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http://iup.2ch-library.com/i/i0761892-1349974295.jpg
P(加蓮は頑張り屋で、ちょっと身体が弱くて、でも最高に輝いてる)
P(今ではうちの事務所の顔として活躍してるけど)
P(最初の頃は本当に大変だったんだよな…)
P(社長や俺がスカウトしてきた候補生は、能力と本人の反応を見るためにしばらくレッスン場通いになる)
P(加蓮と初めて会ったのは丁度加蓮のレッスン詰め最終日)
P(一目見て惚れ込んで、社長に担当させて欲しいと頼み込んだ)
P(…今思えば、「流石だねキミィ」の意味をよく考えるべきだった)
加蓮「ん?アンタがアタシをアイドルにしてくれんの?よろしく」
P「よ、よろしく。プロデューサーのPです」
加蓮「でさ、アタシ努力とか練習とか、そういうキャラじゃないんだけど。ホントになれんの?アイドルなんてさ」
P「え、え?まあ険しい道程にはなると思うけど…やるからには二人三脚で頑張ろう、な?」
加蓮「えー…言っとくけどアタシ体力ないかんね。入院してた時期もあるし。ちゃんと休ませてよ?」
P「よろしくな、えっと、加蓮ちゃん?」
加蓮「うわ、なにそれ気持ち悪…加蓮でいいよ」
加蓮「はあ、先が思いやられるなー」
P(俺もだよ…うう、見事なまでの現代っ子…これからが心配だ…)
[同日、夕方]
ルキトレ「はい、6、2、3、4、7…ほら加蓮ちゃん頑張ってー!」
加蓮「ハッ……ハッ……あー、もう無理!休憩!」
ルキトレ「あー、もうちょっとだったのに…ダメだよ加蓮ちゃん、気合で最後までやろうよぉ」
加蓮「ハァ…ハァ…無理だってば、無理無理…ハァ…あー、喉渇いた…飲み物飲み物…」
ルキトレ「うー、加蓮ちゃぁん…」
P(でも原石としては最高の逸材だ。磨けば間違いなく輝ける)
P(それになにより、俺がこの子をプロデュースしてみたい)
P(担当を加蓮一人に絞っていいから全力でやれと社長は言ってたけど…)
P(まだ俺が加蓮のことを知らなさすぎる)
P(本人もこの程度のレッスンでかなり辛そうだし、一度ちゃんと話して心の内を聞いておかないと)
加蓮「え、わ、わ、っと…あ、レモン水じゃん!プロデューサーわかってるー♪」
加蓮「んっ…」ゴクゴク
P「ルキトレさん、今日は少し早いですけどここまでで大丈夫です。少し加蓮と話したいこともあるので」
ルキトレ「あ、はい…えっと、加蓮ちゃん、気分とか、大丈夫?」
加蓮「ん、休めば大丈夫だよ。お疲れ~」
ルキトレ「うう、それじゃ次もまた頑張ろうね?お疲れ様」
加蓮「疲れたー。やっぱしんどいよこれ」
P「そっか。じゃ、そのまま座っててくれ…っと、隣、いいか?」
加蓮「へ?と、隣?い、いいけど汗かいてるよ?」
P「構わないって、それくらい。そいじゃ失礼、と」
加蓮(構わない、って…臭わないよね?)クンクン
加蓮「うーん…なんか事務所の子達ってホント努力努力努力ーってカンジでさー」
加蓮「なのにアタシはこんなんだし、レッスンも休み休みじゃないとこなせないし」
加蓮「どうにかなんのこれ?って感じかな。あはは」
P「確かにうちの事務所は結構凄いのいるからなあ…」
P「加蓮はなんでアイドルやってみようと思ったんだ?」
加蓮「え、唐突…んー、なんていうんだろ」
P「へ?」
加蓮「あ、別にふざけてるわけじゃないよ?ほら、日高舞っていたじゃん、もう引退しちゃったけど」
P「ああ…ってまさか日高舞に憧れて?」
加蓮「うん。アタシ小さい頃から病気がちでさ。あんまり外で遊んだりできなくて」
加蓮「いつも家で遊んでたんだけど、そんなアタシのヒーロー?ヒロイン?が日高舞」
加蓮「お母さんも、『大きくなって、元気になればあんな風になれるから』とか言っちゃっててさ。アタシ、信じちゃってたんだ」
加蓮「そ。高校入って、相変わらず体弱くて、全然日高舞みたいにはなれなくて」
加蓮「あーネイルの勉強でもしようかなーなんて考えてたところで、アイドルやりませんか、とか言われるもんだからさ。ちょっと夢見ちゃった」
加蓮「でもやっぱダメだね、アタシみたいなポンコツが通用する感じじゃなさそうかも。あはは」
P「ポンコツってお前……」
加蓮「実際そうだよ。ルキトレちゃんも言ってたよ、アイドルって体力ないと務まらないって」
加蓮「アタシにはそれがないんだし、さ。根性も無いし」
P「…今も、アイドルになりたいと思ってるのか?」
加蓮「えー、実際無理そうじゃない?さっきのレッスン見てたでしょ?あれで人前に立つのは…」
P「加蓮、真面目に」
加蓮「……そりゃ、ね。夢だもん。でもお陰で現実見れたし、これで諦めつけてもいいかな、って」
加蓮「プロデューサーには付いて早々で悪いけど、そろそろ潮時ってことでもう…」
P「諦めも何も、まだ何も始まってないだろ。アイドル、なりたいんだろ?」
加蓮「なんで何度も言わせるのさ、嫌がらせ?」
P「そんなわけないだろ。加蓮をアイドルにするために、俺が知っておきたかったんだよ。プロデューサーなんだからな」
加蓮「…っ、だから無理だって、もう一週間やって分かったよ」
加蓮「アタシみたいなのはアイドルなんてなれない」
加蓮「体力もないし根性もない、そんなんじゃ通用しないって十分思い知ったって」
加蓮「もういいんだってば。帰る。さよなら」
P「おい、加蓮」
加蓮「もういいって言ってるでしょ!しつこい!」
P「待てよ、おい加蓮!」グッ
加蓮「離してよ、や、離してってば!」
P「話を最後まで聞けって!」
加蓮「っ、痛い、離して!」
P「…ごめん」
P「……俺は加蓮にこんなところで終わって欲しくないんだ。まだまだこれからだろ」
P「辛いのに、ちゃんと毎日レッスンも来てるし、根性あるじゃないか。続ければ必ずステージで輝く日が来るさ」
加蓮「…しつこいなあ。今日初めて会ったのになんでそこまで言えんの?」
P「一目見てティンときたんだよ。この子には他の子にはないものがあるって」
P「加蓮さえよければ、一緒に頂点を目指したいんだ」
加蓮「頂点って、話飛びすぎ。期待してもらって悪いけど、アタシ、やっぱこういうの無理だよ」
加蓮「去年の今頃は病院のベッドだったのにアイドルなんて目指させて貰えて、短い間だったけどいい夢見れたよ」
加蓮「いいじゃん、アタシの中で決着つきそうなんだから」
加蓮「………もういいってば……ホントしつこい…諦めさせてよ……」
P「…………加蓮はさ、目が違うんだ」
加蓮「………は?目?」
P「そう、目。アイドルはたくさん見てきたけど、加蓮みたいな目をしてる娘は他にいない」
P「アイドルってのは誰もが目が輝いてるけど、加蓮の瞳は夢を映して、こう、煌めいてて」
P「何て言うんだろうな。輝き方が違うんだ」
加蓮「……何それ、意味わかんない。口説いてるつもり?」
P「…そうだな、惚れたのかも。初めて加蓮の目を見たとき、ビビッときたんだ」
P「うん、一目惚れ、かもしれない」
加蓮「……………へ?」
加蓮「え、あ、手…」
P「お前の夢、叶えさせてくれ。俺が魔法使いになるから、加蓮がシンデレラになってくれ」グイ
加蓮「な、ちょっと…」
P「ちゃんと輝くステージに、ドレスと花を持たせて連れていくから」
P「だからさ、一緒にやろう、アイドル。二人なら出来る、約束する」
加蓮「だから、アタシはもう…」
P「今日まで一週間、辛かっただろ?でも今日からは俺と、二人でやっていこう」
P「まだ、これからだろ。スタートラインなのに、諦めるなんて悲しいこと言うなよ」
P「確かに今はまだまだ遠いかもしれないけど、だからこそのシンデレラストーリーじゃないか」
加蓮「でも、無理だよ………あたしじゃ………」
P「………できるよ。見たいんだ。加蓮の、シンデレラ。一緒にやろう」
P「舞踏会まで、俺が連れていく」
加蓮「……………本当に……?」
P「俺、これでもこの仕事では、結構評価してもらえてるんだぞ?」
加蓮「……私、すぐ疲れるよ?レッスンも活動も、迷惑かけちゃうかも」
P「それでも絶対、だ。約束する」
加蓮「二人三脚になんてならないかもしれないよ。道端でへたりこんじゃうかも」
P「そのときは肩車でもおんぶでもなんでもするさ。カボチャの馬車にだって変身してやる」
加蓮「…ぷっ、なにそれ、バカみたい」
加蓮「……ねえ、ホントに、アイドル、なれるのかな」
P「なれるよ。約束する」
P「やるって言うなら、今日この場から俺が北条加蓮のファン1号で、頂点までのパートナーだ」
加蓮「……わかった。ちょっとだけ、信じてみる」
加蓮「約束、だからね」
加蓮「ちゃんと、私の夢、叶えてね」
P「……加蓮!」ギュッ
P「うん。絶対に、絶対にお前の夢、叶えるから。明日からまた仕切り直して二人で頑張ろう」
P「…ってどうしたんだ?加蓮?」
加蓮「…あの、抱きつかれると…あたし…」
P「…あ、ははは、熱くなっちまって、つい……悪い…」
加蓮「…セクハラ」
P「う、ごめん…家まで送るから着替え終わったら呼んでくれ、外で待ってるから」
バタン
加蓮「………」
加蓮「……ぷっ、あは、あはっ」
加蓮「あはっ、だっさ、俺が魔法使い、だって、あ、あはははっ」
加蓮「しかもとんだセクハラプロデューサーだし、あはっ、ホント最悪、あは、は、は」
加蓮「自分も顔真っ赤なくせに、あは、は、カッコ、つけて、あはっ」
加蓮「しつこいし、ぷふっ、もうホント最低、っ」
加蓮「ヒッ、は、もういいって言ってんのに、あは、グスッ……ヒッ……」
加蓮「諦められると、思ったのに……ぅ、グスン、ぅぅ……」
加蓮「………ヒグッ……グスッ……」
加蓮「…グスン………私……なれるのかな………」
加蓮「…………アイドル、アイドルかあ……ひぐっ、う、うぇぇ」
加蓮「グスッ、う、う、ぅぅぅぅぅ」
加蓮「…ぁ、あ……あ……あ、あああ、」
P(あの日、加蓮がレッスン場から出てくるまで一時間待たされた)
P(ようやく出てきてから家に送り届けるまで、何度も「こっち絶対に見ないでよ」と言われたけど)
P(別れ際の「また明日ね」の声は、今でも耳に残っている)
P(これが俺と加蓮の、最初の一歩)
――――
―――
加蓮「あ、プロデューサー!今日もお迎えありがと」
P「おう、とりあえず乗った乗った、早く出よう」
加蓮「ん、何か急ぐの?今日はレッスンだけでしょ?」
P「いや、結構注目浴びてるっていうかさ…」
P「あんまり噂されたりすると、加蓮も学校でやりづらいだろ?」
加蓮「へ?うわ、ホントだガン見されてる…行こ行こ」
バタン
ブロロロロ
加蓮「普通かな。あ、今日から体育も頑張って出てるよ。先生びっくりしてた」
P「お、偉い偉い。ご飯はちゃんと食べたか?」
加蓮「朝はなんとか食べたけど…昼はちょっとしか食べられなかった。体育の後だったし」
P「それだとレッスン中に力出ないだろ。ほら、そこの紙袋のやつ食べとけ」
加蓮「はーい。今日のおやつは…フルーツサンドかー。こっちの惣菜パンは?」
P「ああ、それは俺の。ちょっと小腹が空いちゃってな」
加蓮「エビフライやきそばパン…?ね、私こっちがいい」
P「え、ええ?別にいいけど」
P「そういや言ってたな。今度からその路線の方がいいか?」
加蓮「んー、でも流石にお腹空いてないと無理だし」
P「なら欲しいときは連絡してくれ。おやつくらいならいくらでも出すから」
加蓮「はーい……んぐんぐ…ん、今日もレッスン頑張ろっと」
P「疲れとかは大丈夫か?」
加蓮「そりゃあれだけいろいろやれば疲れるけど、ね」
加蓮「ちゃんと言われたとおりに食べて、寝て、身体動かしてるから、すっごく調子はいいよ」
P「ならいいんだけどな」
加蓮「あ、それにプロデューサー、ちゃんと身体使うのと使わないのとでバランス取ってにレッスン組んでくれてるでしょ」
加蓮「ふふっ、助かってるよ」
P「その辺は任せとけ。でも頑張り過ぎは禁物だぞ?オフの日はしっかり休んで、遊ぶように」
加蓮「でも今はレッスンも楽しいし、まだまだやれるよ?」
P「他にもやりたいことあったりするだろ。押さえつけると、気がつかないうちにストレスになってくるんだ」
P「休みもちゃんと希望出して、発散すること。いいな?」
加蓮「はーい……うーん、やりたいことやりたいこと……あ」
P「ん?なんだ?」
加蓮「その、放課後デート」
P「…は!?加蓮、お前アイドルなんだから恋愛は…」
加蓮「うん、わかってる。そもそもそんな相手いないし」
加蓮「でも、Pさんならプロデューサーだからさ、その…」
加蓮「えっと、うわ、恥ずかし、何て言うか、その」
P「……」
加蓮「えっと、とにかく私ちゃんと休みとるからさ、Pさんも同じ日に、だって二人で頑張るって決めたんだから」
加蓮「二人で一緒に休んで、その…」
P「はぁ…」
P(加蓮の放課後なら仕事は早上がりさせてもらえば事足りるし…)
加蓮「……」
P「加蓮」
加蓮「ぅぅ…ご、ごめ」
P「来週の金曜な」
加蓮「!」パァァァ
P(純情、だなぁ…)
P(この頃の俺の担当アイドルは加蓮一人に絞られていた)
P(だから加蓮の育成に全力を注ぎ込むことができた)
P(送迎もレッスンも営業も、全部俺の担当で)
P(たまにオフを取っても、何らかの形で加蓮と一緒にいた)
P(忙しい日が続いても、加蓮は弱音一つ上げなかった)
P(仕事も順調、アイドルランクは一度上がり始めたら勢いが止まらず)
P(お互い、パートナーとして成長していった)
――――
―――
P「…」カタカタカタ
加蓮「…」ジー
P「…うーん……」カタカタカタ
加蓮「…ふふっ」
P「…」カタカタカタ
みく「…」ジトー
加蓮「ねえプロデューサー。そろそろいい時間だよ」
P「え?うわ、もうこんな時間か。ごめん、待ってたのか?」
加蓮「うん、プロデューサーがお仕事するの見てた」
P「そっか。よし、それじゃ今日はここで切り上げるかな。飯行こうか」
加蓮「ん。えっとね、今日は…」
みく「…Pチャン?」ジトー
みく「うん、お疲れ様…Pチャン、加蓮がずっと見てたっていうのにノーコメントなの?」
P「いつものことだし」
みく「に、にゃ…きょ、今日は加蓮とご飯の約束してたり?」
P「いや、別に」
みく「…じゃあなんで自然と一緒に食べに行く流れなの」
P「まあ、いつもの流れだし」
みく「…これもいつも!?いつも一緒にご飯食べてるの!?Pチャンみくの担当してた頃はいつも『早く帰って寝なさい』だったにゃ!?」
P「あの頃は忙しくてだな…」
みく「行く!Pチャン、みくはお肉を要求するにゃあ!」
P「回転寿司ならまだ開いてるかな?いいか?」
みく「Pチャン!?ひどくない!?」
加蓮「プロデューサー、私はどこでもいいよ」
みく「にゃ!ならそこのファミレスがいいにゃ!お肉お肉~♪」
みく(Pチャンと加蓮、仲良すぎにゃあ…ふふん、たまにはみくも構ってもらうにゃ!)
ゴチュウモンウカガイマース
みく「ガーリックステーキのデラックスセット!あと食後にストロベリーバナナパフェ!」
P「みくはこっちの焼き魚定食の方が…」
みく「はぁぁ?お断りにゃ!Pチャンの奢りだし、みくは贅沢するにゃ!加蓮はー?」
加蓮「んーっと、えっと…このアンガスバーガーのバッファローウイングセットで」
P「ん、じゃあ俺は野菜スープとシーザーサラダで」
みく「か、加蓮すごいの頼むね…」
加蓮「あはは…色々反動でね、ジャンクフード好きなんだ。こういうところ来ると、つい、ね」
みく「それに比べてPチャンはダイエット中かにゃ~?むふふ、みくを蔑ろにした罰としてお肉見せびらかしの刑にゃ~♪」
P「はいはい、食べ終わったらちゃんと歯磨いてブレスケアしろよ。明日ニンニク臭くなるぞ」
みく「え…ひどくない…?」
みく「ん~~やっぱりお肉は美味しいにゃ~~♪」ハグハグモグモグ
加蓮「ん……Pさん」
P「もういいのか」
加蓮「うん、意外と重くって」
P「そっか。じゃ、ほい」
みく「…!?」
みく(示し合わせたように頼んだもの交換…え、まさかお互い最初からそのつもりで頼んだの!?)
みく(というかそのハンバーガー、加蓮直接かじってたにゃ!?)
加蓮「あ、Pさんフォークとスプーンも」
みく(え、普通新しく頼まない?あと呼び方Pさんに変わった?)
加蓮「この間のカフェのとか酷かったもんね。あ、そのバッファローも割とよくない?」
P「うーん、ちょっと甘い気が…」アーダコーダ
みく(な、何コレ…)
ストロベリーバナナパフェノオキャクサマー
みく「あ、はい…」
P「加蓮はデザートいらないのか?」
加蓮「うん、今はいいよ」
P「そっか」
加蓮「ん、ありがと」
みく(アカンなんやこの空気アカンアカン)
P「みくはよく食べるなあ。ほら、加蓮もこれくらい普段から食べればもっと…」
加蓮「最近は頑張ってるよ。ほら、この間だってさ」
みく「に、にゃー!PチャンPチャン!!並んでる人いるし、食べ終わったらさっさと出よ!…んっんっんっ…ごちそうさま!ささ、早く出るにゃ!」
P「え?お、おう、それじゃ会計してくるか。みく、3000円な」
みく「に゛ゃ!?」
P「ぷっ、相変わらずいい顔するな。冗談だよ、車乗って待ってな」
加蓮「みく、Pさんと仲いいよね」
みく「え、加蓮がそれ言う?加蓮こそ入り込めないくらいPチャンと仲いいにゃ」
加蓮「ふふ、そうかな…でもPさんもさっきから酷いことばっかり言って」
みく「前からあんな感じだよ?みくもあれくらいでじゃれるのが丁度いいにゃ~♪」
加蓮「そっか。……みくはさ、Pさんが担当外れたとき、どうだった?」
みく「うーん、いろいろ思うことはあったにゃあ。でも最後はにゃんていうか、よかったー、って感じが一番強かったかにゃ」
加蓮「え?みく、Pさんのこと嫌いだったの?」
みく「そんなわけにゃいでしょー」
みく「……でもあの頃のPチャン、いつも死にそうな顔してたし」
みく「みくたちのためにやりすぎなくらい頑張ってたにゃ。いつもボロボロで、ちひろが救急車呼ぼうとしたこともあったにゃ」
みく「だからみくたちのLIVEが上手くいって、やっとの思いで出したCDが成功して」
みく「ちひろが新しいプロデューサーが雇えるって教えてくれたときは、寂しいっていうよりも、安心したかも」
みく「結果的にPチャンはみくの担当からも外れちゃって、仕事終わりくらいにしか会わなくなっちやったけど」
みく「もうボロボロのPチャンを見なくていいなら、みくはそれで嬉しいよ」
みく「……ふふーん、みくはいいオンナだにゃ?」
みく「魔法使い?」
加蓮「うん、みくも最初に言われたでしょ?俺が魔法使いでお前がシンデレラ~ってやつ」
みく「へ?何の話?」
加蓮「え、ちょっと待って、みんなに言ってたんじゃないの…?」
みく「…加蓮?もしかしてこれはのろけ話かにゃ?」
加蓮「あ、ウソ、ウソ、なんでもない、なんでもないよ。あ、ほらみく、Pさん来たよ」
みく「む!Pチャン!!Pチャンは魔もごごごご」
加蓮「わー!!わー!!」
P「お前ら仲いいなあ。あ、みくには歯磨きガムとミント買ってきたぞ」
みく「に゛ゃぁぁぁ!!Pチャンがいじめるに゛ゃぁぁぁ!」
P「みくー、着いたぞー」
みく「にゃ、Pチャンお疲れ様!」
P「みくもお疲れ。早めに寝るんだぞ」
みく「みくは夜行性にゃ!夜はこれからだにゃ!お断りにゃ!」
P「にゃあにゃあうっさいにゃあ!」
みく「に゛ゃぁぁぁぁ!もうやだみくおうち帰る!!」
P「おう帰れ!それじゃみく、おやすみな」
みく「にゃ!おやすみPチャン、加蓮」
P「今日はちょっと遅くなっちゃったな。加蓮、親御さんに電話を…」
加蓮「デザート」
P「へ?」
加蓮「どこでもいいから、ちょっと寄ろうよ。お話したい気分」
P「仕方ないなあ。駅前のシュークリームでいいか?」
加蓮「ん、いいよ。人前で、って感じでもないし」
加蓮「ね、Pさん。いつもありがとう」
P「なんだ急に改まって。なんかあったのか?」
加蓮「みくに昔話聞いた。そしたらなんか、溢れだしてきちゃって」
加蓮「ホントに、ホントに感謝してるよ」
P「…なら俺もありがとう。加蓮のお陰で毎日充実してるよ」
加蓮「うん…まだ全然言い足りないや。Pさん、私、Pさんに育ててもらって幸せだよ」
加蓮「今の私は、何から何までPさんのお陰」
加蓮「私の夢、拾い集めてここまで連れてきてくれて、ありがとう」
P「…なんか恥ずかしくなってきた」
加蓮「ふふ、茶化さないでよ。あのね、Pさん、私絶対にPさんの努力にも期待にも応えるから」
加蓮「だから、これからもずっとよろしく、ね?」
P「…当たり前だ。加蓮は俺の自慢のアイドルなんだからな」
加蓮「ふふっ、Pさんも私の自慢のプロデューサーだよ」
加蓮「うーん、どうすればこの気持ち、もっと伝わるかなぁ」
P「これ以上言われると俺が逆に恥ずかしいってば…」
P「ん?どうし…」
加蓮「ぎゅー」
P「お、おい加蓮!?」
加蓮「私から抱き付くのは初めてだね。ふふっ、でもこれが一番いいかも」
加蓮「Pさん、いつもありがとう。大好きだよ」
P「…うん、明日からもよろしくな、加蓮」
加蓮「もー、そうじゃなくて…ううん、やっぱりそれでいいや」
加蓮「ねぇ、次からありがとうって言う代わりにぎゅーってしてもいい?」
P「だーめ。人の目考えなさい」
加蓮「ちぇー。あ、じゃあ人目のないときだけにする。それより時間、そろそろ帰らないと流石にヤバいかも」
P「…はぁ…よし、それじゃ出ますか」
加蓮「うん。よろしくね、私の魔法使いさん」
P(そんな加蓮が倒れたと聞いたときは目の前が真っ白になった)
――――
―――
凛「そ、プロデューサー昨日はずっと上の空でさ」
奈緒「加蓮ガー加蓮ガーって聞かなかったんだぞ!ずっと『ううう加蓮、ううう』って、ぶふっ、思い出したら、ぷぷぷ」
凛「もう熱は大丈夫なんだよね?」
加蓮「うん、明日からは現場に戻れそう。ただの風邪なのに…ホント大袈裟だなあ、プロデューサーったら」
凛「今日は午前で切り上げて、お見舞いに来るってさ」
奈緒「プロデューサーに会ったらまた熱でちゃうんじゃない?」ニヤニヤ
加蓮「もう、そんなことないってば」
凛「それじゃ私たちは仕事に戻るから。お大事にね」
加蓮「うん、わざわざありがとう」
奈緒「がんばれよー」ニヤニヤ
加蓮「もー!頑張らないから!」
P『もしもし加蓮?大丈夫か?一応お見舞いにと思ってな、家の近くまで来てるんだけど』
加蓮『あ、うん、鍵開いてるから上がっていいよ。部屋は階段上がって左ね』
P『鍵開いてるってお前、危ないだろ…』
加蓮『さっきまで凛と奈緒が来てたの。上がるときに閉めといて』
P『無用心だぞー…ってご両親は?』
加蓮『仕事』
P『…そっか。それじゃ上がらせてもらうな』
加蓮「大丈夫だってば、何度もメールしたでしょ?Pさんこそお仕事大丈夫なの?」
P「はは、全然手がつかなくてさ」
P「ちひろさんに『あとは私がやるから今日はもう上がって下さい!』って言われちまった」
加蓮「もう、ホント心配性なんだから」
P「仕方ないだろ?身体弱いってお前が昔散々…」
加蓮「だからちょっと風邪ひいただけだってば。大げさ」
加蓮「……ね、それじゃ今日はもうお仕事戻らないの?」
P「今日は戻ってくるな、ってさ。だからこの後は家かな」
加蓮「そっか。ふふっ、それじゃ今日は一緒にゆっくりしよ?」
加蓮「ホントに大丈夫。それより一人でぼんやりしてる方が辛いよ。だから、ね?」
P「ならちょっとだけ、な。ほい、これ差し入れ」
加蓮「わ、ありがと!うわ重い…プリンにヨーグルトにジュースに…ふふっ、こんなに食べられないよ」
加蓮「でも私の好きなものばっか。流石私のPさん」
P「昼ご飯は?食べたか?」
加蓮「ううん、お母さんがお粥作っておいてくれたはずだけどまだ食べてない。ちょっと食欲湧かなくて」
P「取ってこようか?ちゃんと食べないとだめだぞ」
加蓮「久しぶりにそれ言われたかも…ふふ、それじゃあお願いするね。たぶん台所にメモがあるから」
加蓮「ん、ありがと……ね、Pさんが食べさせてよ」
P「お前なあ…」
加蓮「食欲湧かないのー。でもPさんがあーんってやってくれれば食べられるかもー」
P「全く…加蓮、お前来年17だろ?」
加蓮「来年17で今年16の年頃の女の子だもーん」
P「……お前……はぁ」
P「ほれ、あーん」
加蓮「え、やってくれるの?やった!あーん」
P「………今回だけだぞ。もう一口。ふーっ、はいあーん」
加蓮「あーん…ん、ふふ、幸せかも」
P「だーめ。今日は布団でじっとしてなさい」
加蓮「えー、折角Pさん来てるのに…あ、それじゃ奈緒から借りたアニメ一緒に見よ?ほらこれ、なんか夏の感動作なんだって」
P「それくらいならいいか。でもこの部屋、テレビは見当たらないけど」
加蓮「ベッドの下にノートパソコンがあるの。ん、よっと。で、ほら、横に座れば一緒に見れるよ」
P「……加蓮、流石に俺がベッドに上がるのは」
加蓮「いいじゃん、事務所のソファで一緒にライブのビデオ見るのと変わらないよ。ほら、こっちこっち」
P「スーツのままだし汚いぞ?」
加蓮「Pさんなんだから気にしないよ。ほら、早く入ってくれないと寒いー」
P「……ああもういいや、後で文句言うなよ。お邪魔します」
加蓮「ん、いらっしゃい。あ、足ちょっと曲げて?…よっ、と」
加蓮「ふふっ、あったかい。それじゃ、観よ?」
加蓮「こういうシャツ、杏が好きそうだよね」
P「無気力な若者の間のブームなのか…?」
~~~~~~~~~
P「なあ加蓮、この子加蓮にちょっと」
加蓮「………この子の名前で呼んだりしないでね」
~~~~~~~~~
加蓮「うわ、この人ヤバい変態なんじゃ…Pさん?」
P「」スヤスヤ
加蓮「もう、Pさんったら…」
P「zzz」
加蓮「ほら、枕使っていいから。んー!よっと、それじゃ私も」
加蓮「…うわ、近い…」
P「スヤスヤ」
加蓮「………」
加蓮(ちょ、ちょっとだけ)
ぎゅっ
加蓮(うわ、いつもと全然違う。すっごいいけないことしてる気分)
加蓮(Pさんの体温、すごく感じる…なんか、Pさんに包まれてるみたい)
加蓮(…もっと近くに……)
加蓮「………あ」
加蓮「…P、さん…」
加蓮(……ごめんね、Pさん。ダメだってわかってるのに)
加蓮(我慢、できない)
チュッ
加蓮(………やっちゃった……でも、今凄く………)
加蓮(も、もう一回)
チュ
加蓮(頭、じーんってする)
加蓮(……だめ、止まらない)
加蓮(Pさん、Pさん、Pさん)
加蓮(もう一回)
加蓮(もう、一回)
チュ チュウッ
加蓮「Pさん…………………あ」
P「………加蓮」
加蓮「あ、Pさんごめんなさい、あ、その、ちが、ん、んっ」
加蓮「……Pさん?」
P「加蓮……」チュ
加蓮「っ、ぷはっ……」
加蓮「あ、あのね、Pさん。私、私ね」
P「……ごめん、加蓮。これ以上は、その、ダメだ、とういか俺もダメだな。ごめん」
加蓮「Pさん、私は」
P「加蓮」
加蓮「………」
P「加蓮の夢は俺の夢だから。ここで魔法を切らしちゃダメだ」
加蓮「あ……Pさん、ごめん。私勝手に……」
P「……俺も、嬉しかったよ。でも、俺はこれからも俺加蓮と一緒に頑張りたいから」
加蓮「……うん。ホントにごめんなさい。なんか、勝手に盛り上がっちゃって」
P「俺からもしちゃったしおあいこ。だからこれ以上の言い合いは無し」
加蓮「うん。私、ちょっとおかしかった。ごめんね」
加蓮「なんか、ちょっと、不安で、さ」
P「……不安?」
加蓮「うん。こうして病気でベッドにいるしかない、って久し振りだったから」
加蓮「凛と奈緒が来てくれて、でもお仕事行っちゃって。なんかすごく置いて行かれた気分になって」
P「加蓮………」
加蓮「そしたら、そしたら……その、Pさんも、遠く感じちゃって。すごく怖くて………」
P「………大丈夫、一緒にいるよ。約束しただろ?」
加蓮「うん………でもいつか私がアイドル辞めたら、いつかPさんがプロデューサーやめたらって、考えちゃって」
加蓮「でも、Pさんが、すぐそこにいて、すごくあったかくって。だめだって分かってたのに」
P「加蓮」
加蓮「私、ずっとPさんと一緒がいい。ごめんね、アイドルなのに、こんなこと言って」
ぎゅー
加蓮「……Pさん?」
P「俺も、感謝してるよ。加蓮が頑張ってくれるから、俺も頑張れる」
P「……明日から、またお仕事、頑張ろうな。一緒に」
加蓮「……うん。ありがとう。頑張る」
加蓮「……私、単純だなあ。Pさんがぎゅってしてくれるだけで不安なんて吹き飛んじゃうみたい」
P「今回だけだぞ。もう倒れるのは本当に勘弁してくれよ?」
加蓮「ふふっ、凛と奈緒から聞いたよ。『ううう~加蓮~』、だって?ふふっ」
P「げ……とにかくちゃんと体調悪くなる前に休んでくれよ?本当に心配だったんだぞ。最近休んでなかっただろ?」
加蓮「うん、気を付けます。そうだね、最近お仕事が楽しくって、休むのすっかり忘れてたかも」
P「全くお前は……まぁ、頑張り屋なのは加蓮のいいところだからな。前も言ったけど、頑張り過ぎないように」
加蓮「…ね、Pさん。またお休みちゃんと取るから」
P「うん?」
加蓮「もう、その、さっきみたいなことは無いようにするからさ」
加蓮「また、こっそりデート、連れていってね?」
P(そして加蓮を、約束の舞踏会まで連れてこれたと実感できたのが)
P(夢のステージでのLIVE)
ワーワーワーワーワーワー
パチパチパチパチパチパチ
加蓮「はぁ、はぁ、凛、奈緒、やった、やったね!」
奈緒「やべェ、すッッッげェ楽しかった!夢みたいだ!」
凛「すごい、まだ、拍手、して、くれてる…やった、大成功、だね」
P「三人ともお疲れ!最高だったぞ!ほら水飲め水」
奈緒「んっ、んっ……あー、アイドルやっててよかったなァ」
凛「ぷはっ……本当に、ね。しかもこの三人で一緒にLIVEなんて、夢みたいかも」
加蓮「Pさん、また三人でできる!?できるよね!?」
P「そうだな、ユニット化も社長に打診してみるよ」
P「よし、風邪ひく前に着替えてこい、一息ついたらスタッフさんに挨拶行くぞー」
奈緒「お、そうだ加蓮行け行けー!」
加蓮「え、いいよ、ちょ、なんで今」
P「ん?どうかしたのか?」
加蓮「もー……えっとね、Pさん……」
加蓮「その、私、シンデレラに、なれたかな」
P「……ああ、どこに出しても誇れる、立派なお姫様だよ」
加蓮「ふふっ、ありがとう……うん、シンデレラになれたなら、言わないといけないことがあるんだ」
P「ん?なんだ?」
加蓮「……私ね、ガラスの靴……」
P「?」
加蓮「舞踏会が終わったら、ガラスの靴持って、会いに行くから」
加蓮「魔法が解けるときまで」
加蓮「魔法が解けた後も」
加蓮「一緒に、その、いて欲しいな、って」
奈緒(うわ、聞いてる方が恥ずかしくなってきた、なんだこれ…加蓮乙女すぎだろ……)
凛(顔真っ赤…)
奈緒「ほら、P返事………ってオイ、泣いてんのかよ!」
凛「プロデューサー、加蓮がこんなに勇気出して言ったんだから」
加蓮「……ううん、凛、奈緒、いいんだよ。ほら、着替えに行こ?」
凛「え、加蓮?ちょっと、プロデューサー!?」
奈緒「加蓮、いいのか?」
加蓮「うん。Pさん、また後でね?」
P「………おう」
奈緒「ああもうなんだよ、とびっきり恥ずかしい告白にとびっきり恥ずかしい返事が聞けると思ったのになァ」
凛「加蓮、本当によかったの?」
加蓮「うん。こうなるかなって、思ってたし」
凛「……どういうこと?」
加蓮「その、前にPさんが看病に来てくれた時にね」
奈緒「ああ、こないだのアレ」
加蓮「うん。その時に私がちょっと、その、迫っちゃって」
奈緒「え、ええ!?本当に頑張っちゃったのかよ!?」
加蓮「……うん。で、そのときはその、キスだけだったんだけど」
凛「え、えぇ!?き、キスしたの!?」
奈緒「ああ、加蓮が遠くに…」
加蓮「うん…でもそれ以来、Pさんそういうことに対して厳しくなっちゃって」
加蓮「あ、バレてた?でも手も繋いでくれないし、あんまり抱きつかせてもくれなくなっちゃって」
凛(オフの日毎回一緒で、その度デートプラン相談してたじゃん…名前伏せてたけど)
奈緒(あんまりって結局抱きついてんのかよ)
加蓮「でも、こんな感じのこと言うとやっぱりちょっとはぐらかされちゃって」
加蓮「今回ほどハッキリ言ったことはなかったけど……返事もらえるとも思ってなかった、かな」
奈緒「まあ、加蓮がいいなら…でもなあ」
加蓮「ごめんね、背中押してもらったのに」
凛「……まぁ、アイドルだし、ね」
奈緒「Pもプロデューサーだしなー。どう見ても両想いなのに」
凛「ふぅん……ね、加蓮、目元ちょっと滲んでるよ?」
加蓮「あ、え、嘘!挨拶行く前に直さないと!奈緒、私のポーチ取って」
奈緒「んー……あれ、なんかゴツいな。何入れてんだ?ほいよ」
加蓮「え?そんなに物入ってたっけ…」
ゴソゴソ
加蓮「?あれ、これ……」
凛「……加蓮?何その箱?」
加蓮「わかんない……でも、なんか……」
パカッ
凛「それ、指輪だよね?……箱に何か書いてある?」
加蓮「蓋の裏に何か………イニシャル?あ、やっぱりPさんからだ!」
加蓮「ふふっ、綺麗な指輪……あとは……えっと、Mors Sola?なんだろ、ブランドの名前?」
奈緒「え?え、ええ!?」
凛「奈緒、わかるの?」
加蓮「どういう意味?」
奈緒「そ、その……ラテン語、でさ」
加蓮「?」
奈緒「……『死が二人を別つまで』」
奈緒「いや、多分だけどな?」
加蓮「え、ねぇ、どう意味!?」
凛「……ほら、結婚式で言うやつ」
奈緒「加蓮の告白が恥ずかしいと思ったら、更に上行きやがった…」
加蓮「え!?え、えええ!?じゃあこの指輪って……え、うわ、嘘、わ、私どうしよう!?」
凛「もうお互い伝えたいこと伝えたんだからいいんじゃないの?おめでとう、加蓮。結婚式には呼んでね」
奈緒「あ、アタシも呼べよなー」
加蓮「え、わ、わかった、ちゃんと呼ぶ!あ、私、Pさんのとこ行ってくる!」
凛(茶化したつもりなのに…)
奈緒(完全にその気かよ)
加蓮「で、でも」
奈緒「それに外には記者とかいるんだぞ、指輪片手にうろうろしてたらまずいだろ」
加蓮「うう…でも、でも」
凛「まだやること残ってるんだから、プロデューサーのところ行くのはそれから」
加蓮「……うん、そうだね。……ふふっ、Pさん……」
凛「……あと指輪もしまって。見つかったらまずいし、ニヤケ顔治らないよ」
凛「はい着替えて。そしたらメイク直すよ。奈緒右目やって、私が左目」
加蓮「……はーい」
加蓮「……着けちゃダメ?」
凛「ダーメ。その時が来たら、Pさんに着けてもらいな」
加蓮「あ、それいいかも。そうしよ。ふふっ」
奈緒「にしても、『死が二人を別つまで』かぁ。ちゃんとさっきの告白の返事になってるんだよなぁ」
奈緒「図らずしてこれだよ、両想いどころか以心伝心じゃん」
加蓮「……えへへ、そう、かな」
凛「はーい、そうだよそうだよ。ほら、着替えたらそこ座って」
凛「落ち着いた?」
加蓮「うん。ありがと、凛。奈緒も」
奈緒「あー甘ったるい。砂糖吐きそ」
凛「もう飛び出して行かない?」
加蓮「うん、大丈夫。あのね、今度私からも指輪贈ろうと思う」
奈緒「まぁ、そういう指輪だしな。こっそりやれよ」
加蓮「うん。でもとりあえず、私はアイドル、やり切らないと。私の夢、Pさんの夢だもん」
加蓮「ちゃんと一花咲かせて、いつかステージ降りて、それから普通の女の子になって」
加蓮「それからも、ずっと一緒だもん、ね」
すごい砂糖吐きたい気分
Entry ⇒ 2012.10.12 | Category ⇒ その他 | Comments (0) | Trackbacks (0)
ルルーシュ「こんな事をしているのは知られたくないからな……」
ルルーシュ「蓬莱島に来て数日、中華との交渉も必要な分は全て済んだ」
ルルーシュ「合衆国日本の内政については、神楽耶に指示も出し、滞りなく進んでいる」
ルルーシュ「物資の調達や在庫管理は扇や藤堂に任せてある……問題はない」
ルルーシュ「そしてC.C.とカレンはそれぞれ偵察任務についている……久しぶりに一人だけの、自由な時間だ」
ルルーシュ「一人ではできない事も多いが、逆に一人でなければできない事だってある」
ルルーシュ「あいつらが帰って来ないうちに済ませなければな……よし、決行するなら今だな」
ルルーシュ「俺自身の脈拍、心拍とも正常値……健康状態にも問題はない」
ルルーシュ「メンタルも非常に落ち着いている……先ほどハーブティーを飲んだのは正解だったな」
ルルーシュ「室内には俺一人。現在、誰かが尋ねてくる様子もなし」
ルルーシュ「姿見には汚れ一つない。角度のズレも一切ない……条件は全てクリアされた」
ルルーシュ「では改めて! ゼロとしてのポージングの練習を開始するッ!!」ビシィッ!
ルルーシュ「まぁこの程度は慣れたものか……では次、こうッ!!」バサァッ!
ルルーシュ「……今一つキレというか勢いが足りない……ではもっと大きく動きをつけてみるか」
ルルーシュ「ぃよぉっ!!」シュババッ!
ルルーシュ「ふははははは! いいぞ、やれるじゃないか!」ウットリ
ルルーシュ「だがこの程度は序の口だ……1年の時を経て新生した、より威厳あるゼロのポーズを世に見せつけてやる!!」
ルルーシュ「……これはダメだな、雄々しさというか、壮麗さが感じられん」
ルルーシュ「では次っ! そぉれっ!!」ビシィッ!
ルルーシュ「……うむ、次にブリッジで主砲の指示を出すときはこれでいってみるか」
ルルーシュ「ならこれはどうだ! はあぁぁぁっ!!」シュビビィッ!
ルルーシュ「ふはははははは! いいぞ、いいじゃないか! これほどの素晴らしいポーズならブリタニアも畏怖する事間違いなしだ!」
ルルーシュ「クククク、なんだか楽しくなってきたぞ……いいだろう、ならば極限を追求してくれる!!」ニヤァ
ルルーシュ「あはははは、素晴らしい! 自身の才能ながら怖くなりそうだ!」
ルルーシュ「ならば次はもっと派手に! 美麗に! 大胆に! 大きなアクションを加えてみるか!」
ルルーシュ「ぃよおぉぉぉっ!!」クルクルクルゥー…
ルルーシュ「ここで……そぉれぇっ!!」ビシィッ!!
プシューッ
C.C.「帰ったぞ……って」
カレン「何、やってんの……ルルーシュ」
ルルーシュ「!?」ビクゥッ!
C.C.「実にスローな振り向きだな、動きに合わせてギギギィ~と錆びた音が聞こえてきそうだぞ」
カレン「えーっと……その、ね……」
ルルーシュ「み……見た、のか……?」オソルオソル
C.C.「ああ、この曇りのない澄んだ眼で拝ませてもらったとも。お前が姿見に向かって恥ずかしいポーズをきめているところをな」
カレン「正直、見なきゃよかったと思ってるわ」
ルルーシュ「」
ルルーシュ(ましてC.C.はこの事をネタにからかってくるに決まっている! こいつの性格はよくわかっている!)
ルルーシュ(最悪この事をバラしかねない……そんな事がディートハルトあたりに知れてみろ、たちまち艦内全域で笑い話にされる!)
ルルーシュ(ならば頼みの綱はカレンしかいない! カレンのゼロへの信頼は絶対だ、ゼロの秘密をバラす事はないはず!)
ルルーシュ「カレン、君ならわかってくれるだr
カレン「ルルーシュ。お願いだからこれ以上あたしを幻滅させないでほしいんだけど」
ルルーシュ「がっ……!?」
ルルーシュ「ま、待ってくれカレン! 俺の話を聞いて―――」
カレン「そりゃ正体知らなかったときは、ゼロの一挙手一投足見てかっこいいと思ってたけど」
カレン「正体がルルーシュだってわかっちゃったら、ルルーシュがあのポーズ決めてるって思うと……」
C.C.「思うと? なんなんだ?」
カレン「……あまり言いたくないけど、正直痛い」
ルルーシュ「」
C.C.「一人で鏡の前に立って、ビシッ! シュバァッ!って……く、くくくっ」
カレン「そんな事言うけど、あんただって影武者であのポーズやってるんでしょ? 充分痛いわよ」
C.C.「私をそこの坊やと一緒にするなよ。本音をいうと、あんないかにも『俺カッコいい』なポーズやりたくないんだ」
カレン「まぁ普通そうよね……ノリでやってるならともかく、練習までしてるとは思わなかったわ」
ルルーシュ「……黙れ……」ワナワナ
C.C.・カレン「ん?」
ルルーシュ「黙れ貴様らぁぁぁぁっ!! 練習して何が悪いぃっ!!」
ルルーシュ「五月蠅いッ! ……こんな真似するのも、元はといえば君が原因だぞ、カレン!」ギンッ!
カレン「はぁっ!? 何よ、いきなり人のせいにして!!」
ルルーシュ「そうだろうが! あのとき新宿で、俺に言った事を自分で忘れたのか君はぁ!」
カレン「言った事……って確か」
ルルーシュ「言ったよな、俺に! 『最後の最後まで騙せ、今度こそ完璧にゼロを演じきってみせろ』とっ!」
カレン「そりゃまぁ、言ったけど」
ルルーシュ「だからこそゼロとしての完成度を高めるべく研鑽を積んでいたんだ! 文句はあるかぁっ!」
カレン「」
C.C.「やれやれ。子供丸出しだな」
ルルーシュ「そして1年の不在を経てなお健在という事もアピールせねばならない! だから努力を怠るわけにはいかんのだ!」
カレン「だからってあんた、ポーズ先行でやるのもどうなのよ?」
ルルーシュ「まだいうか……えぇい、ならば君が憧れたゼロの仮面を被る! これなら幻滅も何もないだろう!」カポッ
カレン「直前まで素顔見てたわけだし、今更被っても……」
C.C.「恥を隠すどころか上塗りしてるぞ、ルルーシュ」
ルルーシュ「くっ……なぜだ、なぜこんな事に……」スポッ
ルルーシュ「ダメだ。同じものの繰り返しではやがて飽きが来る、新作の開発は急務だ」
ルルーシュ「これから数多くの奇跡を起こす事になるんだ、その都度ポーズが同じというのは絶対に避けるべきだ!」
C.C.「言い換えれば奇跡の数だけ恥をかくわけか」
ルルーシュ「俺は今までのポーズを恥と思った事はない!!」キッ!
カレン「ルルーシュ……あんた頭いいけど、馬鹿なの?」
カレン「あたしも正体知る前はともかく、今はちょっと……ねぇ?」
ルルーシュ「違うな、間違っているぞ。少なくとも子供や大きいお友達には大人気のはずだ」
カレン「あたしも去年学園の帰り道に見た覚えはあるけど……まぁ、子供がやる分には微笑ましかったわね」
C.C.「だが年齢重ねればああいうのやるのは恥でしかなくなるぞ」
ルルーシュ「ならば俺は何なんだ!! 決めポーズの数々を恥とも思わなかった俺は!!」
C.C.「ある種の病気だろ。それか素顔隠してるからできる事だ」
カレン「あのさぁ、さっきあたし達が入ってきたときの反応が全てを物語ってない?」
ルルーシュ「なっ……ぐっ、おのれぇっ……!!」
カレン「だったら扇さん達にも聞いてくればいいわけ?」
ルルーシュ「っ……」
C.C.「いい方法があるじゃないか。お前明日から数日間、エリア11に戻るんだろ?」
C.C.「アッシュフォード学園の生徒達にそれとなく確認してみればいいんじゃないか?」
ルルーシュ「だが学園ではスザクの目がある。大っぴらには聞けないだろう」
C.C.「だからそれとなくといったろ。ゼロの話題だって出るはずだ、そこに聞き耳立てればいい」
ルルーシュ「……よし、やってみるか……C.C.、留守の間は任せるぞ」
カレン「アッシュフォード学園、か……」
ルルーシュ「……やはり、懐かしいか?」
カレン「そりゃ懐かしいけど、今どのツラ下げて戻れるっていうのよ……」
ルルーシュ「……そうか」
ルルーシュ(結局教室では対してゼロの話題が出なかったな。情報規制の影響か)
リヴァル「ちょいちょい、ルルーシュ! ちょっとこれ見てみろよ!」
ルルーシュ「ん?」
ゼロ『ゼロが命じる……』ウデクロスッ
ゼロ『黒の騎士団は全員、行政特区日本に! 参加せよッ!!』ビシィッ!!
ルルーシュ(あのときの映像か。このシーンが記録されているとは思わなかったな)
ルルーシュ(我ながらあのポーズは会心の出来だった。カレンの叱咤と生徒会のみんなの想いがあったからの完成度だ) シンミリ
リヴァル「ゼロってさー、一体いくつぐらいなんだろなー?」
ルルーシュ「は?」
リヴァル「いやさ、正直俺らくらいの年であんな事してたら痛くね?」ハフー
ルルーシュ「!?」
ルルーシュ「は、はは……そうだな……」
スザク「……」
ミレイ「ねぇねぇ、何見てんの?」
リヴァル「会長も見ます? ゼロの派手なポーズの数々」ホレホレ
ミレイ「うーわ、何度見ても派手通り越してちょっとひくわー」
シャーリー「こんなポーズ決めたがる人、友達にいてほしくありませんよねー」
ルルーシュ「……だよな、俺もそう、思う……」ヒヤアセ
ルルーシュ(そんなっ……これが世間の目だというのか!? 俺の、ゼロのポーズは恥ずかしいというのか!?)
ルルーシュ「何?」
スザク「だってルルーシュって、子供の時変身ヒーローのもの真似したりして……」
シャーリー「えっ、ルルってそんな趣味持ってたの!?」
ルルーシュ(スザクめ……俺がボロを出すよう仕向けているなっ!!)
ルルーシュ(俺はシャルルのギアスで記憶を変えられた設定だ、ここでイエスと答えては記憶が戻ってる事の証明になる!! だが……)
ルルーシュ「いやだなスザク、そんな事話した事あったっけ?」
スザク「え? いや……」
ルルーシュ「仮にそうだとしても、子供の時の話だし……それに俺だって高校生だ。恥という概念ぐらいあるさ」
リヴァル「そーだよなぁ、さっすがにいい歳こいてやんねーって」
スザク「あー、そう? そうか……」
ルルーシュ「そうそう、まったく……ははは」
ルルーシュ(くぅ……おのれ、おのれ貴様等ぁぁぁっ!!)
ミレイ「シャーリーはルルーシュがやる事ならなーんでも歓迎なんでしょー?」
シャーリー「そっ、そんな事いってませんけどぉ……」
ルルーシュ「勘弁してくれよシャーリー。そんな事期待されても困るって」ハフー
スザク「……だったら僕がみんなに、素晴らしい決めポーズを教えてあげるよ」
リヴァル「え? なになに、スザクってそーいうの好きなんだ?」
スザク「好きとか嫌いじゃなく、騎士として当然の振る舞いだよ」
スザク「いいかい? 右手をこう水平に構えて、背筋伸ばすのと同時に足閉じて……」
スザク「ではみんなで一緒に、イエス! ユアマジェスティ!!」ビシィッ!
一同「「「」」」
ロロ「イエス! マイブラザー!」ビシィッ
ルルーシュ「あー……ハイハイ」
ルルーシュ「……」ナミダメ
C.C.「どうだった? 世間様の目とやらは」
ルルーシュ「黙れ……うぅっ」グスッ
カレン「その様子じゃ散々だったみたいね……」
ルルーシュ「なぜだ、なぜみんなあのかっこよさがわからない……」グスッ
C.C.「それが一般の認識というものだ。わかったらあんなポーズの開発なんてやめとけ」
カレン「そうよ、ゼロは仮面とマント姿で佇んでるだけでもちゃんと存在感あるんだし……」
ルルーシュ「俺が……間違っているというのか……」
C.C.「直球でいえば、そうなるな」
ルルーシュ「違う……間違っているぞ!!」ユラリ
カレン「……はい?」
C.C.「壮麗かどうかはともかく、まぁそうだな」
ルルーシュ「やはりお前達もわかっているんじゃないか……そう、間違っているのは俺じゃない!! 世界のほうだ!!」
カレン「なんか、やな予感……」タジッ
C.C.「まぁまたバカな事始めるんだろうさ……やれやれ」
ルルーシュ「世界は変わる、変えられる―――」
ルルーシュ「そう、俺はゼロ!! 世界の常識すらも破壊し、創造する男だ!!」 ビシィッ!
ルルーシュ「フフフ……フフフハハハ……!! フハハハハハハハハハハハ!!」
ゼロ「諸君。今日こうして集まってもらったのは他でもない……」
ディートハルト「また新たな作戦ですか? 情報操作でしたらお任せを」
ゼロ「頼らせてもらうとは思うが、まずは話を聞け。……諸君、先日の特区日本の件は覚えているな」
扇「あ、ああ。もちろんだ」
玉城「そりゃゼロの服着るなんて普通ねぇもんよぉ、張り切っちゃったぜ俺!」
神楽耶「まるで身も心もゼロ様になりきったかのようでしたわ♪」
ゼロ「そうか……だが諸君。君達は服を着ただけで私に……ゼロになったつもりでいるのか?」
藤堂「ゼロ、どういう事だ?」
ゼロ「諸君はあのとき、ただ服を着ただけだ! 心からゼロを演じたとは言えない!!」シュビッ!
ラクシャータ「全っ然意味がわからないんだけどぉ?」
ゼロ「わからないという事は、諸君が普段私をちゃんと観察していないという事だ」
ゼロ「この私、ゼロを語るにあたって、この装束以外の特徴がわからないか?」
朝比奈「そりゃ……起こした奇跡? でも特徴じゃないよねぇ」
ゼロ「惜しいと言っておこう。私が言っているのは、諸君らでも再現可能な特徴だ」
扇「と言われても、なぁ……」
C.C.「おい、もう面倒だから言ってしまったほうが早いぞ」
ゼロ「そうだな……では諸君、私のポージングを再現してみろ、今この場で!!」バッ!
一同「「「!!??」」」
南「再現!?って……」
朝比奈「ゼロ、いきなり何を言い出すんだ!?」
ディートハルト「お言葉ですがゼロ、あのポーズはあなたがやってこそのものです! それにあれは、あの場限りの策だったのでは……」
ゼロ「違うな、間違っているぞ。今後またああいった策を使う機会もあるかもしれない」
ゼロ「それにゼロはあくまで記号の存在。私もいわばゼロを演じている一人に過ぎんのだ」
ゼロ「その一役者の私が不測の事態で倒れる事があったら、代わりに演じる者が必要となる」
ゼロ「代役を務めるものとて、ゼロを演じるなら完璧でなくてはならん。知略もそうだが、まずは入り易い外見からだ」
ゼロ「ゼロの外見はこの装束だけで構成されるものではない、事あるごとにとるこのポーズもセットでゼロの姿なのだ!!」
ゼロ「そして諸君は特区日本の作戦で外見だけとはいえ私を演じた、だがやるならやはり完璧だ!!」
ゼロ「よって!! 諸君には全員!! 私のポージングをマスターしてもらう!!」
一同「」
ゼロ「ほぅ? 何故だ、千葉よ」
C.C.「正直に言ってやれ。こいつだって言われる覚悟はあるさ」
ゼロ「そうだ。言っていいのは、言われる覚悟のある奴だけだ!」
千葉「な、ならば……(ゴクリ)ゼロ、悪いが正直言って恥ずかしい!!」
扇「す、すまないゼロ……俺も正直恥ずかしいんだ」
朝比奈「僕もこの歳になってあのポーズはちょっと……」
ゼロ「恥ずかしい? ……恥ずかしいとは情けないな」
千葉「なっ、なんだと!?」
ゼロ「我々は二度ブリタニアに敗れ、それでもこうして立っている身だ。今更恥や外聞を気にする必要があるのか?」
藤堂「……ふむ」
ゼロ「それにあたって私は自身の恥や外聞は切り捨てた。そんなもの抱えていては、今こうしてここに立っていない」
藤堂「……なるほどな。言いたい事は察した」
朝比奈「でも藤堂さん! あんな特撮ヒーローみたいなポーズ、いい大人になって―――」
ゼロ「では朝比奈よ、いい大人でありながらああいったポーズをとる私はおかしいのかな?」
朝比奈「う……」
ゼロ「考えてみろ。ゼロを演じきる者が増える事はすなわち、このゼロという記号の存在の秘匿性を高める事にもなる」
千葉「つまり、かつてのように処刑を騙られて姿を消すということも防げるという事……」
ゼロ「察していただけたなら幸いだ。ならわかった者から順次やってもらおうか」
玉城「おうよ!!(シュビッ)こうか? こうだろゼロぉ!」
ゼロ「腰の入りが甘いぞ。鍛錬が足りん」
玉城「ちぇ~っ」
藤堂「我々の認識はゼロは彼個人だが、世間に対してはそれを特定させない……単純ながら重要な事だな」
ゼロ「そういう事だ。私一人でなく、全員でゼロという存在を完全にしなくてはならない」
南「でもゼロ、やっぱり恥ずかしさはあると思うぞ」
扇「ああ、俺達もう30近いんだし……」
ゼロ「恥は捨てろといったのにまだ言うか……ならば一つ、真理を説いてやろう」
千葉「真理? 一体なんだ?」
ゼロ「古来より日本に伝わる言葉ゆえ、知ってる者も多いはず……今の諸君にはうってつけだ」
ディートハルト「ゼロ、その言葉とは!?」ワクワク
ゼロ「その真理とは……『赤信号、みんなで渡れば怖くない』ッ!!」
一同「」
カレン「(要は一人じゃ恥ずかしいからみんな巻き込もうって事じゃないのぉっ!!)」ヒソヒソ
C.C.「(やれやれ、どこまでも困った坊やだ)」ヒソヒソ
ゼロ「だが全てを覚えてもらわねばならない。それが完全に演じるという事だ」
扇「で、でも……」
神楽耶「まぁ練習すればできなくもないかもしれませんが……」
ゼロ「ほぅ? さすが神楽耶様はわかってらっしゃる」
神楽耶「ですが私は妻としてお傍に控えているべきで、演じる必要はないのでは?」
ゼロ「ダメです、例外は認めません」
藤堂「……ゼロよ、それは我ら黒の騎士団のみが対象か?」
ゼロ「違うな。あのときゼロを演じたのは百万人の日本人。それら全てが対象だ」
朝比奈「子供やお年寄りまでいるのに、全員に徹底させるなんて無理なんじゃ……」
ディートハルト「ですがその無理を現実にすれば、また新たな奇跡となります」
藤堂「ふむ……」
ゼロ「それを話し合うためにこうして集まってもらったのです」
千葉「つまり、ノープランなのか?」
ゼロ「当初は黒の騎士団総員で先にマスターし、そこから徐々に広めていくつもりだったのだがな……」
藤堂「……温いな」
ゼロ「何っ!?」ガタッ
朝比奈「藤堂さん、まさか!?」
藤堂「ゼロ、ここは私に任せてもらえるか?」
ゼロ「やれるのか、藤堂!?」
藤堂「フ……かつて奇跡と呼ばれた以上、私も結果を出さねばな……」
藤堂「落ち着けゼロよ。……玉城!」
玉城「お!? おぅ、なんだよ旦那?」
藤堂「お前の抱える問題とは覚えられない事、そう言ったな?」
玉城「おぅよ、しゃーねぇじゃんよ、頭悪ぃんだからよぉ!」
藤堂「千葉! 朝比奈! 扇!」
3人「「「は、はいっ!!」」」
藤堂「お前達はひた恥ずかしい、これが最大の問題なのだな?」
千葉「え、あ……はい///」
朝比奈「藤堂さんの言動なら、いくらでも真似れるんですけど……」
扇「俺や南も、年齢的な事もあるし……」
藤堂「つまり年齢や性別に縛られず、体に直接覚えさせる事が出来なお且つ恥ずかしくない……そういった習得方法を編み出せばよいのだな?」
ゼロ「まさか藤堂、お前!!」
藤堂「私に策が浮かんだ。その全てを解消する策がな」
ゼロ「よし……ならばまずは私と藤堂、それに―――」
藤堂「千葉、朝比奈、それにディートハルト。お前達にも協力してもらう」
千葉・朝比奈「「藤堂さんのご命とあれば!!」」
ディートハルト「私をご指名という事は、メディアを使うのですか?」
藤堂「ああ。日本人に馴染み易いやり方を採る」
神楽耶「私にできる事はございますか?」
藤堂「いえ、ここはまず見ていて頂きたい」
神楽耶「そうですか~、残念……」
C.C.「ひとまず私達は外されて安心ってところか」
カレン「油断しない方がいいんじゃない? ……あいつと藤堂さんだし」
カレン「……く~……」zzz
カレン「ん……うぅ……るるーしゅの、ばかぁ……」スヤスヤ
ゼロ『諸君ッ!! おはようっ!!』キィー…ン!(※大音量で全艦放送)
カレン「ふわゎぁっ!?」ビクッ!!
ゼロ『起きた者は順次自室のテレビを点けろ! 先日の成果を見せてやる!』
カレン「テレビって、一体何なのよもう……」
カレン「ん……っと」ポチッ
カレン「って何これ、千葉さんと朝比奈さん?」
千葉『み、みんな~、おはよぉ~っ!!///』テェフリフリ
朝比奈『今日から始まる、朝のゼロ体操の時間だよぉ~っ!!』ヒキツリ
カレン「はい?……ゼロ体操って、何??」キョトン
千葉『じゃあみんな、お姉さんとお兄さんの動きに合わせて、いっしょにやってみよぉ~っ!!』
朝比奈『準備はいいかな? それじゃ、いっくぞぉ~っ!!』
チャーンチャラチャッチャッチャチャ チャーンチャラチャッチャッチャチャ チャラチャチャチャラチャチャタララララン♪
朝比奈『腕を大きく広げて、背伸びの運動ぉ~っ!』
千葉『さん、はい♪』
ターン ターン チャーンチャン ターン ターン ターン…♪
カレン「」
千葉『はい、これでゼロ体操第一はおしまいっ!』
朝比奈『第二もあるんだけど、それはまた次の機会にねっ!』
千葉『みんな、この体操で毎朝トレーニングしながらかっこよさを磨いてね♪』
朝比奈『続ければきっと君も、とうd……ゼロのようになれるはずさ!』
千葉『それじゃあ今日はここまで!』
千葉・朝比奈『それじゃあ、またね~!』
ナレーション『この番組は、合衆国日本国営放送がお送りしました―――』
ポチッ
カレン「……何これ」
ゼロ「ご苦労だった、二人とも」
藤堂「よく頑張ってくれたな、ほれタオル」
朝比奈「い、いえ……藤堂さんのためなら、これくらい何でもないです!」
千葉「ちょっと恥ずかしかったけど、まぁ……一応、アリかな~と……」アセフキフキ
カレン「あ、あの~、ゼロ……?」テッテッテッ
ゼロ「カレンか。派手に寝癖が立ってるが……何だ?」
カレン「ふぇっ? あーいや寝癖はともかく! あの、さっきのアレ……何ですか?」
ゼロ「見ての通り。朝のゼロ体操第一だ」
カレン「いやゼロ体操って何!?」
カレン「あー……はい、お願いします」
藤堂「先日の会議でのオーダーは覚えているな?」
カレン「えっと、年齢や性別関係なしで、体で直接覚える形でなお且つ恥ずかしくない、でしたっけ?」
ゼロ「その通り。ちゃんと覚えていたか、やはり優秀だなカレン」
カレン「え、えへへ……じゃなく、何でそれが体操に?」
藤堂「体で覚えるならば不自然ではなく自然な形で入る事が必要だ。よくよく見ると派手なポーズが自然な形で織り込まれている、私はそれでラジオ体操を思い出した」
ゼロ「そうだ。カレン、君も日本人ならば小学生時代に経験したはずだろう」
カレン「そりゃありますけど」
藤堂「ラジオ体操の様なものなら毎日繰り返す事によって自然と動作を覚える。これにゼロのポージングを上手く織り込むと、知らず知らずのうちに体が覚える事になる」
藤堂「年齢層も性別も関係ない。そして気軽に出来る。それにどうだ、みんなやる事だし恥ずかしくもないだろう?」
ディートハルト「なるほど、この機転こそが奇跡の藤堂と呼ばれる所以……!!」
藤堂「ふ、よしてくれ。大した事はしていない」
藤堂「ああ。加えて体操という以上、健康増進効果も考慮してプログラムを組んでいる。平均寿命が延びて日本の行く末も安泰だ」
ディートハルト「ゼロと藤堂鏡志朗、奇跡の体現者が二人手を組めばこれほどの事が……!」
ゼロ「藤堂、お前という漢がいて本当によかった!」
藤堂「お前に二度も拾われた命だ、出来る限りを尽くすのは当然だ」
ゼロ「藤堂……!!」
藤堂「ゼロ……!!」
ガシィッ!!(握手)
カレン(どうしよう……ものすごくツッこみたいんだけどツッこめる空気じゃない!)
千葉「早寝早起きすればいいだけだ、私は問題ない」
朝比奈「藤堂さんのご命令とあれば、不眠不休でも!!」
藤堂「いかんぞ昇悟、少しでも睡眠はとっておけ」
カレン「ってこれ生放送だったの!?」
ゼロ「よし! 放送スケジュールも固まった、あとはやるだけだ!」
ディートハルト「相変わらず素晴らしきカオスです、今後もバッチリ撮らせて頂きますよゼロ!!」
ゼロ「この流れなら国民総ゼロ化も遠くないな!! フフフハハハハハハハハ……!!」
ゼロ「ディートハルトよ。国民の様子はどうだ?」
ディートハルト「国民の半数近くは毎朝のゼロ体操を実行しているようです。老年層からは、この体操で節々の痛みが消えたのもゼロの奇跡とあがめているとか」
ゼロ「待て、半数近く? 全員ではないのか」
神楽耶「それについては私が説明しますわ」
神楽耶「……かつてのラジオ体操同様、中高年層、及び幼年層は欠かさず行っているようです」
ゼロ「すると……残りの半数とは!?」ガタッ
神楽耶「お察しの通り、問題は若年層ですわ」
ディートハルト「街頭でアンケートをとった結果、『朝に体操なんてかったるくてやってられない』という意見が多いですね」
神楽耶「加えてポージングに抵抗感を持ってらっしゃる方も多い用で……あ、私は毎朝やってますわよ?」
ゼロ「若年層……学生連中か! おのれぇぇぇぇっ!!」
神楽耶「奇跡に近付く努力、お嫌いなのでしょうか……」シュン
朝比奈「どうすんの? もうちょっと引き込む要素増やす?」
ディートハルト「ふむ。美形成分を足すなら、特務隊の杉山さんに手伝ってもらいましょうか?」
朝比奈「ほら、千葉ももうちょいこう、色気ある格好でやってみるとかさ?」
千葉「絶対嫌だ! このタンクトップ姿だって結構いっぱいいっぱいなんだ!」プンスカ
神楽耶「私もお姉さん役やりましょうか?」
ゼロ「神楽耶様にそこまで無理をさせるわけには参りません……しかし、若年層を取り込むにはどうする……」ブツブツ
朝比奈「それもありかもね」
千葉「だが相当激しい運動になるぞ、大丈夫か?」
ディートハルト「少なくとも千葉さんの踊る姿は男子の目を釘付けにするかと」
ゼロ「下劣な話はやめておけ。……だがそれでは一部の層を蔑ろにする事になる……何か策は……」
朝比奈「ゼロって軍略や政略は得意なのに、こういう事は弱いんだねぇ」
ゼロ「黙っていろ! えぇい、何かないか……」ブツブツ
藤堂「フ……」
ゼロ「む、どうした藤堂?」
藤堂「案ずるなゼロよ。この体操を生み出すときも、『まずは』と言ったろう?」
千葉「藤堂さん、まさか!?」
藤堂「この程度は想定済みよ。今回の策は二段構えだ!」ニィッ!
藤堂「落ち着け。今度の策は、ここに集うメンバー以外にも援けを求めねばならん」
ディートハルト「さらに増員を? 一体何を……」
藤堂「ちゃんと説明する。ただ言うなれば、今度は体操とはベクトルが異なる」
千葉「え? っていうことは……」
朝比奈「僕らのゼロ体操はもう、御役御免ですか……?」
藤堂「安心しろ、ゼロ体操は続けてもらう。既存市場を手放すわけにはいかん……神楽耶様」
神楽耶「はい?」
藤堂「神楽耶様にもご協力願いたいのですが、よろしいですかな?」キリッ
神楽耶「私の出番ですか? 喜んでご協力致しますわ♪」ニパッ!
ゼロ「藤堂……一体何をたくらんでいる……?」
藤堂「フフ……実はな」ゴニョゴニョゴニョ
ゼロ「! フ、フフフハハハハ!! それならいける、いけるぞぉっ!!」
ゼロ「諸君! 集まってもらったのは他でもない、先日結実した国民総ゼロ化計画、それがさらなく飛躍の時を向かえた!」シュバッ!
カレン「飛躍って、また何かやるんだ……」
C.C.「また下らない事なら御免だぞ、ゼロ」
ゼロ「話は最後まで聞け。……ところで、ちゃんと毎朝ゼロ体操はしてるだろうな?」
玉城「ったりめぇよ親友! おかげで毎日すこぶる快調だぜぇ!」
南「神楽耶様がやってるっていうから、俺も毎日やってるよ」
扇「やってると慣れてくるもんだな、最近俺カッコいいかもって思えてきたよ」
ゼロ「結構。では女子勢はどうかな?」
カレン「ま、まぁ……やってます、一応……///」
C.C.「真面目だなお前。私はやらん、ピザ10枚積まれても御免だ」プイッ
ゼロ「C.C.貴様ぁぁぁぁぁっ!!」プンスカ
ゼロ「藤堂……そうだな、あの計画なら間違いなくいけるはずだ」フーッ、フーッ
C.C.「ずいぶん自信ありげだな。まぁ聞いてやるから話してみろ」
ゼロ「いいだろう……後悔するなよ?」ユラリ
カレン「(ちょっとC.C.!! 挑発して大丈夫なわけ!?)」ヒソヒソ
C.C.「(あの阿呆共の考えなどたかが知れてるさ。大方エアロビとか女子増強、露出アップとかその辺だろう?)」ヒソヒソ
神楽耶「ふふふ~、きっとC.C.さんやカレンさんにもお楽しみいただけると思いますわ♪」
藤堂「さぁゼロよ、我らのプレゼンの時間だ!!」ニヤリ
ゼロ「よぉし……ではとくと聞くがいい!!」バサァッ!
カレン「あ、はい……年齢や性別関係なしで、体で直接覚える形でなお且つ恥ずかしくない、でしたよね?」
藤堂「見事な回答だ、紅月」
ゼロ「その答えの一つが体操だったわけだが、残念ながら朝の体操では若年層の心を掴むに至らなかった」
南「じゃあ今度は若年層も取り込むってわけか!?」
ゼロ「その通り……若年層をメインターゲットとしつつ、その実全ての年齢層に訴えかけるもう一つの策!!」ゴゴゴゴゴ
C.C.「本当にあるのか、そんなもの」
藤堂「愚問だな、日本人なら惹かれる事請け合いの策だ!!」ニィッ!
扇「そ、その策とは!?」
ゼロ「心して聞けッ!! 新たに全年齢に訴求する策、それはッ!!」ブワサッ!
ゼロ・藤堂「「アイドルだっ!!!!」」
一同「「「「……はい!?」」」」
ゼロ「日本人は皆すべからくアイドル―――偶像というものが大好きだ。藤堂の言によりこれはハッキリしている」
藤堂「そう、アイドルというものは人の心を熱狂させる。私もかつてどれほどのアイドルを追っかけたかわからんほどだ」
ゼロ「そして昨今のアイドルはただ歌うだけではない、歌って踊れるのが主流だ」
藤堂「そのダンスの中にゼロのポージングを織り込めば、さぁどうなると思う!」
南「そうか……そのアイドルが魅力的であればあるほど注目し、自然と目は向かう!」ガタッ
扇「見ているうちに振りを覚え、いつしか自分でもやりたいと思うほどになる!」ガタッ
玉城「んで覚えた振りは実はゼロのポーズってわけか! さすがだぜゼロぉ!」ガタッ
ゼロ「そう、近年ではカラオケで振り付きで歌う輩も数多い。中には女性アイドルの曲を振り付きで歌う男性もいるほどだ」
藤堂「つまりだ。我々から皆の目を引くアイドルをプロデュースし、ゼロのポーズを織り込んだダンスを踊りながら歌えば!!」
男達「「「国民総ゼロ化も間違いなし!!」」」
ディートハルト「どころか、PVを国内外に流す事によって世界規模で巻き込む事ができるかもしれませんよ?」
ゼロ「フハハハハハ、夢が広がるではないか!!」
こんなとこで何やってんですかギルフォードさん!
まだ仕事が残ってんですよ!戻ってください
ゼロ「そんな事はわかっている。すでに候補にも目星はつけている」
藤堂「ほう、そこまでは聞いてなかったが」
神楽耶「まずはゼロ様にその候補を発表していただきましょう?」
ゼロ「ああ、では発表する……カレン!!」ビシィッ!
カレン「え!?」
ゼロ「このゼロが命じる! 我ら黒の騎士団プロデュースのアイドルとなりたまえ!」ババッ!
カレン「ちょ、ちょっと! なんであたしなんですか! 千葉さんたちだっているのに……」
ゼロ「カレン。君に自覚があるかどうかは別にして、君の容姿は間違いなく黒の騎士団……いや、合衆国日本中でもトップクラスだ」
ゼロ「整った顔立ち、魅惑的なプロポーション、アイドルとして全く申し分ないと思うがな」
カレン「え? そ、そんな……って、そうじゃなくって! あたしはゼロの親衛隊隊長だし―――」
ゼロ「加えて! 私を助け出してくれた時などに見せた高い身体能力! 激しいダンスでも問題なかろう」
ゼロ「心配いらない、私が―――私達が全力で君をスターにしてみせる!! そうだろう、藤堂!!」バッ!
藤堂「フ……ゼロよ、目の着けどころがいいな」ニィッ
ゼロ「フッ、カレンのことはちゃんと見ているからな」
藤堂「だがまだ甘い!!」
ゼロ「!?」
藤堂「紅月を選ぶのは必然といえる。彼女ほどうってつけな人材もいないだろう」
カレン「ホントに、あたし決定なわけ……?」
藤堂「だが今日び、ピンのアイドルのダンスだけで世を席捲できると思うのか?」
ゼロ「まさか藤堂、お前の考えているのは!!」
藤堂「フ!! さすがに察したか……そう、ユニットだ!!」
藤堂「一人より二人、二人より三人!! そしてどうせなら違うタイプの女子で編成する事で更なる効果促進が見込める!!」
ゼロ「お……おおぉ……!! これが、これこそが!! 奇跡の藤堂!!」
藤堂「よせ。わずかばかり長く生きてるだけだ、なんでもない」フッ
ラクシャータ「あたしパ~ス。ダンスするよりこーやってソファにお気楽してる方が性に合ってるしぃ」
藤堂「案ずるなラクシャータ。お前はアイドルよりセクシー女優という方がイメージに合っている」
ラクシャータ「ほめられてんのかしらぁ? でも夜はこーんな寝たきりじゃないわよぉ♪」ペロォリ
ゼロ「藤堂、頼れるお姉さんポジションで千葉はどうだ?」
藤堂「千葉にはゼロ体操のお姉さん役がある。それに新人アイドルとしては年齢的に問題ありだ、浮いてしまう」
ゼロ「そうか……むぅ」
神楽耶「あらー! でしたら私とカレンさんとC.C.さんでいいんじゃないかしら?」
ゼロ「何っ!?」
神楽耶「ほら、ゼロ様を支える三人官女ですし♪」
藤堂「ほう? いつの間にか既にユニットが出来ていたのか」ニィ
C.C.「……ほう?」
C.C.「私は別に構わんぞ? これでも歌は自信アリでな」クスッ
藤堂「編成としてもバッチリだ。ハーフで活発な正統派美人の紅月、純日本人でちょっとわがままなロリ系の神楽耶様、国籍不明で意地悪エロスなお姉さんのC.C.!! 人数は押さえ目でもこれは売れる!!」
神楽耶「でしょー?」
カレン「……やっぱりもう、後戻り効かない感じ?」
ゼロ「確かに売れるかもしれんが……えぇいC.C.! ちょっとこっち来い!」ズカズカ
C.C.「強引だなぁ、キスの一つもしてくれるのかな? ふふっ」
カレン(まーた二人だけで話しこむー……)ジトーッ
C.C.「(私だって女の子だ。アイドルというものに対する憧れくらいなくもないぞ?)」ヒソヒソ
ゼロ「(女の子って歳でもないくせに……って違う!)」ヒソヒソ
ゼロ「(さっき言ったろうが、PVは世界規模で流す予定なんだ! 皇帝や嚮団にバレるだろうがぁっ!)」ヒソヒソ
C.C.「(目はカラーコンタクトで誤魔化せばいい。髪は染めるなりヅラ被るなり、最悪ヘアスタイル変えるだけでも充分だ)」ヒソヒソ
ゼロ「(名前はどうする! アイドルの名前じゃないだろ、さっき言ったようにバレるし!)」ヒソヒソ
C.C.「(そんなもん偽名で充分通る。そうだなぁ、クリスティナ・シエラなんてどうだ? ふふっ)」ヒソヒソ
ゼロ「(くぅっ……仕方ない、珍しくやる気のようだし承諾してやる! ただし絶対バレるなよ!)」ヒソヒソ
C.C.「(安心しろ、私を誰だと思ってる? C.C.だぞ)」ヒソヒソ
ゼロ「(……もういい、向こうに戻るぞ。参加の方向で話を進める)」ヒソヒソ
C.C.「アイドルの時はクリスティナ・シエラと名乗らせてもらう。うっかりC.C.と呼んでくれるなよ」
神楽耶「確かにイニシャルはC.C.になりますわね……これが本名ですの?」
C.C.「さぁな? 秘密だよ、お嬢ちゃん」クスッ
カレン「C.C.が入るんじゃ負けるわけにいかないわね……いいわ、やってやるわよ!」
藤堂「私の構想では紅月と神楽耶様の2トップでいくつもりだったが、これは予想以上だな……フフフ、私の胸も熱くなってきたぞ」
ゼロ「藤堂、人数を補うべくバックダンサーを付けるのはどうだ?」
藤堂「ほう?……なるほど、奴らか」
ゼロ「察しが早くて助かる。そうだ、オペレーター3人娘をバックに付ける!」
藤堂「ふむ、バックで経験を積みいずれは世代交代というのもありかもしれんな」
ゼロ「そうだ、そしてメイン3人も追い越されまいとする結果競争心が生まれる! その行く先は更なる未来を生む!」
藤堂「そしてゆくゆくはソロデビューも考え得る……ゼロよ、完璧だな」
ゼロ「ああ! 藤堂、お前がいてくれた事に心から感謝する!!」
ガシィッ!!(握手)
ゼロ「どうした、カレン?」
カレン「ユニット名、どうするんですか?」
藤堂「そのまま三人官女でいいとも思うがな」
ゼロ「それに加えてバックのオペレーター3人か……むぅ」
ラクシャータ「せっかくだし公募したほうがいいんじゃなぁい?」
神楽耶「何かいいアイデアが出るかもしれませんしね♪」
C.C.「まぁ、たまにはそういうのもいいだろうさ」
ゼロ「よし! では>>140まででユニット名を公募する!」
ゼロ「そこまでにカッコいいものがあれば採用だ、なければそのまま三人官女! さぁ諸君、悩むがいい!!」
藤堂「何々……まずはオノイゼル、か。これはなんとなく避けた方がよさそうだな」
神楽耶「こっちはゼロ様ラブ♥LOVE親衛隊ですね……そのまんまですが、私はいいと思いますわ」
C.C.「冗談よしてくれ。次……000(オーズ)か。特撮みたいだな」
カレン「これは……ゼロの使い魔って、こんなタイトルなかったっけ?」
ラクシャータ「グラストンナイツだってぇ……さすがにマズイでしょぉ、これぇ」
ゼロ「最後の一つは……っ!? き、却下だ! こんなものぉっ!!」
C.C.(さすがに童貞坊やにはこたえたらしいな)
神楽耶「どうします?」
ゼロ「……当初の予定通り、三人官女が一番よさそうだな。投稿者達には申し訳ないが、これで決定だ」
藤堂「ならば三人官女withラブリー☆オペレーターズとかどうだ?」
カレン「藤堂さん、それだとバックの方が豪華になってます……」
ゼロ「三人官女のみで充分だろう。バックダンサーとはメインの引き立て役に過ぎない」
C.C.「なかなか酷い言い草じゃないか」
ゼロ「違うな、間違っているぞ。自分もその輪に加わりたいという想いが競争心を呼び覚まし、また新たなステップを踏めるのだ」
藤堂「ゼロ……わかっているじゃないか」
ゼロ「よし! ならばあとは曲とダンスの練習だ!」
藤堂「私は振り付け指導と衣装のデザインを行う。そのデザインを元に千葉が衣装を作ってくれるだろう」
ラクシャータ「舞台装置とかはまかせてくれちゃっていいわよぉ☆」
ゼロ「フフフハハハハ……いいぞ、順調だ! では、三人官女、始動っ!!」ブワサッ!
―――蓬莱島・特設会場―――
ゼロ「さすがだなディートハルト。この会場を埋め尽くすだけの観客を集めるとは」
ディートハルト「いえいえ、これもゼロのカリスマのなせる業です」
藤堂「彼女ら自身の努力もあるさ……お前達! 準備はいいかっ!」
3人「「「はいっ!!」」」
ラクシャータ「演出はさっきアンチョコ渡した通りだから、タイミングずれないよう気ぃつけてねぇ~」
藤堂「ゼロ、何か言ってやる事はあるか?」
ゼロ「そうだな……これまで長い間、この記念すべきデビューの日のためによく地獄の特訓に耐えてくれた」
ゼロ「歌もダンスも、これほどまでに短時間で完璧に仕上がるとは思っていなかった。君達の努力の賜物だ」
ゼロ「これ以上私から言う事も特にないだろう。君達の努力の結果を国民に見せ付けてやれ!!」
藤堂「よし、行って来い!」
ゼロ「!……そうだ、カレン」クルリ
カレン「え? あ、はい!」
ゼロ「立ち位置上では君がセンターだ。気張り過ぎる事はないが、二人を引っ張るつもりで存分に力を振るえ!」
カレン「……わかってます、リーダー張らせてもらいます!」
ゼロ「その意気だ……それと」
ゼロ「(その衣装、よく似合っている)」ボソッ
カレン「! ばっ……」
C.C.「おやおや、これはしくじれないなぁ?」
神楽耶「なんにせよ、折角だし楽しんでいきましょう?」
ゼロ「では改めて、行くぞぉっ!!」バサッ!
ゼロ「予告していた通り、これより! 我が黒の騎士団プロデュースによるアイドルユニット、三人官女のデビューコンサートを開催する!」
ゼロ「ではメインメンバーを紹介しよう! まずはセンターを勤める、黒の騎士団の切り込み隊長!」
ゼロ「見目麗しき姿だが、戦場では紅蓮を駆って血路を開く! 歌って踊れて戦うアイドル、紅の戦乙女・紅月カレン!!」バッ!
カレン「みんな今日はよろしくーーーっ!!」
ゼロ「続いてぇ! 我ら合衆国日本の代表でありながら、その歌声で心を照らす!」
ゼロ「体は小さくても器は大きい、ちょっとやんちゃな幼き女神、皇神楽耶ぁ!!」
神楽耶「楽しんでって下さいね~~♪」
ゼロ「そしてぇ! 私の傍らにコイツあり! 一体お前はどこから来たんだ!?」
ゼロ「風の吹くままピザ香るまま、今日は何をやらかすか!? 謎に満ちたミス・ピッツァ、クリスティナ・シエラァーッ!!」
C.C.「ピザの差し入れならいつでも歓迎だぞ?」
ゼロ「彼女ら3人が集まって、チーム三人官女だ!! ―――では聴いて頂こう!!」
ゼロ「彼女らのデビュー曲……colors!!」
――ワァーーーーーーーーーーーーーーッッッ!!――
ミレイ「ねぇルルーシュ~、これ知ってる?」ホレッ
ルルーシュ「学校で何を見て……って、ああ。黒の騎士団の」
ミレイ「カレンったらいつの間にかアイドルなんてやってたみたいね~、頑張ってるようで安心したわ♪」
リヴァル「だめっすよ会長~、こいつこーいうの興味ない奴だから」
ルルーシュ「俺だって知った顔だしちゃんと見たよ。まぁ、元気そうで何よりだ」
ミレイ「ってかすっごいダンスよね~……そのくせこんなミニなのにちゃんと中は見えないギリギリ保ってるし」
リヴァル「結構可愛い衣装だよな~、どう思いますかね、センセーは?」
ルルーシュ「……馬子にも衣装だな」
シャーリー「も~、ルルったらすぐそういう事言う! ほんっとカレンには冷たいよねー」
ミレイ「あれ~、シャーリー知らない? ルルーシュがこういう事いうのはねぇ、ホントは褒めてるって事よ♪」
シャーリー「え!? や、やっぱりルルとカレンって……」
ルルーシュ「会長もそういう冗談はやめて下さいよ、全く」
リヴァル「ん~、俺としてはこのクリスって姐さん、いいな~……」
リヴァル「え゛!? い、いやそういうんじゃないっすよ会長ぉ~」
シャーリー「会長! このカレン達みたいな衣装って用意できますか!?」
ミレイ「え? あー、まぁ似たようなのはあるかもだけど」
シャーリー「ないなら私が作るから、私達もやりましょ、このダンス!」
ルルーシュ「……ほぅ?」
ミレイ「ちょ、シャーリーってばちょっとタンマ! どったのよいきなり……って、はっはぁ~♪」
ガラッ
ヴィレッタ「おいお前ら、騒がしいぞ! 生徒会としての自覚が欠けてるんじゃ……」
ミレイ「(ピコーン)うん、いいわね~! じゃヴィレッタ先生も一緒にやりましょっか♪」
シャーリー「ヴィレッタ先生! 私達と一緒にアイドルやりましょう! 歌って踊れるアイドル!!」
ヴィレッタ「はぁ!?」
ヴィレッタ「おい待て! 一体何が―――」
シャーリー「大丈夫です、悪いようにはしませんから!!」ガシッ
ヴィレッタ「え!? おいこら、何をするシャーリー!!」ジタバタ
プシューッ(LOCK)
リヴァル「ホントに、追い出されちまった……」
ルルーシュ「いつもながら強引だな、ホント……」
スザク「あれ? どうしたんだい二人とも」
ルルーシュ「スザク。いや実は―――」
ルルーシュ「ああ。カレン達のPV見て火がついたらしい」
リヴァル「クラスの奴らも食いいる様に見てたしな! もう国とか組織関係なく、アイドルとして認知されてる感じだぜ?」
ルルーシュ「そうだな。平和になったら、色眼鏡なしで受け入れてもらえるかもな」
スザク「ルルーシュ、君は―――」
ルルーシュ「……さっきから変だぞ、どうしたんだよスザク?」
スザク「……いや、なんでもない」
リヴァル「っつーかスザクはこのPV知らねーわけ?」
スザク「一応僕も見た。ナナリー総督が興味を持たれたからね」
ルルーシュ(ナナリーが!?)
スザク「総督の目が見えなくてよかったと思う。あんな派手で卑猥なダンス、教育上よろしくない! 即刻配信停止すべきだ!」
リヴァル「お前相変わらずかったいねぇ……」
ルルーシュ(スザク……やはり今のお前は俺の敵だぁっ!!)
ヴィレッタ「センターはやはり私だな。引率者がリーダーだろ、当然だよな?」
シャーリー「嫌です! センターは私がやるのぉ!」
ミレイ「さーてシャーリー、理由をどうぞぉ?」
シャーリー「私もカレンみたいに、ルルに『馬子にも衣装』って言われたい~!」
ヴィレッタ「シャーリーお前、その言葉意味わかっていってるのか!?」
ミレイ「やっぱりねー……まぁ私はクリスティナってお姉さんのポジかな~やっぱり」
シャーリー「じゃあヴィレッタ先生があの神楽耶って子のポジション! 決定!」
ヴィレッタ「ちょっと待て! なんで一番年上の私が幼女ポジなんだぁ! ちゃんと考えろお前らぁ!」
シャーリー「ダメです、もう決定! 私はルルに『馬子にも衣装』って言ってもらうのぉ!!」
―――以降、下校時間までドタバタ繰り返し―――
ロロ「あれ? 兄さん、生徒会は?」
ルルーシュ「今日はなしになったんだよ。さ、帰るぞ」
リヴァル「なぁルルーシュ、久々に賭けチェスいかねぇ?」
ルルーシュ「悪いが予定もあるんだ。それに、そこでコワ~イ軍人さんが目光らせてるぞ?」
スザク「リヴァル、やはり高校生が賭け事はよくない!」
リヴァル「うげ……た、退散~! また明日な、ルルーシュ~!」スタコラ
ルルーシュ「まったく……」
スザク「ルルーシュ。いくらアイドルデビューしても、今のカレンは犯罪者だ」
ルルーシュ「……そう、だな」
スザク「戦いもそうだし、あんなダンスの被害者を増やさないためにも、僕は彼女達を潰すよ」
ルルーシュ「お前、何言って―――」
スザク「そうさ、ラウンズ全員でアイドルデビューすれば、三人官女なんて敵じゃない!!」
ルルーシュ「……は?」
ルルーシュ「スザク、さすがにどうかしてると思うぞ。仕事しろと一喝されて終わりだろう」
スザク「だけど―――」
ルルーシュ「カレンにはカレンの、お前にはお前が進むべき道がある。それでいいじゃないか」
ルルーシュ「話はここまでだ。じゃ、また明日な」スタスタ
スザク(ルルーシュ……!)
ロロ「ねえ兄さん、僕もあのアイドルみたいなダンスすればいいの?」
ルルーシュ「いや、お前にはそういうのは求めてないよ」
ロロ「じゃあどんなことすれば兄さんは嬉しい?」
ルルーシュ「そうだな……適当な格好でひたすら匍匐前進でもしてればいいよ」
ロロ「」
ルルーシュ「冗談だよ、冗談」
プシューッ
カポッ
ルルーシュ「帰ったぞ」
C.C.「お帰り、坊や」
カレン「あんたがいない間こっちは大変だったわよぉ……」
ルルーシュ「藤堂から報告は聞いている。新曲も追加してのアンコールツアーやってたらしいな?」
カレン「そうそう、凄かったわよみんな、振りまで全部一緒にやってくれて」
C.C.「あの馬鹿な体操の成果もちゃ~んと出ていたらしいな。よかった、のか?」
ルルーシュ「全ては計算通り、予定に沿って進んだだけの事だ」ムフー
C.C.「予想通りの反応だな」
カレン「ったく、可愛くないわね~」
カレン「っ……し、知り合いに見られたと思うとすっごく恥ずかしいんだけど……」
C.C.「その知り合い達にもあの恥ずかしいポーズが伝承されていくわけか。やれやれ、とんだ罪人だよ私達は」
ルルーシュ「みんながやってるなら恥ずかしくもないさ。少なくともカレン、そうやってソファの上でミニスカートで胡坐かくよりはマシだ。……見えてるぞ」
カレン「ふぁっ!? み、見ないでよ変態!!」バッ!
C.C.「おやおや、衣装褒められたのが嬉しくてサービスしたんじゃないのか?」
カレン「ち、違うってば! もう!」
カレン「ルルーシュ……まさか、そのためにあたしをアイドルに……」
ルルーシュ「さぁな……まぁ、こんな戦いだっていいだろう?」
ルルーシュ「何にせよ、国民総ゼロ化計画はアイドル効果により見事第2段階を達成した! 次は第3段階、世界制覇を目指す!!」ビシィッ!
カレン「ってちょっと、趣旨変わって来てない!?」
C.C.「日本解放とブリタニア打倒はどこへいったんだろうなぁ?」
ルルーシュ「違うな! 間違っているぞ。全世界ゼロ化が成されれば、ブリタニアの完全包囲も可能だ。そうすれば日本解放も容易い事!」
ルルーシュ「全ては繋がっている。そしてこの戦いは血を流さない新たな戦いだ! アイドルと体操、そしてポージングが世界を変える!」
C.C.・カレン「」
ルルーシュ「そのために新たな戦略を練るとしよう! 加えて君達は歌と踊りを、俺はポージングをより高みへ昇華させる!」
ルルーシュ「さぁ二人とも姿見に正対しろ! 共に決意のポージングだ! ぃよぉっ!!」シュバァッ!
C.C.「いいかげんに―――」
カレン「しなさいっ!!」
ゴツンッ!!!!
おしまい。
いい奇跡だった
Entry ⇒ 2012.10.12 | Category ⇒ コードギアスSS | Comments (0) | Trackbacks (0)
モバP「李衣菜は可愛い」多田李衣菜「私はロックなんです!」
多田李衣菜(17) にわかわいい
ちひろ「プロデューサーさん。先週撮影した雑誌、サンプルが届きましたよ」
P「お、ホントですか。どれどれ……」パラパラ
ちひろ「確か、李衣菜ちゃんのグラビアでしたよね? それも可愛い系の」
P「ええ。あいつ、ひらひらはロックじゃないーとか文句垂れてましたが……あったあった」
ちひろ「あら。ふふ、可愛らしいですね」
P「でしょう? 李衣菜にも言ったんですけどねー」
ちひろ「『ロックがいいんですー!』ですか? ふふっ」
P「はは、仰る通りです。でも、最初は渋々だったんですけど、終わってみれば『可愛いのも意外と……』なんて言ってましたし」
P「これからも可愛い路線で攻めていきます!」
ちひろ「プロデューサーさんったら、李衣菜ちゃんに嫌われちゃっても知りませんよ?」クスクス
P「嫌われない程度に、カッコいい衣装も着せてあげますよ!」
ちひろ「あんまりやりすぎちゃダメですからね? いくらロックを目指してるって言っても、女の子なんですから」
P「分かってますよぉ」ヘラヘラ
ちひろ「本当ですか……?」
ガチャ
李衣菜「おはようございますっ! 多田李衣菜、今日もロックに頑張りまーす!」ビシッ
P「お! おはよう李衣菜!」
李衣菜「おはようございますプロデューサー! 私、ロックですから時間は守りますよっ」
P「ロックって便利だなぁ」
ちひろ「おはよう、李衣菜ちゃん」
李衣菜「ちひろさんもおはようございます!」
ちひろ「うふふ、元気ね。さ、私はお茶を淹れてきますね」スタスタ
李衣菜「へへ、あったかいのお願いしまーす♪」
P「そうだ、李衣菜見てみろ! この前撮ったグラビアだ、可愛く写ってるぞ」
李衣菜「え、ホントですか? えへ、ひらひらの……って」
李衣菜「違います違いますっ! 私はクールでカッコいい衣装がよかったんです!」
P「えー可愛いじゃーん可愛いは正義なんだぞー」ブーブー
李衣菜「私が目指してるのはロックなアイドルなんです! こんな淑やかなワンピースは似合いませんっ」
P「そうかなぁ。この笑顔なんか、とびっきり可愛いのに」
李衣菜「うう、それはカメラさんに言われたからで……そんな可愛い可愛い言わないでくださいっ」プイッ
P「照れてる李衣菜可愛い」
李衣菜「違いますー! 照れてませんよっ!」
P「ほれ、ポーズ決めっ」パンッ
李衣菜「えへっ♪」キャピ
李衣菜「はっ!? レッスンのくせで体が勝手に!」
P「李衣菜は可愛いなぁ!」
李衣菜「だーかーらー、私はロックなんですってばぁ!」
李衣菜「える!」バン
李衣菜「おー!」バン
李衣菜「しー!」バン
李衣菜「けー!」バン
李衣菜「ロックなんですっ!!」バンッ
P「机を叩くな机を……ん?」
李衣菜「もー、いつになったら分かってくれるんですか……」ブツブツ
P「まあいいか……さあ李衣菜! 今日も仕事だぞ!」
李衣菜「やっぱりプロデューサーとは音楽性の違いが……え、なんですか、プロデューサー?」
P「撮影だよ撮影! 一人で行ってもらうけど、大丈夫だよな?」
李衣菜「どうせまた可愛い系の撮影でしょ……つーん」
P「いちいち可愛いなおい……じゃなくて、今日は期待してもいいぞ李衣菜!」
李衣菜「期待していいって……まさか!?」
P「ふふふ……そのまさかだよ。李衣菜ならやってくれると信じてる」
李衣菜「プロデューサー……! わ、私、頑張ってきます!!」
P「よし、その意気だ! 場所はこの紙に書いてある。時間は……」
李衣菜「ありがとうございますプロデューサー! 行ってきますっ」ドタバタ
P「あ、待てまだ早い……」
ガチャ バタンッ
ウヒョー!!
P「行ってしまった」
ちひろ「お茶お持ちしましたよーって、あら? 李衣菜ちゃん、もうお仕事へ?」
P「はぁ、そそっかしいというかなんというか」
ちひろ「随分嬉しそうにしてましたね。李衣菜ちゃんの希望に沿うお仕事なんですか?」
P「いやぁ、ははは! あいつは可愛いですからね!」テヘペロ
ちひろ「……私知りませんよ? ホントに嫌われちゃうかも」
P「あいつを見てると、なんかいじりたくなっちゃうんですよねー」
ちひろ「プロデューサーさんの性癖を疑いたくなる発言、いただきましたー」ススス
P「ああっどうして後ずさりするんですかっ」
ちひろ「さあ、どうしてでしょーねー」
P「俺は李衣菜一筋ですからね!?」
ちひろ「それはそれでまずいかと……」ジトー
P「あれれー? どんどん肩身が狭くなってる気がするぞー?」
――――――
――――
―――
数時間後
P「……よし、一区切り付いたぞっと」ノビー
ちひろ「はい、お茶のおかわりどうぞ」コトン
P「ありがとうございます……ずずー……あぁ美味い」
ちひろ「そろそろ李衣菜ちゃん、帰って来る頃ですね」
P「そうですね。李衣菜のことですから、そつなくこなしてくれてますよ」
ちひろ「プロデューサーさんが意地悪しなければもっと良いんですけどねー」
P「意地悪じゃないですよ! 愛ですよ、愛!」
ちひろ「はいはい……」
ガチャリ
李衣菜「ただいま戻りました……」
ちひろ「あら、おかえりなさい李衣菜ちゃん……元気ないわね?」
李衣菜「いえ……なんでもないです、ちひろさん」
P「おかえりーなー! なんちゃってなーははは」
李衣菜「……」プイ タタタッ
P「あ、あれー?」
ちひろ「あーあ……これはもう、完全に嫌われてますね」
P「ばばばばばんなそかな!!」
ちひろ「当たり前ですよ……プロデューサーさん、悪ふざけの度が過ぎましたね」
ちひろ「言ったでしょう、李衣菜ちゃんも女の子だって」
P「うう……李衣菜ぁ……」
ちひろ「どうすればいいか分かりますよね?」キッ
P「い、行って来ますっ」ダッ
ちひろ「……まったくもう」
休憩室
P「り、李衣菜ー?」ヒョイッ
李衣菜「……」
P(ソファーの上で体育座りして頬を膨らませている……やっぱり可愛い)
P(って違う! こんなときまでバカか俺は!)
P「なぁ、隣……座っていいか?」
李衣菜「……ふんっ」
P「す、座るぞ……よいしょ」ポスン
李衣菜「……」
P「……」
李衣菜「……」
P(やばいこれは気まずい……普段どんな会話してたっけ)
李衣菜「……あの」
P「おっおう! なんだ李衣菜っ!」
李衣菜「……プロデューサーは、やっぱり私がロックなんて無理だって思ってますか?」
P「え……」
李衣菜「……可愛い衣装を着て笑顔でいると、私、アイドルやってるなって思うんですけど」
李衣菜「やっぱりロックじゃないなーなんて思ったりもして」
李衣菜「ダメですよね、こんな中途半端な気持ちでやってるなんて……」
李衣菜「せっかくプロデューサーがお仕事とってきてくれてるのに」ウルッ
P「李衣菜……。中途半端なんて、そんなこと……大体俺が」
李衣菜「私、このままでいいのかなって……」ウルウル
李衣菜「ぐすっ。ううん、ごめんなさい。気にしないでプロデューサー」グシグシ
P「……李衣菜っ」ギュッ
李衣菜「ひゃっ!? ぷ、ぷろでゅーさー?」
P「ごめんな李衣菜。俺が悪かった」
李衣菜「なんでプロデューサーが謝るんですか……」
P「李衣菜はそのままでいいんだよ。ひた向きな所が李衣菜の美徳なんだから」
P「俺が身勝手なばかりに、李衣菜のやりたいことを無視して……不安にさせてしまった」
李衣菜「そんな……別に、私は可愛いの好きですし。そういうのばっかりだとちょっと困りますけど」
李衣菜「プロデューサーについていけば大丈夫って思ってますからね。えへへっ」
P「そこまで信用されてるのに、ばかだよなぁ俺……。本当にすまなかった」
李衣菜「そんなに謝らないでください。プロデューサーには、感謝してもしきれないんです」
李衣菜「街をふらついてた私を拾ってくれて、キラキラのアイドルにしてくれたんですから」
李衣菜「あなたは私の自慢のプロデューサーなんです。もっと胸張ってください!」
P「……うん。ありがとう、李衣菜」
李衣菜「 へへ、なんだかむず痒いですね。こちらこそありがとうございますっ」
P「はは、そうだな。その……これからもよろしく、ってことでいいのか?」
李衣菜「はいっ、もちろんです! ……あんまり嘘つくのは嫌ですよ?」
P「ああ、分かったよ……これからは正直に可愛い仕事を持ってくるぞ!」
李衣菜「だから、もっとクールな……! うー、もういいですよっ」プクッ
P「膨れてる李衣菜も可愛いなぁ」プニッ
李衣菜「んにゅ、なにゅすうんですくぁ」ムニー
P「うはは、ほっぺた柔らかいなぁ」
李衣菜「うゅー! やみぇてくらはいー」ムニムニ
P「おお伸びる伸びるー」
李衣菜「にへぇ♪」
ちひろ「……いつまでいちゃついてるんです?」
P「うおっ!? ちひろさん!」
李衣菜「にゅ、いちゅのまにっ」ムニュー
ちひろ「プロデューサーさんが李衣菜ちゃんの隣に座った時から、ですかね?」
P「最初からじゃないですか……」
ちひろ「というか、アイドルとプロデューサーが抱き合わないでくださいね」
P「!? うおおおお李衣菜すまん!」バッ
李衣菜「いいいいえ! こちらこそっ!」ババッ
ちひろ「仲直りはしました?」
P「は、はぁ」ドキドキ
李衣菜「うぅ……」ドキドキ
ちひろ「なんて、聞くまでもありませんでしたね♪ そろそろ事務所閉めますから、ぱぱっと出ちゃってくださいねー」スタスタ
P「あ、はい……」
李衣菜「も、もうそんな時間なんですね……わ、外暗いですよプ ロデューサー」
P「暗くなるの早くなったよな……そうだ李衣菜、飯でも食ってこうか?」
李衣菜「お、もちろんプロデューサーの奢りですよねー?」
P「あぁいいぞ、今日のお詫びに。それと、未来のロックアイドルに先行投資だ」ナデ
李衣菜「! へへ、頑張ります私っ! シェケナベイベー!!」ハイターッチ
P「Yeah!!」ハイターッチ
パンッ!
――――――
――――
―――
事務所前
ちひろ「忘れ物はありませんねー?」
P・李衣菜「はーい」
ちひろ「じゃあ閉めちゃいますね。……はいガチャリンコっと」
ちひろ「それでは、私はこっちですから。お疲れ様でしたー♪」フリフリ
李衣菜「また明日ですー」フリフリ
P「お疲れ様でしたー……さて、李衣菜は何食う?」
李衣菜「んー、ガッツリと行きますよ! 私、ロックですからっ」
P「俺、李衣菜といるとロックって何か分かんなくなりそう」
李衣菜「ロックはロックです。ロックとは、心で感じるものなんですよ……」ドヤァ
P「ふーん(棒)」
李衣菜「ふーんってなんですかぁ!」
P「いやだって分かんないしぃ?」
李衣菜「分かってくださいよー! 私のプロデューサーでしょー?」ギュ
P「分かるのは李衣菜が可愛いってことかなぁ」ギュッ
李衣菜「私はロックなんですってば!」
P「あーはいはい」
李衣菜「もー!」
P・李衣菜「ギャーギャー」
ちひろ「」コソッ
ちひろ「……仲良く手なんか繋いじゃって……ふふっ」
おわり
李衣菜が可愛いからいけないんだごめんね
こんなのだりーなじゃない?だりーなはお前らのロックが決めるんだ
P「李衣菜、李衣菜」
李衣菜「はいっ、なんですかプロデューサー」ヒョコ
P「ロックのスペルってなんだっけ?」
李衣菜「え? える、おー、しー、けー。ですよ?」
P「ふむ……ほい、これ」
李衣菜「英和辞書……あ」
ロック【lock】
鍵(かぎ)をかけること。錠(じょう)を下ろすこと。また、錠。「ドアを内側から―する」
李衣菜「……」プルプル
P「あれーロックってこういう意味だったんだなー知らなかったー」プークスクス
P「鍵をかけるアイドルってなんだろーなー知りたいなー」ニヤニヤ
李衣菜「……うわああああんプロデューサーのばかああああああ!!!! 」
P「李衣菜は可愛いなぁ!!」
おしり
乙
乙
こんな顔
Entry ⇒ 2012.10.12 | Category ⇒ アイマスSS | Comments (1) | Trackbacks (0)
憧「にゃっ!」穏乃「にゃ?」憧「あっ」
憧(我ながら何よ、にゃって)
憧(恥ずかしい恥ずかしい)
憧(というか絶対シズにキモがられた……、よね)チラッ
穏乃「……」フイッ
憧(ガーン! 露骨に目ぇそらされたー!?)
憧(そんなに引かれちゃったかな……)
穏乃(やばいやばいやばい!)
穏乃(さっきのが可愛すぎてまともに憧の顔が見れない!)
穏乃(このまま黙ってても気まずいだけだ)
穏乃(なんとか会話をしないと……、落ち着け私)
穏乃「あのさ憧」
憧(シズの方から話しかけてきてくれた!?)
穏乃「さっきのにゃってやつさ、けっこう可愛いかったよ」
憧(か、かかか、可愛い!? 今シズが可愛いって……)
憧「ふみゅー」
穏乃(ふみゅー? えっ?)
憧(ぎゃー!! テンパってまた訳わかんないこと口走ってしまったー!)
穏乃(憧の顔が真っ赤になってる……)
穏乃(口にしてから恥ずかしくなったのかな)
穏乃(か、可愛い……!)
穏乃(えええっ!? 憧ってこんなに可愛かったっけ!?)
憧「シズ、あの……」
穏乃「うっ、うん」
憧「今の変な声はわざとじゃなくって、つい口がもつれたというか……」
穏乃「あ。そうなんだ……」
憧「だからお願い! 聞かにゃかったことにして!」
憧(って、わあー!? 肝心なところで噛んだー!!)
憧(よりによってシズの前でこんな恥ずかしい発現連発して……)
憧(穴があったら入りたい……)
穏乃(可愛いのはいいんだけど、いったいどうしちゃったんだろ憧?)
穏乃(さっきから落ち着きがないというか、めちゃくちゃ恥ずかしがってる様子だし……)
穏乃(よーし! ここは幼馴染みの腕の見せどころ!)
穏乃(混乱してる憧を私がリラックスさせてあげるんだ!)
穏乃(それで恥ずかしくもなんともないよって安心させてやろう)
穏乃(そうと決まればー)
憧(だ、だだ抱きつかれた!?)
穏乃「こんなことで照れるなよー。私と憧の仲だろ?」
憧(わ、私とシズの……、仲?)
穏乃「小さい頃からお互いのこと知ってんだもん。今さら恥ずかしいも何もないって」
憧(恥ずかしいも何もない……?)
憧(ああ駄目! 恥ずかしさとシズに抱き締められた緊張とで、頭が上手く回らなくなって……)
穏乃「ほら。裸の付き合いもした仲だろ?(風呂的な意味で)」
憧(あ。駄目だあたし、頭がオーバーヒートして……)
憧「……好き」
穏乃「えっ?」
憧(……あれ? 今あたし、なんて?)
憧(……)
憧(……)
憧(いやああああああ!!)
憧(なんばしよっとあたし!?)
憧(あわわわわ! とっ、とにかく弁解しなきゃ!)
穏乃(そっ、そんなに顔を赤くして言われても……)
憧「だからあたし、あたし……」
憧(……っていうか)
憧(よく考えるとわざわざ弁解する方が怪しくない!?)
憧(どうしよ、えっと、弁解の弁解……、ああでもそれだと気持ちを認めることに)
憧(だからあの、今からでも何でもないふりを、その……)
穏乃「落ち着いて憧」ポンポン
憧「ふきゅっ!」
憧(あ。シズに背中ぽんぽんされたら、また変な声が……)
憧(やだもう……。なんであたしこんなんなんだろ……)
穏乃「あ、憧……?」
憧「うっ、ひっく、ひっく……、うぁぁん……」
穏乃「……」
憧(最低だ……)
憧(ワケわかんないことわめいたあげく勝手に泣き出しちゃって……)
憧(これじゃあたし、シズの後ろをちょこまかしてた頃と何も変われてないよ……)
憧(一方的に迷惑かけて……)
穏乃「そういえばちっちゃい時は憧ってけっこう泣き虫だったよな」
憧「……うっ、ん」
穏乃「なんだか久々に憧が泣いてるの見た」
憧「ぐすっ、ずずっ……」
穏乃「今だから白状するけどさ、憧に泣きつかれるのって嫌いじゃなかったんだよ」
憧「え……?」
穏乃「だから頼ってもらえると、それだけ私に気を許してくれてるのかなー、なんて思えて」
穏乃「あはは、じいしきかじょー?」
憧「……ぐすっ」
憧「シズ……」
穏乃「うん」
憧「ぜんぜん、自意識過剰なんかじゃないよ」
憧「あとね……、さっきの言葉は、その……」
憧「好きって言ったのは、本当は……」
穏乃「うん」
憧「特別な……、ひっく」
穏乃「へ?」
憧「ひっく、ひっく、ひっく!」
穏乃「ちょ、憧!?」
憧「ど、どうしようシズ!? 緊張、ひっく、した、ら……、ひっく」
憧「しゃっくり、ひっく、止まらなく……」
穏乃「だ、大丈夫憧……?」
憧「ひっく、ひっく、ひっく……」
憧「……、あ、おさまったかも!」
穏乃「おおー!」
憧「気を取り直して……、オホン」
穏乃「……」
憧「あたしね、シズ。シズのことが……、ひっく!」
穏乃「えっ?」
憧「ひっく、ひっく! ひっく!」
憧(もうやだぁ……)
穏乃「うん」
憧「それでは、改めて!」
憧「あのねシズ。あたしあんたのことが……、はくちゅん!」
憧「ま、待ってシズ、あたし……、はくちゅん! はくちゅん!」
憧「はくちゅん!はくちゅん! はくちゅん!」
穏乃「憧ー? 大丈夫?」
憧「はくちゅん!」
憧(死にたい……、どんだけヘタレなのよあたし……)
穏乃「頑張って憧!」
憧(シズに応援してもらえた!)
憧(よーし……)
憧(「あ」「た」「し」「は」「シ」「ズ」「が」)
憧(……)ガクガクガク
憧(……あ、あれ?)
憧(……)ガクガクガク
憧(どど、どうしよう!? 緊張のあまり手が震えて字が打てない!)
穏乃(憧……)
憧(げっ。打ち間違えた、消さないと……)
憧(あ。消さなくていい文字まで消しちゃった……)
憧(どうしよどうしよ……)
穏乃「もういいよ憧」
憧「えっ?」
憧(も、もしかしてあたし、あんまり要領悪いから呆れて見限られた?)
憧「ま……、待ってシズ……」
憧「あたし頑張るから……、もう一度だけ気持ちを伝えるチャンスを……」
穏乃「あっ。違う違う! そうじゃなくって!」
憧「……?」
穏乃「今の憧の調子を見てたらはっきり言われなくてもなんとなく気持ちが伝わってきたってこと」
穏乃「私が言いたかったのはそういう意味での十分」
憧「と、いうことは……」
憧(あたしがシズをそういう好きだって、もうバレて!?)カアアアアッ
憧「か、勘違いじゃないと、思う……」
憧(……)
憧(シズに気付いてもらえることに甘えるんじゃなくて、やっぱりきちんと好きって言いたい)
憧(でも、あたしはこの気持ちを緊張して上手く言葉にすることができない……)
憧(言葉にできない、なら……)
憧(行動で示さなきゃ!)
憧(好きな気持ちを伝えられる行動といえば……、いえば……!)
憧(きっ、きき、キス……、だよね!?)
憧「しっ、しし、シズ!」
穏乃「うん!」
憧「めっ、目を閉じてください!」
穏乃「わかった。いいよ……」
憧(これであとはあたし次第)
憧(あー、緊張する)
憧(でも気合い入れなくちゃ!)
穏乃(頑張れ憧)
憧(やっぱりまつ毛長くて可愛いなあ)
憧(……いやいや見とれてる場合じゃなかった!)
憧(シズにキスをしなくちゃ、キス、を……)
憧「……」
憧「……」
憧「……ちゅっ」
穏乃「って、顔じゃなくて手にするのー!?」
憧「だだだだってだって! 恥ずかしくって!」
憧「シズのことになるとあたし、頭がこんがらがって……」
憧「本当はあたしも勇気さえあれば……」
穏乃「えいっ」チュッ
憧「って、え……、あ、え……?」
穏乃「ほら。私達って、得手不得手がバラバラじゃん」
穏乃「こうやって補いあおうよ。ねっ?」
憧(いま口、に……)
憧(口にチューされちゃった!?)
穏乃「憧ー?」
憧「……」
穏乃「おーい」
憧「……」
穏乃「もしかして、勝手に口にキスしたの嫌だった?」
穏乃「だとしたらごめ……」
憧「ふぁぁ……」ヘタヘタ
穏乃「あっ、憧!? 大丈夫!?」
憧「あはは……。なんか嬉しすぎて力抜けちゃったよ……」
穏乃「えー。無理しないでもいいよ?」
憧「大丈夫、キスした後なんだからそのぐらい平気だよ」
穏乃「そっか……。わかった!」
穏乃「……」
ふっ、ふきゅっ!
憧「にゃっ!」穏乃「にゃ?」憧「あっ」
おわり
ちょー可愛いかった
すばらでしたよ
かわいい
Entry ⇒ 2012.10.12 | Category ⇒ 咲-Saki-SS | Comments (1) | Trackbacks (0)
古畑「放課後ティータイム…?」
えー、突然ですが皆さん。自分の学生のころを思い出してみてください。
部活動に打ち込み、屋上で授業をさぼり、テスト前には慌てふためき…
そして…、恋愛に燃える。
だいたいそんな学生時代を送ってきたのではないでしょうか。
もちろん『そうではない』という人もいるでしょうが…んっふっふ。
それはともかく、学生時代には良くも悪くもたくさんの思い出が詰まっているものです。
私の学生時代はというと…んー…。
律「じゃあみんな、これが今んとこの大まかな計画ってことで。わかったか?」
澪紬憂「……」コクリ
律「…唯?」
唯「えっとー…あはは、ごめんりっちゃーん、よくわかんなかったからもう一回言ってよぉ…」
律「お、おいおい…」
憂「お姉ちゃんっ、帰ってから私が説明してあげるから…」
唯「ううう…ごめんね~憂ぃ~」
紬「あらあら」
澪「やれやれ…先が思いやられるな」
律「とにかくだ…いいか、みんな。このことは絶対梓には漏らs」
ガチャッ
梓「こんにちはーっ」
唯律澪紬憂「!!」
梓「どうしてここにいるの…?」
唯「ああああのねあずにゃん、これは…」
憂「お、お姉ちゃんがピック忘れちゃって!それで届けに来たら、お茶に誘われちゃったんだ~」
唯「そ、そうそう!いつも迷惑かけてごめんね~憂~」
梓「そうなんだ…」
梓「でもわざわざ届けに来るぐらいなら、私に預けてくれればよかったのに」
憂「あーそれは…つい預けるの忘れちゃってて…あはは」
紬「気にしないで、いつでも飲みに来てね~」
律「またな~」
澪「じゃあまた、憂ちゃん」
憂「はい!じゃあね、お姉ちゃん」
唯「ばいば~い憂~」
憂「梓ちゃんもまた明日」
梓「う、うん。また明日」
ガチャッバタン
梓「…で、先輩方」
梓「いったい何の話をされてたんですか?」
唯律澪紬「ギクッ」
梓「教えてください」
紬「あ…梓ちゃん、お茶いらない?」
梓「あ、いただきます。で、律先輩。いったい何の話をされてたんですか?」
律「あーっと、それはぁ…」
澪「えーっとだな…」
梓「……」ジトッ
唯律澪紬梓「…………」
紬「?どうしたの、唯ちゃん」
唯「…ぷくくくくっ」
澪「ゆ、唯?」
唯「あははははっ!ごめーん、わたしもう限界!」
梓「ど、どうして笑ってるんですか?」
唯「ねぇねぇりっちゃーん、もうネタばらししようよ~」
律「おっ、おい唯!?」
唯「内緒話してるふりしてただけだってさぁ~」
梓「へっ?」
紬「…もう唯ちゃん、バラすの早すぎよぉ?」
唯「えへへ、ごめんごめん」
澪「はぁ…やっぱり唯にこういうのは無理だったな」
梓「なんだ…そうだったんですか…」
梓「ま、まあそんなことだろうと思ってましたけど」
律「あれあれ~?の割にはちょっと不安そうな顔してたぞ~?」
梓「うっ…、き、気のせいです!」
唯「え~、久しぶりの部室なんだよ、あずにゃん」
律「せっかく工事が終わって部室に戻ってこれたんだしさ~、もうちょいゆっくりしようぜ~」
梓「だめですよ!部長が何言ってるんですか!」
紬「梓ちゃん…せっかくお茶淹れたのに、いらないの…?」
梓「あ…」
梓「い、いえ、そんなことは…」
紬「ケーキもあるのよ♪」カチャ…
澪「じゃあ、梓がお茶飲み終わってから、練習しようか」
唯律「さんせ~い!」
梓「うう…」
唯「じゃあみんな、また明日ね~」
梓「みなさん、お気をつけて」
律「おう!じゃあな~」
澪「また明日」
紬「学校で会いましょう~」
スタスタ…
律「今日は唯の機転のおかげで助かったな~」
紬「ほんと、唯ちゃんのアドリブには驚いたわぁ」
澪「でも何度も通用する手じゃないだろ。今度からもっと気をつけないと」
律「へいへい、わかってるって」
紬「それにしても、梓ちゃん…」
紬「私たちの前だと、全然いつも通りにしか見えないね…」
澪「そう振る舞ってるんだろ。私たちに心配かけないように…」
澪「早く、助けてやらないとな」
律「ちきしょー…許せねぇよ」
和「立花さん、秋山さん、松本さん、秋山さん、秋山さん…」
和「というわけで、3年2組の学園祭の出し物、ロミオとジュリエットのロミオ役は、秋山澪さんに決定しました」
一同「キャーキャー」
澪「あわわ…」プシュー…
律「よかったなぁ澪~」
和「田井中さん、ジュリエット役、お願いね」
律澪「い、異議あり~!」
和「でも立候補も推薦もいなかったし、何よりみんなの投票で決まったでしょう?」
律澪「あぅ…」
和「まず、衣装ですが…」
さわ子「はい!立候補します!」
和「え?で、でも、先生にそんなこと…」
さわ子「大丈夫、悪いようにはしないから…」
澪「どうする…?」
律「うーん…バンドの練習に劇の練習も入ってくるとなると…動きにくくなるな」
紬「大丈夫よ。私がもう一度計画を練り直してくるわ」
唯「え、でもムギちゃん、劇の脚本も書いてるんじゃ…」
紬「いいのよ、脚本はほとんど出来上がってるし、何より…」
唯「何より?」
紬「私、一度こういう計画立ててみるのが夢だったの~♪」
唯「……」
律「とにかく、放課後はあたしたち教室行くふりしてちょっと話し合うからさ」
律「唯は部室で梓のこと見張っといて」
唯「了解ですりっちゃん隊員!」
~軽音楽部部室~
梓「へぇ、じゃあクラスで劇やるんですね」
紬「そうなの~」
梓「それで澪先輩はあんなに…」
澪「…私…トンちゃんになりたい…」
梓「……」
梓「それにしても、律先輩がジュリエットだなんて…」
梓「…ぷっ」
梓「ははっ、すみません、あはは…ぷっ」
律「まだ笑うか~っ!」
梓「すみませ~ん!」
梓「あれ?じゃあ唯先輩は…」
唯「木!Gだよ!」
梓「A、B、C、D、E、F…木ってそんなに必要なんですか」
唯「むぅ…じっとしてないといけないなんて、なんて難しい役!」
律「はは…」
紬「じゃあ私、セリフのチェックがあるから教室行ってるね」
律「あぁ待って、ほーら澪、行くぞ~」
澪「うあぁ、やだ、やだ~!!」
ズルズル…バタン
梓「……」
梓「唯先輩は行かなくていいんですか」
唯「じっとしている練習してなさいって、和ちゃんが」
梓「はぁ…」
憂「お待たせしちゃってすみません。喫茶店の準備でなかなか抜けられなくて…」
澪「いや、気にしなくても大丈夫だよ」
紬「憂ちゃん、さっそくだけど、みんなの役割についてちょっと話し合っていたの」
紬「それでね、まだ大まかにしか決まっていないんだけど」
紬「憂ちゃんには唯ちゃんのふりをしてもらって、できるだけ人目に付くように梓ちゃんに話しかけてほしいの」
律「その間にあたしらが…やるからさ」
憂「えっと…あの、お姉ちゃんと入れ替わるぐらいなら私が…」
律「それに…」
憂「?」
律「万一の時は、唯より憂ちゃんの方が機転利きそうだしな」
憂「あ~…」
紬「とりあえず、あとのことは私が家で考えてくるね」
律「ああ、頼む」
澪「悪いな、ムギ」
文化祭1日目
7時30分頃:3年2組教室
唯(時間になった…!まずはわたしが教室から音もなく出るっ)
ソロ~…トテテテ…
澪(…!唯が出て行ったな。いよいよか…)
和「今日は劇の本番よ!気合い入れていきましょう!」
一同「おーっ!」
澪「ブツブツ…ブツブツ…」
和「あら…?」
和「どうしたの?澪」
澪「…………」
和「…澪?」
澪「あぁあああああ~!やっぱりダメだぁ~!」
一同「ざわざわ…」「どうしたんだろ秋山さん…」
和「ちょっと澪、落ち着いて!」
澪「やっぱりダメだよ和~、私にロミオなんて無理だよ~」
和「ちょっと、いまさら何言って…」
ガチャッ
律「ロミオ、あなたはなぜロミオなのぉ?」
澪「律~」ヒシッ
澪「わっちょっ…と、なっなんだよ澪!」
和「ちょうどよかったわ、律」
和「実は、澪がまたロミオはできないって言い出して…」
律「は?また?今日本番なのに?」
澪「りつぅ~りつぅ~…」
律「ったくしょうがないな…。なぁ和、どっか空いてる教室ない?」
和「今なら生徒会室が空いてると思うけど…何するつもり?」
和「でも、わざわざ移動しなくてもいいんじゃない?」
律「そうかもしれないけど…」
律「ここじゃ澪がみんなの目を気にしちゃうかもしれないからさ。人気のないとこがいいんだ」
和「そう…じゃあ任せるわ」
律「鍵空いてるかな?」
和「鍵は職員室にあるわ。一般の生徒には貸してくれないと思うから、借りに言ってくるわね」
律「悪いな和、生徒会室の前で待っとくよ」
澪「ひっ、やだ、離せ、離せ~!」
ズルズル…
一同「……」
紬「ええと…あっ、エリちゃん」
エリ「ん?どうしたのムギ?」
紬「唯ちゃん知らない?」
エリ「あーそういえばさっき出ていくの見たなぁ。なんか用事?」
エリ「へぇ…そここだわるんだね…」
紬「うん、もちろん♪」
エリ(やっぱりムギって不思議な子だなぁ…)
紬「じゃあちょっと探してくるから、見かけたら私が探してたって伝えておいてね」
エリ「うん、オッケー」
紬「ありがとう、エリちゃん」
ゴソゴソ…
憂「お茶はとりあえず掃除ロッカーの中に隠しておけばいいかな…」
憂「うぅ…ちょっと汚いけど仕方ないよね…」
憂「保冷剤も一緒に入れたし、領収書ももらっておいたし、これでよし、と」
純「あれ、おっかしいなー…」
憂「どうしたの?」
純「お茶がないんだ、梓と買いに行ったはずなのに…」
憂「忘れてたんじゃないの?」
純「うーん、そんなはずないんだけどなぁ…」
憂「私買いに行こうか?」
純「え?いやでもそんな…」
憂「だって、ないと困るでしょ?大丈夫だよ、すぐ戻ってくるね!」
純「あっ憂!…行っちゃった…」
憂「あ、モブちゃん!」
モブ「ああ、憂ちゃん」
憂「梓ちゃん見てない?」
モブ「あー見てないなー。どうしたの?」
憂「ちょっと話があったんだけど…。見かけたら声かけておいてくれないかな?」
モブ「いいよ、わかった」
憂「ありがとね、モブちゃん」
和「お待たせ」
律「おっ和」
和「これ、鍵ね。終わったら私に返して」
律「わかった、サンキュー和」
和「ええ」
律「さて…」
澪「ひっ」
律「入るぞ、澪」
澪「いっ…ゃ……はい…」
律「じゃ、またあとで」
和「頼むわね、律」
憂「えっと、制服のタイを青に変えて、髪留めをつけて、と…」
憂「じゃーん♪お姉ちゃんの完成!」
憂「あとは梓ちゃんに会って、3年生の教室に行って…」
曜子「……」スタスタ…
?『~~~~!』
?『~~~~!』
曜子「あら…?」
律『…だーから、一度約束したじゃないか!』
澪『な、なんのことかなー』
律『とぼけるなっ!この前ロミオ役頑張ってみるって約束したばっかだろ!あの時の約束は、嘘だったのかぁ!』
澪『聞こえない聞こえない聞こえない…』
曜子「秋山さんかわいそう…だけどロ澪も見たい…」
~生徒会室内~
ラジカセ『大体お前は…ギャーギャー…』
ガチャッ
律「わりぃ、待った?」
唯「あ、りっちゃん澪ちゃん、急がないと!」
澪「人通りがなかなか途切れなくてさ…ごめんな」
紬「まあまあ、まだ余裕はあるから」
律「じゃあ…みんな、準備はいいな」
唯澪紬「……」コクリ
律「今から被服室に行く」
紬「さわ子先生自身が被服室に近づかないように言っていたから、あの辺りには誰もいないはずよ」
律「ああ、そこは運が良かった」
澪「ああ」
紬「うん」
唯「了解ですりっちゃん隊長!」
律「共に作戦を成功させようではないか、唯隊員!」
澪「ふざけてる場合じゃないだろ!」
律「わあってるって、ちょっと気合い入れただけ」
唯「あ、ロープは…」
紬「唯ちゃん、私が持ってるわ」
唯「おおっ」
律「よし、じゃ…行くぞ」
カチャッ…
憂(あ、梓ちゃんだ…)
そろ~っ…
憂「あーずにゃん♪」ダキッ
梓「わっ、ゆ、唯先…輩?」
憂「ん?どうしたの?あずにゃん」
梓「い、いえ…」
憂「あ~ん、和服衣装のあずにゃんもかわいい~♪」スリスリ
梓「ちょっともう、やめてくださいよぉ…」
周りの生徒「……」ジロジロ
梓「って、そういえば憂が私のこと探してたらしいんですけど…、見てませんか?」
憂「ほぇ、憂?うーん、見てないなぁ」
梓「そうですか…ところで、唯先輩はここでなにしてるんですか?」
憂「ぶらぶら!」ピース!
