健夜「ん……ふぅ」ツゥ
えり「っ……ぅ…はぁ…はぁ……」クタッ
健夜「…嫌いなんて、言わないでよ」
健夜「また、その口塞ぐよ?」
えり「…そういうところが、き」
グッ
えり「あッ……」
ドサッ
健夜「…無理矢理でも、好きって言わせるから」
えり「すこ……っんん……」
健夜「……優しくできないよ?覚悟してね」
えり「あ……ぅ……」カァ
咏「………んん~?」
咏「…ここはどこ……っ、いててっ」
咏「なんで机に突っ伏して……おお」
恒子「すかー……」zzZ
咏「……あー。そかそか、思い出した」
咏(昨日飲み屋で散々騒いで、ふくよんが酔っ払っちゃって…)
咏(タクシーでふくよん家まで送ったら、無理矢理上がらされて…)
咏(……そのまんま寝ちまったのか)
咏「う……変な体勢で寝てたら、首が……」コキコキ
恒子「ん~……ムニャ」zzZ
咏「ムニャじゃねーよ。さっさと起きろや酔っ払い」ユサユサ
恒子「あとごふ~ん……」
咏「うるせーよ」グニッ
恒子「ほひゃっ!?」
咏「目ぇ覚ませ~」ギュウウウウ
恒子「いひゃい、いひゃいっすみひろひふろ!」
咏「あっはは。ほっぺた伸びるねぃ!」ミョーン
恒子「いひゃいっつーのっ!!」
咏「何言っちゃってくれてるのかねぃコイツは」
恒子「こちとら二日酔いで頭ガンガン……あれ」
咏「あン?」
恒子「いーつの間に帰って来たかなぁ」
咏「覚えてねーのかよ!」
恒子「あれ、なんで三尋木プロがウチにいるの?」
咏「だから」
恒子「……不法侵入?」
咏「てめータクシー代返せ」
恒子「もーしわけありませんっした!」ドゲザ
咏「ったく……飲み屋も全部私が払ったんだぜ?感謝しろよ?」
恒子「あざっす三尋木さま!」
咏「おう。…ところで今日は?」
A.恒子「今日はオフっす」
B.恒子「今日は仕事っす」
安価>>61様
お選びください
咏「え?そうなん?」
恒子「え?」
咏「仕事だろうから起こしたんだけど」
恒子「いやいや、休み」
咏「なんだぁ。じゃ無理矢理起こさねーほーが良かったかねぃ」
恒子「それは、もしや私を心配して…?」
咏「寝てる間にコッソリ帰ればラクだったのに」
恒子「ひでえ!」ガーン
恒子「えーつまんなーい」
咏「シャワー浴びてぇんだよ。ずぅっと付き合わされて着替えもできてねーし」
恒子「……スミマセン」
咏「そんなら、後で会場の近くのファミレスでな」
恒子「?」
咏「なにキョトンとしてんだ…作戦会議だよ、作戦会議」
恒子「なんの?」
咏「えりちゃん奪還作戦」
恒子「…ええっ!?」
咏「えーっと……」キョロキョロ
恒子「こっちこっち」フリフリ
咏「お、いいねぃ。端っこの席」
恒子「一応我々有名人ですから!」
咏「あんまり気にしたことないけどね~」
恒子「…ま、そうなんですけど」
咏「なのにえりちゃんはすっげーの」
恒子「ほう?」
恒子「へぇ~、ちょっと意外かも」
咏「んでそれがさ、大抵ナンパね」
恒子「…マジでか」
咏「マジマジ。しかもナンパした方は声かけてからえりちゃんって事に気づくんよ」
恒子「美人さんが歩いてたから声かけてみたら、そのヒトはアナウンサーの針生えりだった、みたいな?」
咏「そーそー!さっすがえりちゃ……」
咏「………………」
恒子「どうしました?」
恒子「……あ……」
咏「………今度、小鍛治えりになるらしいぜ?」
恒子「…あはは、針生健夜じゃないんだ?」
咏「…おー…プロポーズも、告白も…すこやんだとさ」
恒子「……そっか……」
咏「…………」
恒子「…………」
咏「……ん?」
恒子「すこやんから話を聞いたとき……すこやん、めちゃめちゃ幸せそうだった」
恒子「もう、込み上げてきた気持ちの全部が諦めに変わるくらい…楽しそうだった」
咏「…こっちも、さ。すっげー甘ったるい話で…ココアとチョコ、食べてるみたいな」
咏「……えりちゃん、チョコレートみたいにトロトロ溶けててさ。…なんか……」
恒子「…ねぇ、……やっぱりイケない事なんじゃないかな……奪還作戦、なんて……」
咏「でも!」
カランカラン
店員「いらっしゃいませー」
店員「ご案内します」
恒子「!?」
咏「なッ!?」
健夜「ごめんね~……」
えり「いいですから。気にしないでくださいよ」
健夜「でも…」
えり「これからゆっくり覚えましょう?」
健夜「うぅ、お料理って難しいなぁ」
恒子「うわぁ出たっ!」ボソボソ
咏「噂をすればってやつ?」コソコソ
えり「知ってますよ、結構几帳面ですよね」
健夜「そ、そうかなぁ……えへへ」
えり「その点、私はズボラなところがありますから…」
健夜「そんな事ないよ?」
えり「手を抜くところが巧いだけてす」
健夜「あ、自分で言っちゃう?」
えり「ええ。…だって、私が手を抜いているところに、健夜さんは気づいていませんから」クスッ
健夜「えっ!ど、どこどこ?」
えり「ナ・イ・ショ」
健夜「も~ケチ」
えり「ふふ……」ニコッ
恒子(甘ああああああああい!!!)
咏(こっちに気づいてないみたいだけど……見せつけてんのか?見せつけてんのかコンニャローッ!)
咏(『おかえりなさい、あなた』とかやって貰えるのかなぁ……)
咏「…………へへ」
咏(ぜってー私のモノにしてやる……)メラメラ
恒子(あっちもアツアツだけど、こっちもアツい……飛び火って意味で)
ピンポーン
店員「ご注文お決まりですか?」
咏「ハンバーグステーキ、あとビール」
恒子「昼間っから!?」
咏「しー!声でけぇよ!」
恒子「あ、さーせん。…私パスタで」
店員「畏まりました~ごゆっくり~」
店員「いらっしゃいませー」
?「……えっと……」キョロキョロ
店員「お一人様でよろしいでしょうか?」
?「は、はい!」ビクッ
店員「おタバコは…」
?「す、すわないです…」
店員「では、お席までご案内します」
店員「あ、どうぞ」
?「ありがとうございます……」コソコソ…
恒子「……なんか明らかにおかしい人が」
咏「いや知らんし。ファッションかもよ?」
恒子「マスクにサングラスにサイズがデカいロングコートが!?」
咏「シーッ!声でけぇっつの」
恒子「むむ……」
咏「お、メニュー決まったみたいだねぃ」
咏「んじゃ、えりちゃんはドリアだな。賭けてもいい」キリッ
店員「ご注文お決まりですか?」
健夜「えっと、オムレツと…」
えり「グラタンで」
店員「畏まりました~」
恒子「な……っ」サァァ
咏「……勝敗の分け目は、白いご飯だったか……」ガクッ
店員「おまたせしましたーハンバーグステーキとパスタになります」
咏「……小ライス、追加で」
店員「畏まりました~」
咏「はふはふ……」モグモグ
?「……………」コソコソ
恒子(………ん?)
?「…………」ジー
恒子(あの人……)
?「………………」ジー
恒子(ずっと、すこやんたちの方見てる……?)
店員「小ライスになります」
咏「どーもどーも」
健夜「はーい」
えり「…久しぶりですね。二人で外食なんて」
健夜「えりちゃんのお料理美味しいんだもーん」ニコッ
えり「……これからは……」
健夜「ん?」
えり「これからは毎日……あなたの為に、作りますから……ね?」
健夜「…~~~っ」
えり「………///」
健夜「えへへ…///」
恒子(イチャイチャしやがって…)
咏「モグモグモグモグモグモグ」モクモク
えり「?」
健夜「…………」ジー
えり「…………」ニコッ
えり「一口、食べます?」
健夜「ぅえっ!?なんでわかったの?」
えり「そんな目でジッと見られたら、誰だって解りますよ」クスクス
健夜「む……」
えり「本当に、気持ちが顔に出ますね」クスクス
健夜「むぅ……」
健夜「あーん」
えり「え……」
健夜「あーん、して?」
えり「あ………///」
えり「えっ……と……」カチャカチャ
健夜「…………」
えり「ふぅー…」フーフー
えり「……あーん」
健夜「あーんっ」パクッ
健夜「えへへ、おいし」モグモグ
えり「…もう」
恒子「もおおおおおおおおおお」(小声)
咏「見せつけてくれるじゃねーのっ!」ボソボソ
恒子「うぐぐぐぐ」ギリギリ
?「」オロオロオロ
恒子「……………?」
?「………っ…」ワタワタ
店員「お客様?」
?「ひゃい!?」
店員「ご注文は……」
?「あ、え、えっと!チーズケーキで!」
店員「畏まりました~」
?「…………はぁ」
恒子「………怪しい」ボソッ
恒子「ほら、さっきのマスクさん」
咏「あー。ファッションセンスがイマイチな」
恒子「いやだからファッションでは……まぁいいや」
咏「そのマスクマンがどうしたって?」
恒子「あの人、すこやんたちをずっと見てる」
咏「ふーん?えりちゃんかすこやんのファンなんじゃね?」
恒子「そ、そうかな……でも……」
店員「おまたせしました、チーズケーキになります」
?「あ、ありがとうございます」
?「…………」パクッ
?「………!」モグモグ
?「………ん」
?「…おいし☆」
恒子「!!」ガタッ
咏「ばか、おまっ!」
恒子「あ、す、すいませ……」
?「!」
恒子「あ、ちょっ」
?「お勘定、ここに置いておきますねっごちそうさま!」
店員「あ、ありがとうございました…」
恒子「うわ逃げた!こら待てっ!」
咏(…お勘定って…そんな単語ひっさびさに聞いたなぁ……)
健夜「あれ、こーこちゃん?」
恒子「あ」
えり「え?……あ、三尋木プロまで」
咏「……言わんこっちゃねぇ…」
恒子「………さーせん」
恒子「いやー、フツーに昼ごはん食べに…ね」ポリポリ
咏「…そーそー」
恒子「二人は?………デート?」
咏(おい、自分にダメージ与えてどーする)
恒子(何言ってんだ私……)
えり「で、デートなんて、そんな……」
健夜「か、からかわないでよ。こーこちゃん」
恒子「……おーおー。お熱いことで」
咏「……わっかんねー……」
咏「べっつにぃ~?なんでもいーっしょ」
えり「………はぁ」イラッ
恒子「いやーたまには、食事どう?なーんて誘ってみてですねー、ははは、はは…」
健夜「?」
えり「お食事は済んだのですか?」
恒子「ま、まぁ」
咏「デザート食ってねー」
恒子「えっ」
咏「デザート。これなんか美味そーじゃん?」
恒子「ま、まだ食べるんすか……」
えり「…………」クスッ
えり「いえ。前に、一緒にお食事した時を思い出しまして」
咏「…………」
えり「あのときも、こんな会話したなぁ…と」
咏「あ…………」
~
えり『そろそろ、行きますか?』
咏『デザート食ってねー』
えり『えっ』
咏『デザート。これなんか美味そーじゃん?』
えり『ま、まだ食べるんですか……』
~
咏「…………」ズキッ…
恒子「あ、うん…じゃあね」
えり「では……」ペコッ
咏「…………うん」
恒子「…………」
咏「…………」
店員「ありがとうございましたー」
健夜「この後、どうする?」
えり「…思い切って、お部屋の模様替えしようって話、本当にしません?」
健夜「じゃあ…家具?」
えり「はいっ」ニコニコ
健夜「じゃあ、行こっか」ギュ
えり「……♪」ギュ
カランカラン…
恒子「あぁ~………食らったぁ……」グッタリ
咏「……くそっ……」
恒子「………デザート。たべる?」
咏「…………」ピンポーン
店員「はい?」
咏「ビール、まだ?」
店員「あ……申し訳ありません!今すぐに…」
咏「グラスワイン追加で」
店員「畏まりました」タッタッタ…
咏「……知らんし」
恒子「ま、気持ちはわかりますけど」
咏「うがああああああっ!!」
恒子「…ま、昼間のファミレスではアレっすけど」
恒子「夜にでもまた居酒屋行きますか。三尋木プロ」
店員「おまたせ致しました、ビールとグラスワインになります」
咏「…ほれ、ふくよん」
恒子「え?」
咏「このくらいならいいだろ?グラスワイン」
恒子「あ、ああ…あざっす」
恒子「か、かんぱーい」
チンッ
咏「んぐっんぐっんぐっ……」グイー
恒子「………」ゴクッ
咏「……ぷはっ」
恒子「…三尋木プロ?」
咏「…いーよ。もう、咏で」
恒子「……………」
恒子「ういっす、咏ちゃん」
咏「おっけ。……覚悟しな、居酒屋ハシゴすんぞ」
恒子「……程々に頼んます」
恒子「………」ゴクッ
咏「…奪還作戦、考えようか」
恒子「!」
咏「んぐっんぐっ……」グビー
咏「……ぷはっ」
恒子「………ほんっとに、もう……」
恒子「いー性格してるね、咏ちゃん」ニッ
咏「……諦められっかよ……」
恒子「もちろん」
咏「…決めたんだよ。…えりちゃんには…」
咏「“三尋木えり”のが合ってるから」
咏「おうよ。……ふくよんも、だろ」
恒子「…あたぼうよぉ!」
咏「……へへっ」ニカッ
恒子「……それに……」
咏「……ん?」
恒子(あの人……あの、マスクマン……)
恒子(問い詰める必要があるかな?)
健夜「でも……いいの?」
えり「なにが…ですか?」
健夜「えりちゃんの家に、住んでも」
えり「ええ。…私は、貴女と違って一人暮らしですし?」
健夜「う゛っ」
えり「ふふふ………」クス
健夜「…言うね、えりちゃん」
えり「健夜さんだけですよ。…新居、というのも良いですけど…」
健夜「そう?気、使ってない?」
えり「…健夜さんがそっちのが良いなら…」
健夜「ううん。えりちゃんの家好き」
えり「そう…ですか?」
健夜「えりちゃんの匂いがする。…えりちゃんが、何が好きか、とか…えりちゃんの全部を感じられるから」ニコッ
えり「……っ///」
えり「い、言いますね…健夜さん」
健夜「えりちゃんだけ、だよ」
えり「誰のせいですか……」
健夜「わたしー♪」
えり「うぅ………」
健夜「かーわいい♪」
えり「……うるさいですよ」
健夜「しーらない」
?「……………」
?「ど、どうしよう………」ドキドキドキ
?「なんとか…なんとか、しないと……」
咏「あーあーあーあー、もーわっかんね。ぜんっぜんわかんね」
恒子「ういっす。…それと、なんでウチで飲んでるんすか。居酒屋ハシゴって」
咏「タクシー代」
恒子「う゛っ」
咏「また酔いつぶれたやつを送るの嫌だかんな?」
恒子「…面目ないっす」
咏「しっかしさぁ………ねぇ?」
恒子「ねぇ、って?」
恒子「ああ…すこやんと、針生さん」
咏「そそ。絡み合ったっけ?」
恒子「私たち結構四人でご飯行ったりしたじゃん?」
咏「まーそーだけど…二人だよ、二人」
恒子「…そう、言われると…たしかに」
咏「っしょ?しかも聞けば、数ヶ月前から恋人同士とかなんとか」
恒子「…意外と、前からそんな関係にあったんすね」
咏「…おー…」
恒子「…………」
咏「………あ、そういえば」
恒子「ん?」
咏「ふくよんさ、あのマスクマンを追いかけようとしてたじゃん?」
恒子「あ、ああ…逃げられちゃったけどね」
咏「なんで?」
恒子「…あの人、ずっとすこやんたちみてたじゃん?」
咏「おお、そうらしいね。知らんけど」
恒子「なんか知ってんじゃないかなーって」
恒子「そうかなぁ…」
咏「ほら、あれかも。パパラッチ?トッププロ小鍛治健夜熱愛発覚!お相手は真面目系清純派美人アナウンサー!」
咏「……みたいな」
恒子「あ、違う違う」
咏「ん?」
恒子「あのマスクマン、パパラッチじゃないよ」
咏「じゃあなにさ」
恒子「…ま、明日一緒に問い詰めに行きま しょうや」ニヤリ
咏「焦らすねぃ」
恒子「一応ね。確証があるわけじゃないから」
咏「……ふーん?」
恒子(大体検討は付いてるけどね)
恒子(でも、なんであの人が…)
針生家
えり「…………」カチャカチャ
健夜「えーりーちゃんっ」ギュ
えり「きゃっ!」
健夜「きゃ、だって。かーわい」
えり「…もう!脅かさないでくださいよ」
健夜「だって、……ねぇ?」
えり「わかりませんー」
健夜「抱きしめたかったから?」
えり「…洗い物、終わったら……ね?」
健夜「やーだよ」ギュー
えり「だ、ダメですってば…っ」
えり「ぅ……」
えり「…私まだ……お風呂、入ってない……」
健夜「別にいいよ?」クンクン
えり「ちょっと、やめてくださいっ」
健夜「いー匂いだよ?」クンクン
えり「く、くすぐったいですよ…」
健夜「ほらほら、気をつけないと食器落としちゃうよ」
えり「あ、……」
えり「だめ、ったら…だめっ」
健夜「…ちぇー」
えり「まったくもう……」
健夜「…えへへ」ニコニコ
えり「…なんですか?」
健夜「もーすぐ、えりちゃんは私のお嫁さんになるんだなぁ~て」
えり「………あ………」
健夜「……ね、えりちゃん」
えり「?」
健夜「お風呂、一緒に入ろ?」
えり「はいッ!?」ビクッ
えり「そ、それは、……その……///」
健夜「恥ずかしがることないと思うけどなぁ~?今まで、えりちゃんのもっと恥ずかしいところをたくさ」
えり「やっやめてええええっ!」
健夜「だから、ね?」
えり「うぅ…ぅー……っ……」
健夜「お願いっ」
えり「………ヘンなこと………しないなら……良いですよ……?」
健夜「それってどんなこと?」
えり「健夜さんッ!」
健夜「ふふ。先に入って待ってるからね~」パタパタ
えり「……ったく、もう……」ハァ
えり(洗い物、早く終わらせないと…)
すばらっ!
お風呂あがり
えり「………っ」フラフラ
健夜「大丈夫?」
えり「っ…誰の、せいで……っ!」
健夜「そんなに良かった?」
えり「健夜さぁんッ!」キッ
健夜「ごめん、つい……」タハハ…
えり「身体、持ちません……」
健夜「養ってあげるから」
えり「…………」ムー
健夜「……あのね?えりちゃん」
えり「?」
健夜「見せたいものがあるんだけど……」
健夜「せっかくだから…どうかなって……///」
えり「け、結婚式場の…カタログ…?」
健夜「式は別にやらなくてもいいかなって、思ったんだけど……」
健夜「その……思い出に、ね?」
えり「健夜さん」
健夜「や、やっぱりいy」
ガバッ
健夜「おっと…」
えり「健夜さん……っ」ギュー
健夜「うん…」キュ
えり「……どうしよう…わからないの……」
健夜「……なにが……?」
健夜「………」ナデナデ
えり「すこ、…すこや、さんの……っ」ギュー
健夜「…私の?」
えり「ばかっ!」
健夜「えぇっ!?」
えり「ばかっ……ばか、ばか、ばかぁっ…!」
健夜「な、な、なんで?」
えり「……っぅ……ヒック……こ、……グスッ…こんな、……~~っ」
えり「こんな、気持ちに、…させたのもっ!ヒック…こんなに、っ…泣かされたのもっ!」
えり「あなたが、はじめてですよ……っ!」
えり「すこやさんの……っばかぁぁ…っ!!」
えり「いいんですっばかっ」
健夜「はいはい、ばかですよー」ギュー
えり「うぅぅ………」
健夜「……それで?どんな気持ち?」
えり「……ドキドキ……します」
健夜「それと?」
えり「……凄く、恥ずかしいです」
健夜「うん。…あとは?」
えり「……多分……」グスッ
えり「……凄く、幸せです」
えり「………」
健夜「………」
えり「……~~~っ」
健夜「?」
えり「………っ」パッ
健夜「え?」
えり「………すいません」
健夜「ずっとくっついてていいんだよ?」
えり「……冷静になりました」
健夜「冷静になったらどうしたの?」
えり「………凄く、………」
えり「はずかしく、……なりました」ボソッ
健夜「ふふふ……」クスクスクス
えり「…………」
健夜「えりちゃん?」
えり「…なんだか、…夢みたいで」
健夜「…………」
えり「私は、…貴女と、結婚するんだなぁ…って……」
健夜「なにを、今更」
えり「そ、そうなんですけど…現実味が無くて……」
健夜「…実は、私もなんだ」
えり「健夜さんも……?」
健夜「それで…告白して、コイビトになって……それで、プロポーズして」
健夜「…短い期間で、色々やりすぎて…いろんな事しちゃって。それで…時間がたつのが、早くて」
健夜「もう、頭がついていけてるのかわからなくて。フワフワしちゃってる」
健夜「………あはは、焦り過ぎたかな…プロポーズ」
えり「…………」フルフル
えり「私達なら、大丈夫ですよ」
健夜「…そう?」
えり「ええ」ニコッ
えり「はい?」
健夜「大好きだよ」
えり「………私も」
健夜「……ね、子どもは何人ほしい?」
えり「え、えぇっ!?」
健夜「二人はほしいよね~」
えり「そ、それは、その、まだ……」ゴニョゴニョ
健夜「四の五の言わない。…それとも、今する?」
えり「………ッ///」
健夜「ん?」
えり「………へんたい」
えり「ん……」
健夜「………あ、でもいっか。変態でも」ドサッ
えり「す、すこやさ……っ」
健夜「でも、えりちゃんの中の私は、ばかでヘンタイなんだー?」チュッチュッ
えり「んんっ…そ、です……」ピクンッ
健夜「へぇ?」ペロッ
えり「ひゃ、…ばかで、へんたいです…っ」
健夜「でも、好きなの?」チュゥゥッ
えり「あぁぁっ………っ///」ビクッ
健夜「ねぇ…」ボソッ
えり「っ、ぁ…す、きぃ……すき、だいすき……っ」
健夜「……ん。かわいい……」ギュ
会場
?「………」コソコソ
?「………」キョロキョロ
?「…………!」サッ
えり「はぁっ……はぁっ…はぁ、はぁ…」タッタッタ
健夜「ぎ、ギリギリ、セーフ?」ゼェゼェ
えり「健夜さんの、ばかっ」
健夜「…うん、言い訳できない…ごめんなさい」
えり「……激しすぎ、ですよ……」ボソッ
健夜「あはは……」
?「………!?」
?「こ、これは………うー……」
恒子「なにが?」
?「!?」ビクッ
恒子「どーも~昨日ぶりっす」ニコッ
恒子「…瑞原プロ」
はやり「あ………」
恒子「しらばっくれるのはノンノン。別にどーこーする気はないですからね」
はやり「じゃ、じゃあ……?」
恒子「すこやんと、針生さんのことで」
はやり「!」ビクッ
ダッ
恒子「あ、ちょっと!」
咏「させるかぁぁーー!!」ガシッ
はやり「きゃうっ!?」
恒子「で、認めます?」
はやり「うぅー……簀巻きなんてー……」クスン
咏「悪いねぃはやりん。なりふり構ってられねーんだ」
はやり「むー……認めます。昨日ファミレスで変装してえりちゃんと健夜ちゃん見てたのははやりですー」
はやり「だからこれほどいてー」ウゴウゴ
咏「いーや!だめ」
はやり「どーしてー咏ちゃんもふくよんも実況の仕事はー……?」
咏「変わって貰った」
はやり「えっ」
恒子「………なりふり構ってられないんですよ、マジで」
えり「……おやすみ?三尋木プロが?」
スタッフ「え、ええ…なんだか随分焦っていたみたいで……」
えり「で、では私は……」
スタッフ「そろそろ来るかと……あ、来たきた」
スタッフ「ありがとうございます、大沼プロ」
大沼「どうも、遅くなりまして」
えり「」
大沼「そちらが、アナウンサーの?」
えり「……は、針生えり…と申します」
大沼「ふむ。よろしく頼むよ、美人さん」
えり(や、やりにくい………!)
健夜「……おやすみ?福与さんが?」
スタッフ「え、ええ…なんだか随分焦っていたみたいで……」
健夜「じ、じゃあ私は……」
スタッフ「そろそろ来るかと……あ、来たきた」
スタッフ「ありがとうございます、白石アナ」
白石「どうも、遅くなりました」
健夜「」
白石「本日はよろしくお願いします、小鍛治プロ!」
健夜「は、はぁ…よろしくお願いします…」
白石「まさか自分があの!小鍛治プロと仕事ができるとは!恐縮です」
健夜(か、絡み辛い………!)
咏「まず、はやりんはどっち目当て?」
はやり「へ?」
咏「しらばっくれんなよ~?」
はやり「い、いや、えっと、目当て……?」
咏「そうだろ?あんなストーカー行為」
はやり「すっ、ストーカー!?」ガーン
恒子「だって、そうでしょ?」
はやり「違う違う違うよぉ!」ウゴウゴ
咏「じゃあなにさ?」
はやり「だから、その…話しかけるタイミングを測ってて……」
咏「ストーカー!」
恒子「ストーカーだ!」
はやり「違うのおおおおおおおお!!」
はやり「ふえぇぇええ!?」
恒子「ちなみにすこやんだったら更に簀巻きで放置するよ!?」
はやり「更にってナニ!?」ガーン
咏「で、どっちが目当てなのかい!?」
はやり「うぅ!えりちゃんにもすこやんにも言わなきゃイケない事があr」
咏「両方だとぉおぉぉ!?」
恒子「この欲張りさんめぇぇええぃッ」
はやり「話聞いてよおおおお!!」ナミダメ
咏(やべっ、泣かしちまった)
恒子(やっべ、やりすぎた)
はやり「咏ちゃんもふくよんも酷い……そんな人には、何にも話さないー」プイッ
咏(やべっ)
恒子「す、すいません…今解きますから…ね?
」
はやり「…………むー」
シュルシュル…
はやり「……もうっ」パンッパンッ
咏「…ごめん、はやりん」
恒子「…すみません……」
はやり「…………」
はやり「それが、ヒトにモノを頼む態度かな~?」
恒子「!」
はやり「とりあえず、…頭、高いんじゃないかな☆」
咏・恒子「「」」イラッ
ギュウウウゥゥゥゥ
はやり「にゃああああごめんなさいごめんなさい喋るからぁぁぁぁ!!」
はやり「はやりも、すこやんも、えりちゃんも会場に居た日―――」
―――数ヶ月前
はやり「つ、ついに……ついに、届いた!」
はやり「両想いになれる特別ななんかよくわからないけどすっげー効くクッキー!~身体に問題はないよ☆~」
はやり「これさえあれば…ふふ…☆」
はやり「んーと?…わぁ、ハート型!か~わいい☆」
はやり「説明書はいいや☆面倒だし…とにかく、このクッキーを好きなヒトと、自分が食べればいいのね~☆」
はやり「……ん?」
はやり「…なんか、縁起悪そう…真っ二つのハート…」
はやり「……5枚入りだし……た、高かったけど…これは、仕方ない。誰かにあげちゃおっと」
はやり「……あ☆ちょうど良いところに……☆」
はやり「えりちゃーん!」
えり「はい?…あ、瑞原プロ」
はやり「はやりからのプレゼントだよっ☆」
えり「え?…これは…クッキー?」
はやり「うん☆美味しいんだよ~♪」
えり「頂いてもよろしいのですか?」
はやり「もちろんっ☆」
えり「…では、お言葉に甘えて。ありがとうございます」ニコッ
はやり「うんうん☆真面目ちゃんだね~ホントにっ」
えり「そんなことありませんよ」
はやり「またまた~」
えり「っと…そろそろですので、失礼しますね」
はやり「頑張ってね~☆」
はやり「……う~ん!良いことしたあとは、気持ちがいいなぁ~☆」
はやり「それで、えりちゃんが休憩時間になって、えりちゃんは会場の自動販売機前の、休憩できるスペースで…」
――――
えり「はぁ……」ガコンッ
えり(………本日の仕事、終了)カシュッ
えり(…………)ゴクッ
えり「ぅ………」
えり(やっぱり、コーヒーって苦手……でも、紅茶…売り切れだし…)
えり(…あ、そういえば、瑞原プロから…)ゴソゴソ…
えり(クッキー……)
ゴソゴソ…
えり(……ハート、真っ二つ……)
健夜「あ」
えり「!……あ、小鍛治プロ」
えり「いえ、大丈夫ですよ」ニコッ
健夜「……んーと……」ピッ
ガコンッ
えり「…………小鍛治プロは、コーヒー大丈夫なんですね」
健夜「う、うん…針生さん、コーヒー苦手?」
えり「…恥ずかしながら、苦手ですね」
健夜「へぇ、ちょっと意外」
えり「そうでしょうか?」
健夜「…それは?」
えり「あ、ああ…先ほど、瑞原プロに頂いたクッキーです」
健夜「クッキー……」
えり「……半分、いかがですか?」
健夜「え?いっ、いや、悪いよ」
えり「遠慮せずに。…どうぞ?」
えり「ええ。美味しいらしいですから」
健夜「いただきまーす」
えり「では私も……」
サクッ
―――――
はやり「……という、わけなのです……」ヨヨヨ
咏「………は?」
恒子「………んん?」
はやり「あーっ信じてないでしょーッ!」
恒子「…………ねぇ?」
はやり「いーもーんっ!はやりは事実を言ったもーん!」プリプリ
咏「あー…じゃあさ、それが本当だったとして…」
恒子「……元凶、アンタじゃないですか……」
はやり「………」ピヒューピヒュー
咏「おい、口笛できてねーぞ」
はやり「……んー、と…偶然の、成り行き?☆」
咏・恒子「「」」イラッ
ギュウウウゥゥゥゥ
はやり「うなぁぁぁぁあごめんなさぁぁぁい!!!」
はやり「うん……事故なんだよぅ……」
恒子「ん?でも、瑞原プロは?」
はやり「?」
恒子「そのクッキー、使ったんですよね?でも、瑞原プロに恋人なんて……」
はやり「」グサッ
咏「え?いないの?」
はやり「」グサグサッ
はやり「……………」
はやり「ううぅぅぅうう!!」ウゴウゴウゴ
咏・恒子「「!?」」ビクッ
咏「ばーかばーか」
はやり「うなぁぁぁぁあ!!」
恒子(仲いいなぁ…)
はやり「…はぁ。説明書をゆっくり読んでみたんだけど…はやり、使い方間違えちゃったみたいで…」
恒子「と、言うと」
はやり「……一人一枚だと思ってて……」
恒子「……ああ……」
咏「まぁ。なんというか、…さ。ドンマイ?」
はやり「その憐れみの目やめてええええ」
はやり「なーにー…?」
恒子「その惚れ薬、どうしたら解けるんですか!?」
はやり「え………」
咏「はやりん!」
はやり「…………」
はやり「……たしかにね、はやりも…思ったよ?…それは、ホンモノの恋じゃないって。何度も、言おうとした」
恒子「でしょ!だから…ッ」
はやり「でも!…見てて、わからない?あの二人を……」
咏「……なにが、言いたいの」
咏「……ッ!」
はやり「たしかに、きっかけはクッキーだったかもしれない!…でも…もうあの二人は、愛し合ってる」
恒子「く……ぅ…ッ…」グッ
はやり「…それを邪魔するなんて…はやりには……できないよ……」
咏「……………」
恒子「………………」
はやり「…まぁ、一応…クッキーの効果を無くす方法は教えておくけど……」
はやり「……するかどうかは、アナタ達次第だからね」
針生家 夜
えり「~♪」コトコト
ガチャッ…
えり「!」
えり「健夜さん」パタパタ
健夜「あ、ただいまーえりちゃん」
えり「おかえりなさい」ニコッ
健夜「あれ、良い匂い…」
えり「晩ご飯の準備していたんです」
健夜「ありがとう」ニコッ
健夜「用意周到だね~」
えり「その、えっと……」
健夜「?」
えり「お、おかえりなさい」
健夜「うん、それはさっき…」
えり「ご、ご飯にしますか?お風呂にしますか?」
えり「そ、それとも……その…///」
えり「わ、……わたし………?」
健夜「」
健夜「えりちゃんっ!」ギューッ!
えり「きゃぁっ!?///」
健夜「えりちゃんにするっ!えりちゃんっ!」
えり(ど、どうしよ…考えてなかった……)
健夜「えーりちゃーん」ギュー
えり(…よ、よしっ)
グイッ
健夜「えっ」
えり「………ッ」
ちゅっ
えり「…お、おかえりなさいの…ちゅー、で……」カァ
健夜「~~~!んもぅー、えりちゃーん!」ギュウゥ
えり「く、苦しいですっ健夜さんっ///」ワタワタ
健夜「おデコにチューってのがまた高得点だよ!疲れも吹っ飛ぶよ!」
えり「……な、なら、良いんですけど……」
福与家
恒子「……………」
咏「……………」
恒子「…今日も、泊まってくの?」
咏「……わりぃかよ」
恒子「…いや、別にいいけどね」
咏「じゃーいーじゃん」
恒子「…………」
咏「…………」
恒子「どう、するよ」
咏「………わっかんね」
恒子「………」
恒子「…ですよね」
咏「……わかってる」
恒子「婚約したってことは、リミットまで……」
咏「わかってるってばッ!!」
恒子「っ」ビクッ
咏「んなことくらい…わかってんだよ……ッ」
咏「でもッ……でも…っ…」ジワ…
咏「わかんねーよ……わかんねー……ぜんぶ、ぜぇんぶ、わかんねぇ……!!」グスッ
咏「………ッ!」グイッ
恒子「……………」ウルッ…
恒子(好きなヒトの……幸せを取るか……)
咏「…ッ……く、ぅ……っ!!」ゴシゴシ
咏(全てを元に戻して…自分勝手な気持ちを、さらけ出すか……)
恒子(選択肢は二つ)
咏(どちらを選んでも構わない)
はやり『ただし』
はやり『タイムリミットは―――』
――――二人の、結婚式
はやり『結構、神様頼りにしているところがあるんだ。だから……』
はやり『神様の前で誓いをたてたら、一生あのまま』
はやり『元に戻ることはなくなって…二人は、ハッピーエンドを迎えるの』
はやり『例えば…そう。結婚式での、誓いのキス…とかね』
えり「気が早くありませんか…?」
健夜「うぅん!今すぐにでもしたいくらいだよ?」
えり「そう、ですか…?」
健夜「うん。早く…小鍛治、えりになって欲しくて……」
えり「あ……」
健夜「そうしたら…えりちゃんは、私のモノ。なんてね」ニコッ
えり「……名前なんて……良いじゃないですか」
健夜「?」
えり「わたしは、………あなたの…モノ…ですから……」
えり「………~~~ッ///」カァァァァ
健夜「………えりちゃん…………」
えり「いっ!今、こっち見ないでくださいねっ!?」プイッ
健夜「どうして?」
えり「そっ…それは……その……えっと……」
健夜「見せてよ」
えり「やですっ」
健夜「見せて……」グイッ
えり「あ……っ…」
えり「く……ぅぅぅ………///」
健夜「顔、真っ赤」クスクス
えり「っ…だから、いやだって……!」
健夜「んもーかわいいなぁー食べちゃいたいっ」
えり「そっそんなことよりぃッ!」
健夜「そんな事ってどんなこと?」スルッ
えり「ゃ…ちょ、ちょっと……!」
健夜「ね、どんなことかなー?」
えり「だめです、だめっ…」
えり「ぁ……」
健夜「式の話だったね。えっーと…」
えり「…………」
健夜「えりちゃん?」
えり「え?…あ、はい…」
健夜「なぁに?期待しちゃった?」
えり「違いますッ!」
健夜「またまた~」ニヤニヤ
えり「ぅ……」
健夜「…それで!式の話だけど……」
えり「…………とで……」ボソッ
健夜「?」
えり「…あとで……して?」ジッ
健夜「~~~~ッッ!!」プルプル
えり「……反撃…です」ニコッ
健夜「…生意気になったね」
えり「健夜さんのせいですよ」
健夜「えー?そうかなぁ」
えり「そうですとも」
健夜「…でも、許可も貰ったし…いただきまー」
えり「あ・と・で」メッ
健夜「むー…」
えり「話、戻しますよ」
健夜「……来週末、ここの式場で」
えり「え?」
えり「ちょ、ちょっと、」
健夜「二人ともオフ、大安吉日、式場も空いてる」
健夜「異議のある人は挙手!」
えり「い、異議あり!異議あ……」
健夜「却下」ガバッ
えり「きゃあッ!?」
健夜「可決。本法廷は終了しました」
えり「え、えええええ!?」
健夜「それに、さっき誘ってきたのはえりちゃんだし」
えり「それはっ…」
健夜「終わった裁判への口出しは無効。…ペナルティを与えます」
えり「ゃ、ぁ、あっ……」
…………………
咏・恒子「「来週末ぅ!?」」
健夜「う、うん……」テレテレ
えり「…………」カァァ
咏「だって、そんな、スグじゃん!」
えり「そうですよね…急ですよね…ねぇー健夜さん?」
健夜「ん?…何の話カナー?」メソラシ
えり「まったくもう……」
咏「……………」
恒子「………………」
えり「お二人には、来て頂きたくて……」
咏「……そう、だねぃ……」
恒子「………んー……」
咏「…わり、保留ってことにしといてくんない?」
えり「保留?」
咏「考えておくってこと」
えり「は、はい。そうですね、かなり急な話でしたから……」ジー
健夜「……………」メソラシ
健夜「うん、わかった。ごめんね、こーこちゃん」
恒子「…なんで、謝るの?」
健夜「え?いや、急な話振っちゃったから…頭の整理追いついて無いかなって」
恒子「ひどっ」ガンッ
健夜「でも、大丈夫みたいだね」
恒子「………おう」
恒子「だいじょぶに、決まってんじゃん……」フルフル…
健夜「……こーこちゃん?」
恒子「……ごめ、ちょっと…トイレっ!」ダッ
健夜「えっ?……あ、ああ……」
咏「……………」
えり「三尋木プロ…?」
咏「ん?」
えり「どうしたんてすか?」
咏「…なにがさ」
えり「顔色が悪いので……それに、この間も実況の仕事に来なかったし…」
咏「あー…」
えり「…どこか、体調が?」
咏「……いや、知らんし」
えり「…………」
咏「……にーしても?この前の実況は傑作だったねぃ」ニッ
えり「へ?」
えり「あ、ああ……あれは……なんというか……」
咏「わけわかんねーもんな、あのジーさん」
えり「そんな言い方、失礼ですよ」
咏「いや知らんし」
えり「…もう。貴女って人は…」ハァ
咏「…………」
えり「?」
咏「……んじゃ、帰るわ。じゃねー」フリフリ
えり「は、はい……お気をつけてー」
咏「んー!」フリフリ
咏「…………」スタスタ
咏「…………」タッタッタ…
咏「…………」タッタッタッ
咏「っ…はぁ…はぁっ…」タッタッタ!
バンッ
咏「ふくよん!」
恒子「……あ……」ウルウル
咏「ふく…よん…」
恒子「咏ちゃ……うた、ちゃん……もう、どうしよう…!」
恒子「私…決められないよぉ……!」ポタポタ
咏(悔しい。寂しい。嬉しい。やっぱり悔しい)ジワ
咏(えりちゃんの笑顔が好きだ。えりちゃんの声が好きだ。えりちゃんの真面目なところも好きだ。怒ってるえりちゃんも好きだ)
咏(えりちゃんが、……)
咏「えりちゃんが、……すき、なんだよ……ッ!」ポロポロ
咏「でもっ…でも……っ!!」
咏「幸せそうなえりちゃんが…すき……で……っ……」
咏「えりちゃんを、幸せにできるのが、……私、じゃ……なく…て…ッ」
咏「ぅ……っ……ヒック……わかんねーよぉ!!」
咏「どーしたらいーの!?ねぇ、ふくよん!教えて……わかんねー……わかんねーよ……」
恒子「……………」
咏「たすけてよ……もー、どーにかなっちまいそーだ…」
恒子「………」グスッ
恒子「…ね、うたちゃん…」
咏「ぅ……?」
恒子「一回、思いっきり泣こ?…枯れるまで泣いてさ。…泣いたあとの自分に、全部丸投げしちゃお」
咏「……ヒック……それ……なんか、意味ある……?」
恒子「さぁ?……でも………でも……っ…」
恒子「今、私、が…グスッ…そうしたい、だけかも……っ」ジワ…
恒子「……っぅ……すこやん…ヒック…すこやーん……!…あいし、てる…ぞー……」ポロポロ…
恒子「うぅ…あいし、て…………ぅ、うぅぅぅ……!!」
咏「………いい…ね、それ………へへ」グスッ
咏「…えりちゃーん…だいすきだよー……ヒック…っ…あいし、てる……っ」
恒子「ぅ……うたちゃあああんっ…!!」ギュー
咏「ふくよおおん……!やばっ…いって、これ……グスッ…なみだ、とまんねぇ……」
恒子「わたしもだよおおおお!すこやあああん」
咏「えりちゃ………さみしいよ……えりちゃん……っ置いて、行くなよ……おまえには、…みひろぎ、えり…のが……」
咏「ぜーってー…あうっつーの……」
……………………
恒子「………おちついた?」グスッ
咏「……たぶん…ヒック…」
恒子「…目ぇ、真っ赤」
咏「…人のこと、言えるか?」
恒子「……いー大人が、なにしてるんでしょーね」
咏「だよ…なぁ……」
恒子「でも、さ………」
咏「……ん……」
恒子「ほんのちょっぴり、スッキリしたでしょ?」
咏「……まぁ、ねぃ」
咏「…なにが」
恒子「家ばっかじゃなくてさーたまには咏ちゃん家行ってみたいんだけど」
咏「…あン?」
恒子「トッププロ様なら、たっけー酒とか持ってんじゃないの?」
恒子「ヤケ酒で、開けちまおうよ」ニッ
咏「…………」
咏「……しゃーねーな」ニッ
恒子「うっし。ゴチっす!」
咏「とっておき、開けてやんよ」
恒子「後のことは、未来の自分に任せりゃいーのさ」
咏「…ふくよんってさー」
恒子「ん?」
咏「テストとか、一夜漬けするタイプだろ」
恒子「あ、バレた?」
数日後
健夜「ねぇ、これなんかどうかな?」
えり「ちょ、ちょっと露出が……」
健夜「ん~……じゃあ、これっ!」
えり「それは、派手じゃないでしょうか…」
健夜「むー。えりちゃんワガママ~」
えり「す、すみません」
店員「いいんですよ、ワガママで。一生で一番の思い出になるんですから、気に入ったものを着ていって欲しいですね」
健夜「そういうもんかぁ……」
えり「私だけでなく、健夜さんのも見ましょう?ね?」
健夜「えー……」
えり「えーって言われても…」
健夜「せっかくだから、先に見たいんだよ」
健夜「ウェディングドレス姿のえりちゃん!」
健夜「そーそー!」コクコク
えり「は、はぁ……」
健夜「じゃーあー、どーれがいいかな~♪」
えり「…………」ジー…
健夜「……あ……」
えり「?」
健夜「これ、どう?」
えり「…そ、それなら…いいかも…」
健夜「えりちゃんの好みにピッタリでしょ?」
えり「……ええ……素敵……」
健夜「さ、試着試着ぅ~♪」グイグイ
えり「あ、ちょっと…」
店員「畏まりました~」
えり「あ、あの…っ」
店員「ふふ…モデルがいいから、おめかしのし甲斐がありますね…」ジュルッ
えり「ひっ……」
店員「お肌も綺麗…肌が白いから、紅い口紅が栄えるでしょうね」スゥ…
えり「あ、あの、…ちょっと…」
店員「スタイルも……あら勿体無い!せっかくのプロポーションなのに、そんなカッチリした服じゃもったいないわ!」ナデナデ
えり「ど、どこを触っ……」
店員「お姉さんに任せて。…美味しくお料理してあげる」
えり「すっ健夜さん助けっ…ひゃあああああぅ!!?」
健夜「さーてと、自分の選ぶかな~」
健夜「ふふ、大丈夫ですよ」
~その頃
えり「じっ、自分でできますから!自分でできますからっ」
店員「動かないの…口紅がはみ出ちゃう」
えり「メイクだけでどうしてそんな顔を近づけるんですかああああ!!」
~戻って
健夜「多分あーゆーの、慣れてますから」
店員b「は、はぁ……」
店員b(慣れてるって、何?)
店員b「針生様にはどのようなものを?」
健夜「細身で、肩が出てて…フリルはあんまり無いけど、リボンをあしらった、シンプルなドレスを…」
店員b「なるほど…それなら、リボン系統でお揃い、なんていかがでしょう?」
健夜「なるほど…」
店員b「もしくは……そうですね。たまに、女性でもタキシードをお召しになる方が増えています」
健夜「タキシード?」
えり「……はぁ」ゲンナリ
店員「よくお似合いですよ~」
えり「…それは…どうも」
店員「ほら、あっちに全身見える鏡がありますから。ささっ」
えり「は、はぁ……」
店員「こちらになりま~す♪」
えり「どうも……、」
えり「………………」
店員「いかが?」
店員「ええ。正真正銘あなたです」
えり「……でも……」
店員「正真正銘、Dカップで白い下g」
えり「いやああああああっ!?///」
店員「…の、…あなた、ですよ」ニコッ
えり「うぐ……」
店員「…お綺麗ですよ」
えり「……ありがとう、ございます……」
えり「あ………」
えり「……………」
えり(き、緊張する……)ドキドキ
えり「すぅ……はぁ……」
えり「…よし」
カチャ
健夜「あ、えりちゃ――」
えり「健夜さ―――」
健夜「…………」
えり「…………」
えり「……………」ジー
店員「はいはいっ」パンパンッ
健夜・えり「「!」」ビクッ
店員「見とれてばっかりじゃいけませんよ?」
健夜「あ、えっと、そのっ!」
健夜「……凄く、綺麗……///」
えり「あ、ありがとうございます……///」
えり「す、健夜さんは、あの、その……」
えり「……何故、タキシード……?」
店員「」ズルッ
店員b「……」ニガワライ
健夜「だ、第一声がそれ?」
えり「えっ!?」
健夜「っ……ふふふ……」クスクス
えり「な、なんですかっ」
健夜「んー?…別に?」
えり「ぅ……」
健夜「タキシードはね、特別に着させて貰っただけなの。だから、式ではドレスだよ?」
えり「あ、そうだったんですか……」
健夜「……どうかな?」
えり「……素敵、です……」
健夜「……良かったぁ……」ニコッ
えり「………」
健夜「えりちゃん」
えり「え?わ、私?」
店員「これ、花束」ナゲッ
えり「あっ……とと、」キャッチ
店員b「はい、こっち向いて~」
えり「?」
店員b「はい、チーズ」パシャッ
えり「えぇっ!?」
えり「え、あ、きゅ、急にそんなこと言われましても…!」
健夜「つべこべ言わなーいっ」
店員b「もっとくっついてー」
健夜「はーい」グイッ
えり「あ……」
店員b「いきますよー1+1はー?」
健夜「にーっ♪」ニコッ
えり「……に」ニコッ
パシャッ
恒子「ねーうたちゃーん」
咏「おー。なにー?」
恒子「どーしよっかー?」
咏「……なーにがー?」
恒子「わかってるくせにー」
咏「…………知らんしー」
恒子「あのねーうたちゃーん」
恒子「私ねー、たしかにテストは一夜漬けだったけどー」
咏「おー」
咏「……おー」
恒子「そーゆーときは、ぜーんぶ友達に教えてもらってさー」
咏「それがどーかしたんー?」
恒子「……今がその時なわけよー」
咏「……わかんねー」
恒子「えー」
咏「つまりどーゆーことなのさ」
恒子「…えっとー」
咏「……おー」
恒子「あと…3日とか、そのくらいなわけさー」
咏「…そう、だっけー。知らんけどー」
恒子「行くか行かないかはさー」
咏「おー」
恒子「全部、咏ちゃんに任せるねー」
咏「おー………お?」
咏「…ナニ言ってんの、ふくよん」
咏「そりゃお前、私だって…」
恒子「…どっち選んでもさー……いいんだよ、私は」
咏「…………」
恒子「ただ、両方にケジメがつかないだけなんだ」
恒子「……二つの選択肢、私は…ケジメさえつけば、どっちもできる」
恒子「ただ、…キッカケが欲しい。それだけなんだよ」
咏「ふくよん……」
咏「……………」
恒子「どっち選んでも…文句は言わない。むしろ…ごめん」
咏「……………」
咏「………ったく、何勝手に話進めてくれちゃってんだよ………」ポリポリ
恒子「……ごめん」
咏「…謝られてもねぃ」
恒子「……でも、ごめん……」
咏「………………」
咏(すこやんと、……えりちゃんの……結婚式…)ズキッ
咏(行って、祝福するか……)
咏(それとも……)
咏(………………)
小鍛治健夜・針生えり 結婚式に……
A.行く
B.行かない
少し長めに>>397まで多数決
分からんけど、咏ちゃんの台詞と、やっぱり参加してほしいし、A
咏「……あんなとこ、行かねーよ……」
恒子「………ういっす」
咏「あの二人の結婚なんか、誰が祝福なんてするもんか」
恒子「…………?」
咏「……いいか?私たちは結婚式なんて行かない。ただ……」
恒子「……ただ?」
咏「……花嫁に、用があるから、偶然通りかかるだけだ」
恒子「……!!」
咏「決めてんだよ…えりちゃんには」
咏「三尋木えりのが、似合うんだ」ニッ
咏「…ここで行かなきゃ、女が廃るってんだ」
咏「イカリングの借りも、あるしねぃ」
恒子「…………」
咏「っつーわけだ、ふくよん」
恒子「…………」
咏「どうする?止めるなら今のうち…」
恒子「……誰がやめますか」
恒子「ここで行かなきゃ女が廃る!着いていくよ、咏ちゃん!」
咏「……サンキュー、ふくよん」
恒子「……こちらこそ」
ギュッ
式 当日
えり「……………」ソワソワ
えり「……………」ソワソワ
係員「どうされたんですか?」
えり「あ、いや、その……」
えり「なんだか、落ち着かなくって…」
係員「ふふ…大丈夫ですよ」
えり「へ、変じゃないですか…?」
係員「ええ。お綺麗ですよ」
えり「そ、そうですか……?」
係員「もちろん」
えり「……………」ソワソワ
係員「……ふふ」クスクス
えり「う…ぅぅ……///」
健夜「……………」ソワソワ
健夜「……………」ソワソワ
係員B「そんなに緊張なさらないで」
健夜「えっ…えっと……」
健夜「…はい、そうですね…緊張してます」
係員B「あなたがそんなじゃ、お相手も不安になってしまいますよ?」
健夜「そ、そうはいっても…」
係員B「深呼吸して?」
健夜「すぅ…はぁ……」
係員B「少しは落ち着いた?」
健夜「…あんまり」
係員B「…あらま」
健夜「ここが…………」
健夜(ここが、ヴァージンロード……ってやつかぁ……)
健夜父「…健夜」
健夜「ん?」
健夜父「…幸せになれよ」
健夜「…うん、絶対に…幸せになるよ」
「新婦の入場です」
健夜「!」
えり父「えり…綺麗になったなぁ…とーさんは、とーさんは嬉しいぞぉ……!」
えり「…お父さん、ちゃんとエスコートして。…あと、恥ずかしいから」
えり父「うぐぐ、中身は変わらないなぁ…」
えり「……ったくもう」
えり「……あ……」
健夜「…………」ニコッ
えり「……ドレス……」
健夜「えりちゃんには、初お披露目だね」
えり「当日までのお楽しみ、とか、言ってましたね」
健夜「……どう?」
えり「……お綺麗です」
健夜「……その言葉が、聞きたかったんだ」
健夜「……ふふ」
えり「?」
健夜「えりちゃん、歌上手だね」
えり「…健夜さんは、低い音苦手ですか」
健夜「よくわかったね?」
えり「…まぁ、なんとなく」
神父「ゴホンッ」
健夜「おっと」
えり「!」
神父「……では、始めましょうか」
健夜「はい」
神父「あなたは針生えりさんを妻とし、共にその生涯を送りますか。あなたは、この女性を愛し、慰め、敬い、支えることを誓いますか」
健夜「…誓います」
神父「針生えりさん」
えり「…はい」
神父「あなたは小鍛治健夜さんを妻とし、共にその生涯を送りますか。あなたは、この女性を愛し、慰め、敬い、支えることを誓いますか」
えり「…誓います」
神父「では、誓いのキスを……」
えり「は、はい……」
スッ…
えり「健夜、さんも……」
健夜「お願い」
スッ…
えり「…………」ドキドキ
健夜「えりちゃん?」
えり「……?」
健夜「愛して―――」
バンッ
恒子「その結婚!」
咏「ちょっと待った」
健夜「…………は?」
えり「…………へ?」
健夜「え、な、ちょ、こーこちゃん!?」
恒子「おー、おーおーおーすこやーん!似合うよ~」
健夜「あ、ありがと…じゃなくて!」
えり「み、三尋木プロまで!?一体なにを!」
咏「おっすえりちゃん!なになに?キレーだねぃ~ウチに嫁に来ない?」
えり「何言ってるんですか!?」
咏「とりあえず……そんじゃ、さっそく」
恒子「いっときますか」
はやり『…まぁ、一応…クッキーの効果を無くす方法は教えておくけど……』
はやり『……するかどうかは、アナタ達次第だからね』
恒子「さーて、すこやん?」
健夜「いやもうほんとに意味わからないんだけど!何これっ!?ドッキリ?」
はやり『まず!クッキーには神様頼りなところがあるって言ったでしょ?』
咏「えっりちゃ~ん♪」
えり「何しに来たんですか!?」
はやり『だから、解くにも神頼み…というか、誓いが必要なの』
咏「ん~と、強いていうなら…」
咏「花嫁泥棒?」
咏「そうそう」
恒子「やっぱ、諦めてきれなかったもんで」
健夜「なにが?」
恒子「……すこやん」
はやり『その誓いを口にして…』
咏「えりちゃん……」
健夜「え、あの…ちょ、ちょっと、」
えり「な、なに…なにを、する気でっ……」
はやり『唇を、重ねればいい』
チュッ
はやり『そうしたら…クッキーによって起こされた恋愛感情は……』
健夜「ぁ……え……?」
えり「…ぁ……」
ドサッ…
はやり『すべて、失われる』
……………………
………………
…………
えり「……ん……」
えり「……あれ……ここ……?」
咏「おはよう、えりちゃん」
えり「え……?」
咏「…おはよ」
えり「みひろぎ、ぷろ……いッ…つつ…」
咏「ダメだよ、まだ安静にしていないと」
えり「えっと…ここは、どこですか?」
咏「病院。…えりちゃん、倒れたんだぜ?」
えり「た、倒れた……わたしが?」
咏「おうよ」
咏「…………」
えり「たしか………私は、……あれ?式場に、いた…?どうして?」
咏「…………」
えり「……あ……」
咏「…………」
えり(左手の、薬指に…指輪…。じゃあ、式場で、結婚式をあげていたのは……)
えり「私と………誰、だっけ……」
咏「…えりちゃん…」
えり「ええと……?」
健夜「………ふにゃ?」
恒子「あ、起きた?」
健夜「ん~……あれ、こーこちゃ………ここどこ?」
恒子「病院のベッド。すこやんったら急にぶっ倒れるんだから~」
健夜「え?……そ、そうだっけ」
恒子「そうそう」
健夜「そうな……いっ…つぅ……」
恒子「大丈夫?」
健夜「ん…なんか、頭…いたくて…」
恒子「倒れた時に打ったのかなぁ」
健夜「わかんない……何かを思い出そうとすると、霧がかかったみたいにモヤモヤして……フワフワしてる……」
健夜「もうちょっとで思い出せそうなんだけど……」
健夜「なんか……ノドに突っかかってると言うか……ここまで来てるんだけど、出てこないというか……」
恒子「アルツハイマーってやつ?あれたしか歳を取るとかかりやすく……」
健夜「そんなに歳行ってないよ!!」
恒子「……………」
恒子「……やーい、アラフォー」
健夜「アラサーだよ!って何急に!?」
恒子「……ううん」
健夜「……こーこちゃん……?」
恒子「…先生に、すこやんが目覚ましたこと報告しなきゃ」カタン
健夜「あ、ああ…そっか。お願い」
恒子「うん。………すこやん」
健夜「…………?」
恒子「……ごめん」
健夜「何が?」
恒子「あと、…………」
恒子「おかえり、なさい……っ」
健夜「え?……えーっと……」
健夜「ただいま?」
咏・恒子「「はぁ………」」
咏・恒子「「!」」
恒子「……針生さんは?」
咏「目ぇ覚ました。…今はまだ、そっとしておこうと思ってさ」
恒子「……そ、っすか。なるほど」
咏「そっちは?」
恒子「瑞原プロが言ってたやつ。…混乱してるみたい」
咏「恋愛感情がなくなっても、記憶は失くならない…」
恒子「ただ、少し思い出しにくくなるだけ……」
恒子「かなり長い期間、コイビトやってましたからね。…記憶がなくなるーとかは、無理なんでしょうよ」
咏「……どうするよ」
恒子「………これはこれで、なんとか、ね。……咏ちゃんの……自分の選んだ答えがハズレなんて、絶対イヤだし」
咏「……あーあ。わっかんねーなー」
恒子「なにが?」
咏「そりゃあ……愛だの、恋だの、さ」
咏「答えなんて、ねーんだろーけどさ」
恒子「…それでいーんじゃないの?」
咏「ん?」
恒子「いつか、わかるんじゃないかな。多分」
咏「……またあれか。お得意の」
咏・恒子「「未来の自分に、丸投げ」」
咏「…………」
恒子「…………プッ」
咏「っ……ククク……」プルプル
咏「あはははっ!なーにやってんだろーねぃ!」ケラケラ
恒子「ぷくく…すっげーよ、花嫁泥棒なんてしちゃったよ」クスクス
咏「どんだけガチなんだよってねぃ!」
恒子「もーめちゃめちゃ怒られるんだろーなー!」
咏「そりゃそーでしょー、もうさ、バカだよ。私たち」
恒子「バカで上等。いーじゃないの。バカで」
咏「それもそっかぁ!」
看護師「あの、病院内ではお静かに…」
咏「おぅふ」
恒子「す、すんません…」
コンコン
えり「はい?」
?「しつれーします☆」
えり「あ……瑞原プロ」
はやり「はぁい、えりちゃん☆」
えり「どうも」
はやり「体、大丈夫?」
えり「ええ、もうすぐ退院できるそうで」
はやり「そっかぁ☆えーっとぉ、えりちゃん?」
えり「はい?」
はやり「…すこやんの病室、一緒に来てくれない?」
えり「…!」
はやり「…二人に、謝らないといけないことがあるの」
えり「……………」
はやり「ごめん……私……」
えり「……わ、……わかり、ました……」
えり「…いつかは、会わなければいけませんから…」
はやり「えりちゃん……」
えり「…………」ギュゥ
はやり「しつれーします☆」
健夜「あれ、瑞原さん!来てくれたの?」
はやり「うん☆それと…」
えり「……失礼、します」
健夜「あ…………」
えり「……こんにちは。…健夜、さん…」
健夜「えり…ちゃん…」
えり「……お体の具合は、どうですか?」
健夜「う、うん、ボチボチ…かな。そろそろ退院、できるみたい。…えりちゃんは?」
えり「私も……」
健夜「そ、そっか……よかったね、お互い」
えり「ええ………」
はやり「………あーんもーッシメっぽぉい!はやりこういうのムリーッ!」
健夜「は、はひっ!?」
はやり「えりちゃんッ!」
えり「は、はいっ!」
はやり「ごめんなさい!!」ペコッ
健夜・えり「「…………え?」」
~~~~~~~
健夜「………惚れ薬入りクッキー!?」
えり「そっそんなオカルトがあるわけっ」
はやり「…事実、体験したでしょ?お・ふ・た・り・さん☆」
えり「……あ……」
健夜「…………そっか」
健夜「……………///」
はやり「およ?」
えり「な、なんと、言いますか…」
健夜「……えっと、…えりちゃん!」
えり「は、はいっ」
健夜「あ、あの…たしかにね、瑞原さんの言うとおり、前みたいな、その……恋愛感情は、残ってないんだけど……」
えり「……はい」
健夜「でもっ、でもね!楽しかった!だから、だから……」
健夜「後悔だけはっ……したく、ないし…して、ほしくも……ないの」
えり「……はい。……私も……同じ、気持ちです」
健夜「だから……だから、」
えり「…それ、以上は……言わないでください。わかっていますから…」
健夜「……ぁ…うん……そう、だね……」
健夜「………」
えり「たとえ、偽物の感情だったとしても…私は、幸せでした…」
健夜「……うん……私も、…幸せだった…」
えり「だから……謝らないで……私も、謝らない、から……」
健夜「…………うん」
えり「今まで、本当に…ありがとうございました…健夜さん」
健夜「……こちらこそ。えりちゃん」
はやり「……ところでぇ~……」
えり「ふぁいッ!?」ビクッ
健夜「あれ、まだいたのッ!?」
はやり「…はやり、泣いちゃうぞ?」
えり「まだ問題は沢山残っていますがね…」
健夜「お父さんとお母さんになんて言おう…」ズーン
えり「……携帯電話を見るのが怖い…」プルプル
健夜「帰りたくない………」ドンヨリ
はやり「だぁかぁらぁ!はやり、まだ言ってないことがあるんだけどぉっ!」
えり「まだなにか?」
健夜「ていうかさ、もっと早く言ってよ…瑞原さん」
えり「そうですよ。早く言ってくだされば良かったのに」
はやり「あぁんっイタイとこ突かれたァ~…」
はやり「クッキーの効果を解くなんて思わなかったしぃ……」
健夜「………効果を、……解く……?」
はやり「あ、そうそう、その話ね。二人は、いつ効果が解かれたかわかる?」
えり「倒れる…直前?」
はやり「それって?」
健夜「……あ……」
はやり「…クッキーの効果を永遠にするためには、神様の前で…誓いのキスをすればいい」
はやり「逆もまた然りで…クッキーの効果を解くためには、神様の前で…誓いを」
咏・恒子『『愛してる』』
チュッ…
健夜「え………」
えり「な………」
健夜・えり「「えええええええええ!?///」」
健夜「だって、こ、こーこちゃんが、そんな、いやだって、えええええ?」
はやり「え?それ本気の反応?」
えり「そりゃそうですよ!だって、そんなわけ、ねぇ!?」
健夜「そー!そうそうそう!」コクコクコク
はやり「……ありゃりゃ……☆」ハー
はやり「あのねぇ…結婚式邪魔してまであの二人、クッキー魔法解除したかったんだよ?」
はやり「神様の前で、って条件だったからあの日あの時を逃したらチャンスはなし」
はやり「あの二人なりに考えた結果が、アレ。……ここまで言って、まだわからないかな?」
健夜「うぐ………///」
えり「ぅぅ………///」
えり「…………」
健夜「…………」
はやり「……ごめん。はやりが、説明書読むのを面倒くさがったばっかりに、こんなこと……」
はやり「正直、謝っても謝りきれないんだけど……」
えり「そう、ですね…」
健夜「じゃあ…罰ゲームでもしてもらおうかな……」
えり「あー。それでスッキリするなら、まぁ」
はやり「え゛」
健夜「そうだなぁ……」
えり「あ、あれなんかどうですかね」
健夜「なになに?」
えり「えっと……」コソコソ
えり「ま、ちょうど良いんじゃないですかね」
健夜「そうだねー」
はやり「は、はやりは、何をするのかなー?☆」ドキドキ
えり「えーっと、瑞原プロ」
はやり「は、はいっ」
健夜「今すぐ、好きなヒトに愛の告白をしてきてください」
はやり「………へっ」
えり「クッキーの力なんて借りずに、会って直接目を見て、自分の気持ちを正直に言ってきてください」
はやり「ええええっ!?でもっそんなっ」オロオロ
えり「行ってらっしゃいませ」グイグイグイ
はやり「ち、ちょっと、押さないでっ…」
健夜「良い報告、期待してますよー」
はやり「そんn」
パタンッ
えり「……よし」
健夜「ふふ。恋には恋で制す?」
えり「なんですか、それ」
健夜「恋に笑うものは恋に泣け、みたいな」
えり「……つまり?」
健夜「クッキーなんて反則使わないで、少し、味わったほうがいいよね。…恋の、ツラさを」
えり「………」クスッ
えり「いや、ホント……見かけによらず、いい性格をしていますよね」クスクス
健夜「…この罰ゲーム考えたのはえりちゃんだよ」
えり「そこまで深く考えていたわけじゃありませんから」
健夜「む」
えり「………さて、と」
健夜「?」
えり「…私も、勇気を出してみようかな」
健夜「……ああ……」
健夜(……咏ちゃん……か……)
えり「あぁ…嫌になっちゃう」ドンヨリ
健夜「そんなに?」
健夜「まぁ、それはね……」
えり「どう言えば良いんでしょうね…」
健夜「……自分の、正直な気持ちを言えばいいんだよ」
えり「正直な……言えるかなぁ……」
健夜「もう、さっき瑞原さんに自分で言ってたじゃない」
えり「あ、あれはまた少し違いますよ」
健夜「そう?同じなんじゃないかな?」
えり「…そうですかぁ?」
健夜「そうそう。……あの、なんでそんなに疑うのかな」
健夜「えりちゃんを疑うようなこと、しないと思うけどなぁ」
えり「…それは…でも、これは、少し種類が違うじゃないですか」
健夜「種類?」
えり「なんというか…オカルトチックな…」
健夜「?…クッキーのことだよね?」
えり「ええ」
健夜「知ってるんじゃない?」
えり「え?」
健夜「だって、解き方知ってたし」
えり「……あの。誰の話してます?」
健夜「えっ?」
えり「えっ?」
えり「いや、あの…私がしていたのは、両親の話で…」
健夜「えっ」
えり「…携帯電話の電源を入れたら、メールとか着信…凄いことになってそうだなぁ…と」
健夜「あ…っ……」
えり「……………」
健夜「……………」
えり「………っ…ふふふ…」クスクス
健夜「プッ…あははははっ」
えり「すごい、会話が噛み合って……」クスクス
健夜「もう!早く言ってよぉ~」
えり「健夜さんが早とちりしただけですー」
えり「涙目、なってますよ?」
健夜「えりちゃんが泣かせたー」
えり「何を言ってるんですか、もう」
健夜「ふふ。……えりちゃん」
えり「はい?」
健夜「ありがとう、…大好きだよ」
えり「……ええ。私も好きです」
健夜「……私たち、親友だね」ニコッ
えり「…もちろん」ニコッ
えり「うぐ……まぁ、あれは、その」
健夜「コイビトが出来たら一番に教えてね?えりちゃんの弱いところ、全部伝授するから」
えり「なッ!?///」
健夜「まずはー唇のここをー」
えり「ちょ、ま、やめっ」
健夜「舌で、こう…」
えり「いやぁああぁああぁ!!!///」
看護師「あの、病院内ではお静かに」
えり「すっすみません!」
健夜「ほらーえりちゃん注意されちゃったー」
えり「誰のせいでっ……うぅー……っ!」
退院 当日
えり「お世話になりました」ペコッ
健夜「ありがとうございました」ペコッ
医師「お大事に」
咏「おっ!えりちゃーん!」
恒子「すこやーん!」
えり「あ…」
健夜「咏ちゃん…こーこちゃん…」
咏「退院おめっとー!」
恒子「むっかえに来ーたよーっ♪」
えり「あ……わざわざ、ありがとうございます」
健夜「ありがとう、こーこちゃん」
恒子「なんのなんの」
健夜「お邪魔しまーす」
咏「ほれっえりちゃん!となりっ!」ポフポフ
えり「は、はぁ……」
恒子「んじゃ、シートベルト締めたー?」
咏「オッケェイ!」
恒子「んじゃ、しゅっぱーつ!」
咏「ひゃっはー」
えり「………三尋木プロ?」
咏「んー?なになに?えりちゃん」
えり「別に良いですよ?」
咏「なーにがぁ?」フリフリ
咏「げっ」
えり「……不器用ですね」クスッ
咏「………知らんしー……」
えり「なにか言うことは?」
咏「うぐ……」
健夜「こーこちゃんも、なんか無いかなー?」
恒子「む………」
咏「…ちぇー、スッキリした顔しやがって。どこまで知ってる」
えり「さぁ?」
咏「むむむ……」
えり「……本当に反省してます?」
咏「反省はしてるぜ?…後悔はしてないけどな」
えり「……貴女って人は」ハァ
咏「知らんしっ」プイッ
恒子「私からも…ごめんなさい」シュン
健夜「……おお」
恒子「な、なにさ」
健夜「こんなにショゲたこーこちゃん、初めてみた」
恒子「…結構、反省してるんだよ…?」
えり「ですって。三尋木プロ?」
咏「だからっ反省してるっつーのっ!」
えり「なに、とは?」
咏「なんだ、その……酷いこと、しちゃったから……」
恒子「…………」
咏「……どんな罰でも、受ける……よ」
恒子「…うん。なんでも、する」
えり「…罰、ですか」
健夜「どーしよっか?」
えり「そうですねぇ……」
咏「…………」グッ
恒子「…………」ドキドキ
健夜「……ねぇ、こーこちゃん?」
恒子「なっ…なに?」ビクッ
恒子「ぐっ」グサッ
えり「…両親には顔向けできないし?」
咏「ぐはっ…」グサッ
健夜「挙句入院させられてるし?」
恒子「おぶっ」グサグサッ
えり「…携帯電話が凄いことになってるし?」
咏「アウチッ」グサグサッ
健夜(えりちゃん…両親が苦手なんだろうか…)
えり「なによりも、…幸せな新婚生活が全部、パァですし?」
咏・恒子「「ひでぶっ」」グサグサグサッ
恒子「ほんっと、申し訳ないっす…」
えり「………ふふ」クスッ
健夜「でもね、よく考えたの。今、私達には恋愛感情はなくて…結婚もナシ」
恒子「…聞いたの?クッキーの話」
えり「ええ。瑞原プロが」
咏「はやりん…」
健夜「…それでさ、一番最初と比べて何を失って、何が残ったと思う?」
恒子「………?」
えり「私と健夜さんがこ、……こ、コイビト……にっなる前…です!」カァ
咏「そりゃあ、……ん?」
健夜「…何にもなくなってないでしょ?」
恒子「え?ほんとに?」
咏「えっと……多分?わかんねーけど」
えり「多少あったとしても、基本何も失っていないんです。でも…」
健夜「騒動のあと、私とえりちゃんはもっと仲良くなれた」ニコッ
えり「……………」ニコッ
健夜「そりゃあ、時間とか、あとは物理的なものは変わったかもしれないけど…」
健夜「私達は、ほとんど振り出しに戻っただけ」
えり「私たちの誰も悲しまない、一番良い状態だと思いませんか?」
咏「……それで、いいの?」
えり「ええ。私たちは、私たち。これまでも、これからも」
恒子「…………」
咏「……………」
恒子「……うん。違うよ」
健夜「え……?」
えり「…………」
咏「勝手に仲良しグループにされちゃ、あんなことまでした意味がねーんだ」
恒子「そーそー。…ま、言ってくれたコトは嬉しいけどね」
健夜「……こーこちゃん……」
咏「さっきも言ったけどさ…後悔だけは、したくねぇんだ」
えり「……三尋木プロ……」
健夜「!」
咏「えりちゃん!」
えり「っ……」
恒子「私、すこやんのことが――」
咏「ずっと、えりちゃんのことが――」
咏・恒子「「好きd」」
パァァァァァァァァァ!!
恒子「いッ」ビクッ
健夜「うぁ!?」
えり「えっ」
「おいっ信号とっくに変わってんぞ!」
恒子「えっ!ぇ、あ!すっスミマセーン!!」
咏「…………」
えり「…………」
健夜「…………」
咏「てめー、ふくよん……」
恒子「……あはは……ヤバイヤバイ」
健夜「こーこちゃん……ちょっとどうかと思うよ……?」
えり「…………」プルプル
恒子「笑わないでくださいよー、ちぇー。どっかで止めりゃー良かった」
えり「だって、もう…四人もいて、だれも…気づかな……っっ……」クスクス
健夜「……ふっ……くく……」クスクス
恒子「ちょっとすこやんまで!?」
健夜「っ、ごめ……感染して…あはははははっ!」
咏「あっははー」ケラケラ
恒子「ちょっと咏ちゃんまで!?酷くね!?」
えり「ふふ…ええ、楽しいです」ニコッ
咏「まぁねぃ~♪」
恒子「ちょっとー私も楽しみたいー」
健夜「そんじゃ、このまんまどっか行こうよ」
咏「おー良いんでね~?」
えり「もう、シリアスな空気はどこへやら…」
健夜「一番最初に笑ったのはえりちゃんだよー」
えり「そうでしたっけ?」
咏「そーそー」
健夜「なーに?えりちゃん」
えり「私、今…幸せです」
健夜「…うん。実は、私も」ニコッ
咏「なーなーふくよーん」
恒子「なんすかもう…どーせ私はちゃんと前見ないでクラクション鳴らされるドライバーですよーっと」
咏「そうショゲんなよ。気づかなかったこっちも悪かったって」
恒子「ちぇー」
恒子「ん?」
咏「…どっちが先に結婚するか、勝負しねぇ?」
恒子「……ほほう?」
咏「どうよ」
恒子「いいねぇ…その勝負、受けて立つ」
咏「…ま、勝つのはこっちだけどねぃ?」
恒子「何を仰る、スーパーアナウンサー舐めるとイタイ目見るぜ?」ニッ
咏「上等だ」ニッ
prrrrr
えり「あ、私の携帯ですね……」ピッ
えり「え、ぁ、瑞原プロ?ちょっと、声のボリュームを……え?本当ですか!?おめでとうございます」
健夜「瑞原さん?」
えり「ええ、…例の罰ゲーム、なんとオーケーを貰ったそうで」
健夜「え、ホントに!?」パァ
えり「瑞原プロ、クッキー使ったりなんかしてませんよね?……ふふ。冗談ですよ。…あ、健夜さんならすぐここに…代わりますか?」
えり「…あ、はい。わかりました、伝えておきますね。…いいえ、私は何もしていませんよ。…はい、……はい。本当におめでとうございます」
健夜「なんだって?」
えり「“色々ありがとう、はやり、幸せになるね”…と」
健夜「ふふ…素敵だね~♪」
えり「あ、それと……瑞原プロ」
えり「結婚式には、呼んでくださいね?」
おわり
とてもすばらでした
すごい面白かった!
皆様支援応援ありがとうございました
お昼食べてきて、スレが残ってたら
>>389の分岐をやろうかな…
Entry ⇒ 2012.11.14 | Category ⇒ 咲-Saki-SS | Comments (0) | Trackbacks (0)
桃子「ステルス講座を開講したら予想外に人が集まったっす」
美穂子「…………」
竜華「…………」
憧「…………」
塞「…………」
和「…………」
桃子「なんだかみんな目付きが怖いっす……」
モモ「えーっと、今日は遠路はるばるお集り頂きありがとうっす」
モモ「まさかこんなにも人が集まるとは思ってなかったから正直驚いて……」
憧「先生、そういうのいいから」
モモ「えっ」
和「早くステルスになれる方法を教えてください」
竜華「そうや。ウチらは遊びに来たわけやないんや」
モモ「あ、あの……ちょっと訊いていいすか?」
モモ「皆さんはどういう目的でこの講座に……?」
照「理由や事情は人それぞれ」
照「プライバシーに関わる事でもあるから詮索するべきじゃないと思う」
モモ「そ、それもそうっすね。それならあんまり詳しくは訊かないっす」
モモ「それじゃあ早速第一回講座を……」
美穂子「先生、その前に一つ質問よろしいでしょうか?」
モモ「はい。なんっすか?」
美穂子「この講座を受ける事でどのくらいステルスになれるんでしょうか?」
憧(確かにそれは気になる……)
モモ「真面目に講座を受ければ、同じ部屋にいても存在に気付かれないくらいにはなると思うっす」
「「!!??」」
塞「ま……マジですか?」
和(そんなオカルト……)
モモ「素質がある人なら人に触れても気付かれないレベルにまでなれるかもっすね」
竜華「ふ、触れても……気付かれへんって……」
美穂子「すごい……そんなことが……」
照「存在感を限りなくゼロにするくらいなら、誰でも出来る?」
モモ「はい。そこは保障するっす」
憧「でも、流石に真正面から姿見られたら気付かれるよね?」
モモ「声出したり踊ったりしない限りは気付かれないっすよ」
塞「正直、すごすぎて信じられないんだけど……」
和「同感です……」
モモ「信じるか信じないかは任せるっす。お金取ってる訳でもないっすしね」アハハ
モモ「もちろんっす。私はこの道を極めてるっすから、みんなに注目されてる状態でも消えられるっすよ?」
竜華「そ、そんなことが本当に……」
照「……」ゴクリ
モモ「それじゃあ早速消えるっすね」スッ
憧「なっ!?」
塞「ほ、本当に消えたっ……!?」
和「こ、こんなことって……」
モモ「ふふ、どうっすか? これがステルスっす」ドヤ
和「こ、声は聞こえているのに……」
憧「姿が見えない……」
塞「もはやちょっとしたホラーだね……」
モモ「このレベルのステルスは歴が無いと無理っすけどね」アハハ
モモ「触られても見えないっすよ?」サワッ
竜華「ひゃっ!?」
モモ「こーんなことしても見えないっす」サワサワ
照「ひゃああ!?」
美穂子(何をされているんでしょう……?)
憧「きゃぁ!? ま、真後ろに……!?」
塞「こ、ここまでされたら流石にね」アハハ
和「この目で見てしまうと……信じる以外あり得ないです」
竜華「でも先生ホンマにすごいわ! これと同じことが出来るようになると思うと……」
モモ「私とまったく同じレベルっていうのは、努力と才能がいるっすけどね」アハハ
モモ「でも存在感を消すくらいなら誰でもいけるっすよ!」
照「それだけでも十分です先生、ぜひご教授ください」ペッコリン
竜華「う、ウチも!」
モモ「あ、頭なんて下げてくれなくてもちゃんと教えるっすから」タハハ
モモ(悪用されるとダメっすから、ちゃんと一人一人事情を訊きたいんすけど……)
憧「この力さえあればシズに……」ブツブツ
和「咲さん……ふふ、ふふふ……」
美穂子「上埜さん……待っていてくださいね……」
モモ(じ、事情を訊く気になれないっすね……)
モモ「え、えっと、それじゃあ早速第一回講座を始めるっすね」
モモ「テキスト配るっすから全員に回してくださいっす」
モモ(初めての講座から数ヶ月)
モモ(最後の講座も先日終了。全員がステルスを習得したっす)
モモ(授業態度も全員超真面目で、教えるこっちにプレッシャーがかかるほどでした)
モモ(あの人たちならステルスを悪用しないとは思うっすけど……面接もしてないんでやっぱり心配っす)
モモ(ここは師としての責任を果たすためにも、一人一人こっそり様子を伺うことにするっす)
モモ「まずは……>>38さんのところに行ってみるっす」
6人の中の誰かでお願いします
憧「ふふ、遂にこの時が来たわね」ザッ
憧「あの日からどれだけこの日を待ち望んだことか……」
憧「ステルスになれるかの確認は済んだことだし、ふふ。早速、実践させてもらいましょう」
憧「いざ高鴨家へ!!」ピーンポーン
モモ(さ、早速不法侵入すか……)
モモ(新子さん……受講していた時から危ない気配は察していたっすけど……)
シズ「はい、どなたでしょうか?」
憧「宅急便でーす」ウラゴエ
シズ「あ、分かりました。今出まーす」
憧「ふふ……」スッ
シズ「お待たせしました……ってあれ?」
シズ「誰もいない……」キョロキョロ
憧(部屋着のシズ可愛い……)
シズ「イタズラかなぁ……たっく、どこの悪ガキだよー……」ハァ
憧(ふふ、お邪魔しまーす♪)バタン
シズ母「誰だったのー?」
シズ「誰もいなかったー。イタズラー」
憧(靴は分かりにくい場所に隠してっと)
モモ(あはは、計画的っすね……)
憧(シズはリビングに行ったみたいだし……部屋に行ってみよう)テクテク
モモ(物取ったりしなきゃいいんすけど……)
憧「ふふ、お邪魔しまーす……」ガチャ
モモ(さっきの人の部屋……?)
憧(シズの部屋……今この状況は、なんでもし放題……)
モモ(い、一体何を……?)
憧「シズのベッド……」トサッ
モモ(こ、これはまさか……)
憧「シズぅ……」クンカクンカ
憧(あぁ、これヤバい……頭おかしくなりそう……)
モモ(なるほど……そういうことっすか……)
憧「んん……」モゾモゾモゾ
モモ(これが新子さんの目的……分かるっす。分かるっすよその気持ち!)
憧「あ、シズの枕……くんかくんか……ふぁぁぁ……これっ、すごいぃ……」ギュウウ
憧「シズを抱きしめてるみたい……」
憧「ふふっ……えへへ……頑張ってよかったなぁ……」
モモ(新子さん幸せそうっす……)
憧「シズぅ……」ギュウ
シズ「はぁ、宿題めんどくさいなぁ……」ガチャ
憧「ふきゅっ!?」
シズ「ん?」
憧(やっば……!)
シズ「……?」
シズ(なんか、憧の声がしたような……)
シズ「ってあれ? さっきベッドの上綺麗にしたはずなんだけど……」
憧(ヤバいヤバいヤバい……!)
モモ(はは、新子さん絶対絶命っすね……)
シズ(なんでだろ……)
憧(お願いそれ以上疑問を持たないで……!!)
シズ「うーん……」
シズ「まあいいや。宿題しよ」
憧(……せ、セーフ……)ハァ
憧(すっごいドキドキしてる……心臓に悪い……)
モモ(新子さんは優秀だったんで、そのレベルじゃ気付かれないっすよ)
憧(と、とりあえず無駄な物音とか立てないようにしなきゃ)
憧(……そういえば今、シズと同じ部屋で二人きり……)
憧(き、緊張する……)ドキドキ
モモ(その気持ち分かるっすよ新子さん……私も初めて忍び込んだ時は緊張でガチガチでした)
モモ(特に本人が目の前にいるときなんて……)
憧(……)ジーッ
シズ「……」カリカリカリ
シズ「……」ウーン
憧(意外だな……机に向かってるイメージなんて全然ないから……)
シズ「……」カリカリカリ
憧(私の知らない、シズの一面……)ポーッ
憧(これからもっと、色々なこと……)
モモ(眺めてるだけなんて本当に初々しいっす)
モモ(馴れて来るともっとすごいことするようになるっすからね……)
シズ「うーん……」
モモ(さっきからずっと悩んでるっす)
憧(問題分かんないのかな? 教えてあげたいけどそんなわけにもいかないし……)
シズ「……」ピッピッピ
憧(携帯触りだした……)
モモ(誰かに聞くつもりっすかね?)
シズ「……送信っと」ピッ
ブーブーブー
憧「っ!?」
シズ「えっ?」
モモ(こ、これは……)
シズ「バイブ音……?」
憧(はは、早く止めないと……!)
シズ(私の携帯じゃない……てかどこで鳴ってるんだろ……)キョロキョロ
モモ(絶体絶命その2っすね……)アハハ
シズ「あ、聞こえなくなった……」
シズ(憧にメールした瞬間に鳴ったけど……)
憧(おお、お願い不審に思わないで……!)
シズ「確かこの辺で鳴って……」スッ
憧「わわっ!」
憧(あ、あっぶな……!! ぶつかるとこだっ……)
シズ「……今、憧の声……」
憧(しまっ……)
憧(はわわわわ……!!)
シズ「憧……?」
憧(いませんいません誰もいません……!)
シズ「……あれ。ここ、憧の匂いがする」スンスン
憧(ふぇええ!!?)
モモ(に、匂いとはやるっすね……)
シズ「なんでだろ……」スンスンスン
憧(ちょ、顔ちかっ……!!)
憧(動いちゃダメ動いちゃダメ……)ドキドキドキ
モモ(新子さんのステルス、なかなかやるっすね……あの距離でも見えないとは……)
シズ「憧の匂いがする場所……私の部屋にこんな不思議スポットが……」スッ
憧(は、離れて……助かった……)ハァ
シズ「よし、本人にも知らせよう!」ピッピッピ
憧「」
憧(や、やっば……!!)
ブブブブブ……ブブブブブ……
シズ「えっ……?」
憧(はは、早くとめっ……)
シズ(さっきよりも音が大きいような……)
モモ(余計なことしない限りは見つからないと思うっすけど……)
シズ「どこから音してるんだろ……めちゃくちゃ近いんだけどなー……」ウーン
憧(今止めてもさらに怪しまれるだけ……どうすれば……)
憧(そうだ……携帯をどこかに隠せば……!)
モモ(ん? 何か思いついたみたいっすね……)
シズ「ベッドの辺りかなぁ」ゴソゴソ
憧(と、とりあえずベッドの下に置いて……)
モモ(なるほど……忘れ物に思わせる作戦っすか。考えたっすね)
シズ(絶対にここだ……でも無い……ベッドの下……?)
シズ「あーー! あった!!」
シズ「ってこれ憧の携帯……なんでこんなところに……」
憧(ここで不審がられたら終わりだけど……)
シズ「……忘れ物? でも今日、普通に携帯弄ってたし……」
憧(しまっ……!!)
モモ(発想は良かったっすけど、痛恨のミスでしたね。新子さん)アハハ
憧(これ、取り返し付かないかも……)アワワワ
シズ(私がいないときに憧、ここに来たのかな)
シズ(今日は麻雀部早退してたし、そのときに忘れたとか……)
シズ(一体何のために……そもそもどうして私がいないときに……)ウーン
憧(うぅぅ、めちゃくちゃ不審がってるし……)
シズ母「シズー、お風呂入っちゃってー!」
シズ「あ、はーい!」
シズ「まあいいや。考えても分かんないし、明日憧に訊いてみよ」タタ
憧(……た、助かった?)
モモ(見つからない限りは大丈夫っすよ、新子さん)
憧(良かったぁ……)ハァ
モモ(ステルスするときの基本っすよ。って教えたはずっすけど……)アハハ
憧(はぁ……めちゃくちゃドキドキしたなぁ……)
憧(でも、このスリルもちょっとクセになるかも……)フフ
シズ「っと。着替え忘れてた」ガチャ
憧「っ!?」ビクゥッ
モモ(あはは……精進あるのみっすよ、新子さん)
シズ「……」ゴソゴソ
憧(し、シズ……そ、そういえば、今からお風呂って……)
憧「……!」
モモ(遂に踏み入れてしまうっすか……その禁断の領域に……!)
シズ「ふんふふーん♪」
憧(こ、これは流石に……で、でも……)チラ
シズ「設定温度は……」ピッピッピ
モモ(まだ理性が残ってる感じっすね、新子さん)
モモ(でも……甘い誘惑には勝てないんすよね)
シズ「さて……」ヌギヌギ
憧「!!」
シズ「……」ファサッ
憧「……」ジーッ
モモ(あはは……)
シズ「よっと……」ヌギッ
憧(あっ……ぱ、パンツ……)
憧「……!!」カァァァァ
モモ(新子さん顔真っ赤す……でも目は離さないんすね……)
シズ「ふんふーん♪」バタン
憧「……」
憧(見ちゃった……シズの裸……)ドキドキドキ
憧「ふふ……ふふふ……」ニヘラ
モモ(幸せそうで何よりっす)アハハ
憧「……」ジー
モモ(ま、まさかやっちゃうすか新子さん!?)
憧(別にいい、よね……? 私、今まで頑張ったんだし……ちょっとくらい、ご褒美……)
憧「……ん」
モモ「!」
憧「すぅ……はぁ……すぅ……はぁぁ……」
憧「シズぅ……シズぅ……」クンカクンカ
モモ(お、おお……)
憧「シズの、えっちな匂いっ……いっぱい、いっぱい……」
モモ(も、盛り上がってるっすねー……でも、気持ちはよく分かるっす……)ドキドキ
憧「ん……」
シズ「っと、シャンプーシャンプー」ガラッ
憧「!?」
憧(し、シズ……!)
シズ「うーんと、確かこの辺に……」
憧(め、目の前にシズがいるのに……私、シズのぱんつ、嗅いで……)ドキドキ
シズ「……」ゴソゴソ
シズ「あったあった」バタン
憧「はぁ……はぁ……」
憧(これ、クセになったら絶対ヤバいっ……)
モモ(ハマっちゃうと相手のこと襲いたくなっちゃうっすからね……やり過ぎ注意っす)アハハ
憧(これ以上こんなことしてたら、本当にどうにかなっちゃう……)
憧(あ、頭と体冷やそう……)
モモ(新子さんは理性的っすね……回を重ねるとどうなっちゃうかは分からないっすけど……)
憧「はぁ……」
憧(シズの部屋に戻って来たけど……これからどうしよう……」
憧(もう帰ろうかな……なんか、シズの匂い嗅いでると変な気分になっちゃうんだよね……)
憧(さっきもすごく体がうずうずしたし……)ドキドキ
憧(今も……)モジモジ
モモ(頭は理性的でも体がどんどんその気になってるって感じっすね……)
憧(ど、どうしよう……シズぅ……)
憧「!」ビクッ
モモ(さて、ここからどうなるか見物っすね……)
シズ「……」
憧(お風呂上がりのシズ……やっぱり可愛い……)ポー
シズ「……ふわぁ」
シズ(眠くなってきた……まだまだ寝る時間でもないんだけど……)
シズ「ん……」ゴロッ
憧(ベッドの上で、あんなにも無防備に……)
憧「……」ジーッ
モモ(あ、新子さん。流石にそれは……)
憧(そ、そんなこと……絶対に……)
シズ「んぅ……」
憧(でもシズ、寝ようとしてるみたいだし……そのあとなら、ちょっとくらい……)
シズ「むにゃ……」
憧「……」ジーッ
モモ(機を待つつもりっすね、新子さん……果たしてどこまでするのか……)
憧「……」
シズ「すぅ……すぅ……」
憧「……寝た、よね……」
憧「シズ……?」
シズ「むにゃ……」
モモ(遂に動くっすか……!)
憧(抱きしめたら、流石に起きるよね……)
憧(でも、起きた瞬間にすぐ離れて、ステルスになれば……)
憧(それに、そう簡単には起きないと思うし……)
憧「……」ギシッ
モモ(! ベッドの上に上がるとはアグレッシブっすね……!)
シズ「ん……ぅ……」
憧(私のすぐ目の前に、眠っているシズが……)
憧(もう、ダメ……我慢できないっ……)
憧「シズ……」ギュウ
モモ(おお……遂に……)
シズ「ん、んぅ……」
憧(あったかい、やわからい……良い匂い……シズの匂い、いっぱい……)
憧「シズ……シズ……」サワサワ
シズ「んっ……」
モモ(あ、新子さん……あんまりやりすぎたら起きるっすよ……そこは慎重に……)
憧(シズの体、本当に柔らかい……肌もすべすべでもちもちしてるし……)スリスリ
憧(……唇も、柔らかいんだろうなぁ……)ジーッ
モモ(あ、新子さんっ……)
シズ「んぅ……」
憧(そんなことしたら、流石に起きるよね……どうしよう……)
憧(こんなことしてるのバレたら、絶対に嫌われちゃう……)
憧(でも、キスしたい……シズと、キス……)
モモ(……)ドキドキドキ
憧(……大丈夫、だよね)
憧(起きたらすぐに離れて、ステルスすればいいんだし……)
憧(寝ぼけてる状態なら姿見られても、夢だと思うよね……)
憧(うん、大丈夫……問題ない……シズにキス、出来る……)
シズ「すぅ……すぅ……」
憧「本当に、可愛い……大好きだよ、シズ……」ウットリ
憧「ん……」
モモ(わわっ……遂にやっちゃったっす……)
憧(唇、柔らかい……あったかい……)
憧(私今、シズとキスして……)チュウゥ
シズ「ん……ぅ……」
シズ(なんか、あったかい……なんだろうこれ……憧の匂いがして……)
シズ(あ、こ……?)
憧「んっ……シズ……?」
シズ「……なに、してるの……?」
憧(でも、まだ寝ぼけてるだろうし……そうだ)
憧(シズの目を手で覆って……)スッ
シズ「?」
憧(もう一回、今度はねちっこく……)チュウゥ
シズ「……!?」
モモ(なっ……この状況からもう一回っすか……!?)
シズ(へっ……な、なに……? 私、なにされて……)
シズ「ん……んっ、んぁ……」
憧(シズ、シズ……シズ……)
―――――――――――――
憧「はぁ……はぁ……」
シズ「ふぁ……ぁ……」
憧(舌、いっぱい入れちゃった……)ドキドキ
憧(愛おしくて、止まれなくて……)
シズ「……」ポー
憧「……今度は、ちゃんと気持ち伝えてからするから」ボソ
シズ「へ……?」
憧「ごめん、シズ……」スッ
シズ「あっ……」
シズ(消えた……)
シズ「あ、憧!?」バッ
憧「……」
シズ(だ、誰もいない……)
シズ(なに、今の……夢……?)
シズ(憧にキス、される夢……?)カァァァ
シズ「う、うわあああああ!!??」バダンッ
モモ(へ、部屋から出て行っちゃったっす……)
憧「……ふふ、えへへ……」トローン
うわあああああああ!!
何家の中で走ってるの! ってどこ行くのあんた!?
モモ(その後新子さんは夢見心地のままあの家を後にしたっす)
モモ「これからあの二人はどうなるっすかね……」
モモ(相手の子は新子さんの顔ロクに見れそうにないっすけど……)
モモ「……まあ、考えても仕方が無い話っすね」
モモ「しかし、新子さんがステルスを悪用しなくて良かったっす。今後も心配なさそうっす」
モモ「とりあえず今日のところは……これで終わりっすね」
モモにとってあれくらい普通、つまりかじゅのプライバシーは
寝ます。ありがとうございました
あとは誰か分担して書いといてください
Entry ⇒ 2012.11.13 | Category ⇒ 咲-Saki-SS | Comments (0) | Trackbacks (0)
淡「まーじゃん大学だよ!全員しゅうごうっ!」
恒子「それでは学長、ありがたいお話をお願いしまっす!」
大沼「あー…」
(……ここは麻雀教育に力を入れた新設校、麻雀大学)
(高校麻雀で活躍した者は大体ここに入学してプロを目指す)
(もちろん大学なので普通の勉強もする)
(……ちなみに麻雀学部などは無い)
(ゆえに生徒たちにはどこかしらの学部に入ってもらう)
恒子「あれー、校長先生どしたんですか?」
大沼「……」
(……そして、生徒たちにはチームを組んでもらうことになっている)
(メンバーは学部学年出身校などには関係なく、アトランダムだ)
(メンバー数は5人、1チームにひとつずつ個室と雀卓が用意されている)
(切磋琢磨しあい、雀力を高めてほしい)
(……チーム対抗型のイベントなども用意する)
(楽しく仲良く過ごしていくなかで己を成長させていってくれ)
(……年齢とか設定とかいじられてるものもあるかもしれん)
(その辺はパラレルだと思って大目に見てほしい)
「……以上だ」
恒子「まじっすか!校長先生のお話でした!」
――教室
えり「……ですから、この……は……の表れかもしれませんね」
淡「…」Zzz
小蒔「…」カリカリ
えり「そして……このころ芥川は……ですから…」
淡「…」Zzz
小蒔「…」カリカリ
えり「つまり……あら、そろそろ時間ですね」
「最後に中間レポートの課題を出して、今日は終わりにしましょう」
淡「…」Zzz
小蒔「れぽーと?」
えり「レポート課題は……」カキカキ
小蒔「!」
「……」カリカリ
えり「ではまた来週ですね レポート忘れないようにしてください」
小蒔「淡ちゃん淡ちゃん」ツンツン
淡「んー……ブンガク終わったー…?」ウトウト
小蒔「うん、終わりましたよ」
淡「テーネー語きんしっ」ツンッ
小蒔「あうっ ええっと、ごめん?」
淡「うんっ、オッケー」
小蒔「えへへ」
淡「? なに?」
小蒔「れぽーとが出たよ」
淡「…れぽおと?」
小蒔「えっとね、サカグチアンゴのこれを読んで……感想を……」メモミセ
淡「んー…??よく分かんないねー」
小蒔「本は学校の生協で安く買えるって言ってたよ」
淡「おおっ、すごいね」メモメモ
小蒔「ていしゅつは再来週までだって」
淡「うん、ありがとーコマキっ」メモメモ
「ようっし、授業おわりー! 麻雀麻雀っ」
淡「……れぽおと明日までじゃん」
「どーしよう! 課題の本買ってすらないよ!」
「コマキは書いたのかなー?」ピッポッパ
プルルルル ガチャ
小蒔『もしもし、神代です』
淡「コマキー、明日のれぽおと書いたー?」
小蒔『? えっと、にほんぶんがくの?』
淡「うんうん」
小蒔『もうちょっとで終わりそうだよ』
『淡ちゃんは?』
淡「わたしまだ本も買ってなくって」
小蒔『…』
『えっ?』
淡「や、やっぱまずいかなー…?」
小蒔『ええっと…小説自体はそんなに長くないんだけど……』
『なんか…むつかしいっていうか……』
淡「うー…こまった」
小蒔『それに、本ももう置いてないかもだよ…?』
淡「!! ますますこまったっ」
小蒔『どうしよう…どうしましょう淡ちゃん…』アタフタ
淡「お、おちついてコマキっ! テーネー語きんしっ!」アタフタ
小蒔『ごっ、ごめんなさっ…』
淡「…!」ポンッ
「そ、そうだっ、コマキっ」
小蒔『…?』
淡「チームメイトに相談してみるよっ」
淡「ふっふっふー麻雀ばっかりですっかり忘れてたよー」
「わたしには強いみかたがいるってことをねー」
「そう、なにを隠そう…なにを隠そう、うちのチームには読書狂が……」
ガラガラッ!
淡「何人かいるっ!!」
咲「!?」ビクッ
「…?」
「えっと…こんにちは?淡ちゃん」
淡「サキー!」ダキッ
咲「わわっ、どうしたの…?」
淡「ニッポンブンガクがわかんないよー!」エーン
咲「…文学? 授業の?」
淡「うん、課題の本も買ってないのー助けてサキー!」エーン
咲「ええと…あそこの本棚にあるのなら貸せるけど…」
淡「読んでもムツカシイからわかんないよー!」エーン
咲「ええっと……」
照「なにを騒いでるの?咲、淡」
咲「おねえちゃん」
淡「テルー!」ダキッ
照「淡?」
淡「ニッポンブンガクがわからないよー!」エーン
照「? どういうこと?」
咲「授業の課題があるんだって」
淡「助けてテルー!」エーン
照「…? そこの本棚にある本なら貸せるけど」
淡「読んでもわからないよー!」エーン
淡「読書好きのふたりが、れぽおとの書きかたを教えてくれたらなーって」
咲&照「…?」
咲「日本文学のレポートなんだよね?淡ちゃん」
淡「うんっ、うんっ」
照「だったら簡単」
淡「うんっ、うんっ?」
咲&照「読んで思ったことを書けばいい(んじゃないかな…?)」
淡「…あ……ああ……」
咲&照「?」
淡「…あアァ、あ…ァ……」
(だ、だめだこのふたり…いまのセリフ、その目…)
(なにができないのか、本当にわかってない目だ…)
(純粋で、悪気なんていっさいなくて、本当に不思議がってる…)
咲&照「??」
淡(……そんな目だ)
咲「うん 淡ちゃん、本は勝手に持っていっていいから」
淡「……うん、ありがとサキー…」
照「ばいばい」フリフリ
咲「レポートがんばってね」フリフリ
ガラガラ…
淡「……」
「……おわった」
ガラガラ
恭子「あれ、大星だけかいな?」
淡「あ…キョウコ…」
恭子「? なんや、元気ないな」
淡「ニッポン…ブンガクが……わからな……はあ…」
恭子「…? 本ならそこの宮永文庫から借りたらええ」
淡「いや…そうじゃな……」
「……」
「…宮永文庫っ!?」
恭子「…なんや知らなかったんか?」
「宮永姉妹の読書っぷりは量・質ともに常軌を逸しとるで、」
「この、ふたり共有の本棚には古今東西のあらゆる本が眠っとって、」
「畏敬の念を込めて宮永文庫と呼ばれ、」
「うちのチーム以外の生徒どころか、教授陣まで利用するくらいなんやで」
淡「すごい!」
恭子「なにに困っとるんか知らんけど、ほしい本が無いってことはないと思うで」
淡「! そうだ、こまってたんだった…!」
恭子「…だいじょうぶかいな」
淡「ううー…キョウコー…」ウルウル
恭子「……」
「…はあ なんや、話してみ」
淡「!」
恭子「できることなら協力したるで」
淡「キョウコー!」ダキッ
恭子「……」
「はあー…」
淡「ためいきっ!?」
恭子「授業は寝てて、本は読んでないて、それで困らないわけないやんか…」
淡「せいろんっ!?」
恭子「…で、課題本はなんやねん」
淡「! 手伝ってくれるの!?」
恭子「課題本次第やな…ものによっては正直諦めるしかあらへんよ」
淡「あ…」
恭子「…嫌なん?」
淡「……うん」
恭子「そか」
淡「キョウコ、怒ってる…?」
恭子「……いや、別に怒ってへんよ」
淡「?」
恭子「しんどいけど、手伝ったるか って思っとっただけや」
淡「!!」
淡「ありがとー、キョウk――」
恭子「抱きついとる暇ないで 課題本は?」
淡「え、ええっと……」
恭子「?」
淡「タ…カムチ……バンド…?」
恭子「……」
「うん、ありがとーコマキー」ピッ
恭子「わかったか?」
淡「サカグチアンゴのサクラノモリノ…なんとかだって」
恭子「なんでもう忘れとんねん…」
「ええと…これやな」っ安吾
「桜の森の満開の下、や」
淡「! そう!これ!」
恭子「……」
淡「……」ワクワク
恭子「…?」
淡「……」ワクワク
恭子「…読まへんのか?」
淡「え?」
恭子「なにが え? やねん」
恭子「……手伝いってどんな手伝いを期待してるんや?」
淡「よ…読んでくれて…」
恭子「うん」
淡「…教えてくれて」
恭子「うん」
淡「……書いてくれる」
恭子「うん」
淡「みたいな?」
恭子「あほ」デコペチン
淡「あう」
恭子「あほ」デコペチチン
淡「あうう」
恭子「超あほ」デコペッチーン
淡「あうううー…」
淡「…うん」
恭子「せやからもちろん読むのも自分でや」
淡「! で、でもっ!」
恭子「なんや」
淡「こんなムツカシイ本読んだことないもん!」
恭子「こんなもなにも、まだ開いてもないやろ」
淡「コマキがムツカシイって言ってたもん!」
恭子「やったらどないすんねん やっぱり諦めるんか?」
淡「あ…」
恭子「…」
淡「…ん、と……」
恭子「…」
淡「…」
「……」ウルッ
恭子「……」
淡「……」ウルウル
恭子「…」
「…」ハァ
「…あほ」ペチン
淡「あう」ウルウル
恭子「泣くほど嫌ならがんばるしかないやろ」
恭子「……なあ大星」
淡「…うん?」
恭子「わたしは代わりにがんばってはやれへんけどな」
淡「…?」
恭子「それでも、がんばりかたくらいは教えたるで」
淡「!」
恭子「せやからまず泣くんやめや」
淡「…」ゴシゴシ
「うんっ!」
恭子「…」フー
「したら始めるで、本開き」
淡「うん!」
「辞書は持っとるか?」
淡「うん」
恭子「そしたら分からん単語とか漢字とかはそれでひきながら読むんや」
淡「うー…めんどくさい」
恭子「しゃーないことや」
淡「うん…」
恭子「あとは読んでて意味分からんこととか引っかかることとかをメモしぃ」
淡「意味ワカランこと?」
恭子「せや なんでこんなことするんやろとか、言うんやろとか」
「なんでこうなるんやろ、どういうことやろとか」
「すんなり分からんことをメモしながら読むんや」
淡「なんで?」
恭子「後でレポート書くときのポイントになりやすいからやな」
淡「むむー…? …?」
恭子「まあやってみたら分かるで」
淡「? うん」
淡「キョ、キョウコ!」
恭子「? なんや?」
淡「じ、辞書でもわかんないことが有ったら……その…」
恭子「ああ、そん時は訊いてや」
淡「!」
「ありがとーキョウコー!」ダキッ
恭子「…ほら、はよ読み始めんと」
淡「もーちょっとだけー」スリスリ
恭子「…」
淡「キョウコー」スリスリ
恭子「…」
「…」ハァ
「しゃーないな、ほんま」ナデ
恭子「ああ、これはここが2画で……」
淡「キョウコー、せつめいぶんの意味が分からないよー」
恭子「んーと、これはたとえばやな……」
淡「キョウコー」
恭子「どれどれ……」
淡「キョウコー」
恭子「これこれ……」
淡「キョウコー」
恭子「それそれ……」
恭子(……あかん、こっちの課題がはかどらへんな)
淡「…」ペラ
「…」ウーン
「…」ペラペラ
恭子「…」
(…まあ、しゃーないか)フゥ
恭子「おつかれさん」
淡「つかれたー」バターン
恭子「ほら、読み終えたんやから書かな」
淡「キョウコーぎゅってしてー」ゴロロン
恭子「なにかわいいこと言っとんねん」
淡「!?」ドキッ
恭子「…? なんや、急に飛びはねて」
淡「いいい、いま、キョ、キョウコ……」カアァ
恭子「なに?」
淡「…あ……あー、ううん、なんでもない……」
恭子「?」
淡「び、びっくりしちゃっただけだから…」
恭子「…?」
淡「うん、したよ」
恭子「そしたらこれについてじっくり考えてみたらええ」
淡「? どういうこと?」
恭子「なんでやろなあとか、なんやったんやろなあとか」
「そういうこと考えてみれば自然と作品の理解につながるやろ」
「そこから話をふくらませばレポートのかたちにはなるで」
淡「んー…でもよくわかんなかったよー…?」
恭子「難しくかんがえることあらへん」
「別に国語の問題やないし、本格的な論文でもないんや」
「書いてあることからズレないように、誠実にかんがえればそれでええ」
淡「んー…?」
恭子「こればっかりは気持ちの問題やで」
淡「んー… わかった、やってみる」
「…」ペラペラ
「…」ウーン
恭子(…ちゃんとやっとるみたいやな)
淡「んー…?」ペラ
恭子(なんだかんだ言うて、根は素直っちゅーか、なんちゅーか…)フー
淡「!」ポン
「…」カキカキ
恭子(…よし、こっちも課題やるか)メガネツケ
淡「ど、どうかな…?」
恭子「んー…誤字とか文がおかしいとことかはまだあるなあ」ジー
「こことかこことか、これも日本語としてちょっと変やろ」ユビサシ
淡「うう…」
恭子「けどまあ、それさえ直せばだいじょうぶやな」
淡「! それって…!」
恭子「レポートできあがりや」
淡「やったあー!!」
恭子「…」フゥ
淡「やったよキョウコー!」ダキッ
恭子「ようがんばったな」
淡「ほめてほめてー」
恭子「えらいえらい」ナデ
淡「えへへー」
淡「らーめん?」
恭子「がんばったご褒美におごったるで」
淡「ほんと!?」
恭子「ああ、学校の裏においしいラーメン屋があるんや」
淡「いく!」
恭子「ほな出よか」メガネハズシ
淡「あ、めがね…」
恭子「?」
淡「…とっちゃうの?」
恭子「…? メガネは勉強するときだけつけてるんや」
「町歩いたりするのに困るほどやないからな」
淡「そっかー…」
(…キョウコのめがね、にあってたのになあ)ジー
恭子「?」
えり「では、名前を呼ばれた人から取りに来てください」
淡「…」ドキドキ
アタラシサン ハイ
小蒔「きんちょうするね…」
淡「うん…」
モリガキサン ハイデー
淡(…だいじょうぶ!)
