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淡「女子高校生の日常」
『淡と誠子』
淡(――ああ、燦々と輝く太陽と、森に騒めく小鳥のさえずり)
淡(小川はせらせらと流れる。私は今そんな中――)
淡(……なぜ釣りをしているのでしょうか…)
ザパーンッ
誠子「20匹目~♪」チャポン
淡(私の隣で機嫌よさげに魚をバケツに入れているのは亦野誠子――二年生で、私の先輩になります)
淡(麻雀においては『白糸台のフィッシャー』などと言われています。実生活でも釣りが趣味だったようです)
淡(たまに部室に持ってくる釣竿やら釣りトークやらでもそれは確認できた気がしますが、単なるキャラ付けだと思っていました)
淡(そうです、この先輩が私をここに連れてきたのです)
淡(それもこれも3日前――)
~~
誠子「なあ淡」
淡「ん~?なに?」
誠子「今度の祝日、部活休みじゃないか」
淡「うん」
誠子「予定ある?」
淡「いや、特に。家でのんびりしようかな~って」
誠子「折角休みなんだからさ、遊ばないか?」
淡「え……セーコと?」
誠子「ああ。いいところ連れて行ってやるから」
淡「!」
~~
淡(何が『いいところ連れて行ってやるから』だよ、全く!)
淡(こんなんだったら家でゴロゴロしてたほうがマシだったよ!)
淡(朝っぱら起こされて長い間電車に揺られ、連れてこられたのが山の中っておかしくないかな!)
淡(勘違いして一番可愛いワンピースとか来てきた私がバカみたいじゃん!)
誠子「よっと」ザパーンッ
淡(しかも何でアンタは制服なんだよ!)
淡(でも聞いたら、『制服が一番動きやすいから』とか言いそうで怖いよ!)
淡(というかいつも思ってたけどその着こなしなんなの!理解できないよ!)
淡(でもこれは心の中に留めておく、だって私は従順な後輩なのだから)フフン
誠子「どうした淡……。一匹も釣れてないのにしたり顔とかして」
淡「な、なんでもない!」
誠子「っていうか反応してるじゃないか!ほら、速く!」
淡「えっこれって釣れてるの!?」
淡「てやっ!!」ザパーンッ
誠子「……残念、逃げられたな」
淡「む~~悔しい……」
誠子「これは一から教えたほうがいいかもな」グイッ
誠子「ほら、こんな手応えがあったときは~~」ギュッ
淡「……ねえセーコ」
誠子「うん?」
淡「胸、全然無いね」
誠子「運動に邪魔になるから要らん」キリッ
淡(だよねー)
淡(結局セーコがバケツいっぱいに釣って、お昼に一緒に食べました)
淡(おいしかったけど、これからはセーコの誘いには応じないようにしようと思いました)
『淡と尭深』
淡(祝日も終わり、久しぶりの学校です)
淡(授業はいつも通り退屈ですが気にしません)
淡(正直なトコロ、私は学校に麻雀をしに来ているようなものです)
淡(更にぶっちゃけると麻雀で推薦とかもらい放題でウハウハなので勉強なんてしなくていいのです)
淡(ということで学校生活での長い長い前座が終わり、ようやく本番がきました)
淡「こんにちはーっ!!」バンッ
淡「ってあれ?私が一番乗りか」
淡「まぁいーや。卓の準備でもしとこっ」フフン
淡「電源オンっと。よーし完璧」
淡「おやつあるかなー?」
淡(白糸台高校の麻雀部室は2部屋に別れています)
淡(うぞーむぞーがよってたかっている練習部屋、そしてこの一軍部屋です)
淡(一軍部屋はなぜかマンションの部屋みたいな感じで広々としていますが、入れるのはチーム虎姫の5人だけです)
淡(中身はソファ、机と椅子、小型の冷蔵庫や給湯器もあったりします。マンションというよりホテルの一室)
淡(まぁそんなことですからみんな好き勝手にやっています。麻雀も一日に1、2回しか打ちません)
淡(そんな部屋に一年生で入れる私はやはり天才なんだなーっていつも思っています)フフン
淡(ま、そんなフリーダムな部屋なのでテルがよくお菓子を隠しています)
淡(スミレやセーコが自分の武器を持ち込んで磨いていたりするのもよく目撃します)
淡(あ、スミレはたまに弓道部に赴いて指導もしているらしいです。ホント大変だと思います)
淡(スミレは部長でもあるので、雑居部屋に行って指導することもあるようです)
淡(私はそんな事もないので、いつもホームルームが終われば一軍部室へと直行です)
淡(今日は私が一番乗りでした。一年生が私一人というのを考えると、そう珍しいことではありません)
淡(それに、一番乗りだとテルの隠しているお菓子を勝手に開けるというイタズラができます)
淡(テルも自分のお菓子を他人に分けないなんて頭の固い人間じゃないけど、先に開けとくと反応が可愛いんです)
淡(だからやめられないっ!今日もいつもの戸棚の中に入れているはず!)
ガチャッ
淡「!!」
尭深「……あ、淡ちゃん。おはよ」
淡「お、おはよーございますっ!」ペコッ
尭深「どうしたの、珍しいね……」ドサッ
淡(この方は渋谷尭深、二年生で私の先輩にあたります)
淡(メガネをかけてて、物静かな人です。よくお茶を携帯しています)
淡「せ、セーコは一緒じゃないの?」
尭深「うん。誠子のクラスは先生のお話が長いから……」
淡「へー…」
尭深「………」
淡「どうしたのタカミー?」
尭深「淡ちゃん、また宮永先輩のおやつ探してたの?」
淡「!!何でバレたの……」
尭深「棚の戸に少しだけだけど隙間ができてる……」
淡(そんなの気づくかよ!?って思うけど、気づいちゃうんです。タカミなら)
淡(それというのも戸棚に一番触っているのはタカミなのです。何故なら――)
尭深「あんまり悪戯すると宮永先輩怒っちゃうよ?もう……」
淡「え、えへへ……」
尭深「お茶でも淹れるね」カチャッ
淡(そうです、戸棚の中にはタカミのお茶コレクションが詰まっているのです)
淡(これでも家のコレクションに比べると少ないらしいですが……。こんなにあって飲みきれるのかなといつも思っています)
尭深「」コポコポ
淡(お茶を淹れているタカミを見ているとなぜか癒されます)
淡(この学校に茶道部があれば麻雀部と兼業していたかもしれません)
淡(一度でもいいから和服に身を包んだタカミを見たいものです)
尭深「はい、どうぞ」
淡(タカミは時たまお茶と一緒にお菓子も出してくれます)
淡(テルのお菓子を盗み食いしたあとだったりするときつかったりするのですが……今日はそんなこともありませんでした)
淡「ありがとー」ズズ
尭深「おいしい?」
淡「うん、とっても」
淡(実はお茶のおいしさなんてあまり分からないのですが、報いるためにいつも『おいしい』と言っています)
淡(たまにめちゃくちゃ苦いお茶を出してきたりすることもあり、大変です)
尭深「………」ズズ
淡(ま、そういうことで、用が終わるとタカミはまた物静かな少女に戻ってしまいます)
淡(しかしそんな時間も悪くはありません。私もぼーっとお茶を楽しんでいます)
淡「ねえタカミー」
淡(しかし、ふと今日は疑問があったのでそれを聞いてみることにしました)
尭深「なに?」
淡「セーコの『フィッシャー』とかスミレの『シャープシューター』とかって周りが言い出したことじゃん」
尭深「うん」
淡「……タカミの『ハーベストタイム』って誰が命名したの?」
尭深「わたしだけど……?」
淡「そ、そう……」
淡(案外人って分からないものなんだな、と痛感する私でした)
『淡と菫』
ガチャッ
淡「……今日も私一人かぁ」
淡「おやつおやつっと~~」
菫「残念だったな」
淡「!いつから!」
菫「お前と同時だ」
淡(この背の高いお方は先程述べた弘世菫先輩です)
淡(三年生で、麻雀部の部長)
淡(しかしこれが固い性格で――)
菫「淡、久々に二人きりだ。話がある」
淡(これで三度目。内容はわかりきっていますが……)
菫「お前さ、先輩に対してため口を聞くのは百歩譲ってよしとしよう」
菫「だけど、照のおやつを黙って食べるのはどうかと思う。さすがにそれは年長を舐めすぎだ」
淡(……と、これが日常)
淡(スミレはいつも私にお説教して、まるで先生かお母さんみたいです)
淡(楽しい麻雀部の中のただ一つの懸念になっているのがスミレなのです)
淡(もちろん、スミレが嫌いだとか苦手だとか、そういうことはあり得ません。敬愛すべき先輩だから)
淡(だけどテルにくっついたりするとやたらとお説教を貰います)
淡(他にもテルのことについては過敏です。やはり麻雀部のエースだから気がかりなのでしょうか)
淡(そんなこんなで、私とスミレは端から見てもあまり相性が良いようには見えていないらしいです)
菫「…………わかったか?」
淡「………」
菫「返事は?」
淡「え?」
菫「……お前まさか全部聞き流してたんじゃ…」
淡「え、いや!はい!聞いてました!」
菫「………」ジト
淡(こういう目をしたスミレは100%私を疑っています)
淡(まぁ今のは私が悪いんだけど……)
菫「ま、これから気を付けるように。わかったな」
淡「アイアイサー!」ビシッ
菫「………」
淡(……もう一つありました。菫には冗談が通じないのです)
淡(要は頭が固いのです。実直で真面目と言えば聞こえは良いのでしょうが)
淡「そ、それにしても誰も来ないね~」
菫「ああ、そうだな」
淡「将棋でもしよっか」
菫「終わる前に誰か来るだろう」
淡「むぅ……」
淡(正直なトコロ、スミレはテルよりとりつく島がありません)
淡(脚を組んで仏頂面をしているスミレを見て、私の中で反撃したい気持ちが昂ってきました)
淡「ねえ、スミレ」
菫「何だ?」
淡「私、これからテルにイタズラするのやめる」
菫「当然だ。さっき約束しただろう」
淡(少しは誉められるかと期待していましたが無駄でした)
淡(……私が話を聞いていなかった所為でもありますが)
淡「でもさ、テルにイタズラできなくなったらストレスが発散できなくなるの」
菫「お前にストレスなんてあるのか?」
淡「私にもあるよ~ストレスくらい」
淡「学校なんて部活くらいしか楽しくないし」
菫「確かにお前同学年の友達いないな」
淡(何という憎まれ口を叩くのでしょう)
淡(……事実だけど)
菫「それで?何が言いたい?」
淡「……代わりに、スミレにイタズラしてもいい?」
菫「は?」
淡「スミレはお菓子とか持ち込まないから、物理的なイタズラはできなくなるけど」
菫「悪戯って……どういう?」
淡「先に言ったらイタズラじゃない!」
菫「む……まあ確かにな」
淡(菫は頭が固いという割には人の意見はちゃんと聞きいれます)
淡(要は理屈に固められた人……ってことですね)
菫「私へ悪戯するようになれば、照にはしないんだな?」
淡「うん」
菫「……なら好きにしろ」
淡(本当にテル思いの部長です。何か特別な想いを抱いているのではと勘違いしそうな程に)
淡「じゃ、まず」ゴロン
菫「っ?!」
淡「まずは膝枕」
菫「悪戯って、召使いにすることじゃないぞ」
淡「大丈夫、そこは解ってるから」
淡「スミレの太もも気持ちいーねー♪」ゴロゴロ
菫「うっ……」ゾクッ
菫「こ、こら淡。大人しくしろ」
菫「それにスカートの上からなんだから太ももの感触なんて分かったもんじゃないだろ」
淡「そんなことないよ、スミレも私が脚の上でゴロゴロしたのちゃんと感じたでしょ?」
菫「う……。そ、その通りだが」
淡(顔を上げて見てみると、そこには俯いたスミレの顔が)
淡「」ジーッ
菫「そ、そんなにじろじろ見るな……」フイッ
淡「スミレ、変な声出たね」
菫「膝枕やめるぞ」
淡「大人しくしまーす」ゴロン
淡(実を言うと、私の方も少しドギマギしていました)
淡(変に高いスミレの声と、明らかに赤らんでる頬を見て気分がおかしくなったのでしょうか)
淡(そんなわけで顔を横向きに倒して、スミレの顔が視界に入らないようにしたのでした)
菫「……なあ、淡」
淡「何ですか?」
淡(スミレのその声は、さっきの変な声よりは幾分か元には戻っていました)
淡(ですがやはり本調子ではなく。逆に中途半端で、私に不安感を募らせました)
淡(しかし、スミレが次に発した言葉は完全に予想を裏切るものでした――)
菫「私のこと、嫌な先輩だと思ってるか?」
淡「え?」
淡(それは私がスミレから初めて聞く『自分』についての問いでした)
淡(そういえば聞いたことがなかった。スミレと言えばお説教とお小言でした)
淡(でもそれは全て私に対する注文であり、スミレが自分自身を語るなんてことは無かったのです)
淡「……嫌だなんて思ったことは、一度もないよ」
菫「そうか……」
淡(『嫌な先輩か?』などと聞いておきながら、今までのことに対する謝罪などはありませんでした)
淡(でも、それは当然です。スミレは部長で、自分の行うことに責任を持たなくてはいけない立場だから)
淡(自分について自信が持てなくなっても――自分のしたことに自信があれば、それを覆すような真似はしてはいけないから)
淡「私は先輩のこと……立派だと思います」
淡(それは、自然に口から出た敬語でした)
菫「……ありがとう」
淡(そう言って、スミレは私の頭を撫でてくれました)
ガチャッ
照「ごめん、遅れた」
菫「待ちくたびれたぞ……」
淡「やっぱり将棋でもしてた方がよかったじゃん」
淡(そんな憎まれ口を叩いた私に対して、スミレは苦み混じりの笑みで答えてくれました)
淡(私は思いました、この先輩のために――全国の頂点に立ちたいと)
『女子高校生と将棋』
淡(前も言った通り一軍部屋はいろいろやっているので、麻雀以外のことにぼっとーすることがあります)
照「」パチッ
堯深「3五桂打」
淡「」パチッ
堯深「2一飛打」
照「リーチ」パチッ
堯深「2三桂成」
菫「………」
淡「うーん……」
誠子「大星零段、持ち時間の25分が経ちましたので、これから持ち時間3分です」
淡「チー」パチッ
堯深「同金」
菫「………」イラッ
照「リーチ」パチッ
堯深「同桂成」
菫「だあああああーーーーっっ!!!!!」ダイパンッ
照「」ビクッ
淡「!?どうしたのスミレ!」
菫「お前ら!!王手をリーチって言うのやめろ!!」
菫「あと何だよチーって!!食っただけじゃねーか!!」
照「職業病で」
菫「意味ちげーよ!!」
淡「」パチッ
菫「何事もなかったかのように再開するな!」
照「ダイレクトアタック!」パチッ
菫「麻雀ですらねーよ!」
淡「ぐ……うわぁぁあっ!!」バタッ
菫「何で倒れるんだよ」
堯深「大星零段の魂が奪われてしまった為、宮永零段の勝ちです」
菫「魂!?」
誠子「次回、『淡、死す』。デュエル、スタンバイ!」
淡「ところがどっこい、生き返るんだよねこれが!」
宮永「バカな……!このリーチでお前の王は完全に詰んだハズ……!」
淡「私はここに布石を置いていた!トラップ発動!『実は居た角』!」バシィィィィッッ!!!
堯深「同角」
菫「うるせーよ!!もうやめろ!!」
菫「何悪乗りしてんだお前ら!!」
淡「はぁ~あ、折角いいところだったのに」
照「ねー」
堯深「はい」
誠子「ですよ」
菫「え、何……これ私が悪いのか……?」
淡「一言でいうならっ!K!Y!」ビシッ
菫「!!」ガーンッ
菫「そ、そうだったのか……」ガクッ
照「ま、将棋ばっかりやってる訳にはいかないから……」スクッ
菫(!やっと麻雀を……)
照「」タン
淡「甘いよ~!カン!」タン タン タン タン
菫「オセロしながらカンとか言うな!!」
堯深(チーム虎姫は今日も平和でした)
『女子高校生と決め台詞』
照「」タンッ
堯深「」タンッ
誠子「チー」タンッ
淡「」タンッ
菫(よしよし、今日はみんな真面目に麻雀してくれてるな)
誠子「ポン」タンッ
菫(これで三副露……そろそろ来るか)
堯深「」タンッ
誠子「……深淵に潜む主」スッ
菫(えっ?)
誠子「足掻いても無駄だ、このフィッシャーから逃れる術は無し――」
誠子「ツモ!3000・6000っ!」
菫(ええぇぇぇっ!!!?)
淡「うわードラ3つ抱えてるとかあ」ジャラッ
照「親っかぶり……」ジャラッ
菫(え、ちょ!?何でみんな無反応なの!?)
堯深「」ジャラッ
菫(ま、また変なことやってるのかこいつら……)
~南二局~
堯深「」タンッ
淡「ふふっ、甘いねタカミ」
堯深「え……っ!?」
淡「ロン!!《宙に揺らめく夢幻の星》……と書いてメンチンイッツー!16000!」
菫(そらにゆらめくむげんのほし……!?)
堯深「うっ……!」ガクッ
菫(何でリアルダメージ入ってんだよ!)
照「淡零段……まだそんな奥の手を隠していたのか……!」
誠子「馬鹿な……ここにきて……っ!」
菫「おい待て!ストップ!」
淡「なに?」
菫「なに?じゃねーよ!さっきから何言ってるんだお前ら!」
淡「?真面目に麻雀してるよ?」
菫「してねーだろ!」
照「菫、もしかして知らない?」
菫「な、何を……」
照「自分の必殺技にね、名前をつけるの。そうした方が愛着が湧くしその熟練も早くなるって言うよ」
菫「は……?」
照「ま、そんなことで。私たちはいたって真面目に麻雀してる」
菫「あ、ああ……そう、なのか」
菫(確かに……さっきの誠子は三副露してから一巡でツモっていた)
菫(ほ、本当なのかな……?)
~南三局~
照「」ガシッ!!
淡「来るか……あの技が!」
誠子「何ていう風圧……!」
菫(なんだこれ)
照「受けてみろ――《約束された勝利の天地解離す開闢の剣》!!」バシィッ!!
照「300・500!」
誠子「くっ……!」
淡「ふん……猪口才な!そんな安手で我が進撃を防げるか!」
照「……止めてみせる!さぁオーラスだ!」
淡「ふっ……この親でうぬら纏めて飛ばしてくれるわぁ!!」
照「っ……!望むところだ!」
菫(いや違うだろこれは)
~オーラス~
菫(オーラス、堯深の能力か)
菫(……堯深も変な台詞叫ぶのか?まさか…)
淡「」タンッ
堯深「ポン」タンッ
照「ポン」タンッ
堯深「ん――」スッ
菫「」ゴクッ
堯深「――収穫の時は来たれり」
菫(やっぱ言うのかよ!!)
堯深「燦々と輝く陽を受けし、豊穣の化身たちよ」
菫(なげーよ!!)
堯深「私の元へ集いなさい!ツモ!」
堯深「大三元。8000・16000です!」パラッ
淡「う、うわー!!」
照「ま、眩しい……!」
誠子「最後の最後に……!ぐあ゛あ゛あ゛あ゛っ!!」
菫(誠子の演技上手いな)
堯深「世に再び安寧は齎され、大地には光が降り注ぐでしょう……私の逆転トップです」
淡「うー負けたかぁ」
照「私が最下位……」
堯深「珍しいですね」
照「連チャン狙いに行ったら堯深が怖いなぁって思って点数稼げなかった」
誠子「確かに和了が窮屈そうでしたね」
菫(何お前ら普通に感想言い合ってるの!?)
照「さて、次は菫がここね」スクッ
菫「あ、ああ……」ストン
~東一局~
菫(張った……)
菫(こっちの待ちなら誠子から溢れそうだな)タンッ
堯深「」タンッ
菫(……私も言わなくちゃならないのかな)
菫(た、確かにあの理屈は一理ありそうだし……)
菫(け、決して言いたいとかじゃないからな!うん)
誠子「」タンッ
菫「――暗闇を切り裂く一閃」
菫「ロン!シャープシューティング、8000!」
照「ぷっ」
菫「え」
淡「ぷっ……くくっあははははっ!!」バタバタ
照「~~~!!」バタバタ
菫「ちょ」
誠子「~~~っ!!」プルプル
堯深「……ふっ……ふふっ……っ!!」プルプル
菫「」
淡「や、やめて……お腹っ……痛い……」パタパタ
淡「テル、録れたー?」
照「も、もう~~バッチリ……!ふ、ふふっ……くくっ……」
菫「お、前らぁ~~っ!!」プルプル
菫「全ッッ員!!そこになおれぇーー!!」
淡(その後レコーダーは弓道場の的に設置され、13射目に菫の手で破壊されたとさ)
『女子高校生と写真撮影』
菫「みな聞いてくれ」
淡「はーい」
堯深「」コトッ
誠子「」ピタッ
照「」モグモグ
菫「今度新聞部が私たちの特集を組みたいそうだ」
淡「へえーお目が高いね」
菫「それでチーム虎姫の一人一人の写真を撮りたいと言ってきている」
誠子「いつですか?」
菫「……それが、今日なんだ」
照「今日?」
菫「すまん、すっかり言うのを忘れてた」
菫「16:30くらいに来るらしいから……」
淡「はーい」
菫「じゃ、まだ野暮用があるので行ってくる」ガチャッ
バタンッ
照「………」スクッ
淡「テルー?」
照「」ビシッ
誠子「………」
淡「なに……してるの?テル」
照「ポーズの確認」
照「うーん……こっちの方が可愛いかな」ビシッ
誠子「前の雑誌みたいな感じでよくないですか?キラッ☆みたいな」
照「あれか」キラッ☆
照「でもまたこれ?って思われたらどうしよう」
誠子「あー確かに……」
誠子「じゃあ、このソファ使ってこういうのは……」
誠子「ここに三角座りして、膝におでこつけながら横を向くっていう」
照「雑誌とかでよく見るポーズ?」
誠子「そうですそうです」
淡「テルもセーコも雑誌とか見るの!?」
照「どんな感じの笑顔がいいかな」
誠子「少し妖しげな感じで。普段みたいに笑いすぎるのはアウトです」
淡「なんでスルーされたの……」
堯深「」スクッ
淡「あれ?タカミどっか行くの?」
堯深「……トイレ」
照「」フッ
照「さっきみたいな感じで?」
誠子「完璧です。モデルになれますよ」
照「そ、そうかな……」テレテレ
淡「休日でも制服系女子のくせに何を偉そうに……」
誠子「何か言ったか?淡」ギロッ
淡「なんでもないですー」
照「さて、私のポージングは決まり」
誠子「じゃ、私のも見てください。私はかっこいい系でお願いします」
照「それならリーチ棒をこう構えて……」
淡(意外にもあの二人は話が合うのでした)
誠子「じゃ、これでいいですかね」ビシッ
照「うん。完璧」
淡「」ウズウズ
照「さて、堯深も戻ってきてることだし麻雀を……」
淡「えぇーーっ!!?」
照「?どうしたの」
淡「私はスルーなの?!」
照「……考えてほしいの?」
淡「ほしいよ!私だけ棒立ちって嫌じゃん!」
誠子「そうだったのか」
照「淡はどんな感じがいい?」
淡「やっぱりねぇ、不思議というか神秘系がいいね!」ムフー
誠子「却下」
淡「なんで!?」
照「普通の可愛い系にしよう」
誠子「だったら先輩のアレでよくないですか?キラッ☆で」
淡「更にまたスルーするの!?」
淡「というか扱いがぞんざいじゃない?!テルのお下がりって!」
照「……イヤなの?」
淡「え」
誠子「せ、先輩……あまり気を落とさないで……」
照「でも……ッ、可愛がってた後輩が急に反抗期になって……」
淡「私、テルの子供なの!?」
誠子「あーあー泣ーかしたー泣ーかしたー」
淡「なんなの!?小学生なの!?」
淡「っていうか別にイヤじゃないよ!扱いがぞんざいじゃないかって思っただけで!」
照「そう?」ケロッ
淡「泣いてないじゃん!!」
誠子「え、騙されたのかお前」
淡「いや別に信じてないよ?!」
淡「ぜーぜー……」
堯深(淡ちゃんが突っ込み役なんて相当な非常事態ね……明日は雪かなぁ)
堯深「ほら淡ちゃん。お茶」
淡「ありがとタカミー、突っ込みすぎて喉枯れちゃった」ズズ
コンコン
新聞部「あのー、これから撮影よろしいですかー?」
照「どうぞ」
淡(みんなが撮り終わった後にスミレが合流し、無事に撮影は終了したのであった)
~一週間後~
淡「みんなー!部誌発行されてたよー!」
誠子「どれどれ?」
菫「……って、あぁ!?」
淡「あははー菫だけ棒立ちで証明写真みたい!」ケラケラ
菫「う、うるさい!っていうかなんでお前らポーズとか決めてるんだよ!」
菫「道理で撮影の時に不思議がられたわけだ!」
菫「……っておい、堯深」
堯深「!」
菫「……こ、これって何だ?どこの魔法少女だ?」
堯深「え……」
誠子「ひ、弘世先輩!そんな言い方っ……」
照「堯深」ポンッ
堯深「……え」
照「……若い頃には、色々やりたくなるものだよね。わかるよ」
照「でも、その後に振り替えって赤面するような事も……一つの経験になる」
照「あまり、深く考えないないようにね」
堯深「えぇぇーーー!!!?」
淡(そうしてタカミーの心には深い傷跡が残っちゃったとさ)
『女子高校生と盗み食い』
照「………」
淡「………」
淡「あ、あの~」
照「」ギロッ
淡「ひっ」
淡「………」
淡(ダメだ……完全に人殺しモードに入っちゃってるよ……)
照「今私のこと人殺し、とか思わなかった」
淡「ふきゅっ!?」
照「ふんっ」フイッ
淡「うぅ……」
淡「い、いいじゃん……プリン一つくらい……」
照「く・ら・い……!?」ゴゴゴゴゴ
淡「ひぃぃっ!?」
照「言っとくけど!あのプリンは産地直送の最高級プリン!何のために私が雀荘に赴いたと思ってるの!」
淡「雀荘行ったの!?」
照「背に腹は変えられないから」
淡(……そうです、今日テルにイタズラしてやろうと思って食べてしまったプリン)
淡(五人分あったから大丈夫と思ったのですが、その中の一つが最高級プリンだったようで……)
淡「そ、そんなに大切な物なら部の冷蔵庫になんて入れなきゃ良かったんじゃ……」
照「」ギュルルルルルルル
淡「ひぇぇっ!?ごめんなさい!反省してますから!」
照「賠償金、反省文100ページ、一週間部室の掃除、肩揉み、家の手伝い、奴隷……」
淡「そ、そんなぁ……」ナミダメ
ガチャッ
菫「お……何だこの空気は」
照「菫聞いて。淡が私の最高級プリンを泥棒猫のように盗み食いしたの」ビシッ
菫「ははあ。最高級をピンポイントに食べてしまったということか?」
淡「はい……」
菫「淡はこれに懲りて盗み食いなんてしないことだな」
淡「はい……」
菫「照、許してやれ。淡が敬語使ってるなんて相当参ってるってことだぞ」
照「」ギュルルルルルルルルル
菫「おう、悪は断じて許すな」
淡「ええ!?」
ガチャッ
誠子「こんにちはー……ってなんか物騒な空気ですね」
照「誠子聞いて。淡が私の最高級プリンを泥棒鼠のように盗み食いしたの」ビシッ
淡「泥棒鼠!?」
誠子「ははあ。最高級をピンポイントに食べてしまったということですか?」
照「うん」
淡「みんな理解力半端ないね!?」
誠子「ん……でもいつも被害に会ってるのに書き置きもせずに冷蔵庫にほっといたのは……」
照「」ギュルルルルルルルルル
誠子「淡、今回ばかりは年貢の納め時だな」ポン
淡「なんなの!?恐怖政治!?」
ガチャッ
堯深「こんにちは……ってなんか物々しい雰囲気ですね」
淡「みんなすごくない!?何で空気とか読めるの!?風使いなの!?」
菫「お前が読めなさすぎるんだ」
淡「え!?少なくともスミレには言われたくない!」
照「堯深聞いて。淡が私の最高級プリンを火事泥棒のように盗み食いしたの」ビシッ
淡「その例えはおかしくない!?」
淡「っていうかそれはもういいですって!」
堯深「ははあ……。最高級プリンをピンポイントに」
淡「もういいよ!どんだけ国語力あるのみんな!」
堯深「淡ちゃん、反省してる?」
淡「う、うん……。もうこんなことしません」
堯深「って言ってることですし宮」
照「」ギュルルルルルルルル
堯深「やっぱり許せないですね。食べ物の恨みはちゃんと骨身に染み込ませないと」
淡(だよねー)
堯深「でも丁度よかった。親戚から最高級プリンが送られてきてたんです」
淡「!!」
照「そ、それは本当……?」
堯深「はい。それに、五人分あるんです。独り占めするより、みんなで美味しくいただきましょう」
淡「タカミー…!」ウルウル
堯深「だから宮永先輩。淡ちゃんを許してあげてください。反省してることですし」
誠子「私からもお願いします」
菫「部長命令だ」
淡(何を都合のいいことを……)
照「……しょうがないな」
照「今回のことは笑って水に流そう」
淡「ありがとうございますっ!」ドゲザッ
淡「で、そのプリンはどこに~?」ワクワク
菫「……反省しろよ?」
淡「す、するする!じゃなくて……します!」
堯深「昨日から冷蔵庫の上段に……。昨日は他にお菓子あったから出さなかったんだけど」
淡「え?冷蔵庫の上段……?」
堯深「これこれ。……あれ、何か軽い?」
淡「」
堯深「」パカッ
堯深「な、無いっ!?」
誠子「まさか……」
照「淡っ!!」バッ
菫「もういないぞ!!」
誠子「追いましょう!」
堯深「あわいちゃんーーっ!!」ダダダッ
淡「ごめんなさい~~っ!!あまりにもおいしかったからぁ!!」
照「今度ばかりは……許さないっ!!」ダダダッ
淡(イタズラで済まないこともある。逃げ惑いながらそう心に刻む女子高校生の日常でした)
おわれ
今日も白糸台は平和ですね
これは良いあわあわ
Entry ⇒ 2012.10.21 | Category ⇒ 咲-Saki-SS | Comments (0) | Trackbacks (0)
竜華「怜、今日もエロゲをするで!!」 怜「ファンディスクや!」
http://ssweaver.com/blog-entry-1836.html
洋榎「エロゲしてる所を絹に見られてしもた……」
http://ssweaver.com/blog-entry-1845.html
菫「エロゲしてる所を宥に見られた……」
http://ssweaver.com/blog-entry-1848.html
今回は、怜「うちがエロゲしてる所を竜華に見られてしもた……」のアフターストーリーです。
又、今回より怜の一人称をうち→私に変更。
(ご指摘感謝です)
怜「お、ノートPCやん、どしたんそれ」
竜華「ふふ、実は新たに買うてしもうたんよ」
竜華「これでいつどこでも寝ながらでもエロゲが出来るで!!」
怜(エロゲの為にノートPCを買うとか竜華もようやるわ……)
竜華「ついでにこれも買うたんよ!」
怜「お、”戦国ヒサ”やないか!!」
竜華「せや、怜がオススメするからうちもやろかなーて思うて」
竜華「という訳で、早速怜ン家でやろ!怜、色々教えてな!」
怜「ええで、私はこう見えて30周近くプレイした廃人プレイヤーや」
竜華「インストールは済んどるから、早速やろか!」
怜「あ、ちょいまち、もう一人呼んどるから」
竜華「もう一人?」
セーラ「怜ー、きたでー」ガチャ
竜華「え……セーラ!?」
セーラ「な……っ、なんで竜華がここにおるんっ!?」///
怜「竜華が来るっちゅーから、セーラも呼んだだけやけど」
竜華「えっ、だって今日は”戦国ヒサ”をやるんじゃ……」
セーラ「俺も怜に”戦国ヒサ”やるから来いって……」
竜華「えっ?」
セーラ「え?」
セーラ「お、おう……せやで」
竜華「ちょ、なにそれ!セーラって、エロゲーやってたんか!?」
セーラ「やってたっちゅーか、やりはじめたっちゅーか……」
竜華「ど、どーゆーことやねん!」
怜「それは私から説明しよか」
竜華「怜!」
怜「……そうやな」
怜「あれは今から36万……いや、一週間前やったか――」
………
……
…
『ひゃあっ!ら、だめっ!お姉ちゃんっ……!もううちイッてまうの!!』
『ええでっ……!イってやっ……!一緒にイこやっ……!うちもイくでっ!!』
竜華「―――…‥へぁっ?」ビクビクッ
セーラ「」
竜華「」
セーラ「……りゅ、竜華……何しとん……」
竜華「セ、セーラ……こ、これはっ……ちゃうんやっ」
セーラ「……っ」
セーラ「す、すまん……!ごゆっくりぃ!!」ドタドタッ
竜華「ちょ、セーラ!!」
竜華「ア、アカン……」
竜華「エロゲしとる所をセーラに見られてしもた……」
竜華(しかも一人エッチしとる時に……最悪や……人生終わった……)
セーラ(りゅ、竜華の奴……っ、一体な、何をしてんのや……!)
セーラ(あ、あれって……その、あれやろっ!!そ、そのっ)
セーラ(……~~~~!!!)///
セーラ「と、とにかく!怜のトコに行こ!!」
タッタッタッタッ
ガチャ
セーラ「と、怜ー!!竜華が、竜華がーっ!!」
『ひゃっ……あっ……しろっ……!もっとっ…!もっときてっ……!』
『ふっ……!はっ……はっ……胡桃っ……イくよっ……!なかに……っ!』
怜「あ」
セーラ「」
怜「」
怜「え、これか?エロゲーやけど」」
セーラ「え、エロゲイ……?」
怜「えっちなゲームや」
セーラ「……い、いや、見れば大体わかるけど、おかしいやろ……」
怜「おかしい?なにが?」
セーラ「なんで怜がそんなゲームしとるんや」
怜「そりゃ好きやからに決まっとるやろ」
セーラ「い、いやいや……やっぱおかしいて」
セーラ「いくら好きゆーても、俺らがするもんとちゃうやろ……」
怜「別に年齢的には問題あらへんよ?」
セーラ「そういう問題とちゃうねん……!あーもー!!」
セーラ「とにかくや!!そーゆーのやったらアカンの!!」
怜「……は?」
怜「ちゅーか、なんでセーラにそないな事言われなアカンの?」
怜「何を持ってしてアカンのかそれをまず言えや」
セーラ「と、怜……?」
怜「別に私がエロゲーしとったトコで何も悪うないやろ」
怜「それともなんや、女の子がエロゲーしたらアカンっちゅーのか?」
セーラ「そ、そらアカンやろ…‥そーゆーのて、普通大人の男がやるもんやろ……」
怜「エロゲーは大人の男がやるもんて誰が決めたんやボケェ!!」
怜「年齢条件を満たした女がやったらアカンのか?アカンくないやろ!!」
怜「アカンのはお前の単細胞な脳みその方やないのか!!」
怜「は?喧嘩?ちゃうやろ、私が言うとるんは全部事実やないか!」
怜「何かおかしい事言うたか?私がエロゲしたらアカン事あるか?言うてみぃやタコォ!!!」
セーラ「そ、それは……っ」
セーラ(あ、アカン……怜めっちゃブチ切れとる……こんなん初めて見たわ……)
怜「言えんやろ!?言えへんよな!?そらそうやろな!!」
怜「エロゲの事を何も知らん奴がエロゲの何を知っとるっちゅーんや!!」
怜「見た目が子供に見えるから規制やと?アフォか!!」
怜「エロゲをやった事も無い連中が何勝手にホザいとるんや!!」
怜「やった事もない連中に批判される覚えは無いんじゃボケェ!!」
怜「……」ハァ...ハァ...
怜「……セーラ、そこ座れ」
セーラ「は?」
怜「ええから!!」
セーラ「お、おう……」ドサッ
怜「……」ゴソゴソッ
怜「……よし、これでええやろ」カチッ ゥィーン
セーラ「怜、何しとん……?」
怜「今からセーラにはエロゲしてもらうで」
怜「セーラは勘違いしとるんとちゃう?エロゲはただえっちするだけのゲームやと」
セーラ「……ちゃうんか?」
怜「ちゃう、全然ちゃう。柴犬と秋田犬くらいちゃうわ」
セーラ(秋田犬とか見た事ねーから分からんわ……)
怜「エロゲっちゅーんはな、人々に夢と希望と青春と感動を与えてくれる、人類が生み出した最高の文化やねん」
怜「エロゲを知らん奴は人生損しとる。なんて言わへんけど、知らずに批判するよりはやった方がマシや」
セーラ「……?よ、よく分からんけど、とりあえずやればええん?」
怜「せや、マウスを動かしてクリックで決定やから」カチカチッ
セーラ「……”阿知賀女子、ドラゴンの少女”? これどーゆーゲームなん?」
怜「麻雀部を作る為に、主人公の高鴨 穏乃が部員を集めて大会に出る話や」
セーラ「話?」
怜「エロゲっちゅーんは、基本読み物なんや。一人称のドラマみたいなもんや」
怜「ま、とにかく進めてみ」
『――あんた馬鹿ぁ?部を作るには5人必要なのよ?それに私はやらないから』
『えぇー!!なんでだよー!やろうよ麻雀!!』
『ごめん、私もう麻雀は辞めたから……じゃ』
セーラ「……」カチッ
セーラ「……麻雀の競技人口が増えても、麻雀部の無い学校やとやってる人少ないて聞くもんなー」カチッ
セーラ「穏乃は苦労しそやー」カチッ
『――私、やるよ!麻雀!一緒に頑張って作ろう、麻雀部!!』
『っ……玄さん!』
セーラ「おー!ようやく1人目が入ったなー!」カチッ
セーラ「でもまだ残り4人、先は長いでぇ」カチッ
………
……
…
『強豪校に勝つ為に全ての力を注いだ。決勝まで体力が持たなかったのはしょうがない』
『で、でも!憧が個人戦優勝だよ!すごいよ!』
『そうね……おめでとう、憧ちゃん』
『あ……あり……がとっ /// ポッ』
セーラ「……っ」カチッ
セーラ(ええはなしやなーー!!!)ポロポロ
セーラ(結果、勝てはせぇへんかったけど……バラバラだった皆の絆がここに来てようやく一つになったんや……)
セーラ(めっちゃ泣けるで……っ)ゴシゴシ
セーラ「……っ!?」ハッ
怜「……」ニヤニヤ
セーラ「」
……
…
怜「その後、不覚にも感動してしまったセーラはエロゲにハマってしもたんや」
竜華「……セーラ」
セーラ「……なんや、何も言わんでええ」
竜華「セーラもエロゲで泣けるくらいの乙女なんやなぁ」
セーラ「う、うっさいわボケェ!!」///
セーラ「ま、まあ!そゆわけで、今じゃ俺も竜華たちの仲間なんや!」
怜「まぁまぁ、今日は”戦国ヒサ”をやりに来たんやろ?」
竜華「せやったせやった、さっさと始めよ」
セーラ「おう」
竜華「なんや、いきなり対戦?になったで。これどーするん?」
怜「一対一の麻雀対決や、今選択してるキャラで敵キャラを選んで戦うんや」
竜華「こうかっ、おお、相手を倒したで!」
セーラ「なんか数字が1500から1200に減ったで」
怜「点棒やな、まぁヒットポイントみたいなものや。0になったらそのキャラは二度と使えへん」
怜「基本的には点棒の数が多ければ多いほど有利やけど、お互い相性があるから注意や」
竜華「なるほどなー、で、これからどうしたらええん?」
怜「最初のうちは部員を増やすのがええけど、まぁ好きなように選んでもええと思うよ」
怜「重要イベントはターンが進めばに起きるからな」
セーラ「そーなんか」
……
…
竜華「はぁーっ、結構進んだなぁー……ちょっと休憩しよか」
セーラ「せやなー、しかし面白いな”戦国ヒサ”」
怜「せやろ、天下の”アコスソフト”やからな」
竜華「怜は”アコスソフト”が好きやねー」
怜「当たり前やろ、今も昔も私は”アコス”がエロゲ界トップやと思っとるわ」
セーラ「俺は最初にやった奴もなかなか良かったと思うけどな」
怜「あれもええ作品なんよな、さすが”ゆうねぇそふとつぅ”や」
怜「ただ、”阿知賀女子、ドラゴンの少女”は前作があまりにも良すぎて、影に隠れてしもただけや」
セーラ「前作なんかあったんか?」
怜「直接の続編っちゅー訳ではないんやけど、”車輪の国、嶺上の少女”って奴が一応前作なんよ」
竜華「あ、それうちが初めて買ったやつやな」
怜「せや」
セーラ「そうなんか、興味出てきたわー今度買うてみよ」
怜「ん?なにが?」
セーラ「こっちの棚にあるやつ、全部エロゲやろ?ぎょーさんあるやないか」
怜「まぁな、ここまで買い集めるのに結構苦労したで」
セーラ「ちょっと見てもええ?」
怜「ええよ」
セーラ「ほー……色々あるなぁ、この”牌を/ステナイト”ってどんなゲームなん?」
怜「7人の雀士がそれぞれ一人のパートナーと契約して、麻雀で戦わせるゲームや」
セーラ「へー、じゃあこの”シンドウジの羊”っちゅーんは?」
怜「主人公の江崎 仁美が、親友の安河内 美子を巻き込んで政治デモ活動をする話やな」
セーラ「政治デモをするゲームとか斬新すぎやろ」
怜「主人公の福路 美穂子が、麻雀部に入部していきなりキャプテンになっちゃう物語」
怜「そんでもってこれが”絶対★妹嶺上開花!!”、史上最強の妹を持った姉が苦労する毎日を送る話や」
竜華「ホント怜はすごいで……まるで野生のエロゲショップや」
セーラ「だよなー」
怜「まだまだ、私より沢山持っとる人は他にもいるで、こんなの序の口や」
セーラ「この”穏乃アフター~It's a Mountain Life~”っちゅーんは?」
怜「元は”CLONNAD-クロナド-”っちゅー別のゲームのキャラクターなんやけど、作者があまりにも好きすぎて外伝作品が出たんや」
怜「”CLONNAD-クロナド-”はエロゲやないけど、ゲーム・アニメと共に評価されとる作品やからオススメやで」
セーラ「へー、アニメ化もしとるんか」
竜華「うちはあまり”アコス”のゲームはやらんけど、名前だけは知っとるわ」
竜華「”超昂天使スミレイヤー”……”LEGENDアイランド”……”闘牌都市Ⅲ”……”咲が来る!”……」
怜「個人的には”LEGENDアイランド”が好きやったな」
怜「女の子魔物使い”小瀬川 白望”が、呪いをかけられた女の子モンスターを救う為に”レジェンゴ”と戦うやつなんやけど」
怜「この女の子モンスターっちゅーのが、すごい可愛くてな」
竜華「ホンマか、それはちょっと見て見たいわー」
竜華「こっち”咏しぼり”ってのはなんなん?」
怜「お見合い相手の”三尋木 咏”と監視役でやってきた”針生 えり”と同棲するゲームや」
竜華「この咏ちゃんて子かわええなぁ」
怜「その子24歳やで」
竜華「なんや……24か……」
竜華「”Hisa-女を求めて-”……”HisaⅡ-清澄の少女たち-”……”HisaⅢ-龍門渕陥落-”……古いシリーズも全部揃ってるやないか」
竜華「この”ヒサ・クエスト ダブルリーチ”ってのは新作やな」
怜「せやな、”ヒサ・クエスト”の追加アペンドやけど、これとダブリーを含めて完成品と言われとる」
竜華「ヒサシリーズはうちもシリーズ通してやってみたいわー」
怜「世界観とか設定を見始めると、よりハマるで」
竜華「ホンマか、今度見てみるわー!」
怜「せやね、んじゃそろそろ”戦国ヒサ”再開しよか」
セーラ「おう」
……
…
『――へぇ、貴方なかなか可愛いのね。もし良かったら私達に手を貸してくれないかしら』
『私で良かったらちょーお手伝いするよー!』
『ありがとう。でもその前に一つだけして欲しい事があるの……』ニタァ
セーラ「……っ!?」
竜「……」ポチッ
怜「え、ちょ、竜華なにCtrl押してん」
竜華「えっ、いや、そのっ、なんちゅーか、皆でエロシーンをわざわざ見んでも……」
怜「アホか!エロシーンを見ないで何を見ろっちゅーねん!」
セーラ「エロシーンをダチと囲んで見るとか、どこの男子中学生やねん……」
怜「とにかくスキップ禁止や、エロシーンもちゃんと見な製作者に失礼やろ」
竜華「ちゃんと見ろって言われてもなぁ……」
『んぁっ……んはぁっ……!ひあぁ!ちょぉ……ちょぉー気持ちいいいよっ!』
『そろそろ出すわよぉっ……!!っとぉ――――――!!」ビュビュビューーーッ
竜華「……」モジモジ
竜華「……」チラッ
セーラ「……」///
怜「……」
竜華「……」クチュ
竜華「ちょ、ちょっとうちトイレ行ってくるわ……!」
怜「おーいてらー」
セーラ「……」///
セーラ「お、おなっ!?」///
怜「めっちゃソワソワしとったもんなー、ありゃ間違いないで」
怜「つか、人ン家のトイレでオナるってどういう神経しとんや竜華は……」
セーラ「……」///
「―――…‥へぁっ?」ビクビクッ
セーラ(ア、アカン……竜華が……してる所を思い出してしもて……!)///
セーラ「……っ~~~!!」///
怜「ん?どなんしたんセーラ」
セーラ「……あ、あのなっ」
セーラ「怜も……その、一人でえっちな事とか……するん?」///
怜「ん?なんやそんな事かいな、まぁ稀にやけど」
セーラ「や、やっぱ怜もするんか……」///
怜「……」
怜「なんやセーラ、セーラだってした事ぐらいはあるやろ?」
セーラ「え、ええっ!?お、俺は……っその……っ」///
セーラ「……あ、あのなっ」
セーラ「怜も……その、一人でえっちな事とか……するん?」///
怜「ん?なんやそんな事かいな、まぁ稀にやけど」
セーラ「や、やっぱ怜もするんか……」///
怜「……」
怜「なんやセーラ、セーラだってした事ぐらいはあるやろ?」
セーラ「え、ええっ!?お、俺は……っその……っ」///
セーラ「なっ……!お、俺はっ……」///
セーラ「べ、別にっやった事無くてもええやろ!!」///
怜「……え?ホンマに?今までエロゲやってきたやろ?」
怜「エロシーンの時とかどないしてたんよ」
セーラ「そ、それは……っ……そのっ……目ェ瞑ってスキップしてた……」///
怜「うわ、ホンマかいな……」
怜(まさかセーラがオナった事も無いなんて……どんだけ初心やったんよ)
怜「じゃあ、一緒にしてみる?」
セーラ「ファッ!?」ガタンッ
怜「いや、そんなに驚かんでも」
セーラ「お、おおっ、驚くわボケェ!!いきなり何言うとんの!!」///
怜「セーラが興味有り気にしてたから」
セーラ「せ、せやからって!!なんで一緒にする事になるんや!!」///
怜「ん?アカンの?」
セーラ「アカンやろ!!」
怜「なんや、つまらん」
セーラ「な、なんでもないで!!」///
怜「おかえり」
竜華「……?まぁええけど、この後どないしよっか」
セーラ「……う、うち!もう帰るわっ!」
竜華「え?まぁ確かに真っ暗な時間やけど……」
セーラ「あっ明日も学校があるやろ、竜華もはよ帰った方がええで」
竜華「んーまぁそうやなぁ、今日はここまでにしとこかなー」
竜華「それじゃあ怜、うちとセーラ帰るで」
怜「わかった、また明日やな」
竜華「またなー怜ー」
セーラ「お、おう、またなっ……!」
竜華「……」
セーラ「……」
竜華「なぁセーラ」
セーラ「なっ、なんや!?」
竜華「?どしたんセーラ、さっきからおかしいで」
セーラ「な、なんでもないで!!」///
竜華「んー?そう?それならええねんけど」
竜華「それより早よ帰るで!さっさと帰って続きをやるんや!」
セーラ「お、おう……!」
怜「……」
怜「んー、二人が帰ってしもたのはまぁ別にええけど……」
怜「何しよ」
怜「エロゲしてもええけど、なんかこう物足りないんよな……」
怜(グルチャに誰かおるかな)カチカチッ
――ス○イプのとあるグループチャット――
――とあるネット掲示板で知り合った数人の猛者達が――
――互いに集い語り合う 淑女達のグループチャットである――
トキ:おるかーー?
巫女みこカスミン:えっ?
トキ:よーし、おるな!
ひろぽん:ここやで (トントンッ
ピカリン: 西 濃 は 神
かじゅ:お前らもよく飽きないな
ひろぽん:重大な用事なんやろな?
トキ:いや、別になにもないけど
ひろぽん:ないんかーい!
トキ:つい暇だったもんで、めんごめんご
かじゅ:なんだ、暇だからこそエロゲをすればいいんじゃないのか
トキ:んー、なんかエロゲって気分でもないんよなー
ひろぽん:なんやそれ
巫女みこカスミン:あーありますよねぇ
巫女みこカスミン:私もそういう気分じゃない時は姫様の寝顔写真を整理したりしてます
ひろぽん:あんたは何しとんのや……
ピカリン:わかる。私も咲の写真をよく眺めてはペロペロ舐め回してる
ひろぽん:おまわりさん、こいつです
かじゅ:私は勉強をするか本を読むかだな
ひろぽん:うわ、真面目やな
かじゅ:受験生なんだ、察してくれ
トキ:ひろぽんは?こういう時どないするん?
ひろぽん:ん?そやなぁーうちは息抜きにネトマをやるぐらいやな
トキ:ネトマかぁ、うちやった事あらへんわ
ひろぽん:興味があるんやったら教えるで?
トキ:そのうちな、今はええわ
トキ:そいや、すみれを見かけないんやけど……というか、グルチャから抜けてるやんけ
ピカリン:トキはあの時いなかったから、知らないのも仕方ない
トキ:?何があったん?
かじゅ:彼女自らが、ここを抜けると言ったんだよ
巫女みこカスミン:私もその場には居なかったのですが、一体何があったのですか?
ひろぽん:すみれに恋人がおるのは知っとるやろ
トキ:言っとったな、恋人が泊りに来るゆーてたけど
かじゅ:ああ、予定の1日早く泊まりに来たんだそうだ
トキ:1日早く?なんでや
かじゅ:いや、詳しい事は私も分からないが
かじゅ:エロゲよりも大事にしたいものがある
かじゅ:だから、エロゲとは一切関係を絶って恋人と幸せになるんだそうだ
ひろぽん:うちらがこの前言ってた奴な、後で見たらしくて
ひろぽん:それで決心したんやとさ
トキ:そうやったんか……
トキ:……ちょっと残念やけど、それですみれが幸せになるんやったらええんちゃうの
巫女みこカスミン:そうですね、恋人と幸せになるのが一番だと思います
かじゅ:私としてもその通りなのだが、これ以上ツッコミ役が減るのは正直勘弁してもらいたい……
ひろぽん:減ったんは一人だけやろ
トキ:いや、そーなんやけど
トキ:メンバーは結構いるのに、見かけたことの無い人とか多すぎやろ
巫女みこカスミン:私、”舞Hime”さんって人と一度も喋った事ないです
ひろぽん:あー、舞は遅い時間に時々見かけるな 深夜2時とかそのへん
トキ:うちも一度見かけただけで、それ以降全く見てないわ……
ピカリン:私も”牛乳”って人を見たことない
かじゅ:私も”蓋”って人を見たことがないな
巫女みこカスミン:みなさん忙しいんでしょうか……
トキ:時期が時期だけにしゃーないんとちゃう?
かじゅ:そうだな、私もこれからは受験勉強に時間を取られそうだから、あまりここには来れなくなる
ひろぽん:うちもええ加減進路とか決めなアカンなー
かじゅ:まだ決まってないのか……
怜「そっか……なんだかんだ、みんな先の事を考えとるんやな」
怜(私はどないしようかな)
怜(適当に行ける所の大学に行って、フツーに生活するんも有りやけど……)
怜(なんかそれやと物足りないんよなぁ……)
怜「……」
怜「ま、とりあえずエロゲでもしよ」
………
……
…
セーラ「おはよーさん、怜ー竜華ー」
竜華「おはよー」
怜「おはよう」
セーラ「って、竜華……目の隈がすごいで?」
竜華「あはは……徹夜でやりこんでしもてな……」
怜「気持ちはわかるけど、程々にせな……」
竜華「授業中に沢山寝て、帰ったら沢山出来るよーにしとかんとなぁ」
セーラ「いやいや、授業は受けなアカンやろ!?」
竜華「よしゃ!!帰るで!!怜、セーラ!!」
セーラ「うわ、めっちゃ元気になっとる」
怜「竜華の奴ホントに寝とったからなぁ……授業中……」
セーラ「ちゃんと授業は聞いとかなアカンでー、俺ら受験生なんやから」
竜華「ええよ別に、うち怜と同じ大学に行くんやから」
セーラ「え、そうなん?怜」
怜「いや知らんけど」
竜華「そんなぁ~!とーきー!」
セーラ「面白い?さあーどーなんやろーなー」
竜華「うちは怜と一緒ならなんでも楽しいで!」
怜「んー、なんちゅーか、フツーに大学生活過ごしても面白くなさそーな気ぃがしてなぁ」
セーラ「怜は大学生活でやりたい事とか無いんか?」
怜「やりたい事……なんやろ」
竜華「何言うとん、エロゲがあるやろー」
怜「いやまぁエロゲもせやけど……そうやなぁ、エロゲかぁ……」
怜「……」
怜「……エロゲを作ってみたいな」
怜「……えっ、あ、いやっ、今のはなんちゅーか……」
怜「な、なんでもないんやっ、ハハハッ……」
竜華「……怜、エロゲ作りたいん?」
怜「い、いや……まぁ、せやな……興味はある……かな」
怜「で、でも私はモノとか作った事ないし……まず無理やろな」
セーラ「……」
セーラ「……ええやん」
怜「えっ?」
セーラ「作ろやないか」
セーラ「俺らで作るんや、エロゲーを」
竜華「……うん、せやな」
竜華「怜、うちらでエロゲを作ろうや!」
怜「絵は誰が描くねん、シナリオは?プログラムは?音楽は!?」
セーラ「んー、まーなんとかなるやろ」
怜「いやいや……なんとかなるっちゅーもんでもないやろ……」
竜華「でも怜、エロゲ作りたいんやろ?」
怜「そ、そらまぁ……出来るなら作ってみたいとは思うけど」
竜華「なら作ろうや!」
怜「せやから無理やろ、私らにはなんの技術もないで?」
セーラ「そんなもん、今から猛勉強して覚えればええねん」
竜華「せや、大事なのはやる気と根性やで!」
怜「せ、せやろか……」
セーラ「せやろ!」
竜華「怜、作ろうや!エロゲを!」
竜華「自分が出来ない事は他の人を頼ればええ」
竜華「大事なのは自分がやりたいかどうかやねん!」
怜「……私はっ」
怜「私は……エロゲが作りたい」
怜「竜華やセーラ達と一緒に、エロゲが作りたい!」
怜「もっともっと、エロゲと関わって行きたいんや!」
セーラ「……ああ!」
セーラ「作ろうや!一緒に!」
竜華「……うん、作るんや!うちらのエロゲーを!」
――正直なトコ 先行きは不安だらけやけど――
――不思議な事に 竜華達とならなんだって出来る気がする――
――竜華達といること これが私にとっての人生なのかもしれへん――
怜「――始めよか、私達の作品を」
怜編 END
Entry ⇒ 2012.10.20 | Category ⇒ 咲-Saki-SS | Comments (0) | Trackbacks (0)
P「適当に話でもするか」
P「…………」カタカタ
小鳥「…………」カタカタ
P(よし、企画書が完成)
小鳥「ふう」
P(小鳥さんも休憩に入ったみたいだしなにか話題でも出そうか)
P「小鳥さん、>>5」
小鳥「なんですか?」
P「アフリカでは今も子供たちが飢えに苦しんでいるんですよ」
小鳥「え、えぇ、そうですね……」
P(めちゃくちゃ引かれてる……)
小鳥(プロデューサーさんどうしたのかしら……?)
小鳥「あの、どうして急に……?」
P(……どうしよう……)
P「>>+5」
パーフェクトだウォルター
P「いえ、アフリカの子供たちのことを考えているといろいろと思うことがありまして」
P「そこで良い案を思いついたんです」
小鳥「良い案ですか?」
P「俺達が直接サポート出来ればいいんですが、アフリカに行くわけにも行かないじゃないですか?」
小鳥「やっぱり難しいですねぇ……」
P「まず、俺達が出来ることとしては、募金だと思うんです」
小鳥「それは、そうですね」
P「でも、俺達だって自分の生活にお金がかかるわけですから、寄付したくても、あまり出来ないわけですよ」
小鳥「そうなんですよねぇ……」
P「そこで考えたんです」
小鳥「ほう?」
P「俺達が一緒に住めばいいんじゃないでしょうか 」
小鳥「………?」
P「つまり同棲して生活費を抑えて、募金しましょうってことです 」
小鳥「…………」
小鳥「えっ!えっ?」
P「小鳥さん!」
小鳥「あの……その……、>>+5」
小鳥「はっ、はい!お願いします……」
P「ありがとうございます!」
小鳥「こちらこそっ!!」
小鳥(わっ、私にもついに春がっ?! 確かにプロデューサーさんはいいかなーとか考えてたけど、でもでもっ、いきなり同棲だなんて……)
P「うーん、どっちの家に住みます?」
小鳥「>>+5」
小鳥「良かったら、お邪魔してもいいですか?」
P「分かりました、それじゃあ、早速今夜から家で寝泊まりしてください」
小鳥「はっ、はい!!」
小鳥(いきなりお泊り……。大丈夫よ、小鳥……っ! 今までに読んだ参考書の数々……その知識をフル稼働すればきっと初夜だって……)
小鳥(あぁー!!今日勝負下着じゃなかったぁ!!)
小鳥(どっ、どうしよう? 一回取りに帰るべき? でも、今の勢いがないと怖くなってプロデューサーさんの家なんて行けなさそうだし……そもそも連れて行ってもらわないと家知らないし!)
P「小鳥さん?」
小鳥「なっ、なんですかっ!」
P「いえ、もう夜なんで、帰りましょうか」
小鳥「>>+3」
そしてコンドームを……
小鳥「帰る前に、 薬局に寄りましょう! そしてコンドームを……」
P「小鳥さん……」
小鳥「いっ、いやっ!今のは!」
小鳥(しまったあぁぁっーー!!思わず脳内で暴走して……)
P「………分かりました、男の責任ですもんね」
小鳥「プッ、プロデューサーさん……」キュン
P「車で帰るんで助手席へどうぞ」
小鳥「はっ、はい!」
小鳥「………」
P「………」
P(ゴムも買ったしあと少しで家に着くが……)
P(……車内でまた無言になってしまった……)
P(さっきも小鳥さんに気を使わせてしまったし、ここは男である俺がリードしなければ)
P「小鳥さん」
P「>>+3」
P「………」
ギュッ
小鳥「っ!!」
小鳥(……プロデューサーさんの手……温かい……)
小鳥(そっか……これが幸せなんだ……)
ギュッ
P(小鳥さん……握り返してくれた……)
キーッ
P「……小鳥さん、着きましたよ」
小鳥「…………」
P「それじゃあ、降りま」
小鳥「あのっ! もう少し……繋いだままでもいいですか……?」
P「………」
P「はい」
小鳥「………」ドキドキ
P「………」ドキドキ
小鳥(あれから何分経ったのかしら……?)
小鳥(私が、もうちょっとって言ったから降りないでくれたけど、あんまり車の中で長居したら風邪を引くかもしれないし、そろそろかしら……)
小鳥「>>+3」
小鳥「プロデューサーさん……」
P「……?」
小鳥「……式はいつにしますか?」
P「………式、ですか……」
小鳥(っ!! なっ、なんか頭の中で飛躍して……)
P「そうですね……」
P「俺は、いつでもいいですよ」
小鳥「っ!!」
P「でも先にご両親に挨拶しないと……、あっ、その前にアイドルたちに言うのが先か……」
P「そこら辺は家に入って考えましょうか?」
小鳥「……は……はい……グスっ……」
P「うわー、外寒い……手、いいですか?」
小鳥「……どっ、どうぞ」
ギュッ
P「いいですね、こういうの……」
小鳥「……そうですね……」
ガチャ
P「散らかってますが、どうぞ」
小鳥「し、失礼しまーす」
P「そんなにかしこまらないでください。今日からは小鳥さんの家でもあるんですから」
小鳥「そっ、そうですよね」
小鳥「あっ」
小鳥「少し出て、扉閉めてもらってもいいですか?」
P「……は、はぁ」
小鳥「…………はい、どうぞー」
P「……?」
ガチャ
小鳥「お帰りなさい、プロデューサーさん」
P「……っ!!」
P「たっ、ただいま!」
小鳥「ふふっ」
小鳥「一回やってみたかったんですよね」
P「急に言われてビックリしました……」
小鳥「まぁまぁ、外は寒いんで、入ってください」
P「ここ、俺の家ですよね……」
小鳥「私の家でもありますからっ!」
P「ひと通り片づけましたし、とりあえず……」
P「>>+3」
P「…………小鳥さん」
P「一緒にお風呂にでも入りましょう」
小鳥「……」コクッ
P「ふぅー……」
小鳥『プッ、プロデューサーさんいるんですよね……?』
P「まだ入らないんですか?」
小鳥『こっ、心の準備がまだ、その……』
P「早くお風呂に入らないと、体冷やしますよ?」
小鳥『…………』
小鳥『プロデューサーさんは私の裸を見て……笑いませんか……?』
P「そうなの当然ですよ」
小鳥『でっ、でも……プロデューサーさんはアイドルの水着姿よく見てるから……その……』
P「小鳥さんもスタイルいいじゃないですか」
小鳥『そんなことないです! あーもう、こんな事になるなら、お酒控えてお腹のお肉を……』
P「笑わないんでちゃちゃっと入ってください」
小鳥『……本当に笑わないですか……?』
P「ええ」
小鳥『………っ!』
ガチャ
小鳥「………」
P「………」
小鳥「…あっ、あのっ、………ど、どうでしょう……か……?」
P「>>+3」
小鳥「あ、あのー……?」
P「すごく…大きいです…」
小鳥「おっ、お腹ですかっ!? 太ももですかっ!?」
P「そんなの……、胸に決まってるじゃないですか……」
小鳥「……あっ、ありがとうごさいます……///」
小鳥「……………でも……」
小鳥「……プロデューサーさんも………おっきいんですね………」
P「………すみません……」
小鳥「>>+3」
小鳥「………濡れてきちゃった……」ボソッ
P「えっ!?」
小鳥「っ! なっ、なんでもないです!」
小鳥「…………良かったら……、背中流しましょうか……?」
P「ぜひ、お願いします!」
小鳥(プロデューサーさんの背中もおっきい……)
P(あぁ……俺は今、小鳥さんに背中を流してもらってるんだ……まさかこんな事になるなんて……)
小鳥「………」
ゴシゴシ
P「………」
小鳥「力加減はどうですか?」
P「いっ、良い感じですっ」
小鳥「………」
ゴシゴシ
P「………」
小鳥「どこか痒いところはありませんか?」
P「>>+3」
P「……しいて言えば……」
小鳥「しいて言えば?」
P「前の……もうちょっと下の……」
P「……ほっ、ほうけいちんぽの皮の中が……」
小鳥「………っ!!」
小鳥「ちっ、ちちちっ、ちん……っ!!」
P「いっ、嫌だったらやめ」
小鳥「やります!」
小鳥「やらせてください!!」
P「はい!」
小鳥「まっ、前からは恥ずかしいんで……後ろから失礼します……」
P「………」
ピタッ
P(むっ、胸っ!?)
小鳥「え、えーっと、触ります……」
小鳥「………」
ツン
ツンツン
P「………あっ」
小鳥「いっ、痛かったですか?!」ムニュッ
P「あ……っ、いやっ、大丈夫です」
小鳥「……痛かったら、行ってくださいね……?」
P(それより胸がダイレクトに……)
小鳥「……こっ、これが……」
小鳥「……ふぅ……っ!」
ニギッ
P「………っっ!!」
ピクッ
小鳥「かっ、皮って、ここの先っぽの……ですよね……」
P「はい……」
小鳥「のっ、伸びるって……ことなんですよね……」
ツンツン
クリッ
P「はあっ!」
小鳥(ゆっ、指が隙間に入った……っ!!)
P「はぁ……はぁ……」
小鳥「苦しくないですか……?」
P「もっと……してください……」
小鳥「………は、はい……」
小鳥(包茎って……こうなってたんだ……)ツンツン
小鳥(親指と人差し指で……先をつまんで……)キュッ
小鳥(中に指を……)
小鳥(あっ、おっきく……)
P「……はぁっ、小鳥さん……」
P(小鳥さんも乳首たってる……)
小鳥「なっ、なんでしょう?」
P「……あんまり焦らされると……全部剥けるんで……その……できるだけ早く……」
小鳥「わっ、わかりました」
小鳥(剥ける……? そっか……おっきくなって、出てくるんだ……)
小鳥(……それなら……ひとおもいに……)
小鳥「………いきますっ!!」
グリッ
P「あ"っ!!」
グリグリグリ
P「あ"ぁ"ぁ"っ、あ"あ"っがう"う"ぅっっっっ!!」
P「い"っぐうぅっぅっ!!!」
小鳥「っ!! きゃあっ!!」
P「はあっ……はっあっ……」ピクピク
小鳥「……いっ、いっぱい出ましたね……」
P「……あっ、あっ、ありがとう……はぁっ、はぁ…はぁっ、ございました……」
小鳥「こ、こちらこそ……」
P「………」フラッ
小鳥「プロデューサーさんっ!!」
小鳥「大丈夫ですかっ?!」
P「あっ、ちょっと刺激が強くて……体力なくなっちゃいました……」
P「ちょっと目眩がしただけなんで、あがっていいですか……?」
小鳥「わかりました、手伝います」
P「すみません……服のボタンまで……」
小鳥「いえ、いいんですよ」
P「……? 何か、ご機嫌ですね?」
小鳥「あれ、わかっちゃいました?」
小鳥「プロデューサーさんが、私で気持ちよくなってくれたんだーって、考えると……」
P「……っ!」ピンッ
P「小鳥さん……俺……」
小鳥「………」
小鳥「……今日は寝たほうがいいんじゃないですか?」
P「……っ! でもっ」
チュッ
P「…………」
小鳥「目眩も心配ですし……私は明日もここにいるんですから………ね?」
P「……はーい……」
「…………さん……プロ……サーさん」
P「……ん……んんっ……」
「朝ですよ起きてください、プロデューサーさん」
P「……えっ……ことり……さん……?」
小鳥「はい、小鳥です」
P「………そっ、その格好は……」
小鳥「>>+3」
小鳥「どうですか?エプロン姿」
P「そりゃもう、めちゃくちゃ可愛いです」
小鳥「ふふっ、ありがとうございます」
小鳥「朝食できてますよ、起きてくれますか?」
P「はーい、それにしても小鳥さん起きるの早いですね……」
小鳥「いつも朝一番に行って事務所を開けますからね。今日は社長に連絡してお願いしたんで、大丈夫ですけど」
P「なるほど……」
小鳥「私は一度家に帰って荷物を取ってきて午後から出社する予定なんですが、プロデューサーさんはどうしますか?」
P「俺ですか?確かスケジュールじゃ……」
P「>>+3 」
P「午後から事務作業ですね」
小鳥「と言うことは一緒ですね。それならもっと寝てても大丈夫でしたね、起こしてごめんなさい」
P「そんなことないですよ、こうやって小鳥さんのエプロン姿を拝めたわけですし、朝ご飯もありますし」
小鳥「あっ、そうだ」
小鳥「プロデューサー、あーん」
P「あっ、あー」
P「んっ」
小鳥「どうですか?」
P「……っ! 最高です」
P「ごちそうさまです」
小鳥「おそまつさまでした」
P「じゃあ、送ります。ちょっと着替えるんで待っててくださいね」
小鳥「はい」
P「駐車場まで良かったら、手を」
小鳥「…………」 ササッ
P「……?」
P「俺、避けられてる……?」
小鳥「ちっ、違うんです! 服が昨日と同じなのでもしかしたらーって……朝、コンビニで下着は買ったんでそれは替えたんですけど……」 」
P「あぁ、そんなことですか」
小鳥「そっ、そんな事って……っ! そういうのが一番」
P「………」クンクン
小鳥「嗅いじゃダメですー!」
P「>>+3」
P「うーん……」
小鳥「やっ、やっぱり……」
P「小鳥さんの匂いがしますね」
小鳥「……っ、それはどういう……?」
P「こう……」
ギュッ
小鳥「っ!」
P「思わず抱きしめたくて……安心する匂いです……」
小鳥「プロ……デューサーさん……」
P「………」
小鳥「………」
P「……流石に出ないと、あれですね……」
小鳥「……そうですね……」
P「……ふぅ、行きますか」
小鳥「はいっ!」
P「へー、このマンションですか」
小鳥「どうぞどうぞ」
ガチャ
小鳥「っ!」
バタン
P「どうしたんですか?」
小鳥「すっ、少し待っててください!」
P「別に散らかっててもいいのに」
小鳥「あっ、危ないところだった……」
小鳥「早く片付けないと…… >>+3を……」
小鳥「そう、同人誌よ!」
小鳥「全部が全部、大人向けの特殊なのじゃないけど、やっぱりこういうのは本棚に隠して……」
P「あんまり急いで押し込むと折れますよ?」
小鳥「そうですよね……こんなに薄いのに高価で、何より思い出が……」
小鳥「プロデューサーさん!?」
P「外で待ってたんですけど、あまりに遅いのと、若い男が女性の部屋の前で立ってたら怪しまれたみたいで…… 思わず入っちゃいました、すみません」
小鳥「みっ、みみみましたかっ?!」
P「何をですか?」
小鳥(というか、机の上に散らばってるし、手にも持ってるし!)
小鳥「……っっ」
ササッ
小鳥(今更、隠してももう遅いわよね……)
P「……あぁ、なるほど」
小鳥「……やっぱり幻滅……しますよね……」
P「>>+3」
P「そんなことありません、どんな小鳥さんでも俺は大好きですよ」
小鳥「……………本当ですか?」
P「えぇ、俺ももっと小鳥さんに好かれるように頑張らないと」
小鳥「……っっ、私もプロデューサーさんのこと大好きですよ!」
P「………小鳥さん……顔真っ赤ですよ……?」
小鳥「……プロデューサーさんよりは、ましです……多分……」
P「トランクケースとかありますか? 数日分の服を選んでもらって、車に積みましょう」
小鳥「そうですね」
P「残りは時間を作って、今度の休みにでも」
小鳥「わかりました、少しかかるので、テレビでも見ててもらえますか?」
小鳥「よし、完成……」
P「お疲れ様です」
小鳥「服、着替えてきますね」
P「はい」
小鳥「脱衣所はあっちですけど、覗かないでくださいね?」
P「覗きませんよ」
小鳥「……そうですよね……覗かないですよね……」
P(……何故にショックを……)
小鳥「まぁ、いいや。行ってきます」
ガチャ
小鳥「おはようございます」
P「おはようございます」
>>+3 「おは……」
社長「おお、君たちおはよう」
P「おはようごさいます、社長」
小鳥「あっ、ごめんなさい、社長。急に朝、連絡して……」
社長「いやいや、いいんだよ。音無くんから連絡があったときは何かあったのかと心配したが、顔を見たらいつもより元気そうじゃないか」
小鳥「はい!」
社長「>>+3君も音無君が来ないことに心配していたぞ。そこにいるから、顔を見せてやってくれ」
社長「それじゃあ、私は社長室に戻ろうとするかな」
うさちゃん? 「あんた、どうしたのよ」
小鳥「えっ?」
うさちゃん? 「朝一番に来たら、社長が『音無君が来ないそうだ……』って心配してたわよ」
小鳥「あれ、普通に遅れますって言ったんだけど……」
うさちゃん?「社長はあんたに過保護だから、そうな……」
うさちゃん ? 「って! 話してるのは私なんだから私を見なさいよ!」
P「お、おぉ、伊織じゃないか」
小鳥「伊織ちゃんいつの間に」
伊織「さっきから、目の前にいたでしょ!」
伊織「なによっ、私の存在はこのうさちゃんより目立たないって言うわけ?」
P「冗談だよな」
小鳥「はい、冗談ですよ」
伊織「もう……」
伊織「それよりなんで遅れたの?」
伊織「と言うか一緒に入ってきたわよね……?」
P「そっ、それは>>+3」
P「そっ、それは……」チラッ
小鳥「………」コクッ
伊織「なに……?」
P「俺が小鳥さんと同棲始めたからだよ、結婚を前提に付き合ってる 」
伊織「………えっ………」
伊織「………っ!! へぇ、あんたの冗談にしては面白いじゃない!!」
伊織「でも、今日は別にエイプリルフールじゃないわよ? と言うか、あれって午前中だけだし……」
P「冗談じゃなくて、本当なんだ」
伊織「っ!!」
伊織「……嘘っ……嘘よ………だって……>>+3」
伊織「だって、昨日はそんな感じじゃなかったじゃないっ!!」
P「………まぁ、付き合い始めたのは、昨日の夜からだからな」
小鳥「………」
伊織「それじゃ……付き合い始めて、いきなり同棲っていうの?!」
P「そうなるな」
伊織「あっ……あんたたち、いきなりすっ飛ばしすぎなのよ! なんでいきなり……っ!!」
伊織「だっ、だいたい、職場恋愛なんてロクなもんじゃないのよ! なんで…………っっ!! 今ならまだ、たちの悪い冗談として」
小鳥「伊織ちゃん」
伊織「っ!!」
小鳥「少し、隣の部屋に来てくれる?」
P「………?」
伊織「………」
小鳥「………ここなら、誰もいないわ」
伊織「………」
小鳥「もちろん……プロデューサーさんも……」
伊織「………」
小鳥「伊織ちゃん……あなた……」
小鳥「>>+3」
小鳥「……やっぱり……プロデューサーさんのこと……」
伊織「………っ! そうよっ!なにか悪い!?」
伊織「私はあいつのことが好きよ! トップアイドルになったら……告白しようって……ぐすっ……」
伊織「……せめて他のアイドルなら……ぐすっ……私だって諦めついたのに……っ!」
小鳥「………」
伊織「まさか、あんたに……横取りされるなんて……」
小鳥「…………組……」
伊織「っ! なっ、なによっ! 言いたい事あるのならはっきりいいなさいよっ!!」
小鳥「負け組乙」
伊織「ーーーっっ!! あんた、黙って聞いていればっ!!」
小鳥「伊織ちゃんは本当にプロデューサーさんのことが好きだったの?」
伊織「とっ、当然よっ!」
小鳥「自分から何かアプローチした?」
伊織「そっ、それは……トップアイドルになったら……」
小鳥「……逃げてたんじゃないの?」
伊織「っ!!」
小鳥「トップアイドルになったら……プロデューサーさんから告白してきてくれたら……」
伊織「っっっ!! あんたに私の何がわかるよのっ!!」
小鳥「わからないわよっ!」
伊織「………っ!」
小鳥「人のことも……自分のことも……プロデューサーさんのことも……なにも……誰も……」
小鳥「………でもね、伊織ちゃん……」
伊織「………っ」
小鳥「そのまま想いを伝えないのは、ただの負け組よ」
伊織「こ、小鳥……」
小鳥「行きなさい」
伊織「そんな……あんたは……」
小鳥「私は……、プロデューサーさんを信じる……」
伊織「………いいのね?」
伊織「……私が貰っていくわよ?」
小鳥「………」
伊織「………ふんっ」
バタン
小鳥「……これでよかったのよね……」
小鳥「……………プロデューサーさん………」
P「………まだかな」
バタン
P「っ、小鳥さ………伊織か……」
伊織「ちょっと来なさい」
P「へっ?小鳥さんが、まだ」
伊織「いいから!!」
P「……伊織……お前なんで泣いて……」
伊織「…………」
P「……なぁ、屋上なんて誰もいないし戻ろう、な?」
伊織「………」
伊織「……率直に言うわ」
伊織「私はあんたが好き」
P「…………俺は……小鳥さんと付き合って……」
伊織「そんな薄っぺらい言葉聞きたくないっ!!」
P「………っ!」
伊織「………あんたは、誰を選ぶの……」
伊織「私か……小鳥か……」
P「……俺は…」
P「>>+5」
P「俺は…」
P「小鳥さんを選ぶよ」
伊織「……っ!……」
P「伊織ならわかってくれると思ってる……俺は、心から……」
伊織「あぁーー!!もうっ!! 」
伊織「そんなに念押ししなくても、わかってるわよっ!」
P「……伊織……」
伊織「小鳥には……あんたたちになんて勝てるわけ無いとわかってたわよ……」
P「すまん……伊織……」
伊織「謝るぐらいなら……嘘でも二人とも愛するとかいいなさいよ……」
P「…………」
伊織「……この伊織ちゃんを泣かせたんだから……幸せになりなさいよねっ!!」
タッ
P「いっ、いお」
バタン
P「…………」
伊織「……はぁ……はぁ……っ!!」
小鳥「………」
伊織「なによ……笑いに来たわけ……?」
伊織「おめでとう、あんたの言った通り、プロデューサーはあんたを……」
ギュッ
伊織「…………小鳥……」
小鳥「……ごめんなさい……ごめんなさい…………私のせいで伊織ちゃんに辛い思いを……」
伊織「…………はぁ……」
伊織「………なんで……二人とも謝るのよ……」
伊織「……不幸になったら……承知しないんだから………」
伊織「…ぅっ…ううっ……もうっ……なんで、私より小鳥が泣いてるのよ……涙止まるじゃない……」
小鳥「………ごめんなさい……」
春香「ええっ、プロデューサーさんが小鳥さん……と……」
P「………すまん」
小鳥「………」
春香「いえっ! 小鳥さんなら……仕方ないです……」
春香「二人とも幸せに……あっ、あれ……? 嬉しいのに……なんか……感動しちゃって……」
春香「ちょっと、トイレ行ってきますね!」
伊織「……女泣かせ……」ボソッ
P「……っ!」
伊織「……あと、何人が…… 夜道刺されないように、気をつけなさいよ」
P「………はい」
伊織「小鳥も」
小鳥「っ!」
伊織「……大事なら……夜はこいつを外に出すんじゃないわよ……」
小鳥「………」コクッ
ガチャ
P「あぁ、美希……おはよう……」
美希「ハニー……? みんなも、どうしたの?」
伊織「……よりにもよって本命が……」
P「……あのな、俺……俺と小鳥さんは……」
終わり
安価なのに空気読まれすぎて、逆に戸惑った……文章ごちゃごちゃで申し訳ない……
いおりん、はるるんファンの方、勝手に振ってごめんなさい
支援ありがとうございました
Entry ⇒ 2012.10.20 | Category ⇒ アイマスSS | Comments (0) | Trackbacks (0)
奉太郎「古典部の日常」 3
それで水族館から1時間程自転車を漕いで帰ったのだが……
里志「おかえり、ホータロー」
なんで、家の前にこいつが居るのだろうか。
いや、里志だけではない。
摩耶花「どこに行ってたのよ」
伊原もだ。
える「え、ええっと」
奉太郎「なんでお前らが俺の家の前に居るんだ」
すると伊原が盛大な溜息をつき、ひと言。
摩耶花「ちーちゃんが休みって聞いたから、折木の風邪が移ったと思って来たんじゃない!」
摩耶花「ちーちゃんの家に行っても居ないし……」
摩耶花「折木の家に来ても誰も居ないし!」
摩耶花「一体どこに行ってたのよ」
あ、ひと言ではなかった。
というか、なるほど。
千反田が心配でまずは千反田の家に行ったが誰もおらず。
その後、俺の家に里志と伊原で来たが……そこにも誰も居なかった。
どうしようかと呆然としているところに俺と千反田が戻ってきたと言う訳だ。
解決解決。
える「今度、動物園に行きましょう!」
いや、解決する訳がなかった。
摩耶花「え? 動物園?」
摩耶花「ごめん、ちょっと意味が……」
ま、そうだろうな。
そして里志が少し考える素振りをしてから、口を開く。
里志「大体分かったかな」
里志「つまりホータローと千反田さんは遊びに行ってたって訳だ」
里志「二人とも学校を休んでね」
こいつも随分と勘が冴えるようになってきたな……
悔しいが、当たっている。
奉太郎「まあ……そうなるな」
摩耶花「折木が無理やり連れ出したんじゃないの?」
こいつは、よくもこう失礼な事を言える物だ。
える「ち、ちがいます! 私が水族館に行きたいと言ってですね……」
里志「あのホータローがよく一緒に行ってくれたね」
里志「僕はどっちかというと、そっちの方が驚きかな」
奉太郎「ずっと寝てたからな、体を動かしたくなったんだ」
摩耶花「折木、やっぱりまだ熱あるでしょ……あんたが自分で動きたいなんておかしいよ」
……そこまで俺は動かない奴だっただろうか?
里志「まあまあ」
里志「確かにそれは気になるけどね……でも千反田さんも風邪じゃ無かったし」
里志「ホータローも元気になったってことでよかったんじゃないかな?」
そう言うと、里志は俺の方を向き、いたずらに笑った。
……里志、少し感謝しておくぞ。
とりあえずこれで一安心といった所か。
摩耶花「まあ……ちーちゃんが無事ならいっか」
いや、まだだ。
こいつが居た。
摩耶花「ちーちゃん、どういうこと?」
える「今日、水族館に行ってですね」
える「是非、動物園にも行ってみたいと思ったんです!」
さいで。
里志「ははは、いいんじゃないかな?」
える「そう思いますか、福部さん! 」
摩耶花「そうね、私もちょっと行ってみたいかな」
える「摩耶花さん!」
里志と伊原は承諾してしまった。
……俺の方を見ないで欲しい。
奉太郎「……分かった、今度行こう」
最近ではほとんど諦めに近い感じとなってきているが……ま、いいか。
える「良かったです、楽しみにしていますね」
最悪の展開は避けられたし、良しとしよう。
つまり、俺が言う最悪の展開とは、千反田が俺の家に泊まったという事が伊原と里志にばれると言う事だ。
そんな事がばれてしまったら、俺はこれからずっと風邪で学校を休むことになりそうである。
奉太郎「よし、じゃあ今日は帰るか」
里志「そうだね、そろそろ日が落ちて来ているし」
摩耶花「うん、じゃあ予定とかは明日の放課後に決めようか?」
える「はい! では明日の放課後に部室に集合で」
奉太郎「ああ、それじゃあまたな」
油断していた。
釘を……刺しておくべきだった。
俺は振り返り、手を挙げ別れの挨拶をした。
千反田の口が動いているのが分かった、何を言おうとしている?
さようなら? とは違う。
口が「お」の形になる。
お……お……
これは、風邪を引くことになりそうだ。
える「折木さん! また泊まりに行きますね!」
伊原と里志が千反田の方を向く、ついで伊原の叫び声。
摩耶花「お!れ!きー!」
ドアを閉めよう、俺は知らん。
鍵を掛け、チェーンを掛けると俺は外から聞こえる叫び声に震えながら、静かにコーヒーを淹れるのであった。
そして、ようやく外が静かになった頃、家の電話が鳴り響いた。
奉太郎「里志か、どうした」
里志「いきなりそれかい? ホータロー」
里志「僕が摩耶花をなだめるのに使った労力をなんだと思っているんだ」
奉太郎「おー、それはすまなかったな」
里志「……ま、いいさ」
里志「それより少しは説明してくれると思って電話したんだけど」
里志「どうかな?」
奉太郎「今、近くにあいつらは?」
里志「んや、いないよ」
里志「家の方向が違うからね、なだめた後は別れた」
奉太郎「そうか」
里志「それで、話してくれるのかい?」
奉太郎「……少しだけな」
こうなってしまっては仕方ない、別にやましい事をした訳でもあるまいし。
里志「だろうね、ホータローがそんな事をするとは思えない」
里志「何か、理由があったのかい?」
奉太郎「理由、か」
奉太郎「あるにはあった」
里志「へえ、どんな?」
奉太郎「色々世話になってな、夜遅くになってしまっていたんだ」
奉太郎「そんな中、帰す訳にはいかなかった」
奉太郎「かと言って、無理に泊まれって言った訳じゃないからな」
里志「ふうん、それは意外だなぁ」
奉太郎「意外? 無理に泊まらせなかったのがか?」
里志「あのホータローがそれだけの理由で泊まらせたってのが意外だと思ったんだ」
奉太郎「……何が言いたい」
里志「やっぱり変わったよ、ホータローは」
奉太郎「それは……少し自分でも分かっている」
里志「自覚があったのか、前のホータローなら」
奉太郎「絶対に千反田を泊めていなかった、だろうな」
里志「そう、その通りだよ」
奉太郎「それで、結局お前は何が言いたいんだ」
奉太郎「前の俺の方が良かった、か?」
里志「いや? 今のホータローも充分良いと思うよ」
里志「ただ、ね」
里志「今のホータローは、ちょっと見ていて辛いんだ」
奉太郎「は? 意味が分からんぞ」
里志「……いや、なんでもない」
里志「まあ、事情が聞けて安心したよ! それじゃあ僕はこれで」
奉太郎「お、おい!」
……切られた。
客観的に見ても、昔の俺よりは幾分かマシだろう。
そのマシの判断基準になる物はなんなのかは分からないが、一般的に見て、という事にしておく。
あいつの言っている事は、時々意味が無いこともあるし、大して相手にしないのだが……少し気になるな。
気になる、か。
俺にも千反田が乗り移り始めているのかも知れない。
あまり頭を使うと、熱がぶり返して来そうだ。
明日は……行くしかないだろうなぁ。
里志がなだめたと言っていたので、多少は安心できるが……
ううむ、今から寒気がするぞ。
いや、決めた。
男には腹を括らねばならない時がある物だ。
それが今なのか? という疑問は置いといて、とりあえず頑張ろう。
さて、明日はなんて言い訳をしようか、と思いながら残りの時間は消費されていった。
今日の作戦はこうだ。
まず、朝は伊原をなんとか回避する。
できれば千反田も回避した方がいいだろう。
なんせ、セットでいる可能性が高い。
そして放課後は、里志と一緒に部室に行く。
以上、作戦終わり。
奉太郎(はあ……行くか)
朝から気分が悪いな、全く。
放課後までは生きていたい、俺にも生存本能はある。
いつもの場所で、里志を見つけた。
奉太郎「おはよう」
里志「おはよ、ホータロー」
奉太郎「昨日はすまんな、伊原の事」
里志「なんだい、そんな事か」
里志「構わないさ、摩耶花をなだめるのも慣れてきたしね」
奉太郎「そうか、じゃあ一つ頼みがあるんだが」
里志「ホータローが? 珍しいね」
里志「うーん、生憎そういう趣味はないんだけどね」
奉太郎「……里志」
里志「ジョークだよ、でも一緒にはいけないかなぁ」
里志「今日は委員会があるからちょっと遅れそうなんだ」
早くも、作戦は失敗に終わってしまった。
奉太郎(仕方ない、千反田と行くしかないか)
奉太郎(伊原と二人っきりだけは、避けたいしな)
まずは、千反田と合流しよう。
ちなみに、俺はA組で千反田はH組である。
奉太郎(遠いな……)
しかし、ここで省エネしていては後が怖い、なんとかH組まで到達し、扉を開ける。
人は結構居たが、千反田が見当たらない。
奉太郎(もう部室に行ったのだろうか?)
ならば仕方ない、部室の様子をちょっと覗いて、居なかったら帰ろう。
ドアを、そっと開ける。
奉太郎(静かに開けよ……)
少しだけ開いた隙間から、中を覗いた。
見えるのは……伊原。
千反田は見当たらない。
奉太郎(さて、帰るか)
誰も俺を責める事はできない。
考えてみろ、わざわざ牙を向いて待っているライオンに飛び込んで行く餌などは居るはずがない。
という訳で、俺の行動も別段普通の事である。
教室のドアを閉めて変な音が出ても困る、そのままにして帰る事にした。
足音を立てないように、そっと階段まで戻る。
ここまで来れば、もう安全だろう。
摩耶花「あれ、折木じゃん」
摩耶花「どこに行くの?」
奉太郎「い、いや……ちょっと散歩を」
摩耶花「あんたが散歩? 珍しいわね」
摩耶花「でも疲れたでしょ、部室で休んでいきなさいよ」
奉太郎「あ、ああ。 そうしようかな」
会話だけ見れば、普通の会話だろう。
だが、伊原の手は俺の肩を掴み、骨でも砕く勢いで力を入れている。
渋々、伊原の後に付いて行く。
付いて行くという表現は正しくないだろう。
正しくは、連れて行かれてる。
摩耶花「よいしょ」
そう言うと、伊原は席に着く。
ここで小さくなっていてもどうしようもない。
いつも通りにしておこう。
そう思い、席に着き本を開く。
やはりというか、部室には俺と伊原だけだった。
3分ほどだろうか? 突然伊原が机を叩く。
奉太郎(言ってから叩いてくれよ……)
寿命が縮まることこの上ない。
奉太郎「ど、どうした」
摩耶花「昨日の事、話してくれるんでしょうね」
奉太郎「……やはりそれか」
摩耶花「まあね、ちーちゃんに聞いても答えてくれないし……あんたに聞くしかないじゃん」
奉太郎「ちょ、ちょっと待て」
奉太郎「伊原は関係無いだろう、今回の事は」
摩耶花「私の友達に何をしたか聞いてるのよ!!」
奉太郎(千反田とは違う形で後ずさるな、これは)
奉太郎「わ、わかった」
摩耶花「ま、そうだとは思ったわ」
摩耶花「折木に何かする度胸なんてあるわけないしね」
奉太郎(……ひと言余計だ、こいつは)
奉太郎「それで、千反田が飯を作ってくれたのは知ってるだろ」
奉太郎「それを食べて少し話をしていたら、すっかり辺りが暗くなっていて」
奉太郎「そのまま帰す訳にもいかないから、泊まるか? と聞いたんだ」
摩耶花「ふうん」
奉太郎「別に強制した訳じゃないぞ」
摩耶花「そうなんだ、分かったわ」
なんだ、意外と素直だな……
奉太郎「……まだ何かあるのか」
摩耶花「前からすこーしだけね、気になってたんだけど」
摩耶花「折木って、ちーちゃんの事好きなの?」
奉太郎「は、はあ!?」
やられた、こいつの目的はこれか。
摩耶花「別に嫌なら言わなくてもいいよ、少し気になっただけだし」
奉太郎「……前から、って言ったな」
奉太郎「いつぐらいからそう思っていたんだ」
摩耶花「もう大分前、去年の文化祭の時くらいだったかな?」
そ、そんな前から?
奉太郎「……そうか」
摩耶花「で、どうなの?」
伊原には、話しておくべきなのだろうか?
いや、むしろこれは隠すことなのか?
伊原がそう思っていると知った以上、隠すのにも労力が必要になるだろう。
ならば、話は早い。
否定する必要も、無い。
俺がつい最近気付いた事を、伊原は去年から知っていたと言うのだ。
それを聞いた俺が無理に隠しても、どうせいずればれてしまう。
摩耶花「へええ、あの折木がねぇ……」
奉太郎「……悪かったか」
摩耶花「ううん、折木も一緒なんだなって思ってね」
奉太郎「一緒?」
摩耶花「私たちとって事」
摩耶花「あんた、何事にもやる気出さなかったじゃない」
奉太郎「まあ、否定はしない」
摩耶花「そんな折木でも恋とかするんだなぁって思っただけ」
奉太郎「……俺も確信したのは最近だったがな」
摩耶花「そうだろうね、あんたって自分の変化には疎そうだし」
奉太郎「……悪かったな」
しかし周りから見たらそれほどまでに分かりやすかったのだろうか……
まあ、もう10年近い付き合いになる、気付かない方がおかしいのかもしれない。
摩耶花「ところでさ、あんたは私に聞かないの?」
奉太郎「……何を?」
摩耶花「ちーちゃんが折木の事をどう思っているか」
摩耶花「私がちーちゃんに聞けば、答えてくれると思うよ」
奉太郎「それはいい」
摩耶花「即答、ね」
奉太郎「知りたくないと言えば嘘になるが、それは千反田の口から直接聞くべきだろ」
奉太郎「面倒くさいのは嫌いなんだ」
摩耶花「やっぱり、折木は折木ね」
奉太郎「それはどうも、話は終わりでいいか?」
摩耶花「うん、ごめんね引き止めちゃって」
奉太郎「別に、いいさ」
摩耶花「ちーちゃんは今日部活に来れないってさ、さっき廊下で会った時に言ってた」
奉太郎「じゃあ、話し合いは明日だな。 俺は帰る」
奉太郎「ああ、じゃあな」
全く、なんという余計な行動だったのだろうか。
だが、別に話したからと言って何も変わる事ではないだろう。
気楽に、考えるか。
それにしても伊原とあんな感じで話したのは初めてじゃないか?
根はいい奴と言うのも、間違いではないな。
今日は帰ろう、風呂に入りたい気分だ。
第9話
おわり
私は、聞いてしまいました。
聞いてはいけない事だったでしょう。
ですが、私に聞きたいという感情さえ無ければ……聞かずに済んでいました。
つまり私は、折木さんの気持ちを一方的に知ってしまったという事です。
何故こんな事になったかというと、少しだけ時間を遡らないといけません。
私はいつも通り、部室に入ろうとしました。
そこで、丁度階段を上ってきた摩耶花さんと鉢合わせとなります。
える「摩耶花さん、こんにちは」
える「他の方は、まだみたいですね」
摩耶花「あ、ちーちゃん」
摩耶花「後で皆も来ると思うよ」
える「えっと、それなんですが……」
える「すいません、今日はちょっと用事が入ってしまいまして」
折角の話し合いだったのに、少し残念です。
ですが、家の用事は絶対に外せないので仕方がありません。
摩耶花「あー、そうだったんだ」
摩耶花「じゃあ私が皆に伝えておくよ」
える「そうですか、では宜しくお願いします」
私は頭を下げると、摩耶花さんが部室に入るのを見てから、ドアを閉めました。
そう思いながら階段に差し掛かった時です、聞き覚えのある足音がしました。
える(これは、折木さんのでしょうか?)
今でも、何故こんな行動を取ったのか分かりません。
私は咄嗟に部室の前まで戻り、更に奥の物陰に隠れました。
と言っても、大して隠れられていません。
恐らく、見つかるでしょう。
ですが、折木さんは何かに怯えている様な顔をし、視線が泳いでいます。
そして私に気付かないまま、部室の扉を少し開けると、中を覗いていました。
える(何をしているのでしょうか?)
そして覗いた後にすぐ、部室から去ろうとします。
折木さんが去ってからほんの数秒後に、ドアを開けて摩耶花さんが出てきました。
摩耶花さんは階段の方まで走って行くと、折木さんと会った様です、話し声が聞こえてきました。
える(折木さんは、どこか落ち着きがなかったのでばれなかったみたいですが……)
える(摩耶花さんが来たら、ばれてしまうかもしれません)
そう考えた私は、一度部室の中へと入ります。
こんな事さえしなければ……
そして、やはり摩耶花さんと折木さんは部室に向かってきました。
える(どこかに、隠れないと……)
私が隠れた場所は、部屋の隅にあるロッカーの中でした。
える(……私は一体何をしているのでしょうか)
そして、少し時間を置いて会話が始まります。
どうやら昨日の事の様です。
何度か迷いました、ここから出て行こうかと。
ですがタイミングを失ってしまい、次に始まった会話で更に失ってしまいます。
「折木って、ちーちゃんの事好きなの?」
摩耶花さんが言う、ちーちゃんとは私の事です。
つまり私の事を好きなのか? と折木さんに聞いている事になります。
私はこの先を聞いてもいいのでしょうか?
ダメです、聞いてはダメな内容です。
そして、聞いてしまいました。
「……そうだ、俺は千反田の事が好きだ」
その言葉を、聞いてしまいました。
私は、どんな顔をしていたのでしょうか。
嬉しいという感情が溢れていたのは分かります。
ですが、何故……私の目からは涙が落ちているのでしょうか?
折木さんの気持ちに、私は答えていいのでしょうか?
その資格が、私にあるのでしょうか?
考えれば考えるほど、涙が溢れてきます。
そして、ある事に気付きます。
える(これが、私が自分で答えを出さないといけない問題なのでしょう)
える(折木さんの事ばかり考えてしまうのは、そういう事だったんですね)
える(私は……折木さんに)
える(答えていいのでしょうか)
える(好きです、と……答えていいのでしょうか)
そう考えながら、やがて誰も居なくなった部室に出ると、静かに外に出ます。
今回は、少し卑怯でした。
私は自分の行動を後悔しながら、帰路につきました。
第9.5話
一章
おわり
里志「ホータロー、どうしたんだい?」
そして、何故か里志と二人っきりだ。
奉太郎「この状況をうまく言葉にできないものか考えていた」
里志「それはまた、難しい事を考えているね」
里志「だって僕でさえ、この状況は理解に苦しむよ」
そう言う里志の顔はいつも通りの笑顔。
俺は小さく息を吐くと、一度整理することにした。
俺たち4人は、動物園に来ていた。
と言うのも千反田がどうしても行きたいらしく、特にすることが無い暇な高校生の俺たちは行くことになったのだが。
最初は4人で行動していた筈だ、だったら何故里志と居るのか?
確か、伊原と千反田が一回別行動をしようと言って……どこかに行ってしまったから。
確かというのは、俺が単純に話をちゃんと聞いていなかったからである。
すると里志は……
里志「え? てっきりホータローが聞いていると思ったんだけど」
と答えた。
俺と里志は数秒間、顔を見合わせるとお互いに溜息を吐く。
里志「うーん、じゃあ動物でも見ながら探そうか」
と里志は意見を述べた。
無闇に探すよりは、確かに効率がいいかもしれない。
そう思った俺は渋々承諾したのだが……
園内をほとんど見終わっても、伊原と千反田は見つからなかった。
そして成り行きでウサギ小屋で休憩を取っている所である。
なんといっても男二人だ。
奉太郎「それで、大体見回ったと思うが」
奉太郎「どうするんだ、これから」
里志「僕は別にホータローと二人でも構わないんだけどね」
里志「一生に一度、あるかないかだよ」
里志「ホータローと二人で見る動物園、なんてさ」
……こいつはどうにも前向きすぎる。
奉太郎「俺が嫌なんだよ、何が楽しくてお前と二人で周らないといけないんだ」
里志「はは、そう言われると困るね」
しかし、本当に困ったな。
動物園はそこまで広くはないが、迷路みたいに入り組んでいる。
全部周ったとしても、すれ違いになる可能性が高い。
ん? 待てよ。
連絡を取る方法……あるじゃないか。
里志「前にも言ったけどね、携帯じゃなくてスマホだよ」
さいで。
奉太郎「んで、そのスマホで伊原に連絡は取れないのか?」
里志「さすがホータローだよ! その考えは無かった!」
どこか演技っぽく言うと、里志は続けた。
里志「ってなると思うかい? 今日は忘れてきたんだ」
肝心な時に……
奉太郎「……帰って明日謝るか」
里志「それはダメだよホータロー」
里志「だって、来る時は摩耶花と千反田さんに道を任せていただろう?」
里志「僕たちだけじゃ、家に帰り着く事は不可能だね」
奉太郎(よくそんな情けない事を自信満々に言えるな)
奉太郎「……そういえばそうだったな」
奉太郎「それじゃあ、どうするか……このままここに住むか?」
里志「悪い案では無いね、でもそれだと学校に行けなくなってしまう」
里志「動物に囲まれて朝を過ごす、一度はやってみたいけどね」
里志「でもやっぱり……もう一回、周ってみるのが最善かな?」
奉太郎「……分かった、もう一度周ろう」
そう言い、ウサギ小屋から出ようとした時に、視線を感じた。
なんかこう……獰猛な動物に睨まれるような。
里志「タイミング、完璧じゃないか!」
里志「摩耶花! 助かったよ」
檻に入っているのは俺、里志、そしてウサギ達。
それを外から不審者を見る目で見ているのが伊原。
奉太郎(ウサギ達の気持ちが、少し分かった)
摩耶花「時間も場所も言ったはずよね、なんでこんな所にいるのよ」
里志「ご、ごめんごめん。 ホータローと周っていたらついつい忘れちゃって」
摩耶花「ふーん、折木と回った方が楽しいんだ。 ふくちゃんは」
奉太郎(1/100で悪かったな)
摩耶花「ま、いいわ」
摩耶花「鍵閉めておくから、またね」
摩耶花「ちーちゃん、行こ?」
これからの人生、ウサギと共に過ごすことになるのだろうか。
える「え、ええっと……私は……」
里志「千反田さん! 開けて!」
摩耶花「ちーちゃんに頼るんだ? へえ」
奉太郎「……はぁ」
奉太郎「そろそろ行くぞ、時間が勿体無い」
そう言うと伊原もようやくふざけるのを止め、俺たちが檻から出るのを待つ。
奉太郎「それで、お前たちは何をしていたんだ」
摩耶花「ちょっと、買い物をね」
買い物? 何かお土産でも買っていたのか?
える「これです!」
そう言いながら千反田が取り出したのは、ウサギの置物?
奉太郎「これを? 部屋にでも置くのか?」
える「部屋と言えばそうです、部室に置こうと思って……」
なるほど。
確かにあの部室は簡素すぎる。
伊原が描いた絵は映えているが、どうにも寂しい。
摩耶花「そ、それは」
伊原の態度を見て、察した。
大方、何か里志に買ったのだろう。
奉太郎「ま、いいさ」
奉太郎「それより一度、飯にしよう」
里志「うん、ウサギと遊んでいたらお腹が減っちゃったよ」
その言い方だと、俺もウサギと遊んでいたみたいに聞こえるのでやめてほしい。
える「ウサギさんと遊ぶ折木さん……ちょっと気になります」
ほら、こうなるだろ。
奉太郎「俺は遊んでないぞ、見ていただけだ」
里志「そうそう、ホータローがウサギと遊ぶところはちょっと見たくないかな」
える「……そうですか、残念です」
動物を見てから肉を食べる気は、あまりしなかった。
伊原と千反田も同じ考えのようで、麺類を頼んでいる。
だが、里志は肉を食べていた。
人それぞれなのだろうか、あまり気にする様な奴には見えないし。
摩耶花「ふくちゃん、よくお肉食べられるね」
里志「それはそれ、これはこれだよ」
里志「一々気にしていられないさ」
ふむ、こういう考えもありなのかもしれない。
等と、少し哲学的な事を考えながら昼飯を済ませる。
どうやらプレゼントでも渡すつもりなのだろう。
それに着いて行く様な真似はさすがの俺でもできない。
える「あ、あの。 折木さん」
対面に座る千反田が話しかけてきた。
える「これ、プレゼントです」
これは意外。
俺にもプレゼントをくれる人が居たとは……
奉太郎「おお、ありがとう」
千反田がくれたのは、ペンダントだった。
中に写真が入っており、その写真には綺麗な鳥が写っていた。
しばらくペンダントに見とれていた。
気付くと、千反田が俺の方をじーっと見つめている。
奉太郎「……今は付けないからな」
える「え、はい……そうですか」
奉太郎「……恥ずかしいだろ」
える「そ、そうですよね。 分かりました」
そんな会話をしている内に、伊原と里志が戻ってきた。
慌ててペンダントを隠す、なんとなく。
奉太郎「さて、これからどうする?」
里志「僕とホータローは大体見て周っちゃったからなぁ」
里志「二人で周ってきたらどうだい? 僕達はここで待ってるよ」
える「いいんですか? じゃあ摩耶花さん、行きましょう」
摩耶花「今度はフラフラしないでここに居てね、二人とも」
はいはい、分かりました。
女二人で話したい事もあるだろうし、これでいいか。
何より座っている方が楽だ。
と言っても里志と二人で話す事も無いのだがな……
それは俺だけの話であって、こいつはあるみたいだ。
奉太郎「なんだ」
里志「僕が摩耶花に貰ったもの、分かるかい?」
奉太郎「さあな、見当もつかん」
里志「これだよ」
そう言って、里志はテーブルの上にそれを置いた。
ゴトン、という大きな音をたてて。
置かれたのはかなり重そうな招き猫だった。
奉太郎「これは……」
里志「正直な話、最初はまだ怒っているのかと思ったよ」
里志「でもそんな感じじゃなかったんだ、それで仕方なく受け取った」
奉太郎「気持ちが大切って奴じゃないのか」
里志「でもこの気持ちはちょっと重すぎる」
奉太郎「確かにな、随分重そうだ」
里志「かなり、ね」
里志「僕の巾着袋が破けないかが、今一番心配な事だよ」
にしても。
奉太郎(でかいな……)
テーブルの上に置かれた招き猫は、とても大きな威圧感を放っていた。
里志「それより、だ」
里志「ホータローは何を貰ったんだい?」
見られていたか? いや、そんな筈は無い。
奉太郎「何も貰ってないぞ」
里志「嘘はよくないなぁ、友達じゃないか僕達」
奉太郎「……」
最近になって、里志はやたら勘が鋭くなってきている。
俺にとっては迷惑な事この上ない。
里志「何年友達やってると思っているんだい? 顔を見ればすぐに分かるさ」
奉太郎「なるほど、まあいい、確かに貰った」
里志「何を?」
奉太郎「それは言わない」
里志「残念だなぁ」
奉太郎「一つだけ言えるのは、その招き猫より小さいって事くらいだな」
里志「はは、いい例えだ」
そう言うと、里志は窓から外を眺めた。
奉太郎「そうか? いつも通りだろ」
里志「いいや、違うね」
里志「ホータローとこういうちょっと離れた場所に来るっていうのは、新鮮だよ」
里志「最近はホータローも活発的とは程遠いけど、動くようにはなってきたしね」
里志「そんな毎日が、少し新しくて楽しいのかもしれない」
奉太郎「ふうん、そんなもんか」
里志が楽しいと自分で言うのも、結構珍しいな。
里志「それと、こういう突発的な災難ってのもね」
そう言い、外を指差す。
なるほど、これは確かに災難だな。
空は、どんよりとした色をしていた。
そんな会話を聞いていたのか、やがて雨は降り出した。
里志「こりゃ、二人とも雨に降られたね」
奉太郎「だろうな、一緒に行ってなくて良かった」
だが俺達は二人とも傘なんぞ持っていない。
ならば諦めて降り注ぐ雨を眺めているのが効率的と呼べる。
それに伊原にはフラフラするなと言われている、これならば仕方ない。
奉太郎「いつまで降るんだろうな」
里志「うーん、すぐに上がりそうだけど、どうだろうね」
里志も俺と同じ考えなのか、探しに行こうとは言わなかった。
奉太郎「いよいよする事が無くなったな」
里志「そうだね、こうしてみると男二人ってのは寂しいもんだ」
奉太郎(さっきまで、ウサギ小屋ではしゃいでたのはどこのどいつだ)
俺は未だに上がりそうに無い雨を見ながら、コーヒーを一杯頼む。
里志「それにしても、後2年かぁ」
奉太郎「2年? 何が」
里志「僕達が高校を卒業するまでだよ」
奉太郎(卒業か、考えたことも無かったな)
奉太郎「まだ2年もある」
里志「ホータローにとってはそうかもしれないけど、僕にとっちゃ後2年なんだよ」
それもまた、感じ方の違いと言うものだろう。
奉太郎「楽しい時間はすぐに過ぎる、か」
里志「……ホータローがそれを言うとは思わなかったかな」
奉太郎「俺にもそれを感じる事くらいはあるさ」
里志「ふうん、ホータローがねぇ」
奉太郎「……里志は毎日が楽しそうだな」
奉太郎「それもそうだな」
里志「でも、たまには楽しくない日も欲しいとは思うけどね」
奉太郎「……なんで、そう思う?」
里志「さっきホータローが言ったじゃないか、楽しい時間はすぐに過ぎるって」
里志「つまり楽しくない時間なら、長く感じるって事さ」
里志「そうやって、一日を大切にしたいって思うこともある」
里志「それだけの話だよ」
奉太郎「そうか、じゃあ俺は随分と長い高校生活を送れそうだ」
里志「それはどうかな? 終わってみると案外早い物だよ」
現に既に高校生活の1年は過ぎている……少し納得できるかもしれない。
里志「それとね、終わってから気付くこともあるんだ」
奉太郎「終わってから?」
里志「うん、その時はつまらないって思ってた日々も、終わってから振り返ると楽しかった日々に思える」
里志「つまり結局は、時間が過ぎるのは早いんだよ」
里志「楽しくない日が欲しいって言うのは、無理な話かもね」
奉太郎「現に今も退屈で仕方ない」
里志「ははは、それには同意するよ」
そう里志が言うと、少しの沈黙が訪れた。
ふと窓の外に視線を流すと、どうやら雨が上がったようで、雲の隙間から陽が差し込んでいる。
里志「ホータロー」
里志に呼ばれ、顔を向けると店内の入り口を指差していた。
そのままそっちに顔を向けると、雨に降られた千反田と伊原の姿見える。
伊原は俺たちを見つけると、どこか不服そうに、睨んでいた。
奉太郎「千反田はともかく、伊原になんと言われるかって所か」
里志「そうそう、よく分かってるよホータローは」
奉太郎「フラフラするなと言ったのは、伊原だったと思うがな……」
里志「それを摩耶花の前で言ってごらん、摩耶花は絶対にこう言うね」
里志「折木は臨機応変って言葉の意味、知ってる?」
里志「ってね」
奉太郎「里志がそこまで断言するなら、言わない事にしよう」
里志「懸命な判断だよ、ホータロー」
そう言い笑う親友と共に、腕を組み、待ち構えるライオンの元へと食われに行くのであった。
第10話
おわり
里志とはあんな事を話していたが、時が経つのはやはり早い。
少し前まで、やっと高校生かー等と思っていた物だ。
気付けば進級していて、そして気付けばすぐ目の前に夏がやってきている。
初夏と言うのだろうか、セミが鳴いていてもなんもおかしくない暑さ。
そんな暑さに叩き起こされ、俺は不快な朝を迎えた。
奉太郎(暑いな……)
唯一幸いな事は……今日は日曜日、学生身分の俺は休みである。
しかしとりあえずは水を飲もう、このままでは家の中で死んでしまう。
寝癖も中々に鬱陶しいが、まずは喉を潤さなければ。
そんな事を思い、リビングに赴く。
リビングに着くと、いつ帰ったのだろうか……姉貴が居た。
供恵「おはよ、奉太郎」
奉太郎「帰ってたのか、おはよう」
確かこの前海外へ行ったのが2ヶ月くらい前か?
いや、1ヶ月前くらいか。
奉太郎「今回は随分と早かったな」
供恵「そう? 外国に行ってると感覚が狂うのよねー」
そんなもんか。
そう言いながら、姉貴はバッグから物を探す素振りをする。
俺は姉貴に視線を向け、水を飲みながら姉貴の話に耳を傾けた。
供恵「お土産、買ってきたわよ」
供恵「買ってきたってのは変ね、貰ってきたが正しいかしら」
そう言い、手渡されたのは4枚のチケットだった。
奉太郎「沖縄旅行、3泊4日?」
供恵「そそ」
供恵「この前の友達らと行って来なさい」
沖縄か、確かにありがたいが……
しかし、そんな時間は無いだろう。
奉太郎「あのなぁ、俺たちは高校生だぞ」
奉太郎「1週間近くも離れるなんてできない、学校があるしな」
供恵「ふうん、そっか」
姉貴は素っ気無く言うと、それ以降は口を開こうとしなかった。
話はどうやら終わったらしい。
奉太郎(里志は確か妹がいたな、あいつにあげるか)
チケットを渡すついでに里志と遊ぼうかと思ったが、外の暑そうな空気にその気は無くなる。
奉太郎「一応礼は言っておく、ありがとう」
供恵「可愛い弟の為だからねー」
奉太郎「それと、一ついいか?」
供恵「ん? なに?」
奉太郎「このチケットって、海外のお土産では無いだろ……」
供恵「そりゃーそうよ、商店街の人に貰ったんだもん」
さいで。
ま、とにかくこのチケットは次に会った時にでも渡すとして……
今日は何をしようか?
奉太郎(あれ、俺ってこんな行動的だったか?)
いや、違う。
別にする事なんて求めていない。
ただ、ごろごろとしていればいいだけだ。
そう思うと、寝癖を直すのもなんだか面倒になってきた。
その結論に至ってから、俺の行動はとても単純な物になる。
30分……1時間……クーラーが効いたリビングで過ごす。
やはり、こうしているのが俺らしいという事だ。
そんな事を考え、しかし部屋まで戻るのも面倒だな、など考えているときにインターホンが鳴った。
……リビングには姉貴もいる、任せよう。
供恵「はーい」
供恵「あ、久しぶりね」
供恵「ちょっと待っててねー」
姉貴が転がる俺の頭を足で小突く。
もっと呼び方という物があるだろう……全く。
奉太郎「……なんだ」
供恵「と・も・だ・ち」
供恵「来てるわよ」
その時の姉貴の嬉しそうな顔と言ったら……省エネモードに入った俺には起き上がるのも辛い。
しかし、尚も頭を蹴り続ける姉貴に負け、今日一番嫌そうな顔をしながら起き上がる事にした。
無視し続けては後が怖い、これが本音というのが悲しい。
奉太郎(寝癖直すのも面倒だな……このままでいいか、とりあえずは)
伊原や千反田まで居たら、とても面倒な事になって仕方ない。
しかし、悪い予感というのは良く当たる物で、玄関のドアを開けると見事に全員が揃っていた。
奉太郎(暑いな……)
顔だけを出し、問う。
奉太郎「日曜日にわざわざ何をしに来た」
里志「古典部としての活動だよ」
休日に? 馬鹿じゃないのかこいつらは。
奉太郎「明日でいいだろ……」
摩耶花「あんた今何時だと思ってんの? 寝癖も直さないで……」
奉太郎「今日は家でごろごろすると決めたんだ、帰ってくれ」
える「今日でないとダメなんです!」
迫る千反田に咄嗟に後ろに引くと、頭だけを出していた俺は当然の様に挟まる。
幸い、その失敗に気付いた者は居なかった。
里志「千反田さんもこう言ってるし、折角来たんだからさ、いいじゃないか」
奉太郎「……今日は暑すぎる、今度にしないか」
暑い、休日、面倒くさいの三拍子、断る理由としては結構な物だろう……多分。
里志「だってさ、どう思う? 二人とも」
里志はそう言うと、二人の方に振り返り答えを促した。
摩耶花「いいから来なさいよ、暑いのは皆一緒でしょ」
える「アイスあげますから、はい!」
奉太郎(アイス……? 物凄く子供扱いされているな、俺)
当然、他二名は来い、と言うだろう……だがここで引くほど俺も甘くは無い。
里志「はあ、仕方ないなぁ」
少しだけ残念そうな顔を里志がしたせいで、やっと帰ってくれるのかと思ったが……里志が無理やりドアを開いてきた事で若干だが焦った。
奉太郎「お、おい」
里志は大きく息を吸うと、ひと言。
里志「おねえさーん!」
この馬鹿野郎。
それを予想していたかの様に、直後に姉貴が現れる。
供恵「里志くん、お久しぶり」
供恵「どしたの?」
くそ、最近は里志も俺の使い方を分かってきたのか……やり辛い。
姉貴に苦笑いを向けながら、俺は言う。
奉太郎「今から、皆で遊びに行くところだ。 ははは」
供恵「ふ~ん、行ってらっしゃい」
姉貴は物凄く嬉しそうに笑うと、リビングに戻っていった。
それを見届けた後、満足気に笑う里志に向け、ひと言伝える。
奉太郎「……覚えとけよ、里志」
里志「はは、夜道には気をつけておくよ」
こんな感じで、俺は折角の休みだと言うのに古典部の部室まで足を運ぶはめになった。
全員が席に着き、話を始める。
摩耶花「そうそう、この前ふくちゃんと遊んだときなんだけどね」
摩耶花「30分も遅れてきて、笑いながら謝ってきたの」
摩耶花「少し遅れちゃったね、ごめんねーって」
摩耶花「酷いと思わない!?」
える「そうですね……福部さん、それは少し酷いと思いますよ」
里志「千反田さんに言われちゃうと、参っちゃうなぁ」
これが古典部としての活動か、なるほど納得! ……帰ってもいいだろうか。
頬杖を突きながら俺は異論を唱える、当然だ。
奉太郎「そ、れ、で」
奉太郎「古典部の活動ってのはこの事か?」
数秒の間の後、千反田が思い出したように手を口に当てた。
える「……そうでした! 今日は目的があって集まったんでした!」
奉太郎(おいおい……)
溜息を吐きながら、新しく設置されたウサギの物置に目をやった。
窓際に置かれたそれは日光に当てられ見るからに暑そうだ、可愛そうに。
える「それでですね、今日集まったのは……」
える「今年の氷菓の事についてです!」
里志「ああ、文化祭に出す奴だね」
摩耶花「でも今年って文集にするような事……ある?」
奉太郎「あれって毎年出すのか?」
摩耶花「当たり前でしょ、3年に1回とかどんだけする事のない部活なのよ」
奉太郎「……ごもっとも」
里志「ホータローにとっては3年に1回でも随分な労力に違いないけどね」
俺は里志を一睨みすると、少し気になった事を千反田に訪ねる事にした。
える「はい、どうぞ」
千反田はそう言うと手を俺に向けた、司会はどうやら千反田努めてくれるらしい。
奉太郎「それが、今日じゃないとダメな事か?」
千反田は人差し指を口に当てながら、答える。
える「いえ、今日じゃないとダメという事は無いですね」
つい、頬杖で支えていた頭が少しずれる。
奉太郎「……さっき言っていたのはなんだったんだ」
奉太郎「俺の家の前で、今日じゃないとダメとかなんとか」
える「ああ、あれですか」
える「えへへ、そう言わないと、折木さんが来ないと思いまして」
奉太郎「……」
千反田は、こういう奴だっただろうか……?
どうにも最近は、里志やら千反田やら、俺を使うのに慣れてきているのだろうか。
そうだとしたら……俺の想像以上に面倒な事になってしまう。
奉太郎「……帰っていいか」
える「それはダメです! 氷菓の内容を決めないといけないです!」
一応持ってきていた鞄を掴む俺の手を、千反田が掴む。
奉太郎「……分かったよ、手短に終わらせよう」
渋々承諾するも、一刻も早く家に帰り休日を満喫したい。
里志「と言っても、内容が無いよね」
摩耶花「そうね、去年は色々とあったから良かったけど……」
里志「今年は内容がないよね」
える「困りましたね……」
里志「内容がないと困るね……」
奉太郎「別に何でもいいだろ、今日の朝は何食べたとかで」
里志「内容がないよう!」
里志が席を立ち、一際声を大きくし、嬉しそうな顔で言う。
どっちかというと……叫んでいた。
摩耶花「ふくちゃん、少しうるさいよ」
奉太郎「黙っててくれるとありがたいな」
える「福部さん、お静かに」
流石に3人に言われると、里志はようやく静かになった。
まさか千反田までもが言うとは思っていなかったが……
一旦静まった部屋の空気を変えるように、千反田が口を開く。
える「ではこういうのはどうでしょう? これから文化祭までに何かネタを見つける、というのは」
摩耶花「……それしか無さそうね」
悪い案ではない、が。
奉太郎「見つからなかったらどうするんだ? 今年は何か芸でもやるか?」
える「私、何もできそうな事が無いです……すいません」
摩耶花「ちーちゃん、本気にしないで」
える「あ、冗談でしたか」
こいつは本気で何か芸でもするつもりだったのだろうか。
少しだけ見たい気はするが……
俺は机を指でトントンと叩きながら言う。
奉太郎「後4ヶ月で何か見つけろというのは……難しいと思うぞ」
里志「あ、いい事思い出したよ」
またどうでもいい事を言うんじゃないだろうな、こいつは。
摩耶花「くだらない事言わないでね」
伊原もどうやら同じ意見の様だ。
しかし……伊原の視線が恐ろしいな、俺に向けられてないのが幸いだが。
里志「千反田さん、一つ気になることあったんじゃなかったっけ?」
奉太郎「ばっ……!」
える「あ、そうでした!!」
くそ、やられた。
今日は里志が口を開くとろくな事が無い。
える「折木さんに是非相談しようと思っていたんです!」
俺の返答を聞く前に、千反田は続ける。
える「実はですね、DVDの内容が気になるんです!」
える「す、すいません」
える「お話しても、いいでしょうか?」
奉太郎「……それと文集とどう関係があるんだ、里志」
里志「特にはないね、でも新しい発見ってのは重要な物だよ。 ホータロー」
奉太郎「……はぁ、分かった」
奉太郎「千反田、話してみてくれ」
える「ありがとうございます」
える「それでは最初から、お話しますね」
コホン、と小さく咳払いをすると話が始まった。
える「私は摩耶花さんが見終わった後に、お借りしました」
える「一つはコメディ物のお話で、もう一つはホラー物でした」
奉太郎(ホラーとコメディが同じDVDに入っているのか……少し見て見たいな)
摩耶花「それよ!」
伊原が机を叩き、声を挙げる。
こいつは俺の寿命を縮める為にやっているのではないだろうか? 等疑ってしまうのは仕方ない。
それと……急に大声を出すのは、本当にやめてほしい。
奉太郎「それって、何が?」
摩耶花「……もう片方は感動系だった!」
つまり二人が見ていた話の系統が違う……と言う事か?
える「そうなんです! 変ではないですか?」
一つ案が浮かんだ、成功すれば見事に手短に終わらせられるいい方法。
奉太郎「普通だろう、伊原がホラーを感動して見ていただけの話だ」
摩耶花「おーれーきー!」
おお、怖い。
仕方ない、逆転させよう。
奉太郎「じゃあこうだ、千反田が感動物を怯えながら見ていた、これで終わり」
える「お・れ・き・さ・ん! 真面目に考えてください」
……どっちに転んでも怖い思いをするのは俺の様だ。
なんで休日にこうも頭を使わなければいけないんだ……
全ての元凶の里志を見ると、それはもう楽しそうに笑っていた、あの野郎。
奉太郎「まず、DVDを見た日は同じ日か?」
える「はい、そうです」
奉太郎「ふむ」
可能性としては、あるにはあるな。
順番としては……
コメディをA、ホラーor感動物をBとして考えよう。
恐らく順番はA→Bに間違いは無い。
問題はそのBがホラーか感動物か、ということだ。
もう少し、情報が必要だな……
奉太郎「そのDVDはどこで見たんだ?」
える「場所……ですか?」
える「神山高校の、視聴覚室です」
奉太郎「視聴覚室? 学校まで来たのか?」
える「ええ、昨日は摩耶花さんと遊んでいまして……DVDを見ようって事になったんです」
える「それで、私の家には機材がありませんし……摩耶花さんの家は用事があり、お邪魔する事ができなかったので」
える「私たちは、学校で見ることにしたんです」
奉太郎(……学校の物を私物化する奴は初めて見たな)
ん? それはおかしくないか。
奉太郎「なんで一緒に見なかったんだ?」
える「見終わった後に、感想をお互いで交換しようと思っていたからです」
奉太郎(随分と暇な奴らだな……)
まあそれならば一緒に見なかったのは納得がいってしまう。
える「摩耶花さんが見終わった後は、今度は私が見させて頂きました」
える「私が終わった後、感想を交換しているときにお互いの意見が違う事に気付いたんです」
奉太郎「なるほど、な」
それならば話は早い、条件は揃っている。
深く考える必要も無かったな。
里志「……さすが、ホータロー」
里志「何か分かったみたいだね」
摩耶花「え? もう分かったの?」
奉太郎「まあな、でも一つ確認したい事がある」
える「確認、ですか?」
奉太郎「俺が聞きたいのは、何故もう一度二人で見ようとしなかったのか、だ」
奉太郎「意見が違った時点でそうするのが手っ取り早いだろ」
える「あ、そ、それでしたら……」
何故か千反田が言い淀む。
摩耶花「先生にね、ばれそうになっちゃって」
何をしているんだか、こいつらは。
奉太郎「……許可くらい取っておけ、次から」
奉太郎「だがそれのせいで、お前らも気付かなかったんだろうな」
える「は、早く教えてください! 気になって仕方がありません!」
奉太郎「わ、分かったから落ち着け、それと少し離れろ」
千反田が少し距離を取るのを見て、俺が話を始める。
奉太郎「結論から言うぞ」
奉太郎「そのDVDには、話が3本入っていたんだ」
奉太郎「そうだ、だから千反田達が見た内容が違っていた」
える「でも、でもですよ」
える「3本話があったとしますね」
える「わかり辛いのでA,B,Cとしますと」
奉太郎「千反田が言いたいのはこういう事だな」
千反田 A→B→?
伊原 A→B→?
える「そうです!」
える「でもこれですと、私と摩耶花さんが見ているお話が違うのはおかしくないですか?」
奉太郎「ああ、そうだな」
摩耶花「……そうだなって、まさかまた私とちーちゃんが見たものは受け取り方が違ったとか言うんじゃないでしょうね」
奉太郎「それを言うと後が怖い、だからさっき確認しただろ」
奉太郎「DVDを見た場所について、だ」
千反田 C→A→?
摩耶花 A→B→?
える「この場合なら、見た内容が違うと言うのも分かります……ですが」
える「どうして話の始まる場所が違っていたんですか?」
奉太郎「同じ場所で見た、というのが原因だ」
奉太郎「一度DVDを抜いていれば、こんな事は起こり得ない」
奉太郎「伊原がA→Bと見た後に巻戻しが行われないまま、千反田がC→Aと見たんだ」
奉太郎「伊原は元から2本しか入っていないと思っていたんだろう? なら巻戻しをしなかったのは説明が付く」
摩耶花「……なるほど!」
える「確かにそれなら……納得です」
える「私の、言い方ですか?」
奉太郎「さっきこう言っただろう」
奉太郎「一つはコメディ物のお話で、もう一つはホラー物でしたってな」
奉太郎「一瞬、千反田が最初に見たのがコメディ……つまりAだと思った」
奉太郎「だがそうすると伊原と合わなくなるからな」
奉太郎「最初に見たCがコメディとは考え辛い」
える「なるほど、つまり……」
私 ?→?→?(コメディとホラーは見ている)
摩耶花さん A→B→?(コメディと感動物を見ている)
える「この時点で、Aはコメディだという事が分かるんですね」
奉太郎「そうだ、Bがコメディだと言う事もありえない」
奉太郎「そこから考えられるのは一つしかない」
奉太郎「伊原がまず最初の二つを見て、その後千反田が最後の話と最初の話を見た」
奉太郎「そのせいで、意見に違いが出たんだろう」
奉太郎「考えれば分かるだろ……DVDのパッケージでも見れば書いてあるだろうしな」
摩耶花「あー、これ……もらい物なんだよね。 中身だけの」
奉太郎(DVDをあげた奴に俺が被害を受けているのを伝えたい)
える「そういう事でしたか、すっきりしました」
える「では、今度は全部見て感想を交換しましょう! 摩耶花さん」
摩耶花「うん、また持ってくるね」
奉太郎「暇な奴らだな、全く」
摩耶花「折木にだけは、それ言われたくない」
奉太郎(その通り、としか言えんな)
すると、ずっとニヤニヤしていた里志が口を開いた。
里志「確かに、分かってみれば簡単な事だったかもね」
里志「それに良かったじゃないか、文集のネタが一つ増えた」
……こんな事を文集にするのか、勘弁して頂きたい。
里志「そうかな? 僕は結構楽しめたけど」
える「私も良いと思いました、ありがとうございます」
そんな改まって頭を下げることでも無いだろうに……少し、照れる。
奉太郎(それはそうと)
奉太郎(16時……俺の休みが……)
明日からは、また学校が始まってしまう。
何が楽しくて休日の学校に来なければいけなかったのか……くそ。
それからまた関係の無い話を始める3人を眺め、やはりこれは放課後に済ませられた会話だったと俺は思った。
……やはり、納得がいかんぞ。
第11話
おわり
里志「いやあ流石だね、ホータロー」
里志「DVDの謎は無事に解決! お見事だったよ」
奉太郎「何がだ、あんなのは誰にでも思い付くだろ」
奉太郎「あれを謎と言ったら、全国のミステリー好きに失礼って物だ」
里志「いやいや、僕なんかじゃとても思いつかないよ」
あ、この感じ……次に恐らく。
里志「データーベースは結論を出せないんだ」
ほら言った。 へえ、そうなんだ。
そんな里志を軽く流すと、朝に姉貴から貰った物を思い出す。
奉太郎「ああ、そういえば」
奉太郎「これ、やるよ」
里志「ん? これは……沖縄旅行?」
奉太郎「姉貴に貰った奴だが、使ってる時間なんて無いだろ、家族とでも行ってくればいい」
里志「気が効くねぇ、ありがたく貰っておくよ」
千反田か伊原にあげてもよかったんだが、高校を一週間近く休むのは結構でかい物があるだろう。
その点、里志は大して気にしなさそうだし、まあ……いいんじゃないだろうか。
奉太郎「よくそんな物を持ち歩いているな」
里志「さっき買ったんだけどね、せめてものお礼だよ」
そう言うと、里志は缶コーヒーを投げ渡してくる。
銘柄を見ると、微糖の文字が見えた。
奉太郎(甘いのは好きじゃないんだがな……)
フタを開け、口に含んだ。
やはり甘い。
奉太郎(不味くは無いし、まあいいか)
そしていつもの交差点に差し掛かった。
ここで里志とは別々の道となる。
そのまま今日は別れると思ったが、里志は立ち止まると俺に顔を向け話しかけてきた。
奉太郎「どうって、何が」
里志「前に話した事だよ、楽しい日だったかっていう奴さ」
ああ、あの時の話か。
奉太郎「全く楽しくは無かった、気付けば休日が終わってしまったからな……勿体無いという感情はあるぞ」
里志「あはは、気付けば終わったって事は楽しかったんじゃないのかな?」
奉太郎「俺はとても、そうとは思えん……」
里志「ホータローにもいつか分かる時が来るさ、それじゃあまた明日」
奉太郎「ああ、また明日」
奉太郎(俺にも分かる時が来る、か)
奉太郎(楽しいと思う日もあるにはあるが)
奉太郎(今日は確実に無駄な日だったな……)
そいつは目の前で止まり、自転車を降りる。
奉太郎「……まだ何か用か、千反田」
える「用事、という程の事ではありません」
える「今日の、お礼を言いに来たんです」
奉太郎(お礼? DVDの事か?)
える「ありがとうございました、折木さん」
奉太郎「なんだ改まって、言いにきたのはそれだけか?」
える「もう一つあります」
える「ペンダント、着けて来てくれたんですね」
奉太郎「ああ、まあな。 折角貰った物だから」
少し恥ずかしくなり、顔を千反田から逸らす。
える「嬉しいです、ありがとうございます」
奉太郎(それだけを言いに来たのか? でも何か、言われるのを待っている?)
これでも一応1年間、千反田えるという人物と過ごしている。
そんな経験が、俺に違和感を与えていた。
何か、何かあったのか? と聞こうとする。
だがそれを聞いたら、今の仲が良い友達という関係が壊れてしまうような、そんな気も同時にする。
それを今やっているという事は、つまりは普通では無いのだ。
千反田はもう言う事が無い筈なのに、俺の方を見つめていた。
奉太郎「……千反田」
俺は、聞いてもいいのだろうか?
しかし、やはり嫌な予感がする。
える「はい」
言わなければ、何があったんだ? と。
だが……
奉太郎「……また明日、学校で」
俺は、口にできなかった。
える「はい、また明日、ですね」
千反田の顔は一瞬悲しそうな表情になったが、すぐにいつも通りに戻っていた。
奉太郎(俺は、間違えたのだろうか? 聞くべきだったんじゃないのか……?)
リビングには、俺と姉貴が居る。
姉貴なら、分かるかもしれない。
奉太郎「なあ、姉貴」
供恵「んー?」
煎餅をぼりぼりと食べながら、反応があった。
奉太郎「千反田……友達の女子なんだが」
奉太郎「今日帰り道であってな、何か言って欲しそうな雰囲気だったんだ」
奉太郎「なんだと思う?」
供恵「そりゃー、告白じゃないの?」
奉太郎「……真面目に考えてくれ」
供恵「うーん、ふざけているつもりは無かったんだけど」
供恵「それじゃないとなると……何か悩みでもあったんじゃないかな」
とてもそうは見えなかったが……
奉太郎「悩み、か」
供恵「そうそう、人間誰しも悩みの一つや二つ、あるもんよ」
奉太郎「そんな物か、そういう姉貴にはあるのか?」
供恵「ないね」
奉太郎(一つや二つあるんじゃなかったのかよ……)
奉太郎「俺は、そいつにそれを聞いてやれなかったんだ」
奉太郎「聞いたとして、今の関係が壊れそうな気がして……」
供恵「あんま思い悩む事もないでしょ」
奉太郎「……友達、だぞ」
供恵「ほんっと、あんたは無愛想な癖に愛想がいいんだから」
供恵「悩みっていうのはね」
供恵「自分からどうにかしようとしないと、どうにもならないのよ」
供恵「これあたしの経験談ね」
供恵「それで、今あんたが言ってたその子は」
供恵「心のどこかで、自分の抱えている悩みをあんたに聞いて欲しいと思ってたんだと思う」
供恵「でも向こうから言って来なかったって事は、まだ自分から解決しようとしてないのかもね」
奉太郎「だからこそ、言わなかったんじゃないのか」
供恵「その場合もあるわ、だけど今日……その子はあんたに聞いて欲しそうにしてたんでしょ?」
奉太郎「まあ、そうだな」
供恵「だったら簡単じゃない、あんたに頼ろうとしてたのよ」
供恵「奉太郎だったら解決してくれるかもしれない、とか思ってね」
奉太郎「それなら尚更……」
奉太郎「手を差し伸べるべきじゃなかったのか?」
供恵「それは違うね、ちょっと悪い言い方になっちゃうけど」
見事に即答、だな。
供恵「その子は、奉太郎に甘えようとしてたんじゃないかな」
甘えようと?
確か前に、千反田はその様なことを言っていた気がする。
……そういう事か。
供恵「それはダメ」
供恵「それはその子にとっても、奉太郎にとっても決していい方には転ばない」
供恵「あんた、意外と優しいからね」
供恵「でも向こうが相談してくるまで待つって言うのも大事よ」
奉太郎「……そんなもんか」
供恵「深くは考えないで、ゆっくり待っていればいいのよ」
そう、か。
そうだな、そうするか。
奉太郎「……分かった、助かったよ」
供恵「じゃあ、はい」
奉太郎「ん? なんだその手は」
供恵「コーヒー淹れて来て。 相談料」
やはり姉貴は、苦手だ。
今日はいつもより少しだけ、快適な朝を迎えられた。
昨日の千反田の顔を思い出すと、少し引っかかる物があるが……
ま、爽やかな朝だろう。
姉貴はどうやらまだ寝ている様で、姿が見えない。
一人準備を済ませ、家を出ようとした所で一度振り返る。
奉太郎(ありがとうな、姉貴)
姉貴の部屋に向け、一度頭を下げた。
見られていないから、できる事だ。
奉太郎(さて、行くか)
俺は、この時……また何も変わらない一日が始まると思っていた。
退屈な授業が一つ、また一つと過ぎて行く。
奉太郎(今日は確か、文集の事で集まる予定だったな)
奉太郎(昨日で全部終わったと思っていたが……流石にそんな事はないか)
そんな事を思いながら、午前の授業は終わった。
昼休みになり、他の生徒が思い思いに弁当を広げている時に、意外な奴が教室にやってきた。
摩耶花「折木、ちょっといいかな」
伊原か、一体なんだというのだ。
奉太郎「珍しいな、何か用事か?」
摩耶花「今日の放課後、ちょっと委員会の仕事が入っちゃってね」
なるほど、つまり。
奉太郎「遅れるって事か、俺に言わんでもいいだろう」
摩耶花「ふくちゃんもちーちゃんも見当たらないから、仕方なくあんたの所に来てるのよ」
摩耶花「それくらい察してよね」
奉太郎「そうかそうか、まあ分かった」
という事は、今日の放課後は俺も少し遅れてもいいか。
摩耶花「あんたは遅れないで行きなさいよ、いつも適当なんだから」
と、うまく物事は進まない様だ。
心を見透かされているようで気分が悪いな。
奉太郎「……分かってる、始めからそのつもりだ」
摩耶花「なんか怪しいなぁ、まあそれならいいわ」
摩耶花「しっかりと伝えておいてね」
そう言い残すと、別れの挨拶も満足にしないまま伊原は自分の教室へ帰っていった。
釘を刺されてしまっては仕方ない、放課後は素直に部室に行くことにしよう。
最初は、俺と里志と千反田で話し合うことになりそうだな。
ま、適当にネタを出しておけば問題ないだろう。
さて……そろそろ午後の授業が始まるか。
ようやく授業が終わった。
この後にもやらなければいけない事があると思うと……憂鬱だ。
だが、遅刻したら後で伊原になんと言われるか……分かった物じゃない。
俺はゆっくりと、部室に向かった。
ゆっくりゆっくりと古典部へ向かっていたら、途中で一度伊原に会い早く歩けと言われてしまう。
全く、今後の学校生活は是非とも伊原を避ける事に力を入れて行きたい物だ。
そんな事を思いながら古典部に着き、部室に入る。
どうやらまだ里志は来ていない様だった。
える「こんにちは、折木さん」
える「摩耶花さんも福部さんもまだ来ていませんね」
奉太郎「ああ、伊原は委員会で少し遅れるとさ」
える「そうですか、では福部さんが来たら文集について始めましょう」
奉太郎「そうだな」
そう言うと会話は終わり、俺は千反田の正面に座ると本を開き目を通す。
10分……20分……30分と時間が過ぎていった。
奉太郎「……遅いな」
える「そうですね……私、探してきましょうか?」
奉太郎「いや、もうちょっと待とう」
しかし、あいつは何をやっているんだか……
える「分かりました、もう少し待ちましょう」
再び俺は本に視線を戻す、だが千反田が何故か俺の方をちらちらと見てきて集中ができない。
える「え……あ、まあ……はい、そうです」
える「少し、お話しませんか?」
奉太郎「……なんの話だ」
える「文集の事です!」
奉太郎「却下だ、里志を待つ」
える「いいじゃないですか、二人でも話は進められます!」
奉太郎「二人より三人の方が効率がいい」
える「……」
静かになったか、やっと。
ちらっと、千反田の方を見た。
奉太郎「うわっ!」
びっくりした。
机から身を乗り出し、俺のすぐ目の前にまで千反田の顔がきていた。
える「真面目にやりましょう、折木さん!」
える「はい!」
満足したのか、笑顔の千反田が居る。
やはりこいつと二人は疲れてしまうな。
奉太郎「それで、文集についてだったか?」
える「ええ、そうです」
える「確かに去年より文集にする様な事が無いのは確かです……」
える「ですがそれでも! 書くことはあると思うんです!」
奉太郎「ほう、じゃあその書くことを教えてもらおうか」
える「ええ、昨日の夜考えていたんですが」
える「私達一人一人の視点で、古典部について書くというのはどうでしょう?」
ふむ、少し面白そうではあるな。
一人一人、つまり4人の視点からの古典部という事か。
合間合間に、物凄く不服だが……前のDVDの件等を挟めば読む方も退屈しないかもしれない。
奉太郎「ページ数も稼げそうだな」
える「本当ですか、良かったです」
える「……真面目に書いてくださいね、折木さん」
奉太郎「……分かってる、真面目にやるさ」
奉太郎「後は里志と伊原にも話して、最終決定って言った所だな」
える「分かりました、他にもいくつか考えないといけませんが……」
える「それはお二人が来てから、決めましょう」
奉太郎「そうだな」
意外にも話はすぐに終わった。
少し拍子抜けしたが……千反田が出した案が良かったのだから仕方無い。
える「はい、分かりました」
俺は首に掛けていたペンダントを机の上に置くと、部屋を出た。
部室から男子トイレは意外と遠く、急げば10分ほどで往復できるが……
俺は生憎急いでいない、15分ほど掛かるだろう。
トイレを済ませ、手を洗っていると何やら遠くから物音が聞こえてきた。
奉太郎(何の音だろうか、何か倒れた音か?)
奉太郎(まあいいか)
手をハンカチで拭きながら、部室へと戻る。
変わり果てた姿だった。
部屋中の物が散乱している。
奉太郎(さっきの音は……これか?)
椅子は倒れているし、机の周りは足の踏み場もない程だ。
奉太郎(それより、千反田は!?)
部屋の中を見回すが、いない。
襲われて、逃げたのか?
それともどこかに連れて行かれた?
奉太郎(くそっ!)
現在いる場所は特別棟の4F。
このフロアには階段が2つある。
俺はトイレに行っている間、一人も会わなかった。
犯人が使った階段は……恐らく古典部側だろう。
部屋から去り、階段を駆け下りる。
奉太郎(どこだ……!)
そんな事を3回繰り返し、見つけた。
特別棟の1Fに、千反田が居た。
奉太郎「千反田!」
える「あれ? 折木さん、どうしたんですか?」
横には里志も居て、状況がうまく飲み込めない。
里志「ホータロー? どうしたんだいそんな慌てて」
奉太郎「……なんで、ここに、いるんだ……千反田」
途切れ途切れに、聞いた。
える「ええっとですね、福部さんが委員会の仕事で各部長達に用事があったみたいなんです」
える「折木さんが部室から出て行った後に、すぐ福部さんが来られまして」
里志「それでホータローがトイレに行っている間に千反田さんを連れて行ったって訳だね」
俺は一度息を整えると、部室で見た光景を告げた。
奉太郎「……部室が、滅茶苦茶な事になっている」
える「滅茶苦茶とは……?」
奉太郎「見れば分かる、千反田は何か違和感……変な奴をみたりとか、なかったか?」
える「いえ、特には……」
里志「とりあえず、さ」
里志「その滅茶苦茶にされた部室に行ってみよう、じゃないと何が何だか分からないよ」
そう里志の言葉を聞くと、俺を先頭に3人で部室へと向かった。
第12話
おわり
改めて見ると、部室は酷い有様だ。
里志「これは……酷いね」
える「そんな、こんな事をするなんて……」
二人とも、結構なショックを受けている様だった。
それもそうだ、いつも4人で使っている部屋なのだから……俺が受けたショックも結構な物である。
奉太郎(一体誰がこんな事を……)
しかし、いつまでも呆然とはしていられない。
奉太郎「とりあえず、元に戻そう」
奉太郎「これはあまり見ていたくない」
二人も納得したのか、俺の意見に賛同する。
里志「そうだね、片付けよう」
える「……はい、分かりました」
この前買ったばかりのウサギの置物は耳の辺りが折れていて、見ていて辛い。
える「……」
やはり一番ショックを受けているのは千反田で、無言でそれらを片付けていた。
しかし、不幸中の幸い、とでも言えばいいのだろうか?
1冊だけ飾ってあった【氷菓】は無事だった。
他にはガラス等は割られていなく、壊して周った……と言うよりは散らかした、と言った感じだろう。
それでも、見つけ出してやる。
古典部の部室をこんな事にした、犯人を。
ある程度片付けが終わり、全員が席についた。
千反田はさっきまで座っていた席に着き、俺はその正面に座る。
里志は俺の横に座り、顔から笑顔は消えていた。
部室が滅茶苦茶だ、と俺が伝えた時から……里志には元気が無かった。
奉太郎「誰か、怪しい奴を見たのはいないのか?」
空気は辛いものがあるが……なんとか見つけなくてはいけない。
……古典部の為にも。
それを分かってくれたのか、千反田がゆっくりと口を開いた。
える「……いえ、福部さんと一緒になってから1Fまで歩きましたが……その様な人は居ませんでした」
里志「僕も、この部屋に来るまでに誰にも会ってはいないね」
里志「降りるときは勿論、千反田さんが気付かないで僕が気付くってのは考え辛いよ」
奉太郎「そうか……」
ふと、ある事に気付く。
……俺のペンダントは、どこにいった?
辺りを見回すが、見当たらない。
椅子の下、ポケットの中、机の中……
あった。
それは机の中に、置いてあった。
それを取り出し、胸の前でペンダントを開く。
少しの希望を持っていたが……
中身は無惨にも、割られていた。
奉太郎「……くそ」
思わず口から言葉が漏れる。
里志「……ホータロー」
える「人の物をここまでするなんて……酷すぎます」
しかし前ほど、俺は怒ってはいなかった。
何故かは分からないが……前の時は恐らく、千反田が傷付けられた事に怒っていたのだろう。
だが間接的に千反田も、傷付いているかもしれないが。
未だにペンダントを見つめる俺に向け、千反田が言った。
える「折木さん、見つけましょう」
える「ペンダントを割った犯人を……部室をこんな事にした犯人を!」
怒って、いるのだろうか?
少し違う……
悲しんでいる?
俺には複雑な感情は分からないが……千反田の意見には同意だ。
こいつがここまで言うのも珍しい。
奉太郎「ああ、そうだな」
奉太郎「何故こんな事をしたのか……理由を聞かなきゃ、気が済まん」
里志「うん……そうだね」
里志「僕も、気になるかな」
3人でそれぞれ顔を見合わせ、決意を固めた。
だが、どこから手をつけていいのか……分からない。
片付けをした、と言っても壊れた物は戻りはしない。
それは伊原も気付いたのか、口を開く。
摩耶花「皆、どうしたの? 何かあったの?」
奉太郎「……ああ、説明する」
事情を説明すると、伊原は怒って犯人を捜しに行くかと思ったが……落ち着いていた。
摩耶花「そう、そんな事が……」
摩耶花「でも、良かったよ……ちーちゃんが無事で」
摩耶花「それと氷菓も、無事だったみたいだね」
本当に、全くその通り。
犯人にとっては恐らく、たかが文集程度の認識だったのだろう。
える「摩耶花さんがくれた絵も……無事です」
それは気付かなかったな、と思い絵の方に顔を向ける。
あれは、まあそこそこ高い位置に飾られている。
犯人もわざわざ何かしようとは思わなかったのだろう。
それでも、破かれなかったのは良かったが。
里志「この状態で一つや二つ無事な物があってもね……」
奉太郎「それでも、全部壊されるよりはマシだ」
伊原も千反田も何か言いたそうにしていたが、俺は少し声を大きくし、言った。
奉太郎「一度、状況を整理しよう」
奉太郎「伊原もまだ理解していない部分もあるだろうしな」
続けて俺は、話をまとめる。
奉太郎「里志と伊原は委員会の仕事で遅れていた」
奉太郎「そして、文集について俺と千反田は少し話をしていたんだ」
奉太郎「区切りが良い所になった時、俺はトイレに行った」
奉太郎「急げば10分ほどで戻れたが……暇だったからな、ゆっくり歩いて15分ほどは掛かったと思う」
摩耶花「あんたゆっくり歩くの好きね……」
奉太郎「好きって訳じゃない、ゆっくり歩いた方が楽だからだ」
伊原の突っ込みに、少しだけ空気が和らいだのを感じた。 感謝しておこう……
こういう時の伊原の存在は意外と侮れない。 空気を変えてくれるのはとてもありがたいものだ。
奉太郎「俺が知ってるのはここまでだ。 千反田、説明頼めるか?」
そこまでしか俺は知らない、千反田に補足を促すとすぐに説明を始めた。
える「ええ、分かりました」
える「恐らく4分か5分程……だったと思います」
奉太郎「多く見ておこう、そっちの方がやりやすい」
奉太郎「俺が部屋を出てから里志が来たのは……5分としておく」
奉太郎「すると犯人は、10分の間に犯行を行ったって事か」
10分……意外にも長い。
部屋を荒らし、その場から去る時間を入れても……大丈夫だろう。
える「分かりました。 そしてその後は、福部さんと必要な書類を取りに行く為に特別棟の1Fまで降りて行きました」
摩耶花「その間に変な人は見なかったの?」
それは一度俺が聞いたことだが……一から見直すのもあるし、まあいいだろう。
える「……見かけませんでした、見逃していると考えると……すいません」
奉太郎「お前が謝ることではない。 里志、続き頼めるか?」
そう言うと、里志もすぐに口を開いた。
里志「その書類を持ってくれば良かったんだけど……委員室に忘れちゃったんだ」
里志「ちゃんとしていれば、こんな事にはならなかったのかもしれない」
里志「ごめんね、皆」
そう言う里志の顔は、笑顔だったが……とても辛そうに見えた。
こいつは、自分を責めているのだろう。
奉太郎「お前も謝るな。 悪いのは部室を荒らした犯人だろ」
里志「……うん、そうだね」
里志はそう言い、俯く。
その後、流れを分かったのか伊原が自分の行動を口にした。
摩耶花「私はずっと図書室にいたわ」
摩耶花「来る途中にも、怪しい人は居なかった……と思う」
摩耶花「……ちょっと、難しいかもね」
伊原は笑っていたが、里志同様、悲しそうに笑っていた。
奉太郎「……かもな、高校の生徒全員が容疑者となってはな」
何か新しい情報でもあれば、ある程度絞り込めるかもしれないが……
そして再び、伊原が口を開く。
摩耶花「一回帰ってさ、また明日仕切りなおさない?」
その言葉に、里志が同意を示す。
里志「僕もそれが良いと思うな」
里志「……ホータローにも期待してるしね」
これは、やらなくてはいけない事だ。
それも……手短に等とは言っていられない程の。
……少し、引っかかることもあるしな。
奉太郎「ああ、何か……思いつきそうなんだ」
嘘ではない、だがすぐに答えがでそうではなかった。
える「分かりました、では今日は解散しましょうか」
それを聞き、里志と伊原が帰り支度を始める。
俺も鞄を持ち、教室を出ようとした所で千反田がまだ座っているのに気付いた。
奉太郎「千反田、帰るぞ」
える「……ええ、分かってます」
える「……すいません、もうちょっとだけ……残ることにします」
千反田は俺の方を見ず、教室全体を見ているよな眼差しでそう言った。
それもそうか、千反田も何か……思う所があるのだろう。
無理やり引っぱって行く事もできたが……そんな気にはなれなかった。
俺にはそんな権利は、ありはしない。
里志「にしても、一体誰がやったんだか……」
摩耶花「そんなに酷い状態だったの?」
里志「そりゃ、ね」
里志「滅茶苦茶にされてたよ、氷菓と摩耶花の絵が無事だったのが不思議なくらいだ」
里志と伊原が会話をしている、だが少し……考えるのには邪魔だった。
悪いと思いつつ、俺は里志と伊原に向け静かにして貰えるよう頼む。
奉太郎「すまん、ちょっと静かにしてもらってもいいか」
奉太郎「少し、考えたいんだ」
それを聞いた里志と伊原は、文句をひと言も言わず口を閉じた。
こいつらのこういう所は、嫌いにはなれない。
奉太郎(荒らされた部室、割られたペンダント)
奉太郎(10分の時間、部屋に散乱していた物)
奉太郎(千反田の証言、里志の証言)
ダメだ、情報が繋がらない。
奉太郎(くそ、何か足りないのか?)
奉太郎(集められる物は集めた筈だ……何かがおかしい?)
考え方が違うのだろうか。
少し、視点をずらそう。
奉太郎(動機は一体何だったんだ……恨みがある人物?)
奉太郎(そんな奴、居るのだろうか……)
古典部に、恨みがある人物。
つまるところ、俺と千反田と里志と伊原に恨みがある奴……
居るじゃないか、一人。
かつて、千反田を騙した奴だ。
奉太郎(そういう、事なのだろうか)
奉太郎「なあ」
里志「ん? 何か思いついたかい?」
奉太郎「今回の、動機はなんだと思う? 犯人の」
里志「動機、ねえ」
摩耶花「決まってるでしょ、何か恨みでもあったんじゃないの?」
やはり、そうか。
里志「うーん、それにしてはぬるかった様な気がするんだけどなぁ」
ぬるかった……氷菓や絵の事を言っているのだろう。
奉太郎「時間がなかったんだ、それは仕方ないだろう」
里志「ま、そうだね」
恨み……か。
奉太郎(まずは最初、俺がトイレに行った)
奉太郎(所要時間は10~15分、まあゆっくり行ったから15分掛かったが)
奉太郎(俺が出て5分後に里志が部室を訪ねてきた)
奉太郎(そしてそこから千反田を連れ出す)
奉太郎(この時点で残り時間は10分)
奉太郎(その間に犯行を行ったって事だが……)
奉太郎(犯人はどうやって俺達を監視していたのだろう?)
奉太郎(どこか階段から見ていた……いや、千反田は怪しい人物は見ていないと言っていたな)
奉太郎(廊下の物陰……? これは無いだろう、隠れられる場所が無い)
奉太郎(後は……部室の、中?)
俺が一度出した答えは、恐ろしいものだった。
奉太郎(部室を思い出せ……)
奉太郎(あそこには、何があった……?)
奉太郎(まさか)
奉太郎(俺と千反田が部屋から出て行った後に、犯人は部屋に入ってきた)
奉太郎(そして次に、部屋を荒らした後……ロッカーに隠れた)
これが、答えなのか?
そして、思い出す。 千反田の居場所を。
そいつが部室にまだいる可能性は? ありえなくは、無い。
奉太郎(待てよ、千反田はまだ部室にいる筈だ)
奉太郎(だとすると------)
奉太郎「里志! 伊原! 忘れ物をした!」
奉太郎「先に帰っててくれ!」
里志「……ホータロー、何かに気付いたみたいだね」
摩耶花「私達も行った方がいいんじゃない? 本当にそうだとしたら危ないわよ」
奉太郎「いや、大丈夫だ」
奉太郎「後で連絡はする、頼むから帰ってくれ」
里志「……分かった、後で連絡待ってるよ」
奉太郎「ああ、すまんな」
大分歩いてきてしまった……学校までは、20分程か?
奉太郎(20分……もう一度、整理しよう)
奉太郎(犯人はC組の奴なのか……?)
俺は走りながら、必死に頭を働かせる。
全ての視点から物事を見直す。
おかしな所は無いか?
全て、筋が通っているか?
走りながら、必死に考える。
……学校が見えてきた。
俺は、学校に着くのとほぼ同時に……
一つの結論に辿り着いた。
奉太郎「……はぁ……はぁ」
こんなに全力で走ったのはいつくらいだろうか。
マラソンの時は大分手を抜いて走っていたからな……生まれて初めてかもしれない。
奉太郎(間に合った……だろうか?)
