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奉太郎「古典部の日常」 3

270: ◆Oe72InN3/k 2012/09/13(木) 10:11:22.66 ID:oWSK7tDW0

千反田とは、一度俺の家に行くことになっていた。

それで水族館から1時間程自転車を漕いで帰ったのだが……

里志「おかえり、ホータロー」

なんで、家の前にこいつが居るのだろうか。

いや、里志だけではない。

摩耶花「どこに行ってたのよ」

伊原もだ。

える「え、ええっと」

奉太郎「なんでお前らが俺の家の前に居るんだ」

すると伊原が盛大な溜息をつき、ひと言。

摩耶花「ちーちゃんが休みって聞いたから、折木の風邪が移ったと思って来たんじゃない!」

摩耶花「ちーちゃんの家に行っても居ないし……」

摩耶花「折木の家に来ても誰も居ないし!」

摩耶花「一体どこに行ってたのよ」

あ、ひと言ではなかった。

というか、なるほど。

千反田が心配でまずは千反田の家に行ったが誰もおらず。

その後、俺の家に里志と伊原で来たが……そこにも誰も居なかった。

どうしようかと呆然としているところに俺と千反田が戻ってきたと言う訳だ。

解決解決。


271: ◆Oe72InN3/k 2012/09/13(木) 10:11:52.60 ID:oWSK7tDW0

える「あ、あのですね。 摩耶花さん」

える「今度、動物園に行きましょう!」

いや、解決する訳がなかった。

摩耶花「え? 動物園?」

摩耶花「ごめん、ちょっと意味が……」

ま、そうだろうな。

そして里志が少し考える素振りをしてから、口を開く。

里志「大体分かったかな」

里志「つまりホータローと千反田さんは遊びに行ってたって訳だ」

里志「二人とも学校を休んでね」

こいつも随分と勘が冴えるようになってきたな……

悔しいが、当たっている。

奉太郎「まあ……そうなるな」

摩耶花「折木が無理やり連れ出したんじゃないの?」

こいつは、よくもこう失礼な事を言える物だ。

える「ち、ちがいます! 私が水族館に行きたいと言ってですね……」


272: ◆Oe72InN3/k 2012/09/13(木) 10:12:35.50 ID:oWSK7tDW0

摩耶花「水族館ー!?」

里志「あのホータローがよく一緒に行ってくれたね」

里志「僕はどっちかというと、そっちの方が驚きかな」

奉太郎「ずっと寝てたからな、体を動かしたくなったんだ」

摩耶花「折木、やっぱりまだ熱あるでしょ……あんたが自分で動きたいなんておかしいよ」

……そこまで俺は動かない奴だっただろうか?

里志「まあまあ」

里志「確かにそれは気になるけどね……でも千反田さんも風邪じゃ無かったし」

里志「ホータローも元気になったってことでよかったんじゃないかな?」

そう言うと、里志は俺の方を向き、いたずらに笑った。

……里志、少し感謝しておくぞ。

とりあえずこれで一安心といった所か。

摩耶花「まあ……ちーちゃんが無事ならいっか」


273: ◆Oe72InN3/k 2012/09/13(木) 10:13:06.80 ID:oWSK7tDW0

える「動物園に行きましょう!」

いや、まだだ。

こいつが居た。

摩耶花「ちーちゃん、どういうこと?」

える「今日、水族館に行ってですね」

える「是非、動物園にも行ってみたいと思ったんです!」

さいで。

里志「ははは、いいんじゃないかな?」

える「そう思いますか、福部さん! 」

摩耶花「そうね、私もちょっと行ってみたいかな」

える「摩耶花さん!」

里志と伊原は承諾してしまった。

……俺の方を見ないで欲しい。

奉太郎「……分かった、今度行こう」


274: ◆Oe72InN3/k 2012/09/13(木) 10:13:57.14 ID:oWSK7tDW0

結局は、こうなってしまう。

最近ではほとんど諦めに近い感じとなってきているが……ま、いいか。

える「良かったです、楽しみにしていますね」

最悪の展開は避けられたし、良しとしよう。

つまり、俺が言う最悪の展開とは、千反田が俺の家に泊まったという事が伊原と里志にばれると言う事だ。

そんな事がばれてしまったら、俺はこれからずっと風邪で学校を休むことになりそうである。

奉太郎「よし、じゃあ今日は帰るか」

里志「そうだね、そろそろ日が落ちて来ているし」

摩耶花「うん、じゃあ予定とかは明日の放課後に決めようか?」

える「はい! では明日の放課後に部室に集合で」

奉太郎「ああ、それじゃあまたな」

油断していた。

釘を……刺しておくべきだった。


275: ◆Oe72InN3/k 2012/09/13(木) 10:14:42.94 ID:oWSK7tDW0

ドアに手を掛ける、後ろにはまだ千反田、伊原、里志が居る。

俺は振り返り、手を挙げ別れの挨拶をした。

千反田の口が動いているのが分かった、何を言おうとしている?

さようなら? とは違う。

口が「お」の形になる。

お……お……

これは、風邪を引くことになりそうだ。

える「折木さん! また泊まりに行きますね!」

伊原と里志が千反田の方を向く、ついで伊原の叫び声。

摩耶花「お!れ!きー!」

ドアを閉めよう、俺は知らん。

鍵を掛け、チェーンを掛けると俺は外から聞こえる叫び声に震えながら、静かにコーヒーを淹れるのであった。

そして、ようやく外が静かになった頃、家の電話が鳴り響いた。


276: ◆Oe72InN3/k 2012/09/13(木) 10:15:14.52 ID:oWSK7tDW0

この番号は……里志か。

奉太郎「里志か、どうした」

里志「いきなりそれかい? ホータロー」

里志「僕が摩耶花をなだめるのに使った労力をなんだと思っているんだ」

奉太郎「おー、それはすまなかったな」

里志「……ま、いいさ」

里志「それより少しは説明してくれると思って電話したんだけど」

里志「どうかな?」

奉太郎「今、近くにあいつらは?」

里志「んや、いないよ」

里志「家の方向が違うからね、なだめた後は別れた」

奉太郎「そうか」

里志「それで、話してくれるのかい?」

奉太郎「……少しだけな」

こうなってしまっては仕方ない、別にやましい事をした訳でもあるまいし。


277: ◆Oe72InN3/k 2012/09/13(木) 10:15:46.12 ID:oWSK7tDW0

奉太郎「俺は別に、無理やり泊まらせた訳ではない」

里志「だろうね、ホータローがそんな事をするとは思えない」

里志「何か、理由があったのかい?」

奉太郎「理由、か」

奉太郎「あるにはあった」

里志「へえ、どんな?」

奉太郎「色々世話になってな、夜遅くになってしまっていたんだ」

奉太郎「そんな中、帰す訳にはいかなかった」

奉太郎「かと言って、無理に泊まれって言った訳じゃないからな」

里志「ふうん、それは意外だなぁ」

奉太郎「意外? 無理に泊まらせなかったのがか?」


278: ◆Oe72InN3/k 2012/09/13(木) 10:16:18.49 ID:oWSK7tDW0

里志「いや、違うよ」

里志「あのホータローがそれだけの理由で泊まらせたってのが意外だと思ったんだ」

奉太郎「……何が言いたい」

里志「やっぱり変わったよ、ホータローは」

奉太郎「それは……少し自分でも分かっている」

里志「自覚があったのか、前のホータローなら」

奉太郎「絶対に千反田を泊めていなかった、だろうな」

里志「そう、その通りだよ」

奉太郎「それで、結局お前は何が言いたいんだ」

奉太郎「前の俺の方が良かった、か?」

里志「いや? 今のホータローも充分良いと思うよ」

里志「ただ、ね」

里志「今のホータローは、ちょっと見ていて辛いんだ」

奉太郎「は? 意味が分からんぞ」

里志「……いや、なんでもない」

里志「まあ、事情が聞けて安心したよ! それじゃあ僕はこれで」

奉太郎「お、おい!」

……切られた。


279: ◆Oe72InN3/k 2012/09/13(木) 10:16:49.66 ID:oWSK7tDW0

なんなんだあいつは、俺を見ていて辛いだのなんだの。

客観的に見ても、昔の俺よりは幾分かマシだろう。

そのマシの判断基準になる物はなんなのかは分からないが、一般的に見て、という事にしておく。

あいつの言っている事は、時々意味が無いこともあるし、大して相手にしないのだが……少し気になるな。

気になる、か。

俺にも千反田が乗り移り始めているのかも知れない。

あまり頭を使うと、熱がぶり返して来そうだ。

明日は……行くしかないだろうなぁ。

里志がなだめたと言っていたので、多少は安心できるが……

ううむ、今から寒気がするぞ。

いや、決めた。

男には腹を括らねばならない時がある物だ。

それが今なのか? という疑問は置いといて、とりあえず頑張ろう。

さて、明日はなんて言い訳をしようか、と思いながら残りの時間は消費されていった。


280: ◆Oe72InN3/k 2012/09/13(木) 10:17:30.27 ID:oWSK7tDW0

~翌朝~

今日の作戦はこうだ。

まず、朝は伊原をなんとか回避する。

できれば千反田も回避した方がいいだろう。

なんせ、セットでいる可能性が高い。

そして放課後は、里志と一緒に部室に行く。

以上、作戦終わり。

奉太郎(はあ……行くか)

朝から気分が悪いな、全く。

放課後までは生きていたい、俺にも生存本能はある。

いつもの場所で、里志を見つけた。

奉太郎「おはよう」

里志「おはよ、ホータロー」

奉太郎「昨日はすまんな、伊原の事」

里志「なんだい、そんな事か」

里志「構わないさ、摩耶花をなだめるのも慣れてきたしね」

奉太郎「そうか、じゃあ一つ頼みがあるんだが」

里志「ホータローが? 珍しいね」


281: ◆Oe72InN3/k 2012/09/13(木) 10:18:02.84 ID:oWSK7tDW0

奉太郎「今日一緒に部室に行ってくれないか?」

里志「うーん、生憎そういう趣味はないんだけどね」

奉太郎「……里志」

里志「ジョークだよ、でも一緒にはいけないかなぁ」

里志「今日は委員会があるからちょっと遅れそうなんだ」

早くも、作戦は失敗に終わってしまった。

奉太郎(仕方ない、千反田と行くしかないか)

奉太郎(伊原と二人っきりだけは、避けたいしな)


282: ◆Oe72InN3/k 2012/09/13(木) 10:18:32.04 ID:oWSK7tDW0

~放課後~

まずは、千反田と合流しよう。

ちなみに、俺はA組で千反田はH組である。

奉太郎(遠いな……)

しかし、ここで省エネしていては後が怖い、なんとかH組まで到達し、扉を開ける。

人は結構居たが、千反田が見当たらない。

奉太郎(もう部室に行ったのだろうか?)