(キョウコがだいじょうぶって言ってくれたんだから…!)
えり「神代さん」
小蒔「はっ、はいっ!」タッタッタ
ヨクガンバリマシタネ ア、アリガトウゴザイマス…
淡(…だいじょうぶ)ドキドキ
淡「! ふぁいっ!」タッタッ
カンダネ カワイー チョーカワイイヨー
淡「…」カアァ
えり「…大星さんは、レポート、苦手ですか?」ヒソヒソ
淡「! は、はい…」コクン
えり「やっぱり」ヒソヒソ
淡「あ…あの…」
えり「でも」
淡「…?」
えり「がんばりましたね、よく書けてましたよ」ニコッ
淡「!!」
えり「次もがんばってくださいね」
淡「は、はいっ!」
淡「キョウコー!」
咲「!?」ビクッ
照「?」
恭子「なんや大星、ごきげんやな」
淡「じゃじゃーん! レポートかえってきたの!」
恭子「! どれどれ」
「おー、結構評価いいやんか」
照「ほんとだ、いい点」
咲「すごいね淡ちゃん!」
淡「えへへー、キョウコのおかげだよー」
恭子「がんばったんは大星や、胸張ってええ」
淡「…えへへ」
照「うん」
淡「わたしね、結局あの本買ったんだー」
咲「? レポート終わってから?」
淡「うんっ なんかほしいなって思って」
恭子「へえ、ええな」
淡「でしょー」
「わたし、ちょっとブンガク好きになったかも」
恭子「うん」
淡「あとキョウコも好きー!」トビツキッ
恭子「わ、大星、あぶな…」
淡「わたしたちもブンコつくろーキョウコー!」スリスリ
恭子「なにいうて、ちょ、ええからちゃんと立ち、おおほしっ」
淡「キョウコー!」スリスリ
カン!
漫『このときをたのしっ メナイっ! メマイっ!』
シロ「……」シャンシャン(タンバリン)
漫『ゆぅめぇじゃーないっあれもこれもぉー!』
『その手ぇでドアうぉっ開けましょーう!』
霞「わあ、かっこいい歌ねえ」シャンシャン
漫『しゅぅくぅふくがっ欲しいのならー!』
『かなしぃみを知りっ ひとぉーりぃで泣ーきましょーう!』
優希&初美「フゥフゥー!!」
漫『そしてぇっ かーがやくウルトラソウッ!』
優希&初美「ヘイッ!」
霞「すてきだわあ」パチパチ
漫「えへへ、どーもどーも」テレ
問題ノーウェイ
漫「はっつっみぃー!」
初美『あいにーじゅー』
優希「はっつっみぃー!」
初美『あいらびゅー』
漫&優希「はっつっみぃー!!」
霞「かわいい踊りねえ、はっちゃん」シャンシャン
シロ「……」シャンシャン
霞「ふふふ」シャンシャン
シロ「……霞」シャン
霞「? なあに、シロちゃん」シャン
シロ「…霞は歌わないの?」
霞「えっ、わたし?」
漫「石戸先輩、どーぞ歌ってください」
霞「で、でもわたし、あんまり最近のうた、しらなくって…」
優希「だいじょーぶ! 霞ちゃん先輩かわいいからオールオッケーだじぇ!」
漫「そーですよ! ほら、曲入れてください」
霞「え、ええと…」
シロ「……霞」
霞「…?」
シロ「…霞の歌、聴きたい」
霞「! シロちゃん…」
シロ「聴きたいな」
霞「……」
「…」コクン
「わかったわ」
優希「やたー! さっすがシロ先輩だじぇ!」
(歌うとは言ったものの…)
優希『ダッシュ!ダッシュ!オーレンジャー!』
霞(なにを歌えばいいのかしら…)
優希『あっつい血ながれぬ 鋼のっ マッシンー』
霞(かっこいい曲…?)
(ええと、オザキさんとかかしら…)
(ぬーすんだバーイクではーしりだすっ)
(……不良だと思われちゃうわよね)
優希『あしたにっ むかあてっ 勇気を 燃やせばー!』
霞(じゃあはっちゃんみたいにアイドルソング…?)
(さっきのは、ええと…モーニングむすめ?さんだったかしら?)
(……知ってる曲がないわ)
優希『はしりだしたらっ! とまーらなーいじぇっ!』
漫&初美「オレー!」
シロ「…」シャンシャン
霞「…」ウーン
シロ「…」シャンシャン
「……霞?」
霞「!」ビクッ
「なっ、なあに、シロちゃん?」
シロ「…霞の好きな曲を歌えばいいよ?」
霞「…?」
シロ「……」
「…無理して最近の曲とかにしなくていい」
霞「…!」
シロ「…むかしの歌も好きだし」
「……それに、好きな歌うたってる霞がみたい」
霞「!!」
シロ「それだけだから」
霞「シロちゃん…」
「じゃあこれを…」ピッピッ
シロ「うん」
テンソウシマシタ
優希「ふいー、なかなかの消費カロリーだったじぇー」
漫「次は石戸先輩ですね」
初美「たのしみですよー」
霞「…」ドキドキ
シロ「……」
霞「…」ドキドキ
シロ「……」クイクイ
霞「…?」
シロ「…がんばって」
霞「! …ええ」コクン
テロテテンテッテ テロテテンテンッテ
霞『はーるいろの汽車にのーって』
優希(こっ、これは…!)
霞『たーばこのにおいのシャーツに そおと より添うからー』
漫(あかん…想像以上や…)
霞『なーぜ 知りあった日から はんとーし過ぎても』
初美(これは、想像以上に…)
霞『あなたーって 手もにぎらないー』
優希&漫&初美(かわいい!!)ドッキーン
霞『あいうぃるふぉろゆ あなーたに ついてゆきたーい』
優希(かわいすぎるじぇ霞ちゃん先輩…!)ドキドキ
霞『あいうぃるふぉろゆ ちょおぴり 気がーよわーいけど』
漫(しかもどこか色っぽいっちゅーか…あかんでほんま…!)ドキドキ
霞『すてきなー ひとだからー』
初美(聖子ちゃんは反則ですー…どきどきしちゃいますよー…)ドキドキ
テロテーン…
霞「…ふう」
優希&漫&初美「…」ポーッ
霞「…?」
「あ、あの……ダメ…だったかしら…?」
優希「そっ!そんなこと全然ないじぇ!」
漫「すっごいかわいかったです!」
初美「霞ちゃん、結婚しようですよー」
霞「え、あ…ええっと……」
シロ「……霞」
霞「! は、はいっ」
シロ「よかった」
霞「!!」
「あ、ありがとう…」カァ
優希「シロ先輩、霞ちゃん先輩、ばいばいだじぇ」フリフリ
漫「おつかれさまです」フリフリ
初美「ばいばいですよー」フリフリ
霞「また明日ね」フリフリ
シロ「…ばいばい」フリフリ
霞「…」テクテク
シロ「…」テクテク
霞「…そういえば」
シロ「…?」
霞「シロちゃん歌わなくてよかったの?」
シロ「……んーと」
霞「…?」
シロ「……」
「…恥ずかしいから」
「…ぷっ」
「ふっ…ふふ、なあにそれ」クスクス
シロ「……」
霞「ふふ、あははは」
シロ「……笑いすぎ」
霞「ご、ごめんなさ、ふふっ」
シロ「……」
霞「…ふう、おかしかった ほんと、笑いすぎね」
シロ「……」
霞「ごめんね、シロちゃん?」
シロ「…別にいい」
シロ「…?」
霞「今度はふたりで行きましょうか カラオケ」
シロ「!」
霞「それなら恥ずかしくないでしょう?」
シロ「……」
「…いちばん恥ずかしいんだけど」
霞「ええ、なんでー…?」
シロ「……」
霞「わたし、シロちゃんの歌聴きたいわ」
シロ「……」
「…恥ずかしいとは言ったけど」
霞「…?」
シロ「行かないとは言ってない」
霞「!」
シロ「……一緒にいこ、霞」
霞「そうしたら歌ってくれる?」
シロ「…うん」
霞「やったあ」
シロ「……」
霞「ふふふ たのしみだわあ」ルンルン
もいっこカン!
――チーム部屋棟
ガラガラ
塞「やっほー、って、あれ?」
ゆみ「来たか、塞」
哩「したら、行くかいね」
菫「そうだな」
塞「? みんなでどこか行くの?」
「あれ?でも、華菜がいないけど…」
ゆみ「その池田の家に行くところだ」
塞「?」
哩「池田んやつ、風邪ばひいて寝込んどるとよ」
塞「えっ、マジ? 珍しいね」
菫「あいつがダウンすると妹さんたちが大変らしくてな」
「その面倒を見るついでに看病してやるかってことになったんだ」
塞「なるほどねー」
ゆみ「ここだ」
ピンポーン
城菜「? おきゃくさんだし」
菜沙「まった! すぐドアあけちゃダメだし!」
緋菜「あいことばをいってもらうし」
ゆみ「合い言葉?」
緋菜「おねえちゃんはいけだかな?」
ゆみ「? 池田だよ」
緋菜「せいかいだし いまあけるし」
ゆみ「??」
塞「なんかかわいいね」
哩「そうやね」
ガラガラ
緋菜「ようこそだし」
ワハハ「」
ゆみ「ああ、今日は友だちも一緒だ」
菫「? 知りあいなのか?」
ゆみ「何度か来たことがあってな」
「入っていいか?」
菜沙「どうぞどうぞだし」
塞「おじゃましまーす」
哩「お姉ちゃんばどこにいると?」
城菜「あっちのおへやでねてるし」
ゆみ「そうか、ありがとう」
ガララ
ゆみ「池田、看病に来たぞ」
華菜「あー…来てくれたのか… たすかるし…」ゴホゴホ
華菜「うん…かまわないし…」ゴホ
ゆみ「なにか食べれそうなのか?」
華菜「たぶん…お粥とかなら食べれるし…」ゴホゴホ
ゆみ「そうか」
哩「ほら、タオル変えちゃると」
華菜「先輩…ありがとうだし…」ゴホ
菫「これは思った以上につらそうだな」
塞「華菜ー、家のことはわたしたちに任せていいからね」
ゆみ「ああ、だから余計な心配はしないで、できるだけはやく治せ」
華菜「みんな……ほんとに、恩に着るし……」ゴホゴホ
「菫と塞は、それができるまで妹たちの相手をしてやってくれ」
哩&菫&塞「りょうかい」
ゆみ「頼んだぞ」
哩「したら買うてきたシャケば捌いちゃってよかと?」
ゆみ「ああ たまごはお粥につかおう」
哩「ネギも入れちゃらんとね」
ゆみ「うん 包丁は…これでいいか」
塞「よーし、なにして遊ぼっか?」
菜沙「うーん、むずかしいもんだいだし」
城菜「おうまさんごっこがいいー」
塞「オッケー」
緋菜「おおお、はやいし!」
城菜「さえちゃんすごいし!」
塞「へへー まだまだこんなもんじゃないよー パカラッ」
菜沙「…」ジーッ
菫「? おうまさんごっこするか?」
菜沙「ううん」フルフル
菫「いいのか?」
菜沙「うん、かたぐるまがいいし」
菫「! いいぞ、じゃあ乗っかって」シャガミ
菜沙「やっただし!」トビノリ
菫「そーら」タチアガリ
菜沙「わわ、たかいたかいし!」
緋菜&菜沙&城菜「おおーっ!」
緋菜「すごいし!」
菜沙「ひゃっぱつひゃくちゅうだし!」
城菜「かっこいいー」
菫「ふっ」
塞「すごいね、おもちゃの弓なのに」
菫「なに、慣れてしまえばそう変わらないさ」
ガララ
哩「ごはん、もうすぐできるとよー」ヒョコン
菫&塞「!」
緋菜&菜沙&城菜「はーい」
塞「い、いまの見た…?」
菫「ああ… 哩…」
菫&塞(ナイスエプロンっ!!)
緋菜「やったー!」タッタッタ
菜沙「いっただきまー…――!」
城菜「……うう、シャケだし…」
哩「! シャケば嫌いやったか…?」
緋菜「ううん、きらいじゃないし…」フルフル
菜沙「で、でも……」
哩「…?」
城菜「……ほねがあるし」
哩「なんだ、そんなこととね」ホッ
緋菜「ほねがいたいからシャケはたべれないし……」
哩「したらお姉ちゃんが全部とってやるとね」
緋菜&菜沙&城菜「!」
哩「ほら、貸して」
緋菜「わあー」キラキラ
菜沙「おいしいし!」キラキラ
城菜「ありがとうだし」キラキラ
哩「よかよよかよ」
「ほら、お味噌汁もあるけんね」
緋菜「わあー」
菜沙「こっちもおいしいし!」
城菜「まいるちゃん、おりょうりじょうずだし」
哩「ふふ、ありがとうね」
緋菜「おかあさんみたいだし」
哩「!」
菜沙「およめさんにしたいし!」
哩「な、なに言うと…」カァ
城菜「まいるちゃんすきだし」ダキッ
哩「!!」カアァ
「ほら」っお粥
華菜「じ…じぶんで食べれるし……」フラン フラン
ゆみ「いいから」
華菜「うう……」カァ
「…あー、ん」パク
ゆみ「熱くないか?」
華菜「ん…だいじょうぶだし……」
ゆみ「そうか」
「…」フー フー
華菜「…」
ゆみ「ほら」
華菜「……ありがとな」
ゆみ「かまわない」
華菜「……心細かったんだ、しょうじき」
華菜「うん…あたしもそー思う……」
ゆみ「ほら、食べろ」
華菜「ん…」パク
「…」
「…ほら…うちって大人があたししかいないだろ?」
ゆみ「…」
華菜「なんかあったらどうしようとか…考えちゃうんだよなー……」
「…ひとりでいるとさ」
ゆみ「…」フー フー
華菜「妹たちはあんなだから……いざって時は…あたしが……」
ゆみ「…」ナデ
華菜「にゃっ!」
ゆみ「ほら」
華菜「…?」パク
ゆみ「……そういえば、明日は授業がないんだ」
華菜「!」
哩「お粗末さま」
緋菜「まいるちゃん、いっしょにあそぶし!」クイクイ
哩「いや、お片づけせんと」
塞「あーやっとくやっとく」
菫「皿洗いくらいはしないとな」
菜沙「はやくはやくだし!」クイクイ
城菜「あそぼー」クイクイ
哩「わかったわかった、遊ぶけん、袖引っ張っちゃダメたい」
キャッキャッ キャッキャッ
塞「あはは、哩大人気だね」
菫「あの子たちも安心するんだろうな あれでも1日心細かっただろうから」
塞「なんていうか、母性? っていうのかね」
菫「ああ、わたしたちじゃ、ああはいかないな」
菜沙「ほらはやくのってだし!」
哩「え、いや…わたし、重かよ? 無理やって」
緋菜「えー、むりじゃないし」
菜沙「はやくはしるし」
哩「いやいや…そげん言うても」
城菜「…」ジーッ
哩「べ、別の遊びばしよ?」
城菜「じゃあかたぐるましてあげるし」アシクグリ
哩「ひゃっ!」
哩「ちょっ、脚、くすぐったかよ」
緋菜&菜沙「わたしたちもやるし!」
哩「まっ、待って、ダメっ…」
ガララ
ゆみ「ちょっといいか、今夜のことなんだ……が…?」
哩「!」
ゆみ「……面白いことになってるな」マジマジ
哩「…み、見んといて」カアァ
菫「! 哩…その、なんだ…だいじょうぶか…」
哩「ええから…! ゆみ、話ってなんとよ」
ゆみ「…ああ、今夜なんだが」
「わたしは土曜授業はないから、ここに泊まっていこうと思う」
「もうちょっと池田についておいてやりたいしな」
「みんなはどうする?」
塞「わたしも授業ないし、いいよ」
菫「おなじく」
緋菜「やったし!」
菜沙「みんなおとまりだし!」
哩「…」
城菜「…」ジーッ
「まいるちゃんは?」
菜沙「まいるちゃんいっしょにねるし!」
哩「んんと…」
(あしたは、授業ばあるんやけど……)
城菜「…まいるちゃん」ダキッ
哩「!」
(…ま、1日くらいサボってもよかね)
ゆみ「もちろん無理にとは言わないが」
哩「いや、よかよ」
緋菜&菜沙&城菜「!!」
哩「わたしも今日はお泊まりするたい」
緋菜「やったしー!」
菜沙「まいるちゃんだいすきだし!」ダキッ
城菜「…」ギューッ
哩「こっ、こら」カアァ
緋菜「まいる……ちゃ…」ムニャムニャ
菜沙「ぱか…ら……ぱか……」ムニャムニャ
城菜「かたぐるま…はっし……だし」ムニャムニャ
哩「ほら……ふとんばせんと…かぜ…ひくと……よ…」ムニャムニャ
菫「これがほんばの……しゃーぷ…しゅーと……ばしゅんっ…」ムニャムニャ
塞「あはは、寝言で効果音言ってる」
「…」
「華菜たちは寝たかな」
塞「…」ヒョコン
華菜「…」Zzz
ゆみ「……塞か」
塞「あれ?もしかして寝ないで看病するつもり?」
ゆみ「いや、そこまではいいだろう 熱も引いてきたみたいだしな」
塞「そう よかった」
華菜「……にゃー…うらはめくらないで……おいてや…にゅ…」ムニャムニャ
塞「ふふ はやく良くなってね、華菜」
ガラガラッ!
華菜「華菜ちゃん大復活だし!」
哩「ドアは静かに開けんね」
華菜「はいだし!」
菫「こないだのが嘘みたいに元気だな」
華菜「死の淵から蘇った華菜ちゃんは元気百倍だし!」
哩「そらよかったとね」
ガラガラ
塞「お、華菜ー 治ったんだ」
華菜「おかげさまで全快しましたし!」
塞「おーよかったよかった」ナデナデ
菫「…」フッ
塞「ほんと心配したよー 華菜が元気ないとなんかさみしいしさー」
哩「これでまた賑やかしくなるとね」
華菜「みんなまた来てほしいって、妹たちも言ってましたし」
塞「おっ、じゃあまたみんなでお邪魔しますかー」
哩「そやね、わたしも行きたか」
菫「哩は特に気にいられてたしな」
哩「なっ…!?」
塞「あー、あの子らの相手してる哩、超かわいかったね」
哩「ちょ、やめね…!」
華菜「それは是非みたいし!」
哩「み、見んでよかっ!」
ゆみ「お…おそくなってすまない…」フラ
華菜「ゆみー!おかげさまで風邪治ったし!」
ゆみ「そうか…それはよかった……」フラフラ
塞「ゆみ…?」
ゆみ「? なんだ…?」フラ
塞「いや、だいじょうぶ? なんかふらふらしてるけど」
菫「顔色もあまりよくないぞ」
ゆみ「ん……そうか…?」フラ
哩「座ったほうがよかよ」
ゆみ「ん…そうしよう…」フラフラ
華菜「…ゆみ、ちょっとオデコ貸すし」ピトッ
ゆみ「いけだ……?」
華菜「やっぱり! 熱あるし!」
菫「付きっきりだったからな」
ゆみ「そうか…ねつがあったのか……どうりで…」
哩「家ば帰らんと」
ゆみ「ああ……そうするか…」
華菜「…ゆみ」
ゆみ「…なんだ?」
華菜「家に家族のひとはいるのか?」
ゆみ「きょうは……たぶんいないな…」
華菜「……」
ゆみ「…!」
塞「いいねーそれ、わたしたちも混ぜてよ」
菫「どうせならまた泊まるか」
哩「おいしいお粥ばつくっちゃるとよ」
ゆみ「みんな……」
「…」フッ
「こんかいは…マスクをかっておけよ……?」
塞&菫&哩&華菜「りょうかいっ」
もいっこカン!
――グラウンド
セーラ「いよいよ決着をつけるときが来たな」
穏乃「ええ」
セーラ「つなひき遠泳砲丸投げ懸垂とびばこ縄跳び…あとなんやっけ?」
穏乃「ロッククライミングと絹恵さんキーパーでのシュート対決ですね」
セーラ「はっ、思えば長い戦いやったな」
穏乃「…ええ」
セーラ「せやけどそれも今日で終わりや」
穏乃「…」
セーラ「もっとも純粋かつシンプルな方法で…白黒、つけるで」
穏乃「…」
セーラ「ランや」
玉子「うちの最強は、この大学最強と同義であるー」
豊音「わくわくするねー」
咏「よーっし、んじゃまあ、始める前にルール確認しとくかねい」フリフリ
セーラ「はいな」
穏乃「おねがいしますっ」
咏「んー、これからやってもらうのは、」
「かわいい後輩が勝ち負けハッキリさせたいっつーから、」
「OGのあたしが考えた究極の体力勝負のゲームなんだよねー」
「知らんけど」
煌「究極……すばらですね」
咏「その名も根性ラン!」
玉子「シンプルであるー」
咏「シンプルイズベストじゃねー?知らんけどさ」
豊音「根性…ちょー熱いよー」
「ゴールはないし、時間制限もない」
「ただひたすら走ってもらうわけよー」フリフリ
穏乃「…」ゴクリ
セーラ「…上等や」
咏「うは いい覚悟だねい」
「次がこのゲームの肝なんだけどさー、」
「ランの終わりは、あたしたちオーディエンスが決めるのよ」
煌「決める、というと?」
「ああもう決着ついたなー終わったなー諦めたなー、ってなったら、」
「その旗を上げるってわけ」
「そんで旗が3つ上がった時点でゲーム終了、その時点で前のほうが勝ち」
煌「…」
咏「あたしたちの過半数に諦められた奴が負けってわけよ、知らんけど」フリフリ
煌「…すばらっ」ゴクリ
咏「…なんかわっかんねーことある? 無ければこれでいくけど」
玉子「承知したー」
豊音「責任重大だねっ」
「旗の上げ下げは完全自由」
「だからこそ、誰もが認める決着になるわけ」
セーラ「…」
穏乃「…」
咏「まあつまり根性見せろってことなんだよねー、文字通り」フリフリ
セーラ「…望むところやで」
穏乃「そうですね…!」
煌「…」
(これは…シンプルに見えて、どう出ていいかわからないルールですね)
(全力で走って置いていっても、旗が上がらなければそこからは長距離走)
(かと言って体力を温存する策を諦めと取られればそこで終わってしまう)
(はてさて、ふたりはどうするのか…)
玉子「ふたりとも、がんばるのであるー」
豊音「応援するよー」
セーラ「たらたらしてると一瞬で置いてくで」
穏乃「ご心配なく…!」
咏「ぱぁん!」リョウテパチン
セーラ&穏乃「!」ダッシュ!
煌「!」
(やはり最初から飛ばしますか、このふたりは…!)
咏「うはは あれ100m走くらいのペースじゃねー?知らんけど」フリフリ
玉子「はやいのであるー」キラキラ
豊音「ぜんぜん差がでないねー」
セーラ「…」タッタッタッタッタ
(やっぱりそう簡単には離せへんか…おもろいやん)
穏乃「…」タッタッタッタッタ
(うわ、はやい…でも、だからこそ、抜き去る意味がある!)
セーラ&穏乃「!!」ダッシュダッシュ
咏「うーわ、さらにはやくなったよー」フリフリ
煌「…すばらっ!」
咏「がんばれがんばれーい」フリフリ
豊音「ファイトだよー」フリフリ
――更に10分後
咏「うははーい」フリフリ
玉子「まけるなであるー」ピョンピョン
――更に15分後
咏「あー、ええっと」フリ…フリ…
煌「…」タラッ
――更に30分後
咏「……いやー、さすがに信じらんねーわー…」
セーラ&穏乃「!!」ダッシュダッシュ
咏「なにこの体力……わっかんねー…」
(わたしはこのふたりを侮っていたのかもしれません…)
(このゲーム…どう出るかわからないなんてことはなかった…)
(シンプルな勝負にはシンプルな答えがあったわけですね…つまり)
セーラ&穏乃「!!」ダッシュダッシュ
煌(はじめからおわりまで、全力で飛ばしつづければいい…!)
咏「こいつら……大馬鹿だねい」ニィ
煌「ええ、すばらです…!」
セーラ&穏乃「!!」ダッシュダッシュ
玉子「ふ、ふたりとも、こんなに走ってだいじょうぶであるか…?」オロオロ
豊音「しんぱいだよー」オロオロ
セーラ「…」タッタッタッタッタッタ
(……まだ、いるな、シズ)
穏乃「…」タッタッタッタッタッタ
セーラ「…」タッタッタッタッタッタ
(…なあシズ、よう言うやん、かぜになるかんじ、て)
(オレ、実はあれ、ようわからんねん)
穏乃「…」タッタッタッタッタッタ
(走って、走って、いろんなものを置き去りにする)
(一緒に走るやつみんな置いてったら一番で、走り終えてまう)
(そういうもんやった)
穏乃「…」タッタッタッタッタッタ
セーラ(…けど、今日はちゃうな)
(周りの声とか、空気とか、地面とか、景色とか)
(自分のいき、ねつ、きしみ、おもさ とか)
(ぜんぶ置いてってもまだ終わらへん)
(…ここまで来ても、ぴったりついてくる気配があるからや)
穏乃「…」タッタッタッタッタッタ
セーラ(…たのしいで、シズ)
(おまえを置き去りにして、うちはもっとはやくなる)
(もっと先へいける)
(……ほんまに感謝しとるんや)
穏乃「…」タッタッタッタッタッタ
セーラ(せやけどもう、そんな気持ちも)
穏乃「…」タッタッタッタッタッタ
セーラ(――置いてくで!)
穏乃「!?」
煌「! ここに来て…さらに…」
咏「……加速とはねい」
セーラ「!」タッタッタッタッタッタッタ
穏乃「…」タッタッタッタッタッタ
(…やばい、やばい!)
(まだはやくなるなんて…)
(わたし、わたしには、もう)
セーラ「!」タッタッタッタッタッタッタ
穏乃(セーラさんの背中しか、ないのに…!)
穏乃(なにもみえない、なにもきこえない)
(どれだけ走ったのかもわからない)
(ただ、セーラさんの背中を、おいかけて、なのに…)
(なのに…!)
セーラ「!」タッタッタッタッタッタッタ
穏乃(置いてかれたら、ひとりになっちゃう)
(また… また、ひとりに…)
(ひとりは…)
「……だ」
セーラ「!」タッタッタッタッタッタッタ
穏乃「いやだああああああああ!!」
玉子「!?」ビクッ
煌「…」
穏乃「あああああああああああ!!」タッタッタッタッタッタッタッタ
セーラ「!」タッタッタッタッタッタッタ
玉子「し、穏乃…?」
豊音「みっ、三尋木さんっ、とめたほうが…」
咏「……」
「…そー思うなら、旗を上げりゃーいい」
豊音「…!」
咏「…あたしは上げないけどねい」
煌「…それは……すばら、なんですかね」
咏「……いんや」
「すばらくはねーんじゃね 知らんけど」
煌「……」
咏「このふたりが行きつく先を」
穏乃「あああああああああああ!!」タッタッタッタッタッタッタッタ
セーラ「!」タッタッタッタッタッタッタッタ
穏乃「あああああああああああ!!」タッタッタッタッタッタッタッタ
煌「穏乃…」
豊音「シズちゃん…」
玉子「うぅ…がんばれ、である…」
セーラ「!」タッタッタッタッタッタッタッタ
穏乃「うあああああ、あ、ああ…!」タッタッタッタッタッタ
咏「……」
穏乃「…あ」グラッ
煌&豊音&玉子「!!」
煌「あぶないっ!」
セーラ「!」クルッ
穏乃「」フ ラッ
セーラ「――シズっ!」ダキトメッ
セーラ「おい!だいじょうぶか!シズ!」
穏乃「……セーラ…さ、ん…?」
セーラ「! へいきか、シズ」
穏乃「は…はい、だいじょうぶ…です…」フラッ
煌「穏乃っ」タッタッタ
豊音「シズちゃん」タッタッタ
玉子「だいじょうぶであるかー!」タタタタタッ
穏乃「うん…ごめん、もう、だいじょうぶです」ハァ ハァ
セーラ「よかったー」バタン
煌「! セーラ先輩っ!?」
セーラ「あー、だいじょぶだいじょぶ、さすがに疲れただけや」ダイノジ
穏乃「…わたしも」バターン
穏乃「そう、ですね…」
セーラ「? なんや、そうでもなさそうやんか」
穏乃「いっ、いえ! 楽しかったん、ですけど…!」
セーラ「…?」
穏乃「……結局、負けちゃったから…やっぱり悔しいっていうか…」
セーラ「え? そうなん?」キョトン
咏「いんや、そうじゃないねい」フリフリ
煌「! 三尋木さん」
穏乃「? そうじゃないって、どういう…」
咏「ん? いやーそのまんま、勝ち負けはついてねーってことだよ?」
「まだ誰も、旗を上げてねーからねい」
穏乃「!」
咏「お前はまだ、誰にも諦められてないってことだよ、知らんけど」
豊音「どっちもちょーすごかったよー!」
玉子「あっぱれであるー」
煌「すばらでしたよ…!」
穏乃「みんな…」
セーラ「……なー、シズ」
穏乃「…?」
セーラ「オレ、めっちゃ楽しかったで、またやろな?」
穏乃「は、はいっ」
セーラ「そんでいつか決着つけて、つけてからも、また遊ぼ な?」
穏乃「! はいっ」
セーラ「にしし」
穏乃「へへへ」
穏乃「!?」
セーラ「マジで!?」トビオキッ
咏「んーまあ面白いもんみせてもらったし、ここは奢りじゃね? 知らんけど」
セーラ「やったでー!」
煌「わ、わたしたちもいいんですか…?」
咏「ふたり奢るのも5人奢るのもそんな変わんねーって」フリフリ
煌「すばらですっ!」キラキラ
豊音「やったー!」
玉子「焼き肉であるー!」
咏「うははーい」フリフリ
穏乃「こればっかりは絶対負けませんよ!」
玉子「それなら余も自信あるのであるー」
セーラ「なんやて!」
豊音「わるいけど勝たせてもらうよー」
穏乃「豊音さんもっ!?」
煌(わたしは小食だから勝負にはならないでしょうねー)
咏「すーばらちゃん」ポンッ
煌「すばっ!?」
咏「逃げちゃだめだぜい?」ニィ
煌「ひっ」
咏「いま山盛り食べ放題コース予約しちゃったんだよねー、知らんけど」
煌「すっ、すばら…」
咏「うはは 燃え尽きるぞーおまえらー!」
もいっこカン! ぼっちじゃないよー
――チーム部屋棟(ゆうがた)
淡「サキー、またなんか本借りていいー?」
咲「いいよ、どれにする?」
淡「んー…オススメとかある?」
咲「ええっと、これとかどう?」
淡「! いいかんじっ! じゃあこれ貸してー」
咲「うん、どうぞ」
恭子(平和やなー)ボーッ
淡「キョウコー、きょうラーメン行こうよー」
恭子「ええけど、奢ったらんで?」
淡「いいよー」
「サキも行かない? おいしいラーメン屋さんがあるの!」
恭子「せやな、よければ一緒に行こ」
咲「じゃあご一緒します」
淡「やったー」
咲「そんなにおいしいの?」
淡「すっごいよ、麺もスープも具もおいしいの」
咲「わあ、たのしみ」
淡「キョウコが教えてくれたの!」
咲「へえ、そうなんですか?」
恭子「うん、まあな」
咲「末原先輩、ラーメン屋さんとか行くんですね」
恭子「意外か?」クスッ
咲「えっ、ええと、ちょっと」
恭子「まあ、確かにあんま行くほうやないな」
「先輩に教えてもらった店やねん」
咲「もう卒業されたかたですか?」
恭子「いや、えっと…――」
Prrrrr…
恭子「? ごめん、電話や」
純『あー、えっと、キョウコさんのケータイであってる?』
恭子「? そうですけど…どちらさんですか?」
純『んーと、モンプチってバーのものなんだけど…』
チョットジュンクン、ソレジャヤクザカナニカミタイダヨ エー、ソンナツモリジャ… イイカラカワッテ、モウ
恭子「…?」
一『すいません、お電話変わりました、バー・モンプチの国広と申します』
恭子「はあ、ええと…」
一『突然のお電話、申しわけありません』
『実は、そちらのお知りあいのかたがうちで泥酔しておりまして…』
恭子「…! もしかして、黒髪でチンチクリンなかんじの…?」
一『あ、はい、そうです』
『ちょっとこのままにはしておけないので、もしよろしければお迎えに――』
恭子「すっ、すぐ向かいます!」
ガランガラン
恭子「失礼します、お電話いただきました、末原です」
一「あ、お客さん、キョウコさんいらっしゃいましたよ」
「わざわざすいません、本当に」ペコン
恭子「いえ、こちらこそご迷惑をかけて…」ペコペコ
淡「わー、おしゃれなお店だねーサキー」キョロキョロ
咲「ほんと…綺麗だね…」マジマジ
純「いらっしゃい」
淡「ばーてんだーさんだ!」
純「へえ、よく知ってるな」
淡「えへへー」
一「こちらでとりあえず横になっていただいてるんですが…」
恭子「ほんますいません」ペコペコ
健夜「あー! もーおそいよおーきょーこちゃーん!」ユビサシッ
「あたしついにきょーこちゃんにもあは、みはなされちゃったかあーって」
「あはは、おもってえ、それで!それでね!…うええ……ひっぐ」
「ひっ、もお…おしまいだなって…あ、たし……」
「うええ、きょーこちゃん…なんできてくれないの…うえええええ!」
恭子「来とるがな」デコペチン
健夜「あうあ! あ、きょーこちゃん! きょーこちゃーん!」ダキッ
「きてくれないかとおもったよおお、うえええええええ…ひっぐ」
恭子「もう…そとで飲むな言うとるやないですか…」
健夜「ごめんね、ごめんなさい…あたし…うええ、みすてないで……」
「うええええ、ごめ、きょーこちゃ、きらいにならないでえ、ひっ」
「うえええええええええええ!!」
恭子「ならへんならへん」ナデナデ
「ならへんから、まず泣きやんでくださいよ」ナデナデ
淡「なんか…ソーゼツだね…」
咲「うん…」
純「お酒、飲んでみる?」
淡&咲「!」フルフルフルフル
健夜「うええ、ごめんなさい…ごめんなさい…」
恭子「歩けますか…?」カタカシ
健夜「うん…すこやあるけるよ、あるけるの、きょーこちゃん」
恭子「えらいえらい」ナデナデ
健夜「えへ、えへへ、きょーこちゃーん」ギューッ
一「すごい、おとなしくなるものですね…」
恭子「あはは… すいません、お会計おいくらですか?」
一「――円です」
恭子「……いつから飲んどったんですか?」
一「夕方、お店をあけてすぐ…」
恭子「…」ハァ
「先輩、飲みすぎですよ…」
健夜「んんー?」
恭子「じゃあこれで」
一「はい、ではこちらお釣りです」
淡「はーい」
咲「あの、だいじょうぶですか?」
恭子「だいじょうぶや、慣れとるから」
健夜「ぺぺろーん」フラフラ
恭子「では、ほんまにえらいご迷惑おかけしました」ペコン
一「いえ、またどうぞいらしてください」ペコン
純「お嬢ちゃんたちもな」
淡「はーい」
咲「…」ペコン
健夜「ちーといっ!」フラフラン
ガランガラン
恭子「…」オンブ
淡「いいなーあたしもキョウコにおんぶしてもらいたいなー」
恭子「あほ」
咲「ええと、どなたなんですか? 先輩って仰ってましたけど」
恭子「? あれ、そういや知らんのか…?」
咲「…?」
恭子「そっか…学校あんま来いへんもんなあ、このひと…」
淡「誰なのキョウコー」
恭子「小鍛治健夜先輩 うちのチームの5人目や」
咲「……えっ」
淡「5人目!?」
咲「5人目…いたんだ…」
淡「あんま大学生ってかんじじゃないけど…」
恭子「あー……まあ、6留しとるしなあ…」
咲「6…!?」
淡「? ロクリュウって?」
咲「6年間留年してる…ってことですよね…?」
恭子「そや」
淡「え、えっ? なにそれ! すごい!」
健夜「でしょー?」
恭子&淡&咲「!?」ビクッ
健夜「…」ムニャムニャ
恭子「…起きるか寝るかはっきりしてくださいよ」
6年制の医学部とかならギリギリセーフじゃね?
別の意味でアウトだけどな
恭子「ん、起きましたか…?」
健夜「恭子ちゃん…? あれ、わたし、おんぶ…?」ウトウト
恭子「歩けます?」
健夜「うん」ウトウト
恭子「じゃ降りてください」
健夜「うん」オリ
「…」
「…」ウーン
淡「なんか考えだしたね」ヒソヒソ
咲「記憶をたどってるのかも」ヒソヒソ
健夜「!」
淡「あ、思いだしたっぽい」
健夜「ご、ごめんなさいっ!」ドゲザ
恭子「ちょ、やめてください、こんなところで! みんな見てますから!」
恭子「ほんまにもうええですから」
「でもそとで飲むときは量に気をつけな駄目ですよ?」
健夜「はい…」
淡「しゅんってなってる、かわいーね」ヒソヒソ
咲「だ、だめだよ淡ちゃん、先輩さんなんだから」ヒソヒソ
恭子「…」
「ええ機会やから紹介させてもらいますか」
健夜「…?」
恭子「これが今年うちのチームに入った、大星と宮永です」
「宮永はチャンピオンの妹なんですわ」
淡「いっ、1年の大星淡ですっ」ペコン
咲「み、宮永咲です」ペコン
健夜「こ、小鍛治健夜です!」ペコン
「えっと…何年生だったかな…」
恭子「9だか10だかじゃないですか?」
咲「い、いえ、そんな」
淡「むしろ、実はいた!みたいなのかっこいいっていうか!」
恭子「……」
「…いや、そうですよ、後輩と交流したってください」
淡&咲「!?」
恭子「わたしにしてくれたみたいに、仲良うしたってくださいよ」
「わたしも…先輩いないとちょっとさみしいですし…」
健夜「恭子ちゃん…」
恭子「せっかくチームなんやから…たまには顔出してください」
健夜「…」
「うん、そうだね…そうするよ」
恭子「…」フゥ
「つきましては」
健夜「…?」
恭子「これから一緒にラーメンとか、どうです?」
咲「先輩、お姉ちゃんも来れるそうです」
恭子「そか、ありがとうな」
咲「いえ」
健夜「…なんかひさしぶりだな、ラーメン」
恭子「ですね」
健夜「この道…まえ一緒に行ったラーメン屋さん?」
恭子「…おぼえてはったんですか」
健夜「うん、あそこおいしいよね」
恭子「…結構行くんです、いまでも」
健夜「そっか」
恭子「はい」
恭子「はい」
健夜「ありがとね」
恭子「? なにがですか?」
健夜「んー、なんだろ」
恭子「…?」
健夜「…なんか嬉しくって、それはたぶん、恭子ちゃんのおかげだから」
恭子「…」
健夜「ありがとう」
恭子「…はい」
淡「テルー!」
照「おひさしぶりです、小鍛治先輩」ペコン
健夜「うん、ひさしぶり、宮永さん」ペコ
淡「それだとテルだかサキだかわからないよー?」
照「…淡」
健夜「いいよ、それもそうだし…これからは、照ちゃん、って呼ぼうか」
照「はい」
淡「あのー…?」
健夜「ん、なに?」
淡「スコヤって、呼んでいい? …ですか?」
照「淡っ」
健夜「うん、いいよ」
淡「やったー!」
照「…」ハァ
恭子「ほんまこいつは…」
淡「スコヤー、スコヤー」
健夜「…ふふっ」
淡「スコヤー、これからよろしくねっ」
健夜「!」
淡「えへへー」
健夜「…うん」
淡「♪」
健夜「よろしくっ」ニコッ
ツモ スーカンツ
また5個くらい書き溜めたら同じか似たスレタイで立てるかと思います
支援、保守等ありがとうございました!誰かメガネ末原の画像ください
今度のもキタイシトルデー
面白かった
新しい可能性を感じたわ
Entry ⇒ 2012.11.12 | Category ⇒ 咲-Saki-SS | Comments (0) | Trackbacks (0)
健夜「私がアイドル?」
健夜「ふぁ~あ…」
健夜「今日はオフの日…こうしていつまでも惰眠を貪れる…」
健夜「願わくば…ずっとこの瞬間が続けばいいのに…」
健夜「スヤァ…」
テレテレン♪テレテレン♪テレレテンテンテンテン♪チョウテンマデアトーヒトイキー
健夜「んん…携帯…誰からだろ…」
恒子「あ、すこやん?ちょっと大事な話があるんだけど!」
健夜「んー…恒子ちゃん…何ー?」
恒子「あのさ、すこやんってアイドルに興味ない?やってみない?え!?いいの!?オッケー!
事務所にもそう言っておくね!んじゃまた!」プツッ
健夜「は…!?ちょっ恒子ちゃん!?恒子ちゃん!?どういうこと…!?」
健夜「ちょっ…切れちゃった…」
恒子「あ、すこやーん!こっちこっち!」
健夜「ここって芸能プロダクションだよね…?ここで何するの…?
恒子「まぁ色々とね」
健夜「あの…恒子ちゃん…昨日の話ってどういうこと?説明して欲しいんだけど…」
恒子「実はさー…話すと長くなるんだけどさ、いい?」
健夜「うん、もちろん」
恒子「あ!この服超可愛いー!すこやんこれ着てみて!ね!ね!」
健夜「説明する気ないよね…」
恒子「最近さ、アイドル流行ってるじゃん?それでうちの事務所の社長がさ
女性雀士でユニット組めば売れるんじゃね!?って言い出して」
恒子「それで会議した結果すこやんが良いって話になったんだよ」
健夜「お断りします」
恒子「まぁまぁ、そう言わずにさー
いきなりソロだと難易度高いって事で、グループにしようって事になったんだよ」
恒子「そうそう」
恒子「それでさ、他の人はもう呼んであるんだ。入って、どうぞー」
ガラッ
はやり「どうもー☆牌のお姉さんはやりんでーす☆」
咏「プロ雀士やってたらいつのまにかアイドルにされてた
わっかんねー、人生わっかんねー」
健夜「あ…どうも…」
恒子「これがすこやんと組むアイドル達だ!」
健夜「私拒否したよね!?」
恒子「そしてプロデューサーは私」
健夜「話進めないでよ!」
はやり「まぁまぁ、健夜ちゃん☆これもお仕事お仕事☆」
咏「私もあんまり乗り気じゃないけどさー、上からやれって言われたらやるしかないんじゃね?」
健夜「うう…そうだけど…」
健夜「私、踊りとか全然できないよ?運動神経もないし…」
はやり「そうそう☆初めから出来ないって思ってたら何も出来ないよっ☆」
健夜「それは…そうだけど…」
咏「すこやんは歌上手いんだから何とかなるって、知らんけど」
恒子「最初のライブまで後1ヶ月しかないから早速練習、練習!」
健夜「早くない!?というか私の意志は!?」
恒子「あ、そうだユニット名まだ考えてなかったね」
健夜「既に参加する方向で話が進んでる!?」
咏「なんでもいいよー」フリフリ
はやり「プロデューサーさんに決めて貰うのはどうかなー☆」
恒子「うーん…そうだなぁ」
恒子「む!良いのが浮かんだ!」
恒子「『あらうんど☆サーティーズ』というのはどうか!?」
はやり「わぁ~☆」
咏「私まだアラサーじゃないんだけどー…
今年で四捨五入したら30歳だけどさぁ…でもさぁ…あのさぁ…」
恒子「ユニット名が決定したということで、早速練習しよう!」
はやり「さんせーい☆」
健夜「本当にその名前でいくの!?」
恒子「まずは体力作りだよ!全員、体操服に着替えた後外に集合!」
咏「りょうかーい」
健夜「え…体操服なんて持ってきてないよ」
恒子「大丈夫!衣装にあるから合ったサイズ持って行っていいよ!」
はやりん「健夜ちゃん早く~☆」
健夜「もう…本当に強引だなぁ…」
恒子「集まったようだね!」
健夜「(うう…まさかこの歳になってブルマを履く事になるなんて…)」
咏「ギリギリブルマ世代だったとはいえ恥ずかしいねぃ…」
恒子「まず準備運動からー!手を組んで上ー!」
健夜「運動本当に苦手なんだけどなぁ…」
咏「私は体動かすの好きだけどねぃ」
はやり「適度な運動は体に良いんだよー☆」
健夜「うう~…」
恒子「深呼吸~…さて、準備運動も終わったし、早速いこうか!」
健夜「どこへ…?」
恒子「ランニングだよ!とりあえず駅を越えた所の大きい公園まで行って往復しよう!」
健夜「あ、あそこまで片道2kmくらいあるよ!?」
恒子「駆けあぁぁぁし!!!すすめぇぇえ!!!」
咏「うーい」はやり「はーい☆」健夜「ええ~…」
恒子「いーち!いーち!いっちにっ!」
咏・はやり「そーれ」健夜「ハァッ…ハァ…」
恒子「いーち!いーち!いっちにっ!」
咏・はやり「そーれ」健夜「ゼー…ゼー…」
恒子「いーち!いーち!いっちにっ!」
咏・はやり「そーれ」健夜「もう駄目…」
恒子「いーち!いー…す、すこやーん!まだ1kmも走ってないぞー!?」
健夜「だ、だって…ハァッハァッ…」
咏「さすがに運動不足すぎるねぃ…」
健夜「ハァッ…ハァ…」ゼーゼー
はやり「ほら、健夜ちゃん☆」グイッ
健夜「あ…え…?」
咏「後ろから押せばちょっとは楽になるだろ?」グイッ
健夜「ハァッハァッ・・・うん・・・」
健夜「は、はい…ハァハァ」
咏「走るのは気持ちがいいねぃ」
公園
健夜「ハー…ハー…」
恒子「お疲れー、ちょっと休憩しよう!」
咏「ほら、すこやん。飲みなよ」ぐいっ
健夜「あ、ありがとー…はぁ…美味しい」
咏「汗かいたあとに飲む水は最高だねぃ」フリフリ
健夜「う、うん…」
はやり「今ので100キロカロリーは消費できたかな…」ブツブツ
恒子「休憩終わりー!帰るよー!」
咏「うーい」はやり「目標体脂肪率までは…あ、はーい☆」
健夜「うう…帰りがあるんだった…」
健夜「もうダメ…」ガクッ
咏「ふぅ、良い汗かいたー」
恒子「お疲れ!ストレッチしてシャワー浴びたあと早速歌の練習するよー!」
はやり「はーい☆」
健夜「歌かぁ…それならまだ楽だなぁ…」
咏「運動したあとは筋肉をほぐさないとねぃ」
恒子「あ!忘れてた!」
健夜「どうしたの…?」
恒子「筋トレしないと!全員腕立て伏せの姿勢をとれーい!」
健夜「え、えぇ~~…」
恒子「いーち!にー!さーん!」
咏はやり「いーち にー さーん」
健夜「ううう…あ、上がらない…」ガクッ
健夜「この事務所、中に浴場があるんだ…豪華だなぁ…」
健夜「うう…全身が重い…」
咏「もう恋なんてしないなんて~♪」シャアアアア
はやり「良い湯だ~な~♪」カポーン
健夜「皆結構アイドルする事に乗り気だよね…」
健夜「(というかはやりさんのおもちすごいなぁ…)」
恒子「咏さんとはやりさんって良い声だよね。そういえばすこやんも歌得意なんだっけ?」
健夜「と、得意ってわけじゃないけど…」テレテレ
恒子「歌ってみてよ!」
健夜「え、えぇ~…///?し、仕方ないなぁ…
G・A ドキドキ ババンガ バー」
恒子「さて練習いこうか、上がるよー!」
咏「うーい」はやり「はーい☆」ザバァ
健夜「ええ~…」
健夜「つ、疲れたぁー…」グッタリ
健夜「明日すごい筋肉痛なんだろうなぁー・・・」
健夜「シャワー浴びたあと5時間くらい歌うのも結構ハードだった・・・」
健夜「次はダンス練習も入ってくるって言ってたし・・・」
健夜「苦手だなぁ・・・ダンス・・・」
健夜「はぁ・・・もう寝よっ」
健夜「・・・」
健夜「私がアイドル・・・かぁ・・・」
健夜「無理だよね・・・私なんかが・・・」
健夜「・・・スヤァ」
恒子「アン!ドゥ!トロワ!アン!ドゥ!トロワ!」
咏「よっと!」キュッキュッ
はやり「せいっ♪」タユンタユーン
健夜「わ、わ、わわっ!」ステーン
恒子「す、すこやんっ!大丈夫!?」
健夜「あいたた・・・う、うん・・・」
咏「苦手ってのは分かってたけど」
はやり「時間がかかりそうだねー・・・」
健夜「ご、ごめんなさい・・・」
恒子「大丈夫大丈夫!まだあと時間は30日くらいあるから!」
健夜「全然無いよね!?」
恒子「ちなみにライブ会場は東京ドームだから」
咏「いきなり凄い所だねぃ」
健夜「ひえええ・・・東京ドームって・・・」
恒子「それくらい皆が期待されてるって事だよ!
さっ!もう一度最初からやろ!」
健夜「うう・・・」
咏「ごまえー♪ごまえー♪」キュッ
はやりん「頑張ってーいーきまーしょー♪」タユーン
健夜「いちーばーん・・・ひゃあっ!?」ステテーン
恒子「あちゃあ・・・」
健夜「いたた・・・はぁ・・・」
健夜「(もう嫌・・・)」
ザッザッザッザ
恒子「全体止まれーい!公園ついたし一旦休憩~!」
健夜「ぜぇっ・・・ぜぇっ・・・」
咏「すこやん、止まらずに歩いて呼吸を整えた方がいいよ」
はやり「健夜ちゃん、あと半分だよ!」
健夜「は、はい・・・」
健夜「はぁ・・・はぁ・・・」
健夜「・・・はぁ」
健夜「(何で、私こんな事してるんだろ・・・)」
咏「ん・・・どうしたのすこやん。ほら、水飲みなよ」
健夜「うん・・・ありがとう咏ちゃん・・・」
はやり「天気が悪くなってきたねー」
恒子「雨が降る前に帰ろう。そろそろいくよー!」
はやり「ほんの些細なっ言葉にっ♪」タユンタユーン
咏「傷っ付っいった♪」キュッキュ
健夜「だけど甘っ・・・きゃぁっ!!」ステテーン
はやり「健夜ちゃん大丈夫!?」
健夜「は、はい・・・」
恒子「むむ、ちょっと疲れてきたかな。休憩~!」
ザァァァァァ
咏「雨が凄いねえ」
はやり「帰りどうしよう~?」
恒子「送ってくよ」
はやり「お持ち帰り~☆」
健夜「・・・」
健夜「(毎日走るのも辛い・・・)」
健夜「(でも一番辛いのは・・・私のせいで皆が迷惑すること)」
健夜「(皆に迷惑・・・かけたくない・・・)」
健夜「(辛い・・・もう・・・嫌だ)」
健夜「・・・」タッ
ガチャッ スタタタタ・・・
恒子「ん?どこいくのすこやんー!」
はやり「健夜ちゃん、何か思い詰めた顔してた・・・」
恒子「っ!わ、わたし探してくる!」
咏「待った!」
恒子「え!?な、なんで!?」
咏「あんた、気づいてないのかい
すこやんは多分もうアイドルなんて・・・したくないんじゃないかな」
恒子「え、ええ!?で、でも!!」
はやり「こーこちゃん、あんまり・・・健夜ちゃんに無理はさせない方が良いと思う」
咏「元々、無理言ってやらせてるんだ。それに、すこやんの性格知ってるだろ?
内気で根暗で人見知り激しくて、人前に立つのは苦手なんだよ」
恒子「う・・・そう・・・だけど・・・」
咏「私もすこやんと一緒にアイドルやれないのは残念だけどさ・・・」
はやり「人には得意と不得意があるものね・・・」
恒子「でも・・・私・・・私は・・・!」
恒子「・・・・・・私、すこやん探してくる!」ダッ
咏「ちょ、ちょっと!・・・あーあ、どしゃ降りなのに傘もささないでいっちゃったよ」
はやり「仕方ないなぁ・・・」
咏「しゃーない、傘持って追いかけよう」
はやり「うん☆」
咏「・・・さっきはああ言ったけど、すこやんが抜けるのは、やっぱ辛いね」
はやり「うん・・・」
咏「私達、これからアイドルとしてやってくんだし・・・
もっと・・・助け合わないとだめだねぃ」
はやり「そうだね・・・私、健夜ちゃんが辛いって思ってたの知ってたのに
全然健夜ちゃんの事支えてあげてなかったと思う・・・」
咏「私もさ。私達は3人で1つのチーム・・・同じアイドルユニットなんだ」
はやり「咏ちゃん、健夜ちゃんを呼び戻そう!」
咏「ああ。すこやんは私達の大切な仲間だものねぃ!」
ザァァァァァア
健夜「・・・」
健夜「結局この公園にきちゃった・・・」
健夜「雨・・・すごいなぁ・・・どうやって帰ろう・・・」
健夜「皆・・・今頃探してるのかな・・・?」
健夜「私・・・最低だな・・・」
健夜「・・・・・・えいッ!」ガンッ!
自販機「オウフ」
健夜「あっ!ご、ごめんね・・・!」
自販機「許すよ」
健夜「物に当たるなんて本当に最低だよ・・・はぁ」
恒子「はぁっはぁっ!あっ居た!すこやーん!!!」
健夜「・・・こーこちゃん」
健夜「こーこちゃん・・・悪いけど・・・もうアイドルは・・・」
恒子「諦めるの・・・?」
健夜「だって・・・!」
恒子「私はっ!」
恒子「私は・・・諦めるすこやんなんて、絶対に見たくない!!」
健夜「え・・・?」
恒子「私の知っているすこやんは、内気で根暗で人見知りで
27になっても実家暮らしだし髪型ダサいし服装もダサいし麻雀抜いたら
ちょっとどうかと思う人だけどっ!」
健夜「言い過ぎじゃない・・・?」
恒子「でもっ!麻雀をやってるすこやんはいつだって上を目指して
前を向いて、常に誰よりも強くあろうとしてた!」
健夜「っ!」
私が・・・中学校の頃からずっと好きだったすこやんは・・・
絶対、一度始めた事を諦めたりなんてしない!!」
ザァァア
健夜「・・・えっ・・・///今なんて・・・?」
恒子「わっ///わーっ!とにかくっ!すこやん!戻ってきてよね!」
健夜「でも・・・」
咏「あーいたいた」
はやり「はっけーん☆」
健夜「皆・・・?」
咏「ここだろうと思ってたよ」
健夜「あの・・・皆、本当に・・・ごめん・・・もう・・・アイドルは・・・」
咏「おっと!言わなくてもわかってるぜぃ」
はやり「健夜ちゃんの気持ちに気づけないほど、私達は鈍感じゃないよ」
健夜「・・・」
はやり「私達は、同じアイドルユニット・・・仲間でしょう?」
咏「仲間ってのは助け合うものだってねぃ。まぁすこやんの性格考えたら
どうせ、私らに迷惑かけてるのが辛い・・・って思ってるんだろうけど」
健夜「う・・・」
はやり「迷惑なわけないでしょう?1人は皆に、皆は1人にだよ☆
辛い事があるなら、助けあえばいい。健夜ちゃん、一緒に乗り越えていこう?」
咏「すこやんが抜けるんなら、私も抜けるぜぃ」
はやり「えー?それじゃはやりのソロユニットって事ー?じゃあはやりもやーめよ☆」
健夜「皆・・・」
健夜「(私は・・・こんな良い人達と仲間だったんだ・・・)」
健夜「(それなのに・・・私は・・・仲間の気持ちに気づけないで・・・」
健夜「(皆の・・・思いを裏切りたくない!)」
私・・・もう一度、アイドル・・・やるね・・・グスッ・・・あれ・・・涙が・・・」ポロポロ
恒子「すこやん!」
自販機「泣けるで」ポロポロ
咏「あんまり雨の中に居たら風邪引いちまうぜ?」
はやり「傘持ってきたけど、皆もうずぶ濡れだね☆」
恒子「帰ろう・・・!私達の事務所へ!」
健夜「うん・・・皆・・・本当に・・・ありがとう・・・!」
タッタッタッタッタ
恒子「よーし、休憩~!」
健夜「ふぅ・・・」
咏「すこやん、だいぶ体力付いたねぃ」
健夜「あ、ありがと・・・///毎日走ってるしね」
はやり「体脂肪減らない・・・なんで・・・」ブツブツ
恒子「さーて、帰りますか~!」
咏「追いかけて 逃げるふりをして♪」フリフリ
はやり「そっと 潜る♪」タユーン
健夜「私マーメイ♪」タタンッ
咏「捕まえて 好きだよと言って欲しい♪」タターン
はやり「熱い永遠の今~♪」タユーン
健夜「きっと きっと 未来がはじまる~♪」キメッ
恒子「キマった・・・」
咏「よしっ!良い感じだねぃ!」
はやり「健夜ちゃんっ!ダンス上手くなったね!」
健夜「んん・・・そうかな///」
健夜「(毎日家帰ったあとも練習してるもんね!)」
恒子「ということでアイドルユニット結成後初の飲み会でーす!」
咏「そういえばやってなかったねぃ」
はやり「皆、飲みすぎちゃダメだぞ☆」
健夜「私はその・・・あんまり飲まない方だから・・・」
恒子「明日もレッスンはあるんで、ほどほどにね!」
咏「あはは、大丈夫大丈夫」
店員「生4つス」
恒子「さて、ビールもきたところで・・・すこやんから乾杯の挨拶~!」
健夜「え、えぇ~!?」
咏・はやり「いえーい☆」
今回は初めての皆との飲み会ということで・・・
1週間後には本番のライブがあって・・・
私達にとっては最初の一歩だけど・・・でもそれは一番大切な」
恒子「カンパーイ!」
咏・はやり「カンパーイ!」
健夜「えぇ~・・・」
恒子「飲み放題だからどんどん飲んでね!
もちろんべろんべろんにならない程度でね!」
咏「わかってるって~」フリフリ
はやり「唐揚げと生ビールおいし~☆」
二時間後
健夜「こ、小鍛治健夜ぁ、い、イッキ飲みいきまぁぁあひゅ!」
咏・はやり「イエエエエエ!!!」
恒子「ダメだって!一気飲みは危ないって!」
はやり「ちょっと良いとこみてみたいぃぃー!!」
咏・はやり「そーれリーチ!一発!ツモ!ピンフ!純チャン!三色!イーペーコー!
それイッキ!イッキ!」
健夜「んくっんくっんくっ・・・・・・ぷっはぁぁぁ!」
咏・はやり「オオオオオオ!!!」
恒子「ああ・・・なんでこんな事に・・・」
咏「あ~っはっはっはっは!!超ウケるんですけど~!!」
はやり「それでねぇ、「最近視聴率落ちてるから、深夜いってアダルト番組やろうか(笑)」
とか言うんだよぉぉ!??酷くなぁぁい!?牌のお姉さん改めパイのお姉さんとか
何それぇぇ!?冗談でも笑えないんだけどぉぉ・・・うっ・・・ぐすっ・・・ひっく・・・」
咏「ひーっひっひっひ!!パイのお姉さんとかウケる~!!」
恒子「咏さんは笑い上戸ではやりんは泣き上戸なんだ・・・」
恒子「ん、何すこやん」
健夜「あのねぇ・・・この前公園でねぇ・・・こーこちゃんさぁ・・・」
恒子「ちょっ///あ、あれはつい勢いで!」
健夜「こーこちゃん私の事・・・好きって言ったように聞こえたんだけど・・・?」
恒子「そ、それはぁ・・・///」
健夜「私・・・あの時すごく嬉しかった」
恒子「えっ・・・」
健夜「私もね・・・こーこちゃんの事・・・」ぐいっ
恒子「わ、わ、すこやん顔近い・・・///って臭っ!酒臭っ!」
咏「ちょっ何かあっちキスしそうになってるんですけどおお!!」
はやり「若い子もねぇ、5年前までは毎日私に声かけてきたんだけど
最近は全然でさぁ・・・で、この前聞いちゃったんだよぉ・・・
「高画質フルハイビジョンって罪だよね(笑)」って会話ぁぁ!」
恒子「ちょっちょっと!心の準備が!」
咏「キース!キース!」
はやり「水ダイエットってどうなのかなぁ・・・
お腹のお肉掴めるのってやばいっすか・・・?
頑張ろう・・・痩せよう・・・うっぐすっ・・・」
健夜「ん・・・・・・・・・」
恒子「(わっ!す、すこやんとキスしちゃう・・・///)」
健夜「うぷっ・・・・・・ウォロロロロロロロ・・・」
恒子「ぎゃああああああ!!!」
咏「あっははははははははは!!!
あーっははははうぷっ・・・ウォロロロロロロ・・・」
はやり「ひうっぐすっ・・・うぷっ・・・ウォロロロロロ・・・」
恒子「地獄だこれ・・・」
健夜「いよいよ本番なんだね・・・」
恒子「ドーム満員だよ!皆、はりきっていこっ!」
咏「もちろん!この日のためにずっと練習してきたんだからねぃ!」
はやり「うん☆」
健夜「うっ・・・ど、どうしよ・・・足・・・震えが止まらないよ・・・」カタカタ
咏「すこやんっ!もう始まるぜぃ!」
健夜「ま、待って・・・」
恒子「・・・すこやんっ!」
チュッ
健夜「・・・へっ?」
恒子「えへへ・・・ファーストキス・・・///」
恒子「緊張・・・解けた・・・?頑張ってきてね!すこやん!」
健夜「あ・・・う、うん!///」
はやりん「わぁ~///」
咏「おお~ぅ!妬けるねぇ!それじゃ行くぜぃ!」
健夜「行こう・・・私達の・・・ステージへ!」
ワァァァァァァァァァァ!
観客「ウォォォォォォォ!!!!
はやりーーーーーん!!!!!
ウオアアアアアアア!!!!」
観客「はやりんちょーかわいいよー!!!!
わっ!こっち向いた!!」
観客「咏さーーーーーーーん!!!!
咏さああああああああああん!!!!」
観客「咏さあああああああん!!!
ウウオアアアアアアアアア!!!!」
観客「咏さんもちょーかわいいよー!!!!
サインちょうだーーーーい!!!!」
観客「すこやーん」
健夜「すごい・・・」
咏「この中でやるのかぁ・・・緊張してきたぜぃ」
はやり「皆・・・!私達の最初の舞台・・・絶対に成功させよう!」
健夜・咏「もちろん・・・!」
咏「私達の最初のライブへ来てくれて!!」
健夜「本当に・・・ありがとうございまーーーす!!!」
ウオオオオオオオオオオオオオオオ!!
ウオオオオオオオオオオオオオオオ!!
はやり「それでは・・・私達の最初の曲!」
咏「焦るアラサー女子の思いを疾走感のあるリズムに載せて歌うぜぃ!」
健夜「曲は・・・「URGENT!!!」」
ジャーン タッタッタタタタッタ♪
デンデレレンデレーン♪
はやり「そっけなくなったり 急に優しくなったり♪」タユンタユン
健夜「好きだって言わせたい 単純な作戦今日も空回りしてる♪」ッターン!
ウオオオオオオオオオオオオオオオオ!!
ウオオオオオオオオオオオオオオオオ!!
咏「めちゃくちゃにUrgency この気持ちUrgency♪」タタッ
はやり「ジェットコースターに乗っているみたい♪」タユーン
健夜「急いでよUrgency このチャンスを 逃したら♪」タタンッ
咏・はやり・健夜「二度と 触れ合えなくなるよ♪」キメッ
健夜「(よし・・・!良い感じで歌えてる・・・!)」
咏「一喜一憂してた毎日♪」フリフリ
はやり「一気 飛び越えよう♪」タユーン
健夜「時効までは あとわずか♪」ドヤッ
グラッ
健夜「(!?足がもつれて・・・こける・・・っ!)」
咏「(すこやんっ!)」
はやり「(健夜ちゃんっ!)」
健夜「(ごめん皆っ!)」
恒子「すこやんっ!皆との思い出を思い出して!!!!」
健夜「(思い出・・・皆との・・・
皆と毎日・・・たくさん走った・・・歌とダンスの練習をした・・・
下手な私を毎日サポートしてくれた・・・弱い心の私を立ち直らせてくれた・・・
私の大切な仲間・・・友達との・・・かけがえないの無い日々・・・)」
健夜「(絶対に・・・台無しにするわけにはいけない!)」カッ
健夜「・・・っ 二度と離さない はじめよう君と Wonderful days♪」
咏「(すこやん・・・よくやったぜぃ!)」
はやりん「(健夜ちゃん・・・頑張ったね)」
ウオオオオオオオオオオオオオオオオ!!
咏・はやり・健夜「眼差しの中に ちりばめた暗号 今すぐに解読してね♪」キメッターン!
テンテンテレレテンテレーン
ジャーン・・・
咏・はやり・健夜「ありがとうございましたああああーーーーーー!!!!」
ワアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!
ワアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!
健夜「(よかった・・・失敗せず最後まで歌えた・・・)」
咏「すこやんっ!はやりんっ!やったねぃ!」
はやりん「うんっ!大成功っ!」
健夜「やったんだ・・・私達・・・東京ドームでのライブを成功させた・・・」
健夜「・・・」
健夜「私・・・アイドル続けて・・・」
咏「ん?どうしたすこやん」
健夜「本当に・・・良かった・・・っ」ポロポロ
はやり「健夜ちゃん☆まだ泣くのは早いよっ!」
咏「そうだぜすこやん。私達のアイドル人生はまだ始まったばかりだぜぃ?」
咏「もちろんだぜぃ!」
はやり「みんなで、アイドルの頂点を目指そう☆」
ガラッ
恒子「みみみみんな!!!!大変だよ!!
あのライブみたお偉いさんが気に入って、来週から日本一周ライブツアーだって!!!」
はやり「わぁ~☆素敵!」
咏「やれやれ・・・忙しいねぇ」
健夜「うん・・・でも」
健夜「アイドルって・・・楽しいね!」
健夜「私がアイドル?」 カン
おつおつ!
Entry ⇒ 2012.11.12 | Category ⇒ 咲-Saki-SS | Comments (0) | Trackbacks (0)
美穂子「上埜さんが小さくなったですって!?」
霞「最後はお日様に、3時間ほど浴びさせると完成なのね」
霞「ふふふ、出来た!滝見家、秘伝の若返り黒糖!」
霞「これを一粒食べるだけで、10歳は若返ると言う…」
霞「これで、もう私をババァだなんて言わせないわよ!私は正真正銘の10代なのよ!」
霞「はいはい、今行くわね。私、ちょうど三時間くらい暇なのよ」
小蒔「三時間もお勉強出来ませんよ!」
・
・
・
春「しまった。対戦した高校に送る黒糖が足りなくなってしまった…。どこかに黒糖は余ってないですかね」
春「あれ?こんな所に黒糖が」
春「」クンクン
春「犬のウ○チではないですね。匂いで確認しました。これを貰って行きましょう」
春「これが自慢の黒糖です…と」カキカキ
春「郵便局に行って、ゆうパックで送りましょう」
・
・
・
霞「ふぅー、つい麻雀をしてしまって、もう六時間も経っちゃったわね…」
霞「あら?」
霞「ない!ない!?私の幻の若返り黒糖が無くなってる!?」ガーン
久「あら?この荷物は永水女子の滝見さんからだわ」
久「黒糖じゃない!ありがたいわね。私達も何かお返しとか送らないとね」
久「長野ってなにが有名かしらね」ウーン
久「まぁ、後でみんなに聞いたらいいわね。早速、この黒糖を味見さして貰う事にしましょう」パクッ
久「ふむふむ、流石に自慢するだけあるわね。美味しい」
ポロッ
久「うっ…、なにこれ…、体が熱い…」
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京太郎「ちーす。ってあれ、誰も居ませんか?おかしいな。鍵開いてたけど…。てっきり部長かまこ先輩が居ると思ってた」キョロキョロ
ひさ「おいたん、誰?」
京太郎「えっ?なんでガキんちょが、麻雀部の部室に居るんだ?」
ひさ「私、ガキじゃないもん。うえのだもん」
京太郎「ふーん、うえのちゃんね。で、どうしたんだ?後、服を着てくれないとお兄さんが変質者で捕まってしまうから」
ひさ「よーふく、ない。これ着てた」
京太郎「あのなぁ…。子供がうちの学校の制服着れるわけねーだろー。ってこの制服、誰のだ?」
ドダドタ
咲「遅くなりましたー」
優希「一年生美少女トリオ参上だじぇー」
和「こんにちわ」
京太郎「…おぅ、先に言っとくよ。君達、誤解してるから!!!!!!!」
咲「幼馴染がロリコンだった、死にたい」
優希「犬よ。流石にこれは私も擁護出来ないじぇ…。塀の中で、猛省してくれ」
京太郎「違う!俺は、何もヤってない!」
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--------------
----------
咲「ふーん、誰の子かわからないんだね…」
和「迷子ですかね?」
優希「裸じゃ可哀想だから、私の体操服でも着るが良いじぇ」
ひさ「お姉ちゃんの服、タコスの匂いがするねー」
優希「流石に、清澄で一番小さい私の服でもサイズが合わないじぇ。うえのちゃんは、カワイイなー」ナデナデ
ひさ「そーかな?えへへ///」
和(なんかものすごく見た事あるような子供な気がします…)
ひさ「お姉ちゃん、おもち大きいねー。触らせてよー」
和「ええっ!?///」
咲「子供相手だし、いいじゃない。触らせてあげれば」
和「そうですね。子供相手ですし…」
胡桃ちゃんあれ以上ちっちゃくなったらどうなっちゃうんだよ
ひさ「すごーい、ママよりずっとずっと大きいよ!」
もにゅもにゅ…
和「…あっ、あん!(この子、子供のくせに何てヤラシイ触り方するんでしょうか…)」
京太郎(いいなー。俺も子供に生まれ変わりてー)
ひさ「ふおおおおお!なんかこーふんして来たー!」
もみもみもみもみもみもみも…
優希「和ちゃんが発情、咲ちゃんは嫉妬」
咲「嫉妬なんかしないよ。子供相手だし。でも和ちゃん、目がトローンとしてるね。子供相手に感じるなんて…不潔」プイ
和「さ、咲しゃん。これは誤解なんですよぉぉぉぉぉ」
ガチャ
まこ「すまんのー、クラスで揉め事あっての。ちょっと、巻き込まれて遅くなった」
ひさ「まこー!」ピョーン
まこ「こらー、ガキんちょ。いきなり飛びかかってくるとか危ないぞ」
ひさ「まこー、頭がワカメーワカメー。やーいやーい、ワカメ星人」
まこ「なんつー、クソガキじゃ!?ん?ワカメ星人?」
まこ「昔、ようそれでからかわれとったな」
ひさ「バーカバーカ、メガネブスー、エセ広島弁」
まこ「・・・」ブチン
ゴチン!
和「よしよし、痛いの痛いの…、飛んでけー」ナデナデ
ひさ「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん」モミモミ
まこ「ありゃー、間違いない。竹井久じゃ」
京太郎「えっ!?マジですか!?あのクソガキが、部長?」
咲「本当ですか?あの子は、どこから見ても子供ですよ?」
美穂子「でも、上埜さんと匂いが全く同じなんですよ。本物でしょうね」
まこ「電話じゃ。優希、ちょっと出てくれ」
優希「わかったじぇ」
咲「でもあれが部長だなんて、信じられません。だって、高校生が子供になるなんて…」
京太郎「どこかの探偵漫画だとあるけどな」
美穂子「さっき、肌の一部をペロペロした所、上埜さんの味すら同じでした。人間の汗は、別人では全く味が異なる物なので、あの子は本物ですよ」
まこ「電話、誰からだった?」
優希「永水女子のおっぱいオバケの大将さんだじぇ」
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--------------
----------
霞『とゆうわけなのよ。若返りの黒糖を間違えて送ってしまったみたいで…。本当に申し訳ありませんでした』
まこ『なるほど、事情はわかった。解毒剤とかは作れるんですか?』
霞『えぇ、少し時間はかかるけど、一週間後そちらに向かいますね』
まこ『わかった。学校と家は、わしが上手く誤魔化しておきますから心配せんで下さい』
咲「そんな事もあるんですね」
和「そんなオカルトありえ…って言いたいですけど、この子、どう見ても部長です」
ひさ「おもち枕だー、ふかふか」ポヨンポヨン
美穂子「上埜さん、私も結構おもちありますけど、触りませんか?」
京太郎(いいなー。そーいや俺も子供の頃は、銭湯で女湯に入ってたりしたよな…。子供に戻りたい)
美穂子「すいません。ついくせで」カイガン
ひさ「キレイな瞳してるのね。宝石みたい」ニコッ
美穂子「上埜さん///」ジーン
まこ「ところで何で、風越の部長が居るんじゃ?」
優希「私の服を着せてる時にはもう居たような…」
咲「そうだったんですか。ご両親とかは…」
まこ「母親は亡くなっておるし、父親は単身赴任で海外。親戚は知らん」
和「一人暮らしですか…。こんな小さな子を一人にしておけないですよね…」
まこ「そうじゃな。誰かが面倒みてやらんと」
咲「私の家は、お姉ちゃんの空き部屋とかありますし、大丈夫です」
優希「私は相部屋で良ければ、いいじぇ」
和「私の家も子供一人くらい大丈夫ですよ」
京太郎「俺の家は…」
美穂子「ふざけた事ぬかしやがりますと、祟り殺しますよ?私、オヤシロ様とか呼べますから」ニコッ
まこ「ま、まぁ。一年生の子らの家でローテしたらええか」
バーン!→リー棒叩きつける音
美穂子「ここは麻雀部ですよね?麻雀で上埜さんを泊めれる人を毎日、決めましょうよ」
美穂子「もちろん一位の人の家に泊めれるって事で」カイガン
まこ(普通、最下位とかじゃないんか?)
咲「・・・」カタカタ
優希「すごいじぇ…。咲ちゃんが飛ばされるなんて、インハイはおろか入部してから見た事ないじぇ…」
和「鬼神の如き強さですね」
まこ(あれ…、咲って個人戦で優勝しなかったか…)
ひさ「お姉ちゃん、つよーい!」キラキラ
美穂子「愛の力です。牌が私に答えてくれたんですよ」ニコッ
ひさ「うん!美穂子と帰るー」
ひさ「明日は私と麻雀打ってねー。お姉ちゃん達」
まこ「はいはい、たっぷり相手してやるからの」
咲「…麻雀怖い」カタカタ
和「咲さん…。今日は、側に居ましょうか?」ギュッ
霞「みなさん、ごめんなさいね。お待たせしました」
まこ「おおっ、永水の石戸さん。待っとったよ」
和「今、優希と池田さんが、部長と福路さんを迎えに行ってます」
照「…咲。次はイーピンだよ?触れる?」
咲「あぅ…。あああああああああ!イーピンやだ!国士無双で槍槓されちゃうのおおおおおおお!」
咲「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい…」カタカタ
照「あぁ、霞か。咲ちゃんがトラウマを患ったって聞いてな…。すっ飛んで帰って来た」
咲「うぅ…、麻雀怖い…、金髪怖い…、オッドアイ怖い…、堀江ボイス怖い…」カタカタ
霞「あらあら、まぁまぁ…。でも一度は挫折しないと、人間強くなれないから…」
照「うん。咲ちゃんはトラウマを乗り越えて、もっと強くなるはず…」
和「あっ、携帯が。はい、もしもし」
優希『大変だじぇ!?部長の家が、もぬけの殻だじぇ!?』
和「なんですって!?」
池田『今、風越の部員にも声をかけたし、みんなで探すし!』
まこ「ったく。風越の部長は、久の事になるととんでもない行動に出るな」
照「私も探そう」
霞「貴方、方向音痴でしょ?私と行きましょうね」
美穂子「上埜さんは、私の事、好きかしら?」
ひさ「だいすきだよー」
美穂子「あらあら///こんな幸せがいつまでも続くといいんですけどね」
ひさ「美穂子と麻雀打つのが一番楽しい!…けど」
ひさ「わたしは、もっと色んな人と麻雀打って、色んな事を学んでプロの雀士になりたいな」ニカッ
美穂子「ッッ!?」
キーン
池田「あーマイク、テストテスト。キャップ、ここはもう包囲されてるし。大人しく竹井さんを渡してください」
未春「ここ一週間ずっと風越に顔を出さないから、みんな心配してますよー」
池田「そうだし。コーチも心配してましたし」
美穂子「そんな!?なぜここが!」
和「福路さんが、機械に疎くて助かりました。部長の携帯電話には、GPSがついてますよ」
照「私も菫に持たされてるからな」
霞「もし携帯電話を壊されてたら、こんな山の中お手上げだったわね」
美穂子(こうなったら…、もう二人で死ぬしか…。上埜さん…ごめんなさいね…)
バーン!
久「こらー、あんた達!美穂子をイジメるな!文句があるなら、私に言え!全員まとめて相手してやるわよ!」
まこ「アホかー!あんたのために言うてるんじゃ!」
池田「そうだし、子供は大人しく部屋の隅っこでガタガタ震えてるといいし!」
池田「あのクソガキー。いくら華菜ちゃんでもあんなクソガキには負けないし」
照「待って…。ねぇ、久ちゃん。麻雀で勝てたら、お姉ちゃん達の言う事聞いてくれる?」
久「いいわよ。何でも聞いてあげる」ドヤッ
美穂子「・・・」
照「なら対局だ。一位になったヤツが、何でも好きな事を命令する。いいな、福路美穂子?」
美穂子「・・・わかりました」カイガン
照「お前はダメだ。飛ぶ可能性がある。ピンク」
和「はい」
照「咲ちゃんの敵討ちしたいだろ?」
和「えぇ。それはもう。福路さんにも一週間負け続けましたし」
照「じゃあ、頼む」
久「バカにしないでよね。お姉ちゃんとずーーーと打ってたんだから」
照「ふっ、そうか。なら、私も全力で勝ち取りに行こう」
照「手加減はしないよ」ギュルルル
久「そーこなくちゃ!」
美穂子(私は…勝ってしまってもいいのでしょうか…)
美穂子「…ツモ。満貫です」
照(ふむ。異常なまでの配牌の良さ、これは厄介だな。加えて守備も完璧)
久「やるー。次は私が上がるからね!」
東二局
照「ロン、平和のみ」
久「おわっ!?」
美穂子(聴牌してましたけど、少し遅かったみたいですね)
美穂子「ツモ!満貫です」
真っ向から照の連続和了を四本場で止める
東場が終わり、点数は美穂子が一位に。
照(まずい、真っ向勝負から挑まれて、普通に止められるとか…。咲ちゃんと淡以外にも出来たんだ)
美穂子(イケますね。これなら勝てる確率も50%くらいはあるはず)
照(菫、使わせて貰うよ)
久「うーん、もう少しなんだけどなぁー」タン
照「ロン、満貫」
美穂子(連続和了じゃない!?)
照(シャープシュートって言うのは流石に恥ずかしい)
久「うー」グスン
照(こんな小さい子をシャープシュートするのは気が引けるが、福路とピンクは防御が特に堅い)
照(久ちゃんの出す牌は、読みやすいからな…)
美穂子「う、上埜さん」オロオロ
照(そしてなにより、福路を動揺させる事が出来る)
照(跳満作るのは難しいな。おっと福路さん、般若の顔になってますよ)
美穂子「…」ゴゴゴ
照(福路は、久ちゃんからロン上がりを見逃してる。この勝負、私有利だ)
久「通らばリーチよ!」
照「残念、通らないよ。ロン。満貫」
久「あちゃー」
照(さてここからは連続和了で、ツモ上がり目指してもいいかな…。飛ばせるだろ)
美穂子(宮永さんか原村さんから直撃ロンしないと、逆転出来ません。くっ…、やるのよ私!)
和(福路さんだけに、振り込まなければお義姉さんの勝ちですね。まぁ…、ベタ降りです)
久「燃えて来たーーーーーー!!!!!!」
久「髪の毛、結んでもいい?」
照「えっ…、別にいいけど」
美穂子「はい」ギュッ
久「さぁ、気合入れたわよ!」
照(まだ逆転出来ると信じてるのか…。子供の時の咲もこんな感じだったな…)
照「アイツも…、あの頃はいつだって勝利を諦めない、いい目をしてた…。変えてしまったのは私達家族だが…」
照(配牌から聴牌。ダブリーはかけられないけど…)
美穂子「」トン→中
久「ポン」
照(ふむ、白か。まぁいらないな)
照「」トン
久「ポン」
ざわっ…ざわっ…
和(大三元?撥は持ってませんけどね)
照(大三元でも関係ない。次にツモれば、私がツモのみで上がる)
久「…カン」撥をカン
久「なんかしなきゃいけないような気がしたから」
照「くっ…」
照(私の上がり牌が…)
久「それにこうしたら、お姉ちゃん達、もう降りるしかないでしょ?」
和「そうですね。もうテンパイしてても崩さないと」
美穂子(私は上埜さんに振り込んでもいいんですが…。しかし振り込んだ場合、一位を取るのが難しくなりますね)
照「」タン
美穂子「」タン
和「」タン
久「ポン!」
照(また張ったけど…、どうするかな)
美穂子(上埜さん…)
久「なんだか、鳴いて状況を悪くしたら上がれるような気がして来たのよ」
照「そんなオカルトあ…りえるかもな。私もテンパイだ。ゴミ手だが」
美穂子「私もテンパイしてますよ」
久「そっか!誰が一番最初に上がれるか競争だね!」
照「…あぁ」
美穂子「…えぇ」
美穂子(そうですね。上埜さん、ここ一番って所にめっぽう強いですからね)
照「そーいや、久ちゃん。一位になった時のお願い聞いて無かったね」
久「んーとーね」
美穂子(現物が無くなりました。多分、字牌だと思いますけど、普通の牌も考えられなくはないです。ダブル役満はありませんし)
美穂子(さてどれを切ろうかしら…)
久「私の願いはねー、美穂子をお嫁さんにする事!」
ポロッ
久「あーーーー、それ北じゃない!ロンよ、ロン!」
久「やったーーーーーー!!!!!!!私の大逆転だー!お姉ちゃんに初めて勝ったぞーーーーー!」
美穂子「い、今なんて…」
美穂子「…これは夢?」
バチコーン!
照「夢じゃないよ。痛いだろ?」
美穂子「い、痛いです」ヒリヒリ
和「はい、久ちゃん、あーん」
久「おもちのお姉ちゃん!黒糖くれるの?ありがとー!」
久「うっ…」
久「体が…熱い!熱いよ!お姉ちゃん!」
美穂子「久、私はここに居るからね。手を握ってるからね」ギュッ
久「うわああああああああああ」
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--------------
----------
久「あら…ここはどこかしら…」
美穂子「うううう、上埜さんが裸になって現れた」ブハッ
美穂子「我が生涯に一片の悔い無しぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!
久「なんで私、服着てないのよ!?」
和「子供の服なんで破けてしまったんですね」
照(おもち完全に負けてるよ、私)チーン
久「あらそう…。そんな事があったのね。みんなには迷惑かけたわねぇ…ごめんなさい」ペコリ
和「いえいえ、お気になさらずに…」
照「悪いの、石戸だから」
美穂子「」
久「すごい、大三元と字一色のダブル役満じゃない!?これ、私が上がったの?」
和「そうですよ。記憶にないんですか?」
久「ないわね。でも、ロン上がり。しかも美穂子から?」
美穂子「」
照「あぁ、福路の完敗だよ。色々とな」
久「そっかー。まぁ、もうダブル役満なんて上がれる気しないわねー」
和「人生で一度くらいじゃないですか?」
久「一度ね…。そんな奇跡、人生で一度あればもう十分よ」
久「そうね。永久に手錠をハメとく刑にしとこうかしら。結婚って名前の」クスッ
照「くっさー」
美穂子「」
終わり
池田の苦労が減るかもしれない
簡潔にまとまって面白かった
すばら
Entry ⇒ 2012.11.10 | Category ⇒ 咲-Saki-SS | Comments (6) | Trackbacks (0)
咲「宮守の控え室でかわいがられた……」
胡桃「豊音!私にも充電させて」
塞「確かにかわいいわね」
シロ「だる可愛い……」
エイ「!」カキカキバッ
シロ「咲ちゃんハーレム…」
エイ「」コクン
咲「ふえぇ」
塞「迷子になってここまで来たのにひとりで帰れるの?」
エイ「」カキカキ
シロ「また迷う…だってさ」
咲「どうしよう…。皆さんは清澄の控え室の場所わかりませんか?」
塞「わからないことはないけど」チラ
豊音「咲ちゃんかわいいー」ギュー
胡桃「充電充電!」
シロ「咲ちゃんを清澄に返すのだるい」
塞「もうちょっとここでゆっくりしていかない?」
咲「あ、ありがとうございます」
塞「胡桃いつもより長く充電してるね」
胡桃「宮永さんだからね。シロのも悪くないけど格別」
シロ「胡桃、私と交代」
エイ「シロ!ウゴイタ!」
塞「珍しい…」
豊音「宮永さんちっちゃくてかわいいよー」
胡桃「豊音と比べたら小さいでしょ」
エイ「」カキカキ
シロ「苦笑い」
エイ「アリガトウ」
エイ「サキモカワイイヨ」
咲「なんだか恥ずかしいです」テレテレ
豊音「宮永さんとエイスリンさんいい雰囲気だよー」
胡桃「独り占め禁止そこ!」ビシ
塞「私も。もっと怖い人かと思ってたのに本当は…」
エイ「サキポンコツ!」
咲「エイスリンさんそれはひどいですよ」ムー
豊音「でも本当に対局中はとっても怖かったよ」
シロ「だるいけどいつか私とも打ってくれない?」
咲「もちろんかまいませんよ!皆さんとっても強かったので楽しみです」ニコ
エイ「エガオカワイイ」
シロ「咲ちゃんうちにもらえないかな。インハイ終わったら会えないのだるい」
胡桃「シロナイスアイデア!」
咲「困りますよ」テレテレ
エイ「ダレカキタ」
塞「清澄の人かな」
咲「もしかしたら和ちゃんかも」
豊音「宮永さん帰っちゃうのいやだよー…」ウルウル
シロ「咲ちゃん取られるのはだるい」
胡桃「無視するわけにもいかないでしょ。出るよ」
胡桃「はい」
和「すみません。ここにうちの咲さん来てませんか?」
胡桃「ちょっとエイちゃんその言い方はダメだよ」
和「来てないならいいです。では失礼します」
バタン
塞「追い返しちゃったよ…」
シロ「エイスリンすごい」
豊音「かっこよかったー」キラキラ
咲「えー…」
エイ「サキモットアソブ!」
咲「まあいっか。じゃあお絵描きしましょうよ、エイスリンさん」
塞「私たちも混ぜてよ」
シロ「私はだるいから咲ちゃん見てる」
シロ「どうりでお腹がすく」
咲「皆さんこれから予定とかありますか?ないなら一緒にご飯とか…」
エイ「イク!」
豊音「宮永さんとご飯だー」
胡桃「食いつきはやっ」
塞「胡桃は行かないの?」
胡桃「行くけど」
シロ「じゃあ決まり」
塞「シロも今日は活発だね」
エイ「サキノオカゲ」
宮守は無理です
咲「ここどこだろう」キョロキョロ
?「あんた!」
咲「ふぇ!?」
洋榎「清澄の大将やんか。こないなところでどないしたん」
末原「」カタカタ
せやな
洋榎「はぐれたってあんた小学生やあるまいし」
由子「それより恭子がすごいことになってるのよー」
恭子「」カタカタカタカタ
咲「私のせいですね…」シュン
絹恵「そや。先輩のためにも宮永さん、うちらと一緒にご飯行かへん?」
絹恵「せやろ?お姉ちゃんはどう思う」
洋榎「それええな。うちも宮永さんとは話してみたかったんよ」
咲「あ、はい大丈夫です」
絹恵「咲ちゃんもうちのこと名前で呼んでな。お姉ちゃんとごっちゃになるで」
咲「じゃあ…絹恵さん」ニコ
漫「ほら末原先輩も咲ちゃん怖くないですから」
咲「末原さん…。そんなに私のこと嫌いですか…?」ウルウル
恭子(確かにこの子のこと怖がるなんておかしいやないか)カタカタ
恭子「いや、怖くあらへんよ」プルプルニコ
咲「よかったー!改めてよろしくお願いしますね末原さん」ニコ
由子「じゃあ食事に行くのよー」
咲「?……あ、エイスリンさん!」
由子「宮守のキーウィなのよー」
漫「そういえばさっき咲ちゃんが宮守とはぐれた言うてましたね」
恭子「咲ちゃんは渡したないな。追い返してまえ漫ちゃん!」
洋榎「ちゃんと追い返せたら次の落書きは水性で書いたるで」
漫「ちょっ。何言うてるんですか先輩方!」
咲「すみません。いつの間にかはぐれていて」
シロ「捜すのだるかったけど見つかったからいいや」
胡桃「シロなりに必死に捜してたよね」
豊音「結局見つけたのはエイスリンさんだけどね」
塞「あれ?一緒にいるのってもしかして姫松?」
洋榎「まあ咲ちゃんが気になるのは…」
胡桃「うるさいそこ!」
洋榎「」
豊音「じゃあお食事行こっかー」
エイ「モンジャタベタイ!」
洋榎「ちょっちょっちょい待ち。何咲ちゃん連れてこうとしてんねん」
咲「洋榎さん、もんじゃもおいしいですよ」
洋榎「それは聞き捨てならんな。こりゃ咲ちゃんに本場のお好み焼き食わせんといかんなぁ」
絹恵「大阪のお好み焼きはごっつうまいから咲ちゃんもびっくりするで」
漫「もんじゃなんて食べる気なくなります」
胡桃「うるさいそこ!そう言う先入観を持ったやからに宮永さんは渡せないね」
エイ「ソウダソウダ!」
塞「それに私、広島風お好み焼きのほうが好きだし」
洋榎「なんやて!」
由子「ますます咲ちゃんを渡すわけには行かないのよー」
絹恵「せやせや」
シロ「関西人のテンションについて行くのだるい…」
シロ「けど咲ちゃんは渡さない」キリ
シロ「そもそも最初に約束したのはこっち」
シロ「そっちには引いてもらう」
エイ「シロカッコイイ!」
洋榎「ぐぬぬ。おい恭子!」
恭子「でもはぐれてしもた咲ちゃんを保護したのはうちらです。うちらが見つけなかったらまだ迷子になっていたかもしれませんよ」
胡桃「そんなこと!」
恭子「ないと言い切れるんか?」
胡桃「うー…」
洋榎「そう言うわけにはいかへんで」
胡桃「そうだそうだ」
咲「どうしても……ですか?」ウルウル
エイ「クルミ、サキナカセタ」
シロ「咲ちゃん泣かせたらだるい。泣くのやめて」
胡桃「……もう私はいいわよ」
洋榎「うちも咲ちゃん泣かせたないな。しかないから宮守がいても我慢したる」
シロ「上から目線だるい…」
漫「この人さっきからだるいだるい大丈夫ですか?」
塞「いつも通りすぎて問題ないですよ」アハハ
洋榎「焼き肉や」
エイ「モンジャ!」
恭子「うちも焼き肉やなくてももんじゃは嫌や」
豊音「私はみんなでもんじゃ食べたいなー」
シロ「どっちも焼くのだるい…」
咲「じゃあ私が食べさせてあげますね」クスクス
塞「自分たちで焼くお好み焼きなら食べますよね」
洋榎「でもなー」
恭子(主将。あんまりごねると咲ちゃん取られますよ)コソコソ
絹恵(うちらはそれでええからお姉ちゃん決めてや)コソコソ
咲「私、お好み焼きももんじゃも好きなので嬉しいです」ニコニコ
洋榎「……咲ちゃんにそないなこと言われたらもうなんも言えんな」
洋榎「もんじゃでも何でもこいやー!」
エイ「モンジャウレシイ」
豊音「わーい!みんなで一緒に食事だよー」
エイ「サキテツナグ!」
絹恵「うちも咲ちゃんと手つなぐで」
洋榎「絹がつないだらうちがつなぐ手がなくなるやないか」
シロ「だるい。咲ちゃんおぶって」
豊音「咲ちゃんつぶれちゃうよー」
咲(なんでこうなったんだろう)
咲(ま、いっか)
塞「この人数ですぐ座れたら奇跡だけどね」
絹恵「待ち時間はおしゃべりしてればあっという間やろ」
豊音「咲ちゃんともっと仲良くなりたいからそれはいいねー」
咲「そうですね。私も皆さんのこともっと知りたいです」
ガラッ
洋榎「11人……あれ?あんたら」
優希「咲ちゃんもいるじょ」
和「」ガタッ
久「さっき和が控え室を訪ねた時はいなかったのよね?どうして一緒にいるのかしら」クスクス
和「心配したんですよ咲さん!あなたは目を離したらすぐに迷子になって」
和「それより宮守の方にはどういうことか説明してもらいましょうか」ギロ
エイ「ウー」メソラシ
和「つまり咲さんは私が宮守の控え室に行ったときに中にいたってことですか!?」
塞「そう言うことになるね」
和「帰れピンクと言われた私はなんだったんですか」ワナワナワナ
エイ「ワタシサキスキ。ピンクニハワタサナイ」
胡桃「またエイちゃんはそんなこと言って」
和「我慢なりません。咲さんは返してもらいます」
咲「まあまあ落ち着いてよ和ちゃん」
和「咲さんはあっちの肩を持つんですか!!」
咲「そういうわけじゃないけど」ハァ
久「2人ともまだ咲を捜してるんじゃないかしら」
咲「それは悪いことをしました…」
霞「5人入れるかしら」
咲「あ、永水のお姉さんだ」
洋榎「なんやあの巫女、咲ちゃんにお姉さんって呼ばれてるんか」
絹恵「うらやましいな」
豊音「私も呼ばれたいよー」
和「確かにちょっとだけうらやましいです。ちょっとだけですが」
霞「あら、本当だわ」
咲「さっきぶりですね。皆さんもお食事ですか?」
小蒔「はい。もんじゃを食べに来ました」フンス
胡桃「まあここもんじゃの店ですから」
咲「永水も来て二回戦のメンバーが揃ったことですし一緒に食べません?」
小蒔「いいんですか!!」キラキラ
咲「もちろん」
洋榎「咲ちゃんが言うなら」
久「私たちもいいわよ」
エイ「ミンナデタベル。タノシイ」
小蒔「なんででしょう」ウーン
霞「何でかしらね」ニコニコ
初美(また何かしましたねー)
シロ「待たなくていいからだるくない」
久「せっかくだから学校事に固まらずに食べたいと思うのだけど」
エイ「サキトナリ」
シロ「私も咲ちゃんに食べさせてもらうから隣」
洋榎「それはあかんで」
絹恵「うちらも咲ちゃんと一緒に食べたいねん」
巴「なんででしょうね。可愛いのはわかるんですが」
霞「どうせなら争奪戦にまじってみましょうか」ニコニコ
小蒔「宮永さん!私と食べましょう!」
和「また増えましたね」
優希「しかもまたおっぱいでかいじぇ」
恭子「咲ちゃんはパイに愛された子やな」
シーン
恭子「正直すまんかった」
久「そうしたいんだけど…」
和「咲さんは私と一緒に食べるんです」
洋榎「いーや咲ちゃんはうちと絹と食べるんや」
シロ「私たちと食べる」
エイ「ヤクソクシタノハヤイ!」
久「いやーあなたってモテるのね」ケラケラ
久「あら、意外と私もモテるのね」クス
咲「まあまあケンカしないで仲良く食べましょうよ」
霞「咲ちゃん、こっちで一緒におしゃべりしない?」
巴「ケンカしてる人はほうっておいて」
小蒔「せっかくここで会ったんですから仲良くなりたいです」
なんか着地点が見えないんだけどどうしたらいいかな
塞「普段なら絶対だるいとか言うのに」
豊音「宮永さん可愛いから仕方がないよ」
豊音「これがきっとギャップ萌えってやつだねー」
胡桃「豊音どこでそんな言葉覚えたのよ」
豊音「いんたーねっとだよ?」
塞「さて私も争奪戦にまじってこようかな」スク
サキサンハワタシノモノデス
ワタサヘンデ
サキスキ イッショニタベル!
咲「永水の皆さんっていつも巫女服きてるんですか?」
巴「そんなことはないですよ。私は割と制服も着ていますし」
巴「はっちゃんは服着てるって言えるのか疑問ですしね」ボソ
初美「巴ちゃん。聞こえてますよー」
小蒔「興味あるならお貸ししますよ」
咲「実を言うとちょっとだけ興味あります」エヘヘ
春「久は何食べたい?」
久「春が選んでいいわよ」
春「わかった」
アー!
