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八九寺「これは絶対に実らない初恋ですから」
「阿良々木さん。偽物語という物語を知っていますか?」
いつかの、僕と八九寺の会話である。
「お前なあ、いくらなんでもそれは直接的すぎるだろう」
一応説明しておくと、偽物語というのは僕達が出演(なのだろうか?)した、
今年の冬から春にかけて放送された大人気アニメーションである。
「うわ、自分で大人気とか言っちゃいます?」
「……ともかくだ。いくらメタな立ち位置のお前だからって、
そんな平気な顔して偽物語の話とかするのは、僕としてはどうかと思うけどな」
「失礼。噛みました。偽物語じゃなくて伊勢物語でした」
「畜生!あざとすぎるぞ!絶対わざとだ!」
阿良々木さんはご存じでしょうか?」
八九寺は悪びれもせずに続ける。
「ああ、なんか羽川との古文の勉強会でやったな。
幼馴染同士が結婚する話だっけ?」
「まあ、幼馴染どころか友達さえいない阿良々木さんには関係のない話でしょうけどね」
「やめてくれ!お前はそんなことが言いたかったのか!?」
「いえ、そうではなくてですね。あの筒井筒という物語をもう一度思い出してみてください」
けれど妻が自分を浮気相手のところへ怒りもせずに送りだすのを訝しんで
こっそりと妻を覗いてみたところ、妻が一人で自分を心配してくれる歌を詠んでいて、
心を打たれて浮気をやめるという話だった。
「概ねそんな感じですね。ですが、その話には続きがあるんですよ」
と八九寺。小学生とは思えない知識量である。
「浮気相手の女は生駒山を挟んだ向こう側、河内高安という所に住んでいるのですが、
彼女も男が会いに来てくれないので、歌を詠むんですよ。
『君来むといひし夜ごとにすぎぬれば頼まぬものの恋つつぞふる』
―あなたが来ると言っていた夜もことごとく過ぎて行ったので、
あてにはしていないものの恋焦がれて過ごしています。と」
「ほう。浮気相手も割と小洒落ているんだな」
誰も気にさえしないですけれど、と八九寺は呟く。
その女の人、どういう気持ちで、その後どう過ごしたんでしょうね。
そんな話を、八九寺とした記憶がある。
あれは、果たしてプロローグだったのだろうか。
八九寺真宵という友人は、あらゆる点で、普通ではない。
僕の友人には普通でない人が多いが―もっとも、友人自体が少ないので、如何とも言い難いが―
それとは関係なく、八九寺真宵は、もっと根本的なところで普通ではない。
怪異なのである。
八九寺真宵。
大きなリュックサックにツインテール。
巧みな話術と丁寧な言葉遣いの裏に隠された毒舌。
蝸牛に迷った少女にして、怪異そのもの。死に続けている、浮遊霊。
そして、薄に消えた少女。
しかしながらパラレルワールド云々の話(傾物語を参照されたい)だけでは、完全とは言い難いのだ。
忘れ去られた部分があるから。
意図的に、隠蔽された部分があるから。
意図的に忘れ去られるというのも、なかなかどうして奇妙な言い回しなのだろうけれど。
奇妙なもの。怪しいもの。けしきもの。それを怪異と表現するのであれば、
今回のこの『意図的な忘却』についても、けだし納得がいくだろう。
くどい言い方になっているけれど、要するに。
怪異の影響で、僕達はこの物語を忘れているのだ。
そして、もっと言えば、その犯人は。
他ならぬ、八九寺真宵その人である。
誤解を恐れずに言えば、八九寺真宵のせいで、この物語は隠蔽されているのだ。
いささか疑問の余地を残すところではあるけれど。
つまるところ、この後悔の記憶のみが、僕の意識の奥底でのたうちまわっているといった感じだろうか。
八九寺ではないけれど、未練ある幽霊さながらに。
そんなわけで。阿良々木暦本人すら顕在的には記憶していないその物語と、
これから直面することとなるあなたに。どうか分かってほしいのだ。
僕の。この、後悔を。
これは、僕と忍が八九寺を助けるべく、しかし偶然に、
十一年前の別ルートへ入り込んだ後の、帰り道の物語だ。
誰も語ることのない、沈黙の物語だ。
気付いた人もいるのではないだろうか。
ゾンビやら、かの伝説の吸血鬼やらと相まみえることとなった話で、
出発したのは深夜だったのに、ふたたびこの歴史に帰ってきた時、八月二十一日の朝だったことに。
空白の十時間の間、阿良々木暦と忍野忍はどこにいたのかとパラドックスを感じた人もいるだろう。
結論から言うと、その空白は、空白なんかじゃなかった。
僕達は、出発した時間通りの午前零時に、北白蛇神社の境内に帰ってきたのだ。
「むこうの儂も、たいそう律儀なもんじゃの。こんないきなり戻ってきてしもうても、逆に感覚狂うわ」
忍が愚痴る。
「つーか、それはそれですごいよな。お前はこんな正確にできないだろう」
「むう、生意気な。儂は失敗など先祖」
「いきなり誤植してんじゃねーか」
忍は夜行性だから別に問題はないのだろうが、凡人たる僕にとっては、
半端ない眠気が襲って……来ない。
「そもそもお前様。さっき吸血鬼性を極限まで上げたではないか」
「ああ、なるほど」
「どうやら、朝までどこかで時間をつぶすことになりそうじゃの」
かかか、と。忍が愉快そうに笑う。久しぶりに、しかし実際にはさっきふれたとおりまったくタイムラグはないのだが、
ともあれ久しぶりにこの世界に帰ってきた僕達には、どんなことでも心から楽しめるようだった。
このまま忍と朝まで遊び呆けるというのも悪くない。僕は思い切りテンションを上げきって忍に尋ねる。
「鬼ごっこよ」
「なんでお前が絶望先生を知ってるんだよ……。しかもアニメの関連のアルバムじゃねえかそれ」
毎度思うが、こいつのそういう知識は、どうしてそんなに偏っているのだろう。
今度そういう情報の規制を行うべきかもしれない。
「儂はあれで新房シャフトにハマったのじゃ。新房監督はぱないの。
独特の演出で惹きつけておいて、掴むところをしっかり掴んでくる。
キャストもミスがまったくない」
「ああ、確かに。僕は最初、日塔奈美が新谷良子さんっていうのが想像できなかったんだけど、
いざ聞いてみれば完璧すぎて感動したぜ。
しかもそのキャストが後々原作にまで影響を与えることになるなんて、天才すぎるよ。
良子ちゃんの残念なキャラってのがねえ」
「お前様、楽しそうに話しすぎじゃ。それはもはや中の人が出てきてしもうておる」
忍が若干冷めた目で見ていた。ちぇっ、これから新谷良子がいかに残念で、
ウザくて、かわいいかについての談義をしてやろうと思ったのに。
「にゅう、がくしけん♪」
「そっちの中の人じゃねえよ!」
そこは禁句のところだ!
「かかか、よいではないか、二次創作くらいでしかこれをネタにできんじゃろうて」
「黙れ!僕は結構楽しみにしてたんだぞ!平野さんのキスショットを!」
「ほう? 『平野さんのキスショット』じゃと? それはもう流出し―」
「意味が違えよ!」
「まさに『傷物語』じゃな」
「とんだ自虐ネタだなあおい!」
この話は不毛だ。もうやめよう。
「つーか、これからっしょ」
「やめようって言ってんだよ!」
キスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレードのことだよ」
「というかお前様、一応その名は儂の前では二度と口にせぬはずじゃろう……」
「あ、そうだっけ?」
そういえば確かにそんなことも言った気がする。
「ま、いいんじゃね?これ二次創作だし」
「二次創作というのを逃げ道にしおってからに……」
「まあそう堅いこと言うなよ。元気がいいな、何か良いことでもあったのか?」
あの小僧の真似とは癪に障るのう、と忍。
まあ、実際に元気はいいが、真夜中特有のハイテンションだろう。
「良いことというか、むしろ少し滅入ることがあっての」
「へえ、忍が滅入るなんて珍しいな。何があったんだ?」
「なに、ついさっき人類が滅亡したパラレルワールドに迷い込んでしもうての」
「リアルに嫌な話だ!」
「なにネタにしてんだよ!」
「水着を上下さかさまに着けてしもうての」
「結局平野さんに帰結するのか!だから平野さんの話はやめろって!」
「ほう、お前様も随分と冷たくなったもんじゃな。
少し前までは平野さんじゃなくてあーやと呼んでおったのに」
「恥ずかしい過去を弄くり返すな。僕は花澤香菜ちゃん一筋だ」
「そっちも十分恥ずかしいわ」
というかお前様、と忍が見事なシャフ度を作って僕を見る。
「そこは斎藤千和と言わねばならぬ所じゃろう」
「しくじった!訂正する!」
うわあ!僕の馬鹿!
お前様はガハラさんが彼女で、愛人が神原で、結婚するのは羽川で、本命は八九寺で、
その上千石撫子一筋じゃと」
「その認識は大きく間違っているし、ちゃっかりガハラさんとか言ってんじゃねえ!」
「しかるにお前様よ、儂はお前様の何なのじゃ?」
「それは深い質問だけれど、この流れで言ったら何を言っても軽くしか聞こえねえよ!」
ちなみに忍は、僕としては相棒という言葉がしっくりくるかと思う。
「なるほどのう、愛の棒と書いてアイボウか」
「そんなエロい意味じゃねえよ!」
「これでエロいことを連想するお前様は相当汚れておるわ……」
正論だった。
「お前様はあれじゃな、中学生の頃お口の恋人をエロい意味に捉えておった奴じゃな」
さすがにそれはないと思う。
「ああ、確かになんか頭に残るし、買おうという気になるよな」
「『初恋の味』カルピスとか」
「うん、あれも良いな」
「『愛の棒』ポッキーとか」
「結局それが言いたかっただけかよ!」
途中から何となく気づいてはいたけれど!
「それもキャッチコピーなのか?」
「ツンデレというよりツンドラ、戦場ヶ原ひたぎ」
「ひどいフレーズだな」
「変態腐女子百合マゾ露出狂、神原駿河」
「もっとひどいのが来た!」
「ただのロリ要員、八九寺真宵」
「悪意あるなあ!」
「ラスボス千石」
「なんか強そう!」
「あと妹二人」
「途中から飽きただろお前!」
「しかしお前様の周りにはキャラの立っておるのが多いの。ギャルゲーみたいじゃ」
「いやな喩えだな……」
「そうなると悪友キャラがおらんのう」
「そもそも友達がいないからだよ!悪かったな畜生!」
「あと幼馴染キャラもおらんの」
アマガミかよ!
「でもそうなるとほら、先輩キャラもいないじゃん」
「あの陰陽師なんてどうじゃ?」
「影縫さん攻略対象なの!?」
やべ、そのギャルゲー超やりたい!
「戦場ヶ原ルートのバッドエンドは刺される」
「リアルにありそうで怖いわ!」
かーなーしーみのー、と忍が口ずさむ。忍野は一体、こいつに何を教えたのだろう。
「お前様、肝試しでもするか」
「別にいいけれど、果たして僕と忍で肝試しをやって、面白いのか?」
むしろ僕たちが、普通に怪異なわけで。
「それもそうじゃが、肝試しってなんか夏っぽくていいじゃろ?」
「まあ、普通なイベントだな」
「ふむ」
「……いや、忍。そこは『普通って言うなあ!』って言うところだろ」
「なんじゃその鋭角すぎる無茶ぶりは」
そんなことを話しながら。僕達は一番近くの墓地へと向かったのだった。
暇だから深夜に墓地を徘徊する受験生が、そこにはいた。
ああ、僕だとも。我ながらひどい話である。
「絶望したっ!自堕落な受験生活に絶望した!」
「どれだけSZBHが好きなのじゃお前様は」
「SZBHは僕の青春だ」
「なんと絶望的なことを。それを言うなら、涼宮ハルヒの憂鬱も儂の青春じゃった」
「そっちの方がよっぽど絶望的な発言だ!」
ふん、と忍が一笑する。坂本真綾さんの声で。坂本真綾さんの声でね!
暇だから深夜に墓地を徘徊する受験生が、そこにはいた。
ああ、僕だとも。我ながらひどい話である。
「絶望したっ!自堕落な受験生活に絶望した!」
「どれだけSZBHが好きなのじゃお前様は」
「SZBHは僕の青春だ」
「なんと絶望的なことを。それを言うなら、涼宮ハルヒの憂鬱も儂の青春じゃった」
「そっちの方がよっぽど絶望的な発言だ!」
ふん、と忍が一笑する。坂本真綾さんの声で。坂本真綾さんの声でね!
「ん。とりあえずこの道をまっすぐ抜けて、先のお寺の前まで行って、さい銭入れて帰ってこようぜ」
「丑の刻参りというわけじゃの」
「別に呪う気はねえよ。ただ、向こうの世界から無事に帰って来られたんだから、
ちょっとくらい神様にお礼をしたくなっただけだ」
「お礼参りというわけじゃの」
「だから別に恨みはねえよ!」
いや、こっちのがお礼参りの正しい用法なわけだけれど。
ここに祀られているのは仏教の仏じゃぞ?」
もっともな指摘だ。だが、僕たち日本人は、神様だろうが仏様だろうが
大して違いを感じていないのだ。クリスマスを祝った一週間後に初詣をするように。
神様仏様稲尾様、なんでもござれ。神仏習合。シンクレティズム。
信仰心が薄いと思われるかもしれないけれど、これはこれで一つの形なんじゃないかと思う。
「聞き捨てならんのうお前様」と忍。
そういえば忍は、やはり西洋らしくキリスト教を信仰していたりするのだろうか。
いや、そもそも十字架が苦手だし。ってか、こいつ何人なんだろう?
何にしても、忍には理解できない境地だったらしい。無理もない。異文化交流というものは、
特に宗教においては、非常にナーバスなところだったりする。
「神様仏様ときたら、普通はバース様じゃろうが!」
前言撤回。忍が異論があるのは、そこじゃなかった。
「お前阪神ファンかよ!」
熱血の吸血鬼にぴったりじゃろう、と忍が目を輝かせる。
熱血以外の称号を省略しやがった。
「好きな選手は平野じゃ」
「だからやめろって!」
巨人には坂本がいるわけだが。
「ちなみにサッカーはジェフ千葉が好きじゃ」
「へえ。またどうして?」
「太陽は苦手じゃからの」
「誰も分からねえよその喩え!」
一応説明しておくと、ジェフユナイテッド市原・千葉というチームは、
太陽をモチーフにした柏レイソルというチームとライバルだったりする。
ACLとかで日本の代表として戦っていると、応援してしまうな」
「実を言うと儂も別にレイソルが嫌いというわけではないのじゃ」
「どっちなんだよ!」
「んー、キャラ付けって感じ?」
「それどっちのファンにも失礼だよ!」
「まあ、つまるところは阪神ファンじゃな」
と、忍が八重歯を見せて笑う。
僕たちはなおも霊園の小道を歩き続ける。当然ながら幽霊は出てこないのだが。
「獣王の意気高らかに―」
「無敵の我らぞ―」
真夜中に大声で六甲おろしの二番を歌いながら、
墓地を徘徊する高校生と幼女がそこにいた。
ていうか、僕たちだった。迷惑にもほどがある。
忍がつまらなそうに言う。
「ええい、出てこんか幽霊!」
忍は時々、とても子どもっぽかったりする。
「でもさ忍。実際に幽霊が出てきてしまっても、それはそれで困るんじゃないのか?
その、退治とか」
「物騒なことを言いおるな。墓地には死者が弔われておるのじゃから、幽霊なぞおって当たり前じゃろう。
ここには、この街の住人の先祖が安らかに眠っておるのじゃ」
言われてみればそうだ。墓場。墓地。霊園。
霊なるものの、眠る園。
「そんな所にわざわざおちょくりに来て、幽霊を見つけたら退治、とは」
「すみませんでした!」
うわあ。でも、よく考えたら、肝試しってかなり残酷な遊びだよな。
夜中に死者の安眠を妨げに行って、幽霊が見られなかったらつまんない、なんて。
それに、こともあろうに退治だなんて。
忍野なら、間違いなくこう言うだろう。
元気いいねえ、なにか良いことでもあったのかい?
「ただの人間には興味ありません。この中に自縛霊、浮遊霊―」
「『私のところに来なさい、以上』じゃねえよ!」
まさかの中の人リターンズ。
「思ったのじゃが、お主様、この場合ただの人間に会う方が、怖くないかの?」
「……。……おい、リアルに鳥肌が立つようなこと言ってんじゃねえ!」
この夜中に墓場で生身の人間が徘徊しているとしたら、確かにその方がよっぽど怖い。
……。
……まあ、僕なのだが。
一本しか道のない墓地というのも、なかなかないだろう。
「お前様よ。ここはひとつ、一人で行ってみんかの?」
「ああ、そうだな」
忍と二人で行っていると、結局ギャグパートになってしまうしな。
「まさかお前様、怖いのか?」
「うるせえよ」
つい今しがたゾンビの大群に遭ってきた僕が、怖がるわけないだろう。
それに忍の話を聞いていると、ここの幽霊は攻撃性がないようだし。
「なんだあれ」
忍と別れてすぐ。前方に微妙な炎がひとつ、見え始めたのだ。
雑木林がざわざわと揺れる。
さっきは怖がるわけないなんて言ったわけだけれど、訂正しようと思う。
ちょっと怖い。
しかしあの炎。怪異の知識に関しては素人ながら、なんとなく分かる気がする。
子どもの頃に見たゲゲゲの鬼太郎の知識だが。
真夜中の墓地に、炎といえば。
人魂。
立て続けに前言撤回して非常に申し訳ないが、今一度訂正しよう。
やべえ。かなり怖い。夜の墓場は、一人で来ない方がいい。
「うわあ。やめて。やめてください、僕まだ死にたくない!」
真夜中に一人で墓場を訪れて、腰を抜かす高校生の姿が、そこにあった。
マジびびりだった。
天使ちゃんマジ天使。
暦ちゃんマジびびり。
それらしく言っても、全然可愛くない。
その時。浮いていると思っていた炎の下に、ぼんやりと影が見え始めた。
小柄でひょこひょこと動くツインテール。その影は。
「おや、そこにいるのは阿僧祇さんじゃないですか。こんなところで何をしているのですか?」
八九寺真宵その人だった。
「人をとてつもなく大きい数の単位みたいに言い間違えるな、僕の名前は阿良々木だ」
腰を抜かした状態で反応できたのは、我ながら素晴らしいと思う。
「失礼。噛みました」
「わざとだ……」
「かみまみた!」
「わざとじゃないっ!?」
「ワイナイナ!」
「古い!」
「バイバニラ!」
「新しい!」
「ビアビアニ!」
「関係ねえ!」
そう。八九寺は、いつもの格好に、たいまつを持っていた。僕はこれを人魂と見間違えたのだ。
しかし、八九寺は答えを渋った。
「……まあ、これも八九寺Pの仕事と言いますか」
「どんな仕事だよそれ!?」
「丑の刻参りです」
「そんな物騒な仕事があるか!」
迷い牛の刻参り、なんて。八九寺は割と楽しそうにのたまった。
「いやあ、でも安心したよ。俺はてっきり、その炎が幽霊か何かかと思った」
「いえ、それ以前にまず私が幽霊なのですが」と八九寺。
「人を枯れているみたいに言わないでください。私はぴっちぴちですよ?」
「その表現が既にぴっちぴちじゃないな」
「じゃあビッチビチですよ?」
「それは嫌だ!」
八九寺は穢れないロリのままであってほしい!
「ところで阿良々木さん、私のリュックを返していただけないでしょうか」
「ああ、そうだった」
そういえば。別ルートに入る前の僕は、
八九寺が忘れて帰ったそのトレードマークとも言える大きなリュックサックを
八九寺に渡すという案件を抱えていたのだった。
渡すのはその後でもいいかな?」
「だめです!」
女子小学生の荷物の中身を覗こうとして全力で拒絶される高校生以下略。
もういいや。全部僕なんだよ。どうせ。
「でさ、八九寺。実際あの中には何が入ってるんだ?」
「夢と希望です」
「格好いい!」
「金と欲望です」
「汚らわしい!」
「鬼に金棒です」
「もうわけが分からない!」
「痴女と佳奈坊です」
「ひだまりラジオっ!?」
こいつといると本当に飽きない。
私のキャラクターを具象化したものなんですよ」
「ああ。迷い牛、ね」
迷い牛。蝸牛に迷った少女。
確かに、後ろに殻のように大きくリュックサックを背負っていると、それらしく見えないこともない。
「ですから、リュックを背負っていない今の私は、さしずめナメクジといったところです」
「気持ち悪いわ!」
うわー、と八九寺が冷たい目で見てくる。
「女子小学生に向かって気持ち悪いとか、イジメに発展しますよ?」
まごうことなき正論だった。
「う……。私にそんな話をするとは嫌がらせですか?もしや本当にイジメですか?」
「いや、お前も実はうまかったりするのかな、なんて」
「」
八九寺がツインテールをぴんと張って身構えた。明らかに警戒している。
「だって、お前が噛みついてくることはあるけれど、ほら、僕から噛みつくことは少ないだろ?」
「少ないってことはあるにはあるんじゃないですか!」
これも正論だった。
あれはあれでルーチンワークみたいになっていて、いまひとつ味わえてないんだよな」
「」
「ここはひとつ公平性という観点でも、僕に八九寺の二の腕、いや、そうだな、
耳たぶくらいで構わない。左の耳たぶを少しだけ食べさせてくれてもいいと思うんだ。
いや、本当は全部食したいくらいの気分なのだけれど、そこはほら、やさしさというか、
年上としてがっつくわけにもいかないかなと思ってさ。はは、僕ってつくづく優しいな」
「」
ちょうどいいや。それで八九寺の耳たぶを焼いて、あとは、ガーリックが要るな―」
「近寄らないでくださいこの変態!!」
ここでようやく、僕の長きにわたる耳たぶフェチ講義――もといツッコミ待ちのボケは、
八九寺がたいまつで僕を殴り飛ばすという形で終止符を打たれた。
「いってえな、何すんだこの野郎!」
「正当防衛です!」
「殴ってきたのお前からだろ!」
「では正当攻撃です!」
「そんな攻撃は存在しない!」
「僕は性的になんてエクスキューズは入れていないし、そんな性犯罪者まがいの発言で特定されるお里なんてない!」
僕は単に八九寺を食事として食べたいと言ったんだ。
「どちらにしても犯罪じみています!」
やっぱり正論だった。
「今ので思い出しましたが、私ずっとカニバリズムってサンバのことだと思っていたんですよ」
「ブラジルの人に全力で謝れ!」
正論の後に暴論だった。
カーニバルのリズムでカニバリズム。
「ああ、神原とのギャグパートでやったな。ブレスレットがどうとかいうやつか」
「まあ、今さら原作とネタ被りとか言うつもりはありませんが、
どうせなら原作で絶対にできないような話題をしてみたいと思いませんか?」
「……随分と挑戦的だな。どんな話題をする気だ?」
「『ひぐらしのなく頃にって、正答率1%とか言って、結局はミステリーですらなかったよねー』とか」
「皆が薄々思っていることを言うな!」
「『とある魔術の禁書目録って、萌え豚に媚び売りすぎで、キリスト教に対する偏見がひどいし、
本当に信仰している人たちを馬鹿にしてるよねー』とか」
「片っ端から批判をするな!」
「『化物語って、―』」
「やめんかい!」
グーで殴った。女子小学生を。
いのちにかかわるパンチをしますよ、だった。
「何するんですかはこっちの台詞だ、よりによってそんな大人気作品に喧嘩売るんじゃねえ!」
「うわ、化物語が大人気とか自分で言っちゃいます?」
なんかデジャヴ。
「……とにかくだ。原作で絶対にできない話ってのは、単に毒舌になればいいってことじゃない」
「えー、でも折角だし、シビアなことが言いたいですよー」
八九寺がむくれる。
「―そういう年頃ですもん」
「どんな年頃だよ」
「十歳と十一年間の亡霊生活」
「シュールな年頃だっ!?」
遊んでいるようにしか見えないのですが、受験勉強は大丈夫なんですか?」
う。結局シビアなことを言ってきやがった。
「ま、まあ? それなりに、かなー? あはは……」
「それなりにやってもそれなりの結果しか得られませんよ」
「……うん」
「大体ですね、阿良々木さんには受験生としての自覚がないんですよ。
意識的に勉強をするのではなく、常に勉強をしていて、たまに意識的に休むのが受験生です」
「……はい」
「阿良々木さんは、気がついたら勉強していたなんてこと、ありましたか? ないでしょう?
それくらい意識を高く持たないと、とてもじゃないですけれど戦場ヶ原さんと同じ大学なんて無理ですね」
「なんでお前そこまでシビアなんだよ!?」
「今日はいつになく攻めてます」
えへん、と八九寺。なんだこいつ。
大学受験とか経験してないくせに。
今ごろ寺の本堂に一人で佇んでいるはずなんだよな」
「露骨に話題を変えないでください阿良々木さん。というか、あれ?
たしか阿良々木さんと忍さんはペアリングされていて、そんなに離れられないのでは?」
「細かいことを言うな、二次創作の脆さが露呈するだろ」
正直な所、ペアリングとかなんとか、僕にはまだ今ひとつ分かってないんだよな。
「うわあ、丸投げですか……」
「そうか。じゃあ、僕は忍を探しに行くとするよ」
「……」
八九寺が急に黙り込んだ。
「……ん? どうかしたか?」
「……あ、いえ。……では、ごきげんよう……」
八九寺のテンションが、明らかに下がっている!?
「どうした八九寺!? そんなに僕と離れるのがいやなのか!?
とうとう待ちに待ったデレ期突入なのか!? ひゃっほう!」
「うるさいです阿良々木さん、消えてください」
強めに言われた。ちょっとショックだ。
忍のもとへと向かったのだった。
もしこの時、八九寺の異変に気付いていたなら、否、気付いていたところで物語の結末に
なんら変化は生じなかったのだろうが、それでも。
この時気付くことができなかったことは、非常に悔やまれるばかりだ。
松明を持って。寂しそうに黙りこむ少女のうしろ姿。
気付く要素はいくらでもあったのに。
僕は、何も考えず、八九寺真宵と別れたのだった。
「遅い」
「ごめん―」
「お・そ・い」
「だからごめんって」
「……ふん」
午前三時の寺の前。僕はひたすら忍に平謝りしていた。
忍さん、いささかご立腹の様子だ。
「まったく、いつまで待たせる気じゃ。それに、お前様の体から、
よく分からん怪異のにおいもするし」
うわあ。こいつ怪異のにおいとか分かんのか。
「儂を深夜の寺の本堂なんぞにほったらかしにして、どこをほっつき歩いておったのじゃ。
まあ、そのにおいからして、怪異に絡まれでもしたのじゃろうが」
「―『道端でセクハラをしておる』、あの蝸牛の小娘か」
「……」
ひどい認識だった。まあ、異論ないけれど。
「それで? そのあと何があったのじゃ?」
「いや、普通に一通り話をして、それだけだけれど」
「……ん?」
忍の目が三角になっている。『三角の目をした羽根ある天使』って、こんな感じの目なのだろうか。
ていうか、僕のちっちゃい方の妹、阿良々木月火のご立腹のときにそっくりだ。
「……うん。まあ」
「ふむ。ふむふむふむ。……死刑じゃな」
忍は少し考え込んだ後、にっこりとそう言った。
つーか、本当にいつぞやの歯磨き事件のときの月火ちゃんみたいだ。
「死刑、じゃなっ♪」
「かわいく言ってんじゃねえ!」
「し☆けい」
「美水かがみ劇場っぽくしてんじゃねえ!」
「しけい!」
「かきふらい先生原作の四コマ漫画っぽくもするな!」
忍が思い出したように遮る。
「え? どういうことだ? 本当にそれだけだぜ?」
「いやいや、その怪異のにおいは何なのじゃ?」
その、って言われても、僕は全く分からないのだけれど。
「なんだ? 八九寺のにおいじゃないのか?」
「いや、そんな小便臭いにおいではない」
「そうなのか……ってちょっと待て! 今お前なんつった!?」
八九寺のにおいが小便臭いって? マジで!?
「うわ、今度会ったら絶対嗅いでやろう! ……うぐっ!」
殴られた。忍にグーで殴られた。
いのちにかかわるパンチをしますよ、だった。
「すみません」
「……しかし、このにおいは、迷い牛ではなく、むしろ何か、そう、炎の燃えた後ような……」
「いや、確かに八九寺は萌える存在かもしれないけれど、……」
「うるさい、黙っておれ」
「……」
今日の忍ちゃん、微妙に厳しい。
「……逆に、あの小娘のにおいはせんの。お前様よ」
「なんだ?」
「蝸牛の小娘に何か普段と違う所はなかったか?」
「そうだなあ……。……あ」
そうだ。
「―たいまつ、じゃと?」
「うん」
「……ふむ」
なんとなく。ヤバい予感がした。
ギャグパートは唐突に終わりを迎え。
物語は急激に展開しだす。
「薄火」
忍が言う。
「名前の通り、弱い炎の怪異じゃ。消えかかっている炎のことを指して薄火と言う。
しかしの、お前様、薄いという字には、別の読み方があるのを知っておるか? 薄―すすきじゃよ」
薄。
イネ科ススキ属の総称。
「あの小娘―ハチクジとかいったか―あやつは今、迷い牛ではなく、薄火という怪異じゃ。
そうそう。すすきというのは、別の言い方では尾花とも言ったのう」
幽霊の、正体見たり、枯れ尾花。
八九寺真宵の、正体。
まこと、火と言うのは、様々な比喩に使われる。よって薄火にも色々な存在意義がある。
嫉妬の炎であったり、意欲の炎であったり、生命の炎であったり、叡智の炎であったり。
まあ、薄火の場合は、そのどれもが、薄い炎なのじゃが」
薄い炎。消えかかった炎。
枯れ尾花。
「あやつがどのような経緯で迷い牛から薄火に憑かれたのかが分からぬゆえ、
あやつの炎が何の炎なのかも分からぬが、火の不始末は惨事を招くというしの。
追ってみるに越したことはないと思うぞ」
少なくとも、僕の大切な友人、八九寺が何かに巻き込まれていることは確かなのだ。
否。これも後からの追想でしかないが。巻き込まれているなんていうその時の僕の考えは、
あまりに身勝手で、押しつけがましくって、被害者面もいい所だったのだが。
なにしろ、八九寺も。そして僕も。
紛れもなく、この物語の当事者なのだから。
そんなわけで、忍の霊圧探知(BLEACHか!)によって、僕と忍が八九寺を追ってやってきたのは、
他でもない北白蛇神社だった。
「マジか」
「マジのようじゃのう」
「今日はここにご縁があるのか?」
「単に背景画を少なくして予算を浮かそうと言う算段じゃろう」
「エロゲーかよ」
「戦場ヶ原ルートのバッドエンドは刺される」
「もういいって! ネタを再利用するんじゃねえ!」
「ふむ。確かに、人魂に見えんこともないの。どうやら肝試しは成功じゃな」
かかか、と忍が笑う。
いや、僕としては八九寺のピンチをそんなに楽しむ余裕はないのだけれど。
「おーい、八九寺!」
ぼんやりと、人魂が近づいてくる。
薄火。
八九寺真宵が、ゆっくりと闇の中から姿を現した。
「こんなところまでついて来るなんて、阿良々木さんはストーカーですかー?」
八九寺は相変わらずリュックのない不自然な格好に、たいまつの炎をゆらゆらさせて。
いたずらっぽく笑った。
「否、むしろ憑いておるのはうぬの方じゃ」と忍。
「おや、今度は忍さんもいらしたのですね……」
……。……おかしい。今、あからさまに八九寺の機嫌が悪くなった。
「そうやって」
八九寺が遮る。
「そうやって、こういうことには必ず首を突っ込むんですね、阿良々木さんは」
八九寺の言葉には、明らかな棘があった。
「無駄に嗅覚がいいというか……。ま、いいですけど」
「おい八九寺、どうしたんだ―」
「お察しの通り―」
八九寺がまた遮る。
「―私は、今、迷い牛ではありません。リュックを早くに返していただきたかった理由も、
半分はそれです。リュックを背負えば、いつもの私に戻れるかなって、この炎を、消せるかなって」
現時点では炎の怪異たる八九寺が、自分から炎を消そうとしている?
「でも、阿良々木さんが丁度いいタイミングで現われてくれたので、その必要はなさそうですね。
いいですよ、私が何の薄火なのか、全て、お話します」
それで、終わりにしましょう。
そういう八九寺は、妙に元気で。
不自然なほどに、笑顔だった。
「阿良々木さん。伊勢物語という物語をご存じですか?」
「……そんな話をしたこともあったな」
「おや、覚えていらっしゃいましたか。いやはや、ネタ被りは駄目ですね、すみません」
八九寺が誤魔化すように笑う。僕は先を促す。
「筒井筒、だっけ?」
「はい。幼馴染の女の子と仲良く暮らすだけの話です」
違う。
「お前は、その後日談、浮気相手の話もしてくれたよな」
「ああ、河内高安の女ですか」
ははは、と八九寺は鼻で笑う。心底馬鹿にするように。
「どうしたことか、今、私に憑いているのは、その霊の薄火なんですよ」
僕は訊き返す。
「ええ。男に相手にされなくなって、忘れ去られていく女の、霊です」
「けれど、伊勢物語って、実話じゃないんじゃないか?」
「無粋なことをおっしゃいますね。怪異が実在のものかどうかだなんて」
……。確かに。怪異が実在か、非実在かなんていうのは、ナンセンスもいい所だ。
「阿良々木さん、」
重要なのは、その女が、忘れ去られていくということですよ。
と、八九寺。
「もうお分かりかと思いますが、よって、この薄火は、他でもない恋の炎です」
忍が、口を開く。八九寺はなぜか眉をひそめた。
「待つ、のか。その男を」
待つ。掛け詞、松。
古語辞典を引けばすぐに分かるが、松というのは、しばしば松明―たいまつのことを指す。
受験生にとっては常識ともいえることなのに。
受験生の心得がないという八九寺の指摘が、今更になって僕の心にのしかかる。
「この小娘の初恋が―絶対に実らない初恋が―河内高安の女と惹かれ合った、ということじゃの。
惹かれ合って―曳かれ合った。まったく、不運な娘よのう」
かかか、と忍が哄笑する。八九寺が忍を睨む。
しかし。答えを訊くまでもなく、僕にはそれが誰なのか分かっていた。
だって。
八九寺真宵が、この街で待つ可能性のある男といえば。
「……あなた以外、誰を待つというのですか……」
八九寺が溜息とともに、俯いた。
「いつから、と訊けば、おそらく我が主様がうぬを家に連れ込んだ時からじゃろうな。
家での逢瀬があって、そして、うぬはリュックサックを忘れた」
蝸牛の殻を、出たのだ。
その瞬間から、八九寺は蝸牛ではなくなった。
彼女の、殻の中に籠っていた想いは、おぼろげな炎となって、とうとう燃えだしたのだ。
八九寺を巡って歴史を弄りまくった旅を終えた今、僕は図らずも八九寺から告白をされた。
なんというか、本当に……。
「あ、先に言っておきますが阿良々木さん。これでハッピーエンドを迎えない所が、
今回の絶対条件なんですよ。忍さんが言ったように、これは絶対に実らない初恋ですから」
八九寺が当たり前のように、機械的に話す。
自ら。絶対に実らない、と。
「当たり前でしょう? 私は幽霊であなたは生者です。実るはずもないですよ。
薄火というのは、その名の通り弱い炎です。消えかかった炎です。換言すると、
消えるためにある炎なんです。さながら河内高安の女の存在のように」
「恋心を忘れさせて、その物語を終わらせる。儂の記憶からも、お前様の記憶からも、
そして、その小娘の記憶からも、の。今回の薄火は、最も無害な類のものじゃったようじゃの」
その薄は、最初から枯れ尾花なのじゃから。
「待てよ。それって、こいつの想いは、誰にも記憶されずに―」
「―というかですね」
八九寺がみたび遮る。
「当たり前ですが、幽霊が恋愛なんてのはあり得ません。君の為なら死ねる、なんて言っても、
もう死んでるわけですし。さしずめ、忍ぶ恋でなく偲ぶ恋といったところですよ」
八九寺は冗談のように笑い飛ばす。
けれど。
僕には彼女が笑っているようには見えなかった。
河内高安の女は、幼馴染と仲直りしたら用済みです。物語の中では、すでに死んだ者なんです。
彼女との恋はあり得ないし、アマガミだって彼女のルートなんて用意してませんよ」
渾身のギャグだったのだろうが、今の八九寺は、どんなジョークを言っても全然面白くなかった。
「……やめろよ、そういうの。笑えないぜ」
「仕方ないですよ。攻略対象外なんです。棚町さんの親友の田中恵子さんみたいなものですね。
いえ、私だって、田中恵子さんを攻略したいなって思ったことはありますよ?
まあ、それに関しては、トゥルーラブストーリーにあるじゃんってことになったんですけどね―」
「やめろって」
なおも八九寺は早口でまくしたてる。
佐藤宏子、とか言われても誰だよ! って感じでしたね―」
「……八九寺、もういいって―」
「う る さ い で す ね 阿 良 々 木 さ ん ! ! ! !」
僕は、一瞬何が起こったのか理解できなかった。
目の前には八九寺真宵。
しかし、八九寺にいつもの元気で挑戦的な笑みはない。その目は、怒りで猛っていた。
そしてようやく理解した。八九寺が、怒鳴ったのだ。
ではあなたは私と結婚できるんですか!? 私は死んでるんですよ!?
無責任に調子のいいことばかり言って、いいですよね!? あなたは生きているんだもの!!」
八九寺真宵の本気の怒りは、僕の体に、心に、容赦なく突き刺さった。
「お父さんもお母さんもいて、帰る家があって、あまつさえ奇麗な彼女さんまでいて!!
あなたに何が分かるんですか!! あなたが他の女の人といちゃついている間、
私はこの街で話す相手もいなくて、帰る家もなくて、独りぼっちで迷い続けるんですよ!?
あなたにその孤独さが分かりますか!?」
八九寺も楽しんでくれているという自信はあったけれど、僕は一度だって、考えたことがなかったのだ。
僕と別れた後の八九寺の気持ちなんて。
八九時が、どんな気持ちでこの街を徘徊するのか、なんて。
そしてそれと真剣に向き合った時。
その事実はどうしようもなく悲痛で、そして耐えがたいものだった。
「ええ、あなたには分からないでしょうね!! 私のことなんて興味がないんでしょう!?
どうだっていいんでしょう!?
あなたに、あなたなんかに、恋をした私の、気持ちなんて……」
八九寺は俯いて、肩を震わせる。怒声は尻すぼみになり、かわりにその声は潤みを帯びだした。
今だって、亡き身でありながら、阿良々木さんに恋をしています。恋焦がれています。
あなたを思うと胸がどきどきします。あなたの笑顔が見たいです。
でも、でも! ……どうしようもないじゃないですか……。
私は幽霊。あなたは人間。あなたには恋人がいるし、河内高安の女というのは、
結ばれない役回りなんですから……」
そういう、物語なんです。と、八九寺は。必死に泣くのをこらえた。
僕は。八九寺を撫でてやろうとして、その手が動かなかった。
たった一メートルの距離なのに、頭を撫でる手すら届かない。
そこには、圧倒的な壁があった。
生者と、死者。
大和男と、河内高安の女。
このたいまつの光も消え、私に憑いたこの怪異―河内高安の女は、消え去ります」
八九寺が静かに言う。その声は、震えもなく、しっかりとしていた。
気がつくと、あたりは白みがかって。朝一番の山鳥が鳴きはじめている。
僕の胸に熱いものが込み上げてきた。
あまりに不条理すぎる運命だった。八九寺真宵は、死んで、迷って、彷徨って。
恋して、失って、忘れられるのだ。
そんなのってねえよ。死にきれねえよ!
八九寺がからかうように微笑んで尋ねる。そういう八九寺も、目元が赤くなっている。
「……お前が泣かないから。だから代わりに、僕が泣くんだ」
「うわ、Angel Beatsからのハガレンですか」
と八九寺。こんな時でもこいつは突っ込みを怠らない。
本当に今さらながら白状しよう。僕は八九寺が大好きだ。この想いが届かないとしても。
たとえすぐに忘れてしまうとしても。
僕は八九寺が大好きだ。
「……八九寺、僕は、僕は、お前が好きだ。大好きだ」
「おうおう、ここに来て泣かせることを言ってくれますね阿良々木さん」
「八九寺、は、はちくじ、愛している!」
「小学生にマジ泣きしながらガチ告白しないでください、阿良々木さん。
これは、ハッピーエンドではないのですから」
と、八九寺が言った。その声に、迷いはなかった。
まず八九寺がゆっくりと歌を詠み始める。
『来ぬ人を まつの明かりに かさぬれば うち堰き合えぬ 袖のしがらみ』
その姿は、さながら大和撫子だ。教養のある、そして格調高い歌だった。
僕は大泣きしながら、歌を詠み返す。根っからの現代人であるところの僕は、
即興で短歌を詠むなんて器用な真似はできるはずもないのだが、この時の僕はどうかしていたのだろう。
疲れていたのか、憑かれていたのか。
どっちにしても、僕にとっては“つきもの”だ。
言葉は口を衝いて出た。
『今はなき 社にすまる むらぎもの 心はまよひ ものかなしけり』
それは。真宵に詠う、真宵の歌だった。
人知れず、忘れ去られて、それでも闇夜の中で、阿良々木暦を待ち続ける。
そんな河内高安の女。
八九寺真宵に捧ぐ、歌だった。
八九寺が満足そうに微笑むのが見えるや否や、たいまつの灯りが消え。
僕は意識と、その大切な記憶を失った。
後日談というか、今回のオチ。
翌日、さすがのエキスパートである二人の妹、火憐と月火でも、北白蛇神社と地上を繋ぐ階段で
引っ繰り返って眠る僕を叩き起こすことはできなかったようで、僕はその日、普通にぼんやりと、
太陽の光で目が覚めた。
「起きたか、お前様」
「……おう。待たせたか?」
(以後、傾物語本文三三○頁に続く)
イセ物語『まよいラバー』
‐終わり‐
一応最後の和歌の解説を載せておきます
・来ぬ人を まつの明かりに かさぬれば うち堰き合えぬ 袖のしがらみ
来るはずもない人を、たいまつの明かりにその姿を重ねながら待っていると、
袖から溢れる涙を、押さえることができません。
※掛詞「待つ」と「松(松明)」
・今はなき 社にすまる むらぎもの 心はまよひ ものかなしけり
今はもうないけれど 北白蛇神社に集まっていた霊的エネルギーのように 心は彷徨って、
でもって真宵に傾いて 物悲しくって、八九寺が愛おしいことだ。
※掛詞「今は」と「今際」、枕詞「むらぎもの心」、掛詞「迷い」と「真宵」、
掛詞「もの(接頭語)」と「もの(物の怪)」、掛詞「哀し」と「愛し」
まあ和歌とかよく分からんけど
乙!よかったよ!