梓「そんな自信たっぷりに言わないでください」
憂「あずにゃんはなにしてるの?」
梓「わたしは、ちょっと…先輩の教室に行ったり…」
憂「え?なんで?」
梓「先輩方がいなかったので、すぐ帰りましたけど」
憂「そっかぁ~。あ、忙しいのにごめんねあずにゃん」
梓「いえ、そんな。先輩も木の役頑張ってくださいね」
憂「あー、木Gだよあずにゃん!」
梓「あはは、すみません」
憂「じゃあね~!」
タタタ…
憂「ふう…うまくいった…かな?」
憂「あとはお姉ちゃんのクラスに行かなきゃ」
律「誰も見てないな…行くぞ」
ガラッ
さわ子「だれ!?」
律「失礼しまーす」
唯「お邪魔しまーすさわちゃん」
さわ子「あ、あなたたち…」
唯「わーっ、かわいい衣装♪原始人みたーい」
澪「それかわいいっていうのか…?」
律「なになに?『2年2組 衣装』…何か劇でもやるんだっけ?」
紬「あー、私外で見たよ。確か…」
さわ子「こら!…入ってきちゃダメって言ったでしょう?」
唯「えーなんで~?」
律(澪…鍵)
澪(え?ああ…)
カチャッ…
憂「やっほー」
エリ「あっ唯ー」
憂「なにエリちゃん?」
エリ「ムギがさっき唯のこと探してたけど…」
唯「あー今さっき会ったよ~、なんかねぇ、木の立ち位置のこととかいろいろ言われちゃった」
エリ「そっか、ならもういいんだね」
唯「うん、ありがとー…えっと…(ヤバい、名前がわからない…!)」
エリ「?」
三花「エリー、ちょっとこっち手伝ってー!」
エリ「あ、はーい!」
憂「……っ」ソーッ…
タタタッ…
さわ子「なんでって、唯ちゃん…劇のもライブのも、どんな衣装作ってるかは内緒なんだからね?」
唯「えーっ、ないしょって、それだけ?」
律「へー…てっきり誰か生徒を連れ込んでるから入ってくるなって言ってるのかと思ったよ」
さわ子「え…?あなたたち、なに言って…」
澪「先生、私たち知ってるんです」
紬「先生が今まで、梓ちゃんに何をしてきたのかを」
さわ子「……っ!」
さわ子「な、なにをふざけたことを…教室に戻りなさい!私は忙しいの!」
律(背を向けた…ムギ)
紬(……)コクリ
バッ
さわ子「ぐあっ!あ、あなたたち…」
律「押さえろ!」
ギリギリッ…
さわ子「かっ…はっ……」
ギリ…
さわ子「…かっ……」
さわ子「…………」
律「ムギ…もういいよ」
紬「あ…うん」
ドサッ
澪「……」
唯「やっちゃったね、ついに…」
紬「…そうね」
律「…ほら、ぼけっとしてる暇ないぞ、みんな急ご」
澪「あ…うん」
紬「そうよ。あ、りっちゃん、足持って。澪ちゃんは配管にロープを吊るして」
澪「わ、わかった…」
唯「澪ちゃん、ほい、椅子」
澪「ありがとう」
澪「よいしょ…っと、っとと…!うわぁ!」
ドテッ!
律「な~にやってんだよ、澪!」
澪「ご、ごめん…」
澪「ん、しょっと…、できたよ」
紬「じゃあ、私が死体を背負うわ」
唯「わたし、落とさないように支えるね」
律「ロープ首にかけるよ。澪は椅子が動かないように抑えといて」
澪「うん」
ギシッ…ブラン
紬「できた…わね」
唯「さわちゃんオバケみたい…」
律「オバケ…っていうかホトケになったんだけどな」
律「おう、頼むムギ」
唯「…わたしたちのステージ衣装、まだ作ってなかったみたいだね。見当たらないよ」
律「どうでもいいよ、どうせ着ないんだから」
律「じゃ、早く戻ろっか。……ん?澪?」
澪「……」
律「ボーっとすんな、行くぞ」
澪「えっ?あぁ…うん」
梓「ふう…」
憂「あ、梓ちゃん」
梓「憂…。おかえり、どこ行ってたの?」
憂「お茶がなくなってたらしいから、買いに行ってたんだ」
梓「そっか。あ、そういえばさっき、私に話があるって言ってたんでしょ?」
憂「え?」
梓「モブに聞いたんだけど…」
憂「えっと…あれ?ごめん、忘れちゃったや」
梓「ええ?」
憂「あはは…たぶん忘れてるぐらいだから大した話じゃなかったと思う」
梓「そっか…」
憂「あ、ごめん」
憂「そうだ、はいこれ。お茶と領収書」
純「おっ、ご苦労さま」
純「あれ…、憂、レシートは?」
憂「え?あ…あれ?どこだろう」
憂「ごめん…落としちゃったみたい…」
純「ええっ?も~しょうがないなぁ…」
憂「ごめんね」
純「なくしちゃったものは仕方ないよ。じゃ、憂は厨房の方お願い」
憂「わかった」
純「梓は、こっちよろしく」
梓「任せて」
律「みんな…、ちゃんとやれよ?」
澪「律こそ」
唯律澪「……」スタスタスタ…
律「よっ和」
和「あっ、律!どうだった…?」
律「へへへ…あーきやーまさーん?」
澪「……」ソロッ…
澪「…ロミオ役…やっぱりがんばるよ…」
和「…そう!」
澪「和、わがまま言ってごめんな」
澪「みんなも迷惑かけてごめん!私…精いっぱい頑張るよ!」
一同「よかった…」「秋山さん頑張って!」
和「あら…唯?」
唯「ほぇ?」
和「そういえばどこ行ってたの?さっき一度戻ってきてたようだけど…」
唯「ああごめんね和ちゃん、なんとなくさわちゃんとこ行ったんだけど追い返されちゃってさぁ、戻ろうと思ったんだけど今度はムギちゃんやあずにゃんに会っちゃってぇ」
澪(ちょっと…唯?)
唯「それでね、いったん教室に戻ってきたんだけど、今度はトイレ行きたくなっちゃったから行ってきてたんだぁ」
律(不自然に説明的すぎだろ!)
和「まったくあなたって人は…本当に自由ね」
唯「いやいやそれほどでも~」
律「いや、褒められてねぇから」
澪「お…ムギ」
紬「うんしょっと」ドサッ
和「これ…劇の衣装?」
紬「うん、さっき様子を見に行ったらさわ子先生が渡してくれたの」
一同「わーっすごーいっ」「山中先生やるぅ」「キャーキャー」
和「えっと、ムギ…先生は?」
紬「あぁ、それがね、徹夜で疲れたから仮眠をとるって。昼ごろ教室に来るって言ってたわ」
和「そう、わかった」
唯(わ~い、大成功じゃん♪)
澪(うまくいった…よな?)
今泉「……う~ん…」ウロウロ
今泉「ねぇ」
巡査1「はい」
今泉「古畑さん、来た?」
巡査1「ええ、さっきお見えになりましたよ。そこに自転車が…」
今泉「あっほんとだ、いつの間に…。あ~どこ行っちゃったんだろうなぁ」
巡査1「現場にいらっしゃらないんですか?」
今泉「来てないから探してるんだよ!」
巡査2「古畑さん、そこのコンビニで何か買い物されてましたよ」
今泉「えぇ?コンビニ?」
古畑「だぁから違うんだよこれは」
店長「どこが違うの」
古畑「いやどこって…あんなに説明したじゃないか」
店長「だってピクルス入れろって」
古畑「ピク…そっそれはいいんだよ」
今泉「あっいた!古畑さぁん!」
古畑「ちょっと待って。見てこれ見てこれ」
古畑「ピクルスこんな小っちゃいのが1枚しかないじゃないの」
古畑「ピクルスはね真ん中に1枚とそれを囲むように4枚計5枚花びらのように!どっから食べてもピクルスに当たるようにしてほしいんだよ」
古畑「これ当たらないよ、はい、作り直し」ポイッ
古畑「なに言って…あんたが作ってんじゃない」
店長「いや裏にもう一人いるんですよ」
古畑「どこにぃ」
店長「……」サササッ
古畑「いなっ……ほんとに調子いいオヤジだぁ…」
古畑「ん?」
今泉「……」ニヤニヤ
ペシッ
今泉「いたっ!いや、だって、久しぶりに古畑さんと仕事ができるんですよ?」
今泉「いやぁー、懐かしいなぁー」
古畑「きみ…アレ、なんだっけ…トーゴー…じゃない、ジリジリみたいな」
今泉「自律神経失調症ですかぁ」
古畑「そうそれ。もう治ったのアレ」
今泉「とっくに治りましたよぉ!リハビリ辛かったんだから…」ウッ…
古畑「あそぉ。それより朝飯まだたべてないのよ」
今泉「あ、僕もです。なんか買っちゃおうかなぁ」
古畑「じゃあピクルスバーガーおすすめだよ」
今泉「そうなんですかぁ?いやでも、朝にバーガーはちょっと…あ、これにしようかな」
古畑「……」
古畑「いやぁそれにしても腹減った…あ、そういえばそっちの方どうなの」
今泉「はい…?」
古畑「現場の方」
今泉「あ、それが、えっと…」
古畑「なに」
今泉「外でウロウロしてたから、中の様子は、その…」デヘッ
古畑「わからないの」
今泉「はい」
ペチッ
今泉「いたっ!ちょっ、さっきからなんなんですかぁ!」
古畑「あ…、おじさ~ん、やっぱりあんたが作ってんじゃないかぁ」
今泉「……」
古畑「急いでよみんな待ってるんだから」
店長「…150円になります」ブスッ
古畑「どうも」ニッコリ
今泉「早く行きましょうよぉ」
古畑「まぁ待ちなさい」
古畑「あれ…、そういえばどうして君だけなんだ。西園寺君は?」
今泉「やっぱりアイツですか…」
古畑「なに、いないの?」
今泉「チビ太なら、現場の方にいますよ」
古畑「あ、そーなの。じゃあ案内してくれる」
古畑「……」モグモグ
今泉「古畑さん、食べ歩きは行儀悪いですよぉ」
古畑「しかし外はえらく込み合ってたね。出店も出てたし今日何かあるの」モグモグ
今泉「この学校の学園祭だそうですよ。今日が1日目らしくて」
古畑「それはまた悪いタイミングで事件が起きたもんだね」
今泉「ほんとに、生徒がかわいそうですよぉ」
今泉「あ、そういえばさっき外で『マンモスの肉』っていう店が出てたんですよ。
いやぁ、食べたかったなぁ」
今泉「すぐそこには『ヴァンパイア喫茶』って看板が出てたし、
『峠の茶屋』っていうのもなかなか…」
古畑「本当にもう御苦労したよ…今日は普通なら休日なんだからさ」
古畑「えっと、椅子椅子…」
西園寺「椅子ならこちらに」
古畑「あぁありがとう」
西園寺「さっそく事件の説明を」
今泉「あー僕がやる僕がやる!」
西園寺「今泉さんが?大丈夫ですか?」
今泉「ねぇキミさぁ、馬鹿にしてるの?」
古畑「どっちでもいいから…早くはじめなさい」
今泉「ここの、被服室で首を吊っているところを発見されました。
えっと、第一発見者は衣装を取りに来た2年生です。かわいそうですよねぇ」
今泉「あー、あそこのロープに配管を…じゃない、配管にロープをかけて、首を…。
死因は窒息死だそうです」
古畑「続けて」
西園寺「同僚の教師の証言によると、山中さんは最近交際相手と別れたらしく、
さらに初めて担任を受け持ったクラスが3年生ということで悩んでいたそうです」
西園寺「自殺の動機は十分ですね」
今泉「ねぇ、どうして僕の役割とってるの?」
古畑「うーん…」
古畑「…自殺だねぇ間違いないねぇ…」
古畑「じゃあ今泉君、後は任せた」
今泉「ちょっ、なに言ってんですかぁ!」
古畑「金森先生の時みたいに君が指揮しなさい」
今泉「僕できませんよぉ!」
古畑「いいからほら、頑張りなさい。私はその辺でぶらぶらしてるから」
今泉「あ、ちょっと…」
今泉「…どうすればいいの」
西園寺「さぁ…」
古畑「西園寺君」
西園寺「はい」
古畑「この部屋奇抜な服や布切れがえらくたくさんあるけどさ」
古畑「メイド、原始人、ナース…、これは…?」
西園寺「バニーガールですね」
古畑「どうしてこんなものがたくさんあるの」
西園寺「山中さんの趣味だったようです」
よく作ってきた衣装を生徒に着せては楽しんでいたそうです」
西園寺「今回の学園祭で使われている衣装も、ほぼすべて山中さんの手作りだったとか」
古畑「え?ということはここにある衣装は全部一人で?へぇー」
西園寺「今日も昨夜からこもりっきりで、担任するクラスの劇衣装や
他の学級の出店衣装を仕上げていたそうです」
西園寺「軽音楽部のライブ衣装以外はすべて仕上がっていたようですね」
古畑「軽音楽部?」
西園寺「山中さんが顧問を務めていた部活です」
西園寺「山中さんの奇抜な衣装を着せられるのは主にその部活だったとか」
古畑「ふーん…どうしてそこの衣装だけ作ってなかったんだろうね」
西園寺「さぁ…今日は時間がなかったのでは」
古畑「その部活の子達、まだいるの」
西園寺「全校生徒は校内に残ってもらってます。部員はたぶん部室か教室の方にいるんじゃないでしょうか」
古畑「じゃあとりあえず部室の場所を教えて」
律(…なんか微妙な空気)
紬(本当はいろいろ相談したいんだけど…)
澪(梓がいるんだもんな)
唯(あずにゃんの前じゃ、なにも知らないふりしないといけないよね…)
澪「…なんだか実感がわかないな…」
梓「そうですね…」
律「なんか、今にも『よっす』とか言って入ってきそうだよな」
唯「あはは、そうだね」
澪「…………」
律「…………」
梓「…………」
唯「…………」
澪(…会話が、続かない…)
紬「お茶にしよう、ね?」
律「…そうだな、お茶にすっか(ナイスだ、ムギ!)」
澪「悪いな、ムギ(うう…助かった)」
紬「うん、今淹れるね」ガタッ
コポポポ…
紬「はい、どうぞ」
カチャ…
唯「ありがとう、ムギちゃん」
律「あざっす」
澪「サンキュー」
唯「…ねぇ、あずにゃん」
梓「は、はい」
唯「えっと、その…」
唯「元気、出してね」
梓「えっ?ぁ…はぁ…」
律「そうだぞ、梓」
澪「落ち込むんじゃないぞ」
紬「ファイトよ、梓ちゃん。はい、お茶」
梓「あ、どうもです…。み、みなさん、いったいどうされたんですか?」
ガチャッ…キィィ…
紬「あら?」
唯「え?」
澪「そうですけど…」
律「おじさん、誰」
唯(真っ黒い人…)
古畑「あ、申し遅れました。わたくし古畑と申します。今回の事件を担当することになった刑事でして…」
唯「け、刑事さん!?」
古畑「はい」
律(もう来ちゃったのか…予想よりずっと早い)
澪(みんな、大丈夫だよな…?)
律「おい…ムギ?」ボソッ
紬「なにりっちゃん?」
律「…今ワクワクしてんだろ」
紬「うん♪だって二時間ドラマみたいに取り調べ受けるなんて考えたら、ワクワクしない?」
律「あのなぁ…」
律(一応あたしら本物の犯罪者なんだぞ…)
律「あっ!?すみません!」
紬「どうぞどうぞ」
スッ
古畑「あぁー、すみません」
ギシッ
唯(さわちゃんの席…)
紬「あの…刑事さん?」
古畑「あ、古畑で結構です」
紬「え…と、古畑さん、お茶、いりませんか?」
古畑「はい?いえいえいえそんなお構いなく」
紬「遠慮しなくていいんですよ」
唯「ここに来たらお茶飲んでかないといけないんだよ、古畑さん」
澪「いつ決まったんだそのルール」
古畑「そうなんですか?ならいただきましょうか」
紬「今淹れますね」
古畑「お願いします」
律「あ、はい、えっと、田井中律です。一応部長やってまぁす」
唯「次わたし!平沢唯で~す!」
唯「好きなものはギー太と憂とあずにゃんと甘いものでぇ、特技は…」
澪「おい唯、余計なことまで言うなって!あ…えと、秋山澪です…」
梓「えーと…中野梓といいます。みなさんの一年後輩になります」
唯「あだ名はあずにゃんだよぉ」
梓「ゆ、唯先輩!?変なことまで言わないでくださいっ!」
紬「……」コポポポ…
律「おーい、ムギ」
紬「あ、ごめんなさい。琴吹紬です。お茶汲み係です」
律「おい」
澪「は、はい」
古畑「軽音楽とはいったいどのようなものなんですか?」
澪「ああ、それは…」
唯「軽い音楽だよ~」
古畑「は…?」
律「そうそう、カスタネットとかで演奏するんだ」
澪「しょーもない嘘つくなっ」
ゴチン!
律「なんであたしだけ…」
古畑「はっはっは…、で、実際はどうなんです」
澪「えっと、ギターやドラムを使って演奏するんです。あそこの…」
古畑「ああ、あれですか。へぇ~立派なものだ」
唯「あ~、放課後ティータイムだよ!」
古畑「放課後ティータイム…?」
澪「私たちのバンド名なんです」
古畑「ああ、なるほど」
律「で…あの、古畑さん。いったい何をしにここに?」
古畑「あ~忘れてましたぁ…」
紬「どうぞ~」カチャッ
古畑「あ、すみませんいただきます。実はですね…」ズズ…
古畑「へぇーおいしいお茶だぁ」
律「古畑さん?」
古畑「あぁすみません。実はですね、亡くなられた山中先生のことでいくつか質問が」
律「はい」
古畑「あなた方が入学する前からずっと?」
澪「いえ、私たちが無理言って顧問になってもらったんです」
紬「実は私たちが入学したとき、けいおん部は廃部寸前で…」
古畑「なるほど、顧問がいなかったわけですね。
しかし山中先生はすでに吹奏楽部の顧問もされていたのでは…」
唯「先生はけいおん部のOBだったんだよ」
古畑「あぁそれで…」
この部活のライブ衣装も毎回先生の手作りだったとか」
唯「うん、毎回作ってきてたよ~」
澪「ちょっと奇抜すぎて困ってたんですけど…」
古畑「私も見ました。あれは確かに…あー…んっふっふ…」
古畑「そういえば…えー、琴吹さんでしたか」
紬「はい」
古畑「今のところ集まっている証言を総合したところ、
どうもあなたが最後に山中さんの姿を見たということになるんですが」
紬「そうなんですか?」
古畑「先生とはどんな会話を」
紬「確か…衣装を取りに行ったら、
『徹夜で疲れたから、仮眠をとる』というようなことを言っていました」
紬「うーん…言われてみると、疲れた顔をしていたかもしれません。いつもより元気がないかな、って。
徹夜明けと言ってたのであまり気には留めなかったんですけど」
古畑「んー、そうですか」
古畑「…ひっかかるなぁ」
澪「え…?」
古畑「琴吹さん」
紬「は、はい」
古畑「山中先生は衣装を徹夜で仕上げていたとおっしゃったんですね」
紬「はい…そうです」
古畑「徹夜で」
紬「…はい」
古畑「そうですか…んー…」
古畑「いえ、たいしたことではないんですけどね」
古畑「山中先生はなぜあなた方のライブの衣装は仕上げていなかったんでしょうか」
律「へっ?」
古畑「先ほどの話によれば、山中先生は軽音楽部のOBで、
今の3年生が1年生の頃から顧問として面倒を見られていたそうですね。
その分思い入れも強かったようで…」
古畑「自殺の直前にクラスの出し物の衣装をすべて作り上げるぐらいなら、
なぜあなた方のライブの衣装まで作ってしまわなかったのでしょうか」
澪「…!」
唯「自殺する前で落ち込んでて、作る気力がなかった、とか…?」
古畑「徹夜で劇の衣装を仕上げる気力はあったのに、ですか?」
律「じゃあ…実際そこまで思い入れがなかったんじゃないんですか」
古畑「それもどうでしょう、毎回ライブの衣装を自分で作ってくるほどの入れ込みようだったというのに」
古畑「更に山中先生は今回、他の学年の出店の衣装まで担当していたそうです、ずいぶん前から取り掛かって。
こうなるとやはりあなた方の衣装だけ作っていなかったのは不自然でしょう」
律「…っ」
唯「それか…?」
古畑「今夜作ろうと思って作れなかった、か…」
唯律澪紬「!?」
梓「ま、待ってください!それじゃまさか…」
古畑「殺人…の可能性もあるということです」
紬「…そんな」
澪「はは…まさか」
古畑「んっふっふ…刑事というのは疑り深い生き物でして…、
まぁあくまで自殺以外の可能性も視野に入れて捜査しなくてはならないということです」
唯律澪紬梓「…………」
古畑「では貴重なお時間を邪魔してしまってすみません。あ、紅茶ご馳走様でした」
紬「いえ…またいらしてください」
古畑「ありがとうございます。では失礼します」
ガチャ…
古畑「あ、みなさん。お気を落とされないように…」
バタン
憂「え?」
古畑「いやぁよかった、職員室の場所がわからなくて…」
憂「えっと…あの…」
古畑「アハハ、学校というのはどうも苦手でして…」
憂「すみません…どなたですか?」
古畑「えっ」
古畑「あっ…いや…ついさっきお会いしましたよね?」
憂「ええっ?」
憂「お姉ちゃん」
古畑「お姉ちゃん?」
唯「古畑さんも。どうしたんですか?」
古畑「あ、いや、職員室の場所を訊こうと…、しかし、あの、お二人は、双子…?」
唯「違いますよぉ、憂は1つ下の妹です」
憂「ねぇお姉ちゃん、この人…」
唯「あ、紹介するね。この人古畑さんって言って、刑事さんなんだって」
古畑「古畑ですどうも。今回の事件を担当することになりまして…」
憂「ど…どうも、平沢憂です」
古畑「はい。いやぁしかし驚きましたぁ。二人ともそっくりなんですね」
唯「えへへ…よく言われるんですよぉ」
古畑「んっふっふ…あぁそうだ、職員室に行かないと。場所を伺ってもよろしいですか」
唯「あーえぇと、職員室はまずあそこを降りて、次に右に…いや左に曲がって…あれ?どっちだっけ…」
憂「お、お姉ちゃん!私が説明するから大丈夫だよ」
唯「ありがとう、憂~」
憂「まずそこの階段を降りて、廊下に出たら右に曲がるんです。しばらく歩いたら…」
唯「あ!そうだね!その方が早いよ~」
古畑「え!いいんですか?」
唯「いいんですよぉ今日はもう何もないんだし」
憂「じゃあ行きましょう?」
テクテクテク…
校門から歩いてくるまでいろいろ拝見しましたが驚きました」
憂「あはは、そうですか?」
唯「いっぱいあるでしょ~?あ、古畑さんあれ見た?
2年生の『マンモスの肉』って出店!あそこの衣装ってかわいいんだよ~」
憂「え?あそこって衣装あるの?」
唯「憂見てないの?もったいないなぁ」
憂「うーん…ヴァンパイア喫茶の衣装なんかはかわいかったけど…」
古畑「んっふっふ…時間があればぜひ拝見したいものです」
古畑「えー、まぁいろいろと…」
憂「あの…やっぱり文化祭は、中止なんですか…?」
古畑「あー、ちょうどそのことも先生方に相談しようと思っていたんですが」
古畑「文化祭の方は一応、捜査に支障のない範囲で続けていただいても構わないと思っています」
唯「ほ、本当!?」
古畑「んーさすがに今日の分は後日に回してもらうことになりますが…」
唯「あ、ありがとう古畑さん!」
憂「やったねお姉ちゃん!」
唯「あ、唯でいいですよ~。憂も平沢だからわかりにくいだろうし」
憂「私も憂でいいです」
古畑「あーでは、唯さんは明日何か…」
唯「ふっふっふ、わたしたちはねぇ、明日ライブやるのです!」フンス!
古畑「へぇ、ライブを…憂さんも?」
憂「わ、私は見てるだけです」
古畑「そうですか…しかし顧問の先生がなくなったというのに大変ですね」
唯「うーん、そうなんだけど…」
唯「まぁ、追悼ライブって感じで」
古畑「んっふっふ…楽しみですね」
唯「えへへ、ぜひ見に来てね、古畑さん」
古畑「よろしいんですか?では、ぜひ…」
古畑「ここですか。いやぁ助かりましたぁ」
古畑「では失礼します」
唯「またね~」
憂「お仕事、頑張ってください」
古畑「ありがとうございます。では…」
ガチャ
古畑「お仕事中すみません。今回の事件の捜査を担当する古畑というものですが…」
唯「…じゃ、わたしたちも戻ろっか」
憂「うん」
テクテクテク…
唯「うん、わたしもそう思うよ~。でもね…」
唯「どうも、さわちゃん先生が死んだのは自殺じゃないかもって、疑ってるみたいなんだ…」
憂「そ、そうなの?」
唯「うん。殺人の可能性もある、だって」
憂「そんな…」
唯「心配いらないよ。ムギちゃんの立てた計画は完ぺきだったし、アリバイもきちんとあるんだから」
憂「う、うん…」
憂「あ、そうだお姉ちゃん。梓ちゃんと会った時に話した内容を教えとくね」
唯「え?それって必要なの?」
憂「万が一の時、知らなかったら困るでしょ?」
唯「う~ん、それもそうだね~」
憂「じゃあ今から教えるから、覚えといてね?」
唯「了解です!」
律「…それ、本当なのか?」
唯「うん、古畑さんがそう言ってたよ~」
澪「じゃあ…ライブ、できるんだな」
紬「劇が延期になっちゃったのが、心残りだけど…」
梓「みなさん、ずっと劇の練習してましたもんね…」
梓「でも…よかったです…先輩方とのライブがなくならなくて…」
律「よ~っし!じゃあ今日は、明日のライブに向けて泊まり込みで練習だぁ!」
澪「学校って泊まって大丈夫なのか?」
律「だ~いじょぶぅ♪」
紬「お泊りの準備持ってきてないんだけど、それでも?」
律「ノープロブレム!」
唯「ご飯は何杯でもお替り!?」
律「じゆー!…って、なんでやねん」
律「じゃあさっそく…」
唯「あれだね、りっちゃん!」
律「ああ。ほら、みんなも準備しろ!」
澪紬梓「?」
律「いくぞ?ジャ~ンケ~ン…」
澪「うぅ…梓はともかくあの二人に負けるとは…」
紬「まぁまぁ。早く寝袋もらって帰ろう?」
澪「ああ。忘れないように宿泊届も出しとかないとな。ん?あれは…」
古畑「おや、秋山さんに、琴吹さん」
澪「古畑さん…でしたっけ」
古畑「はい」
紬「お仕事ご苦労様です」ペコリ
古畑「んっふっふ、ありがとうございます」
澪「捜査の方は…進んでるんですか?」
古畑「…んーそれがまだなんとも」
澪「…一般人にそうやすやすと情報を漏らせませんよね」
紬「ちょっと澪ちゃん、失礼よ…」
古畑「んっふっふ…申し訳ありません」
澪「え?」
古畑「誰に聞いてもあなた方の明日のライブを楽しみにしてらっしゃいます。
えー実は、ついさっき生徒会室で去年のライブのDVDを拝見したんです」
紬「本当ですか?」
古畑「いいライブでしたぁ。特にいったん曲が終わってから、琴吹さんが再び演奏を始めるところとか。
しまいにはうちの部下まで明日のライブを見に行きたいと言い出す始末で…」
紬「まぁまぁ。ぜひ観にいらしてください♪」
古畑「んっふっふ…、はい、ぜひ。ところで、あの曲は全てみなさんの自作なんですか?」
紬「はい。私が作曲して、澪ちゃんが作詞して…。あ、明日演奏する予定の曲は唯ちゃんの作詞なんですけど」
古畑「そうでしたか。いやー、『ふわふわ時間』でしたか?素晴らしい曲調でした」
紬「うふふ、嬉しいです♪」
古畑「歌詞の方も独特なセンスが感じられて実に…あー…個性的で」
澪「……///」
古畑「はい」
紬「捜査って、いったいどんなことをするんですか?」
古畑「興味がおありなんですか?」
紬「はい、とっても♪」
古畑「えー…もしお暇なら見学されますか」
紬「ええ!?いいんですか!?」
澪(ちょっ!?ムギ!?)
古畑「んー遺体も運び終わっていますし、捜査に差しさわりのない程度でしたら…」
紬「ありがとうございます!わくわくするわぁ♪」
澪「お、おいムギ…」
紬「あ、ごめんね澪ちゃん。りっちゃんにはあとで戻るって伝えておいて」
古畑「では行きましょうか」
紬「はい♪」
澪「あっ、ちょっと…!」
澪「…行っちゃった…」
紬「うわぁ…!」キラキラ
古畑「こういう現場を生で見るのは初めてでしょう」
紬「はい!」
紬「か、鑑識の人たちが動き回って…!」
紬「これは、指紋なんかを採って回ってるんですか?」
古畑「そんなところです。まぁ生徒の指紋が至る所に付いていてあまり意味がないんですが」
紬「へぇ~…」
紬「?はい…」
紬「あら、これは…、袋に物がたくさん…」
古畑「これは現場で見つかった証拠品をですね…」
紬「あ、知ってます!こういうの、遺留品っていうんですよね?」
古畑「そうですそれです!いやーよく知ってらっしゃる」
紬「そうですか?うふふ」
紬「はさみに…針に…まぁ、ここにある衣装も全部?」
古畑「この部屋にあったものは全て遺留品なんです。触っちゃだめですよ」
紬「ええ、わかってます」
紬「あ…これ、は…」
紬(澪ちゃんのリップクリーム…!)
紬(どうして…?)
古畑「ご存じなんですか?」
紬「え、あぁ…」
紬(椅子からこけたとき、落としたのね…)
紬(どうこたえるべきかしら…)
紬「…見覚えがあるような、ないような…」
古畑「そうですか…」
紬「え?どうしてですか?」
古畑「いやだってここに」
パッ
紬「…!」
紬(キャップの頭に…)
古畑「『MIO AKIYAMA』とあるものですから。
てっきりお友達のあなたなら本人のものかどうかわかるとばかり」
紬(…この人…あえて最初に名前が見えないように…)
紬「あはは…同じもの使ってる人、けっこういますから」
古畑「そうなんですか。しかしどうしてこれがこんなところに落ちていたんでしょうね」
古畑「3年生は授業で被服室を使うことはないと聞きましたが」
古畑「そうなんですか?」
紬「はい。この前廊下でりっちゃん…じゃない、田井中さんに見せてる時にたまたま先生が通りかかって…」
古畑「没収されたと」
紬「はい。澪ちゃんがそう言って落ち込んでいました」
古畑「なるほど…そうなるとこれがここにあった理由も説明がつきますね」
古畑「いやぁのどのつっかえが取れました」
紬「お力になれてよかったです」ニッコリ
古畑「もう見学されていかなくていいんですか?」
紬「ええ、そろそろ戻らないとみんなが心配しますから…」
紬「私が取り調べを受けてるんじゃないか、って」
古畑「あっはっは、そうですね」
紬「ふふ。じゃあ失礼します、お仕事がんばってくださいね」
古畑「はい、どうも…」
ガチャ…バタン
律「あ、ムギやっと帰ってきた」
澪「もう、大変だったんだぞ!寝袋5人分も持つの…」
紬「ごめんね、澪ちゃん。きっと埋め合わせはするから」
紬「あら…?梓ちゃんは?」
律「梓なら、純ちゃんと一緒にどっか行ったぞー。明日の出店の準備だってさ」
紬「そう…それはちょうどよかったわ」
唯「なにかあったの?」
紬「うん、実はね…」
唯「それは大変だったね…」
澪「本当に申し訳ない…」
律「現場に証拠が落ちていた以上…澪が一人で自首するしかない、か…」
澪「ひっ!」
唯「ひどいよりっちゃん!」
律「冗談だって。で、古畑もムギの説明で納得したんだろ?」
紬「うん、完全に疑いが晴れたかどうかはわからないけど…」
律「なら大丈夫だろ。万が一訊かれたとしてもあたしらが口裏合わせればいいだけだし」
律「なぁ澪?」
澪「タイホ…タイホ…タイホ…ハハハ」
唯「み、澪ちゃん!?」
律「澪!?あたしが悪かった!戻ってきてくれ~!」
律「みぉ…ん、どうしたムギ」
紬「今回のことはうまくごまかせたかもしれないけど、
あの人が私たちを疑っているのは間違いないと思うの」
紬「だから、これからは少しの隙も見せちゃダメ。いい?」
唯「わかったよ、ムギちゃん」
律「…おう」
澪「タイホ…タイホ…」
唯「ちょいといつまで固まってんだいこの子は~。あ…そうだ。憂にも気をつけてって言っとかないと」
ピポパ…
ヴィヴィヴィ…ヴィヴィヴィ…
憂「…あ、メール…」
憂「お姉ちゃんだ!どうしたんだろう…」
from:お姉ちゃん
題名:きんきゅうのおしらせ~!
本文
――――――――――――――――――――――
うい!降旗山には絶対に気をつけるんだよ~!!
ぴーえす:今日はみんなで学校にお泊りするから
晩ごはんいらないからね~
――――――――――――――――――――――
憂「…登山でもするの?」
~軽音楽部部室~
憂「みなさん、夜食作ってきたんです。どうぞ食べてください」
澪「ありがとう、憂ちゃん」
律「んん~うみゃい!」
憂「まだまだたくさんあるので、みなさんいっぱい食べてくださいね」
唯「おいひいよぉ~憂~」
憂「うふふっ」
紬「デザートは、私たちが用意したのがあるから、よかったら食べて行ってね?」
憂「わぁ、いいんですか?ありがとうございます!」
ガシッ
律「大丈夫だ。何時にケーキを食べようがへっちゃらだ。なぜなら今日は…」
律「徹夜だからーっはっはー!」
梓「ええ!?寝ないんですか!?」
律「あったりまえだぁ!学祭といえば徹夜で準備だからなっ♪」
梓「……」
ガシッ
梓「ん?」
唯「今夜は寝かさないぞ…子猫ちゃん!」
梓「一人でどうぞ」
唯「あ~ん、あずにゃんいけずぅ~」
コンコンコン
律「おっ」
澪「ん?」
古畑「んっふっふ…盛り上がってらっしゃるようで」
梓「古畑さん…」
古畑「おくつろぎのところすみません」
唯「どうしてここに?」
古畑「電気が点いているのが見えたものですから」
律「…殿方がピチピチの女の園に何の用かしらん?」
古畑「んー…実は、みなさんのアリバイを確認しておきたいと思いまして」
唯「あ、あ、あ…アリバイ!?」
澪「それじゃまるで、私たちが犯人みたいじゃないですか…」
古畑「あくまで形式的なものですので」
古畑「自殺と断定できない以上は、関係者全員のアリバイを調べておく必要があるんです」
古畑「ちなみに他の生徒への聞き取りもほぼ済んでいます」
梓「そうなんですか…」
唯「あ、わたしはねぇ~」
紬「!」
紬「ふ、古畑さん!」
古畑「はい?」
紬「何時から何時までのアリバイを調べてるんですか?」
古畑「あぁ失礼しました。とりあえず登校してから、遺体が発見された8時半ごろまでのアリバイです」
紬(いきなり7時半からのアリバイを答えちゃったら、用意しておいたアリバイってことが見え見えだわ…)
唯(危ない危ない…ありがとうムギちゃんっ)
唯「あー…わたしはぁ、えっと…7時ぐらいに登校して、しばらく準備を手伝ってたけど、
7時半ぐらいかな?被服室に行きました」
古畑「行ったんですか被服室に?」
唯「はい、さわちゃんどうしてるかなーって。でも追い返されちゃってぇ…」
唯「それからすぐムギちゃんと会って劇のことでお話しして、次にあずにゃんに会ったんだよね?」
梓「あっ…そうでしたね。いきなり抱きつかれて驚きましたよ」
唯「それで教室に戻ったけどすぐトイレに行って、
帰りに澪ちゃんとりっちゃんに会って一緒に教室に帰ってきました!」
古畑「ん~…要するにあちこち歩き回ってらっしゃったんですね?」
唯「でへへ…」
古畑「その後は」
唯「あとはずっと教室にいましたよ~」
律「あーっと、あたしは7時前ぐらいに澪と登校して、教室でセリフ覚えてました。
それからちょっと教室の外に出て、戻ってきたら澪が『私にロミオの役はできない』って言ってて…」
古畑「失礼、ロミオ役というのは…」
律「あ、うちのクラスはロミオとジュリエットの劇をやる予定で、
澪はそのロミオをやることになってたんです」
唯「ちなみにりっちゃんがジュリエット役だよ~」
律「余計なこと言うなっ」
古畑「んっふっふ…それで、どうされたんですか?」
律「あぁ、それで生徒会室で澪を説得してたんです」
古畑「二人きりですか」
律「はい。最後には澪も納得してくれて。で、戻るときに唯と会って3人で教室に帰りました。
8時くらいだったかな」
古畑「以降は教室に」
律「はい」
古畑「えー…では秋山さんは今日はほとんど田井中さんと行動を共にしていた、
ということでよろしいですね?」
澪「は、はい」
律「いやいや、刑事さんに質問されながら飯食べれるほどあたしら図太く…」
唯「もぐもぐ」
律「――って食ってるし!」
唯「ほぇ?」
憂「古畑さんもよかったらおひとつどうぞ?」
古畑「いいんですか?では失礼して…」
ヒョイ
紬「はい…私は、みんなより早く6時過ぎぐらいに登校しました」
紬「それで教室で台本の最後のチェックをしていたんですけど、唯ちゃんの役のことで気になることがあって」
紬「近くにいなかったから、探しに行ったんです」
古畑「ちょうど唯さんが教室を空けていたときでしょうか」
紬「はい、唯ちゃんが出て行ってすぐくらいかもしれません。
それで唯ちゃんはすぐ見つかって、別れた後は私も被服室に向かったんです」
古畑「そこは聞いた通りですね」
紬「あとは衣装を受け取って、8時ごろ教室に戻りました。それからは教室から出ていません」
梓「はっ、はい!私は…えっと…あまり詳しくは覚えていないんですけど…」
梓「とりあえず、学校には6時ぐらいに登校して、それからは準備してて…。
あ、しばらくして純とコンビニに買い物に行ったり……あと唯先輩に会ったりしました。
でも…、具体的に何時にどこで何をしてたのか、とかはちょっと…」
唯「あずにゃん、確かわたしたちの教室に来たって言ってたんだよね?」
梓「え?」
唯「わたしと会ったときにさ」
梓「あーそういえば…確かに先輩方の教室にもいきました。でもけいおん部の先輩は誰もいなくて…」
古畑「…唯さん、それは誰からお聞きになったんですか?」
唯「へ?あずにゃんからだよ~」
古畑「本人からですか?」
唯「?はい…」
古畑「そうですか…」
古畑「いえ、たいしたことではないので…」
紬「私たちが気になります」
古畑「あー…唯さんが『わたしたちの教室に来たって言ってたんだよね?』とおっしゃったものですから」
律「それが?」
古畑「『言ってたんだよね』…ですよ?まるで中野さんがそう言っていたと、別の誰かから聞いたみたいじゃないですか。
実際には唯さん自身が中野さんから聞いていたというのに」
唯「…そんなのちょっとした言い間違いじゃないですか~。やだなぁ古畑さん」
古畑「んっふっふ…まぁそういうことにしておきましょう」
古畑「中野さん、その後はいかがですか?」
梓「あ、あぁその後は…何もなかったと思います。ずっと教室で準備してたり…」
憂「私は、梓ちゃんが来る少し前に学校に来てました。一度、7時半ぐらいだったか、お茶を買いにコンビニに行ってたとき以外は、ずっと教室に…」
古畑「なるほど…」
古畑「こうなると、つまりみなさん全員にしっかりしたアリバイがあるということになりますね」
律「あったりまえですよ~」
唯「当然だよっ、古畑さん」
古畑「んっふっふ…しかしみなさん、大変記憶力が良くて助かります」
澪「え?」
それこそさっきの中野さんのように…」
古畑「それをみなさん、しっかりとおおよその時間まで記憶してらっしゃる」
紬「…!」
律「いけないんですか?しっかり時間まで覚えてちゃ」
古畑「え?いえいえそんなことありません。むしろ調べる側としては手間が省けて助かります」
唯律澪紬梓憂「……」
古畑「あー、では夜分遅くにどうもすみませんでした。明日に備えてゆっくり休んでください」
唯「…ばいばーい、古畑さん」
古畑「んっふっふ…おやすみなさい。あ、おにぎりご馳走様でした」
ガチャ…バタン
西園寺「軽音楽部の部員や平沢憂さんのアリバイの裏を取ってみましたが」
西園寺「中野さんと平沢唯さんが会話しているところは、多くの生徒に目撃されていました」
西園寺「また田井中さんと秋山さんについても、生徒会室の中で話している声が複数の生徒に聞かれています」
西園寺「琴吹さんについてははっきりと目撃したという証言はありませんでしたが、
アリバイがはっきりしている平沢唯さんが二人で話していたと証言しています…」
西園寺「彼女が買い物に行ったというコンビニにあたってみました」
西園寺「平沢憂さんの写真を見せて訊いてみたんですが、
昨日は学園祭の準備の関係で女子高生の客の出入りが多く、
どのような生徒が来たかは覚えていないそうです」
古畑「学園祭の買い物に行ったんならさ、領収書とかレシートとかとってあるんじゃないの」
西園寺「お茶を買った時のものと思われる領収書は確認できましたが、レシートは見つかりませんでした」
古畑「とってなかったの?」
西園寺「憂さんが落としてしまった、と言っていたそうです」
古畑「そう…ありがとう」
古畑「騒がしいなァ。どうしたんだ」
今泉「これ見てください、これ!」
今泉「山中さんの自宅のパソコンから見つかったんですけど…」
古畑「…!」
古畑「…これはぁ…」
西園寺「…古畑さん」
今泉「ひどいですよね。最低だなぁあの山中って教師」
西園寺「どうしましょう」
古畑「…ちょっと出てくる」
ワイワイガヤガヤ… イラッシャイマセー
古畑「中野さん」
梓「えっ?あぁ、古畑さん」
古畑「いやどうも…」
梓「どうされたんですか?まさか聞き込み…とか?」
古畑「いえいえただ寄ってみただけです。『峠の茶屋』…いい名前ですね」
梓「あはは…、ありがとうございます」
古畑「んっふっふ…そう言われると何とも」
梓「ふふっ、すみません。はいこれ、メニューです」
古畑「ああどうも、えっと…どれにしようかな」
古畑「これ、ほうじ茶っていうのいただけますか?」
梓「ほうじ茶ですね、少々お待ちください」ペコリ
梓「純~、ほうじ茶ひとつ~」
純「ほ~い」
古畑「……」
古畑「ありがとうございます」
古畑「いやしかし…中野さんもいい先輩方に恵まれましたね」ズズッ…
梓「え?…あぁ、けいおん部の先輩たちですか?」
古畑「みなさん個性豊かな方々で」
梓「はい、毎日部活が楽しいです」
古畑「んっふっふ、それはなにより」
梓「まぁ…先輩たちはみんな、今日で引退なんですけどね…」
古畑「寂しいですか、やはり」
梓「…寂しいに決まってるじゃないですか」
梓「でも、だからこそ…今日のライブはめいっぱい楽しんで、最高のライブにしたいんです」
古畑「……」
梓「私に?…ですか?」
古畑「ええ」
梓「…結局聞き込みに来たんじゃないですか」
古畑「んっふっふ…すみません」
古畑「ここではなんですから場所を移して…」
梓「はぁ…じゃ、ちょっと待ってください」
憂「なに、梓ちゃん?…と、あれ?古畑さん?」
古畑「どうも」
梓「なんかね、古畑さんが訊きたいことがあるんだって。少し抜けてもいいかな」
憂「たぶん…大丈夫だと思うよ」
梓「ありがとね」
憂(…大丈夫かな、梓ちゃん)
憂「……」
憂「じゅ、純ちゃん!」
純「えぇ!?…なんだ、憂か」
純「急にでかい声出されたらびっくりするじゃん。どしたの?」
憂「ごめん…ちょっとだけ抜けてもいいかなぁ?」
純「えっ…なんで?」
憂「ごめんっ、すぐ戻るから!」
純「あ、ちょっと!…って、梓もいないじゃん!」
憂「……」ソーッ…
梓「古畑さん、訊きたいことっていったい…」
古畑「えー、実は…」
古畑「あなたと山中先生との関係についてお訊きしたいのです」
梓「えっ…」
憂(っ!!)
古畑「あなた方の間には何かただならぬ関係があった…」
古畑「我々はそういう風に見ているのですが」
梓「………どうして、そんな…」
古畑「山中先生の自宅のパソコンから、いくつかの写真が見つかりました」
梓「……っ!」
古畑「どのような写真か、お判りですね」
梓「……はい…」
梓「……」
梓「…あんまり、こんなところで話したいことじゃないです。ごめんなさい」
梓「でも…おそらく、古畑さんの想像通りだと思います」
古畑「…お察しします」
梓「学祭が終わったら、お話ししますから」
古畑「ちなみに…このこと、誰かに相談は」
梓「してません。口止めされてましたし、それに…」
梓「誰かに言えば、けいおん部を潰すかもしれないって…。それに、先生は先輩方の担任だったから…!」
古畑「……」
古畑「…もう結構ですよ」
梓「…戻ってもいいんですか?」
古畑「はい」
梓「…失礼します」ペコリ
テクテク…
梓「…?」
古畑「ライブ、頑張ってください。応援してますので」
梓「…はい。ありがとうございます」
憂(……マズい…)
憂(お姉ちゃんたちに知らせないと!)
ピポパ…ピッ
ピロリロリン♪ピロリロリン♪
唯「あれ、メール…誰からだろう」
唯「あ~、憂からだ~!」
唯「ふむふむ……な、なんですとー!」
律「騒がしいな…」
澪「どうした?唯」
唯「あわ、あわ、あわ…、た、たいへんだよ~っ!」
紬「いったいどうしたの?」
唯「こ、これ…」ブルブル
律澪紬「!?」
律「梓のことが、バレたのか…」
紬「唯ちゃん、落ち着いて?」
律「どっちみち、警察が調べたら遅かれ早かれわかることだったんだ」
律「そのためにも憂ちゃんが唯のふりして会いに行ったり、きちんと梓のアリバイを作っといてあげたろ?」
唯「あぅ…そうだけど…」
澪「そうだけど…?」
唯「うん…わたし、不安なんだ」
唯「もっもちろん、ムギちゃんの立ててくれた計画は完ぺきだよっ?」
唯「でも…あの人…」
律「古畑か…」
唯「うん…なんか、あの人にはぜんぶお見通しな気がして…」
澪「…確かに、明らかに私たちのこと疑ってる感じだもんな…」
紬「そうね…」
律「……」
律「『真珠を造って天然の松』って言うだろ?」
澪「『人事を尽くして天命を待つ』だろ」
律「そうだっけ?まぁとにかく、やることはやったんだから、あとはどーんと構えてればいいのさーっ」
唯「…あはは、りっちゃん、男前~!」
澪「やれやれ…ほんとに律は能天気だな」
律「なにをーっ!?」
紬「ふふ…ポジティブなのはいいことじゃない」
律「よーっし、梓が来るまでに軽く音合わせしとくか!」
唯紬「お~っ!」
澪「…おー」
律「ふぅ…そろそろ楽器運ぶかー」
紬「そうね」
唯「ほーい」
ガタゴト…
梓「……」
澪(梓…演奏中もあんまり元気なかったな…)
澪「梓…」
梓「っ!はい!」
澪「えっと…その…」
梓「…?」
澪「…あ、あれだ!いいライブにしような!」
梓「…はい!」
梓「わわっ、ちょっ…唯先輩!危ないですよ!」
律「……」
律「なぁ澪」
澪「ん…どうした?」
律「あたし、ちょっと用事思い出したからさ、先に楽器運んどいてよ」
澪「え?おい、こんな時に…」
律「じゃ、任せたよ~ん」
澪「り、律!…ったくもう…」
古畑「……」
律「すみません」
古畑「はい?…田井中さんでしたか」
律「……」
古畑「ライブの練習はいいんですか?あと2時間ほどでは」
律「それより…梓と先生のこと、知れちゃったんですね」
古畑「…あー…はい」
律「…確かに梓は…、先生に、その……」
古畑「わいせつな行為を受けていた…」
律「…!」
古畑「やはりご存じだったんですね」
律「…最近梓の様子がおかしくて…。元気がないってわけではなかったんですけど、練習中も上の空って感じで…」
律「それで放課後、澪たちと梓の後をこっそりつけてみたんです。そしたら…」
古畑「山中先生の自宅から、それらしい痕跡は見つかっています」
古畑「先生が中野さんに何らかの嫌がらせを行っていたのは間違いないでしょう」
律「でも…でも梓は!絶対に殺しなんて…」
古畑「わかってます」
律「え?」
まして上から吊るすなんてことができるはずがありません」
古畑「そもそも彼女の身長では、椅子に乗ったとしても配管にロープを吊るすことさえできるかどうか…」
律(梓が聞いたら怒るな、絶対)
律「じゃあ…梓を疑ってはいないんですね?」
古畑「もちろん。彼女はほとんど、どの時間帯においても人目に触れていますから」
古畑「ただし…中野さんは、ということですが」
律「…どういうことですか」
古畑「中野さん以外の誰かが犯人である可能性は、依然なくなっていないということです。例えば…」
古畑「山中先生と中野さんの関係を知った誰かが、彼女を助けるために協力して先生を殺した、とか…」
古畑「あくまで可能性の話をしているだけです」
律「あたしたちにはみんなにアリバイがある」
古畑「んー、どうでしょう。あなた方のアリバイはみなトリックでどうにでもなるものばかりです。
平沢さん姉妹はまさに瓜二つなんですから、入れ替わったところで少し話したぐらいでは気づきません。
あなた方の会話だって、ラジカセでもセットしておけばどうにでも…」
古畑「…あ、そんなことよりそろそろライブですよね。戻らないとみなさん心配するんじゃないんですか?」
律「……そうですね。じゃ、失礼します」
スッ
古畑「頑張ってくださいね。ぜひ観に行き…」
ガチャッバタン
古畑「……」
古畑「……」
今泉「買って来ちゃいましたよぉ、マンモスの肉!」
今泉「これ、古畑さんの分です。はい君の」
古畑「気が利くね」
西園寺「ありがとうございます」
今泉「いやぁ、おいしそうだなぁ」
西園寺「はい」
古畑「軽音楽部の部員たち、どう思う」
今泉「そりゃあ、かわいい子たちだと思いますよぉ」モグモグ
古畑「君は黙ってなさい」
西園寺「山中さんが、彼女らの後輩部員である中野さんへのわいせつ行為や嫌がらせを行っていたとすれば、
動機は十分にあります」
西園寺「しかし部員全員にしっかりとしたアリバイがある…」
西園寺「秋山さんや田井中さんは複数の生徒に声を聞かれていますし、
平沢唯さんに関しては姿までしっかり見られています」
古畑「そういうのはトリックでいくらでもどうにでもなるよ」
古畑「生徒会室の声はラジカセでもセットしておけば事足りるし、平沢姉妹はあれだけそっくりなんだよ。
少々入れ替わったところでおいそれとわかるものじゃない。現に憂さんの方のアリバイはあやふやだし、
あの二人が教室から姿を消した時間は重なっているんだしね」
古畑「軽音楽部の3年生と平沢憂、この5人が一斉に教室から姿を消したということは、
絶対に何かあるよ…」
今泉「考えすぎだと思うけどなぁ。彼女たちまだ高校生で、未成年なんですよ」
今泉「でも楽しみだなぁ、彼女たちのライブ」
古畑「何時からあるんだっけ」
今泉「3時半ですって。あと1時間かぁ。いい席取らないとなぁ」
古畑「ふーん…」
西園寺「へぇ、これおいしいですね、マンモスの肉」モグモグ
今泉「だろ?あ、でも、2年2組の子達、かわいそうだったなぁ」
西園寺「何かあったんですか?」
でも衣装受け取る前に事件が起きちゃったもんだから、結局衣装が使えずに制服のままやってるんだよ」
古畑「……」
西園寺「それは気の毒ですね…」
今泉「だろう?遺留品なんだから仕方ないんだけどさ、あの毛皮みたいな衣装着た子たちも見てみたかったなぁ…」
古畑「…今泉君」
今泉「はい?」
古畑「お手柄だよ」
今泉「へ?」
西園寺「はい」
古畑「今からいうものを準備して、講堂のステージ裏に持ってきといて」
古畑「これと、あれと…」
西園寺「わかりました」
今泉「ぼ、ぼくはぁ」
古畑「君はね…」
古畑「ライブ楽しんでらっしゃい」
今泉「わかりましたぁ!」
ドタドタ…
古畑「えー、犯人は間違いなくあの5人です」
古畑「おそらく大事な後輩を、そして大切な友人を救うための犯行でしょう」
古畑「同情できる点もありますが、それでも殺人はいけません」
古畑「えー、今回のポイントは、私がどこで彼女たちを犯人だと確信したか…」
古畑「ヒントはこれ…マンモスの肉」
古畑「んっふっふ…少し考えてみてください」
古畑「解決編はこの後。古畑任三郎でした」
ジャー…パシャパシャ…
憂「……」
ガチャッ
憂「!?」
梓「憂…」
憂「梓ちゃん…」
憂「いよいよだね、ライブ」
キュッキュッ
梓「うん」
ジャー…パシャパシャ…
憂「楽しみだなあ。お姉ちゃんね、この日のために家でもずっとギー太と寝てたんだよ」
梓「あはは、そうなんだ」
キュッ
ポタッ…
梓「ねぇ憂」
憂「なに?」
梓「実は…思い出したことがあってね」
憂「?」
梓「昨日の午前中に、私が2階の廊下で唯先輩に会ったっていうのは知ってるよね」
憂「うん…昨日古畑さんに言ってたね」
梓「そのときになんか違和感があってさ」
梓「ちょっと気になってたんだけど、わかったんだ」
ポタッ…
梓「うん。抱きつかれたときにね、いつもと感触が違ったんだ」
梓「正確に言えば、圧迫感っていうか…少し、胸がおっきかった」
ポタッ…
憂「……」
梓「ねぇ、もしかしてあの唯先輩は、憂だったんじゃないの?」
梓「憂は本当に唯先輩にそっくりだよ。見た目だけじゃわかんないくらい。
でも、抱きついた時の感触だけは真似しようがないよね?」
憂「梓ちゃん…」
憂「ごめん…梓ちゃん」
憂「梓ちゃんは知らない方がいいよ。いや違う、知っちゃいけないの」
梓「どうして?なんで憂…」
憂「ごめん」
ガチャッバタン
梓「……」
梓「どうして…」
ポタッ…
澪「え?古畑さんが?」
和「そう、ライブが終わってからみんなに話があるって…」
律「……」
和「終わってから講堂の裏で待っていますって言ってたわ」
梓「い、いったいなんなんですかあの人!」
紬「梓ちゃん…」
梓「いっつも先輩方に付きまとって!まるでみなさんが事件にかかわってるって言いたいみたいに…」
梓「あんな人、無視しとけばいいんです!」
澪「梓…」
澪「!?」
紬「ゆ、唯ちゃん?」
梓「唯先輩!?」
唯「いやーだってさぁ、もやもやしたまんま演奏するのって、なんかいやじゃん」
唯「わたしたちは無実だーっ!ってきちんと証明してから演奏しようよ」
律「…あたしも唯に賛成だ」
梓「り、律先輩まで?」
律「疑われてるって気にしながら演奏したって、いいライブは出来っこないだろ?」
澪「そりゃそうだけど…」
律「だ~いじょうぶだって、あたしらな~んも悪いことしてないんだからさっ」
律「さっさと無実だって古畑にわからせてから演奏しようぜ」
和「じゃあ…今から呼んできていいのね?」
律「うん、悪い和、頼むわ」
古畑「いやーライブの直前に申し訳ありません。よろしかったんですか?」
唯澪紬梓「……」
律「いいから始めてくださいよ古畑さん。いったいなんなんですか?」
古畑「すみません。これが本当に最後ですので」
律「……」
和「律…ライブ開始まであと20分よ?」
律「あー…ごめん和、ちょこーっとだけ時間遅らせるわけには」
和「」
律「いかないよねー…ははー…」
律「…てことで古畑さん。すぐに終わらせてくださいね」
古畑「わかりました。…と、その前に、まだかな」
西園寺「お連れしました」
憂「……」
唯「憂!?」
憂「お姉ちゃん…みなさん…」
古畑「えー、これでやっと全員揃いましたね。では始めましょう、手短に…」
今回の山中先生の死は、単なる自殺ではなく、綿密に計画された殺人であるということです」
唯「そ、そんな…」
澪「…もちろん確証があるから言ってるんですよね?」
古畑「あてずっぽうでこんなことは言いません」
律「へっ…じゃあ見せてくださいよ。殺人の証拠とやらを」
古畑「まぁ落ち着いてください。順を追って説明しましょう」
古畑「毎年のように新歓、学祭とあなた方のライブ衣装を作っていた先生がなぜ今回は衣装を作っていなかったのか。
他の衣装は全て仕上げていたんです。おかしいとおもいませんか」
律「別に。案外手ぇ広げすぎてめんどくさくなったとか、そんなとこじゃないの?」
唯「あはは、さわちゃんらしいね」
古畑「んっふっふ…しかし山中先生は、やはり衣装を作るつもりだったんです」
古畑「そして衣装を作るための材料も見つかりました」
古畑「その材料というのは…西園寺君」
西園寺「はい」
ガラガラ…
古畑「調べてみると、これらは全て山中先生が業者に発注して昨日届いたものだそうです」
古畑「さらにこれ。なんだかおわかりですか?」
紬「それは…」
唯「HTTって…わたしたちのトレードマーク…」
古畑「そうです。これはアイロンでTシャツに貼り付けるものです。これで手軽に手作りTシャツが作れるとかで」
古畑「こういうものが用意されていた…。ということは、ですよ。
やはり山中先生はあなた方の衣装を作るつもりだったんです」
和「!」
唯「の、和ちゃん!?」
和「…その通りです。先生は今回のライブ衣装と同じものを大量に作って、
ライブを見に来た人全員に配るつもりだったんです」
和「私が聞かされたのは一昨日だったんですけど。前日から徹夜で一気に仕上げると言っていました」
古畑「はい…ありがとうございます」
古畑「自殺するつもりの人が果たしてここまでのことをするでしょうか?」
古畑「これを放っておいて自殺するにしてもです、
せめてあなた方の分の衣装だけでも仕上げておくのではないでしょうか。
衣装自体はTシャツに柄をプリントするだけの簡単なものなのですから」
唯律澪紬梓憂「…………」
古畑「犯人の正体に関わることです」
唯「え!?」
律「……」
古畑「実は…被服室にあった衣装のうち一つに、あなた方の中の一人の指紋が残っていたんです」
澪「なっ…」
紬「まさか…」
古畑「えー…誰の指紋か、触った記憶のある人にはわかるはずです」
唯(わ、わたし触っちゃったかな…)アセアセ
律「……」
古畑「その衣装をお見せしましょう。西園寺君」
西園寺「はい」
バッ
律「…!」
唯「え……」
古畑「この長袖で、しかも全身を覆う毛皮なんて、この時期にはまだ暑そうですが。
猿人を意識したんでしょうか」
唯律澪紬梓憂「…………」
古畑「いかがですか」
澪「…律?」
律「…ははははは!古畑さん、なーにでたらめ言ってんだよ!」
古畑「はい?何のことでしょう」
律「いやいや…とぼけなくてもいいって。こんな生地に指紋が残るわけないってのぐらい、あたしでもわかるよ」
古畑「ええ?いやでも確かに…」
律「…っ!」イラッ
紬「ちょっと、りっちゃん…」
古畑「え?いやこれは2年2組の…」
律「『マンモスの肉』の出店の衣装はこんなんじゃないって!」
古畑「え?これではないと」
律「違うよ」
古畑「ではどんな」
憂「…!」
律「どんなって…もっと薄手で袖がなくて、斑点があって…。とにかくこんなカッコ悪くて暑苦しいやつじゃ」
憂「律さん!」
律「っ!…な、なに?」
唯「憂…?」
憂「あぁ…」
古畑「今…なんとおっしゃいました?」
律「え…あぁ、え?」
古畑「…今なんと」
律「だ、だから薄手で袖がなくて、斑て…」
古畑「西園寺君」
西園寺「…最後のアレを」
西園寺「はい」
バッ
古畑「はい。これが本当に2年2組の出店で使うために作られた衣装です」
古畑「最初のこれは演劇部から借りてきた雪男の衣装でして…」
古畑「田井中さんのおっしゃった通り。確かにこちらの衣装は偽物でした」
古畑「しかし…なぜこの衣装が偽物だと見抜いたんですか?」
律「それは…2年生の子たちが今日それを着てるのを見たから…」
古畑「いいえ。そんなはずはありません」
古畑「あなたがこれを着た生徒を目にするはずがない!」
律「…っ!どうして!」
古畑「だって誰もこの衣装を着ていないんですから!この学校の生徒は誰も」
律「…え?」
古畑「はい確かに、完成はしていました。必要な数は全部」
古畑「しかし…実はこの衣装、被服室に置いたままになっていました」
古畑「そしてなかなか衣装が届かなかった2年2組の生徒が被服室に衣装を取りに行って、遺体を発見したんです」
古畑「衣装は遺留品ということで使うことができず、
かわいそうに2年2組の生徒は制服のままで出店を営業していたそうで…」
古畑「もっとも昨日から部室にこもって練習していたあなた方にはわからなかったでしょう」
古畑「憂さんはこの衣装が使われていないことを知っていたようですが…。
少し気づくのが遅かったですね。残念でした」
憂「……」
それ以外の方法でこの衣装を偽物だと断定することはできないんです、絶対に!」
唯律澪紬「…………」
古畑「そして…憂さん。あなたもこの犯行に加担していたと、私は確信しています」
憂「……」
古畑「…以上です」
梓「本当、なんですか…?」
律「う…いや…」
梓「…教えてくださいっ!」
律「…っ!」
唯「りっちゃん、もういいよ」
律「え…」
唯「もう…ネタばらししようよ」
澪「唯…」
唯「あずにゃん、ごめんね」
唯「わたしたち…ほんとは内緒話してたんだ…」
梓「…唯先輩…」
クルッ
唯「…古畑さん、さわちゃんは、わたしたちが殺しました。わたしたち4人で」
紬「……」
澪「…くっ…!」
唯「憂は…殺しには関係ないです。ただ、わたしたちのアリバイ作りに協力してくれただけで」
古畑「……」
澪「あの…古畑さん」
澪「どこで…私たちが犯人だと思ったんですか?」
古畑「えー…決定的だったのは、唯さんの発言です」
唯「ふぇ?わたし?」
古畑「あなたと憂さんに職員室に案内してもらった時のこと、覚えていますか」
唯「職員室に…?そういえばそんなことあったような…」
まぁその時は私もそれに気づかなかったんですが…結果それが失言になってしまったわけです」
古畑「…残念でした」
唯「…そっかぁ…」
唯「あはは…やっぱりわたし、おっちょこちょいだなぁ」
唯「みんな…ほんとにごめんね!」
憂「お姉ちゃん…」
律「ははっ…せっかくさっきはカッコよかったのにな」
紬「ううん…唯ちゃんが謝ることないわ」
澪「私だって、被服室にリップクリーム落としてたし…」
律「まっ、あたしたちに完全犯罪なんて無理だったってこったな」
唯律澪紬憂「!?」
梓「こんなことされて私が喜ぶと思ってたんですか!?」
紬「梓ちゃん…」
澪「梓…」
梓「私のせいで、先輩方や憂が犯罪者になって…、私はひとりぼっちになって…」
梓「みんなで…最高のライブしようって、言ったのにっ……うっ…」
唯「あずにゃん…」
梓「!」
唯「ごめんね、あずにゃん」
梓「…!……うっ……うっ…」
唯「わたしたちは、一足早くいなくなっちゃうけど…」
梓「ひっぐ…っ……えぐっ…!」
唯「わたしたちは、いつまでも、いつまでも…!」
唯「放課後だから!」
梓「…へっ?」
律「…はい?」
唯「だから…だからね。心配いらないよ、あずにゃん」
梓「えっ…あ、はい…」
梓(ちょっと、意味が…)
憂(お姉ちゃん…!)
澪(…唯らしいな)クスッ
古畑「時間だ…そろそろライブが始まる」
古畑「我々は客席で拝見しています。最後のライブ、頑張ってください」
唯律澪紬梓憂「…………」
律「いや…もういいですよ、古畑さん」
古畑「はい?」
律「今のあたしたちじゃ、とてもみんなに顔向けできないし…」
澪「それに…」
唯「澪ちゃん…?」
澪「人を殺した手で、楽器を演奏しちゃいけないと思いますから」
律「…だな」
憂「澪さん…」
紬「…そうね」
澪「んなっ、バカ…そんなわけないだろ!」
律「……ははは、冗談だよ」
唯「…りっちゃん…、あはは、意地悪はやめてあげなよ」
澪「…ふん、バカ律…」
紬「…あら、あら」
梓「……」
澪「梓…ごめんな」
梓「いえ…、先輩方の決めたことですから。従います」
唯「…えへへ…」
紬「その言葉だけで…うれしいです、古畑さん」
古畑「…お連れして」
西園寺「わかりました」
西園寺「こちらへ…」
ゾロゾロ…
唯「あずにゃん…?」
律「どした?」
梓「いつか…また…」
梓「武道館じゃなくても…小さいライブハウスでも」
梓「近所の公園でも、道端でも、どこでもいいですから…!」
梓「きっと…きっとまた、一緒に演奏しましょう!」
唯「あずにゃん…」
律「…へへ」
梓「私…、それまでみなさんのこと、ずっとずっと待ってますから!」
唯「…うん!」
紬「ありがとう、梓ちゃん」
澪「約束だ、梓」
憂「え…?」
梓「今度…おいしいお菓子の作り方、教えてよ」
憂「…うん、わかった!」
律「よーっし、こうなったら早く梓との約束を果たすためにも…」
唯「次は『だつごく!』だね!」
律「おう!そうだな!」
澪「お前ら反省しろっ!」
ガツンッ!
律「あいたっ!だからなんであたしばっかり…」
紬「あらあら」
唯「あ、和ちゃん…」
和「憂も。しっかり反省して出てくるのよ」
憂「…はい」
唯「…ごめんね、和ちゃん」
和「バカね、唯ったら…。みんな大バカよ」
唯「……」
和「さよならは言わないわ」
唯「…またね、和ちゃん」
和「落ち着いたら…面会に行くから」
ゾロゾロ…ガチャ…バタン
和「……」
古畑「…お二人はどうされますか?」
和「私は…仕事が残ってます。生徒会長として、きっちりみんなに説明しないと」
古畑「そうですか…」
古畑「中野さんは」
梓「え…」
和「一緒に…行く?」
梓「…私は……」
梓「私は…いいです」
梓「いつかまた先輩方と、放課後ティータイムとしてみんなの前に出たいですから」
梓「それまでステージには立ちません」
今泉「幕開くの遅いなぁ。もう予定の時間5分は過ぎてるのに!」
今泉「あ…あ!開いた!やっと開い…あれ?」
今泉「だ、だれあれ…。あ、生徒会長の子だっけ」
今泉「いやあの子もかわいいけど…放課後ティータイムは?」
今泉「え?え?」
完
~澪たんは俺の嫁!の巻~
さっそくですが、自分の学生時代を思い出してください。
部活動は帰宅部、授業中は廊下に立たされ、テスト中にはカンニングがバレて…。
…好きな人にはフラれる。
そんな学生時代を送ってきたのではないでしょうか。
…もちろんそんなことはないというイヤミなやつもいるでしょうが…。
それはともかく、学生時代には良くも悪くもたくさんの思い出が詰まっているものです。
えー、私の学生時代といえば……っ…うっ…ぐすっ…。
桑原「そういえば聞いたよ~、今泉さん!」
今泉「なにが」
桑原「今回の犯人、現役の女子高生たちだったんだって?」
今泉「それが」
桑原「いやーすごいよなぁ。友達や後輩を悪徳教師から守るための犯行だってね」
桑原「僕が高校生の頃なんて、近所の小学校のプールに裸で飛び込むとかさぁ、
やんちゃばっかりしたもんだよ…」
桑原「それと比べたら…、不謹慎だけど立派な子たちだよねぇ」
今泉「……」ムスッ
今泉「どうもこうもないよぉ!古畑のヤツ!」
桑原「ちょっとちょっと、どうしたのよ」
今泉「あいつがライブ楽しんで来いって言ったから放課後ティータイムのライブ観にいったのに、
あの野郎ライブの直前にあの子たち逮捕しちゃったんだよ!?」
今泉「狙ってるとしか思えないよぉ!」
桑原「まぁまぁ、落ち着いて…。古畑さんもそこは仕事なんだからさぁ」
今泉「それにしてもだよぉ!」
桑原「落ち着きなさいってあんた…、それよりなによ、その放課後ティータイムって」
今泉「逮捕された子たちが組んでたバンドの名前だよ。
生徒会が保管してたDVD見せてもらったんだけど、いやぁ、かわいかったなぁ!」
桑原「へぇ、そうなの」
桑原「なに」
今泉「…………」ニタニタ
桑原「なによ」
今泉「持ってきちゃった」
桑原「…なにを?」
今泉「ライブのDVD」
桑原「ちょっ…何やってんの!?おたく一応警察官でしょ!?」
今泉「いいんだよ捜査資料ってことで。バレないようにこっそり持ってきたし」
桑原「こっそり持ってきちゃダメでしょ!きちんと許可得ないと」
桑原「悪いこと言わないから返してきなさいって」
今泉「ダビングしてから返すよ」
桑原「いやいいよ別に」
今泉「観たいでしょ」
桑原「いいってば」
今泉「というかうちのDVDプレーヤー壊れちゃってるからさ、ここで見せてよ」
桑原「結局あんたが観たいんじゃないか」
今泉「じゃあ観るよ」
桑原「どうなっても知らないからね?」
今泉「これはまだ観てないんだよなぁ」
今泉「おっ、映った!映った!」
桑原「……」
今泉「うひゃあ、かわいいなぁ」
ワン、ツー、スリー、フォー、ワン、ツー、スリー!
ジャカジャカジャンジャンジャカジャンジャカジャン…
桑原「……」
キミヲミテルト イツモハートドキドキ…
今泉「澪ちゅわあああああん!」
桑原「おたく傍から見てたらけっこう気持ち悪いよ?」
桑原「……」チラ
ユーメノナカーナーラ フータリノキョーリー…
桑原「…ちょっと…かわいいねぇ」
今泉「だろぉ!?こっち来て観なよ」
桑原「……」ススス…
アーアーカーミサーマオネーガイー フタリーダーケーノ…
今泉「うわああああああ!澪ちゃあああああん!」
桑原「ちょっと今泉さん、聞こえないってば!」
今泉「いいんだよ!ライブなんだからこれぐらい盛り上がっても!」
桑原「外にまで聞こえちゃうから、ほら…」
今泉「ふわふわターイム!ふわふわターイム!」
桑原「……」
ジャーン…!
ワアアアアアア…
パチパチパチパチパチパチパチパチ…
澪『…みんな、ありがとー!』
今泉「こっちこそ生まれてきてくれてありがとー!!」
桑原「いやーでも、これはいいもの観…」
澪『きゃっ』
ガシャァンッ!
今泉・桑原「!!!」
イ、イヤアァァァァァァァァ…
今泉「み、澪たんのパンチラだあああああ!」
今泉「巻き戻し巻き戻し!」
桑原「ちょっと今泉さん!今のはさすがにマズイよ!」ガバッ
今泉「いいじゃん、ちょっとぐらい!」
桑原「限度があるでしょうが限度が…!」
グググッ…
ポトッ
桑原「…ん?今泉さんなんか落としたよ」
今泉「え?…あっ!それはァ!」バッ
桑原「おっと、危ない」ヒラッ
桑原「えーっと、なになに、『秋山澪ファンクラブ』…?」
今泉「……」
桑原「……」
桑原「……」
桑原「今泉さん…、これ、なに?」
今泉「なにって…会員証」
桑原「どうしたのこれ」
今泉「生徒会室にあったから…。DVDと一緒に持ってきちゃった」
桑原「持ってきちゃったじゃないでしょ」
桑原「…あのさ、今泉さん。この子、逮捕されたとはいえ未成年の高校生なんだよ?」
今泉「あなた警察官なんだからさ、その辺の良識はわきまえようよ」
今泉「……」
今泉「……っ…」
今泉「…………はぅっ!」ガシッ!
桑原「ああよしよし、諦めようね」
アーヨシヨシ… ガチャ…バタン
完
中居君のビーズ然り、澪がわざとリップクリーム落としたかと思った。
桑原さん生きてくれてればなぁ…
おつ
Entry ⇒ 2012.10.12 | Category ⇒ けいおん!SS | Comments (0) | Trackbacks (0)
幼咲「シローシロー」シロ「…ダル可愛い」
シロ「……」プイッ
幼咲「っ!?」
シロ「………」スタスタ
幼咲「シロー…!」トテトテ
幼咲「あうっ…!」ドテッ
シロ「………」ピタリ
幼咲「シロ…シロー…」グスッ
シロ「…」クルリッ
幼咲「シロー!」ニパーッ
シロ「…」プイッ
幼咲「!?」ガーン
シロ「…(…可愛い)」
シロ「…なに?」
幼咲「絵本読んでっ」
シロ「……だる」
幼咲「!?」
シロ「…だるいなぁ」
幼咲「うぅっ…」
シロ「…心の底からだるい」
幼咲「……」ウルウル
シロ「…嘘」ナデナデ
幼咲「あっ…」
シロ「ほら…おいで…」ポンポン
幼咲「うんっ!」ストン
シロ「…どれどれ」ペラペラ
シロ「……咲。これ、誰の?」
幼咲「久ちゃんから借りたのっ!」
シロ「……あぁ」
幼久「…ニヤニヤ」
シロ「……」スタスタ
幼久「にげろーっ!」ダッ
幼久「な、なによ!そんなにおこることないじゃない!ちょっとしたおちゃめなのに!」セイザ
シロ「…咲にも久にもこういうのはまだ早い」キッ
幼久「うっ…ご…ごめんなさい」
シロ「……反省した?」
幼久「……した」
シロ「よしよし…」ナデナデ
幼久「……」ウツムキ
シロ「…(キツく言い過ぎた…かな?)」
幼久「……シロ」
シロ「……なに?」
幼久「……これ、なに?」ピラッ
シロ「な…!?」
幼久「おとーさんおかーさんのへやで見つけたのーねーねーこれなに?
ギザギザの付いたふくろにまるいわっかみたいなのがはいってるのー」ニヤニヤ
シロ「………」プルプル
幼久「(こ…これって…!?)」
シロ「…死刑」ダッ
幼久「全力で逃げろぉぉぉー!」ダッ
幼咲「むーー…」
シロ「…なに?」
幼和「あいぴーえすさいぼーというものでどうせいでもこどもができるんですよ!」フンスッ
シロ「…和は物知りだね」ナデナデ
和「べ…べつにそんなことは」テレッ
シロ「…和、これは知ってるかな」
和「なんですか?」
シロ「わらび餅はワラビーを粉末状にして作るんだよ」
幼和「!?」
シロ「…嘘だと思うなら咲に訊いてみなよ。本当だっていうはずだから」
幼和「え…?いや…でも…そんなばかな……」
幼咲「……」ジー
シロ「…お…ちょうど良いところに…咲、こっちにおいで」
幼咲「……」プイッ
シロ「…?」
幼咲「………」スタスタ
シロ「………(あぁ、なるほど)」
幼咲「(……シロはわたしのこと…きらいなのかな…)」ジワッ
シロ「……咲」ダキッ
幼咲「……っ」ビクッ
シロ「…拗ねてるの?」
幼咲「…すねてないもんっ」
シロ「……本当に?」
幼咲「…本当に。だからシロはわたしのことはほうっておいてみんなの相手をしてればいいよ」
シロ「………そっか…わかった」パッ
幼咲「あっ…うぅ…」ジワッ
シロ「(…可愛い)」
シロ「(だるい…やりすぎた)ごめんごめん」ダキッ
幼咲「っ!………こんなことしてもだまされないもんっ」ニパーッ
シロ「そう…」ナデナデ
幼咲「……ぜんぜんうれしくないしきもちよくもなんともないかなー」ニヘラッ
シロ「……じゃ、止めるね」
幼咲「そ、それはだめ!」
幼咲「だめなものはだめなの!」
シロ「そっか…だめなものはだめなんだ」
咲「そうなの!だから」
シロ「…じゃあやっぱり止めるね」
咲「え……?」
シロ「…だって撫でるのを止めるのがだめで、
それがだめなんだったらやっぱり撫でるのを止めなきゃいけないよね」
咲「え…?え…?」
咲「な…ならやめるのをだめなことがだめで…でもそれはよくてけどだめで…」アセアセ
シロ「(…やめられないとまらない)」
シロ「…そう言われるとだるい」
幼咲「な…ならなでないでっ!だきしめないで!ぜったいだよ!ぜったいだよ!?」
シロ「…オッケー」
幼咲「ぐっ………むぅぅぅぅ…!」プルプルプルプル
シロ「(…わくわく)」
幼咲「シロのばかーー!」トツゲキッ
シロ「…」アタマオサエ
幼咲「このっこのっこのー!」ブンブン
シロ「(…届かないのに一所懸命腕をブンブン振ってる…可愛い)」
シロ「……大丈夫?汗だくだよ」
幼咲「シロのせいでしょ!」
シロ「…酷い冤罪」
幼咲「…?むずかしいことばでごまかさないでよ!そうやってシロはいつもいつも…!」グゥー
シロ「……お腹、空いたの?」
幼咲「………うん」
シロ「……そろそろお昼だからちょうどいい…だるいけど続きはご飯を食べてから…ね?」ナデナデ
咲「……うん、わかった」
シロ「…今日のお昼は………照焼き」ボソッ
咲「!?」
シロ「…だから…照焼き」
幼咲「だからなんの!?」
シロ「…だから照焼きだって」
幼咲「…ま…またそうやってわたしのことをばかにして…」
シロ「…しまった…咲は知らなかったのか」
幼咲「え…?な、なにが?」
シロ「…調理師のトヨネはどうしてあんなに背が高いのか…考えたことはない?」
幼咲「…トヨネさんが…なんなの?」
シロ「…栄養満点の美味しいものを定期的に食べてるから」
幼咲「……!?」
シロ「……若い肉」
幼咲「」ビクッ
シロ「…瑞々しい肌」
幼咲「」ビクビクッ
シロ「…サラサラの血液」
幼咲「」ビクビクビクッ
シロ「…新鮮な臓物」
幼咲「で…でもそんなことしたらおまわりさんにつかまっちゃうんだよ…!
それに小さい子がいなくなったなんてテレビでやってないもん!」ガクガクブルブル
シロ「…はぁ…エイスリン」
幼咲「っ…エ、エイさんは実家に帰ったって…」
シロ「…うん。還ったよ」
幼咲「な…なに…どういうことなの…?」ガクガク
幼咲「あ…あぁ…!」
豊音「?咲ちゃんどうしたの?ちょーおいしいごはんの時間だよー」
幼咲「…え…て…」
豊音「え?なに?聞こえないよー?」
幼咲「かえしてーー!!」トツゲキッ
豊音「なにをーー!?」
幼咲「このっこのっ…!くそぅっ!このー!よくも!
これはおねーちゃんのぶんっ!これはエイさんのぶんっ!」ポカポカ
シロ「(…ちょーたのしいよー)」
豊音「シロ…嘘ばっかりついてると咲ちゃんに嫌われちゃうよ」
シロ「…そんなオカルトありえない。私は咲が好き。咲も私が好き。WIN-WINの関係」
豊音「…はたしてそうかなー?」
シロ「…?」
豊音「さっきは本当に怒ってたっぽいし」
シロ「」ピクッ
豊音「もうしばらくは口をきいてあげないってさー」
シロ「…だ…だいじょうぶ…なんだかんだで許してくれる」
豊音「仏の顔も三度までって言うしねー…ねー」
シロ「…咲は大天使だから(震え声)」
シロ「(…言われてみれば、この昼寝の時間咲は必ず私に添い寝をねだる…なのに…)」
幼咲「すぅ…すぅ…」ギュー
塞「よしよし」ナデナデ
シロ「(…お洒落眼鏡め…!!)」ギリギリ
塞「」ゾクッ
塞「(すごい視線を感じる…息の根が塞がれそう)」ダラダラ
シロ「(そうとわかれば…)…塞」
塞「なっ…なに?」
シロ「…ちょいこっちきて」
塞「どうしても?」
シロ「…親の死に目に会えなくとも」
塞「(嫌な予感がするけど…逆らえない!)…わかったわ」
塞「……シロ?どこまで行くの?」スタスタ
シロ「…ここらでいい…かな?」
塞「…で、要件はなに…」
シロ「…隙有りっ…!」ガバッ
塞「ちょぉぉぉっ!?」ヨケッ
シロ「…ちっ……」
塞「いきなりなにするのよ!?」
シロ「…そのモノクルは今日から私の物。そしてお前は今日から腰つきが
エロいだけの女になり、マヨヒガ(北○鮮)に送り将軍様を喜び組」
塞「なに言ってるの!?」
塞「(マズいわ…なにがマズいって全部マズい!言ってることはわからないけど…兎に角今のシロは漲ってる!)」
シロ「…分かってるよ。あなたのシアワセ、ウチのシアワセ。塞ならそう言ってくれると信じてる」ジリジリ
塞「それは違うわシロ!信じることは疑うことなのよ!」
幼霞「先生方」
シロ「…か…」ビクッ
塞「かすみ…さん?」ビクッ
幼霞「静かに、してもらえますね?」ニコッ
シロ「…命に代えても」
塞「モノクルが割れても」
シロ「…全く…塞が素直にモノクルを渡さないから」
塞「え?私にも過失があるの?…まぁ、いいわ。兎に角色々なことがもういいわ。
で…なんで急に私のモノクルに狙いを定めたのよ」
シロ「……知的系モテカワキャラになりたくて」
塞「そういうのはいいって言ってるでしょ」
シロ「…………だるいから言いたくない」
塞「はぁ………」
キライなんて欠片もなかったのに」
シロ「…時が経てば誰でも変わる」
塞「たとえ本気の言葉であっても、冗談っぽく言えば万が一の事があっても傷つかないものね。冗談で済むものね」
シロ「…………」
塞「…咲ちゃんと出会ってからよね」
シロ「…そんなこと…」
塞「あるわよ」
シロ「……だるいから考えたことない」
塞「はいはいだるいだるい」
シロ「…私…病弱だから」
塞「それは違う子の持ちネタでしょ」
シロ「………」
塞「…本気なら、相応の態度で接しなさいよ」
シロ「……分かってる」スタスタ
シロ「(……だるい。だるいだるいだるいだるいだるい)」ゴロゴロ
シロ「(…塞のせい…塞のせいで……)」ゴロゴロ
シロ「(…変わった…変わったのか…私は…昔は…どうだったんだろう…)」ゴロゴロ
シロ「(…思い出せないし…思い出せたとしても戻れない…)」ゴロゴロ
?「シロー」
シロ「っ!」ガバッ
幼久「ひまならあそびましょうよ」
シロ「……久」
幼久「ん?」
シロ「…私は今後一切、久になにも期待しない」
幼久「ひどいっ!?」ガーン
幼和「はい」
幼咲「まだかすみさんとかまこちゃんとかタコスちゃんとかせーらちゃんとかいっぱいいるよ?」
幼久「わかってないわね!そんなにだしたらしゅうしゅうがつかなくなるじゃない!」
幼和「デジタルてきにしゅうしゅうがつかなくなるのはよろしくないですね」
幼咲「…わかったよ…わからないけど」
幼和「……………はぁ」
幼咲「……………いつものことだよね?」
幼久「……咲、和…」
幼和「?」
幼咲「?」
幼久「わたしはこんごいっさい、あなたたちにきたいしないわ」
幼和咲「」ガーン
幼久「というのはじょうだんで」
幼咲「わたしっ!?」
幼和「…ふむふむ」
幼久「よくもまぁそこでいがいそうなかおができるわね」
幼咲「だって、いっつもいじわるされてるのはわたしだよ!だるいのはわたしのほうだよ!」
幼久「へーっだるかったんだー(棒読み)」
幼咲「だるくない…こともないけど」
幼和「ふむふむ(はなしのながれがまったくわかりませんが
きゃらてきにわかったふりをしておきましょう)」
幼和「ふぇっ!?」
幼久「シロがいつもよりだるそうなげんいんよ」
幼咲「のどかちゃんわかるの?」ジー
幼和「そ…そうですね…(どうしましょう…このじょうきょうはすばらくありませんでじたるてきに。
と…とりあえず…いつもとちがったことをあげれば)」
幼和「あっ…お…おひるねのとき…咲さんは塞さんといっしょに…ねてましたよね?それがげんいんだったり…なかったり…だったり」
幼咲「…そうなの?」
幼久「………」
幼和「………」ドキドキ
幼久「さすがのどかね。わかってるじゃない」
幼和「!!とうぜんです!わたしはでじたるですから!」フンスッ
幼久「(てんしょんたかすぎでしょ)」
幼咲「………なんでっていわれても…とくにないけど」
幼久和「……え?」
幼咲「ただそういうきぶんで…ふかいいみはないよ?」
幼久「………ふーん」
幼和「わかってましたよわたしはなにせでじたるですからっ」
幼久「そうなんだ。いみはないんだ。へー、ふーん、ほー」
幼咲「…………」
さてさて、ぎもんもすっきりとけたところでのどか。どう?ふたりでじゅうななほでもやらない?」
幼和「でじたるてきにことわるりゆうがありませんねっ」
幼久「それじゃ、じかんをとらせてわるかったわね咲」フリフリ
幼和「咲さん。またおはなししましょうねでじたるてきに」フリフリ
幼咲「うん、またね」
幼咲「……………」
幼咲「…………そっか…」
幼咲「……ちがうひとといっしょにねてたから…すねてたんだ…」フルフル
幼咲「わーい!わーい!ざまぁみろー!いっつもわたしにいじわるするからそのしかえしだー!」ピョンピョン
幼咲「これをきにわたしにもっとやさしくすればいいんだ!ばーかばーか!」
幼咲「……えへへ…きらわれてるわけじゃなかったんだ…よかった」
シロ「(……本当に嫌われたのか…?咲に嫌われランク世界一なのか?よしんば私が二位だったとしても世界一なのか?)」
シロ「(……もし、万が一仮に嫌われていたとしても…私は悪くねぇ!ヴァン先生がやれっていったから…!)」
シロ「(……こういう知識も無駄についたなぁ…子供が好きそうなもの片っ端からリサーチして…)」
シロ「(正に無駄知識になってしまったわけか…)」
シロ「(…この世に神はいないのか)」
?「シロ」
シロ「っ!?」ガバッ
幼セーラ「おれや」
シロ「…おまえだったのか」
幼セーラ「まただまされたな」
シロ「…暇を持て余した」
幼セーラ「かみがみの」
シロセーラ「あそび」
シロ「…帰れ」
シロ「(真面目に…本気で…かぁ…)」
幼咲「(どうしよう…ほんとうにだるそうだよ……あやまったほうがいいのかな…?)」
シロ「(…でも…今は自殺行為だよね…
雌伏の時を耐え忍ぶ極楽の山本さんを見習わなきゃ…諦めなければまた油谷さんに会えるんだ…)はぁ…」
幼咲「(…あやまろうかな……いじわるされたからっていじわるしかえすなんてだめだよね…)」テクテク
シロ「(…山本さんが帰ってくればスタンプも復活するはず…そうや…山本さんがいれば新メンバーなんていらなかったんや!)」
シロ「(またか…)」
咲「あの…」
シロ「…今、考え中」
咲「」ビクッ
シロ「後にして」
咲「…ごめんなさい」ペッコリン
シロ「…ふぅ…まったくもー…」
シロ「………………………ん?」
シロ「(…今の声……まがう事なく咲だったような…)」
シロ「(………ありえないな…デジタル的に)」
シロ「(…どうやら悶々としすぎた結果、脳内願望が耳から漏れ出てしまったようだ……)」
シロ「(…駄目だ…このままじゃ駄目だ…自分から行かなきゃ…謝らなきゃ…)」
シロ「よしっ」グッ
?「……」スタスタ
幼咲「……はぁ」ピタッ
?「……」ピタッ
幼咲「……?」クルリッ
?「…っ」サッ
幼咲「……はぁ…」テトテト
?「……ふぅ」
塞「……シロ?」
シロ「な…」ビクッ
塞「なにしてるの?なんなのその格好」
シロ「……マクミラン大尉ごっこ」
※分からない人はマクミラン大尉 ギリースーツでググってください
塞「……わかったわ。わかったことにしてあげるわ…で…なに?
ギリースーツ着込んで咲ちゃん尾行して、なにをする気だったの?」
シロ「……謝ろうと思って」
塞「両親に?生まれてきたことに」
シロ「…酷い…酷すぎる」
塞「あのさぁ…言ったわよね?真面目にやんなさいって」
シロ「…私は大真面目」
塞「」ギロリ
シロ「ふざけてましたごめんなさい」
塞「正直でよろしい。ところで…まさかこのおふざけに誰か巻き込んでないわよね?」
シロ「…やだなぁ…単独犯に決まって…」プルルップルルッ
塞「…携帯、鳴ってるわよ」スッ シロ「ちょ…」
竜華「こちらHQ。シロ。応答しーや」
塞「作戦終了。速やかに帰投するわ」
シロ「(…なんて言ってらんないよね。全面的に私に非があるんだから。私が謝らないと)」
シロ「よしっ」
塞「言い訳は?」
シロ「…ナルガ装備なら…ナルガ装備なら間違いないと思って…!」
咲「…(塞さんとシロ…なかよしさんだなぁ…)」
咲「…でも、よくかんがえたら…シロはみんなにやさしい…みんなのことがすき」
咲「…あたりまえのこと…なのかなぁ」
咲「……」グスッ
その頃
竜華「どうやシロ!このサイコガンなら咲ちゃんもイチコロやで!」
シロ「…ヒューっ!」
塞「いい加減にしなさいよあんた達っ…!」ビキビキ
塞が最後の良心
塞「みんな、さようなら」
「さようならー!!」
シロ「(……私は…一体何をやっているんだ…)ガックリ」
塞「シロ…シロ!」
シロ「……なに?腰つきのエロい人」
塞「うん、許す。全部許すわ。だからシロ、咲ちゃんの面倒よろしく」
シロ「…なんと?」
塞「親御さんから連絡があったのよ…急に仕事が忙しくなって今晩は帰れないそうよ」
シロ「………つ…つまり…?」
塞「きちんと面倒、みなさい」
シロ「(…神は生きていた)」パァァ
幼咲「(シロ…くらいかおでなにかブツブツ呟いてる…やっぱり……いやだよね…おしごとでもないのに…めんどうくさいよね)」
幼咲「…シロ…いやならいやっていってもいいよ」
シロ「……どうしてそんなこと言うの?」
幼咲「だって…めんどうくさいでしょ。だいじょうぶだよ。わたしひとりでおるすばんできるよ」
シロ「……一人でお留守番できるんだ…偉いね」ナデナデ
幼咲「っ…うん……だから」
シロ「でも…咲が一人で寂しくお留守番してる所を想像すると死にそうなくらいだるくなるから」ギュッ
幼咲「……あっ…」
シロ「…一緒に帰ろう」
幼咲「……うん」コクリ
シロ「(…うーん…どうしよう…即オッケーしたものの…コンビニにお世話になりっぱなしの私になにができるのか…)」トテトテ
咲「(シロ…あるくはやさ、あわせてくれてる…やさしいなぁ…やさしいよ)」トテトテ
シロ「(…そして謝る。家事と謝罪…両方やらなきゃならないのが辛いとこだね)」トテトテ
咲「(でも…とくべつだから…じゃない…)」シュン
シロ「………寂しいの?」ナデナデ
咲「え……あぅ…」
シロ「…大丈夫。今日は一緒だから…」
咲「(……ずるいなぁ)」
シロ「(えーと…塞いわく、確か合い鍵は玄関の上の…あった)」ガチャガチャ ガララ
シロ「…おじゃまします」
幼咲「(……わたし…わるいこなのかな…シロはわたしがさみしくないようにきをつかってくれてるのに…)」
シロ「…咲…入って」
幼咲「あっ…た…ただいま」
シロ「…ん…おかえりなさい」ニコッ
幼咲「~~っ!?(わ…わらった…シロが…うわ…すごいきれい…かお…あついよぉ…!)」
シロ「…これ、ひさしぶりに言いたかったんだよね…一人暮らしだと言う機会が…咲…咲ー?」
幼咲「…な、なんでもないもん!」
一方その頃
竜華「邪魔するんなら帰ってやー」
塞「…急になに?」
竜華「言わなあかんねん」
塞「(そして私は考えるのをやめた)」
シロ「(…よし…風呂は焚けた…さすが私。やれば出来る子。後は料理……自分を信じるしかないかぁ…)」
咲「(うぅ…シロのえがおが…あたまのなかからきえないよぉ…)」モンモン
シロ「(冷蔵庫の中には…おぉ…カレールー…天の恵み…野菜もバッチリ。これならサラダも…)」
咲「(どうしようどうしよう…たぶんかおまっかだよぉ…!)」
シロ「…そうだ、咲。お風呂はご飯のあと、さきどっち?」
幼咲「はいぃっ…!?えっと…さ…っ…じゃなくてあと!あとで!」
シロ「…そっか…あ、でも時間かかりそうだから先に…」
幼咲「いいからっ!あとでいいから!」ズイ
シロ「…お…おう」
幼咲「シロ。わたしもてつだう」
シロ「(手伝わなくてもいいって言ってもきかないだろうから…ケガしないやつを…)」
シロ「…じゃあピーラーでジャガイモとニンジンの皮むきを」
幼咲「うん、がんばるよっ」
シロ「…ほどほどにね」
幼咲「よいしょっよいしょっ」スーッ
シロ「!?」
幼咲「よいしょっうんしょっ」
シロ「(咲が皮を剥いている)」
幼咲「よいしょっ」
シロ「(咲が皮を剥いている…!)」
幼咲「うんしょっ」
シロ「(咲が一所懸命皮を剥いている…!)」
シロ「…クールクールクールクールクールクールクールクール…!」ガンガンガンッ!
咲「シロ!?シロー!?」
シロ「…我ながらよくできたもんだ」
咲「(よしきめた……いまはいろいろかんがえるのはやめよう…シロはわたしをさみしくさせないようにがんばってる。
ならわたしもシロをたのしいきもちにさせるためにがんばる!)」
咲「すごいよシロ!とってもおいしそうっ!」
シロ「…せやろーさすがやろー」
咲「さすがだよぉー」ニコニコ
シロ「……でも…ちょいタンマ」
咲「(どうして、さ…さむけが)」ゾクッ
シロ「…たしか…隠し味にチョコレートを入れると美味しくなるとか…」
咲「!?」
幼咲「(止めなきゃ…!)あの…シロ」
シロ「…ちょい待っててね咲。咲のために作ったカレー。とびきり美味しくするから」ニコッ
咲「」プシュー
シロ「…えーっと…ここらへんだったかな?」
咲「(うんもんだいないもんだいないよねシロがわたしのためにつくってくれるんだからおいしくないなんてことがあるだろうかいやないありえない(0.1秒)」
シロ「…っと。随分深いところにいたなぁ…」
シロ「あとは…牛乳と…」
咲「(のむヨーグルト!?)」
シロ「…コーヒーとー…」
咲「(インスタントコーヒー!?)」
シロ「……はちみつは…これでいいかぁ」
咲「(はちのこ!?)」
シロ「……では、いざとうにゅ」
咲「やっぱりだめーっ!!」
幼咲「とっても美味しいよシロ!」パクパク
シロ「…そう…よかった」
シロ「本当によかった…」チラッ
幼咲「?」ニコッ
シロ「っ……けど…最後の最後…咲は私を信じてくれなかった…」シュン
幼咲「うっ…」ズキンッ
シロ「…悲しかった」ジー
幼咲「うぅ…ごめんなさい…けど、あのままじゃなたいへんなことになって…
で、でもわたしのためにっていうきもちはうれしくて…」タジタジ
シロ「(…可愛いなぁ)…嘘」ナデナデ
咲「…はえ?」
シロ「…あんなの入れるわけない。常識的に考えて」ナデナデ
咲「もーっ!またすぐそうやっていじわるばっかり!」
シロ「(…だめだなぁ…私は)」
シロ「(分かってる…私がこうなった理由…痛いほど。色々な感情をこじらせすぎて…結果現在に至る)」カチャカチャ
シロ「(その元凶が…)」
幼咲「~♪」キュッキュッ
シロ「(…このちんちくりん)」ツンツン
幼咲「きゅっ…急にほっぺたつつかないでよぉ」
シロ「(…我ながら、どうかしてる…)…終了っと」キュキュッ
咲「(…きた…ついにきたよぉっ!ごはんはたべた!はもみがいた…あとは)」ドキドキ
シロ「…咲、お風呂…」
幼咲「…っ」ドキドキドキ
シロ「…先に入ってきて」
幼咲「……ゑ?」
幼咲「……うぅ」モジモジ
シロ「(…あぁ…そっか…一緒に入らないとダメか)…なんてね」
幼咲「もぅー!すぐこれだよ!」
シロ「…ごめんごめん。着替え、持っておいで。一緒に入ろう」ナデナデ
幼咲「…うん」トテトテ
シロ「……………おかしいなぁ」
シロ「(一緒にお風呂…咲の年齢を考えたら当たり前なのに…というかそれをネタにいじり倒すはずなのに…)」
シロ「(…本当に…本物…なのかな…私)」
シロ「…」ブンブン
シロ「…考えちゃいけない…よなぁ」
幼まこ「きんぐくりむ…」
胡桃「うるさいそこ!」
幼まこ「はいっ」ビクッ
お風呂中
シロ「…さぁ咲…座って…隅々まで洗ってあげるから…」
幼咲「…お…おてやわらかにおねがいします……」ストン
咲「…あ…ありがとぅ(ほめられるのはうれしい…うれしいけど…シロにほめられても)」チラッ
シロ「……」ワッシャワッシャ
幼咲「(……れべるがちがいすぎるよぉ…おはだのしろさも…)」
幼咲「(おもち…はしかたないよね…!わたしにはみらいがあるもん!だいじょうぶだもん!)」
シロ「………」スッ
幼咲「ひゅぅっ!?シ…シロ…きゅうにまえは…ちょっ…くすぐったいよぉっ!」ジタバタ
シロ「…暴れちゃだめ」ギュッ
幼咲「ひゃふっ…!?(あったかいすべすべぷにぷにきもちいいくすぐったいはずかしいなにこれなんなのどういうことなの)」プシュー
シロ「…そう、いい子いい子」ワッシャワッシャ
幼咲「」ドキドキドキドキドキドキドキドキ
咲「そんなにかみ、ながくないし(まださっきのぷにぷにがからだにのこって…というかせなかにあたってるよぉ…!)」
シロ「……流すよ。目、瞑って」
咲「ん…」
シロ「……」シャー
咲「(なんでだろう…めをつむったらぷにぷにがおおきくかんじて…!)」
シロ「……」シャー
咲「(は…はやくおわってよぉっ…)」
咲「う…うん(お…おわった。あぶなかったー。ぷにぷにのせいであたまがどかーんてなるところだったよぉ)」ガララ
咲「(あ…おゆがあさめになってる…)」チャポン
咲「(…あつくないけどぬるくない…いいかんじ)」ハフゥー
咲「(こういうときはやさしいんだよね…)」ジー
シロ「……」ワッシャワッシャ
咲「(あれ…なにかわすれて…あぁっ!?)」
シロ「……」ワッシャワッシャ
咲「(シロのからだ…あらわないと…!で…でももうせなかはおわってるし…まえだけ…なんてはずかしくていえないよぉ…!)」
シロ「………」ワッシャワッシャ
咲「(せめてかみだけでも…あ…あ…あーー!)」
シロ「……咲、楽しいのそれ?」チャプン
咲「……ブクブクブク」コクリ
シロ「…体…ちゃんと拭かないとね」フキフキ
幼咲「それくらいじぶんでできるってばっ」
シロ「……次は服を」
幼咲「それもできるよっ」フンスッ
シロ「…よしよし…えらいえらい」ナデナデ
幼咲「……えへへ」
シロ「……」ドキッ
幼咲「~♪」キガエチュウ
シロ「……着替えたね…行こうか」
幼咲「うんっ!ってシロ!?なんでパジャマきてないの!?」マッカ
シロ「……だってあとは髪を乾かして寝るだけだよ…なにも問題ない」
咲「え…そ…そうなの?おとなのひとはなにもきないでねるの?でも…おとーさんは…」
シロ「…ちっちゃいことは気にするなー」スタスタ
咲「気にするよぉっ!」
シロ「………うん……だいじょうぶ…私はだいじょうぶ…私は咲の傍にいていい…はず…」
シロ「そろそろ…あやまらないとなぁ」
ベッドイン
幼咲「……」モジモジ
シロ「…そんなところに突っ立ってないで…おいで」ポンポン
幼咲「(おもちが…!おはだが…すべすべぷにぷにが…!)」ゴクリ
シロ「……」ジー
幼咲「……し…しつれいします」バサッ
シロ「……どうぞ、おかまいなく」
幼咲「」ドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキ
シロ「……」ギュッ
幼咲「!!??γαβ」
幼咲「わ…あわわわっ」ドクドクドクドク
シロ「……ねぇ、咲…」
幼咲「ななななに…」ドクドクドクドク
シロ「…咲は…私のこと…どう思ってる…?」
幼咲「ど…どうって…」
シロ「……嫌い?」
幼咲「そんなこと…!」
シロ「………だよね。ごめん。そういうに決まってるよね。
咲は優しい子だから、嫌いな相手でも嫌いだなんて言えないよね…わかっててきいた……卑怯だなぁ…私は」
そしたら頭の隅に追いやってた不安要素がドンドン湧き出て…たまらなくなって」ギュー
幼咲「…」ギュッ
シロ「…他にも考えることがあって…気がついたらいつの間にか
好かれてるわけがない…そうとしか思えなくなった」
咲「……うん」
シロ「…素直に謝ろうって…そう思ってたはずなのに…その謝罪を素直に受け入れられた時のこと、
悪い意味で跳ね返された時のことを考えたら怖くなって…私は結局咲の優しさに甘えることにした」
幼咲「……そうなんだ」
シロ「………………ごめん。全部ごめん」
幼咲「……シロ」ギューッ
シロ「……」
幼咲「わたしも…そのきもちわかるよ…」
シロ「……?」
幼咲「…わたしも…わたしのせいでシロが色んな人にいっぱい怒られて…」
シロ「……(…なんだっけ?)」
幼咲「それがきっかけで…みんなバラバラになっちゃって」ギュー
シロ「(なんだっけ…それ)」
幼咲「せっかくシロがたすけようとしてくれたのに…わたし…もっとくらいこになって…」ギューッ
シロ「(………そんなこと…あったような…)」
ともだちのいないわたしにともだちをつくるきっかけをくれたり」
シロ「(……あ…)」
幼咲「うれしかったよ。でも……こころのなかではごめんなさいでいっぱいだったの。
そのごめんなさいをシロにみせちゃうと、もっとむりするからがんばってギュッとして」ギューッ
シロ「(………あぁ)」
幼咲「ときどきギュッとしきれなくて……シロにみせちゃって…わたしはシロにとってめんどくさい
だけのこどもなんじゃないのかって…
」
シロ「(思い出した)」
咲「そうかんがえちゃうとひょっとしたらへんなこともただあいてをするのが
めんどくさくていいかげんにつきあってるだけなんじゃないのかって」
シロ「(なんで…私は…こんな大切なこと)」ギュー
幼咲「よかった…よかった…よかったよぉぉぉぉぉ!」ギューッ
シロ「(そっか…いたなぁ…できそうな人…できるもんなんだ…そんなこと)」ポロポロ
幼咲「ヒック…えぐ…シロ…シロ…大好きだよぉっ!」
シロ「…私も…大好き…」ギュー
同時刻某所
塞「っ!?」パリンッ!
竜華「うわっ!モノクルが割れよった…ってことはまさか…!?」
塞「……えぇ、思い出したのね…シロ」
竜華「そっか…そっかぁ…ひっく……グス」
塞「ちょっと…泣かないでよ竜華。私まで変な気分に…」
竜華「だって…だって…!エビスにモノクルの破片がはいったんやもーん!!」ビャービャー
塞「……あんたつくづく大物だわ…」
…どうしたの?
幼咲「」ビクッ
……だいじょうぶ。私は怖くない。咲ちゃんの味方。
幼咲「……」
なんで泣いてたの?
幼咲「………わたし」
うん
幼咲「まーじゃんきらい」ポロポロ
…詳しく聞かせて
咲「せ…せんせー…」オドオド
…勝つな負けろだなんて…ヤクザより質が悪い。…いえ、違います。ヤクザ以下だと言っているんです
塞「バカ…!やめなさいっ!」
……反論、ありませんよね。兎に角、咲ちゃんには麻雀を打たせないでください。
幼咲「せ…せんせー…おかーさん…やめてよ…」
…家庭の問題に口を出すな?こっちの問題でもあるんです。…現に咲ちゃんは暴力団のシノギ紛いの家族麻雀のせいで
心身共に疲弊し園内でも塞ぎ込んでいます。
無理もありません。勝てば褒められる…と思いきやまさか怒られるとは…夢にも思わなかったでしょうねぇ
…あぁ……こんな小娘に言いたい放題言われて苛々するというその気持ち…わかります…私も全く同じ気持ちです
暗転
照明
咲父「君の気持ち…わからなくもない…現にすれ違いは年々増していった…
こうなるのは時間の問題だったのかもしれないが…ここまで壊れるはずじゃなかった!」
塞「言いたいこと…?なにもないわよ。強いて言うならいっぱい食べて、いっぱい寝なさい。酷い顔、してる」
竜華「で、でたー!保護者にマジ切れ奴ーwwwww」
バキッ!
竜華「あぁーー!?シス仕様のライトセイバーがぁぁぁぁ!!」
塞「ほんとバカよね…」
シロ「…めんぼくない…」
塞「…どっからどうみてもバカップルの分際で…嫌われてるかもしれない?」
シロ「………」
塞「バーカバーカ。あー痒い痒い全身痒いわー」
シロ「…背中…掻かせていただきます…」
塞「触らないでよ。シロミ菌がうつるじゃないの」
シロ「シロミ菌…!?」
塞「感染者を皆鬼畜ロリペド野郎にする悪魔の病原菌よ」
シロ「…いじめだ。小学生のいじめだ」プルプル
塞「このくらい言わせなさいよ。今までどれほど神経を集中させてあげたことか」
シロ「……ごめん」シュン
シロ「……」
塞「だから私は塞いだわ…現実に立ち向かえるその時まで…がしかしよ。その間まさかここまで悩みこじらせ性格こじらせ性癖こじらせるとは思わなかっ」
シロ「……私はペドじゃない!しっかり確かめたんだ!」
塞「確かめた?」ヒキッ
シロ「…ん…全くこれっぽっちも反応しなかった。つまり私は十年待てる逸材」ドヤ
塞「あぁ…自白か」
シロ「ちがう…!?」
幼咲「ぅ…むぅ…」スヤスヤ
シロ「…大声出させたくせに…」ナデナデ
塞「これから…どうするの?」
シロ「…ん」
塞「お姉ちゃんとは親交があるようだけど…母親は絶望的じゃない」
シロ「…なんとかする。必ず、絶対」
塞「その時は…私も呼びなさいよ。私にも責任はあるんだから」
シロ「でも…」
塞「デモもストも無いわ。ずっと面倒みてあげてたのよ。最後まで付き合わせなさいよ」ニコッ
シロ「……腰つきのエロい人」
塞「許さない。絶対によ」
シロ「…ありがとう」
塞「最初から素直にそう言いなさいよ」
竜華「トキィ…!!この清水谷竜華大先生にキングボンビー憑かせるとはいい度胸やないかい!表出ろやぁぁ!!!」
幼トキ「うわーっちっさいちっさいわー。某国しかりじぶんに大つけるやからはこものと決まってるんやでー」
竜華「ななな…なんやと…!?そんな生意気な口きくやつには二度と膝枕させてあげへんで!」
幼トキ「べつにええもーん。塞せんせーの腰枕があるし」
竜華「こ…腰枕…!?なんやその素敵な響きのする単語は!?」
幼トキ「なんや竜華だいせんせーはまだみたいけんなんかー。ひょっとして嫌われてるんちゃう?」
竜華「そんなことあるかい!塞とはツーカーの中や!頼めば腰枕だろうが腹枕だろうが胸枕だろうが恥骨枕ろうがノー問題や!」
塞「…さぁて、私は園児より手のかかる大きなお友達の相手をしてくるわ」
シロ「…お疲れ様です」
シロ「…竜華のこと、悪く言わないで」
塞「…ごめん。そんなつもりじゃ」
シロ「…わかってる。でも、私が変われたのは竜華のおかげでもある」
塞「私だってそうよ」
どしたー塞?景気の悪い面しよって。あ?理想と違う?アホかい。んなもん当たり前やんか!
大体なーグチグチ言いながら仕事しとるってことはどっかで手ぇ抜いとる証拠や。
全力で事にあたり、仕事覚えて余裕を持てるようになれば、気付かなかったやりがいに気付くはずや!そうすりゃきっと楽しくなるで!
なんやシロ…子供と仲良くなる方法…?んな今更…まぁええわ。そんなもん、全力で楽しむことに決まっとるやないかい!
大人がこれごっつ楽しいねんでーって心の底から本気で思わな子供が興味持ってくれるはずないやろ
無愛想?気にすんなや!一所懸命ってもんは子供に絶対伝わるもんやで!
シロ「…竜華によろしく」フリフリ
塞「一つ…言い忘れてたわ」
シロ「……?」
塞「その特別扱い…大っぴらにやらないでよ」
幼咲「……」スヤスヤ
シロ「…無理…何故なら咲は特別な存在だからです」
塞「一人の子供を特別扱いしてるのが親御さんにバレたら問題になるのがわからないほどあなた様の脳みそは色ボケしちゃったわけ?」ギリギリ
シロ「…心得ました」
塞「はぁ…じゃ、ごゆっくり」スタスタ
シロ「…咲は…塞いでなかったんだよなぁ…」ナデナデ
幼咲「…むぅ」ゴロゴロ
シロ「…強いよ…咲は。私も強くなりたいな…」ナデナデ
幼咲「えへへー」ムニャムニャ
シロ「…なりたいじゃだめだ。強くならなきゃ…」
シロ「…咲、あんまり強くなりすぎないでね。守られてばっかりじゃ…だるいから」
咲「んんー」ゴロン
シロ「(咲の唇…!?)」
シロ「……」キョロキョロ
咲「うぅ…ん…」スヤスヤ
幼咲「…」スヤスヤ
シロ「…いざ…」グッ
幼咲「……」スヤスヤ
シロ「………」ググッ
シロ「…ちょいタンマ…!だめだめ…十年十年」
幼咲「……ちぇっ」ボソッ
シロ「…んん…?」
幼咲「…」スヤスヤ
シロ「…気のせいか」ナデナデ
幼咲「……」スヤスヤ
シロ「…今はこれで我慢してね…私も我慢するから」ナデナデ
幼咲「(…しょうがないなぁ)」
なんや?
あの二人…うまくいくと思う?
まぁ…立場的倫理的に応援し辛いのは確かやな
そうじゃなくて…
勝手に背負って勝手に抱えて勝手に悩んで勝手に泣いて…今世紀最高の遠回りカップルやけど…なんとかなるやろ
どうして?
シロの持ち味は、わけわからんところで悩んで迷って頓珍漢な一打を打って…
そんでも結果最高系…それが持ち味やろ?
そうね…その通りだわ
もし、本当に出口の見えない迷路に迷い込んだとしても…咲が入れば安心や。
なんせあの子は、森林限界の山の上だろうと花咲かせる一輪の花。
どんな場所に迷い込もうと、道標になってくれるわ
カン
相当行き当たりばったりで書いたんでめちゃくちゃです。
初SSなもんで許してください
…寝ます。お休みなさい
ちょーよかったよー
Entry ⇒ 2012.10.11 | Category ⇒ 咲-Saki-SS | Comments (0) | Trackbacks (0)
○○(・・・・・なんで俺はこんなところにいるんだろう)
・・・・・なんで俺はこんなところにいるんだろう。
確かに招待状は着てた。出席に丸をつけて返信したが、実際に会場に到着したのは披露宴どころか2次会からだが。
もとから人が多いところはそんなに好きじゃない。
特にこんな場所では。
手には時間が経って、冷たさと気の抜けたビールの入ったグラス。
情けない話だ。
今の俺はこのビールと同じだな。
そんなくだらないことを考えつつ、壁に背をもたれ会場を見渡す。
学生時代の友人が話しかけてきた。
助かった。話し相手がいなくて困っていたし、こいつと会うのも久々だ。
気を紛らわすためにも会話でもしていれば・・・・。
友人「久しぶりだなぁ、大学の卒業以来か?そういえば、お前いまどんな仕事してるんだっけ?」
○○「4年振りか、ホント久々だよ。今はただのサラリーマンやってる。ようやく一人前扱いされるようになってきたんだ。」
友人「そうかそうか!」
このときばかりはコイツのやかましさが心地いい。
このまま話していれば、最低限の係わり合いだけで終れるだろう。
むしろ、未練だらけなのかもしれない。
だからこそ
直接会うことだけは
直接会話することだけは
なるべく避けておきたい
○○「!」
何故だ。
いや、「何故だ」じゃない。
彼女は今日の主役だ。
ここにいることは当然だ。
視界の端に彼女がいた。
純白のドレスに身を包み、他のゲストと歓談しているようだ。
やめよう。
彼女を目で追うのは。
あぁ、本当にコイツは勝手に喋ってくれる。
今日ばかりは心の底からありがたい。
彼女との思い出を思い返す時間を勝手に貰うぞ。
-----------
○○「随分とオカタイな鉄面皮。」
留美「あら、貴方のようにイイ顔ばかりしている男よりかはマシだと思うわよ?」
出会いは最悪。
所謂、ソリが合わないというやつだった。
-----------
雪がちらついている。
○○「付き合ってくれないか?」
留美「お断りよ。と、以前の私なら言っていたでしょうね。」
留美「でも、今の私は貴方にこんなに惹かれてる。」
留美「これからよろしくね。」
冬の寒い雪の降る日、俺たちは付き合い始めた。
-----------
留美「貴方って本当にものぐさね。」
唐突に留美がそんなことを言う。
留美「なんで?って顔してるわよ。」
そりゃそうだ。心当たりが思いつかない。
留美「靴下。大方、帰ってきて脱いだんでしょうけど廊下にそのままだったわよ。」
あぁ、そういえば脱いだ気がする。忘れていた。
留美「脱いでそのまま洗濯機に入れておけば手間は減るじゃない。」
留美「洗濯し忘れる、なんてことも無くなるんだから。」
○○「ごめん、忘れてた。」
留美「次からは忘れずに。洗濯する私のためにもね。」
同棲してから家事でお世話になりっぱなしだ。
-----------
思い出の中の彼女は笑顔で溢れていた。
○○「・・・・あ。」
無意識に呷っていたらしい。
右手に持っていたグラスは、いつの間にやら空になっていた。
○○「悪い、なんかおかわり貰ってくるわ。」
友人「わかった。けど、飲みすぎるなよ?」
○○「はいはい。」
友人と別れてカウンターへと足を向ける。
さっきはビールだった。
次は何を飲もうか。
カクテルもいい。
飲んだことはないが聞いたことがあるモノがあった。
○○「ホワイト・レディをお願いします。」
バーテン「かしこまりました。」
白い貴婦人とも言われるカクテル。
この場に合うか合わないかはこの際どうでもいい。
酔えれば、いや、飲めればいい。
ふと振り返る。
いた。
さきほどと同じ純白のドレスに身を包む彼女が。
会場の中央に。
俺ではない別のオトコの傍らに。
おそらくはそのオトコとの間に生まれた小さな子をその両腕に抱いて。
笑顔で。
俺にも見せていたあの笑顔。
だけども、どこか違う笑顔。
もう俺に向けられることの無い笑顔。
あぁ、わかる。
泣いている。
止め処なく涙が溢れる。
止められない。止まらない。
○○「っっく!・・・ううっ!っぐ!」
一度流してしまったら止められない。
耐え切れずに膝をついてしまった。
俺はこんなにも弱かったらしい。
自分自身への情けなさ
惚れた女と添い遂げられなかった悔しさ
ゴッ・・・・ゴッ・・・
拳を床に叩きつける。
この感覚が、この痛みが今の俺なんだ。
それでも涙は止まらない。
止めたくない。
彼女を見たくないから。
ドゴォ!
!?!?!?!?