ウチラガケンカシテルアイダニー
ヌケガケダルイ
洋榎「しゃーないからそれで我慢したる」
シロ「待つのだるいけど咲ちゃんが来るなら…」
エイ「ズルイ!チチオバケヌケガケ」
霞「ケンカしてるのが悪いのよ」
洋榎「お好み焼きやー!」
由子「本場の焼き方を見せてあげるのよー」
エイ「モンジャタベル」
シロ「咲ちゃんに食べさせてもらいたい」
豊音「宮永さん早く来ないかなー」ワクワク
和「」ムス
優希「のどちゃん機嫌治すじぇ」
霞「咲ちゃんは今のままで可愛いわよ。それに大きくてもいいことはないわよ」
小蒔「肩が凝ります」
初美「ケンカ売られてますよー。巴ちゃん」
巴「そうですね、はっちゃん」
優希「のどパイも負けじと大きいじぇ」
和「そういうこと言わないでください」
シロ「食べさせて」
胡桃「宮永さんに食べさせてもらうんじゃなかったの?」
シロ「わかった。自分で食べる」
豊音「ちょーおいしいよー」
エイ「ヒメマツモモンジャタベル」グイグイ
洋榎「うちらはいいから押しつけるな!」
洋榎「あーもううっとうしいわ!」
洋榎「一口だけやからな!」パク
絹恵「どうやお姉ちゃん」
洋榎「……うまい」
漫「本当ですか主将」
由子「とりあえず食べてみるのよー」
絹恵「ほんまやな」
洋榎「まあ本場大阪のお好み焼きにはかなわないんやけどな」ドヤァ
エイ「オイシイオコノミヤキタベタイ」キラキラ
由子「焼くから待っててなのよー」
恭子「焼き方にもコツがあるねんで。しっかり見とき」
霞「残念だわ。咲ちゃん可愛いんだもの、もっとめでたかったのに」
小蒔「大会が終わったら麻雀打つ約束しました」
初美「私も楽しみですよー」
霞「あら、そのときは私も混ぜてもらえるかしら」
咲「はい!もちろん!」
咲「まあ隣に移動するだけなんですけどね」アハハ
胡桃「シロ。宮永さんきたよ」
洋榎「おっ、タイミングええで咲ちゃん。今お好み焼きが焼きあがったところや」
咲「おいしそうですね」
絹恵「むっちゃうまいでー」
咲「じゃあいただきます」ハム
洋榎「せやろーそうやろー」
咲「私こんな風に焼けないです」
洋榎「腕が違うからな」ヘヘー
咲「いつか教えてください」
洋榎「大阪遊びにきたら一緒にうちで作ろうな」
絹恵「大阪の街、案内したるし麻雀しよな。いつでも大歓迎やで」
咲「じゃあ洋榎さんと絹恵さんたちも長野に来てくださいね」
咲「って言っても何にもないですから家にお泊まりにでも」
絹恵「楽しみやなー」
咲「私もです」
エイ「ワタシモイキタイ」
シロ「長野遠くてだるいけど咲ちゃんに会えないのはもっとだるい」
咲「エイスリンさんもシロさんも歓迎します」
和「」バンバンバンバン
優希「今日は一段とのどちゃんがあらぶってるじぇ」
咲「もう。シロさんって意外と甘えん坊さんなんですね」クス
咲「はい。シロさん」フーフー
咲「あーん」
シロ「ん」パク
咲「おいしいですか?」
シロ「おいしい。もっと」
咲「はい」ニッコリ
洋榎「うちかて咲ちゃんにあーんしてもらいたいわ」
和「咲さんがあーんなんてそんなオカルトありえません」プルプル
絹恵「うちは咲ちゃんにあーんしたいわ」
洋榎「それや!」
エイ「サキアーンスル!」
咲「エイスリンさんどうしたんですか?」
エイ「アーン!」
咲「あ、あーん」パクッ
エイ「オイシイ?」キラキラ
咲「はい、おいしいです」エヘヘ
洋榎「咲ちゃんあーん」
咲「あーん」パク
絹恵「うちもあーんや」
咲「あ、あーん」パク
咲「これちょっと恥ずかしいですね」カァ
シロ「そろそろ咲ちゃん返して」グイ
咲「シロさんは本当に甘えん坊だったんですね」アハハ
エイ「ヒトリジメイケナイ」
絹恵「せやせや」
和「」バンバンバンバンバン
優希「さすがにのどちゃんが不憫になってきたじぇ…」
シロ「いや、あんまり」
シロ(本当はだいぶ満足してるんだけど咲ちゃん取られるのいやだから黙っておこう)
咲「もう仕方ないですね。はい、あーん」
エイ「シロニサキトラレタ」
エイ「ネトラレ?」
洋榎「いや違うと思うで」
絹恵「咲ちゃん、小瀬川さんのこと好きなんかなー…」モンモン
シロ「しょうがないから咲ちゃん貸してあげる。返してよ」
胡桃「宮永さんはものじゃないよ」
咲(でも好かれてるってわかってちょっと嬉しいかも)エヘヘ
恭子「主将だけじゃなくうちらが焼いたお好み焼きも食べてや」
漫「うちにも食べさせてくださいよ」
恭子「咲ちゃんが食べたらな」
和「」グスン
優希「まだこっちにはこないみたいだじぇ。親父!タコスお好み焼きとタコスもんじゃはないかー?」
咲「やっぱり家族麻雀ですかね。小さい頃は毎日やってましたから」
漫「宮永さんって宮永照と姉妹だったりするん?」
恭子「アホ!漫ちゃん!」
漫「あっしまった…」
咲「気にしないでください。確かにお姉ちゃんとは姉妹ですよ」
咲「嫌われてますけど…」
豊音「こんなにいい子の宮永さんを嫌うなんて何かの間違いだよきっと」
由子「きっとチャンピオンにも事情とかがあるのよー」
塞「早く仲直りできるといいね」
咲「はい!」
胡桃「宮永さんの家にお泊まりに行くとか」
豊音「まぜてほしいな」
咲「はい!家はお父さんと2人なんでお客さん大歓迎です」
咲「賑やかなのは楽しいですしね」
咲「末原さんたちもどうぞ」
恭子「……恭子」ボソリ
咲「?」
恭子「末原じゃなくて恭子って呼んでほしいな」
咲「はい、恭子さん」ニコリ
久「咲ってジゴロだったのね。知らなかったわ」
春「久も大概」
久「私はそんなじゃないわよ」フフ
小蒔「友達の家にお泊まり…」キラキラ
霞「小蒔ちゃんはこういうことしたことないものね」
巴「姫様だけじゃなく私たちもないですけど」
咲「もしかして永水の皆さんも来てくれるんですか!」パァ
小蒔「行きたいです!」
和「私は咲さんの家にお泊まりしたことありません…」グス
優希「まあ家が近いからな」
咲「えへへ。友達もいっぱいできてやっぱり麻雀って楽しいな!」
カン!
このまま>>1000までゆるゆると咲さんハーレムが続けば幸せだ
最高やな
無茶いうたるなww
咲ちゃんちお泊まり編
多分永水、姫松、宮守で別れちゃうけどいい?
パラレルワールドにして全校ガッツリやってええんやで?(ニッコリ
咲「広くなくてごめんなさい」
霞「私は広い家は苦手だからちょうどいいわ」
初美「さっそく麻雀するんですよー」
?「咲に近づくやつは排除する」ギュルギュル
?「おい待て落ち着け」
?「サキモテモテだなー」
嘘予告(多分)投下してもう眠いんで寝ますわ
おやすみ
続編は少なくとも土日すぎないと無理かな
Entry ⇒ 2012.11.09 | Category ⇒ 咲-Saki-SS | Comments (0) | Trackbacks (0)
久「愛と知っていたのに、春はやってくるのに」
咲・和「部長、卒業おめでとうございます!」
優希「おめでとうだじぇー」
久「ありがとう、最高の高校生活になったわ。貴方達が居てくれたおかげよ」
まこ「おーい、わしは?」
久「ふふふ、もちろんまこもよ。麻雀部の部長、頑張ってね」
まこ「おぅ。今年もまた全国大会に出たいからのぉ」
和「咲さん」チョンチョン
咲「あっ、言っちゃダメだっけ?」
久「ありがとう。他の学校の子達も来てくれるのよね?楽しみだわー」
久「あっ、その前に美穂子に呼び出されたんだ!ごめんね、先に行ってて」
まこ「おぅ、また後でな」
久「そして咲の入部。待ちに待った全国大会の団体戦に参加。そして…優勝」
久「もし団体戦にエントリーしなかったら、きっと美穂子と再開する事も無かった…」
久「咲は恋のキューピットでもあるのね」クスッ
久「おーい、美穂子。お待たせ!最後の制服姿ね、もちろんカワイイわよ」
美穂子「ありがとうございます」ニコッ
美穂子「いいですよ。私も上埜さんの写真撮りたいです」
久「携帯電話のカメラの使い方わからないでしょー?」イヒヒ
美穂子「うっ、確かにわかりませんが…///ですから、コレを」スッ
久「使い捨てカメラ!?あぁ、こんなのあったわね…」
美穂子「せっかくだから、二人で撮りましょうよ」ニコッ
久「そうね。使い捨てだから、全部撮らないと損だしね」
美穂子「・・・いい思い出が出来ました」
久「???」
美穂子「それでお話と言うのがですね…。少し、歩きませんか?」
久「いいわよ。ここの桜並木、キレイでしょ!」
美穂子「ふふっ・・・」
久「今日はどうしたの?元気ないわね?卒業式したから?」
美穂子「そうですね…。春は出会いの季節、そして別れの季節でもありますから…」
久「美穂子は、大学でしょ?新しい出会いがたくさん、待ってるわよ。私は就職だから」
美穂子「就職は、街の工場ですよね?」
久「うん。みんなには意外って言われたけど、麻雀の自動卓を作ってる工場なの。工場見学した時に、ビビッと来ちゃってね」
久「ううん。私の麻雀は、もう高校生の大会で出し尽くしたわ。満足しちゃったし、限界も見えた」
久「プロは…私じゃ力不足ね。もっと牌に愛された子。咲や和。あの子達くらいのレベルじゃないと」
美穂子「そうですかね…」
久「もちろん美穂子がプロになるのに力不足だなんて、言って無いわよ?なんたって、長野の個人戦一位だものね」
美穂子「えぇ、私もまだまだ上に登れると思ってます」
久「もちろん応援してるわよ。大学生になっても麻雀、続けるんでしょ?」
美穂子「・・・」
ピタッ
久「美穂子?」
久「う、うん」ゴクリ
美穂子「私達、別れませんか?」
久「~~ッッ!?」
久「や、やぁね…。笑えない冗談は、あまり好きじゃないわよ」
久「だったら、別にいいじゃない!これまで通りの関係でいいじゃない!確かに会える回数は減るけど…」
美穂子「上埜さん、私が宮永照さんに勝とうと思ったら、普通に大学行って普通に麻雀して勝てるようになると思いますか?」
久「うーん、なかなか難しいわね。あの人、私達の世代で最強だし…」
美穂子「そうですね。卒業後はプロ入りですし、きっと日本代表にも選ばれるでしょうね」
美穂子「何度か対戦した事ありますけど、一度も勝てませんでした」
久「仕方ないんじゃない?私も、妹の咲に何度も負けたわよ。私と咲の部活の通算成績じゃ、咲の方が余裕で勝ち越してるわね」
美穂子「そして、私の麻雀の限界点ってどこ?」
美穂子「ずっとずっと、ひっかかってまして…」
久「そう…、色々悩んでたのね」
美穂子「そんな時です。中国の小さなメジャーリーグの雀団から、お誘いがありました」
久「中国!?麻雀の本場ね。確か遊戯人口も日本とは比べ物にならないくらい」
美穂子「えぇ…、プロ麻雀も日本と中国では驚くほどの差があります」
美穂子「中国のメジャーリーガーです。今もなお、現役です」
久「麻雀の本場ってすごいのね…。想像もつかないわ」
美穂子「それでマイナー契約ですけど、契約のお話を頂きまして…」
久「美穂子、まさか!?」
美穂子「ごめんなさい。私、強くなりたいんです!どこまで自分が強くなれるか試してみたかったんです!」ペコリ
美穂子「はい。行って来ます。上埜さんをいつまでも待たせるわけにもいきません。…私の事は忘れて下さい」
久「今なら、パソコンでスカイプとかもあるじゃない!?遠距離恋愛だって!」
美穂子「ごめんなさい…。こんぴゅーたーの事はあまり詳しくなくて…。それに麻雀に集中したいんです」
久「そんな…、こんな終わり方って…」ポロポロ
美穂子「ごめんなさい。私も上埜さんの事、大好きなんですよ?だから、待たせたくないんです」
美穂子「幸せになって下さい。そして、いつの日か新聞かテレビで私が取り上げられたら…、良かったらちょっとだけ応援して下さい」
咲「部長、遅いなぁ…」
池田「そーいや、キャップは今日は来ないし」
まこ「主役の一人なのにか?なにしとるん?」
池田「お前達は知らなかったな。いいかー聞いて驚け!キャップは、中国のメジャーに旅立ったんだし!」
未春「メジャーじゃないよ。まだマイナーリーグだよ」
優希「おぉー、それはすごいじぇ!」
和「そうですね。テレビ番組では日本の雀士は中国では通用しないって言われてますけど、すごい決断だと思いますよ」
~竹井久、19歳の春~
久「みんなー、久しぶり!」
優希「おおっ、部長だじぇ」
まこ「なんじゃ?呼んだかいな?」
和「優希、竹井さんって呼ばないとややこしいですよ」
優希「部長、私は2cmも背が伸びたんだじぇ!」
和「そうですよ。私は胸が2cm大きくなりました」ボイン
咲(いいなー)
久「あら、咲はセミロングにしたのね。ふふふ、似合ってわよ」
咲「ありがとうごさいます///」
まこ「おい、わしの晴れ着を褒めんか」
久「あぁ、忘れてた。卒業、おめでとう。一年間よく頑張ったわね」ニコッ
まこ「ははは、部長の責任とかプレッシャーで、3キロも痩せたぞわしは」
久「全国優勝二連覇だもんね。そりゃー、プレッシャーだって尋常じゃないわね。私の時は初出場で、誰にも注目すらされてなかったから楽だったわ」
まこ「そうじゃな。来年は、三連覇もかかっとるけ。物凄い重圧じゃ」
和「大丈夫です。私が清澄高校麻雀部の三連覇の夢、叶えてみせます!」
優希「ちなみに咲ちゃんは副部長だじぇ」
久「優希、貴方は?」
優希「私か?もちろん、タコス係だじぇ!」
咲「最近は後輩の子の分のタコスも作ってあげて、偉いんですよ」
京太郎「つか、タコスの作り方教えたの俺なんだけどな」
久「あら、須賀君。久しぶりね。居たの?」
京太郎「とほほ、久しぶりに会ったのにひどいっすよー」
京太郎「はいはい、わかりましたよー」
咲「まこ先輩、竹井さんって恋人は…」ヒソヒソ
まこ「出来たなんて話は聞いとらんな。まだ引きずってるんじゃろ」ヒソヒソ
和「音沙汰無しですか…。中国の山奥にあるチームらしくて、手紙も届かないみたいですね…」ヒソヒソ
久「さぁ、あんた達!龍門渕さん所でサプライズパーティー用意したわよ!みんな、行くわよー」
久「みんなー、おひさー」
優希「おおっ、竹井さんだじぇ!」
咲「お久しぶりです」
和「大人っぽい服装ですね」
久「もう私は、10代じゃないからね。大人よ大人。まこは後で来るって」
久「今年は居酒屋を貸し切ったの。ゆみや蒲原さんも仕事が終われば、来てくれるそうよ」
久「咲と和のプロ入りと…」
久「えーっと、優希の婚約?を祝いまして…」
久「かんぱーーーーい!」ガシャン
ゆみ「かんぱい」カチン
蒲原「わはは、乾杯だぞー」カチン
久「あら?こっちは、アダルティーな魅力たっぷりの20代のテーブルよ。優希には刺激が強すぎるんじゃない?」
優希「私は竹井さんと違って、もう処女じゃないじぇ。大人だじぇ」プッ
久「グサッ!?」
ゆみ「ふっ、久。一本取られたな」
蒲原(わはは、私も恋人居ない歴=年齢で処女なんだよなぁ)
優希「ニートだじぇ」
久「就職するか大学行きなさいよ…」
優希「冗談だじぇ。犬と結婚するために花嫁修業だじぇ。バイトくらいはするけどな」
久「へぇー、もう結婚しちゃうんだ。流石に、知り合いでは初めてね」
優希「まぁ、親にはいっぱい怒られたじぇ。でも好きだから、早く一緒になりたいんだじぇ」
久「・・・妬けるわね。ねぇ、タバコ吸っていい?」
ゆみ「ほれ、灰皿」コトン
久「ありがと…」シュボ
久「ゆみはどうするの?東横さんとの付き合いは順調?」
ゆみ「あぁ、うん。モモは春から大学生だからな。結婚とかは、まだまだ先だよ」
久「付き合って、もう二年になるんだっけ?」
ゆみ「うむ。嫉妬深くて困るよ、全く。家に帰ったら、モモが居たりするんだ」
久「それって半同棲って事?」
ゆみ「通い妻かな?どっちが妻かよくわからないが」
蒲原(わはは、実家の手伝いとか出会いが全くないんだぞ)
咲「・・・でねでね」ギュッ
和「ふふふ、はいはい」ギュッ
久「あの二人って、イチャイチャしてるけど、春からは別チームで対戦し合うのよね?」
ゆみ「あぁ。宮永は関東の姉のチーム。原村は関西の赤土さんのチーム。遠距離恋愛だそうだ」
久「・・・遠距離ね。新幹線で、三時間くらいなら遠距離じゃないわよ」
久「ってか…、私来て良かったのかしら?」ヒソヒソ
和「竹井さん。なにオドオドしてるんですか!早く入って下さいよ!」
久「は、原村プロ!?」
和「その呼び方、辞めて下さい。和でいいですよ」
久「いやー、マホちゃんの卒業式って言うから、来てみたけど…。私、あんまり面識ないし…」
咲「いいじゃないですか。マホちゃんは竹井さんの悪待ちも使ってましたよ」
咲「私と和ちゃんは毎日ですね。まぁ仕事ですからね」
和「宮永プロ。来週の三連戦、負けませんから!」ゴゴゴ
咲「こっちの台詞だよ。原村プロ」ゴゴゴ
久「あの二人、仕事では敵同士で、普段は恋人同士なのよね?上手くいってるのかしら?」
優希「心配ないじぇ」オナカ、ポッコリ
京太郎「どうもっす」
優希「もう五ヵ月だじぇ」サスサス
久「へぇー、須賀君。孕ませたのね?」ニヤリ
京太郎「そうゆう言い方、よして下さいよー。後、すいません。禁煙して貰っていいですか?」
久「それくらいわかってるわよ。妊婦の前で、吸うわけない」ケラケラ
・
・
・
居酒屋
ワイワイ、ガヤガヤ
久「ごめん、私、外で一服してくるわね」
咲「はーい。どうぞー」
和「咲しゃん、三連戦終わるまで、エッチ禁止ってひどいでしゅよー」ヒック
久「( ´ー`)y-~~」
久「プカー」テクテク
久「プカー」テクテク
久「あれ…、ここは思い出の呪われた桜並木ね…。ここを通るのは久しぶりだわ…」
久「もう四年も経ったか…。早いようで長いような…。新入社員で入った工場は、いつの間にか主任になったわね…」
久「告白されたのは…三回だったかな?ったく、いつまでこんないい女待たせりゃ、済むのよ」
久「…待つのは得意だったはずなんだけどな」
久「寂しいな」ボソッ
久「えー、宮永プロの妊娠祝いとまこの結婚祝い、おめでとうございますー。かんぱーい」
まこ「おおぅ、ありがとう」
咲「今日から、産休に入るんで、しばらく長野で生活します」
久「お帰り。和は?」
咲「今、関西ですね。優勝決定戦が近いので…」
照「ったく。大事な妹を孕ませといて、仕事だと…。あんなピンクになぜ妹をやらねばならんのか」モグモグ
照「しばらくオフだから。後、咲ちゃんが妊娠したって聞いてすっ飛んで帰って来た」
咲「私のチーム、主力のお姉ちゃんと私が抜けてしまって、ガタガタだよー。来年、やばいなー」
優希「ふっ、私の出番のようだな!私が咲ちゃんのチームに入るしかあるまい!」
京太郎「辞めとけ。東場だけの代打起用くらいだろ」
久「ったく。この年になると、毎年誰かが結婚したり、妊娠したりするわね。まぁ、めでたい事なんだけど」
ワイワイ、ガヤガヤ
久「でさー、蒲原さんが助手席に男を乗せて、ドライブしてたわけよー」
優希「おぉう、ワハハお姉さんにもとうとう春がやってきたじぇ」
照「・・・」ギュルルル
照「タバコは外、咲ちゃんが妊娠してるから」ギュルルル
久「わわわわ、悪かったわよ。つい、忘れてただけよ!」
久「じゃあ、私、外に出て来るね」
咲「はーい」
優希「竹井さんはもうアラサーだから、襲われる心配ないじぇ」
久「まーだ、25歳のピチピチですよーだ」ベー
照「あぁ、すごかった。世界最高峰だと思った。私でも、チームでは三番手くらいだよ」
咲「すごいね。でも日本人で初めて、通用してるんでしょ?私もいつか行ってみたいなぁ…」
照「咲なら大丈夫…って言いたい所だけど、あそこは魔界だ。マイナーで淡や衣と同格の選手ばっかり」
咲「すごいね。マイナーでも大変そう」
照「それと私以外にも一人日本人の選手が居るよ。しかも、先鋒を任されてる」
咲「先鋒ってエース?」
照「うん、とんでもない強さだよ、アイツ。昔から知ってるけど」
久「まーた、ここに来ちゃった…」
久「なんか毎年来てる気がするわね。恨みしかないのに…」
久「えぇーい!お前か!お前が、私の運命を狂わせたのか!」ゲシゲシ
久「桜の木、あんたはいつ見てもキレイでいいわね。私は、だんだんキレイじゃなくなってるのよ」
「そんな事ないですよ。上埜さんはいつだってキレイです」
久「・・・そうかしら?最近、新入社員が言う事聞いてくれなくて、白髪も生えてるのよ」
久「えぇ…全くね。この間まで、自分が新人だったのにね。でも白髪の一番の原因はソレじゃないわよ」
「あー…、えー…、私のせいだったりしますかね?」
久「そうね。いくら待つのは得意だって言っても、7年はないわよ。7年は。小学生が中学生になっちゃうじゃない」
「色々、大変だったんですよ。おかげさまで、宮永照さんに勝つ事が出来ました。今年はね」
久「見たわよ。何回も何回も、テレビのニュースを見ました。新聞も切り抜いて保存してるわよ」
久「あのさ…、昔から言おうと思ってたんだけど、私はもう上埜じゃないのよ。竹井なのよ」
久「まぁ…、上埜って呼ぶのは日本で貴方くらいしか居ないわね。悪い気分じゃないわよ」
久「上埜から竹井。そして竹井から福路かな?責任取ってくれるんでしょ?」
美穂子「勿論ですよ。IPS細胞もありますから♪」
久「って…、貴方を妊娠させるわけには行かないわね。バリバリ稼いでよ?私が妊娠するからね」
久「さぁ、今夜は寝かさないわよ!」
美穂子「喜んで」
終わり
部長は可愛い
Entry ⇒ 2012.11.09 | Category ⇒ 咲-Saki-SS | Comments (0) | Trackbacks (0)
淡「スミレは、テルが好きなんでしょ?」
白糸台の部室にある、一つの個室、一つの棚。
専ら虎姫が使用しているこの個室、その棚には、大量のお菓子が備え付けてある。
甘いお菓子、特に和菓子なんかは、タカミが持ってきてくれるお茶によく似合う。
私はたまに、この棚に細工をする。
開けたら崩れる配置にわざとしたり、そのお菓子を勝手に食べてしまったり。
それをする度に、スミレに怒られる。
私達のリラックスのためだと、部費で購入してくれているこれらの物だ。
部長であるスミレにとっては、悪戯されてはたまらないものなのだろう。
だから、私は悪戯をする。
今日の悪戯は、自分でもなかなかいい出来だと思えた。
下準備に和菓子の包み紙を丁寧に剥がして、紙箱を開封して、中のお菓子を全部食べてやって。
そうして、箱の底に文字を書いて、その文字を覆うように紙を貼って。
適量の重りを入れて、先述の包み紙の、折れた跡に従いつつ包装する。
最後に紙をテープで貼って終了。
なんだか、職人にでもなった気分だった。
中にあった饅頭は、確かに美味しかったけれど。
その具体的な味は、ついに思い出すことができなかった。
「淡、またお前か!」
スミレは強く、しかし元々の冷静さを損なわない態度で、私を叱ってきた。
ううん――叱ってきて、くれた。
だから私も、スミレを真似て、力強く発言する。
「ごめんね、でも美味しかったから許して!」
言い終わる直前に、紙の蓋で頭を叩かれた。
軽いその感触は、撫でられているようにも感じられてしまう。
こんな柔らかい態度が一転したのは、私の、二番目に仕込んだ細工がバレた時。
無理もないよね、底に貼った紙には、こんな言葉を書いたおいたんだもの。
『また騙された、スミレのばか』
スミレがそんな紙箱の底を覗いて、少しだけ硬直する。
叱りの程度が一段階上がると察しても、私は動かなかった。
だってさ。
「お返しだ」
スミレの叱りはいつも、全面的に悪い、私をどこか気遣っているから。
額に走った痛みだって、軽いデコピンによるもの。
こんなの、マッサージの痛みみたいに、ただ気持ちいいだけでしかない。
それっきり、スミレは空になった紙箱をゴミ箱へ捨てて、棚から新しいお菓子を持ってきた。
これでちゃんとした、お茶会の開幕ってわけ。
過去のことはもうおさらば。
あの空箱の底に書いて、隠した、本当の、本心のメッセージ。
私以外は気付かない。
『スミレが好きです』
想いは、それを刻んだ紙箱ごと、捨てられてしまった。
もちろん、こうなることはわかっている。
あの紙箱が捨てられることも、この恋慕が流されることも。
スミレはきっと、テルが好き。
その瞳はきっと、テルの方を捕らえて離さない。
外部の視線は、一目見て受け流すだけだよね、あの紙箱みたいにさ。
私がスミレに見てもらうためには、こういう悪戯を繰り返す他にないと思うから。
だから、私はスミレに悪戯をする。
最近、淡が悪戯をすることが多くなってきた。
今までもそういった傾向はあったのだが、以前は部員に対する、やや強めのスキンシップに留まっていた。
しかし最近は、ある程度実害の生じる悪戯を繰り返してくる。
「また淡か……」
私が呟いたのは、自動卓上を埋め尽くすほどの、麻雀牌で作られた巨大なピラミッドを見てのこと。
こんな無為な行為をする人間なんか、虎姫の中では淡以外はいない。
第一消去法でなくとも、淡がそういった性格であることは、私は重々承知している。
恐らく、他の卓内にある麻雀牌を根こそぎ持ってきて作ったと思われるピラミッド。
まず崩すことも大変で、そして元あった卓に帰すための仕分け行為も大変なことだろう。
「おっはよー」
「お前、さっきも来てただろ」
さも今来た体で入室してきた淡に、第一声から詰め寄るための言葉を送った。
「げ……なんで?」
お前は僅かな変化がすぐ表に出るから、わかりやすいんだよ。
そんなものがなくとも、私はお前が悪戯をしたんだな、と一見で理解できるのだが。
それに、最近の私の行動も変わってきているから、淡が悪戯をしていることなどよくわかる。
「私が最近、いつもより早めの時間に来ていることを知らないのか?」
「え!? い、言ってよ!」
「ああ、今言った」
「屁理屈!」
「だから、お前が悪戯をしているところなんて筒抜けなんだよ」
言った通り、私はこの頃、部室へ向かう時間帯が早くなっている。
部室内外の影にでも潜んでいれば、簡単に淡の尻尾を掴んでやることができるから。
私は部長として、悪戯ばかりする淡を放置するわけにはいかない。
淡の方ばかりを注視して、集中力がかけているこの頃の事情も、これに起因するものだ。
他の三人には、こんな機会もそうないということで、二軍の調整相手を頼んでおいた。
「スミレー……」
懲りたような表情で、なで声を使い助けを求めてくる。
反省をしているかは、怪しいところだが――まあ、いいか。
「……わかったよ」
「やった!」
あんまりに可哀想になったので、それからは、私も一緒になって手伝っておいた。
人に助けを頼んだ癖に、淡は私にちょっかいを出してばかり。
元通りするのに部活動時間の全てを消費してしまってから、淡一人に任せておくべきだったと反省した。
といっても、毎日悪戯をするわけにもいかない。
内容が全く思いつかない日もあれば、部内の活動で芯の方から疲れてしまい、そんな心持ちにならない日も多いもの。
最初はただ構ってもらうためだけに初めた、この悪戯。
最終的には構ってもらえるのに、今ではちょっと凝ったこともしてみたくなるのだから、人間って不思議。
手に入れられないスミレを好きになってしまったことよりも、不思議なことはそうそうないけどね。
ちょっと話がそれちゃったけれど、今日はその、悪戯をする日ではなかった。
かといって、お茶会がある限り、お菓子の出番がなくなることはない。
私達は活動前に、タカミの入れてくれたお茶と、甘いお菓子を堪能していた。
この前は、少しばかりお高そうな饅頭だったけど。
今日はなんてことない、スーパーに行けば普通に手に入る、袋分けのチョコクッキーだ。
スミレはそれを、姿勢を大して崩すこともなく口に放り込んでいる。
私もその様子を、口に広がる甘みを置き去りにしてでも、しかし直視はせずに堪能していた。
いつもこうして、目立ち過ぎないように、表情だけを見つめている。
スミレの隣には、いつもテルがいる。
テルの隣には、いつもスミレがいる。
今、スミレの隣にはテルが座っている。
そんなにくっついたって、二人の表情に淀みは見られない。
当たり前だよね、二人は常に一緒、それが普通なんだもの。
スミレは、私にとっての太陽みたいな人で、必要不可欠な人。
けれどその輝きは、テルと一緒にいる時こそ増しているんだもの。
眩しい太陽を直視するな、なんて、小学生の頃から教わってきた。
それでもやっぱり、私はスミレに夢中で、したくないのに直視してしまって。
すぐに目を逸らしても、やっぱり光は強く、少し焼けた目を潤そうと、涙も出てきそうになる。
その時気付いた一つのことは、私の心中を、どうしようもなく孤独にしてくれた。
このお茶会で心中に影を潜めているのなんて、私だけなんだ、って。
「なにっ?」
そんな気持ちに構いもせず、スミレは私に話しかけてくる。
咄嗟の返答、平常時のようにできていたかは、ちょっと怪しいところだった。
「こぼれてるぞ」
「あ……」
言われてから、握ったクッキーの亀裂が入っているところに気が付いた。
周りを見てみると、私のテーブルの上にのみ、集中して破片が転がっている。
スミレはそれを、指摘したと同時に、何か言うまでもなくティッシュで拭きとってくれた。
その優しさと意識が、私だけに向いてくれればいいのに。
スミレがそうしてくれるのは、決まって私が悪戯をした時。
スミレの意識の中心部には、いつもテルがいる。
なら。
そこに割り込んじゃえば、スミレは私のことを見てくれるのかな?
だから私は悪戯をして、積極的にマイナス面を見せなきゃいけない。
私は菫と帰り道が同じだから、一緒に登下校することが多い。
もともと私は、お喋りな性格でもない。
必然的に部室以外では、菫とばかり喋ることになる。
だからこそ、最近になって気が付いたことがあった。
本人すら気が付かない、細微な変化。
「昨日、自動卓が故障しただろ」
「うん」
「あれは結局、淡の仕業だったぞ。 問い詰めたら吐いてくれた」
「やっぱり?」
「すぐに直してくれたから良かったが、もし見つけられなかったら、私の首が危うかったな」
菫は、喋る量がとても多くなっていた。
菫だって冷静な性格をしているけれど、その事情を除外しても、よく喋るようになった。
それも専ら、淡がした悪戯に関すること。
悪戯の内容を話す菫は、別段嬉しそうにも、悲しそうにもしていない。
それでも私には、菫が多少の嬉しさを内包しつつ話しているのだと、簡単に理解することができた。
私はずっと、菫を見続けてきたから。
最近の菫は、よく淡の方を見つめている。
淡が悪戯ばかりするから、なんていうのは、きっと建前。
本人すら、気が付いていない建前。
菫はきっと、淡のことが好き。
「そういえば、この前二人だけの時は――」
それはきっと、まだ液体のようで、確かな形にはなっていないけれど。
いずれ固まってしまうのは、よくわかることだった。
私は続く菫の話を遮って、衝動的に、間接的な発言をする。
どうして、そんなことをしたのかわからない。
今まで、こんな感情的になったことなどなかったのに。
「最近、淡のことばかり話してるね」
その言葉で、心中に眠る気持ちに気付いたのは、菫よりも、私の方が先だった。
思いついてから実行するまでには、数日の心の準備を必要とした。
でも、いざテルの前に割り込もうと決めた時には、躊躇なんてものはあんまりなかった。
私はいっつも、スミレを困らせるとわかりながらも、悪戯を続けてきたから。
これだって、その延長線上になるものに過ぎない。
その役割が、大きく違うだけで。
「テル、そのお菓子ちょうだい!」
「いいよ」
「やった! あ、じゃあこれあげる」
「なにこれ?」
「この間発売したやつでねえ、すっごく美味しいの」
テルは表情に乏しい人だけど、それでもやっぱり、色々な感情は見え隠れする。
よくお菓子を食べているのも、その表れ。
だから備え付けのお菓子以外に、二人で勝手にお菓子を持ってきて、私達がそれを食べ合うことは、よくあることだった。
テルの表に出す感情は、小動物のように小さい。
スミレがそこに見蕩れてしまうのも、確かに納得できることなのは、よく接している私も理解していること。
だから私は、半ば諦めて、半ば執着して、こんなことをしている。
そして肝心のスミレは、私達を見て、わかりやすく落ち着いていなかった。
私は常にスミレを見てきたから、細微な変化には、長い付き合いであるテルよりも速く気が付く自信がある。
今この時だけは、私は間違いなく、スミレの視界に入ることができていた。
それがテルを経由した"嫉妬"なんて感情であろうとも、私は構わなかった。
「淡、もうやめろ。 そろそろ活動するぞ」
ほーら、わかりやすい。
まだ、いつもの時間より十五分も早いというのに。
お菓子を食べている余裕がないなんて、そんなことあるわけないじゃん。
それをそのまま口にして。
スミレの注意も気にせず、私達は先の行為を続行した。
最も、私がスミレにわざとらしく反抗するなんて、いつものことだけど。
「テル、あーん」
「…………」
でも今日は、ちょっとだけ様子が違っていたみたい。
そういった小さな変化でもなく、大きな変化も発生してしまったから。
「……淡!」
耳に残る反響が頭を揺らして、手には温かい重みがかかって。
スミレの大声と、腕を掴むその手は、私を停止させるのに十全たるものだった。
「え……」
「あ……」
つい漏れた私とスミレの声は、波紋状に広がって、個室全体の時間を止めてしまう。
それでも私の身体だけは、激しく焦燥していた。
血が伝わって熱いはずなのに、不思議と身体の一部が寒くなりもした。
身体の温度が、どの箇所も一致していない。
「菫?」
「……いや、悪かった」
呼びかけたテルへ視線を合わせずに、スミレは正体のよく知れない謝罪をした。
私も、おんなじ。
「悪かった」の一言もないあたり、私のほうが悪質だ。
心中の知れぬまま謝っても、いたずらに疑念を増やすだけなのに。
そうとわかっていても、何も口にすることができない。
それはきっと、スミレも同じことだった。
スミレは、弁明の言葉を何も口にしてくれない。
口にすることをしてくれないから、できないから。
”スミレはテルのことが好き”で"私に嫌悪感を抱いたから叱った"んだって、そう、決まってしまった。
カルチャーショックにも似た、何かを体験した。
少なくともその体験が、今まで私の中に存在していた常識を、尽く破壊していったことには違いない。
そのショックというのは、私ではなく、淡から引き起こされたもの。
しかしショックの対象は、淡に対してではなく、むしろ自分自身に対するもの。
私はいつものように、放課後となってから、何かするまでもなくすぐに部活へ足を運んだ。
淡のために作り出したこのリズムも、もう慣れたものだった。
淡が来ていないらしいことを確認した後、部室へと入室し、多少散らかった箇所を整理する。
「おはよう、スミレ」
不意の声に、肩の力を乱される。
それが淡の声であると気が付いてから、その乱れは簡単に静まってくれた。
収まってからは、逆に安堵すらしたものだ。
私が先に部室へいたのならば、さすがの淡も悪戯など仕掛けようと思わないはずだから。
そう思うと同時に、今までなぜ自分がこそこそと影に隠れて尻尾を掴む、などといった遠回りをしてきたのか。
そのところが不思議に思えてしまったのだが、私は結局、その答えを見つけられていない。
淡はそのまま、大人しく室内のソファーに座った。
その落ち着いた様が、とても不相応に目に映った。
もう少し、言ってしまえば、子供のように振る舞うのが淡の普段の姿だというのに。
私も簡単な整理整頓だったため、すぐに終わらせてからは、しばらく淡と過ごすこととした。
「うん」
棚から持ちだした多少の菓子を手に持って、それをソファー前のテーブルに置いて。
私はそのまま、ゆっくりと淡の隣に座った。
ただ、それが一番不自然でないから、そうしているだけで。
このソファーと向かい側にもう一つ同じソファーがあったのなら、私はきっとそちらに座ったことだろう。
そんなの、ただの例え話でしかないか。
淡の様子がいつもと違うと感じたのは、一時の勘違いではなかったらしい。
いつもなら、私に対してよく喋り、軽い悪戯くらいなら、私の目の前だろうと容赦なく実行するのに。
今は静かな横顔だけを、私に見せつけている。
何の考えなしにした発言。
その発言は、思わぬ自体を引き起こすこととなった。
「……ねぇ」
「なんだ」
「スミレは、テルが好きなんでしょ?」
唐突で衝撃的な内容を、しかし淡は顔色一つ変えずに呟いた。
不意に声をかけられた時のように、身体に少量の電流が走る。
僅かな痛みを感じるところだけが、その時と違っていた。
「なに、言ってるんだ……」
自分でも、どうしてこう錯乱しているのかわからない。
混乱の末、私はついに、場を繋げる役割を淡に丸投げしてしまった。
「ううん、なんでもないよ……ねえ、スミレ?」
「……なんだよ」
さっきから、こればかり言っている気する。
体験したことのない鼓動の音は、それだけ私の思考を奪っていたのだろう。
「は……?」
また、思考が奪われる。
私の脳内は、とっくに処理能力を失って、ただただ淡の挙動に左右されていた。
それに、どういうわけだろうか。
淡の、その言葉。
身体から温度を離脱させるような、とても冷たい言葉にも聞こえてしまったのは。
「だから、これが最後の悪戯」
淡の表情が、少しだけ変化したけれど、どういう変化かは確認できなかった。
そうする前に、淡は私の唇に、口付けをしてきたのだから。
制服の内側に熱が篭る。
過剰な鼓動を止めようとしても、頭を動かそうとしても、極端な緊張に遮られてしまう。
今の私みたいなことをされてしまえば、こんな熱は誰でも出しうるもの。
そう、思いたかった。
私を見つめた淡も、私と同じくひどく赤面していて、指は震えていたようにも思う。
それでも、淡のほうがいくらか、いいや、ずっと冷静な状態だった。
変化ばかりが起きたこの時間、錯乱していたのは、私だけ。
淡が出ていってから、頬に手を当てて、顔の熱くなっていることを再確認する。
そうして、下唇を人差し指で軽く触れてもみた。
また、顔が赤くなる。
瞬きすることすら忘れて、キスをされたその時のように、長い時間呆けていた。
私の意識が戻るのは、次に照が入室してきた時だった。
あんなに淡のことを喋っていた菫が。
あんなに淡の方ばかりを見ていた菫が。
今日はいやに大人しくて、期待のような、不安のような、混濁した感情が湧いてきてる。
表面上の理由は、淡が欠席したことだと思う。
見つめる先がいなければ、視界に入るも何もないから。
でもそれは、恐らく上辺だけの理由。
でなければたった一日で、ここまで劇的な変化が起こるわけがない。
この様子は、部活が終わっても変わることはなかった。
私もよく喋る性格はしていないから、私達はただ黙って、やや冷えた部室で部活動の余韻に浸っている。
「今日は、淡のこと喋らないね」
空気を温めるための発言には、無意識に"淡のこと"だなんて、余計な一文が付け加えられていた。
そんなつもりは、本当はなかったのに。
「どうして、そんなこと言うんだ」
菫の声は、いかにも辛辣そうだった。
私の方を見ずに、床の方ばかりを向いて、意識が半分、どこかに飛んでいる。
私のことは、身体でも精神でも見つめてくれていないことをアピールするように、ただ下を向いている。
「……かも、しれないな」
「何かあったの?」
数秒置いてから、菫は喋ってくれた。
その内容の裏には確かに、菫の本心が隠されていた。
本人も気付かないほど、巧妙に。
「なあ、照は……淡のこと、どう思ってるんだ?」
そう――淡が好き、という本心。
菫と淡との間にどんなやりとりがあったか、すぐに理解することができた。
でもその光は、私のための光ではなくて、菫と、淡のための光なんだろう。
「逆に菫は、淡のことをどう思ってるの?」
「……私は、お前に聞いてるんだ」
実に苦しそうな返答だった。
それを見て確信してしまった自分が、憎い。
憎くて、でも、嬉しくもある。
そっか。
私のやるべきことは、もう決まっていたんだ。
完全に二分されていた、私の感情――最後に選択したのは、緑色の嬉しさ。
私が、やらないといけない。
菫に、"自分は淡のことが好きである"と、気付かせてあげないといけない。
「私は、菫が好き」
それが私の、弘世菫の友達としての役割。
「え……」
菫はわかりやすく動揺していて。
同時に、冷静さだけは、その身体から手放してはいなかった。
「好きだよ、菫」
私は菫が苦しんでいるだけで、こうも冷静さを放棄できるのに。
後の言葉を待ち構えているだけで、気が狂いそうになるのに。
菫は私に感情的になれない。
それの意味するところなんて、ずっと前からわかっていたこと。
わかっていなかったのは、菫だけ。
でも今はもう、わかったでしょ?
「返事は?」
自分の声が震えている、これだって、きっと私しかわかっていない。
「わからない、たぶん、私は……」
ううん、わかっている。
たぶん、でもない。
言葉にしていない、してくれないだけで、菫はもう、自分の心に気が付いているから。
「私は?」
「……照のことを、恋愛の意味では好きじゃない」
今の私にできることは、できる限り平静を装うことだけ。
菫が知っている、宮永照を装うこと――それは全部、菫のため。
「そっか」
「……悪い」
「別に、わかってたから」
外から聞こえた強い足音が、私の心を一瞬だけ誤魔化してくれたけど。
その先にあるものを想像してみると、覚悟していのに、ちょっとだけ胃が苦しくなった。
「行かなくて、いいの?」
そんな、状態――言われてすぐに、泣いていることに気が付いた。
最初は、堪えるだけでやり通そうとしたけれど、次第にそれもできなくなる。
普段の自分を脱ぎ捨てて、制服の袖を使ってでもいい、静かに泣きじゃくりたい。
菫はすぐにハンカチを貸してくれた。
なんとか泣いていないと言い張れるようになった頃には、薄いハンカチは、液体と相違ないほどに濡れてしまっていた。
私は、その優しさも好き。
けど、今は私に向けられるべきものじゃない。
ここにいるのは、弘世菫の友達の、宮永照しかいない。
「じゃあ、言い方を変える……どっか、行って」
だから菫には、友達として行動してほしい。
私の気持ちを、無駄にはしないでほしい。
「……すまない」
最後に吐いてしまった、ちょっとだけ乱暴な言葉も、菫は許してくれた。
そうして、すぐに飛び出していく。
後悔が無いといえば、嘘になるかもしれない。
少なくとも、片思いをしていた宮永照としての後悔は、ある。
けど私は、弘世菫の友達として、行動したつもりだから、それで構わない。
きっと、大丈夫。
残った私を、菫はちゃんと友達として扱ってくれるから。
それは付き合いの長い私が、誰よりも知っていることでしょ?
なんでだろう。
私がこうして、一目散に逃げているのは。
何かが怖くて逃げているのは、わかる。
何が怖いのだろう?
私に振り向いてくれないスミレ?
それとも、スミレの親友である、テル?
私は、私が怖くて逃げているんだ。
スミレとテルの仲を直視できなくて、スミレを怒らせてしまった、私自身が怖い。
振られてしまったら崩れてしまいそうな私と、そんな覚悟を決めて告白もできない私の、両方が怖い。
テルが告白して、スミレが受けてしまう現実を見たら、錯乱してしまいそうな自分が怖い。
その事実は、私の足音を一層強くするものだった。
階段を降り続けて、どこかの踊り場に出ようとした時。
足の早さが段差とがずれて、転げ落ちてしまった。
その様が惨めで、痛みも一緒になって、私を惨めだと責め立てていた。
私はどうして、こんなにダメなんだろう。
だからスミレに見つめられなくて、だから遠回りなことをして。
告白もせず、逃げて逃げて逃げて。
結果、こんなことになる。
喉から、何らかの意志が出ていこうとするけれど、支えて出すことができない。
吐けば、楽になるのに。
苦しみが何分続いたかわからない、もしかしたら、秒で数えられるほどかもしれない。
時間の経過も忘れた頃。
不意に肩へ、他の誰とも違う温もりが流れた。
「……こんなところにいたのか」
――スミレ、どうして、いるの?
追って、こないでよ。
触れた手に気が付いて、すぐに姿勢を直立に戻す。
こんなことをしても、何の足しにもならない。
それでも私は、スミレの前で、みっともなく床に臥している気にはなれなかった。
「何、スミレ……っ」
私がただ一言発するのにも、大変な苦労があったのに。
スミレは急に私の肩を抱いて、その苦労を全て砕いてしまった。
残留していた強がりで、少しだけ抵抗もしてみたけれど。
それも虚しく、再び意識した頃には、私はもうすっかりスミレに身を任せていた。
もう無駄だと理解したのか、この時間がずっと続けばよかったのか。
どう思ったのかは、自分でもわからない。
「泣いて、ないよ……」
空元気を振り絞って、口だけ、精一杯の抵抗をする。
こんな涙混じりのものも、スミレには通じなかった。
「お前は嘘をつく時は、いっつもそういうことを言うな」
「……言わないよ」
「私が何回、お前の悪戯に付き合ったと思ってる」
私とスミレの身長差。
胸の方から伝わってくる鼓動音は、私を安静にさせる音。
無理矢理に留めていた涙が、栓を失って、私の頬を濡らしてきた。
頭に伝わる温もりが、少し強くなった。
どうしてこんな、独りで勘違いをしていたんだろう。
スミレはこうしてずっと、私のことを見てくれていたのに。
本当にスミレのことを見ていなくて、盲目の恋をしていたのは、私の方だったんだ。
スミレのそれが、私だけに向けられていないことくらい、わかってる。
わかりたくない、わかりたくないけど、わからないといけない。
全身を包む暖かさは、歯を食いしばって抑えることにした。
これに溺れたら、私はまた、スミレに迷惑をかけてしまうかもしれないから。
スミレがどこを見るかなんて、スミレの自由だよね。
告白の言葉を投げかけて、自分の悪戯からけじめをつける儀式をする。
でも。
「淡、好きだ」
それすらも、スミレに包まれてしまった。
一瞬、心臓がひどく跳ねて、全身の細胞が入れ替わったのかと錯覚もした。
動こうとしても、信号が身体に出せない。
私はスミレの鼓動音を聞き入れながら、激しいその音に気が付いて、顔をひどく赤くしていた。
「すまない、少しこうさせてくれ……」
また一つ、強く抱きしめられる。
反射的にスミレの顔を見上げてみると、その顔は真っ直ぐで、どこか遠くを見ていて。
けれど不思議と、その視線の先では、私の姿を見つめてくれている気がした。
「……嘘つき」
「嘘じゃない」
歓喜に緊張に焦燥に、後は、不安。
湧いて出たそれらの感情を押さえ込めるために、振り絞ってした発言。
私達は互いに顔を真っ赤にして、別の方を向いて、鼓動の音のみを向かい合わせていた。
「スミレは、テルのことが好きなんでしょ?」
自傷と何ら変わりない発言でも、言わずにはいられなかった。
"宮永照でなく、大星淡が好き"
その言葉を聞かなければ、どうしても安心することができなかった。
私は、すぐ逃げるような臆病者だから。
その痛みを和らげてくれたのも、スミレだった。
私はいつだって、スミレの行動に、言葉に、頼り切りらしい。
「違う、お前が好きだ、淡」
私の体温は、一度冷えた時よりも、ずっと上昇している。
首や脳にも心臓ができたかのようで、ひどい赤面具合だったと思う。
靄すら見えてきた視界に、筋肉のなくなった身体。
抱擁された状態から逃げられなくなって、逃げたくもなくなっていた。
こんな私を唯一支えているのは、スミレの前で常に見せていた、悪戯好きで生意気な、大星淡という一つの自我。
スミレが「好き」と明言してくれた自分だけは、どうしても気絶させたくない。
だから私は、倒れかかった自我を再起動させて、スミレにまた、悪戯らしいことをする。
実際私だって、そんな度胸はなく、スミレの身体のパーツ一部すら見つめられていない。
その発言をしてから、スミレの、私に負けないほどに赤面した表情を見つめた。
私達が互いの顔を直視したのは、ほぼ同時の出来事だった。
「好きだ、淡」
「……もう一回」
「淡、私は、お前が好きだ」
「もう、い、いっかい……」
多幸感に包まれて、気がつけば、スミレを見つめたままに涙を流していた。
視界がぼやけていたのに、目の前にいるスミレだけは、しっかりと見つめることができていた。
「……キス、するから」
私は何も言わずに、黙って、顎に手を添えられて。
最初から最後まで、余すところなくスミレに抱擁されながら、だったけど。
私達の外れた瞳は、お互いの全てを見つめることに、やっと成功することができた。
要望もらった淡菫。
固い文章とぐだぐだでごめんなさい。
すばらです
すばらです
Entry ⇒ 2012.11.08 | Category ⇒ 咲-Saki-SS | Comments (0) | Trackbacks (0)
久「見つめ合うと素直にお喋りできない…」
久「うーん」
久「うむむ」
久「うがー」
ゴロゴロ
久「あーもう!電話かけるだけで、何でこんなに緊張するのよ!」
久「ってか初期アドレスか…。迷惑メールとか多そうね」
久「ぐぬぬ…」
久「えぇい!通らばリーチの精神よ!」
プルルル、プルルルー
久「なかなか出てくれないわね…。やっぱり私からの電話とか、迷惑なのかしら?」
久「後、20秒待って出なかった、また今度にしよう…」
ドキドキ…、ドキドキ…
ガチャ
久「出、出た!?」
池田『知ってるし、竹井さんだろ?名前くらい液晶に出てるし』
久「池田さん!?なんで貴方が、美穂子の電話に出て来るのよ!」
池田『色々あるんだし。キャップー、清澄の部長からですー』
池田『この電話マークついてるボタンは押さないで下さいし。電話が切れますから』
美穂子「わ、わかったわ!」
久「あっ…私、清澄高校麻雀部の竹井久です。この前の合宿ありがとうね」
美穂子『いえいえ、こちらこそありがとうございました。風越も有意義な時間を過ごせました』
久「それでね…。ぜひ…、合同合宿を引き受けてくれたお礼に個人的なお礼がしたいのだけど」
美穂子『お、お礼ですか!そんなに気を使って貰わなくて、結構ですよ!私達も勉強になりましたし』
久「そ、そうよね!お礼とか堅苦しくてごめんなさいね!」
美穂子『・・・』
池田「キャップ、駄目ですし。そこは遠慮する所じゃありませんよ」
未春「そうですよ。勇気を出して電話して来てくれたのに、遠回しに断るなんて」
久「じゃあ…、またいつか練習試合でも…」
美穂子『ま、待って下さい!』
久「えっ?」
美穂子『わ、私がお礼したいんです!』
美穂子『はい…、今度の日曜日にもしお暇なら…』
久「うん!暇!すごく暇!部活だって中止にしちゃう!」
美穂子「それはちょっと…」
・
・
・
久「じゃあ、私の見たい映画に付き合ってくれるって事?」
美穂子「はい、上埜さんが見たい映画でいいですよ」
久「もう上埜じゃないのだけどね」クス
美穂子『はい、楽しみにしてますね』
ガチャ、ツーツー
久「・・・」
久「・・・むふ」
久「やったーーーーーーー!!きたーーーーーーー!!電話して良かったーーーーーー!!」
ゴロゴロ
久「うひひー、これよーこれよー。これこそが高校生の青春よー」
久「こうゆう時に頼りになりそうなのが…」
久「咲。駄目ね。本屋なら詳しそうだけど…」
久「優希。食べ物の事なら詳しいだろうけど…」
久「まこ。むしろ雀荘以外で、見かけた事ないわね…」
久「和。うん、あの子しか居ないわね!この時間ならネトマにログインしてるはず!」
和『部長…じゃなくて、ひさっちじゃないですか、珍しいですね。ネトマに現れるなんて』
久『実はね、相談があるのだけど』
・
・
・
久「とゆーわけで、恥ずかしながら、人生で初めてのデートなのよ///」
和「へぇー、それはおめでとうございます」
久「で、後輩に聞くのは忍びないんだけど、こんな時に頼りになりそうなのが和くらいしか居なくて」
和「私も恋愛経験が豊富なわけではありませんよ」
久「でも博識じゃない」
かなりいいな
久「ホントに!流石ね!」
和(咲さんとの妄想デートルートが、私には108式ありますからね。一つくらい部長に譲りますよ)
和「デートの前に、部長の洋服からですね」
久「ユニクロとシマムラでしか買った事ないわよ」
和「あの…、お化粧品とかどこで買われてますか…」
久「100円ショップの使ってるけど?」
久「ひどい!?」
和「土曜日に、私が服とお化粧品をアドバイスしますね。予算はどの程度ですか?」
久「ちょっと、待ってて」
ガチャーン!パリン!
久「ひーふーみー…、二万円くらいあるかな?」
和「二万…。デートで一万円使うとして、一万円くらいですかね」
久「デートって一万円も使うの?」
和「今回は部長の奢りですよ。まさか福路さんに出させるつもりですか?友達と遊びに行くんですか?」
久「むむむ、確かに友達同士だとワリカン。デートだと奢りってイメージがあるわね」
和「これは必要投資です。麻雀でも、聴牌目指してドラを捨てたりする事もありますよね」
久「そうね。ドラも要らない時は捨てないとね」
久「おっけー。この借りはいつか返すわ」
和「はい、いつか楽しみにしてますね」
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土曜日の夜
久「あぁ…、重いわね…。よくこんなにも買えたものね」ドッサリ
久「でも、和には感謝しなくちゃね。ふふふ、明日がいよいよ本番だわー」
久「さて、買った化粧品を一度試してみましょう」ペタペタ
久「うぅ…、あんまり寝れなかった…」パチパチ
久「こんな事、今まであったかしら?麻雀の大会前日とかは、グッスリ寝れたような気がするのだけど」
久「目にクマが…。でも化粧で隠せるみたいね。良かった」ヌリヌリ
久「うん、ばっちし。流石、和ね。こんな事態も想定してたのかしら?」
久「さて、次は服っと…。和が選ぶのはフリフリの服ばっかりなのよね…。流石にこの年になってそれは恥ずかしいから、普通のジーパンと高かったシャツ」
久「うーむ、ちょっと男の子っぽいけど…。まぁ、いいか。しかしこのシャツ高かったわね。一枚で5000円って…」
久「そして…、大事のがこれ!ブレスケア!」
久「和が、万が一にキスする事になって、息が臭かったらそれだけでチョンボですよって言うから///」
久「でも、まだ告白もしてないのにキスとか、早過ぎるわよね。まぁ和のお守りみたいな物だと思いましょう」フフフ
久「さて二時間前ね。一度、今日のデートコースを下見しときましょう」
久「あっ、香水つけるの忘れてた。普段、つける事無いから危なかったわ」プシュープシュー
久「我ながら完璧だわ。麻雀で言うと五面待ちくらいあるわね」
久「和が、待ち合わせ時間まであのミスドで過ごすといいですよって」
久「なるほど。ここなら、待ち合わせ場所が見えるから、美穂子が現れたら、すぐにわかるわね」
和『ちなみに福路さんが着いたら、必ず今来た所って言うように!』
久「ふふふ、それくらい私にもわかってるわよ。さて、待ち合わせ時間まで後一時間。音楽でも聴いてましょう」
美穂子「上埜さんは…、まだ着いてないみたいですね…。良かった」ホッ
久「おっ、流石優等生。しっかり15分前行動かぁー。後、可愛いオーラがすごいわね。遠目で見ても、この辺で一番カワイイ」
久「へんな男にナンパされないか心配だわ。急ぎましょう」ガタッ
久「ごめんなさい!待たせてしまったかしら?」
美穂子「いえいえ、私も今着いた所ですから」
久(あっ!?しまった!私の台詞を言われてしまった)
和『まず福路さんがどんなカッコでこようとも、服装と髪型を褒めましょう』
久「えっと…えっと…その…、今日は天気が良くてとても映画日和で…」
美穂子「ふふふ、上埜さん。今日はオシャレな服ですね。麻雀だけじゃなくて、私服もカッコいいですよ」
久「は、はぅ///あ、ありがと…」
久「・・・」ボー
久(しまった…。頭が真っ白になってしまった…)
美穂子「さぁ、行きましょうか」テクテク
久「・・・」テクテク
久(美穂子との距離が、10cmくらい。これが今の私達の距離なのね)
久(はぁ…、手を繋いだりとか出来るといいけど)
モモ「せーんぱい。手、握っていいっすか?」
ゆみ「あぁ、いいぞ。でないとモモと見失うからな」ギュッ
久(あれぇー、あんな所にゆみとモモちゃんが居る)
キャップの肩をちょっとだけ、ツンツンしただけです
美穂子「はい?あっ加治木さんと…」
久「よく見えないけど、一年の子ね。あの二人、手を繋いでるけど付き合ってるのかしら?」
美穂子「さぁ?それはわかりませんけど、手を繋ぐくらい私も後輩とよくしますよ」ニコッ
久「ええっ!?池田ァ!?」
久「あっ・・・あのっ!」
美穂子「はい?」ニコッ
久「///」カァー
久(駄目!美穂子が、開眼してるから正面向いて、お喋りが出来ない!)
美穂子「なにか?」
久「えーと、そのアレよ。アレ。先日の、赤土プロのデビュー戦の話よ」
美穂子「はい、見ましたよ。すごかったですねー。負けはしましたけど、いい麻雀でしたね」ニコニコ
和『沈黙はNGですよ。とにかく喋って、喋って、喋りまくって下さい』
久「うーん、難しい。優希やまこ相手なら、そんな事感じた事ないのに」
美穂子「ところで、どんな映画見るんですか?」
美穂子(上埜さんだと、アクションとかファンタジー映画でしょうか)
久「あっ…この恋愛映画を…」
美穂子「へぇー、イメージと違いますね」
久「えっ!?この映画、駄目だった?」
美穂子「いえいえ、未春が感動したって言ってましたから、私も見たいと思ってましたよ」
美穂子(ホントは北野監督の映画見たかったけど、言えませんね)
美穂子「すいません、大人二枚下さい」
睦月(店員)「うむ」
久「あれぇ…ないわね。おかしいな。何度も確認したのに」ガサゴソ
美穂子「上埜さん、はい。チケットです」
久「へっ?ありがとう、お金、今払うわね」ガサゴソ
美穂子「いいですよ。私のお礼ですから、私の奢りです」ニコニコ
久(こうなったら、和に緊急電話よ!)
久「ごめん、私。ちょっと電話してくるわね」
美穂子「はい、どうぞ。私はここで待ってますね」
久「とゆーわけなのよ。和」
和「なにしてるんですか…。とりあえず、この後、ポップコーンとジュースくらい持って帰えるくらいの気を利かせて下さい」
久「聞いた方が気が利いてるわね」テクテク
久「ただいま。ごめんね、長電話で」
美穂子「いえ、いいですよ。上埜さんはよくコーラ飲んでましたよね?コーラとポップコーンを買って来たのですけど、ご迷惑だったでしょうか?」ニコッ
久「へぇー、気が利くわね…ってえっ?」
美穂子「なにか?」ニコニコ
久「い、いや。ありがとう///」
ここからもキャプの妄想
美穂子「うふふ」ニコニコ
和『泣けると評判の映画ですから、映画が終わったら必ずハンカチを差し出してあげて下さいね』
・
・
・
映画終わり
久「えぐっ…、えぐっ…」ポロポロ
久「なんで主人公は浮気ばっかりして、ヒロインの子は精神病院に隔離されなきゃいけないのよ」ポロポロ
久「こんなのおかしいよ、間違ってるわよ」ポロポロ
久「ふぇ?」
美穂子「安物のハンカチですけど、顔を拭いて下さい。せっかくの美人が台無しですよ」
久「ありがとう」チーーーーーン
久「あっ、鼻をかんでしまったわ!?」
美穂子「安物ですから、気にしないで下さい」ニコニコ
久「ごめんなさいね。弁償するから…」
美穂子「いいえ、弁償なんてとんでもない」
美穂子「どうしたんですか?元気ないですね?」
久「いやぁ、麻雀って思い通りに手が進まないと、疲れちゃうわねって思ってさ」
美穂子「そうですね。でも上埜さんは例え待ちが悪くても、諦めないじゃないですか」ニコッ
久「麻雀はね…。そっちの方が得意だから…」
ポタポタ、ポタポタポタ
久「やだ…、雨!?」
美穂子「あっ、私、折りたたみ傘持ってますよ。でも、結構降りそうだから、雨宿りしませんか?」
久「そうね!」
美穂子「ここから遠くない所に、無人のバス停があります。屋根もついてますし」
久「わかった、走るわよ!」
美穂子「はい」
ザーーーーーザーーーーー
美穂子「山の天気は変わりやすいですからね、仕方ないですよ」
久「でも美穂子が折りたたみ傘持ってたおかけで、ほとんど濡れずに済ん…はっ!」
美穂子「ちょっと…、濡れちゃいましたね。服を絞った方がいいかしら」ビチャビチャ
久(最低だ…私。美穂子の事なんか全く気にしないで、ただガムシャラに走ってた…)
和『へぇー、ロマンチックですね。いいですねー、女の子はそうゆうシチュエーションに弱いですし』
久『でしょー。もうそうなったら押せ押せよ!』
和『はいはい、まだレストランの予約もしてないですよね。結構、人気ありますよ?あそこって』
久(無理!無理無理無理無理!今さら、どの面下げて、ご飯なんかに誘えるの!?)
久(告白?玉砕もいい所だわ…。)
久(もうヤダ…、今すぐ帰りたい)
久「はぁ・・・」ションボリ
久(それに比べて美穂子はすごいわね…。風越の麻雀部って部員何十人居るんだろう?)
久(それをまとめあげる美穂子。池田さんの話では、洗濯とかも三年生で唯一するらしいし…)
久(清澄は…)
京太郎「もー、洗濯くらいしましょうよ!」
久「えっ、ヤダ。手が荒れるじゃない」
優希「私、洗濯なんかした事ないじぇ」
久(女子力ゼロ!)
久(私が普通に恋愛なんて出来るわけないじゃん!)
久「しかも…相手は極上の高嶺の花ね…」チラッ
美穂子「ちょっと、服を絞りますから、こっち見ないで下さいね///」ヌギヌギ
久「あっ、ピンクのブラ」
美穂子「み、見ちゃダメですよ!」
美穂子「・・・まぁ、同性ですしね。見られても、私が恥ずかしいって事くらいですが///」
久「おもち…、大きくて羨ましいわ」
美穂子「上埜さん!?」
久「ごめん!つい、本音が」ペコペコ
ドクン!
久(しかも欲情してしまった…。なんて最低なの…。私)
美穂子「えっ…はい」
久「美穂子は蒲原さんの携帯番号わかるかしら?」
美穂子「携帯電話には華菜に登録して貰いました。しかし、私は携帯電話を持ち歩かないので…」
久「あぁ…、そうだったわね。電話以外の機能を使うと壊れるんだっけ?」
美穂子「はい…。昔から電化製品は苦手で。携帯もよく壊してしまいます」
美穂子「えっ…、蒲原さんに悪いですよ」
久「えぇ、確かに。無理だったら仕方ないけど…」
美穂子「まだデートも終わってませんよ?私、おいしいパスタ屋さんを知ってます。良かったら、この後晩御飯も食べに行きましょう」
久「ごめんなさい。無理。もう、私歩いて帰るから…」ポロポロ
久「別に濡れてもいいわよ…」
美穂子「風邪を引いてしまいます!」
久「大丈夫よ。もう三年生で引退もしたし、風邪引いても誰にも迷惑かけないわよ」
美穂子「私が迷惑です!」
久「そうよね。ごめんね。今日は、付き合わせちゃって。見たくもない映画でつまんなかったでしょ?」
久「…嘘は辞めてよ。私なんかと居るより後輩とかと居る方が楽しいと思うわよ」
美穂子「そんな事、私が一度でも言いましたか?」
久「…顔を見ればわかるわよ」
美穂子「わかってない!全然、わかってくれてませんよ!上埜さんは!」
久「美穂子は私と居ても、つまんない!退屈!そう思ってるんでしょ!?」
パチン!
久「ッッ!?」
久(えっ…、私、今叩かれた?)
美穂子「…」ポロポロ
美穂子「この服は、後輩のオシャレな子にアドバイスして貰って、買いました!」
美穂子「映画に行くのがわかってから、映画館周辺も調べました!おいしいパスタ屋さんも教えて貰いました!」
美穂子「ま、待ち合わせ時間も早く来すぎてしまって…、三時間も前に着きました…。時間潰すの大変でしたよ」
久(そっか…、美穂子も私と同じだったんだ…)
美穂子「夜も寝付けなくて…」ポロポロ
ゴシゴシ
美穂子「ふぇ!?」
久「あら、キレイな瞳なのにでっかいクマが出来てるわよ」
美穂子「お化粧で、誤魔化せると思ってたんですが…」
久「見て、私も」
美穂子「あらー、上埜さんにもクマさんが。寝てないんですか?」
久「おかげ様でね。私も緊張しちゃって…」
美穂子「私にですか?」
久「…うん。好きな人と初デートだからね」ボソッ
久(聞えてなかったか…。よーし、こうなったら言っちゃえ!)
久(私の地獄単騎待ち!きっと、上がり牌は、一つしかない!他の誰かが持ってるかもしれない、王牌に埋もれてるかもしれない…)
久(でもこっちの方が、上がれるような気がするのよね!)
部長が予約してたレストラン
和「部長、遅いですね。もう予約時間過ぎますよ」モグモグ
咲「ホントだねー。けど、告白シーンを盗み聞きなんて良くないよー」モグモグ
和「とか言いつつ、咲さんも来てるじゃないですか」モグモグ
咲「いやー、私も気になってね」モグモグ
咲「ふーん。京ちゃんが私に麻雀で勝つ確率くらいじゃない?」
和「ですね。須賀君が宮永照さんから役満をロン上がりするくらい」
咲「私、お姉ちゃんから役満直撃を貰った事はあるけど、やった事はないなー」ハハハ
和「部長本人は、四暗刻地獄単騎待ち上がるくらい難しいって言ったんですよ」
咲「ないね。せいぜい国士無双13面待ちくらいかな」
和「ですね。まぁ、どこで告白しても成功しますよ」
和「ところで、咲さん。私、ずっと咲さんが好きなんですけども?」
美穂子「///」カァー
久「返事無しね…。ごめんね。告白なんかしちゃって」ペコリ
久「いやー、いい夏の思い出が出来た!青春ってこうよね!」
久「美穂子は、美人で頭も良くて気も利くし、どんな人でも選びたい放題よね…」
久「さぁて、負け犬は、雨の中走って帰るか…」グスングスン
和「忘れて下さ…いえ、やっぱり大好きです。友達としてではなく一人の女として、雀士として」
咲「うん、ありがとー。私もずっと好きだったの///付き合およ」
和「ファッ!?」
・
・
・
ガシッ
キャップ、部長の右腕を掴む
久「・・・なに?離してよ」
美穂子「・・・」フルフル
久「じゃあ、何?ずっと友達で居て下さい?それとも他に好きな人が居ますとか?」
久「同性に告白されたのがそんなに気持ち悪かったわけ?」
久「ごめんって言ったじゃない!私だって、頭おかしいと思うわよ!共学だけど、毎日美穂子の事考えちゃうんだもん!」
久「美穂子と同じ学校だったら…、美穂子が男だったら…」
久「色んな妄想したわね。気持ち悪いでしょ?」
美穂子「・・・」フルフル
美穂子「私の目を見て下さい」
久「嫌よ。美穂子の目、キレイ過ぎて、正面から見つめると照れちゃうの。私が一番美穂子のパーツの中で好きな部分なのよ」
美穂子「・・・」カイガン
美穂子「見て、久」
久「ったく、しょうがないわね」クルッ
ハムっ!
久「ッッ~~~~~~~!」
むちゅーーーー
美穂子「もう一回しませんか?///」
久「だだだだだ、だって、キス?えっ?私の口と美穂子の口が触れ合ったわけ!?」
美穂子「これから何度だって、しましょう。まずは、もう一度」ズイ
久「息が臭いかもしれないから、ブレスケアさして!」
美穂子「却下です」
・
・
・
和「咲さん、我慢出来ないので、そこの障害者用トイレで、イチャイチャして帰りましょうよ」
咲「えっ…ヤダよ」ドンビキ
久「明日は、美穂子とデートだっけ?あー、オシャレ?ないない、必要ない」
久「いけない。化粧するの忘れてた。まぁいっか。ふぁあー」
久「パチンコのイベント日なのよねー。美穂子は一円パチンコでも座らせときましょう」テクテク
久「待ったー?」
久「いいじゃない。それくらい。あら、髪型変えたの?」
美穂子「久とのデートですからね。美容院で気合入れて来ました!」
久「ご苦労さん。流石、私の嫁」
美穂子「久もちゃんとすれば、美人なのに…」
久「んー、そのうちねー」
美穂子「手、繋ぎたいです。いいですか?」ギュッ
久「嫌だって、言っても繋ぐんでしょ?」ギュッ
美穂子「もちろんですよ!」
終わり
一理ある
乙乙
部長はダメ人間な方がいい
Entry ⇒ 2012.11.07 | Category ⇒ 咲-Saki-SS | Comments (1) | Trackbacks (0)
衣「りゅーか!」竜華「ほんまこどもみたいやな」クスクス
竜華「はいはい、、今日は何して遊ぶん?」
衣「麻雀!」
竜華「…またかいな」
竜華「衣はほんまに麻雀がすきやなぁ」フフッ
衣「…嫌か?」
竜華「…たまにはトランプとかどうやろ?」
衣「!?」
竜華「ババ抜きとか、大富豪とか、ぽー…」
衣「ダメだりゅーか!!」
竜華「?」
衣「トランプは今日はもういい!!」
竜華「…どうしたんや衣?」
竜華「キャッチボールか…、たまにはええなぁ…」ふむ
衣「よしっ!りゅーか、キャッチボールしに行くぞ!」
竜華「ほんじゃあそうしよか、お弁当も持っていっとこか…」
衣「わーい♪りゅーかとキャッチボールだー♪」ぴょんぴょん
竜華(ほんまこどもみたいやな)フフッ
衣「いくぞーりゅーかー!」手ブンブン
竜華「ばっちこいやでー衣ー」手ブンブン
衣「いっくぞー…え~い!」
ころころ~
ぱしっ
竜華「ナイスボールや衣!」
竜華「ほんじゃあいくで~衣~」ぽーい
ぽーんぽーんぽーん
衣「うわっ!バウンドしてるぞりゅーか!?」うわわ
ぽーんぽーんぽーん
衣「うわっ!」(目つぶり)
ぱしっ
衣「ううっ…、あれっ?」ぱちっ
竜華「ナイスキャッチや衣!」パチパチ
衣「りゅーか、りゅーか!取れたぞ!」おぉ~
衣「見てたかりゅーか?」うわ~
竜華「ちゃんと見てたで衣、すごい上手やな衣は」フフッ
衣「えへへ~っ」てれてれ
竜華「ばっちこーい!衣ー!」
衣「…それーっ!」ぽーい
ころころ~
ぱしっ
竜華「ナイスボール!衣!」
竜華「ほんじゃあうちも…それっ!」ぽーい
ぽーんぽーんぽーん
衣 竜華「!?」
竜華「衣!あぶない!」
コツン
竜華(ボールが頭に…)
衣「…だっ、大丈夫だりゅーか…」うるうる
竜華「ごめんな…衣…」よしよし
衣「りゅっ、りゅーかのせいじゃない…衣がヘタクソなだけだ…」うるうる
衣「…ぐすっ」うるうる
竜華「…」なでなで
竜華「いたいのいたいのとんでけ~♪」くるくる~
衣「!?」
竜華「どや?痛いのとんでったか?」
衣「…こっ、ころもはそんなこどもじゃない!!」プンプン
衣「本当に分かっているのかりゅーか?」もう!
竜華「わかってるよ衣、…じゃあそろそろお弁当にしよか」ニコッ
衣「ほんとか!?衣はさっきから空腹だったんだ!」
衣「きっとさっきのは、それのせいだな!」うんうん
衣「わーい!衣は、りゅーかのお弁当大好きだぞー♪」ぴょんぴょん
竜華(やっぱり、こどもやね)フフッ
衣「うわー、エビフライが入ってるぞりゅーか!」わーい♪
竜華「衣エビフライ好きやろ?タルタルもたっぷりやで」ニコッ
衣「こっちにはタコさんウインナー!こっちはりんごのうさぎだ!」
竜華「へへーん、衣みたいでかわいいやろ?」
衣「衣はりゅーかも、りゅーかの作ったお弁当も大好きだぞ!」るんるん
竜華「お弁当と同列かいな」クスクス
竜華「…ほな、食べよか」
衣「うん!」
衣「ごちそーさまでした!」パン!
竜華「おそまつさまです」フフッ
衣「りゅーか!すっごくおいしかった!♪」
竜華「ありがとう、衣」ニコッ
竜華「食べたばっかりやし、少し休憩しよか」
衣「そうだな、…」ふわっ…
竜華「衣、眠たいんか?」
衣「…少し」ごしごし
衣「ん?」
竜華「膝枕、ここで寝え」
衣「……・うん」コクッ
ピヨピヨピヨ(小鳥のさえずる鳴き声)
竜華「…」頭なでなで
衣「…」膝すりすり
竜華「今日はええ天気やな~」
竜華「とっても、気持ちのいい日和やな~」ぽわ~ん
衣「…りゅーか」すりすり
衣「…りゅーかって、…おっぱい大きいな」ジーッ
竜華「えっ?…どっ、どうしたん急に?」ドキドキ
衣「…衣もいつか、りゅーかみたいになれるかな?」
竜華「…えっ?」
衣「衣もいつか、りゅーかみたいな素敵な女性になれるかな?」
衣「衣ちっちゃいから…」
竜華「…衣」
衣「…衣はいつか、りゅーかみたいになりたいだ…」
竜華「衣…」
衣「…あとそれから、おっぱい大きくて」
竜華「…それはいんのね」くすっ
衣「衣じゃ、りゅーかみたいにはなれないのかな…」
竜華「…大丈夫、きっとなれるよ衣」
衣「えっ?」
竜華「衣はもう立派に、素敵な女性やで」ニコッ
衣「…りゅーか」
竜華「衣が素敵って言うてる、うちが言うんや」
竜華「衣も素敵な女性や、間違いない…!」ニコッ
衣「…ありがとう、りゅーか」フフッ
竜華「うん♪」
衣「衣はりゅーかのこと大好きだ…」うつろうつろ
竜華「衣…うちもやで」ニコッ
衣「……りゅーか」すぅっ…
衣「Zzz…」
竜華「…寝てしまいよった」
竜華「…そっか、衣はうちの事そんな風に思っててくれたんか」
竜華「…」
竜華(これからも、しっかり衣の素敵なお手本になってあげんとな)クスクス
竜華「…これは、大変そうや…」フフッ
竜華(それに衣はもう充分、大人やで…)
竜華(衣の中身は、しっかりした子やもん)
竜華(うちの知らん事も、いっぱい知っとるしな)
竜華(…でもやっぱり、寝顔だけは…)ちらっ
衣「んー…りゅーか…」むにゃむにゃ
竜華「ほんまこどもみたいやな」クスクス
おしまい
なごむわー
ほのぼの最高や…
Entry ⇒ 2012.11.07 | Category ⇒ 咲-Saki-SS | Comments (0) | Trackbacks (0)
白望「妊娠した」塞「!!?」ガタッ
白望「塞との」
塞「私生えてないよ!?」
白望「ほら、お腹撫でてみて」
塞「話聞いてよ!って、マジで膨らんでる!?」
白望「5ヶ月目のお腹」
塞「どういうことなの…」
塞(でも妊娠するようなことをした覚えはない…そりゃあえっちなことは何度かしたけど)
塞(というか、そもそも女同士で妊娠なんて…)
塞(想像妊娠…?)
塞「シロ、それって…」
塞(…いや待て、これが万が一本当だったら…?)
塞(あんなオカルトが蔓延する世界なんだ。女同士で妊娠しても不思議じゃない)
塞(シロは初めての妊娠で不安になってるかもしれない。そこに「想像妊娠だよ」なんて言われてみろ、ショックを受けるに違いない)
塞「…シロ、吐き気はない?体がだるかったりしない?食欲はある?ちゃんと朝は食べてきた?」
白望「…」
白望(まずい、まさか常識人の塞がこんなこと本気にするなんて)
白望(胡桃の口車になんて乗らなきゃよかったなぁ…)
~回想~
胡桃「シロ、ちょっと来て!」
白望「んー?」
白望「…まぁ」
胡桃「やっぱね。最近様子変だったから、気になってたんだ」
白望「そう。…ごめん、心配かけて」
胡桃「で、何があったの?」
白望「…実は、最近セックスレス気味で…」
胡桃「…………帰るわ」
白望「そっちから声かけてきたのに…!?」
白望「性欲は三大欲求のうちのひとつ…」
胡桃「うるさいそこ!」
白望「ごめんなさい」
胡桃「…というかそんな悩みなら塞に一言言えば解決じゃん。付き合ってるんでしょ?」
白望「…セックスしたいなんて言うのは…その…恥ずかしい」
胡桃「えー…」
胡桃「じゃあこういうのはどう?」
―――
白望「塞、妊娠しちゃった」
→塞「またまた~、女同士で妊娠なんてするわけないでしょー」
→白望「それもそうだねあはは」
→塞「そういえば私たち、最近エッチしてなかったね。久しぶりにする?」
→白望「うん、そうだね」
→以下セクロス
―――
白望「いやさすがに無理がありすぎ」
白望「え、本当にやるの?」
胡桃「塞は補習終わったら来るから。私は帰るよ!」
白望「ちょ…」
胡桃「じゃあねばいばい!」バタン
白望「……どうしよう」
~回想終了~
白望「あー、塞…」
塞「今日は胡桃いないみたいだし、部活は中止して帰ろう?」
塞「あ、そういえばシロがこたつ持ってくるのに使ったリヤカーあったね。あれで家まで送ったげる」
白望「…じゃあお願いする」
~~~
塞「シロ、家着いたよ」
白望「…ありがとう」
白望「うん」
塞「ばいばい」
白望「ばいばい…」
白望「……いやいや、何やってるんだ」
白望「完全にカミングアウトする機会を逃してしまった」
白望「楽なほうに向かおうとする自分が恨めしい…」
塞「シロー、迎えに来たよー!」
白望「んー…?」
白望(塞が迎えにくるなんて珍しいな。…って、なんでリヤカーが…ああ、そういえば妊娠してるって設定か…)
白望(さすがに今ばらすと怒られるだろうなぁ。…登校で楽できそうだしあとでばらそう)
白望(湯たんぽ、湯たんぽ…)
塞「シロー、お昼ごはん作ってきたよー。インターネットで妊婦さんにいい食べ物調べたんだ」
白望「ありがと」
白望(うーん、ここでばらすのは自殺行為だろうなぁ…)
塞「シロ、さっき体育出てたよね!?もうシロひとりの体じゃないんだから、運動なんてだめだよ!」
白望「ごめん…」
白望(機嫌悪くなってるなぁ…今ばらすのは良くなさそう)
塞「シロ、今日もリヤカーで送ってあげる」
白望「お願い」
白望(ここでばらすと楽できなくなるなぁ…やめておこう)
胡桃「で、そうこうしてるうちに1ヶ月がたってしまったと」
白望「困った…」
胡桃「ばか!」
白望「面目ない…」
胡桃「どうするつもり!?いつまでもごまかしきれないよ!」
白望「大丈夫。一回り大きい湯たんぽはもう買ってある」
胡桃「そういう問題じゃないよ!」
―――
塞「シロ、どうして泣いてるの…?」
→白望「…胡桃にレイプされて…お腹の子供が…」
→塞「シロ…そんな…」
→白望「ごめんね塞…私たちの子供、守れなかった…」
→塞「…泣かないでシロ。子供はまた作れるよ」
→白望「塞…」
→塞「シロ…」
→以下セクロス
―――
胡桃「ふざけんな」
白望「イッツジョーク、イッツジョーク。怒らないで。顔がマジで怖い」
白望「ああ、そうすればよかったのか」
胡桃「こいつ…」
胡桃「まぁ、どっちにしてもこの案は無理だよ。塞のこと考えると罪悪感が半端ない」
胡桃(今の時点ですでにすごい罪悪感だけど)
白望「それもそうか。…はぁ、また振り出しか…」
胡桃「主にシロのせいでね」
白望「すみません」
校内放送『2年×組小瀬川さん、2年×組小瀬川さん、今すぐ職員室に来てください』
胡桃「…なんかしたの?」
白望「身に覚えがない…とりあえず行ってくる」
~~~
白望「失礼します…」ガラッ
塞「あ、シロ、遅いよ」
白望「塞…?」
先生「あー、小瀬川、臼沢がお前のことで相談にきてな」
白望「?」
先生「その、臼沢が、お前が臼沢の子を妊娠してるって言ってな」
先生「それで、体育は危ないだろうから、見学にさせろと…」
塞「お腹の子に何かあってからじゃ遅いんです!」
白望「…………」
白望(や、やばい…これはダルいなんてもんじゃない…!)ヒヤアセダラダラ
先生「先生にはそうは見えないんだが…というか女同士で妊娠なんてありえんだろ」
塞「何言ってるんですか先生!こんなにお腹が膨らんで…」
塞「ふく…らんで…?」
白望(…そういえば、湯たんぽ入れてなかった…)
白望(職員室に塞がいるなんて思わなかったからなぁ…)
塞「………………………………」
先生「………………………………」
白望「………………………………」ダラダラ
塞「…………なに」
白望「妊娠したっていうの嘘だったんだ」テヘッ
塞「…………シロ」
白望「な、なんでしょう」
塞「……歯ァ食いしばれ!!」バチーン!!
白望「ぐはぁ…っ!」バターン
胡桃「…っていうのが『シロ妊娠事件』の顛末でね」
豊音「あはは、ちょーうけるよー」ゲラゲラ
白望「あのあと1ヶ月口聞いてもらえなかった…」
エイスリン「ジゴウジトク!」
白望「自覚してる…」
豊音「りょーかいだよー」
エイスリン「ワカリマシタ!」
塞「ごめーん、掃除長引いて遅れちゃった」
エイスリン「ア、サエ!シツモン!」
塞「なに、どうしたの?」
エイスリン「ニンプニイイショクジッテドンナノ?」
胡桃「エイちゃんちょっと!」
白望「エイスリン!」
エイスリン「? ……ア」
白望「…私は話してないよ」
胡桃「ちょ、私だけに罪をなすりつけんな!シロも止めなかったでしょ!」
塞「…二人ともちょっと来なさい」
胡桃「慈悲!お慈悲を!」
白望「ちょ、ちょいタンマ…!」
塞「あ、トヨネとエイスリンは少し待っててね。すぐ終わるから」ニッコリ
豊音・エイスリン「ハ、ハイ」ガクブル
胡桃「うぐぐ…」グッタリ
塞「じゃあ部活はじめよっか」
塞「シロと胡桃はちょっと無理そうだからサンマかな?」
豊音「う、うん、そうだねー…」
エイスリン「オ、オー…」
~帰路~
塞「ったく、こうなるってわかってんのになんで話したんだか…」
白望「胡桃を止めるのがだるかった…」
塞「あんたのほうはそうでしょうね、胡桃のほうはわからないけど」
白望「トヨネとエイスリンはまだ付き合いが浅いから…一緒に馬鹿なことしたかったんじゃないかな」
塞「…そうかもね」
塞「なに?」
白望「久しぶりにエッチする?」
塞「んなっ……なにいってんの!?//」
白望「そういう流れかと…」
塞「わけわかんないよ!?」
白望「人は日々進歩するもの…」
塞「これは進歩なのか…?」
白望「さあ…。 で、しないの?」
塞「シ、シロがしたいなら…//」
白望「じゃあ塞の家行こう」
塞「…ん」
塞「どう頑張ってもできないからね!?」
白望「案外できちゃうかも」
塞「できない、できないから」
白望「……塞」
塞「んー?」
白望「科学が進歩して、もし女の子同士でも赤ちゃんできるようになったらさ」
白望「一緒に子作りする?」
塞「…」
塞「シロ、そういうの愚問っていうんだよ」
塞「するにきまってるでしょ?」
白望「……うん」
白望「塞、塞、起きて、朝ごはんできてる」
塞「んん…おはよ、シロ」
白望「おはよ」
塞「あの子は?」
白望「もう起きてる。今ご飯食べてる」
塞「あはは、しっかりしてるなぁ」
白望「塞に似たんだろうなぁ…」
塞「そうかもね」
塞「んー?」
白望「二人目出来たみたい」
塞「!!?」ガタッ
カン!
乙乙
白塞最高や!
Entry ⇒ 2012.11.06 | Category ⇒ 咲-Saki-SS | Comments (1) | Trackbacks (0)
優希「麻雀上手くなったな、京太郎!」京太郎「そうか?」
引用元: http://hayabusa.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1352007108/
京太郎「おいおい……まだ5巡目だぞ……」
優希「アタシにゃタコスがついてるからなっ!」
京太郎「それ作ったの俺なんだけどな」
優希「うま~♪」モグモグ
京太郎「あ~……でもやっぱ東場はお前に勝てないなぁ」
優希「ん~……でも、お前も随分上手くなったと思うぞい?」
京太郎「おお、そう思うか?」
優希「んまっ! お前がアタシに勝つなんて1万光年早いけどな!」
京太郎「………」
優希「………」
京太郎「光年は距離だぞアホ」
優希「う、うるさいじぇ! 今気づいたわ!」
京太郎「おお、自分で気づけたとは。偉いぞ優希」ナデナデ
優希「ぬが~! 腹立つじぇ~!!」
京太郎「お前相手に持ち点20000の東風戦は卑怯だろ……。 ……今何時だ?」
優希「9時前……だじぇ。 咲ちゃん達遅いじょ~」
京太郎「お前も入ってくりゃよかったじゃねえか」
優希「お恥ずかしながら、自由行動に入ってすぐ風呂に直行しちゃって……」
京太郎「あぁ、そうだった……。 ……合宿所の風呂ってなんかワクワクするよなぁ」
優希「そうそう! なんか特別な感じしちゃうよなっ!」
京太郎「だからと言って夕飯前に風呂入るってどうなんだ」
京太郎「……3度も」
優希「へへっ。 面目ないっ」
優希「……んぁ? ココアが無い……」
優希「きょーたろー、ココア買ってきて~」
京太郎「ああ? なんで俺が」
優希「負けたんだから文句なしだじぇ! さっさと行ってこーい!」
京太郎「お前……覚えてろよ……」
京太郎「広いんだよなここ……。 咲じゃなくても迷う自信あるわ……」
京太郎「……っと、あったあった……って」
京太郎「誰かいる……」
「んー……! んー……!!」ピョンッピョンッ
京太郎「あれは……」
「あう……届かない……」
京太郎「龍門渕の……」
「こんぽた……」
京太郎「天江さん?」
衣「んぅ?」クルッ
京太郎「どうも。 覚えててくれたんですね」
衣「四校女子合宿だというのに男子が一人混淆してるんだ。 忘れるほうが難しい」
京太郎「あー、まーそうですね」
衣「御陰で、うちのとーかが『わたくしよりも目立ってる!』って哮り立ってたぞ」
京太郎「ははは……」
京太郎「天江さんはどうしてここに?」
衣「あ、う……その……」
京太郎「?」
衣「自販機でな? ……飲み物を1つと思ってたんだけど……」
京太郎「ほう」
衣「その……」
衣「とどかなくて……」
京太郎「……あぁ……」
京太郎「コンポタ? ……あぁ」
京太郎(調度良く一番上の段だな。 これじゃ届かないか)
衣「一度召してみたかったのに……」
京太郎「………」
衣「うぅ……こんぽた……」
京太郎「………」
ヒョイ
衣「ひゃぁっ!?」
京太郎「っと。 これでどうですか?」
衣「な、お、お前、清澄っ! これは……!」
京太郎「おお。 天江さん、軽いっすね。 子供みたいだ」
衣「こ、子供じゃない! 『ころも』だ!」
京太郎「でもほら、目の前目の前」
衣「んぅ? ……おおっ!」
衣「こんぽたぁ!」パァァ
京太郎「ねっ?」
衣「こ、こうしてはいられん!」
衣「貨幣貨幣! き、清澄の! これを貨幣入れに!」スッ
京太郎「あ、はいはい。 どうぞどうぞ」チャリンチャリン
衣「おおおっ! こんぽたが光ったぞ!」
京太郎「さぁ、天江さん。 一思いに!」
衣「う、うむ……」
衣「え……えいっ!」ピッ
ガコンッ
京太郎「良かったですねっ」
衣「うん! 良かった!」
衣「ありがとう! 清澄の!」
京太郎「ふふっ……」
ナデナデ
衣「ふぁっ」
京太郎「……あ。 すいません、つい」
衣「こ、子供扱いするなぁ!」
京太郎「ご、ごめんなさいっ」
衣「全く……全く……」プクー
京太郎「……」
京太郎(ああ……頬突きてえ……)
京太郎「……名前は覚えてくれなかったんですね……」
衣「す、すまない……」
京太郎(……可愛いなぁ)
京太郎「……ふふっ。 なら改めて」
京太郎「清澄高校麻雀部男子部員、須賀京太郎です」
衣「むっ。 なら衣もっ」
衣「龍門渕高校麻雀部女子大将!」
衣「天江衣だ!」
衣「よろしくな! きょーたろー!」スッ
京太郎「はい。 ……これから一週間」スッ
ギュッ
京太郎「よろしくお願いしますっ。 天江さんっ」
久『えー。 この度は合同合宿にご賛同いただき……』
久『そして、ばっちりお集まりいただきまして……』
久『まことにありがとうございます!』
衣『わーい』
久『移動の疲れもあることと思いますので、今日は自由行動ということで……』
久『……の前に。 須賀くーんっ』
京太郎『えっ。 あ、はいっ』
久『自己紹介なさい』
京太郎『は、はいっ』
ダンシー? セータカーイ アンナノイタッケ? キョウチャン...
京太郎(き、緊張する……)
京太郎『この清澄高校の麻雀部員の一名です』
京太郎『今回の合宿、部長の意向ということで自分も参加させていただきました』
エー オ、オトコノヒト... オレトオナジクライカ ? ニャー?
ザワザワ
京太郎『……女子しか居ないこの合宿所に男一人というのはどうかと思われるかもしれません』
京太郎『でも、それでも自分は……ここに来たいと思いました!』
京太郎『純粋に……麻雀がうまくなりたいから!』
シーン...
京太郎『俺は決してみなさんの邪魔はしません! 誓います!』
京太郎『むしろ俺を使ってくれてもいいです! どんな雑用だってやります!』
京太郎『だから! みなさんの腕を勉強させてください!』
京太郎『お願いします……!!』
京太郎『どうか俺を……俺を仲間に入れてください!!!』
ほう?
『………』
京太郎『……』
......パチッ
パチパチパチッ
京太郎『!!』
パチパチパチパチパチ !!
京太郎『あ……ありがとうございます! ありがとうございます!!』
イイゾー! イイヒトダ... ホウ? キョウチャン...カッコイイ...
久『……はい。 というわけで異例のメンバー追加に関しても許可を貰ったわけだしっ』
久『今から自由行動ということで!』
『『異議なーし!!』』
京太郎「……ふぅ」
京太郎(緊張したなぁ……。 昼の事だってのに、まだ手が震えてる……)
京太郎「……情けねえなぁ……」
優希「んぅ……」
京太郎「あ、悪い。 起こしちまったか?」
優希「ふぁあ……。 ん……きょうたろー……」
京太郎「疲れたろ。 ゆっくり寝とけ……」ナデナデ
優希「……うん……」
京太郎「………」ナデナデ
優希「……すぅ……すぅ……」
京太郎「……寝顔は可愛いんだよな、コイツ」ボソッ
優希「、っ!」ビクッ
京太郎「ん?」
優希「ぐ、ぐぅ~……」ドキドキ
まこ「ええ湯じゃったのぅ」
久「ホントねぇ。 どうして宿泊先のお風呂ってこんなに気持ちよく感じるのかしら」
まこ「優希が3度も入った気持ちがわかるのぅ」
久「それはないわ」
咲「お風呂上り? 私はコーヒー牛乳かなー」
和「私もコーヒー牛乳は嫌いじゃないんですけど、やっぱ普通の牛乳ですね」
咲「あっ、コーヒー牛乳と言えば。 京ちゃんコーヒー牛乳が大好きなんだった」
和「あら。 でしたら今から買ってきますか?」
咲「んー……。 いや、湯冷めしたらなんだし止めとこうよ。 明日買えばいいって」
和「そうですか? ……それもそうですね」
和(須賀くんはコーヒー牛乳派……っと……)
久「そうそう、咲。 実はここの合宿所、11時の消灯以降はお風呂の使用が禁止されてるのよ」
咲「え? 知ってますけど……」
久「だから夜中はだーれも寄り付かないってことね」
咲「は、はぁ……それがどうかしたんですか?」
久「……わからない?」
久「11時以降なら須賀くんと混浴できるかも、ってことよ」
咲「 」
和「なっ!?」
まこ「ちょっ!?」
咲(京ちゃんと……混浴……? 混浴……こん……よく……)
咲「……えっ……えっ、えっ、えっ」
咲「えええええええええええええ!!!!!???」
久「でも消灯とは言え敷地内なら出歩きは許可されてるのよね~」
久「つまり……わかるでしょう?」
和「ちょ、ちょっと!! 何言ってんですか部長!?」
まこ「流石にソレはまずいじゃろ!?」
久「あら、そうかしら? 夏休みを麻雀打ってるだけで過ごすなんて勿体無いじゃない」
久「真夏の夜の青春を過ごしてみるのも一興だと思うけど?」
和「そそ、それでも混浴はちょっと……」
まこ「そ、そうじゃよなぁ……?」
久「ふむ……二人はあまりノリ気じゃないわね……」
久「咲はどう?」クルッ
咲「あわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわ」
まこ「なんかトリップしちょる!?」
咲(それってつまり……京ちゃんの二の腕太もも腹筋胸板うなじが見放題ってことぉっ!!?)
咲(い、いや……それだけじゃなくて……それ以上の………!!)
咲(そんな……そんな…………そんなところおおおおおお!!!)
咲「……………らめぇ…」
バタッ...
和「咲さぁああああん!!?」
久「あら、倒れちゃった。 ……湯あたりしちゃったのかしら」
まこ「……十中八九アンタの所為じゃろ」
和「咲さん!? 大丈夫ですかっ!!? 目が虚ろです!!!」ユサユサ
咲「えへ……えへへへ……」
久「……どうでもいいけど、ご近所さんに迷惑だからあまりうるさくしないでね?」
まこ「アンタ鬼じゃな……」
ガララッ
京太郎「……おお……」
京太郎「……ここが女子達がブラだのパンティーだの脱いだり履いたりしてる所か……」
京太郎「………よしっ」
京太郎「スゥ~~~~~~~~~~~~~~~ッ 」
京太郎「…………」
京太郎「……残り香が全くない……。 ……あっ」
京太郎「そりゃ脱衣所だもん、換気扇ぐらいあるか! ハハハッ!」
京太郎「はー……」
京太郎「……」
京太郎「入ろ……」
ヌギヌギ
ガラッ
カポーンッ...
京太郎「おぉぉ……意外と広い……」
京太郎「ここでたくさんの女の子が洗ったり洗われたりされてるのか……」
京太郎「あるいはすったもんだされたり」
京太郎「…………」
京太郎「……何言ってんだ俺」
チャポンッ
京太郎「ふぅ~……」
京太郎「……はぁ~……」
京太郎「…………」
カポーンッ...
京太郎「…………」
京太郎「大浴場貸切って寂しいだけだわ」
京太郎「ただいま帰りましたぁ……」
まこ「おーう、おかえりんさい」グビッ
久「んっ……ぷふぅ……。 おかえり、須賀くん」ゴクッ
京太郎「……先輩方何飲んでんスか」
久「ああ、これ? 心配しなくてもノンアルコールよ?」
京太郎「いや、そこじゃなくて……それもだけど……」
まこ「なんなら京太郎も飲むかぁ? ホレ」スッ
京太郎「いえ、遠慮します。 断固として」
久「それにしても、随分と早かったわねぇ。 カラスの行水?」
京太郎「いやぁ……一人の大浴場って寂しいだけなんで……」
まこ「意外じゃのぅ。 お前のことだからイカガワシイことで時間を使うと思ったんじゃが
京太郎「…………」
京太郎「いや、してませんよそんなこと」
久「あら……和もいつの間にか眠っちゃってたのね」
京太郎「優希……腹出しっぱで寝るなよな……」スッ
京太郎「咲は足出しっぱ……半分俺の布団にきてるし……」ススッ
まこ「……まるでオカンじゃな」
京太郎「こいつらがガキ過ぎるだけですよ……」
まこ「ハハッ。 言うわい言うわい」
京太郎「ふわぁ…。 ……そろそろ俺も寝ますね」
まこ「おう。 しっかり休みぃや」
久「本番は明日からよ。 頑張ってね」
京太郎「はい……それじゃあ……」
京太郎「先輩方……おやすみなさい……」
まこ「おう、おやすみ。 京太郎」
久「おやすみなさい。 須賀くん」
まこ「……」チラッ
京太郎「……zzz」
まこ「……なぁ部長。 なんで京太郎も連れてきたん?」
久「ん~? 来る途中も言ってなかったっけ?」
久「……ひとりぼっちは可哀想だって思っただけよ」
まこ「……あ、そう……」
久「……何よ」
まこ「いーや、なんでも。 わしももう寝るわ」
久「はいはい。 ……私はもうちょっとだけ起きてよっかな」
まこ「それじゃ、缶の片付けよろしく~っ」
久「……あっ。 やられたっ」
まこ「へへっ。 おやすみ、部長」バッ
久「……ったくもう……」
久「……ふぅ」
久「…………」チラッ
京太郎「………zzz」
久「…………」
『あなたの待ち、当ててみてますよ』
『1pと7pのバッタ待ちでしょう?』
『俺もそうですから』
トクンッ
久「………」
久「…………ふふっ」
咲「京ちゃん! 早く早く!」
京太郎「わかったから急ぐなって。 また迷うぞ」
咲「さ、流石に合宿所じゃ迷わないよっ! ほら! ここっ!」
ガチャッ
「おっとそれロンですッ!」 「ツモッ! 裏入れて4000,2000です!」
「うっしゃー! リーチだしっ!」 「あ、ロン」 「ニャー!!?」
ガヤガヤ
京太郎「おーやってるやってる」
咲「うわぁ……! うわわぁ……! 早く打ちたいなぁ……!」
京太郎「……楽しそうだな、お前」
咲「えへへっ。 今日は夢見が良かったからねっ!」
京太郎「ふーん……?」
咲(京ちゃんと混浴なんて最高の夢……!)
モブ子「うええぇ……そんな手ありー……?」
咲「さぁ! 次行きますよぉお……!」
優希「咲ちゃん、調子良さそうだじぇ」
京太郎「ああ。 なんでも、夢見が良かったんだとかなんとか」
優希「ほーう? それならアタシも負けてられんじぇ!」
京太郎「というと? お前の夢は?」
優希「聞いて驚け……! タコスに食われる夢だ!!」
京太郎「……。 食うんじゃなくて?」
優希「食われた!! こりゃいいこと有ること間違いなし!」
京太郎「……お前がいいならそれでいいんだろうよ……」
優希「んじゃ、行ってくるじぇー!」タタタッ
京太郎「俺はどうすっかなぁ……っと」
「あっ……! きょーたろー!」
京太郎「天江さん。 そうですね、昨日ぶりですね」
京太郎「憧れのコンポタの味はどうでしたか?」
衣「ああ、とても甘露で美味であった!! つぶつぶが最後まで食べれなかったが……」
京太郎「そういうときはクルクル回しながら飲むといいらしいですよ」
衣「? そんなことしたら目が回らないか?」
京太郎「ん?」
衣「?」
京太郎「??」
衣「??」
「『缶を』でしょ。 そこは言わなきゃ」
京太郎「あっ」
衣「ハジメー!」
一「おはよう、衣。 京太郎くん」
一「ハハッ。 よしてよ敬語なんて。 同年代なんだからさっ」
京太郎「……そうだな。 おはよう」
一「おはよう。 ボクのことは『はじめ』でいいよ」
京太郎「了解。 よろしく、一」スッ
一「うんっ。 よろしくっ」ギュッ
衣「なーハジメー。 トーカはどうしたんだー?」
一「透華はお休み中。 昨日はしゃぎ過ぎちゃったからね」
京太郎「……昨日なにかやったのか?」
一「枕投げ」
京太郎「………」
京太郎(子供か……っ!)
衣「アレはとても愉快だったな!」
一「またやろうねー」
京太郎(……子供だった……)
衣「うんっ!」
京太郎「ああ。 あっちで咲が打ってますよ」
一「ありがとっ。 んじゃ、そっち行こうか衣」
ギュッ
衣「……」
京太郎「……? な、なんスか?」
一「……衣?」
衣「……衣は……」
衣「きょーたろーと打つ!!」
京太郎「えっ」
一「おおっ?」
衣「何だ? きょーたろーが打つのが法度なわけでもあるまい?」
京太郎「いやでもほら! 最初に言ったじゃないですか! 『皆さんの邪魔はしない』って」
衣「京太郎自らが乱入するならまだし、衣から誘ってるんだ。 邪魔な訳がない」
京太郎「そりゃ……そうかもしれないけど……」
一「別にいいんじゃないかな?」
京太郎「は、一まで……」
一「いいじゃないかっ。 衣と打てる機械なんて滅多にないもんだよ?」
衣「うんうんっ!」
京太郎「う、うーん……」
衣「……きょーたろーは……」
衣「衣と……打ちたくないか……?」ウルウル
京太郎「うっ……」
京太郎「……そりゃ殺し文句だ……」
咲「よろしくお願いしまーすっ」
優希「よろしゅうっ!」
京太郎「よろしく」
京太郎「……って、なんでお前らが……」
優希「ふふーんっ。 犬にはリードを持つのはアタシだからなっ!」
京太郎「いみわからん」
咲「もう……衣ちゃんったら水くさいんだから……」
衣「ん?」
咲「私と打ちたいなら打ちたいって言ってくれればいつでも行ったのに」
衣「なにが?」
咲「ふふっ。 京ちゃんと打つ建前で私と打ちたかったんでしょ? 解ってるって~」
咲(衣ちゃんは子供っぽいからねっ)
衣「そんなこと毛頭無かったけど……」
衣「衣は純粋にきょーたろーと手合わせしたかっただけだ」
衣「ひょっこり二人が参画してくれたのはありがたいが……それだけだぞ?」
咲「………」
咲(どどどどどどどどういうこと!? 京ちゃんと衣ちゃんって面識あったっけ!?)
京太郎「お手柔らかにおねがいしますよ?」
衣「ふふーん。 それは高望みが過ぎるんじゃないか?」
京太郎「うへぇ……」
衣「えへへっ」
咲(す、すっごく仲良さそう……!)
優希「こ、こらそこぉ! イチャイチャするのもいい加減にするじぇ!!」
咲「……!」ウンウン
京太郎「あ、ああ、悪い。 準備はいいぜ」
衣「ふふっ……では始めようっ!!」
京太郎「やっちまった……。 昨日アレだけ打ったのに……」
優希「お前程度に見破られるほどヤワな麻雀打ってないじぇ~」
京太郎「こんにゃろ……タコス作るの止めんぞ……」
優希「ギャー! それは止めてくれー!!」
衣「……むっ」チクリ
咲「優希ちゃんばっかにいい顔させないよっ。 その9pカンッ!」
京太郎「げっ!」
咲「ツモッ! 6400の一本場で6700! 責任払いだよ、京ちゃんっ」
京太郎「残り持ち点300点……殺生な……」
咲「えへへっ。 油断大敵、だよっ!」
京太郎「いつもよりやる気だなぁ……」
衣「……むむむっ……!」チクチク
衣(きょーたろーと周りの者が触れ合う度……)
衣(胸が揺らぐ……苛立つ……)
衣 「 不愉快だ 」
ゴッ !
咲「ヒッ!?」ビクッ
優希「な、なんだじぇこの雰囲気!!」
京太郎「……あ、天江さん?」
衣「不愉快なんだ…………とても……」
咲「えっ?」
衣「そこはかとなく……胸が騒ぐ……」
優希「ふ……雰囲気が……」
衣「……まずはお前から……」
衣「行くぞ小娘」
衣「 御戸開きだ 」
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ
優希(東2局だってのに……配牌が悪い……!)
京太郎(いや……配牌どころかツモも悪い……)
京太郎(全くシャンテン数が進まない……!)