Entry ⇒ 2012.08.25 | Category ⇒ 化物語SS | Comments (1) | Trackbacks (0)
戦場ヶ原「今日は私の誕生日だけれど」
暦「・・・知らねえよ」
暦「いや、プレゼントはもう用意してるしさ」
戦場ヶ原「前売券特典のクリアファイルが私とまどかのペアじゃないのは何故?」
暦「お前じゃねえよ」
暦「色々と共通点はあるけどな」
戦場ヶ原「大体クリアファイルの種類を選べないって何よ」
暦「それは僕も思う」
戦場ヶ原「第二弾もあるしアニメイトとかでも出るんでしょう?」
暦「まあな」
戦場ヶ原「え? 誰と?」
暦「神原と」
戦場ヶ原「そういえばエヴァ破も二人で見に行ってなかった?」
暦「ああ、そうだよ」
戦場ヶ原「なにか納得いかないわ」
暦「なんでだよ。ちょうどクリアファイルの組み合わせは三種類じゃん」
戦場ヶ原「ほむらとまどかがあればいいの」
戦場ヶ原「デミとあんこは要りません」
暦「うーん、みんな可愛いと思うぞ?」
戦場ヶ原「はい?」
暦「さや杏もマミさんもQBだって可愛いだろ?」
戦場ヶ原「行っている意味がわからないわ」
戦場ヶ原「魔法少女はともかくQB?」
暦「いや、あいつ八九寺じゃん」
暦「何を」
戦場ヶ原「頭がおかしい」
暦「それはただの暴言だ」
戦場ヶ原「大体>>4の発言がうやむやになるじゃない」
暦「まあ、仕方ないんじゃないか?」
戦場ヶ原「私も行くわ。ビラも欲しいし」
暦「それくらい取ってくるって」
戦場ヶ原「ある分は全部よ」
暦「それはやらない」
戦場ヶ原「じゃあ、私も行くわ」
暦「来ても取らせないぞ」
戦場ヶ原「私の家でしょう。そんなこともわからなくなったの?」
暦「今の流れで話し続けても堂々巡りだろ。流れを変えるんだよ」
戦場ヶ原「で、何をくれるのかしら」
暦「ん?」
戦場ヶ原「あらかじめ用意しておいたプレゼントがあるんでしょう?」
暦「ああ、その話か」
戦場ヶ原「まあ、既に原作で望遠鏡だとバレてるけどね」
暦「やめろ」
誕生日おめでとうございます
IDに7が二つとか羨ましい
暦「悪かったな」
戦場ヶ原「別に悪いとは言ってないでしょう?初めてなのだからベタでいいんじゃない?」
暦「そうかよ」
戦場ヶ原「というより、おめでとうを聞いてないわ」
暦「ん、ああそうだな。誕生日おめでとう」
戦場ヶ原「何より先に言うべきことよね」
暦「お前が先手を打つから言えなかったんだよ!」
戦場ヶ原「これは訴訟物じゃない?」
暦「訴訟物じゃない」
戦場ヶ原「あらそう。それはともかく、そろそろ帰ったほうがいいんじゃない?」
暦「ん?そうか?」
戦場ヶ原「未成年なんだし、羽川さんはそこら辺うるさいでしょう」
暦「大目に見てくれそうな気もするけどな。でもまあ、帰るかな」
戦場ヶ原「夜道には気をつけなさいね・・・、ああ吸血鬼だから大丈夫かしら」
暦「だな」
戦場ヶ原「阿良々木君」
暦「ん?」
戦場ヶ原「ありがとう」
暦「お、おう///」
暦「金はなんとか足りるかな、忍にはドーナツを我慢してもらう必要があるが」
八九寺「あ、七夕さん」
暦「それはもう噛んでるとかそういうのとは明らかに違うけれど、あえて言わせてもらえば」
暦「僕の名前を季節の行事に合わせるな。僕の名前は阿良々木だ」
八九寺「失礼、噛みました」
暦「違う、わざとだ」
八九寺「かみまみた」
暦「わざとじゃない!?」
八九寺「ネタ切れた」
暦「それはSSのことか、かみまみたのことか」
暦「お前がメタ発言に乗らないとか一体なんなんだよ」
八九寺「まあ、本家の立場としては宣伝になるから一向に構いませんが」
暦「やめろ。また、ステマとか言われるんだよ」
八九寺「ステマ木さん」
暦「AA貼られるぞ」
八九寺「いえ、そもそも私には帰る場所がですね」
暦「しまった、地雷だった」
八九寺「むしろ怪異なんですから夜の方が元気なんじゃないですか?」
暦「何?誘ってんの?」
暦「この時点じゃ斧乃木ちゃんには会っていないんだが」
八九寺「そんなこと知りませんよ。ロリかっけーみなさんは」
八九寺「なんでそこまで原作にこだわるんです?」
暦「一応だよ。なんとなく気分が悪くなる」
八九寺「面倒ですねー。じゃ、私もういいです」
暦「お前何しに来たんだよ」
八九寺「戦場ヶ原さんに意識が寄っている阿良々木さんを誘惑しに来たんです」
暦「あーそうかよ」
八九寺「いちご100%でも西野はそんな感じに出てたでしょう?」
暦「最早何の関係もないネタだな」
火憐「兄ちゃん、朝だぞこらー」
月火「お兄ちゃん、朝だよ」
暦「ん?ああ、帰って寝たのか。八九寺は本当にどっか行っちゃたし」
暦(んー、特に予定はないし、>>42と遊びたいな)
暦「まあいいや。>>10でも言われてるように転売目的云々で劇場にいるだろうし」
暦(戦場ヶ原とかは連れて行けないか・・・・・)
火憐「どうした?一人でブツブツ言って」
暦「あ、いや。なんでもない」
月火「とにかく早く。朝ごはんで来てるよ」
暦「はいはい」
撫子「あ、暦お兄ちゃん。おはよう」
暦「千石。もしかしてお前も?」
撫子「うん。それいけ!アンパンマン よみがえれ バナナ島を見に来たの」
暦「あ、僕とは違ったか」
暦「この二人を適当に出して、貝木で落ち」
暦「さて、どうしたもんかね」
神原「阿良々木先輩!呼ばれた気がしたぞ」
暦「お前は本当にできた後輩だよ」
神原「なにかエロいことを言ってされば良いのだろう?」
暦「よくわかってるな」
神原「では、そこにあるゴミ箱。いやらしいとは思わないか?」
暦「ほほう。なぜだ、神原後輩」
神原「だって『びん・かん』だぞ?一体何を捨てろと言うのだ」
暦「よくわからんが、まあいい」
神原「しかし、阿良々木先輩。いくら伸びないからってSSスレなのだから外野が黙っているだけかもしれないのだぞ」
暦「ねえよ。安価した時に分かった」
暦「まあ、貝木との絡みはちゃんと書くから」
神原「うむ。BLだな」
暦「違うわ」
暦「うん。やっぱりお前は出るタイミングもわかってるな」
羽川「なんでもは知らないけどね。知ってることだけ」
暦「テンプレを若干変えてまでありがとうな。僕が何をしに来たかはわかるよな?」
羽川「うん。戦場ヶ原さんにプレゼントでしょ」
暦「まあ、そうなるのかな」
羽川「チケットはもう少し待ったほうがいいよ。30分後に二人分買えばまどほむが揃うと思うよ」
暦「マジで!?」
暦「お前いたのかよ」
羽川「まどかちゃんじゃないかな」
暦「マミさんじゃないのか?」
羽川「二人分買えばもう一つはそれだと思う」
暦「一体その情報はどこから・・・・・・・」
羽川「ぶっちゃけ勘なんだけどね」
暦「お前ならそれでも当てそうだよ」
暦「あいつ絶対にコンプするまで買うつもりだろ・・・・・」
羽川「というより多分簡単な法則でクリアファイルは並んでると思うけどな」
暦「ふーん。完全なランダムかと思ってたわ」
羽川「製造サイドの問題もあるしね。やっぱり規則は生じるよ」
???「面白いな。その規則とやらを聞かせてもらおうか。安心しろ、金は払う」
???「俺か?俺の名前は鹿目だ」
暦(偽名にしても鹿目って・・・・・)
鹿目「で、どうだ?俺にその情報を売るつもりはないか?」
羽川「売るほど確実性のあるものではありません」
鹿目「では、金は払わん。個人の意見として聞かせろ」
鹿目「そちらの男には教えようとしていたじゃないか」
羽川「彼は友達ですから」
鹿目「では俺も友達だ。そもそも人類は皆、友達だよ」
暦(うーん、完全空気だ・・・・・)
鹿目(ん?あいつは・・・・・・・)
暦「?」
鹿目「済まない、急用を思い出した。さらばだ」
暦「え?いや、ちょっと」
羽川「阿良々木君。放っておいたほうがいい」
暦「ていうか既に見失ったんだが・・・・・・・」
神原「ん?どうかしたのか」
暦「いや、なんでもないよ」
神原「おお!千石ちゃんじゃないか!」
暦「あれ?映画見に来たんじゃなかったのか?」
撫子「時間がまだなんだ。席だけ取っておいて、暦お兄ちゃんを探してたの」
羽川「おはよう、千石ちゃん。阿良々木君の友達の羽川翼だよ」
撫子「あ・・・・、お、おはようございます」
撫子「あと25分くらい」
暦(てことは千石の暇つぶしの相手をしても間に合うな)
暦「そうだ、千石。お前前に羽川に会った時にすぐに逃げたろ」
撫子「ご、ごめんなさい・・・・」
暦「僕じゃなくて羽川にな」
撫子「ごめんなさい羽川さん」
羽川「うん。許してあげる」
暦「ところで羽川は何をしに来たんだ?」
暦「ああ、そういえばそうだったな」
羽川「原作とは曜日がずれてるけど無視していいんだよね?」
暦「一向に構わない」
神原「ん?そういえば映画って上映の何分か前には入っておいたほうが良くないか?」
撫子「あ!」
暦「ん?25分って入場までじゃなかったのか」
撫子「しししし失礼します!」
暦「おお、ガハラさん。どうしてここに」
戦場ヶ原「結局昨日・・・じゃなくて今日、二人で来るかどうか曖昧なままだったじゃない」
暦「ああ、そうか」
羽川「誕生日おめでとう、戦場ヶ原さん。プレゼントは今度ね。まさか今日会えるとは思ってなかったから」
戦場ヶ原「あら。気を使わなくてもいいのに。というより、羽川さんでも知らないことはあるのね」
羽川「あっはー。当たり前じゃない」
神原「あの名言は本当に阿良々木先輩にしか言わないのだな・・・・」
戦場ヶ原「阿良々木君ってコメンタリーやってたっけ?」
神原「つばさキャット下巻だろう」
戦場ヶ原「ああ、私のコメンタリーじゃないから聞いてないわ」
暦「お前な・・・・・、いや、聞かなくていいけど」
羽川「阿良々木君。そろそろ」
暦「ん?もうそんな時間か」
戦場ヶ原「第二弾は何かしら。メガほむ、制服ほむら、あとは着物とか?」
暦「なんでほむらオンリーなんだよ」
戦場ヶ原「魔物語第焔話ほむらオンリー」
暦「うまくない」
暦「やることがないんだよ」
戦場ヶ原「神原に馬鹿なことをさせましょう」
暦「神原も羽川も帰ったよ」
戦場ヶ原「あら、じゃあ本当にすることがないじゃない」
暦「>>1111てなんだよ」
戦場ヶ原「じゃ>>11?」
暦「SSでそれってなんだよ」
戦場ヶ原「さっきからセリフが短いわよ、ネタ切れだと思われるでしょう」
暦「いっぱいいっぱいなんだ」
戦場ヶ原「『い』を『お』に変えると?」
暦「おっぱおおっぱお」
戦場ヶ原「つまらない男ね」
暦「バカみたいにおっぱいおっぱいと繰り返すような真似は僕はしない」
戦場ヶ原「今繰り返したわよ」
暦「おっぱいと言うくらいなら胸と言いたいな」
戦場ヶ原「この際だから訊くけど、私は巨乳キャラなの?」
暦「んー、羽川がいるしなー。美乳とかでいいんじゃないか」
戦場ヶ原「とかって。なんで適当なのよ」
戦場ヶ原「そういえば、阿良々木君は羽川さんと私の腰の話で盛り上がるんだっけ」
暦「なぜそれを!?」
戦場ヶ原「羽川さんに聞いたのよ」
暦「どんな状況だよ」
戦場ヶ原「こっちのセリフと言いたいところだけど。コメンタリーよ」
暦「コメンタリーって恐ろしいな」
暦「30分だけだけどな」
戦場ヶ原「そこではなんの話をしたのかしら」
暦「えっとなー、あー、うん。まあ、最終回だからな。締めみたいなもんだよ」
戦場ヶ原「そんなわけ無いでしょう。コメンタリーが真面目に進むわけないんだから」
暦「ひどい言いようだな」
暦「そうみたいだな。なんかブッ飛んだトークテーマあるか?」
戦場ヶ原「じゃあ、羽川さんのどんなところが好き?」
暦「なんだその質問は!?」
戦場ヶ原「いや、実際羽川さんとの馴れ初めみたいのものを詳しくは知らないのよね」
暦「んー」
戦場ヶ原「やっぱり春休み関連で話せない?」
暦「・・・・・ああ、悪いな。いつかは話さなきゃならないんだけど」
戦場ヶ原「いいわよ。いつまでも待つわ。とは言っても私は不死身じゃないから少しは急いでね」
戦場ヶ原「何かしら」
暦「僕は子供とかできるんかね」
戦場ヶ原「阿良々木君は男でしょう?」
暦「そうじゃなくて」
戦場ヶ原「別にいいわよ。私は阿良々木君がいればそれでいい」
暦「そっか」
戦場ヶ原「ところで>>77をとった不届きものがいるわ」
暦「やめてやれ」
戦場ヶ原「殺めてやれ?」
暦「違うわ」
暦「やめてくれ。死ねる」
戦場ヶ原「だってオチが見えないんだもの」
暦「丸投げするか?」
戦場ヶ原「嫌よ」
暦「そろそろ腰が痛いみたいだが」
戦場ヶ原「産みの苦しみね」
暦「・・・・・・」
戦場ヶ原「神原を召喚しましょう。長引くわ」
戦場ヶ原「流石に早いわね。なにか面白いことを言いなさい」
神原「無茶ぶりだ!」
戦場ヶ原「なにかエロいことを言いなさい」
神原「承知した!」
神原「その程度ではダメだよな」
暦「お前の口から出ればなんでもいやらしいんじゃないか?」
神原「阿良々木先輩のその言葉が何よりいやらしい気がするぞ」
暦「知らねえよ」
戦場ヶ原「私は柄物しか持ってないわ」
神原「おお。八九寺ちゃんはどうだろう。あの年代は付けている子といない子がいるからな」
暦「やめろ。ガールズトークならまだしも普通に女の話をするな」
神原「羽川先輩は寝るときは外すんだったか」
暦「それは知ってる」
戦場ヶ原「・・・・・・なぜ?」
戦場ヶ原「私の家にはパソコンがないもの」
神原「私は機械には疎いしな」
暦「そもそもこの街単位でいなさそうだ」
神原(千石ちゃんは少し危ういかもな・・・・・)
神原「どうした阿良々木先輩。流石に眠いのか?」
暦「いや、吸血鬼体質でそこは大丈夫」
神原「そこは、ということは他に問題があるのか」
暦「ずっと言ってきてことだ。ネタだよネタ」
神原「ん?ああ、本当だ。戦場ヶ原先輩が眠っているな」
暦「え?」
神原「寝顔がまた美しい」
暦(・・・いやいやこれは反則じゃねえか?そういえば初めて寝顔見るな///」
暦「黙れ。夢オチとか一番ないわ。出てきた以上辻褄合わせなきゃならないだろうが」
忍「心配無用じゃよ。夢オチがいかんのなら、オチじゃなければよいのであろう」
暦「ああ。・・・って、またじj分の首絞めてるじゃねえか!?終わらせろよ!」
忍「不死身だけに終わらんよ」
忍「まあ、ぶっちゃけGWにも儂は喋っておったからのう。夢にする必然性はないのじゃが」
暦「ふざけんなよ。SSは取り返しがつかないんだよ」
忍「カカッ。まあ、そうカッカしなさんな」
暦「この金髪幼女め」
暦「お前の好きにしろよ、もう僕は責任を取らない」
忍「いっそこのやりとりだけが夢で、実は寝入ったお前様とツンデレ娘を」
忍「あの猿女が好き放題やっておる、とかでもいいとは思うがの」
暦「よくねえよ」
暦「僕も知らない」
暦「ん?なんでもありか・・・・」
忍「ん?エロいことでもやるつもりか?」
暦「いや、忍野や影縫さん、貝木を出すのはどうだろう」
暦「別に僕にとっても心地いいメンツじゃねえよ」
影縫「酷い言いようやなあ、鬼畜なお兄やん」
貝木「今回の件からお前が得るべき教訓は迂闊にSSスレを立てるものではないということだ」
忍野「はっはー。ようやくの登場だよ。久しぶりだね、何かいいことでもあったのかい?」
暦「ん?あれ?ここは?」
戦場ヶ原「私の家よ」
暦「状況がわからん」
戦場ヶ原「>>25以降は夢よ」
暦「ふざけんな!流石に読み手が消えるわ!」
戦場ヶ原「いや、>>99が面白そうだったから」
暦「へ?」
戦場ヶ原(父)「久しぶりだね」
父「すまないね、ひたぎの誕生日に付き合わせてしまって」
父「いや、その場に私が居合わせることを詫びたほうがいいのかな」
暦「いえ、そんなことないです」
ひたぎ「見て、お父さん。阿良々木君からのプレゼントよ」
父「よかったな、ひたぎ」
暦「って、日本語あってるっけ。まあいいか」
ひたぎ「帰るの?」
暦「ああ、また明日・・・・じゃないけど、またな」
父「送っていくよ」
暦「あ、いえ、大丈夫ですよ」
父「いいからいいから」
暦「はい・・・・」
父「ひたぎの誕生日にはね、僕はどうしてもひたぎの母親のことを思い出すんだ」
暦「はあ」
父「確かにひたぎの母親は宗教に嵌って結果私の家族を、いやひたぎを滅茶苦茶にした」
暦「・・・・・・・」
父「しかし彼女がいなければひたぎはこの世に生まれてはいない」
暦「それはそうですけど」
父「つまりは、いや、なんということはないのだがね。ただ僕は君に」
暦「わかってますよ、お義父さん。その・・・・なんとなくは」
父「ふふ、そうか。それならいい」
そんなことは些細なことだ
ただ一つ今日はまだ始まったばかりだ
だからせめて今日の残った時間でできる限りあいつにこの想いをぶつけたい
戦場ヶ原、蕩れ。
そして、誕生日おめでとう。(完)
Entry ⇒ 2012.07.07 | Category ⇒ 化物語SS | Comments (0) | Trackbacks (0)
火憐「キスしたって事は、結婚する気があるってことだよな?」
火憐「いやー私も照れっけどさ、、まぁ兄ちゃんならいいかなって///」
暦「……ちょ、ちょt」
火憐「兄妹だから問題とか多いと思うけど、私たちなら何とかなると思うんだよ!!兄ちゃん」
暦「あ、あの」
火憐「キスしちゃたんだからしょうがないよなー、私も嫌だけどキスしちゃったからな」二ヒヒ
火憐「なんだよ兄ちゃん」
暦「その……冗談だよな?」
火憐「ん?……何のどこで何が冗談なんだ?」
暦「結婚とか……」
暦「火憐ちゃん……兄妹って結婚出来ないんだぜ」
火憐「え、まじかよ兄ちゃん」
暦「もちのロンだ、僕は嘘をつかない」
火憐「確かに兄ちゃんは嘘をつかないな、なら本当なんだな」
暦「そうだよ火憐ちゃん、つまり僕たちは結婚などでk」
火憐「なんてこった、私と兄ちゃんは兄妹じゃなかったのか……」
暦「はい?」
八九寺「ですから、私はいつ阿良々木さんにめとって頂けるのでしょうか?」
暦「ふむふむ、えっ?」
八九寺「はて?私変な事を言いましたかね?」
暦「……」
八九寺「まぁどうでもいいです。そんなことよりいつ責任を取ってもらえるのですか?」
暦「せ、責任って?」
暦「まぁそうだよな」
八九寺「しかしですね、現代役所に届け出る人は多くはないのですよ」
暦「……」
八九寺「事実婚……と言うそうです」
暦「つまり……」
八九寺「事実婚もとい、阿良々木さんと一緒に暮らし始めるのはいつからなのかなと思いまして」
八九寺「あの、やはり迷惑でしょうか?」
暦「いや、そんなことは1mmも、1ナノも思ってはいないのだけれども」
八九寺「そうですか、安心しました……」
八九寺「私は事故にあってからずっと一人でしたからね、誰かと一緒にいたい……なんて馬鹿げた事がうらやましいんですよ」
八九寺「一人ではない、誰かと一緒にいたい……いや、阿良々木さんとただ一緒にいたい。なんて考えてしまったのですよ……」
暦「八九寺……」
こうして僕と小さな女のこ幽霊との奇妙な生活が始まった。
true end
暦「な、神原!?」
神原「どうだ阿良々木先輩。以前にも言ったが、私は身体には自身があるのだ」
暦「自信があろうが無かろうが、そんなことは関係ない!」
神原「それに、阿良々木先輩のどんなエロい要求にも、答える覚悟が私にはある!」
暦「僕が人生の伴侶を選ぶ過程において、お前の自信も覚悟も一切考慮されることはない!」
暦「ぐっ!だ、だけどあれは不可抗力だ!あの時の僕に、いやらしい下心なと断じて無かった!」
神原「しかし先輩は、あのとき私に言わなかったか?」
暦「……ッ!なにをだよ!」
神原「はて、私は確かに聞いたのだがな。先輩のあの言葉を。それとも私の尊敬する阿良々木先輩は、あんな大事な言葉を軽々しく口にするような人だったのか」
暦「分かった。言った、言いました!その件に関しては僕が全面的に悪い。認めてやるよ」
神原「いやいや阿良々木先輩、私は別に責めている訳ではないのだ。ただあのとき、阿良々木先輩がなんと言ったか覚えているか、今一度確認しておきたいのだが」
暦「いやその……結婚しよう神原って」
神原「よろこんで!」
暦「ベタな誘導尋問してんじゃねぇよ!」
暦「え……」
神原「こんな私のために、文字通り身体を張って、血ヘドを吐いてまで力になってくれる。そんな人、私でなくても好きにならない訳がない」
暦「神原……」
神原「結局のところ、レズだの百合だのと自分の気持ちを誤魔化してみても、私の先輩に対する気持ちが消えることはなかった」
暦「でも僕には戦場ヶ原が……」
神原「先輩が戦場ヶ原先輩のことを本当に愛しているのは、私とて十分理解しているつもりだ。だから先輩は、好きなとき、好きなだけ私の身体を使ってくれればいい」
暦「おまえ何言って」
神原「好きと言ってくれなくてもいい。キスもしてもらえなくたっていい。阿良々木先輩が私の身体を求めてくれさえすれば、それで私は幸せなのだ」
暦「……」
神原「好きだ、阿良々木先輩」
こうして、表向きは戦場ヶ原と付き合いつつも、裏では毎日のように神原と身体を求め合うという、淫らで背徳的な生活がはじまったのだった。
abnomal end
Entry ⇒ 2012.05.26 | Category ⇒ 化物語SS | Comments (3) | Trackbacks (0)
阿良々木「周りの女子達に突然ビンタしたらどうなるか」
阿良々木「でも突然ビンタされて呆気にとられてしまう表情も見てみたい…」
阿良々木「……」
阿良々木「とりあえず妹たちで試すか」
火憐「お、なんだよ兄ちゃん。もしかして歯磨きか?」
阿良々木「いや、今回は違うんだけれど」
火憐「なんだ……じゃあ一体なんのようz」
パチン!
火憐「いっ……!?」
阿良々木「……」
火憐「……?」
火憐「……!?」
阿良々木(考えてるな)
火憐「……な…」
阿良々木(な?)
ドゴォ!
阿良々木「うごはぁ!」ドサァ
火憐「ったく……あたしと決闘がしたいなら口でそう言やいいのに……」
火憐「あたしは別に逃げも隠れもしねー!挑戦は受けて立ぁつ!」ビシィ
阿良々木「」チーン
火憐「あれ?」
阿良々木「だけどわかったことがあるぞ」
阿良々木「突然ビンタされると驚いて呆気に取られるんだ」
阿良々木「ただ、火憐ちゃんは馬鹿だからそれ以上は考えることが出来ず、結果反撃、という最も単純な行為に打って出た訳だな」
阿良々木「全く馬鹿な妹を持つと苦労するぜ……」
阿良々木「だから、火憐よりは馬鹿じゃない月火にビンタしてみよう!」
月火「ん、なぁにお兄ちゃん」
阿良々木「いや、ちょっと相談したいことがあるんだ……」
月火「ふふん、しょうがないなぁ、愚かな兄の悩みをこの私が聞いてあg」
パチン!
月火「ぇよっ……!?」
阿良々木「……」
パチン!
月火「いっ……」
阿良々木「……」
月火「……あ」
阿良々木(あ?)
月火「ああああああああああ!!」
ブン
阿良々木「ほ、包丁!?ま、待て月火ちゃん!それは流石に危な……」
月火「もおおおおおおおお!!!」
ブォン
阿良々木「う、うわあああああ」
ザク
阿良々木「よく考えたら月火は火憐よりもずっと短気で凶悪なやつだった……」
阿良々木「でも、そんな凶悪な月火ちゃんでさえ頭を反撃に切り替えるまで数秒の時間を要するんだ」
阿良々木「やっぱり相当驚くのは間違いない!」
阿良々木「しかし短気なやつだと、下手したら殺されるな……」
阿良々木「だから怒りっぽくない神原にビンタしてみよう!」
阿良々木「よう、神原!わざわざ呼び出してごめんな!」
神原「なに、阿良々木先輩の呼び出しならばたとえ入浴中であろうが食事中だろうが私は駆けつけよう!全裸で!」
阿良々木「ちょっと待て!入浴中はともかくなんで食事中まで全裸なんだ!」
神原「私は全裸がユニフォームだ!」
阿良々木「逮捕されろ!」
阿良々木「あ、ああ、ちょっと試したいことがあるんだ」
神原「試したいこと……それはひょっとして新たなプレ」
パチン!
神原「いっ……」
阿良々木「……」
神原「……ん?」ジンジン
神原「あぁっ!」
阿良々木「……」
神原「……なるほど」ヒリヒリ
パチン!パチン!
神原「くっ!っつ!い、いいぞ!」
阿良々木(いいぞってなんだよ!?くそ!)
神原「ああ!!もっと!」ハァハァ
阿良々木「もういい!僕の負けだ!」
神原「なんの!まだまだこれからだ!」ガシッ
阿良々木「」
阿良々木「とんだドMだよ本当……興奮してたじゃないか神原の奴」
阿良々木「やはり変態が相手じゃダメだ……」
阿良々木「だから変態っぽくない八九寺にビンタしよう!」
八九寺「あ、バナナ木さん!」
阿良々木「八九寺、僕にバナナは実らないぞ。僕の名前は阿良々木だ」
八九寺「失礼、噛みまし」
パチン!
八九寺「たっ……!?」ドサッ
八九寺「……え?あ、か、かみまみ」
パチン!
八九寺「たっ……うう……かみ」
パチン!パチチン!
八九寺「あう……」
阿良々木「……」
って思うと泣ける
阿良々木「……」
八九寺「かみき」
バチン!
八九寺「っ……りましたぁぁ!!」
ガブゥ!
阿良々木「ぎゃああああああああ!?」
阿良々木「いてぇえええええええええ!!やばいって!マジで千切れる!」
八九寺「噛み千切りましたぁぁぁぁぁ!」ガジガジ
阿良々木「ああああああああああああ!!!」
ブチィ
阿良々木「―――――――」
阿良々木「マジでロクな奴がいない……なんだよ、僕の周りには凶暴な奴か変態しかいないのか」
阿良々木「……いや」
阿良々木「いるじゃないか、凶暴でも変態でもない」
阿良々木「妹の友達」
阿良々木「千石にビンタしてみよう!」
阿良々木「千石は確かに友達だと僕は思ってるけれど、あっちからすれば僕なんて友達の兄弟にしか過ぎないだろうし」
阿良々木「そんな奴に突然ビンタなんてされたら、千石の奴泣いてしまうんじゃないのか。いや、下手したら通報とかされるかも」
阿良々木「でも今までビンタした奴らはマジでロクな奴がいなかったしな……千石ならきっと良いリアクションしてくれそうだもんな……」
阿良々木「……よし、ビンタしよう!最悪謝り倒せば千石なら許してくれそうだし!」
撫子「あ、こ、暦おにいちゃん!入って、今日うちには撫子しか居ないから」
阿良々木「お邪魔しまーす」
撫子「また来てくれてありがとう、暦おにいちゃん。そ、それでね、撫子、こないだのツイスターゲームの続きを……」
パァン!
撫子「……え?」
阿良々木「……」
パチン!
撫子「あぅっ……!」ガクッ
撫子「こ、暦おにいちゃん……ど、どうしたの」
阿良々木「……」
撫子「ご、ごめんなさい暦おにいちゃん……」
パァン!
撫子「あぅ……」
阿良々木「……」
阿良々木(これは……泣いちゃうかな)
パァン!
撫子「ッ……」
阿良々木「……」
撫子「……」
阿良々木「……」
撫子「……えへへ」ニコニコ
阿良々木「なんで!?」
阿良々木「けど、なんだろう、なんというか罪悪感が凄まじい。今までの奴らではそうでもなかったのに」
阿良々木「なんていうか、怒られたい。暴力抜きで」
阿良々木「だから、ちゃんと叱ってくれそうな羽川にビンタしよう!」
羽川「あっ、阿良々木君!どうしたの急に呼び出したりして?」
阿良々木「ああ、ちょっと知りたいことがあってな」
羽川「知りたいこと?」
阿良々木「ああ、羽川は何でも知ってるからな。教えてくれよ」
羽川「何でもは知らないわよ。知ってることだk」
パチン!
羽川「えっ……?」
阿良々木「……」
阿良々木「……」
羽川「何か言っ」
パチン!
羽川「……痛いよ、阿良々木君」
阿良々木「……」
羽川「……っ、だめ、阿良々木君、理由もなく女の子の顔を叩いちゃ駄目だよ」
パチン!
羽川「叩くならその理由を話してくれないと」ツー
阿良々木(は、鼻血出てるぞ羽川……)
バチン!
羽川「……理由を話してくれないと私、怒ることも謝ることも出来ないよ」
パチン!
羽川「……阿良々木君、理由を話して、くれないかな?」フラ
阿良々木(もう足にキてるじゃないか!もう逃げろ羽川!)
羽川「阿良々木君、大丈夫、大丈夫だよ」ニコッ
阿良々木「……うわああああああああああああごめん羽川ぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」ゲザァ
阿良々木「理由なんてないんだ!ただ羽川の驚く顔が見たかっただけなんだ……まさか、まさかこんなことになるなんてええええええええ」グスグス
羽川「まったくもう……もうこんなことしちゃダメだよ」コツン
阿良々木「いっそ全力でぶん殴ってくれえええええええ!!!」
阿良々木「だけど、羽川は優しすぎる……僕の犯した罪の重さを考えたら僕は刺されたって文句は言えないというのに……」
阿良々木「ダメだ……僕は生きていたらダメだ」
阿良々木「こんな罪深い僕を誅してくれるとしたら、それは……」
阿良々木「僕の彼女、戦場ヶ原しかいない」
阿良々木「だから戦場ヶ原にビンタしよう」
戦場ヶ原「全く、わざわざ私を呼びつけるなんて何様のつもりなの、阿良々木君」
阿良々木「一応お前の彼氏だよ!?」
戦場ヶ原「それがどうしたのかしら。阿良々木君が私をどうこう出来る時なんて今後永遠に来ないと思いなさい」
阿良々木(やっぱり見込んだ通りの傍若無人っぷりだ……これならビンタなんてしようものならきっと僕は殺されるだろう)
戦場ヶ原「そう、私があなたをどうこうするのであって、断じてその逆ではないのよ」
パチン!
戦場ヶ原「うっ……?」
戦場ヶ原「……!?」ヒリヒリ
阿良々木(さぁ……殺せよ)
戦場ヶ原「ど、どういうつもりかしら、阿良々木君?」オロオロ
阿良々木(あれ?動揺してる?)
パチン!
戦場ヶ原「あうっ」
阿良々木(さぁ、台詞の途中で遮ってのビンタだ、これに耐えられるお前ではあるまい!刺して来い、戦場ヶ原!)
戦場ヶ原「あ、阿良々木君、何を怒っているのかしら。理由を話せば半殺しくらいで許してあげるわよ」オロオロ
阿良々木(いや、有無を言わさず刺して来いよ!何で弱気なんだよ!)
バチン!
いい
新たな一面に気付いてしまった
阿良々木(あ、やばい……力が入っちゃった。これは流石に我慢できないだろう)
戦場ヶ原「……あ、阿良々木君、御免なさい。私が悪かったわ。だから怒らないで」オロオロ
阿良々木(顔と目真っ赤にしてなに謝ってんだ!お前そんなキャラじゃないだろ!)
バチン!
戦場ヶ原「あぅっ……お願い……何か言って、阿良々木君……悪い所は私、直すから、口を利いて……貴方の彼女でいさせて……」グスグス
阿良々木(ついに泣き出しちゃった!千石ですら泣かなかったのに!メンタル弱い!)
特に殴られるのとか
戦場ヶ原「あ、阿良々木君……?口を利いてくれるの?」グスグス
阿良々木「あのな、僕は別に不満があるとかじゃないんだ」
戦場ヶ原「……え?」
阿良々木「ただ、どうなるか興味があったから叩いたんだ。最低だろ?」
戦場ヶ原「……」
阿良々木(さぁ、殺せよ)
阿良々木「え?」
戦場ヶ原「まったく、この私で実験とはいい度胸ね、阿良々木君。普段ならあなたの塵芥も残さないところだけど、今私は機嫌が良いわ。許してあげるから感謝しなさい、阿良々木君」
阿良々木「……」
バッチーン!
戦場ヶ原「……ご、御免なさい、阿良々木君、調子に乗りました……嫌いにならないで」メソメソ
阿良々木「……」
阿良々木「いつもは無駄に高圧的なのに、いざってなると弱弱じゃないか……結局僕の胸に残ったのは罪悪感だけだったじゃないか」
阿良々木「もう僕の周りには僕を罰してくれそうな奴は……」
阿良々木「いた」
阿良々木「鉄血にして熱血にして冷血の吸血鬼、の絞り粕」
阿良々木「キスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレードの成れの果て」
阿良々木「忍野忍。あいつなら、この愚かしい僕に引導を渡してくれるだろう」
阿良々木「忍にビンタしよう!」
ヌッ
忍「なんじゃ、お前様。せっかく寝ておったのに」
阿良々木「ああ、お前にしか頼めないことがあってな」
忍「なんじゃ、やっぱりお前様は儂がおらんとだめじゃn」
パァン!
忍「うっ」
阿良々木「……」
忍「……!?」ヒリヒリ
阿良々木(混乱してるな)
忍「な、なんじゃ、今お前様が叩いたのか?」
阿良々木「……」
忍「え?ち、違うの?いや、え?」
パァン!
忍「あうっ」
忍「や、やっぱりお前様が叩いたんじゃろうが!そんなのお見通しじゃ!」
阿良々木「……」
忍「えっ」
阿良々木「……」
忍「ど、どうしたんじゃお前様」
パチン!
忍「いたいっ!」
吸血鬼だから鬼畜で大体あってる
忍「もう怒ったぞお前様!もう口を利いてやらん!」
阿良々木(なんでそうなるんだよ!叩き返してこいよ!)
パチン!
忍「あぅっ……ふん!」プイ
阿良々木「……」
バチン!
忍「あふっ……」
阿良々木「……」
忍「……お、お前様、今日は儂の負けにしといてやるから、ここまでにせんか?」ウルウル
阿良々木(こいつもメンタル弱かった!)
阿良々木「もう僕はあの人に頼るしかないのか」
影縫「お、鬼畜なお兄やんやないの。どうした?」
阿良々木「ええ、ビンタしに来ました」
影縫「ほう?」
その後、阿良々木は影縫さんにボコボコにされ、引導を渡されたのだった。そう、誰よりも彼自身が望んだ引導を……
完
貝木がまだだぞ
臥煙さんも日傘も扇も然り!
余接「あっ、鬼のお兄ちゃん。お姉ちゃんにビンタして良く生きて帰ってこられたね」
阿良々木「いや、まぁ死んでも良かったんだけどな……」
阿良々木(だがどうだろう、斧乃木ちゃんもヒロインらしいし、ここで会ってしまった)
阿良々木(だから、斧乃木ちゃんにビンタしよう!)
余接「なに、鬼のお兄ちゃ」
パチン!
余接「ん……」
阿良々木「……」
余接「ん……?」
阿良々木「……」
パチン!
余接「ん……」
パチン!パチチン!パチチチーン!
余接「うん……」
阿良々木(全然効かないや……)
完
最後に一言、俺は千石も大好きだよ!
Entry ⇒ 2012.05.12 | Category ⇒ 化物語SS | Comments (0) | Trackbacks (0)
阿良々木暦「王様ゲーム?」
http://hayabusa.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1334376132/
暦「だが断る。僕もそんなに暇じゃないんだ」
火憐「なに今更真面目ぶってるんだよ兄ちゃん!」
暦「ていうか本当に忙しいんだよ。お前らも彼氏とデートでも行って来い」
撫子「な、なでこもしたいな・・・暦お兄ちゃん」
暦「よし、さっさと始めるぞー。王様だーれだ!?」
>>3
暦「あれ、お前いたのか!?」
ひたぎ「なにを言ってるの阿良々木君。ずっと居たわよ・・・貴方の後ろに」
暦「なにそれ怖い」
ひたぎ「命令ね・・・それじゃ、>>13が>>15に>>18しなさい」
戦場ヶ原「キスしたら殺すわ」
暦「理不尽すぎる!!」
撫子「お、王様が命令するなら・・・仕方ないよね!」
暦「ノリノリだと!?わ、わかった千石、流石に口と口はあれだからさ。違うとこにしとこう」
撫子「ち、違うとこって・・・えっと・・・>>25とか?」
暦「待て待て待て!何でホールドしてんだよ火憐ちゃん!?」
ひたぎ「舌まで入れるディープな奴をお願い」
撫子「………ゴクリ」
暦「ごめんなさいごめんなさいごめんなさぁぁぁぁぉ!!!!!」
「そのまま舌を動かして・・・」
「ふぉっ、ふぉお?」レロレロ
「あああああああああああああああああ!!!!!」
「そうそう、阿良々木君も興奮してるわ」
「うっ、嬉しいな// なでこも実は・・・//」
「rっswtらtshxjxjgkcbxhdtふふおyhlzvkしtづxhlzとぎっ!!!」
撫子「暦お兄ちゃんの目・・・すごく美味しかったよ//」
暦「ひっ・・・!」ガクガク
月火「つっ、次行ってみよう!王様だーれだ?>>36」
おい
暦「だれだお前」
>>36「こぽぽwwwwwwこれは失敬wwwwww阿良々木殿wwwwww」
>>36「拙者がwwwwww王でござるwww」
>>36「>>45殿はwww拙者に>>48してくだされwwwwwwwww」
撫子「臭い・・・」
暦「お前居たのか」
八九寺「ええ、ずっと。」
>>39「はやく!はやく殺してくだされええええええwwwwwwwwwwww」
八九寺「そんなに焦らないでください」ターンターン
>>39「感じちゃうのおおおおおおおおお!!!!!」ピクンピクン
八九寺「ふう・・・悪は去りました」
月火「な、何なのこの娘・・・まあ気をとりなおして・・・王様だーれだ?」
>>61
暦「何言ってんだ、ずっといただろ」
月火「羽川様!羽川様だよ!!」
火憐「宴だ!宴の準備だあ!!」
羽川「えっ、えっと・・・それじゃ、>>66と>>68で>>72してもらおうかな?」
火憐「」
月火「そっ、それは・・・おしっことか・・・そういう・・・?」
羽川「何言ってるの、浣腸公開脱糞食糞からのディープキスアナルセックス中の脱糞ダイレクト脱糞その他に決まってるじゃない」
暦「」
羽川「じゃあ初めるわよ二人とも、まずは・・・」
火憐「////」
羽川「火憐ちゃんには才能があったわね、今夜うちに来る?」
火憐「は・・・はい//」
暦「やめろ!帰って来るんだ火憐ちゃん!!」
月火「なにがあったのよ・・・次、王様だーれだ?」
>>98
月火「そっ、そんなことないよせっちゃん!」
撫子「そうかな・・・まあいいや、それじゃ>>105が>>107にり>>110して!」
暦「せっ、千石!?」
撫子「翼さんとスカトロプレイを楽しむようなお兄ちゃんは死んじゃえばいいんだよ」
暦「まて!僕は無実だ!!たすけーーー!」
グシャッ
ギロチンカッター「神、つまり僕はこう仰っています。それは許されざる悪徳だと」
おわりー
Entry ⇒ 2012.04.15 | Category ⇒ 化物語SS | Comments (0) | Trackbacks (0)
阿良々木暦「僕が契約して魔法少女になったよ」
http://hayabusa.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1330438312/
QB「正直言って…男子高校生が魔法少女になれる素質を有していたなんて」
QB「これまで前例のないことだよ」
QB「君は胸を張って活躍すればいい」
暦「ちょっと待ってくれ…ッ!?」シャララーン
暦「どうして僕のコスチュームが女物になっているんだあああッ!!?」フリフリ
暦「今優先すべきことはそんなことじゃない…!」
暦「…きゅぅべぇとか言ったな。お前に言っておかなければならないことがある…」キリッ
QB「何だい?…ありゃりゃりゃぎこよみ君?」
暦「お前の声…どこかで聞いたような気がするぞ…!?」
QB「それはもはやネタにされ尽くしたネタと言えるね」
ほむら「」
暦「」
QB「助けてくださいありゃりゃぎこよみ君!」ヒシッ
ほむら「もしもし…警察ですか?」
ほむら「はい、路上に変質者が(ry」
暦「ちょっと待ってくれないか」
暦「君が頭に被っている女性物のピンクの下着は一体何なんだいッ!?」ビシッ
QB「…君達は案外気が合うんじゃないかな。勿論アブノーマルな意味でね」
暦「実はこの町に襲来すると風の便りで聞いた怪異を倒しに来たんだ」
QB「そのためには僕と契約することが必要不可欠なんだ」
暦「と言われたから、とりあえず契約したんだ」
QB「後で容易に解約できると説明してね」
ほむら「阿良々木暦、あなたは豆腐の角に頭をぶつけて死にたくても死に切れないレベルの低脳馬鹿ね」
暦「初対面の相手に対して発した第一声とは思えないほどひどいのかひどくないのか良く分からない言い草だな」
QB「はぅ!?」カンツー
暦「 」
QB「あ、りゃ…りゃ、ぎ・・・さん」バタッ
暦「八九寺ィ―――――――――――――――――――――――ッ!!?」ヒシッ
暦「―――普通に2匹目だろ」
ほむら「あら、意外と現状追認が早いわね」
ほむら「やるわよ阿良々木暦」ガシッ
暦「何をだい、戦場g」
ほむら「 ほむほむ・ザ・ワールド! 」キュルルルルルルルルルル
暦「君の人格にはかなりの問題があることはよく分かった」
ほむら「ところであなたの武器は何なのかしら?」
暦「特にないみたいだ」
ほむら「この役立たず」
暦「でも、吸血鬼になった当初と同様の身体能力と治癒力を獲得したらしいね☆」
ほむら「早く私をお姫様だっこして宙を駆けまわったらどうなの?」
暦「君は一体何がやりたいんだい?」
ほむら「私と触れていないとあなたの時間も無様に停止するからに決まっているじゃない、このあんぽんたん」
暦「…仕方ないな」ヒョイッ
ほむら「何するのよこの変☆態」ポカッ ポカッ
暦「どう考えても君の方が変☆態だ」キリッ
ほむら「あら・・・早くも時は、動き出すわ」キュルルルルルルルルルルルル
QB「本当に何がやりたいんだい、君達は」シュタッ
杏子「ほらよ。言ってた額、持って来たぜ」バサッ
貝木「いいだろう。相当の対価だ」ジャラッ
杏子「…どうやって手に入れたかは知らねーが」
杏子「取引成立だ。貰ってくよ、グリーフシード」コロンッ クルッ
杏子「汚い、カネだけどな」シュタッ
貝木「今回の件からお前が得るべき教訓は、カネに綺麗も汚いもないがモノには汚いものもあるということだ」
貝木「聞く耳すら持っていなかったようだが、な」
暦「一人暮らしなのか?」
ほむら「見ず知らずの女子中学生の家に無理やり押し入るなんて」
ほむら「下心がスケスケのミエミエね、阿良々木暦」
暦「真顔で何となくいやらしい発言はよせ」
ほむら「言っておくけれど、私はまどか以外の生命体など眼中にないわ」
暦「いや聞いてないから」マドカ…ヒロシ?