何が起きた?
俺は四つんばいになってたはずだ。
なんで、仰向けに?
え?
なんで彼女が?
なんで俺を見下ろしてる?
留美「貴方なら祝ってくれると思っていたのだけどね・・・・。」
蹴り上げられた・・・・のか。
だから仰向けになったのか。
留美「もういいわ。自分でなんとかしなさい。」
留美「・・・・・ばか。」
あぁ。
やっぱり俺は彼女のことが、留美のことが大好きなんだ。
愛してたんだ。
だから、涙が、想いが止まらないんだ。
受け入れよう。
この愛を、この想いを。
彼女の今の幸せと、これからの幸せを。
留美「当たり前じゃない。惚れた弱みでしょ?」
○○「いま幸せだろ?これから、もっと幸せになってくれ。」
留美「・・・・えぇ、幸せよ。」
留美「絶対に、絶対に今よりも幸せになってみせるわ・・・・。」
これ以上の言葉はいらない。
俺から視線を外し、去っていく彼女。
これでいい。
○○「えぇ、大丈夫です。」
○○「気分がいいので、もう少しこのままでいます。」
大の字で寝転がるなんて何年振りだろう。
周りの邪魔になるだろうが、そんなことはお構いなしだ。
○○「モバPさん。」
モバP「はい、なんでしょう?」
○○「留美、いや彼女のこと絶対に幸せにしてあげてください。」
○○「俺が惚れた、愛した人ですから。」
モバP「言われなくとも、と言いたいですが・・・。」
モバP「全身全霊で幸せになってみせます。」
○○「頼みますよ。」
けれども、悲しみの涙じゃない。
未練は当然ある。
もっといい恋をしよう。
もっと深い愛を育もう。
そう思えてくる。
そのためには、いい人を探し出さないとな。
自然と笑みが生まれてくる。
彼女がうらやむようなアツイ恋を、深い愛を手に入れよう。
この未練とは一生の付き合いになるだろう。
それでいい。
だからこそ、笑って進むことが出来る気がする。
○○「結婚おめでとう、留美。」
小さく、けれどもありったけの想いを込めた祝福の言葉。
その言葉は、驚くほど素直に言えた。
了
初自作SSです。
アイドルやPが主観のSSがあるなら、第三者のものがあってもいいのでは?
と思って書きました。
この作品のきっかけはモバマスのSR和久井さんのイラストと
後輩の結婚式でした。
ほとんど勢いで書いたので書くことも大してありません
お目汚し大変失礼いたしました
乙!
Entry ⇒ 2012.10.11 | Category ⇒ アイマスSS | Comments (0) | Trackbacks (0)
やよい「お泊り?」亜美「うんうん」真美「///」
真美「亜美じゃん。どったの?今日直帰っしょ?」
亜美「なんかねー、パパ達がなんとかパーチーに行くとかで今日帰ってこないって」
真美「えー、そんなの聞いてないよー」
亜美「まあそんなわけでご飯代としてこいつを頂いたんですが…」
真美「い、一葉さん!?それってこれってもしかして!?」
亜美「余りは小遣い」
亜美真美「「ラッキーデー!!」」
亜美「亜美もー…ファミレスとかだと一人1000円超えちゃうよねぇ…」
真美「むむむ…」
亜美「むむむ…」
「…っうー!今日も一日お疲れ様でした!はい、たーっち」
「「いぇい!」」
亜美「…」ティン
亜美「へいへい、やよいっち!」
やよい「う?亜美、どうしたの?」パタパタ
亜美「ここに5000円札があります」ピラッ
やよい「はわっ!亜美、こんなところでそんな大金出したらだめだよ!」
亜美「こいつは亜美達二人分の夕食代+お小遣いです」
やよい「へぇーそうなんだー」
亜美「そこで物は相談なんだがね、やよいっち」
真美「亜美、まさか…!」
亜美「ここから1000、いや1500出そう!それで亜美たち二人に夕飯を振舞ってはくれまいか!」
やよい「え……えええええええっ!?」
真美「や、やっぱり…」
やよい「さすがにそこまでは…100円くらいだよー」
亜美「ふむ、それが兄弟5人で500円、これに亜美達の1500円を足して2000円!それを亜美たち二人を含めた7人で割ると…えっと…」
やよい「一人当たり285円で余りが5円!」ビシッ
真美「計算はやっ…」
亜美「そ、そう!3倍近い資金が夕食に使えることになるわけだ」
やよい「で、でも…」
亜美「やよいっちの家は食卓が潤う!亜美たちはおいしい食事をおなかいっぱい食べて懐もあったか!」
亜美「まさにWIN-WINの関係と言えるのではないだろうかっ!」ドドーン
やよい「…うぃんうぃん?」
真美「どっちにとってもいいことって感じ…かな」
真美「…」キュン
亜美「でしょでしょー?」
やよい「で、でも…」
亜美「ん?どったの?」
やよい「1500円はさすがに貰いすぎかなーって…元々亜美達のお金だし、ちょっと悪いような…」
亜美「うーん…じゃあ、宿泊代も込みってことで!家に帰っても今日は親帰ってこないしねー」
真美「ちょ、亜美!?」
やよい「亜美達がそれでいいならいいけど…」
亜美「やーりぃ!」
真美「うぅ…」
真美「ふえぇっ!?」ドキッ
やよい「私の家に来るのいやなのかなーって」
真美「そ、そんなわけないじゃん!」
やよい「でもさっきからなんか元気ないし…」
真美「それは、ほら、あれだよ!今日のレッスンがハードだったからおなか空いちゃって…」
真美「だからやよいっちの作るご飯、楽しみだなー!」
やよい「そうなの?うっうー!じゃあ今日は腕によりを掛けておいしいご飯作るね!」ニコッ
真美「う、うん…///」
やよい「そうと決まればお買い物に行かないと!じゃあ先に行ってるね。また後でー」タタッ
亜美「…」ニヤニヤ
真美「…」
亜美「…」ニヤニヤ
真美「…亜美、なんなのさ」
亜美「んっふっふ~真美ってばオ・ト・メですなー」
真美「な、なあっ!?真美はやよいっちのことなんて…!」
亜美「亜美はやよいっちのことなんて言ってないけどー?」
真美「あっ…うぅ…」
亜美「双子ってことをおいといてもさ、あんなバレバレな態度とってたら誰にだってわかるっしょー」
亜美「あ、※ただしやよいっちは除くって感じかな」
真美「安心していいんだか悪いんだかわかんないよー」
亜美「せっかく亜美がオデンダネしてあげたんだから、据え膳皿までとかちつくちてよねっ!」
真美「色々ごちゃごちゃでわけが分からな…ってそうじゃん!こ、これからやよいっちの家に行くって…しかも泊まりとか…」
真美「……」
真美「うあうあー!ど、どどどどどーしよー!!心の準備とか!体の準備とか!って体の準備ってなにさ!」
亜美「ま、真美!落ち着いて…!今すぐやよいっちの家に行くわけじゃないから!亜美達も着替えとか持ってこないとだし」
真美「そ、そっか…そうだよね…とりあえず落ち着こう…」スーハー
真美「う、うん…少しは…」
亜美「真美隊員、これから我々は家に帰ってお泊りセット等を回収、やよいっちの家に向かう!」
真美「で、でもさ…」
亜美「ん?」
真美「手ぶらで行っていいのかな…?」
亜美「どゆこと?」
真美「この前ぴよちゃんが言ってたんだよ」
小鳥『好きな人の実家に行くときは手土産を忘れないようにしないと結婚できないかもしれないわ!』
小鳥『妄想の中のシミュレーションは完璧なんだけどな…』シロメ
真美「なにか持ってかないと結婚できなくなっちゃうかもだし…」
亜美(元々性別的に結婚できないことは黙っておこう)
真美「でもでも、なにをもって行ったらいいのかな?今日はもうピヨちゃん帰っちゃってるし…」
亜美「うーん、その辺はやよいっちの家に行くまでに考えればいいっしょ」
真美「あ、うん…そだね。じゃあ一旦帰ろっか」
亜美「うん。にーちゃーん!亜美たち帰るねー!」
P「おー、おつかれー」
真美「げ、兄ちゃんいたのか…聞かれなかったかな…」
亜美「聞いてても問題ないっしょ。兄ちゃんだし」
真美「まあ兄ちゃんならいいか…」
亜美「結局いい案でなかったねー」
真美「うあうあー!このままじゃやよいっちの家に着いちゃうよー」
亜美「うーん…なにかいい手は…」
真美「あっ」
亜美「真美、なんか思いついた?」
真美「やよいっちってさ、確かプリン食べたことないんだよね」
亜美「醤油かけてウニの代わりとして食べたことはあるみたいだけどねー」
真美「だからさ、プリンをプリンとして食べさせてあげるってのは、どうかな?」
亜美「ふむふむ…それって結構いいかも!」
真美「そうと決まればあのお店にGO!!」ダッ
亜美「あっ、真美!待ってよー」ダダッ
亜美「…」
真美「…」
亜美「プリンが…」
真美「あるにはあるけど…」
亜美「ゴージャスセレブプリンEXのみ・・・だと・・・?」
真美「数は…7こ…」
亜美「やよいっちの兄弟+亜美達でピッタリだね…」
真美「…」
亜美「…」
亜美「お値段が…」
真美「一つ500円だね…」
真美「つまり、7個で3500円…」
亜美「…」
真美「…よし」
亜美「ま、真美…?まさか…」
真美「一葉さんを使う…」
亜美「だ、だめだよっ!このお金は二人でポ○モンを買うためのっ…」
真美「すまない、亜美…!やよいっちの笑顔には…」
亜美「兄ちゃんだって悲しむよ!亜美達のために厳選作業やりたいって、言ってたじゃない!」
真美「いや、兄ちゃんは真美達に命令されるのと、報酬の双子サンドイッチびんたが目当てなだけだと思う…」
亜美「…」
真美「…」
亜美「まったく、しょーがないなぁ」
真美「亜美さん…!」
亜美「なんだかんだ言って、亜美にもメリットはあるしね」
真美「メリット?」
亜美「この間兄ちゃんが掃除してるやよいっちを見つめつつ、物憂げな表情で呟いてたんだ」
P『はぁ…できることならやよいの弟か箒になりたい…』
亜美「やよいっちと真美がくっつけば亜美はやよいっちの妹ってことだし、ってことは亜美の旦那様も……」
真美「亜美、あんまり言いたくないけど趣味悪いよ」
亜美「しょーがないじゃん!好きになっちゃったんだから…」
真美「っていうか亜美…?さっき兄ちゃんがいるのに事務所で話したのって…」
亜美「んっふっふ~♪」のヮの
真美「目をそらすなー!」
真美「亜美…ありがと…」
亜美「貸し一つ、だかんね?いや、お泊りの件込みで2つかな?」ニヤリ
真美「いいけど…真美、兄ちゃんの家にお泊りとか絶対嫌だかんね?」
亜美「そ、それは亜美だって恥ずかしいよ///」
真美「真美が嫌なのは別の理由なんだけど…っていうか真美だってやよいっちの家行くの恥ずかしいし…」ブツブツ
亜美「そろそろ行かないとやよいっち待たせちゃうんじゃない?」
真美「あ、確かに…じゃあプリン買ってやよいっちの家へ向かおう!」
亜美「おぉー!」
真美「ついに来てしまった…ここがやよいっちの家…」
亜美「真美ー早く入ろー?」
真美「ちょっと待って…今ココロのゾンビを…」
亜美「準備っしょ」ポチッ
ピンポーン
亜美「ちわー、宅配便でーす。双海さんちの美人姉妹、お届けにあがりましたー」
真美「ちょ、亜美!」
パタパタ…ガチャッ
やよい「亜美、真美!いらっしゃい」ニコッ
真美「可愛いなぁ…」
真美「あっ」
やよい「え、えーっと…///」テレッ
真美「あのそのえっと、だから……エプロン!エプロンが似合ってるなって!」アセアセ
やよい「あ、うん。ありがとー。でもこの間、お料理さしすせそで来てくれた時も私エプロンだったよね?あっちの方が綺麗なのだったと思うけど…」
真美「なんていうか…着慣れてる感じっていうの?それがあるから…」
やよい「あ、そうかな…?えへへ、このエプロンお気に入りだから嬉しいかもー!」
真美(うあうあ~!これ反則っしょー!)
亜美「コホン、そろそろあがってもよいかね?コイツを冷蔵庫に入れないと…」
やよい「う?それなあに?」
亜美「んー、内緒。後でのお楽しみ!先に開けちゃダメだかんねー?」
やよい「う、うん…分かった…!」
亜美「りょうかーい」
真美「ら、らじゃー」ドキドキ
かすみ「あの…いらっしゃい」
亜美「おー、カスミンじゃないか!」
かすみ「か、カスミン…?」
真美「かすみだったらカスミンだYO!こんじょだこんじょってね!」
かすみ「はぁ…あの、姉から聞きました。今日はありがとうございます」
真美「へ?あぁ、いーっていーって!」
亜美「亜美たちにとっても色々都合がいいしね!」
真美「こら、亜美!」
亜美「てへぺろっ☆ミ」
亜美真美「「ん?」」
長介「今日は…い、伊織ねーちゃん来ないの?」
亜美真美((は、はぁ~ん))ニヤリ
真美「少年、残念ながら本日は真美たちだけなのだよ」
長介「そっか…」
亜美「少年、いおりんになにか御用でもあるのかね?」
長介「べ、別にないけど…」
真美「こちらにおわす亜美嬢はいおりん率いる竜宮小町のメンバーでしてな」ニヤニヤ
亜美「言いたいことがあるのなら代わりに伝えてやるのもやぶさめじゃないぞ?」ニヤニヤ
長介「やぶさめ…?いや、俺は…その…」
長介「じゃ、じゃあまた家に…」
やよい「ご飯できたよー」
長介「うわああああああああ!!!」
長介「だ、だって…」
亜美真美「「…」」ニヤニヤ
かすみ「ほら、長介もお皿並べるの手伝って」
長介「くぅ~…」
真美(やよいっちの妹弟のおかげでちょっと緊張ほぐれたかも…少年、この借りはいおりんのでこに反射させて返してやろう…)
やよい「よし、準備できたかな」
亜美「ほほぉ…これがあの伝説のもやし祭り…!」
真美「そしてこれが巷で噂の秘伝のタレ…!」
やよい「もう、亜美も真美も大げさなんだから…あ、でも今日は亜美と真美のおかげでもやしだけじゃないんだよー」
長介「に、肉だ…」
かすみ「お肉が…」
やよい「今日はもやし祭りすぺしゃるです!!」ドンッ!
一同「「「いただきます!!」」」
ンマイ! オイシイ…
ウメェー ンマンマ
アー、ソレアミノー! コノヨハ ジャクニク キュウショク ナノダヨ!
やよい「もー、慌てなくてもいっぱいあるから大丈夫だよ」
ゴハンオカワリ! ワタシモ…
アミモ! マミモ!
ハイハイ、ジュンバンダヨー
―――――
―――
―
一同「「「ごちそうさまでしたっ!!」」」
やよい「亜美と真美の口に合ったみたいでよかったよー」
真美「合わないわけないっしょー!やよいっちはホントに料理上手だなぁ…今すぐお嫁に欲しいくらいだよー」
やよい「そ、そんな…褒め過ぎだよ、真美…///」
真美(い、今真美なんて言った…!?と、とんでもないことを口走って…!)
真美「あ、あああ亜美!そろそろアレ、出していいんじゃないかな…!?」
かすみ「あれ…?」
亜美「アレ…ね。らじゃー!」タッ
亜美「へいおまち!」ジャン
やよい「あ、これって冷蔵庫に入れてた箱?何が入ってるの?」
亜美「んっふっふ~」
真美「それでは~」
亜美真美「「ゴカイチョー」」
かすみ「イチゴとクリームが乗ってる…!」
長介「これってキウイだろ?こんなの給食でしか食べたこと…」
浩太郎「ケーキ?おたんじょうび?」
真美「チッチッチッ…こいつはケーキではない…」
亜美「こいつの名は…」
亜美真美「「ゴージャスセレブプリン!!」」ドンッ!
長介「ぷ、プリン…!?でも今日はちらし寿司の日じゃ…」
かすみ「そ、それにウニと果物は合わないんじゃ…」
亜美「諸君、辛いかもしれないが聞いてくれ」
真美「プリンってのはな…本来醤油をかけないで食べる…デザートなんだよ!」
高槻家一同「「「な、なんだってー!?」」」
パクッ
かすみ「ケーキみたいに甘い…」
長介「だけど食感はケーキみたいにふわふわしてなくてぷるぷる…」
浩太郎「おいしー!」
浩司「んまっんまっ!」
真美「…ほら、やよいっちも」
やよい「うん…」ジー
アムッ
やよい「…!」
やよい「真美っ!」キラキラ
真美(あー、やっぱ買ってよかったかも…)ニヘラッ
真美「あれ?やよいっち一口しか食べてないじゃん。どうかした?」
やよい「あ、うん。残りはとっておこうかなーって」
亜美「うぇ?お腹いっぱいになっちったとか?」
やよい「ううん、違うの。とーってもおいしいから夜遅く帰ってくるお父さんとお母さんにも食べさせてあげたいなーって」
真美(あ、亜美ぃ…)チラッ
亜美(う゛……わ、わかったよぉ…)コクリ
真美(ありがと、亜美!恩に着る!)
真美「じゃあ真美たちの分をお父さん達にあげるからさ、それはやよいっちが食べなよ」
やよい「で、でもそれじゃあ真美たちの分が…」
亜美「まあ亜美たちはプリンくらいいつでも食べれるし。予想以上においしかったご飯のお礼ってことで!」
やよい「で、でもぉ…」
真美「うぇぇぃ!?」
やよい「それは別にいいけど…」
真美「い、いいの…!?じゃなくて…元々このプリンはやよいっちのために買ったんだしさ、やよいっちのためなら真美、我慢できるよ」
やよい「真美…ありがとう…あ、でもせめて一口くらい…はい、あーん」
真美「…!?」
真美「え、えぇと…あ、亜美から!亜美からで!」
亜美「あ、亜美はぶっちゃけご飯食べ過ぎてオナカ、イッパイ、ナノデ」
真美「え、えぇ…!?」
亜美「じゃあ亜美はこのプリンを冷蔵庫に入れてくるねー」ピュー
やよい「じゃあ真美、あーん…」
真美(うあうあ~!突然こんなの無理だよ~!さっき我慢するって言っちゃったから亜美と同じ手は使えないし…)
真美(っていうかあーんって言いながら自分も口開けてるやよいっち、可愛い…)
やよい「…真美?」
真美「う…あの、えと…あーん」
ハムッ
やよい「おいしい?」
真美「う、うん…///」
真美(思い切って食べたけどよく考えたらこれ…間接キス…うあうあ~!考えたらもっと恥ずかしくなってきちゃったよ~!)
やよい「やっぱりみんなで食べるとおいしいね!」
真美「そ、そだね…///」
やよい「いぇい!張り切って二人の背中流しちゃうよー!」
真美(あ、亜美…!真美やっぱいきなりお風呂なんて…)ヒソヒソ
亜美(真美隊員、お主の妹はこーめーな策師ですぞ!)ヒソヒソ…ドヤッ
亜美「うーん、でも二人となるとやよいっちも大変っしょー?亜美はカスミンにやってもらおっかなー」
真美「あみぃ~…」
やよい「え、えっと…」
かすみ「あ、はい。分かりました」
亜美「姉は姉同士、妹は妹同士、チンボツを深めようではないか!ハッハッハッ…!」
やよい「ちんぼつ…?」
真美「それをゆーなら親睦っしょー…」
かすみ「あ、はい。お姉ちゃんも真美さんもゆっくりしてきてね」
やよい「うん、分かった。真美いこー?」
真美「う、うん…」
亜美「いってら~」ニヤニヤ
真美(くぅ…亜美め、面白がってるな…このウラミ忘れぬぞ…!)ジロッ
亜美「…のヮの;」
やよい「真美ー、なにしてるのー?」
真美「い、今行くー!」
真美「う、うん…」
真美(ど、どーしよー…もう完全に逃げ場がない…)
やよい「~♪」ヌギヌギ
真美(わわっ、やよいっちもう脱ぎ始めてる…!そ、そうだよね…女同士なんだし、ここでもたもたしてた方が怪しまれる…)
真美「よ、よーし!」ヌギッ…ガラッ…タタッ
やよい「あ、真美!そんなに急ぐと危ないよー」
真美「ご、ごめん…」
真美(うあうあ~!やよいっちすっぽんぽんだよ~!真美もだけど…)
やよい「それじゃあ背中ながすね」アワアワ
やよい「かゆいところはありませんかー?」
真美「うん、大丈夫。ありがと…///」
真美(やよいっち上手いなぁ…時々亜美と背中流し合いっこするけど亜美はすぐふざけるからなぁ…まあ真美もだけど…)
やよい「んしょ…んしょ…」ゴシゴシ
真美「うあうあ///」
やよい「ん?どうかした?」
真美「いや、やよいっちがかわい…じゃなくて背中流すのうまいなーって…!」
やよい「えへへ、時々お母さんにもしてあげてるんだー」
真美「やよいっちはいい子ですな~」
やよい「そんなことないよー///」
真美「アイドルだけでも大変なのにやよいっちは家のことやったり弟とか妹の面倒みたり…」
真美「真美には絶対真似できないよ」
やよい「真美だっていつもさりげなく亜美の面倒見てるでしょー?私知ってるもん」
真美「…も、もぉー、はずいじゃーん!」
真美(今絶対顔真っ赤…背中流してもらっててよかっ……鏡?)
やよい「…」ニコッ
真美「っ…!///」
真美「こ、こーたい!今度は真美がやよいっちの背中流すから!ほら早く!」
やよい「え、私は別に……もー、変なことしないでよー?」
真美(でもこんなに小さいのに家事とかやってるんだよね…)
やよい「真美?」
真美「いやーやよいっちってちっちゃいなって。1コ上とは思えないくらい」
やよい「わ、私だってすぐ大きくなるよ!」
真美「いやーどうかなー。ひびきんくらいがせーぜーじゃない?」ニシシ
やよい「響さん…」
真美「ん?複雑そうな表情ですな」
やよい「胸があのくらいになるならいいかなーって」
真美「いや、それはむりっしょ」バッサリ
やよい「あー!真美ひどーい!」
やよい「っ…ぅぁっ…」ピクン
真美「やよいっち?」
やよい「ちょ、ちょっとくすぐったいからもう少し強くやって欲しいかなーって…」
真美「…」
コシコショ…コショコシ…
やよい「ぁぅっ…!く、くすぐったいって…ばぁっ…!」
ツツー
やよい「ま、真美!」
真美「…ごみんごみん。つい魔が差して…」
やよい「もー、ふざけるならやらなくていいよー」
真美「まじめにやらさせていただきます!」キリッ
ゴシゴシ…ゴシゴシ…
やよい「んー、きもちいい…」
真美「ふいー…ごぞーそっぷに染み渡るー」
やよい「なに、それ?」
真美「よくわかんないけどピヨちゃんが言ってた」
やよい「へぇー」
真美「…」
やよい「…」
真美「ねぇ、やよいっち」
やよい「なあに?」
真美「ありがとね、いきなり押しかけちゃったのにこんなにもてなしてもらっちゃって…」
やよい「お礼を言うのは私のほうだよー」
真美「いやいや、真美たちの方が…」
やよい「ううん、私達のほうが…」
やよい「…」
「「プッ」」
二人「「あははははは!あはははは!」」
真美「まあお互い様ってことで」
やよい「うぃんうぃん、だもんね!」
真美「うんっ!」
やよい「そろそろあがろっか」
真美「だね、亜美達も待ってるだろうし」
やよい「お風呂上りに牛乳飲む?」
真美「飲む飲むー!やよいっちも頑張って背伸ばさないとね!」
やよい「もー、真美ってば!」
P「で、写真は?」
やよい「なんのですかー?」
P「亜美真美inやよいん家withやよい&かすみの写真」
真美「あるわけないじゃん」
亜美「こちらのケータイに…」
やよい「亜美!?」
真美「い、いつ撮ったのさ!」
亜美「皆が寝静まった後?」テヘッ
P「よーし、よくやった、亜美隊員!見せてっ!」
真美「させんっ!」ガシッ
亜美「うあうあ~つかまっちゃったよ~…」
P「ギリギリコース!擦り傷が心地いいナイスパスだっ!」ズサァァァ
やよい「…プロデューサー」
P「な、なんだ?やよい…」ゴクリ
やよい「それ見たらもうはいたっちしてあげません」
P「は、はいたっち禁止だと…!?そんなことされたら俺はもう生きては…」
P「でもその怒った顔も可愛いよおおおお!!も、もっとみてええええ!!蔑むようにぃぃぃ!!」
亜美「に、兄ちゃん!亜美も見てあげるから!こっちもみてよ~!」
P「亜美ぃぃぃ!!!うわあああああああ!!!」
真美(亜美…お姉ちゃんは心配だよ…)
やよい「ん?なぁに?」
真美「また泊まりに行っても、いいかな…?」
やよい「もちろん!あ、でも…」
真美「でも?」
やよい「今度は私が真美のところに泊まりにいきたいかなーって」
真美「…///」
やよい「だめ?」
真美「うっうー!大歓迎に決まってますー!」
やよい「あっ、真似しないでよー!じゃあ、約束だからね?」ニコッ
真美「うん、約束」ニコッ
糸冬
感想、保守、支援、本当にありがとうございました
近く発売予定のファンキーノートが、とっても欲しいです
Entry ⇒ 2012.10.11 | Category ⇒ アイマスSS | Comments (1) | Trackbacks (0)
菫「話があるんだ」 宥「何ですか?」
菫「宥!」
菫「私と……」グ…
菫「結婚してくれー!」シャープシュート
宥「ごめんなさい」ヒラリ
菫「何故だ!」
宥「私には玄ちゃんが……」
菫「いかん!」
菫「姉妹など……!」グ…
菫「いかーん!」シャープシュート
宥「ごめんなさい」ヒョイ
菫「ぐぬぬ……」
菫「……よしわかった!」
菫「妹も一緒でいい!」
菫「だから宥!」
菫「私のものに」グッ
菫「なってくれー!」シャープシュート
宥「ごめんなさい」ピョン
玄「おねーちゃーん」
宥「あ、玄ちゃん」
玄「迎えに来たよー」
宥「ふふ、ありがとう……」ナデナデ
玄「えへへ……お任せあれ!」
菫「くっ……」グ…
菫「私にもナデナデしてくれー!」シャープシュートッ
宥「わわ」スッ
菫「避け……られた、だと……」
宥「弘世さん?」
菫「……なんだ」グスッ
宥「それくらいなら良いですよ?」
菫「えっ」
宥「……いい子いい子」ナデナデ
菫「……っ///」カーッ
宥「耳まで真っ赤ですね」ナデナデ
菫「……!」
菫「宥!」バッ
菫「このまま私と結婚してくれ!」ギュッ
宥「ごめんなさい」ニコッ
菫「……」ズーン
菫「宥……何故……」ブツブツ
照「ねぇ」
菫「……なんだ」
照「まだ松実さん(姉)にご執心なの?」
菫「何か文句があるのか?」キッ
照「いや別に」
菫「あの準決で宥に私のシュートを躱されて以来……」
菫「奴のことが頭から離れないっ……!」
菫「初めてだったんだ……」
菫「私が……狙った獲物を逃すなんて……!」ワナワナ
菫「……」フッ
菫「……気付けば、私の方が宥に射抜かれていたんだな」
菫「このハートを、さ……」
照「そうだね」
次の日
菫「宥ー!」
宥「はい」
菫「今日こそ私と……」グッ
菫「結婚してくれー!」シャープシュート
宥「ごめんなさい」サッ
菫「何故頑なに断られるんだあああああ!?」
菫「いい加減、私の愛をっ……」ググッ
菫「受け取れええええ!」
シ ャ ー プ シ ュ ー ト 乱 れ 打 ち ッ !
宥「わわわ……」ヒョイヒョイッ
菫(全て……躱され……!?)
/
アッ、アブナーイ
\
泉「は……?」クルッ
泉「」サクッ
宥「あっ」
菫「あっやべっ」
菫「だ、大丈夫か!?」
泉「……ぅ」
菫「よ、よかっ……」
泉「好きです!」ギュッ
菫「えっ」
泉「好きです好き好きっ」
泉「私のお姉様になってください!」キラキラ
菫「えっ?」
泉「お姉様ぁ」ギュッ
菫「ま、待て待て、落ち着け君……はっ!?」
宥「……」ジト…
宥「ひどい……」
菫「は……?」
宥「あれだけ私に結婚を迫っておいて……」
菫「!? ち、違う! 違うんだ宥!」
宥「さよなら、弘世さん」タッ
菫「宥――――――っ!!」
泉「お姉様お姉様」スリスリ
照「で?」
菫「」
泉「お姉様好きですお姉様」スリスリ
照「通りすがりの二条さんを射抜いてしまったと」
菫「……うん」
照「シャープシュート(笑)」
菫「……うるさい」
泉「お姉様お姉様」ラヴラヴ
照「彼女どうするの」
泉「お姉様ぁ」ギュー
菫「……うぐ」
照「離れてくれそうにないね」
菫「……いいさ、明日もこのまま宥の所へ行ってやる」
照「まじで?」
菫「まじで」
泉「ほんまですか!」
菫「……宥への想いは変わらないからな」キリッ
泉「さすがお姉様! かっこいいです! 好き!」ギュースリスリ
照「二条さんはそれで良いのか……」
次の日
菫「宥」
宥「……」
菫「今日こそは私と結婚してもらう」
泉「キャーお姉様頑張ってください!」ギュー
宥「……他の女の子に抱き着かれながら、よくそんなこと言えますね」ジトー
菫「うっ……」
泉「お姉様、ファイトですよ!」
菫「た、確かに……泉から好かれてはいるが」
泉「好きですお姉様っ」スリスリ
菫「私の目に映っているのは、宥だけだからな……!」グッ
泉「キャー/// お姉様シビれますぅ!」
宥「……寒い」
菫「私が……暖かくしてやる!」シャープシュートッ
宥「遠慮します」ヒラッ
菫「!!」ガーン
泉「あっ、松実さんの後ろに誰かいますよ?」
菫「えっ」
宥「?」
泉「避けられた矢が……」
淡「へ?」クルッ
淡「」サクッ
泉「刺さりましたね」
菫「何っ!?」
菫「あ……淡!?」
淡「きゅー」
菫(まずいくないかこれは)
泉「大丈夫ですー?」ペチペチ
淡「うぅ……」パチ
菫「あ、淡……」
淡「……」
淡「スミレ……?」ボー
淡「……」ピコーン
淡「菫愛してるっ!」ガバッ
菫「!?」
泉「は……?」
淡「なんだろ、いきなりズキューンってキちゃったよ菫ぇ」ギュー
菫「」
淡「ドキドキが止まんないよ菫、愛してるぅ」スリスリ
泉「わ、私も好きですよお姉様!」ギュ
菫「」
泉「お姉様ぁ」
淡「愛してるよ菫ぇ」
菫「」
菫「はっ」
宥「…………」
菫「ゆ、宥……私と、結婚……」
宥「……」プイ
菫「宥うぅぅぅぅぅ!!」
淡「スミレスミレ」
泉「お姉様お姉様」
宥「……知りません」
照「あれ?」
菫「」
泉「お姉様好きですお姉様」スリスリ
淡「菫愛してる菫」スリスリ
照「なんか増えてない?」
菫「……」
照「淡じゃなくて松実さんを狙いなよ」
菫「狙った結果がこれだよ!」
泉淡「「スキスキー」」
菫「何故……何故宥は私と結婚してくれないんだ……」
照「なんでだろうね」
菫「メゲそう……」
淡「大丈夫! 私が菫と結婚するよ!」
泉「私もお姉様と結婚します!」
照「菫モテモテだね」
菫「はは、は……はぁ」
泉「憂い顔のお姉様……素敵……」キュン
淡「うん……もっとメチャクチャにしてあげたい……」キュン
菫「……私は、宥を諦めた方がいいのだろうか」
照「さぁ」
菫「もしかして私、宥にかなり嫌われているんじゃ……」
照「どうだろうね」
菫「ここまでしても振り向いてもらえないなんて……もうここらでやめに……」
照「……それでいいの?」
菫「仕方ないじゃないか……宥に嫌われているんじゃ、どうしようもない」
照「松実さんがどう思ってるかじゃなくて、菫はどうなの?」
菫「え……?」
照「好きなんでしょ? 松実さんのこと」
菫「当たり前だろ……!」
照「じゃあ、やることなんて決まってるじゃない」
照「今までみたいな数打ちゃ当たる、みたいな告白じゃなくてさ」
照「ちゃんと真っ直ぐ気持ちを伝えてみたら」
菫「……照」
照「大体、結婚結婚って……菫は先走りすぎだと思う」
照「逸る気持ちもまぁわからないでもないけど。物事には順序があるんだよ」
菫「そう、だな……」
菫「……ありがとう。私が弱気になるなんてな……どうかしていた」
照「うん。最近の菫、頭おかしいもん」
菫「ははは、こいつぅ☆」グリグリ
照「ほら、じゃれてないで。明日のために今日やっておくことは?」
菫「あぁ! シャープシューティング告白の練習だな!」
泉「私が的になりますお姉様!」
淡「ほら、みんなも菫の的になるよ、協力して!」
白糸台麻雀部員「「おー!」」
次の日
宥「……また、ですか」
菫「あぁ」
菫「やはり、宥への気持ちは変わらないからな」キリッ
泉「お姉様お姉様」
淡「菫愛してる菫」
尭深「玉露よりも先輩が好きです……///」
誠子「先輩の竿で一本釣りにして下さい!」
美子「好きですたい」
澄子「私もよろしくお願いしまーす」
花子「うーわ競争率マジぱねーっすわー」
宥「……更に増えてますね」
菫「気にするな、練習の成果だ」
菫「ほらお前ら、離れてくれ」
泉淡尭深誠子美子澄子花子「「は~い」」ワラワラ
菫「さて、宥」キリッ
宥「……はい」
菫「私と結婚してくれ」
宥「……、ごめんなさい」
菫「だろうな」フッ
宥「え……?」
菫「いきなり求婚されて、あっさり『はい』なんて言えるものじゃないよな」
宥「……」
菫「好きだ、宥」
菫「……だから」
菫「私と、結婚を前提に……!」グッ…
菫「付き合ってくれええええええええ!」SHARP SHOOOOOOOOT!
菫(このシュートに、私の全身全霊の愛を込めた……!)
菫(これを避けられれば……もう私に次の矢は無い……)
菫(必ず当たる……いや、当てる……射抜く!)
菫(宥のハートを!)
宥「……」
宥「ごめんなさいっ」ヒョイッ
菫「あれっ」
泉「余裕で避けられてますやん……」
淡「あちゃー」
菫「え? そこ避けるか普通?」
宥「……えへ」
菫「な」
菫「なっ……何故なんだああああああ!」
菫「ああああ……」
菫「……うぁぁ」
菫「もう嫌だ……宥なんかもう知るか……帰る……おうち帰る……」
宥「あっ、弘世さん待って……」
菫「何だよ触るなよ帰るんだよおぉ……」
宥「弘世さん」
菫「だからなん……」
チュッ
菫「」
宥「……」
菫「え」
宥「弘世さんには散々打ち抜かれちゃったので」
宥「今度は私があなたを打ち抜く番です」
菫「え」
宥「弘世さん」
菫「え」
宥「私と、お付き合いしてくれますか……?」
菫「」ズキューン
菫「も」
菫「勿論だ……! 愛してるぞ宥うううう!」ガバッ
宥「わわ」ヒョイッ
菫「」
淡「ええええ!? そこくっつくの!? 私は!?」
泉「良かったですねお姉様ぁ……ルパンダイブは避けられましたけど」
それから
玄「おねーちゃん、おめでとう!」
宥「うん。ありがとう、玄ちゃん」ナデナデ
玄「でも、何ですぐにオッケーしてあげなかったの?」
玄「おねーちゃんも、前から弘世さんのこと好きだったのに」
宥「ふふ……断られて愕然としてる弘世さんとか、涙目の弘世さんとか、すごく可愛いかったから……」
宥「ちょっと意地悪したくなっちゃって」ニコ
玄「ふ~む、なるほどなるほど、なるほどー」
菫「宥!」
泉「お姉様好きです!」
淡「菫愛してるよ!」
菫「うるさいお前ら!」
宥「今日連れてるのは二人だけですか?」
菫「つ、ついてくるなと言ったんだが……」
淡「ユウばっかり菫独り占めしてズルイズルイー!」
泉「私は何番目でも構いませんからお姉様ぁ」
菫「あぁもう……少し何処か行ってろお前ら!」
泉淡「「わーい」」タター
菫「全く……」
菫「さて、宥」
宥「はい」
菫「今日は雲ひとつ無い快晴だ、結婚しよう」キリッ
宥「ごめんなさい」ペッコリン
菫「ですよねー」
宥「……もっとお話して、もっと色んな所へ行って、もっと好きになりたいんです、菫さんを」
宥「だからそれは……もう少し先で」
菫「……!」パァッ
菫「そうだな……! その時になったら結婚しよう!」
宥「ふふ……はい」ニコ
カン
書いてて気付いた
次鋒は○子って名前が多い
ちょいおまけ
シャープシューティング告白練習中
菫「シャープシュート! シャープシュート! シャープ……シューット!」シュババッ
泉「一心不乱に矢を射るお姉様……素敵です……///」ホゥ…
淡「こら的、動くな」
菫「……」
菫(く……ただ打っているだけじゃ駄目だ……)
菫(集中……宥への気持ちを……)
菫「はっ!」シャープシュートッ
ヒュンッ
泉「あれ?」
淡「盛大にすっぽ抜けてね?」
泉「しかもその先に……」
淡「テル!?」
照「え……」
照「」サクッ
菫(またやっちまったー!)
菫「だだだ、大丈夫か照……」
照「いた……」
菫(あわわわわわわ)
照「……」ジ…
菫「……!」ドキッ
照「……なに慌ててるの」
菫「え……な、何ともないのか?」
照「何が?」
菫「え……」
照「?」
菫「いやその……菫スキスキーってならないか?」
照「何言ってるの……菫って自意識過剰?」
菫「んなっ……なわけないだろ!///」カーッ
菫「もういい、心配した私が馬鹿だった……告白の練習に戻る!」スタスタ
照「……」
照(ふぅん)
照(もともと菫が好きだった場合はシャープシュートされても変化は特に無し、か……)
カン
ありがとうございました
日付が変わる前に終わってよかった(小並感)
もしかしてこれ練習の意味なかったんじゃ
乙
Entry ⇒ 2012.10.11 | Category ⇒ 咲-Saki-SS | Comments (0) | Trackbacks (0)
あずさ「お隣に…」
あずさ「はい~」パタパタ
ガチャ
P「あ、あの…隣に越してきました………!?」
あずさ「え…??」
P「あ、あずささん?」
あずさ「プロデューサーさん…?」
P「ええ、なかなか良さそうな場所だったので……」
P(まさか隣の部屋にあずささんがいるなんて…)
あずさ(まさか隣のお部屋にプロデューサーさんが来るなんて…)
P「……」
あずさ「……」
あずさ「…?」
P「お蕎麦です」
P「定番すぎてつまらないかも知れませんが…」
あずさ「ありがとうございます~」
P「何はともあれ、これからよろしくお願いします」
あずさ「はい、こちらこそよろしくお願いしますね」
あずさ「仕事の打ち合わせがあるので、事務所に行く予定です」
P「そうですか…では朝一緒に行きましょうか」
あずさ「はい」
P「ではまた明日に」
あずさ「はい、おやすみなさい」
P「……どこだっけ?」
ゴソゴソ
P「この荷物も、いつ片付くやら…」
P「あったあった……と」ゴロン
P「それにしても……壁の向こうにあずささんが」
P「………」
あずさ「…プロデューサーさん、越したばかりで荷物も片付いてないんじゃ…」
あずさ「うん、お手伝いしなきゃね」
あずさ「……この壁の向こうに、プロデューサーさんが」
あずさ「………」
P「………」
P「はぁ、何やってんだか…」
P「……寝よう」
あずさ「………」
あずさ「はぁ、何してるんだろ…」
あずさ「……寝ましょう」
あずさ「……んぅ…」
あずさ「…すぅ………」
ピンポーン
あずさ「ふあい…?」
あずさ「今出ますよ~」
P「おはようござ………」
あずさ「……」
P「!?!?」
あずさ「……っ!?」
P「すすすいません!!」
あずさ「ご、ごめんなさいっ!!」
P(あずささんのパジャマ姿ぁぁぁぁ!!)
あずさ(寝起きの顔見られちゃった…!)
…
ガチャ
あずさ「お、お待たせしました~」
P「あ、いえ大丈夫です」
P「じゃあ行きますか」
あずさ「…はい」
P(気まずい…)
あずさ(気まずい…)
あずさ「私の方こそ…お騒がせしました」
P「いえ、貴重なものを見る事ができたので」
あずさ「もうっ!」
あずさ「恥ずかしくて、死んじゃいそうだったんですから…」
P「はは、すいません」
P「おはようございます」
あずさ「おはようございます~」
律子「おはようございます……あれ?」
亜美「…むむっ、何やらアヤシイ」
伊織「ただ車で送ってもらっただけでしょ」
あずさ「ええと、実は…」
伊織「えっ?」
あずさ「そうなの…私もびっくりしちゃって」
亜美「あずさお姉ちゃん」クイクイ
あずさ「…?」
亜美「うんめー、って奴だよ! きっと」
あずさ「……っ!!」
亜美「亜美は応援してるかんね!」
あずさ「亜美ちゃん…」
P「ん、まあ大丈夫だ」
伊織「きっとあずさも喜ぶわね」
P「え、何故」
律子「……はぁ」
伊織「朴念仁」
P「な、なんだよ」
律子「まあ、そうね」
P「……?」
伊織「じゃ、私たちはこれから打ち合わせだから」
律子「昼過ぎには終わる予定なので、終わったらあずささんを家まで送ってあげて下さい」
P「ん、わかった」
伊織(色々わかってないわよね…)
律子(間違いないわね…)
ガチャ
小鳥「おはようございます」
P「おはようございます」
小鳥「新しい家はどうですか?」
P「思っていたよりもずっといい所ですね」
小鳥「ふふ、それは何よりです」
P「いえ、何でもないです」
小鳥「…?」
P「まあとにかく、まだ荷物も片付けてない状態ですが」
小鳥「焦ることは無いですよ」
小鳥「配置を考えながらゆっくりやるのも楽しいですから」
P「そうですねぇ…」
P「…ええ、そこは問題なさそうですね」
小鳥「男ですか、女ですか?」
P「女性で、かなりの美人さんです」
小鳥「むむ、これはチャンスですよ!」
P「そうですかね?」
小鳥「押しが肝心ですからね」
P(そうは言ってもなぁ……)
…
あずさ「お待たせしました」
P「お、お疲れ様です」
小鳥「お疲れ様です」
P「では、俺はここで」
小鳥「はい、プロデューサーさんもお疲れ様です」
P「お疲れ様です……じゃあ行きますか」
あずさ「はい」
小鳥「…?」
小鳥「……何やら楽しそうな予感」
律子「実はですね」
律子「そんなこと言ってたんですか」
小鳥「本人の前で言ってあげたらいいのに…」
伊織「全くだわ」
亜美「兄ちゃんはニブチンだかんね」
P「……はくしゅん!」
あずさ「大丈夫ですか?」
P「いえ、誰かに噂でもされてるんでしょう」ズズッ
P「まだほとんど片付いてないので…コンビニの弁当で済まそうかと」
あずさ「……」
あずさ「もし良ければ…ご馳走しましょうか」
P「え?」
あずさ「迷惑でしたか?」
あずさ「はい、もらったお蕎麦のお返しだと思って下さい」
P「そうですか…ではお言葉に甘えて」
あずさ「よーし、頑張って作りますね」
あずさ「何かリクエストはありますか?」
P「そうだなぁ…カレーが食べたいです」
あずさ「そうと決まれば…お買い物をしなきゃ」
P「そうしましょう」
P「……」
あずさ「どうしました?」
P「あずささんにナビゲートされる日が来るとは思ってもいなかったので…」
あずさ「あっ、失礼ですね~」
あずさ「作ってあげませんよ?」
P「すいません! それは勘弁して下さい!」
あずさ「ふふっ」
あずさ「これだ!」
P「いい食材の見分け方、わかるんですか」
あずさ「いえ、実は勘で選んでいるんです~」
P「なんだか、あずささんらしくて素敵ですね」
あずさ「むっ、馬鹿にしてますか?」
P「そんな滅相もない」
あずさ「すいません…荷物持たせちゃって」
P「いえ、このくらいお安いご用です」
P「カレーの為の労力は厭わないですから」
あずさ「頑張ってくれたプロデューサーさんの為にも、腕によりをかけて作りますね」
P「期待してますね」
あずさ「はい、上がって下さい~」
P(当然、そうなるよな…)
P「お邪魔しまーす…」
あずさ「早速作りますから、くつろいで待っていて下さい」
P「はい」
P「……」
P「……落ち着かない」
律子『男性のハートを射止めるにはまず胃袋を掴めばOKです』
あずさ『それって、つまり…』
律子『手料理を食べさせてあげればイチコロですよ』
あずさ(ウソだったら…怒っちゃいますからね、律子さん)
あずさ「よし、頑張りましょー!」
P(あずささんがここで暮らしてるんだよな…)
P「いかんいかん、妄想するな」
P「忘れるんだ…」
あずさ「何をですか?」
P「ひゃい!? な、なんでも無いです!」
あずさ「もうすぐできますから、あとちょっと待っていて下さいね」
P「は、はい」
P(とんでもない発見をした)
あずさ「……?」
P(この人、エプロン似合いすぎだろ…)
P(なんだか夫婦みたいで素敵だ」
あずさ「…え?」
P「…あ!」
P「い、今のは…」
あずさ「……」
P「……」
P(沈黙が痛い)
あずさ(夫婦……私とプロデューサーさんが)
あずさ「……あ、お鍋火にかけたまま!」
パタパタ
P「……ふぃ~、助かったようなもどかしいような」
P(俺ってものすごいヘタレなんじゃ…)
あずさ「はい、お待たせしました」
P「おお……!」
P「早速ですが……いただきます!」
P「………う」
あずさ「う?」
P「うまぁぁぁい!」
P「何ですかこれ、美味しすぎますよ」
あずさ「そう言ってもらえると嬉しいです」
P「下さい!」
あずさ「はい、今持って来ますね」
あずさ「やった…!」
あずさ「ふふっ、これで一歩近付けたかな?」
P「こんなに幸せを感じる食事は久しぶりだ…」
P「毎日でも食いたいなぁ」
…
P「ご馳走様です」
あずさ「お粗末さまです」
P「こんなに美味しい料理、久しぶりでした」
あずさ「喜んでもらえて良かったです…頑張った甲斐がありました」
P「もう、毎日でも食べたいくらいですよ」
あずさ「……毎日、お作りしましょうか?」
P「え」
あずさ「なーんて、ふふっ」
あずさ「今度は、プロデューサーさんのお料理が食べたいです」
P「ぐぬぬ……いいでしょう」
あずさ「やった! 期待して待ってますね」
P「過度の期待はしないでくださいね……よし」
あずさ「あ、洗い物は私がやりますから」
P「そんな、悪いですよ」
あずさ「片付けまでが料理ですから、いいんです」
あずさ「いえ、私も楽しかったです」
あずさ「じゃあ、また明日会いましょう」
P「はい」
P「そうだ」
あずさ「……はい?」
あずさ「……!!」
P「では、お休みなさい」
バタン
あずさ「あ、あの……あ」
あずさ「……もうっ、いじわる」
P「まあいいや、ね……」
ピンポーン
P「ん?」
P「はいはい」ガチャ
あずさ「携帯電話、忘れてましたよ?」
P「」
あずさ「ふふ、うっかりさんですね」
あずさ「では、お休みなさい」
P「ちょ…」
あずさ「そうだ、プロデューサーさん」
P「はい?」
あずさ「今夜は、私の夢を見て下さいね」
バタン
P「………何度見てもいいなぁ、パジャマ姿」
P「今日はいい夢見れそう」
おしまい
いい夢を
Entry ⇒ 2012.10.10 | Category ⇒ アイマスSS | Comments (0) | Trackbacks (0)
白望「……ダルくないよ」塞「……え?」
塞「女同士が、何だって!?」
エイスリン カキカキ サッ『♀×♀=?』バッ
豊音「えっとえっとー……」
白望「ただの独り言だけど……」
塞「どんな経緯からそんな独り言が!?」
白望「……ダルい」
塞「シロ!」
胡桃「塞ちょっとうるさい!」
胡桃「シロ、何かあったの?」
白望「別にそういうわけじゃないけど……」
塞「じゃあどういうわけよ!?」
豊音「塞の目が血走ってるよー」オロオロ
エイスリン「♪」 カキカキ サッ 『<●> <●>クワッ』
白望「塞はどうして怒ってんの……?」
胡桃「そっちより質問に答えて!」
胡桃「うんうん」
白望「名前も知らない女の子に、告白されただけっていう……」
胡桃「ほうほう、なるほど、女の子に……告白、され……た……?」
胡桃「はぁぁぁぁぁぁぁ!?」
豊音「く、胡桃ー?」オロオロ
胡桃「何それ! 何それ!? シロに告白とか!! バッカみたい!!」
チョンチョン
白望「ん?」
エイスリン「ン!」→指差し
塞「orz」ズーン
白望「……」
胡桃「バカみたい! バカみたい! バーカーみーたーいー!!」
白望(なにこのダルい状況……)
ギャー!! ギャー!!
豊音「まったく収集つなかないよー」オロオロ
豊音「塞、塞はー」
塞「」
豊音「塞が息してないよー」ジワァ
豊音「誰か助けてよー……」シクシクシク
白望「よくわかんないけど……ダルいから泣かないで」ポンポン
豊音「うう、シロ~……」ギュッ
エイスリン「♪」 カキカキ
エイスリン サッ『ハートマークの絵』
塞・胡桃「……ハッ!?」
塞「シロ!その後の返事は!?」
胡桃「いえすおあのー! どっち!?」
白望「えーと」
塞「……」ゴクリ
白望「h」
胡桃「うわーー! わーー!!」
塞「胡桃うるさい!」
白望「二人ともうるさいけど」
豊音「全然事態が進まないよー」オロオロ
塞「ごめんシロ。 胡桃は黙らせたから」
胡桃「むー! むー!」←ガムテで口を塞がれました
豊音「ごめんねー」←胡桃を拘束しています
白望「えーと…………あれ」
塞「どしたの?」
白望「……どこまで話したっけ」
塞「もう! シロが女の子に告白されたって言ったんでしょ!!」
白望「あー……そっか」
エイスリン「♪」ワクワク
白望「うーん……」
白望「実はね」
塞「……」ゴクリ
豊音「……」ドキドキ
胡桃「……」ベリベリ←ガムテを剥がす音
エイスリン「♪」ワクワク
白望「返事――できなかったんだ」
塞「えっ?」
豊音「ど、どうしてー?」
白望「その子、終始一方的で……答える間もなく走り去っちゃったんだ」
胡桃「え? え?」
白望「えっと……まァ、そういうことで」
胡桃「どーゆうことさ!?」
豊音「胡桃、ちょっと落ち着いてー」アセアセ
豊音「シロ、それはつまりー」
胡桃「……言い逃げってこと?」
白望「……多分」
エイスリン「シロ、オイカケタ?」
白望「一応追ったけど、逃げられた」
豊音「……その娘、途中で怖くなっちゃったのかなー」
胡桃「モヤモヤが残りそうなやり方だよね……ってそうじゃなくてね!?」ドンッ
豊音「ひぅ!?」
白望「?」
胡桃「本題はそこじゃなくてっ、もっと別のところにあるでしょ!」
豊音「もっと別……?」
胡桃「うん、最も重大なこと! それは……」
エイスリン「シロジシンノ、キモチ!」
塞「」ピクッ
胡桃「それだよそれ!」
白望「私、の?」
胡桃「そう! その娘に告白されて、どう感じたか、どう思ったか! その辺りがいっちばん重要でしょ!」
白望「……私の気持ちかァ」
白望「んー……」ホッペポリポリ
胡桃「どう?」
白望「……今さらだけどさ」
胡桃「うんうん」
白望「恋愛って、男女間でするものじゃないの?」
胡桃「え!?」
豊音「へ?」
塞「……!」
エイスリン「?」
白望「みんな、何故か私に告白してきた女の子に対して何の疑問も抱いてないけど」
白望「……その辺り、どうなの?」
豊音「えっと、えーと……」オロオロ
胡桃「あー、うー……」アセアセ
塞「……」ズキ
白望「……ごめん、やっぱ今の質問はわすれ」
エイスリン「モンダイ、ナイ!!」グッ
一同「「「「!?」」」」
胡桃「え、エイちゃん?」
豊音「それってどういうー……」
エイスリン「……」 カキカキ
エイスリン「」 バッ
塞「……?」
胡桃「シロ、翻訳!」
白望「……『愛に形はない』かな」
エイスリン「」コクコクッ
エイスリン「♪」ニコッ
胡桃「でも、でもそれは……」
豊音「その、シロが言うように、やっぱり女のコ同士は……」
エイスリン「……」カキカキ バッ
白望「……『好きなものは好きなんだから仕方がない』?」
エイスリン「」コクコクッ
エイスリン「スキハ、スキ!」
塞・胡桃・豊音「「「!」」」
白望「……」
豊音「エイスリンさん……」胡桃「エイちゃん……」
エイスリン「」フンス
豊音「うわーん! なんだかとっても素敵だよーー!」ガバッ
胡桃「前から思ってた! エイちゃんってやっぱ天使だよ!」ガバァッ
エイスリン「What!?」
胡桃「もういいや! エイちゃん今日から私のモノね! 今日も一緒に帰ろうね!!」スリスリ
豊音「私も! 私も一緒に帰りたいよー!」ピョンッ ピョンッ
胡桃「トヨネの家は反対方向でしょ!!」
豊音「うぇぇぇぇんそぉだったぁぁぁぁー!!」グスグス
エイスリン「エ? エ?」
白望「……ダル」
塞(……好きは好き、かァ)
塞「あ」
塞(……そういえば、結局シロの話が曖昧になっちゃったな)
塞(まあ、いいか)
塞(シロもあんまり気にしてないみたいだったし)
塞(気にして……)ズキ
塞(……シロ)
胡桃「みんな、忘れ物はないー?」
豊音「問題ないよー」
エイスリン「ナイヨー!」
塞「おっけー」
白望「ダルい……」
塞「いつものことでしょそれ。 ほら立った立った」
白望「むぅ……」スッ
胡桃「じゃあ部室のカギ締めるよー」
豊音「はーい」
豊音「また明日ー!」フリフリ
塞「うん、お疲れー」フリフリ
白望「……」フリフリ
\エイチャン、テ、ツナゴッカ/// / \アッ、ズルイズルイー!/ \ミンナ、ナカヨシ!/
塞「本当、仲良いねぇあの三人」
白望「うん」
塞「私たちも、帰ろっか」
白望「」コクリ
――――帰路
白望「……」テク テク
塞「……」
白望「……」テク テク
塞「……」
白望「……」テク テ
白望「塞」
塞「なに?」
白望「んー……」
白望「……あのさ」
塞「うん」
白望「……ごめん、やっぱり何でもない」
塞「え?」
白望「……」
塞「えと……シロ?」
白望「……」ハァ
塞「無言でため息を吐かれた!? ちょちょ、どうしたってのシロー!?」
塞(私なにかしたっけ!? え? え!?)アタフタ
白望「……」クス
塞「!?」
塞(い、いま一瞬だけ……)
塞(……シロの、口元が緩んだ――!?)
塞「……」チラッ
白望「……なに?」
塞「あ、いや、別に」
塞(……気のせい、なのかな)
塞(いや、でもあれは確かに……)
塞「んぅ……?」
白望「塞」
塞「!?」
塞「な、に?」
白望「止まってるよ」
塞「な……なにが?」
白望「……足」
塞「あっ、ご、ごめん」
白望「……」
塞「うぅ……」
塞(さっきのは見間違いだったのかな……)
塞(……いや、でもあれは間違いなく)
塞(……)
塞(シロの笑顔、か)
塞(……きっと超絶可愛いんだろうなぁ)
塞(――いや、どっちかというと格好いいのかな?)
塞(男装とか似合いそうだし……)
塞(……まあ、それはそれで……)
塞(あぅ///)
白望「……?」
ピタッ
塞「ん」
白望「うん」
塞「それじゃ、私こっちだから」
白望「うん」
塞「それじゃ、また明」
白望「塞」
塞「た……え?」
白望「……」ジー
塞「し、シロ?」ドキッ
白望「……」
白望「……ん、また明日」
塞「う、うん……また明日」フリフリ
テク テク
テク テク
……
――――
――――
塞「なん、だったのかな……」
塞(あの、シロの眼……)
塞(何かを、探るような……見極めてるような)
塞(そういう、眼だった)
塞(……)
塞(考えても仕方がない、か)
塞(わからないのなら、本人に聞けばいいんだ)
塞(うん)
塞(明日、聞いてみよ)」
塞(……ま、十中八九はぐらかされると思うけどね)
――――翌日
塞「おっはよー」フリフリ
白望「うん」
塞「待たせた?」
白望「……今来たとこ」
塞(……待たせたかな、こりゃ)
塞「……それじゃ、行きますかー」
白望「うん」
塞(……本当、優しいんだから)
胡桃「おいっす、お二人さん!」ギュー
エイスリン「Good morning!」ナデナデ
塞(うわ、なにそのベタベタっぷり)
塞「お、おはよー」ヒク
白望「……」フリフリ
塞「(……何かやけにベタベタしてない?)」
白望「(……昨日の帰り際に、何かしらあったのかも)」
塞「(にしたってこれは……)」
胡桃「エイちゃんは温かいなぁー」スリスリ
エイスリン「クルミ、クスグッタイ///」
塞「(……進展し過ぎじゃない?)」
白望「(……昨日のあれそれが影響してるんじゃないかなァ)」
塞「(だよねぇ……)」
塞(あんな話をした翌日にこれだもん……)
塞(……羨ましいな)
塞(あっ)
塞(いやいやいや!)ブンブン
塞(思ってない! そんなこと考えてないから!)
塞(私もシロに抱きつきたいとかそんなことは全然っ……ハッ!?)
「――え」
塞(いやでもシロの身体って女っぽいし、かなり抱き心地良さそう……)
「塞」
塞「!?」
塞「なななななななにっ!?」
白望「……いや、ボーっとしてたから」
塞「シロに言われると何かショックだわそれ……」ズーン
白望「え、ごめん」
塞「……あれ? 胡桃たちは?」
白望「先に行っちゃったよ」
塞「え!?」
白望「なんかあの二人の世界が出来上がってたから……塞がボーっとしてる内に置いていかれた」
塞「なんつーバカップルよそれ……」
白望「……まあ、仲が良いのは悪いことじゃないし」
塞「そりゃそーかもしれないけど……」
塞(……シロから見て、あの二人の関係がどう見えてるのかが重要なわけで)
※塞シロ組。胡エイ組と合流。
豊音「みんなーおはよー!」ブンブンッ
塞「おはー」白望「ん」
胡桃「はいはーい」スリスリ
エイスリン「オハ、ヨー!」ニコニコ
豊音「……んん?」キョトン
塞(あ、気付いた)
豊音「(……胡桃たち、何かあったのー?)」
塞「(わっかんない)」
白望「(会った時からこんな感じだったよ)」
豊音「(へぇー!)」
豊音「何だかとっても微笑ましいね!」キラキラ
塞「それは否定しないけどさー」
塞「っていうか、豊音は昨日一緒に帰ったんじゃないの?」
豊音「んーんー。 一緒に帰ったのは途中までだからー」
塞「じゃあ、別れた後に何かがあったのか……」
白望「……」
豊音「シロー?」
白望「……また置いてかれてるよ、私たち」
塞「また!?」
トコトコ
塞「うー……マイペース過ぎるでしょあの二人」
豊音「桃色の空気が流れてたねー」
塞「だよねぇ。 あんなに引っ付いちゃって、お熱いわー」
白望「……エイスリンの抱き心地の良さは認めるけどね」
塞「あれ? それさらっと凄いこと言ってない?」
豊音「確かにエイスリンさんって温かいよね!」
白望「うん」
塞「あれ!? もしや私だけ出遅れてない!?」ガビーン
――――学校、到着
塞「着いたァー……」
白望「……大丈夫?」
豊音「まだ授業前だけど、疲れちゃった?」
塞「だいじょぶだいじょぶ。 朝からお腹いっぱい過ぎて疲れただけだから」
胡桃「だらしないなぁ、塞はー」
塞「主にアンタらが原因だけどね……」
エイスリン「」カキカキ
エイスリン「」サッ
白望「……『具合悪いなら保健室行く?』だって」
塞「平気だって。 エイスリンは優しいなァ」ナデナデ
エイスリン「///」
胡桃「むむ!」
塞「じゃ、また後でねー」
白望「……うん」
エイスリン「♪」フリフリ
――――
塞「やっぱあの二人も仲良いよね」
胡桃「私とエイちゃんほどじゃないけどね!」
塞「むむ、惚けるねぇ」
胡桃「フフン!」
塞(時折、本当に同い年かと疑ってしまうのは私だけじゃないよね……?)
豊音「あぅぅー、一人ぼっちは寂しいよー!」グスグス
塞「いや泣くほどのことじゃ……」
胡桃「豊音ってクラスじゃ弄られキャラでしょ? 別に寂しくないじゃん」
豊音「確かにみんなみんな仲良くしてくれるけどー、塞たちと一緒にいられないのが寂しいんだよー!」グスグス
塞「はいはい。 授業中にメールしたげるから、今は我慢しときなさい」
胡桃「携帯禁止!」
塞「えー?」
塞「胡桃は豊音が可哀想じゃないのー?」
胡桃「規則が大事!」
塞「なら……この豊音を直視しながら同じ台詞を言ってみろー!」→豊音「うぅ~」ウルウル
胡桃「…………クッ」
胡桃「……きょ、今日だけ特別ね! と・く・べ・つ!」
塞「はいはいっと、特別特別ー」
豊音「胡桃優しいー♪」ガバッ
胡桃「うわっ、重い! トヨネ重いー!」ジタバタ
――――放課後
胡桃「さてさて、部活部活っと」
塞「おー、やる気だねぇ」
胡桃「シロたちはまだ教室かな?」
塞「どうだろね。 とりあえず覗いてみようよ」
胡桃「だね。 行こ行こー」
ガラガラ
塞「ん?」
塞(シロが……いない?)
胡桃「エイちゃーん!」タタタッ バッ
エイスリン「クルミ!」パァッ
胡桃「会いたかったよぉ!」スリスリ
エイスリン「ワタシモ!」ナデナデ
塞「お昼一緒に食べてたじゃん……って聞いてるわけないかー」ハァ
塞「エイスリン、まさかと思うけど……シロは先に部室行ったの?」
エイスリン「」フルフル
塞「だよねぇ……」
胡桃「帰ったってわけでもなさそうだね。 鞄残ってるし」
塞「エイスリンは何か聞いてる?」
エイスリン「シロ、ヨウジ、アル!」
塞「あれ、そうなの?」
エイスリン「」コクコクッ
胡桃「シロが用事……珍しいね」
塞「だねぇ」
胡桃「とりあえず、先に部室行ってよーか」
塞「うん。 教室で弄り倒されてるであろうトヨネを救いがてら、ね」
胡桃「エイちゃんはどうする?」
エイスリン「」カキカキ
エイスリン「」サッ
塞「……エイスリンとシロの、絵?」
胡桃「これは多分……シロから『先に行ってていいよ』って言われた的な意味じゃないかな」
エイスリン「♪」コクコクッ
塞「おお、正解っぽい!」
胡桃「フッ、さすが私」ドヤァ
塞「殴ってもいい? というか殴る」
胡桃「痛い!」ペシッ
胡桃「シロの鞄どうしよ」
エイスリン「ワタシ、モツ!」
塞「ならメールで伝えとこっか」スッ
胡桃「なんて?」
塞「『お前の鞄は預かった。 返してほしくば部室まで来い! byクルミ怪人』」
胡桃「なんで脅迫気味なの……しかも怪人て」
エイスリン「カイジン! モンスター!」キラキラ
胡桃「そこ喜ぶポイントなんだ!?」
――――
ガラガラ
塞「トヨネいるー?」
豊音「ふぇぇぇぇぇん塞ぇぇぇぇぇぇぇ!」ガバァッ
塞「うわぁ!?」胡桃「どしたのトヨネ」
豊音「みんなが意地悪するんだよぉぉぉぉ!」グスグス
塞「へー」
豊音「私のこと八尺様って呼ぶんだよぉぉぉぉ私八尺様じゃないのにぃぃぃぃぃぃ」グスグス
塞「おーよしよし」ナデナデ
豊音「うぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇん!」グスグス
エイスリン(カワイイ)
胡桃(かわいい)
塞(かわいい)
胡桃「もう……あの娘らにはまた説教しなきゃね!」
豊音「だ、ダメだよー、みんなに悪気はないんだからー」オロオロ
胡桃「どうしてトヨネが庇うの!?」
豊音「だってだってー……」オロオロ
塞「もうこれも毎度のやり取りね」
エイスリン「オナジミハ、ダイジ!」
塞「確かに、見てる分には飽きないかも」
エイスリン「♪」ニコニコ
――――部室
豊音「え、シロが?」
胡桃「そうそう」
塞「何か用事があるらしくてさ」
エイスリン「メズラシイ!」
塞「もしかしたら、どっかで寝てるだけかもね」ケラケラ
胡桃「あり得るよ、シロなら」
豊音「でもでもー、さっきおそーじしてる時に廊下歩いてるの見掛けたよー?」
胡桃「へー」
豊音「何となくキョロキョロしてた気がするけどー、何でだろー?」
塞「キョロキョロ、ねぇ」
胡桃「ま、その内来るでしょ。 ダルいダルい言ってても何気にサボったことないし」
豊音「実はしっかりものだよねー」
エイスリン「シロ、エライ!」フンス
塞「それでも基本は怠け者だけどねぇ」
豊音「アハハッ」
胡桃「間違いないねー」ケラケラ
塞「四人いるし、そろそろ始めよっか」
豊音「わーい!」ピョンッ ピョンッ
エイスリン「♪」ワクワク
胡桃「今日は勝つよ!」
豊音「させないよー♪」
エイスリン「マケナイ!」
塞「それじゃ場決めから行くよー」
――――
――
塞(……そういえば)タン
塞(シロに昨日のこと聞くの、すっかり忘れてた)
塞(朝も昼もタイミングはあったのに)
塞(昨日からどこか抜けてるな、私……)
塞(でも考えてみれば……)タン
塞(二人きりの時に聞いた方が良い気がするし……)
塞(今日の帰りでも、いいかなぁ)タン
塞「あ、それロン、7700」
胡桃「ぐぁー!」
――――半荘終了
豊音「トップだよー!」キャッ キャッ
塞「まあ、妥当なところかな」←二位
エイスリン「クヤシイデス……」←三位
胡桃「焼き鳥じゃないもん……一回は和了ったもん……」←四位
塞「一回の和了でもあんなに低い打点じゃ、焼き鳥と変わらないんじゃない?」ニヤニヤ
胡桃「うぐぅっ」
エイスリン「サエ、イヂワル!」
豊音「いじめっこみたいだねー」
塞「敗者に口無し、ってね!」
胡桃「うぐぐぐっ」
ガチャリ
白望「ごめん……遅くなった」
豊音「あっ、来たー」
エイスリン「シロ!」
胡桃「ほんとに遅いよー?」
白望「知ってる。 ……だから、これ」スッ
豊音「おぉー」
エイスリン「――ジュース!」パァッ
白望「適当だけど、受け取って……」
胡桃「はいはい、お礼は言わないよー♪」
白望「うん」
塞(……ちゃんと皆の好きな種類が揃ってる。 相変わらずというかなんというか……)
白望「塞も、はい」
塞「さんきゅ」
白望「はぁ……ダルかった」プルプル←腕を振る音
塞「お疲れ様」
塞「……何やってたの?」
白望「あー……うん」
白望「……気が向いたら、話す」
塞「……ん」
塞(多分、教えてくれないんだろうなぁ)
胡桃「それじゃあドベの私が抜けるから……シロ! 仇は任せた!」
白望「え、やだ」
胡桃「たまにはノってくれても罰は当たんないでしょ!」
白望「……ダルい」
胡桃「……ですよねー」
エイスリン「マカセテ、クルミ!」
胡桃「エイちゃん!」ガバッ
エイスリン「カタキ、トル!」ナデナデ
胡桃「うん、お願い///」ギュッ
塞「……もうお腹いっぱいなんだけど」
豊音「微笑ましくてちょーかわいいよー」
白望「……ダル」←トップ
塞「意外な結果になったねー?」←二位
エイスリン「カタキ、トレナカッタ……」シュン←三位
豊音「まんまと塞がれたよー……」グスグス←四位
胡桃「エイちゃんは悪くないよ……悪いのはあのボンバーマンだよ!」ビシィッ
塞「超失礼だからそれ!」
――――帰り道
テク テク
塞(……さて)
塞(いつも通り、シロと二人で帰路についてるわけだけど)
塞(あー……)
塞(……切り出し方がわからない)
塞(ストレートに聞く? 変化球で攻める? それとも――)
白望「塞」
塞「あ、なに?」
白望「危ないよ……目の前」
塞「え?」クルッ
│電柱│←塞「うぉ!?」
白望「……前見て歩かないと」
塞「う、うん。 ありがとシロ」
白望「……何か悩み事?」
塞「へ?」
白望「さっきからずっと、難しい顔してるから」
塞「あー」
塞「……うん。 まあ、ちょっとね」
白望「聞かない方がいい?」
塞「んーん。 むしろ、今その悩みを解決させてもらおうかな」
白望「?」
塞「――単刀直入に聞くよ、シロ」
白望「……うん」
塞「昨日の帰り際、シロは妙な雰囲気だった。 その理由を、教えてほしい」
白望「……」
塞「」ジッ
白望「……」
塞「……やっぱり答えてくれない、か」
白望「……」
塞「そっか」
塞「……やっぱ、気が向くまでは、教えてくれないつもりなんだ?」
白望「……」
塞「だんまりね……」
塞「……わかった」
白望「……塞」
塞「や、ごめん。 気にしないで。 答えたくないことだって、そりゃあるよね……うん、わかってる」
白望「……」
塞「誰しも、あるものだよね。 秘密というか、言いたくないこととか……」
白望「……」
塞「……ほんと、ごめん」
白望「……塞」
塞「さっ、日も暮れてるし、とっとと帰ろーよ」
白望「……うん」
白望(……ごめん)
――――翌日
胡桃「え、今日は部活出られないの?」
白望「うん」
豊音「どうしてー?」
白望「外せない用事があって」
エイスリン「サビシイデス……」シュン
白望「ごめんね」
塞「……」
白望「明日は普通に出られるから」
胡桃「差し入れを持ってくるなら許してあげよう!」
白望「……それはちょっとダルい」
豊音「アハハっ」
――――授業中
教師「――であるからして……」
塞(……シロ)
塞(用事って、なんだろ)
塞(放課後に、何やってんのかな)
塞(……)
塞(どうして私は、こんなにも不安な気持ちになってるんだろう?)
塞(何があったわけでもないのに)
塞(……いや)
塞(なかったとは、言えないか)
塞(……確かにあったよね、特別なこと)
塞(やっぱりそれが……?)
塞(……)
――――昼休み
胡桃「塞ー、お昼行くよー」
塞「ああ、うん」
胡桃「よっし、今日こそ私からエイちゃんに『あーん』してやるぞー」
塞「そうだね」
胡桃「あれ……?」
塞「どしたの?」
胡桃「あ、いや、なんでもない」
塞「?」
胡桃「(いつもなら何かしら突っ込んでくるのに……)」
胡桃「(……うーん)」
ガラガラ
胡桃「エイちゃーん!」ヒラヒラ
エイスリン「!」
エイスリン「クルミ! サエ!」パァァッ
塞「やっほー」
エイスリン「」カキカキ
エイスリン「」バッ!
塞(山? に、人が……反響?)
塞「……し、シロ翻訳!」
塞「ってあれ!? いないの!?」
胡桃「戸を開いた段階で気付かなかったの……?」
胡桃「エイちゃんや、シロさんはどこぞに行ったのかね」
エイスリン「」チョイチョイ
胡桃「?」スッ…
エイスリン「(シロ、ヨウジ)」
胡桃「(え、また?)」
エイスリン「」コクコクッ
胡桃「(……そか、わかった)」
塞「なにコソコソ話してんの?」
胡桃「ちょっとね。 それよりシロだけど、なんか先生に呼び出されたっぽいよ?」
塞「? 何だって呼び出しなんか」
胡桃「提出物でも出し忘れれたとかじゃない? あるいは、居眠りのしすぎで指導、みたいな」
塞「ふぅん……」
塞「まあ、シロならあり得るかー」
胡桃「だよねー」ケラケラ
胡桃(後でシロに謝礼を要求しよう、うん)
塞「」モクモグ
エイスリン「クルミ、アーン」
胡桃「あーんっ」パクッ
胡桃「んん~、おいひぃ♪」
エイスリン「♪」ニコニコ
塞「……」モクモグ
塞「……」ゴックン
塞「……」
塞(……誰かこの桃色空間どうにかして)ズーン
――――5時限目
塞(……結局、シロは昼休みが終わるギリギリの時間まで、教室に戻ってこなかった)
塞(それとなく尋ねてみたら、同様にそれとなくはぐらかされた)
塞(胡桃たちに聞いても、困惑気味に首を傾げられた)
塞(程なくしてチャイムが鳴って、タイムオーバー)
塞(せっかくのシロと話せる機会が、また失われた)
塞(神様は……いぢわるだ)
――――
塞(……どうしてだろう)
塞(酷く、落ち着かない)
塞(肩が重い)
塞(思考がまるで働かない)
塞(授業の内容なんて、これっぽっちも頭に入ってこなかった)
塞(……唯一頭に浮かぶのは、あいつの顔)
塞(あいつのダルそうな顔だけ)
塞(……シロ)
塞(……息苦しい)
塞(胸の奥が、ざわめいてる)
塞(私……動揺してるの?)
塞(……どうして?)
塞(……シロが、どこか遠くに行ってしまいそうな、言い知れぬ不安を感じるから……?)
塞(そんなわけ、ない)
塞(シロが、離れていっちゃうなんて、そんな)
塞(そんなわけ……)
塞(……)
――――放課後
胡桃「さてさて、今日も部活頑張るよー」ヨイショ
塞「……うん」
胡桃「今日こそ雪辱を晴らすからね、覚悟しておくといいよ!」
塞「……うん」
胡桃「……」
胡桃「私とエイちゃんの相性は最高だよね!」
塞「……うん」
胡桃「だめだ、完全に心ここに在らずになってる」
胡桃「塞ー? 帰ってこーい」ペチペチ
塞「……うん」
胡桃「困ったなー……」
――――部室
胡桃「無理矢理連れてきたはいいけど……」
エイスリン「ウー……」
豊音「さ、塞ー……?」
塞「うん」ポケー……
胡桃「午後からずっとこんな感じだから、さすがに困っちゃって」
豊音「何があったのー……?」
胡桃「……私も、詳しく知ってるわけじゃないんだけどね」
胡桃「多分――」
胡桃「とまぁ、かくかくしかじかで」
豊音「昨日のお話の延長上にあるのかなー……?」
胡桃「多分、ね」
豊音「……胡桃ー。 実は大したことじゃないかなーって、黙ってたことがあるんだー」
胡桃「なになに?」
豊音「えっとねー……」ゴニョゴニョ
胡桃「ふんふんふん…………えっ?」
胡桃「(人を、捜してるの? あのシロが? ……誰を?)」
豊音「」コクコクッ
豊音「噂が色々あるから、『誰を』まではわからなくって。 ただ、学校中を捜し回ってるみたいなんだー」
胡桃「あのシロが、そこまでして捜す相手って……?」
豊音「何者だろうねー……」
胡桃「想像もつかないよ……」
エイスリン「ハイ」ピンッ
豊音「?」
胡桃「どしたの、エイちゃん」
エイスリン「コタエガワカッタ、カモデス!」
胡桃「え……」
豊音「シロの捜してる人がわかったのー!?」
エイスリン「タブン!」
胡桃「じゃ、じゃあちょっと耳打ちで……」
エイスリン「エーット……」ゴニョゴニョ
胡桃「な、なるほど……」
豊音「確かにその線が濃厚かもー……」
エイスリン「」フンス
胡桃「でも」スッ
胡桃「(それ、今の塞には伝えない方が無難かも)」
胡桃「(朝から色々と思い悩んでたみたいだし、昼休みの間も様子がおかしかったからねー……現に今だって)」チラッ
胡桃「ってあれ!?」
豊音「さ、塞がいなくなってるー!?」
エイスリン「!」
エイスリン「クルミ! トヨネ!」
豊音「うん!」
胡桃「捜さないとまずいね! 行こう!」
――――
白望「……やっと見つけた」
――――
タッタッタッタッ
塞(……)
塞(シロに、)
塞(シロに会わなきゃ)
塞(会って、話をして)
塞(それから……)
塞(……それから?)
塞(……何で走ってんだろ、私)
塞(シロがまだ学校にいるかどうかも、わかんないのに)
塞(……)
塞(っ!)
塞(靴箱! 靴箱を見れば!)
塞(……よしっ)タッ
塞(シロの靴箱は確か……)
塞(!)
塞(外靴……)
塞(シロは、まだ学校にいるんだ)
塞(胡桃たちの話、やっぱ本当なのかも……)
塞(でも)
塞(それならなんでシロは、その子のこと……)
塞(……ダメだ)
塞(嫌な未来しか、想像できない)
塞(……会いたい)
塞(会って、直接シロに訊きたい)
塞(『何してんの?』って)
塞(……それでどう転ぶかは、わかんないけど)
塞(でも)
塞(それをしなきゃ、私は前に進めない気がするから)
塞(だから私は)
塞(……)
――
ガラガラ
白望「……ふぅ」
白望(……ダル)
白望(慣れないこと、したもんなァ)
白望(我ながら情けない)
白望(でも……)
白望「……」
白望(……帰ろう)
トボ トボ トボ トボ
白望「」チラッ
白望(16時過ぎ、か)
白望(塞たちは、楽しく打ってるかな)
白望(んー……)
白望(……無駄な心配かァ)
白望(あ)
白望(……自販機)
白望(お財布は)スッ
白望(……軽い)
白望(……ダル)
白望(……帰ろ)
白望()トボトボ
白望(……んー)
白望(……なんか)
白望(……空しい)
白望「……はァ」
?「――――見つけた!」
白望「!」
白望「どうして、ここに」
白望「――塞」
塞「……シロ」
白望「……」
塞「用事があるって、言ってたよね」
塞「それ……もう済んだの?」
白望「……はァ」
白望「しくじったなァ……」
塞「……どういう、意味……?」
白望「……」
白望「ついてきて」
塞「っ」
塞「……」コクリ
白望「ここなら、いいかな」
塞「」コクリ
白望「ん……」カミクシャ
白望「……本当は、明日にしようと思ってたんだけど」
塞「なにが……」
白望「まあ、いいか」
白望「これも多分、“そういうこと”なんだろうし」
塞「だからなにが」
白望「塞」
塞「っ!」ビクッ
白望「塞は、どう思う?」
白望「……同性間の、恋愛について」
塞「!」
塞「な、なんでまたそんなこと……」オロ
白望「聞かせて」ジッ
塞「っ」
塞「私、は……」
塞「互いに、好き合ってるんなら……」
塞「当人たちが、受け入れているなら」
塞「……そこに、性別は関係ない……と思ってる」
塞「だって、仕方ないし」
塞「たまたま好きになった相手が同性だった、ってだけだもん」
塞「好きなものは好き。 エイスリンが言ってたように、それが真理なんじゃないかなって」
塞「そう、思ってるよ」
白望「……」
白望「……」
白望「塞の意見はわかった」
白望「……ごめんね」
白望「私はずるいことをした」
塞「……?」キョトン
白望「……」
白望「塞」
塞「な、なに?」
白望「……あのね」
白望「何となく、塞が勘違いしていそうだから」
白望「敢えて……暴露する」
塞「……」
白望「私は普段……超が付くほどの物臭だけど」
白望「……塞と、一緒にいるのは」
白望「……ダルくないよ」
塞「……え?」
塞「あの、えと、それって……」
白望「……ん」ギュッ
塞「ふぇっ!?」
塞(こ、腰に手を回されてっ……)
白望「――これなら、伝わる?」キュッ
塞(シロの目が、いつもとちがう……)
塞(そんな……そんな真剣な眼差し)
塞「……ずるいよ、シロぉ……」ポロ
白望「……うん、知ってる」
白望「……塞」
塞「…………うん」キュッ
白望「返事……聞かせてくれる?」
塞「……」
塞「……」ギュー
白望「!」
塞「えへへ……」
塞「……これじゃ、答えにならないかな?」
白望「……」
白望「大丈夫……ちゃんと、伝わってきた」キュッ
塞「……」ギュウー
白望「ん……」
塞「心臓、早くなってるよ」
白望「塞こそ」
塞「……バレたか」クスクス
白望「体……温かいね」
塞「そりゃあ……シロに抱き締められてるし?」
白望「照れてるってこと?」
塞「有り体に言えばそうなる」
白望「言わなくてもそうなるよ?」
塞「う、うるさいな///」
塞「それより……ごめんね」
白望「なにが」
塞「や、その……私」
白望「誰も悪くない」
白望「悪くないから」
白望「……謝らないで」ナデナデ
塞「……そういうの、本当ズルいよ」カァァ
白望「そう?」
白望「……そうかもね」ナデナデ
塞「……///」
白望「もう一つ、おまけに暴露しとこう」
塞「なに……?」
白望「実は私のコレは……三年前から」
塞「……え?」
塞「こ、“コレ”って……“ソレ”?」
白望「うん」
塞「ええええええ!?」
白望「そんなに驚くこと?」
塞「びっくりもするでしょ!?」
塞「だってっ……だって……」
塞「シロが、三年も前から私のこと…………なんて///」
白望「迷ってたから」
塞「う、ん」
白望「ずっとずっと、迷ってたから」
白望「……麻雀の時みたいに」
白望「……迷って、迷って、迷い続けて」
白望「ようやく最近、決心がついたんだ」
塞「うぅ~……///」
白望「質問していい?」
塞「……答えられる範囲なら」
白望「塞は、いつから?」
塞「それは答えられない範囲」
白望「不公平」ジッ
塞「は、恥ずかしいから……」テレ
白望「答えないと」
塞「……ないと?」
白望「……塞いじゃうよ?」
塞「だからそーいうのズルいってぇ……///」
白望「ごー、よーん、」
塞「うっ」
白望「さーん、にーい、」
塞「うぅぅっ」
白望「いーち、」スッ
塞「に、二年前!」
白望「ん……」ちゅっ
塞「んん!?」
塞「けけけ結局するんじゃない!///」
白望「コンマ2秒、言うのが遅かった」
塞「そんなのズルい!」
白望「ズルい、って今日だけで何回言ったかな」
塞「シロがそーゆーことばっかりするからでしょー……」
白望「それにしても」
白望「二年前かァ……」
塞「う……」カァァ
白望「きっかけは?」
塞「……ヤダ、言いたくない」
白望「また塞い」
塞「にっ、2年に進級した時にっ」
塞「……シロとクラスが別れてから、色々あって」
白望「色々って?」
塞「い、色々はいろいろ……」
白望「詳しく聞きたい」
塞「なんでこーゆー話題に限ってそんな積極的なの!?」
白望「好きな人の話が気になるのは当たり前のことじゃ」
塞「っ~~!!」カァァ
塞「バカ! シロのアホ! タラシ!」
白望「……タラシは心外だなァ」
塞「そ、そういうシロは……どうなのよ」
白望「気になるの?」
塞「当たり前でしょ! だってその、私はシロが……」モジモジ
白望「……かわいい」ボソッ
塞「そっ、そーゆーのはいいから! きっかけ!」
白望「直感的に」
塞「えっ?」
白望「一目見た瞬間、思ったんだ」
白望「『私この人好きだ』って」
塞「そ、それってっ」
白望「一目惚れに近いかなァ」
塞「あぅぅ///」
塞「なにそれ、何なのよそれぇっ///」ジタバタ
白望「本当のことだよ」
塞「くぅぅっ!」ドタバタ
白望「塞ちょっと落ち着いて」
塞「ムリに決まってるでしょ!」
白望「……わかった」
ギュッ
塞「あっ……」
白望「力ずくで、黙らせよう」ナデナデ
塞「っ~~……」カァァ
塞「……なんか、さっきから抱き合ってばっかりだね、私たち」
白望「嫌?」
塞「ううん」フルフル
塞「むしろ…………好き」
白望「よかった」ナデナデ
塞「ん……」
塞「ねぇ、シロ」
白望「なに?」
塞「……さっきまで、どこで何をしていたの?」
白望「……多分、塞の想像通りだと思うけど」
塞「……告白してきた子に関係することだよね?」
白望「うん」
塞「……何のために?」
白望「ケジメをつけるために」
塞「そっか……」
白望「……あの子には、酷なことをした」
塞「……だとしても」
塞「それが、シロなりの誠意の見せ方だったんでしょ?」
塞「なら、それで十分だと思うんだけどなァ……」
白望「塞……」
白望「……ありがと」キュッ
塞「ん」
白望「塞」
塞「ん?」
白望「目、閉じて」
塞「ん……わかった」スッ
白望「……」チュッ
塞「んっ」
塞(シロの手が、頭の後ろに回って……)
塞(優しく撫でられて……)
塞(なんか……頭ん中ふわふわしてきちゃう)
塞(あー……まずいなぁ……)ギュウ
塞(このままずっと抱きついてたいなー……)ギュウウ
塞(……シロの体、色々と柔らかいしさー)ギュウウウ
白望「塞」
塞「なぁにー?」
白望「甘えてくれるのは、嬉しいんだけどさ」
塞「んー」
白望「――部活、戻んなくていいの?」
塞「えー?」
塞「……」
塞「……」チラッ→時計見る
塞「……」
塞「完っ全に忘れてたー!!」
――――
エイスリン「サーエー!」
豊音「どこにいるのー? おーい!」
胡桃「はぁー……見つからないねぇ」
豊音「もう帰っちゃったのかなー?」
胡桃「いや、靴箱に外靴残ってたし、校内のどっかにいるのは間違いないよ」
エイスリン「……チョット、ツカレマシタ」シュン
胡桃「うーん……とりあえず一回部室に戻ろっか? もしかすると、戻ってきてるかも」
豊音「はーい……」
――――
白望「部室、戻らないの?」ポンポン
塞「……ダルくて動けないー」ギュー
白望「それ私の台詞……」
塞「おんぶしてー……」
白望「……」スッ
塞「なんてね。 今いk……ってうわっ!?」
白望「部室、連れてくから」ヒョイ
塞「あわわわっ」
塞(本当におんぶされちゃったよ///)
白望「私の鞄持っててくれる?」
塞「え、あっ、はい」
白望(塞、軽いなァ……)
塞(シロ、温かいなァ……)
トボ トボ
塞「ね、ねぇ、やっぱり自分で歩くから下ろしてっ」
白望「ダメ」
塞「なんで!? いくら人気がないからって、さすがに恥ずかしいんだけど!」
白望「私がやりたいからおんぶしてる。 はい、交渉決裂」
塞「シロのくせにアグレッシブすぎる!!」
白望「まあまあ」
塞「しかも適当に押し切られるだなんて……っ!?」
白望「とーちゃく」
塞「そうこうしてる内に着いてしまった……」
白望「塞、鞄ありがとう」
塞「あ、こちらこそ」
塞「って何かこのやり取り妙じゃない!?」
白望「ほら、入ろう」
塞「しかもいつも以上にマイペースだね!?」
白望「入らないの?」
塞「ま、待ってっ……色々と心の準備が……さっきなんて部室飛び出してきちゃってたし……」
白望「……」
白望「」クルッ
塞「シロ? 急に振り返って、どうし――」
チュッ
塞「っ!?」
白望「……ん……」
塞「ん、んっ……ちゅっ……」
塞「……ぷはっ」
塞「な、なんなの!?」カァァ
白望「……」
白望「隠すつもりなんて、ないからね」
塞「……え?」
白望「部活中でも、堂々といちゃつきたいし」
塞「や、そっそれはさすがに控えた方が、ねっ!?」
白望「どうして?」
塞「そりゃ、恥ずかしいから……」
白望「ならなおさらいちゃつかないと」
塞「なんで!?」
白望「……照れ顔が見たいから?」
塞「却下! ぜったい却下!///」
白望「無効」
塞「なんで!?」ガビーン
白望「私が法だから」
塞「意味わかんないだけどっ///」
塞「もう……」
塞「わかったよ……」
塞「……皆になんて説明しよっか?」
白望「……適当に」
塞「相変わらず無計画なのね……」タハハ
白望「……あ」
塞「どうしたの?」
白望「差し入れ……持ってきてない」
塞「……明日の予定だったし、別にいいんじゃない?」
白望「胡桃に叱られる……」
塞「っていうか私も叱られるわ……多分」
白望「塞と一緒ならいいや」
塞「切り替え早いね……嬉しいけどさ」
白望「……そろそろ入ろうよ」
塞「そうだね……うん、覚悟決めた!」
白望「行けそう?」
塞「平気平気! シロこそダルくない?」
白望「大丈夫だよ」
白望「何があっても」
白望「塞と一緒なら」
白望「……ダルくないから」
塞「……うんっ」
カン!
塞「あ、こら。 髪の毛触っちゃダメだってば」
白望「……なんで?」
塞「集中できないのっ。 そーゆーのは後でいくらでもしていいから今は、ね?」
白望「……待つのがダルい」
塞「そう言われてもねー……んー」
塞「あ、そうだ」ピンッ
塞「シロ、手出して」
白望「……」スッ
塞「ん、それをこう、私のお腹の方へ回して……」
白望「あ」
塞「じゃじゃんっ。 どう? 胡桃にしてたみたいに、この密着感があればちょっとは我慢できない?」
白望「いい、凄くいい」bグッ
塞「でっしょー?」ニコニコ
胡桃「ちょっと待てそこのお二人さん!!」
塞「なにー?」ニコニコ
白望「どうしたの胡桃」
胡桃「今っ、私たちは何をしてる最中だっけ!?」
白望「?」キョトン
塞「麻雀だけど?」キョトン
胡桃「そうだね! 対局中だね! じゃあお二人さんは何をしてるのかな!?」
塞「何って……」
白望「抱っこして座ってるだけだよ?」
胡桃「それが問題だって言ってるんだよこのお惚けコンビがぁ!!」
豊音(胡桃たちも人のこと言えないと思うんだけどなー?)
エイスリン「フタリハ、ナカヨシ!」
エイスリン「デモ!」
エイスリン「ワタシト、クルミモ、ナカヨシ!」
エイスリン「♪」bグッ
胡桃「あぁっ、エイちゃんの笑顔は天使のようだよぅ///」
エイスリン「クルミ///」
塞「……人のこと言えないよねぇ?」
白望「うん」ナデナデ
塞「ぁ、こら、くすぐったいってー」ニコニコ
白望「ぐーぜんぐーぜん」
塞「アハハっ、何それ~」
豊音(目の保養だよー)ホクホク
――――休日
ピンポーン
白望「ちわー」
塞「はいはーい」
ガチャリ
塞「いらっしゃーい」
白望「お邪魔します」ペコリ
塞「邪魔するんなら帰ってねー」
白望「どこで大阪のノリを覚えたの?」
塞「たまたまテレビで」テヘペロ
白望「かわいい」
塞「いいから上がってよ///」
白望「あれ、親御さんは?」
塞「可愛い一人娘をほっぽり出してラブラブデート、だってさー」
白望「……ふーん」
塞「シロ?」
白望「なに?」
塞「あ、いや、なんでもないんだけど」
塞(……?)
塞「シロがウチに来るのなんて久しぶりだねー」
白望「うん」
塞「あはは、なんか恥ずかしいなー」ホッペポリポリ
白望「模様替えした?」
塞「うん。 ちょっとだけね」
白望「……ぬいぐるみが増えてる」
塞「集めてるつもりはないんだけど、つい」タハハ
白望「塞っぽくて、いいと思う」
塞「そう、かな? 自分じゃよくわかんないけど」
白望「温かい空間というか……とにかく落ち着く」
塞「あはは。 ありがと」
塞「ね、シロ」
白望「なに?」
塞「その……隣、座ってもいいかな?」
白望「……もちろん」
塞「ん……」スッ
白望「……」
塞「……」
塞(……無言でいるのが、気まずくない)
塞(むしろ、心地いいくらい)
塞「……」トン
塞(シロに寄り掛かっちゃった……重かったり、しないよね?)
白望「……」トン
塞(!)
塞「……えへへ」
塞「……」
白望「……」スス
塞「?」
白望「……」ギュッ
塞「!」
塞(シロに、手握られちゃった)
白望「……」キュッ
塞(しかも恋人繋ぎ……)
塞(……恥ずかしい)カァァ
白望「……」
塞「……」
白望「……」
塞「……」
白望「……」
塞「……」
白望「……」
塞「……なんか」
白望「……うん」
塞「……心地好すぎて」
白望「……眠くなるね」
塞「……えへへ」キュッ
塞「……このまま寝ちゃう?」
白望「……それも、魅力的だけど」
塞「……なんかやりたいことでもあるの?」
白望「……うん」
塞「なに?」
白望「……ただ」
白望「ただ、塞に触れていたいな」
塞「シロ……」カァァ
塞「……ね、こっち向いて」
白望「……」
チュッ
白望「……塞?」
塞「えへへ」
塞「まだ、私からしてないなって思ってさ」
白望「……」
白望「次は、私から」スッ
塞「ん……」
塞「……なら、お返しってことで」スッ
白望「んんっ……」
白望「……じゃあお返しのお返しで」スッ
塞「んむっ――」
――――
――
塞「……んー」
塞「どのくらい、経ったかな……?」
白望「たぶん……一時間くらい」
塞「あはは……」
塞「……いちゃつき過ぎかな?」
白望「……まだ足りないよ?」
塞「……実は、私も」カァァ
白望「塞……」
白望「……おいで」スッ
塞「……」コクッ
塞「お腹、空いちゃったね」
白望「うん」
塞「簡単なものなら作れるけど」
白望「食べたい」
塞「ならリビング行こっか」
白望「ん」
白望「ご馳走さまでした」
塞「ん、お粗末さまー」
塞「……あっ」
白望「どうしたの?」
塞「や、別に」
塞(今のやり取り、なんか夫婦みたいだったな///)
白望「……」
白望「小瀬川塞」ボソッ
塞「!?」
白望「どうしたの?」
塞「え、あっ、いや今、え?」
白望「ご馳走になったし、洗い物は私がしていい?」
塞「ええっ、いいって、私がするよー」
白望「だめ」
塞「なんで?」
白望「エプロンした塞の後ろ姿は凶悪だから」
塞「何それ///」
\You got a mail ! /
塞「あ」
塞(お母さんからだ)
塞(えーと)
塞(……)
塞(えっ)
カチャッ
白望(おしまい、っと)
白望(二人分だから、言うほど洗うモノ多くなかったなァ)
白望「んー」フキフキ
白望「よし」
白望「塞ー、洗い物終わっ――」
塞「シロ!」
白望「……慌ててどうしたの?」
塞「えっと……えっとね……あの、」
白望「深呼吸、深呼吸」
塞「うんっ」スーハー スーハー
白望「落ち着いた?」
塞「……うん。 ちょっとだけ落ち着いた」
白望「……それで、どうしたの?」
塞「えっと――」
白望「親御さん、今日は帰ってこれないんだ」
塞「お父さんがお酒飲みすぎてべろんべろんらしくって……恥ずかしい親なんだからっ」
白望「……」
塞「だから、ものは相談なんだけど……その」
白望「……ねぇ」
塞「え? な、なに?」
白望「――今日、泊まっていってもいい?」
塞「……へっ?」
塞「あ、ぅ、ぇっ」
白望「こんな時間に、年頃の女の子が家で一人ぼっちだなんて不安だし」
白望「塞を、一人ぼっちにさせたくないし」
白望「何より……私がもっと塞と一緒にいたいから」
白望「……ダメかな」
塞「……」
塞「ううん……」フルフル
ル塞「……ありがと、シロ」
塞「もちろんっ、大歓迎だよ!」
塞(とは言ったものの……)
塞(どうしよ……)
塞(あれからしばらく経ったのに、シロの顔を一度も直視できないでいる)
塞(なんでって?)
塞(そんなの恥ずかしいからに決まってるでしょ!///)
塞(いざこうなると必要以上に意識しちゃうというか)
塞(一夜をシロと過ごせるんだって思うと心臓が破裂しそうになるというかっ)
塞(あ~ぅ~……///)
白望「塞」
塞(うぅ……)モジモジ
白望「塞?」
塞(どきどきが止まんないよぉ……)モジモジ
白望「……」
塞(もしかしたらもしかするかもしれないんだから、色々と覚悟し――)
チュッ
塞「……」
塞「!?」
塞「ふっ、不意打ちはダメだって前にあれほど!///」カオマッカ
白望「塞がさっきからずっとぼんやりしてるから」
塞「あっ、ぅ……」
白望「テンパりすぎ」
塞「でも、でもぉ……」
白望「……」
白望「ねぇ」
白望「塞は明日、用事とかあるの?」
塞「……なんにもないよ」
白望「そっか……よかった」
塞「……なんで?」
白望「――今夜は寝かせないから」
塞「っっ!?」
塞「シ、シロ、それってどういう」
白望「……こういう意味」スッ
塞「ひぅっ!?」
塞(シロの手が、私の身体にっ///)
白望「ベッド……行こっか」
塞「はぃ……///」
カン
感想くださった方々、ありがとうございました
後日談は、ただいちゃつかせたかっただけでした
書いててニヤけちゃって我ながらキモかったです、まる
シロ塞好きが増えたらいいなぁ……
では、またどこかのスレで
Entry ⇒ 2012.10.10 | Category ⇒ 咲-Saki-SS | Comments (2) | Trackbacks (0)
伊織「幻の料理人味沢匠……?」
アイドルマスターとザ・シェフとのクロスです。実はもう一つクロスをしておりますが気にしないでください。
某レストラン
伊織「へえー、だから美味しいのね。こんなに料理で感動したのは久しぶりよ!」
伊織の父「なるほど、グルメの君がこんなパッとしない店を推薦したのはこういう訳があったのか」
グルメな友人「はい、味沢匠は知る人ぞ知る凄腕の料理人です。しかも出張専門の請負人。こんな機会は滅多にないと思いまして」
グルメな友人「しかも依頼料が法外なんですよ。しかしそれだけの価値はあると思いますよ」
伊織の父「ううむ。確かにこれならいくら出しても惜しくはないな」
伊織「本当ね。出てきたメニューが古典的なフレンチだからどうかと思ったけど、これならまた食べたいわね」
グルメな友人「噂ではリッツホテルで最年少でシェフになったとか……」
伊織の父「ほほう、あのフランスで最も格調高く名門ホテルでか。そいつはすごいなー」
味沢「気に入っていただきましたか?」
伊織「えっ、あっ、はい!」
グルメな友人「はっはっは。リッツホテルなど有名な店ではこうやって料理人が挨拶に来るんだよ」
グルメな友人「おっと、紹介しよう。こちらは水瀬財閥の水瀬氏に娘の伊織さんだ。伊織さんは何とアイドルとして活躍もしているんだ」
味沢「そうですか」
伊織「初めまして水瀬伊織です」ペコリ
グルメな友人「伊織さんは765プロに所属していてもう大人気なんだよ」
味沢「あいにくとテレビはあまり見ないもので」
伊織(むー)
伊織の父「ふむ、そういえば思い出したぞ。味沢匠。確か人の心を打つ料理を作るとか」
伊織の父「私の友人が言っておったが一つの料理で息子と新しい執事の考え方を変えたと。しかも違う悩みをだ」
グルメな友人「それは聞いたことありますよ。引退を決意した力士を説得したり詩の絶望に震えていたお嬢さんに生きる希望を与えた」
グルメな友人「ほかにも頑なな心を解きほぐしたりと、ほんと凄い人ですよ」
味沢「いえ、私はただ料理を作るだけです。大したことはしておりません」
味沢「では、ごゆっくり」ペコ。
グルメな友人「やれやれ、いつもながらそっけない人だよ」
伊織の父「」ところで伊織、いつまでアイドル活動をしてるつもりなのかね
伊織「もちろん、トップにしてスーパーアイドルになるまでよ」
伊織の父「やれやれ誰に似たのかお前も頑固だな。言っておくがこれ以上の──」
伊織「分かっているわよ。私自身の力で成し遂げてみせるんだから!」
小鳥「もうー、プロデューサーさん、また徹夜して!」
小鳥「しかもソファーで仮眠? 体を壊してしまいますよ」
P「だけど音無さん、今度のフェスに大型合同ライブ。さらに番組改編に向けて仕事が山積みなんだ。今頑張らずにいつ頑張るんだよ」
小鳥「けど、こんなに根を詰めて体を壊したら元も子もありません。もう少し私たちを頼ってください!」
P「けど、音無さんもかなり仕事を抱えているでしょう。律子も自分の仕事で手一杯だし、社長は……」
小鳥「健康ドックで入院中ですものね。悪いところが見つかって少し長くなるみたいですし。でも、社長代行まで抱えたら──」
P「分かってるよ、今日で少し一息がつく。とりあえず今晩は徹夜せず早く帰れるさ。そうだな……日付が変わる頃かな」
小鳥「全然早くありません! それと──」チラリ。
小鳥「……春香ちゃんが作っていった夜食、また残したんですか?」
P「すっ、少しは食べたさ。でもやっぱり食欲が沸かなくて……」
小鳥「はあー、とりあえず春香ちゃんの見えないところに処分してくださいね。残したと知ったら悲しみます」
P「分かってるさ。俺のためにみんなが夜食を置いてくれて行くのはありがたく感じてるよ。けどどうしてもな……」
小鳥(……全くどうしたものかしらね)
小鳥「とにかくシャワーを浴びて無精ひげを剃ってきてください! そんなだらしない格好でみんなに会わせるわけにはまいりません!」
P「だから分かってるよ」スタスタ。ガチャ。
小鳥「はあー。アイドルのためのシャワールームがプロデューサーさん専用になってきたわね」
──少し経って。
春香「プロデューサーさん夜食、きちんと食べてくれたかな……」
小鳥「もちろんよ。ほら、空になっているでしょう」
春香「──そうだね」
美希「今日はミキがハニーのためにおにぎり作ってきたの。おかかマゼマゼと鮭まぜまぜだよ。ハニー、食べてくれるかな」
小鳥「ええっ、きっと食べてくれるわよ」
伊織「──それであいつは?」
小鳥「営業先に出かけているわ」
伊織「そう……」
あずさ「こんなこともあろうかと私も事務のやり方は教わっているんですけどねー。プロデューサーさんはどうして頼ってくれないのかしら」
ハム蔵「ヂュイ、ぢゅい」
響「ハム蔵もそれぐらいの事務作業ならこなせると言ってるぞー。忙しいなら猫の手ならぬハム蔵を使えばいいさー」
小鳥「あははは、頼もしい限りね」
律子「……ごめんなさいね。私がもう少し仕事ができればプロデューサー殿に負担かけなくて済むのに」
小鳥「仕方ありません。一気に仕事が押し寄せてきたんですから。こういう時のためにもう少し人を雇おうと常々言ってるんですけど」
貴音「とにかくこちらが出来ることをして少しでもプロデューサーに負担をかけないようにいたしましょう」
真「そうだね。何が出来るか分からないけどやれることは少しでもやろうよ」
雪歩「冷蔵庫に疲労回復効果抜群のお茶を淹れておきましたー」
伊織「──ちょっと喉が乾いたからオレンジジュースを飲んでくるわね」
事務所の給湯室というか台所。
ゴミ箱ガサガサ。ばさっ、
伊織「やっぱり残しているわね。多分、春香も薄々気付いているでしょうけど……全くあの頑固者はー、皆に心配ばかりかけて……」
“グルメの友人”「味沢さんは頑なになった人の心を解きほぐしたりとか」
伊織「そうだわ、あの人に頼めばもしかしたら──」ピッピ、
伊織「新堂? 少し頼みたいことがあるの。ええっ、お願いね」
伊織「さて、依頼料は高いと聞いていたけど幾らぐらいなのかしら? 今自分が使える額は……五十万。まあ、これだけあれば足りるでしょう」
さて伊織が気づかないように見つめる視線。銀髪がたなびく。いったい誰なのやら。
バー「レモンハート」
マスター「おっ、いらっしゃい、久しぶりだね」
P「今日は早く帰れたからね。久しぶりにマスターの一杯を飲んで寝ようかと」
マスター「早い? おいおい、もう十二時を回ったよ。頑張るのは良いけど体だけは壊すなよ」
P「ははっ、分かっているよ。マスター、いつものをお願い」
マスター「はい、少し待っててね」スイッ、
P「おっ、ありがとう」グイ。
マスター「あっ、それは……」
P「んっ、いつもと味が違うな」
マスター「そりゃあそうでしょう。それはこちらのお客さんのなのだからさ」
黒衣の男「───」
P「あっ、すみません。マスターこちらの方に代わりを。もちろんこれも合わせて俺のお代に入れて置いてくれ」
マスター「了解です。味沢さん、すみませんね。もう少しお待ちくださいね」
P「ハハッ、ホント失礼しました」
味沢「いえ、別にいいですが」
P「あなたも仕事帰りですか」
味沢「…………まあ、そんな所です」
P「んー、何をしてるのかな。あっ、分かった、お医者さんでしょう。黒ずくめですし」
マスター「おっと、残念。味沢さんは料理人だよ。しかも知る人ぞ知るという凄腕のね。しかも出張専門の請負料理人さ」
P「へえー、さすらいの料理人か。カッコイイなー。包丁片手に昨日は北へ、今日は東へと渡り歩くわけか」
マスター「珍しいのはPさんもでしょう。765プロでアイドルのプロデュースをしてるんだから」
味沢「765プロ」ピクリ
P「あっ、知ってるんですか? 嬉しいなー」
味沢「いえ、そういうのには疎いもので……」
P「やれやれ、まだまだ有名じゃないか。もっと頑張らないとなー」
マスター「だから頑張るのは良いけど顔色悪いよ。倒れないように気を付けないと」
P「大丈夫ですよ、体だけは頑丈ですから」
マスター「でもね、一人で抱えずに皆に相談したら……」
P「みんなも忙しいですし、これは俺の仕事です──味沢さんなら俺の気持ちが分かるでしょう」
P「流離いの料理人ということは一人で何でもこなさなければならないそれが定めであり宿命じゃないのかな」
P「とにかく俺はみんなをトップアイドルにするために──」
味沢「いい加減にしてもらえませんかな。私はここでゆっくり酒を飲みたいんだ」
味沢「つまらない自慢や愚痴を聞くためでない」
P「うっ、すみません」
マスター「ごめんなさいね、調子に乗って」
味沢「──」マスターから貰った酒を飲み干す。
味沢「ではこれで──それから、お節介かもしれませんが空きっ腹に強い酒を飲むのはやめた方がいいですよ」
──某所
伊織「時間通りに来てくれたようね」
味沢「仕事の話ですから。でっ、どういったご用件で」
伊織「あなたに夜食を作って欲しいの。相手はコイツよ。765プロの事務所でいつも徹夜してるわ」
味沢「それは別にいいですが私は高いですよ」
伊織「ええっ、ここに五十万を用意したわ。これで究極にして至高の夜食を作ってちょうだい」
味沢、なぜかニヤリと笑う。
──765プロ、深夜
P「ふうー、疲れたなー。でもまだまだ頑張らないとな。さて、もうひと踏ん張りするか」
ガチャ、バタ。
P「誰だ? 鍵はかけておいたはずだぞ」
味沢「失礼、765プロからの依頼で貴方に夜食を作りに参りました。
P「あっ、あんたは? 何故ここに?!」
味沢「ですから765プロからの依頼です。こうやって鍵も持っているのが証拠です」」
P「……やれやれ伊織辺りか。余計なことしてくれて……悪いけど食欲がないんだ。帰ってくれないか。
味沢「そういうわけには参りませんな」」
P「何……だと?」
味沢「私は高額な報酬をもらってここに来ているのです。このまま帰っては依頼人たちに合わせる顔がありません」
味沢「とにかく私は料理を作ります。勿論、それを食べる食べないはあなたの自由ですが」
P「やれやれ分かったよ。キッチンはそっちだ。適当に作ってくれ。俺は仕事を続けるから」
味沢「分かりました。では」
トントン、ぐつぐつ。
P(何だろう……すごく胃が揺さぶられるというか、腹が減って仕方がない。ああ、良い匂いだな)
味沢「出来ました。チキンスープのリゾットです。」
P「細かく刻んだ野菜とご飯を入れて煮込んだチキンスープか……まあ、夜食向けだな」
味沢「まさか不センス料理のコースでも出ると思いましたか。この時間となるとあまり胃に負担のかかる料理は避けたほうがいい」
味沢「これは常識ですよ」
味沢「さ、冷めないうちにどうぞ」
P、スプーンをとって一口すする。
P「なっ、なんだこの料理はー!!!
P「ウマイではないかー!!!!」!
ガツガツムシャムシャズズー!!
P「はっ、一気に飲み干してしまった。一体何が起こったんだ?」
P「ううっ、なんという料理だ。いや、今でうまいと思った料理は何度も食べたさ」
P「けど、我を忘れて貪り当然としたのは初めてだ。いや、さすが流離いの凄腕料理人だな」
P「えっと、もっと食べたいのだけど……」
味沢「残念ながらこれで終わりです」
P「ああっ、やっぱりー。おっ、まだ残ってるぞ。うん舐め取っても恥でないよな」
P「しかし、伊織には気を使わせたよ。反省しないと」
味沢「……一体何の話です?」
P「えー、味沢さんを雇ったのは伊織でないのか? 彼女ぐらいしかこんな事できないだろ」
味沢「確かに彼女に呼ばれました。しかし依頼は断ったのです」
P「えっ、何故?」
味沢「簡単な話です。依頼料が足りなかったからです。私の相場は百万単位。今回は二百万を提示しました」
味沢「それにたいして彼女は五十万しか用意してなかったのです。全然足りません」
味沢「水瀬財閥のお嬢さんといえど自由にお金が使えるわけではありません。まだ子供なのですから」
P「じゃあ、誰の依頼でここに?」
味沢「言ったでしょう。依頼人は765プロと」ニヤリ。
P「えっ?」
伊織「二百万?! そんな……」
味沢「びた一文まけるつもりはありませんよ」
伊織「ううっ、この五十万を手付金として支払うわ。残金はきっと払う。だから──」
味沢「こういう稼業は現金即決。それが常識です」
伊織「……」
味沢「水瀬グループならば腕のいい料理人は何人もいるでしょう。中には日本の老舗とも言える店も有しておりますし」
味沢「彼らに頼めば安く上がるのではないですか」
伊織「──ダメよ」
伊織「確かにあんたに匹敵する料理人ならいるわ。でもダメなの。違うの」
伊織「あいつに必要なのは美味しい料理じゃない。心を打つ料理なの。それを作れるのはあんたしか居ないわ」
味沢「そう申されても以来量が足りなければ話になりませんな」
伊織、携帯を取り出して電話をかける。
伊織「パパ、お願いがあるのだけど──」
貴音「ふっ、その必要はありませぬ」 貴音、伊織の携帯を取って通話を切る。
伊織「貴音、どうしてここに?」
貴音「味沢匠。あなたの料理をりっつほてる時代に味わったことがございます。真、美味でした」
貴音「伊織、足りない分は出しましょう」
伊織「でっ、でも百五十万よ。そんなに持っているの」
貴音「いいえ、残念ながら到底足りませぬ」
伊織、ズコーとこける。
伊織「じゃあどうするのよ!」
貴音「ふっ、それは知れたこと。絆を束ねて団結するのです」
春香「伊織ちゃん、一人で抱えるのはプロデューサーさんと同じだよ」
千早「私たちも少しだけお手伝いをさせて」
あずさ「うふふ、運命の人のための結婚資金取り崩してしまいましたー。でもあまり変わりませんよね」
やよい「みんなごめんなさい。当分の間おかず一品減るけど許してね」
真「自由に出来るお金は少ないけど何とか用意したよ」
雪歩「私もです! 出来る限り持ってきました」
律子「ごめんね伊織。こういうのは率先して行わないといけないのは私なのに」
亜美「うふふ→親の目を盗んで」
真美「真美たちの貯金通帳からお金を降ろしてきたぜ→。真美たちまだ小さいからとお給金が自由に使えないからね→」
小鳥「はい、これ。少ないけど足しにしてね」
美希「ミキも持ってきたよ。ハニーのためなら別にいいの」
響「みんなごめん。少しのあいだ餌が減るけど自分頑張るから我慢してくれよー」
伊織「あっ、あんたたち……本当に馬鹿よ。こんなことにお金を使う──なんて」
貴音「いいのです。これでプロデューサーの心に春が戻れば。あの方は今、頑固にこびりついておりますゆえ」
貴音「これで二百万。耳を揃えて用意しました。さあ、これで究極にして至高の夜食メニューを」
味沢「いいだろう。報酬がきちんと貰えれば何も言わない。だが──もう少し水瀬グループの力を借りたい」
味沢「確か日本で屈指の老舗レストランがあったな。そこで貰いたいものがある」
伊織「何が欲しいというの?」
味沢、再びニヤリとする。
──765プロ 深夜。
P「スープストック?」
味沢「ええ、水瀬グループのレストランからスープを分けてもらいました。だからこそ、その味が出たのです」
P「へえー、そうなんだ。でも味沢さんが人の手を借りるなんて……なんかイメージに合わないな」
味沢「残念ながらそのスープは到底私には作れませんから」
P「特別な材料でも使っているのかな」
味沢「いいえ、普通の鶏です。ただ──開店当初から何十年も継ぎ足しつつ煮込み続けたスープですが」
P「なっ、何十年も?! すげえ……」
味沢「本場フランスでも行ってする店は少なくなりました。伝統をひたすら守り続けた結果の味。それがこのスープです」
P「……それがこの感動を生んだのか。何年も何十年もじっくり煮込んで」
味沢「結果というのはすぐに求めることは出来ない好例です。それと……一人では到底成し得ないということでもあります」
味沢「スープの火は二十四時間絶やす事無く続けなければなりません。当然、交代で番をするわけですよ」
P「──何が言いたいのです?」
味沢「いえ、そのスープの味の秘密を述べただけですよ」
味沢「では、これで失礼いたします」
P「………………」
あずさ「音無さん、この書類はこうでいいのかしら?」
小鳥「ええっ、それでお願いします」
貴音「判子、判子はどこですー?」
千早「ライブの進行スケジュールはこれでいいと思いますよ」
春香「そうだね、後は……」
やよい「うっうー、計算終わりましたー。決済終了です」
真「ええと、備品で足りないのは……」
雪歩「はい、765プロです。あっ、いつもお世話になっております」
美希「あふぅ、こっちの書類の整理は終わったのー」
律子「じゃあ、ちょっと行ってくるからあとはよろしくね」
亜美「は→い。任せておいて→」
真美「うし、お掃除おわりまちたー!」
響「はい、プロデューサー、ハム蔵がこっちの企画書をまとめてくれたぞー」
ハム蔵「ぢゅい、ぢゅい」
P「やれやれすっかりみんなに迷惑をかけたな」
伊織「もっと早くからこうすれば良かったのよ。ほんと、頑固なんだからさ」
P「ははっ、味沢さんの依頼料。なんとかみんなに返すよ」
伊織「いらないんじゃない。みんな好きでやったわけだし。あっ、てもやよいにはすぐに返したほうがいいかも」
P「……だな。でも、みんなには本当に世話になった。何とかして返さないと」
伊織「ふふっ、私はそうね、味沢さんの料理をまた食べたいかしら」
P「そうだな、あの人の料理をもう一度じっくり味わいたいかな」
伊織「──それはそうと貴音、味沢さんの料理をリッツホテル時代に食べたと言っていたけど……それってかなり前の事よ」
伊織「味沢さんは若く見えるけど結構長いあいだ請負料理人をしてるし──いったいどういう事なの?」
貴音「うふふっ、それはもちろん──とっぷしぃくれっとです」
765プロのビルを味沢が見上げる。無言で振り返り黒いコートを着てカバンを手に立ち去る。
終わり。
久々にザ・シェフ読むとするわ
Entry ⇒ 2012.10.10 | Category ⇒ アイマスSS | Comments (0) | Trackbacks (0)
木胡桃「横浜デート!」
なぜ、こういうことになったかというと
マリーさんが、言っちゃいけないことを言ったから!