ならば仕方ない、部室の様子をちょっと覗いて、居なかったら帰ろう。


283: ◆Oe72InN3/k 2012/09/13(木) 10:19:07.89 ID:oWSK7tDW0

~古典部前~

ドアを、そっと開ける。

奉太郎(静かに開けよ……)

少しだけ開いた隙間から、中を覗いた。

見えるのは……伊原。

千反田は見当たらない。

奉太郎(さて、帰るか)

誰も俺を責める事はできない。

考えてみろ、わざわざ牙を向いて待っているライオンに飛び込んで行く餌などは居るはずがない。

という訳で、俺の行動も別段普通の事である。

教室のドアを閉めて変な音が出ても困る、そのままにして帰る事にした。

足音を立てないように、そっと階段まで戻る。

ここまで来れば、もう安全だろう。


284: ◆Oe72InN3/k 2012/09/13(木) 10:19:35.13 ID:oWSK7tDW0

5秒前の俺は、そう思っていた。

摩耶花「あれ、折木じゃん」

摩耶花「どこに行くの?」

奉太郎「い、いや……ちょっと散歩を」

摩耶花「あんたが散歩? 珍しいわね」

摩耶花「でも疲れたでしょ、部室で休んでいきなさいよ」

奉太郎「あ、ああ。 そうしようかな」

会話だけ見れば、普通の会話だろう。

だが、伊原の手は俺の肩を掴み、骨でも砕く勢いで力を入れている。

渋々、伊原の後に付いて行く。

付いて行くという表現は正しくないだろう。

正しくは、連れて行かれてる。


285: ◆Oe72InN3/k 2012/09/13(木) 10:20:05.88 ID:oWSK7tDW0

~古典部~

摩耶花「よいしょ」

そう言うと、伊原は席に着く。

ここで小さくなっていてもどうしようもない。

いつも通りにしておこう。

そう思い、席に着き本を開く。

やはりというか、部室には俺と伊原だけだった。

3分ほどだろうか? 突然伊原が机を叩く。

奉太郎(言ってから叩いてくれよ……)

寿命が縮まることこの上ない。

奉太郎「ど、どうした」

摩耶花「昨日の事、話してくれるんでしょうね」

奉太郎「……やはりそれか」

摩耶花「まあね、ちーちゃんに聞いても答えてくれないし……あんたに聞くしかないじゃん」

奉太郎「ちょ、ちょっと待て」

奉太郎「伊原は関係無いだろう、今回の事は」

摩耶花「私の友達に何をしたか聞いてるのよ!!」

奉太郎(千反田とは違う形で後ずさるな、これは)

奉太郎「わ、わかった」


286: ◆Oe72InN3/k 2012/09/13(木) 10:20:32.26 ID:oWSK7tDW0

奉太郎「まず、これは最初に言っておくが、変な事は一切してないからな」

摩耶花「ま、そうだとは思ったわ」

摩耶花「折木に何かする度胸なんてあるわけないしね」

奉太郎(……ひと言余計だ、こいつは)

奉太郎「それで、千反田が飯を作ってくれたのは知ってるだろ」

奉太郎「それを食べて少し話をしていたら、すっかり辺りが暗くなっていて」

奉太郎「そのまま帰す訳にもいかないから、泊まるか? と聞いたんだ」

摩耶花「ふうん」

奉太郎「別に強制した訳じゃないぞ」

摩耶花「そうなんだ、分かったわ」

なんだ、意外と素直だな……


287: ◆Oe72InN3/k 2012/09/13(木) 10:21:10.02 ID:oWSK7tDW0

摩耶花「ま、今日はそれが本題じゃないんだけどね」

奉太郎「……まだ何かあるのか」

摩耶花「前からすこーしだけね、気になってたんだけど」

摩耶花「折木って、ちーちゃんの事好きなの?」

奉太郎「は、はあ!?」

やられた、こいつの目的はこれか。

摩耶花「別に嫌なら言わなくてもいいよ、少し気になっただけだし」

奉太郎「……前から、って言ったな」

奉太郎「いつぐらいからそう思っていたんだ」

摩耶花「もう大分前、去年の文化祭の時くらいだったかな?」

そ、そんな前から?

奉太郎「……そうか」

摩耶花「で、どうなの?」

伊原には、話しておくべきなのだろうか?

いや、むしろこれは隠すことなのか?

伊原がそう思っていると知った以上、隠すのにも労力が必要になるだろう。

ならば、話は早い。


288: ◆Oe72InN3/k 2012/09/13(木) 10:21:42.45 ID:oWSK7tDW0

奉太郎「……そうだ、俺は千反田の事が好きだ」

否定する必要も、無い。

俺がつい最近気付いた事を、伊原は去年から知っていたと言うのだ。

それを聞いた俺が無理に隠しても、どうせいずればれてしまう。

摩耶花「へええ、あの折木がねぇ……」

奉太郎「……悪かったか」

摩耶花「ううん、折木も一緒なんだなって思ってね」

奉太郎「一緒?」

摩耶花「私たちとって事」

摩耶花「あんた、何事にもやる気出さなかったじゃない」

奉太郎「まあ、否定はしない」

摩耶花「そんな折木でも恋とかするんだなぁって思っただけ」

奉太郎「……俺も確信したのは最近だったがな」

摩耶花「そうだろうね、あんたって自分の変化には疎そうだし」

奉太郎「……悪かったな」


289: ◆Oe72InN3/k 2012/09/13(木) 10:22:15.08 ID:oWSK7tDW0

まさか、最初に伊原に知られる事となるとは思いもしなかった。

しかし周りから見たらそれほどまでに分かりやすかったのだろうか……

まあ、もう10年近い付き合いになる、気付かない方がおかしいのかもしれない。

摩耶花「ところでさ、あんたは私に聞かないの?」

奉太郎「……何を?」

摩耶花「ちーちゃんが折木の事をどう思っているか」

摩耶花「私がちーちゃんに聞けば、答えてくれると思うよ」

奉太郎「それはいい」

摩耶花「即答、ね」

奉太郎「知りたくないと言えば嘘になるが、それは千反田の口から直接聞くべきだろ」

奉太郎「面倒くさいのは嫌いなんだ」

摩耶花「やっぱり、折木は折木ね」

奉太郎「それはどうも、話は終わりでいいか?」

摩耶花「うん、ごめんね引き止めちゃって」

奉太郎「別に、いいさ」

摩耶花「ちーちゃんは今日部活に来れないってさ、さっき廊下で会った時に言ってた」

奉太郎「じゃあ、話し合いは明日だな。 俺は帰る」


290: ◆Oe72InN3/k 2012/09/13(木) 10:22:41.10 ID:oWSK7tDW0

摩耶花「うん、また明日」

奉太郎「ああ、じゃあな」

全く、なんという余計な行動だったのだろうか。

だが、別に話したからと言って何も変わる事ではないだろう。

気楽に、考えるか。

それにしても伊原とあんな感じで話したのは初めてじゃないか?

根はいい奴と言うのも、間違いではないな。

今日は帰ろう、風呂に入りたい気分だ。

第9話
おわり


292: ◆Oe72InN3/k 2012/09/13(木) 10:25:27.81 ID:oWSK7tDW0

「……そうだ、俺は千反田の事が好きだ」

私は、聞いてしまいました。

聞いてはいけない事だったでしょう。

ですが、私に聞きたいという感情さえ無ければ……聞かずに済んでいました。

つまり私は、折木さんの気持ちを一方的に知ってしまったという事です。

何故こんな事になったかというと、少しだけ時間を遡らないといけません。


293: ◆Oe72InN3/k 2012/09/13(木) 10:26:04.17 ID:oWSK7tDW0

~古典部前~

私はいつも通り、部室に入ろうとしました。

そこで、丁度階段を上ってきた摩耶花さんと鉢合わせとなります。

える「摩耶花さん、こんにちは」

える「他の方は、まだみたいですね」

摩耶花「あ、ちーちゃん」

摩耶花「後で皆も来ると思うよ」

える「えっと、それなんですが……」

える「すいません、今日はちょっと用事が入ってしまいまして」

折角の話し合いだったのに、少し残念です。

ですが、家の用事は絶対に外せないので仕方がありません。

摩耶花「あー、そうだったんだ」

摩耶花「じゃあ私が皆に伝えておくよ」

える「そうですか、では宜しくお願いします」

私は頭を下げると、摩耶花さんが部室に入るのを見てから、ドアを閉めました。


294: ◆Oe72InN3/k 2012/09/13(木) 10:26:45.16 ID:oWSK7tDW0

える(明日は一度、皆さんに謝りましょう)

そう思いながら階段に差し掛かった時です、聞き覚えのある足音がしました。

える(これは、折木さんのでしょうか?)

今でも、何故こんな行動を取ったのか分かりません。

私は咄嗟に部室の前まで戻り、更に奥の物陰に隠れました。

と言っても、大して隠れられていません。

恐らく、見つかるでしょう。

ですが、折木さんは何かに怯えている様な顔をし、視線が泳いでいます。

そして私に気付かないまま、部室の扉を少し開けると、中を覗いていました。

える(何をしているのでしょうか?)

そして覗いた後にすぐ、部室から去ろうとします。

折木さんが去ってからほんの数秒後に、ドアを開けて摩耶花さんが出てきました。


295: ◆Oe72InN3/k 2012/09/13(木) 10:27:34.28 ID:oWSK7tDW0

少しだけ開いたドアに、違和感を覚えたのでしょう。

摩耶花さんは階段の方まで走って行くと、折木さんと会った様です、話し声が聞こえてきました。

える(折木さんは、どこか落ち着きがなかったのでばれなかったみたいですが……)

える(摩耶花さんが来たら、ばれてしまうかもしれません)

そう考えた私は、一度部室の中へと入ります。

こんな事さえしなければ……

そして、やはり摩耶花さんと折木さんは部室に向かってきました。

える(どこかに、隠れないと……)

私が隠れた場所は、部屋の隅にあるロッカーの中でした。

える(……私は一体何をしているのでしょうか)


296: ◆Oe72InN3/k 2012/09/13(木) 10:28:06.54 ID:oWSK7tDW0

次いで、摩耶花さんと折木さんが部屋に入ってきます。

そして、少し時間を置いて会話が始まります。

どうやら昨日の事の様です。

何度か迷いました、ここから出て行こうかと。

ですがタイミングを失ってしまい、次に始まった会話で更に失ってしまいます。

「折木って、ちーちゃんの事好きなの?」

摩耶花さんが言う、ちーちゃんとは私の事です。

つまり私の事を好きなのか? と折木さんに聞いている事になります。

私はこの先を聞いてもいいのでしょうか?

ダメです、聞いてはダメな内容です。


297: ◆Oe72InN3/k 2012/09/13(木) 10:28:44.91 ID:oWSK7tDW0

しかし、そんな私の気持ちを知らずに、折木さんと摩耶花さんは会話を続けます。

そして、聞いてしまいました。

「……そうだ、俺は千反田の事が好きだ」

その言葉を、聞いてしまいました。

私は、どんな顔をしていたのでしょうか。

嬉しいという感情が溢れていたのは分かります。

ですが、何故……私の目からは涙が落ちているのでしょうか?

折木さんの気持ちに、私は答えていいのでしょうか?

その資格が、私にあるのでしょうか?

考えれば考えるほど、涙が溢れてきます。

そして、ある事に気付きます。

える(これが、私が自分で答えを出さないといけない問題なのでしょう)

える(折木さんの事ばかり考えてしまうのは、そういう事だったんですね)

える(私は……折木さんに)

える(答えていいのでしょうか)

える(好きです、と……答えていいのでしょうか)

そう考えながら、やがて誰も居なくなった部室に出ると、静かに外に出ます。

今回は、少し卑怯でした。

私は自分の行動を後悔しながら、帰路につきました。

第9.5話
一章
おわり


314: ◆Oe72InN3/k 2012/09/14(金) 18:43:09.33 ID:6Kb1AlQG0

俺は今、ウサギに囲まれている。

里志「ホータロー、どうしたんだい?」

そして、何故か里志と二人っきりだ。

奉太郎「この状況をうまく言葉にできないものか考えていた」

里志「それはまた、難しい事を考えているね」

里志「だって僕でさえ、この状況は理解に苦しむよ」

そう言う里志の顔はいつも通りの笑顔。

俺は小さく息を吐くと、一度整理することにした。

俺たち4人は、動物園に来ていた。

と言うのも千反田がどうしても行きたいらしく、特にすることが無い暇な高校生の俺たちは行くことになったのだが。

最初は4人で行動していた筈だ、だったら何故里志と居るのか?