ドアをゆっくりと開ける。
……間違いない、大丈夫だ。
奉太郎「……今回の事を全ての視点から見つめなおした」
奉太郎「そして、全ての証拠に繋がる奴が一人、居る」
奉太郎「今回の部室荒らし、それはお前にしかできなかったんだよ」
奉太郎「いや……お前で無ければ矛盾が出るんだ」
奉太郎「お前以外には、ありえない」
「そうだな? 千反田」
第13話
おわり
Entry ⇒ 2012.10.20 | Category ⇒ 氷菓SS | Comments (2) | Trackbacks (0)
カレン「ルルーシュ!ごはんできたわよー!」ルルーシュ「わかった」
ルルーシュ「スザク!!貴様は友達を売り渡すのか!!」
スザク「そうだ。友達を売り、僕は上に行く」
ルルーシュ「くっ……!」
シャルル「よぉくやったぁ……」
スザク「いえ」
シャルル「では、目を」
スザク「イエス、ユア・マジェスティ」グイッ
ルルーシュ「シャルルゥゥゥ!!!!またお前は!!俺を!!!」
シャルル「シャルル・ジ・ブリタニアが刻むぅぅ!!」キュィィン
ルルーシュ「やめろぉぉぉ!!!!」
ルルーシュ「……」
カレン「ルルーシュ……起きて……」
ルルーシュ「ん?カレン?」
カレン「朝ごはん、できたけど」
ルルーシュ「今、何時だ?」
カレン「もう7時。そろそろ着替えないとダメじゃないの?」
ルルーシュ「そうだな」
カレン「お弁当はテーブルの上ね」
ルルーシュ「いつも悪いな」
カレン「そう思うなら、手伝ってほしいけど」
ルルーシュ「今晩は俺が作るよ」
カレン「ホント?やったぁ」
ルルーシュ「ふふ……」
カレン「ちょっと待って……」
ルルーシュ「置いて行くぞ」
カレン「なによ。私が起こさなかったら寝坊してるくせに」
ルルーシュ「それとこれとは関係ないな」
カレン「じゃあ、もう起こしてあげない」
ルルーシュ「それは困るな」
カレン「そう思うなら―――」
咲世子「ルルーシュ様、カレン様」
ルルーシュ「咲世子さん。どうかしましたか?」
咲世子「ミレイ様が生徒会室に来て欲しいと」
ルルーシュ「分かりました」
カレン「なんだろう?」
ルルーシュ「どうせ、くだらないことだろ。とはいえ、待たせたらどんな貧乏くじを引かされるかわからないな。急ごう」
カレン「待ってよ、ルルーシュ」
ルルーシュ「おはようご―――」
ミレイ「おっそーい!!」
カレン「呼ばれてから10分もたってませんけど……」
ミレイ「5分で来なさい。5分で」
ルルーシュ「で、用件はなんですか?」
ミレイ「昨日、ふと思ったのよね」
カレン「何をですか?」
ミレイ「ほら、ルルーシュとカレンが結婚したのになんでか祝ってないなーって」
ルルーシュ「そういえば……。不思議と事実だけを伝えて終わりましたね」
カレン「でも、あのときはみんなからたくさんお祝いの言葉を貰いましたし」
ミレイ「ダメよ、ダメダメ!!折角、結婚したのに生徒会で盛大なパーティーもしないなんて!!」
ルルーシュ「そんな今更じゃないですか」
カレン「いいですよ。恥ずかしいし」
ミレイ「やるったらやる!!生徒会で結婚式をやるの!!」
カレン「はぁ……」
ルルーシュ「騒ぎたいだけですか……」
ミレイ「じゃあ、カレンはドレスをきないとダメよねー」
カレン「ドレスって……」
シャーリー「……」
ルルーシュ「シャーリー?どうした?」
シャーリー「うーん……」
ミレイ「おはよー。シャーリー」
シャーリー「おはようございます」
ルルーシュ「何かあったのか?機嫌が悪いみたいだけど」
シャーリー「別に。なんだか腑に落ちないだけ」
カレン「……?」
ルルーシュ「腑に落ちないって、何がだ?」
シャーリー「それが分からないから困ってるの」
ミレイ「ご苦労、リヴァルくん」
リヴァル「いえいえ。カレンとルルーシュのためですから」
シャーリー「……」
ルルーシュ「シャーリー?」
シャーリー「ねえ、ルル?」
ルルーシュ「なんだ?」
シャーリー「カレンのこと、どこで好きになったの?」
ルルーシュ「え?」
カレン「シャーリー、どうしたのよ?」
シャーリー「気になるの」
ミレイ「ちょっと、シャーリー」
シャーリー「でも」
ルルーシュ「カレンをどこで好きなった……か。……カレン、思い出せるか?」
カレン「え?うーん……ルルーシュを好きになったときのこと……?」
ルルーシュ「……」
カレン「あれ?ルルーシュっていつプロポーズしてくれたっけ?」
ルルーシュ「おいおい。あれは……雨の日にお前が外でずっと待ってくれていたときだろ?」
カレン「あー、そうだったわね」
シャーリー「付き合い始めたのって半年ぐらい前からだよね?」
ルルーシュ「ああ。そうだな」
カレン「うん。私からルルーシュに告白して……」
ルルーシュ「キスしたんだよな」
カレン「も、もう!!そんなこと言わなくてもいいでしょ!!」
リヴァル「ヒューヒュー」
ミレイ「ごちそうさまー!!」
ルルーシュ「だが、いつ異性として意識し始めたのかは覚えていないな」
カレン「そうね。まぁ、そんなものなんでしょうけど」
シャーリー「そっかぁ……」
リヴァル「よっしゃー!!」
カレン「あはは……。なんか恥ずかしいね……」
ルルーシュ「そうだな」
シャーリー「……」
ミレイ「どうしたの?」
シャーリー「……私、ルルのこと好きだったような気がするんですけど」
ミレイ「知ってるけど、それはもう諦めたって言ったじゃない」
シャーリー「諦めた?」
ミレイ「そうよ」
シャーリー「……諦めた……」
ミレイ「ほら、過去のことは水に流して!!ぱーっと行きましょう!!イエーイ!!」
シャーリー「―――恋はパワー!!!」
ミレイ「……!?」ビクッ
シャーリー「会長!!わ、私!!やっぱり諦めた覚えはないです!!」
シャーリー「だって……あの……」
ミレイ「ルルーシュとカレンは結婚したのよ?もう取り返しなんて……」
シャーリー「だって、変なんですもん!!」
ミレイ「頭が?」
シャーリー「私の記憶じゃ、すんなり諦めてるんです……。自分でも驚くぐらいスッキリと!」
ミレイ「潔い子に育って、私は嬉しいわ」
シャーリー「でも、そんなの私じゃないっていうか……」
ミレイ「過ぎたことはしょうがないでしょ?シャーリー?」
シャーリー「……」
カレン「今日の晩御飯はどうする?」
ルルーシュ「お前だけで十分だな」
カレン「何言ってるのよ。バッカじゃないの……ふんっ」
シャーリー「……っ」
ミレイ「シャーリー……ちょっと……。ここで変な諍いを起こしても誰も幸せにならないというか……」
ルルーシュ「もうちょっと右だな」
リヴァル「わかったー」
カレン「……」
シャーリー「カレン」
カレン「なに?」
シャーリー「ルルと結婚して幸せ?」
カレン「ええ」
シャーリー「ホントに?」
カレン「何よ?ルルーシュはとても優しいし……」
シャーリー「変じゃないかな?」
カレン「変って?」
シャーリー「だって……私もルルのこと好きだもん!!」
カレン「はぁ?!」
ルルーシュ「……え?」
ミレイ「ちょっとちょっと!!」
シャーリー「はー……はー……」
カレン「シャー……リー……?」
ルルーシュ「……」
シャーリー「私もルルのこと好きなのに、何もなかったって変だと思うの!!」
カレン「ちょっと待って。シャーリーだって祝福してくれたじゃない」
シャーリー「そうだけど……」
ルルーシュ「シャーリー……」
シャーリー「カレンとルルのことで一度も真剣に話したことがないって……どう考えてもおかしいよ……」
カレン「そういわれても……。シャーリーが身を退いてくれたんでしょ?」
シャーリー「うん」
カレン「なら、それでいいじゃない?」
シャーリー「……でも……私は……」
ミレイ「シャーリー……」
ルルーシュ「あ……」
カレン「シャーリー、どうしたんだろう?」
リヴァル「おいってば!!」
ミレイ「もう少し左かなー」
リヴァル「りょーかい」
ルルーシュ「……」
ミレイ「ルルーシュ、どうしたの?」
ルルーシュ「カレン。確認したいことがある」
カレン「なに?」
ルルーシュ「告白した雨の日のことだが……。場所は……コンサートホールのところだよな?」
カレン「そうだけど?」
ルルーシュ「会長。俺がカレンとの結婚を報告したとき、誰が居ましたっけ?」
ミレイ「ルルーシュとカレンとシャーリーとリヴァルとニーナとスザクくんと私、だけど?」
ルルーシュ「そうですか」
ヴィレッタ「何をしている?」
シャーリー「先生……」
ヴィレッタ「またルルーシュと喧嘩か?」
シャーリー「……先生、ルルとカレンが結婚しているのはご存知ですよね?」
ヴィレッタ「無論だ。学生同士の結婚なんて後にも先にもあいつらぐらいだろうな」
シャーリー「……」
ヴィレッタ「どうした?」
シャーリー「なんか変なんですよね」
ヴィレッタ「……変?」
シャーリー「どうしても納得できないんですよ。ルルとカレンが結婚したなんて……」
ヴィレッタ「……」
シャーリー「なんかこう、喉に何かが貼りついたときみたいな気持ち悪さがあるんですよね……」
ヴィレッタ「そ、そうか。まあ、深くは考えるな」
シャーリー「んー……」
ヴィレッタ「報告は以上です」
スザク『シャーリーが……』
ヴィレッタ「問題はないと思いますが」
スザク『……』
ヴィレッタ「どうされますか?」
スザク『検討してみます。引き続き監視をお願いします』
ヴィレッタ「はい」
ロロ「殺しちゃえばいいのに」
ヴィレッタ「そういうわけにもいかない。昨日、記憶の改竄が行われたばかりなんだからな」
ロロ「不安分子は殺しておくのが利口ですよ?」
ヴィレッタ「余計なことはするな」
ロロ「分かっていますよ」
ヴィレッタ「……」
ヴィレッタ(またシャーリーか……)
シャルル「ほう……。ワシのギアスに抗うか……!!」
スザク「シャーリーも強靭な精神を持っているようです」
シャルル「いや。ワシの考えた設定が浅すぎた故だろう」
スザク「では、どうされますか?」
シャルル「気づかれては厄介だな……」
V.V.「僕にいい考えがあるよ、シャルル」
シャルル「兄さん……」
V.V.「要するにそのシャーリーって子が邪魔なんでしょ?」
シャルル「障害になるやもしれませんからね」
V.V.「元々、ルルーシュにはナナリーという妹がいた。でも、今はいないでしょ?」
シャルル「兄さん……まさか……」
V.V.「そのシャーリーをルルーシュの妹にしちゃえばいいんだよ。兄妹という絆と記憶が刻まれれば、些細な矛盾は気にしなくなるよ」
スザク「でも、顔が似ていないから……」
V.V.「血の繋がっていない兄妹にしちゃえばいいじゃないか。それで解決だよ」
スザク「……」
シャーリー「え……どこここ?!」
シャルル「よぉくきたな……」
シャーリー「怖い!!」
シャルル「だまれぇい!!!」
シャーリー「ひっ」
スザク「シャーリー、皇帝陛下の目を見るんだ」
シャーリー「ど、どうして?」
スザク「いいから!!」
シャーリー「でも……」
スザク「見るんだ!!」グイッ
シャーリー「うわ!?」
シャルル「シャルル・ジ・ブリタニアが刻む!!―――お前は今から!!!ルルーシュの義妹ぉぉぉ!!!」キュィィン
シャーリー「は―――」
ルルーシュ「……」
カレン「ルルーシュ!ごはんできたわよー!」
ルルーシュ「ん……」
シャーリー「ルルー。カレンが呼んでるよ」ユサユサ
ルルーシュ「あ……ああ……。おはよう、シャーリー」
シャーリー「うん。おはよう。ルル。ほら、顔洗ってきたら?」
ルルーシュ「偶にはお兄様って呼んでくれないか?」
シャーリー「もうそんな歳じゃないの!」
ルルーシュ「寂しいな。昔はもっと可愛かったのに」
シャーリー「今だって可愛いでしょ!!」
ルルーシュ「違うな。間違っているぞ」
シャーリー「可愛くないって言いたいの?!」
ルルーシュ「美人になりすぎなんだよ」
シャーリー「も、もう!!妹をからかわないで!!」
シャーリー「結婚しても変わらないんだから」
カレン「シャーリー、お皿運んでよ」
シャーリー「はーい」
カレン「……」
シャーリー「……」カチャカチャ
カレン「不思議ね」
シャーリー「え?」
カレン「少し前まで同級生だったのに……」
シャーリー「今じゃあ、私のお姉様だもんね」
カレン「ふふ……そうね」
シャーリー「ちょっと悔しいけど……」
カレン「シャーリー……」
シャーリー「……」
ルルーシュ「何をしているんだ、二人とも。朝食にしよう。遅刻するぞ?」
ミレイ「うーん……」
ルルーシュ「どうしたんですか、会長?」
シャーリー「ずっと唸ってますね」
ミレイ「いや、カレンとルルーシュの結婚式って盛大にやったわよね?」
カレン「ええ。もうすごい騒ぎになるほどに」
リヴァル「花火100連発はやっぱ圧巻だったな」
ルルーシュ「火事にならなかったのが不思議なぐらいだな」
シャーリー「ホント、ホント」
ルルーシュ「二度とやりたくないな。シャーリーが火傷したら大変だ」
シャーリー「もう!ルル!子ども扱いしないで!!」
ルルーシュ「妹扱いだよ」
シャーリー「一緒でしょ!!」
リヴァル「相変わらずのブラコンですかぁ?」
ルルーシュ「黙っていろ」
ルルーシュ「カレン!!」
シャーリー「カレン!!」
ミレイ「もしかして。やっぱり二人って一線越えてたりするの?禁断の兄妹愛ってやつ?」
ルルーシュ「あ、あるわけないだでしょう!!」
シャーリー「そ、そうですよ!!どうしてルルなんかと!!」
ルルーシュ「なんかとはなんだ!!なんかとは!!」
シャーリー「ルルなんてなんかで十分でしょ!!」
ルルーシュ「もう少し可愛げのある妹になってくれないか?」
シャーリー「十分、可愛いです」
ルルーシュ「あのなぁ……」
カレン「いつもこんな調子なんですよ?私の入る隙がないぐらいなんです」
ミレイ「新妻としては辛いわよね。妹とイチャイチャする旦那を近くでみるのは」
カレン「全くです」
ルルーシュ「カレンも余計なことはいうな!」
シャーリー「まぁ……はい……」
ルルーシュ「……」
リヴァル「でも、あのときはどうして何事もなくルルーシュとカレンが結婚できたんだっけ?」
ルルーシュ「え?」
リヴァル「だって、ルルーシュは二言目にはシャーリーシャーリーって言ってたし、シャーリーもルルーシュのこと―――」
シャーリー「リヴァル!!」
ミレイ「そうよね。私はてっきりシャーリーと結婚するものとばかり思ってたし」
カレン「それ、私の前で言いますか?」
ミレイ「だって、考えても見てよ。ルルーシュは妹のことをこれでもかってぐらい過保護にしてたじゃない?」
シャーリー「そんなこと……」
リヴァル「熱でたってだけで授業サボったときもあったよな?」
ルルーシュ「当然だ。シャーリーに熱が出たんだぞ。授業よりも看病が優先だ」
カレン「咲世子さんもいるのに?」
ルルーシュ「それは……」
ルルーシュ「会長。その話は……」
ミレイ「そうね。ごめんなさい」
シャーリー「……」
カレン「はい。この話は終わりにしましょう。昔は昔だし」
ルルーシュ「……それもそうだな」
シャーリー「うん」
ミレイ「じゃあ、リセーット!!」
ルルーシュ「魔法の言葉ですか?」
ミレイ「じゃあ、生徒会会議を始めます。何かある人ー」
ミレイ「なーし。では、解散」
ルルーシュ「……」
カレン「ルルーシュ、帰りましょ?」
シャーリー「ルルー、いくよー?」
ルルーシュ「シャーリー。ちょっといいか?」
ルルーシュ「俺に告白したことあるよな?」
シャーリー「え……?」
ルルーシュ「リヴァルの話で何か引っ掛かるんだ」
シャーリー「告白って……昔のことでしょ……」
ルルーシュ「雨の日に……」
シャーリー「やめて!!」
ルルーシュ「……!」
シャーリー「私とルルはただの兄妹……だから……」
ルルーシュ「そうだな……。で、そのあとシャーリーに童貞とか罵られて……」
シャーリー「はい?」
カレン「兄妹だけでコソコソしないでほしいんだけど。私も一応身内だからね」
ルルーシュ「ああ、悪かったな」
シャーリー「ほら、もうかえろ!」
カレン「ルルーシュ、行くわよ」
リヴァル『ルルーシュは二言目にはシャーリーシャーリーって言ってたし、シャーリーもルルーシュのこと―――』
ルルーシュ「……そこまで俺はシャーリーなんて言ってたか?」
ルルーシュ「いや、言ってた。確かに口癖のようにシャーリーの名前を口にしていたな」
ルルーシュ(でも、何故だ……。どうして……)
ルルーシュ(そうだ。確かにカレンのことも好きだ。愛している。だが、俺はそれ以上に妹のことを……)
ルルーシュ「……」
ルルーシュ「まてまて。俺はどうしてそんなにシャーリーを気にしていた……?」
ルルーシュ「シャーリーだからか。妹だからか……」
ルルーシュ(なのに何事もなくカレンと結ばれている現実は酷く違和感がある)
ルルーシュ「わからない……」
カレン「ルルーシュ?そろそろ寝る?」モジモジ
ルルーシュ「カレン、今日は気分じゃない。すこし散歩にでてくる」
カレン「え……」
カレン「初夜はいつになるのよ……」
ルルーシュ「……」
咲世子「ルルーシュ様、夜風は体に障りますよ?」
ルルーシュ「咲世子さん。少し考えごとを……」
咲世子「考え事ですか?」
ルルーシュ「咲世子さん。俺は少しまでまでシャーリーのことばかり気にしていたように思えるんですが」
咲世子「ええ。ルルーシュ様はシャーリー様のこと大変可愛がっていました」
ルルーシュ「例えばどのように?」
咲世子「そうですね……。お料理を振舞ったり、シャーリー様が寝るときはいつも抱き上げてベッドまで―――」
ルルーシュ「シャーリーを抱き上げる?」
咲世子「はい。いつもそうしていたではありませんか」
ルルーシュ「ああ。そうですね。って、それはシャーリーが中等部の……」
咲世子「……」
ルルーシュ「咲世子さん。俺にもう一人、妹がいるということはないですよね?」
咲世子「シャーリー様……一人では……?いえ……あれ……?」
ルルーシュ「シャーリー!!」
シャーリー「きゃぁ!?」
ルルーシュ「……シャーリー……リー……」
シャーリー「な、なに……急に……?」
ルルーシュ「シャーリー。俺と風呂に入ったことあるよな?」
シャーリー「……あるけど?」
ルルーシュ「どうして一緒に入ってたんだ?」
シャーリー「そんなの……ルルと入りたかったから……」
ルルーシュ「だが、かなり最近まで入っていたよな?」
シャーリー「う、うん……。カレンと結婚してからやめようって話、したじゃない」
ルルーシュ「おかしい……」
シャーリー「な、なにが?」
ルルーシュ「シャーリー……いつの間にそんなに豊満な胸部になったんだ……?もっと小さな丘だっただろ……」
シャーリー「セクハラ!!」
シャーリー「……そういえば」
ルルーシュ「どうした?」
シャーリー「ルルとお風呂にはいった記憶はあるけど……。ルルの裸があんまり想像できない……」
ルルーシュ「実は……俺もシャーリーの裸は想像できない」
シャーリー「どうしてかな……?」
ルルーシュ「ついでに言うとカレンの裸もだ」
シャーリー「え……。まだなの……?」
ルルーシュ「浮かんでくるのは、華奢でありながら魅力的な裸体と、妙にお尻の大きな体だけだ……」
シャーリー「……」
ルルーシュ「……」
シャーリー「ルル、私たち、疲れてるんだよ……きっと……」
ルルーシュ「そうだ。そうだな。忘れよう」
シャーリー「お休み……ルル……」
ルルーシュ「ああ。悪かったな。変なこといって。おやすみ」
カレン「すぅ……すぅ……」
ルルーシュ「……」チラッ
カレン「ん……ルルーシュぅ……」
ルルーシュ「……」ジーッ
ルルーシュ(違う。カレンのお尻では遠く及ばないでかさだった……)
ルルーシュ(なんなんだ……記憶の片隅にある巨大なお尻は……)
ルルーシュ(ここに居た……。誰か違う女が……)
ルルーシュ「カレンでもシャーリーでも咲世子さんでも会長でもない……。もっとお尻の大きな女がいたはずだ……」
ルルーシュ「誰だ……!!誰がいたんだ……!!」
ルルーシュ「考えても出てこないな……。寝るか」
ルルーシュ「……」
カレン「ルルーシュぅ……ふふ……」
ルルーシュ「カレン……」
ルルーシュ「おやすみ」
尻
脳内に焼き付くわ
ルルーシュ「シャーリー、ほら、口元に……」スッ
シャーリー「や、やめてよぉ……」
ルルーシュ「ほら、とれた」
シャーリー「いつまでも子ども扱いなんだか!!」
ルルーシュ「妹は一生妹なんだよ」
シャーリー「もう!」
カレン「ルルーシュ、はい。あーん」
ルルーシュ「カレン、恥ずかしいから……」
カレン「シャーリーにするのはよくて、私にされるのは嫌なの?」
ルルーシュ「そういう言い方をするな」
カレン「なら、いいでしょ?はい、あーん」
ルルーシュ「全く……」
リヴァル「いいなぁ……ルルーシュ……」
ミレイ「青春よねぇ……。いや、もうそんなの通り越してるか……」
ルルーシュ「ああ。そうだったな」
シャーリー「ルル!!どこ行くの?!授業は?!」
ルルーシュ「上手くいい訳しておいてくれ」
シャーリー「だめだってばぁ!!」
カレン「遅くなるの?」
ルルーシュ「夕食までには戻ってくる」
カレン「わかったわ」
シャーリー「カレンも止めないと!!」
カレン「止めたって止まらないでしょ?」
シャーリー「それは……」
ルルーシュ「よくわかってるな、カレン」
カレン「妻だからね」
ルルーシュ「怖い奴だ」
カレン「でも、危ないことはしないでよ、ルルーシュ?」
リヴァル「今日も圧勝だったな!」
ルルーシュ「貴族相手は楽でいい」
リヴァル「いやールルーシュさまさまだな!!」
ルルーシュ「ふっ。さてと、そろそろ帰るか」
リヴァル「新妻と可愛い妹が待ってるもんな」
ルルーシュ「そうだな」
バニー「えー?もうかえっちゃうんですかぁ?」
リヴァル「うわぁ!?」
ルルーシュ「ええ。たっぷりともうけさせて貰いましたからね」
バニー「そんなぁ、もっとゆっくりしていってくださいよぉ」
ルルーシュ「そういうわけにも―――」
バニー「サービスしますからぁ」プリンッ
リヴァル「うわー、いいお尻」
ルルーシュ「……」
リヴァル「ルルーシュ、どうする?」
ルルーシュ「……」
バニー「なんですか?」
ルルーシュ「……」
リヴァル「ルルーシュ?」
ルルーシュ「リヴァル、先に帰ってくれないか?」
リヴァル「は?なんで?」
ルルーシュ「用事を思い出した。とても大事な用事をな」
リヴァル「べ、別にいいけど……」
ルルーシュ「悪いな」
リヴァル「じゃ、じゃあな」
ルルーシュ「ああ」
バニー「思い出したのか?」
ルルーシュ「ああ……。全てをな」キリッ
ルルーシュ「これは……」
C.C.「お前のナイトメアは用意してある」
ルルーシュ「そうか」
C.C.「今まで随分と楽しい生活を送っていたようだな?」
ルルーシュ「カレンもシャーリーもシャルルの玩具にされたようだな……」
C.C.「お前の周囲にいる人間は全員だ」
ルルーシュ「シャルルめ……!!」
C.C.「今すぐ行動を起こすのか?」
ルルーシュ「それは……まだ早い」
C.C.「……」
ルルーシュ「もうしばらくは普通の学生を演じる。監視の目もあるしな」
C.C.「本当にそれだけが理由かな?」
ルルーシュ「何が言いたい?」
C.C.「別に。お前が行動を起こすまで私はここで働いているから、いつでもこい。それじゃあな」
シャルル「……」
V.V.「ルルーシュ、思い出しちゃったみたいだね」
シャルル「C.C.の仕業でしょう」
V.V.「どうするの?」
シャルル「次なる一手は既に打ってあります」
V.V.「ルルーシュをもう一度、捕らえるの?」
シャルル「もうそれはできないでしょう。ルルーシュには三度も同じことをしましたから、奴も警戒しているはずです」
V.V.「なら……」
シャルル「……」
スザク「皇帝陛下」
シャルル「来たか……枢木よ……」
スザク「連行してまいりました」
シャルル「久しいな……」
コーネリア「……なんのつもりですか?」
シャルル「お前の行動など筒抜けだ、コーネリア」
コーネリア「……」
V.V.「ギアスのことを調べていたそうだね?」
コーネリア「知っていたのですね……父上……」
シャルル「とぉぉぜんだ」
コーネリア「なら、どうしてユフィを見殺しにした?!」
シャルル「……」
コーネリア「何か言ってください……」
シャルル「ワシはこう考えておる」
コーネリア「……」
シャルル「ルルーシュには平穏の中で死んでほしいとな」
コーネリア「馬鹿な……。もうルルーシュは後戻りできない場所にいるのですよ?!」
シャルル「奴は非力ではあるが有する思想は厄介だ。故に牙を抜く必要があぁる」
コーネリア「牙……?」
コーネリア「……」
シャルル「その温床が奴の足を鈍らせる」
コーネリア「それで……?」
シャルル「しかし、奴はまた牙を剥いた。また抜歯せねばならん」
コーネリア「私でルルーシュの牙を抜くというのですか?」
シャルル「日常という檻が強固になればなるほど、奴は身動きがとれなくなる」
コーネリア「私はもう……ルルーシュのことなど!!!」
V.V.「僕は嘘つきが大嫌いだ」
コーネリア「な……」
V.V.「憎みきれていないくせに」
コーネリア「……」
シャルル「さぁ、コォォネリアよ!!次なる一手になってもらうぞ!!!」
スザク「皇帝陛下の目を見てください!!」グイッ
コーネリア「い、いやだ……やめろ……!!」
ルルーシュ「……」カタカタ
カレン「ルルーシュ、コーヒーいれたけど、飲む?」
ルルーシュ「ああ。ありがとう」
カレン「最近、よくネットしてるけど、何かあるの?」
ルルーシュ「少しな」
カレン「ふぅん……」
ルルーシュ「……どうした?」
カレン「ねえ、結婚してからもう半年なんだけど……」
ルルーシュ「そうだな」
カレン「あの……そろそろ……初夜……」モジモジ
ルルーシュ「カレン」
カレン「なに?」
ルルーシュ「体は大事にしたほうがいい」
カレン「私……妻よね?」
カレン「だったら!」
ピンポーン
ルルーシュ「誰かきたみたいだな」
カレン「こんな夜に?誰かしら?」
ルルーシュ(まさか……C.C.……?いや、それはありえない……)
カレン「私が出るから」
ルルーシュ(監視役の誰か……?)
カレン「はい?どちらさまですか?」
ルルーシュ(まだボロは出してない……はずだ……!)
カレン「え?は、はい……」
ルルーシュ「どうした?」
カレン「ルルーシュ……」
ルルーシュ「なんだ?」
カレン「ルルーシュの許嫁がきたみたいだけど?」
カレン「……そんなのいたの?」
ルルーシュ「いるわけないだろ」
カレン「でも、ルルーシュの許嫁と言えばわかるって」
ルルーシュ「なんだと?」
シャーリー「ふわぁぁ……だれかきたのぉ……?」
カレン「起こしちゃった?ごめん」
シャーリー「それはいいんだけど……」
ルルーシュ「分かった。俺が出る」
カレン「う、うん……」
ルルーシュ「代わりました。ルルーシュです。申し訳ないが私に許嫁など―――」
『とにかく開けて』
ルルーシュ「名前を聞いてもいいですか?」
『アーニャだけど』
ルルーシュ「知りません。帰ってくれますか?」
ルルーシュ「とにかく帰ってくれ。迷惑だ」
『開けて。寒い』
ルルーシュ「失礼します」ガチャン
カレン「悪戯?」
ルルーシュ「だろうな」
シャーリー「もういい迷惑なんだから……ふわぁぁ……」
カレン「おやすみ、シャーリー」
シャーリー「うん」
ルルーシュ「じゃあ、俺たちも寝るか」
カレン「寝るの?!」
ルルーシュ「普通にな」
カレン「……そう」
ルルーシュ「……」
ルルーシュ(しかし、アーニャ……どこかで聞いた名前だな……)
ルルーシュ「そうか!!ラウンズのナイトオブシックス、アーニャ・アールストレイム卿!!」
ルルーシュ「いや、まて……そんな大物がここに来るわけ……」
ルルーシュ(まさか……監視目的で……?)
ルルーシュ(だが、露骨な手段をとるとも思えないが……)
ルルーシュ「……」
カレン「ルルーシュ?寝ないの?私の隣、ガラ空きなんだけど」
ルルーシュ「……すこし、散歩に行ってくる」
カレン「え……」
ルルーシュ「先に寝ててくれ」
カレン「ルルーシュ!!」
ルルーシュ「……アーニャ……確かめておくか……」
カレン「……」
カレン「……もう倦怠期なのかしら」グスッ
アーニャ「寒い」ガタガタ
ルルーシュ「……」
アーニャ「あ」
ルルーシュ(やはり、ラウンズの……!!)
アーニャ「部屋にいれて。あとココアもいれて」ガタガタ
ルルーシュ「あの。どうして貴方のような人物がここに?」
アーニャ「これ」ブルブル
ルルーシュ「携帯……?」
アーニャ「そこに記録がある。私はルルーシュの許嫁。今すぐ嫁げって」ガタガタ
ルルーシュ「……」
アーニャ「……いれて」ブルブル
ルルーシュ「そんな水着みたいな格好でくるからだろう?」
アーニャ「……くしゅん」
ルルーシュ「とりあえず、入れ」
アーニャ「ふぅ……」
ルルーシュ「俺は一学生だ。君とは身分が違いすぎる」
アーニャ「……」
ルルーシュ「だから、嫁ぐ必要はない」
アーニャ「でも、記録にあるから。私にとってはそれが全て」
ルルーシュ「何を言ってる?」
アーニャ「記憶がよく食い違う」
ルルーシュ「なに?」
アーニャ「なかったことがあったり、知らないことを知っていたり。私はずっとそう」
ルルーシュ(記憶障害なのか?)
アーニャ「だけど、その記録は本当。私そのもの」
ルルーシュ「ここに書いてあればそれは君にとって真実であり、絶対ということか」
アーニャ「そう」
ルルーシュ(このタイミングだ。シャルルの差し金と考えてまず間違いないが、何が目的なのか全くわからない。しかし、何か意味があるはず)
ルルーシュ「カレンか」
アーニャ「……」ゴクゴク
カレン「その子……誰?」
ルルーシュ「……」
アーニャ「ルルーシュの許嫁。よろしく」
カレン「私はルルーシュの嫁よ。よろしく」
アーニャ「……」
カレン「あ?」
ルルーシュ「カレン。落ち着け」
カレン「嫁のほうが強いわよね?」
ルルーシュ「よくわからないが」
アーニャ「許嫁も相当強いけど」
カレン「あん?」
アーニャ「やる?」
ルルーシュ「起こしたか、悪いな。シャーリー」
シャーリー「それはいいんだけど……。何かあったのぉ?」
ルルーシュ「なんでもないよ。ほら、寝てくれ」
シャーリー「もう子ども扱いしないでってば」
ルルーシュ「……そうだな。本当はしたくない」
シャーリー「ふわぁぁ……」
ルルーシュ(シャーリー……すまない……。できることなら、お前だけでも元に……)
アーニャ「許嫁は約束されたお嫁」
カレン「嫁は成就した女なんだけど」
アーニャ「……」
カレン「……」
ルルーシュ「もう夜も遅い。寝よう」
アーニャ「うん」
カレン「三人で?」
カレン「……」
リヴァル「ルルーシュ。カレンのやつ、機嫌悪そうだけど、なんかあったのか?」
ミレイ「もう離婚調停?」
ルルーシュ「違いますよ」
シャーリー「昨日、ルルの許嫁を名乗る女の子が来ちゃって」
ミレイ「許嫁!?」
リヴァル「お前!!義理の妹に嫁さんにメイドさんまでいて、許嫁ってなんだよ!!おい!!」
ルルーシュ「俺にもよくわからないんだ」
リヴァル「どういうことだよ?」
ルルーシュ「俺自身、許嫁がいたということを昨夜知ったんだ」
ミレイ「もしかしてルルーシュが生まれる前に親同士で交わされた約束事だったとか?!」
ルルーシュ「可能性はありますね」
リヴァル「俺にもそんな星の下で生まれたかった……」
シャーリー「妹の立場から言わせてもらうと、その節操のなさはどうかと思うけどね」
シャーリー「全くですよ。……どういう意味ですか?」
リヴァル「あーあ。ホント、ルルーシュばっかだよなぁ」
ルルーシュ「隣の芝は青く見えるだけで、それほどいいものじゃない」
リヴァル「これ以上、俺を怒らせないほうがいい」
ミレイ「リヴァルもそのうちいいことあるわよ」
リヴァル「俺みたいな平凡な人間は新しくきた保険医さんで目の保養をさせてもうぐらいしかないっすよ」
シャーリー「保険医?」
ルルーシュ「……なんだそれは?」
リヴァル「知らないのか?一昨日から赴任した保険医が居るんだよ」
ミレイ「あのとんでもバディの人でしょ?健全な男子学生の目には毒よねぇ」
シャーリー「へー、知りませんでした」
リヴァル「ルルーシュ、見に行くか?」
ルルーシュ(胸騒ぎがする……。確認はしておくべきか……?)
シャーリー「ルル、ダメだからね?」
リヴァル「ま、ルルーシュも男なら一度ぐらいは見ておくべきだもんな」
ルルーシュ「まぁな」
シャーリー「もう……ダメ兄なんだから」
リヴァル「失礼しマース」
コーネリア「……ん?どこを怪我した?言ってみろ」
リヴァル「えーと……」
コーネリア「頭が悪そうだな。悪いが馬鹿につける薬はない」
リヴァル「ひでぇ!!」
ルルーシュ「……」
コーネリア「なんだ?怪我人がいないなら出て行け」
シャーリー「本当にすごい……」
ルルーシュ(シャルル……!!あいつ……!!)
コーネリア「こっちも暇じゃないのでな。用がないなら退室してくれ」
リヴァル「は、はい。すいませんでした」
ルルーシュ「確かにな」
シャーリー「……はぁ。自信なくなった」
リヴァル「まぁ、ルルーシュは周りにいっぱいいるから感動も薄いか」
ルルーシュ「そんなことはない」
シャーリー「ルル、もう帰ろう?カレンも待ってるだろうし」
ルルーシュ「そうだな」
ルルーシュ(コーネリアにヴィレッタがいる学園か……。気を抜くことができるのはベッドの上だけだな……)
リヴァル「はぁ……こんなことでしか自分を慰められないのが悲しいな……」
シャーリー「あはは……」
リヴァル「笑い事じゃないんだよ!」
シャーリー「ごめん……」
リヴァル「会長さえ……会長さえ振り向いてくれたら……!!」
ルルーシュ(そろそろ手を打つか……。このままでは全てのマスが敵の駒で埋まってしまう!!)
ルルーシュ(まずは……)
ルルーシュ「久しぶりだな」
C.C.『どうした?』
ルルーシュ「学園にこい」
C.C.『なに?正気か?』
ルルーシュ「お前が必要なんだ、C.C.」
C.C.『……そこまで言うなら行ってやろう。しかし、無駄なリスクが増えるだけだぞ?』
ルルーシュ「どうもおかしい」
C.C.『なんのことかな?』
ルルーシュ「今まで異変にはすぐに気がつかなかったが、連日は明らかな異変が俺の周囲で起こっている。しかも、その異変に気がついているのは俺だけだ」
C.C.『それはシャルルによる記憶改竄がお前にだけ行われていないということだな』
ルルーシュ「何故、改竄せず、周りに壁だけを置いていくのか。答えは簡単だ。俺の記憶が戻ったことをシャルルは知っている」
C.C.『……』
ルルーシュ「理由はわからないが、そうとしか思えない」
C.C.(私がシャルルのギアスを無理やり解いたから、感付かれたとはいえないな。ルルーシュ、絶対に怒るだろうし)
C.C.『わかった。では、三日後に合流する。で、バニーでもやればいいのか?』
ルルーシュ「それもいいが、ボディーガードをしてほしい」
C.C.『私がか?おいおい。見た目より丈夫ではあるけど……』
ルルーシュ「ギアス能力者がいるかもしれないからな」
C.C.『なに?』
ルルーシュ「俺の記憶が戻った場合の対処法としてまず考えられるのがギアス能力者を配置しておくことだろう」
C.C.『ギアスの盾になれというのか』
ルルーシュ「ああ」
C.C.『出来ればいいがな』
ルルーシュ「お前にしかできない」
C.C.『分かった。行ってやろう』
ルルーシュ「会えるのを楽しみにしている」
C.C.『精々、死ぬなよ』
ルルーシュ「俺は死なない。世界を変えるまでは」
カレン「ルルーシュ?」
ルルーシュ「どうした?」
カレン「あの……これでも体には自信あるんだけど……」モジモジ
ルルーシュ「また今度な」
カレン「……ルルーシュ!!」
ルルーシュ「どうした?」
カレン「私のこと……嫌いになったの……?」ウルウル
ルルーシュ「な……」
カレン「私はルルーシュのこと好きなんだけど……」
ルルーシュ「カ、カレン……おい……」
カレン「傍に置いておきたくないほど……嫌いなら……あきらめるけど……」
ルルーシュ「いや……そうじゃなくて……」
カレン「目障りじゃないなら……傍にいさせてよ……」
ルルーシュ「えっと……」
シャーリー=嫁
C.C.=愛人・母親
カレン=友達以上奴隷未満
会長=とても親しい幼馴染のような先輩
スザク=妻
な気がする。
何言ってるんですか?
ナナリー=嫁
ナナリー=愛人・母親
ナナリー=友達以上奴隷未満
ナナリー=とても親しい幼馴染のような先輩
ナナリー=妻
こうですよ
全部全て何もかもナナリーでいいんだよナナリーで
ナナリーは私の母になってくれたかもしれなかった女性だ
乗り換えかこのロリコンニュータイプめ
ルルーシュ「嫌いなわけないだろう。良く考えろ、カレン」
カレン「本当に?」
ルルーシュ「ああ」
カレン「じゃあ、好き?」
ルルーシュ「……ぁぁ」
カレン「聞こえないんだけど」
ルルーシュ「ああ!!」
カレン「はいかいいえで答えろ!!」
ルルーシュ「はいだ!!」
カレン「ルルーシュ、お腹すいたでしょ?今、ご飯つくるから、待っててよ」テテテッ
ルルーシュ「……」
ルルーシュ(まあいい。現状は維持しておく。C.C.がくるまでヴィレッタに感付かれても厄介だしな)
カレン「これはレンジでチンしようっと。―――弾けろ、ブリタニアっ♪」
ルルーシュ(俺は何も間違えていない!!)
ルルーシュ「ああ、ありがとう」
カレン「ふふ。美味しい?」
ルルーシュ「ああ」
カレン「ありがとう」
ルルーシュ(そういえば、カレンの身体能力はどうなっているんだ?この状態でも戦えるんだろうな……)
カレン「なに?」
ルルーシュ「ふっ!」バッ
カレン「!?」グイッ
ルルーシュ「がっ?!」
カレン「いきなり、殴ろうとしてどういうつもり?」ググッ
ルルーシュ「い、いや……顔にソースがついていたから……」
カレン「あ、そうなんだ。ごめん」
ルルーシュ(よかった……戦力としては十分だ……。よし……)
カレン「もう恥ずかしい……どこでついたのかしら……」ゴシゴシ
カレン「うんっ。じゃあ、食器洗うからちょーだい」
ルルーシュ「俺がやるよ。これぐらい」
カレン「いいから。家事は妻の仕事なんだから」
ルルーシュ「そ、そうか……」
カレン「ルルーシュに任せると、私のやることなくなっちゃうし」
ルルーシュ「なら、任せる」
カレン「うん」
ルルーシュ「ふぅ……」
アーニャ「……ルルーシュ」
ルルーシュ「アーニャ、どうした?」
アーニャ「ココア、許嫁が入れたけど、のむ?」
ルルーシュ「……ああ」
アーニャ「美味しいから、飲んで」
ルルーシュ(アーニャはどうなんだ……。スパイと考えるのが自然だが……。少し探りを入れるか……)
ルルーシュ「アーニャ。お前は俺と結婚したいということでいいのか?」
アーニャ「ルルーシュに嫁ぐけど」
ルルーシュ「俺のことがその……好きなのか?」
アーニャ「わからないけど、嫁ぐ以上、好きになる」
ルルーシュ「そうか」
アーニャ「……うん」
ルルーシュ「なら、俺の言うことを聞いてくれるか?」
アーニャ「いいけど、あと3年待って」
ルルーシュ「え?」
アーニャ「ルルーシュを犯罪者にしたくないから」
ルルーシュ「別にそういうのは期待してないが」
アーニャ「……」
ルルーシュ「アーニャ……?」
アーニャ「胸をどうにかしたほうがいいってこと?」
アーニャ「そう。安心した」
ルルーシュ(感覚がズレているのか。それとも演技なのか……)
アーニャ「……」ゴクゴク
ルルーシュ(ちぃ……確証を得難いな。既に堕ちているのか?)
アーニャ「ふぅ……」
ルルーシュ「アーニャ。率直に訊ねる」
アーニャ「なに?」
ルルーシュ「俺と結婚するために軍を辞める覚悟はあるか?」
アーニャ「どうして?」
ルルーシュ「嫁を戦場には立たせたくないからな」
アーニャ「……」
ルルーシュ(さあ、どう答える……)
アーニャ「……じゃあ、今から辞表書く」
ルルーシュ「!?」
ルルーシュ「……」
アーニャ「じゃあ、行って来ます」
ルルーシュ「待て」
アーニャ「なに?」
ルルーシュ「本気か?」
アーニャ「うん」
ルルーシュ(この目……本気だな……。迷いがない。ここまでの演技ができるなら、騙されてもいい)
ルルーシュ「分かった。アーニャの想いが本物であることは十分にな」
アーニャ「そうなの?」
ルルーシュ「ココア、美味しかった。ありがとう」
アーニャ「おやすみ、ルルーシュ」
ルルーシュ「おやすみ」
ルルーシュ(アーニャはどうやら俺の味方になってくれそうだな……。存分に利用させてもらうぞ……フフフハハハ……)
カレン「ルルーシュ、寝る?」
カレン「……うんっ」
ルルーシュ(C.C.にカレン、そしてアーニャ……。これだけの駒があればヴィレッタごときは制圧可能だな)
シャーリー「あれ、ルル。まだ起きてたの?」
ルルーシュ「シャーリー……」
シャーリー「ん?」
ルルーシュ(そうだ。シャーリーだけでも解放してやらないと……。このままシャルルの駒にさせてたまるか……!!)
シャーリー「なに?」
ルルーシュ「シャーリー……」
シャーリー「え……?」
ルルーシュ「……」ギュッ
シャーリー「ちょっと!!いくら兄妹でもダメ!!」
ルルーシュ「お前だけは必ず守る……必ずな……」
シャーリー「お兄ちゃん……うん……ありがとう……」ギュッ
ルルーシュ「シャーリー……」
C.C.「……久しぶりだな」
ルルーシュ「会いたかったぞ」
C.C.「冗談がうまいな」
ルルーシュ「よし。これで前提条件は全てクリア。いくぞ」
C.C.「本当に私たちだけでやるのか?」
ルルーシュ「問題はない」
C.C.「なら、お前を信じるとしよう」
ルルーシュ「行くぞ」
C.C.「ああ」
ルルーシュ「俺からナナリーを奪い。そして他の者を玩具のように扱った報いは受けてもらうぞ!!シャルル!!」
ルルーシュ「手始めに俺の監視役どもを制圧する」
C.C.「人数は?」
ルルーシュ「並みの相手ならギアスで十分だ。問題は……」
C.C.「ギアスが通じないヴィレッタと、いるであろうギアス能力者か」
ルルーシュ「女子更衣室でも覗きにいけ!!」キュィィン
見張り「そうだ。覗きにいこう」タタタッ
C.C.「悪魔だな」
ルルーシュ「死ぬよりはマシだろ?フフハハハ」
C.C.「ここだな」
ルルーシュ「……」ピッ
ウィィン……
ヴィレッタ「ん?―――なに?!」
ルルーシュ「ヴィレッタ先生。どうも」
ヴィレッタ「お前……記憶が……」
ルルーシュ「……」
ロロ「……」キュィィン
C.C.「ふっ!―――なるほど、便利なギアスを持っているな、クソガキ」
ロロ「がっ……!?お、お前は……!!!」
ルルーシュ「なんだ?」
C.C.「どうやら体感時間を止めるギアスらしい。私がいて命拾いしたな」
ルルーシュ「全くだ」
ヴィレッタ「ルルーシュ……!!」
ルルーシュ「どうやらあなたたちに俺の情報は降りていなかったか。完全な捨て駒ということか」
ヴィレッタ「なに……」
ロロ「こんなことで……!!」
C.C.「残念なお知らせだ。お前はもう一度ギアスを使えば、楽になる」チャカ
ロロ「……」
ヴィレッタ「何が目的だ……」
ルルーシュ「ここを無力化させるだけですよ」
ヴィレッタ「またゼロに戻るのか……」
ルルーシュ「当然でしょう?」
スザク「―――今の君にそれだけの覚悟があるのかい?」
スザク「皇帝陛下の言うとおりになるなんて……。信じたくなかったよ」
ヴィレッタ「来ていたのですか……」
スザク「ルルーシュ……」
ルルーシュ「貴様……」
スザク「ゼロに戻るなら。この場で討つ」
ルルーシュ「……」
スザク「ゼロは死んだ。それでいいだろ」
ルルーシュ「どういう意味だ?」
スザク「……」
ルルーシュ「俺に覚悟がないとはどういう意味だ?」
スザク「今の君は恵まれているじゃないか」
ルルーシュ「なに?」
スザク「魅力的なお嫁さんがいて、血が繋がっていない妹がいて、年下の許嫁がいて、美人な保険医がいて、お尻の大きな愛人がいて……。これ以上、何を望むんだ?!」
ルルーシュ「俺はそのようなものを望んでいないんだよ!!!スザク!!!」
ルルーシュ「俺は間違ってなどいない!!」
スザク「お前がいるから!!!彼女すらできない哀れな男性が生まれるんだ!!!」
ルルーシュ「知るか!!!」
スザク「ルルーシュゥゥゥ!!!」ガッ!!!
ルルーシュ「ぐっ!?」
スザク「君はそれでいいのかもしれない!!だけど!!!我を通す者の陰で涙を流す者もいることを自覚するんだ!!!」
ルルーシュ「俺は俺の望むものを手に入れるために多くの血を流してきた!!もう止まることなどできない!!」
スザク「止まるんだ!!俺が世界を変える!!!」
ルルーシュ「貴様の方法で変わるのはいつになる?!10年か?!20年か?!俺はもう1日たりとも無駄にしたくはない!!」
スザク「そのための犠牲なら払ってもいいというのか?!」
ルルーシュ「そうだ!!それが大義のためならばな!!」
スザク「君は屑だ!!」
ルルーシュ「なんとでもいえ!!俺が目指す世界のためならば、どんな汚泥もかぶってやる!!!」
スザク「この……!!」
ロロ「お前たちは皆処刑だ……」
ヴィレッタ「諦めろ、ルルーシュ」
スザク「ルルーシュ……君には普通の男が何度転生しても手に入れることのできないものが揃っているんだぞ?」
ルルーシュ「俺が望むのはナナリーだけだ」
スザク「……ナナリーがいればそれでいいのか?」
ルルーシュ「違うな。ナナリーが笑っていられる世界を望む」
スザク「何を言っても無駄なんだね……ルルーシュ」
ルルーシュ「ああ。お前とは分かり合えない」
スザク「なら!!ここで!!」
ルルーシュ「無策でここにくると思うな!!―――カレン!!」
スザク「え?!」
カレン「私の旦那からはなれろぉぉ!!!」バキィ!!!
スザク「ぐ!?」
カレン「スザク。男の嫉妬は醜いんだけど」
モニター『キャー!!覗きよー!!』
ヴィレッタ「……!?」
ルルーシュ「見張りなら鼻の下を伸ばしながら婦女子の着替えを観覧していますよ」
ヴィレッタ「ルルーシュ……!!」
スザク「カレン……」
カレン「なに?」
スザク「君はギアスによってルルーシュのことを好きになっているだけなんだ」
ルルーシュ「スザク!!」
スザク「君は偽りの愛に尻尾を振っているだけだ!!」
カレン「……ギアスにかかってるからなんなの?」
スザク「え……」
カレン「私はルルーシュのことが好きだし、愛してる。それが全てよ!!紅月カレンを甘く見るな!!」
スザク「くっ……」
C.C.「……暫く見ないうちに一皮剥けたな……カレンめ……」
スザク「ルルーシュ……逃げる気か?」
ルルーシュ「なに……?」
スザク「君に会わせたい人がいる」
ルルーシュ「会わせたい人……?」
カレン「誰よ?」
C.C.「……まさか」
スザク「総督に繋いでください」
ヴィレッタ「ああ」ピッ
ルルーシュ「総督だと……?」
スザク「こんど新たに就任される人だよ。モニターを見てくれ」
ナナリー『―――お兄様?』
ルルーシュ「……!?」
ナナリー『お兄様?いらっしゃるのですか?』
スザク「……」
C.C.「枢木……」
ルルーシュ「何の真似だ?」
スザク「……」
ナナリー『お兄様……。私、全てをスザクさんからお聞きしました』
ルルーシュ「全て……?!」
ナナリー『ゼロのこと……ギアスのこと……』
ルルーシュ「スザァァァク!!!」
スザク「……」
ルルーシュ「貴様は!!!」
スザク「ルルーシュのことを全て話す。それがナナリーが出した条件だった」
ルルーシュ「なに……!?」
スザク「総督になるための条件だよ」
ルルーシュ「じゃあ……ナナリーは……!?」
スザク「自分の意志で総督の座についた。もう君が戦う理由はない!!」
スザク「ナナリーは自分の意志で世界を変えるつもりだ」
ルルーシュ「ふざけ……!!」
ナナリー『お兄様……』
ルルーシュ「ナナリー……おれは……おれはぁ……!!」
C.C.「これまでか……」
カレン「……この子、だれだっけ?」
ナナリー『―――お兄様。聞いてください』
ルルーシュ「……」
ナナリー『中から変えるのは……はっきりいって無理です』
スザク「!?」
ヴィレッタ「え……」
C.C.「ほう……?」
カレン「あ!!思い出した!!ルルーシュの実の妹のナナリーだ!!」
ルルーシュ「……ナナリー?」
ナナリー『私が総督になっても知らないところで日本人の皆さんに対する圧政が行われています』
スザク「それは……」
ナナリー『総督になればあるいはと思いましたが、所詮は小娘の戯言で一蹴されてしまう。少し考えれば分かったことなのですけど』
ルルーシュ「……」
ナナリー『だから、一度外側からシステムを壊しましょう。お兄様』
スザク「ナナリー!!!どうして!!」
ナナリー『私の言うことを聞いてくれない人ばかりですから……』
スザク「僕がいる!!ジノも!!アーニャもいるじゃないか!!」
ナナリー『たった三人のラウンズでは……ちょっと……』
スザク「……」
ルルーシュ「ナナリー……俺にどうしろと……?」
ナナリー『ゼロとしてブリタニアと戦ってください。私はお兄様が壊した世界を中から修復します。勿論、今とは違う形でですが』
ルルーシュ「……本気か?」
ナナリー『私とお兄様なら造作もないことだと思います』
ナナリー『中から変える間にも罪のない日本人の方々、世界中にいるナンバーズと呼ばれ差別されるの人たちが血を流しています!!』
スザク「!?」
ナナリー『流れる血の量が少なくて済む方法があるのなら、私は躊躇うことなくそちらを選びます。これは可笑しなことですか?』
スザク「でも……間違った方法で得た結果に価値なんて―――」
ナナリー『スザクさんにとって間違いでも、私にとっては正しいことです。不満があるのなら、軍から抜けてもらっても構いません』
スザク「……」
ルルーシュ「ナナリー……いいんだな?」
ナナリー『よろしくお願いします。お兄様』
ルルーシュ「容赦はしないぞ?」
ナナリー『優しい世界でありますように』ニコッ
ブツッ……
ヴィレッタ「……」
スザク「……」
ルルーシュ「撤収するぞ。もうここに用も価値もない」
ロロ「ま、まて……!!」
C.C.「殺してもいいんだぞ、クソガキ」
ロロ「……っ」
カレン「ルルーシュ……」
ルルーシュ「カレン。今のお前は覚えていないかもしれないが、紅月カレンは黒の騎士団のエースだった」
カレン「……」
ルルーシュ「カレンさえよければ……」
カレン「夫が戦えっていうなら戦う」
ルルーシュ「カレン……。ありがとう。だが、絶対に死ぬな」
カレン「ルルーシュがそういうなら死なない」
ルルーシュ「いくぞ」
C.C.「よし」
カレン「おー」
スザク「……こ、ここで逃がしたら……!!」
C.C.「しつこい男は嫌いだ」
カレン「ホントに」
ルルーシュ「外に出れば勝ちだ!!いくぞ!!」
C.C.「わかっている」
カレン「まだなにか策があるの?!」
スザク「まて―――」
モルドレッド『止まってくれるぅ?』
スザク「!?」
ルルーシュ「フフフハハハハハ!!!」
スザク「ア、アーニャ!!何の真似だ!!」
ルルーシュ「アーニャ!!ここは任せるぞ!!」
モルドレッド『はいはぁ~い』
スザク「アーニャ!!何をしているのか分かっているのか!?」
モルドレッド『あなたこそ何をしているのかわかってるわけぇ?』
アーニャ『ルルーシュはねぇ、たくさんのお嫁さんに囲まれて世界を変えちゃうんだから』
スザク「は?」
アーニャ『勿論、夫の計画が失敗したときの保険だけどね』
スザク「なにを……」
アーニャ『いい?作り変えられた世界で必要なのは絶対的な王なのよ。それを捕まえようとするなんて、ナンセンスだと思わない?』
スザク「ルルーシュはただの人殺しだ!!」
アーニャ『英雄や王で独りも殺さずその椅子に座り続けた者はいないわ。あなただって、今の地位に来るまでにどれだけの人を殺してきたの?』
スザク「それは……僕は正しいことを……」
アーニャ『正しい人殺しってなぁに?』
スザク「……!?」
アーニャ『二元論で語れるほど、世の中は甘くないとおもうけどぉ。どう思う?』
スザク「……」
アーニャ『ルルーシュには少なくともナナリーとシャーリーとカレンとアーニャと……ついでにコーネリアを孕まして、夫亡き後に君臨してもらわないとね。アレが失敗した場合だけど』
スザク「ま、待ってくれ……アーニャ……君は……どうするつもりだ?まさか……ルルーシュにつくのか……?」
スザク「裏切るのか?!」
アーニャ『友人を裏切った貴方がいってもねえ』
スザク「……」
ジノ『アーニャ!!見つけたぞ!!』
スザク「ジノ!!」
アーニャ『ハドローン!』ゴォォ!!!
ジノ『うわ!?』
スザク『アーニャ!!!』
アーニャ『それじゃあ、追って来てもいいけど、そのときはボイスレコーダーに最後の言葉を吹き込んでおいてね?』
スザク「アーニャァァァ!!!!!」
ジノ『待て!!!』
アーニャ『ハドローン』ゴォォォ
ジノ『うそだろ?!』
ドォォォン!!!
ヴィレッタ「今、ルルーシュ、C.C.、カレン、シャーリー、コーネリアの5名が学園敷地内から姿を消しました」
スザク「……」
ロロ「追います」
スザク「いや、いい。やめるんだ。追っても無駄だよ」
ヴィレッタ「これからどうなるというんだ……」
スザク「こんなの絶対に間違っている……僕はやる……たとえ一人でも自分の正義を信じて……戦う!!」
ヴィレッタ「……」
ロロ「レジスタンスと同じ思考ですよね」
ヴィレッタ「しっ」
スザク「……」
ヴィレッタ「では、逃げた5名の行方を至急捜索します」
ロロ「ラウンズを入れたら6人ですね」
ヴィレッタ「モルドレッドはすぐに補足できるだろう。急ごう」
スザク「……僕はどうしたらいいんだ……」
カレン「扇……?」
コーネリア「おい。怪我人はどこにいる?いないぞ?」
ルルーシュ「今からわんさか来ますよ」
コーネリア「そうか。ならいいんだ」
シャーリー「ルル……私は本当にルルの傍にいればいいの?」
ルルーシュ「ああ。俺の帰る場所になってくれればそれでいい」
シャーリー「……うん」
C.C.「しかし、どうやって救出するつもりだ?」
ルルーシュ「そろそろ連絡がくる」
ナナリー『―――お兄様』
ルルーシュ「どうだ?」
ナナリー『中華連邦とも連絡を取りました。黒の騎士団のみなさんの身柄は中華連邦総領事館で渡しますね。あくまで取引をしたという形で……』
ルルーシュ「くくく……よし……」
カレン「おうぎ……?だれ……だっけ……?まぁ、いいか」
ゼロ「では、団員たちの身柄は我々が貰い受ける!!」
扇「助かった……」
玉城「さっすがゼロだぜぇぇ!!!」
藤堂「……」
ギルフォード「さぁ!!姫様を渡せ!!」
ゼロ「……できない相談だな」
ギルフォード「約束が違うぞ!!」
コーネリア「怪我人はいないか!!私が治療する!!!」
ゼロ「彼女は大事な医療班のリーダーだからな」
ギルフォード「くっ……!!ゼロは卑怯にも約束を反故にした!!うてぇ!!」
ゼロ「くくく……」
モルドレッド『うざい奴、嫌い』
ギルフォード「モルドレッド……ラウンズ……!?」
アーニャ『私のダーリン、殺させない』ゴォォォ
ゼロ!!ゼロ!!ゼロ!!
アーニャ『ゼロっ、ゼロっ、ゼロっ』
カレン「ゼロ!!ゼロ!!!ゼロ!!!ゼロ!!!」
ゼロ「皆の者!!ナイトメアに搭乗しろ!!まだ終わってはいない!!」
藤堂「用意がいいな」
千葉「よし」
ギルフォード「撤退だ……撤退しろ……」
ランスロット『まだ、自分がいます!!』ギュルルル!!!!
ゼロ「来たか……」
ランスロット『ゼロ!!お前を倒して僕が正しいことを証明す―――』
紅蓮『いいよ』
モルドレッド『こい』
斬月『スザクくん。無駄な抵抗だ』
ランスロット『……うわぁぁぁぁ!!!!』
ランスロット『くそ!!まだだぁ!!』
斬月『であぁぁぁ!!!』ザンッ!!!
ランスロット『ぐぁ?!』
紅蓮『捕まえたぁ!!!』ガキィィン
ランスロット『くっ……?!』
紅蓮『弾けろぉ!!ブリタニアァ!!!!』
ランスロット『くそぉぉ!!!僕は諦めない!!!絶対に諦めるものかぁぁぁぁ!!!!』
ドォォォン!!!!
ゼロ「よし。脅威は去ったな」
玉城「やべえ!!今の爆風で扇がふっとんだぁ!!!」
南「医療班!!」
コーネリア「任せろ!!」ダダダッ
ゼロ「フフフハハハハ!!!!やれる!!やれるじゃないか!!!」
コーネリア「……唾付けておけば大丈夫だろう」
千葉「ゼロ。ブラックリベリオンのとき、どうして逃げ出した?説明はあるんだろうな?」
ゼロ「見れば分かるだろう、千葉よ」
千葉「え?」
コーネリア「……」
藤堂「コーネリアを仲間に引き入れるためだったのか」
ゼロ「そうだ」
千葉「ならば、そのとなりにいる女はなんだ?」
ゼロ「ん?」
シャーリー「……」オロオロ
ゼロ「私の影武者になる人物だ。知略計略に長けている」
シャーリー「え?!」
千葉「なら、いいけど」
シャーリー「よ、よろしくおねがいします!!」ペコッ
千葉「……礼儀正しいな」
ゼロ「これはこれは、ナナリー総督。何か御用ですか?」
C.C.「……」
玉城「ブリタニアの総督がなんのようだよぉ!!」
ナナリー『あなた方の卑劣な行為。看過できるものではありません。即刻、日本から退去してください』
千葉「なんだと?!」
藤堂「ふざけるな!!」
ナナリー『蓬莱島というところがありますから、そこに新しい日本でもなんでも作ればいいです』
千葉「貴様!!少し可愛いからと侮辱が過ぎるぞ!!」
藤堂「……待て、千葉」
千葉「はい?」
藤堂「奴らから拠点の提供をしてくれたようなものだぞ……」
千葉「……」
ナナリー『ゼロは悪魔です!!大嫌いです!!パセリぐらい嫌いです!!』
ゼロ「気が合いますね、ナナリー総督。私も貴方のことは子猫を愛でてる程度の情しかもてませんよ』
ブツッ
ゼロ「聞いたな、皆の者。新天地で新たな国をつくるぞ!!」
玉城「ブリキ野郎ども!!俺たち日本人を日本から追い出すなんて!!ひでーやつらだ!!今にみてやがれ!!!」
C.C.「酷い演技だ。藤堂辺りは感付くんじゃないか?」
ゼロ「感付いたにしろこちらにとってメリットしかない。文句のつけようなどないだろ?」
C.C.「悪魔め」
ゼロ「魔女が」
カレン「よし。みんな!!移動開始!!」
シャーリー「列を乱さないようにしてください!!」
コーネリア「怪我したら速やかに言うのだぞ!!」
アーニャ「記録……」パシャ
ゼロ「行くぞ!!未来は我らにあり!!!」
ゼロ「世界は変わる!!!変えられる!!!!」バッ
カレン「かっこいいフレーズ……メモしておかないと……」カキカキ
V.V.「……いいのかい?」
シャルル「ふふふ……ふはははは……ぬぁっはっはっはっはっは!!!!」
V.V.「……」
シャルル「ルルーシュめ……やりおったわぁぁ!!!!」
V.V.「でも、まだまだだよね」
シャルル「ええ。側室がたったの4人では……ダメですね……」
V.V.「じゃあ、そろそろ僕も行くよ」
シャルル「兄さん……」
V.V.「大丈夫さ。ルルーシュが本当に王の器があるのなら、僕でも抱けるはずだよ」
シャルル「それほどまでにルルーシュのことを……」
V.V.「ルルーシュはシャルルに似ているからね。僕は好きだよ」
シャルル「……がんばってください」
V.V.「うんっ」テテテッ
シャルル(ルルーシュ……兄さんを……たのぉぉむ……)
ナナリー「ふぅ……これでよし」
スザク「ナ、ナリー……どうして……」
ナナリー「お兄様……次にあえるときは……世界が変わるときですね……」
スザク「ナナリー……僕の話を……」
ナナリー「……」
スザク「こんなの間違っている……」
ナナリー「スザクさん?」
スザク「ナナリー……」
ナナリー「邪魔しないでくださいね?」
スザク「……」
ナナリー「それでは」ウィィン
スザク「ははは……」
スザク「ハハハハハハハハハ!!!!!アハハハハハハハハ!!!!!!!」
スザク「アーッハッハッハッハッハッハッハッハ!!!!!」
カレン「ルルーシュ!ごはんできたわよー!」
ルルーシュ「わかった」
シャーリー「ルルー、新聞」
ルルーシュ「ありがとう」
アーニャ「歯磨きセット」
ルルーシュ「悪いな」
コーネリア「体温を測る。ズボンを脱げ」
ルルーシュ「どこで測る気ですか」
C.C.「お前の周りは女だらけだな」
ルルーシュ「そうか?黒の騎士団は男のほうが圧倒的に多いぞ?」
C.C.「そういうことじゃない」
ルルーシュ「今日の一面は……。たった一人の抗議デモ……。正義は我らにあり……。スザクも必死だな」
C.C.「世界が変わればこいつも大人しくなるさ」
ルルーシュ「そうだな。こんなスザクは見たくないな……」
ルルーシュ「ほう?」
ジェレミア「ギアスキャンセラーでございます」キュィィン
V.V.「ルルーシュのギアスが実質何回もかけられるようになったよ」
ルルーシュ「なるほど。それは使えるな。ありがとう、V.V.」ナデナデ
V.V.「……♪」
ルルーシュ「よし、そろそろ行くか」
ゼロ「―――イカルガの進捗状況は!!」
シャーリー「えっと、いい感じです!!」
ゼロ「中華連邦との会合日程は!!」
カレン「天子様はお昼寝するそうなんで午前中か17時から19時までの間でお願いしたいと言ってます!!日にちについてはいつでもいいらしいです!!」
ゼロ「わかった。では、各員持ち場につけ!!!」
「「はいっ!」」
ルルーシュ(ナナリー、待っていろ。二人が、いや、みんなが笑っていられる優しい世界を必ず作ろう!!そのために俺は進み続ける!!!)
END
スザクェ…
V.V.が普通に愛されていたwww
Entry ⇒ 2012.10.19 | Category ⇒ コードギアスSS | Comments (0) | Trackbacks (0)
菫「エロゲしてる所を宥に見られた……」
http://ssweaver.com/blog-entry-1836.html
洋榎「エロゲしてる所を絹に見られてしもた……」
http://ssweaver.com/blog-entry-1845.html
前作の続きという訳ではありませんが、
前作から話は繋がっているので、前作も読んだうえ見て頂けると楽しめるかと思います。
菫「有が泊まりに来るまであと1日……」
菫「なんとかエロゲの山は押入れに隠す事が出来たが……油断は出来ない」
菫(万が一ここを開けられたら、宥に引かれるどころか私の人生はおしまいだ……)
菫「……」
菫「……しばらくエロゲも自重しておくか」
菫(とはいえ、宥が来るのは明日だ……)
菫(今日ぐらいはやっても平気だよな……?)
菫「……」
菫「よし、”松実屋温泉記”の続きを進めておくか……」
『おまかせあれっ!』
菫(”松実屋温泉記”……このゲームは奈良にある温泉旅館の経営をする温泉旅館経営シミュレーションゲームだ)
菫(やはりというか、”ソフトハウスダヴァン”のゲームは面白い)
菫(中には”アコスソフト”や”ヤエシュリー”の方が面白いという奴もいるそうだが……)
菫(経営や育成シミュレーションゲームを多く発売してくれるこのブランドの方が私には合っている)
菫「……」
菫「しかし……なかなか売上が伸びないな……」
菫「やはり多少の経費を覚悟して宣伝をもっとした方がいいのだろうか……」
菫「いや……それとも施設の増設をして売上アップを狙った方が……」
ピンポーン
菫(もう22時だぞ?外は真っ暗だって言うのに、一体誰だ)
菫(宅配を頼んだ覚えもないし、宗教や勧誘もこんな時間に来るとは思えないが……)
ピンポーン
菫「あ、ああ!今出る!」
ガチャ
菫「はい、どちらさまで……」
宥「こんばんわ……菫ちゃん」
菫「ゆ、宥っ!?」
宥「うんっ、そのはずだったんだけどね……」
宥「……菫ちゃんに早く会いたくて……来ちゃったっ……」///
菫「宥……」
菫(私に早く会いたくて……来ちゃった……だと……?)
菫(そ、それってつまり……あ、あれだよな……)ゴクリ
宥「……?菫ちゃん……?」
菫「あ、ああ、すまない、とりあえず上がってくれ」
宥「うんっ」
宥「ううん、大丈夫だよ」
宥「でも菫ちゃん……一人暮らしをしてるなんてすごいね」
菫「ああ……大学が始まってから一人暮らしをするようでは慌てるだろうから」
菫「早いうちに一人暮らしに慣れておけってね、親に言われてしまった」
宥「ふふっ、そうなんだ」
菫「……」///
菫「と、とりあえず布団を敷こう、な!」
宥「うん」
菫「ふぅ……宥はどっちで寝る?」
宥「えっ……私は布団でいいよ……?お客様だし……」
菫「いや、そういう訳にも行かん。わざわざ遠くから来て疲れてるだろう、ベッドで寝た方がいい」
宥「でもっ……」
菫「……じゃあ、こうしよう」
菫「しばらくの間、交互に使おう。今日は宥が、明日は私が。それでいいか?」
宥「……うん、わかった。…………あれ?」
菫「……?どうした?」
宥「菫ちゃん……パソコンで何かしてたの?」
菫「パソ……?……ッ!!?」
菫(しまった、ゲームを放置したままだった……!!)
菫「あ、ああ……!これは、その、温泉旅館の経営ゲームをな!やっていたんだ、うん」アセアセ
菫(嘘は言ってないぞ、うん、嘘は言ってない)
宥「温泉旅館の経営……」
菫「ま、まさか宥が今日来るとは思わなかったからっ……!ついさっきまでやっていたんだっ」
菫「ははッ、宥が来たからにはこんなものをやっている場合じゃないけどな!」
菫(さっさとセーブして閉じてしまおう)カチッ
宥「……菫ちゃん」
菫「ん?どうした?」カチッ
宥「……私もそのゲーム、やってみたいなっ」
菫「ファッ!?」
菫「このゲームは、宥がやるようなゲームでも無いと言うかっ」
菫「宥がやっても、全然おもしろくないんじゃないかなーって……ハハ……ハ」アセアセ
宥「……」
宥「菫ちゃん……私ね」
宥「実家の旅館を継ぐためにね……良い大学に入って経営学を学ぶ為に、東京の大学を見に来たの……」※設定を変更しました
宥「だから……少しでも旅館の経営に関わる事なら何でもしてみたいの……」
菫「……」
菫「し、しかしだな……」
宥「……」
宥「だめ……?」ウルッ
菫「うっ……」
菫(か、可愛いい……)///
菫(……だが、ここは何としてでも阻止せねばならない!!)
宥「え、えっと……こうかな」
菫「ああ」
菫(結局押し切られてしまった……)
菫(しかし、まだ慌てるような時間じゃあない)
菫(一番簡単なモードを選んだんだ、少なくともエロシーンは当分やってこない)
菫(要はエロシーンさえ見られなければいいんだ)
菫(序盤は小さなイベントと経営ばかりひたすら続く)
菫(そのうち飽きるか、寝る時間が来るかのどちらかだろう……)
菫(問題は無いはずだ……!)
菫「……」
宥「……えっと」
菫「ん?ああ……これはここをこうしてだな……」
宥「ありがと……」
宥「……私ね、ゲームとかは全然しないんだけど……」
宥「こういうゲームも、面白いんだね」
宥(可愛い女の子ばっかり出てくるのが不思議だけど……)
菫「……」
菫「ああ……そうだな」
菫(宥が思ってるようなゲームでは無いんだがな……)
菫(いや、見たことあるような……確かこのランダムイベントって…………っ!!!?)
菫「ゆ、宥!ちょっと待ったっ!!」
宥「えっ?」カチッ
『っやぁっ……だっ……だめだよ巴ちゃん……っ!』
『姫様っ……!はぁっ……はぁっ……!もっと激しくしますね……!!』
『んっ……!ふあぁっ……んっんっ……んっ!ひゃうぅ……!』
宥「」
菫「」
宥「な……なに……これ」
宥(裸の女の子が抱き合ってる……?)
宥(ううん……抱き合ってるだけじゃない……よね)
宥(……こ、これって……玄ちゃんが言ってた……えっちなげーむ……だよねっ……)///
宥「……」///
菫「そ、その……こ、これは……だな」
菫「……えと……はは……」
菫(見られてしまった……もうおしまいだ……)
菫「……」
菫「と……とりあえず、ゲームは止めにしようか……」
宥「……」
宥「……うん」コクッ
菫「……」カチカチッ
菫(さて……どうしたものか……)
菫「ゆ、宥……えっと……」
宥「……」
宥「さ、さっきのって……」
菫「え……?」
宥「さっきのって……その……えっちなげーむ……だよね……」
宥「……」
菫「……」
菫(おしまいだ……これは完全に引かれたに違いない……)
菫(よく考えたら……恋人持ちでエロゲーをやっている方がおかしいんだ……)
菫(私はやってはいけない事をやっていた……)
菫(その過ちが今、罪となって私に降りかかってきた……)
菫(なるべくしてなった……のかもしれないな)
宥「……」
宥「……菫ちゃん……」
菫「……」
菫(……全部話してしまおう……)
菫(それで許して貰えるとは思えないが……せめてもの償いに……)
菫「私は……こういうゲーム、その……エッチなゲームが大好きなんだ……」
菫「……はは」
菫「引いたか……?」
菫「学校ではシャープシューターや菫お姉様などと呼ばれ、誰にでもクールに振舞っていた私が……」
菫「家に帰ればエッチなゲームを楽しむ、ただのオタクだ……」
菫「宥という可愛い恋人が居るにも関わらずだ」
菫「……我ながら、実に最低な人間だ」
宥「……」
菫「こんな私に、宥みたいな恋人が居る事自体が」
菫「私はエロゲーマー、世間の影でひっそりと生活する日陰者だ」
菫「決して表立って生活する事は出来ない、醜き存在だ」
宥「菫ちゃん……」
菫「……」
菫「……宥」
――私たち……別れよう――
菫「……自分の恋人がエロゲーをやっているなんて知れたら、きっと宥まで変な目で見られてしまう」
菫「私が何を言われようと構わない……だが」
菫「宥にはそんな目に遭って欲しくない」
宥「……で、でもっ、見ちゃったのは私だけだし……」
宥「他の誰にも言わないよ……?」
菫「たとえ宥が黙っていてくれたとしても、今回見られてしまったのは事実だ」
菫「今後いつボロを出して、バレるか……」
宥「……」
菫「……わかってくれ、宥」
宥「……」
宥「……ぃ……だっ」
菫「……え?」
宥「菫ちゃんとせっかく恋人になれたのにっ……」
宥「なんでそんな事で……別れなきゃっ……」
菫「宥……」
宥「……私はっ、別れたくない……!」
宥「菫ちゃんのことがっ……好きだから」
菫「……」
宥「……菫ちゃんは……どうなの?」
菫「えっ……?」
宥「菫ちゃんは……本当に別れたいの……?」
菫「……」
菫「……そんなわけ……ないだろう!!」
菫「当たり前じゃないか……!こんなにも宥の事が好きで好きで!」
菫「宥の事を考えるだけでも胸がはち切れそうなのに……!」
菫「何故こんなにも苦しい思いをしなければならないっ!!」
菫「宥の事は好きだ……でもそれじゃあダメなんだ!!」
菫「これ以上は……宥を傷つけてしまうんだ……」
菫「他に……」
菫「他に……どうしろって言うんだ……」
ダキッ
菫「……っ、宥……?」
宥「……大丈夫だよ」
宥「悪口とか……言われ慣れてるから……」
菫「宥……っ」
宥「それにね……菫ちゃんだけにそんな辛い思いをさせたくないよ……」
菫「で、でもっ……!それだと宥が……!!」
宥「菫ちゃん」
菫「っ……」
宥「菫ちゃんは……私に何かあった時は、守ってくれる?」
菫「……っ……!ああ……!当たり前だろ……っ!」
宥「じゃあ、菫ちゃんに何かあった時は私が菫ちゃんを守ってあげる」
菫「……ッ……ゆ……うぅ……っ!」
宥「……ね?」
菫「…………――――っ!!」
『う……あああああ……――――!!!』
…
宥「……落ち着いた?」
菫「……っ」コクン
宥「そっか……」
菫「……宥」
菫「私は、エロゲーが大好きな女なんだ……」
菫「周りにどう思われようと別にいいが……宥だけには嫌われたくないんだ……」
菫「宥は気持ち悪いとか思わないのか……?」
菫「こんな、エロゲーが好きな私を……」
宥「……」
宥「さ、最初は……びっくりしたけど」
宥「菫ちゃんが……その、えっちなゲームをしていても……私は何とも思わないよ」
宥「私が好きになったのは……菫ちゃんだから」
宥「えっちなゲームもやっている菫ちゃんを含めて、菫ちゃんだから」
菫「……宥」
菫「……?」キョトン
宥「あっ……」
宥(か、顔が近い……ど、どうしよう)///
宥(そ、そういえば抱きしめたままだったよぉ……)///
宥(……あっ……菫ちゃん……睫毛長いなぁ……)
宥(本当に美人さんなんだぁっ……)
菫「……」
菫(ど、どうしよう……顔が近い……っ)///
菫(まだ目が腫れていて……恥ずかしいっ……)///
菫(……しかしこうして間近で見ると、本当に宥は可愛い……)
菫(本当に……好きなんだ、私は……宥のことが)
菫「……宥」
宥「……?す、菫ちゃん?」
チュッ
菫「……好きだ」
宥「……?う、うん、私も好き……だよ」
菫「違う、そうじゃないんだ」
菫「その……本当に好きなんだ」
宥「……?え、えっと、どう違うの……かな」
菫「……そ、その、つまりだな」
菫「……こういうことだ」
ンチュッ
宥「んっ…………」
菫「………っ……」
菫「……っはぁ」
宥「っ……菫ちゃん」
宥「……ううん」
宥「……もっと、して欲しい」
菫「……宥っ!」
がばぁっ
宥「す、菫ちゃんっ……!?」
菫「……これ以上は歯止めが効かなくなるぞ」
宥「……」
宥「……」コクリ
宥「菫ちゃ……んっ……ぁっ……」
菫「んんっ……くちゅっ……んちゅっ……」
宥「んっ……はっぁ……す、すみれちゃっ……そ、そこはっ」
菫「……」
菫「……いやか?」
宥「……ううん、ち、ちがうのっ」
宥「その……ね……は、はじめてだから……」
宥「や、やさしく……して……」///
菫「……宥っ」
………
……
…
菫「ん……寝てしまっていたのか」
菫「宥は……」
宥「……zzz……zzz」
菫「はは……全く」
菫(結局、あの後身体を交わせてしまった)
菫(最初はお互いぎこちなかったが、何回か続くと宥の方からも求めてくれた)
菫(……エロゲの知識も大して役に立たなかったな)
菫「……ん?なんだ、パソコン付けっぱなしだったのか」
菫「いい加減電源落としておかないと……ん?」
菫「ス○イプで誰か話していたのか、何々……」
――とあるネット掲示板で知り合った数人の猛者達が――
――互いに集い語り合う 淑女達のグループチャットである――
ひろぽん:”恋と麻雀とチョコレート”とかなかなか良かったと思うんやけどな
トキ:あーこの前アニメ放送もしてたな
かじゅ:学内麻雀で優勝した人物が生徒会長になるとか言う奴だろう?実に馬鹿げてると思うがな
巫女みこカスミン:でも、絵も音楽もなかなか良かったわよね。私は好きよ
ひろぽん:せやろー
トキ:やーそれやったら、”アトカラ=スコヤ”の方が全然ええわ
ひろぽん:うわ出たでーアコス厨
かじゅ:でもわかる
巫女みこカスミン:わかる
ひろぽん:いや、そら名作やからそうやろけど、そもそも比べるもんとちゃうやろ
トキ:せやろか
ひろぽん:せやろ
巫女みこカスミン:とある女の子からお姉様って呼ばれるのがイイのよね
ひろぽん:あんたら自分がお姉様って呼ばれたいだけとちゃうんかと
トキ:すみれとか”アトカラ=スコヤ”めっちゃ好きそうやな
かじゅ:ああ、好きそうだな
巫女みこカスミン:その張本人はインしてるようだけど、今いないのかしら?
ひろぽん:なんか反応ないんよな
トキ:恋人が泊まりに来るとか言うてなかったっけ
かじゅ:それは明日じゃないのか?
トキ:や、しらんけど
巫女みこカスミン:恋人かぁ、羨ましいわねぇ
ひろぽん:せやな
ひろぽん:せやけど、恋人がおるんなら……エロゲなんてせーへんで幸せになってほしいトコやけどな
トキ:うちエロゲめっちゃやっとるけど、幸せやで
ひろぽん:や、確かにそういうんもあるかもしれへんけど
かじゅ:それを言うなら日陰者だ
ひろぽん:な、なんでもええやろ!でーまー、なんちゅーの
ひろぽん:仮に相手の親御さんに挨拶しに行った時とか、趣味はエロゲですなんて言えへんやろ
トキ:まぁ言ったら交際を反対されるやろなぁ
ひろぽん:やろ、いくらエロゲ趣味を隠していても、いつかバレる日が来ると思うんや
トキ:まぁ実際にバレたしな、親友にやけど
ひろぽん:うちも妹にバレたけどな
かじゅ:なんというかお前ら……
巫女みこカスミン:苦労してるのねぇ
ひろぽん:別にエロゲをやるなとは言わへん、せやけどエロゲよりも大事にしなきゃいけないモンが別にあるんやないのかと
かじゅ:……
ひろぽん:せやから幸せになってほしいねん、ちゃんと
ひろぽん:エロゲをやるのも幸せやろけど、恋人がおるなら恋人も幸せにせなアカン
かじゅ:……そうだな
ひろぽん:うおーい、それはゆーたらアカンやろー
巫女みこカスミン:あらあらまぁまぁ
菫「……」
菫「……みんな」
菫(そうだな……私はもう一人じゃない)
菫(宥も一緒なんだ、私の問題は宥の問題になる)
菫(……なんとかしないといけないよな……)
チュンチュン...
宥「……ふぁ……菫ちゃん……?」
菫「ん?ああ、起きたのか。おはよう」
宥「おはよう……何してるの?」
菫「ちょっとゲームをな……ダンボールに積めてるんだ」
宥「……?」
菫「……売ろうと思うんだ、エロゲーをな」
宥「えっ……別にそこまでしなくても……」
菫「決めたんだ、エロゲーがある限り……」
菫「私は宥を幸せにする事は出来ないんだ」
宥「で、でもっ……」
菫「……教えられたよ、私にはエロゲよりも大事にしなきゃものがあるってね」
宥「菫ちゃん……」
菫「……そ、それで……その、なんだ」
菫「宥がこっちの大学に入る事になったら……その……」ゴニョゴニョ
菫「…………一緒に暮らさないか」
宥「えっ……?」
菫「い、嫌ならいいんだ……宥の事情もあるだろうし……」
宥「……」
宥「ううん……一緒に暮らしたい」
菫「え……?」
宥「私も……菫ちゃんと一緒に暮らしたいっ」
菫「宥……っ」
宥「一緒にご飯食べて……一緒にお出かけしたり……一緒のベッドで寝たり……」
宥「そんな生活がしてみたいなっ」
宥「……」///
菫「……」
菫「……宥」
宥「……菫ちゃん?」
菫「……――」
――結婚しよう――
くろちゃーはおもちゲーでもやってたくましく生きるよ
菫「プロポーズ……だな」
宥「で、でも……私達まだ学生だよ……?」
菫「……今すぐという訳じゃないさ」
菫「まずは一緒に暮らして、同棲からはじめよう」
菫「そして大学を出たら……結婚してほしい」
宥「菫ちゃん……」
菫「……嫌か?」
宥「私も……菫ちゃんと結婚したい」
宥「結婚して、菫ちゃんの家族になりたいっ」」
菫「……ああ、私もだ」
――幸せとは 画面の中にあるものではない――
――目の前にある かけがえのない存在こそが――
――私の本当の幸せなのかもしれない――
菫「――家族になろう、宥」
つづカン
正直な所、今回の話は自分が書きたかった物と全く違う物になってしまったので
納得の行かない部分がかなり……
菫宥にはやっぱ幸せになってほしいなーという思いから
こんな話になってしまいました
明日はがっつりエロゲを絡ませて行きたいと思いますので、明日も宜しければぜひ。
イイハナシダナー
久しぶりにエロゲーやろうかな…
Entry ⇒ 2012.10.19 | Category ⇒ 咲-Saki-SS | Comments (0) | Trackbacks (0)
奉太郎「古典部の日常」 2
寝付こうとしても、中々寝付けず、睡眠時間は3時間程だろうか。
奉太郎(学校に着く前にぶっ倒れるかもしれんな、これは)
しかしそうは言ってもられない。
今日は、やるべき事があるからだ。
時刻は7時、準備をしなければ。
寝癖がほとんどついていない、それもそうか……まともに寝ていないのだから。
朝食を済ませ、コーヒーを一杯飲む。
奉太郎(今日で……終わらせる)
奉太郎(少し早いが、行くか)
カバンを背負い、玄関のドアに手を掛けた。
奉太郎「ん、なんだ」
供恵「……寝間着で学校に行くの?」
ああくそ、俺はどうやら……すっかり頭の回転が落ちている。
姉貴の横を無言で通り過ぎ、制服に着替える。
供恵「それもそれでありだとは思うわよー面白いし」
後ろから何やら声がかかるが、無視。
しかし、こんな状態で本当に大丈夫だろうか。
いや、駄目だ、これは絶対に……解決せねば。
洗面所で服装の確認をし、再び玄関に手を掛ける。
奉太郎「……今度はなんだ」
供恵「別に、ただ言ってみただけ」
奉太郎「行くぞ、構ってられん」
やはりどうにも、姉貴は苦手だ。
供恵「頑張りなさいよ」
考えを見透かされてる様で、苦手だ。
姉貴に返事代わりに手を挙げ、玄関のドアを開いた。
供恵「ま、私の弟だし余裕だとは思うけどねー!」
供恵「そ、れ、と! あんま無理はしないようにね」
朝から元気なこった、だが少し、元気は出たか。
摩耶花「……おはよ」
こいつが俺の家に来るなんて、今日は雪だろうか?
奉太郎「珍しいな、今日は良くない事が起きそうだ」
摩耶花「……そうかもね」
摩耶花「折木、ちょっといいかな」
伊原の威勢がいい反論も聞けない、無理もないか。
奉太郎「ああ、少し頭を回さないといけないしな」
摩耶花「?」
摩耶花「まあいいわ」
伊原は少し疑問に思ったみたいだが、そこまでは気にしていない様子だった。
並んで学校へ向かう。
摩耶花「まさか、折木と学校へ一緒に行くことがあるなんて夢にも思わなかったわ」
全くの同意見。
摩耶花「昨日の、事なんだけどね」
伊原はそう、前置きをした。
やはりそうか、むしろそれ以外だったら俺はどんな顔をしていただろう。
奉太郎「あれか」
摩耶花「……うん」
摩耶花「私、少し邪魔だったかな。 やっぱり」
摩耶花「ふくちゃんから昨日、電話がきてね」
摩耶花「私は悪くない、安心してって」
摩耶花「でもやっぱり……迷惑だったのかな」
なんでだろう……千反田といい、伊原といい、どうして自分を責めるのだろうか?
摩耶花「……ふくちゃんにこんな話、できる訳ないじゃない」
摩耶花「ちーちゃんは、あんな事言わないと思っていたのに」
摩耶花「……それだけ」
奉太郎「ま、余り深く考えるな」
奉太郎「千反田は今日、話があるみたいだぞ」
俺が事情を説明してもいいのだが、本人同士で話すのが一番いいだろう。
摩耶花「そう、ちーちゃんが」
摩耶花「……分かった、少し腹を割って、話そうかな」
奉太郎「ああ、それがいい」
奉太郎「だけど、そんなに気を病むなよ」
奉太郎「言い返してこないお前と話していても、つまらん」
摩耶花「でも、ありがとね」
摩耶花「けど……やっぱり折木に励まされるのって、なんかムカツク」
おいおい、随分と酷いなこいつは。
今の一瞬で、俺の株は下がって上がって下がったのだろうか。
摩耶花「ちょっと元気出たし、私先に行くね」
そう言うと伊原は走り、学校へ向かっていった。
奉太郎(元気が出たらなによりだ)
奉太郎(けど、今のままの伊原の方が……大人しくていいかもしれない)
伊原に聞かれたら、それこそ俺は生きて帰れる気がしない。
まあ、少しは頭の回転になったか。
あくびをしながら、学校へと向かう。
1……2……3……4……あ、学校が見えた。
あくびを4回したところで、ようやく学校が見えてきた。
校門の前で一度止まり、深呼吸。
奉太郎(今日は少し、気合いを入れんとな)
柄にも無く「おし、行くぞ!」と意気込んでいたところで、背中に衝撃が走った。
里志「おっはよー! ホータロー!」
奉太郎「……いって!」
奉太郎「朝から元気だな、お前」
少々目つきを悪くして、里志を睨む。
里志「そういうホータローは随分とだるそうだね、はは」
奉太郎「昨日は少ししか眠れなかったんだ、寝つきが悪くてな」
里志「そんな日もあるさ! でもね、今日は期待してるよ? ホータロー」
里志「あんまり無理はしないようにね、大丈夫だとは思うけど」
奉太郎「分かってる、大丈夫だ」
里志「そうかい、じゃあ僕は総務委員の仕事があるから、これで」
そう言うと、里志は俺に手を振りながら昇降口へと走っていった。
下駄箱で靴を履き替える。
階段を上がろうとしたところで、後ろから声が掛かった。
伊原、里志ときたら……あいつだろう。
える「おはようございます、折木さん」
奉太郎「やはり千反田か、おはよう」
える「やはり? ちょっと気になりますが……今はやめましょう」
俺の第六感まで気になられては、対処のしようが無い。
える「部室でお話をしようと思っていて、申し訳ないんですが」
用は、放課後は部室を空けてくれないか、ということだろう。
丁度いい、今日はどうも部活に出れそうになかった。
奉太郎「ああ、空けて置く、今日は部活は休ませて貰う事にする」
える「そうですか、ありがとうございます」
える「それと、ですね」
まだ何かあるのだろうか?
える「少し顔色が優れないようですが……大丈夫ですか?」
奉太郎「だ、大丈夫だ。 気にするな」
周りの人間がこっちを見ている、何もこんな人が多いところでやることはないだろうが!
える「ならいいのですが、それでは!」
そう言うと、千反田は自分の教室へと向かって行った。
奉太郎(いつも通りの、千反田だっただろうか)
奉太郎(少しは元気が出たみたいだな、あいつも)
そのまま教室へ向かい、自分の席に着く。
奉太郎(にしても、眠いな)
少し寝よう、少しだけ。
俺はそう考えると同時に、眠った。
奉太郎「ん……」
目が覚めた、クラスは賑やかな様子だ。
「おう、折木」
突然、名前もまともに覚えていないクラスメイトに声を掛けられた。
「お前、中々やるじゃねーか」
奉太郎「ん、なにが」
「昼までずっと寝てるなんて、そうそうできないぞ?」
昼まで……?
時計に視線を移す。
時刻は12時を少し回った所。
「先生達、震えてたぞ。 見てる分には面白かった」
それだけ言うとそいつは満足したのか、いつもつるんでいるらしき奴等の元へ向かって行った。
奉太郎(後で呼び出されそうだな、めんどうくさい)
奉太郎(しかし、少しは頭が冴えたか……まだ少しだるいが)
昼休みか、教室は少し気まずい。
朝から昼まで寝ていた奴をちらちらと見る連中がいるからだ。
奉太郎(部室で飯を食うか)
省エネでは無いが、俺にも一応気まずさを避けたいって気持ちはある。
弁当を持ち、部室へ向かった。
あくびを一つつきながら、扉を開ける。
誰も居ないと思ったが……どうやら先客が居た様だ。
える「あ、折木さん、こんにちは」
奉太郎「なんだ、誰も居ないと思ったのだが」
える「たまに、ここで食べているんです」
える「陽が暖かくて、気持ちいいので」
奉太郎「そうか、邪魔してもいいか?」
える「ええ、勿論です」
千反田の前の席に腰を掛け、弁当を開く。
奉太郎「いや、姉貴が作ってくれている」
える「そうですか、お姉さん優しいんですね」
奉太郎「……本気か?」
える「え? はい、そうですけど……」
奉太郎「何も知らないからそんな事が言えるんだ……」
える「でも、これだけの物って中々作れる物ではないですよ」
そうなのだろうか?
姉貴が家に居るときはほとんど作ってくれるし、そんな事は思った事がなかった。
奉太郎「そうなのか? 普通の弁当だと思うが」
える「いえいえ、折木さんの事を想っている、いいお姉さんだと分かるお弁当です!」
ふうむ……少しは姉貴にも感謝しておくか。
こんなもんでいいだろう。
奉太郎「少し感謝しておいた、心の中で」
える「ちゃんと直接言った方がいいと思いますが……」
奉太郎「気持ちが一番大事なんだ」
える「そ、そうですか」
千反田の苦笑いが、少し辛い。
奉太郎「それはそうと、千反田の弁当も中々すごいな」
える「そ、そうでしょうか? 私のこそ普通、ですよ」
奉太郎「そんなことはないだろう、とても旨そうだぞ」
える「……少し、食べます?」
そう言うと、千反田はおかずを一つ、俺の弁当に移す。
奉太郎(貰ったままでも、なんか悪いな)
奉太郎「俺のも一つやろう」
える「はい! ありがとうございます」
千反田の弁当に、おかずを一つ移した。
そこでふと、本当にどうでもいい考えが浮かんできた。
奉太郎(今千反田に貰ったおかずを、そのまま返していたらどんな反応をするのだろうか)
奉太郎(……なんて無駄な事を考えているんだ、俺は)
勿論そんな事はしない。
奉太郎(う、うまい)
奉太郎「これは……うまいな、こんな料理を作れるなんて、なんでもできるんじゃないか? 作った人」
える「ええっと……」
える「これ、作ったの私なんです」
千反田は恥ずかしそうに笑いながら、そう言った。
奉太郎「そ、そうか」
何故か、嵌められた気分に俺はなる。
そんな風に若干気まずい空気が流れた時、ドアが勢い良く開く。
前にも、似たような光景があったような……
里志「あれ、ホータローに千反田さん?」
里志「ご、ごめん! 邪魔しちゃったみたいだね!」
待て、里志よ。
奉太郎「おい、里志」
里志「え、なんだい?」
奉太郎「お前、いつから居た?」
里志「えっと……最初から、かな」
くそ、全然気づかなかった。
そう言うと里志は手短な席に腰を掛ける。
里志「ごめんごめん、盗み聞きするつもりはなかったんだよ」
里志「でも二人がカップルみたいにしてるのをみたら、ついね」
える「カ、カップルだなんてそんな」
える「たまたま、会っただけですよ! 本当に!」
える「折木さんと私は、その……仲はいいですけど、まだそんな仲では無いというか……」
千反田の焦っている所を見るのは、少し楽しいかもしれない。
だが、こいつは一言言わないといつまでも続けるだろう。
里志「あはは、ジョークだよ、千反田さん」
える「じょ、じょーく……ですか」
千反田は胸を撫で下ろし、ハッとする。
える「あ、あの」
える「福部さん」
里志「あー、例の事かい?」
里志はこう見えても、勘は冴えるほうだと思う。
千反田の微妙におどおどした様子を見て、なんの話か分かったのだろう。
える「知ってたんですか、この度は……」
だが千反田が最後まで言う前に、里志は口を開いた。
里志「これでも僕は、人間観察をしている方だと思うんだ」
里志「それでね、人を見る目も結構あると思っている」
里志「だから、千反田さんの事は信じているよ」
里志「ホータローの事は、どうかな?」
奉太郎「おい」
里志「うそうそ、信じてるよ。 ホータロー」
そう言うと、里志は俺に抱きつこうとしてくる。
やめろ、気持ち悪い。
える「やはり、折木さんの言うとおりでした」
里志「ん? ホータローが何か言ったのかい?」
奉太郎「……なんでもない、気にするな」
える「なんでもない、です」
里志「うーん、気になるなぁ」
俺が最近、非省エネ的な行動をしているのを里志に知られたら……どんな風にいじられるか分かった物じゃない。
どうはぐらかそうか考えていたとき、里志は何かを思い出した様に拳と手の平を合わせた。
里志「あ! 委員会の仕事の途中だったよ、すっかり忘れてた」
奉太郎(この動作を本当にやってる奴は始めてみたぞ……)
しかし、こいつも色々と大変だな。
里志「じゃ、そういう訳で! またね~」
奉太郎「そういう訳だ、伊原も必ず話せば分かってくれる」
える「はい……そうですよね!」
さて、と。
そろそろ昼休みも終わりか。
奉太郎「じゃあ俺は教室に戻るとする」
える「はい、私はもうちょっとここでゆっくりしてから戻ります」
奉太郎「そうか、じゃあまた」
える「はい」
俺が部室から出ようとした所で、思い出したように千反田が言った。
える「あ、そういえば」
える「午後の授業は、寝ないで頑張ってくださいね」
……どこまで噂が広まっているんだ、全く。
軽く手を挙げ、千反田に挨拶をすると俺は教室に戻って行った。
教室に入り、10分ほど経っただろうか。
授業開始のチャイムが鳴り響いた。
奉太郎(状況の整理を……するか)
まず一つ目。
・千反田を騙した奴は誰か?
C組の女子、名前は里志から聞いている。
二つ目。
・そして、そいつは何をしたか?
千反田に嘘を吹き込み、使わせた。
恐らく、千反田と伊原が仲が良いのを知っていて嘘を吹き込んだのだろう。
目的は漫研絡みと考えるのが妥当。
・そいつの目的はなんだったのか?
千反田と伊原の仲違い。
多分だが、千反田は伊原を傷つける為に利用されたという考えが有力。
つまる所、伊原を追い込むのが目的という事か。
最後に、四つ目。
・そいつに何を話すか?
これには少し考えがある。
正面から言って、千反田と伊原に土下座でもするのなら苦労はしないが……
それをすぐにする奴なら、初めからこんな事はしないだろう。
里志にも協力をしてもらい、手は打ってある。
しかし、里志に話していない事もある。
少し懲らしめないと、駄目だろう。
話をする場も、既に打ってある。
里志からそいつに「今日の放課後、話があるから屋上でいいかな?」と言って貰った。
俺が言ってもいいのだが……直接会ってしまったら何をするか自分でも分からない。
どうせなら人目に付かない所の方が、勿論いいだろう。
奉太郎(ここまで動き、頭を使ったのは随分と久しぶりだな)
奉太郎(たまにはいいか、熱くなるのも)
そして、放課後はやってきた。
第五話
おわり
大丈夫だ、意外にも冷静になっている。
今は16時、1時間もあれば……終わるだろう。
奉太郎(行くか)
そう思い、教室を出る。
向かう先は、屋上。
屋上に繋がる扉を躊躇せず開く。
空は曇っていた、風は無い。
視線を流すと、そいつが目に入ってきた。
「あれ、福部君に呼ばれて来たんだけど」
「アンタ誰?」
初対面の人間にこの対応とは、なるほど納得だ。
奉太郎「A組の折木奉太郎だ」
「折木? 聞いたことないなー」
「それで、アタシに何か用?」
「まさか、告白とかするつもり? ムリムリ」
そいつは笑っていた、俺にはどうも……汚らしく見えて仕方ない。
「ちたんだ……ちたんだ、ああ、アイツね」
「知ってるけど、それがどうしたの?」
奉太郎「それと伊原摩耶花、勿論知っているだろう」
「あー、あのウザイ奴ね。 勿論知ってる」
やはり、駄目だ。
なんとか抑えようと思ったが、里志には穏便に済ませようと言われたが……
俺はどうやら、そこまで人間が出来ていない様だ。
奉太郎「……自分のした事は、分かっているんだろ」
奉太郎「千反田に嘘を吹き込み、伊原に向かって言わせた」
奉太郎「覚えて無いなんて、言わせないぞ」
「思い出したらおかしくなってきちゃう」
良かった。
正直な話、これを否定されたら俺には手は無かった。
千反田は誰に言われた等……あいつの性格だ、言わないだろう。
それをコイツは自分で認めてくれた、良かった。
奉太郎「お前は、なんとも思っていないのか」
奉太郎「千反田を傷付け、伊原も傷付け、なんとも思わないのか」
「別に? 騙される方が悪いんじゃない?」
奉太郎「それを、お前はなんとも思わないのか!」
奉太郎「千反田は人を疑わないし、嘘なんて付かない」
奉太郎「どこまでも……正直な奴なんだぞ」
「ふーん、あっそ」
「アタシも知ってるよ、あいつが馬鹿正直な所」
「それで教えてあげたんだもん」
「こいつなら絶対に騙されるなーって思ってね」
自分でも、驚くほどに大きな声で叫んでいた。
言われたそいつは、少し身を引きながら再び口を開く。
「な、なに熱くなってんの? ほっときゃいいじゃん」
奉太郎「あいつはな、千反田は伊原にその言葉を言った後……!」
思いとどまる、こいつに……千反田の泣いていた所なんて、教えたくない。
奉太郎「お前に千反田と話す権利なんて無い!」
「それは残念だなぁ、もうちょっと使おうと思ってたのに」
「ていうかさ、たかが友達の事で本気になってて恥ずかしくないの?」
確かに、俺も昔は少しそうだったのかもしれない。
氷菓事件の時、千反田の家で話し合いをした時。
俺は流そうとした、それが俺らしいと思い。
たかが一人の女子生徒の悩み。
たかが高校の部活動。
だけど、俺とこいつは……絶対に同類なんかじゃない。
不思議と、今の言葉で俺は落ち着けた。
奉太郎「……もういい」
「あっそ、じゃあ帰っていいかな」
奉太郎「違う、お前に普通の話し合いなんて、通じないからもういい」
「言ってる意味が分からないんだけど?」
「……それが何?」
奉太郎「その部室から少し離れた場所」
奉太郎「女子トイレが無く、男子トイレしかない場所があるのも知ってるな」
「それが……なんだよ」
奉太郎「以前俺は、お前がトイレから出てくるのを見かけている」
奉太郎「男子トイレ、からな」
「アンタ、ストーカー?」
もう、くだらない挑発は無視をする。
奉太郎「昨日、その男子トイレを少し調べた」
奉太郎「見つかったのはこれだ」
奉太郎「これは、お前の物だろ?」
「っ! んな訳ないでしょ!」
やはり、認めないか。
奉太郎「そうか、余りこういう事はしたくないんだが」
そう言い、俺はポケットから一つの写真を取り出した。
そこには、金髪の女子が男子トイレで煙草を吸っている光景が写し出されている。
奉太郎「こいつは、俺の友達が撮ってくれた写真だ」
奉太郎「知ってるか? 図書室のとある場所から丸見えなんだぞ」
「……アタシを脅してるつもり?」
奉太郎「これを学校側に提出されたくなかったら、今後一切」
奉太郎「千反田と伊原に関わるな」
「……そんな物、出されたら……」
小さいが、俺には確かに聞こえていた。
しかし、すぐに元の調子に戻る。
「おもしろいね、アンタ」
「じゃあ、こういうのはどうかな?」
「アタシが捏造写真で盾にされてる、捏造写真を仕組んだのは伊原摩耶花」
「面白そうじゃない?」
奉太郎「そんなので、先生達が信じる訳ないだろう」
「確かにね、でも」
「お互いの言い分を尊重し、退学は無し」
「両名にしばらくの停学を言い渡す」
「こうなると思うんだけど?」
「それで停学が明けたら、無事にアタシはまた千反田ちゃんと伊原ちゃんと仲良しこよし」
「いいと思わない?」
「もっちろん」
奉太郎(これは本当に、使いたく無かったが)
奉太郎(仕方ないか)
奉太郎「俺が、どんな友達を持っているかお前は知らないのか」
「はあ? アンタの友達になんて興味ないし」
奉太郎「そうか」
奉太郎「お前を呼び出した奴、覚えているか」
「福部の事?」
奉太郎「そうだ、あいつがどこに所属しているか知っているか」
「言ってる意味がわからないんだけど、何を言いたいのよアンタは!」
奉太郎「副委員長としてな」
「総務……委員会?」
奉太郎「俺が持っているこの写真、あいつも既に持っている」
奉太郎「そして、少なからず学校の上層部に影響力のある立場だ」
奉太郎「そんな奴がこの写真を提出したら、どうなるかお前でも分かるだろ」
「や、やめてよ」
急に弱気、か。
「そんな事されたら、アタシは」
奉太郎「お前の意見なんか聞いていない!!」
「ひっ……」
奉太郎「俺が譲歩してやっているんだ、お前が……」
奉太郎「それに俺と、一切関わらないならこいつは提出しない」
奉太郎「だがこいつは保管させてもらう、いつでも提出出来る様にな」
奉太郎「お前がもし、俺たちに関わってきたらすぐに退学にしてやる」
奉太郎「分かったか?」
「……」
奉太郎(仕上げだな)
奉太郎「お前も退学になったら困るだろう? 親がどこかしらの学校のお偉いさん、だからな」
「っ! ……わ、分かった」
その情報は、誰に聞いた物でもなかった。
今の会話から、こいつの言葉が小さくなる部分、表情の変化。
それらを繋げて、得た情報であった。
奉太郎「俺もそこまで鬼じゃない、お前が変な事をしなければ何もしない」
「ご、ごめんなさい」
奉太郎「別に謝らなくていい、俺にも、千反田にも伊原にも、里志にも」
奉太郎「お前の謝罪なんて、何も響かない」
奉太郎「……もし今度何かあったら、話し合いだけでは済むとは思うなよ」
それ以降、そいつはうなだれて口を開こうとしなかった。
階段を降り、一度自分の教室へ向かった。
椅子に座り、大きく深呼吸をする。
奉太郎(5回、くらいか?)
思考を放棄して、殴りかかりそうになった回数。
だが、もし殴ったとしてだ。
千反田はそれで喜ぶだろうか?
伊原は? 里志は?
間違いなく、喜びはしない。
それがなんとか俺を留まらせた。
奉太郎(全く、今日は本当に疲れた)
時刻は……17時30分、か。
少し、長引いてしまったな。
さて、と。
千反田と伊原の方は、無事に終わっただろうか?
摩耶花さんは少し、私を怖がっていた様で胸が痛みます。
しかし、伝えなくてはいけません。
える「あの、摩耶花さん」
摩耶花「ちーちゃんか……何か、用事?」
える「……はい、今日の放課後に少し話せますか?」
摩耶花「……うん、いいよ」
一瞬だけ、摩耶花さんが嫌そうな表情をしました。
それだけで、私はもう……
摩耶花「でも委員会の仕事があるから、終わってからでいいかな」
そして、摩耶花さんは私の顔を見てくれませんでした。
える「はい、では部室で待っていますね」
そう伝えると摩耶花さんは軽く頷き、それ以降は喋ろうとはしません。
私は教室を出ると、自分の教室に向かいます。
また少し、泣きそうになってしまいます。
える(涙脆くなったのでしょうか、私は)
教室に戻るとすぐに午後の授業が始まりました。
あっという間に授業は終わり、放課後となります。
それまで少し、時間が余っています。
一度部室に行き、座って外を眺めていましたが……校内でもお散歩しましょう。
そう思い、人が少なくなった校内を歩きました。
気付けば自然と、折木さんのクラスへ。
教室を覗くと、まばらには人が居ましたが折木さんの姿は見当たりません。
える(そうでした、折木さんはもう帰っているのでしょう)
朝の事を思い出し、教室を去ろうとした所で不自然な物を見つけます。
える(あれは、折木さんのカバン?)
える(忘れていったのでしょうか……でも、おかしいです)
折木さんは意外と言ったら失礼ですが……忘れ物は滅多にしません。
そんな折木さんが忘れ物? それかまだ学校にいるのでしょうか?
5分ほどそこで待ちましたが、戻ってくる気配はありません。
そして階段まで差し掛かったとき、何やら声が聞こえてきます。
あれは……屋上から?
声の抑揚が、折木さんの物と一緒です。
間違いありません……折木さんです。
える(誰かと話しているのでしょうか? 少しだけ……行ってみましょう)
私は、屋上の扉まで辿り着きました。
これでも意外と耳はいい方だとは思っています。
内容はしっかりと聞こえました。
その内容は、どうやら私の事の様で。
昨日の事のようです。
える(もしや折木さんは、昨日私と話していた方とお話を?)
折木さんの方は、とても真剣に。
もう片方の方は、どこかふざけている感じ……でしょうか。
える(折木さんが、あんなに大きな声で……)
少なくとも、一年間一緒に居ましたが……ここまで大声を出しているのは聞いたことがありません。
自分で言うのもあれですが、その内容は……私の事を大切に思ってくださっている物です。
ここまで……ここまで折木さんは、していてくれたのですか。
私は本当に、折木さんに頼りっぱなしです。
扉越しに、折木さんに頭を下げその場を去ります。
あまり、聞いてはいけない内容でしょう。
折木さんがその話をしてくれなかったのも、私に知られたくなかったからでしょう。
ならば、聞いては駄目です。
私はゆっくりと部室に戻り、決意を固めます。
える(私は、摩耶花さんにしっかりと気持ちを伝えます)
える(友達を失うのは……耐えられません)
える(絶対に、仲直りします!)
その時、扉が開きました。
摩耶花さんが来たようです。
やっぱり、帰ろうかな。
ちーちゃんには悪いけど……
いや、駄目だ。
朝、折木にも相談に乗ってもらったし、ここで逃げちゃ駄目だ。
でも扉は、とても重い。
なんて言われようとも、私はちーちゃんと話さなきゃいけない。
そうしないと、いつまでも弱いままだ。
胸に手を置き、息を整える。
摩耶花(よし!)
扉を、開けた。
そこには、いつも通りのちーちゃんが居た。
なんて、暗い声なんだろう。
える「摩耶花さん、わざわざすいません」
摩耶花「話って、何かな」
分かってるだろう、自分でも。
性格悪いのかな、私。
える「昨日の、事です」
摩耶花「……そう」
ちーちゃんは、ゆっくりと語り始めた。
その内容を頭に入れる。
そして5分ほどで、話は終わった。
える「摩耶花さん、本当に申し訳ありません」
える「合わせる顔も無いと思いましたが、話さずにはいられませんでした」
える「すいませんでした」
そう話を締めると、ちーちゃんは頭を下げた。
ほんっとに。
ほんとーに! 私って、馬鹿だ。
ちーちゃんが、そんな事……昨日言った事を本気でする訳ないじゃんか。
私は昨日まで、ちーちゃんの事を疑っていたのをすごく後悔した。
ああもう! 最低じゃないか私。
謝るのは、こっちの方だ。
摩耶花「……ちーちゃん」
摩耶花「謝るのは、私の方だよ」
摩耶花「ちーちゃん! ごめん!」
するとちーちゃんはキョトンとした顔をこっちに向け、少し困惑していた。
摩耶花「私、ちーちゃんの事疑ってた」
摩耶花「もしかしたら、そういう事を言う人なんじゃないかって」
摩耶花「でも、普通に考えたらありえないよね」
摩耶花「ごめんね、ちーちゃん」
える「あ、あの」
える「……許して、くれるんですか」
何を言ってるんだこの子は!
摩耶花「友達、でしょ」
今年一番の、いい笑顔だったと思う。
良かった、本当に。
胸の痛みは、とても自然に……心地よく消えていた。
える「……はい! 友達、ですよね」
ちーちゃんの笑顔も、今年で一番可愛らしかった。
える「良かったです、本当に……良かったです」
ちーちゃんの瞳から、綺麗な涙が落ちるのを見た。
摩耶花「良かったよ、私もほんっとに」
摩耶花「……良かったよ」
今回の事で、お互いが思っていた事。
その間何回か泣き、笑った。
やっぱり、ちーちゃんはちーちゃんだ。
私の大切な、友達。
そうだ、あれをあげよう。
元からあげる予定だったんだけど、ね。
摩耶花「そだ、ちーちゃん……」
える「はい? なんでしょうか」
摩耶花「これ、あげる」
える「……これは、すごく綺麗ですね」
摩耶花「なら良かった、喜んで貰えるなら私もうれしい」
える「私のお部屋に飾りたいですが……この部屋に飾ってもいいですか?」
摩耶花「ちょっと恥ずかしいけど……うん、いいよ」
摩耶花「ちーちゃんのお部屋用のも、今度あげるね」
える「はい! ありがとうございます、摩耶花さん」
少し休んでいたつもりだったが、もう18時か……
ふと窓から外を眺めると、千反田と伊原の姿が目に入ってきた。
お互いに笑顔で、とても仲が良さそうに見える。
奉太郎(向こうも、うまくいったようだな)
奉太郎(俺も帰るか、体が重すぎるぞ……)
教室を出た所で、少しだけ黄昏れたい気分になった。
奉太郎(部室に寄って行くか)
そう思い、普段より重く感じる体を引き摺りながら目的地へ向かう。
古典部の前に着き、ゆっくりと扉を開けた。
夕日が差し込み、中々に趣がある光景となっている。
近くの席に腰掛け、溜息を一つついた。
奉太郎(最近は本当に、体を動かしっぱなしだな)
奉太郎(俺は、今薔薇色なのだろうか?)
奉太郎(わからん……)
奉太郎(まあ、どっちでもいいか)
奉太郎(しかし……何も灰色に、拘る必要もないかもしれない)
奉太郎(もう少し居たかったが……仕方ない、帰るか)
部室を出ようとしたところで、見慣れない物が視界に入ってきた。
奉太郎(……全く、周りから見たら薔薇色の一員か、俺も)
そして俺は、家へと帰る。
部室には--------
俺、里志、伊原、千反田。
全員が笑顔の、綺麗な色使いの絵が飾ってあった。
今日もまた、高校生活は浪費されていく。
それは灰色か、薔薇色か。
こいつはどうやら、自分で決める事ではないらしい。
今日もまた灰色の……いや、どちらかは分からない高校生活は浪費されていく。
第六話
おわり
今日はとても長く感じる。
色々あったが……無事に終わった。
ま、終わりよければ全て良しと言った所か。
家に入り、自室へ向かう。
姉貴がリビングに居るが、疲れていて姉貴の話に付き合う体力は無い。
奉太郎(やはり少し、体が重いな)
朝からだったが、今がピークだろうか……どうにもふらふらする。
ああ、もう少しで、部屋に着く。
奉太郎(なんか、視界が揺れているぞ)
奉太郎(ま、ずいな)
そこで、俺の意識は途絶えた。
里志(ホータローの方もうまくいってるだろうし、これで一件落着って所かな)
けど、ホータローには随分と任せっぱなしにしてしまったなぁ。
僕の立場を使うってのは良いと思ったけどね。
とりあえず明日、部室でゆっくり皆で話そう。
里志(にしても、疲れたなぁ)
突然、部屋の電話が鳴り響いた。
里志(誰だろう? 摩耶花なら携帯に掛けて来る筈だし……ホータローかな?)
電話機の前まで行き、映し出されている番号はホータローの家の物だった。
里志(やっぱりか、今日の結果報告と言った所かな?)
そう思い、電話を取る。
里志「もしもし、ホータローかい?」
供恵「ごめんねー。 奉太郎じゃなくて」
里志「あれ、ホータローのお姉さんですか?」
供恵「そっそ、里志君お久しぶり」
里志「どうも! それで、何か用でしょうか?」
供恵「うん、実はね」
摩耶花(本当によかった、仲直りできて)
一応、敵を作りやすい性格だとは自分でも分かっている。
でも、ちーちゃんに嫌われたと思ったときは本当に辛かった。
しかしそれも思い過ごしで……なんだか思い出したら泣けてきちゃう。
摩耶花(やっぱりちーちゃんとは、友達続けていたいな)
明日は、またいっぱい話をしよう。
今度、どこかへ遊びに行こうかな。
ちーちゃんは遊ぶ場所知らなさそうだし、私が案内しなくちゃ。
そうだ、どうせならふくちゃんも、折木も呼んでどこかへ行こう。
そう思い携帯を手に取る。
電話番号を押そうとした所で、着信。
摩耶花(ふくちゃんから? 何か用なのかな)
摩耶花「もしもし、ふくちゃん?」
里志「摩耶花! ちょっと今から出れる!?」
焦っている感じ……何かあったのかな?
摩耶花「う、うん」
摩耶花「……一体どうしたの?」
私は……とても友達に恵まれています。
折木さんも、福部さんも、それに摩耶花さんも。
皆さん、とてもいい方達です。
私には少し勿体無いくらいの、そんな人たちです。
でもやはり、最後にはまた……折木さんに助けられました。
いつか、私が折木さんを助ける事はできるのでしょうか?
える(何か、恩返しはできないでしょうか……)
える(折木さんにも、福部さんにも、摩耶花さんにも)
最初に古典部に入った目的は、氷菓の件です。
しかし私しか部員がおらず、どうしようかと思っていたときに現れたのは折木さんでした。
そして私が長い間、考えていた問題も解決してくれました。
他にも色々と、今回の事だってそうです。
える(とても返しきれそうな恩では……ないですね)
気温も大分、気持ちいいくらいになってきます。
もうすぐ夏も、やってきます。
える(後、2年も……ないですね)
考えると寂しい気持ちになってしまうので、気持ちを切り替える為に冷たい水でも飲みましょう。
そう思い、台所へと向かいました。
丁度台所に入ろうとしたとき、家のインターホンがなります。
える(お客さんでしょうか?)
える(こんな時間に、珍しいですね)
私は台所へ向かっていた足を玄関に向けると、扉を開きました。
摩耶花「ちーちゃん!」
える「ま、摩耶花さん?」
摩耶花さんから私の家までは大分距離があるのに……どうしたのでしょう?
える「どうしたんですか? 随分と慌てている様ですが……」
摩耶花「折木が、折木が倒れた!」
6.5話
おわり
今考えると、朝からどこか……具合の悪そうな顔をしていました。
思い出されるのは、今日の屋上で聞いた話。
える(……私のせいです)
私がもっとしっかりしていれば、折木さんに頼らずに済んでいたのに。
なのに折木さんに無理をしてもらって……
える(考えていても、仕方ありません)
える「折木さんはどこに?」
摩耶花「私もふくちゃんから聞いただけなんだけど……今は家に居るみたい」
える「では、行きましょう!」
そう言うと、私は制服のまま自転車を取り出します。
摩耶花さんも自転車で来ていた様です。
精一杯漕いで……15分ほどでしょうか。
それらを計算する時間も勿体無く、私は摩耶花さんと一緒に折木さんの家に向かいました。
少しだけ見慣れた光景なのに……とても長く感じました。
える(早く……まだでしょうか)
たった15分の道のりが、30分にも1時間にも感じます。
摩耶花「ちーちゃん! 道はあってるの?」
える「はい! 何度か行った事があるので大丈夫です!」
自転車を漕ぎながらも、必死で会話をします。
摩耶花「え? ちーちゃん折木の家に行った事あるの!?」
ああ、失念していました。
別段、秘密にしようとは思っていなかったのですが……
なんとなく、隠していたんです。
でも、今は答えている余裕はありません。
える「もう少しで着きます!」
やっと……やっと見えてきました。
える「福部さん! 折木さんは!?」
里志「ち、千反田さん。 落ち着いて」
里志「ホータローなら家に居るよ、お姉さんもね」
福部さんは、どうしてここまで落ち着いているのでしょう?
摩耶花「ふくちゃん! 早く折木の所へ行こう!」
そうです、折木さんは大丈夫なのでしょうか……
里志「うん、じゃあ行こうか」
福部さんの後ろについて行く形で、折木さんの家に入ります。
玄関を開けると、折木さんのお姉さんが居ました。
供恵「にしてもあいつ、意外と友達に恵まれてるなー」
この方……もしかして。
摩耶花「こんにちは、伊原摩耶花といいます」
える「千反田えると申します」
摩耶花さんに続き、軽い挨拶をしました。
そこでふと、少し気になっていた疑問をぶつけてみます。
える「あの、すいません……以前お会いしましたよね?」
供恵「前に? うーん」
供恵「覚えてないなぁ……どこで会ったの?」
確かに、会った筈です。
える「神山高校の文化祭の時にお会いしたかと……」
える「いえ、一目見ただけです。 その時はなんとなく、以前どこかでお会いした気がしていたんですが……」
える「折木さんのお姉さんだったんですね!」
供恵「すごい記憶力ねぇ」
供恵「ま、それにしても」
供恵「私とあいつが似てるー? 勘弁してよ!」
里志「あはは、ホータローもそれは違うって言ってたね」
供恵「あいつがねぇ……」
供恵「と言うか、千反田さん?だっけ」
える「は、はい」
供恵「なるほどねぇ、可能性の一つって所かしら」
供恵「ううん、なんでもない」
少し、気になりますが……
いけません!
今はもっと、しなければいけない事があるんでした!
える「それより!」
供恵「な、なに?」
里志「ち、千反田さん落ち着いて。 お姉さんびっくりしてるよ」
いけません、また近づきすぎてしまいました……
える「す、すいません。 で、でもですね」
供恵「あいつも大切にしてもらってるのねぇ、勿体無い!」
供恵「あ、奉太郎ね」
供恵「今は自分の部屋で寝ているよ、顔だけでも出してあげて」
える「ありがとうございます」
える「行きましょう。 福部さん、摩耶花さん」
摩耶花「うん、そうだね」
里志「りょーかい」
私たちは、3人で折木さんのお部屋に向かいました。
ドアはすんなりと開きます。
目に入ってきたのは、ベッドに横になっている折木さんでした。
える(私が、私のせいで……)
える「折木さん!」
摩耶花「折木! 大丈夫?」
あれ? 福部さんも一緒に来たと思ったのですが……
お手洗いにでも行っているのでしょうか? 見当たりません。
で、でも今はそれよりも!
える「折木さん! 折木さん!」
何度か呼びかけると、折木さんは返事をしました。
奉太郎「……おい」
そう言うと、折木さんはゆっくりと体を起こします。
奉太郎「里志だな……こんな大事にしたのは」
大事……とはどういう意味でしょうか?
里志「い、いやあ……僕もここまで大事になるとは思わなかったんだよ」
える(福部さん、いつの間に戻ったのでしょうか……)
える「え、ええっと?」
摩耶花「……ふくちゃん、説明してね」
つまりは、どういう事でしょう?
摩耶花さんは何か分かった様な顔をしていますが……
里志「えっとね、ホータローはただの風邪なんだ」
里志「最初に聞いたのは僕なんだけど……ホータローのお姉さんからね」
里志「それを拡大解釈して、摩耶花に連絡をしたんだよ」
里志「ホータローが倒れた! ってね」
里志「そうしたら摩耶花は千反田さんに連絡を入れて……今に至るって所かな」
そ、そうでしたか……
でも、危ない状態ではなくて良かったです。
いえ、一度倒れているんです……良かった事はないでしょう。
える「……そうですか、少しだけ安心しました」
そう言うと、私は床に座り込んでしまいます。
全身から、一気に力が抜けたのでしょうか。
摩耶花「あんな慌てて連絡してくるから、一大事だと思ったじゃない!」
里志「い、いやあ……まあ皆集まってホータローも嬉しいんじゃない?」
里志「結果オーライって奴かな?」
摩耶花「ふーくーちゃーんー?」
二人は、口喧嘩を始めてしまいます。
と言っても、摩耶花さんが一方的に責めているだけですが……
える(こ、ここで喧嘩はダメですよ! 二人とも!)
そんな動作を身振り手振りで伝えていたら、折木さんから声が掛かります。
奉太郎「いいんだ、千反田」
奉太郎「今となっちゃ、こっちの方がいつも通りだからな」
える「そう、ですか」
える「あの、折木さん」
える「すいませんでした……折木さんがこんな状態なんて知らずに、私」
奉太郎「別に、俺が好きでやったことだ」
奉太郎「お前が気に病むことなんてないだろ、ただの風邪だしな」
える「そう言って頂けると、ありがたいです……」
本当に、折木さんは心優しい方です。
折木さんが好きでやったことでは無い事なんて……私でも分かります。
もう少し、もう少しだけ……私も強くならないと。
いつまでも頼ってばかりでは、ダメです。
える「折木さん、ありがとうございます」
そう笑顔を向けると、折木さんも少しだけ……笑った気がしました。
すると突然、ドアが開きます。
福部さんと摩耶花さんはそれを期に、口喧嘩を止めました。
供恵「ご飯作っちゃったけど、食べてく?」
里志「おお! ホータローのお姉さんの手作り! 是非!!」
摩耶花「私も、いただこうかな……」
摩耶花さんが、少しだけムッとした顔を福部さんに向けています。
える「では、私も……」
供恵「そっ、下に置いてあるから勝手に食べちゃってねー」
里志「あれ、お姉さんは一緒に食べないんですか?」
摩耶花さんが、さっきより更に鋭い視線を福部さんに向けています。
少し、怖いです。
供恵「あー、私はね」
供恵「今夜から旅行!」
確か前に、折木さんが「姉貴は世界が好きなんだ」って言っていましたが……
なるほど、と思いました。
供恵「うんうん、何かお土産皆に買ってくるね」
供恵「それじゃあまたねー」
そう言うと、さっそく折木さんのお姉さんは家を出て行きました。
行動が……早い人です。
里志「もう行っちゃったね」
里志「ご飯、食べようか」
福部さんの言葉を皮切りに、私たちはリビングへと向かいます。
それにしても何か忘れている様な……
そんな考えも、おいしいご飯を食べている時は忘れてしまいます。
30分ほど3人でご飯を食べ、また少しお話をします。
里志「あっははは、それはまた、ははは。 面白いね」
摩耶花「でしょ? 私はいい迷惑だったけどね!」
える「そうですね……あ、もうこんな時間ですか」
時計を見ると、時刻は20時となっています。
随分と、長居をしてしまいました……
里志「そうだね、そろそろ帰ろうか」
あ、思い出しました……!
摩耶花「うん、明日も学校だしね」
える「あ、あの」
える「少し、言い辛いんですが……」
摩耶花「どしたの? ちーちゃん」
える「折木さんは……?」
私がそう言うと、二人も思い出したのか焦りが顔に出ています。
里志「す、すっかり忘れてた」
摩耶花「物凄くリラックスしてたね、私たち……」
える「ちょ、ちょっと折木さんの部屋に行きましょう」
里志「そ、そうだね、そうしよう」
少々皆さんの顔が引き攣っていますが……戸惑ってはダメです!
奉太郎「楽しかったか?」
里志「ま、まあ……」
奉太郎「……随分と、盛り上がっていたなぁ?」
摩耶花「う、うん……」
奉太郎「飯はうまかったか?」
える「折木さんごめんなさい!!」
急いで、頭を下げます。
折木さんは、一つ溜息をつくと、ゆっくりと口を開きました。
奉太郎「ま、いいさ」
奉太郎「それより悪いんだが、俺の飯を運んできてくれないか?」
える「は、はい!」
折木さんのご飯……ご飯。
里志「ほ、ホータロー」
奉太郎「……ん」
里志「とても言い辛いんだけど、ホータローの分、皆で分けちゃったんだ」
奉太郎「……」
奉太郎「お前ら、一応ここ俺の家だからな?」
摩耶花「ご、ごめん折木……」
どうしましょう、どうしましょう……
すると突然、誰かの携帯が鳴りました。
摩耶花「私のだ、誰だろ」
摩耶花さんは廊下に出ると、電話でどなたかとお話をしています。
続いてまた、携帯が鳴ります。
今度は……福部さんでしょう。
部屋に二人っきりになりました。
える「すいません、本当に……」
奉太郎「……はあ」
奉太郎「いいんだ、別に」
奉太郎「そこまで腹が減ってた訳じゃないしな、構わないさ」
える「い、いえ! でも……」
そうは言っても、折木さんのとても悲しそうな顔ときたら……
やはり、申し訳ないです。
するとどうやら、話し終わった福部さんと摩耶花さんが部屋に戻ってきます。
摩耶花「お母さんからだった、何してんのーって」
里志「はは、僕も一緒だ」
お二人はどうやら、そろそろ帰らないとまずいようです。
える「そうなんですか、折木さんのご飯……どうしましょう」
奉太郎「気にするな、明日も学校だろ。 お前ら」
ですが、ですが。
福部さんも、摩耶花さんも、やはり少し後ろめたさがあるようです。
える「私が何か作ります!」
奉太郎「た、確かにそれは有難いが……時間、大丈夫なのか?」
える「はい、今日は大丈夫です」
える「両親は今日、挨拶でとなりの県まで行っているので」
える「戻ってくるのは明日のお昼の予定です、問題はありません」
里志「うーん、じゃあちょっと悪いんだけど……千反田さんに任せようかな」
摩耶花「そだね……ごめんね? ちーちゃん」
える「いえいえ、構いませんよ」
そう言い、二人は帰り仕度を始めます。
奉太郎「ありがとな、里志も伊原も……千反田も」
里志「気にしない気にしない、どうせ暇だったしね」
摩耶花「別にあんたの為に来た訳じゃないし……ふくちゃんが行くって言うから……」
摩耶花「でも、早く元気になってよ。 病気のあんたと話しててもつまらないし」
奉太郎「……ま、すぐに治るだろう」
そして、摩耶花さんと福部さんは自分の家へと帰って行きました。
える「とりあえず、ご飯作りますね!」
奉太郎「ああ、悪いな千反田」
える「いえいえ、折木さんは寝ていてください」
そう言い残し、私は台所へと向かいました。
える(何を作りましょうか……)
える(お米は、御粥にしましょう)
える(生姜粥がいいですね)
える(後は……ネギを炒めましょう)
える(少ないですけど……風邪ですからね、仕方ないです)
私はお粥を作り、ネギを醤油で炒め、折木さんの部屋へと持って行きました。
える「折木さん、できましたよ」
える「ちょっと見た目も良いとは言えませんし、量も少ないですが……風邪に良いと思いまして」
える「そう言って頂けると、うれしいです」
折木さんは食べ始めると、ひと言も喋らず食べ続けます。
そんな様子を見ていたら、なんだか顔が綻んでしまいます。
奉太郎「あ、あんまジロジロ見ないでくれ」
える「あ、す、すいません」
慌てて視線を泳がせますが……やはり気になってちらちらと見てしまいます。
える(どうでしょうか……)
奉太郎「……ふう」
折木さんは食べ終わると、箸を置き、息を吐きました。
奉太郎「……うまかった、ご馳走様」
ああ、良かったです。
える「そうですか、お粗末様です」
える「い、いえ……元を辿れば私のせいですので」
やはり、申し訳ない事をしてしまいました。
私がもっとちゃんとしていれば。
そこで気付くと、折木さんが私の顔の前に手を持ってきていて……
える「いっ…」
デコピン、してきました。
奉太郎「何回言ったら分かるんだ、お前のせいじゃない」
奉太郎「もう自分を責めるのはやめろ」
える「は、はい。 でも……」
奉太郎「ん?」
える「デコピンは、ちょっと酷いです……」
そう言い、私が俯き悲しそうな顔をしていると折木さんが口を開きます。
折木さんは、顔を私から逸らします。
今です!
奉太郎「悪かったよ、千反田……いてっ」
やり返しちゃいました。
える「ふふ、お返しです、折木さん」
奉太郎「……全く、俺はもう寝るぞ」
える「そうですか」
奉太郎「それより、お前は帰らなくてもいいのか」
……すっかり忘れていました。
える「あ、もう22時ですね」
える「……通りで眠いと思う訳です」
もう外は、真っ暗です。
でも余り折木さんの家に長く居ても迷惑ですし……そろそろ帰らなければ。
奉太郎「なあ……」
える「はい? なんでしょうか?」
奉太郎「今日、泊まっていかないか」
と、泊まり!?
お、折木さんの家に!?
そ、それはつまり……どういう事でしょう?
える「え、えっと、そ、そのですね」
奉太郎「べ、別に嫌ならいいんだ」
奉太郎「その、なんだ」
奉太郎「今から一人で帰すってのも、ちょっとあれだしな」
奉太郎「夜遅くに、女子を一人で帰すのは……ちょっと気が引けるってだけだ」
奉太郎「……千反田が嫌ならいいんだがな、無理にとは言わん」
ど、どど、どうしましょう。
嫌って訳ではないんです、ないんですが……
なんで、私はここまで緊張しているのでしょうか……?
折木さんが言っているのは、帰っても帰らなくてもって事ですよね。
……どうしましょう?
える「お、折木さん、あの」
える「……泊まらせて、もらいます」
自然と、口から出てしまっていました。
折木「……そうか」
折木「……風呂も一応沸いてるから、使っていいぞ」
える「は、はい」
える「では、頂きますね」
そう言い、ちょっと恥ずかしいのもあり、私は一度リビングへと行きました。
える(びっくりしました)
える(まさか、泊まる事になるなんて……)
ふと、思い出します。
える(着替え……どうしましょう)
そんな事を思いつつ、ソファーの隅に一枚の紙切れが落ちているのに気付きます。
その紙には【これ私の服ね、使っていいわよ、千反田さん。 折木 供恵】と書いてありました。
える(全部、全部予想されていたって事ですか……)
折木さんのお姉さんは、随分と勘が鋭い方だとは聞いていましたが……ここまでとは。
でも、助かりました。
そう思い、その紙と一緒に置いてあったパジャマを手に取り、私はお風呂場へと足を向けます。
第七話
おわり
そこで、盛大な勘違いをしたことを知ったんだけど……
お姉さん曰く、ただの風邪らしい。
それでも無理に動いていたから、倒れたとの事だ。
まあ、普段から体を動かしてないからってのもあると思うけどね。
とにかく、摩耶花と千反田さんになんて言い訳しようかな。
里志(うーん、参ったなぁ)
里志(あれ? もう来てるし!)
予想以上に千反田さんと摩耶花が来るのは早かった。
二人に軽く挨拶をして、ホータローの家に入る。
ここまできたら、どうにでもなれ!
里志(これほどまでとは、ね)
そんなこんなで、ホータローに会おうという流れになってしまう。
うう、参ったなぁ。
お姉さんの横を通り過ぎようとした所で、呼び止められた。
供恵「里志くん、ちょっといいかな」
なんだろうか? まあこのまま行っても気まずいし、少し道草をしよう。
里志「なんですか?」
供恵「奉太郎の事なんだけど、さ」
供恵「最近学校で何かあったの?」
里志「うーん、確かにあるっちゃありましたね」
里志「ま、そんな所です」
里志「すいません、いくらお姉さんでも言う訳には行かないんです」
供恵「……それってあの千反田さんに関係してるのね」
里志「……違うといえば、嘘になります」
うひぃ、やっぱり鋭いなぁ。
ホータローが苦手になるのも、少し分かる気がする。
供恵「そう、それだけ分かれば充分だわ」
供恵「にしても、あのホータローがねぇ」
供恵「その内分かるわよ」
なんだろうか……
やはりこの人は、何か知っているのか?
ううん、僕には思いつきそうにないや。
そして、そう言うとお姉さんはリビングへと戻っていった。
供恵「里志くん、ごめんね呼び止めちゃって」
供恵「奉太郎に会いにいってあげて」
そう言い残し、扉を閉めようとする。
そして、これは僕が聞いていなかった言葉、聞けなかった言葉。
供恵「あの奉太郎が飛び出して行ったと思ったら、なるほどね」
供恵「中々青春してるじゃない、あいつも」
第7.5話
おわり
勢いで千反田に泊まっていけ等と言った物の、どうにも落ち着かない。
奉太郎(何をやってるんだか……)
第一に、風邪を移してしまう可能性もあるだろう。
そんな事をしてしまったら本末転倒ではないか。
あいつは、あいつの性格からしたら……
これでも1年と少しの間、千反田と過ごしている。
一緒に居た時間もそれなりにはある。
そこから予想できる、次の千反田の行動は。
恐らく、風呂を出た後はこの部屋に一度やってくるだろう。
その時、俺はどんな顔をすればいいのだろうか。
全くもって、面倒な事になってしまった。
普段の俺なら、絶対に泊まっていけ等と言う筈が無いのに。
どうやら大分、風邪のせいで思考は弱くなっているらしい。
しかし今考えなければいけないのは、次に千反田が部屋に来た時どうするか? だ。
生憎だが、眠気は吹っ飛んでしまっている。
振りならば可能と言えば可能だが、そこまでする必要はあるのか……?
奉太郎(普通に接するか)
普通に接する……?
普通とは、どんな感じだったっけか。
ううん……
奉太郎(千反田、お風呂出たんだ。 じゃあ次は僕が入ろうかな?)
あれ、俺ってこんなキャラだっけ?
違う違う。
奉太郎(ちーちゃん、お風呂気持ちよかった? 私も入って来ようかな)
これは伊原だろう!
奉太郎(千反田さん、お風呂あがったんだね。 そう言えば、人間の体を温めた時に起きる作用なんだけど)
これは里志。
半ば半分ふざけて思考遊びをしていた時に、来てしまった……奴が。
える「お風呂、ありがとうございます」
奉太郎「あ、ああ」
そう言いながら、千反田に目を向け、ぎょっとする。
この服は、姉貴のだろうか。
姉貴は意外にも身長があるし、体格も女の割りには結構がっちりとしている。
かと言ってスタイルが悪いと言う訳でもない。
そんな姉貴の服を千反田が着ると、どうなるかというと……
ぶかぶかだ。
それだけなら、まだいい。
余りこういうのは言いたくは無いのだが……
つまり、胸元が、見える。
える「折木さん、大丈夫ですか?」
える「顔が真っ赤ですけど……また熱でも上がったのでしょうか……」
それをこいつは自覚しないから始末に終えない。
本当に、言いたくないが……このままでは風邪どころか神経を使いすぎて倒れかねない。
奉太郎「ち、千反田」
える「はい、どうかしましたか?」
奉太郎「その、その服だと、目のやり場に困るから、何か下に一枚着てくれると助かる」
える「え、あ! す、すいません!!」
がばっ!と胸元を隠す。
この際なら、なんでもいいだろう。
部屋にある引き出しから、手頃なシャツを一枚千反田に渡す。
奉太郎「これは俺のだが、着てくれると助かる」
える「は、はい! ありがとうございます!」
千反田もようやく気付いた様で、慌てっぷりは中々の見物だ。
そしてそのまま姉貴の服に手を掛けると……
全く、全く全く。
千反田は顔を真っ赤にして、部屋から出て行った。
奉太郎(疲れる……本当に疲れるぞ、これ)
どうにも千反田は、天然と言えばいいのだろうか?
所々抜けており、言われるまで分かっていない節がある。
それを一個一個指摘するのは、大変な労力なのだ。
ほんの2、3分だろうか、千反田が再び部屋に戻ってきた。
える「あ、折木さん、本当にす、すいません」
奉太郎「……もういい」
話を変えよう、気まず過ぎて窓から飛び出したい気分になってしまう。
奉太郎「それより、布団を出しに行こう」
奉太郎「さすがにソファーで寝ろとは言えんからな」
そして、再びこのお嬢様は俺に疲れをもたらせる。
える「あれ、一緒のベッドで寝ないんですか?」
奉太郎「寝る訳あるか!」
泊まっていけなど、口が裂けても言うべきでは無かった。
奉太郎「……大体、俺は風邪を引いてるんだぞ」
奉太郎「移ったらどうするんだ」
える「私は大丈夫ですよ! うがいと手洗いには気を使って居ますので」
奉太郎(そういう問題では無いだろ)
しかし、飛びっきりの笑顔で言われては俺も参ってしまう。
奉太郎「そうか、でもとりあえずは別々で寝よう」
手段は、強行突破。
える「……そうですか、少し残念ですが、分かりました」
奉太郎(はぁぁ)
どうにも熱が上がってしまいそうで、本当に千反田はお見舞いに来たのだろうか? 等と思ってしまう。
だが納得してくれたのなら引っ張る必要も無いだろう。
そのまま別の部屋に移り、布団を引っ張り出す。
える「あの、折木さんの部屋に敷かないのですか?」
こいつはそろそろわざとやっているんじゃないか? と疑ってしまう。
仕方ない、はっきりと言おう。
奉太郎「あのな、千反田」
える「はい、なんでしょう」
奉太郎「俺は男で、お前は女だ」
える「ええ、そうですね」
奉太郎「男と女が一緒の部屋で寝るのは……その、余り良くないだろう」
える「確かに、分かります」
ん? 分かるのか。
奉太郎「だったら」
える「でも私、折木さんの事を信用していますから」
ああ、そう言う事か。
こいつは俺の事を信じているから、一緒のベッドで寝てもいいし、一緒の部屋で寝てもいい、というのか。
今までのこいつの態度の原因が、少しだけ分かった気がした。
信じていなかったのは、俺の方なのだろうか。
ここまで言われては、無下にするのも気が引けてしまう。
奉太郎「……分かった」
奉太郎「俺の部屋に布団は敷く、だけど風邪が移っても知らんぞ」
やっぱり、泊めるべきでは無かった。
どうやら今年一番の失敗は、これになりそうだな。
渋々布団を抱え、自室に戻る。
床に落ちている物を適当に足でどけると、そこに布団を敷いた。
すると千反田はとても満足そうな顔をしていた。
俺は、とても不満足な顔をした。
える「ふふ、折木さんと、お話したかったんです」
奉太郎(一応病人だぞ、俺)
でも、千反田と話していると何故か元気が出てくるのは自分でも分かっていた。
奉太郎(ま、少しくらい付き合ってやるか)
える「今日の事で、お話しようと思っていて」
今までの少し楽しんでいた千反田とは違い、一転空気が引き締まるのを感じた。
今日の事か、どうせ後で話すことになるんだ、今でもいいだろう。
奉太郎「俺も、その事は話さないといけないと思っていた」
千反田は一呼吸置くと、続けた。
える「本当に、折木さんには感謝しています」
える「私一人では多分、摩耶花さんと話し合いをしていたのかも分かりません」
える「福部さんとも、お話はとても出来ると思っていませんでした」
える「正直に、言いますね」
また一段と、空気が重くなる。
える「最初、摩耶花さんが帰った後」
える「一番怖かったのは、折木さんに嫌われるという事でした」
える「今まで少し、頼り過ぎていたのでしょう」
える「折木さんがすぐに戻ると言ってくれた時、ちょっとだけ安心できたのも覚えています」
覚えていたのか、俺は……くそ。
える「外が暗くなってきて、ようやく立てる様になったんです」
える「今までで一番、体が重く感じました」
える「家に帰る道も、とても長く感じました」
俺がもし覚えていたら、千反田はこんな思いをしないで済んだのでは?
一緒に帰っていれば、そんな思いをさせずに済んだかもしれない。
える「それでようやく家に着いて、これからどうしようか考えていたんです」
える「気付くと電話機の前に居て、掛けようとした先は……折木さんの所です」
える「ですが、電話を取れませんでした」
える「……また、折木さんに甘えていると思ったからです」
たまたま前に居たんじゃない、俺に電話を掛けようとしていて……電話機の前に居たんだ。
える「しかし、そんな時に電話が鳴ったんです」
える「お相手は、折木さんでした」
える「私は、その時とても嬉しくて、嬉しくて」
える「そこからは、折木さんの知っている通りです」
える「これは私の気持ちですが、知って貰いたかったんです」
さっき、俺はこう言った。
どうやら今年一番の失敗は、これになりそうだな。と。
そんな事は無い。
さっきまでの俺は……とんだ馬鹿野郎だ。
奉太郎「俺の話を、聞いてくれるか」
千反田の方に顔を向けると、返事代わりに笑顔を一つ、俺の方へ向けた。
奉太郎「俺は、最初の一瞬……お前が言ったのかと思った」
奉太郎「けど、すぐにそれは違う事が分かった」
奉太郎「まずは謝る、ごめん」
千反田は何か言うかと思ったが、どうやら俺の話が終わるまでは話す気はないらしい。
奉太郎「自分で言うのもなんだが」
奉太郎「俺は怒るって事や、他の事もだが……あまりしない」
奉太郎「疲れるし、な」
少し、少しだけ千反田が笑った気がする。
奉太郎「だが千反田に経緯を教えてもらったとき」
奉太郎「俺は多分、怒っていた」
奉太郎「多分って言うのも変だがな、あんな感情は初めてだった」
奉太郎「怒りを通り越していたのかも知れない」
奉太郎「勿論、千反田に対してじゃない」
奉太郎「千反田に嘘……その言葉の意味を教えた奴に、だ」
奉太郎「里志に少し、事情を話して……大分落ち着いたのを覚えている」
奉太郎「そして次に、俺は」
言っていいのか? 俺のした事を。
本当に、言っていいのだろうか?
それは千反田には、言ってはいけない内容だ。
けど、俺は……千反田の気持ちを全然理解していなかった。
もしかすると、自分の為に動いていたのかもしれない。
正体不明の感情を、消す為に。
奉太郎「……俺は!」
える「折木さん」
える「もう、いいですよ」
える「折木さんの気持ちは、私に伝わりました」
奉太郎「そう、か」
える「先ほど、こう言いましたよね」
える「自分を責めるのはやめろ、と」
える「それは、折木さんにも言える事ですよ」
そう、だろうか?
俺は……自分を責めているのだろうか?
……そうかもしれない。
える「私は、何回も救われています」
える「氷菓の時も、入須先輩の時も、文化祭の時も、生き雛祭りの時も、今回の事も」
える「だから、たまには……折木さんの事を、助けたいんです」
える「でもやっぱり、私じゃとても力不足みたいです、ね」
える「今日も、迷惑を掛けてしまいましたし……」
少しでも俺の、手助けになれるようにと。
俺は天井を見つめながら、言った。
奉太郎「今日は、随分と楽をできたな」
奉太郎「具合が悪い所に友達がお見舞いに来てくれたし」
奉太郎「うまい飯も食えた」
奉太郎「お陰で大分、楽になってきたな」
自分でも、演技っぽいのは分かっていた。
だが、言わずにはいられなかった。
奉太郎「そういう訳だ、千反田、ありがとう」
える「で、ですが」
奉太郎「ありがとう、千反田」
強引だっただろうか?
しかし俺には、これしか思いつかなかった。
える「……はい」
える「どういたしまして、折木さん」
ま、少しは分かってくれたか。
える「そうですね、電気消しますね」
そう言い、千反田が電気を消した。
える「おやすみなさい」
小さいが、俺の耳には確かに聞こえていた。
奉太郎「ああ、おやすみ」
今日は多分、長い夢を見る事になりそうだ。
雀だろうか、鳴き声が騒がしい。
風邪は大分良くなったようだ。
千反田のおかげ、と言うのも勿論あるだろう。
奉太郎(喉が渇いたな)
部屋ではまだ千反田が寝息を立てている。
どうやらこいつも、昨日は随分と疲れた様子だ。
起こさない様に、そっと部屋を出た。
部屋を出たところで、一度立ち止まる。
部屋の中には千反田、ドアは開いているが不思議と少しの距離感を感じた。
奉太郎「……お疲れ様、ゆっくり休め」
聞こえては、いないだろう。
俺はゆっくりとドアを閉めた。
朝飯は……いいか、面倒だし。
奉太郎(コーヒーでも飲むか)
コーヒーを一杯淹れ、ソファーに座る。
テレビをつけると、丁度昼前のバラエティ番組がやっていた。
頭に入れることは無く、ただ画面を見つめる。
奉太郎(この分なら学校に行けたかもな)
嘘ではない。
昨日までのダルさは無く、ほとんどいつもの調子だ。
奉太郎(ん?)
奉太郎(テレビ……)
神山高校は、普通の学校である。
普通と言うのはつまり、平日は普通に授業を行っている。
俺は今日休みだが、昨日の内に連絡は入れてあった。
しかし、部屋にはあいつがいるではないか。
奉太郎(あいつ学校は!?)
ドアを開けると、そこには相変わらず熟睡している千反田の姿がある。
える「……すぅ……すぅ」
呑気に寝息を立てている千反田を見て、ちょっと起こす気が引けるが仕方ない。
奉太郎「おい、千反田」
奉太郎「起きろ」
そこまで声は出していないつもりだったが、千反田はすぐに起きた。
える「……折木さんですか? おはようございます」
目を擦りながら、朝の挨拶をしている。
奉太郎「ああ、おはよう」
奉太郎「今何時だと思う?」
える「……えっと、今? でしょうか」
える「時計が無いので、わからないです」
奉太郎「12時前だ、学校大丈夫なのか?」
える「あ、学校?」
える「ええっと、折木さん」
える「今は、何時でしょうか?」
俺は大きく溜息を吐きながら、もう一度時間を教えた。
奉太郎「正確に言うと、11時ちょっとだ、昼のな」
える「ち、遅刻です!!」
もはや遅刻という問題では無い気がするが……
がばっと起きるというのは、こういう事を言うのだろう。
千反田はがばっと起きると、何からしたらいいのか分からないのか、部屋の中をぐるぐると回っている。
奉太郎「とりあえず、学校に連絡だ」
やらなければいけない事なら、手短に。
携帯は俺も千反田も持っていないのだ、仕方あるまい。
える「あ、ありがとうございます!」
そう言うと千反田は暗記しているのか、迷い無くボタンを押し、電話を掛けた。
える「もしもし、2年H組の千反田えるです」
える「連絡が遅くなり申し訳ありません」
える「ええ、少し……」
俺はこいつの事は真面目な奴だとは思っていた。
少なくとも、この時までは。
える「体調が悪くて……休ませて頂いてもよろしいですか?」
奉太郎「お、おい!」
そう声を発したか発する前か、千反田は空いている手で俺の口を塞いできた。
える「ええ、それでは」
ようやく、俺の口から手が離される。
奉太郎「どういうつもりだ」
える「えへへ、ずる休みしちゃいました」
とんだ優等生が居た物だ、本当に。
える「そんな事よりですね」
奉太郎(そんな事で終わらせていいのか?)
える「折木さん、具合は大丈夫ですか?」
奉太郎「まあ、かなり良くなったな」
える「そうですか、それならよかったです」
える「本当に、無理はしていませんよね?」
なんだろう、くどいな。
奉太郎「少し体を動かしたいくらい元気だが……」
える「そうですか!」
える「それなら、ですね!」
奉太郎「な、なんだ」
千反田がこういう雰囲気になる時は、何か嫌な予感しかしない。
奉太郎「どこに? と言うかだな」
奉太郎「学校、休んで行くのか」
える「見つからなければ大丈夫です!」
いつもの千反田とは、ちょっと違うか?
ま、いいか。
どうせする事も無い。
奉太郎「分かった、見つからない様にな」
奉太郎「それで、どこに行くんだ?」
える「水族館です!!」
何故、平日の昼過ぎに俺は水族館に居るのだろうか?
勿論客はまばらにしかいない、平日だから。
受付の人は少しばかり不審がっていた、平日だから。
俺たちと同年代の人は周りにほとんどいない、無論……平日だから。
奉太郎「それで、なんで水族館なんだ」
える「神山市の水族館は日本でもかなりの大きさと聞いていたので」
える「来てみたかったんですよ……わぁ、かわいいですね」
小さな魚を見て、千反田が言った。
いや、むしろだな。
奉太郎(なんでこいつは制服で来ているんだ)
それがより一層、不審人物を見るような目を集めていることは言うまでもない。
える「あ、折木さん」
奉太郎「ん、なんだ」
える「イルカのショーがあるみたいですよ、気になります!」
千反田の気になりますも、随分と久しぶりに聞いた気がした。
最近は何かと忙しかったからな、仕方無いだろう。
そして、イルカのショーを見に来た訳だが……
隣同士で座っているのに、イルカはどうやら俺の方に恨みでもあるらしい。
さっきから俺だけ何度も水を掛けられている。
奉太郎(冷たい……)
入り口で雨具を貸し出していたので、服は濡れなくて済むのだが。
える「わ、わ、可愛いですねぇ」
どうやら千反田はかなりの上機嫌の様だった。
しかし何故、俺だけこうも水を掛けられるのだろうか?
数えているだけで5回。
あ、丁度6回目。
さいで。
回数が10回を越えた辺りで、ようやくショーは終わった。
千反田はと言うと、イルカを触りに行っている。
える「おーれーきーさーんー!」
こっちに手を振っている、周りの視線が痛い。
える「かわいいですよー!」
分かった、分かったからやめてくれ。
える「おーれーきーさーんー!」
イルカは恐ろしいと思った、狙って俺に水を掛けてくるから。
だが千反田も狙って俺に手を振ってくる。
奉太郎(恐ろしい所だ、水族館)
エスカレーターに乗ったとき、全面ガラスで魚が泳いでいたのには驚いたが……
千反田はその光景に、言葉を失っていた。
目がいつもより一段と大きくなっていたので、すぐに分かる。
そして今は水族館内で、昼飯と言った所だ。
える「すごいですねぇ、来て良かったです」
奉太郎「ま、そうだな……イルカは納得できんが」
える「折木さん、随分気に入られていたみたいでしたね」
奉太郎「イルカに気に入られてもなんも嬉しくは無い」
える「そうですか……少し、羨ましかったです」
奉太郎「俺は千反田が羨ましかったけどな」
える「ふふ、あ、今度は小さいお魚が居る所に行きませんか?」
しかし、元気だなぁ。
奉太郎「そうだな、行くか」
える「はい! テレビ等で見て行きたいと思っていたんです」
やっぱりか、通りで見るもの全てに目を輝かせている訳だ。
そろそろ帰ろうか、と切り出そうとしていたが……もう少し居てもバチは当たらないだろう。
奉太郎「じゃ、あっち側だな、小さい魚は」
える「はい、次はどんなお魚が居るんでしょうか……気になります!」
通路の脇に設置されている水槽には、ヒトデが何匹も入っていた。
える「可愛いですねぇ……」
奉太郎(可愛い? これがか……?)
える「あ! あっちにはクラゲも居るみたいですよ」
クラゲの水槽までとことこと小走りで行くと、千反田はクラゲを見つめながら言った。
える「知っていますか、折木さん」
奉太郎「ん?」
える「酢の物にすると、おつまみにいいんですよ」
奉太郎(今その話をするのか……クラゲの目の前で)
奉太郎(哀れ、クラゲ達)
える「どうしたんですか? そんな悲しそうな目をして」
奉太郎「いや、なんでもない」
千反田はと言うと、相変わらず見る度に感動している。
える「タコもいるんですね! すごいです!」
……やはり俺と千反田では、受け取り方が違う。
確かに面白いが……ここまでの感動は俺には無い。
千反田は何にでも興味を示す、それは恐らく……家の事が関係しているのであろう。
外の世界を知識として蓄えたい、そう言った物が千反田にはあるのかもしれない。
水族館を出た頃には、すっかり夕方となっていた。
帰り道、千反田と会話をしながら自転車を漕ぐ。
奉太郎「家に居ても暇だったしな、これくらいならいつでもいいぞ」
える「はい……ありがとうございます」
える「今度は皆さんで、どこかに行きたいですね」
える「行きたい場所が、沢山あります……」
ふいに、千反田が自転車を止めた。
奉太郎「どうした?」
える「あの、折木さん」
千反田の顔はいつに無く真剣で、真っ直ぐに俺を見ていた。
える「私、今日はとても嬉しかったです」
える「やっぱり、折木さんといると楽しいです」
える「すいません急に、行きましょうか」
ふむ、千反田も色々と思うところがあるのだろうか?
える「……時間も、無いので」
その最後の言葉は、急に強くなった風に消され、俺には届いていなかった。
第8話
おわり
Entry ⇒ 2012.10.19 | Category ⇒ 氷菓SS | Comments (0) | Trackbacks (0)
洋榎「エロゲしてる所を絹に見られてしもた……」
引用元: http://hayabusa.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1350385200/
洋榎「き、絹……これは……ちゃうねん」
絹恵「ちゃうって……何がよ……これは一体なんなん……」フルフル
洋榎(アカン、よりによってエロシーン見られてもうた)
絹恵「……っ!!」ダッ
洋榎「ま、待つんや!絹っ!!」ガタンッ ブツッ
『きっ!キちゃうよおっ…!お姉ちゃんっ……!!いっぱいきちゃうよおぉっ……!!』
『妹に欲情するお姉ちゃんでごめんねっ……!はぁっ……はぁっ……気持ちいいよっ……咲っ……!!』パンパン
洋榎「」
絹恵「」
絹恵「……」
ガチャ バタム
洋榎「ア、アカン……」ガックシ
洋榎「確実にドン引きしとったわ……」ハァ
洋榎「このままやとやばいで……絹に嫌われてまうどころか……」
洋榎「一生口を聞いてもらえなくなるかもしれへん……」
洋榎「一緒の家に住んどいてそれはきっついやろ……」
洋榎「ああー……どないすればええねん!」ジタバタ
洋榎「……」
洋榎「はぁ……」
洋榎「とりあえず ”神降ろしコマキマイスター”でもやろ……」カチカチッ
絹恵「……」
絹恵「おねーちゃん……」
絹恵(お姉ちゃんがやってたゲーム……多分えっちなゲームや……)
絹恵(そ、それも……えっちしてるキャラクターが……)
絹恵(お姉ちゃんて言うてた……)ドキドキ
絹恵(……お姉ちゃんも妹にああいう事したいんやろか……)ドキドキ
絹恵「……」ドキドキ
絹恵「っ!」バッ
絹恵「う、うちは何考えてんのや……!」
絹恵「た、たまたまやろ!せや、気のせいやきっと!!」
絹恵「そうや、お姉ちゃんがあんなゲーム好きな訳あらへん!」
絹恵「さっさと忘れてサカつく進めよ!」
『でも本当に申し訳ないので、ここからは全力以上で造らせてもらいます!』ゴッ
洋榎「おおお!突然変異や!」
洋榎「っしゃー!レア装備きたでこれ!」
洋榎「さすが小蒔や!!」
洋榎(”神降ろしコマキマイスター”……この作品は、主人公の神代 小蒔が工房を運営しながら迷宮探索するゲームや!)
洋榎「やっぱ”ヤエシュリー”の作品は面白いで!」
洋榎「トキの奴は、”アコスソフト”派っちゅーてたけど、うちはやっぱこっちの方が好きやなー」
洋榎「……て」
洋榎「……ホンマはこんな事してる場合やないんやけどな……」ハァ
洋榎「……寝よ」パチンッ
洋榎「はー……部活行く気せーへんわぁ……」
洋榎「今朝は絹が早めに出たから会わんかったけど……」
洋榎「部活ではどうしても鉢合わせしてまうやろしなぁ……」
洋榎「かと言って部活サボる訳にも行かへんし……」
洋榎「……覚悟を決めるしかあらへのんか」ガチャ
恭子「お、主将きましたね」
由子「なのよー」
恭子「はい、では部活はじめるでー!みんなそれぞれ卓につきやー」
洋榎「……?絹は来てないんか?」
漫「絹ちゃんですか?今日は用事がある言うて休む言うてましたけど、聞いてないんですか?」
洋榎「いや……聞いておらへんわ……」
恭子「絹ちゃんが主将に何も言わずに休むなんて、珍しいですね」
洋榎(絹……やっぱうちを避けとるんやろか……)
恭子「じゃあ今日はこれで終わりやー」
由子「のよー」
漫「ではお先ですー」
恭子「おつかれー」
洋榎「……」
洋榎「はぁ……」
恭子「主将、どうしたんです?今日は調子悪かったですね」
洋榎「恭子……」
由子「何か悩み事があるなら何でも聞くよー」
洋榎「由子……」
洋榎「……」
洋榎「……せやな、お前達なら別にええか」
洋榎「……実はな」
由子「それは一大事なのよー」
洋榎「せや……めっちゃドン引きしてもうて、それ以来会話どころか顔も見てないねん……」
恭子「それはなんちゅーか……」
由子「運が悪かったのよー」
洋榎「ホンマどうしたらええんやろな……」ハハッ
由子「……」
恭子「……」
洋榎「……もううち、エロゲやめよかな……なんて」ハハハッ
恭子「……」
恭子「……なんや、主将らしくないですね」
洋榎「……なんやと?」
洋榎「あ?恭子、お前喧嘩売っとるんか?」
恭子「ちゃいますよ、いつもの主将なら無理矢理にでも誤解を解かせて納得させたりするやないですか」
恭子「なのに、絹ちゃんにエロゲしてる所を見られただけで何落ち込んどるんですか」
洋榎「そ、そうは言うけどな!絹になんて言えばええねん!」
洋榎「実はうちエロゲが大好きなんですーって言えるか?」
洋榎「アホか!んな事言うたらマジで一生口聞いてもらえなくなるで!!」
恭子「知りませんよ……とにかく、ちゃちゃっと仲直りしちゃってくださいよ」
恭子「このままやと部の士気にも関わりますから」
洋榎「他人事やと思って好き勝手言いよって……」
恭子「他人事ですし」
由子「他人事なのよー」
洋榎(こいつら……ホンマ腹たつわー……)
恭子「それじゃ主将、うちとゆーこはここで」
洋榎「え?二人なんか用事でもあるん?」
由子「日本橋に行くのよー」
洋榎「は?日本橋?何しに?」
恭子「日本橋に行くゆーたら一つしかないじゃないですか」
由子「エロゲを買いに行くのよー」
洋榎「え、エロゲやて!?」
洋榎(……いかんいかん、エロゲは少し自重せな……これ以上絹にヘンな誤解はされとうない)
恭子「……あ、もしかして、主将も行きたいんやないですか?」
洋榎「ア、アホ!ちゃうわ!な、ななな、なんでうちが行きたいなんて!お、思うとる訳ないやろ!!アホ!」
由子「じゃあ30分後に駅前で集合なのよー」
恭子「ええ、では後ほど」
洋榎「まてや!なんで勝手に話が進んどんねん!」
洋榎「っておい!ちょまてっ!……行ってもうた……」
洋榎「……」
洋榎「う、うちは行かへんからな……!」
洋榎(……せや……もうエロゲは卒業するんや……!!)
洋榎(うちは行かへんで……!)
由子「おまたせー」
恭子「揃いましたね、じゃ行きましょか」
洋榎(結局来てしもーた……!!)
洋榎(気がついたら服着替えて財布握って出かけとる自分がおった……)
洋榎(習慣ってホンマ恐ろしいわ……)
恭子「主将、何しとるんです?行きますよ」
洋榎「あ、ああ……行くで」
洋榎(ま、まあ今日だけ……今日だけや、今日を最後にエロゲを買うのは卒業や)
洋榎(……せ、せやから沢山買うても別にええよな……)
恭子「じゃ、各自好きなように見てまわるっちゅー事でええですか?」
由子「のよー」
洋榎「じゃ、また後でな」
洋榎(さて……どないするかな……と)
洋榎(今話題の作品コーナーか……えーと、何があるんや)
洋榎(……”大星のメモリア”……突如現れた謎の女の子、大星淡と一緒に昔の記憶を取り戻す物語……)
洋榎(これファンディスクも出とるんよなぁ、結構面白いって聞くで)
洋榎(次は……”コシガヤ☆エクスプローラー”……埼玉県越谷市に住む女子学園生が全国学生麻雀大会に挑む……か)
洋榎(確かこの作品、ヒロインが全員貧乳なんよなぁ……見た目もどこかズレてるのばっかやし)
洋榎(ほな次は……”すばら式日々~不連続和了~”……主人公、花田 煌が世界の救世主となり、様々な謎に立ち向かう奴か……)
”
洋榎(これトキがハマったとか言ってたなぁ、それ以来すばらすばら言うようになってうっとおしいったらありゃせんわ)
洋榎(恭子や由子は何見とるんやろ……)チラッ
由子「これですかー? ”ドラ、置き場がない!”ですよー」
洋榎「ああ、麻雀大会で負けまくってチームメイトや出場選手に犯されまくるっちゅー……」
由子「はい、でもそれ以上に笑える要素が多いのでオススメらしいですよー」
洋榎(そうなんか)
洋榎「恭子は何にするん?」
恭子「私ですか?私は”世界で一番NGな漫”を……」
洋榎「あー、恭子好きそうやもんなそれ」
恭子「あ、分かります?なんかパッケで唆られるんですよね、こうラクガキがしたくなるといいますか」
洋榎「ラクガキするのは買うてからにしとけや」
恭子「わかってますよ、私はこれにしときます」
恭子「主将はもう決まったんですか?」
洋榎「あ、あー……」
NGな漫ワロタ あれは名作
洋榎(今日でエロゲ買うのも最後って決めとったんやけどなぁ……)
洋榎(ここに来てまうと色々目移りしてまうなぁ)
洋榎「そや、トキの奴が言ってた……これや、”この大阪に、翼をひろげて”」
洋榎(主人公の江口セーラが病弱な女の子や黒髪ロングの女の子達と、グライダーで大阪の空を目指すお話やな)
洋榎(これは今日買うて……おおっ!?)
洋榎「”卓上の魔王”やないか!前に来た時は売ってへんかったのに、もう入っとるんかいな!」
洋榎(卓上の魔王、突如現れた魔王と名乗る人物を、転校してきた大星淡と探し出し事件の真相を追う物語……!)
洋榎(美少女ゲームアワード大賞受賞作品になるくらい、名作中の名作やな!)
洋榎(これも追加や……!これは今日帰ったら早速やるで……!)
洋榎(……しかしこれだけやと物足りないな、あと何本か追加しとこか)
洋榎(”トキ-黒い竜華と優しい部員-”……あるキッカケで仲間になった5人が、「麻雀」というデスゲームに巻き込まれていく……)
洋榎(”ゴア・コークスクリュー・ショウ”……異形の魔物テルと関わる羽目になってしまい、平穏な日常に戻るために努力するお話……)
洋榎(この3本も名作や、こんだけあれば十分やろ)
洋榎「待たせたなー、ほな、帰ろかー」
恭子「そうですね、早くやりたくて待ちきれませんよ」ハハハ
由子「のよー」
洋榎「ただいまーっと」
雅枝「おかえり、もうすぐメシできるで」
洋榎「オカン、帰ってたんかいな」
雅枝「今日は特別早かったんや、さっさと荷物置いてメシの準備し」
洋榎「わかってるでー……っ!?」
絹恵「あ……お姉ちゃん……おかえり」
洋榎「き……絹……た、ただいま……」
絹恵「……」
洋榎「……」
雅枝「……?」
洋榎「……」モグモグ
絹恵「……」モグモグ
雅枝「……」
雅枝「なんやあんたら、そんなに黙って……なんかあったん?」
洋榎「はっ……はぁっ!?べ、別になんもないで?」
雅枝「そーかー?ヒロがそんなに静かやなんて、頭でも打ったんちゃうの?」
雅枝「いつもぴーちくぱーちく言うとるのに」
洋榎「アホか!うちは普段からそんな喋りまくってへんわ!つか食事中くらい静かに食べェや!」
雅枝「せやせや、いつものヒロはそんな感じやで」ハハハッ
洋榎「アホか!」
絹恵「……」
洋榎「ふー……オカンの奴」
洋榎「さーて、風呂も入ったし……まずは卓上の魔王からやろか!」
洋榎「っと、せやせや……ス○イプにログインしとかな……」カチカチッ
洋榎「おっ、今日は結構人おるやん……珍しいなぁ」
洋榎「……」
『とにかく、ちゃちゃっと仲直りしちゃってくださいよ』
洋榎「……」
洋榎(ついでにちょっと相談に乗ってもらおかな)
――とあるネット掲示板で知り合った数人の猛者達が――
――互いに集い語り合う 淑女達のグループチャットである――
ひろぽん:おるかーー?
魔法少女すみれ:えっ?