暦「何故って…」
暦「僕には四六時中超絶破廉恥な服装で町を練り歩くような、キケンな趣味はないからさ」
ほむら「あまり自己否定をし過ぎると生きていくのが辛いわよ」
暦「どういう意味だよ…?」
ほむら「あなたから変態成分を取り除くことは、魔法少女からソウルジェムを奪い取るくらい重大なことなのよ」
暦「例えが実に分かりづらいんだが、僕が変態を捨てることは魂を売るのと同じくらい致命的なことだとでも言いたげだな」
暦「僕の名前はアララギだ」
ほむら「失礼、噛みマミさん」ファサ
暦「おいやめろ・・・いや何ていうか本当にやめてください」
暦「…ていうかさっきさりげなく重大過ぎる事実を告げられたような気がするんだが!?」
ほむら「まあ、気にしないでいいわ」
暦「気になるよ!?」
暦「切り替え早いよほむらちゃん!?」
ほむら「―――本題に入るわ」
暦「………」
ほむら「あなたは、魔法少女になることで」
ほむら「―――どんな願いを、叶えてもらったの?」シャフドッ
暦「………………」キッ
暦「―――決まって、いるだろう」
貝木(命に値段など付けられないと、綺麗事を喧伝する輩は多い)
貝木(だが、命も少し形を変えれば容易に売買の対象となりえてしまう)
貝木(今回の一件で俺が得た教訓は、皮肉な蜜の味のする世界ほど商売には最適だと知り得たことだな)ジャリ
スレチガイ
中沢「おい、今のおっさん…何か薄気味悪くなかった…?」ヒソ
上条「…確かに。何だか不吉なオーラを纏っていたような気がするよ」ヒソ
中沢「・・・ま、それはともかく。お前腕治ってよかったよな~」
上条「まあね。…医者も奇跡としか言いようがないってさ」
QB「人間の感情を理解できない僕には、なかなか目的の達成が困難な場合があるんだよ」
QB「そこで君に業務委託をして以来、契約の新規取付件数が大幅に上昇しているよ」
QB「本当に感謝している」
貝木「感謝される筋合いは無い」
貝木「偽善の“種”を蒔いて、勝手に育って増殖した“果実”を回収して取引材料に使う」
貝木「俺は巡り巡ってカネになる阿漕な商売をやっているだけだ」
スレチガイ
仁美(上条くん…///)コソコソ
真宵「私と契約して、魔法少女になりませんか?」
撫子(ま・・・魔法少女・・・?)
真宵「その代わりに、どんな願いでも一つだけ叶えて差し上げましょう」
撫子(どんな・・・願いでも・・・ッ!!?)
撫子「暦お兄ちゃn」
真宵「その願いは聞き入れられません。私の権限の範疇を大幅にオーバーしていますから」
真宵「ちなみにあなたはラスボスなので、不条理を覆すレベルの魔法少女になることができますよ」
撫子「???」
真宵「勿論その後のことも織り込み済みです。あなたは(邪・蛇)神になりますよ…!」
撫子「か、・・・神さま」
火憐「待て――――――――――っ!!」ズダダダダダダダダ
真宵「ちょっとお待ちくださいありゃりゃぎさんとこのデッカイ方の妹さん!?」ヒィィィ
真宵「私はただ中の人ネタを駆使して軽いジョークを言っただけでしてぇぇ!!」ヒィィ
火憐「問答無用ッ!正義の鉄槌を下してやる――――――――――ッ!!」コチョコチョコチョコチョ
ワーキャー ワーキャー ワーキャー ワーキャー
月火「大丈夫だった!?…千ちゃん?」タッタッ
撫子「う、うん…」
羽川(…それにしても阿良々木くん、一体どこに行っちゃったんだろう…?)ナンデモハシラナイ
暦「――――八九寺さ」
ほむら「…八九寺真宵のことね。何故か察しがつくわ」
暦「あいつ…色々あって、今は浮遊霊やってるんだけど」
暦「もしかしたら…そのうちどこか遠くにいってしまうんじゃないかって」
暦「でも僕は…あいつにもずっと、身近にいて欲しいんだ…」
暦「だから・・・願ったよ」
暦「――――八九寺真宵が成仏しませんようにって」
ほむら「…そうだったの」
QB「さて、そろそろお遊びは終了だよ、ありゃりゃぎ君」シュタッ
ポゥ
暦「え・・・?」キュウウウン
暦「僕のソウルジェムが…体の中に戻っていく…!?」
ほむら「これは…一体どういうことなの!?」
QB「僕はね、御承知の通り嘘はつかない主義なんだよ」
暦「ということは…」
QB「ちゃんと説明したじゃないか、後で容易に解約できるって」
QB「女子中学生と男子高校生では…魂のステージが異なるんだよ」
QB「前者は繊細で扱いづらく、後者は鈍感で扱いもたやすいようだ」
QB「だから君の魂(ソウルジェム)は、再び肉体と融合することができた。割とあっさりとね」
ほむら「へえ~」
暦「・・・ひどい言いようだな」
QB「 美樹さやかの足もとにさえ及ばないんだよ…!!! 」
ほむら「…ご愁傷様、阿良々木暦。それから、身長もね」
暦「二重三重の意味で僕を馬鹿にしているよなお前達…!?」
忍「…もう良いじゃろう、お前様」シュウウン
暦「…忍。で、でも…僕は怪異を…!」
ほむら「その“怪異”を倒すのは、私の役目なのよ」
ほむら「あなたの守るべきものは、ここにはいない」
ほむら「―――あなたの戦場は、ここじゃないのよ」ファサ
暦「・・・ほむらちゃん」
忍「帰るぞ。勿論帰り際に、ミスタードーナツに寄ってもらうがな」~♪
暦(―――そうだよな)
暦(やっぱり、守りたいものは自分の力で守るべきだよな)
暦(今度また困ったことがあったら、必ず僕が助けてやるよ)
暦(だから、消えないでくれよ?………八九寺)
ほむら「お別れね」
暦「ああ」
ほむら「短い間だったけれど、あなたとのやりとりは…割と退屈しなかったわ」
暦「…ああ、僕もだよ。というより…楽しかったさ。――誰かさんと同じくらい」
ほむら「さようなら」シュタッ
暦(バイバイ・・・ほむらちゃん)
忍「あ~むっ//////」パクッ
カアー カアー カアー カアー カアー カアー カアー
さやか「見つけた」ザッ
まどか「・・・・・・・・」ゴクリ
貝木「―――――これはこれは」
貝木「はじめまして…というわけではなかったかなあ…?」
さやか「 黙 れ 」クワッ
貝木「予め言っておくが、クーリング・オフ請求ならお門違いだろう」
貝木「―――――もっとも、いずれにせよもう手遅れではあるが」
さやか「 」ワナワナ
まどか「ひ・・・ど・・・い・・」ウル
さやか「ソウルジェムが、…魂に等しいものだってことを…」
貝木「お前が聞かなかったから答えなかった、それだけのことだろう?」
さやか「そ、それは…」
貝木「正当な取引をもって、お前はインキュベーターと契約した」
さやか「あんた、…それでも同じ、人間なわけ…ッ!?」ギリッ
さやか「ぐぅあ・・」ガクガク
貝木「第一、契約後のことは自己責任だろう?――――――違うか?」
さやか「あた・・・しは・・・」ガクッ
貝木「今回の件でお前が得るべき教訓は、人を見たら詐欺師だと思え…ということだ」
貝木「―――そう思うだろう、鹿目ぇ?」チラリ
まどか「こんなの絶対、おかしいよ」ホロリ
貝木「ご希望とあらば、アフターケアとして(有料で)カウンセリングをしてやっても構わない、と言いたいところだが」クルッ
貝木「俺はもう、この地方には用はない―――――従って」
貝木「お前がインキュベーターと契約するか否かは、もはや俺の眼中にはないのだよ」
貝木「――後は好きにすればいい」ザッ
さやか「ぅ・・・ぅあぁぁぁぁぁっ」ポタ…ポタ…
まどか「わ・・・たしは・・・」ヘタリ
QB「鹿目まどか―――僕と契約して、魔法少女になってよ!」
<完>
とりあえず>>1乙
Entry ⇒ 2012.03.16 | Category ⇒ 化物語SS | Comments (0) | Trackbacks (0)
火憐「それじゃ私、歯磨いて寝るね……」
http://hayabusa.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1330683399/
暦「……さて、じゃあ僕も自分の部屋に戻るかな、歯磨いてから」
月火「お兄ちゃんも?ちょっと二人共、最近健康的すぎない?」
火憐「……」
暦「……」
月火「ん?」
暦「開いてるよ」
火憐「お、おじゃまします」
暦「ん、今日は遅かったな」
火憐「うん……月火ちゃんがさ」
暦「ちょっとヤバかったかもな。流石に怪しみ始めてるか」
火憐「……にいちゃん、やっぱり兄妹でこういうのは」
暦「火憐ちゃん、この間も同じこと言ってたぜ?」
火憐「……ッ」
火憐「え、ふぇ?」
暦「確かに火憐ちゃんの言うことも一理ある。普通は兄妹でこんなことはしないし、
何より月火ちゃんにばれた時のことを考えると」
火憐「え、ちょ、にいちゃん?」
暦「それに火憐ちゃんが本気で嫌がってるのなら僕は実の兄として失格だ。
僕は火憐ちゃんのよき兄のままでいたいからな。
火憐ちゃんがそう言うのなら今後こういうことは」
火憐「……さい」
暦「ん?」
暦「んー?聞こえないなー。嫌ならはっきり言ってくれよ火憐ちゃん。
僕はよき兄のままでいたいんだから」
火憐「や、やめないでください!お願いします!」
暦「へぇ?火憐ちゃん、さっきはあんなに嫌がってたじゃないか」
火憐「そ、それはにいちゃんが!」
火憐「ご、ごめんなさい!ちがいます!そ、そう、月火ちゃんが……」
暦「ふーん、今度は妹のせいにするわけね。兄だから言うけどさ火憐ちゃん、
それって結構最悪なことだと思うぜ?」
火憐「ち、ちが……ちがいます、そんなつもりじゃ……ふ、ふぇええ……」
暦「あーあ、泣いちゃったよ」
火憐「ヒッ、クッ……うぅ……」
暦「それにさ、よくよく考えてみれば気持ちいいのは火憐ちゃんだけじゃないか。
そもそも僕には何のメリットもないんだから、辞めようが辞めまいが僕的にはどっちでもいいんだけど」
火憐「う……ヒック、いやぁ……」
暦「嫌?あーやっぱり嫌なんだ。じゃあ金輪際火憐ちゃんを気持ちよくしてあげるのは無しだな。僕も貴重な時間を割かなくてよくなっt」
火憐「いやぁ!やめないでぇ!!何でもするから……何でも言うことききますからぁ!!」
火憐「ち、ちが、そんな訳……ない、です」
暦「……」
火憐「うぅ……、嘘です……くなりたいです……」
暦「聞こえない」
火憐「き、気持よくなりたいです……」
暦「なに?具体的にどうして欲しいの?ちゃんと言ってくれないとわからないぜ?」
火憐「わ、私の……エッチな口を……にいちゃんの、いやらしい歯磨きで気持よくして欲しいです!!」
暦「よく言えたね火憐ちゃん、じゃ準備しようか」
暦「ハハッ、ごめんよ火憐ちゃん。火憐ちゃんが困る顔がすごく可愛かったからさ、ついイジメたくなるんだよ」
火憐「酷いよにいちゃん……私、これっきりにいちゃんに歯磨きしてもらえなくなると思うとすっごく怖かったんだからな……」
暦「ばかだなぁ、そんな訳ないじゃないか。火憐ちゃんちゃんの歯磨きは僕のものだからな、他のやつに譲る気はねぇよ」
火憐「う、うん、にいちゃん。えと……それとね、今日はひとつお願いがあるんだ」
暦「なんだい火憐ちゃん、何でもこの僕に言ってみな。今の僕はたとえ火憐ちゃんから処女を貰ってくれと頼まれても、余裕でオッケーしちゃう勢いだぜ」
火憐「ちょ、にいちゃん!しょ、処女だなんて恥ずかしいよ……、えとね、お願いっていうのはコレ」
暦「こ、これはっ……!!」
また発泡剤の独自の配合比率により、リッチでクリーミーな泡立ちが実現した、それはまるで洗顔フォームのような心地よさの、きめ細やかな泡で「お口本来の美しさ」を引きだす、独自処方による泡『マイクロホイップ』を配合した……!」
火憐「さっすがにいちゃん!そう、これが……」
暦「あ、アクアフレッシュ エクストリーム クリーン!!!」
火憐「うん、月火ちゃんがおしえてくれたんだぁー、これで歯磨きするとすっごく気持ちいいんだって」
暦「確かに……その歯磨き粉は気持ちい。そう危険なくらい……」
火憐「ほらほらにいちゃーん、早くみがいてくれよぉ、もうがまんできねーよぉ」
暦「……ッ、だ、ダメだ火憐ちゃん、歯磨きはしてやるがその歯磨き粉だけは絶対だめだ!ほ、ほら、そんなもの使わなくたって、いつものクリアクリーン(3本パック)でいいじゃないか、な」
暦「う、あ、いや、嘘はつかないぜ?歯磨きはしてやるよ、うん、歯磨きは絶対する。その歯磨き粉が問題なだけであって、なんなら僕とっておきの「ウエルテック コンクール ジェルコートF」を使ってやってもいいんだぜ、っておいホワイトニング+じゃねーか!絶対だめだ!!」
火憐「にいちゃんがネットの情報に踊らされて買った、1,000円以上もするようなムダに高いだけの歯磨き粉なんて嫌!月火ちゃんもコレで磨いてるって言ってた!絶対コレ使う!」
暦「火憐ちゃん、いや火憐、本気……なんだな?」
火憐「もちろん!にいちゃんは何をそんなに心配してるんだ?たかが歯磨き粉じゃないか。そりゃ他よりちょっと高かったけどさ」
暦「いや、お前にその覚悟があるんなら、僕はもうなんにもいわねーよ。ほら、こっちきな」
火憐「スー……ハー、ってにいちゃん、今から歯磨きするんだよな?」
暦「あぁ」
火憐「なんで歯磨きするだけなのに、にいちゃんのベッドに横になって深呼吸しないきゃいけないんだよ」
暦「歯磨き……して欲しいんだろ。その、アクアフレッシュエクストリーム クリーンで……しかもホワイトニング+……」
火憐「いや、そうだけど……にいちゃん、なんか変だぞ」
暦「そんなことねぇよ……ほら、腕上げて」
火憐「ん、こう?」
ガチ ガチャン
暦「足は……別々で繋ぐか、火憐ちゃん、軽く足開いて、ホラ」
ジャラ
ガチャ ガチャン
火憐「ちょっと待って!にいちゃん!ちょっと待ってって言ってるじゃん!」
暦「なんだよ火憐ちゃん。僕はさっき、たしかに聞いたぜ?さっきお前、本気っていったよな?」
火憐「た、たしかに言ったけどさ、なんで歯磨きするだけで私はにいちゃんのベッドに拘束されてるんだよ。ちょっと、怖いよ……」
暦「安心しな火憐ちゃん、僕は怖いことなんてしない。むしろ逆だ、スッゲー気持よくしてやるよ。火憐ちゃんが本気なら、僕もそれに答えないといけない」
火憐「ご、ごめんなさい……」
暦「いーよ、もったいないけど最初の何グラムかは捨てるか。よし、じゃあ火憐ちゃん、目を閉じて、ゆっくり口を開けて」
火憐「う、うん……あーん」
暦「いくぞ、無理だろうけどなるべく暴れないようにしてくれよ」
暦「……」
火憐「……」
シャコシャコ
火憐「あ、ほんほら、このあわきもひいい」
暦(まだまだ余裕だな、だがこれからが本番だ。アクアフレッシュ エクストリーム クリーンのマイクロホイップは従来のそれより素早くなめらかに泡立ち、そしてお口全体に広がっていく……)
シャカシャカ
火憐「ふ…・…ん……ッ」
シャカシャカシャカ
火憐「はぁ……あ、あん」
暦「どーしたよ火憐ちゃん、もう気持ちよくなってきたのか?」
暦「そーかよ、まぁ慌てずやるさ。火憐ちゃんは奥歯から派だからな、まずは右の奥歯から」
火憐「あッ、はぁ!……ん、あぁ」
暦「次は左、歯と歯茎の間に沿って……マイクロホイップを馴染ませるようにして」
火憐「あ、あはぁ……ふぁあ」
暦「まだまだ余裕そうだな、さすが火憐ちゃんだぜ」
火憐「ほ、ほうだよ、にいひゃんの歯磨きはたしかに、きもひいいッ、けど……ッ、んあッ」
暦「けど?」
火憐「てあひ、ひばってまで……ッ、やることひゃ」
暦「そうかー余裕かーじゃあもうちょっと強くしても大丈夫だよなー火憐ちゃんなら」
ジャコジャコジャコ
火憐「ひッ!?ちょ、まっへ……んんぁああ!?」
シャカシャカシャカ
暦「ほらほらどうした火憐ちゃん?さっきよりちょっと強くしただけ、しかもまだ一番鈍感な奥歯だぜ?」
火憐「ほんなことッ……いっひゃっへぇ、はぁあん!」
暦(そう、普通なら不快に感じる強さでブラッシングしてもそれが快感に変わってしまう、従来の泡と比べて約3分の1のきめ細やかさのマイクロホップだからこそだ)
暦「ほら、次は前歯行くぞ。唇の裏まで丁寧に磨いてやる」
火憐「ほ、ほこぉ!うわくひびるのうらぁ!ら、らめぇえぇッ!」
暦「そうかそうか、僕も飛ばしすぎたかな。じゃあ今度はこっちな」
火憐「うぅ……えあぁ!?あ、あひゃああ!?」
暦「舌の裏、どうだ?気持ちいいか?」
火憐「う、うんッ!きもひッいいッ、ぃひぃい!ひひゃぁ!ひひゃのうらきもひよしゅぎひゅうぅう!」
暦「ノッてきたな火憐ちゃん、一回舌の裏でイッとくか」
シャコシャコシャコシャコシャコ
火憐「んひぃッ!らめらめ!ッほんほにひゃめぇ!にゃにかくゅうッ!にゃにかきひゃうぅううッッ!!」
暦「ほら火憐ちゃん!我慢するなって!ほらっ!」
火憐「くひゅううううんんんんッーーーーーっんッはぁあああん!」
ビクビクンッ
暦「ふう、まぁまぁ頑張ったほうだぜ火憐ちゃん。すごいじゃないか」
火憐「え……えぁ……ッ、あはぁ……」
暦「あーあー涎垂らしながら白目剥いちゃって」
火憐「に、にいひゃん……」
暦「んー?」
火憐「あにょね、ひゅごく……んッ、キモひよかったよ……」
暦「……ッ、そうかよ!クソッ!」
火憐「ひぇ?に、にいひゃん?なにを、ッんむグゥ!?」
火憐「や、いやぁ!にいひゃん!?にゃんで……ッ、い、いまぁ、びんかんだかひゃぁッ、そんにゃにつよくぅんあぁああ!?」
暦「くそッ!くっそッ!!なんで……お前が……僕の妹なんだよッ!」
火憐「ひぇ……?」
暦「もし火憐ちゃんが……僕の妹じゃなかったらッ!……いや、妹だからこそ!!」
火憐「にいひゃん……」
暦「……わ、わるい火憐ちゃん、僕どうにかしてた。ちょっと頭冷やしてくるわ」
火憐「……」
火憐「……いいよ」
火憐「だから……ね、にいちゃんなら、その……いいかなって」
暦「いいって、一体なにが……」
火憐「だから!にいちゃんなら、特別にこれからずーっと私の歯……磨かせてあげても、いい……かなって」
暦「そ、それって!」
火憐「もう!一応わたしだって女の子なんだから!女の子の口からいわせんな!恥ずかしいから早くコレ外して!」
暦「あ、あぁ!悪い」
カチャカチャ
暦「違うんだ火憐ちゃんこれはつまり相手が火憐ちゃんだからであって
戦場ヶ原とか羽川とか千石とかまぁ神原は頼んだら喜んでやってくれそうではあるが
つまりは本当に愛している人にしかしない僕なりの愛情表現であって相手が
リアル妹だからって逃げられないようしようだとか決してそういうつもりでh」
火憐「じゃあ罰として!」
暦「ば、罰としまして……?」
火憐「ギュってした後、続き……して?」
暦「ぐッ……うぉおおおおおおおおおッッッ!!!」
ギュー
火憐「や、にいちゃん、恥ずかしい……それにちょっと痛いよ」
暦「背なんて僕より高いくせになんでこんなに細いんだよ!柔らかいんだよおぉ!」
火憐「にいちゃんそれより!はやく……つづき、もっと気持ちよくなりたいよ」
暦「あぁ!気持よくしてやるよ!ほら口開けて!残りのアクアフレッシュ エクストリーム クリーン全部使うから覚悟しろよ!?」
暦「あぁわかってる、全力で火憐ちゃんに気持ちよくなてもらう」
火憐「うん、にいちゃん……あーん」
暦「いくぞ」
火憐「んあ、ん……えひゃ!?い、いきなひ、ひひゃ!?」
暦「そうさ、最初から舌を責めさせてもらうぜ火憐ちゃん!しかもいきなり根本のほうだ!」
火憐「うぐぅ、う、ぶへぇ……ウェ、ゲホッゲホ!」
暦「いい感じにエズイてるじゃないか火憐ちゃん、でも吐くまでは責めないぜ」
火憐「ウゲ、ゲホッ……ウエェ!」
暦「嘔吐一歩手前をギリギリ維持される、最初は不快でもだんだん……」
火憐「げぇ、エァ、ウ、うぅ……にいひゃん、やめ、ホントに吐きそ、ウゲェ!」
火憐「はぁ!?なに馬鹿なこと、ッウエェ、言って……ガ、ガハッ」
暦「くっそ!チクショウ!可愛いなぁマジで!羽川より可愛いんじゃないのか!?
戦場ヶ原なんて全く問題にならねーよ火憐ちゃん!!オラ、出しちまえよ!ほら!!」
火憐「あぁ……らめぇ!ホンほにッ、でひゃう、ゲェ、で、でひゃうううううえぇええ!!」
暦「おっとあぶねぇ!」
火憐「う、ゲホッゲホッ!う、うぅ……」
暦「火憐ちゃん、大丈夫か?」
火憐「この……バカアニキ!!ホントに出そうだったんだから!本当に……う、うえぇええ」
暦「ちょ、ごめんなさい。泣かないでください、何でも言うこと聞くからマジで」
火憐「ヒッ……うぅ、じゃじゃあ今度からはちゃんと普通に磨くこと!」
暦「はい」
火憐「アクアフレッシュ エクストリーム クリーンを使うこと!」
暦「え……はい」
火憐「それと、あともう一つ……」
暦「え、ちょっと今テレビ見てるんだけど、これが終わってからでm」
火憐「うわ……今すっごい吐きそう……」
暦「じゃあ月火ちゃん、僕、火憐が呼んでるみたいだから上行くわ。あ、出来たら録画しといてほしいなーなんて」
火憐「にいちゃん!吐くよ!?」
暦「ハイハイ」
月火「……」
月火「……うん?」
火憐「文句いわないの!自分でするの怖いんだもん。月火ちゃんに頼むのはもっと怖いし……」
暦「あーハイハイ、で耳かき買ってきたんだろ?ほら、膝枕してやっからコッチ来い」
火憐「えへへー、今回も月火ちゃん愛用の耳かきアイテムなんだぜー」
暦「へーそうなのかよ、まぁ歯磨きじゃないからアクアフレッシュ エクストリーム クリーンみたいなことには……、こ、これはッ!」
火憐「そう!『選ばれる品質の良さ』、厳選された天然コットンを100%使用した、ソフトでほつれにくい綿球は、抗菌コートによりバクテリアの繁殖をシャットアウト、軸は、耳や鼻にもやさしい、しっかりとした使用感の天然パルプを採用……!」
暦「完全国産製で、品質の良さから長年にわたって愛用され続けている……!」
暦・火憐「ジョンソン・エンド・ジョンソン ジョンソン コットン綿棒(200本入)!!!」
以上、ステマ終了
Entry ⇒ 2012.03.12 | Category ⇒ 化物語SS | Comments (1) | Trackbacks (0)
阿良々木「戦場ヶ原をフッてみる」
http://hayabusa.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1330092418/
戦場ヶ原「あら阿良々木君、何をふざけたことを言ってやがるのかしら」
阿良々木「すまない戦場ヶ原」
戦場ヶ原「謝らないで。ところで何を言ったの」
阿良々木「僕と別れてくれないか」
戦場ヶ原「そう、細胞分裂したいのね。わかったは、チェンソーでいいかしら」
阿良々木「それは僕が真っ二つに分かれるってことだろうが!というかチェンソーがあるのか!?」
戦場ヶ原「コンビニに売っているわよ、知らないの」
阿良々木「少なくとも僕が行くようなコンビニにはない!」
みたいな感じでのらりくらいと別れ話の話題を反らそうと必死になるガハラさんをお願いします
阿良々木「戦場ヶ原、僕はお前のそういうところにもう付いていけないんだ」
戦場ヶ原「どういうところかはっきりと言いなさい。そういうところ、阿良々木君の悪いところよ」
阿良々木「ツン過ぎてデレが少ないところだよ!」
戦場ヶ原「大好きよ阿良々木君」
阿良々木「いきなりデレた!?」
戦場ヶ原「てへり、どう?」
阿良々木「かわいくないっ!いきなり頭をこつんとしてベロを出したところで無表情なお前ではかわいくないっ!」
戦場ヶ原「あら失礼ね。こんなに尽くす彼女は他にいないわ、そうこの宇宙のどこにも」
阿良々木「規模がでかい!!」
戦場ヶ原「私のどこが悪いのかしら」
阿良々木「さっき言っただろ。僕はそう、もっと普通な恋人が欲しいんだ」
戦場ヶ原「普通とは何かしら。阿良々木君、あなたはもしかして自分の思う、考える全てが普通だとでも思っているの」
阿良々木「別にそうじゃない。でもな、眼球に鉛筆の先を突き立てられる彼氏の身にもなってみろ」
戦場ヶ原「不満かしら」
阿良々木「不満しかねぇよ」
戦場ヶ原「もっとハードなプレーがいいのね」
阿良々木「そうじゃない!!もっとソフトにしろ、むしろ優しくしろっ!!」
戦場ヶ原「それよりも阿良々木君、わたしはうまいぼぉが食べたい気分」
阿良々木「露骨に話題を変えてきた!」
戦場ヶ原「私が好きなのは、お好み焼き味よ。知ってたかしら」
阿良々木「知らない!というかうまいぼぉの話題なんてした覚えがないんだが」
戦場ヶ原「そんな、うそ、知らないなんて……」
阿良々木「そこまでショックを受けることか?」
戦場ヶ原「いいえ、別にどうでもいいわ……でも、一番好きなのは阿良々木君よ」
阿良々木「キュンとこない!!無理やり過ぎる言葉運びで胸にキュンとこない!!」
戦場ヶ原「ねぇ、そんなことより」
阿良々木「そんなこともどんなこともない。戦場ヶ原、俺はお前とはいっしょに居られないんだ」
化物語、偽者語のアニメしか知らない、という言い訳を先にさせてくれ
戦場ヶ原「どうして、なぜ。本当に私には理解できないの」
阿良々木「なぁ戦場ヶ原。お前は本当に心当たりがないのか」
戦場ヶ原「ないわ」
阿良々木「即答かよっ!!」
戦場ヶ原「強いて言うなら……大丈夫よ阿良々木君。確かにあなたと比較すると、釣り合いが取れないのかもしれないけれど」
阿良々木「僕の容姿のことを言ってるんだな!?そうなんだな!?」
戦場ヶ原「体重の話しよ」
阿良々木「体重で釣り合う恋人ってどうなんだ!?」
戦場ヶ原「……阿良々木君」
阿良々木「なんだよ」
戦場ヶ原「今夜は帰さないわよ」
阿良々木「かっこいいこと言った!?」
戦場ヶ原「ふふん」
阿良々木「……戦場ヶ原、どうすれば僕の話を聞いてくれるんだ?」
戦場ヶ原「そうね。キス、しましょう阿良々木君」
阿良々木「お、おい戦場ヶ原……いきなりそんな寄ってくるな……」
戦場ヶ原「どうしてかしら。私たちは恋人よ、キスくらいなら私にだってできるわ」
阿良々木「とりあえず落ち着け!」
戦場ヶ原「……」
戦場ヶ原「仕方ないわ。今だけは言うことを聞いてあげる、感謝なさい阿良々木君」
阿良々木「あーありがとう戦場ヶ原っ!」
戦場ヶ原「なによその態度。割と本気で傷つくのだけれども」
阿良々木「すまん。確かに少し悪かった」
戦場ヶ原「じゃあもっと私を大切にしなさい」
阿良々木「はい、そうしま……じゃない!!」
戦場ヶ原「……ちっ」
阿良々木「いま舌打ちしたのか!?戦場ヶ原、恐ろしい子!!」
阿良々木「とにかく、別れないか僕ら」
戦場ヶ原「いやよ」
阿良々木「どうしてなんだ。自分で言うのもなんだが、僕みたいなさえない男は他にたくさん――」
戦場ヶ原「あなたはばかだったわね。阿良々木君ほどの男の子なんてそう居ないわ」
阿良々木「吸血鬼属性のことを言っているのか」
戦場ヶ原「鈍感もここまでくると凶器かしら。鈍器で殺害できるレベルね」
阿良々木「僕の鈍感さで人を殺してしまうのか!?」
戦場ヶ原「少なくとも」
阿良々木「否定しろよ!!」
阿良々木「そう、そこなんだ戦場ヶ原」
戦場ヶ原「そことはどこを指して言っているの。もしかして、いやだわ、厭らしい……」
阿良々木「やめて、そんなゴミを見るような目で机の上から見下さないで!!」
戦場ヶ原「もっと見下してあげる」
阿良々木「天井の柱にまで登るくらいか!?というか落ちたら危ない!!」
戦場ヶ原「心配してくれているのね、嬉しいわ」
阿良々木「誰だって心配する、降りてくるんだ戦場ヶ原」
戦場ヶ原「優しく受けてとめて」
阿良々木「飛び降りる予告をするな!」
阿良々木「とにかくだ戦場ヶ原。その僕を罵倒する数々の暴言が耐えられなくなってきたんだ」
戦場ヶ原「…………」
阿良々木「だから、別れよう。きっと僕らは上手くいかない」
戦場ヶ原「あら、目にゴミが入ったかしら。目薬を差してくるわ」
阿良々木「ああ、それくらいなら」
戦場ヶ原「いやよ、別れたくないわ」ウルウル
阿良々木「だから露骨すぎるぞ戦場ヶ原!?」
戦場ヶ原「女の涙は武器なのよ、知らなかったのね」
阿良々木「偽者の武器なんて通用するか」
戦場ヶ原「…ええ、偽者よ。でも阿良々木君にならもしかするとと思って」
阿良々木「その自信はどこから来るんだ!?」
阿良々木「別れよう、戦場ヶ原」
戦場ヶ原「これで5度目の別れ話です」
阿良々木「どこかの帰国子弟がボーカルのバンドグループの数字ばかりのタイトルの歌詞の一部を引用したような言い方をするな」
戦場ヶ原「私の答えは、いやよ」
阿良々木「……どうすれば別れてくれるんだ」
戦場ヶ原「阿良々木君と今別れてしまうと、きっと他の女の子達が黙っていないと思うの」
阿良々木「まさか。僕はモテない非実在的青少年だぞ」
戦場ヶ原「その鈍感さ、何度も言うけれど人を殺すわよ。少なくとも私が死にそう」
戦場ヶ原「逆に問いかけるわ。どうすれば別れないで済むのかしら」
阿良々木「残念ながらその選択枝はどこにもない」
戦場ヶ原「待っていればバッドエンドを回避できるっていう」
阿良々木「そんな都合のいい展開はない」
戦場ヶ原「ご都合主義って知っているかしら阿良々木君」
阿良々木「真に残念だがこれは現実だ。ジャプの週刊誌の主人公のような展開は用意されていない」
戦場ヶ原「なら私は私なりの方法で阿良々木君を引き止めるしかないのね」
阿良々木「お前はどうしてそこまで意固地になっているんだ」
戦場ヶ原「あなたが好きだから」
阿良々木「……」
戦場ヶ原「キュンとしたかしら」
阿良々木「認めたくないが、認めるしかない……」
戦場ヶ原「そう」
阿良々木「しかしだ、これはあくまでも数字にすると1キュンだ。今までの数え切れないツンに比べると些細なものでしかない」
戦場ヶ原「でも阿良々木君、考えてもみて欲しいの。私と別れるということはこのキュンを味わうことができなくなってしまうのよ」
阿良々木「キュンを頂く前にお前の暴言に僕が潰されてしまいそうだ」
戦場ヶ原「大丈夫、修理なら工作なら得意よ」
阿良々木「そういう問題じゃねぇ!というか僕の心はもっと繊細だ!」
戦場ヶ原「何を言っているのかしら、あなたの肉体の話をしているのよ」
阿良々木「暴言だけで潰れる僕の肉体!工作程度で治されてしまう僕の肉体ってなんなんだ!!」
戦場ヶ原「大丈夫、修理なら工作なら得意よ」
↓
戦場ヶ原「大丈夫、工作なら得意よ」
戦場ヶ原「……えと」
阿良々木「そろそろ僕は帰りたいのだが」
戦場ヶ原「何を言っているの阿良々木君。まだ話しは終わっていないのよ」
阿良々木「二人の関係はもう終わりそうだけどな」
戦場ヶ原「お願い、待って、もう少しだけでも話しをしましょう」
阿良々木「……」
戦場ヶ原「お願い……します、阿良々木君」
阿良々木「お前のそんな顔、初めて見た」
戦場ヶ原「それもそうよ。なんだか、今行かせてしまうと、もう元の関係には戻れない気がするのよ」
阿良々木「……わかったよ戦場ヶ原。でも、家に電話くらいはさせてくれ。もう夜中に差し掛かる時間帯だ」
戦場ヶ原「わかったわ」
阿良々木「電話をしてきた。火憐ちゃんがすごく怒ってた」
戦場ヶ原「……どうかしら」
阿良々木「っておい戦場ヶ原!なんでお前下着姿になってんだ!」
戦場ヶ原「腹を割って話しましょう阿良々木君」
阿良々木「だからって腹を見せる必要はない!風邪を引かれたら困るから、早く服を着てくれ!」
戦場ヶ原「本当にそれでいいのかしら。女の子の下着姿なんてそう易々と見られるものでもないと思うのだけど」
阿良々木「……服を着るんだ戦場ヶ原。それだとマジメな話しができないだろ」
戦場ヶ原「わかったわ阿良々木君。だからそう怒らないで欲しいの」
阿良々木「ああ。ってどうしてパジャマなんだ!?」
戦場ヶ原「もう布団も敷いてあるわ」
阿良々木「既成事実を作ろうとしている!」
戦場ヶ原「ねぇ阿良々木君、今日はどんな日だったかしら」
阿良々木「お昼過ぎに待ち合わせして、買い物行って」
戦場ヶ原「あまり面白くなかった映画を見て、晩御飯をいっしょに食べたわ」
阿良々木「普通のデートだな、客観的には」
戦場ヶ原「阿良々木君とのデート、すごく楽しかったわ」
阿良々木「その間、遅刻もしていないのに遅刻扱いにされ、買い物では我侭を言われ、ポップコーンは思わせぶりなあーんだけだった」
戦場ヶ原「え」
阿良々木「晩御飯なんて、僕が作ったのに美味しいとも言ってくれなかった」
戦場ヶ原「それは全部照れていたのよ、理解して」
阿良々木「いま素直になられても信用できないぞ戦場ヶ原」
戦場ヶ原「いま素直にならないと、阿良々木君を手放してしまいそうだからよ」
阿良々木「もう僕はお前がわからないんだ。だから僕はお前といっしょに居ても」
戦場ヶ原「それ以上言うと、ホッチキスで口内を刺すことになるのだけど」
阿良々木「はは、そういえば最初もそんな出会いだった気がする」
戦場ヶ原「ふふふ、ええ、そうだったわ」
阿良々木「……」
戦場ヶ原「……」
阿良々木「なぁ」
戦場ヶ原「いや、別れるなんて絶対にいや。もしそうなると、私はあなたを殺すしかない」
阿良々木「神原でも殺し切れない僕をどうやって殺すんだ」
戦場ヶ原「一生かけてでも殺してみせるわ」
阿良々木「まるでストーカーみたいだな」
戦場ヶ原「いいえ、スナイパーよ」
阿良々木「命の危機がより高まった!」
阿良々木「……」
戦場ヶ原「ココアでも入れましょうか」
阿良々木「いいや結構だ」
戦場ヶ原「そう……」
阿良々木「……せんじょう」
戦場ヶ原「じゃあトランプをしましょう阿良々木君」
阿良々木「そんな空気じゃないと僕は思う」
戦場ヶ原「……そう」
阿良々木「いつまで話題を反らすつもりなんだ戦場ヶ原」
戦場ヶ原「いつになく強気ね」
阿良々木「お前を相手にしているんだからな。これくらい強気にならないと話しができない」
戦場ヶ原「買い被られたものね。私だったその辺りにいる普通の女の子なのよ」
戦場ヶ原「今だって必死にあなたを引き止める術を考えているの」
阿良々木「……」
戦場ヶ原「素直じゃない、ひねくれた私がだめかしら。それとも、ツンばかりで暴言が多い私がだめなのかしら」
阿良々木「それは」
戦場ヶ原「両方とも、よね。いいえ、もしかすると、もっと何かがあるのかもしれない」
阿良々木「……」
戦場ヶ原「我侭なところ? めんどくさいメンヘラ女なところ? ねぇ、お願い、教えて……下さい……」
阿良々木「いろいろと理由はあるんだが、最大の理由はお前がもう信じられないんだ」
戦場ヶ原「阿良々木君に嘘を言ったことなんてないわ」
阿良々木「そうかもしれない。いや実際にはお前の言う通りだ。僕はお前に嘘をつかれたことがない。でも、だからこそ、罵倒や暴言も事実と受け止めたとき、お前の愛が信じられない」
戦場ヶ原「そんな」
阿良々木「何でも言おう、改めて言わせてもらう。別れよう、戦場ヶ原」
戦場ヶ原「……目薬を差してきます」
阿良々木「また目にゴミが入ったのか」
戦場ヶ原「……」
阿良々木「おい、少し目薬やりすぎじゃないのか」
戦場ヶ原「黙りなさい。あまりに大きなゴミが入ってしまったせいで」
阿良々木「……戦場ヶ原?」
戦場ヶ原「だめ、ゴミが取れないの。目薬が足りないなんて初めての経験ね」
阿良々木「もう止めろ。逆に目に悪いっ!」
戦場ヶ原「なっ!? 離しなさい阿良々木君っ!」
阿良々木「もしかして、泣いているのか?」
戦場ヶ原「……目にゴミが入っただけ、何度も言わせないで」
阿良々木「だが」
戦場ヶ原「離しなさいっ! もう、これ以上惨めな思いをさせないで、私を見ないで」
阿良々木「……」
戦場ヶ原「お願い阿良々木君、本当にお願い。私と別れるなんて言わないで」
阿良々木「……無理だ。お前の涙を見ても、それが本当なのかどうかさえ解らない」
戦場ヶ原「私が解らないというなら、それなら少しづつ私を教えてあげるから」
阿良々木「……」
戦場ヶ原「私の好きな食べ物も、ブランドも、本も、趣味も、なにもかも教えるから。好みが合わないというならあなたに合わせる。あなたが好むものがあるなら、願うものがあるなら精一杯叶えてみせる手に入れてみせる」
阿良々木「……僕が欲しいのはそういうものじゃない」
戦場ヶ原「……初めて、今までで初めて阿良々木君が解らなくなってきた」
戦場ヶ原「……阿良々木君」
阿良々木「どうした戦場ヶ原、僕の手を掴んでどうするつもりなんだ」
戦場ヶ原「……」
阿良々木「戦場ヶ原! どうして胸に持っていく必要がある!」
戦場ヶ原「……ねぇ阿良々木君、私の胸、鼓動が激しいのわかるかしら」
阿良々木「……」
戦場ヶ原「今日は、最初のうちは大好きな阿良々木君とのデートで胸が高鳴っていたわ。でも今は…、あなたと別れるのが怖くてこんな風になってしまったの」
阿良々木「戦場ヶ原……」
戦場ヶ原「お願い阿良々木君、もう一度だけチャンスを下さい。あなたが望むものを与えられるように努力する……」
阿良々木「……」
戦場ヶ原「……阿良々木君」
>>77までの多数決で決めるんでオナシャス
阿良々木「別れよう」
戦場ヶ原「……」
阿良々木「もう、戦場ヶ原も解っているだろ。もとには戻れない」
戦場ヶ原「……」
阿良々木「今までありがとうな、こんな冴えない奴を好きになってくれて」
戦場ヶ原「……」
阿良々木「……離してくれないだろうか」
戦場ヶ原「……や、よ」
阿良々木「……戦場ヶ原?」
戦場ヶ原「いや、いやに決まってるわ……うぅっ……」
阿良々木「で、でもだな」
戦場ヶ原「だってこんなの……私が一方的に悪いみたいで……ひっく……でも、じ、実際には……私が……」
阿良々木「ごめんな」
戦場ヶ原「謝らないで……うぅ、ひっく……阿良々木君は悪くない……から……」
阿良々木「……もう、お互い辛いだけだと思うんだよ」
戦場ヶ原「いやぁっ……おねがいです、おねがいします……おねがいだからぁ……ひっ、うぅぅ……あぁ」」
阿良々木「……」
戦場ヶ原「好きなの、あなたが好きで、あなたに会えるだけで毎日幸せで、それだけでいいの……」
阿良々木「……もうやめよう戦場ヶ原」
戦場ヶ原「―――っ!!!」
阿良々木「さよならだよ」
戦場ヶ原「いやっ、おねがい、行かないで!」
阿良々木「でも安心しろ、当分は誰かと付き合ったりはしないからさ」
戦場ヶ原「そうじゃないっ!! わたしが、わたしが阿良々木君の隣にいられないなら、それなら……」
阿良々木「……ああ、そうだよな」
戦場ヶ原「……あなたを殺すわ」
阿良々木「はは、まさかカッターナイフで……元カノに腹を……引き裂かれるなんてな…………」
戦場ヶ原「……」
阿良々木「……」
戦場ヶ原「……うぅ、あああ……ぁぁ、ひっく……うぅうぅう」
阿良々木「ごめんな、この程度じゃ死なないんだよ僕は」
戦場ヶ原「……いいえ、死んだわ……わたしが好きだった阿良々木暦は死んだ、死んでしまったから……」
阿良々木「……そうか」
戦場ヶ原「もう帰って……ゾンビは怖いわ……」
阿良々木「ああ、帰るよ。戦場ヶ原」
戦場ヶ原「……さようなら」
阿良々木「……さようなら」
happy end
つき合う:4
別れる:3でつき合うだと思ったが
ややこいんだよ、おもっくそ勘違いしてしまったじゃねぇかよ、>>104みて気付いてマジで焦ったじゃねぇかよ……
阿良々木「……もうやめよう戦場ヶ原」
戦場ヶ原「―――っ!!!」
阿良々木「さよならだよ」
戦場ヶ原「いやっ、おねがい、行かないで!」
阿良々木「でも安心しろ、当分は誰かと付き合ったりはしないからさ」
戦場ヶ原「そうじゃないっ!! わたしが、わたしが阿良々木君の隣にいられないなら、それなら……」
阿良々木「……ああ、そうだよな」
戦場ヶ原「……あなたを殺すわ」
阿良々木「…………」
戦場ヶ原「……」
阿良々木「……」
戦場ヶ原「……」
阿良々木「……なぁ、僕はてっきり刺されるかと思っていたんだが」
戦場ヶ原「ふふ、そんなこと……できるはずないわ……ばか」
阿良々木「どうしてなんだ戦場ヶ原」
戦場ヶ原「いい加減に理解しなさい。私は阿良々木君が好き、愛しているの、傷付けたくなんてないの」
阿良々木「戦場ヶ原?」
戦場ヶ原「きっとこのカッターナイフで刺してしまうと、阿良々木君の心まで傷つけてしまいそうだと思ったのよ」
阿良々木「……」
戦場ヶ原「阿良々木君はお人よしで優しいから、きっと私の全部を受け入れてくれるから。このカッターナイフだってきっと真っ直ぐ受け入れてしまうわ」
阿良々木「……戦場ヶ原」
戦場ヶ原「そうして私の失恋をまっすぐ受け入れてしまって、自分ばっかり背負い込んで……」
阿良々木「それこそ僕を買いかぶり過ぎだ」
戦場ヶ原「……ねぇ阿良々木君、どうして私と別れたいって思ったのかしら」
阿良々木「だからそれは何度も言っているだろう。お前の暴言とか」
戦場ヶ原「嘘はよくないわ阿良々木君」
戦場ヶ原「あなたはわたしを甘く見ているのね。私は、阿良々木ストーカーなのよ、あなたの知らないことなんて何一つないわ」
阿良々木「それは違うな戦場ヶ原。僕は素直な気持ちでお前と別れようと思ったんだ」
戦場ヶ原「……いいえ違うわ。そんなの、阿良々木君が言うような言葉ではないもの」
阿良々木「……」
戦場ヶ原「何が怖いのかしら。本音を言う事?それとも、自分のこと?」
阿良々木「だからっ!」
戦場ヶ原「正直に話してちょうだい」
阿良々木「それは命令なのか?」
戦場ヶ原「お願いよ。私の命を懸けてもいい」
阿良々木「……」
阿良々木「どうしてそんなことに命を懸けられるんだお前は」
戦場ヶ原「それはね、あなたを誰よりも、何よりも信じているからよ」
阿良々木「……」
戦場ヶ原「別に阿良々木君は気にしなくていいわ。遺書には彼氏にふられて自殺しましたって書くもの」
阿良々木「はは。それだと僕に対する世間の目が厳しくなってしまうな」
戦場ヶ原「そうなりたくなかったら、正直に理由を話しなさい」
阿良々木「……わかったよ、言うよ」
阿良々木「実は僕はすごく怖がりだ」
戦場ヶ原「そうなの」
阿良々木「そして自分のことばかり考えている最低な奴だ」
戦場ヶ原「私ほどではないけど?」
阿良々木「あはは。あとさ、僕って吸血鬼属性だろ」
戦場ヶ原「ええそうね」
阿良々木「……きっと、あと数百年以上は生きるだろう」
戦場ヶ原「……」
阿良々木「そうするとさ、きっと将来、周りには誰もいないんだよ」
戦場ヶ原「……ええ」
阿良々木「もちろんお前もだ。羽川も神原も千石も、八九寺だってどうなるかわからない」
戦場ヶ原「そうね」
阿良々木「妹たちや、僕の両親もいない」
戦場ヶ原「ええ」
阿良々木「そして何よりも苦痛なのは、お前がいなくなることなんだ」
戦場ヶ原「……」
阿良々木「これ以上さ、お前を好きなると……別れが怖いんだよ」
戦場ヶ原「……阿良々木君」
阿良々木「きっと、生きている限りはお前を忘れられない。記憶だって色あせさせない自信がある。今までだって、お前との思い出は大事にしてある」
戦場ヶ原「やばい、かっこよすぎ……」
阿良々木「だからって、僕は将来自殺をする訳にもいかない。僕一人の命じゃないから」
戦場ヶ原「……」
阿良々木「だから、これ以上お前を好きになる前に、別れてしまえばって……はは、本当に僕って最低な奴だ、臆病者だな」
戦場ヶ原「そうね、その通りだわ」
阿良々木「ああ、そうだ……」
阿良々木「これでわかっただろ。僕がお前と別れたい理由をさ」
戦場ヶ原「わかったわ」
阿良々木「じゃあ、これでさよならだ」
戦場ヶ原「あなたは何を言っているのかしら?」
阿良々木「……は?」
戦場ヶ原「そんなあなたの身勝手な理由で別れるとでも思っているのかしら。このど低脳は本当にどうしようもないわ。あなた本当に人間?」
阿良々木「いや、吸血鬼だ。というか突然元気になったな戦場ヶ原……」
戦場ヶ原「元気じゃないわ。というかこれは照れ隠し」
阿良々木「はぁ?」
戦場ヶ原「そんな、数百年先の未来まで続く愛の告白を受けて喜ばない女なんていないわ。少なくとも私は嬉しいと思うけれど」
阿良々木「……お前って本当に変わっているよな」
戦場ヶ原「それに、これで二度目よ。あなたの前で泣いてしまったの」
阿良々木「確かに」
戦場ヶ原「一度目はまぁいいとしましょう。でも、今回のは許せない。忘れなさい、私が泣いてしまったこと」
阿良々木「なんでだよ」
戦場ヶ原「……私は普通の人間だもの、あと70年くらいすれば死ぬかもしれない」
阿良々木「……」
戦場ヶ原「だから、私の残りの人生において、あなたの前だけでは笑顔であり続けるわ」
阿良々木「どうしてだよ」
戦場ヶ原「そうすれば、あなたは私と過ごした幸せな記憶を胸に抱いて生きていけるじゃない」
阿良々木「……戦場ヶ原」
戦場ヶ原「悔しいかしら。一度は泣かしたはずの女が、常に笑顔でしか思い出せなくなってしまうなんて」
阿良々木「……ああ、悔しいさ!」
戦場ヶ原「だから阿良々木君、わたしと今別れるなんて言わないで頂戴」
阿良々木「戦場ヶ原、お前」
戦場ヶ原「私が死んでしまった先でも、私を思い出す度に幸せな気持ちになれるように呪いをかける必要があるんだもの」
阿良々木「……そうか、俺は呪われる必要があるんだな」
戦場ヶ原「ええそうよ、その通りよ。だから、これからもずっと宜しくお願いするわ」
阿良々木「そこまで言われてしまったら、僕も言い返すことができなくなるな。ああ、よろしく。死が二人を分かつそのときまで」
―――――
――――――――・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
~~~数百年後~~~
忍「カカ、お前様、どうしたんじゃ? 空ばかり見上げてにやにやしおって」
暦「ああ、昔のことを思い出していたんだよ」
fin
いままで読んでくれてサンクス!