確か、伊原と千反田が一回別行動をしようと言って……どこかに行ってしまったから。

確かというのは、俺が単純に話をちゃんと聞いていなかったからである。


315: ◆Oe72InN3/k 2012/09/14(金) 18:43:38.04 ID:6Kb1AlQG0

それで里志にどこに集合か聞いているか? と聞いたのだった。

すると里志は……

里志「え? てっきりホータローが聞いていると思ったんだけど」

と答えた。

俺と里志は数秒間、顔を見合わせるとお互いに溜息を吐く。

里志「うーん、じゃあ動物でも見ながら探そうか」

と里志は意見を述べた。

無闇に探すよりは、確かに効率がいいかもしれない。

そう思った俺は渋々承諾したのだが……

園内をほとんど見終わっても、伊原と千反田は見つからなかった。

そして成り行きでウサギ小屋で休憩を取っている所である。


316: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) 2012/09/14(金) 18:44:08.65 ID:6Kb1AlQG0

ウサギ小屋で二人っきりというのは、実際にその状況になるとかなり辛い。

なんといっても男二人だ。

奉太郎「それで、大体見回ったと思うが」

奉太郎「どうするんだ、これから」

里志「僕は別にホータローと二人でも構わないんだけどね」

里志「一生に一度、あるかないかだよ」

里志「ホータローと二人で見る動物園、なんてさ」

……こいつはどうにも前向きすぎる。

奉太郎「俺が嫌なんだよ、何が楽しくてお前と二人で周らないといけないんだ」

里志「はは、そう言われると困るね」

しかし、本当に困ったな。

動物園はそこまで広くはないが、迷路みたいに入り組んでいる。

全部周ったとしても、すれ違いになる可能性が高い。

ん? 待てよ。

連絡を取る方法……あるじゃないか。


317: ◆Oe72InN3/k 2012/09/14(金) 18:44:36.56 ID:6Kb1AlQG0

奉太郎「おい里志、お前携帯は?」

里志「前にも言ったけどね、携帯じゃなくてスマホだよ」

さいで。

奉太郎「んで、そのスマホで伊原に連絡は取れないのか?」

里志「さすがホータローだよ! その考えは無かった!」

どこか演技っぽく言うと、里志は続けた。

里志「ってなると思うかい? 今日は忘れてきたんだ」

肝心な時に……

奉太郎「……帰って明日謝るか」

里志「それはダメだよホータロー」

里志「だって、来る時は摩耶花と千反田さんに道を任せていただろう?」

里志「僕たちだけじゃ、家に帰り着く事は不可能だね」

奉太郎(よくそんな情けない事を自信満々に言えるな)


318: ◆Oe72InN3/k 2012/09/14(金) 18:45:10.60 ID:6Kb1AlQG0

なんで、こんな事になってしまったのだろう。

奉太郎「……そういえばそうだったな」

奉太郎「それじゃあ、どうするか……このままここに住むか?」

里志「悪い案では無いね、でもそれだと学校に行けなくなってしまう」

里志「動物に囲まれて朝を過ごす、一度はやってみたいけどね」

里志「でもやっぱり……もう一回、周ってみるのが最善かな?」

奉太郎「……分かった、もう一度周ろう」

そう言い、ウサギ小屋から出ようとした時に、視線を感じた。

なんかこう……獰猛な動物に睨まれるような。


319: ◆Oe72InN3/k 2012/09/14(金) 18:45:36.90 ID:6Kb1AlQG0

摩耶花「あんた達、何やってんの?」

里志「タイミング、完璧じゃないか!」

里志「摩耶花! 助かったよ」

檻に入っているのは俺、里志、そしてウサギ達。

それを外から不審者を見る目で見ているのが伊原。

奉太郎(ウサギ達の気持ちが、少し分かった)

摩耶花「時間も場所も言ったはずよね、なんでこんな所にいるのよ」

里志「ご、ごめんごめん。 ホータローと周っていたらついつい忘れちゃって」

摩耶花「ふーん、折木と回った方が楽しいんだ。 ふくちゃんは」


320: ◆Oe72InN3/k 2012/09/14(金) 18:46:26.96 ID:6Kb1AlQG0

里志「そ、そんな事は無いよ、摩耶花と周った方が100倍楽しい!」

奉太郎(1/100で悪かったな)

摩耶花「ま、いいわ」

摩耶花「鍵閉めておくから、またね」

摩耶花「ちーちゃん、行こ?」

これからの人生、ウサギと共に過ごすことになるのだろうか。

える「え、ええっと……私は……」

里志「千反田さん! 開けて!」

摩耶花「ちーちゃんに頼るんだ? へえ」

奉太郎「……はぁ」


321: ◆Oe72InN3/k 2012/09/14(金) 18:47:13.59 ID:6Kb1AlQG0

いつまでも続くその光景を、俺はウサギ達と一緒に眺めていた。

奉太郎「そろそろ行くぞ、時間が勿体無い」

そう言うと伊原もようやくふざけるのを止め、俺たちが檻から出るのを待つ。

奉太郎「それで、お前たちは何をしていたんだ」

摩耶花「ちょっと、買い物をね」

買い物? 何かお土産でも買っていたのか?

える「これです!」

そう言いながら千反田が取り出したのは、ウサギの置物?

奉太郎「これを? 部屋にでも置くのか?」

える「部屋と言えばそうです、部室に置こうと思って……」

なるほど。

確かにあの部室は簡素すぎる。

伊原が描いた絵は映えているが、どうにも寂しい。


322: ◆Oe72InN3/k 2012/09/14(金) 18:47:54.21 ID:6Kb1AlQG0

奉太郎「まあ少し寂しかったからな、けど別行動してまで買う物か? これ」

摩耶花「そ、それは」

伊原の態度を見て、察した。

大方、何か里志に買ったのだろう。

奉太郎「ま、いいさ」

奉太郎「それより一度、飯にしよう」

里志「うん、ウサギと遊んでいたらお腹が減っちゃったよ」

その言い方だと、俺もウサギと遊んでいたみたいに聞こえるのでやめてほしい。

える「ウサギさんと遊ぶ折木さん……ちょっと気になります」

ほら、こうなるだろ。

奉太郎「俺は遊んでないぞ、見ていただけだ」

里志「そうそう、ホータローがウサギと遊ぶところはちょっと見たくないかな」

える「……そうですか、残念です」


323: ◆Oe72InN3/k 2012/09/14(金) 18:48:36.11 ID:6Kb1AlQG0

何がどう残念なのかは置いといて、レストランに入る。

動物を見てから肉を食べる気は、あまりしなかった。

伊原と千反田も同じ考えのようで、麺類を頼んでいる。

だが、里志は肉を食べていた。

人それぞれなのだろうか、あまり気にする様な奴には見えないし。

摩耶花「ふくちゃん、よくお肉食べられるね」

里志「それはそれ、これはこれだよ」

里志「一々気にしていられないさ」

ふむ、こういう考えもありなのかもしれない。

等と、少し哲学的な事を考えながら昼飯を済ませる。


324: ◆Oe72InN3/k 2012/09/14(金) 18:51:02.75 ID:6Kb1AlQG0

食後のゆっくりとしている時に伊原が席を立ち、里志を連れ出していった。

どうやらプレゼントでも渡すつもりなのだろう。

それに着いて行く様な真似はさすがの俺でもできない。

える「あ、あの。 折木さん」

対面に座る千反田が話しかけてきた。

える「これ、プレゼントです」

これは意外。

俺にもプレゼントをくれる人が居たとは……

奉太郎「おお、ありがとう」

千反田がくれたのは、ペンダントだった。

中に写真が入っており、その写真には綺麗な鳥が写っていた。

しばらくペンダントに見とれていた。

気付くと、千反田が俺の方をじーっと見つめている。

奉太郎「……今は付けないからな」

える「え、はい……そうですか」

奉太郎「……恥ずかしいだろ」

える「そ、そうですよね。 分かりました」


325: ◆Oe72InN3/k 2012/09/14(金) 18:51:36.01 ID:6Kb1AlQG0

……次に学校に行くときにでも、付けて行くか。

そんな会話をしている内に、伊原と里志が戻ってきた。

慌ててペンダントを隠す、なんとなく。

奉太郎「さて、これからどうする?」

里志「僕とホータローは大体見て周っちゃったからなぁ」

里志「二人で周ってきたらどうだい? 僕達はここで待ってるよ」

える「いいんですか? じゃあ摩耶花さん、行きましょう」

摩耶花「今度はフラフラしないでここに居てね、二人とも」

はいはい、分かりました。

女二人で話したい事もあるだろうし、これでいいか。

何より座っている方が楽だ。

と言っても里志と二人で話す事も無いのだがな……


326: ◆Oe72InN3/k 2012/09/14(金) 18:52:04.31 ID:6Kb1AlQG0

里志「ホータロー」

それは俺だけの話であって、こいつはあるみたいだ。

奉太郎「なんだ」

里志「僕が摩耶花に貰ったもの、分かるかい?」

奉太郎「さあな、見当もつかん」

里志「これだよ」

そう言って、里志はテーブルの上にそれを置いた。

ゴトン、という大きな音をたてて。

置かれたのはかなり重そうな招き猫だった。

奉太郎「これは……」

里志「正直な話、最初はまだ怒っているのかと思ったよ」

里志「でもそんな感じじゃなかったんだ、それで仕方なく受け取った」

奉太郎「気持ちが大切って奴じゃないのか」


327: ◆Oe72InN3/k 2012/09/14(金) 18:52:30.66 ID:6Kb1AlQG0

里志「ホータローにしては良い事を言うね」

里志「でもこの気持ちはちょっと重すぎる」

奉太郎「確かにな、随分重そうだ」

里志「かなり、ね」

里志「僕の巾着袋が破けないかが、今一番心配な事だよ」

にしても。

奉太郎(でかいな……)

テーブルの上に置かれた招き猫は、とても大きな威圧感を放っていた。

里志「それより、だ」

里志「ホータローは何を貰ったんだい?」

見られていたか? いや、そんな筈は無い。

奉太郎「何も貰ってないぞ」

里志「嘘はよくないなぁ、友達じゃないか僕達」

奉太郎「……」

最近になって、里志はやたら勘が鋭くなってきている。

俺にとっては迷惑な事この上ない。


328: ◆Oe72InN3/k 2012/09/14(金) 18:53:32.09 ID:6Kb1AlQG0

奉太郎「なんで、分かった」

里志「何年友達やってると思っているんだい? 顔を見ればすぐに分かるさ」

奉太郎「なるほど、まあいい、確かに貰った」

里志「何を?」

奉太郎「それは言わない」

里志「残念だなぁ」

奉太郎「一つだけ言えるのは、その招き猫より小さいって事くらいだな」

里志「はは、いい例えだ」

そう言うと、里志は窓から外を眺めた。


329: ◆Oe72InN3/k 2012/09/14(金) 18:54:01.55 ID:6Kb1AlQG0

里志「今日は、中々に楽しかったよ」

奉太郎「そうか? いつも通りだろ」

里志「いいや、違うね」

里志「ホータローとこういうちょっと離れた場所に来るっていうのは、新鮮だよ」

里志「最近はホータローも活発的とは程遠いけど、動くようにはなってきたしね」

里志「そんな毎日が、少し新しくて楽しいのかもしれない」

奉太郎「ふうん、そんなもんか」

里志が楽しいと自分で言うのも、結構珍しいな。

里志「それと、こういう突発的な災難ってのもね」

そう言い、外を指差す。

なるほど、これは確かに災難だな。

空は、どんよりとした色をしていた。

そんな会話を聞いていたのか、やがて雨は降り出した。

里志「こりゃ、二人とも雨に降られたね」

奉太郎「だろうな、一緒に行ってなくて良かった」


330: ◆Oe72InN3/k 2012/09/14(金) 18:54:43.78 ID:6Kb1AlQG0

本来なら、傘を持って探しに行くのが優しさだろう。

だが俺達は二人とも傘なんぞ持っていない。

ならば諦めて降り注ぐ雨を眺めているのが効率的と呼べる。

それに伊原にはフラフラするなと言われている、これならば仕方ない。

奉太郎「いつまで降るんだろうな」

里志「うーん、すぐに上がりそうだけど、どうだろうね」

里志も俺と同じ考えなのか、探しに行こうとは言わなかった。

奉太郎「いよいよする事が無くなったな」

里志「そうだね、こうしてみると男二人ってのは寂しいもんだ」

奉太郎(さっきまで、ウサギ小屋ではしゃいでたのはどこのどいつだ)

俺は未だに上がりそうに無い雨を見ながら、コーヒーを一杯頼む。


331: ◆Oe72InN3/k 2012/09/14(金) 18:56:06.81 ID:6Kb1AlQG0

ほんの5分ほどで運ばれてきたコーヒーに口を付ける。

里志「それにしても、後2年かぁ」

奉太郎「2年? 何が」

里志「僕達が高校を卒業するまでだよ」

奉太郎(卒業か、考えたことも無かったな)