ひろぽん:よーし、おるな!
トキ:ここやで (トントンッ
ピカリン: 西 濃 は 神
魔法少女すみれ:西濃厨うぜぇ
ひろぽん:ちょいとやばいことになってもーてな、助けてくれ
魔法少女すみれ:何があったんだ?
ひろぽん:妹にエロゲバレした
ピカリン:なんだと!お前妹いるのか!?どんな子だ!
魔法少女すみれ:シスコンは黙っとけよ
トキ:シスコンは病気やから無理やろ
ひろぽん:真面目な話なんや、頼むで
トキ:せやろなー
ひろぽん:どうにかして誤解を解きたいんやけど、どしたらええやろか
ピカリン:犯す
魔法少女すみれ:お前は本当にしそうだから怖い
魔法少女すみれ:誠意を持ってちゃんと話をすればちゃんと分かってくれるんじゃないか?
ひろぽん:そやろか、めっちゃドン引きしとったで
トキ:うちも親友にエロゲしてる所見られた事あったけど
トキ:ちゃんと話をすれば分かってくれたで
ひろぽん:まじか
トキ:ただそいつが今度はエロゲにハマってしもうてな
魔法少女すみれ:一体何をしたらそうなるんだ
トキ:エロゲをやらせたらいつの間にかハマってた
ピカリン:バロスwwwwwwww
『――ここからが勝負だじぇ!』ドヤァ
『――後ひっかけの洋榎とは うちのことやで!!』ドヤァ
『――おまかせあれっ!』ドヤァ
『――そろそろまぜろよ!』ドヤァ
竜華「ヘックチ!!」
竜華「さすがに徹夜でやりすぎたんかな……今日はちょいと暖かくして寝た方がええな」
竜華「しかしみんなかわええなぁ」
竜華「”どやきす” ヒロイン全員がドヤ顔をするちょっと変わったゲームやけど、面白いわ」
竜華「いちいちドヤ顔しまくるのが最高に笑えるで」
竜華「しかも”どやきす2本場”と”どやきす3本場”もあるっちゅーし」
竜華「ホンマ、エロゲって最高やなぁ!」
ピカリン:むしろ英雄
トキ:HとEROだけに
ピカリン:だれうま
ひろぽん:でもうちの妹は17の高2やで?エロゲはさすがにアカンやろ
トキ:ギャルゲがあるやろ
魔法少女すみれ:妹にギャルゲを勧める姉なんて
ピカリン:アリですね
トキ:せやろ
魔法少女すみれ:ねぇよ
ひろぽん:うちの妹をその手の道に引き込むのはさすがに気が引けるで
魔法少女すみれ:まぁ普通はそうだろうな
トキ:でもうち思うんや、エロゲの良し悪しは実際にやった人じゃないと分からないって
トキ:エロゲをやった事のない奴にエロゲを悪く言う資格はないで
ひろぽん:まぁそうかもしれへんけど……
トキ:やったうえで、悪く言われるならしゃあないやろけど
トキ:少なくとも、考え方は変わってくれると思うで
ひろぽん:なるほどなー
魔法少女すみれ:経験者は語るか
ひろぽん:しかしなぁ……あんま気が進まへんで
トキ:何だかんだ言ってみんなエロゲやギャルゲが好きなんや
トキ:ええからやらせてみーな
ひろぽん:まぁトキが言うなら……考えとくわ
ひろぽん:じゃあうち先に落ちるで
トキ:おー おつかれさーん
ピカリン:おつ
魔法少女すみれ:またな
洋榎「ホンマ無茶言いよるで……」
洋榎「せやけど妹にギャルゲを勧める言うたって、普通はありえへんやろ……」
洋榎「素直に受け取ってくれるとも思えへんで……」
絹恵「母ちゃん、風呂上がったで」
雅枝「おー、さんきゅー」
絹恵「……」トタトタ
雅枝「あ、ちょい絹、まちぃ」
絹恵「ん?なんや母ちゃん」
雅枝「……」
雅枝「絹、あんたヒロとなんかあったん?」
絹恵「えっ……」
雅枝「なんかあったんやな?」
絹恵「……」
絹恵「……ないで」
雅枝(図星か)
雅枝「感付かんとでも思っとったか?」
雅枝「何の悩みか知らんけど、うちに話せる事なら話してほしいねん」
雅枝「な?絹、話してみ」
絹恵「……」
絹恵「……わかったで」
………
……
…
雅枝「ほれ、とりあえずお茶でええな?」
絹恵「……」コクッ
絹恵「実はな……お姉ちゃんが」
雅枝「……ヒロがどしたん?」
絹恵「……えっちなゲームしとったん」
雅枝「」
絹恵「声をかけても全く気づかへんから、驚かそうと思って近づいたんやけど……」
絹恵「……その、丁度えっちなシーンで……しかもえっちしてたのが姉妹らしくて……」///
雅枝「……」
雅枝(ヒロがいつもと違うのも、そのせいやったんか……)
絹恵「そんでそのまま……顔合わせ辛くなってしもて……」
雅枝「そ、そうか……」
絹恵「……母ちゃん、うちどうしたらええんやろか」
雅枝「……」
雅枝「絹はどうしたいん?」
絹恵「えっ」
ネキが終わっちゃうだろ……!
雅枝「でも……知ってしもうたから出来ないっちゅーんか?」
絹恵「……」
雅枝「……絹」
雅枝「人間、誰でも一つや二つの秘密はあるもんや」
雅枝「その秘密を知ってもうたからって、その人を嫌いになったり引いたりするんか?」
絹恵「……」
雅枝「人間、皆それぞれ違う生き物なんや」
雅枝「たまたまえっちなゲームをやってたからって、その人の事を全否定するのはおかしいと思わへん?」
絹恵「そ……やけど」
雅枝「他人を嫌う前に、まずは自分からその人の事を理解せなアカンのや」
雅枝「わかったか……?」
絹恵「……」コクッ
雅枝「よし、行ってこい!」
絹恵「……うん、お姉ちゃんと話してくる!」
雅枝「……ふっ、青春やな」
雅枝(頑張れ……絹……ヒロ……!)
雅枝「……」
雅枝「……しっかし、ヒロも甘いで」
雅枝「妹にエロゲやってる所を見られるなんて、エロゲーマーとしてまだまだやな」
雅枝「うちなら絶対にバレへんで」
雅枝「……」
雅枝(でも……)
雅枝(うちがロリゲーやってる所を見られへんで助かったわ……!!)
雅枝(見られてしもたら、親の威厳は疎か下手すら家出されるレベルやしな……!!)
雅枝(ヒロには悪いが、見られたのがヒロでホント助かったで……)
雅枝(……)
雅枝(……今度何かおごっちゃるからな!ヒロ!)
コンコンッ
絹恵「……おねえちゃん、うちや」
洋榎「っ!?き、絹っ!?」
絹恵「入るで」ガチャッ
洋榎「お、おう……どしたん……」
絹恵「……」
絹恵「ごめん!!お姉ちゃんっ!!」ペコリン
絹恵「その……お姉ちゃんがえっちなゲームをしとる所……見てしもうて……」
洋榎「い、いや……うちの方こそ見せてしもてすまんというか……」
絹恵「お姉ちゃん……うち」
洋榎「絹」
洋榎「……まずはうちから言わせて欲しいんや」
絹恵「……えっ?」
洋榎「絹がうちのことをキモいとか思うたりするのも、別にしゃあないと思うわ」
洋榎「せやけど、それで絹との会話が出来なくなったり無視されんのは嫌やねん……」
洋榎「勝手がましいかもしれへんけど、うちと今まで通り接してほしいねん……」
洋榎「……だめか?」
絹恵「お姉ちゃん……」
洋榎「はは……ごめんなぁ絹……こんなダメなお姉ちゃんで……」ハハッ
絹恵「……ダメやない」
洋榎「……えっ」
絹恵「お姉ちゃんはダメなんかやない!!」
絹恵「むしろ、うちの方が悪いねん……!」
絹恵「人間誰しも、人には知られたくない秘密なんて1つや2つ当たり前にあるっちゅーのに……」
絹恵「勝手にお姉ちゃんの秘密に踏み込んだりしてしもうて!」
絹恵「勝手に秘密に踏み込んで、自分で勝手に距離を置いて!!」
絹恵「自分勝手すぎるわ……!自分が……情けない!!」
洋榎「……絹」
ダキッ
絹恵「おねえ……っ」
洋榎「うちは嬉しいんや……絹がちゃんとこうして話してくれて」
洋榎「情けないんは、むしろ自分の方や……」
洋榎「もっと早く絹に教えてあげられたら、良かったって思うとる」
洋榎「……怖かったんやな、言うのが」
洋榎「話す事でどこか関係が壊れてしまうんやないかと思って……怖かったんや」
洋榎「結果、最後の最後まで言わなかった結果がこれやねん……」
洋榎「うちらは姉妹や……むしろ秘密がある方がおかしいねん」
洋榎「これからは、お互い秘密なしにしよ……な?」
絹恵「お姉ちゃんっ……!」ポロポロ
……
…
洋榎「……落ち着いたか?絹」
絹恵「……」コクッ
洋榎「……そか」
絹恵「……お姉ちゃん……私な、もっとお姉ちゃんの事が知りたいねん」
洋榎「えっ……それ……どういう……」
洋榎(え、なんやこれ……なんかフラグみたいなん立っておらへんか……?)
洋榎(この雰囲気はうちもよく知っとるで……これ、エロシーンの前にあるやつや!)ドキドキ
洋榎(って、これアカンのとちゃう!?え、なんや、ヨ○ガってまうのはアカンやろ!)ドキドキ
洋榎(き、絹はどうなんや……)チラッ
絹恵「……」ソワソワ
絹恵「……」ポッ
洋榎(むっちゃ赤くなっとるぅぅーーー……!!)
洋榎「ちょ、ちょっと待ってほしいねん、絹」
絹恵「えっ、なん……?」
洋榎「ええか、よーく考えてや」
洋榎「確かにうちはエッチなゲーム……エロゲーが好きや、大好きやねん」
洋榎「でもな、うちはあくまでエロゲーが好きなだけで、実際のエッチとかは全く興味ないねん」
洋榎「だ、だからっ……絹がそう言ってくれるのは……その、嬉しいんやけど」
洋榎「その、やっぱりアカンと思うんや……うん、うちら姉妹やし、余計にアカンやろ」ハハッ
絹恵「……えっと」
絹恵「お姉ちゃん、さっきから何を言うてるん?」
洋榎「……えっ?えっと……」
絹恵「うちが言いたいんは、お姉ちゃんがやってるエッチなゲームをうちもやりたいねんって事や……」///
洋榎「」
絹恵「せやけど……お姉ちゃんが好きなものを、うちも自分の手で知りたいねん」
洋榎「そう言われてもアカンものはアカンやろ……主に年齢的な意味で」
絹恵「……二度言うほど大事な事なんか?」
洋榎「18歳未満がエロゲしてる描写を書いたらこのSSが叩かれそうやからな……」メタァ
絹恵「……そっか」
洋榎「……」
洋榎「ね、年齢的に問題無い奴なら、あるから……そっちで良かったらやけど」アセアセ
絹恵「っ……!ホンマか!?」パアァッ
洋榎「お、おう……」
洋榎「これや」
絹恵「”コロモバスターズ!”……?」
洋榎「せや、天江衣を中心とした友達兼家族のメンバー達が、最後の夏に様々な事をチャレンジしていくゲームや」
洋榎「無印版やから、18歳未満の絹でも出来るで」
洋榎「丁度いまアニメ放送もやってるトコやし、楽しめると思うで」
絹恵「これが……」
洋榎「あと、もう1本、これもや」
絹恵「”CLONNAD-クロナド-”……?」
洋榎「至って平凡な学園生活を送るゲームなんやけど、それぞれキャラの魅力が良くてな」
洋榎「偉い人はこの作品をこう言ったんや、『CLONNADは人生』……と」
洋榎「高校生活を送る学園編、卒業後のアフターストーリー……人間の大切な時期を描い作品は……まさに人生や」
洋榎「ないな、あったら貸さへんしな」
洋榎「それでもうちがやってるゲームと大差ないで、えっちシーンがあるかないかの問題やからな」
絹恵「そうなんか……」
絹恵「うん、わかった、やってみるで」
絹恵「じゃあお姉ちゃん、おやすみっ」
洋榎「お、おう……おやすみやで」
ガチャ バタム
洋榎「……」
洋榎「結局、絹にギャルゲ渡してもうた……」
洋榎「これでハマったらどないしょー……絹がうちみたいなエロゲーマーになったらどないしよ……」
洋榎「そないになったらオカンに申し訳立たへんわぁ……」ガックシ
絹恵「……」ゴクリ
絹恵「……よし、インストール完了」
絹恵「お姉ちゃんを理解するに、お姉ちゃんをもっと知るために、うちは”ぎゃるげー”に挑戦するで!」
絹恵「ゲーム、スタートや!」カチカチッ
………
……
…
『……はじめ?』
『いつも衣がリーダーだった……なにかワクワクする事を、始める時は――』
『……なら、今しかできない事をしようではないか――』
『……衣』
『……「麻雀」をしよう――』
『麻雀でインターハイを目指す……チーム名は……【コロモバスターズ】だ!!』
絹恵「なるほど、選択肢を選択して物語を進めていくっちゅー訳ですね」
絹恵「まだ始めたばっかやど、笑える部分がかなりあったから不思議と面白いわ」
絹恵「このあとどーなるんやろなぁ」
絹恵(……お姉ちゃんも今頃ゲームをやっとるんやろか)
『照うううぅぅっ―――――!!!』
『"魔王"よ!聞けっ!!!』
『悪とは、いまだ人のうちに残っている動物的な性質にこそ起源がある!!!』
『復讐に救いを求め、救いに悪を成さんとする貴様は、遠からず己が悪行のもろさを知るだろうっ!!!』
『――嗤おう、盛大に!!!』
『…………ッタ―――――ンッ』
洋榎「うおおーー!弘世ぇぇぇっ!」
洋榎「最後の最後まで怖いオネーさんやったけど、いい人やないか……」
洋榎「アカン、涙出てきた……これはアカンやろぉ……なんで死んでまうん……」
洋榎「くそ……魔王……一体誰なんや……」
『うん……』
『だったら、私は……』
『――勇者を守る、仲間になる!』
『照ぅぅっ――――!!!』
『……咲っ……いや、"魔王"!!』
洋榎「魔王……まさかの妹やったんか……!!」
洋榎「その発想はなかったわ……なんや、むっちゃ熱い展開やないか……!」
洋榎「ちゅーか色々と複雑すぎやろこの家庭……」
洋榎「一体何がこの家庭をこんなにしたんや……」
『ツモ、3000・6000!』
『ロン!18000!!』
絹恵「……」カチッ
絹恵「……」カチッ
絹恵(このゲーム、麻雀も打つんかいな)カチッ
絹恵(まぁ麻雀部のうちからすれば、ただのお遊びなんやけど……)カチッ
絹恵(おっ……大三元テンパイきたで……!)トンッ
『それロンです、3900!』
絹恵「……」イラッ
『んっ……やっ……テルッ……!!ふぁぁぁんっ、はぁっ……!んんっ!』
『はぁっ……ふぅっ!淡っ……!すごく……っキツくて……気持ちいいっ……!』
洋榎「お、おおう……」///
洋榎(正直言うと、うち激しいエロシーンはあんま得意ではないねん……)///
洋榎(でもエロシーンを飛ばすのは作者に対して失礼や……ちゃんと見るで……)
洋榎「……」
洋榎「……」ムズムズ
洋榎(……と、トイレいこ)
菫「……ん?こんな夜中にメールか?」ピロリロリーン
菫「宥か……えっと……来週は大学受験の為、東京に行こうと思います?」
菫「その間、もし宜しければ……数日間菫ちゃん家にお泊りしたい……だと……!?」
菫「宥が……私の家に来てくれるのか……」ピッ
菫(また宥に会える……)
菫(こんなに嬉しい事は他にはない……)
菫(……だが)チラッ
菫「…………このエロゲパッケージの山はどうしたものか」
菫(処分は出来ればしたくない……私にとってこれは、今まで集めてきた財宝のようなものだ)
菫(……さて、どうしたものか)
チュンチュン....
絹恵「おはよう、お姉ちゃん」
洋榎「おう、絹、おはよーさん」
雅枝「お、丁度朝メシできとるで」
洋榎「ってうおーい!朝から唐揚げは無いやろー、ちと重いやろー!」
雅枝「いらへんのやら食わんでもええよ」
洋榎「誰もいらんて言うてへんわ!食うて!食うわ!」フガフガッ
絹恵「んもう、お姉ちゃん。そんなにガッついたら……」
洋榎「なん……んグッ!ケッホケホ!」
絹恵「せやから言うたやろー……ほら、お水やで」
洋榎「……っぷはー、当然やないか!うちと絹はチョー仲良しの最高姉妹やで!」ゴクゴクッ
絹恵「お姉ちゃん行儀悪いで!」
雅枝「せやな、仲よきことは美しきかな、や」ハハッ
絹恵「んもう、母ちゃんもちゃんと言ったってや……」
絹恵「ふふっ」クスッ
絹恵(少しだけ……お姉ちゃんの事が分かった気がする)
絹恵(お姉ちゃんが大好きなセカイの事――)
洋榎「きーぬー!何しとん、ガッコいくでー!」
絹恵「あ、まってぇ、お姉ちゃん!」
絹恵(そして自分の気持ちも――)
絹恵(私は……大好きなお姉ちゃんと)
絹恵(いつまでも――一緒にいたい――)
絹恵(これからも……ずっと――)
つづカン
『カン!ツモ、嶺上開花!』
竜華「うお、強いな咲!」
怜「せやろ、チートすぎやよな」
竜華「この”大魔王”ってゲーム面白いなあ」
怜「”アコスソフト”では割と有名な地域制圧型シミュレーションゲームや」
怜「学校、長野と制圧して、全国の強豪と麻雀(物理)で戦っていくんや」
竜華「へー、こういうゲーム性のあるゲームも、ホンマにゲームって感じがして面白いで」
怜「竜華も”アコスソフト”の作品を沢山やったらええよー、絶対ハマるで!」
竜華「せやなー、怜がハマっとった”ヒサシリーズ”もめっちゃ気になるしなー!」
ハハハッ
今度おしまい。
支援ありがとうございました。
Entry ⇒ 2012.10.18 | Category ⇒ 咲-Saki-SS | Comments (1) | Trackbacks (0)
貴音「あなた様とらぁめん探訪」
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貴音「本日はこちらですか」
P 「あぁ、少し並ぶが、大丈夫か?」
貴音「30分程度なぞ、らぁめんの前には霞んでしまいます」
いささか不思議な雰囲気ですね」
P 「そうか?結構商店街に隣接している二十郎は多いんだがな」
貴音「面妖な・・・」
P 「はは、じゃあ次は赤羽の二十郎にでも行ってみるか?
あそこは商店街に隣接じゃあなく、商店街にあるからな」
貴音「なんと!
二十郎はそこまで進化していたのですね」
P 「そうだな・・・特に無いぞ
一般的な二十郎と一緒だ
そのかわり、味も特筆する程じゃあない」
貴音「美味ではない、ということでしょうか」
P 「いや、他の店と同じくらい上手いってことだ
二十郎であんまり美味しくないといったら、新宿ぐらいだからな」
貴音「それは期待が持てそうですね」
P 「なんやかんや話してるうちにもう順番か
貴音は大ダブルでいいか?」
貴音「もちろんです」
先に行ってるな」
貴音「はい、お気をつけて」
P 「・・・」
貴音「・・・」
店主「大豚ダブルの男性の方、トッピングは?」
P 「ヤサイマシ、アブラカラメ」
店主「ヤサイマシアブラカラメ!」ドンッ
P 「ありがとうございます」
店主「大豚ダブルの女性の方、トッピングは?」
貴音「ヤサイマシマシニンニクカラメ」
店主「ヤサイマシマシニンニクカラメ!」ドンッ
貴音「ひょいぱく ひょいぱく」
・・・・・・
貴音「真、美味でした」スタスタ
店主「ありがとうございましたー!」
P 「ずぞぞーっ、ぱくぱく・・・」
貴音「あなた様、先に出ております」
P 「わかった」
P 「いやー、待たせたな」
貴音「今度は2分程短縮して下さい」
P 「善処するよ」
貴音「冗談です
あなた様、黒烏龍茶をどうぞ」
P 「おう、ありがとな
いやー、二十郎を食べた後はやっぱり黒烏龍茶だな!」
貴音「そうですね、これほどまでに飲料が美味しいと感じるときはないでしょう」
P 「それにしても、今日の二十郎は神二十郎だった!
麺の硬さもスープの濃さも、最高だったよ!」
貴音「ふふ、それは宜しかったですね」
P 「貴音はどうだった?」
貴音「それはですね・・・」
? 「・・・まさか、765プロのヘボプロデューサーと
四条貴音がこんなところに居るとは・・・
くくく・・・あーっはっはっは!」
ガチャッ
P 「おはようございます」
ザワザワ・・・ガヤガヤ・・・
P 「ん?どうしたんだ?」
小鳥「プロデューサーさん!
どうしましょう・・・大変ですよ!」
P 「どうしたんです?音無さん
事情を教えて下さい」
小鳥「それが・・・これを見てもらえますか?」
P 「動画投稿サイトですか?
・・・うわっ!俺と貴音じゃないか!」
小鳥「どうやらプロデューサーさんと貴音ちゃんがデートしている所を
誰かに見られてたみたいですね・・・」
P 「参ったな・・・変な男とデートしてるという風にしか見られないじゃないか」
P 「えぇ・・・軽はずみな行動でこんな事になってしまうとは・・・」
小鳥「プロデューサーさんは悪くないですよ!」
ガチャッ
社長「いやーおはよう!今日もいい天気だね!
ん?二人ともどうしたんだい?」
小鳥「それが・・・これこれしかじかの」
社長「かくかくうまうまと言うわけか」
P 「社長・・・どうしましょう」
社長「・・・ピンと来た!」
P 「本当ですか?!」
社長「キミ!四条くんとキミのラーメン食べ歩きを放映しよう!」
P 「・・・はいぃ?!」
さらに、四条くんがラーメンを食べることで宣伝をする!
いいこと尽くめじゃないか!」
小鳥「また始まった・・・」
P 「良くないですよ!
俺、テレビとか出たことないんですよ?!」
社長「それに、だ
この動画の、キミがご飯を食べている所だが実に快い!
見ているこちらが幸せになるようだ!」
P 「は、はぁ・・・」
社長「と、言うわけでだ
私は今から知り合いに連絡して、手はずを整えるから
キミも四条くんに伝えておきたまえ」
P 「そ、そんな!社長ー!!!」
貴音「それは夢のような企画でございます!」
P 「あぁ、夢であって欲しいよ・・・
そういうわけで、これからはあまりオフで外食は行けないな」
貴音「なんと!私は一向に構いません!」
P 「また貴音のファンに動画でもとられたら大変だろう?
俺も苦しいんだ、我慢してくれ」
貴音「いけずです・・・」
真美「兄ちゃーん!お腹空いたよー!」
亜美「もうペコペコだよー!」
貴音「貴音と」
P 「プロデューサーの」
皆 「らぁめん探訪ー!」ワァー!!!
貴音「皆様、ごきげんよう
四条貴音でございます」
P 「貴音のプロデューサーです」
貴音「本日は都内某所の幸薬苑を貸しきって収録しております」
P 「新番組の番宣ってやつだな」
春香「プロデューサーさん!ラーメンはまだですかー?」
P 「もう!挨拶ぐらいさせろ!」
果たしてどのような番組になるのでしょうか」
P 「かいつまんで説明すると
俺と貴音が適当にラーメン屋を巡るっていう内容だな」
千早「プロデューサー・・・?
それは分かったんですが、なぜ私達が幸薬苑に集まったんですか?」
P 「それはだな、俺と貴音だけじゃ間が持たないんで、
毎回一人ゲストとして呼ぼうと思ってな
ぶっちゃけ言うと、今回の収録でピンと来たやつが選ばれるぞ」
小鳥「えっ?!本当ですか?!」
P 「誰だ事務員呼んだの!」
大方、あんたの財布が寒いからだとは思うけどね にひひっ」
貴音「無論、金銭の事情というのもございます
ですが、それとはまた別の理由もあるのですよ」
P 「金銭の事情は無いよ・・・
今回企画を決めるにあたって、俺と貴音で行きたい所を選んだんだがな
なんと、ほぼ二十郎だった」
千早「当然なんじゃないでしょうか・・・」
P 「そこでだ
まず二十郎を食べる前に、らぁめんとはなんぞや、というのを
皆と共有したいと思ってだな」
伊織「だからなんで幸薬苑なのよ」
P 「それに答える前に、まずは注文だ!」
亜美「亜美はもちろん、こってりとんこつらーめんっしょ!」
伊織「スーパーアイドル伊織ちゃんは、この濃厚魚介つけめんを頼むわ」
響 「自分は完璧だから、ねぎらーめんを食べるぞ!」
美希「あふぅ・・・ミキはマンゴープリンがいいな」
やよい「中華そばが一番安いから、これがいいかなーって」
律子「では、私は味噌野菜らーめんを頂きますね」
真 「ボクは坦々つけめんがいいかな」
雪歩「私も、真ちゃんと一緒ので・・・」
あずさ「塩ねぎらーめんと、ぎょうざ、あと日本酒を頂けるかしらー?」
春香「えーっと、私は・・・うーん・・・」
P 「春香、受けを狙わなくていいんだぞ」
春香「狙ってません!」
春香「・・・私、なんでチャーハンなんて選んだのかな」
P 「結構皆バラけたな」
貴音「プロデューサー、私もらぁめんが食べとうございます」
P 「来週からたくさん食べられるんだから、我慢しろ」
貴音「面妖な・・・」
P 「ところで・・・千早は注文しないのか?」
千早「私はそれほどらぁめんが好きではありませんので・・・」
P 「そうか・・・じゃあ杏仁豆腐でも食べておけ、な?」
千早「はい、プロデューサーがそう言うなら・・・」
真美「兄ちゃーん!食べていいー?」
P 「あぁ、いいぞ
食べながらでいいから話を聞いてくれ」
亜美「わぁーい!」
貴音「それでは本題に入りたいと思います
伊織、らぁめんとは、何が入っていればらぁめんと言えるのでしょうか」
伊織「そうね・・・
最低でも、麺とスープがあればらぁめんなんじゃない?」
P 「じゃあ、蕎麦やうどんなんかもらぁめんに入るのか?」
伊織「入るわけないじゃない!あんたバカじゃないの?」
貴音「確かに、麺とスープがあるだけではらぁめんとは言えません」
真 「うーん・・・そんなの考えた事無かったなぁ
鶏がらや豚骨からスープが作られてて、麺が入ってて・・・
後は、上にトッピングがあればラーメンになるんじゃない?」
響 「胡椒とかもあると、らぁめん!って感じがするぞ!」
律子「めんまとか、なるとがあると、らぁめんって雰囲気は出るわね」
亜美「良くわかんないけど、おいしければらぁめんでいいんじゃない?」
真美「真美もそう思うよ!」
P 「確かに、おいしいのはまず第一条件だな」
小鳥「私は、自分の分のらぁめんも注文できたらいいと思いますよ」
雪歩「あのぅ・・・私の分、食べますか?」
小鳥「あら、ありがとう」
そしておいしい、というのが世間一般でのらぁめんなのですね」
P 「そのようだな
となると、やよいが食べてる”中華そば”が一番普通に近いと言えるだろう」
やよい「ふぇっ?!私ですかっ?!」
真美「じゃあ真美の担々麺はらぁめんじゃないのー?」
真 「ボクの坦々つけ麺も定義から離れてる気がする」
美希「ミキのは、おいしいかららぁめんだと思うな」
律子「それはマンゴープリンです!」
P 「春香、らぁめんは上手いか?」
春香「おいしいです」
なんといっても、個人の好みも価値観も千差万別だからな」
貴音「今回、私共が伺うらぁめん屋には、
およそらぁめんの定義からかけ離れたものが出るでしょう」
亜美「さそりが乗ってるとか?」
真美「手で食べるとか!」
P 「自分が行きたい、という意見として受け取っておくよ」
真美「ウソだよ兄ちゃんー!そんなの食べたいわけないじゃん!」
亜美「若気の怒りってやつだよ!」
P 「そんなわけで、だ
It's a らぁめん!というものが置いてある幸薬苑さんにお邪魔したわけだな」
別に悪口を言うわけじゃないんだけど・・・
わざわざ幸薬苑じゃなくても良かったんじゃない?」
P 「どういうことだ?」
伊織「ここよりも手の込んだらぁめんが出るお店なんていくらでもあるし
ぶっちゃけ安いだけの店じゃない」
P 「そうだな・・・伊織の言う通り、味だけじゃ他の店に数段劣るだろう」
律子「ちょっとプロデューサー殿?!
公共の電波に乗るんですよ?!」
P 「だが、ここはチェーン店だ
他の店には無い、利点というものがある」
貴音「らぁめんが食べたい、と思った時に食べられるのは真、素敵ですね」
P 「第二に、味のブレが少ない」
貴音「ちぇえん店であるがゆえに、規則がしっかりとしており
調味料の量から何から何まで安定した味を供給出来るのですね」
P 「第三に、全国、とはいかないがいろんな地域で食べられる
北海道及び四国より西では店舗は無いが、
そこ以外の地域ならば幸薬苑はあるからな」
貴音「もし幸薬苑の味が好みならば、
好きな時に、好きな場所で、安定した味を楽しめる」
P 「更に安いと来たもんだ、さすが幸薬苑さんだー!」
春香「必死でカバーしようとしてるね・・・」
千早「見苦しいわ・・・」
P 「わかってくれるか」
貴音「プロデューサー、そろそろ時間です」
P 「もうそんな時間か・・・
というわけで、だ
来週の本放送からは、二十郎を中心にらぁめんを食べ歩こうと思う」
貴音「らぁめんとは一体なにか
二十郎とは何かを視聴者の皆様にお伝えすべく、
全霊を賭して戦って参りたいと思います」
春香「来週月曜日、19:00からご覧のチャンネルで放映しまっす!」
P 「それでは、貴音とプロデューサーのらぁめん探訪・・・」
皆 「「「「「「皆さん見て下さいねー!」」」」」」
監督「はい、かぁーっと!」
途中から素になってしまった・・・」
監督「オレっちは中々いいと思ったぞ
まったくの勘だが、受ける!多分おそらくメイビー、受ける!」
P 「はぁ・・・監督がそういうなら、良いのでしょうか」
響 「そうだぞ!プロデューサーはきっとテレビ映えするぞ!」
貴音「さすが響、見る目がありますね」
響 「えへへ、褒められると照れるぞー!」
あずさ「プロデューサーさーん!お酒おかわりよろしいでしょうかー」
小鳥「おかわりもってこーい!」
P 「事務所に帰るか!撤収!」
あずさ「あぁんいけずー!」
P 「あぁ、前職の時の趣味がらぁめん食べ歩きだったからな
貴音と食べ歩くようになったのはここ最近だが」
美希「そういえば、ハニー最近太った?」
P 「ぎくっ・・・!」
美希「だよねー
ベルトの穴が一つ増えてるもん」
P 「良く見てるな・・・
確かにこれは運動しないとやばいかもしれん」
真 「プロデューサー!運動ならボクにお任せですよ!」
P 「真・・・助けてくれ、これじゃあ俺、ブタ太になっちまう・・・」
真 「もちろんですよ!じゃあまずはマラソンからですね!」
P 「あんまりきつくないのを頼む」
真 「イヤですっ!」
? 「なんだこれは・・・!!
四条貴音のスキャンダル記事を握ったと思ったら
高木のやつ、逆手に取りおって・・・!
このままでは終わらんぞ・・・
おい!羅刹!」
冬馬「おいおっさん、そろそろその名前で呼ぶのやめてくれよ」
? 「セレブな私は旅行に行ってくる
それまでジュピターは何をすれば良いのか
ラーメンを食べて、考えておくんだな!」
冬馬「ラーメン?おい、意味がわかんねぇよ
待てって、おっさん!
おーい!!」
真 「おはようございます!!!」
P 「あぁ、おはよう・・・」
真 「プロデューサー!声が小さいですよ!
おはようございます!!!」
P 「おはようございますっ!」
真 「良い返事ですね!
じゃあ準備運動も終わったことだし、走り込み行きますよ!」
P 「待て、さっき5km走ったのは準備運動だったのか?!」
真 「今回は20kmです!さぁ立って!
765プローふぁいおっふぁいおっ!」
P 「まじかよ・・・ふぁいおっ」
貴音「貴音と」
P 「プロデューサーの」
春香 「らぁめん探訪ー!」
貴音「皆様、ごきげんよう
四条貴音でございます」
P 「貴音のプロデューサーです」
春香「ゲストの天海春香です!」
貴音「本日は東京の北、埼玉県は大宮で収録しております」
春香「プロデューサーさん!トップバッターですよ!トップバッター!」
P 「あぁ、トップバッターだな」
貴音「春香、なぜ春香が最初に選ばれたかというと」
春香「うん」
貴音「最初に伺うお店は二十郎だからです」
春香「えーっ?!二十郎?!
私行ったことないよ?!」
P 「なんで行ったことないんだ?」
春香「だって・・・怖いじゃないですか!
ロットバトルとか出来ないですよ!」
貴音「なるほど、これは適任ですね」
P 「だろう?」
ラーメン二十郎の大宮店に伺っております」
貴音「本日はよろしくお願い致します」
城島「よろしく」
ヒゲ「よろしくな」
春香「うわぁ、二十郎に初めて入っちゃった」
貴音「真、二十郎でございますね」
P 「あぁ、二十郎だな」
春香「黄色い看板に赤い机、あとロットバトル・・・」
P 「それだそれ、前半は大体合ってるが、ロットバトルなんて無いぞ?」
春香「えー」
春香「そうですねぇ
一番大きいラーメンを頼んだ人が二人以上いると、バトルが始まったり
20分以内に食べきれなかったらギルティ!って追い出されたり
もやしがこれ以上ないくらい載せられてたり
トッピングに特殊な呪文を唱えないといけなかったり・・・」
貴音「春香、一体どこからそのような知識を得たのですか」
春香「えっと・・・インターネットから、かな」
P 「残念だが、春香が言ったのは大半が誇張してある
二十郎はそんな怖い店じゃあないんだよ!!!!」バンッ!
P 「そうだな、それがいい」
春香「二十郎って食券だったんですね」
貴音「さらに、通常時は行列に並ぶ必要がありますが
大体30分も並んでいれば店内に入れるでしょう」
P 「ちなみに、二十郎大宮店では
食券を買ってから行列に並ぶローカルルールがある
他の店では店内に入った時点で買うからな」
春香「それですよそれ!
なんでそれを明示してないんですか?」
P 「なんでだろうな」
春香「なんでだろうなって・・・」
春香「大豚ダブルってなんですか?」
貴音「らぁめんの大きさが大、豚がたくさんという意味です」
P 「らぁめんは大きさが小か大が選べる
ただ小といっても通常のらぁめんより大分多いがな
その点大宮店は、小より下のミニがある」
春香「じゃあ私そのミニで!
豚っていうのはなんですか?」
P 「豚というのは、いわゆるチャーシューの事だ
チャーシューには似ても似つかないが
通常では2枚、豚では5枚、豚ダブルでは8枚入っている」
春香「うーん、2枚でいいかなぁ」
P 「春香はミニラーメンだな
俺は折角だから大豚ダブルを頂こう」
この食券だが、買ったら上に置く」
春香「それもローカルルールですか?」
P 「二郎のデファクトスタンダードだ
明示されていないが、どの店舗でも上に置く必要があるな」
春香「あ!私、ヤサイニンニクでお願いします!」
城島「出来上がったらもう一度聞きますので、
その時仰って下さい」
春香「うぅ・・・」
貴音「春香、こぉるは聞かれた際に答えれば良いのです」
春香「初心者には厳しいですよ・・・」
P 「ちなみに、油少なめと麺固めを注文する場合は今のタイミングでいいぞ
出来上がってからじゃ逆に遅いからな」
ニンニクとかカラメとか」
P 「確かに呪文みたいだよな」
貴音「真、二十郎が恋しくなる呪文でございます」
P 「コールの内容は
ニンニクはニンニクを入れるかどうか
通常はニンニクがゼロだ
ヤサイが野菜を増すかどうか
アブラがアブラを増すかどうか
カラメが醤油を足すかどうかだ」
春香「マシっていうのはなんなんですか?」
貴音「通常よりも多く、という意味です
ヤサイマシマシと言うと、大量の野菜が提供されるのです」
春香「じゃあ、ヤサイマシニンニクカラメ、って感じでいいんですか?」
P 「おお、上出来だな」
貴音「春香、そろそろですよ」
春香「うん・・・!」
P 「緊張することないぞ、肩の力を抜こうな」
城島「ミニラーメンの方、ニンニクいれますか?」
春香「えっ・・・あ、はい・・・え?」
城島「どうぞ」ドンッ
城島「大豚ダブルの男性の方、ニンニク入れますか?」
P 「ヤサイマシマシニンニクアブラカラメ」
春香「えっ?」
城島「どうぞ」ドンッ
城島「大豚ダブルの女性の方、ニンニク入れますか?」
貴音「ヤサイマシマシニンニクマシカラメ」
城島「どうぞ」ドンッ
P 「あぁ、悪い 言ってなかったな
コールの時は、”ニンニク入れますか”と聞かれるんだ」
春香「知らないですよそんなの!」
P 「ただ、さっきみたいに”はい”と答えてもいい
呪文を言わなくてすむから、初心者には安心だな」
春香「安心じゃないですよ・・・」
貴音「さて、春香・・・二十郎のらぁめんを見て、何か思うところはありますか?」
春香「えーとですね、やっぱりこれらぁめんじゃないです!」
P 「春香の言う通り、普通のらぁめんとはかけ離れてるな」
春香「野菜、って言ってももやしとキャベツが大量にあるだけだし、
麺もらぁめんの麺というよりうどんですよ!」
貴音「春香、そろそろ麺が伸びてしまいます
後は食べ終わってからで良いのではないでしょうか」
春香「そ、そうだね貴音さん」
P 「今日はいつにもまして美味しそうだな」
貴音「えぇ、真・・・」
春香「これからバトルが始まるんですね!?」
P 「だから始まらないって!
そもそも貴音のスピードに追いつけるわけがないだろう」
貴音「ひょいぱく ひょいぱく」
春香「うわぁ・・・」
P 「ずぞぞっ、むしゃむしゃ」
春香「はむっ」
貴音「プロデューサー、豚を一枚頂いてもよろしいでしょうか」
P 「ダメだ」
貴音「いけずです・・・
春香、豚を一枚頂いてもよろしいでしょうか」
春香「うん、いいよ」
貴音「春香は将来大物になりますよ
ひょいぱく」
春香、どうだった?」
春香「うぅ、口の中がしょっぱいです・・・」
P 「美味しかったか?」
春香「最初の一口は美味しかったですけど
それ以降はわからないかな・・・」
貴音「正に王道の答え、といった所でしょうか」
P 「だな
基本的に、二十郎は好き嫌いが別れる食べ物だ
一週間後、また食べたくなるかどうかが分かれ道だと思っている」
春香「多分もう食べたいと思いませんよ・・・」
P 「ちなみに俺は、今回は普通だったな
豚がもっと柔らかければ神二十郎だった」
貴音「えぇ、私も同じ意見です
麺の湯で加減は最高でした」
あれ、チャーシューじゃないですよね?」
P 「そうだな
だから”豚”と呼ばれているんだ」
春香「なんていうか・・・やっぱり二十郎はらぁめんじゃないです!」
貴音「やはり、春香もそう思いますか!」
P 「らぁめん二十郎はらぁめんではない、という言葉もあるぐらいだからな
だが、俺は立派ならぁめんだと思うぞ」
貴音「ちなみに大宮店は、私のほぉむでもあります」
P 「貴音のお勧めってことだな」
春香「うーん、ネットで噂を見てただけだから、
二十郎って怖い所だなーって思ってましたけど
それほど怖い所じゃありませんでした!
自分一人で並ぶとしたら勇気がいりますけど
また貴音さんと来るんだったら怖くないかもですね!」
貴音「春香さえ宜しければ、是非ご一緒致しましょう」
P 「うむ、その時は俺もついていくからな」
貴音「さて、では次の店に参りましょう
店長様、副店長様、本日はありがとうございました」
城島「ありがとう」
ヒゲ「次のご来店お待ちしております」
春香「じゃあ私はここまでですね」
P 「待て!春香!机を拭くんだ!」
春香「え?またローカルルールですか?」
P 「二十郎では、食べ終わった後は机を拭くのがマナーだ」
春香「やっぱり二十郎は怖いなぁ・・・」
P 「いや、最後にだな」
貴音「プロデューサー、春香、これを」
春香「なんですかこれ」
P 「トリイサンの黒烏龍茶だ
脂肪の吸収を抑える効果がある」
貴音「トリイサンは今回の放送のすぽんさぁとなっております
ふふ、これを飲んで、一区切りと言うわけです」
春香「へー・・・ごくごく・・・
えっ?!なにこれ、おいしい!」
P 「だろう?」
貴音「二十郎を食べ終わった後の黒烏龍茶は格別です」
春香「ちょっと癖になりそうかも・・・」
P 「ということで、最初のゲストは春香でした!」
春香「ありがとうございました!」
貴音「気をつけて帰るのですよ」
営業時間 11:00~14:00 17:00~22:00
定休日 無し
臨時休業の場合はメールマガジンで連絡アリ
メニュー ラーメン:650円
ミニラーメン:600円
大盛り:750円
豚増し:+100円
豚W:+200円
味付きうずら:100円
刻みタマネギ:100円
期間限定でつけ麺を提供
特殊ルール:行列に並ぶ前に店内入り口左の食券を買う
P 「その前に、次のゲストを呼んでおこうか
あずささーん!」
あずさ「はぁ~い
只今ご紹介に預かりました、三浦あずさと申します~」
貴音「あずさはらぁめんは良くお召になるのでしょうか」
あずさ「ん~、それほどじゃあないけれど、
普通の人ぐらいには食べるわよ~
ところで、私はどのお店に行くのかしら?」
P 「次のお店は・・・着くまで秘密です」
あずさ「あらあら♪」
P 「そう、こってりといえばここ、天上一品!」
あずさ「あらあら、天一ね~
お酒を飲んだ後はすごいおいしいのよね
プロデューサーさんも良く行くんですか?」
P 「いや、俺は時々しか行かないですが・・・
ただ、時々天一のこってりが無性に食べたくなる時があるんですよ」
貴音「プロデューサー、その気持ち良く存じております
一ヶ月も天上一品から離れると、生きた心地が致しませんから」
あずさ「あら?そこまでのものだったかしら?」
こってりについて説明は不要でしょうか」
あずさ「ダメよ、貴音ちゃん
視聴者の方は天上一品か何かわからない人もいるんだから」
P 「確かにそうだな
貴音、こってりについて説明してくれ」
貴音「そうですね
こってりは、あっさりに比べてこってりしており」
P 「その説明じゃわからないぞ」
あずさ「こってりがあっさりよりこってりで、
こっさりがあってりで・・・あら?」
P 「正直俺も口で説明する自信が無いから、
注文しちゃおうか」
P 「あぁ、こってりだな」
あずさ「お酒が欲しくなりますね~」
P 「ダメです!まだ日が明るいんですからね!」
貴音「こってりとは・・・そう、普通のらぁめんではありえないほど
麺にすぅぷが絡みます」
P 「そうだな・・・
天上一品のスープは濁っているから、
視覚的にも麺に絡んでるように見える」
貴音「すぅぷはどろっとしていて・・・
ここまでどろっとしている豚骨は天上一品以外には中々ありません」
あずさ「あらあら、二人ともらぁめんの話になると目の色が変わるんですね~」
俺は食べたことがないんだが、一部店舗には
こっさりと言うものが存在するらしい」
あずさ「こってりと、あっさりの中間って事かしら~?」
P 「どうもそのようで、”こっさり”もしくは”二号”と注文すると
出てくるみたいです」
あずさ「あらあら、じゃあ次はそのこっさりを頼んでみようかしら」
貴音「いわゆる裏めにゅぅという物ですね」
P 「なんか通ぶってるように見えるよな」
貴音「二十郎の呪文も同じようなものです」
貴音「ひょいぱく ひょいぱく」
あずさ「しゃっきりぽん」
P 「毎回思うが、貴音は良くそんな風に食えるな」
貴音「私とてアイドル、無様な姿は見せられません」
P 「らぁめんを食べてる様子がさまになってるのが、
アイドルの辛い所だよな」
貴音「いけずです・・・」
あずさ「本当美味しかったわ~」
P 「もう一杯食べたいな」
貴音「今回の天下一品も、通常のらぁめんとは
大幅にずれていますね」
P 「そうだな
まずスープがスープじゃない
らぁめんとは別の進化系だ」
あずさ「あら~、天一の器って、底に何か書いてあるのね~
普段はスープを全部飲まないから、気づかなかったわ~」
貴音「”明日もお待ちしてます”と書いてあります」
P 「小さな気配りだよな
俺はこれがあるから、毎回スープは飲み干してる」
あずさ「確か、天一ってチェーン店よね?
こんな癖が強い物が全国にあるなんて、全国的に人気ってことかしら
美味しいものがどこでも食べられるなんて、幸せな時代に生まれたものね
それにしてもお酒遅いわねぇ」
P 「お酒は頼んでませんよ」
貴音「代わりに黒烏龍茶をお飲み下さい」
あずさ「うふふ、貴音ちゃんありがとう」
P 「ということで、ゲストの三浦あずささんでした!」
あずさ「天上一品で私と握手~♪」
P 「そんな企画ありません!」
貴音「二十郎で私と握手・・・」
営業時間 店によってまちまち
定休日 上に同じ
メニュー:らぁめんには”こってり”と”あっさり”があり、
同じ値段で選択出来る
なお、中間の”こっさり”もある模様
また、セットメニューも充実しており、1,000円もあれば十分豪遊可能
個人的にお勧めは、チャーハン+こってりスープのラーメンチャーハン
P 「今日はあと2件回る予定回る予定だ」
貴音「ふむ、そろそろ満腹の頃だと思われますが、如何でしょう」
P 「そんなことないぞ、なんてったって・・・」
真 「25km走って、お腹ペコペコですもんね!」
P 「あぁ、正直立ってるのもやっとだがな」
貴音「というわけで、今回のゲストは真です」
真 「まっこまっこりーん!シャンシャンプリプリ 真ちゃんなりよー♪」
P 「カメラ止めて!放送事故!」
真 「事故じゃありませんっ!」
P 「そうだな
今回は、東京都赤羽駅降りてすぐの商店街で収録しています」
真 「商店街ってことは、なんかおしゃれならぁめん屋なんですか?」
P 「ふふ、それはとっぷしぃくれっとです」
貴音「プロデューサー!それは私のセリフですよ!」
P 「これ、叩くな貴音
お、そろそろ見えてきたぞ」
真 「えーっと、あれって・・・」
P 「赤羽店だ」
真 「うわー、初めてみた!
商店街の中にもあるんですね!」
P 「ここは比較的最近できた二郎でな、
商店街の中でも営業出来るっていうことは
世間的にも認められた、と見てもいいだろう」
貴音「プロデューサー、机が!
机が赤くありません!」
P 「確かに珍しいな」
貴音「真は二十郎初めてと言っていましたね」
真 「そうだね
だけど大丈夫!
さっき春香のVTR見て、勉強したよ!」
P 「そうか、それは頼もしい
じゃあ早速入ってみるか」
真 「はい!」
店員「いらっしゃいませー」
P 「貴音はいつもどおり大豚Wでいいか?
貴音「はい、それでお願いします」
真 「ボクはミニラーメンでお願いします!」
P 「残念だが、赤羽はミニラーメンは無いんだ」
真 「えっ?!
どうしよう、食べきれるかな・・・」
P 「安心しろ、ここの麺の量は基本的に少ない
小でも普通のらぁめん程度しか無いぞ」
真 「そうなんですか
二十郎は、店によってまちまちなんですね」
貴音「店による差と、時期による差、それが非常に多いのが二十郎」
P 「いつでも美味しい二十郎は、二十郎じゃない!」
P 「チェーン店ではないな
いわゆる暖簾分けってやつだ」
貴音「二十郎で下働きとして働き、一人前と認められた者は
そのものの希望により店主となる」
P 「そうして幾つもの二十郎ができてるんだ」
真 「へー じゃあ二十郎は、きちっとしたマニュアルは無いんですね」
P 「無いが・・・あまり二十郎から離れていると、二十郎の暖簾を外されるんだ」
貴音「二十郎評価委員会によって、二十郎が二十郎であるかの調査を受けるのです」
P 「あぁ、昔、武蔵小杉に二十郎があったんだ」
貴音「ですが、時が経つにつれ二十郎とは別の進化をしていった
味は確かに美味しいのですが、もはや二十郎とはいえなくなりました」
P 「麺も細いしな」
貴音「本店の再三の警告を無視し続けた結果・・・
本店の店長から破門され、店名も”らーめん546(こじろう)”に改名したのです」
P 「そこから、二十郎委員会が発足した、と俺は踏んでいる
それまではそんなの見たことも聞いたことも無かったからな」
真 「委員会・・・このステッカーですね」
真 「確か食券を上に置くんですよね」
P 「お、さすが勉強してるな」
真 「えっへへー」
店員「ニンニクいれますか?」
貴音「ヤサイマシマシニンニクアブラマシカラメ」
真 「えっ?」
店員「次の方、ニンニク入れますか?」
真 「えっ、あ、はい」
店員「次の方、ニンニク入れますか?」
P 「ヤサイマシマシアブラカラメ」
P 「悪いな、言うのを忘れていた」
貴音「赤羽店では、席に座って真っ先にこぉるを聞かれるのです」
真 「ローカルルールですか?」
P 「そうだな・・・俺も最初きた時はびっくりしたよ」
貴音「先に聞かれるのは、少数派ですね」
真 「むぅ、ボクも呪文唱えたかったなぁ」
貴音「言われてみればそうですね」
P 「ラジオの類が一切ないからな
他のお客さんが食べている音や、らぁめんを作っている音が
他店よりもよぉく聞こえる」
真 「今はボク達しか居ないから大丈夫ですけど
他のお客さんが居た場合は
あまりに静かすぎてすごい喋りづらいですね」
P 「静かだから、というよりは
二十郎では歓談はあまり推奨されないな」
真 「えっ、そうなんですか?!」
貴音「もちろん、多少話すぐらいは問題ありませんが、
らぁめんを食べ終わった後も席に座ったまま話をしていると
ろっとなるものが乱れてお店に迷惑をかけてしまいます」
P 「だから、複数人で食べに行った時でも
食べ終わったらすぐに店を出るのが礼儀なんだ」
P 「うむ、二十郎だな」
真 「うわぁ、プロデューサーと貴音のはもやしがすごいね」
貴音「このもやしを食べないと、二十郎にきたという心持ちがしません」
真 「なるほど・・・ぱくっ・・・」
P 「どうだ?真」
真 「うーん、思ったより麺が柔らかいです」
P 「だろう
先ほど行った大宮店は麺が固めだが、
赤羽店は逆にやわらない
ちなみに麺固めで注文すると、麺がぽきぽきいう食感になるぞ」
貴音「プロデューサー、麺が伸びてしまいます」
P 「おう、すまんすまん」
P 「おぉ、今度は擬音すらなくなったな」
貴音「プロデューサー、まだ豚が3キレも残っていますよ
お手伝い致しましょう」
P 「ダメだ」
貴音「いけずです・・・」
真 「ずずず・・・」
P 「真、スープは飲まなくていいんだぞ」
真 「ちょうどいい感じでしたね
しょっぱすぎず、薄すぎずって感じです」
P 「なるほど、神二十郎だったってわけだ」
貴音「私は、豚が非常に美味しく頂けました
麺がもう少し固ければ神二十郎となっていたやもしれません」
P 「確かにここの豚は美味しいな」
真 「確かに美味しいし、ボリュームもたっぷりで
プロデューサーや貴音が夢中になるのもわかる気はする
けど、絶対カロリーがどうかな?
体を頻繁に動かす学生が食べるならまだしも、
アイドルやプロデューサーが頻繁に食べるのは危険だと思うよ」
P 「う・・・確かに」
貴音「二十郎にかぎらず、らぁめんを食べたら一定の運動が必要なのですね」
P 「貴音は、らぁめんを食べたエネルギーはどこへ行ってるんだよ」
貴音「とっぷしぃくれっとです」
真 「やーりぃ!黒烏龍茶だね!」
P 「ありがとう、貴音」
真 「ごくっ、ごくっ・・・
うわ!美味しい!
もしかしたら、二十郎より美味しいかも?!」
P 「そう思うよな?
多分二十郎より美味しいぞ」
貴音「この時程、黒烏龍茶が真価を発揮することはありません」
P 「トリイサンがスポンサーじゃなくても、きっと黒烏龍茶飲んでたろうな」
貴音「こればっかりは譲れません」
P 「ということで、ゲストの菊地真でした!」
真 「きゃっぴぴーん!」
貴音「面妖な・・・」
プロデューサー、次のらぁめん屋はどちらでしょうか」
P 「いわゆる二十郎系だな
いや、二十郎系とはまた新たな進化先と行ったところか」
貴音「ふむ・・・」
P 「そして今回のゲストは、この人だ」
小鳥「皆さんこんにちは!
765プロの小さなオアシス、音無小鳥です!」
貴音「小鳥嬢ですか」
P 「なんか監督が気に入っちゃったらしくてな
アイドルじゃないがしょうがなくキャスティングしたよ」
小鳥「ちょっとそこ!聞こえてますよ!」
小鳥「なんか私の評価おかしくないですか?」
P 「音無さんはそういうの見慣れてるでしょう?」
小鳥「もう!見慣れてませんよ!失礼ですね!」
P 「痛い痛い!落ち着いて!」
小鳥「で、なんですか?
しもつかれでも食べに行くんですか?」
P 「さすがにそこまでは行かないかな・・・」
貴音「やはり、今回も現地に行くまで」
貴音・P「とっぷしぃくれっとです」
貴音「黄色い看板に”にんにく入れましょう”の文字・・・
二十郎に酷似しています」
P 「もしかして、貴音は初めてか?」
貴音「はい、このようなおどろおどろしい豚の文様、初めて拝見致しました」
小鳥「あーん、確かラーメン博物館で見た気がするー」
P 「音無さんって、意外と遊び人なんですね」
小鳥「プロデューサーさんこそ、貴音ちゃんとらぁめん食べてほっつき歩いて!
デートしすぎですよ!」
P 「カメラさん、編集でカットして下さい」
P 「あぁ、ジャンクガレージは二十郎系インスパイアとして
一部で熱狂的な支持がある
そして、一部では二十郎を超えたとまで言われているそうだ」
小鳥「ここではギルティとかあるんですか?」
P 「二十郎に比べて、比較的緩いから
こうしなきゃいけない、なんてのは無いな」
貴音「ふむ、二十郎系のインスパイアがどのようなものか
実際に食してみましょう」
二種類があるようですが」
P 「今回はまぜそばを頂こう」
小鳥「まぜそば?お蕎麦ですか?」
P 「いや、まぜそばは まぜそばだ
見ればわかる」
貴音「普通のらぁめんは頼まないのですか」
P 「今回は頼まなくていいだろう
いいか、ジャンクガレージにきたら、必ず最初はまぜそばを食べてほしい!
それぐらい、まぜそばはインパクトがでかいんだ」
小鳥「特製まぜそばってなんでしょう」
P 「お、ちょうどいいです、小鳥さんは特製まぜそばを頼んで下さい」
P 「ラーメン大や、富士丸なんかだな
それ以外にもゴリメンとか小さいお店でも増えてきている」
貴音「二十郎が世間に受け入れられている証拠でしょう」
P 「二十郎は見た目は簡単だからな
麺は太い小麦粉、スープは豚骨にカネシ醤油、
豚はスープを作った時に出来る物で、野菜はもやしとキャベツ」
貴音「後はにんにくと油を入れれば二十郎、ですか」
P 「実際、にんにくを大量に入れればそれだけで二十郎に近くなるからな」
貴音「油とうま味調味料を入れれば、それだけで味は確保できます」
P 「今後二十郎系インスパイアが増えるのは構わないが、
ただ真似しただけではなく、何か一アイディア欲しいところだな」
貴音「最初は真似だけでも良いのです
真似ることが完璧にできたのならば、次は工夫を加えてみる
その積み重ねでらぁめんは進化していくのだと、私は信じています」
P 「そうだな、ジャンクガレージでは
野菜、ニンニク、アブラ、チーズ、課長の中から選べる
ただし、野菜はらぁめんのみ、
チーズはまぜそばのみトッピング可能だ」
小鳥「あのー、課長ってなんですか?」
P 「化学調味料だな」
小鳥「化学調味料?!
それって大丈夫ですか?なんか体に悪そうなイメージですけど」
P 「イメージだけです、大丈夫
昔は化学調味料は石油から作ってましたから
確かに体に悪かったですが・・・
今は別の方法で作られていて、体に問題は無い、とされています」
貴音「しかし、化学調味料の入れすぎも、味のバランスが崩れてしまいます」
P 「外食やコンビニ弁当なんかは、基本化学調味料が入ってると言って差し支えない
それぐらい、一般的な物なんだ」
店員「ニンニク入れましょう!」
小鳥「えっ、あ、はい」
店員「ニンニクだけでよろしいですか」
小鳥「えっと、じゃあチーズも入れて貰えますか」
店員「はい」
P 「初心者には聞き返してくれるのも、インスパイア系ならではだな」
貴音「ろっとの間が長い為出来る芸当でしょう」
小鳥「どんならぁめんなんで・・・しょう・・・」
貴音「なんと!」
P 「うむ」
貴音「あなた様!すぅぷが!ございません!」
小鳥「なんか見た目グロいですね・・・」
P 「それが、まぜそばだ」
小鳥「まさか、まぜそばだから、これを混ぜる・・・?」
P 「その通り」
小鳥「うぅ・・・なんか美的感覚が狂いそう」
P 「お世辞にも快い見た目という訳にはいかんな」
貴音「まさにじゃんく、と言えるでしょう」
混ぜる前:ttp://tabelog.com/saitama/A1101/A110103/11004783/dtlphotolst/P9755603/?ityp=1
混ぜた後:ttp://tabelog.com/saitama/A1101/A110103/11004783/dtlphotolst/P9755616/?ityp=1
P 「ちなみに、特製まぜそばは、普通のまぜそばにプラスして
ベビースターとエビマヨネーズがトッピングされている」
小鳥「まさかとは思いましたが、これベビースターだったんですか?!」
貴音「らぁめんにべびぃすたぁらぁめんを乗せるなど、奇天烈としか言い用がありません」
小鳥「うわぁ・・・見ようによっては、しもつかれよりも強烈ですよ・・・」
P 「味は保証します
騙されたっ!と思って食べてみて下さい」
小鳥「プロデューサーさんがそこまで言うなら、食べますけど・・・」
こんなちっさい皿でどうやって混ぜんだよ・・・うまそうだけど
上に乗ってる茶色っぽいドロッとした奴は何?
あ ぶ ら
サンクス
貴音「ひょいぱく ひょいぱく」
P 「・・・いかがですか」
小鳥「ん・・・思ったよりは悪くないですかね」
貴音「確かに、見た目に目をつぶりさえすれば、
味は中々のものです」
P 「そうだろう?
スープがなくてもちゃんとらぁめんらぁめんしてる
一体、らぁめんってなんだろうな」
貴音「これがらぁめんである、という主張であらば
首を傾げざるを得ません」
P 「実際、このまぜそばはらぁめんと似ても似つかない、異色だ
らぁめんではない、というのも理解できなくは無いな」
小鳥「水!プロデューサーさんお水下さい!」
P 「あぁ、はいはい」
貴音「私にもお願いします」
小鳥「貴音ちゃん、食べるの早いわよー」
P 「慣れて下さい」
貴音「確かに、味は良かったでしょう
ですが、日本では食事は目でも楽しむものと聞きます」
P 「食欲をそそるような見た目ではないな
実際、女性でまぜそばを食べる客はあまり見たことがない
女性で二十郎に行く客も居ないが」
小鳥「居たとしても、せいぜいカップルとかですよね」
貴音「そうです
私は好いておりますが、一般的な女性が二十郎の味を好むとは
到底思えません」
P 「二十郎系インスパイアは、女性客をどのようにして取り込むかが
勝利の鍵となりそうだな」
小鳥「今までらぁめんって言ったら、至って普通のらぁめんだったり
替え玉のある、とんこつらぁめんだったけれど
日本には私の知らないらぁめんが、まだまだあるのね
らぁめんとはかくあるべし、という固定概念について
よくわかったつもりよ」
P 「貴音も初めてだろう
どうだった?」
貴音「まだまぜそばを、らぁめんと認めるのは時間がかかるでしょう
ですが、味自体は非常に美味であり、
決して二十郎に引けを取らないと言えるでしょう」
P 「そっか、貴音も音無さんも、それぞれ思う所があったみたいで良かったよ!」
小鳥「後は見た目なんですが・・・
よく今回放映出来ましたね」
P 「本放映ではモザイクをかけます」
貴音「プロデューサー、逆に汚く見えると思われます」
小鳥「黒烏龍茶ね!」
P 「やっぱりこれがないと締まらないよな!」
貴音「一日に4本も黒烏龍茶を飲んだのは初めてです」
小鳥「貴音ちゃん、体調崩さないでね?」
貴音「問題ありません」
小鳥「すごいわね・・・
私なんか、まぜそば一杯だけでお腹ギュルギュルいってるのに」
P 「では、今回のゲストは音無小鳥さんでした!」
小鳥「ピヨー」
営業時間 11:30~15:00 18:00~25:00
定休日 基本無休
メニュー まぜそば:750円
大盛り:+100円
特盛り:+200円
らぁめん:720円
大盛り:+0円
特盛り:+80円
その他、激辛レッドやカレー等あり
チェーン店を相当数展開しているので、
東京付近の県であれば店舗が見つかるだろう
いかがでしたか?プロデューサー」
P 「予想外に時間がかかったな」
貴音「おそらく、味の感想等を仰ったほうがよろしいかと」
P 「そうだな、正直4店舗が全部こってり系、といっても差し支えないので
次回はあっさり系のらぁめんも視野に入れたい所だ
貴音はどうだ?」
貴音「あっさり系、それもよろしいですね
今回は新しい出逢いがございました
果たして、あれはらぁめんと言えるのか・・・
それを差し引いても、素晴らしい出逢いと言えるでしょう」
P 「あぁ、そうだな」
貴音「次回も、新しい出逢いがあると信じて、今週は一旦お別れです」
是非是非、以下の番号までご連絡下さい」
貴音「めぇる、お電話、お葉書でのご連絡等お待ちしております」
P 「次回は、来週の月曜日、19:00から、ご覧のチャンネルで放映予定です」
貴音「皆様、宜しければ来週もお付き合い下さいませ」
P 「それでは、貴音とプロデューサーのらぁめん探訪」
貴音「また来週、お会い致しましょう」
・・・
貴音「プロデューサー、今度はまぜそばではなく、らぁめんが食べとうございます」
P 「えっ?!まだ食べるのか?!」
監督「はい、かぁーっと!」
度胸があるっていうか、カメラ慣れしてるっていうか
とにかくお疲れさん!」
P 「ありがとうございます」
監督「普通の人だったら、カメラの前に立っただけで
呂律が回らなくなるからね
その点キミはすごいよ
貴音くんもそう思うだろ?」
貴音「はい、プロデューサーの会話力には、目を見張るものがあります
現アイドルである私でさえも、
油断をすると負けてしまうでしょう」
P 「いや、そんなことないって」
監督「とにかく、だ!
この調子で、来週も頼むよ!ガッハッハ!」
P 「善処します」
こんなにらぁめん食べて、胃もたれとかなったりしないの?
社長「いやー!素晴らしい!
キミが、プロデュースだけでなく俳優もやれるとは!」
小鳥「たまには社長の思いつきも役に立ちますね」
P 「いえ、俳優なんてとても無理ですよ!」
小鳥「またまた、そんなご謙遜しちゃってー」
ガチャッ
律子「プロデューサー殿ー?」
P 「なんだ、律子」
律子「プロデューサー殿宛のファンレターですよ」
P 「・・・は?」
社長「いや素晴らしい!
まさかこんな短期間でファンまで手に入れるとは!」
P 「いやいや待って下さい!
多分ただの全国のらぁめん好き同士ですよ!
ですから!決して、またピンと来ないでください!!」
真 「おはようございます!!!」
P 「おはようございます」
真 「ボク、プロデューサーがどれだけカロリーを摂取してるのか
甘く見積もってました!反省します!」
P 「いや、反省しなくていいよ」
真 「ということで、今週は走りこみを30kmに増やしますね!」
P 「増やさなくていいよ」
真 「これもプロデューサーの為なんです
今日も美味しいらぁめん食べたいですよね?
はい、じゃあ準備運動!5kmジョグですよ!」
貴音「貴音と」
P 「プロデューサーと」
亜美「亜美と!」
真美「真美の、らぁめん探訪!」
貴音「皆様、ごきげんよう
四条貴音でございます」
P 「貴音のプロデューサーです」
亜美「かわいい方の亜美でーす!」
真美「セクチーな方の真美でーす!」
貴音「本日は東京都、品川区で収録しております」
亜美「兄ちゃん!このメンツで収録すると、嫌な予感しかしないよ!」
真美「デ・ジャ・ヴュってやつだよ!」
P 「少しは我慢しなさい」
亜美「この前、お姫ちんと二十郎いったじゃん?」
真美「ヤサイというよりもやしタワーが出てきたじゃん?」
亜美「あんなのラーメンじゃないよ!」
真美「スペクトラルタワーだよ!」
P 「また訳の分からない例えを出して・・・
安心しろ、二十郎はヤサイマシと言わなければ
ありえない量にヤサイは出てこない」
真美「とかなんとか言っちゃってー
実はどっきりでした!って落ちでしょー?」
貴音「行ってみれば自ずと分かるでしょう
さぁ、プロデューサー
本日の戦地へ導くのです!」
二十郎 品川店です」
貴音「ついにやって参りました
二十郎、品川店!」
真美「嫌な予感しかしないね、亜美」
P 「まぁもしもがあっても、
一応今回は貸切だからな
時間はたっぷりあるぞ」
亜美「死亡フラグってやつかな、真美」
貴音「自分の食べられる量を把握し、
それ以上頼まなければ良いだけの話
自分の限界を理解するのです」
真美「限界を超えろ!」
貴音「はい、それでお願いします」
P 「お前らは・・・そうだな、二人で1杯食うか?」
亜美「ほんとー?!さっすが兄ちゃん!」
真美「真美達の事わかってるー!」
亜美「二人で1杯なら、大でも食べられるかな?」
真美「もちろん!当たり前だのクラッカーっしょ!」
貴音「二人とも、大丈夫でしょうか」
P 「大丈夫だろ、品川店は”麺の量”はそれほど多くない
スープも甘めだし、あいつらでも十分食えるよ」
貴音「では、大豚W3つ、ですね」
貴音「そうですね・・・
ヤサイマシマシニンニクアブラカラメ、と答えれば良いかと」
P 「それもいいんだがな、品川はヤサイの注文方法が少し違うんだ」
亜美「ってゆーと?ヤサイチョモランマ!とか?」
P 「近いな
品川はヤサイマシの上が”ダブル””トリプル”と続くんだ」
真美「その上はー?」
P 「”タワー”」
貴音「タワー・・・心が揺り動かされる響です」
真美「うわー、絶対そんなの食べられないよ!」
P 「そうだな、だからお前らは絶対にコールするなよ?
いいか?絶対だからな?
絶対”ヤサイタワー”と言っちゃあダメだからな?」
貴音「ヤサイタワーは禁忌の呪文です」
貴音「ヤサイタワーニンニクマシアブラカラメ」
真美「今アイコンタクトで会話してた!」
亜美「ツーカー?」
P 「いや、この店舗は視線を送ってコールを聞くことがあるんだ
もちろん、アイコンタクトを送って反応がなければ
直接聞くけどな」
店員「チラッ」
P 「ヤサイタワーニンニクカラメマシマシ」
店員「チラッ」
真美「ヤサイ」
亜美「タワー!」
真美「・・・亜美ー?」
P 「Oh・・・」
亜美「何あれ、タワーっていうよりエアーズロックだよー」
店員「残さないのであれば、もっとませますけどどうしますか」
貴音「お願いします」
店員「はい」
参考画像
真美「なにあれ」
亜美「わかんない」
P 「お、次は俺か」
店員「ましますか?」
P 「はい」
亜美「ねぇ、真美、これ亜美達だけまさなかったら
負けかな?」
真美「もう負けでいいと思うよ」
ヤサイタワーで、かつラーメン大を選んだ客にのみ
野菜の追加マシを持ちかけられることがある」
貴音「その時は、このように小皿で別に野菜が運ばれてくるのです」
真美「小皿?」
亜美「きっと小皿だよ、諦めよう」
貴音「さぁ、亜美、真美
今日はもやし祭りです
この幸福の一時、ともに楽しみましょう!
ひょいぱく」
P 「ぱくぱく」
亜美「うえーん!地獄だー!」
真美「うぅ、泣けるぅー」
真美「お姫ちん早っ?!
まだもやししか食べてないよー!」
P 「慣れろ」
亜美「うぅ、もやしが減らないよー」
P 「ちなみに、ヤサイ通常形態はこんな感じだな」
参考画像
真美「真美これがいいー」
貴音「自分で頼んだ分は、自分で処理するのです」
亜美「うぇー」
貴音「しかし、さすがにこれは酷と言うもの
豚が余っていれば頂きましょう」
調子にのった挙句のもやしは美味いか?」
真美「わかんない」
亜美「知らない」
真美「小麦粉か何かだ」
貴音「当然の報いですね」
P 「うむ
二十郎が有名になっていくにつれ、
高校生等も二十郎に増えていくことになった」
貴音「そして調子に乗った高校生が、
ラーメン大豚W、ヤサイマシマシを注文して」
P 「そして撃沈する」
貴音「二十郎では、まず自分の限界を理解するのが先決です」
P 「そろそろか、貴音、もやしを食べてあげなさい」
はじめに行く店舗ではラーメン小から食べるのが鉄則だな」
貴音「甘めにみて、ラーメン大のヤサイ普通でしょうか」
P 「店舗によって量はバラバラだし、味もバラバラだ
この放送を見て、二十郎に興味を持った人も、
残さない、残らない、退っ引きならないの
3つのNoを覚えて置いて欲しい」
真美「兄ちゃん!普通の麺は美味しいよ!」
亜美「すこーし伸びちったけど」
P 「用量、用法を守れば、これほど美味いらぁめんは無いからな」
貴音「ちなみに、一つのらぁめんを二人で食べる行為は
ぎるてぃとなります」
P 「ぎるてぃなんて実際無いが、あまり推奨されないって事だな」
真美「もやし」
亜美「やもし」
P 「確かにあのもやしの量は圧巻だよなぁ」
真美「野菜とか言っておきながら、もやししか無いんだもん!」
亜美「キャベツとか飾りですよ!兄ちゃんにはわからんのですよ!」
貴音「品川は微乳化したすぅぷと少ない麺の影響で
二十郎初心者にもお勧めしやすい店舗でしょう
しかし、初心者のうちはヤサイは増さないほうが良いかと」
P 「ヤサイの下は美味かったろ?」
亜美「うん、おいしかった!」
真美「新時代の幕開けを見た!」
P 「それは良かった」
亜美「お姫ちんありがと→」
真美「もうお姫ちんらびゅんだよ!」
P 「毎度悪いな」
亜美「ごくごく・・・
くはぁー!効きますなー!」
真美「まったく、極楽ですな!」
貴音「黒烏龍茶は摂取した脂肪の吸収を抑える効果があります
大量に摂取して疾患が治るものではありません」
P 「スポンサーのトリイサンから、黒烏龍茶でした」
亜美「それじゃあ亜美達はこれで!」
真美「ばいばーい!兄ちゃん!お姫ちん!」
貴音「ゲストの双海姉妹でした」
営業時間 平日 11:00~14:30 17:00~21:00
土曜 11:00~14:00 昼営業のみ
定休日 日曜・祝日
メニュー ラーメン小:700円
ラーメン大:800円
豚増し:+100円
豚W:+200円
煮玉子:100円
特記事項:品川店にはロットと呼べるロットが無く、
お客さんが入って来次第麺を茹でる
並ぶ時間は大体1時間程度
あっさり系のらぁめんを選択する、と仰ってましたね」
P 「おぉ、そうだ
次に行く所は、俺お勧めのあっさりらぁめんだ
疲れた体に染み渡るぞ」
貴音「ふむ、薬膳らぁめんでしょうか・・・」
P 「そして、今回のゲストは、この人だ」
千早「あの・・・こんにちは、如月千早です」
貴音「はて、千早ですか」
P 「どうかしたか?」
貴音「たしか千早は、あまりらぁめんが好きではないはずでは?」
P 「そうだ
だから、今回の収録でらぁめんを好きになってもらおう、と
お節介ながら計画してみた」
千早「期待に添えるかわかりませんが・・・」
貴音「熱そうな店名ですね」
P 「そんなことないぞ、どちらかというと最高にCoolだ」
千早「・・・」
P 「なぁ、千早
千早はなんでらぁめんが嫌いなんだ?」
千早「嫌いじゃありません!
ただ、ラーメンは・・・ラーメン特有の刺激が苦手で・・・
それに、口に入ってしまえば皆一緒じゃないですか」
P 「ふむ、わかったよ、千早
まさに火頭山のらぁめんは千早にぴったりだ!」
貴音「一体どのような薬膳らぁめんが出てくるのか、興味が付きません」
千早「はぁ・・・」
P 「そうだな
一言でいうと、優しいらぁめんだ」
千早「優しいラーメン?」
P 「それ以上は言わない
実際に食べて確かめてくれ
ちなみにお勧めは塩ラーメンだ」
貴音「では、私はお勧めの塩らぁめんをお願いします」
千早「私もそれで・・・」
P 「三人塩らぁめんだな」
P 「そのようだな」
貴音「プロデューサー」
P 「なんだ?」
貴音「少々量が少なくありませんか」
千早「私からは普通ぐらいに見えるけど」
P 「つまり、そういうことです」
貴音「面妖な・・・」
P 「あんまり落胆するな、味は一級品だ
そこは残念な思いはさせないさ」
貴音「めんまにきくらげ、なるとにネギ・・・」
千早「柔らかそうなチャーシューに、一点の赤い梅干し」
貴音「これは、目にも心地よい綺麗さです
食べるのが勿体無いとは、正にこの事でしょう」
P 「だが、らぁめんは食べるものだ
千早、口にできそうか?
無理はするなよ」
千早「私、このラーメンなら・・・
四条さん、プロデューサー、私、食べてみます」
貴音「お肉は食べられなかったら頂きます」
P 「貴音、言葉の取捨選択は大事だぞ」
P 「・・・」
貴音「・・・」
千早「あれ?刺激が無い・・・」
貴音「・・・プロデューサー、私も頂いて宜しいでしょうか」
P 「いいぞ」
貴音「ひょいぱく ひょいぱく」
千早「はむ、もむもむ」
貴音「なんと!これはなんと優しい!」
千早「何これ・・・おいしいわ・・・
すごい・・・鳥肌が立ってきてる」
貴音「まったく癖が無く、豚骨であることを忘れさせるような味!
むしろそれ自体がこのらぁめんの癖なのですね!」
P 「あぁ、それが北海道初の優しいらぁめんだ」
その癖の無さを調和するように、
中央に添えられた小梅」
P 「見た目だけじゃなく、食べてもアクセントになる
まったく飽きを感じさせない、素晴らしい味だ」
千早「ごくごく・・・」
P 「千早?!
スープまで飲んだのか?!」
千早「プロデューサー・・・美味しいです
私、ラーメンは皆一緒だって思ってました
ですが、このらぁめんを食べて・・・私は・・・」
貴音「千早・・・」
P 「千早をここに呼んで良かったよ
まさか泣くほどとは、予想にもしなかったが」
千早「私、泣いてなんか・・・あれ、おかしいです・・・」
貴音「千早・・・お手洗いに参りましょう」
千早「はい、取り乱してしまい申し訳ありませんでした」
P 「いや、千早が無事ならいいんだ
千早がらぁめんを好きになってくれれば」
千早「プロデューサー・・・
一つ聞きたいのですが、あれは本当にらぁめんなのでしょうか
私が知っているらぁめんとは、似ても似つかないのですが」
P 「・・・さぁ、どうなんだろうな
貴音はどう思う?」
貴音「私は、らぁめんだと思います」
P 「そうか」
千早「あの・・・もし良ければ、また今度
火頭山に連れてって貰えますか?」
貴音「構いませんよ」
P 「あぁ、俺も問題ない」
千早「ありがとう」
P 「うーん、今回は要らないんじゃないか?」
貴音「それもそうですね」
P 「悪いが千早、持ち帰ってくれ」
千早「はい
トリイサンの黒烏龍茶、私も飲んでます!」
P 「それでは、今回のゲストは歌姫 如月千早さんでした」
貴音「またらぁめんを食べにご一緒しましょう」
千早「是非!よろしくお願いします!」
営業時間 店舗による
休業日 上に同じ
メニュー しおらーめん
みそらーめん
しょうゆらーめん
特選とろ肉らーめん
辛味噌らーめん
チャーシュー麺
各種大盛りあり
特記事項
関西よりも西には店舗は無い
海外に店舗展開をしており、外に出る日も安心
P 「おそらく、ああいうのが女性に受けるんだろう」
貴音「量もさほど多すぎず、女性向けというのが感じられました
ところで、次のらぁめんはなんでしょうか」
P 「次のらぁめんの前に、ゲストを紹介しよう
はい、どん!」
響 「はいさーい!自分、我那覇響だぞ!」
貴音「響でしたか!」
響 「貴音!会いたかったぞ!」
P 「天真爛漫沖縄元気っ子、
チャレンジ精神旺盛な我那覇響くんだ」
響 「そうだぞ!チャレンジ精神の塊だぞ!」
P 「はい、というわけで、今回は蒙古タンメン中卒にお邪魔しています」
貴音「蒙古たんめん?らぁめんでは無いのですか」
P 「らぁめんみたいなもんだと思う
というか多分らぁめんだ」
響 「ただのらぁめんなのか?」
P 「響を呼んだって事は、ただのらぁめんじゃあ無いんだ」
響 「へ?」
P 「なんていうか、辛い」
貴音「プロデューサー、”からい”か”つらい”かわかりません」
P 「両方だ 便利な言葉だよな」
響 「なんくるないさー!自分、ダンスやってるからな!」
貴音「ふふ、頼もしいですね」
P 「その言葉を待っていた!
突発!響チャレンジ!他局編!」
響 「うおー!チャレンジか!燃えてきたぞー!」
P 「中卒はらぁめんの種類によって、0辛~10辛まであるんだ
ちなみに辛いのが苦手な人は、辛さ控えめを選択出来るぞ」
響 「自分10辛だな!楽しみだぞ!」
貴音「響が楽しそうで何よりです」
響 「これは、つけ麺?」
P 「そうだ、多少冷えてるから、辛さは多少抑えられるだろう
ちなみに暖かいらぁめんで一番辛いのは、9辛の北極らぁめんだ」
貴音「私は、あまり辛いものに慣れていませんので、
ここは蒙古タンメンを頂きましょう」
P 「お、さすが貴音だな
初めての人はそれが一番だ」
貴音「らぁめん選びは慣れておりますので」
P 「ところで響、いい忘れてたんだが・・・
冷やし味噌らぁめんな、辛さ5倍に出来るんだよ」
響 「ひっ!」
P 「無理にとは言わないが・・・チャレンジするか?」
響 「うぅ・・・す、するぞ!自分完璧だから、
10辛の5倍でもなんくるないさー!」
P 「じゃあ俺は、普通の冷やし味噌らぁめんでも頼んでおくか」
参考画像
響 「うわー、辛そうだな」
P 「うむ、実際に辛い
だが、その辛さも二度三度と通ううちにやみつきになってくるぞ
お、俺のも来たみたいだ」
参考画像
響 「・・・赤いぞ」
貴音「赤いですね」
P 「赤いな・・・おっと、響のも来たみたいだ」
参考画像
響 「何なのだ、これは!どうすればいいのだ?!」
どうあがいても、しょせん地獄よ」
貴音「私は響を信じております」
響 「いや、これは・・・」
貴音「私の蒙古タンメンは、確かに辛いですが
それだけではない、爽やかさも含んでおります
きっとそのどろっとした何かも、爽やかさがあるでしょう」
P 「まぁ一口だけでも食べてみろって
意外といけるかもしれんぞ?」
響 「うぅ・・・一口だけだぞ・・・」パク
響 「うぎゃー!」
P 「まぁそうなるわな」
貴音「響!気を確かに!」
P 「ほら、響!ヨーグルトだ!食べろ!」
貴音「ヨーグルトは辛味を感じる味蕾を保護し、
辛味を抑える効果があります」
響 「ぎゃー!ぎゃー!」
------
響 「はぁ、はぁ・・・疲れたぞ」
P 「いくら辛いからって、暴れすぎじゃないか」
響 「ごめんだぞ、プロデューサー」
貴音「その赤い謎の液体はどう処理致しましょう」
P 「残すのは忍びない・・・よし、俺が食べよう
幸いヨーグルトはたくさん用意した
代わりに、響はこの普通の冷やし味噌らぁめんを食べてくれ」
響 「わ、わかったぞ!それぐらいなら!」
貴音「はて・・・」
響 「ちゅるちゅる・・・けほっけほっ」
貴音「ひょいぱく ひょいぱく」
P 「響、汗がすごいぞ 大丈夫か?」
響 「プロデューサーこそ・・・
あれ?全然汗かいてないな」
P 「おそらく、限界を突破すると・・・
汗は・・・
出ない」
貴音「真、美味でした」
響 「うぅ、貴音は食べるの早いぞ」
P 「慣れた」
響 「無いぞ」
貴音「その気持ち、よくわかります」
響 「しいて言うなら、らぁめんじゃないぞ!」
貴音「私の食べた蒙古タンメンは、
辛さと味のバランスがしっかりしており
決して普通のらぁめんに引けを取るようなものではありませんでした」
P 「今回は選んだらぁめんが悪かったな」
響 「今度は、チャレンジ無しで普通のを食べたいぞー!」
P 「そうだな、今度は3辛でも食べよう」
響 「うぅ、ありがたいけど・・・」
P 「多分、飲んだら、死ぬ」
貴音「ふむ、それほどまでに辛さが」
P 「トリイサンには悪いけれど、
黒烏龍茶は自宅に持って帰って飲ませて頂きます!」
響 「食後に一本!黒烏龍茶だぞ!」
貴音「以上、今回のゲストの、我那覇響さんでした」
響 「またやーさい!」
営業時間 店舗によって異なる
定休日 店舗によって異なる
メニュー (一部抜粋)
味噌タンメン:750円 辛さ3 ほぼ辛くない
蒙古タンメン:770円 辛さ5 味噌タンメンに麻婆豆腐が出会った
北極ラーメン:800円 辛さ9 温かいラーメンの中ではもっとも辛い
冷やし味噌ラーメン:770円 辛さ10 もはやラーメンではない
蒙古丼:800円 辛さ5 蒙古タンメンの上の具を、ご飯に乗っけてみました
特記事項:辛いメニューを食べた後は、お腹の調子及び
トイレに注意
いかがでしたか?響」
響 「もう辛いのはこりごりだぞ!」
貴音「プロデューサーは、あまりにも辛い物を食べ過ぎた影響で
倒れました」
響 「犠牲になったのだ!」
貴音「本日は二十郎、火頭山、蒙古タンメン中卒と回りましたが、
それぞれが別の方向を目指す、どれもまったく似ていないらぁめんでした」
響 「もう突き抜けちゃってるさー!」
貴音「次回は一体どのような出逢いがあるのでしょうか」
響 「プロデューサーから伝言だぞ!
次回は変わり種のらぁめんを用意しておく、って!」
貴音「はて、変わり種とはなんでしょうか
それでは、次回も新しい出逢いがあると信じて、今週は一旦お別れです」
遠慮しないでこの番号まで連絡くれよな!」
貴音「めぇる、お電話、お葉書でのご連絡等お待ちしております」
響 「最終回は、来週の月曜日、19:00から、同じチャンネルで放映するぞ!」
貴音「皆様、宜しければ来週もお付き合い下さいませ」
響 「それじゃ、貴音と響のらぁめん探訪!」
貴音「また来週、お会い致しましょう」
監督「はい、かぁーっと!」
いい絵が撮れたってもんだ!」
響 「へへっ、自分完璧だから、あれぐらいなんくるないさー!」
貴音「監督、ところでプロデューサーの様態は、いかがでしょうか」
監督「それに関してなんだが
今一番つらい状況らしい
オレっちには何も出来ないが、
峠を超えるまで、せめて見守ってやってくれや」
貴音「はい、わかりました」
響 「うぅ、プロデューサー!頑張るんだぞー!」
P 「お腹が・・・うぐぉっ?!
痛た・・・あぎぃっ?!」
律子「プロデューサー殿?お荷物ですよー」
P 「出会い頭にひどくないか?」
律子「いえ、プロデューサー殿宛にお荷物が届いたんですよ」
P 「なんだろう・・・はぁ?ヨーグルト?」
律子「この前放送した時に食べてたヨーグルト、
あれ雹印のヨーグルトだったみたいで、
あの放送の影響でちょっとしたヨーグルトブーム見たいですよ」
P 「まじか・・・
なぁ、黒烏龍茶は来てないのか?」
律子「あんまり横着してるといけませんよ?
ちなみに、黒烏龍茶は貴音が持って行きました」
P 「なんと!」
?「ふっふっふ・・・はーっはっはっは!
ついに!ついに見つけたぞ765プロ!」
冬馬「急に帰ってきたと思ったら、テンション高いな」
?「なんだ、羅刹ではないか」
冬馬「羅刹じゃねーってーの!
それよりも、ジュピターでラーメン食ってきたぜ」
?「つまらん、そんなことか
それよりも、もっと面白い情報があるぞ
なんと、あの憎き765プロのプロデューサーが、
逢引している現場を発見したのだ!」
冬馬「はぁ?!おいおい、あの鈍感野郎が逢引?!」
?「セレブである私に不可能はない
そして今日から、事務所付きのパパラッチを仕向ける
さて、何日で765プロの化けの皮が剥がれるかな?
はーっはっはっは!はーっはっはっはっはは!」
真 「おはようございます!!!」
P 「おはよう!真!」
真 「おっ、今日は元気いいですね!」
P 「なんか運動し始めてから、最近目覚めがいいんだ
これも真のお陰だな」
真 「そうですよ!
運動すれば落ち込んだ気分も直るし、
ダイエットにも効果的なんです!」
P 「よし、じゃあ今日も気合いれて走るか!」
真 「そうですね・・・プロデューサーも最近体力ついてきたし、
折角だからスポーツとかしませんか?」
P 「そうだな・・・お、あんな所にテニスコートがあるぞ」
真 「プロデューサー・・・ボクにテニスを挑むなんて、勇気がありますね
ボクは一時期テニスのプリンスって言われてたんですよ!」
P 「それはよかった、初心者同士で打ち合いしなくて済むんだからな」
真 「へへっ、覚悟してくださいねっ!プロデューサー!」
貴音「貴音と」
P 「プロデューサーの」
P・貴音「らぁめん探訪!」
貴音「皆様、ごきげんよう
四条貴音でございます」
P 「貴音のプロデューサーです」
律子「皆さんこんにちは
竜宮小町のプロデューサーにして元アイドル、
765プロ一の論理派、秋月律子です」
貴音「本日は神奈川県、鶴見で収録しております」
律子「で、プロデューサー殿?
なんでアイドルでも無い私が呼ばれたんですか?」
P 「んなもん、監督に聞いてくれ
なんでも元ファンだったとか」
貴音「もしかして、そのためにこの企画をOKしたんじゃ・・・」
P 「さぁ、細かい所は気にしないで行ってみよう!」
律子「確か、味噌野菜らーめんね
って、それを聞いてくるってことは、
もしかして味噌野菜ラーメン系のお店ってこと?」
P 「あぁ、二十郎だ」
律子「二十郎ですかー
あそこは味噌こそ無いけど野菜がたっぷり入ってて、
味噌野菜ラーメンに通じるものが
ってこらぁっ!」
貴音「これが本場ののりつっこみ、ですね」
P 「あぁ、覚えておけよ
後で必要になるかもしれん」
律子「そんな必要後にも先にもありません!
ほらさっさと!今日の取材場所に連れてって下さい!」
律子「とんでもない所で営業してるわねー
周りは道路で、人なんて集まりそうにも無いじゃない
飲食店は、人通りが多い所で営業するのが鉄則よ」
貴音「確かに律子嬢の言う通りです
しかし、二十郎はただの飲食店ではありません!」
律子「どういうこと?」
P 「二十郎にはな、遠くからでも人がやってくるような
魔力がこめられているんだ
人が居るから二十郎があるんじゃない
二郎があるから、行列が出来るんだ!」
律子「なるほど、確かに予想に反して人が居るわね
つまり、二十郎はそこに存在するだけで
ランドマークとなり得る、という事かしら」
貴音「私達も、いつかはそのような存在になりたいですね」
P 「あぁ、俺たちにならなれるさ・・・」
律子「二人共・・・微力ながら、私も協力するわ」
貴音「・・・せーの」
P・律子・貴音「アイドルマスター!」
貴音「私は大豚Wでお願いします」
P 「うーん、実はここでは大豚Wはお勧め出来ない」
貴音「なんと!」
律子「何か理由があるんですか?」
P 「そうだな・・・折角だ、頼んでみるか?貴音」
貴音「はて、なぜ私が選ばれたのでしょう」
律子「折角だから、3人で大豚Wとやらを頼みましょうよ」
P 「何が折角なんだよ・・・」
P 「良い所に気づいたな、貴音」
律子「なになに?ヤサイマシマシはご遠慮下さい?」
P 「そうだ、鶴見店では、ヤサイマシマシは出来ない
ヤサイマシはかろうじて可能だ」
貴音「はて、何か理由があるのでしょうか」
P 「基本、ヤサイというのは無料トッピングだからな
無料トッピングを頼まれれば頼まれる程、経営は苦しくなる」
律子「それでも、もやしなんて安いですから
マシマシでもいい気はしますけど」
P 「鶴見店はな、もやしとキャベツの割合が3対7なんだ」
貴音「なんと!7対3ではなく!」
P 「あぁ、キャベツのほうが多い」
貴音「それはなんと・・・早く食べたくなって参りました!」
貴音「ヤサイマシアブラ」
店主「中の方」
律子「にんにくでお願いします」
店主「左の方」
P 「ニンニクマシ」
P 「なんだ、律子コール出来るんじゃないか」
律子「えぇ、無様な姿を見せないよう、練習してきましたから」
貴音「ところで、プロデューサーはなぜヤサイマシにしなかったのですか」
P 「そろそろわかるよ」
P 「皆、立て」
律子「えっ、はい」
P 「立った状態で、器を手前に移動するんだ」
貴音「プロデューサー、異常事態です
すぅぷが今にも溢れそうです」
律子「むしろ、もう溢れてない?」
P 「そういうもんだ
しょうがない、手本を見せよう
まず、器を指先だけを使って持つ
あ、熱っ」
律子「あれは、どうやっても溢れるわよ」
P 「ふー、なんとか手前に置けたな」
貴音「プロデューサー!すぅぷがどんどんこぼれていきます!」
P 「あぁ、なぜか鶴見店は机が傾いている
ついでに、椅子も急に傾いて壊れるときがあるぞ」
P 「あぁ、だから立てって言ったんだ
こういう時はだな・・・
机の上の布巾で、堤防を作る!」
貴音「面妖な」
P 「これをしばらくしていれば、スープの溢れは止まり
落ち着いて食べれるようになる」
貴音「律子嬢、私共も行なってみましょう」
律子「えぇ、プロデューサー殿ばっかりに格好いい所は見せられないわ!」
P 「ちなみにこぼれたスープは左に流れるから、
つまり全部俺の方に来るわけだ」
貴音「面妖なっ!布巾が油まみれなどとっ!」
P 「俺は、鶴見店の布巾が油でギトギトじゃない時を知らない」
P 「らぁめん小を選ぶ、豚増しをしない、
この2つのうち、どちらかをすればスープ溢れは起こらないんだ」
貴音「小を選ぶと、器が小さくなって逆に溢れやすくなるのでは?」
P 「残念だが、鶴見店には器は一種類しか無いんだ」
律子「つまり、大を選んでも器の大きさは変わらないから・・・」
P 「そう、キャパシティを超えて溢れやすくなる」
貴音「食い意地が張っていると、大変な目に合うということですか」
P 「実際そうだから困る」
P 「あぁ、だがこういうアトラクションをやらせる為だけに
鶴見店を選んだんじゃないぞ」
貴音「なるほど、プロデューサーは鶴見店の味に自信を持っているのですね」
P 「そういうこった
まぁ落ち着いて食べてくれ」
律子「ぱくぱく ちゅるる」
貴音「ひょいぱく ひょいぱく」
P 「どうだ?」
律子「想像していた二十郎の味とは違くて
柔らかい美味しい味です」
貴音「味だけならば、大宮の
神二十郎の時にも引けを取らないと思います」
P 「だろう、なぜか味は美味い
乳化してるからか?それはよくわからんが」
貴音「後は麺がもう少々固ければ、最高の二十郎です」
律子「私はこれで満足だわ、麺の固さもちょうどいいもの」
律子「最初のぐだぐだから始まった時は
どうなることかと思いましたけど、
美味しいらぁめんにありつけてそこは良かった
ただ、スープが溢れるのとギトギトの布巾はダメダメですね
そこを何とかしたら、もっと繁盛店になるのに、勿体無い」
P 「確かに、鶴見に来た人は皆が思うことだよな」
貴音「味は真、美味ですが」
律子「二十郎というブランド力と、このらぁめんの味があるから
お客様は来ています
器や布巾がギトギトなのは瑣末な問題なのかもしれないですね」
P 「だが、それを味わった客が不快に思うのもまた事実だ」
貴音「美味なるらぁめんを頂いた後は、快く帰宅したいものです」
律子「ところでプロデューサー殿?
どこかに水道無いかしら」
P 「外にセブンイレブンがあるから、
お手洗いを借りて来たらいいと思うぞ」
律子「ありがとう」
P 「おう、ありがとう」
律子「ごくごく・・・
わ!美味しい!」
貴音「その顔を見るのも、二十郎を勧める際の楽しみの一つです」
P 「トリイサンの黒烏龍茶は二十郎にぴったりだからな」
律子「それではプロデューサー殿、貴音、本日はありがとう」
貴音「こちらこそ、ゲストに来て頂きありがたく存じます」
P 「それでは、ゲストの秋月律子さんでした」
律子「皆さん!竜宮小町、竜宮小町をどうか宜しくお願いしますねー!」
P 「プロデューサー根性に溢れてるな」
ラーメン二十郎 鶴見店
営業時間 平日 11:30~14:15 18:00~24:15
土日祝 11:30~15:00 18:00~24:15
※雨が振ると休日の可能性大
メニュー ラーメン小:600円
ラーメン小豚:700円
ラーメン小豚W:800円
ラーメン大:700円
ラーメン大豚:790円
ラーメン大豚W:900円
ビール:500円
特記事項
・一気に12人分程作る為、行列の前進が遅い
・大豚Wを頼むと、スープが溢れる可能性が高い
・ヤサイマシマシは不可(マシは可能)
貴音「はい、私達は今、栃木県宇都宮市に赴いております」
P 「まだ関東と言っても寒いな」
貴音「栃木県は盆地ですから・・・
ところで、前回プロデューサーは変わり種を用意した、と
仰っておりましたが、どのようならぁめんでしょうか」
P 「あぁ、かいつまんで言うと、見て楽しめるらぁめんだ
と、その前に、ゲストを紹介しよう
おーい」
美希「はいなのー!ハニ~♪」
監督「かぁーっと!」
美希「ミキ、何か悪いことした?」
P 「ハニーはまずい、ハニーは
スキャンダルをもみ消す!って意義もある放送で、
新たなスキャンダルなんか作ったら伝説になるぞ」
美希「伝説になるの?」
P 「いや、ならないから安心しろ
いつもどおり、プロデューサーで頼む」
美希「いつもだったら、ハニーでいいと思うな」
P 「おっけ、今だけ頑張ってプロデューサーで通してくれ」
美希「はいなのー」
P 「監督さん!こっちおっけーです!」
監督「次は気をつけろよっ!!」
貴音「はい、私達はただ今、栃木県宇都宮市に赴いております」
P 「栃木県は関東、と言っても、非常に冷えるな」
貴音「栃木県は盆地ですから・・・
ところで、前回プロデューサーは変わり種を用意した、と
伝言を残しておりましたが、どのようならぁめんなのでしょうか」
P 「かいつまんで言うとだな、見て楽しめるらぁめんだ
と、その前にゲストを紹介するぞ
おーい!」
美希「はいなの!プロデューサー!」
貴音「美希ですか
確か美希はらぁめんに興味なかったのでは?」
P 「あぁ、興味なさそうだった
だから、今回は興味が持てるようならぁめん屋を用意したぞ!」
美希「すごーい!さっすが・・・プロデューサーなの!」
P 「それも、こんな寒い日にうってつけの、な」
貴音「石焼らぁめん・・・でしょうか」
P 「そう、石焼きビビンバのらぁめん版みたいなもんだ」
美希「石焼だと、何かいいことあるの?」
P 「そうだなぁ、しいていうなら、時間がたっても
スープが熱々って事かな」
貴音「らぁめんは熱が冷めると、基本的に味が落ちます
例え食すのが遅くとも、長時間すぅぷが熱いならば
味の低下が抑えられるのですね」
P 「あぁ、それに味も美味いぞ、保証する
ただ、問題があってな・・・
いつまでも熱いから、猫舌の奴には向かないんだ
美希は猫舌じゃないよな」
美希「うん、猫舌じゃないよ」ペロッ
P 「そうか、それは良かった」
貴音「そうですね
プロデューサーのお勧めは何かございますか」
P 「お勧めはなんといっても、石焼野菜らぁめんだな
これは、醤油、塩、豚骨、味噌の4種類から選べるぞ」
美希「ミキは、この塩がいいって思うな」
貴音「では私は、豚骨を頂きましょう」
P 「それじゃあ俺は醤油だな」
貴音「面妖な・・・どこかの方言が書いてあります」
P 「栃木弁というやつだな
栃木県の南部はそれほど訛っていないんだが、
栃木県の北部に行くとはっきりわかる程なまりが出てくる」
美希「どんなことが、書いてあるの?」
P 「炎山のらぁめんを食べる手順について、だな」
美希「食べ方に手順があるなんて、なんかめんどくさいね」
P 「いやいや、それほどめんどくさくないぞ
今回は俺がレクチャーしてやるから、大船に乗ったつもりでいろ!」
貴音「えぇ、それでは宜しくお願いしますね」
美希「プロデューサー♪」
P 「俺も石焼らぁめん自体は久方ぶりだから、楽しみだな」
美希「ん?なにこれ
石鍋に麺と具材だけ入ってて、スープが入ってないの」
P 「これはな、隣にあるスープを店員さんが入れてくれるんだ
俺たちは、さっき貰った説明が書いてある紙をだな
こんな風に、鍋のちかくに立てて、
飛沫が飛んでこないようにガードする」
貴音「これで宜しいでしょうか」
P 「上出来だ」
美希「店員さん!もうスープ入れちゃっていいよ!」
貴音「では、最初は美希のらぁめんから入れて貰いましょう」
美希「ミキが最初でいいの?やったやったやったぁ!」
美希「わあっ!すごいぐつぐつっていってるの!」
貴音「これは見るからに熱そうですね・・・」
P 「熱いぞ
だから絶対に、石鍋には触れるなよ」
美希「わかったの」
貴音「店員殿、次は私のをお入れ下さい」
P 「貴音も見てて、やりたくなったか
ちなみに、スープを入れて2分ぐらい
大体ぐつぐつ言わなくなった頃が食べごろだな」
貴音「あなた様っ!面妖な!
ぐつぐつ沸騰しておりますっ!」
P 「!」
監督「(セーフセーフ)」
美希「そろそろ落ち着いてきたの」
P 「店員さん、俺のにもお願いします」
店員「はい」スー
シーン
貴音「面妖な・・・」
美希「いきなり落ち着いてるの」
P 「時々、なぜか、沸騰、しない
おそらく石鍋の温め時間が少なかったのか、
放置時間が長かったのかのどちらかだろう」
貴音「プロデューサー・・・」
P 「稀にこういうことがあるんだよな・・・
参っちゃうよなホント・・・はは」
P 「ん、ああ・・・落ち込んでる場合じゃないな
もちろん、食べていいぞ
ただ、これも食べ方があってな」
美希「食べ方とかめんどくさーい」
P 「食べ方といっても、”安全な”食べ方だ
失敗するとやけどするから気をつけろよ」
美希「はぁーい」
P 「といっても簡単だ、食べる時はこの小皿に移してから食べる
それだけだ
石鍋から直接食べると、絶対にやけどするぞ
あんなふうに」
貴音「熱っ!熱っ!」
P 「食い意地はるなってことだな
おい貴音、聞いてたか」
美希「分かったの!」
P 「それは良かった
貴音が重篤なやけどを負わなくて良かったよ」
美希「ずっと熱いままかと思ってたけど、
こうやってお皿にとって食べたら
簡単に食べやすい温度に出来るね!」
P 「そういえばそうだな、気が付かなかった
これで、2つのブレがなければ個人的に最高なんだがなぁ」
貴音「ぶれ、でございますか」
P 「あぁ、1つはさっきの石鍋の温度」
美希「意外としゅーねん深いの」
P 「もう1つは・・・肉、だ」
貴音「肉、でございますか
ぶれと申しましても、私が食した肉は
どれも美味でございましたが」
P 「味のブレじゃないんだよ・・・
数にブレがあるんだよ」
美希「へー」
P 「基本的に、一つの鍋に0~5個の肉が入っている
ちなみに俺のは、さっきから探してるんだが無いようだ」
貴音「なんと!」
美希「それは仕方ないの
運が無かったって思うな」
貴音「プロデューサー、もしかしたら醤油味には
肉が入っていないという可能性もございます」
P 「そうだな、きっとそうに違いない」
美希「きっと石鍋の中に放り込むんだと思うな」
P 「お、勘がいいな その通りだ」
貴音「白米を、らぁめんのすぅぷの中に?!」
P 「鍋をした後の、締めのおじやみたいな感じで
これはこれで結構美味いぞ!」
貴音「ふむ、らぁめんとして楽しみ、おじやとしても楽しめる
二度の楽しみが、この石焼らぁめんには詰まっているのですね」
常連はともかく一見さんからは苦情出るだろ
美希「ミキね、あんまりらぁめんには興味ないんだけど、
石焼らぁめんみたいに楽しくお喋りしながら食べるのは
悪くないって思うな
ミキ的には、また皆でらぁめんを食べに来て、
千早さんとかを驚かせたりしたい!」
P 「想像したより美希や貴音が喜んでくれたのは嬉しい誤算だったな」
貴音「味も美味でしたし、私は言うことはございません」
P 「栃木県を中心に、どんどんチェーン店を広げてる
石焼らーめん炎山、東京に進出する日も近いな」
美希「事務所の近くにできたら、一緒に行こうね!」
貴音「そうですね、美希」
美希「ありがとなの!」
P 「おう、毎度悪いな」
貴音「今回はそれほど油っこいらぁめんでは無かったので、
飲む必要性が感じられません」
P 「そんなことないぞ、らぁめんっていうのは
結構油を使ってるからな」
美希「ご飯食べたら、眠くなっちゃったの あふぅ
黒烏龍茶は起きたら飲んでいい?」
P 「おう、構わないぞ」
貴音「今回のゲストは、マイペースアイドル星井美希さんでした」
美希「トリイサン、ばいばーい!」
P 「思えば遠くまで来たもんだ」
貴音「地理的にはそこまで遠くではございません、
神奈川県は横浜西口」
P 「それでは今回のゲストは、この子だー!」
やよい「うっうー!ゲストにお誘い頂き、ありがとーございます!」
貴音「最後にやよいでしたか」
P 「あぁ、そしてやよいってことは、もう既に行く所が
バレているかもしれないな」
やよい「うー?なんですかー?」
貴音「えぇ、やよいといえば・・・あそこしかございません」
貴音「やはりこちらでしたか」
P 「ところで、先ほど紹介した石焼らーめん炎山の紹介を忘れてたんだが」
貴音「宜しいのでは?店舗によって異なる、でしょうし」
P 「そうだな」
やよい「あのー、なんで私と言ったら、このお店なんですかー?」
P 「よし、じゃあそこら辺の説明も含めて、まずは注文しようか」
貴音「一風堂は、確か豚骨らぁめんでしたね」
P 「そう、そして、味は大別して4種類
豚骨の味がシンプルな白丸元味と、
醤油と辛味噌の味が香る赤丸新味、
白丸ベースのスープに肉味噌をトッピングしたからか麺、
最後に、かさね味だ」
やよい「かさね味って、なんですかー?」
P 「なんだろうな
俺が聞いた時は、赤丸と白丸を
絶妙に調合してできたもの、と聞いたが・・・」
貴音「かさね味は、数ある一颪堂の店舗でも
銀座、町田、高崎、そしてここでしか食すことが出来ない
店舗限定の味なのです」
やよい「そうなんですかー?すごいですー!」
P 「やよいは何か食べたいの決まったか?」
やよい「そうですねー、一番安いのがいいかなーって」
やよいはかさね味でいいな」
やよい「だめですよ!プロデューサーさん!
かさね味は一番高いじゃないですか!」
P 「大丈夫だ、今回は一颪堂のご好意で、
お金はかからないことになってるんだ」
貴音「それは本当ですか?!」
P 「やよいの分だけな」
貴音「いけずです・・・」
P 「そういう訳で、やよいは遠慮せずに味わっていいんだからな」
やよい「うー、プロデューサーがそういうなら、
思いっきり味わいます!」
P 「じゃあ白、赤、かさねで注文するからぞ」
やよい「あれですかー?」
P 「そうだな
やよい、ちょっとこの箱を見てくれ」
やよい「はーい」
パカッ
やよい「こ、これは・・・!」
P 「もやしだ
食べ放題もやし、しかもロハだ」
やよい「ロハ?」
貴音「無料ということです、やよい」
やよい「本当ですかっ?!」
美味いぞー!」
貴音「さすがに全て食い荒らすのも如何かと思いますが
らぁめんが来るまでの間に食べるのが良いでしょう」
やよい「食べていいですかっ?!」
P 「食え、好きなだけ」
やよい「はむ・・・」
P 「どうしたんだ?やよい」
やよい「どんな調味料が使われてるのかなーって
わかったら、家族にも食べさせたいんです!」
P 「いつでも家族思いなんだな・・・」
貴音「私も頂きましょう」
P 「さすが早いな」
やよい「うー、まだもやしの謎が解けてませんー」
P 「貴音、そういえば言っておくことがあった」
貴音「なんでしょうか」ひょいぱく ひょいぱく カタメー
P 「替え玉は2回までな」
貴音「なんと!
それでは心ゆくまで堪能出来かねます!」
P 「こういっておかないと、貴音はいくらでも食うからな」
やよい「らぁめん・・・ずるずる
うっうー!美味しいですー!」
P 「貴音も、あんなふうに一口を楽しもう」
P 「やよい、美味しかったか」
やよい「はい!もやしも、らぁめんも、すっごい美味しかったです!」
P 「貴音も落ち込んでないでこっちこい!」
貴音「落ち込んでなぞおりません!」
P 「味はどうだった?」
貴音「えぇ、真、美味でした」
P 「やはり、一颪堂は美味いな」
貴音「えぇ、至って普通に見える豚骨らぁめん・・・
しかして、日本を飛び越えて海外まで展開しているとは」
P 「一体なにが受けて何が受けないのか」
貴音「私共には、まだ理解が足りないのかもしれませんね」
やよい「えーっと、ゲストに呼ばれて、その上
らぁめんも食べさせてもらって、嬉しいなーって!
よくある無料トッピングだと、しば漬けや紅しょうがとかが
多いんだけど、もやし、しかもちゃんと味付けしてある
おいしーいもやしを無料でおいてて、
お客様へのサービスが高いなーって思いました!」
P 「やよいの言うとおり、適当に買ってきた業務用のものではなく、
一颪堂でしか食べられないものを用意しておく、
この部分はサービスとして非常に高レベルにあるだろう」
貴音「店員の声出し等も、しっかりハキハキと喋っており、
こちらに不快感を与えず、逆に心地よい気持ちにしてくれます」
P 「日本を超えて、世界に出ていくらぁめんというのは
サービスもしっかりしているんだな」
やよい「あー!それアイドルにも同じこと言えますよねー!
歌が上手いだけじゃなくて、ファンサービスとかも出来る人が、
トップアイドルになるんだと思いますー!」
やよい「ありがとーございますー!」
P 「おう、ありがと」
やよい「これはなんですかー?」
貴音「トリイサンの黒烏龍茶ですよ、やよい」
P 「食べたものが、お肉にならないように防いでくれるんだ」
やよい「そーなんですかー?すごいですー!」
貴音「あと、これもお渡しします」
やよい「あっ、これはあの、ホットもやしソース(4本入1,680円)ですねー!」
P 「おうちに帰ったら、家族に食べさせてあげなさい」
やよい「はいー!今日は本当に、本当にありがとーございました!」
貴音「以上、高槻やよいさんでした」
やよい「視聴者の皆さんも、ありがとーございましたー!」
営業時間 店舗による
定休日 店舗による
メニュー 白丸元味
赤丸元味
からか麺
かさね味(銀座、横浜西口、町田、高崎限定)
替え玉
特記事項
ほぼ全国的に展開しており、
その県には無くとも隣の県にはあるんじゃないかというぐらい分布している
海外にも展開しており、これからの成長に期待が持てる
いかがでしたか、プロデューサー」
P 「今回の3店舗は、味、と言うよりサービスを中心に見ていったと思う」
貴音「二十郎 鶴見店、石焼らーめん炎山、一風堂・・・
さぁびすとは何か、というのを考えさせられました」
P 「この三週間で回った、10店舗・・・
二十郎 大宮・赤羽・品川・鶴見、 天上一品、 ジャンクガレージ、
火頭山、 蒙古タンメン中卒、 石焼らーめん炎山、一颪堂」
貴音「もっと回っていたと思っておりましたが、
10店舗しか回って居なかったのですね」
P 「それぞれ、良い所や欠点が目立つ所、色々あったと思う
だが、それがらぁめんだ、と俺は思う
誰から見ても、全てが完璧な、らぁめんなんて無いんだ」
貴音「今回の探訪で、そのことが良くわかりました」
P 「人の好みは千差万別、
その人にあったらぁめんが必ずあるはず」
貴音「だから、私達は探すのですね
自分に合う、究極の一杯を」
ですが、私達のらぁめん探訪は終わりません」
P 「番組の意見や感想、素晴らしいらぁめん情報等がございましたら、
以下に表示されている番号までご連絡下さい」
貴音「皆様、宜しければ私達のらぁめん探訪にお付き合い下さいませ」
P 「それでは、貴音とプロデューサーのらぁめん探訪」
貴音「またいつか、お会い致しましょう」
監督「はい、かぁーっと!」
P 「いやー、全くあの時はどうなるかと思いましたよ」
社長「またまた、キミは謙遜が上手いねー
私はキミがうまくやってくれる、そう信じてたよ」
P 「いえ、アイドルでもなんでもない私が、
アイドルと一緒にレポーターをやるなんて
一歩間違えれば炎上してましたよ?」
社長「そこなんだが・・・キミ、これを期に
俳優業なんかに手を出したり・・・なんて気はないか?」
P 「ありませんよ!
私はあくまでプロデューサーですから!
テレビに映るのは得意じゃないんですよ」
社長「そうか、それは実に残念だ」
社長「おや、律子君!慌ててどうしたんだい」
律子「それが、プロデューサー宛にファンレターが来てまして・・・」
P 「またか、今度は前回は2枚だったから、今回は4枚ぐらいか?」
律子「今度は、ダンボール3箱分です」
P 「ほぁっ?!」
社長「おおっ!それは素晴らしい!
どうだねキミ、これだけの声援があれば、
俳優、いや、アイドルにすらなれるとは思わないか?」
P 「いやいや、無いですって!
気の迷い、若気の至りですっ!」
社長「ううむ、残念だが・・・
キミさえ良ければ、いつでも席は開いているんだよ
そこを、忘れないでくれたまえ」
社長「音無君!音無君まで一体どうしたんだね?」
小鳥「そ、それが、社長
こんな動画が炎上してまして・・・」
P 「・・・おい、これは
俺と真がテニスしてる動画じゃないか!」
律子「なんかデ・ジャ・ヴュを感じます」
小鳥「この動画のせいで、真ちゃんとプロデューサーさんが
デートしているように勘違いされますね」
P 「くっ・・・961プロめ・・・!」
社長「・・・おおっ!ピンと来た!」
P 「本当ですか?!」
社長「あぁ、いい案を思いついたよ
プロデューサーとのデート疑惑を払拭しつつ、
真君がスポーツをすることで宣伝をする、一石二鳥の案がね」
--終わり--
貴音「あなた様・・・一体このような所で、何をなさるのでしょうか」
P 「仕事とか関係無しに、貴音とらぁめんが食べたくなった
それだけだ」
貴音「ふふ、私もあなた様とらぁめんが食べとうございます」
P 「先に断っておくがこれはただのわがままだ
ただの自己満足だし、決して面白い話を書こう等とは思っていない
エピローグは無事に終わった
それでもいい、俺のわがままについてきてくれるというなら、
・・・ついてきてくれないか」
貴音「・・・わかりました」
P 「・・・」
貴音「あなた様、こちらの方面は、もしや
一颪堂への道ではございませんか」
P 「よく覚えてるな
だが、目的地は一颪堂じゃあないんだ」
貴音「ふむ、他のらぁめん屋でしょうか」
P 「・・・月が見えないな」
貴音「横浜ですから」
P 「あぁ、一颪堂の道路を挟んで向かい側にあるらぁめん屋
とんこつらぁめんの、よかとこ」
貴音「・・・」
P 「聞いたことないだろう
チェーン店でもないし、有名でも無いしな」
貴音「この水車は、何に使う物なのでしょうか」
P 「さぁ、俺も動いている所を見たことはない」
貴音「本日もそれを食されるのですか」
P 「そのつもりだよ」
貴音「では、私も同じ物を頂きとうございます」
P 「ここのつけ麺はな、つけ汁が二種類出てくるんだ
たしか豚骨醤油味と、塩味の二種類だった」
貴音「ここには結構いらっしゃったんですか」
P 「前の会社の時に、何度も通ったよ」
貴音「それでは、ここのらぁめんも期待が持てる、という事でしょうか」
P 「わからない」
500円で醤油とんこつらぁめんと半チャーハンが食べられたんだ
美味しかった」
貴音「・・・」
P 「よかとこには、何度も通った
雨の日も、風の日も、
会社でミスして落ち込んでいるときも、
プロジェクトが順調に進んでいるときも、
いつだってよかとこに通った」
貴音「なるほど・・・
この店の味が、あなた様にとっては
究極の味、という事なのですね」
P 「さすが貴音だな、なんでもお見通しだ」
貴音「あなた様にとっては究極の味ですが、
他の人にとっては一般的な味かもしれない」
P 「そう、だな」
P 「さぁ・・・今の貴音なら、
その理由もわかると思ったんだがな」
貴音「私は、あなた様の口から聞きたいのです」
P 「・・・俺が究極の味だ、と思ったらぁめんを、
貴音にも食べて貰いたい
ただ、それだけだ」
貴音「はい、ただそれだけで、私は嬉しゅうございます」
P 「貴音・・・ありがとう」
P 「あぁ、醤油とんこつと、塩の二種類のスープ」
貴音「いただきます」
・・・
貴音「醤油とんこつは、麺と絡んで濃厚な味が出ています
毎日通うのも、頷ける味でございますね」
P 「そうだったな・・・」
貴音「塩は・・・醤油とんこつの後に食したからか、
口に残っている味にかき消され、
大した味を感じられません」
P 「・・・」
貴音「あなた様の事ですから、醤油とんこつのつけ汁ばかりを
お召し上がりになっていたのでしょう?」
P 「はは、やっぱり貴音には隠し事は出来ないな」
貴音「確かに、これは美味です
これが、あなた様の究極の味なのですね」
貴音「あなた様が思う究極の味、それ自体は理解致しました
しかし、私の思う究極の味のそれとは、また別物でありました」
P 「・・・そうか」
貴音「以上です」
P 「やっぱり、貴音と一緒に食べるらぁめんは格別だな」
貴音「はい、私も、あなた様と食すらぁめんは別格でございます」
P 「ふー、やっぱり夜は冷えるな」
貴音「もう秋でございますから」
P 「今日、俺の究極の味を貴音に食べてもらって、すっきりしたよ」
貴音「左様でございますか」
P 「あぁ・・・貴音、今日は本当にありがとう」
貴音「いえ、礼には及びません・・・
そうですね、私からもお願いがあるのですが、宜しいでしょうか」
P 「貴音からのお願いか・・・なんだ?」
貴音「あなた様は究極の味に出会えた・・・
ですが、私はまだ究極の味に出会えてません
そして、ここ数日あなた様とらぁめんを食し、
私は確信致しました
究極の味を知りつつも、
様々ならぁめんを追い求めるあなた様といれば、
私の追い求める究極のらぁめんに出会える、と
あなた様のご迷惑でなければ、
私が究極の味に出会えるまで、
共に、歩んで、頂けませんでしょうか」
まさか24時間まるっとかかるとは思いませんでした
貴音×らぁめんの構想を考えた時点で、
蛇足を書くことは決定していました
あくまで私の自己満足です
私の愛したよかとこは、2010年の今頃、廃業致しました
ちょっと出てないキャラがいたのが残念だけど面白かったよ
好きな店が廃業はせつないよな・・・
Entry ⇒ 2012.10.18 | Category ⇒ アイマスSS | Comments (0) | Trackbacks (0)
奉太郎「古典部の日常」 1
古今東西どこへ行っても、入学式や卒業式、俗に言う出会いと別れの季節である。
しかし、進級しただけの俺、折木奉太郎には特に関係が無い事であった。
つまり、高校二年生になった俺には。
そんな事を思いながら、部室に行く。
俺が属する部活は古典部、部員は四人ほどいる。
【省エネ】をモットーとする俺が何故、古典部にいるかと言うと……それすら説明するのが億劫になってしまう。
まあ、何はともあれ、俺の日常はこんな感じだ。
そんな誰に話しかけているのかも分からない内容を頭の中で回転させ、扉を開ける。
奉太郎「なんだ、千反田、もう居たのか」
える「はい! こんにちは、折木さん」
こいつは千反田える。
里志に言わせれば、結構な有名人らしい。
ああ、里志というのは……
里志「お、今日はホータローも来てたんだね」
こいつの事だ。
名前は福部里志。
これでも俺とは結構な付き合いで、世間一般で言う友人、という物だろう。
奉太郎「ああ、少し気が向いてな」
摩耶花「ふくちゃん、ちーちゃん、お疲れ様ー」
摩耶花「あ、なんだ、折木も居たんだ」
俺の事をおまけみたいな扱いをしてくるこいつは、伊原摩耶花。
小学校からの付き合いで、腐れ縁という奴だろう。
奉太郎「居て悪かったな」
ふう、とにもかくにも、これで古典部は勢ぞろい、という訳で。
える「皆さん揃いましたね」
奉太郎「揃ったとしても、やることなんてないだろう」
我ながらその通り、何しろ目的不明の部活である。
摩耶花「やる事があっても、どうせ折木はやらないじゃん」
奉太郎(間違ってはいない)
里志「それがね、やる事があるんだよ、実は」
里志がこういう顔をする時は、大体よくない事が起こる、主に、俺にとって。
奉太郎「はあ」
それを短い溜息として表す。
える「福部さん、やる事とはなんでしょうか?」
摩耶花「あー、もしかして……あれ?」
伊原はどうやら、既に話を聞いてるらしい。
里志「そ、さすが摩耶花は勘がいいね!」
奉太郎(気になりません)
千反田の気になりますにも、大分早く突っ込みをできるようになってきた気がする。
里志「これだよ、遊園地のチケット!」
里志「親がくじ引きで当てたんだけど、忙しくて行けないから友達と行ってこいって、渡してくれたんだよね」
える「遊園地ですか! 行ったことなかったんですよ」
まあ、そうだろう、千反田が行った事が無くても不思議では無い。
奉太郎(しかし、俺もあんま記憶に無いな……最後に行ったのは幼稚園の時だったか)
摩耶花「え? ちーちゃん、遊園地に行ったことないの?」
える「はい! 一度行ってみたかったんです!」
あー、まずいな、と思う。
これは断るのが難しい……かもしれない。
里志「それなら良かった、行くのは今度の日曜日でいいかな?」
える「日曜日でしたら大丈夫です、行きましょう!」
摩耶花「うん、私も日曜日は空いてる」
奉太郎「残念だ、日曜日はとても忙しい」
主に、家でごろごろするのに。
える「そうなんですか? 折木さん」
える「日曜日は忙しいんですか?」
千反田が顔を近づけ、聞いてくる。
すると横から伊原が口を挟む、いつもの光景だ。
摩耶花「ちーちゃん、折木に予定が入ってる日なんてある訳無いでしょ」
里志「まあホータローにも色々事情があるんじゃない? 行けないなら行けないで仕方ないよ」
奉太郎(なんだ、珍しく里志が引いてるな)
そう、いつもなら何かと理由を付け、結局は俺も参加……という流れなのだが、今日は少し違った。
える「そうですか……残念ですが、仕方ないですね」
里志「今度機会があったらって事で、残念だけどね」
摩耶花「いいよいいよ、三人でも楽しいでしょ」
何か気になるが、いいだろう。
奉太郎(行かなくていいならなによりだ)
結果に少々満足し、本に目を移す。
里志「あー、それはそうとさ、ホータロー」
それを狙ったかの様に、里志が話しかけてきた。
奉太郎「なんだ」
里志「今日さ、僕たちは別々に来ただろ? 学校に」
奉太郎「そうだな、お前が朝、委員会の仕事があるとかなんとか」
里志「うんうん、それでね、朝会ったんだよ」
奉太郎「会ったって、誰に」
里志「……ホータローの、お姉さん」
奉太郎(まずいことになった、さては里志の奴……)
なるほど、里志は最初からこれを知ってた訳だ、それを踏まえて俺に言ってきた、という事か。
嫌な奴。
里志「それでね、遊園地の事を話したんだけど」
里志「そうしたら、さ」
里志「「あいつはどうせ暇だから、居ても家でごろごろしてるだけだから、連れていってあげてー」ってね」
里志「だけど、そんなホータローに予定が入っていたなんて残念だよ」
里志「後でお姉さんにも報告をしておかないとね」
奉太郎「待て」
奉太郎「今思い出したが、予定なんて入ってなかった」
奉太郎(そんな事が姉貴の耳に入ったら、何をさせられるか分かったもんじゃない)
里志「え? そうなの? 無理をしなくていいんだよ?」
わざとらしい里志。
摩耶花「そうそう、折木の「用事」の方が大事でしょ」
ニヤニヤしながら言うな、こいつめ。
える「そうですね……無理をなさらないでください、折木さん」
何か最近、千反田もこういう流れが分かってきているような気がする。
勿論、思い過ごしだと思いたいが。
奉太郎「いやー、日付を一週間勘違いしていた。 次の日曜日は暇でしょうがない」
いつの日曜日も暇だが、それに突っ込みを入れる奴もいないだろう。
里志「そうかい、じゃあホータローも参加、という事で」
える「それは良かったです! 楽しみですね、折木さん!」
摩耶花「……強がり」
伊原が何か最後に言っていた気がするが、気にしないでおく。
里志「これで全員参加だね。 よかったよかった」
奉太郎(全く良くは無い)
里志「それで、ね」
里志「今日は、その日の準備や計画をしようと思ってるんだ」
奉太郎「たかが、遊園地だろ」
奉太郎「適当でいいんじゃないか?」
そう、たかが遊園地、予定なんて。特にいらないと思う。
摩耶花「はぁ、折木なんも分かってないね」
摩耶花「行くとしたら、バスか電車でしょ? それの時刻も調べなきゃだし」
摩耶花「遊園地が開く時間とか、閉まる時間も調べないといけないでしょ」
奉太郎(さいで)
える「でも、確かに何時からやっているんでしょう」
える「思いっきり楽しむ為にも、朝は早くなりそうですね!」
すると里志が、巾着から携帯を取り出す。
里志「ちょっと待っててね、今調べちゃうから」
奉太郎「ん、携帯でそこまで調べられるのか」
里志「これは携帯じゃなくてスマホだよ、ホータロー」
奉太郎「似たようなもんだろ」
持ってない奴からしたら同じだろう、しかし、持って無い奴の方が珍しいかも知れない。
える「営業時間は何時までやっているんでしょうか?」
里志「うん、えーっと」
里志「夜の10時って書いてあるかな」
摩耶花「12時間かぁ、大分楽しめそうだね」
奉太郎(正気か!? 12時間いるつもりか!?)
える「今からとても楽しみです! そこの場所でしたら、バスで1時間程でしょうか?」
里志「そうだね、丁度、僕たちの最寄駅から直行のバスが出てるみたい」
摩耶花「それなら朝は8時30分くらいに学校の前! でいいかな?」
と、ここで水を差す。
奉太郎「各自、別々に行って、遊園地前で集合でいいんじゃないか」
摩耶花「そんな事したら、あんた何時に来るか分かったもんじゃないでしょ」
奉太郎(確かに、ごもっとも)
里志「はは、じゃあ集合時間は8時30分! 場所は学校の前って事で!」
える「了解です! 後は、他に決めることはありますか?」
里志「そうだねぇ」
すると里志は、何か含んだ言い方で続けた。
里志「……そういえばさ」
里志「次の月曜日って休みじゃない?」
える「次の月曜日……そうですね、祝日ですので」
里志「じゃあ泊まりで行こうか!」
おい、ふざけるな。
冗談じゃない。
とは言えず、もっともらしい意見を述べてみる。
奉太郎「おいおい、泊まるにしてもホテルとかどうするんだ」
里志「その辺は抜かり無し! 」
里志「どうやら、このチケットにはホテルも付いているんだよ」
里志「日帰りでもいいらしいけど、皆はどっちがいいかな?」
なんと言うことだ、全く。
摩耶花「じゃあ、泊まりで行きたい人!」
える「はい!」
里志「はーい」
奉太郎「……」
伊原の何か悲しい物を見る眼で見られると、さすがの俺も、ちと悲しい。
摩耶花「……日帰りで行きたい人」
奉太郎「はい」
即答、だがそれに返す伊原も即答。
摩耶花「じゃあ、泊まりでいこうか」
奉太郎(はあ……)
える「そうですね! 今日の夜、寝れるか心配です」
奉太郎(まだ木曜日だぞ!? 行く頃には千反田、倒れているのではないだろうか)
里志「じゃ、準備とかは各自で済ませておくとして……今日は解散しようか?」
える「分かりました、もう大分日も暮れてきてますしね」
千反田の言葉を聞き、腕時計に目をやる。
奉太郎(いつの間にか、もう17時か)
奉太郎「よし、帰ろう」
摩耶花「あんた、今の一瞬だけやる気出てたわね……」
奉太郎「気のせいだ」
確かにそれは気のせいだ、日帰りがいい人の挙手の時だってやる気はあった。
里志「あはは。 じゃあ僕は摩耶花とこの後、買い物に行かないといけないんだ」
里志「という訳で、お先に帰らせてもらうね」
と言いながら、既にドアに手を掛けている。
奉太郎「じゃあなー」
止める必要も特にないし、友人を見送る。
摩耶花「折木、あんた日曜日ちゃんと来なさいよ、遅刻しないでね」
おまけで、伊原も。
奉太郎(親にしつけられる小学生の気分が少し分かった気がする)
える「はい、では、また明日!」
残された部室には、俺と千反田。
奉太郎(千反田と二人っきりになってしまった)
奉太郎(と言っても、もう生徒はほとんど帰っている)
奉太郎(今から、例の気になりますが出たとしても、明日には持ち越せそうだな)
える「はい!」
える「……あ」
千反田が口に手を当て、何かを思い出した仕草を取る。
奉太郎「ん? どうした」
える「鞄を教室に置いたままでした」
こいつはしっかりしているが、どこか抜けている所もある、そんな奴だ。
える「取ってくるので、折木さんはお先に帰っていてください。 すいません」
奉太郎「いや、昇降口で待ってるよ」
奉太郎(待ってる分には無駄なエネルギーを抑えられるしな)
える「そうですか、では私は一旦教室まで行くので、また後で」
奉太郎「ああ」
~階段~
奉太郎「今日は疲れたな」
奉太郎「座っているだけだったが……」
「……でさー」
奉太郎(あれは、漫研の部員達か?)
奉太郎(男子トイレから出てきた? 何をやってたんだか)
奉太郎(まあ、どうでもいいか)
千反田が居たら、ほぼ、気になりますと言っていたであろう。
だが幸い、今は千反田が居ない。
今日はつくづく運が悪いと思っていたが、そうでもないかもしれない。
奉太郎(遅いな、あいつ)
える「折木さーん!」
奉太郎(優等生が廊下を走っている、中々に面白い)
える「すいません、教室に鍵が掛かっていまして、職員室まで取りに行っていたら遅れてしまいました」
奉太郎「いや、気にするな」
奉太郎「待ってる分には、疲れないしな」
と伝えると、千反田は幾分か嬉しそうな顔をした。
える「……はい!」
える「では、帰りましょうか」
~帰り道~
える「……折木さんは」
若干言いづらそうに、俺の方に顔を向けてきた。
奉太郎「ん?」
える「折木さんは、遊園地は楽しみではないのですか?」
そういう事か、まあ内心、ほんの少しでは楽しみでは……あるかもしれない。
奉太郎「……疲れる事はしたくないからな」
える「そう、ですか……」
千反田は悲しそうにそう言うと、黙りこくってしまう。
奉太郎「でも、まあ」
える「?」
奉太郎「たまには、悪くないかもしれない」
奉太郎「良くはないが……」
ああ、全くもって良くはない。
良くも悪くも無い、つまり普通。
える「……ふふ」
お嬢様らしく、上品に笑うと、千反田は嬉しそうに前を向いた。
奉太郎(……ま、別にいいか)
える「あ、折木さんの家はあちらでしたよね」
いつの間にか、家の近くまで来ていた様だ。
奉太郎「ああ、そうだな」
える「では、ここで失礼します」
える「また明日、学校で」
奉太郎「ん、気をつけてな」
える「……はい!」
奉太郎(一々、ニコニコしながらこっちを見るな……全く)
.............
時が経つのは早いとは言うが、あっという間に金曜日が終わり、既に土曜日の夜になっていた。
楽しい時間はすぐに過ぎるとはよく言ったものだ。
俺は、楽しい等と思ってはいないと思うが……
とにもかくにも、現在は土曜日の夜7時。
準備が丁度終わり、リビングでゆっくりと無為な時間を過ごしている所だ。
見ていた時代劇も終わり、CMに入ったところで電源を切る。
奉太郎(コーヒーでも飲むか)
と思い、台所へ足を向ける。
すると突然、電話が鳴り響いた。
周りを見渡すが、他に出てくれる人など居ない。
奉太郎(にしても、誰だ、こんな時間に)
傍から見たら、面倒くさそうに受話器を取る。
奉太郎「折木ですが」
向こうから聞こえてきた声は、俺の見知った人物の物であった。
える「折木さんですか? こんばんは」
奉太郎「あ、こんばんは」
急に挨拶をされ、思わず挨拶を返してしまう。
奉太郎「千反田か、何か用か?」
える「えっと、今からお会いできますか?」
奉太郎(今から? 外に出るのは御免こうむりたい……)
奉太郎「えーっと、用件が全く飲み込めないんだが」
える「あ、すいません! お渡ししたい物があるんです」
奉太郎「明日どうせ会うだろう、その時でいいんじゃないか?」
える「いえ、今でないとダメなんです!」
こうなってしまうと、断るのにも中々エネルギー消費が著しい。
仕方ない……が、家から出るのは如何せん回避したい。
奉太郎「……分かった、だが家から出るのが非常に面倒くさい」
える「それなら丁度よかったです、今から折木さんの家に行くつもりでしたので」
さいで。
える「はい!」
そう言うと千反田は電話を切った。
自転車で来れば、結構すぐに着くだろう。
と言っても20分、30分程は掛かるだろうが。
そして俺は元々の目的のコーヒーを淹れ、再びテレビを付ける。
テレビでは「移り変わる景色」等といって、世界の情景等を流していた。
それを見ながらコーヒーを啜る。
そうして又も無為な時間を過ごす。
奉太郎(幸せだ)
最後の景色が映し終わり、番組は終了した。
ふと、時計に目をやると、時刻は20時30分。
奉太郎(電話したのが、確か19時くらいだったか……?)
奉太郎(ってことは、1時間30分経っているのか?)
奉太郎(何をしているんだ、あいつは)
と思った所で、狙い済まされたかの様にインターホンが鳴る。
俺は若干固まった体を動かし、玄関のドアからのそのそと顔を出す。
そこには、予想通りの人物が顔を覗かせていた。
える「あ、折木さん! こんばんは」
奉太郎「随分と遅かったな、何かあったのか?」
える「何か……という程の事ではないのですが、自転車がパンクしてしまいまして」
自転車がパンク? それは不幸な事で……というか。
奉太郎「お前、歩いてきたのか?」
える「ええ、体力には自信があるんです!」
いやいや、体力に自信があっても、結構な距離、ましてや夜だ。
奉太郎「用件ってのは、なんだったんだ」
える「そうでした、えっと」
おもむろに、バッグに手を入れ、物を取り出した。
える「これです!」
これは……
奉太郎「お守り?」
える「はい!」
奉太郎「これを届けに、わざわざきたのか」
える「ええ、今日の内に渡したかったんです」
える「遠くに出かけるので、是非!」
遠くと言うほどの遠くではないだろう。
いや、こいつにとっては遠くなのかもしれないか。
というか、だ。
これなら別に明日でも構わなかったんじゃないだろうか。
その疑問を、言葉にする。
奉太郎「明日でも良かったんじゃないか? これなら」
える「いえ、その」
える「福部さんと摩耶花さんには、秘密で……内緒で渡したかったんです」
千反田は少し恥ずかしそうにそう告げると、口を閉じた。
ああ、こいつはそんな事の為にわざわざ家まで来たというのか、歩いて、一時間半も。
顔が少し熱くなるのを俺は感じた。
える「いえ、本当は金曜日に渡せればよかったんですが」
える「ご利益があるお守りも、手に入れるのは難しいんですよ」
奉太郎「すまないな、わざわざ」
える「気にしないでください、私が急に押しかけた様な物ですから」
全く、なんだと思えばお守り一個とは。
まあ、嬉しくないと言えば嘘になる。
える「では、私はこれで帰りますね、また明日、お会いしましょう」
と言い、千反田は再び歩き出そうとする。
奉太郎(これは俺のモットーには反しない……やらなくてはいけない事、だ)
奉太郎「千反田」
後ろ姿に声を掛けると、すぐに千反田は振り返った。
奉太郎「その、送って行く、家まで」
千反田から見たら、俺は随分と変な顔になっていただろう、多分。
える「え、悪いですよ、そんな」
奉太郎「今から歩いて帰ったら大分遅い時間になるだろ、危ないしな」
頭をボリボリと掻きながら、そう告げる。
千反田は少し考えると、笑顔になり、答えた。
える「……では、お願いします」
奉太郎「……ああ」
さすがに、歩いて行くのは遠すぎる。
そう思い、自転車を出し、千反田に後ろに乗るように促した。
奉太郎(なんにでも好奇心があるのか、こいつは)
千反田を後ろに乗せ、家に向かう。
道中は特にこれと言って、会話という会話は無かった気がする。
気がする、というのも変な言い方だが、俺もどうやら緊張していた様だ。
覚えていないのは、仕方ない。
楽しい時間はすぐに過ぎる……等言ったが、あの言葉は概ね正しいのかもしれない。
千反田の家には、思いのほか早く着いた。
える「折木さん、ありがとうございました」
奉太郎「いや、こっちこそ、お守りありがとな」
千反田は優しそうに笑うと「では、また明日」と言い、家の中に入っていった。
俺はそのまま、まっすぐ家に帰るつもり……だったのだが、どうにも気分が乗らず公園に寄る。
この公園というのも、神山市では随分と高い位置に設置されており、景色は結構な物だ。
滑り台に座り溜息を付くと、神山市の夜景を眺めた。
先ほど家で見た「移り変わる景色」程では無いが、中々に美しかった。
俺は、何故か心に少し残るモヤモヤを洗い流せないかとここに来たのだが……どうやら数十分経っても、消えそうには無かった。
第一話
おわり
どうにも寝心地が悪く、目が覚めた。
時計に目をやると、時刻は5時。
奉太郎「なんだ、まだ5時か……」
今日は8時30分に、学校の前で集合の予定となっている。
それもそう、遊園地に古典部で遊びに行く、という里志の粋な計らいによって、だ。
奉太郎(二度寝したら、寝過ごしそうだな)
そう思い、ベッドからのそのそと這い出る。
奉太郎(少し早い気もするが、仕度するか)
洗面所に行き、寝癖を流し、歯を磨き、顔を洗う。
朝飯にパンを一枚食べ、コーヒーを飲む。
大分時間を使ったと思ったが、時刻はまだ5時30分であった。
奉太郎(後3時間もあるな……どうしたものか)
着替えを済ませると、外に出た。
柄にも無く、少し散歩でもしようと思い至ったからである。
奉太郎(さすがに、まだ朝は寒い)
まだ薄っすらと暗い空の下、目的地も無く歩いた。
20分ほどだろうか、神社が視界に入ってくる。
奉太郎(特に頼む事など無いが、寄ってみるか)
長い階段を半ば程まで上ったところで、若干後悔したが。
一番上まで到達し、息が少し上がる。
ふと、人が居るのに気付いた。
奉太郎(あれは……)
すると、そいつがこちらに振り向く。
千反田はどうやら、少し驚いた様子。
無論、俺も多少驚いた。
一呼吸程の間を置くと、こちらに向かってきた。
える「折木さん、おはようございます。 どうしたんですか?」
奉太郎「少し早く起きすぎてしまってな、ちょっと、散歩を」
える「ふふ、珍しいですね」
奉太郎「里志風に言うと、世にも珍しい散歩する奉太郎って所か」
える「い、いえ! 折木さんも、お参りとかするんだな、と思っただけです」
奉太郎「いや、たまたま寄っただけだ」
奉太郎「お参りって程でも無い」
える「そうですか、では少し、お話しませんか?」
特にこれといってする事が無かったので、丁度いい。
奉太郎「ああ、じゃあ公園にでも行くか」
える「はい!」
~公園~
公園に入ったところで、千反田が口を開いた。
える「ここの公園、私……好きなんですよ」
奉太郎「そうなのか、俺も別に嫌いではないな」
そう言いながら、自販機に小銭を入れる。
温かいコーヒーを買い、続いて紅茶を買う。
奉太郎「お礼といっちゃなんだが、おごりだ」
える「ええっと、お礼……というのは?」
奉太郎「昨日のお守り、飲み物一本で釣り合うとは思えんがな」
奉太郎「また今度、何か渡すよ」
そう言うと千反田はベンチに座りながら、答えた。
える「いえ、大丈夫ですよ。 お気持ちだけで」
俺は「そうか」と言い、千反田の横に座る。
公園の時計によると、現在は6時を少しまわった所だ。
ところで、この公園というのも随分と辺境な場所にあり、知っているのは好奇心旺盛な小学生くらいだろう。
……無論、俺が知っているのは里志に教えてもらったからだが。
神山市を朝日が照らす。
千反田がこちらを向き、嬉しそうに言う。
える「私、この景色が好きなんです」
える「朝早く起きたときは、いつもここに来ているんですよ」
そう言う千反田の瞳は、太陽の光が反射し、眩しかった。
奉太郎「そうか、俺は夜景が好きだな」
もっとも、朝日を見るのにここまでわざわざ来ることが無いというのが1番の理由だ。
奉太郎「でも、綺麗だなぁ」
える「はい、今度、夜景も見に来てみますね」
その後は少しだけ雑談をして、千反田は仕度があるので、と言って帰っていった。
まあ、女子ならば色々と準備に時間がかかるのだろう、良くは分からん。
俺もそのまま家に戻り、後は時間が来るまで、ぼーっとしていた。
ぼーっとしすぎて、集合時間に遅れそうになったのは笑えなかったが。
そんなこんなで、今はバスに揺られている。
横で里志が、外に見える景色について様々な雑学を披露しているのを聞き、目を瞑る。
そうやって何も考えずにしているだけで俺は充分に幸せなのだが、里志が唐突に声を掛けてきた。
里志「そういえば、ホータロー」
奉太郎「……ん」
里志「ホータローってさ、遊園地の乗り物、楽しめるのかなって思ったんだけど」
里志「どうなのかな?」
奉太郎「まあ、それなりには楽しめるんじゃないか」
奉太郎(俺も人並みには楽しめるだろう、恐らく)
すると伊原が、後ろから突然話しかけてくる。
摩耶花「折木って、アトラクションを楽しめそうにないよね」
失礼な奴だ、全く。
それを口に出して反論しようとしたが……
える「折木さん!」
今にも食ってかからん、といった距離まで千反田が顔を近づけてきた。
奉太郎「な、なんだ」
俺が若干引くも、千反田は更に距離を詰め、パンフレットを指差しながら言う。
える「私、このジェットコースターという乗り物が……」
える「気になります!」
さいで。
里志「はは、確かにそうだね、じゃあ最初に行こうか?」
摩耶花「私はちょっと怖いけど……いいよ、賛成」
える「ありがとうございます。 折木さんも行きますよね?」
ああ、参ったな。
俺は乗らないつもりだったんだが、どうやらこの流れだと全員で乗ることになりそうだ。
別に俺は、絶叫系という奴が苦手という訳ではない。
だけど、ジェットコースターは如何せん……
~遊園地~
里志「うわあ、さすが、すごかったね」
える「わ、わたし、ちょっと怖かったです」
摩耶花「私も怖かった……でも、すごかったね」
里志「あれ、ホータローは?」
奉太郎「すまん、ちょっと気持ちが悪い」
如何せん俺は、酔うのだ。
摩耶花「ええ、あんたジェットコースターでも酔うの?」
奉太郎「わ、悪かったな」
里志「ホータロー……」
哀れみの目で俺を見るな。
える「折木さん、大丈夫ですか?」
摩耶花「もー、しょうがないわね」
なんとも情けない。
俺が既に帰りたくなっていると、遠くからパレードらしき音が聞こえて来る。
里志「おわっ! なんだあれ? ちょっと行ってくる!」
里志はどうやら、そっちに更なる興味を惹かれ、パレードへ向かって走っていった。
摩耶花「ちょ、ちょっとふくちゃん!」
伊原もそれを呼び止めようとし、無理だと悟ると追いかけようとするが、俺と千反田を見て一瞬躊躇う。
その一部始終を見ていた千反田は言った。
える「大丈夫ですよ、摩耶花さん、折木さんは私が見ていますので」
摩耶花「う、うん……ごめんね、ちーちゃん、折木」
奉太郎「……いいから早く行って来い、里志が迷子になる前に」
それを聞くと、伊原は申し訳なさそうな顔を再度こちらに向け、里志の後を追って行った。
奉太郎「すまんな、千反田」
える「いえ、私の方こそ、無理やり乗せてしまったみたいで……」
こいつは、人を責めると言う事をしない。
だからたまにそれが、辛く感じてしまう。
しかし、それもこいつのいい所ではあるのだろう。
それからはしばらく木陰で休み、千反田が飲み物やらを用意してくれたお陰で、すっかりと体調はよくなった。
起き上がり、礼を言う。
える「いえいえ、とんでもないです」
える「それより、福部さんと摩耶花さんと、合流しましょう」
ふむ、そうだな、合流しよう。
どうやって?
奉太郎「そうだな、じゃあどうやって合流しようか」
千反田もようやく合流する方法がない事に気付いたのか、若干気まずそうに言う。
える「ええっと……探しましょう!」
という訳で、俺と千反田は里志と伊原を探すことになった訳だが……
える「折木さん! あの乗り物に乗ってみたいです! 私、気になります!」
える「折木さん! あのぐるぐる回っている物はなんでしょうか? 私、気になります!」
える「折木さん! あそこは何を売っているのでしょうか? 私、気になります!」
える「折木さん!」
こんな具合で、目的はすっかりと入れ替ってしまっていた。
だが、千反田もいざ乗る前となると「折木さん、大丈夫ですか?」と聞いてくるので、かなり断り辛い。
まあ、酔うのはジェットコースターくらいで、問題はないのだが。
奉太郎(しかし)
奉太郎(これはもしかして、デートという奴になるのか)
それを意識しだすと、なんだか妙に恥ずかしい。
千反田は全く気付いていない様子だ。
ま、別にいいか。
ただ、二人でコーヒーカップに乗ったときは、かなり恥ずかしかった。
奉太郎「それにしても」
奉太郎「本当に初めてだったんだな、遊園地」
える「ええ、見るもの全てが気になってしまいます!」
奉太郎(それは、良かったです)
散々動いたせいか、少し腹が減ってきた。
気付けば太陽は頂上を通り越している。
なるほど、腹が減る訳だ。
奉太郎「千反田、どこかで飯を食べないか?」
える「そう、ですね。 私もお腹が減ってきてしまいました」
奉太郎「決定だな、どこか近くの店に入ろう」
える「はい!」
俺は辺りを見回し、ファミレスらしき建物を見つけた。
奉太郎「あそこにするか」
ファミレスに入ると、店内は結構な賑わいをかもしだしている。
席に案内され、千反田と一緒に腰を掛ける。
奉太郎(何を食べようか)
メニューを見ながらどれにするか悩む。
千反田はというと、とても真剣にメニューを見ていた。
奉太郎(そこまで必死に見なくても、メニューは逃げないぞ)
奉太郎(に、しても)
「それでさ、あれはそう言う訳であそこにあるんだよ! 分かった?」
「へえ、そうなんだ。 じゃあ、あれは?」
奉太郎(後ろがやけに騒がしいな)
そしてその、後頭部を持った人物の向かいに座っている奴が声をあげた。
摩耶花「あれ? 折木?」
後頭部も気付いたのか、こちらを振り向く。
里志「ホータローじゃないか! こんな所で何をしているんだい」
あのなぁ。
える「あれ? 福部さんに、摩耶花さん!」
摩耶花「ちーちゃんも! 変な事されなかった?」
最初に聞くのがそれなのか、納得できん。
里志「あはは、ごめんね。 ついつい見たいものがありすぎて」
奉太郎「千反田が乗り移りでもしたか」
奉太郎「ま、別にいいさ、俺のせいで回れないって方が嫌だからな」
摩耶花「ちーちゃんは折木のせいで回れなかったんじゃないー?」
失礼な、しっかり回った……もとい、振り回された。
える「そんな事ないですよ! 色々な乗り物に乗ってきました!」
と、ここで里志は余計なひと言。
里志「色々、ね。 デートみたいに楽しめた訳だ」
一瞬の沈黙。
千反田はそれを聞くと、顔を真っ赤にして必死の言い訳を始める。
える「そ、そんなんじゃないです! ただ、折木さんと一緒に観覧車やコーヒーカップに乗っただけで……」
ああ、そこまで詳細に言う必要は無いだろう。
里志「千反田さん! 世間一般ではね、それをデートっていうんだよ」
こいつはまた、余計な事を。
そう言うと、千反田は顔を伏せてしまった。
奉太郎「はあ」
摩耶花「やっぱりしてたんじゃない、ヘンな事」
おい、それだけで変な事扱いとは、世の中の男はどうなる。
奉太郎「大体だな、本当にただ一緒に回っていただけだぞ」
奉太郎「お前らだって、気になる物があったら見て回るだろ、里志もさっきそうだったように」
そこまで言って、これは俺のモットーに反する事ではないか、と思い始めた。
しなくてもいい事。だったのでは、と。
里志「はは、ジョークだよ。 ごめんね、千反田さん、ホータローも」
奉太郎「俺は、別にいい」
える「い、いえ、大丈夫です。 気にしないでください」
そう言うと、千反田はようやく顔をあげた。
それからは、席を4人の所に移してもらい、談笑しながら飯を食べる。
一通り食べ終わり、会計を済ませ、店を出ようとした所で、千反田がなにやら言いたそうにこちらを見ていた。
奉太郎「千反田、どうかしたのか」
千反田は、伊原と里志に聞こえてないのを確認し、こう言った。
える「あの、折木さん、さっきはありがとうございました」
なんだ、そんな事か。
軽く返事をし、行こうとすると。
える「でも、勘違いされたままでも、私は気にしませんよ」
言われたこっちが恥ずかしくなる。
別に俺も、そのままでも良かったんだが……疲れるしな。
しかし「俺もそのままでも良かった」とは、いくら言おうとしても、何故か言葉にできなかった。
出てきたのは「ああ、そうか」という無愛想な返事。
……お化け屋敷に行ったときの伊原の怖がりっぷりは、是非とも永久保存しておきたかった。
……夜のパレードを見て、千反田は目をキラキラと輝かせていた。
……里志はと言うと、相変わらずすぐにどこかえ消え、気付いたら戻ってきてる、と言った感じだ。
やはり、楽しい時間はすぐに過ぎるのだろうか。
俺も別段、人が楽しめる事を楽しめない……と言った訳でもない。
人並みには、楽しめる。
間もなく閉園時間となり、朝の内にチェックインしてあったホテルへと帰って行く。
俺はすぐにでも寝たかったのだが、里志のくだらない与太話を聞かされ、寝たのは大分遅い時間になってしまった。
翌朝、目を覚まし、里志と共に伊原、千反田と合流する。
すると何やら千反田は申し訳なさそうに、頭を下げてきた。
える「すいません、実は家の事情で……」
要約すると、どうやら千反田は家の事情で一足先に帰らなくてはいけなくなったらしい。
携帯を持っていない千反田にどうやって連絡を取ったのかは謎だが……恐らくホテルへ電話が入ったのだろう。
里志と伊原は残念そうにしていたし、俺も少ないよりは多いほうがいい、程には思うので多少は残念だったと思う。
そして千反田を見送り、3人でどうするか話を始める、つまりこれが現在。
里志「さて、と。 どうしようか」
奉太郎「と言われてもな」
摩耶花「うーん、ここにずっと居てもあれだし……とりあえず遊園地に行かない?」
里志「そうだね、折角きたんだし、楽しまなくちゃ!」
奉太郎「……」
里志がまず「ホータローも来るよね?」といい、伊原までもが「折木も来なさいよ?」等というので、仕方なく、参加する。
二人とも、千反田が帰ったことによって多少は寂しかったのかもしれない。
だがやはり、3人で回った所で何か物足りない気分となってしまう。
それは俺以外の二人も感じていた事の様で、昼過ぎ頃には「帰ろうか」という雰囲気になっていた。
荷物を持ち、バスの停留所まで歩く。
伊原と里志がバスに乗り込んだ後で、あることを思い出した。
里志「ホータロー、もう出発しちゃうよ」
里志が未だバスに乗らない俺に向けて言う。
摩耶花「これ逃したら次は1時間後よ? もしかして遊園地が恋しくなった?」
と続けて伊原も言ってくる。
奉太郎「……すまん、ちとホテルに忘れ物をした」
二人とも、呆れた様な顔をし、続ける。
里志「うーん、ま、仕方ないよ、降りよう摩耶花」
里志「それにしても、省エネの奉太郎が忘れ物をするなんて、入学して間もなくを思い出すよ」
摩耶花「もう、しっかりしてよね、折木」
そう言ってくれたが、二人を連れて行くわけには……ダメだ、連れて行くわけにはいかない。
奉太郎「いや、俺だけ次のバスで帰る。 すまないが先に帰っていてくれ」
二人もそれなら……と言った感じで、納得した様子ではあった。
バスを見送り、遊園地に向かう。
ホテルへ忘れ物をした、というのは嘘。
だからといって、一人で遊園地を楽しむぞ! という訳でもない。
一つ、目的があった。
今日の出来事を振り返り、俺は少し眠くなってきた。
奉太郎(もう夕方か)
奉太郎(少し、寝るか)
夢は、特に見なかった。
次に起きた時には、最寄の駅の停留所に居て、バスの乗務員によって起こされた。
奉太郎(体が重い)
奉太郎(帰るか)
辺りは既に暗くなっていて、仕事帰りのサラリーマンが群れをなしている。
奉太郎(祝日まで働いて、大変だなぁ)
それを見て「この二日は、意外と面白かったかもしれない」等、柄にも無いことを考えてしまう。
奉太郎(一週間分くらいは動いたな、この二日で)
奉太郎(いや、二週間か?)
そこまで考え、ああ、これは無駄な事だと思い、放棄する。
俺の視界に我が家が見えてくる、長い二日間も、ようやく終わり。
思えば、省エネとはかけ離れた二日になってしまった。
そんな事を考えながら、重い荷物を背負い、家の扉を開けた。
第二話
おわり
折角皆さんと、遊園地に遊びに行っていたのに、途中で用事が入るなんて……
今日皆さんに会ったら、謝りましょう。
私は、いつもより少し早く目が覚めました。
時刻はまだ、朝の5時。
少しどうするか悩みましたが……決めました!
える(いつもの公園に行きましょう)
そう思い、公園に向かいます。
まだ外は少し暗く、日が昇るのにはちょっとだけ時間がありそうです。
公園の入り口に着き、いつものベンチに座ろうとしたところで、人影があるのに気付きました。
える(あれは……折木さんでしょうか?)
近づいて見たら、すぐに分かりました、やはり折木さんです。
える「おはようございます、折木さん」
える「昨日はその……すいませんでした」
奉太郎「千反田か」
奉太郎「別に気にするほどの事でもないだろう」
える「そうですか、ありがとうございます」
える「今日もお散歩ですか?」
奉太郎「いや、今日はちょっと、用があった」
奉太郎「ここで待ってれば、千反田が来ると思ってな」
はて、私に用事とはなんでしょうか……気になります。
奉太郎「ああ」
すると折木さんは、持っていた袋を私に渡してきました。
可愛らしくラッピングされたそれは、何かのプレゼントの様な……
える「これは、プレゼントでしょうか?」
奉太郎「まあ、そうだ」
どうしてでしょう……何か、今日は記念日なのか……気になります!
える(もしかして、私の誕生日だと思って……?)
える「すいません、私の誕生日はまだ先なんですが」
奉太郎「いや、違う」
奉太郎「それに俺はお前の誕生日を知らん」
える「そ、そうですか。 では、これは?」
奉太郎「この前のお礼だよ、お守りの」
える「あ! そうでしたか。 わざわざありがとうございます」
折木さんがしっかりと覚えていてくれたのは、意外でした。
でも、嬉しかったです。
すると、折木さんはまだ薄っすらと暗い街並みを見ながら答えました。
奉太郎「その、なんだ。 伊原と里志には言わないでくれよ」
える「えっと、でも一緒に買ったのではないんですか?」
奉太郎「いや……あいつらには先に帰ってもらって、後から買って帰ったんだよ」
正直、折木さんがそこまでしてプレゼントを買ってきてくれたと聞いたときは、ちょっと泣きそうになってしまいましたが……
我が子の成長を見守る母親……とはちょっと違います、なんでしょうか。
える「あ、そ、その、ありがとうございます。 とても嬉しいです」
少し、顔が熱いです。
折木さんは「袋は帰ってから開けてくれ」と言うと、帰ってしまわれました。
嬉しくて、上手くお礼を言えなかったのが残念ですが。
私はプレゼントを抱くと、今日が昇ってきた朝日に向かい、頭を下げ、言いました。
える「折木さん、ありがとうございます」
~部室~
里志「いやあ、二日間、お疲れ様」
摩耶花「ちーちゃんも残念だったね、今度また行こうね」
える「いえ、初日で充分に楽しめたので」
える「でも、また機会があったら行きたいです」
える「二日目は急用が入ってしまい、すいませんでした」
里志「千反田さんが謝る事でもないよ。 家の事情なら仕方ないしね」
摩耶花「そうそう、ちーちゃんは忙しいんだから、一々謝らなくてもいいのに」
奉太郎「……そうだな、人間誰しも急な用事はあるものだ」
摩耶花「折木がそれを言うの? あんたに急用入ってる所なんて見たことないんだけど?」
奉太郎「うぐ……」
そう言われ、折木さんは苦笑いをしていました。
摩耶花さんも心の底から言っている言葉ではないみたいですし。
これはこれで、いいコンビなのかもしれません。
摩耶花「あ、そうだちーちゃん」
える「はい?」
摩耶花「昨日の帰りの事なんだけどさ」
摩耶花「ふくちゃん、話してあげて」
昨日の帰りの事……なんでしょうか?
……気になります。
里志「じゃあ聞いてもらおうかな」
里志「ホータローの忘れ物事件、をね!」
それを聞いた折木さんは、少し顔を歪めていました。
里志「前に話した【愛無き愛読書】は覚えているかな?」
里志「あれで分かったこと、事件の内容は勿論だけど……もう一つ」
里志「ホータローは意外と抜けているって事が分かったよね」
里志「それでね、昨日の帰りなんだけど……」
そう言うと、福部さんは昨日の帰り、バスに乗る時にあったことを話してくれました。
それを聞いた私は、ちょっといたずら心を突付かれてしまいます。
える「そんな事が……」
える「折木さん!」
奉太郎「な、なんだ」
える「折木さんが何故、忘れ物をしたのか」
える「何を忘れたのか」
える「そして、それを見つける事が出来たのか」
える「私、気になります!」
折木さんはというと。
奉太郎「い、いや……それは」
と口篭ってしまいました。
少々やりすぎてしまったかもしれません。
その光景を見ていた福部さん、摩耶花さんの方を向き、私は言いました。
える「でも、やっぱり気にならないかもしれません……」
福部さんと摩耶花さんは少し……かなり残念そうな顔をした後に、興味がなくなったのか二人で話し始めました。
える「折木さん」
える「……冗談、ですよ」
える「折木さんがその時に何をしていたか、私、知っていますから」
奉太郎「み、妙な冗談を急に言うな……」
折木さんはそう言うと、手に持っていた小説に再び目を落とします。
なんだか、不思議と気分がよくなります。
部室に集まり、なんでもない会話をする。
これが、私たちの「古典部」です。
2.5話
おわり
後ろから、里志が声を掛けてくる。
奉太郎「里志か」
今は帰り道、時刻は恐らく17時くらいだろう。
里志「いやあ、お見事だったよ」
奉太郎「そんな事は無い。 ただ、集まった物を繋げただけだ」
里志「そうは言ってもね、あれだけの物から結論を導き出すって事は中々容易じゃないと思うなー」
すると里志は、暗い声に反して空を見上げながら言った。
里志「……ホータローも、随分と変わったよね」
俺が? 変わった?