*・゜゚・*:.。..。.:*・゚・*:.。. .。.:*・゜゚・*
木胡桃「友達に写メ送っちゃおうかなー」
魔梨威「友達ぃ?」
木胡桃「・・・・・・」あぅぅ
*・゜゚・*:.。..。.:*・゚・*:.。. .。.:*・゜゚・*
木胡桃「遅いよマリーさん」
木胡桃「10分の遅刻だよ!」
魔梨威「いやー、途中まで順調に来てたんだけどさぁ」
魔梨威「なんか武蔵溝ノ口に寄んなきゃって気になっちまって」
木胡桃「もう、そのネタは散々やったから!」
京浜東北線沿線以外の人を
光の彼方に置き去りにしつつ
女の子達の差しさわりのないデートを
お楽しみいただくSSです
木胡桃「バツとして、お茶はマリーさんの奢りに決定!」
魔梨威「えー」
木胡桃「えー、じゃないよ!」
木胡桃「こーゆとこに女のコ一人でいると」
木胡桃「ジロジロ見られて、ヤなんだから!」
魔梨威「あー、いやー」
木胡桃「だいたい!」
木胡桃「わたしが、誰か知らない人に連れてかれちゃったら」
木胡桃「どうするつもりだったの!?><。」
魔梨威「知らない人に着いてくなよ!」
魔梨威「その前に、アタシが異人さんに連れてかれた時」
魔梨威「追っても来なかったじゃんか!」
木胡桃「その赤い靴伝説のある、山下公園!」
魔梨威「伝説じゃねーよ!」
魔梨威「童謡だよ、童謡!」
木胡桃「ということで!」
木胡桃「マリーさんがまた連れてかれないように」
木胡桃「手を繋ぎましょう!」
魔梨威「なんでだよ、恥ずかしいだろ!」
木胡桃「今日はデートなんだよ!?」
木胡桃「手を繋ぐくらい、当然でしょ!」
魔梨威「で、でもさぁ」
木胡桃「・・・・・・」じわっ
魔梨威「わかった、わかりました!!!」
木胡桃(フッ、ちょろい)
木胡桃「そこはもう、元町商店街♪」
魔梨威「へー、アタシ初めて来るよ」
魔梨威「この辺だと、中華街で豚まん食べるか」
魔梨威「球場の外野席でビール飲んで野次るかだからね」
木胡桃「・・・だから、オッサン言われるんだよ」ぼそっ
魔梨威「オッサン、言う・・・」
木胡桃「どうせ柿ピーとか食べてたんでしょ?」
魔梨威「ぐっ」
木胡桃「マリーさん、怒ったの?」
魔梨威「・・・・・・」
木胡桃「ねー、マリーさんってば!」
魔梨威「・・・・・・」
木胡桃「もー、しょうがないなー」
木胡桃「じゃあ、腕を組んであげます!」
ぎゅっ
魔梨威「待て、待て、待て!」
魔梨威「それはキグの望みだろ!?」
木胡桃「ほら、こっちのがデートっぽいよね♪」
魔梨威「聞けよ、人の話!」
魔梨威「へ?」
魔梨威「洋服屋とかじゃないの?」
木胡桃「子供の頃は、よくここでシール買ったりしたんだよ」
木胡桃「ビーズの種類もいっぱいあったし」
木胡桃「いまはデコの材料にも事欠かないよ」
魔梨威「そんなん、ユザ○ヤでいーじゃん」
木胡桃「だから、オッサンって言われるの!」
魔梨威「オイ!それは一部の地域的にケンカ売ってるぞ!」
魔梨威「ユザ○ヤとキシ○ォートつったら」
魔梨威「あの地域じゃ、聖域なんだよぉ!」
魔梨威「あ、あたしだね」
魔梨威「はいって、え?」
魔梨威「はい、はい」
魔梨威「・・・・・・」
魔梨威「色々すいませんでしたー!」
木胡桃「どしたの、マリーさん」
魔梨威「いや、怒られちまったよ」
魔梨威「うちは全国展開、だってさ」
魔梨威「あと、吉祥寺的にも怒られた」
木胡桃「なんでだろうね」
木胡桃「これぞ元町ブランドって感じだよ!」
魔梨威「ちなみにここは、カ・・・」
木胡桃「カメラは、売ってない!」
魔梨威「ツッコミはえーよ!」
魔梨威「芸人ゴロシかよ!」
木胡桃「んー、やっぱりお嬢様っぽいバッグ多いよねー」
木胡桃「ちゃんとした場所用に、1つは欲しいとこだよ」
魔梨威「ちゃんとした場所って、区役所とか?」
木胡桃「・・・・・・」
魔梨威「なんでここまで来て、ジョナ○ン?」
木胡桃「だって、公園入っちゃうと店少ないし」
魔梨威「それにしたって、ファミレスにしなくても」
木胡桃「いーの!」
木胡桃「ここで、カフェキャ○メルパフェ食べるのが通なの!」
木胡桃「てゆか、なんでデ○ーズ潰れちゃったの!?」
魔梨威「ファミレス入るのは、百歩譲っていいとしよう」
魔梨威「しかし、なんでアタシら恋人座りなんだい!?」
木胡桃「マリーさん」
木胡桃「今日がデートだって、忘れたの?」
魔梨威「いや、いねーから!」
魔梨威「いまドキ、恋人座りなんていねーから!」
木胡桃「だって、こっちのがアーンしやすいよ?」
魔梨威「ゴーモンかよ!!!」
木胡桃「・・・言う通りにした方がいい気がするなぁ・・・」
魔梨威「今度は、脅迫かい!?」
木胡桃「ってことで、食べさせてください!」
木胡桃「はい、あ~ん♪」
魔梨威「いやいや、ちょっと待ちなって」
木胡桃「あ~ん♪」
魔梨威「うぅ」
魔梨威「えーい、ままよ!」
ぱくっ
*・゜゚・*:.。..。.:*・゚・*:.。. .。.:*・゜゚・*
木胡桃「んーっ」
木胡桃「おいひぃ」
*・゜゚・*:.。..。.:*・゚・*:.。. .。.:*・゜゚・*
魔梨威「!?」
魔梨威「こうやって食べさせてると、自分の子・・・」
木胡桃「そのオチは、もういらない!」
魔梨威「先手を打たれた!?」
木胡桃「これはデートって言ってるじゃん!」
木胡桃「もっと恋人らしくして!!!」
魔梨威「ちょっ、声が!」
ざわっ ざわざわっ
木胡桃「!?」
魔梨威「あたしのせいか!?」
木胡桃「マリーさんが素直にあーんしてくれれば」
木胡桃「こんなことには、ならなかった!><。」
魔梨威「り、理不尽さが半端ないけど」
魔梨威「悪かったよ」
木胡桃「じゃあ、公園でアイス奢ってください!」
魔梨威「立ち直りはえーな、オイ!」
魔梨威「公園あんま居なかったけど、良かったのかい?」
木胡桃「山下公園は、アイス食べてー」
木胡桃「散歩してるワンちゃん、もふもふする場所なんだよ」
木胡桃「あ、ついでに花火観るとこ」
魔梨威「い、色々と楽しみ方が間違ってる気がする」
木胡桃「・・・・・・」ぶるっ
魔梨威「寒いのかい?」
魔梨威「冷たいもの連続で食べるから」
木胡桃「けっこう、海は風あるからだよ」
木胡桃「じゃあ、わたし手すりにつかまってるから」
木胡桃「マリーさんは、わたしの後ろから手を回して・・・と」
魔梨威「なんか、すげー恥ずかしいカッコなんだけど!?」
木胡桃「わたしが温かいから、いーの!」
魔梨威「いや、こうしてるとさぁ」
木胡桃「もう子供オチはいらない!」
魔梨威「い、いや」
魔梨威「キグって、いい匂いすんだな」
木胡桃「!?///」
木胡桃「・・・ばか///」
魔梨威「そういえば、こっち側ってあんまり来ないなー」
木胡桃「ホテル側だからねー」
魔梨威「お、そろそろお昼だな」
木胡桃「いい所があるよ!」
木胡桃「ちょっと歩くけどね!」
木胡桃「ここにケータイクーポンがあるから!」
魔梨威「いやいや」
魔梨威「どうせなら横浜らしくさ・・・」
木胡桃「じゃあ、聞くけど!」
木胡桃「横浜らしい食べ物って、なに!?」
魔梨威「え、そりゃあさ」
魔梨威「中華とか、こじゃれた食べ物なんじゃないの?」
木胡桃「中華は池袋とか神戸でも食べれる!」
木胡桃「あと、こじゃれた食べ物とか」
木胡桃「下北とか代官山に任せとけばいーの!」
魔梨威「お前は横浜の格を落としたいのか!」
木胡桃「って言ってる間に、お昼で並び始めたけど」
魔梨威「・・・入るか」
苦来「・・・どうも、暗落亭苦来でございます」
苦来「なぜ、わたしの出番がないの!!?」
苦来「・・・・・・」
苦来「・・・という訳で、無理やり出て来ました」
苦来「先ほどマリーさん達が使っていた、こじゃれたですが」
苦来「本来、小戯れる(こざれる)から来ており」
苦来「ふざけているという意味合いで使われるものです」
苦来「まあ、最近は意味が違って来た言葉も多いですよね」
苦来「・・・以上、楽屋からお送りしました」
*・゜゚・*:.。..。.:*・゚・*:.。. .。.:*・゜゚・*
木胡桃「わざと黄身を崩してるんじゃない?」
魔梨威「その労力を、他に活かせないものなのかね」
木胡桃「形を残す方が大変なのかも」
魔梨威「まー、どうでもいいけどさ」
木胡桃「だねー」
魔梨威「・・・・・・」もぐもぐ
木胡桃「・・・・・・」もぐもぐ
魔梨威「口に入れちゃえば、変わんないなー」
木胡桃「だねー」
魔梨威「・・・・・・」もぐもぐ
木胡桃「・・・・・・」もぐもぐ
魔梨威「あー、なんか分けて食べるかなー」
木胡桃「ふーん」
魔梨威「・・・・・・」もぐもぐ
木胡桃「・・・・・・」もぐもぐ
木胡桃「あれ?」
木胡桃「あーんするの忘れた!」
魔梨威「残念だな、完食しちまったよ!」
木胡桃「うー」
木胡桃「マックシェイク買って来る!><。」
魔梨威「それを、どうやってあーんするんだよ!」
魔梨威「・・・・・・」
木胡桃「どしたの?上なんか見上げちゃって」
魔梨威「改めて見ると、デケーなって思って」
木胡桃「ランドマークタワー!」
木胡桃「なんか、他のビルよりどっしりしてるよね」
魔梨威「重量感あるよな!!!」
ぐっ
木胡桃「・・・なんでドヤ顔?」
木胡桃「マリーさん、こんな天気いいんだよ?」
木胡桃「もったいないから、観覧車乗ります!」
魔梨威「それ、天気関係・・・」
木胡桃「・・・・・・」
魔梨威「あるじゃんかよ!」
木胡桃「わたしが怒られる意味が分かんないよ!」
魔梨威「行き場を無くしたツッコミの恐ろしさ」
魔梨威「とくと思い知りやがれ!」
木胡桃「そんなの知らない!」
木胡桃「意味不明だけど許してあげます」
魔梨威「なんだよ、素直じゃん」
木胡桃「だって、マリーさんが普通に手を繋いでくれたから!」
魔梨威「え、あれ!?」
木胡桃「にひひー」
魔梨威「怖い!」
魔梨威「慣れって怖い!!!」
木胡桃「マリーさんは、このデートで一皮むけたんだよ」
木胡桃「言うなれば、新型マリーさん!」
魔梨威「なんかどっかで聞いたような」
ヒュオオオオオン
魔梨威「な、なんだい、この風は!」
木胡桃「頭の上だけ黒い雲が掛かったよ!?」
ひ と の ネ タ と ら な い で ー
*・゜゚・*:.。..。.:*・゚・*:.。. .。.:*・゜゚・*
魔梨威「き、聞きなれた声がするぞ!?」
木胡桃「怖い!」
木胡桃「こんなの持ちネタと思ってる執念が怖いよ!!!」
*・゜゚・*:.。..。.:*・゚・*:.。. .。.:*・゜゚・*
!?
*・゜゚・*:.。..。.:*・゚・*:.。. .。.:*・゜゚・*
木胡桃「あれ、急に雲がなくなった」
木胡桃「なんでだろう?」
魔梨威「・・・精神攻撃は基本だからな」
魔梨威「今頃、楽屋が大変なことになってそうだ」
丸京「泣いた!」
丸京「意味不明のこと叫んだと思ったら、今度は泣いたぞ!」
手寅「どんな夢を見ているのかな」
丸京「悪夢かも・・・起こすか?」
手寅「うーん」
手寅「やめとこう!」
手寅「なんか面倒くさくなるかもだから」にこっ
丸京「・・・それもそうだな」
テトちゃん、安心の危機回避能力
*・゜゚・*:.。..。.:*・゚・*:.。. .。.:*・゜゚・*
魔梨威「横浜なのに、なんでこんな場末感が漂ってんだよ」
木胡桃「あー、この遊園地ね」
木胡桃「花や○きを新しくしましたーって感じはあるよね」
魔梨威「みなとみらいってことは」
魔梨威「まさに、未来の花やしき!?」
木胡桃「狙ったわけじゃないだろうけどね」
魔梨威「まー、でも」
魔梨威「この観覧車は、さすがに浅草にはないな」
木胡桃「浅草にこんなのあったら」
木胡桃「さすがに雰囲気ぶち壊しじゃない?」
魔梨威「なんでだよ」
魔梨威「京都駅とか京都タワーのが、よっぽどだろ」
木胡桃「京都方面にケンカ売っちゃダメー!」
魔梨威「だったら、傘回しに例えれば良くないか?」
魔梨威「いつもより多く回しちゃう的な!」
木胡桃「そんなに回しちゃったら降りられないよ」
木胡桃「その前に、ゴンドラを回すボールにしちゃったら」
木胡桃「1個しか付けらんないじゃん!」
魔梨威「やっぱり隣に座るんだな」
木胡桃「じゃあ、膝の上に座ろっか!」
魔梨威「・・・すいません、隣でお願いします」
木胡桃「よろしい♪」
魔梨威(だ、ダメだ)
魔梨威(今日はキグに勝てる気がしねー!)
木胡桃「さっき居た山下公園が、あんなちっちゃい」
魔梨威「ほえー、ほんとだ」
魔梨威「水上バスだとあっという間だったのになー」
木胡桃「よいしょっと」
こてんっ
魔梨威「な、なにしてんだ!?」
木胡桃「膝枕に決まってるじゃん」
魔梨威「そりゃ見ればわかるって」
木胡桃「いいよね、膝枕!」
魔梨威「いいよねって、景色が見えないだろ!」
木胡桃「マリーさんの顔が見れるよ?」
魔梨威「ぐっ」
魔梨威(か、勝てる気がしねー!)くぅぅ
なでなで
木胡桃「むー!」
木胡桃「なんで頭をなでるんですか!」
魔梨威「え?」
魔梨威「いや、なんとなく」
木胡桃「また子供扱いしたー!><。」
魔梨威「違うって」
魔梨威「ほんとに、なんとなくだって!」
魔梨威「ほんとだって」
木胡桃「ほんとに、ほんと?」
魔梨威「嘘なんかついて、どーすんだよ」
木胡桃「じーっ」
魔梨威「い、いや、だからさ」
木胡桃「しょーがない、信じてあげます!」
木胡桃「その代わり」
木胡桃「観覧車降りたら、腕組んじゃおっと!」
魔梨威「・・・容赦ねーな、オイ」
魔梨威「なんでウインドーショッピングが横浜駅地下街?」
木胡桃「だって、そ○うとかマ○イって高いんだもん」
木胡桃「ここだと、なにかにつけてセールやってるしね!」
魔梨威「・・・いやー」
魔梨威「今日一日で、横浜にケンカ売りまくってるなー」
木胡桃「横浜のいーところも、たくさんあるよ?」
木胡桃「例えば」
木胡桃「ヨド○シ横浜のガチャの品揃えが半端ない!」
魔梨威「それ、逆効果だろ!」
魔梨威「言われてみれば」
木胡桃「はいはい!」
木胡桃「わたし、パスタがいいです!」
魔梨威「あー、任せるよ」
魔梨威「どんな店あるか知らないしね」
木胡桃「よかったー」
木胡桃「牛丼とか言われたら、どうしようかと思っちゃった」
魔梨威「言わねーよ!」
魔梨威「いい加減、オッサン扱いやめやがれ!」
木胡桃「あ、あそこの店、すぐ座れるかも」
魔梨威「スルーかよ!」
木胡桃「パスタだから、あーん出来なかった!」
魔梨威「どう考えても無理だろ」
魔梨威「ドリンクにストロー2本差しとか」
魔梨威「やりかねないと思ったけどな」
木胡桃「・・・あ」
木胡桃「次は、あっちのド○ール行きます!」
魔梨威「やめろー!」
魔梨威「ド○ールはなぁ、ス○バとかエ○セルシオールとか」
魔梨威「おされなとこ入れないおっちゃん達の」
魔梨威「最後の楽園なんだよぉ!」
木胡桃「普通に、若いコ達もいるよ!」
木胡桃「どしたの?」
魔梨威「キグ、そこハネちゃってるぞ?」
木胡桃「ウソ?さっきのパスタ!?」
木胡桃「うわーん、どうしよう」
木胡桃「これ、お気に入りなのに!><。」
きょろきょろ
魔梨威「キグ、あの店入るぞ」
木胡桃「え、なんで?」
魔梨威「サイズはMで大丈夫だよな?」
木胡桃「あ、うん」
魔梨威「キグに似合うのはっと」
魔梨威「んー、こんなんかなー」
木胡桃「それ、割と好きな感じかも」
魔梨威「んじゃ、これくださーい」
魔梨威「あと、着ていきたいんだけど」
魔梨威「やっぱ全部は落ちないかー」
魔梨威「あとは漂白剤つけて洗濯して・・・って」
魔梨威「なに鏡見てボーっとしてんだ?」
木胡桃「だって、マリーさんのプレゼントだもん!」
魔梨威「ぷ、プレゼントとかじゃねーよ!」
木胡桃「プレゼントでしょ!」
魔梨威「だ、だから」
木胡桃「誰がなんと言おうと、プレゼントなの!」
魔梨威「・・・う」
魔梨威「じゃあいいよ、プレゼントで」
木胡桃「うん!」
木胡桃「ありがと、マリーさん!」にこっ
魔梨威「!?///」
魔梨威(さ、悟っちまった)
魔梨威(たぶん、キグには一生勝てねー!)
がっくり
木胡桃「あれ?」
木胡桃「お礼言ったのに、なんで落ち込むの?」
魔梨威「ふいー」
木胡桃「電車座れて、良かったね」
魔梨威「なんだかんだで、歩いたからなー」
こてっ
魔梨威「電車の中もかい!」
木胡桃「・・・・・・」zzz
魔梨威「も、もう寝たのかよ」
木胡桃「むにゃ・・・マリーさぁん」
木胡桃「次はろこでデートするんれすかぁ」zzz
魔梨威「・・・はぁ」
魔梨威「そうだなぁ、今度はどこに行くかねぇ」
魔梨威「なんだか・・・あたしも眠く・・・」
総武快速線でした
お後がよろしいようで
Entry ⇒ 2012.10.10 | Category ⇒ 版権物SS | Comments (0) | Trackbacks (0)
田中「沖田、本当に行っちまうんだな」
紗羽「うん。一応、卒業扱いだけどね」
有田「えー!? じゃ、卒業式も出れないの!?」
紗羽「ごめんね。もう、決めちゃったから」
奥都「うそー……マジなんだ……」
有田「紗羽の隠れファンクラブ会員たちが泣くよ?」
紗羽「そんなの居ないって! もー。」
田中「……」
田中「……いや、別に」
来夏「なになに、田中くん。いっちょ前に寂しがってんの?」
田中「……なんのことだよ」
来夏「だって、田中のその眼。完全に、飼い主に置いてけぼりくらう犬みたいだよ」
田中「なんだそりゃ」
来夏「まー、あんた達もいいコンビだったからねぇ」
和奏「いつも無神経なこと言ってた印象だけどね」
田中「いきなり出てきてひでぇこと言うな、坂井」
ウィーン「……来月……までなんだね」
来夏「ウィーンまで。どうした、にくレッドの情熱は!」
ウィーン「……うん。」
来夏「ん? なに?」
田中「お前は、寂しくねぇのか?」
来夏「……」
和奏「田中、それは……」
来夏「寂しいよ」
田中「!」
来夏「寂しくて仕方ないよ。けど、だからって、暗くなる必要はないでしょ? 寂しがる表現って、一つじゃないと思うし」
来夏「あたしがもし、逆の立場だったら。どんより、悲しい雰囲気のまま、学校生活を終わらせたくない。」
来夏「だから、紗羽にそう思って欲しくないから。明るく、楽しく過ごすの」
和奏「……」
田中「……悪い」
田中「……そうだな。わかったよ、つるぺた」
来夏「そうそう、そんな風にチビって……つるぺたぁ!? なんじゃそれ!?」
田中「事実だろ」
来夏「むきー! チビって言われるよりよっぽど腹立つんだけど!」
ウィーン「和奏、つるぺたって?」
和奏「あー……えっと……」
紗羽「何騒いでんの?」
来夏「あ、紗羽! 聞いてよ! 田中がセクハラしてきた!」
紗羽「セクハラ?」
紗羽「うわー、それはサイテーだわ」
田中「いや、それは……その……ノリっつーか……」
紗羽「モジモジしてキモイよ。なに、田中は大きい方が好きなの?」
田中「なっ……! ば、バカかお前!?」
紗羽「じゃ、小さい方?」
ウィーン「……ねえ、来夏。大きいとか小さいとか、どういうこと? 来夏に関係しているの? 来夏はどっち?」
和奏「それは……あはは。ね、来夏」
来夏「ウィーン。天然であたしにダメージ与えるのやめてくれるかな……」
田中「どっちでもいいだろ! ったく……」
来夏「よくない! かなり重要だから、そこ!」
田中「はいはい」
来夏「いいね! ……っていきたいところなんだけど」
和奏「受験、もうすぐだしね」
ウィーン「和奏も、受験勉強してるの?」
和奏「うん。私の学力じゃまだ厳しいんだけど、一回受けてみるのも良いかも、って」
来夏「驚きだよね、この発言があの教頭先生から出て来たんだよ?」
紗羽「白祭終わってから、そんなもんじゃない?」
田中「あの冷血漢が、よくあそこまで穏やかになったもんだよな」
和奏「冷血『漢』じゃないけどね」
紗羽「ウィーンと田中は?」
来夏「何買うの?」
ウィーン「パークスの本を。」
和奏「パックス?」
ウィーン「パークス。平和の神様の名前だよ」
来夏「ふーん。流石は正義と平和のヒーローだね」
田中「俺は暇だぞ。特にやることないし」
和奏「さすが推薦合格者……」
来夏「おや~? って、ことは二人きりで下校ですか? ふふふ」
田中「は!?」
紗羽「何変なこと考えてんの。友達なんだから、別にいいじゃない」
田中「ああ……そう……だな」
ウィーン「じゃ、僕も」
来夏「はー。初っ端から世界史かー。眠たくなるなー……」
紗羽「受験生がそんな愚痴言わないの。ほら、席戻りなよ」
来夏「はーい」
紗羽「それじゃ、田中。放課後よろしくね」
田中「おう」
田中(友達……か。そりゃそうだよな。俺が宮本や坂井と同じことになったら、きっと同じように言うだろうし)
田中(そもそも。俺だって、沖田のこと意識し始めたのも最近だし)
田中(今までは、普通に男女の友達って関係だったんだから。当たり前だろうな)
田中(…………沖田、本当に行っちまうんだな)
田中(友達も、家も、全部置いて。自分の夢を叶えるために)
田中(……かっこいいよな。すげえよ。俺には絶対選べない道だ)
田中(だったら、やっぱり応援……しねえとな)
――――放課後、駐輪場にて。
紗羽「そういえば、田中もチャリ通だったよね」
田中「ああ」
田中「は?」
紗羽「自転車使うより、かなり早く来れたんだよね」
田中「あー……そういやお前、一回馬で来たことあったな」
紗羽「馬で きた」
田中「……なんだ、そのヤンキーみてーなポーズ」
紗羽「知らない? ネットで有名な画像なんだけど」
田中「あんま見ねーから、わからん」
紗羽「そっか」
田中「うし、じゃ帰るか」
紗羽「あ、自転車乗っちゃうんだ」
田中「え? そりゃそうだろ」
紗羽「こーいう時は、歩いて帰るもんじゃない?」
紗羽「うん。なんとなく。雰囲気の話だけど」
田中「……ま、それがいいなら。それで」
紗羽「うん」
――――――――
田中「……」
紗羽「……」
田中「……なぁ」
紗羽「ん?」
田中「前から思ってたんだけど」
田中「ち、ちげえよ!」
紗羽「なんだ、残念。で?」
田中「お前さ。何で、指定の靴履かねぇの?」
紗羽「ああ。だって動きにくいじゃん。革靴って」
田中「そりゃ、運動するためのもんじゃないし」
紗羽「と言ってる田中も、スニーカーでしょ?」
田中「革靴じゃ、自転車が漕ぎにくいからな」
紗羽「結局、わたしと同じ理由じゃない」
田中「……たしかに。」
紗羽「わたしね、毎朝サブレと散歩してから学校来てるんだ」
田中「へえ。サブレって、お前んちの馬だよな?」
紗羽「うん。だから、いちいち靴取り換えるの面倒で」
紗羽「うわっ。なんか、田中が言うとエロく聞こえる」
田中「なんだそれ」
紗羽「……まぁ、後は踵の厚みがないからかな」
田中「? どういう意味だ」
紗羽「そのままの意味」
田中「スポーツやる人間からすると、だけど。踵ってすげえ負担かかるから、ぶ厚い方が良いと思うぞ」
紗羽「そうだね。でも、こっちはスポーツ関係なし」
田中「ますますわからん」
紗羽「あえて言うなら、わたしが指定靴はいたら」
スッ
紗羽「こうやって、下から覗きこむのも難しくなるよ?」
田中(ちっ、近い近い!)
田中「そっ、そういや……そうだな」
紗羽「……親のせいにするつもりはないんだけどさ」
田中「ん?」
紗羽「この年になって、初めて思った。もっと背が低かったらなー、って」
田中「……宮本が聞いたら、キレるぞ?」
紗羽「ふふ。かもね」
――――――――
田中「……」
紗羽「……」
紗羽「……あ。綺麗だねー、夕日」
田中「そうだな」
田中「たしかにな」
紗羽「……そうだ」
田中「?」
紗羽「田中、今日バドミのラケット持ってる?」
田中「ああ、あるけど。ってか略すな」
紗羽「えー……。部活もないのに持ってきてるんだ……」
田中「聞いたのお前だろ。なんでそこで引くんだよ……」
紗羽「一本だけ?」
田中「いや、練習用とか試合用とか合わせれば三本ある」
紗羽「三本も!?」
田中「それぐらい普通だし」
紗羽「ふーん……じゃあもちろん、羽根もあるんだよね?」
田中「シャトルか? そりゃ、もちろん」
田中「?」
紗羽「ちょっとだけ、やってかない? バドミントン」
田中「え?」
――――――――
シュパァン! パシュッ!
紗羽「うわっ! 変な動きした! 素人相手にカーブかけるの!?」
田中「バドミントンにカーブは、ないぞー」
紗羽「そうなのー?」
田中「むしろ、シャトルが軌道を変えたら壊れてる証拠だ! ほっ!」
紗羽「そうなんだ。知らなかったー!」
紗羽「じゃあ、こんな海岸の近くで潮風に煽られてやるのってー、間違ってる?」
田中「だから言った、ろッ! 風で曲がるからやりにくいって!」
紗羽「そうなんだー。ま、面白いからいいけどー」
田中「面白いか?」
紗羽「面白いよー。勝ち負けじゃなくて、単に打ち合ってるだけなんだもーん!」
田中「俺はいつもみたいに動けなくて、少しやりにくい!」
紗羽「足場は砂浜だしねー!」
田中「……まー、いいけどよー! 良い運動には、なっからッ!」
紗羽「……」
スパァン! シュパァン!
紗羽「というか!」
パシッ!
紗羽「ごめん。でも、これ、すっごい疲れるじゃん!」
田中「当たり前だろ。バドミントンなんだし」
紗羽「こんな激しいスポーツだったっけ……」
田中「一応、沖田でも打ちやすいように打ってるつもりなんだけど」
紗羽「そうなの?」
田中「ラリー続かない方がつまんねーし」
紗羽「そうなんだ。優しいね、田中」
田中「…………。いいから、再開してくれ」
紗羽「あ、ごめんごめん」
ヒュッ、スパァン! パァッ!
田中「んー?」
紗羽「バドミントンで、プロになりたいんだよねー?」
田中「……まーな」
紗羽「ずっと、言いそびれてたんだけどー」
田中「?」
紗羽「田中さ、わたしが騎手になるって言った時にー!」
田中「ああー!」
紗羽「カッコいいって、言ってくれたよね!」
田中「そうだっけー?」
紗羽「そうだよー。それがさ、わたし、すっごく嬉しかったんだー!」
紗羽「だから、ありがとねー!」
田中「……おー! 気にすんなー!」
田中「んー?」
紗羽「結構、カッコいいよー!」
田中「!」
ブォン!
紗羽「あ、全国ベスト8が空振った!」
田中「か、風で軌道が変わったんだよ」
紗羽「ほんとにー?」
田中「ったく……あー汚れちまった」
紗羽「わたしのせいじゃないよ?」
田中「はいはい。俺のせい。」
紗羽「ふふ。」
紗羽「うん。でも、そろそろ日も落ちてきちゃったね」
田中「ああ、それもそうだな」
紗羽「次のラリー終わったら、帰ろっか」
田中「……わかった。じゃ、いくぞ」
紗羽「こい!」
シュッ、パン! スパァンッ!
紗羽「あー、やっぱ動きにくい!」
田中「スニーカーだろ、お前」
紗羽「普段、こんなところでスポーツしないじゃん!」
田中「それもそうだなー」
紗羽「ほっ! よっ!」
田中(……もうすぐ終わりか)
田中(もう、ひと月もすりゃあ沖田は……居ないんだな)
田中(遠い国で、必死で騎手になるため、行っちまうんだ)
田中(俺が同じ条件なら……絶対、諦める気がするし)
田中(やっぱ、この思いきりの良さはすげーわ)
田中(宮本が言ってたように。暗い雰囲気で、送り出されたら)
田中(ただでさえ不安なのに、たまんねーよな)
シュパン! スパン!
田中(だから、明るく……せめて、楽しく)
田中(送り出して……)
紗羽「あはは。やっぱスポーツって楽しいよねー!」
田中「…………ッ」
ポトッ
田中「……」
紗羽「シャトル、汚れるよ?」
田中「……沖田」
紗羽「ん?」
田中(やっぱり、俺は……!)
田中「俺、さ」
紗羽「うん」
田中「沖田に…………行って欲しくない」
田中「せっかく、仲良くなっただろ。なのに、すぐまた離れちまうのって……」
田中「すげぇ……寂しいと……思う」
紗羽「……」
田中「……悪い。いきなり、こんなこと……」
紗羽「ううん。ありがとう」
紗羽「みんなさ、意地っ張りなんだよね」
紗羽「暗くなったり、別れを悲しんだら、わたしがためらっちゃうから」
紗羽「だから、みんな無理して、明るく振る舞ってる」
田中「……知ってたのか」
紗羽「見てればわかるよ、そんなの。特に来夏なんかね」
田中「……でも、それは」
紗羽「わたしを思いやって、考えてくれてることもわかってるよ」
紗羽「でもさ。それでも、やっぱり言って欲しいことって、あるんだよね」
紗羽「寂しいとか、行って欲しくない、とか」
田中「……」
田中「……俺は……」
紗羽「あ。そうだ。わかってるだろうけど、言うね」
田中「え?」
紗羽「それでも、わたしは行くよ」
田中「……」
紗羽「夢だったから。出来る可能性は、全部試したい。納得できるまで」
田中「……そうだな。」
紗羽「だから田中も、頑張ってね」
スッ
田中「……?」
紗羽「なにしてんの、ハイタッチでしょ。ほら」
紗羽「お互い、絶対に夢をかなえようね」
田中「ああ。俺は世界に、沖田は日本に、行けるように」
紗羽「……なんか変な感じ」
田中「大きな夢には、変わりないだろ」
紗羽「そうだね。約束だよ。破らないでね」
田中「おう。沖田こそな!」
パァン!
おしまい
書き溜めしてから投下のスタイルなので、投げっぱなしジャーマンにはなりません。
この距離のまま〆るとはよくわかってるジャマイカ
二人のお話(というか紗羽側)が動くなら、やっぱり空港イベントの後からかな、と
TARI TARIのSSは結構少ないので、もっとみんなもやってくれたら嬉しいな、って思ったり
こういう雰囲気いいな
Entry ⇒ 2012.10.10 | Category ⇒ 版権物SS | Comments (0) | Trackbacks (0)
梨穂子「……ごめんなさい、橘くん」
純一「え?」
梨穂子「………」
純一「ちょ、ちょっと待てよ梨穂子……橘くん…?」
梨穂子「………」
純一「な、なんだよ…前みたいに純一って呼べばいいだろ…?」
梨穂子「その…」
純一「あっ、うん!? なに梨穂子っ? あ、もしかして冗談だった?
おいおい、それちょっと冗談としてなら笑えないから───」
梨穂子「………」くる…
梨穂子「……ごめんなさい、私ちょっと急いでるので」
すたすた
純一「…え?」
純一「…なんだよそれ」
たっ
純一「──梨穂子!? おいって、どういう意味だよそれ!?」ぐいっ
梨穂子「きゃっ…!」
純一「な、なんでそんな他人行儀なんだよ…!? 僕だよ僕!? 橘純一で…!」
梨穂子「っ…は、離してくださいっ…!」
純一「ッ…!? くださいって……梨穂子!? どうして───」
梨穂子「……っ…」
純一「──そりゃっ…久しぶりに会って、最近は全然喋っても無かったけど…!
いくらなんでも、そんな態度はないんじゃないか…!?」
梨穂子「……っ」
純一「おいって! なんとか言えってば! 梨穂子!?」
梨穂子「───離してくださいっ!!」ばっ
純一「あっ……」
純一「うっ…えっと……梨穂子…?」
梨穂子「はぁっ……うんくっ…」きっ
純一「っ…」
梨穂子「もうっ……これから…っ」
純一「…え?」
梨穂子「もうこれからっ……私に近づかないでないで…っ!」
純一「なっ……!?」
梨穂子「私はっ……私はっ……」
純一「ど、どうして……そんなこと言うんだよ…? 梨穂子…?」すっ…
梨穂子「こないでっ! もっと叫びますよっ…!!」
純一「っ…」びくっ
梨穂子「はぁっ……はぁっ…私はっ……私はっ…!」
梨穂子「───貴方のことなんて全然知りませんっ!」だっ
純一「っ……ちょ、待ってよ!? 梨穂子ってば!?」すたっ…
「…何、アイツ?」
「さっきのって、リホだよね?」
「きも、もしかしてファンとか? かわいそー」
純一「……っ……」すたすた…
純一「………」
純一「………どういうことだよ、知らないって…」
純一「梨穂子…?」
~~~~~~
教室
梅原「お前が悪い」
純一「……どうしてだよ」
梅原「………」
純一「なのに……貴方のことなんて、知りません。だってさ…なんだよ一体…」
梅原「……幾つか言わせてもらっていもいいか、橘」ずいっ
純一「な、なんだよ。急に顔を近づけて…」
梅原「いいから、言わせて貰ってもいいかって」
純一「お、おう…」
梅原「あのよ、お前さんは確かーに……桜井さんの幼馴染かもしれねえ」
純一「…かもじゃなくて、その通りだよ」
梅原「黙って最後まで聞け」
純一「………」
梅原「ことさらに言えば、長年付き合いのある伝統長し立派な幼馴染だ。そうだろう?」
純一「…そうだよ? だから言ってるだろ、あんな梨穂子初めてだって」
純一「どういう意味だよ」
梅原「じゃあ聞くが、お前さんはだな……」
梅原「……〝アイドルになった桜井梨穂子〟という人間を、知ってるのかって話だよ」
純一「…知るわけ無いだろ、そんなこと」
梅原「んだろーが、でもってさっきお前さんが言った言葉はなんだ?」
純一「あんな梨穂子初めてだってコト?」
梅原「おう、それだ。今回のことはおめーさんの仲とはいえ、はたまた幼馴染っつーところであっても」
梅原「───んなもん関係の無い、全くもって無関係な問題ってことだぜ」
純一「…すまん梅原、もうちょっとわかりやすく言ってくれ」
梅原「……。ワザと遠まわしに言ったんだが、ハッキリ言わせるのか俺に」
純一「ああ…良いんだ、言ってくれ」
梅原「…そうか、じゃあ言うけどよ」
梅原「何時まで幼馴染の仲でいるつもりだ、大将。あっちはもう世間的なアイドルだぜ?」
梅原「いーや、言い訳は聞きたくねえぞ俺は。だからさっきの出来事があったんじゃねえのかよ」
純一「………」
梅原「いくらなんでもお前さんは、あのアイドル桜井リホに対して──」
梅原「───馴れ馴れしくし過ぎなんだよ」
純一「僕は、そんな風にしたつもりは…」
梅原「そうだろうな、確かに橘はんなつもりはなかったかもな」
梅原「…だけどよ、ちょっとは考えろ。あっちはアイドル、こっちはただの幼馴染」
梅原「でっけー壁がありまくりだって思わねえか?」
純一「……だけど、知ってるだろ梅原も」
梅原「ん?」
純一「あの桜井梨穂子だぞ? おっちょこちょいで、食べることが大好きで、誰からでも好かれて」
純一「…それでふわふわとしてて、すぐに歌を歌って、まあるくて、それで……誰よりも優しい奴だって」
純一「だろ? なんのに、おかしいよあんな態度は……仮にホントにアイドルだからって、
高飛車になるようなそんなタマの人間じゃないってことは…」
純一「……誰にだってわかることだよ」
梅原「…んでもよ、それもあれだろ、俺らの勝手なイメージだろ?」
純一「………」
梅原「例え桜井さんがそうだって思ってもよ、あんな遠くまで行っちまったら。
ただの学生の俺らが全てを分かってやれることなんて、出来るわけがねえ」
梅原「……こう考えろよ、大将」
梅原「──桜井梨穂子は、もう変わってしまったんだってさ」
純一「変わってしまった……」
梅原「ああ、そうだぜ。もう俺らの知ってる桜井さんはここには居ないんだ」
梅原「もう、桜井リホというアイドルしかいねーんだって」
梅原「…そうだろ、こんなことよ、桜井さんがアイドルになった時から分かってたことじゃねえか」
梅原「橘自身が言ってたろ? ……アイツは遠い所に行ってしまった。ってさ」
梅原「お前さんは何気なく話しかけたつもりだったかもしれねえけど」
梅原「…そんなことも、もう許されるような関係性じゃなくなっちまったということだ」
純一「……梅原、お前さ」
梅原「なんだよ」
純一「……容赦ないよな」
梅原「ったりめーだよ、はっきり言えって言ったのはお前だろ」
純一「……うん、わかってるよ」
梅原「はぁ……俺だってこんなこと言いたくねえ、本当の所はよ」
梅原「だけど、俺はもっと…そんな大将の顔が見たくねえんだ」
純一「え…?」
純一「………」
梅原「まーそういうこった、だからよ。これから先───」
梅原「───なんでか知らねえけど、アイドル活動休業してまで……」
梅原「…この輝日東に帰ってきてる、この三週間まで」
梅原「出来るだけ桜井リホにあわねーように、気を付けるこった」
純一「………」
梅原「……わかったか、わかってるのか大将」
純一「…わかってるよ」
梅原「いいか、絶対に問題を起こすなよ? お前さん、絶対にだぞ?」
純一「わ、わかってるって! ……なんだよ、僕が問題を起こすとでも言うのかよ…」
梅原「ああ、思ってる!」
純一「起こさないよ!」
梅原「──へたすりゃ捕まるぜ、本当に」
純一「わ、わかってるって! んだよ、僕を信用しろよ…!」
梅原「あいよ、元気も出てきたみてーだし。ほら、そろそろ授業も始まる……ぞ!」ぱしんっ
純一「あいたっ」
すたすた…
純一「…ったく、手加減をしろよ…」
純一「………」
純一(もうアイドルだから──……か)
純一「………そうだよ、な」
純一「確かに、そうだよなぁ……」
純一「………」
~~~~~~~~~~
放課後
純一「梅原ぁ、僕はちょっと職員室に用があるからー」
純一「わからん、だけど先に帰っていいからさー」
梅原「あいよーこってり麻耶ちゃんに絞られてこーい」
純一「まだ怒られるとは決まったわけじゃないからな!?」
職員室・ドア前
純一(───だけど、どんなことで呼び出されたのか全く分かって無い…)
純一(もしかして本当に怒られる為に呼ばれたのかな? でも、課題だって昨日ちゃんと怒られてたし…)
純一(居眠りしてた時も、呼び出されることも無く…テストの点でも呼び出しはまだ猶予がある…)
純一(んっ!? もしかして、ただ単純にイラついてるから僕を呼びだしたとかありえるかも…!?)
純一(橘くん、先生ちょっとストレス気味だから。二時間だけ椅子になってもらえないかしら?)
純一(…とかなんとか言われる可能性も……うむ、アリだなっ!)
がらり
純一「ひっ…!? ち、違います! 高橋先生僕はただ先生の臀部の感触を───……あれ?」
純一「……りほ、こ…」
梨穂子「………」
純一「………あ」
梨穂子「………」
すっ…
純一「っ……」
梨穂子「……」すたすた…
すたすた…
純一「……なんだよ、無視しなくたって…」
ヴィイイヴィイイイ…
純一(あれ? なんだろこの音……)
純一「……?」
ヴィイイヴィイイイ…
純一(この音、梨穂子から聞こえてるのか…?)
梨穂子「……」
梨穂子「……」ごそごそ…
ぴっ
純一「…なんだ、ポケベルか」
梨穂子「………」
純一(……なにやら真剣に見てるな、アイドル関係の内容かな)
純一(もう少し、もう数歩近づけば内容が見れる距離に行けるけど……)
純一(…って、何をやってるんだ僕は! そんな人のプライバシーを侵害するようなっ…)
純一「侵害するようなっ……」すた…すた…ちら…
「───橘くん?」
純一「ひぃいいいいいい!?」
純一「あ、へっ? す、すみませんっ! すみません! ごめんなさい! 本当にすみませんでした!」ぺこぺこ
高橋「そ、そんなに謝られても先生も…困るんだけど…」
純一「ハッ!? そ、そうですよねー! あは、あははは!」
高橋「……? まあいいわ。それよりも、先生の呼び出しのこと。ちゃんと憶えてるの?」
純一「は、はい! 椅子になら何時間でもなりきってみせます!」
高橋「椅子…? よくわからないことを言ってないで、早く職員室に入りなさい」
純一「そ、そうですね……失礼します…」ちらっ
純一(梨穂子は……もう居ないか)
高橋「橘くん!」
純一「はい! 失礼します!」
~~~~
高橋「橘くん、君を呼びだしたのは少し相談があってのことなのよ」
純一「…相談、ですか?」
高橋「そう……先生も出来るだけこのことは内密にしておきたいのだけれど」
純一「は、はあ…」
高橋「──桜井梨穂子さんが、今学校に戻ってきてることは知ってるわよね?」
純一「っ…は、はい」
高橋「アイドル活動とかで……先生はそういうの疎いから分からないけれど、
学校側も公認で、長い間学校をお休みしてたんだけど」
純一「…そ、そうですね」
高橋「テレビでも新聞でも言われてる通り、彼女は今、三週間の休みを取っている」
高橋「それで学校に戻ってきてるわけだけど……ちょっと、実は問題があって」
純一「問題…?」
高橋「ええ、それが今回貴方を呼びだした理由です」
高橋「……このことは、誰にも公言しちゃだめよ。いい?」
高橋「先生は、例え課題やテストの点数が悪くても。
そういった約束事は守る橘君だって信用しているから、こんなことを言うのよ?」
純一「だ、大丈夫です! 決して先生の信頼を裏切ることはしません!」びしっ
高橋「………よろしい、じゃあ少し小声で話すわね」こそ…
純一「は、はい…」こそ…
高橋「今回、桜井梨穂子さんがお仕事を休業しているわけ……それは、一般的に
学生としての身分を全うするため。かつ、義務的なものとして公式では発表されてるの」
純一「し、知ってます…! テレビでも報道されてましたし…!」
高橋「ええ、だけどね。本当の所はちょっと違うの」
純一「な、なんですって!?」
高橋「こ、こら! 大きな声を出さないの!!」
純一「す、すみませんっ…! 思わず…!」
高橋「本当に静かにしてなさい…! これがもし世間にも広がりでもしたら、とんでもないことになるのよ…!?」
高橋「っはぁ~……じゃあ続けるわよ? だけど、どうしてここまで秘密裏にしなければならないのか、
と君も不思議に思ってくるんじゃないかしら?」
純一「…ええ、さっきからそう思ってます」
高橋「そうでしょう。これは本当に世間に出回ってはダメなこと。
先生だって彼女から直接、相談があるまで全然知らなかったことよ」
純一「…梨穂子から直接、ですか?」
高橋「そう。だから、このことは誰に行っちゃダメ、私だって君も含めて少数にしかこの事を言ってないのよ」
純一「……言っちゃってるじゃないですか」
高橋「ち、違うわよ?! 先生はっ…彼女の親しい人たちに伝えたんです!
誰かれ構わず言ってるわけじゃありませんからね!?」
純一「じょ、冗談ですよ…! すみません…!」
高橋「くっ…で、ですからっ! このことは秘密裏にしておくこと! そして、それがどのようなことかというと────」
~~~~
茶道部
純一「…お邪魔します」
「───黒幕登場」
純一「ええ、お久しぶりです。それと黒幕とか言わないでください」
夕月「ははっ、そう言うなって橘ぁ。なんてったって、これがあたし達だろ?」
愛歌「通常通り」
純一「…確かにその通りですけど」
夕月「そんでもって、今日は見学かい? やっと茶道部に入ろうって気になったワケかー!」
愛歌「風前の灯」
夕月「おいおい、そりゃまだ早いぜ愛歌。まだまだイケるって」
愛歌「……夢の跡」
夕月「厳しい言葉だよ」
純一「あのー……上がっても?」
夕月「おう、あがんなあがんな。愛歌が茶を丁度、入れてる所なんだ」
愛歌「愛がこめられてる………飲んで溺死せよ」
純一「……」ぴしゃっ
愛歌「つっこみ万来」
純一「……」すたすた
夕月「そりゃ無理って話だよ! 人いねーじゃねーか! あたしらだけだぜ? あっはははっはは!」
純一「……」すとん…
愛歌「残念無念」
純一「お茶をください」
夕月「くっく、あんたもあたしらの扱いに慣れ過ぎだよ」
愛歌「常時運転」
純一「…どれだけここに、来てると思ってるんですか」
夕月「そうだね、確かにそうだ。ま、ここの所とんと来てなかったけどな」
純一「……」
夕月「まあ、ゆっくりしていきな。………こっちも話したいこと、沢山あるからよ」
夕月「───何も隠すことはねえだろ、アレはただの〝病気〟だ」
夕月「ずずっ……ふぅー…誰にだってある問題であって、一般人も掛かっちまう普通の病気だよ」
純一「…そうで、しょうか」
夕月「ん?」
純一「確かに……それは言ってしまえば〝病気〟なんでしょうけど…」
純一「本当に……ありえるんでしょうか…」
夕月「信用しないのかい? あいつが言ったことを」
純一「………」
夕月「あのりほっちが言った言葉を、例えそれが、先生からっつーさ。
つまんねえ言付けみたいな感じで伝わってきたものだったとしても」
夕月「お前さんは、信用しねえのかい?」
純一「……ですけど、やっぱり…」
純一「───記憶を、失ってるなんて…」
純一「常識的に、本当にそうだったとしても信用とか、そういったことじゃもう…」
夕月「……詳しいことはわからねえけどさ、ずずっ」
こと…
夕月「アイツってば、思うに。無理をし過ぎてたんだと思うんだよ」
純一「無理を…?」
夕月「ああ、そうさ。あの子はアイドルって肩書がとんでもなく重たすぎたんだって、あたしゃーそう思う」
純一「………」
夕月「言いかえれば頑張りすぎたんだよ。運が運を呼んで、とんでもない場所まで上り詰めちまったけど、
はたしてそれがあの子の器量でやりきることが出来るもんだったかと言えば、そうじゃねーんだろうさ」
夕月「今回のことを、考えれば」
純一「………」
夕月「橘も知ってるだろうけど、あの病気は…精神的なものからくる記憶障害……だったか?」
愛歌「ずずっ…通称、心因性記憶障害」
夕月「しん、いん…?」
愛歌「心因性記憶障害───……心因性記憶障害健忘」
愛歌「区分すると4つ、一定期間のことすべてを思い出せない限局性。
一定期間内のいくつかの事しか思い出せない選択性。
人生すべてを思い出せない全般性。
ある特定の時期から現在の事を思い出せない持続性健忘。
発症年齢は、青年や若い女性に多く見られ、高齢者には稀にアリ。
心理的・社会的ストレスによって引き起こされると言われる」
夕月「…愛歌はなんでも知ってんな、本当に」
愛歌「調べた」
純一「そ、それで…梨穂子は?」
愛歌「予想すると……選択性の心因性記憶障害」
夕月「とある期間内のことをおもいだせないって奴か?」
純一「っ……でも、僕のことは全く覚えてなかったですよ…!?」
愛歌「怒るな……だから、予想だと言っている」
純一「ぐっ……すみません…っ」
夕月「まあまあ、橘だって困ってんだ。そんなに冷たくすんな愛歌」
愛歌「心因性記憶障害───……心因性記憶障害健忘」
愛歌「区分すると4つ、一定期間のことすべてを思い出せない限局性。
一定期間内のいくつかの事しか思い出せない選択性。
人生すべてを思い出せない全般性。
ある特定の時期から現在の事を思い出せない持続性健忘。
発症年齢は、青年や若い女性に多く見られ、高齢者には稀にアリ。
心理的・社会的ストレスによって引き起こされると言われる」
夕月「…愛歌はなんでも知ってんな、本当に」
愛歌「調べた」
純一「そ、それで…梨穂子は?」
愛歌「予想すると……選択性の心因性記憶障害」
夕月「とある期間内のことしか、しかも少しだけしか思いだせないって奴か?」
純一「っ……でも、僕のことは全く覚えてなかったですよ…!?」
愛歌「怒るな……だから、予想だと言っている」
純一「ぐっ……すみません…っ」
夕月「まあまあ、橘だって困ってんだ。そんなに冷たくすんな愛歌」
純一「いえ、僕の方こそ急に熱くなってしまって……」
純一「で、でも! それは決して良くならない病気ではないんですよね!?」
愛歌「…回復は可能、再発も滅多に皆無」
純一「っ……よかった…!」
夕月「じゃあどうやって治すんだ?」
愛歌「調べてない」
夕月「…調べろよ」
愛歌「知らぬ顔の半兵衛」
夕月「…あ? だったら───ああ、そういうことか」
夕月「まあ、いいよ。確かに治る病気ってんなら安心だな、橘」
純一「………」
夕月「ん? 橘? どうしたさっきから俯いて───」
純一「───だったら、治しましょうよ、病気…!」
純一「治るんですよね…? ちゃんと治るんだったら、どうにかして…!」
純一「僕たちで治しましょうよ! 梨穂子の病気を!」
愛歌「…」
夕月「い、いやっ……治すってお前さん…やりかたわかるのかい?」
純一「いいえ、全くわかりません!」
夕月「おいおい! それじゃあ話になんねーじゃねえか!」
純一「だけど! ただ見てろって言うんですか!? あの梨穂子を!?」
夕月「……そりゃあ、あたしだって見たくはないけど」
純一「でしょう!? だから僕が、そして茶道部のみなさんで梨穂子を治してやるんです!」
純一「──梨穂子の記憶を、僕たちで治してやりましょうよ!」
夕月「…簡単に言うねえ、おいおい」
愛歌「妄想主義者」
純一「これなら梨穂子とも話せる機会が増える、そしたらきちんとアイツと会話が出来ることも…!」
ぐっ…
純一「先輩! どうですか!? 僕と一緒にやってくれませんか!?」
夕月「やってくれませんかって、こういったことは大人しく見守っておくのが…」
純一「ダメですよ! それじゃあ! だって三週間しかないんですよ!?」
純一「そんな悠長なことを言ってたら、アイツはまたあの世界に…
しかも治らなければ、記憶が不安定のままに、またずーっと頑張り続けてしまう!」
純一「そしたらもうっ……アイツはっ…梨穂子は! どうなっちゃうか分からないでしょう!?」
夕月「……」
純一「どうにかするしかないんです! このことを知ってるのは…先輩と僕、この三人だけのはずです!」
純一「……お願いします、どうか、梨穂子の為だと思って……」
純一「──僕に協力をしてください、お願いします!」ぐっ
純一「……」ぐぐッ…
夕月「はぁ……あのなぁ、橘───」
愛歌「───その心意気、乗った」
純一「ほ、本当ですかっ!?」
夕月「愛歌…?」
愛歌「乗ってやろう……橘純一」
愛歌「りほっちの治療……茶道部全部員で」
純一「やってくれるんですね!? 夕月先輩!?」
夕月「えっ? あ、お、おう……?」
純一「ありがとうございます! ありがとうございます!」
夕月「い、いや! 違う! そうじゃなくて───」
愛歌「──詳しい内容は後日」
純一「わかりました! 明日ですね!? そ、それなら僕も色々と徹夜で考えてきます…!」
純一「頑張ります! じゃ、じゃあこれで! いそいで帰って作戦を練らないと…!」だっ
純一「──お茶ありがとうございました! 失礼しました!」
がらりっ…ぴしゃっ
夕月「………」
愛歌「ずずっ…」
夕月「…おい、説明してくれるんだろうな」
愛歌「………」こと…
夕月「分かってんだろ? つぅうか、愛歌が分かって無いはずがないもんな」
愛歌「………」
夕月「──アイツ……橘だけど。ちょっとオカシイぞ、あれ」
愛歌「そうかもしれない」
夕月「そうかもじゃないだろ、必死すぎるっていうかよ、なんか周りが見えてないように感じる」
夕月「急に治すとか言いだして、此処に来たときだって、変に思いつめた顔してやがって」
夕月「…今の橘は、ハッキリ言って〝危険〟だと思わねえのかい?」
愛歌「…」
夕月「冗談じゃねえよ、本気で言ってるんだ。あの馬鹿がとんでもねえ事しでかす前に……教えろ愛歌」
夕月「一体ぜんたい、何がしたいんだお前」
愛歌「…長いものには巻かれろ」
夕月「は?」
愛歌「そう言う本心……るっこもわかってるはず」
夕月「……。めんどくせーこと考えるのは苦手なんだよ、あたしゃ」
夕月「ま、とにかく約束しちまったことは守んねーとな」
夕月「はぁ~……どうなるんだろうねぇ、この三週間は」
愛歌「波乱の予感」
純一「はぁっ…はぁっ…! やってやる! やってやるぞ僕は!」たったった!
純一「家に帰って、色んな事を考えて…! 梨穂子の為に、色んな事を頑張ってやるんだ…!」
純一「僕は…! 大丈夫だ、絶対に梨穂子を治すことが出来るはず…!」
たったったった!
純一「───やってやるぞ! 梨穂子! 待ってろよ!」
次の日
純一「………」
純一(色々と夜なべして考えてきたけど、その内容を茶道部の先輩たちに言う前に…)
純一「…梨穂子に対しても、ちょっと了解を得ないといけないよな」
純一(僕と梨穂子は他のクラス。会えない可能性も格段と上がってしまう……それならどうすればいいか)
わいわい がやがや
純一(登校中の梨穂子を、話しかければいい)
純一(登校ルートはほぼ一緒だから、こうやって道を歩いていればじきに出会うはずだ……)
純一(もうちょっと待てばあいつは来るはず──来た…!)
純一(…梨穂子だ、前方から坂を上ってきてる。俯いて歩いてるようだから、
まだこちらには気付いてない……よし、近づくまで待ってよう)
純一「…」
梨穂子「……」すたすた…
純一「…」
梨穂子「……」すたすたすた…
純一(今だ!)
純一「りほ──」
伊藤「──やっほ、桜井ー」
梨穂子「っ……」
伊藤「おっはよーさん!」
梨穂子「……───」
梨穂子「──おはよう、香苗ちゃん~」
純一「え……?」
梨穂子「えへへ、今日も元気だね香苗ちゃんは」
伊藤「あったりまえ、あたしだは元気が取り柄だからさ」
梨穂子「くすくす」
伊藤「そういう桜井だって、アイドルだからって全然元気じゃん」
梨穂子「え~? だから言ってるでしょ香苗ちゃん、アイドルアイドルって言わないでよって~」
伊藤「言わないでって言われても、あんだけゆうめいになっちゃったらイヤでも思っちゃうでしょうが」
梨穂子「…そうなの? うーん、でもなぁ」
伊藤「あんまそう思ってほしくないなら、あたしも言わないでおくけど?」
梨穂子「……」
梨穂子「…ううん、全然いいよ。だってアイドルってことは本当のことだし…」
梨穂子「──それに、私がなによりも大好きな事だから」
純一「っ……」
梨穂子「ちょ、ちょっと…! そんなこと大きな声で言わないで…ね?」
伊藤「あはは、んな恥ずかしがらなくてもいいじゃん───って、あれ?」
伊藤「橘くん?」
純一「…あっ……」
伊藤「橘くんじゃん、おはようー」
純一「お、おはよう……」
伊藤「ん? えらく元気ないけど、どかした?」
純一「あ、うん……えっと、その…」
梨穂子「………」
純一「………」
伊藤「…はは~ん、なるほどねぇ。あたしはお邪魔虫って訳ですかぁ」
梨穂子「も、もうっ! 香苗ちゃんっ……?」
純一「───香苗さん、ちょっと僕と梨穂子の二人だけにしてもらってもいいかな」
伊藤「…え?」
純一「いいかな、させてもらっても」
伊藤「あ、う、うん……いいけど…どしたの急に?」
純一「…ごめん、詳しくは言えない」
伊藤「………」
純一「………」
伊藤「…わかった、よくわかってないけど」
純一「っ……ありがとう、今度なにかお礼するよ」
伊藤「いいっていいって、それよりも……」すたすた…
伊藤「……あんまり桜井を困らせたことさせたら、怒るよ」ぼそっ
純一「………」
伊藤「んじゃ、桜井ぃ。教室でねー」
伊藤「うぃー」すたすた
梨穂子「………」ふりふり…
梨穂子「………」ふり…
すっ…
梨穂子「………」
純一「っ……梨穂子…」
梨穂子「…私に近づかないで」
純一「そ、それは……昨日聞いた」
梨穂子「…じゃあ今日も近づかないで。明日も明後日も、この三週間ずっと」
梨穂子「───私の視界に一切、映らないようにしてください」
純一「ぐッ…どうして、そんなこと言うんだよっ」
梨穂子「………」
純一「僕はっ……知ってるんだぞ、お前の…その〝病気〟のこと…!」
梨穂子「っ…」
梨穂子「………」
純一「憶えていたことが全く憶えて…なくて。
だから今はアイドルを休業してまで…学校に来てる」
梨穂子「………」
純一「憶えてる部分がどんな所かは知らないけ…だけど、僕に対する対応でなんとなく理解できるよ」
純一「…梨穂子、僕のことを忘れてるんじゃないかって」
梨穂子「………」
純一「だからあんな風に、僕に冷たい対応をしたんだろ?
今だってそうだよ、こんなの、全然梨穂子らしくない」
純一「…お願いだ、梨穂子。正直に話してくれよ」
梨穂子「………」
純一「辛いのかもしれないけど、言いたくないのかもしれないけど……忘れてしまってるんだろうけど」
純一「僕とお前は、幼馴染なんだ。正直に言ってくれ…」
梨穂子「………橘くん」
純一「っ…な、なんだ?」
梨穂子「……っはぁ~、あのねちょっといいかな」
梨穂子「──リホは別に、病気でもなんでもないよ?」
純一「えっ…?」
梨穂子「もう一回言ってあげようか? 橘くん、これは病気じゃないんだよ」
梨穂子「一般的に公表されてる通り、ただの休暇期間……ただのオヤスミってだけで」
梨穂子「周りが噂してるような、病気だとか記憶喪失とかじゃなくて───」
梨穂子「──このリホがまねーじゃーさんに我儘を言って休ませてもらってるだけ」
純一「……う、嘘だよ…だって! 高橋先生が…!」
梨穂子「高橋先生? …ふーん、そっか~」
梨穂子「信用しちゃったんだ~? くすくす、橘君って……本当にお豆腐みたいな脳みそなんだね~」
梨穂子「アレは単に、同情をさせて不登校気味だったものを緩和させる為に言っただけなんだー」
梨穂子「…他の子もやってることだって、まねーじゃーさんに教えてもらったんだよ」
純一「そ、そんなことっ…だって、茶道部の先輩たちも…! それに、僕に対しても…!
だったらどうして僕のこと橘って呼ぶんだよ!? 記憶が無いとしか理由がないだろ…!?」
梨穂子「あはは、違うよー…もう!」
梨穂子「じゃあ呼んでほしいなら呼んであげるよ、ねえねえ───」
梨穂子「───純一ぃ、おはよう~」
純一「っ……や、やめろ…!」
梨穂子「えー? どうして? だって純一が呼んでって言ったんでしょお?」
梨穂子「だからわざわざ呼んであげたのにぃ…ひどいよ、そういうのって」
純一「ち、違う…! そんなの、梨穂子じゃ…!」
梨穂子「…何が違うっていうの? あはは、だってみてたでしょ?」
梨穂子「香苗ちゃんだってリホのこと、まったく心配してる風じゃ無かったよね?」
梨穂子「昨日、クラスで一日中過ごしたのに。まったくリホのこと気にかけてる様子はなかったよね?」
梨穂子「リホはリホで、三週間の学校生活を楽しみたいってだけで、別にそんな大した理由があるわけじゃないんだよ」
梨穂子「……桜井梨穂子は、ただのお仕事のずる休み中。なんだよ?」
純一「ち、違う!」
梨穂子「違わないよ、本当のことだから」
純一「っ…じゃあ、どうして僕にそんな態度なんだよ!? 梨穂子、そんなお前らしくないだろ…!?」
梨穂子「…さっきからその〝らしくない〟って、何なのかな」
純一「だってそうじゃないかっ! そんなっ…そんなっ…人を小馬鹿にしたような喋り方っ…梨穂子らしく───」
梨穂子「──らしくない、とか言わないでよ」
純一「っ……」
梨穂子「じゃあ言ってあげる、純一。あのね、わかってないようだから言ってあげるけど」
梨穂子「……これが今の〝私〟なんだよ。これがアイドルの桜井リホなんだよ」
梨穂子「いつまで自分が知ってる幼馴染の〝桜井梨穂子〟だって思ってるの?」
梨穂子「…やめてよ、もうそんな私なんて居ないんだから」
梨穂子「あの時、廊下で会った時……リホは貴方のこと知りませんって、言ったよね」
梨穂子「あれは記憶喪失とかじゃなくて、精神的にとかじゃなくて」
梨穂子「…貴方を拒絶する為に、そう思わせる様に言ったんだよ」
純一「拒絶…っ…」
梨穂子「でも、安心したよね? 別に病気じゃなくて、記憶障害じゃなくて。
大丈夫だよ、平気平気~♪ リホはちゃーんと純一のことを憶えてるから」
梨穂子「───だけど、リホにはもう近づかないで。橘くん」
純一「っ…」
梨穂子「リホはそう望んでるんだよ、そう心から願ってるから」
梨穂子「……そういうことで、じゃあね橘くん」すたすた
純一「……────」
純一「──待てよ!! 待てって梨穂子!!」がっ
梨穂子「………」
お前は絶対にそんな事言う奴じゃない! 僕はそれを知ってる!!」
梨穂子「………」
純一「な、なにか訳があるんだろ!? 記憶が無いってことが嘘ならっ…また別の理由が!
そうじゃなきゃお前が僕に対して、そんな冷たくなる理由がわからないだろうが!?」
梨穂子「………」
純一「そうやって黙ってちゃなにもわからないだろ!? 教えろよ! どうした梨穂子!?」ぐいっ
梨穂子「………───」すっ
ぱあああんっ…
純一「──え……」
梨穂子「………」
純一「今……え……叩かれ……」
梨穂子「…次、もう一回腕掴んだら警察呼ぶから」
純一「っ……」
梨穂子「そうなると橘くん、犯罪者になるよ? この意味、わかってるよね」
梨穂子「…気安く下の名前で呼ばないでくれるかな、今の私は桜井リホだから」
梨穂子「桜井梨穂子はもう……貴方の中にいる幼馴染の桜井梨穂子はもう」
梨穂子「───何処にも居ないんだよ……」すっ…
すたすた…
純一「………」
純一「………梨穂子…」
純一「………そんなこと…」
純一「ぐっ……だめだ、ちゃんと理由を聞かなくちゃ…!」
純一「梨穂子!」だっ
だだだだだっ…
純一「梨穂子! ダメだ! 僕はちゃんとお前の口から───」
「よし、今だ!」
純一「──えっ……うわぁああ!?」
どしゃあああっ
「うぉおおおお!!」
純一「な、なんだ…!? え、待ってそんなに圧し掛かれたら…!」
どしゃ!
純一「うっぐっ…!?」
「すみません、リホちゃん! 後は我々【桜井リホお守り隊】にお任せください!」
梨穂子「……遅いよ、昨日あれだけちゃんと言ったのに」
「はっ! ですがまさか登校中のリホちゃんを襲うとは…我々も不覚です、警備の強化を実施させます!」
梨穂子「うん、お願いだよ?」
「は、はいいいいい! 四番隊ぃ! 犯罪者の尋問にかかれぇ!」
「はっ!」
純一「息がっ……痛いっ…あれ、なんだよ…!? 何処に連れて行くつもりだ…!?」
梨穂子「あんまりひどいことはしちゃダメだよ? 警察沙汰になったら、私だって何もできないから」
梨穂子「…そっか、みんな良い子だって知ってるから。リホも安心だよ~」
「ええ! では安心して登校されてください! 五番隊を護衛につけます!」
梨穂子「うん、ありがと~」
純一「っ…梨穂子…! 梨穂子ー!」ずりずり…
「こら、暴れるなっ…!」
純一「梨穂子っ……これはどういうことだよ!? なにがお前をそんなにっ…!」
梨穂子「……」
純一「教えてくれよっ…!? どうして教えてくれないんだ!? 僕はっ…僕はっ…!」
梨穂子「……」くる
すたすた…
純一「梨穂子っ……!」
~~~~~
校舎裏
純一「うっ……」
純一「はぁっ…くそ、沢山蹴りやがって…」
純一「っ…いたた……何だよ、僕がなにをしたって言うんだよ…!」
純一「…はぁ…」ごろり…
純一「…………」
純一「……何だって言うんだよ…」
「───おい、立てるかそこの犯罪者さんよぉ」
純一「っ……立てません、太もも思いっきり蹴られてるので」
夕月「だろうねぇ、三人に寄ってたかって蹴られまくってたもんな」
純一「…見てたんですか」
夕月「まあな。それにしちゃー案外、平気そうだね、どれ見てやるよ…」すっ
純一「………」
夕月「おうおう、頬がちょっと擦り?けてやがんな」
純一「…大丈夫ですよ、これぐらい」
純一「……」むくっ…
夕月「ん、もうちっと寝とけばいいじゃねえか」
純一「…いいんです、もう大丈夫ですから」
夕月「いいから、もうちっと寝とけって」ぐっ
純一「は、はい? だ、だからもう平気だって──」
夕月「──寝とけっていってるだろーがッ!」ボスッ!
純一「うごぉっ…!?」ぱたり
夕月「よしよし、いいこだ。素直は良い奴の証拠だぜ」
純一「ねっ…寝かせたの間違いっ…でしょっ…!?」ぷるぷる
夕月「んまー固いこと言うなって。どうだい、あいつ等の蹴りより効いたろ? くっく」
純一「え、ええっ……今が一番、重体ですっ…!」
夕月「…あんたはりほっちにやりすぎた、だからあたしからも一つ制裁ってな」
純一「………」
夕月「そこで大人しく寝ときながら、あたしの話しもついでとばかし、聞いておくれ」
純一「……なんですか、一体…」
夕月「あたしも手伝ってやるよ、りほっちを治すってやつをさ」
純一「っ……先輩、それは…!」
夕月「遠くからだったけどよ、話の内容は想像できたぜ。…んな病気はないって言われたんだろ?」
純一「…はい、だから治すも何も…」
夕月「…信用するのかい? あの子が言った言葉を?」
純一「え…? いや、夕月先輩……昨日言ってることと違うじゃないですか…っ?」
夕月「へ? あたしゃ、なんか言ったかい?」
純一「いいましたよ…! あいつのこと、梨穂子の言ってる事を信用しないのかって…!」
純一(この人こそ記憶障害なんじゃないのか…)
夕月「…ま、でも。それは違うんじゃねえの?」
純一「…違う?」
夕月「おうよ、ありゃ桜井梨穂子のことを信用しろって言ったわけでさ」
夕月「───別に桜井リホまでを信用しろ、とまでは言ってねえよあたしも」
純一「なにが違うっていうんですか…どっちも同じ、桜井でしょう」
夕月「いーや、違うね。天と地の差があるよ」
純一「………」
夕月「確かにあんたにとっちゃ、同じことなのかも知れねえけどさ。
だけど落ちついて考え直してみるんだよ、お前さんならちゃーんとわかるはずだ」
純一「…そんなの、梨穂子がなにも言ってくれない限り…」
夕月「なにいってんだい、あんたはりほっちにとって……唯一の幼馴染じゃないのかい?」
純一「……」
純一「…じゃあ、どうすればいいんですか…! 僕だって、アイツのことを信用したいですよ!?」
純一「だけど、アイツが…梨穂子が! あんな態度をし続けるなら、もう幼馴染だからって何も出来るとはっ…!」
夕月「んだから言ってんだろ、信用しろって」
純一「っ…なんですか、信用しろって! 意味が分からないですよ!」
夕月「そのまんまの意味だよ、あの子をいつまでも信用するんだ。
どんなに冷たい事を言われても、どんなに暴言を吐かれて拒絶されたとしても、だ」
夕月「お前さんはそれを耐え抜いて、耐え抜いて、ずっとずっとりほっちのことを信用し続けるんだぜ」
純一「そんなっ……こと、僕には…っ…」
夕月「──いいや、出来る」
純一「っ……」
夕月「あるだろ、その耐え抜く覚悟……その原動力が」
夕月「あえてあたしも、何も言わねえでおくけど。
あんたには……あるはずだ、りほっちにたいしての〝頑張らなきゃいけない理由〟がよ」
夕月「だからこそ、昨日のお前さんの異常な……いいや、これはいいか」すっ…
夕月「とにかく、その心の中にある抱えたモンを……そう簡単に諦めるなってこった」
純一「………」
夕月「信じ続けろ。りほっちを、それがお前さんが出来る、今現状での最高の〝治療〟だ」
純一「…信じ続けろ…」
夕月「おうよ、それからはじめて行けばいい……そしたら、あたし達も手伝ってやんよ」
夕月「ま。頑張りな、応援してっからさ……んじゃhrに遅刻しないようにな~」
すたすた…
純一「…………」
純一「どういうことだよ……信じ続けろって…」むく…
純一「勝手すぎるよっ…誰もかもっ…わかったように言いやがって…ッ」
純一「……僕は、アイツの幼馴染…」
純一「分かってやれるのは、僕だけ──………」
純一「………」
純一「………はぁ」
梅原「おうおう、どうした大将。浮かない顔してよお」
純一「…ん、梅原」
梅原「今日一日、全くもって元気ねえじゃねえか。どうした?」
純一「…なんでもない」
梅原「……、そうかい。お前さんがそういうのなら、俺も何も言わねえよ」
純一「………」
梅原「………」
梅原「っはぁー、俺もお人よしだなホンット…」
純一「? なんだよ、どうした急に」
梅原「ほらよ」
ぽすっ
純一「…これは? メモ帳?」
純一「う、うん……なんだこれ、なにかの予定表?」
梅原「おう…『桜井リホ守り隊』の計画スケジュールだぜ」
純一「……。なにっ!? こ、これを何処で手に入れたんだ梅原ぁ!?」
梅原「しぃー! 声がでかいぞ橘ぁ!?」
純一「す、すまん……!」
梅原「はぁ…誰にもバレてないようだな、いいか? これがもしバレたら俺もただじゃ済まされないんだからなっ?」
純一「お、おう……だけどこんな凄いもの、何処で手に入れたんだ?」
梅原「『桜井リホ守り隊』のメンバーの中に……実はユウジが居るんだよ」
純一「…なにやってるの、アイツ」
梅原「ファンだからな」
純一「知らなかった…」
梅原「まあ色々と交渉をしてみたらよ、なんとかスケジュール表を映してもらえることに成功した」
梅原「だろ? 頑張ったぜ、アイツの好みのお宝本を揃えて…それからどれだけ価値があるか散々語りまくってさ───」
純一「ふむふむ、今日一日はずっと護衛か…」
梅原「……おい、聞いてんのか大将」
純一「うんー、聞いてるよー」
梅原「……」ぱしっ
純一「あー! なんだよ、どうして奪うんだよ!」
梅原「…お前の態度次第によっちゃ、これを譲渡させてもいいぜ」
純一「え……本当に?」
梅原「おう、態度次第だがな」
純一「…お宝本か?」
梅原「ああ、そうだ。……と、今回は言ってやりたい所だが違う」
純一「え…? 違うのか?」
梅原「そうだぜ、今回はとあるお願いをかなえてもらおうか……それはユウジの頼みでもあり、
あの『桜井リホ守り隊』の悲願でもある」
純一「……笑顔?」
帰宅路
純一「ふむ、明日は街にお出かけか」
純一(色々と読んでみると、三週間の予定がみっちり書いてある…つまりそれは、
逆に言えば梨穂子自身のこれからの予定ってなるわけだ、流石に確執にそうだとは言い切れないけど)
純一「はぁ…」ぱたり
純一「いやはや、梅原には悪い事をしたな……後で個別にお宝本を貸してあげよう」
純一「…だけどどういう意味だろ、笑顔って…」
~~~~
梅原「あいつ等が言うには、どうも桜井リホは……何時も通りでは無いらしいぜ」
純一「……そうなのか」
梅原「ああ、よくわからねえけど、俺たちの大好きな桜井リホの笑顔はもっと輝いてるぅ! …らしい」
純一「………」
梅原「俺は詳しくねえから語れねえけど、ユウジも心配そうにしてたんだよ」
梅原「…だからこそ、あの『桜井リホ守り隊』も熱が入っちまってるみてーだな」
純一(それは僕も含まれてるんだろうか…)
梅原「流石にひでーって、先生らも色々動いてるみてえだが…実際はどうなるか分からん」
純一「まあな、生徒が自主的にやってる事だし…まだ大した問題になって無いんだろ?」
梅原「……それも時間の問題かもしれねえ」
純一「え?」
梅原「ユウジが言うにはどうも……〝過激派〟と〝穏便派〟に隊が分かれつつあるらしい」
純一「過激派に…穏便派?」
梅原「ああ、アイドルファンに多い傾向らしいけどよ…そういった思想に違いが出てきてるらしいぜ」
純一「ユウジは?」
梅原「穏便派だ、安心しろ」
純一「…そっか、良かった」
梅原「今回のお願いも、実は穏便派からのことだったりするんだよ」
梅原「…あいつ等は願ってる、本当の桜井リホの笑顔を見ることを」
梅原「だけど、それは俺らには無理だって。ここ数日で色々と…判断したらしい」
梅原「──そこでお前の出番だ、大将」
純一「ぼ、僕?」
梅原「そうだ、ユウジ共々…そして穏便派はお前に全てを託すと言っていた」
梅原「大将、これはお前にしかできない事だ。わかるよな?」
純一「え、でも…お前、梨穂子にもう関わるな的なこと言ってなかったか?」
梅原「………忘れた!」
純一「ええっ!」
梅原「い、いいんだよ! 忘れろ! …とにかく、お前は託されたんだ」
梅原「その手帳を使って、上手く立ち回ってどうにか桜井さんに……」
梅原「……満点の笑顔を、咲かせてやってくれ!」
~~~~
純一「……とにかく、やれるよことはやってみよう」
純一「…そして、夕月先輩たちも」
純一「僕は……やらなくちゃ、いけないんだよな」
ぐっ…
純一「…あの梨穂子を、どうにかしないといけないと」
純一「だってそれは、僕自身も──強く望んでる事の、はずだから」
純一「………忘れるな、橘純一」
純一「──その思い、アイツがアイドルになってから決めた〝心の覚悟〟は…」
純一「絶対に蔑にしちゃいけない、大事なことだってことを」
純一「…………」
純一「っはぁ~……よし、やれるぞ僕になら!」
純一「まずは、家に帰ってどうするか考えよう! 作戦会議だ!」だっ
「──や、やめてくれよっ…! うあぁああああ!」
純一「! な、なんだ…? どっからか叫び声が…?」
「──どういうことだ、どうしてそんなことをした!」
ユウジ「ち、違うって! 別に俺は…!」
「言い訳をつくな! おい、お前らも何か言え!」
「…っ…俺たちは別に…」
「なにもしてないよ…」
「な、なあ? 隊長、アンタの勘違いだって…」
「嘘をつくんじゃない! 正直に言え! お前らは我々の機密事項を横流ししただろう!」
ユウジ「だ、だから! 俺らはそんなことしてないって!」
純一「……あれは…」こそっ
純一(ユウジ…? それに今朝に見かけた人が何人かいるな……何をやってるんだ?)
「はっ!」
ユウジ「えっ…? いや、待ってくれよ! そりゃやりすぎだろ!?」
「やりすぎじゃない、これは制裁だ。隊を乱す者を粛正するだけだ」
ユウジ「粛正って……ぐっ、離せよ! おい!」
「やれ」
ユウジ「うぐっ…かはぁっ」
「どうだ、吐く気になったか」
ユウジ「はぁっ…ふざけるなよ! やりすぎだアンタ!
馬鹿げてる! 本当に隊長になったつもりかよ!? 俺らは只の学生だぞ!?」
「……やれ」
ユウジ「ぐふっ……お前らやめろよ! なにがそこまでお前ら動かすんだよ!?」
「じゃあ聞くが、お前はどうして隊に入った」
「じゃあどうして隊の乱れを起こす、正直に話せ」
ユウジ「ッ……ああ、そうだよ! 俺がやったさ! 俺が情報を漏らしたよ!」
ユウジ「だからどうした! 俺は…俺はもうアンタらみたいな中二病みたいなことはできねえんだよ!」
ユウジ「守ってる気になって、やりたいことやりまくってるけどよ!?
それは本当に桜井リホの為になってるのかよ!? 絶対に違うだろ!?」
「………」
ユウジ「アンタらがやってることは、ただの自己満足だ!
普段の日常ではやれなかったことを、今やれてる現状に浮かれちまってるだけだ!!」
「……お前らも、そのような思想を持ってるのか」
「えっ……」
「いやー…えっと…あはは」
「………」
ユウジ「っ……あいつ等は関係ねえよ! 俺が一人でやった事だ!」
「い、いやっ…もうその辺にしておいたら…」
「口答えをすれば、お前も制裁だ」
「っ……」
隊長「……では、続けるぞ」
ユウジ「うぐっ……ああ、殴ればいい! 殴り続ければいい!
そうやって拳を振るって、その殴った感触を覚えておけ!」
ユウジ「そして一生その感触を忘れずに、この先を生き続けろ!」
ユウジ「なにもかもっ…全部が終わった時っ…うぐっ…!」
ユウジ「アイツが……アイツが全部終わらせた時! 後悔するのはテメーらだからなっ!!」
隊長「やれ」
ユウジ「ッ……橘ぁっ───」
「───ああ、任せろユウジ!!!!」
隊長「っ…!? だ、誰だ!?」
「──お前が言ったその言葉、僕はしかと心に受け止めたっ!」トン!
「──大丈夫、平気だ、やってやる。お前がやってくれたことは絶対に無駄じゃない!」
「──あの桜井梨穂子の……幼馴染である、この僕が!」
純一「橘純一が、お前の願いッ……叶えてやるよ!!」
ユウジ「たち、ばなぁ……っ!」
純一「…大丈夫か、具合は悪くないか?」
ユウジ「ぐすっ……へへっ、馬鹿言うんじゃねえよ。だってそうだろ?」
純一「…ああ、そうだな」
ユウジ「俺らはいつだって、本当に大切なものを失くした時…」
純一「…本当の辛さはそこにある」
純一&ユウジ「お宝本が、ある限り! 男は泣かない!」
純一「…ユウジを離せ」
隊長「おやおや、手出しをされては困る。
これは此方側の問題、更に言えば……お前も」
隊員「……」ぞろっ…
隊長「──粛正対象なんだぞ?」
純一「……ハッ、だからどうしたんだよ」
隊長「なにっ…!」
純一「ううん、ただ単に…人数で勝って良い気になってるだけの奴らだなって」
純一「…そう思ってるだけだよ?」
隊長「なっ…」
純一「………」ぷるぷる…
ユウジ(橘っ…本当はビビってるくせにっ…くそ!)
純一「…あのさ、考えてみてよ。これって普通に考えたら傷害事件だよ?」
隊長「……」
純一「今すぐに僕が近所の家に飛び込んで、警察を呼べば……どうなるか分かってるよね?」
隊長「………」
純一「…それに、その人たちだってそうだろう?」
純一「───彼らがこれから、君たちのことを通報しないと言う道理もない」
純一「周りが見えなさ過ぎてるよ、君たちは絶対じゃないんだ」
純一「…それはただの、アンタのわがままでしかないと思う」
隊長「………」
純一「…離してよ、そいつは僕の友達なんだ」
隊員「っ……」ぱっ
ユウジ「くっ……」どさっ
純一「ユウジっ! …だ、大丈夫か…?」
ユウジ「大丈夫だ…それよりも…」
純一「う、うん」
純一「っ…待てよ! その前にすることがあるだろう!?」
隊長「……我々は桜井リホを守るために結成された守り隊」
隊長「その思想を邪魔する者は、排除するのみ。精鋭者で隊を再構成させる」
隊長「…お前らはクビだ」
純一「っ…なに言ってるんだよ! そういうことじゃない! ちゃんとユウジに謝罪を──」
隊長「──そんなものは、しない!」
純一「なっ…」
隊長「我々は神聖なる番人だ……誰に屈する事もない」
純一「馬鹿げてるよ…!?」
ユウジ「……っ…」
隊長「………」
すたすた……
ユウジ「…いいんだ、橘…」ぐいっ
純一「で、でも…! これはあんまりだよ!」
ユウジ「いいんだよっ……これで、これでいいんだ…」
純一「ユウジっ…?」
ユウジ「…ちょっと、制服の中に手を入れてもらってもいいか…?
中に入ってる奴を、取ってもらいたいんだ…」
純一「制服の中…? 腹の方?」
ユウジ「おう…」
純一「えーっと……あ、これか」ごそっ
純一「あ、これって…!」
ユウジ「ああ、お宝本だ……ふふ、あいつ等の拳。全然効いてないぜ俺にはよ!」
純一「ユウジ……」
ユウジ「…はっ、なんのことだよ」
「ユウジっ…!」
「す、すまん俺たち…!」
「ごめんなっ! なんもできなくて…!」
純一「この人たちは…?」
ユウジ「梅原から聞いてないか? …俺と一緒の穏便派の奴らだ」
純一「なるほど…」
ユウジ「いいんだよお前ら…俺がヘマをしたせいだ、俺の責任だ」
「だけど、俺たち…」
「俺だってアイツに言ってやりたかった…!」
「…ごめん、本当にごめん」
ユウジ「…いいってば、俺だってわかってるよちゃんと」
ユウジ「…というわけで、橘。俺らはもうあの隊員ではないからな」
純一「お、おう…」
ユウジ「色々と、迷惑かけたな。すまん…」
純一「い、いやっ…いいよ、僕の方こそ手帳の件…ありがとう」
ユウジ「それは…おう、俺らの頼みの綱はお前なんだ」
ユウジ「俺ら全員、お前に託したんだぜ」
純一「っ……」
ユウジ「どうかお願いだ──あの過激派にも負けず、桜井リホの笑顔を…」
ユウジ「…取り戻してくれ、橘」
純一「……出来ることはやるつもり…」
ユウジ「情けないこと言うなよ!」
純一「うっ…わ、わかった! やってやるよ! ぜ、絶対に!」
「頼むよ…笑顔をまた、あの笑顔見せてくれ!」
「橘! お前にならできるんだろ!?」
「…俺らの為にも、お願いだ」
純一「……」
純一「…うん! 僕に任せろ!」
~~~~
自宅
純一「………」prrrrr
純一「………」prrrrr
がちゃっ
純一「…もしもし」
『……───』
純一「待て、切ろうとするな……梨穂子」
『………』
『………』
純一「どうして僕が今日、電話をしたか分かるか」
『………』
純一「……。分からないのなら言ってやる、今日お前を守ってる…守り隊だったか」
純一「そのメンバーが、隊長の命令とやらで暴行されていたぞ」
『………』
純一「この意味、理解できるよな? 暴力をふるわれていたんだ、人がだ」
純一「拳を握って、相手の身体を殴るんだ。わかるよな?」
『………』
純一「…いいか、言うぞ梨穂子、あの守り隊とやらを解散させろ」
純一「このままじゃ悪い方向にしか進まない。だけど、まだ間に合う」
純一「梨穂子が一言、もうやめてと。そう言えばあいつ等も辞めるはずだ」
純一「どんなに頑固者だったとしても、絶対に説き伏せるんだ」
『………』
純一「…お願いだ、梨穂子。どうして返事をしてくれないんだよ」
純一「お前は許せるのかよ、自分の周りで暴力が行われてる事を……」
純一「…僕は、そんなことを見過ごすような奴じゃないって…お前のことをそう思ってる」
純一「梨穂子……お願いだから声を聞かせてくれ、頼むよ…」
『……橘くん』
純一「っ…な、なんだ梨穂子!」
『リホはもう、無理だよ。止められない』
純一「ど、どうしてそんなこというんだよっ…! だってそうしなきゃお前の評判だって…!」
『…違うよ、どうせ変わらない』
純一「変わらないって…」
『橘くんはアレが非常識なものだって思ってるかもしれないけど…実際はそうじゃない』
純一「あれ以上…?」
『うん、だから……リホが何を言っても彼らは止まってくれないと思う。
ああいった隊が出来ることがすでに……もう手遅れなんだよ』
純一「そんなっ…それじゃあ、これから起こることを見過ごすのかお前は!?」
『…そうだよ』
純一「そんなことっ! そんなことっ…言うなよ! お前なら! 梨穂子ならどうにかできるだろ…!?」
『…できないよ』
純一「っ…どうして!」
『………』
『…どうして、だろうね。わかんないや……あはは』
純一「っ…梨穂子…?」
『……切るね、橘くん』
純一「ま、待て! まだ話は──」
ぷつん
純一「……ダメだ、つながらない。電話線を抜かれたのか…?」
純一「なんだよっ…無理ってッ!」
ガチャンッ!
純一「はぁっ…はぁっ……」
純一「くそっ…!」
美也「…にぃに…?」こそっ
純一「あ、すまん美也……驚かせた…ごめん」
美也「う、うん……電話はゆっくり置かないとだめだよ? 居間にまで聞こえてたし…」
純一「…ごめん」
美也「えっと、そのっ……冷凍してるまんま肉まんあげよっか? おいしいよ?」
純一「いや……いいよ、ありがとう…僕はもう部屋に戻るから…」すたすた…
美也「えっ! あ、にぃに……」
純一「………」よろ…
ぼすっ
純一「……なんだよ、どうしてそんなこと言うんだよ…梨穂子…」
純一「わかんないとか、いうなよ…」
純一「できないとか、どうして言えるんだよそんなこと……」
純一「梨穂子……馬鹿野郎…っ」
~~~~~
部屋
梨穂子「…………」
梨穂子「…………」
梨穂子「……あ、電気つけ忘れてた…」
かち…かちかち
梨穂子「…………まぶしい」
梨穂子「…………」
梨穂子「……」すとん…
梨穂子「……怒ってたなぁ」
梨穂子「当たり前だよね……あれだけ酷い事を、言っちゃったんだもん」
梨穂子「……誰だって怒るよ」
梨穂子「……」ぱたり…
梨穂子「橘くん……か」
梨穂子「……」
梨穂子「……なんだか、口がモゴモゴする言い方になるなぁ」
梨穂子「……言いなれて、ないんだろうなきっと」
梨穂子「純一……」
梨穂子「……ああ、やっぱり」
梨穂子「こっちの方が、私の口は言いなれてる……みたい」
梨穂子「そうすれば…また、そうすれば……」
梨穂子「…もう色々と、思い返すことも無いのに……」
~~~~~
次の日・放課後
純一「………」じっ
純一「……よし!」ぱたんっ!
梅原「…ん、行くのか大将」
純一「ああ、行ってくる。今日は街でお買いものらしいからな」
梅原「準備は大丈夫なのかよ」
純一「大丈夫だよ、心配するな」
梅原「…おう、俺が出来る事があればなんだってするぜ」
純一「…ありがと、じゃあ、行ってくる!」
梅原「……頑張れよ、大将」
~~~~~
純一(全然見つからない……!)
純一(街に出れば普通に梨穂子のことを見つけられると思ったけど、
大見え切って教室でてから、もう数時間たっちゃってるよ…!)
純一「なにやってるんだ僕は……はぁ~」すたすた…
純一「…もう帰っちゃったかな、梨穂子達」
純一「空がもうオレンジ色だ……そろそろ直ぐに夜になるだろうな」
純一「………」
すたすた…
純一「…梨穂子」
すた…
純一「……」ぐぐっ
た…たったった!
純一(学校では周りの目もある、それに守り隊も人数が多くて直接話もできない…!)
純一(だけど、放課後なら守り隊の人数も減る! それに学校関係に見られることも少ない…!)
純一「今、この瞬間しかないんだっ…! 梨穂子と、会話できるチャンスは…!」
たったったった!
純一「───…梨穂子っ…! どこにいるんだよ…っ」
~~~~~
純一「はぁっ…はぁっ……やっぱり、どこにも居ない…っ…」
純一(これだけ探して居ないんだ、そろそろ周りも暗くなってきた…
…家に帰ったと判断して、もう今日は諦めよう───)
「──やめてくださいっ…!」
純一「こ、この声はっ…梨穂子!?」
路地裏
梨穂子「っ……その人たちは、関係無いから…!」
「…関係はなくないっしょ、こいつ等、俺のこと金属バットで殴ろうとしたんだぜ?」
梨穂子「…だけど、痛そうにしてるじゃないですか…っ」
「こっちは死にかけたんだけど、それでもやめろっていうの?」
「おらっ!」
隊長「ぐふっ」
「…他の奴らは? 確か五六人ぐらい居ただろ?」
「逃げたんじゃね? ははっ、根性ねー奴らだなw」
隊長「に、逃げたのではないっ…皆、仲間を呼びに行ったのだ!」
「…なにこいつ、頭イカれてんの?」
「いわゆるオタク奴じゃね? 聞いたことあんだろ?」
「うっわーw まじか~、こんなのに付きまとわれてる彼女可愛そ~」
隊長「ぐっ……馬鹿にするな! 我々は由緒正しき…!」
「由緒正しき……なんだって?」
「さあ?w まあ由緒正しいんなら鉄バットで殴りかかってくんなって話だよなー」
梨穂子「っ……」
「ま、そんな感じだね。あーあ、あんなに人が居たのに…もう一人だけ」
隊長「ひっぐ…ぐすっ…」
梨穂子「………」
「あらら、泣いちゃったよ。そんなに強く蹴ってるつもりなんてないのにね~」
「口では大きなこといってるくせによっ」
「俺らが何だって? 大犯罪者って言ってたよな? …ただ声をかけただけ、だろーがっ」
「鉄バット持ってくるお前らの方が大犯罪者じゃねーかよっ」
隊長「うっぐっ…ひぐっ…えぐっ…」
「…その辺でやめとけ、おおごとになったら面倒だろうが」
隊長「ぐっ…」
「めんごめんご、ちょっと脚が引っ掛かっちまってさ~」
「おいおい、そりゃワザとだろw」
「あっははw …ばれた?」
梨穂子「…やめてください」
「…ん? なに?」
梨穂子「やめてと……言ってるのっ!」
「おー、怖。なになに、俺らに言ってるの? 度胸あるねー」
「…ちょっとまて、この子って……あ! やっぱり!」
「なんだよ?」
「どっかで見た事あるって思えば……桜井リホだよ! 桜井リホ!」
「…リホって、ああ、KBTとかなんとかの」
梨穂子「………」
「サインとか……お前…」
「へー…そうなんだ、桜井リホちゃん?」
梨穂子「…き、気安く呼ばないでっ」
「…わー、ファンとして超ショック」
「くははw いわれてやんのw」
「怖い怖い、というかそんなに俺らに敵意丸出しにしなくてもよくね?」
梨穂子「………」
「別に俺ら悪いことしてないってw」
「アンタの周りに居る奴ら、すっげーウザかっただろ?」
「傍か見てて異常だったしねー、やっぱりそうだったでしょ? うん?」
梨穂子「……今の、貴方達のほうが…よっぽど…うざいよ」
梨穂子「そうやって…力だけで押し切る貴方達のほうがっ…なんでもかんでも、強いからって…!」
梨穂子「弱い人を痛みつけることにっ…躊躇しない、貴方達の方がよっぽど最悪だよっ…!」
梨穂子「なにも知らないくせにっ…その人たちがどんな人だって、知らないくせに…!」
梨穂子「馬鹿だって、オタクだからって…そうやって否定するだけのことしかできない貴方達方のがっ…!」
バン!
梨穂子「んくっ……」
「…うるせえよ」
「んー、強い女の子って素敵だよねぇ」
「ひ弱な女より、強い女の方が居て楽しいしなー」
梨穂子「っ……殴るなら、殴ればいいよ…貴方達が、もっと世間に居られなくなるだけだから…!」
「残念、女の子を殴る趣味はないんだよね。だから、ちょっとばかし…こっち来てくれるかな?」ぐいっ
梨穂子「きゃっ…!」
「あ、連れてく感じ? そうだよなーw アニキとか喜びそうだしw」
「あ~、確かに。すっげー喜びそうだな」
梨穂子「や、やめてっ…」
梨穂子「っ…!」
「心配無いよ、悪いことなんて起きないから。……ちょっとした社会勉強になるかもね」
「それ言いすぎ~w 勉強とかー!」
「人によっちゃ引いちゃうだろその言い方w」
梨穂子「や、やだ…やめてっ…!」
「………」
ぐいっ
梨穂子「ひぅっ…!」
「──抵抗するなって、女の扱い方なんて、俺はちょっと知らないんだ」
梨穂子「……っ…」
「じゃあ行くぞ……直ぐそこだって、心配無いからさ」
梨穂子「っ………────」
「──待て…」
「離せよ、その手」
梨穂子「っ…?」
「誰だよ、テメー」
純一「……そいつの幼馴染だよ」
「幼馴染ぃ? っは、どうして幼馴染がこんな所に居るんだよ」
純一「…助けに来たんだ」
「おいおいw 助けにだってよ、コイツの仲間か?」
隊長「ひっぐ…ぐすっ…」
純一「……残念だけど、違う。僕は個人で梨穂子を助けに来た」
「助けにって、はは。また俺らは悪者扱いかー」
純一「別に悪者にするつもりはないよ…だけど、その手を離してくれたらの話だ」
「…離して、どうする?」
純一「連れて帰る。ただ、それだけだから」
純一「…しない、そう誓うから」
純一「お願いします、その手を離してください」
「…おい、お願いされたよ?」
「どうする?」
「……」
梨穂子「……」
純一「……」
「…じゃあ、土下座だ」
梨穂子「っ……」
純一「…土下座?」
「そうだよ、土下座。まあ仲間じゃないって言ってたけど、でも、知ってる顔なんだよね?」
純一「……はい」
隊長「っ…っ……」
純一「…そうなんですか」
「ああ、下手すりゃ死んでもおかしくない。だけどよ、それも土下座してくれるのなら許してやるよ」
「…そして、この彼女も返してやる」
「だけど、土下座だ。このきったねー路地裏の地面でね、額を擦りつけて土下座しろ」
純一「………」
「うっわーw ひどいなぁーw」
「ここら辺って、良く誰か吐いてるよな~」
純一「………」
「どうした? やらないの? だったら、いいよ。この話は無しだ」
純一「………」
梨穂子「っ……」
梨穂子「──やめて! そんなことする…義理なんて貴方にないから…!」
梨穂子「いいからっ…私のことは放って置いてっ…その人を連れて、遠くに逃げて…!」
「おーおー、いいねえ純情だねー」
「ま、逃がすわけ無いけどw」
「…お前が一人でどっか消えるんなら、それでいいんだぜ?」
純一「……」
梨穂子「橘くんっ…! お願いだから…!」
純一「……梨穂子」
梨穂子「っ…なあに…?」
純一「僕は、今の今まで…ずっと立ち竦んでたんだ。
この場の現状に入り込むことに、とても怖がってた」
純一「だけど……梨穂子がそいつらに連れて行かれそうになった時、僕の脚は…一歩進んだ」
純一「だから、僕は分かったんだ。絶対にこれは、逃げてはダメな時なんだって」
純一「もう…梨穂子から逃げては駄目なんだ、やっぱり、そう思ったんだよ」すっ…
純一「───お願いします、どうか、その金属のバットの件含めて…」
純一「彼女を離してやってください、お願いします…!」ずりっ…
梨穂子「っ……!」ばっ
「うわっ…マジでしやがった──って、うおっ!?」
梨穂子「や、やめてよっ…! 土下座なんてしないで!」たたっ
純一「お願いします…どうか、許して下さい」
梨穂子「たちばなっ…やめてって…! そんなこと…!」ぎゅっ
純一「……お願いします」
「…お、おい」
「うっわー…綺麗な土下座だぜー」
「………」
純一「っ……どうか、お願いします! 許してやってください!」
「───ワーオ、ナイスガイ!」
「ミーが見てきた誰よりもナイスガイ、とんでもないぐらいハートにズッキューン…」パチパチ…
かん…
「ユーたちも見習うべきですねー、おーけー?」
「っ……」
「あ、マイケル……兄貴…!」
「うっふん、ノウノウ。それはちがうでショーウ───」
マイケル「──maike.kid……そう〝毎夜ベットの中で〟そう教えてるでしょーう?」
「は、はいっ! マイクアニキっ!」
「すませんっ!」
「う、ういっす!」
マイケル「オーケー、良い子たちねー! ウッフッフッフ」
純一&梨穂子「……」ぽかーん
純一「えっとその…?」
マイケル「ユーのネーム…教えてくださーい!」
純一「ぼ、僕ですか…?」
マイケル「ウッフッフッフ…そうですー! どうかミーに教えてみてー!」
純一「橘…純一ですけど…」
マイケル「タチバナ、グーイチ?」
純一「純一です!」
マイケル「オーケー、タチバナ! タチバナでいいですかー?」
純一「ま、まあそれで…」
マイケル「次でーす! ユーのこのみおしえてくださーい!」
純一「……え?」
「…ギャラガーのアニキ…それは…」
マイケル「ふんぬっ!」
マイケル「…ミーのナンパの邪魔するのは、ノンノンデース…それにマイクと呼びなサイデース」
純一(今…!? 何が起こったんだ!? 腰あたりをなでただけに見えたけど…!?)
マイケル「それでー? どうナンデスかー? んんー?」
純一「うわぁっ…か、顔が近いっ…!」
マイケル「ウッフッフッフ…そんなにこわがらないでくだサーイ!
モウマンターイ! ひどいことはしませんヨー?」
マイケル「…ちょっとだけ、ダーツにつきあってほしいだけデース…?」
「マイク兄貴が…ダーツに誘っただと…!?」
「ば、馬鹿なっ!? 相当気にいった奴しか誘わないのに…!?」
純一「えーと、お断りします…はい…」
マイケル「えー!? ホワイ!? どうして!?」
純一「どうしてって…その、あはは」
梨穂子「……」
マイケル「……」くるっ
マイケル「ユーたち、ミーは振られてしまった! 慰める準備をしなサーイ!」
「は、はいっす!」
「だ、ダーツの準備だ! 店に戻るぞ!」
「あ、ああっ…わかったよ!」
マイケル「………」
純一「えっと…その、マイケルさんでいいんですか…?」
マイケル「ノン!」ぐるっ
純一「ひっ…!」
マイケル「ユーは……ウッフッフ、タチバナはミーのこと……ギャラガーって呼んでもオーケーデース!」
純一「……お断り済ます…」
マイケル「ノーン!」
純一(なんなんだこの人は一体……)
純一「え? あ、梨穂子……うん、大丈夫だよ」
梨穂子「っ…待ってて…」ごそごそ…
純一「?」
梨穂子「額が汚れてるよっ…拭いてあげるから大人しくしててっ」
純一「だ、大丈夫だよっ……それよりも梨穂子のハンカチが汚れちゃうだろ」
梨穂子「いいからっ」
純一「……う、うん」
マイケル「…ソーリー、あの子たちが迷惑をかけましたー…」
純一「え? いや、でも、あっちもあっちで理由があったわけですし…」
マイケル「イエス! その通り、通りに叶ってないことはさせるわけないよう躾けてマース!」
純一「し、しつけ…?」
マイケル「ですがー…それでもやり方にはもっとナイーブな方法があったはずデース…」
マイケル「…オゥ? この子は?」
隊長「…っ…っ…」
純一「…色々と、今回でのことで問題になった人です」
マイケル「フゥム、オーケー」つかつか…
ひょい
マイケル「仕方ないのでー、この子を店につれていくことにしシマース!」
純一「はい…?」
マイケル「大丈夫でーす、酷いことはしませんー! ただ、社会勉強をしてもらうだけでーす!」じゅるっ
純一「今、涎が…」
マイケル「オーウ! もうこんな時間です! 急がなければいけませーん!」
マイケル「ではナイスガイ、バァ~イ!」かんかんかん…
純一「ば、ばーい……」
純一(隊長さん……どうか、社会を学び更生されて戻ってきてください)
梨穂子「……」
純一「梨穂子、もういいよ。ありがとう」
梨穂子「……うん」
すっ…
梨穂子「……」
純一「ありがとうな、そのハンカチ洗って返すからさ」
梨穂子「…いいんだよ、気にしなくて」ごそ
純一「いいのか? だってここら辺の汚れって、結構酷いんだぞ?」
梨穂子「っ…だったら、もっとあなたのほうがっ…!」
梨穂子「……っ……あなたのほうが、酷いよっ…」
純一「あはは、そうだな…僕も直ぐに風呂に入って。それから制服を洗濯しないと」
梨穂子「………」
純一「…よいしょっと、梨穂子。もう夜になるし、まっすぐ家に帰れよ?」
純一「ここら辺は…まあ分かってると思うけど、ちょっと治安悪いしさ。
また誰かに絡まれないよう急いで帰るんだ、僕もそうするから」
純一「それじゃあ、梨穂子。また明日、学校で」
すたすた…
梨穂子「ま、待って…!」
純一「……ん、なんだ?」
梨穂子「そのっ……どうして、何も言わないのっ…?」
純一「……」
梨穂子「こんなにも酷い目にあってるのにっ…私に、リホにっ…どうして文句の一つも、言わないの…?」
純一「……どうして、か」
純一「おい、梨穂子……そんなの当たり前だろ?」
純一「──お前と僕は、幼馴染だからだよ」ニコ
純一「ああ、そうだ……大丈夫、お前が今僕に対してどう思ってるかなんて。僕はちゃんと分かってるから」
純一「舐めるなよ、長年の幼馴染を」
梨穂子「………」
純一「…そんなワケだから、まあ、色々と話したいこともあるけど───…うわぁ!?」
ぎゅうっ…
梨穂子「………」ぎゅっ
純一「えっ、なに…どうしたの梨穂子? 急に後ろから抱きついてきて…えっ?」
梨穂子「…純一」
純一「あ、うん……純一だけど…えーと、その?」
梨穂子「…だめ」
純一「え?」
梨穂子「…やっぱり、ダメだよ」
純一「どういうことだ?」
梨穂子「………やっぱり、ダメだ……やっぱり、純一のこと…」
純一「……」
~~~~
公園
梨穂子「……」きぃーこ…きぃーこ…
純一「つまり、昨日の今朝に言ったことは…嘘、だったと」
梨穂子「…うん、そうだよ」きぃこ…
純一「…どうしてそんな嘘ついたんだよ、それに…」
梨穂子「…あの時のこと、だよね」
純一「……」
梨穂子「それはね、橘くん……私があなたを心配させたくなかったからでね」
梨穂子「私は……あなたが悲しむ顔を見るのが……怖かった、の」
純一「それで…僕に冷たくしてたのか?」
梨穂子「…うん、勝手だよね、わかってるんだよちゃんと…」
そして橘くんにしてしまったこと……それがどんなに取り返しのつかない事だって…」ぐっ…
きぃーこ…
梨穂子「だけど、だけどね…? それでも私は、やめようって思わなかった…」
きぃーーこ…
梨穂子「そんなあなたの顔を見ても、傷ついた顔の橘くんを見たとしても……それでも」
梨穂子「私はあなたに〝嘘〟をつくことを、やめようって思わなかったんだー……」
梨穂子「例え記憶が無いと知られても、それを違うって嘘つけたりー…」
梨穂子「本当に記憶がないことを、知られたくないって嘘ついたりしてもー…」
きぃーー……こ…
梨穂子「……あなたが悲しんでも、嘘をつくことを止めなかったと思う」
純一「梨穂子…お前は、一体何がしたいんだよ…?」
梨穂子「……」
純一「僕は……全然、梨穂子がしたいことがわからないよ…?」
ただ単に、僕に対して嘘をついて…僕を惑わせようとしてるだけじゃないか」
梨穂子「…そうだね」
純一「……」
梨穂子「最初から全部、わかってることなのに…どうして私、あなたに嘘をつくんだろう」
梨穂子「……わからないんだよ、それが、私には」
梨穂子「初めは悲しませたくないって……それだけだったのに」
梨穂子「…今の私は、ごちゃごちゃなんですよ」ニコ…
純一「…記憶のせいなのか?」
梨穂子「…ううん、わかんない、どうだろうね…」
純一「っ…記憶が無いから、そうやって…梨穂子は意味もなく嘘をついてしまうような…」
純一「よくわからない自分に、なってしまうのかよ…?」
梨穂子「…どうもそれだけじゃないっぽいから、困ったさんかな?」
純一「どういうこと?」
梨穂子「……。さっきも言ったけどね、橘くんのこと…私は憶えてない」
純一「っ…う、うん」
梨穂子「それなのに、私はあなたを悲しませたくないって…思った」
梨穂子「それからわたしはあなたに冷たくしようって思った、
記憶が無いことは悪いこと、ダメなこと、それを知られるぐらいなら…冷たくしようと」
梨穂子「それなら罪は無いって、
純一を巻き込んでしまうような……思い出を巻き込んでしまうようなものは無いって…」
梨穂子「今の記憶の無い私は、そう思ってしまったんだよねー…」
純一「……思い出が良ければ、今はいいって言いたいのか?」
梨穂子「うんっ…そうだよ?」
梨穂子「だって、そうじゃない? 橘君だって、私のこと……遠い存在だって思ってるでしょう?」
梨穂子「ううん、思ってるはずだよ。橘くんは…ううん、橘君だけじゃない…香苗ちゃんも他の人たちも…」
梨穂子「全員、私のことをとおいとおーい存在だって…そう思ってるはずだよ」
純一「………」
梨穂子「だったら、それを期に……すべてぶったぎればいいかなぁー…なんて、思っちゃったりして」きぃーこ…
梨穂子「アイドルになった桜井梨穂子、学校に滅多に来ない桜井梨穂子、友達関係が疎遠になった桜井梨穂子…」きぃーこ…
梨穂子「それが今の〝桜井梨穂子〟であって〝桜井リホ〟なんだよって──」きぃこー
ぴょんっ!
梨穂子「…そう皆に分からせて、全てを断ち切ろうって思ってるんだよね」すとんっ
純一「そんなのっ…!」
梨穂子「…出来るわけ無い? あはは、それができるんですよ~」
梨穂子「遠い存在って、それだけで知ってる人を疎遠に出来る魔法の言葉だよ。
だからこそ、私はそれを望んで〝演じて〟周りと疎遠になって見せるの」
梨穂子「…だってもう、記憶が無いんだもん」
純一「っ…」
梨穂子「周りは昔の私を知ってる、だけど今の私は昔の自分を知らない」
梨穂子「それは…なによりも悲しい事だよ、周りの人たちにとってね」
梨穂子「だから~、周りには〝昔の桜井梨穂子〟をずっとずっと…記憶しててほしいんだ」
梨穂子「今の記憶の無い私に塗り替えることなく、良い子で元気な……桜井梨穂子を」
梨穂子「ずっとずっと…憶えてて、欲しいんだよ…橘くん」ニコ…
梨穂子「このまま上手く行けば、みんなを騙して…〝アイドルで変わってしまった私〟として理解してくれるはず」
梨穂子「……誰にも〝あの時の桜井梨穂子はもう居ない〟ってことを、バレずにね」
純一「…どうして、それを僕に言ったんだよ」
梨穂子「…うん?」
梨穂子「…うん、言ってないよ」
純一「じゃあ…どうして、僕にだけ言ったんだよ」
梨穂子「………」
純一「そうしたら僕はっ……お前のことを放っておけなくなるだろ…!」
梨穂子「…そっか、橘くんはそう言ってくれるんだね」
純一「っ…当たり前だろ!? 僕は、お前の幼馴染なんだぞ!?」がしゃんっ…
純一「それなのに、その幼馴染がっ…周りに嘘をついてまで!
記憶が無くて自分が一番つらいのに、それなのに周りにショックを受けてほしくないって…!」
純一「記憶が無くなったことを隠してまで、周りとの思い出を大切にするとかっ…馬鹿かよ!」
純一「しかもっ…しかもなんだよ! 隠し切るなら、アイドルになって変わったんだよって偽るつもり!?」
純一「ふざけるなよ梨穂子っ…! 僕は怒ってるぞ…!」
梨穂子「………」
純一「単純にっ…記憶が無いって、だからしょうがないんだよってっ…そうやって病気に甘えない所は凄いよ!」
純一「───だけど! そうやって嘘を吐かれた人たちの身にもなってみろよ!!」
純一「僕はそんなの絶対に許せない、梨穂子に対してじゃないっ…それを分かってあげらなかった…!」
純一「───自分に対して、ずっとずっと悔やみ続けるはずだから!!」
梨穂子「……そうだね」
純一「梨穂子っ……聞かせろ、どうか僕に聞かせてくれ!」
梨穂子「うん、なあに? 橘くん?」
純一「どうして僕にその話を聞かせた! どうして僕にそうやって秘密事を話してくれたんだ!?」
梨穂子「……」
純一「お前がこの三週間、誰にも言うこと無くっ……それでずっと隠し通そうとしたその悩みを!」
純一「どうして幼馴染の僕に! 言ってくれたんだ!?」
梨穂子「……それは…」
梨穂子「それは……それは…」
梨穂子「…わからないけど、たぶんだけどね…」
梨穂子「…色々と、思いだせないのに…」
梨穂子「…ほとんどのことを、ぜんぜん憶え出せないのに…」
梨穂子「……だけど、だけど一つだけ……これだけは、言えるんだよ…」
梨穂子「…もしかしたら、言ってしまえばどうにかなるんじゃないかって…」
梨穂子「…この人だけには、言ってもいいって…顔も名前も…憶えてないはずなのに…」
梨穂子「…なのに、私は…今の桜井梨穂子は……ずっと言いたいことがあって…」
梨穂子「あなたの…顔を見たときから、ずっとずっと……この言葉だけを…」ぎゅうっ…
梨穂子「…………助けてよぉ、純一ぃ…っ」
梨穂子「いやだよぉっ…みんなにちゃんと、言いたいよぉっ…! これは違うんだよって、
香苗ちゃんや先輩たちにっ…ひっぐっ…言いたいよ純一っ…!」
梨穂子「仕事だからってぇっ…ひっぐ、秘密にしなきゃいけない事だからっ…!」
梨穂子「だけど、昔の私をっ……知ってくれてる人たちに、わるっ…く思われたくないよぉっ…!」
梨穂子「私はっ…アイドルだから、ひっぐえっぐっ…病気はっ…秘密にしなきゃダメだから…っ」
梨穂子「だからもうっ…アイドルとして頑張んないとっ…もう、ダメになっちゃいそうでっ…ぐすっ…」
梨穂子「顔も名前もっ…思い出も、全部全部……
憶えてないのにっ…周りの人の思い出なんて、これっぽっちも憶えてないのにっ…」
梨穂子「だけどっ…けほっこほっ…! 私はっ…どうしてもっ…忘れることが出来ないよっ…!」
梨穂子「───この人たちが、大切な人だっていうことを…! ずっとずっと…憶えてるから…っ」
梨穂子「私はっ……私はっ───」
純一「───良く言った、梨穂子」ぎゅう…
梨穂子「ひっくっ…ひっく…」
純一「十分だ、いいよ。それ以上は言わなくていい」
梨穂子「ぐすっ…すんすんっ…ごめ、ごめんねっ…私…」
純一「ああ、いいんだ」
梨穂子「なんにもわかってないのにっ…純一にた、頼って…ひっぐ…」
純一「大丈夫、僕がついてるから」
純一「ああ、そうだな」ぽんぽん
梨穂子「だけどっ…だけどっ…」
純一「平気だ、どうにかする」
梨穂子「どうにか、して……してくるのっ…?」
純一「当たり前だよっ……こんなに泣いて、頼みこんできてくれて…」
純一「…しかも、僕にだけには頼りたいって思ったんだろ?」
梨穂子「うっ…うん…ひっぐ…」
純一「…顔も名前も憶えてないのに、ただ、それだけは思っててくれた」
純一「───僕を頼れば、どうにかなるってことを」
梨穂子「すんすんっ……う、うんっ」
純一「だったらどうにかしてやる、その期待に! 全力で叶え切ってみせるぞ僕は!!」
純一「任せろ、梨穂子……お前の幼馴染は絶対に」
純一「今の梨穂子の期待を、裏切らない」
梨穂子「……」
純一「というわけで、連れてきました」
夕月「はえーよ、こっち頼るのよ」ぱしんっ
愛歌「時期早漏…ずずっ」
梨穂子「あはは…」
純一「だ、だってしょうがないじゃないですか…!
こんなこと知ってるの、二人だけなんですから!」
夕月「だとしてもおめえさん、りほっちは只一人、アンタに頼ったんだろ?」
純一「そ、そうですけど…」
夕月「じゃあアンタ一人でやんな。それがりほっちの願いなんだからさ」
純一「え、ええっ! 無責任ですよ! この茶道部!」
夕月「…おい。どうして文句を言うようなタイミングで茶道部の単語を使ったァ…? ええ、オイ?」
純一「いや深い意味は無いです本当ですすみませ──あー……」
梨穂子(一瞬で女装させられた……)
夕月「うっし、それでどうするんだい? 連れてきたってことは、それなりに考えちゃーいるんだろ?」
純一「えっ!? 一緒にやってくれるんですか!?」
夕月「半ば強引的にりほっちの話を聞かせたくせによ…良く言えるぜ、んなこと」
愛歌「腹黒優男」
純一「うぐっ……」
夕月「とりあえず、いーから考えること言いな」
純一「わ、わかりました……じゃあ梨穂子、いい?」
梨穂子「う、うん……ぶっ」ぷいっ
純一「…どうして笑うんだよ」
梨穂子「だ、だってぇっ…純一の恰好が、もう、ちょっと似合いすぎててっ…あはははっ」
純一「むー……夕月先輩!? これ脱いでも良いですか!?」
夕月「だめだー」
純一「僕が思うにですね───それはもう、記憶を取り戻せばいいって思うんですよ!」
夕月「だろうな」
愛歌「当たり前」
梨穂子「そ、そうだよね~」
純一「みんな話は途中だよ! …こほん、それでですね? じゃあどうすれば記憶を取り戻せるのか」
純一「…という話になってくるわけです!」
梨穂子「どうすれば…」
純一「まあ僕が思うに……色々と調べると、一番僕らに向いている治療法を発見しました」
愛歌「それは?」
純一「はい、それはこれです!」トン!
『ショック療法! 過去の自分を取り戻せ大作戦!』
夕月「…ボードまで用意して何やってるんだって思えば」
愛歌「至極簡単」
純一「現在、記憶を失っている梨穂子に…なにかしら過去を思い返させるほどの、ショックを与えればいいんです!」
夕月「殴ればいいのかよ?」
梨穂子「えっ…?」
純一「ち、違います! もう、夕月先輩はすぐにそんな暴力沙汰を起こす…ごはぁ!」ドタリ
夕月「チッ、胸に入れたパットで威力が削がれたか……おら、どういう意味だ橘ァ!」げしげしっ
純一「や、やめてっ、ずれちゃう! パッドがずれちゃいます!」
梨穂子「えーっと……」
愛歌「だが良い方法…だ」
梨穂子「愛歌先輩?」
愛歌「橘純一が言ったことは……一理ある」
梨穂子「ほ、ほー…」
愛歌「やってみる価値は…十分」
純一「で、ですよね! ではさっそくやってみようよ!」
愛歌「……」
梨穂子「わぁー…凄い、仕事でも着たこと無いよ~」
純一「──ザ・着物!」
純一「茶道部と言えば和服! そして着物!」
純一「梨穂子が過ごしてきたこの部活でのイメージ…それは大きく記憶に関して
関わり合いを持っているはずです! ですから着物着ることにより───」
純一「和と身体を調和させ、精神を洗礼させるんです! ほら、着物着ると気が引き締まるっていうじゃないですか!」フンスー
夕月「いや、確かにその通りだが…あんま着物なんて着た事ないぞ」
愛歌「創設祭、文化祭以来」
梨穂子「あはは…」
純一「…」じぃー
夕月「…んだよ、こっちずっと見つめて」
愛歌「試着要望?」
夕月&愛歌「……は?」
純一「ほら、夕月先輩は身体がスレンダーで…和服って意外と身体のラインが浮き彫りになるじゃないですか」
夕月「お、おうっ…?」
純一「だけど無駄が無く、鮮麗な身体は…とても着物が似合ってるなって、あはは」
夕月「…なんだい、照れるだろ…っ」
純一「それに愛歌先輩も!」
愛歌「っ……」ぴく
純一「やっぱり黒髪は着物にジャストですよね~、背中まで伸びてる傾れた髪先はとても色気を感じます!」
愛歌「…色気…」
純一「ええ! 日本人女性らしい、奥ゆかしくも気品あふれる雰囲気が…とても素晴らしいと思いますね」
梨穂子「……」ちょんちょん
純一「…ん? どうした梨穂子?」
梨穂子「そのー…えっと、ちらっちらっ」
純一「?」
梨穂子「……、はぁー…」ズーン…
純一「え? どうして急に落ち込むんだよ梨穂子…?」
夕月「ありゃ駄目だ」
愛歌「幸薄りほっち」
梨穂子「…多分だけどね、こういう時、私も褒めるべきだって思うよ…」
純一「えっ!?」
梨穂子「前の私も…たぶんだけど、そう思ってたはずだから…うん…」
純一「そ、そうなのか…?」
梨穂子「あはは…だって、そうでしょ?」
純一「う、うーん…でも、敢えて言葉にしないってのも良いかなって思ってたんだけど…」
梨穂子「え…? どういうこと?」
純一「……それじゃあ、言ってほしい?」
梨穂子「え、あ、うんっ…言ってほしい、かな?」
純一「──まず言わせてもらうとその首元に垂れた髪先、梨穂子の汗をかきやすい体質で
少し湿った髪先が肌に張り付き色気を出してると思う。そして首元から十六一重に
重なった由緒正しき着物羽織り方、気品もあふれかつ上品さも兼ねそろえた規律の
取れたものだってうかがえて、しかも着物と言うのは着る人を選ぶと言われている
ハードルの高い服でありながら先ほども述べた通り気品さかつ上品さも失われてお
らずさらに着物を着たことによって底上げを行われてるような気がしてくるから不
思議なもんだよね。あとそれと帯に巻かれた腰のライン。普通は着物が重なる部分
だから誰しもが分厚く楕円形になってしまう所梨穂子はきちんとそれを失くすよう
身体を押しこみ華麗に着こんでいる。一般的な着方ではないにしろ着物にたいする
思い入れと綺麗に着たいという感情をうかがえて素晴らしいって思う。あとそれに……」
梨穂子「っ~~~~~…ちょ、ちょっとまったー!」びしっ
純一「…なんだよ、まだ途中だぞ? 帯と首もとしか褒めてない、まだまだこれから袖口からと
指先の形のよさまで褒めて、それから───」
梨穂子「わ、わかったよ! ど、どれだーけ褒めたいのかってのはっ…! 十分わかったから…!」
純一「本当に? まだ十分の一も…」
梨穂子「お、お願いだから! ねっ? もう、その変にして……ください…お願いします…」ぼそぼそ…
梨穂子「う、うんっ……」
純梨穂子「っ……っ…」ぱたぱた…
梨穂子「…」ちらっ
純一「……」じっ
梨穂子「っ! ……~~~っ…えへへ」
純一「照れてるの?」
梨穂子「えっ! あ、いやー……えっと、その~……」
梨穂子「……かも、しれない、かな」
純一「あははー! なんだよ、梨穂子僕から褒められて照れるなんて───あれ?」
純一「どうして先輩たち…着物をもう一着手にしてるんですか…? ちょ、ちょっと!?」
純一「やめて、あ、いやっ! 着物はだめ! 恥ずかしいから! やだー………」
梨穂子「…すみません、今日はこの辺で」
純一「あ、送って行くよ梨穂子」
梨穂子「ううん、いいよ。だって着物脱ぐの大変でしょ?」
純一「まぁー…うん、ちょっと時間かかりそうかも…痛っ!?」
夕月「ほれ、余所見すんなよ」
純一「ううっ…今は仕方ないじゃないですかっ」
梨穂子「あはは、だからね。今日はこの辺でお別れしよ」
純一「わ、わかった…でも、すぐになにかあったら連絡しろよ?」
梨穂子「うんっ」
梨穂子「それじゃあ先輩たちもさようなら」ぺこ
夕月「おう、また明日も来るんだろ?」
愛歌「俄然準備態勢」
梨穂子「…はいっ! お願いしますっ!」
純一「っ…おう、またな梨穂子」
がらい…ぴしゃ
純一「………」
夕月「…あんたにしちゃ、頑張った方だよ橘」
純一「……あはは、そうですかね」
夕月「当たり前さ、大した度胸だよ。…なんだい、あんなに脚を震わせながら」
夕月「りほっちを褒めるなんて、くっく、見てるこっちが恥ずかしくなってくるよ」
純一「………」
夕月「だけど、今日は駄目だったみてーだな」
純一「…まだ時間はあります」
夕月「だからって悠長に構えてる暇なんてねえだろ? …うっし、取れた」
純一「……そうですね」
純一「なんですか?」
夕月「……あんたに言っておくことがひとつだけあるんだがよ」
純一「…?」
夕月「よっと…まあ、大したことじゃないよ。別に問題になるようなことじゃない」
夕月「だけど、あんたをちょっとだけ困らせることになるかもしれないけど、聞くかい?」
純一「…ええ、聞きます」
夕月「良い度胸だ、そっちの部屋で着替えたら居間に来な」
夕月「……多分だが、りほっちの問題を教えてやるからよ」
純一「梨穂子の、問題……───」
~~~~~
夕月「───あの子は、精神的なモンで記憶を失ってるって言ったよな」
純一「ええ、まあ」
夕月「それは仕事をする若い女性に発症する場合が多いと、こうも言ったよな」
夕月「…だけど、それは本当に仕事だけかって思わねえか?」
純一「どういう意味ですか?」
夕月「あの子自身に、何かあったとは思わねえかって話だ」
純一「梨穂子、自身に…?」
夕月「おう、仕事つーのもあの子が悩む大した程の原因だ。
だけどよ、それはあまりにも……早すぎやしねえかと思う」
純一「……ストレスを感じるのには、時期が短いと?」
夕月「そういことだ、アイツはアイドルになって…まだ二カ月ちょい」
夕月「だからといって売れてないわけでもなく、御笑いにアイドル、しかもドラマまでに出演が決まっちまってる」
純一「…何が言いたいんですか、ただ単にあいつの凄さが一般受けしただけじゃ…」
夕月「本当に、そう思うのかよ」
純一「………」
夕月「もう一度聞くぜ橘、本当にそう思ってるのかよ?」
夕月「あたしがいった仕事内容は、実際にちほっちから聞いたもんだ。嘘はねえと思う」
夕月「それを聞いた時は嬉しかったさ、売れないよりはドンドン
テレビに出てファンが増えて、それからもっと有名になって」
夕月「アイドルとしての株がすっげーあがんの、こっちは楽しみにしてるつもりだ」
純一「じゃあ…楽しみに思い続ければいいじゃないですか」
夕月「…わかるだろ、あたしが言いたいこと」
純一「っ……なんですか! 一体何を言いたいんです! 僕にっ…!」
夕月「………」
純一「そんなのっ! 僕に言ってどうするんですか…っ!?」
夕月「…あんただから、これは言うんだ。そして、これも言わせてもらう」
夕月「──りほっちは、可能性として枕」
バンッッ!!!!!
夕月「っ……」
純一「───いい加減にしろッ…言ってもいいことと、悪いことがあるぞッ…!」
純一「…ダメだ」
夕月「こっちもダメだ、いいから落ち着け」
純一「………。言わせてもらいますけど、先輩」
夕月「…なんだい、橘」
純一「今、この瞬間から…僕は貴女を尊敬する人から除外しました」
夕月「…気にしねーよ別に、それよりも尊敬されてた事にびっくりだぜ」
純一「ですけど、それはもう過去の話です」
純一「貴女は今、一番…人として言ってはダメな事を言った。
あの梨穂子に向かって、アイドルとして頑張る桜井リホに向かって」
純一「──この世で一番、最悪の言葉を言った!」
夕月「……」
純一「あいつの頑張りをっ…最低な言葉で、否定した!
記憶を失ってまで、そんな病気にかかるまで頑張る梨穂子を…!!」
夕月「…聞けよ、話はまだ終わってねえ」
純一「聞けるかよ!! アンタみたいな最悪な人間の言葉なんて!!」
純一「ッ……帰ります、ここにいたら先輩ッ…僕は手が出そうになる!」がたっ
夕月「待て!」
純一「イヤです! 帰ります!」
純一「…今日はお世話になりました、だけど、明日からは僕だけで頑張ります…ッ…」
純一「……今まで、ありがとうございました」
がらりっ……ピシャッ!!
夕月「橘っ!!」がらっ
たったったった…
夕月「………ったく、思いっきり炬燵殴りやがって…」ぴしゃっ
夕月「あーびびった……はぁーあ、なんつー立ち位置だよほんっと」ぽりぽり…
愛歌「るっこ」
夕月「…おう、なんだよ愛歌」
夕月「…ん、そうだな」
夕月「辛いかもしんねー…けどさ、やっぱり『現実』は変われねえんだ」
夕月「……世の中、絶対的に〝優しくて本当のことばかりじゃないんだぜ…〟」
夕月「…橘ぁよう」
~~~~~
「はぁっ! はぁっ!」たったったった!