咲(これは……衣ちゃんが本気の時の……)
優希「うぐ……! 次でラスヅモなのにぃ……!」
衣「……どうした小娘。 それで最後のツモだぞ……?」
優希「う、うっさいじぇ! 来いっ!」
優希「……ぐぬぅ……! テンパイ出来ず……かっ!」
タンッ
「ロン」
優希「うぇっ!?」
衣「……河底撈魚だ」パタッ
優希「あああっ! アタシの必要牌が全部……!」
衣「子の倍満で16000。疾く寄越せ。 次は衣が親だ」
優希「うぎぎ……」
京太郎(す、すげぇ! ホウテイ無しじゃ和了れない手なのに……)
衣「フハハ! ロン! 河底撈魚!」
優希「うきゃぁっ!」
衣「どうした小娘! 速攻が得意なのだろう!?」
優希「うぅ……うううぅ……」
衣「これで2本場……」
衣「さぁ……」ゴッ!
優希「ひぃっ!」
衣「足掻けよ小童!!」
衣「……はぁ……」
衣「ロン……河底撈魚」
優希「うあ……あああぁ……」
京太郎(さ、さっきから優希ばかり……!)
咲(鳴いてズラしても修正される……必ず優希が振り込む形に……!)
衣「鯔背な小娘よ。 煢然たる活きの良さは何処へ行った?」
優希「うあ……ああ……」
衣「これで貴様の持ち点は100。 十八番のリーチも出来ん」
優希「ああああ………ああああああ」
衣「今、どんな心地だ?」
優希「 」
京太郎「…………」
一(これじゃぁこの子も……壊れてしまう……!)
一「ころ……」
ガシャンッ!
衣「!」
咲「!」
優希「!」
一「!」
京太郎「いい加減にしてくださいよ。 天江さん」
衣「きょ……京太郎?」
京太郎「一見すりゃ立派な戦法なのかもしれないけど……」
京太郎「もう我慢ならねぇ……」
咲「きょ、京ちゃん……?」
京太郎「天江衣ォ!」
衣「、っ!」
京太郎「お前は……俺だけを狙え……」ゴッ!
京太郎「俺も……お前だけを狙う……!」ゴッ!
衣「なっ!?」
衣(今は東3局5本場。 京太郎と衣の点差は7万以上……)
衣(この試合は半荘戦の取り決めだが……この点差は容易には覆らない!)
衣(衣だけを狙い続けるだと……? 烏滸言を!!)
衣(できるものなら……!)
衣「やってみせよ! 須賀京太郎!!」
ダンッ!
「ロンッ」
衣「は?」
京太郎「……聞こえなかったか……?」
京太郎「なら、もう一度言おう」
京太郎「ロン、だ」
パタ.....
衣「!?」
咲「れ、人和!!?」
一「そ、そんな馬鹿な!」
優希「きょ、京太郎……」
衣「ば……馬鹿な! 人和だと!?」
衣(可能性が0.038%の紙一枚にも見たぬ薄い役満……! それをコイツ…!)
京太郎「天江衣……そういえばお前の得意技は海底摸月だったな」
衣「……?」
京太郎「即ち、最後の一牌で和了ることが得意……」
衣「……! ま、まさか……!」
京太郎「学ばせてもらったよ」
京太郎「そうだよ。 ツモが悪いならツモらなきゃ良い」
京太郎「最初の一牌で和了りゃいいんだ」
衣「な、なんだと…………」
京太郎「……これで持ち点は五分五分」
衣「……!」
衣(次もしもまた人和を和了られたら……衣はトバされる……)
衣(だが、衣の前には13+1牌! この中から自由に選べるんだ……!)
衣(振り込むわけがない……!)
京太郎「……」タンッ
優希「え、えと……これっ」タンッ
咲「……」タンッ
衣「ば、馬鹿な……!」
衣(河の牌と手牌……。どれも被りがない……!)
衣(安牌が……無い……)
京太郎「早くしろよ」
衣「ぐっ……! 急かすな!」
京太郎「……急かすさ」
京太郎「お前が優希にやったことなんだから」
衣「っ、!」
衣(どれだ……! どれが安牌……!)
衣(さっきは字牌であたった……だが、次は安全という確証もない!)
衣(どれが……どれが……)
咲「まだ? 衣ちゃん」
衣「!!」
咲「……京ちゃんが待ってるよ」
衣「くっ……クソぉ!!」 ダンッ
京太郎「……んっ……」
京太郎「……部屋? なんでここに……」
京太郎「まさか……夢ぇ?」
「夢じゃないじぇ」
京太郎「あ…………」
京太郎「優希」
優希「へへっ。 随分とグッスリ寝てたなっ」
優希「こっちもビックリしたじぇ。 衣ちゃんが打ったと同時に卓に突っ伏すんだもん」
京太郎「あー……悪い」
優希「卓にちょっと唾ついてたじぇ」
京太郎「……ホント悪い……」
優希「しっかし恐ろしいことしたなぁお前は……」
京太郎「……ああ……俺も驚いてる」
優希「バラバラの手牌で和了る気満々に振舞ってたから」
京太郎「……えっ?」
優希「『えっ』て……気付いてなかったのか? 役どころかメンツ1つもできてなかったじぇ?」
京太郎「ま、マジ?」
優希「いやー皆騙されてたじぇ。 どんな手牌だったのか気になって開いてみたらさぁ大変」
優希「京太郎はホラ吹きの達人だじぇ!」
京太郎「………」
優希「当たり前だじょっ。 そうポンポン和了られちゃ商売上がったりだじぇ」
京太郎「……そりゃそうか……」
優希「……ま、まあ。 アタシとしちゃ、借りを返してくれた京太郎に感謝してなくもないけどなっ!」
京太郎「………」
優希「……な、なんか言えよぉ!」
京太郎「そんな顔真っ赤で言われても……」
京太郎「……そういえば……天江さんはどうなったんだ?」
優希「衣ちゃん? 衣ちゃんなら……」
優希「お前の隣にいるじぇ」
京太郎「えっ」
衣「すぅ……すぅ……」
京太郎「な、なんで!?」
そういえばそうだな
優希「アタシは和ちゃんや咲ちゃんと交代交代で一緒に看病してた」
優希「衣ちゃんだけは、ずっとお前の側にいたじぇ」
京太郎「そんな……どうして……」
優希「……さぁね~?」
優希「そいじゃ、そろそろ時間だからアタシは行くじぇ」
京太郎「ああ。 ありがとう」
優希「……むふふっ」
京太郎「?」
優希「ごゆっくり~♪」
京太郎「……」
京太郎「何言ってんだアイツ……」
衣「すぅ……すぅ……」
京太郎「……天江さん……」
ナデナデ
衣「んぅ……。 きょーたろー……?」
衣「……きょうたろー!?」
京太郎「はい」
衣「ぐ、具合はもう良いのかっ? 吐き気はあるか? 痛い所とか無いかっ!?」
京太郎「だ、大丈夫ですよ。 おかげ様で元気です」
衣「よ……良かったぁ……」
京太郎「どうして看病を?」
衣「うっ……それはその……」
衣「つ、罪滅ぼしとして……」
衣「……衣は……お前の大切な友人を……幾度と無く攻撃してしまった……」
衣「アイツは私を許してくれたが……お前があの時衣に見せた敵意に満ちた目……」
衣「あれが……ずっと胸の中で衣を責め立てるんだ……」
京太郎「………」
衣「……すまなかった……きょーたろー……」
京太郎「……気にしないでくださいよ。 喧嘩なんてよくあることでしょう?」
京太郎「友達なんだから」
衣「えっ……」
衣「とも……だち……?」
京太郎「あれ……もしかして、俺の勘違いでしたか?」
衣「い、いや! そんなことない!」
衣「……とも……だち……!」
衣「きょーたろーと……ともだち……!」
京太郎「そもそも俺が大口張ったのも悪かったし……」
京太郎「おあいこ、ってことで」
衣「………」
京太郎「……天江さん?」
衣「『ころも』」
京太郎「えっ?」
衣「『ころも』だ。 と、友達なのに苗字呼びは違和感があるっ」
京太郎「あ、ああ。 そうですね」
衣「敬語も要らない! 『さん』もつけるな!」
京太郎「そ、それは……」
衣「……ともだち、だろぅ?」ウルウル
京太郎「うっ………」
咲「京ちゃんが目を覚ましたのに迷うなんて私の馬鹿馬鹿!」タッタッ
咲「今度こそ迷わない! こっちで合ってる!」タッタッ
咲「……見えた! 『清澄』の文字! 間違いない!」タッタッ
ガチャッ
咲「京ちゃん!!!」
京太郎「こ、衣! 口移しは友達の間ですることじゃない!!」
衣「? しかし、鶴賀の大将は後輩に口移しを迫られてたぞ?」
京太郎「それはもう友達を超えた『何か』なんだよ! だからそのコーヒー牛乳を置いて……」
衣「ならば単純だ! 衣達もその『何か』になればいいんだ!」
京太郎「そんなわけないだろ!? ちょ、どこにこんな力が……」
咲「…………」
落ち着いて
衣には見えてたという
咲(そうだ、これは夢なんだ。私は夢を見ているんだ)
咲(目が覚めた時私はまだ高校1年生)
咲(起きたら京ちゃんの家に行って枕元で京ちゃんにこっそり『好き』って言って)
咲(ドキドキしながら京ちゃんの香りを堪能した後京ちゃんを起こして)
咲(京ちゃん一緒に手を繋ぎながら登校して)
咲(それを偶然クラスメイトに見られてしまって)
咲(教室に入った途端京ちゃんと私の相合い傘の書かれた黒板を見て)
咲(京ちゃんと一緒に赤面しながらも笑いあうんだ……)
咲「は、ははは……はははははは…………」
咲「………あふぅ……」
バタンッ
ここ数日間他校の生徒に病弱キャラとして見られる日が続いたんだとか。
京太郎「咲? 咲~?」
咲「アハハハ……京ちゃん…駄目だよそんなことぉ……」
京太郎「………咲……」
まこ「こりゃぁ……重症や……」
和「ま、前より酷い………」
久「叩けば直るんじゃない?」
優希「よっしゃ! 任せるじぇ!」
京太郎「止めて!」
――――――続く。
そして保守してくれてありがとう
本当だったら透華も書こうと思ってたんだけど
何故か京ちゃん無双になってしまった
今度からなるべく少なくする
それじゃ改めてありがとう
また会ったらよろしく
続き楽しみにしてる
次も楽しみに待ってる、乙
Entry ⇒ 2012.11.06 | Category ⇒ 咲-Saki-SS | Comments (0) | Trackbacks (0)
咲「麻雀上手くなったね、京ちゃん」 京太郎「そうか?」
優希「あいたたー…、また降っちまったじぇー」
京太郎「よーっし、連チャン連チャン」
和「あら……いい待ちですね」
まこ「うむ、いい引っ掛けになっとるな」
京太郎「たまたまっすよ。優希だからこそ引っ掛かったんでしょうし」
優希「な、なにー!」
京太郎「ははっ」
久「最近の須賀くん……調子良さそうね」
咲「そうですねー」
久「良い練習相手でも見つかったのかしら……?」
咲「さあー? どうでしょうねー」
久「ま、私には遠く及ばないけどね」
咲「そうですねー」
久「……咲?」
京太郎「そうだな。 久々に連チャンした気がするわ」
咲「引っ掛けも上手く決まったし、良い感じだよ。 部長も褒めてたし」
京太郎「部長がそんなことを? そりゃ嬉しいな」
咲「……私も…嬉しいよ?」
京太郎「ああ、そうだな。 ありがとう、咲」
京太郎「お前に褒められるのが一番嬉しいよ」
咲「……えへへ」
咲「勿論。 予習復習は大事だからね」
京太郎「んじゃ、また5時頃な」
咲「うん! 待ってるからね!」
咲(今日の京ちゃん。カッコ良かったなぁ……)
咲(京ちゃんに麻雀教えるのがこんなに楽しいなんて思わなかった……)
咲「もっともっと京ちゃんに麻雀を教えなきゃね」
咲(……ダメダメな京ちゃんが一番だけどっ)
咲「うん、いいね。 牌効率もわかってきたんじゃない?」
京太郎「ボチボチだけどなー。 基本的なことしか出来ないし」
咲「それでいいんだよ、京ちゃん。 基本無しの応用なんて出来ないんだから」
京太郎「さすが元文学少女。 言うことは真面目だな」
咲「もう……今でも本は読むよ…」
京太郎「へぇ、最近は麻雀ばっかりだと思ってたけど。 どんなの読むんだ?」
咲「え? それは……その……」
京太郎「?」
咲「べ、別に関係無いでしょ! 今は麻雀! ハイ、集中!」
京太郎「な、なんだよいきなり」
咲「い・い・か・ら!」
京太郎「お、おう……」
咲(幼馴染とのラブコメばっかなんて言えるわけないよ……)
咲「ツモっ! ツモ嶺上開花三暗刻ドラ4……倍満ですっ」
京太郎「っ、かー! 一気に逆転された―!」
咲「ふふっ、私に勝つのはまだまだ早いよ? 京ちゃん」
京太郎「今日は行けると思ったんだけどなー……」
咲「それじゃあ罰ゲームだよ、京ちゃん」
京太郎「これも恒例化してきたな……」
咲「はい、どーぞ」スッ
京太郎「せめて楽なのでありますように……」ゴソゴソ
京太郎「っと……。 どれどれ?」スッ
京太郎「……うっ」
咲「何だった?」
京太郎「お、幼馴染に……膝枕」
京太郎「いや……これはちょっと」
咲「なんでー? 楽なのがいいって言ってたじゃんー。 膝枕は楽なほうだと思うけどなー」
京太郎「そうだとしてもこれは……」
咲「京ちゃんー? これは罰ゲームなんだよー?」
京太郎「鼻息荒いよお前。 落ち着け、どうした」
咲「京ちゃん、これを見て?」
京太郎「あん?」
咲「ひーざーまーくーら」
京太郎「おう」
咲「しなきゃ!!」
京太郎「……はい」
そんなオカルトありえません!
京太郎「………」
咲「うー」
京太郎「………」
咲「あうあー」
京太郎「………」
咲「んふー」
京太郎「………」
咲「んふふー」
京太郎「………」
咲「ふぅ……。 お疲れ様、京ちゃん」ツヤツヤ
京太郎「……罰ゲームの途中いつもお前があげてるあの奇声はなんなんだ」
咲「え? ……ああ」
咲「ああでもしないと正気が保てなくて」
京太郎「……は?」
京太郎「おう、ありがとうございました」
咲「……こちらこそ」ボソッ
京太郎「ん?」
咲「な、なんでもないよー」
京太郎「また明日な」
咲「うん! 今日やったこと、明日に活かせるようにしとくんだよー」
京太郎「……膝枕をか」
咲「そ、そっちじゃないよお!」
京太郎「ははっ」
咲「……もうっ、京ちゃんはー!」
京太郎「……おやすみ、咲」
咲「うん。 おやすみなさい、京ちゃん」
京太郎「リーチっと」
久「あら、早いわね」
和(牌効率がわかってきてる……? もう初心者とは思えなくなってきましたね)
優希「う……うーん……。 こっち!」
京太郎「ところがどっこい、ロンだ」
優希「うげー!」
まこ「なんじゃ京太郎のやつ。 最近強うなってきたのう」
咲「えへへー。そうですよねー。 京ちゃん、強くなってきてますよねー!」
まこ「な、なんじゃ急に……」
咲(京ちゃんがまたほめられた! 嬉しいなぁ!)
咲「……えへへー」
まこ「……?」
久「お疲れ様。 流石は和ね」
和「どうも」
京太郎「あー……逆転されちゃったか……」
和「……あれ……」
和「須賀くん……テンパイしてたじゃないですか」
京太郎「ん……いや、そうなんだけどさ。 この点差じゃリーチかけても届かねーなと思って。 変化待ってたんだけど……」
和「ああ、でしたらこっちでリーチをかけるといいですよ。 単騎待ちとは言え出やすいですし」
京太郎「ん?でも出和了りでも届かないぜ?」
和「いえ、多分……。 ほら、裏ドラが乗ってます」
京太郎「……おお、なるほど! 裏ドラの牌効率も考えるのか!」
京太郎「やっぱ和は凄いなぁ! ありがとう和!」
和「あら……」
和「……ふふっ」
和「須賀くん須賀くん」チョンチョン
京太郎「ん?」
和「……よかったら明日の放課後、一緒に打ちませんか?」
京太郎「えっ」
和「主に麻雀の勉強の為、ですけどね」
京太郎「そんなっ、願ってもない! いいのか!?」
和「ええ。 私なんかが参考になるといいですけど……」
京太郎「参考にならないわけない!」ガシッ
和「あっ……」
京太郎「ありがとう、和!」
和「……ふふっ」
和「どういたしましてっ♪」
京太郎「ああ。 どういう風の吹き回しだか知らんけど」
咲「ふーん……」
咲「あ、それカンッ」
京太郎「へ?」
咲「っと、ツモ。 嶺上開花ドラ12」
京太郎「は?」
咲「責任払いでトビだよ、京ちゃん」
京太郎「……」
咲「はい、罰ゲーム」
京太郎「おかしい……。 やり始めて10分も経たない内に罰ゲームとは……」
咲「ブツブツ言わない! トんだから3つ引いてね!」
京太郎「お、おう……。 ……何怒ってんだ?」
咲「お、怒ってないもん!」
・幼馴染と手を絡ませる
・幼馴染と腕を組む
・幼馴染にハグ
京太郎「……」
咲「やたっ」ボソッ
京太郎「あん?」
咲「な、なんでもないー」
ギュッ
京太郎「……」
咲「あうっ……あうっ……」
京太郎「……」
咲「きょ、京ちゃん」
京太郎「な、なんだよ」
咲「そ、その……」
咲「もっと強くしてもいい……よ?」
京太郎「……」
ギュウッ
咲「ふわっ……」
咲「うわぁ! わーわーわー!」
京太郎「……」
京太郎( ……隣がうるさくて全然ドキドキしない )
咲「それじゃあその……失礼します……」
京太郎「お、おう」
キュッ
咲「あうぁ……」
京太郎「おぅ……」
咲「あう……うあ……」
京太郎「………」
咲「……きょきょ、京ちゃんが…京ちゃんが近い」
京太郎「お、落ち着け。 大丈夫だ傷は浅い」
咲「そそそそっか、京ちゃん……京ちゃんがこんなに……」
京太郎「いや、だから落ち着け」
咲「えへ、えへへへへへ」
京太郎(なにこいつこわい)
京太郎「……心の準備は良いか? 咲」
咲「え? 準備って?たかがハグに準備なんて必要なの?」
京太郎「えっ……」
咲「この歳にもなってハグの一回や二回も出来なきゃ高校生としてどうなの?」
京太郎「……」
咲「意外と京ちゃんっておくびょ……」
ダキッ
咲「 ふぁっ 」
京太郎「……きょ、虚勢張ってるのバレバレだっつの……」
咲「 」
京太郎「おい、なんとか言ったらどうなんだ……? ……咲?」
咲「 」
京太郎「き……気を失ってる……」
――――
―――
――
咲「ハッ!!?」
京太郎「あ、起きた」
咲「今……天国でお姉ちゃんと追いかけっこをしてたような……」
京太郎「実のお姉さんを勝手に殺すな」
咲「ああでもなんか……胸がすごくポカポカする……」
京太郎「そ、そうか」
咲「それじゃあ京ちゃん。 今日やったことを明日も活かせるようにするんだよ?」
京太郎「罰ゲームやった記憶しかないんだが」
咲「き、気のせい気のせい」
咲「それじゃあ京ちゃん。おやすみ」
京太郎「おう、おやすみ」
咲「いい、京ちゃん? 和ちゃんの迷惑になるようなことは絶対しちゃ駄目だからね?」
京太郎「わかってるって」
咲「ホントに解ってる? ……帰ったら講義の成果、見せてもらうからねっ」
京太郎「はいはい」
咲「むぅ……」
和「須賀くーん」
京太郎「あ、はいはーい。 今いくよ-」
京太郎「それじゃ行ってくる」
咲「……京ちゃん!」
京太郎「あん?」
咲「……待ってるから……ね?」
京太郎「……」
京太郎「おうっ」
京太郎「うん。 何からやるんだ?」
和「これといって特別なことはしませんよ」
和「須賀くんはネット麻雀をしてください。 私は横から見てます」
京太郎「ネトマかー」
和「あ、私のID使っていいですよ」
京太郎「おうサンクス」
京太郎「て……天使なんて段位があるのか……」
和「天使は10段になった後に免許皆伝試験を受けるとなることができますよ」
京太郎「へぇ……なんか難しそうな試験だな」
和「結構単純ですよ。 同じ10段の人と半日打って、ポイント総数で一位になればいいだけです」
京太郎「……半日?」
和「はい。 半日」
京太郎「……」
京太郎「いや、やっぱ和はすごいんだなって……」
和「わ、私のことはいいですからっ。 早く打ってください!」
京太郎「あ、はい」
京太郎「……」カチッ
和「……ふむ」
京太郎「……」カチッ
和「……うん」
京太郎「……」カチッ
リーチッ
和「……いいですね」
京太郎「……うん」カチッ
京太郎(なんか、気不味いな)カチッ
ロンッ
和「……うん」
京太郎「んっ、……」
和「あ、ここはこっちを打つといいですよ」カチッ
ムニュッ
京太郎「おおうっ!?」
和「?」
京太郎「あ、いやいや。 ……なんでもない」カチッ
和「そうですか? …あ、和了れますよ」
京太郎「あ、はい」カチッ
ツモッ
京太郎(今、背中におもちが……)
京太郎「うぅ……」
和「?」
和「うんうん」
京太郎「……」カチッ
和「いいですね」
京太郎(もっかいおもち来ねえかなぁ……)
京太郎「っと……」
和「あ、そこは……」
京太郎「こっちだな」カチッ
リーチッ
和「えっ?」
京太郎「っと来た、カンッ」 カンッ
和「ええっ?」
京太郎「んでもって……」
ツモッ
和「あれぇ!?」
和(狙って打った……? いや、でも須賀くんなら打ち間違えって可能性も……)
京太郎「ツイてたよ、和」
和「そ、そうですね。 今のはツイてましたね」
和(や、やっぱりツキですよね……。 良かったぁ……)
和「す、須賀くん。 今のはツイてたから良かったですけど、こっちを切ればより多面待ちになりますよ」
京太郎「え……? ……お、ホントだ。 俺、こういうの慣れないんだよなー」
和「大抵のネトマだと待ちを教えてくれますよね。 私はあまり好きじゃないからその機能切ってますけど……、戻しますか?」
京太郎「いや、いいよ。 自分で考える方が覚えられると思うし」
和「あら……」
和(意外ですね……。 てっきり戻すと思ったんですが……)
和「ふふっ」
京太郎「?」
京太郎「ありがとうございました!」
和「お、お疲れ様でした……」
京太郎「だ、大丈夫か? お疲れな様子だけど……」
和「お、お構いなく……」
和(まさか一試合で嶺上開花を4回も見るなんて……)
和(まるで咲さんのような打ち方……)
和(っ、……まさか……?)ジッ
京太郎「? 水、飲む?」
和「……」
和「はい。 ……頂きます」
和(……そんなわけないか)クスッ
咲「へ、へぇー。 それはよかったねー」
京太郎「? なにニヤニヤしてんだ?」
咲「べ、別にニヤニヤなんてしてないよっ!」
京太郎「あ、そう……」
咲(うわっ、わわっ。 どうしよどうしよっ)
咲(京ちゃんが私と同じような打ち方してたなんて……)
咲「嬉しい!」
京太郎「っ、! な、なんだよ突然……」
咲(一試合で嶺上開花4回とかもう偶然じゃないよね!)
咲(むしろここまで来たら運命だよねっ! すごいすごい!)
咲「えへ……えへへへ」
京太郎「いつにも増して不気味だ……」
咲「うわぁー満貫手に振っちゃったー。 でも5面待ちなんだし振ってもしょうが無いよねーえへへー」
京太郎「うーわ、ワザとっぽい口調。 つーかわざとだろ」
咲「すごいな京ちゃんいつの間にか多面待ちなんてできるようになってたんだねー」
京太郎「和と勉強したってさっき言ったろうが」
咲「すごいなぁ京ちゃんはー。 えらいえらーい」ナデナデ
京太郎「……」
咲「えへへー。えらーいえらーい」ナデナデ
京太郎「……まいっか」
京太郎「おら、連チャンだ連チャン! 次行くぞー!」
咲「はーい♪」
カンッ ! モイッコカンッ ! サラニカンッ ! ツモッ !
ギャー !
京太郎「げっ、倍満かよ」
優希「一本場のサービス付きだじぇー♪ おらー! 点棒よこせー!」
京太郎「ぐぬぬ」
咲「京ちゃん、別に無理に大きい手を狙う必要は無いんだよ?」
和「そうですよ。 さっきのだって、ピンフで流せる手でしたのに……」
京太郎「わかっちゃいるんだけどなぁ……。 中々大きい手で和了ったことがないもんだから……」
優希「それは流れが読めない証拠だじぇ!」
京太郎「優希……。 流れか……まだ俺にはわからねえな……」
優希「ふぅ……、やれやれ。 ダメ犬を持つと苦労させられるじぇ……」
京太郎「腹立つわぁ……」
優希「ふふふっ、ペットの責任は主人の責任……」
京太郎「?」
優希「喜べ京太郎! いっちょこのアタシがしごいてやるじぇ!」
京太郎「ああ、流れを掴む練習だとさ。 ……朝練なんて中学以来だな」ナデナデ
咲「ふぅん? 何時頃に行くの?」
京太郎「あっちが決める。 多分そろそろメールが来るはず」ナデナデ
♪~♪~
京太郎「と、噂をすれば。 どれ」
from:優希 『明日午前6時! 麻雀部にて! お前を待つ!』
京太郎「なんで決闘風なんだよ」カチカチ
咲「……」
京太郎「……ふふっ。 アホかっ」カチカチ
咲「むぅ……」
咲「京ちゃん! 手が止まってるよ! 続けなさい!」
京太郎「あ、ああ。 悪い悪い」ナデナデ
咲「んっ……。 ~♪」
―罰ゲーム:幼馴染の頭を撫でる。
京太郎「おはようございまーす」ガララッ
京太郎「……あれ? いねえな、アイツ」
「お、おお……主人より先に来るとは……。 殊勝な犬だじぇ……」
京太郎「おわっ! び、ビックリした……。 いきなり後ろから話しかけんなよ……」
優希「おおう……。 きょーたろー……大きい声出すなぁ……」
京太郎「わ、悪い……。 ……随分と眠そうだな」
優希「そりゃあ……一睡もしなけりゃこうなる……」
京太郎「は? 寝てないのかお前」
優希「ベッド入ると……ドキドキして眠気が来なかったんだもん……」
京太郎「翌日が遠足の幼稚園児みてえなこと言うなよ……」
優希「だって……」
優希「京太郎と打てるの……楽しみだったから……」
京太郎「……」
優希「そうだ……全部きょうたろーが悪い……」
京太郎「んで?どうするよ?」
優希「あー……きょーたろー……」
京太郎「はいはい。 ここにいるよ。 どうした?」
優希「ベッドまでおぶってぇ……」
京太郎「寝る気満々っすね」
京太郎「よっと……、お前軽いなぁ」
優希「あう……ちっこい言うな……」
京太郎「言ってない言ってない。 ほら、ベッドだぞ」
優希「あー……きょーたろー」
京太郎「なんだー?」
優希「あり……がと……」
京太郎「……おう。 しっかり寝ろよ」
優希「……タコスの匂い……」
優希「タコス!?」バッ
京太郎「タコスの匂いで起きるなんてお前らしいな」
優希「きょ、京太郎! 今何時だ!?」
京太郎「7時40分くらいか。 まだ寝足りないだろうけど、とりあえずこれ食っとけ」スッ
優希「タコス……。 わざわざ買ってきたのか!?」
京太郎「まさか。 俺特性の朝食用タコスだ。 俺なりに研究して作ってみたんだ」
優希「お、おおお……京太郎特性……!」
京太郎「ほら、冷めねえうちに食っちまえ」
優希「う、うん! 頂きますじぇ!」パクッ
京太郎「……味はどうだ?」
優希「うん! 美味いじぇ!!」
優希「毎日食べたいくらい!!」
京太郎「様子が様子だったからなぁ。 食った後は暴眠してたし」
京太郎「だからまた今度の日にすることになった」
咲「なんかふんだり蹴ったりだね、京ちゃん」
京太郎「まぁ優希だからな。 そこら辺は諦めてる」
咲「あははー」
咲(なにこの『アイツのことは俺が一番解ってる感』……)
京太郎「ああ、それと。 試食してもらってた朝食用タコスだけどさ」
咲「ああ、あれ? タコスなのに軽く食べられるから好きなんだよねー」
京太郎「明日から毎朝優希に作ってやることになった」
咲「へぇ~」
咲「………へぇ!!?」
京太郎「あいつが毎日食べたいくらい美味いって言うからさ」
咲「ええっ!?」
咲(そ、それって……)
京太郎「……っと、優希からだ」
from優希:『タコスが楽しみで眠気が来ない! どうしてくれる!!』
京太郎「んな理不尽な……」カチカチ
咲「……」
京太郎「……ったく……。 しょうがねえな……」
咲「……むぅ」
京太郎「……ははっ。 アホらしっ」
咲「~~!!」
咲「京ちゃん! メールしてる場合じゃないよ! まだ東風一回しかしてないんだから!」
京太郎「え? 今日はもう終わりってさっき……」
咲「知らないもん! ほら、卓に着いて! 早く罰ゲームするんだから!!」
京太郎「趣旨が違くなってねえか!?」
咲「うー!!」
京太郎「わ、わかったよ。 そんな睨むなって……」
京太郎「 」
咲「四槓子四連刻四暗刻単騎!」
京太郎「 」
咲「ロン!」
咲「大四喜字一色八連荘!」
京太郎「 」
咲「ロン!!」
咲「純正九蓮宝燈!!!」
京太郎「 」
咲「まだまだいくよ……!」
京太郎「ちょ」
咲(京ちゃんは絶対に……渡さないんだから!!)
カンッ! ギャー!
―――――――――― おしまい。
許してくれよ……
読んでくれてありがとう
暇つぶしでここまで書いたのは久々かもしれん
また会ったらよろしく
和「麻雀上手になりましたね、須賀くん」 京太郎「そうか?」
引用元: http://hayabusa.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1350714110/
京太郎「ここはこっちかな」
和「うん……牌効率がしっかりしてますね。 ちゃんと裏ドラも見てますし」
京太郎「あれ以来裏ドラが何か当てるのが楽しくなっちゃってさ。 ……っと」
リーチッ
京太郎「うげっ……安牌無い……」
和「捨て牌見るにそこまで心配するほどじゃないと思いますけど……」
京太郎「そ、そうなの?」
和「ええ。 多分……123か234での三色。 待ちは1-4mか2-5じゃないかと」
京太郎「ぜ……全然わかんねぇ……。 ……あっ」
ツモッ. サンショクドージュンッ
京太郎「ほ、ホントに下の三色だ……!」
和「えっへん」
京太郎「やっぱ和はすごいなぁ……」
和「ふふっ。 それほどでもっ♪」
和「どういたしまして。 お疲れ様です」
京太郎「後半、和に頼りっぱなしだった気がする……」
和「須賀くんは基礎と牌効率はわかってきても、捨て牌読みはまだまだなんですね」
京太郎「うぐっ……。 で、でも嶺上開花を4回も決めたぜ!」
和「そ、それはたまたまです! 今日はたまたま運が良かっただけです!」
京太郎「そうなのかなぁ……。 咲の打ち方を真似してだけなのに……」
和「そんなオカルト……ありえませんよ……」
京太郎「じゃあ、俺こっちだから」
和「はい。 気をつけて帰ってくださいねっ」
京太郎「そりゃこっちのセリフだよ」
京太郎「おやすみ、和」
和「ええ。 おやすみなさい、須賀くん」
京太郎「うーん………。 ま、マンズの3-6?」
咲「ぶー。 正解はソウズの1-4でしたー」
京太郎「ま、まるで違う……。 ……次」
咲「……これは?」
京太郎「何だこの捨牌……。 ……ヤオチュウ牌……だと思うけど……」
咲「よく見てよ京ちゃん……ピンズが1つもないんだよ?」
京太郎「あっ……」
咲「ダメダメだね!」
京太郎「ぐぬぬ……」
咲「ふふ……」
咲(悔しがってる京ちゃん……可愛いなぁ……)
咲「つ、次行こ! 次!」ハァハァ
京太郎「息荒いなお前」
咲「結局一回も当たらなかったね。京ちゃん」
京太郎「んなこと言ったって……捨て牌だけで待ちを正確に当てることなんて出来るわけねえよ……」
咲「京ちゃんの場合、おおよそすら当たらないじゃん?」
京太郎「……うっせ」
咲「えへへっ」
咲「さーて罰ゲーム、罰ゲーム」スッ
京太郎「あれ……。 箱おっきくなってねえか?」
咲「え? そ、そうかな~?」
京太郎「前の箱……それの半分位だった気がするんだけど……」
咲「き、気のせいだよ。 うん、気のせい気のせい!」
京太郎「そうだったっけ……」
咲「ぶ、ぶつくさ言わずにさっさと引く!」グッ
京太郎「痛い痛い! わ、わかったから押し付けんなって!」
咲「ううー!」
咲「んー? 待ち牌読みのことー?」ゴロゴロ
京太郎「ああ……。 数こなすのが一番ってのはわかるんだけどさ……」
咲「今日だって和ちゃんと一緒にお勉強したんでしょ?」
京太郎「和には牌効率について重点的に教わってるからな。 捨て牌読みはそんなに……」
咲「んー……。 じゃあさ、牌譜読んでみればいいんじゃない?」ゴロゴロ
京太郎「牌譜? 牌譜か……。……でもウチにそんなのねえし……」
咲「そこの本棚にいくつかあるよ。 好きにとってっていいよ~」ゴロゴロ
京太郎「おお、助かる」
咲「それじゃ、牌譜貸す代わりに後10分追加ね~」ゴロン
京太郎「えぇ……。 いい加減膝疲れてきたんだけど……」
咲「~♪」ゴロゴロ
京太郎「聞いちゃいねえわ」
――罰ゲーム:幼馴染に膝枕
京太郎「……? 何でここで5s打つんだ……?」ペラッ
京太郎「あ、通るのか……。 うーん……」ペラッ
京太郎「あー………」ゴロン
京太郎「……駄目だ……さっぱりわかんねぇ……」
「なんじゃ京太郎。ダレとるのぅ?」
京太郎「あっ」
京太郎「まこ先輩」
まこ「ようっ」
京太郎「んっ……。 そうなんすけど……」
まこ「ん?」
まこ「ふむ……なるほど」
まこ「待ち牌読みの為に牌譜を読み始めたはいいもののさっぱり身につかない、と」
京太郎「はい……」
まこ「この牌譜……プロの牌譜じゃな。 京太郎にはまだ難しいじゃろうに」
京太郎「全ッ然考えがわかりません……。プロは何見て打ってるんんだ……」
まこ「あー……」
まこ「京太郎。 ちょっくら待っとれ」
京太郎「?」
京太郎「……」
まこ「とは言っても今日は客じゃがのうっ」
京太郎「あの……確かにリアルの方が良いとはいいましたけど……」
京太郎「なんでまたメイド雀荘なんすか」
―――
――
―
まこ『多分お前は文字面で見たところでイメージが湧かんじゃろ』
京太郎『んまぁ……できればリアルの牌のほうがわかりやすいっすね』
まこ『じゃろ? んなら話は早い。 行くぞ京太郎』
京太郎『へ? 行くって……どこへ?』
まこ『決まっちょろう?』
まこ『リアルで打てる所じゃ』
咲「お、おかえりなさいませ……」
和「おかえりなさいませっ、須賀くん」
京太郎「さ、咲に和! どうしてここに……」
まこ「わしが呼んだ。 ……つーか呼ぼうとしたらあっちから来たんじゃ」
京太郎「へぇぇ……。 流石、和。 メイド服もよく似合う」
和「そ、そうですか? ふふっ、ありがとうございますっ」
咲「……。 ……きょ、京ちゃん!」
京太郎「おう?」
咲「お、おかえりなさいませ……ご、ご主人様っ」
京太郎「……」
咲「……」
京太郎「……」
ナデナデ
咲「! ……えへ、えへへ……」
和「はい。 じゃあ私はあそこの雀にでも……」
咲「い、イチャイチャなんて……してないもん……」
スタスタ...
京太郎「……それで? 俺も一緒に打ってこいって事すか?」
まこ「んーにゃっ、ちと待っとれ。 あと一人、待ち人がおる」
京太郎「……?」
まこ「この雀荘はノーレートなんじゃがな。 それでも好んでここに来るプロ雀士がおる」
京太郎「……そ、それって」
まこ「そう。 ……人は彼女を」
まこ「『まくりの女王』と呼ぶ」
ガチャッ
藤田「ふいー。 まこー、カツ丼おねがいねー」
藤田「ん……。 例の子がその子?」
まこ「そうです。 一年の須賀京太郎です」
京太郎「あ、どうもっ」
藤田「ふぅん……。 走りだしの新米って感じね……」
京太郎「むっ……」
まこ「京太郎。 今日はお前、打たなくていい」
京太郎「えっ?」
まこ「藤田さんの打ち筋を見せてもらえ。 そんで考えろ」
京太郎「は、はぁ……」
まこ「……いいか? 京太郎。 これはちゃんと覚えとけ」
まこ「藤田さんは、プロじゃ」
京太郎「………」
京太郎「おっ……」
京太郎(東一局、6巡目でチートイ一向聴……)
京太郎(このままリーチ……か?)
藤田「……」
藤田「気に入らないわねっ」チャッ
京太郎「えっ!」
京太郎(りゃ、二向聴に戻すか? 6巡目だからって余裕持ってんのか……?)
藤田「……」チラッ
京太郎「……?」
藤田「……ふふっ」
藤田(わっかんないだろうねぇ……。 トーシロちゃんにはっ……)
京太郎「……な、なんだと……」
京太郎(結局6巡目チートイから……わずか4巡でメンタンピンイーペーコードラドラの跳満手……)
京太郎(あのままチートイで引っ張ってったら……テンパイが出来なかった……)
京太郎(それどころか……!)チラッ
モブ「あっちゃぁ……。 和了りは純カラだったかぁ……」
京太郎(当たり牌を阻止しての和了り……!)
京太郎(チートイだったら振ってたかもしれない……)
藤田「ふふっ……」ニヤニヤ
藤田「どうよ? 少しは勉強になりそうかね?」クルッ
京太郎「……っ、」
京太郎(場の流れを読む力と相手の当たり牌を事前に読む能力……)
京太郎「これが……プロかっ……!」
まこ「ありやとーしたー」
バタンッ
まこ「……どうじゃった? 少しは勉強になれそうじゃったか?」
京太郎「……」ブツブツ
まこ「……ん?」
京太郎「降りる様に攻め、攻めるように降りる。 テンパイ気配は悟られないようにする。 流れは掴んだら離さない……」ブツブツ
まこ「……お、おう……」
京太郎「んっ……、ああ、まこ先輩」
まこ「わりゃぁ大丈夫か? 顔が赤うなっとるが……」
京太郎「ああ……。 ちょっと興奮気味でして…・…。 やっぱプロはすごいっすね……」
まこ「……得たものは合ったか?」
京太郎「はい! 間違いなく!」
まこ「……ふっ。 そうかそうか」
ナデナデ
京太郎「……うっ」
まこ「じゃが、素人らしい吸収力がある。 お前の持ち味はそこじゃ」
京太郎「……」
まこ「見たモノをしっかりと刻み、そして活かす力が……お前にはある」
京太郎「……」
まこ「焦るな京太郎。 大丈夫、お前は日々強くなっとる」ナデナデ
京太郎「……」
京太郎「……どうも」
まこ「ふふっ」
まこ「……若さにまかせて突っ走るのもええじゃろが、無茶だけはするなよ?」
まこ「お前を待っとる子がおるんじゃから」スッ
京太郎「?」
咲「京ちゃーん!!」
まこ「ふふっ……咲に心配かけたらゲンコツ食らわしたるわ!」
京太郎「そ、それは嫌ですね……ハハッ」
まこ「……そら、行ってこい」
京太郎「……はいっ!」
京太郎「ありがとうございましたっ!!」
ダッ...
まこ「ふぅ……」
まこ「………わしにも子供ができたらあんな感じなのかねぇ……」
まこ「………」
まこ「……京太郎が子供……か」
まこ「ふむ……」
まこ「悪くないな」ニヤリ
咲「こ、これはっ?」
京太郎「……1-4-7s。 役は多分……一気通貫……かな?」
咲「す、スゴイスゴイ! 大正解だよ京ちゃん!」
京太郎「おー当たったか」
咲「一日でこんなになるなんて……。 ……雀荘行った甲斐があったね!京ちゃん!」
京太郎「おうっ」
京太郎「つーわけで今日は罰ゲームしなくていいよな?」
咲「えっ……」
京太郎「そ、そんな泣きそうな顔しなくても……」
咲「そ、そうだよね……京ちゃんは上手くなったんだし……」
京太郎(めっちゃ涙ぐんでる!!!)
咲「……罰ゲームの必要は……もう……」
京太郎「……・あー」
咲「っ、」ピクッ
京太郎「今日はどんな罰ゲームやる予定だったのかなー。 気になるなー」
咲「き、気になる!!?」
京太郎「うおっ」
咲「そ、そんなに興味があるならやってあげようかなー」
京太郎「お、おうおう! 興味津津!」
咲「えへへ……しょ、しょうがないなぁ~京ちゃんはぁ……。そんなに言うんだもん、仕方がないなぁ~……」ゴソゴソ
京太郎「ははは……う、嬉しいなぁ~……」
京太郎(傍から見たら俺、ドMみたいだ)
ナ,ナンデ メイドフク モッテキテンダヨッ !!
ニアウカラッ! ゼッタイニアウカラッ!!
イ,イヤダ-!! ソレダケハイヤダー!!!
和「私は持ってないですよ」
咲「あ、9pなら一枚……」
京太郎「ああ、やっぱ6-9pだったか」
優希「じぇ?」
京太郎「ホラよ」パタッ
優希「じぇじぇー!? 6pカンツ持ちに9p頭ー!?」
京太郎「あと多分……槓ドラ裏ドラに9p一枚……かな」
和「お見事っ。 次の槓ドラが9pですね」
咲「京ちゃんすごーい……」
優希「ぐぬぬ……。た、たまたまだじぇ! 偶然だじょ!」
京太郎「ハハハッ。 はいはい、偶然偶然」
優希「その余裕腹立つじぇー!!」
久「……ふぅん?」
まこ「朝は優希と。 放課後は和。 帰ったら咲とお勉強じゃからのぅ。 そりゃ強うなるわ」
久「ず、随分タイトなスケジュールね……。……なんでアンタ知ってんの」
まこ「京太郎から聞いた」
久「あ、そう……」
咲「カンッ! ……っと、ツモッ! ツモ嶺上開花トイトイ……かなっ?」
京太郎「それ四暗刻じゃねえか! トばされたー!!」
優希「お、親っかぶり……」
和「さ、咲さんも絶好調ですね……」
咲「そ、そうかな? ……えへへ」
久「……咲も順調ね」
まこ「ああ……前より強うなっとる気がするわ」
久「……」
久(須賀くんのおかげ……かしら……)
和「私も、負けてられませんね……!」
咲「負けないよぉ……!」
京太郎「おお……めっちゃやる気だ……」
久「ほぉ……」
久(みんなのモチベーションが上がってる……須賀くんを中心に……)
久(須賀くんが上手くなるほど……部のまとまりがより強くなる……)
久「……ふむっ」
久「咲。 交代してくれない?」
咲「部長」
京太郎「あ、なら俺が代わりますよ」
久「いや、須賀くん。 あなたはかわらなくていいわ」
京太郎「そっすか?」
久「ええ……」ニヤ
咲(……? な、なんか……怖い……)
京太郎「おっと……」
京太郎(今出したのは3s。その直前に8s切りだから……)
京太郎(典型的間四軒……。 4-7s待ちで2sは通るな……)
京太郎「俺もリーチです」チャッ
久「あら、強気ね。 ……でも忘れてない? 須賀くん」
京太郎「?」
久「私の打ち方がどんなものか……ってこと……!」
京太郎「……あっ!」
久「ふふっ。 ロン、よ」パタッ
和「三枚切れの2s待ち!? こっちを切るほうが待ちは多いのに……」
久「裏が2つのってリーチ一発ドラ4。 12000よ、須賀くん」
京太郎「ぐっ……」
久「さぁ……」
久「次、行きましょ?」
久「ま、こんなもんね」
和「三連続ハコテンとは……」
優希「アハハハ!! ざまあないじぇー!」
京太郎「うるせえこのやろ!」グリグリ
優希「ギャー!!」
久「さってと。それじゃ、生徒会の仕事残しちゃってたから行ってくるわ」
まこ「おーう」
久「咲、咲」
咲「あ、はい」
久「須賀くん、基礎はもう大丈夫だけど応用が全く出来てないわ」
咲「あー……。 やっぱり……」
久「そろそろステップアップしてもいい頃だと思うわ」
咲「……うーん……」
京太郎「んー……。 応用なぁ……よくわかんねえなぁ」
京太郎「牌効率がわかって、相手の待ちが読める様になって、流れがつかめればいいんじゃねえのか?」
咲「確かに基礎がしっかりできるのは良いことだよ」
咲「でも逆に、基礎しか出来てないんじゃそこを狙い撃ちされちゃう」
京太郎「今日の部長みたいに、かぁ……」
咲「京ちゃんはどんな打ち方がしてみたい?」
京太郎「んー……あんま考えたことないな……」
咲「じゃあ個人のフォームを持ってみる、とかどう?」
京太郎「?……どういうことだ?」
咲「例えば私は嶺上開花の流れを読んでそれを応用にしてる。 和ちゃんは基礎を超えたデジタル麻雀だし、優希ちゃんは速攻の達人」
咲「自分にしか無いフォームを作るのっ」
京太郎「はぁ……なるほど……」
咲「あ、それだよ京ちゃん。 ロン」
京太郎「げっ」
咲「ちょっと考えがブレちゃったかな。ごめんね、京ちゃん」
京太郎「いや、別にいいよ。 確かに俺なりのフォームってのが欲しいと思ってた頃だし」
咲「いい心がけだねっ。 ……あ、ドラが6つ乗った」
京太郎「……はっ?」
咲「面前混一色三槓子ドラ6赤2……。 役満だねっ」
京太郎「……これで今日5回目のトビ……」
咲「えへへ……ごめんねっ。 はいっ、罰ゲームっ!」スッ
京太郎「……またメイドフクを着る……とか無いよな……?」
咲「な、無いよナイナイ! 大丈夫だから、安心して罰を受けてねっ!」
京太郎「変な日本語だ……」ゴソゴソ
咲「トんだから三枚引くんだよー」
京太郎「わかってらい」ゴソゴソ
咲「一枚目ー」
『幼馴染についてどう思うか』
京太郎「……なんだこれ」
咲「どう思います?」
京太郎「いや、そんな他人事の様に聞かれても……十中八九お前のことだろ」
京太郎「言うの?」
咲「言うの!」
京太郎「あー……なんていうかそのー……」
咲「うんうんっ」ドキドキ
京太郎「恥ずかしいけれど……」
京太郎「無くちゃならない存在、かな」
咲「 」
京太郎「麻雀がこんなに楽しいなんて知らなかったし……」
京太郎「言っていいのかわかんねえけど、まぁ……強くなってきてるみたいだし?」
京太郎「元をたどれば全部お前のおかげなんだよなっ」
咲「あ……あう……////」
京太郎「毎日俺の面倒見てくれて、ありがたいったらない」
京太郎「それに、お前と一緒だと麻雀がすごく楽しいんだ」
咲「そ、そんな……////」
京太郎「俺の人生……もう半分はお前のもんだよ……」
咲「京ちゃん……」
京太郎「咲……」
―――
――
―
咲「なんてことになったりして! キャー!」
京太郎「な、なにトリップおこしてんだ……?」
京太郎「いや……幼馴染は幼馴染だろ」
咲「そーいうのじゃなくてぇ……もっとこう……」
京太郎「なんだよ? 超えるべきライバル、とでも言えばよかったのか?」
咲「な、なんか嫌だ……」
京太郎「だろ?」
咲「うー……」
京太郎「………」
京太郎「咲」
咲「?」
京太郎「確かにお前は俺の幼馴染でそれ以下でも以上でもない。 ……だけどな?」
咲「う、うん」
京太郎「少なくとも、今の俺があるのはお前のおかげだよ」
咲「ふぁ」
咲「……////」
咲「そ、そんなこと無いよ……」
咲「……すごく嬉しい……」
京太郎「それじゃ、また明日な」
咲「う、うん……またね……」
咲「きょ、今日やったことを明日にも活かせるようにするんだよ?」
京太郎「おーう。 じゃーなー」
咲「……」
咲「今の京ちゃんは私のおかげ……」
咲「……えへへっ……」
咲「……あっ!!」
咲「あと二枚! 引いて無いよ京ちゃん!」
京太郎「っ、」ギクッ
京太郎「じゃ、じゃあな~!!」ダッ
咲「こ、こら~!!」
京太郎「そりゃそうか。優希だもんな」
優希「……今の馬鹿にされた?」
京太郎「いや、褒めたつもり」
優希「そうかそうか!」
優希「アタシはただ流れに乗せて打ってるだけだじぇ」
優希「東発でとにかく決める!速攻ってかっこええべ?」
京太郎「南場は逃げるってかっこ悪いな」
優希「うるじぇー! 南場は流れが来ないだけだじょ……」
京太郎「ふむ……。 でもなんだかんだで優希の打ち方はわかりやすいよな」
優希「だろ? ほら、アタシ凄い!」
京太郎「ああ、ホント単純だよなお前は」
優希「……今の馬鹿にされた?」
京太郎「いや、褒めたつもり」
優希「そうかそうか!!」
京太郎「和もか……」カチッ
和「打ち方なんてものは自然と出来てるものだと思います。 私の場合はデジタル麻雀だったんですよ」
京太郎「やっぱそんなもんなのかなぁ……」カチッ
和「……あ、そこは」
京太郎「こっちだろ? 牌効率考えたらこっちのほうが良いよな」カチッ
和「あ……はい……」
京太郎「フォームなぁ……。 んっ」
リーチッ
和(さ、三巡目リーチ……)
京太郎「わっかんねぇなぁ……・。っと」
カンッ
和(ど、ドラ4……)
京太郎「どうすりゃいいんだろ……。 あ、ツモった」
和(SOA……)
京太郎「ん? いや、ツイてたよ」
和「で、ですよねぇ……」
京太郎「ただ、なんとなく……」
京太郎「咲と和と優希のマネして打ってみようと思っただけだよ」
和「………」
和(もしかして……須賀くんのフォームって……)
京太郎「部長ー」
久「あら、須賀くん。 今、生徒会の仕事中だから……」
京太郎「あの、部活ん時俺とまた打ってくれませんか?」
久「? 構わないわよ?」
京太郎「よっしゃ! 楽しみだ!」
久「……」
久(昨日あれだけやったのに、随分と元気ね……)
久「それじゃあ、始めましょ」
京太郎「よろしくお願いします」
優希「まーす」
まこ「よろしゅう」
久「さて……と……」
久(また沈んてもらいましょうか……!)
久「リーチよっ」チャッ
京太郎「むっ」
和(部長の先制リーチ! ……須賀くんは?)
京太郎「………」
京太郎(最初の赤5p打。 その後も中張牌をまんべんなく切ってる……)
京太郎(普通ならチャンタ型の端っこ待ち……。 ……だけど)
久「ふふっ……」クスッ
京太郎(部長……だもんなっ!)
打1m
久「あら」
京太郎「……通し、ですか?」
久「ええ……通しよ」
優希「危なっかしいとこ切るじぇ……。 ベタオリベタオリっと……」打4p
久「ごめんなさい、それよ。 ロン」
優希「じぇー!? 第一打赤5pなのに間4p待ちー!?」
京太郎(……よっし。 やっぱり最初の一打はフェイク)
京太郎(『部長なら』……きっとそう打つはず……!)
久(これぐらいの待ちは読めてるってことかしら……)
久(ふふっ……面白い子……)
京太郎「んっ……!」チャッ
京太郎(いきますよ……部長!)
京太郎「ダブルリーチ!」ダッ
久「!」
京太郎「きましたっ、ツモッ! 4000オール!」
まこ「は、はえぇ……」
優希「そ、そういうのウチのお株なんですけど!」
京太郎「おう。 だからマネしてみたぜっ」
優希「んだとー!?」
久(本当に……優希のような打ち筋……)
久(……まさか……!)
久「むむっ……」
和(凄い! ムダヅモ無しの満貫和了り……! 卒のない打ち方……!)
咲(まるで……和ちゃんのような……)
まこ「い、勢い付いてきおったな……」
久「リーチッ!」チャッ 打:4p
久(1p7pのバッタち……これなら?)
和(上手い! ピンズの処理を早めにしてからの4pで引っ掛け……!)
和(いくら須賀くんでもこれは……)
京太郎「………」
京太郎(……咲なら……どう打つ?)チラッ
咲「あっ……」
咲「……」グッ
京太郎「………」グッ
京太郎(そりゃ……そうだよな……!)
京太郎「その4pカンッ!」
久「なっ!」
京太郎「まだいきますよ!」
京太郎「んもいっこカンッ!」 5pカン
優希「おおおっ!?」
京太郎「まだまだっ!」
京太郎「さらに、カンッ!」 6pカン
まこ「なんじゃと!?」
和(こ、これで……)
和(これで……部長と同じ待ち……!)
和(1pと7pのシャボ待ち!!)
京太郎(和了れはしないけど振込もしない……)
京太郎「これで……どうです……!」
優希「ノーテンだじぇ……」
京太郎「……部長……あなたの待ち、当ててみますよ」
久「、っ……」
京太郎「1pと7pのバッタ待ち……。 そうでしょう?」
京太郎「俺もそうですから」パタッ
久「……」
まこ「え、えーっと……親は優希のオーラス。 京太郎と部長に1500ずつだから……」
和「ど、同点……! 須賀くんと部長が、同点!」
優希「親に近い方優先だから……」
京太郎「あー……ははっ。 一歩及ばなかったなぁ……」
久「私の……勝ち……か……」
久「………」
まこ「? ……部長?」
久「あ、あー! そういえば生徒会の仕事、まだ残ってたわ!」
咲「へ? それ、昨日終わったはずじゃ」
久「ちょっとだけ残しちゃったの! だから行かなきゃー!」
久「みんなお疲れ様! 気をつけて帰ってねぇー!!」ダッ
バタンッ....
優希「……あっという間に行っちゃったじぇ……」
まこ「……なんじゃありゃ……」
まこ(部長が……顔真っ赤じゃった……)
久「はぁ……はぁ……」
京太郎『部長……あなた待ち、当ててみますよ』
京太郎『1pと7pのバッタ待ちでしょう?』
京太郎『俺もそうですから』
久「~!!」ブンブンブン
久(なによなによなによ! 何があなたの待ち当ててみせるよ!)
久(私と同じ待ちってなによ! そんなんでドヤ顔してんじゃないわよ!)
久(すっごくすっごくすっごく……!!)
久「ドキドキしちゃう……」
久「うわぁ……うわぁああああわわわわわ……!」
―
久「ふうぅ……。 なんとか収まったぁ……」
久「………」
久「あの打ち方……まるで咲のようだった……」
久「狙って? ……それにしては出来過ぎてる……」
久「……私が言えることじゃないかっ……」
久(あ、やっぱりまだドキドキしてる……)
久「……麻雀打ってこんなに胸打つの、久々だわ……」
久「………」
久「ふふっ……」
久「……あーあっ」
久「これだから麻雀って面白い!!」
京太郎「あ、ああ。 ありがとう」
咲「惜しくも部長に一歩届かなかったけど、それでもよくやったよ!」ナデナデ
京太郎「そ、そうか」
咲「えへへへ……。 京ちゃんの先生としては、お鼻が高いですよぅぉぅぉぅ」ナデナデ
京太郎「久々に怖いよお前」
咲「今日の試合で京ちゃんが一回りも二回りも大きく見えるよ」
京太郎「そりゃどうも。 まぁ確かに、得たものは大きかったな」
咲「でもこれで京ちゃんのフォームができたねー」
京太郎「えっ?」
咲「えっ?」
京太郎「俺……なんかフォーム出来てたか?」
咲「……」
咲「えっ?」
咲「きょ、京ちゃん。 打ってる時なにか意識してなかった?」
京太郎「ん? いや、特には」
咲「……」
京太郎「…・…ただ」
咲「?」
京太郎「『もし咲だったらどう打つかな』ってことだけ考えてた」
咲「………」
ナデリ
京太郎「んっ」
咲「もぉ~京ちゃんは~!」ナデリナデリ
京太郎「な、なんだよ」
咲「ほんとにもぉ~。 京ちゃんはぁ~!」ナデリナデリ
京太郎「な、なんか、いつもと撫で方が……」
咲「もぉ~。 しょうがないんだからぁ~」ナデリナデリ
京太郎「合宿ですか?」
久「そうよ。 長野4校合同合宿」
優希「龍門渕と~風越と~鶴賀と~」
まこ「そんでウチら清澄の4校での合宿じゃ」
和「県の団体決勝4校での合宿……ですか」
京太郎「そりゃ凄いな」
咲「衣ちゃんとまた打てるのかぁ……」
久「まぁそんなわけで、夏休み中に一週間の合宿をします」
久「周りは因縁付けた高校ではあるけれど、合宿中は共に戦う友達」
久「変な争いごとは避けるように」
咲「はい!」 優希「じぇー」 和「はい」 まこ「あいあい」
京太郎「それじゃあ俺はお土産を期待して待ってますよ」
久「えっ? 何言ってるのよ」
久「あなたも来るのよ? 須賀くん」
まこ「えっ」
優希「えっ」
和「えっ」
咲「えっ」
京太郎「 」
京太郎「 えっ? 」
―――続く?
6時間近くもありがとう
合宿編は龍門渕、風越、鶴賀とばらばらで書いてみたいとは思う
改めて読んでくれてありがとう
また会ったらよろしく
Entry ⇒ 2012.11.05 | Category ⇒ 咲-Saki-SS | Comments (0) | Trackbacks (0)
咲「陽に照らされて花は咲く」
の後編になります。
原作設定を無視してオリジナル展開、オリジナル設定、独自解釈があります。
あくまでパラレルワールド的に捉えてください。
あと、前編以上にノリノリで麻雀パート書いてしまいました。すみません。
麻雀そのものは弱いです。積み棒計算は省きます。
決勝戦前日
菫「みんなお疲れ様。今年も決勝戦までこれたな。残すところあと一試合だ。油断せず、全力でいこう」
部員一同「はい!」
菫「では解散」
部員一同「ありがとうございました!」
菫「ふう……」
菫「誠子、照と大星がどこにいるか知ってるか? 見えないんだが」
誠子「え、ああ、なんか部屋にいるらしいです。宮永先輩はちょっと疲れたからって」
菫(で、大星はその付き添いか)
菫「わかった。ありがとう」
菫(照……準決勝からずっと様子がおかしかった。普段は真面目なのに、急に大星と
勝敗を賭けたりして……あいつらしくない)
菫(……少し様子を見てくるか)
廊下
菫「あいつの部屋は私の隣だったな」
菫(本当は私と相部屋する予定だったんだが、大星が「テルと同じ部屋じゃないと
泊まらない」ってうるさかったからな)
菫「照、入るぞ」コンコン ガチャ
菫「照、大丈夫か?」
照「大丈夫」
淡「くぅー」スピー
菫「こいつは……集合かけても来ないと思えば、まさか寝てるとは……
本当に集団行動のできんやつだな。部活動だっていう意識がないのか?」
菫(ないんだろうなぁ……)ハァ
菫「それで、体調が悪いって聞いたが?」
照「それは嘘」
菫「……お前も大星に毒されてきたんじゃないだろうな?」
照「少し考え事がしたくて」
菫「そうか。――まあ、その、なんだ」
照「?」
菫「準決勝……お疲れ様。いつも通り大活躍だったな」
照「……どうしたの急に」
菫「労ってるんだ、素直に受け取れ。というか、他の部員にはさっき集合かけて
伝えたんだ。お前がこないから個人的に伝えにきたんだよ」
照「そう」
菫「……それで、どうしたんだ? お前準決勝からおかしいぞ」
照「……別におかしくなんてない」
菫「見くびるなよ。何年一緒に麻雀打ってきたと思ってる」
照「……」
菫「急に大星をけしかけるようなこと言ったり、終いには大将戦を代わってくれだなんて」
照「変更はできそうなの?」
菫「帰りに申請してきたよ。ちゃんと受理された。明日の大将はお前だ、照」
照「……そう」
菫「やっぱりなにかあるのか? あの清澄の大将と。……お前の……妹さんじゃないのか?」
照「くどい。違うと言っている」
菫「ならなんで大将を代われなんて言ったんだ。そもそもお前が大星を大将に据えたようなものだろう」
照「……」
照「別に。少し淡を買いかぶりすぎてただけ。この子になら大将が務まると思ったけど、
準決勝を見て、淡だと清澄に勝てないかもしれないと改めたの」
菫「そうか? 身内贔屓を差し引いても、十分清澄と互角以上に戦えてたと思うけどな。
まあ、大星の納得できる勝ち方ではなかっただろうがな」
照「でも、嬉しそうだったね、淡」
菫「確かにな。まあ、こいつは全国にも期待してなかったみたいだし、思わぬところで
自分と……それも同学年で互角に戦えるやつに出会えて嬉しいだろうな。連れてきてよかったよ、本当に」
照「……」
菫「? どうした」
照「菫は、どうしてそこまで淡を気遣うの?」
菫「どうしてって……後輩だからな。当然だ」
照「それだけ?」
菫「……どうなんだろうな。こいつはどこか放っておけないんだ」
照「菫はおせっかい焼き過ぎだと思う」
菫「おいおい、誰のせいだと思ってる」
照「……私のせいなの?」
菫「当たり前だ、まったく。一年の頃のお前は全く部に馴染めずにいつも一人で、
そのくせいつも寂しそうで、しょっちゅう迷子になるし、本当に世話のかかる奴だったよ」
照「……そんなことない」
菫「どの口が言う。お前は一年の頃から他の部員を圧倒してて、なんか一軍の人らも
どう接していいのか困ってたから、とにかく部で浮いてたぞ。私もそんなお前が
気になって仕方なくて、何度も話しかけたりして気を遣ってたらいつの間にか
お前の世話役を押しつけられたようなもんだ」
照「……ごめん」
菫「別に責めてるわけじゃないさ。ただ……そんなお前と大星は、驚くほど重なるんだ」
照「私と淡が?」
こいつのことが気がかりで仕方ないんだよ私は」ツンツン
淡「ん……」スピー
照「……菫はさ」
菫「ん?」
照「淡が怖いって感じるときないの?」
菫「怖い? どうして」
照「実力が違いすぎる。この子と打って、次元の違いを感じたりしない?」
菫「この、ハッキリ言ってくれるじゃないか」
菫「……正直言って、次元の違いは感じる。こいつは実力までお前にそっくりだ。その差に愕然と
することはある。もしかしたらそれが怖いってことなのかもな」
菫「だが、大星から逃げ出したいなんて思ったことはない。大星と打つのはちゃんと
楽しいし、もっとこいつと打ちたいって思う。先輩が言う台詞じゃないかもしれんが、
いつかこいつに追いつきたいって思う」
照「そう……」
菫「お前もだぞ、照」
照「え?」
菫「前にお前と打つのは楽しいと言ったが、あれは嘘なんかじゃない。
……まあ、一年の頃は確かに、お前と私じゃあまりにも差がありすぎて腰が引けてたのは
事実だ。だが私はその頃から、お前から逃げ出したいなんて思ったことはない」
菫「でも……他の部員はそうもいかないだろう。なあ照、大星から聞いたか?
お前が部を引退して白糸台を卒業したら、大星も麻雀部を辞めるんだとさ」
照「……聞いてない。けど、そんな気はしてた」
菫「他の部員が引きとめるとも思えん。その様子だとお前も引きとめないみたいだし、
もう大星はいなくなるってことだぞ、照。いいのか?」
照「それはこの子の自由」
菫「……」フゥ
照「――私は」
菫「ん?」
照「私は……この子が怖い」
菫「は? 大星のことか?」
照「うん」
菫「怖い……? 怖いもなにも、お前大星に一度も負けてないじゃないか」
照「実力は関係ない。私は……この子の才能が怖い」
菫「? ますますわからんな。私もかれこれ永いこと麻雀を打ってきたが、お前以上の
才能の持ち主には出会ったことがないぞ。『高校生最強』『一万人の頂点』『牌に愛された子』。
どれもお前に相応しい呼び名じゃないか」
照「牌に、愛された……」
照「……」
照「淡は本当に牌に愛されてる。こんなに牌に愛されてる子を見たのは、この子で二人目」
照「何もしなくても牌たちが自然と淡のところへ集まってくる。この子の星の引力は、
その力を淡がコントロールしているってことだから」
菫「だったらお前だってそうだろう。あれだけ有効牌をツモりまくれるんだ。まさに
牌に愛された子の証だろう」
照「……」
照「私は……」
菫「……どうしたんだ照。お前、やっぱりおかしいぞ」
照「……」
淡「ん」
淡「んんー……!」フワーァ
菫「ああ、大星。起きたか」
淡「あれ、菫? なんでここにいるの?」
菫「こっちの台詞だ。集合かけたのに居眠りとはどういうことだ」
淡「だってテルが体調よくないって言ってたんだもん。誰かが傍にいてあげないと」
菫「じゃあ寝るなよ」
淡「いいじゃん別に。私昔から校長の話とか聞くの嫌で朝礼とかサボってたし」
菫「まったく……。ああそれと、オーダーの変更してきたから。大星は明日先鋒だ」
淡「はーい。ちぇ、ほんとは咲ちゃんと決勝で決着つけたかったのにな。まあ
テルの頼みなら仕方ないけどさ」
照「ごめん」
淡「謝ることないよ。咲ちゃんとは個人戦で白黒はっきりつけるから」
淡「それに……」
照「ん?」
淡(咲ちゃんが言ってたテルに伝えたいこと……それはきっと、一緒に卓を囲まないと見えてこないものだ)
淡(なら、テルが大将になりたいって言ってくれて、逆によかったのかもしれない)
照「それに、なに?」
淡「ううん。やっぱ白糸台三連覇はテルが自分の手で決めないとね」
菫「そうだな……三連覇、もう目の前なんだもんな」
照「……頑張るよ」
夜
照「そろそろ寝る?」
淡「そだね。……ねえ、一緒のベッドで寝よっか」キラキラ
照「寝ない。おやすみ」カチカチ
淡「えー」
照「えーじゃない」
淡「私のベッドの位置って風水的にあんまりよくないから、そっちのベッドで一緒に寝てもいい?」
照「いいよ。私がそっちのベッド使うから」
淡「……よーし、ちょっと飲み物でも飲もっかなー」
淡「おっと手が滑った」バシャ
照「……」
淡「あちゃー、こりゃいかん。私のベッドがべちょべちょだわー」
照「……」
淡「もうこのベッドじゃ寝れないね。仕方ないからテルのベッドに入ってあげる」
照「……明日きちんとホテルの人に謝ってね」
淡「最高級のベッド弁償しとくよ。じゃ、おじゃましまーす」モゾモゾ
照「……」
淡「狭いからもっと近く寄ってよテル」
照「床で寝るといいよ」
淡「テル最初、和式部屋取ってたでしょ。信じられない」
照「淡が大反対しなかったら私はあそこでもよかった」
淡「布団とか有り得ないから。床で寝るなんて、文明人としてどうなのよ」
照「淡は布団で寝たことないの?」
淡「ないよ。うちではダブルベッドを一人で使ってるし」
照「尭深は逆にベッド嫌だって言ってたね」
淡「尭深は純日本人って感じだしね。私日本茶よりも紅茶派だから、尭深とはとことん
合わないや。テルは日本茶と紅茶どっちが好き?」
照「水」
淡「……水かー。うーん……」
淡「テルは家では布団で寝てるの?」
照「うん。うち狭いからベッド置けなくて」
淡「あ、母子家庭なんだっけ?」
照「まあ、ね。まだ離婚はしてないけど」
淡「別居中なんだ」
照「そう」
淡「前の家でも布団で寝てたの?」
照「いや、前の家ではベッドで寝てたよ。今は安いアパートに住んでるからベッド置けないだけ」
淡「へー。なんかイメージと違うなー」
淡「ベッドは二段ベッドだったの?」
照「? 違うけど」
淡「そっか。じゃあ咲ちゃんとは違う部屋だったんだね」
照「うん」
淡「ふーん?」
照「……っ」
淡「……」
照「……」
淡「……」
照「……誘導尋問とかする子だったんだね、淡って」
淡「油断したね、テル。やっぱり咲ちゃんと一緒に住んでたんじゃん」
照「……見損なった。ベッドから出てって」
淡「どうして妹はいないなんて嘘吐いたの? そんなに咲ちゃんのこと嫌い?
いい子じゃん、あの子」
照「咲は私の妹じゃない」
淡「でも一緒に住んでたんでしょ?」
照「一緒に住んでただけ。妹じゃない」
淡「苦しすぎるって。昔何があったか知らないけどさ、姉妹から嫌われるのって結構つらいよ?」
照「淡には分からない」
淡「分かるよ。私も妹いるし。麻雀がからきしだからちょっと避けられてるけどね」
照「……」
淡「……やっぱり麻雀に関することなの?」
照「人の家庭事情を詮索しないで」
淡「ふー……これは重症だね」
照「……」
淡「ねえテル。私さ、今までずっとテルは私と同じ打ち手なんだって思ってたんだ」
照「……」
淡「でも、いつも微妙に違和感があって、何かが違うってずっと引っかかってたの。
それが何なのか分からなかったんだけど」
淡「準決勝で咲ちゃんと打って、やっと分かったんだ。テルの麻雀の正体に」
照「……」
淡「まあ、ちょっと逆説的な理解なんだけどね。私の麻雀と本当に似てるのは
咲ちゃんだった。……でも、咲ちゃんとテルの麻雀は、まるで真逆。対極の麻雀だった。
だから、私とテルも違うんだって気づいたの」
照「……」
淡「……テルはさ」
照「淡。もう寝たいから喋らないで。嫌なら床で寝て」
淡「……」
淡「じゃあ、最後に一つだけ教えてよ」
照「……一つだけね」
淡「私はさ、昔すごく麻雀が好きだったんだ。毎日麻雀が打ちたくて仕方なかった。
でもどんどん孤独感を感じるようになって、麻雀が嫌いになっていったの」
淡「何度もやめようと思った。テルに出会えてなかったら実際にやめてたと思う。
それはもちろん、対等に戦える子がいなくてつまんないっていうのもあるけど、なにより、
今まで大好きだった麻雀を嫌いになっていくことに耐えられなかったの」
照「……」
淡「今まで大好きだったものをどんどん嫌いになっていくのって、すごく辛い。
そんなことに耐えられる人なんて想像もできない」
淡「だから……分からないんだ。テルのことが」
照「……」
淡「ねえ、テル。……あなたは、どうして麻雀を続けてるの?」
照「……」
淡「テル」
照「……」
淡「ねえ、テルってば」
照「……すー」
淡「うわ、ウソ寝ヘタだなー」
照「うるさい。もう寝たから」
淡「起きてるじゃん」
照「もうあと一秒で寝るから。はい寝た」
淡「もー」
淡「ねーテルー」ユサユサ
照「……」すー
淡「……寝テル」ボソ
照「……」
淡「ホントは今のちょっと面白いと思ったくせに!」ユサユサ
照「うるさいなぁ」
淡「おきテル」
照「……もう黙って。本当に寝るから」
淡「宮永……大星……あわい……あわ……うーん」
淡「あわ……あわテル。お。慌てる」
淡「……あわテル」ボソ
照「……」
淡「ちょっと面白いと思ったくせにぃ!」ユサユサ
照「うるさい」
淡「おきテル」
二時間後
淡「……」すぴー
照「……」
照「淡、起きてる?」
淡「……ん……テル……」
淡「……あぁ……やっぱテル……強いなぁ……」ムニャムニャ
照「……」
淡「んん……あぁ、テル……今、手加減……でしょ」ムニャムニャ
照「どんな夢見てるんだ。――ん?」
照「淡……泣いて、る……?」
淡「テル……ゃだよ……負けないで……私より、弱……ならないで……独り……しない、で……」グスッ
照「…………」
照「ごめんね、淡」ナデナデ
淡「……ん……」ムニャ
照「何故麻雀を打つのか……菫にも同じことを訊かれた。……でも、やっぱり答えられなかった」
照「分からないんだ、私にも。私もお前と同じだ、淡。もうとっくに麻雀に絶望してて、
何の喜びも感じられなくなっていた」
でも、私は麻雀を打ち続けた。一日も休むことなく、三年間打ち続けてきた。
何度も投げ出したくなったけど、それでも私は麻雀を続けた。その理由すら定まらないままに。
照「……明日だ」
明日……私は咲と戦う。そのときにきっと、全ての答えが得られる。そしてきっと
そのときに……何かが終わる。そんな予感がする。
照「――絶対勝つ」ゴッ
決勝戦当日
白糸台控室
恒子『――さあ今年のインターハイの決勝戦も、もう副将戦に突入しています。
白糸台は準決勝のあと突然オーダーを変更し、先鋒と大将を入れ替えてきました』
恒子『先鋒で他家を相手に大暴れした一年生、大星淡選手の活躍により大きくリード
する白糸台。この副将戦で他校はどこまで追いつけるのか――!?』
菫「……いい感じだな。このままいけば2万点くらい残して照に繋げられそうだ」
淡「そうだね。私の55000点差が2万点差になっちゃったのは残念だけど、仕方ないよね」
菫「お前はまたそういうこと言って……」
淡「別にいいよ。私も思ったより稼げなかったし。それより、そのテルはどこにいるの?」
菫「さっき外の空気を吸ってくるって行ったきり戻ってきてないな」
淡「また迷子になったんじゃない?」
菫「いや、まさか……」
菫(……有り得ないと言えないのがなんともなぁ)ハァ
菫「携帯で呼び戻すか」ピッポッパ
プルルルル、プルルルル
菫「……」
淡「……」
照の携帯「プルルルル、プルルルル」
菫・淡・尭深「……」ハァ
菫「何度言えばわかるんだろうな照は。常に携帯を持っておけとあれほど言ったのに」
淡「テルってほんと携帯持ち歩かないよね」
菫「仕方ない、探してくる」
淡「私も行くよ」
尭深「じゃあ私は残ってます」
菫「ああ、頼んだぞ」
会場の屋上
照「……」
決戦の時が迫っているのを感じる。その割にひどく心は静かだった。
咲を恐れる気持ちは全くない。もう何もかもがあの日から変わってしまったんだと痛感させられる。
あとはただ戦うだけだ。私と咲が……自身の麻雀を全てを賭けて。
照「……今日……」
何かが終わる予感がする。それがなんなのかは分からないけど、ここが一つの分岐点に
なる気がしてならない。
照「……」
あの子と打つときはいつもそうだった。あの子が麻雀を打つと、いつも何かが変わっていった。
両親の関係も、家族の仲も。……私と咲の関係も、私の麻雀も。
全てを咲の責任にするつもりはない。でも、多分あの子はそういう天命を帯びて
産まれてきたんだと思う。良くも悪くも、周囲に影響を及ぼさずにはいられない。
そう思わせるほど、あの子の力は凄まじい。淡にも退けを取らないほどの天運の持ち主だ。
照「……」
淡と咲の戦いを見届け、私は確信していた。
私の麻雀は、間違いなく咲を上回っている。
全てを計らったわけじゃない。多くの偶然の累積が、準決勝での淡と咲の激突を生んだ。
その全てを見届けた私には、もう何も恐れるものなどない。
淡は咲のプラマイゼロを止めてみせた。ならきっと……私にもできるはずだ。それは咲の麻雀の
否定。
その超絶な支配への抵抗だ。今の私にはそれができる。――もう、昔の私ではない。
私はもう、きっと咲の麻雀を超えたはずなんだ――
咲「――お姉、ちゃん」
照「!」バッ
照「……咲」
咲「あ、あの……」
照「……」
咲「私、ちょっと決勝前に気分転換しようと思って、そしたら道に迷っちゃって、ここに……」
照「……」
ツカツカツカ
咲「あ、ま、待ってお姉ちゃん!」
照「……邪魔」
咲「あの、あのね。私ね」
照「邪魔」
咲「お姉ちゃんに伝えたいことがあるの! お姉ちゃんともう一度、ちゃんと話がしたくて!」
照「――邪魔!」
咲「……!」ビクッ
照「……」
照「お前と話すことなんか何もない。未だにプラマイゼロなんて続けてるお前となんか」
咲「……」
咲「私のプラマイゼロを見てくれたら、お姉ちゃんに伝わるんじゃないかなって……思って……」
照「何が? どこまでも相手を舐めてるなとしか思えない。最低の麻雀だ」
咲「……」
照「……邪魔」
ツカツカツカ
咲「……」
咲「あの日のこと」
照「……っ」ピタ
咲「あの日のこと……まだ怒ってる……よね?」
照「……」
咲「私、怖くて……。勝つのも、負けるのも怖くて……だから……」
咲「でも、今は違うんだ。麻雀が楽しくて、勝ちたいって思えるようになったの」
照「……」
咲「お姉ちゃんの麻雀が変わったように、私の麻雀も変わったの。それを……知ってほしくて」
照「変わってないよ」
咲「え?」
照「お前の麻雀は変わってない。昔のまま、ただ相手に絶望を与えるだけの麻雀だ」
咲「……」
照「私は絶対にお前の麻雀を認めない。お前のことも、未だに赦そうと思えない」
咲「……うん」
照「……まさかとは思うけど、決勝でもプラマイゼロなんてやるつもりじゃないよね」
咲「……」
照「……本気?」
咲「私は……」
照「白糸台は間違いなく一位で大将に回ってくる。そこでプラマイゼロなんてしたら、
どう足掻いても一位にはなれない。――戦う前から勝つ気がないの?」
咲「……」
照「……呆れて言葉も出ない。何が私の麻雀は変わった、だ。何も変わってないじゃないか。
やっぱりお前の麻雀は最低だよ、咲」
咲「……」
ツカツカツカ
咲「……お姉、ちゃん……」
ガチャ バタン
階段
照「……」カツカツカツ
照「……盗み聞きはいい趣味じゃないよ」
淡「たまたま聞こえちゃっただけだよ」
照「ここで何してるの」
淡「こっちのセリフだよ。もうすぐ大将戦始まるのに控室にいないから菫と探しに来たんだよ」
淡「携帯電話は携帯する電話なので携帯電話っていう名前だと思います」
照「……」ガサゴソ
照「……忘れてた。気付かなかった」
淡「だろうね」
照「じゃあ戻ろうか。まだ時間に余裕はあるよね?」
淡「うん。早くに見つけられてよかったよ。三日前みたいに、二階下の売店にいくつもりが
野外プールに迷い込んでた、なんてことになってたら探すの骨だし」
照「その話いつまでするの? もう五回くらい茶化された」
淡「『――まったく、どう間違えれば屋内にある売店にいくつもりが野外プールに迷いこむなんて
話になるんだ? なぜホテルのドアをくぐる段階で気付けないんだ照。……おい照、聞いてるのか?』」(声真似)
照「……ちょっと似てる」クス
淡「でしょ?」アハハ
淡「――それで? 咲ちゃん、大将戦でもプラマイゼロやるって?」
照「……らしいね。理解できないけど」
淡「優勝しません、って言ってるようなものだもんね。大物なのか馬鹿なのか」
照「――舐めてるんだよ」
淡「照を?」
照「違う。麻雀と、それに携わる全ての人を」
淡「……」
照「あの子はいつもそう。自分のことしか考えてないんだ」
淡「……」
菫『――白糸台を……いや。全国の雀士を舐めるのも大概にしろ!!――』
淡「……咲ちゃんには、何か考えがあるんじゃないかな」
照「ないよ。あの子はプラマイゼロに取り憑かれてるだけ」
淡「勝たない麻雀、か。やってることはすごいけど、結果が伴わないんじゃね」
照「そのうえ負けもしないくせに、実力では自分の方が上なんだと誇示してくる。……反吐が出る」
淡「テルは、咲ちゃんに勝ちたい?」
照「関係ない。誰にも負けるつもりはない」
淡「そうこなくちゃね。それでこそ私の目標だよ。……でもね、テル」
淡「咲ちゃん言ってなかった? テルに伝えたいことがあるんだって。プラマイゼロを通じて、
テルに思い出してほしいことがあるんじゃないかな」
照「……何? 淡、随分あの子の肩をもつね。準決勝で慣れ合うことを覚えたの?」
淡「そう聞こえる?」
照「淡の強さは孤高の強さだと思ってた。下に合わせず、いつも上だけを見つめて、常に高く
ありつづけるから淡は強いんだと思ってた。……見込み違いだったみたいだね」
淡「……私はあなたと出会って、麻雀の楽しさを思い出したの」
淡「あなたの陽の光に照らされて、私はまた輝くことができた。……生きてるって感じられた」
淡「ねえ、テル。私はあなたの麻雀、好きだよ。歪だけど……強くて、かっこいい。大好き」
淡「でもね……麻雀を打ってるときのあなたは、辛そうで……見ていて苦しくなる」
照「……」
淡「私に麻雀の楽しさを教えてくれたあなたが、辛そうに麻雀を打っている姿は……やっぱり
あんまり見ていて気持ちよくないな」
照「……私にどうしてほしいの?」
淡「別に何も。多分私は、この決勝戦がどんな結果に終わっても構わないんだと思う」
淡「私はテルのこと……好きだよ。あなたの麻雀も、あなた自身も。何があってもそれはずっと変わらない」
淡「咲ちゃんは今のテルが好きじゃないみたいだけど、私は今のテルも好きだから」
照「……結局、何が言いたいの?」
淡「私と咲ちゃんの言いたいことは、きっと一つだけだよ」
淡「――麻雀、楽しみなよ、テル」
照「……」
照「淡」
淡「ん?」
照「咲も。プラマイゼロも。全部関係ない。眼中にない」
照「――私は勝つ。それだけだよ」
恒子『――さあ、ついに、ついにこのときがやってきました! インターハイ決勝大将戦!
いま卓に全ての選手が揃いました!』バッ
恒子『Aブロック一位通過を果たした千里山からは、清水谷竜華選手! 冷静沈着な打ち筋で
堅実に勝利を手にした彼女は、この大将戦でもその力を発揮できるのか!』
恒子『同じくAブロックから二位通過を果たした阿知賀女子からは、高鴨穏乃選手! オーラスで
二位の臨海女子からの熾烈な猛攻を紙一重でかわし、逆転満貫を和了ったその力はマグレではなく
本物なのか!? ダークホースとして期待が集まっています!』
恒子『続いてBブロックからは、二位進出を果たした清澄高校、宮永咲選手! 予測できない変則的な打ち筋は
変幻自在! 準決勝での大星淡選手との激闘では惜しくも敗れましたが、その雪辱戦となるか!』
恒子『――そして、その三校の前に立ちはだかるのは、やはり彼女――宮永照!!』クワッ
恒子『決勝戦前に急遽オーダーを変更してきた白糸台のエースにして、高校生最強の名を欲しい
ままにする彼女。その宮永選手が、二万点リードの状態で大将戦に臨みます! これは他校にとっては
かつてない絶望として襲いかかっていることでしょう!』
恒子『前人未踏のインターハイ三連覇……彼女はその偉大な歴史を創造することができるのか。
それとも他校がそれを阻むのか! 一瞬たりとも目が離せない大将戦、まもなく開始です――!!』
恒子『……』ドウダッター?
健夜『……』オツカレサマ
白糸台:122500
千里山:102300
清澄:97900
阿知賀:77300
穏乃「よろしくお願いします!」
穏乃(この決勝が、和と遊べる最後のチャンス……赤土先生がこれなかった舞台!)
竜華「よろしくお願いします」
竜華(怜や皆がここまでがんばってくれたんや。私が最後に決めてみせる)
咲「……よろしくお願いします」
咲(お姉ちゃん……)
照「……」
照「よろしくお願いします」
東:照
南:竜華
西:咲
北:穏乃
東一局
恒子『さあ始まりました大将戦前半戦! まずはどの高校が先制するのか――!?』ビシッ
健夜『宮永選手が起家ですね。彼女が東一局を和了らないことを考えると、すこしもったいないですね』
恒子『ああ、そういえばそんなのもありましたね。なんでしたっけ、照魔鏡的な何かがあって、
最初は和了らないんでしたよね?』
健夜『そう。この一局を先制できるかどうか……他の三校にとってとても大きいと思います』
恒子『――おっと、そうこう言ってるうちに清水谷選手が動き始めたか――!?』
竜華「……」カチャ
竜華(この東一局。チャンピオンが見に徹する今だけは、大きな手を時間をかけて作れる絶好のチャンスや)
竜華(ここでまずは先制して、流れを掴む!)
竜華「……」カチャ
竜華(五巡目で聴牌……リーチかけるか? ……いや、もう二巡待とう。この手ならまだ高めが
狙える。チャンピオンの親番でそんなことホンマはできへんけど、この東一局だけは別や)
恒子『清水谷選手、ダマを選択。放銃を期待してはいないということでしょうか』
健夜『高めを狙ったんでしょうね。冷静だと思います』
恒子『おっと、しかしここで宮永照も聴牌――! 呑み手ですが、これは和了らないんでしょうか?』
健夜『おそらく』
竜華「……」カチャ
竜華(きた! 高め三面待ち。これで勝負や!)
竜華「リーチ!」チャラ
恒子『おーっとここで高めを引いての即リー! まずは千里山先制かー!?』
照「――ツモ」
竜華・穏乃・恒子・健夜『え……?』
咲「……」
照「――発のみ。1500」
竜華「……なんやて?」
恒子『――こ』
恒子『これはどういうことでしょう――! 宮永選手、東一局で1飜ツモ和了り――!?』
恒子『こ、小鍛冶プロ! 照魔鏡なんたらで東一局は和了らないんじゃなかったんですか!?』
健夜『そのはずだったんですけど……どうしたんでしょう』
白糸台控室
ざわ・・・!
菫「な……照が東一局で和了った!?」ガタッ
淡「……照魔鏡を使わなかったね」
菫「どうして……」
淡「……」
咲「……」
咲(お姉ちゃん……)
照「……」
――照魔鏡なんて、今更使うまでもない。
この子の麻雀は、私が誰よりも知っている。改めて見抜く必要なんてない。
照(――咲。様子見はなしだ。……最初から全力でいく)ゴォォッ!
淡「……あくまで咲ちゃん以外は眼中になし、か。ふふ、何が『咲は関係ない』なのよ。
めちゃくちゃ意識してるじゃん」
恒子『――さあ、これでチャンピオンの連荘です! まさかいきなり始まってしまうのか、
チャンピオンの連続和了!!』ズビシッ
東一局
竜華「……」カチャ
竜華(三巡目で聴牌……でも)チラッ
照「……」カチャ
照「ツモ。700オール」パララ
竜華(くそ……速すぎる!)
健夜『宮永選手は連続和了にばかり注目されがちですが、彼女を最強たらしめている要因は、
スピード……聴牌速度ですね。彼女の速さに追いつかない限りは、もう実力云々以前の問題です』
恒子『準決勝まででチャンピオンの聴牌速度に渡りあえていたのは、準決勝の片岡選手だけでしたね。東場限定ですけど』
健夜『ある意味では彼女が一番宮永選手と相性のいい選手だったのかもしれません』
恒子『さあ、この決勝卓ではチャンピオンのスピードについていける選手はいるのか――!?』
東一局
竜華(四巡目一向聴……遅くはない。遅くはないはずやけど……)
照「……」カチャ
竜華(張ったか。なんとか追いつかんことには、何もできへん)
竜華(私にも一巡先が見えれば、追いつけるんやろか……)
咲「――ポン」③筒
竜華・穏乃「!?」
咲「チー!」
恒子『清澄高校、連続鳴きで強引に手を進めていく――! チャンピオンのスピードに追いつくためでしょうか!』
咲「――カン!」③筒
竜華(加カン? まさか……!)
咲「りんしゃ――」
照「――ロン」
咲・竜華・穏乃「!?」ビクッ
パララララ……
一二三⑨⑨789北北北①②
照「槍槓チャンタ、7700」
咲「……!」ゾクッ
恒子『ちゃ、槍槓だ――! チャンピオン、まさか狙っていたというのか――!?』クワッ
健夜『……見抜いてる』
恒子『え、なんですか小鍛冶プロ』
健夜『宮永選手は、宮永選手――ええっと……清澄の宮永咲選手の麻雀を完全に見抜いています』
恒子『? でも、照魔鏡は使わなかったんですよね?』
健夜『そのはずです……が、そうとしか思えません』
恒子『いったいどういうことなのか。チャンピオン、照魔鏡を使わずに相手の麻雀を見抜いてきた!!
ここにきて更に進化を遂げたというのでしょうか!?』
咲(……お姉ちゃん、本気だ。あの頃とはもう比べ物にならない……!)
照「……」
恒子『宮永照選手、開幕早々に三連続和了! 決勝戦だというのに圧倒的です!』
恒子『まさに最強! 無敵! かつてこれほど牌に愛された高校生がいたでしょうか! どうでしょう小鍛冶プロ!』
健夜『……』
恒子『おや、どうしました小鍛冶プロ?』
健夜『いえ……確かに、宮永選手は驚くほど的確に有効牌を引いてきますが、それは本当に
牌に愛されているからなんでしょうか……』
恒子『なるほど。私以上に牌に愛された人間などいるはずがない、と小鍛冶プロは言いたいようです!』ガッ
健夜『そ、そんなこと言ってないよ!?』
恒子『なんであれ、あまりにも強すぎる! 紛れもなく牌に愛された少女。天上の才能!
その力は今なお進化中です!』
照「……」
――牌に愛された子。
皆が私をそう呼ぶ。菫ですらもそれを疑っていない。
私がインターハイを制したその年から、それは誰もが納得する呼び名だったのだろう。
――多くの人間が誤解しているが。
私は、牌に愛されてなどいない。むしろ逆。私はこの世で誰よりも牌に憎まれた人間だ。
それを知っているのは私と……咲だけだ。
そして私は知っている。本当に牌に愛された子は誰なのかを。
……皮肉なものだ。私は牌に愛されたくて麻雀を続けてきたはずなのに。皆が私をそう呼ぶ頃に
なって、私は……今、こんな場所にいる。
私の両親は夫婦揃っての麻雀バカだった。
特に母はプロ一歩手前のところまで行ったらしく、今でもその力は衰えていない。
三度の飯より麻雀を打つのが好き、なんていう両親のいる家庭で育った私と咲は、
自然と幼少期から牌に触れる生活を送っていた。
ただ、その頃の私は今で言われるような『牌に愛された子』などという片鱗は少しも
ない、ただの少女だった。
ツモる牌はムダヅモばかり。相手がリーチをかければすぐさまその当たり牌を引き当てる
という、むしろ『牌に嫌われた子』という呼び名こそ相応しいような、そんな打ち手だった。
家族の中では私が一番下手で、お年玉やお小遣いも結構な額むしり取られたものだ。
でも妹の咲は、私とはまるで真逆の才能を持って産まれてきた。
母「ツモ。6000オール!」
父「あちゃー、また負けたよ」
照「あーあ。つまんないの」
母「ふふ、私に勝とうなんて百年早いわよあなたたち」
咲「……」ジャラジャラ
母「……」
母「咲は……またプラマイゼロ、か」
照・父「……」
咲の強さはヘボの私から見てもはっきりと分かるくらいに異常だった。最初の頃こそ
両親は自分の才能を色濃く受け継いだ子が産まれたと喜んでいたが、その考えが甘かった
ことをすぐ思い知らされた。
今でこそ現役を退いたとはいえ、母は下手なプロとなら互角に戦えるほどの雀士だ。
その母をして、咲を倒すことは至難の技だった。
これはもう強いとか弱いとかそういう次元の話ではなかった。
――咲は牌に愛された子だった。私などとは違い、正真正銘、牌たちから惜しみない
寵愛を受けて産まれ落ちた子だった。
あまりにも強すぎて、私は昔いちど咲に八つ当たりしたことがあった。若気の至り
だったのだと思いたい。
理不尽な叱責に咲は目頭を滲ませ、一言「ごめんなさい」と謝った。
そして咲のプラマイゼロ麻雀が誕生した。
勝ちもせず、負けもせず、ただその試合を消化するためだけの麻雀。咲にとっては
それだけのことだったのだろう。
だがそれをやられた方はたまったものではない。咲の支配に気づいてから、きっと
家族の誰もが、麻雀を打っているという実感など抱けなかっただろう。
一度だけ、深夜に目が覚めたときに両親が話している声を聞いたことがある。
父「ふざけるな! その歳になって麻雀教室に通うだと? なに考えてんだお前は」
母「今からでもプロを目指すのよ! 別に子持ちのプロ雀士だっていないわけじゃ
ないんだから、構わないでしょう?」
父「いいわけないだろ! 家庭はどうするつもりだ。お前、もうプロになる夢は諦めたんだろ?
なんで今更そんなこと」
母「今からでもプロにならないと、あの子には……咲には到底勝てないの!」
父「咲……? 咲がどうしたって言うんだ」
母「あの子はまだ小学生なのよ? なのにもう私よりもずっと強い……悔しくないの!?」
父「あいつが強いのは認めるさ。だからって小学生に、それも自分の子供に嫉妬するなんて
どうかしてるぞお前」
母「あなたなんかには分からないわよ! インハイの個人戦で全国にすら行けなかったあなた
なんかにはね!」
父「なんだと!?」ガタッ
母「私は悔しい……あんな子供に圧倒される自分が情けない。もっと強くなりたいの!」
照「……」
両親が麻雀に関する話題で家族の話をするときは、決まって咲の話題になった。
私のことが話題に上がったことなど一度もない。それくらい私は凡俗な打ち手だったし、
それくらい……咲はあまりにも圧倒的すぎた。
母は咲の成長を喜ぶ以上に、咲に対して敵対心を剥き出しにしていった。父はそんな母に
徐々に嫌気が指してきたようで、家庭内は次第に険悪になっていった。
それでも習慣的に一日一回は家族で麻雀を打った。でも、それはもう家族麻雀とは言い難い
ものになっていた。まるで怨敵をねじ伏せるために打っているかのように、両親は子供を
相手にするには大人気なさすぎるほどに本気で勝負を挑んできた。
私は勝ったり負けたりしていたが、咲はそんな両親の猛攻にはびくともしなかった。
飄々といつものようにプラマイゼロを繰り返し、誰かが「今日はこのくらいにしよう」と
言い出すのを待っていた。
もうプラマイゼロはやめろ、と母は何度も咲に向かって怒鳴った。
でも咲はプラマイゼロをやめなかった。いや、やめられなかったのだろう。
勝っても怒られ、負けても怒られ、プラマイゼロでも怒られる。そんな状況で正解などない。
咲は半ば意地になってプラマイゼロを続けているように見えた。
そんな咲が麻雀を嫌うのは、無理からぬ話だと思った。
照「え、麻雀を打ちたくない?」
咲「うん……」
照「どうして。あんなに強いのに」
咲「……だって、怒られるし」グス
照「あれは……お母さんもムキになってるだけだよ。いつか分かってくれるよ」
咲「……」
咲「お姉ちゃんは、私と麻雀打って、楽しい?」
照「もちろん。いつか咲に追いつくんだから、それまで麻雀やめたりするんじゃないよ咲」
咲「……」
咲どころか、私は家族で一番麻雀が下手だった。
家族以外の人と打つことも何度かあったけど、それも大していい成績を残せた試しはない。
ほとほと自分の才能のなさに呆れるばかりだった。
でも、麻雀を打つのは本当に楽しかった。牌のひんやりとした感触。牌同士がカチャリと
鳴る音は心地いいし、聴牌時のワクワク感は病みつきになる。
私は麻雀が大好きだった。どれだけ牌に嫌われていたって、私は牌が大好きだった。
負けたって楽しかった。毎回プラマイゼロにされたって、それでも何度でも咲と麻雀を
打ちたいって思った。
照「あーあ。私も咲みたいに牌に愛されたいなー。そうすればもっといいツモがきたり、
いい手が入ったりするんでしょ? いいなぁ」
咲「……なれるよ」
照「ん?」
咲「いつかきっと、お姉ちゃんはすごい雀士になれると思う」
照「ほんと? でも、私まだまだヘボだし」
咲「ううん、お姉ちゃんは強いよ。家族麻雀をするとき、私はお父さんやお母さんじゃなくて、
お姉ちゃんをずっと警戒してるもん」
照「え、どうして? 私の麻雀なんて全然パッとしないじゃない。何か特別な力があるわけでも
ないし、牌にも嫌われてるし」
咲「お姉ちゃんの強さはそういうことじゃないんだと思う。もっと別の……うーん、上手く
言えないけど、凄い強い力みたいなのを感じるの」
照「へー」
照「まあ咲が言うんなら、話半分でも効力あるかもね。うん、私ももっと強くなれるようにがんばるよ」
照「ねえ咲。私はね、信じてるんだ。たとえどれだけ牌に嫌われてたって、私が牌のことを
好きでいつづけてれば、いつかきっと牌も私のことを好きになってくれるって。
そうすればいい牌がどんどん入ってきたり、相手のツモとかを支配したりできるように
なるんだって。
実際、プロにはそういうことできる人がいるらしいんだ。憧れるよね」
咲「……うん……」
照「……あ……もしかして、咲はもう、できるの……?」
咲「……」
照「……あ、あはは」
照「ま、まあとにかくさ。私はこれからもずっと麻雀を好きでいつづける。そうすれば
きっと麻雀も私を好きになってくれるはずだから」
咲「……そっか」
照「だから咲も、麻雀やめるなんて言わないで、もっと麻雀を楽しもうよ」
咲「……うん。そうだね」
でも、私がどれだけ咲に負けても麻雀を楽しめるように、両親も楽しめるとは限らない。
むしろ母は、咲と麻雀を打つたびにプライドをズタズタに引き裂かれていた。
そして、それは起こった。
照「うーん……」カチャ
咲「……」カチャ
父「……」カチャ
母「……」カチャ
母「……!」ピタ
母「……はぁー」
父「どうした、お前の番だぞ」
母「……いい加減にして、咲」
咲「……」ビクッ
母「あなた……いつまでこんなこと続ける気なの? そんなに私のこと馬鹿にして楽しい?」
咲「……」
父「なんだ、どうした急に」
母「……ツモ。3000,6000」パララ
父「3000,6000……ああ……プラマイゼロか」フゥ
照(……しかも赤ドラでツモ。これ以外の牌をツモってたら咲はプラマイゼロにならない。咲……
本当にすごい)
母「咲、私言ったわよね? もうプラマイゼロはやめなさいって。何度言わせる気なの?」
照「ちょ、ちょっとお母さん……」
父「だが勝っても怒るんだろ?」
母「こんな屈辱を受けるくらいなら負けたほうが何倍もマシよ! いい加減にして!」
咲「……っ!」ビクッ
父「咲は悪くないだろ。それがお前の実力ってことだ」
母「――ッ!」カチン
母「……なんですって?」
父「負けたからって怒鳴るなんて大人気ないと思わないのか?」
母「あなたみたいに負けて当然って姿勢でいるのが大人だって言いたいの?」
父「そうさ。強い奴には勝てない。当然だ。力及ばない自分に怒るならまだしも、我が子に
怒鳴るなんて、みっともない」
母「そんな考え方だから、あなたはインハイでもあんな見え見えの倍満に振り込んで
チームを敗退させたのよ」
父「――ッ! んだとぉ!?」ガタ
照「ちょ、ちょっとやめてよ二人とも! 落ち着いてよ!」
母「黙りなさい照! あなたもあなたよ。お姉ちゃんなのに妹にこんなにいいようにされて、
悔しくないの?」
照「悔しいよ。でもそれ以上に楽しいよ。皆で楽しく麻雀打とうよ」
母「毎試合プラマイゼロなんてされて楽しめるわけないでしょう? もううんざりなの。
私はね、麻雀に青春の全てを捧げたの……本気でプロを目指して、でもなれなくて……
なのにどうして、こんな、なんの努力もしてない子供に、こんな才能が……不公平じゃない!」
父「はん! 今度は嫉妬か。見苦しい女だなお前は」
母「なんですって!?」
照「やめてってば!!」
それから一時間以上も両親は怒鳴り合っていた。私はそれを止めようと必死で、そのとき
何があったのかよく覚えてない。気づいたときには咲はどこにもいなくて、疲れ果てる
ような形で両親の喧嘩は沈静化した。
その日から、目に見えて両親の仲は険悪になっていった。顔を合わせれば嫌味ばかり言い合い、
食事すら一緒に採ろうとはしなくなった。
私は何度も二人の仲を元に戻そうと頑張ったが、結局駄目だった。
なによりその日以降、家族麻雀を打つことはなくなった。とてもそんな空気にはならなかった。
照「――咲、入ってもいい?」コンコン
咲「お姉ちゃん? どうぞー」
照「……」ガチャ
咲「どうしたの?」
照「うん。お母さんたちのことなんだけど」
咲「……うん」
照「最近、二人ともずっと仲悪いし、麻雀も打たないし……このままじゃ駄目だと思うの」
咲「……そう、だね」
照「ねえ、一緒にさ、もう一回麻雀打とうよって誘ってみない? 咲も今度はプラマイゼロ
なんかせずに、本気で打てばいいし」
咲「……でも、勝つと怒られるもん」
照「……咲は麻雀、嫌い?」
咲「うん」
照「……そっか」
照「私は、麻雀が大好き。麻雀より面白いことなんてない。今は弱いけど、強くなれば
もっと楽しくなれると思う」
照「なのにあんなに強い咲が麻雀を嫌いなんて、もったいないよ。私は咲に、もっと麻雀を
楽しんでほしい。一緒に麻雀を楽しみたいの」
咲「でも……」
照「咲だって昔は麻雀が好きだったでしょ?」
咲「……うん」
照「なら、それを思い出せるように頑張ろうよ。自分の子供が楽しそうに麻雀を打ってたら、
いくらお母さんだって負けても悔しくないと思うからさ」
咲「……そうかなぁ」
照「うん。きっとそうだよ。だから、ね?」
咲「……うん」
照「よし、じゃあ決まりね。さっそく今日二人に言ってみよう」
咲「……」
もう一度皆で麻雀を打てば、きっと家族は元通りになれる。私はそう信じていた。
咲がプラマイゼロなんてプレイをしなければ、母だってあそこまで露骨に咲を敵視することは
ないはずだ。――『そうに違いない』と、私は盲信した。
今にして思えば、なんて希望的な観測だったのだろう。私は、咲が意図的にプラマイゼロを
行っていると勘違いしていた。だから意図的にそれをやめることもできると思っていた。
でも咲のプラマイゼロはそういう次元の話ではなかった。いわば……呪い。自身の麻雀を否定された
咲が辿りついた、一つの到達点だった。
それに、家族の仲は私が思っているよりもずっと深刻で、もうどうにかなるものではなかった。
……いや、いずれにしても結末は一つだったのだろう。
でも同時に、そこが大きな分岐点だった。
咲と同様に尋常ならざる才能を持って産まれた私の麻雀……。
それがまっすぐに伸びて枯れるか……それとも歪に開花するか。その分岐点だった。
照「お父さん、お母さん、話があるの!」
父「……ああ、照か」
母「……」
照「ねえ二人とも、お願いがあるの。あのね、もう一度家族で麻雀を――」
父「あー、それよりもな、照。俺達もお前と咲に話があるんだ」
照「?」
父「……父さんと母さん、どっちについていきたい?」
照「……え?」
照「ど、どういう、意味?」
父「……まあ、なんだ……つまり……」
母「離婚することになったの、私たち。親権を争うつもりはないから、あなたたちの意見で
どちらが子供を引き取るか決めることにしたの」
照「な、何言ってるの? 離婚って……なんで!?」
父「……」
母「子供には分からないわ」
照「ふざけないで! そんな大事なこと勝手に決めて、説明すらしないつもり!?」
母「……」
照「嫌だよ、絶対認めない! 離婚なんてしないで!」
母「もうこの家にいるのは耐えられないの! もう私を解放してよ!」
照「解放? ふざけないでよ! 子供に麻雀で負けたから離婚するとかどうかしてる!」
母「黙りなさい! 親に向かって!」
照「お父さんはどうなの? 本当にこれでいいの?」
父「……好きにすればいいさ」
照「っ! ……最低」
父「……」
母「もういいでしょ。あなたと咲は、私とこの人のどっちについていくのか決めなさい」
照「……」
照「……だったら、私からも一つだけお願いがある」
父「? なんだ」
照「……もう一度、家族みんなで麻雀を打って」
母「は? 麻雀? どうして今更麻雀なんて……」
照「打ってよ! それで、私か咲が勝ったら離婚の話はなしにして!」
母「なっ……咲に、勝つ……?」
父「……」
照「私たちの意見も聞かずに勝手に決めたんだから、それくらいの条件は呑んでよ」
母「そ、そんなこと……」
父「いいじゃないか、それで」
母「! あ、あなた正気? 咲に勝つだなんて」
父「照の言ってることの方が正論だ。俺達の我がままを押し付けるんだ、それくらいの
条件は親として呑むべきだ」
母「……」
父「それとも最後まで咲から逃げるのか? それでよくプロだなんだと騒げるな」
母「っ! ……いいわ。私かこの人が勝てば離婚に同意するのね?」
照「……」コクン
母「……いいわ。咲を呼んできなさい」
照「咲、咲!」バタン
咲「……」
照「咲、あのね、今お父さんとお母さんがね!」
咲「知ってる。聞こえてたから」
照「そ、そっか。なら話は早いんだけど、二人を離婚させないためには私か咲が二人に勝たないといけないの」
咲「……うん」
照「咲なら二人に勝てるよね? もちろん私も頑張るけど、私の力じゃ勝てるとは
限らないし……ねえ咲、二人に勝って。お願い!」
咲「……うん」
照「そっか、よかった」パァ
照「じゃあ、今すぐ行こう! さっさと二人をやっつけて、離婚なんてやめさせないと」
咲「……」
父「――じゃあ、ルールはいつものでいいな。半荘一回でトップが俺かこいつだったら離婚。
咲か照がトップなら離婚はなし、いいな?」
照「うん」コクン
父「じゃあ始めるぞ」
照「……」カチャ
照(くそ、引けない……いつにも増して牌が私のことを嫌ってる)
照「……」カチャ
母「ロン、7700」
照「うっ……」
照(やっぱり私じゃだめだ……いつもラスだし、お母さんも強い)
照(咲……やっぱりお前が勝つしか……)
咲「……」カチャ
父「! ロン。3900」
照「え、さ、咲……?」
咲「ご、ごめんなさいお姉ちゃん」
照「う、ううん……いいん、だけど……」
照(どうして? もう東場が終わるのに、咲が一度しか和了ってない……どういうこと?)