奉太郎「何を見て、お前が変わったと言うのかわからんが」
奉太郎「俺は変わってない」
里志「ふうん」
簡単に説明すると、今日もまた、あいつ……千反田の気になりますをなんとか終わらせた所である。
里志が言っているのは、恐らくその事だろう。
里志「今日の件もそうだけど、今までの事件もね」
奉太郎「それはだな、あいつの事を拒否したらもっと厄介な事になるだろ」
里志「あはは、確かに、間違いない」
里志「でもね、ホータロー」
里志「その厄介な事も、拒否することはできるんじゃないかな?」
奉太郎「お前は何を見て言っているんだ……」
里志「全部、だよ」
里志「僕から見たらね、千反田さんのそれも、今までホータローが拒否してきた人達も、同じに見えるんだよ」
里志「ホータロー、君は自分では気付いていないのかもしれないね」
里志はそう言うと、何か含みのある笑い方をした。
奉太郎「自分の事は、よく分かってるつもりだがな」
里志「……そうかい」
里志「じゃあ、話はここで終わりだね」
里志の話は半分程度しか聞いていなかった気がするが、どうやら案外耳に入っていたらしい。
里志「じゃあね、ホータロー。 また明日」
奉太郎「……じゃあな」
~奉太郎家~
俺は湯船に入り、気持ちを整理した。
里志に今日言われた事について、何故か心が落ち着かない。
奉太郎(俺が変わった、ね)
奉太郎(何を見てるんだか……)
確かに、確かにだ。
高校に入ってから、動く事は多くなったのかもしれない。
それくらいは俺にだって分かる。
いや、高校に入ってからではない。
千反田と、出会ってからだ。
あいつの「気になります」は、何故か有無を言わせず俺を動かす。
それは、今まであいつのようなタイプが居なかっただけで、俺はそのせいで動かされているのだろう。
仮に、里志や伊原の頼み等が来たら……俺はどうするのだろうか。
俺にも人情という物はある。
だがひと言断れば、あいつらは引いていく。
里志は恐らく「そうかい、じゃあ他の人に聞いてみるよ」と。
伊原は恐らく「折木に頼んだのが間違いだった」と。
あいつの「気になります」も、人の秘密やプライベートの事になると、さすがに聞いてはこない。
しかし、最終的に俺は頼みごとを引き受けるだろう。
その原因は、あいつがひと言断っても引かないから。 である。
奉太郎(やはり俺は、変わっていない)
結論は出た、風呂場を出よう。
リビングへ行き、テレビを付ける。
目ぼしい番組がやっておらず、若干テンションが下がる。
あ、テンションは元々低かった。
する事もないので、自室に向かった。
本でも読もうかと思ったが、ベッドに入りぼーっとしていたら、眠気が襲ってくる。
奉太郎(今日は、寝るか)
明日は土曜日、ゆっくりと本を読もう。
こうしてまた、高校生活の一日は消えてゆく。
姉貴によって、起こされた。
奉太郎(今は……10時か、大分寝ていたな)
俺はまだ目覚めていない体を引き起こし、リビングへ向かう。
寝癖が大分酷いが、今日は外には出ない、何があっても。
それにしても騒がしい、テレビでも付いているのだろうか。
リビングと廊下を遮るドアに手を掛け、開ける。
里志「おはよう、ホータロー」
える「おはようございます。 折木さん」
摩耶花「あんたいつまで寝てるのよ」
大分寝ぼけているようだ。
俺はその幻影達に、少し頭を下げると台所へ向かった。
すると、玄関の方から声があがる。
供恵「あー、言い忘れてたけど、友達きてるから」
そうかそうか。
言葉の意味を飲み込み、状況を理解した。
後ろを振り向き、確認する。
変わらずそこには、里志・伊原・千反田。
それと同時に、玄関から出る音がした。
摩耶花「朝から大変ねえ、あんたも」
誰のせいだ、誰の。
里志「それより、ホータロー」
里志「寝癖、直した方がいいんじゃないかな」
ああ、確かにそうだな、ごもっとも。
そして、気のせいかもしれないが、千反田が少しソワソワしながら言った。
える「折木さんの寝癖……少し、気になるかもしれません」
勘弁してくれ。
むすっとした顔を3人に向けると、洗面所へ向かった。
寝癖をしっかりと直し、3人に問う。
奉太郎「それで、なんで俺の家にいるんだ」
里志「えっと、ホータロー、覚えてないの?」
覚えてない、という事は……何か約束していたのだろうか。
摩耶花「3日前に4人で決めたでしょ、ほんとに覚えてないの? アンタ」
3日前……3日前。
4人で話したってことは、放課後だろう。
場所は古典部部室で間違いは無さそうだ。
なんか、思い出してきたぞ……
俺はその日、なんとなくで古典部へと向かった。
部室に入ると、既に俺以外は集まっていた。
何やら3人で盛り上がっているが……ま、いつもの事か。
奉太郎(よいしょ)
いつもの席に着き、小説を開く。
所々で俺に話しかけている気がするが、適当に相槌を打って流していた。
あ、ダメだ。
ここまでしか覚えていない。
~折木家~
奉太郎「なんだっけ?」
溜息が二つ。
里志「覚えてないのかい……」
摩耶花「やっぱり、折木は折木ね」
里志「仕方ない、千反田さん、奉太郎に教えてやってくれないかな」
なんで千反田が。
里志「一字一句、千反田さんなら覚えているでしょ?」
そこまでする必要もないだろう。
える「はい! 分かりました」
える「では、少し演技も入りますが……やらせて頂きます」
そう言うと、一つ咳払いをすると千反田は口を開いた。
里志(える)「うーん、確かにそうだね」
里志(える)「千反田さんの言葉を借りると、目的無き日々は生産的じゃないよ」
摩耶花(える)「まあ、確かにそうだけど……」
える「何かしましょう!」
おお、これは中々に演技力があるぞ。
里志(える)「何か……と言っても、何をしようか」
摩耶花(える)「話し合う必要がありそうね、こいつも入れて」
こいつ……というのは恐らく俺の事だろう。
える「折木さん! 何かしましょう!」
奉太郎(える)「……そうだな」
ああ、空返事していたのか、俺は。
える「折木さんもオッケーらしいです、では一度、どこかに集まって話し合いをしませんか?」
摩耶花(える)「どこに集まろうか?」
里志(える)「ホータローの家でいいんじゃない?」
こいつ、俺が空返事しているのを分かってて言いやがったな。
える「折木さん! 折木さんの家で話し合いをしたいのですが……いいですか?」
奉太郎(える)「……そうだな」
える「大丈夫らしいです!」
摩耶花「なによ」
奉太郎「俺はここまで無愛想じゃないだろう」
里志「ちょっとホータローが何を言ってるのかわからないよ」
摩耶花「いつもあんたこんな感じだけど……」
大分酷い言われようだな。
奉太郎「千反田、もっと俺は愛想がいいだろ」
える「えっと……いつも折木さんはこうですよ」
そうなのか、少しは愛想良くするか。
える「では、続けますね」
里志(える)「そうか、それは良かった!」
里志(える)「じゃあ今度の土曜日、でいいかな?」
える「折木さん、今度の土曜日でいいですか?」
奉太郎(える)「……そうだな」
える「決まりです!」
後半はどうやら、千反田も分かっててやってはいないか?
える「といった感じでした、思い出しましたか?」
里志は苦笑いをし、言った。
里志「まあ、ホータローがちゃんと聞いていなかったのがいけないかな」
里志「流れは分かっただろう? じゃあ何をするか決めようか」
流れは分かったが……納得できん。
しかし、異論を唱えた所で聞いてはもらえないのは明白だった。
える「そうですね、まずは意見交換から始めましょうか」
奉太郎「今のままでいいと思います」
摩耶花「折木、少し黙っててくれない?」
視線が痛い、仮にもここは俺の家だぞ。
里志「千反田さんは、何か意見あるのかな?」
える「そうですね……やはり古典部らしく」
そこで一呼吸置くと、千反田はもっともな意見を述べる。
える「図書館に行きましょう!」
里志「いい意見だね、確かに古典部らしい」
摩耶花「うん、私もいいと思う」
ダメだ、これだけはなんとか回避せねば。
奉太郎「ちょっといいか」
伊原からの視線が痛い、まだ意見も言っていないのに。
奉太郎「千反田が言っているのは、当面の目的という事だろう」
える「はい、そうですね」
奉太郎「これから毎日図書館に行くのか? そこで本を読むだけか?」
える「そう言われますと……確かに少し、違いますね」
伊原は尚も何か言いたそうに見てくるが、反論する言葉が出てこないのだろう、口を噤んでいた。
里志「ホータローの言う事にも一理あるね、確かにそれじゃあただの読書好きの集まりだ」
そのあとの「読書研究会って名前に変えないかい?」というのは無視する。
摩耶花「じゃあ、折木は他に目的あるの?」
これには困った。
奉太郎「と言われてもな……ううむ」
里志「あ、こういうのはどうかな」
里志「一人一つの古典にまつわる事を考え、まとめ、月1で発表するっていうのは」
中々にいい意見だ。
だが、月1? 冗談じゃない、頻度が多すぎる。
奉太郎「ちょっといいか」
……伊原の視線がやはり痛い。
奉太郎「最初の内はいいかもしれない、だがその内、発表の内容が同じ内容になってくるぞ」
奉太郎「同じ奴が考える事だしな」
伊原は又しても何か言いたそうだが、反論は出てこない、なんかデジャヴ。
里志「そう言われると、困ったね」
里志「僕じゃあ結論を出せそうにないや、それに」
里志「データベースは 摩耶花「ちょっといいかな?」
あ、里志がちょっとムスッとしている。
摩耶花「文集を1冊作るっていうのは」
なるほど、4人で一つを作れば内容は変化していく、確かにこれなら同じような内容にはならないかもしれない。
だけど、やはり却下。
奉太郎「確かに、それなら問題ないな」
摩耶花「じゃあ!」
奉太郎「だが、文集にするほどネタがあるか? 第一に、誰が読むんだ? それ」
摩耶花「……確かに、そうだけど」
おし、やったぞ、全部却下できた。
摩耶花「じゃあさ、折木は何か意見あるの? さっきから反論してばっかじゃない」
里志「それは僕にも気になるとこだね」
える「私も少し、折木さんの意見に興味があります」
ここまでは、予想通り。
問題はこれから。
奉太郎「こういうのはどうだろう」
奉太郎「今までのままで行く」
伊原が今にも殴りかかってきそうな顔をする。
奉太郎「だが」
奉太郎「何か古典に関係しそうな事……それがあったら、皆で話し合う」
奉太郎「そうすればネタも尽きる事はないし、同じ内容になることもないだろ」
俺の今年一番の強い願いはこれになりそうだ。
そんな願いが通ったのか、3人が口を開いた。
里志「ホータローが言うと、説得力に欠けるけど……言ってる事は正しいね」
える「私は、それでいいと思います。 いい意見です」
摩耶花「なんか納得できないけど……言い返す言葉も出てこないし、それでいい、かな」
ガッツポーズ、心の中で。
奉太郎「おし、それじゃあ今日は解散しようか」
これで、俺の休日は守られる。
里志「いや、そうはいかないんだよ」
まだのようだ。
里志「千反田さんが、何か気になる事があるみたいなんだよね」
千反田がソワソワしていたのは、それが原因か。
える「そうなんです! 私、気になる事があるんです!」
さいで。
える「折木さんにお話しようかと思っていて、聞いてくれますか?」
俺が断る前に、千反田は続けた。
える「私、いつも22時頃には寝ているのですが」
奉太郎(早いな)
える「今日は8時に学校の前に集合でした、折木さんのお家に皆で行くことになっていたので」
える「ですが私、少し寝坊してしまったんです、お恥ずかしながら」
える「何故、寝坊したのか……気になります!」
奉太郎(知りません)
奉太郎「と言われてもだな、誰しも寝坊くらいはするだろう」
里志「ホータロー、寝坊したのは千反田さんだよ?」
里志「僕やホータローが寝坊するのならまだ分かるけど……千反田さんが予定のある日に寝坊するって事は」
里志「少し、考えづらいかな」
確かに、あの千反田が寝坊というのはちょっと引っかかる。
奉太郎「だが情報が少なすぎる、考える事もできんぞ、これは」
今ある情報といえば
・千反田が寝坊した
・普段は22時に寝て、6時に起きている
・予定がある日に寝坊するのは、千反田なら普通あり得ない
この3つだけ。
奉太郎「何か他にないのか?」
える「他に、ですか……」
える「そういえば、お休みの日はいつも目覚まし時計で起きているんです、今日も勿論そうです」
える「確かに目覚ましで起きたはずなんです、ですが、居間の時計を見たら既に約束の時間が近かったんです」
奉太郎(目覚ましで起きている、か)
える「それはありえません。 いつも21時のテレビ番組に合わせて直しているんです」
テレビに合わせている、となればまず狂っていないだろう。
奉太郎「その時計が壊れていた、というのは?」
える「それもあり得ません、先月に買ったばかりなんです」
思ったより、厄介な事になってきた。
奉太郎「目覚ましで起きたのは確かなんだな?」
える「ええ、それは間違いありません」
奉太郎「という事は、やはり目覚ましがずれていたのは間違いなさそうだな」
える「えっ、なんでそうなるんですか」
奉太郎「千反田は寝坊したんだろう? それで遅刻したと」
える「私、遅刻していませんよ?」
ん? なんだか話が噛み合っていない。
奉太郎「お前は寝坊して、遅刻したんじゃないのか?」
える「ええ、確かに寝坊はしました、ですが集合時間には間に合いました」
さいですか。
奉太郎「じゃあ、寝坊して遅刻しそうになった。 これでいいか」
える「はい、そうですね」
奉太郎「……続けるぞ、少し考えれば分かる」
奉太郎「遅刻しそうになったってことは、正しかったのは居間の時計だ」
奉太郎「目覚ましが正しかったら、遅刻しそうにはならないだろう」
える「あ、なるほどです!」
こいつは、頭がいいのか悪いのか、時々分からなくなる。
一般的にはいい方だろうけど。
奉太郎(少し、考えるか)
……21時に合わせている時計
……22時に寝て、6時に起きる千反田
……ずれていた目覚ましと、居間の時計
なるほど、簡単な事だ。
里志「ホータロー、何か分かったね」
奉太郎「まあな」
える「なんですか? 教えてください!」
摩耶花「全然わからないんだけど……なんで?」
一呼吸置き、まとめた考えに間違いは無いか確認し、口を開く。
奉太郎(これで、大丈夫だ)
奉太郎「千反田はいつも目覚ましを21時に合わせて寝ている」
奉太郎「次に、その目覚ましで起きている」
奉太郎「そして何故、今日は遅刻したか」
える「私、遅刻していませんよ」
……どっちでもいい。
奉太郎「遅刻しそうになったか」
と言い直すと、千反田は少し満足気だ。
奉太郎「考えられるのは目覚ましの故障、または時間を間違えて設定した。 これのどちらかだ」
奉太郎「故障は考えから外そう、これを考えたらキリが無い」
摩耶花「でも、時間を間違えて設定したってありえるの?」
摩耶花「テレビが間違えているとは思えないんだけど」
奉太郎「確かにその通り、テレビはまず、正確に放送をしている」
摩耶花「だったら……」
奉太郎「だが、例外もある」
える「例外……ですか?」
奉太郎「里志、この時期にテレビ番組をずらす例外といったらなんだ?」
里志「プロ野球、だね」
奉太郎「そう、俺は野球に詳しくないからしらんが、何回か影響でテレビ放送を繰り下げているのは見ている」
奉太郎「つまりこういう事だ」
える(奉太郎)「あー今日も動いたなぁ、寝よう寝よう」
える(奉太郎)「あ、目覚まし時計を設定しないと、めんどうだな」
える(奉太郎)「テレビ、テレビっと」
える(奉太郎)「丁度21時の番組がやっている。 よし、ぴったし」
える(奉太郎)「さてと、今日は寝よう、おやすみなさい」
奉太郎「で翌朝起きたら寝坊していた、ってとこだろう」
何か、空気が冷たい。
里志「ホータローは、演劇とかをやらない方がいいかもね」
摩耶花「……同意」
える「……私って、そんな無愛想ですか?」
奉太郎「……」
少し、恥ずかしいじゃないか。
える「なるほどです!」
える「今度から違う番組も、チェックしないとダメですね……」
むしろ居間の時計に合わせればいいと思うのだが、習慣というものがあるのだろう。
奉太郎「でも、なんでいつもは起きている時間に自然に起きなかったってのが分からないけどな」
奉太郎「体内時計というのもあるだろう」
える「実は、昨日は少し寝るのが遅くなってしまったんです」
夜更かしか、そういうタイプには見えなかったが。
里志「なるほどね、それで自然に起きる時間も来なかったっていう訳だ」
奉太郎「それなら納得だな、なんか気になる物でも見つけたのか?」
える「気になる、と言えばそうかもしれないですけど」
折角終わりそうになったのに、また始まるのか?
今日はもう疲れたぞ、一日一回という制限でも付けておこうか。
える「少し、折木さんの家に行くのが楽しみで……寝れなかったんです」
さいで。
第三話
おわり
奉太郎(折角の休みがあいつらのせいで一日潰れてしまった)
奉太郎(そしてもう日曜日も終わり……か)
明日からまた1週間、学校に行き、古典部の仲間と会う。
最近では、意外と馴染んでいると思う。
薔薇色に俺もなっているのだろうか。
だけど、だ。
省エネは維持しているし、頼みなんて物は滅多に聞かない(あくまで千反田を除いて、あいつのは断ると余計に面倒なことになる)
ああ、少し安心する。
俺は……まだ灰色だ。
少しの安心感が得られた。
何故? 慣れた環境の方がいいだろう、誰だって。
そんな事を考えている間にも、時はどんどんと進む。
そして気付けば月曜日、1週間が始まった。
今日も、【灰色】の高校生活は浪費されていく。
今日は登校中里志に会わなかった、委員会か何かがあるのだろう。
奉太郎(ご苦労なこった)
昇降口に入り、下駄箱で靴を履き替える。
階段を上り、教室まで向かった。
途中、何やら話し声が聞こえてきた。
一つは見知った者の声、もう一つは……分からない。
恐らく女子だろう。
恐らくというのも、女声の男子も少なからず居るからである。
える「そう……すね、今……、って……ます!」
途切れ途切れで千反田の声が聞こえた。
盗み聞きをする趣味もないので、そのまま教室へと向かう。
千反田が話している相手は、どうやら漫研の部員であった。
奉太郎(何か、嫌な事でもあったのだろうか)
奉太郎(まあ、どうでもいいか)
一瞬見た顔は、どうにも俺とは相性が悪そうだ。
俗に言う派手な女子、といった所だろう。
髪を金髪に染めていて、スカートはやけに短い。
そいつと千反田が話していたのは少々意外ではあった。
しかし、俺も人の交友関係にまで口を出すつもりなんてない。
千反田が誰と話そうとあいつの勝手だし、何よりめんどうだ。
少々気にはなったが、そのまま通り過ぎた。
教室に入り、いつもの席に着く。
いつも通り、いつもの風景。
やがて担任が入ってき、退屈な授業が始まる。
俺は、これといって成績が優秀って訳でもない。
なので授業は一応必死に聞いている。
人間必死になっていれば、時間はすぐに終わる物だ。
あっという間に昼になり、弁当を広げた。
姉貴が作ってくれる弁当は、いつも購買で済ませている俺にとってはありがたい。
突然、教室の後ろのドアが勢いよく開き、俺を呼ぶ声が聞こえてきた。
里志「ホータロー! ちょっといいかい」
俺は無言で弁当を指す。
これを食ってからにしろ、と。
苦笑いしつつ、里志はそのまま教室に入ってくると俺の目の前の席に腰掛けた。
里志「つれないねぇ、ホータロー」
奉太郎「やらなくてもいいことはやらない」
里志「はは、久しぶりに聞いた気がするよ」
奉太郎「それで、用件はなんだ?」
里志「今日、帰りにゲームセンターでも行こうかなって思っててね」
里志「ホータローも一緒にどうだい?」
ゲーセンか、悪くはないな。
奉太郎「別にいいが、委員会の仕事とかはないのか?」
里志「総務委員会は無いんだけど、図書委員会の方をちょっと手伝わないといけなくてね」
伊原の関係か、それくらいしか思いつかない。
奉太郎「伊原になんか言われたのか、ご苦労様」
里志「ご名答! さすがだよ」
さすがという程の事でもないだろうに……
里志「摩耶花は少し描きたい物があるみたいでね、僕はそれで利用されてる訳だ」
奉太郎「なるほどな、って」
奉太郎「あいつは漫研やめたんじゃなかったか?」
里志「ホータローでもそれくらいは知ってるか、なんでも個人的に描きたい物があるみたいだよ」
奉太郎「個人的、ねえ」
どうせ、同人誌かなんかの物だろう。
奉太郎「それで、図書委員の仕事はすぐに終わるのか?」
里志「うん、まあね」
奉太郎「そうか、なら俺は部室で待ってる」
里志「了解、多分摩耶花も居ると思うから、気をつけてね」
伊原が聞いたら、ただでは済みそうにない台詞だな。
奉太郎「ああ、用心しておく。 じゃあ放課後にまた」
里志「いやいや、僕が言ってるのはね、ホータロー」
里志「君が摩耶花に手を出さないでねって事なんだよ」
こいつはまた、くだらん事を。
奉太郎「本気で俺が伊原に手を出すと思っているのか?」
里志「まさか、ジョークだよ」
里志「灰色のホータローが、そんな事をする訳ないじゃないか」
里志「それに、摩耶花の可愛さはホータローには絶対分からないしね」
さいで。
里志「じゃ、また後で」
そう言うと、里志は自分の教室へと戻っていった。
俺は小説を開くと、ゆっくりと文字を頭に入れる。
物語がいい所に差し掛かった時、チャイムが鳴り響いた。
やがて教師が入って来て、授業が始まる。
途中で何回か、夢の世界に旅立ちそうになったが、なんとか乗り切る。
そして気付けば既に放課後。
終わってみればなんて事は無い、短い時間だった。
ぼーっとする頭をなんとか働かせ、部室に向かう。
奉太郎(着いたら、少し寝よう)
土曜日のアレが、まだ響いてるのだろうか?
等、本気で思う自分に少し情けなくなる。
扉を開けると、千反田、伊原が居た。
奉太郎(里志の予想通りって所か、まあ寝てる分には問題ないだろ)
そう思い、席に着くと腕を枕にし目を瞑る。
千反田は何故かソワソワしていたが、気になりますとは少し違った様子だ。
伊原はと言うと、絵を描くのに夢中で俺には興味も示さなかった。
あ、気づいていないだけか……気づいていても無視されるだろうけど。
これならば問題あるまい。
そう思い、夢の世界へと旅立つ。
すると伊原が立ち上がっていて、千反田の方を見つめていた。
少し、嫌な空気……? 何かピリピリとした感じだ。
摩耶花「えっと、ちーちゃん……今なんて?」
千反田はニコニコしながら、言った。
える「ですから、摩耶花さんは少しうざい所があると……」
眠気は一瞬で吹き飛んだ。
違う世界に迷い込んだんじゃないかと錯覚するほどの衝撃を受ける。
あの千反田が「うざい」なんて言葉を使うのかと。
その衝撃も引く前に、伊原は部室を飛び出て行った。
残されたのは、俺と千反田。
それと描きかけの絵。
俺は千反田に向けて言った。
奉太郎「……お前、何いってるんだ」
える「ええっと、摩耶花さんはうざいと言ったのですが……」
不思議そうに、そう言うこいつには悪気は無さそうに見えた。
あり得ない、俺が知っている千反田ではないのだろうか?
いつの間にか、千反田が誰かと入れ替わって……ないだろう。
奉太郎「千反田、その言葉の意味は、知っているか」
千反田は首を傾げると「今日教えてもらったんです」と言い、続けた。
千反田から説明される内容は、まるで褒め言葉のような意味を持った言葉である。
俺は、この時はまだ落ち着いていた。
未だにニコニコしている千反田に本当の意味を教える。
次に起こった事は、俺の予想外であったが。
千反田はそう言いながら、伊原が去って行ったドアを見つめる。
える「わたし……」
俺は見た、千反田の目から、涙が落ちるのを。
どんどん涙は溢れていたが、千反田は拭おうとしなかった。
自分でも気づいていないのかもしれない。
奉太郎「千反田……」
える「すいません、私、謝らなければ」
小さく、本当に小さく、千反田が言った。
この感情は、なんと言うのだろうか?
腸が煮えくり返る?
いや、ちょっと違うな。
それを通り越したのは、なんと呼べばいいのだろうか。
俺は、ああ、怒っているのか。
もしかしたら、初めてかもしれない。
勿論、千反田に対してじゃない。
その意味を教えたクソ野郎に、俺は怒っているのだ。
どうにも、冷静な判断はできそうにない。
今からそいつを探し出して、殴ろうか。
そうしよう。
そのまま部室を出ようとすると、千反田が声を掛けてきた。
える「折木さん、わたし……」
千反田は、まだ泣いていた。
奉太郎「ちょっと用事が出来た、すぐに戻る」
奉太郎「お前は悪くない、気にするな」
すると千反田は、泣き笑いというのだろうか。 「はい」と言い、顔を俺に向けていた。
どうにも、どうにもだ。
この怒りは収まりそうに無い。
俺は、千反田の事はよく知っているとは思う。
あいつは何事にも純粋だし、人を疑うという事をあまりしない。
そんなあいつを騙した人間には、なんとなく、当てはあった。
まずは、里志に会おう。
摩耶花に仕事を押し付けられて、僕はここに居る訳だけど。
里志「なんともやりがいが無い仕事だなぁ」
そんな事をぼやきながら、本を片付ける。
突然、ドアが思いっきり開かれた。
誰だい全く、図書室ではお静かにって相場が決まっているのに。
そっちに顔を向けたら、これはびっくり、ホータローじゃないか。
にしても随分と、あれは怒っているのか? ホータローが?
僕はそそくさと近づき、声を掛けた。
里志「ホータロー、どうしたんだい?」
聞きながらも、ちょっと焦る。
里志(僕、なんかしたかなぁ)
里志(というか、これほどまでに怒ってる? ホータローを見るのは初めてかも)
奉太郎「里志か」
奉太郎「少し、聞きたい事がある」
里志「なんだい? というか、何かあったの?」
奉太郎「俺たちと同級生で、漫研にいる、金髪の女子って誰だ」
人探し? それにしてはやけに怒っているみたいだけど……というか僕の質問、片方無視された?もしかして。
里志「うん、分かるよ」
里志「でも、何が起きたのか教えてくれないかい?」
里志「ホータローをそこまで怒らせる事、少し興味があるよ」
奉太郎「いいから、誰だ」
おや、こいつは随分とご立腹だなぁ。
ううん、ま、いいか。
里志「それはC組みの人だよ。 名前は……」
そう言って名前を教えると、ホータローはすぐに図書室を出て行こうとした。
里志「ちょっと待ってホータロー」
どうやらホータローは、状況判断ができない程、怒っているらしい。
クラスに居るなんて保証は無いのに。
里志「とりあえず落ち着こうよ、らしくないよ」
奉太郎「落ち着いてる、いつも通りだ」
里志「そんな、今にも殴りそうな顔をしているのに?」
里志「ホータローが怒る程の事だ、よっぽどの事だとは思うよ。 でもさ」
里志「事情くらいは話してくれてもいいんじゃない?」
そう言うと、ホータローは一つ溜息を付いて、話してくれた。
朝、そいつと千反田さんが話していた事。
部室であった事。
僕も勿論、腹が立ったさ。
でもこういう時、落ち着かせるのはホータローの筈なんだけどなぁ。
さあて、どうしたものか。
信じられなかった。
最初聞いた時もそうだけど、2回目を聞いた時。
私はその場に居るのも、辛かった。
ちーちゃんの事は、そんなに知っているつもりはない。
だけど、あんな言葉を使うなんて、とても信じられなかった。
でもそれは、私の勝手な想像かもしれない。
もしかしたら、そういう事を言う人だったのかもしれない。
そう思ってしまう私にも、嫌気がさしてきた。
摩耶花(明日から、どうしようかな)
古典部になんて、顔を出せる訳もない。
私が泣いていたの、折木に見られたかなぁ、悔しい。
ふくちゃんに会いに行こうと思ったけど、そんな気分にもなれなかった。
ずっと、友達だと思っていたのに。
ちーちゃんは「うざい」って、ずっと思っていたのかもしれない。
なんで今日言葉にしたのか分からないけど……部室で自分の絵を描いていたからかな。
確かに、あそこは古典部の部室だし。
居やすい場所だと、思ってたけど。
摩耶花(それは、私の気持ち)
摩耶花(ちーちゃんやふくちゃん、折木がどう思っていたなんて、考えた事もなかった)
摩耶花(やっぱり私、馬鹿だ)
胸がぎゅっと、締め付けられる気がした。
摩耶花(今日は、ご飯食べられそうにないや)
私は、なんて事をしてしまったのでしょうか。
摩耶花さんには会わせる顔がありません。
しばらく、部室でぼーっとしてしまいました。
茫然自失とは、こういう事を言うのでしょうか。
折木さんも、部室を出て行ってしまいました。
恐らく、怒っているのでしょう。
最後に「気にするな」と言ってくれましたが、顔からは怒っているのがすぐに見て取れました。
勿論、私に怒っているのでしょう。
福部さんも、聞いたら恐らく私に怒りを感じると思います。
帰る気分には、今はなれません。
足に力が入らない、というもありますが。
折木さんは、私に言葉の意味を教えてくれました。
もしかすると……折木さんとは、少し話ができるかもしれません。
摩耶花さんとも勿論、話さなくてはいけないのは分かっています。
ただ少し、時間が必要です。
私はそこまで、強くないんです。
ですが、どんな言葉で罵倒されても仕方ないです。
私が……愚かだったんです。
俺は、里志に話をして、少し気持ちが落ち着いたのだろうか。
自分では部室を出た後は落ち着いているつもりだったのだが、里志には違うように見えていたらしい。
里志は「どうするつもりだい?」と言って来たのに対し「そいつを殴る」と言っただけなのだが。
里志は苦笑いをしながら「それはホータロー、落ち着いてないよ」と言って来た。
まあ、そうかもしれない。
里志には全てを話した訳ではなかった。
千反田が涙を流していたのを話しては駄目な気がしたからだ。
里志も勿論怒っているだろう、そいつに対して。
しかしどうやら、俺を落ち着かせる為に堪えているらしい。
ああ、やっぱり俺は落ち着いてなんかいなかったか。
一度、深呼吸をする。
里志「別に、気にしなくていいよ」
里志「まあ、怒ってるホータローも珍しいから悪くはないけどね」
奉太郎「それはよかったな」
里志はいつも通りの顔を俺に向けていた。
さてと、だ。
まずは状況整理。
千反田に嘘を吹き込んだのはC組みの奴らしい。
朝見かけた奴だろう、千反田と話していたし。
少し、考えようか。
5分ほど、頭を働かせてみた。
漫画研究会、千反田に嘘を吹き込んだ、そして……あの時。
ああ、そうか。
ならば話は早い、意外と簡単に終わるかもしれない。
後は、揃えるだけで大丈夫だ。
ホータローも大分落ち着いたようで、安心だ。
それにしても今回は僕も全面協力させてもらったよ、ホータロー。
後はホータローが終わらせる、明日には終わるかな。
摩耶花と千反田さんは一度、話し合う必要があると思うけどね。
摩耶花はああ見えて、随分と自分を責めるからなぁ。
今夜、電話してみよう。
える「私は、どうすればいいのでしょうか……」
つい、独り言が出てしまいます。
折木さんに貰ったプレゼント、どこか折木さんに似ているようなぬいぐるみを抱きしめます。
える「折木さんに、電話してみましょうか……」
そう思い、電話機の前まで来ましたが……どうにも電話が取れません。
折木さんになんと言えばいいのでしょうか。
私は騙されていたんです?
言い訳です。
皆さんには申し訳ない事をしました?
謝って済む問題でしょうか、これは。
折木さんに相談すれば、なんとかなるでしょうか。
予想外の回答で、私を驚かせてくれるのでしょうか。
また、折木さんに頼ろうとしてしまっています。
これは甘えです、甘えてはいけません。
それに折木さんは、今回の件は無関係です。
巻き込むような事は、できません。
もう、大分遅い時間になってきました。
夜の21時。
少し思い出します、折木さんの家で、私はまたしても気になる事を解決してもらいました。
折木さんの寝癖を見て、少し気になったのも思い出しました。
思わず笑みが零れます。
やはり、皆さんとまた、一緒に仲良くしたいです。
これは、我侭なのでしょうか?
その時、突然電話が鳴り響いて、思わず受話器を取ってしまいました。
える「は、はい! 千反田です」
大体の構図は出来た。
後は俺がこれをどうするか、だけか。
まあ、どうにかなるだろう。
だけどまあ、少しは許してくれよ、里志。
……そういえば。
奉太郎(千反田にすぐ戻るとか言って、すっかり忘れてたな)
千反田は結構ショックを受けていたみたいだし、聞こえていなかったかもしれない。
だけど、まあ……
ああ、仕方ない。
やはり千反田が関係することだと、どうにもうまく省エネができない。
自室から出て、リビングへ向かう。
奉太郎「姉貴、携帯借りていいか」
俺はソファーに座る姉貴に話しかけた。
供恵「はあ? あんたが携帯!?」
供恵「……なんかあったんでしょ」
やはり鋭い、ニヤニヤしながらこっちを見るな。
奉太郎「ダメならダメで、いいんだが」
供恵「いいわよ、貸したげる」
意外にも姉貴は快く貸してくれた。
供恵「変わりに洗い物やっておいてね」
指差す先には大量の食器。
前言撤回、快くは間違いだ。
正しくは、エサにかかった獲物をなめまわすような視線を向けながら。 としておこう。
奉太郎「……分かったよ」
奉太郎「ありがとうな、姉貴」
供恵「あんたにしては随分と素直ね、どこか出かけるの?」
奉太郎「俺はいつも素直だ。 少しな、すぐに戻ると思う」
供恵「ふうん、気をつけて行ってきなさいよ」
姉貴が珍しく真面目な顔をしていた、あいつはどうにも勘が良すぎる。
少し前まで寒かったが、今は夜も涼しいくらいになってきた。
自転車に跨り、千反田の家に向かう。
以前はそこまで長くない距離だと思ったが、今は自然と長く感じた。
やがて見えてくる、大きな家。
門の前に自転車を止めると、携帯を取り出した。
千反田の家の番号を押し、コールボタンを押す。
近くにでも居たのだろうか、1回目のコールで繋がった。
える「は、はい! 千反田です」
奉太郎「千反田か、遅くにすまない」
える「え、えっと、折木さんですか……?」
奉太郎「ああ、今千反田の家の前にいるんだが……少し話せるか?」
える「……はい、分かりました」
千反田は、いつもより少しだけ暗かった気がする。
だがその中にも少しだけ嬉しそうな感情、そんな感じの声に聞こえた。
5分ほど待ち、千反田が出てきた。
奉太郎「夜遅くに悪いな、どこか話せる場所に」
そこまで言った所で、千反田が俺の声に被せてくる。
える「あの公園に、行きましょうか」
奉太郎「……そうだな」
公園に向かう途中は、お互いに無言だった。
千反田の様子は、やはり暗く、ショックが大きいのが見て取れる。
そんな千反田を見ていると、また怒りが湧いてきそうで、俺は敢えて千反田の方を見ずに、歩いた。
やがて、公園が見えてくる。
自販機に向かい、コーヒーと紅茶を買った。
千反田に紅茶を渡し、ベンチに腰掛ける。
それを見て千反田は俺の横に座った。
奉太郎(さて、何から話そうか)
える「折木さん、すいませんでした」
える「私があんなことを言ったせいで、古典部に影響を与えてしまって……」
える「折木さんが怒るのも……仕方がない事です」
える「私が馬鹿でした、許してもらえるとは思っていません」
える「でもやっぱり、また皆さんで仲良くしたいんです」
える「……すいません、折木さんに相談する話では、ないですよね」
千反田は泣きそうな声で最後の言葉を告げると、俯いてしまった。
俺は、一瞬何を言っているのか分からなかった。
何故、千反田が謝る?
俺が千反田に怒っている?
また仲良くしたい?
許してもらえない?
それらを並べると、俺は理解した。
今回の事も、人のせいにしないで、全て自分で背負っているんだ。
怒りが湧いてくると思ったが、俺の心に湧いたのは、落ち着いた物だった。
奉太郎「千反田」
奉太郎「お前は、そういう奴なんだよな。 やっぱり」
奉太郎「俺はお前には怒っていない」
奉太郎「千反田を騙した奴に、俺は怒っているんだ」
奉太郎「伊原も、ああいう性格だが捻くれた奴ではない」
奉太郎「少し話せば、すぐに終わる」
奉太郎「皆は許してくれない? それはちょっと不服だな」
奉太郎「少なくとも俺は、お前の味方だぞ」
奉太郎「第一に、俺は省エネ主義者だ」
奉太郎「それがわざわざ千反田の家に来ているんだ」
奉太郎「それだけで、俺がお前の味方ってのは、分かるだろ」
奉太郎(なんか、俺らしくないな)
奉太郎(まあ、いいか)
える「……折木さん、私」
える「ずっと、ずっと、どうしようかと思っていました」
える「……でも、でもですね」
千反田は今にも泣きそうに、続けた。
える「折木さんが……いえにきたとき……わたし、うれしかったんです……っ」
否、千反田は泣いていた。
える「ずっと……ずっと相談じようどおもっでいて……っ…」
涙を拭い、千反田は自分の胸に手を置いた。
小さく「すいません」と言い、一呼吸置き、再び話し始める。
える「でも、折木さんの、今の言葉を聞いて、私、安心できました」
次に出てきた言葉は、いつもの千反田らしく、しっかりとした物だった。
える「……少しだけ、すいません」
そう言うと、千反田は俺の肩に頭を預けてきた。
奉太郎(暖かいな)
俺はこの時、強く確信した。
奉太郎(なんだ、随分と悩まされていたが)
今まで何回か、友人が言っていた言葉。
奉太郎(分かってみれば、大した事はなかったか)
千反田が来て変わったと、里志は言った。
俺はずっと、そんなことは無いと、思っていた。
だが今、確信した。
千反田の頼みを断れないのも。
千反田が関係することだと省エネできないのも。
千反田に振り回され、満更ではなかったのも。
千反田が泣いたとき、俺は酷く怒ったのも。
全ての疑問に、答えを見つけた。
言おうとした、好きだと。
だが……だが。
どうにもうまく言葉にできない。
前にも、似たような経験はあった。
前の時も、言おうとしたが、少しめんどうくさいというのがあったと思う。
だが、今回ばかりは。
いくら言おうとしても、できなかった。
そのまま、5分ほどが立った。
奉太郎「寝る時間、過ぎてるな」
時刻は23時近く、千反田が寝る時間は過ぎている。
える「そうですね」
える「でも今日は、ちょっと夜更かししたい気分です」
奉太郎「そうか」
奉太郎「夜景が、綺麗だな」
そう言うと、千反田は
える「……はい、折木さんと一緒に見れて、良かったです」
俺は……笑っていた、と思う。
第四話
おわり
折木さんと一緒に夜景を見ていた時間は、とても短く感じました。
気持ちも、軽くなっています。
やはり、折木さんに相談したのは間違いではありませんでした。
……これは、甘えではないですよね。
明日は、しっかりと摩耶花さんとお話をするつもりです。
私が言った、許してくれないと言う言葉。
それは反対の意味にすると、私は古典部の皆さんを信じていないという事になります。
そんなのでは、ダメです。
私は皆さんを信じています。
摩耶花さんもきっと、分かってくれる筈です。
もし、万が一にでも、想像したくはないですが。
福部さんも、摩耶花さんも許してくれなかったら……
そうしたら、味方だと言ってくれた折木さんと、どこか遠くへ行きましょう。
折木さんならきっと、私の思いもよらない場所へ連れて行ってくれる……そんな気がします。
そんな事を考えながら、折木さんが以前くれたぬいぐるみを抱きしめます。
でも、まずは摩耶花さんと話さなければ。
える(明日、明日です)
える(うまく、話せるでしょうか……)
後ろ向きになってはダメです。
ちゃんと、伝えましょう。
折木さんがわざわざ家まで来てくれたんです。
折木さんを裏切らない為にも、また皆で仲良くする為にも。
……また、一緒にあの公園で夜景を見る為にも。
何故でしょうか?
私にはまだ、分かりません。
折木さんに聞けば答えてくれるでしょうか?
しかし、何故か聞いてはいけない気がします。
これは、自分で答えを出さないといけない問題……
える(折木さんが家に来てくれて、本当に良かったです)
える(もし来なかったら……考えたくもありません)
える(……今夜は、いい夢が見れそうですね)
奉太郎(はあ)
何度、溜息をついただろうか。
どうにも気持ちが落ち着かない。
千反田は別れる時には、いつも通りの顔だったと思う。
しかし、俺はどうだっただろう。
なんとも言えない気分である。
奉太郎(今まで避けてきたが……)
奉太郎(確かに、これはエネルギー消費が激しそうだ)
まあ、いい。
問題は明日だ。
準備は問題無いはず、後は俺次第。
千反田には、話せる内容ではない……か。
落ち着け、落ち着け。
とりあえずは、目の前のを片付けなければいけない。
奉太郎(今日は、もう寝るか)
自室へ向かった俺に、後ろから声が掛かる。
供恵「ちょっと、携帯返してよね」
ああ、すっかり忘れていた。
奉太郎「ありがとな」
再び、自室へ向かう。
しかし再度声が掛かる。
供恵「ちょっと、アンタ寝ぼけてるの?」
奉太郎「……なにが?」
姉貴はニヤリと嫌な笑顔を浮かべる。
供恵「あれ、約束でしょ」
指差す先には食器の山。
奉太郎(どうやら)
奉太郎(もっと先に片付けなければいけない問題があったな)
数えるのも嫌になる程の溜息をもう一つつき、俺は食器の山へと向かうのであった。
4.5話
おわり
Entry ⇒ 2012.10.18 | Category ⇒ 氷菓SS | Comments (0) | Trackbacks (0)
唯「カツカレー」
SIDE:PORK
紬「そうだね~」
夜の十時。
唯と紬はオフィス街の大通りを歩いていた。
今日は夏休みが終わり大学が始まって最初の金曜日。
講義が終わった後二人はドーム球場へ野球を見に行った。
当初は電車に乗って帰るつもりだったが駅までの道に野球観戦客がごった返していたので諦めた。
加えて球場のビール売り子と美味しそうに飲みだす客を見ていたら二人も飲みたい気分になり、
それなら朝まで飲んじゃえーという事になったのだ。
その場でビールを頼まなかったのは二人ともビールがあまり好きではなかったから。
唯「でもお酒が飲みたくなっちゃったんだよね」
紬「うんうん」
紬「私もびっくりしちゃった! 応援団の人達もすごかったわね」
唯「迫力あったなー」
紬「あっ!」
唯「どうしたの?」
紬「もしかしたら私達テレビに映ってたりして!」
唯「ハッ!? 誰かにテレビ録画しておいてもらえばよかった~!」
二人とも野球に興味があんまりない。
サークルの先輩からチケットを二枚貰った時に「あーあたし野球興味ないからパス」「私も野球はよく知らないから……」
となってドームで野球を見るのが夢だったりなんとなくわくわくした人がチケットを握っていた。
夜遅くなるとオフィスの明かりが消えて人や車も少なくなるので都会の割には穏やかな景観だ。
街路樹の葉の色が落ちていく時期の夜は涼しい風が吹いていて散歩には丁度いい。
熱気溢れる応援にあてられた身体が程よく冷まされる。
唯「何食べようか? あーでもこの辺あんまり食べるところないね」
今探しているのは居酒屋ではなく普通の飲食店。
居酒屋で長時間飲み食いすると会計が跳ね上がってしまうので先に食べ物で腹を満たすという作戦だ。
腹を満たした後で少量のおつまみとお酒をちょびちょびいただくというお金に困っている学生ならではの可愛い(?)発想。
酒で腹を満たすという発想はこの二人にはまだない。
唯「ムギちゃんがっつりいくね」
紬「あいむはんぐりー。ほら、あそこに黄色い看板が」
唯「カレーかあ……うんいいねえ。じゃあカレーに決定!」
紬「やったぁ」
暗く静まった通りに黄色い看板がよく目立つ。
店の前まで来て中を覗くと客は誰もいなかった。
唯「私達の貸切だね」
紬「わくわくっ」
店内に入りカウンターに座る。
この店のカレーはルーやライスの量、辛さやトッピングを自分好みに選ぶことができる。
唯がそれを教えてあげると紬は目を輝かせながら悩み始めた。
辛さやトッピングの他に元のカレーにも様々な物があり、
豚しゃぶカレーやチキン煮込みカレー、他にもハンバーグやカキフライや納豆が乗っているものもある。
紬「いけない。私食べたいカレーがあったんだった」
唯「何カレー?」
紬「カツカレー!」
唯「カツカレー!?」
唯「なんとなくわかるけど……夜の十時過ぎてるよ? それに元々カレーなんだよ?」
紬「言わないで! いいの、今夜カツカレーを食べなかったら別の後悔が残るから……!」
唯「あ、うん、そうなんだ……」
紬「せめてルーはカロリー少なそうなのにしておこうかな。ビーフとポークだったらやっぱりポークの方がヘルシー……?」
紬「ハーフサイズはちょっと少ないかもだし……カレーちょっぴりライスたっぷりとか? うーん、いやでも」
唯「私はビーフの気分かな~。ムギちゃんがカツカレー食べるなら私もカレーにあげもの乗せよーっと」
唯「おあ、カニクリームコロッケカレーなんてものが!? 私これにするー♪」
紬「ぐ……!」
唯「ムギちゃん?」
唯「あ、うん、そうなんだ……」
唯「えっと、辛さはどうしようかな。クリームコロッケと歩調を合わせて甘口か……あるいはカレーならではのコラボで辛口に」
紬「そっか、私『5辛』っていうの経験してみたかったけどカツとの相性を考えるとあんまり好ましくないのかな」
唯「『5辛』は相当な大人味だと思うよ」
紬「辛さが増す分舌が麻痺してしまうからカツのおいしさが半減しちゃうかも……」
紬「となると『普通』か『1辛』あたり……やっぱり初めてのお店だしまずは『普通』の辛さにしようかな」
紬「私も。すみませーん、カツカレーお願いします。はい、普通で、ポークで」
唯「えっと、カニクリームコロッケカレーでルーはビーフでライスと辛さは普通で」
唯「あとトッピングでカニクリームコロッケ追加して下さい」
紬「!?」
唯「えへへ、節約するつもりだったんだけどつい頼んじゃった☆」
紬「ぐ……!」
唯「ムギちゃん?」
パリパリのカツに少しルーがかかっていて食欲をそそるカツカレー。
それより少しだけ色の濃いビーフカレーの上に丸い揚げ物が四つ並ぶカニクリームコロッケカレー。
唯紬「いただきまーす」
二人とも揚げ物が乗っているので福神漬けは乗せずに召し上がる。
結構多いな
アツアツホカホカだったので口をはほはほさせながらカレーを味わう。
程よい辛さにしたのは正解で、家のカレーとも寮のとも違う新しい味に心が踊る。
料理は作り手によって味が変わるがカレーはそれが顕著に現れる。
辛さ、スパイス、こく、具、水分の量による水っぽさ加減等により同じカレーであっても好き嫌いが別れたり。
紬が以前食べたカレーの中にはそれこそカツが乗っていなくても3500円するようなものもある。
対して今食べているカレーはカツがついて700円なのだが紬にとっては新鮮な味のカレーだった。
家の味や高級洋食店とはまた違った味なのは当然で、それが個性であり長所。
誰が何と言おうと今紬は美味しさを感じている。
『おいしい』は一種類じゃない。
カレー屋のメニューやトッピング、それを上回る作り手やお店や家庭の数だけ『おいしい』があるのだ。
ルーのかかっていない部分にスプーンを差し込むとサクサクッといい音がした後に弾力のある肉厚を感じる。
それをルーと一緒に頬張った。
辛すぎないカレールーのおかげでカツの味がダイレクトに舌を刺激する。
定食屋や自宅のおかずでカツが出てきたらカレーソースをかければいいんじゃないか
と思える程カツとカレールーの相性は良く、後続のごはんが加速する。
カツとカレーとごはん。
食事している時刻も相まって重みのあるボディブローのような一撃。
カロリー的にはノックアウトだが銀のスプーンが止まる事は無かった。
蓄積される辛さと熱さから額に汗を浮かべて夢のコラボレーションを食べ尽くす。
ポークとビーフってルーの味どのくらい違うんだろう。
でもチキンカレーもいいなー。
チーズトッピングもおいしそうだなー。
ああーカニクリームコロッケおいしいなーと思いながら幸せそうにもぐもぐしている。
唯紬「うまー……///」
唯紬「ごちそうさまー」
二人ともいっぱい満足して店を後にした。
街路樹がなびいて再び火照った身体にそよ風。
満たされて気分のいい二人は飲み屋へ向けてゆっくりと歩き出す。
唯「私もー。なんだか眠くなってきたかも」
紬「だめよ~。今食べた分はちゃんと燃焼してから寝ないと」
紬「飲み屋さんまできっちり歩いて、それから飲みながら燃焼するの! あ、もうちょっと回り道したり……?」
唯「あ、うん、そうなんだ……いやそれはちょっと」
紬「うん、カツカレーにしてよかった~。みんなに自慢しちゃおう」
唯「カニクリームコロッケもおいしかったよー。あ、カツと交換してもらえばよかった」
紬「そっか、食べるのに夢中で気付かなかったわ」
唯「ムギちゃんの食いしん坊めー」
紬「唯ちゃんだってコロッケ追加までしたくせにー」
唯「えへへっ」
紬「うふふ」
カレーを食べてさらにテンションの上がった二人の会話はどんどん盛り上がっていく。
その勢いで色々と突っ込んだ話をしようとして、でもこの話はお酒を飲みながらだなと思い留まる。
夜の静かな街を散歩しながらお喋りもいいけれど甘いカクテルで割りたい話もあるのだ。
大通りから脇道へ逸れると学生に丁度良さそうなチェーン店の居酒屋が見つかった。
チェーン店の割には落ち着いていて味のある雰囲気を醸し出している。
二人は店先にあるメニューを見てこの居酒屋で飲み明かす事に決めた。
紬「オムそばっていうのがある! わぁい焼きそばが包まれてる!」
唯「え゛っまだ食べるの!?」
紬「そうよね……これ以上は流石に……やきそばぁ」
唯「ま、まあ夜は長いからね。おつまみとしてちょっとずつ食べれば……」
唯「誘惑に負けてるよムギちゃん」
紬「大丈夫、カツカレーで総裁にだってなれるもん!」
唯「おわームギちゃんもう飲んでるみたいだね!」
紬「さぁ行くわよ唯ちゃん、今夜は話したい事が沢山あるんだから!」
唯「おぅ! 私もあるよっ!」
喝を入れて居酒屋へともつれ込む。
じっくりコトコト煮込んだ話は甘口だけどちょっぴり辛い。
二人の夜はまだまだこれから。
カツカレーが食べたい。
SIDE:PORK END
俺もカツカレー食べたい
唯とムギと一緒にカツカレーを食べたい
SIDE:BEEF
唯「ほっ! こんな感じかな」
晶「まあそんなとこだな」
唯「やったー晶ちゃんのおかげでこのフレーズ弾けるようになったー! ありがとー」
晶「楽譜読めないってお前今までどうやってギター弾いてきたんだよ」
唯「読めるようにはなったんだよ? でも実際に弾いてるの聞かないとピンとこないっていうか」
晶「ダメだろそれ……って何で私は敵に塩送るような事してんだ……」
唯「敵って?」
晶「学園祭でバンド対決するだろ! 何で忘れてるんだよ!」
唯「え? ……あっ! 忘れてないよ!」
晶「うそつけ」
晶「よくねーよ」
唯「でも本当にありがとね。そだ、お礼もかねてこれから飲みに行かない?」
晶「おっ唯のおごりか。それなら……」
唯「えっワリカンだけど」
晶「お礼じゃなかったのかよ! 話の流れ的におごりだろ!?」
晶「何だかんだで飲みに行くことになっちまった……」
唯「えへー♪」
晶「あんだよ」
唯「何でもないよ~」
晶「割り勘で何がお礼なんだよ」
唯「だって今厳しいんだもん」
晶「余計なもんばっかり買ってるからだろ」
唯「えーそんな事ないよ。あ、だからさー先に何か食べていかない?」
晶「はあ?」
唯「ね?」
晶「そんなの大して変わらねーよ……あ」
唯「あ?」
晶「……」がさごそ
晶「いち、に、さん、よん枚……まぁ、食べた後で飲むのもいいかもな」
唯「……」フスッ
晶「おい今鼻で笑っただろ」
唯「笑ってないよ」フスッ
晶「こいつ……!」
唯「そうだねー何食べようか?」
晶「くっ……んーそうだな……あ、カレー」
唯「えー目の前のお店選んだだけじゃん」
晶「ちげーよカレーが食べたいんだよ」
唯「めんどくさいだけじゃないの?」
晶「そういうお前は何が食べたいんだよ」
唯「えっ? うーん……ううん……カ、カレー?」
晶「おい」
唯「じゃ、じゃあカレーにしよっか!」
唯「何カレーにしようか」
唯「うーん……カツカレーもいいけど……ハンバーグカレーもいいねえ」
唯「うおっカキフライカレー!? おいしそー」
唯「トッピング! そういうのもあったね」
唯「チョコカレー……はないか。半熟タマゴとか?」
唯「あーんどれにしよう~」
晶「いいからまず店に入れよ!」
唯「ああん待って」
晶「私はもう注文決まってるから」
唯「何にするの?」
晶「ビーフソースでビーフカツカレー」
唯「あっいいなー」
唯「カツも捨てがたいけどシーフード系もいい……」
唯「海の幸で行くかカツで行くか……」
晶「すいませんビーフカツカレー下さい」
唯「ああっ!? 私まだ決めてないよー!」
晶「選ぶの遅すぎ。待ってられるか」
唯「ええーじゃあえっと、カニクリームコロッケカレー下さい」
晶「……」
唯「うう……」
晶「……」
唯「間を取ってカニコロカレーにしたけどやっぱりカツがよかったかなあ……?」
唯「……ねえ晶ちゃん」
晶「やらねー」
唯「まだ何も言ってないよ!?」
唯「一切れ交換しよ?」
晶「いただきます」
唯「……いただきます」
晶「もぐもぐ……ん、まあまあだな」
唯「ん! カニクいームコおッケおいひい!」
唯「これにしてよかった~♪」
晶「何でもいいんじゃねーか」
晶「だーめーだ」
唯「カニコロおいしいよー?」
晶「う……いやだめだ」
唯「ケチー」
晶「ケチじゃない。私がカツカレー食ってるのには意味があるの」
晶「カツカレーを食べてお前に勝つっていう大事な意味が」
唯「あっもしかして早食い勝負だった? しまった出遅れた~」
晶「ちげーよ! バンド対決の話だよ!!」
晶「そうだ。という訳でお前にカツはやらん」
唯「……」
晶「もぐもぐ」
唯「それじゃあ仕方ないか……」
晶「もぐもぐ」
唯「……カツ、カニ、かにくり、ころ……ハッ、ウィンナーカレーにしておけばよかった」
唯「……上手い事言ったね私……ウィンナー、ウィナー……フスッ」
唯「それなら交換出来たのに……ああメニューにウィンナーカレーないや。ソーセージカレーでも大丈夫かな……?」
晶「……」
唯「え?」
晶「一切れだけだからな」
唯「くれるの!? やったぁ! あっでも私もカツカレー食べたら私が勝っちゃうかもよ?」
晶「一切れだけだから私の方がご利益があるの。そもそもカレーじゃなくて実力でお前に勝つからいいの」
唯「わぁい晶ちゃんありがとー♪ お礼にカニコロいっこあげる~」
晶「別にいらね――」
唯「いいからいいから」ベチャ
晶「……」
晶「じゃあ、もぐ」
晶「もぐもぐ……結構美味いな」
唯「でしょー?」
唯「はー美味しかった」
晶「まあまあだな」
唯「晶ちゃん黙々と食べてたくせにー」
晶「……」
唯「カツカレーを食べてまで私達に勝ちたいとは……私に一切れもあげたくないほどに」
晶「ちゃんとあげただろ」
唯「これには何かある……ハッ!?」
唯「そういうことだったんだね晶ちゃん……」
晶「は?」
晶「はあっ!?」
唯「そうなると私達は恋敵になるのか……でも手は抜かないから!」
晶「ならねーよ! そもそも告白はまだしねえよ!」
唯「なーんだ。……ん? 『まだ』しないって事はその内また……?」
晶「ぐああぁ……!」
晶「うるせーよ!」
晶「くっそぉ……何で私だけ好きな人ばらされて唯にまでいじられなきゃならないんだ……」
晶「私の事ばっかりでお前らそういう話全然しないし……きたねえ」
唯「まあまあ」
晶「よし決めた。今日は朝までお前の好きな人とか全部聞き出してやるから覚悟しとけよ」
唯「え」
唯「ええっと……でも私そういうのあんまりなくて――」
晶「ちょっとあれば十分だ。今までのそういう話全部話してもらうからな」
唯「いやぁ、でもぉ……恥ずかしいよぉ///」
晶「ふざけんな散々人の話ほじくり返しといて。よーし飲み屋行くぞ」
唯「あ、私用事が……」
晶「さっきまでギター教えてやったよなぁ?」
唯「それは……はい」
唯「いやあ、ええと、あっレポート書かなきゃ」
晶「お前はいつも溜め込んでるから一日くらいかわんねーよ。ほら行くぞ」
唯「うえあぁぁ……」
晶「腹も満たしたし今夜はたっぷり飲めそうですねえ唯さん?」
唯「……もうカツカレーはしばらく食べなくていいやもう」
晶「カレーのせいじゃなくてお前の失言だからな」
唯「はぁい……」
その後酔ってさらに勢いのついた晶に質問攻めされて唯はあんまり酔えなかったとさ。
おまけに酒の量まで勢いづいてしまい、酔い潰れた晶を介抱しながら寮まで帰る事になってしまった。
うなだれる晶に肩を貸しながら唯はお酒を飲む時にこの話題は出さないようにしようと朝日に誓うのだった。
SIDE:BEEF END
腹減るわ
Entry ⇒ 2012.10.18 | Category ⇒ けいおん!SS | Comments (0) | Trackbacks (0)
洋榎「これからよろしくな!」 絹恵「……」
絹恵「……」
父「ほら絹」
絹恵「……っ」プイッ
父「ハァ……ごめんな、洋榎ちゃん。こいつ人見知りだからさ」
洋榎「あはは、別にええよ。そのうち打ち解けてくるやろし。なあ絹江ちゃん?」
絹恵「……」
絹恵「……別に」
洋榎「別にってなんや別にって」アハハッ
絹恵「……」
洋榎「大阪もええとこやで~。ま、そのうちいやでも慣れるから安心しいや」
絹恵「……」
洋榎「あとで本場のたこ焼きでも食いいこな? うまいとこ知ってるんやで~」
絹恵「……」
絹恵「は……うちら?」
洋榎「そ、二人部屋なんやて。まあもともとうち一人で寝るんには広すぎたしな」
絹恵「……最悪」ボソッ
洋榎「ん、なんか言うた?」
絹恵「……別に」
洋榎「絹恵ちゃんさっきからそればっかやな~。口癖なんか?」アハハッ
絹恵「……」
絹恵「……」ストン
洋榎「ちょっと待っててや。今なんか飲み物持ってくるから」スタタ
絹恵「……」
絹恵(……ハァ、息苦しい)
絹恵(……これからあんなうるさい人と一緒に生活しろなんて……)
絹恵(……なんかもう、色々と最悪……)
洋榎「お待たせ~」ガチャ
洋榎「どう? うまい?」
絹恵「……ただの麦茶じゃん」
洋榎「まあな~」アハハッ
絹恵「……」
洋榎「絹恵ちゃん物静かやな~。東京にいたときもそんなやったん?」
絹恵「……」
洋榎「ええ~、無視せんといてえな~」
絹恵「……」イラッ
洋榎「あ、場所わからへんやろ? 案内するで」
絹恵「……っ」
絹恵「……やっぱ外の空気吸いに」
洋榎「あ、そんならうちも行く~。ついでにさっき言ったたこ焼き食いいこうな」
絹恵「……ハァ」
洋榎「??」
絹恵「……もういい」ボフンッ
洋榎「あれ、出かけるんやないの?」
洋榎「ええ~、まだ昼の3時やで? 今寝るとかもったいないやん!」
絹恵「……」
洋榎「たこ焼き食いいこうや~、絹恵ちゃ~ん!」ユサユサ
絹恵「……っ」
洋榎「そんな寝てばっかいると太るで~」
絹恵「……」ブチッ
絹恵「うるさいなぁ! いいからほっといてよ!」
洋榎「ぇ……ぁ、ごめん……」
洋榎「……ぁ、あの……ごめんな絹恵ちゃん」
絹恵「……」
洋榎「そ、そりゃ疲れるよなぁ。東京からの長旅やったもんな」
絹恵「……」
洋榎「ごめんな、うち気づかへんで……」
絹恵「……うるさくて眠れないんですけど」
洋榎「ご、ごめん……」
絹恵「……」
絹恵「……」
洋榎「おやすみ……」
バタン
絹恵「……」
絹恵「……ハァ」
絹恵「……ほんとうざい。私にかまうなっつーの」
絹恵「……」
絹恵「やば……ほんとに寝ちゃった」
絹恵「携帯、携帯……」ガサガサ
コンコン
絹恵「っ!」ビクッ
「絹恵ちゃん、起きとる?」
絹恵(……あいつか)
「お母さんがご飯やから降りてきいって」
絹恵(……うわ、めんど……)
「絹恵ちゃん? ……開けるで」ガチャ
絹恵「ちょ……!」
洋榎「うわっ、な、なんや……?」
絹恵「か、勝手に開けないでよ!」
洋榎「いやノックしたやん……」
絹恵「ノックすればいいってもんじゃないでしょ!?」
洋榎「で、でもでも、ここうちの部屋でもあるんやで?」
絹恵「そ、それは……っ」
洋榎「ていうか別に女同士なんやから気にせんでええやん。それにこれからはもうお互いに家族やろ?」
絹恵「……」
絹恵「……」
洋榎「とりあえず下いこ。な?」
絹恵「……先いってて」
洋榎「いや、あんたリビングの場所知らへんやろ? だから一緒に……」
絹恵「……っ!」
絹恵「じゃあドア閉めて外で待っててっ!」
洋榎「は、はいっ!」ダダッ
絹恵「……ハァ、ハァ」
絹恵「……」
雅枝「お、絹ちゃん。久しぶりやな~」
絹恵「……どうも」コクッ
雅枝「お疲れみたいやな。よく寝れた?」
絹恵「な、なんでそれを……!///」カァア
雅枝「ん、洋榎から聞いたんやけど」
絹恵(あ、あんた……余計なこと……!)キッ
洋榎「~♪」パクパク
雅枝「ははっ、ここはもう絹ちゃんの家なんやから、そんなん気にせんでええで~」
絹恵「……っ」
絹恵「……はい」
父「まぁ、絹にとっても早い方がいいだろうしな」
雅枝「せやな。絹ちゃんには早いとこ大阪の空気になじんでもらわんと」
絹恵「……」
父「洋榎ちゃん、こいつのことよろしくな」
洋榎「ん、ふぁふぉい!」
雅枝「こら、口に物入れて話すなバカ」ベシッ
洋榎「ふぁい……んぐ……了解や、任せとき!」
絹恵「……」
洋榎「いってきまーっす!」
雅枝「おう、いってらっしゃい」
洋榎「ってカバン忘れとった! やばいやばい!」ダダッ
雅枝「なにやっとるんやあいつは……」
絹恵「……」
雅枝「……絹ちゃん、がんばってき」
絹恵「……」
雅枝「あの子アホやけど、根は真っ直ぐやから。いざとなったら頼りにせえ」
洋榎「お待たせぇええええ!!」ダダダッ
雅枝「こら、階段で走るな!」
絹恵「……」
雅枝「それじゃ今度こそ、いってらっしゃい」
絹恵「……」スタスタ
洋榎「絹ちゃん!」
絹恵「っ!?」ビクッ
洋榎「絹ちゃん……お母さんもそういってたし、うちもそう呼んでええ?」
絹恵「……」キッ
洋榎「……」ジッ
絹恵「……か、勝手にすれば」スタスタ
洋榎「うん、勝手にするで!」ニコッ
絹恵「……」
絹恵(……だ、ダメだ……こいつらに心を許すな)
絹恵(……近っ)
洋榎「近いやろ~? もしかして前んとこでは電車通学とかやった?」
絹恵「……まぁ」
洋榎「あれって朝は人でギュウギュウなんやろ? つらくないん?」
絹恵「……慣れれば、別に」
洋榎「へえ、うちは絶対無理やわそんなの~」
絹恵「……」
洋榎「ついたで~。ここがうちらの中学校」
絹恵(……ふーん、まぁまぁきれいかな)
洋榎「なかなかいいとこやろ? 本館はまだ改装したばっかなんやで~」
洋榎「ほな、さっそく職員室いこか」
―――――――――――――――――――
「おはよー洋榎」「おっす愛宕」
洋榎「おはようさん~」
絹恵「……あれ全部友達?」
洋榎「ん、まぁな~」
絹恵「……」
洋榎「お、由子やん。おはようさん」
由子「今日はちゃんと寝坊せずにこれたんやね~」
洋榎「まぁな~」ヘヘン
由子「ん、そっちの子は……」
洋榎「あ、こいつ絹恵。前言ってたうちの妹になるって子や」
由子「あぁ、その子が~」
絹恵「……」
由子「私、真瀬由子っていうのよ~。洋榎と同じ部活なの。よろしくね~」
絹恵「……」コクッ
洋榎「おう、また放課後な~」
絹恵「……」イライラ
洋榎「待たせてごめんな~。職員室はすぐそこやから」
絹恵「……じゃああんたもういいから」
洋榎「えっ」
コンコン
絹恵「……失礼します」ガラッ
先生「おう、どうしたん~?」
絹恵「……あの、今日転入することになってる……あ、」
先生「ん?」
絹恵「あ、愛宕……絹恵といいます」
先生「おお、お前さんが愛宕の。聞いとる聞いとる」
絹恵「……はい」ストン
洋榎「ほーい」ボスンッ
絹恵「……ってあんたなんでいるの!?」
洋榎「え、だって絹ちゃんのこと心配なんやもん」
絹恵「い、いいから自分とこ行ってよ!」
洋榎「ええ~、別に始業までまだ時間あるしええやん」
絹恵「ジャマなの!」
洋榎「なんもせえへんて~」
絹恵「~~~~っ!!」
絹恵(……ああもう、恥ずかしい!)
洋榎「先生、おはよ~」
先生「おう、おはよう。しかしお前さんに妹ができるとはな~」
洋榎「ふっふーん。ちょっとはお姉ちゃんっぽくなったやろ?」
先生「いや全然」
洋榎「ひどっ! そこはお世辞でも同意してえな~!」
先生「せやかて、身長からしてお前の方が年下っぽいやん」
洋榎「そ、それは言わん約束やろ~!」
先生「ははっ、まぁ少しはお姉ちゃんぽく見られるようこれから頑張ってき」
洋榎「ちぇ……は~い」
先生「っと、せやった。これから教室案内するわ。ついてき」
絹恵「……はい」
洋榎「ほいほ~い」
―――――――――――――――――――
先生「ここがお前さんのクラスや。ちなみに俺がお前の担任やから」
絹恵「……はい」
先生「俺の後について入ってき」
絹恵「……」ゴクリ
洋榎「絹ちゃん大丈夫? トイレ行っといた方がいいんやない?」
絹恵「……あ、あんたはいいから自分とこ戻ってよ!」
先生「そうやで。もうチャイム鳴るし。はよ行け」
洋榎「む……仕方あらへんかぁ」
洋榎「んじゃ、絹ちゃんがんばってき~! ファイトやで~!」
絹恵(……は、恥ずかしいからやめてってば!!)
先生「おらー、席につけー」
絹恵「……」
ザワザワ...
先生「えーっと、今日はまず転校生の紹介から。愛宕、大丈夫やな?」
絹恵「……」コクン
絹恵「……」
絹恵「えっと、東京から来ました……あ、愛宕絹恵です」
絹恵「これからよろしくお願いします」ペコッ
パチパチパチ...
先生「よし、みんな仲良くするようになー」
先生「愛宕、お前は窓際の一番後ろに席や」
絹恵「……はい」スタスタ
絹恵(ハァ、疲れた……なんで私がわざわざこんな面倒なこと……)
絹恵(……でも、いい席もらったな)チラッ
洋榎(おーい! 絹ちゃーん)ブンブンッ
ガタンッ...!
先生「どないしたん? 愛宕」
絹恵「な、ななな……」
なんであいつが向かいの校舎に……!
ガヤガヤ...
先生「大丈夫かー?」
絹恵「え、ぁ……ご、ごめんなさい!///」
絹恵(あ、あいつ~~~~~~~っ!)
「じゃあねー」「またなー」
絹恵「……」スタスタ
ガラッ
洋榎「お、早かったなー絹ちゃん」
絹恵「!!」
絹恵「……っ」スタスタ
洋榎「ち、ちょっと待ってや~」タタッ
絹恵「……」スタスタ
洋榎「絹ちゃん、自己紹介はうまくできた? 友達は?」
絹恵「……」スタスタ
洋榎「うちのこと見えたやろ? いや~、まさかとは思うたけどちょうど真向いなんてなぁ」
洋榎「これならいつ何があっても平気やな。困ったときはお姉ちゃんを……」
バシッ...!
絹恵「……あんた、なに? ……なんなの?」
絹恵「人の心に土足でグイグイと入ってきて……気持ち悪い!!」
洋榎「……う、うちは……」
絹恵「困ったときはお姉ちゃんを頼れ……? バッカじゃない!」
絹恵「私はあんたのこと、姉なんて……家族なんて認めてないから!」
絹恵「もう私にかまわないでよ!」ダダッ
洋榎「……」
洋榎「絹……ちゃん……」
絹恵「……っ」
絹恵(あいつ……これで少しは大人しくなるかな……)
絹恵「……」ジクッ
絹恵(わ、私は何も間違ったことは言ってない……!)
絹恵(こっちの気持ちも知らないで馴れ馴れしくしてくるあいつが悪いのよ……!)
絹恵「……っ」
絹恵(……なのに……)
絹恵「なんで……なんでこんなに、胸が痛いんだろ……」
洋榎「……」
由子「あら、洋榎。お疲れなのよー」
洋榎「……」
由子「? どうしたのよー?」
―――――――――――――――――――
由子「うーん……それは難しい問題やね」
洋榎「うちが馴れ馴れしくしすぎたんかな……」
由子「環境がガラッと変わったせいで、きっと絹恵ちゃんの心はナーバスになってたのねー」
由子「まぁ、洋榎のやり方もちょっと無神経だったかもなのよ」
洋榎「無神経……」ガクッ
由子「でもそこが洋榎のいいところでもあるのよ」
由子「まずは絹恵ちゃんに会って謝って、彼女の気持ちを聞くことが大事だと思うのよー」
由子「そんないきなり認められるはずないのよー」
洋榎「うちはもう、絹ちゃんのこと家族やって思うてるで?」
由子「誰もが洋榎みたいになれるわけじゃないのよー」
由子「相手を認めるだけなら簡単……問題なのは、相手と認め合うことができるかどうかなのよー」
洋榎「絹ちゃんと、認め合う……」
由子「相手に認めてもらうために洋榎には何ができるのか、まずそれを考えることが大事なのよー」
洋榎「……」
洋榎「うん、まだどうしたらええかわからへんけど、ともかく今うちにできることをしてみようと思う」
洋榎「恩に着るで、由子!」
由子「がんばってこいなのよー」
お母さんはとても優しかった。私が学校であった出来事を話すと、いつも楽しそうにそれを聞いてくれた。
そして私はお母さんのする話が大好きだった。日常の些細な出来事に関する話でも、お母さんの話術にかかれば、それは一つの絵本のように私の心を湧き立たせてくれた。
しかし私が小学5年生にあがる頃、お母さんは交通事故に巻き込まれ、命を落とした。
それから私は変わってしまった。何をしても楽しいと思えず、そして次第に他人との付き合いも煩わしくなっていった。
いつしか私は、お母さんとの楽しい思い出に浸ることで、孤独を紛らわせるようになっていった――――。
私はそうやって他者との関わりを絶ってきた。だって私はお母さんがいる限り、孤独じゃないから。
父が再婚すると言い出したとき、私はあまり驚かなかった。
心底どうでもいいことだったし、なにより私の中でのお母さんは一人と決まっていたからだ。
しかし私は甘かった。世の中には、こちらが拒んでいても繋がりを求めてくる物好きな輩もいる。
“家族”という立場上の問題もあったのだろうが、愛宕雅枝という人は、まさにそういう人だった。
そして、愛宕洋榎……彼女を見たとき、私は不覚にも「お母さんに似てる」と思ってしまった。そしてそう感じた自分を呪いたくなった。
だから私はあの人たちを拒む……拒まなければいけない。そうしなければ、私の中の“お母さん”が消えてしまうように感じたから。
―――そんなことさせない……
私に“お母さん”一人さえいればそれでいいんだ……誰にも邪魔なんてさせない!
誰にも―――――
「絹ちゃん!」
絹恵「……っ!」ビクッ
洋榎「……ハァ、ハァ」
絹恵「……あんた……」
洋榎「……き、絹ちゃん、うち……」
絹恵「……もうかまうなって言ったでしょ」
洋榎「……うん」
絹恵「じゃあ、もう私に関わらないでよ」
洋榎「わかった……だけど、これだけ言わせて」
絹恵「……?」
洋榎「絹ちゃん……ごめんなさい」ペコッ
絹恵「!?」
洋榎「……謝ってる」
絹恵「そりゃ見ればわかるわよ! なんでそんなこと……」
洋榎「うち、少し無神経やったから……絹ちゃんの気持ち考えないで、一方的に仲良くしようって……」
洋榎「ほんま自分勝手やった……だから、ごめんなさい」
絹恵「なっ……や、やめてよ……」
洋榎「……絹ちゃん、うちのことやっぱり嫌い?」
絹恵「そ、それは……」
洋榎「嫌いやったら嫌いやったでええ。ただうちは知りたい……絹ちゃんの本当の気持ちを」
絹恵「……本当の、気持ち……」
なんだこの気持ちは……
これが……私の、本当の……
絹恵「……」
洋榎「……すぐには答えられへん?」
絹恵「……っ」
洋榎「んじゃ考えてる間に、うちの気持ち聞いて」
絹恵「え……」
洋榎「うちは、やっぱり絹ちゃんのこと気になる」
絹恵「!!」
洋榎「なんでやろな……放っておけないっていうか、あんたのこと、どうも他人のこととは思えないんや」
絹恵「……それってもしかして、私を憐れんでるっていうこと……?」
絹恵「え……」
洋榎「絹ちゃんは昔はもっと笑ってたってパパさんから聞いたで」
洋榎「うちは見てみたいのかも……絹ちゃんの笑った顔を」
絹恵「……」
なんで……なんでそんなに……
洋榎「で、どう? さっきの質問の答え、決めてくれた?」
絹恵「……っ」
絹恵「わ、私は……」
私は――――
絹恵「……私は、あんたのこと、好きじゃない」
洋榎「……そっか」
絹恵「……らない」
洋榎「……?」
絹恵「わかんない……わかんないよ……」
洋榎「絹ちゃん……?」
絹恵「どうして……あんたのこと、好きじゃない……好きじゃないのに……」
洋榎「……」
洋榎「……もしかして、嬉しいって、思ってくれた?」
絹恵「なっ……!」
洋榎「勘違いならごめんな……でも、もしかしたらって思うて」
絹恵「……」
絹恵(嬉しい……か)
嫌わないと、自分を保てなくなるから。お母さんが消えちゃうから―――。
洋榎「……お母さんのこと、パパさんから聞いたよ」
絹恵「……」
洋榎「お母さんが亡くなってから、絹ちゃん変わっちゃったって……」
絹恵「……」
洋榎「うちも小っちゃい頃にお父さん死んどる。だから気持ちがわかるなんて言うつもりはないけどな」
絹恵「……」
絹恵(そっか……この子には、お父さんがいないんだった……)
絹恵(どうして私、そんなことにも気づけなかったんだ……)
洋榎「でもこのままじゃ、絹恵ちゃんはもったいないと思うんや。もっと絹恵ちゃんらしい生き方してみてもいいと思う」
洋榎「うちはその手助けをしたい。だって……仮ではあっても、うちは愛宕の姉やから」ニコッ
絹恵「……っ」
絹恵「わ、わた……し……」
絹恵「お、お母さんのことが……っぐ……だ、大好きで……」
絹恵「でもお母さん死んじゃって……っ! それで……なんか、全部イヤになって……」
洋榎「うん……うん……」
絹恵「たぶん現実を受け入れたくなかった……お母さんがいない日常なんて、知りたくなかった……」
絹恵「けど、そんなのダメだった……自分勝手なことでしかなかった……っ」
絹恵「私……っく……今まで、なにやってたんだろ……」ボロボロ
絹恵「人の気持ちをないがしろにして……っ! 自分の殻に閉じこもって……っ!」
絹恵「最低だ……私……」グスッ
洋榎「……」
絹恵「お墓参りにも、行ってない……っ」
洋榎「……」
洋榎「……それじゃ、うちと行こう?」
絹恵「……ぇ」
洋榎「うちと行って、それでお母さんに笑った顔見せよう?」
洋榎「お母さん、きっとそれだけでめっちゃ喜んでくれると思うで」
絹恵「……っ」
――――お母さん……
絹恵「ぅ……うぇ……うええええん!! うええええんっ!!」ボロボロ
洋榎「よしよし……」ギュ
私は、お母さんが死んでから初めて、声をあげて泣いた。
たぶんそれは、3年間積りに積もった感情すべてを精算するための声と、涙だった。
お母さんは、もういない。でも、私にはまだ家族がいる。
お父さん……雅枝さんと、そしてこの―――お姉ちゃんが。
絹恵「……っ……ぇぐ」
洋榎「もう大丈夫?」
絹恵「……っく……うん……ありがとう」ゴシゴシ
洋榎「ありがとうって……なんか嬉しいな」
絹恵「ごめん……私、ひどいこと……」
洋榎「ん? なんのことや?」
絹恵「だって……会ってから今まで、散々……」
洋榎「うちは過去の細かいことは気にせん女なんや。だからごめんとか、もう言いっこなし」
絹恵「……うん」
洋榎「さ、帰ろ。うちのおかんとパパさんが待っとるで」
絹恵「……うんっ」
洋榎「ただいま帰ったで~」
雅枝「おう、遅かったな」
絹恵「……」
雅枝「絹ちゃんも一緒か。ちょうどええ、飯にしよ」
絹恵「あの……」
雅枝「……ん?」
絹恵「……」
絹恵「えっと……ただいま、です」
雅枝「……ふふ」
雅枝「ああ、おかえり絹ちゃん」ニコッ
雅枝「うちは昔っから中辛やけど、絹ちゃんは平気か?」
絹恵「えっと、大丈夫です」
父「父さんは甘口のがいいけどな」パクッ
洋榎「えぇ~、あんなの甘すぎて食えへんわ」
雅枝「イヤやったら無理して食わへんでもええで~」スッ
父「え……いや食います、食わせてください」
あははははっ!!
絹恵「ふ、ふふっ……」
洋榎「……」ニコッ
絹恵「おいしかったね」
洋榎「せやろ~? うちのお母さんはあれでなかなか料理上手なんやで」
洋榎「ま、めんどくさがってあんま作らへんけどな」アハハッ
絹恵「え、っと……ひろえさんは……その」
洋榎「むっ」ムギュ
絹恵「ぶっ! ばびぶんぼ!」(なにすんの!)
洋榎「絹ちゃん……いや、絹。この際やからはっきりさせとくで」
洋榎「うちのおかんをお母さんと呼ばんのは別にかまへんけど、さすがに姉妹でさん付けはないやろ」
絹恵「ばびば……」(それは……)
洋榎「……うん、なにゆうてるかわからへんわ」パッ
絹恵「ん……じゃあ、なんて呼べばいいの?」
洋榎「まぁ? 無理じいはせえへんけど?」
絹恵「……?」
洋榎「妹が姉のこと呼ぶんやったら、ほら、あれしかないやん?」
絹恵「えっと……」
洋榎「お、お……」
絹恵「……?」
洋榎「お、おね……」
絹恵「……あぁ」
洋榎「ん……いやまぁ、呼べって言うてるんやないで? これは絹ちゃんがそう呼びたかったらの話で……」
絹恵「……」ニヤッ
絹恵「いや別に私は呼びたくないけど……」
洋榎「えっ」ガーン
洋榎「え、どっちやねん……」
絹恵「……お姉ちゃん」
洋榎「っ!」ドキッ
絹恵「これでいい……かな?」
洋榎「う、うん……」
絹恵「……っ」
絹恵(い、言うの恥ずかしい……でも『お姉ちゃん』……悪くないかも)ドキドキ
洋榎(なんやこれ……胸の奥がこう、ふにゃあっとするわ……)ドキドキ
洋榎「そ、それじゃ部屋いこか!」
絹恵「うんっ」
絹恵「え、なんかお姉ちゃんの方が広くない?」
洋榎「うーん、じゃあこう……ふんっ!」グイッ
洋榎「これでええやろ?」
絹恵「あんま広がってない……まぁもういいけどさ」ヨイショ
絹恵「でも、お姉ちゃんの部屋って意外と片づいてるね。無駄に物は多いけど」
洋榎「意外と、と、無駄に、は余計や!」
絹恵「ん……これなに?」
洋榎「麻雀牌やで~。こっちにマットもある」
絹恵「へえ、お姉ちゃんって麻雀するんだ」
洋榎「これでも部内ではランキング一位なんやで~」ヘヘン
絹恵「それってすごいの?」
洋榎「え、すごいやろ! この学校で一番最強ってことなんやで!?」
絹恵「ふーん……」
洋榎「ええ~、なんやその興味なさげな空返事は」
この絹はどうすんだろ
家族麻雀するぐらい麻雀覚えて
次第に勝ち始めちゃって
洋榎お姉ちゃんが可哀想になったから、自分は±0で抑えて麻雀やらなくなってサッカー部に入ると思います
それなんて咲さん…
お姉ちゃんが転校フラグやそれ
洋榎「絹もやってみいよ。うちが教えたるから」
絹恵「ううん、いいよ」
洋榎「そ、そんなナチュラルに拒否されると傷つくわ……」ガクッ
絹恵「ご、ごめんごめん。でも私、ちょっとやってみたいことがあるから」
洋榎「なになに? 部活?」
絹恵「うん……あの学校って女子サッカー部あるんでしょ?」
洋榎「あったかなぁ……あーうん、あったかも」
洋榎「でも絹ってサッカーできるん?」
絹恵「ううん、見るのが好きってだけだけど」
洋榎「ええ~、見るのとやるのは全然違うやろ。ほんとにできるんか~? 絹、メガネやし」
絹恵「そ、そんなのやってみなくちゃわかんないじゃん!」ムスッ
洋榎「うーん、せやけどそのメガネはどうなん……?」
絹恵「試合中はコンタクトにするってば!」
洋榎「持ってないんかい」
絹恵「だからさ……今度買いに行くから、その……」
洋榎「ふっふーん……お姉ちゃんについてきてほしいんやな?」
絹恵「いや、お金……」
洋榎「っておぉい!」ビシッ
絹恵「冗談だよ冗談。でもついてきてくれるんなら嬉しいな」
洋榎「絹って案外おちゃめさんやな……」
洋榎「ま、まぁ仕方あらへんな! ええよ、ついてったる! ただしお金はださへんけどな!」
絹恵「ふふ……はいはい」
洋榎「ふぃ~、疲れたわ……」
絹恵「ありがとね、お姉ちゃん」
洋榎「別にええって。それよりもう10時やで。風呂入ってき」
絹恵「うん、じゃお先に」ガチャ
スタスタ...
洋榎「さーてマンガマンガっと……」
スタスタ...ガチャ
絹恵「お姉ちゃん、お風呂の場所ってどこ?」
洋榎「あぁ、そういや知らへんのか。案内するわ」
洋榎「……ここがトイレ」ガチャ
絹恵「へえ、ありがと」
洋榎「じゃ、ごゆっくり~」スタスタ...
ガチャ...ボフンッ
洋榎「よし、マンガ読むでー」ペラッ
スタスタ...ガチャ
絹恵「お姉ちゃん、お湯が出ないよ~」
洋榎「ええ~」
―――――――――――――――――――
洋榎「ここのスイッチ押さんと出えへんからな。ほいじゃ」スタスタ
絹恵「わかった。ありがと」
ダダダッ...ガチャ
絹恵「お姉ちゃ~ん」
洋榎「もう! 下の階なんやからおかんに聞いてや!」
―――――――――――――――――――
洋榎「はい、これでええ?」
絹恵「うん、ありがとお姉ちゃん」
洋榎「……」
洋榎「なんかまた呼ばれるんも面倒やから、いっそうちも一緒に入るわ」ヌギヌギ
絹恵「えええっ!? や、やだよ!」
洋榎「別にええやん。女同士っていうかもう姉妹なんやし」
絹恵「そりゃそうだけど……」
絹恵「なんかそれおじさん臭い……」
洋榎「ええやん、大阪じゃ湯船に浸かるときはみんなこういうんや」
絹恵「それうそでしょ」
洋榎「ほんとほんと~。絹も早く大阪のしきたりに慣れなあかんで~」
絹恵「はいはい」ジャー
洋榎「……」ジーッ
絹恵「……ん、なに?」
洋榎「絹……おっぱいでかいな」
絹恵「なっ……///」
洋榎「なんか年下ってちゅうか、中学生に見えへんわ」
絹恵「そ、そんなこと……お姉ちゃんの方だっt」
洋榎「……」ペタン
絹恵「あの……気にしないでね」
洋榎「なんやろ……今すごくバカにされた気がするわ」
洋榎「え……なにいうてるん? あんたまだ風呂入ってないやん」
絹恵「うん、だって私シャワー派だし」
洋榎「し、シャワ……?」
絹恵「シャワー派。シャワーだけで済ませる人のこと」
洋榎「え、なんやそれおかしいやろ」
絹恵「おかしくないよ」
洋榎「いやおかしい。絹、ちゃんと風呂入りなさい」
絹恵「え、やだよ。暑いし」
洋榎「ダメや! ちゃんと入りんさい!」グイッ
絹恵「ちょ……!」
バシャンッ...!
絹恵「ぷはっ……あ、危ないじゃないの、お姉ちゃん!」
洋榎「うるさいわ、ちゃんと100数えるまで湯船からはださへんからな」
絹恵「お、お姉ちゃん……狭いんだけど……」
洋榎「さーん、我慢しーい、ごーお……」
絹恵「……なんか数えるの遅くない?」
洋榎「ろーく、しーち、はーち……」
絹恵「……」
―――――――――――――――――――
洋榎「ごじゅろーく、ごじゅしーち……」
絹恵「……お姉ちゃん、もういいでしょ?」
洋榎「ダメや、まだ半分も、残っとる……」
絹恵「……」
―――――――――――――――――――
洋榎「……ひゃーくっ! はい、よくできたで絹ちゃん」
絹恵「ハァ……軽くのぼせた……」
絹恵「それは、絶対、ないっ!」
―――――――――――――――――――
洋榎「電気消すでー」
絹恵「……うん」
カチッ
「……」
「……お姉ちゃん、今日はありがとうね」
「……ええっていうたやろ」
「うん、そうやったね……て、あっ///」
「はは、絹もだんだんと大阪色に染め上げられつつあるなぁ」
「うぅ……なんか恥ずかしい///」
「……絹」
「なに?」
「明日はお墓参りいこ」
「……うん」
「んで、帰りは昨日言ったたこ焼きおごったる」
「コンタクトも買いに行っていい?」
「おごらへんけどな。おかんかパパさんにお金もらっとき」
「うん」
「……ん」
「……これからもずっと、お姉ちゃんでいてね」
「なんや……そういうのもう恥ずかしいからやめ」
「……恥ずかしいから今言ってるんだよ」
「そーですか」
「……それで?」
「……ん、なんや?」
「ハァ……もういいよ」
「……うそうそ。ずっと絹のお姉ちゃんでおるで」
「……」
「……やで、お姉ちゃん」
「え……今なんて言うた?」
「な、なんでもないっ! おやすみ!」バッ
「……」
ありがとう……
大好きやで、お姉ちゃん―――
カン(カチッ...でどうすか
槍槓だ
そのカン、成立せず
ほんとは銀縁メガネだった絹ちゃんが、洋榎ちゃんに言われて今のピンク縁のメガネに替えるシーンとか入れたかったです
お疲れっした
>>295
なんであきらめるんだそこで
続き待ってるでー!
Entry ⇒ 2012.10.17 | Category ⇒ 咲-Saki-SS | Comments (0) | Trackbacks (0)
アックマン「ハンター試験?」
アックマン「占いババ様がぁ?」
鬼「そのハンター試験とやらに合格して、ハンター証を取って来いとの事だ」
アックマン「おい、鬼……そのハンターってのはなんだ?」
鬼「世界中に居る珍獣・怪獣の保護や狩り、希少な鉱石・宝石の入手。はたまた賞金首を狩るといった」
鬼「占いババ様のいる近辺では稀な職業らしい」
アックマン「ふぅむ……中々面白そうだな、ぬはは!」
アックマン「しかし、俺様を選んだ理由が分からんな」
鬼「お前は占いババ様の戦士の仲で腕がたつんだろ?なら、選ばれて当然じゃないか」
アックマン「それもそうか……ぬは、ぬは、ぬははは!!」
レオリオ「なんだアイツ……」
クラピカ「悪魔のコスチュームか……?」
ざわざわ……
ゴン「元気でねー!!」
ゴン「絶対、立派なハンターになって戻ってくるからーー!!」
モブ「くっくっく……立派なハンターか」
モブ「なめられたもんだな」
モブ「この船だけで(ry」
ゴン「……(あの人、背でっかいなー)」チラ
アックマン「こいつ等、ジロジロと俺様を……。ムカつく野郎共だ」
アックマン「まぁいい、はんたー証?の為だ、見逃してやるか!ぬは、ぬは、ぬははは!」
ゴン「(明るいおじさんだなぁ)」
アックマン「ふぅむ……流石は占いババ様。厳しい環境に身を置かなければならないほどハンターは厳しいのか」
モブ1「あっ!アイツ、空を飛んでやがおぼろろろろ」
モブ2「馬鹿な、何かの間違いだおぼろろろろ」
アックマン「ぬははは、俺様を見て驚いてやがる」
アックマン「どれ、いっちょライバルを減らしてみるかぁ?」
アックマン「貴様らぁ!このアックマン様の攻撃を避けてみろ!」ボウンッ
ゴン「フォーク!?」
アックマン「フォークアタック!」ビュンビュン
モブ2「フォーク形状の槍か!?どこから!?」
アックマン「槍を衝動買いしてしまった事は、マージョンには内緒にせねばならんな」
ゴン「うわっ!おっと!」
アックマン「むぅ?あの小僧……中々すばしっこいな」
アックマン「どぉれ、俺様の攻撃をどこまで避けられるか!試してやろう!」ビュビュンビュン!
ゴン「!」ヒュンヒュンヒュン!
アックマン「……!全部、避けやがった?」
ゴン「おじさん危ない!波が!」
アックマン「?」
ザバァァァァン!
船長「まぁまぁの波だったな」
船員「そうですね」
船長「今年の客はどうしてる?」
船員「例年通りですよ」
船員「ほとんど全滅です」
船長「情けねぇ連中……だ、って」
船長「おい、このフォークみてぇな槍はどうした?」
船員「槍?あぁ、それなら」
船員「あそこで倒れている男の物かと」
アックマン「……」
ゴン「ほい、水だよ。この草かむと楽になるよ」ア、スンマセン
船長「どうでもいいが、アイツの服装なんだ?」
船員「さぁ」
船長『命が惜しい奴は今すぐ救命ボートで近くの島まで引き返すこった』
ナニィィ!?ウワァァァ!
船長「結局、客の中で残ったのはこの4人か。名を聞こう」
レオリオ「俺はレオリオという者だ」
ゴン「俺はゴン!」
クラピカ「私の名はクラピカ」
アックマン「俺様は正義の悪魔!アックマン様だ!」
レオリオ「(何言ってんだコイツ)」
船長「お前ら、なぜハンターになりたいんだ?」
アックマン「それだけだ」
レオリオ「おい待てオッサン!勝手に答えるんじゃ」ジャキン
アックマン「地獄へ連れてってやろうかぁ?小僧」
レオリオ「なんでも無いです」
クラピカ「……!(ふざけた容姿だが実力はある様だな……)」
ゴン「オレは親父が魅せられた仕事がどんなものかやってみたくなったんだ」
レオリオ「……俺はあんたの顔色をうかがって答えるなんてまっぴらだから正直に言うぜ」
レオリオ「金さ!金さえありゃなんでも手に入るからな!」
レオリオ「でかい家!いい車(ry」
アックマン「(いい悪人ヅラだ)」
レオリオ「おい」
レオリオ「お前年いくつだ、人を呼びすてにしてんじゃねーぞ」
船長「そっちの兄ちゃん、お前は?」
クラピカ「もっともらしい嘘をついて……」
船長「ほーお、そうかい」
船長「それじゃお前も今すぐこの船から降りな」
船長「まだ分からねーのか?すでにハンター試験は始まってるんだよ」
アックマン「……ん?」ピクッ
ゴン「?どうしたの、おじさん?」
アックマン「小僧、よぉく覚えておけ。俺様の名前はアックマンだ!」
ゴン「アックマンさん、どうしたの?」
アックマン「いやなぁに、ちょいとアイツの……目が気になったのさ」
ゴン「目?クラピカの?」
クラピカ「!」
クラピカ「貴様、クルタ族を知っているのか!?」
船長「!!クルタ族……」
アックマン「そうそう……クルタ族。よぉーく覚えてる……怒ると目が赤色になる奴ら」
クラピカ「貴様、まさか幻影旅団か!?」
アックマン「何人かは地獄に来ていたからなぁ……殺されたらしいが」
クラピカ「質問に……答えろ!」
アックマン「俺様は別に殺してもいなければ、幻影旅団とやらも知らん」
クラピカ「なら貴様は……何者だ!?」
アックマン「聞こえてなかったか?俺様は、正義の悪魔アックマン様だ!」
船長「ムダ死にすることになるぜ」
クラピカ「……」
クラピカ「死は全く怖くない」
クラピカ「一番恐れるのはこの怒りがやがて風化してしまわないかということだ」
アックマン「死が怖くないか……ぬはは!」
ゴン「ねぇ、アックマンさん」
ゴン「アックマンさんって本物の悪魔なの?」
アックマン「んん?あぁ、正真正銘の悪魔だ」
ゴン「へーっ!アックマンさんって本物の悪魔だったんだー!」
レオリオ「(んなわけねぇだろ!?)」
アックマン「よぉし、小僧外に出な。俺様の恐ろしさを目に焼き付けてやる」
ゴン「うん!」
クラピカ「(馴染んでいる……)」
レオリオ「(馴染んでる……)」
船長「!!」
ザザァァァン!ドォォンビュウウザザァァァンン!!
アックマン「いいか、よく見ておけよ?」ボウン
アックマン「これが俺様の武器だ」
ゴン「あの時のフォークだよね!」
アックマン「いかにもぉ!俺様のフォークアタックを避けきった奴は、久しく見ていなかったぜぇ!」
アックマン「小僧、確かゴンといったか?」
ゴン「うん!ゴン=フリークスだよ!」
アックマン「そうか、お前を見ていると……何となく奴を思い出すな」
ゴン「?」
アックマン「ソイツはなぁ……」
カッツォ「ぎゃっあう」
船員「カッツォ!」
レオリオ「チイッ」
ゴン「」ダッ
アックマン「まぁったく……貴様ら人間は脆すぎる」
ゴン「!?」キィィッ
クラピカ「なっ……!?」
レオリオ「!?」
アックマン「ほれ」ポイッ
船員「うおっ」
アックマン「ソイツの手当てでもしてやれ」
アックマン「傷は浅いはずだぁ……ぬはは!」
レオリオ「本当に……悪魔なのか……?」
ゴン「すっげー……」キラキラ
アックマン「(占いババ様は……何故ハンター証が欲しいのだ……?)」
クラピカ「……先ほどの、失礼な言動を詫びよう。すまなかった、アックマンさん」
レオリオ「俺もさっきの言葉は全面的に撤回するぜ、アックマンさん」
アックマン「そうか、そうかぬははは!貴様ら気に入ったぁ!」
アックマン「今日の俺様はすごく気分がいい!
アックマン「貴様ら3人は俺様が責任もって審査会場最寄りの港まで連れて行ってやろう!」
船長「」
男「なんだアレ……」
女「人?人が飛んでるわ……」
バサッバサッ
アックマン「着いたぞ」
レオリオ「すげぇ人だな。えーとザバン市に向かう乗り物は……」
クラピカ「おそらく彼らの殆どが我々と同じ目的なのだな」
船長「(ソイツを見に来たギャラリーばっかりだろ……)」
ゴン「船長!色々ありがとう!元気で」
船長「うむ、達者でな」
船長「最後にわしからアドバイスだ」
ゴン「?」
船長「あの山の一本杉を目指せ。それが試験会場にたどりつく近道だ」
ゴン「分かったありがとう!」
ゴン「おーいアックマンさーん!あの一本杉がー……」
船長「……ジン」
船長「お前の息子はいい子に育ってる」
船長「ただアイツがいる限りハンターは無理な気がする」
レオリオ「見ろよ、会場があるザバン地区は地図にもちゃんとのってるデカイ都市だぜ」
レオリオ「わざわざ反対方向の山にいかなくても、ザバン直行便のバスが出てるぜ」
レオリオ「近道どころかヘタすりゃ無駄足だぜ」
クラピカ「彼の勘違いではないのか?」
ゴン「とりあえずオレは行ってみる。きっと何か理由があるんだよ」
アックマン「ぬははは!なら、俺様もこっちから行くかぁ!」
クラピカ「……ならば私も」
レオリオ「じゃあ、俺も行くぜ!」
クラ・レオ「(絶対に安全だからな!)」
アックマン「ぬははは!」
レオリオ「下はうすっ気味悪そうな所だなぁ、人っ子一人見当たらねーぜ」
クラピカ「すまないな、アックマンさん」
アックマン「ふん、貴様ら人間など軽い軽ぅい!」
ゴン「下に何かトラップでもあったのかな?」
クラピカ「……なぜそう思う?」
ゴン「だって下から小さいけど息づかいが聞こえるもん!」
クラピカ「(この距離で聞こえるのか……ゴンの聴力はすごいな)」
アックマン「さぁてぇ、あの山の頂上でも目指すかぁ!」
レオリオ「!道分かるのか!」
アックマン「勘だが?」
レオリオ「……」
バッサバッサ
婆「(;ω;)」
クラピカ「しかし……此処からどうすれば」
ゴン「あ!見て、小屋がある!」
レオリオ「……まさか、あそこが試験会場なんていうんじゃないだろうな」
アックマン「迷った時はなぁ、行ってみよう!」
クラピカ「そうだな、行ってみよう」
クラピカ「……静かだな」
クラピカ「我々以外に受験者は来ていないのか?」
コンコン
レオリオ「入r」
アックマン「貴様等ぁ!少し下がってろ!」
レオリオ「なっ!?」
クラピカ「二人とも伏せろ!」
アックマン「フォークアタァァァック!!」ビュン
ギィヤアァアァァァァァ
アックマン「入るぞ」
レオリオ「流石だぜ」
ゴン「かっけー……」
ガチャ
アックマン「そうか、貴様等を地獄に送ればハンター試験クリアだなぁ?」
キリコ「ガクガクブルブル」
キリコ(男)「ちちち違う!私たちは案内役で、試験官じゃない!」
ゴン「アックマンさん!この魔獣は本当のこと言ってるよ!」
アックマン「そ、そうなのか?」
アックマン「そうか……驚かせてすまなかった!ぬは、ぬは、ぬははは!」
アックマン「んでぇ?道案内はしてくれるんだろうなぁ?」ジャキン
キリコ「」
キリコ「ツバシ町の2-5-10は……と」
クラピカ「アックマンさんはやはり強いな」
レオリオ「なんせ、あの後強制的に俺達を合格にしてくれたからな」
ゴン「キリコ達、目が泳いでたね」
アックマン「なぁにお安い御用だぁ!ぬは、ぬは、ぬははは!」
キリコ「向こうの建物だな」
アックマン「流石……占いババ様直々の命令だけあって、すげぇ建物だな」
レオリオ「ここに世界各地から」
クラピカ「ハンター志望の猛者が集まるわけだな」
ゴン「(親父もこんな気持ちだったのかな……)」
レオリオ「……どう見てもただの定食屋だぜ」
レオリオ「冗談きついぜ案内役さんよ」
レオリオ「まさか、この中に全国から無数のハンター志望者が集まってるなんて言うんじゃねーだろ」
キリコ「そのまさかさ」
おっちゃん「いらっしぇーい!」
クラピカ「……」
おっちゃん「御注文はー?」
アックマン「そうだなぁ……このトンカツ定食を一つ」
キリコ「悪いけど黙ってて」
キリコ「ステーキ定食」
おっちゃん「焼き方は?」
キリコ「弱火でじっくり」
おっちゃん「あいよー」
店員「お客さん、奥の部屋へどうぞー」
ジュー ジュー ジュージュージュー
アックマン「ほう……美味そうだなぁこりゃあ」
キリコ「一万人に一人」
ゴン「?」
クラピカ「?」
レオリオ「?」
アックマン「」ガツガツ
キリコ「ここに辿りつくまでの倍率さ。お前達、新人にしちゃ上出来だ」
キリコ「それじゃ頑張りなルーキーさん達とアックマンさん」
キリコ「お前らとアックマンさんなら来年も案内していいです」カチ
ウィーーーーン
キリコ「(絶対案内しない)」
レオリオ「まるで、俺達が今年は受からねーみたいじゃねーか」
クラピカ「3年に1人」
クラピカ「初受験者が合格する確立、だそうだ」
クラピカ「新人の中には余りに過酷なテストに精神をやられてしまう奴」
クラピカ「ベテラン受験者のつぶしによって」
クラピカ「二度とテストを受けられない体になってしまった奴などざららしい」
ゴン「でもさぁ」
ゴン「オレ達にはアックマンさんがいるから安心だよね」
クラピカ「……それもそうだな」
レオリオ「俺達にはいらねー心配ってことだぜ!」
クラピカ「着いたらしいな」
レオリオ「……」
アックマン「」ガツガツ ゲェプ
ゴン「着いたよ、アックマンさん」
ウィーン
「!!」
ザワザワ…ザワザワ…
アックマン「(ふん、一体どんな化け物共が相手かと思えばぁどいつもこいつも大した事ねぇなぁ)」
アックマン「(拍子抜けって感じだなぁ!これなら楽々合格、簡単な仕事だったぜ)」
ゴン「一体、何人くらいいるんだろうね」
トンパ「君たちで406人目だよ」
トンパ「よっ、オレはトンパ。よろしく」
トンパ「新顔だね君たち」
ゴン「分かるの?」
トンパ「まーね!なにしろオレ、10歳からもう35回もテスト受けてるから」
ゴン「35回!?」
アックマン「(コイツは人の良い顔をしてるが……悪人だ、今の内に殺っておくかぁ?)」
アックマン「(……ヘタに行動して、失格になるかもしれん。やはり様子を見るか……)」
レオリオ「(いばれることじゃねーよな)」
クラピカ「(確かに)」
トンパ「当然よ!よーし、色々紹介してやるよ!」
~紹介中~
トンパ「~とまぁここら辺が常連だな」
トンパ「実力はあるが、今一歩で合格を逃してきた連中だ」
「ぎゃあああああ!」
ゴン「!」
ヒソカ「アーラ不思議♥」
ヒソカ「腕が消えちゃった♠」
モブ「お オ」
モブ「オ オオオレのォォ~~」
ヒソカ「気をつけようね♦人にぶつかったら謝らなくちゃ♠」
トンパ「44番 奇術師ヒソカ」
トンパ「去年、合格確実と言われながら気に入らない試験管を半殺しにして失格した奴だ」
レオリオ「そんな奴が今年も堂々とテストを受けれんのかよ……!」
トンパ「当然さ。ハンター試験は毎年、試験管が変わる」
トンパ「そして、テストの内容はその試験管が自由に決めるんだ」
トンパ「その年の試験管が「合格」と言えば」
トンパ「悪魔だって合格できるのがハンター試験さ」
ゴン「……」チラ
クラピカ「……」チラ
レオリオ「……」チラ
アックマン「……?」
トンパ「極力近寄らねー方がいいぜ」
アックマン「ふぅむ……」
アックマン「ではぁ、奴がどれほどの奴か俺様が試してやろう……」
アックマン「ふん!」ゴワァァァァ
ヒソカ「!?」
ヒソカ「(この気迫……!140点!!)」ビーン!
ヒソカ「(ふふふ……♥ふふふふ……♥)」
ヒソカ「(彼は絶対、僕の獲物だ♠)」
トンパ「(なんだ……コイツの気迫!?)」
ゴン「アックマンさんの周りに……気みたいなのが見える!」
レオリオ「すげぇ……禍々しい色だぜ」
クラピカ「悪魔っていうのは本当なのか……?」
アックマン「あのヒソカとかいう奴は……まぁまぁだな、ぬはは!」
トンパ「マズイのに関わっちまった」
キルア「……マジかよ」
トンパ「俺が色々教えてやるから安心しな!」
ゴン「うん!」
トンパ「おっとそうだ」ゴソゴソ ジュース!
トンパ「お近づきのしるしだ、飲みなよ」
トンパ「お互いの健闘を祈って乾杯だ」
ゴン「ありがとう!」
トンパ「(くくく、そのジュースは強力な下剤入り!)」
トンパ「(一口飲めば(ry」
ゴン「れろ」ダーー
ゴン「トンパさんこのジュース古くなってるよ!味がヘン!」
トンパ「え!?あれ?おかしいな~~?」
アックマン「やはりな……」
トンパ「え?」
アックマン「貴様を見た時から悪人だとは分かっていたが……毒を盛っていたな?」
トンパ「いや、毒じゃなくて……」
アックマン「悪魔を相手取るとはなぁ……いい度胸だ」
アックマン「その卑劣な行為を、あの世で懺悔するがいい!」
トンパ「いやちょっと」
アックマン「俺のこの目が真っ赤に光るぅ……貴様を倒せと妖しく囁くぅ……」
アックマン「いーんしつ……!」
トンパ「あ、あ、あああ」
アックマン「アクマイト光線!」
アックマン「それ!ドカン!」
ドカァァァァァァン!!
ナンダナンダ!?バクハツシタゾ!
レオリオ「な、なんだ!?」
クラピカ「トンパが……爆発した!?」
ゴン「」
アックマン「そぉだそぉだ……貴様らにはこの技の説明をしてなかったなぁ」
アックマン「俺様の必殺技アクマイト光線は、邪心を増幅させ爆発させることができるのだぁ!」
アックマン「どんなに良い子ちゃんぶった奴にも、少なからず邪心は存在するからなぁ!」
ヒソカ「(180点……ハァハァ♥)」
ゴン「かっけー……」
クラピカ「ゴン、それは違う」
レオリオ「えげつねぇな……グチャグチャだぜ」
キルア「(;ω;)」
ギタラクル「(涙目キルアの写メ撮っとこ)」パシャ
レオリオ「ジュースだって、勘違いで古くなってただけかもしれねぇぜ?」
ニコル「いえ、そこの方の行動は正解ですよ」
レオリオ「……誰だ?」
ニコル「二コル、といいます。以後お見知りおきを」
ニコル「今見たところ、トンパさんは本試験連続30出場という歴代1位の記録を持っています」
ニコル「成績上位ですが、合格できないのは別の目的に気をとられているから」
ニコル「彼は”新人つぶし”のトンパと言われています」
レオリオ「新人……つぶし?」
ニコル「だから、成績上位でありながらも合格することが出来てないんです」
クラピカ「トンパがそんな奴だったとは……」
アックマン「人は見かけによらねぇってこった!」
ジリリリリリリリリ!ジリリリリリリリリ!
サトツ「ただ今をもって受付時間を終了いたします」
サトツ「では、これよりハンター試験を開始します」
アックマン「(アイツもまぁまぁ……ってところか)」
サトツ「こちらへどうぞ」
サトツ「さて、一応確認しますが」
サトツ「ハンター試験は大変厳しいものもあり、運が悪かったり実力が乏しかったりするとケガしたり死んだりします」
サトツ「先ほどのように受験生同士の争いで再起不能になる場合も多々ございます」
ヒソカ「♠」
アックマン「ぬはは……」
サトツ「それでも構わない――という方のみついて来てください」
ザッザッ
サトツ「承知しました、第一次試験404名。全員参加ですね」
レオリオ「当たり前の話だが誰一人帰らねーな」
レオリオ「ちょっとだけ期待したんだがな」
ゴン「……」
クラピカ「おかしいな」
クッ ダダダダダダダ
レオリオ「おいおい何だ?やけにみんな急いでねーか?」
クラピカ「やはり進むペースが段々早くなっている!」
ゴン「前のほうが走り出したんだよ!」
アックマン「……」フワフワ
ゴン「あ、そっか。アックマンさんは悪魔だから飛べるんだったよね」
アックマン「ぬはは!このアックマン様に不可能はぬぁい!」
アックマン「どれ……貴様らも乗せていってやろうか?」
ゴン「いいの!?」
アックマン「大船に乗ったつもりでいけぇ!ぬは、ぬは、ぬははは!」
クラピカ「助かった」
レオリオ「ありがとうアックマンさん!」
キルア「マジで?」
サトツ「これより皆様を二次試験会場へ案内いたします」
アックマン「なにぃ?ハンター試験はまだ始まらないのか?」
サトツ「もう始まっているのでございます」
サトツ「二次試験会場まで私について来ること」
サトツ「これが一次試験でございます」
アックマン「ならば大した試験じゃない、さっさと二次試験会場へ行くぞぉ!」
ゴン「おーっ!」
サトツ「(悪魔ですかね)」
キルア「(悪魔だよな)」
ギタラクル「(悪魔だね)」
ヒソカ「……」ペロ
キルア「」スーッ
レオリオ「おいガキ汚ねーぞ。そりゃ反則じゃねーかオイ!」
キルア「何で?」
レオリオ「何でってオマ……」
レオリオ「こりゃ持久力のテストなんだぞ!」
ゴン「違うよ、試験官は付いて来いって言っただけだもんね」
レオリオ「ゴン!!テメ、どっちの味方だ!?」
クラピカ「怒鳴るな、体力を消耗するぞ」
クラピカ「何よりまずうるさい、テストは原則として持ち込み自由なのだよ」
レオリオ「~~~」
キルア「(お前らも下の悪魔みたいなのに乗ってるよな)」
キルア「……」
キルア「ねぇ君、年いくつ?」
アックマン「いくつか当ててみな」
キルア「アンタじゃない」
ゴン「もうすぐ12!」
キルア「……ふーん」
キルア「(同い年……ね)」
ゴン「?」
キルア「やっぱ俺も乗っていい?」
ゴン「アックマンさん、大丈夫?」
アックマン「少しスピードは下がるが……支障はぬぁい!ぬはははは!」
ゴン「ノリノリだから大丈夫」
キルア「さんきゅー」
ゴン「俺はゴン!」
キルア「おっさんの名前は?」
レオリオ「おっさ……これでもお前らと同じ10代なんだぞオレはよ!」
ゴン・キル・アック「うそぉ!?」
レオリオ「あーーー!ゴンとアックマンさんまで……!ひっでーもう絶交な!」
クラピカ「(離れたい)」
クラピカ「(およそ三時間)」
クラピカ「(40kmくらいは飛んでたんだろうかw)」
クラピカ「(後ろではきっと何人か脱落してるんだwろwうwがwww)」
クラピカ「(いったいいつまで待てばいいんだ?www)」
ニコル「(馬鹿な……馬鹿な馬鹿な馬鹿な!)」
ニコル「(オレが脱落!?そんな馬鹿な!)」
ニコル「いやだ……たくない……」
ニコル「ゼヒューゼヒュー」ガシャッ
アックマン「……そろそろ、何人かは後ろでリタイアだ」
ゴン「何でそう思うの?」
アックマン「あの階段を見たら一目瞭然ってわけだ!」
キルア「おー……たっけぇ(大したこと無いけど)」
レオリオ「俺たちは勝ち組だな」
クラピカ「必死に走ってる奴らざまぁww」
アックマン「あぁ、上げろ上げろ!ぬは、ぬは、ぬははは!」
ゴン「頑張れサトツさん!」
キルア「おっさーん、もっと速く走ってもいいんじゃないの?」
クラピカ「私もキルアに賛同だな、あまりにもスローペースでは時間を無駄にしてしまう」
レオリオ「よっしゃ!サトツさん……だったか?もっとスピードを上げてくれ」
サトツ「(この悪魔が試験官やった方がいいような……)」
スタスタスタスタ
アックマン「(しかしつまらんな……こんな調子じゃはんたー証など簡単に取れそうだ)」
アックマン「(少ぉし縛りルールを決めてみるか)」
アックマン「(ゴン、クラピカ、レオリオ、キルア)」
アックマン「(この4人を欠ける事無くハンターにする、たまには俺様も良いことしないとなぁ)」
アックマン「(ぬはは……そうか、これは修行の一環か)」
アックマン「(孫悟空打倒の為に、俺様を此処へ行かせたわけだなぁ……?)」
アックマン「ぬはは!上等!俺様の力を存分に見せ付けてやるぜぇ!」
サトツ「(変わった悪魔ですな)」
ゴン「?どうしたのアックマンさん?」
アックマン「俺様がライバルを……減らしてやろう!」ボンッ!
サトツ「!(槍を……具現化系の能力者?)」
アックマン「貴様らぁ……」
アックマン「悪魔に殺されたことはあるかぁ……?」
アックマン「フォォォォクアタァァァック!!」
バシュンバシュンバシュンバシュンバシュンバシュン
バシュンバシュンバシュンバシュンバシュンバシュン
バシュンバシュンバシュンバシュンバシュンバシュン……
モブ達「うわぁぁぁぁ!」
ハンゾー「うおっと!」
ヒソカ「♥♥♥」ゾクゾクゾク
ギタラクル「(あの悪魔のせいで……キルアの写真が撮れなくなった)」
ギタラクル「(殺すか)」
脱落者 187名
サトツ「(……確かに、その年の試験官が合格と言えば悪魔だって合格できるのがハンター試験)」
サトツ「(しかし……本物の悪魔を実際に見ると、どうすればいいか困りますね)」
サトツ「(と、そんな事を考えている間に出口ですか)」
ハンゾー「ふぅ、ようやく薄暗い地下からおさらばだ」
ザッ
モブ「ここは……」
サトツ「ヌメーレ湿原。通称”詐欺師の塒”」
サトツ「二次試験会場へは此処を通っていかねばなりません」
サトツ「この湿原に……」
アックマン「(まぁ、俺様の速さならぁ5分と掛かるまい!)」
アックマン「(……それにしても)」
アックマン「(後ろから妙な殺気を感じる)」
ヒソカ「♥」
ギタラクル「(殺)」
アックマン「しーっかりと捕まっていろよ?」
4人「え?」
アックマン「ぬああああっ!!」ビュウウウン!
4人「うわぁぁぁぁっ!?」
サトツ「(飛んだ……)」
ヒソカ「最悪♠」
ギタラクル「殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す……」
サトツ「(怖い)」
~上空~
アックマン「あの魔獣の時みたいに、何か小屋の様なものを探せば見つかるはずだ」
ゴン「何が?」
アックマン「二次試験会場に決まってるだろぉ?」
ゴン「あ……そうか(また小屋なのかぁ……)」
クラピカ「建物……みたいだな」
キルア「あそこが二次試験会場じゃねーの?」
レオリオ「二次試験会場か……まだ10分立ってねーよな?」
ゴン「あっという間だったね!」
アックマン「ぬはは!このアックマン様に不可能はぬぁい!」
サトツ「(続々とリタイアする者が出ていますな……しかし、その原因は)」
ギタラクル「イライラする」ビシュッビシュッ
モブ「あががぎぎぎぐぐぐ」
ヒソカ「つまんないの♦」
モブ「ぐあわわわわ」
サトツ「あの二人ですね」
サトツ「(会長に連絡した方がいいのでしょうか)」
ギタラクル「ゴワゴワする」ビシュビシュ
モブ「あががっががががっがが」
ヒソカ「(早くあの悪魔と殺りあいたい……♥」ザシュ
モブ「ぐあああああ!!」
サトツ「(80人減るんじゃないかな)」
ビーンズ「会長!ご連絡が」
ネテロ「んー?」
ビーンズ「先ほど、ハンター試験会場のサトツさんから、一次試験の時点で残り10名ほどになったと)」
ネテロ「」
ビーンズ「どうしましょう?」
ネテロ「どうしたもこうしたも……行くしかあるまい」
ネテロ「(10人?マジで?)」
アックマン「なんだなんだぁ?この奇妙な音はぁ?」
ゴン「獣の唸り声みたいな……」
レオリオ「アックマンさん、物怖じもせずに音がする方を見てるな」
クラピカ「というより、人数が大分絞られてないか?」
キルア「(ヒソカの野郎はしっかりと残ってるみてーだな)」
キルア「(その隣の針男はさっきから俺ばっかり見てるし……悪寒がする)」
ギタラクル「(キルアキルアキルアキルア)」
ゴン「あ、12時になった」
ギィィィ……グルルルルルルルギュルルルルルルル
レオリオ「!」
ブハラ「」ギュルルルルグルルルルガルルルゴォォォ
メンチ「どぉ?お腹は大分減ってきた?」
ブハラ「聞いての通りもーぺこぺこだよ」
メンチ「そんなわけで二次試験は”料理”よ!」
メンチ「美食ハンターのあたし達二人を満足させる料理を作ってちょうだい!」
キルア「料理!?」
メンチ「(本当に少ないわね……もう10人ちょいしかいないじゃない)」
~二次試験スタート~
アックマン「(豚か……孫悟空の周りをウロチョロしていたアイツも、豚だったなぁ……?)」
レオリオ「いやー正直ホッとしたぜ!簡単な料理でよ」
ゴン「豚捕まえて焼くだけだもんね」
クラピカ「しかし早く捕まえねば」
キルア「ハンター試験だし、一筋縄じゃいかねー豚かもな」
アックマン「ぬはははは!なぁに、この俺様にかかれば豚一匹など雑魚同然!」
アックマン「待っていろ、貴様等の分も合わせて30秒で狩ってきてやろう!」ビューン!
レオリオ「さっすがアックマンさんだぜ!もう姿が見えねぇ!」
ゴン「じゃ、俺たちは待っておこうか」
クラピカ「うむ、そうだな」
キルア「(こいつ等……)」
アックマン「ふぅ……なんだ、ただの豚じゃあねぇか……」
アックマン「これを持って帰って……ふん!む、重いな」
アックマン「まぁ、豚程度にてこずる俺様じゃあないがなぁ!ぬは、ぬは、ぬはははは!!」
アックマン「重い……」
ゴン「遅いねー」
レオリオ「まぁ、気長に待とうぜ」
クラピカ「まだ他の受験者も来てないしな」
キルア「(こいつ等結局スタート地点に戻ってきてるし……俺もだけど)」
ドドドドドドドド
レオリオ「おい、人が大分来たぞ」
ゴン「これってやばい?」
キルア「(行けばよかったorz)」
クラピカ「……あれは!」
アックマン「貴様等待たせたなぁ!」フラフラ
レオリオ「アックマンさん!」
ゴン「豚五頭を背負って飛んでるよアックマンさん!(ふらふらだけど)」
クラピカ「流石だな、アックマンさんは」
キルア「(こういうのを何ていうんだっけ?他力本願?)」
ブハラ「これも美味い」ムシャムシャ
ブハラ「うん、美味美味」ムシャムシャ
ブハラ「……って、もう無くなったの?」
ブハラ「物足りないな」
メンチ「全員通過」
レオリオ「よく食う奴だな……」
ゴン「ハンターって皆あーなのかな?」
クラピカ「まさか」
メンチ「二次試験後半、あたしのメニューは”スシ”よ!」
モブ「(スシ……スシとは……?)」
ヒソカ「(一体どんな料理だ?)
アモリ「分かるか?」
イモリ「いや……」
アックマン「(そうかそうかぁ……これは一見料理を作らせると見せかけ、俺様達の動揺を誘っていやがるなぁ?)」
アックマン「(つまぁり、本当は頭を使い考えるなぞなぞの様なものだな)」
アックマン「(スシ……なんて料理は聞いたことが無いからなぁ、ぬはは!)」
アックマン「(さぁてさて……ここらで俺様の悪魔的な脳細胞を活性化させて考えてみるかぁ)」
アックマン「(なぞなぞの一般的な流れだとぉ……スが4つあってスシ、なーんていう場合が多いらしいからな)」
アックマン「(テーマは料理ということもあって……答えも料理に関する物に違いねぇ!)」
アックマン「(ス……ス……酢?そうか!酢を4つで、スシだなぁ!)」
アックマン「(材料の中にも酢がある所から見て答えは……)」
アックマン「分かったぞぉ!」
「!!?」
アックマン「これとこれとこれとこれだな!どぉれ、俺様の悪魔的閃きに度肝を抜かすがいい!」トントントントン
ゴン「お酢を……4つ?」
メンチ「」
ブハラ「」
ハンゾー「」プルプル
ブハラ「酢が4つで……あーそういうこと!」
アックマン「どうだ!酢が4つでスシ、これが答えだろう!」
メンチ「……あのねぇ、あたしはなぞなぞじゃなくて料理を作れって言ってるんだけど」
アックマン「」
ハンゾー「酢がwww4つでwwwスシってwwwスシっtぶふぉああwwww」
アモリ「(コイツ知ってるな)」
~試食~
メンチ「食えるかぁぁぁ」
メンチ「403番とレベルが一緒!」
メンチ「ダメ!」
メンチ「違う!」
メンチ「ある意味惜しい!」
メンチ「酢はもういいっつってんだろうがぁぁ」
アックマン「なんだと!?」
メンチ「あーもー!どいつもこいつも!」
ハンゾー「そろそろ俺の出番だな」フッフッフ
ハンゾー「……こんなもん誰が作ったって味に大差ねーべ!?」
メンチ「お手軽!?こんなもん!?ざけんなてm(ry」
アックマン「(……む、マージョンに似ているなあの女)」
ブハラ「(出ちゃったよメンチの悪い癖……)」
ヒソカ「♥♥♥♥♥」
ギタラクル「(ヒソカがまた興奮しだしてる……本番はまだだし、まぁヒソカらしいっちゃらしいけど)」
ギタラクル「(お、キルアがご飯握ってる。写メ撮っとこ)」パシャ
メンチ「……悪!お腹いっぱいになっちった」
~ハンター試験二次試験 メンチのメニュー”スシ”~
~合格者0名!~
???『それはちとやりすぎじゃないか?』
「!!」
メンチ「!!」
???『というわけでワシが新たな試験を用意した、メンチ君。これ、やってみね?』
メンチ「え、あ、は、はぁ……」
アックマン「(どうした?あのメンチとかいう奴があれ程までに萎縮するとは……)」
アックマン「(あの飛行船の中からは、確かに中々の奴がいることは確かだが……)」
アックマン「(一応、潰しておくか)」
アックマン「フォークアタック!」ビュン
???『え?』パァン!
メンチ「あ……」
クラピカ「あっちの山の方まで落ちていってるな」
メンチ「あんた何やってんの!?あの飛行船は!審査委員会最高責任者のネテロ会長が乗った飛行船なんだぞゴルァ!」
アックマン「あ゛ぁ?そんなもん悪魔の俺様が分かるわけなかろうがぁ?」
メンチ「周りの状況と状態を見てそれくらい分かれっつってんのよ!」
アックマン「……本当なら貴様を殴り殺したいところだが、はんたー証の為だ。見逃してやろう、ぬはは!」
メンチ「(あたしに喧嘩を売るなんて……コイツ、ハンターにならなくても強いんじゃ)」
ブハラ「メンチ!とりあえず、会長の所に!」
メンチ「あ、うん!ほら、アンタ達もさっさと走れ!」
ゴン「アックマンさーん」
アックマン「任せておけぇ!」
レオリオ「俺も俺も!」
クラピカ「では私も」
キルア「じゃ、俺もー」
ゲルタ「じゃあ俺m「フォークアタック!」
~二次試験(二回目) ???スタート!~
~脱落者一名~
アックマン「ぬはは!なぁに、俺様の力をほぉんの少し出しただけさ」
レオリオ「流石だぜアックマンさん!」
クラピカ「正義の悪魔、というのも過言ではないな」
アックマン「当然!」
キルア「でもさーアックマンさん、アックマンさんって何でハンターになろうとしてるの?」
アックマン「む?いやなぁに、あるお方からのご命令なんだよ。はんたー証とかいうやつを取って来いと」
キルア「でも、それって本人じゃなきゃ使えないんじゃねーの?免許証みたいに」
アックマン「……え?」
キルア「他人の免許証持って運転してても無免許になるだろ?」
キルア「だから合格しても、多分アックマンさんしか使えないよ」
アックマン「(……じゃあ何故占いババ様は……)」
ゴン「あ!ホントだ!」
キルア「あれが会長?」
レオリオ「倒れてるな……」
クラピカ「あの歳だから腰の骨が折れてしまったんじゃないのか?」
アックマン「おいどうした!なにがあった!」
ゴン「…」チラ
キルア「…」チラ
クラピカ「…」チラ
レオリオ「…」チラ
アックマン「俺様?(……そぉいえばそうだな……まぁいいか!ぬはぬはぬはは!」
ネテロ「あいてて……無茶しおって……」
ゴン「だ、大丈夫ですか!」
クラピカ「ネテロ会長は無事みたいだな」
キルア「(あれでケガしてても拍子抜けだけど)」
ネテロ「ワシは大丈夫じゃが……ビーンズがケガを」
ビーンズ「も、申し訳ありません……」
アックマン「すまん、俺様はてっきり敵かと……」
ネテロ「活きがいいのも結構じゃが……そういう行動は以後慎んでくれたらありがたいの」
ネテロ「それより……ビーンズの手当てをしたいんじゃが医療の知識は生憎持ち合わせていなくての……」
レオリオ「そういうことなら俺に任せてくれよ!」
ゴン「レオリオ!」
レオリオ「俺はこう見えて医者を目指してるからよ、少しくらい役立たせてくれ」
クラピカ「流石だレオリオ」
ネテロ「お、役者は揃ったの」
ネテロ「じゃあ早速じゃが、二次試験最後のメニューは”ゆで卵”じゃ!」
メンチ「……!なるほど」
ネテロ「じゃあ頼んだぞメンチくん」
メンチ「はい!」
~移動そしてメンチ卵捕り成功~
メンチ「こういう風に谷から飛び降りて上手いこと糸に捕まって卵取ってよじ登ってくる」
メンチ「どう?」
アモリ「余裕だな」ピョーン
イモリ「あぁ」ピョーン
ウモリ「お、俺だって!」ピョーン
オレダッテ!ワタシモダ!
メンチ「(物怖じせずにひょいひょいと……今年の新人は期待できるわ)」
ネテロ「ほっほっほ、豊作豊作」
レオリオ「む、無理だ!こんなの、マトモな神経で飛び降りれるわけがねぇだろ!」
クラピカ「同じくだ、これは自殺行為に等しい。危ない橋はなるべく避けたほうがいいだろう」
ゴン「うりゃっ」ピョーン
キルア「よっと」ピョーン
レオリオ「」
クラピカ「」
クラピカ「アックマンさん、我々を下へ連れて行ってもらえないだろうか」
アックマン「よーしよし、任せろ!乗れ!」
レオリオ「助かったぜ!」
クラピカ「ふっ……感謝しよう」
アックマン「行くぞォォォォッ!」バサッバサッ
ゴン「よっ」ガシッ
キルア「ほっ」ガシッ
ゴン「…あの二人、上でずっと待ってたけど何で来なかったんだろ?」
キルア「ビビッてんだろ、今の今まで命の危険ってのをアイツ等は感じてなかったからな」
キルア「まぁ、自業自得だな。あいつ等はここで失格決定……」
アックマン「ぬあああああああっ!!」
キルア「」
レオリオ「しかし悪魔をこうして従え……じゃなくて、仲間にしているとはな……」
アックマン「だがしかぁし!勘違いは死んでもするなよ?俺様はなぁ、あくまで暇潰しとしてやっていることだ!あくまだけに!」
キルア「あいつ等……あの悪魔を使いやがって……」
ゴン「でも楽しそうだなー」
キルア「ゴン、悪いことは言わないから自立しろ」
ゴン「うん」
ゴン「(楽しそうだなー)」
メンチ「全員通過……って、あの三兄弟は?」
アックマン「俺様と肩がぶつかったから落とした」
アックマン「俺様とぶつかる奴は皆地獄送りだぁ!」
ハンゾー「(危ねーっ!もう少ししたら当たってたアブねーっ!)」
~回想~
ハンゾー「忍者の俺には簡単すぎる試験だなww」
アモリ「ぎゃあああ」
イモリ「何すんだお前……うわやめろばぎゃあああああ」
ウモリ「うっ、うわぁぁぁぁ!!」
アックマン「俺様と肩がぶつかってぇ……?懺悔の言葉も無いのか貴様等ぁ……?」
クラピカ「まぁまぁ、一旦落ち着こうアックマンさん」
レオリオ「そうだよ、あいつ等は落としたしすっきりしたろ?早く上に行こうぜ」
アックマン「ちっ……」ビュン!
ハンゾー「ってぬおぉぉっ!?」ヒョイ
ハンゾー「あ……危ない……」
~三次試験と四次試験は人数の都合上中止~
~こうして最終試験が始まろうとしていた~
Q、戦いたくない人は誰ですか?
ポックル「406番」
キルア「405番と406番」
ボドロフ「406番」
ギタラクル「99番、406番」
ゴン「99番、403番、404番、406番は選べないかな」
ハンゾー「406番」
キルア「405番、406番」
レオリオ「405番、406番」
ネテロ「偏ったのー……」
ネテロ「……これでよし!と」
ブハラ「……会長、これ本気ですか?」
ネテロ「大マジじゃ」フェッフェッフェ
ネテロ「最終試験は一対一のトーナメント形式で行う」
ネテロ「その組み合わせは」
ネテロ「こうじゃ!」
「!!」
アックマン「……んん?おい、俺様の番号が見当たらねぇが……?」
ネテロ「最終試験……アックマンくんと言ったか?君はワシと戦ってもらおうかの」
アックマン「……なにぃ?」
アックマン「貴様がこの試験の責任者か知らんが、死んでも責任は取らねぇぞ?」
ネテロ「勿論じゃ、さぁ始めようか」
ヒソカ「待てよ♠」
ネテロ「!」
ヒソカ「彼は僕の獲物だ♦邪魔するなら……アンタが相手でもいいけど♥」
ネテロ「……困ったな」
アックマン「俺様は別にどっちでも構わんが……」
ネテロ「……ならば、先に二人で戦ってもらおう」
ヒソカ「!!!!(キタ……キタ……)」
ヒソカ「キタキタキタキタキタキタキタキタキタキタキタキタキタキタキタキタキタ…♥♥♥♥」
ゴン「怖~(汗」
ヒソカ「ククク……クククク……♥♥」
アックマン「(君の悪い奴だ……とっとと片付けるかぁ……)」
アックマン「ふん!」イーンシツッ!
ヒソカ「230……250……290……300点!♥♥♥」
ヒソカ「やっぱり君、とってもイイ……♥」
ヒソカ「お気に入り決定だy「ふん!」バキィッ!
アックマン「貴様なら、いつでも殺してやるからさっさと負けを認めなぁ!」
ヒソカ「ククク……クククク……♥言ったね♦」
ヒソカ「約束だからね♥まいった♠」
アックマン「次は……貴様か?」
ネテロ「ほっほっほ……この気持ち、久しく感じていなかったの……」
マスタ「!(あれは……会長が本気の時に着る心Tシャツ……!)」
マスタ「(そこまで……彼は強いのか?)」
マスタ「始め!」
――無音 その瞬間辺りに響き渡る轟音
ゴン「……すっげー」
――常人には決して捉えられない動き
――ネテロとアックマンは互いの手の内を読み合い攻防を繰り広げた……
アックマン「(ほぉ……?中々やるなこのジジイ)」
ネテロ「(これで余裕の表情見せられて……黙ってられるかよ!)」
ネテロ「殺すつもりで行くぜ……!」
百式観音
壱乃掌
アックマン「!」
ドォォォォン!!
ネテロ「よぉ……アックマン……!!」
アックマン「……ハンターネテロ。貴様は確かに強かった……」
アックマン「だがしかぁし!……貴様はぜーったいに俺様にはぁ……勝てんっ!!」ゴァァァァァンン!!
ネテロ「……?」
アックマン「俺のこの目が真っ赤に光るぅ……貴様を倒せと妖しく囁くぅ……」
アックマン「いーんしつ……」ゴゴゴ・・・
アックマン「いーんしつ……」ゴゴゴゴ・・・
アックマン「いーんしつぅ……」ゴゴゴゴゴ・・・
ネテロ「!」
アックマン「アクマイト光線ーーーーー!!」ギュルルルルル!!
ネテロ「!(この能力は確か……サトツが言っていた”特質系”の能力!)」
ネテロ「(この悪魔の系統は放出系と特質系!相性は悪い……)」
ネテロ「(技のスピードも相性の悪さが影響して鈍っている……避けれる!)」
ネテロ「っと!」ヒョイ
ネテロ「……今のはヒヤヒヤしたぜ、悪魔」
ネテロ「これからお前に隙は作らねぇ……速攻で叩く!」
アックマン「ではあの世で後悔するがいい!絶対無敵のアックマン様に戦いを挑んだことを!」
ネテロ「…なっ!この光は!?」
アックマン「……アクマイト光線だぁ!」
アックマン「俺様は常に進化し続けるぅ……このアクマイト光線も、”操るということを覚えた”」
ネテロ「!!(そうか……放出系と特質系との間に空いた”操作系”という穴を埋めて……)」
ネテロ「(相性の悪かった放出系と特質系の……橋を!作ったってのか……)」
アックマン「この光線……操るってだけに爆発の有無も操れるみたいだなぁ?」
アックマン「降参するか?ハンター達の王よ」
ネテロ「……まいった」
ネテロ「ワシの――
――負けじゃ」
ブハラ「負けた……」
サトツ「……」
ネテロ「……ワシは引退する」
「!!?」
ネテロ「もっと強くなりてぇ……今回の敗因はワシの修行不足だ」
ネテロ「だから……後はよろしく」
アックマン「……」ドサッ
ゴン「!アックマンさん!」
アックマン「意識が……朦朧とぉ――
――」
サトツ「Σ」ビクッ
アックマン「此処は……?」
サトツ「おめでとうございますアックマンさんハンター試験合格ですハンター証をどうぞでは失礼します!」バタン
アックマン「……?」
~部屋の外~
サトツ「怖かった……」
メンチ「お疲れ」
アックマン「…しかしこれで、ハンター証とやらをゲットしたし、修行もできた!」
アックマン「占いババ様には感謝しても足りねぇぜ!ぬは、ぬは、ぬははははぁ!!」
アックマン「……そういえば、ゴン達はどうなったんだ?」
アックマン「円!」
アックマン「(おぉ……出来た出来たぁ…しかし、俺様に念とやらが使えたとはなぁ)」
アックマン「あのネテロとか言う奴が言ってた通りだ、ぬはは!」
アックマン「(さてさて……ゴンは……おぉ、そこか)」
ゴン「キルアに謝れ」ドガアァァァァン!!
レオリオ「な、なんだ!?」
アックマン「……何をやっているんだ貴様らぁ?俺様抜きでぇ」
ハンゾー「いやアンタが何やってんだよ」
ゴン「キルアの兄貴だよ」
アックマン「ほぉ……」
イルミ「…」
ゴン「コイツのせいでキルアが失格になったんだ」
アックマン「……なに?」
アックマン「ならば、キルアはハンターになっていないのかぁ!?」
ゴン「そうだよ」
アックマン「俺様の縛りルールが……破られてしまった」
アックマン「キルアはどうしたぁ?」
イルミ「キルアなら、俺たちのアジトに帰ったよ」
レオリオ「!アジトってどこだテメェ!」
クラピカ「キルアは何処にいる!」
イルミ「ククルーマウンテン。そこが俺たちのアジト」
ゴン「!!クラピカ!レオリオ!」
レオリオ「連れ戻しに行くんだろ!」
クラピカ「勿論だ!早く行こう!」
ゴン「あ、それじゃあ失礼しますっ!」
アックマン「……待てぇい!」
アックマン「修行のついでだ……俺様もそのキルアを取り戻しに行く手伝いはしてやろう」
レオリオ「ホントかアックマンさん!」
クラピカ「しかしいいのか?あるお方からの命令でその証を取る任務だったんじゃ……」
アックマン「……む、むぅ」
アックマン「大丈夫だ!早く行くぞ貴様らぁ!」
ゴン・レオリオ・クラピカ「アックマンさん!」
アックマン「(貴様らを見ていると……奴を思い出す)」
アックマン「……孫悟空」
ゴン「?何か言った?」
アックマン「何もなぁい!行くぞぉ!」ビューン!!ドカァァァァン!!
ネテロ「……」プルルルルル プルルルルル
ネテロ「お前んとこの戦士は、本当に強いの。同じ世界の出身か怪しく思えるわい」
占いババ『アックマンは元々地獄生まれじゃ』
ネテロ「そうじゃったな……悪魔、だったか?」
占いババ『それでアックマンはハンター証を……』
ネテロ「あぁ……なぁ、お前は何でハンター証なんk」ブツッ プープープー
占いババ「早く帰ってくるのじゃアックマン……ハンター証を売れば、七代先まで遊んで暮らせるからの」
ゴン「アックマンさん……風邪?」
アックマン「誰かが俺様の噂をしてやがるなぁ……?」
アックマン「よし、見えたぞ!ククルーマウンテンだ!」
アックマン「……ゴン!クラピカ!レオリオ!行くぞぉ!」
三人「おーっ!」
完
楽しかった
おいクソババア
むしろ占いババらしいww
>>1乙でした、面白かったよ
Entry ⇒ 2012.10.17 | Category ⇒ 版権物SS | Comments (1) | Trackbacks (0)
伊織「サイドストーリー」
伊織「ま、私にかかればこんなの通過点に過ぎなかったわけだけど」
伊織「一歩間違えれば……って、私らしくもないわね」
伊織「そうよなるべくしてこうなったんだもの」
伊織「でも、それはそれで、違った方向に進んでたら?」
伊織「……案外面白そうね」
伊織「例えば……」
>>5
安価はアイマスSSのスレタイ形式で
例)P「伊織が原発作業員に?」、貴音「らぁめんなんてもう見たくもありません」など
DS組はプレイ中なので非推奨 モバは専門外
10~20レス程度でまとめて行く予定 書く側をやりたい人歓迎
スレタイにあるので最初の話にはできるだけ伊織を絡めていく予定
美希「デコちゃんおはようなのー」
伊織「だからデコちゃん言うな!」
亜美「あ、いおりん……デコちゃんおはー!」
伊織「言い直すな!……あんたたちだけ?」
美希「そうみたい」
伊織「そう、珍しいこともあるのね……というか暑いわねぇ……」
亜美「あー確かに。もう10月なのにたまに暑くて、洋服困るんだよねー」
伊織「それもあるけど汗がもう最悪。はぁ、シャワー入ったばっかりなのに……」
美希「あはっ!デコちゃんのデコ、光ってるの!」
伊織「は、はぁ!?美希アンタいい加減にしなさいよ?」
亜美「えーでも光ってるしー」
伊織「し、仕方ないでしょ!暑いのよこの事務所!冷房……と言うか扇風機か何か……」
亜美「あ、はるるんおっはー」
伊織「ちょうど今扇風機を出したところよ」
春香「あ、伊織おはよう!こんな時期に、って思っても暑いときはこれだよね!」
亜美「そんじゃ、スイッチオーン!」
伊織「ちょ、ちょっと待ちなさい!」
亜美「え?なんで?」
伊織「あ、そ、その……ほ、ホコリが舞うでしょう?軽くホコリをとってからじゃないと」
亜美「あ、そっか。流石いおりんじゃなかった、デコちゃん」
伊織「……亜美?」
亜美「あ、あははー……冗談っしょー!」
春香「でも、私はいいと思うけどな~伊織のおでこ」
伊織「は、春香!?」
美希「うん、ミキも別に変な意味で言ってるわけじゃないの。デコちゃんのチャームポイントだって思うな」
伊織「……そ、そうかしら」
春香「あ、亜美……それはいくらなんでも……」
亜美「もー冗談だってばー!」
伊織「アンタのは冗談に聞こえないのよ……」
亜美「でもさ、髪が薄くてひらひらーっていうので笑い取ってる人もいるじゃん?」
伊織「私は芸人か何かか!」
美希「デコちゃんはツッコミでいけるのー」
伊織「あ、アンタまで……」
春香「あ、あはは……」
亜美「よっし!こんなもっしょ!セットしてー……スイッチオーン!」
春香「あー……涼しいね~、でも夏の時とはちょっと違う感じ」
美希「気持ちいの……あふぅ……」
伊織「やっぱりいいわねぇ……」
亜美「……隙あり!!」
ブォン!
伊織「ちょ、亜美?きゃぁ!」
伊織「や、やめなさいよ!か、髪が乱れるじゃない!」
亜美「そりゃそりゃ!次ははるるんじゃー!」
春香「きゃっ!ちょ、ちょっと亜美!」
亜美「続いてミキミキ!」
美希「あ゛~~~ふ~~~」
伊織「亜美!いい加減に!」
亜美「もー!そんなに怒ってばっかりだと禿ちゃうぞ!」
伊織「ばっ!だ、誰が!」
亜美「なんてジョーダン!アメリカンジョーダンだよー!」
伊織「……もう突っ込むのも飽きたわ」
亜美「ってわけで最終兵器、最強の風をくらえーー!!!」
伊織「え?や、やめっ……!!」
ヒラッ
春香「い、おり……?」
美希「デコ……ちゃんの髪が……落ちたの」
亜美「あ、あれ?亜美、やりすぎちった?」
伊織「……」
スッ
春香「……これって、さ」
亜美「……」
美希「……」
伊織「ズラ……」
春香「伊織……」
亜美「いおりん……?」
美希「デコちゃんが……ハゲちゃんだったの……」
伊織「い、いやあああああああ!!!」
春香「おはよう伊織!」
亜美「いおりん!待ってました!」
美希「あはっ!デ……伊織遅いの!」
伊織「あはは!ちょーっと髪の手入れをしてたら遅くなっちゃって」
春香「あはは!伊織らしくないなー!」
亜美「もー!そんなにおめかしして!まさか、誰かとお出かけ?」
伊織「バカ!そんなんじゃないわよ!女の身だしなみでしょ?髪は女の命なんだから!」
美希「伊織は綺麗だから、そんな必要ないって思うな!」
伊織「あはは、美希はお世辞がうまいわね!でもありがたくうけとっておくわね!」
亜美「でもでも、中途半端にあるよりは全くない方が手入れってしやすそうだよね!……あ、あれ?」
シーン
亜美「あ……いや……」
春香「……はぁ」
美希「空気が読めない子なの……」
亜美「あ、あはは……いおりん超綺麗!髪ふっさふさ!」
伊織「」ニコニコ
亜美「や、やだよぉ……ね、いおりん?お願い、違うの!さっきのは本当に!褒めてたの!」
伊織「」ニコニコ
亜美「やだやだやだ!!はるるん!ミキミキ!助けてよぉ!!」
伊織「よかったわね、亜美」
亜美「……え?」
伊織「ズラって高いのよ?」
イヤアアアアアアアアア
春香「……」
美希「あふぅ……」
美希「だ、だめなの春香!笑ったりしたらふふっ!」
伊織「亜美、大丈夫よ」
亜美「もうダメだよぉ……双子の髪が無い方って呼ばれるようになっちゃうよぉ……」
伊織「聞いて、亜美。毛と言うものは外部からの侵入や外傷を防ぐためのガードマンの役割を持っているわ」
伊織「でも、人間はそれを最低限に抑えることができる、それはそれ以外の方法で対応することができたり、傷つくことがなかったりするから」
伊織「つまりね、毛が無い方が優秀な人間なのよ?ほら、私を見て?」
亜美「い、いおりん……うん、本当、いおりんが神様に見えるよ……後光が見える……」
美希「ぶふっ!」
春香「……」
美希「はっ!……コホン、なの」
伊織「だから、元気を出して?そうね、これから言われるとしたら”より進化した方の双子”って呼ばれるわよきっと」
亜美「そっか、それなら……いいかな……ぐすっ」
伊織「ふふっ、泣くほど嬉しいのね?無理もないわ、この領域に達するには勇気が必要だもの。……それと、美希?」ニコッ
美希「なのっ!?」
美希「死ぬの……こんなのもう生きていけないの……」
伊織「待って、美希。……これは聞いた話なんだけれど」
美希「もういいの……こんなんじゃ、何もキラキラできないの……あ、キラキラはしてるの。あはっ、あはは……」
伊織「プロデューサー、ハゲが好きみたいよ」
美希「うん!ミキもっともっとキラキラしてみせるの!というかハニーはそれが目的だったの!」
春香「……」
伊織「春香は、いいのかしら?」
春香「う、うん!すっごくうらやましいけど、遠慮しとくね!」
伊織「……」
春香「だ、大丈夫!私ドジだから、まだ髪生やしていたい派というかさ!ね?」
伊織「わかったわ……でも、気が向いたらいつでも言ってちょうだい?」
春香「わ、わかったよ!ありがとう!」
春香「……この扇風機が、元凶なのかな」
春香「い、伊織!?」
伊織「大丈夫よ、何かしようってわけじゃないの」
春香「……一つ、聞いていいかな」
伊織「何かしら」
春香「……」
伊織「いいのよ、もう今更だもの」
春香「その、さ……あれは、ズラだったのかな?扇風機で抜け落ちたわけじゃないんだよね?」
伊織「……ふふっ」
春香「い、伊織?」
伊織「デコが広い、って。それだけで生え際が後退してるって、思ってた?」
春香「い、いやそんな」
伊織「だからズラをして?あははっ、そんなのバカらしいわよ。だって、生やすならもう少しバサッ!っとやると思わない?」
春香「あ、そ、そうだよね!あはは!」
伊織「普通はね」
春香「あ、えっと……」
伊織「それで、ズラにしたの。わかる?」
春香「い、いやその……」
伊織「あのあふぅあふぅ言ってるやつにデコデコ言われる気持ちがわかる!?」
春香「あ……」
伊織「私は好きでデコったわけじゃないの!だから決めたのよ、アンタのためじゃない。私は自分の意思でデコったって」
春香「……」
伊織「だから、美希がデコデコ言うのは偽物。もうあのデコは消したもの。私はデコじゃない、ハゲ」
伊織「それで?あの扇風機で飛んだらハゲって……お笑いよね」
春香「も、もう何がなんだか……と、とにかく落ち着いて……」
伊織「……ごめんなさい。ちょっと、取り乱してしまったわね」
春香「ううん、仕方ないよ。だって、あんなことが起こったあと、あんなことが起こったんだもん」
伊織「……それじゃ、覚悟はできてるってことでいいのかしら」
春香「……もう、いいや。いいよ、私もデコるよ」
雪歩「誰もいない、のかな……」
伊織「あら、おはよう」
真「あ、なんだいるんだ伊織おはよう」
雪歩「伊織ちゃん、おはよう」
伊織「……」
真「伊織?」
伊織「……ね、真」
真「?」
伊織「きゃぴぴぴぴーん!!デコちゃんなりよー!!」
真「ブフッ」
伊織「……残念。デコってお終い」
真「え?な、何?」
春香&美希&亜美「アイアイサー」
毛のないアイドルという斬新なキャッチコピー、髪をバッサリ切ってスキンヘッドにすることを”デコる”と形容した伊織の影響で
若者たちの中で爆発的にヘアスタイルとしての”ハゲ”が流行となり、永久脱毛するものまで現れたという
もちろん元から髪が心許なかった世代にとってこれ以上ないチャンスということもあり
765プロは老若男女、人種を超え世界中から評価され、デコるは流行語大賞となり、ハゲを流行らせたということで伊織はギネスに認定された
なんでも巷では”髪様”だとか”凸神”とか言われているそうな
さて伝説となった765プロはというと……
伊織「みんな、仕事に行っちゃったわね」
伊織「少し、やりすぎちゃったみたい。私は有名すぎてなかなか仕事が回ってこないけど、お金はもう十分」
伊織「髪がこんなにも大切なものだったなんて、思いもしなかったわ」
伊織「でもね、これだけは言わせてほしい」
伊織「デコることは簡単、選んで髪をはやすのは難しいの」
伊織「今じゃそんな常識通用しないけれど、なんとなく言ってみたかっただけ」
伊織「……あら、そろそろ私も時間ね」
伊織「伊織の別にアンタ達のためにデコったんじゃないんだからね!の収録だわ」
伊織「何よ、そんな顔して。え?丸くなったって?うるさいわよ!……でも、確かにそうかもね」
伊織「……それじゃ、また会いましょうか。それまでにデコっておかなきゃ、ただじゃおかないんだから!にひひっ♪」 終わり
次>>43
やよい「なんでもかんでももやしで解決!粗食少女マジカルやよい!ただいまさんじょーです!!」
あずさ「あ、あら?やよいちゃん?」
やよい「違います!マジカルやよいです!あずささん、何か困ってるんですか!」
あずさ「あ、実はまた道に迷っちゃって……生憎今日は携帯を持ってきてなくって、それほど遠くないからいいんだけれど困ったわぁ……」
やよい「……うっうー!!」
P「説明しよう!マジカルやよいはひらめいたとき右手を高く掲げうっうー!と叫ぶのだ!」
やよい「あずささん!こっちを見てください!」
あずさ「あら?何か落ちて……もやし?」
やよい「はい!こんなこともあろうかともやしを落としながら着たんですよ!」
あずさ「あら、ということは帰れるわね!」
やよい「はい!」
あずさ「あ、あれ?でもやよいちゃん?」
やよい「マジカルやよいです!」
やよい「それはそうですよ!本当に落としながらくるわけないじゃないですか!もったいないです!」
あずさ「え、えぇ……?そ、それじゃどうやって……」
やよい「ふっふっふー……ここからがマジカルやよいの力です!おうぎ!もやしりめんばー!」
P「説明しよう!もやしりめんばーとは、対象物にもやしの幻覚を施し、それを記憶しておくことで事柄やその状況を記憶しておくことができるのだ!」
やよい「なのでこの道にはもうもやしがいっぱいに見えてますよー!」
あずさ「そ、そうなの……?」
やよい「こっちですよー!」
あずさ「ほ、本当に帰ってこれちゃったわね……でも服からなんとなくもやしのにおいがしてるのは気のせいかしら……」
やよい「それじゃ私はこれで!」
あずさ「ありがとうね、やよいちゃん?」
やよい「マジカルやよいです!あ、もやし返してください!」
あずさ「あ、え、えぇ……」
やよい「それじゃ、最後に手を出して~……ハイターッチ!カイケツ完了!」
やよい「なんでもかんでももやしで解決!粗食少女マジカルやよい!ただいまさんじょー!」
貴音「おや、やよいではありませんか」
やよい「違います!私はマジカルやよいです!」
貴音「まじかる……?」
やよい「それより貴音さん!何か困ってるんですか?」
貴音「あ、そうなのです。実は今日行く予定だったらぁめん屋が休日ということでしまっていたのです」
やよい「他のところで食べればいいんじゃないですか?」
貴音「そんなこと!この店のらぁめんに対する冒涜でしょう!……とはいうものの腹の音は収まってはくれず、途方に暮れていたところです」
やよい「うー……難しいですー……! うっうー!!」
貴音「や、やよい?」
やよい「任せてください!そのお店はどこにありますか?」
貴音「えぇ、と少々歩きますがよろしいのですか?閉まっているのですよ?」
やよい「大丈夫です!」
やよい「ふむふむ……やっぱり少し残ってます!それじゃ見せてあげます、私の力!」
貴音「一体何を……」
やよい「おうぎ!もやしめいきんぐ!」
P「説明しよう!もやしめいきんぐとはもやしの色や味、匂いを変化させることでまるでそのものがあるかのように思わせることができるのだ!」
やよい「私は食べ物のにおいをだいたいわかります!……はっ!……で、できました貴音さん!」
貴音「これは……もやし、ですが」
やよい「ふっふっふー……でも、食べてみればわかります!どうぞ、召し上がれ!」
貴音「ふむ……本来はらぁめんの気分なのですが……!?こ、この香りは……いただきます」
やよい「……どうですか?」
貴音「……これは」
貴音「ドロっとした濃厚スープが絡んだ、あの店特有の極太麺……やよい、これは一体……」
やよい「えへへ~これがもやしパワーです!」
貴音「なんと面妖な……完全にあの味、ではあるのですがらぁめんはやはりスープから味わうのが至高……というのはいささか贅沢でしょうか」
やよい「なるほど……それじゃ、このもやしをどうぞ!吸ってください!」
やよい「えへへー!」
貴音「素晴らしい……あのスープが、しっかりほどよい熱さで流れ込んできます……なんと心地よい」
やよい「そのもやしを口に含んでいれば、いつもと同じようにらぁめんを食べてるのと同じ感じになりますよ!」
貴音「な、なんと面妖なのでしょうか……ありがとうございまふ、やよい」
やよい「あ、ですけど……一つ問題が」
貴音「なんでひょうか?あ、その前に次のもやしを頂けますか?」
やよい「このまほう、あと3回しか使えないんです」
貴音「な、なんとー!」
やよい「なので、もやしもあと三本です……」
貴音「そ、そんな……まだ一口しか食べておりません……スープを味わう段階で、まだ潤っておりませんのに……」
やよい「……じゃあ、いらないですか?」
貴音「そのようなことは断じて!3つでよいです!頂けますか!」
やよい「は、はい、どうぞ!」
貴音「んむ、んむ……これです……なんとも……あぁ、しかし……」
やよい「……ごめんなさい、私の力が足りなかったばっかりに」
貴音「い、いえそのようなことはないのですよ、誠、助かりました」
やよい「そうですか!そう言ってもらえると嬉しいですー!」
貴音「……確かに、ある程度物足りなくはありますが、いくらか満たされたかと……やよい?」
やよい「もーマジカルやよいですってば!」
貴音「あぁ、そうでした。それではまじかるやよいその……もやしとにおいさえあればまた、やっていただけますか?」
やよい「はい!1日1回でよければ!」
貴音「あれほどに再現度の高いもの……あれだけの量しかいただけないのは辛いですが、それ以上に惹かれるものがあります故」
やよい「わかりました!それじゃ、最後に手を出して~!」
貴音「手、ですか?あぁ、なるほどいつもの、あれですね」
やよい「そうです!ハイターッチ!カイケツ完了!それじゃ、また!」
貴音「……ありがとう、まじかるやよい」
貴音「貴方のもやしは、まるで太陽のような……不思議な味でした。ごちそうさまでした」
やよい「……ごめんなさい、私の力が足りなかったばっかりに」
貴音「い、いえそのようなことはないのですよ、誠、助かりました」
やよい「そうですか!そう言ってもらえると嬉しいですー!」
貴音「……確かに、ある程度物足りなくはありますが、いくらか満たされたかと……やよい?」
やよい「もーマジカルやよいですってば!」
貴音「あぁ、そうでした。それではまじかるやよいその……もやしとにおいさえあればまた、やっていただけますか?」
やよい「はい!1日1回でよければ!」
貴音「あれほどに再現度の高いもの……あれだけの量しかいただけないのは辛いですが、それ以上に惹かれるものがあります故」
やよい「わかりました!それじゃ、最後に手を出して~!」
貴音「手、ですか?あぁ、なるほどいつもの、あれですね」
やよい「そうです!ハイターッチ!カイケツ完了!それじゃ、また!」
貴音「……ありがとう、まじかるやよい」
貴音「貴方のもやしは、まるで太陽のような……不思議な味でした。ごちそうさまでした」
やよい「なんでもかんでももやしで解決!粗食少女マジカルやよい!ただいまさんじょー!」
真美「え、え?やよいっち?」
やよい「違うの!マジカルやよい!何か困ってること、ある?」
真美「ま、マジカルってあはは!何それ!」
やよい「な、なんで笑うの!」
真美「ご、ごみんごみん!で、なんでそんなこと……って格好もなんか、もしかして意識してる?」
やよい「い、一応……じゃなくて!何か困ってることがないか聞いてるの!」
真美「あ、そだそだ。なんかゲームが動かなくってさー」
やよい「え?」
真美「あ、そっか!さっきもやしでどうとか言ってたし、助けてくれるんだよね?」
やよい「あ、う、うん」
真美「よかったー!これ頑張んないと亜美に負けちゃうからさー。じゃ、はいこれ」
やよい「あ、えっと……」
真美「どしたの?まさか、できないとか?」
真美「お?」
やよい「おうぎ!もやしいんぱくと!」
真美「おー!それっぽい!」
P「説明し……あれ?そんなのあったっけ?」
やよい「と、とりゃああ!!」
真美「わーー!!な、何すんのさやよいっち!」
やよい「静かに!」
真美「え、え?」
やよい「こうしておけばもやしのパワーで直るから!」
真美「い、いやいやいや!絶対無理っしょそんなの!」
やよい「もやしはすごいんだよ!体にもいいし、安いし!」
真美「それはわかるけど今関係ないっしょー!もーできないならいいよー!」
やよい「むー……!もう知らない!真美のバカ!」
真美「な、何さ……あ、あれ?……直ってる」
やよい「なんでもかんでももやしで解決!粗食少女マジカルやよい!ただいまさんじょですよー!」
響「おーやよい!どうしたんだ?」
やよい「だからもーやよいじゃないんです!マジカルやよいなんですよー!」
響「なんだかわかんないけど助けてくれるのか?」
やよい「そ、そうです!何か困ってるんですか!」
響「ちょっとハム蔵の様子がおかしいんだ」
やよい「そうなんですか?」
響「なんていうか具合悪そうで……でも忙しくて病院にも連れて行ってあげられないし……」
やよい「なるほど……うっうー!!」
響「やよい?」
やよい「任せてください!もやしは最強なんですよー!」
響「も、もやし?」
P「説明しよう!やよいのもやしは普通に食べるだけでも普通のもやしに比べて栄養値が高く、簡単な病気なら治ってしまうのだ!」
やよい「というわけでこれをハム蔵さんに!」
響「だ、大丈夫なのか……?」
やよい「……」
響「お、おいハム蔵?う、動かなくなっちゃった……けど」
やよい「あ、あれ?」
響「う、嘘だよな?お、おいハム蔵!」
やよい「ね、寝てるだけですって!」
響「……」
やよい「ひ、響さん……」
響「ごめん……ハム蔵が戻るまで、一人にさせてくれるかな……」
やよい「で、でも!私のせい、かもしれないですし……」
響「……ごめん」
やよい「……っ!」
やよい「本当にハム蔵さんが戻らなかったら……」
伊織「やよいー!」
やよい「い、伊織ちゃん?って私は今……」
伊織「あずさのこと、知らない?」
やよい「え?あずささんならさっき……」
伊織「いなくなっちゃったのよ……携帯も持ってないし……」
やよい「そ、そんな……」
伊織「あら、電話……えぇ私……え?貴音が?」
やよい「え?」
伊織「……そう、わかったわ。誰か向かわせるから、それじゃ」
やよい「た、貴音さん……何か?」
伊織「ラーメン屋の前でうろうろして不審者か?っていう電話が来たらしいの、一体何をしてるのよ……」
やよい「……わ、私……!!」
伊織「あ、ちょっとやよい!!」
やよい「もやしじゃ、みんなの迷惑になるだけ、なのかな……」
あずさ「そんなこと、ないわよ?」
やよい「え?あ、あずささん?」
あずさ「ふふっ、やよいちゃんのおかげで、もやしを思い浮かべたらどうしてか、ここに来ることはできるようになったの」
やよい「そ、そうなんですか……?」
貴音「私も、同じですよ」
やよい「た、貴音さん!?」
貴音「ふふっ、あのもやしの味。素朴で、本当はそんならぁめんの味など、いえ……やよいの心のこもった、なんともいえぬ味。誠、美味でした」
やよい「貴音さん……」
真美「ごめんね、やよいっち……」
やよい「真美?」
真美「ゲーム、直っちゃった。ごめんね、せっかく直すって言ってくれたのに……それと、ありがと!」
やよい「う、ううん……私こそ、無理なのに意地張って……」
響「やよい……」
響「……ひどいぞ」
やよい「……え?」
響「もう!あんなによくなるならもっと早く言ってほしかったぞ!」
やよい「え、え?」
響「あの後すぐ良くなって、今じゃすっかり!……でも、最初は疑うようなこと言ってごめん」
やよい「そ、そうだったんですか……よかったです!」
響「みんな、やよいに助けられたんだ!」
やよい「いえ、もやしのおかげです!もやしって、本当にすごいんですよ!」
あずさ「でも、それを配ったのはやよいちゃんでしょう?」
貴音「えぇ、あずさの言うとおりです。やよいの気持ちがあったからこそ、それぞれが笑顔になれた」
真美「やよいっちだからもやしなんだし!」
響「本当、ありがとうな!!」
やよい「う、うぅ……みなさん、ありがとうございます!……でも、一つだけ言わせてください」
やよい「私はやよいじゃないです!粗食少女マジカルやよいです!うっうー!!」 終わり
次>>85 ちょっと休憩で遠目
あずさ「気持ちいわよぉ~」
伊織「あ、あんたたちねぇ……いい加減に……ひっく」
伊織「どうしてこんなことに……」
――
伊織「え?うちに来る?」
小鳥「ダメかしら?」
伊織「い、いやそれは別に……でも急にどうしてそんな」
小鳥「ん~たまにはどうかな~と思ってね?」
伊織「絶対何か企んでるでしょうアンタ……それに、小鳥だけなの?」
小鳥「あ~そうねぇ、律子さんと、あずささんは誘おうかなと思ってるけれど、いいわよね?」
伊織「アンタの中ではもう決定してるんでしょうどうせ……まあ、いいけれど……」
律子「私はキャンセルでお願いします」
小鳥「え!?ど、どうしてですか!」
律子「……仕事が残ってるんですよ」
律子(絶対関わったらマズイ、今日はそんな気がする……ごめん、伊織)
律子「一応仕事は午前中で終わったはずですけど……」
小鳥「よっし!」
律子「……変なことしないでくださいよ」
小鳥「わかってますって!むふふ~!」
伊織&律子(絶対変な事考えてる……)
律子「というか何する気ですか。竜宮なら亜美とか誘ってもいいんじゃ」
小鳥「あーうん、亜美ちゃんはまた別に機会かな~私も同時に楽しめるほど器用じゃない、というかもったいない!」
伊織「……」
律子「まあなんでもいいですけど、本当無茶はしないでくださいよ!」
小鳥「わかってますって律子さん!」
あずさ「ただいま戻りました~」
小鳥「やったグッドタイミング!あずささんちょっとこちらに~!」
あずさ「え?小鳥さん?」
あずさ「あのーお話ならあっちでもよかったんじゃ……?」
小鳥「ダメなんですよ、律子さんがいるんで!というかホントは丸め込む文句は持ってたんですけど、参加しないとなると……」
あずさ「?」
小鳥「あ、すみません!えっとですね、伊織の家でたまには女子会みたいな感じでどうかと!」
あずさ「あら、いいですね~でも、どうしてまた伊織ちゃんなんですか?」
小鳥「……聞いてもらえます?」
あずさ「は、はい」
小鳥「私、ちょっと目覚めちゃいまして」
あずさ「……?」
小鳥「未成年にお酒を飲ますのが!」
あずさ「あ、あのー……それは」
小鳥「みなまで言わなくていいですあずささん!……わかってるんです、でもその背徳感がどうにも!」
あずさ「は、はぁ……」
小鳥「もちろん、毒になる程のませませんよ!酔ったらどうなるかみたいだけなんですって!」
あずさ「でも……もしものことがあったら」
あずさ「そ、それって結構重い責任に……というか、他に飲ませた子はいるんですか?」
小鳥「いません!妄想の中だけだったので!」
あずさ「……はぁ」
小鳥「……あれ?あ、ホントだ……って、もしかしてヤバイですかね?」
あずさ「……結構、危ないとは思いますけど」
小鳥「……むー」
あずさ(よかった、やったことなかったんですねぇ、私はいいですけど伊織ちゃん……でも)
あずさ(酔った伊織ちゃん、どんな感じかしら……いつもみたいに強気?それとも、甘えん坊さん?……や、やだ私ったら!)