「っ…そんなのっ! そんなの嘘だ! あり得るわけ無い!」
「梨穂子がっ……そんなこと! そんなことで仕事をしてるなんてっ…!」
「ありえるわけないよっ! 絶対にっ!」
~~~~~
「はぁっ……はぁっ……」
「梨穂子の、自宅……家に居るのか…?」すた…すたすた…
「梨穂子…に、聞かなくちゃ…ちゃんと…」
「っ……」さっ
(…梨穂子の家から誰か出てきた? 男? それに、梨穂子も一緒だ…)
「───」
「───」
がちゃ…パタン
(一緒に車の中に……)
(もしかしたら、近づいて中の様子を見れるかもしれない……)キョロキョロ
「…よし、少しだけ…少しだけなら、いいよな…」すた…
「……」すたすた…
(この距離なら、中の様子は見える───)
「…………え…」
(嘘だ……そんなの…)
(僕の見間違いだ…あり得るわけがない、だってそんなの…………)
「ッ……!」くるっ
たったったった…
~~~~~~
三日後・放課後
梅原「…すまん、今日も来てないぜ」
梨穂子「…そうなんだ」
梅原「おう、俺も連絡とってるんだけどよ…ちっとも出るつもりもないみてえでさ」
梨穂子「うんっ…ありがと、梅原君」
梨穂子「…うん?」
梅原「橘と、その……なにかあったのか?」
梨穂子「えっ? 別になんにもないよっ…?」
梅原「そっか、ならいいんだけどよ」
梅原「…アイツがこの期間で休むなんて、何かあるとしか思えないんだがな…」
梨穂子「……」
梅原「あ、すまん! 忘れてくれ!」
梨穂子「うん……ごめんね」
梅原「どうして桜井さんが謝るんだよ、関係無いんだろ?」
梨穂子「…そう、だと思うけど」
梅原「じゃー平気だ、大将だって直ぐによくなって戻ってくる!」
梅原「信じて待とうぜ、桜井さん!」
梨穂子「……」ぴんぽーん
「──はーい、今開けまーす」
「…あれ? りほちゃん?」
梨穂子「こんばんわ~美也ちゃん」
美也「ひっさしぶり~! わぁ! りほちゃんだー!」
梨穂子「うんっ、久しぶりだね。元気にしてた?」
美也「にっしし! いっつもみゃーは元気な子だよっ」
梨穂子「そっか、それは良かった~」
美也「えーと、今日は……もしかしてにぃにのお見舞い?」
梨穂子「…うん。たち…純一は今は大丈夫かな?」
美也「…えっとね、うーん……りほちゃんだから、正直に話すけどね…」
美也「最近、にぃに部屋から一歩も外に出てないんだよ。ご飯だって…ほとんど食べてないんだー…」
美也「…うん、みゃーもよくわからないんだけど…」
美也「…でも夜になるとね、隣の部屋から小さく独り言が聞こえるんだよ…」
梨穂子「ひ、独り言…?」
美也「何て言ってるのかまでは、わからないんだけど…途中で泣き声に変わったりして…」
美也「……だけど、にぃに。みゃーには何も言ってくれないし…」
梨穂子「………ねえ、美也ちゃん」
美也「…うん…?」
梨穂子「純一の部屋に行ってもいいかな」
美也「えっ…? も、もちろんいいケド…会ってくれないかもだよ?」
梨穂子「うん、それでも声をひとつかけてあげたいんだよ」
美也「…そっか、いいよ、にぃにの部屋はわかるよね?」
梨穂子「…ありがとう、美也ちゃん」
梨穂子「……」コンコン
「……美也か、晩御飯は要らないってお母さんに言っておいてくれ」
梨穂子「…違うよ、梨穂子だよ」
「……何しに来た」
梨穂子「何しに来たって……忘れちゃったの? その…」
「………」
梨穂子「…私の〝問題〟について、色々と考えてくれるって…コト」
「………」
梨穂子「………そっか、忘れちゃったか…えへへ」
梨穂子「うんっ…ごめんね、そしたら帰るからー……」
がちゃっ
梨穂子「っ……」
純一「……入ればいい」
梨穂子「あ、うんっ……ありがと」きぃ…
純一「……」
梨穂子「なに、これ…」
純一「…すまん、ちょっと散らかってる」
梨穂子「散らかってるって…これ、写真……だよね?」ひょい…
純一「触るなっ!!」
梨穂子「ひぅっ……!?」びくっ
純一「はぁっ…はぁっ…い、いやっ! すまん…急に大声を出して…」
梨穂子「う、うん…びっくりするよっ…そんな大声あげたら…」
純一「…ごめん、でも僕が片づけるから…梨穂子は触らないでくれ…」
梨穂子「…う、うん」
純一「……はぁ、それで…なにしに来たんだ。僕の所へ」
梨穂子「え……それは、さっきも言った通り…」
梨穂子「そ、そうだけド……でも、今の橘くんを見てたら…やれるような体調じゃない、よね」
純一「…やれるさ」
梨穂子「っ……で、でも。無理してまで…! 具合も悪そうだし、私の為にそこまで───」
純一「──僕はやっちゃいけないとでも言うのかよっ!?」
梨穂子「ひぁっ!?」
純一「はぁっ…はぁっ…んくっ…はぁっ…」
梨穂子「橘…くん?」
純一「っ……ホントのことぉっ…本当のことを言ってくれよ! 梨穂子っ…!」
梨穂子「え…」
純一「お前はぁ! 僕にどうしてほしいんだよぉっ! この僕にっ!」
純一「どうして欲しいのかっ……言ってくれよ、お願いだからっ…!」
梨穂子「どうして欲しいって……だから、私の記憶を…」
梨穂子「っ……」びくっ
純一「だけど、それは本当にお前の悩みか!? それが一番の悩みか!?」
純一「教えろよ僕に! この僕にちゃんとその口で教えろ梨穂子っ!?」
梨穂子「た、たちばなっ……」
すた…
純一「なぁっ…! お前は一体、どうして記憶を失ったんだ…!?
どうしてそこまでお前を追いつめたんだ!? 仕事か!? ストレスか!?」
すたすた…
純一「それが原因でお前は記憶を失ったのか!? それがホントに事実なのかよ!?」
ぐいっ!
梨穂子「きゃっ…!」
純一「──お前はもっと僕に隠してる事があるんじゃないのかよ! それを教えろ!」
純一「そうだよっ! お前はぁっ…僕に、僕に言わなくちゃいけないようなことがあるはずだろ!?」
梨穂子「………」
純一「例えそれが言いにくいことだったとしてもだよ! 僕はっ…ちゃんとお前の口から聞きたいんだよ!?」
梨穂子「………」
純一「っ……どうして言ってくれない!? お前はっ…僕に助けてほしかったんじゃないのかよ!? なぁっ!?」
美也「……にぃに!? なにやってるの!?」
純一「っ…美也は黙ってろ! 僕の部屋から出て行け!」
美也「っ…」びくっ
純一「なにしてる…早く、出て行けよ!」
美也「で、出て行かないよ…っ! りほちゃんが困ってるじゃん! にぃにやめなよ!」
純一「っ…くそ、くそくそ!」ばっ
梨穂子「……っ…」
純一「……梨穂子、頼む。お願いだから、これで最後にするから…聞かせてくれ」
純一「お前が一番助けてほしいことは、なんだよ……」
純一「……」
美也「……」
梨穂子「…それは、それは……」
梨穂子「………」
梨穂子「──〝記憶〟のことだけ、だよ?」
純一「───………」
純一「あははっ…そうか、そうかっ……あはは!」
美也「にぃに…?」
梨穂子「………」
純一「僕に頼ったことはっ…! 記憶のことだけか梨穂子! その失った原因じゃなくて! 記憶のことだけか!」
純一「これは傑作だよっ…本当に、僕はとんだピエロだっ…!」
梨穂子「…橘くん」
純一「…………」
純一「……なあ、梨穂子。三日前、夜に家の前で車が止まってたろ」
梨穂子「───っ……!?」
純一「…っは、どうした? 梨穂子、なんでそこまで驚くんだ?」
梨穂子「…み、見てたの…?」
純一「ああ、バッチリな……それに、お前と一緒に男の人が乗るのが見えた」
梨穂子「っ……」
純一「それでさー……僕、気になっちゃって車の中を見たんだよね」
純一「…そしたら? なにが見えたと思う?」
梨穂子「…やめてよ…」
純一「な、なんだよっ……あんなこと慣れてるんだろ!? そうやって仕事をやってきたんだろ!?」
純一「あんな風に男に抱き寄せられて…! それがお前がやってるアイドルの仕事なんだろ!?」
梨穂子「っ……!」
純一「それがっ…! お前のやってる辛くても楽しいアイドルの仕事なんだろ!?」
純一「はっ…なんだよそれ、それに、お前だって全然抵抗するような素振りもなかったし…」
純一「……なんなんだよ、お前は。僕に一体、何をさせたかったんだよ」
梨穂子「………」
純一「僕は……お前に頼ってもらえて、本当にうれしかった」
純一「記憶を失ってでも、梨穂子が僕に頼ろうって思っててくれたことが……」
純一「……本当にうれしかった」
純一「だけど! あれはなんだよ! あの男は!? あいつは!?」
純一「あれがお前の病気の原因じゃないのかよっ…! それを本当はどうにかして欲しいんじゃないのかよっ!?」
純一「なのにっ…! お前は、僕に記憶を取り戻すことしか望まない! どうして言ってくれない!?」
純一「僕じゃっ……ダメなのかよっ…! 梨穂子ぉ!」
純一「ふざけるなよっ…どうして結果的に治りもしないものを、僕が頑張らなくちゃいけないんだっ…!」
梨穂子「………」
純一「………」
純一「…そうか、お前は僕が梨穂子の為に奮闘する姿を…アイツと一緒に笑ってたんだな…?」
梨穂子「……」
純一「いつ記憶を戻すのだろうって! んなことしても無駄なのにって! 二人して僕のことを嘲笑ってたんだろ!?」
美也「っ……にぃに! やめて!」
純一「お前はそうやって人をからかって! 頑張る奴を笑ってたんだろ!?
そうだよなぁ…だって簡単に人のことを騙せるような、嘘つきだもんなっ!?」
美也「にぃにっ…!」
純一「何とか言えよ! 違うならちがうって! ハッキリ言えよ梨穂子っ!」
梨穂子「………」
梨穂子「……いって、どうするの」
梨穂子「そんなこと、橘くんに言ったとして…どうなるの」
純一「なん、だと…?」
梨穂子「だってそういうこと…だよ、これって」
純一「お前………本気で、そういってるのか…?」
梨穂子「うん、言ってる」
梨穂子「橘くん……あなたがいったこと、全部あってるよ?」
梨穂子「あえて原因のことも言わなかったのも、あなたが言って通りで正解だよ」
純一「…梨穂子」
梨穂子「それに、記憶のことしか言わなかったのも。あなたが言ってることで正解だし」
純一「…梨穂子っ…!」
梨穂子「最後に言った頑張る姿を……というのも、あなたがいってることが当たりだからね」
純一「──梨穂子ッ!」
梨穂子「…なあに? 橘くん?」
梨穂子「………」
純一「それはっ…もうっ! 俺の知らない、違う梨穂子だ!」
梨穂子「…そうだよ」
梨穂子「アイドルになったから変わった私じゃない」
梨穂子「──〝記憶を失った、違った梨穂子だもん〟」
純一「ぐっ……あっ……くッ…!」
純一「───あああああああああああああああ!!」
美也「っ……」びくっ
純一「っはぁ………ああ、梨穂子…そうだな」
梨穂子「……」
純一「お前は違うよ、もう……僕も疲れた」
純一「……出て行ってくれ、もう顔も見たくない」
純一「……」
梨穂子「…だけどね、こだけは言わせてほしいな」
梨穂子「…今まで、ありがとうございます」
純一「……帰れ、桜井」
梨穂子「……うん」
きぃ…ぱたん
純一「…………」
美也「に、にぃにっ…?」
純一「…美也、すまなかった。びっくりしたろ」
美也「みゃーのことはどうだっていいよ…! だけど、りほちゃんが…!」
純一「……いい、放っておけ。それに…もうあいつは僕とは関係ない」
ずっとずっと仲良しだった、にぃにとずっと……!」
純一「うるさいっ!」
美也「っ…あぅ…」
純一「っ……ごめん、今は僕…どうしようもないんだ…」
純一「ごめん…美也…そっとしておいてくれ…ごめん…本当に…」ぐっ…
美也「…………」
きぃ…ぱたん
純一「……………」
純一「……なんだよ、僕は…」
純一「僕は…アイツの為にっ……だから、アイドルになってもっ…!」
純一「ソエンになったとしてもっ…応援し続けようって…っ…」
純一「思ってたのにっ……さぁっ…!」
純一「どうしてっ……どうしてだよ!」
純一「ぐっ……ぐすっ…っはぁ……馬鹿野郎…」
純一「僕のばかやろうっ…」
~~~~~
それからのことを語るのは、それほどの物は残って無いと思う。
純一「………」
あれから何事もなく、予定の三週間は過ぎて行き。
純一「………」
そして学校中のだれもが惜しむ中、桜井リホはアイドルへと復帰を果たした。
純一「………」
桜井リホがどれだけの人たちを、これから魅了し続けて行くのかはわからない。
テレビの中で歌を歌い、声を発し、笑い声を上げ、泣かせるような演技をし。
彼女が発する全ての──アイドルとしての力は、決してくすんでる様には見えなかった。
果たして本当のことだったのだろうかと、ふと考えることがある。
しかしそれは、もう答えが無い。答え自体を、僕自身が捨てたのだから。
純一「……梅原」
それが良いことなのだと、自分自身に言い聞かせて。
何物にも代えられない、唯一無二の幸せなんだと信じて。
僕も彼女も、思い出としての〝二人〟を消し去ることに成功した。
純一「今日はもう帰る、先生には具合が悪くなったと言ってくれ」
はたしてそれが、世間一般的に不幸だと言われてしまったとしても。
僕はそうは思わない。互いに傷をつけあう優しさに、なにが幸福をもたらすだろうか
だったらいっそ、全てを捨ててしまって。なかったことにして。
純一「……ふぅ」
───全部のことを、忘れてしまった方がいいじゃないか。
純一「僕が…この名前を呼べるのは、写真に向かってだけだよな」
純一「もう誰にも、この名前を呼び掛けることなんて……出来はしない」
純一「出来やしないんじゃなくて、もう〝居ないんだ〟」
純一「…そう呼べる人が、テレビの中で歌っていたとしても」
純一「そいつはもう…僕の知っている桜井梨穂子じゃない」
純一「新しくて、かっこよくて、強くて、可愛くて…」
純一「歌が上手で、まあるくて、誰よりも誰よりも優しい……」
純一「……そんな桜井梨穂子なんだよ」
純一「僕の知っている、僕がそう呼べる〝桜井梨穂子〟はもう……」
純一「……居ないのだから」
ぱたん…
───ピチュン!
純一「な、なんだ……」
純一「急にテレビがついた…?」
『──えーこちらは、今、空港からの中継です』
『──今回、KBT108で人気爆発中の……』
『桜井リホさんに繋がってまーす!』
純一「………」
『こんにちわー! 大丈夫ですかー? お具合の方は?』
『──はい、大丈夫でーす! 世間の皆さんは、わたしが病気ー…とか思ってるみたいですけどぉ!』
『そんなことありませんよ~! えへへ、実はちょっと食べすぎでお腹を壊したぐらいかなぁ~って…』
『ドッ! わははははは!』
純一「……元気そうだな」すっ…
純一「…じゃあな、桜井リホ」かち…
『──それで、今回から海外での活動を主にされるようですが!』
純一「……」ぴた
『はーい! 実は極秘に社長が練っていたプランだったらしく~、見事選ばれちゃいました~!』
『それは凄い! 流石はリホちゃんですねぇ!』
『えへへー! がんばりまーす!』
純一「…海外?」
純一「なんだそれ、一体何を言ってるんだ…? 桜井リホは海外に行くって…」
ぷるるるるるるるる!
純一「っ…電話?」
『それですねぇ! 主に映画での活動をやっていこうかなーなんて───』
ぷるるるるるるるる!
純一「…気になるけど、電話が先か…」たたっ
~~~~
純一「…はい、もしもし。橘です」
『──たーちーばーなーくぅん?』
純一「ひぃいっ!? た、高橋先生!?」
『ええ、そうですよぉ……どうして自宅に電話をかけたら、平気そうな声で君がでるのかしらねぇ…?』
純一「そ、それはですねぇ! えーと、あははは!」
『もしや、と思ってかけてみれば! 先生、ズル休みは許しませんよ!』
純一「……す、すみません」
『もうっ! 今からでもいいです、戻ってきなさい! 先生が特別に便宜を払ってあげますから!』
『弱音を吐かないの! 具合悪くないことはお見通しですからね! …まったく、桜井さんを見習いなさい!』
純一「っ……そ、そうですね」
『そうですね、じゃあ…ありません! まったくもう、私は君にどうして彼女のことを相談したかわかってるのかしら…』
純一「え、それはっ…僕と…桜井が、幼馴染だからって知ってたからじゃあ」
『ええ、まあそれもあります。ですけど、根本的には私は彼女みたいな強い精神を持って参考にしてほしかったのよ?』
純一「……どういうことですか?」
『…忘れたの? 彼女のことは内密だからって、君が忘れることはないでしょう』
『───親御さんが大変な時期に、学校に来られたことにです!』
純一「……は?」
『……なんですかその返答は』
『なんですか、私…変なこと言ったかしら?』
純一「い、言いました! 言いましたよ!」
純一「梨穂子の親御さんが大変って…なんですかそれ!?」
『……え?』
純一「ちょ、ちょっと待ってください…え、それってあの生徒指導室で言った事ですよね?」
『え、ええ…そうですけど、先生そう言わなったかしら?』
『──病気で御記憶を失くされてるから、大変だって』
純一「あ……言ってましたけど、それ……梨穂子のことじゃあ…?」
『はぁ? それじゃあどうして学校に来てたんですか! ちょっとは考えなさい!』
純一「……………ですよね」
『意味が分からないこと言わないで、早く学校に───』
純一「………なんでだ、どうして僕、梨穂子だって勘違いをした…?」
純一(しかし先生は…それを親御さんの病気だと言ってる)
純一(──まずはそこ、どうして僕はそう思った?)
純一(っ…ダメだ、思いだせない…もしかして、色々と不安定のままに聞いたせいなのか…?)
純一(だから僕は、梨穂子の病気だと勘違いを………いやいや、それもおかしい!)
純一(だったらそんな僕の勘違いは、あの茶道部の人たちに訂正されたハズ………)
純一「………………茶道部?」
純一「──────…………嘘だろ、おい」
純一「はぁっ…はぁっ……!」
がらり!
純一「はぁっ…はぁっ…!」
「───ん、なんだい。珍しい奴が来たねえ」
「───黒幕登場」
純一「なんっ……ですか、それ…! なんかのnpcみたいな喋り方はっ…!」
夕月「なんとなくだよ」
愛歌「特に意味無し…ずずっ」
純一「はぁっ…ちょ、ちょっと…だけっ…待ってくださいっ…!」
純一「家から全速力でっ…走ってきたので、ちょっと…喋れなくてっ…!」
夕月「いいよ、待っててやっから。落ちついてから喋りな」
純一「っ…んく、やっぱりだめです! この状態で言いま、す…!」
純一「───あんた等、僕を騙してたな!!!」
愛歌「義理セーフ」
夕月「…そうかい? あたしゃもう手遅れだって思うけどねえ」
純一「ちょ、ちょっと!? どうしてそんな無反応気味なんですか!?」
夕月「ん? だって、いつかは気付くだろうって思ったしよ」
愛歌「勘違いから生まれるのは……ただの勘違い」
夕月「いやはや、アンタが神妙な顔で来て……病気病気、梨穂子が…」
夕月「なーんて言ってきたら、あはは、ちょっと騙したくなってきたってだけさ」
純一「ふぅー……はぁー……」
夕月「…お?」
純一「最低だ! アンタらは!!」
夕月「くっく、そうだよあたしらは最低さ」
純一「…聞かせてくれるんでしょうね、どうして騙したかを」
夕月「簡単な事さ、はっきりいうぜ?」
夕月「──桜井梨穂子は、記憶を失った事実は一切ない」
純一「っ……」
夕月「それが現実、そしてあんたの勘違いだ」
夕月「…最初の方は、アンタ何言ってるんだがわからなかったさ」
夕月「りほっちのことで、頭が混乱してるのかって思ってれば」
夕月「…面白い方に勘違いしてるしよ、はっは、参ったぜあんときは」
夕月「だから言わせたのさ、アンタに。どんな勘違いをしてるのか、直接的に言わせる為に」
夕月「憶えてるかい? ───りほっちの記憶を失ったと言ったのは、お前自身だぜ?」
夕月「……そしてあたしら二人は、その話に乗っかっただけ」
夕月「ただただ、それだけだよ」
純一「……どうして、そんなことをしたんですか」
夕月「意味なんて無いさ、その時の場のノリだよ」
純一「じゃあ、後はどうなんですか」
夕月「……後?」
純一「はい、その時が……先輩たちの乗りだったとして。その後の…」
純一「…僕の頑張りに対して、どうして口を出さなかったんですか」
夕月「………」
純一「教えてください」
夕月「…それは、まあよ、わかるだろ橘」
純一「……梨穂子、ですか」
夕月「…そうだよ、りほっちがやったことだ」
純一「っ……どうして、そんなことっ…!」
夕月「あたしらはアンタが帰った後に、すぐさまりほっちに伝えたんだ」
夕月「…アンタの考えたズル休みの理由が、なぜか、面白いように伝わっちまってるよってな」
純一「……」
夕月「だから変な事してきたら、面白いように扱ってやんなってさ。
だけど……りほっちは、全く浮かないような顔をしてやがった」
夕月「『…チャンスかもしれないです』って、最後に言ってな」
純一「チャンス…? なんですか、チャンスって…!」
夕月「さあな、だけどあたしら二人はそれから……りほっちの言う通りに、動いただけだよ」
夕月「アンタの頑張る姿を、知らぬ存ぜぬで突き通せってな」
純一「じゃあ、僕に言った…梨穂子を愚弄した話も…?」
愛歌「…我の発案也」
純一「っ…愛歌先輩が…?」
愛歌「りほっちの意図を汲んでのこと……」
愛歌「橘純一……りほっちは分かれることを望んでいた」
純一「わかれる、こと?」
愛歌「分かるだろう…それは、つまり」
ぴっ
愛歌「こういうことだ」
『さて、海外へ向かう飛行も…あと五時間を切りました!
これからは桜井リホさんのデビュー当時の映像を───』
純一「……海外?」
愛歌「……ずずっ」
夕月「そうだよ、橘…りほっちは学校に来た理由は親御さんの病気としてたけどよ」
夕月「本来は皆とお別れする為に、挨拶としてここに来てたんだ」
夕月「あたしらには、そう言っていた。だけど、本当にあたしらだけみたいだな」
夕月「職員室…今は大パニックらしいぜ? まあ、事情を知っていた先生も居るみたいだがよぉ」
純一「っ……なんで…梨穂子はっ…」
純一「どうしてっ! 僕には何も…! ただ、僕の勘違いに対してっ…! それしか言ってないかったのにっ…!」
純一「いままで記憶が無いふりを、僕の勘違いだって言うのにっ…それを演じ続けたって…こと?」
純一「なんでだよっ…! お前は一体何をしたかったんだ…!? 梨穂子…!」
夕月「………」
純一「じゃ、じゃあ……な、なんなんだよお前っ……あの時、僕に泣きながら言ってくれたことは…嘘かよ…?」
純一「記憶を取り戻したいと…顔をぐしゃぐしゃにして、泣いたお前は…あれは、演技だったとでも…?」
純一「記憶が無いからって…皆に嫌われたくないって、言ったのも全部……演技?」
純一「…はは、ははははっ……そ、そうか……全部全部、アイツの計算通りってわけか」
純一「じゃあ、最後に僕の部屋で言った事も……アイツにとって、望まれた答えってワケか…!」
夕月「…その話は知らねえけど、たぶん、コイツじゃねえか?」くいっ
『ワァーオ! 桜井リホー!』
『わっぷっ…社長さ~んっ! いきなりのハグはやめてくさ~いっ!』
純一「」
愛歌「とどめの一撃」
夕月「…馬鹿だねえ、ほんっと」
純一「……う、嘘だ……あはは…」
夕月「認めたくないようだから言ってやるけど、これは全部よ」
夕月「橘純一の勘違いで始まって、橘純一の勘違いで終わった話だよ」
純一「うっ……!」
愛歌「だがりほっちの作戦勝ち」
夕月「…だな、ここまで心の距離を離しちまったんだ、アイツの勝ちだね」
純一「……どうして、そんなにも嘘をついてまで、僕と別れたかったんだよ」
純一「僕は……ただ単純に、別れを告げられた方が、まだよかった」
純一「あのままじゃ僕は……お前を一生、遠い存在だって思い続けただろ…」
夕月「だから、それを望んでたんだろ?」
純一「……」
夕月「悲しませたくないから、あんたを、分かれっていうもので思わせたくないから……いいや、これは違うね」
夕月「──アンタが心に決めた覚悟を、打ち壊したくてやったことなんだよ」
純一「僕の覚悟を…」
夕月「だろうって思うぜ? ……知ってるよ、りほっちがアイドルになるって決まった時」
夕月「アンタ、ずっと傍で応援してやるって言ったんだって?」
純一「………」
夕月「その時のあんたは、ただ単に……頑張る幼馴染を応援したつもりだったかもしれないよ」
夕月「だけど、それは桜井梨穂子にとって重みになっちまったわけだ」
純一「……」
夕月「知らねえから、ずっと傍で応援してやるって言ったんだろうね」
純一「……どういうこと、ですか」
夕月「…本当にわからないのかい? あの子のアイドルになる理由が?」
純一「…はい」
夕月「そうかいっ…あーあ、あの子が諦めた理由ってのも分かった気がするぜっ…!」
純一「えっ…?」
夕月「テメーに振り向いて欲しかったからに決まってるだろうが!」
純一「っ……」
夕月「んなのによ、お前さんは何だって? 傍で応援してやる? 馬鹿言えよ、そんなことする暇があったのなら──」
夕月「──あいつの頑張りを認めてやって、もう頑張らなくていいよって伝えるべきだったんだよ!」
夕月「応援しやがんなよ! わかるだろ!? あの子が無茶して頑張ってたこと! わかってただろテメーはよ!」
夕月「ハァ!? んだとこら!?」
純一「だってそうじゃないかっ…! 僕の…僕に振り向いて欲しいからとか、そんなことっ…!」
純一「直接言われなきゃわかることも分からないだろ!?」
夕月「あーそうかいッ! じゃあ言わせてもらうがよ、橘ァ!」
夕月「テメーは何時も、りほっちに何て言ってた? ああん? 言ってみろ!」
純一「ぐっ…何時もっ…?」
愛歌「……幼馴染に言葉は要らない」
純一「───あっ……」
夕月「ッ……優しくすんじゃねえよ、愛歌ッ…!」
愛歌「…それぐらいにしておけ」
純一「………………」
夕月「……ケッ」ぱっ…
夕月「…わかったかよ、これが現実だ」
純一「…………………」
夕月「もう一度言う、お前は……一つの勘違いを起こした」
夕月「それはちょっとした勘違いで、すぐにでも治せる問題だった」
夕月「だけど、その勘違いを使用たいと願った奴が居た」
夕月「その願った奴は、お前の事をすげー大事に思ってた」
夕月「だけど、大切に思うがゆえに…綺麗に気持ちを終わらせる為に…その勘違いを使って」
夕月「分かれる原因として、使ったんだよ」
純一「………………」
夕月「わかったこの朴念仁っ!」
純一「………だけど」
夕月「…あ?」
純一「………だけど、梨穂子は泣いてた」
純一「……そう、アイツは確かに泣いてた」
愛歌「……記憶の事に関してか」
純一「そう、だよ……どうして泣いたんだ…あそこまで…フリだったとしても…」
純一「全てが僕と別れる為に、全部が全部梨穂子の演技だったとしても…」
純一「あの場面で、泣く必要なんてなかった……要らない演出を増やしただけじゃないか…」
純一「どうして、泣いたんだ? どうして、僕に記憶の事に対して……取り戻したいって、泣いたんだ?」
純一「そんなの、全く余計だろ…?」
『…………助けてよぉ、純一ぃ…っ』
夕月「あ? 何言ってるんだよ…?」
純一「あいつは、僕に対して……初めて、あの時…! 助けてと、言ったんだ…っ」
愛歌「…その時、りほっちの表情は」
純一「っ…泣いてた、ずっとずっと記憶してきたどんな梨穂子よりも…っ!」
純一「ぐしゃぐしゃにっ……泣いてたんだっ…!」
愛歌「……そうか」すっ
夕月「な、なんだ愛歌…?」
愛歌「橘純一」
純一「え…? なんですか…?」
愛歌「──これを見るがいい」バサバサバサ!
純一「…なんですか、これ」
愛歌「りほっちの取材記事だ、ドラマの」
純一「……」
愛歌「読んでみるがいい」
愛歌「……」
夕月「…おい、愛歌?」
愛歌「黙ってみとけるっこ」
夕月「ど、どういうことだよ?」
愛歌「すぐにわかる……ふふっ」
純一「……」
愛歌「そこだ」
純一「ここ…ですか?」
愛歌「口に出して読んでみろ」
純一「は、はい……」
純一「『では、ドラマの演出で一番苦手なことは何ですか?』」
純一「『はい、一番と言いますか、何事も初めてなので全てが上手くできずに悪戦奮闘してます…ですが』」
純一「『───なによりも、泣く演技が……一番の苦手です』」
純一「…………………」
愛歌「…理解しろ橘純一」
愛歌「己の瞳に移させたその誰よりも…悲哀の籠った表情の彼女は」
愛歌「──嘘ではない、心して立ち向かえ」
純一「…………」
純一「………」
純一「……っ……!」ばっ!
夕月「わぁ!? な、なんだよ急に立ち上がって!?」
純一「……行ってきます」
夕月「は?」
純一「──梨穂子の所へ、行ってきます!」だっ!
夕月「……」ぽかーん
愛歌「ふ・ふ・ふ」ふりふり
愛歌「るっこもツンデレ」
夕月「あぁんっ? なんだよ、どういう意味だよッ」
愛歌「橘純一が……ここまで努力する理由は」
愛歌「──るっこが橘純一にかけた言葉のお陰」
夕月「っ……テメー、あの今朝のコト見てたのかよっ…!」
愛歌「──そのまんまの意味だよ、あの子をいつまでも信用するんだ。
どんなに冷たい事を言われても、どんなに暴言を吐かれて拒絶されたとしても、だ」
愛歌「お前さんはそれを耐え抜いて、耐え抜いて、ずっとずっとりほっちのことを───」
夕月「だぁああああああああああああああ!!! 一字一句憶えてるんじゃねえよ!」
愛歌「ふ・ふ・ふ」
夕月「はぁっ! クソッ! つぅーかよ、あの馬鹿はどうするつもりなんだ?」
愛歌「難解」
夕月「…ったく、世話を書かせる奴だぜ、ほんっと……」
prrrrrr
夕月「……ういっす、夕月瑠璃子だ。わかるだろ? おう、ちょっと頼みたいことがあるんだけどよ───」
純一「はぁっ…! はぁっ…! んくっ……はぁっ……はぁっ…」
純一「はぁっ……はぁっ……はぁ………」
純一「──だ、ダメだっ……駅まで、全速力で走れるっ……体力が無いっ…!」
純一「はぁっ……ハァ……はぁ……」
純一「んくっ……ダメだ、純一! 諦めるな…っ!」ぎりっ
純一「なんとしても───絶対に、梨穂子が行く前にっ…!」
純一「ちゃんと、あの言葉をっ…! 言わなくちゃっ………はぁっ! はぁっ!」たったった…
純一「くそ、動けよ僕の足! いいんだっ…これから先、もう動けなくなったって…!」
純一「絶対に伝えるまでっ…! 動き続けろっ…!」
「───よう、大将。かっこいいところすまねえけどよ」
純一「え……?」
梅原「言っちゃ悪いが、自転車の方が断然…早いぜ?」ちりんちりーん
梅原「おうよ、ちっと出前中だぜ」
純一「で、出前中ってっ……お前学校はっ!?」
梅原「ああん? サボったにきまってるだろーが!」
純一「……なんで?」
梅原「おいおい、言わせるなよ大将?
……お前さんの様子がおかしかったから、後で麻耶ちゃん先生に聞いておいたんだよ」
梅原「そしたらなんだ、電話つながったまんまどっか消えやがったと言いやがるもんで」
梅原「──はは! それならオメー! 絶対になにかやらかすと思うだろうがよ! こっちも!」
純一「か、カンが良すぎるよ梅原…!」
梅原「ばーろう! どれだけお前と……長年つきそったと思ってるんだ大将ぉ!」
純一「っ……うん!」
梅原「つぅーこって、後ろに乗ってくれ! 駅まで俺が送ってやる!」
純一「で、でも梅原…? 出前は…?」
梅原「おっとと、落ちを言っちゃ困るぜ橘?」
梅原「───大将の想いを届ける出前だって、ことはよぉ!」ぐぉ!
梅原「はぁっ……はぁっ…! い、いけっ…! 大将っ…!」
純一「ありがとうっ…! 梅原っ…この恩はどんなお宝本だって返しきること出来ない…っ」
梅原「ば、ばかっ……いってるんじゃ…ねえよ、こら……!」ぐいっ
純一「うわぁっ…?」
梅原「約束しただろーが……俺はちゃんと見てるぜっ…テレビでよっ…」
梅原「───お前が咲かせる、彼女の満点の笑顔ってやつよぉっ…!」
純一「っ……おう、見とけ梅原!」ぐっ
梅原「ああっ…行って来い! 俺はもう…ダメだ!」とん…
梅原「きばって、いっちょやってこい大将っ!」
純一「…うんっ……!」たたっ
~~~~
ホーム
純一「はぁっ…はぁっ…」
純一「電車はっ……十五分で着く!? そんなっ…!? 一本先の奴に乗りたかったのに…!」
「──こっちだ、ストーカー」
純一「っ…え? この声は……?」
隊長「……こっちだ、早く来い」
純一「守り隊の隊長さん!」
隊長「そ、そう呼ぶな! 恥ずかしいだろ!」
純一「え、すみません……でも、どうしてここに?」
隊長「……兄貴がお呼びだ」
純一「兄貴?」
隊長「はやく外に出ろ! そうしないとっ───あふんっ!」
純一「っ!?」
「──ノウノウ、十五秒で連れてくるように言ったじゃあーりませんか!」
純一「こ、この声はっ…!」
マイケル「イェース! ユーの愛しいギャラガーデース!!!」
マイケル「ノンノン…タチバナ! ギャラガー……オーケー?」
純一「マイケルさん!」
マイケル「ノーウ! そんな冷たいユーも……中々デリシャース…」
純一「顔が近いですっ……」
「あ、兄貴! 急いでください!」
「そろそろやってきますよ!」
「やばいですって!」
マイケル「オーゥ…シット! もうちょっとでタチバナを落とせるかとおもいましたのにー」
純一(何言ってるんだこの人…)
隊長「…は、話はっ……あの人から聞いてるっ…!」
純一「隊長さん! ……え、話って?」
隊長「……茶道部の、部長だ」
純一「えっ!? 夕月先輩から…!?」
隊長「実はだな……私が『桜井リホ守り隊』に隊長へと就任できたのはっ…」
隊長「あの人のっ…おかげなのだ…」
純一「えー! ……あの人に借りを作るとか…大丈夫なんですか…?」
隊長「だから! 今はこんなめにっ…ひぅん!」
マイケル「オー、間違ってダイアルを全開にしてシマイマシター! HAHAHAHAHAHA!」
純一(わ、わかった…多分この人、マイケルさん……夕月先輩とつながりがある! 勘でわかる!)
マイケル「それでぇー……急にお店に電話が来たときはビックリしましたがー!」
マイケル「……タチバナ、ユーはなにをしてほしいですカー?」
純一「え…?」
マイケル「ウッフッフッフ…いいんですよー? 正直に言って…ミーはタチバナのこと大好きデース!」
マイケル「どんなことだって、叶えて見せマース!」
純一「っ……本当に、ですか…?」
マイケル(get!)
マイケル「ハーイ! なんだってしてますよー! カモンカモン!」
マイケル「…ンー?」
純一「僕の大事な人が……いや、手の元から逃げてしまった人を……」
純一「取り戻しに、行きたいんです…!」
マイケル「……」
純一「あの子は誰にも真実を…キチンと明かさずに、誰に対しても演技を行って…」
純一「最後の最後までっ……皆を騙し続けました!」
純一「だけど! 僕はそれをどうにかしに行くつもりです!」
純一「──お願いします、ギャラガーさんっ! どうか僕を助けてください!」
「────オーケー……ンッフッフ、ワーオ! 本当に素晴らし……グレイト、グレェーーーーート!!」
パァンッ!
ギャラガー「タチバナァ! 後はミーに任せないサーイ!」
純一「ほ、本当ですか……っ!?」
ギャラガー「イェス! ……そこのユーたち、アレの準備カモン!」
純一「………」
ギャラガー「ンンンンンンー……クレイジー!何時に無くこのバイクの音はモンスターデース!」
純一「あの……ギャラガー…さん?」
ギャラガー「ハーイ?」
純一「その、免許……持ってます?」
ギャラガー「ハイ! モッテマスヨー!」
純一「………」
「あ、兄貴!? 単車のハンドルは両手で持ってくださいね!?」
「ち、違います! それアクセルですから! ぶっとびますよこの機体だと!?」
「マジで軽く空も飛べそうになるやつだから、危険ですからね!?」
ギャラガー「オーケーオーケー!」
純一「………」がくがく…
隊長「…おい、ストーカー」
純一「な、なんですか…?」
純一「え、ええっ……そうです!」
隊長「…そうか、そしたら私も見れるのか」
純一「え…?」
隊長「……いや、なんでもない」くるっ
隊長「さっさと行け、顔も見たくない」
純一「……見せますよ、ちゃんと!」
純一「待っててください! テレビの前で!」
ギャラガー「それではぁー? ウッフッフ…モンスターは実は他人のもなのデース」
純一「……へ?」
ギャラガー「ちょいと借りてキマシター! オーケー! シンパイムヨウ!」
ギャラガー「──It is only me that can ride very well…」
ブオオオオオオオオオオオオオオオオン!
純一「ぎゃ、ギャラガーさんっ…!」
ギャラガー「…行きなさい、タチバナぁ…ぐふっ」
純一「で、でも…! 飛行場はもう目の前ですよ!?」
ギャラガー「ウッフッフ…ミーには少しばかり、遠いようデース…」
純一「だけどっ…こんな所で倒れてたらっ…!」
純一「運転酔いして、倒れてたら…! 誰かに引かれちゃいますって…!」
ギャラガー「……タチバナ」
純一「え…?」
ギャラガー「ミーは…本当に、タチバナのことを尊敬シテマース…」
純一「なんですか、急に…」
ギャラガー「ウッフッフ…最後に言いコト言いたいんですよ、ミーも…」
純一「…じゃあ、なんですか? 言いたいことって?」
ギャラガー「タチバナ…手を繋ぐことから始めましょ──がふっ」コトリ
純一「と、とりあえずっ…端の方に寄せてっ…」ずりずり…
純一「あのバイクは……誰も動かせることなんてできないだろうなぁ…」
純一「本当にありがとうございます、貴方がいなければ僕は…絶対に間に合わなかった……」
純一「──よし、ゴールは目の前だ! 行くぞ!」たっ
~~~~~
梨穂子「……」
『それではー? そろそろ桜井リホちゃんが搭乗されるようです!』
梨穂子「……」
『リホちゃーん? 最後に一つ、なにか言い残すことはあるかな?』
梨穂子「…え、あ、はいっ! 頑張って海外でもやって行きたいと思います!」
『んー、言い言葉だね! だけどもっと言ってもいいんだよ?』
梨穂子「あっ…はい! えっとー…その……」
アナ(なんだっよこのニュース……マジでこれで視聴率取れるとか思ってんの?)
アナ(つぅか、ただのアイドルが飛行機乗るだけで、どんだけ時間使ってるのかつぅーの…)
梨穂子「えーとですね…」
アナ(あーあ、つまんないの。これならもっと刺激的な報道アナになるべきだったかなー)
梨穂子「…その、一つだけ言いたいことがありますっ」
アナ『あ、うんっ! なにかなー?』
梨穂子「それは……その、もしかしたらテレビを見てくれてる人の中に…」
梨穂子「───私が、ずっとずっと大切にしときたい…人たちが居ると思います」
~~~~~~~
夕月「……」
愛歌「……」
~~~~~~~
『こんな私をずっと見守っててくれた人たちで───』
ユウジ「………」
~~~~~~~
『…こんな私を、守り続けた人たちも───』
隊長「………」
~~~~~~~
『みんながみんな、見てくれると思って……この言葉を送らせていただきます』
『───ありがとう、わたしはとっても幸せでしたっ…!』
『わたしのために努力を惜しまなかった人に』
『……私は、本当の感謝を送りたいです』
梨穂子「───ありがとう、そしてごめんね……っ」
アナ『…リホちゃん? それってつまり…?』
梨穂子「ぐすっ……あはは、ちょっと大げさすぎたかな~? 辺に勘ぐっちゃだめですよっ?」
アナ『そ、そうよねー!』
梨穂子「えへへ、それじゃあ! 桜井リホ! 行きます!」
アナ『……今! あの人気をはくしたKBT108の桜井リホが! 搭乗口へと向かっていきます!』
梨穂子「………」すたすた…
アナ『搭乗口の前には、駆け付けたファンが波のように押し寄せております! 凄いですね!』
梨穂子「……ごめんね、純一…許してなんて言えないけれど…」
梨穂子「……それでも、私はあなたのことをずっとずっと…」
がしっ!
梨穂子「──え…?」
梨穂子(誰かに腕をつかまれ、ファンの人…?)
ざわざわ…
アナ『…おや? なにやら搭乗口で少しトラブルの様ですよ!?』パアアアア!
梨穂子「あ、あのっ…ごめんなさい! 離してもらってもいいです───」
「はぁっ…はぁっ…!」
梨穂子「───か……」
梨穂子「…………なんで此処に居るの…?」
「…なんで、って? おいおい、そんなことっ……!」
純一「お前を止めに来たに……決まってるだろ!!」
純一「………」
アナ『────おっとおおおおおおおおおおお!これはなんだぁ!一体ぜんたい何が起こってやがるのかァー!?』
梨穂子「っ…いや! これは違うんですっ! えっと、その…!」ばっ!
純一「…梨穂子」ぐいっ
梨穂子「そんな疑ってるような、ふぇ…」とすんっ
ぎゅうっ…
純一「…ダメだ、絶対に逃がさない」
梨穂子「……えっ?」
アナ『うわぁああああああああああ!!! 抱き寄せたァ!
強引に引き寄せて、後ろから抱きよせたァ!なにこれめっちゃ興奮する!』
梨穂子「っ~~~~…!? じゅ、純一っ!? わ、わかってるの!? こ、これ全国ネットでッ…!」
梨穂子「か、関係無いって…っ! そんな、こと…!」
純一「──関係無いっていってるだろ!」
梨穂子「っ……」
アナ『っ……ゴクリ…』
純一「僕はもう絶対に梨穂子を離さない! お前が何度、僕を突き離そうとしてもっ…!」
純一「もう梨穂子からは絶対に逃げないから!」
梨穂子「じゅん、いち…」
アナ『男の人……』
梨穂子「っ……でも、だめだよっ…まだ間に合うから! なんとか説明して、純一は無事に日常に戻って…!」
純一「………」
梨穂子「…純一?」
~~~~~~~~
教員「…あれ、高橋先生のクラスの子ですよね」
高橋「…シリマセン」
梅原「ははっ…おいおい、なにもったいぶってんだよ」
梅原「──早く言っちまえ大将!」
~~~~~
「お、おいっ…! あれって橘じゃね!?」
「おい、みんな! 教室のテレビつけてみろ!」
ユウジ「…頼むぞ、橘っ…!」
~~~~~~
隊長「……早く言え」
隊長「そして見せてくれ、俺が心から欲したモノを」
~~~~~~
「兄貴ー!」
ギャラガー「シッ! ラジオの音が聞こえないでショーウ!」
~~~~~~
愛歌「信じろ、己の意志の強さ」
夕月「…ぶつけちまえ、橘!」
純一「──梨穂子、言わせてほしい」
梨穂子「っ……?」
純一「お前は言ってくれたな──ホントの自分を分かってほしいと」
純一「あれはお前の演技じゃ無く、ホントの…気持ちだと僕は受け取ってる」
純一「違うのか、梨穂子?」
梨穂子「…違うよ、そんなこと」
純一「…ああ、そう言うと思った」
純一「だけど、僕はそうは思わない」
梨穂子「…なんで、そう言えるの…」
純一「だって梨穂子……さっきからずっと…泣いてるだろ?」
梨穂子「うっ……くっ…だから、何だって言うの…」
純一「じゃあ、それは嘘だ。僕にはわかる、まあ受けおりだけどね」
純一「…なあ、梨穂子言わせてくれ」
純一「───この世で一番、お前が大好きだ」
『──この手をずっと離したくないって望んでしまうほどに』
『──ひとつひとつ零れおちるその涙も独占したいぐらいに』
『──お前の全てを僕の物にしたい、全部を僕色に染めてやりたい』
『──アイドルだからって、凄い奴だからって、そんな肩書はいらないよ』
『──僕はただただ、梨穂子が傍に居るだけで十分なんだ』
純一「……だから、梨穂子」
梨穂子「……」
純一「僕からずっと離れないでくれ」
純一「一生、傍にいてやるから……もう、あんなことは絶対に…しないでくれ…」ぎゅうっ…
梨穂子「…純一…」
アナ(うわぁ…すっげ聞いててハズいwwww)
梨穂子「……純一、あのね」
純一「…うん、なんだ?」
梨穂子「…えへへ、ありがと~」ぎゅっ
純一「…おう、こっちこそ」
梨穂子「頑張ったんだよ、わたし…わかってるよね」
純一「…うん」
梨穂子「あなたと別れる為に…色々、がんばったんだよ」
純一「…うん、わかるよ梨穂子、本当にすまなかった」
梨穂子「…だけど、純一は…あはは」
梨穂子「ここまでのこと…しちゃうんだね、敵わないですよ、ほんっと」
純一「…だろ、いつだって僕は凄い奴だ」
梨穂子「うんっ! …だからね、純一」
純一「…なんだ梨穂子」
梨穂子「………本格的に犯罪者として捕まる前に、色々と手段を打つよ!」
梨穂子「──……」くるっ…
梨穂子「純一っ! ありがとうっ…! 本当に、そんな事を言ってくれて……!」
純一「……」
梨穂子「ひっぐ……ぐすっ…」
アナ『…おやおや、何やら発展があるようですよー! 視聴者の皆さん! とくとご覧あれ!』
純一「…梨穂子、お願いだよ」
梨穂子「……ううん、確かに…貴方の言ってくれたことは、本当にうれしい」
梨穂子「──だけど、私は……もうアイドルなんだよ?」
純一「っ……だけど! それは…!」
梨穂子「……ごめんなさい、私は…もう貴方とは…立場が違うの…」すっ…
純一「っ…梨穂子! 行くなよ! 僕はっ…!」
梨穂子「………」
純一「僕はお前のことが好きなんだよ…!」
純一「……お願いだ、梨穂子、こっちを向いてくれ」
梨穂子「…………」
純一「…梨穂子!」
梨穂子「……」
くる…
純一「っ…梨穂子…!」
梨穂子「……」ボロボロボロ…
純一「───お前……」
梨穂子「うんっ…! 私も大好きだよっ……!」たたっ
ぎゅっ…!
梨穂子「大好きで大好きで、仕方なくてっ…!」
梨穂子「───純一のこと、心から愛してるからっ…!」
梨穂子「……」
ぱち…ぱちぱち…
「リホーコ……パーフェクト! パーーーーーフェクト!」パチパチ!
梨穂子「……えへへ、やっぱりそうでしたか?」
社長「ワンダフォー! ユーは本物の女優だ! 素晴らしい演技だった!」
梨穂子「社長さんなら分かってくれると…わぷっ!」
社長「ンーンー! 将来はパーフェクトな女優になるはずダ!」
社長「…それにィ、ユー!!」
純一「は、はいっ…! えっと、その僕は…わぷっ!」
社長「ンッフン! ユーも最高の演技だっタ! 男優として働かないカ?」
純一「い、いやそれはっ…すみません…!」
アナ『あのー……社長…?』
社長「ん、なんだね?」
アナ『これは…どういうことでしょうか?』
社長「おやおや…わかりませんでシタか? アターシは桜井リホを海外で…」
社長「…立派な女優にすることを、計画してマシタ!」
社長「しかも極秘デ、誰にも報告セズ、社員の殆んどが知らない計画デス!」
社長「…そんな大事なプロジェクトの門出が、こんなお別れ会みたいなハズないでショー!」
マナ『それは……つまり?』
社長「サプラーイズ……イベントですが?」
アナ『なっ……なっなっななななんとぉ! そういうことだったんですねぇ!』
アナ『つまりあの二人の告白はっ…海外での桜井リホの女優活動としての……アピールだったと!?』
社長「………」すたすた…
社長「───ソウイウコトデーーーーーーーーーーーース!!」
純一「あはは…凄い拍手だ…」
梨穂子「…何とかなって、よかったよ~」
純一「う、うん…とりあえず梨穂子の乗りに乗って見せたんだけど…案外出来るもんだな」
梨穂子「そうだね~……というか、あの告白は嘘だったとでもいうの?」
純一「ち、違うって! 結果的にそうなっちゃってるだけで!」
梨穂子「…ほんとにぃ?」じっ
純一「ホントホント!」
梨穂子「…まあいいよ、信用してあげる。それよりもホラ、そろそろ来るよ」
純一「え? なにが?」
梨穂子「あはは、頑張ってねぇ純一~」ふりふり
純一「だから、なにがだよ梨穂───」
アナ『そこの男優の方! ご質問があります!』
アナ『…実際の所、桜井リホとはどんなご関係で?』
純一「ええっ!? そ、それはっ…」
梨穂子「…くす」
社長「…梨穂子」
梨穂子「あ、社長……今回は、本当に…」
社長「良い。私は逆に感動して居るよ、あの危機的状況を乗り切った…その君の度胸にね」
梨穂子「…ごめんなさい、迷惑をおかけしました」
社長「良いと言ってるだろう、私は若い人間が起こす奇跡をまた…見れただけで満足だ」
社長「だからこそ、この仕事はやめられない」
社長「…彼は君の彼氏かね?」
梨穂子「………」
純一「同じクラスメイトでっ…その、色々とみんなでやろうって話になって…!」
アナ(ぜってー嘘だろ! 化けの皮剥いでやるぜ! おらおら!)
社長「…ふむ、良い関係の様だ」
社長「梨穂子、そろそろ飛行機が飛ぶ時間だ」
梨穂子「………」
社長「私は確かに若い人間が起こす奇跡が、なによりも大好きだ」
社長「…だが、これは一社を動かした極秘プロジェクト」
社長「社員である桜井リホには、働いて貰わなければならない」
梨穂子「……はい、わかってます」
社長「……そうか、ならいい」
梨穂子「………」
社長「……だが、数十分だけ時間を延ばしてやらなくもない」
梨穂子「えっ…?」
社長「それに、周りの野次馬どもも退かしてやろう」
社長「…お礼だ、そしてこれからも私に夢を見せ続けてくれ」
社長「桜井リホ──……」くるっ
梨穂子「…ありがとう、ございます…っ」ぺこっ
社長「…」
社長「ハァーイ! そこら辺にさせて置いてクダサイ! 彼も可哀そうです!」
純一「ぼ、僕はっ…あんまんがすきでっ…へっ?」
アナ『っち…そ、そうですか! それではさっそく桜井リホの出発ですね!』
社長「イエイエイ! その前に、アタクシの演説をお聞きくだサーイ!」ぐいっ
純一「おっとと…」
梨穂子「…純一、こっちこっち!」
純一「おう…?」
純一「…こんな所勝手に」
梨穂子「大丈夫だよ、社長さんが多分…裏に手をまわしてるはずだから」
純一「そ、そうなのか……いや、ちょっとまって梨穂子……僕、凄い疲れてきた…」
梨穂子「え? だ、大丈夫…純一…?」
純一「あは、あはは…無理し過ぎたのかも…今日一日、凄い動いたし…」
純一「……だけど」すっ
梨穂子「えっ…」
なでなで
純一「こうやって…梨穂子に触れられるだけで、僕は本当に…頑張ったかいがあって思うよ?」
梨穂子「…うん」
純一「……もう一回、言ってもいいか?」
梨穂子「…うんっ」
純一「好きだよ、梨穂子」
梨穂子「…私もだよ、純一」
梨穂子「…私もだよ…純一、これからはずっと一緒に居たいって…心からそう思ってる」
梨穂子「…あれだけのことをしたのに、純一はここまで、追いかけてくれた」
梨穂子「私は……とても幸せ者でっ…だからそんな純一に…私も! 私も…これから幸せをあげたくてっ…」
純一「馬鹿言え……今回の事も、そして…お前のアイドルの事も」
純一「全部僕の所為だろ? …わかってるよ、僕も馬鹿だったんだ」
梨穂子「う、ううんっ! 私が何も言わなかったから…! だから純一はずっと悩んでたままで!」
純一「でも、幼馴染とか…口ではカッコいいこと言ってるけど、自分自身が全然伴ってなくて…!」
梨穂子&純一「だからっ…!」
純一「……梨穂子から言ってくれ」
梨穂子「……純一から言ってよ」
純一「じゃあ…いっせーのーで」
梨穂子「わ、わかったよ」
「──いっせーのーで」
純一「…やっぱり謝ったな、僕ら」
梨穂子「…くす、そうだね純一」
「あははっ…くすくすっ……ははっ…えへへ…」
~~~~~
純一「……梨穂子」
梨穂子「ん~……なあに、純一?」
純一「梨穂子のさー…膝枕って、素晴らしいよね」
梨穂子「えへへ~…ありがと」
純一「だってさ、疲れが取れて行くようなんだ…これだけ走ったに…
テレビの前で寿命が擦り切れるほどのドラマを演じたり…したのに…」
梨穂子「うん…」なで…
純一「梨穂子の膝枕のお陰で、全部がとろけて…消えて行くようなんだ…」
梨穂子「そっか、ふへへ」
梨穂子「ふんにゅっ」
純一「ほっぺもやわらかいな…」
梨穂子「ふんひちはっれ!」
純一「おむゅ! …はひふふんは」
梨穂子「ふんひちふぁふぁふぅい!」びしっ!
純一「…何言ってるか分からないよ」
梨穂子「ふぇっへっへ~」
純一「…あはは、本当に可愛いなぁ梨穂子は」
梨穂子「……」
純一「ごめん、ちょっと瞼が重く……て」
梨穂子「うん……」なでなで
純一「ちょっとでも……寝息を立ててたら…起こして梨穂子…」
梨穂子「わかったよ…それならゆっくりとまどろんでて…純一」
純一「…うん…ありがと、梨穂子…………すぅ…すぅ…」
純一「すぅ……すぅ……」
梨穂子「そっか…寝ちゃったか~」
梨穂子(くすっ、本当に小さい時から…無邪気な寝顔は変わらないよねぇ)
梨穂子「…ほれほれ」くりくり
純一「う、うーん……すぅ……」
梨穂子「あはは、やっぱり眉毛をつつかれると唸る癖も治って無い…」
梨穂子「……あのね、純一」
梨穂子「桜井梨穂子は、海外に行ってしまいます」
梨穂子「…それはとおーい、とおーい場所でありまして~」
梨穂子「昔、純一と過ごしてきた場所とは……とても離れてて」
梨穂子「そう簡単に、これからは会えないのですっ」
梨穂子「っ…だから…こうなる前にもっと、純一とね~」
梨穂子「ぐすっ…色々とおしゃべりして…好きなもの一緒に食べて…」
梨穂子「……でも、それはもう時間切れ」
梨穂子「純一……本当にありがとう、追いかけてきてくれて…本当にありがとう」
純一「……すぅ…すぅ…」
梨穂子「……私っていう存在を認めてくれて、繋ぎとめてくれて」
梨穂子「──ありがとね、ずっと好きだよ…純一」すっ…
ちゅっ
~~~~~~
純一「ここは…?」
ギャラガー「…屋上デース」
純一「ぎゃ、ギャラガーさん! 無事だったんですか?!」
ギャラガー「ええ、モチロン! ですがタチバナ…今はそれどころじゃないデス!」
純一「え……?」
ギャラガー「見てくだサイ」
ひゅごおおおおおおお……
純一「…飛行機…?」
ギャラガー「そうです、あれはユーの大切な彼女が乗ってマス」
純一「っ…!? 今何時だ!?」
ギャラガー「……」
純一「嘘だろ…? どうして、梨穂子…起こしてくれなかったんだよ…?」
純一「えっ…?」
ギャラガー「……I love you forever」
ギャラガー「……幸せ者です、ユーは」
純一「…梨穂子…」
純一「ッ…!」だっ!
純一「っ…りほこぉおおおおおおおお!!!」
純一「僕っ…僕だってなぁあ! お前のことをずっと好きでいてやるぞおお!!」
純一「ぐすっ…絶対に、絶対にかえってこいよおお!!」
純一「ずっとずっと、待っててやるからなぁあああ!!」
純一「大好きだりほこぉおおおおおおおおおおおお!!」
それからのことを語るのは、それほどの物は残って無いと思う。
純一「………」
あれから何事もなく、数年の時が経っていた。
純一「………」
昔懐かしい輝日東高校は、久しぶりに訪れると懐かしいものを感じてしまって。
純一「………」
あの時、僕らが奮闘した三年間は。本当にもう戻って来ないのだとしみじみ感じてしまう。
同じ時間を過ごしてきた皆は、既に別々の場所へと移り変わり。それぞれを時間を過ごしているのだ。
誰もがあの〝三年間〟を思い出しつつも、今の新しい世界に身を投じていく。
自分が本当に正しい事をしているのか、そんな漠然とした悩みを持ったりした時代とは違って。
純一「……」
責任が問われ続ける、自己との闘いが今の僕たちの世界だ。
暇を弄ぶことさえ出来ず、ただひたすらに前へと進み続けなければならない。
辛くて大変で、何度もやめたいと思ってしまうこともあった
純一「……」
はたしてそれが、一般的に逃避だと思われてしまったとしても
僕も確かに、そう思ってしまう。大した理由もなく否定なんて、子供がすることなのだから。
だったらいっそ、全てを認めきればいい。
純一「……ふぅ」
───全部のことを、ちゃんと考え続ければいいのだから。
「…うん、そうだね」
純一「僕が…この名前を呼べるのは、お前に向かってだけだよな」
「あったりまえでしょ~?」
純一「あははっ…もうこれから、この名前を呼び掛ける奴なんて……一人しかいないよ」
「…他に誰がいるっていうのかな?」
純一「というか一人しかいないとかじゃなくて……もう〝目の前にお前しか居ないから〟」
「………」
純一「…そう呼べる人が、他に居たとしても」
純一「そいつはもう…僕の知っている桜井梨穂子じゃない」
「…どうして?」
純一「だってさ……新しくて、かっこよくて、強くて、可愛くて…」
純一「歌が上手で、まあるくて、誰よりも誰よりも優しい……」
純一「……そんな桜井梨穂子なんて、僕の目の前に居る女の子意外に、誰かいるんだ?」
純一「……目の間にしか居ないんだから」
純一「おかえり、梨穂子」
梨穂子「…ただいま、純一」
純一「よく…帰ってきてくれた、歓迎するよ」
梨穂子「うんっ!」
純一「…とりあえず僕の家に上がってくれ、寒いだろ?」
梨穂子「へーきだよ~、これでも結構! 強くなってるからねぇ」
純一「本当に? そりゃーすごい、やっぱり女優は違うなぁ」
梨穂子「…うん、でもね純一…」こつん…
梨穂子「あなたの知ってる私は…今までどおりの、好きなままの時のわたしだよ…?」
純一「…ああ、わかってるよ」
梨穂子「……」
純一「これからまた、互いにわかっていけばいい。それだけで僕たちは十分なんだ」
きぃ…ぱたん…
──遠い存在だった彼女が、僕の手元へと戻ってくる事態に。
──あの時二年の出来事と、全く同じような出来事だった。
純一「……ははっ」
───だけどそれは、過去のお話だ。
──既に時は動き出し、過去の過ちはもはや過去なのだ。
純一「とりあえず、梨穂子」
───未来の僕は、過去の僕とは違った選択が出来るはず。
───果たして僕の違った選択肢に、いったい彼女はどう反応するだろうか
純一「…この着物を来てくれない?」
純一「まだあの時の感想が、言い足りてなかったんだよね!」
今から楽しみで、しょうがない。
とりあえず分かりにくくてごめんなさい
終わり
ご支援ご保守
ありがとうです
ではノシ
おもしろかったよ
マジで乙、面白かった
楽しかった
Entry ⇒ 2012.10.09 | Category ⇒ アマガミSS | Comments (1) | Trackbacks (0)
法子「ドーナツ半額だって!」かな子「え……?」
三村かな子(17)
かな子「おはようございまーす! ……あれ?」
かな子「……誰もいないのかな?」
かな子「結構美味しくクッキー焼けたのに……うーん、ちょっと食べながら待とうかな……あーん」
ドタッ ガタガタガタッ バターンッ!
法子「み、みんなぁ! ニュースだよっ!」
かな子「ん、んぐっ……けほっ、けほ……の、法子ちゃん?」
法子「あ、かな子ちゃん! ニュースだよっ! 大ニュース!」
かな子「ニュース? どうしたの……?」
法子「じ、実はね……」
かな子「うんうん」
法子「今、ドーナツ半額キャンペーンやってるんだってっ!」
法子「これは買いにいかなきゃだよねっ、あたし楽しみ!」
かな子「え、えーっと、法子ちゃん……」
法子「どうしたの?」
かな子「それって、ミスタードーナッツのかな?」
法子「うん!」
かな子「……そのキャンペーンは9月末までだったんだけど……今日はもう10月、だよ?」
法子「え、えぇーっ!? そ、そんなぁ……」
かな子「法子ちゃん……お、落ち込まないで、元気だして? ねっ?」
法子「でも……うぅ、ドーナツがぁ……」
かな子「法子ちゃん……」
法子「?」
かな子「買わなくても、作ればいいんじゃない……かなぁ? どうだろう?」
法子「作る……?」
かな子「うん、作るの。手作りで!」
法子「でもあたし、作る方はからっきしだから……」
かな子「大丈夫っ! 好きこそものの上手なれ、だよっ!」
法子「かな子ちゃん……」
かな子「私も、お菓子食べたりするが大好きで、それからお菓子作りも趣味になったし……」
法子「手伝って、くれるの?」
かな子「もっちろん、まかせて! 一緒に美味しいドーナツを作ろうよ!」
法子「……うんっ!」
法子「……」ワクワク
かな子「あ、あはは……早い方がよさそうだね?」
法子「うんっ!」
かな子「じゃあいつがいいかな……えーっと」
法子「うーん、じゃあ日曜日がいいな!」
かな子「日曜日? 大丈夫だけど……どうして?」
法子「うん、10月7日! とお、なな……どおなつ、ドーナツの日!」
かな子「あ、あはは……うん、なるほど……わかった。大丈夫だよ」
法子「あ、お友達も呼んでもいい?」
かな子「お友達?」
法子「うんっ! 他の事務所の子達なんだけど、この前仲良くなったんだぁ」
かな子「そっか……わかった! じゃあ、日曜日に法子ちゃんの家の最寄り駅に――」
かな子「あっという間に日曜日……なんだけど……法子ちゃんとお友達はどこだろ?」
かな子「ひょっとして、あそこにいる集団がそう……なのかなぁ……?」
法子「あっ、かな子ちゃん! おはよー!」
かな子「法子ちゃん……ええっと、それから後ろにいる子達は……」
法子「あたしのお友達だよっ! この前のお仕事で一緒になってから仲良くなったんだ!」
かな子「そ、そっかぁ……」チラッ
光「麗奈、機嫌直せよ。今ならこのダブったリングをプレゼントするから……」
麗奈「なんでアタシがそんなだっさいのつけなきゃいけないのよ! ったく、人のこと叩き起こして連れて来てなんなのよ」
小春「ふぇぇ、2人ともケンカはだめだよ~!」
蘭子「ククク……血が滾るわ(えへへ、楽しみだなぁ)」
幸子「まったく、神崎さんは少し落ちついたほうがいいんじゃないですか? カワイイボクみたいに!」ドヤッ
かな子(ど、どうしよう……とんでもなく個性的な子ばっかりだよぉ……)
かな子「え、えっ……あ……えーっと、三村かな子です! お菓子作りが趣味だからお手伝いをと思ったんだけど……」
法子「かな子ちゃん、お菓子作りすっごく上手なんだぁ! だからきっとドーナツもすっごく美味しいと思うの!」
かな子「え、えぇ!? そんなにハードルられると困っちゃうんだけど……よ、よろしくね?」
法子「ほら、みんなも自己紹介、しよっ?」
光「ん、そうだな……じゃあアタシから」
光「アタシの名前は南条光! 14歳で、ヒーロー兼アイドル見習いです、よろしくっ!」シュッ
かな子「よ、よろしくね?」
かな子(よかった、割とまともそう……あれ?なんだか違和感が……)
かな子「……あ、あの、そのベルトは……?」
光「ウィザードライバーだけど……やっぱりディケイドライバーのほうがよかったかな? でもリング着けてくるとやっぱりこっちのほうが……」
かな子(あ、やっぱりだめかも)
南条光(14)
光「こっちが麗奈。小関麗奈! ちょっと素直になれないけど根はいい奴なんだ!」
麗奈「っだぁっ! ベタベタしないでようっとおしい!」
光「まぁまぁ、いいじゃないか麗奈」
麗奈「ったく……あぁ、アタシのことはレイナサマって呼びなさいよね」
かな子「あ、あははは……よろしくね……」
法子「わかった、麗奈ちゃんよろしくねっ!」
麗奈「はぁ、なんでアンタの連れてくる友達ってのはどいつもこいつも……!」
光「まぁまぁ落ちつけ、ほらリング」
麗奈「いらないつってんでしょヒーローバカ!」
小関麗奈(13)
光「小春は心配性だなぁ、大丈夫大丈夫……あ、それでこっちが小春!」
小春「えぇっと、小春です~。光ちゃんが、おでかけしようって誘ってくれたから、ついてきちゃいました~」
かな子(今度こそ普通っぽい子が……)
小春「あ、きゃっ……だめだよぉ、ヒョウくん、まだでてきちゃ~!」
かな子「ヒョウくん?」
小春「あ、えぇっと、私の大親友なんですけれど連れてきちゃって~」
かな子(犬とか、猫……なのかな? バッグの中じゃ苦しいだろうし……)
かな子「そっかぁ、どんな子なのかみせてもらってもいいかな?」
小春「は、はい! もちろんですよ~」ニコッ
麗奈「……あーあ、しーらない」ボソッ
古賀小春(12)
かな子「」
小春「うふふ~、ヒョウくんペロペロ~♪」
かな子「え……え……」
小春「あ、かな子さんもペロペロしますか~?」
光「お、おいおい小春……初めて会った相手に見せちゃダメって言ったじゃないか……」
小春「でも~、ヒョウくん可愛いよぉ~?」キョトン
光「そうじゃなくて……ほら、そっちの2人も固まっちゃってるし」
幸子「」
蘭子「」
法子「わぁ、可愛いね!」
光「あれ?」
小春「わぁ~! わかってくれるんですか~? 嬉しいです~」ニコニコ
法子「ヒョウくんは……イグアナ?」
小春「そうですよ~♪」
法子「そっかぁ、ドーナツ食べる?」
ヒョウ「……」プイッ
法子「あ、いらないのかぁ……」
小春「あ、えぇーっと、ヒョウくんは虫が好物だから……」
法子「そっか、うーん、残念だなぁ……かな子ちゃん、大丈夫?」
かな子「はっ……あ、う、うん! 大丈夫だよ、平気!」
かな子(ど、どういうことなの……普通だと思った子が、普通じゃなかったよぉ……)
幸子「はっ!? い、今ボクは何を……」
蘭子「くっ……私としたことが意識の混濁を許してしまうとは何たる不覚……(び、びっくりしすぎてちょっと気絶しちゃいました……)」
かな子(なんだか何を言っているかを私じゃ理解できない子がいるような……)
法子「幸子ちゃん、ヒョウくんを見せてもらってびっくりしちゃってたんだよ?」
幸子「ヒョウ……って」
小春「ペロペロしますか~?」
幸子「ちょ、ちょっと! カワイイボクに何を近づけてるんですかやめてくださいっ!」
小春「むぅぅ、ヒョウくんだって可愛いですよ~?」
小春「ほらー、ヒョウくんペロペロ~」
幸子「ひぃぃっ!」
蘭子「お、おのれ小龍! よるでないわぁっ!(や、やめてください近づけないでぇっ!)」
光「ほら、小春。ストップストップ……」
小春「あ、光ちゃん……」
光「こういうのは順序が大切なんだぞ。急に触れ合おうなんて言われても困っちゃうんだ」
小春「そ、そうだよね……ごめんなさい~!」
幸子「ま、まぁわかってくださればそれで……」
小春「でもヒョウくんは可愛いですよね~」ニコニコ
幸子「……もう何もいいませんよ。えぇ、疲れました」
幸子「……ま、ボクのかわいさは奇跡的なレベルなので。すぐに名の売れるアイドルとして知れ渡りますから知ってる人もいるかと思いますけど」
光「あはは、幸子はかわらないなぁ!」
幸子「あなたはどうしていつもそんなになれなれしいんですか……はぁ」
麗奈「ちっ……生意気そうな奴」
幸子「むっ……なんですか、あなた?」
麗奈「別に……なんとなくアンタとはソリが合わない気がするだけよ」
幸子「……ふーん。奇遇ですね、ボクもそう思ってました」
麗奈「へぇ……」
小春「ふぇぇ~、やめてぇ~!」
法子「あ、あれあれ? 2人とも……?」
輿水幸子(14)
麗奈「面白いじゃない、やれるもんなら……」
光「お、おいおいいいかげんに……」
蘭子「や、やめよっ!(や、やめてくださいっ!)」カッ
幸子「……神崎さん」
蘭子「友よ、私は無益な争いなど望まないわ(け、喧嘩はよくないと思いますっ!)」
蘭子「そ、それ以上の争いを起こすというのならばこの『瞳』を持ちて粛清せんっ!(どうしてもっていうなら私が相手になりますぅっ!)」
幸子「……はぁ、それ解読できるのはこの場でボクだけだと思いますよ?」
蘭子「ふぇ……」
麗奈「……」ポカン
幸子「ちょっとばかりクセのあるしゃべりかたをしますけど、悪い人じゃないですよ?」
蘭子「あ……我が名を心に刻むがいい!(よろしくおねがいしますっ!)」
幸子「だからそれじゃ他の人に伝わりませんってば」
蘭子「う……うぅ……」
幸子「はい、せーのっ」
蘭子「よ、よろしくおねがいしましゅっ!」ガリッ
蘭子「……いたい……」
光(噛んだ)
かな子(噛んじゃった……)
神崎蘭子(14)
蘭子「……!」
幸子「なんですかそのキラキラした目は。やめてくださいよ」
蘭子「幸子ちゃん、私のことを『友』と……!(だって、幸子ちゃんが私のことを友達って……!)」
幸子「べ、別にそれはいいでしょう。まったく」
光「へぇ……幸子の友達か。よろしくな!」
蘭子「う、うむっ!(は、はいっ!)」
光「アタシの名前は南条光……すべてのアイドルと友達になる女だ!」ビシッ
麗奈「アンタもアホやってんじゃないの、アタシまでアホだと思われるじゃない」ベシッ
光「いたいっ!? な、なにするんだ!」
小春「お、おちついて~!」
法子「……それにしても、いっぱい人が来たなぁ。どんなドーナツがいいかな……」ブツブツ
かな子(どうしよう、このメンバーをまとめられる気がしないよぉ……)
かな子「……え、あっ、何かな?」
法子「ドーナツの材料、買いにいった方がいいかな?」
かな子「そ、そうだね。いっぱい材料も必要だろうし私が用意した分じゃ足りないかも……」
法子「わかった! よーしっ、みんなー!」
かな子「え、えっ」
法子「かな子ちゃんについていって、お買いものだよ!」
麗奈「……正直帰りたいんだけど」
小春「麗奈ちゃん帰っちゃうの……?」ウルッ
麗奈「……いいわよ、別に。どうせオフだしこのレイナサマがつきあってあげる事実に感謝しなさいよね!」
光「よっしゃぁ、楽しみだなー♪」
幸子「ふぅ、もう少し落ちついて行動したらどうですか?」
光「……じいやがいっていた。乙女は燃えるもの。火薬に火をつけなければ花火はあがらない……ってな!」
幸子「はぁ、やれやれ……」
かな子「お、おー……」
ゾロゾロ…
かな子(うぅ、やっぱり多いよ……大丈夫かなぁ、普段だよ……法子ちゃんは……)
法子「ドーナツ♪ ドーナツ♪」
かな子(ドーナツのことしか頭に無いみたいだし。大丈夫かなぁ……)
光「アタシ、あんたに興味があるぜ!」ビシッ
蘭子「ふ、ふむ? なかなかの業の深さだ。面白い(え、えっ? 私のことが気になるって……どうしてですか?)」
麗奈「だから人を指さすのやめろっていってるでしょ、もう」グイッ
光「あいたたた……」
幸子「まぁ、あなたの話し方なら当然といえば当然でしょう……自覚はありますか?」
蘭子「それは……その……」
幸子「やれやれ……」
麗奈「はぁ……」
幸子・麗奈「「……ん?」」
かな子「あ……ちょっと待って。小春ちゃん……」
小春「どうしよぉ……ヒョウくんが……」
かな子「……だよね。うーん、どうしようか……」
光「ん? あぁ……小春1人だと心配だな。じゃあアタシが」
麗奈「いいわよ」
光「……麗奈?」
麗奈「アタシが残っててあげるから、アンタらは買いものしてなさい。そこらへんぶらぶらして、適当に時間がたったら戻ってくるから」
光「い、いいのか?」
麗奈「別に帰ったりなんかしないから安心しなさいよね……はぁ、まったく世話が焼ける連中ね」
光「恩に着るよ、さすが麗奈っ!」
小春「あ、ありがと~! 麗奈ちゃん、だいすきだよぉ~」
麗奈「はいはい……」
蘭子「……? 如何した、我が友よ(どうしたの、幸子ちゃん?)」
幸子「あ、いえ。別に……」
蘭子「……共に、往きたいのならば私に構わずともよいのだぞ?(あ、あの2人が気になるのなら私のことは構わなくても……)」
幸子「でも、それじゃああなたの言葉を理解できる人がこっちにいないじゃないですか。あなた、爬虫類は苦手でしょう?」
蘭子「う、だがしかし、縁が……(でも、せっかくお友達になれそうなのに……)」
幸子「そういう意味じゃ……」
光「ん、友達? 幸子、麗奈のことが気になる……のか?」
幸子「……!?」
光「あれ、どうしたんだ幸子?」
幸子「今、ひょっとして神崎さんのいった言葉の意味を……」
光「あ……いや、なんとなくだけどわかったよ?」
光「さぁ、なんでだろう? グロンギ語を自力解読しようとしたこともあったからかなぁ」
幸子「グロ……? よくわからないけど、理由になりますか、それ?」
光「ならないかもな。だけどさ……これから友達になろうって相手にその理屈付けなんていらない。そうだろ?」
幸子「はぁ、相変わらずなれなれしいというか距離感が近いというか……」
光「いいじゃないかいいじゃないか! ……ん、蘭子? どうかした?」
蘭子「我が言霊を解す、だと……!?(わ、私のいっている意味が、わかるんですか?)」
光「うん、なんとなくだけどな!」
蘭子「フ、フフフッ、やるではないか人の子よ!(す、すごいですっ! 驚いちゃいました!)」
光「それほどでもないさ……あ、幸子」
幸子「なんですか?」
光「麗奈はたぶん、結構幸子と似てるから仲良くなれるよ」
幸子「……ふん、そうですか。じゃあ迷子にならないよう、あの2人についていくことにしますね」
光「ははっ、素直じゃないところとか、なっ!」
幸子「知りませんっ!」
麗奈「はぁ? 頼んだ覚えはないんだ……け……ど………」
光「……」ジッ…
麗奈「……まぁ、いいわ。勝手にすれば?」
幸子「ふん、そうさせてもらいます」
小春「わぁ~、幸子ちゃんもお友達になってくれるんですかぁ~?」
幸子「……別に。あなたたちがそうなりたいならそう呼んでくれても構いませんけどね。ボクの友達なんて誇りに思ってもいいんですよ?」
麗奈「は? 勘違いしないでよね。あんたがこのレイナサマと友達になりたいっていうからついてきてもいいって……」
幸子「むっ……」
麗奈「なによ……」
小春「お友達~♪」ニコニコ
幸子「……」
小春「どうしたのぉ?」
麗奈「……やめときましょ。あいつらはもう店の中に入っちゃったし適当に歩くわよ」
幸子「ま、いいでしょう」
かな子「えぇと、バリエーションもつけたほうがいいよね? 皆の希望は?」
法子「え? うんっ! あたし、チョコドーナツとか作りたいなぁ」
光「プレーンシュガーで」
蘭子「禁断の果実、荘厳たる黄金。それこそ我が悲願、求めしもの……!(フルーツ系とか、クリーム系も美味しいですよね。お腹すいてきちゃった……)」
かな子「そ、そっかぁ……えぇと、光……ちゃん?」
光「うん? どうしたんだ、かな子さん」
かな子「蘭子ちゃんはどういうのがいいっていったのかな……?」
光「えぇと、フルーツとか、クリームとかそういうの……」
かな子「む、そっかぁ……なるほど。じゃあ……」
蘭子「あ……」
かな子「ん、どうしたの……?」
かな子「……?」
蘭子「ふ、ふつ、ぅに……話す、の……苦手で……」
かな子「あ……うん。大丈夫だよ、私達も理解できるよう頑張るから!」
蘭子「……感謝するぞ、糖の姫よ……(ありがとうございます、かな子さん)」
かな子「と、とうのひめ……って私のことだよね」
光「な、なんだそれカッコイイ! いいなぁかな子さん!」
かな子「そうかなぁ……」
光「蘭子、アタシにも、アタシにもっ!」
蘭子「え……う、うむっ! 任せよ、光の使者よ!(え、は、はいわかりました! 光さん!)」
光「おぉ、M78風だ!」
蘭子「む……気に召さなかったか?(あ、気にいりませんでした……?)」
光「いやぁ、確かにかっこいいんだけどさ……やっぱり、友達だったら普通に名前を呼ばれたいかもってね」
蘭子「名を……(名前を、ですか……?)」
光「あ、嫌ならいいんだけどさ。もっと近くになりたいんだよ!」
蘭子「……わ、わかっ……了承した。そなたの真名を、呼ばせてもらおう……ひ、ひかる…さん」
光「さん……呼び捨てで!」
蘭子「流石の私にもできぬことはあるのだっ!(む、無理ですよぉっ!)」
かな子(よくわからないけど、いいなぁ……光ちゃんは元気で……)
かな子「あ、そういえば法子ちゃんは……」
法子「私はドーナツの使者かドーナツの姫がいいなぁ……」
かな子「わぁお……」
法子「やっぱりドーナツっていいよねっ♪」
かな子「法子ちゃんは本当にドーナツが好きだね……」
法子「うん、だってみんなを笑顔にできちゃう素敵な食べ物だから!」
かな子「そっか……」
法子「そうだよ?」
かな子(本人が満足そうだし、私が突っ込むべきじゃない話題な気がする……)
光「まぁ、確かに美味しいよなぁドーナツ」
法子「そうだよねっ!」
かな子(あっ、目が光った気がする)
光「う、うん、そうだな……」
かな子「あ、あー。ほら、お買いものしようよお買いもの! ね?」
法子「あ、そうですね! ドーナツ作り楽しみだなぁ♪」
かな子「……うぅん、法子ちゃんのあの情熱はいったい」
光「あはは……なんなんだろうなぁ……さ、荷物持ちはアタシに任せろっ!」
かな子「じゃあ買うものは……そうだ、ジャガイモとかもありかな」
法子「ジャガイモ?」
かな子「それはあとからのお楽しみ! バターと牛乳、卵とあと、カスタードクリームの素も買っておいて……」
光「ぐっ……思ってたよりも多いみたいだなぁ、荷物……」
蘭子「で、では私もまたそなたらの咎を請け負おう!(じゃ、じゃあ私も持ちますよ!)」
光「あ、いいのか? ありがとう蘭子!」
幸子「あ、あぁ……ゼェ……ハァ……お、遅かった、ですね……」
麗奈「レイナサマを、待たせるなんて……ケホッ……いい、度胸じゃない……」
小春「あ、みんな~! おかえりなさーい♪」
かな子「えーっと……どうしたの……?」
麗奈「どうもこうも無いっての……ったく、もう」
幸子「古賀さんがヒョウくんを逃がしちゃって、ボク達が探すことになったんですよ……やれやれ」
法子「えっ!? た、大変!」
小春「でもちゃんと見つかったんですよ~? えへへぇ、とっても嬉しいです~♪」
蘭子「……邪気が無いというのもまた、罪深きことよ……(小春さん、そんなにのんきなお話じゃなかったんじゃ……)」
幸子「えぇ、とんでもなく苦労させられましたよ……あなたもよく付き合ってられますね」
麗奈「ハッ、こいつにちょっかいかけていいのはアタシだけなのよ」
幸子「どうだか……」
麗奈「は? アンタどこに目ぇつけてるのよ!」
幸子「まったくですよ。こんな人とボクが仲良しだなんて……」
小春「でも2人でヒョウくんを見つけてくれて、一緒に抱いてきてくれたんですよ~?」
麗奈「また余計なことをっ……!」
幸子「あれは1人で持つのはつかれそうだったから仕方なくですね……」
小春「えへへ~、でも仲良しはいいことってヒョウくんも言ってるよ~?」
麗奈「……もう、否定するのも疲れたわ。勝手にしなさいよ」
幸子「まったく、同感です」
かな子(……よくわからないけど、仲良くなったみたいでよかった……のかな?)
蘭子「絆……」
光「ネクサス!」
かな子「え?」
麗奈「ほっといていいわよ、こいつはこういう奴だから」
幸子「まぁ、神崎さんもいつもこうですからね……」
蘭子「……如何なる意味かしら?(ど、どういう意味ですかぁ……)」
光「だから麗奈もネクサスをみるべきだよ! 絆は光なんだ!」
麗奈「はぁ……じゃ、さっさと用事すませちゃいましょ」
かな子(……さっきまでより、ずっとほがらかな雰囲気になったみたい。よかった……)
法子「じゃあ我が家にれっつごー♪」
かな子「お、おじゃましまーす……」
法子「あ、お母さんたちはでかけてるから気にしなくても大丈夫! あがってあがって!」
幸子「お邪魔します」
蘭子「侵略すること火の如し!(お邪魔します!)」
光「ここが法子の家か……」カシャッ
麗奈「どこから出したのよそのトイカメラ」
光「柔道六段空手五段の人のカメラは手が出なくてこっちにしたんだ」
麗奈「そういう問題じゃなくてね……」
小春「えへへ~、とっても落ちつきますね~♪」
かな子(大丈夫なのかなぁ、これ……)
かな子「えーっと、やっぱり揚げドーナツのほうがいいよね? だから……」
かな子「薄力粉とベーキングパウダーを混ぜて……バターもいるかな?」
かな子「それと一緒にポンデケージョの粉とホットケーキミックスを使ったのも作ってみよう!」
法子「お、おぉーっ! そんなにいっぱい作れるの!?」
かな子「こうなったらやれるところまでやっちゃうよーっ!」
光「プ、プロの目だ……」
かな子「さぁて、がんばろう! 生地が煉れるまでの間にジャガイモをスライスして煮崩れるまで茹でるよ!」
蘭子「馬鈴薯……だと……?(じゃがいも、ですか?)」
かな子「うん。ポンデケージョの粉とホットケーキミックスを混ぜたのとは別でポンデケージョも作ってみようかなって」
幸子「……その、ポンデケージョっていうのはなんですか? ポンデリングとは別、ですよね」
かな子「えーっと、もちもちしたお菓子なんだけど……それを揚げたらポンデリング風になるかなって思って」
法子「す、すごーい! かな子ちゃんすごい!」
かな子「うまくいく自信はないけど、ね?」
法子「美味しそう……だけど……」
かな子「うん、言いたいことはわかってる……こっちの、ホットケーキミックスを使った奴は型を使って揚げようね?」
法子「うんっ!」
幸子「……いつになくイキイキしてますね」
蘭子「己が魂が震えるその時……生きているという実感を味わえるの……(やっぱり、好きなものには夢中になっちゃうんですね!)」
麗奈「でもあれ、かなり柔らかかったわよ? 大丈夫なのかしら……あ、スペ3出すわ」
光「ぬわぁっ!? お、おのれディケイドー!」
小春「大富豪楽しいです~」
幸子「生地を寝かしている間はヒマですからね……」
幸子「やれやれ、調子に乗るのもそれぐらいにしておいたほうがいいんじゃないですか? ボクが富豪をキープするために利用しているだけだってわからないんですか?」
光「笑え……笑えよ……」
蘭子「瞳の奥に闇が見える……(また貧民です……)」
小春「えへへ~、楽しいね~?」
かな子「なんだかみんなも楽しそうだね……法子ちゃんも混ざってきていいんだよ?」
法子「ううん、あたしここで待ってたい!」
かな子「でも生地を寝かせてるだけだし、しばらく待ってればいいんだから……」
法子「美味しくなぁれってお祈りしてるから! もうちょっとだけ! ね?」
かな子「……そっか、うん。じゃあ私も」
法子「さっすがかな子ちゃん!」
かな子「でも、そのあとはみんなと一緒に大富豪に混ぜてもらおうね?」
法子「うん!」
幸子「……流石に12連敗ってありえないんじゃないですか?」
麗奈「大富豪が都落ちした時以外大貧民だものね……」
蘭子「こ、これが罪……!?(つ、ついてない日だってありますよ……ね?)」
小春「ヒョウくんパワーで連勝です~♪」
法子「うぅ、やっぱりドーナツパワーが足りないのかなぁ……」
かな子「そろそろ大丈夫だよー!」
法子「あっ、はーい!」
光「……」ブツブツ
麗奈「ほら、ボサっとしてんじゃないの!」ゲシッ
光「いてっ!?」
かな子「うーん、いっぺんには無理だから交代しながら順番にやってみよっか?」
麗奈「ふん、このレイナサマのが一番うまくできるのはわかりきってるけどね」
幸子「へぇー、まぁボクほどじゃないでしょうけれどね?」
麗奈「……何よ」
幸子「なんですか?」
小春「小春はヒョウくんと一緒に応援してます~♪」
光「よしっ、今度こそ活躍だ!」
法子「なんだか、ワクワクするねっ!」
かな子「あはは……うん。じゃあやってみよう! お手本を見せるね?」
光「よしっ、じゃあまずは……」
幸子「ボクからやらせてもらいましょうか!」
光「な、なんだと!?」
幸子「まぁ、このボクにかかればこの程度楽勝でしょうから、お手本を見せてさしあげますよ!」ドヤッ
かな子「あ、あはは……うん、それじゃあやってみよっか」
幸子「えぇ……まずは、型を抜いて……ん、あれ?」
かな子「結構力がいるんだよ、大丈夫?」
幸子「こ、これぐらい平気です! ふんっ!」ズルッ
幸子「あっ……歪んじゃった……」
かな子「うーん、でも大丈夫だよ! これぐらいなら揚げて膨らめば気にならなくなるはずだから」
幸子「……ふ、ふふん。今回はたまたまうまくいきませんでしたけど次のは……」
麗奈「アタシね!」
かな子「う、うん。大丈夫?」
麗奈「もちろんよ。アタシの手にかかればこれぐらい……」
かな子「でも型の向き、反対……」
麗奈「……あ、アンタが気づくかどうかためしてやったのよ! 合格ね! フ、フーハァッハッハ!」
かな子「そっか……」
麗奈「そうよ、文句ある?」
かな子「ううん、なんにも?」
麗奈「ならいいのよ、ふん」クルッ
かな子(さりげなく持ちかえたけど、やっぱり間違えちゃってたんだよね……?)
麗奈「で、どう抜いたもんかしら……」
かな子「こ、ここら辺とかかなー?」
麗奈「そう……じゃあ、参考にするわ」
かな子(あ、素直に従ってる……)
蘭子「我が咎を見るがいい!(頑張ります!)」
かな子「蘭子ちゃんか……型抜き、じょうずだね」
蘭子「ふふん、我が術式の前ではあまりに無力! 描くは我が咎、我が命!(こういう型抜きとか、お絵かきって大好きなんです! だから、張り切っちゃって)」
かな子「う、うん……そっか……」
蘭子「うむっ!(はいっ!)」
かな子(よくわからないけど、すっごく楽しそう……)
蘭子「あ……」
かな子「どうしたの?」
蘭子「我が身に炎を纏うことになれば、周りもただではすまないぞ……?」ガクガク
かな子「……えーっと、ひょっとして。油がはねるのが怖い……とか?」
蘭子「……」コクッ
かな子「じゃ、じゃあ一緒にいれよっか。ね?」
蘭子「……う、うむ」
光「どうしたんだ、かな子さん!」
かな子「いや、あの……光ちゃん? 大丈夫?」
光「大丈夫だ。任せろ……ホアチャーッ!」ビシッ
かな子「だからその掛け声はなんなの!?」
光「気合い……かな」
かな子「なんでいい顔してるの!?」
光「おばあちゃんが言っていた……どんな調味料にも食材にも勝るものがある。それは料理を作る人の愛情だ」
かな子「う、うん……」
光「だからアタシはここにありったけを込めるんだ!」
かな子「なにか間違ってる気がするよ……」
法子「……」
かな子(……すごく真剣な表情。邪魔しないようにしたほうがいいよね)
法子「やった、うまく抜けた!」
かな子「わっ、すごい! ポンデージョの生地ってやわらかいのに……」
法子「えへへ、ドーナツのためならこれぐらい!」
かな子「法子ちゃんは本当にドーナツが好きなんだね……」
法子「うん! それに、今日はかな子ちゃんや、みんなもいるから!」
かな子「……そっか」
法子「そうだよ! だからとっても楽しみで、このドーナツはきっと最高に美味しいんだろうなーって思うの!」
かな子「そうだね、私もすごく楽しみ! お腹すいてきちゃった」
法子「……食べ過ぎちゃだめだよ?」
かな子「わ、わかってるよぉ!」
法子「やったぁー!」
かな子「ポンデージョの揚げたのは……ふにふにだね。すごく柔らかくなっちゃった」
小春「でもふわふわで美味しそうです~♪」
光「流石は法子とかな子さんだなぁ、アタシ達はうまくできなかったのに……」
麗奈「ま、アタシは普通のドーナツで普通じゃない自分を演出できるからいいのよ」
幸子「へぇ……」
麗奈「なによ? 文句でもあるわけ?」
幸子「いいえ、別に? でもきっとボクが作ったドーナツの方が美味しいですよ?」
麗奈「上等じゃない、食べ比べよ!」
幸子「いいでしょう、受けて立ちます!」
かな子(あれは仲良くなったのかな……?)
光「うん、うまい! このチョコドーナツもいいなぁ……」
蘭子「ふふふ……我が漆黒の闇はまた、甘美な黒……(わ、私が揚げたんです! 美味しいですよね、とってもっ!)」
小春「美味しいです~♪ ヒョウくんはどう?」
ヒョウ「……」フルフル
小春「うん、そっか~」
幸子「食べてないじゃないですか……」
小春「ううん、気持ちだけでいっぱいだっていってるんですよ~?」
幸子「いやいや……まさか、ねぇ」
麗奈「……ま、悪くないわね」
光「麗奈の悪くない、はすごくいいって意味だぜ?」
麗奈「……適当ぬかしてんじゃないわよ」
小春「でも麗奈ちゃんのこと、好きだよ~?」
麗奈「そういう話じゃなくて! ったくもう……」
小春「えへへ~照れ屋さんだね~」
ヒョウ「……」ペロッ
麗奈「なめんじゃないわよ! 物理的にっ!」
法子「あ、あはは……うん! こういうのも、ドーナツのおかげ!」
幸子「……どういう解釈ですか、それ?」
かな子「……そうだね?」
法子「それで輪っかになってて、美味しくってね」
法子「一緒に食べる人がいてくれるともっと美味しいんだぁ」
法子「ドーナツ見たいに手を繋いで輪っかになったら友達でしょ?」
法子「一緒に輪っかになって食べるあたし達も、ドーナツみたいだなーって!」
麗奈「……どういう意味よ、それ」
幸子「ま、いいんじゃないですか? 本人も満足してるみたいですしね」
小春「とーっても美味しくて、楽しいですよ~?」
法子「それがドーナツパワー!」
法子「うん! ここにいるみんなも……大切な時間を一緒に過ごして輪っかになったからドーナツなの!」
光「……いいセリフだ、感動的だな」
光「嫌いじゃないわー!」バッ
法子「きゃっ!?」
光「感動したぜ法子! うん、そうだな……アタシ達はドーナツだ! ドーナツヒーローだ!」
麗奈「アンタはいい加減ヒーローから離れなさいよ……」
蘭子「ふふふ……人の世の理もまた、円環の如し……(なんだか、すごく深い言葉だった気がします……胸に響きました!)」
法子「だよねっ!」
小春「楽しかったし、また集まってドーナツ作りたいです~♪」
かな子「……そうだね。うん! 私もとっても楽しかったからまた機会があったらしてみたいかも」
麗奈「ちょっ……そんな立て続けにやったら誰かけが人でも出るんじゃないの?」
光「じゃあ今度はこの間知り合ったメタルな奴を!」
麗奈「アンタの知り合いには基本的に問題があんのよバカ!」
光「えーっ」
幸子「……ま、どうしてもっていうなら吝かでもないですけれどね?」
蘭子「クックック……よかろう、いかなる挑戦も受けてやろう!(オフの日も合わせるから教えてくださいね!)」
法子「もっちろん! 蘭子ちゃんのいってること、あたしもわかるようになったし!」
小春「ドーナツパワーすごいですね~」
麗奈「え、そういう問題なの……?」
幸子「……え?」
法子「だって、こうやって穴があいてるドーナツには、確かに穴があるんだよ?」
法子「なのに、食べると穴が無くなっちゃう! とっても不思議だなーって思って、あたし考えたの!」
法子「ドーナツの穴があるのか、それともドーナツの穴は無いのか! そしたら――」
光「な、なんだか哲学的な話になりそうなんだけど!?」
蘭子「血が滾るわ……!(ちょっと、興味深いです!)」
幸子「……ボクは知りませんからね」
小春「ヒョウくんペロペロ~♪」
麗奈「小春もちょっと現実逃避してないで帰ってきなさいよ……」
かな子「……よくわからないけど、とにかくよし!」
おわり
ドーナツの日のうちに終わらせたかったけど、眠気もキツいしこの辺で
アイドル同士の絡みを書こうとするとおなじみのメンツになるけど、精進します
保守支援ありがとうございました!
ほのぼのも良いな
ドーナツ食いたくなってきたわ
かな子は良心
あと蘭子ちゃんかわいい
Entry ⇒ 2012.10.09 | Category ⇒ アイマスSS | Comments (0) | Trackbacks (0)
ハマーン「ガンダムファイターの友人ができた」マシュマー「!?」
ハマーン「いや、私も先程来たところだ」
アレンビー「そう? じゃあ行こっか……って言いたいんだけど、その前に」
ハマーン「どうした?」
アレンビー「あのさ。この男の人……誰?」
マシュマー「私はマシュマー・セロ。ハマーン様に忠誠を誓う薔薇の騎士だ!」
ハマーン「……すまん。どうしても護衛したいと言って譲らなくてな……」
アレンビー「へ、へぇ……まあ、いいけどさ」
ハマーン「いや」
アレンビー「じゃあその辺で腹ごしらえしようよ! ファーストフードでいい?」
ハマーン「……ファーストフードか。もう何年も食べていないな」
アレンビー「何年もって……普段は何食べてんの?」
ハマーン「普通だよ。ムニエルやオマール海老などの魚介類が好みだが、基本はシェフに任せている」
アレンビー「…………えっ」
ハマーン「どうした?」
アレンビー「もしかして、ハマーンってお金持――」
マシュマー「『様』を付けんかぁぁぁ!!」
アレンビー「!?」ビクッ
ハマーン「よい、マシュマー」
マシュマー「し、しかし……くっ、承知いたしました」
アレンビー「び、びっくりしたぁ……呼び捨てがダメなくらい、凄いお嬢様なの?」
ハマーン「フッ、気にする必要はない。それより昼食だ」
アレンビー「あっ、そうだったね。行こ行こっ」
マシュマー「むぅ……タメ口でさえ許容しがたいというのに、呼び捨てとは……」
――――
ハマーン「ふむ……俗物だが、たまに食すと案外悪くないものだな」
アレンビー「あたしは結構食べてるけどねー」
ハマーン「それは、世辞にも食生活が整っているとは言えんな?」
アレンビー「だろうね。だから太るんだろうけど……」
ハマーン「ほう、太っているようには見えないが」
アレンビー「この間500gも増えちゃって……」
ハマーン「フフ……それは確かによくないな」
マシュマー(たった500gの何を気にするというのか……難しいものだ)
アレンビー「それ聞いちゃう?」
ハマーン「女同士だ、別に良いだろう」
アレンビー「こっちの人は?」チラッ
マシュマー「…………」
ハマーン「マシュマーは、こう見えて口の固い男だ。そうでなくては側に置かんよ」
マシュマー「は、ハマーン様……そのような言葉をいただけるとは、ありがたき幸せ!」
アレンビー「……でも、ちょっと変わってるよね」
ハマーン「ああ。それだけが難点だよ……」
マシュマー「……ハマーン様のご命令とあれば、それもやむなし」
アレンビー「ううん、別にいいよ。あたしはこの間の検査だと、155cm、45kgだった」
ハマーン「……それは標準だ。太っているとは言わん」
アレンビー「そっか。ファイトやトレーニングで燃焼してるからかも。そういうあんたはどうなの?」
マシュマー「き、貴様ぁ! 呼び捨てどころか今度は『あんた』だと!?」ブルブル
ハマーン「いいと言ったぞ、マシュマー。小娘とはいえ私の友人に違いはない」
アレンビー「小娘って、あんた21だよね? 4歳しか違わないじゃん……」
ハマーン「……168の、48」
アレンビー「いぃ!? や、痩せすぎだよ! そんな食生活だとそのうち死ぬよ!?」
ハマーン「重々承知している。だが、見た目はカリスマ性に関わるからな……」
アレンビー「……カリスマ性? ハマーンって何者?」
ハマーン「当ててみろ。ニュータイプなら私の心を感じられるだろう」
アレンビー「あたし、超オールドタイプなんだけど……」
アレンビー「なに?」
マシュマー「ハマーン様の身体情報は国家機密だ。外に漏らせば銃殺刑ということを頭に留めておけ」
アレンビー「えぇ……? 国家機密とか銃殺刑とか、なんか物騒な単語まで出てきたし……」
ハマーン「銃殺刑にしようにも、この女に銃など通じないがな」
アレンビー「まあね。ガンダムファイターだから」
アレンビー「え?」
マシュマー「正直、どこにでもいる普通の娘にしか見えん。本当にガンダムファイターなのか?」
アレンビー「あ、信用してないね。じゃあさ、試してみる?」
マシュマー「……試す? アームレスリングでもやるのか?」
アレンビー「違うって。ゲーセンにもっといいモノがあるんだよね~」
マシュマー「体感格闘ゲーム『バトル兄貴2』?」
アレンビー「そ。プレイヤーの動きにあわせてキャラが動く、最新の格闘ゲームだよ」
ハマーン「概念的にはモビルトレースシステムに近いな」
アレンビー「よく知ってるね。ドモンと知り合ったのもこれがキッカケだったなぁ」
ハマーン「面白いな。マシュマー、やれ」
マシュマー「……承知しました。戦士として場に立つのであれば、女子供であろうと手加減せんぞ」
アレンビー「いいよっ。さあ、ファイトしようよ!」
基本的にシャアとドモンの悪口を吐きまくるんですねわかります
アレンビー「体の慣らしは終わった?」
マシュマー「うむ。いつでもかかってくるが良い」
アレンビー「じゃ、ファイト前に握手ね」
ギュッ
アレンビー「へぇ。ファイターじゃないのに結構鍛えてるね」
マシュマー「…………」
アレンビー「……どうしたの?」
アレンビー「……大丈夫? なんか顔赤いよ」
マシュマー「いやっ! そ、その……」
ハマーン「…………」ジー
マシュマー「うっ!? は、ハマーン様、これは、これは違うのです!」
ハマーン「? 何が違うのか分からんが、早く始めろ」
マシュマー「は、はっ!」
ストーカー「ネオスウェーデン代表、アレンビー・ビアズリーのファイトを始めます!」
ハマーン「どこから沸いて出たのだ、この中年は」
ストーカー「それでは、ガンダムファイト! レディ~……ゴー!」
マシュマー「おうりゃぁぁぁ!!」
アレンビー「遅いよ!」
ドゴォ!
マシュマー「うぐぉぉぉぉ……」ガクッ
ハマーン「いいのが腹に入ったな……マシュマー、そこで吐くなよ」
アレンビー「えっ!? た、立てるの?」
マシュマー「は、ハマーン様の前で、無様な姿を見せられん……!」
アレンビー「……凄いね、この人」
ハマーン「それほどか?」
アレンビー「ゲームだし衝撃は相当減ってるけど、私のパンチ食らって立てる人なんて殆どいないよ」
ハマーン「ほう。マシュマー、大したものだな」
マシュマー「こ、光栄の極み……」
アレンビー「好きな人にいいとこ見せたいだろうけど、ごめんね」
ズドォ!
マシュマー「おぐっ」バターン
ハマーン「……ファイター相手に、健闘した方か」
アレンビー「うん。いいファイトだったよ!」
マシュマー「――――」
アレンビー「って、聞こえてないか……」
マシュマー「――――」
アレンビー「全然起きないなぁ。やりすぎちゃったかな?」
ハマーン「どこにそんな力が詰まっているのだ……」
ストーカー「アレンビー選手は、こう見えてパワーファイターですから」
ハマーン「……そうは見えんな」
ストーカー「ですが、あのボルトガンダムを48秒で倒した経験もおありですよ」
アレンビー「あれは……あのシステムのせいだから。その話はしないで」
ストーカー「これは失敬」
ハマーン(……なんだ? 一瞬、アレンビーの心に陰りが見えたが……)
ストーカー「それでは、失礼いたします」サササッ
アレンビー「速っ。ゲルマン忍者みたい」
ハマーン「さて……では、マシュマーは目が覚めるまでどこかに寝かせておくか」
アレンビー「そだね。折角ゲーセンに来たんだし、何かゲームやってく?」
ハマーン「……思い返せば、私はゲームというものをやったことが無いな」
アレンビー「え……マジ?」
ハマーン「プライベートでは嘘などつかんよ。政治ではともかくな」
ハマーン「コンピュータゲームか。キュベレイはあるのか?」
アレンビー「あるよ。キュベレイ好きなの?」
ハマーン「い……いや、そういう訳ではないが」
アレンビー「じゃあ百式とかどう? 使いやすいよ」
ハマーン「断る」
アレンビー「……えっ」
アレンビー「そ、それなら、ジ・Oもオススメ――」
ハマーン「却下だ」
アレンビー「…………」
ハマーン「……キュベレイ一択だな」
アレンビー「う、うん。それでいいと思うよ……」
アレンビー「あー、遊んだ遊んだ! ハマーン超強いね、ホントに初めてやったの?」
ハマーン「気に食わん」
アレンビー「…………え?」
ハマーン「キュベレイは、スペック上はもっと機動性が高いはずだ」
アレンビー「ふぅん……?」
ハマーン「ファンネルの弾数も実際は倍以上ある」
アレンビー「なんか、詳しいね……」
ハマーン「……一緒に出かけるとは、そういうものか」
アレンビー「うん。そういうもの」
ハマーン「私は、同性の友人と出かけたことなどほとんど無くてな。何をすればいいのかも分からん」
アレンビー「……意外とバカだね」
ハマーン「なに……?」
ハマーン「それは……喫茶店の店員に迷惑だろう」
アレンビー「そんなの気にしたら負けだよ。好き勝手生きないで何が楽しいのさ?」
ハマーン「……フフ。面白い奴だな、貴様は」
アレンビー「ええ? それが普通だと思うけどなぁ……」
ハマーン「楽しく生きるという感情など、とうに忘れていたよ」
アレンビー「……確かに、なんか苦労してそうだもんね、ハマーンって」
ハマーン「……マシュマーを寝かせておいた場所に、誰もおらんな」
マシュマー「ハマーン様ぁぁぁぁ!」ダダダ
アレンビー「わっ、走ってきた」
ハマーン「マシュマー、起きていたのか。大声を出すな、恥を知れ」
マシュマー「ハッ! も、申し訳ありません……」
ハマーン「……なんだ、これは」
アレンビー「キュベレイのぬいぐるみだね」
マシュマー「クレーンゲームで取って参りました! 1万ほど吸い込まれましたが……」
ハマーン「………………」
アレンビー「これこれ。これが好きに生きるってこと。ハマーンは不器用すぎだよ」
ハマーン「……なるほどな。マシュマー、褒めてつかわす」
マシュマー「ははっ……え?」
ハマーン「どうした?」
マシュマー「い、いえ。『くだらん』と一蹴されることも覚悟しておりましたので……」
ハマーン「私がそんな冷血な女に見えるか?」ニヤリ
マシュマー「め、滅相も無い!」
アレンビー「うん。まずは服だね」
ハマーン「服?」
アレンビー「うん。ハマーンの服」
ハマーン「……私は、服なら十分すぎるほど持っているが。パーティ用、会談用……」
アレンビー「違うって、買うのは遊びに行く時の服だよ」
ハマーン「今着ているこの服では、何か問題があるのか? 全身黒という私好みの――」
アレンビー「ダサい」
ハマーン「!?」
マシュマー「!?」
アレンビー「だからって全身黒とか、友達と遊びに行く時の格好じゃないよ」
ハマーン「……そうなのか、マシュマー?」
マシュマー「私はハマーン様がどのようなお姿であれ、その魅力は変わらないものと――」
ハマーン「貴様の主観ではなく、一般論でだ」
マシュマー「……あえて申し上げるならば」
ハマーン「…………」
マシュマー「『無いな』と」
ハマーン「ぐぅぅっ! 貴様、なぜ私が出かける前に言わなかった!」
マシュマー「ご、ご機嫌で準備をされているハマーン様を見ると、なんとも言い出しづらく……」
アレンビー「うーん……これも捨てがたいね」
ハマーン「安いな。たった10万か」
アレンビー「や、安い?」
ハマーン「ああ、金に糸目はつけんよ。私に似合う物を選びたい」
アレンビー「赤とか似合うんじゃない?」
ハマーン「それは断る」
アレンビー「……何かこだわりでもあるの?」
ハマーン「いいや。あるのは、嫌な思い出だけだよ」
ハマーン「いいだろう」
アレンビー「あとついでに下着も何着か選んだから、これも着けてみて」
ハマーン「こ、これは……なかなかきわどいな……」
アレンビー「そう? マシュマーさん、どう? これ」サッ
マシュマー「いっ!?」
ハマーン「ま、マシュマーに見せるな!」
マシュマー「そ、そうだ。私に話を振られてもだな……」
アレンビー「下着は男の意見が重要なんだよ? ハマーンが着けたところを想像すればいいんだって」
マシュマー「そんな不埒なことができるか! な、なんて女だ……!」
アレンビー「マシュマーさん、純情すぎでしょ……」
アレンビー「ここをこうして、こう」キュッ
ハマーン「あっ……! き、きつい……」
アレンビー「痩せてるから、しっかり締めとかないとずり落ちちゃうよ」グイッ
ハマーン「んんっ……!」
マシュマー「……二人が一向に試着室から出てこんな」
メイリン「うわっ、ちょっとお姉ちゃん、あの人見て」
ルナマリア「やだぁ、下着売り場に突っ立ってる。もしかして変態?」
メイリン「彼女待ちなんじゃない? そうは見えないけど」クスクス
マシュマー「…………なんと過酷な任務だ……!」
ハマーン「疲れた……」
マシュマー「疲れた……」
アレンビー「なんでマシュマーさんまで疲れてんの?」
ハマーン「……どこかで休憩したいのだが」
アレンビー「いいよ。その辺の喫茶店に入ろっか」
ハマーン「ああ。落ち着ける場所ならどこでも構わんよ」
マシュマー「しかし小娘、貴様なんというバイタリティだ……」
ハマーン「確かに、まったく疲れる気配を見せんな」
アレンビー「鍛えてますから」シュッ
――――
アレンビー「ふぅ。それにしても、ハマーンってほんとに普通の人じゃないね」
ハマーン「アステロイドベルトまで行った人間が帰ってくれば、普通ではなくなるよ」
アレンビー「へー。よくわかんないけど、お金持ちのお嬢様なの?」
ハマーン「……そのようなところだ。ところで、私にも貴様の話を聞かせろ」
アレンビー「え?」
ハマーン「女性のガンダムファイターは珍しいのだろう? どう生きてきたのか興味がある」
アレンビー「そうだけど……たぶん私の話なんて聞いても、あまり面白くないよ」
アレンビー「あ、それ読み上げてもらった方が早いかも。読んでみて」
マシュマー「アレンビー・ビアズリー。ネオスウェーデン代表のガンダムファイターです。
17歳女性。身長155cm、体重45kg。スリーサイズは上から82・50・81。
特技は軍で習った格闘術、趣味はゲームと映画。
無名のファイターでしたが、バーサーカーシステムによって
優勝候補のボルトガンダムを48秒で倒し、一躍名を馳せました。
その後ゴッドガンダムに敗れ、惜しくも優勝を逃しております。以上」
アレンビー「詳しすぎて気持ち悪いよ!」
ハマーン「貴様、その調子で私のことまで調べていないだろうな……」
マシュマー「い、いえ! ハマーン様の情報は国家機密ですので!」
ハマーン「ゴッドガンダムというと優勝したガンダムだな。ファイターはドモン・カッシュだったか」
アレンビー「うん。敗けた後は、一緒にトレーニングしたり、タッグを組んだり……」
ハマーン「…………」キュピーン
アレンビー「ドモンはかっこいいんだよ。悲壮な運命にも負けずに――」
ハマーン「その男が好きなのか?」
アレンビー「…………ちょっと。NT能力って、そういうとこに使うの、アリなの?」
ハマーン「フフ……」
ハマーン「ほう。未練があるならいくらでも聞いてやるぞ」
アレンビー「うーん。確かにまだ好きなんだけど、もう諦めちゃったし……」
ハマーン「いや、心の奥底では自分を捨てた男に対する恨みつらみが溜まっているはずだ」
アレンビー「そんなことないってば」
ハマーン「なぜ振り向いてくれないとか、また置いていくのかとか、全ての憎しみを吐き出せ!」
アレンビー「……なんか、嫌なことでもあったの?」
ハマーン「………………」
アレンビー「ほうほう」
ハマーン「だが私と奴は敵同士だった。そこで私に付いてこいと言ったのだが、跳ね除けられた」
アレンビー「あー、よくあるパターンだね。それでそれで?」
ハマーン「そこで私の物にならないのならばいっそ、と思い、殺してやったよ」
アレンビー「ええええええぇぇぇぇぇぇぇ!?」
ハマーン「フン……」
マシュマー「ハマーン様は元来こういうお方だ。貴様の前ではそのお姿を見せていないが」
アレンビー「ええええぇぇぇぇぇ……」
アレンビー「絶対違うから! 迷惑とかじゃなくて、人殺しちゃってるじゃん……」
ハマーン「人を殺すなど、パイロットであれば日常茶飯事だろう?」
アレンビー「それでも、キラルでもそこまで安易に殺さないよ……ってハマーン、パイロットだったの?」
ハマーン「…………知らん。教えてやる義理は無い」
アレンビー「ちょっと、傲慢すぎるって……そんな偉そうな態度じゃ、その元彼も逃げちゃうよ」
ハマーン「男に媚びるなど我慢できん」
マシュマー「さすがはハマーン様! お姿だけでなく理念までお美しい……」
アレンビー「あ、これが普通なんだ……?」
――――
ハマーン「……む。もうこんな時間か」
アレンビー「ホントだ。じゃあ晩ご飯でも食べて、その後映画とか……」
ハマーン「いや、私はもう戻らねばならん。公務があるのでな」
アレンビー「公務……?」
ハマーン「ああ。良かったよ、貴様に会えて」
アレンビー「……あははっ、大げさすぎ! また遊びに行こうね!」
ハマーン「その時はこちらから連絡しよう。行くぞ、マシュマー」
マシュマー「かしこまりました、ハマーン様」
――――
アレンビー「……ってことがあったの。面白い奴でしょ?」
レイン「あ、アレンビー……あなた、もしかしてハマーン・カーンを知らないの?」
アレンビー「うん。あんまりニュースとか見ないから」
ジョルジュ「……ハマーン・カーンはザビ家の正統、ミネバ・ラオ・ザビの摂政です」
アルゴ「つまり、ネオ・ジオンの実質的な指導者ということだ」
アレンビー「えっ……」
チボデー「何かとんでもないことしてねぇだろうなぁ?」
アレンビー「………………」
アレンビー「い……いっぱいしちゃったけど……」
イリア「……ど、どうされたのです、その庶民的なお召し物は……」
ハマーン「そのようなこと、どうでも良い。私の私服について、何故普通ではないと指摘しなかった」
イリア「……はっ!?」
ハマーン「お陰で、そのコーディネートだけで貴重な時間を使ってしまったではないか……!」
イリア「な、何のお話でしょうか?」
ハマーン「その時間があれば、映画が観れたと言っている……!」
マシュマー「ハマーン様、おいたわしや……」
イリア「……も、申し訳ありません……」
アレンビー「あっ、ハマーンからメールだ」
レイン「あなた、本当にハマーン・カーンとどういう仲なの……?」
アレンビー「『来月頭の日曜に映画を観よう』だって。おっけーだよ、っと」カタカタ
レイン「その……くれぐれも、失礼の無いようにね」
アレンビー「またダサい服着てきたら『なにそれダッサ!』ってパシーンと叩こうと思ってたんだけど」
ドモン「おいおいアレンビー、それはまずいだろう」
アレンビー「もう、ドモンまでそんなこと言うの? ただの友達なのに……」
ドモン「手加減しないと死んでしまう。軽くやるんだ」
アレンビー「わかった!」
レイン「そういう問題じゃないから!」
マシュマー「来月頭の話であれば、まどかマギカなど如何でしょうか」
ハマーン「よく知らんが、貴様に任せる。つまらぬものであれば銃殺刑だ」
マシュマー「承知いたしました」
ハマーン「あとは、もう一度ゲームセンターという所に行きたいのだが……」
マシュマー「『エゥーゴvsティターンズ』の家庭版が私の部屋にございます」
ハマーン「本体ごと貸せ。あと対戦に付き合うのだ」
マシュマー「ははっ」
ハマーン「それと『バトル兄貴2』でアレンビーに一矢報いられるよう、貴様も特訓しておけ」
マシュマー「はっ……は!?」
ハマーン「私の騎士であれば造作もあるまい?」ニヤリ
マシュマー「…………はい……」
マシュマー「まだ何か……」
ハマーン「これを私の部屋のどこかに飾っておけ」ポイッ
マシュマー「……こ、これは……!」
ハマーン「貴様が好き勝手に生きた証だ。部下の働きには報いてやらねばな」
マシュマー「あ、ありがたき幸せにございます! このマシュマー・セロ、存命の限りハマーン様に――」
ハマーン「……さて、またメールでも出しておくか」
ピロリン♪
アレンビー「『映画は流行りのまどかマギカでどうだ?』……え、えぇぇ~?」
アレンビー「何そのチョイス……やっぱりハマーンって変わってるよ……」
終わり。
ハマーン様が歳相応の友達と過ごすとどうなるの?を書いてみたかっただけだよ!
よかった!アレンビーとは意外なチョイスだった
Entry ⇒ 2012.10.09 | Category ⇒ ガンダムSS | Comments (3) | Trackbacks (0)
岡部「最近ラボメン達が中途半端に前の世界線の記憶を思い出してる」
岡部(無事このシュタインズ・ゲートの世界線に辿り着き、そして奇跡的に紅莉栖とも再会した……)
岡部(紅莉栖もまゆりも死ぬ事のない世界線。これでやっと平穏な日々を取り戻した……そう思っていた)
紅莉栖「ねえ、岡部……答えて」
岡部「……」
紅莉栖「わ、私たち……そのっ」モジモジ
岡部「……」
紅莉栖「き、キス、したわよね」
紅莉栖「た、確かラボの……こ、この辺りで」
岡部(辛い記憶のある紅莉栖には、まだ世界線漂流の経験を全て語っていない)
紅莉栖「し、しかも一回じゃなくて何度も、何度も……」モジモジ
岡部(リーディングシュタイナーは誰もが持つ能力。だから、いずれはラボメンの誰かが記憶を思い出すと予想はしていた……しかし)
まゆり「オカリン……」
フェイリス「ニャニャ!?凶真はフェイリスと二人きりの夜を過ごしたのにクーニャンにも手を出していたのかニャ!?」
ルカ子「お、岡部さんは僕とデートしてくれたのに……」
萌郁「私も……キス、された」
岡部(どうしてこうも全員中途半端に思い出してるのだ!)
紅莉栖「……好きだ」ボソッ
岡部「!?」
紅莉栖「……世界で一番大切な人の事を忘れる筈ない」ボソッ
岡部「なっ……」
紅莉栖「岡部が……言ってくれた」
まゆり「……」
フェイリス「凶真……」
ルカ子「岡部さん……」
萌郁「……」
紅莉栖「そのままはぐして……何度も何度もキスした」
岡部「も、妄想も大概に……」
紅莉栖「岡部はファーストキスじゃないって言ってた……」
岡部「」
紅莉栖「そう言えば、岡部のファーストキスの相手って、だれ?」
岡部「そ、そんな事、どうでも……」
萌郁「私……?」
紅莉栖「えっ」
紅莉栖「なっ!?」
まゆり「オ~カ~リ~ン?」
岡部「ご、誤解を招くような言い方はやめろ! キスだけだっただろうが!」
萌郁「……やっぱり、あの事は……本当、だったんだ」
岡部「あっ……」
岡部(しまった……!)
萌郁「……岡部くん」
岡部「な、なんだ……?」
萌郁「責任……取って、ね?」
岡部「……」
岡部「はあああああ!?」
紅莉栖「ちょっ、桐生さん!?」
フェイリス「抜け駆けなんて卑怯ニャ!」
萌郁「岡部くんに……キス、された。それも、押し倒されて……大胆に」
まゆり「どういう事かな~オカリン」
ルカ子「お、岡部さんに押し倒されるなんて……いいなぁ」
紅莉栖「そ、それなら私だって岡部に責任を取って貰う必要があるわよ!」
フェイリス「ニャニャ、そ、それニャら凶真と、岡部さんと一緒に寝た私だって!」
紅莉栖「えっ」
まゆり「フェ、フェリスちゃん……?」
ルカ子「ど、どういう事ですか!?」
紅莉栖「寝たのは否定しないんだ……」
まゆり「まゆしぃ、だってオカリンに一緒になんて、最近ないのに……」
ルカ子「お、岡部さんと一晩一緒!? はあ、はあ……」
萌郁「牧瀬さん、フェイリス、さん……私……三股?」
岡部「違う!」
岡部「そ、それは、その……」
フェイリス「岡部さんっ!」ギュッ
岡部「!?」
フェイリス「やっぱり、岡部さんは、私の王子さまだったんだね」
岡部「こ、こら、離れろ留未穂!」
まゆり「オカリンはフェリスちゃんの本名を知らない筈なのに……」
紅莉栖「それじゃあ……」
萌郁「全て、事実……」
ルカ子「全部、本当……なら、僕が岡部さんとデートして、そのまま結ばなて赤ちゃんを授かったのも本当なんですか!?」
岡部「えっ」
フェイリス「さ、さすがにそれは……」
まゆり「ルカくんは男の子だから赤ちゃんはできないんじゃないかな~?」
岡部「そ、そうだ!何を言っているのだルカ子!」
岡部(確かにデートはしたが、子作りなどした記憶がないぞ!?)
ルカ子「で、でも……」
岡部「だいたい、デートと言っても結局最後はいつも通り修行をしただけだ」
萌郁「デートは、したんだ……」
岡部「」
岡部「そ、そうか……」
ルカ子「はい……えへへ」
岡部「……」
紅莉栖「4股とか……」
まゆり「……」
萌郁「岡部くん……意外とやり手、だね」
フェイリス「凶真の一番がフェイリスなら、別に構わないニャ」
岡部(まだデートをしただけのルカ子、一緒に寝ただけの留未穂は、まだ何とかなる……多分)
岡部(問題は萌郁と紅莉栖だ。二人にキスをしたのは事実だ……)
岡部(責任は取るべき、なのか……)
まゆり「オカリン」
岡部「な、なんだ?まゆり」
岡部(まさか、また何かややこしい事が……!?)
岡部(いや、待て。まゆり相手には特に手を出していな……)
まゆり「オカリンは、まゆしぃの手をむぎゅーって握ってくれてね、どこか二人で遠くに行こうとしてたよね」
岡部「えっ?ああ……」
岡部(確かに、まゆりの死を回避する為に色々と策を試したな。海外逃亡までしようとした事もあったな)
まゆり「えへへ、あれって駆け落ちしようとしたんだよね」
紅莉栖「か、駆け落ち!?」
フェイリス「そ、そんニャ……」
萌郁「遊び、だったの……?」
ルカ子「駆け落ちならぼ、僕も一緒に連れて行って下さい!」
岡部「な、何を言ってるのだまゆり!?」
まゆり「あれぇ?でも、オカリン、何だか必死に何かから逃げようとしてるみたいだったよ?」
岡部(た、確かにまゆりの死から何としても逃げようとしていたが!)
紅莉栖「そうか、分かった……」
フェイリス「クーニャン?」
紅莉栖「岡部は、私たちと4股して、バレそうになったからまゆりと駆け落ちしようとしたんだ……」
ΩΩΩ<な、なんだってー!