西尾のSSは初めて書いたけど楽しかった><
ガハラさんが一番好きです><
ガハラさんの色んな一面が見れて可愛くて仕方なかったよ
また書いてね
乙
Entry ⇒ 2012.03.01 | Category ⇒ 化物語SS | Comments (0) | Trackbacks (0)
戦場ヶ原「安価で暇つぶしよ」
http://hayabusa.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1329626007/
戦場ヶ原「まずは>>5をしましょう」
戦場ヶ原「しかし一体だれに…?」
神原「戦場ヶ原先輩はいらっしゃるだろうか!」バァン!
戦場ヶ原「神原!」
神原「無論!私は>>10しにきたのだ!」
戦場ヶ原「くっ…私の初めてが女性というのは中々トラウマよ?」
神原「なぁに!良い思いでになります!」
戦場ヶ原「くっ…」ジリ…
どうする?>>17
神原「こっこれは!戦場ヶ原先輩の服で私の身体を!」
戦場ヶ原「悪いわね、神原。縛らせて貰ったわ」
神原「しっしかし…これはこれで戦場ヶ原先輩の服が私の肉体を包み…うぉぉぉ」バタバタ
戦場ヶ原「今のうちに>>23に行きましょう」
羽川「何でもは知らないわ、知ってる事だけ…この問題は…」
戦場ヶ原「お邪魔するわ!」バァン
阿良々木「せ、戦場ヶ原!何しに来たんだ!」
戦場ヶ原「>>32」
阿良々木「何事!」
羽川「落ち着いて!阿良々木君!鳴子ならここに有るから!」
阿良々木「お前も落ち着けぇぇ!」
戦場ヶ原「>>48」
阿良々木「なに名場面みたいに言ってんの!?お前…神原ですら引くよ!」
戦場ヶ原「阿良々木…私は3pがしたいわ、それに…羽川さん?あなたはどうなの?」
羽川「>>57」
羽川「この羽川翼が最も好きな事のひとつは、自分がエロいと思ってるやつに「NO」と断ってやる事よ」
戦場ヶ原「ふふっ…流石は羽川さんね…ならば…勝負っ!」
勝負方法>>63
戦場ヶ原「もうわかっているでしょう?あなたのスタンドを出しなさいな…」
スタンド羽川>>75
戦場ヶ原>>80
戦場ヶ原「あわびレクイエムッッ!」
┣¨┣¨┣¨┣¨ ┣¨┣¨ ┣¨┣¨……
羽川・戦場ヶ原「「いくわよ」」
羽川「オラオラオラオラオラ!」
戦場ヶ原「無駄無駄無駄無駄ァ!」
阿良々木「なにこれぇぇぇ!!」
戦場ヶ原「ぐふっ…矢の力を得ただけあるわね…」
羽川「まだ続けるのかしら…?」
阿良々木君はどうする?>>90
忍「誰がスタンドじゃ!」ドガッ
阿良々木「ぐはっ!」
忍「なんか騒がしいと思ったらなんじゃ?この有様は…」
阿良々木「たすけてくれ忍、これじゃ地球が一巡しちゃうぜ」
忍「天国にはいきたくないしのぉ…」
どうする?>>101
prrr
神原「神原駿河だ!好きなプレイは浣腸…」
阿良々木「今すぐ来い!」
神原「しかし…阿良々木先輩、私は今縛られ…」
阿良々木「戦場ヶ原が羽川と絡んでるぞ!」
神原「来たぞ!」バァン
阿良々木「はえーよ!」
神原「スタンドはもっていないし私が憑かれていたのはレイニーデビルだ」
阿良々木「ともかくあいつらを止めないと今度は玄関どころか家がなくなっちゃうぜ」
神原「しかし先輩…あれをどう止めるのだ…?」
>>115
天才だなお前
阿良々木「正気か!?お前…」
神原「いや…開発も出来て一石二鳥かと…」
阿良々木「僕はお前の変態性に尊敬すら覚えるよ…」
神原「では…逝くっ!」ダッ
ドガドガサァワタシノアナル…グァァ!メメタァ
阿良々木「か、神原ぅぅぅ!」
阿良々木「僕は七咲派だが…八九寺、僕の名前は阿良々木だ」
八九寺「失礼、かみました」
阿良々木「違う、わざとだ」
八九寺「マグガイア!」
阿良々木「スパイダーマン!?」
八九寺「いや、忘れたたリュックを取りに来たんですけど…なんですかこの週間少年ジャンプもビックリの惨事は」
阿良々木「いや、話すと長いんだが…」
八九寺「まぁ結局阿良々木さんが原因なら良い解決策がありますよ」
阿良々木「お!なんだ!」
八九寺「阿良々木かんが死ねばいいんじゃないですかね?」
阿良々木「僕がなにしたんだよ!」
阿良々木「オーケー…ラスト安価だ、収集つけてくれよ」
>>145
阿良々木「……そうか!」
無駄無駄無駄オラオラオラ時よ…セイッ
阿良々木「戦場ヶ原!」
戦場ヶ原「なにかしら?今いそがs
ズキュゥゥゥン
戦場ヶ原「ふむっ!」ちゅ
ちゅるちゅる…ちゅー
戦場ヶ原「な、なに?いきなり…」
阿良々木「戦場ヶ原…僕はお前を愛してる…だから、自分の身体は大事にしてくれ…」
戦場ヶ原「阿良々木…」
阿良々木「羽川、お前もだ…」
羽川「ちょっと大人気なかったね」えへへ
八九寺「それにしてもキスとは、思い切りましたね」
阿良々木「そりゃあいつを止めるには…」
八九寺「そうですねー……じゃあ私が消えそうになったりしても阿良々木さんはキスしてくれるんですかねー?」
阿良々木「え?お前今なんて…」
八九寺「冗談ですよ、冗談、お馴染みの八九寺ジョークです」
阿良々木「何ていったんだよー」
八九寺(私も…いつか消えちゃうんですかね)
八九寺(でも、だからこそこうして一日一日を大事にしていこう、っておもえるんでですよ、貴方に会ってから)
おわり
終わりは鬼に繋がるってことでひとつお願いしますwww
無事終わってよかった!
>>1乙!
Entry ⇒ 2012.02.28 | Category ⇒ 化物語SS | Comments (0) | Trackbacks (0)
阿良々木「岡崎、もう一度僕とバスケをしよう」
http://yutori7.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1260622826/
001
岡崎朋也との一連の出来事は、そういえば、未だに戦場ヶ原には話していない。
これは、戦場ヶ原と付き合う際に僕の方から提示した、
『怪異に纏わる話に関してお互い隠し事はしない』という条件を、
軽快とは正反対の心境で、爽快さも心によぎることすらなく、痛快なわけも当然のようにない、
我が事ながら本当にどろどろとした不愉快さを内包した気持ちで思いきりぶち破っているのだけれど、
しかしそこは、戦場ヶ原に慈悲や慈愛といった感情はおよそ皆無と知りつつもあえて言うならば、
どうか寛大な心で見逃して欲しかった。
というのも、僕にはあの一週間の出来事を果たしてどう話したものかよく分からないし、
そもそも出来うる限りあまり話したくないのもまた、事実なのだ。
はっきり言って、気持ちの良い話でもないし。
それにいかにあの戦場ヶ原と言えども、こればっかりは僕か、
あるいは神原辺りがなにか言わなければ気付かないと思う。
あの一週間の前後で、僕の身には――一切、なんの変化もなかったのだから。
心には、あるいは、あったのかもしれないけれど。
だって。
だってこの話は、
あの地獄の春休み――キスショット・アセロラオリオン・ハートアンダードの一件と同じで。
これは、岡崎朋也がただ失って。
そして阿良々木暦がなすすべもなく失っただけの。
そんな、およそ本筋に関係のない。
やっぱり誰一人として幸せにならない、そんな、失物の話だ。
002
僕が岡崎と知り合ったのは、本当に偶然で、
場所は町外れのストリートバスケットコートでのことであった。
数日先に控えた定期テストのための、
戦場ヶ原の家における勉強会――あえて言い換えるならば、
戦場ヶ原ひたぎの戦場ヶ原ひたぎによる戦場ヶ原ひたぎのための阿良々木暦をいたぶる会に向かう際、
僕はなんとも意気地のないことにわざわざ遠回りしていた。
ただでさえ戦場ヶ原は僕が勉強で行き詰まると、
ここぞとばかりにねちねちとまるで小姑の如くいじめてくるっていうのに、
ここ最近は、つい数日前の神原駿河の事件のおかげで、
僕相手のとき限定でそこはかとなく機嫌が悪いのだ。
神原とのことを黙っていたのが、僕の予想以上に、
戦場ヶ原にとってご立腹するのに充分で重大で重要な理由だったのだろう。
というわけで、わざわざ町をぐるりと一周するようにママチャリで走っていたところ、
ちょうど隣町との間にかけられた橋の上で、
ぼすぼすという小気味のいい音を聞き付けた僕は、
その音の出所を探してキョロキョロしたあと――その姿を見つけたのである。
橋の下にあるストリートバスケットコートで、一人ボールをつく、黒髪の男の姿。
ワイシャツに紺のズボン。クリーム色のブレザーが近くのフェンスに引っかかっていて、背格好からもどうやら学生のように見えた。
「一人でなにやってんだろ……」
ちょっとばかり人より遠目の利く僕は、なんとなく自転車を止めると、
橋にもたれかかって男がコートを走り回るのをぼんやりと眺めることにする。
戦場ヶ原の所に行くのが怖いから現実逃避しているわけでは、ない。
断じてない。ないってば。
ところでバスケと聞けば、もう僕の中ではすぐに、
それこそまるで条件反射とか鍵刺激みたいに神原駿河の名前が出てくるようになってしまったのだけれど、
それは神原のキャラクターが想像以上に強烈であったことに起因する。
まあそれはいいとして、しかしバスケの実力という点で、
神原は眼下の男との比較の対象にはなり得ないと、すぐに思い直した。
神原の超人的なバネとそれによるジャンプ力は、
確かに血の滲むような努力、
血を見るかもしれない恐怖、
そして血が流れかねない強迫観念から身についた彼女自身のものだけれど、
人間離れしていることには変わりない。
あれと比較しうる対象は、少なくともこんな田舎のストリートのバスケットコートにはいないに違いないだろう。
いるとしたら、それはきっと、まともじゃないモノだ。例えば――怪異とか。
そんなことを纏まりのない頭でぐちゃぐちゃと考えながらしばらく眼下のコート見ていると、
件のバスケ男の行動がなんだか妙であることに気付いた。
それは例えば重心の低さとか、
例えばくるりと回るときの足さばきとか、
例えば誰もいやしないのにかます細かいフェイントとか、
そういうあらゆる点から見ても男が素人ではないのは明らかで、
ゴール左からのレイアップは綺麗に決まるのに、
決して右からはシュートを打たないのである。
いや、正確には、それも違う。
打とうとは、するのだ。
とか考えているうちに、男はゴール右に走り込み、
ボールを掴み三歩で踏みきって、
一切の無駄がないフォームで飛び上がり――そのままボールを落っことす。
てん、てん、と転がるボールから一瞬遅れて着地した男は、
しばらくぼんやりと立ち尽くし、
やがてボールを拾い上げてドリブルを初め、
そしてまた右からのシュートの途中でやる気をなくしてしまったかのようにボールをとり落とすのである。
そんなことをバスケ男は、延々と繰り返していた。
だけどどうやら本人は至って真剣なようで、
だからその人影に気付いたのはバスケ男よりも、僕のほうが早かったと思う。
「………ん?」
声を漏らす。
橋の下にコテコテに改造されたバイクが何台か止まり、
露骨にガラの悪い、
赤とか金とかの髪の男たち数人ぞろぞろとバスケットコートに近付いていく。
男たちは、上半身はパーカーやらティーシャツやら、
それぞれ思い思いのファッションに身を包んでいるものの、
全員に共通する、チェーンのじゃらじゃらついた深緑の学生ズボンには見覚えがあった。
ここらじゃガラが悪いことで有名な工業高校の制服だ。
夏休みが明けると一年生の半分は学生を辞めていて、
辞めなかった半分のうち三分の二は休み中に最低一回は警察のお世話になり、
残りは同じく休み中に停学をくらって初日から登校することはできないという噂だ。
つまるところ件の工業高校は田舎の不良たちの収容所であり、
深緑のズボンはたまに家の前にかかっている『猛犬注意!』の札なのである。
で、そんな彼らにようやく気付いたバスケ男が、
ボールをつくのをやめた。
なにか話をしているようだが、いくら僕の耳でもよく聞こえない。
知り合いなのだろうかと思った、その瞬間――。
「あっ……ぶない!」
工業高校の男の一人が乱雑に振り回した拳が、
咄嗟に避けたバスケ男の前髪を掠める。
一瞬にして――空気が変わった。
あっという間にぐるりと取り囲まれたバスケ男は、
しかし少しも物怖じすることもなく男たちを睨み付ける。
それに怯んだのか、すぐには手を出すことはしない工業高校生たち。
だが、どうしたってこのままじゃ結果は見えているだろう。
……どうする。
考えるより先に――体が動いた。
僕はママチャリに飛び乗ると、一番近い階段を駆けおり、
運よく転ぶこともなく橋を下りおえ、
そのままママチャリを工業高校生たちの原付に突っ込むようにして止めると、
実にめでたくない円陣を作っている男たちに全速力で駆けよって、
その中心にいるバスケ男の腕を掴んで引っ張り――叫ぶ。
「こんなところにいたのか、えっと……そうだ、忍野っ!」
忍野、ごめん。
最悪な形で名前借りた。
「……あ?」
腕を掴まれたバスケ男は、こっちがびっくりするくらい鋭くて凄みのある目付きで、
ぎらりと僕を睨む。
ナイフのように切れ長の、どこか狼を思わせる瞳。
周りで呆気にとられている工業高校の猛犬なんかより、
よっぽど恐ろしいと思った。
「なんだ、てめえ」
「こいつの知り合いか」
「今ちょっとオレたちが話してんだからさ、引っ込ンでろよ」
ごめんなさい、嘘つきました!やっぱりこいつらも怖えーよ!
するとそんな僕を見たバスケ男がため息をついて、声をかけてきた。
「悪い。ちょっと遊んでたんだ。行こうぜ」
「あ、あぁ。みんな待ってる」
「そういうわけで、あんたらと遊んでる暇はなくなった。じゃあな」
そして円陣から抜け出し、歩き出す。
「……おい」
「え?」
少しもいかないうちに、ぼそぼそと忍野(仮)が話しかけてきた。
「あいつら追いかけてくる。1、2の3で振り返らずに走るぞ」
「え、ちょ……」
「1、2の、3っ!」
反論する暇もなかったけれど、
忍野(仮)が飛び出すように走り出したのを見て、僕も駆ける。
すぐに後ろから罵詈雑言というのがこれほどまでにふさわしい声は、
他にないだろうという怒声と(舌を巻きすぎてなに言ってんのか一割も理解できなかった)、
続けて慌ただしい足音が鳴った。
「こっちだ! あいつらバイクだろ、抜け道を使う!」
物凄いハイペースで走っていく忍野(仮)を追いかけて、僕もただひたすらに足を動かした。
「岡崎。岡崎朋也だ」
ひどくぶっきらぼうな口調で、
まるで吐き捨てるようにして岡崎は名乗った。
僕と岡崎はそこら中を駆け回ってなんとか工業高校生たちから逃げ切ったあと、
適当なコンビニで飲み物を買って、並んでへたりこんでいた。
岡崎は、あれだけの動きをバスケットコートでしていたのだから、
スタミナはあるかと思いきや息も切れ切れで、
僕のほうはある事情から疲労はまったくと言っていいほどないのだけれど、
精神的な疲弊でとうぶん立ち上がりたくもない。
ちなみに件の工業高校生たちは、
「このコートは自分たちのテリトリーだから誰に許可を得て勝手に使ってるんだ」
とかいう、ピントのズレた何年前の不良漫画だと言いたくなるような文句をつけて岡崎に絡んできたらしい。
絶滅危惧種に認定してもいいくらい、テンプレート通りの不良である。
「歳は16、高1」
岡崎は続ける。
「……お前は?」
「阿良々木暦、17歳で高3」
僕も名乗ると、岡崎は意外そうな顔をしてみせた。
「お前、年上なのかよ」
「悪かったな、身長165センチで中2からまったく伸びてなくてっ!」
「なにも言ってないだろ……」
「ていうか岡崎、年下かよ! なんだよ、その身長、ルックス、目付きの悪さ! 禿げろ! 禿げちまえ!」
「ざっけんな、目付きは関係ねえだろ!」
「禿げも関係ねえよ!」
「阿良々木が言ったんだろっ!」
言い合って、揃って肩を落とした。疲れる。
ただ、 一つだけ分かったことがあった。
それは向こうも同じのようで、同時に口を開く。
「「お前、ツッコミだろ」」
ツッコミ役はボケがいなくちゃ成り立たない。
ボケとボケは同じ部屋に閉じ込めても、ボケ倒しというジャンルが成立するのだけれど、
ツッコミとツッコミは一緒にいると喧嘩になるだけなのである。
顔をあげて、お前ボケろよ、と目線で訴えてみる。
隣で岡崎も同じ目をしていた。ちょっと凹む……。
「けど阿良々木、悪いな。飲み物まで奢ってもらっちゃって」
「いや、それお前自分の金で買ってただろ」
「え、後で払ってやるって言ってたじゃん」
「言ってねえよ! なんでそこまで面倒見なくちゃいけねえんだ、
僕はお前の保護者かなにかか!」
「いや、財布」
「僕たち出会ってまだ1時間も経ってないよなっ!?」
出会ったばかりの年下に財布にされる高校3年生が、そこにはいた。
――ていうか、僕だった。
「なんだよ、阿良々木が奢ってくれるっていうから奮発してペットボトルにしたのに」
岡崎はそんなことを言いながら、ぐいっとスポーツドリンクを煽る。
「……僕、帰っていいかな」
「帰る前に財布置いてけな」
「やだよ! なんでだよ!」
「ワンコインでいいから!」
「え、まあ、それくらいなら……」
「500円玉な」
「ふざけんなっ!」
「じゃあ、いちまんえんだまでいいよ」
「僕はカービィじゃないんだからそんなもの持ってないし、
あるいはもし仮に持っていたとしても、
それは明らかな偽硬貨だから普通の店では使えないな!」
ちなみにいちまんえんだまというのは、
『星のカービィスーパーデラックス』というスーパーファミコンのゲームにおける一つのステージ、
洞窟大作戦に登場する25番目のお宝である。
水の中を、ゴルドーとかいうトゲトゲのお邪魔ブロックみたいなものを避けながら進んだ先にあるのだけれど、
水には流れがあって、
一度取り逃すとまた最初からゴルドー避けに挑戦しなくちゃいけない仕様になっている。
僕なんかゲームがそんなに上手いほうではないので、
手こずってそこで何度もカービィを死なせたものだ。
「まったく、岡崎。
知り合ったばかりのやつにこんなこと訊くのもなんだかひどく屈辱的なのだけれど、
お前、僕がそんな財布役に甘んじるようなやつに見えるのか?」
「似合ってるぞー」
「そんなの似合ってるなんて言われて嬉しいわけないだろ!?」
「大丈夫、おまえ超スマートで超イケメンで
超気前がよさそうで超信頼されてそうで
超使いやすくてわずかスプーン一杯で驚きの白さになるから」
「え、はは、そうかな。
岡崎、なかなか男を見る目があるよな」
僕の周りには毒を吐く人間が多いので、実はこうして誉められるのに弱い。
「あぁ。だから財布寄越せよ」
「嫌だって言ってんのが分かんないのか!」
「うるせえな! さっきから話が進まねえだろ、さっさと出せよ!!」
「くそう、なんで僕がキレられてるんだ……」
助けたのは僕なのに、理不尽極まりない。
「あとなんか誉めてるとき最後の方、白さがどうとか言ってたけれど、
あれ、洗剤のキャッチコピーだろ……」
スプーン一杯で驚きの白さに。
……アタックだっけ?
「阿良々木は潜在的に財布の才能があるとかそういうニュアンスをこめてさ」
「そのニュアンスは出来ればこめて欲しくなかったな! うまいこと言ったつもりか!」
「ははっ、潜在的に財布だってよ。洗剤だけに」
「なにこの人、自分で言って自分で笑ってる……つーか僕の扱いがぞんざいすぎるだろ……」
戦場ヶ原といい。
八九寺といい。
最近、僕の周りには僕に対して毒を吐くやつが多すぎる。
神原は神原で、あいつは逆に僕のことを異常に持ち上げようとするのだけれど、
いわれのない賞賛はそれはそれで居心地が悪いし。
羽川くらいか、僕を普通に扱ってくれるのは。
でもあいつ、僕のこと不良だとか思い込んでるんだよなぁ……。
「とにかく」
岡崎はにやりと歪めていた口元を正し、仏頂面に戻ると。
「………たすかった」
なんだか変に、ぎこちない言葉。
スポーツドリンクを飲み干して、僕は答える。
「ん」
岡崎はそんな僕を一度見下ろしてから、
わざわざ右手に持っていたペットボトルを左手に持ち直し、
ひどく不慣れな動作でゴミ箱へ投げた。
当然、そんなやり方でうまくホールインワンできるわけもなく、
それどころか、
リングに擦ろうとかそういった意思すら垣間見ることさえ皆無な皆目検討もつかない方向へとすっ飛び、
かつん、と快活な音を立ててペットボトルはコンクリートに転がる。
「やーい、へたくそ」
「……あ?」
「ごめんなさいっ!」
散々毒を吐かれた仕返しに自分を馬鹿にした2歳も年下の男をからかったら睨まれて、
即座に謝る高校3年生が、そこにはいた。
――ていうか、やっぱり僕だった。
「よっ……と」
岡崎はわざわざ歩いてペットボトルを拾い上げると、今度はきちんとダストシュートする。
「じゃあ、阿良々木。俺はこのままどっか遊びに行くけど、お前は」
「僕は――あ、しまった!」
そうだ、僕は、戦場ヶ原の家に行く途中だったのだ。
時間を確認。
約束の時間を、もう1時間も過ぎていた。
今日が、僕の命日かもしれないと、真剣に、深刻な心境で思う。
言葉責めならまだマシ、ホッチキスどころか
カッター辺りのガチで凶器になりうる文房具を持ち出してくる可能性が、大いに考えられる。
「おい、大丈夫か? すげえ冷や汗だけど」
「大丈夫、いや……うん、大丈夫。ごめん、僕、用事があるんだよ。
せっかく知り合えたのに、悪いんだけどさ」
「……あ、そ」
僕は呆然としている岡崎への挨拶もそこそこに、走り出す。
とりあえず放置しっぱなしの自転車をとりに、件のストリートバスケットコートへ。
一応警戒して橋の上から覗くと、工業高校生たちは影も形もなく、
どうやら僕らを追いかけるうちにバスケをする気はなくなったようだ。
さっさと自転車を確保しに橋の下に降りて――フェンスに引っかかりっぱなしの、クリーム色のブレザーを見つけた。
「これ、たぶん、岡崎のだよな」
誰に言うでもなく呟いて。
僕は、今度会ったときに返せばいいやと、
それを回収して自転車のカゴに入れ、
戦場ヶ原の家へと向かったのだった。
なんのためにもならない、『もし』の話をするのなら。
もし、仮に、僕がこのときブレザーを回収しなければ。
あるいはこの話は、ここで終わり。
僕と岡崎は――たった1日限りの友達で、済んだのかもしれない。
誰も、なにも失わないで、済んだのかもしれない。
そんなのは本当に――本当に、誰も救わない、仮定の話なのだけれど。
【ともやウルフ】
003
「んんー、この制服と校章は、たぶん、光坂高校のじゃないかな」
翌日の放課後、紙袋に入れて学校に持ってきていた岡崎の制服を見せると、
羽川はそう言った。
「光坂高校っていうと……」
「ほら、隣町の。
私立光坂高等学校っていったら、このあたりじゃ一番の進学校じゃない。
うちも全体の進学率では負けてないみたいだけれど、
国公立大学への進学率だと、やっぱり光坂高校には負けるっていって、
毎年先生方が悔しがっていたはずだよ」
「へぇ。お前はなんでも知ってるな」
「なんでもは知らないわよ。知ってることだけ」
羽川。
羽川翼。
三つ編み、眼鏡。
委員長の中の委員長。
究極の優等生。
僕の命の恩人。
異形の翼を持つ少女。
そして――猫に魅せられた少女。
「ふぅん、私立光坂高校、ね。あいつ、頭よかったんだ」
一応僕も、世間一般では進学校と呼ばれる私立直江津高校に通っているのだけれど、
その実態は数学以外は赤点だらけの出来損ないだ。
所謂、RPG(Red Points Getterの略)である。
「格好良さげに言っても、普通に格好悪いよ、阿良々木くん」
「くっ……」
羽川の台詞に言葉が詰まる。
まごうことなき、正論であった。
そもそも僕だって、中学まではそこそこ頭もよかったのだ。
しかし無理して進学校に入学した途端に、
予想通りというか予定通りというか、見事に落ちこぼれた。
こういうのを、えっと……なんていうんだっけ。
「深海魚、っていうみたいね」
「さすが羽川。お前はなんでも知ってるな」
「なんでもは知らないわよ。知ってることだけ」
と、続けて通例のやり取りを交わした辺りで、
羽川はちょっと不安そうな表情を作った。
「阿良々木くん、どうしてそんなの持ってるの?
もしかして、また、なにか厄介事に首を突っ込んでる?」
「違うよ。
これはただ、友達の忘れ物なんだけれど、
次いつ会えるか分からないから、届けようかと思って。
だから――羽川が心配するようなことは、なにもない」
そう答える。
あとから考えると、羽川は持ち前の恐ろしいまでの勘の良さをいかんなく発揮していたのだけれど、
そのことに僕が気付くのはかなり後になってからであり、
そのとき僕は羽川の心配すること――すなわち、怪異のことを考えていた。
怪異。
怪しく、異なるモノ。
世の中には、その、怪異というものが、確かに存在する。
春休みのことである。
僕は、人類が月に到達し、
手に収まる小さな携帯電話で世界中の情報が一瞬で手に入り、
形のないデータをお金を出して買うようなこの現代に、
恥ずかしくて二度と部屋から出たくなくなるくらいの事実なのだが、
吸血鬼に襲われ――吸血鬼となった。
血も凍るような、美人だった。
美しい鬼だった。
とても――美しい鬼だった。
とにかく、そんな地獄の真っ只中にいた僕を救ってくれたのは、
たぶん一般人の感覚からすれば、普通、
例えばヴァンパイアハンターとかいう吸血鬼専門の狩人だったり、
キリスト教の特務部隊だったり、
あるいは吸血鬼でありながら同属を狩る吸血鬼殺しの吸血鬼だったりするのだろうけれど、
僕の場合、通りすがりの小汚くて胡散臭いアロハのおっさん、
忍野メメと――羽川翼その人であった。
羽川がいなければ僕は今、こうして生きていないと自信を持って断言できるし、
この先、羽川のためなら命を差し出したって構わないとすら思う。
彼女にはそれほどまでの、恩がある。
彼女自身は、絶対に認めようとしないけれど。
それでも僕が羽川に助けられたと思っているのは、事実なのだ。
紆余曲折の果てに吸血鬼もどきの人間――あるいは、人間もどきの吸血鬼となった。
それが、今の僕だ。
おかげで僕は、日光を浴びても身体は燃えないし、
十字架に触れても皮膚が焦げたりしないし、
ニンニクのにおいを嗅いでも鼻孔から神経を侵されることもなくなったのだけれど、
しかし、その影響というか後遺症で、
身体能力は、著しく、上昇したままだ。
もっとも、運動能力は、ちょっと疲れにくいとかその程度のもので、
顕著なのは新陳代謝など、いわゆる回復能力なのだが。
とにかくそれを契機に、僕は怪異に関わるいくつかの事件に首を突っ込んでいる。
羽川もゴールデンウィークに怪異に憑かれた一人だ。
忍野曰く、一度怪異に惹かれたものは、そのあとも惹かれやすくなる。
これまで僕が出会った怪異の数は、5。
鬼。
猫。
蟹。
蝸牛。
猿。
僕、いくらなんでも、出歩く度に怪異に関わりすぎだと思う。
もっとも、羽川は、彼女自身が関わった怪異の記憶、
ゴールデンウィークの悪夢を、まるっきり、忘れてしまっているのだけれど。
記憶の喪失。
それが、いいことなのか悪いことなのかは――分からない。
なにはともあれ。
「光坂高校か。助かったよ、羽川。
それだけ分かれば、なんとかなると思う」
「そう? よかったら案内しようか?」
「大丈夫だって、それに羽川、テスト勉強とかあるだろ?」
「んー、阿良々木くんのほうはテスト勉強はかどってる?」
「うっ……」
なにも言えねえ。
「もうテストまで時間ないけれど、大丈夫なの?」
「まあ、たぶん、今回はなんとかなるよ。
ほら、最近、戦場ヶ原に勉強を教わってるんだ。
あいつ、意外に人に教えるのうまいんだぜ」
少々スパルタが過ぎるところはあるけれど。
それでも最近、
そもそも勉強の仕方とはこういうことだったのかと思うような数々の勉強のテクニックを、
戦場ヶ原から叩き込まれている。
それだけでも僕には新鮮で、いい刺激なのだ。
「そっか。戦場ヶ原さんがついてるなら、安心だね」
「本当は羽川に頼みたいくらいなんだけどな。あいつ、厳しすぎるから」
「あはは、そんなこと言っちゃダメだよ。戦場ヶ原さんも自分のテスト勉強の時間を割いて、阿良々木くんに教えてくれてるんだから」
「まあ、そうなんだけどさ」
僕はそう言って席を立つと、自分の荷物を取り上げた。
戦場ヶ原の家に行く前に光坂高校に向かうなら、そろそろ学校を出ないと。
「とりあえず、戦場ヶ原のところに行く前に隣町まで寄ってみるよ」
「うん。じゃあ、阿良々木くん、頑張って」
もう一度羽川にお礼を言って、僕は教室を後にする。
別れ際。
羽川がまるで――まるで、頭痛を堪えるように頭を押さえていたのが、
少しだけ、気になった。
隣町とは言ったものの、
たかだか橋を一本渡っただけなのに、私立光坂高校のある町は、
僕の住むド田舎とはまったくもってそれはもう見事なくらい趣きを異にしている。
まず第一に、駅がある。
そして駅を中心に栄えたのであろう商店街なるものが存在して、
そこには本屋やレコード店もあれば、
クレープ屋なんていう祭りの屋台限定だと思っていたデザート専門の店がでんと構えていて、
雑貨屋みたいな洒落た店もあり、
そしてなんとあろうことかゲームセンターすらあるのだ。
ゲームセンターなんて不良の行くところで、
近寄るだけで3秒でかつあげされるに違いないとかいう丸出しの田舎っぺ根性を持つ僕は、
ゲーセンの前を通ったときに横からハンマーで殴られたみたいな騒音だけでかなりビビった。
隣町の商店街まで遊びに来たことがないわけではないけれど、
最後に来たのは中学生で、高校生になってからはおそらく初めて足を踏み入れる。
一緒に来る友達が、いなかったから。
「………………」
くそう。
……なにはともあれ。
都会である。
僕の住むあの町からしたら、もう、大都会である。
僕はどちらかと言えば、10代の人間にありがちな、
都会を不必要なまでに至高と考え、
東京と聞くだけどこか崇高な気がして、
どう考えてもズレているファッションをして欺瞞の孤高さを噛み締めたがるような田舎の若者ではないので、
都会なんて怖いところ早く去りたいとびくびくするのであった。
例えそれが最近の都会で流行りのファッションであろうと、
僕はドリルが人間になったみたいな髪型だったり、
頭に鳥かご乗せていたり、
ハート山総理を意識しているような女の子だったら、
いかにそれらが美人であろうと、普通に地味な黒髪のほうがよっぽど好ましい。
だって怖いじゃん、髪の毛がキリンの頭だったりするんだぜ。
閑話休題。
と、いうわけで、途中何度も迷い、
結局羽川に電話をして口頭で道案内をしてもらうという
最高に情けないことをやらかした末にようやく辿り着いた私立光坂高校は、
長い――長い上り坂の向こうにあった。
「うわぁ……」
思わずため息が漏れる。
こんな坂を毎朝のぼって登校するなんて、
もうそれだけで嫌になりそうだった。
ここまで来るのにかなり時間がかかってしまったから、
まだ岡崎が学校に残っているかは心配だったけれど、
せっかく来たのだからとりあえず校門の前へ。
下校する光坂高校の生徒たちに奇異の目を向けられつつ、
ここから先は入っていいものか迷っていると。
「あれ? ねぇ、なに、きみ、うちの学校になんか用?」
なんだか変に鼻にかかった、
人を小馬鹿にする感じの声にそんなこと言われた。
この場合、声単体が生き物として成立しているように思えてしまう文だけれど、
実際は当然のように声の主がいるわけで、
そいつはドぎつい金髪にたれ目気味、やや童顔の男子生徒。
泥だらけの体操服に身を包み、小脇にサッカーボールをかかえていた。
「ああ、いや……」
「ところでさー、きみ、お金貸してくんない?
いや、絶対返すからさ、へへっ、いくら持ってんの?」
「………は?」
「ほら、ジャンプジャンプ!
小銭持ってたらちゃりちゃり言うはずじゃん!」
友達を訪ねて他校に来たら、
さっそくかつあげされる男子高校生が、そこにはいた。
――ていうか、認めたくないけれどそれもやっぱり僕だった。
なんだろう、岡崎といい目の前の金髪といい、
最近、光坂高校ではかつあげが流行っているのだろうか。
ていうか、進学校だからと高をくくっていたら、
なんだか見た目も言動も凄まじく不良っぽいやつである。
なんせ――金髪である。
僕らの町では頭髪は基本的に黒であり、
ブリーチ剤なんてそもそも売っている店がない。
ちょっと茶色に染めたら不良と呼ばれるような世界である。
……うわあ、リアル金髪だ。
しかし、目の前の不良にはどこか迫力がない。
へたれ臭がひどい。
もっと言えば、立ち位置的に、ひどく僕と同じにおいがする。
ていうか、考えてみれば、昨日岡崎に絡んでいた工業高校生たちの中には赤い髪とか平気でいたしな。
慣れたのかもしれない。
……なんの役にも立たない上に、嫌な耐性だった。
「あー、えっと、お金はそんな持ってねえよ。
それより、人を探しているんだけど。
岡崎朋也って、まだ学校にいるかな」
「岡崎ィ? 誰、それ」
「あー、えっと……」
誰、と言われても、考えてみたら僕だって
名前と学年くらいしか岡崎のプロフィールくらいしか語れる要素の持ち合わせはない。
金髪男も、岡崎のことを知ってる様子はなさそうだし。
なので、冗談を言って流すことにした。
「岡崎ってのは……宇宙人なんだ」
「マジかよ! なにその宇宙人ってうちの生徒なの!?」
「他にもこの学校には異星人とエイリアンがいる」
「マジかよっ!!