小鳥「なんか怖くなってきましたし、それは辞めておきますか」
あずさ「そう、ですね……」
小鳥「……でも、見たいなぁ……伊織ちゃんが酔う姿見たいんだよなぁ」
あずさ「も、もう酔ってませんか小鳥さん……」
小鳥「だって、甘えん坊だったりしたらどうします?もう母性ガンガン働いちゃいますよ~」
あずさ「確かに見たいと言えばそうですけど……」
あずさ「ち、違いますよ!でも、見たいと言えば……いつも勝気な伊織ちゃんがしおらしくなるのを……」
小鳥「よし!もう決めました!行きましょう!」
あずさ「え、えぇ……でも、わかりました。そういうことなら私もお手伝いします」
小鳥「おぉ!ホントですか!そうと決まれば買い出しですね!よし!」
ガチャッ
小鳥「お待たせー!それじゃ伊織、後で行っていいね!?」
伊織「あ、えぇ……長々と何を話してきたのよ……あずさ?」
あずさ「え、えぇ!?わ、私は何も、話してないわよ~?」
伊織「嘘が下手な二人ねぇ……まあいいけど、なんでも」
―
小鳥「というわけできました!……相変わらずでかい家だこと」
あずさ「うらやましいわぁ……」
小鳥「でも、独り身には流石にさみしすぎませんか?」
あずさ「小鳥さん?今日はそういうの、やめましょ?」
小鳥「……私も今後悔しました。すみません……よーし!もうヤケですよ!飲むぞー!!」
小鳥「お邪魔します!」
あずさ「お邪魔致します~」
伊織「今多分誰もいないし、それで?何をするの?」
小鳥「……」チラッ
あずさ「え、えぇ!?」
伊織「何よもう……何かあるならさっさと出しなさいよね」
小鳥「……わ、わかったわ!これよ!」
伊織「……は?」
小鳥「今日は飲み会です!じゃんじゃん飲みましょう!」
伊織「小鳥、アンタ大丈夫?あ、そっかもう酔っぱらってるわけね。トイレはそっちだから、うちの中でぶちまけるのは止めてちょうだい」
小鳥「ち、違いますっ!まだ飲んでません!」
伊織「……それじゃなんで未成年の家に酒持って来れるのよ」
小鳥「んと、えっと……伊織ちゃんに大人の味を教えてあげようというお姉さん2人の粋な計らいというやつで!」
伊織「……わかったわ、それじゃ寄こしなさいよそれ」
小鳥「流石は伊織ちゃん!はいこれ!それじゃ~イッキイッキ!」
あずさ「こ、小鳥さん!」
小鳥「あっ!つ、つい……こ、コホン。飲むなら少しずつよ!無理はいけないわ!」
伊織「何を言ってるのよ、飲むわけないでしょ。没収よ没収」
小鳥「え、えぇー……」
伊織「オレンジジュースを持ってくるから、それでも飲んでなさい。100%よ」
小鳥「せめて私たちにはお酒を……」
伊織「いつすり替えられるか怖くて飲めないわよ!いいからそこでおとなしく待ってなさい!」
小鳥「はーい……」ブスッ
あずさ「流石伊織ちゃん、厳しそうですね~」
小鳥「くそぉ……こうなるとますます飲ませたくなってきた……というか私も飲みたい」
あずさ「あ、あはは……」
小鳥「……ん?なんですかねあの物物しい箱……高そうな木、かな?」
あずさ「……お酒?」
あずさ「多分……私は飲んだことないのでわからないですけど……」
小鳥「私だって日本酒は飲まないですよ!……でも、これに賭けるしか」
あずさ「え、えぇ……大丈夫ですかね、高そう、ですよ?」
小鳥「今月の給料を使ってでも見たいんですよ!よいっしょ……うわぁ、高そう……字が読めないし」
あずさ「こ、これ伊織って書いてありませんか?」
小鳥「ということは、記念のお酒ってことかしら……」
あずさ「……小鳥さん」
小鳥「流石にこれは……」
ガチャッ
「「っ!」」ビクッ
伊織「お待たせ……って、どうしたのよ、はい、ノンアルコールオレンジジュースよ」
あずさ「な、何でもないわ伊織ちゃん!わざわざありがとう!」
小鳥「あ、あはは!」
小鳥(とっさに後ろに隠しちゃったけどこれどーするのよ!)
あずさ「あったわね~ふふっ、懐かしいわぁ~」
小鳥「へぇ、そんなことが合ったんですね」
伊織「っと、ごめんなさい。ちょっとトイレに行ってくるわね」
あずさ「……あっ、そういえば小鳥さん、お酒、どうしました?」
小鳥「もうずっと後ろに……箱も不自然な位置にあるままだし、ばれないかヒヤヒヤでしたよ……」
あずさ「それはそれは……」
小鳥「……でも、飲んでみたくないですか?」
あずさ「え、で、でも……」
小鳥「この伊織家につたわる秘蔵の酒、ですよ?絶対おいしいですって」
あずさ「……」
小鳥「私が、責任はとります!」
あずさ「そこまで言われたら……」
小鳥「流石あずささん!それでは、っと……はい、あずささん」
あずさ「やっぱり結構強そうですね……」
あずさ「か、乾杯~……あ、あら?」
小鳥「な、何これ……すっごく飲みやすい……日本酒ってこんなにさっぱりして……」
あずさ「でも、私一度だけ嗅いだ事あるんですけど、ここまで優しくはなかった気がします」
小鳥「これはいいですね……っと、それでもやっぱり強いみたいですね~」
あずさ「わ、私も……これは……」
小鳥「もう一杯どうぞどうぞ~」
あずさ「あら、すみません……」
小鳥「オレンジジュース割りって言うのも有りかな……あ、あれ?これ伊織ちゃんのじゃ……」
ガチャッ
伊織「おまたせ、あら?二人ともどうかした?」
小鳥「い、いえ……」
伊織「そう……」
ゴクリ
小鳥「……あ」
小鳥「あ……そ、その……」
伊織「信じらんない……名前書いてあったでしょう?」
小鳥「ご、ごめんなさい!それは本当に……べ、弁償できるかわからないけど……」
伊織「はぁ……それはもういいわよ……私がもらったものだしね」
小鳥「ごめんなさい……」
あずさ「私からも、ごめんなさいね伊織ちゃん……」
伊織「まったくダメな大人ね……ってあ、あら?めまいが……」
小鳥「……」
伊織「ちょ、ちょっとまさか……」
小鳥「ごめんなさい……」
伊織「あ、アンタたちねぇ……うぅ、目が回る……」
小鳥「ごめん、ごめんなさいぃ……私が悪いんですぅ……」
伊織「え、え?何?」
あずさ「でもおいしいわねぇ、このお酒、どんどん入っちゃうわ~」
小鳥「うぅ……」
伊織「も、もう小鳥!いつまで泣いてるのよ!もういいから泣き止んで」
小鳥「そう……?うん、よし!それじゃ飲もう!伊織ちゃん!」
伊織「あ、え、えぇ……?」
あずさ「ほらほら~気持ちいわよ~!」
伊織「あ、そうねぇ……」
伊織(あ、あれ?私も酔ってる?というかさっきのオレンジジュースが思ったよりおいしくって……)
伊織「……もう少しだけよ」
――
伊織「……これはまずいわねぇ、ひっく」
あずさ「そんなの気にしないで飲みましょうよ~」
小鳥「そうそう!伊織ちゃん、こういう時はね、飲んで言いたいことをいいまくるの!それで解決するのよ!あははは!!」
伊織「こ、小鳥……ってあ、あずさ何やって!」
あずさ「ほら~ゆっくりおやすみなさい~」
小鳥「ほらほら~もう素直になっちゃいなさいよ~!」
伊織「やっ……」
あずさ「ふふっ、そんなに暴れなくたっていいのよ~」
伊織「もう……なんなのよぉ……」
小鳥「え?伊織ちゃん、どうしたの?」
伊織「私だって……好きで素直になれないわけじゃないのよ!」
あずさ「あ、あら?」
小鳥「伊織ちゃん?」
伊織「でも、でもそれが怖いから……私だって……」
小鳥「あ、えっと……」
伊織「……小鳥」
小鳥「なぁに?」
伊織「……言いたいこと言って、それだけ?何かしてくれたり、しないの?」
小鳥「っ!そ、そんなのいくらだって受け止めて、ギュッってして、なでなでしてあげるわ!」
あずさ「そ、それなら私が!」
小鳥「ちょ、ちょっとあずささん!私が指名されてるんです!」
あずさ「で、でも私が先にギュッてしてました!」
伊織「……」
小鳥「だったら次は私ですよ!」
あずさ「そ、それじゃ伊織ちゃんに決めてもらいましょう!」
小鳥「そうですね!ねぇ伊織ちゃ……ん」
伊織「……」スースー
あずさ「……あらあら」
小鳥「……ちょっと、やりすぎちゃいましたかね」
あずさ「きっとちょっとどころじゃないですよ?」
小鳥「あ、あはは……ん、私も眠くなってきちゃったかも……」
あずさ「私もなんですよ、寝ちゃいましょうか……」
小鳥「そんな、人様の家で……寝るなんて……――」
小鳥「ここは……そ、そうよ!伊織ちゃんは!?」
伊織「ここよ」
小鳥「なっ!……あ、そ、その……おはようございます」
伊織「全く……あずさは帰ったわ」
小鳥「え、えぇ……起こしてくれればいいのに」
伊織「私が止めたの。……たっぷり聞いてもらわないとね」
小鳥「あ、あの……その件に関しましては……」
ギュッ
小鳥「……え?」
伊織「あずさじゃ……恥ずかしいでしょ?同じメンバー同士でそんな……」
小鳥「……」
伊織「……お酒飲まされたのは許さないわ。でも、その分だけ働いてもらうんだから」
小鳥「そ、それは、まあ全然いいんですが一体何をすれば……」
小鳥「あぁ、素直がどうとかっていう……」
伊織「い、言わなくなっていいでしょ!……だから、そういう時……その、聞いてもらえたら、って」
小鳥「……」
伊織「だ、ダメ……かしら?」
小鳥「可愛いなぁもう!伊織ちゃんは!」
伊織「ひゃっ!ちょ、ちょっと急に何するのよ!離しなさいよ!」
小鳥「いいのよ、もっと頼って」
伊織「えっ……」
小鳥「そういう時くらい、お姉さんやらせてもらった方が、私だってやりがいがあるもの」
伊織「小鳥……うん、ありがとう」
小鳥「ふふっ、伊織ちゃんに頼られるって言うのがそもそも私の自信になるわね!」
伊織「何よそれ……でも、次あんなことしたら承知しないんだから。起きたとき頭が痛くて大変だったのよ?」
小鳥「それは反省してます!でもまた一緒に飲みたいな~……ふふっ」
伊織「成人して気が向いたら、付き合ってあげてもいいわよ?にひひっ!……これからもよろしくね小鳥?」 終わり
最後書くか迷ってるが>>135くらいに置いて離席
P「おっ、お疲れ律子」
律子「あ、お疲れ様ですプロデューサー」
P「最近忙しそうでなによりだが、その感じを見るといいことだけじゃなさそうだな」
律子「いえ、これくらいは当然ですよ、あの子たちもやる気ありますから」
P「んーでもなぁ、たまにはガス抜きしとかないと反動が怖いぞ?」
律子「そうはいっても……あ、すみません電話が。はい、私です。はい……え?延期、ですか?はい、わかりましたそれでは」
P「どうした?」
律子「あ、いえその、明日竜宮でライブのリハが合ったんですけどどうも舞台を使うようで延期に」
P「ってことは全員休みか。ちょうどいい、4人で遊びに行って来ればいいじゃないか」
律子「え?で、でも……それ以外にも仕事ありますし」
P「それくらい俺がなんとかするって、こんなことでもない限り次の休みがいつになるかなんてわからないだろ?」
律子「まあそうですけど……」
P「大丈夫、あいつらのことだ緩急は心得てるさ。律子の心配するようなことはないと思うぞ、ゆっくり楽しんで来い」
律子「……それじゃお言葉に甘えて」
亜美「マジ!?やったー!久々のオフだあ~!!」
伊織「まあ確かにここのところずっと仕事で疲れてはいたからちょうどいいわね」
あずさ「ちょうどよかったですね。でも、他に何かないんですか、律子さん?」
律子「あー……仕事はないんだけれど、その……」
伊織「何よ」
律子「よかったらその……4人でどこか遊びに行かないか、って思ったんだけれど……」
亜美「え?亜美達竜宮の4人で?」
律子「い、嫌ならいいのよ?せっかくのオフだし、私も仕事がないわけじゃないし……?」
伊織「……いいじゃない、たまにはそういうのも」
律子「え?」
あずさ「ふふっ、このメンバーで遊びに行くっていうのもいつ振りかしらね~」
亜美「いいじゃんいいじゃん!流石りっちゃんふっとパラですな!」
律子「あ、いやプロデューサーさんのアイデアなんだけど……ま、まあいいわそれじゃ、そうしましょうか」
亜美「それじゃどこ行く?遊園地?水族館?亜美はお買いものだけでもいいよ!」
伊織「私は別に、どこでもいいわよ?」
あずさ「私もこれと言って行きたいところがあるわけじゃないので」
律子「そうねぇ、かといってあっちこっち回るのも疲れるだろうし……」
亜美「じゃあさじゃあさ!新しくできたショッピングモール!あそこ行こうよ!」
伊織「あら?亜美知ってたの?」
亜美「そりゃ知ってるっしょ!この辺で一番でかいし!ゲーセンとかアミューズメントもたくさんあるって聞いたよ!」
あずさ「あ、おいしいアイス屋さんがあるって聞いたことがあるわね~」
伊織「ま、まあ私も行ったことはないんだけれど、こういう時に行くのもいいかもしれないわね」
亜美「え!いおりん行ったことなかったの!?てっきり常連かと思ってたのに」
伊織「そんな暇どこにあるのよ!」
律子「……ごめんなさいね」
伊織「あ、い、いや違うの、律子を責めたわけじゃないわ。それに、明日遊べるんだからそれでいいじゃない」
あずさ「そうですよ、律子さんは頑張ってくれてますし、明日は一緒に思いっきり楽しんじゃいましょう?」
律子「伊織、あずささん……そうですね!よし、じゃあ明日はショッピングモールに決定!場所と時間は――」
亜美「ごめんりっちゃん、あずさお姉ちゃん!真美と洋服選んでたら時間かかっちゃって」
伊織「ちょ、ちょっと私には何もないわけ!」
亜美「いおりんだって今来た感じっしょー?電車から降りるの見えたもん!」
伊織「ち、違うわ!一個前に来てたけど迷ってただけで……」
亜美「ふ~ん、迷ってた、か~流石お嬢様は電車とか使わないってわけですね~」
伊織「う、うるさいわね!律子!このバカはほっといて早く行くわよ!」
律子「あんたたちが後から来たんでしょうが……こう言ったらあれだけどあずささんより遅く来るってどうなのよ」
あずさ「あ、いえ今日は偶然目がさめちゃっただけで」
亜美「へ~!あずさお姉ちゃんが!あれでしょ、遠足の前の日なかなか眠れないっていう!」
伊織「子供じゃないんだからあり得ないでしょうが!」
あずさ「あら、でも私は楽しみだったわよ?」
伊織「……まあ、そりゃ私も楽しみだったけど」
亜美「亜美も!正直亜美はそのあれで寝てません!」
律子「はいはいその辺にして、とりあえず何から回りましょうか」
律子「ま、確かにそうね」
亜美「あー!!見てみていおりん!これ、新作じゃん!」
伊織「え?あっ、ホント……着てみようかしら」
律子「って早速……もしかしてこれ分かれた方がいいんじゃ……」
亜美「あ、こっちも!」
伊織「待ちなさい亜美!……そうね、律子の言うとおり一旦別れた方がいいかも」
律子「それじゃ、私はあずささん、亜美と伊織で。平日だけど人結構多いし、できるだけ二人で行動するのよ」
亜美「アイアイサー!」
あずさ「それじゃ、後でここに集合っていうことになるのかしら?」
伊織「それがいいわね、何時くらいかしら」
律子「うーん、まあお昼前にはここに」
亜美「よっしゃー!いおりんあっち見に行こ!」
律子「あんまり無茶な買い物するんじゃないわよー!全く、オフになると途端に元気になるんだから……」
あずさ「ふふっ、そういう律子さんも楽しそうで」
あずさ「えぇ、それはもう。仕事の時に叱る律子さんとはまた、違った感じで」
律子「あはは、あずささんにはかないませんね……それじゃ、私たちも行きますか」
あずさ「そうですね。あ、あのお店なんて……」
伊織「アンタ元気ねぇ……」
亜美「何言ってんのいおりん!こんくらい余裕っしょ!」
伊織「別にいいけどまだ午前中よ?それに寝てないとか言って、午後きつくなっても知らないわよ?」
亜美「だっていろいろあって見きれないんだよー!真美にもいくつか頼まれてるし今日中に終わるかなぁ」
伊織「一応言っておくけど、ただの買い物にきたんじゃないんだから」
亜美「え?そなの?」
伊織「アンタはもう……竜宮で遊びにきたんでしょ?たまには律子ともプライベートで話すことも大事でしょ?」
亜美「……いおりん」
伊織「……何よ」
亜美「りっちゃんのこと、そこまで……」
伊織「ち、違っ!べ、別に私はただ竜宮小町のリーダーとしてそう思っただけよ!い、いいから次の店行くわよ!」
あずさ「有名なお洋服がこんなに安く買えるなんて」
律子「でもまだ午前中なんで、あんまり荷物増やしたくないんですけど、なかなか無理ですよね」
あずさ「ふふっ、そうですね。あら?あっ!これですよ律子さん!テレビでやってたアイス屋さん!」
律子「え?あ~みたことあるかもしれないですね。食べますか?」
あずさ「そうですね~、あ、でもだったら亜美ちゃんたちと合流してからの方がいいですかね?」
律子「あ、それもそうですね。そろそろお昼だけど、ちゃんと戻ってくるか……」
伊織「もう!そろそろお昼になっちゃうじゃない!」
亜美「そんなこと言ったってさー!いおりんだって結構みてたっしょー!」
伊織「また遅刻したら流石にまずいでしょ!」
亜美「まあそうなんだけどさー……結構疲れちゃって走れないよー……」
伊織「まだ昼前なんだけど……あ、いたいた。律子」
律子「あぁ、間にあったわね」
伊織「危なく亜美のせいで……」
亜美「ちょ、ちょっと!亜美のせいにしないでよー!いおりんだって!」
あずさ「ほらほら、伊織ちゃんも亜美ちゃんも、アイス食べない?」
亜美「え?アイス?あ!あれってもしかして!」
伊織「テレビでやってたやつね……あずさがさっき言ってたわね」
あずさ「そうそう、二人を待ってたの。食べるでしょう?」
亜美「もちろんだよ!いおりん早くいこ!亜美はチョコミントにする!」
伊織「ちょ、チョコミント!?それはないわ……」
亜美「えー!チョコミントおいしいじゃん!じゃあいおりんはなにさ!」
伊織「私?私は……チーズケーキとか」
亜美「そんなの普通ないっしょー!」
伊織「あるわよ!だいたいチョコミントなんて……」
あずさ「ふふっ」
律子「あの……あずささん、ありがとうございます」
あずさ「あら、なんのことですか?ほらほら、律子さんも行きましょ、アイス」
律子「……はい!」
亜美「おいしかったー!亜美こんな料理食べたことなかったよ!帰ったら真美に自慢しちゃうんだもんねー!」
伊織「ちょ、アンタいつ撮ったのよそれ……行儀悪いわねぇ」
あずさ「アイス屋さんの近くなら、おいしいところがあるかなぁと思って探して正解でしたね~」
律子「流石あずささんです、いやはや恐れ入りますよ」
亜美「流石はあずさお姉ちゃん!ケイケン値が違いますな!」
律子「どういう意味よ」
亜美「うひゃー!なんでもないっしょー!」
律子「全くもう……それで、次はどうする?」
亜美「ゲーセンいこ!ゲーセン!」
律子「ゲームセンター?私はいいけれど……」
あずさ「いいんじゃないですか?とりあえず、すぐ近くですし」
亜美「いおりん、勝負っしょ!」
伊織「ほう、いいわよ?言っておくけれど、これ私強いわよ?」
亜美「ふっふっふ……ゲーマーを甘くみちゃいけませんぜいおりん……そだ、りっちゃんたちもやるっしょー!」
亜美「そんじゃあずさお姉ちゃんはこっちでーりっちゃんはそっちで2対2だぜ!」
あずさ「あらあら、私これやったことないけれど大丈夫かしら?」
亜美「大丈夫!亜美一人で片づけちゃうかんね!」
律子「それじゃ伊織、よろしくね」
伊織「よろしく、亜美に目にもの見せてやるわ!」
亜美「な、何これ……」
伊織「私たちは一体……」
あずさ「ふふっ、甘いですよ律子さんっ!」
律子「見えてますよあずささん、はっ!」
律子「ふぅ、いい汗かいたわね~」
あずさ「楽しいですねこういうのも」
亜美「いおりん、亜美は見てはいけないものを見てしまった気分だよ……」
伊織「忘れるのよ……それが一番」
伊織「そうね、もう一度回りたいところとかあるし、4人で回ればいいんじゃないかしら」
亜美「そ、そだね……」
あずさ「亜美ちゃん、大丈夫?なんだか具合が悪そうだけれど……」
亜美「へ、平気っしょー……ちょっとめまいがしただけで……あっ」
バタッ
律子「あ、亜美!?」
亜美「ご、ごめんねりっちゃん……」
伊織「全く、だからあんなにはしゃぐなって……」
あずさ「ふふっ、伊織ちゃん、律子さんみたいね」
伊織「なっ!そ、そういう律子だってなんか亜美の母親みたいになって!」
律子「ちょ、ちょっと!失礼ね、まだそんな年じゃないわよ!」
亜美「亜美はどっちもやだな……怒ると怖いし……」
「「亜美!!」」
亜美「ほらぁ……」
亜美「そ、そんな……いいよ、りっちゃんも行ってきて。亜美少し休んだらすぐ行くから……」
律子「そんなこと言ってどうせすぐまた倒れるんだから……それじゃあずささん、伊織のことよろしくお願いします」
伊織「……」
亜美「……ねぇ、りっちゃん」
律子「どうしたの?」
亜美「今の竜宮って結構すごいよね」
律子「……そうね」
亜美「そのすごい中に、亜美達がいて。りっちゃんとあずさお姉ちゃんといおりんがいて」
亜美「なんか、こうやって一緒に買い物するものすごいのかなって思ったりしたんだけどさ」
律子「……」
亜美「やっぱり一緒にいろんなことするだけで楽しいっていうか、それが普通になっちゃったからさ!」
律子「亜美……」
亜美「亜美は今の竜宮が好きだよ。りっちゃんは?」
律子「そんなの、当たり前じゃない。……私も竜宮が好き」
律子「……でもなんでまた」
亜美「ほら、忙しくてみんななんか疲れてたっぽいし。なんとなく思っただけー」
律子「亜美らしいわね……」
亜美「えへへ、よっしそろそろ大丈夫!」
律子「本当に?」
亜美「うん!遅刻して迷惑かけたからもう遅刻できないっていおりんも言ってたし、亜美も見習わなきゃね!」
律子「伊織が……そうね。いきましょうか」
あずさ「……亜美ちゃんが心配?」
伊織「え、えっ?」
あずさ「ふふっ、そうよね。一緒に頑張ってきたメンバーだもの」
伊織「……あいつはいつもそうだもの。あんなおちゃらけていっつもふざけてるけど、全部最初に手をつけて全力でこなすの」
伊織「そんなことしてたら、いつかダメになっちゃうってわかってても、あれじゃただのバカよ……」
あずさ「……私は、伊織ちゃんも同じに見えるわよ?」
伊織「え?」
あずさ「亜美ちゃんが最初で伊織ちゃんが最後。二人とも似てないようですごく似てるもの」
伊織「あずさ……」
あずさ「もちろん律子さんだって、私だって竜宮として頑張ってるつもりだけど、若い二人に負けないように、ってね」
伊織「……私、この竜宮が好きだから。でも、ちょっと最近忙しすぎた気はするの」
伊織「なんていうか、焦ってて……メンバー同士で平凡な会話もできなくって、なんか違うって思ってた」
伊織「でも、あずさと話してわかったわ。やっぱり私、竜宮が好き。……ありがとう、あずさ」
あずさ「いいのよ、私だって同じだもの。竜宮小町が、大好き。そんなみんなが大好きだもの。だからこそ、一人一人が大事だって思えるのよね」
伊織「……」
亜美「いおりーん!」
伊織「あ、亜美?」
亜美「お待たせいたしました、亜美隊員只今到着です!」
伊織「……バカ、また遅刻よ」
亜美「えー!これ遅刻に入るの!?」
伊織「当たり前じゃない、それも3回目ね」
律子「……あずささん、ありがとうございます」
あずさ「いえ、律子さんこそ。……みんな、改めてこの竜宮小町っていうのを見返せたかもしれませんね」
律子「そうですね、私も忙しさに甘えて見えてなかったかもしれません」
あずさ「ふふっ、律子さんらしいですね。私は反対に元から見えないので、律子さんに先導してもらわなきゃいけないんですけれど」
律子「それはいいですけど、迷子になるのはほどほどにしてほしい、かな?」
あずさ「あらあら、そうですね。努力します」
亜美「よーっし!次の店いくっしょー!」
伊織「ちょっと、また倒れるわよそんなに走ったら……」
亜美「へーきへーき!ってわぁ!っぶな……えへへ」
伊織「ほらいわんこっちゃない……全く」
亜美「いおりんそんなに亜美のこと心配してくれて……亜美、嬉しい」
伊織「き、気持ち悪いことしてるんじゃないわよ!」
亜美「わー!逃げろー!」
伊織「待ちなさい亜美!!」
律子「……あずささん」
あずさ「はい?」
律子「……ありがとうございます。これからも、よろしくお願いしますね」
あずさ「……もちろん。こちらこそ、よろしくお願いします」
律子「……ふふっ」
亜美「おーいりっちゃーん!」
律子「あ、亜美?」
亜美「亜美も、よろしくねー!」
伊織「わ、私だってリーダーなんだから!これからもよろしく頼むわね、律子!」
律子「亜美、伊織……えぇ!任せなさい!」
あずさ「それじゃ、私たちも」
律子「……そうですね!さぁ、まだまだ遊びつくすわよ!」
終わり
書いてて思ったのがホント安価が面白そうで他のも書きたいなと
っていうので次回書くときは趣向が変わるけど範囲安価してそこから独断で選んだのを書くというスタイルをやってみたいな
お付き合いいただきありがとうございましたー
Entry ⇒ 2012.10.17 | Category ⇒ アイマスSS | Comments (0) | Trackbacks (0)
千早「事務所の場所が変わりました」
携帯電話に謎のメールが届いた。
それが謎になったのは、
おそらく、私が誤ってアドレス帳の中身を吹っ飛ばしてしまったせいなのだけれど。
最初に思いついたのは、プロデューサーや春香あたり。
だって、この二人からは、放っておいてもメールが来るのだもの。
春香なら雑談のようなメールが多いから、
すぐに返信する必要がなくて楽なのだけど、どうかしら。
タイトルには、何も入っていない。
私の望みとは裏腹に、
差出人の名前の欄には、見覚えのない英数字が並んでいた。
>突然ごめんなさい。
>お願いがあって、メールしました。
>そろそろレッスンが終わるころですよね?
>今日の五時に、前の事務所まで来てもらえますか?
>OKなら、お返事ください。
少し怪しいけど、いたずらじゃなさそう。きっと関係者ね。
敬語で書かれた文面を見るに、年下の子かしら。それとも事務連絡?
でも、おかしいわね。
つい最近、そこからの引っ越しを済ませたばかりなのに。
『引っ越しするなら春だろう』
突然の社長の思い付きに、
プロデューサー初めとした社員が奔走していたことは記憶に新しい。
でも、あの建物も大概古かったし、
ちょうどいい機会だったんじゃないかしら。
もっとも、しばらくは肉体労働と縁のない生活と送りたいものだけど。
あんなビッグイベントが年に何回もあったら、たまったものじゃない。
おかげで引っ越しの次の日は、身体が思うように動かなかった。
うららかな春風が、コートの裾を揺らす。
一見、何ともないメール。
だけど、どこか引っかかるわね。
とりあえず、近くまで行ってみることにしましょう。
それなら、万が一いたずらだったとしても、大丈夫なはず。
私は手櫛で乱れた髪をかき上げると、
分かりました、とシンプルな返事を打った。
すぐに着信を知らせる振動があった。
思わずどきっとしてしまう。
だって、着信を受け取る瞬間に、
携帯を握っていることなんて滅多になかったのだもの。
それに、メールもあまりする方ではないしね。
差出人の欄には、さっきと同じ英数字。
>これで助かりました。
>千早ちゃんにメールしてよかったです。
>それでは、前の事務所でお待ちしています。
そのメールは、私の頭の中を、より一層かき乱した。
――いったい誰なの?
だけど、今更それについてメールするのも、気が引けるわね。
とりあえず行ってみることにしましょう。
今度こそ携帯をジーンズのポケットにしまいこむと、
私はもやもやした気分のまま、人ごみのすき間を縫って行った。
公園を抜けると、近道になる。
だから私も、それを利用することにした。
だけど、一つおかしなことがあった。
普段は静かな公園が、少し騒がしいのだ。
足を止めて声のする方を横目でちらりと見ると、大きな桜の木々。
木々の間から、金曜夕方の赤みを帯びた空と、うっすらとした月が覗いている。
お花見なんて騒々しいだけと思っていたけど、
今日だけは騒ぎたくなる気持ちも、分からなくはないわ。
本当に、ほんの少し、だけど。
それにしても、ここの桜はこんなふうに咲いたのね。
去年は確か……どうだったかしら。
まあ、気にするほどのことでもないわ。
それより、メールの送り主の正体を突き止めることの方が、
今の私にとっては重要事項なのだから。
私は、花びらで敷き詰められた道を踏みしめながら、再度、歩みを進めた。
歩くこと数分。
抜け道のおかげか、私が思っていたよりも、早く目的地に着いてしまった。
旧事務所は、大きな道路に面している。
視界もだいぶ開けていて、人も車もたくさん通る所。
これならメールの送り主が顔を出せば、容易く確認できそうね。
もっとも、それらしき人は、まだ見当たらなかったのだけど。
まぁ、どちらでもいい。
時間は五時の十分前。
私は居酒屋の脇に陣取って、
誰とも分からない、来る保証もない待ち人を待つことにした。
わざわざ先についたという報告は、しなくてもいいわよね。
来なければ、ただのいたずらということにして、帰ればいいだけだもの。
建物に寄りかかりながら、それとなしに空を見上げる。
雲一つない空に、さっきの月が浮かんでいた。
月の反対側に乱立しているビル群は、
太陽の光を受けて茜色に染まりかけている。
なんだか眠そうな春の日差し。
ここからは、こんな景色が見えていたのね。
今日という日がなければ、ずっと気が付かないままだったかも、なんて。
「こっちにいたんだ。
ごめんね、急に呼び出しちゃって」
突然、女性の声がした。
どこかくぐもったような、細い声。
萩原さんだ。
予想外の人物に、思わず固まってしまう。
そんな私の様子を見て、その表情が曇った。
「もしかして……迷惑だった?」
しまった。
ここでしくじってしまっては、今後に影響が出るかもしれない。
それだけは、なんとしてでも避けなければ。
慌てて軽い調子の声を作って、言う。
「――いいえ。突然現れたから、少し驚いただけよ」
「そっか。ごめんね? でも、よかったぁ」
「それで、お願いって何?」
「えーっとね……。
外で説明するのもなんだし、とりあえず、中に入ろう?」
少し釈然としない部分もあったのだけど、ひとまずうなずいて見せる。
約束を破るわけにもいかないしね。
それに、ここまで来て、その頼みを断れるような勇気は、生憎、持ち合わせてなかったの。
二人で縦になって、事務所への暗い階段を上る。
軽やかに上っていく萩原さんとは対照的に、私の足取りは重い。
そのせいで、徐々にステップ数段分の距離がついていった。
――なんで私なの?
聞けるはずもない。
口を開こうとすると、言葉にならないのはなぜかしら。
確かに、アドレスは知っていたはずだけど、それが私を呼ぶ理由にはならない。
いや、せっかく頼られているのだ。
だから、ここは喜んでおくべきよね。
それにしても、
どうしてこんなに遠慮がちになってしまっているのかしら。
ふと見上げると、
私の到着を待つ萩原さんの顔があった。
待たせてしまってはいけないわよね。
私は慌てて、階段を一段飛ばしで駆け上った。
扉の前まで来ると、萩原さんはどこか誇らしげに鍵を掲げた。
「プロデューサーから、鍵もらってきたんだ」
「まだ、返してなかったのね」
「うん、ちょっと用があるって言ったら、すぐ貸してくれたの。さぁ、どうぞ」
言われるがまま中に入ると、
デスクもソファも何もない、空白の部屋が私たちを待ち受けていた。
何もない分、その広さがしっかりとわかる。
「本当に何もないわね」
「……うん。そうだね」
そう返事をするなり、萩原さんは窓の方へと歩み寄った。
結局、お願いってなんなのかしら。
はやく教えてほしかったのだけど、
外の道の様子をを眺める萩原さんの背を見ると、やはり私は何も言えなくなってしまった。
仕方なく、もう一度周囲を見回す。
すると、日焼けした壁に、一際目立つ白い跡。
サイズから見るに、写真の跡ね。
あそこには、どんな写真があったのだっけ。
そっと、その場所を指でなぞる。
そうだ、ここには小さなボードがあったのだ。
その証拠に周りの色合いが少し違う。
ということは、この下には、
昔の写真が貼り付けてあったりしたのかしら。
それこそ、私の知らないようなものが。
「写真の跡、だね」
外に夢中になっていたはずのおかっぱ頭が、唐突に視界の端で揺れる。
そちらへと振り向いたら、強い西日が目に入った。
道理で、ここの壁も日焼けするわけね。
思わず顔をしかめてしまう。
「色々、あったね」
「……そうね」
その"色々"とやらが、
ここでの出来事だという事を理解するのに、
少しの間を置いてしまった。
あれだけ特徴的な人々が一堂に会していれば、何もなかったわけがないわよね。
でも、ここでは、"色々"の一言で済まされないような出来事が、数多くあったのだ。
思いつくがまま、と言ったふうに、萩原さんが言葉を並べる。
「ねえ千早ちゃん。冷静に考えると、ここって結構怪しい事務所だと思わない?」
「怪しいって?」
「だって、こんな小さな事務所……」
萩原さんは、
それっきり言いよどんでしまったけど、言いたいことはよくわかった。
確かに、怪しいどころの話じゃないわね、こんな場所。
「そんな所に突っ込んでいくって、私、結構向こう見ずだったんだなぁって」
私たちは、顔を見合わせて笑った。
「ええ。考えれば考えるほど、怪しいと思う」
萩原さんは、満足げにうなずくと、
眩しそうに手で庇を作りながら一歩後ろに下がった。
「ごめんね、なんだか感傷に浸っちゃって。
そうそう、お願いのことなんだけどね?
給湯室の戸棚にお菓子が残ってたはずなんだけど、
けっこう高い所だから、私じゃ確認できそうにないんだ。
引っ越しするときに、忘れちゃってて。
もうなかったら、骨折り損になっちゃうんだけど……」
「いいわよ。そう言うことだったのね」
次第に伏し目がちになっていた萩原さんの表情が、ぱあ、とほころんだ。
だけど、そういうことなら私以外に適任がいるんじゃないかしら。
少しの沈黙を置いて、萩原さんが申し訳なさそうに経緯を説明し始める。
「プロデューサーも四条さんも、
まだお仕事あるみたいで、頼めなかったんだ」
「……ちなみに、あずささんは?」
あの人も、背が高いはずだけど。
「連絡したんだけど……圏外」
なるほど。
お互い肩をすくめながら、今度は苦笑いを浮かべる。
まったく、今日はどこまで行ったのでしょうね。
戸棚は、思っていた以上に高い位置にあった。
こんな所に手を入れたこと、多分なかったわね。
指先を使って探すと、確かに手応えを感じる。
丸くて小さな缶の形を指先で確認することが出来た。
「……あったわ」
「ホント? 見に来てよかったぁ」
背後からは弾むような声。
「ええ。でも、こんな所にあったのね」
「うん。少しでも隠しておかないと、
すぐに誰かが食べちゃうんだもん」
知らない所で、お菓子を巡ったいざこざがあったりしたのかしら。
私は必死で腕を伸ばしながら、そう、と気のない返答をした。
私の背でギリギリ届くくらいなのだから、
こんなお願いをされるのも、無理のないことよね。
「あ、でもね、小鳥さんはここを知ってたみたいで、
無くなってたら、新しいの補給してくれてたんだよね」
「そうなの。はい、どうぞ」
ようやく腕を下ろして、
少し高級そうなクッキー入りの缶を差し出すと、
優しさのこもった声で感謝を告げられる。
「ありがと。助かったよぉ」
まっすぐな優しい目だった。
思わず視線を外して、平静を装った声を出す。
「それにしても、妙な所で律儀よね、音無さん」
「うん、そうだね。だって、私たちの世話までしてくれてるくらいだもん」
「そうね。よっぽどの物好きに違いないわ」
萩原さんは、気まずそうに、どこか頬を引きつらせたような笑顔を見せた。
再び腕を伸ばして、戸棚を閉じると、
あっ、と悲鳴も似た声が耳に届いた。
「ねえこれ、今週までみたい……」
振り向くと、萩原さんが缶の底を覗き込んでいた。
そして、うーん、と少し考え込むような唸り声を上げると、何か閃いたように手を合わせた。
あまりいい予感がしないのは、なぜかしら。
「ねえ」
萩原さんがこらえきれないように言う。
その眼の輝きは、まるでいたずら好きな誰かさんみたいだった。
「ここで食べちゃおっか」
その提案を断る理由もないので、私は黙って首を縦に振った。
「せっかくだし、社長室だった場所にしようよ」
私のコートの裾を引っ張って、萩原さんが楽しげに提案する。
こんな大胆な発言をする人だったなんて。
でも、その気持ち、なんとなく分からなくはないわ。
普段入れない場所に入るって、なぜか浮きたってしまうものがあるわよね。
「そもそも社長室って必要だったのかしら」
何か話題を、と考えた結果がこれだ。
がらんどうの部屋の隅で、
小洒落たデザインの缶の蓋を開けた萩原さんが、困り顔をする。
「偉い人には、色々あるんじゃない……かな?」
「……そうね」
軽く自己嫌悪に陥りそうになった。
まったく、なんで私は気の利いたことが言えないの。
「はい、どうぞ」
笑顔とともに差し出されたクッキーを受け取って、
感謝を告げるとともに、再度、話題の提供を試みる。
「ありがとう。……ねえ、なんで私たち、こんな角にいるの?」
椅子もない部屋では、もたれられるものに頼るしかない。
だけど、扉から一番遠くて、しかも片隅である必要はないと思うのだけど。
「……その方が落ち着くから?」
分からなくはないけど、なんで疑問符がそこについてしまうの。
「それに後ろ盾があると安心出来る、よね?」
「……そうね」
一応、賛同しておけばいいのかしら。
こうしてひっそりしていること自体、アイドルなんて職業とはかけ離れている。
でも、この方が私らしかったりしてね。
「今日のレッスンどうだった?」
普段、誰かにしているように、
萩原さんが自然な調子で訊ねてきた。
プロデューサーに同じようなことを聞かれた時は、なんて答えてたっけ。
「いつも通りだったわ」
「そっかぁ」
萩原さんは目を細めながら、
手に取ったクッキーを口に運んだ。
こんな素っ気ない答えで大丈夫なのかしら。
「ねえねえ、そのストラップって……」
とりとめのない話って、こういうことを言うのかしら。
萩原さんが、私のジーンズのポケットからはみ出た携帯をとらえたようだ。
それは、書店でもらった犬のストラップだった。
正直、犬ともわからないような悪趣味なデザインだったのだけど。
「ええ。本を買ったらついてきたの」
「それって――」
そこまで言うと、萩原さんは口をつぐんでしまった。
その続きにはどんな言葉が入るのかしら。
これが犬だから? いや、どうも違いそう。
と、なると――。
「これ、センスないわよね。
正直言って、犬の顔があまりにも不細工」
「……やっぱり、そうだよね」
良かった。
私の予想は的中したみたい。
「じゃあ、なんでつけてるの?」
「……皆から素っ気ないって言われていたし、
他にしまうところがなかった、から?」
もらいものをなんとなく使うだなんて、貧乏性みたいに思われてしまうだろうか。
私の心配をよそに、
萩原さんは嬉しそうな、
それでいてどこか弱ったような顔をした。
「実はね、それ、私も持ってるの」
言うや否や、萩原さんはバッグの中から、私と同じストラップを引っ張り出した。
もちろん、フィギュアの部分ではなく、紐の端を持って。
「これね、あんまり犬に見えないから怖くないんだけど……」
「全くもって可愛くないわよね」
ストラップとしては致命的じゃないかしら。
お互いのストラップを交互に見て、二人で苦笑する。
「ねえ、それがもう少し犬に似てたら、どうしたの?」
少し考えるようなポーズをとって、萩原さんが言う。
「……穴掘って埋めちゃう、とか?」
私たちはその一言で、同じタイミングで笑い出した。
そんなこと、できないけどね、
と明るい声で弁解する萩原さんは楽しげだった。
これなら、あの素っ気ない返事でも問題なかったみたいね。
でも、残念なことに、一つ問題が無くなると、
また別の問題がすぐに頭の中に浮かび上がる。
せっかく消えかけていたのに、厄介なものね。
――なぜ、あんな他人行儀なメールを?
口に出来ないまま、その疑問を頭の中でぐるぐるさせる。
それだけ距離を置かれている、ということなのかしら。
まあ、だからと言って、どうという事ではないのだけど。
「好きでもないものって、
ついしまいっぱなしにしちゃうんだよね」
萩原さんが空になった缶を、そのままバッグに突っ込んだ。
ゴミ箱もないし、仕方ないことよね。
そんなことを考えていると、萩原さんが何の前触れもなく、私の右腕に抱きついてきた。
思わず素っ頓狂な声を上げてしまう。
「な、何?」
「静かに。誰か来てる」
声を低くして、萩原さんが耳元でそう囁いた。
なんだ、そんなこと。
私も同じように声を低くして、開き直るような調子で囁く。
「見つかってもいいじゃない。
どうせ関係者か業者の人でしょ?」
「で、でもぉ……」
「別に隠れる必要なんてないわ。行きましょう」
だって、悪いことをしてるわけじゃないもの。
そう言い残して、
私が扉の方へ歩いて行こうとすると、腕をつかむ力が増した。
萩原さんは根を張ったように、そこから動き出そうとしなかった。
これじゃ埒が明かないわ。
力ずくで引きずっていくしか方法はないみたい。
無理やり萩原さんを引きずって、どうにか扉の前まで来る。
言われた通り、扉の外に誰かがいる気配がした。
「待って」
「隠れておこうよ」と、後ろからはこの繰り返し。
私が出ていく前に、その声で気付かれてしまうのではないかしら。
「誰かいるの?」
ほら案の定、外からの声。
私の腕をつかむ手は、
一瞬だけ硬直したかと思うと、すぐ力なくほどける。
その隙に私は、ドアノブを容赦なく回した。
でも、怖がる要素なんて一ミリたりともないわ。
だって、聞き覚えのある声だったもの。
「こんばんは。音無さん」
「あら、千早ちゃんだったの。……それに、雪歩ちゃん?」
その瞬間、音無さんの口元がだらしなく緩んだのを、私は見逃さなかった。
斜め後ろからの安堵の声が、私の髪を揺らす。
「小鳥さん、ですか?」
「ええ。……泥棒とでも思った?」
「ち、違いますよぉ!」
慌てふためく萩原さんに、音無さんはどこか生暖かい視線を送っていた。
「どうしてこんな所にいるの?」
と、音無さんがこの空気を一掃するかのように質問する。
「忘れ物があったんですって。ねえ、萩原さん?」
「は、はい! 千早ちゃんの言うとおりですぅ!」
「じゃあ、私と一緒ね。
もっとも私の忘れ物は、もうなかったんだけど。
引越し屋さんに、持って行かれでもしたのかしら」
まぁ大したものじゃなかったんだけどね、と音無さんは笑うと、
つい最近までカレンダーがかけられていた場所に身を預けた。
その証拠に、音無さんの肩の上の部分には、画鋲の跡がくっきり残っている。
「ここはカレンダーがあったのよね」
私の考えを見透かしたかのように、音無さんがその個所を指で擦った。
「――そっちには温度計。
あっちにはコードがあったわ。
引っ掛かりそうで危なかったから、壁伝いに通してたけど」
「そういえば……そうだったかも」と、萩原さんが言う。
「すごいですね。私は、ほとんど覚えてないです」
私が歓声めいた声を上げると、
音無さんが誇らしげに鼻を鳴らした。
「まぁ、みんなよりは、ちょっと長くここにいたからね」
"ちょっと"に強いアクセントが入っていたのは、私の勘違いではないはず。
更に得意顔になった音無さんは、嬉々としてこの場所当てゲームを続けた。
「そこは古雑誌置場。
……捨てられずに溜まっていく一方だったから、
あっちの棚から移したのよね。
引っ越しの時も結局捨てられずに、今の事務所まで持って行っちゃったけど」
その雑誌類の量のせいで、
プロデューサーが酷く苦労していたのも、つい最近の出来事。
「それにしても、社長も突然すぎるわよね。
いきなり引っ越しって言われても、いろいろ面倒なんだから」
ぐるりと白い部屋を見回して、音無さんが電気のスイッチを入れた。
暗くなりかけていた室内が、また明るさを取り戻す。
「よかった。まだ生きてるみたい」
「ちょっと暗くなってきましたね」と、萩原さんが眩しそうに明かりを見つめた。
そろそろ日も沈んでしまうし、お開きにした方がいいんじゃないかしら。
私の不安をよそに、萩原さんがさっきの写真の跡を指さした。
「ねえ小鳥さん。ここにはどんな写真があったんですか?」
少し考え込むような素振りを見せてから、音無さんが答える。
「確かそこには、ミニボードがあったはずよ。
それで、その横が棚――」
「そうじゃなくて、これ、見てください」
どれどれ、とそれを確認しに行く音無さんの背を見る。
意外と身長低いのよね、この人。
「確かに、写真の跡みたいなのがあるわね。
えーっと……。
そう言えばあったような……無かったような……。
ごめんなさい、ちょっと分からないわ」
「そうですか」と萩原さんがその壁を撫で回す。
「そこの上には、時計ですよね」
続けざまに、音無さんのいる位置の遥か上を指さした。
それはさすがの私でも覚えてるわ。
「ええ。雪歩ちゃんもよく覚えてるじゃない」
「えへへ」
萩原さんは満足げにうなずくと、両手を壁にぴたりとつけた。
「棚の後ろ側ってこんなふうになってたんですねぇ」
やたらと感慨深そうな声だった。
そこには、ファイルや歌の教本など、
私に必要なものがたくさん詰め込んであったのだ。
「そこにあった教本とか雑誌って、たいてい取り合いになったわよね」
「うん。
みんな譲りたがらないんだもん。
だから、ここでじゃんけんしたり、あみだくじ作ったり……。
それでも、結局並んで読んだけど」
萩原さんが思い出すようにして、天井を見上げながら話した。
そういえば、半ば強制的な形で、
それらの戦いに参加させられたのだっけ。
自分がその戦いに勝った時のことを思い出す。
資料を読むのに集中していて、気が付くと勝手に輪ができていたことが何度もあったわね。
それを見た律子が人払いをしてくれたり――。
「……まぁ、嫌ではなかったけど」
意図せずして出た声に、萩原さんが目を丸くする。
どうやら聞かれてしまったみたい。
でも私、何かおかしなこと言ったかしら。
「音無さんは、いつからここにいたんですか?」
萩原さんを気にせず、何気なく訊ねる。
音無さんは、ぼそぼそと、
そこにあったはずのものの名前を呟きながら、
部屋の中をせわしなく歩きまわっていた。
「そんなの、内緒に決まってるじゃない」
「そうですよねぇ」と、萩原さんが落胆した声を出すと、音無さんは少しむっとした表情で言った。
「それに、昔話ができるほど年は取ってないわよ、私」
「じゃあ、……おいくつなんですか?」
間髪入れずに萩原さんからの質問が叩き込まれる。
音無さんの顔に動揺が走った。
私でもわかるくらい、明らかに。
その姿があからさますぎたので、私は少し吹き出してしまった。
「今、笑ったわね」
音無さんが口をとがらせる。
「すみません。おかしくて、つい」
「……千早ちゃんが意地悪する」
珍しく、少し拗ねたような声を出したかと思うと、
音無さんが萩原さんの背中にさっと隠れた。
「ええっ!?」
突然巻き添えを喰らった萩原さんは、聞きなれた悲鳴をあげる。
ああ、これが私の知っていた場所だ。
どこか見慣れた光景の中で、私たちは目くばせすると、声を合わせて笑った。
笑い声がすべて天井に吸い込まれると、萩原さんが、少しかすれた声を出す。
「楽しかった、ですね」
「……そうね」
と、音無さんが部屋の明かりを見上げて、眩しそうに顔をしかめた。
「やっぱり、何もないと広いですね」
萩原さんがぐるりと回転しながら、しみじみと言った。
「私たちしか、いないからじゃない?」と、私も極めて明るい声で言う。
「だから、なのかなぁ」
多分、それだけではないのだろうけどね。
「だから、よ」
強調するように音無さんが言うと、
欠伸をするような息を漏らしながら大きく伸びをした。
「さて、行きましょうか」
だから、その睫毛が濡れていたのは、欠伸のせいに違いないの。
「じゃあ」と言って、萩原さんがスイッチに手をかけると、
こつん、こつんと階段を上ってくる音がどんどん近づいてきた。
まったく、今度は誰が来るっていうのかしら。
「もしかして……今度こそ泥棒?」
「わわわ、私、穴掘って埋まって――」
「待って!」
二人とも、そんなにあわてなくても、
盗るようなものは、ここにはもう何もないのよ。
でも、面白いからこのまま黙っておきましょう。
階段の音が消えた。
曇りガラスに映った影を三人で凝視する。
ゆっくりと開かれていく扉に、私もつい身を固くしてしまう。
「なんだ、君たちか」
でも、やっぱり私の思っていた通り。
面喰らった様子の二人より一歩前に出て、扉を開いた人物に声をかける。
「ええ、忘れ物がちょっとあったので。
社長はどうしてここへ?」
「近くまで来たら、明かりがついているんだ。
気にならないはずが――」
「もう、社長!
驚かさないでください!」
音無さんが社長の言葉を遮って叫ぶと、
社長は肩をすくめて申し訳なさそうに笑った。
「いやぁ、すまんすまん。
それにしても、何もないとやっぱり広いねぇ」
みんな思うことは同じみたい。
そのセリフは今日、何回も聞いた記憶があるわ。
「でも、昨日来た時よりは幾分か明るいみたいだ」
「昨日も来たんですか?」と萩原さんがおずおずと手を上げて質問した。
「ああ、確認のためにちょっとね」
社長は、頭を掻きながらそれに答えた。
それを聞くなり、音無さんが「あ」と手を叩いて、
「社長、給湯室の戸棚のの中とか、確認しませんでしたか?」と、勢いよく訊ねた。
「いいや。そんな所までは……。何か、あったのかね?」
「……いえ、なにも」
社長の答えを聞いて、音無さんが深いため息をついた。
これは……黙っておくのが吉ね。
萩原さんが、明らかに焦った顔をしているけど、
今の音無さんからは見えてないから、大丈夫なはず。
音無さんは、
「せっかく孫の手まで持ってきたのに」
と残念そうに天を仰いでいた。
それは高い場所にあるものを取るためのものではないと思うのだけど……。
「――にしても、ここからやっと抜け出せたねぇ。
新しい事務所の過ごし心地はどうだい?」
社長が場を取り仕切るように言い放つ。
だけど、逆効果だったようで
「それどころじゃなかったんですよ! もう!」
と、音無さんが怒ったように声を上げた。
私怨が混じっているような気がするのは、多分、気のせいね。
「私に何の相談もなく決めないでください。
引っ越しの手続きとか、結構面倒なんですよ?」
「いやあ……。
でも、最初にここから出たいと言ったのは、君だろう?
確か、狭いからいちいち不便だと――」
「ち、違います!
もっと設備を整えたいと言ったのは、社長じゃないですか」
どちらが本当なのかしら。
まぁ、どちらも本当なのでしょうね。
なんとなく、そう思えるから不思議。
「ねえ、どうしよう」
萩原さんが私のコートの裾をつかんでささやく。
「放っておけばいいんじゃない?」
「……そうだね」
目の前で、口論を広げる二人を見つめる。
だって、止めてしまったら、
ここをすぐに出ていく理由が出来てしまうもの。
だから、放っておくのが一番いいに決まってるわ。
「ねえ萩原さん」
「なに?」
騒々しい環境に乗じて、意を決して訊ねる。
「……なんであんなに堅苦しいの?」
「え? ……なにが?」
「メールよ、メール」
あんな素っ気ないメールをした私が言えたことではないかもしれないけど。
萩原さんは、微妙な間を置いた後、すべてわかったような顔をして口を開いた。
私も、その一言一句を聞き漏らさないように耳をそばだてた。
「メール打つ時って、なんか敬語になっちゃわない?
みんなから指摘されちゃうんだけど……変かなぁ」
「…………そう」
なんだ、と今度こそ誰にも聞こえないような声で、独り言を漏らした。
結局、私の早とちりだったってわけね。
「何か言った?」
「いいえ。別に変じゃないと思うわ」
「そっか。でも、よかったぁ。
千早ちゃん、来ないと思ったもん。
あんなに突然頼みごとしたから、無理かなぁって」
目を細めながら、萩原さんは窓の外をのぞいた。
「予定もなかったし、構わないわ。
でも、誰からのメールかわからなかったんだけどね」
驚いた顔で振り向いた萩原さんに、悪びれることなく告げる。
「アドレス帳、飛ばしちゃったの」
「なんだ」
と、安心したように萩原さんが笑った。
「じゃあ、あとで送ってあげる。
とりあえず事務所の人の分だけあればいいよね?」
「……そんなこと、できるの?」
「できるよ?
そうなら、早く言ってくれればよかったのに」
「ごめんなさい、私よくわからなくて」
そう言って携帯を取り出すと、あの犬が揺れた。
この悪趣味なストラップ、もう外した方がよさそうね。
「やっぱり今送っちゃおっか。
……しばらく終わりそうにないし、ね?」
少しばかり離れたところで、一方的な口論を続ける二人をちらりと見る。
あれはいつになったら終わるのかしら。
「ええ、そうしましょう」
そう言って私は、両手を使ってそっとフラップを開く。
「じゃあデータ送るね。赤外線、ある?」
「……セキガイセン?」
聞いたことがあるような、ないような。
「じゃ、じゃあメールで送るね。――はい、送ったよ」
「なんだかごめんなさい。……ねえ、これをどうするの?」
「簡単だよ?
まずはね――」
懇切丁寧に教えてくれようとしていたのだろうけど、
それを飲み込める気がしなかったので、
私は大人しく萩原さんに携帯を差し出した。
萩原さんはとまどいながらも、それを受け取ってくれた。
そして、私にはできないようなスピードでその細い指を素早く動かした。
ほとんど真っ白だったアドレス帳が、見る見るうちに黒く染まっていく。
「ありがとう。
すごいのね、萩原さんって」
「えへへ、どういたしまして」
画面を覗き込もうとすると、肩がぶつかる。
「ごめんなさい。私、邪魔かしら」
「ううん? 千早ちゃんだって、そんなことないんでしょ?」
「――そうね」
萩原さんは満面の笑みを浮かべたかと思うと、
いきなりびくっと肩を震わせた。
「どうしたの?」
「いや……ストラップが犬っていうこと、ちょっと忘れちゃってて」
そう言うと、私の携帯の端を持つようにして、丁寧にそれを差し出した。
もちろんストラップは宙ぶらりんのまま。
よくよく見ると、結構怖い顔してるわね、これ。
「ありがとう。これ、後で外すことにするわね」
「うん、そうした方が」
――いいと思うな。
多分こう続くはずだったのでしょうね。
だけど、その言葉は続けられないまま。
「どうしたの?」
「ねえ、私いいこと――」
「――千早ちゃんもそう思うわよね!?」
萩原さんが再び、びくっと肩を震わせる。
唐突に私たちの間に、大声がはさまれたのだ。
これは飛び火ね。
だって、気が付いたら音無さんが必死の形相で私を見つめていたのだもの。
今更聞いてなかった、なんて言えないわよね。
ひとまず適当に、
「ええ、そうですね」と、相槌を打つ。
「ですって、社長」
「……なら、申し訳なかったね」
その言葉にあまり重みが感じられないのは、たぶん気のせいじゃない。
にしても、これで終わりなのかしら。
さすがに手持ち無沙汰なのだけど。
「それでですね――」
ああ、また始まるの。
「あの、社長」
見計らったかのようなタイミングで声がかかる。
いつの間にか、萩原さんは棚のあったはずの場所まで、移動していたようだ。
「なんだね」
社長は待っていたといわんばかりに、音無さんの前から逃げ出した。
「この写真の跡なんですけど……」
「どれどれ……」
社長がその近くによると、萩原さんが一歩遠くにずれた。
やっぱり、まだダメなのかしら、男の人。
「――写真があったみたいだが、私は忘れてしまったよ」
「そうですかぁ……」
その社長の姿を見て、私は、ふと資料として渡されたファッション誌の特集記事を思い出した。
ちなみにその記事のタイトルは<<男の嘘の見抜き方>>。
酷いセンスよね。
嫌々読んだからか、それだけは頭にこびりついてしまったの。
でも、その中身なんかこれっぽっちも覚えてないのに、
どうして私は社長の嘘がわかったのだろう。
とりあえず、"女の勘"とかいう都合のいいワードを理由にしておきましょう。
もっとも、それに気づいたのは私だけのようで、
萩原さんと音無さんは、残念そうな顔をしていた。
「さて、時間も遅いし、そろそろ行こうか。
どうせ、夕食はまだなんだろう?
ご馳走しようじゃないか」
「はい! 私、いい店知ってます!」
待ち構えていたかのように、音無さんが勢いよく手をあげる。
こうなることも想定済みだったりしてね。
「それは……手間が省けたね」
皮肉交じりの社長の言葉も、
音無さんには通じていないようだった。
「じゃあ、出ましょうか」
しかし、二人が事務所を出ようとしても、
萩原さんは名残惜しそうに、その場に立ち尽くしていた。
「名残惜しいかね」
「……はい」
「じゃあ、私は先に出ているよ。
音無君はどうする?」
「私も出ます。
これ以上ここにいたら、本格的に情が移りそうで」
音無さんが寂しげに笑う。
「それじゃ、なるべく早く出てくるんだよ。
年寄りにはこのくらいの気温でも、結構堪えるんだ」
ばたんと扉の閉まる音がむなしく響く。
今日ここに来た時のように、萩原さんと二人きり。
「ねえ、さっき何か言いかけてたけど――」
夕方の頃が嘘のように、言葉が自然に出てくる。
萩原さんは何も言わずに、にっこりと笑って給湯室の方へと入って行った。
慌てる必要もないのに、ついそのすぐ後を追いかけてしまう。
「ねえ千早ちゃん」
くるりと向き直って、萩原さんがその顔を崩さないまま問いかけてくる。
「千早ちゃんは好きじゃないものってどうする?」
何を言っているのかしら。
私はまだ、萩原さんがこれから何をしようとしているのか、見当もつかなかった。
「そうね……。
とりあえず使ってみて、要らなかったら片付けるわ」
「じゃあ――――」
言い切るなり、ついさっきまで楽しげだった表情が一気に曇って行く。
「あ、でも、だめかな。こんなことしちゃ。やっぱり――」
どうやら、怖気づいてしまったみたい。
だから私は、その不安を取り払うように、精いっぱいの力を込めて言った。
「とてもいい考えだと思うわ。私もするから、やりましょう?」
「公園の近くに店があるんです。
だから、そこを抜けていきましょう!」
音無さんの提案に従って、
私は元来た道を辿って行くことになった。
私の背後から、風が囁くようにさやさやと流れていく。
とりあえず、家に帰ったらこのコートをしまわないと。
そうしたら、この風に歌を乗せましょう。
それなら私がどこにいても、もっと遠く、どこまでも届くはずよね。
遠くなった事務所は、
すっかり夜色の中に溶け込んでしまっていた。
太陽が出ていた時には、
まだはっきり見えていたのに、
その存在は、どこかおぼろげなものになっている。
なんだか今日の出来事もあの場所も、
全部、ふわふわした夢の中だったみたい。
「さよなら」
私は誰にも聞こえないようにつぶやいて、腕を下げたまま小さく手を振った。
多分、私はもうあの場所に足を踏み入れることはないのでしょうね。
だって、これ以上パンドラの箱を引っ掻き回すような真似、しない方がいいに決まってるもの。
「綺麗ですねぇ……」
あのくぐもった声のする方を振り返ると、さっきの桜がライトアップされていた。
「ああ。実にいい眺めだ」
満開の桜を見上げて、社長がかみしめるように言う。
「今度、ここで花見でもしようか。
あの桜の下だと、なかなかいい写真が撮れるんだ」
「じゃあ、場所取りはお願いしますね」
音無さんが悪戯っぽく笑う。
私はというと、喉元まで来ていた言葉を飲み込むことに必死だった。
――社長はよくご存知なんですね。
わざわざ指摘してしまうなんて、あまり良いことではないわよね。
「ああ!」
いきなり萩原さんが叫び声を上げる。
三人同時に萩原さんを見つめると、
少しばかりまごついたけど、すぐに前を見据えて、桜の木の下を指さした。
「あれ、見てください!」
「……おじさんたちがお酒を飲んでいるけど」
「その真ん中に立ってる人ですぅ!」
「とても美しい人だねぇ」
社長がのんびりとした声を出す。
それとは反対に、音無さんは顔色を変えて叫んだ。
「何言ってるんですか社長!
遠目で分かり辛いけど、あれ、あずささんですよ!!」
「まぁ、とりあえず電話をかければわかることでは?」
とっさに携帯を開いて、
先ほど萩原さんから受け取ったアドレス帳から、
あずささんの電話番号を引っ張り出す。
『おかけになった電話番号は――』
ああ、そういえば。
「みんな、のんびりしてないで早く!
サラリーマンの輪の中にアイドルがいるだなんて……問題じゃないけど大問題です!
ああもう、仕方ないわね。社長!」
「ちょっと待ってくれ。それでは五人分に――」
「そんなこと言ってる場合じゃありません! 行きますよ!」
社長は、音無さんに引っ張られるがままに桜の木の下へと向かって行った。
「事務所の場所が変わったことなんて、
あずささんにとっては些細なことなのかもね」
萩原さんがぽつりと呟く。
私も呆れたような調子で、同じように呟いた。
「あの人にとって、場所なんかこれっぽっちも関係ないんだわ」
おじさんたちの中へ、社長を放り込む音無さんの背中を見やる。
自分では入らないのかしら。
でも、私もあの中には入りたくないわね。
「そうだね。あんまり関係ないんだよね」
喧騒の中で、吐息交じりの声だけが耳に響いた。
「ええ、そうね」
「私ね、環境が変わるのってあんまり好きじゃないんだ。
だから引っ越しも、実はちょっぴり嫌だったんだよね」
おじさんたちの中に紛れ込んだ社長が困り顔をしているのは、遠目にも見て分かる。
「でもね、今日、からっぽになったあの場所に二人で行ってみて分かったんだけど」
桜の下では、
輪の中からあずささんを引っ張り出す社長の姿と、
勇ましく、ぶんぶんと手を振る音無さんの姿があった。
「千早ちゃんたちがいれば、大丈夫な気がしてきたんだ」
向こうに手を小さく振り返しながら、
私の隣で萩原さんがしっかりと微笑みかけてくれた。
もっとも私は、まっすぐ前を向いたままの状態で
「そうね」
としか、言えなかったのだけど。
「あらあら、みなさんお揃いで~。
今日は、なにかあったんですか?」
音無さんと社長の間に立ったあずささんは、
いつも通り悠長な声で言った。
「なんでまた、あんなところにいたんですか?」
「お散歩してたの。
ここって、前の事務所の近くでしょう?
だから、ちょっと寄ってみようかと思ったんだけど、
気が付いたら、あの中に引きずり込まれてて」
大して困っていないような調子で、あずささんが微笑む。
「ちなみに携帯はどうしたんですか?」
「携帯?
……ああ、家を出てすぐに電池切れしちゃったの」
それは、携帯を持ってる意味がないのでは。
矢継ぎ早に投げかけられた私の問いかけを、さして気にせず、
あずささんは桜の木と、その周りの人々を横目で見やった。
「でも、おじさんたちが酔っててよかったわ~。
そうじゃなければ、気づかれてたかも」
なんてね、とあずささんは小さく舌を出した。
「本当ですよ」
と、音無さんが安堵したような声を漏らすと、
すっとあずささんの肩に手を置いた。
「まあ、何事もなくて良かったです。
それよりあずささん。晩御飯、ご一緒しませんか?
社長のおごりですよ?」
「それは素敵ですね~。
でも、よろしいんですか?」
それにノーと言える人が、この世の中に存在するのかしら。
「ああ、私に任せたまえ!」
社長がやけっぱちに言い放つと、
今来た方に背を向けて、足取り重そうに歩き始める。
だから私たちも、そのしょぼくれた背中をゆっくりと追いかけて行った。
>今日はありがとうございました。
>それで……、
>今度、新しいの買いに行きませんか?
>空いてる時間があったら、教えてください。
>じゃあ、また明日。
>新しい事務所でお会いしましょう。
やはり、堅苦しすぎるわね。
萩原さんには悪いけど、今度顔を合わせたときに指摘しないと。
だから、明日は新しい事務所に寄ってみましょう。
そうすれば、萩原さんが少し戸惑ったような顔で、私の予定を訊ねてくるに違いないわ。
でも、あの場所は、設備が過剰でどうも落ち着かないのよね。
直に馴染める、なんてプロデューサーには言われたけど、どうなのかしら。
まあ、なんでも、いいですけれど。
だって、場所が変わっても、変わらないものがあそこにはあるのだから。
分かりました、ではまた明日、というだけのメールを送る。
私はぎこちない手つきで、
充電器と携帯を接続させると、部屋の中をさっと見回した。
……ちょっと、殺風景すぎるかも。
あの新しい場所ほど大仰でなくてもいいけど、
少しくらい彩ってみても罰は当たらないわよね。
春なんだもの。
慣れないことをしてみたって、いいでしょう?
どうしたって、あの空になった事務所よりかは見栄えするはずよ。
だって、あの事務所にあるのは、
空になった空き缶と、不細工な二匹の犬だけなのだから。
要らないものだらけの場所。
だから、それ以下になるはずないのは、もう決まってることなの。
私は充電器をコンセントを刺すと、
その前で来るかも分からない"おやすみなさい"の返事を待った。
そして、その間中、
どうやって部屋の模様替えの相談を、萩原さんに持ちかけようか、
いまいち飾り気のない部屋の中でずっと考えていた。
季節外れですまない
ちはゆきっていい組み合わせだと思うんだけど少ないよね
乙
Entry ⇒ 2012.10.17 | Category ⇒ アイマスSS | Comments (1) | Trackbacks (0)
P「律子は説教デレ」
バンッ!!
春香「ぅひっ!?」
律子「いい加減にしてくださいプロデューサー!」
春香(あちゃ~、プロデューサーさんてば律子さんに説教されてる)
律子「何度同じ失敗を繰り返せば気が済むんですか。先週の木曜も同じでしたよね!?」
P「ごめんなさい……」
春香(今出て行ったらマズいよね?)
律子「なぜ今朝はおはようのキスがなかったんですか?」
春香(ワッツ!?)
律子「あらためて確認しますが」
律子「いくら物覚えの悪いプロデューサーでもこれだけは記憶していると信じたいのですが」
春香(律子さんごめん、今キスとか聞こえちゃった)
律子「我々のキスについてです」
春香(言ってる!!)
律子「付き合い始め、我々はこの契約書において相互に同意したはずです」
律子「プロデューサーの節穴さながらの目でも見えるよう、B1に拡大しました」
春香(デカッ!!)
律子「おはようのキス、行ってきますのキス、ただいまのキス、おやすみのキス」
律子「これら四大基本キスを怠ることは重大な不貞に当たる、と」
P「はい……」
春香(そ、そうなの……?)
P「私のものです……」
春香(すごい殊勝……)
律子「それぞれのキス、特におはようのキスの重要性については何度も述べたはずです」
律子「愛し合うパートナー同士ならば当然の義務、そうですよね?」
P「はい……」
律子「だというのにあなたって人は……」
P「………」
律子「義務である理由、暗誦してください」
P「え……」
P「あんしょ……え?」
律子「ほら早く」
春香(なんだろうか、この状況は)
P「え、っと……」
P「あ、愛し合うパートナーであれば、睦みあうこと、スキンシップは必然」
律子「はい」
P「特にキスは互いの愛情を確認しあうための重要な行為であり」
律子「続けて」
P「キスのない恋人同士はすなわち、枯れ果てた大地と同じだからである」
律子「………」
P「………」
律子「……」コツコツ
律子「……」コツコツコツコツ
律子「終わりですか?」
P「え……」
春香(指で机コツコツ怖い……)
P「あっ、あ、あーっと」
律子「ハァ……私はどれだけあなたにガッカリさせられないといけないんですか?」
律子「自分が愚昧、または匹夫であるという自覚はありますか?」
P「……すみません」
律子「いえ、いいですよもう」
P「………」
春香(あ、終わる?)
ゴソゴソ
律子「ふう……」
律子「」ピッ
ウィーーン
春香(え? え、え!? なんか上からスクリーン降りてきた!?)
春香(パ○ポだーー!! パワーポイント○だーーー!!!!)
P「律子、事務所にももう皆が来ちゃうし!」
春香(プロジェクターなんていつの間に導入……いやスクリーンも!!)
律子「スケジュール的にそれはないでしょう、これだけ朝早ければ問題ありません」
春香(早起きしちゃったのは誰!? そう、この私!!)
律子「見ていただきたいのはスクリーンの図Pです」
P「………」
春香(図Pがなんと皮肉めいて聞こえることよ……)
律子「そして折れ線グラフの方は、アイドルプロデュース活動における私の仕事力――」
律子「つまり『りっちゃんパフォーマンス』の推移を定量的に示しています」
P「はい……」
春香(はいじゃないのでは? はいじゃないのでは?)
律子「大脳皮質のヒダがデロデロになっているプロデューサーにもわかるように説明しますと」
律子「例えばこの10月8日、この日はとても満足のいくおはようのキスができたようですね」
P「そうみたいですね……」
律子「すると同日、同様に『りっちゃんパフォーマンス』もとても高い値をマークしています」
律子「これが何を意味しているか」
P「………」
P「………」
律子「信じがたいことですが、おはようのキスがありませんでしたので」
律子「当然ながらおはようのキスのらぶらぶ度もゼロ」
律子「同日の『りっちゃんパフォーマンス』も地を這うような悲惨なことになっています」
春香(恐ろしいまでの公私混同……)
P「こ、公私混同じゃないか」
春香(言った!! なにこのシンクロニシティ! 行けーっプロデューサーさん!!)
P「………」
律子「公私混同ですかぁ……なるほどねぇ……」
P「………」
律子「公私混同ですかぁ……」
P「聞き間違いでは?」
春香(慇懃に日和ったーーー!!!)
春香(というかカップルって初めて知ったし驚いているうえ泣きたい!!)
春香(誰か助けて!)
律子「……と、このようにおはようのらぶらぶキスと『りっちゃんパフォーマンス』は」
律子「密接な因果関係にあるということがよくわかりましたね」
律子「ニューロンがことごとく死滅しているかのプロデューサーにも理解できたかと」
P「は、反省してます……」
律子「………」
P「………」
律子「……」ジーッ
律子「……」チラッ
律子「終わりですか?」
P「え……」
春香(自分の指のネイルを見てからの……!)
律子「プロデューサー」
P「っ!」
律子「本当にあなたはダメな人ですね、ここまで頭が回らないなんて」
律子「説教する私が疲れてきました」
P「そんな……」
律子「まだ気づかないんですか? おはようのキスだけなら私はここまで怒りません」
律子「というより、今日のおはようのキスはとても重大な意味を持っていたはずなのに」
P「あ……」
春香(付き合って○ヶ月的な……)
律子「ゆうべは全然いちゃいちゃできなかったじゃないですかっっ!!」
春香(おーーーーーーい!!!)
律子「お互いに仕事で忙しい身の上で、いちゃいちゃ出来る時間は限られているんです!」
律子「厳しい時間を終えたあと、あなたとふれあえるのがどれだけ嬉しいかっ」
律子「見てよこの髪!!」
P「え……?」
律子「昨日あなたに洗ってもらえなかったからツヤがゼロ! 皆無!! ボッサボサ!!」
春香(いぇーーーーーーい!!!!)
P「いや全然そんなことは」
律子「あります! あるんです!! ぐすっ、やだもう泣きそう……すんっ」
律子「図のRとR´を見でぐだざいっ!」
春香(みんなーーーー盛り上がってるーーーー!!??)
律子「そしてこっちが洗ってもらっていない『りっちゃんヘア』! その差は歴然!!」
P「そうか……?」
律子「そうなんです! こんなの全然パイナップルじゃない!!」
P「いやパイナップルは目指さなくても……」
律子「忙しいのはわかっていますし、いちゃいちゃできない日があるのもわかってます!」
律子「でもっ、ですが図H!!」
律子「こっちがいちゃいちゃできたあとの私の日記におけるハートマークの数っ!」
春香(みんなーーー覚えて帰ってねーーー!!)
春香(これが理路整然としているようで、その実、まるで中身のないプレゼンだよーーー!!)
律子「これが五大基本ハグの一つ、『ちょっと、抱きつかれたら料理できないでしょ……?』」
律子「――の工程を経ていないさもしい夕食です!!」
律子「なんなんですかあなたはっ? 鬼なんですか?」
律子「このうえおはようのキスもないだなんてっ」
律子「ヒトゲノムの塩基配列に『悪』『鬼』『羅』『刹』の四文字でも記されてるんですか!?」
律子「……すんっ」
P「………」
律子「もう、私……何言ってんだろ、ごめ、なさいっ」
律子「泣かないって……決めてたはずなのに……」
P「律子……」
春香「律子さん……(苦笑)」
律子「私が、とんでもない寂しがり屋な、だけ、なのにっ……」
P「そんなに自分を卑下するなって……」
律子「やめてくださいっ、かばわないでください!」
P「っ」
律子「あなたが優しいから……私はとんでもなく甘えちゃうんです」
律子「優しくされると嬉しいけど」
律子「優しくされなかったとき、不安で、さびしくてっ……」
律子「どうしようもなくて……ぐすっ、すんっ……」
律子「もう……だめです私……」
ギュッ
律子「―――!!」
P「律子……ごめんな」
P「ハハ、なあに、さっきまでプレゼンをしていたじゃないか」
律子「それは、そうですけど……」
律子「それに、プロデューサーが悪いわけじゃ」
P「いや、俺が悪い」
P「すまなかった」
P「昨日だって、頑張れば早く帰れたはずなんだ。今朝も仕事ばっかりの頭で……」
律子「だからそれは」
P「律子」
律子「っ」
P「俺……律子に説教されるの、嫌いじゃないよ」
律子「―――」
律子「な、なんですかそれ……」
律子「だからぁっ」
P「だから、」
P「俺のことで説教したくなったらいつでも説教してやってくれ」
律子「え……」
P「甘えたくなったなら、いつでも甘えてくれ。仕事の合間だっていいさ」
律子「……」
P「ためこまないで、俺を責めてくれ、依存してくれ」
P「どんな律子でも……俺は受け止めるからさ」
律子「~~~……」
律子「……プロっ」
律子「プロデューサー……」
P「ん?」
律子「ぷろでゅーさーの、ばかぁっっ……」
P「ああ……」
律子「あなたのいないあの部屋で、あなたのいない夜をすごしてっ」
律子「晩ご飯も一人で食べて、いつもみたいに抱っこされながらじゃなくてっ」
P「ごめんな……」
律子「洗い物しながら後ろを振り返っても、あなたはいないし!」
律子「お風呂だって一人だし、洗いっこも、湯船に入るのもキスしながらじゃないしっ」
P「髪の乾かしあいっこも」
律子「デザートを食べさせあうのだって! 昨日はプリンの日だったのに!」
P「そうだな……」
律子「あなたが差し出してくれるスプーンじゃなきゃ、デザートなんて食べた気しませんっ」
律子「途中までは頑張って起きてたんですっ、でも」
P「起こさないようにベッドに入って、隣で寝てやることしかできなかった」
律子「そうですっ、いつもはハグしながら、ナデナデもしてもらえるのに」
P「おやすみのキスもだ」
律子「何回もちゅーをしながら、あなたの胸の中で眠るのが、私の幸せなのに……」
律子「おかげで悪い夢を見ました……」
P「それは、どんな?」
律子「あなたが……」
P「………」
P「俺はどこにも行かないよ」
P「ずっと律子のそばにいる」
P「約束する」
律子「プロ、デューサー……」
P「律子……」
律子「………」
P「愛してる」
チュッ
P「………」
律子「ぷはっ……あぁっ……」
律子「ん……」
P「………」
律子「………」
P「だ……ダメだったか?」
律子「……っは」
P「ふふ、そっか」
律子「あなたに耳元で愛してると囁かれて、クラリとこない女性がいますか?」
P「いや、律子くらいのものだって」
律子「フザけないでください……なんなんですかもう……めろめろですっ」
律子「さびしくさせたかと思ったら、こんな、優しくして」
律子「これからの結婚生活でも、同じことを繰り返すつもりなんですかあなたは」
P「気をつけるよ。努力する」
律子「罰としてこれからはダーリンって呼びますから!」
P「仕返しには何がいいか。りっちゃんとか?」
律子「バカっ……ほんとばか……」
P「………」
律子「だいすき……」
春香「…………」
春香「だいすき、か……」
春香「………」
春香「きっついねえ……」
春香「へへ……室内だってのに、風が身に染みやがる……」
春香「B1の紙もはためいてらぁ」
春香「………」
春香「あれ……なんだろこの感じ……」
春香「私、興奮してる……?」
この日以降、春香がNTR属性に目覚めるのはまた別のお話
おわり
T たらたらしてたら
R りっちゃんにとられた
Entry ⇒ 2012.10.16 | Category ⇒ アイマスSS | Comments (0) | Trackbacks (0)
怜「うちがエロゲしてる所を竜華に見られてしもた……」
怜「りゅ、竜華!これは!」
怜(アカン、よりによってえっちシーンを見られたらなんも言い訳できへん!)
竜華「これ……何……」
怜「ち、違うんや竜華!これは!」ガタンッ ブツッ
『モモッ……モモッ!!』
『あっああっ……!そんな……!せっセンパイッ!もっと……っ!!』
怜「」
竜華「」
怜「……」
怜「……なんや」
竜華「……い、いや、その……な?」
竜華「べ、別にうちは、怜がそのような趣味を持ってても別に気にせんというか……」
竜華「趣味は人それぞれって言うしな、ハハハ……」
怜「……」
怜「……そんな目でうちを見んなや」
竜華「え……?」
竜華「そ、そんな!うちはそんな事思ってないで!」
怜「嘘や!!みんなそうやって嘘つくんや!」
怜「心の底では馬鹿にしたり気持ち悪いとか思うとるんやろ!!」
竜華「思わへんて!た、たかがゲームでそんな大げさやで!」
怜「……」
怜「……おい、今なんて言うたんやタコ」
竜華「えっ……」
怜「たかがゲームやて?何言うてんのや、ふざけんな!」
怜「この”作品”はな!先輩と後輩の甘くとも切ない感動的な恋愛劇なんや!」
竜華「で、でも、それエッチなゲームやろ……?」
竜華「いやいやおかしいやろ、怜は女の子やで……」
怜「女がエロゲしたらアカンのですか!!」
竜華「えっ、ア、アカンというか、その……」
怜「そうや、うちはエロゲーが好きや、大好きや!せやけどそれの何が悪いねん!」
怜「ええやろ別に、誰に迷惑をかけてる訳でもないし、うちの好きにさせてくれや!」
竜華「で、でも……」
怜「大体、竜華は勘違いしとるんや」
怜「エロゲーっちゅーんは、何もエッチだけを頼むゲームやないんや」
怜「エロゲーっちゅーんは、人々に夢と希望と青春と感動を与えてくれる、人類が生み出した最高の文化やねん!」
怜「それをたかがゲームだとか、エッチなゲームの一言で済ますなんてうちが許さへんで!!」
竜華「え、えー……」
怜「たまたまゲーム内で恋人がエッチしとるだけで、すぐエッチなゲームと決めつける」
怜「恋人がエッチをしたらアカンねんか!?お前らは父ちゃん母ちゃんがセックスして産まれたんやぞ!」
怜「それを全否定とか、自分自身を否定するもんやないか!」
竜華(うちにそんな事言われても……)
怜「エロゲーがアカンっちゅーんなら、世の中の昼ドラや洋画もアウトやろ!」
怜「濡れ場とかベッドシーンとかアリアリやないか!」
竜華(まぁそういう映画も結構多いみたいやけど……)
怜「大体、竜華も興味あるんやないのか」
竜華「えっ」
怜「みんなそうや、本当は興味あるけど周りの目を気にして手に取らないだけや」
怜「本当は興味があって仕方ないんとちゃうか?」
竜華「そ、そんなことは……」
竜華(アカン、実はちょっと興味あったなんて言えへんわ)
怜「これ持ってき」
竜華「え、なんなんこれ?」
竜華(”君が主でメイドがボクで”……?)
怜「エロゲーや」
怜「竜華はなんも分かっとらんから、うちが貸したる」
怜「まぁ本来はちゃんと購入して貰うのが一番なんやろけど、今回は特別や」
竜華(別にやりたい訳では無いんやけどな)
怜「ひとまずはそのエロゲーを1日でクリアしてくるんや」
竜華「ええっ!?1日で!?それはちょっと早すぎるんとちゃう?」
怜「何言うとるんや、半日もプレイしてれば1日で全ルートとか余裕やろ」
竜華(どんだけパソコンの前におるねん……)
怜「エロゲーを知るには、まずはエロゲーをする事やからな」
怜「それで竜華がエロゲーはアカンと思うなら、それでもええ」
竜華「怜……」
怜「……」
竜華「……うん、わかった。とりあえずやってみるわ」
怜「……」
怜「……そうか」
竜華「……うん、じゃあうち帰るで?」
怜「ああ」
ガチャ バタム
怜「……ふう」
怜「まさか竜華に見られてしまうとは思ってへんかった……」ガックシ
怜「あれはドン引きされてもうたやろなぁ……」ハァ...
怜「……」
怜「……まあええか」
怜「戦国ヒサでもやろ」カチカチッ
『よし、美穂子。セックスするわよ!!』
『はぁっ……!はあっ……!上埜さん!上埜さんっ!!』
『ガハハ、グッドよ!』
怜「さすがヒサやなぁ、不思議と憎めないわこの主人公」
竜華「……」
竜華(勢いで怜に渡されたけど、どないしよ……これ)
竜華「……」
竜華「ま、まあ!怜にあれだけ言われたことやし、ちょっとだけやってみるのもええかな!」
竜華(早速インストールしよ)カチカチッ
竜華(インストール中にゲームのあらすじも読んどこ)
竜華(えーと、何々……)
竜華(主人公・国広一と親友の井上純があるキッカケで龍門渕家と関わりを持ち、事情を知った龍門渕 透華によってメイドとして仕える……)
竜華(なるほどな、この一ちゃんというのがメイドで透華っちゅー子が主なんやな。それで君が主でメイドがボクで、”きみある”か)
竜華(おっ、インストール終わったで)
竜華(早速やってみよ)カチカチッ
『ステルスモモの独壇場っすよ』
怜「さすがモモやで、暗殺率100%とかチートすぎるやろ」
『カン!ツモ、嶺上開花!』
怜「咲も強すぎるやろ……圧倒的すぎるやないか我が軍は!」
『ガハハ!いくわよ美穂子!そろそろ出すわよぉ!』
『っとぉ――――――ぅ!!」ビュビュビューーーッ
『ああっ……!上埜さんのが、たくさんっ!たくさんきてるっ……!』
怜「ほんまこいつはエロい事しかしておらへんな」
怜「……」
怜「さて、もう夜遅いしそろそろ寝よ」
『――1週間おこなったメイド試験の結果を言い渡しますわ』
『――国広一、龍門渕家に対する損害は断じて許しがたいですわ』
『――ですが、あなたの普段の仕事ぶりや活躍ぶりは、誰よりも見ているつもりです』
『よって損害には目を瞑り、合格――としますわ』
『透華お嬢様……!』
竜華「おお……やったなぁ一ちゃん……壺を割った時はどうなるかと思ったで……」カチッ
竜華「しかしこっちのメガネの子はスタイル良さそうやなぁ……」カチッ
竜華「おもちも大きそうやで……」カチッ
竜華「お嬢様もええけど、こっちの子もええなぁ」カチッ
『……もしかして嫌だった?』
『……そんな事ありませんわ、わたくしだってこうしたいと思ってましたの』ギュッ
『透華……っ!!ぼ、ボクもうっ!!』ガバッ
『はじめっ……!』
竜華「お、おおおっ、ついにはじめちゃんと透華ちゃんのえっちシーンや……!」
竜華「透華ちゃん普段はあんなきつい事言うてるのに、めっちゃ可愛ええやん……」
『は、はじめっ!んっ……あっ……そんなことしたらっ……あっあぁっ!』
『透華っ……透華ぁっ……はぁっ……はぁっ……きもちいいよっ……!』
竜華「……」ゴクリ
竜華(な、なんかヘンな気分になってきたわ……)
竜華(……)
竜華「んっ……」クチュッ
セーラ「おはよーさん」
怜「おはよう」
セーラ「竜華はー?一緒やないのー?」
怜「そういえば見とらんな、もう先に行っとるんかな」
セーラ「せやなー」
-教室-
セーラ「あれー、竜華の奴まだ来とらんよー」
怜「ホンマや、もうすぐホームルームはじまるで」
竜華「はぁ……はぁっ……間に合っわ、お、おはよー」ガララッ
怜「なんや寝坊か?随分遅かったな」
竜華「ちょっと徹夜でプレイしてもうて……」ハハハ...
怜「徹夜て……」
怜(ホンマに半日で終わらす気やったんかいな)
セーラ「怜ー、竜華ー、帰るでー」
竜華「あ、うち怜とちょっと用事があるから
怜「は?用事?別にないんやけど」
竜華「何言うとんの怜」
竜華「……”きみある”の件や」ヒソヒソッ
怜「あ、ああ……」
竜華「という訳でセーラ、うちら先に帰るからな!まなまた明日なー!」
セーラ「お、おう……」
怜「……」
竜華「……」
怜「……で、どうやったん?」
竜華「……あのな、怜」
怜「やっぱりアカンかったか?」
竜華「……ちゃうねん」
竜華「すっっっっっごい良かったんや!!」
怜「……」
怜「は?」
竜華「屋敷の人が全員、一ちゃんはうちの家族や!って守ってくれて感動したわぁ……」
竜華「ともきーもめっちゃ可愛いし、ああ、うちもあのお屋敷で働きたいわぁ……」
怜「そ、そうか……」
怜(めっちゃハマっとるやんけ……)
竜華「ねぇ怜、他には?他にはなんかないん!?うちどんな奴でもやるで!!」ア、コレ カエスデ
怜「そうは言われてもなぁ……」
怜「ゲームの貸し借りはあんましたくないねん。SS書きながら調べたけど、エロゲの貸し借りって限りなくグレーやもん」メタァ
竜華「ぐぬぬ……でもっ……」
怜「あとは自分で買ってもらうしかないなぁ」
竜華「……!」
竜華「よし、じゃあ買いに行くで!」
怜「えっ」
竜華「日本橋にそういうの沢山売っとるんやろ?」
竜華「電車なら1時間もかからんうちに着くから、今からでも行けるで!」
怜「いやいやいや、確かに日本橋は大阪の秋葉原っつーぐらいオタク街やけど」
怜「いきなりどしたん、昨日までエロゲは否定的やったやないか」
竜華「……怜、うちが間違っとったわ」
竜華「正直な所、ホンマにただえっちするゲームやと思ってたわ」
竜華「でも実際にやってみると全然ちゃうんやな」
竜華「上手く言葉には出来へんけど、あそこにはうちの全てが詰まっとる気するわ!」
怜(それはないやろ)
怜「ちょ、まてやまてい!制服で行く気かいな!」
竜華「なんや、何か問題でもあるんか?別に年齢は問題ないやろ?」
怜「有り有りや、年齢条件をクリアしても場所によっては制服では売ってくれない所もあんねん」
怜「だから一度着替えて行った方がええよ。あ、派手すぎると目立つから地味な服の方がええで」
竜華「ぐぬぬ……それならしゃあないわ。じゃあ一旦着替えて駅前に集合しよか!」
怜(って、うちも行くんかいな)
-十数分後-
竜華「それじゃ、行くで!日本橋!!」
怜(テンション高いなあ)
竜華「という訳で日本橋オタロードにやってきたで」
竜華「早速エロゲショップに入るで!!」
怜「ここに来るのも1週間ぶりやな」
竜華「おお、ぎょーさんあるで……エロゲってこんなにあるんかいな」
怜「新品フロアでこれやからなぁ、あっちの中古フロアも含めると相当やで」
竜華「ホンマかいな!これだけ多いと目移りしてまうなぁ」
怜「なんや、買うもの決めておらんの?」
竜華「そこまで考えておらんくて……一応、怜にオススメでも聞こうかなーて」
怜「オススメって言われてもな、こんだけ数あるんやし……」
怜「ジャンルも色々あるからなー、竜華はどういうのがええのん?」
竜華「そうやなぁ……」
竜華「ドラマチックな展開で燃えるような恋愛もええけど、とにかくヒロインとイチャイチャする奴もええなぁ……」
怜「曖昧やなぁ」
怜(割とライトな奴でええやろ)
怜「そうやなぁ、ここ最近うちが面白いと思ったのは”麻雀で私に恋しなさい!”シリーズとかやな……」
怜「”屋上のステルスさん”も良かったわ」 ※本家の人ごめんなさい。
怜「あとは”恋愛0まいる”もええしなぁ……」
怜「って、これじゃあうちの好みになってまうな」
竜華「名前だけ言われても全然わからんわ……」
怜「まぁ実際に手に取って見るのがええよ、うちもそこらへん回ってるから何かあったら声かけてや」
竜華「わかったで」
竜華(選ぶに選べへんわ……)
竜華(実際に手に取って見るのがええらしいけど……)
竜華(とりあえずこれ見てみよ)カタッ
竜華(”マツミノソラ”……姉妹が田舎に引っ越すお話?うちずっと大阪やから田舎系も面白そうやなあ)
竜華(これはなんやろ、”黄昏のエイスリン”……これも岩手の田舎系やな)
竜華(次は……”愛宕姉、ちゃんとしようよっ!”……タレ目のお姉ちゃんと過ごすドタバタコメディ……面白いんかそれ)
竜華(他には……”おしえて!赤土先生”……主人公が先生に性教育を教わるゲーム?こんなんもあるんか)
竜華(んーホンマ色々ありすぎて何から手にとっていいのか分からんわ……)
竜華「そういえば怜は何しとるんやろ」チラッ
なんでや!ハルちゃんかわいいやろ!!
あらたそ~
怜(まだあるかな……と、あったあった!)
怜(”関西の空を越えて”)
怜(関西人ならこれはやっといて損はないで!って知人に勧められたんよなぁ)
怜(以前から気になっていた作品ではあるしな、今日これ買うてくか)
怜(他にもなんかあるかな……っと)
怜(なんや、今週の処分セールは鶴賀ソフトウェアかいな)
怜(”秋色透華”に”みはる”、”明日の尭深と逢うために”に”しあわせ麻雀部”)
怜(うち好きなんやけどなぁ、鶴賀ソフトウェア……)
怜(そういえば竜華はどうしとるんやろ)チラッ
竜華「いやそれがなー、色々手にとって見ても数が多すぎて……」
怜「なんや、最初のうちは何でもええから買うてしまうのが一番や」
怜「エロゲってのは、数をこなしていくうちに自分の好きなジャンル、欲しいジャンルってのがわかってくるもんや」
怜「色々なジャンルを知っておくのも大事やから、最初はとにかく幅広くプレイするのがオススメや」
竜華「とか言われてもなー……」
怜「ホンマに最初はテキトーでええねん、次に手にとった奴をレジへ持っていけばええんよ」
竜華「怜がそこまで言うなら……わかったで!」
竜華「……えっと、”車輪の国、嶺上の少女”やて」
怜「あー、それを引き当ててしまいましたかぁ」
竜華「え、なんかやばいん?」
怜「いや、やばいというか名作も名作やな」
怜「ただ、あまりにも定番作品すぎてニワカ扱いされたりするぐらいや」
竜華「そうなんや、じゃあうちこれにするわー」
怜「せやな、ええと思うよ」
竜華「そんな訳で帰ってきたでー」
怜「なんだかんだで長く居てもうたな、すっかり真っ暗やわ」
竜華「よおし、帰って早速プレイするで!」
怜(すっかりハマっとるなぁ、竜華)
竜華「じゃあうち先帰るで、怜。また明日や!」
怜「ああ、また明日な。遅刻ギリギリになるまで徹夜せんようになー」
竜華「わかっとるってー!」タッタッタッ
怜「……」
怜(ホンマにわかっとるんやろか)
竜華「ふう……ご飯もお風呂も済ませたで!」
竜華「インストールも終わっとるし、早速プレイやな!」カチカチッ
竜華「っと、そや。ヘッドホンもちゃんとつけな」ガサガサ
『まずは自己紹介をしましょう』
『私は宮永咲、読書とお姉ちゃんが大好きです』
『訳あって故郷でとある最終合格試験を受ける事になったのですが……』
『………タ―――――――ンッ』
竜華「開始5分で人が死んだで」
怜「さーって、うちも買うてきた奴やるかー!」ポチッ
怜「この作品は、関西の航空学生……っと、予備生徒やったっけか。が、内戦しとる関西軍と関東軍の争いに巻き込まれていく作品や」
怜「”ひろぽん”の奴が勧めてくれたんやから、多分面白いやろ」
『セーラ、何見ているの!!』
『君はペアを見捨てるパイロット?それとも共に戦うパイロット?』
『じ、自分は常にペアを戦うパイロットであります!!』
『ならどうして、相棒が倒れているのに案山子のように突っ立って見ているの!』
怜「うわ、この赤土教官って人厳しいなあ』
怜「ホンマ、パイロットは地獄やでぇ……」フゥハハハーハァー
怜「しかしまぁ、これはこれで面白そうや」
『咲……』
『……助けて』
『―――任せて』テテーテテテーテテーン
竜華「咲さんかっけーー!!」
竜華「これはイケメンすぎやろ」
竜華「アカン、このゲーム面白くて辞めるに辞められへんわ」
竜華「もう寝なアカンのに、ちっとも寝る気にならへん……」
竜華「……」
竜華「ケ、ケホッ……ケホッ……う、う~ん、ウチちょっと風邪気味やなー(棒)」
竜華「怜に風邪移したら悪いし、明日はちょっとお休みさせてもらおっと……」
竜華「……」カチカチッ
『俺なんか忘れれば、お前はこれからいくらでも幸せになれる。スマン、許せや』
『セーラぁぁぁぁ!!』
『うおおおおおっ!!』
『――――今後も我々の志を継ぎ、戦い続けるすべての人々に幸あらんことを』
『関西……万歳』
怜「関西……万歳!!」
怜「セーラが一人F2で突っ込む所とかカッコ良すぎやわ……」
怜「しかしまぁ戦争なんかやからしゃあないんやろけど、人が死にすぎやろぁ……切ないちゅーかなんちゅーか……」
怜「……っと、もうこんな時間かいな」
怜「……」
怜「ケホッ……ケホッ……あー、うち病弱やからなぁ……たまにはガッコ休んでゆっくりしとこかな(棒)」
怜「……」
怜「これはちょっと休憩して、STEALTH ALBUM2やろ……」カチカチッ
「それでは、皆さん席についてくださいホームルームをはじめますよ」
「……おや、園城寺さんと清水谷さんは欠席ですか」
セーラ「怜と竜華の奴、無断で休むなんて珍しいナー」
セーラ「怜が休む時は大抵俺か竜華に連絡が来るはずなんやけど……」
セーラ「肝心の竜華も連絡ないし、一体どうしたんやろなー」
セーラ「……」
セーラ(帰りに怜ン家と竜華ン家に寄ってくか)
『ああっ……おねえちゃんっ!そろそろ……!んっ!!』
『んっあっ……!ええよっ…‥!沢山うちに…っんあっ!出してええよっ……!絹っ!』
『お姉ちゃんっ……!!うっ……!!』
竜華「あっ……うちもイキそやで……」クチュ
竜華「絹ちゃんっ……絹ちゃんんっ!」クチュクチュ
竜華「―――――っ!」ビクンビクン
竜華「……」
竜華「……ふぅ」
竜華「良かったわ……洋榎ちゃんも絹ちゃんも可愛すぎやわぁ……」
竜華(まさか学校休んでエロゲ買いに行くとは思わんかったけどな)
竜華(愛宕姉、ちゃんとしようよっ!昨日見た時面白いか疑問に思ったんやけど買うてよかったわ)
竜華「よし、もう1回やるで……!」
『お、お姉ちゃんそこはっ…あっ!んなっ……そこはアカンて!』
竜華「はぁっ……はぁっ……ええよ絹ちゃん、かわええで……」クチュクチュ
竜華「うちっ……またっ……イキそっ………―――っ!」クチュ
セーラ「ピンポーン、勝手におじゃまするでー、竜」ガチャ
セーラ「か……」
『ひゃあっ!ら、だめっ!お姉ちゃんっ……!もううちイッてまうの!!』
『ええでっ……!イってやっ……!一緒にイこやっ……!うちもイくでっ!!』
竜華「―――…‥へぁっ?」ビクビクッ
セーラ「」
竜華「」
怜「ふぅ、結局ロクに寝ずにぶっ続けでプレイしてもうたわ」
怜「やっぱかじゅモモは正義やなぁ」
*ひろぽん
がオンラインになりました。 ポンッ
怜「お、ひろぽんがス○イプにログインしよった」
怜「なかなか良い作品教えてもろたしなぁ、報告ついでにお礼も言っておこか」
ひろぽん : ここやで (トントンッ
トキ@ヒサⅨ楽しみや : 関西の空を越えて やったで。なかなかすばらやったわ
ひろぽん : せやろー!すばらやろー!
ひろぽん : ところで、トキのオススメはなんかないんか?うち丁度この前買った奴終わってもうてな
トキ@ヒサⅨ楽しみや : そうやな、なら飛行機繋がりで……”この関西に、翼を広げて” とかどや
トキ@ヒサⅨ楽しみや : ひろぽんは関西モノ好きやろ
ひろぽん : あー、一時期話題になっとったな。結局買うてなかったんよな
トキ@ヒサⅨ楽しみや : ちょっと病弱な子とかおっぱいの大きいロングヘアの女の子とかかわええからオススメやで
ひろぽん : ホンマか じゃあ今後行った時にチェックしてみるわ
トキ@ヒサⅨ楽しみや : おう
怜「ふー、やっぱエロゲ友達とエロゲの会話をするのは楽しいな」
怜(竜華もエロゲにハマっとったみたいやけど、まだまだ深い会話はできへんしな)
怜「……」
怜「暇やな、”宮守ラブラブル”でもやるか」
『ふっ……!はっ……はっ……胡桃っ……イくよっ……!なかに……っ!』
ドピュピュピュッ
怜「シロは凄いなあ、ちっこいの子にも容赦ないでぇ……」
ガチャ
セーラ「と、怜ー!!竜華が、竜華がーっ!!」
怜「あ」
セーラ「」
怜「」
つづカン
一番エロゲっぽいのは間違いなく永水女子
ワカメ色に染まる坂
Entry ⇒ 2012.10.16 | Category ⇒ 咲-Saki-SS | Comments (0) | Trackbacks (0)
まどか「それは まぎれもなく コブラだなって」
マミ「ティロ・フィナーレ!!」
ドォォォ――――ン!!!
まどか「あっ、あっ」
さやか「あぁ!」
脱皮し、マミを喰らおうとする『お菓子の魔女』。
マミ「!!」
ドゴォォォ――――!!!
お菓子の魔女を貫く光。爆発する魔女。
まどか「な、何?今の…光みたいな…」
さやか「魔女から出てきた、魔女を…貫いた」
マミ「…何がどうなってるの…?」
コブラ「危なかったな、お嬢ちゃん。もう少しでその可愛い顔にギザギザの傷がつくとこだったぜ」
さやか「ヒューッ!」
―― その少し前 ――
コブラ「どうだ、レディ。タートル号の調子は」
レディ「あまり良くないわね。この地帯を抜ける程度は出来るでしょうけど、次の星ですぐ整備に入らないと…」
コブラ「ったく、なんだって急に不調になんかなりやがるんだ」
レディ「原因は分からないわ。ブースター、反加速装置、シールド…全て異常は無いみたいなのだけれど、どうもスピードがフラついて落ち着きがないのよ」
コブラ「じゃじゃ馬め。人参でもやれば落ち着くか?」
レディ「それで直れば苦労はしないわね。とにかく、出来るだけ急いでみるわ」
コブラ「頼むぜ、レディ。それまで俺は… …ふぁぁ、一眠りしておく」
レディ「分かったわ。… … …!!あれは!?」
コブラ「!?どうした?」
タートル号の目の前に突如現れるブラックホール。
レディ「ブラックホール!?そんな…予兆もなく突然現れるなんて!」
コブラ「おいおい、タートル号の不調の次はブラックホールときたか!?俺はまだ厄年じゃないんだぜ、チクショー!」
レディ「シールド全開!加速でどうにか突っ切って…!… …ダメ!飲み込まれるわ!!」
コブラ「どわぁぁぁ―――!!」
ブラックホールに飲み込まれ、コントロールを失いながら闇に沈んでいくタートル号。
レディ「コブラ… コブラ!!」
コブラ「…っ! …くぅー、痛ててて…」
レディ「大丈夫?怪我はない?」
コブラ「しこたま頭をぶつけたくらいだよ。…ったく、危うく三度目の記憶喪失になりかけたぜ」
レディ「良かったわ。…どうやら、無事みたいね私達」
コブラ「ああ。…タンコブが痛いのを見るに、どうも生きているらしい。…にしても…どこだ、ここは?」
レディ「…座標に無い場所ね。計器は正常に動いているみたいだけれど…」
コブラ「…!おいおい…なんだ、こりゃあ…」
タートル号の周りに広がるお菓子の山。そこを彷徨うようにうろつく、ボールのような一つ目の怪物達。
コブラ「どうやら俺達はヘンゼルとグレーテルになっちまったみたいだぜ。レディ、パンでも千切ってくれ」
レディ「それじゃあ元の場所に帰れないでしょ。…駄目、タートル号のデータベースでもこの場所の情報は見つからないわ」
コブラ「そんな馬鹿な!ありとあらゆる情報がこの船のデータベースには詰まってるはず…!… … …なァんだ、ありゃあ?」
タートル号から少し離れた場所で、死闘を繰り広げるマミとお菓子の魔女。
マミの銃撃が次々と巨大な人形のような怪物にに炸裂していく。
コブラ「…レディ、俺はどうもヘンゼルとグレーテルの話を間違えてたらしいぜ。どうも、グレーテルはスカートから銃を出して、そいつで魔女を倒す話だったらしい」
コブラ「まったくだ。記憶喪失より性質が悪いぜ。これが夢じゃないときてる」
レディ「…でも…少し危ないわね。あの子の闘い方」
コブラ「…ああ。何かが吹っ切れたように闘ってる。あれじゃあ…」
言いながら、コクピットを出て行こうとするコブラ。
レディ「!どこに行くの、コブラ」
コブラ「俺のこういう時の勘は鋭いんだよ。特に美女が野獣に喰われそうな時はね」
タートル号から出て、その様子を伺う。
マミのティロ・フィナーレを喰らい、脱皮をしてマミに襲い掛かるお菓子の魔女。
その瞬間、コブラは左腕のサイコガンを抜く。
コブラ「危なかったな、お嬢ちゃん。もう少しでその可愛い顔にギザギザの傷がつくとこだったぜ」
さやか「ヒューッ!」
まどか「え、どうしたのさやかちゃん」
さやか「いや、なんか言わないといけない気がして」
まどか「なにそれこわい」
コブラ「怪我はないかい?」
マミ「え、あ、ハイ…。…有難うございました…」
コブラ「そりゃあ良かった。俺が来るのが遅けりゃ、アンタ死んでたかもしれないからな」
マミ「そ、そうでしたね…本当に…」
QB「…」
まどか「ねぇ、キュウべぇ。あの人も魔法少女…?」
さやか「いや、どう見ても少女じゃないでしょアレ」
まどか「魔法中年…?」
さやか「ちょ、ま」
QB「いや、分からないね。ボクでも、彼が誰なのか見当がつかないよ。魔法少女でもなく、結界の中に入れて、しかも一撃で魔女を倒せる人間なんて」
コブラ「…!おおっと、俺とした事が。他に2人も淑女がいた事に気付かなかったぜ。…うん?」
まどか「あ、あの…その… … 初めまして」
さやか「ねぇねぇ、さっきのビーム、どっからどうやって出たの!?あれもやっぱり魔法!?」
コブラ「あー、俺はその、魔法ってのはどうも苦手でね。… … …」
QB「…」
その時、結界が解けて全員が元の病院前に戻る。
コブラ「…!!なんだなんだ!?どうなってるんだ!?」
マミ「結界が解けたのよ。…ひょっとして、それも分からないのに結界の中に入ってこれたの?」
コブラ「…まぁ、成行きでちょっと。ところで御嬢さん方にお聞きしたいんだけどね、ここは一体どこなんだ?」
さやか「見滝原だけど」
コブラ「ミタキハラ星?聞いたことないな」
さやか「いや、町、町。なに、おじさん、宇宙人?」
コブラ「おじさんは止してくれよ。アンタ達からならそう見えるかもしれんがね、こう見えてハートは繊細なんだ」
まどか「ティヒヒヒ」
マミ「…訳が分からないけれど、とりあえず私の家でお茶にしましょうか?…もちろん、貴方も一緒に、ね」
コブラ「お、嬉しいねぇ。美女からお茶のお誘い」
ほむら「おい」
――― 巴マミ家。
まどか「ジョー…ギリアン、さん?」
コブラ「そ、いい名前だろ。サインだったらいつでも書くぜ」
さやか「(っていうか…日本人じゃないよね、どう考えてもその名前…)」
コブラ「…まぁ、俺の事はどうでもいい。おたくらの事を色々聞きたいんだが…さっきの場所といい、あの戦いといい、一体どうなってたんだ?」
ほむら「…本当に何も知らないのね。魔女の事も、結界の事も…魔法少女の事も」
コブラ「魔法少女…?」
マミ「私から説明するわ」
コブラに魔法少女、魔女との戦い、戦い続けるワケを全て教えるマミ。
さやか「ちょっ、そこまで教えちゃっていいの?マミさん」
マミ「あの戦いを見た以上、隠し通せるわけないし…それに、命の恩人だもの。何も教えずにいるのはこちらとしても失礼だと思うわ。…でしょ?キュウべぇ」
QB「ボクからは特に意見はないよ。さやかとまどか、魔法少女でない人間が2人見学に来ていたのだから、今更1人増えたところで何も変わらないしね」
マミ「…少なくとも、私の運命は変わっていたと思うの。ジョーさんが助けてくれなければ…本当にあのまま、頭を喰いちぎられていてもおかしくなかったもの」
QB「…」
マミ「私もまだまだ、魔法少女としてツメが甘いのかもね。どこか浮かれながら戦っていたのかもしれない」
ほむら「… … …」
マミ「貴方も、ごめんなさい。帰りにちゃんと解放するって約束したのに、すっかり忘れちゃってて☆」テヘペロ
ほむら(…絶対わざとね、巴マミ)
さやか「にしても…転校生、どういう風の吹き回しよ。一緒にマミさんの家で話がしたい、だなんて」
まどか「…きっと、これから一緒に戦おう、って言いに来てくれたんだよね?ほむらちゃん」
ほむら「…勘違いしないで。そんな気はないわ」
まどか「ぅ…ご、ごめん…」
マミ「あら、それじゃ一体どうしてかしら?」
ほむら「… … …」
コブラ「…ん?」
ほむら(なんなの、この世界は…)
ほむら(今まで巡ってきたどの時間軸の中にも、こんな男が現れる事はなかった)
ほむら(魔法少女では有り得ない、けれど…魔女を倒す程の力を秘めた存在…)
ほむら(…インキュベーターの何かしらの陰謀…?分からない…。…ここは、この男の様子をしばらく観察するしかない)
コブラ「… … …美人に見つめられるのは結構だがね。そう凄まないで、もうちょっと優しく潤んだ目で見て欲しいもんだ」
ほむら「…くっ!」
ほむら(なんなの、コイツ…!本当に読めない…!)
まどか「あはは、ほむらちゃん、照れてるー」
ほむら「!ちっ、違うわッ!」
マミ「あら…うふふ」ニコニコ
さやか「ははは、なぁんだ。転校生でも顔赤くする事あるんだ」ニヤニヤ
ほむら「」
コブラ「しかし信じ難いねぇ。おたくらみたいなか弱い少女があんな化け物と常日頃から戦ってる、なんてのは…。まぁ実際に見たんで信じないわけにもいかないが」
マミ「…説明して納得できるものでもないから、ああして鹿目さんや美樹さんに見学をしてもらっていたのだけれど…ツアー参加者が増えるのは予想外だわ」
コブラ「いやホント、良い物が見物できたよ。お捻りあげたいくらいだね」
マミ「それで…2人はどう?これで見学ツアーは終わりにするつもりだけれど…決心はついた?」
さやか「…」
まどか「…」
マミ「これ以上、生身の身体で戦いの傍にいるのは危険だと思うわ。…決断を急かすわけじゃないけれど、何より貴方達が心配なの」
まどか「…わたしは…マミさんと一緒に戦う、って…そう、決めたから…!」
ほむら「安易な決断はしないでと忠告したはずよ、まどか」
まどか「でもっ!マミさんが…マミさんが!」
マミ「…有難う。でもね、鹿目さん。何度も言うように魔法少女になるのにはとても危険な事なの。…私のためだけに、魔法少女になるという答えを出すのは止めてちょうだい」
まどか「で、でもっ!マミさん、戦うの怖くて、寂しくて、辛いって…だから、わたし、一緒に…!」
マミ「だからこそよ。…美樹さんにも言ったのだけれど…誰かのために願いを叶えるというのは、きっとこれから先、後悔する事になるわ」
まどか「…」
さやか「…」
マミ「だから、後悔なんて絶対にしない、魔法少女になって戦い続けられる…その心に揺らぎが無くなった時に、決めてほしいのよ」
マミ「…鹿目さん。私は、貴方達が戦いに加わろうと、加わらなかろうと…こうしてお友達としていれれば、それだけで…何よりも心強いのよ。それだけは言っておくわ」
ほむら「…。鹿目まどか、何度も言うけれど…私の忠告、忘れないでね」ガタッ
まどか「… … …うん。分かってる。…ありがとう、ほむらちゃん」
マミ「あら、もうお帰り?」
ほむら「ええ」
マミ「…今日は、貴方を縛ったままにしておいてごめんなさい。でも、私少し…貴方の事、信じられるかもしれない」
ほむら「… … …」
マミ「グリーフシードの奪い合いじゃない…貴方の行動には、何か信念のようなものを感じるの。…私の勝手な勘だけれどね」
ほむら「…私も、無益な戦いはしたくないわ。…それだけは言っておく」
マミ「そう…良かった」
ほむら「…お茶、御馳走様…」バタン
さやか「… … …」
さやか「デレたよ!ついにデレたよあの子!鉄壁の牙城にヒビが入ったよ!」
まどか「ちょ、さやかちゃん、声大きい…!」
コブラ「…若いってのはいいねぇ、どうも」
マミ「それじゃあ…別の話をしましょう。私達の事はおしまい。ジョー…さん。次は貴方の話を聞かせてくれる?」
コブラ「…そうだなぁ、マティーニでも飲みながらじっくり語りたいところだが…生憎この部屋には無さそうだし、仕方ないな」
コブラ「俺は…まぁ、しがないサラリーマンでね。宇宙観光の最中に突然謎のブラックホールに飲み込まれて…気が付いたらあのザマだ。マミが華麗に戦ってるところにお邪魔したってワケさ」
まどか「うちゅー…かんこう…?」
コブラ「ああ」
さやか「え、え?その、単なるしがないサラリーマンなのに、宇宙船に乗ってたってわけ?」
コブラ「まぁ、そこまで薄給でもないんでね。宇宙船の1隻くらいは奮発して持っていて、それでちょぃとした旅行に」
まどか・さやか・マミ・QB「… … …」
コブラ「…俺、何か変な事言っちまったかな」
さやか「え、えぇと…どこまで信じればいいのかな…?!正直、全部が嘘っぱちにしか思えないし…ま、まぁ、とにかく…本当に結界の中に入った理由は分からないんだよね?」
コブラ「そういう事。ここがどこの星かも分からないザマだよ。参った参った」
まどか・さやか・マミ・QB「… … …」
コブラ「…どうも俺は、会話教室に通ったほうがいいみたいだな」
コブラ「地球!?日本!?ここがか!?」
さやか「…本気でビックリしてるよ、この人…」
コブラ(この子らの反応を見るに、この星には星間交流の概念が無いようだが…ここが地球だってぇ!?俺の知っている地球とは随分違うぜ)
コブラ(見たところ、文明はかなり遅れて…いや、俺からすれば太古と言うに近いな、ここは)
コブラ(あのブラックホールの先は…過去の時代へと続いていたのか?…いや、それとも、この場所は…)
マミ「でも…仮にジョーさんが宇宙人だとすれば、あの魔女を倒した謎の攻撃にも何となく納得できるわ」
さやか「そうそう、アレ!あのレーザーみたいな光。どっから出てきたの?」
コブラ「あ、いやぁ魔法が苦手ってのは実は嘘でね。俺もちょっとした魔法みたいなものが使えるんだ。こう、念じて、ドバァーっ、と」
まどか「え、じゃあ本当に…契約して魔法を?」
QB「それは違うね。ボクの見る限り、彼はソウルジェムを持っていない。信じ難いけれど、生身の人間のようだ」
コブラ「そういう事。察しがいいね、そこの宇宙人は」
QB「!?」
まどか「ティヒヒ、ジョーさん。キュウべぇは宇宙人じゃないよ。…わたしにもよく分かんないけど」
コブラ「…へ?そうなの?」
QB「…」
マミ「それじゃあ、元いた世界と、今いる私達の世界、見滝原…ジョーさんは全く違う世界にきてしまったという事?」
コブラ「どうもそうらしい。しかも帰る方法が分からないときてるし、いやぁ参ったよ」
さやか「魔法少女の話の次は別世界からきた人、かぁ…。あははは、もうあたしチンプンカンプン」
マミ「…繰り返すようだけど、キュウべぇは本当にこの事については関与していないわけね」
QB「もちろん。わけがわからないのはボクも同じさ。ジョーの言う事が全て嘘とは思えないのも同意見だね」
コブラ(ブラックホールがレーダーにも反応せず、突然タートル号の前に現れるなんてのは明らかに不自然だった。あれは…誰かが俺をこの世界に呼び寄せるための意図だ。…誰かが俺を、ここに来させた)
まどか「それじゃあ、住む場所も無いわけですよね?…どうするんですか、これから」
コブラ「ん?あぁ、まぁ適当に考えるさ。生粋の旅行好きでね、どこでも寝れるのが自慢なんだ」
さやか「いや、そういう事じゃなくて」
コブラ「分かってますって。それじゃあ、俺もアンタ方の言う『魔法使い』になってみようかね?」
マミ「え?」
コブラ「行くアテがあるわけでもない、帰る方法も分からない…ともなれば、願いを叶えられるという魔法少女さんの傍にくっついてるのが一番出口に近いと俺は思うんだ」
マミ「魔法少女になるという事?」
コブラ「止してくれよ。マミの服はとってもキュートだがね、俺があんなの着たら蕁麻疹が出ちまうよ」
まどか(…想像しちゃった)
コブラ「見滝原とか言ったか。しばらくはこの辺りをブラブラさせて貰いながら、アンタら魔法少女の様子を見せてもらうよ」
まどか「…本当に大丈夫なんですか?あの、私、お母さんとお父さんに話して泊めてもらうように…」
コブラ「気持ちは嬉しいがね。年頃の御嬢さんがこんな男を家に連れ込んだら水ぶっかけられて追い出されるのがオチだよ」
マミ「私の家でもいいのよ、一人暮らしだし」
QB「マミ、ボクもいるんだけど」
コブラ「大丈夫大丈夫、心配ご無用。散歩が好きなんだ、気ままにフラフラしてるさ」
さやか「あたし達も、ジョーさんが何か元の世界に帰る手がかりみたいなの見つけたら教えるよ」
コブラ「有難いねぇ。いいのか?さやかだって色々忙しいだろうに」
さやか「あたしは… …大丈夫。マミさんを助けてくれたんだ、何か恩返しをしたいのはあたしもまどかも同意見!でしょ?」
まどか「うん。今度はわたし達が助ける番だと思うし」
コブラ「助かるぜ。…それじゃ、一旦この辺で失礼させてもらうよ。また会おう」
マミ「…ありがとう、ジョーさん。また会いましょう」
コブラ「レディーが俺を必要とするのなら、宇宙の果てからでも飛んで来るさ」
――― マミのアパート、入口。
コブラ「…さてと」ピッ
コブラ「レディ、聞こえるか。今どこにいる?」
レディ「ええ、聞こえるわよコブラ。今はタートル号に乗って太陽系をぐるりと回っているところ。あの場所から現実世界に戻った瞬間に、タートル号で外宇宙に飛んでみたの。…本当に、あなたのいる場所は地球のようだわ」
コブラ「だろうな。それで、元の世界に帰れそうな方法はあるか?」
レディ「残念だけれど…分からないわ。この世界に飲み込まれたブラックホールを探してはいるんだけれど、探知は出来ない。そちらはどう?」
コブラ「こっちも手詰まり。黒幕も何も分かったもんじゃない。…もっとも、あのキュウべぇとかいう生物は怪しいとは思うがね」
レディ「それじゃあ、あの子達の周辺をしばらく監視するの?」
コブラ「そうする。俺の直感ではこの事件には何かしら、かの女達が関係している。それに、女の子の傍にいるのは悪い気はしないからな」
レディ「呆れた。 …コブラ、何点か教えておきたい事があるのだけど、いいかしら?」
コブラ「よろしくどーぞ」
レディ「まず、私達が最初に辿り着いたあの場所。かの女達が『結界』と呼ぶ場所ね。分析したのだけれど、あの場所は言っていたように、現実世界とは少し次元の異なる場所のようね」
レディ「難しい話はしないけど、私達のいた世界にも例のない、亜空間よ。あの場所に何かしら、私達が元に戻れるためのヒントが隠されているかもしれないわ」
コブラ「ああ。俺はそのヒントを探しに、ここに残ってみる。しかし、どうやったらあの空間に入る事ができるのかが分からない。レディ、何かいい方法はないか?」
レディ「あるわよ」
レディ「『結界』のデータをタートル号のコンピューターで分析出来たの。あの空間の一定のエネルギー…かの女達なら『魔力』と呼ぶ未知のエネルギーを解析して、こちらのレーダーで感知できるようにしておいたわ」
コブラ「ほー、流石レディ。仕事が早くて助かるぜ」
レディ「ただ、その空間に直接入る事は出来ないのよ。空間を断裂してその内部に侵入する方法は私でも分からない。可能ならば、その内部に入る能力を持った魔法少女の後をついていくのが得策でしょうけど…」
レディ「単身で貴方が結界に入る方法がないわけでもないの」
コブラ「興味深いね。聞かせてくれるかい?」
レディ「あの結界を『テント』と考えてくれれば分かりやすいわ。一度開いたテントの中には、入口が見つからない限り不可能よ。…ただし、テントを開く場所さえ分かれば、貴方は結界の中に単身で潜り込めるわ」
コブラ「…なるほど。確かマミの話じゃあ、『グリーフシード』ってヤツが孵化する瞬間に魔女が生まれ、同時に結界がその場所に生じると言うが…」
レディ「そのグリーフシードの発する魔力のエネルギーのデータを、タートル号にインプットしたわ。つまり貴方が結界を張り、孵化をする前にその場所に立ってさえいれば」
コブラ「俺も晴れて、テントの中で楽しくお食事出来るってわけか」
レディ「そういう事。私とタートル号はしばらく地球周辺の宙域でそちらの探知をするわ。貴方の周辺に魔力が探知でき次第、リストバンドに位置を送る事が可能よ」
コブラ「了解。助かるぜレディ」
レディ「でも…単身で戦うのは十分気を付けたほうがいいわ。あの魔女という怪物がどれほどの力を持つものか、未だ分からない点が多いから」
コブラ「分かってますよ。…魔女狩りはかの女達の専売特許だ。あんまりやりすぎないようにはするさ」
レディ「それと…もう一つ、これは関係がないかもしれないのだけど…伝えておきたい事があるの」
レディ「…貴方と私が見た魔法少女…巴マミと言ったかしら。あの子が例の化け物と戦っているところを、タートル号のモニターで分析してみて、分かった事があるの」
コブラ「分かった事?」
レディ「かの女の身体から、生体が発生させるエネルギーが探知できないの」
コブラ「!?どういう事だ!?」
レディ「私にも分からない。ただ、人間が本来発生させるべきエネルギーが、かの女の身体からは検知できなかった。…ある一部分を除いては」
コブラ「一部分…?」
レディ「右側頭部の髪飾りの留め具部分。唯一、生体エネルギーがこちらで探知できた場所よ」
コブラ「…ソウルジェム。かの女達が魔法少女になるために必要な道具と言っていたが…」
レディ「そのソウルジェムの発生させるエネルギーが、抜け殻の巴マミを動かしていた…と言っても過言ではないわ。まるで…マリオネットのように」
コブラ(どういう事だ…?あの宝石は魔力の源…契約の証、としかマミからは教えられなかった)
コブラ(かの女はこの事実を知っているのか?いや、隠し事をしている様子は無かったし、そんな大事な物だと知っているのなら余計に伝えなければいけない事だ。…まさか、知らないのか?)
コブラ(…キュウべぇ、とか言ってたか。あの野郎、やはり食えないヤツみたいだぜ)
コブラ(しかし、こいつはまだ俺の中に仕舞っておいた方がいいな。…いつか、分かる日はくる。いきなりそれを知っても混乱を招くだけだ)
コブラ(その事実を知る時まで…俺がソウルジェムを、かの女達を守ればいい。それだけだ)
レディ「報告は以上ってところかしら。何か質問は?」
コブラ「あー…一つ心配事があるんだがね、レディ」
レディ「何かしら?」
コブラ「この国の通貨さ。酒もメシも食えないんじゃあ、魔法使いどころか動けもしないぜ」
レディ「ああ、そうね。…ごめんなさい、通貨については私も調べられないわ。ただ、タートル号に換金していない金塊があるから、どうにか売り払えれば不自由はしないはずよ」
コブラ「おー、そうだったそうだった!やっぱり持っておくべきはデキる相棒と資産だね、ハハハ」
レディ「ふふふ。夜が更けて人目が無くなったら、一度地球に降りて必要な物を渡す事にしましょう。…それじゃあね、コブラ。十分気を付けて」
コブラ「了解。そっちもよろしく頼むぜ」ピッ
コブラ「さて…色々分かった事は多いが、何から始めるかねぇ」
葉巻に火をつけて、一服をするコブラ。
コブラ「…先は長そうだな。それじゃあまず…軽い運動でもしてきますか」
――― 一方、ほむらの家。
ほむら(私は…数えきれないほどの時間を、繰り返し、やり直してきた。その度…あの夜を越えられず、また同じ時間を巻き戻しをして…)
ほむら(巴マミ、美樹さやか、佐倉杏子…そして、私と、まどか)
ほむら(それぞれの時間に、それぞれの運命が存在し、違った展開を見せていた。…それでも、まどかを助けられる時間軸は、まだ見つからないのだけれど)
ほむら「…ジョー・ギリアン…」
ほむら(あんな男が存在する時間なんて、今まで一度も無かった。…私の存在を皆が覚えていないように、彼の事を知っている人物もいない。…インキュベーターでさえも知らないようだった)
ほむら(私と同じ…いいえ、彼自身、自分がこの世界に何故来たのかを知らないのだとすれば、完全なるイレギュラーの存在)
ほむら(この繰り返す時間の中に投じられた、一つの駒。…でも、それがどんな影響をもたらすのか未だに分からない)
ほむら(…巴マミは、あそこで死んでいてもおかしくなかった。彼の存在が、もし…魔法少女を救うために、運命を変えるために、あるのだとすれば…)
ほむら(この先…まどかと私の運命…『ワルプルギスの夜』も…)
ほむら「…倒せるというの?」
――― 見滝原から少し離れた場所。その結界内部。
結界内部は、さながら巨大な書物庫のようであった。幾つもの小さな本が飛び交い、交差する。その本達はどれも手足が生え、笑いながら飛んでいた。
その中央に佇む『辞典の魔女』は結界内の侵入者に攻撃を続けている。
自らのページを開き空間内に文字を具現化させ、弾丸のようにそれらを高速で目的に飛ばし、コブラを攻撃するのだった。
コブラ「どわぁぁっ!っと、っと!うひぃぃーっ!」
叫び声をあげながら結界内を駆けまわり、次々と繰り出される文字の弾丸を避けるコブラ。
コブラ「ったく、活字アレルギーになりそうだぜ!悪趣味な攻撃してくれちゃって」
言いながら左腕のサイコガンを抜き、膝をついた体勢で止まり、『辞典の魔女』へ向けて銃口を構える。
コブラ「さあ、撃ってきな。相手してやるよ」
辞典の魔女「!!」
止まった目標に向け、今まで以上の頻度で文字の弾丸を打ち続ける魔女。
ドォォォォ―――ッ!!
だがその攻撃の全てはサイコガンの連続放射で防がれ、それらを貫いた光は本体である辞典の魔女へと向かっていく。
辞典の魔女「!!!」
攻撃を受けたせいか、一瞬魔女の攻撃が怯み、動きが止まる。その隙にコブラはにぃ、と笑って立ち上がり、サイコガンに意識を集中した。
コブラ「喰らえーーーッ!!」
威力の高い、精神を集中させたサイコガンの一撃は辞典の魔女の瞳を貫く。
崩れるように地面に落ちていく巨大な本。その姿に背を向け、コブラは静かに左手の義手をつけた。
コブラ「っとぉ!」
魔女が倒れた事を現す結界の解除。元の世界に戻ったコブラの手にはグリーフシードが握られていた。
コブラ「こいつがグリーフシードか。…しかし、こいつ一つ手に入れるのにも相当苦労するもんだな、一筋縄じゃいかなそうだ」
手にしたグリーフシードを掌の上で転がしながら、呆れたように見つめる。
コブラ「それで…何か用かい。こそこそ隠れてないで出てきたらどうだ」
静かにそう言うコブラの後ろ。ビルの物陰から、ひょっこり姿を現すキュウべぇ。
QB「君の目的を知りたくてね。少し観察させてもらっていたのさ」
コブラ「そりゃ光栄だ。先生は今の戦いに、何点をつけてくれるのかな?」
QB「君は一体何者なんだい?契約もしていないのに魔女と戦う力を有する存在…。魔法少女である暁美ほむらもそうだけれど、君はそれ以上にイレギュラーな存在だね」
QB「何よりも、君は何故魔女を倒すんだい?ソウルジェムを持たない君にとっては、無意味そのものの行為であるはずだよ」
コブラ「…無意味ねぇ」
コブラ「…ソウルジェム、っていうのは願いを叶えてくれる魔法の宝石。そんな風にかの女達は思っているかもしれないが…」
コブラ「だが、このグリーフシード、ってヤツは…そんなメルヘンチックなもんじゃないね。あんな化け物の身体から出てくるんだからな」
QB「何が言いたいんだい?」
コブラ「俺は宝石にはちょいと五月蠅くってね。いやー、なかなかこのグリーフシードとソウルジェム…似ていると思ってさ」
QB「…」
コブラ「ひょっとしたらこいつを持っていたら俺の願いが叶って元の世界に戻れる手がかりになるかも…なぁーんてね」
QB「説明はマミから受けたはずだよ。グリーフシードはソウルジェムの穢れを吸い取る存在だと」
コブラ「分かってるよ。ま、折角この世界にきた記念だ。お土産の一つに貰っておこうと思ってさ」
QB「わけがわからないよ。君の存在は、暁美ほむら以上に理解不能だ」言いながら立ち去るキュウべぇ。
コブラ「…へっ」
葉巻を口から離し、紫煙を吐くコブラ。月を見上げながら、不適な笑みを浮かべる。
その顔には、どんな運命にも立ち向かう、自信のような感情が溢れていた。
―― 次回予告 ――
青春ってのはいいねぇ。男と女、色恋沙汰っていうのはどこの世界でもあるもんだ。
ここは恋という分野で宇宙一と言われるコブラ教授の出番ってワケ。他人の恋愛に首突っ込むのはあんまり好きじゃないんだが、ここは恋のキューピッドになってやろうじゃないの。
だが一方で次々と事件が起こりやがる。妙な赤い魔法少女が俺に斬りかかるの、まどかとその友達が魔女に襲われるので忙しいったらないよ全く。
どの世界でも、モテる男ってのは辛いもんだねぇ、ほーんと嫌になっちまうぜ。
次回【魔法少女vsコブラ】で、また会おう!
恭介「さやかは、僕を苛めてるのかい?」
さやか「え?」
恭介「何で今でもまだ、僕に音楽なんか聴かせるんだ…。嫌がらせのつもりなのか?」
さやか「だって…それは、恭介、音楽好きだから…」
恭介「もう聴きたくなんかないんだよ!」
恭介「自分で弾けもしない曲、ただ聴いてるだけなんて」
恭介「僕は…僕は…っ!ああ!!」
さやか「!!」
聞いているCDに向けて振り下ろされる、恭介の腕。
瞬間、その腕を掴み、それを止める別の手があった。
コブラ「やめときなよ。そいつを壊したら、アンタはもっと大事なものを壊しちまう」
まどか「ヒューッ!」
第2話「魔法少女vsコブラ」
――― 少し前、夕刻、巴マミ家。
コブラ「いやー、お茶に続いて夕メシまで御馳走になるってのは、嬉しいもんだ。おまけにお誘いが美女からとあっちゃあね」
マミ「うふふ。…もう少しで出来上がるから、冷たい紅茶でも飲んで待っててね」
コブラ「どーも。…しかし、いつもマミは一人の食事かい?若いんだし、寂しいんじゃないかな」
マミ「あら、そんな事ないのよ。キュウべぇは…今日は出かけているみたいだけれど。最近は、鹿目さんや美樹さんが来る事も多いし…今日はジョーさんがご一緒してくれるから腕の振るいようがあるわ」
コブラ「たはは、美女にモテるってのはいつの時代も悪くないもんだねぇ」
コブラ(そろそろジョーって呼ばれるのも止めさせたいところだけど…仕方ない、か)
コブラ「しかし今日は俺だけ。その、まどかやさやかは何か用事かい?」
マミ「ええ、鹿目さんは、今日は何か用事があるみたい。美樹さんはいつものところみたいね」
コブラ「いつもの?」
マミ「言ってなかったかしら。彼女、幼馴染がいるんだけれど…その人の所に毎日のように通っているの。今は丁度その時間だから」
コブラ「ちぇー、毎日いちゃいちゃ、楽しい時間ってわけか」
マミ「そういう訳じゃないのよ。…もっと深刻な理由なの、彼女の場合は」
コブラ「不慮の事故で手を動かせなくなった悲劇の天才ヴァイオリニスト…ね」
マミ「上条恭介くん、って言うんだけれど…美樹さんは毎日彼のお見舞いに行っているのよ。…献身的よね、事故以来、ずっとらしいわ」
コブラ「惚れてるのかい」
マミ「ふふ、どうかしら?…まぁ、彼に対する美樹さんの思いが誰よりも強いのは確かだと思うわ」
コブラ「だったら、余計にハッキリさせないといけないね。女の一途な思いってのは、なかなか男には理解されないもんだぜ」
マミ「そういうものかしら」
コブラ「そうとも。…よぉーし、マミの夕メシが出来る前に、俺がいっちょ恋の指導に行ってやるかぁーっ」
マミ「…二人の邪魔にならないかしら?」
コブラ「大丈夫大丈夫!そういう色恋の問題は宇宙一、俺が経験してるのさ。先輩として教育してきてやらなきゃあな」
マミ「…ジョーさん、貴方…」
マミ「酔ってるのね」
コブラ「へへへ、この世界のカクテルも悪くない味でね。つい昼間から」
マミのアパートから出て、教えられた病院の場所へ上機嫌で歩んでいくコブラ。
コブラ「オーマイダーリン オーマイダーリン~ …♪ … …んん?」
コブラ「ありゃあ…まどかと…ほむらと言ったか。あんなところで何してるんだ?」
ほむら「まだ貴方は、魔法少女になろうとしているの?まどか」
まどか「…それは…まだ、分からないけど…でも、やっぱり…あんな風に誰かの役に立てるの、素敵だな、って…」
ほむら「…私の忠告は聞き入れてくれないのね」
まどか「ち、違うよ!ほむらちゃんの言ってる事も分かるよ!とっても大変で、辛くて、危ない事も分かってるの!」
まどか「この前だって…マミさん、あんなに戦い慣れしてるのにすごく危なかったって、分かってるから…」
ほむら「…」
まどか「…ねぇ、ほむらちゃんはさ」
まどか「魔法少女が死ぬところって…何度も見てきたの?」
ほむら「…」
ほむら「ええ。数えるのも諦めるくらいに」
ほむら「この前の巴マミの戦い…もし、あの男の介入がなければ、彼女も死んでいたのでしょうね」
まどか「魔法少女が死ぬと…どうなるの?」
ほむら「結界の中で死ぬのだから、死体は残らない。永久に行方不明のまま…それが魔法少女の最後よ」
まどか「そんな…」
ほむら「そういう契約の元、私達は戦っているのよ。誰にも気づかれず、忘れ去られる…魔法少女なんてそんな存在なの。誰にも見えず戦い、感謝もされず、散っていく」
ほむら「それでも貴方は、キュウべぇと契約をするつもりなのかしら。…貴方を大切に思う人が、身近にいるのだとしても」
まどか「… … …ぅ…」
ほむら「誰かのために魔法少女になりたいと言うのなら、誰かのために魔法少女にならない、という考えが浮かんでもいいはずよ。それを忘れないで」
まどか「… … …分かった」
ほむら「そう、良かったわ」
まどか「…ほむらちゃん!」
踵を返し、立ち去ろうとするほむらの背中にまどかが声をかける。
ほむら「何かしら」
まどか「…ありがとう。私の事…いつも、心配してくれて…」
ほむら「… … …(ホムホム)」
立ち去るほむら。
コブラ「…おっかないだけの子だと思ってたけど、どうも俺の見当違いだったかな」
道端に隠れていたコブラは、ひょっこりと顔を出して笑った。
まどか「!い、いたんですか」
コブラ「偶然。たまたま居合わせちゃってね、失礼だったかな」
まどか「…だ、大丈夫です。それより、どうしたんですか?こんな所で」
コブラ「いや、なぁに、恋に悩める純朴な少女がいると聞いてね。人生の先輩としてアドバイスに馳せ参じようとしている最中さ」
まどか「…え?」
コブラ「つまり俺は恋というプレゼントを運ぶサンタクロースってわけ」
まどか「わけがわからないよ」
まどか「えぇ!?さやかちゃんと恭介くんの応援に行く…って…」
コブラ「そういう純真な恋はさ、誰かが肩を押さなくちゃ駄目なんだよ!というわけでまどか、俺を病院まで案内してくれ」
まどか「そ、そんな…邪魔になっちゃいますよ…」
コブラ「いいから!さぁ、案内してくれ我が愛馬よ!」
まどか「… … …さやかちゃんの邪魔だけはしないでくださいね。いつも静かに音楽とか2人で聞いてるみたいなんですから」
コブラ「邪魔なんてするかっ。俺に任せておけっての」
まどか「…分かりまし…ウェヒッ!ジョーさん…お酒、飲んでません?」
コブラ「だはははー!こんなの飲んでるうちに入らない入らない。さ、病院まで頼むぜ」
まどか(…さやかちゃんに後で怒られませんように…)
コブラ「ここが彼の病室か」
まどか「はい」
コブラ「どれ、それじゃあ早速」
まどか「ま、まままま、待って!…駄目ですよ、いきなり入っちゃあ!さやかちゃん、今頑張ってるかもしれないんだし!」
コブラ「…頑張ってる?」
まどか「そうですよ。その…あの…恭介くんと、えっと…い、いい感じになってるかもしれないし…」
コブラ「… … …」
コブラ「どうもそういう感じじゃなさそうだぜ、まどか」
まどか「え?」
耳を澄ませろ、とジェスチャーをするコブラ。
病室からは、微かに怒号のような叫び声が聞こえてきた。聞いたことのないような、悲しい叫び声が。
まどか「あ…」
コブラ「乗り込むぜ」
恭介「もう聴きたくなんかないんだよ!」
恭介「自分で弾けもしない曲、ただ聴いてるだけなんて」
恭介「僕は…僕は…っ!ああ!!」
さやか「!!」
聞いているCDに向けて振り下ろされる、恭介の腕。
瞬間、その腕を掴み、それを止める別の手があった。
コブラ「やめときなよ。そいつを壊したら、アンタはもっと大事なものを壊しちまう」
まどか「ヒューッ!」
さやか「!?ジョーさん!?それに…まどかも!」
まどか「あ…。…う…ご、ごめん、さやかちゃん…」
恭介「…ッ!!離せよ…離してくれよ!」
コブラ「この手を離してアンタのバイオリンが聞けるなら喜んで離すがね。誰かを傷つけるために振り下ろされる手なら、俺はあの世の果てまで離すつもりはないぜ」
恭介「…ぐ…ッ!…うぁぁぁ…ッ!くそぉ…ッ…!」
拳から力が抜けたと分かったコブラは、恭介の腕を解放した。
涙を流しながら、誰かに訴えるように語り始める恭介。
恭介「諦めろって…言われたんだよッ…!今の医学では治らないなら…バイオリンはもう…諦めろって…ッ!」
さやか「…そんな…」
コブラ・まどか「… … …」
恭介「もう一生動かないんだよ、僕の手は…!奇跡か魔法でもない限り… …!」
… … …。
場を重苦しい沈黙がしばらく流れる。
すると、さやかがゆっくり、静かに言う。
さやか「…あるよ」
コブラ・まどか「…!」
さやか「奇跡も、魔法も…あるんだよ」
――― 一方。
杏子「…それで?アンタは何が言いたいのさ」
QB「行動は急いだほうがいいという事さ。この前、杏子の縄張りの魔女を倒したのは彼だよ」
杏子「…!マジかよ。随分ナメた真似してくれるじゃんか」
QB「ボクでさえ、彼がどんな素性で何を目的をしているかはさっぱり分からない。勿論、どうするかは杏子の自由だけど、何かが起きてからでは遅いからね」
杏子「…ジョー・ギリアンとか言ったか?おかしな名前しやがって。…上等じゃないのさ」
QB「どうするんだい?杏子」
杏子「確かにムカつく話だね。ちょいとお灸をすえてやった方がよさそう、っていうのは同意見」
杏子「見滝原…あそこはマミの縄張りだったね。前々から魔女の発生頻度が高かったから縄張りをそっちに移そうと思ってたんだけど…」
杏子「丁度いいじゃん。…マミも、ジョーとかいう男も、まとめてぶっ潰せばあそこのグリーフシードはアタシのものになる」
QB「気を付けてね、杏子。あそこには、更にもう一人、イレギュラーな魔法少女もいるから」
杏子「ふん。退屈しなくて済みそうじゃん。ほんじゃあ、行きますか」
QB「今夜かい?」
杏子「急かしたのはお前だろ?…まずは、アタシの縄張りを荒らしたヤツ」
杏子「ちょいとお仕置きが必要だからね」
さやか「ごめんね…二人とも。変なトコ見せちゃって」
さやか「こんな事言うの失礼なのは分かってる。…でも、今日は帰ってくれないかな」
さやか「怒ってるわけじゃないの。…むしろ、感謝してる。ジョーさんが止めなければ、恭介きっと、怪我してたから」
さやか「なんていうか…あたしも、ちょっとだけ…考える時間、欲しいの」
さやか「…ありがとう。…ごめんね」
・
まどか「…大丈夫かな、さやかちゃん。やっぱり、無理にでも一緒に帰ったほうが…」
コブラ「ああいう時は、一人でじっくり考えるもんさ。誰にだって落ち着いて考える時間は必要だ」
まどか「…そう、なのかな…。わたしがもっとちゃんと、二人の事フォローできれば… …っ!?」
言い終わらない内に、まどかの頭にポンと左手を乗せるコブラ。
コブラ「まどか。そうやって何でもかんでも自分のせいにするクセ、おたくの悪いクセだぜ」
時間が止まったかのように、黙る二人。しばらくすると、まどかはポロポロと噛み殺していた涙を流し始める。
まどか「… …ぅっ、くっ…!だ、だって…!さやかちゃん、かわいそうでっ…!あんなに、あんなに頑張ってるのにっ…!わたし、何もできなくて…っ!」
コブラ「泣くなよ、まどか。人は、涙を流すから悲しくなるんだぜ」
パチ パチ パチ。
二人の前に、拍手をしながらゆっくりと現れる人影。その口には棒状のチョコレート菓子を銜えている。
杏子「名演説だね。感動してアタシも泣いちゃうくらいだよ」
そういう杏子の表情は、憎悪に満ちた薄ら笑いだった。
まどか「…っ!だ、誰…?」
コブラ「そいつはどうも。なんならカフェでお茶でもしながらゆっくり語りあおうか?」
杏子「遠慮しとくよ。それに…生憎そんな気分じゃないんだ」
言いながら、赤いソウルジェムを見せびらかすように取り出し、不適に笑う杏子。
まどか「…!ソウルジェム!?」
そしてそれを使い、魔法少女へと変身する杏子。
出現した巨大な槍を演舞のように振り回し、それを終えて槍を前に構えた戦闘態勢へと移る。
杏子「アタシの縄張りを荒らしてくれるなんて、ナメた真似してくれるじゃん。…ジョー・ギリアン!」
コブラ「…やれやれ、夕メシの時間には間に合いそうにないなこりゃあ」
まどか「あ、あ…っ!」
コブラ「まどか、すまないが、先に帰ってマミに夕飯に少し遅れると伝えておいてくれないか」
コブラ「冷めたカレーライスは好きじゃないから、暖かいうちに帰るつもりだがね」
杏子「その余裕…ぶっ潰してやるよッ」
コブラ「急げ、まどかっ!巻き込まれるぞ!」
まどか「…っ!は、はいっ!!」
まどかが走り出すと同時に、杏子がコブラに向けて一気に距離を詰め、槍を振り下ろす。
杏子「でゃああああッ!!はぁッ!うおりゃあッ!」
コブラ「うおっ、とぉっ!ほっ!よっ!」
閃光のような素早い攻撃を次々と避けるコブラ。
コブラ「熱烈なアプローチだなこりゃあ!だがもう少し女の子らしいほうが好みなんだがね!」
杏子「残念だったな!アタシはそんなにおしとやかじゃないんだよッ!」
まどか「早く…早く、マミさんかほむらちゃんに助けを求めないとっ…!」
まどか「このままじゃジョーさんが…!」
急いで、マミのアパートまで走るまどか。
だがその瞬間、信じがたいものを見てしまう。友人である志筑仁美が、何かに憑りつかれたようにフラフラと歩く、その姿を。
まどか「…!ひ、仁美ちゃん!?」
仁美「あら、鹿目さん…御機嫌よう」
まどか「こんな時間に何してるの?お、御稽古事は…!?こっちの方向じゃないでしょ?どこに行こうとしてるの…!?」
仁美「うふふふ…」
仁美「ここよりもずっと、いい場所ですのよ」
まどか「…!」
仁美の首筋にある、魔女の口づけの印。そしてその刻印は、気付けば仁美の周りにいる生気のない人間達のほとんどについているのだった。
まどか「そんな…こんな時に…!?ど、どうすれば…!」
彷徨うようではあるが、確実にある場所に向かう、仁美をはじめとした集団。
放っておくわけにもいかず、まどかはその後についていくのだった。
まどか(あああ、ど、どうしよう…!)
まどか(わたしのバカ!マミさんの番号も、ほむらちゃんの番号も聞くの忘れてたなんて…ッ!)
まどか(仁美ちゃんも放っておくわけにいかないし…ジョーさんも…っ!いくら強いからって魔法少女が相手じゃ、どうなるか…!)
そんな考え事をしているうちに、集団はいつの間にか小さな町工場に辿り着く。
町工場の工場長「俺は、駄目なんだ…。こんな小さな工場一つ満足に切り盛りできなかった。今みたいな時代に…俺の居場所なんてあるわけねぇんだよな」
まどか「!!」
まどか(あれ…洗剤…!)
詢子「―――いいか?まどか」
詢子「―――こういう塩素系の漂白剤には、扱いを間違えるととんでもないことになる物もある」
詢子「―――あたしら家族全員、毒ガスであの世行きだ。絶対に間違えんなよ?」
まどか「…っ!駄目!それは駄目!皆が死んじゃうよ!」
まどかを優しく、包むように止める仁美。
仁美「邪魔をしてはいけません。あれは神聖な儀式ですのよ。…私達はこれから、とても素晴らしい世界へ旅立つのですから」
コブラ「うおおっと!!」
杏子の渾身の一薙ぎを上空に跳躍して避けるコブラ。真上にあった電信柱の出っ張りを掴み、杏子の攻撃範囲から逃れる。
コブラ「ち、ちょっとタンマ!あんたの縄張りに入ったのは謝るからさ、もう許しちゃくれないかね!平和的に行こう!」
杏子「…へっ、ちったぁ懲りたかい」
コブラ「懲りた懲りた、大反省!俺もうなぁーんにもしないから!」
杏子「…そうかい、それじゃあ…。… … …なんてねっ!」
杏子「生傷の一つもつけないで帰すなんて、アタシの腹の虫が収まらないんだよッ!」
そう言って、コブラの掴まる電信柱を斬る杏子。
コブラ「!!どわあああっ!?」
切り落とされ下に落ちる電信柱と一緒に、コブラも地面に叩きつけられるように尻餅をつく。
コブラ「いちちち… …って、のわぁぁぁあっ!?」
杏子「くらえええーッ!!!」
瞬間、それを見計らっていた杏子はバランスを崩して座り込んでいるコブラの頭上へ、槍を振り下ろす。
ガキィィィィンッ!!
振り下ろされた槍は…。
杏子「… …ッ!なんだと…っ!?」
コブラの左腕に食い込み、血の一滴も流さずに止まっていた。
杏子「…くっ!」
その異常な事態に杏子は素早くバックステップをして、コブラの様子を伺うように構える。
杏子「てめぇ、その左腕…何者なんだ…!?」
コブラ「…身体がちょいと頑丈なもんでね。特に俺の左腕はな」
にやっと不敵に笑い、ゆっくりと立ち上がるコブラ。葉巻にライターで火をつけながら、身体についた埃を払う。
コブラ(…とはいえ、こいつはちょっとまずいな。手加減をして戦ってどうにかなるもんじゃないらしいね、魔法少女ってヤツは)
コブラ(だからって素性の知れない魔法少女にサイコガンを使うわけにはいかない…。女を殴るのは俺の主義じゃない…参ったね、お手上げだ)
コブラ(…こうなりゃあ…『アレ』でいくしかないか)
コブラ「仕方ないな、こうなりゃあ俺の奥の手を見せてやるぜ」
杏子「…ほー、楽しめそうじゃん。何をしてくれるんだい?」
コブラ「…驚くなよ?」
槍の刃の音を鋭く鳴らす杏子に対し、コブラは葉巻を杏子の方へ投げ捨てると…。
コブラ「これが俺の奥の手…逃げるが勝ちだぁーッ!!」
瞬間、猛然と走り出して杏子の隣をすり抜けるコブラ。
杏子「…!!??て、てめぇ!待ちやが…っ!?」
その時、杏子の近くに投げ捨てられた葉巻が閃光のように眩い光を一瞬放つ。
杏子「うおおっ!?」
5秒ほどそれは辺りを照らす。次に杏子が目を開けた瞬間、そこにコブラの姿はなかった。
杏子「…くっ!逃げられた!…あのヤロー、あの腕といい、ただ者じゃないなやっぱ…!」
杏子「…でも、このままじゃ済まさねぇからな、絶対…!」
まどか「…!離してッ!!」
仁美の手を振り切り、洗剤の入ったバケツに猛然と走るまどか。それを掴みとると、勢いよく窓の外へ投げ捨てる。
まどか(…よ、よしっ!これでひとまず安心…)
しかし、その行動をしたまどかに向けられる…恨むような人々の視線。
まどか「…え…」
群衆「あぁぁああぁぁぁああああっ…!!」
まるでゾンビが血肉を求めるようにまどかへ襲い掛かる群衆。
まどか「きゃあああああっ!!」
襲い掛かる群衆から逃げ、急いで側にあった物置に逃げ込むまどか。
まどか「ど、どうしよう…どうしようっ…!やだよ…誰か、助けて…っ!」
その瞬間。
まどか「…ッ!!」
まどかの周りに広がる、魔女の結界。それと同時に…窓の割れる音が、微かに聞こえた。
テレビのようなモニターや、使い魔や、木馬がまるで水中のように浮遊する空間。その空間内に、まどかも同じように浮遊していた。
モニターに映し出されるのは、まどかが今まで見てきた、魔法少女の戦いの光景。
まどか(これって…罰なのかな)
まどか(わたしがもっとしっかりしてれば…さやかちゃんも、仁美ちゃんも、ジョーさんも…もっとちゃんと、助けられたのに…)
まどか(だからわたしに、バチがあたったんだ)
その自責の念はまるで声のように結界内に響き渡る。
気付けば、まどかの手足をゴムのように引っ張る、翼の生えた不気味な木製人形達。四肢を引き千切ろうと、徐々にその力は増されていく。
まどか(わたし…死んじゃうんだ…ここで…っ!う、ぐっ…!)
まどか(痛いよ、苦しいよ…っ!)
まどか(もう…嫌だよっ…!!)
その時、まどかの四肢を引っ張る四人の『ハコの魔女の使い魔』が次々に光の波動に消された。
まどか「…!!」
まどか「…ジョーさん!」
コブラ「結界が張られる前に窓に飛び込めて良かったぜ。バラバラになった美少女なんざ、地獄でも見たくないからな」
まどか「… …!!ひ、左手が…ジョーさんの、左手が…!」
まどかが見た、ジョー・ギリアンの姿。
硝煙をあげるその銃口は、本来あるべき左腕の場所にあった。見たこともない、異形の銃。まるでそれは身体の一部のように当たり前にそこにあるようだった。
コブラはまどかの前に立ちはだかり、背中を向けながら語る。
コブラ「…まどか、俺も一つ、罰を受けなきゃいけないのかもしれないな」
コブラ「俺はあんたらに嘘をついていたんだ」
まどか「嘘…?」
コブラ「一つは、俺はしがないサラリーマンなんかじゃないって事」
コブラ「一つは、俺は宇宙観光の最中なんかじゃなかったって事…」
コブラ「そして…最後の一つ、俺の名前はジョー・ギリアンじゃないって事だ」
コブラが喋っている間に、魔女の使い魔は次々とコブラとまどかを襲おうとする。
しかし、それらの全てはサイコガンの連射で次々と撃ち抜かれ、一つとして外されることはない。
まどか「…それじゃあ、あなたは…?」
コブラ「俺は…別の世界では、海賊をしていた。宇宙を流れ星のように駆けながらお宝を見つけ、糧にしていた一匹狼の海賊さ」
コブラ「俺には、一つの名があるんだ。…それは」
まどか「それは…?」
サイコガンに、コブラの精神が集中される。銃口が淡く光り、鋭い、サイコエネルギーをチャージする音が聞こえた。そしてコブラは目を見開き、叫ぶ。
コブラ「俺の名はコブラ!不死身の…コブラだぁーーーッ!!」
ドォォォォォ――――ッ!!!
まるで大砲の砲撃のようなサイコガンの一撃が、放たれた。
サイコガンの高められた精神エネルギーの光は、使い魔達を焼き払い、その本体であるモニターに隠れた『ハコの魔女』をも爆破した。
そして、結界が解け元の物置に戻るコブラとまどか。
コブラは目を閉じて微笑みながら、左腕の義手をサイコガンに被せる。
まどか「… … …」
コブラ「今まで黙っててすまなかった。だが、見知らぬ世界で俺の正体をペラペラ喋るわけにもいかなくてね。何せ、あっちじゃあ俺の首を狙ってる奴がごまんといるからな」
まどか「ジョー…じゃなくって、コブラ…さん?」
コブラ「そ。…まぁ、色々語るのは後だ。少し急ぎたいんでね」
まどか「…まだ、何かあるんですか?」
コブラ「ああ、急ぎの用がある。まどかも一緒にきてくれ、重大な事だ」
まどか「… … …」
まどかが緊張した面持ちでコブラをじっと見ると、コブラはにっこりと笑って駆け出す。
コブラ「早くしないとマミのカレーが冷めちまうんだよーっ!俺ぁ疲れて腹が減って死にそうなんだーっ!」
まどか「… … …へ?」
呆然とするまどかを後目に、物置から急いで出ていくコブラ。
まどか「ま…待ってください!ひ、仁美ちゃんは!みんなはーっ!?わたし一人じゃどうすればいいか分からないよーっ!ねぇ、コブラさーーーーんっ!!」
まどかの声は、空しく、町工場の中に響くのだった。
―― 次回予告 ――
さやかが魔法少女になっちまった!俺やまどかとしては複雑な気持ちだが、さやかには何よりも叶えたい願いがあるんだとさ。
健気な少女の願いは受け止められ、一人の戦士が誕生する。まー、男を守る女ってのは俺はあまりお勧めできないんだがね。ここは良しとしてやろうっ。
だが綺麗な事ばっかりじゃないみたいだね。暁美ほむらに、謎の赤い魔法少女。そしてもう一人、俺の事を追っかけてくる輩もいるみたい。
相変わらず俺が元の世界に戻る方法も分かんないわ、もーいい加減にしてくれってんだ!
次回【忍び寄る足音達】で、また会おう!
第3話「忍び寄る足音達」
――― 巴マミ家。早朝に訪れたさやかを、マミは快く受け入れた。
テーブルに置かれた、2人分の紅茶とお茶菓子。マミは静かに紅茶を飲むとテーブルに置き、優しく言う。
マミ「…そう。決心、したのね…美樹さんは」
俯いていたさやかはゆっくりと顔をあげ、強い意志の宿った瞳でマミを見つめる。
さやか「…うん。あたし、もう迷わない。…でも、契約をする前にマミさんに伝えたほうがいいかなって」
マミ「そうね。…とても嬉しいわ。私が言うのも何だけど、美樹さんは少し慌てん坊さんだから…ふふふ」
さやか「あはは、バレてましたかー」
マミ「…願い事は、やっぱり上条君の事かしら」
さやか「… … …はい」
マミ「…そこまで決心したということは、どうしても叶えたい願いなのね。後悔しない、確固たる決心が」
さやか「…昨日、まどかとジョーさんが、恭介の病室に来てくれたんです。恭介、もう自暴自棄みたいになってて、暴れようとして…」
さやか「あたし、もうその時自分でもワケわかんなくなっちゃって、いっそ今すぐキュウべぇと契約すればこんな恭介見なくて済むって考えちゃってた」
さやか「でも…ジョーさんが、恭介を止めてくれらから。だからあたしも、恭介と同じように、少しだけ落ち着けた」
さやか「あたしは、ずっと一人で恭介の事考えてるんだと思ってた。でも…実際は違ったんですね。マミさん、ジョーさん、まどか…みんな、心配してくれてるんだ、って」
さやか「だから仮にあたしが魔法少女になっても、心細くなんてない。…戦い続けられる。そう思ったんです」
マミ「…そう。私も、鹿目さんと美樹さんに出会うまでずっと一人だと思ってたから、よく分かるわ」
マミ「一人ぼっちで戦って、悩むのって…すごく苦しくて、悲しくて、辛い事」
マミ「…魔法少女になる前に私に言ってくれてありがとう、美樹さん。…全力で、あなたのサポートをするわ」
QB「話は終わったかな。それじゃあさやか、契約をしよう」
さやか「…うん」
マミ「…あ、そうそう。美樹さん、一つだけ訂正しておく事があるの」
さやか「…?え?」
マミ「あの人『ジョー・ギリアン』さん。本当の名前は違うらしいの。…「俺の名前は『コブラ』だ」って。昨日、あの後教えてもらったわ」
さやか「…はは、やっぱり変な名前じゃん」
マミ「私達は、仲間。…辛い時は一人で背負いこんだり、嘘や隠し事はしないで、みんなで助け合いましょう」
さやか「… … …うんっ!!」
QB「それじゃあ、さやか。君の願いを言ってごらん」
さやか「あたしは――― 」
さやかを包み込む光。そして生まれる、新たなソウルジェム。
レディ「おかえりなさいコブラ。出張はどうだったかしら?」
コブラ「もう最高だね。魔女はうじゃうじゃ湧いてるわ、魔法少女には因縁つけられるわ、退屈って言葉が懐かしいくらい」
タートル号内。
人目につかない丘でレディと待ち合わせたコブラは、一旦タートル号で外宇宙へと飛び立った。
レディ「…?これは?」
レディにグリーフシードを一つ手渡すコブラ。
コブラ「相棒にプレゼントさ。大事にしてくれよ」
レディ「まぁ、ありがとう。…どうせならもっと綺麗な宝石がいいのだけれどね、フフ」
コブラ「そいつはまた後でのお楽しみ。とにかく、そいつをタートル号の方で解析しておいてくれ。何か分かるかもしれん」
レディ「オーケー。それじゃ、朝食だけでも食べて行く?用意しておいたのよ」
コブラ「ワオ!嬉しいねぇ、ここんところレディの手料理が恋しくって恋しくって!」
レディ「その割には、マミとかいう子の家で随分と嬉しそうに御馳走になっていたようだけれど?」
コブラ「…ははは、こいつぁ厳しいや」
仁美「ふぁぁぁ…」
仁美「…!やだ、私ったら、はしたない」
まどか「仁美ちゃん、眠そうだね」
仁美「なんだか私、夢遊病というか…昨日気が付いたら大勢の人と一緒に倒れていて。それで病院やら警察やらで大変だったんですの」
まどか「…それは、大変だったね」
まどか(救急車呼んだのもパトカー呼んだのもわたしなんだけどね…。…もうっ!ジョーさん…じゃ、なかった、コブラさんが行っちゃうから…)
まどか(ふぇぇ…わたしも眠くて死にそうだよ…)
仁美「…ところで、さやかさんはどうしたのでしょう?まだ学校に来ていないみたいですけれど…」
まどか「…うん。何かあったのかな…さやかちゃん」
仁美「毎日元気に登校していましたのに…おかしいですわ」
まどか(…まさか、何かあったんじゃ…!)