フェイリス「そんなっ……私は、岡部さんとずっと一緒にっ」
ルカ子「か、駆け落ちなんて……どうして僕と駆け落ちしてくれないんですか!?」
萌郁「……責任、逃れ……、酷い」
紅莉栖「わ、私の初めてを奪っておいて、駆け落ちなんて、許さないからな!」
岡部「なんだよ、これ……」
まゆり「オカリンと駆け落ちかぁ……えへへ、まゆしぃはそれもいいのです」ムギュ
岡部(世界線漂流の事を全て話すか……? だが萌郁にはどう説明すればいい?)
岡部(まずは、まゆりと駆け落ちの誤解を解かなければ……)
岡部(その為には俺が駆け落ちする必要がない事を証明しなければならない)
岡部(駆け落ちする必要がない。つまり、4股でないと、彼女たちに理解して貰わねばならん)
岡部(ならば……)
紅莉栖「な、なによ!高笑いしても誤魔化せないんだからな!」
岡部「誤魔化すぅ?助手ぅ、貴様は一つ勘違いをしているぞ」
紅莉栖「勘違い?」
岡部「俺は勘違いどころか、そもそも4股すらしていない!」バサッ
紅莉栖「はあ!?あ、あんた今更になってなかった事にする気なの!?」
岡部「違う!なかった事にする?俺がそんな事をする筈はない!」
紅莉栖「」ビクッ
紅莉栖「で、でも4股して、私にキスして他の子達に浮気してたじゃない!」
岡部「浮気ではない!全部本気だ!」
紅莉栖「!?」
岡部「確かに俺はお前とラボで何度もキスをした。今でもあの時の感触を明確に思い出せる」
紅莉栖「お、思い出さんでいい!」
岡部「あの時言った言葉も、気持ちも、全て本当だ。嘘偽りはない」
紅莉栖「そ、それって……」
岡部「だがそれは他のみんなも一緒だ」
岡部「萌郁を必死になって押し倒されてキスしたのも事実だ。あんなに激しいキスをしたのは初めてだった」
萌郁「岡部くん……」キュン
岡部「ああ」
岡部(……あれ、よく考えてみればこっちの方がゲスリンじゃないか?)
紅莉栖「へぇ~」
岡部「い、いや待て!違うんだ!状況が状況だったのだ!」
紅莉栖「女の子と一緒に寝て、違う女の子とデートとして、また違う女の子を押し倒してキスして、そして告白した挙げ句、また他の子と駆け落ちする状況ね~」
岡部「いや、それは……」
ぼわっ
紅莉栖「きゃっ!」
フェイリス「ま、前が見えないニャ!」
萌郁「眼鏡……曇る」
まゆり「あわわっ」
ルカ子「い、一体何が……」オロオロ
紅莉栖「くっ、やっと見えるようになった……あれ岡部は?」
フェイリス「いないニャ」
萌郁「……逃げた」
岡部「はあ、はあ……咄嗟に逃げてきたが、これからどうする」
岡部(とりあえず、紅莉栖には後で事情を全て説明しよう。そしたら理解はしてくれる筈だ)
岡部(まゆりも、前の世界線で全て終わったら話すと約束していたんだ。話せば、今回の事も納得してくれるだろう)
岡部(萌郁には全て話せないが、とりあえず何か言い訳を考えておくか……)
岡部(ルカ子とフェイリスには、全て話すべきかどうか……)
岡部「とにかく、今日はラボには戻れんな……ん? あれは……」
ダル「……」
岡部「ダル……?」
岡部(いや、待て。鈴羽がこの時代に居る筈がない。となると……)
岡部「鈴羽の母親となる女性……確か、名は阿万音由季だったか」
岡部「なるほど……ダルめ、既に嫁を見つけたのか。全く幸せ者め……」
ダル「……!」
由季?「~っ!」
岡部「しかし、何だ……様子が変だな。会話はここからじゃ聞こえんし、少し近付いてみるか」
ダル「由季たん!由季たん!」ハアハア
由季?「や、やめっ」
ダル「ぼ、僕たちは将来ケコーンして鈴羽たんを授かるんだお!だから今のうちに練習を……」ハアハアハアハア
岡部「」
ダル「あっ、オカリン!ふひひ、紹介するお!僕の嫁の阿万音由」
岡部「その歪み!俺が断ち切る!」ドゴッ
ダル「」
岡部「大丈夫か?」
由季「えっ、は、はい……」
岡部「……一つ聞くが、その男とは知り合いか?」
由季「いえ、さっきそこでいきなり話しかけられて……」
岡部「そうか……」
岡部(ダルと阿万音由季とのファーストコンタクトは最悪な形になってしまったな)
岡部「済まない、迷惑をかけたな」
由季「な、なんであなたが謝るんですか?助けてくれたのにそんな……」
岡部「俺はその男の知り合いなんだ。少し錯乱していたみたいで、そいつの知人とあなたを誤認していたようだ」
由季「そ、そうだったんですか……」
岡部「本当は悪くない奴なんだ。許してくれると有り難い」
由季「いえ、そんな……気にしませんよ」
岡部「そうか、ありがとう」
岡部(良かった……これで少しはケアできたか?)
由季「あ、あのっ」
岡部「なんだ?」
由季「名前、聞いてもいいですか?」
岡部「ああ、こいつの名前は橋田至だ。ダルとでも呼んでやってくれ」
由季「そ、そっちじゃなくて、あなたの名前を」
岡部「俺か? フッ、そんなにも我が真名が聞きたいか!我が名は鳳凰院凶真!狂気のマッドサイエンティストだ!フゥーハハハ!」バサッ
由季「あなたもレイヤーですか?出来れば本名の方を……」
岡部「レイヤーではない!この白衣はマッドサイエンティストにとって正装なのだ!決してコスプレではない!」
由季「それで、名前は……」
岡部「ぐぬぬ、華麗にスルーしよって……岡部倫太郎だ」
由季「岡部、くん……」
岡部「ふん。ではまたな、阿万音由季」
由季「……岡部、倫太郎」
岡部「気がついたか」
ダル「オカリン……? 僕、なんでこんな所に……あ、そうだ!由季たん!僕の由季たんは?」
岡部「由季たん!ではない!全く……少しは落ち着け」
ダル「落ち着けとかwwwwwwあんな可愛さ子が嫁確認なのに落ち着けとか無理だろ常考wwwwwwうっはwみwなwぎwっwてwwきwwwたwww」
岡部「このHENTAIめ……」
岡部(まあ、向こうもあまり気にしてはないみたいだし、ダルがこれから猛アタックを続ければ、いずれは結ばれるだろうな)
ダル「あれ?ねえ、オカリン。あれ由季たんじゃね?」
岡部「なに?阿万音由季はさっき別れた筈だが……」
鈴羽「おっ、いたいた!おーい!父さ~ん!おじさ~ん!」
岡部「なん、だと……」
岡部「ば、馬鹿な!?何故この時代に鈴羽が!?」
鈴羽「えへへっ、えいっ」ムギュ
岡部「なっ」
ダル「何となく分かってたけど、オカリンェ……」
岡部「お、お前、なんで……」
鈴羽「えへへっ、来ちゃった」
岡部「き、来ちゃったって……」
ダル「オウフ……天使すぐる」
岡部(あれ? 鈴羽、髪を染めたのか? 前は黒ではなかった筈だが……それに癖毛じゃなくてストレートになってる)
鈴羽「問題?ううん、父さんたちに会いにきただけだよ?」
岡部「り、理由はそれだけなのか?」
鈴羽「うん」
岡部「そ、そうか……」
岡部(問題が起きてない、ただ俺達に会いに来ただけでタイムマシンを使ったのか? この世界線の未来はどうなっているのだ)
ダル「うwwwっwwwはwwwその為にパパたちに会いにくるとかwww可愛いすぎるだろwww」
鈴羽「あはは、やっぱりダルおじさんはいつの時代も相変わらずだね」
岡部「こいつの性格は未来でも変わっていないのか」
ダル「オウフwwwサーセンwww」
岡部「…………」
ダル「…………」
岡部・ダル「「あれ?」」
鈴羽「もう~その呼び方は止めてよ、ダルおじさん」
ダル「お、おじ……」
岡部「ほ、ほら、ダル!鈴羽も思春期なんだ!娘が父親から距離を置く話をよく聞くだろ?」
ダル「な、なるへそ!思春期か~まさか鈴羽たんにも来るとはwwwパパショックだおwww」
鈴羽「ええ~距離なんて置いてないよ」ムギュ
岡部「えっ」
鈴羽「んっ」チュッ
岡部「んむっ!?」
鈴羽「んっはむ……ぷは、ほらね?あたしたち親子、仲が良いってご近所からも評判なんだよ?」
ダル「」
鈴羽「あれ?ダルおじさん、倒れちゃったよ。具合でも悪かったのかな?」
岡部「本当、なのか……?」
鈴羽「ん?なにが?」
岡部「お前が、俺の……娘?」
鈴羽「もう、今更なに言ってんのさ。オカリン父さん」ムギュ
岡部「お、おかしいだろうが!阿万音由季はダルと結ばれる筈だ!?だいたい、親子ならキスなんてせんわ!」
鈴羽「でも、確かにあたしの母さんは阿万音由季で、父さんは岡部倫太郎だよ?それに……んっ」チュッ
岡部「んむぐっ」
鈴羽「んっ、キス、教えてくれたの、父さんなんだよ?」
鈴羽「いつしか父さんのキスなしじゃ、満足に寝付けなくなったんだよね~」
岡部「そ、そんな事、許される筈がないだろ!?阿万音由季は止めなかったのか!?」
鈴羽「う~ん、だってこれ、そもそも父さんが母さんにしてた事をあたしにもするようになっただけだし……」
岡部「」
ダル「」
岡部「な、なにがだ」
鈴羽「だってあんなにも上手な父さんと初々しい状態でキスできるんだもん。タイムマシンを使う価値はあるよ!」
岡部「」
ダル「」
鈴羽「えへへ、これから滞在中は毎日キスしてね、父さんっ」
岡部「ば、馬鹿者!そんな事……」
鈴羽「父さんのキスなしじゃ眠れないんだよ。こんな風にしたの、父さんなんだから。ちゃんと責任取ってよね」
岡部「」
最初は違和感しかなかったが、最近では自分でもキスが上達してるのが分かってきて、楽しむようになった。
これも、リーディング・シュタイナーが及ぼした歪みの一つなのだろう。だから俺はそれを否定しない。なかった事にはしない
紅莉栖たちについてだが、結局萌郁を覗いた全てのラボメンに真相を話した。正直、あそこまで思い出した萌郁を完全に誤魔化す事はできないと思っていたが、なんとかなった。
恐らく、彼女も薄々気付いてはいるだろうが、特に追求される事はなかった。
紅莉栖たちに俺が本気だったという事が伝わり、誤解も解けた。ダルは旅に出た。リーディング・シュタイナーによって生まれた歪みは無事全て解決した。
岡部「なあ、聞いて良いか?」
由季「なに?」
岡部「娘にキスをする父親って、どう思う?」
由季「う~ん、それも愛情表現の一つだと思うけどな」
岡部「そうか……」
由季「もしかしたら、この子が産まれたらする気?」
岡部「……さあな」
由季「それじゃあ、平等に、私にも……」
岡部「無論、そのつもりだ」
由季「えへへ……私たち、愛されてるね、鈴羽」
終わり
読んでくれた人、ありがとニャンニャン
これやっぱりゲスリンだよね(確信)
乙
ダルはどこに旅に出たんだろうな...
Entry ⇒ 2012.10.09 | Category ⇒ シュタインズゲートSS | Comments (0) | Trackbacks (0)
シェリー「ここはマール王国よ」ほむら「マール王国・・・」
ほむら(それに少しずつ世界も変わっている)
ほむら(これ以上こんなことしてていいのかしら・・・)
ほむら(まどかが死ぬのは運命なのかしら)
ほむら(いいえ、ここで終わらせたら全てが終わる・・・)
ほむら(今度こそ・・・)
ほむら(ここはどこかしら・・・)
ほむら(明らかに病院じゃ無さそうだけど)
???「あっ、目が覚めたのね!」
ほむら「誰!」
シェリー「あたしはシェリー、シェリー・エスポワールよ」
シェリー「あなたの名前は?」
ほむら「私は暁美ほむら・・・・・・」
シェリー「そう、じゃあほむらちゃんね!」
シェリー「暁美ちゃんじゃ違和感感じるし・・・」
ほむら「いえ・・・あまり名前で呼ばれなかったので・・・」
シェリー「あらあら、ほむらちゃんかわいい」ナデナデ
ほむら「・・・・・・」カアァ!
シェリー「そういえばあなた、不思議の森で倒れてるのを保護したんだけど」
シェリー「あなた、この時代の人間じゃないでしょ」
シェリー「・・・今は言えないのね」
シェリー「大丈夫、今は安静にしててね」
ほむら「・・・恐らく私はここから遥か未来から来たわ」
ほむら「私はそこで親友を助けるために何度も戦った」
ほむら「でも、何度やっても結果は変わらなかった・・・」
シェリー「そう、すごく苦労したのね」ギュッ
ほむら「あなたに何が分かるの!」
シェリー「分かるよ!」
シェリー「大切な人が死んで行くのはとても悲しいよね・・・」
ほむら(ああ、なんて悲しそうな目)
ほむら(彼女もそんな経験をしたのね・・・)
ほむら「うわああん!!!」
シェリー「よしよし、今は少し立ち止まって良いのよ」ナデナデ
シェリー「そしてまた歩き出して行けばいい」
シェリー「その時はこの言葉を覚えていて欲しいの」
シェリー「『女は行動力』ってね」
シェリー「そう、覚えておいてね!」
ほむら「・・・うん」
シェリー「よく言えました!」ナデナデ
ほむら「シェリー曰く、いつ帰れるか分からないそうなので」
ほむら「このまま居候というわけにはいかないからです」
ほむら「そして問題はそれからしばらくして起こったのです」
魔女「ウガガガガガガア!!!」
ほむら「ハア・・・ハア・・・」
ほむら(ここの魔女は全体的に強いのは少ない)
ほむら(しかし数が多い)
ほむら(そうなると起こる問題は・・・)
ほむら(この国の技術でそんな物は作れないはず・・・)
ほむら「・・・・・・・」
ほむら「とりあえず教会に行こう」
オレンジ村
シェリー「ほむらちゃん!」
ほむら「シェリー、どうしたの!」
シェリー「ちょっとついてきて!」ギュッ
ほむら「えっ」
ほむら「あの男の人がどうしたのよ」
シェリー「あの男の人はカールっていうの」
シェリー「数年前は彼に何度も求婚されたものよ」
シェリー「あの時は元気だった・・・・・・・」
シェリー「首筋に変な紋章が出てるし・・・」
カール「・・・・・・・」スッ
ほむら(あれは拳銃じゃない!)
ほむら「早く彼を止めるのよ!」
シェリー「わかったわ!」
ナイトスポーノ「承知した・・・・・・」メテオ!
カール「グハッ!」
シェリー「カール、あなたはなんて馬鹿なことをしてるの!」
カール「放してくれ!私はセバスティアンを殺してしまった!」
カール「私に生きてる資格は無いんだ!」
シェリー「どうゆうことなの、周りの景色も変わってるし」
ほむら「ここは魔女が張った結界の中」
ほむら「普通ならここに入った時点で生きて帰って来れないわ」
シェリー「じゃあどうやってここから出るの?」
ほむら「この奥にこの結界を作った者がいるからそいつを倒せばいいの」
ほむら「私たちはそれを魔女と読んでいるわ」
カール「そうだったのか・・・」
ほむら「私は今からここの魔女を倒しに行くわ」
ほむら「あなた達もついて来て」
シェリー「分かったわ、カールは大丈夫?」
カール「ああ、大丈夫だ・・・」
ほむら(にしてもこの国の結界はやたら同じような景色が広がってるわね)
シェリー「ところで一つ聞きたいんだけど」
ほむら「あら、何かしら」
シェリー「ここに来てからやたら高笑いする魔女見たの?」
ほむら「見たけど、あれとは少し違うわ」
ほむら「あっ、やっと見えて来たわ」
ほむら「くっ、強い!」
ほむら「まさかここに来てこんなに強力魔女と戦うとは・・・・」
ほむら(弾も少なくなって来たし、本当にまずいわ)
シェリー(・・・・やるしかないのね)
ほむら「シェリー、しっかりして、あなたのお腹には子供がいるんでしょう!」
カール「そうだ、彼女の言う通りだ、しっかりするんだ!」
シェリー「ううん・・・大丈夫、それより今のほむらちゃんの格好は一体・・・」
ほむら「それはこっちのセリフよ!」
カール「私からすればどっちもどっちだよ」
ほむら「そしてシェリーも・・・」
シェリー「・・・・・・という訳よ」
カール「もう私の理解の範疇を越えてきたよ・・・」
ほむら「ということはいつ帰れるか分からないって言ってたのは・・・」
シェリー「そう、あたしが実際に経験してるからよ」
シェリー「ここに来た方法もあれだし」
ほむら「そうね・・・・・・」
カール「・・・・」
カール「ところでほむら君、君は私に頼みたいことがあるのだろう」
ほむら「どうしてそれを!」
カール「だから君は重火器などを使って戦っている」
カール「だが、その重火器なども未来のものなのでもう残りが少ない」
カール「だから君は、ローゼンクイーン商会の援助を受けたい」
カール「そんなところだろう」
ほむら「ええ、その通りよ」
ほむら「本当ですか!」
カール「君たちがいなければ私はきっとここにいなかっただろうしね」
ほむら「ありがとうございます!」
ほむら「最初こそ使いづらかったがすぐに改善され、」
ほむら「それの繰り返しで気が付けば現代の兵器のレベルに到達していた」
____
__
カール「やあほむら君、この前渡したマシンガンはどうだい?」
ほむら「ええ、もう私のいた時代と同じレベルに達してるわ」
カール「そうか、それは良かった」
カール「・・・・・・」
カール「戦争が終わるそうじゃないか」
ほむら「ええ、でもシェリーは相当落ち込んでたわ」
カール「あの古代兵器のことか」
カール「ああ、彼は絶対アレを政治利用するだろう」
カール「ほむら君、君はもしかして・・・」
ほむら「シェリーのために古代兵器を破壊する!」
ほむら「方法は簡単、時を止めて城に忍び込み」
ほむら「古代兵器の所に行く!」
カール「それからどうやってあれを壊すんだ」
ほむら「時を止めて重火器を大量に放つ、それだけでなんとかなるわ」
ほむら「明日の夜に行うわ」
カール「そうか、ならば君に渡したい物がある」
ほむら「これは・・・・・・・」
カール「これはローゼンクイーン商会の技術をフルに使って作られた小銃」
カール「エトワールだ」
カール「このエトワールという名前は近いうちに産まれる私の娘に付ける名前だ」
ほむら「そう、いい名前ね」
カール「それじゃあ健闘を祈るよ」
ほむら「この城の中に古代兵器があるのね」
シェリー「ちょっと待ったぁ!!」
ほむら「えっ、なんであなたがここにいるの?」
シェリー「カールから聞いたわ、今からこの城に入るのね」
ほむら「というよりあなた、体は大丈夫なの?」
ほむら「あなたのお腹には子供がいるのよ!」
シェリー「それにあなたは古代兵器のある場所を知らないでしょう」
ほむら「そういえばそうだったわね」
シェリー「さあ、古代兵器のところまで行こう!」
ほむら「遂に着いたわ・・・・・・」
ほむら「シェリー、少し放れてて」
シェリー「分かったわ」
ほむら(最初はこのカールからもらった銃で!)パアン!!
古代兵器「プシュューーーー」プスプス
ほむら「・・・・・えっ」
ほむら「・・・・・みたいね」
ほむら「こうしてゴロンゾの野望は終わった」
ほむら「エトワールという一丁の銃によって・・・」
______
___
ほむら「あれから数年が経った」
ほむら「シェリーに女の子が生まれ、私たちは幸せに過ごしていた」
ほむら「まどかの事を忘れてしまうほどに・・・・」
ほむら「でも神様はそれを許してくれなかった・・・・・」
ほむら「エトワールちゃん!本当なの!」
エトワール「コルネットちゃんが・・・とつぜん・・きえちゃって・・・」ヒック
ほむら「大丈夫、お姉ちゃんが必ず助け出すから」
エトワール「うん・・・・」
ほむら(ああ、一番恐れていたことが起こってしまった!)
シェリー「キュウべえ、ここでいいのね!」
キュウべえ「ああ、ここに君の娘がいるはずさ!」
ほむら「」
キュウべえ「・・・君は初対面の人間にそういう態度を取るのかい」
シェリー「キュウべえこれには事情があって・・・」
シェリー「・・・・・・という訳でほむらちゃんは未来から来たのよ」
キュウべえ「なるほどね」
シェリー「そうよ!ほむらちゃん、早く入るわよ」
ほむら「そうね、あの子は絶対寂しがってるわよ!」タッタッタ・・・
キュウべえ(行ったか・・・)
キュウべえ(まさか、こんなところで強力な魔法少女の資質を持つものに出くわすとはね・・・)
結界内部
ほむら「ハア・・・ハア・・・」
シェリー「ハア・・・ハア・・・」
シェリー「回復は大丈夫?」
ほむら「ええ、なんとか・・・」
シェリー「ええ・・ほむらちゃんがあんなに言っていれば普通に躊躇うよ・・・」
ほむら「そう・・・良かった」
ほむら「・・・にしてもこの使い魔、アレに似てるわね」
シェリー「ええ、まるで古代兵器に・・・そりゃそうさ!」
ほむらシェリー「!!!」
キュウべえ「考えてみなよ、古代兵器に関わっていて現在行方不明な人物を・・・」
シェリー「・・・ゴロンゾのことね」
キュウべえ「そうさ、彼は魔法少女だったのさ!」
シェリー「なんだって!」
キュウべえ「その通りさ!」
シェリー「でもゴロンゾは何を願ったの?」
キュウべえ「彼は古代兵器を作るために僕と契約したんだ!」
シェリー「それであんなにすんなり行ったのね」
キュウべえ「そしてアレは壊されてしまった」
キュウべえ「暁美ほむらというイレギュラーによってね」
ほむら「じゃあ・・・こんなことになったのは私のせい・・・」
キュウべえ「まあ、そうとも言えるね」
ほむら「そんな・・・私がコルネットを・・・・・・」
シェリー「・・・・・・」
シェリー「ほむらちゃん、しっかりしろー!!」
ほむら「えっ」
シェリー「あれは壊さなきゃいけないものだった」
シェリー「それにほむらちゃんが壊さなくてもあたしが壊してた!!」
シェリー「これはしょうがないことなのよ・・・・・・」
シェリー「だからね、悲しまないで・・・」ギュッ
ほむら「・・・・・・うん」
ほむら「ええ・・・」
魔女「ドレ、モットチカズイテミンカ」
シェリー「コルネット!」
コルネット「お母さん!」
ほむら「とにかく今はこの魔女を倒すのよ!」
シェリー「ええ!!コルネット・・・頑張って!!」
_____
__
成竜フレール「グエェェェ!!」ボオォォォ!!
魔女「コノワシノヤボウガ・・・・」
シェリー「終わったの?」
ほむら「コルネット!!」
魔女「ウゴゴゴゴゴゴ!!!」
シェリー「危ない!」
ほむら「ただ、私をかばって死にかけているとしか」
コルネット「お母さん!」
ほむら「シェリー、しっかりして!」
ほむら「あなたが死んだらコルネットはどうなるの!」
シェリー「うっ・・・・・・」
キュウべえ「なんだい、シェリー」
シェリー「あたしと・・契約して・・・」
ほむら「ダメよ、それは絶対にダメ!!」
シェリー「大丈夫、ここで・・・・死ぬよりかは・・・マ・・シだか・・ら」
シェリー「それ・・に、前にい・・・ったで・・しょ、『女は行動力』って」
キュウべえ「ちなみにこの肉体はもう回復しないから別の肉体を用意してね」
キュウべえ「それじゃあ、君の願いはなんだい?」
シェリー「私の願いは・・・・・・」
_______
____
ほむら「ナイトスポーノは未来に送っといたわよ、シェリー」
ほむら「とりあえずコルネットが16歳になる頃にポストに入ってるわ」
クルル「もう、これからはシェリーじゃなくてクルルだって言ってるだろーが!」バシン!!
ほむら「ううう、そうだったわね」
クルル「ちょっとだけね、でもほむらちゃんを助けなかったら」
クルル「あたしはもっと後悔してたと思う」
ほむら「そう・・・」
コルネット「お母さん・・・・・」ムニャムニャ
ほむら「・・・・・・・・・・・」
ほむら「恐らく今のクルルじゃ出来ないと思うの」
クルル「・・・・・・・」
クルル「うんうん、確かにほむらちゃんならいいお母さんになれそうよね」
クルル「でもそれは出来ない、だってほむらちゃんはもう未来に帰っちゃうもん」
ほむら「・・・えっ」
クルル「このまえキュウべえに聞いたの、『ほむらちゃんはいつ未来に帰れるのか』って」
クルル「そしたらキュウべえ、今日の夜に未来へ戻っていくって言ってたの」
ほむら「そうだったの・・・・」パアッ
ほむら「あっ、手が消えてきた・・・」
クルル「大丈夫よ、コルネットはあたしが何とかするよ!」
クルル「カールにもうまく言っとくし」
ほむら「でも!でも!私はここからいなくなりたくない!」
ほむら「コルネットも、カールも、みんな大好きだから!」
クルル「ほむらちゃん・・・・」
クルル「それは、『コルネットが幸せになるまで見守っていたい』って言う願いだよ」
ほむら「そうだったの・・・」
クルル「それと、もしチェロって言う男の子に出会ったら伝えといて・・・」
クルル「『いろいろあったけど幸せな人生だった』って」
ほむら「分かったわ・・・」
ほむら「じゃあね・・・シェリー・・・ありがとう」
______
___
ほむら「ということがあったの」
まどか「そんなの絶対おかしいよ!!」
まどか「キュウべえ!」
キュウべえ「確かに彼女にはすごい資質があった・・・」
キュウべえ「でも彼女は願いの通りにコルネットが結婚して幸せになったら」
キュウべえ「すぐ天国に行ってしまったからエネルギーの回収は出来なかったけどね」
ほむら「ええ、もう行かなくては・・・・」
まどか「ほむらちゃん、大丈夫なの?」
ほむら「ええ、女は行動力よ」
_______
____
杏子「おせーぞ!!ほむら!」
ほむら「あら、ごめんなさい」
マミ「あなたも早く戦いなさい、今回は楽な戦いではないわよ」
ほむら「ええ」
ほむら(あなたがよく言ってた『女は行動力』という言葉の通りね)
ほむら(そしたら、これまでのループの中で最良の結果となったわ)
ほむら(まどかと美樹さやかは魔法少女にならず、誰も死ななかったわ)
ほむら(だからシェリー、見てて・・・)
ほむら「女は行動力よ!!!!」
完
Entry ⇒ 2012.10.09 | Category ⇒ 版権物SS | Comments (2) | Trackbacks (0)
照「怜と久どっちがモテるかに決着をつける」
照「もちろん。勝負にはしっかりと決着をつけないと」
久「危害が無いのなら喜んでするんだけど、流石に昨日みたいになるならちょっと……」
照「大丈夫。菫に内緒でやればいい」
菫「……誰に内緒でするんだって?」
照「!?」
菫「まだ懲りてなかったのかお前……」
照「こ、これは崇高な知的欲求のためであって邪な気持ちはない」
菫「人の心を弄ぶ時点で邪だろ!」
怜「ま、正直ウチは遠慮したいかなー。もう二回もやったし」
久「私はどっちでもいいかな。ボコボコにされるのは嫌だけど」ニコ
照「……菫が怒ったのは松実さんに手を出したから。それ以外の子なら問題ないはず」
菫「おいコラ」
照「菫だって途中までノリノリだったクセに、終わった後に文句言うのはおかしい!」
菫「そ、それは……」
照「それに昨日だって松実さんとしっぽり出来たのは私たちのおかげとも言える」
菫「そんなことはしていない!」
久「でもまた一つ距離が近づいたってことは事実なんじゃないの?」
怜「ウチらは委員長のために犠牲になったんやな」
菫「お前らいけしゃあしゃあとそんなこと……!」
菫「意味わからんことを言うな! こんなことはもう絶対に……」
久「体操服」
菫「!?」
久「松実さんのたい」
菫「ちょ、ちょっと待て!! ……ど、どういうことだ……?」
久「別に何も?」
照「体操服がどうしたの?」
怜「さあ、意味分からん」
久「ふふふ……」ニヤニヤ
菫(こ、コイツ……まさかあの時……)
菫「待て! ……お、脅す気か?」
久「別にそんなつもりはないわ。ただ、見守ってくれればいいだけで♪」
菫「た、竹井……!」
照「……え、二人とも何の話してるの?」
怜「久が照のために交渉してくれてるんや。優しいなー」
久「別に弘世さんにこれ以上のデメリットが生まれるわけでもないし、ね? ちょっとくらい肩の力抜きましょうよ」
菫「……何か問題が起こった瞬間に止めるからな」
久「だそうよ、宮永さん」
照「さすが菫! 話がわかる!」
怜(久は絶対に敵に回したくないなぁ)
久(人がいない時間だったとは言え、教室であんなことしてる方が悪いと思うけどね……)タハハ
照「それじゃあ早速くじを引いて行こう」
久「いっきまーす。……えっと、>>24?」
怜「また悪い顔しとる……」
照「愛宕さんって、隣のクラスでソフトボール部の?」
菫「体育の時間、よく声を出して目立ってる彼女だな」
怜「久と友達なん?」
久「まあね。1、2年まではクラス同じだったし、そもそも同じ生徒会だし」
照「生徒会……あ、副会長だ」
菫「知らなかったのか……」
久「まったく顔も知らない1年生とかに比べたらまだやりやすいわね」
照「これもまた好記録が期待される。怜は二回目失敗だから、タイム次第では決着がつくかもしれない」
久「とりあえず行ってくるわー。たぶん……ソフトボール部の練習中でしょうね。連れ出すのに骨が折れそうだわ」
怜「生徒会があるー、とか言えばホイホイ付いてくるんとちゃうん?」
久「あの子はそんな簡単な性格じゃないのよね……」タハハ
照「これは4回目にして最大の強者なのかもしれない。とても楽しみ」
――――――――
久(さて、どうしたものか)
久(ある程度なら良いんだけど、あまりにも身近な人間になると逆に難しいわよね)
久(ゆみもかなり厄介だったけど、昔の話があったからまだやりやすかったのよね)
久(洋榎の場合は……ふふ、まあ。分の悪い勝負ほど面白いしやりがいもあるわ)
洋榎「なにやっとんねアホー! そんくらい2年やったらしっかり取れや! 次レフトー!」
久(やっぱり絶賛練習中かー。同じ部長なのにこっちは精が出るわねー)
末原「あ、会長」
久「ん?」
久「あら、末原さん」
末原「珍しいですね、会長がこんなとこにいるなんて」
久「まあね。ちょっとあなたのとこの部長に用があって」
末原「主将に? ……あ、生徒会ですか」
久「ま、そんなとこねー」
末原「ホンマすんません。所属してるにも関わらずあの人ロクにそっち行かんくて」
末原「ホンマですか? 生徒会長の肩書きが欲しいとかっていう不純な動機で立候補したあの人が仕事こなしてるなんて……」
久「興味が色々なところに向くってだけで、根は真面目だから」
久「それに部長としての役割もしっかりこなしてるじゃない」
洋榎「そんくらいのフライ追いつけやどアホー!!」
末原「ま、頼りになる主将ですよ」
久「本当ならもっと生徒会に来て欲しいんだけどねー」
末原「あんまり独占されるのはウチらとしても困りますからね」
久「今でも十分独占してると思うけど? あなたたちが」
末原「そう簡単には渡しません。生徒会立候補するって言うたときも全員で反対したくらいですからね」
久「ホント、愛されてるわねー」
末原「っとすみません。今はあんまり構えそうにないです」
久「いえいえ。お忙しいところごめんなさいね」
末原「もうすぐしたら昼休みなんで、そんときなら主将も暇やと思います」
久「ご親切にどうも。ゆっくり見学でもさせてもらうわ」
末原「よろこんで」ニコ
末原「今行きまーす!」タタタッ
久(上がしっかりしてる組織はやっぱり違うわねー……今年の全国も楽しみね)
久「いい天気……ま、のんびり行きましょう」
――――――――
洋榎「よし、休憩や! 各自しっかり水分取るようになー」
洋榎「練習再開は……任せたわ恭子!」
恭子「了解です」フフ
洋榎「ふー。あっちっちー……」
久「お疲れ様」ピタ
洋榎「ひゃっ!? ふ、普通に水も渡せんのか……って、久?」
久「はろー。今日も気持ち良さそうにやってるわね」
洋榎「なんでここにおんねんお前……」
久「あら、私が放課後のグラウンドにいちゃおかしいかしら」
洋榎「おかしいな。何か企んでるようにしか思えん」ジト
久「あ、あはは……」
久(のっけから手強いんだけど……)
久(ゆみと言い洋榎と言い、頭が回る子は厄介ねー……)
洋榎「言うとくけど、今日はフルで練習あるからそんなには構えんぞ?」
久「分かってるって。私だって部活中のあなたの邪魔をしようなんて思ってないから」
洋榎「ほんなら何の用やねん……」
久「えーっと……あ、そう言えば。昼休みってだいたいどのくらい?」
洋榎「1時間かそこらやな。それがどうした?」
久「いえ。いつまで洋榎と話ができるか気になって」
久(制限時間付き……これはもしかしたら無理かもしれないわね)
洋榎「なんやねん変なヤツやな……話なんて部活終わったあとかクラスでも出来るやろ」
洋榎「ん、ああ……どこ行く?」
久「適当な木陰でいいわ。部室は人が多いでしょうしね」
洋榎「んじゃそれで。っとその前に飯を調達せんとなー……」
洋榎「ふふ、おごってや久。お話料金ってことで」キラーン
久「分かったわよ……ホント、ちゃっかりしてるんだから」
洋榎「やた!」
―――――――――
洋榎「ふー。やっぱここは涼しくてええなぁ」
久「ええ、そうね。グラウンドも良く見えるし」
久(……油断してるときにキスするってアリかしら?)
久(相手の同意を得て、だからアウトよね…………難しいなぁ)
久(部活中の洋榎ってのも普段あまり見ないから新鮮ね。上は黒シャツ、下はユニフォームで……可愛い)ジー
洋榎「……なんやねんジロジロ見て。あげへんぞ」
久「そんなこと言わないでよ。一口ちょうだい?」
洋榎「お前一口とか言ってほとんど食べてまうやろ。あげへん」
久「それはいつも洋榎がしてることじゃない」アハハ
久「ね? ちょっとだけだから」
洋榎「たっく、しゃあないな……ほれ」
久「あむ」
洋榎「あっ!?」
久「ふふ、おいしー♪」
洋榎「このどアホ!! やっぱりほとんど食ったやんけ!」
久(指ごと食べたのはスルーなのね……)
洋榎「その焼きそばパン寄越せ! それでチャラや!」
久「しょうがないなぁ……少しは残してね? はい、あーん」
洋榎「あーんむっ」スカッ
洋榎「……おい」
久「なに?」ニコニコ
洋榎「なにちゃうわ! ちゃんと食べさせろやボケ!」
久「もう、そんなに怒らないでよ 。ちょっとした冗談じゃない。はい、あーん」
洋榎「あーんむっ」スカ
洋榎「おいコラ!!」
久「くふふ……! お腹いたい……」
洋榎「お前なー……!!」
洋榎「なにが犬や! それ寄越せ!」バッ
久「ちょ、やめっ」
洋榎「その焼きそばパン全部食ったる……!」グググ
久「な、なんでそんなに必死なの!?」グググ
久(あれ、これってもしかして……チャンス?)
洋榎「よーこーせー……!」
久(わざと力を抜いて……)
洋榎「のわ!?」
久「きゃっ」
「「…………」」
洋榎「……す、すまん」
久「べ、別に大丈夫よ?」
久(押し倒されてるってなんか新鮮な気分だわ)
久(しかも相手が洋榎……新聞部あたりに抜かれたら一面飾りそうね)
洋榎「重いやろ? 今退くわ」
久「待って」
洋榎「え?」
久「……」スッ
洋榎(久の手、顔に添えられて……)
洋榎「はっ……?」
久(って流石に無理か)
久「いや、なんかこうね、むらむらーっとしちゃって」ハハハ
洋榎(コイツ、今……キスしようとしたんちゃうか……?)
洋榎「……なんのつもりや、久」ジト
久「別になんのつもりもないって」
洋榎「嘘つけ。今明らかに変なことしようとしてたやろ」
久「やあね。キスなんてスキンシップみたいなもんじゃない」
洋榎「……」ジットー
久(すっごいジト目……半分睨んでるし……)
久「えっ……あ、あはは。情報早いわね。え、誰から聞いたの?」
洋榎「んなことはどうでもいい。……生徒会の仲間にまで手出すとはどういう了見や」ギロ
久「あ、あれは、えと、昔を思い出しというか、その……」シドロモドロ
久(ヤバい、怖い)
洋榎「久、お前がどこぞの女と一緒にいようが何をしてようがウチは知らんしどうでもええけどな、これだけは覚えとけよ」
洋榎「超えて良いラインとあかんラインの線引きだけはしっかりしろ」
久(なんか私お説教されっぱなしね……)
久「酷いこと言うのね」
洋榎「酷いのはお前や。地に足着かんとふらふらふらふら……」
久「地に足着いちゃうと空を飛べなくなっちゃうじゃない。そんなの不自由だわ」
洋榎「不自由さの中に幸せがあるもんや」
久「そんな幸せ、いらないわ」
洋榎「お前なぁ……」
洋榎「……で、ゆみに何したんや? アイツ今日一日上の空やったんやぞ」
久「マジかー……これはワンチャンあったり?」
洋榎「質問に答えろ」
洋榎「は?」
久「いや、してもらった、って方が正しいのかしら」
洋榎「お前、ゆみには……」
久「心配しないで。とっくに諦めてるし、今さら何かしようなんて思ってないから」
久「ただ昨日は……昔を思い出しただけなの」
洋榎「……」
久「いいじゃない。私だって、清算したい過去の一つくらいあるわ」
久「その一つを片付けた。ただそれだけ」
久「明日にはゆみも元に戻ってるわよ。断言していいわ」
洋榎「はぁ……お前ら二人に何があったとか詮索はせんけども……」
久「分かってるって。副生徒会長様」
洋榎「分かっててなんでウチにキスなんてしようとした? おぉ?」
久(うっげー……)
洋榎「何が目的か洗いざらい吐いてもらおうか……」
久(これもう無理だと思うんだけど……)チラ
照(続行!)
久「はは、なかなかの無茶ぶりね……」
洋榎「?」
久「そんなものはないわ。洋榎とキスがしたかった、それだけじゃダメかしら?」
洋榎「っ……お前、本気でウチをたらし込もうと思っとんのか」
久「だとしたらどうする?」
洋榎「死んでも断る。さっき言ったやろ。今の生徒会に悪影響を」
久「どうでもいいわ」
洋榎「えっ?」
久「そんなもの、どうでもいい」ギュ
洋榎「ひ……さ……?」
洋榎「……ふざけんな。冗談も休み休み言え。離れろ」
久「洋榎には冗談に聞こえるの? 私の言葉が」
洋榎「年中女を取っ替え引っ替えしてるお前の言葉なんか信用できるわけないやろ。離れろ」
久「そう。やっぱり私ってそんな風に思われてるのね……悲しいわ」ポロ
洋榎「っ……!」
洋榎「……お得意の嘘泣きか? そんなもんじゃウチは騙されへんぞ」
久「本当か嘘かは洋榎次第でしょ。私の気持ちは関係ないんじゃないのかしら」
洋榎(コイツ……)
洋榎「……」
久「洋榎がただ単に優しいから? それとも……」
洋榎「お前が思っとるようなことだけは無い。断言したる」
久「ふふ、そっか……それを信じるかどうかも私次第ね」
洋榎「はぁ……まず大前提として言うとくけどな、ウチにそういう趣味は無い」
久「愛に性別なんて関係ない。洋榎はそう思わない?」
洋榎「……思わんな。永遠に続くわけでもない、ただ将来不幸になるだけの恋愛なんて、不毛や」
久「好きって気持ちの前じゃ、そんなこと考えられなくなるの」
洋榎「ウチには一生分かりそうにもない感情やな」
久「本当にそう思うなら試してみる?」
洋榎「……」
久「私ならあなたに……この素敵な気持ちを知ってもらえる自信がある」
洋榎「……はぁ。もうええやろ。これ以上やってもウチはお前とキスなんて絶対にせん。時間の無駄や」
久「怖いのね」
洋榎「……どういうことや?」
久「私にキスされて……恋に落ちることが」
久「ならしましょう。洋榎の言うことが本当なら何の問題もないわ」
洋榎「……それとこれとは話が別やろ」
久「そんなことないわ。私は自分の気持ちをあなたに伝えるためにキスをする」
久「洋榎は自分の恋愛観が正しいと証明するためにキスをする」
久「これ以上に利害が一致していることも無いと思うけど」
洋榎「……お前がキスしたいがためだけの口車には乗せられん」
久「どうしてそこまで拒むのかしら。洋榎が私とのキスを友人同士のスキンシップだと思えていないように思えるわ」
洋榎「そっ……そんなことあるか!」
久「なら、どうしてそんなにも拒むの」
洋榎「そ、それは……」
洋榎「……!!」
久「それでいて生徒会が今の生徒会じゃなくなって、私たち四人の関係が変わるのが怖くてたまら……」
洋榎「もうええ。邪魔臭い」
久(おっ?)
洋榎「お前には何をどう言うても無駄らしいな……」
洋榎「どうせこのままウチが逃げたとしても、自分の考えが合ってたと満足するんやろ……」
久「その通りだから逃げるんじゃないの」
洋榎「ふざけるな。お前のふざけた妄想、真っ向から叩き潰したる」
久(キター)
―――――――――
菫「信じられん……あそこまで頑なに拒んでいたのに……」
怜「洋榎のあの性格が災いしたな。挑発に乗せられたもんやろ、アレ」
照「相手によって巧みに戦術を変える……さすが久……」
怜「でも最後まで油断は出来んのとちゃう? って本人その気やし大丈夫か……」
照「わくわく」
―――――――――
洋榎「キス一つでウチがお前に惚れるわけないやろ。ふざけたこと抜かした上に妄言をぺらぺらぺらぺらと……」
久「それは実際にしてみないと分からないことだからねー♪」
洋榎「ほら、さっさとしろ。数分後久の吠え面が聞こえるわ」ドキドキ
久(一時はどうなることかと思ったけど……案外なんとかなるもんねー)
洋榎「な、なにジロジロ見とんねん。はよしろや」ドキドキ
久「えっと……洋榎? キスするときは普通目は閉じるのよ?」」
洋榎「なっ……!?」
洋榎「そそ、そんくらい言われんでも分かっとるわアホ!!」
久(ふふ、ウブウブねー……洋榎、絶対に初めてだわ……)
洋榎「ぅぅ……くそぉ……なんでウチはこんなこと……」
久(……洋榎のキス顔。写メ撮っとこ)パシャ
洋榎「……おい、なんやねん今のお」
久「ん……」チュッ
洋榎「……!?」
――――――――
洋榎「……」ポケー
久「……くふふ、毎度アリ♪」
洋榎「……は!?」
洋榎(あ、アカン、ぼーっとしてた……い、今のが……)ドキドキ
久(なんか顔赤いし、これもしかしたらもしかしちゃったり……ん?)
久「あ」
洋榎「あ?」フリムキ
末原「……」
絹恵「……」
久(あっちゃー。すっかり野外だってこと忘れてたわ……)
久(でもなんか面白くなりそう)ワクワク
末原「主将……?」ユラユラ
絹恵「おねえちゃん……今、なにを……?」ユラユラ
洋榎「ご、誤解や二人とも! ここ、これには深いわけが……!!」
久「洋榎のファーストキスはこの竹井久だぁ!!」バァン
末原「!?」
絹恵「!?」
洋榎「なにいうとんねんお前!?」
久「いやー、これ言ってみたかったのね。あ、ちなみに無理やりでもないしオッケーしたのは洋榎だから。それじゃあ」タタ
洋榎「お、おい!?」
洋榎「……」サーッ
末原「……他の子は練習始めてるのに、自分一人だけええご身分ですね、主将」
絹恵「お姉ちゃん、おっけーしたってどういうこと……?」
洋榎(……あ、アカン……悲惨な未来が……)
絹恵「きっちりと」ゴゴゴゴゴゴ
末原「説明してもらいましょうか……?」ゴゴゴゴゴ
洋榎「」
―――――――――
久「ただいまー。いやぁ、今回はキツかった」
怜「ほんまいつか刺されんで」
菫(愛宕……)
照「タイム、1時間26分。戦略、技術、どれを取っても文句無し。見事なお手並みだった」
久「昼休み入るまでの時間が無かったらもっと早かったんだけどなぁ」
菫「愛宕相手と考えれば唇を奪っただけでも恐ろしい話だ……」
怜「もうこれウチの負けでええと思うんやけども……」
照「まだ分からない。逆転のチャンスは……あるのかな?」
久「どうかしら? 私もかなり身を削った結果だしねー。洋榎にボコボコにされる気がするわ」
菫(愛宕だけで済むのか……?)
照「……たぶんかなりリードして久が勝ってる」
菫(タイム忘れたのか……)
照「早速、各々最後の検証に」
怜「なあ、ウチら二人はもうええと思うんやけども」
照「……どういう意味?」
久「ここにもう一人いるじゃない。モテモテな女の子が」
菫「……ああ、なるほどな」
照「?」
怜「ウチと久のどっちかが3回やったまま終わるのはキリも悪いから」
怜「最後に照がやってみれば?」
照「……えっ」
菫「妙案だな」
久「私も賛成ね、面白そう」
照「ま、待ってみんな。これは怜と久、どっちがモテるかの崇高な研究であって……」
怜「二人ずつやって思ったけど、たぶん同じくらいやで」
久「私が松実さん引いててもキス出来なかっただろうしね」
菫「それよりもまだやってないヤツを検証した方が、研究結果としても有用なデータになるだろ」
照「私はモテたことなんて一度も無い」
怜(なに言うとんねんコイツ)
久(自覚ないのも重傷ね)
菫「いつもお前にべったりなあの後輩二人はどう説明するつもりだ……」
照「そ、それは……」
怜「まあつべこべ言わずに引きや」
久「そうそう。案外隠された才能が開花するかもよー?」
菫「このくだらん研究のラストを発案者が飾らずにどう落としまえをつけるんだよ」ニッコリ
照「」
怜「おおー」パチパチ
久「さすが宮永さん」パチパチ
菫「ほら、とっとと引け」
照「……」ガサゴソ
照「……>>215さん」
菫「は!?」
照「玄さん」
菫「……」ジットー
照「ふふふ……いたい!?」
怜「松実玄? 松実さんと同じ名字やけども、なんか関係あるのん?」
久「妹さんね。一個下で2年生の」
菫「……おい照、宥の親族だ。ふざけた真似はするなよ」
照「……初対面の相手にどうこう出来るほど、私は出来た人間じゃない」
怜「そういえば人見知りやったな、照」
久「なんか面白くなりそうね♪」
怜「ギブアップ無し言うたの誰や」
久「さっきの無茶ぶりもだいぶ効いたわよ?」
照「うぅ……」
菫「ま、覚悟を決めるんだな」
久「松実玄さんも確か料理研だから、今なら部室にいるんじゃないかしら」
怜「おらんかったら教室やな」
照「……知らない人のところに行くのは怖い」
菫(見つけるのが一番時間がかかりそうなんだが……そもそも場所を分かってるのか……?)
――――――――――
照(遂に一人になってしまった……)
照(そもそも前提がおかしい。初対面の相手にキスなんて出来る訳がない)
照(みんな頭おかしい……)
照「とりあえず料理研に行かないと」
照「家庭科室は確か……」
照「北」
照「……」テクテクテク
―――――――――――
菫「おい、アイツどこに向かって歩いてるんだ」
久「あの方向だと一年棟ね」
怜「これウチらが途中まで付いてった方がええんとちゃうん?」
久「面白そうだしもう少し観察しましょう」
―――――――――
照(あれ……ここ……1年の時の私たちの教室……)
照(家庭科室はこんなところには……)
照(ん? あれは……ダンス部の1年生たち? ってことは……)
淡「ワン、ツー、スリー、フォー、ワン、ツー……」
照(淡だ……)
照(そうだ、淡に家庭科室の場所を聞けば。いや、でも練習中だし……)
淡「……?」
照「うーん……」
淡「あ、テルー!」
淡「どうしたのテルー!? 一年棟にいるなんて!? 珍しい!」ピョンピョン
淡「あ! もしかしてダンス部に入部……!」
照「ち、違う。道に迷っただけでここに用はない」
淡「そうなんだ……面白くなーい」ブー
照「淡、練習中だったんでしょ? 勝手に抜け出したらダメだよ」
淡「確かに」ハッ
淡「でもせっかくテルが来てくれたんだからお話したいな……」
照「家隣だし、いつもしてると思うんだけど……」
淡「テルー暇なの? 暇なら私たちのダンス見てってよ!」
照「ごめん。会いに行かないといけない人がいる」
淡「え」
照「それじゃあ、練習頑張って」テクテクテク
淡「あっ……」
淡(こんなところまで来て、一体誰に……?)
――――――――
照(うーん……家庭科室が見つからない……)
照(そもそも学校にこんな場所あったっけ……?)
照(迷った……)
――――――――
菫「部室棟で何してるんだアイツ……」
久「完全に迷ってるわね」
怜「さっきいつもの後輩ちゃんと出くわしたんやから道訊けばよかったのに」
菫「そこまで頭が回らなかったか、よっぽど急いでるのか……」
久「その後輩ちゃんも私たちと同じことしてるけどね」
怜「えっ? ……あ。ほんまや」
菫「こっちには気付いてないらしいな……」
久「なんか面白くなってきたわね……!」キラキラ
―――――――――
照(見慣れた場所に出て来た……そうか、ここは部室棟だったのか……)
照(部室棟……ってことは……)
照「……文芸部だ」
照(いるかは分からないけど、もし咲がいるなら家庭科室まで……)
照「す、すみませーん……」ガチャ
咲「はい……って、お、お姉ちゃん?」
照(いた!)パァァ
咲「えっと、どうしたの? 今日は部活ないけど……」
咲「えっ? う、うん。部室の掃除してただけだから暇だけど……」
照「家庭科室まで連れて行って欲しい!」
咲「か、家庭科室? ど、どうしてそんな場所に……」
照「大切な用事があって」
咲(大切な用事……?)
咲「よ、よく分かんないけど家庭科室まで行けばいいんだよね?」
照「うん」
咲「分かった。それじゃ行こっか」
咲「あ、戸締まりするからちょっと待っててね」
照(あぁ……咲みたいな妹がいて良かった……)
方向音痴2人いたらさらに迷うんじゃ・・・
――――――――
怜「あれ、後輩ちゃんコンビの片割れが」
菫「照の妹……やっと案内役を見つけたか」
久「宮永さんにこんな迷子癖があるとはね……ん?」
久(金髪ちゃんの方がめちゃくちゃ睨んでる……)
怜「だ、大丈夫かあの子? 今にも飛び出しそうな雰囲気やで」
菫「こっちにまで影響が出るなら私たちで止めるしかないだろうな」
菫「っておい、あの二人一体どこに向かって歩いてるんだ……家庭科室は真逆……」
――――――――――
咲(あ、あれ……家庭科室って、こっち、だよね……?)
照(この辺り、昨日来たことがあるような……)
照「ねえ咲。道、あってるよね?」
咲「う、うん! あともうちょっとだから私に任せて!」
照「さすが咲。頼りになる」
咲「えへへ……」
照(松実玄さん……いったいどんな人なんだろう……)
咲「あ、あそこの角を曲がれば家庭科室だよ!」
照「おお、遂に」
―――――――――
久「家庭科室、だけど……」
怜「第二家庭科室やんな、あそこ」
菫「本来の家庭科室からは真逆だし、そもそも家庭科室は3階じゃなくて1階なんだが……」
久「いつになったらターゲットに巡り会えるのかしらね」タハハ
―――――――――
照「咲、あとはもう分かるから大丈夫。部室に戻ってくれていいよ」
咲「えっ……そ、そう? どうせだし、最後まで付き合おうか?」
照「私一人じゃないと色々と都合が悪いから……」
咲(ど、どういうことなんだろう……)
照「ここまでありがとう咲。それじゃあ」テクテク
咲「あっ……」
咲(……)
―――――――――
照「ふぅ。やっと着いた。やっと松実玄さんに会える……」
照(やっぱり部室の中にいるのかな……?)
照(でも、部員の注目を浴びて中に入った結果、いなかったら恥ずかしすぎる……)
照「迂闊に動けない。どうすれば……」
玄「それでは、失礼しました」ガラッ
照「!」
照(誰か出て来た! たぶんお料理研の部員……ここは……)
照「そ、そこのあなた」
玄「えっ? は、はい、なんでしょう?」
玄「えっ……あ、えっと、松実玄は私ですけど……」
照「あなたが!?」
玄「ひっ!? は、はい……」
照「……会いたかったです」ウルウル
玄「!?」
――――――――――――
怜「……どういうこと? なんで松実さんの妹が第二家庭科室におるん?」
久「お姉さんが手芸部だし、お姉さんに何か用があってここまで来たんじゃないかしら」
菫「ということは、家庭科室に行っていたら会えなかったわけか……すごすぎるだろ……」
久「妹さんも金髪ちゃんと合流して監視始めてるし、これは面白いことになるわよー」
――――――――――
玄(知らない人だけど、どうして私のこと知って……)
照「……っとすまない。感極まって名乗り遅れた。3年の宮永照です」ペコリン
玄「えっ、あっ、ご親切にどうも。2年の松実玄です」ペコリン
照「……」
玄「……」
照(こ、ここからどうすればいいんだろう……)タラタラ
玄(この状況は一体……)タラタラ
玄「み、宮永さん、でよろしいでしょうか?」
照「は、はい」
玄「えっと……私に何か御用でしょうか……?」
照「ご、御用? あっ、キスしてください」
玄「……ふぇ!?」
照「は、はい。御用はそれだけです」
玄(ど、どどどどういうこと……!?)アワワワワ
――――――――
怜「くふふふ……!!」
久「お腹いたい……!!」
菫「ふふっ……わ、笑うなバカ……ふふっ……!」
――――――――
淡「んーっ!! んっー!」
咲「だ、ダメだよ淡ちゃん! 大声だしたらバレちゃうって!!」
咲(お、お姉ちゃん一体何を……?)
――――――――-
照「え、えっと……返事を聞かせてもらってもいいでしょうか……?」
玄「へっ? あ、えっ、そそそ、そのっ……ご、ごめんなさい!!」ペコ
照「」ガーン
玄(しょ、ショック受けてる……)
照「そう、ですか……理由を訊かせてもらってもいいですか……?」
玄「り、理由!?」
玄「え、えっと、初めてお会いした方と、キスは、出来ません……ごめんなさい……」
照「初めて、会ったから……で、でもっ!」
照「片岡優希さんは初対面の人とキスしてました!」
玄「えええ!?」
照「はい。軽くですが……初対面の私の友人とキスしてました」
玄(ど、どどど、どういうこと……!? )
玄「ほ、本当、ですか……?」
照「本当です。証拠もあります。これ……」ピラッ
玄「しゃ、写真?」
玄「」
照「だから、その……初めて会ったから、というのは理由にならないと思うんですが……?」
玄「り、理由にならない……?」
玄(で、でも……!)
照「キス、してもらえないでしょうか……?」
玄「えっと、その……」
玄「キスは、好きな人とすることですから、その……私なんかとじゃ……」
照「私は松実玄さんが好きです!」
玄「そ、そんなっ……そんなこと急に言われても……」カァァァ
照「松実玄さんは、私のこと好きですか?」
玄「えっ!?」
玄「は、初めて会った人なのに……好きとか、嫌いとか……」
照「嫌い、ですか?」
玄「……き、嫌いでは、ないですけど……」
照「じゃあ好き、ってことですよね?」
照「それなら、私とキスして欲しいです」ギュッ
玄(あっ……手……)
玄「そ、そんな、でも……あ、あぅぅ……」カァァ
―――――――――
怜「なんやねんあの小学生並みの押し問答は……」
久「相手の冷静さを徐々に奪い、思考能力を低下させた上で懇願する……案外良い作戦かもね」
菫「本人は何も考えずに頼み込んでるだけだろうけどな……
玄(それに、じっと私の目を見つめる宮永さんの顔……すごく凛々しくて……)
玄「あぅ……」ドキドキドキ
照「もう一度言います。好きです、松実玄さん。もしよろしければ……私とキスして欲しいです」ギュッ
玄「み、宮永さん、そんなことっ……」
照「お願いします……一瞬だけでいいんです。だから……」
玄「……わ、分かり、ました……」
照「!」
ドンガラガッシャーン!!
照「猫です」
玄「ね、猫……?」
照「それじゃあ……えっと、失礼します。松実玄さん」
玄「へっ? は、はいっ……! よ、よろしくお願い、します……?」
玄(考えてみたら、私、なんで知らない先輩にキスされそうになって……)
照「……」チュッ
玄「!」
照「ありがとうございました。松実さん」キリッ
玄「は、はい……」ヘナヘナ
玄(おでこ……)
――――――――――
照(ふぅ……大変だった……)
照「ってわぁ!?」
照「な、何やってるのみんな? って、咲と淡、なんでそんな……」
怜「いや、ロープ……」
咲「んーっ!!」ジタバタ
淡「~~~!!」モガモガ
久「宮永さんが松実玄さんに好きだって言ったあたりで取り押さえたわ」
菫「私もつい雰囲気に流されて手伝ってしまった……」
照「二人とも私を心配して付いて来てくれてたのか……」
久「タイムは1時間26分。1時間ほど彷徨ってたから、あなたが一番恐ろしいタイム叩き出してるわよ」
照「誰も唇になんて言ってない。二人は勝手に唇にしてたけど」
久「そりゃ、キスって言えば唇でしょ」
怜「ウチもそう思うわ」
菫(二人は勝手に難易度を上げてた、ってことか。それであのタイム……)
照「さて、実験も円満に終了したし……結果発表しないと」
怜「もはやどうでもいい……」
久「まあ、締めくくりってことで」タハハ
照「まず1位は久ね。二人の強者を落としてタイム的にも文句無し」
菫「まあ異論はないな」
怜「おめでとー」
久「全然名誉なことじゃないと思うんだけど……」
照「松実さんは落とせなかったけど、十分健闘したし2位に値する。おめでとう」
久「拍手ー」パチパチ
怜「うーん、嬉しく無い……」
照「以上。実験終了」
菫(……見事に三者三様の落とし方とその力を見せつけた訳か。実質全員1位みたいなもんだろこれ……)
照「もう帰っていいよ、みんな。協力してくれてありがとうね。夜道には気をつけて」
「「おい」」
終わり
これがきっかけでギクシャクしちゃったかじゅモモとかも見てみたい
Entry ⇒ 2012.10.09 | Category ⇒ 咲-Saki-SS | Comments (3) | Trackbacks (0)
照「怜と久ってどっちがモテるの?」
菫「いきなり何を言ってるんだお前は」
照「二人ともすごくモテるって聞いた」
照「実際、怜も久もよく色々な女の子と一緒にいるし、たくさん告白もされてる」
怜「それは、まあ……」
照「ここで一つの疑問が生まれた。最強の女たらしはどっちなのか」
怜「ちょ」
菫「言いようがいきなり酷くなったな……というより嫌な予感しかしないのだが……」
照「ここは白黒ハッキリ決めるべきだと思わない? いや、私が気になるから決めて欲しい」
照「じゃあ怜が最強の女たらし? 病弱を武器にたくさんの女の子を弄んでる外道?」
怜「ふざけんな! 風評被害も良いところや!」
照「じゃあ久が最強の女たらし? 数々の甘い言葉で女の子を弄んでる外道?」
久「……本人に聞こえるところでそういうこと言わないでくれるかしら?」
照「あ、ちょうどいいところに」
久「一体なんの話をしてるのあなたたち……」
菫「竹井と園城寺、どっちがモテるのか気になるそうだ」
照「気になる」
久「も、モテるって……」
照「おおー」
久「あ、あれはあの子に無理やり手を引かれただけだから、私は何もしてないわ」
久「そういう園城寺さんだって色々な女の子に膝枕してもらってるって聞いたけど、どうなのかしら」
怜「そ、それはちょっとしんどなった時に、たまたま居合わせた子にやってもらっただけで……」
菫「お前ら二人とも……」
照「さて、アピールタイムはこの辺にして」
怜「おい」
照「これはもう勝負で決めるしかない」
怜久「「……勝負?」」
うえのさんにもわたしがいます
怜「なるほど」
久「確かに分かりやすいわね」
菫「お前らなんで乗り気になってるんだ……」
怜「ウチが女たらしなんて風潮見過ごすわけにはいかんからな」
怜(ちょっとおもろそうや)
久「ま、同じ理由ね」
久(すごく面白そうだわ)
怜「で、落とすの定義は具体的になんなん?」
久「それもそうね。告白して付き合うまでなんてやってると一日じゃ終わらないわ」
照「落とすの定義……うーん……」
菫「……相手の同意を得た上でキスをする、はどうだ」
久「あら、良い案ね」
怜「お堅い委員長の口からそんな言葉が出るとは」
菫「うるさい」
菫(この辺りで落としどころをつけておかないと、ターゲットにされる人が不憫だからな……)
照「それじゃあ実はムッツリな菫の名案を採用させてもらう」
菫「おい!」
怜「なんでもええよ」
久「特に異論はないわね」
照「それじゃあ早速スタート。この箱の中に紙が入ってあるから、それに名前が書いてる子がターゲットね」
菫「お前いつこんなもの作ってたんだ」
照「授業中」
菫「はぁ……」
怜「順番はどうする?」
久「うーん、別にどっちでもいいわよ? 短縮期間で時間もあるしね」
照「怜が女の子をはべらしてるとこを間近で見られるなんて感動」
久「ふふ、面白そうで何よりだわ♪」
菫(参考になったり……するのだろうか……)
怜「ホンマぶれへんなアンタら……えっと……>>48?」
照「1年生で咲のお友達」
菫「照の妹の……」
久「お料理研究部に所属してる子ね。美穂子から聞いたことあるわ」
怜「初対面の人に当たるとは……」
照「怜の手腕が問われる。すごく楽しみなマッチアップ」
菫(相手の子が不憫でならん……)
久「今の時間帯なら教室か料理研の部室にいるんじゃないかしら?」
怜「そっか。んまあ、とりあえず行ってくるわ」
照「頑張って。見えないところで監視しとくから」
怜「やっぱり後つけられんのか……まあええけども」
原作の設定じゃないんだな
―――――――
怜(さて、どうしたものか……)
怜(いくらなんでも初対面の子からキスしてもらうて……無茶やろ)
怜「なあ照ー、これってギブアップとかありなんー?」
照「ギブアップは宣言と同時に負けー」
怜「厳しいなぁ……」
怜(って言うてる間に一年棟か。進級してからはほとんど来ることなんてなかったなぁ……)
怜「……この教室か」
怜(上級生が単身教室に乗り込んでくるなんて、注目の的やろなぁ)
泉「はい、なんですか?」
怜「片岡優希さんってのはどの子? 今クラスにおる?」
泉「片岡ですか? 片岡ならあそこに……」
優希「うぅー、宿題終わらないじぇー……」
憧「なんで一週間前のヤツを今やってるのよ……」
和「宿題の存在を忘れてたそうです」
穏乃「あはは、優希は相変わらずだなー」
和「穏乃もしてませんでしたよね、その宿題」
穏乃「え」
怜(……優希って呼ばれてたあの子か。ふむ、なるほど……)
泉「は、はい」
泉(三年生が一年の教室に何の用だろう……?)
ザワ……ザワ……ザワ……
怜(……目立つんも趣味やないし、早く教室から出たいんやけど)
怜(はたしてどういう作戦でいくか……)
怜(……まずは二人きりになることからか)
怜「楽しそうにしてるとこ悪いけど、片岡優希さんってのは君かな?」
優希「ん……? お姉さんだれだじぇ?」
穏乃(三年生?)
和(上級生がこんなところに……珍しいですね)
優希「部長が? 一体なんの用だじぇ」
怜「なんでも至急部室に来て欲しいとかで、さっき一年棟の近くで通りすがったときに連れ出すよう頼まれたんや」
優希「おお、それは一大事だじぇ! これは今すぐ向かわないと!」
憧「宿題しなくてもよくなると急に元気になったわね……」
和「優希、早く用事を済ませて続きをやるんですよ?」
優希「心配しなくても大丈夫だじょ! 伝言ありがとう見知らぬお姉さん! 早速行ってくる!」
怜「あー、ウチも福路さんに話あるから一緒に行くわ。部室まで連れてって」
怜「うん。クラスのことでちょっとな」
優希「分かったじぇ。それじゃあみんな、ちょいと行ってくるから待っててくれ」
憧「はいはい。帰ってこなかったら承知しないからね」
和「本当に進級できなくなっちゃいますよ?」
優希「二人とも心配しすぎだじぇ」
憧「一人もっとヤバいのがいるから心配してあげてるんでしょ」
穏乃「う、うるさいなー! 今は私は関係ないだろ!」
和「関係あります。優希が席を外してる間に宿題見てあげますから、今すぐやってください」
穏乃「そんなぁ……私学食行きたいのに……」
憧「はぁ、このおバカは本当に……」
怜「急に現れてごめんやで。そんじゃ行こか、片岡さん」
優希「おう! 案内は任せるじょ!」
――――――
優希「~♪」
怜(連れ出すのには成功したけど……ここからやなぁ)
怜(いかんせんこの子がどういう子かも知らんし、仲良くなるのも踏まえて色々話てみよかな)
怜「……片岡さん料理研らしいけど、なんで料理研に入ったん?」
優希「タコスの作り方を学ぶためだじぇ!」
怜「た、タコス? なんやそれ、タコ焼きみたいなもんか?」
怜「そんなにか」
優希「ここの学食にもあるから一度食べてみるといいじぇ。次の瞬間にはお姉さんも料理研に入部してるじょ!」
怜「ほー。それは興味深いなぁ。また頼んでみるわ」
優希「ぜひ!」
怜「タコスを作れるようになるために入ったってことは、片岡さんタコス作れるのん?」
優希「……まだ勉強中だから、美味しくはできないじょ……」
怜「はは、料理は苦手か」
優希「うん……部長はとっても料理上手だから、羨ましいじょ……」
優希「タコスにかける情熱だけは誰にも負けないじぇ!」
怜「そっか。ほんならあとは努力あるのみや。また美味しく作れたら食べさせてや」
優希「もちろんだじぇ! みんなにタコスの美味しさを知ってもらうのも私の役割だ!」
怜(ふふ、おもろい子やなぁ……どんだけタコス好きやねん……)
優希「ところで、お姉さんのお名前を訊いてなかったじょ」
怜「ん、そういえばそうやな……名乗るほどのもんでもないと言えばそれまでやけど……」
優希「教えて欲しいじょ! タコスの良さを知ってもらわないと!」
優希「園城寺先輩……」
怜「言いにくいやろ。さっきまでと同じお姉さんでええよ」
優希「了解だじぇ! 私は1ーA片岡優希……って知ってるのか」
怜「ああ、教えてもらってたからな」
怜(久に)
怜「ま、学年もちゃうしそない顔会わせる機会もないやろうけど、よろしゅう頼むわ」
優希「よろしくだじぇ。料理研はいつも家庭科室でやってるから、どんどん遊びに来て欲しいじょ」
怜「ふふ、了解」
――――――
久「あの二人、早速いい感じになってるわね。初対面なのに」
菫「単身1年の教室に乗り込んで連れ出し、数分でここまでするなんて……」
照「菫の3年間はなんだったんだろうね」
菫「……」
照「ご、ごめんなさい」
久「にしても園城寺さんやるわねー。ってここまでくらいは普通かしら?」
菫(普通なわけないだろ……)
照「でもここからが本番。どうやって唇を奪うのか」
久「案外何かの拍子にキスしちゃいそうな気もするわね」
――――――
優希「着いたじぇ!」
怜「やっと家庭科室……1年棟から遠いなぁ。ちょっと疲れてもうたわ」
優希「この学校は無駄に大きいからなー。ってお姉さん体力無さ過ぎだじぇ」
怜「病弱やからなぁ」
優希「病弱? お姉さんどこか体が悪いのか?」
怜「まあちょっとばかしな。1年のときはよう入院もしとったし、今でも保健室にはお世話になってるわ」
優希「そうなのか……しんどくなったら遠慮せずに言うんだじょお姉さん?」
怜「ふふ、ありがとう。嬉しいわ」
怜(このこと話すと大抵の子は心配してくれるんやよなぁ……みんな優しいわ)
怜(まあ口からでまかせやからな……来てる方が驚くわ)
怜「なんか急いでたし、他にも用があったのかもしれんなぁ。ま、ゆっくり待っとこうかや」
優希「うん、そうするじぇ」
怜(さて、ここからどうしたものか……タコスが好きってくらいしか情報もないしなぁ)
怜(……この子ちょっと頭弱そうやし、それを利用できるかもしれん)
怜(ま、のんびりいこうかな)
優希「うぅ。にしてもお腹空いたじょ……」
怜「お昼食べてないん?」
優希「うん、宿題やってたから……」
優希「本当か!? タコス作って欲しいじょ!」
怜「それはレパートリーにないから、お任せしてもらえると嬉しいわ」
怜「そもそも中に入れたらの話やしな」
優希「中に……あ、ドア空いてるじょ」ガラ
怜「えっ?」
怜(なんで?)
――――――――
菫「お前の仕業か?」
照「そんなわけない」
久「私でした。なんか家庭科室使いそうな雰囲気だったから、さっき電話で」
照「さすが生徒会長」
菫(よく考えないでも恐ろしい話だな……)
―――――――
怜「まあ別にどうでもええか」
怜(密室の方が何かと都合もええかもやし)
優希「部員の私が許可するから、冷蔵庫にある食材使ってなんか作ってくれ!」
怜「りょーかい。って普通は料理研の片岡さんがなんか作ってくれるのが普通ちゃうのか?」
優希「確かに……でもタコス以外何も作れないじょ」
怜(大丈夫なんか料理研……)
怜「えっと、普段はタコス以外にはなんか作らんの?」
優希「うん。それにみんなが作った料理食べてる方が美味しいじょ」
怜「なるほどなー」
優希「うっ……責任重大だじぇ」
怜「ま、楽しく行こうや」
――――――――
菫「おい、料理し始めたぞあの二人……」
照「しかもなかなかに距離が近い」
久「雰囲気も良さげだし楽しそうだし、いやー、やるわね園城寺さん」
照「まだ1時間も経ってないのに……これは好記録が予想される」
菫(本当に初対面なのか……?)
――――――
怜(しかし、普通に料理してるだけじゃキスは出来んよなぁ)
怜(何か距離を縮めるようなことを……って言っても今までは基本向こうから行動起こしてくれたし)
怜(難しいなぁ……)
怜「痛っ」シュッ
優希「どうしたんだじぇ? 大丈夫かお姉さん?」
怜「考え事してたら指切ってもうた。はは」
優希「結構血が出てるじょ……絆創膏取ってくるじぇ」
怜(冗談半分でなんかやってみるか)
怜「うあ~、血を流しすぎて持病の一つの貧血が~」
優希「!?」
優希「だ、大丈夫かお姉さん!?」アワワ
怜(この子ほんまに言うとるんか……?)
怜「うぅ、出血が止まらない……このままやと……」
優希「どど、どうしたらいいんだじぇ!?」
怜「まずは、血を止めんと……」
優希「ば、絆創膏っ……」
怜「アカン、そんなもん探してたら出血多量で……」
優希「そ、そんな……! じゃあどうれば……!」
優希「!」
優希「……」モジモジ
怜(……なんかもじもじし始めた……)
怜「ああ……目の前が……暗く……」
優希「し、しのごの言ってられないじぇ!」
優希「あむっ」
怜「あっ」
外野「「!?」」
優希「……」ドキドキ
怜(他人の口の中ってあったかいんやなぁ……)
怜(これは一つ進展なんちゃうか? ウチがこの指くわえて間接キスとかって無しなんかな。そりゃ無しか)
―――――――
照「まさかの急展開。次の瞬間にはキスしているかもしれない」
菫「そ、そんなわけあるか!」
久「でも案外分からないわよ。あの棒演技に気付かないくらいだから、キスしてくれないと病気がー、とかって」
照「うん、あり得る」
菫(あの1年の将来が心配だ……)
―――――――
優希「んっ……」
怜「ありがとう片岡さん。たぶん血止まったから、もう大丈夫やで」
優希「……そ、それは良かったじぇ」
怜「ごめんな。病弱やとこういうことがようあって」
優希「お姉さん、そんな大変な体で今まで……」ギュッ
怜(うーん、いたいけな子を騙すのは心が痛いな……)
怜「よっと……」
優希「お、お姉さん、一人で立てるか?」
怜「ちょっと辛いわ……体貸してくれるか?」
優希「任せるんだじぇ」
優希「っ……」
怜「ほんま、安心出来るわ……」
優希「お、お姉さん……」ドキドキ
――――――
照「本領発揮してきた」
久「病弱だからこそ出来るお家芸ね」
菫(あんなにも儚げで弱々しい姿を見せられたら、誰でも引きつけられるだろうな……)
照「これはもう一押しでキスシーンまで発展するかもしれない」
久「でもその一押しが難しいのよねぇ」
―――――――
怜(うーん、どうしたものか……この子初心そうやから、キスしてくれそうにはないし……)
優希「だ、大丈夫かお姉さん? 保健室まで連れて行こうか?」
怜「いや、そこまでしんどくないから……」
優希「お姉さん無理しちゃダメだじぇ。 すごく顔色悪いじょ……」
怜(かなり心配してくれてる……これなら多少無茶な注文でも言いようによっては聞いてくれそうやな)
怜(……さっきと同じ作戦でいこか)
優希「お姉さん横になるか? 準備室のところにベッドがあるじょ」
怜「ベッドかぁ……ごめんやけどお願いするわ。やっぱりちょっとしんどくて……」
―――――――
優希「よっと」
怜「ふぅ。ありがとうな。助かったわ」
優希「どういたしましてだじぇ。何かして欲しいことはあるかお姉さん? 水飲むか?」
怜「今は片岡さんが側にいてくれたらそれでええわ」ニコ
優希「っ……そ、そっか」ドキッ
怜「……なぁ片岡さん、頼みたいことがあるんやけど、聞いてくれるやろうか?」
優希「なんだじぇ?」
怜「実はうちな……キスしてもらったら体調が良くなるねん」
優希「……へ?」
怜(自分で言っといてアレやけども、流石に無理がありすぎるか……)
怜「そう、キスや。かるーくで良いから、唇にちゅってしてもらったらたちまちに元気になるんや」
優希「ほ、本当なのかお姉さん? そんなの聞いたことないじぇ……」
怜「世界中でウチしか持ってない持病の一つやからなぁ」
優希「本当にそんな病気があるんだじぇ……? でもお姉さんが嘘つくようには思えないし……」
怜(アカン、心が痛くなってきた)
優希「でも、さすがにキスするのは恥ずかしいじょ……」モジモジ
怜(……かわええなぁ)
怜「まあ、無理にとは言わんから。片岡さんも出会って間もない人間にそんなことするの嫌やろうし」
怜「キスしてくれんでもウチがしんどくなるだけやから……ごほっ、ごほっ……!」
優希「お姉さん……!」
優希(とっても辛そうだじぇ……)
怜「うっ……なんか知らんが頭も痛く……」ハァハァ
優希「っ……!」
優希「お、お姉さん、そのっ……私でよければ……」
怜「!」
怜「そ、そっか……じゃあ、えっと、気が変わらんうちにお願いするわ」
優希「気なんて変わらないじょ……お、お姉さん、目、つむってもらっても……いいか?」
怜「ま、任された」
優希「……」
優希「……ん」チュッ
――――――――
怜「はぁ。ただいま」
久「おっかえりー」
照「所要時間1時間31分。初対面の相手にこのタイムはすごい」
菫(こ、こんなことが本当にあっていいのか……?)
怜「今回は片岡さんの優しさと少し残念な頭に救われたわ……」
久「あのあとも終始良い感じの雰囲気だったわね。結局料理も最後までしてたし」
怜「タコス美味かったわ。また遊びにいきたいなぁ」
久「うーん……正直相手の子にもよるわね」タハハ
久「私も片岡さんみたいな子だと扱いやすいんだけど……」
怜「ある意味くじ運良かったんか……?」
菫「……この勝負は不純すぎる。今すぐやめるべきだ」
怜「お? なんか委員長が委員長っぽいこと言っとる」
照「条件を提示したのは菫なのにね」
菫「うるさい!! 乙女の純情を弄ぶようなこんな行為は許されては……」
久「私の相手はっと」
菫「おいこら!」
久「いいじゃない。相手の子もそんなに悪い気はしてないって」
怜「うわぁ……」
照「久、すごく悪い顔してる……」
久「同じ生徒会の役員だし普段仲も良いし、園城寺さんに比べれば楽そうね」
菫(なんだこの余裕……? あの真面目な加治木が唇を許すっていうのか……? そ、それに楽そうって…… )
久「この時間なら生徒会室にいそうね。んじゃま、行ってくるわー」
怜「なんかすぐ帰ってきそうな気するんやけど」
照「さて、仲の良い友人相手にどんなタイムを叩き出すのか。興味深い」
菫「お前なぁ……」
―――――
久(ゆみかー。幼馴染みだっていうあの後輩ちゃんがちょっと怖いけど)
久(軽いキスくらいなら大丈夫でしょう。スキンシップスキンシップ♪)
久(……やっぱり来てるわね。生徒会が無い日も欠かさず……真面目だわ)
久「はろー」ガチャ
ゆみ「ん、久か。どうした? 今日は生徒会はないはずだが」
久「生徒会がある日じゃないと私は来ちゃいけない?」
ゆみ「まさか」
ゆみ「ただ、普段お忙しい生徒会長様が何も無い日にここに来るのも珍しいと思ってな」
久「ゆみの顔が無性に見たくなっちゃってね」
ゆみ「ふっ、相変わらずだなお前は」
ゆみ「みんないつも通りだろ。料理研にソフトボール部。久も本来なら演劇部のはずだが」
久「んー、今日はちょっと面白いことに巻き込まれててね。部活はお休みしてるわ」
ゆみ「面白いこと、か……たまには真面目に部員の面倒見てやれよ」
久「あの子たちなら大丈夫よ。むしろ私がふらふらしてるおかげでたくましく育ってるとも言えるわ」
ゆみ「ふっ、あながち間違いじゃ無さそうだ。今年の文化祭も楽しみにしてるよ」
久「個人的にはあなたにもぜひ我が演劇部に入部して、文化祭を盛り上げて欲しいんだけどね」
久「あなたほど男役の似合う子もいないし、入ってくれたら宝塚みたいなことも出来て面白いんだけど」
ゆみ「その話はいつも断ってるだろ。私には生徒会だけで手一杯だ」
ゆみ「この前の地震で備品が壊れた部が多発してな。今は予算を捻出するのに頭を悩まされてるよ」
久「あー、あの時のことね。ウチも小道具が何個かやられたわ」
ゆみ「吹奏楽部なんかはやられた楽器もあるらしくてな……頭が痛くなるよ」
久「本当にお疲れ様ね……肩でも揉んであげましょうか?」
ゆみ「ふふ、なんだそりゃ。随分とらしくないことを言うんだな」
久「私は部員や役員のことは人一倍気遣ってるつもりだけどー?」
ゆみ「気遣ってるなら部活動に参加してやれ」
久「今はあなたの方が優先よ」ギュッ
ゆみ「ふっ……生徒会長様直々の好意は痛み入るな」
ゆみ「高1の時からの付き合いだが、そんなこと初耳だぞ」
久「能ある鷹は爪を隠すってね」トントン
ゆみ「用法がおかしいぞ」タハハ
ゆみ(しかし……本当に上手いな。緩急を付けて、的確にツボを押してくる……)
久「凝ってるわねー。日頃の苦労が垣間見えるわ」ギュッギュッ
ゆみ「お前がもっと生徒会業務をこなしてくれたら楽が出来るんだがな……」
久「ゆみが働きたがってるから仕事を回してるだけよ。暇よりかはいいでしょ?」
ゆみ「まあそうだが……」
久「働きぶりで考えると、実質の生徒会長はゆみみたいなもんだしね」モミモミ
ゆみ「それはどうだろうな。久はある意味一番生徒会長らしいことをしている。それは私には出来ないことだ」
ゆみ「分かりやすい例を挙げると、生徒たちから好評なイベントやら校則やらは全て久の発案だしな」
久「私は発案して声高らかに宣伝してるだけじゃない。実行や準備、根回しは他のみんなのおかげだし、私一人じゃ何もできやしないわ」
ゆみ「それはそうだが、組織の中で一番大切な部分を担ってるのはお前だということに変わりはない」
久「……そんなにも褒められると照れくさいんだけど」
ゆみ「事実を述べてるだけだ。久には求心力も人徳もある。お前以上に生徒会長の役職を努められる人間はこの学校にいないよ」
久「手放しで褒められると裏を疑ってしまうわね。何か目的でもあったり?」
ゆみ「そうだな……このままマッサージを続けてもらうと嬉しいかな」
久「ふふ、言われなくてもさせて頂くわよ。会計様」
―――――――
照「なんか……」
怜「めちゃくちゃ良い雰囲気やなあの二人」
菫「こうやって覗いているのが野暮に思えるほどだ……」
怜「もうこれ今すぐチューしても問題ないんとちゃうん?」
照「いや、完璧な信頼関係が構築されてるからこそ、躊躇される行為もある」
照「ここからどう踏み込むかが勝負」
菫(竹井に対してその心配は杞憂に思えるが……)
―――――――
久(さて、良い感じの雰囲気にしたところだし、そろそろ何かアクションを起こすべきかしら)
久(でも相手はゆみなのよねぇ……考えてみれば、さらっと受け流される可能性も……)
ゆみ(まだ仕事も残ってるし、このあとはモモとの約束もあるから……)
ゆみ「ありがとう久、もう大丈夫だ」
久「えっ?」
ゆみ「おかげで随分と楽になった。仕事に戻るよ」
久「そ、そう。それは良かったわ」
ゆみ「私はもうしばらくここにいるが、お前も暇があるなら演劇部に顔を出すか何かしろよ」
久(か、完璧に動くタイミング外したわね……)
久(後ろから抱きしめるなりいっとけば、今頃……)
久「……ま、後悔しても意味ないか」
ゆみ「?」
―――――――
久(……うーん、あれから動くきっかけが無い)
ゆみ「……」ウーン
久(ゆみも黙々と書類業務こなしてるし、構って貰えないのは悲しいわねー……)
ゆみ「……」カタカタ
久(にしてもめちゃくちゃ集中してる……なんかイタズラしたくなっちゃうわよね、こういうの見てると)
久「……」スッ
ゆみ「……」
久(席を外すかのように立ち上がり、ゆっくり後ろから近づいて……)
久「フッ」
ゆみ「ひゃ!?」ゾクゾク
ゆみ「か、かわっ……!?」
久「うん可愛い♪」
ゆみ「……はぁ」
ゆみ「一体なんのつもりだ。邪魔をするなら帰れ」ジト
久「そんな顔しても照れ隠しで怒ってるようにしか見えないわよ? まだ顔赤いし」
ゆみ「う、うるさい。顔なんて赤くしてない」
久「赤いわよ。鏡見る?」
ゆみ「見ない。ってなんなんだお前は!? そんなに私に構って欲しいのか?」
久「うん♪」
ゆみ「あのなぁ……」
ゆみ「しょうがないだろ、仕事なんだから……ってそもそも二人きりってどういう意味だ。一体何を企んでる?」
久「別に何も? ただゆみと一緒にお話したいだけ」ギュッ
ゆみ「っ……離れろ。気持ち悪い」
久「ひどい。昔はよくこうしてたじゃない。ゆみだってあんなにも強く抱きしめてくれて……」
ゆみ「そんなことはしていない。勝手に記憶を捏造するな。離れろ」グググ
久「なんでそんなにも蔑ろにするのよー。私だって女の子なんだから泣いちゃうわよ?」
ゆみ「お前が涙を流すときは嘘泣きするときだけだろ……ええいくっつくな!」
ゆみ「そもそもお前に泣かされた女はいてもお前を泣かせる女なんてこの世に存在するはずがない」
久「ず、随分と酷いこと言うのね……」
ゆみ「事実を述べて何が悪い」
久「あら、それはどういう意味? まるで私が普段遊んでるみたいじゃない」
ゆみ「事実遊んでいるだろ。この前も街で下級生と腕を組んで歩いているところを目撃されているぞ」
久「わ、私だって後輩とショッピングくらいするわ。それにあれはあの子から腕を組んで来たからで……」
ゆみ「お前は相手の誘いを断るという行為をしなさ過ぎるんだ」
ゆみ「そこから無意識の行動で相手をさらに勘違いさせるんだから、余計タチが悪い」
ゆみ「そんなことばかりしてると、本当に大切な誰かが出来たとき、その誰かを悲しませることになるぞ?」
久「本当に大切な誰か……」
久「ゆみのことね♪」ギュッ
ゆみ「おいっ」
久「そもそも今は独り身なんだから、何をしようと後ろ暗いことなんてないわ」
ゆみ「お前なぁ……」
久「そんなことを言うゆみには、誰か大切な人がいるのかしら?」
ゆみ「……あぁ。いるよ」
久「あの影の薄い後輩ちゃん?」
ゆみ「そこまで分かってるならもういいだろ」
久「……私はあなたにとって、大切な人じゃないのかしら?」
ゆみ「……久?」
久「私にとってゆみは……今でも大切な人よ」ギュウ
ゆみ「……久は大切な友人だ。そういう意味では、大切な人の一人であってると思う」
久「でも特別にはなれない。そうでしょ?」
ゆみ「……さっきから一体何を言ってるんだ。らしくないぞ」
久「ゆみは何も分かっていないわ。三年も一緒にいたのに……本当の私を分かってない。いや、見ようとしていない」
ゆみ「……どういう意味だ?」
久「あなたは自分自身が見ていたい私だけを見続けていたのよ。求心力があって人徳のある、あくまで生徒会長としての私を」
ゆみ「……」
久「そしてそんな私にとって、あなたはどこまでも特別だった」
久「……私の初恋の相手、教えてあげようか」
ゆみ「やめろ」
久「ふふ、そう言うと思ったわ」パッ
ゆみ「……すまない」
久「……ねえ、こんな雰囲気だし一つ訊いていいかしら」
ゆみ「……答えられることは、出来るだけ答えよう」
久「1年の時でも2年の時でもいい。気付いてた?」
久「そっか。やっぱ、気付かれてたか……それも結構早い時期に……バレてない自信あったんだけどなぁ」
ゆみ「……久、私からも訊いていいか」
久「なに?」
ゆみ「どうして……自分の気持ちを打ち明けなかった?」
久「……」
ゆみ「当時の私は……ただそのことだけが怖かった。いつ話を切り出されるか、いつ私たちの関係が壊れてしまうのか……ただそれだけが」
久「臆病だったのね。ゆみらしくもないわ」クス
ゆみ「今でも私は臆病だよ。この話をいつまで経っても訊こうとしなかったくらいにはな」
久「勝てる見込みが100%無い勝負は絶対にしないの」
ゆみ「……」
久「それが理由かな。分かりやすいでしょ?」
ゆみ「……ああ」
久「結局私もゆみと同じ。この関係が壊れるのが怖かったのよ」
久「そして最後まで馬鹿にはなれなかった。当たって砕ける勇気がなかった」
久「それが全てよ」
久「ま、遠い昔の話だけどねー」
ゆみ「……もしあの時、」
久「やめて」
久「もしもの話なんて、しないで。それだけは絶対に聞きたく無い」
ゆみ「……すまない」
久「……こっちこそ、変なこと言い出したり、昔のこと掘り返すような雰囲気にしてごめんね」
ゆみ「……」
久「最後に一つだけお願いしていい?」
ゆみ「……なんだ」
久「私の初恋を終わらせて欲しいの」
ゆみ「……」
久「この気持ちを完全に終わらせられるのは……あなただけだから」
ゆみ「……どうすればいい?」
久「キス、して欲しい。……一瞬でいいから」
ゆみ「……」
ゆみ「目をつむれ」
久「……ありがとう」スッ
ゆみ「……すまなかった」
「「ん……」」
―――――――
久「……」
ゆみ「お、おい久。だいじょう……」
久「くふふ、毎度ありー♪」ニコッ
ゆみ「……は?」
ゆみ「ひ、久? 一体何を……」
「えっ、これ出て行っても大丈夫なの?」
「わ、分からんわ。でも久のあの様子やと……」
久「もう出て来ても大丈夫だから。ネタバらしちゃいましょう」
照「ほ。本当にいいの……?」ガラ
ゆみ「!?」
怜「本気で言うとんのか久……」
ゆみ「!?!?」
菫「信じられん……まさか、今の全部……」
久「演劇部の部長舐めないで欲しいわ」
久「言ったでしょ。面白いことやってるって」
照「タイム、1時間5分。……園城寺さんより30分ほど早い」
久「んー、やっぱそんなもんか……もう少し早く出来たかなぁ……」
怜「十分早いわ……」
照「さすが久。素晴らしい技術。ここにいる全員騙された」
菫「すまない加治木……本当にすまない……」
ゆみ「……どういうことか説明してもらおうか。久」ゴゴゴゴゴ
久「あ、あはは。ゆみ、ちょっとそのオーラは笑えないわ」
――――――――
久「いたい……」ナミダメ
菫「自業自得だ馬鹿者」
照「むしろよくげんこつ一つで済んだよね」
怜「ウチら全員三枚に下ろされても文句言えん状況やったな」
久「それにしたって本気で殴らなくても……あれから結構時間経ってるのにまだ痛いわよ……」ジンジン
菫「加治木が怒るのは当たり前だ。ネタバレなんてどういう精神で出来るんだ……」アキレ
久「別にいいのよ。それに相手がゆみじゃなかったらあんなこと絶対にしなかったし」
照「どういうこと?」
照「?」
怜「ホンマ、ええ性格しとるわ……」
菫「なあ、もうこんなことはやめよう。これはお前ら二人の凶悪さを証明するだけのえげつない行為だ。一体これで誰が幸せになる?」
照「私は二人のすごさを間近に見れて幸せ」
怜「ウチも片岡さんと仲ようなれて幸せっちゃ幸せやな」
久「私も殴られたけどあんなにも愉快なゆみの顔見れたし、幸せっちゃ幸せね♪」
菫「お前ら……!」
怜「さーて、次はウチの二回目か」
久「なーにお堅いこと言ってるのよ」
怜「ホンマ委員長は委員長やなぁ。そんな頭でっかちやと松実さんに嫌われるで?」
菫「うるさい!」
照「菫は私が取り押さえとくから、くじ引いて」ガシッ
菫「て、照っ、おまっ」
照「懐かしいね、この感じ」
怜「えっと、次は……」ガサゴソ
怜「>>275さん?」
って書きたいから早く3レスして
菫「」
久「あらまー」
怜「なんかこの文字めっちゃデコレーションされとるな」
照「大当たりだからね」
菫「照……!!」ゴゴゴゴゴ
照「お、落ち着いて菫。後ろから阿修羅が出てる」
久「だ、大丈夫だって弘世さん。そんな悲しい未来にはならないはずだから」
怜(これウチが一番危ないんとちゃうの?)
菫「ぜっっっっったいに許さん!! お前ら淫獣の毒牙を宥にかけるのだけは何があってもこの私が許さない!!」ギュウウウ
照「お、落ち着いて菫。締まってる、締まってるから」パンパン
怜「淫獣て……」
久「酷い言われようね」アハハ
久「実際宮永さんは今まさに生命の危機に立たされてるしね」
照「ふたりとも、たすけ……」
菫「お前ら、手を出したらどうなるか分かってるだろうな……!」
怜(うん、ほんまに怖い)
久(でも最高に面白そうなのよねー)ワクワク
照「あ、松実さん!」
菫「えっ」
照「二人とも今! 菫を取り押さえて!」
久「任せなさい!」
怜「病弱なりに丈夫なロープを見つけてきたから、これ使って」
菫「ちょ、おまっ」
―――――――
照「縛ってみた」
怜「病弱なりに口にガムテープも貼ってみた」
菫「んー!! んー!!」モガモガ
久「いやー、弘世さん縛られてる姿が最高に様になるわ。写メ撮って良い?」パシャパシャ
菫「んむーっ!!」
照「菫にはこの台車に乗って同行してもらう。仲間外れにはしないから安心して」ニコ
怜(ある意味一番残酷やと思うんやけど……)
久「そろそろ行って来たら園城寺さん?」
怜「それもそやな。放課後って松実さんどこにおるの? 帰ってたりせえへん?」
怜「そっか。ほなぼちぼち行ってくるわ」
照「今回はクラスメイトだから大幅なタイムの更新が期待される。すごく楽しみ」
久「私は弘世さんの反応を見るのが楽しみだわー」
菫「んんっーー!!」ジタバタ
――――――――
怜(しかし第二家庭科室も遠い……2年棟の一番端やからなぁ……)
怜(今回はどういう作戦でいこうか……部活動中やから、やっぱり二人きりになるところからか)
怜(となると……保健室やな)
怜(何か良い感じのでまかせを考えて……もう面倒やから思いつきのままいこか)
怜「失礼しまーす」ガラ
「「ザワ……ザワザワ……」」
怜(まあ、部外者が入ってきたらこうなるわな)
怜「あ。姉帯さんや」
豊音「? あっ、園城寺さん! 珍しいね! 放課後に手芸部に来るなんてどうしたのー?」
怜「実は松実さんに用事があってな」
豊音「松実さん? 松実さんなら横の部屋でマフラー編んでるよー?」
怜「おおきに。ちょっとお邪魔するな」
豊音「喜んで! お客さんあんまり来ないからちょー嬉しいよー。ゆっくりしてってね」ニコ
怜(さて、委員長のお姫様はっと……)
宥「……」
怜(相変わらずの重装備やなぁ。見てるだけで暑なるわ……)
怜「こんばんは、松実さん」
宥「ふぇっ?」ビク
宥「お、園城寺さん……?」
怜「驚かせてごめんやで」
宥「えっと、どうしたんですかこんなところまで? 何か用事でも……」
怜「そうそう用事。ちょっと松実さんに用があってなぁ」
宥「私に……?」
怜「そう、 委員長が松実さんを呼んでてな」
宥「えっ? 菫ちゃんが?」
怜「うん。でもその当の本人は今かんぴょう巻き……じゃなくて、ちょっと手が離せんくて」
怜「そんな忙しい委員長の代わりにウチが松実さんを呼びに来たんや」
宥「そうなんだ……えっと、菫ちゃんは何の用事か言ってた?」
怜「うーん、そこまでは聞いてないなぁ。……ただ、なんかそわそわしてたから、大切な用事やと思うなぁ」
宥「た、大切な用事……?」ドキッ
宥(大切な用事で呼び出しって……なんだろう……)ドキドキドキ
怜(これはアカンぞー。さっきとは比べ物にならんくらい胸が痛くなってきた)
宥「保健室?」
宥(なんで保健室なんだろう……)ウーン
怜(ヤバい。流石に疑問に思っとる。そら片岡さんほど分かりやすくはないわな、普通……)
怜「 だ、大丈夫そう松実さん? 今ちょっと忙しそうやけども……」
宥「う、うん。大丈夫だよ。えっと、今から保健室に行けばいいんだよね?」
怜「委員長はそう言っとったで」
宥「分かった。それじゃあ行ってくるね。……ありがとうございます園城寺さん。わざわざ伝えてもらって」
怜「いや、全然大丈夫やで? ウチもちょうど保健室に用があったから」
怜「それもそやな。よろしゅう頼むわ」
怜(ん……? 紺色のマフラー……)
怜「……松実さん、このマフラーは自分で着けるの?」
宥「えっ? どど、どうしてそんなこと……」
怜「いや、松実さんが着けるにはちょっと似合わんから、誰かへのプレゼントかな、と思って」
宥「えっと、これは、その……」アワワ
怜(紺色……なるほどな。そういうことか。しかもかなり長いなこれ……)
怜「可愛い刺繍も入っとるし、よう出来とるわ。きっと貰う人は大喜びやろなぁ」
宥「えっ……ほ、本当に?」
怜「うん、ウチが欲しいくらいやし」
宥「ご、ごめんなさい。これはもう、あげる人が……」
怜(あげる言われても受け取れんやろなぁ……)
怜「っと無駄話してごめんな。そろそろ行こか」
宥「は、はい」
―――――――――
怜(特にこれと言った会話もないまま保健室に着いてもうた)
怜(松実さんは委員長のことで頭いっぱいなんやろなぁ)
怜(二人きりになるためとは言え、ちょっとリスク高い嘘ついてもうたかな……)
宥「……菫ちゃん、もう来てるかな」
怜「ま、中に入れば分かるやろ」ガラ
宥「……誰も、いない」
怜(委員長は当たり前やけど、まさか先生までおらんとはな)
怜(まあ久の仕業やろうけども)
怜「とりあえず、委員長来るまで待っとこか。ウチらのが早かったみたいや」
宥「うん、そうだね……」
宥「そういえば、園城寺さんはどういう用事で保健室に……?」
怜「え」
怜「えーっと、ウチは保健室の先生に用があってな。それでや」
宥「そうなんだ……先生がいないって珍しいよね。不在なのに鍵も空いてるし……」
怜(松実さんは流石に頭ええから、不審な点に気付いてきよるなぁ)
怜(さっきみたいな無茶なことは出来んな。どういった作戦で行くべきか……)
―――――――――
照「怜が攻めあぐねてる」
久「そりゃ、相手が相手だしね。前みたいにはいかないでしょ」
照「ここからどう足がかりを付けるか。手腕の見せ所」
菫「んんー!! んんーーっ!!」ジタバタ
久「しかし暴れるわね弘世さん……」
照「自分をダシに使われてた時はもっと激しく暴れてた」
照「ガムテープ上から張り直したくらい」
久「マフラーの話になった途端大人しくなるあたり、分かりやすくて可愛いわ」タハハ
菫「……」ギロ
照「……こ、怖いよ菫……」
久「解放した時のことは考えたくないわね……」
―――――――――
怜(案が浮かばん。ここは王道に、いつもの作戦でいくしかないか……)
怜「うっ……」フラッ
宥「お、園城寺さん!?」
怜「ありがとう松実さん……結構な距離歩いたせいか、いつもの貧血が……」
宥「大丈夫……? もしかして、病気のことで先生に……」
怜「……さすが松実さん。察しがええなぁ」
怜(頭ええせいか、勝手に深読みしてくれのはありがたいな)
宥「私、先生探しに……!」
怜「待って松実さん」ハシッ
宥「お、園城寺さん……?」
怜「一人にされるのは、ちょっと辛いわ……」
宥「うん……私なんかでよければ……」
怜「ありがとうな、松実さん……」ギュッ
――――――――
菫「んんーーっ!? んんーーっ!!」
照「菫うるさいっ」
久「キスなんてした日にはロープ引き千切りそうな勢いね……」
照「怖い」
久「……もう一本使って縛っておきましょう」
――――――――
怜「そやな……横になった方が楽そうやわ」
宥「ちょっとしんどいかもしれないけど、頑張って歩いてね」
怜「うん……」
怜(ここまで行くのは簡単に予想できるけど、問題はここからやねんなぁ)
宥「うん、しょっと……」
怜「ふぅ……ありがとうな松実さん。おおきに」
宥「ううん。困った時はお互い様だから」ニコ
怜(うーん、神々しい。笑顔に後光が)
怜「よろしゅう頼むわ……」
宥(……園城寺さんも心配だけど。菫ちゃん、まだ来ないのかな……)
怜(あんまり無駄な間を作りすぎると、松実さんが色々考えてまう可能性が高いな……)
怜(委員長を捜しにいくなんて言い出す可能性もゼロやない。ここは関心の比重がウチに寄ってる間に勝負仕掛けんと)
怜「……松実さん。早速やけども、我がまま訊いてくれる……?」
宥「な、なに?」
怜「ちょっと枕の高さが合わんくて。それに材質も固めやから寝にくいんや……」
宥「ど、どうしよう。代わりの枕探して来る?」
怜「いや、探す必要は無くて。松実さんがええなら、なんやけども……」
怜「膝枕して欲しいな、って……」
宥「ふぇ……?」
ドンガラガッシャーン!!
宥「ふぇっ……!?」
怜(委員長か……)
怜「でかい猫が暴れてるだけや。気にせんでも大丈夫やで」
宥「猫……?」
怜「うっ、頭が……」
宥「だ、大丈夫園城寺さん!?」
怜「やっぱ枕が合わんと血流も悪うなってな……松実さん、膝枕、頼めんやろか……?」
宥「……ちょっと恥ずかしい、けど……大丈夫」
怜「そっか。ありがとうな……」
宥「えっと、どういう風にしたら……?」
怜「とりあえず、このベッドに腰掛けてくれるか?」
宥「わかった」
怜「そんじゃ、寝かせてもらうな……」
宥「う、うん……」
怜「……」トサッ
怜(これは……)
宥「ど、どう? 大丈夫園城寺さん?」
怜(めちゃくちゃ寝心地ええ……)
怜「うん、大丈夫……めっちゃ気持ちええわ……」
怜(この太ももの柔らかさ、体温の温かさ。膝の高さ、匂い、全てにおいて完璧や……)
怜(あかん……本気で寝てまうかもしれん……)
――――――――
照「怜、すごく気持ち良さそう……」
久「目的忘れてそうね。あの様子だと寝ちゃってもおかしくないわね」タハハ
菫「……」
照「菫がさっきの爆発以降死んだように大人しくなってる」
久「力尽きちゃったんじゃない? 取り押さえる苦労もなくなるから好都合だわ」
照「ほんの少しだけ瞳から涙が……菫、可哀想に……」
久(元凶はあなたよ、宮永さん……)
――――――――
怜「……はっ!?」
怜(あかん、一瞬寝とった。これはある意味まずい状況なのかもしれん……)
宥(菫ちゃん何してるんだろう……)
怜(そろそろ仕掛けにいかんと。でも、膝枕してもらってるだけで全然進展ないし……)
怜(……もうちょい攻めるか)
怜「うん……」
宥「ゃっ……!」
宥(ね、寝返り……!?)
怜「ごめんな松実さん。同じ体勢はちょっと辛くて……」
宥「お、園城寺さん……あ、あの、さすがにこれは……!」
怜「すぅ……はぁ……松実さん、やっぱりええ匂いやわ……」ギュウ
宥「っ~~~!!」
宥「ひゃっ……」
宥「園城寺さんっ、く、くすぐったいよ……あっ……」
怜「ごめんな……でもこれ、気持ち良くて……」クンクン
怜(自分からしといてクセになりそうや……)
怜(将来松実さんを独り占めする委員長が素直に羨ましくなってきた……)モゾモゾ
宥「あっ……だ、だめぇっ……」フルフル
怜(委員長と松実さんの幸せな未来を邪魔したらあかん)
怜(分かってるはずやのに……邪な気持ちが……)
宥「んっ……」
宥「……ふぇっ?」トサッ
怜(……お、押し倒してもうた……)
宥「お、園城寺、さん……?」ナミダメ
怜「……松実、さん」
怜「……キス、してええ……?」
宥「!?」
ドガッシャーン!!
――――――――
菫「~~~~~~~~!!!」ジタンバタン!!
照「お、落ちついて菫!」
久「そうよ弘世さん! 冷静になって!」
菫「ッッーーーーーー!!」
照「ろ、ロープ! ロープほどける!」アワワワ
久「さっきから着々とボルテージを上げてって今が最高潮ね! 宮永さん私逃げていい!?」グググ
照「ダメ!」グググ
久「さすがにまだ死ぬのは嫌なんだけど!?」ググググ
照「松実さんがなんとかしてくれるしか生きる希望はないと思う!」
――――――――
怜「松実さん見てたら、委員長のこととかもうどうでもよくなってきて……」ハァハァ
宥「そ、そんなっ……だ、ダメだよ園城寺さん。だって、だって……!」
怜「……ごめん、松実さん……」スッ
宥「ひっ……!?」
宥「だっ……」
宥「だめえええええ!!」
怜「うぐぅっ!?」
怜(しょ、掌底……)
怜「……ばたんきゅう」
宥「わ、私ったら咄嗟に……! ごご、ごめんなさい園城寺さん! 大丈夫ですか!? 園城寺さん!?」
怜「だ、だいじょう、ぶ……目、覚めた……わ」チーン
宥「お、園城寺さん! 園城寺さん!」
宥「せ、先生呼ばなきゃっ……!」ガラッ
照「あ」
久「あ」
宥「へっ……? 宮永さんにたけ……す、菫ちゃん!? どど、どうしてそんなっ……!?」
照(こ、これは……)
――――――――
久「」チーン
菫「はぁ……はぁ……はぁ……!!」
宥「すす、菫ちゃん……もも、もうそれくらいに……」ガクガクブルブル
菫「こいつらだけはっ……絶対に……!」
宥「だだ、ダメだってば!?」ギュウ
菫「離せ宥! この淫獣どもは君の気持ちを弄ぼうと……!」
宥「わ、私は大丈夫だし何もされてないから!」
菫「嘘をつくな! そうだ、園城寺はどこだ! こいつらも許せないがアイツが一番羨ま死……」
宥「園城寺さんにこんなことしたら死んじゃうよ!?」
――――――――
照(菫は松実さんに引き取られました)
照(おかげで私たちは生きています)
怜「いやぁ、酷い目に遭ったなぁ」
久「園城寺さんは一番マシでしょ……私たち本気で殺されるかと思ったわよ……」
怜「病弱にあの掌底は辛かったで……おかげで気も失って今も顎に違和感ありまくりやからな」
照「……菫の逆鱗に触れるとヤバい。これを学べただけでも進歩」
久「しかし、松実さんがいなかったら三人とも確実に死んでたわね」
怜「松実さんがいたからこそこんなにもボロボロにされたとおも考えられるけどな」ハァ
怜「そもそも松実さんにどうこうすんのは良心が痛むわ」
久「半分襲いかけてたくせによく言うわ」
怜「うっさいわ」
照「今日はここまでだね。時間的な問題でも、私たちの体力的な問題でも」
久「ねえこれ明日も続けるつもりなの? あんな目に遭うのはもうごめんなんだけど」
照「個人的にはあと久に二回、怜に一回トライしてもらいたい」
照「その結果で最強を決める」
怜「今は心の底からどうでもええと思えるわ……」
照「では二人ともまた明日。しっかりとコンディションを整えて」
久怜「「もう勘弁して……」」
とりあえず終わりです
今日帰ってこれるのが確実に19時を回る上、続きもこのスレで書けるかどうか、自分自身書くかどうかも分からないので、落としてもらって構わないです
お疲れ様でした
宥姉がたらしに引っかからなくて心から安心した
Entry ⇒ 2012.10.08 | Category ⇒ 咲-Saki-SS | Comments (1) | Trackbacks (0)
菫「体育倉庫に閉じ込められるおまじない……?」
菫「にしても誰の本だこれ……おまじないの本、って……」
菫「……」
菫「ま、暇つぶしにはなるだろう」ペラ
菫「……」
菫「『思い浮かべた人と一緒に体育倉庫に閉じ込められるおまじない』……ふっ、まさかな」
菫「……」
菫(えっと、十円玉……)
菫(そして思い浮かべた人と……)
菫「……」
菫「……はぁ。一体何をやってるんだ私は」
菫「こんなくだらない、神頼みにもならないことに時間を割くなんて」
菫(……本当に、どうかしてる。彼女が私の隣の席になってからは特に……)
照「菫」
菫「ひぁっ!?」
照「どうしたの? 変な声出して」
菫「う、後ろからいきなり話しかけてくるな! いつ部屋に入って来た!?」
菫「そ、そうか……」
照「それ何の本? それに、十円玉なんか机に並べて……」
菫「そ、そんなことより、部室に一体何の用だ? 今日は休みのはずだが」
照「部室に用事はない。菫を探しに来た」
菫「私を?」
照「菫、体育祭の実行委員だったよね」
菫「ああ、そうだが」
照「もうすぐ体育祭のリハーサルだから、グラウンドにテント出しといてって福与先生が言ってた」
照「うん。菫HR終わったあとすぐにクラスから出て行っちゃったから、伝え損ねたって」
菫「そうか……手間をかけさせてすまなかった。今すぐ体育倉庫に行って……」
菫「た、体育倉庫!?」
照「? どうしたの菫?」
菫「いや、なんでもない……」
菫(ま、まさか、な……)
照「そういうことだから、よろしくね」
――――――
菫(……偶然、なのか……?)
菫(もし本当におまじないが効いたとしたら、体育倉庫には……)
菫「……いや、それこそあり得ない。彼女が体育倉庫に用があるなんて……」
恒子「あ、弘世さん!」
菫「っ!? ……ふ、福与先生?」
恒子「いやー、探した探した。あ、もしかして宮永さんから話聞いてたりする?」
菫「テントの件ですか?」
恒子「それそれ。小道具係の松実さんにも手伝うように言ってるから、二人で頑張ってね」
菫「ま、松実!?」
恒子「うん。女の子が一人であんなクソ重いもん出せるわけないし」
菫(ほ、本当におまじないの効果が……)
恒子「あと、先に行った松実さん頑張ってると思うから、出来るだけ早く行ってあげて。そんじゃよろしくー」
菫(……こ、こんなことがあり得るのか……?)
――――――
宥「うぅ……重い……」
菫(ほ、本当にいた……)
宥「こんなの一人で動かせないよぉ……」
菫(松実、宥……)
菫「……」
宥「あっ、弘世さん」
菫「っ……お、遅れて申し訳ない。手伝いに来た」
菫(……ま、まずい。ドキドキしてきた。二人きりってだけなのに、こんな……)
宥「え、えっと、弘世さん……?」
菫「す、すまない。少しぼーっとしていた。早く済ませてしまおう。そっち、持ち上げられそうか?」
宥「うん、っと……ご、ごめんなさい、これが、限界です……」
菫(全然上がってない……)
宥「ほ、本当にごめんなさい! 私全然力なくて、運動も出来なくて……!」
菫「そ、そんなにも卑屈になるな。こんな重いもの、普通の女の子は持ち上げられない」
宥「でも弘世さんは……」
宥「麻雀部と……弓道部、ですか?」
菫「ああ、弓を引くだけでも随分な力がいるから、計らずしも力はつく。だから私のような女の方が珍しいんだ。松実さんは何もおかしくない」
宥「弘世さん……」
菫「持ち上げられないなら、持ち方を変えよう。二人で同じ方向から力をかけて引っ張ればいい。こっちに来てここを持ってくれるか?」
宥「は、はい。え、えっと、こうですか?」
菫「っ……!」
菫(ち、近い……一つの取っ手を二人で持ってるんだから、当たり前なんだろうけど……)
宥「えっと、それじゃあ引っ張りますね」
菫「あ、ああ。呼吸を合わせよう」
宥菫「「いち、にの、さんっ!!」」
――――――
宥「はぁ、はぁ、はぁ……重いです……」
菫「出口付近までには持って来れたが……ここからもっと骨が折れそうだ……」
菫「外に出て休憩しよう。ここは少し暗いし埃っぽい」
宥「はぃ……わかりました……」ハァハァ
菫(一緒に体育の授業を受けてて分かってはいたが、本当に体力が無いんだな……少し重いものを運んだけなのにふらふらだ)
菫「……手を貸そうか?」
宥「だ、大丈夫……私、そこまで貧弱じゃ……きゃっ!?」
菫「っと……暗いから足下には気を付けて」
宥「あ、ありがとうございます……」
菫(……温かい。それに、とても良い匂いが……)
菫「……え?」
宥「も、もう大丈夫ですよ?」
菫「っ! す、すまない!」
菫(わ、私は一体なにを考えて……!)
宥「え、えと、それじゃあ外に出ましょうか」
菫「あ、ああ。そうだな」
菫(……思った以上に重傷なのかもしれない)
宥「それにしても……すごくたくさんの機具がありますよね」
菫「もうすぐ文化祭だから、奥にしまってあった物を出入り口付近に置いてあるんだろう」
菫(こんなにも高く積み上げて……何かの拍子に崩れたら一大事だぞ)
菫「どうした?」
宥「マフラー奥の方に置き忘れてる……」
菫(付けてないと思えば外していたのか……)
宥「汚れそうだと思って外したままで……取ってきますね」
菫「ああ。奥は暗いけど、一人で大丈夫か?」
宥「はい、少しだけ待っててください」
菫(……しかし、落ち着かないな……いつもとは違う空間に二人きりというだけで、こんなにも緊張するものなのか)
菫(……いや、考えてみれば、彼女と話すときはいつだって緊張しているのかもしれない)
菫(何がきっかけだったのか。分からないし身に覚えも無い。気付けば目で追っていて、彼女を意識していて―――)
宥「きゃあっ!!」
菫「!」
宥「いたた……ご、ごめんなさい。その、つまずいちゃって……」
菫「……はぁ。足下には気を付けろと言っただろ……」
宥「ご、ごめんなさい……」
菫「怪我はしてないか? どこかひねったとか」
宥「ううん、大丈夫。本当に少しつまずいただけだから……」
菫「そうか。マフラーは……見つかったみたいだな。ここは思った以上に危ない場所なのかもしれない。早く出よう」
宥「うん、そうだね……」
――――-ゴゴゴゴゴゴゴ
菫(……な、なんだこの音? しかもこれ、揺れてないか……?)
菫(ま、まさか……)
菫「地震だ! しかもだんだん大きくなってる!!」
宥「きゃあ!? ひ、弘世さっ……」
菫「こっちだ! 伏せろ宥!!」
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ――――――
菫「……止んだ、みたいだな」
宥「うぅ……怖かったよぉ……」ガクガクブルブル
菫「もう大丈夫……安心して……」ナデナデ
宥「弘世さん……」
菫(しかし大きかったな……震度5~6はあったんじゃないか?)
菫(外の様子も気になる……とにかくここから出よう)
宥「ごめんなさい……あともう少しだけ、ぐすっ、このまま……」ギュウ
菫「わ、分かった。急かしてすまない。落ち着くまで待つから、リラックスして」
菫(こ、こんなにも強く抱きしめられて……む、胸が……)
宥「あうぅぅぅ……」
菫(こんなときにまで何を考えてるんだ……落ち着くのは私の方じゃないか……」
――――――
宥「……ありがとうございます、弘世さん。ぐずっ、もう、大丈夫です……」
菫「ほ、本当に大丈夫か? 腰が抜けて立てないんだろう? 無理はしない方が」
宥「このままここに居たら、弘世さんまで危険な目に遭います……だから、私のことは置いといて弘世さんだけでも外に……」
菫「何を言ってるんだ!?」
宥「ひっ」
菫「松実さんをここに置いて行くくらいなら死んだ方がマシだ! 二度とそんなことは言わないでくれ!」
菫「まだ余震の危険もある。ますます一人にするわけにはいかない。立てないなら私が松実さんを背負うから、とにかく二人で外に出よう」
宥「ぐずっ、はい……わかりました……」
菫「手を首に回して? そう、それで体を私の背中に預けて。しっかり掴まっててくれ」
宥(弘世さんの背中……体はすごく細いのにしっかりしてて……)
宥(安心する……あったかい……)
菫「……さっきは、その、怒鳴ったりして悪かった。ただ、弱気なことも自分を蔑ろにすることも言わないで欲しい」
菫「私にとって松実さんは……」
宥「えっ……?」
菫「も、もうすぐ出入り口だ」
菫(……出入り口付近にうず高く詰まれていた機具が崩れ落ち、扉を塞いでいた)
菫「……あれだけの揺れだ。普通に考えてこうならない方がおかしい」
宥「私たち……閉じ込められて……」
菫(これもあのおまじないの効力だと言うのか……クソっ)
菫(なんて馬鹿なことをしてしまったんだ……私のせいで、松実さんを危険な状況に……)
宥「弘世さん、どうしよう……このままじゃ私たち……」
菫「……落ち着いて、松実さん。私たちがここに来たことは照や福与先生が知ってる」
菫「私たちが校内に居ないことに気付けば、すぐにでも助けに来てくれるはず」
菫「だから、それまでは比較的安全な場所で助けを待とう」
菫「ああ。だからそれまでは……私が松実さんを絶対に守るから」
宥「……うん。ありがとう……」
宥(私、また誰かに助けられてばっかり……)
菫「とりあえず、さっきの場所まで戻るからしっかり掴まってて」
―――――――
菫「降ろすぞ」
宥「うん……」
菫「とりあえず、ここなら余震が来ても物が降ってくることもないし、安全だろう」
宥(どうしよう、弘世さんから離れたせいで……寒い……)
宥「あの、私……知ってのとおりすごく寒がりで……」フルフル
菫「さ、寒いのか? この場所が?」
菫(確かに今は秋の中旬で、少し前までに比べれば気温は下がって来てはいるが……)
宥「うぅぅ……」
菫「す、少し待ってて。何か羽織れるようなものを探してくる」
宥「あっ……ま、待って!」
宥「一人に……しないでください……」ウルウル
菫「っ……!?」ドキン
宥「私、我慢します……弘世さんがいなくなるくらいなら、寒いままでいいです……」ブルブル
菫(あんなにも顔を白くして、体を震わせて……)
菫「……」
宥「弘世さん……?」
菫「その、何も無いよりはマシだと思う。上からこれを着てみてくれ」
宥(弘世さんの……ブレザー……)
宥「で、でもそれじゃあ弘世さんが……!」
菫「バカ言え。冬山に遭難したんじゃないんだぞ……常人は上を脱いでも涼しいくらいだ」
宥「あっ……そ、そうですよね」
菫「それでも寒いようならまた何か考える。とりあえずはそれで我慢してくれ」
宥「ありがとうございます……」
宥「あったかい……」
菫(……とりあえずは大丈夫、なのか……?)
宥「はぁぁ……」
菫(しかし、彼女の体質は未だに信じられない……今朝も真冬でもしないような防寒具を着ていたし……)
菫(そういえば、始めて彼女と出会ったときも驚かされたな……)
菫「懐かしい……」
宥「えっ?」
菫「あ、いや。その……異様に寒がってる松実を見て、初めて会ったときのことを思い出してな……」
宥「初めて会ったときのこと……?」
宥「私、いつもそうなんです。周囲の環境が変わるたびにみんなに注目されて……入学式の日とかは特に……」
菫「担任になった福与先生に質問攻めにあって、あたふたしていたのも印象深いな」
菫(まあ、あの人の性格の濃さも相まってだが……)
宥「あの時は大変でした……緊張して全然喋れなくて……」
菫「あんなマシンガントークを受けててまともに受け答え出来る人もそういないよ」クスクス
宥「ふふ、そうですよね」
菫「始めて話しかけられた時のこと?」
宥「教室の中で防寒具を付けるなんてマナー違反だ。今すぐ取れ、って……」
菫「あ、あぁ……あの時のことか……」
宥「すごく厳しい口調で注意されて……ふふ、少し怖かったのを覚えてます」
菫「ご、ゴーグルにマスクまで付けて来られたら黙って見過ごせるわけがないだろ……」
宥「でも私、ああやって注意されたのは始めてでしたから……」
菫(小動物のような挙動で涙目になった彼女を責め立てる私は、端から見れば悪役だったな……)
菫「……なかなか指示に従わない松実さんに腹が立って、無理やり防寒具を取ろうとした……」
宥「ふふ、あの時はすごく騒ぎになりましたよね。喧嘩だ事件だって……」
菫「今でもよく覚えてるし、忘れるわけも無い。あの照に羽交い締めにされるまで止まらなかったくらいだから、よっぽど我を失っていたんだろうな……」
菫(思い出すだけで恥ずかしくなる……どうして私はあそこまで……)
宥「でも、そのあとはちゃんと仲直り出来ましたよね」
菫「学校長直々の許可書を持って来られたからな……最初から事情を説明してくれればよかったものを……」
宥「詰め寄られることなんて普段なかったし、ほとんど初対面だったから……上手く話せなくて……」
菫「あの時は随分と恥をかいたよ」
宥「私が弘世さんの立場なら、絶対に……」
菫「実際はいけないことじゃなかったんだから結局は私の早とちりだ。冷静に事情を聞き出そうとしなかったのも悪い。改めて、あの時はすまなかった」
宥「そ、そんな、とんでもないです……むしろ謝るのは私の方で……」
菫「ふふ、今さら昔のことを掘り返すこともない。今ではこうやって仲良く……」
宥菫「「……」」
宥「わ、私たちって、普段あんまりお話しませんよね」
菫「た、確かに」
菫(いつも目で追うだけで、話しかけようなんて……)
菫「松実さんも、クラスでは姉帯や岩戸、それに妹さんたちと……」
宥菫「「……」」
宥「……こ、これを機に互いのことをもっと知れるといいですね」
菫「そ、そうだな」
――――――――
菫(……閉じ込められてから1時間は経ったか……?)
菫(未だに助けが来る様子はない。あんなにも大きな地震があったというのに、あまりにも静かすぎやしないか……?)
菫「……松実さん、携帯は持ってたりしないか?」
宥「ごめんなさい。すぐ戻れると思って、教室に置いたままで……」
菫「私も鞄ごと部室だ。期待はしてなかったが、助けを呼ぶのは無理そうだな……」
宥「私たち、いつまでこのままなんでしょう」
宥「結構時間は経ってるのに、まだ誰も来ない……」
菫(……何か理由を付けてポジティブに考えたいものだが、どれだけ推測しても……)
宥「もしかしたら、ずっとこのまま……」
菫「それはあり得ない。明日は体育祭のリハーサルがあるから、この倉庫は絶対に使うことになる」
菫「今日中に出られるかは分からないが……明日までには絶対に出られるよ。それは断言できる」
宥「そ、そうですよね。ごめんなさい、暗いこと考えちゃって……」
菫「この状況じゃ不安になるのも仕方ない。ただ、気持ちを後ろ向きに持っても何も出来ないことには変わらない」
宥「あっ……」
宥(弘世さんの笑顔……始めて見たかもしれない……)ポー
菫「どうした? 私の顔に何か付いてるか?」
宥「いや……その、弘世さんが笑ってるところ、始めて見たような気がして……」
菫「なっ」
宥「とっても綺麗でした……笑ってる方もすごく弘世さんは素敵ですね」ニコ
菫「っ……」
菫(松実さんの笑顔の方が素敵だ、なんて口が裂けても言えないな……)
――――――
菫(あれからまたしばらく経ったが……話題が尽きると無言が気まずく感じるな……)
菫(松実さんの様子は……)
宥「……」
菫(……あまり良いとは言えないな)
菫(何か気晴らし出来るようなことがあれば……)
―――――ゴゴゴゴゴゴゴ
宥「ひっ!?」
菫(っ……! よ、余震か……!?)