僕、今までそんなやつらと同じ学校で過ごしてたなんて……うぅっ、寒気が」
うわあ、信じてるよ……。
ちょっと面白い。
あと、宇宙人も異星人もエイリアンも全部同じだと思うのだが、
金髪男はなにも不思議に思わなかったようだ。
宇宙人に、異星人に、エイリアン。
本当はなにか違いがあるのかもしれないけれど、正直よく分からない。
羽川に訊けば答えてくれるんだろうか。
「ん? ちょっと待てよ……」
男がなにかに気付いたように声をあげた。
からかったのに気付かれたかと身構えると。
「うちの学校に宇宙人がいるって知ってるってことは、おまえ、まさか……」
「………………」
杞憂もいいとこだった。
せっかくなので冗談を上乗せする。
「地球の平和を守るインベーダー」
「マジかよっ!?」
ちなみにインベーダーは、侵略者という意味である。
平和を守るふりして、あっさり侵略されていた。
「あ、でも一般人のお前がこの学校に宇宙人がいることを知ったら
……いや、なんでもない」
「なんだよ、言えよ! 不安になるだろ!」
「……いや、でも」
「言えってば!」
「でもなあ……」
「言ってください、お願いします!」
「消される」
「………………」
絶句していた。
「た、助けてくれよ……平和を守るインテリアなんだろ?」
「果たしてどうすれば室内装飾品に平和を守る機能がつくのか
僕にはさっぱり想像もつかないけれど、
宇宙人に消される人間を助ける力は僕にはない」
「うぅ……父さん、母さん……宇宙人に消される直前までバカやっててごめんよ……」
「どんまい!」
「明るく言わないでくれませんかね!?」
「お前のことは3分くらいは絶対忘れないよ!」
「嬉しくねえよ!
そんなのいいから僕のこと助けてくれよ、頼むから!」
「さっきからうるさいな、ちょっと黙ってろよ!」
「なんで僕がキレられてんすかねえっ!?」
金髪がそう叫ぶのとほぼ同時に、
遠くのサッカーコートから怒声が響いた。
「おら、春原ァーっ!
ちんたらしてねえでさっさとボール拾ってこい、ぶっ殺すぞっ!!」
「ひいいいいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃいい!!!!」
春原と呼ばれた目の前の金髪男がとんでもなく面白い顔になった!
と思ったら、地面に唾を吐いて毒づく。
「けっ、あいつら、たいして上手くもねーくせにいばりやがって。
宇宙人から逃げ切ったら絶対ボコボコにしてやる」
しゅっしゅっ、と明らかに素人なシャドーボクシングを始めた春原を横目に、
僕はさっさと気付かれないよう光坂高校を後にしたのだった。
岡崎がいるかどうかはまだ分からないままだったけれど、
いきなり不良に絡まれてかなり気分が萎縮していたのである。
都会ってこえーなー。
がさりと、右手の紙袋が音を立てた。
……制服は、またいつか渡せばいいや。
004
「それで、今日も時間に遅れた言い訳はあるのかしら、阿良々木くん」
僕が必死こいてケッタ(ママチャリの地方での名称である)
をすっ飛ばして戦場ヶ原の家の玄関をくぐった途端、
彼女はそんな言葉を突きつけてきた。
戦場ヶ原。
戦場ヶ原ひたぎ。
自称ツンデレ。
泰然自若。
僕の彼女。
そして――蟹に行き遭った少女。
「いや、戦場ヶ「有罪」
「戦場ヶ原の方から言ってきたのに言い訳する暇も与えてもらえないのかよ……」
「なにを言っているのかしら、阿良々木くん。
私が有罪と言ったのは、トラケロフィルム程度の阿良々木くんが人間の言葉を話したことに対してよ」
「戦場ヶ原の中での僕の評価は、
毛で覆われていて身体をくねらせたり回転させて動く微生物と同等なのか!?」
「むしろそれ以下ね」
間髪入れずに言い切りやがった。
戦場ヶ原、さっそく絶好調である。
「お前、トラケロフィルム以下の生き物の彼女でいいのかよ……」
「トラケロフィルム以下が彼氏、と言いなさいよ」
「違わねえよ!」
「違うわよ。
阿良々木くんの言い方だと、私のほうがトラケロフィルム以下の生き物の所有物みたいじゃない」
「言いたいニュアンスは分かるけど納得はいかない!」
こいつ確実に僕のこと所有物として見てやがる。
戦場ヶ原がこんな性格な以上、対等な関係だなんてもう思ってはいないけれど、
しかしそれはいくらなんでも下に見られすぎだった。
「トラケロフィルム以下のくせにいちいちうるさいわね。
阿良々木くんが、つい最近まで遊戯王のカードで水の踊り子ばっかり集めて、
下から覗きこんだら乳首が見えないか必死にチャレンジしていたクズだということを、
羽川さんにチクるわよ」
「僕のほうが初めてきくよ、なんだその話……」
つーかこれ、本当に付き合ってる男女の会話かよ……。
僕、そろそろ本当に戦場ヶ原に好かれてるのか不安になってきた。
「ていうか、遊戯王の話なんか、戦場ヶ原がよく知ってたな。
ほとんど縁がなさそうだけれど」
「私は遊戯王のカードなんか一度も触ったことすらないわ。
ただ、昔、神原が悔しそうに漏らしていたから」
「あいつなにやってんだよっ!」
まあそんなこったろうと思ったけどな!
期待を裏切らない後輩である。
「……阿良々木くん」
「うん?」
「昔、神原が悔しそうに漏らしていたから」
「分かったよ、繰り返さなくていいよ、別にそこにエロスは感じてないよ!」
「あら、そうなの?」
戦場ヶ原の中での阿良々木暦は一体どのような立ち位置を確立しているのか、
さっぱり分からない。
あ、トラケロフィルム以下だったな、うん。
……凹む。
「阿良々木くん」
「なんだよ……」
「昔、私が悔しそうに漏らしたから」
「なんでそこで自分を貶めようとするんだ、戦場ヶ原っ!」
「エロスを感じたかしら?」
「感じねえよ! ほんとにお前は僕のことなんだと思ってんだ!?」
「そっか……感じないんだ……」
「なんで落ち込むのかさっぱり分からない……」
「そっか……阿良々木くん、感じないんだ……」
「別に僕、不感症とかではないから語弊のある言い方は避けてくれないか!?」
なんかもう、あんまりである。
「阿良々木くん、私たちもう別れましょう」
「なんで? 僕が戦場ヶ原のお漏らしにはエロスを感じなかったから?
どんだけクズ野郎だよ、僕……」
「だって、私、少しは自信あったのよ」
「お漏らし姿に!? 捨てちまえ、そんな自信!
あぁ、もう、分かったよ、エロスを感じるよ!
阿良々木暦は戦場ヶ原ひたぎさんの悔しそうなお漏らし姿にエロスを感じます!」
「う、うわあ………」
「引いてんじゃねえよ、てめえっ!!」
この部屋ごと戦場ヶ原を川にでも放り込んで逃げ出してしまいたい気分だった。
もうほんと、僕は僕が不憫で仕方ない。
「昔、神原が悔しそうに漏らしていたから」
「くどい!」
「昔、八九寺真宵が悔しそうに漏らしていたから」
「……そういやあいつトイレとかどうしてんだろうなぁ。幽霊だから必要ないのか?」
「昔、羽川翼が悔しそうに漏らしていたから」
「くっ………いや、ま、まあ、羽川もなにからなにまで完璧ってわけじゃないだろ、はは……」
つい過剰反応しかけたら、ぎりぎりぎりと腹の肉に爪をつきたてられた。
痛い。本気で貫通させるつもりか。
「昔、忍野さんが悔しそうに漏らしていたから」
「おえっ……」
ていうかいつまで続けるつもりなんだよ、これ。
「なあ、戦場ヶ原。
お前さ、そんな些細なセリフの一つで興奮するだろうとか、
僕を中学生男子かなにかと勘違いしてないか」
いかに僕といえども、
ちんすこうやらAV機器やらぶっかけうどんやらちょっと悪意のある改造を施されたパチンコの看板を見て喜んでいた時期は、
さすがに卒業済みである。
「そんなことないわよ。
少なくとも、ミドリムシ以下くらいには思っているわ」
「トラケロフィルム以下から評価が上がってるのか下がってるのか微妙でよく分かんねえよ!」
一応、上がっているべきと考えるべきなのか。
ミドリムシって、微生物の中では結構ランク高そうだし。
……うわ、別に嬉しくねえ。
「ミドリムシって、今、食品に使われているらしいわね」
「え、そうなの?」
「ええ。ミドリムシパンとか、あるそうよ」
「へぇ……いや、正直、あんまりいい気持ちで食べれる気はしないよな。
ミドリムシじゃなくて、せめて名前を変えればいいのに。
栄養素みたいに、グリーンミンとかさ」
「アララギクンとかにね」
「戦場ヶ原は僕を食品に加工したいのか!?」
「安心しなさい。阿良々木くんが食品になったら、
私が責任を持って生ゴミとしてコンポストに入れてあげるから」
「せめて食べてやってくれ!」
「でも阿良々木くんはミドリムシにも劣る存在だから、食品にもならないわ。
よかったわね」
「あぁ、そうだったな、僕は微生物にも劣る存在だったよ……」
「ふふ」
戦場ヶ原は相変わらずにこりともしないくせに、
笑いを漏らす声をわざとらしくそのまま発音した。
僕が笑われているのは明らかなのだけれど、
まあ、戦場ヶ原の機嫌が治ったならそれでいいかと緊張を弛める。
「ったく、なにがおかしいんだよ」
「いえ、阿良々木くん、あなた、
自分のことを微生物にも劣る生き物って……」
「それ元はと言えば戦場ヶ原が言い出したことじゃねえか!」
「阿良々木くん、自分のことを微生物にも劣る『生き物』って」
「なんで生き物のところを強調したんだ!?
僕が生き物であることにくらいなんの疑問も持たないでほしい!」
「抱腹絶倒」
「めちゃくちゃ真顔!」
「報復絶倒」
「すげえ、前半の漢字変えただけでニュアンスがかなり変わった!」
報復して、絶対に倒す。
「まあ、いいわ。
私は阿良々木くんの彼女だけれど、阿良々木くん行動をすべて制限する権利はないもの」
戦場ヶ原は、ふう、と小さく息をつく。
一瞬なんの話か分からなかったけれど、
どうやら僕が遅刻したことに対する文句にようやく戻ったらしい。
しかし、そんな不意打ちみたいに、いきなり伏し目がちに言われると、
罪の意識がお鍋の中からぼわっと登場する。
いや、勿論、それ以前にも約束に遅れたことに対する罪の意識はあったのだけれど、
実のところ、戦場ヶ原があまりに普段通りだから安心してしまったのだ。
ダメ男の典型的な発想のような気もするが。
しかし、無駄とは知りつつ言い訳させてもらうのならば、
光坂高校までの道のりで、まさか迷うとは思わなかったのだ。
隣町をさ迷い歩いた1時間が、きっかりそのまま約束の時間に遅れた1時間に反映されている。
「ごめん、戦場ヶ原。
2日連続遅刻した僕の言うことなんか信じられないと思うけれど、
本当に悪いと思ってる」
「いいのよ、阿良々木くん。
私は気にしていないと言ってるじゃない。
燃えるゴミと燃えないゴミの分別と同じくらい気にしていないわ」
「それはむしろ2つの意味でもうちょっと気にしてほしいな!」
エコのこともそうだし、僕のことも実はまったく気にしないと言われると、
それはそれで不思議な気持ちなのだった。
「燃えるゴミと萌えないゴミくらい気にしていないわ」
「ツッコミが難しいボケはやめてくれ!」
「阿良々木くんは冴えないゴミよね」
「ほっとけよ!」
ひでえ言われようである。
せめてゴミを男に……いや、それも、なんだかなぁ。
「ちなみに私はデレないツンデレ」
「それはただのツンじゃねえか! あるいはツンドラ!」
さて、と戦場ヶ原は一呼吸置くと。
「それじゃあ、いつまでも遊んでいないで、
勉強を始めましょうか、阿良々木くん」
「ん、あぁ、そうだな」
散々僕に毒を吐いておいて、何事もなかったように席に着くように勧めたのだった。
そういえば、今更気付いたけれど、
結構真剣に鉄拳制裁――あるいは、鉄文房具制裁(ホッチキスやハサミ辺りは本気で鉄なので洒落になっていない)を覚悟してきたのに、
言葉攻めだけだったな。
僕は別にそこまで偏った性癖を持っているわけじゃないから、
胸に去来する感情は物足りないではなく、安心だった。
勉強中には、発言に気をつけよう。
そんなことを心に決めて、
戦場ヶ原の対面の座布団に腰をおろ「―――、――、ぎっ……いっ―――――!」ケツになんか刺さった!
床を転がって激痛を誤魔化しつつ確認すると、
三角定規がわざわざ垂直に立つようにセロテープで固定されていた。
痔になる。
「せ、戦場ヶ原っ!」
「あら私の三角定規そんなところにあったのね見つけてくれてありがとう」
「謀ったなっ!」
「謀ったわ」
戦場ヶ原ひたぎ。
時間にルーズな阿良々木暦には、容赦のない女である。
その夜のことである。
八九寺。
八九寺真宵。
厚顔無恥な小学生。
ツインテールに大きなリュックサック。
そして――蝸牛に迷った少女。
そんな八九寺と、出くわしたのは。
戦場ヶ原の家からの帰り道、ギコギコ音を立てながら、
そろそろこいつもメンテナンスしなくちゃなとか思いつつママチャリをこいでいた僕は、
その後ろ姿というよりは、バカでかいリュックサックに足が生えたみたいな生き物を見て、
スピードを緩める。
そのまま八九寺のすぐ背後まで近寄ると、
自転車から歩きに移動手段を変更して、隣に並んだ。
「よう、八九寺。夜に会うのは珍しいな」
「スララ木さんじゃないですか、こんばんは」
「人を背が高くて足の長いモデル体型みたいに言うな。
いいことを言えば全部誉め言葉になると思うなよ、
僕みたいに明らかに身長の低いやつに言ったら嫌味みたいになるだろ。
僕の名前は阿良々木だ」
「失礼、かみました」
「違う、わざとだ……」
「かみまみた!」
「わざとじゃない!?」
「タランテラ」
「もはや元の形に似せる気すらないだろ!」
字数しか合ってない。
戦場ヶ原も戦場ヶ原だけれど、八九寺も八九寺でさっそく絶好調だった。
どいつもこいつも、いつもそんなに全力で生きているのだろうか。
「まったく、阿良々木さんは相変わらず、呼び方一つでいちいちうるさい方ですね。
そういう人は社会に出てから敬礼されますよ」
「それすげえ尊敬されてるじゃん」
「あるいは経営されるとも言いますね」
「言わねえよ。
僕を経営するってなんだ、僕はアイドルにでもなるのか」
「痙攣されます」
「めちゃくちゃ嫌われてる!?」
ちなみに正しくは、敬遠されます。
ていうかさすがに、出会っただけで痙攣されるなんてことがあったら、
もう自室に引き込もってしまう。
そんなの、春休みに匹敵しうる地獄である。
「じゃあなんですか、阿良々木さんはどんな呼び方が好みなんですか」
やれやれ、と通販番組の外国人みたいに肩をすくめると、
我が侭を言う小さな子供を見るような目をする八九寺。
……なんだか非常に屈辱的である。
僕、何一つ間違ったことは言っていないはずなのに。
「いや、呼び方なんてさ、普通でいいよ。変に凝られても困るし」
「そんなだから没個性とか言われるんですよ?」
「ほっとけよ……」
「そんなだから友達がいないんです」
「ほっとけよっ!」
ただでさえついさっきまで戦場ヶ原にいじめられていたのに、
立て続けに八九寺に毒を吐かれるとかなり堪える。
「と、いうわけで」
こほん、とその八九寺はわざとらしく咳払いをすると。
「そんなに名前をいじられるのがお嫌なら、
『阿良々木』以外のところを変えることにしましょう」
「いや、『阿良々木』以外のとこって、
そこを抜いたらもう変えるとこ『さん』しかねえじゃん……」
「阿良々木くん」
「その呼び方、すでに3人が使ってるんだけど」
「阿良々木ちゃん」
「なにこれ、ちょっときゅんときた!」
「阿良々木じゃん」
「それ絶対最後にwがいっぱいくっついてるだろっ!」
あっれー、阿良々木じゃんwwwwww
くそう、トラウマが……。
「相変わらず阿良々木さんはいい切り返しをしますね」
「お前に言われたくはないな」
小学生との会話とは思えない鋭さである。
「それにしても考えてみたら、
私は阿良々木さんのこと、あまり知らないんですよね」
「びっくりするくらい唐突な話ではあるけれど、まあ、そうだな。
そもそも僕たち、知り合ってからまだ2週間とちょっとだし」
春休みの羽川を皮切りに、僕は多くの人と出会っている。
それはどれもこれも、ここ最近のことで。
しかし、その出会い方がみんな怪異絡みなだけに、
お互いに一歩目で深いところまで踏み込みすぎて――本来一つずつ積み上げて少しずつ理解していくべきものが、
欠けているのだろう。
互いの趣味とか。
互いの感性とか。
互いの、距離感とか。
「ではお互いの親睦を深めるために、質問タイムとしましょう」
「うん、まあ、いいけど」
「では、まずは私から。阿良々木さんの好きな動物は?」
「好きなっていうか、ちょっといろいろあって、猫は苦手だな」
「好きな食べ物」
「ラーメン」
「では好きな信号の色」
「信号の色に好きとか嫌いとかあるのか!? うーん、まあ、普通に青じゃないのか?」
「知っていましたか、その色はあなたの血液の色を表しているそうですよ。
青ですか、阿良々木さん最高に気色悪いですね、
今後一切私に近寄らないでください」
「なにそれ!?
確かに僕の血液は吸血鬼のそれだけれど、色は普通に赤だよ!」
「アニメのするがモンキーでは、緑色の血をいっぱい出していたじゃないですか」
「いや、あれはスクールデイズ的な意味で赤はマズイとか、
そういう処置なんじゃないのか……」
あと平気な顔してアニメとか言うな。
「お前の血は何色だァーッ!」
「赤だっつってんだろ!」
それにしても、今のところ他の誰と話すより、女子小学生との会話が一番楽しい僕って、重症かな。
いや、でも八九寺の場合、幽霊だから、一応生まれてからと考えたら、
僕より年上なのだけれど。
――幽霊。
そういえばこいつ、幽霊、なんだよな。
「なあ、今の八九寺って幽霊じゃん?」
変な気遣いをするのもどうかと思い、単刀直入に話題を変える。
八九寺が幽霊だと言うのなら、どうしても確かめたいことがあるのだ。
「ええ、まあ、そうですが。
阿良々木さんのおかげですっかり浮遊霊となることができました」
八九寺が頷き、僕はその言葉を、繋げた。
「じゃあさ、壁をすり抜けて風呂を覗いたりとか、できんの?」
「……は?」
きょとんとする八九寺。
「なにを言っているんですか、阿良々木さん。
ただでさえ腐っていた脳みそに、ついに蛆虫がわいたんですか」
「お前……いや、ほら、単純にさ、幽霊っていったらやっぱりそういうのは男のロマンじゃん?」
僕は続ける。
「例えば、羽川のお風呂シーンとかさ、ちょっと僕が八九寺に頼んで見てきて感想を教えてもらうんだよ。
気になるじゃん、羽川のあのけしからんお胸様が果たして、
衣服をすべて取り払った状態ではどんな素晴らしい造形美を保っているのかとか。
なるだろ?
あと意外に羽川って、腰周りとかも綺麗に引き締まってるような気がするんだよな。
羽川なら八九寺が上手く口裏合わせてくれれば、
なんか許してくれそうな気がするし」
更に続ける。
「あとは神原だけれど、あいつ普段からやたらと脱ぎたがるからな。
むしろそういうのにおおらかというか積極的なやつほど、
完全に油断しきってる風呂とかでいきなり誰かが現れたら、
恥ずかしがったりすんじゃないかな。
あの神原が、慌てて恥ずかしがって、その場でへたりこんじゃったりしてな。
ギャップ萌えっていうのか? 正直たまんないよ。
戦場ヶ原は、まあ、あれはそんなことやったら本気で笑い事じゃなくなるから、今回はいいや。
とりあえず風呂を覗くとしたら、羽川と神原だな」
まだ続ける。
「いや、勘違いするなよ、八九寺
。僕は別にそんなのに興味があるわけではないんだぜ?
まったくさ。0と言ってもいい。
でもさ、仕方ないんだよ。
視聴者的にはそういうのを望んでる人だっているっていうかさ、いや本当、困っちゃうよな。
僕はそんなつもり、まったく一切これっぽっちもないのに。
読者サービスだよ。人気のためにはそういうのも必要なんだ。
嫌なのは分かるけれど、そこは目をつむってもらうしかない」
「で、結局のところ八九寺、どうなの?」
「触らないでください、この変態っ!!」
「ぎ、――――、――ッ!!!!!!」
激痛。
僕は思いっきり股間を蹴り上げられて、その場にうずくまった。
おのれ、八九寺。
小学生にねちねちとセクハラ発言をして、股間を蹴り上げられる男子高校生の姿が、そこにはあった。
――ていうか、僕だった。
「まったく、阿良々木さんは本当にしょうがない人ですね。
阿良々木という苗字にはろくな人がいません」
「それは全国の阿良々木さんに謝れ!」
「問題ありませんよ、阿良々木という苗字は現在、
阿良々木暦さん、あなたしか使っていませんから」
「使ってるよ!
少なくとも僕の妹たちと両親と父方の親族はみーんな使ってるよっ!」
「なんと! グララ木さんにはご家族がいらっしゃったのですか!?」
「そんな驚くようなことか!?
僕は確かに半分吸血鬼だけれど、別に人造人間とかではないから家族くらい普通にいるよ!
あと、さりげなく僕の名前を地震人間みたいに言うな、僕の名前は阿良々木だ!」
「失礼、かみました」
「違う、わざとだ……」
「かみまみた!」
「わざとじゃない!?」
「髪切った」
「八九寺ちゃんのお洒落好きっ!」
「噛みきった」
「ぎゃぁぁぁぁぁぁああああああああああああっ!!!」
八九寺はたまに本気で僕のことを噛むので、ちょっと笑えない。
「あぁ、そういえば、幽霊で思い出しましたのですが」
ふと呟くように、八九寺は言った。
「阿良々木さんは、最近、この辺りでこんな噂があるのを知っていますか?」
「……なんだよ」
「最近、夜になると、出るらしいですよ。勿論、私以外のです」
「うん?」
八九寺は、そこで、息を潜めて。
胸の前で両手の手首の力を抜き、ぷらんとさせたお決まりのポーズで。
囁くように、その言葉を、落とした。
「つまり――この辺りで、オバケが出る、という噂です」
005
翌日の放課後。
「……幽霊?」
岡崎は、いぶかしむように眉を寄せた。
件のストリートバスケットコート。
どうしても外せない用事があるとかで戦場ヶ原塾が中止になり、
暇を持て余した僕は、図書館や自室で勉強に励んでいなくちゃいけないと自覚しつつ、
しかし現実逃避の魅力はとてつもなく強力で、ふらふらと気の向くままにママチャリサイクリングをしていた際に、
橋の上から岡崎の姿を見つけたのである。
「そう、幽霊。詳しいことは分からないけれど」
「ふぅん、幽霊ねぇ。阿良々木、お前、そういうの信じるタイプなわけ」
「まあ、そうだな。いるんじゃないかって思うよ」
なんせその話をしてくれた友達っていうのが、そもそも幽霊だったりする。
昨晩、八九寺から聞いた幽霊の話は、実に不確定で不確かな情報で、
どうやらこの辺りで幽霊が出るらしいというだけだった。
しかし火のないところに煙はたたないとも言うし、
一応、暇なときに調べておいてくれと頼んだら了解してくれたけれど、
まあ、たまに思い出したように浮上する都市伝説の類だろうと、僕は軽く考えている。
幽霊。
噂は噂。
都市伝説。
話半分。
道聴塗説。
ちょっと最近いろいろありすぎて、不安要素に、敏感になりすぎているのだろう。
「……あ、そ」
岡崎は、大した興味もなさそうにそう言葉を漏らし、続ける。
「しかし、暇だな」
「そうだな」
「せっかくだしなんかして遊ぼうぜ!」
「いいけど……なにすんの」
「阿良々木が俺のためにジュース買ってくるゲーム」
「それ僕がただのパシリなだけじゃん……」
「なら阿良々木が俺のために弁当買ってくるゲームにしよう」
「別に買ってくるものがジュースであることに文句を言ってたわけじゃねえよ!」
「え、文句ねえの?」
「ジュースのとこにはな!」
「サンキュー、ならさっさと買ってこいよ」
「パシリのところに文句があるんだよっ!」
なんで仏頂面がスタンダードなくせに、こういうときだけ無意味に楽しそうにするんだ。
「ったく、分かった。じゃあじゃんけんにしよう」
「あぁ、まあ、それなら公平だけれど」
「よし、じゃんけんして負けた阿良々木が俺のためにジュース買ってくるゲームな」
「え? ちょ、負けた阿良々木って、負けた岡崎は!?」
「いくぞ、じゃんけんぽんっ!」
「よし、勝った!」
「くそぅ……もっかい、じゃんけんぽんっ!」
「よっしゃあ、二連勝!」
「まだまだ! じゃんけんぽんっ!」
「はっはっは、三連勝!
………ってこれもしかして僕がジュース買いに行くまでじゃんけんを続けるだけのゲームなのか!?」
「うん」
「ふざけんなっ!」
勢いに任せてうまくのせられてしまった僕も僕ではあるけれど、
平然な顔をして岡崎は言いやがるのだ。
やり口が戦場ヶ原とも八九寺とも違う、新たなタイプの毒吐きキャラである。
「というわけで、ジュース買ってこいよ」
「行かねえよ……」
「頼むからっ!」
「頼んでも行かねえよっ!」
「一昨日不良に絡まれてる阿良々木を助けてやったのは誰だと思ってるんだ?」
「知らねえよ、記憶を改竄するな!
僕は不良に絡まれてる岡崎なら助けたけどなっ!」
すると岡崎は、ふいに視線を足元に落とすと。
重大な告白をするように、言葉を溢した。
「阿良々木、俺さ……実は、病気なんだよ」
「え?マジで?」
「ああ」
「治療は?」
「治らない。不治の病なんだ」
「病名は?」
「炭酸しゅわしゅわ中毒。炭酸ジュースを摂取しすぎると稀に発症するんだ。これにかかったやつは、炭酸を飲むと……」
「の、飲むと?」
「死ぬ」
「マジかよ……」
「余命はあと1時間。だからさ……俺の最後の頼みだと思って、ジュース買ってきてくれ」
くそ、せっかく知り合えたのに、死んでしまうなんて。
なんという不幸。
けどだからこそ、僕は笑って送り出してやろうと、決めた。
「それなら仕方ないな、行ってきてやるよ。旅立つ岡崎への、せめてもの手向けだ」
「ラッキー、俺コーラな」
「それお前即死するじゃねえかっ!」
「え、なんで?」
「いや、なんでって、炭酸しゅわしゅわ中毒なんだろ、岡崎」
「はぁ? なんだって? んなアホみたいな病気あるわけねえだろ」
「お前が言ったんだろっ!」
「あれ、そうだっけ?」
「……………」
「お前面白いな」
岡崎はそう言ってちょっとだけ笑うと、落ちていたバスケットボールを拾い、ドリブルを始める。
手慣れた動作。
経験者特有の、それ。
だから、なんとはなしにかけた僕の台詞が――岡崎のなにを突くことになるのか、予想できなかった。
「岡崎ってさ、部活とか入ってないのか? バスケットボール部」
瞬間。
喉を刃物で切り裂かれたと錯覚を引き起こすぐらいの、
頭の芯まで塩の塊を詰め込まれたみたいな、
鈍重で悪寒だらけの嫌悪感が、あった。
頭から冷水をかけられたような、ぞっとするほど奇妙な感覚。
全身の毛が逆立つ。
耳鳴りが渦を巻いて、五感があるべき方法を見失い、
遭難した視覚味覚聴覚嗅覚触覚を手繰り寄せようと呼吸をして。
そんな、ざわざわとした手触りの空気の中――ぎらついた、貫くような岡崎の双眼が、
僕を、真っ直ぐ、射抜いていた。
鈍く光る、切れ長の、ナイフのような。
ぎらぎらと紅く輝く。
灼けた狼の、瞳。
「岡ざ、き……?」
思わず漏らした僕の呻き声に、岡崎は、はっとしたような仕草のあと、目をそらした。
張りつめた空気が弛緩する。
「あ、いや、悪い、阿良々木。なんでもない」
「なんでもないって……」
岡崎は。
しばらく迷うように、黙ったあと。
「……中学の頃は、バスケ部だったんだ」
そう、言葉を落として。
「レギュラーで、キャプテンだったし、この辺りの中学じゃあ、そこそこ名前も売れてて」
まるで罪の告白をするように、続ける。
「スポーツ推薦で高校も決まってさ。
だけど、三年最後の試合の直前に親父と大喧嘩して……怪我して、試合には出れなくなってさ」
岡崎は、ボールを頭の上に構えようとして。
「それは、取っ組み合いになるような喧嘩で。
壁に右肩をぶつけて。
医者に行ったときにはもう――右腕は肩より上に上がらなくなってた」
右腕がボールごと、力なく垂れ下がった。
「部活は――それっきりだ」
スポーツ推薦が決まってからの怪我だったため、合格を取り消されることこそなかったものの、
結局バスケ部には入れなかったのだと岡崎は語った。
「スポーツ推薦で入った俺は勉強にもついていけないし、もうずっと、授業もろくに出てない。
遅刻とサボりの常習犯だよ」
それは――それは、果たしてどれほどの、苦痛なのだろう。
岡崎のそれは、例えば才能がなかったとか、努力が足りなかったとか、そういった挫折ですら、ない。
一言で言ってしまえば運が悪かったというただそれだけの、しかし明らかな、喪失だった。
その絶望が、どんなものなのか、僕には分からない。
分かるなんて言っては、いけないと思う。
だから。
「だけど岡崎は、バスケが嫌いになったわけじゃないんだろ?」
「あぁ、まあ。ここでこうしてバスケをしてるのはたぶん、未練だ。
二度と部活なんかできない右肩なんだって、確認してるんだよ――諦めるために」
だったら、僕は、ボールを拾い上げて。
「なら、僕とバスケをしよう」
「………は?」
「バスケだよ、バスケの勝負」
「あのな、阿良々木。俺は右肩が上がらないんだって今言っただろ」
「だからだよ。見てろ」
ぼすぼすとボールをつき、僕は素人丸出しのたどたどしいドリブルでゴール下に走り込み、
ジャンプをすると、片手でボールを掬い上げるようにして持ち上げ――放ったレイアップシュートは、
リングに擦ろうとかそういった意思すら垣間見ることさえ皆無な皆目検討もつかない方向へとすっ飛び、
ぼすん、と鈍重な音を立ててコートに転がる。
振り返り、呆然としている岡崎に言葉を投げる。
「見ての通り、僕は素人だ。自慢じゃないけれど、バスケなんか体育の授業でしかやったことがない。
でも、ちょっと事情があって、身体能力は普通の人間よりはいいと思う」
あるいは、それなら。
「右肩が使えないバスケ経験者となら、試合になるかもしれないだろ」
僕の言葉に、岡崎は挑戦的に口元を歪めた。
「阿良々木。なめるなよ」
「かかって来いよ、岡崎。バスケをしよう」
拾ったボールを岡崎に投げると、ぎゅっと体を沈め、臨戦体制をとった。
結果から言って、見事に惨敗だった。
そりゃそうだ、いくら吸血鬼補正で身体能力が上がっていようと、
単純な走りではついていけてもフェイントをかけられたら一発だし、
そもそもこっちのシュートが決まる確率はほとんど0なのに対して、
岡崎は左からのレイアップなら綺麗に入れてくる。
その結果、途中から数えるのも面倒くさくなった得点差が、
おそらく、20や30じゃきかなくなったであろう辺りで、僕は降参とばかりにコートに寝転がった。
気付けば辺りはもう薄暗く、ナイター用のみみっちい電灯が、
細々とした灯りを投げていて、わらわらと虫が集まってきていた。
このまま続ければ、吸血鬼補正で夜目が効く僕になら逆転のチャンスがあったかもしれないと、明らかな負け惜しみを思う。
「おい、阿良々木」
「……ん?」
ワイシャツ姿の岡崎が、ボールを小脇に抱えて、呆れたような顔で覗き込んできた。
さすがに息が切れている。
それに、僕は、笑ってやった。
「楽しいな、バスケ」
岡崎も、ふっと、口元を弛めると。
「いいからジュース買ってこいよ、負け犬」
「なんでだよっ!」
「え、そういうルールだったろ」
「……そうだっけ」
「あぁ。バスケで負けた阿良々木が俺のためにジュース買ってくるっていう」
「負けた阿良々木って、負けた岡崎はっ!?」
「負けない」
「ぐっ……」
実力差が圧倒的すぎて言い返せない。
「ま、いいや」
岡崎は、身体ごと放り投げるみたいな杜撰さで僕の横に寝転がった。
バスケットのゴールと、僕らの街を繋ぐ橋と、ちょっと濁った空に光る一番星。
星の名前なんか僕はほとんど知らないけれど、戦場ヶ原と、いつかもっと綺麗な星空を見たいと、ぼんやり思った。
「……阿良々木」
岡崎の声。
「うん?」
「そういえばさ、お前、後をつけられたりとかしてないか?」
「……いや、僕はあんまり目立たないほうだし、
誰かに目をつけられるようなことをした心当たりすらないけれど」
「そっか。まあ、一応、気をつけろよ。
俺、最近、後ろから誰かに見られてたり後をつけられてる感じがするんだ。
一昨日の不良たちかもしれない」
「それ、大丈夫なのかよ……」
「ま、大丈夫だろ。襲ってくる感じでもないし」
たいして気にもしていないように言って。
「ただ、前ここに置いてった制服のブレザー、あの工業高校生たちに持ってかれちまったのは困るな。
あれ一着しか持ってないし、いつか、ついてくるやつの一人捕まえて取り替えさないと」
「あ……あぁ、そうだな」
岡崎のあまりに不機嫌そうな声色に、僕が預かってると言えなかった。
岡崎は、しばらく黙ったあと。
「阿良々木」
囁くような、意思のない、ざらざらした声。
「うん?」
「おまえ、高校どこ?」
「……直江津高校」
「へぇ」
「とは言っても、落ちこぼれだよ。
数学以外は赤点ばっかりだし、今日だって、明後日のテストのために勉強しなくちゃいけないのだけれど、こうして遊んでる」
なにかに言い訳をするように付け加えると、
岡崎がからかうように口元で笑ったのが、なぜか見てもいないのにわかった。
「なら、橋の向こうの町か」
「そうだけど。岡崎は光坂だよな」
「……なんで知ってんだよ。あぁ、ワイシャツの校章見れば分かるか」
岡崎はそこで、一呼吸いれて。
「おまえ、あの町は好きか?」
「あの町って、自分の?
いや、どうだろう、岡崎のとことは違ってド田舎だから不便なのは確かだけれど、
町を好きか嫌いかで見たことってあんまりないし。
あの町に住んでたから巻き込まれた事件もいっぱいあるけれど、
まあ、それと同じくらい、あの町に住んでなきゃ知り合えなかった人も――たくさんいる」
キスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレード。
忍野メメ。
羽川翼。
戦場ヶ原ひたぎ。
八九寺真宵。
神原駿河。
そして――岡崎朋也だって、そうだ。
「だから、取り立て嫌いってわけじゃないかな」
「そうか」
隣で、もぞもぞと動く気配があった。
たぶん岡崎は、自分の街を見ているのだろうと、思う。
「俺は」
醒めた声。
「俺は――この町は嫌いだ」
熱のない、ざらついた感触。
「――忘れたい思い出が、染み付いた場所だから」
起き上がって、岡崎がどんな表情をしているのか見て、そして、なにか言うべきなのだと思った。
岡崎の抱えているものを、受け取ることはできないけれど、
せめてほんの1%でも、共有すべきなのだと思う。
岡崎は今、おそらく、悲痛な悲鳴を、あげているのだから。
それくらい、僕にだって分かる。
だけど。
だけど体は動かなかったし、勿論――声だって一つも出なかった。
006
さて、翌日水曜日の放課後。
例によって例のごとく、一度家に帰って着替えてから戦場ヶ原の家に向かって自転車をこいでいると、
なんだかもう見慣れてしまった感すらある後ろ姿が視界に入った。
あっちをキョロキョロ、こっちをキョロキョロと落ち着かない様子で歩きながら大きなリュックを揺らす彼女は、
言うまでもなく、八九寺真宵である。
八九寺との遭遇率が高いと、なんだかお得な気分になるのはどうしてだろうか。
僕はブレーキを駆使して自転車の速度を落とし、八九寺の横に並んだ。
「よっ、八九寺」
「おや、ネララ木さん」
「僕を某巨大電子掲示板を利用する人たちの総称みたいに呼ぶな、
いい加減ちょっと諦めかけているきらいもあるけれど、
僕の名前は阿良々木だ」
「失礼、噛みました」
「違う、わざとだ……」
「かみまみた!」
「わざとじゃない!?」
「加入した」
「なにに加わったんだ!?」
「おニャン子クラブ」
「古いよ!八九寺、お前何歳だよ!
せめてモーニング娘に憧れる歳だろ!?」
あれ、でも今の小学生ってモーニング娘に入りたいとか思わないのかな。
アイドルに詳しくはないのでよく分からなかった。
ていうか、モーニング娘ってまだあるのか?
「さて、それでは仕切り直しまして」
ごほん、とわざとらしく咳払いをすると。
「おや、墓場木さんではありませんか」
「お前さ、仕切り直す気全っ然ないだろ……
あともはやほとんど原型がなくなってるじゃねえか、それじゃあただの鬼太郎だ。
いいか、本日二度目だけれど改めて言うと、
僕の名前は阿良々木だ」
「失礼、かみまみた」
「違う、わざと……じゃない!?
って、面倒臭いからって段階を飛ばすな!」
「ラミアいた」
「逃げろ、そいつはギリシア神話に登場する、子供を拐う蛇女だっ!」
壮絶な噛み方である。
「しかし墓場木さん」
「阿良々木だっつってんだろ」
「でも、阿良々木さん、アニメのビジュアルではこう、
長い前髪で片目を隠して鬼太郎みたいじゃないですか」
「そうだけど! 確かにそうだったけれど、
そういうメタな発言は控えてくれないかな!」
「シャフトさんはダンス イン ザ ヴァンパイアバンド作るとか
荒川アンダー ザ ブリッジ作るとか言ってないで、
さっさとつばさキャットの続きを配信するべきだと思います」
「お世話になってんだからやめろよ……」
「あとおそらくそんなのより、傷物語と偽物語を見たいと思っている人が大半ですよ」
「お世話になってんだからやめろよっ!」
「あとみつどもえがシャフトっていうのは確かなんでしょうか?
ソースは?」
「知らねえよっ!」
ちなみに僕は個人的に、荒川アンダー ザ ブリッジが楽しみでしょうがない。
「あとさ、八九寺。
これ、一応するがモンキーとなでこスネークの間の話だから、このときアニメ化の話なんかまったく出てないはずなんだよ。
時系列がぐちゃぐちゃになっちゃうから、本当にやめてくれ」
せめて傷物語辺りの話になるまで我慢しような。
「……………」
答えはない。
ただの屍ではないようだけれど。
「……八九寺?」
「……………」
「八九寺ちゃーん?」
「……………」
「イタズラしちゃうぞー?」
「はっ! ………すいません、阿良々木さん。
ちょっと4と9の公倍数を数えるのに夢中になってしまいまして」
「なんでこのタイミングで!? そんなに僕が嫌いか!」
「いやいやいやいやそんなまさか阿良々木さん、
ご自分が他人に好かれるような人柄だとお思いでしたか?」
「否定すると思わせておいてなにより傷付く言い方をしたな!
そんなこと思っちゃいないけれど、かなり本気で凹むからやめてくれ!」
「おや、そんなに露骨に落ち込んでしまってどうなさいました?
ラブキューピーと呼ばれた私に何でも相談するといいですよ」
「どんな料理にもマヨネーズをかけて食べるからそう呼ばれているに違いないことが
悩み事の解決になんの関係があるのか僕にはさっぱり想像もつかないけれど、
今僕が悩んでいるとしたら、八九寺、お前のその口の悪さについてだよ。
いくら丁寧な口調で言っても、罵倒は罵倒だし侮蔑は侮蔑なんだぞ」
あとラブキューピーとか、たぶん、本当に一部の人しか反応できないネタだからな。
「阿良々木さん、私にそんなことを言ってもいいんですか?
私は曲がり尻尾にも幽霊なんですよ?」
「曲がり尻尾にもって、お前それ、猫の尻尾に対する形容じゃん」
それじゃ八九寺、猫ってことじゃん。
幽霊でもなければ、ましてや蝸牛でもねえよ。
まよいキャット。
いくらつばさキャットが配信されないからって、
八九寺じゃ羽川ほど猫耳が似合うキャラにはなれないから早々に諦めてほしいものだ。
なにせ羽川翼は、世界一猫耳が似合う女である。
ゴールデンウィークのことなんか、正直、思い出したくもない悪夢だけれど、
羽川の猫耳姿を見れたという点だけは阿良々木暦史に残る出来事だ。
ちなみに訂正が遅れたが、正しくは、曲がりなりにも幽霊。
「で、お前が幽霊だからなんなんだよ」
「分かりませんか?
つまり、阿良々木さんが一人夜道で歩いているところを後ろからこうやって」
八九寺は、眉をハの字にしながら、右目で上、左目で下を向き、
更にザクロみたいな綺麗な赤い舌を放心したようにだらんと出すという
実に器用で奇妙で面妖な(ていうか人間技じゃねえ)表情をしてみせて、言葉を繋げた。
「うらめしやー、と脅かすこともできるんですよ?」
「めちゃくちゃこえー!」
そんな表情できることが。
「ふっふっふ、チェロスいものです」
「甘いものが食いたいのか?」
ちょろいものです。
だが、しかし。
僕の反撃はこれからだ!
「甘いなー、八九寺は。今時うらめしやなんて、時代遅れだぜ?」
「そ、そうなんですか!?」
「そうだよ。お前、今時、驚いたときに『そんなバナナ!』って言われて笑えるか?