和子「はーい、みんな揃っているかしらー?それじゃあ朝のHRを…」
さやか「ごめんなさーーーいっ!!遅刻しましたーーーっ!!」
和子「!!!」
早乙女先生が教室に入ろうとした矢先、後ろから大慌てで来たさやかが前にいた先生に気付かず教室内に突進してくる。
その体当たりを食らった先生は、衝突事故のような勢いで黒板に頭からぶつかるのだった。
さやか「…あ」
まどか「…あ」
和子「… … …」
和子「美樹さんはいつも、とっても元気ねぇ…?…先生も、とっても、嬉しいワァ…」ニコニコ
そう言いながら満面の笑みを浮かべる先生の背後には、ドス黒いオーラが禍々しく煙をあげていた。
さやか「ぎゃあああああああああ!!すいませんすいませんすいませんーーっ!!」
まどか(…良かった、いつも通りのさやかちゃんだ…)
そして、昼。各々の生徒が昼食を持ち、それぞれの食事場所に分散していく。
さやか「ね、仁美。顔色悪いし、お昼は保健室借りて休んでれば?少し寝たほうがいいよ」
仁美「え…?でも、私は単なる寝不足で…」
さやか「だからこそだよ。放課後にいつものお稽古事もあるんでしょ?今のうちに休んでおかないと身体壊しちゃうよ?」
仁美「… … …そうですわね。それでは、そうさせてもらいましょう」
さやか「よっし、それじゃ、保健室まで一緒するよ。ほら、まどかも一緒に」
まどか「え?う、うん…」
仁美「申し訳ございません、さやかさん、まどかさん」
さやか「いいのいいの、途中で倒れたら大変だし、行こう行こう」
まどか(…どうしたんだろ?さやかちゃん。…なんだか、仁美ちゃんを保健室に行かせたがってるみたい)
仁美を保健室まで送り届けると、さやかはまどかの方を振り返る。
さやか「さ、まどか。一緒にお昼食べよっ、屋上で」
まどか「屋上…?」
さやか「実はさ、呼んであるの。マミさんと、コブラさん!」
まどか「魔法少女に!?」
コブラ「なったぁ!?」
さやか「うん、今朝にね。…2人にも、ちゃんと伝えないといけないと思って」
まどか「ど、どうして…?」
さやか「まぁ、理由は色々あるんだけどさ。…何より、あたしの叶えたい願い、しっかり見つけられたから。後悔なんてしない、命懸けでも、叶えたい願いが」
コブラ「…」
マミ「私と相談をしたの。願いのためなら、その命を戦いに捧げても構わない…その決意があるから、キュウべぇとの契約を、しっかり見届けさせてもらったわ」
QB「そして願いは叶えられ、さやかは魔法少女になったというワケさ」
さやかの手には、太陽に照らされ、煌めく青のソウルジェムの指輪があった。
まどか「…やっぱり、上条くんの事?腕を…治したの?」
さやか「…うん。昨日はありがとう、まどか、コブラさん。2人が来てくれたから、あたし、決められたんだ」
さやか「ずっと考えてた。マミさんが言ったように、他人の願いを叶える前に自分の願いをはっきりさせる、って事。あたしは、恭介の何になりたいんだ、って」
さやか「昨日、恭介の腕の事…ずっと治らないってお医者さんに告げられた、って2人とも聞いてたよね?…その時ね、あたし、もう自分なんかどうなってもいいから恭介の腕を治したいって考えたんだ」
さやか「でも、それは少し違うんだって…その後分かったの。…あたしには、仲間がいる。先輩のマミさんが、コブラさんが…そして、あたしの可愛い嫁のまどかがね、えへへ」
さやか「あたしがどうしようもなく自暴自棄になっても、助けてもらえるかもしれない。…逆に、誰かがピンチになったら、あたしが救えるかもしれない!」
さやか「恭介も、マミさんも、コブラさんも、まどかも、助けられるかもしれない!…だから、どんなに怖くても大丈夫だって!…そう思って、あたしは魔法少女になった」
さやか「後悔なんて一つもしていないよ。魔法少女が叶えられる願いは一つだけど、あたしが叶えられる願いは、無限大なんだからっ!」
コブラ「…いい目になったな、さやか。そんな顔が出来るなら何も心配する事ないぜ」
マミ「でしょ?…ふふ、私の後輩は優秀なのよ」
さやか「でへへ」
まどか「… … あの、その…わたし、わたしっ…!」
さやか「…まどか」
さやかはゆっくりとまどかに近づくと、頭にポンと右手を置いて、にんまりと歯を見せて笑う。
さやか「あんたが引け目を感じる事は何も無いの。まどかはいつも通り、あたしの友達で、可愛いおもちゃで、さやかちゃんの嫁でいてくれればいいのだー!」
まどか「えぇぇ…それもちょっと…」
マミ「…鹿目さんは、魔法少女にちょっと詳しい、普通の中学生。それでいいと思うの。…だから、これからもよろしくね?私達の、大切な仲間なんだから」
まどか「…はい」
QB「…」
コブラ「出来れば、疲れたらマッサージとかもお願いしたいねぇ。特にマミは重い物ぶら下げて肩こりが酷い…いででででっ!」
笑顔でコブラの足を踏みつけるマミ。
さやか「3人とも、放課後は空いてる?ちょっと来て欲しいところがあるんだ」
まどか「…?」
さやか「へへ、実は恭介にサプライズプレゼントしようと思ってね。ま、とにかく暇なら病院まで来てよ、詳しくは後で教えるからっ!」
マミ「…ふふふ、美樹さんの事だから何となく想像ができるけれども、楽しみだわ」
さやか「えへへへ…それじゃ、また後でっ!」
さやかはそう言って元気に手を振ると、屋上から慌ただしく出ていく。
まどか「さやかちゃん、魔法少女になって…良かったみたい。あんなに嬉しそう」
コブラ「…ああ。頼もしい仲間になるぜ、ああいう目をした奴はな」
マミ「そうね。…私も張り切って後輩の指導にあたらなきゃ」
まどか「…えぇと…ところで、コブラさん。あの、ここ学校の敷地内なんですけれど…よく入り込めましたね…?」
コブラ「ん?なぁーに、忍び込むのは俺の専門なんでね。必要なら監獄でも軍事基地でも銀行でも、どこでも潜り込める」
マミ「…あまりおススメできない特技よね、正義の魔法少女の仲間としては」
――― その後。
さやか「そっか、退院はまだ出来ないんだ」
恭介「うん、足のリハビリがまだ済んでないしね」
さやか「でも、本当に良かった…恭介の手が動くようになって」
恭介「…さやかの言っていた通り、本当に奇跡だよね、これ…」
さやか「…」
自然に笑顔になるさやか。
恭介「… … …」
さやか「…どうしたの?」
恭介「さやかには…酷いこと言っちゃったよね。それに、さやかの友達にも。…いくら気が滅入ってたとはいえ…」
さやか「変な事思い出さなくていいの。あたしが皆に謝っておいたし…今の恭介は大喜びして当然なんだから。そんな顔しちゃだめだよ」
恭介「…うん」
さやか「…そろそろかな?」
恭介「?」
さやか「恭介、ちょっと外の空気吸いに行こ?」
恭介「さやか、屋上に何か用なの?」
さやか「いいからいいから」
屋上へと上がるエレベーター。車椅子のハンドルを握るさやか。不安そうな恭介。
そして、屋上へ到着したエレベーターの扉が開く。その向こうには…。
恭介「…!みんな…!」
上条恭介の家族、病院関係者…そして、鹿目まどか、巴マミ、コブラ、それぞれの姿があった。
皆、恭介の復活を心待ちにしていた人達ばかり。恭介とさやかは、拍手に出迎えられた。
さやか「本当のお祝いは退院してからなんだけど、足より先に手が治っちゃったしね」
歩み寄る、恭介の父親。そして差し出されたのは、以前愛用していたバイオリン。
恭介「…!それは」
恭介父「お前から処分するように言われていたが、どうしても捨てられなかった」
恭介父「さあ、試してごらん」
少し戸惑いながら、それを受け取る恭介。しかし、戸惑いはやがて微笑みにかわり、弦がしなやかに美しい音色を奏で始める。
まどか「わぁ…!」
マミ「素敵な音色ね…」
コブラ「酒の合いそうな音色だね。一杯ひっかけてもい…いでででででーーーっ」
笑顔でコブラの足を踏みつけるマミ。
さやか(…後悔なんか、あるわけない。…まどか、マミさん、コブラさん)
さやか(あたしの願い、叶ったよ)
――― その様子を近くの観光タワーから見つめる杏子。そしてその傍にいるキュウべぇ。
杏子「マミに加えて、謎の魔法少女、ワケの分からない筋肉男…更に新しい魔法少女、ねぇ。見滝原も随分騒がしくなったもんだ」
QB「ボクにもわけがわからないね。元々魔女の発生率が他の都市と比べて桁違いに高い場所だから魔法少女が増えるのは納得が出来るけど、ボクの知り得ない人間が2人もいるなんて」
杏子「まぁ、いいさ。アンタの言っている通り、ここは絶好の狩場だ。…それに、新人が1人くらい増えたところでアタシにとっちゃどうってことないね」
QB「とるべき行動は色々多いようだね。どこから手をつけるんだい?」
杏子「ふん…」
杏子「とりあえず、新人に先輩が教育でもつけてやる、ってのはどう?」
――― 少し時間が経って、高いビルの屋上。先程までの病院の様子を観察していたほむらは、物思いにふけていた。
ほむら「…美樹さやか」
ほむら(彼女も、魔法少女に…。まぁ、予想の範疇ね、今まで何度かその世界も見てきた)
ほむら(あとは佐倉杏子。私が知る見滝原に集う魔法少女は、まどかも含めて…五人)
ほむら(…あの男を除いて)
その時、ビルの屋上の扉が開いて誰かが入ってくる。
ほむら「!?」
驚いて振り返るほむら。そこに現れたのは、まどかだった。
まどか「…ほ、ホントにこんな所にいたんだ、ほむらちゃん…!」
ほむら「… … …どうして?」
まどか「え、えっとね…?コブラさんが、あっちのビルの屋上にほむらちゃんがいる、って教えてくれて…」
ほむら(有り得ない…病院からこのビルまで、数百m離れているのよ。私だって、魔法を使って観察していたというのに…)
ほむら「…それで、私に何か用かしら?」
まどか「あ、そ、そうだよね…。急に来てごめんね、ほむらちゃん。えっと…その、さやかちゃんが、魔法少女になったの」
ほむら「知っているわ」
まどか「え!?し、知ってるの!?」
ほむら「ええ。…それで?」
まどか「う…だから…新しい魔法少女も、1人増えたから…」
ほむら「私も、貴方達の仲間になれと言うのかしら」
まどか「… … …うん。マミさん、凄く頼りになるし、さやかちゃんだって一生懸命頑張ろうとしてる。…コブラさんは…あはは、よく分かんない人だけど、とっても強いし…」
まどか「だからね、ほむらちゃんも…私達と一緒に戦ったら、きっと…」
ほむら「…」
まどか「きっと…私達、ほむらちゃんの力になれる。だから…」
ほむら「…」
ほむら(力に…なれる。魔法少女が私の力になれなかった時間が、幾つあったかしら)
ほむら(ある時は力及ばずワルプルギスの夜に負け、ある時は互いを殺し合い…ある時は)
ほむら(私自身が、その魔法少女…まどかを、殺してしまう時も…っ!)
まどか「…ほむらちゃん、前にマミさんに言われてたよね?グリーフシードの奪い合いじゃなくって、ほむらちゃんは何か別の意志があって戦ってるって」
まどか「わたしにも分かるの。ほむらちゃんは、絶対に…『何か』をしようとしているって」
まどか「そしてその何かを、私達のためにしてくれているって」
ほむら「…!」
まどか「わたし…まだ、魔法少女になれなくて。臆病で、弱虫で、嘘つきだから…」
まどか「でも、私は少しでも力になりたいの。さやかちゃんの、マミさんの、コブラさんの…そして、ほむらちゃんの!」
まどか「だから…一緒に戦って、みんなで頑張ろうよ。みんなで、魔女を…!」
ほむら「…甘いわ」
まどか「!」
ほむら(私達全員…五人の力を使えば、ワルプルギスの夜に勝てるかもしれない。でも、そう信じるたびにどこか歪が起きて、私達は夜を迎える前に崩れていった)
ほむら(あと二週間、私達が力を合わせてしまえば、きっと…どこかで私達は崩壊してしまう。だから私は、一人で時間を繰り返してきた)
ほむら(…でも…)
ほむら(この時間軸では…私はどうするべきなの?…今度こそ、ワルプルギスの夜を迎えられ、倒せて…まどかと朝を迎える事が出来る?)
ほむら(… … …)
ほむら「…私達魔法少女は皆、誰かを救えるほど余裕があって戦っているわけじゃないの」
まどか「…ぅ…」
ほむら「叶えた願いの代償を支払うために、必至に戦って、その命を削っている。…だから、仲間として戦うなんて、出来るはずがない」
まどか「…」
ほむら「…でも、考えておくわ」
まどか「… …え!?」
ほむら「少なくとも私は、貴方達の敵じゃない。…それだけは覚えておいて」
ほむら「貴方が私の忠告を忘れないと約束をしてくれるならの話だけど」
まどか「!!! …う、うんっ!!…ありがとう、ほむらちゃん!!」
心からの笑みを浮かべる、まどか。その笑顔につられ、ほむらの表情も少しだけ緩んだ気がした。
――― その一方、コブラ達のいた世界での話。
タートル号が、ブラックホールに飲み込まれた宙域付近。そこに停泊をしている、二つの宇宙船があった。
いずれの船も『海賊ギルド』の紋章が刻み込まれている。その二つの船同士の交信。
ギルド幹部「『ソウルジェム』というものを知っているかね?クリスタルボーイ」
ボーイ「知らんな」
ギルド幹部「だろうな。太古の昔…いわばおとぎ話に登場するような、陳腐な噂だからな。…だが、もしそれがあれば…我々は宇宙そのものを塗り替えられるかもしれんのだ」
ボーイ「そんな話のために俺を雇ったというのか?」
ギルド幹部「ククク…そう言うな。これは確かな情報なのだ」
ギルド幹部「この付近で観測されたブラックホール…。今はもう消滅してしまっているが、我々がそのブラックホールのデータの解析に成功した」
ギルド幹部「そしてそのブラックホールが行きつく先…その先に、一つの反応があったのだよ」
ボーイ「ほう」
ギルド幹部「我々の知るところによる、ソウルジェムという宝石…伝えられているデータに似たエネルギーの反応がな。非常に強いパワーを秘めた宝石だ」
ギルド幹部「その石の力は強く…伝説では、どんな願いでも一つだけ叶える事が出来る程の力を秘めた物と言われているのだ」
ボーイ「くだらんお伽話だな。それで、俺にその石コロを探しに行けというのか。ギルドにも随分舐められたものだ」
ギルド幹部「そう言うなクリスタルボーイ。…お前をこの役に選んだのは、理由がある」
ギルド幹部「そのブラックホールに、飲み込まれた船が一隻あった。…タートル号だ」
ボーイ「…!コブラ…」
ギルド幹部「我々のこの時代に、ソウルジェムは存在しない。だが、ブラックホールの先には確かに、太古の昔に存在したといわれるソウルジェムのデータに似た反応が出ているのだよ」
ギルド幹部「だがホール事態は非常に小さいものでね。ギルドの艦隊が入り込めるほどではない。まして、銀河パトロールとの抗争もあって戦力をそちらに削る事もできない」
ボーイ「…つまり、俺に乗り込めと?」
ギルド幹部「君が適任なのだよ、クリスタルボーイ。依頼は必ず遂行する、無敵の殺し屋…まして君は、そのコブラに因縁があるのだろう?」
ボーイ「…」
ギルド幹部「我々ギルドの繁栄に、ソウルジェムが必要なのだ。そしてこれは本部からの直々の命令だ。…行ってくれるな、クリスタルボーイ」
ボーイ「…いいだろう。くだらんお伽話に付き合ってやる」
ボーイ「…ソウルジェムを手に入れ、コブラを、この手で…。…舞台としては上出来だ」
ギルド幹部「必要なら部下も数名つけるが?」
ボーイ「必要ない。宝石の数個など、俺一人で十分だ」
ボーイ「コブラもそうであるように…俺も、殺しに関しては一人の方が仕事をしやすいんでね」
ギルド幹部「いいだろう。それでは、君の船の前に人工ブラックホールを作る。また、君の船にもその装置を用意しておいた。帰還の時に使用したまえ」
クリスタルボーイの乗る小型の船の前に、黒い渦が巻き起こる。そして、それに飲み込まれていく一隻の宇宙船。
ボーイ「クックック…俺とお前とは、やはり深い因果で結ばれているようだな。…今度こそ貴様の息の根を止めてやる…コブラ!」
―― 次回予告 ――
さやかの特訓が始まった!一人前の魔法少女になれるよう、俺も勿論手伝うつもりだぜ。
だがそう簡単な話じゃないみたいだ。あの赤い魔法少女が、今度はそのさやかに因縁をつけてきた。
一方、俺の方にも一人、厄介な来客が現れやがった!クリスタルボーイぃ!?ったく、ゴキブリ以上にしつこい野郎だねあのガラス人形は!
だがヤツの目的は俺を倒すだけじゃないみたいだ。何か別の目的があるらしいんだが…ロクでもない事に決まってるな!お前の思い通りにはさせねぇぜ!
次回【ソウルジェムの秘密】で、また会おう!
第4話「ソウルジェムの秘密」
さやか「く、ゥ…ッ!はぁ、はぁ…!」
美樹さやかは、苦戦をしていた。
青の魔法剣士に対するのは、落書きの魔女・アルベルティーネ。弱ったさやかに対しここぞとばかりに使い魔を繰り出してくる。
魔女の攻撃は、落書きを実体化させ突進をさせる事。飛行機の落書きにのった使い魔達は次々とさやに特攻し、襲い掛かってきた。
さやか「ぐ…このぉッ!!」
さやかは剣で次々と使い魔を斬り捨てていくが、それだけに留まってしまっている。魔女の攻撃を防ぐ事に精一杯で踏み込めない。完全なる劣勢。
さやか(駄目…突破口が見えないっ…!このままじゃあ…!)
まどか「ね、ねぇ、マミさん、コブラさん!やっぱりさやかちゃん一人じゃ無理だよっ!助けてあげないと…っ」
マミ「…」
コブラ「…さやか、助けが必要かい?」
だがコブラの問いかけに、さやかは力強く答える。
さやか「必要ないッ!!あたしは…まだやれるッ!!」
まどか「…そんな、さやかちゃん…!」
さやか(このままじゃ、いずれあたしの体力が尽きて、負ける…!)
さやか(…それならいっそ…!)
さやか「でやあああああッ!!」
マミ「…っ!美樹さん!?」
決心をしたさやかは、勢いよく魔女に向けて駆けていく。つまり、防御を完全に捨てた体勢。使い魔達の突進を次々と受けるが、それでもさやかが止まる事はない。
攻撃を受けた瞬間に、回復。彼女の契約が癒しの祈りによるものなので、ダメージに対する回復力は他の魔法少女とは桁違いにある。さやか自身がそれを知っているのだった。
だから、捨て身の特攻に全てを賭ける。
魔女「!!」
この特攻に魔女も驚いたのか、涙を流すような悲しい表情を浮かべる。だがそんな事は構いもしない、魔女の眼前までさやかは迫っていた。
さやか「これで、トドメだぁーーーっ!」
魔女の眉間に、剣を突き刺す。
血のような黒い液体が噴出したかと思うと、魔女は消滅した。
そして結界が解かれ、四人は元いた路地裏へと戻る。
さやか「はぁ、はぁっ…!」
さやかの手には、魔女を倒した証…グリーフシードがしっかりと握られていた。
まどか「さやかちゃんっ!」
膝をつき、荒く息をするさやかに駆け寄るまどか、マミ、コブラ。まどかはいち早くさやかに駆け寄ると力の抜けたようなさやかを抱きしめた。
さやか「へ、へへ…あー、やっぱりまどかはあたしの嫁だねー」
まどか「さやかちゃん…っ!大丈夫…!?あんなに、あんなに無理しなくても…!」
涙を浮かべながらさやかをギュッと抱きしめるまどか。
さやか「無理しなくっちゃ。あたしも早く、一人前の魔法少女にならなくっちゃね。…どうだったかな、マミさん。あたしの戦い方」
初めての実戦、魔女との戦いにさやかは一人だけで戦いたいとマミとコブラに申し出た。初め、マミは反対をしていたがさやかの強い希望があり、それを通してしまった。
マミ「…そうね。初めての戦いにしては上出来よ。自分の魔法能力をもう理解しているし、それをしっかり活かせている」
マミ「ただ…少し、美樹さんの戦いは捨て身すぎるわ。あんなにダメージを受けてしまっては、ソウルジェムの濁りも強くなってしまう」
言いながらマミはさやかに近づき、さやかのソウルジェムとグリーフシードをくっつけ、穢れを取り除いた。ソウルジェムは光を取り戻し、さやかもまどかからそっと離れ、立ち上がる。
さやか「でも、あたしの持ち味ってそれくらいしかないと思うし…」
マミ「だからこそよ。ああいう戦い方は余程苦戦した時だけにしないと…。コブラさんはどう思う?」
コブラ「ああ、悪い。さやかの肌に見とれて戦いに集中できなくってね。いやー、なかなか露出度の高い衣装だ。三年後が楽しみだぜ」
さやか「え… お、おわぁぁっ!?」顔を赤くするさやか。
マミ・まどか「…」
コブラ「ハハ…ハって、あ、いやぁ、ジョーダンだよ、ジョーダン」
QB「それじゃあ、その真っ黒になったグリーフシードはボクが貰おうか」
さやか「?どうするの?」
キュウべぇにグリーフシードを手渡すさやか。そしてキュウべぇは、そのグリーフシードを背中に取り込む。
QB「きゅっぷい」
まどか「えぇ!?た、食べるの!?」
QB「これもボクの役目だからね」
コブラ「随分な偏食だな。あんなもの、健康に良くっても食う気にゃなれないぜ」
QB「別に好き好んで食べるわけじゃないよ。ただ、あのままじゃあグリーフシードが魔女化してしまうから」
コブラ「…」
コブラ(やはりおかしいな、グリーフシードは魔女から生まれる種だ。そいつが魔法少女の穢れを吸い込むと、再び活性化し、魔女が孵化するだと?)
コブラ(そもそも、その穢れとかいうシステムとそいつを吸い込む種…。つまり魔法少女と魔女は、単なる別種族じゃない事を現している)
コブラ(…ソウルジェムとグリーフシード。そして、そいつを食らうキュウべぇ。やはり全ては無関係じゃないって事だな)
マミ「どうしたのかしら?コブラさん」
コブラ「いや、マミの肌もなかなか綺麗で悪くないなと感心していてね」
マミ・さやか・まどか「…」
コブラ「すいませんでした」
マミ「さてと、それじゃあそろそろ解散にしましょうか?今日の見滝原パトロールと特訓はこれまでよ」
さやか「うん、まどかもマミさんもコブラさんも、付き合ってくれてありがとう!」
マミ「大切な後輩のためだもの、当然よ。それに、美樹さんは覚えが早いから…確実に成長しているわ。次からは、一緒に戦いましょう」
さやか「…!は、はいっ!」
コブラ「さぁーて、それじゃあ巴さんのお宅でディナーパーティとしゃれ込みますかね」
まどか「あ、あの…わたしもお邪魔していいですか?」
マミ「ええ、勿論大歓迎よ。一人で食べるのよりずっと楽しいし…それに、鹿目さんも大切な後輩ですもの。」
まどか「ありがとうございますっ! …ティヒヒ、実はお夕飯、マミさんのお家で御馳走になるって言ってきちゃったんです」
マミ「うふふ、それなら大丈夫ね。」
さやか「あ、ごめんなさいマミさん!あたしは、ちょっと寄るところがあって…」
マミ「あら、そうなの…?残念ね」
まどか「さやかちゃん、寄るところって、どこか行くの…?」
さやか「な、なんでもないのっ!大したところじゃないからっ!…それじゃみんな、また明日ーっ!」
何か慌てたように夜道を駆けていくさやか。それを見送る三人。そして…。
コブラ「… … …それじゃあ、尾行開始といきますかぁ。にぃひひ」
マミ「ええ、うふふ」
まどか「ウェヒヒヒヒ」
QB「人間は何を考えているのか分からないね」
――― 上条恭介家の玄関先。
聞こえてくる美しいバイオリンの音色は、そこに恭介がいる事を証明していた。
しかしさやかは、その音色を玄関先で聞いているだけだった。
さやか「…」
さやか(恭介…退院したなら連絡くれればいいのに…)
さやか(…練習、してるんだ…)
さやか(…)
そっと踵を返すさやか。しかし、その先には一人の少女が立っていた。
さやか「!」
杏子「折角来たのに会いもしないで帰る気かい?随分奥手なんだねぇ」
さやか「だ、誰…?」
杏子「…この家の坊やのためなんだろ?アンタが契約した理由って」
さやか「…ッ!アンタも、魔法少女…!?」
杏子「…おいおい」
杏子「先輩に向かって『アンタ』はねーだろ?生意気な後輩だね」
その様子を、物陰から見ている三人。
コブラ「…げぇ、アイツは…」
まどか「あの時の人…!今度はさやかちゃんに襲い掛かるつもり…なのかな…?」
マミ「あれは…佐倉さん…!」
コブラ「!?知り合いか、マミ」
マミ「ええ。…二人も佐倉さんに会ったことがあるの?」
コブラ「会ったなんてもんじゃないよ。この間、熱烈な歓迎を受けたところでね」
マミ「おかしいわ、佐倉さんは隣町を中心に魔女を狩っていた筈なのだけれど…」
まどか「この前はコブラさんを襲ってきたんです…。さやかちゃんに…何か用事、なのかな」
マミ「とにかく、私が直接話を…」
コブラ「いや、ここは少し様子を見ておこうぜ。かの女が何を目的にしているのか分からない。…危なくなったらすぐ前に出る準備はしておいて、な」
マミ「…そう、ね」
マミ(…佐倉さん…)
QB「…」
マミはソウルジェムを握り、コブラは左腕に右腕をかけながら、その会話を聞いている。
杏子「一度だけしか叶えられない魔法少女の願いを、くだらねぇ事に使いやがって。願いってのは自分のためだけに使うもんなんだよ」
さやか「…別に、あたしの勝手でしょ!アンタなんかに関係ない!」
杏子「…気に入らないね」
杏子「そういう善人ぶってる偽善者とか、何を捨てても構わないとか考えてる献身的な自分に惚れてる姿とかさ」
杏子「…ホント、気に入らない」
さやか「…もう一度言うよ。あたしが何を願おうと、何のために戦おうと…アンタには関係ない事でしょ。何?それとも単なる憂さ晴らし?」
杏子「… …美樹さやか…だっけ?魔法少女として、あんたにちょっと指導にきたのさ」
さやか「必要ない。あたしには…仲間がいる」
杏子「…ぬるい。ま、指導ってのは建前さ。…実はあたしも、見滝原で活動を始めようと思ってね」
さやか「え…」
杏子「ここの魔女の発生頻度、異常に高いんだよねぇ。…まるで、何か大きな事が起きる前触れ、みたいな感じに。まぁとにかく、魔法少女としては絶好の狩場なわけ」
杏子「それなのにあんたらときたら特訓だの何だの…しまいにゃ、魔女になるであろう使い魔ですら倒しちまう始末だ。グリーフシードを集めるのに効率が悪すぎるんだよ」
さやか「…!放っておけって言うの!?」
杏子「人間四、五人食わせりゃ、アイツらは魔女に成長する。弱い人間を魔女が喰らい、あたしら魔法少女がその魔女を喰らう。…基本的な食物連鎖の話さ」
さやか「…!」
さやか「違う…間違ってる!!魔法少女っていうのは…。魔女から人を守るのが魔法少女なの!!…人を守らなきゃいけないのに、魔女に成長させるために人を食べさせるなんて、そんなの、間違ってる!」
杏子「…ばーっかじゃねーの。くだらない…くだらないくだらないくだらない。やっぱどこまでいっても巴マミの後輩だね」
さやか「っ、マミさんの事…知ってるの!?」
杏子「…どうでもいいじゃん。…それよりさぁ、アタシにいい考えがあるんだけど、どう?」
さやか「…」
杏子「アタシが協力してやるよ。今すぐこの坊やの家に魔法で忍び込んで、その手足を潰してやるっていうのはどう?」
さやか「…っ!?」
杏子「恩人に一言もかけないで退院するなんて、酷い話だよねぇ?…もう、この恭介っていう子は、アンタ無しでも生きていけるんだ」
さやか「…黙れ…黙れ、黙れ…!」
杏子「もうコイツにアンタは必要ない。どんどんアンタから離れていく。…それならいっそ」
杏子「もう一度…今度は手足を使えなくして、アンタ無しじゃあ生きられない身体にするのさ。なぁに、自分でやりづらいって言うんじゃ、アタシがやってやるよ」
さやか「…あんただけは…」
さやか「あんただけは、絶対に…絶対に許さないッッ!!」
杏子「…へへ、それじゃあ…場所を移そうか?ここで戦うわけにいかないだろ?」
・
まどか「… … …」
コブラ「俺達も行くぜ。ここで出て行って戦闘になったら面倒だ、広い場所に出たら…だ。いいな、マミ」
マミ「…っ。え、ええ…」
マミ(…佐倉さん。貴方は…何が目的なの…?)
――― 大きな歩道橋の上、さやかと杏子は移動をし、お互いに対峙をしている。
杏子「ここなら邪魔は入らないね。…さぁ…始めようか?」
そう言って杏子はソウルジェムを使い、変身する。自分の身の丈ほどある巨大な槍を器用に振り回し、戦闘態勢をとる。
さやか「…!」
さやかがソウルジェムを取り出そうとした瞬間…。
まどか「さやかちゃんっ!!」
さやか「!まどか!それに、マミさんに、コブラさん!」
さやかに駆け寄るまどか、マミ。ゆっくりと後ろから歩いてくるコブラ。
杏子「…!巴、マミ…!」
マミ「佐倉さん…。久しぶりね、元気そうでよかったわ」
杏子「…アンタに心配されなくても、一人で出来てるよ。…魔法少女として、な」
マミ「…そう」
さやか「皆…。…邪魔しないでっ!あたしは、コイツを…!」
コブラ「落ち着きなよ、さやか。…それに、かの女はまだお前さんの腕じゃ勝てる相手じゃないぜ?」
さやか「そんなの、やってみなくちゃ…!」
マミ「…佐倉さん。貴方が何を考えているのか、私には分からないわ。けれど…何故美樹さんと戦おうとするの?貴方が嫌う『無駄な魔力の消耗』にしか思えないわ」
杏子「アンタには関係ないね。アタシは、新人の教育にきただけさ。魔法少女の何たるかを、ね」
マミ「指導には私があたっているわ」
杏子「アンタのやり方は…手緩い。このままじゃあ…コイツ自身が身を滅ぼしちまうのが、分からないかい?」
マミ「… … …」
杏子「本当は口だけで言うつもりだったんだけどね…生意気な奴で、あっちからやろうって言ってきたんだ。アタシからふっかけたわけじゃないよ」
さやか「…マミさん。戦わせてください!…あたしがどれだけ出来るようになったか…確かめる意味でも!」
マミ「美樹さん…」
その時、全員の前にふと現れる人影があった。
まどか「…っ!?ほ、ほむらちゃん…!」
ほむら「…」
現れた暁美ほむらは既に魔法少女に変身していた。五人をぐるりと見回すと、その中心に移動する。
コブラ「…!」
コブラ(俺の目でも、かの女がどの方角から来たか、分からなかった…!?)
ほむら「…巴マミ、佐倉杏子、美樹さやか…そして、コブラ…まどか。全員揃っているようね」
杏子「…魔法少女?…ああ、そうか。アンタがキュウべぇの言っていた、もう一人のイレギュラーか」
ほむら「これで、この周辺の魔法少女は、全員。例外もいるようだけれど」
コブラ「へへへ、まぁね」
まどか「…」
QB「何か用かい?暁美ほむら」
ほむら「貴方がこの場に居るのは少し嫌だけれど、仕方ないわね。…全員に、話しておくべき事があるの」
さやか「な、なによ…!」
ほむら「ただし、落ち着いて聞いて。そうじゃないと…私達全員、死ぬ事になるわ」
マミ「死ぬ…!?」
ほむら「ええ。間違いなく」
杏子「…初対面でいきなり現れておいて、そんな話を信じろっていうの?」
ほむら「ええ、そうよ。嫌ならいいわ。ただ私は、無益な戦いをする馬鹿の敵だということは覚えておいて」
杏子「なんだとっ…!」
さやか「…」
マミ「暁美さん、話って…?」
ほむら「…」
ほむら「貴方達に話しておくべき事がある。決して悪い話ではないわ。ただ、これから起こる事を、しっかりと把握しておいて欲しいの」
ほむら「二週間後、 この街に、ワルプルギスの…」
ほむらが話を始めた瞬間。
コブラ「…!さやか、避けろッ!」
さやか「…えっ?」
コブラはさやかの頭を抱えて、地面に伏せる。その瞬間…
二人の頭をかすめる、レーザー光。
ほむら「…ッ!?」
杏子「何だ…!?今の攻撃は、どこから…!?」
勢いよく伏せたせいで、さやかはソウルジェムを落としてしまう。
歩道橋の傾斜にそれは転がっていき…誰かの足元で、宝石は止まった。
さやか「あ…!」
コブラ「…!お前は…ッ!」
ボーイ「…こいつがソウルジェムか。なるほど、よく出来た宝石だ」
まどか「…!な、なに…!?なんなの、あの人…!」
六人の後方に立つ人物は、人間では無かった。
能面のような金色の顔、骨格のような金属の身体は、透明のガラスのような肉で覆われている。異形の怪物…少なくとも、少女達には、この世では存在し得ない存在。
コブラ「…クリスタルボーイ…!」
コブラは左腕の義手を抜き取ると、サイコガンを怪物に向けて構える。
杏子「!」
ボーイ「久しぶりだな、コブラ。まさかこんな場所で会うとは思わなかったが、やはりソウルジェムに関わっていたか」
マミ「…コブラさんの知り合い…?」
コブラ「…ちょっとした、な。なぁーに腐れ縁さ、出来れば二度と会いたくなかったがね」
ボーイ「くくく、そう言うなコブラ。俺は貴様に会いたくてここへやって来たのもあるんだからな」
コブラ「そいつは有難いね。でも出来れば美女に言われたい台詞だな」
ほむら(いけない、ソウルジェムが美樹さやかから離れている。これ以上離れたら…!)
さやか「か、返してよ!誰か知らないけど、それはあたしの物なのっ!」
ボーイ「ほう、この宝石には所有者がいるのか。てっきり鉱山から掘り出せるのかと思ったが、まさかこんな場所から反応が出ると思わなかったのでね」
コブラ「そいつを返してもらおうかガラス人形。お前には必要ない物だ」
ボーイ「…ふふふ、それが、必要なんだよ」
まどか「あの人は、一体…?」
コブラ「クリスタルボーイ…俺の居た世界の、殺し屋さ。悪の組織の幹部…なんて言った方が分かりやすいかな。少なくとも俺達の味方じゃない事は確かだ」
マミ「あの身体は…人間じゃない…!?」
コブラ「サイボーグだ。化け物と言ったほうが似合うね。俺が何度倒しても、また俺の前に現れる…ゴキブリみたいな野郎さ」
コブラ「クリスタルボーイ!何故この世界にお前がいるのか教えてもらおうかッ!」
ボーイ「俺がここにいる理由か…いいだろう、教えてやる」
ボーイ「一つは、コブラ。お前の後を追ってきたのさ。お前の足取りをようやく掴んでね、ブラックホールを辿ってこの世界に足を踏み入れたのが分かったからな」
ボーイ「そしてもう一つは…この石コロを探しにきた」
ボーイは掌で、さやかの青のソウルジェムを転がしながら言う。笑顔はない、能面のような表情がニヤリとほほ笑んだような錯覚を全員が受ける。
ほむら「…!何故ソウルジェムの事を…!」
ボーイ「太古の昔にあったと言われる、魔法の宝石…俺のいた世界にはそんな伝説があってね。そいつがこの世界に存在すると聞いて探しに来たが…まさかこんなに容易に手に入るとはな」
ボーイ「そこの餓鬼に礼を言わなければな。お前さんのおかげで仕事が早く済みそうだ」
さやか「…っ!」
コブラ「海賊ギルドがソウルジェムを狙っているってのか。驚いたね、いつからそんな少女趣味になったんだ?」
ボーイ「この宝石には随分な力があるそうだな。…魔法。そう、まるで願い事を叶えるかのような、魔法の力が」
QB「…!」
ボーイ「こいつの持つ膨大なエネルギー…そいつをギルドは求めているそうだ。くだらん夢物語だと思っていたが、現物が手に入ったのなら俺の仕事は完了だ」
ほむら「止めなさい!今すぐソウルジェムを返さないと…」
ボーイ「そう言われて素直に返すとでも思うのか?俺は今すぐこの場でこの宝石を砕いてもいいんだぞ」
ほむら「…く…っ!」
ボーイ「コブラ。貴様と決着をつけたいと思っていたが、また次回にしておこう。今は元の世界に戻る事にしておくよ、クク」
コブラ「…!戻れるというのか!」
ボーイ「どうかな」
その時、轟音を立てて歩道橋の真上に何かが接近してきた。
クリスタルボーイは、その何かに向かって跳躍をする。見たこともないような形の飛行機…宇宙船と言ったほうが正しいのだろう。
コブラ「ッ!待て、ボーイ!」
ボーイ「それじゃあなコブラ。せいぜいこの世界を楽しむといい」
さやか「ま、待ってよッ!あたしのソウルジェム…!!」
宇宙船はゆっくりと旋回をすると、空に飛び立っていく。
…そして、次の瞬間。
さやか「…ぁ…っ」
まるで糸の切れた人形のようにその場に倒れるさやか。
杏子「…!?な、なんだ…どうしたんだよ…!?」
杏子はさやかが倒れる前にその身体を抱き留め…そして、その異常事態に気付く。
杏子「…!どういうことだオイ……! こいつ…死んでるじゃねえかよ!!」
まどか「… … …え?」
マミ「…死ん、で…?」
まどか「そ、そんな、どういう…?」
QB「まずいね、魔法少女が身体をコントロールできるのはせいぜい数百メートルが限度だ。離れすぎてしまったようだね」
マミ「! キュウべぇ…それって…!?」
ほむら「…ぐ、っ…!」
その時、頭上にもう一つの飛行物体が現れる。轟音に気付き、コブラは上を見上げた。
コブラ「タートル号…レディ!」
レディ「コブラ、急いで!クリスタルボーイの宇宙船は急速で地球から離れようとしているわ!このままだと…!」
コブラ「ああ、今行く!…まどか、さやかの方を頼むぜ!」
コブラ「さやかのソウルジェムは…必ず俺が取り戻してくる!」
まどか「さやかちゃん…さやかちゃん!ねぇ、返事してよっ!さやかちゃん!」
コブラの声には反応せず、必至にさやかの身体を揺さぶるまどか。
タートル号は歩道橋にギリギリまで寄り、乗車口を開ける。急いでそれに飛び込もうとするコブラ。
マミ「ま、待って!コブラさん!私も行くわ!」
コブラ「!」
マミ「わけが分からないけれど…ソウルジェムを取り戻さなくちゃ!私だって手伝えるわ!」
コブラ「マミ…」
ほむら「私も行くわ。…このままじゃ、まずい」
コブラ「…!分かった、助かるぜ2人共!」
タートル号が、コブラ、マミ、ほむらを乗せ飛び立った後。
さやかの身体を必死に抱きしめるまどか。そして…キュウべぇに詰め寄り、首を鷲掴みにする杏子。
QB「苦しいよ、杏子」
杏子「どういう事だよ… なんで、コイツ…死んでるんだよ!!てめぇ、この事知ってたのかよッ!!」
QB「壊れやすい人間の肉体で魔女と戦って、なんてお願いは出来ないよ。魔法少女とは、そういうものなんだ。便利だろう?」
まどか「さやかちゃん… さやかちゃん…っ!」
QB「まどか、いつまで呼び続けるんだい?『そっち』はさやかじゃないよ」
QB「またイレギュラーが増えたのは本当に驚きだけれど、とにかくコブラ達が『さやか』を取り戻してくれるのを願うばかりだね」
杏子「なんだと…」
QB「魔法少女である君たちの肉体は、外付けのハードウェアでしかない。コンパクトで安全な姿が与えられ、効率よく魔力を運用できるようになるのさ」
QB「魔法少女の契約とは」
QB「君たちの魂を抜き取って、ソウルジェムに変える事を言うのさ」
杏子「ッッッ!!っざけんなぁ!! それじゃあ…アタシ達、ゾンビにされたようなもんじゃねえか!!」
QB「むしろ便利だろう?いくら内蔵を壊されようが血を流そうが、魔力で復活ができる。ソウルジェムを砕かれない限り、君たちは無敵なんだ」
QB「弱点だらけの肉体より、余程戦いでは便利な筈だ」
まどか「…酷いよ… 酷すぎるよっ…」
まどか「こんなのって… 酷すぎる…!」
クリスタルボーイの乗る宇宙船を眼前に捉えたタートル号。
コブラ「レディ、このままヤツの宇宙船に特攻して、でかい風穴をあけてくれ。そこから突入する。さやかのソウルジェムを無傷で取り返さなくちゃいけねぇ」
レディ「分かったわ。加速ならこっちの方が段違いに上よ、任せて」
コブラ「オッケー。…準備はいいかい?マミ、ほむら」
既にソウルジェムを使い、魔法少女となっているマミとほむら。しかしマミの表情はどこか優れないようだった。
コブラ「マミ」
マミ「…何が何だか、分からないの。…美樹さんが何で…倒れてしまったのか。ソウルジェムが身体から離れてしまったから?そんな事、知らない…!」
マミ「私も…ああなっちゃうの?ソウルジェムが離れると…死んでしまうの?」
マミ「分からない…もう何も、分からないッ…!」
コブラ「…マミ。とにかく今は、さやかのソウルジェムを取り戻す事だけを考えろ。話はその後だ」
マミ「……う、うぅ…ッ…」
コブラ「マミッ! アンタの大事な『後輩』だ! 助けられるのは…アンタしかいないッ!!」
マミ「…!!」
レディ「距離、50。衝撃に気を付けて…!このまま突っ込むわよ!」
ほむら「…」
・
ボーイ「…ふふふ、やはり来たか、コブラ」
ボーイ「貴様の墓標は、元の世界ではないようだな。…この世界だ」
―― 次回予告 ――
クリスタルボーイの野郎、ふざけた真似してくれるよ全く!さやかのソウルジェムを奪ったうえで俺を殺すだと?へっ、上等じゃねぇか!
奴の船に乗り込んだ俺とマミとほむら、ついにボーイとの決闘だ。相変わらず俺のサイコガンは効かないわ、魔法も物ともしない。いやだねー、ホント!
だが諦めちゃいられねぇ!さやかのソウルジェムは絶対に取り戻してみせるぜ!俺達は決死の作戦であの野郎に立ち向かう事になったっ!
次回【決戦!クリスタルボーイ】で、また会おう!
第5話「決戦!クリスタルボーイ」
レディ「距離30、20…!皆、どこかに掴まって!間もなくクリスタルボーイの宇宙船と衝突するわ!」
コブラ「了解!派手にやってくれ!」
ドォォォォンッ!!
マミ「きゃあああっ!!」
小規模の爆発が起きたように大きく揺れる、タートル号船内。
しかし狙いは完璧。タートル号はクリスタールボーイの操縦する宇宙船の後部に体当たりをかけ、見事に風穴を開ける。
コブラ「完璧だぜレディ!カースタントマンでもこの先食っていけそうだなっ!」
機体上部のハッチが開き、コブラは急いで梯子を上り外へと出ようとする。
コブラ「御嬢さん方、急ぐんだ!ヤツの宇宙船に飛び移るぞ、着いてこい!」
ほむら「ええ」
マミ「…」
コブラ「…マミッ!」
マミ「…! 分かったわ…今はとにかく、美樹さんのソウルジェムを…取り戻す!」
コブラ「上出来だ!いくぜ、皆っ!」
レディ「コブラ!忘れ物よ!」
レディがコブラに向けて、箱を投げた。それをキャッチするコブラ。
レディ「シガーケースよ。葉巻が切れた時のために、ね」
コブラ「…! あぁ、レディ。ありがとよ!」
タートル号上部船体。高速で移動を続け、クリスタルボーイの宇宙船を追う船体の外は激しい風が吹きすさぶ。
ハッチから外に出た瞬間、その豪風に吹き飛ばされそうになるほむらとマミ。
コブラ「俺に掴まれ!ヤツの宇宙船に移動する!」
マミ「移動する、って…どうやって!?」
コブラの腕にほむらが、肩にマミが掴まりつつも、マミは疑問の声を投げかける。その声にコブラは不敵な笑みを浮かべるのだった。
コブラ「こうするのさ」
コブラの空いている腕のリストバンドから、細いワイヤーが勢いよく発射される。ワイヤーの先端の刃が見事にクリスタルボーイの宇宙船の風穴内部に突き刺さり、コブラはその安定性を確認した後…。
コブラ「振り落とされるなよぉッ!!」
ほむら「…!!」
マミ「きゃあああああああああああああっ!!」
高速で縮まるワイヤー。三人の身体は吸い込まれるように、クリスタルボーイの宇宙船に移動していく。
レディ「…コブラ…皆!無事でいて…!」
――― 一方、地上。抜け殻となったさやか、それを抱きかかえるまどか。そして、キュウべぇに詰め寄る、杏子。
杏子「騙してたのかよ、あたし達を…っ!」
QB「騙していた?随分な言い方だね。さっきも言っていた通り、弱点だらけの人体で戦いを続けるより遥かに安全で確実なやり方なんだよ」
まどか「酷すぎるよ…っ!さやかちゃん、必死で…!強くなる、って…頑張るって…戦ってたのにっ…!」
QB「君たちはいつもそうだね。真実を伝えると皆決まって同じ反応をする。どうして人間は、そんなに魂の在り処にこだわるんだい?」
QB「ワケがわからないよ」
杏子「…!!畜生…っ!!ちくしょおおおっ!!」
やり場のない怒り、悲しみ…全てをぶつけるように、杏子は月夜に吼えるように叫んだ。
まどか「…コブラさん…っ!お願い…さやかちゃんを、助けて…!」
月を背景に、遥か上空を飛ぶ二隻の宇宙船。見えずとも、まどかはそこに向けて、祈った。
コブラ「うおっ、とぉ!!」
コブラは自分の身体を下にして、地面に滑り込む。三人はクリスタルボーイの宇宙船内に侵入を成功させた。
コブラ「無事かい、2人とも」
ほむら「…ええ、何とか」
マミ「む、無茶苦茶なやり方だったけど…どうにか無事だわ」
コブラ「そいつぁ良かった。…ここは…貨物室か?」
三人が侵入した場所は、無機質な、まるで鉄の箱の中のような場所。周りに数個の貨物があるだけの殺風景な部屋だった。
そして…その奥。
クリスタルボーイは、まるで三人を待っていたかのようにその場に立っていた。
ボーイ「遅かったじゃないかコブラ。待ちくたびれたぞ」
コブラ「待たせたなガラス細工。延滞金はしっかり払わせてもらうぜ」
コブラは左腕の義手を抜き、サイコガンを構える。マミとほむらも、異形の相手に向かい戦闘態勢をとるのだった。
【人工ブラックホール、生成準備完了。本船の前方に超小型のブラックホールが発生します。生成まで、あと10分…】
コブラ「…!?なんだとぉ!?」
ボーイ「ククク、タイムリミットはあと10分。コブラ、朗報だ。元の世界にもうすぐ戻れるらしいぞ」
ほむら「…!どういう事…!?」
ボーイ「聞こえなかったのか小娘。あと10分でこの船はブラックホールに吸い込まれ、異次元空間へとワープする。到着先は…我々の住む、未来の世界だ」
ほむら「!!」
ボーイ「元の世界に戻るのが目的だったのだろう?感謝しろコブラ、俺はお前の命の恩人だ」
コブラ「お前がぁ?ごめんだね、どうせ恩を売られるなら美女がいいに…決まってらぁッ!」
言いながらコブラはサイコガンの砲撃を次々とクリスタルボーイに浴びせる。
しかし、その砲撃の全てはボーイの体内で屈折し、素通りをしていくのだった。
マミ「!?こ、コブラさんの攻撃が…!」
ボーイ「クククク…忘れたわけではあるまい。サイコガンは俺には無力だ」
ボーイ「しかし、礼を言わせてもらうよコブラ。1つだったソウルジェムを一気に3つまで増やしてくれるというのだからな」
ボーイ「このままその女どもをワープさせれば…あとはその身体からソウルジェムを剥ぎ取ればいいだけだ。ふふふ…」
コブラ「どうかな。その前にお前にでかい風穴を開けてやるぜ」
ボーイ「ククク…はっはっはっは!!笑わせるな。コブラ、お前は今俺の掌の上で踊っているに過ぎん」
ボーイ「お前の行動パターンは実に分かりやすいよ。情に流されれば、貴様はきっと俺の船に乗り込んでくる…。そう思って、あえて貴様をあえてここへ呼び込んだのだからな」
コブラ「何だと…!」
ボーイ「どうやらソウルジェムとやらは、その女達の身体と繋がっている…いわば、『魂』のようなもののようだな。先程の青髪の女で確信させてもらった」
ボーイ「このまま俺が元の世界に戻ろうとすれば…貴様たちは必ずここへやってくる、というわけだ。それも1人ではない、わざわざソウルジェムを持つ女を2人も連れて、な」
マミ「…くッ…!」
ほむら「…」
ボーイ「コブラ。何故俺がこの貨物室を戦場に選んだか分かるか?此処には、貴様の武器である『臨機応変』が使えないのだよ。あるのは空の鉄箱だけだ。貴様の武器となるような物は、ない。お得意の逃げ回る戦法も場所が限られているぞ」
ボーイ「おまけに俺の特殊偏光クリスタルにはサイコガンは効かん。…さぁ、どうやって俺を倒すつもりかね?…コブラ!」
【ブラックホール、生成完了まで、あと8分です】
コブラ「!」
ボーイ「ソウルジェムは、この扉の先のコクピットにある。…あと8分。俺を倒して、この扉を潜って…奪い取れるかな?」
コブラ「…やってみせるさ!」
コブラは腰のホルダーから愛銃の『パイソン77マグナム』を抜き、3連射する。
しかしその弾丸の全てを、クリスタルボーイは右腕の鉤爪を盾のように使い、防御した。鉤爪に穴は開く威力ではあるが、その弾は身体にまでは届かない。
コブラ「!…ちっ…!」
ボーイ「一度食らった手をもう一度食らいはしない。…さぁ、次はどうするつもりだ?」
ほむら「…行くわ」
コブラ「…!」
カチリ。
微かに、時計の秒針のような音が聞こえたような気がした。その瞬間、暁美ほむらはクリスタルボーイの目の前にいつの間にか移動し、拳銃を構えていた。
コブラが次に気付いた瞬間…
クリスタルボーイの周囲は、鉛弾で包囲されていた。
コブラ・マミ「!」
ボーイ「何…!」
数十発、いや、数百発の弾丸が、クリスタルボーイの身体に次々と命中をしていく。その衝撃にクリスタルボーイは思わず仰け反る…が。
倒れはせず、一歩後ろに下がっただけで留まった。全ての弾丸はクリスタルボーイの身体に軽く埋まった程度で、穴すら開いていない。
ほむら「…!」
ボーイ「驚いたな…何だ、今の攻撃は。貴様の拳銃では不可能な連射だ…どうやった?」
ほむら「く…っ!(この銃じゃあ…威力が、足りない…!?)」
ボーイ「ククク…まぁいい。そんな安物の骨董品では俺の特殊偏光クリスタルには傷すら …つかんのだァッ!!」
ボーイは右の鉤爪を開き、ほむらに向けてビームガンを放つ。
ほむら「ッ!!」
ボーイ「!」
カチリ。また秒針の音が聞こえる。瞬間移動でもするかの如く、ほむらはその攻撃を素早い動きで避け、後ろへと下がっていく。
その瞬間…マミは次々と武器である単発式銃火器をスカートから取り出し、宙に浮かせる。
マミ「次は、私よッ!お人形さん!」
一発、それを撃つごとに銃を捨て、次の銃に切り替える。しかしその銃弾をクリスタルボーイは鉤爪で弾き、貨物室の天井へと跳弾させる。
ボーイ「そんな物が俺に効くとでも…思っているのか!!」
マミ「思っていないわ。…だから…こうするのよ!」
跳弾をして、開いた天井の穴が俄かに光り始めたかと思うと…その光から、絹のような魔法のリボンが勢いよく出現し、クリスタルボーイの身体に巻きついていく。
ボーイ「…!これは…!」
マミ「これが私の戦い方よ!…一気に決めるわ!」
マミは魔力を集中させ、巨大な、大砲のような銃器を目の前に出現させる。そしてその銃口をクリスタルボーイの方へ向けた。
マミ「喰らいなさい! ティロ・フィナー…!!」
ボーイ「…ふんっ!!」
マミ「…!!」
クリスタルボーイは自分の身体に巻きついた魔法の糸を…自らの腕力で、引き千切る。そして鉤爪をロケットのようにマミに飛ばし、攻撃をした。
マミ「きゃあッ!!」
鋭利な刃物のような、その爪。マミはどうにか単発式銃火器の銃身でその攻撃を受け止める、が…その衝撃はすさまじく、マミの身体は天井へと叩きつけられてしまう。
マミ「あぐゥっ!!」
コブラ「!マミ!!」
ボーイ「…魔法。ソウルジェムの力とやらか。…少し驚いたが、サイボーグのこの俺には通用しないようだな」
コブラ「畜生…いい加減にしやがれ、この野郎!」
コブラは再び、サイコガンの連射をクリスタルボーイに浴びせる。…が、やはりその光はクリスタルボーイを素通りしていく。
ボーイ「…次は貴様だ!死ね、コブラッ!!」
クリスタルボーイはコブラに向けて突進をし、鉤爪を大きく振り、その身体を切り裂こうとする。
コブラ「く、ッ!」
コブラはその攻撃を次々と避ける、が…相手も並の瞬発力ではない。コブラが避ければ、次の手を繰り出し…いずれ、回避行動は追いつかれてしまう。
ガキィィィンッ!!
鈍い金属音。コブラのサイコガンが、クリスタルボーイの鉤爪に掴まれた。
ボーイ「ふふふ…。…っ、はぁッ!!」
クリスタルボーイはコブラの左腕を掴んだまま、勢いよくコブラを投げ飛ばす。
コブラ「どわぁぁぁぁぁあっ!?」
身体が大きく宙を舞う。物凄いスピードで、コブラは鉄箱の山に叩きつけられた。派手な金属音が幾重にも音を立て、コブラの身体は鉄箱の山へと沈む。
ほむら「…!コブラ!」
ボーイ「…その程度では死なないのだろう?コブラ。今トドメを…刺してやる!」
ほむら「させない!」
カチリ。
クリスタルボーイの眼前に、突如として、安全ピンの抜かれた手榴弾が数個現れた。
ボーイ「何…!!」
ドォォ――――ン!!!
派手な音を立てて手榴弾が連鎖して爆発する。流石にその衝撃にクリスタルボーイの身体も吹き飛ぶ…が。クリスタルの身体には全く傷はついていなかった。
ゆっくりと立ち上がり、鉤爪をほむらの方向へ向ける。
ボーイ「相変わらず攻撃の読めないヤツだが…。言った筈だぞ…そんな骨董品で俺の身体に傷はつかん、と」
ほむら(…時間稼ぎにはなったようね…。やはり、手榴弾程度じゃアイツの身体はびくともしない…!)
ほむら(…とにかく、今はコブラを助けないと!)
マミ「はあああっ!!」
次の瞬間、マミがクリスタルボーイに向けて特攻をかける。銃器を鈍器代わりにし、その頭部を次々と殴る。
マミ「私のッ、後輩を…返しなさいッッ!!」
多少ダメージがあるのか、クリスタルボーイは反撃せず、しばしその攻撃を受ける。
ほむら(…今のうち…!)
カチリ。
ほむらはコブラの近くに瞬間移動をし、倒れているコブラの身体を起こそうとする。
ほむら「…!」
しかし、助けに行った筈のコブラは既に起き上がり、シガーケースから葉巻を取り出してジッポライターで火をつけていた。
ほむら(そんな…生身の人間なのよ!?魔法でガードしているわけでもないのに…あんな勢いで叩きつけられても…平然としているなんて)
コブラ「よぉ、ほむら。葉巻の煙は大丈夫かい?」
ほむら「そんな事言ってる場合じゃ…!」
コブラ「アンタに一本プレゼントだ」
コブラはシガーケースから葉巻を一本取り出し、ほむらに手渡す。
ほむら「!! 今はこんな… … …。 !…これ、葉巻じゃ…ない?」
コブラ「超小型の時限爆弾さ。先端のスイッチを押せば、5秒で爆発する。局部的ではあるが、おたくが今投げた手榴弾の数倍の威力はあるぜ」
コブラ「しかし、ヤツの懐に入ってそいつを爆発させる隙がない。…だが、君なら出来るんだろう?ほむら」
コブラ「時間を止めて動ける、君ならな」
ほむら「!!!!」
【ブラックホール生成完了まで、あと、5分です】
ほむら「…気づいていたの?私の能力に」
コブラ「それ以外に説明がつかないからさ。俺の目に見えない動きなんて、そう易々と出来るもんじゃない」
コブラ「魔法少女にはそれぞれ能力がある。マミは拘束系の魔法だし、さやかは回復が得意なようだな。…瞬間移動をするだけの能力かと思ったが、それじゃあさっきの銃弾や手榴弾の説明がつかない」
コブラ「時間を止める…いや、時間を『操れる』と言った方が適切かな?それがあんたの能力だ、ほむら」
ほむら「…!」
マミ「やああっ!っ、はぁッ!!」
クリスタルボーイをひたすら銃身で殴り続けるマミ。押しているようにも見えるが…クリスタルボーイは、反撃をしようとしていなかった。
ボーイ「…成程。その辺りの賞金首やギンガパトロール隊員よりは余程有能と見える。こうして受けるダメージも、通常の人間と比べて段違いに強い。魔法による身体能力の向上か」
ボーイ「だが、それが限界のようだな…!!」
マミ「ッ!!」
クリスタルボーイはマミの銃を一瞬で掴み、身動きを取れなくする。瞬間、空いている鉤爪をマミの腹へと突き出し…。
ドォンッ!!
ほむら「!!」
ボーイ「ぐ、…ッ!」
見ればコブラはいつの間にかパイソンを抜き、クリスタルボーイに向け発射していた。間一髪のところ、クリスタルボーイは後ろに仰け反り、マミはその間に後ろへと下がる。
コブラ「ほむら。お前さんにしか頼めない事だ。…そいつをヤツの腹に埋め込んできてくれ」
ほむら「…」
ほむら「もし、嫌だと言ったら?」
コブラ「… … …」
ほむら「正直に言うわ。私が此処へ来たのは、まどかの悲しむ顔が見たくなかったから。美樹さやかを失えば、きっとまどかの心に大きな穴がきっと空いてしまう」
ほむら「でも、私だって命は大事よ。私がこの葉巻型の爆弾を、アイツの身体に埋め込んできて、どうするの?アイツの身体がそれより頑丈だったら?」
ほむら「私はまだ…生きて達成する使命がある。こんなところで死ぬわけにはいかない。私には、助けるべき人がいる」
ほむら「ここで私が逃げ出したら、どうするの?コブラ」
コブラ「…いいや、アンタはやってくれる。俺はそう信じている」
ほむら「信じる?私を?…何故?」
コブラ「アンタには、助けるべき人がいる。それと同時に…アンタには助けが必要だからだ」
ほむら「…!」
コブラは葉巻から紫煙をゆっくり吐き出し、不敵に笑いながらゆっくりと立ち上がる。サイコガンをクリスタルボーイに向けて構えると、その横で茫然としているほむらに向けて、視線は合わせず語りかけるのだった。
コブラ「ほむら、アンタは何かを抱えている。俺にはそれが何かは分からない。だが君はずっとそれに立ち向かっている。…俺が君と出会った時からだ」
コブラ「そしてその『何か』に怯え…助けを求めている。だから俺は、全力でアンタのそれを手伝うつもりさ」
ほむら「…何故、それを…!!」
コブラ「君は隠しているつもりでも、俺には分かるのさ。…女に嘘は何度もつかれてきたが、女の瞳に嘘をつかれた事は…ほとんどないからな」
ほむら「… … …」
コブラ「さやかを助け、全員でその『何か』に立ち向かう。君はその『何か』を知っているようだが…今はまだ何も話さなくてもいい。少なくとも、あのガラス人形を倒すまではな」
コブラ「だが…俺は守ってみせる!君を…君達をっ!!何があっても、守り抜いてみせる!!」
ほむら「…!!!!」
ボーイ「…少し油断をしたな。…次はないぞ、コブラ…!」
頭に弾丸の穴を開けながらも、クリスタルボーイは立ち上がり、こちらを睨む。
ボーイ「死ねぇぇ、コブラァァァーーーッ!!」
鉤爪を振りかざしながら、全力でコブラに向けて疾走してくるクリスタルボーイ。サイコガンの連射も構わず、コブラに向かう。
ほむら「…分かったわ。…あなたを信じるという事は『この時間軸では』…愚かなのかもしれない。…それでも…皆を、まどかを助けれられる可能性があるのなら…私は貴方に賭けてみたい」
ほむら「…不思議ね、少しだけ…そんな衝動に駆られたわ」
コブラ「…感謝するぜ、ほむら」
ほむら「貴方が礼を言う必要はないわ…コブラ」
ボーイ「ハァッハッハッハァーーーッ!!」
完全にコブラを捉えたと確信したクリスタルボーイは、笑いながら突進をしてくる。
カチリ。
だが、次の瞬間。クリスタルボーイの足が止まった。
ボーイ「…何…?」
特殊偏光クリスタルに埋め込まれた葉巻のタイマーは『00:00』と記されていた。
ドゴォォォォォ―――――――――!!!!
大きな爆発がクリスタルボーイの身体を包むように起こった。
ボーイ「うぐぉぉぉぉぉッ!!??」
僅かに、クリスタルの破片が辺りに散らばった。
気付けば、ほむらは、コブラの真後ろにいた。コブラはそれを見ると、にぃ、と笑顔を見せて再びクリスタルボーイに向き直る。
コブラ「美人に見とれて時間を忘れたか!クリスタルボーイッ!!」
サイコガンの連射。クリスタルボーイの特殊偏光クリスタルは先程の爆発で胸部に風穴があき、防御ができない状態となっていた。
正確にその穴を通るサイコガンの弾道は内蔵のような金属を次々と破壊していく。
ボーイ「!!!!」
コブラ「マミッ!!今だ、アレをもう一度やってやれッ!!」
マミ「…!分かったわ…。…今度は、外さない!!」
クリスタルボーイが怯んでいる間に、マミはもう一度魔力を集中する。 再び巨大な砲身が現れ、銃口をもう一度、クリスタルボーイの方向へ構えた。
マミ「『ティロ・フィナーレ』ッッッ!!!」
爆音のような銃撃音が貨物室に響く。マミの頭身ほどもある巨大な弾丸は、ゆっくりと正確にクリスタルボーイの方へ突き進んでいき、そして…。
ボーイ「ぐわああああああああああああああッッッ!!!」
ドオォォォォォォォォォォンッッ!!!
まるで星空の煌めきのように、粉々になったクリスタルが辺りに散らばった。
クリスタルボーイの身体は木端微塵となり、残骸の破片が転がっているのみとなっている。
マミ「…やった…!あはは…た、倒した…!」
ほむら「…」
コブラ「2人とも、いい仕事だったぜ。100点満点だ」
三人が笑顔を浮かべた瞬間、船のアナウンスが無常にも時を告げる。
【ブラックホール、生成完了まであと1分30秒。船員は安全な場所で待機をしてください。繰り返します…】
マミ「…!!」
ほむら「…くッ…!時間が…!」
その時、貨物室の風穴から声が聞こえた。見れば、エアーバイクに乗ったレディが宇宙船と並走している。レディはそこからロープを垂らした。
レディ「皆、急いでロープに掴まって!タートル号は離れた場所で避難しているわ、早くしないとブラックホールに巻き込まれる!!」
マミ「で、でもまだ…美樹さんのソウルジェムが!!」
ほむら「…私が行くわ。もう一度、時間を…」
コブラ「いいや、俺が行く。ほむら、入ったことのない未来の宇宙船の中から一つの宝石を探し出せるかい?」
ほむら「…で、でも…」
コブラ「こういうのは俺の専門さ。…マミ、ほむら!先に脱出しろ!俺は後から行くぜ!」
そう言ってコブラは、貨物室の先のコクピットへと走っていく。
マミ「!!コブラさんっ!!」
コブラ「ちっ…あの野郎、厄介な仕事残してくれたぜ…。宝探しゲームのつもりか?」
船体が大きく揺れはじめる。それは、ブラックホールがもうすぐ出来上がる事を示していた。
コブラ「さぁーてと…どこに隠れてるのかな?ソウルジェムちゃんは…!」
宇宙船、コクピット。閑散とした場所ではあるが、コクピットはかなり広い。一見しただけでは青い宝石は見当たらないようだ。
【ブラックホール、生成完了まであと1分です。船内の乗組員は衝撃に備え…】
コブラ「ちぃーっ!分かってますってんだ…!…どこだー?どこだ、ソウルジェムは!」
操縦席、椅子の下、機器類、あらゆる場所を探すが、見当たらない。そうしている間にも刻々と時間は過ぎていき…。
コブラ「ちくしょー!あのガラス人形め、最後に罠しかけやがって…!どこだよ、どこにあるんだっ!?」
コクピットのモニター。船体の眼前には、既に超小型のブラックホールが誕生しかけている。船はいっそう揺れ始め、今にもそれに吸い込まれそうだ。
【ブラックホール、生成完了まであと10秒です。9、8、7…】
コブラ「くそーっ!!間に合わね… …ん?」
操縦桿にやけくそで腕を叩きつけた瞬間… 壊れた機械の中に煌めく、一つの青い光。操縦桿はダミーで、実は空の鉄箱だったのだ。
【4、3…】
コブラ「こいつかァ――ッ!!」
急いでコブラはそれを取り出し、貨物室へと走る。が…。
【2、1…0。異次元へのワープを開始します】
コブラ「うおおおお―――――ッ!!」
無常にも、船体はゆっくりとブラックホールに吸い込まれていく。
轟音を立ててブラックホールに吸い込まれていく、クリスタルボーイの宇宙船。
エアーバイクに乗り込んだレディ、ほむら、マミの3人はただそれを見送る事しかできなかった。
マミ「あ、あ…!」
ほむら「…!」
レディ「…」
マミ「そんな…っ!間に合わなかったの…!元の世界に、戻ってしまったのというの…!?レディさんだって、この世界にまだいるのに…!」
マミ「そんな…!!!」
ほむら「…」
ほむら(…私を、まどかを助けると…約束したのに…)
レディ「…ふふ、それはどうかしら」
マミ「え?」
レディ「私は彼と長い付き合いだけれど…彼が、やり始めた事を途中で放棄した事は、一度もないわ」
レディ「…たとえ、そこが見知らぬ世界の中だろうとね」
ガキィィンッ!!
その時、エアーバイクの機体に突き刺さる、ワイヤーの先の刃。
マミ・ほむら「!!」
そのワイヤーの先に…ウインクをしながら手を振る、1人の男の姿があった。
コブラ「おーい!レディ、早く降ろしてくれーっ。俺は高所恐怖症なんだよーっ」
力無いさやかの右手に、コブラはそっとソウルジェムを握らせた。
まどか、ほむら、マミ、杏子…コブラ、レディ…そして、キュウべぇ。全員で、時間が止まったかのようにさやかの様子を見る。
祈るような、視線の数々。
…そして。
さやか「…あれ…?」
ゆっくり起き上がるさやか。何が起きたのか分からない、という表情で辺りを見回す。
さやか「…あれ、あたし…どうしたの…?」
まどか「さ…さやか、ちゃん…っ…」
マミ「…美樹さんっ…!!」
さやか「ま、まどか…?マミさんも…なんで、泣いてるの…?あれ?あれ?」
まどか「うわぁぁぁあああんっ!!」
マミ「…っっっ!!」
大声を出して泣きながらさやかに抱きつく、まどか。そしてその2人を包むように優しく肩に手を置く、マミ。
少しだけ、微笑んで…ほむらもその様子を黙って見ていた。
コブラ「仲間、か」
レディ「どうしたの?コブラ」
コブラ「…俺達が失ってきたものを…かの女達に失わせたくはない。…そう思ってね」
コブラは葉巻に火をつけると、満足気に笑みを浮かべ…月に向けて煙を吐いた。
―― 次回予告 ――
さやかのソウルジェムを取り戻したのはいいものの、その秘密は皆にバレちまった!どうやらキュウべぇの野郎、契約と同時にかの女達の魂をソウルジェムに移し替えちまったらしい。タチの悪い詐欺だぜ。
ショックを隠し切れない魔法少女達。不安になっちまうのも無理はないってもんだよ。特にさやかにゃ、色々ワケがあるみたいだね。
そんな矢先、新たな魔女が出現する。触手がうねうね、気持ち悪いの何の。こんな中戦えっていうのも無茶な話かもしれないが…しかし、俺が必ずあんた達を守ってみせるぜ!
次回、【魔女に立ち向かう方法】で、また会おう!
さやか「…騙してたのね、あたし達を」
QB「不条理だね。ボクとしては単に、訊かれなかったから説明をしなかっただけさ。何の不都合もないだろう?」
マミ「…納得出来ないわ。…キュウべぇ、何故…教えてくれなかったの?ソウルジェムに…私達の魂が移されていた、だなんて…!」
QB「君からそんな事を言われるのは心外だね。魂がソウルジェムに移ったのは、マミ、君が魔法少女になったからだよ?失いかけていた命を救うことを望んだのは君自身じゃないか」
マミ「私の事はどうでもいいわ。…美樹さんの立場はどうなるの?彼女は、叶えたい願いを叶えただけ…それだけなのに」
QB「『それだけ?』」
QB「戦いの運命を受け入れてまで、叶えたい願いがあったのだろう?さやか、君は魂がソウルジェムに移ると知っていたのなら、願いは叶えなかったのかい?」
さやか「…!」
QB「戦って、たとえその命が尽きようとも、恭介の腕を治したかった。それならば肉体に魂が存在しない程度、どうという事はないだろう?」
マミ「キュウべぇ、貴方…!」
QB「恨まれるような事をした覚えはないよ。君たち人間は生命の消滅と同時に魂までも消えてしまうからね。ボクとしては、少しでも安全に戦えるように施しをしているつもりなのだけれど」
コブラ「… … …」
第6話「魔女に立ち向かう方法」
クリスタルボーイを倒した、翌日。
マミのアパート。マミ、さやか、コブラの三人はキュウべぇを問い詰めるべく、そこに集まっていた。魔法少女の存在とは、ソウルジェムとは何か。その願いの代償として失った物を、確かめるべく。
QB「マミ、さやか。君たちが今日まで無事に戦ってこれたのは、ソウルジェムのおかげなんだよ」
QB「肉体と魂が連結していないからこそ、痛覚を魔力で軽減して、気絶するような、ショック死をしてしまうような痛みをも君たち魔法少女は耐える事が出来る」
QB「本来、君たちが受けるべき痛みを今ここで再現してみせようか?」
マミ「…っ…!」
コブラ「やめときなよ。そんな事再現したって何の得にもなりゃしない」
QB「そうかな。マミもさやかも、現実をまだ受け入れていないからね。魔法少女として戦う事の意味を」
さやか「… … …」
コブラ「それじゃあ、その『意味』とやらを教えるのがアンタの目的かい?冗談よしてくれよ、お前はかの女達の教師でも何でもない。ただ契約を結ぶだけの存在の筈だ」
QB「イレギュラーの君にとやかく言われる必要も感じないね」
コブラ「おおっと、触れちゃいけない話題だったかな?それとも、アンタには契約を結んで魔女を倒す以外に何か目的でもあるのかい?」
QB「…」
QB「君は、何者なんだい?」
コブラ「言わなかったかな?俺は、コブラさ」
コブラ「マミ、俺はちょいと野暮用があるんで失礼するぜ。君のお茶はいつも最高の味だ」
マミ「…えぇ。…ありがとう、コブラさん」
コブラ「…さやか」
さやか「… … …」
コブラ「アンタが叶えた願い。…それに賭けたお前さんの思い。しっかり思い出すんだ」
コブラはそう言い残して、マミの部屋から出ていく。
さやか「…あたしの…願い…」
―― 学校。
和子「はーい、今日は…美樹さんは欠席、ね。それじゃあ、HRを始めましょう」
まどか「…」
まどか(さやかちゃん…大丈夫かな…。マミさんも学校来てないみたいだし…。…やっぱり、みんな…ショック、なのかな…)
まどか(わたしに出来る事って…何も、ないのかな?…ずっと見ているだけで、臆病で…っ…)
ほむら「… … …」
廃墟と化した教会。ステンドグラスから漏れる光を浴びながら、1人俯いて考え事をする杏子。
杏子「…」
杏子「なんなんだよ、一体」
杏子(意味が分からねェよ。アタシはただ…魔女を狩って、自分のためだけに…ただ、それだけのために戦ってきた筈なのに…)
杏子(ワケのわからねー男は出てくるし、魔女じゃない変な化け物は出てくるし…アタシは、もう死んで…ソウルジェムがアタシの魂になってるって…?)
杏子「…くそ…っ!こんな…こんな…!」
杏子は自らの赤色のソウルジェムを忌まわしげな瞳で見つめる。
それでも、その宝石をたたき割る事は出来ない。それが自らの命であると、知っているから。
杏子「…なんで…」
杏子(なんで、アタシは…こんなに悲しくて、悔しいんだよ…っ!…畜生…っ!)
杏子「くそ…アタシらしく、ないな…」
杏子は立ち上がり、廃墟からそっと出ていく。
――― その夜。
ピンポーン。
恭介父「はい、どなたでしょうか?」
恭介父「…ああ、貴方は確か…病院の方で、恭介の演奏を…」
恭介父「そんな、わざわざ有難うございます。…どうぞ、上がってください。恭介からも貴方のお話は聞いています。…その節ではお世話になったそうで」
恭介父「恭介は部屋にいますから、案内しますよ。…え?必要ない?そ、そうですか…?それでは…」
コンコン。
恭介「…?父さん?」
松葉杖をつきながらドアまで近づき、自分の部屋のドアをゆっくり開ける恭介。
恭介「…!あなたは、確か…」
コブラ「よー、元気かい?」
コブラは花束を恭介に手渡すと、にぃ、と笑った。
コブラ「快気祝いに来たぜー。おー、いい部屋住んでるじゃねーかー。どれ、お宅拝見っと」
恭介「そ、それは…どうも…」
恭介「酒臭ッ!!」
一方、同時刻。杏子に呼び出され、森林の中を歩くさやかと杏子。
一度は、対峙した相手。だが、心に思う事はお互いに同じなのであろう、虚ろな瞳で杏子の後をついていくさやか。
そして辿り着いたのは、廃墟と化した教会であった。
杏子「アンタは、後悔してるのかい?こんな身体にされた事」
さやか「…」
杏子「アタシは別にいいか、って思ってる。なんだかんだでこの力のおかげで好き勝手できてるんだしね」
さやか「…あんたのは自業自得でしょ」
杏子「そう、自業自得。全部自分のせい、全部自分の為。そう思えば、大抵の事は背負えるもんさ」
さやか「…それで、こんなところに呼び出して何の用?」
杏子「ちょいとばかり長い話になる。…食うかい?」
さやかにリンゴを投げる杏子。一度はそれを受け取るが…床に投げ捨てるさやか。
その瞬間、杏子はさやかの胸倉を掴む。
杏子「…食い物を粗末にするんじゃねぇ。…殺すぞ」
さやか「… … …」
杏子「…ここはね。…あたしの親父の教会だったんだ」
杏子は、静かに、しかし強い口調で語り始めた。誰に言うでもない、まるで独り言のように虚空を見ながら話す杏子の目は、とても悲しく、しかし強い瞳であった。
―― 佐倉杏子の、父親。幸せだった筈の家族。
あまりに正直で素直であったために、世間から淘汰された神父の話。しかし、それでも自分に正直であり…家族も、そんな父親を責めはしなかった。
貧しくても、その日の食糧を求める事すら苦しくとも、佐倉杏子の家族はしっかり家族として機能していたのだった。
杏子「…皆が、親父の話を真面目に聞いてくれますように、って。それがあたしの、魔法少女の願い」
その願いは叶えられ、杏子には魔法少女としての枷が与えられた。それでも、彼女は構わなかった。自分さえ頑張れば、家族は幸せになれるのだと…そう信じていたから。
―― しかし。
父親に、杏子の魔法はバレてしまった。偽りの信者、偽りの信仰心、全てが魔法の力であるものだと。
―― そして、杏子の魔法は、解けてしまったのだった。
杏子の父親、母親、幼い妹すらも巻き込んだ、無理心中。杏子の願いは、家族の全てを壊してしまったのだ。
杏子「アタシはその時誓ったんだ。もう二度と…他人のためにこの力は使わない、って」
杏子「…奇跡ってのは、希望ってのは…それを叶えれば、同じ分だけ絶望が撒き散らされちまうんだ」
杏子「そうやって、この世界はバランスを保って、成り立っている」
恭介「…あの時は、本当に有難うございました。…自暴自棄になっていた僕を、止めてくれて。…あの時、コブラさんが止めてくれていなかったら…」
コブラ「なぁ、恭介。奇跡ってヤツはどうやって起きるんだろうな?」
恭介「…え…」
窓辺に腰かけて、コブラは笑顔を浮かべながら呑気にそう語りかける。まるで独り言のように、虚空を見ながら。
恭介「…どうやって、って…それは…」
コブラ「アンタのその腕、医者からも治癒は絶望的なんて言われてたんだろ?今こうして動いて、しかもバイオリンが弾けるまで回復するなんて奇跡以外の何物でもない」
コブラ「そいつを不思議に思ってね。恭介、アンタ自身はどう考えてるのかちょいと世間話に来たんだ」
恭介「…僕自身も、本当に偶然とは思えないのは確かです。神様が僕の願いを叶えてくれた…なんて考えるのも、おこがましい話ですし」
コブラ「神様、ね」
コブラ「その神様って奴が身近にいたのかもしれないぜ?…アンタの場合」
恭介「…え?」
コブラ「病室にいて、ずっと落ち込んで、ふさぎ込んでいたアンタを、神様とやらがずっと見ていてくれたんじゃないかな」
恭介「… … …」
コブラ「その神様ってヤツぁ、お前さんが想像してるような白髪の老いぼれ爺なんかじゃないと思うね。もっとチンチクリンで、自分に馬鹿正直なクセに奥手で恥ずかしがり屋で、それでも頑張ってアンタのために祈りを叶えてくれた」
恭介「…さや、か…?」
コブラ「奇跡って奴は、叶えるのにそれだけの対価が必要だと俺は思ってるのさ。…ひょっとしたら、アンタの奇跡のためにこの世界で頑張ってるヤツが1人いるんじゃないのかな。ま、あくまで俺の考えだがね」
さやか「何でそんな話を私に?」
杏子「アタシもあんたも、同じ間違いをしているからさ。だから、これからは自分のためだけに生きていけばいい。…これ以上、後悔を重ねるような生き方をするべきじゃない」
さやか「… … …」
杏子「もうあんたは、願い事を叶えた代償は払い終えているんだ。これからは釣り銭取り戻す事だけ考えなよ」
さやか「…あたし、あんたの事色々誤解していたのかもしれない。…その事はごめん、謝るよ」
さやか「でも、一つ勘違いしている。…私は、人の為に祈ったことを後悔なんてしていない。高過ぎる物を支払ったとも思っていない」
さやか「その気持ちを嘘にしないために、後悔だけはしないって決めたの」
杏子「…なんで、アンタは…」
さやか「この力は、使い方次第で素晴らしいものに出来る。…そう信じているから」
さやか「それから、そのリンゴ。どうやって手に入れたの?お店で払ったお金は?」
杏子「…!」
さやか「言えないのなら、そのリンゴは貰えないよ」
さやか「あたしは自分のやり方で戦い続ける。…それが嫌ならまた殺しに来ればいい。もうあたしは負けないし…恨んだりもしない」
そう言い残し、静かに教会から去っていくさやか。
杏子「…ばっかヤロウ…」
恭介「…はは、まさか…」
コブラ「そう、まさかなんだよ。アンタの身体に起こった奇跡は、単なる偶然。誰に感謝するわけでもない、これからは自分のために、自分のバイオリンのためだけに生きて行けばいい。なんたってあんたは天才ヴァイオリニストなんだからな」
恭介「… … …」
恭介「それじゃあ…まるで、僕が最低の人間みたいじゃないですか」
コブラ「そう思うのかい?じゃあアンタの腕が治ったのは誰かのおかげなのか?それとも、本当に単なる偶然なのか?」
恭介「…貴方は、何を言いに来たんですか?」
コブラ「言っただろ?俺は世間話をしにきたんだよ。機嫌を損ねちまったかな?」
恭介「… … …」
コブラ「俺はバイオリンの音色に興味はないからなぁ。どうせ聞くんなら美女の甘い囁きを耳元で…なんてね」
コブラ「しかし、この世で一番、アンタのバイオリンの音色を聴きたがっている人間がいる。アンタの家族や親族より、ずっと強い気持ちでさ。…アンタはそれに応えてやらなきゃいけない」
コブラ「アンタに起こった『奇跡』を、アンタがどう考えるのかによるかだけどな」
恭介「… … …」
コブラ「それじゃ、俺は失礼するぜ。こう見えて忙しいんだ。デートの約束とかね」
恭介「… … …」
恭介「…待って、ください…!」
コブラ「…」
恭介「…もう少しだけ…もう少しだけ、貴方の話を聞かせてください。…考えたいんです」
コブラ「…ああ」
コブラ「それじゃあ、ちょいとした身の上話をさせてもらおうかな。今日の予定は全部キャンセルだ」
―― その翌日。親友の仁美に呼び出されたさやかは、ファーストフード店に来ていた。テーブル越し、まるで対峙をするかのような、仁美の強い視線。
そして、神妙な面持ちで語り始める。
仁美「ずっと前から…私、上条君の事をお慕いしておりましたの」
さやか「…!!」
さやか「…そ」
さやか「そうなんだぁ…!あははは、恭介のヤツ、隅に置けないなぁ」
仁美「さやかさんは、上条君とはずっと幼馴染でしたのよね」
さやか「あ、ま、まぁ…腐れ縁っていうか、なんていうか…」
仁美「…本当に、それだけですの?」
さやか「…!」
仁美「…もう私、自分に嘘はつかないって、決めたんですの。…さやかさん、貴方はどうなのですか?」
さやか「どう、って…」
仁美「本当の自分と、向き合えますか?」
仁美「―― 明日の放課後に、私、上条君に思いを告白致します」
仁美「―― それまでに、後悔なさらないように決めてください。上条君に、思いを伝えるかどうかを…」
―― その夜。自分の家を出て魔女退治に出かけようとするも、思考が回らず立ち止ったままのさやか。
さやか「…」
まどか「…さやかちゃん」
さやか「…!まどか…」
まどか「付いていって、いいかな…?…マミさんにもコブラさんにも言わないで魔女退治に行くなんて…危ないよ…?」
さやか「…あんた…なんで、そんなに優しいかな…っ…。あたしに、そんな価値なんて、ないのに…っ、ぐ…!」
まどか「そんな事…!」
さやか「あたし、今日、酷い事考えた…っ…!仁美なんていなければいいって…っ…!恭介が…恭介が、ぁ…仁美に、取られちゃうって、ぇ…えぐっ…!」
まどか「…」
そっと近づき、さやかの身体を優しく抱くまどか。
さやか「でも…あた、し…っ!なんにも出来ないっ…!ひぐっ…!だってもう死んでるんだもん…ゾンビなんだもん…っ!」
まどか「さやかちゃん…」
さやか「こんな身体で、抱きしめてなんて…っ、言えないよぉぉ…!!」
その時、さやかとまどかに近づく1人の影があった。
まどか「…! …あなたは、あの時の…」
レディ「…少し、いいかしら?美樹さやかさんと、鹿目まどかさん。…お届けものに来たわ」
近くにあったベンチに座った、さやかとまどか。さやかが泣き止み、落ち着くのを待ってからレディは静かに話し始める。
レディ「突然でごめんなさい。…まどかさんとは少しだけ顔を合わせたけど、さやかさんは…知らなかったわね、私の事。私はコブラから貴方達魔法少女の事は聞いているのだけれど」
さやか「… … …」
レディ「こんな恰好だから警戒するのは当たり前よね。…私はコブラの相棒、レディ…アーマロイド・レディというの」
さやか「…やっぱり変な名前」
レディ「ふふ、そうね。…こんな時に突然で驚くわよね。コブラがどうしても、私に、貴方達に届け物をして欲しいと言うから」
まどか「…届け物、って…?」
レディ「上条恭介君からの預かりものがあるわ」
さやか「…!!!」
レディはそう言って、小さな封筒を一つ、取り出して見せた。
レディ「受け取ってもらえるかしら?」
さやか「… … …」
まどか「さやかちゃん…」
しかし、さやかの表情は優れず、レディの持つ封筒に手を差し伸べる様子も無い。
レディ「…それから、コブラからもう一つ頼まれごとをしているの」
レディ「昔話を、さやかにしてやれ、ってね」
さやか「…え…?」
レディ「退屈な話なら聞かなくていいわ。この封筒だけ受け取ってくれてもいい。ここから逃げ出してもいい。…もし良かったら、そのままベンチに座っていてくれないかしら」
さやか「… … …」
さやかは動かず、俯いたままでいる。まどかはその身体をそっと支えたままだった。
レディ「…昔、あるところにとてもヤンチャなお姫様がいたの。祖国を怪物に滅ぼされ、復讐に燃えるあまりにその怪物を自ら倒しに行った…そんな無茶をした、バカなお姫様よ」
レディ「でもそのお姫様の力じゃあ、とてもその怪物には敵わなかった。…でもね、ある人が、私を助けてくれたの」
レディ「祖国を滅ぼされ、仲間も失い…全てを失った私を、その人は守ると言ってくれた。…何があっても守る、何があっても殺させやしない、って…」
まどか「…それって、レディさんと、コブラさん…?」
レディ「…ふふふ、どうかしら?」
レディ「その人は、全てを…命を賭けて、時間さえも飛び越えて…お姫様を助けてくれたわ。だから、お姫様も…その人に一生ついていくと決めたの」
さやか「… … …」
さやか「素敵な話だね。…でも、知らない人からそんな話を聞いても…あたしは…」
レディ「…そうだと思うわ。私だって不思議だもの。何故こんな話をコブラが私にさせているのか」
レディ「でも…なんとなく…私はね、そのお姫様とさやかさんが似ていると思うの」
さやか「…あたしと…?」
レディ「お姫様とその人との幸せな時間はあったわ。…でも、そう長くは続かなかった。 お姫様はある日、瀕死の重傷を受けてしまったの。…銃撃戦があって、ね」
レディ「お姫様には一つの選択肢があったの。そのまま死ぬか…もしくは、全く別の身体に魂を宿して、新しい人生を送るか」
さやか「…!」
―― 昨日。上条恭介の部屋、コブラと恭介の会話の続き。
コブラ「俺には1人の相棒がいてね。親愛なる最高のパートナーが」
コブラ「そいつは以前、瀕死の重傷を負った。…医者に言われたよ。奇跡は起きない。このまま死ぬのを待つしかない、とね」
恭介「…」
コブラ「一つだけ、彼女が助かる道があった。…まぁ、嘘だと思うかもしれないが聞いてくれ。…全く別の身体に、その相棒の魂だけを移し、生まれ変わる…そんな事が出来たのさ」
恭介「…作り話、ですか?」
コブラ「そう思ってくれて構わないさ。作り話なら、俺もなかなかいい小説家になれそうだろ?」
コブラ「話の続きだ。…だが、俺は相棒がそんな身体になる事は望まなかった。俺はそいつを愛していたし、彼女だってそんな事は望まないと思っていた」
恭介「…」
コブラ「だがかの女は、新しい身体に自分の魂を注ぎ、生まれ変わった」
コブラ「以前のように愛されなくてもいい。ただかの女は、俺と一緒にいる事だけを望んだ。そのためなら、例えその身体が機械の身体になろうとも…ってね」
恭介「…素敵な話ですね」
コブラ「そう思うかい?そりゃ良かった。恭介、アンタと俺は気が合いそうだ」
恭介「気が合う?」
コブラ「そうさ。俺はその時、かの女と共にずっと旅を続けていくと心に誓ったからさ」
コブラ「何を犠牲にしてもいい。どんな事をしてもいい。かの女が俺を愛してくれるのなら、かの女がどんな身体になろうと俺は全てをかの女に捧げようとな」
恭介「… … …」
コブラ「そこに、愛するとかそういう概念はない。俺は相棒に出来る事を全てする。相棒も同じ事を俺にしてくれる。同じ目的を持ち、同じ『道』を進む…。いい関係だろ?」
コブラ「…恭介。アンタのバイオリンには、そういう『道』が築けるのさ。世界中、全ての人にその音色を聞かせてやれるように…なんて道がな」
恭介「…ええ。僕は…たくさんの人に、自分の音色を届けたいと思っています」
コブラ「へっへっへ」
コブラ「だったら、まず…その音色。聞かせてやるべき人がいるはずさ。…『相棒』がね」
恭介「…!」
レディ「お姫様は…新しい身体。おおよそ人間とは言えない、機械の身体に自分の魂を移したわ」
レディ「彼に愛して欲しいとは望まなかった。…ただ、かの女はずっと旅がしたかったの。その人と過ごす時間…その人の進む道を同じように進んでいくのが、何よりも素敵な時間だったから」
さやか「… … …」
レディ「そう思ったのは、彼を信頼していたから。どんな身体になろうとも、約束をずっと守ってくれると信じていたから。私を、ずっと守ってくれるという…ね」
レディ「…ねぇ、さやか。貴方にとっての恭介という人は、どんな人なの?」
さやか「…恭介…」
レディ「貴方は、自分が愛される資格がない…そんな風に考えている。…じゃあ恭介君は、そんな貴方をすぐに見捨ててしまうのかしら」
レディ「貴方が愛した彼は、そんな人?」
さやか「…!」
レディ「…誰かの傍にいたいと思うには、条件があるの。それは、何があってもその人を信じる事。どんな事があっても自分を見捨てない。必ず傍にいてくれる…。自分がそう信じる事が、何よりも大切」
レディ「コブラと、私。…さやかと、恭介。…ふふ、本当に似ていると私は思うわ」
レディ「だから、貴方にお届けものよ」
レディは封筒から一枚の紙を取り出し、さやかの掌の上に置いた。
まどか「…!それって…」
さやか「…!」
紙には、恭介の字が記してあった。リハビリ中でまだ震えた字体であったが、力強く握った黒のインクで、しっかりと書かれてある。
【明日の放課後、僕の家でもう一度コンサートを開かせてください。僕をずっと信じてくれていたさやかに、聞いて欲しい曲があります。 ―― 上条恭介】
さやか「!!!!」
レディ「…こんな素敵なコンサートチケット、世界中どこを探しても見たことないわ。…幸せね、さやかは」
さやかは声にならない泣き声をあげながら、大粒の涙を流した。
まどかも、その身体を支えながら、微笑み、泣いた。
マミ「…!これは…」
マミのソウルジェムが俄かに光って反応を示す。
コブラ「魔女か?」
マミ「そうみたい…近いわ!大変よ、美樹さん!近くで魔女が生まれ… …」
ガサッ。
ソウルジェムの反応に慌てたマミは、思わず近くの茂みから身体を出してしまう。
マミ「… あっ」
さやか「… えっ」まどか「… あっ」
さやか「マミさん!それに…コブラさんも…!」
コブラ「あ、ははは、よぅさやか、まどか。おや、レディもいるのか。奇遇だねー、いや、たまたま通りかかってさ、ホントホント」
マミ「そ、そうなの!偶然通りかかってたまたま2人を見つけちゃって!それで、ええと…べ、別に盗み聞きしてたわけじゃないのよ!本当に!」
さやか「…マミさん、嘘ついてるのバレバレですよ…」
マミ「…あ、あはは…そうね。えーと… …ごめんなさい」
さやか「… ぷっ。あ…アハハハハハッ!マミさん可愛いーっ!」
まどか「ティヒヒ」
コブラ「はっはっはっは!」
マミ「うううう…」
顔を赤くするマミ。照れる顔なんてあまり拝めないもので、さやかもまどかもコブラも、その顔に笑ってしまう。
さやか「…魔女が近いんですね。行きましょう、マミさん、コブラさん。私の戦い方…もう一度、見ていてください!」
ベンチから立ち上がったさやかは、ソウルジェムを手に握りしめ、力強く握りしめた。
まどか「…さやかちゃん、大丈夫なの…?」
さやか「…まどか。もう…心配いらないよ。あたしは一人なんかじゃない。それが…やっと分かったから」
さやか「恭介、マミさん、コブラさんにレディさん…まどか。それにアイツ…佐倉杏子だって。みんな…あたしの事心配してくれてる。だからあたしは、その期待に必ず応える」
さやか「魔法少女さやかちゃんは伊達じゃないってトコ、見せてあげなくちゃね!」
さやかはまどかの方を振り向き、最高の笑顔を見せる。その笑顔に、まどかも安心をしたようだった。
マミ「…それじゃあ、行きましょう!」
レディ「さやか」
さやか「…レディさん。…ありがとうございましたっ」
レディ「どういたしまして。…彼を信じるのよ。そうすれば、きっと彼もそれに応えてくれるのだから」
さやか「…はいっ!!」
さやか、マミ、コブラ、まどかは駆け出し、その場を去る。
ほむら「いいのかしら。先に獲物を見つけたのは貴方よ。佐倉杏子」
杏子「…アイツのやり方じゃ、グリーフシードの穢れが強いからな。獲物は魔女だ。今日は譲ってやるよ」
ほむら「意外ね。貴方が他人にグリーフシードを譲るなんて」
杏子「ふん。…たまにはこういう気まぐれも起きるのさ」
ほむら(…共闘。グリーフシードの奪い合いは時に魔法少女同士の抗争を生み、それが全員の身を滅ぼした時間軸も存在する)
ほむら(佐倉杏子と、美樹さやか…。相性の悪い2人だとは思っていたけれど、この世界では…)
杏子「今日は見学だ。新人の戦い方、見届けてやる」
ほむら「…そうね」
コブラ「こいつは…」
マミ「…鹿目さん、少し下がっていて。…なかなか手ごわそうだわ」
まどか「!は、はいっ!」
現れた『影の魔女』は今まで出会った魔女の中でも巨大な部類であった。本体こそ人間と同サイズの影であるものの、それを取り巻くような無数の木の枝はまるで主を守るように生えている。
刃物のように鋭利な枝の先は、今にも三人に襲い掛かりそうに蠢いていた。
さやか「い、意気込んだのはいいけど、…あの枝はちょっと厄介そうだなぁ…。マミさん、どうしましょう…?」
マミ「そうね… 全部切り取っちゃうってのはどうかしら?」
コブラ「了解。庭師になれそうだぜ」
マミは単発式銃火器を宙に浮かせ、コブラは左腕のサイコガンを抜き、影の魔女に向けて構える。
コブラ「俺達があの盆栽の手入れをしてやる。見栄えが良くなったら本体を倒してくれ、さやか」
さやか「は、はい…!」
まどか「さやかちゃん、気を付けて…!」
さやか「! …うんっ!任しといて!」
マミ「それじゃあ…行くわよっ!!」
踏み込み、影の魔女に近づくマミとコブラ。領域への侵入者に対し、魔女は触手のような枝を次々と振り下ろしていく。
マミ「!!」
マミとコブラは立ち止り、自らに近づいてくる木の枝を次々と撃ち落していく。
目にも止まらない連射、しかも正確な一撃一撃は、次々と触手を撃ち落していく、が…。
コブラ「…!少しまずいな」
マミ「…この枝…っ、再生している…!?」
撃ち落した木の枝は一度は動かなくなるものの、少しの時間ですぐに再生を始めてしまっていた。襲い掛かる木の枝を落とすのが精一杯のマミとコブラは苦戦を強いられた。
コブラ「参ったな、キリがないぜ!」
マミ「くっ…一体どうすれば…!」
さやか「… … …!」
さやか「マミさん、コブラさん!…あたし、行きます!」
コブラ「何…っ!?」
さやか「でやああああああああッ!!」
銀に光る剣を前方に構え、さやかは影の魔女本体に突撃を開始した。それと同時に、木の枝はさやかに反応をし、襲い掛かろうとする。
マミ「!!!美樹さんっ、危ないわ!!」
さやか(このまま捨て身でいけば…皆を守れる!…例え、あたしのソウルジェムが穢れても…!)
さやか(… … …)
さやか(違う!)
さやか(大切なのは… 大切なのは、一歩を踏み出しすぎない、勇気…!一緒に戦おうって、マミさんは言ってくれた!…だから…!)
さやか「コブラさん!マミさん!一度だけ…一瞬だけ、道を作ってください!!…お願いしますッ!!」
マミ「…道…?」
コブラ「…! そうか…よぉし、分かった!マミ、俺らの周りは任せたぜ!」
マミ「え、ええっ!?」
コブラは自分の周囲の触手への攻撃を止め、影の魔女本体に向けてサイコガンを構える。自らの精神力をサイコガンに貯め、狙いを定めた。
コブラ「いくぞォォォーーーーーッ!!!」
大砲のようなサイコガンの一撃。影の魔女本体に向かっていく光は、周りを囲む木の枝を次々と消滅させていく。…それと同時に。
さやか「はああああーーーーーッ!!!」
コブラの作った『道』。触手が再生をする前にさやかはその残骸を踏み越え、影の魔女本体に向けて駆けていく。
そして眼前に現れたのは守るものを失った、影の魔女本体だった。
さやか「くらええええッ!!」
魔女本体に突き刺される剣。魔法で高められた攻撃は、一撃で魔女を葬り、消滅させた。
さやか「…あたしね、分かったんだ。…あたしが、何をしたかったのか」
まどか「…」
月夜が差し込む、ビルの屋上。夜風にあたりながら、さやかとまどかは空を見上げながら会話をしていた。
さやか「あたしが望んでいたのは…恭介の演奏をもう一度聞きたかった…それだけだったんだ」
さやか「あのバイオリンを…もっとたくさんの人に聞いて欲しかった。それで…恭介に、笑って欲しかったんだ。自分の演奏で、人を笑顔に出来るように…恭介自身も」
まどか「…さやかちゃん…」
さやか「…ちょっと悔しいけどさ、仁美じゃ仕方ないよ。あはは、恭介には勿体無いくらい良い子だしさ。きっと幸せになれる」
さやか「それに…あたしには使命がある。…まどかを、マミさんを…見滝原に住む皆を守るっていう、魔法少女の使命がね!」
まどか「でも…さやかちゃんは、恭介くんの事を…」
さやか「明日のアイツの演奏聞いたら…言ってやるんだ。アンタの事お慕いしてる子がいるって。…このさやかちゃんが、恋のキューピッドになってやろうっての!」
さやか「…それがどんな結果になろうと、後悔なんてしない。恭介にも、仁美にも…嘘をついて、生きていて欲しくなんかない」
さやか「皆…あたしの大切な人なんだ。あたしは、その大切な人たちにずっと笑っていてほしい。…だから、あたしも頑張れるんだ」
まどか「… … …」
さやか「まどか。勿論…アンタにも、ね!」
まどか「… うんっ!」
翌日の放課後、恭介の部屋。
恭介「… さやか。有難う、来てくれて」
さやか「… ううん。あたしも…ありがとう」
恭介「それじゃあ…聞いてくれるかな。…僕の、バイオリン」
さやか「… うん!」
上条家から、静かに『アヴェ・マリア』が流れる。まだ完璧な演奏とは言い難い。しかしそれは、世界中のどんな演奏より人を感動させられるような弦の音色であった。
その演奏を、外から聞いている仁美。
仁美「… … …」
仁美(…いい曲。とても静かで、力強くて…)
仁美(…私、諦めません)
仁美(でも、今は… もう少しだけ… この演奏を聴いていたいって、そう感じますの)
仁美(この音色を奏でさせられるのは… さやかさん、今は、貴方しかいないのですから…)
夕日が美しく差し込む、見滝原市。
その日はまるで、街全体を、一つの旋律が包み込んでいるかのようであった。
ほむら(… … …)
ほむら「ワルプルギスの夜まで…一週間」
ほむら(まどか…必ず貴方を、守ってみせる。…この時間軸で、全てを終わらせてみせる)
ほむら「…いよいよ…夜を迎えるのね」
ほむら(…巴マミ。美樹さやか。佐倉杏子。…コブラ。…そして、私)
ほむら(…終止符を打つ、必ず…!)
―― 次回予告 ――
さやかが一人前の魔法少女になれてさあこれからだって矢先に、暁美ほむらがとんでもない事を言い始めた!
なんでもあと何日かしたら超巨大な「ワルプルギスの夜」とか言う恐ろしい魔女が見滝原に出てくるんだとさ。かの女はそいつを倒すために、何度も時間を繰り返してきたって話だ。
か弱い女の子にそんな重荷を背負わせちゃいけないよな。俺達はワルプルギスの夜を倒すための作戦を練る事にした。
しかしそんな時、俺にビッグニュースが飛び込んできちまう!なんとレディが、元の世界に戻る方法を見つけちまったんだと!
どうすりゃいいのよ俺ぇー。
次回【夜を超える為に】で、また会おう!
コブラ「…それで、俺に何の用なんだい?」
夕日の差し込むビルの屋上。目を閉じ、微笑みながら葉巻をくわえたコブラと、それをじっと見つめる少女…暁美ほむら。
コブラ「お前さんから呼び出しなんて随分珍しいじゃないか。しかも、俺だけ。 好意は嬉しいがね、あと数年経ってから考えさせてもらうよ」
ほむら「… … …」
ほむら「『ワルプルギスの夜』が来るわ」
コブラ「… 何だって?」
ほむら「今までの魔女とは比べものにならない、超大型の魔女…。放っておけば、数時間…いいえ、数分でこの見滝原を滅ぼしてしまい…最悪の場合、更に広がるわ」
ほむら「規模は未知数。被害は地球全体に及ぶなんて話になっても、おかしくはない」
コブラ「…そんなものが来るって、どうして分かる?」
ほむら「…私には、もう一つ能力があるの」
ほむら「いいえ、正確には、私の能力は応用に過ぎない。…私の本当の力は、『時を操る事』。そして、それは…過去さえも操れる」
コブラ「…! ほむら、ひょっとしてお前さんは…まさか…」
ほむら「…ええ、何度も…数えるのも諦めるくらい、見てきているわ」
ほむら「この世界が滅びていく、その様を」
風が、一段と強く2人を吹き抜けていった、そんな気がした。
第7話「夜を超える為に」
さやか「…やっぱりここにいたんだ」
杏子「! …アンタ、どうして…」
以前会話をした、廃教会。そこへ足を運んださやかは、予想通り杏子と出会う事が出来た。
さやか「コレ、あんたに渡そうと思ってさ」
さやかは手に持っていた紙袋からリンゴを一つ取り出し、杏子に向けて投げた。それを受け取った杏子は、きょとんとした顔でさやかを見ている。
さやか「…この前は、ごめん。あたしの事、アンタなりに心配してくれたのに…嫌な事言っちゃって」
杏子「… … …」
さやか「だから、謝りに来た。…それで…改めて言うのもおかしい話だけど…これからも、その…あたしと仲よくしてほしいなぁ…なんて」
さやかは杏子の顔色を横目で伺いながら、恥ずかしそうに頬を?いた。
杏子「…アンタさぁ」
杏子「よくそんな台詞言えるよな。…聞いてるこっちが恥ずかしくなるよ」
さやか「べっ、別になんだっていいでしょ!!…あたしだって、コレでも頑張って謝りにきてるんだから…!」
さやか「…あんたと…その… 仲悪いまま、終わりたくないし…」
杏子「…かぁー。ホントに、呆れるくらい馬鹿正直なんだねアンタって」
さやか「そ、それはあんただって一緒でしょっ!?…ほら。こっちだって恥ずかしいんだからさ…」
そう言って、さやかはゆっくりと右手を杏子に向けて差し出した。
杏子「…分かったよ」
杏子はぷいとそっぽを向きながらも、さやかの差し出された右手に、自らの右手を重ねた。
コブラ「…時間を何度も繰り返し、そのワルプルギスの夜とやらと何度も戦って…それでも負け続けて、今に至る、ねぇ」
ほむら「信じてもらえるとは思っていないわ」
コブラ「信じるさ。俺も昔、同じような事をした」
ほむら「…?」
コブラ「それで、何で俺を呼び出したんだ?仮にそいつが現れるとしてそのバカデカい魔女を口説き落としてくれ、なんて話じゃないだろ?」
ほむら「…」
ほむら「貴方は、幾度となく私達を救っている」
ほむら「魔女の撃退、巴マミの救出、美樹さやかのソウルジェム奪還…貴方のしている行動の全ては、魔法少女達にとってプラスへと働いているわ」
ほむら「答えて。…何が目的なの?」
コブラ「そうだなぁ。目の前でか弱い女の子達が困っていたから、かな」
ほむら「分からないわ。単なる人助けでこんな事をしているとでも言うの」
コブラ「…信じられないかい?」
ほむら「ええ、私には理解し難い事だわ」
コブラ「勿論、俺は元の、俺のいるべき世界に戻ろうとしている。そのためにアンタら魔法少女にくっついて行動しているのも目的の一つさ」
コブラ「ただね、趣味なのさ」
ほむら「…趣味?」
コブラ「困っている女の子の顔を、安心させてやるのがさ」
ほむら「…つくづく分からないわ、貴方の事が」
コブラ「よく言われるよ」
ほむら「…」
ほむら「過去…どの時間軸でも、私は失敗を積み重ねている。時にはワルプルギスの夜に負け、時には…魔法少女同士で殺し合う、そんな世界も存在したわ」
コブラ「物騒だねぇ。何があったんだ」
ほむら「魔法少女の正体に気付いてしまったからよ」
コブラ「…ソウルジェムの穢れ、か」
ほむら「気付いていたのね」
コブラ「アンタに黙っていて申し訳なかったな。相棒にちょいとグリーフシードの成分を分析してもらってね。…それで、分かったのさ」
コブラ「…ソウルジェムの『穢れ』。アレが、魔女の正体だ。つまり魔法少女と魔女は、表裏一体の存在って事…違うかい?」
ほむら「…ええ、そうよ」
ほむら「そして、その正体に気付いた魔法少女達は自分たちこそ災厄の元凶だと気づき、互いを殺し合った」
ほむら「…ある意味、正しい行動だったのかもしれないわ。キュウべぇに利用されたままの自分達を、消せたのだから」
ほむら「…そうでしょ?…インキュベーター」
ほむらがそう言った瞬間、物陰からひょっこり現れるキュウべぇ。
コブラ「黒幕さんのお出ましか」
QB「…」
QB「驚いたね。遠い未来世界から来たイレギュラー…『コブラ』、そして時間を繰り返し戦ってきた魔法少女…『暁美ほむら』」
QB「僕の知り得ない人間が2人も関わっていたのは、本当に驚きだ。奇跡以外の何物でもないのかもしれないね」
コブラ「インキュベーター…ね。俺の疑問がようやく解けたぜ」
コブラ「アンタは少なくとも地球生物で無い事は分かっていた。しかしこの世界には、星間交流の概念がない。何故宇宙生物が魔法少女と呼ばれる存在の周りをウロチョロしているのかがようやく分かったぜ」
QB「本当に驚きだよ。君はこの星…いいや、宇宙がどんな運命を辿っていくのかを知っているわけだ、コブラ」
コブラ「興味があるかい」
QB「そうだね。僕達の目的は『宇宙の寿命』を伸ばす事にあるわけだから。僕達の行動がどんな素晴らしい結果を生んでいるのかを知りたいのが本音さ」
コブラ「宇宙の寿命…?」
ほむら「…この地球外生命体の目的は、一つ。魔法少女を魔女化する時に発生するエネルギーを、回収する事」
コブラ「はっ、そんな事をしてどうなるって言うんだ?売り払って通信販売でも始めるのか」
QB「宇宙には、エネルギーが存在するんだよ。そしてそのエネルギーは、どんどん減少を続けていくのを知っているかい」
コブラ「さあね。朝食を食べてないからじゃないかな」
QB「宇宙全体は、僕達インキュベーターによって支えられているんだよ。僕達がエネルギーを回収し、供給を続けているからこそ宇宙は現状を保っていられているんだ」
QB「そしてそのエネルギーの、最も効率のいい回収方法は」
QB「魔法少女が、魔女に変わる瞬間。その瞬間のエネルギーの回収が最も効果的に、宇宙の寿命を延ばす事に繋がるのさ」
コブラ「どの世界にも、狂信者ってヤツはいるもんだな」
QB「信仰じゃない、事実だよ。コブラ、君達のいる未来でも僕達の存在は知られていないのかい」
コブラ「さあてなぁ。お宅らみたいな連中はごまんといるからね。特に熱心な宗教家ほど目立っちまうからな。埋もれちまったんじゃないかい」
QB「僕達は、地球が誕生する遥か以前から人間の有史に関係してきた」
QB「数えきれないほど多くの少女…とりわけ、第二次成長期にあたる少女達と契約を交わし、希望を叶えてきたのさ」
ほむら「…そして、それを絶望へと変えて、エネルギーを回収していく。祈りを呪いに変えて」
QB「酷い言い方だね」
ほむら「人を食い物にしてきた貴方に、否定をする権利なんてないわ」
QB「ワケがわからないよ。僕達が宇宙を永らえさせてきたからこそ、君達人類全体の歴史があるんだ。一部の人間の消滅が全体を救っている事に、何の問題があるんだい」
QB「むしろ感謝されて然るべき話さ。僕達がいなければ、ほむらだってこの世界にはいない。コブラのいた未来だって、存在しないんだよ」
QB「それに僕達は、侵略という形でエネルギーを回収したりなんていう野蛮な真似はしていない。少女達の願いを叶えて、その代償を払ってもらっているだけさ。『契約』という形でね」
QB「そこに、何の問題があるんだい」
コブラ「…確かに、それなら何の問題もないな」
ほむら「…!?」
コブラ「だが、それならはっきりと俺達は選択肢が与えられているはずだ。…おたくら異星人と契約して宇宙のために戦うか、否かのな」
QB「コブラ。君は宇宙が滅んでもいいと言うのかい」
コブラ「さてね。だが、宇宙が滅びようとするのだと言うのなら、そいつも宇宙の一つの選択ってヤツじゃないか。インキュベーターってやつぁ、契約を元に宇宙の寿命を延ばそうとしているんだろ?」
コブラ「それなら元来、かの女達が何をしようが自由の筈さ。魔法少女になって契約した少女が何をしようと勝手…その筈だ」
QB「…」
コブラ「かの女達は希望を抱き、絶望はしない。街を襲う魔女から人々を守り、立派にその使命を全うしていく…それで十分だ。宇宙の寿命を延ばすために人柱になれ、なんて契約はしていないはずだぜ」
ほむら「…ええ、確かにそうね」
QB「甘い考えだね。それで魔女は倒せても、ワルプルギスの夜が倒せるとでも思っているのかい」
コブラ「さあてなぁ。やってみなきゃ分からないさ」
QB「僕は少なくともその前例は見ていないからね。希望が絶望に変わらなかった魔法少女は、存在しない。だからこそ僕達インキュベーターはそのエネルギーを宇宙に安定的に供給してきたのだから」
ほむら「っ…」
コブラ「前例がなけりゃ、作ればいいだけだ。そう難しい事じゃない」
コブラ「俺が…いいや、俺達がやってみせる。ワルプルギスの夜を、超えてやるさ」
コブラはそう言いながらにぃと微笑み、ビルの屋上を後にするのだった。
QB「暁美ほむら、君はどう思うんだい」
QB「『鹿目まどか』という魔法少女の存在なくして夜を超えられた時間軸が、存在したのかい」
ほむら「… … …」
QB「無いだろうね。それだけまどかの魔力は絶大だ。どんな巨大な魔女であろうと、魔法少女化した彼女に敵う敵など存在しない」
QB「逆に言えば、まどかが魔法少女にならなければ、ワルプルギスの夜には勝てない。君がまどかを魔法少女にしたがらない事と、君が時間を幾度も繰り返しているのがその証明になっている」
QB「君はどうするんだい?ほむら」
ほむら「私は、まどかを守る力を欲し、魔法少女の契約を交わした」
ほむら「だから、彼女を魔法少女にせず、ワルプルギスを倒すまで…絶対に諦めるつもりはない」
QB「分からないね。そんな方法を今まで見つけてもいないから、君が今この時間に存在するのだろう?」
ほむら「貴方達インキュベーターの目的は分かっているわ。…まどかが魔法少女になれば、同時に最悪の魔女を生む事になる」
ほむら「今まで、魔女にならなかった魔法少女はいないと言ったわね」
ほむら「狙いは一つ。まどかの膨大な魔力。魔女化に発生する莫大なエントロピーの発生が目的で、あなたはまどかに付きまとっている」
QB「だからどうしたというんだい?」
ほむら「貴方の思い通りにはさせない。私は絶対に…まどかを魔法少女に、させない」
QB「ほむらは、それでワルプルギスの夜を倒せるとでも思っているのかい?」
ほむら「…さっき、コブラにも言われた筈よ」
ほむら「前例がなければ、作ればいいだけの事」
ほむら「この時間軸で私は、それを作ってみせる」
キュウべぇに背を向け、階段を降りながらほむらは考えていた。
ほむら(…他人をアテにしない。それが何度も時間を重ねた結果の教訓だというのに)
ほむら(この時間でも、私は他人を頼りにしようとしている。…巴マミに、佐倉杏子に、美樹さやか…)
ほむら(…コブラ)
ほむら(まどかを、魔法少女にさせない。…でもそうしないと、ワルプルギスの夜は倒せない。…それが、絶対に崩せない公式だった)
ほむら(私に残された時間も、長くはないのかもしれないわ。…私の希望が、絶望に変わってしまうその前に、手を打たないと)
ほむら(…夜が来るまで、あと数日しかない)
ほむら(それなら、この時間軸で私の取るべき行動は一つしかない)
ほむら(賭ける事。それが私の…答え)
ほむら(持てる力を全て使って…ワルプルギスを、倒すという事)
その後、夜。
人目が無くなったのを見てコブラはレディと近くの小さな林の中で落ち合う。
茂みに隠れたタートル号から出てきたレディは、手に湯気の立つコーヒーカップを持っていた。
レディ「はい、コブラ。コーヒーよ」
コブラ「おー、ありがとよレディ。やっぱ相棒と過ごす時間っていうのが一番落ち着くねェ」
レディ「あら、そうかしら。巴マミの家も随分と気に入っているようだけれど?」
コブラ「あちゃー、ははは。それは言わないお約束」
レディの淹れたコーヒーを啜りながら、ぼんやりと月を眺めたままのコブラ。少し間を置いて、レディがゆっくりと語りかける。
レディ「…ねぇ、コブラ。ニュースがあるの。…良いものか悪いものかは分からないけれど」
コブラ「?」
レディ「…」
レディ「今なら、元の世界に戻れるわ」
コブラ「なんだって…!?どういう事だ?」
レディ「クリスタルボーイの宇宙船が、ブラックホールを生成し、元の世界に戻ったわよね。…あの重力場が、僅かに検知できたの」
コブラ「するってぇと…タートル号でそいつを追跡できるってのか?」
レディ「…ええ。以前、エンジニア達にタートル号に異次元潜航能力を取り付けてもらったわよね。今まではここが『どの世界』で『どの次元を辿って』元の世界に戻ればいいか分からなかったからそれが役に立たなかったのだけれど」
レディ「今なら座標が確定できる。クリスタルボーイの船の軌跡を辿っていけば、元の世界に戻れるわ」
コブラ「そいつは有難いな。あのガラス細工、いい土産を置いていってくれたじゃないの。あとでハグしてやらないとな」
コブラ「…だが、そう簡単な話じゃないんだろう?その調子じゃ」
レディ「…ええ、その通りよ」
レディ「ブラックホールの重力場の検知量はどんどん小さくなっていくわ。そのうち、完全に消滅する。そうなるともう…元の世界に戻る経路が再び見つからなくなってしまう」
コブラ「そいつはどのくらいもちそうなんだ?」
レディ「… … …」
レディ「明日には、完全に消滅してしまうでしょうね」
コブラ「…神様ってやつは随分と意地が悪いんだな。嫌われちまうぜ」
…林の中。
コブラがビルから出てきたのを見つけ、その後をずっと付いてきた人影が一つ、あった。
まどか「… … …」
まどかは急いで林の中を抜け出そうと駆け出すのであった。
――― 後日。
さやか「…ここが、あの転校生の家?」
マミ「ええ、ここがそうみたいね」
杏子「呼び出しなんて随分な心変わりじゃねーか。なんだってんだよ」
ガチャ。
アパートの一室のドアが開き、その部屋から暁美ほむらが顔を出した。
ほむら「…入ってちょうだい」
それだけ言って、ほむらは部屋の中へと戻っていく。
杏子「…」
さやか「…ねぇ、マミさん。入っていいのかな。あいつの事…信用して」
マミ「…信じてみましょう。だって暁美さんが今まであんな顔で私達に『相談したい事があるから私の家で』なんて言ってくれたの、はじめてだもの」
マミ「逆に、信頼していいと思うわ。今まで心を開いてくれなかった暁美さんがようやく私達の方に歩み寄ってくれたのだから」
さやか「…それもそう、か。何事も前向きに考えなきゃいけませんね、うん」
杏子「ま、完全に信用しきったワケじゃねーけどな。…それじゃ、入るか」
杏子はアイス最中を一齧りすると、先陣をきって部屋の中へ入っていった。
杏子「これは…」
さやか「な、なんなの…コレ…!?」
暁美ほむらの部屋の中は、貼りだされた写真や資料で埋め尽くされていた。
マミ「…これが、貴方の言っていた…いいえ、隠していた事なのね、暁美さん」
ほむら「ええ、そうよ」
ほむら「これが、『ワルプルギスの夜』。単独の魔法少女では対処できないほど巨大な魔女」
ほむら「こいつが…あと数日で、この街に現れる」
マミ「…キュウべぇから、噂だけは聞いた事があるわ。数十年…数百年に一度現れる魔女。強大で凶悪、一度具現化すれば数千人を巻き込む大災害が起きる…と」
さやか「そ、そんな魔女が…見滝原に現れるっていうの?」
ほむら「ええ、そうよ」
杏子「…なるほどな。なかなか面白そうな話じゃねーか。ただ分からない事があるんだけどな」
杏子は貼りだされた写真の数々を興味深そうに眺めながらも、ほむらに質問をした。
杏子「なんでアンタは、そんな魔女が現れるって事が分かるんだい?」
ほむら「… … …」
ほむらは一呼吸置いて、意を決したように話した。
ほむら「私が、未来から来たからよ」
マミ「…未来…から…?」
杏子「…」
さやか「…は、はは…冗談よしてよ」
ほむら「…本当よ」
ほむら「私の魔法少女としての能力。それは『時間を操る事』。そして私は、このワルプルギスの夜を倒すために幾度も時間を繰り返してきた」
ほむら「何度も繰り返して…そして、敗れては、時間を巻き戻した。いいえ、『巻き戻している』。それが私の現状よ」
杏子「…仮にアンタの話を信じるとしてもだ。アタシ達が、『ワルプルギスの夜』に何回も負けて、死んでるって事かい?」
ほむら「…そうね。何度も負け…いいえ、下手をすれば、ワルプルギスの夜を迎える前に、貴方達が死んでしまったという例もある」
ほむら「希望が、絶望に変わってしまった時に」
マミ「どういう…事…?」
ほむら「…キュウべぇから言われていなかった事実は、2つあるわ。1つは、私達魔法少女の魂は契約をした段階でソウルジェムに移されてしまったという事」
ほむら「そして、もう1つ」
ほむら「魔法少女は…ソウルジェムの穢れを拭っていかないと、魔女として生まれ変わってしまう」
マミ・さやか・杏子「!!!」
杏子「馬鹿な、そんな話…!」
ほむら「ええ、聞いていないでしょうね。あいつらインキュベーターにとって、コレを貴方達が契約前に知る事は都合が悪いことだから」
さやか「それじゃあ、あたし達が今まで倒してきたのは… …」
ほむら「…元、魔法少女。…でも、仕方のない事なの。そうしなければ、私達もああなってしまうのだから」
さやか「そ、んな…!」
マミ・杏子「… … …」
沈黙。
崩れ、膝をつくさやか。歯を噛みしめる杏子。…しかしマミは、ぐっと拳を握りしめて涙を流すのを堪えるのだった。
マミ「…暁美さん、教えて。…何故、それを私達に教えてくれるの…?」
ほむら「それは…私が貴方達に隠しておきたくなかったから」
ほむら「…かつて、過去で『仲間』だった貴方達。…巴マミ、佐倉杏子、美樹さやか…」
ほむら(…そして、鹿目まどか)
ほむら「貴方達ともう一度…仲間として戦いたかったから。…だから、嘘や隠し事はしないと、決心したのよ」
マミ「… … …」
ほむら「私の話を信じないのなら、それでいいわ。…元々私は一人で戦うつもり―――」
マミ「信じるわ」
ほむら「…!」
ほむらが諦めたように話し始めた時、マミはその声を遮るように強く言った。
マミ「…続けて。魔法少女の事、貴方の過去の事…そして、ワルプルギスの夜の事を」
コブラ「随分とデカい魔女だな!こいつは倒し甲斐があるぜ!」
エアーバイクに乗って空中を駆けるコブラ。幾重にも張り巡らせた洗濯ロープのような糸には、セーラー服が干してある。
そしてそのロープの先には、巨大な六本足の首の無い、異形の魔女がいた。
魔女は自身の周りを旋回するコブラに向けて次々と使い魔を放つ。スカートから出てくる使い魔もまた、下半身だけの異形。その脚には鋭利な刃物のようなスケート靴が履かれていた。
コブラ「へっ!あいにく俺は足だけの女に興味はないんだよッ!!」
右手はエアーバイクのハンドルをしっかり握り、左手のサイコガンを抜いてコブラは次々と使い魔を撃ち抜いていく。
だが、その数は膨大でこちらの攻撃をする余裕はあまりなかった。敵が巨大であるゆえ、チャージをしないサイコガンの射撃ではあまりダメージがないようであった。
コブラ「ちっ…!この…!」
コブラは一度体勢を立て直すため、『委員長の魔女』から離れる。
その様子を、黙って見つめるまどか。結界の中に入れたのは、他でもないキュウべぇであった。
QB「少し苦戦をしているみたいだね。まどか、どうするんだい?」
まどか「… … …」
QB「君が魔法少女になればすぐにでも彼を助ける事ができるよ」
まどか「…もう少しだけ、見てる」
まどか「見ていたいの。コブラさんが、魔女と戦っているところを」
QB「…」
観客がいる事には気づいていたが、あえて黙って闘っていたコブラ。
横目でまどかの方を見ると、にぃと笑って軽くウインクをした。
まどか「…!」
コブラはエアーバイクのアクセルを吹かし、突撃をする体勢をとる。
コブラ「行くぞぉ、生足の化け物!!」
コブラ「いやっほォォォーーーーッッ!!」
フルスロットルで飛び出したエアーバイクとコブラ。魔女は当然のように使い魔を次々とコブラに向けて発射していく。
だがコブラは正確にその攻撃を避け、魔女本体へと近づいていった。やがて委員長の魔女はコブラの目と鼻の先まで距離が縮まり…。
コブラ「くらえーーーッッッ!!」
ドォォォォォ―――――――ッッッ!!!
サイコガンの巨大な砲撃が魔女をつつむように焼き、消滅させる。その爆発にエアーバイクとコブラも飲み込まれてしまう。
まどか「!コブラさんっ…!」
しかし次の瞬間、爆風の中から脱出するエアーバイク。
まどかの元へ戻っていくコブラの右手の中には、しっかりとグリーフシードが握られていた。
――― 同時刻、再び、暁美ほむらの部屋。
ほむらは、全てを話し終えた。
魔法少女の希望が、絶望に変わったその時、魔女へと生まれ変わる事。それは、思ったよりずっと容易く起きてしまうという事。
そして、それが過去、凄惨な魔法少女同士の殺し合いすら生んでしまったという事。
さやか「…やっぱり、信じらんないな…。…あたしも、魔女になった事がある、だなんて…」
杏子「… … …」
さやか「ねぇ、転校生。…あんたは、魔女になったあたしを…殺したの?」
ほむら「…ええ」
さやか「あはは…だろうね。あたしだって…逆の立場だったら、そうするしかないもん」
ほむら「…結局、私達はワルプルギスの夜を迎える前に共倒れをしてしまう事が多かった…。それほど、希望が絶望に変わるのは容易い事だから」
ほむら「キュウべぇ…いいえ、インキュベーターは、だからこそ人間を食い物にしているの。脆く、儚い存在だからこそ」
ほむら「魔女が、見滝原を滅ぼそうが奴らには関係ない。目的は、私達が魔女化する時に発生するエントロピーの回収。…それだけなのよ」
杏子「…アンタの話してる事を全部信じるわけじゃねーけどよ。…そいつが本当だったらとんでもねー話だな。それじゃ、アタシ達はあいつに化け物にされたのと同じじゃねぇか」
杏子「忌々しくて…反吐が出そうだ」
杏子はチョコ菓子を噛み切ると、憎らしげに自身のソウルジェムを見つめ、握りしめる。
さやか「…それで、あんたはどうしたいの?…あたしたちに、こんな話をしてさ…」
座り込んださやかは、力無くほむらに語りかける。…その瞳は、既に絶望に淀んでいるようにも思えた。
さやか「あんたの話なんか信じたくもないけど…でも…嘘をついてるとも、思えないよ…。…どうしてだろ。…ねぇ、どうすればいいの?こんな化け物にさ」
ほむら(…やはり、無理だったの…?)
ほむら「…共に、戦って欲しい」
マミ・杏子・さやか「… … …」
ほむら「鹿目まどか…彼女が魔法少女になれば、ワルプルギスの夜を倒すのは容易い。でも…それは同時に、最悪の魔女を生む事にもなる。ワルプルギスの夜以上の」
ほむら(何よりも…まどかを失いたくないから)
ほむら「だから、まどかの力なくしてヤツを倒さなければいけないの。巴マミ、佐倉杏子、美樹さやか…そして私。…あと…」
マミ「…コブラさん、ね」
ほむら「…ええ。その五人で、ワルプルギスを倒す」
ほむら「あと数日でヤツは見滝原に現れる。…だから、協力をしてほしいの。全員でヤツを倒す…その協力を」
しかし、他の三人は黙ったままであった。
杏子「…その、ワルプルギスの夜を倒したとして…その後は、どうなるんだ?」
ほむら「…」
杏子「きっといつかはアタシ達は、絶望しちまうんだろ?…そして、化け物になって、死んでいく…。それならいっそ、ここで…」
ほむら「…それも、選択肢の一つだと、思うわ」
ほむらは、三人に見えないように後ろ手で拳をぎゅっと握りしめるのだった。
ほむら(私が、馬鹿だった…)
ほむら(佐倉杏子が言っている事の方が理にかなっている。夜を超えられても、いつか私達は絶望を迎え、魔女化してしまう)
ほむら(…結局、いつ死んでも…変わりはないのだから。…愚かなのは、それでも『仲間』を求めている、私の方…)
しかし、その時、マミは顔を上げて強い口調で言った。
マミ「…いいえ、それは違うわ」
ほむら「…!」
マミ「確かに…佐倉さんの言っている通り、魔女になる前に自分でピリオドを打つ方が正しい判断かもしれない」
マミ「…でも、それでも…私達の行動に、変わりはない筈よ」
マミ「街の平和を脅かす魔女を倒す、魔法少女であり続ければ…絶望なんて、しない。それは今までずっと続けてきた事だわ…!」
さやか・杏子「…!」
マミ「…私のこの命は、消えていてもおかしくはなかったの。いつ死んでも後悔はしない。…そう決めていた。だからせめて…ギリギリまで粘ってみたいの」
マミ「私はもっと生きていたい。もっと…鹿目さんや、コブラさん…佐倉さんや美樹さんと楽しい時間を過ごしていたい。…もちろん、暁美さんとも、ね」
マミ「だから私は…ワルプルギスの夜を超えてみせるわ」
マミ「何があっても…ね」
そう言って、ほむらに向けてにっこり微笑む。
ほむら「…!…マミ、さん…」
マミ「…ふふ」
マミ「やっと名前で呼んでくれたわね」
さやか「…マミさん…」
マミ「美樹さん…貴方だって、その筈よ」
マミ「貴方は、上条君の演奏を、もっと聞きたい…そう願っていたのでしょう?あの演奏をもっとたくさんの人に届けてあげたい、って…」
さやか「…!!」
マミ「私達は、ここで倒れてはいけない。…私達の命を、繋いでくれた人がいる。だから…それを無駄にしてはいけないの」
マミ「美樹さん…レディさんに貰った、上条君のチケット…決して無駄にしてはいけないわ。…私は、そう思うの」
さやか「…恭介…」
さやかは唇を噛みしめ、瞳を閉じてしばし沈黙する。
そして、すっくと立ち上がった。
その瞳には絶望ではなく、希望の笑顔が浮かんでいる。
さやか「…あっはは!…なんか、バカみたいだね。今までやってきた事となんにも変わらないのに、こんなに悩んでさ…!」
杏子「…!お前…」
さやか「あたしは…見滝原を守る、正義の魔法少女、さやかちゃん!…すっかり忘れてたよ。それだけ守ってれば、何も悩む事なんてなかったのに」
マミ「…美樹さん…」
さやか「…転校生。いや、ほむら!…やったろうじゃん!一緒に、戦おう!」
さやかは笑顔、だが強い目でほむらを見つめ、すっと右手を差し出した。
ほむら「…ええ、お願いするわ」
ほむらは嬉しそうに瞳を閉じ、その右手に自分の右手を重ねた。
杏子「… … …」
マミ「…佐倉さん、貴方は…」
杏子「アタシは今まで、自分のためだけに生きてきた。だから、今更アンタ達に協力しようなんて気はさらさらないね」
さやか「ばっ…あんた、ここまできて何言って…!」
杏子「うっせーなー。…めんどくさいんだよ、仲間とか、協力とか…めんどくさいんだよ」
ほむら「… … …」
杏子「…だけど」
マミ・さやか「!」
杏子「ワルプルギスの夜を一人じゃ倒せないっつーのも事実みたいだな。だから…今回だけ、付き合ってやるよ。その…一緒に、ってやつに…さ」
さやか「…アンタ…」
さやか「どこまで素直じゃないのよ…こっちまで恥ずかしくなるでしょ」
杏子「うるせーっ!!おめーに言われたくねーよこの色ボケ!!」
さやか「!い、色ボケはないでしょっ!!このお菓子女!!」
杏子「んだとー!!」
マミ「…と、とりあえず…皆、協力してくれるみたいね…」
ほむら「…ええ」
マミ「あ…暁美さん。…今の笑った顔、とても素敵ね」
ほむら「…」
ほむらは少し照れながらも、微笑んでいた。
ほむら(…そう、そうなのね…)
ほむら(この時間軸では…巴マミは魔女に食い殺されていて…美樹さやかは魔女になっていた筈…)
ほむら(でも…それを。その絶望を、全て逆に希望に変えてくれた人がいた)
ほむら(…コブラ)
ほむら(魔女に喰い殺されそうだったマミを助けてくれて…さやかの上条恭介への絶望すら拭ってくれた)
ほむら(わけの分からないガラス人形からソウルジェムを奪い返してくれて…敵対していた佐倉杏子すら、こちらに歩み寄ってくれた)
ほむら(そして、こうして今、夜を迎えようとしている…)
ほむら(…まどか)
ほむら(この時間で…貴方を助けられるかもしれない。…ようやく、貴方と朝を迎えられるかもしれない)
ほむら(まどか、待っていて…!…私が必ず、貴方を助けてみせる…!)
――― 夜。結界の解けた工業地帯のような場所で、コブラとまどかは座り込んでいた。
まどか「…教えてください、コブラさん」
まどか「なんで…なんで、魔女を倒してくれるんですか。…なんで、元の世界に戻らないんですか」
コブラ「…知っていたのかい」
まどか「…ごめんなさい、あの…。…でも、言わずにはいられなくって…」
まどか「コブラさん、元の世界に戻れるのに…なんで、まだここにいるのか…分からなくって…!だって、だって…!皆をずっと助けてくれてるのに…っ…コブラさんは…っ!」
まどか「もうちょっとで元の世界に戻れなくなるって、レディさん言ってたのに…!魔女と戦ってるってキュウべぇに言われて、わたし、我慢できなくて…っ…!何もできない私が、悔しくて…っ!!」
泣きそうになるまどかの頭に、コブラは優しく手を乗せる。
コブラ「なぁ、まどか。例えば…」
コブラ「例えば、お前さんの目の前に、子猫が一匹いる」
コブラ「その猫が、車に轢かれそうになったら、まどかはどうする?」
まどか「…!」
コブラ「お前さんの性格じゃあ、放っておけないだろ?…俺だって同じさ」
コブラ「誰かを助けたり、救ったりするのに理由はいらない。赤の他人だろうが何だろうが関係ない。…自分自身の願いだけが、自分を動かせる」
コブラ「俺ぁな、女の子が泣いたり悲しんだりするのがこの宇宙で一番苦手なんだぜ」
コブラ「例えここが違う世界だろうがなんだろうが…そこに俺が助けたいと思う人がいるのなら、力になるのが俺の趣味なんだ」
コブラ「いい趣味だろ?」
まどか「…コブラさん…!」
コブラ「さ、行こうぜ。…今日はちょいと、お呼ばれをしているんでね」
まどか「…誰に、ですか?」
コブラ「決まってるだろ?」
コブラ「街を救う、魔法少女達さ」
・
タートル号のレーダーから、クリスタルボーイの宇宙船の航路の反応が完全に途絶えた。
しかし、それを見てもレディは何も言わず、ただ心の中で静かに微笑むだけだった。
―― 次回予告 ――
いよいよ明日がワルプルギスの夜の決戦!俺達としても結束を固めておかなきゃいけないな。しっかり頼むぜ、皆。
っと、その前に話をしなきゃいけないヤツがいたな。インキュベーターの野郎さ。あいつに説教しておかなきゃ、俺の腹の虫が治まらないぜ。
そして…まどかに、ほむら。いよいよ全てを話さなきゃいけないぜ。全ての謎を解き明かし、俺達は最強の魔女に立ち向かう事になる。
次回のCOBRA×魔法少女まどか☆マギカ。【五人の魔法少女(前篇)】。よろしくゥ!
まどか「そんな… あんまりだよ…っ!こんな… こんなの、って… ないよ…っ!」
QB「――― まどか、運命を変えたいかい?」
まどか「え…!」
QB「――― この世界の全てを覆す力。君には、それがあるんだよ」
ほむら「! 駄目!まどか!そいつの言う事に…ッ!!」
まどか「… … …本当に?」
QB「――― 勿論だよ。だから」
QB「ボクと契約して、魔法少女に ―――」
ほむら「駄目ぇぇえええええええッ!!!」
・
まどか「… … …」
まどか「また、あの夢だ…」
第8話 「5人の魔法少女(前篇)」
見滝原市には、大粒の雨が朝から降り注いでいた。
暁美ほむらが言うのにはそれはワルプルギスの誕生…スーパーセルの前兆だと言う。
コブラとレディは林の中に身を潜めたタートル号のコクピットから、その雲を眺めていた。
レディ「かの女が言うには…明日。この見滝原という街を覆うように、魔女が生まれるというのね」
コブラ「ああ。どうやら本当らしいな。こんな雷雲、見たこともないぜ」
レディ「…それで、どうするの?コブラ。その『ワルプルギスの夜』に勝算はあるの?」
コブラ「へへ、俺がこう見えて計算高いの知ってるだろ?レディ。基本的に勝てない勝負はしないんだぜ」
レディ「…基本的に、ね」
コブラ「…ああ」
コブラ「今回ばかりは分からんね。ほむらがワルプルギスの夜に勝てた歴史は存在しない。つまり、どうやって倒すのかも分からない。気合や根性でどうにかなるんなら鉢巻でも作っておくけどな」
コブラ「未知数さ。今回のヤマはちょいとばかり、危険な賭けになるかもしれない」
レディ「ふふ、でも、それも慣れた事でしょう?コブラ」
コブラ「まぁね。それが海賊ってもんだからな」
コブラ「…さぁて、それじゃあそろそろ出てきてもらおうか。相変わらずコソコソ隠れるのはいい趣味とは言えないぜ、インキュベーター」
椅子に腰かけながら、のんびりとそんな風に語りかけるコブラ。
船内の物陰から、ひょっこりと姿を現すインキュベーター。
レディ「…!」
QB「相変わらず常人とはかけ離れた察知能力だね、コブラ。君が本当に人間なのかは大いなる疑問だ」
コブラ「地球外生命体にそう言ってもらえるとはね。診察したいなら結構だが、料金は高いぜ」
QB「いいや。それはボク達インキュベーターの成すべき事ではないからね」
コブラ「そうだったな。幼気な少女を騙してエネルギーを回収するのがお宅らの仕事だ」
QB「否定はしないよ。君達人間にとってボクは敵でも味方でも構わない」
QB「ただボク達は、宇宙の永らえさせられればそれでいい。それが使命なのだから」
コブラ「結構な使命だね。それで?アンタは説法でもしに俺の船に来たのかい」
QB「…」
QB「君達未来人ともう一度話す機会を設けたくてね。ボク達にとって、やはり君達の存在はとても興味深い」
コブラ「…いいぜ。レディ、客人にコーヒーだ。とびっきり苦いヤツを頼むぜ」
QB「君達のいた世界が存在するのは、ボク達インキュベーターが宇宙の寿命を永らえさせるのに成功した事の証明だ」
QB「ボク達は地球の誕生の遥か以前から存在し、その使命を全うしてきた。だからそれが無事未来まで続いているのだとしたら、それはやはり非常に興味深いわけだ」
QB「何せ人類の発展は、ボク達と紡いできた歴史と言っても過言ではないのだからね」
コブラ「ご立派だね。基金でもたてたらどうだい」
レディ「…しかし、そのために貴方達は人を…魔法少女達の希望を絶望に変え、その命を奪ってきた」
QB「君も、それを疑問視するのかい。例えば、蟻の巣から一匹の蟻を摘まみ出して殺す事に何の影響があるのかな。むしろその蟻は、宇宙に対して貢献が出来るんだ。意味のない死じゃない、素晴らしい事じゃないか」
レディ「でも、かの女達は人間よ。蟻ではないわ…!」
QB「随分と都合のいい意見だね。蟻なら良くて、人間では駄目。ボク達からすれば60億以上の個体数から毎日数個を摘出する程度、何も気にする事ではないと思うけれど」
コブラ「… … …」
QB「むしろその犠牲が、全ての人類を救う事に繋がっているんだ。インキュベーターが責められる理由は何もないじゃないか」
コブラ「…そうでもないさ。アンタらは、単に上から胡坐をかいて人に頼っているだけの存在に過ぎない」
QB「どういう事かな?」
コブラ「宇宙のエネルギーが減っていく一方、太古の昔のアンタらが見つけたのが少女達を糧にしてそのエネルギーを補っていくという方法。…だったかな」
コブラ「だが、そいつの効率性自体を疑うね。何千年何万年も昔のシステムに頼っていないと宇宙が消滅しちまうってのは、甚だ可笑しな話だ」
コブラ「インキュベーターの目的は、いたいけな少女を殺す事だったのかな。それとも、宇宙を永らえさせる事だったのかな?」
QB「…」
QB「つまり、もっと効率のいいエネルギーの回収方法があるとでもいうのかい」
コブラ「そいつを模索するのもあんたらの目的に含まれる筈だ。何にしても、俺ぁその宇宙の寿命とかいうやつに貢献するつもりは全くないからな」
コブラ「かの女達だってそうだ。アンタらには感情がないから分からないかもしれないがね」
コブラ「同じ種族、同じ志の人間を殺されていい気分のするヤツはいないぜ。そうしないと宇宙が滅びちまうっていうのなら」
コブラ「宇宙なんざ、滅びちまうべきなんじゃないかな」
QB「コブラ。君の意見は宇宙全体の害悪に過ぎないよ」
コブラ「残念だったな。俺はもともと色ぉーんな奴に恨まれてるんだよ」
コブラ「汚いんだよ。やれ宇宙のためだの人類のためだの言って人を食い殺して自分達を正当化する。感情は無いクセに、そこはクリーンに見せたいわけか?」
QB「理解をして欲しいだけさ。人が存在しないと、ボク達も生きていけない。少しは歩み寄らないとね」
コブラ「だから『契約』という形で少女達を騙しているわけだ」
QB「君がそう思うのも自由さ」
コブラ「まぁ、そこは褒めてやるさ。…勝手な奴もいてね、人なんざ平気で食い物や踏み台にするヤツは、俺の世界にもごまんといる。しかしアンタらは、契約後生き延びる術も与えてくれてるのだからな」
コブラ「だから俺は、そいつを最大限活用させてもらうよ」
QB「…」
コブラ「かの女達の未来を、醜い魔女なんかにさせやしない。…とびっきりの美女になってもらわないと、俺が困るんだ。未来に住んでいる俺がね」
そう言ってコブラは立ち上がると、タートル号から出て市街地へと歩いて行った。
ほむら「…それじゃあ、明日。教えておいた場所に集まって。そこにワルプルギスの夜が生まれるわ」
さやか「りょーかい。…あはは、なんか、集合って言われるとピクニック行くみたいでなんか緊張感ないけど…」
マミ「…でも、確かにそこで…私達の決戦が始まるのね」
ほむら「ええ。…何度も私が、挑んできた場所だから」
杏子「ま、緊張感なんざ持たなくていいんだよ。万全のコンディションで臨むためにしっかり寝て…しっかり食っておくコトだな」
さやか「アンタはお菓子食って体調万全だから便利だよね…」
杏子「どういう意味だよ」
ほむら「…それじゃあ、明日。…教えておいた時間と、場所で」
マミ「ええ。…頑張りましょうね、暁美さん」
ほむら「…」
ほむらは少しだけ頭を下げると、マミの部屋から出て、雨の降る外へと出て行った。
さやか「なーんかやっぱり実感ないなー。…明日、最強最大の魔女が生まれて…生きるか死ぬかの闘い、なんて」
杏子「生きるか死ぬかの闘いなんざ常日頃からやってるだろ。要するに、いつもと変わらねーんだよ。アタシ達にとっちゃあ、魔女が大きかろうが小さかろうが関係ない」
さやか「…そっか。いつもと変わらない…。そう思ってればいいのか。たまには良い事言うじゃん」
杏子「たまには、が余計なんだよ」
マミ「ふふ、本当にいつも通りで安心ね、2人は」
その時、来客を知らせるチャイムが鳴り、ガチャリとドアが開く音。
コブラ「やぁ淑女の皆様、お揃いで」
マミ「あ、コブラさん。…まぁ、どうしたの?それは」
コブラ「手ぶらじゃ何だしね。美人の店員に良いのを見繕って貰ったのさ」
そう言うコブラの手には、花束が一つ握られていた。コブラはコートの雨粒を払って部屋に入ってくると、笑顔でそれをマミに差し出す。
マミ「…この花…。ふふ、有難うコブラさん。それじゃあ飾っておくわね」
さやか「相変わらずキザだねー、コブラさんは。今時の男はそんな事しないよー」
コブラ「ハハ、だろうな。俺のいた時代でもなかなか見かけなかったぜ」
さやか「…さーてーはー…相当場数を踏んでいると見たねッ。…モテたでしょー?」
コブラ「ま、そこそこに」
さやか「うわぁ」
コブラ「ところで、ほむらは来なかったのかい。てっきりここにいると思ったんだが」
マミ「あら、彼女が目当てだったの?」
コブラ「とんでもない。マミにも勿論会いたくて来たんだぜ」
マミ「…あの、そういう意味じゃないんだけれど…」
苦笑いをしながら、花を花瓶に移すマミ。
杏子「アイツならさっきまでここに居たぜ。丁度アンタとすれ違いだ」
コブラ「ありゃあ、そいつは残念。タイミングが悪かったな」
さやか「明日のコトもあるしね。ほむらはほむらで、何か準備があるんじゃない?」
コブラ「…成程、ね。それじゃ、ちょいと俺は追いかけてみるとするか」
マミ「え?来たばかりだし、お茶でも飲んで行っても…」
コブラ「そいつぁ有難い。少し後でゆっくり頂きに来るぜ。ちょいとかの女に話があるんだ」
コブラ「それじゃあな。…そうだな、紅茶はダージリンがいいね。美味そうなクッキーもあったら最高だ」
マミ「…クス。はいはい、用意しておくわね」
そう言ってすぐにマミの部屋を出ていくコブラ。
呆気にとられた様子でそれを見送るさやかと杏子。
さやか「珍しいね、あの人があんなすぐ帰るなんて」
マミ「何か目的があるとすぐに飛んでいっちゃう性格みたいね。…まだ一か月くらいしか一緒じゃないけれど…分かりやすいのか分かり辛いのか…」
杏子「勝手な奴だな」
さやか「…アンタには言われたくないと思うよ」
マミはガラス製の花瓶にコブラから貰った白い花を綺麗に飾り付けると、テーブルの中央に置いた。
さやか「へーっ、綺麗。…花とかあんまり見ないから分からないけど、いい色してますね。コレ」
杏子「これ、何の花だ?」
マミ「…これはね、ガーベラの花よ」
杏子「ガーベラ?」
マミ「そう。キク科の多年生植物で…花言葉は『希望』。ふふ、本当に色々な事に詳しいのね、コブラさん」
さやか「…やっぱりキザだぁぁ…」
大粒の雨が降りしきる中、傘も差さずに一人立ち、何もない空を見上げる少女。
ビル街の中心。開発中で、何も無い草原のような広く拓けた場所。そこには…明日、いや、過去…確かにワルプルギスの夜が存在するのだった。
コブラ「…やっぱりここだったか、ほむら」
ほむら「…何か用かしら?必要な事は伝えた筈だけど」
そのほむらの後ろに着いたコブラ。少女はそちらを見る事なく、冷たいような言葉を放つ。
コブラ「一つ、聞いておきたい事があってね。お邪魔だったかな」
ほむら「…構わないわ。何かしら」
コブラもまた、雨の中傘を差さずに、雨粒を身体に受けている。それでもいつものにやけた表情は崩さずに、葉巻はしっかりと銜えていた。
コブラ「…話さないのかい、まどかには」
ほむら「… … …」
ほむら「ワルプルギスの夜の事を?何故?まどかには関係のない事だわ」
コブラ「おいおい、関係ないはないだろ?かの女にはしっかりと関係がある筈だぜ」
コブラ「あんたがかの女を親友だと思っているように…かの女もまた、あんたを親友だと思っている」
ほむら「…そんなワケないわ」
ほむら(…それは、過去の話。…この時間軸の話では、無い)
ほむら「もう一度言うわ。…何故、話さないといけないの。まどかは魔法少女ではない。一緒にいても危険なだけよ」
コブラ「俺達が負ければどこにいたって同じだろ?それに、かの女は関係無いわけじゃない。魔法少女の闘いを何度も見てきている」
ほむら「それだけだわ。…まどかには、魔法少女に関わって欲しくなかった。それなのに…関わってしまった。その事実だけで十分過ぎるほど危険なのに」
コブラ「…まどかが魔法少女になる事が、か」
ほむら「… … …」
コブラ「アンタの行動は、まどかを自分達から遠ざけたいとする一方、守りたいという行動にも見える。以前、ガラス人形と戦った時に言っていたっけな。まどかの悲しむ顔は見たくない、ってさ」
コブラ「ほむら。あんたが時間を繰り返してまで戦う理由は…まどかを守りたいからだ。しかし、まどかを魔法少女にしてはいけない。…そんなルールがお前さんの中にある」
コブラ「そして、まどかは魔法少女としての素質がありすぎる。その力は強大だ。…ワルプルギスの夜を超える魔法少女となり…最悪の魔女へとなってしまう。…違うかい?」
ほむら「… … …」
ほむら「どうして…」
コブラ「仕事柄、探偵の真似事をする事も多くてね。つい考えちまったのさ」
コブラ「当たっちまったようだな」
ほむら「… … …」
ほむら「ええ、その通りよ」
ほむら「まどかを魔法少女にするわけには、いかないの。…どんな魔法少女も…いいえ、どんな人間でも…希望は絶望へと変わってしまう」
ほむら「私達と一緒にまどかが戦ってしまっては、いけない。まどかの悲しむ顔を…もう、見たくないの。まどかが魔女に変わるその瞬間を、見たくない。まどかの悲しむ顔なんて、もう見たくない…!!」
コブラ「…」
ほむら「私は…まどかを守る。最初の時間で、最初に出会った、最高の友達を…失いたくない。だから…絶対に、私はワルプルギスの夜に負けられない…!」
コブラ「…なぁ、ほむら。あんたは、『皆で』ワルプルギスの夜を倒すんじゃなかったのかい?」
ほむら「… … …」
コブラ「闘えるだとか、闘えないだとかは関係ない。…要は、自分の意志さ。自分の願いだけが、自分を動かせる。…アンタがまどかを守りたいと言うのなら、まどかの気持ちはどうなるんだ?」
ほむら「…まどかには、私の気持ちなんて…どうだっていいの。私が守ると決めたんだもの。そのための…魔法少女の力。だから…まどかは何もしなくていい」
コブラ「それじゃあかの女の気持ちは無視するのかい」
ほむら「まどかが私に対して、何を思うと言うの。…この時間軸では、まどかには何も伝えていないというのに」
コブラ「…伝えなくても、伝わる事もあるさ。…特にほむら。あんたの行動は、分かりやすいからな」
ほむら「…?…どういう―――」
ほむら「!!!!!!!」
その時、ほむらは初めてコブラの方を振り向いた。
自分の後ろにいるのは、コブラだけだと思っていた。だからこそ、全てを語っていた。…それなのに。
まどか「… … …」
そこには、自分と同じく、雨に濡れるまどかの姿があった。
ほむら「どう、して…」
まどか「…わたし、ずっと、考えてたんだよ。どうして、ほむらちゃんが…戦っているのか。…前に、マミさんが言ってたから。ほむらちゃんは、グリーフシードを奪うためだけに戦ってるんじゃない、って」
まどか「魔女を倒して…さやかちゃんのソウルジェムも、返してくれた。…ずっと、何でか、分からなかった」
まどか「…だから、聞こうと思ってたの。どうしてほむらちゃんは…」
まどか「わたしを助けてくれようとしているのか。わたしを…魔法少女にさせないようにしてくれているのか」
ほむら「…!!」
まどか「ほむらちゃんは…ずっと、わたしを守ってくれてたんだね。違う時間を、何回も繰り返して…ずっと、ずっと…」
まどか「なんで…?なんでそこまで、わたしの事を…」
ほむら「…っ…!」
まどか「わたしだって…皆の…ううん、ほむらちゃんの力になりたいよっ…。でも、ほむらちゃんはいつも…わたしを魔法少女に近づけないようにしてくれて…それが、わたしを守ってくれている事になっているんだって、今分かった…」
まどか「教えて…どうしてほむらちゃんは、魔法少女に…」
ほむら「関係ないわ」
まどか「…!」コブラ「…」
ほむら「まどか、貴方には関係ない事なの。だから話す必要もな―――」
まどか「関係あるよッ!!!!」
ほむら「…まど、か…?」
まどか「ほむらちゃんはわたしを助けてくれる!だからわたしも、ほむらちゃんを助けたい!どうしても…どうしても、力になりたいの!だから…わたしは知りたい!!」
まどか「どうしてほむらちゃんが魔法少女になったのか…どうして、何度もわたしを助けてくれるのか…!話してくれるまで、わたしは此処から離れないッ!」
まどか「わたしは…ほむらちゃんの事ッ―――」
その瞬間、まどかに抱きつくほむら。
涙に震える掠れた声。今までの彼女からは聞いた事のないような弱々しい声。
ほむら「逆、なの…全部、全部、逆っ…!」
まどか「ほむら、ちゃん…?」
ほむら「私を助けてくれて…私を、友達だと言ってくれて、守ってくれたのは…全部っ…まどかなのよっ…!だから私は…貴方を、失うわけには…っ…!!」
ほむら「でも…ッ、でも、貴方は何度も私の前から…っ、ひぐっ、消えて、しまって…!!何度も、何度も消えてしまうのよッ…!!」
ほむら「私の一番大切な友達を、守りたい…!!それだけなのよっ…!!」
まどか「… … …」
降りしきる雨の中、まどかの服を握りしめ、強く抱くほむら。まどかもコブラも初めて聞く、彼女の弱音。
だがまどかは、涙を流しそっと微笑みながら、ほむらの肩をそっと抱く。
コブラ「…(さて、お邪魔虫はこの辺りで消えるとするかぁ)」
コブラは瞳を閉じ、微笑みを浮かべながらその場を後にする。
ほむら「まどかを、救う。それが私の魔法少女になった理由。そして今は…たった一つ、私に残った、道しるべ」
ほむら「でも時間を繰り返せば繰り返すほど…貴方と私の距離は遠くなって、ズレていく」
ほむら「それでも私は…まどかを守りたい。だから…ずっと、時間を繰り返してきた」
ほむら「解らなくてもいい。伝わらなくてもいい。私は、貴方を守れれば、それで…」
まどか「解かるよ…ほむらちゃん」
ほむら「…まどか…」
まどか「…初めて、泣いてくれた。初めて、ホントの言葉で話してくれたから。…だから、わたしはほむらちゃんの言葉、解かるよ。…全部」
ほむら「… … …」
まどか「だから…わたしは、ほむらちゃんを助けたいの。お願い…わたしを、魔法少女に…!」
ほむら「…駄目よ」
まどか「… … …」
ほむら「それじゃあ、駄目なの。…貴方を、この闘いの中に巻き込めない。貴方には…ずっと、笑っていて欲しい。私の傍で、ずっと…」
ほむら「だから…それじゃあ、駄目。それじゃあ、私のしてきた事が全て、無駄になってしまう」
ほむら「私に、貴方を守らせて」
アナウンス「―――本日午前七時、突発的異常気象による避難指示が発令されました」
アナウンス「見滝原市周辺にお住まいの皆様は、速やかに最寄の避難場所への移動をお願いします。繰り返します―――」
・
マミ「…来るのね、いよいよ…」
ほむら「ええ。…本当にいいの?」
杏子「良くなかったら此処にいねーよ」
さやか「そうそう。…ま、ちょっと怖いけどさ。これも魔法少女のお仕事…ってヤツだよね」
マミ「皆、必ず生きて帰るわ。…だから、行きましょう、暁美さん」
ほむら「… … …ありがとう」
杏子「にしても、アイツ遅いな。どうしたんだ?」
さやか「…まさか…」
マミ「そんな事はないわ、美樹さん。…彼は、きっと来てくれる。今までだってそうだったんだもの。…だから」
その時、上空に聞こえる轟音。異常気象の突風を物ともせず、空中に停止するタートル号。
ほむら「…コブラ…」
コブラ「よう、待たせたな皆」
コブラ「それじゃ行こうぜ。パーティ会場へ…な!」
まどか「… … …」
避難場所である学校の体育館から、暴風吹き荒れる外を眺めるまどか。
その手に握りしめられているのは、一本のガーベラの花であった。
まどか「ほむらちゃん…。わたし…」
まどか「…ごめんね…」
――― 次回予告 ―――
遂にワルプルギスの夜との決戦だ!まぁー奴さんのデカい事強い事、この上ない!流石の俺でもちょっと骨が折れそうだぜ。
俺とほむら、マミ、さやか、杏子の力をもってしてもなかなか厄介な仕事だ。まぁ、後にも引けない事だし死ぬ気でやってやろうじゃないの!
しかしそんな中、戦いの中に突然現れるまどか。どうやらかの女は何かの決心をして来たらしい!こうなりゃもう怖いもんナシだ。
だが物事そう上手くはいかないねぇ。…大変な事が起きちまうみたいだぜ。
次回のCOBRA×魔法少女まどか☆マギカ。【五人の魔法少女(中篇)】。よろしくゥ!