宥「ひ、ひひ、弘世さん……!」
菫「落ち着いて。大丈夫だから」
宥「ひぃぃ……」ガクガクブルブル
菫(彼女には関係ないらしい……)
菫「松実さん、怖がらないで。揺れは小さいし、本当に大丈夫だから」ギュ
宥「弘世さん……」ナミダメ
菫「深呼吸して。不安なら、私にしがみついててもいいから」
宥「はぃ……」ギュウ
菫(……こんなにも近くに、松実さんが……)
菫(この揺れがいつまでも続けばいいなんて思ってる私は……)
―――――――
菫「……ほら、何もなかっただろ? 少し音がうるさかったくらいだ」
宥「はい、そうでした……」ギュゥ
菫「……その、もう大丈夫だと思うから、離れても」
宥「……もう少しだけ、このままでいいですか」
菫「えっ? あ、ああ。わ、私は別に構わないが……」
宥「弘世さん……やっぱりすごくあったかくて、とても安心するんです……」
菫「っ……!」ドキッ
宥「抱きしめるのが気持ち良くて……良い匂いも……」
菫「ま、松実さん……?」
宥「!」
宥「ご、ごめんなさい! わ、私ったら、変なこと言って……」
菫「待って!」
宥「っ!?」
菫(咄嗟に腕を掴んでしまった……手首、細い……)
宥「ひ、弘世さん……?」
菫「……えっと、なんだ。その、別に何も気にならないし嫌でもないから、その……」
菫「抱きついてもらっても……構わない」
宥「……」
宥「あ、改めてそう言われると……恥ずかしいです……」
菫「うっ……」
菫(い、一体何を言ってるんだ私は……!! )
宥「えっ……わ、忘れないといけないんですか……?」
菫「っ……いや、もう好きにしてくれ……」
宥「は、はい」
菫(……確実に自分自身がおかしくなってる。この閉鎖的な空間の所為なのか、はたまた……)
宥「……?」
菫(……今は出来るだけ何も考えないでおこう)
―――――――
菫(閉じ込められたのは、推測だが午後の17時頃。体感時間では結構経ってるが、今は何時なんだろう……)
菫(この体育倉庫に気付かない方がおかしくないか……? 外も混乱してると考えてもこれは……)
宥「あ、あの弘世さん」
宥「その……また、だんだん寒くなってきて……」
菫(言われてみれば……確かに肌寒い。日が落ちて来た証拠か……?)
宥「だから、弘世さんが良ければでいいんですが……」
宥「あたためてもらってもいいですか……?」
菫「……」
菫「はぁ!?」
宥「ご、ごめんなさい! やっぱりダメですよね、こんなこと……」
菫「い、いや。え、っと。あ、温めるって、具体的にどうやって……?」
菫「す、すまないがもう一度大きい声で言ってもらえるか? 声が小さくてよく……」
宥「ご、ごめんなさい! やっぱりさっき言ったことは忘れてください!」
宥「わ、私ってば、本当に何を考えて……」
菫(顔が真っ赤だ……は、裸とかって聞こえたが、一体何を言おうと……?)
菫「……よく分からないが、寒いのか?」
宥「は、はい……少し、辛いです……」
菫「……」
宥「弘世さん……?」
菫「……この体育倉庫には暖を取れるものなんて無いと思う」
菫「それで、なんだかんだでやっぱり人肌が一番温かいと……思う」
宥「そ、それって……」
宥「!」
菫(わ、私は一体何を……でも、これで彼女が楽になれるなら……)
宥「ひ、弘世さん……ほ、本当に、良いんですか……?」
菫「あ、ああ。言っても私たちは同性だ。抱き合うくらい、それほど気にすることでもないだろう」
菫(私自身は、気になって仕方がないが……)
宥「ありがとうございます……弘世さん、私なんかのために、本当に……」ウルウル
菫「泣くのはやめてくれないか……」
宥「ご、ごめんなさい……ぐずっ、それじゃあ、ふつつか者ですが、よろしくお願いします」
菫「あ、ああ。よろしく」
菫(ってなんなんだこの挨拶は……)
宥「それじゃ、その……見られてると恥ずかしいので、後ろ、向いててもらっていいですか?」
菫「……どういう意味だ?」
菫(だからなんで泣きそうになるんだ!? しかも顔まで赤くして……)ドキドキ
菫「……分かった。後ろを向いてればいいんだな?」
宥「は、はい。その間に、その……弘世さんも準備しといてもらえれば嬉しいです……」
菫「あ、ああ」
菫(準備? 何の準備だろう。心の準備の時間は確かに欲しいが……そもそもどうして私が後ろを向いて……)
シュルシュル――――
菫(な、なんだ今の音は? まるで衣擦れのような……)
ファサ――――――
菫(……何が起きてる……?)
宥「はぁ……はぁ……」
宥「す、すみません。もう少しだけ待ってください……あとちょっとで脱ぎ終わるので……」
菫(……な、なんだって? 今、脱ぎ終わるとか……)
宥(ど、どうしよう……すごく恥ずかしいし、めちゃくちゃ寒い……)
宥(でも、弘世さんはこんな私のために……一生懸命……)
菫「……すまない松実さん。状況を確認したいから振り向いてもいいか?」
宥「えっ!? だ、ダメです! ま、まだ途中で……」
菫「一体何をしているんだ? まったくもって意味が……」
宥「あっ、だ、ダメっ……!」
菫(後ろを振り向くと、そこには上半身裸の―――)
菫「んなぁっ!?」
宥「やぁ……み、見ないでください……」
菫「す、すまない!」サッ
菫(ってどうして私が謝る!?)
宥「うぅ……弘世さんひどいです……後ろ向いといてって言ったのに……」
菫「そ、そんなことよりどうして服を脱いでるんだ? 寒いんじゃないのか?」
宥「すごく寒いです……だから、早くあたためて欲しいのに……弘世さん、服脱いでない……」
菫「あ、当たり前だろう!? 何故服を脱ぐ必要がある!?」
宥「ひっ……」
菫「っ……お、大きな声を出してすまない。ただ、その、私と松実さんの間に大きな意思の齟齬があるように思えるのだが……」
菫「あ、ああ。でも、だからと言ってどうして服を脱ぐ必要があるんだ……?」
宥「は、裸で抱き合うのが一番あったかいらしいって、私……」
菫(……あの時か。まさかそんなことを言っていたなんて……)
宥「もしかして、伝わっていたと勘違いして……」
菫「……すまない。どうやらそうらしい」
宥「……!!」
宥「ごご、ごめんなさいっ!! わわ、私ったら、一人で勝手に思い違いして……!」
宥「じょ、常識的に考えてそうですよね、裸で抱き合うなんて、そんなの、普通、あり得ないのに……」ジワァ
菫「な、泣かないでくれ! ちゃんと確認しなかった私も悪いし、そのっ……」
宥「ひぐっ……ひ、弘世さんは、何も悪くなんかっ……」
菫「まずは服を着てくれないか……?」
宥「……はい」
菫(それは今にも消え入りそうな声だった)
―――――――
宥「着直しました……」
菫「あ、ああ……」
菫(後ろを向いている最中にすすり泣く声が聞こえていた……今も顔は赤くて、涙目で……)
菫「……謝る必要はない。何も悪いことはしていないんだ」
宥「……」
菫(……落ち込んでいる姿が、こんなにも愛おしく思えるなんて……)
菫(儚げで、触れれば壊れてしまいそうな危うさがあって……)
宥「……弘世さん……?」
菫(あぁ……すごく……抱きしめたい)
菫「……松実さん。改めて、約束を守らせてもらうよ」スッ
宥「えっ?」
宥「あっ……」ギュ
宥「弘世さん……」
菫(……本当に温かい)
宥(やっぱり、すごく安心する……この気持ちも……あったかい……)
菫(……幸せな夢の中で浮いているような、そんな気分だった)
―――――――
菫「ん、んぅ……」
菫(……いつの間にか寝てしまっていたらしい)
菫「松実さん……も、寝ていたか」
宥「すぅ……すぅ……」
菫(しかし、いよいよ時間の感覚が無くなってきた……気温からして夜であるのは間違い無さそうだが……)
宥「ん、んぅ……ひろせさん……」
菫(……彼女のおかげで温かい。こんなにも近くで触れ合えて、あろうことか抱き合ってるなんて……少しはあのまじないに感謝してもいいのかもしれない)
菫(……松実、宥)
宥「すぅ……すぅ……」
菫「……どうやらこの気持ちは本物らしい」ナデナデ
菫「いつの日か、きっと……」
宥「ひろせ、さん?」
菫「……おはよう、松実さん。どうやら二人とも、いつの間にか眠ってしまっていたらしい」
菫「今日中には、いや、日付が変わってる可能性もあるが……助けは来そうにもないな」
宥「そうですね……」
宥(もうしばらくは、このままでも……)
菫「特にすることも無ければ話すことも無い。……もう一眠りするか?」
宥「いえ、大丈夫です。それより……このまま弘世さんとお話していたいです」ギュウ
菫「ま、松実さんがそう言うなら、私は構わないが……」
宥「……弘世さん。もしよろしければ……私のこと、下の名前で呼んで欲しいです」
菫「っ……」ドキ
菫「ど、どうして急にそんなこと……」
宥「弘世さん、自分では気付いてないかもしれませんが……たまに私のこと下の名前で読んでるんですよ?」
菫「なっ」
菫(ま、まったく自覚がない……)
宥「弘世さんは、咄嗟に私を呼ぶ時はいつもそうなんです」
宥「私が体育でこけそうになったり、何かに当たりそうになったときとか、いつも……」
菫「……」
宥「普段あまり話したりしないけど、何かあったときには真っ先に気付いてくれて、それでいて助けてくれて……」
宥「私、そのことがすごく嬉しくて……いつかちゃんとお礼を言いたいと思っていて……」
宥「その、弘世さん。これからはもっと私と仲良くして頂けると……嬉しいです。だから……」
菫「……断る理由なんかない。喜んでそうさせてもらうよ」
菫「……宥」
宥「!」
宥「……ありがとうございます。弘世さん」
菫「ところで、その……なんだ。私だけ下の名前で呼ぶってのも、不公平だと思わないか?」
宥「えっ?」
菫「弘世さんなんて呼ばれるのは顔見知り程度の人間か教師だけでいい。……菫にしてくれないか」
宥「い、いいんですか? 私なんかが……」
菫「その言葉の意味が分からない。宥にだから呼んで欲しいんだ」
菫「す、菫ちゃん!?」
宥「えっ……な、何かおかしいですか……?」
菫「い、いや。ちゃん付けで呼ばれたのなんて小学生以来だからな……」
宥「さん付けはよそよそしいと思って……」
菫「……よそよそしいと思うならまずは敬語をやめるべきだと思うんだが」
宥「ご、ごめんなさい……最初に話したときの印象がずっと強くて……」
菫「敬語で話されるのも後輩だけで十分だ。これからは普通に、他のみんなと接するように頼むよ」
宥「うん、わかった。……私たち、これからもっと仲良くなれそうだね。菫ちゃん」
菫「っ……出来ればそれはやめて欲しいな……普通に菫じゃダメなのか?」
宥「呼び捨てってあんまり馴れなくて……菫ちゃんじゃダメ?」
菫「……はぁ。好きにすればいい」
宥「ふふ、ありがとう」
――――――――
菫(しかし……どうしたものか……)
菫(本当に助けは来ないのか……これもあのまじないの効力だとしたら、明日になっても……)
菫(……そういえば、あの本のまじないが書いてあった同じページに解呪方法が書いてあったような気が……)
菫「……」
宥「どうしたの菫ちゃん? なんだか険しい顔してるけど……」
菫「い、いや……ここから出られる方法に少し心あたりがあってな……」
宥「そ、それって本当に?」
菫「ああ、限りなく信憑性は高いと思う……」
菫(まじないが本物なら、あれもきっと……し、しかし……!)
菫(……ためらってる場合なんかじゃない。次の瞬間にも大きな地震が来る可能性もある)
菫(これ以上宥を危険な目に遭わせるのも、怖がらせるのも絶対に……!)
菫「……はぁ。すまない、宥。少しの間だけ後ろを向いていてくれるか?」
宥「えっ? で、でも……」
菫「私から離れると寒いかもしれないが、すぐにでもここから出られるようになる。だから……」
宥「……分かった。私、菫ちゃんを信じる……」スッ
宥(うぅ……寒い……)
菫(元はと言えば全て私が引き起こしたことだ。私自身の手で、責任を持って終わらせる)
菫「……く、くそぉっ……」ヌギヌギ
宥(な、何してるの菫ちゃん……?)
菫(すぐ目の前に宥がいる中で、こんなっ……)シュル
菫「ゆ、宥……頼むから後ろは向かないでくれ……」
宥「う、うん。分かったよ……」
菫(ここまでしたんだ。もうなるようになれ……!)
菫「呪いなんてへのへのかっぱ!!」
宥「へっ……!?」
菫「呪いなんてへのへのかっぱ!! 呪いなんてへのへのかっぱ!!」
宥「す、菫ちゃん? いきなり何を……」
―――――――ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ
宥菫「「!!」」
菫「危ない! 伏せろ宥!!」
宥「きゃあっ……! す、すみれちゃ……ふぇえ!? は、はだっ……!?」
ゴゴゴゴゴゴゴゴ――――――――
宥菫「「……」」
菫(……止んだ、か……?)
菫「大丈夫か宥? かなり大きかったが、どこか打ったとか……」
宥「すごく怖かったけど、大丈夫……」
菫「……そうか。それはよかった」
宥「す、菫ちゃん……ど、どうして……上、裸なの……?」
菫「!?」
菫(し、しまっ……)
菫「こ、これは、その……!」
玄「お姉ちゃん!!」
照「二人ともだいじょう……ぶ……」
「「…………」」
恒子「えーっと……もしかしてお楽しみだったりした?」
玄「うそ……こんなの……」
照「……」
菫「ち、違う。これには訳があって……」
宥「よかったぁ……助けにきてくれたんだ……」ギュウゥ
照「菫……」ドンビキ
玄「」
菫(どうしてこうなった……)
宥「あ、あの。菫ちゃん、とりあえず、服、着た方が……」
恒子「ま、私たち3人以外はみんな外にいるから問題ないよ!」
照「どこが問題ないんですか先生……」
玄「」
宥「えっと、とりあえず、みんな外で待っててくれるかな……?」
宥「見られてると、菫ちゃん私から離れられないと思うから……」
恒子「それもそうだ。よし、無事も確認したし先に出てるよ! 二人とも!」
恒子「ほら、妹ちゃんも放心してないでテキパキ歩く!」
宥「えっと……だ、大丈夫? 菫ちゃん」
菫「……大丈夫じゃない。今後のことを考えると気を失いそうだ……」
宥「さ、三人ともいい人だから心配しなくて良いと思うけど……私も気にしないし……」
菫(どうして気にしないんだ……)
宥「と、とにかく。私後ろ向いてるから服着て?」
菫「……ああ。そうだな」
菫(これが悪ふざけの報いか……自業自得だな……)
菫(こうして一連の事件は幕を閉じた――――)
―――――――
菫(学校に行きたく無いと思ったのも、教室に入りたく無いと思ったのも初めてだな……)
菫(奇異な目で見られないことを祈りたいが……)ガラ
「「……」」ザワ…ザワ…ザワ…
菫(まあしばらくは無理そうな話だな……)
照「おはよう、菫。昨日はお楽しみだったね」
怜「おはよーさん委員長。昨日は災難やったな。いや、むしろラッキーか」
菫「……はぁ」
怜「学校中の噂になっとるで? 松実さんと委員長が体育倉庫であはーんうふーんって」
菫「くっ……福与先生の仕業か……! 断言するが宥とは何もなかったからな」
照「松実さんじゃないんだ」
菫「うっ」
怜「下の名前で呼ぶようになっとるなんて、何があったんやろうなぁ」ニヤニヤ
宥「あわわわわ……」ワイワイガヤガヤ
菫「……」アゼン
怜「松実さんゆっとったんやでー。菫ちゃんにあたためてもらったって」
菫「なっ」
照「……それもそうだけど、菫が菫ちゃんなんて呼ばれてることが一番おかしい。何かあった以外に考えられない」
怜「なあ、それもそやけど、どないしてあたためたん? やっぱりやらしーことして」
菫「もう黙れお前!!」
菫「ゆ、宥! ちょっとこい!!」
宥「へっ? あ、菫ちゃん……」
菫「話すんじゃない!! ええい道を空けろ! 退け!」
怜「はは、連れてってもうた」
照「あんなにも荒れてる菫は初めて見る」
怜「確かに。委員長のキャラやないわ」ケラケラ
怜「にしてもよかったやん。永遠の片思いに進展があって」
照「それは、まあ」
怜「照もあの後輩二人に振り回されてばっかやと婚期逃すで?」
照「うるさい」
―――――――
宥「はぁ、はぁ……ま、待って菫ちゃん、引っ張らないで……」
菫「あっ……す、すまない」
宥「歩くの早いよぉ……」
菫「しょうがないだろ……あんなにもじろじろ見られるんだから……」
菫「そ、それより! 宥、どこまで話した?」
宥「昨日の話? えっと、菫ちゃんと仲良くなって、あっためてもらって、それがすごく気持ち良かったってくらいしか……」
菫「ほ、本当にそう言ったのか!? あの人数に!?」
宥「う、うん……」
菫(どうしてそんなにも誤解を招くような言い方を……!!)
菫「……はぁ。もういい。そもそも福与先生の口止めを徹底しなかった時点で手遅れだったんだ……」
宥「で、でも、私嘘は付いてないよ? つ、付き合ってるの、って訊かれても違いますって言ってるし、キスしたの、って訊かれてもしてないって答えて……」
菫(たぶん、宥の口ぶりだとただの照れ隠しに聞こえるんだろうな……)
菫「……もう何も言う必要がないな。急に連れ出したりして悪かった。教室に戻ろう」ギュ
宥「う、うん……」
宥(手……)
菫(……私は宥のことが好きなんだ。それなら、周りには私たち二人が両思いだと思わせて、ライバルを減らすのも一興かもしれない)
菫(利用するだけ利用してやろうじゃないか)
宥「あの……菫ちゃん」
菫「……なんだ?」
菫「……当たり前だろ。今さら何を言ってるんだ」
宥「ありがとう。すごく嬉しい……」
宥(友達に、なれたんだ……菫ちゃんと、私……)
菫「宥?」
宥「ふふ、なんでもない。早く教室に戻ろう」
菫「あ、ああ」
菫(なんなんだ一体……)
菫(しかし、友達、か……)
菫(……やはり、あのまじないには感謝しないといけないな)
終わり
部長、愛宕ネキ、キャップの生徒会とか
福与先生を初めとする麻雀プロ、アナウンサーの教師陣とか
クロチャー嫉妬爆発で菫さんライバル視とか
咲、淡、和、シズの一年生組とか
ぱっと思い浮かぶだけでこんだけ書いてみたいのはある
気分が乗ったらいつか書きたいな。もちろん書いてくれてもいいし
宥菫すばらしい
何か重要な示唆を与えられた気がする
乙乙
続き気になってたんだ
乙!
Entry ⇒ 2012.10.08 | Category ⇒ 咲-Saki-SS | Comments (1) | Trackbacks (0)
ハニー・ポッター「私が、魔法使い?」
ハグリッド「……」
ダドリー「ブヒィー!ブヒィー!」
ピアーズ「踏んでください!踏んでくださいハニー姐さん!!」
バーノン「小娘、やめろ!やめろ!また方々に頭を下げんといかんだろうが!ダドリーの友達をかかとで踏みつけるのはやめんかぁああああ!」
ペチュニア「ダドちゃん!坊や!そんな小娘の靴を舐めちゃダメ、ダドちゃん!!」
ハグリッド「……こりゃぁおったまげた。見た目はリリーに……中身はジェームズそっくりになっちょるとは」
ハグリッド「……お、俺も踏んじょくれるか?ハニー?」
ハニー「えぇ。なるほど。中々魔法界もやりやすそうね?」
ハニー「何よ、散々のけものにしてきてくれたくせに」
バーノン「だまらっしゃい!貴様こそ、散々わしらに迷惑をかけておいて!」
ハニー「あら、ダドリーはこの上なく至福の時を過ごしているようよ?ねぇ?」
ダドリー「ご褒美です」
バーノン「えぇいうるさい!お前はこのままタレント養成学校に入って!その無駄にいい見た目でトップスターになってわしらに恩返しを……」
ハニー「ハグリッド、やっちゃって」
ハグリッド「俺の――前で――アルバス・ダンブルドアを――バカにするな!!!」
バーノン「誰だそれhぐっほぁあああああ!!」
ペチュニア「バーノーーーーーン!!!」
ピアーズ「ブヒィー!ブヒィー!」
ハグリッド「おう、聞いちょらんか。それはそうか、あの偏屈マグルど一緒だったんだものな」
ハニー「そう。どんな人だったの?」
ハグリッド「そりゃぁもう、お前さんそっくりさ」
ハニー「褒められた気がしないわ」
通行人マグル「あの子、なんで大男の肩に座ってるんだ……?」
ハニー「どうだか。大方この捻くれた性格のことを言っているんじゃない?」
ハグリッド「違うんだ!そりゃジェームズはちっとばっか難しい時期もあったが、そりゃぁ良い奴で」
ハニー「ふんっ」
ハグリッド「あー、ハニー。俺ぁお前さんにそんな顔されるとどうすればいいんか分からねぇ。ハニー、頼む……」
ハニー「じゃぁ、このリストに書いてある……ふくろうを買ってくれる?」
ハグリッド「お安いご用だ!」
ハニー「あなたは使える豚ね、ハグリッド」
リリーだ!
リリーが帰ってきた!!
ハニー「こんにちわ、始めまして。娘のハニーよ?」
天使だ!!!
天使が魔法界に帰ってきた!!!
今日はポッター記念日だ!!
トム「ハグリッド、なんだいその首につけてるものは」
ハグリッド「ハニーが作ってくれたんだ!待っちょれ、今にお前にもくれるはずさ。何せハニーは優しい子だからな!」
トム「作るって……私にはどうも、首輪にしか見えんのだが……」
ハグリッド「ほれ見ろ!みんなお前さんのことを知っちょったろう!?」
ハニー「えぇ、それに全員私印の首輪を着けたわね。幸先がいいわ」
ハグリッド「あぁ、何せお前さんは特別だからな!」
ハニー「私が特別なのはまごうことない事実だけれど、あなたの言うそれは別のことのようね?」
ハグリッド「うっ……す、すまん。聞かんかったことに……」
ハニー「ハ、グ、リ、ッド……?」フーッ
ハグリッド「お前さんはむかーしど偉く悪ぃ最低の魔法使い、それ!『ヴォルデモート』!を赤ん坊の頃にぶっ倒しちまったんですはい!!」
ハグリッド「や、やめちょくれハニー!あいつの名前を言うのは今でも恐れられちょる……」
ハニー「私が恐れるのは退屈と体重計だけ。何よ、たかが名前に。それに、私に指図するの?」
ハグリッド「お、お前さんの呼びたいように呼んじょくれ!」
ハニー「えぇ、それじゃぁあなたを偶に豚と呼ぶことにするわ」
ハグリッド「光栄だ!」
ハニー「つまり、あなたの人生全ての運を二度使い切ったと思っていいわね」
オリバンダー「まっこと、そうとも言えましょうな。どれ、杖腕はどちらかな?」
ハニー「あなたもプロなら、それくらい教わらずに分かりなさい」
オリバンダー「なるほど、随分とお父様に似たようで」
ハニー「やりにくいわ、あなた」
ハグリッド「オリバンダー!ハニーをわずらわせると俺が黙っとらんぞ!」
オリバンダー「わしの杖を無様に折られた馬鹿者は黙っとれ」
オリバンダー「えぇ、そうでしょうとも……柊の木、十八センチ。不死鳥の尾の羽が入っております」
ハニー「不死鳥、へぇ。それは綺麗なわけ?」
ハグリッド「お前さんほどじゃねぇがな」
ハニー「そう、ならいいわ。で、『そうでしょう』とは?オリバンダー老?」
オリバンダー「なるほど、聡いのもお父様譲りですな」
ハグリッド「は、ハニー?俺の時と違うんじゃねぇか?あれ?」
ハニー「敬意を払う豚と、愛玩する豚は違うの。文句がある?」
ハニー「ふぅん。ヴォルデモートって奴なのね?」
ハグリッド「は、ハニー!」
ハニー「さっきから何、豚は豚らしくヒンヒン鳴いてなさい」
ハグリッド「ヒンヒン!ヒン!」
オリバンダー「あなたのその、額に走る稲妻型の傷。それをつけたのは、この杖の兄弟杖だというのに。あなたは、これを選ばれた」
ハニー「そ。じゃぁ、私はどこまでもそいつが気に食わないわ。おかげでいつまでも、前髪を変えられないんだから」
ハグリッド「その髪は似合っちょるぞ、ハニー!ヒンヒン!」
ハニー「大丈夫よ。あなたの大罪は、この私の杖を作ったことで全て許されたわ。誰あろう、この私にね」
ハグリッド「オリバンダー、杖の金だ。じゃあな、俺達は買い物を済ませっちまわねぇと」
オリバンダー「確かに」
ハニー「またね、オリバンダー老。次会う時は、ヴォルデモートの杖をお土産にしてあげる」
オリバンダー「あなたなら冗談にならなそうですな」
ハグリッド「おう!お前さんにそんな重ぇもんを持たせるわけにいかねぇからな!」
ハニー「理解が早い豚は好きよ?」
ハグリッド「おっほー!そ、そいじゃぁ俺はひとっ走りしてくるで、またな!ヒンヒン!ヒン!」
ハニー「扱いやすくて助かるわ。さ、って。制服はここね、『マダム・マルキンの洋裁店』」
マダム・マルキン「ごめんなさいねお嬢さん。私は、自分の手で測らないと気がすまないの」
ハニー「そう、私が魔法を覚えたのなら、そんな手間なことは絶対にしないわ」
???「……ね、ねぇ。あなた、今の言い方……ひょっとして、あなたもマグル生まれなの?」
ハニー「? そうだけど、あなた、誰?」
???「あっ、ごめんなさい!」
ハーマイオニー「私、グレンジャー。ハーマイオニー・グレンジャーよ!」
ハーマイオニー「あぁ、良かった!私、これまでマグル生まれの子に会ってなくて、とっても心細かったの!」
ハニー「そうよね。私も、案内してくれる豚がいなかったら不安だったろうわ」
ハーマイオニー「豚? ねぇ、あなた、どこの寮に入りたい?私、ホグワーツの事を知ってから、色々読んで勉強してみたの!」
ハニー「えぇ」
ハーマイオニー「勇気ある者が入るグリフィンドール、野心ある人が入るスリザリン、知恵ある者が入るレイブンクロー、優しさある人が入るハッフルパフ!」
ハーマイオニー「あぁ、私、できればレイブンクローがいいのだけれど。でも、名のある魔法使いの多くはグリフィンドールのようだし、困ったわ!」
ハニー「そうね」
ハニー「さぁ、その口ぶりだと、有名な魔法使いってところかしら」
ハーマイオニー「えぇ!ホグワーツの、校長先生なの!とってもとっても有名だそうよ……あぁ、それから」
ハーマイオニー「ハニー・ポッターは知ってるかしら?あのね、どうやら、私たちと同じ学年……」
マダム「はい、お嬢さん終わりましたよ」
ハニー「どうも、マダム」
ハーマイオニー「あっ……」
ハニー「ごめんなさいね、人を待たせているの。店の前でヒンヒン鳴かせておくのは迷惑だし、もう行くわ……」
ギュッ
ハーマイオニー「えっ、えっ!?な、なにを!?」
ハニー「また、きっと会いましょう?ハーマイオニー」フーッ
ハーマイオニー「あ、あ、あぁ……え、えぇ!きっと、絶対、絶対だわ!///」
ハニー「(少し前歯が気になるけれど、この子は磨くととてつもなく光るわね。しっかりつばをつけておかないと)」
ハグリッド「もちろんだ、ハニー!よ、っと」
ハニー「あなたの肩の乗り心地は堪らないわね。誰も彼も見下ろすことができるし」
ハグリッド「そうか、それだけで俺ぁデカブツで良かったと思えっちまうぞ。ハニー、なんぞ良い事があったかい」
ハニー「そう見えるかしら」
ハグリッド「おう!俺とかあの豚みたいないとこを踏んづけている時とおんなじ顔をしちょる!」
ハニー「まぁね、ふふっ」
ハグリッド「おー、ハニー。そうプレッシャーをかけんどくれ、俺ぁそいつにめっぽう弱い……」
ハニー「怖がらないで、ハグリッド。さぁ、あなたの隠したそれを……私に見せてみて?簡単でしょう?」
ハグリッド「あぁ、ハニー、いけねぇ、いけねぇ……これは……」
ふくろう「ピィーッ!」
ハニー「可愛いふくろうを用意できたじゃない、褒めてあげるわ」
ハグリッド「お前さんと駅で別れる時にビックリさせてやろうと思っちょったのに……」
ハニー「回りくどいのは嫌いよ、覚えておきなさい。さっ、白豚、主人の顔をキチンと覚えるのよ?チキンになりたくなければね」
ふくろう→白豚「ピピィー!?」
ハニー「9と4分の3番線……そんなもの、どこにもないじゃない」
ハニー「あの豚、何か伝え忘れたわね……次会ったら全力でシカトだわ」
ハニー「豚の処遇はともかく、どうすれば……」
ハニー「……あの赤毛の集団、怪しいわ。先頭は、籠にふくろうなんて入れているし」
パーシー「ロン、ロン!お菓子を食べながら歩くんじゃない!君も今日からホグワーツの一員なんだ、監督生の僕に手間をかけさせないように……」
フレッド「おぉーぅ完璧パーフェクトパーシーはいう事違うぜ全くさ。鼻高々でダンブルドアにも負けないくらい伸びきっちまうんじゃないかい?」
ジョージ「ロニー坊や、お菓子を食べないと不安かい?大丈夫さ、組み分けはちょっとばっかり痛い目にあうだけ、死にはしないさ、きっと多分な」
ロン「パース、僕は子供じゃないんだ!ジョージもうるさいぞ、マーリンの髭っ!!」
ハニー「……」
ロン「あいたっ!?」
ハニー「あら、ごめんなさい……あぁ、あなたのお菓子が足元に」
ロン「いったたた……あー、ごめんよ。僕の方こそ兄貴たちと口論をしていたせいで。すぐに拾うよ、お世話様」
グシャッ
ハニー「……私の靴に、チョコがついたわ」
ロン「えっ……あー、どっちかと言うと、君が踏んだように思うんだけれど。なんのつもりだい、君……君、は……」
ハニー「ごちゃごちゃ言わずに、舐めとりなさい。ロニー坊や」
ロン「……」
ロン「もちのロンさっ!!!!!」
ロン「一応訂正させてくれよ。僕は、ロナルド・ウィーズリー。ロンって呼んでよ、豚でもいいさ」
ハニー「覚えておくわ。私は、ハニー・ポッター」
ロン「……は、ハニー・ポッターだって!?冗談きついよ、ハ、ッハ、ハさ!」
ハニー「主の言葉が信じられない豚なんていらないのだけれど?」
ロン「ごめんなさい!でも、へぇ、君が……おったまげー。こんなに可愛い女の子だったなんて」
ハニー「えぇ、それで可憐で完璧で知的で儚げでね。よく言われるわ」
ロン「そりゃそうさ、だってホントのことだもんね」
ハニー「あなた、ダドリー以来にしっくりくるわ」
ロン「うん、あと妹が一人」
ハニー「道理で鍛えられているはずだわ、性根の話ね」
ロン「なんのことだかさっぱりだけど、君に褒められて光栄さ」
ハニー「素直に尻尾を振ってヒンヒン言っておけばいいのよ。さぁ、それが出来たらご褒美にこの首輪をあげるわ」
ロン「やったぜ!」
ハーマイオニー「な、なぁに、あれ……って、あの子は……」
ハニー「あっはは、よく鳴く豚ね。可愛いわ」
ガラガラッ
ハーマイオニー「ちょ、ちょっと!やめなさいよ、男の子にそんな真似をさせるなんて……」
ハニー「うん?これはロンが好きでやっていることなのよ……あら」
ハーマイオニー「……見間違いであって欲しかったけれど、やっぱりあなたなのね」
ロン「誰だい、君。ハニー・ポッターになんのようさ」
ハーマイオニー「なんにも……は、ハニー!?ハニー、ポッター!?だ、誰が!?あなたなんていう冗談は止めて頂戴よ!?」
ロン「赤毛しか合ってないさ、あぁ。違うよ」
ハニー「私よ、私がハニー・ポッター。紹介が遅れてごめんなさいね?」
ハーマイオニー「……」
ハニー「私はいつも自分に正直に生きているの」
ロン「だから君は輝いているってわけだね」
ハニー「だから全部ホントよ、あなたと学校で会いたかった、っていうのも、ね。早々に、叶ったようだけれど……」
ハーマイオニー「近寄らないで!……あんなに憧れたハニー・ポッターが、あなたがこんな人だなんて、がっかりだわ」
ハニー「……」
ハーマイオニー「……あなたとは、お友達になれるって思ってたのに。失礼するわ、赤毛の女王様」
ガラガラピシャンッ!!
ロン「あー……ありゃなんだい?中々、ネーミングセンスはあるみたいだけどさ」
ハニー「ロン、さっき山ほど買った百味ビーンズ全味制覇でもしてなさい」
ハニー「……」
ロン「そして君の僕に対するリアクションもこれまた無味無臭、全くゾクゾクするね、あぁ」
ハニー「あなた訓練されすぎよ」
ガラガラッ
??「やぁ。ここに、ポッターがいるって?なんだか出っ歯のマグルもどきがわめいていたけれど」
ロン「なにさ、次から次に。僕とハニーのプレイを邪魔しないでくれよ」
ハニー「……何かよう?悪いけど私、少し気分が悪いの」
???「おやおや、これは失礼」
ドラコ「僕はドラコ。ドラコ・マルフォイさ」
ドラコ「僕の名前がおかしいかい?君の名前なんて聞く必要もないな、ウィーズリー。貧乏赤毛のコソコイタチめ」
ドラコ「あぁ、君の赤毛をバカにしたように聞こえたらごめんよ、ポッター。なに、君がバラなら、さしずめこいつは干からびたミミズさ」
ハニー「……」
ドラコ「そのうち君も、良い家柄と悪い家柄の区別が分かる。まぁそれまでは、この僕が教えてあげよう」
ハニー「……」
ロン「は、ハニー……?」
ハニー「歯ぁくいしばりなさいよ童貞」
ドラコ「な、なnごっッフォォオオオオイ!?!?」
ロン「いったー!いったー!ハニー姐さんの黄金の右ストレートやー!!!」
ドラコ「は、はなっ、はなせっこのぉおおおお!!!」
ハニー「語尾にフォイはどうしたの?」
ドラコ「んなっ!?だ、誰がそんnイタタタタタタタタ!はな、放してくださいフォォオオオオイ!!」
ロン「アッハハハ!ざまぁみろよマルフォイ、僕の父さんを一家総出で悩ませてる罰かもな!」
ドラコ「く、っそふざけるなウィーズリーイタタタタタタタタタやめ、やめてぇフォォオオオオオイ!!!」
ハニー「こんなことで褒められても嬉しくないわ」
ロン「でも、良かったのかい?あいつ、見るからにヘタレだろ、僕と同じで」
ハニー「えぇ、あなたと同じへタレ童貞豚の臭いがプンプンしたわ」
ロン「ご褒美さ、あぁ。で、あいつも君の豚に加えなくて良かったのか、ってことさ」
ハニー「あの童貞にも言ってやったけれど、友達なら自分で選べるわ。それに、勘違いしないことね、ロン。私は男なら誰でも豚にするっていうわけではないの」
ロン「えっ」
ハニー「敵か味方か、敬意を払う豚か愛玩する豚か。誇りなさい、ロン。あなたはこの私に選ばれたのだから」
ロン「一生ついていくよ、ハニー!」
ハニー「もとよりそうさせるつもりよ」
ザワザワザワ
グリフィンドール生「今年は、ポッターが来るらしいぜ!?」
グリフィンドール生「グリフィンに来てほしいよな!!」
マクゴナガル「ただいま戻りました、ダンブルドア校長。一年生はあちらに待たせてあります」
ダンブルドア「うむ、ご苦労じゃったのうミネルバ……ほっほ、どうやら生徒達は、ハニーの話題で持ちきりのようじゃな?」
フリットウィック「リリーに大変似ているそうで!スネイプ先生、楽しみですな?」
スネイプ「……」
マクゴナガル「それでは、呼びましょうか……一年生、前へ!」
ガチャッ!
ザワザワザワザワ!
グリフィンドール生「な、なんだあれ!?」
グリフィンドール生「あ、赤毛の美少女が、男たちの人体矢倉に担がれながら運ばれているー!?」
ハニー!ハニー!! 僕らの女王ハニー!
ロン「こら、やめろよ!ハニーの足元は僕だぞ!そうだろ、ハニー!?」
ハニー「えぇ、ロン。良い眺めね、褒めてあげるわ」
ダンブルドア「おぉう、まっことリリーの生き写しじゃ」
マクゴナガル「そこですかアルバス!?!?」
ダンブルドア「ジェームズの血を引いている以上、ある程度派手なのは想定しておかんとのぅ、ミネルバよ」
フリットウィック「しかしそっくりですな、スネイプ先生、どうで……」
ダンッ!!!!
スネイプ「……」ダクダクダクダク
フリットウィック「す、スネイプ先生!?ご自分の手の甲にフォークを突き刺して、なにを!?血、血が溢れていますよ!?」
スネイプ「あれはリリーではないあれはリリーではないあれはリリーではない耐えろセブルス誓っただろうリリーを生涯あいsあれはリリーではないリリーではないのだ耐えるのだ我輩ぃぃぃぃぃぃぃぃぃ」
スネイプ「あの流れるような赤い髪透き通るような風になびく美しい髪は我輩の脳裏に焼きついて離れないあの軌跡と同じだがあれはリリーではない」
スネイプ「あの陶器のように艶やかで美しい肌はリリーが我輩の手を握ってくれた時と同じキメ細やかさを誇って見えるがあれはリリーではない」
スネイプ「あの笑顔、全ての人を虜にするような、誰もが彼女を愛してやまないようなあの笑顔もまるでリリーのようだ、ようだが、あれはリリーではないのだ」
スネイプ「リリーではない、リリーではないのだ抑えろ、静まれ我輩の、我輩のスニベルスぅううううう!」
フリットウィック「……ダンブルドア校長?」
ダンブルドア「ミネルバよ、セブルスは組み分けの儀式を欠席するようじゃ」
マクゴナガル「えぇ、そうでしょうとも。そうさせましょうとも、まったく」
ロン「組み分けがの方法が、喋る帽子を被ることだなんてな」
ハニー「寮の特色は、大体前にあなたが言っていたのと同じようね?グレンジャー?」
ハーマイオニー「……話しかけないでいただけるかしら。あなたと同類だと思われたくないもの」
ロン「おいおい、ハニーになんていい草さ。大体それってめちゃくちゃ光栄なことじゃないか、なぁハニー?」
ハニー「あら、あの時はあなたの方から一生懸命話かけてくれたのに」
ハーマイオニー「知らないわ!」
ロン「ハニー、ハニー!僕はいつだって君に話しかけるよ、あぁ!いつだってね!」
生徒「あぁ、可愛いけどあれ、みたろ?」
ハニー「……」
生徒「多分、スリザリンだよな。女王様って感じだし」
生徒「今年はスリザリン総獲りかもなぁ」
ハニー「……」
ロン「ハニー、僕は君がどこに入ろうとついていくよ!」
ハニー「えぇ、ロン。そもそも主がいないと豚は生きていけないでしょ?」
ロン「その通りさ!」
マクゴナガル「名前を呼ばれた生徒から前にでて、帽子を被りなさい!アボット・ハンナ!」
ロン「うっひょー!いいよ、なんだい!?」
ハニー「スリザリンって、どういうところ?」
ロン「闇の魔法使いの出身者が多いよな、うん。『例のあの人』とか」
ハニー「ヴォルデモートね」
ロン「!?!?あ、あの人の名前を言うなんて、ほんと、君っておったまげー」
ハニー「もういいわ、大体分かったから。それじゃ、ご褒美ね……」フーッ
ロン「!?!?み、みみみみっ耳にいいいい息なんてそんあハニーあのそくぁwせdrftgyふじこ」
マクゴナガル「グレンジャー・ハーマイオニー!」
ハーマイオニー「はいっ!」
ハニー「張り切っちゃって。でも返事はいらないみたいよ?」
ハーマイオニー「あ、あなたは黙ってて!」
ロン「あ、君を嫌ってるにっくいあんちくしょうは、グリフィンドールみたいだよ」
ハニー「えぇ、良かったわね。彼女らしいわ」
ロン「随分、あの子につっかかるじゃないか」
ハニー「そりゃぁね。だってあの子……」
マクゴナガル「ポッター・ハニー!」
ザワザワザワ
ロン「ハニー、頑張って!残った僕らで君を応援してるよ!」
うぉおおおハニー! ハニーガンバレー!!!
ハニー「ふふっ、ありがとう可愛い豚さんたち」
組み分け「うむむ、これはこれは」
ハニー「なによ、どうせ決まりきっているんでしょ?」
組み分け「ふむ?決まっている、とは?」
ハニー「回りくどいのは嫌いよ。さっさと言いなさい、スリザリンって」
組み分け「ほぉー、君はスリザリンに入りたいのかね?」
ハニー「……別に。でもあなたはさっき、言ってたわ。スリザリンは狡猾で野心家、手段を選ばないって」
ハニー「周りの皆も大体、そう思ってるみたい。そりゃそうよね、だって私は自分のしたいようにしてる」
ハニー「ほら、早く。待たされるのは、好きじゃないの」
ハニー「でしょ?だったら……」
組み分け「だが、君は知恵もある。知恵をつけたいという願望もある。レイブンクローでだって、上手くやれるだろう」
ハニー「……」
組み分け「しかし君は同時に、優しさも持ち合わせている。周りの者にはいびつに見えるそれも、私は良く知っているよ。君はハッフルパフでだって、上手くやれる」
ハニー「……」
組み分け「もっとも、一番上手く行くのはやはりスリザリンだろう。君はあそこに入れば偉大になれる、間違いなく偉大な、魔法界に名を残す魔法使いに」
組み分け「だから私は、このまま君をスリザリンに入れるのが正しいのだろう」
ハニー「……」
組み分け「君が心を偽り続けるのならば、そうするしかないのだろう」
ハニー「……」
組み分け「私は歌ったね?包み隠さず話してごらん~♪ ここでは君の声は、私にしか聞こえない。どうだね、少し君の本音を、漏らしてみれば」
ハニー「私は誰からも望まれない子供だった。生まれた時から両親はいなかった。いるのはいじわるなおじとおば、それにいとこだけ」
ハニー「いつもビクビクしてた。今日はなにをされるだろう、なにをすればいいんだろうって」
ハニー「でもあるとき、ヘンテコなローブを被ったおばさんに言われた。『あなたはリリーにそっくりで、とっても美人さんね!』って」
ハニー「一度も褒められたことなんてなかったから、びっくりしたわ。思えばあれは、こっちの世界の魔女なんでしょうね」
ハニー「それから、私は少し自分に自信が出来た。笑う練習をして、オドオドした態度もやめて」
ハニー「で、気づいたら」
ハニー「私の足元で豚がヒンヒン鳴いてたわ」
組み分け「……(ジェーズの子共だなぁ)」
ハニー「それからよね、たくさんたくさん豚を、私のことを崇拝してくれる人を大事にしていったのは」
ハニー「でも……自信がついたはずなのに、楽しいはずなのに。いっつも不安なの、怖いのよ」
ハニー「この人たちは、私の本当の……オドオドした、わたしのことを知ったら離れていっちゃうんじゃないかって」
ハニー「そんな不安を押し殺すために、もっともっと躍起になった。豚も増えていった」
ハニー「……でも本当は、やよ。こんな関係じゃなくて、本当のわたしを見てほしい」
ハニー「贅沢かもしれないけど、私が始めたことだけど……でも、怖いの。受け入れられなかった、ときが」
ハニー「……知識なんていらない、優しさなんていらない、偉大になんか、なれなくっていいわ」
ハニー「私は、たった少しの勇気がほしい」
ハニー「……ねぇ、組み分けさん。わたしは……グリフィンドールでは、やっていけないの、かな」
組み分け「…………」
ハニー「っ!!」
ワァアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!
フレッド「ポッターを獲った!ポッターを獲った!!」
ジョージ「優勝杯は戴きだ!!ポッターを獲った!!」
ハグリッド「おぉおおおおハニー!!!お前さんの、お前さんの嬉しい顔が見れて幸せだぁーーーーー!!」
ハニー「は、っは……組み分けさん?」
組み分け「最後に決めたのはあなただ、お嬢さん」
ハニー「……当然じゃない、このボロ帽子。この私を、誰だと思っているの」
ハニー「ハニー・ポッター。グリフィンドールで、天下を獲る女よ」
ウォオオオオオオオオオオ!ハニーーーーーーーー!!
組み分け「……」
ダンブルドア「ほっほ……先は長いようじゃな」
興味がないふりをしているが、実は授業でミスしてハニーに罵られるたびにイってる
とうていあのラストの活躍するとは思えんぞwww
ハーマイオニー「……」
ハニー「どうも、えぇ。首輪は後であげるわ。私、疲れたの。もう座るわ。あぁ、椅子にならなくて結構よ、お世話さま」
ハーマイオニー「……」
ハニー「ハァーイ、グレンジャー。グリフィンドールおめでとう」
ハーマイオニー「……レイブンにするべきだったわ、私、今から組み分けに……」
ハニー「一度決められたことを反故にするの?私との約束と同じで?」
ハーマイオニー「それは、あなたが!!!」
ハニー「えぇ、そういうことにしてあげる、もちろんね。あら、ロンの番みたいだわ」
ロン「おい!!おい!!!僕はグリフィンドールだろ!!おい!!!僕はウィーズリーだ!グリフィンドールだよな、おい!?」
組み分け「アズカb」
ロン「笑えないよやめろよっ!!!マーリンの髭っ!!!!!」
ハニー「正確にはマットね、まったく、ロン。あなたは使える豚だわ」
パーシー「あー、ハニー。君がここに来てくれて監督生としては大変光栄だけど、その。僕の弟をそういう扱いは……」
フレッド「面白いんだからよせよ、パース。やぁハニー、麗しの君。そっちの赤毛の兄貴だよ」
ジョージ「うちのロニーがお世話様。これ、ロニーの恥ずかしい写真アルバムだ、使ってくれ」
ロン「おい!ハニー以外が僕をいじるのはやめろよ!!!」
ダンブルドア「新入生、入学おめでとう!上級生、おかえり!歓迎会を始める前に、二言三言!そーれわっしょいこらしょどっこらフォーーイ!」
ドラコ「!?!?」
ロン「あぁ、あの人ちょっとおかしいのさ。あの、ダンブルドアって人はね」
ネビル「ね、ねぇ君、苦しくないの?それ」
ロン「うん?何を言っているのさ、ご褒美なのに。君は?」
ネビル「ね、ネビル。ネビル・ロングボトムで……」
ハニー「へぇ……?」
ネビル「ひぃっ!?っちょ、ちょっと僕、トイレ!」
ロン「あっ、行っちまった……ハニー、ありゃどうだい?」
ハニー「ヘタレ具合は一級品だけれど、私を怖がるタイプね。徐々に慣れさせるわ」
ハーマイオニー「お料理が美味しくなくなるから、頭の痛くなる会話をやめていただけるかしら」
ロン「あ、僕知ってる。ほとんど首なしニックだ!」
ハニー「ほとんど首なし?」
ほとんど首なしニック「……坊ちゃん、呼ぶのならばポーピントン郷と呼んでいただきたく……」
ハーマイオニー「どうして『ほとんど』、なの?」
ほとんど首なしニック「どうしたも、こうしたも、あー……こういう具合でして」グイッ、ポロッ
ロン「あー……少しだけ残った首の皮で、ちょうつがいみたいになってら。首切りに失敗でもされたの?」
ほとんど首なしニック「そういうわけでして、私のことは……」
ハニー「ねぇ、ポーピントン郷」
ほとんど首なしニック「な、なんですかなお嬢さん!?嬉しいかな、生徒にその呼び名で呼ばれたのはいつぶりか……」
ハニー「この首輪で隠せばどうかしら。その代わり、私の物になるけれど」
ほとんど首なしニック「一生憑いていきます!」
ハニー「笑えないわ」
ロン「生きてないじゃないか、やめろよ!ハニーに一生ついていくのは僕だ!」
パーシー「そういうわけで、ここがグリフィンドールの談話室だ。男の子の寝室はあっち、女の子はこっち。四人部屋だから、扉の前の張り紙をしっかり確かめて」
ハニー「なんだかあなたと同じ部屋のような気がするわ、グレンジャー?」
ハーマイオニー「眠ってもないのに悪夢にうなさせるのはやめて」
ロン「まったく君ってハニーにとっても優しくて思いやりがあるよな。さっ、行こうかハニー」
ハニー「えぇ」
ハーマイオニー「待ちなさい」
ロン「なんだい、もう。君は一々ハニーのやることにケチをつけたいのか?どれだけ大好きなのさ、負けないけど」
ハーマイオニー「だだ、誰が!あのね、あなたは男の子でしょう!?どうしてハニーと一緒に女子寮に入ろうとしているの!?」
ハニー「どうしても何も、ロンは私の私物よ?」
ロン「君、ペットの持ち込みは可っていうの、見ていないのかい?」
ハーマイオニー「あなたにはかわいいのにとっても不憫な名前のふくろうがいるでしょ!?」
白豚「ピィー……」
パーシー「あっ、ロン!ちょっと待て!」
ロン「なんだいパーシー、君まで……」
パーシー「いや、そうじゃない!男が女子寝室の階段を登ろうとすると……!」
ロン「何さ、僕はもう何段か登ったけど、なにmウワッ、あーーーぁ!?」
ハーマイオニー「……滑り台みたいに変わって、床に叩きつけられたわね」
ハニー「ロン、見送りありがとう。足拭きマットになってくれるなんて、あなたは出来る豚ね?」
ロン「光栄、光栄さ、ハニー。うぅ、ちくしょう、ちくしょう」
ロン「というか実際何度か城がぶっ壊れっちまった。熱狂的なハニーファンとかのせいで」
ハニー「美しいって罪ね」
ロン「全くさ」
ハーマイオニー「ふんっ」
ハニー「……まだダメかしら。あの子に負けないくらい、授業も頑張っているつもりなのだけど」
ロン「そんなハニーの授業態度をマットとして見守る僕さ。何?羨ましいって?ハハハ、ペットの特権だからね、代われないよ」
ハニー「次は、『魔法薬』の授業ね。ロン、地下の教室だそうだから、暖かくしておいて」
ロン「もちのロンさ!ちょっと校庭100周してくる!」
ハニー「ウサギ飛びを忘れちゃダメよ。終わったら、良いことをしてあげる」
グリフィンドール生男子 シーン
スネイプ「……グリフィンドール生の不真面目な態度に、グリフィンドールから二十点減点」
ハニー「なにも全員やることないじゃない」
ハーマイオニー「バカばっかりだわ」
ハニー「素直って言ってあげてよ、可愛い豚さんじゃない」
スネイプ「私語は慎むように。ぽ、ポポポポポッター。君は英雄だのなんだのと言われ、図にのっておるようだな?我輩が、二、三、もしくは百個ほど、質問を……」
ハニー「あら、なぁに先生。いじめてほしいの?」
スネイプ「……」
ハニー「?」
スネイプ「……目……あの、目……全部、リリーなの、に、目が、目がポッターああああああわぁああああああああああああ!!!!!」
バシャーーーン!!
ドラコ「せ、先生が煮えたぎったなべの中に投身自殺した!?!?」
ハグリッド「ようハニー!俺んちに来てくれてありがとうよ!本当ならお前さんの下に俺が馳せ参じて靴をペロペロしねぇといけねぇってのに」
ハニー「いいのよ、大事な豚がどんなところに住んでいるのか把握していないとね」
ロン「おいハグリッド、行っておくけどハニーの一番の豚は僕だぞ。そうだよね、ハニー!?」
ハグリッド「どっこい、ハニーの魔法界での一番初めの豚は俺だ。そうだろ、ハニー!?」
ハニー「二人とも大事な大事な私の豚さんよ。はい、ヒンヒンお鳴き?」
ロン「ヒンヒン!」
ハグリッド「ヒンヒン!ヒン!」
ハグリッド「そ、そうか?気のせいだろ、うん!それよりロン、おめぇさんの兄貴のチャーリーはどうしてる?奴さん、ドラゴンの研究の……」
ハニー「ハ、グ、リ、ッド?」フーッ
ハグリッド「スネイプはジェームズのことを嫌ってたんですはい!!」
ロン「ジェームズって、ハニーのお父さんのことかい?あぁ、目が似てるとかどうとか」
ハニー「へぇ。じゃぁ私のパパの憎い目を思い出して動揺した、そういうことね?」
ハグリッド「お、おう」
ハニー「……隠してることがあったら、それが分かった時、ひどいわよ?」
ハグリッド「……おう」
ロン「ダメだ、ハニー。ハグリッドのやつ、ゾクゾクしてやがる」
ハニー「鍛えられすぎなのよあなたたち」
ハグリッド「あー、どうもそうらしい」
ハニー「私のお金も預けられていたところね、小鬼は可愛くなくて豚にはしなかったわ」
ロン「君には僕がいるよ、ハニー!へぇ、当日、泥棒が侵入した金庫は持ち主によってすでに空にされていたので、被害はなし、っと」
ハニー「そういえばあすこで、クィレル先生にも会ったわね。負け犬根性丸出しだったわ」
ロン「あぁ、闇の魔術に対する防衛術の……あんなやつターバンが汚いただのターバンだよ、やめておきなよハニー!」
ハグリッド「そうだ、ただのターバンだ!」
ハニー「おかしいわね、豚が何か言っているわ。豚は言葉なんか喋らないはずなのだけれど」
ロン「ヒンヒン!」
ハグリッド「ヒンヒン!ヒン!」
ハニー「お茶が美味しい、いい午後ね」
ロン「今日の午後は飛行訓練だね、ハニー」
ハニー「飛ぶのは楽しみだわ。馬代わりとかはしてもらったけれど、さすがに私を背負って飛べる人っていなかったもの」
ロン「僕ならいけるよハニー、任せてよハニー!」
ハーマイオニー「……相変わらずなのね、あなたたちって」
ネビル「僕のばあちゃんがくれた『思い出し玉』で、飛行ってどうやればいいのか思い出せないかなぁ……あっ、な、なにするのさ、えーっと、フォイフォイ?」
ドラコ「マルフォイだ!!!このチビ、僕に向かってなにを……」
ハニー「あなたこそ、私の豚候補に何をしてるのかしら、糞童貞フォイフォイ野郎」
ネビル「豚候補!?」
ロン「ウエルカムさ、ネビル」
ハニー「サル山でフォイフォイ言ってるあなたに言われたくないわね、ゴリラの集団を引き連れた童貞さん。豚にも劣るわ、あなたの連れって」
グラッブ「……」
ゴイル「……」
ドラコ「う、うるさい!こいつらだって役にたつぞ、えーっと、風よけとか!」
ロン「情けないな」
ハーマイオニー「マットのあなたがそれを言うの?」
ネビル「いたい、うぅ、いたいよぉ」
フーチ「あぁ、腕の骨が……全員そのまま待機していなさい!勝手に飛んだら退学です!さぁネビル、肩をかしますから……」
ロン「ネビルのやつ、慌てすぎて箒ごとぶっとんじゃうなんてな」
ドラコ「あっははは!見たかよ、あのロングボトムの情けない顔!」
スリザリン生 ゲラゲラゲラゲラ!
ドラコ「あいつがばあさんからもらったこの糞玉で、元から知恵遅れなのが幼児レベルに……」
ハニー「いい加減にしなさいよ、マルフォイ。また痛い目にあいたいの?」
ドラコ「ふんっ、ポッター。何か言いたいのなら……ほら、来いよ。空で話しをきいてやろうじゃないか」
ロン「あ、あいつ、箒で空中に」
ハニー「上等だわ」
ハーマイオニー「や、やめなさい!先生がおっしゃっていたこと、聞いてなかったの!?勝手に飛んだら、あなたまで退学よ!?」
ハニー「あら……ふふっ。あなたはむしろ私にそうなって欲しいんじゃないの?グレンジャー?」
ハーマイオニー「なっ……か、勝手に、勝手にすればいいわ!知らない!!」
ハニー「えぇ、そうさせてもらう……ありがと」
ハニー「仰るとおりです、先生」
マクゴナガル「あんな、初めての飛行の授業で!勝手に飛び出して!」
ハニー「申し訳ありません、先生」
マクゴナガル「何メートルも上空から!あんな小ささの玉を!ダイビングキャッチする、なんて!」
ハニー「必死で、何がなんだか。でも体が勝手に動いたんです、先生」
マクゴナガル「ポッター、さぁ、ポッター!退学か、グリフィンドールのクィディッチチームの一員になるか、どちらがいいですか?」
ハニー「はい、先生。それはもちr先生?」
ハニー「よく分からないのだけれど、これは凄いことなのね?」
ロン「もちろんさ、ハニー!さすが僕らのハニーだよ!」
ハーマイオニー「……規則破りをして、得した。そう思っているみたいね」
ハニー「そんなことないわ、勇気を出して行動した結果って言えない?」
ハーマイオニー「勇気と無謀を履き違えておいでのようね」
ハニー「厳しいわね」
ロン「おい、ハニーになんて言い草だよハーマイオニー!言っておくけど嫉妬できるレベルじゃないからな、君とハニーじゃぁ……」
ハーマイオニー「ぶっとばすわよ」
ハニー「ロン、あなたちょっと眼球取り出して丸洗いしてきなさい」
ロン「も、もちの、僕さ!」
ネビル「あ、ハニー!聞いたよ、僕の代わりにフォイフォイを……ロン、ローン!?死んじゃう、そんなことしたら死んじゃうよーーー!?」
ハニー「童貞フォイフォイから決闘を申し込まれたわ」
ロン「君が退学にならなかったのが気に食わないんだろうね。僕はハニーの豚としてお供するとして、なんで君がここにいるのさ」
ハーマイオニー「これ以上あなたたちが規則破りなんてしないように、よ」
ハニー「真夜中にこんなところにいるあなたはどうなの?」
ハーマイオニー「私の説得に耳を貸さないあなたたちのせいで、私は締め出されちゃっただけ!」
ハニー「だってあなたが必死に喋るのって懐かしくって」
ハーマイオニー「だから、いつの話しをしているの!」
ロン「なぁ、静かにしなよ。せっかくの奇襲を掛けられるチャンスなマルマルフォイフォイなんだ」
ハニー「ゴキブリホイホイみたいに言わないで頂戴」
ハーマイオニー「管理人のフィルチをあなたの、その、ぶ、豚とかにすればよかったじゃない!」
ハニー「あのね、私も豚にする人間くらい選ぶわ……行き止まりね」
ロン「くっ、ハニー!僕がフィルチに捕まる!君はその隙に逃げるんだ!」
ハニー「見上げた豚根性ね、見直したわ、ロン。でも、まだ手はあるみたい」
ハーマイオニー「あっ、ここに、扉……!どいて!『アロホモラ!』」
ロン「おったまげー。君、開錠の呪文を使えるのかい?」
ハニー「ありがとう、グレンジャー」
ハーマイオニー「いいから、今は早くここに入って!フィルチが来てしまうわ!」
ハーマイオニー「あ……あ……ここ、立ち入り禁止の、四階の廊下、だわ」
三頭犬「グルルルルルルル グルルルルル グルルルルルルフォイ」
ロン「三つ目なんか言ってる」
ハニー「何を怖がっているの、二人とも?たかが犬でしょう?」
ハーマイオニー「たかが、って!あのね、この廊下の天井まで届くような大きさの、どこがただの犬なの……」
ハニー「犬は犬よ、どんな見た目でも性根は変わらないわ。さぁ、イヌ?伏せ」
三頭犬「グルルルルルルルルルルルル」
ハニー「この、私が。伏せと言っているのだけれど?」
三頭犬「……クゥーン」
ロン「すっげぇやハニー!ついでに僕も伏せたから踏んでくれよ!」
ハーマイオニー「もうわけがわからないわ……」
ハーマイオニー「ふんっ!」
ロン「むしろ以前にも増して、ぷりぷり怒っているよな、君を見て。全く失礼な奴さ」
ハニー「まぁ私は、クィディッチの練習が始まったからあまり気にならないのだけれど」
ロン「兄貴たちが驚いてたよ、ブラッジャーが避けて、スニッチが向こうから手の中に飛び込んでくる選手なんて君くらいだ、って。ハニーは凄いなぁ」
ハニー「意思があるもの万物全て私の豚よ、当然じゃない」
フリットウィック「ウィンガ~ディアムレヴィオーサ、ビューン、ヒョイの動きですよ。いいですか?」
ロン「ウィンガーディアム、レビオサー?」
ハーマイオニー「違うわ!発音も、杖の振り方も!あぁ、なんでペアがあなたなのかしら」
ハニー「大変そうね、ロンは……あぁネビル、ほら、杖は、こう。こう、握るみたいよ?」
ネビル「はひっ!あ、あああありがとうハニーあぁハニーの手ぇ柔らかい」
ロン「ちゃんと言ってるじゃないか!ウィンガーディアムレビオサー、だろ?」
ハーマイオニー「いーえ!いい?レヴィオーサよ!あなたのはレビオサー!」
ロン「なんだよ、その言い方!いい加減にしろよ、ハニー以外が僕をいじるのはやめろよ!!」
ハーマイオニー「なによ!あなたこそ、それでもちゃんとした魔法使いなの!?」
ハーマイオニー「そのまんまよ!あなた、恥ずかしくないの!?魔法使いのお家の子供なのに、こんな簡単な呪文も出来ないなんて!」
ロン「はぁ?関係ないだろ……君、何を言ってるのさ」
ハーマイオニー「あるわ、あるわよ!何よ、いつもは影で、私がマグル生まれだって、バカにしている人がたくさんいるくせに、こういうときだけ!」
ロン「おい、誰だよそれ。そんなことを、君に……」
ハーマイオニー「もういいわ!あなたなんか、どうせ!あの子の豚で、ブヒブヒ言ってるのが、お似合いの……」
パシンッ!!!
ハーマイオニー「……えっ。痛っ……あっ」
ハニー「……私の豚のことを、私意外が悪く言うのはやめてもらえるかしら。グレンジャー」
ハニー「そんなことだから、あなた。友達がいないのよ」
ハーマイオニー「っ!!!」
フリットウィック「あー、そ、その。終業、です」
ハーマイオニー「っ、っ!!」
ネビル「あっ、ハーマイオニー!鞄も持たずに、どこに行くんだい!?」
ロン「……ハニー」
ハニー「大丈夫、ロン?まったく、あの女。困ったものよね」
ロン「……良かったのかい?」
ハニー「なぁに。まさかあなたが、私に口答えするはずはないわよね?」
ロン「……もちのロンさ」
クィレル「トロール、トロールが、地下室に……」バタッ
ダンブルドア「みなの衆、急いで寮に戻るのじゃ!駆け足!」
ロン「トロール、でかくてくさいゴイルみたいな汚い化け物さ。一体全体、どこの誰がこの城に入れたんだろ」
ハニー「さぁ。ともかくそんな醜いのは豚にする気もないから、パーシーについていきましょ……っ!」
ロン「どうしたんだい、ハニー?おぶさるかい?今の僕なら君ために飛べる気がするよ」
ハニー「……あの子は、このこと。この城に今トロールがいること、知らないわ」
ロン「……トイレにこもっちまったんだものな、ハーマイオニーの奴。そのうちどっかのゴーストみたくなるんじゃないか?」
ロン「助けに、行かないの?」
ハニー「……冗談。なんでこの私が、あんな子のために」
ロン「……」
ハニー「私の豚を愚弄したのよ?許せるはず、ないじゃない。さ、ロン。続きなさい。行くわよ……ロン?」
ロン「あぁ、ハニー。そうしたいのは山々さ、だけどね、ハニー」
ロン「僕は君の、自分のしたいようにする姿が大好きなんだ」
ロン「ううん、そう見せようとして、頑張って無理してついてる嘘が、好きなんだ。そんな姿が愛らしくてたまらない」
ハニー「!?」
ロン「でも、今の君のその嘘は。僕が心から尽くしてあげたい君の嘘じゃない。そんなの、僕は聞けないよ。あぁ、たとえ君の命令でも、さ」
ロン「ハーマイオニーに好かれようと必死になってる君は素敵だ」
ロン「僕に必死になって、言いたくもない悪態をつく君がいじらしい」
ロン「心の中でごめんなさいって言いながら僕を踏む君がたまらない」
ロン「でもさ、ハニー。今の君は全然、君らしくない。僕の好きな君でも、君の本当の優しい顔でもない」
ロン「僕は、君を本当の嘘つきになんてしたくない」
ハニー「……」
ロン「ハニー。僕のために彼女を怒ったのはとても嬉しい。けど、もう意地は張らなくたっていいんだ」
ロン「ハーマイオニーは、君を許してくれるよ」
ハニー「……ほんと?」
ロン「あぁ」
ハニー「わたし、あんなに酷いこと、言ったのに?」
ロン「今の君の言葉なら。豚じゃなくても、イエスとしか言えないよ。あぁ」
ハニー「行くわよ、ロン。私についてきなさい!」
ロン「あぁ、ハニー。強情で強気でか弱くて弱虫なハニー。それでこそ、君さ。ヒンヒン!」
ハニー「……ねぇ、いつから気づいていたの」
ロン「僕は君の一番の豚だぜ?それくらい分からなくって、つとまるはずないだろ?」
ハーマイオニー「……酷いわ、ハニー」
ハーマイオニー「私、あなたと……友達になれるって、信じてたのに。ずっと、ずっと……あれから後も、ず、っと……」
ハーマイオニー「……でも、私が悪いのよ、ね」
ハーマイオニー「……ロンにあんなことを言うべきじゃ、なかった。八つ当たりも、いいところだわ」
ハーマイオニー「ハニーは……あぁ見えて、ロンを本当に……大事に、思ってるのよね」
ハーマイオニー「私は、どうして……あぁなれなかったのかしら」
ハーマイオニー「どうして、ハニーにあんな態度しか……とれなかったの」
ガシャン!ドタバダガシャンッ!
ハーマイオニー「!?な、何の音!?ちょっと……トイレで、何を……」
トロール「……」
ハーマイオニー「」
キャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!
ハニー「!ハーマイオニーの悲鳴!急ぎなさい、ロン!」
ロン「ヒンヒン!あぁ、君のウサギ足の特訓のおかげで今の僕はスニジェット並みだぜ!」
ハーマイオニー「あ……っ、ぁ」
ロン「!トロールが目の前に……腰が抜けちまってる!」
ハニー「ロン、あなたはヒンヒン言いながらトロールの気を引いて!私は、あの子のとこに!」
ロン「もちのロンさ!ヒンヒン!おいウスノロ!デカブツ!ハニーの豚を舐めるなよ!!」
ハニー「大丈夫!?立てる!?」
ハーマイオニー「あ……は、ニー。ハニー……私、わた」
ハニー「ダメね……大丈夫、私を誰だと思ってるの?ほら、手をかして」
ギュッ
ハニー「グリフィンドールのハニー・ポッター。闇の魔法使いだかなんだかをぶっ倒した英雄よ?その私が、こんなのに。まけるはず、ないじゃない!」
ハーマイオニー「……ハニー」
トロール「……ボァア?」
ハニー「っ、間抜け面ね、貴方は畜生以下の気持ち悪い化け物よ!」
トロール「……」イラッ
ロン「は、ハニー!君が気を引いてどうすんだ!?く、っそ!僕の力でこのへんの木片を投げたところで、あいつには少しも……」
ハーマイオニー「っ!っ!!」ブンブン!
ロン「は、ハーマイオニー何を悠長に手話なんてやってるのさ!?え!?なに!?杖!?杖で、なにをしろって……ビューン、ヒョイ?……あっ!」
ハニー「なぁに、その反抗的な目。この私を誰だと思ってるの、あなた」
トロール「ボァァ……!」
ハニー「あなたの小さい脳みそに、よーく刻んでおきなさい!私の名前はハニー・ポッター!分かったら……」
トロール「ボァアアアアアッ!」ブンッ!!
ロン「ウィンガ~ディアム、レヴィオ~サ!棍棒、浮けっ!!!」
トロール「……ぼぁ?」
ハリー「跪きなさい、この豚ぁあああああああ!!!」
ボクッ!!……バターーーーーーン!!
ハニー「……ふ、っふふ。やった、わね。ロン、褒めて……あげる」
ハーマイオニー「……ハニー」
ハニー「どう、グレンジャー?この私の勇姿、惚れ惚れしたんじゃない?なんなら、あなたも」
ハーマイオニー「ハニー……ハニー」
ハーマイオニー「あなたの、手……とっても、震えて、たわ」
ハニー「……」
ハニー「あたり前でしょ!!!こんなの怖いに、決まってるじゃないの!!」
ハニー「魔法界の英雄!?いいえ!!ついこの間まで魔法のマの字も知らなかったのに、そんなのもっと知らないわよ!」
ハニー「赤毛の女王様!?いいえ!!ほんとはみんなともっと普通に仲良くしたいわよ!!」
ハニー「英雄じゃなくっても、女王様じゃなくっても、私が、ここに、来た理由!あなたを、助けた、理由!!」
ハニー「わたし、あなたに謝らなくっちゃ、って!だか、ら!だから……」
ハーマイオニー「いいの、ハニー。ごめんなさい、私も、私のほう、こそ……誤解していて、ごめんなさい」
ハーマイオニー「あなたって……とっても、勇気がある人だわ。ハニー……あなたは、私にとっての英雄よ?」
ハニー「そんなの、やだぁ。わたし、ハーマイオニーと、友達になるのぉ」
ハーマイオニー「うんうん、うん。ありがとう。そのために頑張ってくれたのね。うん」
ハニー「女の子の友達なんて、いなかったのぉ。だからぁ、初めてはハーマイオニーがいいのぉ!」
ハーマイオニー「えぇ、もちろんよ。私も、丁度友達がいないの。お願いしていい?」
ハニー「うぅぅ、ハーマイ、オニー……!」
ハーマイオニー「ハニー、ハニー……!」
ロン「……」
ロン「おっと、こりゃ僕はお邪魔のようで」
ハーマイオニー「はいはい。ふふふっ」
ハニー「忘れなさい!忘れなさい忘れなさい忘れなさい忘れろ!」
ロン「な?分かると滅茶苦茶微笑ましいだろう?」
ハニー「うぅ、こんなのおかしいわ。華麗に救って、グレンジャーには気づかれることなく、雌豚一号になってもらうつもりだったのに!」
ハーマイオニー「はいはい、そうなのよねーそのつもりだったのよねー」
ハニー「ちょっと、ロン!私の豚のくせにどうしてグレンジャーの味方をするわけ!?」
ロン「何を仰る僕らのハニー。僕はいつだって君の味方さ、色んな意味でね」
ハーマイオニー「私でちょっとずつ素直になっていきましょうね、ハニー。まずは私のことをいつでも『ハーマイオニー』って呼ぶこと!」
ハニー「んな、そんなの、恥ずかしい……」
ハーマイオニー「それじゃ、私もあなたにヒンヒン言うことにするわ?」
ハニー「や、やよ!そんなのいや!」
ロン「あー、どうしよう。どうしようねこれ、僕は今後7年間で枯れちゃうんじゃないかな、うん。何がとは言わないよ」
ハーマイオニー「えぇ、ハニー」
ハニー「そ、それから、ロン。私の豚」
ロン「うん、ハニー。豚って呼んでごめんなさいは脳内で再生してるよ、大丈夫」
ハニー「うー、うーーー!!!もう知らないわよ!私、一度自分のものになったら絶対、絶対手放さないんだから!」
ハニー「私が、ホグワーツ皆を、ヒンヒン言わせるまで!付き合ってもらうわよ!」
ロン「もちのロンさ!それから先もずーっと僕は君の一番の豚だけどね!」
ハーマイオニー「みんなと友達になりましょうね、ハニー。私は最初の女友達だけれど、ね」
ハニー「わ、わたしそんなこと言ってないわ!もう!……もうっ」
完
ドラコ「スネイプ先生、容態はどうですか。先生がいないと、授業が出来なくて困るフォイ……」
スネイプ「……ヒンヒン」
ドラコ「!?」
今度こそ、完
是非ともシリウスを出したいところやで!
ラドクリフお大事に!
じゃあの!
ハリー・ポッター シリーズ
一巻~七巻まで
世界的大ヒット発売中!
2014年後半 USJにて
ハリポタアトラクション建設決定!!
Entry ⇒ 2012.10.08 | Category ⇒ 版権物SS | Comments (1) | Trackbacks (0)
照「じゅ、充電、充電……」白望(ダルい……)
ID:i2nxSJz30
シロのマイナーカプSSらしいぞ!
マイナーカプが苦手な人は気をつけろ!
塞「好きな人ができたァ!?」白望「うん」
白望「芋けんぴ、髪に付いてたよ」
純「ダリィ」白望「ダルい」
一応前作だけどお話のつながりはないです
豊音「遊園地だよー!」ピョンピョン
エイ「Ferris wheel! Coffee cup! Roller coaster!」
胡桃「うるさいそこ!トヨネもエイちゃんもはしゃぎすぎ!」ワクワク
塞「胡桃も人のこと言えないでしょ!」ソワソワ
白望「塞もね……」
塞「熊倉先生も遊ぶんですか!?」
トシ「あら、私だけ除け者にする気だったのかい?」
塞「い、いえ、そういうわけでは……」
塞(絶叫マシンとか乗っても大丈夫なのかなぁ……)
胡桃(ん……ちょっと待てよ)
塞(3人ずつってことは……)
エイ(シロトイッショニナレルノハフタリダケ!?)
塞(……なんとしても)
胡桃(シロと一緒のグループに!)
エイ(マケラレナイ!)
豊音(な、なんか3人が怖いよー……)
白望(だる……)
トシ「それじゃ、グーとパーでわかれましょ」
トシ「じゃあ行こうか。シロ、豊音」
白望「はい」
豊音「私ジェットコースターに乗りたいなー!」
塞「……あれ」
胡桃「……どうして」
エイ「……コウナッタ」
菫「全員揃ったか?」
照「うん」
淡「はーい!」
誠子「はい」
尭深「はい」ズズ…
誠子「3年のお二人は分かれたほうがいいんじゃ?」
菫「あ、いや、ほら、照はすぐに迷子になるから私が見てなくちゃいけないというか……その……」ゴニョゴニョ
照「私も菫と一緒がいいな」
菫「……!て、照っ!」
尭深(今日も菫照でお茶がおいしい)ズズ…
誠子「まぁ、宮永先輩がそう言うなら」
淡「スミレはしょうがないなー」
菫「じゃあ行こうか照!まずはメリーゴーランドだ!」グイグイ
照「そんなに引っ張らなくても……」
菫「あっ、すまない」
誠子「じゃあ私たちもいこうか」
淡「はーい!」
尭深(淡誠は……うーん……)ズズ…
誠子「乗りたいのはある?」
淡「ジェットコースター!」
誠子「いきなり絶叫マシンかー。尭深はいい?」
尭深「うん」
誠子「ははは、そんなに急がなくてもジェットコースターは逃げないよ」
尭深「……」
尭深(お父さん誠子と愛娘淡……すごくいい!)
ーーー
豊音「遊園地ちょーたのしいよー!」
トシ「たまには絶叫系もいいもんだね」
白望(絶叫マシン4連続……さすがにダルいなんてもんじゃない……)グッタリ
豊音「次は登って落ちるやつがいいなー!」
トシ「フリーフォールかい?いいねぇ」
白望「ちょ、ちょいタンマ……」
豊音「どうしたの?」
白望「少し疲れたから、私はあそこのベンチで休憩してる……」
豊音「えー!」
白望「二人で楽しんできて……」
トシ「しょうがないねぇ、二人で行こうか」
豊音「はーい」
トシ「休憩終わったらメールしてね」
白望「はい……」
白望「…………」
白望「まずい、眠い……」
ーーー
菫「じゃあ次はあれに乗ろう照!」
シーン
菫「……照?」
照「……あれ、菫?」
照「……」
照「菫ー。弘世菫さーん。シャープシューターすみれー」
照「……」
照「菫が迷子になった……!?」
照「あ、忘れてきてる……」
照「仕方ない。歩いて探そう」
照「菫も迷子のときは動いちゃいけないことくらいわかってるだろうから」
照「すぐに見つかるはず」
…
照「……見つからない」ゼーゼー
照「あのベンチ、人がいるけどいいよね……」
白望 ウトウト
照「……お隣失礼します」
照 ストン
白望(……んー?)
照「あ、起こしてしまいましたか?」
白望「いえ……お構いなく……」
白望(んー?この人、どこかで見たような……)
照「……何か?」
白望「いえ……」
白望「菫……?」
照「はい。私と同じ制服で、青みがかかったロングヘアの子なんですけど……迷子になっちゃったみたいなんです」
白望「見てません……」
照「そうですか……」
白望「お力になれず……」
照「あ、いえ、こちらこそ突然すみません」
胡桃「ねぇ、あれシロじゃない?」
エイ「ホントダ」
塞「トヨネと先生はいないみたいだけど……」
胡桃「シロ、なにやってんの?」
白望「あ、胡桃……疲れたから休憩してる……」
塞「はは、シロらしいね……」
塞「って、隣の人……もしかしてチャンピオン!?」
白望「ああ、どこかで見たことあると思ってたけど、それでかぁ」
塞「もう、勝ち進んだらきっと当たるから、研究しときなさいって言ったでしょ?」
白望「牌譜は見た……」
照「あの、皆さんは、菫って子見ませんでしたか?」
塞「菫って……白糸台の次鋒の?」
照「はい」
胡桃「見てないよ」
エイ フルフル
照「そうですか」
胡桃「シロ、とりあえず充電!」
白望「この往来で……?」
胡桃「充電不足なの!」
白望「しょうがないなぁ……」
胡桃「よろしい!」ポスン
胡桃「充電充電!」
照(なるほど、片方を充電器に、もう片方を電池に見立てて充電ごっこをするのか……)
照(いや、お団子の子が羨ましそうに見てるあたり、何か効果があるのかも……)
照(今度菫でやってみよう)
照(忘れないようによく観察しないと……)ジー
胡桃「わわ、ひっぱらないでよ」
塞「せっかく遊園地来てるんだから、アトラクションで遊ばないと!」
胡桃「むー」
塞「じゃ、シロ、またあとでね!」
エイ「デハマタ!」
白望「んー」
エイ「サヨナラデス」
胡桃「さよならー」
照「はい。さようなら」
照「じゃあ、私もそろそろ菫を探しにいきますね」
白望「はい、さよなら……」
白望「……」
白望 スヤスヤ
…
照「むむ、まだ見つからない……」
照「まったく、どこに行ったんだろう菫は……」
照「あ、あの人まだいる」
照「……寝てる?」
照「……これは、充電を体験するチャンス……!」
照「そろーり……、そろーり……」
照「失礼します……」ポスン
白望(何か重たい……)
白望(……前が見えない……誰かの頭?)
照(こ、これが充電……!)
照(柔らかく、暖かく、気持ちいい……これはまさに)
照(肉ベンチ!)
白望(ダルい……)
白望(って、なんで宮永さんが……?)
白望(……まあいいか、寝たふりしとこう)
…
菫「あ、あれは照!ようやく見つけたぞ!」
菫「……照……と、誰?」
菫「て、照の座椅子になっているだと!!?」
菫「なんて羨ましい!」
菫「くそう、照ー!!」ダダダッ
菫「照っ!!」
照 ビクッ
照「す、菫?」
菫「はぁ……はぁ……!て、照っ!」
照「……は?」
菫「さぁ、はやく!」
照「ちょ、ちょっと待って菫」
菫「な、なんだ、私なんて座椅子にできないとでも!?」
照「ううん、そうじゃなくて……」
照「そ、その、人目のある場所で菫で充電するのは、恥ずかしいから」
菫(そいつとはしてたのに……?き、基準がわからん……というか充電ってなんだ?)
菫「じゃあ、観覧車に乗ろう!」
照「う、うん」
白望「……なんだったんだ……」グデー
…
-観覧車-
菫「さぁ、照……きてくれ」
照「うん……」
菫「…………!」
菫(て、てるのはだが!おしりが!においが!)
菫(てる、いいにおいだよォ……)ハァハァ
照(うーん……)
照(……なんかカタいし、首に息があたってるし……)
照(……微妙)
菫(もう終わりか……)ショボン
菫「ど、どうだった、私の座り心地は?」
照「正直、さっきの人のほうが良かった」キッパリ
菫「え」
照「さっきの人、まだ寝てないかな」
菫「ま、また座りにいくのか!?」
菫「ま、まってくれ照!捨てないでー!」
照「安心して、菫のことは好きだから」
菫「えっ///」
照「でも、私にはあの座り心地が忘れられないんだ……」タタタッ
菫「そんな!て、照ー!」
白望(またか……)
照「失礼します」ポスン
照「充電、充電……」
白望(…………だるっ)
おしまい
ラブコメ期待してた人がもしもいたならすみませんでしたー
菫さんがなんかアレな役回りになってしまったことに関しては本当に申し訳ない
Entry ⇒ 2012.10.08 | Category ⇒ 咲-Saki-SS | Comments (0) | Trackbacks (0)
P「余命半年と宣告されてもう二年経つのか……」
春香「そんなことないですよ、プロデューサーさんが元気でうれしいです」
P「ははは、あれからずっと入院してるけどな」
春香「よくなるといいですね……」
P「そうだな……」
P「なんか悪いな、迷惑かけて」
春香「そんな事ないですよ……」
P「あのまま、半年で死んでればどんなに楽だったか……」
春香「プロデューサーさん!止めてください、そんなこと……!」
P「ご、ごめん……」
春香「そうですね……」
P「あぁ……、たまにさ。凄い苦しいんだわ、発作とかそういうので」
春香「……」
P「ホント、……二年間、ずっと」
P「一年半、余計に苦しんで、皆に迷惑かけてる感じ?」
P「もう……、申し訳ないって思うんだよ。入院費もタダじゃないんだぜ」
春香「プロデューサーさん……」
P「病院のメシはまずいし」
春香「はい……」
P「窓開けて欲しいんだけど」
春香「あ、ちょっと待ってくださいね」
ガララッ
春香「いい天気ですね」
P「だな……」
P「どうせ死ぬなら、晴れの日がいいな」
春香「また、そういうこと言って……」
P「いや、死ぬ日はなんだっていいや」
P「せめて、葬式とかお通夜は晴れがいいなぁ……」
P「着てくれる人に迷惑かけたくないし」
P「あ、葬式は身内だけですませようかな」
春香「死ぬ前からそういうこと考えないでくださいよ……」
P「ごめん……」
春香「……」
P「苦しいの続くだけだし、春香たちに病院に来てもらうのも悪いし」
春香「そんなことないですよ……、好きで来てるんですから!」
P「そっか、ありがとう……」
P「でも、俺のこと気にしないで、自分のことに集中してくれよ」
春香「…………はい」
P「よしよし、いい子だ」
P「おう、またな」
春香「……はい」
春香「あ、あの……!」
P「ん?」
春香「明日も、明後日も来ますから……」
春香「その時も、きっと「またな」って言ってくださいね」
P「……ははっ、わかった、わかった」
P「あー、……あと何日生きて、皆に迷惑かけるんだろうな」
P「先生の言うとおり、半年で死ねてたらな……」
P「社長も、俺をクビにしてくれていいのにいまだに事務所に置いてくれてるしな」
P「ありがたいけど、申し訳ないな」
P「…………」
P「あー、死のっかな」
P「ん、千早か」
P「どうした?」
千早「どうしたって……、お見舞いです」
P「……そっか、ありがとう」
千早「迷惑、でしたか?」
P「そんな事ないよ……」
千早「じゃあ、何でそんな悲しそうな顔……」
P「……」
P「大丈夫、何でもないからさ……」
P「あー、ダメダメだな……」
P「一向に良くなる気がしないんだよな」
P「……悪くもならないから、蛇の生殺し状態だけどなぁ」
千早「プロデューサー……」
P「そんな顔するなって……」
千早「ですが……」
P「そうそう、この前のテレビ見たぞ」
P「凄く良かったと思う」
千早「あ……、ありがとうございます」
P「もう、俺が居なくても大丈夫かな」
千早「そ、そんな事は……」
千早「プロデューサーに、かっこ悪い所を見せるわけにはいかないですし……」
P「あはは、気にするなって。俺なんかこんなだしな」
千早「……そんなこと、ないですよ」
千早「はやく、よくなってくださいね?」
P「あー、そうだな。……そうなるといいよな」
千早「はい、……きっとですよ?」
P「ああ、きっとな」
千早「……あの、私はこれで」
P「ああ、またな」
千早「はい。…………また」
冬馬「……どうしたんだよ、そんな顔して」
P「お、お前が来るなんて珍しいな」
冬馬「たまには顔だしとけ、って北斗に言われたんだよ」
P「へー」
P「悪いな、花なんか持ってきてもらって」
P「丁度、萎れかけててさ」
冬馬「気にすんなって」
P「何の花?」
冬馬「ピンクパンサーだとよ」
P「へー、薔薇か」
冬馬「北斗に聞いたんだけどな」
P「ピンクパンサー自体の花言葉は知らないけど」
P「ピンクの薔薇は、病気の回復とか、そういう意味なんだってよ」
冬馬「へぇ、そうなのか」
P「それに、ピンクパンサーは病気に強いんだぜ」
冬馬「なるほどな……」
P「北斗に、ありがとうって言っといてくれよ」
冬馬「おっと、忘れてた。フルーツも持ってきたんだ」
P「あー、そっちはあれか。翔太が見繕ってくれたのか?」
冬馬「まあな」
P「……ありがとな」
冬馬「……ははっ、気にするなって言ってるだろ」
P「リンゴ剥いてくれよ」
冬馬「な、なんで俺が……」
P「ほら、お前料理好きだろ?」
冬馬「好きだけどよ……」
P「……ほら、ウサギにしてくれとか言わないから」
冬馬「わ、わかった……」
P「あー、ダメダメだな」
冬馬「気の持ちようなんじゃないのか?」
P「はは、病は気からってか」
冬馬「まあ、そうやって後ろ向きになるのって良くないと思うぜ?」
P「でもなぁ、皆毎日見舞いにくるしさ……」
P「もう、申し訳なくて、申し訳なくて」
冬馬「いいじゃねぇか、それだけ大切に思われてるんだろ?」
P「そうかな」
冬馬「そうだよ」
P「やあ、伊織か」
伊織「冬馬が来るなんて、珍しいわね」
冬馬「お前らは毎日来てるみたいだけどな」
伊織「……」
P「あ、伊織。冬馬がリンゴ剥いてくれたんだ、食うか?」
伊織「う、うん……」
冬馬「ああ」
伊織「そうね……」
P「……2人とも、今日はオフか」
冬馬「じゃなきゃ来ねーよ」
伊織「……私も、今日はオフ」
P「じゃあ、春香も千早もオフか……」
伊織「心配しなくても、皆ちゃんとやってるわ」
P「ああ、知ってる……」
冬馬「水瀬もこの前テレビ出てたよな」
P「あー、見た見た」
P「うん、よかったと思う」
伊織「……あ、当たり前じゃない」
冬馬「ん、なんだよ」
P「冬馬は、どうしてるんだ?」
冬馬「ああ、俺は961プロ止めてから、地道にやってる」
P「自分で言うか、地道って」
冬馬「う、うるせぇっ!」
伊織「でも、それなりに仕事もあるみたいね」
冬馬「まあ、な」
P「よかったじゃないか、冬馬」
冬馬「ああ、ありがとよ」
冬馬「……ちょっと、ジュース買って来ッけど何がいい?」
伊織「私はオレンジね。果汁100%の」
P「俺は……、お茶でいいわ」
冬馬「じゃ、いってくる」
P「いいよ、皆に迷惑かかったりするだろ?」
伊織「そんなこと、気にする必要ないのよ……?」
P「いや、でも……」
伊織「私達は、あんたにずっと迷惑も心配もかけてきたんだから」
P「はは、質も量もこっちのが上だ」
伊織「……バカ」
P「ごめんなさい……」
伊織「怒るにきまってるじゃない」
P「……だよなぁ」
伊織「大丈夫、きっとよくなるから」
P「二年間、それきいたよ」
P「もう、聞き飽きたなぁ」
P「ずっと、ココにいるから、病院にも申し訳ないなあ」
伊織「そんな、卑屈にならなくてもいいでしょ……っ!」
P「卑屈にもなるって……」
P「窓からそれを眺めて、最後の葉っぱが落ちたら死ぬっていうのをやったけど」
P「死なないんだよな」
P「……葉が落ちても、俺は生きてるっていうね」
伊織「葉が落ちてもまた、花が咲くじゃない」
P「……そうだな」
伊織「なに?」
P「……俺さ、本当のこといったら、死にたくない」
伊織「…………」
P「生きていたい、伊織たちのプロデューサーやってたい」
P「だから、皆がこうやって来てくれるのは凄く嬉しい」
P「だから、すごく辛い」
伊織「ねえ」
P「何だ?」
伊織「……私達は、全然負担に感じてない、って言っても無駄よね」
P「……こればっかりは、俺がそう感じちまってるからなぁ」
伊織「本当にあんたは……、バカね」
P「こればっかりは、死ななきゃ治らないさ」
伊織「治らなくていいわよ」
伊織「バカは……、治らなくていい」
P「だから、その。泣くなよ」
伊織「な、泣いてなんか……!」
P「はははっ、悪い悪い。スーパーアイドル水瀬伊織ちゃんが、そう易々と涙を見せるわけないな」
伊織「何よ、もう……」
冬馬(……これは、まだ入らねぇ方がいいな)
伊織「ん」
P「もし、もしだぞ?」
P「俺の体治ったら……」
P「そん時はさ、皆でパァーッと、飯食いにこうか」
P「冬馬たちも、誘って」
伊織「そうね、……そうしましょ」
伊織「色々、考えておくから」
伊織「無駄にしたら、承知しないんだから」
P「ああ……わかってる」
P「どうした?」
伊織「本当に、本当に……」
伊織「事務所の皆で、あんたの帰りまってるんだから」
伊織「絶対に、戻ってきなさいよね」
P「ああ、快気祝い引っさげて事務所に行くよ」
伊織「ううん。あんたが元気になってくれればそれでいいから」
P「……嬉しいこといってくれるな」
P「ココまで言わせたんだし、俺も元気にならないとな」
P「ああ、約束する」
伊織「……じゃあ、はい」
スッ
P「な、なんだよ」
伊織「指切りよ、指切り」
P「また、えらく……」
伊織「いいでしょ、……分かりやすい形でやっとかないと、不安なのよ」
P「……わかったよ」
スッ
P・伊織「指きりげんまん、嘘ついたら針千本飲~~ますっ」
P・伊織「指きった……!」
P「……」
P「ん、冬馬」
伊織「あんた、今の見てたの……?」
冬馬「たまたまだよ、……それより」
冬馬「今の指切り、やったのは水瀬だけど」
冬馬「天海とか、如月とか。俺含めたみんなとの約束だからな」
冬馬「その辺、肝に銘じて置けよな」
P「……わかったよ」
P「約束守れない男にはなりたくないし」
冬馬「だろ?」
P「……うん、生きるように頑張ってみるよ」
冬馬「……じゃ、俺はそろそろ帰るな」
伊織「うん、ありがとう……冬馬」
冬馬「気にすんな、またな」
P「おう、またな」
伊織「……」
P「なあ、伊織」
伊織「なに?」
P「……外、見てみ」
伊織「いい天気ね」
P「木、見えるだろ?ちょっと葉が落ちてる」
伊織「そうね……」
P「とりあえず、あの木より早く咲くのが当面の目標だな」
伊織「……」
P「もし、達成できたら……ご褒美くれないか?」
伊織「なにが欲しいのよ?」
P「そうだなぁ……」
P「もし、……達成できたなら」
P「俺と────」
伊織「────うんっ」
冬馬「へぇ、日取りきまったのか」
春香『うん、6月の大安吉日だって』
冬馬「なるほどな……」
春香『2人が、是非冬馬君たちもって』
冬馬「ああ、喜んでいかせてもらうぜ」
春香『本当によかったね』
冬馬「そうだな、まさか本当に治しちまうとはな……」
春香『でもね、ちょっと妬いちゃうかな……』
冬馬「あの2人につけいる隙なんてねえよ」
春香『そうだよね……』
春香『ねえ、何かいいお祝いないかな?』
冬馬「お菓子でも作ってやりゃいいんじゃねぇか?」
春香『お菓子かぁ……、うん。それがいいかも。ありがとう、冬馬君』
プルルルル
P『お、冬馬か。どうした?』
冬馬「天海から聞いたんだよ、式の日取りきまったって」
P『もちろん、来てくれるだろ?』
冬馬「ああ、北斗たちと一緒に行かせて貰う」
冬馬「それと、おめでとう。水瀬にも伝えておいてくれ」
P『本人いるぞ、代わろうか』
冬馬「ああ、頼む」
伊織『……わざわざ電話してくるなんて、律儀ね?』
冬馬「ま、いいじゃねぇか。おめでとう、水瀬」
伊織『あ、ありがとう』
冬馬「幸せにしてもらえよな」
伊織『当たり前じゃない……』
伊織『わかったわ』
P『冬馬?どうかしたか?』
冬馬「いや、あんたが退院してから、言ってなかったことあったからな」
P『おめでとうは、いってもらったけど?』
冬馬「違えよ」
P『じゃあ、なんだ?』
冬馬「そ、その……」
冬馬「ありがとうな。約束まもってくれて」
P『………プフッ』
冬馬「てめぇっ!?」
P『あははっ、いや、悪い悪い……!』
冬馬「くそっ、もう切るぞ。お幸せにな」
P『おうよ、またな』
ピッ
P「いや、なんか……」
P「約束守ってくれてありがとうって」
伊織「何それ……、何か似合わない……」
P「まあ、らしいといえば、らしいのかもな」
伊織「ねえ」
P「ん?」
伊織「私からも、ありがとう」
P「…………どういたしまして」
冬馬「ホント、よかったな、お二人さん」
冬馬「さて、と」
冬馬「北斗達でも誘って、クリームソーダでも飲みにいくか」
終
乙でした。
裏があるんじゃないかと勘ぐってしまうのは汚れちまったからか
乙乙
Entry ⇒ 2012.10.07 | Category ⇒ アイマスSS | Comments (0) | Trackbacks (0)
和「君がいない冬」
諸事情によりオール地の文
苦手な人はごめんなさい
高校生活最初の夏。
今なお、忘れようと思っても忘れることのできない、あの熱かった夏の日々。
私たちは、夢のように遠いと思っていた目標――――全国制覇を成し遂げた。
正直、その瞬間のことはよく覚えていない。
まるで自らが対局しているかのごとく、熱に浮かされたまま大将戦の行方をモニターで見守って。
優勝が決まった瞬間、全員で対局室に駆け出して。
私はおそらく、いの一番に彼女に抱きついて、泣いたのだろう。
これで来年も、清澄で麻雀ができる。
この仲間たちと、これからも一緒にいられる。
ただ難しいことは考えずに、そう思って泣いたのだろう。
そして彼女は視線の先に、ずっと目標にしていたお姉さんの姿を見つけて――
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「そういうこと言うのは……この口かーっ!」
「いは、いはいいはい! ……もう、京ちゃんってば!!」
通い慣れた部室の扉をくぐると、賑やかなじゃれあいが聞こえてきた。
宮永さんと須賀くんがまた他愛もないことで、可愛らしくいがみ合っていたのだろう。
この数年で、すっかりおなじみとなった光景だ。
「二人とも、こんにちは」
「おっす、和」
「あ、和ちゃん! ちょっと聞いてよ、京ちゃんったらね……!」
「それはひどいですね。謝ってください須賀くん」
「せめて最後まで聞いて!? 原告の証言すらロクに聞かないとかどんな魔女裁判だ!」
やれやれと大げさに頭を振った須賀くんに、宮永さんと二人、顔を見合せて笑う。
彼はちょっとげんなり表情を曇らせたと思ったら、次の瞬間には誰よりも快活に歯を光らせていた。
「原村部長は宮永さんばっかえこひいきしてていけないと思いまーす」
「ひいきなんてしてません。だいたいもう部長じゃありません」
「あれがひいきじゃなきゃなんだってんだよ……」
「女子をひいきしてるんじゃなくて、単に須賀くんに信用がおけないだけです」
「なお悪いわ!」
「……ふふ」
こんな軽口を彼と叩けるようになったのは、いつからのことだったろう。
思い返すにおそらく、竹井元部長の引退が契機だったのではないだろうか。
同じ女性とは思えないほど凛々しく、しかし女性らしい魅力に満ち溢れていた竹井先輩の後ろ姿は、今でも鮮明に思い出せる。
何事にも率先して先頭に立ち、常に清澄麻雀部を引っ張り続けてきた頼れるリーダーの引退は――それだけが原因ではなかったが――私たちの上に、一時的だが暗い影を落とした。
そんな時に声を張り上げたのが、須賀くんだった。
物怖じしない笑みと良く通る声で、竹井先輩がよく使っていたホワイトボードに大きく書き殴りながら、
『清澄、全国制覇おめでとう!!! 来年もきばって、目指せV2!!!!!』
と叫んだのだった。
染谷前……いや、元部長などは、あれで再始動したようなものだった。
竹井先輩の良き右腕であり、清澄のNO.2であり続けた先輩が、一つ殻を破った瞬間だったのかもしれない。
静かに不敵にふてぶてしい染谷部長。
そしてその隣で、須賀くんがみんなを鼓舞しサポートする。
私は形式上の副部長に据えられてこそいたが、元より誰かの上に立つなど性分ではなかった。
ゆえに。
本来自分がやるべきことを肩代わりしてくれたから――というわけではないが、あの時期須賀くんには感謝の気持ちでいっぱいだった。
そしてそれは、染谷先輩が引退し、私が部長に就任してからも何も変わらなかった。
私などは竹井先輩とも染谷先輩とも違って、厳しくするしか能のない部長だった。
ダメなものはダメとはっきり言いすぎる嫌いがあるし、お世辞にも後輩に慕われていたとは思えない。
自然、潤滑油としての須賀くんの負担はいたずらに増し、大変な迷惑をかけてしまったのだろう。
麻雀部について、部員について、須賀くんとは何度も話し合った。
あいつはちょっと落ち込んでたからメシおごっといた、とか。
逆にあいつは調子のりすぎ、もっと和がへこませてやるのも勉強だ、とか。
私では絶対に気の付かなかった部分まで、彼は実に細やかに心を配っていた。
須賀くんに不思議な人気があるのも頷ける話しだった。
彼は男女問わず、とても友人が多い。
けしてモテる、というわけではないのだが、人が集まってくるところに自然と彼がいる印象はあった。
宮永さんも、あるいはそうだったのかもしれない。
「まっ、京ちゃんの味方なんてハナからここにはいないってことだよ」
「言ったなテメ、なんなら今から部員全員招集して、俺とお前のどっちに非があるのか聞いてみるか?」
「須賀くんは天性のいじられキャラなんだから、ヘタに敵を増やすのはやめといた方がいいと思いまーす」
「お前に言われたくないよ」
「違うよ! あたしいじられキャラじゃないよ!」
「……だな。お前はどっちかというとぼっちキャ」
「むむーっ! ぼっちじゃないもん!」
「お前この学校来たばっかりの頃、俺以外に話すヤツいなかったじゃん」
「やーめーてー思い出さないようにしてるのに! 京ちゃんのいじわるー!!」
……もう何回も何回も、食傷気味になるほど見飽きた光景だというのに、いまだ胸がじくりと痛む。
二人はお付き合いしてるんですか。
っていうか、いっそ付き合っちゃったらどうなんですか。
我慢しきれず、そう声を掛けそうになったことが何度もある。
そして、その度に思いとどまってきた。
余人の踏み入ってはならない領域というものは、確かに人間と人間の間には存在する。
人の心の機敏に疎い私でも、どうにかそのくらいは理解できた。
須賀くんは分け隔てなく色んな人に笑いかけて、その度に人から色とりどりの笑顔を返されている。
しかし彼の心の中には、たった一人のために空けてある特等席があるのだ。
そのことを思うと、下手な口出しはできなかった。
「おおーーっす! 待たせたなお前らっ!!」
「いちいち声がでかいんだよなお前……」
「ご主人様に口答えするない、バカ犬!」
「まあまあ、優希ちゃんも京ちゃんも落ち着いて」
そのうち優希が、底抜けの陽気とともに部室に飛び込んできた。
二言三言、いつものやりとりを交わすと、誰からともなく自動卓の前に。
この四人が、清澄麻雀部の現三年生。
最も長きに渡って、苦楽を共にしたかけがえのない仲間。
この夏の大会をもって清澄高校麻雀部を引退した四人が、久々の全員集合を果たしたのであった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
気が付けば夕陽もすっかり沈み、窓の外は一面の闇に彩られていた。
「だああああっ!!」
「また負けたじぇぇ!!!」
須賀くんと優希、4位と3位に沈んだ二人が二人して卓に突っ伏す。
私が2位で、宮永さんがトップ。
統計的に、長期的に考えて、いつも通りの結果が出ただけだ。
それなのになぜだろう。
私はなんだか、理由もなく泣きたい気分になっていた。
「そういやさ、和はプロ入り蹴って進学すんだっけ?」
須賀くんが卓に伏していた顔を上げて、何気ない口調で言った。
多分、私の内心のどうしようもないやるせなさを察して、気の紛れるような話題を振ってくれたのだ。
本当に、頭が上がらない。
「もったいないよねー、和ちゃんの実力なら活躍間違いなしなのに」
「父が、将来のために大学だけは出ておけと……かくいう私も、今回は父の考えがよくわかりますから」
「のどちゃんの人生設計は麻雀同様、実に堅実だじぇ」
優希の揶揄するような言葉に、宮永さんが頬を掻きながら苦笑する。
彼女は全国大会で見せた圧倒的な個人成績を武器に、すでにプロ入りを決めている。
彼女の実力をもってすれば、プロ入りというリスキーな選択肢もギャンブル足り得ないだろう。
「優希ちゃんと京ちゃんは……」
「私は池田……センパイと同じ大学で麻雀続けるじぇ」
「ああ。そういやお前、あの人には何かと気ぃかけてもらってたよな」
「それじゃあ、優希と私は大学ではライバル同士、ということになりますね」
「おう、負けないじぇのどちゃん!」
「ちぇー、いいよなぁみんなは。俺一人だけ一般入試でヒーヒー言ってんのにさ」
「なんならあたしんとこ、一芸入試で受けてみるかー?」
「バカ言え、俺の麻雀は大学で続けられるレベルにゃねえよ。優希だって知ってんだろ?」
「そうじゃなくて、マネージャー力でだな」
「それこそ無理に決まってんだろーが!」
須賀くんのツッコミにつられて、三人して大笑いした。
彼は憮然としてそっぽを向いたが、ポーズだけだということはこの場の全員が承知だ。
笑いながら、私は優希の提案も案外理にかなっているのでは、などと埒もないことを考えていた。
二年前に全国制覇を果たして以降、麻雀部への入部希望者は激増した。
というより長野県全体で、清澄高校進学を目指す学生の母体数そのものが、相当増えたらしい。
そうなれば当然、レギュラーに入れない後輩も出てくる。
須賀くんが今まで一人でこなしていた雑用まがいの仕事を、分担させられるだけの人数はゆうにいた。
しかし、それでも私や染谷先輩は、須賀くんのサポートこそを欲した。
無論本人の意思は尊重した上でだ。
頭数や麻雀の実力では語れない、えも言われぬ安心感を、須賀京太郎という少年は私たちにもたらしてくれる。
私たちにとって最後のインハイの直前、私は遠慮がちに話を切り出し、頭を下げた。
すると須賀くんはやはりというべきか、笑って快諾してくれたのだった。
あまりの即答ぶりに、尋ねた私の方から何度も確認をとってしまったほどだった。
いいんですか、本当にそれで。
須賀くんが自分の練習に専念したいなら、絶対に無理強いはしませんから。
だから、もう少しよく考えてみてください。
……その上で私たちを助けてくれるのなら、すごく嬉しいですけれど。
悔しくなかったはずがない、と思う。
彼だって聖人君子ではない。
私たちが何度も全国の舞台で脚光を浴びる傍ら、須賀くんは結局三年の間一度も、県予選を突破できなかった。
忸怩たる思いが、なかったはずがないのだ。
それでも須賀くんは、最後まで私たちのサポートに徹してくれて――――その結果清澄高校は、見事に二度目の入賞、すなわち全国準優勝を成し遂げたのであった。
「あー、そっか。ってことは……」
私の益体もない思索を遮ったのは、宮永さんのどこか寂しげな声だった。
「来年からは、みんなバラバラなんだね」
沈黙。
心地よさとは程遠い、肌に突き刺ささるような三十秒。
そんな気まずい空気を払拭するのは、たいていの場合彼の仕事だった。
「……うし。せっかくだから、みんなで帰ろうぜ」
「京ちゃん?」
「みんな、進路のことでこれからも色々とごたごたするんだろ? まあ一番ごたごたすんのは、間違いなく俺だろうけどな」
須賀くんが立ち上がって、頭をガシガシ掻きながら照れたように言う。
「今日だってホント、久しぶりに集まれたんだよな。今日が12月の2日だから、いったい何日ぶりに……まぁ、それはいいや」
「犬は計算が大雑把だじぇ」
「うっせ……んでさ、今後何回、こういう機会があるかもわかんないじゃんか。だったら少しでも、つまんないことでもいいから……お、思い出とか、作っとこうぜ」
……照れたように、じゃなく、本当に照れた。
それはもう、くさい台詞だったのだからしょうがない。
聞いてるこっちまで恥ずかしくなるような。
「……いいこと言うね、京ちゃん!」
頬を赤くする代わりに目を輝かせた、宮永さんを除いて、だったけど。
いそいそと通学カバンを肩にかけた彼女は、駆け足で部室を出て行く。
「玄関で待ってるねー!」
「おい、ちょ、待てってば!」
そのすぐ後を、慌てて須賀くんが追いかけていった。
暗がりを早足で駆け抜けようとする宮永さんのことが、よほど心配なのだろう。
残されたのは私と優希の二人。
「ったく、京太郎はホント過保護だじぇ」
「別に、過保護なのは宮永さんに対してだけ、じゃないと思いますよ?」
「……わかってる」
ちょっぴり拗ねたような優希をなだめる。
そう、優希だって本当はわかっている。
須賀くんは誰に対してだって、老若男女問わず“ああ”なのだ。
あるいは、私たちがそうさせてしまったのかもしれないけれど。
部室の隅っこに飾った写真立てを眺めながら、私は口の中だけでそう呟いた。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「さっむいねぇ。明日は雪降るかな?」
「あー……そりゃ勘弁だな」
「え、なんで? 京ちゃん、雪嫌いなの?」
「積もるぐらい降ったら、お前が滑りまくって学校まで辿りつけないかも、だろ」
「……えいっ」
「いってぇ! カバンで叩くなよなお前!」
数メートル先も満足に見渡せない暗がりの真っただ中。
キラキラした金髪と、軽くウェーブがかったショートブラウンが、楽しそうに嬉しそうに跳ね回っている。
私と優希は二人の少し後ろから、それを言葉少なに並んで眺めていた。
「やっぱり、さ」
優希がぼそと呟く。
消え入るような声だった。
涙を堪えているようでさえ、あった。
「京太郎には、咲ちゃんがお似合いなんだよな」
「……優希」
私にはただ、彼女の名前を呼んであげることしかできなかった。
他の言葉は、どこを探しても見つからなかった。
そんな私の心境を知ってか知らずか、優希は突然パッと顔を上げると、先を行く二人目がけて駆け出す。
「……そーれ、二人でイチャついてないで私も混ぜるじぇーい!!」
「うおっぷ!? いきなり飛びかかってくるんじゃねえよ!」
「あー優希ちゃんずるーい! 私も私もー!」
心底困った声を張り上げながらも、須賀くんが本気で二人を振り払うことはついになかった。
私はといえば、やはりその光景を遠い目で遠巻きにしていただけだ。
「どうして」
切ない。
悔しい。
やるせない。
単純な感情の羅列がのしかかるように去来して、胸のうちのどこかにしんしんと堆積した。
どうして、いったいどうして――――
「……は、あの輪に加われないんですか」
独白は誰にも受け取られることなく、冬の真っ黒な夜空に融けていった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「あ」
「よう、和」
結局雪は降ることなく、数日後の通学途中。
高校の最寄り駅で改札をくぐったところで、須賀くんとばったり出くわした。
「おはようございます、須賀くん」
「おう、おはような」
そのままどちらからともなく並んで、校舎までの道のりを二人行く。
二年前ならばいざ知らず、今の私たちが、十分やそこらで道連れの与太話に欠くことはない。
「……須賀くん?」
ふとした瞬間、会話が途切れた。
ちらと横目で彼を見やった瞬間、反射的に眉尻が吊り上がった。
「また見てましたね」
「い、いやいやいや! 誤解するなよ和! これは男にとって、心臓が拍動するのに等しい自律行為であってだなー!」
「眼球が不随意に女性の胸部に対して自動追尾を行うなんて、そんなオカルトありえません。あなたのそれは明らかに随意運動です」
これだ。
こればかりは、彼が一年生の頃から何も変わらない。
女性の……その、何というか……豊かな、胸部……もう!
それが放つ何がしかの何かは、須賀くんの眼球運動に誘蛾灯のごとき作用をもたらしてしまう、らしいのだ。
これだから私は、彼のことを一人の男の子として見る気になれないのだ。
いや、確かにこの事実は、彼が立派な男性であることの証左ではあるのだけれど。
「私は慣れているからいいですけど」
「よっ、さすがは原村大明神! 器と胸がデカい!!」
「後輩が何かしらの訴えを提起してきたら、父に相談しますからね。弁護士として」
「おいやめてくれガチ犯罪者になっちまうよオレ」
まあ、ちなみに実際の犯行現場では、
『須賀先輩さいてーい』
『セクハラなのですセクハラ!』
『慰謝料としてアイス奢ってくださーい』
『ついでにタコスも買ってこい犬』
ぐらいの糾弾で、事件はすっかり終息を見てしまうのだが。
須賀くんの人徳が時々、逆に恐ろしくなることがある。
……被害に遭いそうにない人物からの賠償請求ばかりなのは、きっと気のせいだろう。
「ああそうだ、そう言えばさ」
須賀くんは言うが早いか、いきなり鞄に手を突っ込んでまさぐりはじめた。
どうやら何かを探しているようだ。
「ん、あったあった」
差し出してきたのは、一枚のくしゃくしゃになったチラシだった。
「へえ。諏訪湖畔で、冬の花火大会ですか。夏のそれは、全国有数の大花火大会で知られてますけれど……」
折り目があちこちに付いたチラシを丁寧に伸ばすと、力強い字体が目に飛び込んできた。
華やかながらもどこか侘びしい、空に咲く花の写真がバックを飾っている。
綺麗だな、と素直にそう思った。
「もしかして、デートのお誘いですか?」
内心の動揺を辛うじて押し殺し、にっこりと笑いかける。
すると須賀くんは頬を掻いて、
「ま、そんなところかな」
「っ」
ぎゅっ、と拳を握り締めた。
悟られないように俯いて、唇を軽く噛む。
「……うして、そんな」
「あいつらも誘ってさ、三年生四人で見に行かない?」
「……」
「ほら、ちょうどこの日はガッコないじゃん。だからってぇぇぇぇ!!!!?」
思いきり向こう脛を蹴飛ばしてやってから、悶絶してうずくまる須賀くんを無視して先を急ぐ。
紛らわしいことを思わせぶりな顔で言わないでください、このおバカ。
ため息まじりの罵倒は、胸の内に閉じ込めておいた。
「まっ、つつぅぅ…………ま、待てってば和!」
と思っていたら、あっさり立ち上がって私の背中に追いついてきた。
渾身の力でサッカーボールキックを叩きこんだつもりだったのに、こういうところはさすがに男の子である。
「……どうして、急にこんなことを?」
今度は包み隠そうともせず盛大に息をつくと、一応は話に取り合ってあげる。
なんだかんだ言っても、私は須賀くんのことを信用している。
こういう時の彼に、下卑た下心は決してない。
1%たりとも、砂粒一つ分もない、とまではさすがに言わないが。
「いや、さぁ」
すると意外にも彼は言い淀んだ。
目線で促すと、心なしか頬が上気したようにも見えた。
「ああ、えっと……だな、この間。部室で言ったことなんだけど」
「部室? 麻雀をした時ですか?」
「ん」
「あの時、須賀くん何か言って……あ」
『今後何回、こういう機会があるかもわかんないじゃんか。だったら少しでも、つまんないことでもいいから……お、思い出とか、作っとこうぜ』
目を丸くして視線を向けると、今度ははっきり頬を赤らめて、須賀くんがそっぽを向いた。
「あれ、本気だったんですか?」
「ほ、本気じゃダメ?」
「ダメってことはないですけど」
「じゃ、じゃあ行こうぜ……えと……」
「思い出づくり?」
「……あらためて言われると、なんか恥ずかしいなぁ」
「ぷっ」
「えーい笑うなっ!」
「ぷっ、はは、あははははっ!」
「このやろ、笑うなっちゅーとんのに!」
「だ、だって、恥ずかしがるぐらいなら……最初から、言わなければいいのに……ふふっ!」
人目も気にせず、お腹を抱えて笑ってしまった。
こんなにも大笑いするのは何時ぶりだろう、というぐらいには笑ってしまった。
だんだんと呼吸が苦しくなって、ひいひい言いながら息を整えていると、
「だってよ、欲しいじゃんか」
絞り出すような重苦しい声。
何かを諦めたはずなのに、本当は諦めたくなかった、そんな想いの乗った声。
「俺らが、この長野で、三年間一緒だったんだって証拠、欲しいじゃんか」
すう、と背筋が冷えて、私は笑いを引っ込めた。
頬骨がわずかに震えて、歯を一度、かちりと噛み合わせる。
中で燻るものを、閉じ込めるかのように。
「……わかりました。宮永さんには私から伝えておきますね」
吐き出したのは、一分後だったのか、十秒後だったのか、刹那の後のことだったのか。
そんなこともわからないまま、くるりと須賀くんに背を向け、いつの間にか眼前でそびえていた校門をくぐる。
須賀くんが小さく吐いた湿り気のある呼気を背中で受け止めながら、私は部室の写真立てのことを思い出していた。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「あ、おはよう和ちゃん」
教室のドアをくぐると、一番に気が付いた宮永さんが声をかけてくれた。
「おはようございます、宮永さん」
「和ちゃんにしては珍しく、遅刻ギリギリだったねー」
「今日は須賀くんと一緒でしたから」
「あはは。京ちゃんはどれだけ予鈴スレスレで登校できるのか、を生きがいにしてるからね」
「なんだか聞いてて切なくなる生きがいですね……」
鞄と畳んだコートを机に置いて、深い意味も重たい思惑もない雑談に耽る。
こういうのは長野に来てから身につけた所作だと、我ながらつくづくそう思う。
なにせ高校一年生までの私と来たら、思い返すだに無愛想な小娘だった。
「あとは……和ちゃんのおっぱい……かなぁ。京ちゃんの生きがい」
「ば、バカなこと言わないでください!」
そんな私を変えてくれたのが、清澄高校麻雀部だったことは言うまでもない。
人差し指を尖らせた唇に当てて、拗ねたように呟く目の前の少女。
彼女ももちろん、私にとって大事な仲間であり、大切な親友だ。
今年四月のクラス分けで初めて一緒の組になってからも、特別彼女との付き合いに何か変化があったわけではない。
ただ、のちにクラス分けの結果を聞いた須賀くんが、
『がんばれよ、和』
そう言って、私の肩を慰めるように叩いたことだけが、不思議と言えば不思議だった。
「……あ。あああああ~~!!」
その疑問は新学期開始後一週間とせずに、綺麗に解消されることとなったが。
「どどど、どうしよ和ちゃん!」
「……いったい今日は、なんの教科書を忘れたんですか?」
「数Ⅲと倫理と世界史と、あと古典のノートがががが」
「…………はぁぁ」
これだ。
こればかりはいくら親友だからといっても、いや、親友であるからこそ嘆息を禁じえない。
兎角この少女、麻雀が絡んでこない世界での日常生活スキルがポンコツにすぎる。
女の子なのだから愛嬌のうち、で済ませるにも限度というものがあるのだ。
「数Ⅲは私と教室が同じだから、見せてあげられます。倫理は優希とクラスが被ってますよね? 先生に言って、優希の隣の席を確保させてもらいなさい」
「あうあう」
「世界史は……私も須賀くんも優希も取ってませんね。前に忘れた時はどうしましたっけ? 古典のノートはルーズリーフ貸しますから、それでどうにかしてくださいね」
「うーうー」
「もしかしたら部室に、竹井先輩か染谷先輩が置いてった教科書が、億が一ぐらいの確率で埋もれているかも……」
「あわあわ」
「……少しは自分でも打開策を考えてくださいっ!」
「あいたぁっ!?」
拳・骨・一・閃。
涙目混じりの宮永さんの上目づかいがちょっとだけ『そそった』のは原村和の墓場まで持っていきたい秘密その149です。
「ううう……和ちゃぁん、なんか同じクラスになってから容赦なくなったよね?」
「気のせいです」
「いや、気のせいじゃないよ! 拳骨なんて三年生になるまで一度も貰わなかったよ!?」
ぷんぷん、と頬を膨らませて抗議する彼女は、同性の目から見てもとても可愛らしかった。
そういえばiPS細胞というので同性の間でも子供ができるらしいです。
役に立たない豆知識というやつである。
とにもかくにも、私はそんな彼女の幼い仕草にほだされて、
「そんなことはありません。部室で初めて会った頃から、わりと私は宮永さんに対して――」
気の緩みから、口を滑らせてしまった。
「……大丈夫、和ちゃん?」
数瞬の間、口を半開きにして呆けていたようだ。
気が付くと目と鼻の先で、宮永さんの心配そうな眼差しがゆらゆら揺れていた。
私は半歩だけ後ずさると、軽く首を横に振った。
「いえ、なんでもありません」
「そう……? ならいいんだけどねー」
得心いったとは言い難い表情の宮永さんが、渋々と引き下がっていく。
同時に担任の教師が教室のドアをくぐり、SHRが始まった。
受験に向けて自由登校期間も近づくこの季節、悪さをして進路を危うくすることのないように。
面白みのない注意文句で朝の挨拶を締めくくった教師の声を右から左に流しながら、私はふと思い出した。
(そういえば、須賀くんの提案について、宮永さんに伝え忘れてました)
大した問題ではない。
そう思いながら、前列二番目で教室移動の準備に取り掛かる彼女の後ろ姿をなんとなしに見やった。
大した問題ではないのだ。
彼女とは同じクラスなのだから、いくらでも話す機会がある。
事実私はこの数時間後に、食堂で出会った宮永さんに花火の件を無事伝えることができた。
だから、大した問題ではなかったのだ。
ただ、何かがしこりとなって胸の奥で引っかかった。
朝の一時の他愛もないやりとりの中で、なぜかそのことだけを容易には切り出せなかった。
そのどうでもよい事実が、無意味に私の内側で重みを増していく。
いったい何が、私の舌の滑りに制止をかけたのか?
須賀京太郎という名前か?
二人きりで登校したという事実か?
色鮮やかに空を彩る、火花の祭典へのいざないか?