それと同じだよ。どんなにタイミングよく怖い顔をしても、
うらめしやーじゃあ怖がれないって」
「ふむ、勉強になります。
策士策に溺れて待ちぼうけというやつですね」
「うーん……確かにびっくりするくらい口当たりはいいけれど、そんな諺は明らかにお前の造語だ」
「うらめしやは時代遅れですか。
私、大変恥ずかしいことを言っていたと自覚しました。
私は大人恥ずかしな女です!」
「幽霊だからってサボってないできちんと流行にのらなきゃダメだぜ、八九寺ちゃん」
ちなみに大人恥ずかしは、大人にも劣らない知識だ、とか、大人も顔負けするほどだ、とかいう意味で、
自分の知識のなさを恥ずかしく思うみたいな意味はない。
むしろ誉め言葉である。
自分に使ったら自画自賛。
「阿良々木さん、私はいったいどうすればいいのでしょうか……」
「そうだなぁ。最近のトレンドといえば、やっぱりオタク文化だろ?
ロリってだけじゃ、やっぱりキャラが弱いんだよな」
八九寺の場合、毒を吐くという追加ポイントもあるけれど、
しかしある意味ツンデレみたいなものと考えれば新しさがない。
デレないけど。
……デレないけれどっ!
「ではこういうのはどうでしょう」
こほんと八九寺は咳払いをすると。
「まよいデレ」
「名前にデレをくっつけただけじゃねえか!
語呂なんかもうめちゃくちゃ悪いし、そもそもどんなデレなのかさっぱりわからない!」
「道に迷うとデレるんですよ」
「それはただ心細いだけだな!」
子供っぽいと言えば子供っぽいが。
「まよいデレデレ」
「まよいマイマイみたいに言うな!」
しかもまよいデレデレとかちょっと可愛いしな! 見てみたい!
「語呂がそんなに気になるのでしたら、四文字にしましょう」
「まあ、語呂が悪いよりはいいよ……」
「マヨデレ」
「お前はさっきからどんだけマヨネーズ好きなんだよっ!」
まよいマヨラー。
「もう分かりやすく語尾になんかつけてみろよ。
『だわ』とか『なの』とか」
「そんな恥ずかしい語尾、死んでも嫌です!
あるいは死ぬほど嫌と言い換えてもいいでしょう!
むしろそれを言うくらいなら死んだほうがマシです!
もう死んでますけどね!」
「『ですぅ』とか『かしら』ならどうだ」
「嫌に決まってます!
ていうか長台詞を喋ってボケたんですからスルーしないでください!」
「『でげす』は?」
「阿良々木さんは既製品の語尾に頼って満足なんですか?
そんなんだからありがちな平凡な主人公キャラから抜け出せないんですよ」
「余計なお世話だ!」
「いつまでもそんな男でいいと思っているんですか!」
「いや、僕は別にいいと思ってるけれど」
「びーけあふる! 阿良々木さんの意見なんて聞いていません!」
「質問しておいて!?」
ちなみに最初のびーけあふるは、びーくわいえっとの間違いだと思う。
「そんなに言うなら八九寺、お前、なんか独特で可愛い語尾を考えてみろよ!」
「そうですね。『エーストゥ』なんてどうでしょうか」
「いや、確かにそんな語尾のやつは見たことも聞いたこともないけれど、
可愛くないし明らかにおかしいだろ……」
「全然おかしくなんかないエーストゥ」
「やっぱりおかしい!」
「どこがおかしいエーストゥ?」
「全体的におかしいよ、可愛さ要素なんて皆無だしさ!
そもそも言いにくいだろ!」
「とっても言いやすいエーフヒュ」
「言い間違えてんじゃねえか!」
「失礼、かみましエーストゥ」
「違う、わざとだ……」
「かみまみエーストゥ!」
「わざとじゃない!?」
「えへっ、はにかみエーストゥ☆ミ」
「可愛すぎるーっ!!!」
アホな会話である。
どうしようもなく、アホな会話である。
「ところで阿良々木さんは、こんな時間からお出かけですか?」
八九寺はまるで何事もなかったような顔をして、
話を強行にまともな方向に戻した。
「ああ……先月末に会ったときに言ったろ?
戦場ヶ原の家で勉強なんだ」
「あぁ、知能テストがあるんでしたね」
「その言い方でも間違ってはいないけれど、
学校の定期試験を知能テストって言うやつ、僕は初めて見たよ」
「天井に吊り下げたりガラスの箱に入れたバナナを、
様々な道具を使って取れるかどうかってやつですよね」
「測る知能のレベルが低すぎる! 僕の知能はチンパンジー並かよ!」
ちなみにチンパンジーの知能って人間で言うと三歳児と同じくらいらしいから、暗に馬鹿にされているのだろう。
おのれ、八九寺。
それにしても、チンパンジー並か。
「八九寺、僕のことをなんだと思ってるんだ……」
「阿良々木さんほど形影相憐という言葉が似合う人もいませんよね!」
「けいえんそうりん……? なんだそれ、すげえ格好良いけど、どんな意味だ?」
「自分で自分を憐れむ、という意味です」
……最低だった。
「そういう八九寺は、なにしてるんだ? 散歩か?」
無理矢理話を戻した僕の問いかけに、八九寺はそうでしたと小さく言って、
「阿良々木さんを探していたのですよ」
そう、続けた。
「……僕を? なんでまた」
「先日お話した、幽霊の件です。
今分かっていることだけでもお教えしておこうかと思いまして」
ふいに八九寺の纏う空気が、真剣なものに変わる。
幽霊。
八九寺真宵の正体。
そして――今、密かに街を騒がしている、ナニカ。
八九寺の存在を認める以上、そもそも幽霊が存在しないなんてことはない。
だから僕が見極めなくちゃいけないのは。
それがただの噂話なのか、あるいは、深刻な実話なのか。
そして。
善意か――悪意か。
「結論から言いましょう」
「ああ」
「とは言っても、まだはっきりとしたことを言える段階ではありませんし、
私だってあれが本当に幽霊なのかと言われたら簡単に首を縦には振れませんが」
八九寺真宵は。
善意の幽霊は。
「少なくとも今回の噂の中で幽霊と呼ばれる存在は――確かに、実在します」
そう、答えを出した。
007
「よう、岡崎」
「お……えっと、名前なんだっけ?」
「一緒にバスケやった仲のに!」
「あぁ、思い出した。悪い悪い、最近よく会うな、斉藤」
「それは全然違う人だっ!」
「『さ迷える悠久の荒野』斉藤」
「勝手に変なキャッチコピーをつけるな! しかも斉藤じゃない、僕の名前は阿良々木だ!」
「惜しいっ!」
「惜しくねえよ!」
「分かってるって。お前の名前は斉藤アララギな」
「アララギが下の名前なんてことあり得るか!
斉藤ってのが誰のことなのかは僕にはまったくもって預かり知りえないことだけれど、
そいつのこと好きすぎるな、お前は!」
「斉藤ってすべての苗字の中で最強なんだぜ?」
「え、そうなのか?」
「あぁ。だからおまえは今から斉藤を名乗れな」
「名乗らねえよ!」
八九寺と別れてすぐあと、戦場ヶ原との約束の時間にはまだ余裕があった僕は、
橋の下のストリートバスケットコートにいた。
岡崎はやっぱりそこで一人でバスケをしていて、
だから僕が話しかけるといつものようなそんなやりとりのあと、
鋭い眼光に、口元をちょっとだけ弛めて言う。
「まあ、ともかくサンキューな。飲み物買ってきてくれたんだろ?」
「んなわけねえだろ……」
どんだけ気が効くやつだと思ってるんだ。
「なんだよ、違うのかよ」
「当然だろ。
岡崎、僕のことどういう風に思ってるのか知らないけれd「ジュース持ってないならお前もう帰れな」
「僕の価値はそんだけなのか!?」
「………え?」
「そんな、今更何言ってんのこいつ、みたいな目で僕を見るな!」
最近、僕に優しい人間に滅多に会わない。
僕の生活には圧倒的に、羽川が足りていないと思う。
明日は朝早く行って羽川と絡もうかな。
羽川って意外に使いにくいから、描写されることはないだろうけれど。
「まったく、まさか2歳も年下のやつにこんなにナチュラルにパシリ扱いされるなんて思わなかったよ」
「日頃の行いが悪いせいだな」
「まず間違いなくお前のせいだよっ!」
「んなことねえよ。
だってお前、毎日のように全裸で『ウヒャヒャヒャ』って笑いながら町中走り回る趣味に勤しんでるんだろ?」
「一回もやったことねえよ!
いくらうちの町が田舎だからって、さすがにそんなことをしたら捕まるくらいには警察も仕事してるよ!」
と、そんな風に、相も変わらずの言葉を交わしたあと。
「岡崎。またバスケットボールの相手になってくれよ」
僕は、そう声をかけていた。
「やだよ、めんどくせぇ……」
「そこをなんとかさ。友達だろ?」
「お前、他人って書いて『ともだち』って読むのな」
「普通に友達って書いて『ともだち』って読むよ!」
「え? じゃあお前の中で他人と友達って同義語なの?」
「普通に対義語だよ!」
容赦がなさすぎる。
いい加減ちょっと傷付く……。
「まあ、どうせ暇だし、いいけど。でも阿良々木、お前、昨日全然相手にならなかったじゃん」
「その点に関しては大丈夫だ。
今日、授業中にさ、図書室で借りてきたバスケットボールの入門書読んできたから、
基本はバッチリ頭に入ってる」
「勉強しろよ……」
まったくだ。
「とは言っても、岡崎と普通に勝負しても勝てないのは僕だって分かっているし
……よし、こういうのはどうだ?」
「あ?」
びしり、と岡崎を指差して、僕は声高らかに宣言した。
「時間内に、スコア差が三倍ついたらお前の勝ちだっ!!」
「それ、全然かっこよくないからな……」
「いいからやろう。初心者だし、ボール、僕からでいいよな」
「いいけど……昨日の二の舞になっても知らないぞ」
「昨日の僕と同じだと思うな。吠え面かいてやるよ!」
「それ、負けてるからな……」
勿論、結果は再び惨敗だった。
本を読んだだけで上手くなるようなら、誰も苦労なんかしないのである。
きっちり三倍、点数を離された。
……吠え面をかいた。
「くそう……」
コートの傍のベンチに項垂れる。
隣の岡崎はバスケットボールを手でいじりながら、乱れた息を整えていた。
「喉渇いたな」
「……そうだな」
僕の言葉に岡崎は頷き、続ける。
「悪い、買ってきてくれ」
「いや、僕が買ってもらいたいくらいだよ」
「だから悪いって言ってるだろ……」
「お前の誠意はそんな程度のものなのかよ……」
「うるせえな、さっさと行けよ!!」
「なんでお前がキレるんだよっ!?」
なんかもう、精神的な疲労が笑い事じゃない。
「いや、この前、他人のためにパシられるのが大好きでそれだけが人生の中での楽しみなんだって言ってたじゃん」
「そんなことを言った覚えはこれっぽっちもねえな!
それ僕、ただの痛い人だろ!」
「だっておまえ、この前も全裸で『ウヒャヒャヒャ』って笑いながら町中走り回って俺のためにコーヒー買いにいってたじゃん」
「そんな僕がヤバい人みたいな出来事の記憶はまったくない!
すべてお前の妄想だろ!」
すると、本当に哀れむような目を向けてくる岡崎。
「そりゃおまえ、阿良々木がマジでヤバい人だからだよ……」
「うそ、マジで?
僕は全裸で『ウヒャヒャヒャ』って笑いながら町中走り回って岡崎のパシリをしておいてその記憶を失うようなヤバいやつだったのか!?」
「冗談だよ……」
「いや、分かってるけどさ」
「冗談だっつってんだろ!」
「そこまで急に元気に言われると逆に疑わしい!」
「じょ、冗談だって……」
「どもるなよ、不安になる! こら、目をそらすな、岡崎!」
「冗談だよな?」
「疑問系!? なんか僕、本当に自分がヤバいやつのような気がしてきた!」
「冗談じゃない」
「ついにそもそもの元の文が否定文になった! 冗談じゃないよっ!」
結局僕らは揃って近くの水飲み場で喉を潤すと、時計を見る。
そろそろ戦場ヶ原との待ち合わせに向かうにはいい時間だった。
「じゃあ、僕、そろそろ行くよ」
そう言うと、岡崎はほんのちょっとだけ残念そうな顔をした……ように思う。
「あぁ。じゃあな、えっと……宮越」
「誰だよ……」
「『何度でもやってくる月曜日』宮越」
「無条件で大多数に嫌われるようなキャッチコピーをつけるな!
そして僕の名前は宮越じゃなくて阿良々木だ!」
「惜しい、近付いたっ!」
「惜しくねえし近付いてもいねえよっ!」
別れ際までこんなかよ……。
008
「今日は時間通りなのね、心底意外だわ」
戦場ヶ原の家に着くと同時に、出迎えに出てくれていた戦場ヶ原にそんな言葉を渡された。
「意外って、僕がそんな時間にルーズなやつに……いや、見えるよな、2日連続で遅刻してるわけだし。
ごめん、悪かった」
「いいのよ、阿良々木くん。
私は、阿良々木くんがちゃんとここに来てくれるだけで嬉しいわ」
「戦場ヶ原……」
相変わらずにこりともしない仏頂面だけれど、戦場ヶ原はそんなことを言う。
彼女の本心。
愛情表現。
彼女なりの、デレ。
『デレないツンデレ』と自称した戦場ヶ原ひたぎは、そのキャッチコピーを失うのに3日もかからない。
「さ、今日も仲良く元気にお勉強を始めましょう。
とは言っても本番は明日だから、下手に詰め込むよりも軽く確認する程度で済ませたほうがいいかもしれないわね」
僕と戦場ヶ原が向かい合って席につくと同時に、彼女は澄ましたような伏し目がちで言った。
「へえ、そういうものなのか?」
「そういうものなのよ。
産まれてこのかたたったの一度だってテスト勉強というものをした経験のない阿良々木くんには、到底分からないことなのかもしれないけれど」
「失礼なことを言うな! 僕だってこうして落ちこぼれる前は、普通にそこそこ頭のいい学生をやっていたんだから、
テスト勉強くらいしたことあるに決まってるだろ!」
「前日の夜に焦ってとりあえず要点だけを徹夜で頭に詰め込むのは、テスト勉強ではなく、一夜漬けというのよ。
その辺りのこと、阿良々木くんは分かっているかしら?」
「……………」
分かっていなかった。
昔は一夜漬けでちょっと教科書を見直すだけで、テストなんて簡単にいい点をとれたものだから、
自分のことを天才だと思っていたこともある。
「もっとも要領のいい人はそれでなんとかなってしまうものだし、
中学時代の阿良々木くんはその類だったんでしょう。
……そんな阿良々木くんのために」
戦場ヶ原はそこで言葉を切り、席についたときからずっと気になっていた、
厚さ約1センチメートルほどの紙の束を取り上げて、表紙をこちらに向けた。
「『阿良々木暦用直江津高校定期テスト直前確認プリント』……?」
「そう。阿良々木くんのくせによく読めたわね、誉めてあげるわ」
「さすがの僕もこれくらい普通に読めるよ、バカにすんな!」
「だって阿良々木くん、たまにひらがなも間違えるから、
日本語の段階でちょっと残念なのかと思って」
「し、仕方ないだろ!
『わ』と『れ』とか、『め』と『ぬ』とか、『る』と『む』とか、ぼーっとしてるとたまに間違えるんだよ!」
あと、『は』って書きたいのになぜか『な』になっていることなんてよくある。
難しいよなー、日本語って。
そもそもひらがな、カタカナ、漢字っていう、三つの文字を使っているところから僕には甚だ疑問である。
ひらがなだけでいいじゃん。
台詞をひらがなだけで表記すると、それだけでみんなロリキャラみたいになるし、もう僕は幸せだよ。
……僕はロリコンじゃないけどな!
「ともあれ、そこでこれの出番なの。
これは私が独自のデータにより弾き出した、対直江津高校教師陣専用の直前暗記用プリント。
傾向と対策もばっちり。慣れるために予想問題も作っておいたわ。
量も内容も控えてあるから、雀の涙、猫の額、時代遅れのパソコン、阿良々木くんの脳みそ程度の記憶容量でも簡単に覚えられる優れ物よ」
「なんだかそこまでしてもらって本当にごめん、マジで助かるし、お前にはもう二度と頭が上がらないレベルに感謝しているけれど、
しかし一つ文句を言わせてもらうならば、僕の脳みそをごく僅かなものを形容する意味の言葉たちと同列に並べるな!」
「あぁ、ごめんなさい。
彼らのほうが阿良々木くんの脳みそ程度のものと同列に並べられたら迷惑よね」
「もう完璧に100%予想通りの返答だよ!
なあ、戦場ヶ原、そんなに僕をいじめて楽しいか!?」
「なに言ってるの、楽しいわけないじゃない」
戦場ヶ原は驚くくらいの速さでそう否定してくれる。
「だ、だよな。よかった、安心したよ……」
「阿良々木くんをいじめるのは私のライフワークだもの。
楽しいとか楽しくないとか、そういう次元の物事ですらないわ」
「ちきしょう、過去にこれほどまで、
ぬか喜びという言葉の意味をはっきりと理解したことは一度だってなかった!」
「黙りなさい」
「……………」
え、なんで今、僕、怒られたの?
「とにかく、始めましょう」
何事もなかったような戦場ヶ原の台詞で、僕たちは勉強を開始した。
それにしても。
それにしても、だ。
僕は目の前に広げられたプリントと、そこに羅列された英語を見て、嘆息する。
戦場ヶ原の作ってくれた手書きのプリントは、
非常に丁寧でちょっと砕けた言い回しの解説が驚くくらい分かりやすいのだが。
現実は、非情である。
解説ではなく肝心の問題のほうが、正直、難しすぎだった。
戦場ヶ原は馬鹿な僕でも分かるように作ったみたいなことを言っていたけれど、
彼女は僕の頭の悪さをまだまだ甘く見ていたようだ。
中でも苦手な英語でこんな問題を出されたら、長文問題の一文目で既に再起不能である。
いや、と思う。
あるいは、これは直江津高校の定期テストを意識した問題なのだから、
僕以外の生徒はこの程度のレベルは簡単に解けてしまうような問題のチョイスなのかもしれない。
「これくらいのレベル、出来て当然よ」みたいな。
「……だとしたら」
だとしたら、僕はもう、卒業とか諦めたほうがいいのかもしれない。
こんなの、一生かかっても分かる気がしない。無理無理。
第一、土台無茶な話なのだ。
今まで散々落ちこぼれていた僕が、たった1、2週間の勉強で、
他の生徒が必死に2年半積み上げてきて点数を争うテストに割り込もうだなんて。
いいよ、どうせ今回も赤点だらけだって。
「……さて、と」
なんてわざと大袈裟にネガティブなことを考えてから、息をついた。
こんなことでどうする、目の前の戦場ヶ原が、自分の勉強時間を削ってまで僕のために僕の勉強に付き合ってくれたりプリントを作ってくれたりしているっていうのに、
こんなんじゃ合わせる顔がない。
ぼんやりと戦場ヶ原に向けていた視線を、再びプリントに戻す。
しかし何度見直したところで分からないものは分からないのであり、
どうしても分からない問題に行き当たった場合は、下手に一人で悩むより、分かるやつに助けを求めたほうが利口だった。
「また分からない問題があったの?
阿良々木くん、あなた、実はやる気がないんじゃないの?」
質問のために戦場ヶ原に声をかけた僕への第一声が、それだった。
「……僕は真面目にやってるつもりだよ」
「そう。だったら、いや、これは考えにくいのだけれど……」
「なんだよ、言えよ」
「阿良々木くんは、もしかすると、私の想像を絶するほどの馬鹿なの?」
「すっげー傷付いた!」
つーか想像を絶する馬鹿ってどんなレベルだよ!
と、まあ、ここまではジョブみたいなもので。
「分からないのはどの問題?見せてみなさい」
そう言うと、戦場ヶ原はひょっこりと僕の手元のプリントを覗きこんだ。
ふわりと柔らかい匂いがして、反射的にそっと背をそらして逃げる。
「あぁ、そうね。確かにこのレベルじゃ、
阿良々木くんのアオミドロ程度の脳みそじゃあまったく一ミクロンだって理解できないでしょうね」
「なあ、お前は一つ何かを言うたびに僕をいじめなくちゃ生きていけないのか?」
あとアオミドロに脳みそはない。
「この英語の先生はね、毎回何問か洋画の台詞を使った問題を作るのよ。
確実に自分の趣味でね。
だから問題文の中にスラングや古い口語表現なんかが混じっていて、
羽川さんならともかく私だって読むのは難しいわ」
だから、と戦場ヶ原は続ける。
「阿良々木くんの鍛えるべきことは、必ず何問か混入されるそれらの問題を瞬時に見極めて、
解かないと選択する力なのよ」
「え、解かなくていいのか?」
「いいの。そういった問題は一つも答えなくても、
他をすべて正解すれば9割の点数はとれるようになっているから。
私たちは満点を目指すわけじゃないのだから、下手に訳の分からない問題に時間をとられて、
できる問題にまで手が回らなかったらどうしようもないでしょう」
そういうものなのか。
今まで、英語の問題なんか見てもそもそも映画の台詞が混じっていることすら気付かなかったから、勉強になる。
「つーか、戦場ヶ原はよく映画の台詞だって分かったな」
「なんだかんだ言って、使われるのは流行った映画の台詞ばかりなのよ。
阿良々木くんに渡したプリントの問題だって、有名な映画の一節よ。
そんなことも知らないの?」
「知らないな。僕、あんまり映画を見るって習慣はなかったし」
でも、僕よりそんなことに無頓着そうな戦場ヶ原が知っているということは、
やっぱりかなり有名なのだろうか。
「あぁ……映画を見にいく友達がいなかったのね」
「嫌な解釈をしないでくれないか!?」
「友達を作ると人間強度が下がる(笑)」
「おいやめろ」
罵倒はいいけれど、黒歴史をほじくりかえすのだけはやめろ。
死ぬ。
厨二病は死に至る病なんだぞ。
「安心して。阿良々木くんが厨二病で死んだら、私は厨二病を殺すわ」
「概念まで殺せるのかよ!?」
無敵すぎる、戦場ヶ原ひたぎ。
死の線でも見えているのだろうか。
「見えているのなら――阿良々木くんだって殺してみせる」
「それは普通の人殺しだな!
神様を殺してみせるくらい言ってみたらどうだ!」
「私にとって、阿良々木くんは神様のような存在だもの。
あなたがいなければ今の私は生きていないし、あなたがいなければ私が今生きてる必要もないわ」
「……戦場ヶ原」
「というわけでそれを踏まえて言い直すと、
見えているのなら――神様だって殺してみせる」
「あれ!? なんか全然格好よくねえぞ!」
台詞は変わっているのに、含まれているニュアンスにはまったくもって変化が見られなかった。
「まあ、そんなことより」
自らの命が奪われるという主旨の発言を、そんなことって言われた。
「この問題、本番では解かなくてもいいけれど、せっかくだから一応解説しておきましょう」
「ああ、うん……頼む」
僕は戦場ヶ原の言葉に頷いて、彼女の説明に聞き入ることにした。
……結局。
僕たちは日にちを跨ぐまで、机に向かって頭を使ったのだった。
009
私立直江津高校の定期テストは、すべての教科を一日で消費するという、
そのまんま言葉通り、鬼のようなスケジュールで実施される。
よってすべての日程が終わって校門を出る頃にはもう午後の7時を回っていて、
辺りはすっかり暗くなっていた。
戦場ヶ原と八九寺、更に最近知り合った新たな友達に加えて、
学校まで僕に優しくないなんて、本当に知らないところとか、
あるいは前世かなんかでなにか悪いことでもしたんじゃないかと思ってしまう。
勘弁して欲しかった。
「……それをどうして私に言うのだ、阿良々木先輩」
と、僕の愚痴を黙って聞いていた神原が、わざとらしく呆れたような表情を作って言った。
「いや、だって、戦場ヶ原とか八九寺とか岡崎とか、怖いし……
学校のカリキュラムにはそもそも、文句をつけようがないしさ……」
神原。
神原駿河。
直江津高校二年生。
健康的な短髪。
人懐っこそうな表情。
元バスケットボール部のキャプテン。
自他ともに認めるエロ娘。
そして――猿に願った少女。
神原は、つい先月まで、
バスケットボール部のエース、学校一有名人、学校一のスターとして名を馳せていた人物である。
私立進学校の弱小運動部を入部一年目で全国区にまで導いたとあっては、
本人の否応にかかわらず、そうならざるを得ないだろう。
ついこの間、左腕に怪我をしたという理由で、
キャプテンの座を後輩に譲り、バスケットボール部を早期引退。
そのニュースがどれだけ衝撃的に学校中に響いたか、
それは記憶に新しい。
古びることさえ、ないだろう。
神原の左腕には。
今も、包帯がぐるぐるに巻かれている。
「しかし、阿良々木先輩のほうから私ごときに会いに来てくれるなんて、僭越至極だ。
敬愛する阿良々木先輩が教室に来て、一緒に帰ろうと言ってくれたときの私の感動は、
言葉なんかじゃ到底言い表すことなどできようもないが、
それでも私の、阿良々木先輩のそれと比べることすらおこがましい極小のボキャブラリーを持ってして
阿良々木先輩に伝えることができたらそれはどんなに幸せなことだろうか!」
「えっと、そんなに大袈裟に言われるとなんだか照れるんだけどさ。
突然おしかけちゃって、大丈夫だったか?
他に友達と帰る約束をしていたとか」
「大丈夫だ、阿良々木先輩。
私にとって阿良々木先輩よりも優先すべき事柄など、
戦場ヶ原先輩を除けば他に存在しない!」
「ああ……ありがとうな……」
相変わらず格好良いやつだ、神原。
格好良すぎて、正直何を言ってるんだかたまに分からないくらい格好良いよ。
もう既に分かってもらえたと思うけれど、神原はどういうわけか、
僕のことを異常に過大評価しているきらいがある。
可愛い後輩に敬われるのは確かに悪い気分ではないのだけれど、
それがあまりに過ぎると落ち着かない。
いわれのない敬意。
根拠のない尊敬。
それらはむしろ、普通に貶されるよりも自分の卑小さを思い知るような気がして、
たまに気が滅入る。
「ふむ。さすがの阿良々木先輩も、テストで疲れているようだな。
受け答えにいつものキレがない」
「ん、そうか? そんなつもりはないんだけれど……
悪いな、僕のほうから誘っておいてこんなんじゃ、つまらないか」
「いや、そんなことを気にしないでほしい。
私は阿良々木先輩とこうして歩けるだけであと半年は戦えるくらいの幸福を味わわせてもらっている」
お前はなにと戦っているんだ、神原。
……悪の組織とか?
世界を蝕む闇の教団と、日夜人知れず戦い続ける孤高の戦士。
神原ならちょっとありえそうだ……。
「それより阿良々木先輩、テストのほうはどうだったのだ?
戦場ヶ原先輩との勉強の成果はあったのだろうか」
「ああ、それがさ、勿論答案が返ってくるまでは分からないけれど、
個人的な手応えとしてはかなりいいとこまでいけたと思うんだ。
元々のびしろが有り余ってた教科はまだしも、
得意教科の数学すら今までよりできたって気がしてる」
「ほう、それでこそ我が敬愛する阿良々木先輩だ、
隠しきれない才能は留まるところを知らないな!
私が目指すにふさわしい、まさに有為多望な人物だ!」
有為多望なんて四字熟語がぱっと出てくる神原のがすげえよ。
僕は腕をぐるぐる回しながら、誤魔化すように言葉を繋いだ。
「まあ、でも、さすがに朝早くからこんな時間まで集中しっぱなしだったから、さすがに疲れたな」
「……………」
「神原? おい、どうした、どうして黙ってるんだ?」
「いや……阿良々木先輩は、いつも私を困らせる」
「……はぁ?」
僕、なんか神原の気に触るようなこと言ったか?
「阿良々木先輩は、想像を絶するエロだったのだな!」
「いやちょっと待て、
今の話のどこに僕が尋常じゃなくエロいと結論づけるような根拠があったんだ!?」
神原の中でわけのわからないスイッチが入った!
「いや、その、だな……こういったことを阿良々木先輩の前で言うの非常に心苦しいのだが、
つまり阿良々木先輩はずっとシャープペンシルを持っていたということだろう」
「ああ、まあ……そうだけど」
「もう……もう、そんなのえっちすぎて私は正気でいられないっ!」
「お前の感じるエロチシズムはレベルが高すぎてこれっぽっちも理解できねえよ!
授業中とか大変だろ、そんな性癖!」
もはや変態とか異常性癖とか通り越して、完全に変質者だ。
「安心してほしい、阿良々木先輩。
私がシャープペンシルを持つ手の形をえっちだと感じるのは、阿良々木先輩に対してのみだ」
「なにをどう解釈すれば安心できるんだ……」
むしろ不安が増した。
「まあでも確かに神原ではないけれど、
シャープペンシルのお尻を噛む仕草とかはなんとなく色っぽい感じはするよな」
「お尻を……噛む……?」
「ああ、お前がそこに反応するであろうことは言ってる途中で僕も気付いたよ!
たまには僕の期待を裏切ってくれ!」
「私のお尻でいいなら思う存分に噛み千切ってくれて構わないぞ、阿良々木先輩!」
「噛まねえよ!」
「大丈夫だ、不肖神原、これでも自らの裸体には自信がある」
「くっ……神原、あんまりいたずらに僕の煩悩を刺激するなよ……」
「なぜ煩悩を抑える必要があるのだ。
これは公式に書物として出版されるわけではないから、
普段はできないことや描写できない単語などを口にしても誰にも怒られることはない」
僕は誰かに怒られるのが嫌だから神原に手を出さないわけじゃないってこと、
この後輩分かってくれていないんだろうか。
「例えばだ。普段は言えない次のような台詞も、悠々と言うことができる」
「……なんだよ」
「さあ、阿良々木先輩!私とセック「言わせねえよっ!」
やりたい放題である。
確かに神原のアイデンティティーの一つがエロさであるが故に、
通常業務時には鬱憤が溜まることもあるのだろう。
だが、しかし。
可愛い後輩のファンのために、
僕は神原のキャラクターを出来うる限り守ってみせる!
「原作の時点で私は相当あれだから、今更守るべき恥もなにもないと思うのだが……」
……まったくもってその通りだった。
「それに私は、直接的な表現よりも『行為』という呼び方のほうが好きだっ!」
「聞いてねえよ!」
「さあ、阿良々木先輩。私と行為に及ぼうではないか! 今すぐ!」
「及ばねえって! あとここ、通学路の途中だってこと忘れるなよ」
「ははは、阿良々木先輩は面白いことを言う。
野外でなんの問題があるのだ、気分がむしろ盛り上がるではないか!」
「面白いこと言ってるのは、徹頭徹尾お前だ、神原……」
「いいぞ、もっと私を罵ってくれ! 見下した目で見てくれぇ!」
「……………」
「ほ、放置プレイか? それはそれでたまらないな……はぅんっ!」
「……………」
ド変態で露出狂でドM。
無敵の神原さんだった。
……するがは、無敵だ。
「ところで先ほど、阿良々木先輩は岡崎という名前を口にしたが」
神原は先ほどまでのふざけた空気を一瞬で消し、
真面目な声質にチェンジして言った。
「それはもしや、岡崎朋也という人間か?」
「え、ああ、そうだけど」
突然ではあるが。
神原駿河は、百合である。
彼女は、単に先輩としてではなく、僕の彼女であるところの戦場ヶ原ひたぎのことを、心から愛している。
だから僕と神原は、簡単に言えば恋敵なのだけれど、
しかし先月末、神原の関わった怪異のおかげで僕に対して、
負い目というか恩義を感じてでもしまっているのだろう。
こうしてやたらとなつかれているのである。
そりゃあ、可愛い後輩になつかれるのは、先輩として気分は悪くないのだれけれど、
実は僕は神原に対してしてやれたことなんてほとんどないわけで、
向けられる敬意が誤解の産物であることを考えると少しばかり居心地が悪い。
忍野曰く。
戦場ヶ原と同じく、神原もまた、一人で勝手に助かっただけなのだから。
ともあれそんなやつだから、
神原の口から僕と忍野以外の男の名前を聞くのはなんだか不思議な感じがして、
違和感のある感触の空気を吸い込む。
「神原、知り合いなのか?」
「いや、こちらが一方的に知っているだけだ。
岡崎朋也といえば、この辺りでバスケットボールをやっている中学生の中では、
知らない者などいないくらいの有名人だったからな」
「そうなのか?」
そういえば、岡崎も自分で言っていた。
バスケットボール部のキャプテンで。
スポーツ推薦の話が来るくらいには名前も売れていて。
三年最後の試合の直前に父親と大喧嘩して。
上がらなくなった――右肩。
「年齢は私の一つ年下なのだが、彼は一年生の時から試合に出場していたな。
性差により直接手合わせをすることはついぞ叶わなかったが、
プレーは何度か目にしたことがある。
大きな身体のわりにしなやかな動きをする選手だった」
「へえ。やっぱりすごいやつだったんだな」
「噂によると中学最後の大会になぜか出場せず、
そのままバスケットボールをやめてしまったというが……阿良々木先輩は、どうして彼のことを?」
「さっき言った、新しい友達なんだ、岡崎は。
偶然知り合っただけなんだけれど」
「なるほど……そのようなスター選手とさえ瞬く間に打ち解けるとは、
阿良々木先輩は本当に素晴らしいお方だ。
一生かかっても追い付ける気がしない」
「そんなんじゃねえよ。
友達になるのにスター選手がどうとかなんて関係ないし、
それを言ったら僕からすれば神原のほうがよっぽど近寄り難いスターだ」
なんせ神原駿河は、直江津高校に通う人間なら名前を知らない人など一人もいないような超有名人で、
そのまんまアイドルみたいな扱いをされているのだから。
知り合う前は素性を知らなかった岡崎とは、違う。
「だから、お前とこうして友達になれたことを、僕は心からよかったって思ってるよ」
「阿良々木先輩……」
神原は虚をつかれたような顔をしたあと、ぱあ、と表情を綻ばせ、叫んだ。
「脱げばいいのか!?」
「なんでだよっ!」
意味が分からない!
「阿良々木先輩が私のことをそんなに想っていてくれていたなんて
……私にはそれに応える術は、脱ぐこと以外に存在しない!」
「お前が脱ぎたいだけだろうが!
そういうところがなければお前は完璧なのにな!」
ちょっとは常識を身につけろ。
「……それで」
本当に制服を取り払おうとする神原を、ほとんど抱きつくみたいにして食い止めたあと。
神原は、いつものように平然とした顔で、言った。
「阿良々木先輩、私と帰りたいなどというのは実のところ言い訳だろう。
一体全体どういった用件なのだ?」
神原は。
鋭く、僕が今日、神原を誘った理由を、問うた。
「……ちょっとさ、ついてきてほしいところがあるんだ」
単刀直入に、僕は言う。
「夕飯くらいは奢るからさ。
そのあと、ちょっと付き合ってくれないか」
昨日聞いた、八九寺真宵の話を思い出しながら。
「少なくとも今回の噂の中で幽霊と呼ばれる存在は――確かに、実在します」
八九寺真宵は、これっぽっちも厳かさを演出できていない舌足らずな声で、そう言った。
「実在する?」
「はい。私も幽霊という非常に曖昧な立場故に、
すべての人に話を聞けるわけではありませんから、情報自体はぶつ切りなのですが」
八九寺曰く。
件の幽霊は、『ストバスの幽霊』と呼ばれる男で、毎晩ストリートバスケットコートに一人で出現するらしい。
顔はフードですっぽり覆われていて誰も見たことがないが、
『ストバスの幽霊』はコートでバスケットボールに励む若者たちに勝負を挑み――そのすべてを、ことごとく打ち破っているそうだ。
連戦無敗。
百戦錬磨。
百戦百勝。
噂は噂。
話半分。
都市伝説。
道聴塗説。
――『ストバスの幽霊』。
「いや、ちょっと待てよ、八九寺。
確かに話は分かるけどさ、そいつ、
ただの正体不明のバスケットボールが上手いやつってことじゃないのか?
そりゃあ、そんなに強いやつがいきなり現れたら噂にはなるだろうけれど」
「幽霊と呼ばれるには、至らない」
僕の言葉の続きを引き継ぐように、八九寺は言った。
「その通りです、阿良々木さん。
ここまでの話なら、『ストバスの幽霊』はただバスケットボールが尋常じゃなく上手い人ということで終わりです。
それ以上、なにもありえません。
ではそれが1on1だけではなく、2on1、3on1、それどころか――5on1でも無敵だとしたら?」
「……それは」
そんなことは、あり得るのだろうか。
バスケットボールに限らず、球技と呼ばれるスポーツは選手の人数差が開けば開くほどゲームバランスは崩れる。
例えば相手チームより一人多いだけでもパスコースの選択肢が多くなり、
よって攻め方だってその分バリエーションが増す。
それを、只でさえコートの狭いバスケットコートの、
それもフリースタイルが主流のストリートボールで。
5人もの相手に、1人で勝つというのは。
……あり得る話なのだろうか。
「私もそれがどうにも引っかかりまして、
昨日阿良々木さんと別れたあと、
バスケットコートをいろいろ回って見てきたのですが」
そんなことまでしてくれていたのか。
「見つかったのか?」
「ええ。この目でしっかりと見ました……が、言葉で言い表すのは非常に難しいですね」
珍しく、困ったように言い淀む八九寺。
「……八九寺?」
「いえ、これは阿良々木さんがご自分の目で見られたほうが早いと思います。
知能テストが終わったら」
「定期テストだ!」
「……定期テストが終わったら、見てきてはいかがでしょう」
そんな、八九寺らしくもない、曖昧な表現で。
「はっきり言いましょう。私個人の意見なので信憑性には欠けると思いますが、あれはおそらく……」
まっすぐ僕の目を見て、続けた。
「怪異の類の仕業かと」
「なるほど、つまりその『ストバスの幽霊』の正体を見極めるために、
私に協力してほしいと、そういうわけだな」
「話が早くて助かるよ、神原」
神原と二人、学校の近くのファストフード店で向き合いつつ食事をとる。
僕の話を聞き終えた神原は、もうすっかり冷めてしまったフライドポテトの一番長いやつを、器用に結んでから口に放り込んだ。
「それにしても、5人を相手にして勝つなんて、
そこのところバスケットボール部の元エースとしてはどう思う?」
「うん? 私は5人くらいなら同時に相手にしても全然大丈夫だぞ」
「え、マジで? 神原クラスになるとそんなもんなのか?」
「勿論だ。将来的には夢の10Pを目指しているからな!」
「なんの話をしてるんだ!?」
「なんのって阿良々木先輩、そんなの決まっているではないか。セック「だから言わせねえよっ!」
ちょっとでもエロに繋がりかねない単語を避けて話さなくちゃ、真面目な相談もできやしない。
と思ったら、神原は自分のバッグをがさごそとやり、
一枚のプラスチックケースを取り出して僕に差し出し、本日最高の笑顔を見せる。
「ところで阿良々木先輩、このAVに出てくる男優が阿良々木先輩にそっくりなんだが、どう思う?」
叩き割った。
「な、なんてことをするんだ! いくら阿良々木先輩といえども許さないぞ!」
「うるせえ、お前は学校になんつーもんを持ってきてるんだ!
あとそれを嬉々として僕に見せるな!」
「だって! だって仕方ないではないか!
私は昔から男子のよくやっているアダルトグッズの学校での貸し借りというのをやってみたかったのだ!」
「え、そんなこと男子ってみんなやってんの?」
「…………ああ、阿良々木先輩には友達がいないのだったな……」
ものすごい哀れな生き物を見るような目を向けられた。
「ば、馬鹿、僕だってアダルトグッズを貸し借りしあう友達くらいいるさ!