照(調子が悪いだけ? でも、この感じ……いや、そんなわけない)
照(咲は約束してくれたんだ。咲ならきっと勝てる。家族が離れ離れにならずにすむ。
……そうだよね、咲……)
母「ツモ。1300,2600」
照「……」ジャラ
照(咲……どうしたの。なんとかしてよ……)
でも、それからも咲からは勝とうという意識は感じられなかった。
両親が高い手を和了っても悔しそうにもせず、ただ淡々と場を進めていった。
照「……」ギリ
そして場はもう南三局。私はダントツのラスで、咲は三位。しかも母が大きく差をつけて一位に
なっており、このままでは母が勝つ可能性が濃厚という段になった。
私も何度も和了ろうとした。でも、何度ツモってもまるで牌たちは私をあざ笑うかのように
避け、私は不要牌ばかりをツモった。たまに他家がリーチをかければ、狙い澄ましたかのように
当たり牌が私の許へと滑りこんできて、私はたちまち振り込むことになった。
照「……どうして……」ポロ
以前からこんなことばかりだった。私は牌に嫌われていて、高い手なんて滅多に和了れない。
今まではそれでもよかった。それでも楽しかった。どれだけ牌に嫌われていても、私は牌のこと
が好きでありつづける。そうすればいつかきっと牌も私のことを好きになってくれると信じていた。
でも、今日だけはそういうわけにはいかない。今日負けたら、家族がバラバラになってしまう。
照(だからどうか今日だけは……私のことを好きになって……有効牌をツモらせて)ポロポロ
そう希う想いも空しく、私は今日一日、聴牌すらままならない局が続いた。
そうして両親が次々と和了っていく中、ついに咲がツモ宣言を放った。
咲「ツモ。2000,4000」
照「さ、咲!」パァ
照(咲が和了った。これでまだ可能性はある――!)
咲「……」パララララ
照「――――え?」
八⑧⑧⑧⑨⑨⑨北北北 八 333
照(……ちょっと待って。3索……)
一見するとおかしなところはない手。でも私はそれが有り得ない手であることに気づいた。
咲は父が捨てた3索をポンし、その二巡後に自ら3索を切っていた。だがその3索は
ツモ牌ではなく、手出しの3索だった。つまり……咲はわざわざ鳴かずとも3索の暗刻を
持っていた。
無駄な鳴きさえしなければ、咲の手は四暗刻単騎待ち。役満が確定していた。この勝負は
勝ったも同然だったのだ。
照「咲……お前、どうして四暗刻を……」
咲「……」
照「な、何か見えてたの? あそこで3索を鳴かないと誰かが和了ってたとか? そ、そういうこと?」
咲「……」
母「そんなの決まってるじゃない照。点数を見なさい」
照「え?」
母「今の和了りで咲は28700点で二位。次のオーラスで1000点和了ればプラマイゼロ。
……いつものことじゃない」
照「そ、そんな……!」
照「咲、違うよね? そんなことしないよね? だって……だって……」カタカタ
咲「……」
照「だってこの勝負に負けたら、お母さんたち離婚しちゃうんだよ? 家族がバラバラに
なっちゃうんだよ? そんな勝負でプラマイゼロなんてしないよね? ね?」ポロポロ
咲「……」
照「咲……なんとか言ってよ、咲ぃ!」
咲「……ごめんなさい」グス
照「!?」
咲「私が打つと……いつもこうなっちゃうの」
照「…………」ボーゼン
母「……分かったでしょ? この子はそういう子なのよ! 常識の通用しない打ち手なの!」
父「……」
照「咲……」
咲「……」グス
照「そんなに勝ちたくないの? そんなに負けたくないの?
勝ったり負けたりするくらいなら……家族がバラバラになったっていいって……本気で
そう思ってるの? 家族って……咲にとってはその程度のものだったの?」
咲「……」
どうして。
どうしてなんですか、神様。私はこんなに麻雀が大好きで……こんなに牌を愛しているのに。
どうして麻雀は私を愛してくれないんですか? 私はこんなにも勝ちたいのに。勝たなきゃいけないのに。
どうして麻雀が嫌いな咲があんなに麻雀に愛されて……勝とうともしない人間のところに牌が集まってくるんですか?
――つまるところ。
この勝負は勝負でもなんでもなかった。私は誰と勝敗を競っていたわけでもなかった。
家族が離れ離れになるかどうか……それは全て咲の胸三寸だった。全ての決定権は咲が握っていた。
咲が離婚を望めば両親が勝ち。離婚を望まなければ私たちが勝つ。そういう儀式だった。
照「……お母さんの……言う通りだ」
こんなの、もう麻雀でもなんでもない。
両親を離婚させたのは、ある意味では両親ではない。咲――咲の麻雀が、両親を離婚に追いやったんだ。
――いや、咲のせいだけじゃない。
私の弱さ。それが両親の離婚を……家族の乖離をもたらした。
私がもっと強ければ。咲にも負けないくらい強ければ。
私に靡かない牌にこびへつらい、無様に希ったから。だから全てが崩壊してしまったんだ。
照「――――――――そうか」
そのとき、私は全てを理解した。
牌に愛してもらおうなんて考えるのがそもそもの間違いだった。咲のように産まれながらに牌に
愛された特別な存在でもない限り、そんな奇跡は起こらない。
私が有効牌を引く方法はただ一つしかなかったんだ。
――すなわち、力づくで、問答無用で、牌を無理矢理にねじ伏せる。抗う牌を蹴散らし、
組み伏せ、有無を言わさず、竜巻のように、太陽の引力のように……私の許へ引きずり込む。
それが私に残された、唯一の道だ。
でもそのためには、麻雀を愛する気持ちなんてあってはいけない。そんなものがあっては、牌を
かしずかせることなんてできない。
牌を憎み、麻雀を憎む。その憎しみだけが……私に力を与えてくれる。
照「……そういう、ことなんだね、咲」
咲「お姉ちゃん……」
照「続けよう。まだオーラス……私の親番が残ってる」
父「……」カチャ
母「……」カチャ
咲「……」カチャ
咲(この感じ……)ゾクッ
照「……」ゴォォォォ
照(もういい。もうお前たちに愛してもらおうなんて思わない。有効牌を神に祈ったりもしない。
その代わり、もう私もお前たちを愛さない。有効牌は――自分で引いてみせる)
タン
照「――ツモ。1500」
咲「……」ピク
咲(すごい……私よりもずっと早い……)
照(まだだ……もっと……もっとかしずけ。跪け……!)ゴッ!
照「ツモ。1300オール」
照(もっとだ……もっと強く。深く麻雀を憎むんだ)
照「ロン。7700」
和了る度に。牌をツモる度に、私の脳裏に楽しかった麻雀の日々が蘇ってくる。
家族みんなで笑い合った。成績に一喜一憂し、時間を忘れて没頭した。
照(憎むんだ……牌を……麻雀を憎むんだ!)
ひんやりとした牌の感触。牌がぶつかりあう音。聴牌時の高揚感。
どれも大切な――大切な宝物だった。私の生き甲斐だった。
照(忘れるんだ、全部。楽しい思い出も……何もかも、全部!)
照「……ツモ……4000オール」
牌をツモる度に心が軋む。思い出が霞んでいく。その代わりに、打点がどんどんと高くなっていく。
何かが焼け焦げる匂いが鼻をついた。それは灰の匂い……思い出が憎しみという熱に焦がされ
焼けただれていく匂いだった。
全ての幸福を、喜びを、それに類する思い出を。私の中の黒い太陽が焼き払っていく。その熱
が荒れ狂う気流を生み、その暴風が、私の腕に密集していく。
照「――あぁ……ぁ」
――その全てを解き放ち、私は……その牌をツモった。
視界が滲んで牌が見えなくなった。それでも、何をツモったのかは分かった。
私が無理矢理にその牌をツモったからだ。捻じ伏せ、力任せにもぎ取った有効牌。それが勝敗を
決する最後の一枚だった。
照「……ツモ。8000オール」
父「……トびだ。俺達の負けだ」
気がつけば私は勝っていた。圧倒的な点差で二位を突き離し、ついには父をトばして。
嵐のように過ぎ去った数分間。そのあとには、ただ静寂だけが卓を支配していた。
私は茫然としながら、知らない内に泣いていた。心の中にあった大切なものを全て
失った喪失感を抱きながら、ただ涙の温度を感じていた。
母「……ふう」
母「プロ、か。……戯言だったわね。そう……照……そっかぁ……」
咲「お姉ちゃん……」
照「……」
照「家族なら、ずっと一緒にいたいって思うのが普通でしょ、咲」
照「たとえどんなに大切なものを失ったって……それで家族が離れずにいられるなら、
それでもいいって……そう思えるのが家族でしょ?」
咲「……」
たとえ大好きな麻雀を失うことになったとしても。
大切な思い出を全て汚すことになったとしても。……それでもいいと思った。
それで家族が繋がり続けられるのなら、それが何よりも一番だと。
そのためならどんな破滅だって怖くないと。なにを擲っても構わないと、そう思った。
照「咲は……そうは思わないんだね」
咲「……」
照「なら――お前なんか私の家族じゃない」
咲「!? お、お姉ちゃん――!」
照「うるさい! お姉ちゃんなんて呼ぶな!」
咲「!」ビクッ
照「いつでも勝てるお前が勝とうとしないから、代わりに私が勝ってやったんだ!
私の大切なものを……全部投げ出して!」
今日この勝利を掴むために、私は今まで愛した麻雀を憎み抜き、思い出を引き裂いた。
その憎しみは私の中に強く根を張り、決して拭えない泥となってこびりついた。
もう二度と、私が純粋に麻雀を楽しめる日は訪れないだろう。もう私の麻雀は、黒い太陽の
光に照らされて咲いてしまったのだから。
憎しみが卓を回す歪な麻雀。それが私の強さの正体だった。……牌が私を愛さないのも、
今考えれば当然だ。牌を憎むことでしか強くなれない私を、どうして牌が愛してくれるのか。
照「……私も家を出る」
三人「!?」
父「ど、どういうことだ照」
照「もう二度とこの子の顔なんて見たくない。お母さんが家を出るなら、私もそれについていくから」
母「……照……」
咲「お、お姉ちゃん……」
照「勝負は私の勝ちなんだから、私の命令に従って」
三人「……」
――そうして、私はあの家を出て母と共に東京に渡った。
照「――ツモ。3200オール」
実況『――またしても宮永照! 連続和了が止まらない――! このまま一気に三連覇を決めてしまうのか――!』
照「……」
淡『あなたは……どうして麻雀を続けてるの?』
菫『ならどうして、お前は麻雀を続けてるんだ』
照「……」
彼女たちの問いに、私は答えられなかった。
私自身、答えを知らなかったからだ。麻雀を憎み、牌を触る度に心が砕け散るような想いを
味わうことになると分かっているのに、それでもなぜ麻雀を続けたのか。
麻雀を止めようと思えばいつでも止められたはずだ。なのにどうして。
私はその答えが知りたかった。もう一度咲と卓を囲めば、その答が見えるんじゃないかと
思った。だから無理を言ってまでオーダーを変えてもらって、私は今再び、咲と対峙している。
――そして、私はついに答を手に入れた。
照(……咲)
照(覚えているか、咲。あの頃……私はお前を追う立場だった。お前を目標にしていた)
家族で麻雀を楽しんでいた頃、私は毎日思っていた。いつか咲に追いつきたい。いつか咲に勝ちたいと。
そして私は強くなった。大好きだった麻雀を憎み、心を閉ざし、大切だった全てを擲ち、
破壊し、踏みにじって……私はようやく咲に追いついた。
咲の麻雀と私の麻雀。それが今はじめて激突する。正真正銘、互いの全力の麻雀が。
今までの苦しみも。支払った代償も。全ては今日このとき、咲をこの手で超えるために
あったんだと、私は今なら疑いなく断言できる。
そのために費やした全ては無駄ではなかったんだと。あの日の私の想いは間違いではなかったんだと。
――それを今、証明してみせる。
照(――行くぞ、咲)
私は今こそ……私の麻雀の全てを以て、お前を超える――!
東一局
照「……」カチャ
二三三四五六七八9東東44 東
恒子『――キター! チャンピオン、三巡目にして親ッパネの手を聴牌! 速い! 速すぎる!』
咲「……」カチャ
33九九九八七①②③③⑦西 ⑧
咲「……」カチャ 西
恒子『しかし清澄高校も一向聴! チャンピオンの速度にくらいついていく!』
咲(嶺上牌は六萬。⑥⑨筒をツモったあと、九萬でカン……嶺上開花!)
咲(次で聴牌になる。あと二巡……それまで持ちこたえれば私の勝ちだ)
照「……」カチャ
照(――確かに、流れはお前にある。牌の流れ……お前はそれを常に味方につけている。その流れ
を支配し、自分のものにする程の相手が現れない限り、お前は有効牌を引き続けられるんだろう。
……淡のように)
照(何もしなくても、牌の方からお前に引き寄せられていく。まるで牌が自分をツモってくれと
言っているみたいに。牌たちから寄せられる、惜しみない愛情……)
照(――いらない。そんなもの私には必要ない。たとえどれだけ牌がお前を愛していても、決して
お前のところになんか行かせない。今この場を支配しているのは私の力なんだと、牌自身に
思い知らせてやる)
照(――さあかしずけ。跪け――ッ!)ゴォォォッ!!!
咲「――うっ!?」ゾクッ
竜華「な――!?」ゾクッ
穏乃「え――!?」ゾクッ
ワカメ「ん?」
カタカタカタ……パリンッ!
咲(い、今のは……)
咲「……」カチャ
咲「――ッ!?」ビクッ
33九九九八七①②③③⑦⑧ 四
咲(え、四萬――!? そ、そんな……なんで!)ゾッ
恒子『あー! 清澄高校、チャンピオンの当たり牌である四萬をツモってしまった――!
これはオりるしかないでしょうね。もったいない!』
健夜『……⑨筒……ツモれそうな感じだったんですけどね。ついさっきまで』
恒子『え、そうですか?』
健夜『……牌が、変わった……?』
恒子『え、い、いやいや、さすがにそれはないでしょ小鍛冶プロ。⑨筒が勝手に四萬に化けた
っていうんですか?』
健夜『……というよりは、四萬が宮永照選手に屈服したような感じでした』
恒子『……? 小鍛冶プロの言っていることはたまによくわかんないですね』
咲「……」
咲(オりれない。これは事故なんかじゃない、お姉ちゃんの力でこうなったんだ。ここで逃げたら、
ここから先ずっとお姉ちゃんに力負けすることになる……!)
咲「……」カチャ ⑧筒
穏乃「……」カチャ 3索
咲「ポン!」
恒子『清澄高校、鳴きで仕掛けてきましたね』
健夜『時間をかけて手代わりしている余裕なんてありませんからね。速攻で手を変える必要があります』
照「……」カチャ
二三三四五六七八東東東44 二
照「……」カチャ 三萬
恒子『おっとぉ? チャンピオン、ここで待ちを変えた?』
健夜『いえ……』
照「……」カチャ
二二三四五六七八東東東44 赤5
照「……」カチャ 4索
恒子『あ』
咲「……」カチャ
四五七八九九九①②③ 3 333
恒子『あ! ま、まさか――!?』
咲「カン」3索
咲(よし、間に合った。嶺上開花――!)
照「ロン」
咲「え?」ビクッ
二二三四五六七八東東東4赤5 3
照「ダブ東槍槓ドラ2、12000」ゴッ
咲「――っ!」ゾクッ
恒子『ちゃ、槍槓だ――! チャンピオン、まさかの二連続槍槓――! こ、これはもう
宮永咲選手の打ち筋を見抜いているとしか考えられません!』
竜華(……なんでや。なんで照魔鏡も使わずにここまで正確に狙い撃ちできるんや)ギリ
穏乃(す、すごい……)ブルッ
咲「……」
恒子『こ、小鍛冶プロ。この槍槓は狙ってやったということでいいんでしょうか!?』
健夜『まず間違いありませんね。宮永咲選手が四萬を含めた手を作ろうとしていると読んだ段階で、
3索でのカンでブーストをかけると予想していたはずです』
恒子『な、なんということでしょう! 宮永照、全く隙がありません!! これは他の
三校、大ピンチです!』ズビシッ
健夜『……ですが』
竜華(――せやけど、気づいとるか、清澄?)
竜華(それこそが、〝チャンピオンの隙〟になるんや)ゴッ!
咲「……」
東一局
咲「……」カチャ
竜華「……」カチャ 二萬
咲「ポン」
③④⑤⑥⑦⑧2345 二二二
恒子『清澄高校、ここで二萬をポンして聴牌――! チャンピオンよりも早く誰かが聴牌になるのは
この試合で初めてです!』
照「……」カチャ
一三七八九⑦⑧⑨78999
恒子『こ、これは――! チャンピオンもここで聴牌。しかも二萬のカンチャン待ち――!?
ま、まさか三連続槍槓を狙っているというのでしょうか――!!』
咲「……」カチャ
③④⑤⑥⑦⑧2345 二 二二二
恒子『き、清澄高校、ここで二萬ツモ!! これは加カンできません! あと一歩のところだった
んですが、チャンピオンが一歩早かったか――!』
恒子『清澄高校、なぜカンに拘るんでしょう。それもポンからのカンに。チャンピオンが槍槓を
狙っているとわからないんですかね?』
健夜『二回の槍槓は、おそらく宮永咲選手もチャンピオンを抑えて和了れる自信があったんでしょう。
しかし今回は……』
咲「……」カチャ 2索
恒子『清澄高校、オりましたね。まあ仕方ないですが』
健夜『……オり、とは少し違いますねこれは』
恒子『え? というと?』
照「……」カチャ
咲「……」カチャ
健夜『宮永照選手は前の巡で、二五萬待ちをわざわざ二萬のカンチャン待ちに変えています』
恒子『純チャンを含めるためじゃないんですか?』
健夜『そう。彼女が次に和了るのは跳満以上。そのためには純チャンが必要だったんです。
結果的に宮永照選手の待ちは二萬のみ。そしてそれは全て宮永咲選手が握っている。つまり……』
恒子『――あ』
照「……」カチャ
咲「……」カチャ
健夜『――そう。清澄が二萬を持ち続ける限り、宮永照選手は和了れないんです』
健夜『同時に宮永咲選手も、二萬を切ることもカンすることもできないわけですから、和了れません』
健夜『四校の内二校が互いに睨みあって和了れない状態にある』
健夜『なら……』
竜華(――なら、もう何も怖いもんはない。どんだけ時間をかけて手作りしたって構わんっちゅうことや!)
竜華「――ツモ! 3000,6000!」タンッ
照・穏乃「――!」
恒子『せ、千里山女子、ここで跳満ツモ――!! チャンピオンの連続和了を止めたああ!!』
照「……」
竜華(確かにチャンピオンは強い。私だけやったら太刀打ちできるかわからん)
竜華(けど、清澄がチャンピオンの速度に追いついて、互いに睨みあって動けん状態になれば、
私にもチャンスはある!)
穏乃(そっか、そこが勝負を仕掛けるときなんだ)
恒子『なるほど。清澄がポンすればチャンピオンはそこに合わせて槍槓を狙ってくる……そして
清澄がカンしなければ、チャンピオンは和了れない!』
健夜『槍槓を狙わなければ清澄がカンして嶺上開花ですね』
恒子『千里山以外の高校もチャンピオンの隙に気付いたようです! これはまさに宮永照包囲網!』
恒子『小鍛冶プロ、この展開どう見ますか?』
健夜『そうですね、悪くないと思いますが……』
竜華(――さすがに決勝戦の面子が敷いた包囲網ともなれば厳しいんとちゃうか、チャンピオン? 仕留めたるで!)
健夜『――この包囲網にはいくつか穴がありますね』
恒子『穴?』
健夜『はい。――きっともう、彼女は気付いています』
照「……」ゴォォォ
東二局
照「……」カチャ
照「――ツモ。500,800」
恒子『三巡目でチャンピオン再びツモ! 清澄高校は一向聴、わずかに追いつけなかったか!』
健夜『これが一つ目の穴ですね。高めを狙わなくていい序盤は、槍槓を狙いつつもツモ和了りを
狙える待ちが多い。つまり、序盤の連続和了は止められない』
竜華(……かまへん。安い手の内は揃えるのも簡単やし、早いのは仕方ない。その辺は仕方ない)
竜華(せやけど、三連続和了程度やと10000点程度にしかならへん。そっから先を潰せれば
十分チャンピオン攻略は可能や)
健夜『――逆に、四連続和了以上をされるとかなり厳しいですね。先鋒ならまだしも、大将では
合計収支で宮永選手を超えなくてはならないので』
恒子『なるほど。では勝負どころは三連続和了の後、つまりチャンピオンの親が再び
回ってきたときですね!?』
健夜『おそらく』
南一局
白糸台:157900
千里山:107400
清澄:68000
阿知賀:66700
恒子『さあ、やはりチャンピオンの連続和了が始まってしまった――! 三連続和了が終わり、
再び宮永照の親番です!!』
竜華(ここや……ここで親の連荘をさせへんかったら、まだ私にも勝ち目はある)
竜華(清澄がチャンピオンの速度に追いついてくれるかどうかが鍵や……まだ後半戦を残してる
とはいえ、さすがに5万点差はまずい)
穏乃(清澄が白糸台を止めてくれれば、そこで私も勝負に出れる!)
咲「……」
咲「ポン」
三四五678⑦⑧⑨西北 七七七
恒子『清澄七萬ポンで一向聴を強引に聴牌にまで押し進めていく! し、しかし――!』
照「……」カチャ
一二三八九678②②⑥⑦⑧ 六
照「……」カチャ 九萬
恒子『チャンピオン、七萬待ち! 今度こそ清澄の七萬カンを槍槓で打ちとるつもりか――!?』
竜華(いや、そのまま清澄がチャンピオンを食い止めててくれれば、私らが連続和了を止めれる)
穏乃(手作りするなら今だ!)
恒子『またしても両宮永選手の睨みあいとなりました。これはまた他校が和了ってしまうんでしょうか?』
健夜『……いえ』
照「……」カチャ
一二三六八678②②⑥⑦⑧ 五
照「……」カチャ 八萬
恒子『あ!』
健夜『彼女は二度も同じ轍を踏む選手ではありません。手代わりで多面待ちしつつ、カンも牽制。
一方宮永咲選手はカンを前提とした待ちですので和了りづらい』
照「……」ゴッ!
健夜『――だから、チャンピオンが一歩先を行く』
ドゴォ!
一二三五六678②②⑥⑦⑧ 四
照『――ツモ。2600オール』ゴォッ!
咲・竜華・穏乃「!?」
恒子『チャ、チャンピオン、怒涛の四連続和了――! 親での連荘が始まってしまった!!
他校は一刻も早く止めなくては、取り返しのつかないことになってしまいます!!』
健夜『こういう手代わりを許さないためには、チャンピオンにドラを乗せてはいけませんね。
今の手もドラが乗っていなければ打点は上昇しませんでした。ドラを集めてくれる松実玄選手の
ような人がいてくれれば、千里山の包囲網も一段階強くなれるんですけどね』
竜華「くっ……!」
竜華(清澄の嶺上開花を封じつつ誰よりも早く和了るやて……? 信じられんほど正確に有効牌
を引いてくる……)
竜華(支配……いや、まるで牌そのものを屈服させてるようや。ほんまに人間なんかこの人……)
健夜『しかもこれは大将戦ですから、清澄もただチャンピオンを食い止めているわけにはいきません。
自身も和了りを目指さないと』
恒子『あ、そっか。そこを狙われちゃうとまずいですね』
健夜『先鋒戦なら足止めだけという作戦もありなんですが、今はできません』
恒子『そうなると、千里山の敷いた包囲網も確かに穴だらけですね。私も一瞬いけるんじゃないかと
思ったんですが、やはりチャンピオンには通用しないということでしょうか』
健夜『そうですね。純粋な力の差です』
南一局
恒子『さあまだチャンピオンの連荘は続く! 他校はこれを凌ぐことができるのか!?』
竜華(次は12000点以上……あかん、なんとしてもここで止めな)
竜華(清澄に差し込むか……安手を作ってくれれば……)
咲「……」カチャ
334455678南南南西 北
咲(だめだ……追いつけない!)
竜華(染め手? ……くそ、高そうや。さすがにこれに差し込むのは……)
12一二三①①①②③789
恒子『チャンピオン、またしても早い段階で高い手を聴牌――! しかもいざとなれば清澄
から索子を槍槓できそうな待ちですね。対する他校はまだ一向聴以下! この局も決まってしまうのか!』
竜華(あかん、和了られてまう……!)
竜華「ポン!」カチャ 発
竜華(発ドラ1。これなら差し込んでも大丈夫やろ。清澄か阿知賀が察してくれれば……)
咲「……」カチャ
穏乃「……」カチャ
竜華(くっ……だめか)ギリ
健夜『阿知賀、清澄ともに対宮永照意識で頭の中がいっぱいで、差し込みにまで気を回す
余裕はなさそうですね。唯一冷静なのは清水谷選手だけですが……止められませんね、彼女では』
照(3索は出ないか……でも、同じこと)
照「……」カッ
照「……」ガッ ギュルルルルルルル
竜華(…………だめか…………)
ドゴォッ!
照「――ツモ」
1一二三①①①①②③789 1
照「4000オール」ゴォッ!
咲「……っ」ビクッ
恒子『ご、五連続和了――! もう誰もチャンピオンを止められないのか――!』
竜華「く……」ギリ
竜華(止められへんのか……まるで竜巻や。大きさも速度も分かってるのに、止められへん……!)
咲「……」
南一局
咲「……」
咲(淡ちゃんの言った通りだ。私はお姉ちゃんに及んでない……)
咲(でも……負けるわけにはいかないんだ!)ゴッ
咲「ポン!」⑧筒
恒子『清澄高校、一巡目にさっそく⑧筒をポン! しかしまたチャンピオンに狙い撃ちされてしまうぞ!?』
健夜『面前で手を揃えてたらスピードで負けます。チャンピオンにツモらせず、かつ自分のツモを
増やすために鳴きが必要になってきます』
照(……無駄だ)ゴッ
照「……」カチャ
.①①①②②②③③③④④⑥⑦
恒子『しかしチャンピオンも三巡目で凄まじい手を張っています! しかもまたしても槍槓狙いか――!?』
照(でも……なに、この違和感は)
竜華「……」カチャ
二三四五⑤⑤⑤⑨⑨346白 ⑤
竜華(――よし、全部取ったで!)
恒子『これは――! 千里山の清水谷選手、チャンピオンの当たり牌である⑤筒を全て手中に収めた!
これでチャンピオンはもう⑧筒でしか和了れません!』
咲「……」カチャ
咲(⑧筒……四枚目だ)
恒子『清澄高校、ここで四枚目の⑧筒をツモ! 聴牌です!』
竜華(これでもうチャンピオンも清澄もこの局で和了られへん)
照(……かといってここで待ちを変えれば、咲が⑧筒カンで嶺上開花、か……)
健夜『包囲網の完成ですね』
竜華(さあ、あとは和了るだけや。少しでも高い手を)
穏乃「――リーチ!」
咲・照・竜華「――!」
竜華(な、阿知賀……!? しまった、先を越された!)
健夜『阿知賀の高鴨選手、あらかじめ手作りしていましたね。清澄のフォローに回っていた
清水谷選手はまだ手が遅い。油断しましたね』
穏乃「ツモ! 4000,8000!」
恒子『阿知賀女子、ここでチャンピオンの連荘を阻止――! これで阿知賀も浮上、清澄の
一人沈み状態です!』
咲「……っ」
南二局
照(……咲との点差は約10万点。残りはこの南場と半荘一回……)
照(たった二回の親で、8万点以上の点差が開いたんだ。私に勝つ? プラマイゼロ?
この結果を見ろ咲……お前の負けだ)
照(勝てる……私はもう、咲に勝てる!)
咲「……」カチャ
竜華「ポン」
咲「……」カチャ
竜華「ポン!」
恒子『千里山、連続ポン! チャンピオンにツモらせない作戦か!』
竜華(チャンピオンの下家になってしもたからな。私が鳴けば、それだけチャンピオンのツモが
飛ばされることになる。それがチャンピオンのスピードに対抗する唯一の手段や)
穏乃(……私もツモれないんだけどなぁ……)
穏乃(……でも、諦めるわけがない! チャンピオンに勝つためには、私も……!)
穏乃「……」カチャ
咲「ポン」
咲「……」カチャ
竜華「それもポンや!」
恒子『こ、これは――! チャンピオンを差し置いて他家がどんどんと鳴いて手を進めていく――!
たった一巡で、めまぐるしく手牌が変化していきます――! これはチャンピオンつらい!』
照「……」
恒子『これも新たな宮永照包囲網でしょうか。どう見ます小鍛冶プロ? なんかもう平然とコンビ打ち……というか
三対一で打っているように見えますが』
健夜『実際にサインを飛ばしているわけではありませんし、相手の手牌を予想できる高度な読みが
あってこそですから、まあ……』
健夜『それより、この作戦の問題点は……〝誰が和了るのか〟ということですね』
穏乃(鳴かせるのはいい。でも……)
咲(最後に和了れないんじゃ同じだ。協調するフリをしつつも、皆いつ動くべきか見計らってる)
竜華(大将戦じゃなかったら完全に結託してもよかったんやけど……悪いな、清澄、阿知賀)
竜華(――この局はうちがもらうで!)
竜華「ツモ! 1300オールや!」
恒子『おーっと、先制したのは千里山! 親の連荘です!』
竜華(鳴きまくると手が伸びへんのがつらいけど……ゆっくり詰めていくしかあらへんな)
南二局
照「……」カチャ
恒子『チャンピオン、二巡目で一向聴! さすがに早い!』
咲「……」カチャ
竜華「ポン!」
咲「……」カチャ
竜華「それもポン!」
恒子『しかし千里山も連続ポンで、二向聴を一巡で聴牌にまで押し上げた――!』
竜華「――ツモ! 2000オール!」
竜華(清澄……一番点取られてラスやっていうのに、私をフォローしてくれてる……。
……おおきにな。次はあんたの親番や。今度はうちがフォローするで)
健夜『一つの作戦として、チャンピオン以外の三校がそれぞれの親でツモ和了りを繰り返せば、
結果的にチャンピオンだけがどんどんと点を失っていく、という展開が考えられます』
恒子『あ、なるほど。あの三校はそれを狙っていると?』
健夜『ゲームメイクを行ったのは千里山ですが、どうやら他校もそれに同調するようですね』
恒子『でも、そう上手くいきますかね?』
健夜『チャンピオンに追いすがれるほどの聴牌速度。他家の欲しい牌を察知し、それを手中に収める力。
――つまり、場の支配力を競う戦いになります。そして宮永照選手は、支配力という一点において
紛れもなく最強……三対一でも、どこまでやれるかは分かりません』
照「……」
南二局
竜華「……」カチャ
竜華(……手が重い……。四巡目で二向聴か……)
竜華「……」チラ
照「……」
竜華(チャンピオンはもう聴牌……最低でも一向聴のはずや。六巡目までに絶対和了ってくる)
竜華(ホンマはもう少し取りたいところやけど……ここは譲るべきかな。
――そうなると、誰に和了ってもらうのが一番ええか、って話になるんやけど……)
竜華(チャンピオンの連続和了は途切れてる。ならこの局は一番安い手から始まるはずや)
竜華(……ごめんな清澄。親被りもらうよりかは、チャンピオンの安手に差し込んだ方がええんや。
多少の打算は堪忍やで)
照「ポン」カチャ 南
恒子『宮永照、ポン! これで三面待ち聴牌です!』
竜華(さて、チャンピオンの当たり牌は、多分これ……)
咲「カン」
竜華・照「――!?」
恒子『清澄高校、チャンピオンの捨て牌をカン! しかし聴牌ではありませんので、嶺上開花では
ないようです』
竜華(ここでカン……?)
クルッ 東
竜華「なっ――!」
竜華(槓ドラが……チャンピオンの鳴いた南!?)
竜華(これに差し込んだら、最低でも満貫もってかれる……!)
咲「……」ジー
竜華(清澄、あんた……私が差し込もうとしてるのを読んで……)ゾッ
咲「……」ジー
竜華「…………」
竜華(……わかった。ちょっとケチに考えすぎとったようや。……ええよ、あんたが和了り)
穏乃「……」カチャ
竜華「ポン」
照「……っ」
恒子『清水谷選手、チャンピオンのツモを飛ばした!?』
竜華(……なるべく優しく頼むで、清澄)
咲「カン」
恒子『清澄高校、カン。これで聴牌!』
咲(……ごめんね。千里山さん)
咲(この試合――私、手加減なんてできないんだ)ゴォッ!
咲「もいっこ、カン!」
照「……」
竜華(……)フッ
咲「――ツモ! 3000,6000!」
恒子『嶺上開花炸裂――! 清澄高校、なんとか息を吹き返したか!』
恒子『それにしても、ここまで連続でチャンピオンが和了れないなんて初めてではないでしょうか!?
ついに三校がチャンピオンの連続和了を攻略したか――!!』
照「……」ギリ
南三局
照(一回和了ったくらいで……いい気になってるんじゃないだろうな、咲)
照「……」ゴォォッ!
竜華「……」カチャ
竜華(このツモ……あかん、チャンピオンの支配が強まった)
穏乃(鳴けない。鳴かせることもできない……!)
咲「……」カチャ
照(悪あがきもここまでだ、咲。もう牌はお前たちに従わない。鳴いて手を進めさせたりしない)
咲「……」
照「……」カチャ
恒子『チャンピオン聴牌――! 安手ですが二巡目の聴牌。清澄の親は流れてしまうか――!?』
咲「――カン」
照「な――」
竜華(カン!? このチャンピオンの支配の中でもできるんか清澄!?)
照(王牌……私の支配もそこまでは届かない……!?)
――森林限界を超えた高い山の上――
――そこに花が咲くこともある――
照(――咲……)
――お前もその花のように――強く――
咲「――ツモ! 6000オール!」
恒子『だ、打点が高い――!!』
健夜『……いえ、それより』
穏乃(早い――!)
照「く……」ギリ
恒子『清澄高校、ここで親ッパネ――! チャンピオンの速度を上回った――!!』
竜華(誰と協力することもなく、個人の力だけでチャンピオンの支配を超えた……)ゾクッ
照(……咲……お前は)
照(お前はそれだけの力がありながら……どうして)ギリ
咲「……」
南三局
竜華(清澄の連荘か……ほんま信じられへんわ。スピードを重視すればどうしたって打点は下がる
もんや。やのに清澄は立て続けにあんな高い手を……)
咲「――カン!」
竜華・照「――!」
咲「ツモ。嶺上開花! 3200オール!」
恒子『清澄高校、三連続和了――! ちゃ、チャンピオンがここまで連荘を許すなど何年ぶり
か――!? 完全に流れをものにしたか清澄!』
竜華(清澄……! こ、ここまで……)
穏乃(す、すごい……)ゾクッ
照「……」
咲(いける……お姉ちゃんに追いつける!)
――ギ
照「…………」
――ギギ
――――調子に乗るなよ、咲
――ゴォォォォォォオッ!!!
健夜『――っ!?』ゾクッ!
ガタッ
恒子『え、ど、どうしました小鍛冶プロ』
健夜『こ、これは……』
淡「――きた!」ガタッ
菫「これは……!」
菫(以前一度だけ……大星が照に勝ちそうになったときの、〝あれ〟か……!?)
カタ
カタカタ……カタ
竜華「……ん?」
カタカタカタカタ……
穏乃「え、なに、地震……?」
竜華「……いや、建物とか照明は全然揺れてへん。でも、卓が……」
咲「…………卓じゃない」
竜華・穏乃「え?」
咲「……牌が。牌だけが震えてる……」
カタカタカタカタ……
竜華「……ほんまや」
竜華(なんやこれ。まるで……)
竜華(――まるで、牌が何かに怯えてるみたいやないか)
南三局
竜華「……」カチャ
竜華(な、なんや?)
咲「……」カチャ
咲(カン材が……全然こない)
穏乃「……」カチャ
穏乃(手が進まない……)
照「……」カチャ
恒子『おっと――! チャンピオン、ここで聴牌! 30符1飜の安手ですが、清澄の親を
流せそうです!』
照「……」カチャ
恒子『あら? チャンピオン、待ちを変えました。少し高めを狙うようです』
健夜『……』
照「……」カチャ
恒子『チャンピオン、再び聴牌――! 今度は30符2飜です!』
照「……」カチャ
恒子『あ、あれ? ち、チャンピオン、また待ちを変えました。小鍛冶プロ、トップなんですし、
今の待ちでもいいように思うんですけど……』
健夜『……打点を上げるつもりでしょう』
恒子『まあ……そうなんでしょうけど。チャンピオンは連続和了でちょっとずつ打点を上げていく
んじゃなかったんですか?』
健夜『同じことですよ』
健夜『彼女は――連続和了での打点上昇を、〝一局のうちに〟行うつもりです』
恒子『え……そ、それはどういう……』
照「……」カチャ
恒子『――!? ちゃ、チャンピオン、再び待ちを変えた――! 今度はえーっと……
20符3飜です! た、確かに連続和了の時のように打点が少しずつ上昇しています――!』
恒子『し、しかしこれではチャンピオンの強さの秘訣であるスピードが失われてしまうんじゃ!?』
健夜『今、あの卓にスピードが存在しているように見えますか?』
恒子『え?』
竜華(……つ、ツモられへん……さっきから、何も身動きがとられへん!)ギギ
咲(これは衣ちゃんの一向聴地獄……ううん、それ以上だ!)ギギギ
穏乃(うぅ……)ギギ
恒子『ほ、本当だ……さっきまであんなに鳴いたりツモったりしてたのに、今じゃ誰も……〝一つ
も手が進んでない〟。三校が配牌時の向聴数から一つも進んでいません!』
健夜『全てが静止した世界……その中を、ただ彼女だけが歩いている』
照「……」カチャ
恒子『ま、また待ちを変えました! 今度は40符3飜――!』
竜華(ぐっ……)ギギ、ギ
咲(動けない……何も、できない……!)ギギギ
照「――ツモ。1300,2600」ゴォッ!
恒子『つ……』
恒子『ツモです! チャンピオン、12巡たっぷり使って打点を上げ、しょっぱなから5200点を
ツモ和了り――! こんな打点から始まるチャンピオンの連続和了を見るのは初めてです――!』
竜華(こ、この人……)
竜華(ほんまもんの化け物や……)ゾクッ
咲「……お、お姉ちゃん……」
照「……」
南四局
恒子『さあ前半戦オーラスです! 最後に和了るのは誰なのか――!』
照「……」カチャ
恒子『チャンピオン、前局で和了った40符3飜の手を聴牌! しかしこれは――?』
照「……」カチャ
恒子『やはり待ちを変えました! またしても一局で打点を上昇させるつもりか――!』
竜華(そんなことがほんまにできるんやったら……今のうちはまだええ。でも、満貫以上になったらどないするの)
竜華(満貫以上は符の概念がなくなって、8000,12000,16000と急激に打点が上がる。
〝それも一局のうちに〟! そんなことされたら勝てるわけないやん!)
竜華(あかん、止めるんや! もういくら差しこんだってかまへん。チャンピオンの和了りを
防がな、ここで息の根止められてまう……!)
竜華「……」カチャ
竜華(くっ……あかん、全然手が進まん。配牌時から一つも)
咲「……っ」カチャ
穏乃「くぅ……」カチャ
竜華(清澄も阿知賀も聴牌には遠い……せやのに)
照「……」カチャ
恒子『再び聴牌! 30符4飜――!』
竜華(チャンピオンだけが、この止まった卓の中を動いてる……!)
照「……」カチャ
恒子『5飜に突入――! ここからは加速度的に打点が上昇していきます――! 前半戦オーラス
でこの和了りは大きすぎる!!』
竜華(くっ……!)
咲「――カン!」
竜華・穏乃「!?」バッ
恒子『き、清澄高校、カン! チャンピオンの支配をなんとか振り払ったか――!?』
咲「……」ギギ、ギ……
恒子『清澄高校、一向聴――! まだ諦めていない。執念のツモです!』
咲(カンさえできれば……王牌はまだ私の支配の方が上だ――!)
咲「か、カン!」ギギ……
恒子『清澄高校、二回の無駄ヅモの後にようやくカン! 再び手を進め、これで聴牌!』
咲(ぜ、全力を出しても……三巡に一回カンするのがやっとだ……)ハァ……ハァ……
照「……」カチャ
恒子『しかし清澄間に合わないか。チャンピオンの手は7飜を突破! 打点は12000点に到達
しています!』
咲「カンッ!」
恒子『きた! 嶺上開花なるか――! これを和了れば12000点、清澄高校はプラス5200点で
前半戦を終わります!』
照「――」
照(5200……プラマイゼロ……か)
照(……言ったはずだよ咲。私はお前の麻雀を認めないって)
照(――――跪け)ゴォォッ
咲「……」カチャ
咲「――ッ!」
恒子『あーっと、嶺上開花ならず――!』
咲(そ、そんな、もう……嶺上牌すら……)ギ、ギギ
照「……」カッ
照「……」ガシ ギュルルルルルルルルルッ
咲・竜華・穏乃「――!」ゾクッ
照「――終わりだ、咲」
ドゴォッ!!
え?お前麻雀するとき効果音出さねーの?
照「――ツモ。3000,6000」
ゴォォォォォォ!
竜華「……ぁ……」
竜華(た、たった二局で……跳満にまで伸びるなんて……ほんなら、あと一局打ったら……)ゾッ
咲「……」
穏乃「」
恒子『き、決まった――! 前半戦終了! やはりチャンピオンが圧倒的な点差で他校を突き放した――!』
白糸台:171400
千里山:88200
清澄:88100
阿知賀:52300
竜華「……」
穏乃「……」
咲「……」
照「……」ガタッ
カツカツカツ
咲「……お姉、ちゃん」
照「……」カツカツカツ
咲「……」
咲(プラマイゼロを止められた……こんなにあっさり……)
竜華(……残りが二局で助かった……もし前半戦がもうあと一局でも残ってたら……多分、やられとった)
咲「……」
白糸台控室
菫「……勝ったな」
淡「……ふ、ふふ……」
淡(最高だ……テル、やっぱりあなたが最高だよ)ゾクッ
菫「それにしてもテルの奴、遅いな。まだ帰ってこないのか?」
淡「……」
淡(あれだけの力を使ったんだ。テル本人にも相当な消耗があるはず)
淡「私、ちょっと様子みてくるね」
菫「ああ、頼む」
女子トイレ
ジャーー
照「はぁ……はぁ……」
照「――うっ、うぇぇ……がっ……はぁ……はぁ」
照(頭痛が酷い……吐き気も。眩暈でろくに前も見えない)
照「……でも、超えた……」
照(私は――咲を超えた)
ガチャ
淡「――テル、ここにいたの」
照「淡……」
淡「……どうしたの。酷い顔」
照「……少し、無茶をしちゃった」
淡「最後のあれだよね。私も前にされたときは何事かと思ったけど、あれなんなの?」
照「……」
照「……私の強さの正体は、もう見抜いたんだっけ?」
淡「……麻雀を憎む力、でしょ?」
照「……すごいね、本当にお見通しだったんだ」
照「そう。私の雀力は憎しみの強さ。私にはもともと、牌をかしずかせて支配する能力が
あったみたい。でも麻雀が好きなままだと、その力を使えない。――心が、私の邪魔をする」
照「だから、麻雀を憎めば憎むほど、私は枷から解き放たれて強くなる。それが私の麻雀」
淡「それを突き詰めたのが、さっきのあれってわけ?」
照「普段の私は、自分のツモる牌を支配するのがやっと。力を使えばほぼ100%有効牌をツモれるけど、
場の支配、相手の支配までは覆せない。だから照魔鏡で相手を見抜いて、隙を突いてきた」
照「でもこの力を使えば……極限まで麻雀を憎めば、卓上の全ての牌を支配できる。相手に無駄ヅモをツモらせ、
自分だけが有効牌をツモっていける」
淡「すごいね。そんな力があるならいつも使えばいいのに。――ってわけにもいかないみたいだね、その様子だと」
照「……」
照「……痛むんだ」
淡「? どこが?」
照「胸のあたり。心臓の、その奥の部分が、締め付けられるみたいに痛む」
照「長く使いすぎると頭痛がして、吐き気がして、何か……お腹の奥の、よくわからない部分から
ざわざわした気持ちが沸いてきて……涙が出てくる」
淡「……」
照「……きっと、私みたいに牌に憎まれた子が、お前や咲のような領域に踏み入ろうとした代償
なんだろうね。理由はわからないけど、きっとそうなんだと思う」
淡「……本気で言ってるの?」
照「?」
淡「その力を使うと体調が悪くなる理由が……本当にそんなことだと思ってるの?」
照「違うの? 淡には分かるの?」
淡「とぼけてるの? 分からないふりをしてるの? わからないよ、テル……」
照「……何が言いたいの?」
淡「……」
淡「〝麻雀を憎むと心が痛む〟……その理由が、本当に分からないの?」
照「? わからない。教えて、淡」
淡「テル……あなた……」
アナウンス『――間もなく決勝戦大将戦の後半戦を開始します。選手の方はお集まりください』
照「もういかないと」
淡「……」
照「それじゃあ行ってくる」
淡「……」
淡「……行ってらっしゃい、テル」
恒子『さあついに、ついにインターハイ決勝戦、最後の半荘が開始されようとしています!』
恒子『白糸台は二位と8万点もの差を開けての半荘開始。実況がこんなこと言うのは良くないん
でしょうけど、もうチャンピオンの勝利は目前ではないでしょうか!?』
恒子『白糸台高校、前人未到のインハイ三連覇!! その歴史的瞬間が間近に迫っているような
そんな予感があります! どうでしょう小鍛冶プロ!』
健夜『普通に考えて、8万点ですもんね。かなり厳しいと思います』
恒子『しかも最後のあれ! あんなの使われたらもう終わりじゃないですか!』
健夜『あれは乱発できるような力じゃありませんよ。二局使っただけで相当な消耗を見せましたし』
咲「……」
咲(ううん、やってくる。またあれを、どこかでやってくるはずだ)
咲(……〝どこか〟? 違う、お姉ちゃんがあの力を使うタイミングなんて一つしかない)
咲(――私の、親番だ……!)
照「……」
東:千里山
南:白糸台
西:阿知賀
北:清澄
東一局
竜華(起家か……前半戦のチャンピオンのアレがまだ残ってないことを祈るしかないけど……)
竜華「……」カチャ
竜華(手が進んだ。一向聴。よし、あれは使われてない。また初めからや)
竜華(さすがにこの親で大きく取らんことには、逆転は無理や。なんとかものにしたいけど……)
竜華「……」カチャ
竜華(少し手が遅い……あかん、チャンピオンにスピード負けしてまう……!)
照「……」カチャ
竜華(ん? 手代わり? なんや、五巡目やっていうのに、まだ聴牌しとらんかったんか)
照「……」カチャ
竜華(――っ、また手代わり。なんや、チャンピオンから前半戦ほどの気迫が感じられん)
竜華(……まさか)
恒子『どうしたチャンピオン、六巡目を過ぎてまだ一向聴。チャンピオンにしては遅いですね』
健夜『さっきの能力を使用した反動なのかもしれません』
照「……」
照(さすがにあそこまで強烈に牌を憎むと、牌からの反発も強くなる。あの能力の使用後は
私の支配が弱まってしまう。この局は……まだだめだ)
竜華(チャンピオンの支配が弱い……? これは、いけるか……?)
竜華「……」カチャ
竜華「…………よし。リーチや!」チャラ
恒子『千里山先制――!』
恒子『ツモ和了りです! これは例の『チャンピオン以外が親で連荘する』という作戦でしょうか』
健夜『ここまで点差が開いてしまうともうその作戦でもかなり厳しいですが、彼女たちは
前半戦でチャンピオンの連続和了をある程度攻略していますし、支配力の落ちた今のチャンピオン
になら通用するかもしれません』
恒子『となるとやはり問題は……』
健夜『はい。〝アレ〟をどう攻略するか、ということになりますね』
東一局
竜華「……」カチャ
竜華(いける……! まだチャンピオンの支配が弱い!)
竜華「ツモ! 2700オール!」
恒子『千里山の連続和了! チャンピオンの支配力はいつ復活するのか!?』
健夜『……いえ。もうかなり回復していますね、おそらく』
照「……」
東一局
照「……」カチャ
恒子『チャンピオン、三巡目で一向聴!』
竜華(速い……もうチャンスタイムは終わりかいな。――せやったら)
竜華「……」カチャ
穏乃「ポン!」
穏乃「……」カチャ
咲「チー」
咲「……」カチャ
竜華「ポン!」
恒子『出たー! 三校の連続副露! チャンピオンのスピードが復活してもお構いなし!
連続和了は完全に攻略したか――!?』
照「……」
照(和了ればいい。でも、千里山はそういつまでも容易く和了れる?)
竜華(……それはポンできへん。まずい。チャンピオンがツモる……)
照「……」カチャ
恒子『チャンピオン聴牌――! 巡ってきた一巡を逃すことなく、しっかりと有効牌をツモってきました!
ほんと恐ろしいほどムダヅモがないですね』
健夜『ということは、あと一巡……彼女がツモれば即和了り、と考えて間違いないでしょう』
竜華「……」カチャ
竜華(……結局、一向聴どまりか……。ポンもでけへんノベタン待ち……ここまでか。もう
この局で私の和了りはない……)
竜華「……………………」
竜華「……」カチャ
穏乃「!?」
穏乃(私の和了り牌!)バッ
竜華「……」コクン
竜華(和了り)
穏乃「……」
穏乃「ロン。6400」
恒子『千里山が阿知賀に振り込んだ――! 貴重な残り局数が一つ減ると同時に、千里山の
親番も残り一回! 千里山と白糸台はまだ7万点ほどの点差があります! これはつらい!』
竜華「……」
東二局
咲「――ツモ。1600,3200」
恒子『今度は清澄高校! またしても連続副露でチャンピオンの親を流した――!
もうチャンピオンは連続和了では勝てないんでしょうか、小鍛冶プロ!』
健夜『というよりは、力を温存している様子ですね』
恒子『アレを使うためにですか?』
健夜『はい。結局、あの支配を超えない限りはチャンピオンには勝てません』
東四局
恒子『――さあ、東三局で親の阿知賀が二連続和了! しかし三連続はならず、最後に清澄が
和了って局が進みました! そしてその清澄の親番! 後半戦最後の東場です!』
白糸台:156500
千里山:90600
清澄:87900
阿知賀:65000
咲「……」
咲(私の親番……)
竜華(……信じられへん。後半戦になってからチャンピオンが一度も和了ってない……)
竜華(嵐の前の静けさ…………洒落にならへん喩えやわ)
穏乃(……ってことは……)
健夜『――来る』
照「――ッ」カッ!
――ギ
カタカタ……
竜華「――ッ! 牌が……!」
穏乃「!」
カタ、カタカタ……
――ギギ、ギ
ゴォォォォォォオッ!!
照(――もう支配も完全に回復した。お前の親は終わりだ)
照(止められるなら止めてみるといい)ゴォォッ!
咲「っ……」ゾクッ
照「……」カチャ
恒子『チャンピオン、二巡目で40符1飜を聴牌――! しかし、これは――!?』
照「……」カチャ
恒子『やはり待ちを変えてきました! あの凄まじい支配がついに始まってしまった――!』
竜華(清澄を狙い撃ち……私らなんて眼中にないってことか)
竜華(私はここでどう動くべきなんや? 清澄に和了らせてチャンピオンの点棒を減らす?
……いや、結局はこのチャンピオンの支配を超えられるかどうかなんや。それがでけへん限りは、
結局次の私の親番が潰されて、もうそこで私は終わる)
竜華(なんとかして探すしかない。チャンピオンの支配を超える方法を)
照「……」カチャ
照(――どう動くとか、そういう話じゃない。――この支配の中では、〝一歩も動けない〟んだよ)
照「……」カチャ
恒子『チャンピオン、40符2飜聴牌――!』
竜華「くっ……」
竜華(あかん……なんも進めへん!)
照「……」バチィ!
恒子『40符3飜――!』
咲「……」タン
竜華「――!」
竜華(清澄の打牌……!)
竜華「ぽ、ポン!」
照「な――」ピク
恒子『こ、これは――! 千里山がポンで手を進めました! 清澄、まさか狙ったのか――!』
照(そんな……できるはずない! 私の支配が効いているのに!)
健夜『……宮永咲選手、向聴数を下げましたね』
恒子『確かに。順子の③④⑤筒から④筒を切っていきましたね。なぜでしょう、小鍛冶プロ』
健夜『まあ……それが千里山の鳴ける牌だと読んだからでしょう』
恒子『え、でも……自分の親番ですよね? 向聴数を下げてまで千里山を鳴かせるっていうのは
どういう……?』
健夜『……もしかすると、チャンピオンが支配できるのは『ツモ牌』だけで、『配牌』は支配できないのかも知れません』
恒子『あ、確かに。それができるんならチャンピオンは天和なり決めちゃえばいいわけですもんね』
健夜『チャンピオン以外の三校の配牌を全て合わせれば、鳴ける牌の一つや二つは出てくるでしょう。
――そこを読めるのなら』
恒子『――チャンピオンの支配の中でも手が進む……!?』
健夜『……しかし、それだけでは攻略法とはとても呼べませんね』
照(……手が進むからなに? 結局お前は向聴数を下げてこの局を逃す。貴重な親番を)
照「……」バチィ!
恒子『チャンピオン更に打点を上げた――! 僅か一局で満貫手にまで伸びています!』
照(咲。お前は私の支配に抗うこともできず負ける。今の打牌がいい証拠だ)
竜華「……」
竜華(――違う。清澄は証明したんや。チャンピオンの支配が完全ではないこと。
硬いコンクリートにも花が咲くように、このがんじがらめみたいなチャンピオンの支配の中でも、
自らの意思で前に進めることを――!)
照「……」カッ ギュルルルルルル!
ドゴォ!!
照「――ツモ。2000,4000」
恒子『決まった――! チャンピオンの満貫ツモ! これは勝負あったか――!』
咲「……」
南一局
竜華(私の最後の親番……)
竜華(配牌から三向聴……でも、ここを逃せばもう親がない。チャンピオンとの差は7万点。到底
逆転でけへん)
竜華(なんとしてもこの親で稼ぐしかない!)
穏乃「……」カチャ
穏乃「……!」
1122356678北西⑨
穏乃(きた! 大きい手!)
恒子『おっと! 阿知賀女子、配牌から大物手の予感! これは是が非でも和了りたいですね』
照「……」カチャ
恒子『しかしチャンピオン、2巡で既に満貫聴牌!! 早すぎる!!』
照「……」カチャ
恒子『やはり手代わりを選択! 次は跳満、12000点だ――!』
竜華(阿知賀……三巡連続で⑤筒、四萬、③筒をツモ切り……索子の染め手か。高そうや。
でも手は進んでないみたいやな)
咲「……」カチャ
穏乃「! チー!」
竜華・照「――!」
竜華(また清澄が鳴かせた。阿知賀、もう聴牌間近みたいや)
穏乃(和了りたい……これさえ和了れば……!)
竜華「……」
竜華(……私の手牌にも索子はいくつかある。清一手なら大概鳴けるやろうし、手も進むはずや)
竜華(もしそれをチャンピオンから直撃とれるなら、私にとっても大きい和了りや)
竜華(でも索子を切ればうちの手はボロボロ……もうどう足掻いても和了られへん。
うちの最後の親が終わる……)
照「――リーチ」
竜華・穏乃・咲「!?」
恒子『チャンピオン、とどめとばかりにリーチ――! これで跳満確定! この局面での
12000点は痛すぎる――!』
竜華「……」カタカタ
竜華(チャンピオンの下家は阿知賀。私が阿知賀に索子を送れば、チャンピオンのツモを飛ばせる。
阿知賀も大物手が進んで、リーチで手代わりでけへんチャンピオンから直撃取れるかもしれへん)
竜華(でも、それをしたらうちの親が終わる……。まだチャンピオンの親が残ってるのに、
7万点差ある状態で終わってまう……!)
竜華(でもうちの手牌は三向聴……無理や……とても和了られへん……でも……!)
咲「……」
竜華「……」カチャ
竜華「……」タン ②筒
穏乃(っ……筒子……)
竜華(――ごめん、阿知賀。この索子は切れん。あんたがチャンピオンから直撃とれるとも限ら――)
照「ロン」
竜華「―-――-―――ぇ」
照「12000点」パララララ……
竜華「…………あ……ぁ……」
竜華「そ、そんな……」ヨロ
恒子『せ……』
恒子『千里山、ここでチャンピオンに痛恨の放銃――!!! これはやってしまった――!』
恒子『これでもう千里山には親番がありません。そしてチャンピオンとの点差は9万点にも
なってしまった――!!』
竜華「」ガックリ
健夜『……千里山は終わりましたね。もう心が折れています』
恒子『清水谷選手、うなだれた顔を上げられない! これはつらいですね小鍛冶プロ』
健夜『彼女だけじゃなく、高鴨選手にとっても厳しい和了りです。大物手を張っていただけに』
穏乃「…………」ギュッ
竜華「……くっ……うぅ……」プルプル
竜華(わかっとったことやないか……チャンピオンの支配は超えられへん。それを超えるためには、
他家に鳴かせて、チャンピオンから点棒を取るしかないって……清澄が自分の親番を潰してまで
皆に証明したはずやったやんか……!!)
竜華(自分が和了る以外にも、他家がチャンピオンからの直撃を狙うことで相対的に点差を縮める
作戦かってあったはずや)
竜華(怜なら――きっと怜ならそうしたはずや。一巡先を読んで、誰か大きな手を張った人に
チャンピオンが振り込むように場を誘導する……あの子ならきっとそういう麻雀を選んだはずや)
竜華(せやのに私は……私は、自分だけが和了りたいって……自分の親番を潰したくないって……
そんなことばっかり考えて、チャンピオンのリーチに、勝てるはずのない三向聴で挑んで……このザマや!!)
竜華(くそ……くそぉ……!)ギリギリ
照「……」
照(――あと、二人)ゴッ!
照(千里山はもう終わった。阿知賀も相手じゃない。……あとは咲、お前を潰せば……)
照「―-――!」ズキン!
照「ぐっ――!?」ガタッ
恒子『おっとチャンピオン、なにやら額を押さえています。怪我でもしたんでしょうか』
健夜『……能力の反動でしょう。強くなればなるほどに心を引き裂く……悲しい麻雀ですね』
恒子『? 小鍛冶プロがまたわけのわからないことを言っています』
照「ぅ……ぐ……!」ギリ
照(支配は止めない……止められない。ここで止めれば、またしばらく私の支配が弱まってしまう。
咲の親番を残しているのに、そんなことできるわけない)
照(これくらいなんともない。どれだけ心を引き裂かれようと、想いが砕け散ろうと、それで
強くなれるなら……私は喜んで引き受ける)
照(さあ、もっと焦がせ……心を炙れ。――全て燃やして、嵐を生め)ギュルルルルル
照(勝つのは――私だ!)
南二局
照「……」バチィ!
恒子『チャンピオン、なんと三巡目で跳満手聴牌――! やはり支配は続行中のようです!』
恒子『しかも今はチャンピオンの親番! これで倍満なんか和了ってしまったら、24000点!
もう決まりです! そんなことになったら、もう決まりです! 決まり!! 白糸台の勝利です!』
竜華「……」カチャ
穏乃「……」カチャ
恒子『千里山も阿知賀も手が重い! 清澄も二向聴のまま動けません!』
照「……」カチャ
恒子『きた――!! 7飜聴牌! 打点が上昇していないのでこれは和了れないんでしょうが、
もう勝利は目前だ――!』
竜華「……」
竜華「……」タン
咲「――!」
咲「ぽ、ポン!」
照「――!」
恒子『おっと! ここで清澄がポン! 一向聴だ! それにしても千里山は順子を崩しましたね。
これは諦めたんでしょうか』
健夜『違います。―――託したんです。清澄に』
咲(千里山さん……)
竜華「……」
竜華(清澄。前半戦、あんたは自分の力だけでチャンピオンの支配を超えた。この支配の中でも、
3巡に一回くらいカンをして強引に手を進めることができてた)
竜華(多分、私にも阿知賀にもできん。チャンピオンに対抗できるのはあんただけや)
竜華(せやから、あんたがチャンピオンを倒し、清澄! うちらの想いを……皆の想いを、あんたに託す!)
咲「……」ギュッ!
照「……」ドッ!
恒子『チャンピオン、ついに10飜聴牌――!! おそらく次でチャンピオンは和了り牌を
ツモります! これが止めの一撃となるか――!』
照「――リーチ」
竜華・穏乃「!?」
恒子『チャンピオンリーチ!! これで11飜――三倍満確定だ――! 親の三倍満は36000点です!
チャンピオン大暴れだ――! 一切の容赦なし!!』
咲「――カン!」
照「――!」ピクッ
恒子『清澄カン――! これで聴牌だ――!』
咲「もいっこ、カン!」
恒子『連続カン――!』
照(無駄だ……!)
照(――跪け!)ゴォォッ!
咲「くっ……!」ギギギ
咲「……」ギギ、ギ……
――ピシッ
照「――!」
咲「……」カチャ
恒子『あー! 嶺上開花ならず! 清澄の最後の抵抗も虚しく、やはりチャンピオンの支配は超えられないのか――!』
健夜『……今……』
照(――私の支配に罅が……?)
咲「……」トン
竜華「――! ち、チー!」
照「な……」ピク
恒子『おっと、千里山チー! しかし千里山はまだ三向聴。一度鳴いた程度では聴牌には程遠いぞ――!?』
健夜『……違う。今、千里山は〝清澄のツモ切りを鳴いた〟。つまり……』
竜華(清澄……引いたんか!? チャンピオンの支配が効いてるこの支配の中で、私の鳴ける牌を……!)
照「……」
照(ツモ巡が変わったくらいで、私の支配は超えられない)
照「……」バチィ
恒子『さあチャンピオンのツモです! 出るか、親の三倍満――!』
照「……」カチャ
照「―-――な」
恒子『――あ』
健夜『……』
竜華「……」
咲「……」
恒子『こ、これは……チャンピオンの和了り牌じゃない。いえ、むしろ……』
恒子『――清澄への当たり牌です!! チャンピオン、清澄の当たり牌を引いてしまった――!』
照「……そ、そんなはず」
照「ぐっ――!」ズキン!
照「ぁ――ぐぅ……!」ズキンズキン
照(力を使いすぎた……? 知らない内に……私の支配が弱まっていた?)
照「くっ……」タン
咲「――ロン! 16000!」
恒子『清澄、ここでチャンピオンから直取り――! まだ希望は残されているか――!?』
恒子『チャンピオンの連荘を阻止。二位の清澄とチャンピオンの点差はおよそ63000点!
清澄、親番に全てを託します!』
南三局
穏乃「……」カチャ
恒子『親の阿知賀。チャンピオンとの点差は三校の中で最も開いています。この親番をものに
できなければ、チャンピオンから役満を直撃しても逆転できません』
穏乃「……っ」カチャ
恒子『しかし、やはりチャンピオンの支配は健在なのか。配牌時から一つも手が進まず三向聴。
対するチャンピオンは既に聴牌です!』
穏乃(動けない……身動き一つできない……)ギギギ
穏乃(このまま何もできずに負けるの……? さっきの千里山の人みたいに……)グッ
咲「――カン!」
穏乃「――!」
恒子『清澄高校、またしてもカン! 手を一つ進めます!』
穏乃(暗槓……清澄、やっぱりこのチャンピオンの支配の中でも動けるんだ)
穏乃(なら……やっぱり、チャンピオンに勝てるのは清澄しかいない)
穏乃(ここで私が自分の和了りを目指しても、さっきの千里山の二の舞だ)
穏乃(……………………なら)
穏乃「……」タン
咲「ッ! チー!」
恒子『清澄チー! 阿知賀女子、向聴数を下げました。これはまさか、阿知賀も勝利を放棄
したということか――!?』
竜華(阿知賀……)
穏乃「……」
竜華(わかってる。ここで自分の勝ちを諦めて清澄を援護するっていうのは、同じチームの
皆にしてみれば申し訳ないことなんかもしらん。でも……)
穏乃(それでも――私はこの道を選ぶ。皆の想いを、清澄に託す!)
竜華・穏乃(――行け、清澄!)
照(調子に――乗るな!)ゴォォォォッ!
健夜『っ……このプレッシャー……すごい……』
咲「く……」ギギギ……
竜華(まだや……まだいけるやろ清澄!)
竜華「……」タン
咲「ポン!」
照「くっ……!」
恒子『清澄聴牌! チャンピオンに追いついた――!』
照「ぐっ――! うっ……」ズキン
照(あ、頭が……割れる……!)ギリィ
照(胸が締め付けられるみたいに痛い……苦しい……)ハァ……ハァ……
照(でも……止める! 咲を止めてやる……!)
――ギギ、ギィ……
咲「……」ギギギ……ギ、
――パキンッ
照「な――!」
咲「――ツモ! 3000,6000」
恒子『清澄高校、連続和了だ――!』
健夜『チャンピオンの支配を打ち破った……!』
竜華(清澄……!)
穏乃(すごい……!)
淡「咲ちゃん……!」
菫「馬鹿なッ!」
照「……そんな……」
照(止められないの……? ここまで支配を強めても)ズキンズキン
照(咲の力が、私の支配を上回った……?)
恒子『勝負はとうとうオーラス! インターハイの優勝校を決する、最後の一局に突入です!』
白糸台:156500
千里山:76500
清澄:109200
阿知賀:57800
南四局
照(最後の一局……咲の親番……!)ゴッ
照(加減はなしだ。全力で牌をかしずかせる!)ゴォォォォオ!
竜華(――ぐっ!)ギギ
穏乃(こ、これ……!)ギギギィ
恒子『す、すごい――! 千里山と阿知賀、もはや字牌しかツモれてません! チャンピオン、
ここでついに全力全開か――!!』
健夜『これほどの力を何局も連続して使い続けるなんて……』
健夜(こんなことしたら、彼女の心は……)
照「ぐっ――!」ズキィ!
照(い、痛い……! 視界が滲んで前が見えない……)ガクッ
咲「……」カチャ
恒子『だめだ――! 清澄も配牌時の手から動けません!』
竜華(だめなんか、清澄……)
穏乃(清澄……!)
咲「……っ」ギリ
咲(だめだ……もう私の力だけじゃ、お姉ちゃんを超えられない――!)
照(これが私の全力だ。和了れるものなら和了ってみろ、咲)
照「……」バチィ!
123①②④⑨⑨六七南南北 南
恒子『チャンピオン一向聴――! ドラの⑨筒を頭にして、南ドラ2です! ですがもはや点数は
問題ではありません。この手を和了った時点で、白糸台の優勝が決定します――!』
照(これで終わりだ咲。あと二巡……それで決める!)
咲「……」カチャ
咲(私だけじゃ、お姉ちゃんには勝てない……)
咲(だから皆、今だけ……私に力を貸して!)
咲「――カン!」
恒子『清澄カン――! ツモった四枚目の白で暗槓です! 新ドラは五萬。さあ嶺上牌は――!?』
346③西西東発発中 中 白白白白
恒子『――――お? ……え、これ……?』
健夜『……!』
竜華(白のカン……? ――!? まさか!)
竜華(清澄……これか!?)タン 発
清澄「ポン!」
竜華・穏乃・照「――!!」バッ
照(白と発……まさか)ゾクッ
穏乃(大三元……!?)
照「……」カチャ
123①②④⑨⑨六七南南南 ③
恒子『チャンピオン聴牌――! おそらく次でチャンピオンはツモります! この一巡で
清澄が和了らなければ、その時点でチャンピオンの勝利と考えていいでしょう!』
穏乃「……」カチャ
穏乃(清澄……)
穏乃「……」タン 中
照・竜華「――!」
竜華(まさか――)
咲「――ポン!」
穏乃・竜華・照「――!!!」ゾクッ
恒子『こ、これは――!!!』
34西西 中中中 発発発 白白白白
恒子『だ、大三元確定だ――!! え、ちょ、ちょっと待ってください、今清澄と白糸台の
点差は――』
白糸台:156500
清澄:109200
恒子『あ――――!』
健夜『――47300点差。清澄が親で役満を和了れば、48000点』
恒子『え、と、ということは……』
健夜『……逆転です。ツモ和了りなら最後に中を鳴かせた阿知賀の責任払いになりますが、もう
関係ありません。清澄があの手を和了った時点で……』
恒子『――清澄高校、逆転優勝――!!??』
菫「照――!」
淡「テルが……負ける?」
淡(咲ちゃん……あなた……!)ゾクッ
照「…………」
照(咲……やっぱり、お前なのか)
照(最後に私に立ちはだかるのは、お前なのか……!)ギリ
咲「……」
恒子『こ、これはとんでもないことになりました――! 三校が互いに役牌を一つずつ持ち寄り
築き上げた、これはまさに友情大三元――!
今、全ての想いを乗せた清澄の大三元が、この三年間誰も超えられなかった最強の頂、宮永照に
挑みます! 宮永咲選手と宮永照選手の最後の一騎打ちだ――!!』
竜華「……」カチャ
竜華(あかん、誰も鳴かせられそうにない。チャンピオンにツモらせてまう……!)
竜華「……」タン
恒子『しかしここでチャンピオンのツモ番です! ここで勝負を決めることができるかチャンピオン!』
照(これで終わりだ)
咲「っ……」ギュッ
照(――跪k――ッ!)ズキン
照「ぐっ……!」ガタッ
照「……」カチャ
照「――――!!」ビクッ
恒子『――あーーっと!!! チャンピオン、和了り牌をツモれなかった!!』
照(くっ……!)ギリ
健夜『場を支配するほどに、彼女は自分の身を削っていく』
健夜『やはりもう彼女の支配はとっくに限界を超えていたんですね……無理もありません』
健夜『あの一瞬、チャンピオンの支配が弱まってしまった』
咲(よし……!)
照(まずい……!)
恒子『今度は一転して清澄のツモ番――! ツモれるか、逆転大三元――!!』
穏乃「……」カチャ
照(こんな……この程度で、私の支配が……)
照(――負けるわけない!)
ドゴォォォォ!!
咲「――!」ビクッ
健夜『な――支配が蘇った……! し、信じられない……なんて精神力なの』ゾクッ
照「がっ……あ、ぁぁあ……!」ズギンズギン!
照(勝つんだ……咲に勝つんだ……!)ズギンズギン
咲「……」カチャ
咲「!」
恒子『ああーー! 清澄も不要牌――!! 今度はチャンピオンのツモ番だ――!』
咲(お姉ちゃん……!)
竜華(チャンピオン……あんた……)
菫「ツモれ、照!」
淡「いっけええテルうう!!」
照「さ……きぃ……!」ズギンズギン
――ガッ
――ギュルルルルルルル!!!
咲・竜華・穏乃「!!」ビクッ
照(これで――)
照(――終わりだ!!)ゴッ
ドゴォォオ!!
咲「」
竜華「」
穏乃「」
菫「」
淡「」
健夜『』
恒子『……』
恒子『……ちゃ、チャンピオン……』
123①②③⑨⑨六七南南南 赤五
恒子『――――つ』
恒子『ツモ――!! チャンピオン、和了り牌をツモりました――!!!!』
恒子『清澄との一騎打ちを制したのはチャンピオンです!! 今この瞬間、白糸台高校の優勝、
そして史上初の三連覇が達成されました――!!』
竜華「……」フゥ
穏乃「……」パタン
淡「……勝った。テルが勝った!」
尭深・誠子「や、やった!!」
菫「照……」
菫「お前……やっぱり凄いよ、照……」
照「……………………」
恒子『チャンピオン、勝利の余韻に震えているのか、微動だにしません! 無理もないでしょう。
この歴史的な勝利に酔いしれているのかもしれません!』
健夜『……』
恒子『? どうかしましたか、小鍛冶プロ』
健夜『チャンピオン……しませんね』
恒子『え? 何を?』
健夜『……和了り宣言。手牌も見せません』
恒子『え? いや、でも……』
123①②③⑨⑨六七南南南 赤五
恒子『え、和了ってますよね、これ?』
健夜『はい。問題なく和了れます。南ドラ4ツモですね』
恒子『じゃあ……和了りでしょう。和了れば勝ちなんですから』
健夜『……でも、してない』
恒子『それはあれじゃないですか? やっぱり、喜びに胸を打ち震わせて……』
健夜『それにしても長すぎませんか?』
恒子『まあ……』
菫「照……?」
誠子「どうしたんでしょうね、和了り宣言しませんけど」
菫「なんだ、どうしたんだ照……」
淡「…………プラマイゼロだ」
菫「なに?」
淡「あの手、和了れば3000,6000。この試合、清澄の開始時の点数は97900点。
今は109200点。ここで咲ちゃんがマイナス6000点になったら……」
淡「103200点。試合開始時から考えたら、プラス5300点」
淡「――プラマイゼロ」
菫「いや……しかし……」
菫「も、もういいだろそれは。関係ないだろ! 清澄だって狙ってやったわけじゃない! 偶然だ!
あの照を相手に、あれだけ追い詰められて点数調整なんてできるわけがない!」
淡「……偶然だと思う?」
淡「じゃあ……なんで咲ちゃんは白を暗槓したの? もう白の暗刻はもってたのに」
菫「それは……手を進めたり、千里山と阿知賀に大三元の気配を知らせるために」
淡「あのカンがなければ、新ドラの五萬が開かれることはなかった。それがなければ
テルの手はツモ南ドラ2で満貫。プラマイゼロにはならない」
淡「でも五萬がドラになって、かつ照に赤五萬が入ったからこそ、プラマイゼロになったんだよ。
……偶然?」
菫「偶然だ! だいたい、それが故意だったからなんだっていうんだ! 照の勝ちに変わりはない。
誰だって和了るに決まってるだろ! 清澄は逆転手の大三元を聴牌なんだぞ!」
淡「…………私なら、和了らないかも」
菫「おい!」
淡「テルは……テルは今何を考えてるんだろう」
照「…………」プルプル
照(プラマイゼロ……だと?)ギリ
照(……偶然じゃない。偶然のはずがない。これは……このプラマイゼロの感覚は……昔、
家族麻雀で感じた、あの気配だ)
照(咲……なんなんだ。なんなんだ、お前は)プルプル
照(お前は、私に勝とうとしてたんじゃなかったの? 私に勝ちたかったんじゃないの?)
照(だからこそ千里山も、阿知賀も、お前の勝利に全てを託したんじゃないのか。お前だけが私に
勝てるから、彼女たちは自分や、チームの想いを……お前に託したんじゃないのか)
照(お前のチームには今年卒業の三年生はいないのか? この大会に全てを賭け、優勝を目指して
お前を大将に据えたんじゃないのか。お前と一緒に麻雀を打ってきた仲間は……お前を応援
してくれた人たちは、お前が勝つことを夢見て……信じて、お前の対局を見守ってくれてたんじゃないのか)
照(なのに……なのにお前はプラマイゼロを目指すのか? 彼女たちの想いを、願いを、全て
踏みにじって……侮辱して! それでもお前はプラマイゼロを続けるっていうのか……!)
照(最低だ……お前は最低だ、咲。私は絶対にお前を認めない……お前にだけは、絶対負けない!!)
照「……」カチャ
恒子・健夜『え……?』
竜華「は?」
穏乃「え?」
咲「……」
恒子『ちゃ、チャンピオン、ツモった赤五萬を手に取り……え、ま、まさか……』
照「……」カッ
恒子『あー! チャンピオン、ま、まさかツモ切――え、な、なんで!!』
尭深「……!」
誠子「うそ――!?」
菫「おい、よせ照!!」
淡「テル――!」
照(――切ってやる。こんなツモ、捨ててやる)
照(ドラさえ乗らなければ跳満にはならない。手を変えて、もう一度ツモり直してやる――!)
照(咲をプラマイゼロになんてさせない……そんなことになるくらいなら、負けたほうがマシだ――!)
照(私は、私は咲に勝つためだけに今まで麻雀を打ってきたんだ――!!)
――頑張ってください、宮永先輩!
照「――――え」
そのとき、五萬を卓に叩きつけるまでの刹那の間に、聞いたことのある声が私の脳裏に蘇った。
それは白糸台の三軍の子の声だった。二年生であまり強くなくて、いつも負けてばかりで悔しそうにしていた。
でもその子は麻雀が大好きで、私のことを尊敬してくれていた。きっと今も会場のモニターで、
私のことを応援してくれているはずだ。
――宮永さん、絶対勝って下さい!
――先輩ならきっと勝てます!
――宮永さん、頑張ってね!
彼女だけじゃない。今まで白糸台で一緒に麻雀を打ってきた多くの子たちの声が、次々に蘇ってきた。
みんなこの大会に出たくて、白糸台の一軍になりたくて、でもなれなかった子たちだった。
みんなが私のことを元気づけて送り出してくれた。私が勝つことを信じてくれた。今も声を枯らして
私を応援してくれている。
照(――止めるんだ、咲の……プラマイゼロを……)
――宮永さん、インターハイ頑張ってね!
――史上初の三連覇なんだって? 私応援するからね!
――絶対勝ってね宮永さん、私も頑張るから!
麻雀部ではないただのクラスメイトの子や、教師や、今まで話したこともないような子たちまで
私を応援してくれた。皆、私が勝って白糸台に帰ることを待ってくれている人たちだ。
私は彼女たちの想いを、願いを背負ってここにきた。必ず勝って帰ると、みんなに約束した。
……その想いを裏切るのか。
……私に寄せられた期待を無為にして、せっかく掴み取った勝利を捨てるのか。
――そんなことをすれば……それは咲とまったく同じなんじゃないのか……。
照(私は……咲に、勝つため、に……)
――勝ったのは白糸台じゃなく、宮永照。……そんな声をな、たまに聞くんだ。
照(――――ぁ)
――お前がいたから勝っただけだ、ってな。悔しかった。私は、皆で優勝したんだって言い返してやりたかった。
照(――すみ、れ……)
――でも……私は何も反論できなかった。それくらい去年や一昨年は、お前の力が大きかった。
――なあ照。私、もっと強くなりたい。お前にただ優勝杯を取ってきてもらうだけなんて、
そんなのは嫌だ。
照(――――)
――それで、三連覇を成し遂げたときにはさ、お前の横に堂々と並んで、「私たち皆で優勝しました」
って、胸を張って言いたいんだ。
照(菫――)
――やろうな、照。
――三連覇、絶対やろうな、照!
タン
照「…………………………………………ツモ」
竜華・穏乃「――」
菫・淡「――」
咲「……」
照「……ツモ南ドラ4。……3000,6000」
恒子『――き』
恒子『――決まった――!!! チャンピオン、和了りを宣言!! この瞬間、全ての試合が
終了! 今年のインターハイ優勝校は、白糸台高校――!!』
白糸台:168500
千里山:73500
清澄:103200
阿知賀:54800
照「……」
恒子『圧倒的点差で他校を突き放し、白糸台高校が史上初の三連覇を成し遂げました――!』
恒子『中でもやはり、白糸台のエース宮永照の活躍が凄まじかったと言えるでしょう!
まさに最強! この勝利により、高校生最強が誰なのかは誰の目からも明らかでしょう!』
恒子『勝者は――宮永照――!!!』
――私は……負けた。
――咲に勝てなかった。
照「……」
……淡なら。
準決勝で咲からの差し込みを二度も連続で見逃した淡なら、きっとこの手は和了らなかった。
プラマイゼロの屈辱を受けることを良しとせず、手を崩し、点数を変えて和了りなおしたはずだ。
たとえ咲が逆転手を聴牌していたとしても、それでも自分は勝てると信じ、咲の大三元を
相手に一歩も退くことなく、果敢に立ち向かうことを選んだはずだ。
……私にはそれができなかった。私はあの瞬間、思ってしまった。
ここで手を崩せば、私は負けると。先に和了り牌をツモるのは咲の方だと。そしてきっと、私を
応援してくれた全ての人を裏切ってしまうと。
たったそれだけで、私は咲に立ち向かうことができなくなった。
最後の最後、私は自分の麻雀を信じることも、咲を超えたいと思うこともできず、ただ眼前の
勝利に飛びついた。……咲から逃げることしかできなかった。
だというのに、私はこの勝利に納得することも、咲のプラマイゼロを止めることも、咲との決着
をつけることもできず……ただ項垂れることしかできずにいる。
点数で勝ったからといって、それが必ずしも勝利を意味するわけじゃない。
……私は、負けた。
――咲に……勝てなかった……
恒子『前人未到の三連覇を成し遂げた宮永照! 彼女は今何を思うのか――!』
照「…………そ」プルプル
恒子『宮永照、震えています。喜びを噛みしめているのでしょうか!』
照「く…………そ」ポロ
照「く、そぉ……!」ポロポロ
竜華「……チャンピオン?」
穏乃「……?」
照「くそぉ……くそぉッ……!」ポロ
咲「お姉ちゃん……」
菫「……」
淡「……テル……」
歓声が鳴り響く会場の中に、私の悲鳴にも似た嗚咽が長く混じり続けていた――。
白糸台控室
菫「……照の勝ちだ」
誠子「え?」
菫「誰がなんと言おうと、照の勝ちだ。白糸台の優勝だ。たとえ照本人がそれを
受け入れられなくても、私たちだけはそれを認めてやろう。よくやったって褒めてやろう」
誠子「と、当然ですよ! 文句なしで宮永先輩の勝ちですよこんなの!」
淡「……」
淡(私なら、きっとあの手は和了らなかった。でも、テルは和了った。もし結果だけで見れば、
私は試合に負けて、テルは勝ったってことになる。……この差はなに?)
淡(私はテルを目指してここまできたのに……やっぱり、私たちの麻雀は違うの?)
淡「……私、テルを迎えに行ってくる」
菫「ん、ああ、そうだな。頼む」
淡(もし……私がテルだったら、あの試合……)
淡(――勝っていたのは、咲ちゃんだった……?)
廊下
照「……」ツカツカツカ
咲「待って、お姉ちゃん待って!」タッタッタ!
ガシッ!
咲「お姉ちゃん!」
照「……」
咲「私……私ね」
照「……満足した?」
咲「え?」
照「お望み通りプラマイゼロにできて、満足できた?」
咲「私は……」
照「咲が言ってた、私に伝えたいこと……よくわかったよ。私なんかがどれだけ強くなったって
意味ないって言いたいんでしょ? 私の方が強いんだって言いたいんでしょ?」
咲「そ、そんなこと!」
照「……もう二度と私の前に現れないで」バッ
咲「……お姉ちゃん……」
照「……」ツカツカツカ
咲「お姉ちゃん……私と……」
咲「――私と、もう一度麻雀を打って!」
照「……」ピタ
照「……何言ってるの?」
咲「下の階に、来場者なら誰でも麻雀が打てる雀荘があるの。そこで、私と麻雀を打って。
今度は二人きりで」
照「……ふざけないで。誰がそんなこと」
淡「打ってあげて、テル」
咲・照「!」バッ
照「淡……」
淡「もう一度、咲ちゃんと打ってあげて」
照「……どうして私が淡の言うことを聞かないと――」
淡「準決勝の、相手に一回だけ命令できる権利、あれまだ残ってたよね」
照「……っ」
淡「あれ使うよ。だから咲ちゃんともう一度だけ麻雀を打ってあげて。テルはその権利を使って
大将になったんだから、まさか嫌とは言わないよね?」
照「……どうして、そこまで」
淡「……咲ちゃんの伝えたいことが、まだテルに伝わってないからだよ」
咲「淡ちゃん……」
照「…………」
照「……四局だけだ」ツカツカツカ
咲「あ、待ってお姉ちゃ――!」
淡「――咲ちゃん」
咲「え?」ピタ
淡「…………」
淡「テルを……テルを解放してあげて」
咲「……」
咲「――うん」コクン
タッタッタ……
淡「……」
雀荘
照「……ここでいいの?」
咲「うん」スチャ
二人麻雀。私も咲も初めての麻雀だったので、事前にルールを決めることになった。
東家、南家の二つのみの半荘戦。つまり全四局の短期戦ということになった。チーなし。
性質上、ツモもロンも支払う点数に変わりはない。あとは大会ルール準拠。
ジャラジャラジャラ ガシャン
咲「私が起家だね」
照「……」カチャ
照(私は何をやってるんだろう。白糸台の控室に戻ることもせずに、こんなところで咲と
二人麻雀なんか打って)
照(菫、私のこと探してるかな。……ああ、淡が事情を説明してくれてるかな)
咲「……」カチャ
咲「……お姉ちゃん」
照「なに」
咲「――私、この勝負、勝ちにいくから」ゴッ
照「……さっきは勝ちにいってなかったって言いたいんでしょ?」
咲「……」タン
照「……」カチャ
照「……」タン
咲「ロン。3900」
照「……」チャラ
咲「……お姉ちゃん」
咲(……まるで本気を出してない。何の力も使ってない……)
咲「……」
照「何? 本気で打ってとでも言いたそうな顔だけど」
咲「……」
照「勘違いしないでね。咲が本気で打たなかったからって、その当てつけをしてるわけじゃない」
照「……もう、疲れたんだ。さっきの試合で力を使いすぎた。……麻雀を憎み過ぎた。
もう牌を触っているだけで、心が軋むように痛む」
照「あれだけ長く力を使ったんだ。その反動も大きい。私の支配もさっきよりずっと弱まってる。
――好きなだけ和了りなよ、咲。終わったら帰るから」
咲「……お姉ちゃん」
照「……当てつけてるわけじゃないって言ったけど、咲がやってる麻雀はこういうことだよ。
真面目に勝敗を競おうとしてる人を侮辱する行為なんだ」
咲「私は……」
照「私はお前の麻雀を認めない。お前のことも嫌いだ。二度と会いたくない」
咲「……」ギュッ
照「だから私はお前に勝ちたかった。お前にだけは負けたくなかった。そのために私は麻雀を打ってきたんだって
思えるほどに、私はお前に勝ちたかった……なのに、結局負けた。今度こそ……もう麻雀を打つ理由すらなくなっちゃった」
咲「……麻雀をやめるの?」
照「さあね。言ったでしょ。もう、疲れたんだ」
咲「……」
咲「……」カチャ
照「……」カチャ
咲「……」カチャ
咲「――ツモ。4800」
照「……」チャラ
咲「……私ね。お姉ちゃんが家を出てってから、清澄に入るまでずっと麻雀を打たなかったんだ」
照「いいから、早く続きを打とう。私はお前と話すためにここにいるわけじゃない」
咲「……」ポチ ジャラジャラジャラ
咲「……あれから私、ずっと自分の麻雀が嫌いで、麻雀そのものが嫌いで……」カチャ
咲「でも、清澄の皆と出会って、麻雀の楽しさを思い出したの」
照「お前はそんなチームメイトの夢を台無しにしたんだ。あのプラマイゼロのせいでね」カチャ
咲「……あの試合、私は勝つつもりだった」
照「……なに言ってるの? プラマイゼロに調整したくせに」タン
咲「ロン。8000」
照「っ……」
咲「お姉ちゃん、私言ったよね? この勝負、勝ちにいくって」
咲「私は本気だよ。いくらお姉ちゃんでも、本気を出さなかったらすぐトばしちゃうんだから」ゴォッ
照「……」
咲「屋上でお姉ちゃんと話した直後は、私もプラマイゼロにしようって思ってた。そうすれば、
私の伝えたいことがもしかしたらお姉ちゃんに伝わるかもしれないって思ったから」ジャラジャラジャラ
咲「……でも対局中に、清澄の皆のことを思い出したんだ。皆が私を応援してくれたこと……長野
で闘った皆も全国に行きたくて、私はその人たちを倒してここにいるんだってことを思い出したの」カチャ
咲「だから、プラマイゼロなんかしちゃいけないって……なんとしても勝たなきゃいけないって思ったの」タン
照「だったら――」ギリ
照「――だったら、どうしてプラマイゼロなんかやったんだ!!」ゴォッ!
咲「……!」
照「私はお前に勝ちたかった! 本気のお前にだ! 本気のお前と戦えたら……たとえ
負けたとしても、それで納得できたかもしれないんだ」タン
照「なのにお前は……」バチィ
照「――ツモ! 1300!」
咲「……」
照「だいたい、プラマイゼロで何を伝えたかったの? 全然理解できない」ジャラジャラジャラ
咲「……お姉ちゃんに思い出してほしかったの」
照「何を?」カチャ
咲「お姉ちゃんが、本当は麻雀が大好きなんだってことを」
照「……私は、麻雀なんか好きじゃない」
咲「じゃあ、どうして今まで麻雀を続けてきたの?」カチャ
照「……皆して、同じことばかり訊いてくる。もううんざりだ」カチャ
照「お前に勝つためだよ。私も今日まで分からなかったけど、きっとそうなんだってお前と打って気付いた」タン
咲「……違うよ」カチャ
照「……?」
咲「お姉ちゃんが麻雀を打つ理由は、そんなことじゃない」
照「お前に私のなにが分かるって言うの?」カチャ
照「――ツモ。3900」
咲「……たまにお姉ちゃんの記事を雑誌とかで見るたびに、私はいつも悲しかった。
ああ、お姉ちゃんは今もずっと麻雀を憎みながら闘い続けてるんだなって思うと……」
咲「でも、仕方ないのかなって。私がプラマイゼロでしか自分の麻雀を表現できないように……
私自身、プラマイゼロのせいで麻雀を楽しめないように、お姉ちゃんもそうなのかなって」カチャ
咲「でも……原村さんと出会って、初めてプラマイゼロ以外で対局を終わらせて、私すごく
うれしかった。すごく楽しかったの。私でも麻雀を楽しめるんだって。好きになれるんだって気づけて、嬉しかった」タン
照「……それで?」カチャ
咲「だからきっと、お姉ちゃんも麻雀を楽しめるって思ったの。私の麻雀が変われたように、
お姉ちゃんの麻雀もきっと変われるって思ったの」タ
照「……ロン。5800」パラララ
咲「だから私、お姉ちゃんに伝えたかったの。私は、私自身の麻雀を好きになることが
できたよって。お姉ちゃんもきっと自分の麻雀を好きになれるよって」
照「余計なお世話」ジャラジャラジャラ
照「私はお前みたいに牌に愛されてない。牌を憎むことでしか強くなれないんだ。お前みたいに
簡単に自分の麻雀を曲げられない」カチャ
照「それに、私はもう麻雀そのものが嫌いなの。お前とは違う」タン
咲「そんなことないよ。お姉ちゃんは今でも麻雀が好きなはずだよ」カチャ
照「うるさい! 勝手に決めるな!」カチャ
咲「……ツモ。7700」パララ
照「……」チャラ
照「……見ろ。少しでも支配が弱いと、お前は簡単に和了ってしまう。私は……お前や淡とは違う」
照「お前の言う通り、私も昔は麻雀が好きだった。負けたって楽しかった。お前にプラマイゼロに
されても、それでも楽しかった。……お前がプラマイゼロで私に思い出してほしかったのは
そのことでしょ? 私が一番麻雀を好きだった時期のことを……思い出してほしかったんでしょ?」
咲「……」コクン
照「でも、違うんだ。もうなにもかも変わってしまったんだ」カチャ
咲「……」カチャ
照「私は強くなりたかった。大好きだった麻雀をどれだけ憎んでも、強くならなきゃいけないって
思ってた。……なのに結局咲に負けちゃって、ほんと、どうしようもないよ」カチャ
咲「……お姉ちゃんの勝ちだよ」
照「え?」
咲「私はさっきの試合、ちゃんと勝とうとしてたんだよ。嘘じゃない。だから、お姉ちゃんの勝ち
なんだよ」
照「……ならどうして白をカンしたの? あれは私にドラを乗せてプラマイゼロにするためでしょ?」
咲「……うん」
照「……ほらやっぱり」カチャ
咲「でもそれは、勝つためにだよ」
照「意味がわからない」
咲「あそこでプラマイゼロにすれば、きっとお姉ちゃんはあの手を和了らないと思ったんだ」
照「……ッ」
咲「それがあのときお姉ちゃんに勝つただ一つの方法だった。お姉ちゃんは私のプラマイゼロを
防ぐためにきっと手を変えてくる。そのときに私が和了るチャンスが生まれるって思ったの」
咲「でもお姉ちゃんはあの手を和了った。……私の誤算だった。もしお姉ちゃんが昔のままなら。
もし家族で麻雀を打ってたときのままのお姉ちゃんだったら、きっとあの手は和了らなかった。
〝和了れなかった〟。もしそうなっていたら、きっと私が勝ってたはず」
咲「でもお姉ちゃんは白糸台で、私との決着なんかよりもずっと大切なものを手に入れてたんだね。
それがあったからこそ、お姉ちゃんはあの手を和了れたんだよ。私に和了らされたんじゃない。
お姉ちゃんは自分の力で、あの和了りを勝ちとったんだよ」
照「……プラマイゼロは目的じゃなくて、手段だったって言うの?」
咲「……」コクン
照「そんな話……」
咲「お姉ちゃん、私の力を感じて。今、私が手加減してるように見える?」ゴォォ!
照「……」
照(この気配は……確かに大将戦で咲が見せていた力と同じ)
照(でも、いま咲はプラマイゼロなんか目指してない。そもそも、二人麻雀にプラマイゼロなんかない。
つまりいま咲は確かに私に勝とうとしてる)
照(ならあの大将戦も……咲は本気だった……? プラマイゼロは目的だったんじゃなく、
勝利のための手段だった……?)
照(私は……咲に勝っていたの?)