避難場所である、見滝原市体育館。
暴風雨が吹き荒れる外の景色を茫然としたような表情で見つめるまどか。そして、その横にまるで何かを待つように佇むキュウべぇ。
2人の間に、少し前、会話があったせいだろう。ただただその空間には沈黙が流れていた。
それは、魔法少女の本当の姿。希望が絶望に変わるその瞬間と、その意味。インキュベーターはその全てをまどかに話したのだった。
重い沈黙を先に破ったのはまどかだった。
まどか「…騙してたんだね、全部」
QB「君も彼と同じ事を言うんだね、まどか」
まどか「…だって…!皆、一歩間違えたら…死んじゃってたかもしれないんだよ…!?それで、それで…魔女になって、戦うなんて事になったら…!」
QB「それこそ『当たり前』なんだよ、まどか。有史以前からずっと繰り返してきた事実さ。魔法少女は遥か昔から世界中にいたんだ」
QB「そして彼女達は、希望を叶え、ある時は歴史すら動かし」
QB「最後には絶望に身を委ねて散っていく」
まどか「…!」
QB「祈りから始まり、呪いで終わる。それが数多の魔法少女が繰り返してきた歴史のサイクルさ」
まどか「… … …」
まどか「ほむらちゃんも…マミさんも、さやかちゃんも、杏子ちゃんも…必ずそうなるって言うの…?」
QB「さっきも言った筈だよ。祈りは必ず、呪いに変わる。だからこそ魔法少女は僕たちインキュベーターに必要なのだから」
まどか「… … …」
まどか「そんな事、ない」
QB「どういう事かな?」
まどか「希望は、絶望に必ず変わるワケじゃない。…ずっと持っていられる希望だって、あるんだよ」
QB「君がそれを作って見せるとでも言うのかい、まどか」
まどか「わたしが…みんなを、助けてみせる…!!」
強い瞳。強い声。
まどかの右手には一本のガーベラの花が握られていた。
禍々しい瘴気のような、霧と風が向かい風となって五人に吹いていた。
まるでそこに行くのを拒むかのような向かい風。しかし、五人はその風に向けて歩んでいくのであった。
マミ「…レディさんは、来ないの?」
コブラ「ああ。俺は基本的にかの女を仕事に手伝わせないスタイルなのさ。今回は俺の船の留守番を頼んであるからな」
さやか「そっか…。そもそも宇宙船が壊れちゃ、コブラさんが帰れなくなっちゃうもんね」
コブラ「その意味もあるが、まぁかの女は余程の事があった時の助っ人を頼んであるというわけだ」
杏子「これが『余程の事』じゃなけりゃ、アンタの余程の事はいつ起きるんだよ」
コブラ「そうだなぁ。美女達が軍隊アリみたいに俺に襲い掛かってきた時は、流石に助けてもらおうかな」
さやか「あはは…よくそんな冗談言いながら歩けるね」
コブラはにぃ、と葉巻を銜えた口元を緩ませた。
ほむら「… … …」
マミ・杏子・さやか「…!」
前方からこちらに向かってくるものが多数ある。
それは、まるでサーカスのパレード。
象、木馬、人形…まるで祭りのように賑やかに、それらは五人を通り抜けていくのだった。
さやか「使い魔…!?」
さやかはソウルジェムを取り出すが、ほむらがそっと手を出してそれを静止させる。
ほむら「いいえ。少なくともこいつらは私達を攻撃しないわ。…まだ、早い」
コブラ「本体だけを叩けばいいわけだ。目的としては単純でいいね」
ほむら「そうね。…シンプルだからこそ、絶対的でもある。力の差が歴然と出るわ。…私達が、敵う相手か否か」
さやか「… … …」
杏子「…さやか?…震えてるのか」
さやか「…あ、あはは…なんか…ど、どうしても…怖いなぁ。ごめん、情けないの分かってるし、今更だけど…こ、怖くって…どうしようもなくて…」
そう言うさやかの表情は曇り、身体が小さく震えていた。心配をする杏子も、その恐怖心による震えを必死に耐えている。
杏子「… … …」
さやか「…バカ、だよね。もうとっくにあたしなんか人間じゃないのに…死ぬのが、怖いなんてさ…。ホント、バカだと思うよ…笑ってくれても…」
杏子「ほら」
さやか「…!」
俯いて震えるさやかの眼前に、杏子の手が差し出された。
杏子「手、握れよ。ちょっとは抑えられるだろ?震え」
さやか「… … …杏子…」
杏子「怖いのは誰だって一緒さ。我慢なんざしなくていい。怖いならアタシの手なんか握らないで逃げてもいいんだ。誰も責めないよ」
杏子「ただ、アンタのバカさ加減じゃ怖くてどうしようもなくても、行こうとするだろ?」
杏子「だから、同じバカ同士、手でも握ってやるよ。少しはマシになるだろ」
さやか「… … …」
さやか「恥ずかしいヤツ」
杏子「うるせーよ」
さやかは微笑みながら、そっと杏子の手を握った。
五人の中で、前方を躊躇いなく歩く、ほむらとコブラ。そして、それに必死でついていく、マミ。今にも恐怖心で歩みが止まりそうなのは、マミも一緒だった。しかし、前を歩く2人はすたすたと先を進んでいく。
マミ「…2人とも、強いのね…。私なんて、逃げ出したくてたまらないのに…」
ほむら「逃げ出してもいいのよ、巴マミ。…責めるつもりなんて、ないわ」
マミ「…いいえ、行くわ。…でも… … …どうしても…怖くて…」
コブラ「マミ。俺もほむらも、別に強いわけじゃないぜ」
マミ「…え?だって…」
コブラ「俺もほむらも、『未来』を信じているのさ。だからこそ、その未来がくるように突き進んでいける」
マミ「…未来…」
ほむら「… … …」
コブラ「明けない夜なんざない。夜が明けなきゃ、サンタクロースはプレゼントを渡す事すらできない。だから、俺達はしっかり朝を迎えさせてやらないとな」
マミ「…コブラさん…」
コブラ「ついてきな、マミ。魔法少女は、必ず俺が守ってみせる」
詢子「どこへ行こうっていうんだ?」
まどか「…!ママ…」
詢子「まどか…あたしに、何か隠してないか?」
まどか「… … …」
詢子「言えない、ってのか」
まどか「…ママ、わたし…」
まどか「友達を助けるために、どうしても今行かなくちゃいけないところがあるの」
詢子「駄目だ。消防署に任せろ。素人が動くな」
まどか「わたしでなきゃ駄目なの」
詢子「… … …」
パァン。
廊下に響くような、乾いた音。
詢子「テメェ1人のための命じゃねぇんだ!あのなぁ、そういう勝手やらかして、周りがどれだけ―――」
まどか「分かってる」
詢子「…!」
まどか「私だってママのことパパのこと、大好きだから。どんなに大切にしてもらってるか知ってるから。自分を粗末にしちゃいけないの…よく分かってる」
まどか「だから、違うの」
まどか「みんな大事で、絶対に守らなきゃいけないから。…そのために、わたしに出来る事をしたいの」
詢子「…なら、あたしも連れて行け」
まどか「駄目。ママは…パパやタツヤの傍にいて、二人を安心させてあげて欲しい」
詢子「… … …」
まどか「ママはさ。私がいい子に育ったって、いつか言ってくれたよね。…嘘もつかない、悪い事もしない、って」
まどか「今でも、そう信じてくれる?」
詢子「… … …」
詢子はふぅ、と諦めたように溜息をつき、まどかの両肩を掴んでその目をじっと見つめる。
詢子「…絶対に、下手打ったりしないな?誰かの嘘に踊らさせてねぇな?」
まどか「うん」
まどか「わたしを…皆を助けてくれる、頼もしい人がいるから。だから、安心して。絶対にわたし、無事で帰ってくるよ」
――― その少し前。
体育館に避難していたまどかを、同じように廊下で呼びとめた人物がいたのであった。
まどか「…!!コブラ、さん…!」
コブラ「よう、まどか。元気してるか?」
まどか「み、みんなは…!?ワルプルギスの夜に向かって行くんじゃ…」
コブラ「ああ、俺もこれから行くところさ。その前に、まどかに渡す物があってね」
まどか「…渡す、物…?」
コブラはまどかの所まで近づくと、手にもっていた花をまどかの手に握らせた。
まどか「…これ…」
コブラ「昨日みんなには渡したんだけどな、お前さんに渡すのを忘れてた。俺とした事がうっかりしてたぜ」
まどか「… … …」
コブラ「まどか。お前さんは今のままで十分強い。だから、なりたい自分になろうとするな。自分を犠牲にして他人を助けようなんてするな」
コブラ「ただ、自分の信じる道だけを進んでいけばいい。それが、まどかの強さだ」
まどか「…!!」
コブラ「じゃあな。…美人のお袋さんにも、よろしくっ」
コブラはウインクをして微笑むと、体育館の外へと出ていく。
まどか(コブラさん、わたし、見つけたよ)
まどか(自分の信じる道、歩いていける道)
まどか(全部、自分で決められたんだよ。もう迷わない。絶対…後悔なんてしない!)
まどか(わたしは…!)
吹き荒れる雨の中。傘もささずに、少女は駆けていく。
自分の信じる道を、ただひたすら。
五人は歩みを続けた。
一段と、風を強く感じたその時、ほむらは足を静かに止めて、四人がいる後ろを振り返る。
ほむら「…逃げ出すなら、此処が最後よ。後戻りは出来ないわ」
ほむらは静かに、それを全員に告げた。
マミ「…」
さやか「…」
杏子「…」
しかし、誰一人として踵を返す者はいなかった。俯く者もいなかった。
ただ魔法少女達は前を向き、その先に存在するであろう巨大な敵に強い瞳を向けている。
コブラ「途中下車はいないようだぜ、ほむら」
ほむら「…本当に、いいのね」
マミ「ええ。…答えは、さっきと変わらないわ」
さやか「どうせ何もしなきゃ死んじゃうんだし…私達が、どうにかしなきゃね」
杏子「乗りかかった船だ。最後まで付き合ってやるよ」
ほむら「… … … ありがとう、皆」
コブラ「… 見えてきたぜ、アイツが…どうやらそうみたいだな」
ほむら「ええ、間違いないわ。…あれが…」
マミ「ワルプルギスの… 夜…」
コブラ「ここが終点か。それじゃあ皆、派手にやるぜ」
さやか「…うん!」
杏子「行くぜ…!」
魔法少女達はソウルジェムを取り出し、それぞれの戦闘態勢をとる。
コブラは左腕の義手をゆっくり抜き、サイコガンを目標に向けて構えた。
ほむら「…来るわ…!」
5 4 3 2 1 …
まどか「はぁっ、はぁ…っ!」
QB「もうすぐ着く筈だよ、まどか」
まどか「ほ、本当に…?まだ、影も形も…!」
まどか「…!」
QB「到着したようだね」
QB「あれが、ワルプルギスの夜」
QB「歴史に語り継がれる、災厄。この世の全てを『戯曲』へと変える、最大級の魔女だよ」
まどか「あ、あ、あ…!」
まどかの眼前に広がる光景。
それは、まさに死闘とも呼べる戦いの光景であった。
巨大な歯車には、逆さに吊るした人形のようなドレス。
数多の少女達が笑い声をあげるような声が、あちこちに響くように聞こえる。
それは、まるで城塞。巨大な城が空へ浮かび、笑い声をあげながらそこに佇む。
今までの魔女とは比べものにならない巨大な姿。そして、感じられる禍々しい気迫。魔法少女にとっては、まさにそれは最悪の敵と呼ぶに相応しかった。
さやか「はああああああッ!!!」
杏子「うおおおおおおッ!!!」
さやかと杏子は、剣と槍を構え、ワルプルギスの夜へと続くサーカスのロープを駆けていく。
その横を飛び交う、銃弾や砲撃。
地上からはマミ、ほむら、そしてコブラの砲撃が続いていた。
マミ「…ッ!はッ!やッ!」
ほむら「…!」
マミは魔法で召喚した単発銃を次々と目標に向けて放ち、ほむらも用意したあらん限りの銃火器を次々と放っていく。
巨大な爆発が次々と起こる中、本体へ辿り着いたさやかと杏子は勢いよく跳躍をし、魔力を高め、斬撃を放つ。
一撃。
剣と槍による鋭い一撃を与えると、2人は魔力を使いゆっくりと地上に降りる。
ワルプルギスの夜「アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!!!!!」
杏子「マジかよ…効いてねぇ…ッ!」
ほむら「続けて攻撃するわ!加勢して!」
さやか「くっ…!それならもう一度…!」
コブラ「おっと、もうちょっと待ってくれ。俺の番がまだ終わってねぇぜ」
マミ「え…!?」
コブラはサイコガンを上方に向けると、高めた精神エネルギーの全てを放出する。
まるでそれは、巨大な光の大砲。瘴気を切り裂き、真っ直ぐにワルプルギスの夜に向かう。
ズオオオオオ―――――――ッ!!!
ワルプルギスの夜に触れ、それは巨大な爆発を起こした。爆風で見えなくなった相手に向け、コブラは次々とサイコショットを放つ。
コブラ「ショータイムだ!遠慮しないで続けてどんどんいけ、皆!」
ほむら「…!」
杏子「っしゃあ!任せとけ!」
カチリ。
時間を止め、銃火器をワルプルギスに向けて再び連射するほむら。銃弾、グレネード、ロケットランチャー…用意した全ての武器を惜しむことなく相手に向けて放っていく。
再び動き出し、ワルプルギスの夜に向け進んでいく数百、数千の弾丸。
その間に、マミとコブラも攻撃を続けていく。
マミ「…!『ティロ・フィナーレ』ェェッ!!!」
コブラ「うおおお―――っ!!!」
巨大な銃身から出る、魔力の一撃。左腕の砲身から出る、巨大な精神力の砲撃。
その全てが魔女に確実に当たり、次々に爆発と爆風を生む。通常ならば、どんな敵でもそれだけで消滅するだろう。
しかし、さやかと杏子はそれでも再びワルプルギスの夜に向けて突進していく。
さやか「今度こそ決めるよ!!」
杏子「ああ!いい加減、くたばらせてやるぜ!!」
意気込み、駆け抜ける2人。
まどか「…皆…!」
QB「… … …」
どこか、安心して見守るようなまどか。それは、今までになかった光景だからだろうか。
巨大すぎる敵。しかしだからこそ、五人は今までにない団結力で次々と効果的な攻撃を仕掛けられている。全ての攻撃が当たり、お互いをフォローできている。
まどか(これなら…勝てる…!)
しかし、まどかは…いや、全員はまだ気づいていなかった。
ワルプルギスの夜が、こちらに対し何の攻撃も仕掛けていない事に。
さやか「いくよ!もう一回ッ!!」
あと少しで、もう一度城塞へと辿り着く。2人は剣と槍を構え、再び一撃をくわえようとしていた。その瞬間、地上からの砲撃は止み、2人の攻撃を待つ。
まさに完璧なチームワーク。…その筈だった。
杏子「…!!! なッ…!?」
まさに、ワルプルギスに斬りかかろうとした時。爆風の中から出現する…影。
幻影「キャハハハハハハハハハハハ!!!」
幻影「アハハハハハハハハハハハハ!!!」
人型の黒い影は素早くさやかと杏子の2人の眼前に来ると、武器のようなもので2人を攻撃した。
さやか「きゃああああああッ!!!」
とっさの防御も間に合わず、さやかは幻影の攻撃により地上へと叩き落された。
杏子「ッ!!さやかッ!!」
一瞬、さやかの方へ気を取られてしまった杏子。その隙に、もう一体の幻影も杏子に向けて攻撃をする。
杏子「ぐああああッ!!」
マミ「!!美樹さん、佐倉さんっ!!」
コブラ「なんだありゃあッ!?」
ほむら「…!幻、影…!?ワルプルギスが吸収した…魔女の…魔法少女の、魂…!!」
コブラ「くそぉ…!!さやかぁ!杏子ッ!!」
地上に叩き落されたさやかと杏子。どうにか自身の魔力でそのダメージを軽減するものの、魔法少女の幻影は追撃をかけようと2人に急速に迫る。
さやか「くッ…!だ、大丈夫…!?杏子…」
杏子「ああ、なんとか… …ッ!? 危ねェッ!!」
体勢を立て直そうとするも、幻影は今にも斬りかかってきそうなほど間近に迫っていた。
その時。
ズオオオオ―――――ッ!!
杏子「!!」
2体の幻影を一気にかき消す、光の波動。
幻影が消えた先に見える、サイコガンを構えた男の姿。
さやか「ヒューッ!さっすがコブラさん!助かっちゃった!」
コブラ「元気そうで何よりだ。…しかしあの野郎、なんて攻撃してきやがるんだ。悪趣味にも程があるぜ」
杏子「…余裕ぶっこいてる暇もなさそうだぜ。…来るぞ!」
上空を見据える杏子。その視線の先を追うように、コブラとさやかもワルプルギスの夜の方を見る。
城塞から次々と出現するのは、何体…いや、何十体もの、魔法少女の幻影。それらは敵であるコブラ達に向け、笑い声をあげながら突進してくる。
コブラ「やれやれ…こういうモテ方は勘弁して欲しいよ、ホント」
マミ「2人とも!大丈夫!?」
慌ててさやか達の方へ駆け寄るマミとほむら。5人は再び合流をし、臨戦態勢をとる。
さやか「はいっ!…でも、ちょっとピンチかも…!」
コブラ「マミ、ほむら!迎撃するぜ!」
マミ「…!何…あの幻影の数は…!」
ほむら(…あんな攻撃、今まで見たことは無かった…。それだけアイツが…ワルプルギスの夜が追い詰められているという事…?」
ほむら(でも…それじゃあ、あの魔女の本気はどれだけ…!)
コブラ「ほむらッ!」
ほむら「―――ッ!!」
コブラ、マミ、ほむら。遠距離武器に特化した3人は、こちらに向けて突っ込んでくる幻影群を迎撃する。
魔法銃、現代火器、そしてサイコガン。それぞれの砲撃は幻影達を次々と消滅させていくが、全てに対応できるわけではない。残りの幻影は次々と5人に向けて襲ってくる。
さやか・杏子「はあああああああッ!!!」
こちらに近づく幻影は、一歩前に出たさやかと杏子の斬撃で倒していく。一体一体が、魔法少女と同レベルの闘い。しかしながら、戦闘経験を積んだ2人の戦士は次々と幻影を斬り捨てていくのだった。
――― しかし。
ほむら(… 終わ、らない…ッ!!)
コブラ「くそっ!出し惜しみなしか!」
幻影は減るどころか、次々と城塞からこちらに向かってくるのだった。
マミ「はぁっ、はぁ…!」
さやか「くっ…!ぐ、ゥ…っ!!」
幻影を次々と倒していく魔法少女とコブラ。しかしながら、長引く戦闘による魔力の消費で、魔法少女のソウルジェムはどんどん黒く濁っていく。
ほむら(このままじゃ…私達まで危なくなる…!!)
さやか「あ、ッ…!!」
杏子「!!さやかッ!!」
最も経験が浅いさやかの限界が、一番先にきたようだった。体勢が崩れ、地面に膝をつけてしまうさやかに襲い掛かる、複数体の幻影達。
さやか「… !!!」
自分の最期を感じたのか、思わず目を瞑ってしまうさやか。 …しかし、そのさやかの目の前に立つ、一人の男の姿。サイコガンは次々と幻影を撃ち抜き、倒していった。
さやか「コブラ…さん…!」
コブラ「安心しな。何があっても守ってみせるぜ」
…しかし、状況はどんどん苦しくなっていくばかりだった。
そして…5人は未だ、気付かなかった。
ワルプルギスの夜が、次なる攻撃を仕掛けようと動いている事に。
まどか「 … !!!」
その異変に気付いたのは、鹿目まどかが最初だった。誰よりも遠くから状況を見ていたからこそ、気付けた事実。
彼女は、戦いを続ける5人の元へ急いで駆け寄る。
そして、あらん限りの声で叫ぶ。
まどか「逃げてええええ――――――ッ!!!!」
ほむら「…! まどかっ!?」
マミ「鹿目さん…!?どうして…!!」
コブラ「… … …!! 何だ、ありゃあ…っ!!」
そして、まどかの叫びの意味を、5人は知る。
城塞の周りを取り囲んでいるのは…根本が折れた、幾つもの巨大ビルだった。
ワルプルギスの夜はそれらのビルを、こちらに向けて飛ばしてくる。まるで、とてつもなく巨大な弾丸のように。
コブラ「くそおおお―――ッ!!!」
コブラはサイコガンを次々と巨大ビルに向けて発射する。
しかし…間に合わない。崩れた鉄塊は全員を押し潰そうとばかりに、ゆっくりと、しかし確実に迫い来るのだった。
ほむら(… !! このままじゃあ、まどかまで…ッ!!!)
カチリ。
ほむらは時間停止をして、こちらに走り寄ってくるまどかに近づき、引き留めようとその場に押し倒した。
カチリ。
魔力を消費した状態での、精一杯の時間停止。
まどか「あっ…!」
砂埃をあげ、地面に倒れ込むほむらとまどか。
その先には…
魔力を消費しすぎて動けなくなったさやか、杏子、マミと…その3人を必死で守ろうとサイコガンの連射を続ける、コブラの姿。
さやか「…もう、駄目…っ!!」
杏子「くそ…っ!!ここまで、かよ…!!」
マミ「そんな…そんな…ッ!!!」
眼前まで迫る、巨大なコンクリートと鉄の塊。
コブラは、喉が引き裂かれるような声をあげた。
コブラ「俺に掴まれぇぇぇぇぇ―――――――――――ッッッ!!!!!!!」
ドオオオオオオオオオオオオオオオンッ!!!!!!!
墓標のように、4人を押し潰すコンクリート。
爆風が、ほむらとまどかを襲う。
そして、無情なまでの静けさが、辺りを包むのだった。
まどか「… … …」
ほむら「… … …」
そこには、さやかと、杏子と、マミと、コブラの姿は無かった。
今まで、確かに4人が存在した場所。しかしその場所は、無数の建造物の残骸により、掻き消えてしまっていた。
コブラの叫びが、嘘のように消えていた。静寂は恐怖心と絶望を現し…同時に、4人の死を現すのだった。
ほむら「… ぐ …ッ …!!」
まどか「…嘘…だよ…。みんな…みんな、死んじゃったの…?」
まどか「そんなの、嫌だよ…。 …返事、してよ…マミさん…。さやかちゃん…杏子ちゃん…!コブラさん…!」
まどか「こんなの… こんなのって… !!!」
ほむら(… 駄目だった…。 今回、も…)
まどか「いやあああああああああああああああああああああああああッ!!!」
まどかの悲痛な叫びが、静寂を切り裂いた。
絶望を表情に灯す2人の眼前に現れる、1つの影。
それは、インキュベーターだった。
QB「さぁ、鹿目まどか、暁美ほむら。君達はどうするんだい?」
まどか「… … …」
ほむら「…!くッ…!!」
QB「希望は、全て消えた。後に残った物は絶望しかない」
QB「どうするんだい?このままこの街が…いや、この世界が滅びるのを待つのかい?」
まどか「… … …」
QB「手段はある筈だ。それは、2人とも分かっている事だね。 …鹿目まどか、君自身が希望となる以外に絶望を払拭する方法は存在しない」
QB「もし、君自身が希望となる決意があるのなら…」
ほむら「駄目…っ!まどか…!あいつの言う事に…ッ!!」
まどか「…ある、のなら…」
ほむら「… まど、か…っ!!」
QB「もし君に決意があるのなら」
QB「ボクと契約して、魔法少女になってよ」
――― 次回予告 ―――
全く、コブラと魔法少女の下敷きなんて喜ぶのはどこのどいつだぁ!?勘弁してほしいよホント。
憐れ、宇宙海賊コブラの冒険もここで仕舞い…って、俺を待ってる美女がうじゃうじゃいるのにおちおち死んでられるかってんだチクショー!!
一方、まどかはいよいよ決意を固めて魔法少女になっちまう。しかしその願いは、誰も予想しなかったとんでもない願い事だった!!
まどか、ほむら…一体どうなる事やら。平穏が宇宙の彼方で欠伸してるぜ。どんな結末が待っているのか、いよいよラストスパートだ。
次回のCOBRA×魔法少女まどか☆マギカ。【五人の魔法少女(後編)】。よろしくゥ!
瓦礫の山にぴょこんと飛び乗ったその生き物は、2人の少女に向けて告げる。
その声に、感情は無い。ただ、今そこにある事実をただただ冷酷に告げ、そして選択を迫るのだった。
QB「――― ボクと契約して、魔法少女になってよ」
その言葉に、1人の少女は明らかな敵意を向ける。
しかし、もう1人の少女は…その言葉に希望を見出してしまうのだった。
ほむら「…ッ…!ま、どか…っ!駄目…っ!駄目よ…!!」
まどか「… … … ほむらちゃん …」
ほむら「やめて…!貴方が魔法少女になったら、私は…っ、私は…!!」
まどか「… 約束、守れなくてごめんね、ほむらちゃん…」
ほむら「そんな言葉…聞きたくない…!まどか…!お願い…っ!やめてぇ…!」
QB「さぁ、まどか、君は何を願うんだい?君の魂なら、どんな願いでもその対価となり得る」
まどか「… … …」
まどか「私の願いは ―――」
ほむら「駄目ェェェェェェェェッ!!!!!!」
第10話「五人の魔法少女」
吹き荒ぶ嵐の中、1人の少女はハッキリとした眼差しでその生物を見つめる。
それは、今までの鹿目まどかからは考えられない程の明瞭な言葉だった。
まどか「私の願いは…」
まどか「全ての魔女を、生まれる前に消し去りたい」
まどか「全ての宇宙。 過去と未来の全ての魔女を。 …この手で!」
ほむら「っ…!!」
QB「! その祈りは…そんな祈りが叶うとするなら、それは時間干渉なんてレベルじゃない!因果律そのものに対する叛逆だ」
QB「まどか、君は… 神になるつもりなのかい」
まどか「神様でも、何でもいい。皆… これまで魔女と戦い、希望を信じてきた人達の涙を、もう見たくない。そのためなら、どんな事だってしたい」
まどか「それを邪魔するものなんて… ルールなんて、全部壊して、変えてみせる!」
まどか「これが、私の願いよ。…インキュベーター」
ほむら「駄目…!!まどか…!!そんな事をしたら… そんな願いが叶ってしまったら、まどかは…!!」
まどか「… ほむらちゃん …」
まどか「本当に、ごめん。 …でも、私は…皆の笑顔が戻るなら、この命を使っても構わない」
ほむら「そんな…!それじゃあ、私は…何の為に…!!」
まどか「… … …ごめん…いくら謝っても、足りないと思う。 …でも、ほむらちゃんがずっと私を守ってきてくれたから、今のわたしがあるの」
まどか「魔女が存在する限り、いつか…わたしもほむらちゃんも、きっと哀しみを背負わなくちゃいけない」
まどか「ううん、マミさんだって、さやかちゃんだって、杏子ちゃんだって… 世界中の、どの時間でも… 哀しみはずっと消えない」
まどか「コブラさんが、みんなの希望になろうとしてくれた。…でも…それは、叶わない願いだった」
まどか「だから…代わりになれるのは、わたししかいない。わたしは…皆の、希望になりたい。その為なら…この命を犠牲にしても、構わない」
ほむら「嫌よ…!まどかがいなくなったら…私は、どうすれば…!!」
まどか「… … …」
まどか「ありがとう、ほむらちゃん。…本当に、今まで…ありがとう。…だから、もう、いいんだよ」
ワルプルギスの夜が、笑っている。
まるで世界そのものに対し嘲り笑うかの如く、その笑いは響き渡った。
しかし、まどかとほむら、そしてキュウべぇの周りはまるで時間が止まったかのように静まり返っているように思えた。
まどかは一歩、キュウべぇに対して近づき、その手を差し出した。
まどか「――― さぁ、インキュベーター。 どんな願いも叶えられる…そう言ったよね。 …今のが、わたしの願いよ」
QB「… … …」
まどかの周りを、光が包む。
それは、まどかの願いが成就されようとする瞬間を示していた。
ほむら「まどか…ぁっ!」
まどか「――― !!」
インキュベーターとの契約がなされ、新たな魔法少女が誕生する瞬間。
祈りを捧げるように瞳を閉じ、手を差し出すまどかは、微笑みを浮かべていた。
光が増す。風が巻き起こる。 …全てが、変わる。
――― その時。
「おおっと、その契約 ――― 異議アリだ」
まどか「――― !!」
まどかの瞳が、開いた。
「まどか、俺は言った筈だぜ。 自分を犠牲にして、他人を助けようとするな、ってな」
「希望ってのは、なるモノじゃない。 作るものだ。 まどかの今までしてきた事は、十分『俺達』の希望になって…力になっている。 まどかは、まどかが思っている以上に、強い」
まどか「… !!」
ほむら「この…声…」
「それにな、俺のいた世界では、神様ってのはもっとボインなんだぜ」
「14歳のいたいけな少女が神様になっちまっちゃあ、俺の世界と違っちまうんだよ。 ――― お前さんにそんな重荷を背負わせる世界なら、俺が変えてやる」
「――― いいや、壊してやる」
QB「…!!」
「俺は、あんた達を守ると約束した。 そして、男ってのは… 一度交わした約束は、守りきらなきゃいけない生き物なんだぜ!!」
まどか「!!!」
瓦礫の山。そこから、光が溢れだしてる事に気付いた。
その光は段々と強くなる。鉄筋を、コンクリートを、硝子を… 全てを溶かし、『道』を作ろうとする、その光。
「そのためなら… 俺は何度でも立ち上がる!何度でも挑むッ!! だから… 俺を、俺達を、信じろ!!まどかッ!!」
コブラ「俺は ――― 不死身のコブラなんだからなァッ!!!」
ドゴォォォォ――――――ッ!!!!!!
上空に放たれた巨大なサイコショットは、雲を切り裂き、太陽の光を浮き出させた。
その光に包まれる、1人の男。
天に構えたサイコガンを右手で抑え、その男はまどかとほむらに向け、不敵な笑みを浮かべるのだった。
そして、その男の周囲には、マミ、さやか、杏子…それぞれの姿があった。
まどか「コブラ…さん…!」
ほむら「コブラ…!」
QB「…信じ難い。一体、どうやって」
コブラ「へへへ、覚えときなインキュベーター。 サイコガンは、心で撃つものなのさ。この銃は俺の精神(サイコ)エネルギーに反応し、そいつを曲げる事も、増す事も出来る」
コブラ「つまり、だ。オタクらに無い『感情』の力が、俺達を救ったのさ」
QB「!」
コブラ「かの女達、魔法少女を助けたいという感情。その思いは力になり、鉄だろうが何だろうが一瞬で溶かしちまうくらいのエネルギーを持つ。そいつが、俺達を助けた」
コブラ「な?キュウべぇ。感情ってヤツも、捨てたもんじゃないだろ?」
QB「…」
さやか「ビルが飛んできた瞬間、コブラさんのサイコガンが一瞬でビルを溶かしてくれた。そいで、その熱があたし達にこないように、あたしの魔力でバリアを張ってたのさ!」
マミ「美樹さんの自己回復能力の応用ね。…本当に助かったわ」
ほむら「そんな… だって、私達は魔力を消費して…ほとんど動けないくらいまで…」
さやか「へっへっへー」
さやかはニヤリと笑い、見せつけるように右手を差し出す。その手には、グリーフシードが握られていた。
コブラ「色々と賭けだったぜ。あの瞬間、俺がセーブせずサイコガンを撃つ瞬間、さやかがバリアを張ってくれなけりゃいけない」
コブラ「保険はかけておくもんだな。堅実ってのも少しは悪くないかもな」
コブラの大きな手には、大量のグリーフシードがあった。
QB「その為に…君は、魔女を倒していたのか」
コブラ「そういう事。もしもの時のために…ってヤツさ。こう見えて俺は貯蓄派でね」
コブラ「俺の手をさやかが握った瞬間、その穢れはコイツが吸い取ってくれる。もう少し遅かったら火傷しちまうところだったが、間に合ってホッとしたよ」
杏子「ホント、ギリギリの賭けだったな。…正直生きた心地しなかったぜ」
コブラ「まぁ、これで全ては解決だ。…ほむらっ!」
ほむら「…!」
コブラはほむらに向け、グリーフシードを投げた。それを受け取ったほむらは自分のソウルジェムにグリーフシードを当て…再び立ち上がった。
コブラ「さ、後半戦だ。…9回裏、逆転ホームランはここからだぜ!」
さやか「うんっ!」
マミ「ええ…!」
杏子「おうっ!」
ほむら「…!」
ゆっくりと、しかし確実に都心部へと移動しようとするワルプルギスの夜。
しかし、その巨体に刺さるようにぶつかる、巨大なサイコガンの一撃。
ワルプルギスの夜「!!!」
コブラ「何処にもいかせねぇぜ、城の化け物。 ここから先は通行止めだ!」
ワルプルギスの夜「キャハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!」
再び現れた『敵』に反応したワルプルギスの夜は、再びその周囲から幻影を出現させる。
マミ「…!来るわッ!」
杏子「よっし、いくらでも相手してやるぜ!」
さやか「もういくら来ようが平気だもんね!…絶対、負けないッ!」
まどか「… コブラ、さん… わたし…」
コブラ「…まどか、俺はお前さんに何かをしろ、なんて命令した事は一度も無いぜ。 自分の進むべき道、切り開くべき道は自分で決めるんだ」
コブラ「まどかには、仲間がいる。魔法少女だけじゃあない。お前さんの周りにいる全ての人々が、まどかの希望となっている筈だ」
まどか「…!」
コブラ「神様なんざ必要ない。…希望ってのは… 自分の手でも、作り出せるんだぜ!」
まどかの頭にポン、と手を乗せたコブラは微笑みを向ける。そしてその手を離し、迫りくる幻影に向けて駆けだすのだった。
まどか「…自分で作り出す…希望…」
まどか「… … …」
まどかはキュウべぇの方をもう一度振り向き、その生物を見つめるのだった。
杏子「マミッ!危ねぇぞ!!」
マミ「!!」
背後に忍び寄っていた幻影を、杏子の槍が切り裂く。
杏子「ったく、昔っから甘ったるいんだよ。…弟子に助けられるようじゃ、師匠としてまだまだだな」
マミ「…クス。そうね…佐倉さん。 …ありがとう」
杏子「へっ。…油断すんなよ!来るぞ!」
次々と迫ってくる幻影を、コブラのサイコガンが撃ち落す。
それを避けきり、コブラに近づく幻影は…さやかの斬撃によって斬り捨てられた。
コブラ「様になってきたじゃねぇか!その調子なら彼氏もしっかり守れそうだな、さやか!」
さやか「バッ…!か、彼氏とか言わないでよっ!そういう話は後回しっ!!」
コブラ「こりゃ失礼!それはそうと、どんどん来るぜ!照れてる場合じゃないぞ!」
さやか「誰が照れさせてるのよっ!!」
ほむら「…ッ!」
迫る幻影を銃器で次々と撃つほむら。 …しかし、間に合わず至近距離まで迫られてしまう。
一体の幻影が、笑い声をあげながらほむらの目の前で斧を振りかざした。
ほむら「しまッ…!」
その幻影をかき消す、一筋の光。
まるで『矢』のようなその光は、かき消すように幻影を撃ち抜く。
ほむら「な…ッ!」
ほむらの見た先には… 弓を構え、微笑むまどかの姿があった。
まどか「…あ、あはは… 当たった…良かったぁ…」
ほむら「まどかッ! その恰好… 貴方は、魔法少女に…!!」
まどか「…うん」
ほむら「どうしてッ!? 契約してしまっては、折角コブラが繋いでくれた事が…!」
まどか「違うよ。 …願い事は、もう叶ってるから」
ほむら「え…!」
まどか「神様にはならない。ただ、わたし自身が一つの希望になれれば…それで十分なんだ、って…ようやく分かったんだ」
まどか「わたしは、ほむらちゃんに守られるわたしじゃなくて…ほむらちゃんを守るわたしにもなりたいの」
まどか「ほむらちゃんが…ずっと、わたしにそうしてきてくれたように」
ほむら「!!!!!」
まどか「だから戦う。皆と同じように、わたしも…街を守る、魔法少女になる!」
まどか「どんな絶望にも… 勝てるようにッ!!」
ワルプルギスの夜に弓を向けるまどか。
繰り出される幻影を次々とその矢で射ぬく。正確なその射撃は一撃も外れる事なく、目標に当たっていく。
さやか「え…ま、まどかっ!その姿…!」
マミ「…なったのね、魔法少女に」
まどか「ティヒヒ、遅ればせながら。…えと、似合うかな…?」
杏子「…ちょっと少女趣味すぎやしないか?アタシには死んでも似合いそうにない服だ」
マミ「うふふ、とってもよく似合っているわよ、鹿目さん」
まどか「あ、ありがとう…ございます」
まどか「…コブラさん。 …わたし、答えが出せたよ。 …1人で、考えて…!」
コブラ「… へへへ、似合ってるぜ、まどか。…それに、いい顔が出来るようになったじゃねぇか。先生は100点満点をあげるぜ」
まどか「…!ありがとうございます!」
ほむら「… … …」
まどか「…ほむらちゃん…」
コブラ「ほむら。お前さんの願いは、崩れ去っちまったか?違うんじゃないのか」
コブラ「未来は、1人で掴みとらなくてもいい。5人で掴みとる希望も、あっていいんじゃないか。5人の魔法少女が…希望となれる世界だ」
ほむら「…!」
まどか「…違うよ、コブラさん! …今は、6人… コブラさんも入れて、6人!…でしょ?」
コブラ「! …ああ、そうだな!」
ほむら「… 私は…」
ほむら「私は… まどかが…いいえ、皆が笑っていられる世界なら、それでいい。…だから…」
ほむら「だから私は…ワルプルギスの夜を、倒す!!」
コブラ「ようし!そんじゃさっさと、あの馬鹿でかい疫病神を追い払うとしますかぁ!!」
さやか「…!みんな!もう一回アレが来るよ!!」
ワルプルギスの夜の周囲に、再び崩れた建造物が浮遊しはじめた。もう一度、こちらへの攻撃を開始しようとする狼煙。
しかし、それを見ても6人の表情に恐怖はなかった。
全員が対象を見据え、それぞれの構えをとる。
コブラ「それじゃ、いい加減終わらせるとしますかぁ。少しオイタを許し過ぎたぜ」
まどか「…はいっ!」
さやかと杏子は、剣と槍に力を宿す。
マミとほむらは、それぞれの銃の照準を対象に合わせる。
そして、コブラとまどかはお互い背中合わせの恰好になり、サイコガンと弓を構える。
ワルプルギスの夜「キャハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!」
ほむら「…これで、終わらせる…!」
マミ「ええ… 魔女に… あんな姿になった、魔法少女を…放ってはおけないわ」
さやか「… あたし達の街は、あたし達が守らなくちゃ…ね!」
杏子「跡形もないくらいに… 吹き飛ばしてやるぜ!」
まどか「どんなに大きな壁でも… 必ず、超えてみせるっ!これからも!」
コブラ「…ようし、意気込みは良し、だ!派手な花火をぶっ放してやろうぜ!皆!」
コブラ「行けぇぇぇぇ――――――――ッッ!!!!!」
2つの刃の投擲。2つの銃弾の発射。そして、2つの光が同時に、ワルプルギスの夜へと向かって行く。
浮遊するビル群を物ともせず、それぞれが滅ぼすべき対象の元へと、真っ直ぐに。
そして… … …。
大きな爆発が起きた。
大きな光が辺りを包んだ。
それはまるで、嵐を吹き飛ばすかのような衝撃。
そして、それが止んだ時、その爆発の後には何も存在しなかった。
あれだけ街を包んでいた雷雲すら、そこには存在しない。
ただ一つそこにあったのは…吹き飛んだ雲の間から照らす、太陽の光。
その光が、まるで6人を称えるように差し込む。
ほむら「… … …」
コブラ「夜明け、ってのはいつ見ても良いもんだな、ほむら」
ほむら「… … … ええ。 …とても、綺麗」
コブラ「…ああ。 最高だぜ」
一筋の涙がほむらの頬を流れた。
まどか「終わった… 終わったんだよ!ほむらちゃん!ワルプルギスの夜を…倒したんだよっ!!」
ほむら「…!まど、か…」
思わずほむらに抱きつくまどか。
まどか「ほむらちゃん…!これで… これでようやく、ほむらちゃんの…っ!うう、っ…!ぐすっ…!」
ほむら「… … … ありがとう、まどか…」
肩に回されたまどかの手をぎゅっと握り返す、ほむらの手。
さやか「やったんだ… あはは、夢みたい…あんな大きな魔女を、倒せた、なんて…」
杏子「ようやく生きた感じがするな。今更ながら、随分無茶したもんだよ」
マミ「うふふ…でも、皆無事だったんだから、良かったんじゃないかしら」
杏子「…そうだな。 …あ?」
さやか「?どうしたの?杏子」
杏子「コブラは… どこ行きやがったんだ、あいつ」
マミ「…あら… 本当…」
レディ「… … …!」
コブラ「ようレディ、ただいま」
レディ「おかえりなさい、コブラ」
コブラ「心配したか?」
レディ「いいえ、ちっとも。だって、貴方の仕事だもの。 無事で帰ってこないはずがない、でしょ?」
コブラ「おーヤダヤダ。男心をちっとは分かってくれよ。心配した、なんて優しい言葉を求めてる時も俺にだってあるんだぜ?」
レディ「ふふ、考えておくわ。…さ、コーヒーを淹れておいたわ。船内で飲みましょう」
コブラ「嬉しいねぇ。帰るべき我が家と相棒と、最高のコーヒー。文句のつけようがない」
コブラ「それじゃ… ささやかな祝杯でも、あげるとしますか」
―― 次回予告 ――
ワルプルギスの夜も倒して、ようやく俺の肩の荷も下りたってところだな。お伽話ならめでたしめでたしで終わるところだが…ところがそうもいかないんだなぁ。
なにせ元の世界に戻る方法が見つからないときてる。これには流石のコブラさんもお手上げってわけ。どうしたもんかね。
しかし、ひょんな事から俺は元の世界に戻る事が出来るようになったわけ!いやー、めでたしめでたしで終われそう… って、毎度の事ながら、そう簡単にいかないわけだコレが。
最後くらい平和に終われないもんかね、全く、海賊のつらぁーいところよ。
次回、最終話【エピローグ さようなら、コブラ】で、また会おう!
ピピピピピ…
まどか「うぅ~ん…っ…」
カチッ。
まどか「…ふぁぁ…よく、寝たなぁ…」
まどか「… … …」
まどか「夢…見なかったなぁ…」
詢子「おーい、まどか起きてるか~?メシにするぞ~」
まどか「あ…はーいっ」
まどか(…えへへ…なんだか、いい一日になる気がするなぁ…)
最終話「エピローグ さようなら、コブラ」
まどか「うーん…」
詢子「ふぁぁ…おはよ、まど… …なんだ、またリボンの色、悩んでるのか?」
まどか「…あ、ママ、おはよう。ティヒヒ…みんなかわいくって…」
詢子「前から言ってるだろ?赤だって。 …ま、そこまで悩むんならいっそ両方持って行っちまえばいいんじゃないか?」
まどか「あ!そうだね…うん、そうする!」
詢子「決めたら朝食食べに行くよ。…あー、台風の低気圧がまだ残ってて頭痛いわー」
まどか「ママ…それ、単に飲み過ぎだと思うよ…」
詢子「はっはっは。…さ、行くぞ」
まどか「それじゃ、行ってきまーす!」
知久「行ってらっしゃーい!」
タツヤ「いったーっしゃーい!」
詢子「気を付けてなー!」
まどか「はーいっ!」
まどか(いつも通り、何の変りも無い朝…だったなぁ)
まどか(わたしは…ううん。さやかちゃんも、マミさんも、ほむらちゃんも、杏子ちゃんも…コブラさんも。みんな、あの戦いを生き抜いて…この街を守った、なんて…。実感ない)
まどか(でも…空は今日も晴れていて。清々しい空気を…胸いっぱいに吸い込める)
まどか(私は…魔法少女になったんだ)
まどか「…えへへ」
さやか「…なーに朝からにやついてるんだぁ?まどかー」
まどか「ふぇっ!?い、いつの間に…」
仁美「…いつの間にも何も、今ここまでまどかさんが歩いてきたのではありませんか?」
まどか「… … … 天狗の仕業」
さやか「何を言っているお前は」
さやか「しかし、実感ないよねぇ、まどか」
まどか「あ、さやかちゃんも同じ事思ってた…?実はわたしも」
さやか「うん。こんなふうに朝フツーに登校できるなんて、夢にも思わなかったもん」
仁美「…お2人とも、何のお話をされているのでしょう?」
さやか「! あ、あははは!いやぁ、あんな台風が起きた後でよく学校やってるなーって!学校吹き飛んでるかと思ってさぁ!」
まどか「そ、そうそう!そういう事なんだよっ!」
仁美「…また私に内緒のお話を… 不潔ですわー!」
涙を流しながらダッシュをして学校に向かう仁美。
まどか「… 行っちゃった。 …ところで、さやかちゃん。…仁美ちゃんと、恭介くんの事は…」
さやか「ああ、アレ?しばらくその話は抜きにしよう、ってお互いに話したの」
まどか「…?」
さやか「恭介のヤツ、今はリハビリの事しか頭に無いし。そういう所鈍感で嫌になっちゃうからさ。…仁美にも、かわいそうだし。だからしばらくこの話はやめて、友達として改めて…って話したの」
まどか「…すごいね、さやかちゃん。そういう事ズバっと言えるって」
さやか「うーん。前までのあたしだったら、無理だったかな? 一皮剥けた、って感じかな。スーパーさやかちゃん的な」
まどか「あはは」
さやか「お。前方に目標確認」
まどか「…あ、ほむらちゃんだ」
さやか「おっはよー、ほむら!今日も暗いぞー!どうしたー!?」
ほむら「…おはよう、まどか」
まどか「おはよっ、ほむらちゃん」
さやか「うおぉい!出会って即無視かいっ!しかもまどかまで!?」
ほむら「… … …」
まどか「… … …」
さやか「…おーおー、見つめ合って頬赤く染めあっちゃって…新婚初日かっての、あんたらは」
まどか「な、なにいってるのさやかちゃんてばっ…!て、ティヒヒ、…えと…い、一緒に行こ?ほむらちゃん」
ほむら「ええ」
杏子「よう」
まどか「!?杏子ちゃん!どうして…それに、その恰好…」
さやか「ウチの制服じゃん!…ま、まさかアンタ…」
杏子「今日からこの学校に転校してきたんだよ。拠点を本格的に移そうと思ってな。この方が好都合だからさ」
さやか「えええええっ!?」
まどか「あはは、杏子ちゃんのスカート初めて見た。すごく可愛いよ」
杏子「!? ばっ、ばっかやろ…!こっちだって恥ずかしいんだよ…!そういう事言うのやめろ…!」
さやか「あれー?制服違ってるんじゃないのー?男子用制服じゃなかったっけー?」ニヤニヤ
杏子「こ・の・や・ろ…!」
さやか「やるかこのー!!」
ほむら「…騒がしいわね」
まどか「あはは…でも、2人ともすごく嬉しそうだよ」
ほむら「… … …」
キーンコーンカーンコーン
まどか「あ!大変!授業はじまっちゃう!」
さやか「にゃんだとー」
杏子 「にゃんだとー」
お互いに頬を引っ張り合っている2人。
4人は学校まで駆けて行こうとするが…その前方を遮るように、1つの影が出てきた。
マミ「はぁっ、はぁ…!」
まどか「ま、マミさん!?」
さやか「どうしたんですか、そんなに息あげて…」
マミ「た、大変なの…」
杏子「魔女か!?朝っぱらから迷惑な野郎がいたもんだな」
マミ「ち、違うの!そうじゃなくて…!」
まどか「それじゃあ、一体…?」
マミ「コブラさんが…いなくなっちゃうの!!」
一同「えええええええええっ!?」
森林の中。タートル号の外で、コブラとレディは森林浴を楽しみながら、朝のコーヒーを啜っている。
コブラ「くぁぁぁあ…。やっぱり地球で感じる朝の光と空気が一番だね。過去の世界だとしても」
レディ「ええ。あれだけ風が吹き荒れたから、雲1つないわね」
コブラ「新鮮な空気を吸い込み、朝の森林浴。…なーんて健康的な生活かね。健康診断、一発オッケーだな」
レディ「元から何の問題も出てないでしょ?貴方の身体は」
コブラ「色々不具合が起きてるんだよ。特に最近、グラマラスな身体を見てないからな。精神的に問題アリだ」
レディ「…怒るわよ、かの女達」
コブラ「おおっと、オフレコで頼むぜ。 …それで、データは間違いないのか?」
レディ「ええ。何百光年か離れた先に、ブラックホールが発生したわ。周囲には何もない宙域なのだけれど…そのブラックホールのデータ、私達が吸い込まれた物と一致している」
コブラ「原因不明のブラックホールが再発…ねぇ。何か裏がありそうだが、まぁ、この話に乗っからないわけにはいかないな」
レディ「詳しい分析は付近でするけれど…元の世界に戻れる可能性は、極めて高いわね。行ってみる価値はあるわ」
コブラ「ああ。名残惜しいが、この世界ともさよならだ。忙しい海賊稼業に戻るとするかね」
レディ「でも…少し不安ね。かの女達…魔法少女。別れくらい言ってからの方がいいんじゃない?」
コブラ「俺の性分じゃない。…それに、もう俺の力は必要ない。だったら、この世界の役割は、かの女達に任せるとするさ」
レディ「…悲しむわよ、きっと」
コブラ「…乗り越えて行けるさ。可憐な魔法少女の闘いに、俺みたいな血生臭い男がずっと隣にいたんじゃ、絵にならない。別れを言えば余計辛くなる。…だろ?」
レディ「… … …ええ、そうね」
コブラ「そうと決まれば出発だ。俺の気が変わらない内にな」
レディ「それじゃあ、タートル号の調整をしてくるわね。数分したら発てると思うわ」
コブラ「ああ、頼んだぜレディ」
コブラを残してタートル号のコクピットに戻るレディ。
コブラ「… … …」
コブラは、何か思うような表情をしながら、葉巻の煙を青空に浮かべるのであった。
森の中を駆けていくマミ、まどか、さやか、杏子、ほむら。
まどか「ど、どうして急に…!?」
マミ「今朝…コブラさんに改めてお礼を言おうと思って、宇宙船のところまで行ったの…そうしたら…!」
さやか「元の世界に帰れるっ、て…!?」
マミ「…ええ、偶然聞いてしまったから、急いで皆のところに来たの…」
杏子「あのヤロー、何も言わないで帰るつもりかよ!」
さやか「でも…どうやって!?確か元の世界に戻る方法がないとか言ってなかったっけ!?」
マミ「…確かに、そう言っていた筈だけれど…」
まどか「… … …」
ほむら「… … …」
ほむら(…まどか…)
レディ「メインエンジン、反加速装置、制御システム、オールクリア。…それじゃあ、行くわよコブラ」
コブラ「…よろしくどーぞ」
コブラは葉巻から煙を吐き出し、苦笑いを浮かべた。
レディ「…タートル号、発… … …」
コブラ「…?どうした?レディ」
レディ「出発は遅れそうね、コブラ」
コブラ「んん? … … … ありゃあ」
タートル号のコクピットから、こちらに駆けてくる5人の少女の姿が見えた。
まどか「コブラさーーーーんっ!!!」
コブラ「あーあ。これじゃ恰好がつかないねぇ、参った参った」
コブラは頭をボリボリと?きながら、両手を大袈裟に上げた。
レディ「…ふふふ、そう言う割には嬉しそうじゃない?コブラ」
コブラ「言ってくれるなよ、レディ」
マミ「はぁっ、はぁっ…」
さやか「ま、間に合ったぁ…」
タートル号のハッチが開き、中から苦笑いをしたままコブラとレディが出てくる。
コブラ「おいおい、おたくら、学校が始まるんじゃないかい?無断欠席とは褒められないなぁ」
杏子「怒れるような性格もしてないだろ?お前の場合」
コブラ「ははは、ごもっとも」
マミ「…何も言わずに帰っちゃうなんて…寂しすぎるわ」
さやか「そうだよ!…それにあたし達、まだお礼も何もしてないよ!」
コブラ「したさ」
さやか「え?」
コブラ「久しぶりに、いい物を見せてもらった。…仲間と呼べる者の絆。そしてそいつが起こす奇跡。…俺が久しく忘れていたものを、思い出させてくれた」
まどか「…コブラさん」
コブラ「…まどか。お前さんの願い事が叶った結果かい?これは」
まどか「… … …はい」
コブラ「…全く。何でも願いが叶うっていう折角のチャンスをこんな事に使っちまいやがって」
ほむら「…!まさか…!」
杏子「…?どういう事だ?」
レディ「…!まさか、鹿目まどかの魔法少女になる願い…そのおかげで…!?」
まどか「…私、魔法少女になって、皆を助けられるようになれば…それだけでいいんです。…だから、その時の願いは…一番役に立つ人のために使おう、って」
コブラ「… … …」
――― ワルプルギスの夜との決戦の日。
ワルプルギスの夜へと向かって行くコブラと魔法少女達。
その後ろで、対峙をするまどかとキュウべぇ。
まどか「…キュウべぇ。私、魔法少女になる」
QB「…!」
まどか「願いは… コブラさん達に、元の世界へ戻る方法を与える事。…それだけだよ」
QB「たったそれだけかい?君には、宇宙そのものを作り変える力すらあると言うのに」
まどか「…それでも構わないって、思ってた。わたしが神様になれるなら…こんな世界、作り変えちゃえ、って」
まどか「でも…わたしはまだ、信じていたい。わたしを含めた皆が笑いあえて…信じあえる。神様なんていなくても、そんな世界が築ける、って」
まどか「…例え、コブラさんが…元あるべき場所に戻ったとしても。…『わたし達』魔法少女が、この世界を守れる。…そう信じていたい」
QB「…」
QB「君の願いは、エントロピーを凌駕した。本当に構わないんだね、まどか」
まどか「うん」
QB「それじゃあ…君の願いを――― 叶えよう――――」
そして、2人の間を眩い光が包んだのだった。
QB「そしてまどかは、魔法少女となったというわけさ」
さやか「アンタ、いつの間に…」
まどか「わたし達の願いは、コブラさんのおかげで全て叶った。…でも、コブラさんとレディさんの願いが、まだ叶っていない。…そう、だよね?」
レディ「…鹿目さん…」
まどか「だからせめて…。…これが、わたしの恩返しだと、思うから…」
コブラ「…全く… あんな弱々しかったヤツが、いつの間にかこんなはっきり物事を決められるようになるとはな」
コブラはまどかに近づくと、まどかの頭にポン、と右手を乗せた。
コブラ「…ありがとよ、まどか」
そして髪型がぐちゃぐちゃになるほど、頭を撫でる。
まどか「ティヒヒ」
さやか「宇宙の果てにブラックホール…」
マミ「その中に再び入れば…私達の前に現れた時と、同じ現象が起きて…コブラさん達は元の未来へ帰れる…。…そうなの?キュウべぇ」
QB「ブラックホールが、まどかの願いによって生じたものだと言う事は間違いないね。まどかの願いは、コブラが元の世界へ戻る方法を『与える』事。だから、その中へ入るのは自由というわけだ」
マミ「…でも、貴方は行くのでしょう?…コブラさん」
コブラ「どんな人間にも、帰るべき場所はあるのさ。…それに、おたくらは俺が思ったより遥かに成長した。これなら俺がいなくなっても安心だ」
杏子「師匠気取りかよ。…気に入らねェなぁ」
コブラ「…杏子。初めにお前さんに斬りかかられた時はどうなるかと思ったが…ようやく人前で素の自分が出せるようになったみたいだな」
杏子「…どういう意味だよ」
コブラ「さぁてね。ま、とにかく、さやかの面倒をしっかり見てやってくれよ」
コブラはそう言うとにぃと悪戯っぽく笑った。
さやか「ちょ、ちょっと、どういう意味よ!なんでこいつに面倒みてもらわなきゃならないワケぇ?!」
杏子「…ま、確かに面倒見甲斐がある後輩かもしれねーな」
さやか「うがあああああ」
コブラ「さやか」
さやか「何さっ」
コブラ「お前さんの明るさなら、どんな絶望も払拭できる。笑顔を忘れるなよ。アンタの最高の魅力だ。…彼氏とのデートの時にも、な」
さやか「なっ…か、彼氏ってなによ…恭介とはまだ別に…!」
コブラ「恭介とは一言も言っていないんだがね俺は」
さやか「うがああああああああああ」
まどか「あははは」
コブラ「マミの作るお菓子や紅茶は最高だったぜ。俺の相棒に勝るとも劣らない。おかげで甘党になるところだった」
マミ「…有難う。光栄だわ」
レディ「珍しいわね。お酒と料理以外でそんな事言うなんて」
コブラ「おいおい、グルメなんだぜ俺は。何に対しても、だ。 …これからは、お前さんが皆の先頭に立つんだ。しっかり頼むぜ、マミ」
マミ「ええ。…先輩だものね。しっかり舵を取るつもりだわ」
コブラ「ああ。ついでに後輩のバストやヒップの向上計画に是非とも取り組んで欲し… いでえーーーーっ!!!」
マミに足を踏まれ、レディに頭を叩かれるコブラ。
マミ「…こうしてツッコミを入れるのも最後なのね。少し…寂しいわ」
レディ「同胞をなくしたような気分だわ」
コブラ「…ああ、全く寂しいね、ホント」
頭を摩りながら、足に息を吹きかけるコブラ。
コブラ「…ほむら。…これからも…まどかを、いいや、魔法少女達を守る存在であってくれよ」
ほむら「… … …」
コブラ「自分だけで苦労すればどうにでもなる…。綺麗事かもしれないが、そんな事は無いんだ。…もう時間を繰り返す必要も無いんだしな」
ほむら「… … …」
ほむら「そう、ね…」
コブラ「まだまだ、まどかは頼りない。かの女を引っ張っていくのは君だ。…よろしく頼むぜ」
まどか「た、頼りない…かぁ…。…うう、少しショック」
ほむら「…ええ、解かったわ」
コブラ「…まどか。お前さんの心と力があれば、全ての絶望を払拭できる。そこのエイリアンとも仲良くしていってくれよ」
QB「インキュベーターと呼んで欲しいのだけれどね」
まどか「…はい。…わたし、頑張ります!」
コブラ「ほむら、まどか。誰かを、何かを守るために、犠牲はいらない。 必要なのは、守りたいという意志だ。結果は関係ない」
コブラ「だから、これからも精一杯学生生活を満喫して、いい女になって、未来の俺のために美人の先祖を作っておいてくれよ?」
ほむら「… … …」
まどか「あはは…動機は不純ですね…」
コブラ「…お。…いい物があったぜ。…まどか」
まどか「?」
コブラは、ポケットから1つ、ガーベラの花を取り出した。それをまどかの頭につける。
コブラ「タートル号でコーティングしておいたモンさ。枯れる事なき希望。…なぁーんてね」
まどか「わぁ…有難うございます!…あ」
そして、まどかの髪を結ってあるリボンを解き、手にするコブラ。
コブラ「俺は、君達の事を忘れない。…交換しておくぜ」
まどか「…はい。…私も…忘れません」
コブラ「それじゃあ…行くとするか。こういうのは長引かせるもんじゃないね。どんどんこの世界に居たくなってくるぜ」
さやか「…いいんだよ。いつまでも居ても」
コブラ「そうもいかない。人は皆、あるべき場所へ戻る。そいつに逆らっていちゃあいけない。自然の摂理ってやつさ」
マミ「…そう、ね。…もしも…もしも、もう一度逢えるのなら…また、この世界に来てくれるかしら?コブラさん」
コブラ「もちろん!女の子の成長過程の観察は俺の趣味の一つなんだ」
杏子「大した趣味だな。…ま、その時は熱烈に歓迎してやるよ」
コブラ「楽しみにしてるぜ。…その時は、何も言わずに笑って待っててくれよ?」
まどか「…勿論ですっ!」
レディ「…それじゃあ、コブラ。…行きましょうか」
コブラ「ああ。そうだな…」
コブラ「それじゃあ、愛しき魔法少女諸君!…元気でな! …あばよ」
上空にゆっくりと浮上をするタートル号。
エンジンに火がついたかと思うと、あっという間に空の彼方へと飛び去ってしまう。
その様子を、ただただ見上げる5人の魔法少女。
まどか「…行っちゃったね」
さやか「…何か、あっという間だった…な。今まで」
マミ「辛いものね。…お互い、住む世界が違う、というのは…」
杏子「落ち込んでても仕方ねーよ。…アタシ達はアタシ達で、精一杯生きていく。それしかないだろ?」
まどか「…そうだね。… … …」
さやか「なーに落ち込んでんのよまどかっ、あたしの嫁は笑顔が一番可愛いんだぞぉ?」
そう言いながらまどかに抱きつくさやか。
まどか「わ、わ…っ!んもぅ…分かったよ、さやかちゃん…」
マミ「うふふ…それじゃあ、行きましょうか?」
杏子「そうだな。行くぞ、まどか」
まどか「…うん…。 …?ほむらちゃん?」
ほむら「… … …」
まどか「どうしたの?ほむらちゃ…」
カチリ。
その時、大きく時計の秒針の音が聞こえた。
ほむら「…え…!!??」
それは、暁美ほむらが幾度となく経験をした感覚。
全ての時間が流れを止め…そして、逆戻りをしていく。
時間が、巻き戻っていく…その感覚――――。
ほむら「そんな…!私は時間を戻そうとは思っていない!…どうして…!?どうしてなの…!?」
しかし時間は非常なまでに崩れ、ほむらの意識は暗闇へと落ちようとしていた。…元の、自分が病室へといる、あるべき時間へと。
ほむら「どうして…っ!!??」
その時。自分自身の声が、暗闇の中で響いた。
QB『――― 君は、どんな祈りでソウルジェムを輝かせるのかい?』
ほむら『私は―――』
ほむら『私は、鹿目さんとの出会いをやり直したい。彼女に守られる私じゃなくて、彼女を守る私になりたい―――』
ほむら「…!」
ほむら(…そう、だったの…)
ほむら(この結果は…彼女を、まどかを【守る】結果には繋がらなかったのね)
ほむら(わたしが時間を巻き戻せる限界は、ここまで…。これ以上時間が進めば、まどかが魔法少女になる【後】へしか戻れなくなる)
ほむら(そして…このまま時間が進めば、再び私達は…滅んでしまう。…そういう事…)
ほむら(… … …)
ほむら(それに…私は、この世界を望んでいないのかもしれない)
ほむら(まどかが…【皆に】微笑む…この世界では…)
ほむら(数多の時間の中で巡り合った、1人の男。…可能性はゼロに近くても、こんな時間も確かに存在はしていた)
ほむら(それが、ワルプルギスの夜すら超えさせられる。…そんな希望がある、世界)
ほむら(…いい夢を、見させて貰ったの。…だから…)
ほむらは、病室で目を覚ます。
カレンダーは、見覚えのある日にちで止まっていた。
ほむらは傍らのテーブルに置いてあった眼鏡をそっと手にすると、それをかけた。
ほむら「…コブラ。…有難う。希望は、存在する。それを思い出させてくれて」
ほむら「…今度こそ、私は…この世界で、彼女を助けてみせる」
ピピピピピ…
まどか「うぅ~ん…っ…」
カチッ。
まどか「…ふぁぁ…よく、寝た…」
まどか「… … …」
まどか「…すごく、悪い夢見てた気がするなぁ…」
まどか「…歯、磨きにいこ…」
まどか「おはよ、ママ」
詢子「おう、おはようまどか。…うぅん?」
まどか「…?どしたの…?」
詢子「…それ、誰に貰ったんだ?…まさかぁ、男の子からかぁ?」
まどか「な、なに?何のこと…?」
詢子「今時花の髪飾りねぇ。ロマンチックだとは思うけれど、さすがにチョイと幼すぎないかな」
詢子は少し笑いながら、まどかの頭から1つの白い花を取り出した。
まどか「え…あ…?…??なんでだろ…?」
詢子「…覚えがないのか?…じゃあ…まどかの部屋にあったのかな?うーん、でもガーベラなんて花瓶にさしておいたっけな」
まどか「… … …」
まどか「でも…すごく、綺麗な花だね」
コブラ「ふぁぁ…よーく寝たぜ」
レディ「おはようコブラ。ふふ、久しぶりにぐっすり寝れたようね」
コブラ「ああ、このところ退屈なくらい平和だからな。…おかげで変な夢見ちまった気分だ。なんだったか忘れたが」
レディ「貴方らしいわね。…あら?コブラ」
コブラ「んん?」
レディ「…コブラ。平和を謳歌するのもいいけれど、そういう物を私の前に出すのはどうかと思うわね」
コブラ「…?何の事だ?」
レディ「貴方の首にかかっている赤いリボンの事よ」
コブラ「…。本当だ。…おかしいな、見覚えのないリボンだ」
レディ「まぁ、覚えがないのにリボンを貰ったの?」
コブラ「ご、誤解だよレディ。はは、えーと…ホントになんだっけか」
そう言いながら、慌ててポケットにリボンを仕舞い込むコブラ。
コブラ(…しかし、どこか懐かしい香りだな)
その時、タートル号のレーダーのアラート音が鳴る。
コブラ「…!なんだ!?」
レディ「…! コブラ、前方に海賊ギルドの艦隊よ!」
コクピットから見えるのは、ギルドの大型戦艦が幾つも宙域に待機する光景。
そして、モニターに映し出される男の姿。
ボーイ「久しぶりだなコブラ。会いたかったよ」
コブラ「!!クリスタルボーイ!お前の仕業か」
ボーイ「くくく…お前さんがこの辺りの宙域にいるという情報を掴んでね。首を長くして待っていたところだよ」
コブラ「大層な歓迎だぜ。パレードでも開いてくれるのかな?」
ボーイ「軽口もここまでだ。…この宙域が貴様とタートル号の墓場だ!」
レディ「どうするの!?コブラ…」
コブラ「… … …」
コブラ「上等じゃねぇか。売られた喧嘩は買う主義。ここは…正面から突破だ。タートル号の性能を見せてやろうぜレディ」
レディ「了解。連中に一泡吹かせてやりましょう」
コブラ「よろしくどーぞ!…覚悟しろよ、ガラス人形!」
コブラ「俺は…不死身のコブラだからな!!」
艦隊へと単独で突っ込んでいくタートル号。
しかし船内のコブラの表情に不安はない。
葉巻を銜えたその顔は、自信に満ち溢れた不敵な笑みだった。
コブラ最高にかっこいいな!
面白かったよ
Entry ⇒ 2012.10.16 | Category ⇒ まどかマギカSS | Comments (2) | Trackbacks (0)
紗羽「ちょっと田中ー!」 田中「はい」
紗羽「は? 今なんて?」
田中「く……な、なんでしょうか」
紗羽「よろしい。口のきき方には気を付けること」
田中「はい……わかりました」
紗羽「よし。じゃあ、この鞄持って行ってくれる?」
田中「えっ、でもお前チャリじゃ……」
紗羽「お前?」
田中「さ、紗羽さまは自転車通学では?」 ピクピク
紗羽「今日、雨降ってるから電車なの。何のため思ってるの?」
田中「はい」
紗羽「わかったら、ちゃっちゃと傘をさす!」
田中「了解です……」
田中「えっ」
紗羽「当たり前でしょ。あ、もしわたしに雨がかかったら、一滴につき一発殴るからね」
田中「んな無茶な!」
紗羽「口答えするの?」
田中「……すみません」
紗羽「わかればよろしい」
――――
来夏「あ、紗羽おはよー」
和奏「おはよう」
紗羽「おはよ。今日、雨酷いねー」
田中「……おはよう……ございます」
来夏「さあ? あたし、下衆の声は聞こえないから」
田中「……」
紗羽「早く行こっか。電車乗り遅れちゃうよ!」 タッ
和奏「そうだね」 タッ
来夏「りょーかい!」 タッ
田中(あぁ……走ったら……)
――――そして学校にて。
来夏「とーちゃーく!」
和奏「思ったより余裕で着いたね」
紗羽「……20と……4……いや、5かな?」
田中「ゼー……ハー……ゼィ……」
(4人分の荷物を持ってのダッシュはキツすぎ……)
紗羽「ねえ、和奏、来夏。なんか、ストレス溜まらない?」
来夏「あー。溜まる溜まるー! なんか、暑苦しいのが近くに居る気がするんだよねー」
紗羽「でしょー? こういう時、なんかむしょーに八つ当たりとかしたくない?」
和奏「でも、どうするの?」
紗羽「ほら、ここにちょうど良いサンドバックがあるでしょ?」
田中「え……?」
来夏「ああ! でも、良いの?」
紗羽「うん。雨粒の分だけ殴っていい約束だから」
田中「そんな……全員の荷物持ってそれは無理だろ!」
和奏「それじゃ、遠慮なく」 ドコッ!
田中「うぐぉっ!」
来夏「何汚いツバ飛ばしてんの?」 ゲシッ!
田中「うぐぅっ!!」
田中「ふぐもが!?」
来夏「あっはっは。シューズ食べるなんて、気持ち悪い趣味だね」
和奏「変態」 ゴスッ
田中「ふぐぐっ!」
紗羽「……なに、その反抗的な目は」 グリグリ
田中「うぐぐ……」
来夏「……あれ? あれあれ? ちょっと紗羽、見てよ」
紗羽「ん? ……うっわ。引くわー」
和奏「どうしたの?」
来夏「ほら、ここ。膨れ上がってる」
和奏「うわぁ……女子三人に殴られて興奮してるってこと?」
紗羽「筋金入りの変態じゃん。キモイ!」 ドカッ!
田中「ふぐっ!? う……」
ドサッ
紗羽「股間蹴り上げられて昇天した、の間違いじゃないの?」
和奏「クズだね」
紗羽「ま、こんなの放っておいて早く教室行こっか」
来夏「そうだね」
和奏「ふん……」
田中「……ぅぅ……」
ウィーン「さて、画面の前の諸君。何故、大智がこんなごほ……ンンッ!」
ウィーン「こんな拷問みたいなことを受けてるか、教えてほしいところだろう」
ウィーン「とはいっても、理由は簡単なんだ」
ウィーン「ここに、たまたま! 偶然! そう、紛れもなく自然の摂理がごとく!
まるで木の枝から離れたリンゴが、真下に落ちるように、当然のこととして!」
ウィーン「僕たち合唱部の拠点、音楽準備室に仕掛けたカメラがある」 バァz__ン!!
ウィーン「ちなみに仕掛けたのは僕だ。配置も存在も僕しか知らない」
ウィーン「そのカメラがたまッッたま、捉えたこのVTRを見て頂ければ、全て納得いくと思うんだ」
ウィーン「それは、ご覧いただこう」
ポチッ
――――数日前の音楽準備室
紗羽「あー、もう最悪ー!」
来夏「帰り際に通り雨なんて、聞いてないよー」
和奏「みんなビショビショだね」
来夏「ま、とりあえずは体操服に着替えようよ」
和奏「そうだね。寒いし」
プッ プッ ……シュルリ。パサッ
来夏「……毎度毎度思うけど」
紗羽「ん?」
来夏「紗羽、何を食べたらそんなに大きくなるの?」
紗羽「はぁっ!?」
和奏「確かに……大きいよね。かなり」
紗羽「わ、和奏も結構じゃない?」
来夏「いいや。紗羽の場合は、全てが出過ぎ! お腹以外!」
和奏「不公平だよね」
紗羽「って言われても……」
来夏「ちょっとぐらい頂戴よー!」
紗羽「んな無茶な!」
紗羽「へっ!?」
来夏「和奏ナイス! それだよ。ほれほれ、ちょっとよこしなさーい!」
紗羽「ちょ、ちょっと二人とも……」
ガラッ
田中「はー。ひっでー雨だぜ、ったく……」 カチャカチャ
紗羽「え?」
来夏「ん?」
和奏「は?」
田中「…………あ」
田中「わ、悪い!」
ズルッ!
田中(うおっ!?)
ズッデーーン!!
田中「いっ!?」
来夏「……」
紗羽「……」
和奏「……」
田中「……えっと……その……」
雨に濡れた田中は着替えようと、替えのシャツが置いてある音楽準備室に足を運んだ。
もちろん、下校時刻ギリギリなので校舎内には誰もないと踏んでいる。
肌にくっつく衣服と一刻も早くおさらばしたくて、ベルトを外しながら戸を開けた。
しかし、残念なことに。
運命的に、自動的に、物語のストーリー的に、彼は着替え中の女子三人と鉢合わせてしまったのだ。
もちろん、紳士な田中は慌てて部屋を後にしようとする。
だが、それは叶わない。
結城の性を持つ某主人公のような、あまりにもあり得ない物理法則がその場に働く。
脱ぎかけのズボンに足を引っかけた田中は、足を滑らせて三人の所へ身体ごとに突っ込んでしまう。
その際、和奏の足をひっかけ転ばせ、来夏のブラジャーを右の指に通し抜き去り、紗羽の谷間へ挟むように左手を突っ込んだ。
そう。今、田中は……! 田中大智は!!
和奏の股間に顔をつっこみ、来夏のブラを握り締めつつ、紗羽の豊満な胸部脂肪(おっぱい)を手のひらに包んでいるのだッ!
どんな動きをすればそうなるのか。そこは触れてはいけない。
田中「は、はい!!」
和奏「ぁんっ!?」
紗羽「……これはもう、擁護のしようがないよね」
田中「い、いや。これは偶然だから! 事故だ事故!!」
和奏「ふぁ……! ちょっ……田中、しゃべらな……んんっ!!」
紗羽「いいから。ちょっと顔をどけて」
田中「はい……」 モゾッ
紗羽「ひゃっ!? な、何どさくさに紛れて胸揉んでんの!? さいてー!」
田中「だ、だってこうしねーと動けないだろ!!」
来夏「とか言いつつ、あたしのブラを握り締めないでくれる?」
田中「違うって!」
田中「は、はい!」
紗羽「正座」
田中「はい」
来夏「ブラ返して」
田中「あ、はい」
和奏「ん……。」 モジモジ
紗羽「さて」
田中「はい」
紗羽「言い訳は聞かない。手段は問題じゃないから。
とにかく、わたし達にとんでもないことをしたという結果だけがあればいいの」
田中「はい」
紗羽「そうだね。例えば、このことを学校に言ったら……田中どうなる?」
和奏「普通に考えれば、停学ぐらいにはなるよね」
紗羽「うん。で、田中って、確かこの前バドミントンの推薦受けてたでしょ?」
田中「はい」
紗羽「ま、それも間違いなく取り消しだよね」
田中「そっ、それは困る!」
紗羽「喋るな」
田中「はい」
紗羽「……ねえ、田中」
田中「……」
紗羽「返事ぐらいしなさい」
田中「はい」
田中「え?」
紗羽「一応ね、偶然性は認められないこともないからさ。すこーしは、可哀相だと思う気持ちあるんだよね」
田中「じゃ、じゃあ!」 パッ
紗羽「何喜んでんの? 許してあげるとは言ってないんだけど」 クスッ
田中「はい」
紗羽「……うん。決めた」
紗羽「田中、しばらくわたし達の奴隷ね」
田中「え」
来夏「つまり、体よく使っていいってこと?」
紗羽「うん」
和奏「例えば、夜中に起きて喉乾いたから水を持ってこいとか頼んで良いの?」
紗羽「うん。とにかく気のすむまでは、それだから」
田中「そんな……」
ウィーン「と、言うわけなんだ。わかったかな?」
ウィーン「事故の贖罪としては重い気もするよね。
大智も少し気の毒だが、彼は基本的にMなところがあるからね。むしろ良いと思う」
ウィーン「勝手に事情を知っている僕は、安全圏でのんびりジュースでも飲みながら観察させてもらうよ。ははっ」
ウィーン「あ、ちなみに、このVTRは僕のお宝コレクションになっている。良いだろう? あげないよ」
ウィーン「では、大智のうらやま……重罰を引き続きご覧ください」
――――放課後の音楽準備室
紗羽「あー、肩こった」
田中「……」
田中「いてっ」 ビシッ
紗羽「肩がこったって言ってるでしょ」
田中「はい」(ペン投げなくても……)
モミモミ トントン モミモミ
紗羽「……田中」
田中「はい」
紗羽「手つきがヤラシイ。やっぱやめて」
田中「なっ!?」
紗羽「もういいから。どっかいって」
田中「……はい」
ウィーン(さりげなく女子の柔肌に触れられるなんて、羨ましいよ大智!)
ウィーン(……次におまえは「ウィーン居たのかよ」と考える)
田中「はい」
来夏「ジュースこぼしちゃったから、片付けといて」
田中「はい」
田中(えっと、雑巾雑巾……)
来夏「何してんの?」
田中「え?」
ガシッ ベチャッ
来夏「早く掃除してよ。舐めとってさ」 グリグリ
田中「うぐぐ……」
ウィーン(足蹴にされているが、あの角度は間違いなくスカートの中が見えているはず!
来夏はいかんせん身長が低すぎるせいで、パンチラチャンスが異様に少ない!
それを! それを! くぅう! 何色なんだい!? 後で教えてね、大智!)
田中「ふぁい」
和奏「終わったら、ドラに餌あげといて」
田中「え。じゃあ、坂……和奏さまの家に?」
和奏「良かったら、ついでにうちでご飯食べてく?」
田中「え、いいのか?」
和奏「ま、ドラと同じものだけど。一緒に部屋の掃除もお願いね」
田中「……」
ウィーン(といいつつ、和奏の部屋に合法的に入れるだなんて!
下着は僕のと合わせて2セット奪っておいてね!)
田中にとって、こんな毎日が続いていた。
田中「あー……疲れた」 ボスッ
田中(……何させられたっけ、今日は)
田中(今日の朝の迎えは坂井で……荷物持たされて、一緒に登校)
田中(学校ついたら、沖田の宿題見てやって)
田中(宮本に購買でパン買わされて……食べ残し渡されて……)
田中(ああ、食堂の席取りもさせられたな……)
田中(沖田が手を使うの面倒だからって、飯を食べさせたり)
田中(もういらないって、坂井に飲みかけのジュースを、無理やり口に放り込まれたり)
田中(放課後は、荷物持ちって女子三人と買い物に連れていかされたり……)
田中(その後は喫茶店……。あんまり好きでもねーケーキ買って食わされたり……)
田中「散々だ……」
田中(なんで、俺ばっかり……)
田中(そりゃ、不用意な俺も悪かったけど……)
田中(……負けっぱなしってのも、癪だしな)
田中「…………」
田中(……やり返すか)
田中(そろそろ、いい加減に許されてもいいはずだ)
田中(待ってろよ……!)
―――― 一方で、喫茶店に残った三人
紗羽「……もう田中、家に着いたかな?」
和奏「ちゃんと帰れたかな?」
紗羽「大丈夫でしょ、身体だけは丈夫そうだし」
来夏「そっか」
和奏「……ところで、いつ許してあげるの?」
来夏「んー……なんか、タイミング逃しちゃった感じするよね」
紗羽「ホントは、もうそこまで怒ってないんだけどね」
和奏「私、いい加減可哀相になってきちゃったんだけど……」
来夏「あたしもー。最初はなんか良い様に使えて面白かったんだけど」
紗羽「なんだかんだ言って、色々と付き合いあったからねぇ……」
和奏「明日からは、もう普通にしてあげない?」
来夏「そうだね。今さら謝るもなんだか恥ずかしいし、普通にするだけで良いよね」
紗羽「うん。そうしよっか」
田中(今日の迎えは宮本だ。さっそく何かしらやってやる……!) グッ!
来夏「おはよー、田中」
田中(……あれ、なんか……普通?)
来夏「? どしたの? 早く行こうよ」
田中「あ、ああ」
来夏(……普通に普通に)
田中(敬語じゃなくても、別に怒らないのか)
来夏「最近、合唱練習も大変だよねー」
田中「ああ」
来夏「歌う時に踏ん張るのって、意外と大変でさー。もー、最近足がパンパンになっちゃって」
田中(……これだ!)
来夏「へ?」
田中「疲れているのでしたら、どうぞこちらへ!」 ビシィッ
来夏「こちらへ、って……背中? おんぶってこと?」
田中「ええ、来夏さまの御身足を疲れさせるわけにはいきませんので!」 キリリッ
来夏「い、いや。この年でおんぶはちょっと……」
田中「御気になさらず!」 ハクシンッ!
来夏(……んー……まぁ、これぐらいは良っか。やりたいって言ってるんだし……)
来夏「じゃあ、お願い」
田中「はっ!」 サッ
グイッ
来夏(わわっ、思ったより高い!)
田中「じゃ、行くぞ。ちゃんと掴まってろよ」
来夏「う、うん」
来夏「……」
田中「……」
ヒソヒソヒソヒソ
来夏(うっわああああ!! なんか、すっごいみんなが見てるぅうう!!
そりゃそーだよねぇ! 制服着た男女が早朝からおんぶで登校とか、ありえないもん!)
田中(ははは!! すっげえみんなが見てるぜ!! 恥ずかしかろう、宮本!
こういうのは、する方よりされる方のが目立つんだよ!!)
来夏「あ、あの……田中。もう、いいから」
田中(なに? まだまだ足りないぞ俺は。)
田中「気にするなって。これぐらい。大事な部長が、ここで倒れられても困るしさ」
来夏「田中……」
田中「だから、安心しろよ」 ニコッ
来夏「う、うん」
来夏(もしかして、本当に気遣ってくれてるのかな……?)
田中(くくく。宮本の真っ赤な顔……作戦は大成功みてえだな!)
来夏(まさか電車内でもおんぶとは思わなかった……)
田中(他の生徒にもこれで存分にアピールできただろう。へへっ)
来夏「……ありがとね。田中」
田中「え? あ、お、おう」(お礼? 何で?)
来夏「そ、それじゃ!」
タタタタ……
来夏(あー。なんかすっごい心臓ドキドキしてる。恥ずかしかったから……だよね。うん)
田中(……今になって恥ずかしくなったか? まぁいいさ。なら効果は十分だし)
田中(さて、次は……)
――――昼食時、食堂にて
和奏(お昼、どうしようかな……。さっき来夏にお菓子貰っちゃって、お腹空いてないんだよね)
田中「……ん? 坂井、飯はどうしたんだ?」
和奏「え? ああ、今日あんまりお腹空いてなくて」
田中(……これは、前の沖田と同じパターンか? ってことは、坂井のやつ、ダイエットしてると見た)
田中(させねーぞ、そんなことは! わざわざ、こうやって食堂で席確保してんだ! 無駄にはしねえ!)
田中「もしかして、体調悪いのか?」
和奏「ううん。本当に大丈夫だから」
田中「いや、大丈夫じゃねーよ。飯食えないって、結構重大な問題だろ?」
和奏「そんな大げさな……」
田中「大げさじゃない。……あー、よし。今日は俺が奢ってやるからさ、ちゃんと飯食えよ?」
和奏「え? そんな、良いよ!」(だから、食べられないってば!)
田中「……坂井。よく聞いてくれ」
和奏「へ?」
和奏「そ、そうなの?」
田中「だって、合唱なんて今まで中学校のコンクールでしかやったことねーし。
本気で取り組んでた人の指導なんて、受けたこともないからさ」
田中「素人相手にも、ちゃんと面倒見てくれるのがさ、すげー嬉しかったんだ」
和奏「……」
田中「だから、そんな大事な部員が、今ここで体調崩されたら困るんだよ! 俺だけじゃない、みんなだって!」
田中「……もう、沖田の時みてーに。一人で抱え込んでほしくねーんだ」
和奏「……そうだね」
田中「体調管理も、立派な部活動の一つだぜ? なんなら、俺が調整メニューでも考えてやろうか?」
和奏「い、いいよ。別に」
和奏「……うん」
タッ
田中(かかったな! 消化に良いもんってのは、総じてカロリーが高い!)
田中(坂井、お前のダイエットは今ここでおしまいだ! はっはっは!)
和奏(あんな真面目に、私のこと考えてくれるなんて……)
和奏(田中って意外と……)
――――放課後、音楽準備室
ガラッ
田中「……あれ、沖田だけか?」
田中「ウィーンは補修だし……。まぁ、待ってりゃ来るだろ」
紗羽「そうだね」
田中(……願ってもいないチャンス! 誰にも気づかれずに、沖田に復讐ができるじゃねーか!)
田中(何をしてやろーかなー。このじゃじゃ馬によぉー!)
紗羽「……」 パラリ
田中(……と思ったけど、ここじゃあんまり動きもねーしな……)
田中(……どうすっか。チャンスを無駄にするわけにはいかねーし……)
田中(何もないなら、何かアクションを起こせばいいだけか)
田中(……さっきから読んでる本は……英語か)
田中(英語じゃうまく釣れるもんも釣れねーしなぁ……)
田中(……まー、何かしてみっか)
紗羽「んー?」
田中「英語やってんのか?」
紗羽「うん。ちょっとね。不安だから」
田中「そっか」
紗羽「うん」
田中「……じゃ、ここでクイズだ」
紗羽「え?」
田中「この○の中に文字を入れて、読んでください……っと」カキカキ
田中「ほい」
『S○X』
紗羽(……英語覚えたての中学生か)
紗羽「田中」
田中「はい」
紗羽「キモイ」
田中「あ、アイドントキモイ!」
紗羽「邪魔しないでくれる」
田中「はい」
紗羽「……」 パラリ
田中(うーん。流石に幼稚だったかな……)
田中(というか、宮本も坂井もそうだったけど。なんか昨日までより、全然いつも通りだ)
田中(敬語つかわなくても怒らないし……普通に会話してるし……)
田中(もしかして俺、許されたのか?)
田中(さて、じゃあどうするか……)
田中(……あ、あれは、ウィーンの小道具か)
田中(よし!)
田中「なあ、沖田」
紗羽「ん。」
田中「そういえば、ウィーンにさ。小道具出しておいてくれ、って頼まれてんだ」(嘘だけど)
紗羽「うん」
田中「あいつなら届くんだけど、俺じゃ届かないからさ。手伝ってくれねえか?」
紗羽「……どれ?」 パタン
田中(よし、かかった!)
田中「あの棚の上。俺、椅子支えてやっから、沖田が取ってくれねーか?」
田中「俺たちそこまで身長もかわらねーし。だったら、下を支えるのは、力のある男の方がいいと思ってさ」
紗羽「……まあいいけど」
田中「悪いな」
ガタガタ ガタン スッ
紗羽「えっと、これー?」 ガサゴソ
田中「ああ。それと、もう少し奥にも入ってないか?」
紗羽「奥ー?」
田中「似たような箱があるはずなんだけど」
紗羽「えー? 箱ー? どこだろ……」
田中(ま、そんなのあるわけないけどな。そのまま覗き込んでてくれよ)
田中(その間に、俺はお前のスカートの中を覗き込んでやる) ソー……
紗羽(……あれ、もしかしてこの体勢だとスカートの中見えちゃう……?)
紗羽「!」 ピクリッ
田中(まずい! 気づかれた!?)
紗羽「田中、絶対上見ないで」 バッ!
グラッ
紗羽「よっ……?」
田中「沖田!?」
紗羽「ふわぁ!?」
田中「くっ!」 ガバッ!
紗羽「え?」
ガシッ!
ドッシャーン!!
紗羽「……た、田中……?」
田中「……痛つ……」
紗羽「だ、大丈夫?」
田中「……っと……。ふぅ。そりゃこっちのセリフだ。ケガ、ないか?」
紗羽「う、うん。ちょっとすりむいちゃったけど……。田中は?」
田中「別に大したことねーよ。思ったより、お前軽かったしな。抱きかかえても余裕だったし」
紗羽「なっ……」
田中「立てるか?」 スッ
紗羽「……ありがと」 グッ
田中(あぶねー。ケガさせるつもりはなかったんだけど……)
田中(お、怒ってる……か?) チラリ
紗羽「……」 ジーッ
田中(ああー。あの眼は間違いなく怒ってる! やべぇ……)
紗羽(あー! 今ここで全部、謝っちゃいたい!)
紗羽(ところなんだけど……)
ガラッ
来夏「おいーっす。遅れてごめんねー!」
和奏「あれ、どうしたの。田中も紗羽も。ケガしてるけど」
田中「ああ……これは……その……」
紗羽「田中がさ、ウィーンの小道具取れっていうから、椅子持ち任せてたんだけど」
紗羽「全然頼りにならなくって、バランス崩して落ちちゃったんだよね」
(そこを抱きかかえて、守ってくれたけど)
田中「悪い……」
来夏「ふーん」
紗羽「……でさ、ちょっと二人に提案なんだけど」
和奏「なに?」
紗羽「田中の奴隷期間……延長しない?」
来夏「え? ……ああ。うん。いいね!」
和奏「う、うん。実は、私もそれを後で言おうかな、って思ってて」
紗羽「なーんだ。みんな良いなら、文句ないよね? た・な・か?」
田中「……うぅ。わかったよ……」(今回は、俺にも非はあるしな)
和奏「じゃ、さっそく。今日は一緒にボイストレーニングね」
田中「え?」
来夏「あ、ちょっと和奏。今日はあたしが指導する日なの! 朝、そう決めたよね?」
田中「えっと……」
紗羽「その前に、このケガどうしてくれんの? ちゃんと責任取ってくれるんだよね?」
田中「その……あー、もう!」
田中「わかったから。全部つきあってやっから。順番に頼む!」(もうどうにでもなれ!)
和奏・来夏・紗羽「「「はーい♪」」」
<ちょっ、宮本ひっぱんなって!
<田中はこっち!
<坂井? なんで正座して、おいでおいでしてんの? それ関係なくね?
<なんかココも打ったみたいだから、手当お願い、田中
<ちょっ、沖田!? なんで制服脱いでんだ!?
<田中―
<田中?
<田中ぁ!
<アーモウ……ホントニ……
<ワイワイ キャーキャー
<……
――――
――
―
――
――――
「……ふぅ」
「やあ、みんな」
「設置したカメラを取りにこようとして、イチャコラ空間にうっかり入りこみそうになった……」
ウィーン「僕だよ!」 キラッ☆
ウィーン「まさか、こんなことになるなんて……まったく、大智は幸せものだね」
ウィーン「邪魔するのもアレだし。今日は帰るとするよ。前田敦博はクールに去るぜ」
<わ、わざとじゃねーって!
<良いから、早くこっち来てよー
<はいはい……。
ウィーン「…………」
パカッ
カチカチ
プルルル
ガチャ
ウィーン「あ、もしもし。田中家のを使って、壁殴り代行をお願いします」
おしまい
Entry ⇒ 2012.10.16 | Category ⇒ 版権物SS | Comments (0) | Trackbacks (0)
#
マミ「ティロ・フィナーレ!!」
ドォォォ――――ン!!!
まどか「あっ、あっ」
さやか「あぁ!」
脱皮し、マミを喰らおうとする『お菓子の魔女』。
マミ「!!」
ドゴォォォ――――!!!
お菓子の魔女を貫く光。爆発する魔女。
まどか「な、何?今の…光みたいな…」
さやか「魔女から出てきた、魔女を…貫いた」
マミ「…何がどうなってるの…?」
コブラ「危なかったな、お嬢ちゃん。もう少しでその可愛い顔にギザギザの傷がつくとこだったぜ」
さやか「ヒューッ!」
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1342537441
―― その少し前 ――
コブラ「どうだ、レディ。タートル号の調子は」
レディ「あまり良くないわね。この地帯を抜ける程度は出来るでしょうけど、次の星ですぐ整備に入らないと…」
コブラ「ったく、なんだって急に不調になんかなりやがるんだ」
レディ「原因は分からないわ。ブースター、反加速装置、シールド…全て異常は無いみたいなのだけれど、どうもスピードがフラついて落ち着きがないのよ」
コブラ「じゃじゃ馬め。人参でもやれば落ち着くか?」
レディ「それで直れば苦労はしないわね。とにかく、出来るだけ急いでみるわ」
コブラ「頼むぜ、レディ。それまで俺は… …ふぁぁ、一眠りしておく」
レディ「分かったわ。… … …!!あれは!?」
コブラ「!?どうした?」
タートル号の目の前に突如現れるブラックホール。
レディ「ブラックホール!?そんな…予兆もなく突然現れるなんて!」
コブラ「おいおい、タートル号の不調の次はブラックホールときたか!?俺はまだ厄年じゃないんだぜ、チクショー!」
レディ「シールド全開!加速でどうにか突っ切って…!… …ダメ!飲み込まれるわ!!」
コブラ「どわぁぁぁ―――!!」
ブラックホールに飲み込まれ、コントロールを失いながら闇に沈んでいくタートル号。
レディ「コブラ… コブラ!!」
コブラ「…っ! …くぅー、痛ててて…」
レディ「大丈夫?怪我はない?」
コブラ「しこたま頭をぶつけたくらいだよ。…ったく、危うく三度目の記憶喪失になりかけたぜ」
レディ「良かったわ。…どうやら、無事みたいね私達」
コブラ「ああ。…タンコブが痛いのを見るに、どうも生きているらしい。…にしても…どこだ、ここは?」
レディ「…座標に無い場所ね。計器は正常に動いているみたいだけれど…」
コブラ「…!おいおい…なんだ、こりゃあ…」
タートル号の周りに広がるお菓子の山。そこを彷徨うようにうろつく、ボールのような一つ目の怪物達。
コブラ「どうやら俺達はヘンゼルとグレーテルになっちまったみたいだぜ。レディ、パンでも千切ってくれ」
レディ「それじゃあ元の場所に帰れないでしょ。…駄目、タートル号のデータベースでもこの場所の情報は見つからないわ」
コブラ「そんな馬鹿な!ありとあらゆる情報がこの船のデータベースには詰まってるはず…!… … …なァんだ、ありゃあ?」
タートル号から少し離れた場所で、死闘を繰り広げるマミとお菓子の魔女。
マミの銃撃が次々と巨大な人形のような怪物にに炸裂していく。
コブラ「…レディ、俺はどうもヘンゼルとグレーテルの話を間違えてたらしいぜ。どうも、グレーテルはスカートから銃を出して、そいつで魔女を倒す話だったらしい」
コブラ「まったくだ。記憶喪失より性質が悪いぜ。これが夢じゃないときてる」
レディ「…でも…少し危ないわね。あの子の闘い方」
コブラ「…ああ。何かが吹っ切れたように闘ってる。あれじゃあ…」
言いながら、コクピットを出て行こうとするコブラ。
レディ「!どこに行くの、コブラ」
コブラ「俺のこういう時の勘は鋭いんだよ。特に美女が野獣に喰われそうな時はね」
タートル号から出て、その様子を伺う。
マミのティロ・フィナーレを喰らい、脱皮をしてマミに襲い掛かるお菓子の魔女。
その瞬間、コブラは左腕のサイコガンを抜く。
コブラ「危なかったな、お嬢ちゃん。もう少しでその可愛い顔にギザギザの傷がつくとこだったぜ」
さやか「ヒューッ!」
まどか「え、どうしたのさやかちゃん」
さやか「いや、なんか言わないといけない気がして」
まどか「なにそれこわい」
コブラ「怪我はないかい?」
マミ「え、あ、ハイ…。…有難うございました…」
コブラ「そりゃあ良かった。俺が来るのが遅けりゃ、アンタ死んでたかもしれないからな」
マミ「そ、そうでしたね…本当に…」
QB「…」
まどか「ねぇ、キュウべぇ。あの人も魔法少女…?」
さやか「いや、どう見ても少女じゃないでしょアレ」
まどか「魔法中年…?」
さやか「ちょ、ま」
QB「いや、分からないね。ボクでも、彼が誰なのか見当がつかないよ。魔法少女でもなく、結界の中に入れて、しかも一撃で魔女を倒せる人間なんて」
コブラ「…!おおっと、俺とした事が。他に2人も淑女がいた事に気付かなかったぜ。…うん?」
まどか「あ、あの…その… … 初めまして」
さやか「ねぇねぇ、さっきのビーム、どっからどうやって出たの!?あれもやっぱり魔法!?」
コブラ「あー、俺はその、魔法ってのはどうも苦手でね。… … …」
QB「…」
その時、結界が解けて全員が元の病院前に戻る。
コブラ「…!!なんだなんだ!?どうなってるんだ!?」
マミ「結界が解けたのよ。…ひょっとして、それも分からないのに結界の中に入ってこれたの?」
コブラ「…まぁ、成行きでちょっと。ところで御嬢さん方にお聞きしたいんだけどね、ここは一体どこなんだ?」
さやか「見滝原だけど」
コブラ「ミタキハラ星?聞いたことないな」
さやか「いや、町、町。なに、おじさん、宇宙人?」
コブラ「おじさんは止してくれよ。アンタ達からならそう見えるかもしれんがね、こう見えてハートは繊細なんだ」
まどか「ティヒヒヒ」
マミ「…訳が分からないけれど、とりあえず私の家でお茶にしましょうか?…もちろん、貴方も一緒に、ね」
コブラ「お、嬉しいねぇ。美女からお茶のお誘い」
ほむら「おい」
――― 巴マミ家。
まどか「ジョー…ギリアン、さん?」
コブラ「そ、いい名前だろ。サインだったらいつでも書くぜ」
さやか「(っていうか…日本人じゃないよね、どう考えてもその名前…)」
コブラ「…まぁ、俺の事はどうでもいい。おたくらの事を色々聞きたいんだが…さっきの場所といい、あの戦いといい、一体どうなってたんだ?」
ほむら「…本当に何も知らないのね。魔女の事も、結界の事も…魔法少女の事も」
コブラ「魔法少女…?」
マミ「私から説明するわ」
コブラに魔法少女、魔女との戦い、戦い続けるワケを全て教えるマミ。
さやか「ちょっ、そこまで教えちゃっていいの?マミさん」
マミ「あの戦いを見た以上、隠し通せるわけないし…それに、命の恩人だもの。何も教えずにいるのはこちらとしても失礼だと思うわ。…でしょ?キュウべぇ」
QB「ボクからは特に意見はないよ。さやかとまどか、魔法少女でない人間が2人見学に来ていたのだから、今更1人増えたところで何も変わらないしね」
マミ「…少なくとも、私の運命は変わっていたと思うの。ジョーさんが助けてくれなければ…本当にあのまま、頭を喰いちぎられていてもおかしくなかったもの」
QB「…」
マミ「私もまだまだ、魔法少女としてツメが甘いのかもね。どこか浮かれながら戦っていたのかもしれない」
ほむら「… … …」
マミ「貴方も、ごめんなさい。帰りにちゃんと解放するって約束したのに、すっかり忘れちゃってて☆」テヘペロ
ほむら(…絶対わざとね、巴マミ)
さやか「にしても…転校生、どういう風の吹き回しよ。一緒にマミさんの家で話がしたい、だなんて」
まどか「…きっと、これから一緒に戦おう、って言いに来てくれたんだよね?ほむらちゃん」
ほむら「…勘違いしないで。そんな気はないわ」
まどか「ぅ…ご、ごめん…」
マミ「あら、それじゃ一体どうしてかしら?」
ほむら「… … …」
コブラ「…ん?」
ほむら(なんなの、この世界は…)
ほむら(今まで巡ってきたどの時間軸の中にも、こんな男が現れる事はなかった)
ほむら(魔法少女では有り得ない、けれど…魔女を倒す程の力を秘めた存在…)
ほむら(…インキュベーターの何かしらの陰謀…?分からない…。…ここは、この男の様子をしばらく観察するしかない)
コブラ「… … …美人に見つめられるのは結構だがね。そう凄まないで、もうちょっと優しく潤んだ目で見て欲しいもんだ」
ほむら「…くっ!」
ほむら(なんなの、コイツ…!本当に読めない…!)
まどか「あはは、ほむらちゃん、照れてるー」
ほむら「!ちっ、違うわッ!」
マミ「あら…うふふ」ニコニコ
さやか「ははは、なぁんだ。転校生でも顔赤くする事あるんだ」ニヤニヤ
ほむら「」
コブラ「しかし信じ難いねぇ。おたくらみたいなか弱い少女があんな化け物と常日頃から戦ってる、なんてのは…。まぁ実際に見たんで信じないわけにもいかないが」
マミ「…説明して納得できるものでもないから、ああして鹿目さんや美樹さんに見学をしてもらっていたのだけれど…ツアー参加者が増えるのは予想外だわ」
コブラ「いやホント、良い物が見物できたよ。お捻りあげたいくらいだね」
マミ「それで…2人はどう?これで見学ツアーは終わりにするつもりだけれど…決心はついた?」
さやか「…」
まどか「…」
マミ「これ以上、生身の身体で戦いの傍にいるのは危険だと思うわ。…決断を急かすわけじゃないけれど、何より貴方達が心配なの」
まどか「…わたしは…マミさんと一緒に戦う、って…そう、決めたから…!」
ほむら「安易な決断はしないでと忠告したはずよ、まどか」
まどか「でもっ!マミさんが…マミさんが!」
マミ「…有難う。でもね、鹿目さん。何度も言うように魔法少女になるのにはとても危険な事なの。…私のためだけに、魔法少女になるという答えを出すのは止めてちょうだい」
まどか「で、でもっ!マミさん、戦うの怖くて、寂しくて、辛いって…だから、わたし、一緒に…!」
マミ「だからこそよ。…美樹さんにも言ったのだけれど…誰かのために願いを叶えるというのは、きっとこれから先、後悔する事になるわ」
まどか「…」
さやか「…」
マミ「だから、後悔なんて絶対にしない、魔法少女になって戦い続けられる…その心に揺らぎが無くなった時に、決めてほしいのよ」
マミ「…鹿目さん。私は、貴方達が戦いに加わろうと、加わらなかろうと…こうしてお友達としていれれば、それだけで…何よりも心強いのよ。それだけは言っておくわ」
ほむら「…。鹿目まどか、何度も言うけれど…私の忠告、忘れないでね」ガタッ
まどか「… … …うん。分かってる。…ありがとう、ほむらちゃん」
マミ「あら、もうお帰り?」
ほむら「ええ」
マミ「…今日は、貴方を縛ったままにしておいてごめんなさい。でも、私少し…貴方の事、信じられるかもしれない」
ほむら「… … …」
マミ「グリーフシードの奪い合いじゃない…貴方の行動には、何か信念のようなものを感じるの。…私の勝手な勘だけれどね」
ほむら「…私も、無益な戦いはしたくないわ。…それだけは言っておく」
マミ「そう…良かった」
ほむら「…お茶、御馳走様…」バタン
さやか「… … …」
さやか「デレたよ!ついにデレたよあの子!鉄壁の牙城にヒビが入ったよ!」
まどか「ちょ、さやかちゃん、声大きい…!」
コブラ「…若いってのはいいねぇ、どうも」
マミ「それじゃあ…別の話をしましょう。私達の事はおしまい。ジョー…さん。次は貴方の話を聞かせてくれる?」
コブラ「…そうだなぁ、マティーニでも飲みながらじっくり語りたいところだが…生憎この部屋には無さそうだし、仕方ないな」
コブラ「俺は…まぁ、しがないサラリーマンでね。宇宙観光の最中に突然謎のブラックホールに飲み込まれて…気が付いたらあのザマだ。マミが華麗に戦ってるところにお邪魔したってワケさ」
まどか「うちゅー…かんこう…?」
コブラ「ああ」
さやか「え、え?その、単なるしがないサラリーマンなのに、宇宙船に乗ってたってわけ?」
コブラ「まぁ、そこまで薄給でもないんでね。宇宙船の1隻くらいは奮発して持っていて、それでちょぃとした旅行に」
まどか・さやか・マミ・QB「… … …」
コブラ「…俺、何か変な事言っちまったかな」
さやか「え、えぇと…どこまで信じればいいのかな…?!正直、全部が嘘っぱちにしか思えないし…ま、まぁ、とにかく…本当に結界の中に入った理由は分からないんだよね?」
コブラ「そういう事。ここがどこの星かも分からないザマだよ。参った参った」
まどか・さやか・マミ・QB「… … …」
コブラ「…どうも俺は、会話教室に通ったほうがいいみたいだな」
コブラ「地球!?日本!?ここがか!?」
さやか「…本気でビックリしてるよ、この人…」
コブラ(この子らの反応を見るに、この星には星間交流の概念が無いようだが…ここが地球だってぇ!?俺の知っている地球とは随分違うぜ)
コブラ(見たところ、文明はかなり遅れて…いや、俺からすれば太古と言うに近いな、ここは)
コブラ(あのブラックホールの先は…過去の時代へと続いていたのか?…いや、それとも、この場所は…)
マミ「でも…仮にジョーさんが宇宙人だとすれば、あの魔女を倒した謎の攻撃にも何となく納得できるわ」
さやか「そうそう、アレ!あのレーザーみたいな光。どっから出てきたの?」
コブラ「あ、いやぁ魔法が苦手ってのは実は嘘でね。俺もちょっとした魔法みたいなものが使えるんだ。こう、念じて、ドバァーっ、と」
まどか「え、じゃあ本当に…契約して魔法を?」
QB「それは違うね。ボクの見る限り、彼はソウルジェムを持っていない。信じ難いけれど、生身の人間のようだ」
コブラ「そういう事。察しがいいね、そこの宇宙人は」
QB「!?」
まどか「ティヒヒ、ジョーさん。キュウべぇは宇宙人じゃないよ。…わたしにもよく分かんないけど」
コブラ「…へ?そうなの?」
QB「…」
マミ「それじゃあ、元いた世界と、今いる私達の世界、見滝原…ジョーさんは全く違う世界にきてしまったという事?」
コブラ「どうもそうらしい。しかも帰る方法が分からないときてるし、いやぁ参ったよ」
さやか「魔法少女の話の次は別世界からきた人、かぁ…。あははは、もうあたしチンプンカンプン」
マミ「…繰り返すようだけど、キュウべぇは本当にこの事については関与していないわけね」
QB「もちろん。わけがわからないのはボクも同じさ。ジョーの言う事が全て嘘とは思えないのも同意見だね」
コブラ(ブラックホールがレーダーにも反応せず、突然タートル号の前に現れるなんてのは明らかに不自然だった。あれは…誰かが俺をこの世界に呼び寄せるための意図だ。…誰かが俺を、ここに来させた)
まどか「それじゃあ、住む場所も無いわけですよね?…どうするんですか、これから」
コブラ「ん?あぁ、まぁ適当に考えるさ。生粋の旅行好きでね、どこでも寝れるのが自慢なんだ」
さやか「いや、そういう事じゃなくて」
コブラ「分かってますって。それじゃあ、俺もアンタ方の言う『魔法使い』になってみようかね?」
マミ「え?」
コブラ「行くアテがあるわけでもない、帰る方法も分からない…ともなれば、願いを叶えられるという魔法少女さんの傍にくっついてるのが一番出口に近いと俺は思うんだ」
マミ「魔法少女になるという事?」
コブラ「止してくれよ。マミの服はとってもキュートだがね、俺があんなの着たら蕁麻疹が出ちまうよ」
まどか(…想像しちゃった)
コブラ「見滝原とか言ったか。しばらくはこの辺りをブラブラさせて貰いながら、アンタら魔法少女の様子を見せてもらうよ」
まどか「…本当に大丈夫なんですか?あの、私、お母さんとお父さんに話して泊めてもらうように…」
コブラ「気持ちは嬉しいがね。年頃の御嬢さんがこんな男を家に連れ込んだら水ぶっかけられて追い出されるのがオチだよ」
マミ「私の家でもいいのよ、一人暮らしだし」
QB「マミ、ボクもいるんだけど」
コブラ「大丈夫大丈夫、心配ご無用。散歩が好きなんだ、気ままにフラフラしてるさ」
さやか「あたし達も、ジョーさんが何か元の世界に帰る手がかりみたいなの見つけたら教えるよ」
コブラ「有難いねぇ。いいのか?さやかだって色々忙しいだろうに」
さやか「あたしは… …大丈夫。マミさんを助けてくれたんだ、何か恩返しをしたいのはあたしもまどかも同意見!でしょ?」
まどか「うん。今度はわたし達が助ける番だと思うし」
コブラ「助かるぜ。…それじゃ、一旦この辺で失礼させてもらうよ。また会おう」
マミ「…ありがとう、ジョーさん。また会いましょう」
コブラ「レディーが俺を必要とするのなら、宇宙の果てからでも飛んで来るさ」
――― マミのアパート、入口。
コブラ「…さてと」ピッ
コブラ「レディ、聞こえるか。今どこにいる?」
レディ「ええ、聞こえるわよコブラ。今はタートル号に乗って太陽系をぐるりと回っているところ。あの場所から現実世界に戻った瞬間に、タートル号で外宇宙に飛んでみたの。…本当に、あなたのいる場所は地球のようだわ」
コブラ「だろうな。それで、元の世界に帰れそうな方法はあるか?」
レディ「残念だけれど…分からないわ。この世界に飲み込まれたブラックホールを探してはいるんだけれど、探知は出来ない。そちらはどう?」
コブラ「こっちも手詰まり。黒幕も何も分かったもんじゃない。…もっとも、あのキュウべぇとかいう生物は怪しいとは思うがね」
レディ「それじゃあ、あの子達の周辺をしばらく監視するの?」
コブラ「そうする。俺の直感ではこの事件には何かしら、かの女達が関係している。それに、女の子の傍にいるのは悪い気はしないからな」
レディ「呆れた。 …コブラ、何点か教えておきたい事があるのだけど、いいかしら?」
コブラ「よろしくどーぞ」
レディ「まず、私達が最初に辿り着いたあの場所。かの女達が『結界』と呼ぶ場所ね。分析したのだけれど、あの場所は言っていたように、現実世界とは少し次元の異なる場所のようね」
レディ「難しい話はしないけど、私達のいた世界にも例のない、亜空間よ。あの場所に何かしら、私達が元に戻れるためのヒントが隠されているかもしれないわ」
コブラ「ああ。俺はそのヒントを探しに、ここに残ってみる。しかし、どうやったらあの空間に入る事ができるのかが分からない。レディ、何かいい方法はないか?」
レディ「あるわよ」
レディ「『結界』のデータをタートル号のコンピューターで分析出来たの。あの空間の一定のエネルギー…かの女達なら『魔力』と呼ぶ未知のエネルギーを解析して、こちらのレーダーで感知できるようにしておいたわ」
コブラ「ほー、流石レディ。仕事が早くて助かるぜ」
レディ「ただ、その空間に直接入る事は出来ないのよ。空間を断裂してその内部に侵入する方法は私でも分からない。可能ならば、その内部に入る能力を持った魔法少女の後をついていくのが得策でしょうけど…」
レディ「単身で貴方が結界に入る方法がないわけでもないの」
コブラ「興味深いね。聞かせてくれるかい?」
レディ「あの結界を『テント』と考えてくれれば分かりやすいわ。一度開いたテントの中には、入口が見つからない限り不可能よ。…ただし、テントを開く場所さえ分かれば、貴方は結界の中に単身で潜り込めるわ」
コブラ「…なるほど。確かマミの話じゃあ、『グリーフシード』ってヤツが孵化する瞬間に魔女が生まれ、同時に結界がその場所に生じると言うが…」
レディ「そのグリーフシードの発する魔力のエネルギーのデータを、タートル号にインプットしたわ。つまり貴方が結界を張り、孵化をする前にその場所に立ってさえいれば」
コブラ「俺も晴れて、テントの中で楽しくお食事出来るってわけか」
レディ「そういう事。私とタートル号はしばらく地球周辺の宙域でそちらの探知をするわ。貴方の周辺に魔力が探知でき次第、リストバンドに位置を送る事が可能よ」
コブラ「了解。助かるぜレディ」
レディ「でも…単身で戦うのは十分気を付けたほうがいいわ。あの魔女という怪物がどれほどの力を持つものか、未だ分からない点が多いから」
コブラ「分かってますよ。…魔女狩りはかの女達の専売特許だ。あんまりやりすぎないようにはするさ」
レディ「それと…もう一つ、これは関係がないかもしれないのだけど…伝えておきたい事があるの」
レディ「…貴方と私が見た魔法少女…巴マミと言ったかしら。あの子が例の化け物と戦っているところを、タートル号のモニターで分析してみて、分かった事があるの」
コブラ「分かった事?」
レディ「かの女の身体から、生体が発生させるエネルギーが探知できないの」
コブラ「!?どういう事だ!?」
レディ「私にも分からない。ただ、人間が本来発生させるべきエネルギーが、かの女の身体からは検知できなかった。…ある一部分を除いては」
コブラ「一部分…?」
レディ「右側頭部の髪飾りの留め具部分。唯一、生体エネルギーがこちらで探知できた場所よ」
コブラ「…ソウルジェム。かの女達が魔法少女になるために必要な道具と言っていたが…」
レディ「そのソウルジェムの発生させるエネルギーが、抜け殻の巴マミを動かしていた…と言っても過言ではないわ。まるで…マリオネットのように」
コブラ(どういう事だ…?あの宝石は魔力の源…契約の証、としかマミからは教えられなかった)
コブラ(かの女はこの事実を知っているのか?いや、隠し事をしている様子は無かったし、そんな大事な物だと知っているのなら余計に伝えなければいけない事だ。…まさか、知らないのか?)
コブラ(…キュウべぇ、とか言ってたか。あの野郎、やはり食えないヤツみたいだぜ)
コブラ(しかし、こいつはまだ俺の中に仕舞っておいた方がいいな。…いつか、分かる日はくる。いきなりそれを知っても混乱を招くだけだ)
コブラ(その事実を知る時まで…俺がソウルジェムを、かの女達を守ればいい。それだけだ)
レディ「報告は以上ってところかしら。何か質問は?」
コブラ「あー…一つ心配事があるんだがね、レディ」
レディ「何かしら?」
コブラ「この国の通貨さ。酒もメシも食えないんじゃあ、魔法使いどころか動けもしないぜ」
レディ「ああ、そうね。…ごめんなさい、通貨については私も調べられないわ。ただ、タートル号に換金していない金塊があるから、どうにか売り払えれば不自由はしないはずよ」
コブラ「おー、そうだったそうだった!やっぱり持っておくべきはデキる相棒と資産だね、ハハハ」
レディ「ふふふ。夜が更けて人目が無くなったら、一度地球に降りて必要な物を渡す事にしましょう。…それじゃあね、コブラ。十分気を付けて」
コブラ「了解。そっちもよろしく頼むぜ」ピッ
コブラ「さて…色々分かった事は多いが、何から始めるかねぇ」
葉巻に火をつけて、一服をするコブラ。
コブラ「…先は長そうだな。それじゃあまず…軽い運動でもしてきますか」
――― 一方、ほむらの家。
ほむら(私は…数えきれないほどの時間を、繰り返し、やり直してきた。その度…あの夜を越えられず、また同じ時間を巻き戻しをして…)
ほむら(巴マミ、美樹さやか、佐倉杏子…そして、私と、まどか)
ほむら(それぞれの時間に、それぞれの運命が存在し、違った展開を見せていた。…それでも、まどかを助けられる時間軸は、まだ見つからないのだけれど)
ほむら「…ジョー・ギリアン…」
ほむら(あんな男が存在する時間なんて、今まで一度も無かった。…私の存在を皆が覚えていないように、彼の事を知っている人物もいない。…インキュベーターでさえも知らないようだった)
ほむら(私と同じ…いいえ、彼自身、自分がこの世界に何故来たのかを知らないのだとすれば、完全なるイレギュラーの存在)
ほむら(この繰り返す時間の中に投じられた、一つの駒。…でも、それがどんな影響をもたらすのか未だに分からない)
ほむら(…巴マミは、あそこで死んでいてもおかしくなかった。彼の存在が、もし…魔法少女を救うために、運命を変えるために、あるのだとすれば…)
ほむら(この先…まどかと私の運命…『ワルプルギスの夜』も…)
ほむら「…倒せるというの?」
――― 見滝原から少し離れた場所。その結界内部。
結界内部は、さながら巨大な書物庫のようであった。幾つもの小さな本が飛び交い、交差する。その本達はどれも手足が生え、笑いながら飛んでいた。
その中央に佇む『辞典の魔女』は結界内の侵入者に攻撃を続けている。
自らのページを開き空間内に文字を具現化させ、弾丸のようにそれらを高速で目的に飛ばし、コブラを攻撃するのだった。
コブラ「どわぁぁっ!っと、っと!うひぃぃーっ!」
叫び声をあげながら結界内を駆けまわり、次々と繰り出される文字の弾丸を避けるコブラ。
コブラ「ったく、活字アレルギーになりそうだぜ!悪趣味な攻撃してくれちゃって」
言いながら左腕のサイコガンを抜き、膝をついた体勢で止まり、『辞典の魔女』へ向けて銃口を構える。
コブラ「さあ、撃ってきな。相手してやるよ」
辞典の魔女「!!」
止まった目標に向け、今まで以上の頻度で文字の弾丸を打ち続ける魔女。
ドォォォォ―――ッ!!
だがその攻撃の全てはサイコガンの連続放射で防がれ、それらを貫いた光は本体である辞典の魔女へと向かっていく。
辞典の魔女「!!!」
攻撃を受けたせいか、一瞬魔女の攻撃が怯み、動きが止まる。その隙にコブラはにぃ、と笑って立ち上がり、サイコガンに意識を集中した。
コブラ「喰らえーーーッ!!」
威力の高い、精神を集中させたサイコガンの一撃は辞典の魔女の瞳を貫く。
崩れるように地面に落ちていく巨大な本。その姿に背を向け、コブラは静かに左手の義手をつけた。
コブラ「っとぉ!」
魔女が倒れた事を現す結界の解除。元の世界に戻ったコブラの手にはグリーフシードが握られていた。
コブラ「こいつがグリーフシードか。…しかし、こいつ一つ手に入れるのにも相当苦労するもんだな、一筋縄じゃいかなそうだ」
手にしたグリーフシードを掌の上で転がしながら、呆れたように見つめる。
コブラ「それで…何か用かい。こそこそ隠れてないで出てきたらどうだ」
静かにそう言うコブラの後ろ。ビルの物陰から、ひょっこり姿を現すキュウべぇ。
QB「君の目的を知りたくてね。少し観察させてもらっていたのさ」
コブラ「そりゃ光栄だ。先生は今の戦いに、何点をつけてくれるのかな?」
QB「君は一体何者なんだい?契約もしていないのに魔女と戦う力を有する存在…。魔法少女である暁美ほむらもそうだけれど、君はそれ以上にイレギュラーな存在だね」
QB「何よりも、君は何故魔女を倒すんだい?ソウルジェムを持たない君にとっては、無意味そのものの行為であるはずだよ」
コブラ「…無意味ねぇ」
コブラ「…ソウルジェム、っていうのは願いを叶えてくれる魔法の宝石。そんな風にかの女達は思っているかもしれないが…」
コブラ「だが、このグリーフシード、ってヤツは…そんなメルヘンチックなもんじゃないね。あんな化け物の身体から出てくるんだからな」
QB「何が言いたいんだい?」
コブラ「俺は宝石にはちょいと五月蠅くってね。いやー、なかなかこのグリーフシードとソウルジェム…似ていると思ってさ」
QB「…」
コブラ「ひょっとしたらこいつを持っていたら俺の願いが叶って元の世界に戻れる手がかりになるかも…なぁーんてね」
QB「説明はマミから受けたはずだよ。グリーフシードはソウルジェムの穢れを吸い取る存在だと」
コブラ「分かってるよ。ま、折角この世界にきた記念だ。お土産の一つに貰っておこうと思ってさ」
QB「わけがわからないよ。君の存在は、暁美ほむら以上に理解不能だ」言いながら立ち去るキュウべぇ。
コブラ「…へっ」
葉巻を口から離し、紫煙を吐くコブラ。月を見上げながら、不適な笑みを浮かべる。
その顔には、どんな運命にも立ち向かう、自信のような感情が溢れていた。
―― 次回予告 ――
青春ってのはいいねぇ。男と女、色恋沙汰っていうのはどこの世界でもあるもんだ。
ここは恋という分野で宇宙一と言われるコブラ教授の出番ってワケ。他人の恋愛に首突っ込むのはあんまり好きじゃないんだが、ここは恋のキューピッドになってやろうじゃないの。
だが一方で次々と事件が起こりやがる。妙な赤い魔法少女が俺に斬りかかるの、まどかとその友達が魔女に襲われるので忙しいったらないよ全く。
どの世界でも、モテる男ってのは辛いもんだねぇ、ほーんと嫌になっちまうぜ。
次回【魔法少女vsコブラ】で、また会おう!
恭介「さやかは、僕を苛めてるのかい?」
さやか「え?」
恭介「何で今でもまだ、僕に音楽なんか聴かせるんだ…。嫌がらせのつもりなのか?」
さやか「だって…それは、恭介、音楽好きだから…」
恭介「もう聴きたくなんかないんだよ!」
恭介「自分で弾けもしない曲、ただ聴いてるだけなんて」
恭介「僕は…僕は…っ!ああ!!」
さやか「!!」
聞いているCDに向けて振り下ろされる、恭介の腕。
瞬間、その腕を掴み、それを止める別の手があった。
コブラ「やめときなよ。そいつを壊したら、アンタはもっと大事なものを壊しちまう」
まどか「ヒューッ!」
第2話「魔法少女vsコブラ」
――― 少し前、夕刻、巴マミ家。
コブラ「いやー、お茶に続いて夕メシまで御馳走になるってのは、嬉しいもんだ。おまけにお誘いが美女からとあっちゃあね」
マミ「うふふ。…もう少しで出来上がるから、冷たい紅茶でも飲んで待っててね」
コブラ「どーも。…しかし、いつもマミは一人の食事かい?若いんだし、寂しいんじゃないかな」
マミ「あら、そんな事ないのよ。キュウべぇは…今日は出かけているみたいだけれど。最近は、鹿目さんや美樹さんが来る事も多いし…今日はジョーさんがご一緒してくれるから腕の振るいようがあるわ」
コブラ「たはは、美女にモテるってのはいつの時代も悪くないもんだねぇ」
コブラ(そろそろジョーって呼ばれるのも止めさせたいところだけど…仕方ない、か)
コブラ「しかし今日は俺だけ。その、まどかやさやかは何か用事かい?」
マミ「ええ、鹿目さんは、今日は何か用事があるみたい。美樹さんはいつものところみたいね」
コブラ「いつもの?」
マミ「言ってなかったかしら。彼女、幼馴染がいるんだけれど…その人の所に毎日のように通っているの。今は丁度その時間だから」
コブラ「ちぇー、毎日いちゃいちゃ、楽しい時間ってわけか」
マミ「そういう訳じゃないのよ。…もっと深刻な理由なの、彼女の場合は」
コブラ「不慮の事故で手を動かせなくなった悲劇の天才ヴァイオリニスト…ね」
マミ「上条恭介くん、って言うんだけれど…美樹さんは毎日彼のお見舞いに行っているのよ。…献身的よね、事故以来、ずっとらしいわ」
コブラ「惚れてるのかい」
マミ「ふふ、どうかしら?…まぁ、彼に対する美樹さんの思いが誰よりも強いのは確かだと思うわ」
コブラ「だったら、余計にハッキリさせないといけないね。女の一途な思いってのは、なかなか男には理解されないもんだぜ」
マミ「そういうものかしら」
コブラ「そうとも。…よぉーし、マミの夕メシが出来る前に、俺がいっちょ恋の指導に行ってやるかぁーっ」
マミ「…二人の邪魔にならないかしら?」
コブラ「大丈夫大丈夫!そういう色恋の問題は宇宙一、俺が経験してるのさ。先輩として教育してきてやらなきゃあな」
マミ「…ジョーさん、貴方…」
マミ「酔ってるのね」
コブラ「へへへ、この世界のカクテルも悪くない味でね。つい昼間から」
マミのアパートから出て、教えられた病院の場所へ上機嫌で歩んでいくコブラ。
コブラ「オーマイダーリン オーマイダーリン~ …♪ … …んん?」
コブラ「ありゃあ…まどかと…ほむらと言ったか。あんなところで何してるんだ?」
ほむら「まだ貴方は、魔法少女になろうとしているの?まどか」
まどか「…それは…まだ、分からないけど…でも、やっぱり…あんな風に誰かの役に立てるの、素敵だな、って…」
ほむら「…私の忠告は聞き入れてくれないのね」
まどか「ち、違うよ!ほむらちゃんの言ってる事も分かるよ!とっても大変で、辛くて、危ない事も分かってるの!」
まどか「この前だって…マミさん、あんなに戦い慣れしてるのにすごく危なかったって、分かってるから…」
ほむら「…」
まどか「…ねぇ、ほむらちゃんはさ」
まどか「魔法少女が死ぬところって…何度も見てきたの?」
ほむら「…」
ほむら「ええ。数えるのも諦めるくらいに」
ほむら「この前の巴マミの戦い…もし、あの男の介入がなければ、彼女も死んでいたのでしょうね」
まどか「魔法少女が死ぬと…どうなるの?」
ほむら「結界の中で死ぬのだから、死体は残らない。永久に行方不明のまま…それが魔法少女の最後よ」
まどか「そんな…」
ほむら「そういう契約の元、私達は戦っているのよ。誰にも気づかれず、忘れ去られる…魔法少女なんてそんな存在なの。誰にも見えず戦い、感謝もされず、散っていく」
ほむら「それでも貴方は、キュウべぇと契約をするつもりなのかしら。…貴方を大切に思う人が、身近にいるのだとしても」
まどか「… … …ぅ…」
ほむら「誰かのために魔法少女になりたいと言うのなら、誰かのために魔法少女にならない、という考えが浮かんでもいいはずよ。それを忘れないで」
まどか「… … …分かった」
ほむら「そう、良かったわ」
まどか「…ほむらちゃん!」
踵を返し、立ち去ろうとするほむらの背中にまどかが声をかける。
ほむら「何かしら」
まどか「…ありがとう。私の事…いつも、心配してくれて…」
ほむら「… … …(ホムホム)」
立ち去るほむら。
コブラ「…おっかないだけの子だと思ってたけど、どうも俺の見当違いだったかな」
道端に隠れていたコブラは、ひょっこりと顔を出して笑った。
まどか「!い、いたんですか」
コブラ「偶然。たまたま居合わせちゃってね、失礼だったかな」
まどか「…だ、大丈夫です。それより、どうしたんですか?こんな所で」
コブラ「いや、なぁに、恋に悩める純朴な少女がいると聞いてね。人生の先輩としてアドバイスに馳せ参じようとしている最中さ」
まどか「…え?」
コブラ「つまり俺は恋というプレゼントを運ぶサンタクロースってわけ」
まどか「わけがわからないよ」
まどか「えぇ!?さやかちゃんと恭介くんの応援に行く…って…」
コブラ「そういう純真な恋はさ、誰かが肩を押さなくちゃ駄目なんだよ!というわけでまどか、俺を病院まで案内してくれ」
まどか「そ、そんな…邪魔になっちゃいますよ…」
コブラ「いいから!さぁ、案内してくれ我が愛馬よ!」
まどか「… … …さやかちゃんの邪魔だけはしないでくださいね。いつも静かに音楽とか2人で聞いてるみたいなんですから」
コブラ「邪魔なんてするかっ。俺に任せておけっての」
まどか「…分かりまし…ウェヒッ!ジョーさん…お酒、飲んでません?」
コブラ「だはははー!こんなの飲んでるうちに入らない入らない。さ、病院まで頼むぜ」
まどか(…さやかちゃんに後で怒られませんように…)
コブラ「ここが彼の病室か」
まどか「はい」
コブラ「どれ、それじゃあ早速」
まどか「ま、まままま、待って!…駄目ですよ、いきなり入っちゃあ!さやかちゃん、今頑張ってるかもしれないんだし!」
コブラ「…頑張ってる?」
まどか「そうですよ。その…あの…恭介くんと、えっと…い、いい感じになってるかもしれないし…」
コブラ「… … …」
コブラ「どうもそういう感じじゃなさそうだぜ、まどか」
まどか「え?」
耳を澄ませろ、とジェスチャーをするコブラ。
病室からは、微かに怒号のような叫び声が聞こえてきた。聞いたことのないような、悲しい叫び声が。
まどか「あ…」
コブラ「乗り込むぜ」
恭介「もう聴きたくなんかないんだよ!」
恭介「自分で弾けもしない曲、ただ聴いてるだけなんて」
恭介「僕は…僕は…っ!ああ!!」
さやか「!!」
聞いているCDに向けて振り下ろされる、恭介の腕。
瞬間、その腕を掴み、それを止める別の手があった。
コブラ「やめときなよ。そいつを壊したら、アンタはもっと大事なものを壊しちまう」
まどか「ヒューッ!」
さやか「!?ジョーさん!?それに…まどかも!」
まどか「あ…。…う…ご、ごめん、さやかちゃん…」
恭介「…ッ!!離せよ…離してくれよ!」
コブラ「この手を離してアンタのバイオリンが聞けるなら喜んで離すがね。誰かを傷つけるために振り下ろされる手なら、俺はあの世の果てまで離すつもりはないぜ」
恭介「…ぐ…ッ!…うぁぁぁ…ッ!くそぉ…ッ…!」
拳から力が抜けたと分かったコブラは、恭介の腕を解放した。
涙を流しながら、誰かに訴えるように語り始める恭介。
恭介「諦めろって…言われたんだよッ…!今の医学では治らないなら…バイオリンはもう…諦めろって…ッ!」
さやか「…そんな…」
コブラ・まどか「… … …」
恭介「もう一生動かないんだよ、僕の手は…!奇跡か魔法でもない限り… …!」
… … …。
場を重苦しい沈黙がしばらく流れる。
すると、さやかがゆっくり、静かに言う。
さやか「…あるよ」
コブラ・まどか「…!」
さやか「奇跡も、魔法も…あるんだよ」
――― 一方。
杏子「…それで?アンタは何が言いたいのさ」
QB「行動は急いだほうがいいという事さ。この前、杏子の縄張りの魔女を倒したのは彼だよ」
杏子「…!マジかよ。随分ナメた真似してくれるじゃんか」
QB「ボクでさえ、彼がどんな素性で何を目的をしているかはさっぱり分からない。勿論、どうするかは杏子の自由だけど、何かが起きてからでは遅いからね」
杏子「…ジョー・ギリアンとか言ったか?おかしな名前しやがって。…上等じゃないのさ」
QB「どうするんだい?杏子」
杏子「確かにムカつく話だね。ちょいとお灸をすえてやった方がよさそう、っていうのは同意見」
杏子「見滝原…あそこはマミの縄張りだったね。前々から魔女の発生頻度が高かったから縄張りをそっちに移そうと思ってたんだけど…」
杏子「丁度いいじゃん。…マミも、ジョーとかいう男も、まとめてぶっ潰せばあそこのグリーフシードはアタシのものになる」
QB「気を付けてね、杏子。あそこには、更にもう一人、イレギュラーな魔法少女もいるから」
杏子「ふん。退屈しなくて済みそうじゃん。ほんじゃあ、行きますか」
QB「今夜かい?」
杏子「急かしたのはお前だろ?…まずは、アタシの縄張りを荒らしたヤツ」
杏子「ちょいとお仕置きが必要だからね」
さやか「ごめんね…二人とも。変なトコ見せちゃって」
さやか「こんな事言うの失礼なのは分かってる。…でも、今日は帰ってくれないかな」
さやか「怒ってるわけじゃないの。…むしろ、感謝してる。ジョーさんが止めなければ、恭介きっと、怪我してたから」
さやか「なんていうか…あたしも、ちょっとだけ…考える時間、欲しいの」
さやか「…ありがとう。…ごめんね」
・
まどか「…大丈夫かな、さやかちゃん。やっぱり、無理にでも一緒に帰ったほうが…」
コブラ「ああいう時は、一人でじっくり考えるもんさ。誰にだって落ち着いて考える時間は必要だ」
まどか「…そう、なのかな…。わたしがもっとちゃんと、二人の事フォローできれば… …っ!?」
言い終わらない内に、まどかの頭にポンと左手を乗せるコブラ。
コブラ「まどか。そうやって何でもかんでも自分のせいにするクセ、おたくの悪いクセだぜ」
時間が止まったかのように、黙る二人。しばらくすると、まどかはポロポロと噛み殺していた涙を流し始める。
まどか「… …ぅっ、くっ…!だ、だって…!さやかちゃん、かわいそうでっ…!あんなに、あんなに頑張ってるのにっ…!わたし、何もできなくて…っ!」
コブラ「泣くなよ、まどか。人は、涙を流すから悲しくなるんだぜ」
パチ パチ パチ。
二人の前に、拍手をしながらゆっくりと現れる人影。その口には棒状のチョコレート菓子を銜えている。
杏子「名演説だね。感動してアタシも泣いちゃうくらいだよ」
そういう杏子の表情は、憎悪に満ちた薄ら笑いだった。
まどか「…っ!だ、誰…?」
コブラ「そいつはどうも。なんならカフェでお茶でもしながらゆっくり語りあおうか?」
杏子「遠慮しとくよ。それに…生憎そんな気分じゃないんだ」
言いながら、赤いソウルジェムを見せびらかすように取り出し、不適に笑う杏子。
まどか「…!ソウルジェム!?」
そしてそれを使い、魔法少女へと変身する杏子。
出現した巨大な槍を演舞のように振り回し、それを終えて槍を前に構えた戦闘態勢へと移る。
杏子「アタシの縄張りを荒らしてくれるなんて、ナメた真似してくれるじゃん。…ジョー・ギリアン!」
コブラ「…やれやれ、夕メシの時間には間に合いそうにないなこりゃあ」
まどか「あ、あ…っ!」
コブラ「まどか、すまないが、先に帰ってマミに夕飯に少し遅れると伝えておいてくれないか」
コブラ「冷めたカレーライスは好きじゃないから、暖かいうちに帰るつもりだがね」
杏子「その余裕…ぶっ潰してやるよッ」
コブラ「急げ、まどかっ!巻き込まれるぞ!」
まどか「…っ!は、はいっ!!」
まどかが走り出すと同時に、杏子がコブラに向けて一気に距離を詰め、槍を振り下ろす。
杏子「でゃああああッ!!はぁッ!うおりゃあッ!」
コブラ「うおっ、とぉっ!ほっ!よっ!」
閃光のような素早い攻撃を次々と避けるコブラ。
コブラ「熱烈なアプローチだなこりゃあ!だがもう少し女の子らしいほうが好みなんだがね!」
杏子「残念だったな!アタシはそんなにおしとやかじゃないんだよッ!」
まどか「早く…早く、マミさんかほむらちゃんに助けを求めないとっ…!」
まどか「このままじゃジョーさんが…!」
急いで、マミのアパートまで走るまどか。
だがその瞬間、信じがたいものを見てしまう。友人である志筑仁美が、何かに憑りつかれたようにフラフラと歩く、その姿を。
まどか「…!ひ、仁美ちゃん!?」
仁美「あら、鹿目さん…御機嫌よう」
まどか「こんな時間に何してるの?お、御稽古事は…!?こっちの方向じゃないでしょ?どこに行こうとしてるの…!?」
仁美「うふふふ…」
仁美「ここよりもずっと、いい場所ですのよ」
まどか「…!」
仁美の首筋にある、魔女の口づけの印。そしてその刻印は、気付けば仁美の周りにいる生気のない人間達のほとんどについているのだった。
まどか「そんな…こんな時に…!?ど、どうすれば…!」
彷徨うようではあるが、確実にある場所に向かう、仁美をはじめとした集団。
放っておくわけにもいかず、まどかはその後についていくのだった。
まどか(あああ、ど、どうしよう…!)
まどか(わたしのバカ!マミさんの番号も、ほむらちゃんの番号も聞くの忘れてたなんて…ッ!)
まどか(仁美ちゃんも放っておくわけにいかないし…ジョーさんも…っ!いくら強いからって魔法少女が相手じゃ、どうなるか…!)
そんな考え事をしているうちに、集団はいつの間にか小さな町工場に辿り着く。
町工場の工場長「俺は、駄目なんだ…。こんな小さな工場一つ満足に切り盛りできなかった。今みたいな時代に…俺の居場所なんてあるわけねぇんだよな」
まどか「!!」
まどか(あれ…洗剤…!)
詢子「―――いいか?まどか」
詢子「―――こういう塩素系の漂白剤には、扱いを間違えるととんでもないことになる物もある」
詢子「―――あたしら家族全員、毒ガスであの世行きだ。絶対に間違えんなよ?」
まどか「…っ!駄目!それは駄目!皆が死んじゃうよ!」
まどかを優しく、包むように止める仁美。
仁美「邪魔をしてはいけません。あれは神聖な儀式ですのよ。…私達はこれから、とても素晴らしい世界へ旅立つのですから」
コブラ「うおおっと!!」
杏子の渾身の一薙ぎを上空に跳躍して避けるコブラ。真上にあった電信柱の出っ張りを掴み、杏子の攻撃範囲から逃れる。
コブラ「ち、ちょっとタンマ!あんたの縄張りに入ったのは謝るからさ、もう許しちゃくれないかね!平和的に行こう!」
杏子「…へっ、ちったぁ懲りたかい」
コブラ「懲りた懲りた、大反省!俺もうなぁーんにもしないから!」
杏子「…そうかい、それじゃあ…。… … …なんてねっ!」
杏子「生傷の一つもつけないで帰すなんて、アタシの腹の虫が収まらないんだよッ!」
そう言って、コブラの掴まる電信柱を斬る杏子。
コブラ「!!どわあああっ!?」
切り落とされ下に落ちる電信柱と一緒に、コブラも地面に叩きつけられるように尻餅をつく。
コブラ「いちちち… …って、のわぁぁぁあっ!?」
杏子「くらえええーッ!!!」
瞬間、それを見計らっていた杏子はバランスを崩して座り込んでいるコブラの頭上へ、槍を振り下ろす。
ガキィィィィンッ!!
振り下ろされた槍は…。
杏子「… …ッ!なんだと…っ!?」
コブラの左腕に食い込み、血の一滴も流さずに止まっていた。
杏子「…くっ!」
その異常な事態に杏子は素早くバックステップをして、コブラの様子を伺うように構える。
杏子「てめぇ、その左腕…何者なんだ…!?」
コブラ「…身体がちょいと頑丈なもんでね。特に俺の左腕はな」
にやっと不敵に笑い、ゆっくりと立ち上がるコブラ。葉巻にライターで火をつけながら、身体についた埃を払う。
コブラ(…とはいえ、こいつはちょっとまずいな。手加減をして戦ってどうにかなるもんじゃないらしいね、魔法少女ってヤツは)
コブラ(だからって素性の知れない魔法少女にサイコガンを使うわけにはいかない…。女を殴るのは俺の主義じゃない…参ったね、お手上げだ)
コブラ(…こうなりゃあ…『アレ』でいくしかないか)
コブラ「仕方ないな、こうなりゃあ俺の奥の手を見せてやるぜ」
杏子「…ほー、楽しめそうじゃん。何をしてくれるんだい?」
コブラ「…驚くなよ?」
槍の刃の音を鋭く鳴らす杏子に対し、コブラは葉巻を杏子の方へ投げ捨てると…。
コブラ「これが俺の奥の手…逃げるが勝ちだぁーッ!!」
瞬間、猛然と走り出して杏子の隣をすり抜けるコブラ。
杏子「…!!??て、てめぇ!待ちやが…っ!?」
その時、杏子の近くに投げ捨てられた葉巻が閃光のように眩い光を一瞬放つ。
杏子「うおおっ!?」
5秒ほどそれは辺りを照らす。次に杏子が目を開けた瞬間、そこにコブラの姿はなかった。
杏子「…くっ!逃げられた!…あのヤロー、あの腕といい、ただ者じゃないなやっぱ…!」
杏子「…でも、このままじゃ済まさねぇからな、絶対…!」
まどか「…!離してッ!!」
仁美の手を振り切り、洗剤の入ったバケツに猛然と走るまどか。それを掴みとると、勢いよく窓の外へ投げ捨てる。
まどか(…よ、よしっ!これでひとまず安心…)
しかし、その行動をしたまどかに向けられる…恨むような人々の視線。
まどか「…え…」
群衆「あぁぁああぁぁぁああああっ…!!」
まるでゾンビが血肉を求めるようにまどかへ襲い掛かる群衆。
まどか「きゃあああああっ!!」
襲い掛かる群衆から逃げ、急いで側にあった物置に逃げ込むまどか。
まどか「ど、どうしよう…どうしようっ…!やだよ…誰か、助けて…っ!」
その瞬間。
まどか「…ッ!!」
まどかの周りに広がる、魔女の結界。それと同時に…窓の割れる音が、微かに聞こえた。
テレビのようなモニターや、使い魔や、木馬がまるで水中のように浮遊する空間。その空間内に、まどかも同じように浮遊していた。
モニターに映し出されるのは、まどかが今まで見てきた、魔法少女の戦いの光景。
まどか(これって…罰なのかな)
まどか(わたしがもっとしっかりしてれば…さやかちゃんも、仁美ちゃんも、ジョーさんも…もっとちゃんと、助けられたのに…)
まどか(だからわたしに、バチがあたったんだ)
その自責の念はまるで声のように結界内に響き渡る。
気付けば、まどかの手足をゴムのように引っ張る、翼の生えた不気味な木製人形達。四肢を引き千切ろうと、徐々にその力は増されていく。
まどか(わたし…死んじゃうんだ…ここで…っ!う、ぐっ…!)
まどか(痛いよ、苦しいよ…っ!)
まどか(もう…嫌だよっ…!!)
その時、まどかの四肢を引っ張る四人の『ハコの魔女の使い魔』が次々に光の波動に消された。
まどか「…!!」
まどか「…ジョーさん!」
コブラ「結界が張られる前に窓に飛び込めて良かったぜ。バラバラになった美少女なんざ、地獄でも見たくないからな」
まどか「… …!!ひ、左手が…ジョーさんの、左手が…!」
まどかが見た、ジョー・ギリアンの姿。
硝煙をあげるその銃口は、本来あるべき左腕の場所にあった。見たこともない、異形の銃。まるでそれは身体の一部のように当たり前にそこにあるようだった。
コブラはまどかの前に立ちはだかり、背中を向けながら語る。
コブラ「…まどか、俺も一つ、罰を受けなきゃいけないのかもしれないな」
コブラ「俺はあんたらに嘘をついていたんだ」
まどか「嘘…?」
コブラ「一つは、俺はしがないサラリーマンなんかじゃないって事」
コブラ「一つは、俺は宇宙観光の最中なんかじゃなかったって事…」
コブラ「そして…最後の一つ、俺の名前はジョー・ギリアンじゃないって事だ」
コブラが喋っている間に、魔女の使い魔は次々とコブラとまどかを襲おうとする。
しかし、それらの全てはサイコガンの連射で次々と撃ち抜かれ、一つとして外されることはない。
まどか「…それじゃあ、あなたは…?」
コブラ「俺は…別の世界では、海賊をしていた。宇宙を流れ星のように駆けながらお宝を見つけ、糧にしていた一匹狼の海賊さ」
コブラ「俺には、一つの名があるんだ。…それは」
まどか「それは…?」
サイコガンに、コブラの精神が集中される。銃口が淡く光り、鋭い、サイコエネルギーをチャージする音が聞こえた。そしてコブラは目を見開き、叫ぶ。
コブラ「俺の名はコブラ!不死身の…コブラだぁーーーッ!!」
ドォォォォォ――――ッ!!!
まるで大砲の砲撃のようなサイコガンの一撃が、放たれた。
サイコガンの高められた精神エネルギーの光は、使い魔達を焼き払い、その本体であるモニターに隠れた『ハコの魔女』をも爆破した。
そして、結界が解け元の物置に戻るコブラとまどか。
コブラは目を閉じて微笑みながら、左腕の義手をサイコガンに被せる。
まどか「… … …」
コブラ「今まで黙っててすまなかった。だが、見知らぬ世界で俺の正体をペラペラ喋るわけにもいかなくてね。何せ、あっちじゃあ俺の首を狙ってる奴がごまんといるからな」
まどか「ジョー…じゃなくって、コブラ…さん?」
コブラ「そ。…まぁ、色々語るのは後だ。少し急ぎたいんでね」
まどか「…まだ、何かあるんですか?」
コブラ「ああ、急ぎの用がある。まどかも一緒にきてくれ、重大な事だ」
まどか「… … …」
まどかが緊張した面持ちでコブラをじっと見ると、コブラはにっこりと笑って駆け出す。
コブラ「早くしないとマミのカレーが冷めちまうんだよーっ!俺ぁ疲れて腹が減って死にそうなんだーっ!」
まどか「… … …へ?」
呆然とするまどかを後目に、物置から急いで出ていくコブラ。
まどか「ま…待ってください!ひ、仁美ちゃんは!みんなはーっ!?わたし一人じゃどうすればいいか分からないよーっ!ねぇ、コブラさーーーーんっ!!」
まどかの声は、空しく、町工場の中に響くのだった。
―― 次回予告 ――
さやかが魔法少女になっちまった!俺やまどかとしては複雑な気持ちだが、さやかには何よりも叶えたい願いがあるんだとさ。
健気な少女の願いは受け止められ、一人の戦士が誕生する。まー、男を守る女ってのは俺はあまりお勧めできないんだがね。ここは良しとしてやろうっ。
だが綺麗な事ばっかりじゃないみたいだね。暁美ほむらに、謎の赤い魔法少女。そしてもう一人、俺の事を追っかけてくる輩もいるみたい。
相変わらず俺が元の世界に戻る方法も分かんないわ、もーいい加減にしてくれってんだ!
次回【忍び寄る足音達】で、また会おう!
第3話「忍び寄る足音達」
――― 巴マミ家。早朝に訪れたさやかを、マミは快く受け入れた。
テーブルに置かれた、2人分の紅茶とお茶菓子。マミは静かに紅茶を飲むとテーブルに置き、優しく言う。
マミ「…そう。決心、したのね…美樹さんは」
俯いていたさやかはゆっくりと顔をあげ、強い意志の宿った瞳でマミを見つめる。
さやか「…うん。あたし、もう迷わない。…でも、契約をする前にマミさんに伝えたほうがいいかなって」
マミ「そうね。…とても嬉しいわ。私が言うのも何だけど、美樹さんは少し慌てん坊さんだから…ふふふ」
さやか「あはは、バレてましたかー」
マミ「…願い事は、やっぱり上条君の事かしら」
さやか「… … …はい」
マミ「…そこまで決心したということは、どうしても叶えたい願いなのね。後悔しない、確固たる決心が」
さやか「…昨日、まどかとジョーさんが、恭介の病室に来てくれたんです。恭介、もう自暴自棄みたいになってて、暴れようとして…」
さやか「あたし、もうその時自分でもワケわかんなくなっちゃって、いっそ今すぐキュウべぇと契約すればこんな恭介見なくて済むって考えちゃってた」
さやか「でも…ジョーさんが、恭介を止めてくれらから。だからあたしも、恭介と同じように、少しだけ落ち着けた」
さやか「あたしは、ずっと一人で恭介の事考えてるんだと思ってた。でも…実際は違ったんですね。マミさん、ジョーさん、まどか…みんな、心配してくれてるんだ、って」
さやか「だから仮にあたしが魔法少女になっても、心細くなんてない。…戦い続けられる。そう思ったんです」
マミ「…そう。私も、鹿目さんと美樹さんに出会うまでずっと一人だと思ってたから、よく分かるわ」
マミ「一人ぼっちで戦って、悩むのって…すごく苦しくて、悲しくて、辛い事」
マミ「…魔法少女になる前に私に言ってくれてありがとう、美樹さん。…全力で、あなたのサポートをするわ」
QB「話は終わったかな。それじゃあさやか、契約をしよう」
さやか「…うん」
マミ「…あ、そうそう。美樹さん、一つだけ訂正しておく事があるの」
さやか「…?え?」
マミ「あの人『ジョー・ギリアン』さん。本当の名前は違うらしいの。…「俺の名前は『コブラ』だ」って。昨日、あの後教えてもらったわ」
さやか「…はは、やっぱり変な名前じゃん」
マミ「私達は、仲間。…辛い時は一人で背負いこんだり、嘘や隠し事はしないで、みんなで助け合いましょう」
さやか「… … …うんっ!!」
QB「それじゃあ、さやか。君の願いを言ってごらん」
さやか「あたしは――― 」
さやかを包み込む光。そして生まれる、新たなソウルジェム。
レディ「おかえりなさいコブラ。出張はどうだったかしら?」
コブラ「もう最高だね。魔女はうじゃうじゃ湧いてるわ、魔法少女には因縁つけられるわ、退屈って言葉が懐かしいくらい」
タートル号内。
人目につかない丘でレディと待ち合わせたコブラは、一旦タートル号で外宇宙へと飛び立った。
レディ「…?これは?」
レディにグリーフシードを一つ手渡すコブラ。
コブラ「相棒にプレゼントさ。大事にしてくれよ」
レディ「まぁ、ありがとう。…どうせならもっと綺麗な宝石がいいのだけれどね、フフ」
コブラ「そいつはまた後でのお楽しみ。とにかく、そいつをタートル号の方で解析しておいてくれ。何か分かるかもしれん」
レディ「オーケー。それじゃ、朝食だけでも食べて行く?用意しておいたのよ」
コブラ「ワオ!嬉しいねぇ、ここんところレディの手料理が恋しくって恋しくって!」
レディ「その割には、マミとかいう子の家で随分と嬉しそうに御馳走になっていたようだけれど?」
コブラ「…ははは、こいつぁ厳しいや」
仁美「ふぁぁぁ…」
仁美「…!やだ、私ったら、はしたない」
まどか「仁美ちゃん、眠そうだね」
仁美「なんだか私、夢遊病というか…昨日気が付いたら大勢の人と一緒に倒れていて。それで病院やら警察やらで大変だったんですの」
まどか「…それは、大変だったね」
まどか(救急車呼んだのもパトカー呼んだのもわたしなんだけどね…。…もうっ!ジョーさん…じゃ、なかった、コブラさんが行っちゃうから…)
まどか(ふぇぇ…わたしも眠くて死にそうだよ…)
仁美「…ところで、さやかさんはどうしたのでしょう?まだ学校に来ていないみたいですけれど…」
まどか「…うん。何かあったのかな…さやかちゃん」
仁美「毎日元気に登校していましたのに…おかしいですわ」
まどか(…まさか、何かあったんじゃ…!)
和子「はーい、みんな揃っているかしらー?それじゃあ朝のHRを…」
さやか「ごめんなさーーーいっ!!遅刻しましたーーーっ!!」
和子「!!!」
早乙女先生が教室に入ろうとした矢先、後ろから大慌てで来たさやかが前にいた先生に気付かず教室内に突進してくる。
その体当たりを食らった先生は、衝突事故のような勢いで黒板に頭からぶつかるのだった。
さやか「…あ」
まどか「…あ」
和子「… … …」
和子「美樹さんはいつも、とっても元気ねぇ…?…先生も、とっても、嬉しいワァ…」ニコニコ
そう言いながら満面の笑みを浮かべる先生の背後には、ドス黒いオーラが禍々しく煙をあげていた。
さやか「ぎゃあああああああああ!!すいませんすいませんすいませんーーっ!!」
まどか(…良かった、いつも通りのさやかちゃんだ…)
そして、昼。各々の生徒が昼食を持ち、それぞれの食事場所に分散していく。
さやか「ね、仁美。顔色悪いし、お昼は保健室借りて休んでれば?少し寝たほうがいいよ」
仁美「え…?でも、私は単なる寝不足で…」
さやか「だからこそだよ。放課後にいつものお稽古事もあるんでしょ?今のうちに休んでおかないと身体壊しちゃうよ?」
仁美「… … …そうですわね。それでは、そうさせてもらいましょう」
さやか「よっし、それじゃ、保健室まで一緒するよ。ほら、まどかも一緒に」
まどか「え?う、うん…」
仁美「申し訳ございません、さやかさん、まどかさん」
さやか「いいのいいの、途中で倒れたら大変だし、行こう行こう」
まどか(…どうしたんだろ?さやかちゃん。…なんだか、仁美ちゃんを保健室に行かせたがってるみたい)
仁美を保健室まで送り届けると、さやかはまどかの方を振り返る。
さやか「さ、まどか。一緒にお昼食べよっ、屋上で」
まどか「屋上…?」
さやか「実はさ、呼んであるの。マミさんと、コブラさん!」
まどか「魔法少女に!?」
コブラ「なったぁ!?」
さやか「うん、今朝にね。…2人にも、ちゃんと伝えないといけないと思って」
まどか「ど、どうして…?」
さやか「まぁ、理由は色々あるんだけどさ。…何より、あたしの叶えたい願い、しっかり見つけられたから。後悔なんてしない、命懸けでも、叶えたい願いが」
コブラ「…」
マミ「私と相談をしたの。願いのためなら、その命を戦いに捧げても構わない…その決意があるから、キュウべぇとの契約を、しっかり見届けさせてもらったわ」
QB「そして願いは叶えられ、さやかは魔法少女になったというワケさ」
さやかの手には、太陽に照らされ、煌めく青のソウルジェムの指輪があった。
まどか「…やっぱり、上条くんの事?腕を…治したの?」
さやか「…うん。昨日はありがとう、まどか、コブラさん。2人が来てくれたから、あたし、決められたんだ」
さやか「ずっと考えてた。マミさんが言ったように、他人の願いを叶える前に自分の願いをはっきりさせる、って事。あたしは、恭介の何になりたいんだ、って」
さやか「昨日、恭介の腕の事…ずっと治らないってお医者さんに告げられた、って2人とも聞いてたよね?…その時ね、あたし、もう自分なんかどうなってもいいから恭介の腕を治したいって考えたんだ」
さやか「でも、それは少し違うんだって…その後分かったの。…あたしには、仲間がいる。先輩のマミさんが、コブラさんが…そして、あたしの可愛い嫁のまどかがね、えへへ」
さやか「あたしがどうしようもなく自暴自棄になっても、助けてもらえるかもしれない。…逆に、誰かがピンチになったら、あたしが救えるかもしれない!」
さやか「恭介も、マミさんも、コブラさんも、まどかも、助けられるかもしれない!…だから、どんなに怖くても大丈夫だって!…そう思って、あたしは魔法少女になった」
さやか「後悔なんて一つもしていないよ。魔法少女が叶えられる願いは一つだけど、あたしが叶えられる願いは、無限大なんだからっ!」
コブラ「…いい目になったな、さやか。そんな顔が出来るなら何も心配する事ないぜ」
マミ「でしょ?…ふふ、私の後輩は優秀なのよ」
さやか「でへへ」
まどか「… … あの、その…わたし、わたしっ…!」
さやか「…まどか」
さやかはゆっくりとまどかに近づくと、頭にポンと右手を置いて、にんまりと歯を見せて笑う。
さやか「あんたが引け目を感じる事は何も無いの。まどかはいつも通り、あたしの友達で、可愛いおもちゃで、さやかちゃんの嫁でいてくれればいいのだー!」
まどか「えぇぇ…それもちょっと…」
マミ「…鹿目さんは、魔法少女にちょっと詳しい、普通の中学生。それでいいと思うの。…だから、これからもよろしくね?私達の、大切な仲間なんだから」
まどか「…はい」
QB「…」
コブラ「出来れば、疲れたらマッサージとかもお願いしたいねぇ。特にマミは重い物ぶら下げて肩こりが酷い…いででででっ!」
笑顔でコブラの足を踏みつけるマミ。
さやか「3人とも、放課後は空いてる?ちょっと来て欲しいところがあるんだ」
まどか「…?」
さやか「へへ、実は恭介にサプライズプレゼントしようと思ってね。ま、とにかく暇なら病院まで来てよ、詳しくは後で教えるからっ!」
マミ「…ふふふ、美樹さんの事だから何となく想像ができるけれども、楽しみだわ」
さやか「えへへへ…それじゃ、また後でっ!」
さやかはそう言って元気に手を振ると、屋上から慌ただしく出ていく。
まどか「さやかちゃん、魔法少女になって…良かったみたい。あんなに嬉しそう」
コブラ「…ああ。頼もしい仲間になるぜ、ああいう目をした奴はな」
マミ「そうね。…私も張り切って後輩の指導にあたらなきゃ」
まどか「…えぇと…ところで、コブラさん。あの、ここ学校の敷地内なんですけれど…よく入り込めましたね…?」
コブラ「ん?なぁーに、忍び込むのは俺の専門なんでね。必要なら監獄でも軍事基地でも銀行でも、どこでも潜り込める」
マミ「…あまりおススメできない特技よね、正義の魔法少女の仲間としては」
――― その後。
さやか「そっか、退院はまだ出来ないんだ」
恭介「うん、足のリハビリがまだ済んでないしね」
さやか「でも、本当に良かった…恭介の手が動くようになって」
恭介「…さやかの言っていた通り、本当に奇跡だよね、これ…」
さやか「…」
自然に笑顔になるさやか。
恭介「… … …」
さやか「…どうしたの?」
恭介「さやかには…酷いこと言っちゃったよね。それに、さやかの友達にも。…いくら気が滅入ってたとはいえ…」
さやか「変な事思い出さなくていいの。あたしが皆に謝っておいたし…今の恭介は大喜びして当然なんだから。そんな顔しちゃだめだよ」
恭介「…うん」
さやか「…そろそろかな?」
恭介「?」
さやか「恭介、ちょっと外の空気吸いに行こ?」
恭介「さやか、屋上に何か用なの?」
さやか「いいからいいから」
屋上へと上がるエレベーター。車椅子のハンドルを握るさやか。不安そうな恭介。
そして、屋上へ到着したエレベーターの扉が開く。その向こうには…。
恭介「…!みんな…!」
上条恭介の家族、病院関係者…そして、鹿目まどか、巴マミ、コブラ、それぞれの姿があった。
皆、恭介の復活を心待ちにしていた人達ばかり。恭介とさやかは、拍手に出迎えられた。
さやか「本当のお祝いは退院してからなんだけど、足より先に手が治っちゃったしね」
歩み寄る、恭介の父親。そして差し出されたのは、以前愛用していたバイオリン。
恭介「…!それは」
恭介父「お前から処分するように言われていたが、どうしても捨てられなかった」
恭介父「さあ、試してごらん」
少し戸惑いながら、それを受け取る恭介。しかし、戸惑いはやがて微笑みにかわり、弦がしなやかに美しい音色を奏で始める。
まどか「わぁ…!」
マミ「素敵な音色ね…」
コブラ「酒の合いそうな音色だね。一杯ひっかけてもい…いでででででーーーっ」
笑顔でコブラの足を踏みつけるマミ。
さやか(…後悔なんか、あるわけない。…まどか、マミさん、コブラさん)
さやか(あたしの願い、叶ったよ)
――― その様子を近くの観光タワーから見つめる杏子。そしてその傍にいるキュウべぇ。
杏子「マミに加えて、謎の魔法少女、ワケの分からない筋肉男…更に新しい魔法少女、ねぇ。見滝原も随分騒がしくなったもんだ」
QB「ボクにもわけがわからないね。元々魔女の発生率が他の都市と比べて桁違いに高い場所だから魔法少女が増えるのは納得が出来るけど、ボクの知り得ない人間が2人もいるなんて」
杏子「まぁ、いいさ。アンタの言っている通り、ここは絶好の狩場だ。…それに、新人が1人くらい増えたところでアタシにとっちゃどうってことないね」
QB「とるべき行動は色々多いようだね。どこから手をつけるんだい?」
杏子「ふん…」
杏子「とりあえず、新人に先輩が教育でもつけてやる、ってのはどう?」
――― 少し時間が経って、高いビルの屋上。先程までの病院の様子を観察していたほむらは、物思いにふけていた。
ほむら「…美樹さやか」
ほむら(彼女も、魔法少女に…。まぁ、予想の範疇ね、今まで何度かその世界も見てきた)
ほむら(あとは佐倉杏子。私が知る見滝原に集う魔法少女は、まどかも含めて…五人)
ほむら(…あの男を除いて)
その時、ビルの屋上の扉が開いて誰かが入ってくる。
ほむら「!?」
驚いて振り返るほむら。そこに現れたのは、まどかだった。
まどか「…ほ、ホントにこんな所にいたんだ、ほむらちゃん…!」
ほむら「… … …どうして?」
まどか「え、えっとね…?コブラさんが、あっちのビルの屋上にほむらちゃんがいる、って教えてくれて…」
ほむら(有り得ない…病院からこのビルまで、数百m離れているのよ。私だって、魔法を使って観察していたというのに…)
ほむら「…それで、私に何か用かしら?」
まどか「あ、そ、そうだよね…。急に来てごめんね、ほむらちゃん。えっと…その、さやかちゃんが、魔法少女になったの」
ほむら「知っているわ」
まどか「え!?し、知ってるの!?」
ほむら「ええ。…それで?」
まどか「う…だから…新しい魔法少女も、1人増えたから…」
ほむら「私も、貴方達の仲間になれと言うのかしら」
まどか「… … …うん。マミさん、凄く頼りになるし、さやかちゃんだって一生懸命頑張ろうとしてる。…コブラさんは…あはは、よく分かんない人だけど、とっても強いし…」
まどか「だからね、ほむらちゃんも…私達と一緒に戦ったら、きっと…」
ほむら「…」
まどか「きっと…私達、ほむらちゃんの力になれる。だから…」
ほむら「…」
ほむら(力に…なれる。魔法少女が私の力になれなかった時間が、幾つあったかしら)
ほむら(ある時は力及ばずワルプルギスの夜に負け、ある時は互いを殺し合い…ある時は)
ほむら(私自身が、その魔法少女…まどかを、殺してしまう時も…っ!)
まどか「…ほむらちゃん、前にマミさんに言われてたよね?グリーフシードの奪い合いじゃなくって、ほむらちゃんは何か別の意志があって戦ってるって」
まどか「わたしにも分かるの。ほむらちゃんは、絶対に…『何か』をしようとしているって」
まどか「そしてその何かを、私達のためにしてくれているって」
ほむら「…!」
まどか「わたし…まだ、魔法少女になれなくて。臆病で、弱虫で、嘘つきだから…」
まどか「でも、私は少しでも力になりたいの。さやかちゃんの、マミさんの、コブラさんの…そして、ほむらちゃんの!」
まどか「だから…一緒に戦って、みんなで頑張ろうよ。みんなで、魔女を…!」
ほむら「…甘いわ」
まどか「!」
ほむら(私達全員…五人の力を使えば、ワルプルギスの夜に勝てるかもしれない。でも、そう信じるたびにどこか歪が起きて、私達は夜を迎える前に崩れていった)
ほむら(あと二週間、私達が力を合わせてしまえば、きっと…どこかで私達は崩壊してしまう。だから私は、一人で時間を繰り返してきた)
ほむら(…でも…)
ほむら(この時間軸では…私はどうするべきなの?…今度こそ、ワルプルギスの夜を迎えられ、倒せて…まどかと朝を迎える事が出来る?)