馬鹿にするな!」
「申し訳ない」
「謝るな!」
くそう、確かにずっと気になってはいたけれど、
休み時間に教室の隅で集まってごそごそやってるやつらはみんな、
アダルトグッズの貸し借りなんかしてたのか……。
泣けてきた。
「しかしまあ、普通に考えて」
長いフライドポテトを結んで作った円に短いポテトを出し入れするというよく分からない動作をしつつ、神原は真面目な声を出す。
……なんであいつあんなににやにやしてるんだろう。
「相手が全員初心者でもない限り、5人を一度に相手にするなんて難しいと思う」
「やっぱりそうだよな。となると、なにかあるんだ」
それを可能にし、更に幽霊と呼ばれる理由にもなったなにかが。
普通の人にはできない。
怪しく異なる、なにかが。
それを見極めるために。
「よし、そろそろ時間もいいだろうし、行ってみようぜ」
「ああ、承知した!」
残ったポテトを豪快に口の中に流し込んだ神原と共に、
僕はストリートバスケットコートを目指して店を出た。
この付近には、ストリートのバスケットコートと呼ばれるものが意外に多く存在する。
それは無意味に土地が有り余っているからとか、
頓挫した多くの土地開発計画の後遺症で残ったコンクリートの駐車場がいつの間にかコートと化すからとか、
理由はだいたいそんなところなのだけれど、
毎晩いろいろなコートに出現する『ストバスの幽霊』が現れる場所を探すのは容易い。
最近では県内の腕自慢のストリートボーラーたちが『ストバスの幽霊』を倒すために盛り上がっており、
彼が現れると即座に連絡網が回りギャラリーやチャレンジャーが詰めかけるからだ。
町を徘徊する若者たちに聞けば、今日はどこにいるという情報はすぐに手に入る。
そして今日は、僕たちの町と隣町を繋ぐ橋の下――僕と岡崎を繋ぐバスケットコートが、『幽霊』の出現スポットだった。
「すごい盛り上がりだな、阿良々木先輩!」
神原が叫ぶ。
ギャラリーの人混みの音や歓声で、叫ばないと話ができないのだ。
田舎生まれの僕には少し刺激が強い体験。
「ああ!」
答える。
「ここからじゃよく見えない! 神原、一番前に行こう!」
「了解した!」
僕らが人垣を掻き分けてなんとか一番前に出たとき、ちょうど前の試合が終わったところのようで、
しょぼい電灯に照らされたコートには、
丸太みたいな腕を惜しげもなく晒すタンクトップのチャレンジャーが膝をつき――その前に、退屈そうにバスケットボールを弄ぶ『幽霊』が、いた。
細身の身体に、夏前だっていうのに長袖の上着を着て、
フードにすっぽりと覆われているせいで顔はあまり見えない。
「なあ、阿良々木先輩。あれって……」
「……………」
嫌な予感が、していた。
嘘だ、と思う。
耳鳴りがひどい。ぐらりと平衡感覚をなくした一瞬。
「次の挑戦者はいないのか!」
ギャラリーの中から、誰かが叫んだ。
しかし先ほどまでの試合を見ていて怖じ気づいたのか、誰も動く様子はない。
僕と神原は一度も試合を見ていないから、
これでは『ストバスの幽霊』の正体を見極める材料を得られないのだけれど。
どうする。
ほとんど麻痺している頭でそんなことを考えていると。
「……阿良々木先輩」
神原が、言った。
「公式の試合ではなく、ストリートバスケットボールなら、この腕でも大丈夫だろうか?」
真っ白い包帯をぐるぐるに巻いた左腕を、感触を確かめるように、握った。
その横顔を見る。
ぞくりとする、笑顔だった。
長く、長く望んだ待ち人が現れたかのような。
獲物を狩る獣の――猿の笑顔。
「いや、待て、神原……」
「大丈夫だ、阿良々木先輩。
どうせこの薄暗さ、私の特異性なんて気付かれない」
ぐっと、一歩目を踏み出す。
「それに、中学生の頃から、一度でいいから戦ってみたかったのだ。
だからすまない、阿良々木先輩!」
神原は軽いステップでスポットライトのような電灯の下に踊り出すと、
『幽霊』と向き合う。
「次の相手は私だ。お相手願えるだろうか」
猿の笑顔。
対するは、ちらりとほんの一瞬露出した――狼の瞳。
「やめろ、神原っ!!」
僕の叫びに、しかし反応したのは周りのギャラリーだった。
「神原? 神原って、あの神原か?」
「神原駿河? 怪我で引退したって聞いたけど」
「腕に包帯まいてるし、そうなんだろ」
「神原って誰?」
「ほら、直江津高校の――」
神原は……弱小女子バスケットボール部を全国大会まで導いた伝説の人物神原駿河の名前は、
こんなバスケットボール好きたちの集まる場では起爆剤にしかならない。
沸き上がる歓声。
その中で。
ボールを受けた神原が、弾けるように駆けた。
神原は、決して背が高いわけではない。
体格も小柄で、どちらかといえば痩せているほうだ。
だが、神原駿河は――跳ぶ。
腰を落としてディフェンスの体制をとった『幽霊』を、
しかし神原は、そんなものは知らないとばかりに一息で――飛び越えた。
沸き上がるギャラリー。
神原は、まるで彼女だけが無重力下にいるかのような、
ふうわりとした軽やかな跳躍で『幽霊』の頭を軽々と飛び越し、
かの有名なバスケ漫画を彷彿とさせる勢いで、ダンクシュートを決める。
電光石火のようだった。
それが、『人間越え』という名前のれっきとしたバスケットボールの技術であることを、
僕は後になって知ることになるのだが、とにかくそのときは、
ただあまりにも鮮やかな手口に見とれていた。
「まずは2点。さあ、次はあなたのオフェンスだ」
ボールよりも遅れて着地した神原は、『幽霊』にボールを渡すと腰を沈める。
ハーフコートのストリートボールでは、
このようにシュートが決まったりオフェンス側がスティールされると攻守を交代するルールのようだ。
ぼすぼす、と小気味のいい音がする。
『幽霊』は感触を確かめるように何度かドリブルをして。
手慣れた動作。
経験者特有の、それ。
素早い動きでボールを奪いに来た神原をおちょくるようにコートの中を走り回る。
しかし神原も神原で、それにぴったりくっつきゴール下に入れさせない。
そんな、一つひとつの動作にどれほどの技術が詰め込まれているのか想像もつかない応酬が一区切り終わり、
二人が再び距離をとる。
間髪を入れずに駆け寄る神原。
その、一瞬。
『幽霊』が――笑った。
彼は立ち向かってくる神原の右側をドリブルで抜けようと身体を進ませて――その反対方向に、パスを出していた。
「なっ……」
神原の体が止まる。
それはまさに、妖異幻怪と呼ぶにふさわしい光景だった。
誰もいない場所に放たれ、
まともに1on1をやろうとかそういった意思すら垣間見ることさえ皆無な皆目検討もつかない方向へとすっ飛び、
ぼすん、と鈍重な音を立てて行き場を失い落ちるはずだったボールは、しかし、
神原の左斜め後ろ付近の空中で一瞬静止し――Vの時を描くように動き出し、
右から神原を抜いていた『幽霊』の手に収まる。
動けない神原を嘲笑うかのように彼は3ポイントラインから、
恐ろしいほど綺麗なフォームでボールを放ち、ゴールネットを揺らした。
「神原……」
声を漏らす。
これが――『ストバスの幽霊』。
怪しく異なる、怪異。
試合は終始、神原に不利な展開で進んだ。
それもその筈である。
バスケットボールに限らず、球技と呼ばれるスポーツは選手の人数差が開けば開くほどゲームバランスは崩れると言ったのは、果たして誰だったか。
『幽霊』は、どういうカラクリか空中でボールを自分にパスさせることができるようで、
それはつまり神原にとっては1人で2人を相手にしているようなものなのだ。
神原もオフェンスに回れば持ち前の跳躍力で攻めるものの、しかし点差は無情にも離れていき、
初めてからそういうルールだったのだろう、『幽霊』が18点目を決めた段階で神原の敗北が決まった。
「神原っ!」
コートで項垂れる神原に駆け寄ると、彼女は困ったように笑った。
「阿良々木先輩の前で、恥ずかしい姿を見せてしまったな。残念ながら私の負けだ」
「いや、それはいいんだけれど……大丈夫か?」
「うむ、なにも問題はない。
左腕も……私が負けたことに対しては、文句がないようだ」
神原の左腕。
レイニー・デヴィル。
それにかけられた一つ目の願いは、もう期限が切れているのか、
あるいは今回の件をカウントには入れないと決定をくだしたらしい。
そのことを忘れて未知の相手に戦いを挑んだことは怒ってやりたかったが、
それよりもとりあえず茫然自失といった様子の神原が心配だ。
「本当に大丈夫か?
なにか好きな言葉を言ってみろ」
「ド素人!」
「なにかエロいことを言ってみろ」
「先生はトイレじゃありません!」
「政府へ文句を言ってみろ」
「児ポ法改正断固反対!」
「好きなゲームは」
「もじぴったん!」
「好きなおっぱい」
「つるぺったん!」
「よし」
大丈夫そうだった。
と、その時。
「阿良々木……」
僕の名前を呼ぶ、ざらざらとした声が背中に投げつけられた。
体が固まる。
ギャラリーであってくれ、と願った。
たまたまギャラリーにいて、僕を見かけたから追いかけてきたのだと。
意を決して、振り返る。
瞬間。
前に一度感じたことのある、
喉を刃物で切り裂かれたと錯覚を引き起こすぐらいの、
頭の芯まで塩の塊を詰め込まれたみたいな、
鈍重で悪寒だらけの嫌悪感が、あった。
頭から冷水をかけられたような、ぞっとするほど奇妙な感覚。
全身の毛が逆立つ。
耳鳴りが渦を巻いて、五感があるべき方法を見失い、
遭難した視覚味覚聴覚嗅覚触覚を手繰り寄せようと呼吸をして。
そんな、ざわざわとした手触りの空気の中――ぎらついた、貫くような彼の双眼が、
僕を、真っ直ぐ、射抜いていた。
鈍く光る、切れ長の、ナイフのような。
ぎらぎらと紅く輝く。
灼けた狼の、瞳。
「………岡崎」
『ストバスの幽霊』こと、右肩が上がらないはずの岡崎朋也が、そこには立っていた。
010
「送り狼」
僕の話をすべて聞き終えた忍野は、
例によって例のごとく人を見透かしたようなぺらぺらに薄い笑顔を浮かべ、
一瞬たりとも迷うこともなく「うん、成る程ね」と頷き、
わざとらしく一度天井を見上げてから、
火のついていない煙草の合間から吐き出すように言った。
「それはほぼ間違いなく、送り狼の仕業だろうね、阿良々木くん。
送り狼。送り犬。あるいはもっと単純に、山犬とか狼って言われることもあるけれど――」
「狼、か」
「そう、狼」
忍野は繰り返す。
「狼だよ」
狼。
ネコ目イヌ科イヌ属に属する哺乳動物。
鋭い牙、立った耳に太い尻尾を持つ中形の肉食獣で、その大きさは現生のイヌ科では最大を誇る。
「送り狼って言うとさ、ほら、現代ではもっと違うニュアンスで使われることが多いけれどね。
知ってるかい? 女の人を家まで送り届けるついでに肉体関係まで持ち込んでしまう、
ちょうど阿良々木くんみたいな悪い男のことだよ」
「おい、話を作るな。僕はそんなことしてねえぞ」
僕が言うと、忍野は本当に驚いたみたいな顔をしてみせた。
「そうなのかい?
今回はまあ、ともかくとして、阿良々木くんはいっつも違う女の子を連れてくるから、
てっきりそういう方法で手っ取り早く手なづけてるのかと思ってたよ」
「忍野、お前な、いい加減にしろよ」
「そう怒るなよ、阿良々木くん」
はっはー、と笑い。
「まったく阿良々木くんは元気がいいなぁ。なにかいいことでもあったのかい?」
そんな、お決まりの台詞を吐いた。
学習塾跡の廃ビル。
その四階。
バスケットコートでの一件があったその夜のうちに、神原は先に家に返し、僕は忍野と向かい合っていた。
忍野。
忍野メメ。
怪異関係のエキスパート。
専門家、オーソリティ。
趣味の悪いアロハの小汚ないおっさん。
居住地を持たず、旅から旅の根無し草。
大人として尊敬のできる相手では決してないが、それでも、僕らがこいつの世話になったことは、揺るぎない事実である。
猫に魅せられた羽川翼も。
蟹に行き遭った戦場ヶ原ひたぎも。
蝸牛に迷った八九寺真宵も。
猿に願った神原駿河も。
みんな、少なからず忍野から力添えをもらった。
軽薄な性格で、間違っても善意の人間ではない。気まぐれの権化。
忍野は、かつてはここで子供達が勉学に励んでいたのであろう机を、
ビニール紐で縛り合わせて作った簡易ベッドの上に胡座をかいていた。
「そもそもさ、阿良々木くん。
狼に関する伝承ってのは世界各地いたるところに残っているんだ。
強い動物、怖い生き物ってのはそれだけで神格化されやすいからね。
スラヴ地域では戦士が狼の皮で作ったベルトを身につけると狼の力を得るっていうし、
古代ローマやヨーロッパじゃあ穀物や豊穣の神様として狼神が奉られているのは有名な話で、
中国じゃあシリウス星のことを天狼星って呼んでたらしいよ。
全部、阿良々木くんには難しい話かもしれないけれど。
ああ、それにそれどころかモンゴルとかトルコ系の民族では、
自分たちの始祖は狼だなんて信仰まであったりするんだぜ」
僕も、狼に関するそれらの話は、聞いたことがないわけではなかった。
狼信仰と言われてもぴんとくる具体名こそないにしても、
しかし神格化された狼といえばむしろ耳に慣れた感じさえする。
「第一、狼って全体的に格好良いしね。
そりゃあ信仰するなら、僕だって狼がいいよ」
忍野は茶化すようにそんなことを言って、なにがツボに入ったのか「はっはー」と笑う。
意地の悪そうな笑顔に、本当に気分が滅入った。
「忍野。それで送り狼ってのは、どんな怪異なんだよ」
「そう急かすなよ、せっかく一から説明してるんだからさ。
まったく相変わらず阿良々木くんは元気がいいなぁ。なにかいいことでもあったのかい?」
本日二回目である。
通例のやりとりは羽川とのそれで充分だ、
こんな廃墟でおっさんと何度も繰り返したって楽しい気分になんかならない。
「ま、狼信仰ってのは阿良々木くんにはぴんとこないかもしれないから説明しとくと、
ほら、神話の中にもさ、狼を象った神様ってのは多く現れるだろ?
北欧、ゲルマン神話に出てくる太陽と月を飲み込む狼、
スコールとハティは……阿良々木くんが知らないのも無理はないね。
ああ、いいんだよ、阿良々木くんのそういう鈍いところっていうか、
早い話不勉強なところには、僕はもう慣れることに決めたってのは前に言ったっけね」
「僕もお前の僕を馬鹿にしたがることには慣れることにしたよ。
いちいち腹を立てていたら話が進まないからな」
「へえ、言うようになったじゃないか。まあいいや、えーっと何の話だったかな。
ああ、神話の話だったね。
そうだな、いくら阿良々木くんだって、フェンリルって名前くらいは聞いたことあるんじゃない?」
「……ロキ神の子供の大狼、だっけ」
僕を小馬鹿にするようなワードを挟んでくるのは、慣れることにしたとはいえ相変わらずやっぱり気になる。
……頑張って我慢した。
「そ、口を開けば上顎が天にも届くってやつだね。
阿良々木くん、よく知ってるじゃないか」
皮肉っぽく笑うと、忍野はくわえていた煙草をくるくると指で回す。
「まあ、海外に限らず日本の狼信仰だって相当なものだよ。
だいたい狼なんて、名前からして出来すぎだと思わないかい?」
「名前? 狼って名前が、どうかしたのか?」
「鈍いなー、阿良々木くん」
ちっちっち、と指に挟んだ煙草を揺らす忍野。
思う存分に僕を馬鹿にできるのが楽しいのだろう。
「狼ってのはつまるところ、オオカミ……大神だよ。
大きな神と書いて、大神。
過去の文献なんかじゃ狼を『大神』と書してるものなんて、そりゃもう掃いて捨てるほどあるしね。
あとはあれだよ、もののけ姫でも狼は神様かなんかとして登場するだろ?」
「最後のはできれば言わないほうがよかったな」
ここぞというときに格好つけきれないやつである。
そもそももののけ姫のあれは山犬で、神様でもなんでもなかった気がする。
「……そういうわけでさ、狼の怪異ってのも当然、数多く存在するわけだ。
民間伝承の数だけ怪異ってのは存在の可能性を許されるからね」
怪異とは。
人間がそこにいると思うから存在し、信じなければ存在しない。
どこにでもいるし、どこにもいない存在。
二律背反。
矛盾、パラドックス。
怪しくて、異なる。
「狼の怪異として分かりやすいのは、そうだな。
ワーウルフとかライカンスロープ、フランスではルー・ガルーって言ったかな……
まあいわゆる、狼男とか人狼のことだね。
他にも挙げだしたらキリがないけれど――その中の、送り狼。
日本の狼の怪異としちゃあ、かなりメジャーだよ」
ようやく本題に入ったと身構える。
送り狼。
狼の怪異。
……岡崎朋也。
「送り狼の伝承は、阿良々木くん、ちょっとくらいは知ってるかい?」
「まあ、本当に少しなら。森を歩いてたら狼があとをついてきたってやつだろ?」
「はっはー、今日の阿良々木くんは冴えてるね。
その通り、送り狼ってのは東北地方から九州まであらゆる場所に残っている言い伝えでね、
おかげで地域によって細部に差はあるけれど、まあだいたい大筋で共通してるのはこんなんだね」
再び煙草をくわえ、くいっと唇を歪めると。
「夜に山道を歩いていると、後ろから狼がぴったりくっついてくる。
途中で転ぶと途端に襲いかかってきて食い千切られるから、
転びそうになったら休憩するふりをして『どっこいしょ』とか『しんどいわ』とか言うと大丈夫で、
そして目的地までついたら『お見送りありがとう』とちゃんとお礼を言うと、
狼は帰ってくれるって話だよ。
狼があとをつけてくる理由には諸説あって、まあ、餌としての人間が転ぶのを待ってるってのもあるけれど、
怪異としての送り狼の特性を考えるともう一つの、
他の野犬たちから守ってくれているっていうほうが大切かな。
そうじゃないと最後にお礼を言うってところと噛み合わないしね」
「ちょっと待て、忍野。
怪異としての送り狼の特性? 伝承と怪異とで違いがあるのか?」
「いいところに食い付くね、阿良々木くん。今日のきみは本当に冴えてるよ」
普段僕のことを馬鹿にしきっている人間からやけに誉められると、
むしろ気味が悪くていい気がしない。
不安だ。
明日辺り、こいつに殺されるんじゃないだろうか。
「送り狼は、今までの伝承そのまんまの怪異とは違って、怪異としての属性を持っている。
その通りだ。
怪異としての送り狼は、タイプとしては――レイニー・デヴィルに非常に近い」
レイニー・デヴィル
猿の手。
雨合羽の悪魔の怪異には、つい先月、言葉通りの意味で散々痛めつけられたところである。
いくら吸血鬼の力で回復するからといって、それはそれは痛い思いをしたのだ。
「………レイニー・デヴィルか」
冷や汗が頬を伝うのを感じる。
今回もあんな痛い思いをするのは、できることなら遠慮願いたかった。
「そう怯えるなよ、阿良々木くん。僕の言いたいのはそういう、痛い意味でじゃない。
送り狼はね、大義としてはレイニーデヴィルと同じ――つまり憑いた宿主の願いを叶える怪異だ」
「願いを、叶える……」
神原のとき、忍野が言った言葉を思い出す。
レイニー・デヴィルは三つだけ願いを叶える。
その魂と、引き替えに。
「いや、願いを叶えるっていう言い方はちょっとよくないかもな。
正確には、願いの成就まで導くんだ。
その間、送り狼は宿主に、その願いの成就のために必要な特別な力を授けるらしい。
今回の場合、上がらないはずの右肩が夜のうちは上がるようになるのとか、あとは例の幽霊パスってやつがそれに該当するんだろうね。
そして送り狼は宿主が願いを叶えるまで、ぴったりとあとをついてくるって寸法だ。
その、なんとかっていうバスケくんは、最近誰かにあとをつけられてるって言ったんだろ?
ならそれはもう、送り狼で決まりじゃないか」
「いや、だからちょっと待てよ、忍野。
岡崎は、あとをついてきてるのは、工業高校生だって言ってたんだぜ?」
「工業高校生かもしれない、だ。
それを言うならね、阿良々木くん。
きみがその話を聞いたのは、きみたちが工業高校生に追いかけられてから2日後だろう?
だとしたらバスケくんがなにかにあとをつけられたのは少なくとも2日前から。
常識的に考えて、それなのに、『最近』なんて言い方をするかな」
「……………」
言葉もない。
単語の一つも、繋げない。
「ともあれ、送り狼だ。
勿論、送り狼は、宿主の願いの成就の手助けを無償でしてくれるわけじゃない。
そんな生易しい怪異じゃない。
そんな怪異はあり得ない。
伝承のほうの送り狼で、転んだら食べられるってやつと同じさ。
願いの成就の途中で宿主が一つでも失敗するか、あるいは願いが無事に成就されたら――がぶり、だ。
宿主は代償に、なにかを大切なものを奪われる。
おそらく今回の場合は、右肩がそっくりそのままなくなるか、
あるいはぴくりとも動かなくなるってとこだろうね。
……ま、レイニー・デヴィルなんかに比べれば、むしろ親切すぎるくらいだ」
「待てよ、途中で一つでも失敗するか、願いが無事に成就されたらって、
それじゃ、送り狼に憑かれたら必ずなにかは奪われるしかないってことじゃないか」
「そうだね。だから伝承のほうを思い出しなよ、阿良々木くん。
送り狼は本質こそレイニー・デヴィルだけれど、祓い方はどちらかといえば重いし蟹に近いよ」
重いし蟹――戦場ヶ原のときと?
送り狼の伝承。
送り狼は、目的地までついたら
『お見送りありがとう』
とちゃんとお礼を言うと、狼は帰ってくれる。
「……お礼か」
「そう。送り狼の正しい祓い方は、願いをきっちり成就してからお礼を言うこと。簡単だろう?」
確かに、レイニー・デヴィルよりはよっぽど簡単だ。
奪われるものも決して魂なんかじゃないし、むしろあれだけ強力なやり方で願いの成就を後押ししてくれている。
「だからさ」
忍野は。
怪異の専門家は、本当に意地悪な笑みを浮かべて言った。
「だから、今回のことは、放っておけばいいんじゃない?」
「………は?」
僕の間抜けな声に。
壮絶な笑みを、忍野は隠さない。
「だってほら、今回の場合、例のバスケくんはなにも困っていないどころかむしろ楽しんでる。
しかもただバスケットボールが強くなったってだけで、誰かに危害を加えるわけじゃないしね。
放っておけば勝手に願いは成就されて、ま、右腕は残念だけど諦めてもらうってことで。
わざわざ阿良々木くんが手を出すまでもないよ」
なんでそんなことを言うのか、理解できなかった。
怪異関係のエキスパート。
専門家、オーソリティ。
そんな忍野が、怪異を見逃せと。
「どうして……」
「うん? それは、どうして僕が放っておけと言うかって意味かい?
そんなの決まっているじゃないか、僕はあっちとこっちの橋渡し役であって、何でも屋じゃない。
あくまでバランスを保つものであり――怪異に甘えている人間を進んで助けるほど、酔狂じゃないよ」
その笑みは、春休みに一度だけ、見たことがある。
キスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレードの心臓を僕に見せたときと同じ種類の笑顔。
「それにさ、ツンデレちゃんとときと違ってバスケくんに怪異を祓う気がない以上、
送り狼みたいなタイプの怪異を祓うのは難しいよ。
だって宿主の願いってのがなんなのかそもそも分からないから、
それを成就させる後押しもしようがない」
そこまで言いきったあとで。
そんなにきっぱりと岡崎を見捨てると言い放ったあとで。
「それでも」
忍野は。
「それでも阿良々木くんが協力してほしいって言うんなら、
バスケくんにじゃなくて――きみに手を貸すのは、僕としてはやぶさかじゃあないけれど」
そんなことを、言いやがるのだった。
……どうする。
確かに忍野の言うことは、一理も二理もある。
現状で送り狼を祓うのは確実に困難だし、岡崎が楽しんでいるのなら手の打ちようだってない。
だったら、見逃すのか。
なにかできるかもしれない可能性を、見なかったことにして。
……本当に? 岡崎は、本当に楽しんでいるのか。
……いや。
『この町は嫌いだ――忘れたい思い出が、染み付いた場所だから』
岡崎は確かに。
悲鳴を、上げていた。
「……忍野」
「ん?」
僕の言葉に、忍野は片目を閉じて応える。
「夜中にいきなり押し掛けて、
これだけ散々解説をしてもらっておいてなんなんだけど――今回は、忍野の助けはいらない」
「へえ、なんでまた」
「だってさ、お前に頼むとなると、お前が怪異の専門家である以上タダってわけにはいかないし、
祓ったあとに岡崎に料金を請求したら詐欺みたいだしさ、
だからといって僕が払う余裕もないし」
それに、なにより。
「岡崎の願いは、僕、分かるから」
僕なら、分かる。
「それは、阿良々木くんが自分で彼の怪異を祓うと、つまりそういとことかい?」
「いや、怪異を祓うとか、そんなレベルの話じゃなくてさ」
知り合ってからまだ数日だけれど、
岡崎と僕は何度か一緒にバスケをして、馬鹿をやって、言葉を交わした。
そんな岡崎が今、なにか大切なものを失いかけていて。
だけどそれでも誰かに頼ろうとしなくて。
僕は、岡崎の意思を無視してそれを勝手に助けようというのなら。
「それはもうただの――友達同士の喧嘩だろう」
そう、だから今回、これ以上忍野は頼らない。
正直に言えば、協力してくれると言っている忍野を跳ね除けてまで我を貫き通すような不撓不屈の精神なんて、僕は持っていない。
いない、けれど。
「それでもこれは――僕の喧嘩だから」
011
僕は岡崎との喧嘩の準備のために、
ひとまず帰って睡眠をとってから神原の家に出向いて助言を求め、
それを元にして会場をセッティングし終えた頃には、
岡崎と出会ってから6日目の夕方になっていた。
テスト休みで授業がなかったのは、行幸だ。
特定の授業では、出席日数が危なくなる可能性も出てくるから下手に学校をサボれないのである。
「阿良々木先輩、それは本気で言っているのか?」
神原の家の前で、助言を求めにきた僕に対して神原は、
呆れや哀れみやあるいは羨望のような、
とにかく多くのものが入り混じった不思議な表情でそんなことを言った。
「本気だよ。本気じゃなきゃ、迷惑を承知でこんな朝っぱらから神原を訪ねてこない」
「そうか……いや、それでこそ阿良々木先輩だ。
どんな困難にもあえて立ち向かうその姿の、なんと神々しいことか!
いかに日月星辰といえども、阿良々木先輩の偉大さには敵わないだろう!」
「いや……さすがに太陽と月と星に勝てるほど、僕は狂ってねえよ……」
なんだか神原なら、僕がダメ人間の手本みたいなことを言ったとしても賞賛しそうな気がした。
近いうちに、阿良々木暦イメージダウン計画とでも名付けて試してみようか。
「それで、なんとかならないか?」
「ふむ……いや、あるいは準備さえしっかりすれば、阿良々木先輩なら可能かもしれない」
「本当か? 火中の栗を拾いにいく覚悟くらいあるから、どんな無理難題でも言ってみてくれよ」
「そんな特別なことはしない。
しかしこれなら勝てる――いや、勝たせてみせる」
力強い台詞。
味方につけておいて、これ以上頼もしい人材は他にないだろう。
「そうと決まれば、確か必要なものは蔵にあったはずだから、持っていってくれ。
作戦は道中で説明しよう」
蔵とかあるのか、神原家。
すげえ……。
「あ、それとさ」
颯爽と歩き出した神原の背中に呼びかける。
「今回の話、戦場ヶ原には内緒にしといてくれないかな。
岡崎とのことは、怪異のことも含めて全部、僕個人のただの喧嘩だから」
「……戦場ヶ原先輩に隠し事をするのは心苦しいが」
神原は一度立ち止まって振り返ると、ほんの少し目を伏せて。
「しかし、阿良々木先輩の頼みというのならば仕方ない。了解した」
「悪いな。今度また、飯でも奢るよ」
「そんなことよりむしろお礼として、私を罵ってくれ!」
「嫌だよ……」
相変わらずだった。
「そういや、阿良々木くん。
今回は、忍ちゃんに血をあげてパワーアップしとかなくていいの?」
忍野が住処としている学習塾跡の廃ビルの一階、
その廊下で僕が神原からもらってきたいくつかの材料と工具を使って会場を作る作業をしているとき、
それを眺めていた忍野はからかうようにバスケットボールで遊びながら、言葉を落とした。
「いいんだよ。忍野の力を借りないって決めたってことは、忍の力も借りないってことだから。
あいつにはゴールデンウィークに随分お世話になっちまったし、あんまり頼りすぎもよくないからな」
「はあん。阿良々木くんは甘いね。本当に甘いよ。
名前をつけてやった僕が言うのも、そりゃあおかしな話だけれど、
阿良々木くんは忍ちゃんを忍ちゃんじゃなくて、自分の一部だと考えるべきじゃないかって思うよ。
ほら、忍ちゃんはきみの、外部バッテリーみたいなものさ」
忍。
忍野忍。
吸血鬼。
――の、搾り粕。
吸血鬼。
――の、虚しい残骸。
僕は。
僕は、一生――吸血鬼。
吸血鬼もどきの人間。
人間もどきの吸血鬼。
人間では――ない。
「……あいつは、忍野忍だよ。ただの吸血鬼の成れの果て。僕にはそれ以外の考え方はできない。
ところで忍野、昨日から忍の姿が見えないけれど、今、どこにいるんだ?」
「さあ? 昨日は夜寝るの早かったし、今頃この廃墟のどこかを探険でもしてるんじゃないのかな」
「………………」
吸血鬼が、夜早くに寝るのかよ。
最高に虚しかった。
「でもさ、阿良々木くん。
幽霊の噂を『知らない』で通していたバスケくんが、自分の正体を知られてしまった今、
もう一度きみに会おうと思うかな」
と、忍野は相変わらず口の端をつり上げた笑みでそんなことを言った。
確かに疑問には思うだろうけれど、僕には忍野がこんな時間に起きていることのほうがよっぽど疑問だ。
「それについては心配いらないよ、忍野」
だから僕は、最終的に切札となりうるそれを思い浮かべつつ答える。
……僕と岡崎の、か細くて切ない繋がりは、まだ切れていない。
そして、夕方の下校時。
僕は隣町の光坂高校、その長い――長い上り坂の上にいた。
前回同様、下校する生徒に不審の目を向けられつつ、岡崎を待つ。
「………ん?」
そんな中、グラウンドの辺りがなにやら騒がしくなった。
目を凝らしてみると、サッカー場の裏にあるプレハブ小屋の辺りで揉め事があったらしい。
サッカー部員と思しき数人が、殴り合いの喧嘩をしている。
「あいつ……」
することもないので、吸血鬼補正に思う存分頼って見ると、
前にここに来たときに僕に絡んできた金髪男が騒ぎの中心らしい。
体格のいい数人の男たちを殴り、殴り飛ばされていた。
僕が野次馬根性丸出しで見に行こうか悩んでいると。
「……阿良々木」
ざらざらして渇いた声。
ワイシャツ姿の、岡崎がいた。
「よう」
短く答える。
「あんなところを見られたんだから、もう会えないと思ってた」
相変わらずの仏頂面。
「おまえ、変なやつな」
そんな岡崎の評価も、聞き流す。
僕が知らなくてはいけないのは。
「岡崎。あの力は――夜にしか、使えないんだな?」
岡崎は、一瞬面食らったようにたじろいで。
「……ああ」
頷いた。
「だったら話は早いんだ。今晩、この場所に来てほしい」
僕は岡崎に、小さい紙切れを渡す。
そこにはあの学習塾跡地の住所が書いてあり、あの紙は忍野からもらったものだった。
あの紙を持っていると、
忍野が張った結界により普通には辿り着くことができないあの場所に近寄ることができるらしい。
あれだけ格好をつけたのに、なんだかんだでやっぱり忍野の世話になりっぱなしだ。
「今晩って……夜にか」
「そうだ」
「……あれを見られたあとに、行くと思うか?」
岡崎の言葉。その疑問は、もっともだけれど。
「お前は来るよ、岡崎」
だってこっちには、切札が、ある。
だってこの話は、あそこから始まっているのだから。なんのためにもならない、『もし』の話。
もし、仮に、僕があのときそれを回収しなければ終わるはずだった。
僕と岡崎は――たった1日限りの友達で、済むはずだった。
誰も、なにも失わないで、済むはずだった。
だけれどそんなのは本当に――本当に、誰も救わない、仮定の話だから。
僕たちを繋いでいた、たった一つの、か細くて、切ない糸。
「お前が工業高校生たちに持っていかれたと思っている岡崎のブレザーはさ、実は、僕が持ってるんだ」
だから岡崎は、来ざるをえない。
その一瞬、岡崎の顔に浮かんだその表情を、果たしてなんと形容すればいいだろうか。
ちょっとだけひねくれた笑み。
挑戦的な目元。
狼の瞳。
灼けた狼の――瞳。
「いいぜ、阿良々木。行ってやるよ」
だから僕は、その言葉を口にした。
宣戦布告。
敵対宣言。
生まれる亀裂。
喧嘩の始まり。
決定的な――一言。
「岡崎、もう一度僕とバスケをしよう」
012
ストリートバスケットボール、いわゆるストリートボールと呼ばれるスポーツを、
実のところ僕はよく知らない。
町中で行うバスケットボールのことである。
海外では割とメジャーな遊びである。
ストリートボール専用の大会がある。
フリースタイルと呼ばれる、型に囚われないプレーが見られる。
その程度の知識しかない僕は、だからこれを果たしてストリートボールと呼んでもいいものなのか甚だ疑問ではあるのだけれど、
しかし僕の準備したバスケットコートは、それでもはっきりと分かるくらいに確実に異例なものだった。
「……こんなところでやんのか」
夜、僕の呼びかけ通りに学習塾跡地の廃墟にやってきた岡崎は、
約束の品である光坂高校のブレザーを受け取りながらそう呟いた。
「ああ。ここが僕たちが試合をするコートだ」
そこは、学習塾跡地の廊下の一階だった。
薄く入る月明かりに照らされたそこには、僕が神原の家から持ってきたボロボロのバスケットゴールが一つ、
廊下の突き当たりの壁にかかっている。
ちょうど天井が突き抜けてしまっている場所を選んだので、高さ的にも問題ない。
「ルールは?」
「岡崎がいつも夜にやってたストリートボールと同じでいいよ。
ゴールはあの一つだけのハーフコート、
シュートか決まるがスティールされてディフェンスがそこのハーフラインまで下がったら攻守交代。
点数は通常2点で、ほら、ここの3ポイントラインからのシュートが入れば3点だ。
先に18点とったほうの勝ち。あ、ただし――壁は床とは見なさないことにしよう」
「あ、そ」
岡崎は頷くと、転がっていたバスケットボールの空気の入りを確かめるみたいにして何度かバウンドさせる。
それも神原からもらってきたもので、昼間、僕が作業しているときに散々忍野が遊んでいた。
「阿良々木、どっちが先にオフェンスだ?」
「ここは僕のホームグラウンドみたいなものだからな。譲ってやるよ、岡崎」
「……………」
睨みつける眼光が、鋭くなった。
「おまえ、かなり余裕綽々な。勝てると思ってんのか?」
「勝てると思ってなくちゃ、こんな勝負挑まない」
「……あ、そ」
岡崎は、呆れたようにため息をつくと。
腰を落とす。
「いくぞ」
「ああ」
ぼすぼすというバウンド音。
手慣れた動作。
経験者特有の、それ。
「ゲーム――…」
「…――スタート!」
低い位置でドリブルをしながら突っ込んでくる岡崎を、僕は腰を落として迎え撃つ。
正直にいえば、上手くいくかはかなり不安だった。
相手はあの岡崎だ。右肩が動かない状態で、三倍の差をつけられた。
普通に考えれば、勝てるわけがない。
だけど、神原の言葉を思い出す。神原は言ったのだ。
「勝てる」じゃなくて、「勝たせる」と。
それなら負ける理由なんか――ない。
「……あの廃墟にゴールをつけてコートにする理由は、その……全部で5つある」
なにか悪い冗談みたいに馬鹿でかい蔵を漁りながら、
神原駿河はなんだか無意味に申し訳なさそうにそう言った。
あの神原のことだ、年上の人になにかを教えるということに抵抗を感じているのだろう。
根っからの体育会系である。
「5つ?」
「そう、5つ。阿良々木先輩が岡崎朋也に勝つための、5つの方法だ」
つまり、作戦。
僕が岡崎を、バスケで破るための。
「でもさ、そんなの卑怯じゃないか?
向こうは指定された場所に来ただけなのに、こっちは罠を仕掛けてるみたいなやり方」
「なにを言うか、阿良々木先輩。
阿良々木先輩のその堂々としたスポーツマンシップは敬意に値するが、
今回の件に関していえば岡崎朋也だって元々かなりの実力があるのにプラスして、
送り狼とかいう怪異の力を借りているのだから、どっこいどっこいではないか。
むしろあんな能力、こちらがどんなに策を練っても足りないくらいのハンディだ」
どこか機嫌が悪そうに言葉を投げる神原。
……負けたのが悔しいのだろうか。
「というわけで、阿良々木先輩はなにも気に病むことはない。
それで1つ目の理由だが――…」
突進してくる岡崎は、突如その無駄のない動きを乱し、
慌てたようにスピードを落として再び僕と距離をとった。
僕が追いかけてこないのを確認すると、
器用にドリブルを続けながら左手で目を押さえて頭を振る。
……神原の言う通りだ。
この暗闇――岡崎はあまり、目が見えていない。
「岡崎朋也が送り狼から受け取った力はおさらく、
『動かない右肩の回復』と『誰もいない場所とのパス』の2つだ。
つまり他の部分は普通の人間と同じスペックと考えていい」
神原の台詞が頭をよぎる。
「しかしその点、阿良々木先輩は吸血鬼の力が少し残っている。
その違いを突かない手はないだろう」
「はあん。だけどさ、神原。
僕が吸血鬼の力で残っているのって、実はたいしたことないぜ?
一応神原のレイニー・デヴィルのときに忍に多めに血をやった名残で、
今は多少、身体能力も補正を受けてはいるけれど、普段は新陳代謝と、」
「暗闇でも目が見える」
「……………」
なるほど、と思った。
あの廃墟は、廃墟が廃墟たる理由の一つをきちんとまっとうしていて、
だから勿論電気なんて通っていない。
すなわち、中に入ってしまえば夜はほとんど真っ暗だ。
レイニー・デヴィルのときは、つまり僕が神原を初めてあの廃墟に連れて行ったときは、
あの超人スペックの身体能力を持つ神原さえもが、僕のベルトを掴んで歩いていたくらいには。
それくらいには、濃くて深い、粘りけのある闇に沈み込む。
「しかし本当に真っ暗では、そもそもゲームが成り立たないから意味がない。
だから月明かりに照らされてある程度光量のある廊下を選ぶのだ。
そうすれば、少なくとも目が慣れるまでは岡崎朋也の動きは著しく鈍るだろう」
暗闇でも通常通り目が見える阿良々木先輩でも、
ギリギリついていくことができるくらいには、と神原は付け足した。
「阿良々木……おまえ……」
「悪いな、岡崎。
僕みたいな素人が岡崎みたいに上手い奴に勝つには、
こういう卑怯なやり方で差を埋めるしかないんだ。
初めてバスケをしたときに言っただろ?
僕はちょっとばかり――普通じゃない身体なんだよ」
恐ろしいくらい上手くいった作戦に、僕は不適に笑ってみせた。
しかしこれだって、いつまでもつか分からない。
昔からバスケットボールに触れ馴染んでいた岡崎なら、
ちょっと見えるようになれば普段の力を取り戻すだろう。
一流のアスリートは、目をつむっていてもある程度のことはできるというし。
だからそのあとは、2つ目の作戦が、効果を持つ。
「どうした、岡崎。僕はまだ――ここから一歩も動いてないぜ?」
「2つ目の理由は……その、なんというか……」
「なんだよ」
言いにくそうに言葉を切った神原に視線を向ける。
神原は珍しく困ったように目を背けて。
「はっきり言って、
阿良々木先輩じゃあ本気の岡崎朋也のドリブルを止めることは、100%不可能だ」
そう言った。
「単純な走りでならば、ついていくことくらいできるだろうが……」
それは、既に何度か岡崎とバスケットボールをしている僕には分かりきったことだった。
走力では引けをとらなくても、フェイントをかけられたら一発。
右肩の上がらない状態でさえそれなのだ、神原と岡崎の試合のような壮絶なドリブルの応酬なんか目の前で見せられたら、
なにもできないだろう。
「そこで活きてくるのが、廊下というくくりなのだ、阿良々木先輩。
これは3つ目の理由にも共通するのだが、横幅の狭い廊下なら少なくとも岡崎朋也の動きは思うように展開しない。
それでも埋めがたい技術の差、細かいフェイントで抜かれることはあるだろうが……」
「圧倒的に突き放されることは、ない」
その条件は勿論僕にだって跳ね返ってくることなのだけれど、
元々、辿々しいドリブルしかできない僕は横への展開なんてできない。
本気の岡崎を抜くなんて、どうせまともなやり方では無理なのだから、
初めからその可能性を潰しても問題はないのだ。
あってもなくても変わらないハンディだった。
神原駿河のドリブルが、すばしっこくするりと抜けていく疾風だとすれば。
岡崎朋也のそれは、まさに旋風である。
速く、疾く、すべてを撒き散らすような大胆さと、そこに詰め込まれた技術。
そんな岡崎でも、吹き抜ける場所が少なければ当然、
そこを抜けようとするほか方法はない。
凄まじい速度で突っ込んでくる岡崎から、腰を落として突破口を消す。
下がる岡崎と、緊張を解く僕。
そんなやりとりが、何度続いたことだろう。
すでに岡崎の息は切れ始めていた。
「……阿良々木」
瞬間。
ぞくりと、背筋が凍った。
来る、と直感する。
狼の瞳で、岡崎は――笑った。
「いくぜ」
その言葉を聞いたときには岡崎は目の前にいて。
僕の左側を抜けようとする身体。
その反対側、本来なら誰もいないはずの場所に――岡崎は、パスを出した。
誰もいない場所に放たれ、
まともに1on1をやろうとかそういった意思すら垣間見ることさえ皆無な皆目検討もつかない方向へとすっ飛び、
空中で一瞬静止し――Vの時を描くように動き出すはずだったボールは、
しかし。
「だが、いくらそれだけ阿良々木先輩に有利な条件を揃えても、
あの不思議なパスは防ぎようがない。
空中で跳ねかえるどころか……スピードまで自在に操られたのでは、
一度や二度では止めることはできないだろう」
ようやく発掘したボロボロのバスケットのゴールを持ち上げつつ、神原はそう宣告する。
「まあ、確かにな。
1on1なのにパスの選択肢があるっていうのは、決定的すぎる」
「だがそれを破壊しうるのが、やはり廊下というくくりなんだ」
それが、3つ目の理由。
「……な」
空中で静止するはずだったボールは、
しかし岡崎の手元には向かわず、僕の手に収まっていた。
ぼすんと音を立てて――壁と衝突したせいで。
「ナイスパス、岡崎」
狭い廊下では、当然、ドリブルと同じくパスだって大胆に横には展開できない。
しようとすれば当然壁にあたるし、短いパスならさすがに僕にだってカットできる。
『無人パス』を封じること。
それが岡崎に勝つための、3つ目だ。
僕は自分でも笑いたくなるくらいへたくそなドリブルでハーフラインまで戻り攻守を逆転させると、
呆然としている岡崎をあっさりと抜き去る。
慌てた岡崎が僕を追いかけようとするが、
しかし何度かの対戦で僕のシュートセンスのなさを知っているためか、
真剣に追ってくることはなかった。
だから僕はボールを両手で掴むと、3歩で踏み切り、跳躍した。
3ポイントラインから――壁に向かって。
伸ばした足がコンクリートの壁を捉える。
ぐっと下半身に力を入れて、足の裏でほとんど抉るみたいな勢いでもう一歩、更に二歩目、そして両足で、壁を蹴り。
それは、僕のような身長の人間が真っ当にバスケットボールをやっていたら、
おそらく一生、目にすることのないであろう光景だった。
リングが――自らの目線より、下にある。
「――おおおッ!!!」
僕はそのまま、手に持ったボールを――リングに、叩き込んだ。
「4つ目は、阿良々木先輩のシュート力だ」
「シュート?」
「うむ。事前に聞いた話では……阿良々木先輩はあまり、シュートが得意ではないそうじゃないか」
「まあ、恥ずかしい話だけれど、その通りだよ。
きちんとバスケットボールをやったことのない人間には、
動きながらあんな高い場所にあるリングボールを投げ入れるなんて難しすぎる」
「そんな阿良々木先輩に朗報だ。
どんなに下手な人間でもほぼ100%決められるシュートが、バスケットボールには存在する」
「え、そんなのあるの?」
無敵じゃん。
「ある。ダンクシュートだ。
ダンクシュートなら、投げ入れるわけではなくて、
目の前のリングにボールを入れるだけだから誰だって入れられる」
ダンクシュート。
ボールから手を離さずにリングに入れるシュート。
神原駿河の得意技。
「いや、理論上はそうなんだろうけれど、でも不可能だろ。
僕は神原みたいなジャンプ力はないし」
あんなもの、尋常じゃない身長か、あるいは超人的なバネでもない限り、素人の更に日本人には普通、無理だ。
そして残念ながら僕は、そのどちらも持ち合わせていない。
しかし神原、自信に満ちた表情で笑った。
「阿良々木先輩ならできる。
いや、阿良々木先輩にしかできない方法があるんだ」
壁走り。
ゴールの付近に壁があるこの特設コート、
更にレイニー・デヴィルの一件の名残で、身体能力に対する吸血鬼補正の著しい今の僕にしか、できないダンクシュート。
最初の宣言した通り、壁を床と見なさないルールがある以上、
壁を何歩走っても勿論反則にはならない。
反発は、ありそうだったけれど。
「これで3点だ、岡崎」
着地した僕は、岡崎にボールを渡す。
床の段階で3ポイントラインから飛んでいれば、
壁は床と見なさないのだからこれは3点シュートだ。
「次はお前のオフェンスだ」
岡崎の目付きが、本当の本当に本気になるのを、感じた。
ハーフラインまで下がった岡崎の身体が、力を溜め込むようにぐいっ沈んだ。
慌てて身構える僕との距離を一息で詰めた岡崎は、
さすがとしか言えないボール捌きとフェイントで僕を撹乱しつつ抜き去るタイミングを測る。
「ちっ……」
その合間に、舌打ちが聞こえた。
抜けないのだ。あの岡崎が、僕を。
いかに岡崎の技術でも、壁に囲まれたこのコートでは。
手応えを感じる。
随分卑怯な真似をしているが、それでも、いや、そうして初めて――岡崎と、やり合えている。
と思ったのも束の間、岡崎はボールを自らの後方に無造作に放ると、
それにつられて前に踏み出した僕の横を走り去る。
「しまっ……」
バスケットボールは。
僕の前方で動きを止め、高い弧を描くループパスとなって僕の頭上を通り越し。
「よしっ」
岡崎の手に収まっていた。
「くそっ!」
横だけじゃなくて、縦もアリなのかよ、あの無人パス!チートすぎる!