奉太郎「まだ2年もある」

里志「ホータローにとってはそうかもしれないけど、僕にとっちゃ後2年なんだよ」

それもまた、感じ方の違いと言うものだろう。

奉太郎「楽しい時間はすぐに過ぎる、か」

里志「……ホータローがそれを言うとは思わなかったかな」

奉太郎「俺にもそれを感じる事くらいはあるさ」

里志「ふうん、ホータローがねぇ」

奉太郎「……里志は毎日が楽しそうだな」


332: ◆Oe72InN3/k 2012/09/14(金) 18:57:13.96 ID:6Kb1AlQG0

里志「まあね、楽しもうとして楽しんでいるからそうでなくちゃ困る」

奉太郎「それもそうだな」

里志「でも、たまには楽しくない日も欲しいとは思うけどね」

奉太郎「……なんで、そう思う?」

里志「さっきホータローが言ったじゃないか、楽しい時間はすぐに過ぎるって」

里志「つまり楽しくない時間なら、長く感じるって事さ」

里志「そうやって、一日を大切にしたいって思うこともある」

里志「それだけの話だよ」

奉太郎「そうか、じゃあ俺は随分と長い高校生活を送れそうだ」

里志「それはどうかな? 終わってみると案外早い物だよ」

現に既に高校生活の1年は過ぎている……少し納得できるかもしれない。

里志「それとね、終わってから気付くこともあるんだ」

奉太郎「終わってから?」

里志「うん、その時はつまらないって思ってた日々も、終わってから振り返ると楽しかった日々に思える」

里志「つまり結局は、時間が過ぎるのは早いんだよ」

里志「楽しくない日が欲しいって言うのは、無理な話かもね」


333: ◆Oe72InN3/k 2012/09/14(金) 18:57:40.10 ID:6Kb1AlQG0

奉太郎「ふむ、まあ俺には無縁だと思うがな」

奉太郎「現に今も退屈で仕方ない」

里志「ははは、それには同意するよ」

そう里志が言うと、少しの沈黙が訪れた。

ふと窓の外に視線を流すと、どうやら雨が上がったようで、雲の隙間から陽が差し込んでいる。

里志「ホータロー」

里志に呼ばれ、顔を向けると店内の入り口を指差していた。

そのままそっちに顔を向けると、雨に降られた千反田と伊原の姿見える。


334: ◆Oe72InN3/k 2012/09/14(金) 18:58:35.18 ID:6Kb1AlQG0

千反田は俺たちを見つけると、どこか嬉しそうに笑顔になっていた。

伊原は俺たちを見つけると、どこか不服そうに、睨んでいた。

奉太郎「千反田はともかく、伊原になんと言われるかって所か」

里志「そうそう、よく分かってるよホータローは」

奉太郎「フラフラするなと言ったのは、伊原だったと思うがな……」

里志「それを摩耶花の前で言ってごらん、摩耶花は絶対にこう言うね」

里志「折木は臨機応変って言葉の意味、知ってる?」

里志「ってね」

奉太郎「里志がそこまで断言するなら、言わない事にしよう」

里志「懸命な判断だよ、ホータロー」

そう言い笑う親友と共に、腕を組み、待ち構えるライオンの元へと食われに行くのであった。

第10話
おわり


341: ◆Oe72InN3/k 2012/09/15(土) 13:51:13.49 ID:9ri033Qy0

~折木家~

里志とはあんな事を話していたが、時が経つのはやはり早い。

少し前まで、やっと高校生かー等と思っていた物だ。

気付けば進級していて、そして気付けばすぐ目の前に夏がやってきている。

初夏と言うのだろうか、セミが鳴いていてもなんもおかしくない暑さ。

そんな暑さに叩き起こされ、俺は不快な朝を迎えた。

奉太郎(暑いな……)

唯一幸いな事は……今日は日曜日、学生身分の俺は休みである。

しかしとりあえずは水を飲もう、このままでは家の中で死んでしまう。

寝癖も中々に鬱陶しいが、まずは喉を潤さなければ。

そんな事を思い、リビングに赴く。

リビングに着くと、いつ帰ったのだろうか……姉貴が居た。

供恵「おはよ、奉太郎」

奉太郎「帰ってたのか、おはよう」

確かこの前海外へ行ったのが2ヶ月くらい前か?

いや、1ヶ月前くらいか。

奉太郎「今回は随分と早かったな」

供恵「そう? 外国に行ってると感覚が狂うのよねー」

そんなもんか。


342: ◆Oe72InN3/k 2012/09/15(土) 13:51:52.63 ID:9ri033Qy0

供恵「あ、そだそだ」

そう言いながら、姉貴はバッグから物を探す素振りをする。

俺は姉貴に視線を向け、水を飲みながら姉貴の話に耳を傾けた。

供恵「お土産、買ってきたわよ」

供恵「買ってきたってのは変ね、貰ってきたが正しいかしら」

そう言い、手渡されたのは4枚のチケットだった。

奉太郎「沖縄旅行、3泊4日?」

供恵「そそ」

供恵「この前の友達らと行って来なさい」

沖縄か、確かにありがたいが……

しかし、そんな時間は無いだろう。

奉太郎「あのなぁ、俺たちは高校生だぞ」

奉太郎「1週間近くも離れるなんてできない、学校があるしな」

供恵「ふうん、そっか」

姉貴は素っ気無く言うと、それ以降は口を開こうとしなかった。

話はどうやら終わったらしい。

奉太郎(里志は確か妹がいたな、あいつにあげるか)

チケットを渡すついでに里志と遊ぼうかと思ったが、外の暑そうな空気にその気は無くなる。


343: ◆Oe72InN3/k 2012/09/15(土) 13:52:35.36 ID:9ri033Qy0

奉太郎(学校がある時にしよう、今外に出たら干乾びてしまう)

奉太郎「一応礼は言っておく、ありがとう」

供恵「可愛い弟の為だからねー」

奉太郎「それと、一ついいか?」

供恵「ん? なに?」

奉太郎「このチケットって、海外のお土産では無いだろ……」

供恵「そりゃーそうよ、商店街の人に貰ったんだもん」

さいで。

ま、とにかくこのチケットは次に会った時にでも渡すとして……

今日は何をしようか?

奉太郎(あれ、俺ってこんな行動的だったか?)

いや、違う。

別にする事なんて求めていない。

ただ、ごろごろとしていればいいだけだ。

そう思うと、寝癖を直すのもなんだか面倒になってきた。

その結論に至ってから、俺の行動はとても単純な物になる。

30分……1時間……クーラーが効いたリビングで過ごす。

やはり、こうしているのが俺らしいという事だ。


344: ◆Oe72InN3/k 2012/09/15(土) 13:53:14.18 ID:9ri033Qy0

奉太郎(二度寝でもしようか……)

そんな事を考え、しかし部屋まで戻るのも面倒だな、など考えているときにインターホンが鳴った。

……リビングには姉貴もいる、任せよう。

供恵「はーい」

供恵「あ、久しぶりね」

供恵「ちょっと待っててねー」

姉貴が転がる俺の頭を足で小突く。

もっと呼び方という物があるだろう……全く。

奉太郎「……なんだ」

供恵「と・も・だ・ち」

供恵「来てるわよ」

その時の姉貴の嬉しそうな顔と言ったら……省エネモードに入った俺には起き上がるのも辛い。

しかし、尚も頭を蹴り続ける姉貴に負け、今日一番嫌そうな顔をしながら起き上がる事にした。

無視し続けては後が怖い、これが本音というのが悲しい。

奉太郎(寝癖直すのも面倒だな……このままでいいか、とりあえずは)


345: ◆Oe72InN3/k 2012/09/15(土) 13:53:43.63 ID:9ri033Qy0

姉貴は友達と言っていたが……里志だと助かる。

伊原や千反田まで居たら、とても面倒な事になって仕方ない。

しかし、悪い予感というのは良く当たる物で、玄関のドアを開けると見事に全員が揃っていた。

奉太郎(暑いな……)

顔だけを出し、問う。

奉太郎「日曜日にわざわざ何をしに来た」

里志「古典部としての活動だよ」

休日に? 馬鹿じゃないのかこいつらは。

奉太郎「明日でいいだろ……」

摩耶花「あんた今何時だと思ってんの? 寝癖も直さないで……」

奉太郎「今日は家でごろごろすると決めたんだ、帰ってくれ」

える「今日でないとダメなんです!」

迫る千反田に咄嗟に後ろに引くと、頭だけを出していた俺は当然の様に挟まる。

幸い、その失敗に気付いた者は居なかった。


346: ◆Oe72InN3/k 2012/09/15(土) 13:55:02.64 ID:9ri033Qy0

奉太郎(こいつは毎回毎回……しかもこの暑さでよくこんな元気があるな)

里志「千反田さんもこう言ってるし、折角来たんだからさ、いいじゃないか」

奉太郎「……今日は暑すぎる、今度にしないか」

暑い、休日、面倒くさいの三拍子、断る理由としては結構な物だろう……多分。

里志「だってさ、どう思う? 二人とも」

里志はそう言うと、二人の方に振り返り答えを促した。

摩耶花「いいから来なさいよ、暑いのは皆一緒でしょ」

える「アイスあげますから、はい!」

奉太郎(アイス……? 物凄く子供扱いされているな、俺)

当然、他二名は来い、と言うだろう……だがここで引くほど俺も甘くは無い。


347: ◆Oe72InN3/k 2012/09/15(土) 13:55:48.26 ID:9ri033Qy0

奉太郎「とにかく! 今日はダメだ」

里志「はあ、仕方ないなぁ」

少しだけ残念そうな顔を里志がしたせいで、やっと帰ってくれるのかと思ったが……里志が無理やりドアを開いてきた事で若干だが焦った。

奉太郎「お、おい」

里志は大きく息を吸うと、ひと言。

里志「おねえさーん!」

この馬鹿野郎。

それを予想していたかの様に、直後に姉貴が現れる。

供恵「里志くん、お久しぶり」

供恵「どしたの?」

くそ、最近は里志も俺の使い方を分かってきたのか……やり辛い。

姉貴に苦笑いを向けながら、俺は言う。


348: ◆Oe72InN3/k 2012/09/15(土) 13:56:21.26 ID:9ri033Qy0

奉太郎「いや、なんでもない」

奉太郎「今から、皆で遊びに行くところだ。 ははは」

供恵「ふ~ん、行ってらっしゃい」

姉貴は物凄く嬉しそうに笑うと、リビングに戻っていった。

それを見届けた後、満足気に笑う里志に向け、ひと言伝える。

奉太郎「……覚えとけよ、里志」

里志「はは、夜道には気をつけておくよ」


349: ◆Oe72InN3/k 2012/09/15(土) 13:56:48.86 ID:9ri033Qy0

~古典部~

こんな感じで、俺は折角の休みだと言うのに古典部の部室まで足を運ぶはめになった。

全員が席に着き、話を始める。

摩耶花「そうそう、この前ふくちゃんと遊んだときなんだけどね」

摩耶花「30分も遅れてきて、笑いながら謝ってきたの」

摩耶花「少し遅れちゃったね、ごめんねーって」

摩耶花「酷いと思わない!?」

える「そうですね……福部さん、それは少し酷いと思いますよ」

里志「千反田さんに言われちゃうと、参っちゃうなぁ」

これが古典部としての活動か、なるほど納得! ……帰ってもいいだろうか。

頬杖を突きながら俺は異論を唱える、当然だ。

奉太郎「そ、れ、で」

奉太郎「古典部の活動ってのはこの事か?」


350: ◆Oe72InN3/k 2012/09/15(土) 13:59:22.18 ID:9ri033Qy0

3人の視線が俺に集まる。

数秒の間の後、千反田が思い出したように手を口に当てた。

える「……そうでした! 今日は目的があって集まったんでした!」

奉太郎(おいおい……)

溜息を吐きながら、新しく設置されたウサギの物置に目をやった。

窓際に置かれたそれは日光に当てられ見るからに暑そうだ、可愛そうに。

える「それでですね、今日集まったのは……」

える「今年の氷菓の事についてです!」

里志「ああ、文化祭に出す奴だね」

摩耶花「でも今年って文集にするような事……ある?」

奉太郎「あれって毎年出すのか?」

摩耶花「当たり前でしょ、3年に1回とかどんだけする事のない部活なのよ」

奉太郎「……ごもっとも」

里志「ホータローにとっては3年に1回でも随分な労力に違いないけどね」

俺は里志を一睨みすると、少し気になった事を千反田に訪ねる事にした。


351: ◆Oe72InN3/k 2012/09/15(土) 14:00:14.39 ID:9ri033Qy0

奉太郎「ちょっといいか」

える「はい、どうぞ」

千反田はそう言うと手を俺に向けた、司会はどうやら千反田努めてくれるらしい。

奉太郎「それが、今日じゃないとダメな事か?」

千反田は人差し指を口に当てながら、答える。

える「いえ、今日じゃないとダメという事は無いですね」

つい、頬杖で支えていた頭が少しずれる。

奉太郎「……さっき言っていたのはなんだったんだ」

奉太郎「俺の家の前で、今日じゃないとダメとかなんとか」

える「ああ、あれですか」

える「えへへ、そう言わないと、折木さんが来ないと思いまして」

奉太郎「……」

千反田は、こういう奴だっただろうか……?