照「……」
――ギ
――ギギィ……
咲「……!」
咲(このプレッシャーは……!)ゾクッ
照「……」バチィ
照(――30符1飜、聴牌)
照「なら……私はここでお前を倒す。開始時の点差も、他家の援護も、プラマイゼロもないこの二人麻雀で、今度こそ」
咲「……うん。打とう、お姉ちゃん。あの頃みたいに」
照「……」カチャ
照(これで30符2飜)タン
咲「……」ギギ、ギ
咲「――カン!」ゴッ
照「……」カチャ
照(――40符4飜)タン
咲「……」カチャ
照(――5飜)
咲「くっ……」ギギギ
照「――ツモ。12000」
咲「……」チャラ
咲:26400
照:23600
照「これでオーラスだ、咲。私の最後の親。和了った方の勝ちだ」
咲「うん」
照「……」カチャ
咲「……」カチャ
照(私の全力の麻雀だ。支配力ももう戻った。この状態なら咲は私に勝てない。それは大将戦で証明済みだ)
咲「……」カチャ
照「……ねえ咲。一つだけ教えて」
咲「なに?」
照「咲は……清澄に入って初めて、麻雀を好きになったの?」
咲「……ううん、違う」
咲「私は家族麻雀の頃から麻雀が好きだった。でもあの頃は何をしても怒られたから、私は
麻雀が嫌いなんだって思いこもうとしてたの」
照「……」カチャ
咲「でも、清澄に入って、私はやっぱり麻雀が好きなんだなって思い出したの。勝つことが楽しいって……
ううん、負けたって、ただ牌を触っているだけで楽しいって、思い出したの」
照「……うん、そうなのかもしれないね」
照(私もきっとそうだ。昔は麻雀が好きで好きで仕方なかった。でも私は麻雀を憎むことでしか
強くなれないから……だから、私は麻雀が嫌いなんだって思いこもうとしたんだ)
咲「……」ゴッ
111234四五六七九北北
照(咲……張ったか。でも、私も聴牌)
778899⑦⑦⑧⑧⑨⑨西
照(これであとはただのめくり合い。先に引いた方の勝ちだ)
咲「あの頃みたいだね、お姉ちゃん。こうしてお姉ちゃんと打つの」
照「……そうだね。本当に、あの頃みたいだ」
あの頃、私は麻雀が大好きだった。
咲と麻雀を打つのが大好きだった。楽しくて仕方なかった。
ひんやりとした牌の感触。牌がカチャリとなる音。聴牌時の高揚感……全部大切な……大切な宝物だった。
咲と打つと、そのときの感覚を思い出してしまう。私が麻雀を大好きだった頃の感覚を。
でもそれを思い出してしまうと、私の麻雀は崩壊してしまう。麻雀を憎めなくなってしまう。
だから私は、無理矢理に麻雀を憎もうとしたんだ。
――〝麻雀を憎むと心が痛む〟……その理由が、本当に分からないの?――
照(……ああ。今なら分かるよ、淡)
いや、きっと私はもうとっくに分かっていた。気付かないふりをしていたんだ。
だからこそ、あんなにも心が痛んだ。胸が張り裂けそうになった。涙が零れそうになったんだ。
照「……」カチャ
――私のツモ牌。その牌を手にとったとき、私は全てを理解した。
――私は、負けたんだと。
照「…………」
778899⑦⑦⑧⑧⑨⑨西 1索
照「……」
1索。それは誰の和了り牌でもない。……でも、事実上の当たり牌だった。
この1索は咲のカン材。これを切れば、咲はカンして嶺上開花で和了るだろう。
だがこの牌を手牌に入れたまま和了るなんて不可能だ。間違いなく、咲の方が早く和了る。
照「……」
私の支配が完全に行き渡っている状態なら、こんな牌を引くはずがない。私が完全に牌を
跪かせていたら、間違いなくこの巡で、私は私の和了り牌をツモれたはずだ。
つまり今……私の支配は消えてしまったということ。その理由は一つしかない。
――私はあの瞬間、麻雀を憎むことができなかった。
咲と麻雀を打って、気付いてしまった。思い出してしまった。
私はやっぱり、心の底から麻雀を憎むことなんてできないんだと。
……『なぜ麻雀を打つのか』
私がずっと分からなかった答え。ずっと知りたかった答え。それは実はとても簡単で……とても
当たり前のことで。
――私はやっぱり、麻雀が大好きだったんだ。
どれだけ心が痛んでも、それでも私は麻雀が好きだから。やめたくなかったから。
……突き詰めれば、ただそれだけのことだった。
でもそれに気付いてしまったから、私は麻雀を憎むことができなくなった。だから私の支配は
消えてしまった。だから……この牌が来た。この1索が、何よりの証明だった。
照「……お前の勝ちだ、咲」
タン、と1索を河に捨て、私は自らの敗北を受け入れた。
咲「……お姉ちゃん、覚えてる?」
照「……なにを?」
咲「嶺上開花は、お姉ちゃんが教えてくれた役なんだよ」
照「……そう、だったね」
咲「森林限界を超えた山の上にも花が咲く。――でも、どんなに強い種も、一人きりじゃ咲けない。
みんながいたから、私はもう一度麻雀を楽しむことができた」
咲「それに、お姉ちゃんがいたから。お姉ちゃんに会いたいから、私はここまで来ることができた。
その中でたくさんのものをもらった。いろんなことに気づけた。――もっと麻雀が好きになれた。
お姉ちゃんの光が、私をここまで導いてくれたんだ」
照「私の……光」
照「…………」フッ
照「陽に照らされて花は咲く……か」
咲「――カン」
私の1索を鳴き、咲は嶺上牌に手を伸ばす。
全ての支配から解き放たれた、限りなく自由な場所で、咲は大きく花開いた。
咲「……ツモ。嶺上開花」
照「……」
照「ああ……」
照「――やっぱり、咲は強いなぁ」
知らない内に、私の頬を一筋の涙が流れていった。
――その涙はいつか感じたものとは違う、温かな温度だった
咲「……お姉ちゃん」
照「……行って、咲」
照「お前の言いたいことは……もう、全部伝わったから」
咲「……うん」
咲「……お姉ちゃん」
咲「いつかまた、一緒に麻雀を打とう。皆と一緒に」
照「……」
照「――うん」
咲「……」パァ
スタスタスタ……
照「……あーあ……」
照「負けちゃった」
廊下
咲「……」スタスタスタ
咲「……あ」ピタ
淡「……」
咲「淡ちゃん。待ってたの?」
淡「うん……」
淡「……」
淡「……テルに、勝ったの?」
咲「……うん」
淡「そう……そっかぁ……」
淡「テルを最初に倒すのは私だと思ってたんだけどなー」
淡「テルに勝った責任、重いんだからね?」
咲「うん。私はもうプラマイゼロをしない。勝つことから逃げたりしない。それが、お姉ちゃんに勝った
私の責任だと思うから」
淡「分かってればいいんだ。……じゃあ、またね」
咲「うん。――ありがとう、淡ちゃん」
淡「……」ヒラヒラ
照「……」
淡「テル」
照「……淡」
淡「負けたんだって?」
照「……ああ、負けたよ。私は麻雀を憎み切れなかった」
淡「……そう」
照「でも、思い出した。私が麻雀を好きなんだってこと」
淡「そっか」
照「うん」
照「――だから、私の麻雀は……もう終わりだ」
淡「……」
照「憎しみの強さが私の強さ。でも、私はもう麻雀を憎めない。きっと、憎もうとしても憎みきれない。
だから、もう私は強くなれない。以前の私と同じ、平凡で、なんの力もない、牌に嫌われた
ヘボ雀士に戻っちゃった」
淡「テル……」
照「……ごめんね、淡。私はもう、お前の隣を歩けない」
そう……それだけが心残りだった。この子は私が自分よりも弱くなってしまうことを……
宇宙の闇の中で孤独になることを何よりも恐れていた。それこそ、悪夢として夢にみるほどに。
淡「……私はテルにずっと強くいてほしかった。ずっと私の目標でいてほしかった」
淡「咲ちゃんがテルに麻雀の楽しさを思い出させようとしてるのは分かってた。でもそれは
テルが弱くなっちゃうことだって分かってたから、私は……咲ちゃんが失敗しても構わないって思ってたの」
淡「でも大将戦で……テルのあんな顔見ちゃったら、もうだめだった。テルが弱くなることよりも、
テルがあんなに悲しそうに麻雀を打つことのほうがずっと耐えられなかった」
淡「だから……これでよかったんだよ」
照「……ごめん、淡。お前のことをまた独りにしてしまう」
淡「――独りじゃないよ」
照「え?」
淡「言ったでしょ、テル。私はずっとあなたの傍にいるって。何があってもそれは変わらないって。
私は忘れない。テルの強さを。テルが私の憧れだったことを。いつかテルがまた私に追いついて
きてくれるまで、ずっと待ってる」
淡「今までずっとテルに引っ張ってきてもらってたんだもん。今度は私の星の引力が、テルを導く番だよ」
淡「それに、私にはもうライバルがいる。テルと同じくらい強くて、私の隣にいてくれる、私のライバルが」
照「淡……」
淡「だからテル、頑張りなよ。私たちに追いつけるように」
照「……無理だよ。私は牌から嫌われてる。淡たちみたいには、もう強くなれない」
淡「――本当に?」
照「え?」
淡「本当に、牌はテルのことを嫌ってるの?」
照「……そうだよ。ずっと昔からそうだったんだ。どんなに私が麻雀を好きでも、麻雀は
私のことを好きになってくれない」
淡「でも、それでもテルは麻雀を打ち続けたんでしょ? どんなに麻雀を嫌っても、また
好きになったんでしょ? その想いが、いつか牌たちにも届くかもしれない」
照「そんなこと……」
淡「どんなに暗い闇の中でも、自分を導いてくれる人はいる。自分を大切に思ってくれる人はいる。
それを教えてくれたのはテルなんだよ」
淡はそう言って、指を山に這わせた。
そうして、もし咲との試合が続いていれば私が次にツモるはずだった牌を、クルリと回した。
照「―-――ぁ」
――それは西だった。私の和了り牌。もしあと一巡長く試合が続いていれば……勝っていたのは私だった。
もし私の支配が消えていたのなら、全ての牌は咲の味方をする。
こんな牌が私のツモる場所にあるなんて有り得ないことだった。
照「……あ……ぁ」ポロ
なのに、そこにあった。全ての牌が咲に味方する中で、一人ポツンと、私を待ってくれていた。
私を勝たせようとしてくれた牌が。私を愛してくれた牌が……そこにあった。
照「……淡……私は……」ポロポロ
照「わたしも……愛してもらえるのかな……いつか、お前や咲みたいに……牌に……」
淡「うん。きっとそうだよ」ギュッ
淡「もうテルは麻雀を憎まなくていい。心から麻雀を楽しんでいいんだよ。もうテルは……一人じゃない」
照「あ……あぁぁ……」ポロポロ
部員「宮永先輩!」
いつの間にか、大勢の白糸台の麻雀部員たちが雀荘に駆けつけていた。
照「みんな……」
部員A「宮永先輩、優勝おめでとうございます!」
部員B「こんなとこにいたんですか。皆探してましたよ」
部員C「宮永さん、私、私ぃ……!」グスッ
菫「照。ここにいたのか」
照「菫……」
菫「まったく、いつまでたっても戻ってこないから探したんだぞ。こんなところで何やってるんだ」
菫「大星。照を見つけたんなら早く……ん? なんだこれ。おい、まさかここで大星と麻雀を
打ってたんじゃないだろうな。まったくお前たちは……」
照「――菫」
菫「なんだ?」
照「優勝、できたね」
菫「…………ああ、そうだな。だが、やはり私たちはお前の強さの後についていってただけ
なのかもしれない。大星の言う通り」
照「そんなことない」
照「皆がいたから、あの手を和了れたんだ。さっき、それに気づけた。皆がいなかったら私は
咲に負けていた」
菫「照……」
照「だから胸を張って菫。堂々と言おう。私たち皆で優勝しました、って」
菫「……ああ、そうだな」
そうして、皆が私を抱きしめてくれた。菫はうっすらと涙を浮かべて。私は、心から笑って。
――ああ。私は一人じゃない。
こんなにも大切な仲間がいるんだ――
照と部員たち「……」ワイワイガヤガヤ
淡「……」
菫「どうした大星。優勝したっていうのに浮かない顔して。やっぱり、お前には優勝なんて
どうでもいいことか?」
淡「……大将戦を見てから、ずっと分からないことがあったの」
淡「もし私が大将戦に出てたら……きっとあの手は和了れなかった。咲ちゃんが勝ってた。
もしかしたらそれが私とテルの一番大きな力の差なんじゃないかって」
淡「前からずっと疑問だった。どうしてテルは独りじゃないんだろうって。私よりもずっと
強くて、誰も近寄れないくらい高い人なのに、どうしてテルの周りにはいつも人が集まってくるんだろうって」
菫「日頃の態度が違うからだ」
淡「でも、それが私たちの強さなんだと思ってた。テルもそう言ってた。私の強さは孤高の強さなんだって。
だから私は……テルさえいればいいやって。テルもきっと私だけを必要としてくれてるって」
淡「でも……孤高のままだと咲ちゃんには勝てなかった。テルは孤独じゃなかったから咲ちゃんに勝てた。
……この違いは、いったいなんなの?」
菫「……」
菫「誰も太陽には近づけない。お前の星にも手は届かない。……でも、皆が太陽の光を求めてる。
太陽の光が星を輝かせ、花を咲かせ、皆を導いてくれる。だから照は孤独じゃないんだ。自分を
必要としてくれる人がいる限り、あいつの光は消えない」
淡「……」
菫「お前はそこに気付けなかった。……お前は、照に近すぎたんだ。お前は確かに照の強さを……
太陽の熱や大きさを間近に感じ、それに憧れたのかもしれない。でもお前の間違いは、それだけが
照の全てだと思い込んだことだ。近すぎて、照の本当の姿が見えてなかったんだ」
淡「……うん」
淡(そうだ……私はテルの強さにだけ憧れたんじゃない。その光の眩しさや、温かな温もりに
引き寄せられたはずだったのに……私は舞い上がって……私を必要としてくれる人たちを
遠ざけてきた……それが、私とテルの違い……)
淡「……今からでも」
菫「ん?」
淡「今からでも……まだ間に合うかな。私もテルみたいに……皆に必要としてもらえるかな」
淡「今までのこと全部謝って……尭深や誠子にごめんなさいってして……そしたら、皆は許して
くれるかな……私を必要としてくれるかな」
菫「知るか」
淡「っ……」ビクッ
菫「なんだ? 『大丈夫、皆きっと許してくれるさ』とでも言ってもらえると思ってたか?
甘えるな。尭深や誠子がお前を許すかどうかなんてのはあの二人に訊け。私は知らん」
淡「……」
菫「お前は許してもらえなければ謝らないのか? 今までのことを申し訳ないと思うから謝るんじゃないのか?
そんなことも定まってないような中途半端な気持ちで謝るくらいなら止めておけ。迷惑だ」
淡「……私は、皆に謝りたい。今までのこと、全部謝りたい……!」
淡「でも……謝り方、わかんない。今まで誰かに謝ったこと、ないから……」
菫「……にわかには想像できん人生だな。謝り方が分からないなら、誰か適当な人間で練習してみろ」
淡「練習って、どうやって?」
菫「とりあえずお前の目の前に一人、今まで散々失礼なことを言ってきた先輩がいるとは思わないか?
まずはその人に謝ってみるってのはどうだ?」
淡「……」
菫「嫌なら帰るが?」
淡「嫌じゃない! ま、まって! 心の準備が……!」
淡「……」スー
菫「……」
淡「……」ペコリ
淡「今まで……あの、色々……生意気でした。……ごめんなさい」
菫「……」
淡「……」
菫「謝罪の言葉としてはまだまだだな」
淡「うぅ……」
菫「……」フッ
菫「だが、一番必要なものがちゃんとあった。……だから合格だ。許すよ、淡」
淡「ほ、ほんと!」バッ
菫「ああ」
淡「……」パァァ
淡「私、控室に行ってくる! 尭深や誠子に会ってくる!」
菫「ああ、行ってこい」
タッタッタッタ……
菫「やれやれ」
菫「――今度はお前が皆を引っ張る番だ。がんばれよ、淡」
エピローグ
恒子『――さあ、ついにこの時がやってきました!! インターハイ個人戦決勝戦! 真の高校生
最強はいったい誰なのか――!?』
白糸台控室
淡「――よっし。準備万端!」
尭深「頑張ってね淡ちゃん」
誠子「きっと勝てるよ」
淡「うん。タカミやセイコの分まで頑張るからね!」
廊下
淡「よーし、今日は勝つぞー!」ゴッ
菫「はあ……はあ……」
淡「あれ、スミレ、どうしたの?」
菫「ん、ああ、淡か。いや、照を探してるんだが……」
淡「また迷子? 治らないねほんと」
菫「困ったやつだよ」
淡「あ、じゃあ私対局室に行かないといけないから」
菫「ああ。行ってこい」
淡「……」スタスタスタ
菫「……淡」
淡「ん?」ピタ
菫「――相手が誰でも、負けるなよ」
淡「……ふふ。もっちろん!」グッ
淡「――お」
咲「あ、久しぶり、淡ちゃん」
淡「ふふ。準決勝以来だね。今日は負けないよ?」
咲「私だって」
恒子『さあ、決勝戦の選手が揃い始めています! 団体戦を制した白糸台の大型新人、大星淡!
そして清澄高校の同じく一年生、宮永咲! この二人は団体戦準決勝でも一度矛を交えています。
今日はその決着をつけることができるのか――!』
咲「あとは……」
――ツカツカツカ
淡「――来たね」
照「……」ツカツカツカ
恒子『そして個人戦最後の一人はやはりこの人、宮永照――! 高校生最強の打ち手が、やはり
決勝戦に駒を進めてきました――!』
恒子『しかし個人戦が始まってからはかなり苦戦続きというか、ギリギリというか……
以前ほどの迫力は感じられなくなったような気がするんですが、どうでしょう小鍛冶プロ』
健夜『そうですね。確かに団体戦のときよりも力はかなり弱まっていると思います』
恒子『ですよね。結構ムダヅモとかも多くなりましたし、あのギギギーってやつも全然使わなく
なりましたもんね』
健夜『でも、私は今の彼女の麻雀の方が好きですね。とても温かく、優しい麻雀になりました』
恒子『そうですか? 私にはよくわかりませんが』
健夜『彼女の中で、麻雀という概念そのものが変わったのかもしれません。とても……幸せそうに
麻雀を打つようになりました』
恒子『さあついに全ての選手が卓に揃いました! これより個人戦決勝戦を開始いたします!』
淡「ちゃんと決勝まで来れたね、テル」
照「なんとかね。前みたいな力が使えなくなったから、随分苦労したけど」
咲「でも、ちゃんと有効牌をツモれてる。牌がお姉ちゃんのことを好きになってくれてる証拠だよ」
照「……うん、そうだね」
照「……咲。淡」
咲「ん?」
淡「なあに?」
照「……麻雀って、楽しいね」
咲「―-」
咲「――うん!」ニコ
淡「……ふふ」
照「今日は私が挑戦者だ。お手柔らかに頼むよ」ゴォォォオッ!
淡「よく言うよ」ゴォォォオ!
咲「手加減して勝てるなら苦労しないよ」ゴォォォ!!
末原「……」
末原(な、なんか思いもがけず決勝まで来てしまったけど……と、とんでもない所に迷い込んで
しまったんやないやろか)カタカタ
淡「よーーっし! 今日は負けないよ! 皆で一緒に宇宙の闇へGO!」ゴォォォオ!!
咲「させないよ! 嶺上開花でみんなまとめてトばしてあげる!」グオォォォ!!
照「今日ばかりは全力でいく。手加減できないから覚悟してね」ドゴゴォォォオ!!
末原「」
末原(か、勝つんや……優勝するんや……)カタカタ
四人「よろしくお願いします!」
恒子『さあ、個人戦決勝戦、ついに開幕です――!!』
カン!
面白かった!
乙乙!
長丁場ほんとお疲れ
楽しかったよ!
乙
Entry ⇒ 2012.11.04 | Category ⇒ 咲-Saki-SS | Comments (16) | Trackbacks (0)
洋榎「絹に寝ている間にキスされた」
絹恵「あれ、寝とる?」
洋榎「…………」
絹恵「……ふふ、かわええなぁ」
絹恵(……な、なんか……じっと見てたら熱くなってきてもうた)
絹恵「誰も……まあ、おるわけないか」
絹恵(ほっぺた、触ってみよ)スッ
洋榎「……ん」
絹恵「……へへ、かわええ」
絹恵(あれ……あかん、顔、熱っ)
絹恵(手も……震えとる、なんやこれ……でも)
絹恵「……もっと触りたいな」
絹恵「お姉ちゃん、髪借りるで」スッ
洋榎「…………」
絹恵「はぁ、気持ちいいなぁ、手触りええし」
絹恵「……これもしかして、起きない?」
絹恵(なら、もう一回、顔触ろ)スッ
洋榎「……ん」
絹恵「あ……っ」
絹恵(どないしよ、心臓痛い……落ち着け……)
絹恵(私、今までで一番緊張しとるかも……)
洋榎「…………」
絹恵(く、唇……触ってみたけど、柔らかいなあ……)
絹恵「……はぁ、ふぅ」
絹恵(あかん、熱い熱い、息が熱い!)
絹恵(でも……ほんまに起きひんな)
絹恵「お姉ちゃーん?」
洋榎「…………」
絹恵(念のため、動かしてみようかな……それで起きたらどないしよ)
絹恵(……ちゃうやろ、なんで起きないほうがいいことになっとるん!)
洋榎「…………」
絹恵「おーい……はよせえ、キスしてまうで」
洋榎「…………」
絹恵(やっぱり、起きない……ほんまに、今くらいしか触れるチャンスないやろ)
絹恵(や、やるか……)ドキドキ
絹恵「……ちゅっ」
洋榎「……ぅ」
洋榎「…………」
絹恵「……ふ、はあっ、ふぅーっ」
絹恵(あかんあかんあかん! 熱い熱い、ぼーっとする……)
絹恵「……お姉ちゃん」
洋榎「ん……」
絹恵「! ……うなっただけ? よかった……」
絹恵「お姉ちゃーん、好きやでー」
洋榎「…………」
絹恵「まあ、聞こえてへんから言うんやけどな、こういうこと」
絹恵「……もう一回、キスしたいな」
絹恵(お姉ちゃんの唇が気持ちええから悪いんやな……うん、うん)
絹恵「……お姉ちゃーん? わざと声出してあげとるのに、起きひんってことは、してもええっちゅうことやろ」
洋榎「…………」
絹恵「…………」
絹恵(どえらいドキドキする……よし、一、二……)
絹恵「ん……」
「ただいまー」
絹恵「うぇっ!?」
絹恵「……ビビった、お母さんか」
……
風呂
絹恵(結局、夕食の時もほとんど俯いてもうた……)
絹恵(変な風に想われとらへんかなあ)
絹恵「はぁ……」
絹恵(柔らかかったなぁ……じゃないや)
絹恵「……熱くなってきた、もう出よ」
ガチャッ
絹恵「!」
洋榎「はろー」
絹恵「な、なんでやねん! 服着て!」
洋榎「あほ、風呂入るのに服着てはないやろ!」
絹恵「どないしたん?」
洋榎「風呂入ろう思うて服脱いだら、ちょうどその頃に絹が入っとることに気付いたんよ」
洋榎「で、もう脱いでもうたし、一緒に入ったるか、ってな」
絹恵「……まあ、なんでもええわ」
絹恵(良くないけど……)
洋榎「なんや冷たいなー」
洋榎「これから温まるんやから、そない冷たくしても意味あらへんで」
絹恵(全然冷たくないよ……むしろ熱いのに)
絹恵(こう見るとお姉ちゃん、私よりちっちゃいのがよくわかるなぁ)
絹恵(……可愛い)
絹恵「……ふー」
洋榎「よっしゃ、入るか」ザバッ
洋榎「……絹、ちと詰めたってや」
絹恵「うーん、限界あるやろ」
洋榎「じゃあ、身体借りるで」
絹恵「えっ」
洋榎「ふふふ、絹枕ー」
絹恵(し、心臓が……バレてへんかな?)
絹恵(良かった……)
洋榎「はー、あったかー、久しぶりに絹と風呂入った気するわ」
洋榎「髪当たっとらん?」
絹恵「平気、ちゅうか……髪綺麗やな」
洋榎「特別に触らせたるで」
絹恵「……ん」スッ
絹恵(……うわぁ、なんや品定めしとるみたい……)
絹恵(後で、このお姉ちゃんにキスするんか……)
絹恵(……わかっとると、余計緊張する)
……
洋榎「おやすみー」
絹恵「お姉ちゃん、お休み」
絹恵(言うても、後で部屋行くけど)
………
……
絹恵「……お姉ちゃーん?」ガチャ
絹恵「…………」
絹恵(起きとらんな、多分)
絹恵(あと、部屋の鍵閉めたほうがええやろ……私としては棚ボタやけど)
絹恵「ふぅー……」ドキドキ
絹恵「よし……ん、ちゅっ……」
洋榎「…………」
絹恵「……ぁ、っ……はぁ、ふー……」
絹恵(ま、まだ慣れん、あっつ……)
洋榎「……んー」
絹恵「ふふ、お姉ちゃんかわええなぁ」
絹恵「……も、もう一回」
絹恵「…………」ドキドキ
洋榎「ぁ……ん、絹?」
絹恵「な、うわあっ!? な、なんやねん!」
洋榎「それうちのセリフやわ」
絹恵(そ、それもそっか……)
洋榎「何しとるん?」
絹恵(……キスのことは、バレてへん?)
絹恵「ね、眠れなくて……」
洋榎「なら、一緒に寝ようか」
絹恵「えっ!?」
絹恵「……じゃ、じゃあ」
絹恵(平静、平静……)ドキドキ
洋榎「絹ー」ギュッ
絹恵「わっ!?」
洋榎「やっぱ暖かいなー」
絹恵(……お姉ちゃんも)
絹恵「お姉ちゃん」ギュッ
洋榎「お?」
絹恵(お姉ちゃん、好き、好き好き……)
絹恵(言えないのが、もどかしいな……)
絹恵「……おやすみ、お姉ちゃん」
洋榎「ん、おやすみー」
……
洋榎「はぁ、疲れた……久しぶりにあんな頭使ったなぁ」
洋榎「……寝よ」
洋榎「…………」
絹恵「……お姉ちゃん、いる?」ガチャ
洋榎(絹? ……あかん、眠すぎる)
洋榎(黙っとこ、堪忍な)
絹恵「……起きてる?」
洋榎(寝とるよー)
絹恵「……ふぅ」
洋榎(?)
洋榎「…………」
絹恵「……ちゅっ」
洋榎(なっ!?)
洋榎(えっ、え……あ、はっ……?)
洋榎(うち、キスされた? 絹に? なんで?)
洋榎(どないしよ、とにかく、冷静に……)
絹恵「……お姉ちゃん、好き」
洋榎(な……うわああああ……)
洋榎(無理無理、顔見せられへん……)
洋榎「う、んー……」ゴロッ
絹恵「あ……」
洋榎(か、間一髪……)
洋榎(絹……ほんまに? さっき言ってたのは、その……)
洋榎(じゃあ、キスの意味も……)
絹恵「お姉ちゃん、おやすみ」ガチャ
洋榎(行ったか……?)
洋榎「何がおやすみ、やねん……寝られるわけあらへんやろ……」
洋榎「……あー! なんやねんもう!」
洋榎「絹、マジでうちのこと好きなんか!? せやからキスしたっちゅうんか!」
洋榎「も、もしかして、今までも? ああああもう!」
洋榎「あ……あかん、顔熱すぎる……」
洋榎「……なんでこんなドキドキしとんねん」
洋榎(うちも、好きなんかなぁ……)
洋榎「いや、いやいやいや、なぁ? ただうちはキスされただけで、そのせいで……」
洋榎「……はぁ、寝るか」
……
絹恵「お姉ちゃーん……?」ガチャ
洋榎(ま、また……)
洋榎「…………」ドキドキ
洋榎(なんでうち、黙っとるんやろ……)
絹恵「……んっ」
洋榎「っ……」
洋榎(声出したらあかん!)
洋榎(このところ、毎日……やっぱり、前から……)
絹恵「ん……おねーちゃん」
洋榎(な、なんや)
絹恵「かわええなぁ……」
洋榎(絹、そう言うのやめて……頭揺れてまう……)
絹恵「あ、また……」
洋榎(しゃーないやろ、うちは寝返りするしか……)
絹恵(も、もうちょっと……)
絹恵「……お姉ちゃん、ごめん」
洋榎(え?)
絹恵「…………」グイッ
洋榎(なっ!)
絹恵「んむっ……」
洋榎「ん、っ……」
洋榎(あ、ああ……絹、強引すぎる……!)
洋榎(平常心、平常心……目開けたら、それだけはあかん……ああああ、もう!)
絹恵「……お姉ちゃん、好き、大好き」
絹恵「もっと、キスしたいなぁ」
洋榎「……ぁ」
絹恵「!」
絹恵(お、起こした!?)
洋榎(やばっ!)
絹恵「ご、ごめん!」ガチャ
洋榎(……ば、ばれた?)
洋榎(いやいや、別にうち、何も隠してへんし……それに、ただ声漏れただけ)
洋榎(そんなん、寝てても同じやろ……)
洋榎(……大丈夫、うん、そういうことにしよ)
洋榎「ふぅ……あっつ」
絹恵(……ば、ばれた?)
絹恵(こないなことしとるって知られて、お姉ちゃんに引かれるのは嫌や……)
絹恵(でも、キスはしたい……)
絹恵「……うーん」
絹恵(……ただの呻き声やし、寝てただけやろ……?)
絹恵(そういうことにしよう、うん……)
絹恵(でも、耐え切れずに無理矢理やるのは、ちょっと調子乗ってたかも)
絹恵(しばらく、これはやらんほうがええかなぁ)
絹恵「……はぁ」
絹恵「お姉ちゃーん……」
……
洋榎「…………」
洋榎「……寝られん」
洋榎(やっぱり今日も、キスされるんかなぁ)
洋榎(緊張するから、うちとしては早めの方が助かるんやけど)
洋榎「…………」
洋榎(まだ?)
洋榎「…………」
洋榎「……あーもう! キスしにきたらええやんけ! はよ来いや、絹!」
洋榎「い……今なら、来ても怒らへんで?」
洋榎「…………」
洋榎「……はぁ、寝たほうが利口やろなぁ」
洋榎(絶対眠れへんけど……)
……
洋榎「おやすみ、絹」
絹恵「おやすみー」
洋榎(おやすみってか、うちはそれどころじゃない……)
洋榎(結局三日間、絹はキスしにこないし)
洋榎(おかげで満足に眠れへんし、うちは生殺しやな)
洋榎(……生殺し? いやいやいや、ちゃうやろ!)
洋榎「なんやねん、もう、あほくさ……」
洋榎(……しっかし、あんながっついてきよった癖に、どうして急に、なぁ)
洋榎「絹、何しとるんやろ」
洋榎「……気になる」
洋榎「おーい?」コンコン
洋榎「……返ってこないな、もう寝とる?」
洋榎(でも引き返すのも……どうせこの鍵、外側から簡単に開くし……)
洋榎「……開けるか」
洋榎「……よし」ガチャ
絹恵「…………」
洋榎「やっぱり寝とったか、ふふ」
洋榎「久しぶりに見たかもなぁ、絹の寝顔」
洋榎「部屋別けてからは、いつもうちが起こされてばっかりやったしなあ」
洋榎「……しっかしよく見ると、やっぱりどえらい美人やな、絹」
洋榎(あ……うち、この子にずっとキスされとったんか……)
洋榎「…………」
洋榎「……絹?」
絹恵「…………」
洋榎「やっぱ、寝とるか」
洋榎(……あ、あれ?)
洋榎(これもしかして、うちからキスできるんとちゃうん?)
洋榎「……起きろー」ペチペチ
絹恵「ん……」
洋榎(ちょっと、呻いただけ……か)
洋榎(……ほんまに? ほんまにやるん?)
洋榎(ちゃう、これはただ、キスせえへんと眠れへんからやるだけで……)
洋榎「うん……しゃーない、しゃーない……」
洋榎「別に、うん、問題ない……」
絹恵「…………」
洋榎(なんやねん、これ、緊張する……)
洋榎「っ……んぅっ」
絹恵「……ん」
洋榎「……ぁ……はぁーっ、ふーっ……」ドキドキ
洋榎(あかん、あー……なんも考えられへん……)
洋榎(血登る、頭痛い……)
洋榎(絹、こんなこと毎日毎日、うちにしとったんか……)
洋榎(余計眠れん、あと、もったいない……ってなんやねん、それ)
洋榎(わけわからんなあ、もう! 自分がわからん……)
洋榎「い、今までのお返し……絹が悪いんやで?」
洋榎「……ちゅ」
絹恵「…………」
洋榎「……はぁ、っ……あー」
洋榎(やっぱり、ぼーっとする……けど、やめられへん……)
洋榎(別に、今までされてきた分、やり返すだけ……)
洋榎「……ちゅっ」
絹恵「ん……」
絹恵「……ぅ」
洋榎「……っ、んむっ」
絹恵「ん……」
洋榎(はぁ、絹、絹……)
洋榎(くそ、止まらん……なんで……)
洋榎「……絹、んうっ」
絹恵「…………」
洋榎「ぁ、ふぅ……好き、好き、絹……」
絹恵「んー……」
洋榎(だ、誰か、止めて……)
洋榎(絹、起きるかも……知らんわもう、どうせ止まらんし……)
洋榎「ちゅっ……」
絹恵「……ん」
……
洋榎「……あー」
洋榎(昨日、何回キスしたかなぁ……多分、十五は超えとると思うねんけど……)
洋榎(もし今日も来なかったら……)
洋榎(……また、行ってみよか)
………
……
絹恵(久しぶりに、お姉ちゃんとキスしたい)
絹恵(三日待ったし……もう、ええやろ、多分)
絹恵(これ以上はちょっと、耐えきれへんし……)
絹恵「お姉ちゃん……」
絹恵(……後で、行こ)
洋榎(ほ、ほんまに来た……)
絹恵(久しぶりやな……緊張する)
絹恵(あかん、抑えないと……)
洋榎「…………」
絹恵「…………」
洋榎(うち、今から、絹にキスされるんやな……)
絹恵(久しぶりに、お姉ちゃんに、キス……)
絹恵「……お姉ちゃん」スッ
洋榎「っ……」
洋榎(さ、騒ぐな……!)
絹恵「……ん」
洋榎「ん……ぅ」
洋榎(き、絹……っ)
絹恵(お姉ちゃん……お姉ちゃん、好きだよ……)
洋榎「ぅ……」
洋榎(長っ……さすがに、限界……)
絹恵「……ふぅ」
洋榎(ぁ……長かった、でも、もうちょっと……)
洋榎(絹……)
絹恵(やっぱりこれ、ぼーっとする……ブレーキ利かん)
絹恵(好き、大好き、お姉ちゃん……だから、許して……)
洋榎(絹、はようして……)
絹恵「……っちゅ」
洋榎「ん、っ」
洋榎(あかん、無理……絹、絹……)
絹恵(お姉ちゃん、お姉ちゃん……)
洋榎「……う、ぁっ」
絹恵「え……?」
洋榎(あ、声……しまった……)
絹恵(ぜ、絶対起きた……いや……)
絹恵(でも、くらくらして、動けへん……)
絹恵「…………」
洋榎「…………」
絹恵「……お、お姉ちゃん」
洋榎「……なに」
絹恵「え、えっと……っ!」
洋榎(……絹)
洋榎「んむっ……っ」グイッ
絹恵「ぅ、んっ……」
絹恵(なんで、急に……お姉ちゃんからなんて、気絶しそ……)
洋榎「……ん、ふぅ……はあっ……」
絹恵「……っ、あっ、お姉ちゃん、なんで……」
洋榎「やかましい……っ、んむっ」
絹恵「……ん」
絹恵(あ……舌、入ってきた……)
洋榎(あったか……)
洋榎「ちゅ、っ、んっ」
絹恵(キスの音しか、聞こえない……お姉ちゃんの音だけ……)
絹恵(お姉ちゃん……幸せ……)
絹恵「……ぅ、あっ」ギュッ
洋榎「っ……んぅ」ギュッ
洋榎(絹……)
洋榎「……ふぅ、っ」
絹恵「お、お姉ちゃーん……」
洋榎「……絹」
絹恵「好き……お姉ちゃん、好きだよぉ……」
絹恵「ずっと、ずっと、キスしたいくらい……」
洋榎「うちも、絹が好き……ずっと、こうしてたい……」
絹恵「……証拠」
洋榎「い、いまさら?」
絹恵「だって……」
洋榎「……じゃあ、普通にキス、してみよか」
洋榎「こう、恋人っぽい、感じ……ちゅうんかな、とにかく、えっと……」
絹恵「……うん」
菫「わかったから帰るぞ」ズルズル
絹恵「……手、ほっぺにつけながら、キスしてほしいな」
洋榎「こ、こう……?」スッ
絹恵「うん、そう……へへ」
洋榎(絹もやっぱり、あっつい……)
洋榎(絹、やっぱり可愛い……うちの、妹……)
絹恵「それで、あんなぁ、キスする前に……その……」
洋榎「……"好き"」
絹恵「あ……っ」
洋榎「ちゅっ……」
絹恵「ぅ……んっ」
絹恵(私も、お姉ちゃん、好き……大好きだよ……)
絹恵「ぁ……」
洋榎「……絹は」
絹恵「え……?」
洋榎「絹、からは?」
絹恵「……いいの?」
洋榎「さっきまで、しとった癖に」
絹恵「へへ、やった……じゃあ……」スッ
洋榎(ぁ、顎……? 顔、近っ……)
洋榎「……なぁ、絹も」
絹恵「お姉ちゃん……"好き"」
洋榎「っ……」
絹恵「っちゅ……」
洋榎「ぁ……んうっ」
洋榎「…………」
絹恵「あ、あのさ、お姉ちゃん……一緒に、寝てもええ?」
洋榎「え? うん、まあ……」
絹恵「……お姉ちゃーん」ギュッ
洋榎「ぁ……へへ、絹ー」ギュッ
絹恵「お姉ちゃん、ほんまにかわええ……ちっこくて」
洋榎「嬉しいけど、一言余計やろ……」
絹恵「ううん、全部、好きや」
洋榎「うちも、そういう熱心なところ好きやで……ああでも、寝込み襲うのに頑張ってもらってもなぁ」
絹恵「ご、ごめん……」
洋榎「いや、まあ、うちも……ちょっと、途中から期待してたけど」
絹恵「……やっぱり、お姉ちゃんは優しいなぁ」
洋榎「当たり前やろ、好きな人に優しくしないで、誰に優しくせえっちゅうねん」
絹恵「……えへへ」
洋榎「なんや?」
絹恵「寝る前の、キス」
洋榎「……ちゅっ」
絹恵「へへ……ちゅ」
洋榎「ん、うーん……」
絹恵「……手、繋いで寝よっか」
洋榎「……せやな」ギュッ
絹恵「はぁー、暖かい……ねえ、もう一回、キス」
洋榎「ちゅ、んっ……」
絹恵「へへ……おやすみ、お姉ちゃん……また、明日も……」
洋榎「当たり前やろ、また明日な……おやすみ、絹」
絹恵「うん!」
おわれ
乙乙
Entry ⇒ 2012.11.03 | Category ⇒ 咲-Saki-SS | Comments (1) | Trackbacks (0)
菫「宥と楽しい同棲生活の始まり」
菫「……ああ」
菫「ここが、これから私たちが住むアパートだ」
菫「コンビニやスーパーまで徒歩数分、ファミレスや大型デパートまで徒歩10分」
菫「駅までは徒歩20分ぐらいかかるが、まぁ歩いて行ける距離だ」
菫「治安も良く、住んでいる住民も若夫婦が殆どだ」
菫「立地条件としてはなかなか良い場所を確保出来た」
宥「ごめんね……何もかも菫ちゃんに任せちゃって」
菫「構わんさ、宥は宥で忙しかったんだろう?」
菫「それに私は一人暮らし慣れしてるから、このぐらい大した事ないさ」
宥「菫ちゃん……///」
咲「エ○ゲーって楽しいよね!」
http://ssweaver.com/blog-entry-1880.html
のスピンオフです。
菫「エ○ゲしてる所を宥に見られた……」の続きであり、
時系列的にはチャットのオフ会が終了後、菫さんと宥姉が大学に進学して二人の同棲生活が始まるお話。
菫「ああ……さすがにワンルームで2人暮らすのは厳しいだろうと思ってね」
菫「同棲生活をするなら、やはり2DKはあった方が良いらしい」
菫「一応家具や家電とかは、私が使っていた物をそのまま持ってきてるが」
菫「それでも足りない物とかは後で買いに行こう」
宥「うん」
菫「それじゃあ、まずは……」グゥー
菫「……」
宥「……お昼ご飯にしよっか」
菫「そ、そうだな……///」
菫「ガスとか水はもう使えるが、何分食材が何も無い」
宥「じゃあ……」
菫「……今日の昼は外食するか」
宥「うん」
………
……
…
菫「宥はまだこの辺りに詳しくないだろう?」
宥「うん、駅と大学の場所は覚えたけど……」
菫「じゃあ食事を終えたら、軽く街の案内もしよう」
宥「うんっ」
「いらっしゃいませー」
菫「2名、禁煙席で」
「かしこまりました、こちらへどうぞー」
宥「……」オロオロ
菫「……宥?」
宥「えっ……なに?」
菫「いや……そんなにソワソワしてどうしたんだ?」
宥「え、えっと……」
菫「そうなのか?インハイでも東京へは来てるし、奈良でだって外食ぐらいはするだろう?」
宥「う、うん……そうなんだけど……」
宥「私の住んでる所……近くに飲食店がひとつもなくて……」
菫「え、そうなのか?」
宥「う、うん……」
宥「だからこういう所はあんまり慣れてなくて……」
菫(奈良県は飲食店が少ないとよく聞くが……まさかそこまでとはな)
「それでは、ご注文決まりましたらこちらのボタンからお呼び出しください」
菫「……」
菫「宥は何にする?」
宥「え、えっとっ……えと……」パラパラッ
菫「ははは、慌てなくていいさ。ゆっくり決めてくれ」
宥「ご、ごめんねっ」
宥「……菫ちゃんはもう決まったの?」
菫「ん?ああ、私はもう決まってるが」
宥「じゃ、じゃあ……菫ちゃんと同じので」
菫「いいのか?好きなの選んでもいいんだぞ?」
宥「ううん、大丈夫……」
菫「そうか?なら呼ぶぞ」ピンポーン
菫「この、エビピラフを二つ」
「AセットとBセットのメニューがありますが、如何なさいましょう?」
菫「ふむ」
菫(Aセットが野菜サラダセット、Bセットがコーンスープか……)
菫(宥ならきっと温かい物の方が好きだしな……)
菫「じゃあ両方Bセットのコーンスープで」
「かしこまりました」
宥「うん」
菫「……別に時間をゆっくりかけて決めても良かったんだぞ?」
宥「う、うん……でも沢山種類がありすぎて迷っちゃうし……」
宥「それに菫ちゃんと同じ物を食べて、美味しさを共有したいから……///」
菫「なっ……///」
宥「……///」
菫「……///」
菫「こっ!この後は!小物でも買いに行こうか!」
宥「う、うんっ、そうだねっ」
………
……
…
菫「宥は大丈夫か?」
宥「うん、美味しかったね」
菫「ああ、そうだな」
菫「さて、お会計を済ませるとするか」
宥「……え、えっと」
菫「……どうした?」
宥「お、お金は……」
菫「ああ……そうだな……」
菫「とりあえず今日の所は私が払っておくよ」
宥「えっ、で、でも……」
菫「お金の管理とかそういう所も、後々ちゃんと決めないとな」
菫「私達は今日から二人で暮らすんだからな……」
宥「……うん……///」
菫「さて、次は……ここだな」
宥「わあ……おっきい」
菫「近辺では一番大きなデパートだ、ここで小物を揃えよう」
宥「小物で足りない物って……」
菫「歯ブラシとかタオルとか……あと食器とかだな」
宥「あ……そういえば私、歯ブラシとかは持ってきてない……」
菫「ははは、これから新生活が始まるんだ。新しく新調すればいい」
菫「それに……その、あれだ。お揃いの物にできるし……///」
宥「あっ……///」
宥「うんっ……!」
宥「ん……と……あまりそういうのは気にしないけど……」
宥「出来れば……菫ちゃんとお揃いのがいいな……っ///」
菫「そ、そうか……///」
菫「じゃ、じゃあ、こういうのはどうだ?」
宥「わあ、可愛い……」
菫「同じ模様の青と赤だ」
宥「……あったかい色」
菫「どうだ?」
宥「うん……これがいい」
菫「じゃあ、これにしよう」
宥「うんっ」
菫「宥は他に欲しい物はあるか?」
宥「え、えっと……な、何が必要なのかな?」
菫「そうだな……とりあえず暮らす分に必要な物は買い揃えたが……」
菫「あとは……夕食の食材だな」
菫「このまま買い出しに行ければよかったんだが、荷物は結構多くなってしまったな……」
菫「一度戻って荷物を置いてから、食材の買い出しに行こう」
宥「うんっ」
菫「ここが近所のスーパーだ」
菫「規模はそこそこだが、品ぞろえも悪くはなく値段も安い」
菫「これが徒歩数分圏内にあるんだから贅沢だな」
宥「便利だね……」
宥「私の住んでた所は、スーパーに行くのにも車を出さないと行けなかったから……」
菫「そうだな……私はずっと東京に住んでいるが、やはり東京は便利な街だと思うよ」
宥「うん……それに今は菫ちゃんも一緒だし、すごく楽しいよ……っ」
菫「宥……///」
宥「菫ちゃん……///」
アラアラ マァマァ ワカイッテイイワネー
菫「……///」
宥「……///」
宥「う、うんっ」
菫「まずは……野菜類だな」
菫「冷凍食品も余分に買っておいて……小麦粉……牛乳……卵……米……」
菫「調味料は私が使っていた奴がまだあるから……あとは」
宥「菫ちゃんすごい……主婦さんみたい」
菫「しゅ、主婦!?」
菫「さ、さすがにそれは……なんというか複雑な気分だな……」
宥「え、ええっ、だめだった?」
菫「いや……こう、年増に見られるというか……」
宥「ご、ごめんね……そういう意味じゃなくてっ……!」
菫「……」
菫「っくははは!わかってるよ、宥」
宥「むうーっ!菫ちゃん酷いよう」
………
……
菫「さて、買い出ししてたらすっかり遅くなったな」
菫「帰宅したばかりだが、早く夕飯の支度をするとしよう」
菫「あんまり時間もないし、今日はパスタでいいか?」
宥「うん」
菫「じゃあ、すぐに取り掛かるから、宥は適当に時間でも潰しててくれ」
宥「うんっ…………あれ?」
菫「~♪」
宥「……」ソワソワ
菫「~……ん?どうした宥?」
宥「何か手伝える事はない……?」
菫「そうだな……しかしパスタは茹でるだけだし」
菫「ミートソースも買ってきた奴を加熱するだけだしな……」
宥「で、でもでもっ……」
宥「せ、せっかく一緒に生活するのに、菫ちゃんだけにお料理させるのは……」
菫「ふむ……」
菫「そうだな……じゃあサラダでも作るか、宥頼めるか?」
宥「うん!」
菫「……」
菫「……ふむ、こんなものか」
宥「……」
宥「……私ね」
菫「ん?」
宥「こうして菫ちゃんと、一緒にお料理が出来て嬉しいなって」
宥「私、すごい幸せだよ」
菫「宥……」
菫「ああ……私も今、すごい幸せだ」
宥「菫ちゃん……///」
宥「っ痛っ!」
菫「宥!?」
宥「う、うう、ごめんね……」
菫「……ほら、指貸して」
宥「えっ?」
ちゅー
宥「す、菫ちゃんっ!?///」
菫「……んっ……ちゅ、あとは綺麗に洗って絆創膏を貼っておけば大丈夫だろう」
菫「宥はパスタの方を頼む、私がサラダの方をやろう」
宥「ご、ごめんねっ……」
菫「ふふ、気にするな。私は宥の恋人……だろ?」
宥「…‥~~~///」
……
…
菫「……ふぅ、ごちそうさま」
宥「ごちそうさまっ」
宥「美味しかったね」
菫「ああ、味もそうだが……」
菫「何より一人で食べる食事より、宥と一緒に食べる食事の方が断然美味しい」
宥「もう……菫ちゃんったら///」
菫「……///」
菫「さ、さて!今度は風呂の準備だなっ……食器任せてもいいか?」
宥「うん、おまかせあれっ、だよ」
……
…
菫「……」キュッキュ
菫「よし、こんなもんか」
菫「宥、お風呂沸いたぞ。先に入ってくれ」
宥「菫ちゃんが先でいいよ……?」
菫「いや、私はこういう暮らしに慣れてるから大して疲れちゃいないが」
菫「宥はこういう生活初めてだろう、結構疲れたんじゃないか?」
宥「う、うん……そうだけど……でも」
菫「私の事を気にかけてくれるのは嬉しいが、私の事は構わなくていいさ」
宥「……」
宥「じゃ、じゃあ……一緒に入ろ?」
菫「ふぁっ!?」
菫「……///」
宥「……///」
菫「……うっ……///」
菫(ゆ、宥の裸が……ハダカがっ……)
菫(髪は綺麗だし……肌はすごい手入れしてあるし……な、なによりっ……)ゴクリ
宥「……す、菫ちゃん?恥ずかしいよっ///」ポヨヨン
菫(む、胸が……すごい……///)
菫(私もそこまで小さくは無いと思うんだが……)ペタペタ
菫(あれと比較すると泣きたくなるな……)
菫「に、にしても、さすがに2人だと狭いな……」
宥「う、うん……そうだね……」
菫「……さすがに2人湯船に入るのは厳しかったか」
宥「……」
宥「で、でもっ……」
宥「菫ちゃんと一緒に入るお風呂、楽しいよっ」
宥「なんだか、わくわくするよねっ」
菫「ははは……わくわくか」
菫(すまん宥、私はわくわくどころではない……!)
宥「あっ……」
菫「す、すまない!」
宥「う、ううん……平気だよ……///」
菫「……///」
菫(まずい……このままではおかしくなりそうだ……)
菫(宥が……宥が可愛すぎる……!!)
菫(……だ、だがこの狭さなら、多少身体が触れても大丈夫なはず……)ゴクリ
菫(この狭さなら仕方ない、うん、仕方ないな)
菫(足を少し動かして……)
宥「……っあっ……///」
菫「す、すまん……///」
宥「きゃっ……ちょ、ちょっと菫ちゃん……?」
菫「ご、ごめん宥、身体をちょっとでも動かすと当たってしまうようだなっ……」ハハハ...
宥「……むっ」
宥「菫ちゃん……わざとやってるよね……?」
菫「な、そ、そんな事……っ」
宥「……じゃあ仕返しするねっ」
菫「えっ?……わああっ!」ザパァッ
菫「……このぉ、やったな!」
宥「ちょっ……やだっ、あはははっ」
菫「このこのこのっ、はははっ!」
ずるんっ
菫「なっ……宥危ないっ」
宥「っ……す、菫ちゃん」
菫「……ふぅ、大丈夫か」
宥「う、うん……滑っちゃったみたい……ごめんね」
菫「いや、こちらこそすまなかった」
菫「どこか痛い所とか……――っ!?」
宥「っ……!///」
菫(か、顔が……ち、近い///)
宥(ど、どうしよう……顔が近いよう……///)
宥「……///」ドックンドクン
菫「ゆ……宥……///」
宥「菫ちゃん……///」
菫「……―――ッ」
んちゅ...
宥「んっ……」
菫「……っ……んはっ」
宥「す、菫ちゃん……///」
宥「どうして謝るの?」
菫「えっ……いや、その――――んっ!?」
宥「んっ……ぁっ……ちゅ……」
菫「はぁっ……んんっ……ぁっ……」
宥「っちゅ……くちゅ……はぁっ……」
菫「ぷはぁっ……ゆ、宥……?///」
宥「……嫌だった?」
菫「……そんなことない」
菫「もっと……したいぐらいだ」
宥「っちゅ……んはっ、す、菫ちゃ……んっはっぁ」
菫「んはあっ……宥、好きだ……」
菫「好きという言葉では伝えきれないくらい、宥の事が好きだ」
宥「菫ちゃん……///」
宥「……私も……菫ちゃんの事が大好き……///」
菫「……ああ、私も宥の事が大大大好きだ……」
宥「わ、私の方がっ、菫ちゃんの事が大大大大大大大だーーい好きだもんっ」
菫「なっ……私の方が、大大大大大大大大大大大大大大だーーーーーーい好きだ!」
宥「……」
宥「ふふっ」
菫「はは……あはははは!」
………
……
…
宥「うん」
パチン
菫「……
菫「しかし、せっかく部屋を分けてるのに……わざわざこっちで寝なくてもいいんじゃないか?」
宥「ま……まだ私のベッド届いてないから……」
宥「そ、それに、一緒に寝るのって楽しいんだよっ」
菫「いや、確かにそうかもしれないが……まぁいい」
菫「とにかく寝るとするか、明日も色々やらなきゃ行けない事もあるしな」
宥「うん」
菫「じゃあ、おやすみ」
宥「うん、おやすみ」
宥「……」
宥「ねぇ、菫ちゃん」
菫「……ん?」
宥「これからもずっとずっと一緒だよ」
菫「……ああ、ずっと一緒だ」
菫「宥と結婚して、宥とおばあちゃんになって、最期の時が来るまで」
菫「――ずっと一緒だ」
宥「……うんっ」」
菫「宥……好きだ」
――ここから本当のはじまり――
――いずれ私達が結婚して――
――旅館を継ぐ事になるのはまた別のお話――
カン
やっぱり百合は難しいっす
次回からエロゲシリーズ同様、コメディ路線でやっていくので
次回も宜しくっすよ~
ネトゲでコメディって今やってるDTみたいな予感がする
Entry ⇒ 2012.11.03 | Category ⇒ 咲-Saki-SS | Comments (0) | Trackbacks (0)
宥「恋人に射ち堕とされた日」
玄「おまかせあれっ!」
宥「それじゃあ……行ってくるね」
玄「うん、いってらっしゃい、お姉ちゃん」
玄「……」
玄(お姉ちゃんは恋人さんとお出かけかぁ~)
玄(いいなぁ……私もお姉ちゃんとお出かけしたいよ~)
玄(……でもお姉ちゃんの恋人ってどんな人なんだろう?)
玄(……まあいっか!)
玄(さて、私は旅館のお手伝いをしなきゃ!)
菫「宥、こっちだ!」
宥「ご、ごめんね……待たせちゃった?」
菫「いや、こっちもさっき来た所さ」
宥「わざわざ東京から来て貰って……ごめんね」
菫「いいさ、私も宥の住んでいる所を自分の目で見たかったんだ」
菫「……それに、宥の親御さんにも挨拶しておきたいしな」
宥「んもう……菫ちゃん///」
菫「……///」
菫「さ、さて!街を案内してくれるんだよな?」
菫「早速行こうか!」
宥「うん」
………
……
…
宥「うん……同じ部員の子がここでお手伝いしてるの」ウィーン
灼「いらっしゃ……あれ、宥さん?」
宥「こんにちは、灼ちゃん」
灼「珍しい、今日はどうして……って、白糸台の!」
菫「……」ペコ
宥「うん、ちょっと街を案内してたんだぁ」
灼「え、じゃあもしかして……宥さんの恋人って」
宥「う、うん……///」
灼「へえ、そうなんだ……おめでとう」
宥「え、あ、ありがとう……?」
宥「え、でも私ボウリングは苦手だし……」
灼「デートでのボウリングは定番中の定番だし、やっておいても損は無いと思う」
宥「そ、そうかな……?」
灼「そう」
宥「……じゃ、じゃあ1回だけやろうかな……」
宥「菫ちゃんもいい?」
菫「あ、ああ……私もあまり得意ではないが」
灼「じゃあ決まりだね、じゃあこれ。3番レーンね」
菫「……ふぅ」
菫「スコアは……108か」
菫(私自身、ボウリングは数えるくらいしかやった事はないが……)
菫(まぁこんなもんか)
菫(それに対して……)
宥「……」
宥「……ボウリングって難しい」
菫(宥のスコアは……34か)
菫「宥は本当に苦手なんだな」
宥「わ、私……あんまりこういうのやった事ないから……」
菫「そ、そうか?私もあんまりボウリングはやった事がないんだが……」
宥「……なんかずるい」
菫「い、いや……そう言われてもな……」
菫「こればっかりは慣れなんじゃないか?」
宥「むー……」
菫「……そろそろ出ようか、まだ案内してくれるんだろう?」
宥「……」
宥「……うん」
………
……
…
菫「……?」
菫「宥、顔が少し赤いけど大丈夫か?」
宥「えっ?そうかな?」
菫「あ、ああ……」
宥「うーん……きっとボウリングで疲れちゃったのかも」
菫「少し休むか?」
宥「ううん、大丈夫。それにもうすぐ目的地だから」
菫「この先が目的地……?」
菫「ここは……神社か?」
宥「うん、ここにも部員の子がいてね……」
『あれー?宥姉?それと……白糸台の!?』
『えっ、宥さん!?』
宥「こんにちは、憧ちゃん、穏乃ちゃん」
憧「どうしたのこんなところで……というかその人、白糸台の人だよね?」
宥「うん」
憧「へえー、じゃああの話本当だったんだ!」
穏乃「なんの話?」
憧「宥姉に恋人が出来たって話だよ!」
憧「じゃあ、もしかしてその人が?」
宥「うん……菫ちゃんだよ」
菫「……」ペコ
穏乃「わあー……!」
穏乃(間近で見るとかっこいい人だなぁ……)
憧(むっ……)
憧「ゆっ!宥姉はどうしてここに?」
宥「えっとね、菫ちゃんに街を案内してるの」
憧「街を案内?」
宥「うん、それで憧ちゃん家の神社も寄ってみたの」
宥「え、えっと……本当に寄っただけだから」
憧「でもせっかく来て貰ってなんだし……そうだ」
憧「おみくじでも引いて行ってみる?」
穏乃「おみくじ!?」
憧「あんたが反応してどうすんのよ」
宥「おみくじ……面白そう」
憧「やる?お代はちゃんと頂くけど」
宥「うん、菫ちゃんもやるよね?」
菫「あ、ああ……」
………
……
…
「はい、じゃあこれね」
菫「私は……37番」
「37番……はい、これね」
宥「ありがとうございます」
宥「えっと……わわ、大凶……」
菫「……大凶」
憧「うわ……二人して大凶って」
菫「……おい、この神社……凶ばっかり置いてあるんじゃないだろうな?」
憧「そんなわけないでしょ、おみくじの大凶って相当少ない方よ」
憧「ふたりとも同じの引いたんだから、むしろレアよ」
宥「そうなのかな?」
菫「いや、さすがにそれはどうなんだ……」
宥「えっと……恋愛、別れの気配……病気、危機迫る……注意されたし」
菫「……恋愛、別れの気配……失物、二度と戻らず」
菫「……おい」
憧「あ、あたしは知らないわよ!」
憧「よっぽど運が悪かったんじゃないの!」
宥「た、たまたまだよっ菫ちゃん」
菫「はぁ……まぁおみくじなんてこんなものだろうさ」
菫「さっさと結んでしまおう」
宥「うん」
穏乃「憧ー!私もおみくじ引きたーい!」
憧「あーはいはい」
菫「宥の方も終わったか?」
宥「……」
菫「……宥?」
宥「えっ?」
菫「いや……ボーッとしてどうしたんだ?」
宥「う、ううん、なんでもないよ」
菫「……?」
宥「……それじゃあ、次の場所行こう?」
菫「あ、ああ……」
……
…
菫「……」
宥「……はぁっ……はぁっ」
菫「……宥?」
宥「っ……えっ?な、なに?」
菫「い、いや……本当に大丈夫か?さっきよりも顔が赤くなってるし……」
宥「……う、うん……大丈……夫…………」フラッ
菫「宥っ!」
菫(熱とか風邪とかそういうレベルじゃないぞ!?)
菫(どうする、とにかくまずは119…………なッ!?)
菫(アンテナが1本も立たないだと!?)
菫(くそっ!こんな時に限って電波が……!)
菫(一旦神社の方に戻って……いや、距離がありすぎる!)
菫(近くの民家まで……無理だ、宥をここには置いていけない)
菫(どうすればいいんだ……!!)
望「ごめんねー付き合わせちゃって」
晴絵「別にいいわよ、私も暇だったし」
望「そう言ってもらえると助かるよ」
望「……ん?誰か倒れてる」キィイ
晴絵「え?……あれは、宥!?」ガチャ
晴絵「宥!!ちょっと、どうしたの!!」
菫「すみません!この子、すごい熱みたいで倒れちゃって!」
晴絵「あなた白糸台の……いや、今はそれどころじゃないわ」
晴絵「とにかく車に乗せて!病院に行くわよ!」
菫「っ……はい!」
晴絵「望!」
望「わかってるわ、急いで病院に向かうよ!」
晴絵「すみません、急患です!」
「はい!?……松実さん!?」
「これはっ……まずいわね!すぐに運んで頂戴!」
「はい!」
菫「ゆ、宥……!」
晴絵「あなたはここにいなさい」
晴絵「私は玄の家に電話するから、望は急いで迎えに行ってきて!」
望「わかったわ」
……
…
憧「……はぁっ……はぁっ!ハルエ!宥姉は!?」
晴絵「憧!?みんなまで!」
玄「それで……お姉ちゃんは」
晴絵「……今は集中治療室よ」
晴絵「それより玄、お父さんはどうしたの」
玄「お父さんは……今出張で出かけてて、他のみんなも手が放せないほど忙しくて……」
晴絵「娘が倒れたのよ!?あなたのお父さんはなにやってるの!!」
望「晴絵、落ち着きなさい」
晴絵「……っ!くそっ」
穏乃「灼さんの所にも行ったんですか?」
晴絵「どういうこと?」
灼「さっき宥さんが恋人とボウリングしに来てた」
穏乃「私は憧の家にいて……そこに宥さんとその人が……」
菫「……」
玄(っ……この人……!)
晴絵「……あなた、弘世菫ね」
菫「……そうだが」
晴絵「ずっと宥と一緒にいたみたいだけど」
菫「……ああ、ずっと一緒にいた」
晴絵「宥が倒れてた時も一緒にいたのよね?」
菫「……」
菫「……」コクッ
菫「……」
菫「……わからないんだ、最初はあんなに元気だったのに」
菫「神社から移動中、急に倒れたんだ……」
晴絵「急に倒れた?」
菫「ああ……」
晴絵「……他に変わった事はなかった?」
菫「……」
菫「そういえば……顔が赤かったような」
玄「……!」
晴絵「顔?」
菫「あ、ああ……ボウリング終わった後、少し顔が赤かったんだ」
菫「本人はボウリングで疲れたと言っていたが……」
菫「神社から移動する時には、ボーッとしていて……顔も更に赤かった」
晴絵「それであの子、あんなに熱かったのね……」
「「!?」」
菫「ゆ、宥!?」
憧「宥姉!?」
晴絵「先生!宥の状態は!?」
「……率直に申し上げますと、我々の手には負えません」
「覚悟を……しておいてください」
穏乃「覚悟って……」
灼「つまり……もう長くないってこと」
憧「嘘……そんな……」
菫「っ……!!」ガシッ
菫「おい貴様!医者だろう!!なんとかならないのか!」
晴絵「お、おい!」
菫「なんとかするのがあんたらの仕事だろうが……!!」
憧「ちょっと!やめなってば!」
「……失礼します」
菫「そんな……嘘だろ……」
穏乃「宥さんは……このまま助からないの?」
灼「……」
晴絵「くそっ……!私達にはどうする事もできないのか!」
――無理だよ――
菫「……っ!?」
灼「どういうこと?」
玄「お姉ちゃんはもう助からないよ」
晴絵「……おい玄、どういうことだ」
玄「そのまんまの意味だよ」
玄「お姉ちゃんは助からない、もうすぐ死ぬ」
菫「……っ!!」
晴絵「……玄!!」
穏乃「のろ……い?」
憧「玄……何言ってるの?」
晴絵「”呪い”だと?そんなオカルト誰が信じるって言うんだ?」
玄「みんな不思議に思わなかったのかな、お姉ちゃんって異様に寒がりだよね」
玄「おかしいよね、普通夏場に長袖着てマフラーまでしないもん」
灼「それは……そういう体質の人も中にはいると思う」
玄「ありえない、ううん、ありえないよ」
玄「いくらそういう体質の人がいたとしても、限度があるよ」
玄「でもお姉ちゃんは特別、”呪い”を背負った人だから」
菫「お前……宥の何を知っている?」
菫「何?」
玄「弘世さん……だったよね、小さい頃に山で遭難した事ない?」(※当SSでの設定です)
菫「な……何故それを知っている」
菫「確かに私は、小さい頃に山で遭難し助けられた事がある」
菫「しかし、それが今回の件と何か関係があるのか?」
玄「……その時一緒に遭難したのは、弘世さん一人じゃないよね」
菫「……ッ……まさか、おまえ……」
玄「ううん、私じゃないよ」
――その時遭難したのは、弘世さんともう一人……私のお姉ちゃん――
菫「冗談はよしてくれ……だとしたらある意味すごい再会だな」
玄「冗談じゃないよ、と言っても私もつい最近知ったんだけどね」
玄「遭難した時、お姉ちゃんは弘世さんを助けるために”呪い”を負ったの」
菫「”呪い”を負った……?馬鹿な、何を言っている」
菫「大体、”呪い”なんて……―――」
――『早く逃げて』――
菫「……ッ」
玄「……思い出した?」
玄「そう……弘世さんとお姉ちゃんが遭難した時、お姉ちゃんは”傷”を負った」
玄「野犬から弘世さんを守る為に……」
菫「あ、あれは……でも野犬に噛まれただけだろう……」
菫「私達もすぐに発見されて、その子はすぐに病院へ連れていかれたはずだ」
玄「うん、治療も成功し命に別状はなかったよ」
玄「……ある病気を残して」
晴絵「病気……まさか」
菫「……それが、あの異様な寒がりなのか?」
玄「……」
玄「誰もが目を疑うくらいの厚着をして、男の子たちには虐められて」
玄「時には今回のように発作を起こして、病院に運ばれて……」
菫「……”呪い”」
玄「……」
ガチャ
「松実さんが目を覚ましました!!」
「「!?」」
菫「ゆ、宥!!」
菫「宥……!」
晴絵「宥!私が分かるか!?」
宥「……?赤土さん?それにみんな……」
憧「宥姉……よかったぁ」
灼「うん……」
玄「お姉ちゃん……」
宥「玄ちゃん……」
「失礼、親族の方は………」
玄「私です」
「親御さんは?」
玄「すぐには来られない状態なので……まだ」
晴絵「あの、私はこの子の部活の顧問です、私では」
「……わかりました、ではこちらに」
菫「わ、私も……!」
晴絵「駄目よ弘世さん、いくら貴方が宥の恋人と言っても」
玄「いいの、赤土さん」
晴絵「玄?」
玄「……弘世さんも知っておかなくちゃいけない事だから」
晴絵「……はぁ……わかった」
…
晴絵「見たこともないウイルス?」
「はい……このような事は初めてで……我々では対処できません」
晴絵「それなら……急いで専門の病院に見せた方が」
「……おそらく、その頃にはもう」
菫「そんな……」
「彼女がこうして目を覚ましたこと自体が奇跡なんです」
「彼女は精々持って……あと数日。いえ、明日かもしれない」
菫「……どうしようも出来ないのか!」
「……残念ながら」
菫「……っ――」
……
…
灼「……あ、ハルちゃん!」
憧「晴絵!玄!」
穏乃「宥さんは……!」
晴絵「……」フルフル
晴絵「精々持って数日……ヘタすりゃ明日かもしれないとさ……」
灼「そんな……」
憧「嘘……」
穏乃「……どうにか出来ないんですか?」
晴絵「……悔しい気持ちは私も一緒だ」
灼「……玄はそれでいいの?」
玄「……私達にはどうする事もできないよ」
玄(だからせめて……最期はお姉ちゃんの好きにさせてあげたい)
……
…
菫「……」
宥「……そう」
宥「私……もうすぐ死んじゃうんだね」
菫「……っ、まだ決まったわけじゃない」
菫「医者の言う事が全て正しいと決まったわけじゃない!」
菫「きっと、また奇跡だって!」
宥「……ありがとう、菫ちゃん」
菫「……ゆ……う……?」
宥「……いつか、こんな日が来るんじゃないかって思ってた」
菫「私のせいなのか……?」
菫「私があの時、宥に助けられたから……」
宥「……ううん、違うよ」
宥「菫ちゃんを助けたのは、私の意思だから」
宥「菫ちゃんのせいじゃないよ」
菫「でも!!」
菫「宥はそれでいいのか!?」
菫「もうすぐ死ぬかもしれないんだぞ!?」
宥「……」
宥「ねえ菫ちゃん、夜にまたここへ来てくれる?」
菫「えっ……」
菫「夜遅く……どうして?」
宥「それから…………」ヒソヒソ
菫「……」
菫「宥、一体何を」
宥「おねがい」
菫「……っ」
菫「……わかった」
宥「……それじゃあ私、少し眠るから」
菫「ああ、また後で……な、必ずだぞ」
宥「……うん」
………
……
…
……
………
『きゃあっ!な、なに!』
『犬……!っ……!あぶない!』
『き、きみ!!何してるの!!』
『早く逃げて!―――あああっ!!』
『……う……うああああああ!!』
『な……!?こ、この犬っ!!!』
『アア…‥ああああっ!!痛いっ……痛いよ!!』
『このっ!!あっちいけ!!』
『はぁっ……はぁっ……はぁっ……』
『やっと行った…………っ!?きみ!大丈夫!?』
『は……はっ……だ、大丈夫だよ……っ?った……』
『血がこんなに……!誰か!!早くたすけて!!!』
『助けて――――』
宥「……夢……」
宥「……懐かしい夢」
宥「思えば……あの時に菫ちゃんと会ってたんだね」
宥「なんだか……運命みたい」
カラカラ...
宥「……菫ちゃん?」
菫「……ああ」
宥「来てくれたんだね」
菫「……当たり前だろ」
宥「うん、じゃあ……行こうか……」ヨッ
菫「宥!?立っちゃ駄目だ、寝てないと!」
宥「いいの、行かせて」
菫「行くって……どこに……」
宥「……着いてきて」
菫「……ここは、川?」
宥「うん……最期に菫ちゃんと二人で見たかったから」
菫「……最期なんて言わないでくれ」
菫「私はこれからもずっと宥と一緒にいるつもりだ」
菫「だから……」
宥「……」
宥「ごめんね」
菫「宥……っ!」
宥「……」
宥「……ねえ菫ちゃん……私の最期のお願い聞いてくれる?」
――私を殺して……?――
菫「そんなこと……っ、そんなことできる訳ないだろう!!」
宥「……おねがい」
菫「……まさかその為に、私に”コレ”を持ってこさせたのか?」
宥「……」
宥「どうせ死ぬのなら……せめて菫ちゃんの手で……」
菫「……」
菫「……どうして、どうしてなんだ!」
菫「どうして愛する人を、殺さねばならんのだ!!」
菫「こんなにも好きで好きで堪らない恋人を、私に殺せだと?おかしいだろう!!」
宥「……」
宥「ごめんね」
菫「……っ……」
菫「……私が聞きたいのは、そんな言葉じゃない……」
宥「……」
宥「私、菫ちゃんと出会えて良かったよ」
菫「……」
宥「短い間だったけど、菫ちゃんと色んな事が出来て楽しかったよ」
菫「やめてくれ……」
宥「ううん、菫ちゃんだけじゃない。皆とも出会えて、とても楽しかった」
菫「やめてくれ」
宥「私、最高に楽しい人生だったよ」
菫「やめてくれ!!!」
宥「……」
菫「どうして……どうしてなんだ!!」
宥「……」
宥「……私はもう、明日まで生きられない」
宥「だから、最期は菫ちゃんの手で……私を」
菫「……そんなこと……っ」
宥「菫ちゃんは、私に深い”呪い”を負わせた」
宥「だから……今度は私が菫ちゃんに”呪い”を負わせる番」
菫「……卑怯だよ、宥」
宥「……ごめんね」
宥「だから、おねがい……」
菫「……」
宥「……菫ちゃん」
菫「……っ」
カチャ... ギギギ...
宥「菫ちゃん……」
菫「……っ!!」
――愛してる――
宥「っ……グァはぁっ!」ドサッ
菫「ゆ、宥!!」
宥「す……すみれちゃ……」
菫「宥!宥!!」
宥「あり……がと……う」
菫「っ!!」
宥「すみ……れちゃ……ん」
宥「きす……して……っ……?」
菫「っ宥……!」
―――んッ
菫「宥っ……?」
宥「……」
菫「……お、おい……宥?」
宥「……」
菫「……」
菫「……っ……――――!!!」
『うっあああああ……――――っ!!!』
……
…
菫「……」
菫「……これが……私の”呪い”なのか……宥」
菫「この”呪い”はあまりにも辛すぎるよ……」
菫「……宥を失った私に、生きる理由はもう無い」
菫「……宥……」
菫「私も今……そっちへ行くよ」
カチャ... ギギギ...
――殺し合う事もなかったけれど――
――こんなにも深く誰かを愛することを――
――知らずに生きたでしょう――
菫「宥……」
菫「大好き……だよ――」
――――タァン……
――愛する人を失った世界には どんな色の花が咲くのだろう――
カン
――幾度と無く開かれる 楽園への扉――
――第四の地平線――
作中での”呪い”や”傷”は、
宥の傷=野犬に噛まれた時、傷は癒える。
宥の呪い=傷によって出来た寒がり症、それによって長く生きられないこと。
菫の呪い=恋人を失い、殺めた罪という呪い。
という解釈をして頂ければ……
まさかこんな結末になるとは……。
Entry ⇒ 2012.11.02 | Category ⇒ 咲-Saki-SS | Comments (5) | Trackbacks (0)
菫「照……?それに……宥……?!」
どうしてあの2人が、玄関先で抱き合っていたのか。
全てが分からない。私への天罰というのか。
胸が苦しい。冷たい空気が肺へと突き刺さる。
巻いてきたマフラーがないことに気付いた。
季節は、冬。
プリンケーキという看板に惹かれて洋菓子店に入るべきではなかった。
買わなければよかった。持って行こうと思わなければよかった。
そんな結果ばかりが浮かんでくる。
しかし、悪いのは自分だとわかっている。
でも、どうして宥なのか。それが、分からない。
まさか菫が来るなんて。でもいいんだ、先に裏切ったのはあっち。
その相手が宥だっただけ。私は何も悪くない。
悪く、ないんだ……。
菫ちゃん……だったよね。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。
でも、ドアは閉めていってね。あったかくないよ。
戸を閉めようとして気付く。
「あっ」
「どうしたの?」
背を向けた照ちゃんが振り返って尋ねた。
「あのね……菫ちゃんがマフラー、忘れたみたいなの。だから私……あっ」
ぱっと手のマフラーを引き、
「私が行ってくる」
照ちゃんは家を出ていった。この家は私一人だけ。
宮永姓でない私だけ。
やはり肩が冷える。そもそも受験勉強で肩が凝り気味だったことを思い出す。
考えてみれば、こうして勉強をしているのも照と同じ大学へ行くためだったはず。
後悔しか浮かんでこない。溜息がまたひとつ。
時計に目をやると塾の時間が過ぎていることに気付いた。
サボることにしていたとはいえ、目的も果たせなかったのだから、帰らずに塾でも行けばいいのかもしれない。
そんなことを考えていたら笑えてきた。なんて私は滑稽なんだ。
自分勝手で自業自得。いいざまだ。
気付いたら宥カラマフラーを奪って、菫の家へと駆け出していた。
寒い。上着くらい羽織ってくればよかった。
でもどうせすぐに追いつく。とぼとぼ歩いているに決まっている。
手に持ったマフラーは暖かかった。
後ろから駆けてくる足音がした。側溝側に避ける。勝手にあっちも避けていくだろう。
「菫!」
振り向くと声の通り照がいた。
息を切らし、上着も着ずに、私のマフラーだけを持って。
白い息と赤い頬のコントラストがとても綺麗だった。
「……照」
「忘れたから」
そう言ってマフラーを差し出す。
「ありがとう」
それしか言えなかった。言いたいことが、言うべきことがあったはずなのに。
渡されたマフラーから目を離すと、もう照は背を向けていた。
それ以上言葉が出てこない。
「なに?」
足を止め、振り向かずに答えた。
私はもう顔を見られなかった。うつむいたまま言葉を継ぐ。
「その、ごめん……」
「なんで菫が謝るの?マフラーを届けに来ただけで」
「私が悪かった。ごめん」
「謝らないで」
そうして照は近づいて私の顎に触れた。
ビクッとして顔を上げると、そこには照の顔があった。
シチューの香りがした。
菫の目からは何の意志も感じられなかった。
とてもつまらない目をしていた。
やっぱりそういう謝罪なのだ。
とてもイライラした。キスをした。
「これで宥と間接キスだね」
嘘を吐いた。
キスをされた。何を言っているのか分からなかった。
『これで間接キスだね』
~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~
何を言っている?
照は何を言っているんだ?
照の言葉が頭をぐるぐる回る。
顎から手を離し、照は歩いて行った。
私はまだ混乱している。
「ただいま」
と、声がしたので玄関に出る。
「お帰りなさい。大丈夫だった?」
しかし、何も答えない。表情まで凍っているかのよう。
「シチューできてるよ」
照ちゃんがかけっぱなしだった鍋について訊く。
「ありがとう。夕飯にしよう」
少し柔らかく言ってくれた。あったかい。
私はあったかい照ちゃんが好き。
あったかい菫ちゃんも、好き。
「よくわかんない」
「きっと宥なら受かってるよ」
「だったらいいなぁ」
受験生らしい会話。
受ける前からほぼ受かっている照ちゃんと、AOをたまたま受けた私。
そして、照ちゃんと一緒にいようとする菫ちゃん。
私が悪かったのかな。
やっぱり飛び出したのはよくなかった。
帰り道で強く思った。宥1人にすべきでなかったと。
こうして夕飯を食べながらでも分かる。おかしい。
でも悪いのは彼女ではない。
悪いのは、菫と、嫉妬深い私だ。
「ただいま」
自宅の扉を開いて呟く。
すると、母がやってきて塾はどうしたなどと聞いてきたが、体調不良と応えておいた。
風邪に気をつけろという話を聞きながら、自室に戻る。
ベッドに寝転がる。制服の皺なんてどうでもよかった。
焦点の合わない目を天井に向けながら、唇に触れた。
感傷で温度が変わったりはしない。
いつも通りの私の唇だ。
初めては照だった唇だ。
きっと母が入れてくれたのだろう。靴下も脱がされていた。
時計を見ると、10時。4時間程寝ていたらしい。
携帯を見るとメールが入っていた。
『あったかい菫ちゃんが好きだよ』
彼女にまで心配をかけてしまった。
最低だ。
1時になって寝ることになった。
お客さんはベッドだからと照ちゃんは言ったけど、
寒そうだから一緒に寝よって言ったら認めてくれた。
照ちゃんも寒がりなのかな?
照ちゃんの体温を感じながら切り出す。
「菫ちゃんと私が出かけたこと知ってたの?」
照ちゃんは答えない。でもそれは肯定と一緒だ。
「あれは遊びに行っただけだよ」
それでも何も言ってくれない。
「菫ちゃんはね、照ちゃんが大好きなんだよ」
「……うん」
きっと諭されている。分かっている。宥はお姉ちゃんなのだ。
私と同じ。だから私だってそう言うと思う。
それでもやっぱり宥に嫉妬はある。宥が悪くないとわかっていても。
「私は、あったかい菫ちゃんとあったかい照ちゃんが好き」
宥はそういう人間なのだ。ずるい。だから嫉妬する。
「私と菫、どっちが好きなの?」
いじめたくて言ってしまった。
「今は……よくわかんない。でも、2人とも」
「いいよ、ごめん」
私は何と言って欲しかったんだろう。
私も、菫とこのままでいたいわけじゃない。
待つくらいの気持ちはある。
待っていた。朝の数時間なんて短いものだ。
それに照なら宥を送ってから来るだろう。
待つのは嫌いじゃない。
10分も待たずにやってきた。
「照、ちょっといいか」
「何か用?」
「後で時間をくれないか」
「わかった」
すぐに照は通りすぎていった。
隣には誰も居ない。
『もっと素直になった方がいいよ』
駅まで送って行ったら宥が言った。
それは菫にも言って欲しかった。
そんな風に思ったけど、菫が声をかけてきたのは宥から何かがあったのかもしれない。
しかし、訊いても否定するだろう。
菫が決めたことだと。
ここまでくると菫が羨ましく思えてくる。
来るとわかっていると待つのは楽しい。
いや、照の顔が見られると思うと嬉しいだけかもしれない。
「待った?」
照が足早にやってきた。
「私の勝手に付き合ってもらったから」
来てくれただけで十分だと思う。
約束を破るとは思っていなかったが、正直ほっとした所はある。
「言っておきたいことがあって」
「また謝るつもり?」
混乱していたとはいえ、ただ謝るだけだった昨日の私が悔しい。
「照、好きだ」
先に行っておくべき言葉はこれだった。
照はそう応えるだけだった。
認めてはくれた。否定することはなかった。
もう一方通行になってしまっていたとしても。
それでも、心のどこかで期待していた。
照にも同じだと言って欲しかった。
「キスして」
そう言ってみた。
「今日は菫からキスして。それいいよ」
いつもキスするのは私からだった。
初めての時も、2回目の時も、そして昨日も。
キスがしたかったわけじゃない。
でも、菫からして欲しくなった。
紅潮する頬。少し歪んでしまった口。閉じられた瞼。
どこにキスするつもりなんだろう。
そのまま行ったら鼻だ。
そうして唇が触れる。
あっ、と菫から息が漏れる。
目を開け、鼻にキスをしていたことに気付く。
飛び退いて、ごめんと謝る。
何だかおかしくなってキスをした。
困り顔の菫はいつも通り可愛かった。
新幹線はもう東京を過ぎた。
菫ちゃんと照ちゃんはどうしているだろう。
春にはまたあったかい2人と会いたい。
それが私の幸せ。きっと、そう。
しばらくして、照と過ごす時間が少し増えた。
コミュニケーション不足なんて陳腐な言葉を使う気にはなれないが、足りない部分は確かにあった。
元々私も口が上手な方じゃない。誤解を受けたのもそのせいだ。
また、ただ漫然と受験勉強をするより、時間を作っててると過ごす方がメリハリが付いていい。
後は私が合格するだけだ。
「おめでとう」
「おめでとう」
発表会場には照と宥がいた。
菫は驚きつつも礼を言う。
「これで一緒だな」
そういって、彼女は照を引き寄せるとキスをした。
「おめでとう」
宥がまた呟いた。
Entry ⇒ 2012.11.02 | Category ⇒ 咲-Saki-SS | Comments (0) | Trackbacks (0)
豊音「ハロウィンパーティー?」
塞「ほら、うちの学校ってエイちゃんみたいに交換留学生がいるでしょ?」
塞「だから国際交流の一環ってことでこの時期にハロウィンパーティーをするの」
胡桃「皆で仮装したり、お菓子を交換し合ったりで実際のハロウィンとはちょっと違うけどね!」
豊音「そんな行事があったんだねー」
豊音「最近カボチャとか置いてあったりしたから、ずっと不思議に思ってたよー」
胡桃「三年生にとっては最後のイベントだし、皆気合が入ってるんだよね!」
豊音「何だか私ワクワクしてきたよー」キラキラ
エイスリン「ワタシモ、タノシミ!」
エイスリン「コトシハ、ミンナデマワレルカラ、ウレシイ!」
白望「お菓子を貰えるのは楽だけど、仮装するのはダルいなぁ……」
豊音「シロ、去年のパーティーで何かあったのー?」
塞「あー、えっと、ね」
塞「去年はシロ、ダルいダルい言いながら仮装したんだけどね……」
胡桃「タキシード姿だったから皆に人気でもみくちゃにされたんだよ!」
エイスリン「!」 カキカキ バッ(人に群がられるタキシード姿のシロの絵)
豊音「アハハ、何それー!」
塞「胡桃と二人でシロを引きずり出して助けるのが大変で大変で……」
胡桃「お菓子はたくさん貰えたのは有難かったけどね!」
豊音「人気があるのも困りものなんだねー」
エイ豊胡「オー!」
白望(……ダル……)
豊音「どんな仮装しようか迷っちゃうよー」
塞「また胡桃は子供っぽい格好になっちゃうのかな」ケラケラ
胡桃「う、うるさいそこ!」ウガー
エイスリン「カソウ……!」 カキカキ...
塞「それじゃあ当日、会場の体育館の前に集合ってことで!」
胡桃「ごめんごめん!ちょっと着替えるのに手間取っちゃって!」
豊音「まだシロが来てないから大丈夫だよー」
塞「たぶん自力で来てくれるとは思うんだけどね………」
エイスリン「シロ、マイペース!」
胡桃「それにしても色々と仮装してきたね!エイちゃんなんか凄い気合い入ってるじゃん!」
エイスリン「フランケンシュタイン!ガンバッタ!」フンス
豊音「頭にペンが刺さってるように見えるとか、発想が面白いよー」
塞「まさか顔の縫合跡まで自分でペイントするとは思わなかったけどね…」
胡桃「えっ!?それペイントだったの!?」
豊音「そうだよー!……似合ってるかなー?」
エイスリン「very good ダヨ!」
胡桃「うん、凄い似合ってる!」
塞(高身長に白い肌、赤い目に黒い服………)
塞(よく考えると普段から吸血鬼みたいな格好してるんだよね……まぁ、それはおいとこう)
胡桃「塞は魔女なんだね!モノクルもしておけば雰囲気出たのに!」
塞「いや、それはそれでどうかと思うんだけど」
エイスリン「」カキカキ バッ(モノクルの絵)
塞「いや、頼まれても今はモノクル持ってきてないしなぁ……」
胡桃(......)
胡桃(魔女→老魔女→年寄り→おばーちゃん!)
胡桃「おばーちゃんだからだね!」
塞「誰がおばーちゃんだ」ゴッ
……
豊音「あ、シロが来たよー」
白望「…………ダル」ノソノソ
エイスリン「シロ、ハヤ……ク…?」
胡桃「ちょっとシロ!流石に遅すぎる……よ……?」
塞(えーと、白い耳に尻尾、首元に光る赤い首輪……)
胡塞(……猫!?しかも白猫!?)
胡桃「……念のため病院行く?」
豊音「シロが猫になってるからシロネコさんだねー!ちょーかわいーよー」
エイスリン「......!」カキカキ バッ
胡桃「おー、シロにそっくり!さすがエイちゃん!……じゃなくって!」
塞「どんな風の吹き回し?シロがそんな格好してくるなんてさ」
白望「これを付けるよう頼まれた……」
白望「付けるだけだったし、着替えるのはダルくない……」
胡桃「まぁ…シロらしいからいいんじゃない?」
豊音「それで誰から頼まれたのー?トシさんとかかなー?」
塞「いや、トシさんは流石に違うでしょ」
白望「…………」ウーン
白望「確か黒髪で長髪の子だった……」
塞胡((あぁ、あの娘か……))
塞「胡桃は……何で着物?えーと、座敷童子…で合ってる?」
胡桃「……い、いーでしょ別に、座敷童子だって妖怪なんだから!」
胡桃「私が魔女とか幽霊の衣装をしても、どーせちんちくりんだって言われるし」
胡桃「だったらいっその事自分に似合う方がまだいいかな、と思って……」
塞(それでも十分子供っぽさは抜けてないと思うけど)
白望(むしろ幼さを強調してるんだよなぁ……)
塞「まあ、ここでハロウィンをやる自体が和洋混在だし、良いんじゃないかな」
豊音「そうだよー、十分似合っててちょーかわいいよー!」
エイスリン「ニンギョウ、ミタイ!」
胡桃「……あ、ありがとっ」テレテレ
塞「何だか顔が赤くない?胡桃」ニヤニヤ
胡桃「う、うるさいそこっ!」
白望(胡桃、誉められ慣れてないからなぁ……)
豊音「盛り上がってるみたいでちょードキドキだよー」
......
ワイワイ ガヤガヤ
モブ「わー、姉帯さんきれーい!」ハイ、オカシ
モブ「吸血鬼かー、かっこいいねー!こう、貴族みたいな?」ハイ、オカシ
モブ「黒い服と白い肌のミスマッチだし!本物の吸血鬼みたいだし!」オカシダシ!
豊音「え、えへへー/// そんなに似合ってるかなー///」テレッ オカシダヨー
胡桃「豊音、凄い人気だねー」
塞「まあ女子であそこまで吸血鬼が似合う人もそんなにいないしね」
胡桃「ちょっ、な、なでるの禁止!」
エイスリン「」カキカキ バッ
モブ「エイスリンちゃん、ありがと~!この絵、大事にするねー」オレイノオカシ
………
塞(胡桃もエイちゃんも楽しめてるようで良かった、まあ私も楽しめてるから良いけど)
塞(さて、問題はシロの人気なんだけど……)
???「あああああぁぁぁぁぁぁん!小瀬川さぁぁぁんっ!」ダキッ
白望「!?」
塞「!?」
黒髪「このまま家に連れて帰りたいくらい!そして私が身の回りの世話を全部してあげるの!」
黒髪「ねえ、頭なでさせて!匂いクンカクンカさせて!耳ハムハムさせて!」
黒髪「あ、そういえばこれはハロウィンパーティーだったわね!ゴメンなさいね、テンション上がっちゃって!」
黒髪「とりあえずお菓子あげるから悪戯させて!ね、小瀬川さん!」ダッ
白望(………何かダルいことになっちゃったなぁ……)ハァ
黒髪「小瀬川さん小瀬川さん小瀬川さん小瀬川さん小瀬川さん小瀬川さん……」スリスリナデナデ
胡桃(きもちわるい……!)ドンビキ
豊音「な、何か分からないけどシロが攫われちゃったよー」アタフタ
エイスリン「!!!」カキカキ バッ(黒髪モブ子をドツいている絵)
塞「ちょっと待ってて、あの子物理的に塞いでくる」ダッ
???「ふー、やっと治まったかな?」
塞「ごめん、正直助かった。引き剥がすの手伝ってくれてありがとね」
着崩しモブ子「いえいえ、むしろお礼を言わなきゃいけないのはこっちの方だし」
着崩し「ゴメンね、二人とも。この子、小瀬川さんのこととなるとちょっと周りが見えなくなっちゃうのよ」
塞(これでちょっと!?)
着崩し「とりあえずお礼とお詫びを兼ねて、はいお菓子」
白望「ありがとう……」
白望「……でも、ダルいのは止めて欲しい……」
着崩し「あぁ、それは大丈夫」
着崩し「ちょーっと私が代わりに『イタズラ』しておいてあげるから」ニヤリ
塞「」
塞「正直今年もここまでお菓子が集まるとは思ってなかった……」ドッサリ
エイスリン「トヨネ、ニンキダッタ!」
豊音「あんなに誉められたの、生まれてきて始めてだよー」カンゲキ
豊音「エイスリンさんも、たくさんお菓子貰ってきたねー」
エイスリン「ミンナニ、エ、カイタ!」
エイスリン「オモイデノオスソワケ!ソレデモラッタ!」
胡桃「うぅ……下級生にまで頭なでなでされたっ……」
塞「ほら、愛らしさがあるってことで!私がたぶん一番この中だと平凡だし!」
豊音「あれ、そういえばシロはー?」
エイスリン「アソコデ、ダルクナッテル!」
白望「」グテー
胡桃「シロが寝そべってると、何か本物の猫みたいだね!」
豊音「シロに猫耳って本当ピッタリだねー」
塞(……シロの横にあるお菓子の山についてはツッこまないでおこう、うん)
豊音「ちょーたのしみだよー」
エイスリン「ブシツデ パーティー!」
白望「……お菓子を運ぶのダルい……」ドッサリ
~~部室~~
白望「!」ピキーン シュバッ
塞「わっ、シロどうしたのそんな急に動いてっ……こ、こたつ!?」
胡桃「あれは部の奥に封印しておいたはずなのに!?」
白望「着替えるときについでに出しといた……」グデーン
塞「あーもう!シロこれずっと出てこないじゃん」
白望「……猫はこたつで丸くなる……ダル……」
胡桃「ちょっと上手いこといってゴマかさない!」
エイスリン「シロ、オカシタベル?」ハイ、アーン
白望「ん」アーン
塞「……そうだね、せっかくのハロウィンなんだし、ウンザリするまで満喫しようか!」
胡桃「……ウンザリするまではちょっと勘弁かな」
塞「いや冷静に返さないでよ」
はしゃぎすぎだアラフォー
豊音「ハロウィンパーティー、ちょーたのしかったよー」
胡桃「途中トシさんも来たのには少し驚いたけどねっ」
塞「お菓子だけじゃなくて、カボチャのランタンも皆にくれたしねー」
豊音「こうやってランタンを吊るしながら歩くのも良いかなー、とかとか」
エイスリン「………………」
白望「…………どうしたの、エイスリン?」
塞「あれ?エイちゃん浮かない顔してるけど」
胡桃「もしかしてパーティーでホームシックになっちゃった?」
エイスリン「.........」カキカキ バッ
豊音「これは……飛行機と、エイスリンさん?」
胡桃「あー、エイちゃん来年には帰っちゃうもんね……」
エイスリン「キョウハタノシカッタケド、、ワタシ、モウスグミンナトハナレル……」
エイスリン「カエラナキャ、ダケド……ミンナトハナレタクナイヨ……」グスッ
胡塞「エイちゃん……」
豊音「エイスリンさん……」
塞「ちょ、シロ!?」
白望「……別に離れ離れになるだけで、一生会えない訳じゃない」
エイスリン「デモ、シロ……!」
白望「……塞は永水の薄墨さんと仲良くなったし、胡桃も姫松の人と意気投合した」
塞「(……!)……まぁねー、試合中はアレだったけど話してみると普通の子だったしね」
胡桃「こっちは試合中も普段もあの調子だったけどね!……楽しいけど」
白望「豊音も団体戦や個人戦で知り合った人たちと今でも連絡を取ってる」
豊音「皆と麻雀が打てて楽しかったし、友達も増えてちょーうれしいよー」
豊音「それに色んな人からサインも貰えたから感激だよー」
白望「……どんなに離れていても、一回出来た絆は早々消えない」
白望「日本とニュージーランドくらい離れてても、それは変わらない……と思う」
白望「……だったら、帰国しても私達はずっと『友達』なんじゃないかなぁ」
塞「それに私達のほうからニュージーランドを訪ねることだって出来るし」
豊音「あ、それナイスアイデアだねー!こっそり行ってサプライズっていうのも面白そうかもー」
白望「……ほら、皆だって考えてることは同じでしょ……?」
白望「だから泣かないで……それにまだ帰るまで四ヶ月もあるんだし」
白望「その間にもっともっと、忘れられないくらい思い出を作っていこう……」
白望「そうすれば、私達もエイスリンも、絶対に今年のことを忘れないから」
エイスリン「……ウン!」ゴシゴシ
エイスリン「クルミ、サエ、トヨネ、シロ!」
エイスリン「……ミンナ、ズットトモダチ!」
白望「………………」クテー
胡桃「ちょっとシロ、何で座り込んでるの!?」
エイスリン「シロ、ハヤク!」
白望「……喋りすぎてダルい、誰かおんぶして……」
塞「せっかくの感動が台無しじゃないそれ!?」
豊音「アハハ、じゃあ私が途中までおんぶしていくよー」ヨイショ
塞「あんまり甘やかすのも……まぁ、今日くらいは良しとしてあげますか」
……サエ、カボチャモッテ エ、ワタシ!? ソコ、オバーチャンニモタセナイ! ダレガオバーチャンダ! ギャー! アハハ
………
……
…
……
………
「何か色んな人からお菓子を貰ったんだけど……」
「そりゃ見た目小学生だし、ニュージーランドなら尚更でしょ」
「……お菓子は嬉しいけど、なんかフクザツ!」
「……まさか空港で年齢詐称を疑われるとは思わなかったなぁ」
「うるさいそこ!これでも少し身長伸びたんだからね!」ムキー
「もしもだけど、プリーズとフリーズを間違える、とかはないよねー?」
「……アメリカじゃないし大丈夫……だと思う」
「まぁ、エイちゃんが出てくれば大丈夫でしょ」
「それじゃ押すよー?」
ピンポーン…… パタパタ、ガチャ
エイスリン「Who's i……ミンナ!」
白胡塞豊「「「「トリックオアトリート(だよー)!!!!」」」」
カン!
とりあえずハロウィンである内に終えられてよかったです
短かったですが保守・支援ありがとうございました
乙!
宮守最高や
Entry ⇒ 2012.11.01 | Category ⇒ 咲-Saki-SS | Comments (0) | Trackbacks (0)
雅枝「エロゲしとる所を娘に見られてしもた……」
雅枝「……ふふ」
雅枝「かわええなぁ、やっぱ小さい子は最高やわ」
雅枝(……―――ハッ!誰か来る)カチカチッ
雅枝(ALT+TABで作業用のファイルと切り替えや!)ポチッ
コンコンッ ガチャ
絹恵「ご飯できたでー」
雅枝「おー、ご苦労さん」カチッ
絹恵「母ちゃん、家にまで帰ってきてお仕事?」
雅枝「まあなぁ、インハイが終わったとはいえ結構忙しいんやで」カチッ
絹恵「大変なんやなぁ……」
雅枝「ほな、メシにしよか」
絹恵「せやね」
咲「エロゲーって楽しいよね!」
http://ssweaver.com/blog-entry-1880.html
のスピンオフです。
時系列的には、洋榎ちゃんがエロゲバレして菫さんがまだチャットに居る頃のお話。
雅枝「はいはい」
絹恵「ほな、食べましょ」
「「いただきますー」」
洋榎「今日の夕飯は絹が作ったんよな?」
絹恵「せやでー」
洋榎「さすが絹やな、めっちゃ美味いで!」
絹恵「ほ、ほんまか!」
絹恵(お姉ちゃんに褒められた……めっちゃ嬉しいわ……///)
洋榎「さすがうちの妹やな!」
雅枝「アホ、うちのお陰や」
洋榎「でもほんま、美味いで絹」
洋榎「次も絹のメシが食べたいわ」
絹恵(お姉ちゃんがこんなにも喜んでくれとる……)
絹恵(ほんまに嬉しいわ……)
絹恵「あ、ありがと……」
絹恵「……お姉ちゃま///」
雅枝「ブゴォォッ!!」ブフォ
洋榎「ちょ、オカン汚っ!!」
洋榎「お、オカン……大丈夫か?」
雅枝「だ、大丈夫や……そ、それより」コホン
雅枝「絹」
絹恵「えっ、なに?母ちゃん」
雅枝「……」
雅枝「……う、うちのこと、”おかあたま”と呼んでみてくれへん?」
絹恵「……」
絹恵「……は?」
雅枝「えっ、あ、いやっ、これはやな……その」
雅枝「……ご、ごっそさん!」ガタッ
絹恵「あ、母ちゃん!?」
洋榎「お、おい!オカン――」
洋榎「――……て、行ってもうた」
洋榎「なんやったんや……」
絹恵「せやね……」
………
……
…
雅枝「……はぁ」
雅枝「うちは娘に何を言わせようとしてんのや……」
雅枝(親として色々と失格やろ……)
雅枝(……でも)
雅枝(一度でええから呼ばれてみたいわぁ~!!)
雅枝(何がええやろ、やっぱ”おかあたま”やろか!)
雅枝(いや、”おかあちゃま”も子供っぽくてええなぁ……!)
雅枝(あえて”かあさま”や”かあや”ってのも悪うないな……!)
雅枝「ふふっ……ふふふふふ……」
雅枝「ふ……ふ…………」
雅枝「はぁ……くだらん事考えとらんで、”はじめてのおやばん”でもやるとしよ……」カチカチッ
洋榎「ん?なんや電話鳴っとんで……」
洋榎「……誰も取らんのかいな」
洋榎「絹は風呂に入っとるやろし……オカンは何しとんのや」バタム
TELLLLLLLLLL TELLLLLLLLLLL
洋榎「ああもー!わぁったわぁった、出るっちゅーねん!」ガチャ
洋榎「はいー愛宕ですー……はい……はい、ほなお待ち頂けますかー」
洋榎「オカーン!電話やでー!」
洋榎「……」
洋榎「なんや、聞こえてへんのか?」
雅枝(でゅふふふ……!)
雅枝(最高や……やっぱ小さい子はええなぁ)
雅枝(裸でも子供やから恥ずかしくないもんな!!)
雅枝(うひょおお……!来るでー!えっちなこと来るでー!!)
洋榎「オカン、オカンに電話来とるでー」ガチャ
雅枝「えっ?」
『ふぁあっ……!純君っ……だ、だめだよおっ!』
『はぁっ……はぁあっ……国広君!!そろそろイクぞっ!』
洋榎「」
雅枝「」
雅枝「こ、これは……その、あれや!」
雅枝「うちの部員が如何わしいモン持っとったから、没収しただけや!」
雅枝「確認ついでに中身も見とっただけやねん、何もおかしい事なんてあらへん」
雅枝「せやろ!?」
洋榎「……」
洋榎「や、さすがにちょっとそれはキツい冗談やろ……」
雅枝「せ、せやろか……」
洋榎「せやろ」
雅枝「…………えと……」
洋榎「……とにかく電話来とるから、はよ」
雅枝「あ、ああ……」
……
…
雅枝「はい……はい、わざわざありがとうございますー」ガチャン
雅枝「……ふぅ」
洋榎「……」
雅枝「……」
洋榎「……オカン」
雅枝「……なんや」
洋榎「なんでオカンがエロゲーなんてしてるんや……」
洋榎「知っとったんかいな……」
雅枝「大体ヒロ、部屋に入る時はノックしろ言うたよな?」
雅枝「ノックしてへんやろ、悪いんはヒロやで」
洋榎「いや……確かにうちがノックせえへんかったのは悪いと思っとるけど……」
洋榎「そうとちゃうやろ……悪い悪くないの話やないでこれ」
洋榎「別にエロゲーするんはええと思うよ、うちもしとるし」
洋榎「せやけど……」
洋榎「ロリゲーはさすがにアカンとちゃうか……」
雅枝「……っ」
雅枝「き、絹っ……」
洋榎「絹……丁度ええわ、絹もこっちきい」
絹恵「?」
洋榎「絹、オカンはな……」
雅枝「なっ……ヒロ!おまっ!」
洋榎「エロゲーを‥…しとるみたいなんや」
絹恵「」
雅枝「き、絹……っ」
洋榎「それもただのエロゲーやない、ロリゲーや」
絹恵「ろ、ろりげい……」
絹恵(ロリゲーってなんやろ……エロゲーとはちゃうんか?)
洋榎「せやけど、ロリゲーはアカンと思うねん……」
雅枝「な……何がアカンねん」
洋榎「だってせやろ、高校生の娘がいるオカンがいい歳してロリゲーやで!?」
洋榎「人妻モノとか熟女モノとか、そういうのもさすがにあれやけど……それならまぁわかるわ」
洋榎「せやけどロリゲーはアカンやろ、どうみても○学生にしか見えへん奴ばっか出るやろ!」
絹恵「え……母ちゃん、○学生とかが好きなん……?」
雅枝「ちゃ、ちゃうねん絹、ホンマ誤解や」
洋榎「誤解もクソもあるか!普通やないで!」
雅枝「……は?」
洋榎「えっ」
雅枝「普通やないからうちがロリゲーやったらアカンの?」
洋榎「そ、そらアカンやろ……」
雅枝「こんのドアホォォ!!!」ガタァッ
絹恵「ひっっ」
雅枝「ロリゲーはアカン?何言うとんのや!」
雅枝「アカンのはあんたのしょぼくれた脳みそやないのか!!」
洋榎「オ、オカン……?」
雅枝「ああそうや!うちはロリゲーが大好きや!!」
雅枝「”牌少女”……”野外麻雀”……”ボクのメイドたいけん”……”赤土先生だーいすき”……”むすメンゼン”」
雅枝「どれも最高やないか!!」
洋榎(つか、今の作品名を知っとるうちも結構アカンとちゃうか……)
雅枝「ロリゲーをやった事もない連中がただひたすらにロリゲーを批判する」
雅枝「あまりにも幼すぎる容姿が大げさに叩かれ、メディアで無様に晒される」
雅枝「ロリゲーを持ってるだけであいつは犯罪者やと」
雅枝「何がアカンねん!!うちらは何も悪い事してへんやろ!!」
雅枝「ロリゲー言うても、見た目がちょっと子供っぽく見えるだけやないか!」
洋榎「せ、せやけど……いくらゲームて言うても子供のエロシーンはアカンやろ……」
雅枝「誰が子供や言うたんやタコォ!!」
雅枝「子供っぽく見えるから子供やと?ふざけんな!!」
雅枝「登場人物は全員18歳以上やろが!!」
洋榎「い、いや……さすがにどうみても18歳以上には見えへんやろ……」
雅枝「人を見た目で判断すんなやボケェ!!」
雅枝「世の中にはな、どうみても○学生なのに20代の子とか普通におんねん!」
雅枝「どうみても30近いのに17か18歳の子とかも普通におるんや!!」
雅枝「AVかて、大抵○学生モノっちゅーもんは30近いオバハンがやっとんねん!!」
洋榎(そんなんうちに言われても)
洋榎「や、誰も言ってへんけど」
雅枝「絹はどうなんや!?」
絹恵「え、う、うちぃ!?」
雅枝「絹もうちの事を変態ロリコン年増BBAと思っとるんか!?」
洋榎「や、だから誰もそこまで言ってへんがな」
絹恵「……え、えっと……その」
絹恵「うちは別に……母ちゃんの好きにしたらええと思うで」
雅枝「……」
雅枝「えっ?」
絹恵「たまたまえっちなゲームしとったからって」
絹恵「その人の事を全否定するのはおかしい」
絹恵「他人を嫌う前に、まず自分からその人の事を理解せなアカンて」
絹恵「人間誰にでも一つや二つ秘密がある」
絹恵「その秘密を知ってもうたからって、うちは母ちゃんの事を嫌いになったりはせんよ」
絹恵「ま、まあ……さすがに子供っぽい女の子ばっかり登場するゲームをやってたんは驚いたけど……」
絹恵「好きなものは好きだから、しゃあないよね」アハハ...
雅枝「絹……っ」
絹恵「ええもなにも、母ちゃんの趣味にうちらが首突っ込むのとちゃうやろ」
洋榎「そういう問題なんか……?」
絹恵「お姉ちゃんも他人にエロゲーを全否定されたらどう思う?」
洋榎「……」
洋榎「ま……まあ……イラッとは来るかもしれへんな」
絹恵「せやろ」
絹恵「なにもかも否定する前に、まずはうちらがオカンの事を理解してあげなアカン」
絹恵「そうやとちゃう?」
洋榎「……」
雅枝「え?」
洋榎「うちが間違うてた……なんて言うつもりはあらへんけど」
洋榎「ロリゲーも立派なエロゲーや、それを否定してしもたら自分を否定してまう事になるからな」
洋榎「だからオカンの事、認めるわ」
雅枝「ヒロ……」
絹恵「……うん、これでこの話はおしまいや!」
絹恵「ほら、お姉ちゃん。風呂上がったからはよ入ってき」
洋榎「お、おおう……」トコトコ
雅枝「……」
絹恵「……」
雅枝「ありがとうな、絹」
絹恵「母ちゃんが以前言ったことをそのまま言っただけやから」
雅枝「絹……」
ぎゅっ
絹恵「……?母ちゃん?」
雅枝「ホントに……ありがとうな」
雅枝「絹が娘でホントに良かったわ」
絹恵「……んもう」ギュッ
雅枝「……」スンスン
雅枝(風呂から上がったばかりなせいやろか、めっちゃいい匂いするな……)
雅枝(胸も随分と大きくなったし……腰つきも細いし……)
絹恵「……」
絹恵「母ちゃん、なんかヘンな事考えておらへんか?」
雅枝「ふぁっ!?」
絹恵「いくら小さい子が好き言うても、うちはもう高校2年生やで?」
雅枝「な、何を言うとるんや!うちかて娘に邪な事を考えたりせぇへんわ!!」
雅枝(ちょっと考えたけどな!!)
絹恵「ホンマかいな……まあええけど」
絹恵「母ちゃんも程々にな」
雅枝「あ、ああ……」
雅枝「……」
雅枝「……ふぉ……ふぉおおお……」
雅枝(フォオオオオオオーーーーーッ!!!)
雅枝(絹ちゃんまじ天使!!きゅいんきゅいんっきゅっきゅいーーーーんん!!ぺろぺろぺろぺろ!!)
雅枝(娘最高や!!まじで!!ほんまに!!イヤッホオオオオオゥゥゥ!絹ちゃん最高ーーーっ!!)
雅枝(ロリもええけど、娘の破壊力はやっぱたまらんな!!)
雅枝(今日は絹ニーで決まりやな!はい決定!超決定!!)
雅枝(そうと決まれば早速、今まで撮り続けてきたアルバム全38巻を引っ張りださな!!)
………
……
…
――とあるネット掲示板で知り合った数人の猛者達が――
――互いに集い語り合う 淑女達のグループチャットである――
ひろぽん:おるかーー?
かじゅ:えっ?
ひろぽん:よーし、おるな!
トキ:ここやで (トントンッ
ピカリン: 西 濃 は 神
魔法少女すみれ:もう何も言うまい
巫女みこカスミン:今日はどうしたのかしら?
ひろぽん:いや、それがな……聞いてくれへんか
ひろぽん:実はな、オカンがロリゲーやっとったんや……
かじゅ:ロリゲー?
トキ:ロリゲーってあれやろ、”はじおや”とかそういうの
魔法少女すみれ:はじおや……”はじめてのおやばん”だっけか
トキ:小さい子供がはじめての親番で絞り取られるまくるっちゅーあれや
ピカリン:わかってるくせに
かじゅ:実際にやったことはないが、名前くらいは聞いたことがあるな
巫女みこカスミン:で、その神ゲーをお母様がやってらしたの?