慌てて追いかけるものの、既にゴール前に走り込んでいた岡崎には追い付けない。
そのまま岡崎はゴール右側から飛び上がり、
送り狼の力により回復した右腕でレイアップシュートを――…
「最後の理由は」
神原は。
「これははっきり言って、私の推論になってしまうのだが……」
言うべきか躊躇するような仕草を見せてから、
居心地が悪そうな表情で囁いた。
「送り狼について、忍野さんが隠しているかもしれないことについてなんだ」
「忍野が……隠してる?」
「うむ。だがこれは本当に100%完全完璧に一切全て私の推論で、
忍野さんの語ったことがすべてである可能性のほうがよっぽど高い。
なんせ私は専門家でもなんでもない、ただの一般人だ。信用するなら忍野さんのほうだろう。
だからこれは、話半分に聞いてくれると、私としては非常に助かるのだが……」
「ああ、いいよ。
元々、無理言って助言を求めてるのはこっちなんだし、好きに言っちゃってくれ」
「……うむ」
それでも神原はしばらく言い淀んだあと。
「私が考えるに、送り狼が授ける特殊な能力を使うには、一つ、条件があるのだ。
『ストバスの幽霊』が夜中にしか現れなかった理由、なのだと思う」
「条件……?」
「そう。おそらく、送り狼はという怪異は――…」
「嘘、だろ……」
岡崎は――シュートを放たずに、いや、放つことができずに、
まるで途中でやる気をなくしてしまったかのような力の抜け方で、ボールを取り落としていた。
てん、てん、と虚しく転がるボール。
呆然と、岡崎は膝をついて。
苦痛に満ちた屈辱的な表情で、右肩を、抑えた。
この場所をコートに選んだ、最後の理由。
ゴールの周りだけは影になって――月明かりが射し込まない。
神原の予想とはつまり、送り狼に与えられた能力を使うには、
『月の下でなくてはならない』
という条件がある、というものだった。
そもそも狼と月を結びつける考え方は、そんなに珍しいものでもない。
満月を見ると狼に変身する狼男なんて、知らない人などいない有名な話で。
忍野がそれとなく言っていた、北欧、ゲルマン神話のスコールとハティも。
太陽と『月』を飲み込む狼の話だ。
それが、岡崎が昼間は相変わらず右肩が上がらない理由。
『ストバスの幽霊』が、夜にしか現れない理由。
僕は転がったルーズボールを拾い上げると、
一度ハーフラインまで後退して攻守交代、
そのまま本日二度目の3ポイントダンクシュートを決め、岡崎の隣に着地する。
「……岡崎」
「阿良々木……」
光を失った目で、僕を見上げる岡崎に。
ボールを、差し出した。
「俺、は……もう……」
項垂れる岡崎。
きっと、再び右肩が上がらなくなったことに打ちのめされたのだろう。
だけど、まだだ。
そんなことは、許さないとばかりに、僕は。
「これで6点だ、岡崎」
非情な言葉を投げた。
まだ、試合は終わらない。
僕が最後のゴールを決めたとき、岡崎はぼんやりとハーフラインの辺りで立ちすくんでいて、
ほとんど守備もなにもあったものじゃなかった。
ワンマンゲーム。
圧倒的な、スコア。
いつかの僕らとの、立場の逆転。
「僕の勝ちだな、岡崎」
「…………ああ」
そう、岡崎が呟いたとき。
岡崎の後方、闇夜の中に――光る二つの目を見た。
送り狼。
狼の怪異。
願いを叶えるまで、送ってくれる。
願いの成就の途中で宿主が一つでも失敗するか、
あるいは願いが無事に成就されたら、
宿主は代償に、なにかを大切なものを奪われる。
岡崎の腕を喰い千切るために実体化した送り狼を見ながら、
僕は、忍野の言葉を思い出していた。
「ところで阿良々木くん、
例のバスケくんとバスケットボールの勝負をするのは分かったけれどさ、
一体全体、それでどうやって怪異を祓うつもりなんだい?」
「どうやってって?」
「いや、だって、バスケくんにとっての願いがなんなのかは僕はまったく知らないけれど、
万が一……いや、億が一、あるいは兆が一、
阿良々木くんがバスケットボールの試合で勝ったとしたらさ――それはバスケくんにとっては、願いの途中での失敗ってことだろう」
忍野は、器用にバスケットボールを指先で回しながら長々と語る。
「だってバスケくんの能力ってさ、少なくとも確実に、
バスケットボールで勝つために得たものじゃないか。
それじゃあ送り狼は、阿良々木くんが勝った途端に、
バスケくんに襲いかかって腕を奪っていっちゃうよ」
まさかとは思うけれど、と忍野は小馬鹿にするように付け加えて。
「阿良々木くん、そうやって送り狼を実体化させてから退治しようだなんて、
そんなことふざけたは思っていないよね?
送り狼は、重し蟹みたいな、少なくとも戦闘向けではない怪異とは違うんだ。
完全に『狩り』向けの怪異だよ。
ツンデレちゃんのときに僕がやろうとしたみたいな方法は、やめておいたほうがいい。
今の阿良々木くん程度の吸血鬼性じゃあ、送り狼なんて絶対に祓えないよ」
「……そんなことは思ってないよ、忍野。
大丈夫、それについては、僕に考えがあるから」
勝負の方法にバスケットボールを選ばざるを得なかったのは、むしろ好都合である。
僕の狙いは、試合ではなく、勝った後にあるのだから。
それに、おそらく。
すべて、逆なのだ。
岡崎が送り狼に願ったのは――その逆で。
「岡崎」
だから僕は、岡崎の前に立って、言った。
「バスケットボールの試合でさ。
最後にみんなでセンターラインに集まって挨拶するのに、僕、憧れてたんだ」
「………はぁ?」
岡崎の背後の狼が、走り出す。
岡崎の右腕を、喰い千切るために。
僕は、焦らず、頭を下げた。
勝負の内容がバスケットボールなら、この流れに無理はない。
岡崎に怪異のことを知らせず、解決する方法。
「……………」
岡崎はしばらく鼻白んだ様子だったが、同じように頭を下げて。
「「ありがとうございました」」
同時に、言った。
送り狼。
その正しい祓い方は、願いをきっちり成就してからお礼を言うこと。
岡崎の背後で、狼が――満足したように立ち去ったのが。
僕には、分かった。
013
後日談というか、今回のオチ。
翌日、いつものように二人の妹、火憐と月火に叩き起こされた僕は、
まず最初に神原の家に向かい、一連の事件の片がついたことを報告すると、
次に忍野に会うために件の学習塾跡に足を運んだ。
ちょうど定期的に忍に血をやらなくてはいけない時期だったので、
首筋に金髪の少女を噛みつかせていると、忍野が珍しく感心したように言った。
「しかし阿良々木くん、よくバスケくんの願いに気付いたね。
今回の件で僕は、もう本当、きみの評価を改めなくちゃいけないと思ったよ。
勿論思っただけだけれど」
「思っただけなら言うな」
とりあえずツッコミをいれて。
「まあ、なんとなくだよ。
岡崎と何度か話して受けていた印象と、その言葉から、推測しただけで」
岡崎朋也の願いは。
きっと、バスケットボールで勝ち続けることではなく――負けることだったのだ。
正確には、部活でバスケットボールをすることを諦めるというのが、岡崎の願いだったのだろう。
自分がバスケットボールをしているのは諦めるためだと、
そもそも岡崎はきちんと口にしていたし。
それにもし岡崎の願いが、バスケットボール部に復帰することだったのだとしたら。
月の下でしか右肩が治らない、送り狼なんていう不便な怪異を呼び寄せたことに、説明がつかない。
「しかし、だからって右肩を治して更に無人パスを習得するなんてね。
僕にはバスケくんの考えが、よく分からないよ」
「……それは」
それは、たぶん、全盛期の状態の自分で負けたかったのだ。
だから右肩を治し――そしてバスケットボール、
それも部活でやるとなれば尚更、個人技ではなくチームプレーが軸となるから、
だから無人パスを身につけた。
そこまで万全な状態の自分が負けてしまえば――そんな自分より強い人間がいると知ってしまえば、
諦めることができると思ったから。
勿論これは、僕の勝手な推測でしかいけれど。
ともあれ昨日の一件で、送り狼は綺麗さっぱり後を濁すこともなく、消え去ったのだ。
「ああ、そうそう、阿良々木くん。
きみって実は僕への借金、まだ完済しきってないよね」
「そうだけど……なんだよ、忍野。
もしかして今回の件で料金を上乗せでもするんじゃないだろうな」
「違うよ。そういきりたつなって、もう、阿良々木くんは元気がいいなぁ。
なにかいいことでもあったのかい?」
相変わらず気味の悪くなるような底意地の悪い笑顔を浮かべると、
忍野は懐から一枚のお札を取り出した。
「『仕事』だよ、阿良々木くん。
きみの借金の分から引いておくから、ちょっと頼まれてくれるかい」
「……いいけど」
忍を肩にくっつけたまま忍野の前まで歩き、その札を受け取る。
「ほら、向こうにある山分かるかい?
あの中に、今はもう使われていない小さな神社があるんだ。
その本殿に、こいつを貼ってきてくれ」
「そんなんでいいのか?」
「ああ。言っとくけど阿良々木くん、
これはこの町の運命を左右するようなそれはそれは重大なお仕事だから、
適当にやろうなんて思っちゃダメだよ?」
「んなこと思ってねえよ」
なんだか忍野が与えてくるにしては簡単な仕事だなあとは思ったけれど。
「それと、ほら、例のレイニー・デヴィルのときの……」
「神原?」
「そうそう。その子も連れていくのを忘れずにね。
あのときはなんだか有耶無耶になっちゃったけれど、僕は専門家だからね。
彼女も僕に借金がある」
「その返済分ってことか」
「そゆこと。じゃ、まあ明日にでもよろしく頼むよ」
そう気軽に言って、忍野は僕の右ポケット辺りを叩いたのだった。
そんなこんなで僕が学習塾跡を出た頃にはもうすっかり太陽は登りきっていて、
通常土曜日でも授業がある僕ら私立直江津高校の生徒にとって貴重な、
テスト休みの土曜日を、もう半分近く消費したあとだった。
「どうすっかなぁ」
なんて呟きながら歩いていると。
「よう、阿良々木」
そこで、岡崎が待っていた。
岡崎。
岡崎朋也。
私立光坂高校一年生。
目付きと口が悪い。
抜群の運動神経。
遅刻とサボりの常習犯。
そして――狼に送られた少年。
「……岡崎。こんなところで、どうしたんだ?」
「ここにいれば、おまえに会えると思って」
そんなことを言った岡崎は、僕を睨みつけた。
鈍く光る、切れ長の、ナイフのような。
ぎらぎらと紅く輝く。
灼けた狼の、瞳。
「岡崎?」
「……おまえさえいなければ、俺はバスケを続けられたんだ」
ぐっと、右手を握る。
「おまえに負けたあとにさ、何度も試した。
だけど、もう、右肩が上がらない。
バスケができねえんだよ!」
その声は、堪えきれない苦痛に満ちてるように、僕には思えた。
心痛な、悲鳴にも似た。
「岡崎、お前はバスケを諦めたいんじゃなかったのかよ」
「そうだ。初めはそうだった。
だけど、だけどな……夜になると右肩が動くようになって。
なんだかよく分からないけどすごいパスができるようになって。
ストリートで好きなだけバスケをやってるのが、楽しかったんだよっ!」
裂けるような、叫びだった。
砕けるような、嘆きだった。
それは明確な――悪意だった。
「それをおまえが奪ったんだ、阿良々木ッ!!!」
「―――――ッ!!」
瞬間、激しい衝撃と共に首が左に思いっきり振れて、体が泳ぐ。
それから少し遅れて、痺れるような痛みが右の頬に広がった。
岡崎に顔を殴られたと気付くまでに、しばらくかかった。
「おまえさえ現れなければ、俺はずっとバスケをやっていられたんだっ!
あの場所で! 一人でだって! それで満足だったのにっ!」
もう一度、顔を殴られる。
それが利き腕じゃなくて左の拳で、
だから倒れるような衝撃ではないのが……すべてを、物語っている気がした。
少なくとも岡崎朋也にとって、送り狼は。
怪異は、悪ではなかったのだ。
「岡崎ィ……」
僕は、春休みや、あるいは神原のレイニー・デヴィルの一件で、
痛みならいくらでも経験した。
死ぬほど痛かったこともあるし、実際そのいくつかでは、
数えきれないくらい死んだ。
吸血鬼の再生能力で瞬時に回復しただけであって、
死ぬほどの痛みどころか死ぬ痛みを延々と繰り返しもしたのに。
それなのに。
なぜか、岡崎に殴られた右頬のほうが、そのどれよりも強烈に痛んだ。
右腕が肩より上に上がらないせいで、
利き腕でない左腕で殴られたっていうのに。
どんな死ぬ思いよりも――痛い。
それは、きっと。
僕の右頬の痛みは、産まれて初めて、本当の憎悪を向けられた――友達からの、暴力だったからだ。
憎悪のレベルでいったら、春休みに対峙した4人のほうが、岡崎の何百倍も上なのに。
それでも、岡崎から殴られたことのほうが、僕には痛いのだ。
痛くて、イタいのだ。
だから。
三発目の岡崎の拳を、僕は手首を掴み、ねじり上げた。
「なっ……!」
残念ながら僕の上の妹は空手二段の腕前で、
そもそもの性格が攻撃的なため――昔から何度も取っ組み合いの喧嘩をしてきた。
僕は、少なくとも生身の人間との喧嘩なら、慣れているのだ。
いくら岡崎が身体の大きい男だからといって、
その左の拳を受け止めることくらい、僕には造作もない。
左腕を、振り上げる。
「がっ――、ぎっ!?」
僕は、岡崎の憎悪に染まったその顔を、思いきり殴っていた。
最後まで振りきった、心からのパンチだ。
岡崎の身体がよろける。
「ふざけんなッ!!!」
自分でも驚くくらい、大きな声が出た。
とにかく、頭の中が熱かった。
脳みその代わりにマグマでも突っ込まれてるみたいな気がして、溢れる激情を止められない。
「甘えてんなよ、岡崎」
言葉を繋ぐ。
僕は――許せなかったのだ。
忍野の反対も無視して、岡崎と対峙した理由に、今更ながら気付く。
単純に、許せなかった。
だって。
だって、僕が知る怪異に関わった人間は、すべて。
猫に魅せられた羽川翼も。
蟹に行き遭った戦場ヶ原ひたぎも。
蝸牛に迷った八九寺真宵も。
猿に願った神原駿河も。
そして当然、僕だって。
みんな、少なくとも、悩んでいたのだ。苦しんでいたのだ。
決してそれに甘んじなかったし、それを解決した後にも、誰かの責任になんかせず、受け止めていた。
忍野は言った。
今回のケースは、レイニー・デヴィルと近いと。
でも、違う。
岡崎は神原とは、決定的に――違う。
「そんな甘ったれた考えで、どうにかしようなんてのがそもそもの間違いなんだよっ!」
もう一度、今度は右を振り抜く。
「ぐっ―――、ぁ、阿良々木ぃッ!!」
殴り返された。
弾けるような痛み。染み込んでいく痛覚。
「ぎっ――――、岡崎ぃッ!!」
仕返しにもう一度殴った。
一発殴る度に。
一発殴られる度に。
何かを、なくしていく感覚があった。積み上げた時間を喪失していく錯覚。
それはたぶん、岡崎朋也との――…
「随分と派手にやりあってたね、阿良々木くん」
硬いコンクリートの上で大の字になり空を眺めていると、
なにがそんなに楽しいのか、露骨ににやついた忍野の顔が視界に割り込んできた。
散々殴りあって、互いにボロボロになって、そして岡崎が立ち去ったあと。
僕は一人、吸血鬼の回復能力ですっかり傷は治ってしまったけれど、
じくじくと蝕むような、なぜか拭い去れない痛みに身を任せて、
寝転がっているところだった。
「……見てたのかよ」
「まあね。阿良々木くんのピンチだと思って、ついつい彼の通う光坂高校に通報までしちゃったよ。
おたくの生徒が貧弱でひ弱な中学生を殴って遊んでますよって。
……ちょっとばかり遅かったみたいだけれど」
忍野は懐から取り出した携帯電話を揺らしながら見せびらかす。
「誰が中学生だ! しかもそれ、僕の携帯電話じゃねえか!」
いつの間に盗ったんだよ。
お札を受け取って、最後に僕のポケットを叩いたときか。
吸血鬼の心臓を抜き去ることができるくらいだから、
僕みたいなぼうっとした高校生から携帯電話をくすねるくらい朝飯前なのだろうけれど、
相変わらず手癖が悪い。
「忍野、お前まさかこういうことになるって分かってたんじゃないか?
だから僕の携帯電話を……」
「はっはー、そいつはちょっとばかし、僕のことを過大評価しすぎだよ。
僕はただ、携帯電話をなくした阿良々木くんが慌てる姿を観察したかっただけさ」
「……そうかよ」
でも、と思う。
でも、忍野は機械に滅法弱い。
そんな忍野が、僕のピンチに光坂高校の電話番号を調べ上げて通報するなんてこと、
とっさにできるとは思えなかった。
忍野なりの、怪異に甘えていた岡崎朋也への。
小さな仕返しなんじゃないかと邪推してみる。
まあ、いいか。
忍野のことだ、いつもの気まぐれの可能性のほうが、よっぽど高い。
こいつのすることを、深く考えるほうが損だ。
「ともあれ、こいつはきみに返すよ。僕には必要ないものだしね」
寝転がったまま、携帯電話を忍野から受け取る。
発信履歴をチェックすると、本当にどこか僕の知らない番号にかけた記録があった。
「……なあ、忍野」
「なんだい、阿良々木くん」
気付いたら僕は、忍野に弱音を吐いていた。
知り合ってから、一週間だったけれど。
一緒にバスケットボールをして。
馬鹿をやって。
冗談を言い合って。
笑い合って。
「僕と岡崎は――友達だったのかな」
このときばかりは、忍野も、いつものようなどこか嘘くさくて薄っぺらい笑顔ではなく、
本当に心から呆れた顔をして。
「そんなことを僕に訊いて、どうしようっていうんだい」
「……そうだな」
まったくもってその通りだった。
そんなのは、忍野に訊いてどうなることでもない。
なら言うべきことは、そんな台詞ではあろうはずがなかった。
「忍野。僕と岡崎はさ――確かに、友達だったんだ」
そう、はっきりと言葉にする。
岡崎はこの先、一生ものになりうる友達と、出会ったりするのだろう。
一緒に馬鹿をやって、冗談を言い合って、笑い合って。
あるいはこの一週間、僕とやっていたように、
動かない右肩でバスケットボールをすることもあるかもしれない。
ただ、その誰かが――決して、僕ではないというだけ。
その相手に、僕は絶対に成り得ないというだけ。
ただそれだけのこと。
たったそれだけのこと。
だから、この話はこれで終わり。
だってこの話は、あの地獄の春休み――キスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレードの一件と同じで。
これは、岡崎朋也が――バスケットボールに対する情熱をただ失って。
そして阿良々木暦が――高校生になってから初めての心を許せる男友達をなすすべもなく失っただけの。
そんな、およそ本筋に関係のない。
やっぱり誰一人として幸せにならない。
そんな――失物話。
おしまい
キャラは活かせてないし、送り狼のくだりはいい加減だし、
初めてのSSで緊張したり、不安になったり、二度も寝落ちたりしましたが、
みなさんの支援と保守のおかげでなんとか完走することができました
ありがとうございます
ちなみに話をするがモンキーとなでこスネークの間にしたのは、
単純に撫子が使いにくいのと、
化物語後半になったら夏服になってしまうので岡崎と春原が出会うシーンのCGとの辻褄が合わなくなってしまうからと、
そうなるとスケジュール的に化の本編で一週間なにも描写されていないのはするがモンキー後だったのと、
あと>>1は化物語で忍野が一番好きだからです
忍野使いたかった
最後に
蛯沢真冬ちゃんは俺の嫁!!!!
読み応えあった
次回作に期待してるわ
和解の無い喪失感がまたいい!
014
誰か目撃者がいて、通報したらしい。
阿良々木との殴り合いのあと、帰りたくもない家に帰ると学校から呼び出しの電話がかかってきた。
仕方がないので取り返したばかりの制服に着替えて、
日曜日なのにわざわざ学校に行き、生活指導の教師に散々説教を聞き流して廊下に出ると、
幸村という、じいさん教師が俺を待っていた。
担任だから、俺を引き取りにきたのだろう。
もう何度も、こういうことはあった。
「ほっほ、これはまた酷い顔じゃの、岡崎」
「うっせぇ……」
喋ると殴られた傷が痛む。
「まあ、ついてきなさい。生徒指導室でお茶でも飲みながら話を聞こう」
歩き出した幸村の丸い背中を、黙って追いかける。
生徒指導室で説教の続きなんて、慣れっこだった。
……俺は、問題児だったから。
「なあ、じいさん」
幸村の背中に呼びかける。
「なんじゃ」
「俺……」
ほんの一瞬だけ、悩んで。
「俺、学校を辞めようと思う」
それは、前から考えていたことだった。
周りはガリ勉ばっかりで、とんでもない学校に入ってしまったと思ったものだ。
もともとバスケをやるために入った学校。
そのバスケができないのに、こんな場所に残っている意味なんて……ない。
阿良々木との一件はなんだかすべて夢の中のようなことだったような気がするが、
あれはあれでいいきっかけになったと思う。
あれのおかげで、俺はもうバスケはできないのだときちんと理解した。
バスケはできない。
それならこんな俺に……なにが残るだろう。
「……そうか」
幸村は、細すぎて開いているんだか分からない目をこちらに向けて、
それだけ言うとまた歩き出した。それに続く。
この先の生徒指導室で、退学の手続きの話をすることになるだろう。
そんな時。
俺は、ちょうどいいタイミングで職員室から出てきた一人の生徒とすれ違った。
……金髪のヘンな奴だった。
その顔は、俺と同じように最近喧嘩をしたばかりなのかもっとヘンで、
人相なんかほとんど変わっているように思った。
……それを見ただけで、大笑いした。
涙を流すくらいに笑った。
そんなこと……この学校に来て、初めてだった。
ああ、まだまだ笑えたんだって思った。
この学校に、俺と同じようなやつがいたんだと思った。
それが、無性に嬉しかった。
金髪のそいつは、俺のことを不思議そう眺めて……
やがて、我慢していたものが決壊したように、笑った。
気持ち良さそうに笑っていた。
小さな楽しみを……見つけた。
こいつと一緒に、馬鹿をやってみようと思った。
最後にもう一度、やってみようと思った。
学校を辞めるのは、そのあとでもいい。
「おい、おまえ。名前は」
「僕?」
ちょっと鼻にかかった、生意気そうな声。
「おまえ以外に誰がいるんだよ……」
「僕は春原陽平。おまえは?」
「岡崎。岡崎朋也だ」
「岡崎って、あの宇宙人の!?」
「……はぁ?」
「な、なんだ、人違いか……よかった……」
いきなり宇宙人がどうとか、気味の悪いやつだ。
「なあ、春原、生徒指導室で茶飲もうぜ。
いいよな、じいさん?」
「……儂は構わんがの」
「だってよ。行くだろ?」
「カツ丼出る!?」
「出ねえよ……」
生徒指導室だっつんてんだろ……。
「僕、腹減ってんだよねー。
まあ、別にいいけどさ、どうせ暇だし」
「じゃあ全裸で『ウヒャヒャヒャ』って笑いながら校舎走ってこいよ。そしたら飲ませてやる」
「なんで会って早々そんなこと言われなくちゃなんないんすかねえ!?」
「おら、さっさとやれよ」
「やんねえよ!」
「頼むからっ!」
「頼まれてもやんねえよっ!」
面白いやつだった。
一緒に馬鹿をやるには、うってつけだ。
春原と二人、笑って。
窓の外を眺めながら、かつて情熱を燃やしたバスケへの気持ちと、阿良々木暦という友人。
その、俺が失った2つへ、ほんの一瞬想いを馳せた。
……この町は嫌いだ。
忘れたい思い出が、また一つ増えた場所だから。
だけど……俺はまだ、ここにいる。
もう少しだけ、いてみようと、思う。
この町の、願いが叶う場所は……辿り着けなかったが。
俺は登り始めたばかりだから。
長い――長い坂道を。
ありがとうございました
投下ペース速すぎだろw
Entry ⇒ 2012.01.16 | Category ⇒ 化物語SS | Comments (0) | Trackbacks (0)
阿良々木「ロードバイクが欲しいなぁ」
忍「だれがのぶえもんじゃ、なんじゃ前のマウンテンバイクが壊れてからママチャリに乗っとったのに飽きたのかの?」
暦「いやーでもやっぱりロードバイクってかっこいいじゃん?あのフォルムっつーかあの速く走ることを意識して作られているカンジがさ」
忍「ふぅむ、そんなものかのまぁ買ったら儂も乗せてもらうかの」
暦「ロードバイクにカゴはねぇよ」
暦「…っていう話を昨日したんだよ羽川」
羽川「ふぅん、確かに阿良々木君自転車好きだもんね」
暦「だけどロードバイクとかそんな感じはまだサッパリでさ、羽川に相談を」
羽川「なんで私なのよ…まぁちょっとなら知ってるからアドバイスはしてあげるけど」
暦「サンキュー羽川!」
暦「うーんそれも考えたんだけどさ、やっぱりロードバイクの方に惹かれるんだよな」
羽川「阿良々木君がいいならいいけど……ロードバイク高いよ?」
暦「……マジで?」
羽川「マジです」
暦「最低でもどのくらいがいいのかな?」
羽川「そうだねー有名なとこでジャイアントってメーカーのが7万円くらいかな最低でも」
暦「マジかよ…でもまぁ貯金はあるから、予算は10万くらいにするよ」
暦「そういえば最近ネットとかでも買えるじゃん?そっちの方が安かったりするけどそれはどうなんだ?」
羽川「別に悪いとは言わないけど阿良々木君今回が始めてでしょ?ロードバイク買うの、安い買い物じゃないしもし身体に合わないとロードバイクとかって結構苦痛なんだよね、だから最初はお店に行った方がいいと思うよ」
暦「そうなのか…羽川、お前は何でも知ってるよなまさか自転車方面の知識もあるなんてさ」
羽川「なんでもは知らないわ、知ってることだけ」
暦「そうか…一応ここにカタログはあるんだ」ゴソゴソ
羽川「あれ?もうお店で話してきたの?」
暦「いや…なんかまだしっかり意思が固まってないのに店員と話すってのがなんか気まずくてカタログだけもらってきた」
羽川「わからなくもないけどさ…」
羽川「あ、戦場ヶ原さん、ちょっと阿良々木君から相談を受けててね」
戦場ヶ原「ふぅん、ロードバイクね…懐かしいわ」
暦「え!?お前ロードバイク持ってたの?」
戦場ヶ原「前の家の時にはあったのよ」
暦「そういえば前は金持ちだったなお前」
暦「へー、ってレコードってなんなんだ?」
戦場ヶ原「阿良々木君、レコードを知らないの?それでよくロードバイク買うとか言い出せたわね、自転車乗りの恥…いえ、人類の恥といっても過言ではないわね」
暦「過言だよ!しょうがねーだろ!ロードバイク始めてなんだし!」
戦場ヶ原「そうよ阿良々木君50万はしたみたいよ?分かる、阿良々木君が50万年働いてようやく手に入るお値段よ」
暦「毒舌抜きなら素直に尊敬できたんだが…」
戦場ヶ原「ジャイアント…それは阿良々木君が背が低いことを意識してのチョイスかしら?」
暦「別にメーカーの名前がジャイアント(巨人)だから選んだわけじゃねーよ!いや1番大手っぽいしさ」
羽川「ジャイアントね、いいじゃないかな、色んな価格帯のロードバイクもあるし」
羽川「そうだね、アルミフレームにカーボンフォーク、あと105のセット…なかなかコスパもいいんじゃないかな?」
暦「へぇー2人が言うから良いものなんだろうなぁ」
羽川「まぁ実車とカタログじゃちょっとカンジ違ったりするしお店で見てくるといいと思うよ」
戦場ヶ原「じゃあ阿良々木君、私が付き添ってあげるわ、なにか罵と…アドバイスもできるでしょうし」
暦「明らかに罵倒と言いそうになったのは気になるがよろしく頼むよ」
戦場ヶ原「ここがサイクルショップね」
暦「この町にもあったんだな、自転車屋」
戦場ヶ原「まぁ通勤などに使ったりとユーザーは増えてシェア自体は最近あがっているはずよロードバイクは」
暦「へぇーブームなんだな、ところで気になったんだけれどもし在庫が無かったらどうするんだ?」
戦場ヶ原「それは自転車屋がメーカーに問い合わせて取り寄せてくれるわ、寧ろ小さな自転車屋なら取り寄せの方が多いかもしれないわね、そのかわりアフターケアやアドバイスなんかもしっかりしてくれるからそこが強みね」
戦場ヶ原「取り寄せで2週間ほどらしいわね」
暦「ヘルメットやら備品込み込みで12万か…ちょい予算オーバーだけどまぁこのくらいなら大丈夫かな」
戦場ヶ原「それにしても阿良々木君にロードバイクを乗りこなせるかしらね?」
暦「ばっ馬鹿にすんなよ!伊達に自転車ばっか乗ってないぜ!」
戦場ヶ原「いや、運転云々もあるけど…ロードバイクって普通サドルから足つかないわよ」
暦「え」
暦「うわぁ、どうしよう今になって不安だよ」
戦場ヶ原「しょうがないわね、いくらなんでもまともに乗ることも出来ないゴミムシ以下の阿良々木君に乗られたのでは自転車も哀れね、私が教えてあげないでもないわ乗り方」
暦「この際ツッコまねーからたのむ!」
戦場ヶ原「ハッまったく、この御時世ムラタカセイ君でも自転車乗れるというのにこの男ときたら!しょうがないわね、この私が教えてあげましょう乗り方を」
暦「ロードバイクが届いたぞぅぉぉぉぉぉ!」
忍「なんじゃうるさいぞお前様朝っぱらから、結局のところ自転車じゃろうに」
暦「馬っ鹿、よく見ろよこれ…空気を切り裂く形をしてるだろう…」
忍「そんなBLEACHみたいなことを言われてものう、でもまぁ美味そうな形はしてるのr
暦「!!」ババッ
忍「冗談じゃよ」
暦「お前は手錠とか食ったことあるから洒落になってないんだよ」
暦「5分前じゃねーか、とりあえずたのむ」
戦場ヶ原「じゃあ乗り方からね」
暦「へー跨って…よっと」
戦場ヶ原「自転車に関してはスジがいいのね」
暦「おぉ!一漕ぎの感覚が違う!」
戦場ヶ原「阿良々木君の日本語が分からないわ」
暦「ちょっとそこらへん一周してくるよ」スィー
戦場ヶ原「そう、慣れないのだから余り無理はしちゃだめよ」
暦「ふぃー楽しかったー」
戦場ヶ原「そう、なによりだわ」
暦「あぁ、ずっと乗っていたいくらいだぜ、通学とかにも使おうかな」
戦場ヶ原「それじゃあのママチャリはお役御免なのかしら?」
暦「いや…あのママチャリは特別だよ、色んな時に使ったし…初めて戦場ヶ原と2人乗りしたのもあの自転車だしな」
暦「珍しいな、どのくらいだ?」
戦場ヶ原「賽銭箱のよこで1円拾ったくらいかしらね」
暦「果てしなく微妙じゃねーか!」
暦「いいのか?高いんじゃ?」
戦場ヶ原「そのかわりロードバイクを私と思って乗るのよ」
暦「その言葉には若干のダブルミーミングがあるように感じるのは気のせいか?」
戦場ヶ原「もちろんいやらしい意味よ」
暦「台無しだ!」
僕はディスクホイールを自転車屋で取り付けてもらったわけだがそこで驚くべきものを目にした
そう、ディスクホイールにでかでかとカッティングされた「戦場ヶ原蕩れ」の文字
暦「これじゃ嫌でもお前のこと思い出しちまうよ」
ツッコミをいれつつそれでも僕は笑顔だった。
買物語 こよみバイク
完
うまくまとめやがって
乙!
にわかの俺にもわかりやすくてよかった
Entry ⇒ 2012.01.05 | Category ⇒ 化物語SS | Comments (0) | Trackbacks (0)
暦「クリスマス?」神原「うむ、クリ〇〇スだ」
http://engawa.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1324652256/
神原「これは失礼、阿良々木先輩が馴染みやすいよう配慮をしたのだ」
暦「余計な配慮をするんじゃねぇ!意味がわからねーよ!」
神原「ちなみに○に入るのはスマだぞ阿良々木先輩」
暦「ん、ああ、わかってるよ最初に僕が言っているだろ」
暦「神原、僕の耳がおかしかったのなら謝るが今取り除いたってところおかしくなかったか?」
神原「おお!さすがは阿良々木先輩だ、目の付け所が違うな」
ひたぎ「さっきから二人で何を盛り上がっているのかしら」
神原「これはこれは私の親愛なる戦場ヶ原先輩」
ひたぎ「あなたのではないは神原。私は阿良々木くんのものよ」
ひたぎ「その私の阿良々木くんと何を盛り上がっていたのかしら」
神原「ああ、阿良々木先輩は絶えず女性の陰部に目をつけているという衝撃的事実を耳にしてしまったところだ」
暦「!!ちょっと待て神原なんだその説め、そんな目で僕を見るな戦場ヶ原!誤解だ」
ひたぎ「そう、゙私゙の阿良々木くんは私の可愛い後輩に今まさにセクハラをしていたのね」
ひたぎ「あら、なぜかしら」
神原「私には何も盛り上げることはできないからな、絶えず盛り上がっていたのは阿良々木先輩のナニだ!」
暦「てめ、神原こら」
ひたぎ「阿良々木くん」
暦「ん、なんだよ戦場ヶ原」
ひたぎ「別れましょう」
暦「な、なんでそうなるんだよ!早く訂正しろ神原」
暦「微妙にうまいこと言ってんじゃねえ!」
神原「戦場ヶ原先輩、阿良々木先輩、おまえら」
暦「なんだよ」
戦場ヶ原「何かしら」
神原「今年もクリ〇〇スイブが来たぞ」
神原「そうだな!そしてそれに見合うロマンチックな女の子になれたと自負しているぞ」
暦「さっきまでの会話にロマンチックのカケラもねぇよ!」
神原「阿良々木先輩どうしたのだそんなに息を阿良々げて」
神原「失望したぞ阿良々木先輩。いや、この場合は絶望したというべきなのか」
暦「それは最近流行りの中の人繋がりでイジるって手法なのか」
神原「ホントに阿良々木先輩は物分かりが良くて助かるな。文字通り一字一句ネタに気付いてくれるのだな」
神原「しかし私的には息を阿良々げるの流れから噛みまみたに繋げたかったのだ。いや、ロマンチック繋がりで神まみたか」
暦「人様のネタを丸々引用してるんじゃねえよ!第一あれは音にしてもわかるがおまえのそれはわからない」
神原「心配は無用だぞ阿良々木先輩。シャフトはわかりにくいところは文字で表現するプロだからな」
暦「それに神原、勘違いしているようだがこれはアニメには絶対にならないぞ」
神原「何を言ってるのだ阿良々木先輩、私は知っているのだぞ」
暦「ん、何をだよ」
神原「もうすぐ私達がアニメに再登場するのだ」
暦「また恐ろしく旬なネタに走るな…だが神原これは同人ものなんだ」
暦(読者の何人がここに戦場ヶ原が一緒にいることを覚えているのかは怪しいところだが)
暦「残念だがそういうストーリーはこの先に待ち受けていない」
神原「せっかくの性夜が近いというのに…些か残念ではあるが仕方ないな」
暦「おまえこれをアニメにしたいってわりに活字ネタしか使わないのな」
暦「…は?」
神原「おお、すまない印刷物と陰部を噛んでしまった!」
暦「…わざとだろ」
神原「見破られてしまったか。阿良々木先輩は何でも知っているのだな」
神原「私は一筋縄ではいかないのが売りだぞ!一筋、縄…うむ、凄くエロいな」
暦「上級者すぎてついていけないぞ」
神原「そうなのか?てっきり阿良々木先輩は縄で一筋を作る妄想をして盛り上がるのかと思ったが」
暦「あ、>>1の勃ったら書くって伏線なのか?」
神原「無論だ!」
暦「おまえにツッコミどころがありすぎて今までツッコめなかったんだよ」
神原「私のツッコミどころ!おぉ、凄まじいエロさを感じる一文だな」
暦「神原、おまえ今日陰部の話しかしてないんじゃないか?」
神原「何を言っているのだ、今日はクリスマス陰部だぞ」
神原「それも無論だ!」
神原「クリ〇〇ス陰部素敵な言葉だとは思わないか阿良々木先輩!」
暦「少なくともロマンチックではない」
神原「こうなるとホワイトクリスマスとは何がホワイトなのかという話をしなければならないな」
暦「雪以外のなにものでもねーよ!」
暦「サンタクロースはサンタクロースで元々サンタクロースだろ、違うのか?」
神原「セクハラだな阿良々木先輩」
暦「おまえに訴えられても僕は確実に負けないぞ」
神原「だがどうだろうか、法廷でも絶えず盛り上がっている男子というのはそれだけでも有罪だと思うが」
暦「僕をそんな気持ち悪いキャラクターに仕立てあげようとしてんじゃねぇよ」
暦「ん?なんだそれ」
神原「阿良々木先輩だ」
暦「はぁ?」
神原「おまえ゙も゙ってことはあの真っ白い顔はホワイトだったのだな」
暦「公式に怒られるような発言は良くない!」
神原「しかしマガジンの作品では性器魔Ⅱ先輩の声で危ないことをかなりネタにしているではないか!」
神原「ところでこの話のタイトルなんだが」
暦「直前の話をやめるにしてももっと自然に区切ってくれよ」
神原「これはすまなかったな」
暦「で、なんだ?」
神原「いや、毎回エピソードごとに〇物語とかあったと思うのだが」
暦「あれか、おこがましくもあれをこの話にもつけるのか?」
神原「もう阿良々木先輩は物分かりの良さが神の域だな!神繋がりの私達はさながらアダムとイヴか」
神原「お褒めに与って恐縮だぞ阿良々木先輩」
神原「私達がアダムとイヴならまずはし損じることなく子孫を残さなければいけないな」
暦「訂正する。おまえにはやはりロマンチックの微塵も感じられない」
神原「む、ろまんという言葉も私的にはアウトだな」
暦「それはスルーしていいのか?」
神原「無論だ!」
神原「吾輩は猫である。名前はまだない」
暦「名前は確かにないが猫なのは羽川だけで十分だ」
神原「注文の多い阿良々木先輩だな」
暦「神原、今のうちに言っておくがいくら頑張ってもおまえは文学少女にはなれないぞ」
神原「そうだな…私は体育会系だからな…ホワイト長門さんのようにはなれないのだな」
神原「私達のホワイトの認識も行き違ってしまったな」
暦「だからうまいこと言ってんじゃねーよ」
神原「阿良々木先輩、うまいことと言うがそれは自画自賛ではないのか?」
暦「気にするな神原」
神原「クリスマスだというのにツリーにするなとは少々酷ではないか?」
神原「気違いか」
暦「木違いだ」
神原「阿良々木先輩が言うのであればそうなのだろうな」
暦「おい、なんでちょっと落ち込んでるんだよ」
神原「あぁ、大丈夫だ!では話を戻そうか」
神原「では偽物語というのはどうだろうか!これなら同人物だとわかるのではないか!?」
暦「数日後に始まるアニメを全否定だよ」
神原「そうか…ではイヒ物語ではどうだろう」
暦「どこの国の作品だよ!」
神原「注文が多いのだな」
暦「僕のせいではない!」
暦「恐ろしいほどタイトル詐欺だな」
神原「キャッチコピーは100パーセント煩悩で書かれたSSです」
暦「僕は生まれて初めてクリスマスと元旦が一緒の日であったらいいと思ったよ」
神原「それは興味深いな」
暦「いや、除夜の鐘を聞いて煩悩がなくなっていればこんな酷い物語は誕生しなかったからな」
暦「どういうことだよ」
神原「゙神゙の゙原゙点クリスマスにおける神といえばイエス・キリストだな」
神原「そして私はイブにこの物語を作り出した」
暦「…おい」
神原「つまりこの物語は聖書…失礼、性書になるのだと思う」
暦「おまえ以上にクリスマス関連の言葉を下ネタに変換した奴はこの夜にいないだろうな」
暦「そうか良かったな」
神原「楽しいひと時を過ごさせてくれた阿良々木先輩は私のサンタクロースだな!勘違いされては困るが松任谷由実さんの恋人がサンタクロースとはなんの関係もないぞ!」
暦「わかってるよ…というかそこまで考えなかったよ」
神原「サンタクロースでありツッコミに苦労した阿良々木先輩を労(ねぎら)ってこの物語のサブタイトルは暦クロースに決定だな!」
暦「暦ヴァンプ依頼だな…って同人で二回目のサブタイ登場かよ!公式で出たかったよ!!」
神原「サンタクロースにお願いしてみてはいかがなものか阿良々木先輩」
暦「考えておくよ」
暦「まあな」
羽川「この話私に教えるだけでもセクハラとして成り立つけど…」
暦「冷たいこと言うなよ羽川」
羽川「ふふ。ところで後日談は?今回のオチ。連休明けだし当然もうあるんでしょ?」
暦「まあな」
羽川「当たり前でしょ。リスペクトして書かせていただいてるのだから」
暦「そうだな…」
暦「今回のオチはまあくだらないよ。神原が自称゙神゙の゙原゙点だったのに対して戦場ヶ原は僕の中で゙戦場゙の゙原゙始…だったんだよ」
羽川「原始…始まり?」
暦「あのあと戦場ヶ原がいつの間にか帰ってることに気付いてさ、あいつの自宅に行ってみたら玄関が開いたと同時に文房具が僕の全身を襲ってきたよ」
羽川「あ、談議には仏教を説いて聞かせるって意味があるから今回の話には使えないかな」
暦「おまえは何でも知ってるな」
羽川「何でもは知らないわよ、知ってることだけ。じゃあ戦場ヶ原さんと喧嘩しちゃったんだ」
暦「まあな…一応初詣に一緒に行く約束をしたところで落ち着いてくれてオチがついたよ」
羽川「本当にお疲れ様阿良々木くん」
暦「ありがとな羽川」
雪物語~暦クロース~ END
Entry ⇒ 2011.12.24 | Category ⇒ 化物語SS | Comments (0) | Trackbacks (0)