どうにも最近は、里志やら千反田やら、俺を使うのに慣れてきているのだろうか。

そうだとしたら……俺の想像以上に面倒な事になってしまう。

奉太郎「……帰っていいか」

える「それはダメです! 氷菓の内容を決めないといけないです!」

一応持ってきていた鞄を掴む俺の手を、千反田が掴む。


352: ◆Oe72InN3/k 2012/09/15(土) 14:02:16.74 ID:9ri033Qy0

あーこれは、断れないパターンか。

奉太郎「……分かったよ、手短に終わらせよう」

渋々承諾するも、一刻も早く家に帰り休日を満喫したい。

里志「と言っても、内容が無いよね」

摩耶花「そうね、去年は色々とあったから良かったけど……」

里志「今年は内容がないよね」

える「困りましたね……」

里志「内容がないと困るね……」

奉太郎「別に何でもいいだろ、今日の朝は何食べたとかで」

里志「内容がないよう!」

里志が席を立ち、一際声を大きくし、嬉しそうな顔で言う。

どっちかというと……叫んでいた。

摩耶花「ふくちゃん、少しうるさいよ」

奉太郎「黙っててくれるとありがたいな」

える「福部さん、お静かに」


353: ◆Oe72InN3/k 2012/09/15(土) 14:08:05.04 ID:9ri033Qy0

俺達3人の意見がぴったりと合うのは中々に珍しい、まあそれほど里志がうるさかったと言う事なのだが。

流石に3人に言われると、里志はようやく静かになった。

まさか千反田までもが言うとは思っていなかったが……

一旦静まった部屋の空気を変えるように、千反田が口を開く。

える「ではこういうのはどうでしょう? これから文化祭までに何かネタを見つける、というのは」

摩耶花「……それしか無さそうね」

悪い案ではない、が。

奉太郎「見つからなかったらどうするんだ? 今年は何か芸でもやるか?」

える「私、何もできそうな事が無いです……すいません」

摩耶花「ちーちゃん、本気にしないで」

える「あ、冗談でしたか」

こいつは本気で何か芸でもするつもりだったのだろうか。

少しだけ見たい気はするが……


354: ◆Oe72InN3/k 2012/09/15(土) 14:08:43.53 ID:9ri033Qy0

奉太郎「で、今は6月か」

俺は机を指でトントンと叩きながら言う。

奉太郎「後4ヶ月で何か見つけろというのは……難しいと思うぞ」

里志「あ、いい事思い出したよ」

またどうでもいい事を言うんじゃないだろうな、こいつは。

摩耶花「くだらない事言わないでね」

伊原もどうやら同じ意見の様だ。

しかし……伊原の視線が恐ろしいな、俺に向けられてないのが幸いだが。

里志「千反田さん、一つ気になることあったんじゃなかったっけ?」

奉太郎「ばっ……!」

える「あ、そうでした!!」

くそ、やられた。

今日は里志が口を開くとろくな事が無い。

える「折木さんに是非相談しようと思っていたんです!」

俺の返答を聞く前に、千反田は続ける。

える「実はですね、DVDの内容が気になるんです!」


355: ◆Oe72InN3/k 2012/09/15(土) 14:09:12.47 ID:9ri033Qy0

奉太郎「俺はお前の説明を飛ばす癖が気になるな」

える「す、すいません」

える「お話しても、いいでしょうか?」

奉太郎「……それと文集とどう関係があるんだ、里志」

里志「特にはないね、でも新しい発見ってのは重要な物だよ。 ホータロー」

奉太郎「……はぁ、分かった」

奉太郎「千反田、話してみてくれ」

える「ありがとうございます」

える「それでは最初から、お話しますね」

コホン、と小さく咳払いをすると話が始まった。


356: ◆Oe72InN3/k 2012/09/15(土) 14:09:38.81 ID:9ri033Qy0

える「昨日のお話なんですが、摩耶花さんとDVDを貸し借りして見ていたんです」

える「私は摩耶花さんが見終わった後に、お借りしました」

える「一つはコメディ物のお話で、もう一つはホラー物でした」

奉太郎(ホラーとコメディが同じDVDに入っているのか……少し見て見たいな)

摩耶花「それよ!」

伊原が机を叩き、声を挙げる。

こいつは俺の寿命を縮める為にやっているのではないだろうか? 等疑ってしまうのは仕方ない。

それと……急に大声を出すのは、本当にやめてほしい。

奉太郎「それって、何が?」


357: ◆Oe72InN3/k 2012/09/15(土) 14:10:12.37 ID:9ri033Qy0

摩耶花「私が見たのは、片方がコメディ……ここまではちーちゃんと一緒なんだけど」

摩耶花「……もう片方は感動系だった!」

つまり二人が見ていた話の系統が違う……と言う事か?

える「そうなんです! 変ではないですか?」

一つ案が浮かんだ、成功すれば見事に手短に終わらせられるいい方法。

奉太郎「普通だろう、伊原がホラーを感動して見ていただけの話だ」

摩耶花「おーれーきー!」

おお、怖い。

仕方ない、逆転させよう。

奉太郎「じゃあこうだ、千反田が感動物を怯えながら見ていた、これで終わり」

える「お・れ・き・さ・ん! 真面目に考えてください」

……どっちに転んでも怖い思いをするのは俺の様だ。


358: ◆Oe72InN3/k 2012/09/15(土) 14:10:45.03 ID:9ri033Qy0

奉太郎「……分かった、少し考えるか」

なんで休日にこうも頭を使わなければいけないんだ……

全ての元凶の里志を見ると、それはもう楽しそうに笑っていた、あの野郎。

奉太郎「まず、DVDを見た日は同じ日か?」

える「はい、そうです」

奉太郎「ふむ」

可能性としては、あるにはあるな。

順番としては……

コメディをA、ホラーor感動物をBとして考えよう。

恐らく順番はA→Bに間違いは無い。

問題はそのBがホラーか感動物か、ということだ。

もう少し、情報が必要だな……

奉太郎「そのDVDはどこで見たんだ?」

える「場所……ですか?」

える「神山高校の、視聴覚室です」

奉太郎「視聴覚室? 学校まで来たのか?」

える「ええ、昨日は摩耶花さんと遊んでいまして……DVDを見ようって事になったんです」

える「それで、私の家には機材がありませんし……摩耶花さんの家は用事があり、お邪魔する事ができなかったので」

える「私たちは、学校で見ることにしたんです」

奉太郎(……学校の物を私物化する奴は初めて見たな)


359: ◆Oe72InN3/k 2012/09/15(土) 14:11:21.49 ID:9ri033Qy0

える「私は一回部室まで来て、その間に摩耶花さんが見ていました」

ん? それはおかしくないか。

奉太郎「なんで一緒に見なかったんだ?」

える「見終わった後に、感想をお互いで交換しようと思っていたからです」

奉太郎(随分と暇な奴らだな……)

まあそれならば一緒に見なかったのは納得がいってしまう。

える「摩耶花さんが見終わった後は、今度は私が見させて頂きました」

える「私が終わった後、感想を交換しているときにお互いの意見が違う事に気付いたんです」

奉太郎「なるほど、な」

それならば話は早い、条件は揃っている。

深く考える必要も無かったな。

里志「……さすが、ホータロー」

里志「何か分かったみたいだね」

摩耶花「え? もう分かったの?」

奉太郎「まあな、でも一つ確認したい事がある」

える「確認、ですか?」


360: ◆Oe72InN3/k 2012/09/15(土) 14:11:54.47 ID:9ri033Qy0

奉太郎「ああ」

奉太郎「俺が聞きたいのは、何故もう一度二人で見ようとしなかったのか、だ」

奉太郎「意見が違った時点でそうするのが手っ取り早いだろ」

える「あ、そ、それでしたら……」

何故か千反田が言い淀む。

摩耶花「先生にね、ばれそうになっちゃって」

何をしているんだか、こいつらは。

奉太郎「……許可くらい取っておけ、次から」

奉太郎「だがそれのせいで、お前らも気付かなかったんだろうな」

える「は、早く教えてください! 気になって仕方がありません!」

奉太郎「わ、分かったから落ち着け、それと少し離れろ」

千反田が少し距離を取るのを見て、俺が話を始める。

奉太郎「結論から言うぞ」

奉太郎「そのDVDには、話が3本入っていたんだ」


361: ◆Oe72InN3/k 2012/09/15(土) 14:12:23.19 ID:9ri033Qy0

える「3本……ですか?」

奉太郎「そうだ、だから千反田達が見た内容が違っていた」

える「でも、でもですよ」

える「3本話があったとしますね」

える「わかり辛いのでA,B,Cとしますと」

奉太郎「千反田が言いたいのはこういう事だな」

千反田 A→B→?

伊原 A→B→?

える「そうです!」

える「でもこれですと、私と摩耶花さんが見ているお話が違うのはおかしくないですか?」

奉太郎「ああ、そうだな」

摩耶花「……そうだなって、まさかまた私とちーちゃんが見たものは受け取り方が違ったとか言うんじゃないでしょうね」

奉太郎「それを言うと後が怖い、だからさっき確認しただろ」

奉太郎「DVDを見た場所について、だ」


362: ◆Oe72InN3/k 2012/09/15(土) 14:12:56.43 ID:9ri033Qy0

奉太郎「つまりはこういう事だ」

千反田 C→A→?

摩耶花 A→B→?