ピカリン:誰も神ゲーなんて言ってないと思う
巫女みこカスミン:は?(怒)
ひろぽん:まぁその通りや、部屋に入ったらやってる所を見てしもた……
かじゅ:親がエロゲー……それもロリゲーをやってるとはな……
魔法少女すみれ:なんとも言えない気持ちになるな
トキ:ちゅーか、ひろぽん家すごすぎやろ
トキ:自分もエロゲーマーで妹はギャルゲーマーでオカンもエロゲーマーとかどんだけやねん
ピカリン:エロゲーマーの家系か
怜ちゃんが監督と会った時の心境はどんなんやったんやろか
そういやそうやったな…
ひろぽん:うちも今でこそは納得しとるけど
魔法少女すみれ:まぁそうだろうな
かじゅ:普通のエロゲーですら親がやっていたら誰だって驚くさ
巫女みこカスミン:そうかしら、私は別にいいと思うわ
トキ:カスミンはロリゲーマーやからそう言えるんやろ……
ピカリン:私も妹がエロゲーやってたら驚く、歓喜の意味で
魔法少女すみれ:誰も妹の話はしてない
ひろぽん:やっぱ皆もそう思うやろ
トキ:私は別にええと思うけどな
かじゅ:ほう?
トキ:人が何を趣味にしとったって別にええと思わへん?
魔法少女すみれ:そりゃあ…‥そうかもしれないが
かじゅ:でもロリゲーだぞ?
トキ:ロリゲーでもエロゲーでも一緒や
トキ:そりゃリアルで幼女にエロい事したりするのはアカンけども
トキ:ゲームでくらい好きにやったってええと思うで
巫女みこカスミン:私もそう思います
巫女みこカスミン:他人に迷惑をかけるのは勿論いけない事ですけど
巫女みこカスミン:別にエロゲーが趣味なくらいいいのではないでしょうか
魔法少女すみれ:ふむ……
ひろぽん:今ではオカンがロリゲーやってても別にええと思っとるんや
ひろぽん:なんちゅーか、オカンがロリゲーをやっているのを否定してしもたら
ひろぽん:自分自身まで否定してしまう事になるやろ
かじゅ:なるほどな
魔法少女すみれ:自分自身を否定する事になる……か
トキ:ロリゲーもエロゲーもジャンルは違えど同じエロゲーやからな
トキ:それを否定してしもたら、エロゲー全般を
トキ:そしてエロゲーをやっとる自分まで否定してしまう事になるっちゅー事や
ひろぽん:そういうことやな
巫女みこカスミン:私達って、結局どこまで行っても表には出ることの出来ない存在だと思うの
巫女みこカスミン:表に出られない私達を自ら否定してしまったら
巫女みこカスミン:それこそ、私達の居場所がなくなってしまうわ
魔法少女すみれ:……
かじゅ:結局、私達はどこまで行ってもエロゲーマーなんだ
かじゅ:エロゲーマーがエロゲーを否定する事など、無意味なことに過ぎないのかもな
トキ:なんかかっこいい事言っとる
ピカリン:\キャーカジュサーン/
かじゅ:う、うるさい!
………
……
…
洋榎「結局のところ、うちらはエロゲーマーなんや」
洋榎「いや、うちだけやない、オカンも……他の皆もそうなんや」
洋榎(……でもよう考えたら、むしろうちって恵まれてる方なんとちゃう?)
洋榎(親がエロゲーしとるってことは、エロゲーに理解があるっちゅーことやろ?)
洋榎(普通は娘がエロゲーしとったら、親はええ顔せえへんもんな……)
洋榎(うちかて、オカンにエロゲーを全否定されたら流石にヘコむわ)
洋榎(……)
洋榎(オカンも……うちに否定されてヘコんでたりするんやろか)
洋榎(結構キツい事言ってしもたしなぁ……)
洋榎(やっぱもう一度ちゃんと謝った方がええかもしれん……)
雅枝「幼稚園児の絹はめっちゃちっこくてかわええなぁ」
雅枝「お、こっちは音楽祭の奴やな、他の子とは比べ物にならんくらいめっちゃかわええで」
雅枝「んひょお!これは家族でプールに行った時のやつや!」
雅枝「子供用水着って露出も少ないのになんでこんなに反則的な可愛さなんやろか……」
雅枝「アカン、どれも素晴らしすぎて決められへん……」
雅枝「……しゃあない、今日はこれでスるとしよか……」ヌギヌギ
雅枝「おぉっと……ついでヘッドホンもして”むすメンゼン”のエロシーンも起動しておかな」カチカチッ
洋榎「オカーン、おるかー」
洋榎「……」
洋榎「……?おらんのかいな?」
コンコンッ
洋榎「……」
洋榎「オカン、入るでー?」ガチャ
『お母様ぁっ!わ、わたしもうだめだよおおっ!』
『ええよ!穏乃っ!もっと気持ちよくしたるからなぁっ!』
雅枝「絹―――っ……!……?!ひ、ヒロ!?」グショ
洋榎「」
雅枝「」
つづカン
エロゲバレなど序章に過ぎなかったかぁ
楽しみにしてる
Entry ⇒ 2012.11.01 | Category ⇒ 咲-Saki-SS | Comments (3) | Trackbacks (0)
白望「王様ゲーム?」
豊音「そうだよー」
白望「パス。ダルい」
塞「まあまあ、そう言わないでさ」
エイスリン「オウサマゲーム?」
胡桃「あ、エイちゃんは知らないんだ。王様ゲームっていうのは……」カクカクシカジカ
エイスリン「ホウ!」
エイスリン カキカキ
エイスリン「……シロ!」バッ!
白望「やりたいって?……しょうがないなぁ」
王様:>>11
5人以外を出されても困るので、断らない限りキャラは安価先のコンマ一桁目で判定します
被りとかは安価下で
0,1 白望 2.3 エイスリン 4,5 胡桃 6,7 塞 8,9 豊音
塞「ぬぎゃー、取れなかったかー」
胡桃「くっ」
白望(トヨネなら変な命令は……出さないよなぁ……?)
豊音「それじゃあ、>>15に>>16してもらおうかなー!」
>>16には命令をお願いしますー
豊音「そうだよー。きてきて!」ヒザポン
胡桃「じゃあ遠慮なく」ポスン
胡桃「充電充電!」
豊音「胡桃ちゃんあったかいよー」
胡桃(……胸が頭に乗るってどういうこと……!?)
塞「……完全に親子にしか見えないわあれ」
エイスリン「クルミカワイイ!」
白望(平和な命令でよかった……)
王様:>>24
塞「今度はシロが王様かー」
豊音「ちょーたのしみだよー」
白望「ん……じゃあ>>29に>>30してもらう」
安価なら対戦相手で気になった人のどんなところが気になったか告白
胡桃「えっ」
エイスリン「エッ」
豊音「えっ」
ALL「「「「えええええええええええっ!!!?」」」」
塞「シ、シロがそんな命令出すなんて……!?」
胡桃「予想外にもほどがあるよっ!」
エイスリン「デ、ダレガ……!?」
豊音「あ、わ、私だよー///」
豊音「う、うん///」
白望「そっか。じゃあ軽めにしよう」
白望(実は私も初めてだけど……)
白望「少しかがんで……」チュッ
豊音「んっ……///」
白望「……こんな感じかな」
豊音(わ、わー///)ドキドキ
エイスリン(oh……)ドキドキ
塞(うわわわわわ!?)ドキドキ
胡桃(本当にキスしたー!?)ドキドキ
王様:>>37
塞(次はどんな命令が来るんだろ……予測できない……)
豊音 ///
胡桃「トヨネはいつまで照れてるの!」
豊音「だ、だってファーストキスだったから///」モジモジ
白望「じゃあ>>40に>>41でもしてもらおうかな」
はいてない世界じゃないならスカートではなく下着脱ぐ
白望「マジ」
エイスリン「シロェ……」
豊音(シロを見る目が変わっちゃいそうだよー……)
胡桃「で、誰が脱ぐの……って、わ、私じゃん!?」
白望「胡桃になったかー」
胡桃「で、でも恥ずかしいし///」
白望「裸の付き合いは済ませた仲でしょ」
胡桃「お風呂でしょそれ!?」
白望「はやく」
胡桃「う、うぅ~」
胡桃「あーっ!ぬ、脱げばいいんでしょ脱げばっ!」バッ
胡桃「ほら脱いだよ!文句ある!?」
白望「ないよ、次行こう」
胡桃「……そこまでノーリアクションだとさすがに傷つくんだけど」
王様>>50
塞「胡桃の命令は普通だよね!信じてるよ!」
白望「普通の命令だとデンジャラス不足じゃない?」
塞「シロは黙ってて」
胡桃「じゃあ、>>53は>>54するっ!」
豊音「一安心だよー」
白望「デンジャラス不足……」
塞「で、誰が肩車するの?」
エイスリン「ワタシデス」
胡桃「じゃあエイちゃん、頭下げて」
エイスリン「リョウカイデス!」
胡桃「おー、高い高い!」
エイスリン「ハシッテミタリ!」
胡桃「ちょ、怖い怖い!エイちゃん怖い!」
塞「……どう見る、シロ?」
白望「久しぶりに親戚に会ってはしゃぐ子供」
塞「そんな感じか……」
白望「でも、トヨネじゃなくてよかったね」
豊音「え、なんでー?」
白望「トヨネだと天井にぶつかってたでしょ」
塞「あー、確かに」
王様:>>60
塞(これで王様してないの私だけか……)ズーン
塞(というか、命令すらされてない!?)
胡桃(エイちゃんの命令って、一番読めないよっ)
エイスリン「デハ、>>64に>>65シテモライマス!」
胡桃「あー、エイちゃんはそっち側だったかー」
白望「いいね、中々デンジャラス」
エイスリン「ワタシガチョコノホウ!」
エイスリン「サエ、カモン!」
塞「あわわわわわわわ///」
塞(え、エイスリンはやっ!?)ポリ…
エイスリン ポリポリポリポリ
白望「エイスリン選手果敢に攻めるー。塞選手は硬直気味ですねー。どう見ますか胡桃プロ?」
胡桃「誰がプロか!?私に振らないでよっ///」
豊音「見てるだけでドキドキするよー///」
次レスのコンマが偶数でポッキーゲーム成功、奇数で失敗
塞(うわわー!?)
エイスリン チュッ
塞 チュッ
白望「エイスリン選手行ったー。これは文句なし。いかがでしたか胡桃プロ?」
胡桃「だから私に振らないでよっ!?」
豊音「わぁー///」カァァ
エイスリン「エヘヘ」///
塞 ポケー
王様:>>76
塞「ここまで半分がシロとか……」
白望「王様の資質があるのかも」
胡桃「鬼畜王シロか……」
白望「じゃあ>>80に>>81してもらう」
白望「塞は中学生のときによく考えてたよね」
塞「な、なんで知ってるの!?///」
白望「国語のノートに書いてたでしょ。確か内容は……」
塞「わーっ!わーっ!」
胡桃「……で、誰が朗読するの?」
エイスリン「ワ、ワタシジャナイデスヨ!?」
豊音「私だよー」グスン
豊音「そ、それじゃあいくよー」
.r⌒ヽ /⌒ヽ
. / .\ / .i |
| \ \/| | 錆びつけば 二度と突き立てられず
._______ | .| ヽ ヽ_| .|
|. | | .ノ /\ ヽ 掴み損なえば我が身を裂く
|. | | / (__/ .\ i
|. /_) ̄ ̄ ̄ヽ) .| そう誇りとは
|________(___/ / |
\ / ./ / 刃に似ている
\__(⌒ヽ| /
 ̄ ̄ \ ''ー― ノ_____/
' 'ー――-'´
胡桃「ぶふぅっ!」
白望「く、胡桃、笑っちゃダメだよくふふっ!」
胡桃「シロもでしょぶふふっ!」
塞(トヨネのこと笑えないんだよなぁ……)
エイスリン「? ? ?」
王様:>>88
塞(また私じゃないなんて……)ズズーン
白望「デンジャラスな命令よろしくー」
豊音「ふ、普通の命令でいいよー!」
胡桃「じゃあ>>91に>>92してもらうよっ!」
>>1のでもいいよ(ニッコリ
胡桃「ちょっとはっちゃけたくなったのっ!」
豊音「い、痛いのはやだよー」
白望「誰がビンタするの……?」
エイスリン「ワタシデス!」
塞「どこで覚えてくるのそういう言葉……?」
エイスリン「トヨネ!」バチン!
豊音「い、痛いよー!」グスン
エイスリン「サエ!」バチン!
塞「いたぁ!?何でそんなに全力なの!?」
エイスリン「クルミ!」バチン!
胡桃「つぅ……いいビンタだよエイちゃんっ……!」
エイスリン「シロ!」バチン!
白望「……ナイスビンタ」
エイスリン「スッキリ!」
白望(色々溜まってたのかなぁ……)
王様:>>99
塞「シロだったのか」
白望「また引けなかったな」
塞「全くダメだったぞ」
白望「暇を持て余した」
塞「王様の」
白望・塞「あ・そ・び」
胡桃「何言ってんだこいつら……」
白望「じゃあ>>103に>>104してもらう」
白望「たまたま。はい、塞。着て」
塞「な、なんで私だってわかったの!?」
白望「今日はそういう流れだから」
塞「わーん厄日だー!!」
豊音「が、頑張ってー!メゲないでー!」
エイスリン「フムフムフムフムナルホドナルホドー」
白望「痴女がいるね胡桃」
胡桃「困ったもんだねシロ」
塞「シロの命令でしょぉ!?」
塞「ぐすん……」
豊音「塞、元気出して」
塞「トヨネ……」
豊音「今日はそういう日らしいから仕方ないよ」ニッコリ
塞「ちくしょー!」
王様:>>111
塞「知るかよもー勝手にしろ」
胡桃「塞がグレた……」
豊音「私でもグレると思うよー……」
白望「んー、>>115に>>116してもらおうかな」
白望「どちらかというと揉まれてるところを見たい」
胡桃「そっか……」
白望「んで、誰が……」
エイスリン「ハイ!ハイ!ワタシデス!」
塞「誰でもいーからはやくしろよ」
豊音「さ、塞、落ち着いてー」
白望「どうぞ」
エイスリン「エヘヘ」モミモミ
白望「んっ……」
エイスリン「ツギサエ!」
塞「さっさとして」
エイスリン「ハ、ハイ」モミモミ
塞「ひゃ……」
エイスリン「トヨネ!」
豊音「や、やさしくしてねー///」
エイスリン「ドリョクシマス!」モミモミ
豊音「はふぅ……」
胡桃「酷くない!?」
エイスリン「ハイハイ」モミモミ
胡桃「釈然としない……」
王様:>>124
塞「ケッ」
豊音「さ、塞ー……」
エイスリン(サエコワイ……)
エイスリン「デ、デハ、>>127ガ>>128スル!」
白望「……正直ここまでエグいのくるとは思わなかった」
豊音「わ、私やだよー!?」
胡桃「あ、トヨネなんだ」
エイスリン「トヨネ、ダイジョウブ!」
豊音「な、なにがー?」
エイスリン「ブロンドナカマニナレル!」
豊音「わけわかんないよー!?」
塞「さすがに同情するわ……」
エイスリン(実は洗えば落ちるんだけどねー)
豊音「こんな髪で帰ったら怒られちゃうよー……」
白望「……今日はうちに泊まっても良いよ」
豊音「ほ、ほんとに!?」
白望「うん、それじゃ帰れないでしょ……」
豊音「ありがとうシロー!」ダキッ
白望「ちょ、おもっ……ぷぎゅる」
胡桃「あ、シロ死んだ」
はっちゃん巫女服の塞
折り紙金髪の豊音
カオスになってきたな…
王様:>>137
気にしない気にしない
白望「んー、エイスリンの流れになってきたかな?」
胡桃「……なんかこの二人だけ無傷じゃない?」
豊音「本当だー」
塞「悪運の強いやつら……」
エイスリン「ジャア、>>143ハ>>144シテ!」
エイスリン「キンパツハヤリスギマシタ。ハンセイ」
胡桃「わかった。ちょっと待っててね」
胡桃「買ってきたよ」
エイスリン「ゴクロウ」
エイスリン「ウマイウマイ」モグモグ
胡桃「うん?」
白望「今、履いてないよね」
胡桃「え?」
胡桃「…………………………」
白望「…………………………」
胡桃「ちょっと首吊ってくるね」
豊音「だ、ダメだよ胡桃ー!!」
王様:>>152
エイスリン「ジャアクナフンイキヲカンジマス」
白望「そりゃそうだ」
塞(私ってまだマシなほうなのかも……?)
胡桃「じゃあ>>156は>>157してね」
胡桃「あ、シロなんだぁ?クスクス、もうあんたの時代は終わったんだね」
白望「んー、これは参ったなぁ」
豊音「し、シロの好きな人ってー?///」
白望「……>>162」
キャラの名前お願いします。キャラの名前が書いてない場合はコンマで判定します
コンマ判定がシロの場合は安価下
普通にコンマでお願いします
白望「うん……豊音」グイッ
豊音「わ、わ、わ、わ///」
白望「好きだよ……」(なんかすごく扇情的なポーズ(丸投げである))
豊音「シ、シロ……///」
エイスリン「イイハナシダナー」
胡桃「ちっ!罰ゲームになってないじゃん!」
塞「でも、あくまで"この中"での話だから、シロの好きな人がトヨネと決まったわけじゃないんだよね」
エイスリン「サエクウキヨメヤ」
塞「ええっ!?」
王様:>>170
胡桃「くっ」
塞「どこまで好き勝手すれば気が済むんだ……!」
白望「じゃあ、>>176に>>178してもらおうか」
塞「シロの命令にしては平和だね」
胡桃「正直安心したよ」
豊音「あ、わ、私だ///」
白望「では申告どうぞ」
豊音「えっと、93/66/93のCカップです///」
白望「そっか。今度一緒に下着見に行こう」
豊音「ええっ!?」
王様:>>184
胡桃「それは結構なことで」
塞「またかよクソッ!」
豊音「さ、塞……」
白望「うーん、>>188に>>189してもらおうかな」
塞「いやいやそんなオカルト……」
豊音「あ、本当だ、私だよー」
塞「ありえた!?」
エイスリン「スゲー……」
胡桃「どうなってるんだ……」
豊音「気持ち良い?」
白望「うん、気持ち良いよ」
豊音「そっか、よかったー」
胡桃「罰ゲームとはなんだったのか」
塞「知るかよもう」
エイスリン「ゲンキダシテサエ……」
塞「同情するなら私を王様にして!」
胡桃(切実すぎてきもちわるい!)
王様:>>196
塞 ツネリ
塞「……いたい。夢じゃない」
塞「っしゃああああああああああああああああっ!!!王様だあああああああああああああああ!!」
白望「よろこびすぎでしょ……」
豊音「まあ、あれだけ我慢してきたわけだからー……」
塞「じゃあ!>>201に!>>202してもらうよ!!」
塞「さあ!はやく!誰か知らないけどはやく全裸に!」
胡桃「こんなにも鬱憤が溜まってたんだね……」
エイスリン カキカキ
白望「ん?……ツキに見放されたギャンブラーの末路?」
エイスリン「ウン」
塞「さあ!誰が全裸になるの!?」
白望「私じゃないよ」
エイスリン「ワタシデモナイデス」
胡桃「私も違うよ」
塞「えっ、ということは……」
豊音「ぐすっ、塞、ひどいよー」
豊音「ううん、いいよ、王様の命令だもんね……」スルスル
塞「ト、トヨネ……ごくり」
豊音「ぬ、脱いだよ。これでいいんだよね?///」
塞「う、うん///」
白望「眼福」
胡桃「眼福」
エイスリン「ガンプク」
塞「あ、もうこんな時間なんだ……」
白望「行こう、トヨネ」
豊音「うん、シロ」
塞「……あの二人、明日の朝までには一線越えてたりしてね」
胡桃「普通にありうるからやめて」
エイスリン「ワタシタチモカエロウ」
塞「そだね」
白望「王様だーれだ……私か」
塞「またァ!?」
白望「じゃあ3番の人は王様にキスして」
豊音「はーい!」チュッ
エイスリン「バカップル!」
胡桃「砂糖吐きそう!」
豊音「王様ゲームちょーたのしいよー」
おわり
豊音→胡桃(豊音の上で充電)
白望→豊音(ちゅう)
白望→胡桃(スカートを脱ぐ)
胡桃→エイスリン(肩車)
エイスリン→塞(ポッキーゲーム)
白望→豊音(恥ずかしい自作ポエムを朗読)
胡桃→エイスリン(全員にビンタ)
白望→塞(たまたま用意してあった初っちゃんの服に着替える)
白望→エイスリン(全員のおもちを揉む)
エイスリン→豊音(髪の毛を折り紙みたいな色の金色に染め上げる)
エイスリン→胡桃(ファミチキ買って来る)
胡桃→白望(この中にいる一番好きな人に自分が思うもっとも扇情的なポーズをする)
白望→豊音(3サイズとカップ数を自己申告)
白望→豊音(膝枕)
塞→豊音(全裸)
白望7、1 エイスリン3、3 胡桃3、3 塞1、2 豊音1、6
おつかれさまでした
シロが強すぎてやばい
流石宮守の中心
Entry ⇒ 2012.10.31 | Category ⇒ 咲-Saki-SS | Comments (0) | Trackbacks (0)
憧「コミック百合娘を読んでたらシズに見られた……」
憧「……」ペラッ
憧「……」ペラッ
憧「んふふふ」
憧(やっぱ”永水の巫女”はいいわよねー!)
憧(神代小蒔と石戸霞の二人が、雀神スコヤとその下僕に狙われて……)
憧(共に戦っているうちに愛が芽生える話……素敵よねー)
穏乃「憧ー!何読んでるのーっ?」
憧「えっ!?シズ!?」
『小蒔ちゃん……私……貴方の事が好きよ』
『霞ちゃん……嬉しい……』
穏乃「……な、なにこれっ!?女の子が抱き合ってる……っ」///
憧「」
憧「ち、違うのシズ……」
穏乃「え、えっと……!」
穏乃「……あ、憧も女の子だから!」
穏乃「そういうのに興味持ってても……おかしくないよね……ハハハ」
憧「し、シズっ……!」
穏乃「ご、ごめん憧!読書の邪魔しちゃ悪いよね、先帰るよ」
憧「ま、待ってシズ!」
憧「……」
憧(あれって完全に引いてたよね……)
憧(……)
憧(……え、それって)
憧(シズが私の事を嫌いになっちゃうってこと……?)
憧(……)
憧(嫌だ……)
憧(嫌だよそんなの……)
憧(シズに嫌われたくなんかないよっ……)
憧「……はぁ」
憧(明日からどんな顔をしてシズを会えばいいんだろ……)
憧(……シズ、私から避けるように帰ったよね……)
憧(……やっぱりおかしいのかな、女の子同士の恋愛って……)
憧(……)
憧(ううん、そんなことない!)
憧(たまたま好きになったのが同姓なだけだもん)
憧(何もおかしいことなんて無いよね)
憧(シズだってちゃんと話せば分かってくれるはず!)
憧(大丈夫だよね)
憧「あ、シズ!おはよー!」
穏乃「あ、憧っ……!?お、おはよう」
憧「おはよーって、どうしたの?」
穏乃「へっ!?な、なんでもないよ!」
憧「ふーん、そう?」
穏乃「う、うん……」
憧「……」
穏乃「……」
憧「……」
憧(す、すごい気まずいんだけど)
憧「ね、ねぇシズ」
穏乃「ご、ごめん憧!私日直なんだ!」
憧「えっ?」
穏乃「だから先急ぐね!」
憧「え、ちょっ、シズ!?」
憧「……」
憧(シズ……)
憧「……」
憧「はぁ……」
憧(結局、話す機会が無いまま放課後になっちゃった……)
憧(休み時間に話そうと思ったら、どっか行っちゃうし)
憧(ホームルームが終わったと思ったら、既にいなくなってるし)
憧(もしかしたらと思って部室に来てみたらまだ来てないし……)
憧(やっぱりシズ……あたしの事を避けてるのかな……)
憧(……)
憧「はぁ……」
憧「あれ……」
憧「コミック百合娘……なんでこんな所に」
憧(……あたし持って帰るの忘れてたっけ?)
憧(ううん、あたしはちゃんと持って帰ったし……)
憧(じゃあ誰のだろ……)
ギィイ……
憧「!?だ、誰!?」
灼「……」
憧「灼さん?」
灼「……見た?」
灼「その本」
憧「えっと……」
憧「見たって言えば……見たけど」
憧(昨日自分で買って読んだし)
灼「……そう」
灼「その本、私のだから。返して」
憧「えっ、この本灼さんのだったの?」
灼「……悪い?」
憧「いや、そうじゃなくて……灼さんも読むんだ、コミック百合娘」
憧「うん、まぁね……」
灼「へえ、意外」
憧「そう?」
灼「うん、あんまりこういうのに興味無さそうだったから」
憧「そういう灼さんこそ、あんまりこういうのは読まなそうだけど」
灼「そんなことない、私はこういう結構好き」
灼「こういうのって憧れるし」
憧「へえー」
灼「私は”少女ピンフ”とか”そのイーピンにくちづけを”とかが好きかな」
憧「うわ、結構濃いじゃんそれ」
灼「うん、真剣に恋愛してる女の子の物語だからね」
灼「それに教師と教え子が恋人になる珍しい作品でもあるし」
憧「そ、そうなんだ」
灼「憧はどうなの?」
憧「え?」
灼「どんな作品が好きなの?」
憧「あ、あたし?」
憧「”少女革命ノドカ”も好きだし、”麻雀性恋愛症候群”……”すばらきこと”とか……」
灼「”少女革命ノドカ”って……それもうとっくに終わってるやつ……」
憧「うん、昔から好きなんだよねー」
灼「ノドカが世界に革命する力を手に入れて、同姓結婚を認めさせちゃうやつだっけ」
憧「そうそう、灼さん詳しいじゃん」
灼「まぁね、私も小さい頃から読んでるから」
灼「そういう憧も結構詳しそうだね」
憧「私も中学ン時から読んでたから……」
灼「ふうん、やっぱり好きなの?穏乃の事が」
憧「ファッ!?」
灼「違うの?」
憧「ち、違うっていうか……」
憧「そ、そりゃ……シズの事は嫌いじゃないし、むしろ好きっていうか……」ゴニョゴニョ
憧「あ、灼さんこそどうなのさ!」
灼「私?」
憧「灼さんも好きな人とかいるんじゃないの?」
灼「うん、私はハルちゃんが好き」
憧「えっ、晴絵!?」
憧(というかあっさり答えたわね……)
憧「わからない……?」
灼「この気持ちが、好きなのか。それともただの憧れなのか」
憧「灼さん……」
灼「正直、この気持ちをハルちゃんに伝えるには怖い」
灼「今までの関係まで変わっちゃうんじゃないかって」
灼「私は今の関係でも十分満足してるし」
灼「それにもし、私がこういう本を読んでるってハルちゃんに知られたら……」
灼「……きっと嫌われる」
憧「……」
灼「憧……?」
憧「あたしもさ、シズに自分に気持ちを伝えて」
憧「それで関係が壊れちゃったりすると思うと……やっぱり怖いもん」
憧「……尤も、今は話す機会すらないんだけど」
灼「……?どういうこと?」
憧「実は……百合娘読んでるところをシズに見られちゃってさ……」
憧「なんか、すごい引いてたみたいで……」ハハ
憧「それ以来、上手く話せてないんだ……」
灼「そう……」
憧「灼さん……私、どうしたらいいんだろう」
憧「このままだと、シズと話せなくなるどころか」
憧「一生シズに嫌われたままになっちゃう……」
灼「……」
灼「……多分だけど」
灼「これは逆にチャンスだと思う」
憧「……え?」
憧「チャンス……?なんでよ?」
灼「憧は、お互い話せままの今の関係を続けたい?」
憧「いっ、嫌よ!そんなの!」
灼「なら、変えるしかない」
灼「百合娘を読んでる所も見られて、憧の趣味は穏乃にバレたから」
灼「これはもう正直に穏乃に話すしかないと思う」
憧「そ、それができたら苦労しないわよ!」
憧「今だって若干避けられてるのに……」
灼「呼び出しの手紙を机か下駄箱に入れておけば来るんじゃない?」
灼「穏乃は素直だから、なんだかんだで来そうだし」
憧(否定できないわ……)
憧「で、でも、何て言えばいいのよ」
灼「正直に言えばいいんじゃない?しずの事が好きですって」
憧「ていうか、なんでそこで告白する事になるのよ!」
灼「でも好きなんでしょ?穏乃の事」
憧「だ……だからって告白はさすがに……」
灼「今の穏乃は結構混乱してると思う、もしそこで誰かが穏乃を慰めて」
灼「その人が穏乃と恋人になったりしたら、どう思う?」
憧「シズに……恋人……?」
憧「嫌……嫌だよ、そんなの」
憧「あたしが……?」
憧(あたしがシズの恋人に……?)
灼「……まぁ別に、告白はしてもしなくても別にいいけど」
灼「部活の士気に影響が出るから、ちゃんとしずとの誤解は解いておいてね」
灼「じゃあ、私は帰るから」
憧「えっ、部活は?」
灼「聞いてなかったの?今日はハルちゃん用事あって部活に顔出せないから、部活はおやすみ」
灼「昨日言ったと思うんけど」
憧(そういえばそんな事も言ってたような……)
憧「あ、うん……おつかれ」
憧「……」
憧(あたしが……シズに告白……?)
憧(……できるのかな)
憧(……)
………
……
…
穏乃「みんなおはよー」
穏乃(結局、憧と顔が合わせ辛くて時間ずらしちゃった……)
穏乃(憧怒ってるよなー……)ガサゴソ
穏乃「……あれ?何か入ってる?」
穏乃「……手紙?なんだろ?」
穏乃(えっと……放課後、麻雀部部室に来てください……?)
穏乃(名前は書いてないし……誰からだろう)
穏乃(ま、どのみち部活があるからいいけど)
憧「……」
憧(……やばい、緊張してきた)
憧(シズ……来るかな?)
憧(……ううん)
憧(シズなら絶対に来る……!)
キィイ……
穏乃「……あれ?憧?」
憧「し、シズ……っ」
憧「うん……そうだけど」
穏乃「そ、そうなんだ……ハハハ」
穏乃「私、手紙に麻雀部の部室に来てって書いてあったから来たんだけど……」
穏乃「他に誰か来なかった?」
憧「……」
憧「……その手紙ね」
憧「あたしが、私が書いたの」
穏乃「へ?憧が?」
穏乃「どうして憧がこんな手紙を?何か用事があるなら直接言えばいいのに」
憧「それは……最近、シズが私を避けてるっていうか……」
憧「なかなか話す機会がなかったら……」
穏乃「あ……」
穏乃「……」
穏乃「……ごめん、憧」
憧「……なんでシズが謝るの?」
穏乃「なんだか私が避けてる感じになっちゃって……」
穏乃「本当にごめん!」
憧「シズ……」
憧「悪いのはあたし」
穏乃「憧……?」
憧「……あの時からだよね、私達がちょっと気まずくなったのって」
穏乃「あの時……?」
憧「シズが私の漫画を見ちゃったこと」
穏乃「あっ……」///
憧「……」
憧「シズ……前に言ったよね」
憧「あたしはそういうのに興味持っててもおかしくないって」
穏乃「……」
憧「百合が好きなの」
穏乃「ゆ……ゆり……?」
穏乃(ゆりってなんだろう)
憧「今まで黙っててごめんね、シズ」
穏乃「え、あっいや……別にいいけど」
穏乃「でもなんで急にそんな話を?」
憧「……」
憧「これ以上シズと気まずい関係になるのは嫌だったから……」
穏乃「えっ……?」
憧(やっばっ……めっちゃ緊張するんですけど~!!)
憧(どうしよう……!やっぱり言わない方がいいのかな?)
憧(……でも、もしシズに他の恋人ができちゃったりしたら……)
憧(ううん……いや!それだけは絶対に嫌!)
憧(言うのよあたし!がんばれっあたし!)
憧「し、しず……!」
穏乃「は、はいっ!」
――好きよ――
憧「~~~~~!!」///
穏乃「あ、憧……今なんて」
憧「だ、だから……っ……そのっ」///
憧「……好きなの!シズのことが!」///
穏乃「憧……」
憧「~~~……」///
穏乃「……うん」
穏乃「私も好きだよ!」
憧「えっ……」
憧「シズ……それ本当……?」///
穏乃「うん、憧も玄さんも宥さんも灼さんも大好きだよ!」
憧「……」
憧「えっ?」
穏乃「憧も好きだよね?みんなのこと!」
憧「……」
憧(そっか……シズはあたしの事だけが好きって訳じゃないんだ……)
憧(ばかみたい……一人で盛り上がっちゃってさ……)
憧(ほんと……情けないな……あたし)
穏乃「……憧?」
憧「あたしも好きだよ、みんなのこと」アハハ
穏乃「だよねー!やっぱり皆仲良しが一番だよ!」ハハハ
憧(……でも)
憧(なんか、シズらしいや)
憧「憧も急に変な事言うからびっくりしちゃったよー!」
憧(シズと恋人になれたら……なんて思ったけど)
憧(その必要はなさそうね)フフッ
穏乃「それよりみんな遅いなー、もう部活始まってる時間なのにー」
憧(……だって、あたしは今の関係でも十分幸せだから)
憧「……ふふ、はははっ」
穏乃「……?憧?」
憧「なんだか、無駄に緊張しちゃったね」
穏乃「へ?緊張?」
憧「あれ、シズは緊張しなかったの?」
憧「ついさっきまではお互い気まずかったのに」
穏乃「あっ……」
憧「ふふっ、でもそれも今日でおしまい!」
憧「シズ」
憧「あたしたち、これからも友達だよね?」
穏乃「……」
穏乃「ああ!憧とはずっと友達だっ!」
憧「……うん!」
憧(私はシズの事が好き)
憧(でも、あたしは今のままでいい)
憧(だって、シズと一緒にいれるだけで十分だから)
憧「……シズ」
――これからも
ずっと友達でいようね――
つづカン
. / /: :.,ィ: : : : : : : : : : : : : : : \i
/ / / i: : : : : : : : : :i: : : : : : : :.\
__i / /: : : : : : : ;ィ: :}: : : : : : : : : : :.
i 「`7 /!: : : :∠」_ ハ: i: : : : : : : : :i
=-x /// : :/ ! 「 卞}: : : : : : : : :} 雅枝「エロゲしとる所を娘に見られてしもた……」
::::i. / / ==ェx、_ i/i: : : : : : : :/
:C !::::::::::「ヾ' i: : : : :..:/
''′ |::::::::C /イ: : :/
∨::::ソ i,厶イ\ 10/31 20:00
 ̄` .!: : / \\
}: :.! )::)
/\ ノ|: .:| //
;,、  ̄ ̄ _,, < |: :.!// アカン……
| ̄ !: :|/
|∧ |: :| おかんがエロゲーしとる所を見てしもた……
ヽ_,/ ',__ |: :i
_/ ヘ .i \. !:/
》ェ≪ | \ /
.|| || 》__/ `ヽ
.|| |〃 ̄`ヾ ハ
おつです
本当すみませんっす
っす
Entry ⇒ 2012.10.31 | Category ⇒ 咲-Saki-SS | Comments (0) | Trackbacks (0)
淡「××××」
けどそれは激情的なものではなく、静かに芽生えた恋だったのは確か。
最初に麻雀部へ入って、テルに見蕩れて。
それからは、手段と目的が逆転していたんだと思う。
麻雀をやるために麻雀部に入ったのに、今はテルと会うために、会うためだけに麻雀をしてる。
私がもっと強くなれば、テルは私をもっと認めてくれると思ったし、それは事実らしかった。
いつしかそれは行きすぎて。
たったの数ヶ月で、私はテルの二番手、つまり、誰よりも強くなっていた。
それはとても嬉しかったけど、麻雀が強くなれた嬉しさなんか、欠片ほども持ち合わせていなかった。
私はただ、テルに認めてもらえたことが嬉しい。
それだけ。
テルに認めてもらうためなら、なんでもする。
麻雀の強さなんて、その道具でしかない。
本当に行き過ぎていると思うけど、そうやって考えが逆転した頃には、もう遅かった。
そして行き過ぎていたのは、どうやら私だけじゃなくて、テルもそうだったみたい。
それを知るのは、もっともっと、後のことだけどね。
別に、私達は付き合ってるわけじゃないし、まだ告白する勇気もない。
それでもお互いがお互いに対して行き過ぎてて――狂うだけの材料としては、十分だったらしい。
一番最初に狂うのは、自分でも私の方からかと思ったんだけど、実はテルの方からだった。
私は階段を歩いている時に、ちょっと調子に乗って揺れていたものだから、てっぺんの方から踊り場のところへ崩れ落ちてしまった。
あんまり高さはない癖に、体制が変だと、身体には予想よりもずっと重い負担がかかってくる。
菫「なっ……大丈夫か!?」
大丈夫――そう言おうとしたのに、その言葉が出てこなかった。
口から出す前に、私の身体が、脚に走る鈍痛を迎え入れてしまったからだ。
淡「あっ、だっ……がっ……」
そんな呻き声を上げたと思うけど、正直あんまり記憶にない。
落ちたこと、脚に走る痛み、揺れる意識。
痛みに奪われつつある思考で、これらの要素を繋ぎ合わせて骨折したという一つの現象を確認するのには、結構な時間がかかった。
昔から、骨折すると痛みが身体を支配するものと思ったのに、それに吐き気も混ざってきていた。
こいつらに集中するので精一杯で、スミレの心配には、あんまり返答できてなかったはず。
そうして、すぐに行動に移してもくれた。
菫「っ、救急車を呼んでくる! 照、お前は淡のことを……」
照「……ぃ」
菫「……照?」
スミレの言葉に、テルは反応しなかった。
それが一瞬だけ、見捨てられたように思えて。
それはこの骨折の痛みよりも、ずっと重い精神の痛みとなって具現化した。
指先が、急に寒くなった。
でも、それも一瞬のこと。
私は朧気な意識の中で、私よりも危ないテルの様子を見てしまったから。
目には涙が溜まって潤っていた、そうして、少し遠くの方を見ている。
手は震えて、歯も震えて、そのせいかカチカチと軽い音も聞こえていた。
やがて本当に寒くなったように、自分の両腕で自分の身体を抱きしめて――
照「あっ、ああぁあ!! い、ぃ、嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!!」
菫「おい、照!」
照「いやあぁああああぁ!! ××××、××××!!」
――私の知らない、誰かの名前を口にした。
菫「照!」
照「××××××××××××××××××××××××」
もう言葉が交じり合って、なんて言っているのかよく聞き取れない。
それが私の名前でないことだけはわかっている。
テルの大声を聞いて、側の教室から生徒が数名かけつけてくるのが見えた。
野次馬根性からくるそれだと思うけど、私とテルの様子を目にして、心を変えたみたい。
焦燥が見て取れる表情でスミレにしきりに何かを聞いていて、スミレも生徒たちと同じ顔で、何かを返答している。
それから、スミレはテルを抱えたまま動かないで、生徒達の方が辺りに散らばっていった。
スミレに揺さぶられるテルは、もうどこを見ているのかよくわからない。
喘息のような音を最後に、テルの声は全く聞こえなくなっていた。
私もちょうど同じ頃、意識が激痛に覆い隠される。
テルが静かになったのか、私が気絶したのか、どっちだろ――。
そうだ、私は階段から崩れ落ちて、脚を打って、骨折して。
それから、どうなったんだろう。
尭深「起きた……!」
誠子「具合悪くない!?」
セーコとタカミが、目の前に立っていた。
二人の言葉で頭が冴えて、すぐにこの場所が病院だと理解できた。
理解したら、また脚に激痛が走る。
脚に意識を置くと、ぐるぐる巻きにして固定されているのが伝わってきた。
激痛で気絶して、病院に運ばれて、一通りの処置はされたみたい。
ただ一つだけ、気になるところがある。
激痛を強引に沈めて、私は二人に質問をした。
淡「……テルとスミレは?」
この場には、名前を挙げた二人がいない。
特にテルがいないのは、何よりも不安だった。
そんな様が、私の不安を更に加速させていった。
しばらくそんな停滞が流れた後、口を開いたのはセーコの方。
誠子「……ちょっと、色々あって」
色々。
踊り場で見えた、青ざめたテルを想起した。
身体の損傷で言えば、テルは無傷で、私は重傷なのにね。
それでも自分のことよりも、テルの方がどうなっているか心配になってるよ。
でも、特別変だとは思わなかった。
それが、私の自然だから。
だから私は、自分のことを二人の視界から遠ざけるように、テルの状態を深く聞くこととした。
淡「色々って、何」
誠子「…………」
尭深「…………」
二人とも、何も答えてくれない。
私は静かに、二人はやや大げさに、室内に入ってきたスミレを凝視する。
スミレは右手の手の平で顔を覆いながら、俯いて歩いてきた。
誠子「先輩は、どうしました?」
菫「ああ、大丈夫……それよりも、淡は……」
淡「それよりも、じゃないよ!」
スミレの言葉に、反射的に口が動いてしまった。
身体がそれについてこれずに、脚の痛みはまた強くなった。
でも今は、感情の方が、その痛みよりももっと強い。
淡「テルは大丈夫なの!?」
菫「……まずはお前の身体のことからだ」
ふと見えた菫の眼は、なんだか生気を失っているように感じ取れた。
私も釣られて、それ以上突っ込んで聞く勇気を喪失してしまった。
どうやら、私の担当医みたい。
その医者は色々と難しい言葉を並べていたけれど、よくわからなかったし、理解する気もなかった。
そんな言葉は、テルの様態がどうなっているのか気になる私にとって、ただの焦らしにしかならない。
だから医者に対する受け答えも、ほとんどスミレが行なっていた。
私はただ、最短で全治三ヶ月ほどになる、ということしか記録していない。
医者がこの場所を出てから、一目散にスミレに話を聞いた。
スミレならきっと、テルがどうなってるかわかるはずだから。
淡「テルは?」
スミレは、何も答えてくれない。
セーコもタカミも、おんなじ。
淡「……ねえ」
誠子「……大丈夫、でしょうか?」
菫「多分……な。 とにかく呼んでくる」
――何が、大丈夫なの?
ねえ。
後には、気不味い雰囲気の私達三人だけ。
淡「テルに、何かあったの?」
誠子「いや……」
セーコは私から目を逸らす。
反対に、タカミの方が、私に答えを教えてくれた。
尭深「先輩は、過去に……」
淡「……テル!」
照「……淡?」
その答えを聞き終わる前に、スミレがテルを連れて戻ってきた。
自然と、意識の全てがそちらに向いてしまう。
照「脚はともかく、元気そうで安心した」
すごい、テルがいるだけで、こうも安心できるなんて。
私はその言葉だけで、脚の痛みがいくらか和らいでしまったもの。
この安堵感に、タカミが言いかけていたテルの過去が、私の意識と一緒に呑み込まれてしまった。
この時に聞いていれば、まだ良かったのかも。
これが片足だけなら、引き摺ってでもテルのいる部活に、顔を出せたんだけどね。
両足だから、仕方ないかな。
でも、別に不満はない。
テルは麻雀部を早番してまで、毎日毎日、お見舞いに来てくれるから。
今この時だけは、テルの意識が私だけに向いている。
すごい、幸せ――だった。
ちょっと忘れるだけのつもりだった、テルの発狂。
私はそのことを、テルが毎日お見舞いに来てくれることの心地よさに、思わず長いこと忘れてしまっていた。
入院してから、幾分か経った頃。
医者に聞いた話では三ヶ月が治療期間の目安だったけれど、私はそれより一ヶ月ほども早く丈夫になった。
こればかりは、今でもテルのおかげだと信じている。
でもその先に待ち受けていた未来は、とても受け入れがたいものだった。
当時の私は、ひどく喜んでいた。
その喜びもやはり、退院できるその事実からではなく、テルに退院報告をできることから来ているものだと思う。
やっぱり私は、テルと打つ麻雀が好きで、テルと色々なところ――ってほど行ってないけど、一緒に行動するのが好きだもの。
それに退院後も、テルは入院時と等しい優しさを与えてくれると、無根拠に思っていたのもある。
さっきも言ったけど。
私を待ち受ける未来は、それらを全て拒絶するどころか、また新たな傷口を創りだしてしまった。
例の喜びを引き下げたまま、私はテルを病室に迎え入れた。
もちろん、いの一番に退院できることを伝えたよ。
そうして、もう動けるようになった脚を子供らしく、そしてわざとらしくぷらぷらさせても見た。
この様子を見たテルは、今まで目にしたことのない、眩しい笑顔を贈ってくれた。
クールな顔も素敵だけど、この笑顔もよく似合っている。
でもその笑顔は、どこか遠くの方を、あるいは別領域の方を見ている。
そのまま、テルはその笑顔を言葉に包んで、プレゼントしたんだ――
照「治ってよかったね、××××」
――私の知らない、誰かに対して。
私の怪我に見向きもせず、別の方を向くための名前。
私の激痛を想起させる名前。
私の知らない名前、私のじゃない名前。
自分の思考が、よくわからなくなった。
わかりたくもないのかもしれない。
血液の色が青色に染まっていく様だけは、皮肉にも鮮明に理解できた。
照「また、あの海に行けるといいね」
テル、海って、何?
私、そんなの知らない。
テルは一体、誰に話しかけてるの?
ここに、××××はいないよ?
ここにいるのは、私、大星淡でしょ?
輝かしいその笑顔から、一筋の曇を感じたのはどうしてだろう。
照「ねえ、××××?」
テルは確かに、私の目を見て話している。
確かに、私の口から、何かの返答を待っている。
外面、だけは。
照「……大丈夫?」
ねえ、テル。
なんでテルが、そんなに弱々しい顔をするの?
弱々しいのは私なのに、今ここで泣きだしたい、錯乱したいのは私の方なのに。
治ったらしい脚の骨が、触られた炭のようにボロボロと崩れていく錯覚にも陥っていた。
こんな状態でも、私は――テルの都合を、テルの精神を優先してしまったんだ。
淡「……うん、大丈夫だよ」
作った笑顔のしわ寄せかな。
身体のどこかから、崩れた瓦礫の声が聞こえてきた。
今こうしてテルに対応しているのは、必死になって拾い集めた破片を、無理矢理くっつけた、私の模型。
そんな私じゃない私は、テルの都合を案じる一心で、知らない誰かに演じた。
その誰かが、気を緩めればすぐにでも私の身体に貼り付いてきそうで。
気持ち悪くて、吐きそうになって、頭痛も目眩もした。
耐え切った私のことを、テルは褒めてくれなかった。
褒めてくれたとしても、それは多分、私に向けられたものじゃないだろうね。
淡「ありがとね、照さん」
照「昔みたいに、照お姉ちゃんって言ってもいいよ?」
淡「……そうだね、照お姉ちゃん」
別れ際の会話。
その時になって、知らない誰かが、テルのことをそう呼んでいるのがわかった。
テルが帰ってから、すぐに過呼吸を起こしてしまった。
実際私の肺は、物理的に四分の一くらいに縮まってたんじゃないかと思う。
それは身体だけでなく、精神も同じこと。
元来の図太い性格は、今や糸よりも細いものになっていたことを、過呼吸を通じてよく理解できた。
テルは終始、不思議がることはなかった。
それはきっと、ううん、確実に、テルは私のことなんて、認識していなかったことを意味している。
一度演じた、演じてしまった、でも、誰かは知らない。
その事実は、肥大しつつ私に重くのしかかってきていた。
テルに対して、これからずっと、知らない誰かとして、かき集めた破片の集合体として、接していかなければならないのかな?
テルの中から、私は消えちゃうのかな?
一度だけ譲ってあげた私の席は、知らない誰かに乗っ取られちゃうのかな?
私はテルに認めてもらうために麻雀部に入って、一軍になって。
骨折によって麻雀ができなくなって、それでも全く暗くならずに、最後まで笑顔のまま完治を迎えたのに。
テルの瞳は確かに私を捉えていたはずなのに。
本当は、どこを見ていたの?
私を見る振りをして、その実、反対の方向でも見ていたの?
テル、テル、テル――
菫「……ぃ、淡!」
――気が付いた頃には、スミレに肩を揺さぶられていた。
顔の真下に位置する毛布には、ひどい色の染みがついていた。
そんなこと、すぐにわかるはずなのにね。
淡「……スミレ」
菫「よかった、意識が戻ったか! 悪い、そっちに夢中になって、まだ医者を呼んでいない」
ただ一言、返事をしただけなのに、スミレは何もかもを世話してくれようとしていた。
それがなんだか、さっきまでテルに受けていた仕打ちとの対比に思えて。
菫「気分が悪いんだろう、すぐ呼んでやる。 脚の痛みが再発したのか? それか、別の部分……」
淡「……テルは?」
その思考を拭い去るように、スミレの手を止めようとした私は、きっとバカなんだろうね。
自分を解体してまで、スミレから目を逸らしてまで、テルを優位にしようとしている。
こればかりは、錯乱なんて言い訳はできそうにない。
私のテルに対する愛は、間違いなく病的なもの。
その所々には、何かを察した跡が見て取れた。
テルに関することに違いないと思った私は、さっきの行動を、無意識の内により強いものにしていた。
淡「私は大丈夫」
菫「いや、お前……」
淡「ねえ、テルには何かなかったの? すれ違ったと思うけど」
菫「……テルに、また何か言われたのか」
淡「……ぃ、……」
菫「……多分、脚のことだろうな」
やっぱり、察してた。
スミレの言う"何か"が、決していい意味を内包していないことはよくわかる。
だから思わず否定しようとしたけど、そのための言葉は、喉の辺りで自我らしいものに押し返されてしまった。
テルは一度、階段で私以外の誰かを心配していたこと。
今日もまた、私に向かって、でもやっぱり、知らない誰かと話していた。
淡「……教えてよ、テルのこと」
自然と、口に出ていた言葉。
好奇心から出たものでないことを、少し安静になった私の心中は、しっかりとわかっている。
私はとことん、テルのことばかりに夢中らしい。
菫「わかった、が……一つだけ、言っておく」
淡「何?」
菫「これを聞いたら、お前は絶対にショックを受ける、だから私としては言いたくない。 それでも……」
淡「それでも、いいよ」
私の口に、淀みはなかった。
ショックなら、一度受けている。
それに、テルに受け入れられてもらうためには、まず自分が、一つの傷を受け入れなきゃね。
それからは、斜め上の遠くの方を見つめている。
私はただ、スミレの方から何か言い出してくれるのを待っていた。
菫「……××××」
始めに出てきた言葉は、心中に根強く残っている、誰かの名前。
スミレまでその名前を言うものだから、心臓が動揺してしまったのも、無理はないと思う。
菫「照の、従姉妹に当たる人間でな」
淡「……そうだったんだ」
菫「やっぱり、何回か聞いたのか」
淡「うん」
不思議と、知らない誰かの正体がわかっても、何ともなかった。
むしろ、重力が少し和らいだような気もしていた。
さっきの心臓の重さが、正体を知ったことで、少しずつ解放されつつある。
私とその誰かは、あくまで別々の人間。
そのことを、第三者からの言葉で理解できたから、なのかな。
菫「私も、写真でなら見たことがある、綺麗な金髪の、長髪の子……その子」
その誰かは、私とあまりにも境遇が似ていたのだから。
菫「照の目の前で、転落事故を起こして、下半身付随になって……」
淡「…………」
何も言うことができなかった。
けど、思うことだけはあった。
私と同じ容姿で、私と同じ事故を起こして、やはり下半身を怪我して。
唯一違うのは、私だけが、こうして平常に戻ることができた点。
運命のいたずら? 気遣い?
あるいは――手助け、なんて考えちゃう私は、きっと相当に悪い人間なのかな。
とにかく、これが故意的な何かであると、疑わずにはいられなかった。
菫「それから……照が時折狂い始めたのは、それからだ」
淡「そんなとこ、今まで見たことなかったよ?」
菫「ああ、最近は治まってた。 淡が骨折するまでは……」
淡「フラッシュバック、しちゃったんだね」
菫「……そうなるんだろう」
知らない誰かのことを、少しだけ知った。
その誰かが、私と被っていることを知った。
知ったからこそ、スミレが教えてくれたテルの過去に対して、あんまり大げさな反応はしなかった。
運命の眺めたような、そんな、俯瞰的な心持ち。
不思議。
自分の心を綺麗に取り繕っても、その中身が何であるかなんて、本人の私が一番よく気が付いている。
私はきっと、その誰かのことなんて、大して気にもしていなかったのかもしれない。
だからこそ、大げさな反応をしなかったのかもしれない。
私が知りたいのは、私がテルに認められているかどうか。
テルの中での、私の立ち位置。
自分のどこから生まれたか知らない、ちょっとだけの異常性。
やっと、本当に自覚できた。
私は少しずつ、誰かのことを聞くことにした。
糸を手繰り寄せて、先のものを引っ張るように。
淡「その子は、今どうしてるの?」
菫「その後のことは、詳しく知らないが、まだ、入院中らしい」
彼女は、今の境遇すら私と同じ。
同じ枠の中から、私だけが先に脱出しようとしているらしい。
だから、私のことを「××××」なんて呼んだんだろう。
淡「テルがね、私のことを、××××って呼んだんだ」
菫「…………」
淡「ねえ、なんでだと思う?」
その答えは、わかりきっている。
それは私だけでなく、スミレも同様らしかった。
沈黙するスミレの表情から、疑惑の念は感じ取れない。
感じ取れるとするなら、それは私に対する哀れみ、気遣いといった負の感情だけ。
もっと言えば――そうだね、禁忌、かな。
テルの本心には、私に触れさせてはならない禁忌がある。
淡「テルはさ、私じゃなくて、ずっと、××××を見ていたんだね」
それをスミレは知っていて。
淡「私は、××××の代用品なんだ」
そして私も今、気が付いてしまった。
私の喋った内容が、禁忌そのものであることを証明するのに、十分すぎる材料だ。
淡「でもね、私はテルに大して、そんなに悪い感情を抱いてないんだ」
菫「…………」
やっぱり、スミレは黙ってる。
別に、何か喋ったらいいのに。
それが正解だと教えたくないから黙ってるんだろうけど、私はもう、気が付いてるんだよ?
淡「人をどう思うかなんて、その人の勝手だもん。 それでも私は、テルに認めてもらいたい」
そしてもう一つ、気が付いたこともある。
一度開けた禁忌は、また別の扉を開けてしまった。
淡「ねえ、スミレ、私はどうすればいいのかな? もう、一生認めてもらえないのに」
菫「……淡、もうやめろ」
淡「テルが私と××××を混ぜちゃったのは、骨折しているのが私で……」
菫「言うな!」
淡「……治ってるのが××××であってほしかったから」
釣られて自分の顔に手で触れてみると、爪を伝って、手の甲に涙が流れてきた。
さっきまで、あんなに平静だったはずなのに。
泣いている感覚なんか、全然なかったのに。
淡「……そうでしょ?」
できるだけ平静に加工しようとしたけれど、絞り出した声は、ひどい濁り具合。
濁ってるし、雑音も入っているし、ちゃんと届いたかすら怪しい。
ねえ、スミレ、何か喋ってよ。
嘘でもいいから、否定してよ。
菫「…………」
あの時みたいに、私の怪我に対して、迅速に対応してよ。
でないと本当に、答えが固まっちゃうじゃん。
ねえ、スミレ。
菫「……ごめん」
あ――固まっちゃった。
脚が治ったのは××××、下半身が動かないのが大星淡。
本当は逆なのに。
一度、テルのトラウマを起こしちゃった責任なのかな。
この骨折は運命の気遣いでも、手助けでもなんでもなく、生意気でテルに擦り寄った私に対する、お仕置きなのかな。
だとしたら、重すぎるよ。
どうして、私が一番テルのことを好きな時期に、こんな仕打ちを受けなきゃいけないの?
重い、寒い、怖い――スミレ、早く私を助けてよ。
その手際の良さで、私を誘導してよ。
でないと私、自分でこの怪我を治しちゃうよ?
下手な応急処置は、より傷を深くするだけ。
そんなこと、怪我の当事者はきっと、わかってるんだよ。
でも当事者にとっては、何かしないと落ち着かないんだよね。
菫「どうしたんだ?」
淡「気持ち悪いから、ちょっと、歩きまわりたいな……」
菫「……なら、付いてく」
淡「……ありがと」
それはきっと、今の私のこと。
明日には退院できる人間が、そんなことする意味ないと思うんだけど。
スミレも、そのことは知っている。
だから余計な心配はさせないように、利口に車椅子で移動することにした。
以前の私ならきっと、大丈夫大丈夫と言いながら、軽い気分でスキップでもしていたはず。
淡「ありがとね、スミレがいて助かったよ」
菫「……いいや、私ができることなんて、これくらいしかない」
嘘つき。
私の思考を、否定してくれなかったくせに。
私を騙し続けてくれなかったくせに。
病院内だと、確かに窓のある箇所なんていくらでもあるけど、やはり天然の空気を吸える場所はここだけ。
部長で特に忙しいスミレは、テルみたいに早番するわけにはいかない。
必然、お見舞いの回数も少ないのに、それでも病院の環境に気付いて、私を気遣ってもくれてる。
屋上の空気は、季節柄ずいぶんと冷え込んでて。
ふと横を見ると、空気がスミレの長い髪を持ち上げて、目立つように靡かせているのが目に入った。
私の髪は、車椅子に預けているせいで、前髪くらいしか靡いてくれない。
淡「もうちょっと、街の方がみたいな」
菫「わかった」
途端に強くなった風に抗いながら、私達は屋上の隅に向かった。
柵の向こう側は、不思議と吸い込まれそうなほどのいい景色に見えた。
少し目を強めると、私達が普段通っている、白糸台も見える。
もう二ヶ月も行っていない。
またあそこに通って、皆と勉強をして、皆と麻雀をしたいな。
やっぱり勝てないなんて呟いて、セーコが私を態度を弄って、タカミが休憩のお茶を入れてくれて、スミレがうるさいと注意して。
でもこっちに呼んだら、やっぱりスミレも仲間に入ってきて。
そんな形式美的ないつもの光景も、もう懐かしい。
あんなじゃれ合いを、またしたい気持ちは、確かにある。
菫「なんだ、やけに風が強くなったな……身体、大丈夫か?」
淡「ちょっと、寒いかも。 タカミのお茶が飲みたいな」
菫「……それは、今日は無理だな。 また明日、部活に来たら言っておこう。 退院祝いに、ケーキでも買ってやる」
淡「いつもは注意するのに」
菫「退院祝いをしないほど、頑固な人間じゃないつもりだ」
淡「……そっか」
淡「そうだね、お願い」
振り向いて見えたスミレの背中は、なんだか暖かく感じた。
逆に、私の身体はひどく冷たい。
でもねスミレ、私が寒がったのは、風が熱を奪ったからじゃないんだよ。
私が車椅子を使ったのは、医者にそう言われたからじゃないんだよ。
外に出たのは、新鮮な空気が吸いたかったからじゃないんだよ。
寒がったのは、テルに認めてもらえない恐怖と、もう一つの別の恐怖が混ざったから。
車椅子を使ったのは、私が少しでも脚が悪いままでありたいと願ったから。
外に出たのは、応急処置をするため。
スミレ、騙してごめんなさい。
私は確かにそう理解したし、それはスミレもわかってるでしょ?
でもねスミレ、私が気付いたのは、これだけじゃないんだよ。
それと、スミレはちゃんと私の応急処置を手伝ってくれた。
だから、言いがかりをしちゃったことも謝るよ。
スミレがいないと、ちょっと、調整が効かなかったからさ。
健常な人間の席は、確かに××××のだよね。
でも、その隣の席は、××××が座っていた席は、一体誰のかな?
そこってさ――今、空席だよね。
私は本来、元気な人間だったから。
柵を乗り越えるのは、そこまで難しいことじゃなかった。
スミレがこっちに気付いて、少しの目配せをして。
そんな、焦った顔しなくてもいいよ?
私は死ぬ気なんてないもん、テルに認めてもらいたいのに、それじゃあ本末転倒ってやつ。
私は戻ってくるよ――脚を失って、ね。
最低限の準備を整えて、治った足で最初の一歩を踏み出すのは、とても楽なことだった。
一つだけ違うのは、顔がやけにべたべたするところ。
菫「……淡、淡!」
スミレの顔を見て、気が付いた。
この顔に貼り付いたものは、スミレの涙だったんだね。
スミレの言葉は、掛け声になって、側にいたセーコとタカミを反応させた。
セーコなんて目が真っ赤になってたし、タカミも袖を目から離さなかった。
スミレに至っては、私のお腹のあたりに抱きついて、全く聞き取れない呻き声をあげている。
私の目だけが、濁っていた。
寝ぼけたような、光に慣れない真っ黒い目で室内を見渡しても、テルの姿だけがどこにも見えなかった。
一通り皆が泣き終えた後、その医者に、物凄い勢いで怒られてしまった。
飛び降りた後に、予定通りスミレが医者に連絡を取ってくれて。
そうしてすぐに、私の治療が始まったらしい。
治ったばかりの脚に与えた衝撃は、生半可なものではない。
私は三ヶ月の治療期間が、今回、五ヶ月に伸びてしまった。
でも、それでいい。
だって私の脚が使えない間は、テルが私を私と認識してくれるんだもの。
五ヶ月というと、ちょうど、テルが卒業して、少しした辺りかな?
なら、タイミング的にもいいよね。
皆の声は、もう、頭に入っていなかった。
私はただただ、テルが認めてくれるのを待っているだけ。
でもさ。
一度崩れた運命は、人の手では修復できないんだね。
テルはてっきり、脚を失ったのが私で、脚が治ったのが××××であればいい、と。
そう、考えていると思ってた。
それだけの、単純な話だと思ってた。
一度席を立って、それを××××に譲ってあげた。
そうして、空いた席に私が座る。
でもね、彼女は生きていて、そして脚を失う席が、生涯の定位置と決まってる。
それはテルがどう思っているか、なんて関係ない。
私も今は、脚を失う席。
治ったはずの××××は、再び脚を失ってしまった。
そうして、同じ席、××××の席に、二人が座ってしまった。
テルが後から入室してきて。
私を、怨霊だか妖怪だかを見るような、怯えたような目で見つめて。
それだけで、私はすぐに自分の過ちに気が付いた。
照「……どうして、なんで、脚……二人、なんで……?」
聞き取れたのは、ここまで。
それからテルは、また階段の時みたいに、狂いだしてしまった。
菫「おい、照!」
テルはひどく錯乱して、あの時と同じように、震える身体を自ら抱きしめていて。
私も自分の失敗に気が付いてから、視界が朧になる。
身体の芯がどこにあるのかわからなくなって、平衡感覚が崩れて、横に倒れそうになってしまった。
スミレの次に私と近かったセーコが支えてくれたおかげで、なんとか助かった。
今なら、テルがどうして寒がったのか、よくわかる。
私も、一度体験していたから。
最愛の人が離れていくのは、身体の体温を全て奪われるに等しいことなんだよね。
私はテルの側にいれないと気が付いてから、急激に体温を奪われた。
じゃあ、テルは?
テルは今どうして、寒がってるの?
なんて、もっと前からわかってるでしょ。
テルの隣に立てないのは、テルが発狂しちゃうからじゃない、認められないからじゃない。
そんなものは二次的なものに過ぎない。
テルの最愛の人が××××で、私は彼女ではない。
テルはずっと、××××の脚が治ることを夢見ていたから。
夢の具現化で、代用品の私が壊れる様に、気が狂っているだけ。
ただ、それだけの話。
でも、ここで気を失ったらダメ。
ここで何もできなくなったら、私は今度こそ、××××に席を奪われてしまう。
空になった席を見つけたテルが正気に戻った時。
動けない人間が二人いる、××××の役が二人いることに気が付いてしまうだろう。
そしてすぐに、どっちが本物かわかっちゃうはずだ。
テルが現実を理解してしまったら、××××の脚が治らないことにも、気が付いちゃうんだもん。
夢の代用品は、必要なくなってしまう。
そうなると、私はどうなるんだろう。
テルの視界の外に、ポツンと一つだけ席を作って、そこに一生座らなくてはならないのかな。
――絶対に、嫌だ。
テルが落ち着いて、少しずつ、声が聞き取れるようになってきた。
照「なんで、脚……わかんないよ……ねえ、誰、誰……?」
淡「忘れちゃったの? 照お姉ちゃん」
ねえ、私の知らない誰か。
一度、譲ってあげたんだからさ。
淡「××××」
今度は、私にその席を譲ってね。
ずっと狂っていたテルも、呼びかけていたスミレも、何も喋らない。
静観していたセーコとタカミ、テルに静かに対応していた医者の方なんて、心臓の音一つ聞こえない。
そんな静かな室内で。
私は、私の体内の音だけをよく聞き取れていた。
また、心が崩れる音がしている。
二回目なのに既に慣れちゃったのは、おかしい話だよね。
でも、心が崩れてくれたおかげなのかな。
身体は自然と軽くなって、セーコの腕から離れた後、自分で姿勢を直すことができていた。
私は、テルの隣にいられればいい。
大星淡じゃなくて、私がいられれば、それでいい。
照「××××?」
テルも同じく姿勢を持ち直して、私の方へと歩み寄ってきた。
スミレが唖然として、こっちを見ているけど、それももう関係ない。
そうやって、もっと近づいてよ。
私を見てよ、テル――
尭深「……やめて、ください」
――なんで、止めるの?
実際テルの腕を掴んで止めたのは、医者の方だった。
スミレだって、衰弱した表情で、テルの手を握っている。
セーコもまた、私の前に腕を伸ばして、手の平をこちらに向けていた。
尭深「いい加減、目を覚ましてよ……!」
タカミが、地面の方を見つめながら、そんな大声をあげた。
大人しいタカミがこれほどの声を出すのなんて、初めて聞いたと思う。
淡「……嫌だよ」
私も同じように、声を張り上げてしまった。
意地ばっかりが先行していたんだろうね。
淡「邪魔しないでよ! ねえ、私を見てよ……」
誠子「淡!」
そんな声を一緒に、セーコの方へと引っ張られてしまう。
誠子「もう、やめようよ……」
それぞれが、それぞれに抑えられて。
「二人とも錯乱していますし、皆さんも落ち着いていない。 今日は一旦、帰ったほうがいい」
最終的に、医者の一言で、この場は強制的にお開きになってしまった。
私はずっと、知らない誰かを演じている。
全然知らない癖に、もうこうしていることも、板についてきてしまった。
こう言うとわかると思うけど、テルはあれからずっと、私が××××であることを疑ってはいない。
テルはもう、誰かの病室に行く事がなくなったらしい。
これは看護師経由で聞いたことだけどね。
突っ込んで聞いてみると、テルのことを考えて、××××が同じ病院にいるのだとわかった。
聞いた後で、テルの来る時間が一時間程度早まっていることに気が付いてしまう。
私の推測は、やはり間違っていなかったみたい。
動けない席と同様に、テルの隣の席は、生涯彼女の定位置に決められているものだった。
私が座っているのは、××××だけの席。
座っている私も、今は、大星淡じゃない。
でも、時々、わからなくなることがある。
私はどうして、心のなかではテル、テル、なんてしつこく呼んでいて。
心の中のテルは、どうして私のことを淡、淡、なんて呼ぶんだろう、と。
最初の方はスミレがよくついてきたけれど、その回数は次第に減っていった。
今では、セーコとタカミが、大体同じくらいの回数。
テルがいつ狂っても止められるように。
それが、付き添いがついた原点らしい。
でも私からみたら、それは本末転倒にしか見えなかった。
セーコもタカミも、共通して、私とテルの会話から、表情から目を逸らしているのだから。
スミレが来なくなってしまった理由も、きっとそれに関連しているはず。
そっか、私は、スミレの目の前で飛び降りちゃったから。
下手したら、スミレもテルか、私のようになっちゃったかもしれないんだ――。
淡「入っていいよ」
ノックの音に反応して、そんな返事をした。
気付けば、テルの来る時間帯。
誰かは、私と似たような調子の人間らしい。
こうやって不自然なく応答できるのだけは、唯一、幸いなことだった。
付き添いは、今日はタカミみたい。
テルはいっつも、やや駆け足で私の方へ向かってきてくれる。
淡の方には、そこまで急いでくれなかったのにね。
そうして、学校のことを中心に、とにかく色々なことを話すのがいつものこと。
たまにテルが知らない本のことを話して、あんまり読書家じゃなかった私は、これに結構苦労する。
とはいえやっぱり、テルの話を聞いているのは楽しい。
見ることができる表情だって、格段に増えている。
私の状態の話なんて、一度もしたことがない。
だってそうでしょ?
私はもう、一生脚が動かない席なんだから。
でも、それはあくまで仮初で、いつかは元通りになってしまう。
その一瞬の間、私はテルの隣にいられなくなるのだろうと考えてしまうのが、最近は苦しくて仕方がないよ。
大星淡の席では、テルの柔らかい表情も、優しい声も、全て見ることも聞くこともできない。
そんなことを、考えていたせいだろうか。
あの時聞いた、タカミの言葉が、奥底から聞こえる気がしていた。
尭深「……やめようよ、こんなこと!」
――また今日も、聞こえてしまった。
聞き取ったのは、私の耳じゃなくて、奥の方の何か。
まだ、タカミは一言しか喋ってないのに、それが騒音のように身体に響く。
そのせいか、少しずつ、身体が震えているのを自覚した。
違う、そうじゃない。
私はきっと、こんなことをしていてはいけないと、もうとっくに気が付いてる。
気が付いていない振りをしていただけ。
でも、今身体を制御しているのは私だから。
強引に抑えることは、そこまで難しいことでもなかった。
内側、だけは。
尭深「弘世先輩だって、不眠症になっちゃったんだよ……! ねえ」
知らない、知らない――その先まで、言わないで。
尭深「淡ちゃん!」
照「……え」
私の名前を、呼び起こさないで。
ずっと突き通し続けた嘘は、内側の、簡単なイレギュラーで崩れ去ってしまった。
私がちょうど、最初に崩れ落ちたのと同じように。
テルの意識が、私に集中する。
遠くを見ていて、今やっと、近くを見つめてくれたテルの瞳。
一回遠くを見つめてから、また、近くに戻っていった。
その瞳は、紛れもなく"大星淡"を見つめていた。
なのに私の中では、嬉しさよりも、喪失感の方が優っているのだから。
私はどれだけ、この席に慣れてしまっていたのかな。
照「淡……?」
違う、淡じゃない。
違う、淡じゃなくていい。
だからこそテルは、私を見てくれていたんでしょ?
誠子「お待たせ。 納得してもらうのに、ちょっと時間がかかった」
尭深「……ありがとう」
扉の奥から、セーコともう一人――すぐに、理解した。
鏡写しのような、ドッペルゲンガーのような人間が、車椅子に乗っている。
私の体温は、めまぐるしく変化していた。
そっか。
最初は、狂ってしまったテルのことを意識していただけなのに。
いつの間にか、私の方が狂うようになってしまっていたんだ。
てっきり、テルはまた錯乱してしまうと思っていたのに。
私の予想よりも遥かに平静で、狂う兆しなんか、最初にちょこっと見えた切り。
タカミはこうして、私達を元に戻そうとしてくれている。
セーコもまた、タカミに協力してくれて、私の身を案じてもくれた。
スミレは自分が精神病になってしまったことを、どうあれ自覚している。
残りの、三人。
隣の席を私に奪われた彼女は、それでも平常心を保っている様子だった。
「あの……はじめまして」
照「……××××、なんだね」
テルはやっと、現状を受け入れ始めていた。
この明確な現実を突きつけられて。
それもそっか。
テルは本来、冷静な人間だったのだから。
「うん、照おねえちゃん」
――ああ、ダメだよ。
その呼び方が、破片の集まりだった私よりも、ずっと似合っているんだもの。
現実を受け入れていないのは、もう、私だけ。
狂った人間としてのテルも、私の奪った席の隣にいたテルも、私の側にはいなくなっていた。
最善だと思って取った行動、その全ては、いたずらに傷を生むだけに終わってしまったみたい。
それは奪われるといったような人為的なものじゃない。
もっと自然現象的な、予めそうなっていることが、決まっているような。
彼女の事故も、私の事故も、全部決まっていたことだと、思ったことがある。
だから今回も、きっとそう。
関係を修復することも、介入もできない。
テル、離れないでよ――
照「……淡、ごめんなさい」
淡「……え?」
照「ごめんなさい……ごめん、ごめんね……」
――なんでテルは、私に抱きついてるんだろう。
なんで、私を優先するの?
あの子をほっといていいの?
最愛の彼女と、偽物の玩具でしかない私との区別がついたんだよ?
だったら、彼女の方に行けばいいのに。
今日私に話してくれたこと、表情、全部あの子にあげればいいのに。
「……良かった」
唯一自由な顔が観測した、彼女の言葉と表情。
それを見て、私は彼女にはなれないんだと悟ってしまった。
そりゃ、バレちゃうよね。
私はテルが離れていく様を見た上で、あんな笑顔を作ることなんてできないから。
そしてその笑顔は、私の隣に、確かにテルがいるのだと教えてくれた。
予め用意されていた、ただ一つの席。
テルがその隣にもう一個席を用意して、私を座らせてくれた理由。
どうしても、わからない。
昔の私なら、きっとわかっていたのかな?
それとも、無根拠な調子にでも乗ったりしていたかも。
運動していない私が抱きしめられるには、少し強すぎる力。
でも、その痛さが、今はとても心地良かった。
それもそのはず。
彼女はただ、普通に過ごして、唐突にこのことを知っただけだもの。
狂っていたのは、テルと私だけ。
お互いが、訳の分からない幻影を追っていただけ。
淡「テルのことは、どう思ってるの?」
「……わかんないや。 優しいお姉ちゃん、かな」
淡「そっか、私は、テルのことが好きだよ」
「……そっか」
二人きりになって、こんな簡単な会話をした。
答え方まで同じなのは、なんだかくすぐったかったけど、声には出さなかった。
この会話は、自らに釘を刺すためのものでもあった。
もし彼女がテルのことを好きだと答えたら、私はきっと、それで諦めていたと思う。
私には、その権利がないから。
「頑張ってね」
それでも彼女は、またあの時の笑顔で、私に権利を与えてくれた。
テルは席を作ってくれて、彼女はそこへのチケットを譲渡してくれている。
今まで溺れていた私は、この時ようやく助かることができたんだと思う。
でもさ。
震災は何かを巻き込まずして解決しない、それと一緒だよね。
私とテルは今でこそ元に戻れたけど、代わりに他のものを喪失しなくてはならなくなった。
スミレは睡眠欲を失ってしまったし、後に聞いた話では、しばらく重度の鬱病に陥っていたらしい。
これは100%、私が原因のことだった。
一時的な睡眠障害は慢性的になって、今でもやはり、睡眠薬は必要らしい。
正気に戻った後、馴れ馴れしい口調じゃなくて、ちゃんとした敬語でスミレに謝罪した。
土下座をしようとした時に、肩を掴まれて止められてしまったのは鮮明に記憶している。
居た堪れなくなって、罪悪感と嫌悪感が混じり合って、スミレもやっぱり何か思ったんだろうね。
それから三十分くらい、ずっと二人でわーわー泣いていたんだもん。
テルもやっぱり、精神的な問題。
テルの場合は、昔から長く根付いていて、一体化しかけていた傷を今更修復しようという話になる。
それに、杭が刺さりっぱなしの傷があれば、それを引っこ抜く必要もあった。
数年単位の長期的な精神治療になるし、大きな杭が抜けた影響で、ちょっとしたパニック障害も発症していた。
もちろんそれだけじゃないけど、でもテルの名誉のために、一つ挙げるだけに留めておく。
今は、私が常に隣にいて、テルの状態を整えるようにしている。
それが私に科せられた責任だし、もしそうでなくとも、きっと同じ行動をとっているんじゃないかな。
最後に、私。
私のは、身体的な喪失。
端的に言うとさ。
長期の歩行と、走ることが、できなくなった。
といっても、時折車椅子も使うからかな。
医者が言うには、20分も通して歩いちゃいけないらしい。
今はもう、一日3時間も歩けば良い方だった。
一生治らない傷。
後一回似たような事故を起こしたら、間違いなく下半身不随になってしまうもの。
少しタイミングがズレていたら、私はきっと、喜んでそうしただろうと思う。
今では、その思考が恐ろしいものだとわかるだけ、正常になったんだろうね。
こうして歩ける許可を出された頃には、スミレもテルも、卒業する間近だった。
だからテルと付きっきりといっても、その期間は大して長くない。
後数週間、なんて、数えられるくらいの日数すら残っていない。
そういう意味ではさ。
貴重なテルとの時間も、全て病室で、狂いながら過ごしていたわけだから。
半年間、まるごと喪失していたと言ってもいいのかな。
彼女からもらったチケットは、まだ行使していない。
このチケットは、いずれ返すつもりでいる。
もちろん嬉しいことは嬉しいんだけど、私は何度も卑怯なことをした分、今度は自力で隣に居座りたい。
でも、その種類がいくらでもあることに、最近になって気が付いた。
例えばスミレとか、友人として、テルの隣に座っているよね。
私も、そうだな、テルの隣に座れるくらい、強くなりたい。
肩がくっつくくらいの席に座るのは、それからでも遅くないと思う。
いくらか、経過した頃の話。
ちょうどキリもいいから、退院祝いと卒業祝いを一度にやることになってしまった。
日時が退院祝いとも卒業祝いともつかない半端な日だから、なってしまった、だ。
また厄介なことに、脚が妙に軋んで仕方ない日でもあった。
こんな日は、ベットの上で寝っ転がっていろ、なんて医者に言われてるけど、そんなわけにもいかない。
もちろん、あの子も呼んでるよ。
準備も整って、さあ席に座ろうとなった時。
テルの隣にスミレが座ろうとして、なんだか面白くなった。
やっぱり二人は友人なんだと、さっきの考えがまた頭に浮かんできた。
でも、そこはダメかな。
だから私は生意気にも、先輩であるスミレに注意してやる。
淡「そこ、だめ!」
菫「なんでだ?」
淡「今は、この子の席!」
そうして、私は車椅子の、私にとても似た子を指差した。
テルの隣に座るべき、私じゃない、その子に。
チケットは、もう返したよ。
"今は"なんて、自力で座る予約も付け加えながら、ね。
おわれ
面白かった
救いがあるENDで個人的に安心した
Entry ⇒ 2012.10.31 | Category ⇒ 咲-Saki-SS | Comments (1) | Trackbacks (0)
照「咲のお誕生日会に呼ばれたい」
照 「だから、咲のお誕生日会にお呼ばれしたい」
淡 「妹さんだっけ? 長野の」
照 「そう。とても可愛い」ムフー
菫 「……いや、呼ばれるわけがないだろう」
照 「何故」キョトン
菫 「普段から『私に妹はいない』なんて言ってる姉だぞ? そんなのを誕生日に呼ぶヤツがいるか」
照 「遠回しな愛情表現で咲をやきもきさせる作戦」フンスッ
淡 「なるほどー。テルーは策士だねー!」
照 「それほどでもない」ドヤッ
菫 「……」ハァ
菫 「照。たとえ話をしよう」
照 「?」
菫 「お前に好きな人がいたとする」
照 「咲のこと?」
菫 「その人が『照のことなんて知りません』と言ったとする」
照 「!?」ガーン
照 「咲に嫌われた人生なんて価値が無い。もうダメ、死ぬしかない」ドヨン
淡 「ちょ、テルー! これたとえ話、たとえ話だから!」
菫 「そんな相手を誕生日会に誘おうと思うか?」
照 「無理、絶対無理。もっと嫌われそうで……」
菫 「…それが、今のお前の妹の状況だよ」
照 「!」
菫 「お前の作戦とやらは知らんが、すこし妹さんを遠ざけすぎだ。
そんなじゃ嫌われていると勘違いされても仕方ないな」
照 「…うぅ」ションボリ
淡 「……スミレー、なんとかならないの? テルーが可哀そうだよー」
菫 「…まあ、直接妹さんのところに行けば良いんじゃないか? 招待されてなくとm」
照 「菫は何も分かってない」ガバッ
菫 「うおっ!? 急に顔を上げるなッ!」
照 「招待状を貰ってこそのお誕生日会。招待状無しで遊びに行くなんて趣がない」キッ
菫 「趣なんて気にするのか、お前が……」
淡 「なるほどなるほどー」
菫 「……」
菫 「…淡。先日、お前の誕生日会をこの部室で行ったな」
淡 「? うん、すごく楽しかったよー!」
菫 「瑞原プロがサプライズゲストとして来てくれたことを覚えているか?」
照 「!」
淡 「うんうん! びっくりしたけど、とっても嬉しかった!」
照 「……サプライズゲスト」
菫 「そうか。招待状はいいのか?」
照 「……たまには、菫の案を採用するのも良い」
菫 「ん。分かった」
淡 (さすがだね、スミレー。テルーのコントロールはばっちりって感じ?)ヒソヒソ
菫 (まあ、もう3年の付き合いだからな。あいつの考えることは大体分かるさ)ヒソヒソ
淡 (アハハ、まるで夫婦だ)ヒソヒソ
菫 (……先輩を茶化すんじゃない)ヒソヒソ
照 「それじゃ、今から長野に行ってくるから。今日の部活は休むね」
菫 「ん、そうか。頑張ってな」
ガチャ バタン
菫 「……」
菫 「ちょっと待てぇッッ!!」
淡 「言ってたねー」
菫 「あの超ド級の方向オンチが一人で長野へ!? 行けるわけがないだろ!」
淡 「前言撤回、全然コントロール出来てなかったねー」ケラケラ
菫 「亦野! 亦野っ!」
亦野「サー! いかがなさいました!」
菫 「照は今どこに?」
亦野「サー! 宮永上官は正門を抜け、駅に向かって……」
菫 「! 駅の方向が分かっていたのか、アイツは!?」
淡 「あはは、ひどい言いぐさだねー」
亦野「…向かっていましたが、途中焼き芋屋のトラックを発見、そのトラックを追従しています」
亦野「白糸台部室より西南に500mの地点であります、サー!」
亦野「サー、サンキューサー!」
菫 「淡、私は照を追う。今日の部活は……そうだな、渋谷の指示に従うように」
淡 「はーい」
菫 「それじゃあ。 …まったく、アイツは……」ブツブツ
ガチャ バタン
渋谷「……? 淡ちゃん、今弘世先輩が出て行ったけど…何かあったの?」
淡 「あっ、タカミー! えっとねー、またテルーのことだよ!」
渋谷「そっか、宮永先輩か。 仲良いね、あの二人」
淡 「まったくもって!」
渋谷「…そういえば、宮永先輩に麻雀部宛てでこんなのが届いてたんだけど……」
淡 「?」
亦野「『宮永咲・お誕生日会 御招待状』……」
淡 「……どうしよー!」ケラケラ
【長野】
照 「やっと長野に着いた」
菫 「まったく…方向感覚ゼロのくせにうろうろするから迷子になるんだぞ、お前は……」
照 「長野の空気……」クンクンクンクン
照 「咲の匂いがする!!」キラキラ
菫 「人の話を聞いてるのか、お前は」ポコン
照 「ちゃんと聞いてる。菫も咲の匂いをかぎたいんだよね」
菫 「…はぁ……」
照 「でも、菫が来てくれて助かった。菫がいなかったら、ひょっとすると迷子になって咲の誕生日に間に合わなかったかもしれない」
菫 「……ふん」
菫 「妹さんの誕生日は明日だろう? いくらなんでも迷子でそこまで遅くなるということは……」
菫 (…函館行の新幹線に乗ろうとしていたコイツならあり得るか……)
照 「咲と一緒に寝る。当然」フンッ
菫 「…サプライズは?」
照 「……」
照 「…と、とりあえず、家の前に着いてから考える。うん、そうしよう」
菫 「分かった。じゃ、妹さんの家まで案内してくれ」
照 「お任せあれ!」
菫 「ふふ、冗談だよ。方向オンチのお前が道案内なんて出来るわけ……」
照 「クンクンクン…… …!」
照 「こっちの方が咲の匂いが強い! こっち!!」トコトコ
菫 「……冗談のつもりだったのだが」
菫 「表札に『宮永』……まさか、本当に到着するとはな」
照 「咲が関わることならざっとこんなもの」ドヤァッ
菫 「すごいな、照は」
菫 (……軽く引いてしまうが)
照 「…ん!」ズイッ
菫 「うん? どうした、頭突き出して」
照 「……ん。ほら」
菫 「…あー、なるほど」
ナデナデ
照 「……ふふふ」
菫 「まったく…これで良いか?」
照 「もうちょっと。私、褒められれば褒められるほど伸びるタイプだから」
菫 「はいはい…。 で、結局どうするんだ?」ナデナデ
菫 「お前なあ……」
久 (遅くなっちゃったなー…もうみんな、誕生日会の準備始めちゃってるかしら)
久 (…あら、あれは……)
菫 「やめろ照! インターホンを舐めまわすのはやめないか!」
照 「咲の触れたインターホンと一体化することで名案が思い付くかも」ペロペロ
菫 「うるさい馬鹿っ!」
久 (咲のお姉さんと白糸台の部長さん?)
久 (……なんだか面白そうじゃない!)ワクワク
菫 「コンクリートに頬ずりするのはやめろぉ!」
久 「ちょっといいかしら?」
菫 「!」
久 「白糸台の部長さんよね、アナタ。それとそっちの……」
照 「咲の足の匂いがする……」ポワーン
久 「……宮永照さん?」
菫 「すまない、ちょっと頭が残念なヤツで」
久 「アハハ……。もしかして、咲の誕生日会に?」
菫 「ああ。実は……」
久 「なるほど、サプライズゲストで……」
久 (招待状のこと、知らないのかしら? ……まあ、面白そうだから黙っておくけど)
菫 「そのつもりだったのだが、今日どこで一晩過ごすかを決めていなくてな」
久 「…なんだったらウチに泊る?」
菫 「……は? いや、だがそんな迷惑を……」
久 「いいっていいって! 私一人暮らしだから!」
久 (それにこんな楽しそうなこと、見逃せないわ!)キランッ
久 (まこ達には悪いけど……メールしておけばいいかな?)
・ ・ ・
ブブブブブ……
優希「染谷先輩、携帯鳴ってるじぇー?」
まこ「…部長からじゃ。えーと…?」
『今日の準備、行けなくなっちゃった! 悪いけど後はヨロシク、まこ!』
まこ「……相変わらず自由なヤツじゃねえ」
京太郎「部長来ないんですか? この辺りの飾りとか、どうしようか相談しようと思ってたんですけど」
優希「お前の判断に任せるじぇ! テキトーにやっちゃえばいいのだ!」
京太郎「そんなアバウトな……」
まこ「よっしゃあ! いっちょ頑張っちゃるけえ!」
優希「犬、お前も頑張るんだじぇ!」
京太郎「おう! …って、お前も働けっ!」ペチン
咲 「……」ハァ
和 「…咲さん? どうかしましたか?」
咲 「和ちゃん。 えっと……」
和 「お姉さんのことですか?」
咲 「……うん」
咲 「うん。 でも、来てくれるかどうか心配で……」
和 「きっと来てくれますよ」
咲 「でもでも、もし来てくれなかったら……私、私っ」ウルウル
和 「……失礼します、咲さん」
ギュッ
咲 「! の、和ちゃんっ……」
和 「大丈夫です。お姉さんだって、きっと咲さんと仲直りしたいはずですよ」
和 「私は……その。 ……明るい咲さんの方が、す…好きなので……」ゴニョゴニョ
咲 「…うん、そうだね。和ちゃんの言う通りだよ」
咲 「ちょっと元気出たかも。ありがとう、和ちゃん!」ニコッ
和 「!」キュン
和 「……いえ、どういたしまして。さ、誕生日会の準備を続けましょう」
咲 「うん!」
和 (……それにしても、さっきから外が騒がしいですね。誰かが表で騒いでいるような……)
・ ・ ・
菫 「照! いい加減にしろ! 早く行くぞ!」グイグイ
照 「あと3時間。久しぶりの咲成分、たっぷり補給していかないと」グググ
菫 「ドアノブから何が補給できるっていうんだ、このシスコン!」グイーッ
久 「アナタも大変ねー……」シミジミ
久 「さ、入って入ってー」
菫 「お邪魔します。 …いつまで拗ねてるんだ、照」
照 「……」ムスー
菫 「…まだ根に持ってるのか」
照 「菫のせいで私の必須咲成分、サキニウムとサキ酸が不足している」
照 「菫とはもう口をきかない。私は怒ってる」プンスコ
久 「チャンピオンって素はこんなだったのねー」カラカラ
菫 「まったく……」
菫 「照」
照 「聞こえない。菫の声が聞こえた気がするけど気のせい」
照 「……」ツンッ
菫 「外が騒がしいのを不審に思って、妹さんが家から出てきていたかもしれない」
久 「騒がしかったのは主にアナタだけどね」
菫 「玄関の戸を開けた妹さんの目に写るのは、ドアノブにむしゃぶりつく姉」
菫 「…これは嫌われても仕方ないよなぁ」
照 「! ……それは困る」
菫 「そうなってはマズいと思ったからこそ、私は無理矢理お前を連れてきたんだ」
照 「そうだったのか……」
照 「ありがとう、菫。危うく咲に嫌われるところだった」
久 「なんていうか…扱いに慣れてるわねぇ」
久 「うん。適当にくつろいでねー、ちょっと散らかってるけども」
菫 「本当にありがとう。 …ええっと……」
久 「あ、名前覚えてなかったかしら。竹井久、久でいいわよ」
菫 「ああ、ありがとう久。迷惑をかける」
久 「いいのよ、私も天下の白糸台の部長と話してみたかったし」ニコ
菫 「む…そ、そうか……」
久 「ねえ。私も、菫って呼んでいい? アナタのこと」
菫 「ああ、構わないが」
久 「ありがと。 …菫」
菫 「! ……ああ、いや、こちらこs」
照 「久、お腹すいた」
菫 「……」ハァ
菫 「…少しは遠慮というものを知れ、お前は……」
ハムッ モグモグ ングッ
照 「…とても美味しい。久は料理が上手い」
久 「あら、チャンピオンに褒められるなんて光栄ね」
菫 「悪いな、夕飯までいただくなんて」
久 「大丈夫よー、どうせ残り物だから。じゃんじゃん食べちゃって!」
照 「ん。おかわり」ズイッ
菫 「お前は……」
・ ・ ・
久 「ウチ、お風呂だけは広いのよねー」
菫 「3人同時に入ってなお余裕があるとは…」
照 「……」ブクブクブク
菫 「照。湯船でぶくぶくするのは行儀が悪いぞ」
菫 「ずるい? 何のことだ?」
照 「……」ブクブク
久 「…ははーん、なるほど」ニヤ
久 「確かに、菫のスタイルは同姓から見てもそそるものがあるわよねえ」
菫 「久? 何を言って……」
久 「えいっ!」ドンッ
菫 「うおっ!?」
バシャーン
久 「ねえ照。照が言うズルいって……これのことじゃない?」ムニッ
菫 「ひゃうっ!?」
照 「うん。私はこんなぺったんなのに、菫はズルい」
久 「…ねえ。提案があるんだけれど」
照 「…オーケー、大体分かった」
菫 「お、おい。久、何のつもりだ……。照、お前も何だその手は…」
菫 「馬鹿、バカ、やめろ、近づくな……。やめて、いやだ……イヤ……」
イヤーーーーッ
・ ・ ・
久 「いやー、いいお湯だったわ!」ツヤツヤ
照 「気持ち良かった」ツヤツヤ
菫 「……お前ら、覚えておけよ……」
久 「あら、覚えててもいいのかしら?」
菫 「…やっぱり忘れろっ!」
菫 「…なんで布団が人数分あるんだ……」
照 「寝床が違うと寝つきが悪くなる。ゆっくり眠れそうにない」
菫 「羊でも数えてろ」
久 「電気消すわよー?」
パチン
照 「ぐう」
菫 「早っ!」
久 「寝つきが良いっていいわねー」
菫 「ん、どうした」
久 「あは、良かった。起きてたんだ」
久 「…咲のことなんだけれど」
菫 「……」
久 「あの子、明日の誕生日を本当に楽しみにしてたの」
菫 「…照とのことか」
久 「そ。お姉ちゃんと絶対に仲直りするんだ、って。姉想いよねー」
久 「……咲の気持ち。大切にしてあげてね?」
菫 「…ああ、分かった。照にも伝えておくよ」
久 「んー。その必要はないかも、ね」
菫 「? どういう意味だ?」
久 「ふふ、別にー?」
照 「…ぐー」
久 「朝よー! さっ、起きて起きて!」
菫 「ん……あー、おはよう……」
照 「うーん……さ、咲ぃ……」
・ ・ ・
久 「さ、これからのことを決めていきましょうか」
照 「咲とちゅっちゅする。以上」
菫 「異議あり!」
照 「どうして。作戦はシンプルな方が良いはず。これ以上シンプルなプランはない」
久 「あはは……そうねぇ」
久 「照。アナタ、恋愛映画とかって観たことあるかしら?」
照 「? 当然。特に姉×妹系のジャンルが好き」
菫 「あるのか、そんなジャンルが…」
照 「そう。恋仲になるまでを見守るのがとてもドキドキする。まさに見せ場」
照 「……あっ」
久 「そ。そういうことよ」
久 「大抵のことはシンプルな方が良いけれど、恋愛っていうのは複雑な方が好まれるのよ」
照 「なるほど……奥が深い」
菫 (……久も慣れてきたな、照の扱いに)
久 「それじゃ、改めてこれからのプランについて」
久 「まず咲のお誕生日会の時間ね。13時から18時までを予定しているわ」
久 「場が盛り上がったりしたら、もう少し延長したりもするかもね」
菫 「特に気にするようなこともなさそうだな。 問題は我々がいつ入っていくか、ということだが」
久 「プレゼントを渡すときに、っていうのはどうかしら? 大体17時頃になると思うのだけれど」
菫 「プレゼント?」
久 「そ。タイミングを見計らって咲を部屋の外に連れ出して、その間にみんなからのプレゼントを準備して……」
久 「部屋の電気を消しておいて、咲が帰ってきたところで電気を点ける! プレゼントどんっ!」
久 「…っていうのを予定しているの」
菫 「なるほど。そしてそこに照を……」
久 「ええ。良いサプライズになるんじゃないかな、って」
菫 「良いアイデアだと思う。照、お前はどうだ?」
照 「咲といちゃいちゃ出来るならなんでもいいよ」
菫 「……。 …それで行こう」
久 「OK。じゃ、タイミングが来たらメールするから。それまで待機ってことでヨロシクね!」
照 「任せて。どんとこい」フンスッ
菫 「……不安だ」ハァ
菫 「……」
照 「菫、もうちょっとそっちに退いて。よく見えない」モゾモゾ
菫 「…なあ照。確かに待機とは言われたが……」
照 「ああ、やっぱり咲は可愛いなあ……」ウットリ
菫 「こんなところに隠れる必要はあったのか? 庭の垣根の中って……」
照 「中の様子はしっかりチェックしておかないと」
菫 「確かにそうだが…痛たたっ! 枝が、枝が刺さるっ!」
照 「静かに。気付かれたらすべてが台無し」
菫 (……正論なんだが、何でだろうな。コイツに言われるとイラッとくるのは)
・ ・ ・
衣 「咲ー! お呼ばれして来たぞー!」
咲 「あ、衣ちゃん。 いらっしゃい」
衣 「だーかーら! 衣は年上だ! 『ちゃん』ではなく!」
衣 「お前は風越の! …えー……」
池田「池田! 池田華菜ちゃんだし!」
衣 「すまない、凡俗どもの名前を覚えることには疎くてな」
池田「よっしゃ、その喧嘩買ったし!」ニャー
衣 「ん? 塵芥が衣に挑むつもりか?」ゴッ
まこ「はいはい、そこまでじゃ。せっかくの誕生日会を乱闘祭りにする気かいのう?」
福路「そうよ、華菜。私たちは一応、風越の代表として来てるんだから」
池田「キャプテンがそう言うなら……」
純 「衣も。今日は清澄の大将をお祝いに来たんだろ?」
衣 「…そうだな。せっかくの誕生祝いに喧騒で水を差すのも不粋だ」
池田「この喧嘩は次に持越しだし!」
衣 「ふん、いつでも来るが良い!」
久 「そうね。楽しそうで何よりだわ」
透華「……」ムスー
久 「あら、龍門渕さんは不機嫌そうね」
透華「…私が全然目立てていませんわ」
加治木「今日の主役は宮永さんだからな。仕方ないだろうさ」
透華「それはそうですけど……」
一 「大丈夫だよ、透華。ボクの視界には透華しか映ってないからさ」
透華「な、何を言ってますの! 貴方は……! ……もう」
久 「あら、自分にはそういう相手がいないような言いぐさね」クス
加治木「はは、あそこまで深い関係の相手はいないさ」
久 「そっか。じゃ、私が立候補してm」
モモ「先輩! 危ないっす!」
加治木「モモ!?」
モモ「ふー…危機一髪っすね。先輩、今この女に狙われてたっすよ!」
久 「狙うだなんて、そんな人聞きが悪い」
モモ「あ、ダメっす! 先輩に近づいちゃダメっすよ! 先輩は私のものっすから!」
加治木「お、おいモモ……」
モモ「さ、先輩! あっちの料理見に行きましょ、ほらほらっ!」グイーッ
加治木「こら、引っ張るんじゃない……。 それじゃ久、また後で」
久 「ふふ。うん、また後で」
京太郎「自分の胸に手を当ててよーく考えてみ」
優希「……?」サワ
智紀「まったいら」ボソッ
未春(…この人、やっぱり敵……!)
優希「さっぱり分からんじぇ!」
京太郎「お前が昨日のうちにほとんど食っちまったからだろーが!」
優希「むむむ……これもタコスが魅力的すぎるが故に……」
優希「よし、京太郎! お前に買い出しを命ずるじょ!」
京太郎「はあ!? 今からか!?」
優希「ほら、もたもたしないっ!」
蒲原「ワハハ、なんだったら車出そうかー?」ワハハ
京太郎「あ、鶴賀の……蒲原さん、でしたっけ?」
蒲原「あのタコスは私ももっと食べたいしなー。ほら、行くぞー!」
文堂「こんなにも……!」
和 「お二人とも、プロ麻雀せんべいが好きだと深堀さんと妹尾さんから聞いていましたので」
深堀「カードは2人にあげよう、ってことも決まってます」
妹尾「良かったね、2人とも!」
文堂「ありがとうございます! ではさっそく!」バリッ
睦月「うむっ!」バリッ
睦月「…うむ……」
睦月「藤田プロ……」
文堂「こっちもです……」
和 「そんなオカルトありえませんっ!!」
菫 「なかなか盛り上がっているようだな。 …照?」
照 「入りたい……今すぐあの中に入って咲と……」ハァーッ ハァーッ
菫 「照!? ストップ、落ち着け! まだだ、まだ久から合図は来てないぞ!」
照 「…うん、分かってる…。我慢、我慢……」プルプル
菫 「しかし、人の集まりがすごいな。人望がある、ということか」
照 「私の妹だから当然……」プルプル
菫 「……ん? あれは……」
・ ・ ・
咲 「……」ソワソワ
和 「咲さん」
咲 「あ、和ちゃん」
咲 「…お姉ちゃん、遅いね……」
和 「東京はすこし遠いですから。遅くなるのも仕方ないです」
和 「ですから…2人で、待ちましょう? お姉さんを」ニコ
咲 「…! うんっ!」
優希「咲ちゃーん! こっちの料理も美味しいじぇー!」
純 「お前にはこれがお似合いじゃねーのか?」ヘラヘラ
優希「焼き鳥……ってふざけんなノッポー!」ムキー
和 「もう、優希ったら…。 …行きましょ、咲さん」グイッ
咲 「わわっ、和ちゃんっ!」
・ ・ ・
照 「あのピンク…! 私の咲の手を……!」ギュルルル
菫 「おい馬鹿、落ち着け! その右腕を止めろ!」
久 (垣根がこれでもか、ってくらい揺れてるわ……。照はもう我慢できない、って感じかしら)
久 (もうちょっと待ってて欲しかったけれど、限界かしらね)
透華「…? どうかしましたの? 窓の外をぼけーっと」
久 「へ? ああ、いや……そろそろ、アレを始めちゃっても良いかなって」
透華「アレというと……」
透華(誕生日プレゼント、ですわね)ヒソッ
久 (そ。ちょっと早いけれど……こういうのは盛り上がってるうちに、ね?)ヒソヒソ
透華(分かりましたわ。 ……智紀)クイッ
智紀(…透華からの合図。了解、っと)スッ
智紀(……)カチャ カチャカチャ タンッ
福路「? 沢村さんは何をしてるのかしら?」
未春(アレですよ、誕生日プレゼントの。多分、PCで須賀くんに連絡を取ってるんです)ヒソヒソ
福路(! あのノートみたいなものはパソコンなの!?)
未春(…キャプテン……)
蒲原「たっぷり買えたなー。これでタコスがたくさん作れるぞー」
京太郎「ありがとうございます、車出してもらって。おかげで助かりましたよ」
蒲原「なーに、いいってことよー」ワハハ
ティロロンッ♪
蒲原「ん、メールかー?」
京太郎「そうみたいっすね。…あ、とうとう始めるみたいですよ」
蒲原「おっ、始めちゃうのかー。よーし、ガンガン電話しちゃってくれー!」
京太郎「それじゃ、失礼して……」
ピポパポ……
・ ・ ・
プルルルルル プルルルルル
和 「あ、電話ですね」
咲 「ごめんね、ちょっと電話出てくるよ」トトトッ
ガチャ バタン
透華「今のうちにプレゼントを準備しますわよ! 各自プレゼントをお出しなさいっ!」キラキラッ
衣 「おぉ、透華が溌剌と!」
一 「今まで全然目立ってなかったからねー」アハハ
純 「お前ら何持ってきた?」
衣 「衣はこれだ! 限定盤・アヒルちゃんプロペラ!」
一 「アヒルちゃんプロペラ?」
衣 「うむ。以前、智美からもらってな。趣深き品ゆえ、是非咲にも!」
一 「ボクは無難に服だよ。可愛いやつ」
純 (無難……ねぇ)
透華「私はアクセサリーですわ! 宮永さんはもう少しオシャレに気を遣うべきと思いましたから!」
智紀「本を数冊……」
透華「…何の本ですの?」
智紀「秘密」
透華「あら、良いじゃないですの。お菓子だなんて」
一 「わ、クッキーにチョコレートにマカロン!女の子してるねー」
純 「う、うるせえっ!」カァァッ
優希「ふっふっふ、ノッポじゃ所詮その程度しか持ってこれまい……」
純 「ほー、じゃあお前は何を持ってきたって言うんだ?」
優希「これだじぇ! 家庭で作れるタコスレシピ100選!」ドヤーッ
優希「これで咲ちゃんも呪われしタコスの血族の仲間入りだじょ!」
純 「……」
加治木「モモは何を持ってきたんだ?」
モモ「ちょっとしたハウツー本を持ってきたっす」
加治木「なになに……。…『百合のススメ』……」
モモ「一押しっす!」
モモ 「そういう先輩は何を?」
加治木「CDだ。以前、このアーティストが好きだという話を聞いてな」
モモ 「……いつ聞いたんすか? 私の知らないうちに、そんな好みまで教え合う仲に…?」ゴゴ
加治木「合同合宿のときに…。 …ってモモ? ど、どうした、何か怒らせるようなことを言ったか?」アタフタ
妹尾 「加治木先輩も大変だねー…。 …睦月ちゃんは何持ってきた?」
睦月 「うむ、これを」
妹尾 「わ、かわいいリボン! きっと喜んでくれるよー!」
睦月「佳織は?」
妹尾 「麻雀の戦術書だよー。私の愛読書!」
睦月 「う、うむ。なるほど」
睦月 (…アレに今更戦術書なんて役立つのだろうか……)
池田「キャプテン! 見てください、このネコミミ!」
福路「可愛いわね。これをプレゼントに?」
池田「はい! 宮永にきっと似合うはずだし!」
福路「さすが華菜ね。良いチョイスだと思うわ」ニコリ
池田「! キャプテンに褒めてもらったし! にゃあーっ!」
深堀「キャプテンは何を持ってきたんですか?」
福路「マフラーと手袋よ。これから寒い季節になるでしょ?」
文堂「わ、もしかして手編みですか?」
福路「ええ、ちょうど毛糸が家にあったから」
未春「すごい…しかもイニシャル入りだ」
福路「……華菜にも誕生日に編んであげるわね?」
池田「にゃっ!? ほ、本当ですかキャプテン!?」
福路「華菜にはいつもお世話になってるから」フフ
池田「……にゃ、にゃにゃ、にゃにゃにゃにゃーーーっ!!」ピコピコピコ
未春「華菜ちゃんのしっぽがものすごい動きを!?」
文堂「みんなは何を持ってきたんです?」
未春「私はこれだよ! 髪留めー!」
文堂(まさか吉留とかけた、なんてことは……)
深堀「私は小物入れを」
未春「文堂さんは?」
文堂「私のはすごいですよ! じゃんっ!」
文堂「今シーズンのトップレア、小鍛治プロのプロ麻雀せんべいカードです!」
未春「……わー、すごいねー」
久 「まこは何を持ってきたの?」
まこ「これじゃ! 増えるワカメ!」デンッ
久 「……」
久 「の、和は何をm」
まこ「冗談! 冗談じゃから! さすがにこんなもんプレゼントには出来んよぉ!」
久 「はいはい、それで、本当は?」
まこ「まあ、大したもんじゃないんじゃがねぇ。ほれ、これじゃ」
久 「色紙? …って、何これ!? 小鍛治プロに三尋木プロに戒能プロに……どうしたの、これ?」
まこ「ちょっとツテを頼ったんじゃあ」
久 「ツテ……ああ、靖子ね」
和 (これでは私のが浮いてしまいます。包装されてるからまだマシですが)
和 (……)
和 (…下着は失敗だったのでしょうか)
和 (いや、しかしこのエロ可愛い下着をつけた宮永さんを想像すると…!)