どれ一つとっても、宮永さんへの告白を躊躇させるに十分な要素が見当たらない。
だから私は結局、大した問題ではないのだと自分に言い聞かせて、この問題を脳内から追い払った。
そして、まさにその時が訪れてしまうその瞬間まで、見て見ぬふりをし続けたのだった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「たーまやー、だじぇぇぃ!!!!」
「はえーよ」
「早すぎです」
「フライングゲットだじぇい!」
年の瀬を目前に控えた冬のとある一日、湖上の空を一発の快音が響いて抜けた。
諏訪湖の四方を囲む山々のうち、西側の日本アルプスの山肌はいまだ、燃えるような赤に支配され続けている。
今しがた鳴った華々しくも孤独な号砲は、本番前の試し撃ちか何かなのだろう。
「思ってたより人出が多いなぁ」
「それはもう、諏訪湖畔の花火大会といったら、夏は五十万人からの人出になるという一大イベントですよ?」
「でも、こんなクッソ寒い時期でもウン万人集まるなんて……そんなん考慮しとらんかったじぇ」
白のダッフルコートにニット帽、もこもこした耳当ての優希が、肩をすくめて呟いた。
未曾有の人混みに向かい長身を伸ばして覗きこむ須賀くんは、某メーカーが開発したライトグリーンの防寒ウェアにジーンズと簡素なレザーグローブ。
かくいう私は少女趣味全開、レースたっぷりワンピースの上から薄手のボレロを羽織って、その上にフェイクファーのコートを着込んでいる。
エトペンの絵柄が編み込まれたピンクのマフラーは、後輩たちに何度からかわれても手離さなかったお気に入りの一品だ。
三者三様の態で待ち合わせ場所に無事集合した私たち。
そう、三者三様。
三人。
「……で、宮永さんはどうしたんですか?」
「……迷子にでもなったんじゃないのか」
「……ほんっっと、手間のかかるヤツだよなぁ」
待てども待てども、待ち人来らず。
誤解のないように言っておくが、宮永さんが私たちのお誘いを断ったとかそういう事実はない。
こと須賀くんのお誘いに関して、宮永さんが丁重にお断り申し上げる光景など、私にも優希にも想像が付かない。
要するに、至極単純に、彼女は待ち合わせ場所まで、無事辿りつけていない。
と、そういうことなのだ。
「携帯に電話は……」
「とっくにしたけど出ないじぇ」
思わずため息が漏れ出て、大気をわずかに白く染める。
隣を見れば優希も、悟りを開いた仏陀の表情で堆くなりつつある天を仰いでいた。
「あいつよく、ケータイマナーモードにした挙句カバンの奥につっこむからなぁ」
「なんのための『携帯』電話なんですかっ……!」
「いや俺にキレられても」
三人で探し回るのも手だが、はぐれてますます泥沼になるのも避けたい。
そうこうぼやいているうちに、プログラム上の開始時間が刻一刻と迫ってくる。
優希が、そして私もしびれを切らしかけたその時、
「仕方ねえ、俺が探しに行ってくるよ」
須賀くんが、左手で後ろ頭を掻き毟りながら声を上げた。
「和と優希は、二人で適当に花火楽しんでな。俺はあいつを見つけてから合流するからさ」
制止する間もなく、彼は雑踏に向けて一歩踏み出す。
その横顔がどこか満足げだったのは、おそらく私の目の錯覚ではなかった、と思う。
「和ちゃ~ん、優希ちゃん、京ちゃ~~ん! ごっめ~~ん!」
その時だった。
人混みの中から、一際まばゆい輝きを放つ笑顔が飛び出してきた。
ベージュのタートルネックに同色の毛糸手袋。
下は黒のレギンスにミニスカートという、垢ぬけているのかそうでないのか、よくわからないファッションセンス。
どこか掴みどころのない彼女の魅力を際立たせるのは、やはりそのふわりときらめく無垢な笑顔なのだと、あらためてそう思わされた。
「おーまーえーなー。いくらなんでもおっそすぎんだよ、今度首輪とネームプレートでもプレゼントしてやろーか?」
「た、確かに悪いのはあたしだけど……こっちの人権もちょっとはそんちょーしてよー!」
「ケータイ常時マナーモードにしてる女子高生に現代人の資格なんてないじぇ!」
「え……ああああ!! ほ、ほんとだ! 着信13件ってなってる!」
「ぎるてぃーだな」
「ぎるてぃーすぎるじぇ」
「ごめんなさいごめんなさい許して下さい! なんでも奢りますから!」
「ん?」
「んん~? 今のを聞いたかえ、片岡さんや」
「おうおう、ばっちり聞いちまったじぇ須賀さんや」
「なんでも奢るって言ったよね?」
「な~んでもかんでも奢るって言ったじぇい。言質はとったぞ、言い逃れはできぬ!」
「ひええええええっっ!! へ、へるぷみー和ちゃん!」
「宮永さん、私はあっちのさつまいもクリームたい焼きなるものを食してみたいです」
「あうち!」
そして始まったおバカなやりとり。
涙をちょちょぎれさせながらお財布の中身を確認する宮永さんと、謎のテンション爆上げを果たしたその他二名。
私はそれらの光景を尻目に、一人後ろを向いて、密かに胸をなで下ろす。
宮永さんが無事に姿を見せた瞬間、安堵と同時に湧き上がってきた、ある感情を整理するためだった。
その感情に名前を与えることは、どうもできそうにない。
私自身『これ』が苦しみなのか悲しみなのか、怒りなのか喜びなのか、それすら把握できていなかった。
ただ、その感情がなぜ、胸の内に生じたのかだけは理解できている。
誰の助けも借りず、一人で目的地に辿りついた宮永さん――
「うし、じゃあ俺はたこ焼きに焼きそばにフランクフルトの定番フルコースで」
「ちょちょちょ、京ちゃん! 一人一品までにしといてよ!」
「な~に~? 聞こえんなぁ~?」
「おに! あくま!」
「迷子の迷子の宮永さんに言われたって痛くも痒くもありませーん」
――を目の当たりにした瞬間の、須賀くんの落胆しきった表情。
宮永さんにずっと迷子でいてほしかったと、口より雄弁に語るその表情。
その一シーンだけが、私の瞼に焼き付いて離れてくれなかった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
糸を引くように天高く昇った光線が、放物線運動の頂点で弾ける。
誰もが見上げた視線の先で、冬の夜空に大輪の花が咲き誇った。
「たーまやー!」
「たーまやー……っておい、足下見ろ見ろ! つまずくぞ!」
「京ちゃんは心配症だなー、だいじょぶだいじょぶ」
「こらこらこら待て待て待て、走るな!」
「『こら』と『待て』は一回聞けばじゅーぶんでーす」
「とか言いつつ一回たりとも聞いた試しないだろ!?」
「……ほんと、仲いいじぇ」
「あれで来年から大学生だっていうんだから、頭が痛くなります」
「あっはっは、のどちゃんは二人のお姉さんか何かか?」
「手間のかかる妹なら、今私の隣にも一人いますけどね」
「がーん!」
じゃれ合う二人と後ろを行く二人。
いつかの帰り道をなぞったかのような。
その構図のまましばらく、ぽつぽつと二組の足音が混ざっては分かたれる。
「わっ! 見た京ちゃん、今のすっごく近かったよ!?」
「わかったからはしゃぐなって……うっひょー、でけー!」
「京ちゃんだってはしゃいでるじゃん」
「うっせうっせ」
そして時折、花火の轟音が宙を裂いては消える。
いつの間にやら人気の少ない一角に迷い込んでいたようだ。
私たちの周囲にさざめく物音が、徐々に徐々にその種類を減らしていく。
「咲ちゃん……」
優希が囁いたのは、空を振り仰ぎながら何度目かもわからない花火に目を奪われている時だった。
花。
大輪の花。
空に咲いた一輪の花。
山に囲まれた湖の上で、夜空を彩った美しい花々。
誰もが空を見上げて、一夜限りの芸術作品に酔いしれていた。
私も、優希も、須賀くんも、宮永さんも。
瞬間、全員の注意が天空高くへと集る。
各々歩みは止めぬまま。
すると、必然。
「わ、わ……!?」
整備の行き届かない畔道に、足をとられる者が出る。
それが偶然、たまたま、私たちの中では――――宮永さんだった。
「っ、と」
隣を歩く須賀くんが事態に気が付き、手を伸ばすが時すでに遅し。
少女の華奢な身体は、少年の逞しい腕をかすめて、スローモーションで地面に吸い込まれ
「おわわ、っ、とと、と……セーフ! あはは、失敗失敗」
……はしなかった。
たたらを踏み、脚を必死に空転させて、元の姿勢に戻った。
何事もなかったことに私と優希はほっと一息、宮永さんは照れたように頬を掻く。
そして須賀くんは、
「………………咲?」
須賀くんに、異変が起きた。
「……京ちゃん?」
須賀くんの右腕は明らかに、『転んで地べたにお尻を着いてしまった宮永さん』に対して、差し伸べられる形で伸ばされていた。
宮永さんは、本当ならば転んでいた。
『宮永さん』なら、ここで転んでいて然るべきだった。
須賀くんの挙動がそう発話していることを、その場にいる全員が感じとった。
感じとって、しまった。
「京ちゃん……」
それが、崩壊の序曲だった。
「あ、いや、わり。ついつい、どんくさいお前のことだから、さ。転んじゃったもんだと思ったよ」
異変は刹那で終息した。
快活に人懐っこく笑う須賀くんは、すっかりいつも通りの彼だった。
「……ごめんね、京ちゃん」
しかし異変は伝播する。
伝播して、その先で増大する。
「お、おいおい。なんでお前が謝って」
「本当にごめんね、京ちゃん」
宮永さんは、綺麗に笑っていた。
笑いながら、綺麗に綺麗に泣いていた。
私は凍りついて、地に足を縛りつけられて、指先一本動かすことができなくて。
優希はうつむいて、全てを悟ったように地に向けて顔を伏せていて。
「やっぱり、あたしには無理だったんだよね」
「おい、なに言ってんだよ」
ただ須賀君だけが、食い入るように彼女の眼差しに抗っていて。
そして彼女は。
「あたしじゃ――」
「やめろ――」
「咲ちゃんのかわりになんか、なれっこないんだよね」
「やめろ、淡ッッッ!!!!!」
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
高校生活最初の夏。
難しいことなど何も考えず、勝利の熱狂と明日への希望に、私が泣いた夏。
それは、彼女がまだ、私たちのすぐそばにいた夏。
大将戦を終えた彼女――――宮永咲さんは視線の先に、ずっと目標にしてきたお姉さんの姿を見つけた。
歩み寄る二人。
感動的な姉妹の再会。
余人の立ち入ることかなわぬ邂逅は、二言三言でその時を終え。
その数週間後、咲さんは東京へと転校していった。
それ以来、私は彼女に会っていない。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「……どうしてあなたは、『宮永さん』なんですか?」
気が付けば私は彼女――――宮永淡さんに向けて、そう問い掛けていた。
二年前、彼女が咲さんとほとんど入れ替わりに転校してきた時。
まさにその日に投げかけた質問と、まったく同じものだった。
「離婚した母親の旧姓が、宮永だったから、だよ。和ちゃん」
そしてその答えも、二年前と寸分違わぬものだった。
何度聞いても同じ答えだった。
私が聞いても、優希が聞いても、竹井先輩が聞いても、染谷先輩が聞いても。
須賀くんが聞いても、宮永さんは首を横に振って、それ以上のことは何も言わなかった。
「なあ、淡ちゃん」
優希が、堪えられなくなったように問いかける。
「どうして咲ちゃんは、私たちに何も言わずに、いなくなっちゃったんだ?」
あれから二年も経つというのに、その答えはいまだ闇の中に埋もれたままだ。
咲さんはまさに転校するその日まで……いや、転校してからも、私たちに何かを語ることはなかった。
私たちは何一つ聞かされていなかった。
ただ彼女のクラスの担任が、淡々と、トレーシングペーパーを転写したかのように、
『宮永咲は東京へ転校した』
と知らせただけだ。
彼女は携帯電話を持っていなかったし、正確な転居先が何処なのかも杳として知れなかった。
何より彼女はその後二年間、麻雀の公式大会に姿を現すことはなかった。
私は東京のみならず、すべての県予選の全部門の全記録を、目を皿のようにして眺め続けた。
しかしついに、「宮永咲」の名を高校麻雀界で目にすることはなかった。
時を同じくして「宮永照」の名もまた、日本の麻雀界から消えた。
プロ入りを確実視されていた高校生チャンプの失踪は、一時は凄まじい狂騒を巻き起こしたものだ。
そして私たちは、事ここにいたってようやく、事態の異常性をはっきりと認識したのであった。
咲さんは、消えてしまった。
この世にいた痕跡を残さず、跡形もなく、消えてしまったのだった。
ただ一つ、部室の写真立てに飾られた、六人の麻雀部員が笑い合う―――あの写真を除いては。
手掛かりがあるとすればそれは、目の前の少女の証言をおいて、他にはないはずだ。
優希が悲痛に訴える主張と同じものを、誰もが同じように、同じ胸の奥に秘めていた。
「……ごめんね、優希ちゃん。私には、何もわからないんだ」
「でも! 咲ちゃんと淡ちゃんは、入れ替わりでこの長野にきたんだ! そんで淡ちゃんは、咲ちゃんのお姉さんと同じ学校だったんだ! それで、それで……」
「それで、関係ないはずが、ないって? ……うん。それは、あたしもそう思うよ」
「だったら!」
「でも、ごめんね」
それでも。
昏い瞳をかすかに瞬かせた優希の希望は、即座に切って捨てられる。
「あたしにも、その理由まではわからないんだ。あたしはただ、母さんと一緒に、こっちに引っ越してきただけだから」
失望の暗さが、重く肩にのしかかる。
今さら有益な情報など得られはしないだろうと、わかっていても胃にずしんとくる。
彼女は。
宮永さんは。
やはり、何も知らないのだ、と。
「……だったら」
肩を落とす私と優希。
しかし彼は、悲痛そのものの泣き笑いを浮かべながら、なおも宮永さんに食い下がった。
「だったら、淡。どうしてお前は、そんな格好してるんだ?」
「……」
「どうして、髪を茶色く染めて、短く切って、整えてまで、どうして……」
「……」
「どうして、咲の真似なんかしてるんだよ」
ウェーブがかったショートブラウンの少女に向けて、問うた。
「やだなぁ、そんなの決まってるじゃん」
返答の代わりに、淡い微笑み。
「京ちゃんのこと、好きだったからだよ」
「……………………な?」
「転校してきたばっかの私に、最初に話しかけてくれたの、京ちゃんじゃん」
「それ、が、なんだって」
「それだけだよ。それだけで好きになっちゃうチョロい女の子も、この世にいないわけじゃないんだよ?」
「でも、京ちゃんの心の中には、いつだっていなくなったあの子が棲んでたから」
淡くて、消えてしまいそうな儚い笑み。
「だから、あの子の、咲ちゃんの、真似してみよう、って」
今にも壊れてしまいそうな、しかし。
「そしたら、京ちゃん、振り向いてくれるかな、って」
「――――っ」
微笑みかけられた須賀くんごと、何もかも壊してしまいそうな笑み。
「ごめんね……期待させちゃったなら、ごめんね。咲ちゃんに繋がる手掛かりがあるんじゃないかって、勘違いさせちゃったならごめんね。いきなり、好きだなんて言って――――ごめんね?」
少年が、がくりと膝から崩れ落ちた。
処理しきれない情報量が、彼の脳の内側と外側でパンクしかけている。
「違うんです……宮永さんが悪いんじゃないんです」
私は、気が付けば声を上げていた。
「ただ、私は悔しいんです」
気が付けば、自然に声は張り上がっていた。
「どうして、どうしてこの場に」
気が付けば、大きくかぶりを振っていた。
「どうしてこの輪の中に、咲さんがいないんですかっ!?」
気が付けば――――私もまた、泣いていた。
「なあ、淡。教えてくれ」
「俺たちは、どうすれば、咲を失わずにすんだんだ?」
「お前が、淡がいて」
「俺がいて、優希がいて、和がいて、先輩たちがいて、後輩たちもいて」
「――――咲が、いて!」
「どうして、それじゃダメだったんだ?」
「……なんでだよ?」
「なんでなんだよおおおっっ!!??」
気が付けば、その場にいる全員が泣いていた。
私は啜り泣いていた。
優希はへたりこんで嗚咽していた。
須賀くんは地に腕を叩きつけ、慟哭していた。
そして、宮永さんは。
「……残酷なことを言うようだけれど、あたしはこう思う。あたしが勝手にこう思ってる、って意味なんだけど」
はらはらと珠の様に、落涙していた。
「多分、みんなは、咲ちゃんを」
「テルに会わせちゃ、いけなかったんだよ」
「離れ離れでいることが、あの二人にとっての幸せだったんだよ」
「すべてが終わっちゃった今だから、そう言えるんだけど、ね」
終わった。
何が終わったというのか、宮永さんははっきりと言葉には出さなかった。
それでも私は、彼女の言わんとするところを、なんとなくだが理解できてしまった。
ああ、もう――――何もかも、終わってしまったことなんだ、と。
山の上の空に花が咲く。
彼女が大好きだった麻雀役の由来が、私たちのあんな近くにいる……というのは、少々こじつけに過ぎるだろうか。
どこかで彼女も、この花を見ているのだろうか。
仕様もないことを考えてから、私は小さくかぶりを振った。
咲さんが、私たちの隣にいない冬。
もう戻らない夏に向かって、小さな祈りを捧げながら。
この冬という現実を、私は強く強く噛みしめた。
完
咲さんがどうなったのかは多分あなたの想像通りです
それじゃ、お付き合いいただきありがとうございました
面白かったよー
Entry ⇒ 2012.10.07 | Category ⇒ 咲-Saki-SS | Comments (3) | Trackbacks (0)
モバP「幸子をかわいがってみよう」
引用元: http://hayabusa.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1349020565/
P「まあ最近頑張ってるみたいだし、たまには素直に従ってやろう」
P「せっかくだからちゃんとかわいがってやるかな。幸子が来たらまず何をしようか?」
>>3
1 誉めそやす
2 スキンシップ
P「ふむぅ……おっ、あれは」
幸子「こんにちは、プロデューサーさん。ふふっ、ちゃんとボクより早く来てますね?」
P「まあな。それくらいの甲斐性は俺にも残されてたよ」
幸子「そうでしたか、ボクとしてはもっと気が利いてくれてもいいと思いますけど」
P「相変わらず手厳しいな……」
幸子「ボクのプロデューサーを務めてるならそれぐらい当然です!」
P「そんなに元気よく言われてもなぁ」
幸子「ほらほら、そんなことより行きましょう。今日はどうしても行きたいところがあるんですから!」
P「そう急かすなよ、っと」
P(そうだ、手を繋いでみるか。荷物持ちだから今くらいしかできそうにないし)
P「さて、今日も荷物持ち頑張りますかー」ギュッ
幸子「っ!?」ビクッ
P「どうしたんだ?」
幸子「いえ、あの……ま、まあ仕方ないですね、ボクがカワイイのがいけないんですから」
P(なんかうろたえてるな、失敗だったか?)
幸子「さ、さあ行きますよ! ボクについてきてくださいね!」
P「幸子、赤! そっちは赤信号だ!」
幸子「……」
P(どうしたものか、声が掛けづらい。でも手はちゃんと繋いでくれてるし――というか)
P「なあ、幸子」
幸子「な、なんですか?」
P「どうも住宅街の方に向かって歩いてる気がするんだけど、こっちでいいのか?」
幸子「え? ……あっ」
P「おいおい」
幸子「えっと……そ、そうです! まずはそこの公園にでもと思ってたんですよ!」
P「本当か?」
幸子「本当です! さっさと行きますよ!」
P「まあお前がそう言うなら、って引っ張るな引っ張るな!」
幸子「そこのベンチが空いてますね。座りましょうか?」
P「そうしよう、もう遊具で遊ぶような歳じゃないしな俺」
幸子「ふふっ、まだまだ通用するかもしれませんよ?」
P「褒められてるのかけなされてるのか……さあ座るぞ」
P(いつもなら服の1着でも持たされてる頃合いだけど、公園とは珍しいな)
P「あー、いいよなぁ公園。のんびりするには最適だ」
幸子「プロデューサーさん、もしかしてお疲れですか?」
P「疲れてないと言えば嘘になるな。もともと休みも少ないし、休日もこうして付き合いがあるわけだし」
幸子「……」
P「ああ、すまん。別に幸子に付き合うのが嫌とかじゃなくてな? ほら、体力くらいしか俺は取り柄ないから動いてないと調子狂うんだよ」
幸子「そんなことはないと思いますよ? その、変わったセンスをお持ちみたいですし」
P「それも褒められてるのか微妙なとこだな……」
P「――あれ? もしかして、俺が疲れてると思ってこうして公園に来たのか?」
幸子「えっ!? あ、う……そ、そうですとも! ボクはカワイイ上に誰かさんと違って気も利きますからね!」
P「そうだったのか……ありがとう幸子、お前に気遣ってもらえるなんて思ってもみなかったよ……」
幸子「あ、あはは……」
P「よっし、何だか元気でてきたぞ! 俺はもう大丈夫だから買い物に戻ろう。欲しい物あるんじゃないのか?」
幸子「え、あ、そ、それはそうなんですけど」
P「?」
幸子「もう少しこうしていませんか? ボクも最近張り切り過ぎたみたいで、ちょっと」
P「そうか。最近頑張ってたもんな」
P(俺も幸子を見習っていたわってやるとしよう。どうしようか?)
>>22
1 スタドリをあげる
2 肩でも揉んであげる
3 頭を撫でてみる
P「いつもお疲れ様、幸子」ナデナデ
幸子「あう……って、なにしてるんですか!」
P「幸子の頭を撫でてる」ナデナデ
幸子「も、もう……子供扱いしないでくださいよ」
P「あ、スマン。嫌だったか?」
幸子「……誰も嫌とは言ってないですけど」
P「じゃあ撫でる。俺にはこれくらいしかしてやれないし」
幸子「……いつもこれぐらいしてくれたらいいのに」ボソッ
P「何か言ったか?」
幸子「なんでもないですよ! それよりも、ボクの頭を撫でられるなんて名誉なことなんですからね、しっかり撫でてください!」
P「お、おう……」ナデナデ
幸子「? どうしたんですか。手が止まってますよ」
P「ああ、悪い悪い」ナデナデ
P「って、実は結構甘えん坊なんだな」ナデナデ
幸子「なっ! ぷ、プロデューサーさんが頭を撫でたいって言うからさせてあげてるんですよ!?」
P「そうか?」ナデナデ
幸子「そうです! じゃあ、とりあえず今はもう撫でてくれなくてもいいですよ?」
P「今は、ね」
幸子「むー……そんなに言うなら、プロデューサーさんもボクに甘えてみてください!」
P「ほほう。いいのか?」
幸子「えっと……公序良俗に反しなければ……」
P「さすがに滅多なことは求めないけど、そうだな。>>33」
1 膝枕とかどうだ?
2 たまにはジュースでも買ってきてもらおうか
3 俺の膝にでも乗ってみる?
P「……」
幸子「えっと、それってどういう意味ですか?」
P「なんでもないいまかんがえなおすちょっとまって」
幸子「いえ、プロデューサーさんがどうしてもというなら。ボクはカワイイさに寛大さも兼ね備えてますからね」
P「なるほど」
幸子「ちょっとくらい性的嗜好が怪しくても、目を瞑ってあげます」
P「ぐぬぬ……じゃあやっぱり」
幸子「それでは失礼しますね」チョコン
P「Oh...」
幸子「……ど、どうですか? 満足しましたか?」
P(俺の膝に幸子ががが)
>>38
1 さらに抱きしめる
2 満足したので解放する
3 しばらく静観して幸子の様子を見る
幸子「プロデューサーさん?」
P「……」
幸子「あの、どうかされましたか? プロデューサーさん!」
P「……」
幸子「返事してくださいよ! い、いくらボクがカワイイからって」
P「……」
幸子「……プロデューサーさん?」
P「……」
幸子「何とか言ってくださいよ、ねえってば」
P「……」
幸子「……」
P「……」
幸子「は、恥ずかしいんですから! もう、降りちゃいますよ!」
P(かわいい)
P「人聞きが悪いぞ幸子」
幸子「誰のせいだと思ってるんですか!」
P「幸子が可愛いせい、かな」
幸子「なっ!?」
P(おお、顔が真っ赤だ。さすがに怒らせちゃったか?)
幸子「ボクがカワイイのは当然ですけど、い、今言いますかね、そんなこと」
P「嘘はついてないぞ、嘘は」
幸子「むー、ああ言えばこう言いますね……とにかく、許してあげませんからね!」
P「それは困ったな」
幸子「ちゃんと反省する気があるなら、その、公園でのんびりでもいいかなとも思いましたけど」
幸子「やっぱりショッピングに行こうと思います。ボクのためにちゃんと働いてください、いいですか?」
P「もともとそのつもりだったから問題ないぞ」
幸子「……そうですか。そうでしたね、では予定通りショッピングに行きましょう」
P(今日はどのくらい荷物を持たせられるやら……)
幸子「……あの」
P「ん? どうしたんだ」
幸子「手……繋がないんですか?」
P「なんだ、繋いでほしいのか?」
幸子「プロデューサーさんこそ、遠慮しないでいいんですよ?」
P(そういやここに来る前に俺から手を取ったんだっけ)
P「そうだな、幸子さえよければ」
幸子「ふふん、最初から素直にしてくれればいいんです。さあ、行きましょう」ギュッ
P(今さらだけど、幸子と手を繋いで歩くのはなかなか危ない絵になってる気がする)
幸子「プロデューサーさん?」
P「ああ、なんでもない。行くとするか」
P(幸子に限らず、女の子は楽しそうに買い物するよなぁ)
幸子「プロデューサーさん、そんなところで見てないで手伝ってくださいよ!」
P「そうは言っても、どうせ全部買うんじゃないのか?」
幸子「そんな事無いですよ。ボクだってちゃんと選んで買い物してますから」
P「それはギャグか? ギャグなのか?」
幸子「それに、あんまり荷物を多くしちゃうと……ですしね」
P「うん? 俺のことは気にしないでこの前みたいに好きなだけ買っていいぞ?」
幸子「い、いいんです! とにかくボクと一緒に選んでくださいね!」
P「わかったよ、どれどれ――」
幸子「だらしないですねぇ、そんなに疲れた顔しなくてもいいじゃないですか」
P「お前がなかなか買う物決めないからだろう……」
幸子「プロデューサーさんこそ、ボクに一番似合いそうな物、はっきり言ってくれなかったですよね」
P「全部似合うから困るって言ってたのどこの誰だよ?」
幸子「たまにはプロデューサーさんのセンスに従ってあげようかと思ってたんです!」
P「だってなぁ。たしかにどれも似合ってたから決められなかったんだよ」
幸子「でしたら、プロデューサーさんのお好みの物でよかったのに」
P「俺の好み?」
幸子「そうですよ。プロデューサーさんにとってボクが一番カワイイと思う物があったなら、それにしてましたよ」
P「お前、俺のセンスは変わってるって言ってなかったっけ」
幸子「良い意味で、ですよ。そんなこともわからなかったのですか?」
P「わからなかったよ、それどころか少し傷付きかけたよ……」
P「大した自信だな。さすが幸子」
幸子「とにかく、次はちゃんと選んでくださいね! では次のお店に……と思いましたが」
P「ん?」
幸子「これ以上何かを買ってしまうと、プロデューサーさんの両手が塞がっちゃいそうですね」
P「俺はそれでも構わんg」
幸子「仕方ありません。今日のショッピングはこのぐらいにしてあげましょう」
P「おい幸k」
幸子「まずはお店を出ましょうか」スッ
P「……聞く気がない。ただの幸子のようだ」ギュッ
幸子「うーん……まだそこまで暗くないですよね、もうちょっとだけ」
P「じゃあやっぱり買い物の続きしたほうが」
幸子「……もう少し、デート気分でいたいなぁ」
P「」
幸子「ん? あれ、ボク今声に出してましたか!?」
P「う、ううん? べべべつに?」
幸子「そうですか? 良かった……また思ったことを口にしちゃったかと思いまして」
P「そ、その癖は早く直した方がいいな、うん!」
幸子「そうですよね……それより、プロデューサーさんはどこか行きたいところとかありませんか?」
P「行きたいところ?」
幸子「さっきはちゃんと選んでくれなかったので、プロデューサーさんに名誉挽回のチャンスをあげてるんですよ」
P「そうきたか。そうだな……>>59とか?」
本当は自分の買い物に付き合ってもらう
幸子「ホテル? ……プロデューサーさん、本当は疲れてたんですか?」
P「え? いや、そんなことないよ、冗談冗談」
P(なんだかんだ幸子もまだ14歳だもんな、そっちの発想に至らなかったか)
幸子「いいんですよ、正直に言ってください。公園に行った時、のんびりできて嬉しそうだったじゃないですか」
P「それはそれ、これはこれだ。とにかく俺は大丈夫だよ」
幸子「嘘じゃないですよね? お願いしますよ? ボクのせいで倒れられたりでもしたら、困りますし……」
P「お、心配してくれるのか」
幸子「べ、別にそんなつもりじゃないですよ! ボクのカワイさを世界中に知らしめるのに、支障をきたされたら困るって意味ですからね!」
P「はいはい、さいですか」
幸子「もう、気は利かないくせにこういう時は変に頭が回るんですから……」
P「悪かったよ、そう怒るなって」
幸子「怒ってなんかないですよ! それより、どこへ行くのか決まりましたか!」
P「んー、じゃあ今度は俺の買い物に付き合ってもらおう。いいか?」
幸子「プロデューサーさんの? わかりました、どこへなりともお伴しますよ」
P「なんだよ、俺だって買い物くらいするぞ?」
幸子「夕飯のお買い物とかでしたら、ボクはお手伝いできませんよ?」
P「いや、さすがに女の子連れてんなもん買いに行かないだろ……一緒に食べるつもりならともかく」
幸子「そうですか? ではボクみたいにお洋服とか?」
P「幸子が選ぶ男性服ってのも面白そうだけど、服じゃあないな」
幸子「むー、なら何をこれから買いに行くっていうんですか?」
P「ついてくればわかるさ」
P(今日は幸子をかわいがるって決めてたし、俺が今欲しい物といったら――)
P「悪いか?」
幸子「いえ……でも、プロデューサーさんにカワイイ小物を集める趣味があるとは」
P(むぐぐ、でもそういうことにしておかないと勘付かれそうだしなぁ……)
P「人にはいろんな趣味があるんだよ。さあ入ろう、ここなら幸子も飽きないだろう?」
幸子「それはそうですけど、ね。まあボクがいたほうがこの手の店には入りやすそうですしね」
P(言われてみれば女性客かカップルしか見当たらないな。彼氏の人も居心地悪そうだ)
幸子「プロデューサーさん、どうしたんですか? なんならボクが良さそうなのを選んであげますよ?」
P「お前に任せたら日が暮れそうだ、自分で決める。それに」
P(自分で選ばないといけない気がするからな。とはいえどうしたものか)
幸子「ふふん、これくらいで驚かれてはボクのお買い物について来れませんよ!」
P「主に腕がついて来れなくなりそうだよな、いつか。さあ見て回るか」
「あっ、これいいですね……ちょっと見てもいいですか?」
「これもなかなか、どうですかプロデューサーさん。似合うでしょう?」
「ふふん、わかってないですね。それはこっちの色のほうが――」
「やっぱり何でも似合っちゃうなぁ、カワイイって罪ですよね。ね、プロデューサーさん?」
P「……」
幸子「あ、これってあの人がよく抱えてるうさぎですよね? こういうのもあるんですか」
P(結局振り回されるオチなのか……まあ、これで幸子が気に入りそうなのもわかったぞ)
P(といっても、自分用にしてもこれはさすがにないな……。隙を見てこっそり買ってしまおう)
幸子「これなんかも……ふふん。やっぱりボクに似合うものなんてないですね――」
P(……隙だらけだった。買うなら今だ)
幸子「ぷ、プロデューサーさん! どこに行ってたんですか!」
P「ああ、欲しい物あったから精算してきたところだ。ほら」
幸子「もう、それならそうと勝手にいなくならないでくださいよ! 置いてかれたかと思っちゃったじゃないですか!」
P「それは悪かったな。鏡見てウットリしてるもんだから邪魔するのもなと思って」
幸子「……それで、何をお買いになられたんですか?」
P「秘密」
幸子「えー、このボクがいろいろアドバイスして差し上げたのにそれは酷いと思うんですけど」
P「アドバイス? そんなのあったっけ」
幸子「聞いてなかったんですか!?」
P(楽しそうな声ならいくらでも、な)
P(結局最後まで手を繋いでた件について)
幸子「――この辺でいいですよ。荷物持ちますね」
P「そうか。……この前みたいに速攻でタクシーに頼ることにならなくてよかったよかった」
幸子「あれくらいの荷物で音を上げるなんて、情けないですよ」
P「持つだけならともかく、持ち歩くのは無理があるぞあれ」
幸子「そうですか? ま、まあ、今日はこの前よりもたくさん歩きましたよね……一緒に」
P「そうだな」
幸子「そうだな、って、もっと喜んでもいいと思いますよ? ボクと……その、手を繋いで歩いてたわけですから!」
P「まあ、貴重な体験だったよ」
幸子「むー、素直じゃありませんね。プロデューサーさんらしいですけど」
P「どういう意味だよ? ……、それじゃあ暗くならないうちに帰れよ。迎えは呼んであるのか?」
幸子「はい、あそこに止まってる車がそうです。それでは、プロデューサーさん」
P「おう。またな――って違う違う! ちょっと待った!」
幸子「? どうしたんですか?」
P「忘れるところだった……これ、お前にあげようと思ってたんだ」
P「まあ、そういうことだ。一応言っとくけど、ああいう所に趣味で行ったりしないからな!」
幸子「……中を見ても?」
P「だめです。帰るまでが遠足って言うだろ」
幸子「……ふふっ、それって今言うことでしょうか?」
P「目の前で開けられたら恥ずかしいだろ……まあ、気に入らなければ誰かにあげたっていいぞ」
幸子「そんなことしませんよ。プロデューサーさんが自分で、選んで、ボクにくれたものなんですから」
P「そ、そうか。……なんか恥ずかしくなってきたな。俺は帰る! またな幸子!」
P「ああそれと、できればプライベートだけで使ってくれよ! 理由はわかるよな? それじゃ!」
P(――って、いい歳して何を恥ずかしがってるんだ俺は!)
P「……。今日の夕飯どうするかなぁ」
「こんにちは、ちひろさん。……プロデューサーさんは?」
「こんにちは幸子ちゃん、プロデューサーさんはちょっと今は出ちゃってるわね」
「そうですか、それならそれで好都合かもしれませんけど」
「? プロデューサーさんに用事があるわけではないの?」
「用事というか、ちょっとイジワルしてあげようかなと思いまして」
「あんまりからかっちゃ可哀想よ? ……あら、その髪飾り」
「ああ、これですか?」
「初めて見るわね。うん、可愛い! 幸子ちゃんに似合ってるわよ」
「そ、そうですか? よかった……じゃなくて、当然ですよ! お墨付きですしね!」
「あら、誰かからもらったものなの?」
「そうですよ。つい最近、ね。まあ、ボクに似合わないものなんてそうそうないとは思いますけど――」
「けど?」
「この髪飾りが一番似合うのはボクだって、証明してあげないといけませんからね。……誰かさんに♪」
良かった
Entry ⇒ 2012.10.07 | Category ⇒ アイマスSS | Comments (0) | Trackbacks (0)
咏「もっと甘えて良いんだぜ?」
えり「♪」ギュー
咏「えりちゃん?」
えり「はーぁい♪」スリスリ
咏(…わかんねー…)
えり「なんですかー?」ゴロゴロ
咏「そのー…」
えり「三尋木プロー?」
咏「な、なに?」
えり「ふふ……だーいすき♪」ニコッ
咏「……」キュンッ
えり「♪」ギュー
咏(…えーっと、なんでこうなったんだっけ…?)
――――――
咏「えーりちゃん!」ギュ
えり「わっ……み、三尋木プロ」
咏「今帰り?一緒に帰ろ?」
えり「ええ、いいですよ」
咏「よっしゃー」ギュー
えり「…三尋木プロ?そんなにくっつかれると歩きにくいんですが…」
咏「知らんしー」ギュゥー
えり「ですが外では…」
咏「別によくねー?」
えり「…………わかりましたよ」
咏「へへっ♪」
咏(変わったことっつーと、こうしてえりちゃんに堂々とくっつけることとか)
えり「…帰りましょうか」
咏「うんっ」
咏(前より一緒にいる時間が少し増えた。くらい)
咏(…っつーか…)
えり「…………」テクテク
咏「…………」テクテク
咏(……えりちゃんは、変わらない。付き合う前と)
咏(クールで、堅くて、真面目。…でもさ…わかんねーけど…)
咏(甘えたり、甘えられたり…いや、えりちゃんが甘えてるトコなんて想像つかないけど)
咏(なんか…自分だけ変わっちゃった、みたいな。ホントに、よくわかんねーけど)
えり「…どうしました?」
咏「え、な、何が?」
えり「いや、なんだか元気がないような……」
えり「そうですか…?」
咏「そーそ。いっつも元気だぜ?」
えり「…なら、良いんですけど」
咏(えりちゃんは変わらない。こういうとこだけ、鋭いところも)
咏(……変なとこで、ニブいのも)
えり「はい?」
咏「今日ウチ来ない?」
えり「また、晩ごはん作らせる気ですか?」
咏「うは、バレたか」
えり「別に構いませんよ。でも、明日は早いので……」
咏「泊まっていきなよ」
えり「………は」
咏(そんでさ、たしかめさせてよ)
咏(…とか。言えないけどねぃ)
えり「………」
咏(……ああ。無理かね、こりゃあ。呆然としちゃってさ)
えり「…………」ウツムキ
咏「…あ、あのさ、無理なら……」
えり「……お邪魔、します」
えり「三尋木プロが大丈夫であれば、泊まっても良いでしょうか」
咏「……もっちろん。誘った側が断るわけねーっしょ。知らんけど」
えり「それもそうですね」
咏「晩ごはんは豪勢に行こうぜ~」
えり「何を作らせる気です?」
咏「知らんし~」
咏「いんや、必要なもんは買ってこうぜ」
えり「え?」
咏「そんで、家に置いてっちゃっていいから。そしたらさ、いつでもえりちゃんは家に泊まれるじゃん?」
えり「…………」
咏「早く行こ?いい加減店閉まっちゃうからねぃ」
えり「……はい……」
咏(初めての、お泊まり。とか…!うわ、うわわ、やべーッ!)
咏(晩ごはん作りに来てくれたことはあったけど、お泊まり!
咏(一緒の家で、ご飯して、お風呂入って、お喋りして…!その後は……)
咏(…べ、別にさ、やましい気持ちは…ゼロではないけど…もうコイビトになって一ヶ月だぜ?)
咏(キス、くらいしても…良いよねぃ?)
咏「たっだいまーっと」
えり「お邪魔します」
咏「どーぞどーぞ」
えり「前に晩ごはん作りに来て以来ですね…10日くらい?」
咏「めちゃめちゃ美味かったぜー」
えり「ありがとうございます」
咏「今日も期待してるかんな~?」
えり「ご期待に答えられれば良いですが…」
咏「えりちゃんのご飯はなんでも美味いに決まってる!」
えり「…もう。ハードル上げすぎですよ」
咏「知らんし~」
えり「えっと…お砂糖お砂糖…」パタパタ
咏(前も思ったけどさ、いいな~こーゆーの!)
咏(仕事で疲れてたのも、えりちゃんが一生懸命ご飯作ってくれるのを見てると、癒されるわ~)ホクホク
咏(しかもそれが!コイビトのための料理!ってね!コイビトってね!!)パタパタ
えり「………」ジュー
咏(…………)
えり「はい?」ジュージュー
咏「なんか、手伝えることとか…あるかい?」
えり「大丈夫ですよ。三尋木プロは座っていてください」
咏「でも…」
えり「お疲れでしょう?私は大丈夫ですから」
咏「…そっか」
咏(…えりちゃんは、いつもどおり。クールで、堅くて、真面目)
咏(思い上がりすぎてた…かねぃ……一人で舞い上がってさ)
咏(えりちゃんはどうなのさ。嫌ではないみたいだけど)
咏(えりちゃんは、楽しいの?)
咏「待ってましたぁ~っ!」
えり「そんなにお腹空いていたんですか?」
咏「もーめっちゃめちゃ減った!はーやーくー」
えり「はいはい」クス
咏「うひょーうまそー!」
えり「お口にあえば、良いですけど…」
咏「いっただっきまー!」
咏(めちゃくちゃ幸せだ。だってえりちゃんのご飯だから。目の前にいるのがえりちゃんだから)
えり「ありがとうございます」ニコ
咏(えりちゃんの笑顔を見るのも好きだ)
えり「…ん、塩加減足りなかったかな…」
咏(えりちゃんは、どうなのさ。人をこんだけ幸せにしておいて、自分はどうなのさ)
咏「ちょーどいいぜ~塩加減も愛情も絶妙!」モグモグ
えり「そうですか?」
咏「あったり前~!」
えり「…良かった」ホッ
咏(…こっちのことばっかりで、自分のしてほしいことなんも言わないでやんの)
咏「ごちっ!」
えり「お粗末様でした」
ピピピッ
咏「お、ちょーど風呂わいた。えりちゃん、先に入ってきなよ」
えり「お風呂…私が先に?」
咏「えりちゃんはお客様なんだから遠慮なし~」
えり「でも、三尋木プロ…」
咏「ごちゃごちゃ言うなら一緒に入ろっか~?」ニヤ
えり「!」
咏「どーよ、一緒にお風呂。んん?」
えり「…………じゃあ、お先に…」
咏「そそ、遠慮しない遠慮しない。かったいんだから~」
咏「おー」フリフリ
咏「………」
咏(…ちょーっち期待したんだけどねぃ~)
咏(そーうまくはいかないよな~知らんけど)
咏(…………)
咏(……お、おお!?)
咏(今えりちゃんウチの風呂だよな!?霰もない姿でウチの…)
咏(うわー、うわ、うわー…なんだ、ドキドキしてきた!)
咏(…あわよくば…あわよくば……)
咏(…あわ…よく…ば………)
咏(…………)
咏(何考えてんだー!?)ガーン
咏(てかさ、お泊まりってアレじゃね、バイオレンス感アリアリじゃね!?)
咏(うっひょ、やっべー!マジやっべー!!)
咏(…だから何考えてんだぁー!?)ジタジタ
咏(………疲れた。一人で何やってんだか)
えり「三尋木プローあがりましたよー」
咏「あ、ああ!わかっ………」
えり「良いお湯でした」ホカホカ
咏「…うは。えりちゃんのパジャマ、初めて見た」ジー
えり「あ、ああ……えと……」
咏「………」ジー
えり「…変、ですか?」
咏「いや、かわいい」
えり「…へ」
咏「いっつもカッチリした服しか着ないじゃん?なんか新鮮だわー可愛い!」
咏(あれ?)
えり「…三尋木プロも、お風呂入ってきては?」
咏「お、おう!入ってくる!」パタパタ
咏(…地雷踏んだかねぃ…?わっかんねー)
えり「…………」
――――――
咏(やっべ、長風呂しすぎたかねぃ?)
咏(…さっきまでえりちゃんの入ってたお風呂って考えるとさぁ~…)
咏(…いやいや、やめやめ)ブンブン
咏「えりちゃーん、おまたせー」ガチャ
えり「!」ピク
咏「さーてと、なんか半端な時間だよねぃ~どうする?」
えり「…………」
咏「あ、ノド乾いてね?なんか飲むかい?」スッ
えり「あ……」
キュ
咏「…ほ?」
咏「ど、どしたん?えりちゃん」
えり「あの…飲み物は、大丈夫なので…」
咏「そ、そう?」
えり「大丈夫だから…そばにいて?」
咏「そ、そ…………えっ」
えり「……隣に、いて?」ジッ
咏「」ドキュン
咏(な、え、な、な…なにって?)
咏(えりちゃんが?え?え?わかんねー)ボーゼン
えり「…だめですか?」
咏「」
咏「だ、だめなわけないぜ!?知らんけど!知らんけど!!」
えり「…ありがとうございます」ニコ
咏「…え、えっとさ、どうしたん。えりちゃん」
えり「?」キョト
咏「な、なんか、いつもと違うような…」
えり「………」ジー
咏「…な、なに?」
咏「うん?」
えり「一つだけお願いして、いいですか?」
咏「い、いいよ?全然、なんでもどんとこい!」
えり「…ぎゅーってしても、いいですか?」
咏「どんとこ………」
咏「…………」
咏「………ごめん、もう一回言って」
えり「ぎゅーってしても、いいですか?」
咏「」キュンッ
咏「い、いいよ…」ドキドキ
えり「……」ギュ
咏(あんなの誰も断れねーよ…)ドキドキドキ
えり「………」ギュー
咏「…え、えりちゃん?」
えり「……ふふ……♪」ニコッ
咏「」
咏(かわえええええ!!何!?何これ!?)
咏(つーか!腕に!なんか!柔らかい何か!何これ!?)
えり「三尋木プロ?」
咏「なにっ!?」
えり「…もっとぎゅーってしていい?」
咏「」
咏(大歓迎、喜んで!!)コクコク
咏(…おもちの感触が…)ドキドキ
えり「三尋木ぷろー…♪」スリスリ
咏「」
咏(うひゃーかわえーかわえー!)キュンキュン
咏(嬉しそうにさーニコニコしててさー頬擦りなんてしちゃってさー)
咏(普段のえりちゃんからは想像もつかないよねぃ~♪)
咏(………)
咏(……………)
咏(……いや、誰よ。この人)
咏(だってさ、あのえりちゃんだぜ?)
咏(クールで、堅くて、生真面目なえりちゃんだぜ?)
咏(そのえりちゃんがさ、えりちゃんが……)
咏(だーいすきって……)
えり「ふふ…言っちゃった♪」ギュー
咏(だーいすきって…………)
咏(大好きだよこのやろぉぉぉ!!)
咏(あああ腕に抱きつかれてなけりゃこっちから抱きしめるのに!!)
咏(ぎゅーってしてナデナデしてスリスリしてぇぇぇぇ!!)
咏(…いやいや、何おんなじこと繰り返してんだか)
咏「えりちゃん。どうしたん、急に」
えり「?」
咏「い、いやその…いつもと違うなーっつーか…」
えり「あ……」
咏「い、いやその、嫌って訳じゃねーけどさ、むしろ嬉しいんだけどさ…」
えり「…本当に?」
咏「ホントホント!!」コクコク
えり「…よかったぁ…」ボソッ
咏「えりちゃん…?」
えり「あの、三尋木プロ?」
咏「う、うん!なに?」
咏「…!?」
えり「……」ギュ
咏「う、う、う……」パクパク
えり「…だめ、ですか?」シュン
咏「いい!凄い良い!!咏さん!」
えり「!」パァッ
えり「ふふ…咏さーん…♪」スリスリ
咏(なんかもう…なんでもいっかぁ~♪)
咏「…ね、ねぃえりちゃん?」
えり「?」
咏「明日…早いんじゃなかったっけ?」
えり「あ……」
咏「そろそろ寝よ?」
えり「………」シュン
咏(かわいい)
えり「…………」ジッ
咏(うっ)ドキッ
えり「…………」シュン
咏「い、い、一緒に布団入る?」
えり「!」
えり「…狭くないですか?」
咏「う、うん…あったかいからむしろ…良い」
えり「私も、心地良いです…」
咏(一緒の…布団。一緒の……)ドキドキ
咏(これ…いいんだよな?その……いいんだよな!?)
咏(いくぞ…言っちゃうよ!?)
咏「えりt」
えり「咏さん」
咏「ほい!?」
えり「…おやすみなさい」ニコッ
咏「お、お、おう!おやすみ!」
咏(……ん?)
咏「…え、えりちゃーん?」コソッ
えり「……すぅ……」zzZ
咏(早っ!?)
咏(ってか、えー!え、えぇー!?)
咏(あれだけ期待させて、…えぇー!?)
えり「…んん……すぅ……」zzZ
咏(…………)
咏(…なんだったんだろうなぁ…)ハァ
咏「……ふぁ~あ」
咏(……寝よ。明日また、聞いてみよう)
翌朝
えり「……ん……」
えり「…………」
えり(あ…そうだ、昨日の夜は三尋木プロの家に泊まって……)
咏「ふわ~……ぁ」
えり「」
咏「ん~……あ、おはよ~えりちゃーん…」
えり「………あ、……え……?」
咏「あーよくねたー」ノビー
えり「……な……なんで……」
咏「ほ?」
えり「どうして私、三尋木プロと同じ布団で……?」
咏「…え?」
えり「わ、私が!?夕べは……あれ……?」
咏「えりちゃん?」
えり「ええと……お風呂入って……それから……」ブツブツ
咏「どうしたん?」
えり「…たしか…、………」ハッ
えり「……まさか」ボソッ…
咏「?」
咏「あ、そうだ。ねー昨日のさー」
えり「三尋木プロ」
咏「お?」
咏「あ、ああ…りょーかい」
えり「では」スッ
咏「…………」
えり「…あ」
咏「?」
えり「朝ごはん、作りましょうか?」
咏「…おっ、いいねぃ」
えり「じゃあ、パンと卵焼きで良いですかね」
咏「卵焼きはだし巻きでー」
えり「はいはい」
咏「よっしゃ~」
咏「…………」
咏(……あれ?もしかして今はぐらかされた?)
えり「では、行ってきます」
咏「いてら~」フリフリ
パタン
咏「…………」
咏「……う~ん?」
咏(絶対なんかオカシイよなぁ?)
咏(起きて目ぇあったらスゲー驚いてたし…そのあともブツブツ言ってたし…)
咏(聞こうと思ったら遮られたし……でも、ホントにワケわかんねーみたいな顔……)
咏(……もしかして…マジで覚えてなかったり?)
咏(…いやいや、まっさかーそんな、ねぃ?)
咏(………)
咏「…わっかんねー…」
えり「……はぁ」
ピリリッ
えり「?……メール……あ」
えり(…三尋木プロから…)
『えりちゃん忘れ物したっしょ~?とりあえず仕事終わり次第ウチに来るべし』
えり(…忘れ物?)
えり(…そんなのしたっけ…?)
えり「…………」
えり(取りに行くだけ…一瞬会うだけなら…そのくらいなら…大丈夫)グッ
ピッピッ
『今から向かいます』
ピンポーン
咏「へいへーい」ガチャ
えり「こんばんは、三尋木プロ」
咏「おっす、えりちゃーん」
えり「ええと、すみません私…忘れ物なんて…」
咏「んーんー、とりあえず上がって上がって」
えり「いえ、ここで、その…」
咏「いーからいーから~」グイグイ
えり「ちょ、ちょっと…!」
えり(さっそく予定崩れる…いつものことか…)タメイキ
咏(よし、予定通り!)
咏「ん~?」
えり「私、忘れ物に心当たりがなくて…何を忘れて行きましたか?」
咏「忘れ物っつーか…」
えり「はぁ」
咏「…晩ごはん?」
えり「…は」
咏「昨日えりちゃんの寝間着とかのついでに材料スゲー買ったじゃん?」
えり「そういえば…」
咏「正直材料だけあってもねぃ~料理作れんし」
えり「…それで、結局…?」
咏「晩ごはん作ってくの忘れてんよ~」ヒラヒラ
えり「……はぁ……」タメイキ
えり「三尋木プロ…」
咏「ん?」
えり「急に連絡が入ったと思えば…ソレですか…!」
咏「うん」
えり「………」アタマカカエ
えり(こっちは、正直気まずいのに…人の気も知らないで…!)
咏「…だってさ…」
えり「はい?」
咏「…えりちゃんに会いたかったんだよねぃ」
咏「えりちゃんに会って、えりちゃんのご飯食べたかったんだよ」
えり「………」
咏(…………)
えり「…晩ごはん…」
咏「!」
えり「何が、良いですか…?」
咏「いいの?」
えり「…………」コクッ
咏「よっしゃあ!大好きだぜえりちゃーん!」ギュ
えり「!」
咏「…へへ。今日はくっついてなかったからねぃ~」ギュー
えり「み、………っ」
咏「あれ?えりちゃんもしかして照れてる?」
えり「!」
えり「そんな、ことは…」
咏「照れんなよー」ギュー
えり「で、ですから…」
咏「かわいいねぃ、えりちゃんは」
えり「……は」
えり「…………」
咏「んー」ギュー
えり「……~~っ」
咏「…えりちゃん?」
えり「………」
咏「おーい、えりちゃ…」
キュ…
咏「お?」
咏(…抱きしめてたら腕回してくれた…)
えり「……♪」ギュー
咏(……わお)
咏「えり…ちゃん?」
えり「咏さん♪」ニコッ
咏(呼び方……!)
えり「咏さん咏さん」
咏「…なぁに?」
えり「あったかいですね」ニコッ
えり「落ち着く…」ギュー
咏「」キュンッ
咏(おぅふ、間違いねぇ…夕べのえりちゃんだ…)ドキドキ
咏(………)ドキドキ
咏(…さーて)
咏「詳しく聞かせてもらおうかぁ?」
えり「………!」
咏「すっとぼけんじゃないぜ~?なぁんか隠してるっしょ」
えり「………」
咏「さぁさ、言っちまいな?」
えり「……し」
咏「お?」
えり「知らんしー……」
えり「……です」プイ
咏「」
咏(やばい、なんだ今のカウンターパンチ)キュンキュン
えり「………」
咏「言わないと、アレだよ?えーっと…」
えり「…?」
咏「えっと、えーっと……ち、ちゅーするよ!?」
えり「っ!」
咏「ほ、ほら、どうなのさ!」
咏(うわー勢いでなーに言ってんだ…でも)
咏「ほら、しちゃうよ~ちゅー」ジリジリ…
えり「…ぁ…あ…っ…」
咏「正直に言ったら許したげるぜ?」
えり「わ……わかりました……」
咏「よぅし」
咏(…なんだこの複雑な気分…)
咏「おぅ、はけはけ」
えり「えっと、その前に。…お腹、空いてません?」
咏「……そういやそーだねぃ」
えり「ご飯食べてからにしましょう?」ニコッ
咏「ん!」
えり「何が食べたいですか?」
咏「んーと、シチューの素買わなかったっけ?シチュー食べたい」
えり「はーい♪」パタパタ
咏「…ご機嫌だねぃ」
えり「♪」コトコト
咏(うーむ……わっかんねー…)
えり「咏さん?」
咏「お、おう!?」
えり「そろそろできますから、お手伝いして貰っても良いですか?」
咏「なになに?」
えり「お皿出して、並べててください」
咏「おっけぃ!」
咏(えりちゃん……だよな?間違いなく…)カチャカチャ
咏(…ま、考えても仕方ない。後でジックリ聞くかねぃ…)カタン
えり「さ、どうぞ♪」
咏「うひょーっ!うまそーっ!」
咏(楽しんだモン勝ちじゃね~?知らんけど!)
咏「いっただっきまー!」
えり「………」ドキドキ
咏「うん、美味い!美味いよえりちゃん、天才!」
えり「…よかった」ニコッ
咏「食べ終わったし?」
えり「……」
咏「さぁて、聞かせてもらおっか~?」
えり「…わかりました…」
咏「まず、」
えり「あ、あの!…は、話す前に、その…」モジモジ
咏「?」
えり「…お隣…いいですか…?」
咏「隣?」
えり「…咏さんの隣に…座っても…」カァァ
咏「………」キューン
咏「…へいカモン」ポフポフ
えり「!」
えり「…♪」イソイソ
えり「ええ。正真正銘、針生えりです」
咏「ん~…?」
えり「まぁ、単刀直入に言ってしまうなら…」
えり「別人格とでも思っていただければ」
咏「…………」
咏(…予想は、してたけど…ねぃ)
咏「……マジで?」
えり「後日でよろしければ、医師の診断書を見ますか?」
咏「…いんや、いい。信じる」
えり「!」スッ
咏(別人格って言うには、えりちゃんはえりちゃんって感じだし…)
えり「…………」ニギ…
咏(えりちゃんって言うには、あまりに駆け離れている)
えり「………♪」キュ
咏「…何してるん?」
えり「咏さんに手のマッサージを」キュッキュッ
咏「…………」
えり「指のここの部分をつまんでグリグリすると良いんですよ?」グリグリ
咏「~~~…!」
咏(これが…これがコイビト同士のイチャイチャ…!)シアワセカミシメ
えり「もう少し細かく言いますと……あ、次は人差し指やりますね」
咏「う、うん…」
えり「私って…ええと。普段の私、今の私じゃない私…“表”とでも言いましょうか」キュッキュッ
えり「表の私はストレスを溜め込むタイプ、というのはなんとなく知っているでしょう?」グリグリ…
咏「そ、そうだねぃ」
えり「そのストレスって、大抵は何かをやりたいのに抑え込んでるから生まれてるんです。私の場合は、ですが…」
咏「……」
えり「それで生まれたのが、今の私…そうですね…“裏”の針生えりでしょうか」グリグリ
えり「表がどうしてもやりたいのに、どうしてもできない。そんなジレンマの解消のためだけに出てくるのが私…裏です」
咏「………」
えり「次は小指…薬指はダメなんです。…何か質問はありますか?」キュッキュッ
咏「えーっと…何から聞けば良いのやら」
えり「無理もないです」グリグリ
咏(つーかマッサージで若干集中して聞けねぇっつの…)
えり「ええ。…あ、ご心配なく。モラルや常識は守れますから」グリグリ
咏「あ、ああ…」
えり「…と、言いますか。“針生えり”が常識はずれなことをしたがるって想像、できます?」
咏「…無理だねぃ」
えり「でしょう?基本的には理不尽なことや…自分にとって不慣れなこと、そのくらいです」
咏「…じゃ、じゃあ、さ……」ドキドキ
咏「お、おう…。昨日とか、さっきも…その、裏えりちゃんのやってたことって…」
えり「表…いや。針生えりがやりたいこと、です。今しているマッサージを含めて」キュッキュッ
咏「………!」ドキドキ
咏「じゃ、じゃあ、言ってることも……」
えり「私が、どうしても言いたいこと……」
えり『ふふ……だーいすき♪』ニコッ
咏(きたあああああああ!!!)キラキラキラ
咏「あ、あとさ…」
えり「ええ」
咏「ストレスって言ってたけど…ストレス発散とか、えりちゃんは無いの?」
えり「ありますよ?」
咏「でも、今裏がいるっつーことは発散できてなくね?」
えり「…針生えりのストレス発散は…仕事ですから」
咏「仕事……?でも仕事なら…」
えり「…咏さんとの仕事は…ストレスが溜まる、とは言いませんが…」
えり「かなりのジレンマがおきますから」
咏「…なるほど。素直に言ってくれりゃいいのに」
咏「不慣れ?」
えり「ええ。経験は人並み以下、限りなく0に近いかと」
咏「えりちゃんモテそうなのにねぃ」
えり「…まぁ、昔色々ありまして」
咏「ふーん?そういえばさ、裏えりちゃんが出てきたのって、初めてじゃないよねぃ?」
えり「ええ。ここ最近は全くなかったですが…」
咏「大体どのくらい?」
えり「ストレスの種類で言えば、4個目くらいですね。回数もあまり」
えり「高校…でしょうか」
咏「……結構早いねぃ」
えり「……昔のことです」
咏「もしかして、さっきの恋愛がどーちゃらの、昔の色々?」
えり「……よくわかりましたね」
咏「い、いや、なんとなくだけど」
えり「さ、他に質問は?」
咏「…あ、大事なこと聞くの忘れた」
えり「どうぞ」
えり「ああ、簡単です。まず、戻るにはですが…」
咏「ま、なんとなく察しはついてるけどねぃ」
えり「ええ。寝れば戻ります」
咏「単純だねぃ」
えり「そして裏になる方法ですが、今回の場合…」
咏「………」ゴクリ
えり「“恥ずかしい”って感情が限界を突破したら、ですね」
咏「…恥ずかしい?」
えり「ええ」
えり「…あ、有り体に言えば」
咏「全然そんな風に見えなかったんだけど」
えり「…………表情に、出ないんですよ」
咏「出ない?」
えり「…いえ、出なくなった…が正しいでしょうか」
咏「…それも、昔の色々?」
えり「…ええ」
咏「…ん?昨日ってさ、えりちゃんはいつ裏になったん?」
えり「たしか…咏さんがお風呂に入っているとき、だったかと」
えり「…………」ウツムキ
咏「だってさ、こっちは風呂入ってたわけだし。えりちゃんに何も…」
えり「…お風呂入る前に…何て言っていたか覚えていますか?」
咏「入る前?えーっとたしか、えりちゃんが出てきてー…」
咏『いや、かわいい』
えり『…へ』
咏『いっつもカッチリした服しか着ないじゃん?なんか新鮮だわー可愛い!』
咏「…おお」
えり「…思い出しました?」
えり「…………」ウツムキ
咏「そういえばさっきも、かわいいって言ったら裏になったねぃ~」ニヤニヤ
えり「…そりゃ、恥ずかしいですよ…」
咏「なーるほど。恥ずかしいと俯くんだねぃ~?」
えり「あ……」カァ
咏「…裏えりちゃんは表えりちゃんより表情が豊かだねぃ」
えり「そ、そうかもしれません」
咏「ちょっと赤くなったよ、顔」
えり「えっ!?」ペタ
えり「咏さんのいじわる…」
咏「」キューン
咏「…そだよ~咏さんはいじわるだぜ~?」ナデナデ
えり「うぅ……」
咏「お、抵抗しないんだ?」
えり「…わ、私は…裏ですから…」
咏「嬉しいんだ?」
えり「……あぅ……」カァァ
咏「ほら、また赤くなったー♪」
えり「あ、あんまりいじめないでください!」
咏「知らんしー♪」
咏「あ、そだそだ。もう一個」
えり「どうぞ」
咏「裏の記憶は、表には引き継がれないの?」
えり「基本的にはそうです」
咏「基本的には?」
えり「ええ」
咏「……そんだけ?」
えり「ええ、それだけ」
咏「表えりちゃんは裏えりちゃんのこと…」
えり「知っていますよ、もちろん」
咏「そ、そか…」
えり「…以上ですか?」
咏「ん。だいたいわかった。多分」
咏「うん」
えり「……ぁ……」
咏「ん?」
えり「…………」チラッ
咏「?」
えり「…………」メソラシ
咏「えりちゃん?」
えり「…あの…」
咏「うん」
えり「わ、我が侭…言っちゃうと…」
えり「……帰りたく、ないなぁ…って…」
咏「!」
咏「ぜ、ぜんぜん!」ブンブン
えり「じ、じゃあ…!」
咏「また泊まってってよ!」
えり「ありがとうございます…」ギュ
咏「お…」ドキ
えり「♪」ギュー
咏「…え、えりちゃん、さ。腕に抱きつくの、好きだよねぃ」
えり「…いつも、咏さんがするから…その。羨ましくて…」
えり「ぎゅーってされるのも好きだけど…するのも、好きになりました」ニコッ
咏(かわいい)
えり「はい?」
咏「…こっちからもしたいんだけど…ぎゅーって」
えり「!」
咏「ちょっと離してくんないかねぃ?」
えり「あ、は、はいっ!」ワタワタ
咏「んー」ギュー
えり「ぅ……」
咏「へへ…正面からぎゅーってするのも良いもんだぜ?」カオウズメ
咏(昨日までは戸惑ってたけど…この人も“えりちゃん”なら話は早い)
咏(…えりちゃんとくっついていられるなら、なんでも良いよねぃ~♪)
咏「えりちゃん?正面からぎゅーってされるのは嫌かい?」
えり「い、いえ!そうじゃなくて…その」
咏「?」
えり「今日は…まだシャワー浴びてなかったなぁ…って…」
咏「知らんし。気にすることないぜー」
えり「い、いえ!気になります!」
咏(…えりたそ~)
えり「で、ですから…咏さん、先にお風呂に…」
咏「だーかーら、えりちゃんが先に入れっつーの!」
咏「じゃー一緒に入るかい?」
えり「え……」
咏「ほれ。一緒のお風呂。どうよ」
えり「…………」
えり「…じゃあ、ごめんなさい。先にお湯、貰いますね」
咏「そそ。昨日も言ったじゃんか、遠慮なんかいらんし~」
咏「………」
咏(裏えりちゃんは、表えりちゃんの本当にやりたいことをやる存在…か)
咏(さっきの、ちゅーのときもだったけど…)
咏(えりちゃんは、キスとか一緒に風呂入るのが…本気でイヤなのか!?)ガーン
咏(あんなにくっついて…だーいすきって…)ニヤニヤ
咏(…なのに…風呂やキスは嫌?)
咏(…………)
咏(ま、いっか)
咏(それで幸せなら、こっちも幸………)
咏(……ん?)
咏(なーんか引っかかる。なんだっけ…モヤモヤする)
咏(…ん~?忘れたっつーことは…わりとどうでも良いことなのかねぃ?)
咏(じゃ、いっか~えりちゃん待ち~…)
咏「お互い、風呂も済ませて、あと寝るだけって感じになったけど~」
えり「そうですね…」
咏「ちなみに明日の予定は?」
えり「朝から実況…って咏さんも一緒に実況ですよ」
咏「うは、マジで?」
えり「はい。一緒のお仕事ですよ」
咏「じゃー一緒に会場まで行けるねぃ♪」
えり「そうですね…」
咏「…ちなみに何時集合?」
えり「たしか…10時前くらいだったかと」
咏「10時か…じゃー朝はそんなに急がなくて良いねぃ~」
咏「いやぁ~…ね?」ドンッ
えり「…お…お酒…」
咏「大人二人いたらそうなるっしょ~」
えり「は、はぁ…」
咏「どーよどーよ、ちょっとくらいさ!集合もそんなに早くないし~」
えり「…お酒…」
咏「ほらほら、呑も呑も!」カチャカチャ
えり「……じゃあ、少しだけ……」
えり「乾杯」
チンッ
咏「んぐっ…んぐっ…」グビグビ
えり「……コクッ……」チミッ
咏「ぷはーっ!」
えり「い、一気……」
咏「ん?」
えり「ペース早すぎませんか?」
咏「ダイジョブダイジョブ。全っ然酔わないから」
えり「え」
咏「ザルまではいかないけどねぃ。どんだけ呑んでもちょーっとフワフワするくらい」トクトク…
えり「…へぇ…」
えり「呑みましたよ?」
咏「一口くらい?」
えり「…まぁ」
咏「もっと呑め~ぃ」フリフリ
えり「お酒って苦手で…。すぐに酔っちゃうので」
咏(酔っ払ってるえりちゃん超見たい)
えり「だから少しずつ…」
咏「まぁまぁまぁ~」トクトク
えり「ちょ、ちょっと、こぼれ……っ」
咏「呑め呑め~」
えり「あわわっ」ゴクンッ
咏「そそ。それくらいは飲まなきゃねぃ」ニヤリ
咏「どうよどうよ、おいし?」
えり「え、えと…」
咏「チミッチミ呑んでたら味なんてわからんっしょ~?」
えり「えと……」
咏「意外と良い酒なんだぜ~これ!勿体無い勿体無い!」グビッ
えり「…………」
咏「…おぅーい、えりちゃーん?」
えり「?」クビカシゲ
咏「いや、? じゃなくて。仕草かわいいけど」
えり「…………」ポケー…
咏「えりちゃん?」
咏「おぉ?」
えり「………♪」スリスリ
咏「…また腕かい?」
えり「ん…」コクリ
咏「抱きついては来ないの?」
えり「…これ、好きです」ギュー
咏「…酔ってんの…か?」
えり「知らんし~…ですー」スリスリ
咏(だから…それヤバいって…かわいいっつの…)
咏(裏えりちゃんが酔っ払っても、あんまり変わらない感じかねぃ?)
えり「ふふ…うーたさん♪」
咏「なーに?」
えり「呼んだだけー♪」ニコニコ
咏(おぅ)キュン
えり「んー…」ハナレ
咏「? どしたん?急に離れちゃって」
えり「…私ばっかり甘えてます」
咏「良いんだよ?」
えり「咏さんは何かしたくないですか?」
咏「何か?」
えり「ん」コクリ
咏「…えりちゃんに?」
えり「…ん」コクリ
咏「………」
えり「………」ジー
咏(…つまり…“なんでもしていいよ”っつーこと…?)ドキドキ
咏「~~~!」グビグビ
咏(かなり……その、なんだ。かなり、…ねぇ?)
えり「………」ジッ
咏「……目ぇ、瞑って?」
えり「…はい」メトジ
咏「…………」
咏(…どうする気だよ…目、瞑らせて…)
えり「…咏さん?」
咏「ちょ、ちょっと…待って…」
咏「…………」ドキドキ
ソッ…
えり「っ」ビクッ
咏「だから、目隠ししたからな?手で、だけど…なんも、見えない…よな?」
えり「…ん」コクリ
咏「………」ドキドキ
咏(…やばいな、最初っから一気はダメだったか)
咏(…ちょっと、酔ってるかも)
咏「…………」ジリジリ…
咏(……もう、少しで……)
えり「………」
咏(えりちゃんの………)
咏(こんなに近くで顔見たの…初めてかも…)
咏(えりちゃんの……唇……)
えり「………」
咏「―――ッ!!」
パッ
咏「もういいよ!!」
えり「?」
咏「目ぇ開けていいから!」
えり「は、はい……」パチ
咏(うわー、うわあーもー!!)
えり「あの…何かしましたか?」
咏「し、したよ、した!」
えり「…?」クビカシゲ
えり「………」
咏(えりちゃんは…キス、嫌なんだよ…なのにさぁ…)
咏(酔ったイキオイとか…酔ってる人の言葉にほだされるとか…)
えり「…………」ウトウト
咏(…これ、最低じゃね!?)ガーン
咏(良かった!思いとどまって良かったぁぁアブねえぇ!!)
えり「………」コックリ
咏「え!?」
えり「………」コックリ…
えり「!」ハッ
えり「………」ウトウト
咏(あ…眠いだけか…)
咏(ビビったぁ…頷かれたかと思った…)
咏「えりちゃん、もう寝よっか」
咏「じゃあ、」スッ
キュ…
咏「お?」
えり「あの…」ソデツマミ
えり「…また、おんなじお布団で……」
咏「………」
えり「……だめですか?」ジ…
咏(上目遣いは反則)
咏「………」ゴソゴソ
えり「………」ポフッ
咏「…ふぅ…」
えり「…咏さん?」
咏「…んー?」
えり「…だーいすき」ニコッ
咏「………」キュン
えり「ふふ……おやすみなさい」
咏「おやすみ」
咏「…………」
咏(…罪悪感がヤバい)ズーン
咏(嫌われてることは多分100%ないみたいだけど…)
咏(…なんで嫌なんだろ。わかんねー…)
咏(好きなら…したくなるもんなんじゃないかねぃ……知らん、けど)
咏「……んぁー……」
咏「……ふぁ~ぁ」ノビー
咏「…あれ…えりちゃん?」
咏「……仕事行ったのかな……」
咏「……お?」
咏(メモ用紙…)
『ごめんなさい 針生』
咏「…………」
グシャグシャ ポイッ
咏「…知らんし」
咏(……何に対して謝ってんだかわかんねーし。謝られるようなことなかったし)
咏(…………)
咏「……今日も問い詰めるかねぃ」
咏(ついでに、晩ごはんも頼んじゃおーっと)
咏(今日は何を頼もうかねぃ~♪)
――――
えり「……クチュンッ」クシャミッ
えり(…マズイ、風邪かな……)
――――
えり「……はぁ……」
えり(…今日は…)チラッ
えり(よし、携帯に連絡なし)
えり(…もう、しばらくは会えないだろうな…)
えり(……私、何してるんだろ……)
ピリリリッ
えり「!」ビクッ
えり「で、電話!?」ピッ
えり「も、もしもし針生ですが…」
咏『やっほーえりちゃん』
えり「う、咏さん!?」
えり(し、しまった…焦って誰だか確認せずに通話ボタンを…)
咏『あー違う違う』
えり「では…?」
咏『えりちゃんの“かわいい”声が聞きたくなってねぃ~♪』
えり「………は」
咏『あー今多分ボーゼンとしてるでしょ?』
えり「い、いや、その…」
咏『照れてんだ~かーわい~』
えり「…からかってます?」
咏『本音に決まってんじゃん。わっかんねーかなぁ、えりちゃーんちょーかわいいぜー』
えり「な……な………」パクパク
咏「えりちゃーん」
えり『っ…よ、用がないなら、もう切りますよ?私今仕事終わったばっかりで…』
咏「愛してるぜ」
えり『』
咏「ちょっとでも長く一緒にいて、ちょっとでも長く話していたいじゃん」
咏「…コイビトだろ?」
えり『…………』
咏(…………)
咏「ところでえりちゃん」
えり『は、はい!』
咏「…今日の晩ごはんは、スパゲティがいいな」
えり『…………』
えり『いいんですか?』
咏「頼んでるのはこっちだっての」
えり『…♪』
咏(お)
えり『…材料買ってから、向かいますね』
咏「おう」
えり『…他に何かありますか?』
咏「晩ごはんにさ。えりちゃんの愛情、入れてくれる?」
えり『………はい♪』
咏(大・成・功)
ピンポーン
咏「ほーい」ガチャ
えり「こんばんは」
咏「おっかえりぃ~」
えり「あ……」
咏「ん?」
えり「え、えーっと……」
えり「…ただいま、あなた」ニコッ
咏「」
えり「…なんて」カァァ
咏「お、おかえりぃぃぃ!!」ギュゥー
えり「きゃっ…」
咏(やべー破壊力やべぇぇー!)
咏「ん?」
えり「わざわざ“私”を呼び出すなんて、何を企んでいるんですか?」
咏「企みとか知らんし。さっきも言ったじゃんか。少しでも一緒にいたいんだよ」
えり「!」パァ
えり「…♪」ギュー
咏(かわええのうかわええのう)ナデリナデリ
えり「えへへ…だーいすき♪」
咏(このやろ…あとで抱き締めてやる、覚悟しとけぃ…)
咏「期待してるねぃー」
えり「愛情込めて、作ります」ニコッ
咏「ひゃっは~!」
えり「あ……えっと……」ゴソゴソ
咏「お?」
えり「咏さんの家って、エプロンないでしょう?だから…買ってみました」
咏「おぉーっ」
えり「ん、と……」イソイソ
咏「………」
えり「…こ、こんな感じ…ふふ、ちょっと恥ずかしい…かも」
咏(たまんねー新婚みてー!たまんねー!)キュンキュン
食後
咏「いやーえりちゃんの料理やっぱウマイわー」ポンポン
えり「お粗末様でした」
咏「毎日作ってくれん?」
えり「いいですよ」
咏「そうだよねぃ~……え、マジで!?」
えり「できる限りは」ニコッ
咏「お、おぉっ…」
咏(…一緒に住んだら………いや、今言うのは卑怯だよな…)
咏「…えりちゃん、明日の予定は?」
えり「明日、ですか?」
咏「ふむ。…よぅし、今日も泊まってけぃ!!」ズビシ
えり「!」
咏「そうと決まれば風呂入ってこぉい!えりちゃんの寝間着、洗っといたぜ」
えり「あの、咏さn」
咏「もう風呂入ったから。えりちゃん入った入った!」
えり「………」
えり「はい!」ニコッ
咏(…実は、オフって知ってて全部先に準備したんだけどねぃ~)ニヤリ
咏(調子乗って高い酒開けちゃったよ…えりちゃんまだ風呂だけど)
咏「~♪」トクトク
咏(やばいなぁ…幸せすぎる。えりちゃんの本音を、あーんな聞けちゃうとか!)グイッ
咏(ちょっと前まで、スゲー不安だったのにねぃ…えりちゃんも、素直に言ってくれりゃいいのに!)プハーッ
咏(…そう簡単にはいかねーか。不慣れ、とか言ってたし)
咏(それ言ったらこっちだって慣れちゃいないけどさ~…)トクトク…
咏(一緒にいて…ラブラブしてー……らぶらぶ……)グイー
咏「ぷはっ……」
コトッ…
咏(…ちゅーぐらい良くね?)
咏(えりちゃんのことだから、照れてるだけっしょ?知らんけど~)
咏(最近圧倒され気味だけどさ~…ちーとばかし積極的にいっちゃうかねぃ?)ニヤニヤ
咏「んぐっ…んぐっ…プハーッ!」
咏「…けふっ」
えり「良いお湯でしたー」ホクホク
咏「おーぅおかえりぃー」フリフリ
えり「ただいまです。…あれ、咏さん?」
咏「ほいな~」
えり「…お酒?」
咏「おう!えりちゃんも呑む~?」
えり「い、いえ……咏さん、ずいぶん呑んだみたいですね…」
咏「あーそーかもねぃ」
えり「珍しく酔ってるみたいな…」
咏「そんなことよりえりちゃ~ん」
咏「いつもみたいにくっついてくれないの?」
えり「!」
咏「ほれほれ、この胸にどーんと」テヒロゲ
えり「…良いんですか?」
咏「かも~ん」
えり「…じゃあ…」
えり「………♪」ギュー
咏「おーよしよし」ナデナデ
えり「昨日は、お風呂入る前だったから…今日は…」
えり「……♪」ギュー
咏「ん~…」スリスリ
えり「はーい?」
咏「…こっち、見て」
えり「?」
咏「ん~…」
えり「…咏、さん?」
咏「むちゅちゅ~」ジリジリ
えり「!」ビクッ
えり「っ……!」ポフッ
咏「えーえりちゃーん、顔うずめんなよー」
えり「……」フルフル
えり「あっ…」
咏「照れんなよー」ジリジリ
えり「だ、ダメ…」ニゲ…
咏「えーりーちゃーぁーん~」グイグイ
えり「ダメで……きゃあっ!?」
ドサッ
咏「ほら、逃げらんないぜ~?」
えり「…あ……ぁ……」
咏「いーでしょ?」
えり「だ、だめ……」
咏「まだ言うか、こいつぅ」スッ
えり「ぁ…っ」ビクッ
咏「ね、えり…、……?」
えり「…だめ……だめ……っ」ギュゥ
咏(震えてる…?)
えり「お願い、…だめ、お願い……!」ジワ
咏「…えりちゃん…?」
えり「……うぅ……」フルフル
咏「え、えりちゃん…?」
えり「…………」ウルウル
咏「…………」
ギュ
えり「ぁ……」
咏「ごめん。何もしないから…怖がらないでよ」ナデナデ
えり「………うた、さん………」
咏「うん。ごめんね、もうしないから」
えり「…………」
えり「……ごめんなさい」
咏「ううん、えりちゃんは悪くないよ」
えり「…違うんです」
えり「………まだ私、咏さんに言ってないことが…あって…」
咏「…!」
えり「……私の……」
えり「……昔の色々に、ついて……」
咏「…昨日言ってたやつ?」
えり『…恋愛に不慣れなんですよ』
咏『不慣れ?』
えり『ええ。経験は人並み以下、限りなく0に近いかと』
咏『えりちゃんモテそうなのにねぃ』
えり『…まぁ、昔色々ありまして』
咏「あ、ああ、ごめん!」
えり「いえ…私も、取り乱してしまって…」
咏「いや……」
えり「……」
咏「…何か飲むかい?」
えり「…お願いできますか?」
咏「んーじゃ、ホットミルクでも作るかねぃ」
えり「………」ニコッ
咏「ん」ニコッ
咏(…無理して笑顔なんて作っちゃって…涙目、なってるぜ?)
咏(…肩も、まだ震えてて……)
咏(…なぁにやってんだろ…えりちゃんにあんな顔させてさ…)
えり「…ありがとうございます……ん…」コクッ
えり「…おいしい…」
咏「ちょっと落ち着いた?」
えり「……はい」
咏「…………」
えり「…私、その…」
咏「…うん」
えり「……昔、…襲われたことが、あって…」
咏「!」
えり「押し倒されて…おさえ、こまれ……っ」
咏「えりちゃん」
えり「…大丈夫です、…だい…じょ……」
えり「……っ」ブルッ
咏「……」ナデナデ
咏「大丈夫だよ、大丈夫だから…」
えり「……っ…うぅ…」フルフル…
咏「無理に話さなくても…」
えり「い、いえ…聞いてほしい、から……」
咏「………」
えり「…高校生のとき、告白してくれた方がいて…でも私、そのころ恋愛に興味がなくて…」
えり「一度お断りしても、…何度も……段々、その…ストーカー…といいますか…」
えり「それで…学校の、放課後…」
えり「……っ」
咏「………」ナデナデ
えり「……っ…」コクッ
えり「それ以来…なんだか、その…」
えり「い、一応…全部未遂では…あるんですが…」
咏「…………」
咏「…ちょっと待って?」
えり「は、はい…?」
咏「“それ以来”?“全部”?」
えり「え、ええ……途中で、助けていただいたり…あとは…」
咏「…ごめんね、ちょっとツラいこと聞くかも」
えり「…どうぞ…」
咏「…どれくらいの人に、何回くらい、襲われた?」
えり「……ええと……」
えり「中学は近所でしたから徒歩だったんですけど、高校からは電車通学になりまして」
えり「…満員電車…とか……その…スカートの、………っ」
えり「…さすがにもう電車に乗るのは、と思って免許をとって…それ以来は車で…」
えり「あと、仕事で上司の……」
えり「…………っ」ジワ
えり「………も、もう……いいですか……?」プルプル ウルウル
咏「…ごめん、ありがと」クラッ
えり「?」
咏「調べて殴ってくる」
えり「あの…私、女子校で……」
咏「…え?」
えり「男性では……」
咏「………」
咏「うん、何でもない。気にすんな」
えり「は、はい…」
咏「………」
えり「……多分……」
咏「え?」
咏「…何が?」
えり「“私”が」
咏「……!」
咏『初めて出てきたのはいつ?』
えり『高校…でしょうか』
咏『……結構早いねぃ』
えり『……昔のことです』
咏「…裏…えりちゃん…」
えり「……」コクリ
咏「あー、ある…んだ?知らんけど」
えり「ええ。それが、ちょっと過激なものだったりして…」
咏「例えば?」
えり「た、たとえば………ボディタッチがエスカレートして、その……素肌……に…」
咏(それスキンシップじゃねぇ。ただのセクハラだ)
えり「…私が」
咏「…なるほど」
えり「表には何がなんだか判らなかったでしょうね」
えり「意識が戻ったら、同級生が反省文50枚土下座しながら渡してきましたから」
咏「…おお…」
えり「それ以来、過激なスキンシップは無くなりましたけど…」
咏「そっか…」
えり「あ、でも。こういうことばかりじゃないんですよ?」
咏「?」
えり「誰かに…その、身体を…まさぐられて……怖くて、嫌と言えない自分、だけじゃなくて」
えり「仕事で、絶対に間違ってると思っても話が進んでいってしまっているとき、とかに呼ばれたりもしました」
咏「…大変だねぃ」
えり「言いたいこと、言えちゃいますから。そのときはちょっとスッキリしました」ニコ
咏「なにが?」
えり「今までは、嫌なことを嫌と言えない…駄目なことを駄目と言えない…」
えり「裏の私は裏らしく、負の部分ばかりをやってきました」
えり「…でも、今は…」スッ
咏「あ……」
えり「好きな人に、目を見て…はっきりと“好き”って言える」
えり「すごく、幸せなんです」ニコッ
咏「!」ドキッ
咏「ん…」
えり「………」
咏「………」ウツムキ
えり「私……咏さんと…したくないってわけじゃ…ないんです」
咏「…!」
えり「…でも…私…未遂とはいえ、…唇、だけは…」
咏「あ……」
えり「…守り、きれませんでした。…この年になっても、好きな人とは……」
えり「一度も…したこと、ない…のに…」
咏「な、なんで?」
えり「私の唇は……汚れているから」
えり「あなたに、そんな―――」
グイッ
…チュ…ッ…
えり「――――!?」
えり「う、……うた、さ……どうして……!?」
咏「知らんし」
えり「わっ…私は!わた、…し…は……!」
咏「わっかんねーよ。そんなの」
咏「えりちゃんはえりちゃんだ。汚れてなんかいない、綺麗だよ」
咏「…もし、汚れてるって思うなら…」
咏「…私が、消毒ついでに、上書きしてやる」ギュ
えり「……うた……さ…ん……」
えり「…私……わたし……」
咏「えりちゃんは、綺麗だよ」
えり「でも………!」
咏「まだ言うか…もっかい消毒、するかい?」
えり「!」
咏「えりちゃんが納得するまで、何回でもしてやるよ」
えり「………」
えり「…わたしを……」
咏「…うん」
えり「…わたしを…きれいに…してください…」
えり「嫌な思い出…全部、上書きしてください…」
咏「…任せとけ」
チュ…
翌朝
えり「……ん……」
えり「……………」
えり「………!?」ガバッ
えり「また…三尋木プロの……家……!」
咏「なにさ、文句あるかい?」
えり「!!」バッ
咏「おっはよーえりちゃん♪」
えり「み、三尋木プロ…」
咏「ほれ、一日の始まりは挨拶から。っしょ?」
えり「…おはよう、ございます…」
咏「おぅ、おはよ」ニコッ
咏「………」ニコッ
えり「……あの、私…また泊まったりなんかして…」
咏「いーのいーの、全然いーんだよ」
えり「…わ、私そろそろ仕事の……」
咏「オフ、だよねぃ?」
えり「…!」
咏「えりちゃんは今日はオフの日だぜ。忘れたん?」
えり「………そ、そう…でした、ね」
咏「………」
えり「…で、では私はお暇させていただ……」
咏「だめ」
咏「帰さない」
えり「な、何を言っているんですか…三尋木プロ」
咏「すっとぼけんのもいい加減にしな?」
えり「…と、とにかく、私はこれで…」スッ…
ジャラッ…
えり「…!?」
咏「もう既に、逃げらんないようにしてあったりするんだよねぃ~」
えり「こ、これは一体!?」
咏「手錠だよ手錠。まんま」
えり「だから、どうして私が手錠に……」
咏「…“アッチ”のえりちゃんには、言っておいたよ」ニヤ
えり「………!」 サァァ
えり「………っ」
咏「一昨日ははぐらかされたし、昨日は逃げられた」
咏「…今日はどうする?」ニッ
えり「っ……卑怯ですよ」
咏「知らんし」
えり「……どうする気ですか」
咏「別に?えりちゃんとお喋りしたいだけだぜ~?」
えり「じゃあ、これを外してください」
咏「それは駄目」
えり「何故!」
咏「知らんし~」
えり「………」イラッ
咏「お、お喋りしてくれる?」
えり「…ほとんど脅迫じみていますがね」
咏「人聞き悪いねぃ」
えり「やってることは脅迫です」
咏「だから合意の上で…」
えり「なんの話ですか」
咏「だから」
えり「アッチの…とか、合意とか…意味が、わかりません…」
咏「……ふーん?」
咏「…ホントに?」
えり「…何故ですか」
咏「ねぃえりちゃん。昨日の電話、覚えてっかい?」
えり「電話…ああ、それなら…」
咏「じゃあさ…一番最初のクダリ、思い出してみ」
えり「一番最初……?」
ピリリリッ
えり『も、もしもし針生ですが…』
咏『やっほーえりちゃん』
えり『う、咏さん!?』
咏「…………」
えり「驚いてしまったのは、考え事をしていた時に電話がかかってきたからで…」
咏「ねーえりちゃーん」
えり「…なんでしょう」
咏「………」
えり「……三尋木プロ?」
咏「ソレだよ」
えり「え?」
えり「………あ………っ…」
咏「電話で驚いて、つい言っちゃった感じ?珍しいミスしたねぃ、えりちゃ~ん?」ニヤ
咏『やっほーえりちゃん』
えり『う、咏さん!?』
咏「“咏さん”って呼んでるのは、裏えりちゃんのハズでしょ?」
えり「………ッ」
咏「…記憶、残ってるんじゃないの~?」
咏「ねい、表えりちゃん♪」
咏「どーせ逃げらんないぜ?素直に言っちまいな」
えり「……まさか…あれだけのミスで、勘づかれるなんて…」
咏「お?」
えり「……仰るとおり、です」
咏「…へぇ♪」
えり「ただ……少し違うのは…」
咏「え、違うの?」
えり「記憶は、断片的にしか残ってないこと。実際に何があったり何を話したかは、ほとんど…」
咏『裏の記憶は、表には引き継がれないの?』
えり『基本的にはそうです』
咏『基本的には?
えり『ええ』
咏「…なーるほど。嘘はついてないわけだ?」
咏「ごめん、結構色々聞いちゃった」
えり「では……」
咏「高校時代とか、仕事先とか、免許取った理由とか」
えり「そこまで……」
咏「…ごめん」
えり「謝らないでください。…いずれ、話すことにはなっていたでしょうから」
咏「………」
えり「今回の切り替わりの条件とか…聞きました?」
咏「ああ…“恥ずかしい”っつー感情が限界突破すると、だって」
えり「なるほど…今回はソレでしたか…」
咏「?」
咏「ん?」
えり「…もう、あの子を呼ばないで欲しいのですが…」
咏「え……」
えり「昨日は故意的にやったでしょう?」
咏「あ、ああ……。なんで?」
えり「…………」
咏「えりちゃん?」
えり「…わかっている、つもり…なんですけど…」
えり「……いや、やっぱり…わからない」
咏「何が?」
えり「…自分が、何をしたいのか」
えり「…わかりますか?やりたいことだけやって、あとの記憶はハッキリしない…」
えり「私は、……何をしていたのか、……わからない……!」
えり「怖いんですよ……っ」
咏「…えり、ちゃん…」
えり「私が本当にやりたいことって何!?私は何をしているの!?」
えり「私はっ……あなたに、何をしたんですか……?」
咏「…ううん」
えり「朝起きたら、一緒の布団に入っていて……でも、記憶はなくて…」
えり「憶えているのは、…ううん、身体が憶えてるんです」
えり「“咏さん”と言う言葉と…あなたの、暖かさ…!」
えり「私は……わたし、……ッ」ジワ…
えり「もし、あなたに何かあったら、私は…あなたに、顔向けできない…」
咏「…………」
ギュ
咏「やだ」ギュー
えり「離して……」
咏「知らんし」
えり「三尋木プ、……っ」
チュ
えり「…ん……んんっ…」
チュルッ
えり「!?…ふ、ぁぁ…!」ビクッ
咏「……チュ、…ん、レロッ……」
えり「ん、ンー……っ…!」イヤイヤ
えり「ッ…はぁっ…はぁ…は…」
えり「なんで…なんでぇ…!」ウル
咏「ねぃ、えりちゃん」
えり「…どうして、こんなことするの…っ…?」
咏「身体は憶えてた?」
えり「そんなわけなっ――」
えり「――憶えて、…ない…」
咏「…でしょ?」ニッ
咏「じゃあ、これは?」ギュ
えり「…憶えて…ます…」
咏「わかった?」
えり「………」
咏「ちゅー以上のことなんてしてないし、“酷いこと”なんてのもなかったんだよ」
えり「…でも」
咏「クドい。酷いことなんてなかった」
えり「………」
咏「おっけー?」
えり「……はい……」
咏「…ちゃんと、幸せだったよ」ギュー
えり「!」
咏「でも…でもさ、えりちゃんは…変わんないし。告白して、コイビト同士になって」
咏「それでもえりちゃんはクールで、堅くて、生真面目で。…ホントに好きなのかー?って」
えり「それは!」
咏「うん…裏えりちゃんと会って、話して…わかったから」
咏「酷いことなんてない。むしろ…凄く幸せだから」
えり「………」
えり「……それは……そう、です」
えり「裏とは言っても、私は私。…酷いことをしていなくても」記憶が、ないのは……」
えり「…不安です」
咏「じゃあ、裏にならなきゃいい」
えり「え…」
咏「なんなきゃ良いじゃん。裏えりちゃんっつーのは、表えりちゃんの一部なんでしょ?」
えり「そ、そうですが…」
咏「表えりちゃんが裏えりちゃんみたいなことすりゃいいんだよ」
咏「裏えりちゃんは“えりちゃん”の、本当はやりたいけど出来ないことをするんだよねぃ」
えり「ええ…」
咏「それって、えりちゃんがやりたいことやっちゃえばさ。ジレンマもストレスもなしってことっしょ?」
えり「……そう、簡単には……」
咏「わかんねーじゃん」
えり「…裏は、何をしていましたか?」
咏「えりちゃんのやりたいこと」
えり「………」
咏「ほら、遠慮なんかすんなよ~」
咏「もっと甘えて良いんだぜ?」
えり「……あの……」
咏「うん」
えり「……良いん…ですか…?」
咏「もちろん」
えり「…………」
咏「………」
えり「…えっ…と……」
えり「………っ///」
咏「……へへっ♪」ギュ
えり「な、なんですかっ」
咏「べーつにぃ~」
咏「ほら、前は顔に出なかったじゃん?」
えり「…………」
咏「えりちゃん?」
えり「…私の昔の話は、きいたんですよね?」
咏「う、うん……もしかして?」
えり「ええ。…私、昔は気持ちがすぐ表情に出てしまって…なのに、普段は無愛想だから…」
えり「…面白がられたんでしょうか。余計に相手を調子に乗させてしまうことが何度かあって」
咏「………」
咏(いや、多分そうじゃなくてさ…えりちゃんの照れ顔、普通にソソるかんな?知らんけど)
咏「…なるほど」
えり「でも、裏の私には関係ありませんから。…しばらく裏が続くと、緩んでしまうみたいで…」
咏「そっちのが良いぜ?」
えり「そう…ですか?」
咏「かわいいから」
えり「っ!……///」
咏「ほらかわいい」
えり「…か、からかわないでください!」
えり「……こっちは必死なんですからね?」
咏「知らんし。…えりちゃんが素直じゃないだけだし~」
えり「…う…」
咏「素直に言っちゃえば良いんだよ。拒否とかするわけないし」
えり「…仕方ないじゃないですか……不安、だったんですから」
咏「?」
えり「…恋愛って、は…初めて、だったから…どうしたらいいか、わからなくて」
咏「…馬鹿だねぃえりちゃんは」
えり「なっ!?」
咏「どんなえりちゃんでも、えりちゃんはえりちゃんなの!」
咏「その上で、えりちゃんが好きなんだよ。何度も言ってるっしょ~?」
えり「…咏さん…」
えり「…仕方ないでしょう…わかんないんですから…」
咏「もうわかった?」
えり「…少し」
咏「ちょーっとずつで良いから、いろんなえりちゃん見せてみな?」
咏「ぜってー嫌いになんか、なんないから。かけてもいい」
えり「………」
咏「そんでさ。恋愛にも、少しずつ慣れていこうよ。…二人でさ」
えり「……躓いても、引っ張って行ってくれますか?」
咏「それ助け起こすのが先じゃね?知らんけど」
えり「……ふふ……」
咏「……へへ」ニコッ
咏「おぅ」
えり「……お願いしても、いいですか……?」
咏「もちろん。えりちゃんのやりたいこと、言ってみ?」
えり「……………///」
えり「……っ…」メソラシ
咏「ん?」
えり「………」ジ…
咏「………」ニコッ
えり「…ぎゅーってしても…いいですか……?」
咏「…大歓迎」
おわり
ありがとうございました
咏えりかわいい
乙
Entry ⇒ 2012.10.07 | Category ⇒ 咲-Saki-SS | Comments (0) | Trackbacks (0)
ニャース「もう騙されないニャ……」ピカチュウ「……」
引用元: http://hayabusa.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1349354114/
ピーガシャンガシャンプシュー
ニャース「」ジジジジ
ガシャン
ニャース「」シュウウウウウ
プシュー
ニャース「完成ニャ……」ニヤリ
サトシ「はぁ~、腹減った~」
デント「それじゃ、この辺でお昼にしようか」
アイリス「さんせーい!」
サトシ「ピカチュウ達も疲れただろうから、そこら辺を散歩でもしてこいよ」
ピカチュウ「」コクッ
ピカチュウ「」タッタッタッタッ
アイリス「ピカチュウは元気ねー」
ヒュッ
ピカチュウ「!?」バッ
ドゴーーン
ピカチュウ「……?」ハァハァ
「……チッ、外したニャ……」
ピカチュウ「!」
ガサガサッ
ニャース「久しぶりだニャ。ピカチュウ」ニヤリ
ニャース「おミャーに騙されて、倒されてから約2年……」
ニャース「ニャーはあの時から復讐を誓ったニャ……」
ピカチュウ「……」
ニャース「おミャーらが新しい仲間と旅をしている頃……」
ニャース「ニャーはずっとおミャーらへ復讐することばかり考えていたニャ」
ニャース「毎日毎日研究に明け暮れて……」
ニャース「死んでいったムサシやコジロウの分の仇をとるのも含めて」
ニャース「ニャーはこの2年を過ごしてきたニャ」
ニャース「あとソーナンスの分もニャ」
ピカチュウ「……」
ピカチュウ「……」
ニャース「でも……あそこで裏切られた分、おミャーらに対するニャーの憎しみはもっと強くなったニャ」
ニャース「そして……その憎しみをこの2年にぶつけたことで」
ニャース「おミャーらを倒すための最終兵器が完成したニャ」
ピカチュウ「……」
ニャース「今更後悔しても遅いニャ」
ニャース「おミャーはあの時トドメを刺さなかった時点で……」
ニャース「負けが確定してたのニャ」ニヤリ
ニャース「相変わらずだんまりかニャ……」
ニャース「……まぁいいニャ。おミャーはこれから一言も発する暇もないまま死ぬことになるんニャから……」ニヤリ
ピカチュウ「……」
ニャース「それじゃあ、早速始めるニャ」
ニャース「ムサシとコジロウの仇をとる……最後の戦いを!」
ピカチュウ「……」
ニャース「もちろんソーナンスもニャ……」
ニャース「出でよ!ジャリボーイ御一行殺戮兵器!」
ニャース「ソーナンスロボ!」
ソーナンスロボ『ソォーーナンス!!』
ピカチュウ「!?」
ニャース「そう!これこそがすべての攻撃を自動ではね返す!」
ニャース「ロケット団史上最強のメカニャ!」
ピカチュウ「……」
ニャース「驚きで声も出ないようだニャ……」
ニャース「でも、それだけじゃないニャ!」
ニャース「このソーナンスロボには、死んだソーナンスの脳細胞の中のデータをインプットしてあるニャ!」
ニャース「よって、このソーナンスロボは、生きてた頃のソーナンスと同じ思考なのニャ!」
ピカチュウ「!」
ニャース「まさに死角なし!最強のメカニャ!」
ピカチュウ「……」
ニャース「どうしたのニャ?あまりの恐怖に恐れをなしたのかニャ?」
ニャース「でも残念だったニャ。さっきも言った通り、今更後悔してももう遅いニャ!」
ニャース「この完璧なメカの前に屈服するといいニャ!」
ピカチュウ「……」
ニャース「……最後に何か言い残すことはないニャか?」
ピカチュウ「策士策に溺れるとはこのことだな」
ピカチュウ「確かにお前は凄いよ。すべての攻撃を跳ね返すなんてメカを作るあたりはな」
ニャース「そうニャ!ニャーは天才なのニャ!」
ピカチュウ「まぁ、それをもっと早く作ってればあいつらも死ななかったかもな」
ニャース「」
ピカチュウ「そして、一見完璧なメカに見えるが、実は一カ所致命的ミスがある」
ニャース「ミス!?なんニャそれは!」
ピカチュウ「ソーナンスの脳細胞を入れたことだ」
ニャース「……は?何を言ってるニャ?ソーナンス自身が考えて勝手に行動してくれるのがこのメカ最大のウリニャ!」
ピカチュウ「だってあいつアホじゃん」
ニャース「…………あっ!」
そこはキレる所だろ
ニャース「しまったニャ……。最大の誤算ニャ……」
ソーナンスロボ『ソォーナンスゥ……』
ニャース「確かにソーナンスはアホニャ……。何がアホかは分からないけど、顔がアホニャ……」
ピカチュウ「そう。顔もさることながら、歩き方もアホだ。もうどうしようもない」
ニャース「……!!で、でも、あいつは勝手にボールから出てこれるニャ!それって頭がいいってことにはならないのかニャ」
ニャース「それは知ってるニャ」
ピカチュウ「じゃあ、これも知ってるだろ?そのカスミにはコダックというポケモンがいた」
ニャース「あぁ、あのいかにもアホそうなポケモンかニャ?」
ピカチュウ「……そいつも勝手にボールから出られた」
ニャース「……!!」
ピカチュウ「分かったか?……つまり、勝手にボールから出られるポケモン=アホが成立するわけだ」
ピカチュウ「ちなみに今のサトシの手持ちにミジュマルというアホがいるが……」
ピカチュウ「そいつも勝手にボールから出られる」
ニャース「」ガクッ
ピカチュウ「決定的だな……」
ニャース「おミャーなんか、それさえあれば充分ニャ!!」
ニャース「いくニャ!ソーナンスロボ!」
ソーナンスロボ『……』シーン
ニャース「……?何やってるニャ!早くあいつをやっつけるニャ!」
ソーナンスロボ『…………はぁ』
ニャース「!?」
ソーナンスロボ『それはないっすわ先輩』
ニャース「なっ……!」
ピカチュウ「……計画通り」ニヤッ
ソーナンスロボ『いやいや……だからないっすって』
ニャース「何でニャ!?どういうことニャ!!」
ピカチュウ「拗ねたんだよ」
ニャース「拗ねた……?」
ソーナンスロボ『ピカチュウの言うとおりっすよ先輩。そりゃ、目の前であんなに自分のことを罵倒された後にホイホイ命令聞く奴がいます?』
ニャース「なっ……!!」
ソーナンスロボ『ないっすわー。自分ならあり得ないっすわー。機械にだって心はあるんすよ?』
ニャース「それは……まぁ、悪かったニャ……」
ソーナンスロボ『えー?聞こえないなぁ?もっと真剣に謝ってもらわないと、機械的には許しを出すことはできませんわー』
ニャース「くっ……!」
ピカチュウ「」ニヤニヤ
ソーナンスロボ『……まっ、いいでしょう』
ピカチュウ「!?」
ニャース「……じゃあ、いっちゃって下さいニャ!」
ソーナンスロボ『ソォーナンス!』ゴゴゴゴ
ピカチュウ「(くそっ!意外に和解が早かった!計算外だ!)」
ピカチュウ「くっ!」バッ
ニャース「ニャハハハハ!このソーナンスロボは自分から攻撃することができるのニャ!」
ソーナンスロボ『まぁ、技出せないから突進することしかできないんすけどね』ゴゴゴゴ
ニャース「ピカチュウにはそれで充分なのニャ!」
ピカチュウ「くっ!」バッ
ピカチュウ「(逃げ回っててもラチがあかない……一か八か攻撃してみるか)」
ピカチュウ「ピィ~カァ~チューー!」バリバリバリ
ソーナンスロボ『ソォーナンス!』ミラーコート
バリバリバリ
ピカチュウ「くそっ!」
ピカチュウ「(やっぱり跳ね返ってきやがる……これじゃ迂闊に攻撃できない!)」
ニャース「ニャハハハハー!おミャーもここでおしまいニャー!」
ピカチュウ「」タタタタ
ニャース「ニャハハ!逃げても無駄ニャ!」
ソーナンスロボ『ソォーナンス!』ゴゴゴゴ
ピカチュウ「」タタタタ
ニャース「無駄ニャー!」
ピカチュウ「」タタタタ
ニャース「無駄ニャー!」
ピカチュウ「」タタタタ
ニャース「無駄ニャー!」
ソーナンスロボ『ソォーナンス!』
ピカチュウ「」タタタタ
ニャース「しつこいニャ!」
ソーナンスロボ『ソォ……ガガッ……ナン……ガガッ……スゥ』
ニャース「ソーナンスロボ!?」
ピカチュウ「はぁ……はぁ……逃げてばかりじゃ……ラチが、あかないなんて……ことは、はぁ、なかった……」ハァハァ
ソーナンスロボ『』プシュー
ニャース「バ、バッテリー切れ……」
ピカチュウ「そうだ……そのメカはまともな攻撃ができない……つまり、突進さえかわしてればいつかはバッテリーが切れる……」
ニャース「まさか、おミャーはそれを狙って……」
ピカチュウ「あぁ……まぁ、正直3時間もバッテリーが持つとは思わなかったが……(サトシ達何やってんだ?)」
ピカチュウ「じゃあな……俺はもう行くぜ……飯も食ってないしな」
ニャース「……」
ピカチュウ「はぁ、はぁ……」テクテク
ピカチュウ「」テクテク
ニャース「待つニャ……」
ヒュッ
ピカチュウ「……ん?」クルッ
バキィッ
ピカチュウ「ぐあっ!」ズザアアア
ニャース「……これは」
ピカチュウ「……??」
ニャース「……これは本当に最後の手段だったんだがニャ……」
ピカチュウ「!!……そ、そいつらは……」
ニャース「……そうニャ」
ピカチュウ「お前っ……!ソーナンスだけじゃなく、そいつらまでメカに……」
ニャース「……」
ピカチュウ「そいつらにも脳細胞を……?」
ニャース「いや……それはやってないニャ……」
ピカチュウ「……なぜだ?」
ニャース「例え、口調や思考はムサシとコジロウでも……所詮は機械ニャ……」
ニャース「だから、そんなことをしても虚しくて……余計に悲しくなるだけニャ……」
ピカチュウ「(ソーナンスはいいのか……)」
ニャース「これは、ムサシとコジロウの身体能力をそのまま数十倍にまで引き上げたメカ……」
ニャース「MUSASHIとKOJIROHニャ!」
ピカチュウ「……プッ」
ニャース「何がおかしいニャ……」
ピカチュウ「……いや、何でも、グフッない」プルプル
ニャース「このメカはできればあんまり使いたくなかったニャ……」
ピカチュウ「……?何でだ?身体能力があいつらの数十倍なんだろ?さっきのソーナンスより全然使えるじゃねーか」
ニャース「まぁ、確かにそれはそうだニャ……。でも、もしまたバラバラにされたら……ニャーは……」
ピカチュウ「(やりにくいなぁ)」
ニャース「……でも、もう決めたニャ。ニャーはこのMUSASHIとKOJIROHでおミャーらを殺す!」
ピカチュウ「そうか……ブフッ」
ニャース「いくニャ!MUSASHI!KOJIROH!」バッ
MUSASHI「ピカチュウコロス」ギュオッ
KOJIROH「ナーッハッハッハーイ」ギュオッ
ピカチュウ「(速い!)」
MUSASHI「ハッ!」シュッ
ピカチュウ「ぐっ!」バキッ
KOJIROH「ナーッハッハッハーイ!」シュッ
ピカチュウ「うん」コキッ
ピカチュウ「(KOJIROHの方は大したことないがMUSASHIが厄介だな……)」
MUSASHI「フンッ!」シュッ
ピカチュウ「おわっ!」バッ
KOJIROH「ナーッハッハッハーイ!」シュッ
ピカチュウ「うん」サッ
ニャース「ピカチュウもなかなか粘るニャ……。しょうがない、次の手段を使うニャ……」ポチッ
MUSASHI「」ブルブル
KOJIROH「ナーッハッハッハーイ」ブルブル
ピカチュウ「!?」
KOJIROH「ナーッハッハッハーイ」ナーッハッハッハーイナーッハッハッハーイナーッハッハッハーイ
ピカチュウ「なっ、何だこれは!?」
ニャース「第二段階ニャ……」
ピカチュウ「段階二段階?」
ニャース「そうニャ……MUSASHIは髪が硬質化して針のように飛ばすことができるニャ」
ニャース「KOJIROHは大音量の笑い声で相手を怯ませることができるニャ」
ピカチュウ「(髪の硬質化は厄介だな……)」
ニャース「さぁ!グレードアップしたおミャーらの力をピカチュウに見せてやるニャ!!」
KOJIROH「ナーッハッハッハーイ!!」キーン
ピカチュウ「くっ!」タッタッタッタッ
ピカチュウ「(笑い声の方は正直何ともないが……。髪の方は刺さったら致命傷になりかねない……)」
ニャース「ニャハハハハ!避けるので精一杯のようだニャ!」
ピカチュウ「(髪攻撃に集中するために、先にKOJIROHを潰すか……)」
ピカチュウ「ピ~カ~チューー!!」バリバリバリ
KOJIROH「ナーッハッハッハーイ!?」
MUSASHI「」スッ
MUSASHI「ハッ!」バチバチバチバチ
ピカチュウ「(電気を吸収された!?)」
ニャース「ニャハハハハ!MUSASHIの方は例のごとく電撃対策はばっちりなのニャー!」
MUSASHI「ハッ!」バリバリバリ
ピカチュウ「ぐあああ!」バリバリバリ
ニャース「吸収した電気を倍にして返すのニャ!」
KOJIROH「ナーッハッハッハーイ!」
ピカチュウ「ぐっ……」ヨロ
ニャース「さらにレベルを引き上げるニャ」ポチッ
MUSASHI「」ゴゴゴゴ
KOJIROH「ナーッハッハッハーイ」ゴゴゴゴ
ピカチュウ「今度は何だ……」
KOJIROH「ナーッハッハッハーイ」ドッドッドッドッ
ニャース「第三段階は、MUSASHIがロックオン機能付ミサイルを搭載、KOJIROHは笑い声が重低音になるニャ!」
ピカチュウ「くっ……地味に脳に響く……!」
ニャース「いくニャ!MUSASHI!」ポチッ
MUSASHI「ロックオンカイシ」ピッピッピッピッ
ピカチュウ「(やばい!)」
ニャース「逃げても無駄ニャ……」ニヤ
MUSASHI「ミサイルハッシャ」シュバッ
ゴオオオオオオオオ
ピカチュウ「うわああああああああああ!!」
ドゴーーン
ピカチュウ「」シュウウウ
KOJIROH「ナーッハッハッハーイ!」ドッドッドッドッ
ニャース「ニャハハ……ニャハハハハハハ!!ざまあないニャ!MUSASHIにかかればピカチュウなんてこんなもんニャ!」
ニャース「さて……トドメはニャーが刺すとするニャ……」
ニャース「」スタスタ
MUSASHI「……」
KOJIROH「ナーッハッハッハーイ!」ドッドッドッドッ
ピカチュウ「」
ニャース「よくも……よくも今までニャー達を痛みつけてくれたニャ……」ドゴッ
ピカチュウ「ぐっ」
ニャース「ニャー達の苦しみはおミャーには分からないだろうニャ!」ゴッ
ピカチュウ「ぐおっ」
ニャース「でも……ニャーもやっと苦しみから解放されるニャ!」バキッ
ピカチュウ「っ……」
ニャース「おミャーらを殺して……ニャーは二人の仇をとるニャ!」ゴスッバキッ
ピカチュウ「……」
ニャース「はぁ、はぁ……」
ピカチュウ「ニャー……ス……」
ニャース「!?まだ生きてたのかニャ!?」ゴッ
ピカチュウ「ぐっ!……なぁ、ニャー、ス……最後に……頼み、が……」
ニャース「その手には乗らないニャ!前もそれで騙されたんだからニャ!」
ニャース「ニャーは……もう騙されないニャ……」
ピカチュウ「……」
ピカチュウ「……なぁ、たの、むよ……聞いて、くれ……ひと、つだけ……」
ニャース「……」
ピカチュウ「おれ、を……ころす……かわ、りに、サトシ……は、たす……けてく、れ……」
ニャース「!?何を言ってるニャ!?ニャーはおミャーら全員に恨みがあるニャ!」
ニャース「ジャリボーイも殺すに決まってるニャ!!」
ニャース「ぐっ……な、泣いても無駄ニャ!」ガッ
ピカチュウ「うっ……たの、む……た、のむ……た……の、むよ……」ボロボロ
ニャース「……っ!何でそうまでしてジャリボーイを……!」
ピカチュウ「それ、は……おまえ、が……いち、ば……ん、わかって……る、だろ……?」
ニャース「……」
ピカチュウ「なぁ……たの、む……た、の……」ガクッ
ピカチュウ「」
ニャース「……」
MUSASHI「」コクッ
KOJIROH「ナーッハッハッハーイ……」コクッ
ニャース「……」テクテク
ニャース「……」チラッ
ピカチュウ「」
ニャース「」
ニャース「……」テクテク
―――――――――――――――
体が軽い……
あぁ、俺死んだんだな……
ニャース、俺の頼み、聞いてくれたかなぁ……
聞いてくれるわけないか……
ニャース……ごめんな……
サトシ……
―――――――――――――――
「…………ウ」
え?
「……カ……ウ!」
誰だ?
「……カチュウ!」
俺を呼んでる……?
「ピカチュウ!」
ピカチュウ「……」パチッ
サトシ「ピカチュウ!ピカチュウ!大丈夫か!?」
ピカチュウ「(サトシ……!?それにどこだここは……病院か?)」
アイリス「ピカチュウ!よかった!」グスッ
デント「ピカチュウー!よかったねぇ!」
ピカチュウ「ピカッチュー!」
ピカチュウ「(どういうことだ……?)」
サトシ「ピカチュウ、お前何があったか覚えてるか?」
ピカチュウ「……?」
アイリス「私達、ピカチュウがいなくなって探してたのよ」
デント「そしたら近くの草むらで音がしたから近寄ってみたんだ」
サトシ「そしたらボロボロで気絶した状態でお前が見つかったんだよ」
サトシ「で、すぐにポケモンセンターに連れてって、治療してもらったんだよ」
アイリス「ジョーイさんが言うには1週間も入院してれば治るだろうって!」
サトシ「見つけた時はびっくりしたけど本当によかった!」
ピカチュウ「(……おかしい)」
ピカチュウ「(俺はあの時完全に意識を失ったはずだ……)」
ピカチュウ「(サトシ達のいるところからも大分離れてた)」
ピカチュウ「(自分一人で歩くことは不可能なはず……)」
ピカチュウ「!!」
ピカチュウ「(まさか…………)」
ピカチュウ「(……ニャース……?)」
―――――――――――――――
―アジト―
ニャース「……」
ニャース「(……これで、よかったのかニャ……)」
ニャース「(あの時、ピカチュウを置いてくこともできた)」
ニャース「(ピカチュウがいなくなって混乱してるジャリボーイ達を殺すこともできたはずニャ……)」
ニャース「(でも……)」
ニャース「(何かが、それにブレーキをかけて……決心を鈍らせた……)」
ニャース「(ピカチュウ達は憎い……けど……)」
ニャース「(仲間を失う辛さを……ニャーは知ってるニャ……)」
ニャース「(ニャーは……ニャーは……)」
ニャース「……ムサシ……コジロウ……」ポロポロ
おしまい
勝っても負けても切ないな…
乙
Entry ⇒ 2012.10.07 | Category ⇒ ポケモンSS | Comments (0) | Trackbacks (0)
結衣「まあ漆黒の騎士【ダークナイト】の私には関係ないことだ」ドヤァ
あかり「う、うん…」
京子「なんかのアニメにハマったんじゃないのー?」パリ
ちなつ「・・・あぁ、結衣先輩素敵ですっ」
あかり「んん・・・?み、みんなあんまり気にしてないのかな?」
結衣「うっ・・・!み、右目がっ!」ガクッ
あかり「ゆ、結衣ちゃんっ!?」トテテ
結衣「ぐうぅ・・・」
あかり「痛いの!?ど、どうしようっ、みんなぁっ」
京子「ちなつちゃーん、お茶ー」
ちなつ「自分でやってくださーい」パリ
京子「えー」パタパタ
あかり「みんなぁ!?」
結衣「う、ぐぁぁっ!右目が疼くぅっ!?」ガタッ
あかり「!?」ビク
あかり「な、なにっ、結衣ちゃん!」
結衣「わ、私の右目は・・・」
あかり「・・・っ!!」ゴク
結衣「邪眼なんだ・・・・・・」
あかり「・・・」
あかり「・・・」
あかり「・・・」
あかり「え、あ、んん・・・?」
京子「お茶ぁー」
ちなつ「やー、ですー」
あかり「敵!?」
結衣「そう、敵・・・。このセヴンフォレストを制圧しようと企んでいる敵・・・絶対運命黙示録(アポカリプス)である私を支配して世界を崩壊させようとする暗黒の意思・・・」
あかり「んん!?」
結衣「そう、アンーカが近くに来ているんだよ!!!」クワッ
結衣「近づくなあかり・・・いや、シャイン!!!」
あかり「誰!?」
結衣「近付いたら、また、私はシャインを殺してしまう・・・またループをしなければ・・・だから・・・」
あかり「え、えと・・・」
結衣「・・・・・・さらばっ!!」ダッ
ダンッ
スチャ タタタッ
あかり「ゆ、結衣ちゃーーんっ!!?」
京子「ぷっ、くく・・・あは、は」
あかり「京子、ちゃん・・・?」
京子「あはははははっ!!」バンバンバンバン
京子「あ、絶対運命黙示録(アポカリプス)だって・・・あはは、アンーカって、うく、あはは・・・」プルプル
京子「あー・・・ダメ、死ぬ」
あかり「結衣ちゃん、どうしちゃったのかな・・・」シュン
あかり「病気とかだったらどうしよう・・・」シュン
京子「ふふ、多分治らない病気だからね結衣のは」
あかり「!?」
京子「あー、久しぶりに面白いもの見た。こりゃ明日から楽しみだー」パタリ
あかり「な、治らない病気って・・・」プルプル
ちなつ(かっこいいけどなぁ)
あかり(どうしようっ、結衣ちゃん死んじゃうのかなぁ)ジワ
あかり(・・・京子ちゃんも支えてあげてねって言ってた。きっと大事な事なんだ)
あかり(・・・あかり、頑張らなきゃ)
あかり(あかりが結衣ちゃんを支えてあげるんだ!)
あかり「頑張るよぉっ!」
ガララ
結衣「遅れてごめん、皆」
あかり「あ、結衣ちゃんっ。昨日は・・・・・・って、んんん!?」
あかり「け、怪我でもしたの・・・?」
結衣「ん、あぁ・・・これ?」
あかり「目と腕・・・大丈夫?」
結衣「うん、封印してあるからね」
あかり「・・・!?」
あかり「あ、あぽかり・・・?」タジ
結衣「詳しくは言えない・・・ごめん、シャイン」
あかり「あ、うん・・・」
結衣「・・・」
あかり「・・・」
結衣「詳しくは言えないんだ」チラッ
結衣「深紅の姫君【レッドプリンセス】のあか・・・・・・シャインになら、話しても、いいかも、しれない」チラッ
あかり「・・・あかりのこと?」
結衣「ふぅ・・・やっぱり覚えてないんだね、シャイン」
結衣「深紅の姫君っていうのはシャインの前世、なんだよ」
あかり「!!!!???、!!」ガタッ
あかり「あ、あの・・・」
京子「うわ、なんか昼よりやばげな感じ?」
あかり「京子ちゃんっ」
結衣「アンーカ・・・セヴンフォレスト・・・四色の・・・」ブツブツ
京子「うわぁ・・・」
あかり「ゆ、結衣ちゃんどうしちゃったの・・・!?」ボソッ
京子「軽い精神疾患が重度の精神疾患になったみたい・・・」ボソッ
あかり「せいしん・・・?」
京子「漫画や音楽好きなら誰でもなる病気なんだよ、結衣の場合はゲームだろうけどこれは・・・凄いなぁ」
あかり「・・・誰でも?」
あかり「・・・・・・ミラクるんはアニメだよ?」
ペシーン
あかり「あうっ・・・うぅ」
京子「そ、それは今はいいのっ」カァァ
あかり「ご、ごめんなさい」シュン
京子「はぁ・・・枕があったら埋めたい・・・」カァァ
京子「しかし、これはまずい」
あかり「・・・救急車よ、呼んだ方が?」スッ
京子「やめてあげて、ただでさえ呪縛が一生付きまとうことになるのに!やめてあげて!結衣が死んじゃう!」
あかり「」ビク
京子「・・・とりあえずやめてあげて」ポロポロ
あかり「う、うん・・・分かった」
あかり(結衣ちゃんなんの病気なんだろう)
京子「私はどうすればいいの、教えてよっミラクるん・・・っ!」ポロポロ
あかり(き、京子ちゃんまでさっきからどうしたのかなぁ)オドオド
ガララッ
ちなつ「漆黒の騎士!!!」
あかり「ちなつちゃん!!?なに、その格好!?」
あかり「んん!?」
ビシッ
ちなつ「話はさっきから聞いてたよあか・・・シャイン!前世からの繋がりなら私だって負けないんだからっ!」
あかり「んんん!?」
ちなつ「結衣先輩・・・いや、漆黒の騎士様!」
結衣「・・・ちなつちゃん?」
結衣「・・・違う」
ちなつ「愛しあっ・・・・・・え?」
結衣「ちなつちゃんは桃色の狂乱鬼【ピンクマーダー】なの・・・。前衛なの・・・」プイ
ちなつ「ま、まーだー・・・」プルプル
ちなつ「そ、それに・・・?」
結衣「輝ける桃色の姫君【シャイニングピーチ】は・・・ないよ」
ちなつ「」ガァン
結衣「・・・・・・引く」
ちなつ「」ガァン
京子「あぁ・・・ちなつちゃん、邪気眼の地雷を・・・」
あかり(?)
あかり「・・・う、うん、よくわかんないや」
京子「それがいいよ」
ちなつ「あ、あ・・・」カァァ
ちなつ「う」ジワ
ちなつ「うわぁぁぁん!」ダッ
あかり「ちなつちゃん!」
京子「今夜は枕が足りないよ・・・」
そうなんだ、乗ってあげないんだ
結衣「あー・・・涼しー・・・」
あかり(あ、あれ外してもいいんだ!?)
結衣「今日は何しよっか、二人とも」
京子「ん、あぁ決めてない」
結衣「なんだ、いつも通りか・・・」ペタリ
あかり(あ、あれ?)
結衣「新作ゲームのチェックでも・・・♪」
京子「あ、私もチラシ見ていい?」
結衣「いいよ」
京子「わーい。あ、ミラクるんのゲームだ!すごい、ゲーム化情報は嘘じゃ・・・!!」
あかり「え、えっと。二人とも?」
結京「ん?」
結衣「なにが?」
あかり「せ、セヴンフォレストとか、絶対運命黙示録とか・・・」カァァ
結衣「あぁ、それ?それね」
結衣「飽きた」
あかり「!?」
結衣「設定がねーちょっとね。まぁ、新作ゲームでもしながら次の考えよっかなって」
あかり「そ、そういうものなの・・・?」
京子「ミラクるんのゲーム・・・予約しなくちゃ・・・!」
あかり「あ、えとー・・・」
結衣「お、これ次回作。買っちゃお」
京子「初回特典・・・ミラクるんステッキゲームver・・・これは!!!」
あかり「んんー・・・?」
あかり「はう・・・みんな来ないなぁ」ペタリ
あかり「結衣ちゃん京子ちゃんはゲームで早く帰っちゃうし、ちなつちゃんも最近・・・」
あかり「うぅ・・・人恋しぃよぉ」
ガララッ
結衣「深紅の赤薔薇【レッドローズ】!」
京子「アッカるん!」
あかり「んん!?」
京子「何を言っているのか。ガンホーに操られてしまったのね結衣、良いわ、このミラクるんの後継、魔法少女キョウコるんが・・・」
クルクル
ビシッ
京子「元に戻してあげる!」
結衣「クク・・・面白い事をいう、またアンーカか?」
京子「ここじゃ危ない!表に出ろー結衣ーっ!」バッ
結衣「望むところさっ!白金の騎士!!」ダンッ
スチャ スチャ タタタッ
あかり「・・・」
あかり「・・・」
あかり「・・・」
あかり「」パリ
あかり「んー♪うすしお美味しー♪」
あかり「・・・はぁ、皆戻って来ないかなぁ。現実に」パリ
ゴロン
あかり「・・・今日もいい天気だなぁっ」
~おわり~
コンコン
ともこ『ちなつー?そろそろ出てこないー?最近学校帰ってきてからおかしいよ?何かあったのー?』
ちなつ「なんでもない、なんでもないもん!」
ともこ『さっき近所の人から貰った【桃】切ったんだけど食べ・・・』
ちなつ「桃!?」
ちなつ「うう・・・いらないっ!」カァァ
バフ
ちなつ「・・・」
『私です!輝ける桃色の姫君です!』
『・・・引く』
ちなつ「~~~~~~~っ!!!」バタバタバタバタ
ちなつ「な、なんであんなこといったんだろ・・・」カァァ
ちなつ「もー・・・ばかばかばかばかっ!」
ちなつ「・・・うぅぅぅぅっ!」ポフ
ちなつ「・・・・・・」
ちなつ「・・・輝ける桃色の姫君」
ちなつ「少し、いいと、思ったんだけどなぁ」グス
~ほんとにおわり~
Entry ⇒ 2012.10.07 | Category ⇒ ゆるゆりSS | Comments (0) | Trackbacks (0)