える「この場合なら、見た内容が違うと言うのも分かります……ですが」

える「どうして話の始まる場所が違っていたんですか?」

奉太郎「同じ場所で見た、というのが原因だ」

奉太郎「一度DVDを抜いていれば、こんな事は起こり得ない」

奉太郎「伊原がA→Bと見た後に巻戻しが行われないまま、千反田がC→Aと見たんだ」

奉太郎「伊原は元から2本しか入っていないと思っていたんだろう? なら巻戻しをしなかったのは説明が付く」

摩耶花「……なるほど!」

える「確かにそれなら……納得です」


363: ◆Oe72InN3/k 2012/09/15(土) 14:13:30.34 ID:9ri033Qy0

奉太郎「話が3本入っているという結論に至ってからは、千反田の言い方に少し引っ掛けられたがな。 分かれば簡単な事だ」

える「私の、言い方ですか?」

奉太郎「さっきこう言っただろう」

奉太郎「一つはコメディ物のお話で、もう一つはホラー物でしたってな」

奉太郎「一瞬、千反田が最初に見たのがコメディ……つまりAだと思った」

奉太郎「だがそうすると伊原と合わなくなるからな」

奉太郎「最初に見たCがコメディとは考え辛い」

える「なるほど、つまり……」

私 ?→?→?(コメディとホラーは見ている)

摩耶花さん A→B→?(コメディと感動物を見ている)

える「この時点で、Aはコメディだという事が分かるんですね」

奉太郎「そうだ、Bがコメディだと言う事もありえない」

奉太郎「そこから考えられるのは一つしかない」

奉太郎「伊原がまず最初の二つを見て、その後千反田が最後の話と最初の話を見た」

奉太郎「そのせいで、意見に違いが出たんだろう」


364: ◆Oe72InN3/k 2012/09/15(土) 14:13:57.51 ID:9ri033Qy0

える「さすがです! 折木さん!」

奉太郎「考えれば分かるだろ……DVDのパッケージでも見れば書いてあるだろうしな」

摩耶花「あー、これ……もらい物なんだよね。 中身だけの」

奉太郎(DVDをあげた奴に俺が被害を受けているのを伝えたい)

える「そういう事でしたか、すっきりしました」

える「では、今度は全部見て感想を交換しましょう! 摩耶花さん」

摩耶花「うん、また持ってくるね」

奉太郎「暇な奴らだな、全く」

摩耶花「折木にだけは、それ言われたくない」

奉太郎(その通り、としか言えんな)

すると、ずっとニヤニヤしていた里志が口を開いた。

里志「確かに、分かってみれば簡単な事だったかもね」

里志「それに良かったじゃないか、文集のネタが一つ増えた」

……こんな事を文集にするのか、勘弁して頂きたい。


365: ◆Oe72InN3/k 2012/09/15(土) 14:14:25.52 ID:9ri033Qy0

奉太郎「こんなつまらん事を文集にしても誰も買わんだろ」

里志「そうかな? 僕は結構楽しめたけど」

える「私も良いと思いました、ありがとうございます」

そんな改まって頭を下げることでも無いだろうに……少し、照れる。

奉太郎(それはそうと)

奉太郎(16時……俺の休みが……)

明日からは、また学校が始まってしまう。

何が楽しくて休日の学校に来なければいけなかったのか……くそ。

それからまた関係の無い話を始める3人を眺め、やはりこれは放課後に済ませられた会話だったと俺は思った。

……やはり、納得がいかんぞ。

第11話
おわり


367: ◆Oe72InN3/k 2012/09/15(土) 14:16:02.31 ID:9ri033Qy0

帰り道、里志が巾着袋をくるくると回しながら話しかけてきた。

里志「いやあ流石だね、ホータロー」

里志「DVDの謎は無事に解決! お見事だったよ」

奉太郎「何がだ、あんなのは誰にでも思い付くだろ」

奉太郎「あれを謎と言ったら、全国のミステリー好きに失礼って物だ」

里志「いやいや、僕なんかじゃとても思いつかないよ」

あ、この感じ……次に恐らく。

里志「データーベースは結論を出せないんだ」

ほら言った。 へえ、そうなんだ。

そんな里志を軽く流すと、朝に姉貴から貰った物を思い出す。

奉太郎「ああ、そういえば」

奉太郎「これ、やるよ」

里志「ん? これは……沖縄旅行?」

奉太郎「姉貴に貰った奴だが、使ってる時間なんて無いだろ、家族とでも行ってくればいい」

里志「気が効くねぇ、ありがたく貰っておくよ」

千反田か伊原にあげてもよかったんだが、高校を一週間近く休むのは結構でかい物があるだろう。

その点、里志は大して気にしなさそうだし、まあ……いいんじゃないだろうか。


368: ◆Oe72InN3/k 2012/09/15(土) 14:16:40.95 ID:9ri033Qy0

里志は巾着袋にチケットを仕舞うと、そのまま缶コーヒーを取り出す。

奉太郎「よくそんな物を持ち歩いているな」

里志「さっき買ったんだけどね、せめてものお礼だよ」

そう言うと、里志は缶コーヒーを投げ渡してくる。

銘柄を見ると、微糖の文字が見えた。

奉太郎(甘いのは好きじゃないんだがな……)

フタを開け、口に含んだ。

やはり甘い。

奉太郎(不味くは無いし、まあいいか)

そしていつもの交差点に差し掛かった。

ここで里志とは別々の道となる。

そのまま今日は別れると思ったが、里志は立ち止まると俺に顔を向け話しかけてきた。


369: ◆Oe72InN3/k 2012/09/15(土) 14:17:12.43 ID:9ri033Qy0

里志「ホータロー、今日はどうだった?」

奉太郎「どうって、何が」

里志「前に話した事だよ、楽しい日だったかっていう奴さ」

ああ、あの時の話か。

奉太郎「全く楽しくは無かった、気付けば休日が終わってしまったからな……勿体無いという感情はあるぞ」

里志「あはは、気付けば終わったって事は楽しかったんじゃないのかな?」

奉太郎「俺はとても、そうとは思えん……」

里志「ホータローにもいつか分かる時が来るさ、それじゃあまた明日」

奉太郎「ああ、また明日」

奉太郎(俺にも分かる時が来る、か)

奉太郎(楽しいと思う日もあるにはあるが)

奉太郎(今日は確実に無駄な日だったな……)


370: ◆Oe72InN3/k 2012/09/15(土) 14:17:49.84 ID:9ri033Qy0

そんな事を考え、コーヒーを飲みながらゆっくりと歩いていると、前から見覚えがある人影が自転車に乗ってきた。

そいつは目の前で止まり、自転車を降りる。

奉太郎「……まだ何か用か、千反田」

える「用事、という程の事ではありません」

える「今日の、お礼を言いに来たんです」

奉太郎(お礼? DVDの事か?)

える「ありがとうございました、折木さん」

奉太郎「なんだ改まって、言いにきたのはそれだけか?」

える「もう一つあります」

える「ペンダント、着けて来てくれたんですね」

奉太郎「ああ、まあな。 折角貰った物だから」

少し恥ずかしくなり、顔を千反田から逸らす。

える「嬉しいです、ありがとうございます」

奉太郎(それだけを言いに来たのか? でも何か、言われるのを待っている?)

これでも一応1年間、千反田えるという人物と過ごしている。

そんな経験が、俺に違和感を与えていた。

何か、何かあったのか? と聞こうとする。

だがそれを聞いたら、今の仲が良い友達という関係が壊れてしまうような、そんな気も同時にする。


371: ◆Oe72InN3/k 2012/09/15(土) 14:18:29.03 ID:9ri033Qy0

千反田は礼儀正しいが、わざわざ俺の帰り道にまで来て再度礼を言う事など……しない。

それを今やっているという事は、つまりは普通では無いのだ。

千反田はもう言う事が無い筈なのに、俺の方を見つめていた。

奉太郎「……千反田」

俺は、聞いてもいいのだろうか?

しかし、やはり嫌な予感がする。

える「はい」

言わなければ、何があったんだ? と。

だが……

奉太郎「……また明日、学校で」

俺は、口にできなかった。

える「はい、また明日、ですね」

千反田の顔は一瞬悲しそうな表情になったが、すぐにいつも通りに戻っていた。

奉太郎(俺は、間違えたのだろうか? 聞くべきだったんじゃないのか……?)


372: ◆Oe72InN3/k 2012/09/15(土) 14:18:55.24 ID:9ri033Qy0

~折木家~

リビングには、俺と姉貴が居る。

姉貴なら、分かるかもしれない。

奉太郎「なあ、姉貴」

供恵「んー?」

煎餅をぼりぼりと食べながら、反応があった。

奉太郎「千反田……友達の女子なんだが」

奉太郎「今日帰り道であってな、何か言って欲しそうな雰囲気だったんだ」

奉太郎「なんだと思う?」

供恵「そりゃー、告白じゃないの?」

奉太郎「……真面目に考えてくれ」

供恵「うーん、ふざけているつもりは無かったんだけど」

供恵「それじゃないとなると……何か悩みでもあったんじゃないかな」


373: ◆Oe72InN3/k 2012/09/15(土) 14:19:21.83 ID:9ri033Qy0

あの千反田に悩み?

とてもそうは見えなかったが……

奉太郎「悩み、か」

供恵「そうそう、人間誰しも悩みの一つや二つ、あるもんよ」

奉太郎「そんな物か、そういう姉貴にはあるのか?」

供恵「ないね」

奉太郎(一つや二つあるんじゃなかったのかよ……)

奉太郎「俺は、そいつにそれを聞いてやれなかったんだ」

奉太郎「聞いたとして、今の関係が壊れそうな気がして……」

供恵「あんま思い悩む事もないでしょ」

奉太郎「……友達、だぞ」

供恵「ほんっと、あんたは無愛想な癖に愛想がいいんだから」

供恵「悩みっていうのはね」

供恵「自分からどうにかしようとしないと、どうにもならないのよ」

供恵「これあたしの経験談ね」

供恵「それで、今あんたが言ってたその子は」

供恵「心のどこかで、自分の抱えている悩みをあんたに聞いて欲しいと思ってたんだと思う」

供恵「でも向こうから言って来なかったって事は、まだ自分から解決しようとしてないのかもね」


374: ◆Oe72InN3/k 2012/09/15(土) 14:19:52.99 ID:9ri033Qy0

奉太郎「いや、ちょっと待て。 言って来なかったってのは自分で解決しようとしているからじゃないのか?」

奉太郎「だからこそ、言わなかったんじゃないのか」

供恵「その場合もあるわ、だけど今日……その子はあんたに聞いて欲しそうにしてたんでしょ?」

奉太郎「まあ、そうだな」

供恵「だったら簡単じゃない、あんたに頼ろうとしてたのよ」

供恵「奉太郎だったら解決してくれるかもしれない、とか思ってね」

奉太郎「それなら尚更……」

奉太郎「手を差し伸べるべきじゃなかったのか?」

供恵「それは違うね、ちょっと悪い言い方になっちゃうけど」

見事に即答、だな。

供恵「その子は、奉太郎に甘えようとしてたんじゃないかな」

甘えようと?

確か前に、千反田はその様なことを言っていた気がする。

……そういう事か。


375: ◆Oe72InN3/k 2012/09/15(土) 14:20:21.20 ID:9ri033Qy0

奉太郎「それでも、いいんじゃないのか」

供恵「それはダメ」

供恵「それはその子にとっても、奉太郎にとっても決していい方には転ばない」

供恵「あんた、意外と優しいからね」

供恵「でも向こうが相談してくるまで待つって言うのも大事よ」

奉太郎「……そんなもんか」

供恵「深くは考えないで、ゆっくり待っていればいいのよ」

そう、か。

そうだな、そうするか。

奉太郎「……分かった、助かったよ」

供恵「じゃあ、はい」

奉太郎「ん? なんだその手は」

供恵「コーヒー淹れて来て。 相談料」

やはり姉貴は、苦手だ。


376: ◆Oe72InN3/k 2012/09/15(土) 14:20:48.26 ID:9ri033Qy0

~翌朝~

今日はいつもより少しだけ、快適な朝を迎えられた。

昨日の千反田の顔を思い出すと、少し引っかかる物があるが……

ま、爽やかな朝だろう。

姉貴はどうやらまだ寝ている様で、姿が見えない。

一人準備を済ませ、家を出ようとした所で一度振り返る。

奉太郎(ありがとうな、姉貴)

姉貴の部屋に向け、一度頭を下げた。

見られていないから、できる事だ。

奉太郎(さて、行くか)

俺は、この時……また何も変わらない一日が始まると思っていた。


377: ◆Oe72InN3/k 2012/09/15(土) 14:21:15.46 ID:9ri033Qy0

~学校~

退屈な授業が一つ、また一つと過ぎて行く。

奉太郎(今日は確か、文集の事で集まる予定だったな)

奉太郎(昨日で全部終わったと思っていたが……流石にそんな事はないか)