和 (……このチョイス、やはり間違ってはいませんね)キリッ
久 「のーどか」
和 「あ、部長」
久 「プレゼント、何持っt」
和 「ぶ、部長はプレゼントに何を持ってきたんですか!?」
久 「あら、私? うーん、そうねえ……」
久 「ま、もうバラしちゃっても良いかしら。みんな、外を見てもらえる?」
菫 「…おい、照。久からの合図が来たぞ」
照 「あと5分……」
菫 「起きろ」ポコン
照 「あうっ!?」
菫 「何寝てるんだ、お前は……」
照 「咲がいない場所なんて見張ってても仕方ない」
菫 「よだれを垂らしながら何を言ってるんだ。ほら」フキフキ
照 「ん」
菫 「…久からの合図だ。行くぞ」
照 「がってん」
透華「な……あれって」
加治木「おいおい、まさか……」
福路「上埜さん、こんなサプライズを……」
久 「じゃーんっ! 私のプレゼントは実の姉、宮永照ですっ!」
菫 「プレゼント扱い!?」
照 「~~~っ」テレテレ
菫 「お前も照れてるんじゃない!」
久 「で、おまけに白糸台高校麻雀部の部長さんの菫です」
菫 「私はおまけ扱いか!」
ワイワイ ガヤガヤ
久 「ほらほら、色々話したいことはあると思うけれど、もうそろそろ咲が戻ってくる頃よ!」
透華「! そ、そうですわよ! 電気を消す! みんなは隠れるっ!」
菫 「私たちはどうすれば?」
久 「菫は一緒に隠れて! 照はそこに立ってて!」
照 「えっ? えっ?」アタフタ
モモ「電気消すっすよー!」
パチン
咲 「京ちゃんったら、長電話すぎだよぉ……よくあんなに話題を作れるよね……」
咲 「みんなー、戻ったよー」ガチャ
咲 「あ、あれ? 真っ暗?」
咲 「み、みんなー……どこー…?」
咲 「…あれ、そこに誰か立ってる?」
照 「!」ビクンッ
久 「さー、どうなるかしら」ニヒヒ
菫 「さては久、お前これを見るためだけに協力してたな?」
久 「だって面白そうなんだもーん」
菫 「やれやれ……」
咲 「あ、あのう…みんなどこに行ったんですか…? どうして電気が消えてるんですか…?」
照 (咲の匂い……ああっ! 今私、咲と同じ空気を吸ってるっ!)ドキドキドキ
咲 (暗くてよく見えない…もっと近づかないと)
トコトコ
照 (! 咲の匂いがより一層強まって……!)
照 (かぐわしい咲の香り…! ダメだ、脳が蕩ける…っ!)ドキドキドキドキ
モモ(な、なんかヤバそうなんすけど……電気、まだ点けないんすか?)チラッ
久 (ま・だ)クイッ クイッ
モモ(…あれは絶対楽しんでるっすね)ハァ
照 (咲咲咲咲咲咲咲サキサキサキさきさき)
咲 (顔がよく見えない…もうちょっと)トコトコ
照 (! ……)プッツーン
咲 「あの……」
照 「……咲」
咲 「へ? ってその声、もしかs」
照 「咲ぃぃぃぃぃぃっっ!!」ガバァッ
咲 「わ、ひゃ、うわあっ!?」
ドテッ
『『『『『咲ちゃん! お誕生日おめでとう!!』』』』』
咲 「……」
照 「ぺろぺろぺろぺろぺろぺろ」
咲 「…おねえ、ちゃん?」
照 「ぺろぺろぺろぺろぺろぺろ」
菫 (お、おい。どうするんだ、この空気)
久 (さあ?)
菫 (さあ、って……)
咲 「……」
照 「ぺろぺろぺろぺろぺろぺろ」
咲 「……」
咲 「…ふふ」
咲 「くすぐったいよ、お姉ちゃん」ナデ
照 「ぺろぺろ…… …ん。ごめん」
咲 「ううん。 …あ、あのね」
咲 「お…おか……」ウルッ
咲 「おかえりっ…! おね、ちゃ……!」ブワワッ
咲 「! ……おねえちゃっ…! う、うわああああ……! ああぁぁん!」ボロボロ
照 「ん。咲は泣き虫だね」ナデナデ
アーン ウワーン
久 「…何とか良い感じに収まったんじゃないかしら?」
菫 「照が妹さんを押し倒したときはどうなるかと思ったがな」
久 「ま、ハプニングは付き物ってことで」
菫 「…まったく」
菫 (だが……こうして照が妹と仲直りできた。それは良いことだと思うよ)
菫 (良かったな、照)
・ ・ ・
和 「……」
和 「…ハッ!? あまりのことに思わず思考のヒューズを飛ばしていました!」
和 (!)
優希「アンタが咲ちゃんのお姉ちゃんかー。確かに似てるじょ!」
照 「そう? …えへへ」テレッ
咲 「似てるって! …えへへ」テレッ
まこ「仲が良いのう。とても喧嘩しとったとは思えんわ」
照 「別に喧嘩していたつもりはない」
咲 「えっ、そうなの?」
照 「私が咲を嫌いになるはずがない」
咲 「そっかー…。 …私も大好きだよ、お姉ちゃん」
照 「咲……」
イチャイチャ イチャイチャ
和 「……」ギリギリ
和 (久しぶりに会えた家族なんです。少しは仲良くしていても……)
イチャイチャ イチャイチャ
和 (…少しくらいなら……)
イチャペロ イチャペロ
和 (……)
咲 「それでね、お姉ちゃん! その時の京ちゃんったら……」
照 「ふふ、京太郎は相変わらずなんだな」
ずずいっ
照 「!」
咲 「あ、和ちゃん」
和 「はじめまして、お姉さ……いえ、お義姉さん」
優希「? なんで言い直したんだじぇ?」
和 「この1年間、咲さんと ふか~い 関係を築いています」
まこ(和……照に対抗意識燃やしすぎじゃ)
和 「よろしくお願いしますね。 お 義 姉 さ ん 」ニッコリ
照 「……」
照 (このピンク、さっき咲の手を汚した……)
照 (ここで××することも出来るけど…。 …今は咲が見てるし)
照 「ああ。よろしく、 原 村 さ ん 」ニッコリ
照 「握手しないか?」
和 「握手……いいですね」
ギュッ
和 「……咲さんは渡しません」ボソッ
照 「……潰す」ボソッ
ギュウウウウウウウッ
照 「く、ぬ、ぬ……」ギュウウウウッ
咲 「お姉ちゃんと和ちゃんも仲良くなってくれたようで何よりだよー」ホッコリ
まこ「いや、これは仲良くなっとるというより……」
照 「ふ、ふふ……! 聞いたか、咲はお前より先に私を呼んでくれたぞ……!」ギギギ
和 「お義姉さん……咲さんは私のことを『名前』で呼んでくれているんですよ……?」ゴゴゴ
久 「はいはい、ストップストップ! 今日は咲の誕生日なのよ?」
透華「貴方達まで目立ってしまっては私の立場がありませんわ!」
照 「……」
和 「……」
照 「それもそうだな」パッ
和 「それもそうですね」パッ
咲 「わ…すごい……! これ全部、私に?」
和 「そうですよ。それだけ咲さんがみんなに愛されてるということです」
照 「その中でも一番愛しているのが私」ドヤッ
和 「何年もほったらかしにしていた姉が言えた台詞ではありませんね」フフン
照 「! ……菫」グス
菫 「擁護のしようもない事実だな」
照 「うう……」
優希「さあ咲ちゃん! 気になるものを存分に手に取るのだ!」
咲 「うーん……これとか可愛いね」
衣 「お! それは衣が持ってきたのだ!」
咲 「衣ちゃ……衣おねえちゃんが?」
衣 「そうだ! 音に反応して飛ぶんだぞ」フンスッ
咲 「飛ぶの!? へー……ありがとう、衣おねえちゃん!」
一 「ああ、それはボクが持ってきた物だよ」
咲 「えっと……何ですか、これは」
一 「何って、見れば分かるじゃないか。服だよ服」
(((((服……? アレが……?)))))
和 (この場のほぼ全員の思いが一致した気がしますね……)
照 (しかし、服か……)
和 (アレを咲さんが着たとしたら……)
照和「……」ホワンホワーン
照和「ごぼぉっ!!」ブーッ
優希「わわ! のどちゃんと咲ちゃんのお姉ちゃんが吐血しながら鼻血を!!」
透華(わ、私のプレゼントがスルーされましたわ!)キーッ
純 (どうどう、俺のもスルーされてんだから落ち着け)
モモ「本だったら私が持ってきたヤツっすかね」
智紀「…私も」
咲 「こっちの本は……『百合のススメ』?」
和 「!」キュピーン
照 「!」キュピーン
モモ(2人とも、頑張るっすよ。私も陰ながら助力させていただくっす)グッ
和 (ありがとう、東横さん……!)
咲 「それでこっちはマンガかな? ……わわわ!」
咲 「誰ですかっ、こんなの持ってきたのはっ! もー……」カァァッ
和 (間違いありません、あれはえっちなマンガですね)
照 (ジャンルを確認しないと……。…『テルテルアイ』っ、倍率×10!)カシャシャシャッ
和 「…! 馬鹿な、姉妹モノですって……!?」カタカタ
照 「!」バッ
智紀(和×咲はもうお腹いっぱい。次は照×咲に切り替えていく)
和 (なんてことでしょう……彼女はお義姉さん派でしたか……)
咲 「もー…もっと普通なのは……」
池田「私の持ってきたネコミミはどうだ! 可愛いぞ!」
咲 「ネコミミ…あ、これだね」
まこ「せっかくじゃ、付けてみたらどうかいの?」
咲 「今ですか? んっと……」ゴソゴソ
咲 「こう、かな……?」テレテレ
照和「イエスッッッッ!!」ブバババッ
優希「うわああっ! 体中の穴という穴から出血!?」
池田「それはキャプテンが編んだものだし! キャプテンのまごころに感動しながら使うといいぞ!」
咲 「へえ……。あっ、イニシャル入りだ! S・Mって!」
照 「S!?」ピコーン
和 「M!?」ピコーン
菫 「お前ら仲良いな……」
咲 「わ、プロ麻雀せんべいのカードもあるよ」
文堂「それ、私が持ってきたヤツです! 小鍛治プロですよ!」
睦月「うむっ…! さすが星夏ちゃんだ。いつでもプロ麻雀せんべい魂を忘れていないな」
文堂「そういう津山さんだって、さっきからプロ麻雀せんべいの山を探る手が止まってませんよ」
ハハハハ……
照 「……」じーっ
菫 「そういえば、お前もプロ麻雀せんべいカードを集めていたな」
照 「……」コクン
菫 「だったら行って来ればいいだろう」
照 「でも恥ずかしいっていうか…その……」モジモジ
菫 「ああ、もう! うだうだ言ってないで行って来い!」ドンッ
照 「うわわ!」
文堂「…で、瑞原プロだけずっと出なくて困ってるんですよ」
睦月「うむ、確かに瑞原プロの出現率は他のスターカードより低めに設定されているな」
文堂「ですよね! 気のせいじゃないですよね! この前だっt」
照 「あの……」
睦月「うむァ!?」ビクッ
文堂「チャンピオン!? な、何か用ですか…?」ビクビク
文堂(え? 何これ、何で私、チャンピオンに話しかけられてるの?)
睦月(まったく分からない…チャンピオンの意図が)
照 「……!」スッ
睦月「…プロ麻雀せんべい?」
照 「……」コクン
文堂「…ひょっとして、チャンピオンも集めてたり?」
照 「!」パァァッ
菫 「…お、どうだった?」
照 「友達になれた! 星夏ちゃんと睦月ちゃんだって!」ウキウキ
菫 「そうか。良かったな」
照 「ん!」ニコー
和 (…良かった。どうやら私のプレゼントは触れられずに済みそうですね)ホッ
優希「咲ちゃん、まだその包みを開けてないじぇー」
和 (優希っ……! 余計なことを……!)
咲 「あ、ホントだ。これは誰からの物かな?」
シーン
咲 「あれれ……?」
和 (黙っていればバレないはずです。咲さんには悪いですが)
久 「それ、確か和の持ってきたのじゃなかったっけ?」
和 (ぶ、部長ーっ!!)
久 (ふふ、私も中身が気になるのよねー)ニヤニヤ
咲 「そうなの? 和ちゃん」
和 「え、ええ。まあ、一応……」
咲 「うん。開けちゃうね、和ちゃん」
和 「ま、待ってください!」
咲 「?」
和 「それを開けるのは、その……みんなが帰ってからにしてくれませんか?」
優希「どうしてだー? 何か問題でもあるのか?」
和 「そういうわけではありませんが……何となくです、何となく!」
照 (…あの反応。さてはピンクめ、恥ずかしいものをプレゼントにしたな)
照 (私だってこんな機会があれば同じことをする。間違いない)
照 (……と、なれば。あれを無理矢理開けてしまえばピンクの株を落とすことが出来る)
照 (そうすれば私の株が逆に急上昇、咲ルート一直線)
照 「…よし、やるか」ギュルルルル
和 「! ありがとうございます、咲さん!」
優希「ちぇー、つまんないじぇ……」
照 「……」ギュルルルル
照 「……ふんっ!」
ゴォォォォッ!!
まこ「な、なんじゃ!? 急に突風が!」
優希「咲ちゃんの持つ包みに向かって!」
咲 「うわっ!?」
久 「あら、上手い具合にラッピングが破れていくわね」
バリバリッ ビリッ
咲 「……ぱんつ?」
和 「 」
和 「さ、咲さん。違うんでs」アタフタ
照 「うわー なんだーこれはー!」
和 「!」バッ
照 「まさかたんじょうびにー ぱんつをぷれぜんとする へんたいがいたなんてー!」
照 「ひゃー これはびっくりだなー ひととしてどうなんだろうなー!」
照 「こんなへんたいはー さきのおよめさんにはふさわしくないなー!」
和 「……」ワナワナ
菫 (…うわあ)
久 (すっごい棒読みね、照……)
文堂(あれでも本人的には迫真の演技なんだろうなあ……)
睦月(うむ……)
モモ(お姉さん、さすがにそれは必死すぎっすよ……)
智紀(ぽんこつな姉のヘタレ攻め……アリかも)
和 (うう……)プルプル
咲 「……」
スタスタ
照 「これはもー わたしがかわりにさきのおよめさんになr」
パシンッ
照 「……」
咲 「…お姉ちゃん。」
照 「さ…さき……?」
咲 「いくらお姉ちゃんでも、和ちゃんを馬鹿にしたら怒るよ?」
クルッ
咲 「和ちゃん。ぱんつ、ありがとうね!」
和 「咲さん……」ウル
照 「…う……」
智紀(照NTRモノ……なるほど、これは盲点)
照 「う……うぐっ……」プルプル
照 「さ、咲ぃ……」グスッ
咲 「? お姉ちゃん?」
照 「ご、べん、なざいっ…私が、悪かった、がらぁっ」ヒック ズズッ
照 「私のごと……嫌いに、なっちゃ、やだぁっ……」グスンッ
咲 「……」
咲 「ちゃんと人に謝れるお姉ちゃんだったら、私は嫌いにならないよ?」
照 「…! う、うんっ!」
照 「ごめんなさいっ、咲!」ペッコリン
咲 「…お姉ちゃん」
咲 「謝る相手が間違ってるよ」ニコッ
照 「……へ?」
和 「……」
照 「…なんでこんな変態ピンクに」
咲 「お姉ちゃん?」ゴッ
照 「ぐ……」
照 「…メンサイッ」ピコッ
咲 「聞こえないよ、お姉ちゃん」
照 「……ごめんなさい」ペコリン
菫 「あの照が人に謝っている……!?」ワナワナ
菫 「馬鹿な、私は夢でも見てるのか? こんなことが実現するなんて……!」
久 「ひどい言いぐさねー」
和 「そうですね。あと土下座して私の足を舐めて『二度と咲さんに手を出しません』と誓えば」
咲 「……」ゴゴゴ
和 「…こほんっ。まあ、咲さんに免じて許してあげます」
咲 「良かったー! これで仲直りだね、2人とも!」パァァッ
照 (…ふふ。咲には敵わないな)
和 (やっぱり咲さんが一番ですね)
久 「さ! 良い感じの雰囲気になったところでお開きにしましょうか!」
咲 「あの、今日は本当にありがとうございました! とても嬉しかったです!」ペッコリン
パチパチパチ パチパチパチパチ
ヒューヒューッ ヒューッ
久 「それじゃ、解散っ!」
優希「そうか、もう帰っちゃうのかー……」
菫 「私たちも学校があるからな。今日中には東京に戻らなければ」
まこ「ま、またいつでも来んしゃい。歓迎するけえ」
久 「そのときはまたウチに泊っていく?」
菫 「それはお断りだ!」
久 「あら、残念ね」ヘラッ
菫 「……おい、照! そろそろ出発するぞ!」
照 「待って、菫。もう少しだけ咲とお話してから」
菫 「……」
優希「本当に妹想いだじぇー……」シミジミ
菫 「少しは妹離れすべきな気もするがな」
久 「まあ、久しぶりの再会なんだし。今日くらいはいいんじゃない?」
菫 「…まあ、そうだな」
照 「…それじゃ、そろそろ私は行く」
咲 「そう……」シュン
照 「大丈夫。咲が寂しくなったときは、また会いに来る」
咲 「本当?」
照 「ああ、必ずだ」
咲 「…うんっ! 絶対だよ!」キラキラ
和 「……もういいんですか?」
照 「…ピンク」
和 「ピンク呼びはやめてください。私には原村和という名前があります」
照 「ん。分かった、和」
照 「…私がいない間、咲のことをよろしく頼む」
和 「! それって……」
照 「ただ、私並みに咲のことを思っているのがお前だけということ」
和 「……お義姉さん」
照 「お義姉さん呼びは認めてない」
和 「…分かりました。照さんがいない間、私が貴方以上の愛情を持って咲さんと接していきます」
照 「ちょっと待って。その言い方じゃまるで、私より和の方が咲への愛が深いみたい」
和 「事実ですから」
照 「……」グヌヌ
和 「……」ムムム
照 「……はは」
和 「……あはは」
「「ははは、はーっはっはっは! あははははっ!!」」
照 「咲を任せた!!」ドンッ
和 「任されました!!」ドンッ
蒲原「ワハハ、もう待ちくたびれたぞー」
京太郎「買い出しから帰ったと思ったら既に終わってて、しかも即送迎に付き添えだなんて……」ヨヨヨ
久 「ごめんね、須賀くん?」
優希「まあこれも運命だじょ。受け入れるんだな!」
京太郎「やかましいっ!」
照 「…じゃあ、本当にもう行く」
和 「ええ。お気をつけて」
照 「でも、最後に一つ。 …咲、ちょっと来て」
咲 「ん? なあに、お姉ちゃん」トコトコ
和 「……って、それはちょっと待っt」
チューッ
咲 「…お、お姉ちゃん……?」カァァッ
照 「誕生日プレゼント。 じゃあね、咲」タッタッタッタ
ガチャ バタン
ブロロロロロ……
咲 「…えへへ」ポーッ
和 「……ず」
和 「ズルいですよ、お義姉さーん!!」ムガーッ
淡 「…へー。仲直り出来たんだ、テルー」
照 「うん。もう咲といつでも会える。文通もしてる」
淡 「メールじゃなくて文通ってあたりがいいねー。 …ところで」
照 「?」
淡 「ほら、お土産は無いの? お土産!」
照 「お土産。欲しいの?」
淡 「うんっ!」キラキラ
照 「仕方ないな。 はい、これ」スッ
淡 「…? 何コレ、ビニール袋?」
照 「中に咲の息が詰まってる。至宝」
淡 「…スミレー……」
菫 「…ほら、おやき」
淡 「! ありがと、スミレー!」モグモグッ
菫 (色々とムダな遠回りをしたような気がするな)ハァ
菫 (……まあ)
菫 (2人が仲直りできたことだし、すべて良しとしようかな)
菫 「なあ、照?」
照 「……サ……キ……」ピクピク
淡 「あわあわわ! テルーがビニール袋でで吸引しすぎて酸欠に!!」アワアワ
菫 「……」
カン
久々にこんなアホなシスコン照みた
また増えろ
Entry ⇒ 2012.10.30 | Category ⇒ 咲-Saki-SS | Comments (1) | Trackbacks (0)
咲 「この本なんだろ……。『まーじゃん部昔話』?」
『モモ太郎』
むかーしむかしのことです。
あるところに、おじいさんとおばあさんが住んでいました。
おじいさんは山へ芝刈りに、
大沼プロ 「裏鬼門へ行ってくる」
おばあさんは――
小鍛冶 「アラサーだよっ!」
――川へ洗濯にいきました。
おばあさんが川でせんたくをしていると、
桃子 「ドンブラコっすよー。もひとつ、ドンブラコっすよー」
と大きなモモが川上から流れてきました。
たいへん立派なモモでしたが、おばあさんはその存在に気づくことなく、
桃子 「ドンブラコっすよー。ドンブラコっすよー……。ょー……」
川下へと流れて、消えてしまいましたとさ。
『モモ太郎』 了
『北風と太陽』
あるところに、いつも競っている北風と太陽がいました。
洋榎 「なあ太陽、ウチのほうが凄いのはわかっとるんやろ?」
胡桃 「私のほうが優れてるに決まってるでしょ!」
売り言葉に、買い言葉。二人は北風の提案により、
「旅人の上着を脱がせることはできるか」という勝負で決着をつけることにしました。
そして、早速二人の前に旅人がやってきました。
宥 「……」
洋榎 「ほな、うちからいくでー」
胡桃 「負けない……」
旅人は夏であるにも関わらず、上着を羽織り、マフラーをしています。
北風はそんな旅人の前に降り立ち、こう言いました。
洋榎 「北風がキタでー!」
宥 「さ、寒い……」 ブルブル
胡桃 (馬鹿みたい……)
北風のダジャレがよっぽど寒かったのか、
旅人は両腕を体に回し、しっかり上着を押さえ座りこんでしまいました。
洋榎 「なんで今のダジャレで笑わんのやっ!」
胡桃 「じゃあ、次は私がいくよー」
今度は、太陽の番です。
太陽は座り込んでいる旅人の前に立つと――
おもむろに旅人のひざの上に座りました。
胡桃 「充電! 充電!」
宥 「!」
胡桃 (一見、わけのわからない行動に見えるけど……)
胡桃 (体を寄せ合うことにより暑くさせて、服を脱がせる作戦!)
無鉄砲な北風の作戦に対して、策を擁した太陽でしたが――
宥 「あったか~い……///」 ムギュウウウウ
胡桃 「ぎゃー! あついよー!」
逆に抱きしめられ、暑さで慌てて退散したのでした。
洋榎 「今回は、引き分けのようやなー」
胡桃 「……次は負けない!」
今回の勝負は引き分けに終わってしまいました。
北風と太陽はきっと、またこうやって勝負を繰り返すのでしょう。
洋榎 「しかし、ウチのダジャレが滑るとはなー」
胡桃 「あれはないでしょー。私の作戦は良かったと思うんだけどなー」
洋榎 「策士策に溺れる、やな」
胡桃 「むぅ……」
洋榎 「まあ、なんや。勝負したら腹減ったなー。一緒に飯でも食いにいこか?」
胡桃 「うん!」
ただ、なんだかんだで、仲が良いようです。
喧嘩するほど仲が良い、まさにそんな関係の二人でした。
『北風と太陽』 了
『かさこ地蔵』
むかしむかし、あるところに貧乏なおじいさんとおばあさんがいました。
貧乏をしのぐために、おばあさんは笠をこさえ、大晦日におじいさんは街に売りにでかけました。
すると、おじいさんは道すがら、六体のおじぞうさまを見つけました。
おじぞうさまの頭には、雪が積もってしまっています。
副会長 「ああ、気の毒に。そうだ、笠はいっぱいあるからかぶせてあげよう」
衣 「……」
副会長 「……あり」 ポスッ ←笠をかぶせる音
衣 (わーい)
一 「……」
副会長 「……あり」 ポスッ
一 (あり、ってなんだろう……)
胡桃 「……」
副会長 「……あり」 ポスッ
胡桃 (……きもちわるい)
健夜 「……」
副会長 「……ババアはなし」
健夜 (まだアラサーだよっ!)
漫 「……」
副会長 「う~ん……」
副会長 「……なし」
漫 (な、なんでやっ!?)
晴絵 「……」 ドキドキ
副会長 「……チッ」
晴絵 (えっ)
マホ 「……」
副会長 「……ど」
マホ (……ど?)
副会長 「……どストラーイクッ!」 ポスポスポスポスポスポスッ!
マホ (きゃ、きゃああああああああああ!)
――――きゃあああああああああ!
―――きゃあああ……
――ぁぁ……
―……
副会長 「というわけで笠が無くなったんですけど」
副会長 「これ――緊急案件でOKですよね?」
久 「今すぐ出てって」
『かさこ地蔵』 了
『おおきなカブ』
ゆみ 「出席をとるぞ。蒲原」
智美 「あい」
ゆみ 「妹尾」
佳織 「はい」
ゆみ 「モモ」
桃子 「はいっす」
ゆみ 「津山」
睦月 「うむ」
ゆみ 「津山……返事が小さいぞ」
睦月 「……!」
ゆみ 「気合をいれろ! 津山!」
睦月 「……うむ!」
ゆみ 「もっとだ! 津山!」
睦月 「うむっ!!」
ゆみ 「やればできるじゃないか、さあ練習を始めるぞ」
桃子 (大きなウム、っすね)
『おおきなカブ』 了
『さるかに合戦』
むかーしむかしのことです。
あるところに、サルとカニがいました。
穏乃 「ウッキー!」
洋榎 「今度はカニかいっ! ……自分、ノリノリやな」
穏乃 「ウッキキー!」
ある日、サルとカニが一緒に遊んでいると、
カニはおにぎりを、サルは柿の種を拾いました。
洋榎 「おー、うまそうなおにぎりや!」
洋榎 「さっそく、頂くでー」
穏乃 「……」 ジーッ
洋榎 「……なに、こっち見てんねん」
穏乃 「……」 ダラダラ
洋榎 「ヨダレぎょーさん垂らして、これ食べたいんか?」
穏乃 「……!」 コクコク
洋榎 「すまんな、これはウチが拾ったんや。諦めてくれ」
穏乃 「あきらめるわけがない!」
洋榎 (……うざい)
そこには、とてもしつこいサルがいました。
サルがあまりにしつこいので、カニは柿の種とおにぎりを交換してあげました。
穏乃 「やったー! カニさん、ありがとうございます!」
洋榎 「ええよー。ウチは柿の種を育てて、ぎょーさん柿を食ーたるでー」
カニはサルからもらった柿の種を庭に埋めると、妹と一緒に丁寧に世話をし始めるのでした。
洋榎 「早くおっきく、おっきくなるんやでー」
絹恵 「秋にはいっぱい実をつけてるんやでー」
洋榎 「絹みたいにおっきな実をつけるんやでー」
絹恵 「お姉ちゃん、セクハラは柿ちゃんの成長に悪影響やで!」
二人の気持ちがしっかり届いたのでしょうか。
やがて柿の種は芽を出し、木へと成長し、豊かな実をつけました。
絹恵 「やったー! ウチらもやればできるなー」
洋榎 「せやろー! さすがやろー!」
二人はオレンジ色に彩られた、大きな柿の木を見上げます。
絹恵 「おいしそう……」
洋榎 「今から食べるんやで……」
絹恵 「ウチらはどう考えても……」
洋榎 「カニ組……!!」
絹恵 「そこは、勝ち組とちゃうんかい!」
しかし、二人はここで大変なことに気がつきました。
大きな柿の木を見上げ、そして自分たちの体を確認します。
洋榎 「甲殻類に、この木を登れっちゅーのはちょっときついで」
絹恵 「甲殻類の悲しいところやな……」
すると、打ちひしがれる二人のもとにサルがやってきました。
穏乃 「うっきー! カニさんたち、どうしたんですか?」
洋榎 「実はな、サルからもろーた柿が実になったんやけど」
絹恵 「ウチらじゃ、木に登ることができへんのや」
穏乃 「じゃあ、私に任せてください!」
そう言うと、サルはするすると木を登っていきます。
そして、ほどよく熟した柿をもぎとると、もぐもぐと食べ始めました。
穏乃 「ハムッwww ハフハフ、ハフッwwww」
絹恵 「サルさーん!?」
洋榎 「あいつ、ウチらが育てた柿をひとり占めするつもりやで!」
穏乃 「うめぇwwwwwwwwww」
サルの身勝手な行動に、カニさんたちは怒ります。
絹恵 「エテ公、しばいたるどっ!」
洋榎 「こらーっ! ウチらにも柿をよこさんかい! ウチらが育てたんやで!」
穏乃 「確かにその通りです。でも……」
穏乃 「食わせるはずがない!」
そこには、とても腹立たしいサルがいました。
穏乃 「そんなに柿が食べたいなら、これでもどうぞ!」
サルはそう言うと、カニたちに向かってまだ青い上柿を投げました。
恵 「あたしゃ、いつも通り食われて、栄養となりますよ」 ヒューッ
しかし、サルのコントロールが悪かったのか、
まだ青い上柿は、そのまま地面へとぶつかりました。
絹恵 「これはもう食われへんなぁ」
洋榎 「せやな」
恵 「えっ」
ふと冷静になった二匹でしたが、サルに対する怒りは収まりません。
そこで二匹はサルを懲らしめるために、友達に協力してもらうことにしました。
洋榎 「作戦はこうや。まずはクリ、あんたが高火力でサルを火傷させる」
玄 「おまかせあれ!」
洋榎 「するとサルは火傷を直すために、水がめのところへいく」
洋榎 「そこであんたの出番や、ハチ」
洋榎 「水がめに隠れて、おもっくそコークスクリューツモをくらわせたれ」
照 「……ああ」
絹恵 「最後はウスさんですね」
純代 「……」
絹恵 「サルが慌てて家から飛び出したら」
絹恵 「屋根の上からサルめがけて思いっきり飛び降りてください」
純代 「……わかった」
洋榎 「懲らしめるのが目的やから、みんなほどほどになー」
洋榎 「そしたら、作戦開始やで!」
クリとハチはそれぞれの位置につき、サルの帰りを待ちます。
そして、最後にウスが屋根に登りはじめました。
絹恵 「お、お姉ちゃん。大丈夫かな、家が揺れてるで」
洋榎 「ウスが思ってたより重いみたいやな……」
そして、とうとうウスが屋根の上にたどり着こうとしたとき――
純代 「どっこいっしょ……あっ」 バギッ
洋榎 「あっ」
絹恵 「あっ」
ズゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……ドガシャーン!
――サルの家が潰れました。
サルが家に帰ると、そこには木片の山があるだけでした。
穏乃 「なんだこれ……」
そのそばには、カニたちがバツの悪そうな顔をして立っています。
そして、二匹はサルに事の顛末を話します。
洋榎 「ちょっとあんたを懲らしめようと思っただけなんや……」
洋榎・絹恵 「ほんまに、ごめんなさいっ……!」
穏乃 「家が壊れた、寝床もない、食料もない。でも……」
穏乃 「……諦めるわけがない!」
サルはそう言うと、木片の山を黙々と片付け始めました。
カニさんたちはその姿を、唖然とした表情で見つめます。
穏乃 「家が壊れちゃったのはショックだけど」
穏乃 「もとはといえば、私のせいだから……頑張って、家を建て直すよ」
そこには、とても頑張り屋なサルがいました。
汗をたらしながら、サルはせっせと片づけを続けます。
その姿を見ていたカニさんたちは……一緒に片付けを始めました。
穏乃 「……!」
洋榎 「……ウチらにも、手伝わせてくれへんか」
絹恵 「せやせや、やっぱり家が壊れたのはウチらのせいやしな」
穏乃 「……ありがとうございますっ!」
三匹は満面の笑顔で、仲直りをすることができました。
――崩れた家の下
玄 「助けてお姉ちゃん……」 ブルブル
照 「暗いところ怖いよー……」 ガクガク
純代 「私だけ道具……」
※このあと助け出されました。
『さるかに合戦』 了
『ピノキオ』
むかしむかし、子どもの好きな時計職人のおばあさんがいました。
しかし、子どもがいないおばあさんは、かわりに木のあやつり人形をつくりました。
おばあさんは、人形にピノキオという名前をつけました。
そして、不思議なことにピノキオは自ら動き、自ら喋るのでした。
豊音 「おばーさん! おはようございます!」
トシ 「あら、ピノキオは今日も早起きねぇ。昨日は夜更かししなかった?」
ピノキオには、とても不思議な特徴がありました。
豊音 「うん! ちょーぐっすり寝たよー……って、うわわ!」 グィーン!
トシ 「あらあら……。昨日はオリンピックが放送されていたからねぇ」
ピノキオは嘘をつくと、背が伸びるのです。
ここ一年、ほぼ毎日嘘をついた結果、ピノキオの身長は30メートル程になってしまいました。
いくらなんでも酷過ぎるwww
そして現在、日本のシンボルとして聳え立っている東京ス○イツリー。
その支柱となっているのは、何を隠そう、背が伸び続けたピノキオなのです。
豊音 「今日も観光客がいっぱいだよー」
豊音 「昔は都会や有名人に憧れてたけど」
豊音 「今や私は見られる側なんだねー」
すると、そこへ四人の少女がやってきました。
エイスリン 「スカイツリー、タカイ!」
胡桃 「エイちゃん、走っちゃだめだよ!」
塞 「ほらシロ、しゃきっとして」
白望 「……だるい」
豊音 「なんだか楽しそうな子たちがきたね」
豊音 「友達になりたいなー……」
ピノキオは思い切って、少女たちに話しかけてみることにしました。
豊音 「あのー……」
塞 「今、誰か話しかけた?」
エイスリン 「?」
胡桃 「頭大丈夫?」
塞 「ひどっ! でも、確かに聞こえたんだけどなぁ」
豊音 「あの!」
胡桃・エイスリン・塞 「!」
塞 「今、確かに聞こえたよね!?」
胡桃 「う、うん……シロ?」
白望 「……そこ」
シロと呼ばれた少女が指さした先には、スカイツリーの中心部から顔を出すピノキオがいました。
四人はあまりの大きさに腰が引けてしまいましたが、話をするうちに打ち解けていました。
塞 「なんで、そんなに大きくなっちゃったの?」
豊音 「私、嘘をつくと背が大きくなるんだー」
胡桃 「!」
塞 「すごい特異体質だね……。胡桃、どうしたの?」
胡桃 「わ、わたし! 実は男の子なんだ!」
塞 「は?」
エイスリン 「?」
白望 「……」
胡桃 「……」 ドキドキ
胡桃 「……」 ズーン
塞 「胡桃はなんで落ち込んでるの?」
白望 「……背が伸びると思ったんじゃない」
豊音 「ちょーかわいいよー」
エイスリン 「ピノキオ!」
豊音 「エイスリンさん、どうしたの?」
エイスリン 「ピノキオ、シンチョー、イクツ?」
豊音 「身長かー。今は1000メートルぐらいかなー」
豊音 「って冗談だよ!」
塞 「あっ」
胡桃 「あっ」
エイスリン 「アッ」
豊音 「あっ」
白望 「……ダルい」
豊音 「ち、違うの! 今のはなしいいいいぃぃぃぃぃぃぃ……!」 グィーン
――2012年・東京ス○イツリーは崩壊し、日本は世紀末を迎えた。
『ピノキオ』 了
『おおきなカブ・2』
純代 「……」
華菜 「……大きなデブ」
純代 「ふんっ!」 バキッ!
華菜 「ぬぎゃー!」
『おおきなカブ・2』 了
『浦島太郎』
むかしむかし、ある村に浦島太郎というやさしい心をもった若者がいました。
智美 「蒲原太郎じゃないぞ~」 ワハハ
智美 「蒲焼さん太郎でもないぞ~」 ワハハ
今日は釣りをするために、海辺へとやってきました。
するとなにやら騒がしい声がします。
そちらを見ると、子どもたちが大きなカメをいじめていました。
緋菜 「えい! ひっくりかえしてやるし!」
菜沙 「とー! 棒でつっついてやるし!」
城菜 「とりゃ! まいったといえし!」
華菜 「いたいっ! 痛いからやめろしっ!」
智美 「なんか色々とおかしいな~」 ワハハ
カメが色々と可哀想だったので、浦島太郎は助けてあげることにしました。
智美 「おい、お前たち。カメをいじめちゃダメだぞ~」 ワハハ
緋菜 「おまえ誰だし!」
菜沙 「邪魔するなし!」
城菜 「代わりにいじめてやるし!」
智美 「……いじめられるのって辛いんだぞー」 ワハハ…
緋菜 「……なんかごめんだし」
菜沙 「……そのうちいいことあるし」
城菜 「SSでいじめられたぐらいでめげるなし!」
浦島太郎の大人の説得で、子どもたちもカメをいじめるのをやめて引き上げていきました。
華菜 「そろそろまぜろよ」
智美 「なんだ、1レス出番なかっただけなのにでしゃばりだな」 ワハハ
華菜 「……とりあえず、ありがとうだし」
智美 「なーに、気にするなー」 ワハハ
カメは助けてもらったお礼に、浦島太郎を竜宮城へ連れていくことにしました。
浦島太郎を背中の甲羅に乗せると、カメは海の底へともぐっていきます。
華菜 「竜宮城はとても綺麗なとこなんだ」
智美 「ごばばばばばば、ばぼっ」 ガババ
華菜 「姫様も仕え人もみんな良い人だから、楽しみにしてろし!」
智美 (い、息が……)
やがて、竜宮城へと到着しました。
浦島太郎は途中何度も気を失いましたが、
苦行には耐性があるのか、なんとかもちこたえました。
華菜 「ほら、竜宮城に到着だし!」
智美 (綺麗なとこだなー) ブクク
竜宮城はこの世のものとは思えない、とても美しいものでした。
見たこともないような色とりどりの魚が泳いでいたり、緑色のわかめが揺らいでいたり。
浦島太郎は、その光景を見れただけで満足してしまいました。
華菜 「姫様ー! 客人の到着だし!」
カメが叫ぶと、竜宮城の奥から女性があらわれました。
小蒔 「ようこそいらっしゃいました。カメを助けてくださったそうですね」
智美 (……!)
女性は――とても綺麗でした。
さきほど感動を受けた竜宮城ですら霞んでしまう、そんな美しさを備えていました。
智美 「がばっ! ごぼぼっ!」 ガババ
小蒔 「まだ水中に慣れていないみたいですね。これは失礼いたしました」
小蒔 「……えいっ」 パチッ
姫様が指をならすと、浦島太郎はたちまち呼吸ができるようになりました。
智美 「おおー、一気に楽になったぞー」 ワハハ
それからというものの、浦島太郎は竜宮城でとても楽しい時間を過ごしました。
姫様と語らい、
小蒔 「私、友達ができて嬉しいです!」
智美 「まだまだ、いっぱい遊ぼうなー」
従者たちと遊び、
霞 「ほら、水中だとおっぱいが浮くのよ」
初美 「浮かないですー」 グスッ
智美 「私もだー」 ワハハ
美味しいものを食べ、
巴 「今日はウミガメのスープですよ」
華菜 「にゃっ!?」
智美 「おー、うまそうだなー」 ワハハ
春 「……」 ポリポリ
智美 「春はなにを食べてるんだー?」 ワハハ
春 「……サンゴ」
素敵な海の底の景色を眺めて……。
智美 「綺麗だなー……」 ワハハ
しかし、馴れとは恐ろしいものです。
十日もすると、浦島太郎は竜宮城に飽きてしまいました。
智美 「おーい、姫様ー」 ワハハ
小蒔 「太郎さん! 今日はなにをして遊びましょうか?」 ニコニコ
智美 「いやー、実は……そろそろ地上に帰ろうと思うんだ」 ワハハ
小蒔 「えっ……」
智美 「そろそろみんなも心配しているだろうし、私も家族が恋しくてなー」
小蒔 「そうですか……。残念ですが仕方ありませんね、それではお見送りをしましょう」
浦島太郎の帰り支度が済むと、従者や大勢の魚たちがお見送りをしてくれました。
さらに姫様から「絶対に開けてはいけませんよ」、と大きな玉手箱をお土産にもらいました。
帰りもカメに送ってもらい、浦島太郎は十日ぶりに地上へと出ました。
しかし、辺りを見回すと以前と様子が違います。
智美 「おかしいなー。私の家がないぞー」 ワハハ
あるべき場所に浦島太郎の家はなく、
また、いるべき場所に浦島太郎の家族はいませんでした。
智美 「どういうことだ……。おっ、第一村人発見だ」 ワハハ
智美 「おーい!」
健夜 「……はい?」
村人に事情を聞くと、どうやら浦島太郎が竜宮城へ行ってから、十年の歳月が経っているようでした。
竜宮城での一日は、地上での一年だったようで、浦島太郎は大きなショックを受けました。
智美 「でも、十年しか経ってないのに、なんで私の家と家族はいないんだ?」 ワハハ
健夜 「あ、浦島さんでしたら、お父さんに問題があったみたいで」
健夜 「朝寝と朝酒と朝湯が大好きで、数年前に身上をつぶしたみたいです」
智美 「そりゃーもっともだー」 ワハハ
智美 「色々とありがとうございました。アラサーの村人さん」 ワハハ
健夜 「もうアラフォーだよ!」
帰る家もなく、迎えてくれる家族もなく、浦島太郎はとうとう一人ぼっちになってしまいました。
浦島太郎は海辺に座り、沈み行く夕陽を眺めながら、一人で「ワハハ」と笑い続けました。
そして、ひとしきり笑った頃には、空は満天の星空となっていました。
智美 「さーて、これからどうするかなー……」 ワハハ…
途方に暮れた浦島太郎は、そこでふと姫様から貰った玉手箱を思い出しました。
地上で孤独になった浦島太郎は、「絶対に開けてはいけない」という姫様の忠告など、もうどうでも良くなっていました。
智美 「どうせもう、私はひとりぼっちだしなー」 ワハハ…
智美 「開けちゃうか」 ワハ…
浦島太郎は意を決して、玉手箱に手をかけました。
智美 「なにが出るかな、なにが出るかな、ワハハッハッハ、ワハハハ」 パカッ!
睦月 「……」
智美 「……」
睦月 「……」
智美 「……お前も一人かー?」 ワハハ
睦月 「うむ」
智美 「それじゃあ、二人で暮らすかー?」 ワハハ
睦月 「うむ」
智美 「そうかー、ありがとうなー。家事はできるか?」 ワハハ
睦月 「うむ、私なりに精一杯……」
智美 「そうかー。それじゃあ、今日からよろしくなー」 ワハハ
睦月 「うむ」
それから十数年、浦島太郎と寡黙な少女は、
末永く、末永く、二人で仲良く暮らしていきましたとさ。
『浦島太郎』 了
『三年寝太郎』
星夏 「……」
久保 「……」
星夏 「……コーチ」
久保 「!!」
久保 「……な、なんだ、文堂」
星夏 「私、こうやって高校生活の三年間、両目を閉じてましたけど」
星夏 「寝てたわけじゃありませんからね」
久保 「……そ、そうか」
星夏 「……」
久保 「……」
『三年寝太郎』 了
『金のオノ 銀のオノ』
むかしむかし、ある森の中で木こりたちが木を切っていました。
未春 「……よいしょっ」 ギコギコ
星夏 「……よいしょっ」 ギコギコ
純代 「……」 バキッ バキキッ
久保 「手を休めるなよ! 特に……」
久保 「池田ァ!」
華菜 「は、はいぃぃ!」 ギコギコ
木こりたちは仕事に精を出し、せっせと木を切り続けます。
そしてしばらく経ち、お昼休憩を取ることにしました。
久保 「よーし、休憩だ。みんなでお昼を食べるぞ」
久保 「こんな木屑が舞ってるところでご飯を食べるのもなんだからな」
久保 「少し歩いて、景色の良い所にいこうか」
木こりたちはお弁当を手に持ち、森の中をてくてくと歩き始めました。
そしてしばらくすると……一面に水面が広がる、ひらけた空間に出ました。
久保 「これは……」
久保 「池だァ!」
未春 「湖ですね」
久保 「そ、そんなことはわかってる……///」
華菜 「……」
久保 「なに笑ってんだ池田ァ……」
華菜 「え!?」
星夏 (完全な言いがかりだ……)
久保 「お前、私がハイキングにいったら」
久保 「山田君の前で『山だァ!』って言うキャラだと思ってんだろぉ……?」
華菜 「は? え、いや、全然そんなこと思ってないです!」
未春 (意味がわからない……)
久保 「これはお仕置きだな! おい、深堀!」
純代 「……」
華菜 「え、ちょ、ちょっとまって! いや、に、にゃあああああああああ!」
深堀と呼ばれた少女は、片手で池田を掴むと、池に放り込みました。
湖は大きな水しぶきをあげ、一瞬で池田を飲み込んでしまいました。
未春 「か、華菜ちゃん……!」
すると次の瞬間――湖から、とても美しい女神が現れました。
美穂子 「あなたたちが落としたのは、この娘ですか?」
緋菜 「ひなちゃんだし!」
久保 (か、可愛い……///)
星夏 「いえ、ちが―― 久保 「それだァ!」
未春 「え?」
美穂子 「それとも、この娘ですか?」
菜沙 「なずなちゃんだし!」
久保 (か、可愛すぎて鼻血が……)
久保 「そいつも貰っておこうかァ!」
星夏 (もう滅茶苦茶だ……)
美穂子 「最後にもう一人、この子もいかがですか?」
城菜 「しろなちゃんだし!」
久保 (も、もう、可愛すぎて……だめだあああ!)
久保 「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
ジャバーン!!
未春 「自ら飛び込んだ!?」
久保 「池だァ! ガボッ、池田ァ! ガボボッ、ガボダァ!」 バジャバジャ
未春 「……」
星夏 「……」
純代 「……」
美穂子 「……」
美穂子 「あなたたちが落としたのは、この久b 未春 「いえ、違います」
『金のオノ 銀のオノ』 了
『かぐや姫』
むかしむかし、竹を取って暮らしている夫婦がいました。
働き者の、お父さん。
純 「俺は女だっつーの!」
しっかりものの、お母さん。
透華 「しっかり働いて、稼ぎますわよ!」
二人は決して裕福な暮らしをしているわけではありませんでしたが、
つつましく、幸せな生活を送っていました。
ある日のこと、お父さんが竹やぶにいくと、根元が光っている不思議な竹を見つけました。
純 「へー、珍しい竹だな。金銀財宝が眠ってたりして」
おじいさんは強欲な一面を見せると、斧を一閃――
純 「うおりゃああああああああ!」
衣 「うわああああああああああ!」
――竹を切り落としました。
衣 「ひぃぃぃぃ……」 ブルブル
純 「こ、こ、こここここここ」
衣 「こ、怖いよぉ……」 ブルブル
純 「子ども!?」
衣 「こ、ここここここ子どもじゃない! わ、私は――」
純 (どうする? 喋ってるし、放っておいても大丈夫か?)
純 「いや――放っておけねぇ!」
玉のように美しい子どもを見つけたお父さんは、大喜びで腕に抱えて家につれて帰りました。
子どものいなかったお父さんとお母さんは、たいそう喜びました。
そして二人はその子を「かぐや姫」と名づけ、たいそう可愛がって育てました。
幾年の月日が経ち、かぐや姫はすくすくと背は伸びませんでしたが、美しく成長しました。
そしてお父さんの家業も順調で、一家は使用人を雇えるほど裕福な家になりました。
裏は竹林、表には広がる海。そんなところに、彼らの家はありました。
衣 「智紀! 一! 今日も一緒に遊ぶぞー!」
一 「今いきますよ、姫様」
智紀 「……今日は何をする?」
透華 「ふふ、まるで三姉妹のようですわね」
純 「ああ、二人とも良い子で良かったなー」
衣 「純! 透華! 二人も一緒に遊ぼうぞ!」
純 「ほら、姫に呼ばれたぞ」
透華 「ええ、行きましょうか」
かぐや姫を中心として、五人は毎日仲良く暮らしていました。
しかし、お父さんとお母さんは、かぐや姫のことで憂慮していることがありました。
衣 「……月が近い」
かぐや姫は満月の夜になると、いつもの無邪気さを失い、
一転、冷たいまなざしを空に向けるのです。
透華 「……」
純 「……」
一 「……」
智紀 「……」
そんな日の姫には、誰一人近づくことすらできないのでした。
次の満月の夜のことでした。
とうとうかぐや姫が両親に、話を切り出しました。
衣 「……純、透華。話がある」
透華 「……なんですの」
衣 「実は私は……月の世界のものなのだ」
純 「……!」
衣 「今まで二人に育ててもらったが、今宵月が満ちたとき……」
衣 「私は、月に帰らなければならぬ」
透華 「そんなっ……!」
純 「……そんなこと、認められるかよっ!」
二人は悲しみ、怒り、嘆きました。
そして使用人とも話し合い、今夜四人でかぐや姫を守ることを決めました。
その日は、五人一緒の部屋で過ごしていました。
今までの思い出を語り合いながら、今生の別れとわかっているかのように。
かぐや姫を守ると決めていながらも、予期するところがあったのでしょう。
ふと、使用人の一が空を見上げました。
赤い空が、夕闇へと変わり、そして黒に染まっていきます。
一 (夜の帳がおりてくる……)
そのときでした。
衣 「……きた」
純・透華・智紀・一 「!!」
かぐや姫の呟きと同時に、夜空が金色に光ります。
やがて光が薄らぐと、月より黒服の使者がまいおりてきました。
ハギヨシ 「衣様、お迎えにあがりました」
衣 「出迎えの大儀、ご苦労であった」
ハギヨシ 「父君と母君が、衣様のお帰りを心待ちにしておられます」
衣 「……わかっておる」
純・透華・智紀・一 「……」
四人は動かなければいけない、とわかっていながらも、
月よりの使者の神々しさ、奇怪さに気圧され動くことができませんでした。
そして、そんな四人に対して、かぐや姫は惜別の言葉を紡ぎます。
衣 「純、透華、一、智紀……」
衣 「生まれてこの方、私は何も知らなかった」
衣 「父の力強さも」
衣 「母の愛も」
衣 「姉妹の触れ合いも」
衣 「家族の絆も」
衣 「それら全てを教えてくれたのは……四人だった」
衣 「四人と日々過ごしていく中で」
衣 「月の国で孤独だった衣にも――家族ができるかもっ、と思うことができた」
衣 「ほ、ほんとうに、ありがとう……」
かぐや姫はそこで言葉を止めました。
ハギヨシ 「衣様、そろそろ行きましょう」
それを見た使者は、もうこれで用は済んだと判断したのか、かぐや姫を連れて月へと登り始めました。
衣 「……」
そのときでした。
お父さんが月に向かって叫びます。
純 「かぐや姫ー! 家族ができるかもってお前は言ったけど!」
純 「俺らは、本当の家族だったんじゃないのかよ!」
衣 「!」
衣 「で、でも……私とみんなは血の繋がりもないし!」
智紀 「そんなの関係ない……!」
一 「僕たちは姫様のこと、家族だと思ってる……それじゃダメなのかな!?」
透華 「そうですわ! あなたは私たちの、大切な家族ですわ!」
衣 「み、みんな……!」
衣 「わ、私もみんなを家族だと思ってる!」
衣 「純も、透華も、一も、智紀も……」
衣 「いや、お父さんも! お母さんも! 智紀お姉ちゃんも! 一お姉ちゃんも!」
衣 「大好きだっ!」 ポロポロ
純 「へへっ、あいつ初めてお父さん、お母さんって呼んだな」 ポロポロ
透華 「本当に……これで、本当の家族ですわね」 ポロポロ
一 「おとーさんも、おかーさんも泣きすぎだよ……」 ポロポロ
智紀 「そういう、一も……」 ポロポロ
そして、かぐや姫は月へと帰っていきました。
かぐや姫が月に帰ってから、再び幾年の月日が経ちました。
あれからも、四人は家族として仲良く暮らしています。
背中には竹林が、前面には海が広がる家に今も住んでいます。
そんな四人は、かぐや姫のことを忘れないためにも、
満月の夜には欠かさずあることをしています。
純 「さーて、今宵も満月だな。衣に会いにいくか」
透華 「そうですわね、一! 平たい花器は用意したかしら?」
一 「もちろんだよ、おかーさん。さあ、行こうか」
智紀 「……」 コク
四人は家を出ると、前面に広がる海へと向かいます。
そして海に花器を傾け入れると――海に映る月をすくいとるのでした。
『かぐや姫』 了
『アリとキリギリス』
夏のある日、アリさんがせっせと食料を運んでいます。
胡桃 「よいしょっ、よいしょっ」
汗をかきながら、一生懸命に巣へと運んでいきます。
そんな様子を、一匹のキリギリスが眺めていました。
白望 「……ダルい」
夏の暑い盛りに飛び回るわけでもなく、冬に備えて食料を準備するわけでもなく。
するとそんな様子を見かねたのか、アリさんはキリギリスさんに忠告をします。
胡桃 「ちょっと、キリギリスさん! 今のうちに食べ物を蓄えておかないと、冬に困っちゃうよ!」
白望 「あー……。でも、動けない」
胡桃 「もー、知らないからね」
そして、寒い寒い冬がやってきました。
アリさんは夏にしっかり食料を溜め込んでいたおかげで、冬を越すことができそうです。
胡桃 「しっかり夏に働いて良かった! さて、キリギリスさんはどうしてるかな?」
胡桃 「きっと、食べ物がなくて困ってるはずだから……仕方ないけど、私が助けてあげよう!」
胡桃 「別に好きとか、そんなんじゃないんだけどね///」
アリさんは、暖かい家の中から白銀の世界を覗きます。
すると、そこには夏のときと変わらず、まったく動こうとしないキリギリスさんの姿がありました。
白望 「お腹空いた……」 グー
胡桃 「やっぱり!」
しかし、よく見るとキリギリスさんの周りには数羽の昆虫が集まっていました。
エイスリン 「パン、タベル?」
白望 「うん」
塞 「ほら、このままじゃ凍え死ぬから……毛布かけとくよ」
白望 「あー、ありふぁふぉ」 モグモグ
豊音 「動けないみたいだから、周りにかまくら作っておいたよー」
白望 「これで寒さをしのげる……」
胡桃 「あ、ありー……?」
予想外の状況に、不適切な発言をしてしまったアリさん。
アリさんはこれ以降、適度に手を抜くことを覚えたそうです。
『アリとキリギリス』 了
『花咲かじいさん』
むかしむかし、あるところにおばあさんとおばあさんが住んでいました。
和 「そういえば、iPS細胞というので同性の間でも子供ができるらしいです」
咲 「え、えぇ~……。う~ん……」
二人はとても仲が良かったのですが、なぜか子宝には恵まれませんでした。
そのかわり、エトペンという喋るペンギンの人形をとても可愛がっていました。
ある日、エトペンが畑で言いました。
エトペン 「ココホレペンペン、ココホレペンペン」
和 「エトペン……。ここを掘れといっているのですか?」
咲 「掘ってみようよ! 金銀財宝ざっくざくかもしれないよ!」
和 「そんなオカルトありえません。さ、畑仕事に精を出しましょう」
エトペン 「チョwwwww」
エトペンがあまりにしつこいのと、おばあさんのススメもあって、
二人は畑を掘ることにしました。するとどうでしょう、案の定、大判小判が出てきました。
咲 「ほらね!」
和 「こ、こんなの偶然ですっ! ……でも、エトペンありがとうございます」
エトペン 「ペンペン!」
すると、そんな様子をとなりの欲張りおじいさんが見ていました。
舞 (財宝ほり当ててやんよ!)
そして、欲張りおじいさんは二人に近づくとエトペンをよこすように交渉します。
舞 「なぁそのペンギンなんだけど うちのなんだ……返してくれないかなー?」
和 「は?」
舞 「実は遠い昔に……うちがそれ落としたこと知らなかった?」
和 「この人はなにを言っているのでしょうか?」
咲 「わ、わけがわからないよぅ……」
欲張りおじいさんは、その後も訳のわからないことを言い続けます
しかし、それを冷静に対応する二人に対して切れました。
舞 「いい加減に貸さんか!」
咲 「とうとう、貸せって言っちゃったよ」
和 「そうなんだ、じゃあ私畑仕事いくね」
舞 「キサマーーッ!!」
二人と一匹は欲張りおじいさんを無視して、畑仕事を再開します。
それを見た欲張りおじいさんは、内心、怒り心頭でした。
舞 (真鍋和の真似なんぞでウチの交渉を流しおってからに!)
舞 (大体なんだよそのクソみたいなペンギンは!)
そしてとうとう、強硬手段にでました。
欲張りおじいさんはエトペンを掴むと、無理やり引っ張りました。
舞 「いいから貸せって!」 グイグイ
咲 「あっ!」 グイグイ
和 「は、離してください!」 グイグイ
エトペン 「ファー…ブルスコ…ファー…ブルスコ…ファ-」
舞 「よこせ……って!! ……あっ!」 グイッ!
和・咲 「あっ!」
エトペン 「モルスァ」
両側から引っ張られた結果、エトペンの腕が千切れてしまいました。
ちぎれた部分から白い綿が畑に飛び散ります。
和 「エトペン!う、うわああああああああああん」 ポロポロ
咲 「の、和ちゃん……」
舞 「やばっ、逃げよっ」
悲しみに打ちひしがれる二人をよそに、欲張りおじいさんは逃げ出しました。
二人はエトペンの白い綿を全て集め、布地の部分は庭に埋めました。
次の日、おばあさんとおばあさんがエトペンの墓参りにいくと、
なんと、エトペンを埋めた部分から大木が生えていました。
そのとき、ちょうどふわりと風が吹きました。
おばあさんたちが抱えた白い綿が風に乗り、大木にフワリとかかりました。
すると――綺麗な淫r、ピンクの花が咲いたのです。
和 「わぁっ、綺麗ですねっ……!」
咲 「本当! 和ちゃん、きっとこれはエトペンが生まれ変わったんだよ!」
和 「そ、そんなオカルト……。いえ、そうかもしれませんね」
満開の花の前で、二人は手をつなぎ二人はにっこりと笑いました。
咲 「さてと、もう一つ花を咲かせなきゃね……」
その日の夜、お殿様が従者を引き連れて山を登っていました。
頂上にさしかかると、山の上にある一本の大木の前におばあさんがいることに気づきました。
衣 「こんなところに人が……。おい、皆の衆とまれ」
殿様は従者を引き連れながら、おばあさんへと近づいていきます。
衣 「おい、そこの……ひぃっ」
咲 「森林限界を超えた高い山でさえ、可憐な花が咲くことがあるんだよ」
咲 「お前もそんな花のように強く――」 ギュアッ!
舞 「サ、サキサマーーッ!」
その日、山の上の大木に満開の花が咲きました。
その見事な咲きっぷりに、お殿様たちは花の下で宴会を始めるほどでした。
咲 「汚ねえ花見だ……」
『花咲かじいさん』 了
『雉も鳴かずば』
照 (……冷蔵庫に入れておいた、私の『牛乳プリン・四個入り』が無い)
照 「なあ、みんな」
菫 「……」
尭深 「……」
誠子 「……」
淡 「……」
照 「……菫」
菫 「……なんだ」
照 「とろふわプリンはうまかったか?」
菫 「……」
淡 「え? あれって牛乳プリンですよn……あっ」
照 「ほう、淡よく知っているな」
淡 「あ、あ、あああああ……」
照 「覚悟はいいな……?」
淡 「あ……あ……」 ブルブル
菫 (淡よ、おまえも喋らなければ、ばれずにすんだものを)
誠子 (無用な発言をしたばっかりに……アーメン)
尭深 (牛乳プリンおいしかった……)
照 「コークスクリューツモッ!」 ギュアア!
淡 「うわああああああああん! ごべんなざーいっ!」
『雉も鳴かずば』 了
『シンデレラ』
むかしむかし、とても美しくてやさしい娘がいました。
しかし、悲しいことに母は若くして亡くなってしまいました。
今は父の再婚相手である新しいお母さんと、二人のお姉さんと暮らしています。
娘は今日も率先して家事をこなしていきます。
星夏 「掃除なら私たちもしますからっ……!」
未春 「それに、もっと綺麗なお洋服を着てください」
純代 「……」 コク
美穂子 「いいんですよ、私は。それより、みなさん今日も舞踏会ですよね?」
美穂子 「精一杯楽しんできてください、ドレスは綺麗にしておきましたから」 ニコッ
心の優しい彼女は、みんなからシンデレラと呼ばれています。
とても美しいシンデレラでしたが、自分に自信がもてなくてあまり外には出ませんでした。
なので、華やかな舞踏会に参加したこともありません。
ある日の事、お城の王子さまが、お嫁さん選びの舞踏会を開く事になりました。
シンデレラのお姉さんたちにも招待状が届きました。彼女らはおおはしゃぎです。
未春 「もしかすると、王子さまのお嫁さんになれるかも……」
星夏 「いいえ、絶対、必ずお嫁さんになりましょう」
純代 「……またうまい飯食べれる」 ジュルリ
シンデレラには招待状は届いていなかったため、
いつも通り、彼女たちの支度を手伝い、舞踏会へと送り出しました。
美穂子 「ああ、私も舞踏会にいきたかったわ。王子様に会いたかったわ」 シクシク
シンデレラが一人残された家で泣いていると、どこからか声がしました。
華菜 「泣いちゃだめだし!」
そこには、真っ黒なフードつきのローブを着た少女がいました。
頭からはネコ耳が、お尻からは尻尾が生えています。
美穂子 「あなたは誰……?」
華菜 「華菜ちゃんは立派な魔法使いだし!」
華菜 「華菜ちゃんの魔法で、シンデレラを舞踏会へといかせてあげるし!」
華菜 「まずは、お城へと向かう荷馬車と御者を用意するし!」
魔女はそう言うと、黄色く分厚い本を見ながら電話をかけはじめました。
そして十分後、彼女らはやってきました。
洋榎 「まいどおーきに!」
洋榎 「どこよりも速く! どこよりも安く! どこよりも荒く! がモットーの姫松運送です!」
絹恵 「おねーちゃん、荒くは余計やっ!」
華菜 「これで舞踏会に行けますね! 」
美穂子 「ありがとうございます、可愛い魔法使いさん」 ナデナデ
華菜 「にゃー……」
由子 「イチャついてるとこ悪いけど、先にお勘定お願いしますなのよー」
華菜 「えっ……」
華菜 「あっ……お金ないし」
美穂子 「大丈夫ですよ、ここは私が払いますから」 ニコッ
恭子 「おおきに、一万円になります」
華菜 (しかもたけぇっ!)
美穂子 「でも、舞踏会で踊るドレスがないわ……」
華菜 (ここが華菜ちゃんの腕の見せ所だし!) ピコーン
華菜 「安心してください! ちゃんと用意してあります!」
そういうと、魔女は白いドレスを取り出しました。
胸には「2-3 かな」と刺繍されています。
華菜 「このドレスはなんと、胸元の布で顔を隠すことができるし!」
華菜 「泣き顔も隠せる、超万能ドレスだし!」
美穂子 「ありがとう、小さな魔法使いさん。じゃあ早速……」
美穂子 「あら、ちょっと胸のあたりがきつくて……着れないわ」
華菜 「!」 ガーン!
漫 「それなら大丈夫ですよ。ウチでは冠婚葬祭用に、ドレスの貸し出しもしてますから」
美穂子 「あら、助かります。じゃあ、お願いしようかしら」
洋榎 「おおきにー。絹、適当に見繕っといてー」
絹 「オッケー」
そして、シンデレラの前に出されたのは、とても綺麗な純白のドレスでした。
美しい顔立ちのシンデレラに、映えることは間違いないでしょう。
美穂子 「素敵……。これにするわ」
恭子 「おおきに、三十万円になります」
華菜 (やっぱりたけぇっ!)
由子 「これで準備はバッチリなのよー」
美穂子 「ありがとうございます」
華菜 (全然役に立つことができなかったし……)
華菜 (それでも、これだけは言わなくちゃ!)
華菜 「シンデレラ、一つ守ってほしいことがあるし」
華菜 「必ず、十二時までに帰ってきてください」
美穂子 「それは何故ですか?」
華菜 「華菜ちゃんの魔法が解k 恭子 「ウチらの営業時間の関係ですね」
美穂子 「あら、それは大変。守らなきゃね」
華菜 「……」 グスン
装いを整えたシンデレラは、姫松運送の荷馬車に揺られてお城へと向かいます。
そして会場に到着したシンデレラを迎えたのは、煌びやかな世界でした。
美穂子 「すごい……」
シンデレラは初めての舞踏会に大興奮でした。
優雅に踊る男女、色鮮やかな装飾品、美味しそうな料理。
ハギヨシ 「お嬢様方、お料理はいかがですか?」
星夏 「あ、ありがとうございます!」
未春 「牛フィレ肉おいしい~」
純代 「私だけ焼き鳥……」
全てが新鮮でした。
そしてなにより――
久 「……」
美穂子 (……素敵な王子様)
王子に目が奪われてしまうのでした。
舞踏会はクライマックスを迎えます。
いよいよ、王子が会場の中から、一緒に踊る女性を一人選ぶのです。
久 (あんまり可愛い子がいないわねー……見つけたっ!)
美穂子 「……」 ドキドキ
久 「お嬢さん、良ろしければ私と一緒に踊ってくれませんか?」
美穂子 「……は、はいっ!」
幾人もの女性の中から、なんとシンデレラが選ばれました。
会場の注目を浴びながら、シンデレラは王子と夢のような時間を過ごします。
久 「あなたの目……綺麗ね」
美穂子 「……ありがとうございます///」
しかし、夢のような時間にも終わりはおとずれます。
時計の針は、間もなく12時を指そうとしていました。
久 「お嬢さん、この後もしよろしければ……」
美穂子 「あ、あのっ! 私帰らないと!」
久 「えっ、まだ12時よ?」
美穂子 「帰らないと、延滞料金が……ごめんなさい!」
シンデレラはそれだけ言うと、会場から走って飛び出していきました。
会場は騒然とし、王子様はその後姿を全速力で追いかけます。
しかし、結局シンデレラを捕まえることはできず、そこには小さなガラスの靴が残るだけでした。
王子様はその靴を優しく拾うと、こう言いました。
久 「明日……町に彼女を探しにいきましょう」
翌日、町の娘たちは大騒ぎでした。
王子様が結婚相手を探しにきている。ガラスの靴がぴったり履ければ、王子様と結婚できる、と。
王子様は順番に町の娘にガラスの靴を履かせようとしますが、
あまりに小さく、誰一人として履ける人はいませんでした。
そして、そろそろシンデレラたちの番です。
星夏 「履ければ、リーチッ……!」
久 「履けないな……次だ」
星夏 (王子様――!!!)
シンデラレの番は次の次です。
もし次の人が履けなければシンデレラだと、ばれてしまう――
純代 「……フンッ!」 バキィッ!
久 「えっ」
美穂子 「えっ」
――はずでしたが、なんと、ガラスの靴は、粉々に砕けてしまいました。
純代 「ずいぶん壊れやすい靴ですね」
純代 「まあ、でも壊れたものは仕方がないのですし」
純代 「恐らく私は履けたので、私と結婚しますか」
久 「えっ」
美穂子 (こんなのおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしい
あの靴を履けるのは、私なのに私なのに私なのに私なのに
王子様王子様王子様王子様王子様王子様王子様王子様)
純代 「それじゃあ、よろしく」
久 「えっ」
というわけで、王子様はシンデレラのお姉さんと結婚して、めでたしめでたし。
と、おもいましたが、おうじさまはさいわいなことにしんでれらのかおをおぼえていたみたいです。
すてきなおうじさまと、わt……しんでれらは、すえながく、しあわせにくらしたそうですよ。
『シンデレラ』 了
『三年峠』
あるところに、「三年峠」と呼ばれる美しい峠がありました。
しかし、そこにはこんな言い伝えがありました。
霞 「三年峠で転んではだめよ。そこで転んだら、三年しか生きられないから」
村人たちはこの言い伝えを恐れ、三年峠にさしかかると注意深く歩くようにしていました。
そんなある日のことでした。四人の少女が三年峠を歩いていました。
初美 「とうとう三年峠まできちゃいましたー」
春 「気をつけて歩く……」
巴 「特に姫様、気をつけてくださいよ」
小蒔 「大丈夫ですよっ!」
小蒔 「細心の注意を払って歩……き……ますか……ぐぅ」
初美・巴 「あっ」
少女は急に眠りに落ちると、そのまま崩れ落ち、三年峠で転んでしまったのでした。
小蒔 「うぅ……三年峠で転んでしまいました」
小蒔 「私はもうすぐ死んでしまうのでしょうか……」
少女は心配のあまり寝込んでしまいました。
不安で不安で、大好きなおやつも喉を通りません。
すると、その様子を憂慮した「ハルル」という少女がこう言いました。
春 「姫様、もう一度三年峠へ」
春 「一度転ぶと、三年生きることができる」
春 「それなら、二度、三度転べば、六年、九年」
春 「たくさん転べば、それだけ長生きできる」
それを聞いた少女は、もう一度三年峠にいきました。
そして何度もころん、ころん、と転び、すっかり元気を取り戻しました。
霞 「長生きねぇ……ふんふむ」
舞台は現代へと移ります。
20XX年、麻雀が空前のブームとなり、麻雀人口は一億人を突破しました。
恒子 「さあ、全国大会二回戦の大将戦がはじまります!」
恒子 「シードの永水女子、大将はもちろん、この人です!」
恒子 「永遠の17歳・石戸霞選手だーっ!」
霞 「よろしくお願いしますね」
恒子 「石戸選手は高校生とは思えない大人っぽさがありますね?」
健夜 「ええ……。石戸さんはこれで、37年連続の出場になりますね」
健夜 「私が高校三年生のときも、彼女と同卓になったことがあります」
恒子 「ということは、すこやんは今年で55歳だーっ!」
健夜 「37年前にあたったわけじゃないよ!?」
恒子 「さて、石戸選手の若さの秘訣はなんでしょうっ!?」
健夜 「三年峠がなんだか、とインタビューで読んだことはありますが……」
霞 「さて、また三年峠で転ぶ作業が始まるわ」 ニコッ
『三年峠』 了
『白雪姫』
むかし、ある城に女王が住んでいました。
女王は魔女であり、そして伝説(レジェンド)でもあります。
女王は今日も、魔法の鏡に向かってこう言います。
晴絵 「鏡よ鏡よ鏡さん、この世で一番美しいのは誰だ?」 ドキドキ
すると、魔法の鏡はこう答えます。
灼 「阿知賀の伝説(レジェンド)・晴ちゃんです!」
それを聞くと、女王は満足そうに頷くのです。
またある日、女王はいつものように、魔法の鏡に向かってこう言います。
晴絵 「鏡よ鏡よ鏡さん、この世で一番美しいのは誰だ?」 ワクワク
灼 「……」
晴絵 「……ん?」
すると次の瞬間、魔法の鏡は一人の可愛らしい少女を映します。
そして、鏡の中の少女はいたずら顔でこう言いました。
灼 「憧『晴絵だと思った? 残念! 阿知賀のアイドル・憧ちゃんでした~』」
晴絵 「……」
灼 「……はっ」
晴絵 「……」 グスッ
灼 「は、晴ちゃん!これは、ち、違うの!」
晴絵 「……鏡よ鏡よ鏡さん、この世で一番私服がダサいのは誰だ?」
灼 「憧 『ねぇ、シズ……。灼の服、ちょっとダサくない?』」
灼 「や、やめてええええええええええ!」
女王と魔法の鏡はお互い傷つけあいましたが、
やがて怒りの矛先は、阿知賀のアイドル・憧ちゃんへと向かいました。
女王は家来に阿知賀のアイドル・憧ちゃんを殺すように命令します。
しかし、阿知賀のアイドル・憧ちゃんを可哀想に思った家来は、
阿知賀のアイドル・憧ちゃんを殺すことができず、森の中に置いてきたのでした。
阿知賀のアイドル・憧ちゃんは、見知らぬ森の中をとぼとぼとさ迷います。
すっかり暗くなり、流石の阿知賀のアイドル・憧ちゃんも、森の中に一人でいるのは心細くなってきました。
憧 「も~、いきなりなんなのよ、最悪」
憧 「あ、家発見。事情を話して泊めてもらおう」
憧 「優しい人だといいな~」
運よく家をみつけた阿知賀のアイドル・憧ちゃんは、玄関をノックします。
しかし、返事はありません。仕方ないので、扉を開けて中に入ると、そこには7つの小さなベッドが置いてありました。
憧 「ちょっと小さいけど……寝させてもらおう……」 グー
阿知賀のアイドル・憧ちゃんは眠りへと落ちていきました。
すると、しばらくして陽気な歌声が聞こえてきました。
楽しげに歌うのは、七人のこびと達です。
衣 「ハイテー、ハイテー♪ 親番が好きー♪」
衣 「ペーポン、ペーポン、ペーポン、ペーポン♪」
衣 「ハイテー、ハイテー♪」
胡桃 「勝手に歌詞を変えない!」
マホ 「ハイテー、ハイテー♪」
胡桃 「そこ、真似しない!」
一 「まあまあ、それよりそろそろ家につくよ」
優希 「お腹ぺこぺこだじぇ! 早くタコスを食べるじぇ!」
淡 「食後のプリンも買ってあるしね~」
漫 (ウチは小人に入ってええんかな……)
七人の小人が家に到着し、扉を開けます。
すると、そこには阿知賀のアイドル・憧ちゃんがいました。
胡桃 「誰!?」
憧 「あ、お邪魔してまーす」
憧 「阿知賀のアイドル・憧ちゃんで~す」
七人は突然の来客に驚きましたが、
阿知賀のアイドル・憧ちゃんは、とても可愛かったのですぐに仲良くなりました。
わいわいと話しながら、夕ご飯を一緒に食べます。
時間は和やかに過ぎていきましたが、食後のデザートタイムに事件が起こりました。
淡 「さあ、みんなでプリンを食べよー」
優希 「待ってたじぇ~」
しかし、冷蔵庫を開けるとそこには――
空っぽになったプリンの容器が七つあるだけでした。
淡 「あ、あわあわ……」
マホ 「デザートなしになっちゃったのです!」
食後のとっておきのプリンが無くなり、七人は呆然としています。
すると阿知賀のアイドル・憧ちゃんは、舌をぺろっと出し、上目遣いでこう言いました。
憧 「ごめーん! 阿知賀のアイドル・憧ちゃんが食べちゃったんだ~」
憧 「許してほしいなっ! 阿知賀のアイドル・憧ちゃんからのお願いだよ?」
阿知賀のアイドル・憧ちゃん、かわいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!
そこらへんの男性諸君なら、そう言って許したことでしょう。
しかし、とっておきの楽しみを失った七人の小人は、それでは許しませんでした。
淡 「へ~……」
胡桃 「絶対許さないからね!」
衣 「この愚者に……裁きを下す!」
マホ 「マホ……今なら殺れる気がします」
優希 「とりあえず、こいつにプリンを買いにいかせるじぇ!」
一 「そうだね、ついでに皿洗いもしてもらおうか」
漫 「さあ、早速働いてもらうでー」
憧 「あ、あれ……?」
それからというもの、阿知賀のアイドル・憧ちゃんは七人の小人に厳しくしつけられました。
家事をこなし、山に木を切りにいき、一般常識の教育を受けます。
そして、一年後――
憧 「阿知賀女子麻雀部、新子憧と申します!」
そこには、立派に自立した新子憧がいました。
そう、七人の小人に出会ったことによって、かつてわがままし放題だった、
『阿知賀のアイドル・憧ちゃん』は死んだのです。
可愛ければなんでも許されるわけじゃない。
とても大事なことを、新子憧は教えてもらったのでした。
『白雪姫』 了
『鶴の恩返し』
むかしむかし、あるところにとても親切な少女が住んでいました。
彼女はとても心優しく、村人からも好かれています。
煌 「さあ、今日も頑張りますよ……おや?」
少女が見つけたのは、罠にかかっている二匹の鶴でした。
少女はすぐに駆け寄ると、すぐに罠を外してあげます。
すると、自由になった鶴は、二匹仲良く山のほうへと飛んでいくのでした。
煌 「今日もすばらな一日でしたね……ん?」
その晩、少女が家で晩御飯を食べていると、玄関を叩く音が聞こえました。
少女は腰をあげ、扉を開けます。するとそこには、美しい二人の少女がいました。
姫子 「こんばんはー」
哩 「道に迷ってしまいまして……今晩、泊めていただけませんか」
煌 「こんな狭苦しいところで良ければ、喜んで!」
姫子 「いいんですか?」
煌 「人助けができるなんて、すばらですっ!」
二人はこの言葉に喜び、そこに泊まることにしました。
次の日も、また次の日も雪は降り続き数日が過ぎました。
家主の少女は心優しく、二人のために炊事、洗濯、何でもやりました。
煌 「二人とも、お風呂が沸きましたよ!」
姫子 (あ~、人間に化けて恩返しするつもりだったのに、なんかどうでもよくなってきちゃった)
哩 (居心地がよか……)
ある日のこと、二人の少女はこう言いました。
姫子 「これから私たちは部屋にこもって話し合いをします」
哩 「話し合いをしている間は、決して部屋を覗かないでください」
煌 「わかりました!」
少女は二人の言いつけどおり、決して部屋を覗くようなことはしませんでした。
しかし、二人の話し声は大きく、薄い扉を隔てて声が漏れてきました。
哩 「ここは居心地が良いし、もう寄生しようか」
姫子 「そうですね! あの人もちょーお人よしですし、許可してくれますって!」
煌 「聞いてしまった、うわぁショック~」
煌 「なんってことはないですね!」
煌 (ヒモ扱いでも私を必要としていてくれる)
煌 (こんなすばらなことはないですねっ!)
煌 (二人のお世話――任されました!)
少女は二人と一緒に住むことを決めました。
一生懸命お金を稼ぎ、一生懸命に二人の世話をします。
そんな少女の噂は村をこえてたちまち広がっていきました。
そして今日もまた、彼女のもとには人が訪ねてくるようです。
咏 「なんか、ここで一生養ってもらえるって聞いたんだけど~」
煌 「これで60人目……すばらですっ!」
『鶴の恩返し』 了
『三匹の子豚』
あるところに、三匹の子豚の姉妹がいました。
長女は病弱ですが、頑張り者。
怜 「こほっ、こほっ……。さあ、今日も頑張るで……」
次女は天然ですが、頑張り者。
玄 「お姉ちゃん、疲れたら私にお任せあれ!」
三女は聖人のうえに、頑張り者。
煌 「お姉様、その心意気すばらですっ!」
怜・玄・煌 「ぶひぶひぶひ」
三匹はとても仲良しです。
怠け者は誰一人いないのですが、話も進まないので、
母親は三匹に家を出るように、と自立を促しました。
家を追い出された三匹は、それぞれ家を建てることになります。
怜 「なにも追い出さなくてもなー」
煌 「まあ、何事も経験がすばらですっ」
玄 「ふぅーむ、なるほどなるほどー」
みんな頑張りやさんなので、一日中せっせと働きます。
そして、三匹はレンガ作りの家を隣同士に並べて完成させたのでした。
怜 「やったでー。早速、お祝いや」
煌 「盛大にやりましょう!」
玄 「それじゃあ、私の家でやろっか!」
怜・玄・煌 「ぶひぶひぶひ」
三匹はとても仲良しです。
そんな様子を遠くから見つめるものがいました。
茶色い毛、大きな口、回転する右腕――そう、狼です。
照 「……うまそうな匂いがする」
狼は鼻をくんくん、と鳴らすと匂いの根源を探ります。
それは、さきほど完成した豚さんたちの家から匂ってくるのでした。
照 「……今夜は腹いっぱいになりそうだな」
狼は舌なめずりすると、迷わず子豚の家へと向かいます。
そして玄関の前に立つと、コンコン、とノックをします。
玄 「はい! どなたですか?」
照 「あ、狼です」
怜 「狼やて……!」
玄 「ど、どどどーしよー、おねーちゃーん」
煌 「あまりすばらくない状況ですね……」
三匹は突然の狼の来訪に慌てふためきます。
何度もノックの音が響きます。三匹は震えながら身を寄せ合いました。
照 「開けてもらえない……。しょうがない、これを使うか」
狼は右手でドアノブを掴むと、そのまま右手を回転させました。
するとどうでしょう! ドアノブが回転により破壊されてしまいました。
照 「よし、開いた」
一方、ドアノブが壊された三匹は恐怖で縮みあがってしまいました。
怜 「どーする、どーする……」 アタフタ
玄 「だ、誰かが止めにいきませんか……?」 アタフタ
怜 「え……ごほっ! ごほっ!」
煌 「わ、わざとらしい咳ですね」
怜 「なんや、仮病やないで。まあ、ええ。長女やし、ウチがいったるわ」
玄 「おねーちゃんに行かせるなら、私が行くよ」
煌 「それならばっ! 私が行きましょう!」
怜・玄 「どーぞどーぞ!」
煌 「……」
怜・玄 「ぶひぶひぶひ」
二匹はとても仲良しです。
煌 (まあ、仕方がないですね)
煌 (捨て駒――任されました!)
三女は意を決して、今にも開かれようとしている扉へと近づきます。
鼓動は高鳴り、手に汗が滲みますが、一歩ずつ扉へと近づきます。
煌 (大丈夫、大丈夫……。それに狼も客人、すばらな対応をすべきです)
そして扉まであと1メートルの距離となった瞬間――
照 「お邪魔します」
煌 「どひゃぁっ!」
狼さんがいらっしゃいました。
煌 「な、ななななななん、なん、何のようでしょうか!?」
煌 (用件ぐらいは聞いておくべきでしょう! もしかしたら、良い狼さんかもしれませんし!)
煌 (ただ、引越し祝いに粗品を差し入れにきただけかもしれませんしねっ!)
照 「腹減ったから、食いにきた」
煌 「ずばりですねっ!」
煌 (も、もうだめかもしれませんね……)
煌 (お姉様方、捨て駒すら全うできない私をお許しください)
三女が死を覚悟した、そのときでした。
照 「……この匂い」
煌 「え――」
子豚さんの家の中は、食欲をそそる匂いで満たされています。
裂かれた肉は、炎で焼かれ、食物連鎖のごとく強者の胃袋に入っていきます。
怜 「なんやー、狼さんも腹へってただけなんやなー」 ジュージュー
照 「焼肉の良い匂いにつられてしまった」 ジュージュー
玄 「私たち、ちょうど新築パーティーをしていたんですよ」 ジュージュー
照 「そうか……。せっかくのお祝いなのに、お邪魔して申し訳ない」 ヒョイパク
煌 「いえいえ、全然かまいませんよ。それに、人が多いほうがすばらですっ!」
照 「ありがとう。……このタレおいしい、なにを使っているの?」
煌 「エバラですっ!」
照 「なるほど、黄金の味というわけか。そして、このお肉は?」 ジュージュー
怜 「もちろん、牛にきまっとるやろ。ウチら、豚やで」
玄 「流石に共食いはちょっと……」
煌 「すばらくないですねっ!」
照 「なるほど、これは失礼した」
怜 「まあ、ええってことよ。牛肉焼いても、豚焼くな、ってな」
怜・玄・煌・照 「ぶひぶひぶひ」
四匹はとても仲良しになりましたとさ。
『三匹の子豚』 了
『赤ずきん』
むかしむかし、赤頭巾のよく似合う可愛らしい女の子がいました。
そのため、女の子はみんなから「赤ずきんちゃん」と呼ばれていました。
久 「おはよ~、赤ずきん」
咲 「おはよう、お母さん!」
決して、赤い血の色が似合うとかいう由来ではありません。
そんなある日のこと、赤ずきんちゃんはお母さんにお使いを頼まれました。
病気で寝込んでいるおばあさんのところへ、ケーキとワインを持っていくのです。
久 「いい、赤ずきん。森の中ではオオカミに注意するのよ?」
咲 「わかった! それじゃあ、いってきまーす!」
赤ずきんは元気よく出発します。
咲 「うぅ……。ここ、どこ……」 エグッ
そして、早速森の中で迷子になりました。
咲 「……うぅ」 キョロキョロ
照 「おや、あれは……赤ずきんちゃん?」
照 (って、なんでまた狼なんだ……まあ、いい)
そんな迷子の様子の赤ずきんちゃんを見つけたのは、オオカミでした。
赤ずきんちゃんの困っている様子を見かねて、オオカミは声をかけます
照 「赤ずきんちゃん、どうしたの?」
咲 「オオカミさん!実は迷子になっちゃって……」
赤ずきんちゃんは、これからおばあちゃんの家に行くことを話します。
照 「そうなんだ。じゃあ、私と一緒に行こうか」
咲 「ほんとっ!? 森の住人のオオカミさんと一緒なら、安心だねっ!」パァッ!
照 (赤ずきんちゃんかわいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!)
咲 「オオカミさん、鼻血でてるよ。大丈夫?」
照 「だ、大丈夫。じゃあ、一緒に行こうか!」
咲 「うん!」
赤ずきんとオオカミは元気よく出発します。
照 「迷ったよぅ……。ここ、どこ……」 エグッ
咲 「うええええええん! おかーさーん!」 ボロボロ
そして、結局森の中で迷子になりました。
夜もだいぶ遅くなった頃、迷子になった赤ずきんとオオカミをお母さんが見つけました。
久 「赤ずきん! 無事だった!?」
咲 「お、おかーさん……。怖かったよぅ……」 エグッ
久 「なにがあったの……? 怒らないから、言ってみなさい」
咲 「森の中で迷って、オオカミさんに会って、オオカミさんについていったらまた迷ったの」 グズッ
咲 「ごめんなざい……うええええええええええん!」 ボロボロ
久 「もう、だからオオカミに気をつけなさいって言ったでしょ」
照 「えっ」
久「でも、赤ずきんが無事で良かったわ」
咲 「うん!」
照 「ふぇぇ……」 エグッ
久 「じゃあ、一緒に帰りましょうか!」
咲 「うん!」
照 「うえええええええん!」 ボロボロ
森の中に、オオカミさんの大きな泣き声が木霊しました。
――おばあさんの家
京太郎 「きませんね……赤ずきんちゃん」
トシ 「そうだね」
『赤ずきん』 了
『走れメロス』
メロスは激怒した。必ず、かの邪智暴虐な王を除かなければならぬと決意した。
メロスには手に豆ができぬ。メロスは、麻雀打ちである。日々、麻雀を打ち、楽しく暮らしてきた。
けれでも、にわかに対しては人一倍に敏感であった。
メロスは気晴らしに町へと出ていた。
猿に似た少女があんぱんを買うのを眺めながら、ぶらぶらと大路を歩いた。
メロスには竹馬の友があった。ハツセンティウスである。
その友を、これから訪ねてみるつもりなのである。
しかしメロスは歩いているうちに、町の様子を怪しく思った。
町全体の雰囲気が暗いのである。メロスは若い衆を捕まえて、なにがあったのか訪ねました。
美幸 「王様は、ドラを集めます」
やえ 「なぜ集めるのだ」
美幸 「カンドラが乗っている、というのですが、誰もそんなに、カンなどしませぬ」
やえ 「たくさんのドラを集めたのか」
美幸 「はい、はじめはツモドラ6を。それから、ノベタン片上がりで三色ドラ6を」
やえ 「驚いた。王様はにわかか」
美幸 「いいえ、にわかではございませぬ。ドラしか信ずることができぬ、というのです、もー」
聞いて、メロスは激怒した。
やえ 「呆れた王だ。仕方が無い、私が見せてやろう……」
やえ 「王者のうち筋を!」
メロスは単純な男であった。そのまま、のそのそと王城に入っていった。
たちまち彼は捕縛された。調べられて、メロスの手には豆が出来ていなかったので、騒ぎが大きくなってしまった。
そうして、メロスは王の前に引き出された。
関係ねーだろうそこwwwww
いやいや大きくなるだろ、知らんけど
玄 「なにをしにきたのですか?」
暴君クロニスは静かに、けれども威厳を以もって問いつめた。
やえ 「ドラをにわかの手から救うのだ」
玄 「何故ですか?」
やえ 「ドラを集めるのは、最も嫌われる打ち筋だ。王は、民の赤ドラでさえ疑って居られる」
玄 「むぅ~……」
王の打ち筋を批判したメロスは、王の命令によって磔とされてしまった。
王は怒り心頭で、すぐにでもメロスを刑に処すつもりであった。
玄 「詫びたって、もう許しませんからね!」
やえ 「ああ、王はにわかだ。自惚れているがよい」
やえ 「私は、ちゃんと死ぬる覚悟で居るのに。命乞いなど決してしない。ただ、――」
メロスは視線を落とします。そして少しばかり躊躇い、こう言いました。
やえ 「ただ、私に情をかけたいつもりなら、処刑までに三日間の日限を与えて下さい」
やえ 「今度、麻雀の県大会があるのです。三日のうちに、私は母校を全国へ導き、必ず、ここへ帰って来ます」
メロスの言葉に、王様はくすくすと笑いました。
そんなことは、とうてい信じられぬ、といわんばかりの顔です。
やえ 「私は必ず、帰ってくるのです。約束は守ります」
やえ 「私の友人に、ハツセンティウスがいます。無二の友人だ」
やえ 「あれを、人質としてここに置いて行こう。私がここに帰って来なかったら……」
やえ 「あの友人を絞め殺して下さい。たのむ、そうして下さい」
玄 「願いはききました。身代わりを呼びなさい」
玄 「……少し遅れてくるといいですよ、そしたら、あなたの罪は永遠に許されます」
やえ 「なんとにわかなことを……!」
メロスは口惜しく、地団駄を踏んだ。ものも言いたくなくなった。
竹馬の友、ハツセンティウスは、深夜、王城に召された。
暴君クロニスの面前で、二人の友は二年ぶりに再開した。
メロスが友に一切の事情を語ると、ハツセンティウスは無言で首肯うなずき、メロスをひしと抱きしめた。
初瀬 「メロス先輩、私は一度友に裏切られています」
初瀬 「一緒の学び舎に進もうと誓った友は、黙って違う学び舎に進みました」
やえ 「なんと、にわかな奴よ」
初瀬 「それでも私は、メロス先輩を信じています」
初瀬 「先輩、頑張ってください!」
やえ 「……ありがとう」
メロスはハツセンティウスに背を向け、左手をスッと挙げる。
友と友の間は、それでよかった。そしてハツセンティウスは、縄打たれた。
それを見たメロスは、すぐに出発した。
小走りで。
ワロタ
くそっ、こんなんでwwww
結果からいうと、メロスの罪は許された。
小走りで走り続けた結果、三日で町まで戻ってくることはできなかったのだ。
さらに言えば、麻雀の県大会では初戦敗退であった。
初見のドラ麻雀相手に、メロスは大幅なリードを許してしまったのだ。
ちなみに、こちらの罪は某所でも未だに許されてない。
そして、一週間ほどして、メロスは町へと戻ってきた。
ハツセンティウスは王より哀れみをうけ、彼は磔から免れていた。
メロスが町に姿を現すと、群集はどよめいた。
にっわっか、にっわっか、と口々にわめいた。
やえ 「ハツセンティウス。私を殴れ、力いっぱい殴れ」
初瀬 「はい」
竹馬の友、ハツセンティウスは躊躇うことなく、メロスの頬を殴りつけた。
それを見た群集は、歓声をあげた。
群集は次々と、メロスに王者の言霊を浴びせ続けた。
「ありゃ相当打ってる(笑)」
「見せてやろう……王者のうち筋を(笑)」
「私は小3の頃から、マメすらできてない(笑)」
「ニワカは相手にならんよ(笑)」
やえ 「……」 プルプル
髪を逆立てた少女が、壁をドンと拳で叩いた。メロスは、まごついた。
佳き友は、気をきかせて教えてやった。
初瀬 「メロス先輩、あなたやっぱりにわかじゃないですか」
初瀬 「尊敬していた先輩の醜態を、中継で皆に見られるのが、私はたまらなく口惜しいです」
にわかは、ひどく赤面した。
『走れメロス』 了
『一寸法師』
むかしむかしあるところに、おじいさんとおばあさんがいました。
二人には子どもがいませんでした。なので、二人は神さまにお願いしました。
塞 「神さま! 親指くらいの小さい子どもでもいいから、どうか子どもをさずけてください!」
白望 「あんまり小さすぎてもダルい……」
すると願いが通じたのか、本当に小さな子どもが生まれました。
胡桃 「おぎゃー!」
ちょうど、おじいさんの親指くらいの男の子です。
あまりに小さいので、二人は一寸法師と名づけました。
二人は一寸法師を大層可愛がりました。
白望 「ほら、こっちおいで……」
胡桃 「ゎー!」 ピョンピョン
塞 「可愛いねー……って、あれ!? 見失った!」
白望 「……」
塞 「一寸法師、どこーっ!?」 プチッ
胡桃 「ぎゃー!」
塞 「あ」
あまりに小さいため、ときには潰してしまうこともありましたが。
やがて一寸法師も心が成長し、都へいって働くことになりました。
そして都で姫に出会い、姫のお守り役として働くことになりました。
胡桃 「姫さま、起きてください!」
エイスリン 「ンー……オハヨ。イッスン、ボーシ」
姫は愛用のホワイトボードの上に、一寸法師を乗せて歩きます。
二人はいつも一緒に行動していました。
ある日の、二人でお寺にお参りをしているときのことです。
道中、突然大きな鬼が二人の前に現れました。
豊音 「やっほー」
エイスリン 「ヒ、ヒィィ……」
胡桃 (すごいおっきいよぉ……)
胡桃 「でも、姫は私が守る!」
一寸法師は一本の針を取り出すと、鬼に向かっていきました。
胡桃 「とりゃあああああ!」
豊音 「ん?」
豊音 「なにこの小さい子……ちょー可愛いよー」
可愛さのあまり、鬼は思わず一寸法師を手で捕まえようとしました。
豊音 「えいっ」 プチッ
胡桃 「ぎゃー!」
豊音 「あっ」
エイスリン 「アッ」
豊音 「本当にごめんねー」
胡桃 「だ、大丈夫だよ……」
豊音 「お詫びに、これをあげるよー」
鬼がくれたのは、小さな木槌のようなものでした。
豊音 「これは打出の小槌といって、振るとなんでも好きなものが出てくるんだよー」
胡桃 「それじゃあ、私の身長を大きくすることもできる!?」
豊音 「もちろん! 背出ろー、背出ろー、って言えばオーケーだよー」
胡桃 「姫さま、お願いします!」
エイスリン 「ウン!」
姫は打出の小槌を握ると、大きく振りかぶります。
そして、ブンブンブン、と三回打ち下ろしました。
エイスリン 「セ、デロ! セ、デロ! セ、デロ!」 プチッ プチッ プチッ
胡桃 「ぎゃー! ぎゃー! ぎゃー!」
エイスリン 「アッ」
豊音 「あっ」
胡桃 「もー、ちっちゃいの嫌だー!」 ビエーン
『一寸法師』 了
『ウサギとカメ』
むかしむかしあるところに、足の速いウサギと、足の遅いカメがいました。
咲 「ねぇねぇ、カメさん」
恭子 「な、なんや、ウサギさん」
咲 「明日、向こうの山の頂上までかけっこの競争しませんか?」
恭子 「……え」
咲 「……だめ?」
恭子 「……べ、別にええよ」
咲 「やった~! 絶対ですよ!? じゃあ、明日の朝八時に山の麓に集合ですからね!」
恭子 「わかった……」
洋榎 「ええんか、恭子。あんな約束して」
由子 「カメのウチらじゃ、ウサギにかけっこで勝つなんて無理なのよー」
恭子 「ええんです、主将。それに――」
恭子 「凡亀のウチが、ウサギ相手にどこまでやれるか楽しみですわ」
――翌朝
咲 「あ、カメさん! おはよ~ございます!」
咲 「かけっこの話を友達にしたら、二匹も参加したいって」
霞 「バッファローです。よろしくお願いしますね」
豊音 「キリンだよー。よろしくねー」
恭子 「」
恭子 (なんやこれ……) カタカタ
咲 「それじゃあ、はじめよっか!」
恭子 (まて、考えるのをやめたら、それこそただのバカメや)
咲 「位置について……」
恭子 (諦めたらアカン……勝機はあるはずや!)
咲 「よーい……」
恭子 (甲羅を磨いて発想も磨くで!)
咲 「――ドンッ!」 ヒュッ!
霞 「――バッ!」 ドドドドドドド!
豊音 「――シッ!」 ダカダッ! ダカダッ!
恭子 「いくでー」 ノロノロ…
洋榎 「これは無理やろ……」
由子 「イジメなのよー」
正午になり、カメはやっと山の中腹部にたどり着きました。
すると、そこに広がる原っぱには先にいったはずの三匹がいました。
どうやら、お弁当を広げてランチをしているようです。
咲 「おいしいねー」
霞 「いっぱい食べてね」
豊音 「ちょーおいしいよー」
恭子 (なんや! なめやがって!)
恭子 (まあいい、この隙にウチがリードさせてもらうで)
恭子 (やっぱり、着実に努力を重ねるものに神様は味方するんや!)
カメさんは三匹に気づかれないようにしながら、一人だけ先に歩みを進めました。
そして、しばらく経つと三匹がいた原っぱは見えなくなりました。
恭子 「どや! 出し抜いてやったわ!」
豊音 「追っかけるけどー」
恭子 「どぅわっ!?」
気づけば、背後にキリンさんが迫っていました。
恭子 (こいつ、わざと先にいかせて後から仕留める――)
恭子 (背向のトヨネか!)
豊音 「おさきにー」
キリンさんは、あっという間にカメさんを追い抜いていきました。
日が傾きはじめたころ、カメさんは山の7合目まできました。
7合目まで来ると、頂上までは遠回りで緩やかな細道と、険しい近道にわかれています。
すると、さきほどカメさんを追い抜いていったキリンさんの姿を見つけました。
恭子 「キリンさん、どーしたんや?」
豊音 「これみてよー」
『バッファロー以外通行禁止』
なんと、近道にこんな札が立てられていました。
これでは、キリンさんとカメさんは遠回りをするしかありません。
恭子 (これは、バッファローだけに近道を限定する――)
恭子 (絶一門か……っ!)
仕方ないので、キリンさんとカメさんは遠回りの細道から行くことにしました。
二匹はゆっくり、ゆっくり進みます。
やがて、二つの道の合流地点にたどり着くと、今度はそこにはバッファローさんがいました。
霞 「あらら……」
よく見ると、落とし穴にはまって身動きがとれなくなっています。
恭子 「どうしたんやー、バッファローさん」
霞 「実はあっちの近道からきたんだけど、ここに着いたらカンされちゃったのよ」
恭子 「カンされた、ってどういうことや?」
霞 「そうねぇ……。どこからか『カン』って聞こえてきて、気づいたら穴に落ちてたわ」
豊音 「なんか怖いねー。今助けるよー」
恭子 (普通のかけっこさせてーな……)
二匹は頑張ってバッファローを穴から引っ張り挙げます。
なんとか穴から脱出できたバッファローでしたが、足を挫いてもう走れません。
三匹は一緒に頂上を目指すことにしました。
あたりはすっかり暗くなってしまっているので、ウサギさんはとっくにゴールしているでしょう。
三匹はゆっくり、ゆっくり頂上を目指し、とうとう山頂が見えてきました。
するとそこには、たくさんの観客がいました。
恒子 「おおーっと! ここで、カメ、キリン、バッファローがさんすくみで登場だーっ!」
恭子 「なんや、いつの間に実況なんておるんや」
豊音 「大事になってるねー。まあ、完走できたらいいんじゃないかなー」
霞 「そうね、ウサギさんに一位は取られちゃったけど、こういうのもいいわね」
ほのかな友情が芽生え始めた三匹ですが、直後思いもよらぬ言葉を聴きます。
恒子 「さー! 誰が一位となるのか! ウサギさんが迷子の今、優勝は誰の手に!」
恭子・豊音・霞 「えっ」
健夜 「ウサギさんはどうやら、山の八合目あたりで迷ってしまったようですね……」
恒子 「それは大変ですね! そして、三匹の中で頭抜けるのは誰でしょう!?」
実況と解説の言葉を聞いた後、三匹は顔を見合わせます。
そして、笑顔で頷くと、今までと変わらない歩調で進みます。
恭子 「ここまできたら、一緒にゴールしようや」
豊音 「そうだねー。盛り上がってるところわるいけどー」
霞 「さあ、いきましょう」
三匹が横並びとなり、ゴールテープの前に立ちます。
そして同時に足を踏み出した瞬間――
咲 「うぅ~……ここどこっ、ってみんな!」 パァッ
横の茂みから、迷子のウサギさんが飛び出してきて、
なんと四匹同時にゴールテープを切ったのでした。
恒子 「なんと! ここでウサギさんが迷子から生還! 奇跡の四匹同着だー!」
恭子 「なんや……ウサギさん、無事だったんかい」
豊音 「まあ、三匹でゴールも四匹でゴールも変わらないよー」
霞 「そうね、むしろこのほうが良かったかもね」
恭子 「せやな。とりあえず、みんなお疲れさん」
豊音 「ありがとうございましたー」
霞 「ありがとうございました」
咲 「ありがとうございました」 ピョッコリン
恭子 (ま、これで一件落着やな……)
恒子 「しかし、四匹同時ゴール! タイム差プラマイゼロとは珍しいですね!」
健夜 「そうですね。ただ、兎さんは過去に参加したレースで、二度同じようなことになっています」
恭子 (……え。ま、まさか……)
咲 「……カメさん」
恭子 「あ、あああ……」
咲 「かけっこって楽しいよね!」
恭子 「うわあああああああああああああ!」
洋榎 「トラとウマやな……」
由子 「タイトルとかけなくていいのよー」
『ウサギとカメ』 了
まだ主要キャラ出し切ってないし、
リクエストもらったごんぎつねも書けてないが
さて、このスレどうすっかな
きっちり区切りつけたかったけど、ちょうど日付も変わるし
これにてお開きということで。二日間ありやーした
怜以外の千里山面子といくのんを出せなかったのが心残りだったわ
楽しませてもらったよ
ちょーおもしろかったよー
Entry ⇒ 2012.10.30 | Category ⇒ 咲-Saki-SS | Comments (0) | Trackbacks (0)