そんな事を思いながら、午前の授業は終わった。

昼休みになり、他の生徒が思い思いに弁当を広げている時に、意外な奴が教室にやってきた。

摩耶花「折木、ちょっといいかな」

伊原か、一体なんだというのだ。

奉太郎「珍しいな、何か用事か?」

摩耶花「今日の放課後、ちょっと委員会の仕事が入っちゃってね」

なるほど、つまり。

奉太郎「遅れるって事か、俺に言わんでもいいだろう」

摩耶花「ふくちゃんもちーちゃんも見当たらないから、仕方なくあんたの所に来てるのよ」

摩耶花「それくらい察してよね」

奉太郎「そうかそうか、まあ分かった」

という事は、今日の放課後は俺も少し遅れてもいいか。

摩耶花「あんたは遅れないで行きなさいよ、いつも適当なんだから」

と、うまく物事は進まない様だ。

心を見透かされているようで気分が悪いな。

奉太郎「……分かってる、始めからそのつもりだ」

摩耶花「なんか怪しいなぁ、まあそれならいいわ」

摩耶花「しっかりと伝えておいてね」

そう言い残すと、別れの挨拶も満足にしないまま伊原は自分の教室へ帰っていった。

釘を刺されてしまっては仕方ない、放課後は素直に部室に行くことにしよう。

最初は、俺と里志と千反田で話し合うことになりそうだな。

ま、適当にネタを出しておけば問題ないだろう。

さて……そろそろ午後の授業が始まるか。


378: ◆Oe72InN3/k 2012/09/15(土) 14:21:42.82 ID:9ri033Qy0

~放課後~

ようやく授業が終わった。

この後にもやらなければいけない事があると思うと……憂鬱だ。

だが、遅刻したら後で伊原になんと言われるか……分かった物じゃない。

俺はゆっくりと、部室に向かった。

ゆっくりゆっくりと古典部へ向かっていたら、途中で一度伊原に会い早く歩けと言われてしまう。

全く、今後の学校生活は是非とも伊原を避ける事に力を入れて行きたい物だ。

そんな事を思いながら古典部に着き、部室に入る。

どうやらまだ里志は来ていない様だった。


379: ◆Oe72InN3/k 2012/09/15(土) 14:22:18.53 ID:9ri033Qy0

奉太郎「千反田だけか」

える「こんにちは、折木さん」

える「摩耶花さんも福部さんもまだ来ていませんね」

奉太郎「ああ、伊原は委員会で少し遅れるとさ」

える「そうですか、では福部さんが来たら文集について始めましょう」

奉太郎「そうだな」

そう言うと会話は終わり、俺は千反田の正面に座ると本を開き目を通す。

10分……20分……30分と時間が過ぎていった。

奉太郎「……遅いな」

える「そうですね……私、探してきましょうか?」

奉太郎「いや、もうちょっと待とう」

しかし、あいつは何をやっているんだか……

える「分かりました、もう少し待ちましょう」

再び俺は本に視線を戻す、だが千反田が何故か俺の方をちらちらと見てきて集中ができない。


380: ◆Oe72InN3/k 2012/09/15(土) 14:22:57.08 ID:9ri033Qy0

奉太郎「……何か言いたい事でもあるのか?」

える「え……あ、まあ……はい、そうです」

える「少し、お話しませんか?」

奉太郎「……なんの話だ」

える「文集の事です!」

奉太郎「却下だ、里志を待つ」

える「いいじゃないですか、二人でも話は進められます!」

奉太郎「二人より三人の方が効率がいい」

える「……」

静かになったか、やっと。

ちらっと、千反田の方を見た。

奉太郎「うわっ!」

びっくりした。

机から身を乗り出し、俺のすぐ目の前にまで千反田の顔がきていた。

える「真面目にやりましょう、折木さん!」


381: ◆Oe72InN3/k 2012/09/15(土) 14:23:50.07 ID:9ri033Qy0

奉太郎「わ、わかった、そうだな、話し合いをしよう」

える「はい!」

満足したのか、笑顔の千反田が居る。

やはりこいつと二人は疲れてしまうな。

奉太郎「それで、文集についてだったか?」

える「ええ、そうです」

える「確かに去年より文集にする様な事が無いのは確かです……」

える「ですがそれでも! 書くことはあると思うんです!」

奉太郎「ほう、じゃあその書くことを教えてもらおうか」

える「ええ、昨日の夜考えていたんですが」

える「私達一人一人の視点で、古典部について書くというのはどうでしょう?」

ふむ、少し面白そうではあるな。

一人一人、つまり4人の視点からの古典部という事か。

合間合間に、物凄く不服だが……前のDVDの件等を挟めば読む方も退屈しないかもしれない。


382: ◆Oe72InN3/k 2012/09/15(土) 14:24:26.00 ID:9ri033Qy0

奉太郎「いい、かもしれない」

奉太郎「ページ数も稼げそうだな」

える「本当ですか、良かったです」

える「……真面目に書いてくださいね、折木さん」

奉太郎「……分かってる、真面目にやるさ」

奉太郎「後は里志と伊原にも話して、最終決定って言った所だな」

える「分かりました、他にもいくつか考えないといけませんが……」

える「それはお二人が来てから、決めましょう」

奉太郎「そうだな」

意外にも話はすぐに終わった。

少し拍子抜けしたが……千反田が出した案が良かったのだから仕方無い。


383: ◆Oe72InN3/k 2012/09/15(土) 14:24:51.15 ID:9ri033Qy0

奉太郎「ちょっと手洗いに行って来る」

える「はい、分かりました」

俺は首に掛けていたペンダントを机の上に置くと、部屋を出た。

部室から男子トイレは意外と遠く、急げば10分ほどで往復できるが……

俺は生憎急いでいない、15分ほど掛かるだろう。

トイレを済ませ、手を洗っていると何やら遠くから物音が聞こえてきた。

奉太郎(何の音だろうか、何か倒れた音か?)

奉太郎(まあいいか)

手をハンカチで拭きながら、部室へと戻る。


384: ◆Oe72InN3/k 2012/09/15(土) 14:25:17.79 ID:9ri033Qy0

~古典部~

変わり果てた姿だった。

部屋中の物が散乱している。

奉太郎(さっきの音は……これか?)

椅子は倒れているし、机の周りは足の踏み場もない程だ。

奉太郎(それより、千反田は!?)

部屋の中を見回すが、いない。

襲われて、逃げたのか?

それともどこかに連れて行かれた?

奉太郎(くそっ!)

現在いる場所は特別棟の4F。

このフロアには階段が2つある。

俺はトイレに行っている間、一人も会わなかった。

犯人が使った階段は……恐らく古典部側だろう。

部屋から去り、階段を駆け下りる。

奉太郎(どこだ……!)


385: ◆Oe72InN3/k 2012/09/15(土) 14:25:43.87 ID:9ri033Qy0

1階降りる度に、廊下に出て辺りを見回す。

そんな事を3回繰り返し、見つけた。

特別棟の1Fに、千反田が居た。

奉太郎「千反田!」

える「あれ? 折木さん、どうしたんですか?」

横には里志も居て、状況がうまく飲み込めない。

里志「ホータロー? どうしたんだいそんな慌てて」

奉太郎「……なんで、ここに、いるんだ……千反田」

途切れ途切れに、聞いた。

える「ええっとですね、福部さんが委員会の仕事で各部長達に用事があったみたいなんです」

える「折木さんが部室から出て行った後に、すぐ福部さんが来られまして」

里志「それでホータローがトイレに行っている間に千反田さんを連れて行ったって訳だね」


386: ◆Oe72InN3/k 2012/09/15(土) 14:26:09.35 ID:9ri033Qy0

奉太郎「……無事なら……いいんだ、良かった」

俺は一度息を整えると、部室で見た光景を告げた。

奉太郎「……部室が、滅茶苦茶な事になっている」

える「滅茶苦茶とは……?」

奉太郎「見れば分かる、千反田は何か違和感……変な奴をみたりとか、なかったか?」

える「いえ、特には……」

里志「とりあえず、さ」

里志「その滅茶苦茶にされた部室に行ってみよう、じゃないと何が何だか分からないよ」

そう里志の言葉を聞くと、俺を先頭に3人で部室へと向かった。

第12話
おわり


388: ◆Oe72InN3/k 2012/09/15(土) 14:27:13.94 ID:9ri033Qy0

~古典部~

改めて見ると、部室は酷い有様だ。

里志「これは……酷いね」

える「そんな、こんな事をするなんて……」

二人とも、結構なショックを受けている様だった。

それもそうだ、いつも4人で使っている部屋なのだから……俺が受けたショックも結構な物である。

奉太郎(一体誰がこんな事を……)

しかし、いつまでも呆然とはしていられない。

奉太郎「とりあえず、元に戻そう」

奉太郎「これはあまり見ていたくない」

二人も納得したのか、俺の意見に賛同する。

里志「そうだね、片付けよう」

える「……はい、分かりました」


389: ◆Oe72InN3/k 2012/09/15(土) 14:27:55.75 ID:9ri033Qy0

そして、俺たちは散らばった物を片付け始めた。

この前買ったばかりのウサギの置物は耳の辺りが折れていて、見ていて辛い。

える「……」

やはり一番ショックを受けているのは千反田で、無言でそれらを片付けていた。

しかし、不幸中の幸い、とでも言えばいいのだろうか?

1冊だけ飾ってあった【氷菓】は無事だった。

他にはガラス等は割られていなく、壊して周った……と言うよりは散らかした、と言った感じだろう。

それでも、見つけ出してやる。

古典部の部室をこんな事にした、犯人を。

ある程度片付けが終わり、全員が席についた。

千反田はさっきまで座っていた席に着き、俺はその正面に座る。

里志は俺の横に座り、顔から笑顔は消えていた。

部室が滅茶苦茶だ、と俺が伝えた時から……里志には元気が無かった。


390: ◆Oe72InN3/k 2012/09/15(土) 14:28:21.73 ID:9ri033Qy0

俺は千反田と里志に目をやると、ゆっくりと話始める。

奉太郎「誰か、怪しい奴を見たのはいないのか?」

空気は辛いものがあるが……なんとか見つけなくてはいけない。

……古典部の為にも。

それを分かってくれたのか、千反田がゆっくりと口を開いた。

える「……いえ、福部さんと一緒になってから1Fまで歩きましたが……その様な人は居ませんでした」

里志「僕も、この部屋に来るまでに誰にも会ってはいないね」

里志「降りるときは勿論、千反田さんが気付かないで僕が気付くってのは考え辛いよ」

奉太郎「そうか……」

ふと、ある事に気付く。


391: ◆Oe72InN3/k 2012/09/15(土) 14:28:49.38 ID:9ri033Qy0

気付くと言うよりは、思い出した。

……俺のペンダントは、どこにいった?

辺りを見回すが、見当たらない。

椅子の下、ポケットの中、机の中……

あった。

それは机の中に、置いてあった。

それを取り出し、胸の前でペンダントを開く。

少しの希望を持っていたが……

中身は無惨にも、割られていた。

奉太郎「……くそ」

思わず口から言葉が漏れる。

里志「……ホータロー」

える「人の物をここまでするなんて……酷すぎます」

しかし前ほど、俺は怒ってはいなかった。

何故かは分からないが……前の時は恐らく、千反田が傷付けられた事に怒っていたのだろう。

だが間接的に千反田も、傷付いているかもしれないが。


392: ◆Oe72InN3/k 2012/09/15(土) 14:29:22.78 ID:9ri033Qy0

奉太郎(……ペンダントが少し濡れているな、中に何か液体でも入っていたのだろうか)

未だにペンダントを見つめる俺に向け、千反田が言った。

える「折木さん、見つけましょう」

える「ペンダントを割った犯人を……部室をこんな事にした犯人を!」

怒って、いるのだろうか?

少し違う……

悲しんでいる?

俺には複雑な感情は分からないが……千反田の意見には同意だ。

こいつがここまで言うのも珍しい。

奉太郎「ああ、そうだな」

奉太郎「何故こんな事をしたのか……理由を聞かなきゃ、気が済まん」

里志「うん……そうだね」

里志「僕も、気になるかな」

3人でそれぞれ顔を見合わせ、決意を固めた。

だが、どこから手をつけていいのか……分からない。


393: ◆Oe72InN3/k 2012/09/15(土) 14:29:56.99 ID:9ri033Qy0

部屋を沈黙が包んでから10分程だろうか? 伊原が部室にやってきて俺達のいつもと違う空気を察する。

片付けをした、と言っても壊れた物は戻りはしない。

それは伊原も気付いたのか、口を開く。

摩耶花「皆、どうしたの? 何かあったの?」

奉太郎「……ああ、説明する」

事情を説明すると、伊原は怒って犯人を捜しに行くかと思ったが……落ち着いていた。

摩耶花「そう、そんな事が……」

摩耶花「でも、良かったよ……ちーちゃんが無事で」

摩耶花「それと氷菓も、無事だったみたいだね」

本当に、全くその通り。

犯人にとっては恐らく、たかが文集程度の認識だったのだろう。

える「摩耶花さんがくれた絵も……無事です」

それは気付かなかったな、と思い絵の方に顔を向ける。

あれは、まあそこそこ高い位置に飾られている。

犯人もわざわざ何かしようとは思わなかったのだろう。

それでも、破かれなかったのは良かったが。


394: ◆Oe72InN3/k 2012/09/15(土) 14:30:22.58 ID:9ri033Qy0

奉太郎「不幸中の幸い、って所か」

里志「この状態で一つや二つ無事な物があってもね……」

奉太郎「それでも、全部壊されるよりはマシだ」

伊原も千反田も何か言いたそうにしていたが、俺は少し声を大きくし、言った。

奉太郎「一度、状況を整理しよう」

奉太郎「伊原もまだ理解していない部分もあるだろうしな」

続けて俺は、話をまとめる。


395: ◆Oe72InN3/k 2012/09/15(土) 14:33:52.51 ID:9ri033Qy0

奉太郎「まず、最初に部室に居たのは千反田と俺だ」

奉太郎「里志と伊原は委員会の仕事で遅れていた」

奉太郎「そして、文集について俺と千反田は少し話をしていたんだ」

奉太郎「区切りが良い所になった時、俺はトイレに行った」

奉太郎「急げば10分ほどで戻れたが……暇だったからな、ゆっくり歩いて15分ほどは掛かったと思う」

摩耶花「あんたゆっくり歩くの好きね……」

奉太郎「好きって訳じゃない、ゆっくり歩いた方が楽だからだ」

伊原の突っ込みに、少しだけ空気が和らいだのを感じた。 感謝しておこう……

こういう時の伊原の存在は意外と侮れない。 空気を変えてくれるのはとてもありがたいものだ。

奉太郎「俺が知ってるのはここまでだ。 千反田、説明頼めるか?」

そこまでしか俺は知らない、千反田に補足を促すとすぐに説明を始めた。

える「ええ、分かりました」


396: ◆Oe72InN3/k 2012/09/15(土) 14:37:21.05 ID:9ri033Qy0

える「福部さんが部室に来たのは、折木さんが御手洗いに行ってからすぐでした」

える「恐らく4分か5分程……だったと思います」

奉太郎「多く見ておこう、そっちの方がやりやすい」

奉太郎「俺が部屋を出てから里志が来たのは……5分としておく」

奉太郎「すると犯人は、10分の間に犯行を行ったって事か」

10分……意外にも長い。

部屋を荒らし、その場から去る時間を入れても……大丈夫だろう。

える「分かりました。 そしてその後は、福部さんと必要な書類を取りに行く為に特別棟の1Fまで降りて行きました」

摩耶花「その間に変な人は見なかったの?」

それは一度俺が聞いたことだが……一から見直すのもあるし、まあいいだろう。

える「……見かけませんでした、見逃していると考えると……すいません」

奉太郎「お前が謝ることではない。 里志、続き頼めるか?」

そう言うと、里志もすぐに口を開いた。


397: ◆Oe72InN3/k 2012/09/15(土) 14:38:28.02 ID:9ri033Qy0

里志「僕が千反田さんを呼びに来たのは、委員会で必要な書類があったからだね」

里志「その書類を持ってくれば良かったんだけど……委員室に忘れちゃったんだ」

里志「ちゃんとしていれば、こんな事にはならなかったのかもしれない」

里志「ごめんね、皆」

そう言う里志の顔は、笑顔だったが……とても辛そうに見えた。

こいつは、自分を責めているのだろう。

奉太郎「お前も謝るな。 悪いのは部室を荒らした犯人だろ」

里志「……うん、そうだね」

里志はそう言い、俯く。

その後、流れを分かったのか伊原が自分の行動を口にした。

摩耶花「私はずっと図書室にいたわ」

摩耶花「来る途中にも、怪しい人は居なかった……と思う」

摩耶花「……ちょっと、難しいかもね」

伊原は笑っていたが、里志同様、悲しそうに笑っていた。

奉太郎「……かもな、高校の生徒全員が容疑者となってはな」

何か新しい情報でもあれば、ある程度絞り込めるかもしれないが……

そして再び、伊原が口を開く。


398: ◆Oe72InN3/k 2012/09/15(土) 14:39:49.46 ID:9ri033Qy0

摩耶花「今日は、文集の事で話し合うなんて雰囲気じゃないよね……さすがに」

摩耶花「一回帰ってさ、また明日仕切りなおさない?」

その言葉に、里志が同意を示す。

里志「僕もそれが良いと思うな」

里志「……ホータローにも期待してるしね」

これは、やらなくてはいけない事だ。

それも……手短に等とは言っていられない程の。

……少し、引っかかることもあるしな。

奉太郎「ああ、何か……思いつきそうなんだ」

嘘ではない、だがすぐに答えがでそうではなかった。

える「分かりました、では今日は解散しましょうか」

それを聞き、里志と伊原が帰り支度を始める。

俺も鞄を持ち、教室を出ようとした所で千反田がまだ座っているのに気付いた。

奉太郎「千反田、帰るぞ」

える「……ええ、分かってます」

える「……すいません、もうちょっとだけ……残ることにします」

千反田は俺の方を見ず、教室全体を見ているよな眼差しでそう言った。

それもそうか、千反田も何か……思う所があるのだろう。


399: ◆Oe72InN3/k 2012/09/15(土) 14:40:17.20 ID:9ri033Qy0

奉太郎「そうか、気をつけてな」

無理やり引っぱって行く事もできたが……そんな気にはなれなかった。

俺にはそんな権利は、ありはしない。


400: ◆Oe72InN3/k 2012/09/15(土) 14:41:52.10 ID:9ri033Qy0

~帰り道~

里志「にしても、一体誰がやったんだか……」

摩耶花「そんなに酷い状態だったの?」

里志「そりゃ、ね」

里志「滅茶苦茶にされてたよ、氷菓と摩耶花の絵が無事だったのが不思議なくらいだ」

里志と伊原が会話をしている、だが少し……考えるのには邪魔だった。

悪いと思いつつ、俺は里志と伊原に向け静かにして貰えるよう頼む。

奉太郎「すまん、ちょっと静かにしてもらってもいいか」

奉太郎「少し、考えたいんだ」

それを聞いた里志と伊原は、文句をひと言も言わず口を閉じた。

こいつらのこういう所は、嫌いにはなれない。


401: ◆Oe72InN3/k 2012/09/15(土) 14:42:17.40 ID:9ri033Qy0

奉太郎(さて、と)

奉太郎(荒らされた部室、割られたペンダント)

奉太郎(10分の時間、部屋に散乱していた物)

奉太郎(千反田の証言、里志の証言)

ダメだ、情報が繋がらない。

奉太郎(くそ、何か足りないのか?)

奉太郎(集められる物は集めた筈だ……何かがおかしい?)

考え方が違うのだろうか。

少し、視点をずらそう。

奉太郎(動機は一体何だったんだ……恨みがある人物?)

奉太郎(そんな奴、居るのだろうか……)

古典部に、恨みがある人物。

つまるところ、俺と千反田と里志と伊原に恨みがある奴……


402: ◆Oe72InN3/k 2012/09/15(土) 14:42:44.22 ID:9ri033Qy0

居た。

居るじゃないか、一人。

かつて、千反田を騙した奴だ。

奉太郎(そういう、事なのだろうか)

奉太郎「なあ」

里志「ん? 何か思いついたかい?」

奉太郎「今回の、動機はなんだと思う? 犯人の」

里志「動機、ねえ」

摩耶花「決まってるでしょ、何か恨みでもあったんじゃないの?」

やはり、そうか。

里志「うーん、それにしてはぬるかった様な気がするんだけどなぁ」

ぬるかった……氷菓や絵の事を言っているのだろう。

奉太郎「時間がなかったんだ、それは仕方ないだろう」

里志「ま、そうだね」

恨み……か。


403: ◆Oe72InN3/k 2012/09/15(土) 14:43:14.85 ID:9ri033Qy0

奉太郎(最初から、一連の流れに沿ってみるか)

奉太郎(まずは最初、俺がトイレに行った)

奉太郎(所要時間は10~15分、まあゆっくり行ったから15分掛かったが)

奉太郎(俺が出て5分後に里志が部室を訪ねてきた)

奉太郎(そしてそこから千反田を連れ出す)

奉太郎(この時点で残り時間は10分)

奉太郎(その間に犯行を行ったって事だが……)

奉太郎(犯人はどうやって俺達を監視していたのだろう?)

奉太郎(どこか階段から見ていた……いや、千反田は怪しい人物は見ていないと言っていたな)

奉太郎(廊下の物陰……? これは無いだろう、隠れられる場所が無い)

奉太郎(後は……部室の、中?)

俺が一度出した答えは、恐ろしいものだった。

奉太郎(部室を思い出せ……)

奉太郎(あそこには、何があった……?)

奉太郎(まさか)


404: ◆Oe72InN3/k 2012/09/15(土) 14:43:52.69 ID:9ri033Qy0

そこには……部室には、人が一人隠れられそうなロッカーがある。

奉太郎(俺と千反田が部屋から出て行った後に、犯人は部屋に入ってきた)

奉太郎(そして次に、部屋を荒らした後……ロッカーに隠れた)

これが、答えなのか?

そして、思い出す。 千反田の居場所を。

そいつが部室にまだいる可能性は? ありえなくは、無い。

奉太郎(待てよ、千反田はまだ部室にいる筈だ)

奉太郎(だとすると------)

奉太郎「里志! 伊原! 忘れ物をした!」

奉太郎「先に帰っててくれ!」

里志「……ホータロー、何かに気付いたみたいだね」

摩耶花「私達も行った方がいいんじゃない? 本当にそうだとしたら危ないわよ」

奉太郎「いや、大丈夫だ」

奉太郎「後で連絡はする、頼むから帰ってくれ」

里志「……分かった、後で連絡待ってるよ」

奉太郎「ああ、すまんな」


405: ◆Oe72InN3/k 2012/09/15(土) 14:44:22.33 ID:9ri033Qy0

そう告げると、俺は学校へと戻る。

大分歩いてきてしまった……学校までは、20分程か?

奉太郎(20分……もう一度、整理しよう)

奉太郎(犯人はC組の奴なのか……?)

俺は走りながら、必死に頭を働かせる。

全ての視点から物事を見直す。

おかしな所は無いか?

全て、筋が通っているか?

走りながら、必死に考える。

……学校が見えてきた。

俺は、学校に着くのとほぼ同時に……

一つの結論に辿り着いた。


406: ◆Oe72InN3/k 2012/09/15(土) 14:44:52.85 ID:9ri033Qy0

~古典部前~

奉太郎「……はぁ……はぁ」

こんなに全力で走ったのはいつくらいだろうか。

マラソンの時は大分手を抜いて走っていたからな……生まれて初めてかもしれない。

奉太郎(間に合った……だろうか?)

ドアをゆっくりと開ける。

……間違いない、大丈夫だ。

奉太郎「……今回の事を全ての視点から見つめなおした」

奉太郎「そして、全ての証拠に繋がる奴が一人、居る」

奉太郎「今回の部室荒らし、それはお前にしかできなかったんだよ」

奉太郎「いや……お前で無ければ矛盾が出るんだ」

奉太郎「お前以外には、ありえない」


407: ◆Oe72InN3/k 2012/09/15(土) 14:45:34.22 ID:9ri033Qy0












                       「そうだな? 千反田」











第13話
おわり



この記事へのコメント

- ええええあ - 2012年10月20日 14:22:37

ええええ

続き気になるなおい

- kn - 2012年10月21日 04:04:18

きになるわり

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