ほむら(… … …)
ほむら「…私達魔法少女は皆、誰かを救えるほど余裕があって戦っているわけじゃないの」
まどか「…ぅ…」
ほむら「叶えた願いの代償を支払うために、必至に戦って、その命を削っている。…だから、仲間として戦うなんて、出来るはずがない」
まどか「…」
ほむら「…でも、考えておくわ」
まどか「… …え!?」
ほむら「少なくとも私は、貴方達の敵じゃない。…それだけは覚えておいて」
ほむら「貴方が私の忠告を忘れないと約束をしてくれるならの話だけど」
まどか「!!! …う、うんっ!!…ありがとう、ほむらちゃん!!」
心からの笑みを浮かべる、まどか。その笑顔につられ、ほむらの表情も少しだけ緩んだ気がした。
――― その一方、コブラ達のいた世界での話。
タートル号が、ブラックホールに飲み込まれた宙域付近。そこに停泊をしている、二つの宇宙船があった。
いずれの船も『海賊ギルド』の紋章が刻み込まれている。その二つの船同士の交信。
ギルド幹部「『ソウルジェム』というものを知っているかね?クリスタルボーイ」
ボーイ「知らんな」
ギルド幹部「だろうな。太古の昔…いわばおとぎ話に登場するような、陳腐な噂だからな。…だが、もしそれがあれば…我々は宇宙そのものを塗り替えられるかもしれんのだ」
ボーイ「そんな話のために俺を雇ったというのか?」
ギルド幹部「ククク…そう言うな。これは確かな情報なのだ」
ギルド幹部「この付近で観測されたブラックホール…。今はもう消滅してしまっているが、我々がそのブラックホールのデータの解析に成功した」
ギルド幹部「そしてそのブラックホールが行きつく先…その先に、一つの反応があったのだよ」
ボーイ「ほう」
ギルド幹部「我々の知るところによる、ソウルジェムという宝石…伝えられているデータに似たエネルギーの反応がな。非常に強いパワーを秘めた宝石だ」
ギルド幹部「その石の力は強く…伝説では、どんな願いでも一つだけ叶える事が出来る程の力を秘めた物と言われているのだ」
ボーイ「くだらんお伽話だな。それで、俺にその石コロを探しに行けというのか。ギルドにも随分舐められたものだ」
ギルド幹部「そう言うなクリスタルボーイ。…お前をこの役に選んだのは、理由がある」
ギルド幹部「そのブラックホールに、飲み込まれた船が一隻あった。…タートル号だ」
ボーイ「…!コブラ…」
ギルド幹部「我々のこの時代に、ソウルジェムは存在しない。だが、ブラックホールの先には確かに、太古の昔に存在したといわれるソウルジェムのデータに似た反応が出ているのだよ」
ギルド幹部「だがホール事態は非常に小さいものでね。ギルドの艦隊が入り込めるほどではない。まして、銀河パトロールとの抗争もあって戦力をそちらに削る事もできない」
ボーイ「…つまり、俺に乗り込めと?」
ギルド幹部「君が適任なのだよ、クリスタルボーイ。依頼は必ず遂行する、無敵の殺し屋…まして君は、そのコブラに因縁があるのだろう?」
ボーイ「…」
ギルド幹部「我々ギルドの繁栄に、ソウルジェムが必要なのだ。そしてこれは本部からの直々の命令だ。…行ってくれるな、クリスタルボーイ」
ボーイ「…いいだろう。くだらんお伽話に付き合ってやる」
ボーイ「…ソウルジェムを手に入れ、コブラを、この手で…。…舞台としては上出来だ」
ギルド幹部「必要なら部下も数名つけるが?」
ボーイ「必要ない。宝石の数個など、俺一人で十分だ」
ボーイ「コブラもそうであるように…俺も、殺しに関しては一人の方が仕事をしやすいんでね」
ギルド幹部「いいだろう。それでは、君の船の前に人工ブラックホールを作る。また、君の船にもその装置を用意しておいた。帰還の時に使用したまえ」
クリスタルボーイの乗る小型の船の前に、黒い渦が巻き起こる。そして、それに飲み込まれていく一隻の宇宙船。
ボーイ「クックック…俺とお前とは、やはり深い因果で結ばれているようだな。…今度こそ貴様の息の根を止めてやる…コブラ!」
―― 次回予告 ――
さやかの特訓が始まった!一人前の魔法少女になれるよう、俺も勿論手伝うつもりだぜ。
だがそう簡単な話じゃないみたいだ。あの赤い魔法少女が、今度はそのさやかに因縁をつけてきた。
一方、俺の方にも一人、厄介な来客が現れやがった!クリスタルボーイぃ!?ったく、ゴキブリ以上にしつこい野郎だねあのガラス人形は!
だがヤツの目的は俺を倒すだけじゃないみたいだ。何か別の目的があるらしいんだが…ロクでもない事に決まってるな!お前の思い通りにはさせねぇぜ!
次回【ソウルジェムの秘密】で、また会おう!
第4話「ソウルジェムの秘密」
さやか「く、ゥ…ッ!はぁ、はぁ…!」
美樹さやかは、苦戦をしていた。
青の魔法剣士に対するのは、落書きの魔女・アルベルティーネ。弱ったさやかに対しここぞとばかりに使い魔を繰り出してくる。
魔女の攻撃は、落書きを実体化させ突進をさせる事。飛行機の落書きにのった使い魔達は次々とさやに特攻し、襲い掛かってきた。
さやか「ぐ…このぉッ!!」
さやかは剣で次々と使い魔を斬り捨てていくが、それだけに留まってしまっている。魔女の攻撃を防ぐ事に精一杯で踏み込めない。完全なる劣勢。
さやか(駄目…突破口が見えないっ…!このままじゃあ…!)
まどか「ね、ねぇ、マミさん、コブラさん!やっぱりさやかちゃん一人じゃ無理だよっ!助けてあげないと…っ」
マミ「…」
コブラ「…さやか、助けが必要かい?」
だがコブラの問いかけに、さやかは力強く答える。
さやか「必要ないッ!!あたしは…まだやれるッ!!」
まどか「…そんな、さやかちゃん…!」
さやか(このままじゃ、いずれあたしの体力が尽きて、負ける…!)
さやか(…それならいっそ…!)
さやか「でやあああああッ!!」
マミ「…っ!美樹さん!?」
決心をしたさやかは、勢いよく魔女に向けて駆けていく。つまり、防御を完全に捨てた体勢。使い魔達の突進を次々と受けるが、それでもさやかが止まる事はない。
攻撃を受けた瞬間に、回復。彼女の契約が癒しの祈りによるものなので、ダメージに対する回復力は他の魔法少女とは桁違いにある。さやか自身がそれを知っているのだった。
だから、捨て身の特攻に全てを賭ける。
魔女「!!」
この特攻に魔女も驚いたのか、涙を流すような悲しい表情を浮かべる。だがそんな事は構いもしない、魔女の眼前までさやかは迫っていた。
さやか「これで、トドメだぁーーーっ!」
魔女の眉間に、剣を突き刺す。
血のような黒い液体が噴出したかと思うと、魔女は消滅した。
そして結界が解かれ、四人は元いた路地裏へと戻る。
さやか「はぁ、はぁっ…!」
さやかの手には、魔女を倒した証…グリーフシードがしっかりと握られていた。
まどか「さやかちゃんっ!」
膝をつき、荒く息をするさやかに駆け寄るまどか、マミ、コブラ。まどかはいち早くさやかに駆け寄ると力の抜けたようなさやかを抱きしめた。
さやか「へ、へへ…あー、やっぱりまどかはあたしの嫁だねー」
まどか「さやかちゃん…っ!大丈夫…!?あんなに、あんなに無理しなくても…!」
涙を浮かべながらさやかをギュッと抱きしめるまどか。
さやか「無理しなくっちゃ。あたしも早く、一人前の魔法少女にならなくっちゃね。…どうだったかな、マミさん。あたしの戦い方」
初めての実戦、魔女との戦いにさやかは一人だけで戦いたいとマミとコブラに申し出た。初め、マミは反対をしていたがさやかの強い希望があり、それを通してしまった。
マミ「…そうね。初めての戦いにしては上出来よ。自分の魔法能力をもう理解しているし、それをしっかり活かせている」
マミ「ただ…少し、美樹さんの戦いは捨て身すぎるわ。あんなにダメージを受けてしまっては、ソウルジェムの濁りも強くなってしまう」
言いながらマミはさやかに近づき、さやかのソウルジェムとグリーフシードをくっつけ、穢れを取り除いた。ソウルジェムは光を取り戻し、さやかもまどかからそっと離れ、立ち上がる。
さやか「でも、あたしの持ち味ってそれくらいしかないと思うし…」
マミ「だからこそよ。ああいう戦い方は余程苦戦した時だけにしないと…。コブラさんはどう思う?」
コブラ「ああ、悪い。さやかの肌に見とれて戦いに集中できなくってね。いやー、なかなか露出度の高い衣装だ。三年後が楽しみだぜ」
さやか「え… お、おわぁぁっ!?」顔を赤くするさやか。
マミ・まどか「…」
コブラ「ハハ…ハって、あ、いやぁ、ジョーダンだよ、ジョーダン」
QB「それじゃあ、その真っ黒になったグリーフシードはボクが貰おうか」
さやか「?どうするの?」
キュウべぇにグリーフシードを手渡すさやか。そしてキュウべぇは、そのグリーフシードを背中に取り込む。
QB「きゅっぷい」
まどか「えぇ!?た、食べるの!?」
QB「これもボクの役目だからね」
コブラ「随分な偏食だな。あんなもの、健康に良くっても食う気にゃなれないぜ」
QB「別に好き好んで食べるわけじゃないよ。ただ、あのままじゃあグリーフシードが魔女化してしまうから」
コブラ「…」
コブラ(やはりおかしいな、グリーフシードは魔女から生まれる種だ。そいつが魔法少女の穢れを吸い込むと、再び活性化し、魔女が孵化するだと?)
コブラ(そもそも、その穢れとかいうシステムとそいつを吸い込む種…。つまり魔法少女と魔女は、単なる別種族じゃない事を現している)
コブラ(…ソウルジェムとグリーフシード。そして、そいつを食らうキュウべぇ。やはり全ては無関係じゃないって事だな)
マミ「どうしたのかしら?コブラさん」
コブラ「いや、マミの肌もなかなか綺麗で悪くないなと感心していてね」
マミ・さやか・まどか「…」
コブラ「すいませんでした」
マミ「さてと、それじゃあそろそろ解散にしましょうか?今日の見滝原パトロールと特訓はこれまでよ」
さやか「うん、まどかもマミさんもコブラさんも、付き合ってくれてありがとう!」
マミ「大切な後輩のためだもの、当然よ。それに、美樹さんは覚えが早いから…確実に成長しているわ。次からは、一緒に戦いましょう」
さやか「…!は、はいっ!」
コブラ「さぁーて、それじゃあ巴さんのお宅でディナーパーティとしゃれ込みますかね」
まどか「あ、あの…わたしもお邪魔していいですか?」
マミ「ええ、勿論大歓迎よ。一人で食べるのよりずっと楽しいし…それに、鹿目さんも大切な後輩ですもの。」
まどか「ありがとうございますっ! …ティヒヒ、実はお夕飯、マミさんのお家で御馳走になるって言ってきちゃったんです」
マミ「うふふ、それなら大丈夫ね。」
さやか「あ、ごめんなさいマミさん!あたしは、ちょっと寄るところがあって…」
マミ「あら、そうなの…?残念ね」
まどか「さやかちゃん、寄るところって、どこか行くの…?」
さやか「な、なんでもないのっ!大したところじゃないからっ!…それじゃみんな、また明日ーっ!」
何か慌てたように夜道を駆けていくさやか。それを見送る三人。そして…。
コブラ「… … …それじゃあ、尾行開始といきますかぁ。にぃひひ」
マミ「ええ、うふふ」
まどか「ウェヒヒヒヒ」
QB「人間は何を考えているのか分からないね」
――― 上条恭介家の玄関先。
聞こえてくる美しいバイオリンの音色は、そこに恭介がいる事を証明していた。
しかしさやかは、その音色を玄関先で聞いているだけだった。
さやか「…」
さやか(恭介…退院したなら連絡くれればいいのに…)
さやか(…練習、してるんだ…)
さやか(…)
そっと踵を返すさやか。しかし、その先には一人の少女が立っていた。
さやか「!」
杏子「折角来たのに会いもしないで帰る気かい?随分奥手なんだねぇ」
さやか「だ、誰…?」
杏子「…この家の坊やのためなんだろ?アンタが契約した理由って」
さやか「…ッ!アンタも、魔法少女…!?」
杏子「…おいおい」
杏子「先輩に向かって『アンタ』はねーだろ?生意気な後輩だね」
その様子を、物陰から見ている三人。
コブラ「…げぇ、アイツは…」
まどか「あの時の人…!今度はさやかちゃんに襲い掛かるつもり…なのかな…?」
マミ「あれは…佐倉さん…!」
コブラ「!?知り合いか、マミ」
マミ「ええ。…二人も佐倉さんに会ったことがあるの?」
コブラ「会ったなんてもんじゃないよ。この間、熱烈な歓迎を受けたところでね」
マミ「おかしいわ、佐倉さんは隣町を中心に魔女を狩っていた筈なのだけれど…」
まどか「この前はコブラさんを襲ってきたんです…。さやかちゃんに…何か用事、なのかな」
マミ「とにかく、私が直接話を…」
コブラ「いや、ここは少し様子を見ておこうぜ。かの女が何を目的にしているのか分からない。…危なくなったらすぐ前に出る準備はしておいて、な」
マミ「…そう、ね」
マミ(…佐倉さん…)
QB「…」
マミはソウルジェムを握り、コブラは左腕に右腕をかけながら、その会話を聞いている。
杏子「一度だけしか叶えられない魔法少女の願いを、くだらねぇ事に使いやがって。願いってのは自分のためだけに使うもんなんだよ」
さやか「…別に、あたしの勝手でしょ!アンタなんかに関係ない!」
杏子「…気に入らないね」
杏子「そういう善人ぶってる偽善者とか、何を捨てても構わないとか考えてる献身的な自分に惚れてる姿とかさ」
杏子「…ホント、気に入らない」
さやか「…もう一度言うよ。あたしが何を願おうと、何のために戦おうと…アンタには関係ない事でしょ。何?それとも単なる憂さ晴らし?」
杏子「… …美樹さやか…だっけ?魔法少女として、あんたにちょっと指導にきたのさ」
さやか「必要ない。あたしには…仲間がいる」
杏子「…ぬるい。ま、指導ってのは建前さ。…実はあたしも、見滝原で活動を始めようと思ってね」
さやか「え…」
杏子「ここの魔女の発生頻度、異常に高いんだよねぇ。…まるで、何か大きな事が起きる前触れ、みたいな感じに。まぁとにかく、魔法少女としては絶好の狩場なわけ」
杏子「それなのにあんたらときたら特訓だの何だの…しまいにゃ、魔女になるであろう使い魔ですら倒しちまう始末だ。グリーフシードを集めるのに効率が悪すぎるんだよ」
さやか「…!放っておけって言うの!?」
杏子「人間四、五人食わせりゃ、アイツらは魔女に成長する。弱い人間を魔女が喰らい、あたしら魔法少女がその魔女を喰らう。…基本的な食物連鎖の話さ」
さやか「…!」
さやか「違う…間違ってる!!魔法少女っていうのは…。魔女から人を守るのが魔法少女なの!!…人を守らなきゃいけないのに、魔女に成長させるために人を食べさせるなんて、そんなの、間違ってる!」
杏子「…ばーっかじゃねーの。くだらない…くだらないくだらないくだらない。やっぱどこまでいっても巴マミの後輩だね」
さやか「っ、マミさんの事…知ってるの!?」
杏子「…どうでもいいじゃん。…それよりさぁ、アタシにいい考えがあるんだけど、どう?」
さやか「…」
杏子「アタシが協力してやるよ。今すぐこの坊やの家に魔法で忍び込んで、その手足を潰してやるっていうのはどう?」
さやか「…っ!?」
杏子「恩人に一言もかけないで退院するなんて、酷い話だよねぇ?…もう、この恭介っていう子は、アンタ無しでも生きていけるんだ」
さやか「…黙れ…黙れ、黙れ…!」
杏子「もうコイツにアンタは必要ない。どんどんアンタから離れていく。…それならいっそ」
杏子「もう一度…今度は手足を使えなくして、アンタ無しじゃあ生きられない身体にするのさ。なぁに、自分でやりづらいって言うんじゃ、アタシがやってやるよ」
さやか「…あんただけは…」
さやか「あんただけは、絶対に…絶対に許さないッッ!!」
杏子「…へへ、それじゃあ…場所を移そうか?ここで戦うわけにいかないだろ?」
・
まどか「… … …」
コブラ「俺達も行くぜ。ここで出て行って戦闘になったら面倒だ、広い場所に出たら…だ。いいな、マミ」
マミ「…っ。え、ええ…」
マミ(…佐倉さん。貴方は…何が目的なの…?)
――― 大きな歩道橋の上、さやかと杏子は移動をし、お互いに対峙をしている。
杏子「ここなら邪魔は入らないね。…さぁ…始めようか?」
そう言って杏子はソウルジェムを使い、変身する。自分の身の丈ほどある巨大な槍を器用に振り回し、戦闘態勢をとる。
さやか「…!」
さやかがソウルジェムを取り出そうとした瞬間…。
まどか「さやかちゃんっ!!」
さやか「!まどか!それに、マミさんに、コブラさん!」
さやかに駆け寄るまどか、マミ。ゆっくりと後ろから歩いてくるコブラ。
杏子「…!巴、マミ…!」
マミ「佐倉さん…。久しぶりね、元気そうでよかったわ」
杏子「…アンタに心配されなくても、一人で出来てるよ。…魔法少女として、な」
マミ「…そう」
さやか「皆…。…邪魔しないでっ!あたしは、コイツを…!」
コブラ「落ち着きなよ、さやか。…それに、かの女はまだお前さんの腕じゃ勝てる相手じゃないぜ?」
さやか「そんなの、やってみなくちゃ…!」
マミ「…佐倉さん。貴方が何を考えているのか、私には分からないわ。けれど…何故美樹さんと戦おうとするの?貴方が嫌う『無駄な魔力の消耗』にしか思えないわ」
杏子「アンタには関係ないね。アタシは、新人の教育にきただけさ。魔法少女の何たるかを、ね」
マミ「指導には私があたっているわ」
杏子「アンタのやり方は…手緩い。このままじゃあ…コイツ自身が身を滅ぼしちまうのが、分からないかい?」
マミ「… … …」
杏子「本当は口だけで言うつもりだったんだけどね…生意気な奴で、あっちからやろうって言ってきたんだ。アタシからふっかけたわけじゃないよ」
さやか「…マミさん。戦わせてください!…あたしがどれだけ出来るようになったか…確かめる意味でも!」
マミ「美樹さん…」
その時、全員の前にふと現れる人影があった。
まどか「…っ!?ほ、ほむらちゃん…!」
ほむら「…」
現れた暁美ほむらは既に魔法少女に変身していた。五人をぐるりと見回すと、その中心に移動する。
コブラ「…!」
コブラ(俺の目でも、かの女がどの方角から来たか、分からなかった…!?)
ほむら「…巴マミ、佐倉杏子、美樹さやか…そして、コブラ…まどか。全員揃っているようね」
杏子「…魔法少女?…ああ、そうか。アンタがキュウべぇの言っていた、もう一人のイレギュラーか」
ほむら「これで、この周辺の魔法少女は、全員。例外もいるようだけれど」
コブラ「へへへ、まぁね」
まどか「…」
QB「何か用かい?暁美ほむら」
ほむら「貴方がこの場に居るのは少し嫌だけれど、仕方ないわね。…全員に、話しておくべき事があるの」
さやか「な、なによ…!」
ほむら「ただし、落ち着いて聞いて。そうじゃないと…私達全員、死ぬ事になるわ」
マミ「死ぬ…!?」
ほむら「ええ。間違いなく」
杏子「…初対面でいきなり現れておいて、そんな話を信じろっていうの?」
ほむら「ええ、そうよ。嫌ならいいわ。ただ私は、無益な戦いをする馬鹿の敵だということは覚えておいて」
杏子「なんだとっ…!」
さやか「…」
マミ「暁美さん、話って…?」
ほむら「…」
ほむら「貴方達に話しておくべき事がある。決して悪い話ではないわ。ただ、これから起こる事を、しっかりと把握しておいて欲しいの」
ほむら「二週間後、 この街に、ワルプルギスの…」
ほむらが話を始めた瞬間。
コブラ「…!さやか、避けろッ!」
さやか「…えっ?」
コブラはさやかの頭を抱えて、地面に伏せる。その瞬間…
二人の頭をかすめる、レーザー光。
ほむら「…ッ!?」
杏子「何だ…!?今の攻撃は、どこから…!?」
勢いよく伏せたせいで、さやかはソウルジェムを落としてしまう。
歩道橋の傾斜にそれは転がっていき…誰かの足元で、宝石は止まった。
さやか「あ…!」
コブラ「…!お前は…ッ!」
ボーイ「…こいつがソウルジェムか。なるほど、よく出来た宝石だ」
まどか「…!な、なに…!?なんなの、あの人…!」
六人の後方に立つ人物は、人間では無かった。
能面のような金色の顔、骨格のような金属の身体は、透明のガラスのような肉で覆われている。異形の怪物…少なくとも、少女達には、この世では存在し得ない存在。
コブラ「…クリスタルボーイ…!」
コブラは左腕の義手を抜き取ると、サイコガンを怪物に向けて構える。
杏子「!」
ボーイ「久しぶりだな、コブラ。まさかこんな場所で会うとは思わなかったが、やはりソウルジェムに関わっていたか」
マミ「…コブラさんの知り合い…?」
コブラ「…ちょっとした、な。なぁーに腐れ縁さ、出来れば二度と会いたくなかったがね」
ボーイ「くくく、そう言うなコブラ。俺は貴様に会いたくてここへやって来たのもあるんだからな」
コブラ「そいつは有難いね。でも出来れば美女に言われたい台詞だな」
ほむら(いけない、ソウルジェムが美樹さやかから離れている。これ以上離れたら…!)
さやか「か、返してよ!誰か知らないけど、それはあたしの物なのっ!」
ボーイ「ほう、この宝石には所有者がいるのか。てっきり鉱山から掘り出せるのかと思ったが、まさかこんな場所から反応が出ると思わなかったのでね」
コブラ「そいつを返してもらおうかガラス人形。お前には必要ない物だ」
ボーイ「…ふふふ、それが、必要なんだよ」
まどか「あの人は、一体…?」
コブラ「クリスタルボーイ…俺の居た世界の、殺し屋さ。悪の組織の幹部…なんて言った方が分かりやすいかな。少なくとも俺達の味方じゃない事は確かだ」
マミ「あの身体は…人間じゃない…!?」
コブラ「サイボーグだ。化け物と言ったほうが似合うね。俺が何度倒しても、また俺の前に現れる…ゴキブリみたいな野郎さ」
コブラ「クリスタルボーイ!何故この世界にお前がいるのか教えてもらおうかッ!」
ボーイ「俺がここにいる理由か…いいだろう、教えてやる」
ボーイ「一つは、コブラ。お前の後を追ってきたのさ。お前の足取りをようやく掴んでね、ブラックホールを辿ってこの世界に足を踏み入れたのが分かったからな」
ボーイ「そしてもう一つは…この石コロを探しにきた」
ボーイは掌で、さやかの青のソウルジェムを転がしながら言う。笑顔はない、能面のような表情がニヤリとほほ笑んだような錯覚を全員が受ける。
ほむら「…!何故ソウルジェムの事を…!」
ボーイ「太古の昔にあったと言われる、魔法の宝石…俺のいた世界にはそんな伝説があってね。そいつがこの世界に存在すると聞いて探しに来たが…まさかこんなに容易に手に入るとはな」
ボーイ「そこの餓鬼に礼を言わなければな。お前さんのおかげで仕事が早く済みそうだ」
さやか「…っ!」
コブラ「海賊ギルドがソウルジェムを狙っているってのか。驚いたね、いつからそんな少女趣味になったんだ?」
ボーイ「この宝石には随分な力があるそうだな。…魔法。そう、まるで願い事を叶えるかのような、魔法の力が」
QB「…!」
ボーイ「こいつの持つ膨大なエネルギー…そいつをギルドは求めているそうだ。くだらん夢物語だと思っていたが、現物が手に入ったのなら俺の仕事は完了だ」
ほむら「止めなさい!今すぐソウルジェムを返さないと…」
ボーイ「そう言われて素直に返すとでも思うのか?俺は今すぐこの場でこの宝石を砕いてもいいんだぞ」
ほむら「…く…っ!」
ボーイ「コブラ。貴様と決着をつけたいと思っていたが、また次回にしておこう。今は元の世界に戻る事にしておくよ、クク」
コブラ「…!戻れるというのか!」
ボーイ「どうかな」
その時、轟音を立てて歩道橋の真上に何かが接近してきた。
クリスタルボーイは、その何かに向かって跳躍をする。見たこともないような形の飛行機…宇宙船と言ったほうが正しいのだろう。
コブラ「ッ!待て、ボーイ!」
ボーイ「それじゃあなコブラ。せいぜいこの世界を楽しむといい」
さやか「ま、待ってよッ!あたしのソウルジェム…!!」
宇宙船はゆっくりと旋回をすると、空に飛び立っていく。
…そして、次の瞬間。
さやか「…ぁ…っ」
まるで糸の切れた人形のようにその場に倒れるさやか。
杏子「…!?な、なんだ…どうしたんだよ…!?」
杏子はさやかが倒れる前にその身体を抱き留め…そして、その異常事態に気付く。
杏子「…!どういうことだオイ……! こいつ…死んでるじゃねえかよ!!」
まどか「… … …え?」
マミ「…死ん、で…?」
まどか「そ、そんな、どういう…?」
QB「まずいね、魔法少女が身体をコントロールできるのはせいぜい数百メートルが限度だ。離れすぎてしまったようだね」
マミ「! キュウべぇ…それって…!?」
ほむら「…ぐ、っ…!」
その時、頭上にもう一つの飛行物体が現れる。轟音に気付き、コブラは上を見上げた。
コブラ「タートル号…レディ!」
レディ「コブラ、急いで!クリスタルボーイの宇宙船は急速で地球から離れようとしているわ!このままだと…!」
コブラ「ああ、今行く!…まどか、さやかの方を頼むぜ!」
コブラ「さやかのソウルジェムは…必ず俺が取り戻してくる!」
まどか「さやかちゃん…さやかちゃん!ねぇ、返事してよっ!さやかちゃん!」
コブラの声には反応せず、必至にさやかの身体を揺さぶるまどか。
タートル号は歩道橋にギリギリまで寄り、乗車口を開ける。急いでそれに飛び込もうとするコブラ。
マミ「ま、待って!コブラさん!私も行くわ!」
コブラ「!」
マミ「わけが分からないけれど…ソウルジェムを取り戻さなくちゃ!私だって手伝えるわ!」
コブラ「マミ…」
ほむら「私も行くわ。…このままじゃ、まずい」
コブラ「…!分かった、助かるぜ2人共!」
タートル号が、コブラ、マミ、ほむらを乗せ飛び立った後。
さやかの身体を必死に抱きしめるまどか。そして…キュウべぇに詰め寄り、首を鷲掴みにする杏子。
QB「苦しいよ、杏子」
杏子「どういう事だよ… なんで、コイツ…死んでるんだよ!!てめぇ、この事知ってたのかよッ!!」
QB「壊れやすい人間の肉体で魔女と戦って、なんてお願いは出来ないよ。魔法少女とは、そういうものなんだ。便利だろう?」
まどか「さやかちゃん… さやかちゃん…っ!」
QB「まどか、いつまで呼び続けるんだい?『そっち』はさやかじゃないよ」
QB「またイレギュラーが増えたのは本当に驚きだけれど、とにかくコブラ達が『さやか』を取り戻してくれるのを願うばかりだね」
杏子「なんだと…」
QB「魔法少女である君たちの肉体は、外付けのハードウェアでしかない。コンパクトで安全な姿が与えられ、効率よく魔力を運用できるようになるのさ」
QB「魔法少女の契約とは」
QB「君たちの魂を抜き取って、ソウルジェムに変える事を言うのさ」
杏子「ッッッ!!っざけんなぁ!! それじゃあ…アタシ達、ゾンビにされたようなもんじゃねえか!!」
QB「むしろ便利だろう?いくら内蔵を壊されようが血を流そうが、魔力で復活ができる。ソウルジェムを砕かれない限り、君たちは無敵なんだ」
QB「弱点だらけの肉体より、余程戦いでは便利な筈だ」
まどか「…酷いよ… 酷すぎるよっ…」
まどか「こんなのって… 酷すぎる…!」
クリスタルボーイの乗る宇宙船を眼前に捉えたタートル号。
コブラ「レディ、このままヤツの宇宙船に特攻して、でかい風穴をあけてくれ。そこから突入する。さやかのソウルジェムを無傷で取り返さなくちゃいけねぇ」
レディ「分かったわ。加速ならこっちの方が段違いに上よ、任せて」
コブラ「オッケー。…準備はいいかい?マミ、ほむら」
既にソウルジェムを使い、魔法少女となっているマミとほむら。しかしマミの表情はどこか優れないようだった。
コブラ「マミ」
マミ「…何が何だか、分からないの。…美樹さんが何で…倒れてしまったのか。ソウルジェムが身体から離れてしまったから?そんな事、知らない…!」
マミ「私も…ああなっちゃうの?ソウルジェムが離れると…死んでしまうの?」
マミ「分からない…もう何も、分からないッ…!」
コブラ「…マミ。とにかく今は、さやかのソウルジェムを取り戻す事だけを考えろ。話はその後だ」
マミ「……う、うぅ…ッ…」
コブラ「マミッ! アンタの大事な『後輩』だ! 助けられるのは…アンタしかいないッ!!」
マミ「…!!」
レディ「距離、50。衝撃に気を付けて…!このまま突っ込むわよ!」
ほむら「…」
・
ボーイ「…ふふふ、やはり来たか、コブラ」
ボーイ「貴様の墓標は、元の世界ではないようだな。…この世界だ」
―― 次回予告 ――
クリスタルボーイの野郎、ふざけた真似してくれるよ全く!さやかのソウルジェムを奪ったうえで俺を殺すだと?へっ、上等じゃねぇか!
奴の船に乗り込んだ俺とマミとほむら、ついにボーイとの決闘だ。相変わらず俺のサイコガンは効かないわ、魔法も物ともしない。いやだねー、ホント!
だが諦めちゃいられねぇ!さやかのソウルジェムは絶対に取り戻してみせるぜ!俺達は決死の作戦であの野郎に立ち向かう事になったっ!
次回【決戦!クリスタルボーイ】で、また会おう!
第5話「決戦!クリスタルボーイ」
レディ「距離30、20…!皆、どこかに掴まって!間もなくクリスタルボーイの宇宙船と衝突するわ!」
コブラ「了解!派手にやってくれ!」
ドォォォォンッ!!
マミ「きゃあああっ!!」
小規模の爆発が起きたように大きく揺れる、タートル号船内。
しかし狙いは完璧。タートル号はクリスタールボーイの操縦する宇宙船の後部に体当たりをかけ、見事に風穴を開ける。
コブラ「完璧だぜレディ!カースタントマンでもこの先食っていけそうだなっ!」
機体上部のハッチが開き、コブラは急いで梯子を上り外へと出ようとする。
コブラ「御嬢さん方、急ぐんだ!ヤツの宇宙船に飛び移るぞ、着いてこい!」
ほむら「ええ」
マミ「…」
コブラ「…マミッ!」
マミ「…! 分かったわ…今はとにかく、美樹さんのソウルジェムを…取り戻す!」
コブラ「上出来だ!いくぜ、皆っ!」
レディ「コブラ!忘れ物よ!」
レディがコブラに向けて、箱を投げた。それをキャッチするコブラ。
レディ「シガーケースよ。葉巻が切れた時のために、ね」
コブラ「…! あぁ、レディ。ありがとよ!」
タートル号上部船体。高速で移動を続け、クリスタルボーイの宇宙船を追う船体の外は激しい風が吹きすさぶ。
ハッチから外に出た瞬間、その豪風に吹き飛ばされそうになるほむらとマミ。
コブラ「俺に掴まれ!ヤツの宇宙船に移動する!」
マミ「移動する、って…どうやって!?」
コブラの腕にほむらが、肩にマミが掴まりつつも、マミは疑問の声を投げかける。その声にコブラは不敵な笑みを浮かべるのだった。
コブラ「こうするのさ」
コブラの空いている腕のリストバンドから、細いワイヤーが勢いよく発射される。ワイヤーの先端の刃が見事にクリスタルボーイの宇宙船の風穴内部に突き刺さり、コブラはその安定性を確認した後…。
コブラ「振り落とされるなよぉッ!!」
ほむら「…!!」
マミ「きゃあああああああああああああっ!!」
高速で縮まるワイヤー。三人の身体は吸い込まれるように、クリスタルボーイの宇宙船に移動していく。
レディ「…コブラ…皆!無事でいて…!」
――― 一方、地上。抜け殻となったさやか、それを抱きかかえるまどか。そして、キュウべぇに詰め寄る、杏子。
杏子「騙してたのかよ、あたし達を…っ!」
QB「騙していた?随分な言い方だね。さっきも言っていた通り、弱点だらけの人体で戦いを続けるより遥かに安全で確実なやり方なんだよ」
まどか「酷すぎるよ…っ!さやかちゃん、必死で…!強くなる、って…頑張るって…戦ってたのにっ…!」
QB「君たちはいつもそうだね。真実を伝えると皆決まって同じ反応をする。どうして人間は、そんなに魂の在り処にこだわるんだい?」
QB「ワケがわからないよ」
杏子「…!!畜生…っ!!ちくしょおおおっ!!」
やり場のない怒り、悲しみ…全てをぶつけるように、杏子は月夜に吼えるように叫んだ。
まどか「…コブラさん…っ!お願い…さやかちゃんを、助けて…!」
月を背景に、遥か上空を飛ぶ二隻の宇宙船。見えずとも、まどかはそこに向けて、祈った。
コブラ「うおっ、とぉ!!」
コブラは自分の身体を下にして、地面に滑り込む。三人はクリスタルボーイの宇宙船内に侵入を成功させた。
コブラ「無事かい、2人とも」
ほむら「…ええ、何とか」
マミ「む、無茶苦茶なやり方だったけど…どうにか無事だわ」
コブラ「そいつぁ良かった。…ここは…貨物室か?」
三人が侵入した場所は、無機質な、まるで鉄の箱の中のような場所。周りに数個の貨物があるだけの殺風景な部屋だった。
そして…その奥。
クリスタルボーイは、まるで三人を待っていたかのようにその場に立っていた。
ボーイ「遅かったじゃないかコブラ。待ちくたびれたぞ」
コブラ「待たせたなガラス細工。延滞金はしっかり払わせてもらうぜ」
コブラは左腕の義手を抜き、サイコガンを構える。マミとほむらも、異形の相手に向かい戦闘態勢をとるのだった。
【人工ブラックホール、生成準備完了。本船の前方に超小型のブラックホールが発生します。生成まで、あと10分…】
コブラ「…!?なんだとぉ!?」
ボーイ「ククク、タイムリミットはあと10分。コブラ、朗報だ。元の世界にもうすぐ戻れるらしいぞ」
ほむら「…!どういう事…!?」
ボーイ「聞こえなかったのか小娘。あと10分でこの船はブラックホールに吸い込まれ、異次元空間へとワープする。到着先は…我々の住む、未来の世界だ」
ほむら「!!」
ボーイ「元の世界に戻るのが目的だったのだろう?感謝しろコブラ、俺はお前の命の恩人だ」
コブラ「お前がぁ?ごめんだね、どうせ恩を売られるなら美女がいいに…決まってらぁッ!」
言いながらコブラはサイコガンの砲撃を次々とクリスタルボーイに浴びせる。
しかし、その砲撃の全てはボーイの体内で屈折し、素通りをしていくのだった。
マミ「!?こ、コブラさんの攻撃が…!」
ボーイ「クククク…忘れたわけではあるまい。サイコガンは俺には無力だ」
ボーイ「しかし、礼を言わせてもらうよコブラ。1つだったソウルジェムを一気に3つまで増やしてくれるというのだからな」
ボーイ「このままその女どもをワープさせれば…あとはその身体からソウルジェムを剥ぎ取ればいいだけだ。ふふふ…」
コブラ「どうかな。その前にお前にでかい風穴を開けてやるぜ」
ボーイ「ククク…はっはっはっは!!笑わせるな。コブラ、お前は今俺の掌の上で踊っているに過ぎん」
ボーイ「お前の行動パターンは実に分かりやすいよ。情に流されれば、貴様はきっと俺の船に乗り込んでくる…。そう思って、あえて貴様をあえてここへ呼び込んだのだからな」
コブラ「何だと…!」
ボーイ「どうやらソウルジェムとやらは、その女達の身体と繋がっている…いわば、『魂』のようなもののようだな。先程の青髪の女で確信させてもらった」
ボーイ「このまま俺が元の世界に戻ろうとすれば…貴様たちは必ずここへやってくる、というわけだ。それも1人ではない、わざわざソウルジェムを持つ女を2人も連れて、な」
マミ「…くッ…!」
ほむら「…」
ボーイ「コブラ。何故俺がこの貨物室を戦場に選んだか分かるか?此処には、貴様の武器である『臨機応変』が使えないのだよ。あるのは空の鉄箱だけだ。貴様の武器となるような物は、ない。お得意の逃げ回る戦法も場所が限られているぞ」
ボーイ「おまけに俺の特殊偏光クリスタルにはサイコガンは効かん。…さぁ、どうやって俺を倒すつもりかね?…コブラ!」
【ブラックホール、生成完了まで、あと8分です】
コブラ「!」
ボーイ「ソウルジェムは、この扉の先のコクピットにある。…あと8分。俺を倒して、この扉を潜って…奪い取れるかな?」
コブラ「…やってみせるさ!」
コブラは腰のホルダーから愛銃の『パイソン77マグナム』を抜き、3連射する。
しかしその弾丸の全てを、クリスタルボーイは右腕の鉤爪を盾のように使い、防御した。鉤爪に穴は開く威力ではあるが、その弾は身体にまでは届かない。
コブラ「!…ちっ…!」
ボーイ「一度食らった手をもう一度食らいはしない。…さぁ、次はどうするつもりだ?」
ほむら「…行くわ」
コブラ「…!」
カチリ。
微かに、時計の秒針のような音が聞こえたような気がした。その瞬間、暁美ほむらはクリスタルボーイの目の前にいつの間にか移動し、拳銃を構えていた。
コブラが次に気付いた瞬間…
クリスタルボーイの周囲は、鉛弾で包囲されていた。
コブラ・マミ「!」
ボーイ「何…!」
数十発、いや、数百発の弾丸が、クリスタルボーイの身体に次々と命中をしていく。その衝撃にクリスタルボーイは思わず仰け反る…が。
倒れはせず、一歩後ろに下がっただけで留まった。全ての弾丸はクリスタルボーイの身体に軽く埋まった程度で、穴すら開いていない。
ほむら「…!」
ボーイ「驚いたな…何だ、今の攻撃は。貴様の拳銃では不可能な連射だ…どうやった?」
ほむら「く…っ!(この銃じゃあ…威力が、足りない…!?)」
ボーイ「ククク…まぁいい。そんな安物の骨董品では俺の特殊偏光クリスタルには傷すら …つかんのだァッ!!」
ボーイは右の鉤爪を開き、ほむらに向けてビームガンを放つ。
ほむら「ッ!!」
ボーイ「!」
カチリ。また秒針の音が聞こえる。瞬間移動でもするかの如く、ほむらはその攻撃を素早い動きで避け、後ろへと下がっていく。
その瞬間…マミは次々と武器である単発式銃火器をスカートから取り出し、宙に浮かせる。
マミ「次は、私よッ!お人形さん!」
一発、それを撃つごとに銃を捨て、次の銃に切り替える。しかしその銃弾をクリスタルボーイは鉤爪で弾き、貨物室の天井へと跳弾させる。
ボーイ「そんな物が俺に効くとでも…思っているのか!!」
マミ「思っていないわ。…だから…こうするのよ!」
跳弾をして、開いた天井の穴が俄かに光り始めたかと思うと…その光から、絹のような魔法のリボンが勢いよく出現し、クリスタルボーイの身体に巻きついていく。
ボーイ「…!これは…!」
マミ「これが私の戦い方よ!…一気に決めるわ!」
マミは魔力を集中させ、巨大な、大砲のような銃器を目の前に出現させる。そしてその銃口をクリスタルボーイの方へ向けた。
マミ「喰らいなさい! ティロ・フィナー…!!」
ボーイ「…ふんっ!!」
マミ「…!!」
クリスタルボーイは自分の身体に巻きついた魔法の糸を…自らの腕力で、引き千切る。そして鉤爪をロケットのようにマミに飛ばし、攻撃をした。
マミ「きゃあッ!!」
鋭利な刃物のような、その爪。マミはどうにか単発式銃火器の銃身でその攻撃を受け止める、が…その衝撃はすさまじく、マミの身体は天井へと叩きつけられてしまう。
マミ「あぐゥっ!!」
コブラ「!マミ!!」
ボーイ「…魔法。ソウルジェムの力とやらか。…少し驚いたが、サイボーグのこの俺には通用しないようだな」
コブラ「畜生…いい加減にしやがれ、この野郎!」
コブラは再び、サイコガンの連射をクリスタルボーイに浴びせる。…が、やはりその光はクリスタルボーイを素通りしていく。
ボーイ「…次は貴様だ!死ね、コブラッ!!」
クリスタルボーイはコブラに向けて突進をし、鉤爪を大きく振り、その身体を切り裂こうとする。
コブラ「く、ッ!」
コブラはその攻撃を次々と避ける、が…相手も並の瞬発力ではない。コブラが避ければ、次の手を繰り出し…いずれ、回避行動は追いつかれてしまう。
ガキィィィンッ!!
鈍い金属音。コブラのサイコガンが、クリスタルボーイの鉤爪に掴まれた。
ボーイ「ふふふ…。…っ、はぁッ!!」
クリスタルボーイはコブラの左腕を掴んだまま、勢いよくコブラを投げ飛ばす。
コブラ「どわぁぁぁぁぁあっ!?」
身体が大きく宙を舞う。物凄いスピードで、コブラは鉄箱の山に叩きつけられた。派手な金属音が幾重にも音を立て、コブラの身体は鉄箱の山へと沈む。
ほむら「…!コブラ!」
ボーイ「…その程度では死なないのだろう?コブラ。今トドメを…刺してやる!」
ほむら「させない!」
カチリ。
クリスタルボーイの眼前に、突如として、安全ピンの抜かれた手榴弾が数個現れた。
ボーイ「何…!!」
ドォォ――――ン!!!
派手な音を立てて手榴弾が連鎖して爆発する。流石にその衝撃にクリスタルボーイの身体も吹き飛ぶ…が。クリスタルの身体には全く傷はついていなかった。
ゆっくりと立ち上がり、鉤爪をほむらの方向へ向ける。
ボーイ「相変わらず攻撃の読めないヤツだが…。言った筈だぞ…そんな骨董品で俺の身体に傷はつかん、と」
ほむら(…時間稼ぎにはなったようね…。やはり、手榴弾程度じゃアイツの身体はびくともしない…!)
ほむら(…とにかく、今はコブラを助けないと!)
マミ「はあああっ!!」
次の瞬間、マミがクリスタルボーイに向けて特攻をかける。銃器を鈍器代わりにし、その頭部を次々と殴る。
マミ「私のッ、後輩を…返しなさいッッ!!」
多少ダメージがあるのか、クリスタルボーイは反撃せず、しばしその攻撃を受ける。
ほむら(…今のうち…!)
カチリ。
ほむらはコブラの近くに瞬間移動をし、倒れているコブラの身体を起こそうとする。
ほむら「…!」
しかし、助けに行った筈のコブラは既に起き上がり、シガーケースから葉巻を取り出してジッポライターで火をつけていた。
ほむら(そんな…生身の人間なのよ!?魔法でガードしているわけでもないのに…あんな勢いで叩きつけられても…平然としているなんて)
コブラ「よぉ、ほむら。葉巻の煙は大丈夫かい?」
ほむら「そんな事言ってる場合じゃ…!」
コブラ「アンタに一本プレゼントだ」
コブラはシガーケースから葉巻を一本取り出し、ほむらに手渡す。
ほむら「!! 今はこんな… … …。 !…これ、葉巻じゃ…ない?」
コブラ「超小型の時限爆弾さ。先端のスイッチを押せば、5秒で爆発する。局部的ではあるが、おたくが今投げた手榴弾の数倍の威力はあるぜ」
コブラ「しかし、ヤツの懐に入ってそいつを爆発させる隙がない。…だが、君なら出来るんだろう?ほむら」
コブラ「時間を止めて動ける、君ならな」
ほむら「!!!!」
【ブラックホール生成完了まで、あと、5分です】
ほむら「…気づいていたの?私の能力に」
コブラ「それ以外に説明がつかないからさ。俺の目に見えない動きなんて、そう易々と出来るもんじゃない」
コブラ「魔法少女にはそれぞれ能力がある。マミは拘束系の魔法だし、さやかは回復が得意なようだな。…瞬間移動をするだけの能力かと思ったが、それじゃあさっきの銃弾や手榴弾の説明がつかない」
コブラ「時間を止める…いや、時間を『操れる』と言った方が適切かな?それがあんたの能力だ、ほむら」
ほむら「…!」
マミ「やああっ!っ、はぁッ!!」
クリスタルボーイをひたすら銃身で殴り続けるマミ。押しているようにも見えるが…クリスタルボーイは、反撃をしようとしていなかった。
ボーイ「…成程。その辺りの賞金首やギンガパトロール隊員よりは余程有能と見える。こうして受けるダメージも、通常の人間と比べて段違いに強い。魔法による身体能力の向上か」
ボーイ「だが、それが限界のようだな…!!」
マミ「ッ!!」
クリスタルボーイはマミの銃を一瞬で掴み、身動きを取れなくする。瞬間、空いている鉤爪をマミの腹へと突き出し…。
ドォンッ!!
ほむら「!!」
ボーイ「ぐ、…ッ!」
見ればコブラはいつの間にかパイソンを抜き、クリスタルボーイに向け発射していた。間一髪のところ、クリスタルボーイは後ろに仰け反り、マミはその間に後ろへと下がる。
コブラ「ほむら。お前さんにしか頼めない事だ。…そいつをヤツの腹に埋め込んできてくれ」
ほむら「…」
ほむら「もし、嫌だと言ったら?」
コブラ「… … …」
ほむら「正直に言うわ。私が此処へ来たのは、まどかの悲しむ顔が見たくなかったから。美樹さやかを失えば、きっとまどかの心に大きな穴がきっと空いてしまう」
ほむら「でも、私だって命は大事よ。私がこの葉巻型の爆弾を、アイツの身体に埋め込んできて、どうするの?アイツの身体がそれより頑丈だったら?」
ほむら「私はまだ…生きて達成する使命がある。こんなところで死ぬわけにはいかない。私には、助けるべき人がいる」
ほむら「ここで私が逃げ出したら、どうするの?コブラ」
コブラ「…いいや、アンタはやってくれる。俺はそう信じている」
ほむら「信じる?私を?…何故?」
コブラ「アンタには、助けるべき人がいる。それと同時に…アンタには助けが必要だからだ」
ほむら「…!」
コブラは葉巻から紫煙をゆっくり吐き出し、不敵に笑いながらゆっくりと立ち上がる。サイコガンをクリスタルボーイに向けて構えると、その横で茫然としているほむらに向けて、視線は合わせず語りかけるのだった。
コブラ「ほむら、アンタは何かを抱えている。俺にはそれが何かは分からない。だが君はずっとそれに立ち向かっている。…俺が君と出会った時からだ」
コブラ「そしてその『何か』に怯え…助けを求めている。だから俺は、全力でアンタのそれを手伝うつもりさ」
ほむら「…何故、それを…!!」
コブラ「君は隠しているつもりでも、俺には分かるのさ。…女に嘘は何度もつかれてきたが、女の瞳に嘘をつかれた事は…ほとんどないからな」
ほむら「… … …」
コブラ「さやかを助け、全員でその『何か』に立ち向かう。君はその『何か』を知っているようだが…今はまだ何も話さなくてもいい。少なくとも、あのガラス人形を倒すまではな」
コブラ「だが…俺は守ってみせる!君を…君達をっ!!何があっても、守り抜いてみせる!!」
ほむら「…!!!!」
ボーイ「…少し油断をしたな。…次はないぞ、コブラ…!」
頭に弾丸の穴を開けながらも、クリスタルボーイは立ち上がり、こちらを睨む。
ボーイ「死ねぇぇ、コブラァァァーーーッ!!」
鉤爪を振りかざしながら、全力でコブラに向けて疾走してくるクリスタルボーイ。サイコガンの連射も構わず、コブラに向かう。
ほむら「…分かったわ。…あなたを信じるという事は『この時間軸では』…愚かなのかもしれない。…それでも…皆を、まどかを助けれられる可能性があるのなら…私は貴方に賭けてみたい」
ほむら「…不思議ね、少しだけ…そんな衝動に駆られたわ」
コブラ「…感謝するぜ、ほむら」
ほむら「貴方が礼を言う必要はないわ…コブラ」
ボーイ「ハァッハッハッハァーーーッ!!」
完全にコブラを捉えたと確信したクリスタルボーイは、笑いながら突進をしてくる。
カチリ。
だが、次の瞬間。クリスタルボーイの足が止まった。
ボーイ「…何…?」
特殊偏光クリスタルに埋め込まれた葉巻のタイマーは『00:00』と記されていた。
ドゴォォォォォ―――――――――!!!!
大きな爆発がクリスタルボーイの身体を包むように起こった。
ボーイ「うぐぉぉぉぉぉッ!!??」
僅かに、クリスタルの破片が辺りに散らばった。
気付けば、ほむらは、コブラの真後ろにいた。コブラはそれを見ると、にぃ、と笑顔を見せて再びクリスタルボーイに向き直る。
コブラ「美人に見とれて時間を忘れたか!クリスタルボーイッ!!」
サイコガンの連射。クリスタルボーイの特殊偏光クリスタルは先程の爆発で胸部に風穴があき、防御ができない状態となっていた。
正確にその穴を通るサイコガンの弾道は内蔵のような金属を次々と破壊していく。
ボーイ「!!!!」
コブラ「マミッ!!今だ、アレをもう一度やってやれッ!!」
マミ「…!分かったわ…。…今度は、外さない!!」
クリスタルボーイが怯んでいる間に、マミはもう一度魔力を集中する。 再び巨大な砲身が現れ、銃口をもう一度、クリスタルボーイの方向へ構えた。
マミ「『ティロ・フィナーレ』ッッッ!!!」
爆音のような銃撃音が貨物室に響く。マミの頭身ほどもある巨大な弾丸は、ゆっくりと正確にクリスタルボーイの方へ突き進んでいき、そして…。
ボーイ「ぐわああああああああああああああッッッ!!!」
ドオォォォォォォォォォォンッッ!!!
まるで星空の煌めきのように、粉々になったクリスタルが辺りに散らばった。
クリスタルボーイの身体は木端微塵となり、残骸の破片が転がっているのみとなっている。
マミ「…やった…!あはは…た、倒した…!」
ほむら「…」
コブラ「2人とも、いい仕事だったぜ。100点満点だ」
三人が笑顔を浮かべた瞬間、船のアナウンスが無常にも時を告げる。
【ブラックホール、生成完了まであと1分30秒。船員は安全な場所で待機をしてください。繰り返します…】
マミ「…!!」
ほむら「…くッ…!時間が…!」
その時、貨物室の風穴から声が聞こえた。見れば、エアーバイクに乗ったレディが宇宙船と並走している。レディはそこからロープを垂らした。
レディ「皆、急いでロープに掴まって!タートル号は離れた場所で避難しているわ、早くしないとブラックホールに巻き込まれる!!」
マミ「で、でもまだ…美樹さんのソウルジェムが!!」
ほむら「…私が行くわ。もう一度、時間を…」
コブラ「いいや、俺が行く。ほむら、入ったことのない未来の宇宙船の中から一つの宝石を探し出せるかい?」
ほむら「…で、でも…」
コブラ「こういうのは俺の専門さ。…マミ、ほむら!先に脱出しろ!俺は後から行くぜ!」
そう言ってコブラは、貨物室の先のコクピットへと走っていく。
マミ「!!コブラさんっ!!」
コブラ「ちっ…あの野郎、厄介な仕事残してくれたぜ…。宝探しゲームのつもりか?」
船体が大きく揺れはじめる。それは、ブラックホールがもうすぐ出来上がる事を示していた。
コブラ「さぁーてと…どこに隠れてるのかな?ソウルジェムちゃんは…!」
宇宙船、コクピット。閑散とした場所ではあるが、コクピットはかなり広い。一見しただけでは青い宝石は見当たらないようだ。
【ブラックホール、生成完了まであと1分です。船内の乗組員は衝撃に備え…】
コブラ「ちぃーっ!分かってますってんだ…!…どこだー?どこだ、ソウルジェムは!」
操縦席、椅子の下、機器類、あらゆる場所を探すが、見当たらない。そうしている間にも刻々と時間は過ぎていき…。
コブラ「ちくしょー!あのガラス人形め、最後に罠しかけやがって…!どこだよ、どこにあるんだっ!?」
コクピットのモニター。船体の眼前には、既に超小型のブラックホールが誕生しかけている。船はいっそう揺れ始め、今にもそれに吸い込まれそうだ。
【ブラックホール、生成完了まであと10秒です。9、8、7…】
コブラ「くそーっ!!間に合わね… …ん?」
操縦桿にやけくそで腕を叩きつけた瞬間… 壊れた機械の中に煌めく、一つの青い光。操縦桿はダミーで、実は空の鉄箱だったのだ。
【4、3…】
コブラ「こいつかァ――ッ!!」
急いでコブラはそれを取り出し、貨物室へと走る。が…。
【2、1…0。異次元へのワープを開始します】
コブラ「うおおおお―――――ッ!!」
無常にも、船体はゆっくりとブラックホールに吸い込まれていく。
轟音を立ててブラックホールに吸い込まれていく、クリスタルボーイの宇宙船。
エアーバイクに乗り込んだレディ、ほむら、マミの3人はただそれを見送る事しかできなかった。
マミ「あ、あ…!」
ほむら「…!」
レディ「…」
マミ「そんな…っ!間に合わなかったの…!元の世界に、戻ってしまったのというの…!?レディさんだって、この世界にまだいるのに…!」
マミ「そんな…!!!」
ほむら「…」
ほむら(…私を、まどかを助けると…約束したのに…)
レディ「…ふふ、それはどうかしら」
マミ「え?」
レディ「私は彼と長い付き合いだけれど…彼が、やり始めた事を途中で放棄した事は、一度もないわ」
レディ「…たとえ、そこが見知らぬ世界の中だろうとね」
ガキィィンッ!!
その時、エアーバイクの機体に突き刺さる、ワイヤーの先の刃。
マミ・ほむら「!!」
そのワイヤーの先に…ウインクをしながら手を振る、1人の男の姿があった。
コブラ「おーい!レディ、早く降ろしてくれーっ。俺は高所恐怖症なんだよーっ」
力無いさやかの右手に、コブラはそっとソウルジェムを握らせた。
まどか、ほむら、マミ、杏子…コブラ、レディ…そして、キュウべぇ。全員で、時間が止まったかのようにさやかの様子を見る。
祈るような、視線の数々。
…そして。
さやか「…あれ…?」
ゆっくり起き上がるさやか。何が起きたのか分からない、という表情で辺りを見回す。
さやか「…あれ、あたし…どうしたの…?」
まどか「さ…さやか、ちゃん…っ…」
マミ「…美樹さんっ…!!」
さやか「ま、まどか…?マミさんも…なんで、泣いてるの…?あれ?あれ?」
まどか「うわぁぁぁあああんっ!!」
マミ「…っっっ!!」
大声を出して泣きながらさやかに抱きつく、まどか。そしてその2人を包むように優しく肩に手を置く、マミ。
少しだけ、微笑んで…ほむらもその様子を黙って見ていた。
コブラ「仲間、か」
レディ「どうしたの?コブラ」
コブラ「…俺達が失ってきたものを…かの女達に失わせたくはない。…そう思ってね」
コブラは葉巻に火をつけると、満足気に笑みを浮かべ…月に向けて煙を吐いた。
―― 次回予告 ――
さやかのソウルジェムを取り戻したのはいいものの、その秘密は皆にバレちまった!どうやらキュウべぇの野郎、契約と同時にかの女達の魂をソウルジェムに移し替えちまったらしい。タチの悪い詐欺だぜ。
ショックを隠し切れない魔法少女達。不安になっちまうのも無理はないってもんだよ。特にさやかにゃ、色々ワケがあるみたいだね。
そんな矢先、新たな魔女が出現する。触手がうねうね、気持ち悪いの何の。こんな中戦えっていうのも無茶な話かもしれないが…しかし、俺が必ずあんた達を守ってみせるぜ!
次回、【魔女に立ち向かう方法】で、また会おう!
さやか「…騙してたのね、あたし達を」
QB「不条理だね。ボクとしては単に、訊かれなかったから説明をしなかっただけさ。何の不都合もないだろう?」
マミ「…納得出来ないわ。…キュウべぇ、何故…教えてくれなかったの?ソウルジェムに…私達の魂が移されていた、だなんて…!」
QB「君からそんな事を言われるのは心外だね。魂がソウルジェムに移ったのは、マミ、君が魔法少女になったからだよ?失いかけていた命を救うことを望んだのは君自身じゃないか」
マミ「私の事はどうでもいいわ。…美樹さんの立場はどうなるの?彼女は、叶えたい願いを叶えただけ…それだけなのに」
QB「『それだけ?』」
QB「戦いの運命を受け入れてまで、叶えたい願いがあったのだろう?さやか、君は魂がソウルジェムに移ると知っていたのなら、願いは叶えなかったのかい?」
さやか「…!」
QB「戦って、たとえその命が尽きようとも、恭介の腕を治したかった。それならば肉体に魂が存在しない程度、どうという事はないだろう?」
マミ「キュウべぇ、貴方…!」
QB「恨まれるような事をした覚えはないよ。君たち人間は生命の消滅と同時に魂までも消えてしまうからね。ボクとしては、少しでも安全に戦えるように施しをしているつもりなのだけれど」
コブラ「… … …」
第6話「魔女に立ち向かう方法」
クリスタルボーイを倒した、翌日。
マミのアパート。マミ、さやか、コブラの三人はキュウべぇを問い詰めるべく、そこに集まっていた。魔法少女の存在とは、ソウルジェムとは何か。その願いの代償として失った物を、確かめるべく。
QB「マミ、さやか。君たちが今日まで無事に戦ってこれたのは、ソウルジェムのおかげなんだよ」
QB「肉体と魂が連結していないからこそ、痛覚を魔力で軽減して、気絶するような、ショック死をしてしまうような痛みをも君たち魔法少女は耐える事が出来る」
QB「本来、君たちが受けるべき痛みを今ここで再現してみせようか?」
マミ「…っ…!」
コブラ「やめときなよ。そんな事再現したって何の得にもなりゃしない」
QB「そうかな。マミもさやかも、現実をまだ受け入れていないからね。魔法少女として戦う事の意味を」
さやか「… … …」
コブラ「それじゃあ、その『意味』とやらを教えるのがアンタの目的かい?冗談よしてくれよ、お前はかの女達の教師でも何でもない。ただ契約を結ぶだけの存在の筈だ」
QB「イレギュラーの君にとやかく言われる必要も感じないね」
コブラ「おおっと、触れちゃいけない話題だったかな?それとも、アンタには契約を結んで魔女を倒す以外に何か目的でもあるのかい?」
QB「…」
QB「君は、何者なんだい?」
コブラ「言わなかったかな?俺は、コブラさ」
コブラ「マミ、俺はちょいと野暮用があるんで失礼するぜ。君のお茶はいつも最高の味だ」
マミ「…えぇ。…ありがとう、コブラさん」
コブラ「…さやか」
さやか「… … …」
コブラ「アンタが叶えた願い。…それに賭けたお前さんの思い。しっかり思い出すんだ」
コブラはそう言い残して、マミの部屋から出ていく。
さやか「…あたしの…願い…」
―― 学校。
和子「はーい、今日は…美樹さんは欠席、ね。それじゃあ、HRを始めましょう」
まどか「…」
まどか(さやかちゃん…大丈夫かな…。マミさんも学校来てないみたいだし…。…やっぱり、みんな…ショック、なのかな…)
まどか(わたしに出来る事って…何も、ないのかな?…ずっと見ているだけで、臆病で…っ…)
ほむら「… … …」
廃墟と化した教会。ステンドグラスから漏れる光を浴びながら、1人俯いて考え事をする杏子。
杏子「…」
杏子「なんなんだよ、一体」
杏子(意味が分からねェよ。アタシはただ…魔女を狩って、自分のためだけに…ただ、それだけのために戦ってきた筈なのに…)
杏子(ワケのわからねー男は出てくるし、魔女じゃない変な化け物は出てくるし…アタシは、もう死んで…ソウルジェムがアタシの魂になってるって…?)
杏子「…くそ…っ!こんな…こんな…!」
杏子は自らの赤色のソウルジェムを忌まわしげな瞳で見つめる。
それでも、その宝石をたたき割る事は出来ない。それが自らの命であると、知っているから。
杏子「…なんで…」
杏子(なんで、アタシは…こんなに悲しくて、悔しいんだよ…っ!…畜生…っ!)
杏子「くそ…アタシらしく、ないな…」
杏子は立ち上がり、廃墟からそっと出ていく。
――― その夜。
ピンポーン。
恭介父「はい、どなたでしょうか?」
恭介父「…ああ、貴方は確か…病院の方で、恭介の演奏を…」
恭介父「そんな、わざわざ有難うございます。…どうぞ、上がってください。恭介からも貴方のお話は聞いています。…その節ではお世話になったそうで」
恭介父「恭介は部屋にいますから、案内しますよ。…え?必要ない?そ、そうですか…?それでは…」
コンコン。
恭介「…?父さん?」
松葉杖をつきながらドアまで近づき、自分の部屋のドアをゆっくり開ける恭介。
恭介「…!あなたは、確か…」
コブラ「よー、元気かい?」
コブラは花束を恭介に手渡すと、にぃ、と笑った。
コブラ「快気祝いに来たぜー。おー、いい部屋住んでるじゃねーかー。どれ、お宅拝見っと」
恭介「そ、それは…どうも…」
恭介「酒臭ッ!!」
一方、同時刻。杏子に呼び出され、森林の中を歩くさやかと杏子。
一度は、対峙した相手。だが、心に思う事はお互いに同じなのであろう、虚ろな瞳で杏子の後をついていくさやか。
そして辿り着いたのは、廃墟と化した教会であった。
杏子「アンタは、後悔してるのかい?こんな身体にされた事」
さやか「…」
杏子「アタシは別にいいか、って思ってる。なんだかんだでこの力のおかげで好き勝手できてるんだしね」
さやか「…あんたのは自業自得でしょ」
杏子「そう、自業自得。全部自分のせい、全部自分の為。そう思えば、大抵の事は背負えるもんさ」
さやか「…それで、こんなところに呼び出して何の用?」
杏子「ちょいとばかり長い話になる。…食うかい?」
さやかにリンゴを投げる杏子。一度はそれを受け取るが…床に投げ捨てるさやか。
その瞬間、杏子はさやかの胸倉を掴む。
杏子「…食い物を粗末にするんじゃねぇ。…殺すぞ」
さやか「… … …」
杏子「…ここはね。…あたしの親父の教会だったんだ」
杏子は、静かに、しかし強い口調で語り始めた。誰に言うでもない、まるで独り言のように虚空を見ながら話す杏子の目は、とても悲しく、しかし強い瞳であった。
―― 佐倉杏子の、父親。幸せだった筈の家族。
あまりに正直で素直であったために、世間から淘汰された神父の話。しかし、それでも自分に正直であり…家族も、そんな父親を責めはしなかった。
貧しくても、その日の食糧を求める事すら苦しくとも、佐倉杏子の家族はしっかり家族として機能していたのだった。
杏子「…皆が、親父の話を真面目に聞いてくれますように、って。それがあたしの、魔法少女の願い」
その願いは叶えられ、杏子には魔法少女としての枷が与えられた。それでも、彼女は構わなかった。自分さえ頑張れば、家族は幸せになれるのだと…そう信じていたから。
―― しかし。
父親に、杏子の魔法はバレてしまった。偽りの信者、偽りの信仰心、全てが魔法の力であるものだと。
―― そして、杏子の魔法は、解けてしまったのだった。
杏子の父親、母親、幼い妹すらも巻き込んだ、無理心中。杏子の願いは、家族の全てを壊してしまったのだ。
杏子「アタシはその時誓ったんだ。もう二度と…他人のためにこの力は使わない、って」
杏子「…奇跡ってのは、希望ってのは…それを叶えれば、同じ分だけ絶望が撒き散らされちまうんだ」
杏子「そうやって、この世界はバランスを保って、成り立っている」
恭介「…あの時は、本当に有難うございました。…自暴自棄になっていた僕を、止めてくれて。…あの時、コブラさんが止めてくれていなかったら…」
コブラ「なぁ、恭介。奇跡ってヤツはどうやって起きるんだろうな?」
恭介「…え…」
窓辺に腰かけて、コブラは笑顔を浮かべながら呑気にそう語りかける。まるで独り言のように、虚空を見ながら。
恭介「…どうやって、って…それは…」
コブラ「アンタのその腕、医者からも治癒は絶望的なんて言われてたんだろ?今こうして動いて、しかもバイオリンが弾けるまで回復するなんて奇跡以外の何物でもない」
コブラ「そいつを不思議に思ってね。恭介、アンタ自身はどう考えてるのかちょいと世間話に来たんだ」
恭介「…僕自身も、本当に偶然とは思えないのは確かです。神様が僕の願いを叶えてくれた…なんて考えるのも、おこがましい話ですし」
コブラ「神様、ね」
コブラ「その神様って奴が身近にいたのかもしれないぜ?…アンタの場合」
恭介「…え?」
コブラ「病室にいて、ずっと落ち込んで、ふさぎ込んでいたアンタを、神様とやらがずっと見ていてくれたんじゃないかな」
恭介「… … …」
コブラ「その神様ってヤツぁ、お前さんが想像してるような白髪の老いぼれ爺なんかじゃないと思うね。もっとチンチクリンで、自分に馬鹿正直なクセに奥手で恥ずかしがり屋で、それでも頑張ってアンタのために祈りを叶えてくれた」
恭介「…さや、か…?」
コブラ「奇跡って奴は、叶えるのにそれだけの対価が必要だと俺は思ってるのさ。…ひょっとしたら、アンタの奇跡のためにこの世界で頑張ってるヤツが1人いるんじゃないのかな。ま、あくまで俺の考えだがね」
さやか「何でそんな話を私に?」
杏子「アタシもあんたも、同じ間違いをしているからさ。だから、これからは自分のためだけに生きていけばいい。…これ以上、後悔を重ねるような生き方をするべきじゃない」
さやか「… … …」
杏子「もうあんたは、願い事を叶えた代償は払い終えているんだ。これからは釣り銭取り戻す事だけ考えなよ」
さやか「…あたし、あんたの事色々誤解していたのかもしれない。…その事はごめん、謝るよ」
さやか「でも、一つ勘違いしている。…私は、人の為に祈ったことを後悔なんてしていない。高過ぎる物を支払ったとも思っていない」
さやか「その気持ちを嘘にしないために、後悔だけはしないって決めたの」
杏子「…なんで、アンタは…」
さやか「この力は、使い方次第で素晴らしいものに出来る。…そう信じているから」
さやか「それから、そのリンゴ。どうやって手に入れたの?お店で払ったお金は?」
杏子「…!」
さやか「言えないのなら、そのリンゴは貰えないよ」
さやか「あたしは自分のやり方で戦い続ける。…それが嫌ならまた殺しに来ればいい。もうあたしは負けないし…恨んだりもしない」
そう言い残し、静かに教会から去っていくさやか。
杏子「…ばっかヤロウ…」
恭介「…はは、まさか…」
コブラ「そう、まさかなんだよ。アンタの身体に起こった奇跡は、単なる偶然。誰に感謝するわけでもない、これからは自分のために、自分のバイオリンのためだけに生きて行けばいい。なんたってあんたは天才ヴァイオリニストなんだからな」
恭介「… … …」
恭介「それじゃあ…まるで、僕が最低の人間みたいじゃないですか」
コブラ「そう思うのかい?じゃあアンタの腕が治ったのは誰かのおかげなのか?それとも、本当に単なる偶然なのか?」
恭介「…貴方は、何を言いに来たんですか?」
コブラ「言っただろ?俺は世間話をしにきたんだよ。機嫌を損ねちまったかな?」
恭介「… … …」
コブラ「俺はバイオリンの音色に興味はないからなぁ。どうせ聞くんなら美女の甘い囁きを耳元で…なんてね」
コブラ「しかし、この世で一番、アンタのバイオリンの音色を聴きたがっている人間がいる。アンタの家族や親族より、ずっと強い気持ちでさ。…アンタはそれに応えてやらなきゃいけない」
コブラ「アンタに起こった『奇跡』を、アンタがどう考えるのかによるかだけどな」
恭介「… … …」
コブラ「それじゃ、俺は失礼するぜ。こう見えて忙しいんだ。デートの約束とかね」
恭介「… … …」
恭介「…待って、ください…!」
コブラ「…」
恭介「…もう少しだけ…もう少しだけ、貴方の話を聞かせてください。…考えたいんです」
コブラ「…ああ」
コブラ「それじゃあ、ちょいとした身の上話をさせてもらおうかな。今日の予定は全部キャンセルだ」
―― その翌日。親友の仁美に呼び出されたさやかは、ファーストフード店に来ていた。テーブル越し、まるで対峙をするかのような、仁美の強い視線。
そして、神妙な面持ちで語り始める。
仁美「ずっと前から…私、上条君の事をお慕いしておりましたの」
さやか「…!!」
さやか「…そ」
さやか「そうなんだぁ…!あははは、恭介のヤツ、隅に置けないなぁ」
仁美「さやかさんは、上条君とはずっと幼馴染でしたのよね」
さやか「あ、ま、まぁ…腐れ縁っていうか、なんていうか…」
仁美「…本当に、それだけですの?」
さやか「…!」
仁美「…もう私、自分に嘘はつかないって、決めたんですの。…さやかさん、貴方はどうなのですか?」
さやか「どう、って…」
仁美「本当の自分と、向き合えますか?」
仁美「―― 明日の放課後に、私、上条君に思いを告白致します」
仁美「―― それまでに、後悔なさらないように決めてください。上条君に、思いを伝えるかどうかを…」
―― その夜。自分の家を出て魔女退治に出かけようとするも、思考が回らず立ち止ったままのさやか。
さやか「…」
まどか「…さやかちゃん」
さやか「…!まどか…」
まどか「付いていって、いいかな…?…マミさんにもコブラさんにも言わないで魔女退治に行くなんて…危ないよ…?」
さやか「…あんた…なんで、そんなに優しいかな…っ…。あたしに、そんな価値なんて、ないのに…っ、ぐ…!」
まどか「そんな事…!」
さやか「あたし、今日、酷い事考えた…っ…!仁美なんていなければいいって…っ…!恭介が…恭介が、ぁ…仁美に、取られちゃうって、ぇ…えぐっ…!」
まどか「…」
そっと近づき、さやかの身体を優しく抱くまどか。
さやか「でも…あた、し…っ!なんにも出来ないっ…!ひぐっ…!だってもう死んでるんだもん…ゾンビなんだもん…っ!」
まどか「さやかちゃん…」
さやか「こんな身体で、抱きしめてなんて…っ、言えないよぉぉ…!!」
その時、さやかとまどかに近づく1人の影があった。
まどか「…! …あなたは、あの時の…」
レディ「…少し、いいかしら?美樹さやかさんと、鹿目まどかさん。…お届けものに来たわ」
近くにあったベンチに座った、さやかとまどか。さやかが泣き止み、落ち着くのを待ってからレディは静かに話し始める。
レディ「突然でごめんなさい。…まどかさんとは少しだけ顔を合わせたけど、さやかさんは…知らなかったわね、私の事。私はコブラから貴方達魔法少女の事は聞いているのだけれど」
さやか「… … …」
レディ「こんな恰好だから警戒するのは当たり前よね。…私はコブラの相棒、レディ…アーマロイド・レディというの」
さやか「…やっぱり変な名前」
レディ「ふふ、そうね。…こんな時に突然で驚くわよね。コブラがどうしても、私に、貴方達に届け物をして欲しいと言うから」
まどか「…届け物、って…?」
レディ「上条恭介君からの預かりものがあるわ」
さやか「…!!!」
レディはそう言って、小さな封筒を一つ、取り出して見せた。
レディ「受け取ってもらえるかしら?」
さやか「… … …」
まどか「さやかちゃん…」
しかし、さやかの表情は優れず、レディの持つ封筒に手を差し伸べる様子も無い。
レディ「…それから、コブラからもう一つ頼まれごとをしているの」
レディ「昔話を、さやかにしてやれ、ってね」
さやか「…え…?」
レディ「退屈な話なら聞かなくていいわ。この封筒だけ受け取ってくれてもいい。ここから逃げ出してもいい。…もし良かったら、そのままベンチに座っていてくれないかしら」
さやか「… … …」
さやかは動かず、俯いたままでいる。まどかはその身体をそっと支えたままだった。
レディ「…昔、あるところにとてもヤンチャなお姫様がいたの。祖国を怪物に滅ぼされ、復讐に燃えるあまりにその怪物を自ら倒しに行った…そんな無茶をした、バカなお姫様よ」
レディ「でもそのお姫様の力じゃあ、とてもその怪物には敵わなかった。…でもね、ある人が、私を助けてくれたの」
レディ「祖国を滅ぼされ、仲間も失い…全てを失った私を、その人は守ると言ってくれた。…何があっても守る、何があっても殺させやしない、って…」
まどか「…それって、レディさんと、コブラさん…?」
レディ「…ふふふ、どうかしら?」
レディ「その人は、全てを…命を賭けて、時間さえも飛び越えて…お姫様を助けてくれたわ。だから、お姫様も…その人に一生ついていくと決めたの」
さやか「… … …」
さやか「素敵な話だね。…でも、知らない人からそんな話を聞いても…あたしは…」
レディ「…そうだと思うわ。私だって不思議だもの。何故こんな話をコブラが私にさせているのか」
レディ「でも…なんとなく…私はね、そのお姫様とさやかさんが似ていると思うの」
さやか「…あたしと…?」
レディ「お姫様とその人との幸せな時間はあったわ。…でも、そう長くは続かなかった。 お姫様はある日、瀕死の重傷を受けてしまったの。…銃撃戦があって、ね」
レディ「お姫様には一つの選択肢があったの。そのまま死ぬか…もしくは、全く別の身体に魂を宿して、新しい人生を送るか」
さやか「…!」
―― 昨日。上条恭介の部屋、コブラと恭介の会話の続き。
コブラ「俺には1人の相棒がいてね。親愛なる最高のパートナーが」
コブラ「そいつは以前、瀕死の重傷を負った。…医者に言われたよ。奇跡は起きない。このまま死ぬのを待つしかない、とね」
恭介「…」
コブラ「一つだけ、彼女が助かる道があった。…まぁ、嘘だと思うかもしれないが聞いてくれ。…全く別の身体に、その相棒の魂だけを移し、生まれ変わる…そんな事が出来たのさ」
恭介「…作り話、ですか?」
コブラ「そう思ってくれて構わないさ。作り話なら、俺もなかなかいい小説家になれそうだろ?」
コブラ「話の続きだ。…だが、俺は相棒がそんな身体になる事は望まなかった。俺はそいつを愛していたし、彼女だってそんな事は望まないと思っていた」
恭介「…」
コブラ「だがかの女は、新しい身体に自分の魂を注ぎ、生まれ変わった」
コブラ「以前のように愛されなくてもいい。ただかの女は、俺と一緒にいる事だけを望んだ。そのためなら、例えその身体が機械の身体になろうとも…ってね」
恭介「…素敵な話ですね」
コブラ「そう思うかい?そりゃ良かった。恭介、アンタと俺は気が合いそうだ」
恭介「気が合う?」
コブラ「そうさ。俺はその時、かの女と共にずっと旅を続けていくと心に誓ったからさ」
コブラ「何を犠牲にしてもいい。どんな事をしてもいい。かの女が俺を愛してくれるのなら、かの女がどんな身体になろうと俺は全てをかの女に捧げようとな」
恭介「… … …」
コブラ「そこに、愛するとかそういう概念はない。俺は相棒に出来る事を全てする。相棒も同じ事を俺にしてくれる。同じ目的を持ち、同じ『道』を進む…。いい関係だろ?」
コブラ「…恭介。アンタのバイオリンには、そういう『道』が築けるのさ。世界中、全ての人にその音色を聞かせてやれるように…なんて道がな」
恭介「…ええ。僕は…たくさんの人に、自分の音色を届けたいと思っています」
コブラ「へっへっへ」
コブラ「だったら、まず…その音色。聞かせてやるべき人がいるはずさ。…『相棒』がね」
恭介「…!」
レディ「お姫様は…新しい身体。おおよそ人間とは言えない、機械の身体に自分の魂を移したわ」
レディ「彼に愛して欲しいとは望まなかった。…ただ、かの女はずっと旅がしたかったの。その人と過ごす時間…その人の進む道を同じように進んでいくのが、何よりも素敵な時間だったから」
さやか「… … …」
レディ「そう思ったのは、彼を信頼していたから。どんな身体になろうとも、約束をずっと守ってくれると信じていたから。私を、ずっと守ってくれるという…ね」
レディ「…ねぇ、さやか。貴方にとっての恭介という人は、どんな人なの?」
さやか「…恭介…」
レディ「貴方は、自分が愛される資格がない…そんな風に考えている。…じゃあ恭介君は、そんな貴方をすぐに見捨ててしまうのかしら」
レディ「貴方が愛した彼は、そんな人?」
さやか「…!」
レディ「…誰かの傍にいたいと思うには、条件があるの。それは、何があってもその人を信じる事。どんな事があっても自分を見捨てない。必ず傍にいてくれる…。自分がそう信じる事が、何よりも大切」
レディ「コブラと、私。…さやかと、恭介。…ふふ、本当に似ていると私は思うわ」
レディ「だから、貴方にお届けものよ」
レディは封筒から一枚の紙を取り出し、さやかの掌の上に置いた。
まどか「…!それって…」
さやか「…!」
紙には、恭介の字が記してあった。リハビリ中でまだ震えた字体であったが、力強く握った黒のインクで、しっかりと書かれてある。
【明日の放課後、僕の家でもう一度コンサートを開かせてください。僕をずっと信じてくれていたさやかに、聞いて欲しい曲があります。 ―― 上条恭介】
さやか「!!!!」
レディ「…こんな素敵なコンサートチケット、世界中どこを探しても見たことないわ。…幸せね、さやかは」
さやかは声にならない泣き声をあげながら、大粒の涙を流した。
まどかも、その身体を支えながら、微笑み、泣いた。
マミ「…!これは…」
マミのソウルジェムが俄かに光って反応を示す。
コブラ「魔女か?」
マミ「そうみたい…近いわ!大変よ、美樹さん!近くで魔女が生まれ… …」
ガサッ。
ソウルジェムの反応に慌てたマミは、思わず近くの茂みから身体を出してしまう。
マミ「… あっ」
さやか「… えっ」まどか「… あっ」
さやか「マミさん!それに…コブラさんも…!」
コブラ「あ、ははは、よぅさやか、まどか。おや、レディもいるのか。奇遇だねー、いや、たまたま通りかかってさ、ホントホント」
マミ「そ、そうなの!偶然通りかかってたまたま2人を見つけちゃって!それで、ええと…べ、別に盗み聞きしてたわけじゃないのよ!本当に!」
さやか「…マミさん、嘘ついてるのバレバレですよ…」
マミ「…あ、あはは…そうね。えーと… …ごめんなさい」
さやか「… ぷっ。あ…アハハハハハッ!マミさん可愛いーっ!」
まどか「ティヒヒ」
コブラ「はっはっはっは!」
マミ「うううう…」
顔を赤くするマミ。照れる顔なんてあまり拝めないもので、さやかもまどかもコブラも、その顔に笑ってしまう。
さやか「…魔女が近いんですね。行きましょう、マミさん、コブラさん。私の戦い方…もう一度、見ていてください!」
ベンチから立ち上がったさやかは、ソウルジェムを手に握りしめ、力強く握りしめた。
まどか「…さやかちゃん、大丈夫なの…?」
さやか「…まどか。もう…心配いらないよ。あたしは一人なんかじゃない。それが…やっと分かったから」
さやか「恭介、マミさん、コブラさんにレディさん…まどか。それにアイツ…佐倉杏子だって。みんな…あたしの事心配してくれてる。だからあたしは、その期待に必ず応える」
さやか「魔法少女さやかちゃんは伊達じゃないってトコ、見せてあげなくちゃね!」
さやかはまどかの方を振り向き、最高の笑顔を見せる。その笑顔に、まどかも安心をしたようだった。
マミ「…それじゃあ、行きましょう!」
レディ「さやか」
さやか「…レディさん。…ありがとうございましたっ」
レディ「どういたしまして。…彼を信じるのよ。そうすれば、きっと彼もそれに応えてくれるのだから」
さやか「…はいっ!!」
さやか、マミ、コブラ、まどかは駆け出し、その場を去る。
ほむら「いいのかしら。先に獲物を見つけたのは貴方よ。佐倉杏子」
杏子「…アイツのやり方じゃ、グリーフシードの穢れが強いからな。獲物は魔女だ。今日は譲ってやるよ」
ほむら「意外ね。貴方が他人にグリーフシードを譲るなんて」
杏子「ふん。…たまにはこういう気まぐれも起きるのさ」
ほむら(…共闘。グリーフシードの奪い合いは時に魔法少女同士の抗争を生み、それが全員の身を滅ぼした時間軸も存在する)
ほむら(佐倉杏子と、美樹さやか…。相性の悪い2人だとは思っていたけれど、この世界では…)
杏子「今日は見学だ。新人の戦い方、見届けてやる」
ほむら「…そうね」
コブラ「こいつは…」
マミ「…鹿目さん、少し下がっていて。…なかなか手ごわそうだわ」
まどか「!は、はいっ!」
現れた『影の魔女』は今まで出会った魔女の中でも巨大な部類であった。本体こそ人間と同サイズの影であるものの、それを取り巻くような無数の木の枝はまるで主を守るように生えている。
刃物のように鋭利な枝の先は、今にも三人に襲い掛かりそうに蠢いていた。
さやか「い、意気込んだのはいいけど、…あの枝はちょっと厄介そうだなぁ…。マミさん、どうしましょう…?」
マミ「そうね… 全部切り取っちゃうってのはどうかしら?」
コブラ「了解。庭師になれそうだぜ」
マミは単発式銃火器を宙に浮かせ、コブラは左腕のサイコガンを抜き、影の魔女に向けて構える。
コブラ「俺達があの盆栽の手入れをしてやる。見栄えが良くなったら本体を倒してくれ、さやか」
さやか「は、はい…!」
まどか「さやかちゃん、気を付けて…!」
さやか「! …うんっ!任しといて!」
マミ「それじゃあ…行くわよっ!!」
踏み込み、影の魔女に近づくマミとコブラ。領域への侵入者に対し、魔女は触手のような枝を次々と振り下ろしていく。
マミ「!!」
マミとコブラは立ち止り、自らに近づいてくる木の枝を次々と撃ち落していく。
目にも止まらない連射、しかも正確な一撃一撃は、次々と触手を撃ち落していく、が…。
コブラ「…!少しまずいな」
マミ「…この枝…っ、再生している…!?」
撃ち落した木の枝は一度は動かなくなるものの、少しの時間ですぐに再生を始めてしまっていた。襲い掛かる木の枝を落とすのが精一杯のマミとコブラは苦戦を強いられた。
コブラ「参ったな、キリがないぜ!」
マミ「くっ…一体どうすれば…!」
さやか「… … …!」
さやか「マミさん、コブラさん!…あたし、行きます!」
コブラ「何…っ!?」
さやか「でやああああああああッ!!」
銀に光る剣を前方に構え、さやかは影の魔女本体に突撃を開始した。それと同時に、木の枝はさやかに反応をし、襲い掛かろうとする。
マミ「!!!美樹さんっ、危ないわ!!」
さやか(このまま捨て身でいけば…皆を守れる!…例え、あたしのソウルジェムが穢れても…!)
さやか(… … …)
さやか(違う!)
さやか(大切なのは… 大切なのは、一歩を踏み出しすぎない、勇気…!一緒に戦おうって、マミさんは言ってくれた!…だから…!)
さやか「コブラさん!マミさん!一度だけ…一瞬だけ、道を作ってください!!…お願いしますッ!!」
マミ「…道…?」
コブラ「…! そうか…よぉし、分かった!マミ、俺らの周りは任せたぜ!」
マミ「え、ええっ!?」
コブラは自分の周囲の触手への攻撃を止め、影の魔女本体に向けてサイコガンを構える。自らの精神力をサイコガンに貯め、狙いを定めた。
コブラ「いくぞォォォーーーーーッ!!!」
大砲のようなサイコガンの一撃。影の魔女本体に向かっていく光は、周りを囲む木の枝を次々と消滅させていく。…それと同時に。
さやか「はああああーーーーーッ!!!」
コブラの作った『道』。触手が再生をする前にさやかはその残骸を踏み越え、影の魔女本体に向けて駆けていく。
そして眼前に現れたのは守るものを失った、影の魔女本体だった。
さやか「くらええええッ!!」
魔女本体に突き刺される剣。魔法で高められた攻撃は、一撃で魔女を葬り、消滅させた。
さやか「…あたしね、分かったんだ。…あたしが、何をしたかったのか」
まどか「…」
月夜が差し込む、ビルの屋上。夜風にあたりながら、さやかとまどかは空を見上げながら会話をしていた。
さやか「あたしが望んでいたのは…恭介の演奏をもう一度聞きたかった…それだけだったんだ」
さやか「あのバイオリンを…もっとたくさんの人に聞いて欲しかった。それで…恭介に、笑って欲しかったんだ。自分の演奏で、人を笑顔に出来るように…恭介自身も」
まどか「…さやかちゃん…」
さやか「…ちょっと悔しいけどさ、仁美じゃ仕方ないよ。あはは、恭介には勿体無いくらい良い子だしさ。きっと幸せになれる」
さやか「それに…あたしには使命がある。…まどかを、マミさんを…見滝原に住む皆を守るっていう、魔法少女の使命がね!」
まどか「でも…さやかちゃんは、恭介くんの事を…」
さやか「明日のアイツの演奏聞いたら…言ってやるんだ。アンタの事お慕いしてる子がいるって。…このさやかちゃんが、恋のキューピッドになってやろうっての!」
さやか「…それがどんな結果になろうと、後悔なんてしない。恭介にも、仁美にも…嘘をついて、生きていて欲しくなんかない」
さやか「皆…あたしの大切な人なんだ。あたしは、その大切な人たちにずっと笑っていてほしい。…だから、あたしも頑張れるんだ」
まどか「… … …」
さやか「まどか。勿論…アンタにも、ね!」
まどか「… うんっ!」
翌日の放課後、恭介の部屋。
恭介「… さやか。有難う、来てくれて」
さやか「… ううん。あたしも…ありがとう」
恭介「それじゃあ…聞いてくれるかな。…僕の、バイオリン」
さやか「… うん!」
上条家から、静かに『アヴェ・マリア』が流れる。まだ完璧な演奏とは言い難い。しかしそれは、世界中のどんな演奏より人を感動させられるような弦の音色であった。
その演奏を、外から聞いている仁美。
仁美「… … …」
仁美(…いい曲。とても静かで、力強くて…)
仁美(…私、諦めません)
仁美(でも、今は… もう少しだけ… この演奏を聴いていたいって、そう感じますの)
仁美(この音色を奏でさせられるのは… さやかさん、今は、貴方しかいないのですから…)
夕日が美しく差し込む、見滝原市。
その日はまるで、街全体を、一つの旋律が包み込んでいるかのようであった。
ほむら(… … …)
ほむら「ワルプルギスの夜まで…一週間」
ほむら(まどか…必ず貴方を、守ってみせる。…この時間軸で、全てを終わらせてみせる)
ほむら「…いよいよ…夜を迎えるのね」
ほむら(…巴マミ。美樹さやか。佐倉杏子。…コブラ。…そして、私)
ほむら(…終止符を打つ、必ず…!)
―― 次回予告 ――
さやかが一人前の魔法少女になれてさあこれからだって矢先に、暁美ほむらがとんでもない事を言い始めた!
なんでもあと何日かしたら超巨大な「ワルプルギスの夜」とか言う恐ろしい魔女が見滝原に出てくるんだとさ。かの女はそいつを倒すために、何度も時間を繰り返してきたって話だ。
か弱い女の子にそんな重荷を背負わせちゃいけないよな。俺達はワルプルギスの夜を倒すための作戦を練る事にした。
しかしそんな時、俺にビッグニュースが飛び込んできちまう!なんとレディが、元の世界に戻る方法を見つけちまったんだと!
どうすりゃいいのよ俺ぇー。
次回【夜を超える為に】で、また会おう!
コブラ「…それで、俺に何の用なんだい?」
夕日の差し込むビルの屋上。目を閉じ、微笑みながら葉巻をくわえたコブラと、それをじっと見つめる少女…暁美ほむら。
コブラ「お前さんから呼び出しなんて随分珍しいじゃないか。しかも、俺だけ。 好意は嬉しいがね、あと数年経ってから考えさせてもらうよ」
ほむら「… … …」
ほむら「『ワルプルギスの夜』が来るわ」
コブラ「… 何だって?」
ほむら「今までの魔女とは比べものにならない、超大型の魔女…。放っておけば、数時間…いいえ、数分でこの見滝原を滅ぼしてしまい…最悪の場合、更に広がるわ」
ほむら「規模は未知数。被害は地球全体に及ぶなんて話になっても、おかしくはない」
コブラ「…そんなものが来るって、どうして分かる?」
ほむら「…私には、もう一つ能力があるの」
ほむら「いいえ、正確には、私の能力は応用に過ぎない。…私の本当の力は、『時を操る事』。そして、それは…過去さえも操れる」
コブラ「…! ほむら、ひょっとしてお前さんは…まさか…」
ほむら「…ええ、何度も…数えるのも諦めるくらい、見てきているわ」
ほむら「この世界が滅びていく、その様を」
風が、一段と強く2人を吹き抜けていった、そんな気がした。
第7話「夜を超える為に」
さやか「…やっぱりここにいたんだ」
杏子「! …アンタ、どうして…」
以前会話をした、廃教会。そこへ足を運んださやかは、予想通り杏子と出会う事が出来た。
さやか「コレ、あんたに渡そうと思ってさ」
さやかは手に持っていた紙袋からリンゴを一つ取り出し、杏子に向けて投げた。それを受け取った杏子は、きょとんとした顔でさやかを見ている。
さやか「…この前は、ごめん。あたしの事、アンタなりに心配してくれたのに…嫌な事言っちゃって」
杏子「… … …」
さやか「だから、謝りに来た。…それで…改めて言うのもおかしい話だけど…これからも、その…あたしと仲よくしてほしいなぁ…なんて」
さやかは杏子の顔色を横目で伺いながら、恥ずかしそうに頬を?いた。
杏子「…アンタさぁ」
杏子「よくそんな台詞言えるよな。…聞いてるこっちが恥ずかしくなるよ」
さやか「べっ、別になんだっていいでしょ!!…あたしだって、コレでも頑張って謝りにきてるんだから…!」
さやか「…あんたと…その… 仲悪いまま、終わりたくないし…」
杏子「…かぁー。ホントに、呆れるくらい馬鹿正直なんだねアンタって」
さやか「そ、それはあんただって一緒でしょっ!?…ほら。こっちだって恥ずかしいんだからさ…」
そう言って、さやかはゆっくりと右手を杏子に向けて差し出した。
杏子「…分かったよ」
杏子はぷいとそっぽを向きながらも、さやかの差し出された右手に、自らの右手を重ねた。
コブラ「…時間を何度も繰り返し、そのワルプルギスの夜とやらと何度も戦って…それでも負け続けて、今に至る、ねぇ」
ほむら「信じてもらえるとは思っていないわ」
コブラ「信じるさ。俺も昔、同じような事をした」
ほむら「…?」
コブラ「それで、何で俺を呼び出したんだ?仮にそいつが現れるとしてそのバカデカい魔女を口説き落としてくれ、なんて話じゃないだろ?」
ほむら「…」
ほむら「貴方は、幾度となく私達を救っている」
ほむら「魔女の撃退、巴マミの救出、美樹さやかのソウルジェム奪還…貴方のしている行動の全ては、魔法少女達にとってプラスへと働いているわ」
ほむら「答えて。…何が目的なの?」
コブラ「そうだなぁ。目の前でか弱い女の子達が困っていたから、かな」
ほむら「分からないわ。単なる人助けでこんな事をしているとでも言うの」
コブラ「…信じられないかい?」
ほむら「ええ、私には理解し難い事だわ」
コブラ「勿論、俺は元の、俺のいるべき世界に戻ろうとしている。そのためにアンタら魔法少女にくっついて行動しているのも目的の一つさ」
コブラ「ただね、趣味なのさ」
ほむら「…趣味?」
コブラ「困っている女の子の顔を、安心させてやるのがさ」
ほむら「…つくづく分からないわ、貴方の事が」
コブラ「よく言われるよ」
ほむら「…」
ほむら「過去…どの時間軸でも、私は失敗を積み重ねている。時にはワルプルギスの夜に負け、時には…魔法少女同士で殺し合う、そんな世界も存在したわ」
コブラ「物騒だねぇ。何があったんだ」
ほむら「魔法少女の正体に気付いてしまったからよ」
コブラ「…ソウルジェムの穢れ、か」
ほむら「気付いていたのね」
コブラ「アンタに黙っていて申し訳なかったな。相棒にちょいとグリーフシードの成分を分析してもらってね。…それで、分かったのさ」
コブラ「…ソウルジェムの『穢れ』。アレが、魔女の正体だ。つまり魔法少女と魔女は、表裏一体の存在って事…違うかい?」
ほむら「…ええ、そうよ」
ほむら「そして、その正体に気付いた魔法少女達は自分たちこそ災厄の元凶だと気づき、互いを殺し合った」
ほむら「…ある意味、正しい行動だったのかもしれないわ。キュウべぇに利用されたままの自分達を、消せたのだから」
ほむら「…そうでしょ?…インキュベーター」
ほむらがそう言った瞬間、物陰からひょっこり現れるキュウべぇ。
コブラ「黒幕さんのお出ましか」
QB「…」
QB「驚いたね。遠い未来世界から来たイレギュラー…『コブラ』、そして時間を繰り返し戦ってきた魔法少女…『暁美ほむら』」
QB「僕の知り得ない人間が2人も関わっていたのは、本当に驚きだ。奇跡以外の何物でもないのかもしれないね」
コブラ「インキュベーター…ね。俺の疑問がようやく解けたぜ」
コブラ「アンタは少なくとも地球生物で無い事は分かっていた。しかしこの世界には、星間交流の概念がない。何故宇宙生物が魔法少女と呼ばれる存在の周りをウロチョロしているのかがようやく分かったぜ」
QB「本当に驚きだよ。君はこの星…いいや、宇宙がどんな運命を辿っていくのかを知っているわけだ、コブラ」
コブラ「興味があるかい」
QB「そうだね。僕達の目的は『宇宙の寿命』を伸ばす事にあるわけだから。僕達の行動がどんな素晴らしい結果を生んでいるのかを知りたいのが本音さ」
コブラ「宇宙の寿命…?」
ほむら「…この地球外生命体の目的は、一つ。魔法少女を魔女化する時に発生するエネルギーを、回収する事」
コブラ「はっ、そんな事をしてどうなるって言うんだ?売り払って通信販売でも始めるのか」
QB「宇宙には、エネルギーが存在するんだよ。そしてそのエネルギーは、どんどん減少を続けていくのを知っているかい」
コブラ「さあね。朝食を食べてないからじゃないかな」
QB「宇宙全体は、僕達インキュベーターによって支えられているんだよ。僕達がエネルギーを回収し、供給を続けているからこそ宇宙は現状を保っていられているんだ」
QB「そしてそのエネルギーの、最も効率のいい回収方法は」
QB「魔法少女が、魔女に変わる瞬間。その瞬間のエネルギーの回収が最も効果的に、宇宙の寿命を延ばす事に繋がるのさ」
コブラ「どの世界にも、狂信者ってヤツはいるもんだな」
QB「信仰じゃない、事実だよ。コブラ、君達のいる未来でも僕達の存在は知られていないのかい」
コブラ「さあてなぁ。お宅らみたいな連中はごまんといるからね。特に熱心な宗教家ほど目立っちまうからな。埋もれちまったんじゃないかい」
QB「僕達は、地球が誕生する遥か以前から人間の有史に関係してきた」
QB「数えきれないほど多くの少女…とりわけ、第二次成長期にあたる少女達と契約を交わし、希望を叶えてきたのさ」
ほむら「…そして、それを絶望へと変えて、エネルギーを回収していく。祈りを呪いに変えて」
QB「酷い言い方だね」
ほむら「人を食い物にしてきた貴方に、否定をする権利なんてないわ」
QB「ワケがわからないよ。僕達が宇宙を永らえさせてきたからこそ、君達人類全体の歴史があるんだ。一部の人間の消滅が全体を救っている事に、何の問題があるんだい」
QB「むしろ感謝されて然るべき話さ。僕達がいなければ、ほむらだってこの世界にはいない。コブラのいた未来だって、存在しないんだよ」
QB「それに僕達は、侵略という形でエネルギーを回収したりなんていう野蛮な真似はしていない。少女達の願いを叶えて、その代償を払ってもらっているだけさ。『契約』という形でね」
QB「そこに、何の問題があるんだい」
コブラ「…確かに、それなら何の問題もないな」
ほむら「…!?」
コブラ「だが、それならはっきりと俺達は選択肢が与えられているはずだ。…おたくら異星人と契約して宇宙のために戦うか、否かのな」
QB「コブラ。君は宇宙が滅んでもいいと言うのかい」
コブラ「さてね。だが、宇宙が滅びようとするのだと言うのなら、そいつも宇宙の一つの選択ってヤツじゃないか。インキュベーターってやつぁ、契約を元に宇宙の寿命を延ばそうとしているんだろ?」
コブラ「それなら元来、かの女達が何をしようが自由の筈さ。魔法少女になって契約した少女が何をしようと勝手…その筈だ」
QB「…」
コブラ「かの女達は希望を抱き、絶望はしない。街を襲う魔女から人々を守り、立派にその使命を全うしていく…それで十分だ。宇宙の寿命を延ばすために人柱になれ、なんて契約はしていないはずだぜ」
ほむら「…ええ、確かにそうね」
QB「甘い考えだね。それで魔女は倒せても、ワルプルギスの夜が倒せるとでも思っているのかい」
コブラ「さあてなぁ。やってみなきゃ分からないさ」
QB「僕は少なくともその前例は見ていないからね。希望が絶望に変わらなかった魔法少女は、存在しない。だからこそ僕達インキュベーターはそのエネルギーを宇宙に安定的に供給してきたのだから」
ほむら「っ…」
コブラ「前例がなけりゃ、作ればいいだけだ。そう難しい事じゃない」
コブラ「俺が…いいや、俺達がやってみせる。ワルプルギスの夜を、超えてやるさ」
コブラはそう言いながらにぃと微笑み、ビルの屋上を後にするのだった。
QB「暁美ほむら、君はどう思うんだい」
QB「『鹿目まどか』という魔法少女の存在なくして夜を超えられた時間軸が、存在したのかい」
ほむら「… … …」
QB「無いだろうね。それだけまどかの魔力は絶大だ。どんな巨大な魔女であろうと、魔法少女化した彼女に敵う敵など存在しない」
QB「逆に言えば、まどかが魔法少女にならなければ、ワルプルギスの夜には勝てない。君がまどかを魔法少女にしたがらない事と、君が時間を幾度も繰り返しているのがその証明になっている」
QB「君はどうするんだい?ほむら」
ほむら「私は、まどかを守る力を欲し、魔法少女の契約を交わした」
ほむら「だから、彼女を魔法少女にせず、ワルプルギスを倒すまで…絶対に諦めるつもりはない」
QB「分からないね。そんな方法を今まで見つけてもいないから、君が今この時間に存在するのだろう?」
ほむら「貴方達インキュベーターの目的は分かっているわ。…まどかが魔法少女になれば、同時に最悪の魔女を生む事になる」
ほむら「今まで、魔女にならなかった魔法少女はいないと言ったわね」
ほむら「狙いは一つ。まどかの膨大な魔力。魔女化に発生する莫大なエントロピーの発生が目的で、あなたはまどかに付きまとっている」
QB「だからどうしたというんだい?」
ほむら「貴方の思い通りにはさせない。私は絶対に…まどかを魔法少女に、させない」
QB「ほむらは、それでワルプルギスの夜を倒せるとでも思っているのかい?」
ほむら「…さっき、コブラにも言われた筈よ」
ほむら「前例がなければ、作ればいいだけの事」
ほむら「この時間軸で私は、それを作ってみせる」
キュウべぇに背を向け、階段を降りながらほむらは考えていた。
ほむら(…他人をアテにしない。それが何度も時間を重ねた結果の教訓だというのに)
ほむら(この時間でも、私は他人を頼りにしようとしている。…巴マミに、佐倉杏子に、美樹さやか…)
ほむら(…コブラ)
ほむら(まどかを、魔法少女にさせない。…でもそうしないと、ワルプルギスの夜は倒せない。…それが、絶対に崩せない公式だった)
ほむら(私に残された時間も、長くはないのかもしれないわ。…私の希望が、絶望に変わってしまうその前に、手を打たないと)
ほむら(…夜が来るまで、あと数日しかない)
ほむら(それなら、この時間軸で私の取るべき行動は一つしかない)
ほむら(賭ける事。それが私の…答え)
ほむら(持てる力を全て使って…ワルプルギスを、倒すという事)
その後、夜。
人目が無くなったのを見てコブラはレディと近くの小さな林の中で落ち合う。
茂みに隠れたタートル号から出てきたレディは、手に湯気の立つコーヒーカップを持っていた。
レディ「はい、コブラ。コーヒーよ」
コブラ「おー、ありがとよレディ。やっぱ相棒と過ごす時間っていうのが一番落ち着くねェ」
レディ「あら、そうかしら。巴マミの家も随分と気に入っているようだけれど?」
コブラ「あちゃー、ははは。それは言わないお約束」
レディの淹れたコーヒーを啜りながら、ぼんやりと月を眺めたままのコブラ。少し間を置いて、レディがゆっくりと語りかける。
レディ「…ねぇ、コブラ。ニュースがあるの。…良いものか悪いものかは分からないけれど」
コブラ「?」
レディ「…」
レディ「今なら、元の世界に戻れるわ」
コブラ「なんだって…!?どういう事だ?」
レディ「クリスタルボーイの宇宙船が、ブラックホールを生成し、元の世界に戻ったわよね。…あの重力場が、僅かに検知できたの」
コブラ「するってぇと…タートル号でそいつを追跡できるってのか?」
レディ「…ええ。以前、エンジニア達にタートル号に異次元潜航能力を取り付けてもらったわよね。今まではここが『どの世界』で『どの次元を辿って』元の世界に戻ればいいか分からなかったからそれが役に立たなかったのだけれど」
レディ「今なら座標が確定できる。クリスタルボーイの船の軌跡を辿っていけば、元の世界に戻れるわ」
コブラ「そいつは有難いな。あのガラス細工、いい土産を置いていってくれたじゃないの。あとでハグしてやらないとな」
コブラ「…だが、そう簡単な話じゃないんだろう?その調子じゃ」
レディ「…ええ、その通りよ」
レディ「ブラックホールの重力場の検知量はどんどん小さくなっていくわ。そのうち、完全に消滅する。そうなるともう…元の世界に戻る経路が再び見つからなくなってしまう」
コブラ「そいつはどのくらいもちそうなんだ?」
レディ「… … …」
レディ「明日には、完全に消滅してしまうでしょうね」
コブラ「…神様ってやつは随分と意地が悪いんだな。嫌われちまうぜ」
…林の中。
コブラがビルから出てきたのを見つけ、その後をずっと付いてきた人影が一つ、あった。
まどか「… … …」
まどかは急いで林の中を抜け出そうと駆け出すのであった。
――― 後日。
さやか「…ここが、あの転校生の家?」
マミ「ええ、ここがそうみたいね」
杏子「呼び出しなんて随分な心変わりじゃねーか。なんだってんだよ」
ガチャ。
アパートの一室のドアが開き、その部屋から暁美ほむらが顔を出した。
ほむら「…入ってちょうだい」
それだけ言って、ほむらは部屋の中へと戻っていく。
杏子「…」
さやか「…ねぇ、マミさん。入っていいのかな。あいつの事…信用して」
マミ「…信じてみましょう。だって暁美さんが今まであんな顔で私達に『相談したい事があるから私の家で』なんて言ってくれたの、はじめてだもの」
マミ「逆に、信頼していいと思うわ。今まで心を開いてくれなかった暁美さんがようやく私達の方に歩み寄ってくれたのだから」
さやか「…それもそう、か。何事も前向きに考えなきゃいけませんね、うん」
杏子「ま、完全に信用しきったワケじゃねーけどな。…それじゃ、入るか」
杏子はアイス最中を一齧りすると、先陣をきって部屋の中へ入っていった。
杏子「これは…」
さやか「な、なんなの…コレ…!?」
暁美ほむらの部屋の中は、貼りだされた写真や資料で埋め尽くされていた。
マミ「…これが、貴方の言っていた…いいえ、隠していた事なのね、暁美さん」
ほむら「ええ、そうよ」
ほむら「これが、『ワルプルギスの夜』。単独の魔法少女では対処できないほど巨大な魔女」
ほむら「こいつが…あと数日で、この街に現れる」
マミ「…キュウべぇから、噂だけは聞いた事があるわ。数十年…数百年に一度現れる魔女。強大で凶悪、一度具現化すれば数千人を巻き込む大災害が起きる…と」
さやか「そ、そんな魔女が…見滝原に現れるっていうの?」
ほむら「ええ、そうよ」
杏子「…なるほどな。なかなか面白そうな話じゃねーか。ただ分からない事があるんだけどな」
杏子は貼りだされた写真の数々を興味深そうに眺めながらも、ほむらに質問をした。
杏子「なんでアンタは、そんな魔女が現れるって事が分かるんだい?」
ほむら「… … …」
ほむらは一呼吸置いて、意を決したように話した。
ほむら「私が、未来から来たからよ」
マミ「…未来…から…?」
杏子「…」
さやか「…は、はは…冗談よしてよ」
ほむら「…本当よ」
ほむら「私の魔法少女としての能力。それは『時間を操る事』。そして私は、このワルプルギスの夜を倒すために幾度も時間を繰り返してきた」
ほむら「何度も繰り返して…そして、敗れては、時間を巻き戻した。いいえ、『巻き戻している』。それが私の現状よ」
杏子「…仮にアンタの話を信じるとしてもだ。アタシ達が、『ワルプルギスの夜』に何回も負けて、死んでるって事かい?」
ほむら「…そうね。何度も負け…いいえ、下手をすれば、ワルプルギスの夜を迎える前に、貴方達が死んでしまったという例もある」
ほむら「希望が、絶望に変わってしまった時に」
マミ「どういう…事…?」
ほむら「…キュウべぇから言われていなかった事実は、2つあるわ。1つは、私達魔法少女の魂は契約をした段階でソウルジェムに移されてしまったという事」
ほむら「そして、もう1つ」
ほむら「魔法少女は…ソウルジェムの穢れを拭っていかないと、魔女として生まれ変わってしまう」
マミ・さやか・杏子「!!!」
杏子「馬鹿な、そんな話…!」
ほむら「ええ、聞いていないでしょうね。あいつらインキュベーターにとって、コレを貴方達が契約前に知る事は都合が悪いことだから」
さやか「それじゃあ、あたし達が今まで倒してきたのは… …」
ほむら「…元、魔法少女。…でも、仕方のない事なの。そうしなければ、私達もああなってしまうのだから」
さやか「そ、んな…!」
マミ・杏子「… … …」
沈黙。
崩れ、膝をつくさやか。歯を噛みしめる杏子。…しかしマミは、ぐっと拳を握りしめて涙を流すのを堪えるのだった。
マミ「…暁美さん、教えて。…何故、それを私達に教えてくれるの…?」
ほむら「それは…私が貴方達に隠しておきたくなかったから」
ほむら「…かつて、過去で『仲間』だった貴方達。…巴マミ、佐倉杏子、美樹さやか…」
ほむら(…そして、鹿目まどか)
ほむら「貴方達ともう一度…仲間として戦いたかったから。…だから、嘘や隠し事はしないと、決心したのよ」
マミ「… … …」
ほむら「私の話を信じないのなら、それでいいわ。…元々私は一人で戦うつもり―――」
マミ「信じるわ」
ほむら「…!」
ほむらが諦めたように話し始めた時、マミはその声を遮るように強く言った。
マミ「…続けて。魔法少女の事、貴方の過去の事…そして、ワルプルギスの夜の事を」
コブラ「随分とデカい魔女だな!こいつは倒し甲斐があるぜ!」
エアーバイクに乗って空中を駆けるコブラ。幾重にも張り巡らせた洗濯ロープのような糸には、セーラー服が干してある。
そしてそのロープの先には、巨大な六本足の首の無い、異形の魔女がいた。
魔女は自身の周りを旋回するコブラに向けて次々と使い魔を放つ。スカートから出てくる使い魔もまた、下半身だけの異形。その脚には鋭利な刃物のようなスケート靴が履かれていた。
コブラ「へっ!あいにく俺は足だけの女に興味はないんだよッ!!」
右手はエアーバイクのハンドルをしっかり握り、左手のサイコガンを抜いてコブラは次々と使い魔を撃ち抜いていく。
だが、その数は膨大でこちらの攻撃をする余裕はあまりなかった。敵が巨大であるゆえ、チャージをしないサイコガンの射撃ではあまりダメージがないようであった。
コブラ「ちっ…!この…!」
コブラは一度体勢を立て直すため、『委員長の魔女』から離れる。
その様子を、黙って見つめるまどか。結界の中に入れたのは、他でもないキュウべぇであった。
QB「少し苦戦をしているみたいだね。まどか、どうするんだい?」
まどか「… … …」
QB「君が魔法少女になればすぐにでも彼を助ける事ができるよ」
まどか「…もう少しだけ、見てる」
まどか「見ていたいの。コブラさんが、魔女と戦っているところを」
QB「…」
観客がいる事には気づいていたが、あえて黙って闘っていたコブラ。
横目でまどかの方を見ると、にぃと笑って軽くウインクをした。
まどか「…!」
コブラはエアーバイクのアクセルを吹かし、突撃をする体勢をとる。
コブラ「行くぞぉ、生足の化け物!!」
コブラ「いやっほォォォーーーーッッ!!」
フルスロットルで飛び出したエアーバイクとコブラ。魔女は当然のように使い魔を次々とコブラに向けて発射していく。
だがコブラは正確にその攻撃を避け、魔女本体へと近づいていった。やがて委員長の魔女はコブラの目と鼻の先まで距離が縮まり…。
コブラ「くらえーーーッッッ!!」
ドォォォォォ―――――――ッッッ!!!
サイコガンの巨大な砲撃が魔女をつつむように焼き、消滅させる。その爆発にエアーバイクとコブラも飲み込まれてしまう。
まどか「!コブラさんっ…!」
しかし次の瞬間、爆風の中から脱出するエアーバイク。
まどかの元へ戻っていくコブラの右手の中には、しっかりとグリーフシードが握られていた。
――― 同時刻、再び、暁美ほむらの部屋。
ほむらは、全てを話し終えた。
魔法少女の希望が、絶望に変わったその時、魔女へと生まれ変わる事。それは、思ったよりずっと容易く起きてしまうという事。
そして、それが過去、凄惨な魔法少女同士の殺し合いすら生んでしまったという事。
さやか「…やっぱり、信じらんないな…。…あたしも、魔女になった事がある、だなんて…」
杏子「… … …」
さやか「ねぇ、転校生。…あんたは、魔女になったあたしを…殺したの?」
ほむら「…ええ」
さやか「あはは…だろうね。あたしだって…逆の立場だったら、そうするしかないもん」
ほむら「…結局、私達はワルプルギスの夜を迎える前に共倒れをしてしまう事が多かった…。それほど、希望が絶望に変わるのは容易い事だから」
ほむら「キュウべぇ…いいえ、インキュベーターは、だからこそ人間を食い物にしているの。脆く、儚い存在だからこそ」
ほむら「魔女が、見滝原を滅ぼそうが奴らには関係ない。目的は、私達が魔女化する時に発生するエントロピーの回収。…それだけなのよ」
杏子「…アンタの話してる事を全部信じるわけじゃねーけどよ。…そいつが本当だったらとんでもねー話だな。それじゃ、アタシ達はあいつに化け物にされたのと同じじゃねぇか」
杏子「忌々しくて…反吐が出そうだ」
杏子はチョコ菓子を噛み切ると、憎らしげに自身のソウルジェムを見つめ、握りしめる。
さやか「…それで、あんたはどうしたいの?…あたしたちに、こんな話をしてさ…」
座り込んださやかは、力無くほむらに語りかける。…その瞳は、既に絶望に淀んでいるようにも思えた。
さやか「あんたの話なんか信じたくもないけど…でも…嘘をついてるとも、思えないよ…。…どうしてだろ。…ねぇ、どうすればいいの?こんな化け物にさ」
ほむら(…やはり、無理だったの…?)
ほむら「…共に、戦って欲しい」
マミ・杏子・さやか「… … …」
ほむら「鹿目まどか…彼女が魔法少女になれば、ワルプルギスの夜を倒すのは容易い。でも…それは同時に、最悪の魔女を生む事にもなる。ワルプルギスの夜以上の」
ほむら(何よりも…まどかを失いたくないから)
ほむら「だから、まどかの力なくしてヤツを倒さなければいけないの。巴マミ、佐倉杏子、美樹さやか…そして私。…あと…」
マミ「…コブラさん、ね」
ほむら「…ええ。その五人で、ワルプルギスを倒す」
ほむら「あと数日でヤツは見滝原に現れる。…だから、協力をしてほしいの。全員でヤツを倒す…その協力を」
しかし、他の三人は黙ったままであった。
杏子「…その、ワルプルギスの夜を倒したとして…その後は、どうなるんだ?」
ほむら「…」
杏子「きっといつかはアタシ達は、絶望しちまうんだろ?…そして、化け物になって、死んでいく…。それならいっそ、ここで…」
ほむら「…それも、選択肢の一つだと、思うわ」
ほむらは、三人に見えないように後ろ手で拳をぎゅっと握りしめるのだった。
ほむら(私が、馬鹿だった…)
ほむら(佐倉杏子が言っている事の方が理にかなっている。夜を超えられても、いつか私達は絶望を迎え、魔女化してしまう)
ほむら(…結局、いつ死んでも…変わりはないのだから。…愚かなのは、それでも『仲間』を求めている、私の方…)
しかし、その時、マミは顔を上げて強い口調で言った。
マミ「…いいえ、それは違うわ」
ほむら「…!」
マミ「確かに…佐倉さんの言っている通り、魔女になる前に自分でピリオドを打つ方が正しい判断かもしれない」
マミ「…でも、それでも…私達の行動に、変わりはない筈よ」
マミ「街の平和を脅かす魔女を倒す、魔法少女であり続ければ…絶望なんて、しない。それは今までずっと続けてきた事だわ…!」
さやか・杏子「…!」
マミ「…私のこの命は、消えていてもおかしくはなかったの。いつ死んでも後悔はしない。…そう決めていた。だからせめて…ギリギリまで粘ってみたいの」
マミ「私はもっと生きていたい。もっと…鹿目さんや、コブラさん…佐倉さんや美樹さんと楽しい時間を過ごしていたい。…もちろん、暁美さんとも、ね」
マミ「だから私は…ワルプルギスの夜を超えてみせるわ」
マミ「何があっても…ね」
そう言って、ほむらに向けてにっこり微笑む。
ほむら「…!…マミ、さん…」
マミ「…ふふ」
マミ「やっと名前で呼んでくれたわね」
さやか「…マミさん…」
マミ「美樹さん…貴方だって、その筈よ」
マミ「貴方は、上条君の演奏を、もっと聞きたい…そう願っていたのでしょう?あの演奏をもっとたくさんの人に届けてあげたい、って…」
さやか「…!!」
マミ「私達は、ここで倒れてはいけない。…私達の命を、繋いでくれた人がいる。だから…それを無駄にしてはいけないの」
マミ「美樹さん…レディさんに貰った、上条君のチケット…決して無駄にしてはいけないわ。…私は、そう思うの」
さやか「…恭介…」
さやかは唇を噛みしめ、瞳を閉じてしばし沈黙する。
そして、すっくと立ち上がった。
その瞳には絶望ではなく、希望の笑顔が浮かんでいる。
さやか「…あっはは!…なんか、バカみたいだね。今までやってきた事となんにも変わらないのに、こんなに悩んでさ…!」
杏子「…!お前…」
さやか「あたしは…見滝原を守る、正義の魔法少女、さやかちゃん!…すっかり忘れてたよ。それだけ守ってれば、何も悩む事なんてなかったのに」
マミ「…美樹さん…」
さやか「…転校生。いや、ほむら!…やったろうじゃん!一緒に、戦おう!」
さやかは笑顔、だが強い目でほむらを見つめ、すっと右手を差し出した。
ほむら「…ええ、お願いするわ」
ほむらは嬉しそうに瞳を閉じ、その右手に自分の右手を重ねた。
杏子「… … …」
マミ「…佐倉さん、貴方は…」
杏子「アタシは今まで、自分のためだけに生きてきた。だから、今更アンタ達に協力しようなんて気はさらさらないね」
さやか「ばっ…あんた、ここまできて何言って…!」
杏子「うっせーなー。…めんどくさいんだよ、仲間とか、協力とか…めんどくさいんだよ」
ほむら「… … …」
杏子「…だけど」
マミ・さやか「!」
杏子「ワルプルギスの夜を一人じゃ倒せないっつーのも事実みたいだな。だから…今回だけ、付き合ってやるよ。その…一緒に、ってやつに…さ」
さやか「…アンタ…」
さやか「どこまで素直じゃないのよ…こっちまで恥ずかしくなるでしょ」
杏子「うるせーっ!!おめーに言われたくねーよこの色ボケ!!」
さやか「!い、色ボケはないでしょっ!!このお菓子女!!」
杏子「んだとー!!」
マミ「…と、とりあえず…皆、協力してくれるみたいね…」
ほむら「…ええ」
マミ「あ…暁美さん。…今の笑った顔、とても素敵ね」
ほむら「…」
ほむらは少し照れながらも、微笑んでいた。
ほむら(…そう、そうなのね…)
ほむら(この時間軸では…巴マミは魔女に食い殺されていて…美樹さやかは魔女になっていた筈…)
ほむら(でも…それを。その絶望を、全て逆に希望に変えてくれた人がいた)
ほむら(…コブラ)
ほむら(魔女に喰い殺されそうだったマミを助けてくれて…さやかの上条恭介への絶望すら拭ってくれた)
ほむら(わけの分からないガラス人形からソウルジェムを奪い返してくれて…敵対していた佐倉杏子すら、こちらに歩み寄ってくれた)
ほむら(そして、こうして今、夜を迎えようとしている…)
ほむら(…まどか)
ほむら(この時間で…貴方を助けられるかもしれない。…ようやく、貴方と朝を迎えられるかもしれない)
ほむら(まどか、待っていて…!…私が必ず、貴方を助けてみせる…!)
――― 夜。結界の解けた工業地帯のような場所で、コブラとまどかは座り込んでいた。
まどか「…教えてください、コブラさん」
まどか「なんで…なんで、魔女を倒してくれるんですか。…なんで、元の世界に戻らないんですか」
コブラ「…知っていたのかい」
まどか「…ごめんなさい、あの…。…でも、言わずにはいられなくって…」
まどか「コブラさん、元の世界に戻れるのに…なんで、まだここにいるのか…分からなくって…!だって、だって…!皆をずっと助けてくれてるのに…っ…コブラさんは…っ!」
まどか「もうちょっとで元の世界に戻れなくなるって、レディさん言ってたのに…!魔女と戦ってるってキュウべぇに言われて、わたし、我慢できなくて…っ…!何もできない私が、悔しくて…っ!!」
泣きそうになるまどかの頭に、コブラは優しく手を乗せる。
コブラ「なぁ、まどか。例えば…」
コブラ「例えば、お前さんの目の前に、子猫が一匹いる」
コブラ「その猫が、車に轢かれそうになったら、まどかはどうする?」
まどか「…!」
コブラ「お前さんの性格じゃあ、放っておけないだろ?…俺だって同じさ」
コブラ「誰かを助けたり、救ったりするのに理由はいらない。赤の他人だろうが何だろうが関係ない。…自分自身の願いだけが、自分を動かせる」
コブラ「俺ぁな、女の子が泣いたり悲しんだりするのがこの宇宙で一番苦手なんだぜ」
コブラ「例えここが違う世界だろうがなんだろうが…そこに俺が助けたいと思う人がいるのなら、力になるのが俺の趣味なんだ」
コブラ「いい趣味だろ?」
まどか「…コブラさん…!」
コブラ「さ、行こうぜ。…今日はちょいと、お呼ばれをしているんでね」
まどか「…誰に、ですか?」
コブラ「決まってるだろ?」
コブラ「街を救う、魔法少女達さ」
・
タートル号のレーダーから、クリスタルボーイの宇宙船の航路の反応が完全に途絶えた。
しかし、それを見てもレディは何も言わず、ただ心の中で静かに微笑むだけだった。
―― 次回予告 ――
いよいよ明日がワルプルギスの夜の決戦!俺達としても結束を固めておかなきゃいけないな。しっかり頼むぜ、皆。
っと、その前に話をしなきゃいけないヤツがいたな。インキュベーターの野郎さ。あいつに説教しておかなきゃ、俺の腹の虫が治まらないぜ。
そして…まどかに、ほむら。いよいよ全てを話さなきゃいけないぜ。全ての謎を解き明かし、俺達は最強の魔女に立ち向かう事になる。
次回のCOBRA×魔法少女まどか☆マギカ。【五人の魔法少女(前篇)】。よろしくゥ!
まどか「そんな… あんまりだよ…っ!こんな… こんなの、って… ないよ…っ!」
QB「――― まどか、運命を変えたいかい?」
まどか「え…!」
QB「――― この世界の全てを覆す力。君には、それがあるんだよ」
ほむら「! 駄目!まどか!そいつの言う事に…ッ!!」
まどか「… … …本当に?」
QB「――― 勿論だよ。だから」
QB「ボクと契約して、魔法少女に ―――」
ほむら「駄目ぇぇえええええええッ!!!」
・
まどか「… … …」
まどか「また、あの夢だ…」
第8話 「5人の魔法少女(前篇)」
見滝原市には、大粒の雨が朝から降り注いでいた。
暁美ほむらが言うのにはそれはワルプルギスの誕生…スーパーセルの前兆だと言う。
コブラとレディは林の中に身を潜めたタートル号のコクピットから、その雲を眺めていた。
レディ「かの女が言うには…明日。この見滝原という街を覆うように、魔女が生まれるというのね」
コブラ「ああ。どうやら本当らしいな。こんな雷雲、見たこともないぜ」
レディ「…それで、どうするの?コブラ。その『ワルプルギスの夜』に勝算はあるの?」
コブラ「へへ、俺がこう見えて計算高いの知ってるだろ?レディ。基本的に勝てない勝負はしないんだぜ」
レディ「…基本的に、ね」
コブラ「…ああ」
コブラ「今回ばかりは分からんね。ほむらがワルプルギスの夜に勝てた歴史は存在しない。つまり、どうやって倒すのかも分からない。気合や根性でどうにかなるんなら鉢巻でも作っておくけどな」
コブラ「未知数さ。今回のヤマはちょいとばかり、危険な賭けになるかもしれない」
レディ「ふふ、でも、それも慣れた事でしょう?コブラ」
コブラ「まぁね。それが海賊ってもんだからな」
コブラ「…さぁて、それじゃあそろそろ出てきてもらおうか。相変わらずコソコソ隠れるのはいい趣味とは言えないぜ、インキュベーター」
椅子に腰かけながら、のんびりとそんな風に語りかけるコブラ。
船内の物陰から、ひょっこりと姿を現すインキュベーター。
レディ「…!」
QB「相変わらず常人とはかけ離れた察知能力だね、コブラ。君が本当に人間なのかは大いなる疑問だ」
コブラ「地球外生命体にそう言ってもらえるとはね。診察したいなら結構だが、料金は高いぜ」
QB「いいや。それはボク達インキュベーターの成すべき事ではないからね」
コブラ「そうだったな。幼気な少女を騙してエネルギーを回収するのがお宅らの仕事だ」
QB「否定はしないよ。君達人間にとってボクは敵でも味方でも構わない」
QB「ただボク達は、宇宙の永らえさせられればそれでいい。それが使命なのだから」
コブラ「結構な使命だね。それで?アンタは説法でもしに俺の船に来たのかい」
QB「…」
QB「君達未来人ともう一度話す機会を設けたくてね。ボク達にとって、やはり君達の存在はとても興味深い」
コブラ「…いいぜ。レディ、客人にコーヒーだ。とびっきり苦いヤツを頼むぜ」
QB「君達のいた世界が存在するのは、ボク達インキュベーターが宇宙の寿命を永らえさせるのに成功した事の証明だ」
QB「ボク達は地球の誕生の遥か以前から存在し、その使命を全うしてきた。だからそれが無事未来まで続いているのだとしたら、それはやはり非常に興味深いわけだ」
QB「何せ人類の発展は、ボク達と紡いできた歴史と言っても過言ではないのだからね」
コブラ「ご立派だね。基金でもたてたらどうだい」
レディ「…しかし、そのために貴方達は人を…魔法少女達の希望を絶望に変え、その命を奪ってきた」
QB「君も、それを疑問視するのかい。例えば、蟻の巣から一匹の蟻を摘まみ出して殺す事に何の影響があるのかな。むしろその蟻は、宇宙に対して貢献が出来るんだ。意味のない死じゃない、素晴らしい事じゃないか」
レディ「でも、かの女達は人間よ。蟻ではないわ…!」
QB「随分と都合のいい意見だね。蟻なら良くて、人間では駄目。ボク達からすれば60億以上の個体数から毎日数個を摘出する程度、何も気にする事ではないと思うけれど」
コブラ「… … …」
QB「むしろその犠牲が、全ての人類を救う事に繋がっているんだ。インキュベーターが責められる理由は何もないじゃないか」
コブラ「…そうでもないさ。アンタらは、単に上から胡坐をかいて人に頼っているだけの存在に過ぎない」
QB「どういう事かな?」
コブラ「宇宙のエネルギーが減っていく一方、太古の昔のアンタらが見つけたのが少女達を糧にしてそのエネルギーを補っていくという方法。…だったかな」
コブラ「だが、そいつの効率性自体を疑うね。何千年何万年も昔のシステムに頼っていないと宇宙が消滅しちまうってのは、甚だ可笑しな話だ」
コブラ「インキュベーターの目的は、いたいけな少女を殺す事だったのかな。それとも、宇宙を永らえさせる事だったのかな?」
QB「…」
QB「つまり、もっと効率のいいエネルギーの回収方法があるとでもいうのかい」
コブラ「そいつを模索するのもあんたらの目的に含まれる筈だ。何にしても、俺ぁその宇宙の寿命とかいうやつに貢献するつもりは全くないからな」
コブラ「かの女達だってそうだ。アンタらには感情がないから分からないかもしれないがね」
コブラ「同じ種族、同じ志の人間を殺されていい気分のするヤツはいないぜ。そうしないと宇宙が滅びちまうっていうのなら」
コブラ「宇宙なんざ、滅びちまうべきなんじゃないかな」
QB「コブラ。君の意見は宇宙全体の害悪に過ぎないよ」
コブラ「残念だったな。俺はもともと色ぉーんな奴に恨まれてるんだよ」
コブラ「汚いんだよ。やれ宇宙のためだの人類のためだの言って人を食い殺して自分達を正当化する。感情は無いクセに、そこはクリーンに見せたいわけか?」
QB「理解をして欲しいだけさ。人が存在しないと、ボク達も生きていけない。少しは歩み寄らないとね」
コブラ「だから『契約』という形で少女達を騙しているわけだ」
QB「君がそう思うのも自由さ」
コブラ「まぁ、そこは褒めてやるさ。…勝手な奴もいてね、人なんざ平気で食い物や踏み台にするヤツは、俺の世界にもごまんといる。しかしアンタらは、契約後生き延びる術も与えてくれてるのだからな」
コブラ「だから俺は、そいつを最大限活用させてもらうよ」
QB「…」
コブラ「かの女達の未来を、醜い魔女なんかにさせやしない。…とびっきりの美女になってもらわないと、俺が困るんだ。未来に住んでいる俺がね」
そう言ってコブラは立ち上がると、タートル号から出て市街地へと歩いて行った。
ほむら「…それじゃあ、明日。教えておいた場所に集まって。そこにワルプルギスの夜が生まれるわ」
さやか「りょーかい。…あはは、なんか、集合って言われるとピクニック行くみたいでなんか緊張感ないけど…」
マミ「…でも、確かにそこで…私達の決戦が始まるのね」
ほむら「ええ。…何度も私が、挑んできた場所だから」
杏子「ま、緊張感なんざ持たなくていいんだよ。万全のコンディションで臨むためにしっかり寝て…しっかり食っておくコトだな」
さやか「アンタはお菓子食って体調万全だから便利だよね…」
杏子「どういう意味だよ」
ほむら「…それじゃあ、明日。…教えておいた時間と、場所で」
マミ「ええ。…頑張りましょうね、暁美さん」
ほむら「…」
ほむらは少しだけ頭を下げると、マミの部屋から出て、雨の降る外へと出て行った。
さやか「なーんかやっぱり実感ないなー。…明日、最強最大の魔女が生まれて…生きるか死ぬかの闘い、なんて」
杏子「生きるか死ぬかの闘いなんざ常日頃からやってるだろ。要するに、いつもと変わらねーんだよ。アタシ達にとっちゃあ、魔女が大きかろうが小さかろうが関係ない」
さやか「…そっか。いつもと変わらない…。そう思ってればいいのか。たまには良い事言うじゃん」
杏子「たまには、が余計なんだよ」
マミ「ふふ、本当にいつも通りで安心ね、2人は」
その時、来客を知らせるチャイムが鳴り、ガチャリとドアが開く音。
コブラ「やぁ淑女の皆様、お揃いで」
マミ「あ、コブラさん。…まぁ、どうしたの?それは」
コブラ「手ぶらじゃ何だしね。美人の店員に良いのを見繕って貰ったのさ」
そう言うコブラの手には、花束が一つ握られていた。コブラはコートの雨粒を払って部屋に入ってくると、笑顔でそれをマミに差し出す。
マミ「…この花…。ふふ、有難うコブラさん。それじゃあ飾っておくわね」
さやか「相変わらずキザだねー、コブラさんは。今時の男はそんな事しないよー」
コブラ「ハハ、だろうな。俺のいた時代でもなかなか見かけなかったぜ」
さやか「…さーてーはー…相当場数を踏んでいると見たねッ。…モテたでしょー?」
コブラ「ま、そこそこに」
さやか「うわぁ」
コブラ「ところで、ほむらは来なかったのかい。てっきりここにいると思ったんだが」
マミ「あら、彼女が目当てだったの?」
コブラ「とんでもない。マミにも勿論会いたくて来たんだぜ」
マミ「…あの、そういう意味じゃないんだけれど…」
苦笑いをしながら、花を花瓶に移すマミ。
杏子「アイツならさっきまでここに居たぜ。丁度アンタとすれ違いだ」
コブラ「ありゃあ、そいつは残念。タイミングが悪かったな」
さやか「明日のコトもあるしね。ほむらはほむらで、何か準備があるんじゃない?」
コブラ「…成程、ね。それじゃ、ちょいと俺は追いかけてみるとするか」
マミ「え?来たばかりだし、お茶でも飲んで行っても…」
コブラ「そいつぁ有難い。少し後でゆっくり頂きに来るぜ。ちょいとかの女に話があるんだ」
コブラ「それじゃあな。…そうだな、紅茶はダージリンがいいね。美味そうなクッキーもあったら最高だ」
マミ「…クス。はいはい、用意しておくわね」
そう言ってすぐにマミの部屋を出ていくコブラ。
呆気にとられた様子でそれを見送るさやかと杏子。
さやか「珍しいね、あの人があんなすぐ帰るなんて」
マミ「何か目的があるとすぐに飛んでいっちゃう性格みたいね。…まだ一か月くらいしか一緒じゃないけれど…分かりやすいのか分かり辛いのか…」
杏子「勝手な奴だな」
さやか「…アンタには言われたくないと思うよ」
マミはガラス製の花瓶にコブラから貰った白い花を綺麗に飾り付けると、テーブルの中央に置いた。
さやか「へーっ、綺麗。…花とかあんまり見ないから分からないけど、いい色してますね。コレ」
杏子「これ、何の花だ?」
マミ「…これはね、ガーベラの花よ」
杏子「ガーベラ?」
マミ「そう。キク科の多年生植物で…花言葉は『希望』。ふふ、本当に色々な事に詳しいのね、コブラさん」
さやか「…やっぱりキザだぁぁ…」
大粒の雨が降りしきる中、傘も差さずに一人立ち、何もない空を見上げる少女。
ビル街の中心。開発中で、何も無い草原のような広く拓けた場所。そこには…明日、いや、過去…確かにワルプルギスの夜が存在するのだった。
コブラ「…やっぱりここだったか、ほむら」
ほむら「…何か用かしら?必要な事は伝えた筈だけど」
そのほむらの後ろに着いたコブラ。少女はそちらを見る事なく、冷たいような言葉を放つ。
コブラ「一つ、聞いておきたい事があってね。お邪魔だったかな」
ほむら「…構わないわ。何かしら」
コブラもまた、雨の中傘を差さずに、雨粒を身体に受けている。それでもいつものにやけた表情は崩さずに、葉巻はしっかりと銜えていた。
コブラ「…話さないのかい、まどかには」
ほむら「… … …」
ほむら「ワルプルギスの夜の事を?何故?まどかには関係のない事だわ」
コブラ「おいおい、関係ないはないだろ?かの女にはしっかりと関係がある筈だぜ」
コブラ「あんたがかの女を親友だと思っているように…かの女もまた、あんたを親友だと思っている」
ほむら「…そんなワケないわ」
ほむら(…それは、過去の話。…この時間軸の話では、無い)
ほむら「もう一度言うわ。…何故、話さないといけないの。まどかは魔法少女ではない。一緒にいても危険なだけよ」
コブラ「俺達が負ければどこにいたって同じだろ?それに、かの女は関係無いわけじゃない。魔法少女の闘いを何度も見てきている」
ほむら「それだけだわ。…まどかには、魔法少女に関わって欲しくなかった。それなのに…関わってしまった。その事実だけで十分過ぎるほど危険なのに」
コブラ「…まどかが魔法少女になる事が、か」
ほむら「… … …」
コブラ「アンタの行動は、まどかを自分達から遠ざけたいとする一方、守りたいという行動にも見える。以前、ガラス人形と戦った時に言っていたっけな。まどかの悲しむ顔は見たくない、ってさ」
コブラ「ほむら。あんたが時間を繰り返してまで戦う理由は…まどかを守りたいからだ。しかし、まどかを魔法少女にしてはいけない。…そんなルールがお前さんの中にある」
コブラ「そして、まどかは魔法少女としての素質がありすぎる。その力は強大だ。…ワルプルギスの夜を超える魔法少女となり…最悪の魔女へとなってしまう。…違うかい?」
ほむら「… … …」
ほむら「どうして…」
コブラ「仕事柄、探偵の真似事をする事も多くてね。つい考えちまったのさ」
コブラ「当たっちまったようだな」
ほむら「… … …」
ほむら「ええ、その通りよ」
ほむら「まどかを魔法少女にするわけには、いかないの。…どんな魔法少女も…いいえ、どんな人間でも…希望は絶望へと変わってしまう」
ほむら「私達と一緒にまどかが戦ってしまっては、いけない。まどかの悲しむ顔を…もう、見たくないの。まどかが魔女に変わるその瞬間を、見たくない。まどかの悲しむ顔なんて、もう見たくない…!!」
コブラ「…」
ほむら「私は…まどかを守る。最初の時間で、最初に出会った、最高の友達を…失いたくない。だから…絶対に、私はワルプルギスの夜に負けられない…!」
コブラ「…なぁ、ほむら。あんたは、『皆で』ワルプルギスの夜を倒すんじゃなかったのかい?」
ほむら「… … …」
コブラ「闘えるだとか、闘えないだとかは関係ない。…要は、自分の意志さ。自分の願いだけが、自分を動かせる。…アンタがまどかを守りたいと言うのなら、まどかの気持ちはどうなるんだ?」
ほむら「…まどかには、私の気持ちなんて…どうだっていいの。私が守ると決めたんだもの。そのための…魔法少女の力。だから…まどかは何もしなくていい」
コブラ「それじゃあかの女の気持ちは無視するのかい」
ほむら「まどかが私に対して、何を思うと言うの。…この時間軸では、まどかには何も伝えていないというのに」
コブラ「…伝えなくても、伝わる事もあるさ。…特にほむら。あんたの行動は、分かりやすいからな」
ほむら「…?…どういう―――」
ほむら「!!!!!!!」
その時、ほむらは初めてコブラの方を振り向いた。
自分の後ろにいるのは、コブラだけだと思っていた。だからこそ、全てを語っていた。…それなのに。
まどか「… … …」
そこには、自分と同じく、雨に濡れるまどかの姿があった。
ほむら「どう、して…」
まどか「…わたし、ずっと、考えてたんだよ。どうして、ほむらちゃんが…戦っているのか。…前に、マミさんが言ってたから。ほむらちゃんは、グリーフシードを奪うためだけに戦ってるんじゃない、って」
まどか「魔女を倒して…さやかちゃんのソウルジェムも、返してくれた。…ずっと、何でか、分からなかった」
まどか「…だから、聞こうと思ってたの。どうしてほむらちゃんは…」
まどか「わたしを助けてくれようとしているのか。わたしを…魔法少女にさせないようにしてくれているのか」
ほむら「…!!」
まどか「ほむらちゃんは…ずっと、わたしを守ってくれてたんだね。違う時間を、何回も繰り返して…ずっと、ずっと…」
まどか「なんで…?なんでそこまで、わたしの事を…」
ほむら「…っ…!」
まどか「わたしだって…皆の…ううん、ほむらちゃんの力になりたいよっ…。でも、ほむらちゃんはいつも…わたしを魔法少女に近づけないようにしてくれて…それが、わたしを守ってくれている事になっているんだって、今分かった…」
まどか「教えて…どうしてほむらちゃんは、魔法少女に…」
ほむら「関係ないわ」
まどか「…!」コブラ「…」
ほむら「まどか、貴方には関係ない事なの。だから話す必要もな―――」
まどか「関係あるよッ!!!!」
ほむら「…まど、か…?」
まどか「ほむらちゃんはわたしを助けてくれる!だからわたしも、ほむらちゃんを助けたい!どうしても…どうしても、力になりたいの!だから…わたしは知りたい!!」
まどか「どうしてほむらちゃんが魔法少女になったのか…どうして、何度もわたしを助けてくれるのか…!話してくれるまで、わたしは此処から離れないッ!」
まどか「わたしは…ほむらちゃんの事ッ―――」
その瞬間、まどかに抱きつくほむら。
涙に震える掠れた声。今までの彼女からは聞いた事のないような弱々しい声。
ほむら「逆、なの…全部、全部、逆っ…!」
まどか「ほむら、ちゃん…?」
ほむら「私を助けてくれて…私を、友達だと言ってくれて、守ってくれたのは…全部っ…まどかなのよっ…!だから私は…貴方を、失うわけには…っ…!!」
ほむら「でも…ッ、でも、貴方は何度も私の前から…っ、ひぐっ、消えて、しまって…!!何度も、何度も消えてしまうのよッ…!!」
ほむら「私の一番大切な友達を、守りたい…!!それだけなのよっ…!!」
まどか「… … …」
降りしきる雨の中、まどかの服を握りしめ、強く抱くほむら。まどかもコブラも初めて聞く、彼女の弱音。
だがまどかは、涙を流しそっと微笑みながら、ほむらの肩をそっと抱く。
コブラ「…(さて、お邪魔虫はこの辺りで消えるとするかぁ)」
コブラは瞳を閉じ、微笑みを浮かべながらその場を後にする。
ほむら「まどかを、救う。それが私の魔法少女になった理由。そして今は…たった一つ、私に残った、道しるべ」
ほむら「でも時間を繰り返せば繰り返すほど…貴方と私の距離は遠くなって、ズレていく」
ほむら「それでも私は…まどかを守りたい。だから…ずっと、時間を繰り返してきた」
ほむら「解らなくてもいい。伝わらなくてもいい。私は、貴方を守れれば、それで…」
まどか「解かるよ…ほむらちゃん」
ほむら「…まどか…」
まどか「…初めて、泣いてくれた。初めて、ホントの言葉で話してくれたから。…だから、わたしはほむらちゃんの言葉、解かるよ。…全部」
ほむら「… … …」
まどか「だから…わたしは、ほむらちゃんを助けたいの。お願い…わたしを、魔法少女に…!」
ほむら「…駄目よ」
まどか「… … …」
ほむら「それじゃあ、駄目なの。…貴方を、この闘いの中に巻き込めない。貴方には…ずっと、笑っていて欲しい。私の傍で、ずっと…」
ほむら「だから…それじゃあ、駄目。それじゃあ、私のしてきた事が全て、無駄になってしまう」
ほむら「私に、貴方を守らせて」
アナウンス「―――本日午前七時、突発的異常気象による避難指示が発令されました」
アナウンス「見滝原市周辺にお住まいの皆様は、速やかに最寄の避難場所への移動をお願いします。繰り返します―――」
・
マミ「…来るのね、いよいよ…」
ほむら「ええ。…本当にいいの?」
杏子「良くなかったら此処にいねーよ」
さやか「そうそう。…ま、ちょっと怖いけどさ。これも魔法少女のお仕事…ってヤツだよね」
マミ「皆、必ず生きて帰るわ。…だから、行きましょう、暁美さん」
ほむら「… … …ありがとう」
杏子「にしても、アイツ遅いな。どうしたんだ?」
さやか「…まさか…」
マミ「そんな事はないわ、美樹さん。…彼は、きっと来てくれる。今までだってそうだったんだもの。…だから」
その時、上空に聞こえる轟音。異常気象の突風を物ともせず、空中に停止するタートル号。
ほむら「…コブラ…」
コブラ「よう、待たせたな皆」
コブラ「それじゃ行こうぜ。パーティ会場へ…な!」
まどか「… … …」
避難場所である学校の体育館から、暴風吹き荒れる外を眺めるまどか。
その手に握りしめられているのは、一本のガーベラの花であった。
まどか「ほむらちゃん…。わたし…」
まどか「…ごめんね…」
――― 次回予告 ―――
遂にワルプルギスの夜との決戦だ!まぁー奴さんのデカい事強い事、この上ない!流石の俺でもちょっと骨が折れそうだぜ。
俺とほむら、マミ、さやか、杏子の力をもってしてもなかなか厄介な仕事だ。まぁ、後にも引けない事だし死ぬ気でやってやろうじゃないの!
しかしそんな中、戦いの中に突然現れるまどか。どうやらかの女は何かの決心をして来たらしい!こうなりゃもう怖いもんナシだ。
だが物事そう上手くはいかないねぇ。…大変な事が起きちまうみたいだぜ。
次回のCOBRA×魔法少女まどか☆マギカ。【五人の魔法少女(中篇)】。よろしくゥ!
避難場所である、見滝原市体育館。
暴風雨が吹き荒れる外の景色を茫然としたような表情で見つめるまどか。そして、その横にまるで何かを待つように佇むキュウべぇ。
2人の間に、少し前、会話があったせいだろう。ただただその空間には沈黙が流れていた。
それは、魔法少女の本当の姿。希望が絶望に変わるその瞬間と、その意味。インキュベーターはその全てをまどかに話したのだった。
重い沈黙を先に破ったのはまどかだった。
まどか「…騙してたんだね、全部」
QB「君も彼と同じ事を言うんだね、まどか」
まどか「…だって…!皆、一歩間違えたら…死んじゃってたかもしれないんだよ…!?それで、それで…魔女になって、戦うなんて事になったら…!」
QB「それこそ『当たり前』なんだよ、まどか。有史以前からずっと繰り返してきた事実さ。魔法少女は遥か昔から世界中にいたんだ」
QB「そして彼女達は、希望を叶え、ある時は歴史すら動かし」
QB「最後には絶望に身を委ねて散っていく」
まどか「…!」
QB「祈りから始まり、呪いで終わる。それが数多の魔法少女が繰り返してきた歴史のサイクルさ」
まどか「… … …」
まどか「ほむらちゃんも…マミさんも、さやかちゃんも、杏子ちゃんも…必ずそうなるって言うの…?」
QB「さっきも言った筈だよ。祈りは必ず、呪いに変わる。だからこそ魔法少女は僕たちインキュベーターに必要なのだから」
まどか「… … …」
まどか「そんな事、ない」
QB「どういう事かな?」
まどか「希望は、絶望に必ず変わるワケじゃない。…ずっと持っていられる希望だって、あるんだよ」
QB「君がそれを作って見せるとでも言うのかい、まどか」
まどか「わたしが…みんなを、助けてみせる…!!」
強い瞳。強い声。
まどかの右手には一本のガーベラの花が握られていた。
禍々しい瘴気のような、霧と風が向かい風となって五人に吹いていた。
まるでそこに行くのを拒むかのような向かい風。しかし、五人はその風に向けて歩んでいくのであった。
マミ「…レディさんは、来ないの?」
コブラ「ああ。俺は基本的にかの女を仕事に手伝わせないスタイルなのさ。今回は俺の船の留守番を頼んであるからな」
さやか「そっか…。そもそも宇宙船が壊れちゃ、コブラさんが帰れなくなっちゃうもんね」
コブラ「その意味もあるが、まぁかの女は余程の事があった時の助っ人を頼んであるというわけだ」
杏子「これが『余程の事』じゃなけりゃ、アンタの余程の事はいつ起きるんだよ」
コブラ「そうだなぁ。美女達が軍隊アリみたいに俺に襲い掛かってきた時は、流石に助けてもらおうかな」
さやか「あはは…よくそんな冗談言いながら歩けるね」
コブラはにぃ、と葉巻を銜えた口元を緩ませた。
ほむら「… … …」
マミ・杏子・さやか「…!」
前方からこちらに向かってくるものが多数ある。
それは、まるでサーカスのパレード。
象、木馬、人形…まるで祭りのように賑やかに、それらは五人を通り抜けていくのだった。
さやか「使い魔…!?」
さやかはソウルジェムを取り出すが、ほむらがそっと手を出してそれを静止させる。
ほむら「いいえ。少なくともこいつらは私達を攻撃しないわ。…まだ、早い」
コブラ「本体だけを叩けばいいわけだ。目的としては単純でいいね」
ほむら「そうね。…シンプルだからこそ、絶対的でもある。力の差が歴然と出るわ。…私達が、敵う相手か否か」
さやか「… … …」
杏子「…さやか?…震えてるのか」
さやか「…あ、あはは…なんか…ど、どうしても…怖いなぁ。ごめん、情けないの分かってるし、今更だけど…こ、怖くって…どうしようもなくて…」
そう言うさやかの表情は曇り、身体が小さく震えていた。心配をする杏子も、その恐怖心による震えを必死に耐えている。
杏子「… … …」
さやか「…バカ、だよね。もうとっくにあたしなんか人間じゃないのに…死ぬのが、怖いなんてさ…。ホント、バカだと思うよ…笑ってくれても…」
杏子「ほら」
さやか「…!」
俯いて震えるさやかの眼前に、杏子の手が差し出された。
杏子「手、握れよ。ちょっとは抑えられるだろ?震え」
さやか「… … …杏子…」
杏子「怖いのは誰だって一緒さ。我慢なんざしなくていい。怖いならアタシの手なんか握らないで逃げてもいいんだ。誰も責めないよ」
杏子「ただ、アンタのバカさ加減じゃ怖くてどうしようもなくても、行こうとするだろ?」
杏子「だから、同じバカ同士、手でも握ってやるよ。少しはマシになるだろ」
さやか「… … …」
さやか「恥ずかしいヤツ」
杏子「うるせーよ」
さやかは微笑みながら、そっと杏子の手を握った。
五人の中で、前方を躊躇いなく歩く、ほむらとコブラ。そして、それに必死でついていく、マミ。今にも恐怖心で歩みが止まりそうなのは、マミも一緒だった。しかし、前を歩く2人はすたすたと先を進んでいく。
マミ「…2人とも、強いのね…。私なんて、逃げ出したくてたまらないのに…」
ほむら「逃げ出してもいいのよ、巴マミ。…責めるつもりなんて、ないわ」
マミ「…いいえ、行くわ。…でも… … …どうしても…怖くて…」
コブラ「マミ。俺もほむらも、別に強いわけじゃないぜ」
マミ「…え?だって…」
コブラ「俺もほむらも、『未来』を信じているのさ。だからこそ、その未来がくるように突き進んでいける」
マミ「…未来…」
ほむら「… … …」
コブラ「明けない夜なんざない。夜が明けなきゃ、サンタクロースはプレゼントを渡す事すらできない。だから、俺達はしっかり朝を迎えさせてやらないとな」
マミ「…コブラさん…」
コブラ「ついてきな、マミ。魔法少女は、必ず俺が守ってみせる」
詢子「どこへ行こうっていうんだ?」
まどか「…!ママ…」
詢子「まどか…あたしに、何か隠してないか?」
まどか「… … …」
詢子「言えない、ってのか」
まどか「…ママ、わたし…」
まどか「友達を助けるために、どうしても今行かなくちゃいけないところがあるの」
詢子「駄目だ。消防署に任せろ。素人が動くな」
まどか「わたしでなきゃ駄目なの」
詢子「… … …」
パァン。
廊下に響くような、乾いた音。
詢子「テメェ1人のための命じゃねぇんだ!あのなぁ、そういう勝手やらかして、周りがどれだけ―――」
まどか「分かってる」
詢子「…!」
まどか「私だってママのことパパのこと、大好きだから。どんなに大切にしてもらってるか知ってるから。自分を粗末にしちゃいけないの…よく分かってる」
まどか「だから、違うの」
まどか「みんな大事で、絶対に守らなきゃいけないから。…そのために、わたしに出来る事をしたいの」
詢子「…なら、あたしも連れて行け」
まどか「駄目。ママは…パパやタツヤの傍にいて、二人を安心させてあげて欲しい」
詢子「… … …」
まどか「ママはさ。私がいい子に育ったって、いつか言ってくれたよね。…嘘もつかない、悪い事もしない、って」
まどか「今でも、そう信じてくれる?」
詢子「… … …」
詢子はふぅ、と諦めたように溜息をつき、まどかの両肩を掴んでその目をじっと見つめる。
詢子「…絶対に、下手打ったりしないな?誰かの嘘に踊らさせてねぇな?」
まどか「うん」
まどか「わたしを…皆を助けてくれる、頼もしい人がいるから。だから、安心して。絶対にわたし、無事で帰ってくるよ」
――― その少し前。
体育館に避難していたまどかを、同じように廊下で呼びとめた人物がいたのであった。
まどか「…!!コブラ、さん…!」
コブラ「よう、まどか。元気してるか?」
まどか「み、みんなは…!?ワルプルギスの夜に向かって行くんじゃ…」
コブラ「ああ、俺もこれから行くところさ。その前に、まどかに渡す物があってね」
まどか「…渡す、物…?」
コブラはまどかの所まで近づくと、手にもっていた花をまどかの手に握らせた。
まどか「…これ…」
コブラ「昨日みんなには渡したんだけどな、お前さんに渡すのを忘れてた。俺とした事がうっかりしてたぜ」
まどか「… … …」
コブラ「まどか。お前さんは今のままで十分強い。だから、なりたい自分になろうとするな。自分を犠牲にして他人を助けようなんてするな」
コブラ「ただ、自分の信じる道だけを進んでいけばいい。それが、まどかの強さだ」
まどか「…!!」
コブラ「じゃあな。…美人のお袋さんにも、よろしくっ」
コブラはウインクをして微笑むと、体育館の外へと出ていく。
まどか(コブラさん、わたし、見つけたよ)
まどか(自分の信じる道、歩いていける道)
まどか(全部、自分で決められたんだよ。もう迷わない。絶対…後悔なんてしない!)
まどか(わたしは…!)
吹き荒れる雨の中。傘もささずに、少女は駆けていく。
自分の信じる道を、ただひたすら。
五人は歩みを続けた。
一段と、風を強く感じたその時、ほむらは足を静かに止めて、四人がいる後ろを振り返る。
ほむら「…逃げ出すなら、此処が最後よ。後戻りは出来ないわ」
ほむらは静かに、それを全員に告げた。
マミ「…」
さやか「…」
杏子「…」
しかし、誰一人として踵を返す者はいなかった。俯く者もいなかった。
ただ魔法少女達は前を向き、その先に存在するであろう巨大な敵に強い瞳を向けている。
コブラ「途中下車はいないようだぜ、ほむら」
ほむら「…本当に、いいのね」
マミ「ええ。…答えは、さっきと変わらないわ」
さやか「どうせ何もしなきゃ死んじゃうんだし…私達が、どうにかしなきゃね」
杏子「乗りかかった船だ。最後まで付き合ってやるよ」
ほむら「… … … ありがとう、皆」
コブラ「… 見えてきたぜ、アイツが…どうやらそうみたいだな」
ほむら「ええ、間違いないわ。…あれが…」
マミ「ワルプルギスの… 夜…」
コブラ「ここが終点か。それじゃあ皆、派手にやるぜ」
さやか「…うん!」
杏子「行くぜ…!」
魔法少女達はソウルジェムを取り出し、それぞれの戦闘態勢をとる。
コブラは左腕の義手をゆっくり抜き、サイコガンを目標に向けて構えた。
ほむら「…来るわ…!」
5 4 3 2 1 …
まどか「はぁっ、はぁ…っ!」
QB「もうすぐ着く筈だよ、まどか」
まどか「ほ、本当に…?まだ、影も形も…!」
まどか「…!」
QB「到着したようだね」
QB「あれが、ワルプルギスの夜」
QB「歴史に語り継がれる、災厄。この世の全てを『戯曲』へと変える、最大級の魔女だよ」
まどか「あ、あ、あ…!」
まどかの眼前に広がる光景。
それは、まさに死闘とも呼べる戦いの光景であった。
巨大な歯車には、逆さに吊るした人形のようなドレス。
数多の少女達が笑い声をあげるような声が、あちこちに響くように聞こえる。
それは、まるで城塞。巨大な城が空へ浮かび、笑い声をあげながらそこに佇む。
今までの魔女とは比べものにならない巨大な姿。そして、感じられる禍々しい気迫。魔法少女にとっては、まさにそれは最悪の敵と呼ぶに相応しかった。
さやか「はああああああッ!!!」
杏子「うおおおおおおッ!!!」
さやかと杏子は、剣と槍を構え、ワルプルギスの夜へと続くサーカスのロープを駆けていく。
その横を飛び交う、銃弾や砲撃。
地上からはマミ、ほむら、そしてコブラの砲撃が続いていた。
マミ「…ッ!はッ!やッ!」
ほむら「…!」
マミは魔法で召喚した単発銃を次々と目標に向けて放ち、ほむらも用意したあらん限りの銃火器を次々と放っていく。
巨大な爆発が次々と起こる中、本体へ辿り着いたさやかと杏子は勢いよく跳躍をし、魔力を高め、斬撃を放つ。
一撃。
剣と槍による鋭い一撃を与えると、2人は魔力を使いゆっくりと地上に降りる。
ワルプルギスの夜「アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!!!!!」
杏子「マジかよ…効いてねぇ…ッ!」
ほむら「続けて攻撃するわ!加勢して!」
さやか「くっ…!それならもう一度…!」
コブラ「おっと、もうちょっと待ってくれ。俺の番がまだ終わってねぇぜ」
マミ「え…!?」
コブラはサイコガンを上方に向けると、高めた精神エネルギーの全てを放出する。
まるでそれは、巨大な光の大砲。瘴気を切り裂き、真っ直ぐにワルプルギスの夜に向かう。
ズオオオオオ―――――――ッ!!!
ワルプルギスの夜に触れ、それは巨大な爆発を起こした。爆風で見えなくなった相手に向け、コブラは次々とサイコショットを放つ。
コブラ「ショータイムだ!遠慮しないで続けてどんどんいけ、皆!」
ほむら「…!」
杏子「っしゃあ!任せとけ!」
カチリ。
時間を止め、銃火器をワルプルギスに向けて再び連射するほむら。銃弾、グレネード、ロケットランチャー…用意した全ての武器を惜しむことなく相手に向けて放っていく。
再び動き出し、ワルプルギスの夜に向け進んでいく数百、数千の弾丸。
その間に、マミとコブラも攻撃を続けていく。
マミ「…!『ティロ・フィナーレ』ェェッ!!!」
コブラ「うおおお―――っ!!!」
巨大な銃身から出る、魔力の一撃。左腕の砲身から出る、巨大な精神力の砲撃。
その全てが魔女に確実に当たり、次々に爆発と爆風を生む。通常ならば、どんな敵でもそれだけで消滅するだろう。
しかし、さやかと杏子はそれでも再びワルプルギスの夜に向けて突進していく。
さやか「今度こそ決めるよ!!」
杏子「ああ!いい加減、くたばらせてやるぜ!!」
意気込み、駆け抜ける2人。
まどか「…皆…!」
QB「… … …」
どこか、安心して見守るようなまどか。それは、今までになかった光景だからだろうか。
巨大すぎる敵。しかしだからこそ、五人は今までにない団結力で次々と効果的な攻撃を仕掛けられている。全ての攻撃が当たり、お互いをフォローできている。
まどか(これなら…勝てる…!)
しかし、まどかは…いや、全員はまだ気づいていなかった。
ワルプルギスの夜が、こちらに対し何の攻撃も仕掛けていない事に。
さやか「いくよ!もう一回ッ!!」
あと少しで、もう一度城塞へと辿り着く。2人は剣と槍を構え、再び一撃をくわえようとしていた。その瞬間、地上からの砲撃は止み、2人の攻撃を待つ。
まさに完璧なチームワーク。…その筈だった。
杏子「…!!! なッ…!?」
まさに、ワルプルギスに斬りかかろうとした時。爆風の中から出現する…影。
幻影「キャハハハハハハハハハハハ!!!」
幻影「アハハハハハハハハハハハハ!!!」
人型の黒い影は素早くさやかと杏子の2人の眼前に来ると、武器のようなもので2人を攻撃した。
さやか「きゃああああああッ!!!」
とっさの防御も間に合わず、さやかは幻影の攻撃により地上へと叩き落された。
杏子「ッ!!さやかッ!!」
一瞬、さやかの方へ気を取られてしまった杏子。その隙に、もう一体の幻影も杏子に向けて攻撃をする。
杏子「ぐああああッ!!」
マミ「!!美樹さん、佐倉さんっ!!」
コブラ「なんだありゃあッ!?」
ほむら「…!幻、影…!?ワルプルギスが吸収した…魔女の…魔法少女の、魂…!!」
コブラ「くそぉ…!!さやかぁ!杏子ッ!!」
地上に叩き落されたさやかと杏子。どうにか自身の魔力でそのダメージを軽減するものの、魔法少女の幻影は追撃をかけようと2人に急速に迫る。
さやか「くッ…!だ、大丈夫…!?杏子…」
杏子「ああ、なんとか… …ッ!? 危ねェッ!!」
体勢を立て直そうとするも、幻影は今にも斬りかかってきそうなほど間近に迫っていた。
その時。
ズオオオオ―――――ッ!!
杏子「!!」
2体の幻影を一気にかき消す、光の波動。
幻影が消えた先に見える、サイコガンを構えた男の姿。
さやか「ヒューッ!さっすがコブラさん!助かっちゃった!」
コブラ「元気そうで何よりだ。…しかしあの野郎、なんて攻撃してきやがるんだ。悪趣味にも程があるぜ」
杏子「…余裕ぶっこいてる暇もなさそうだぜ。…来るぞ!」
上空を見据える杏子。その視線の先を追うように、コブラとさやかもワルプルギスの夜の方を見る。
城塞から次々と出現するのは、何体…いや、何十体もの、魔法少女の幻影。それらは敵であるコブラ達に向け、笑い声をあげながら突進してくる。
コブラ「やれやれ…こういうモテ方は勘弁して欲しいよ、ホント」
マミ「2人とも!大丈夫!?」
慌ててさやか達の方へ駆け寄るマミとほむら。5人は再び合流をし、臨戦態勢をとる。
さやか「はいっ!…でも、ちょっとピンチかも…!」
コブラ「マミ、ほむら!迎撃するぜ!」
マミ「…!何…あの幻影の数は…!」
ほむら(…あんな攻撃、今まで見たことは無かった…。それだけアイツが…ワルプルギスの夜が追い詰められているという事…?」
ほむら(でも…それじゃあ、あの魔女の本気はどれだけ…!)
コブラ「ほむらッ!」
ほむら「―――ッ!!」
コブラ、マミ、ほむら。遠距離武器に特化した3人は、こちらに向けて突っ込んでくる幻影群を迎撃する。
魔法銃、現代火器、そしてサイコガン。それぞれの砲撃は幻影達を次々と消滅させていくが、全てに対応できるわけではない。残りの幻影は次々と5人に向けて襲ってくる。
さやか・杏子「はあああああああッ!!!」
こちらに近づく幻影は、一歩前に出たさやかと杏子の斬撃で倒していく。一体一体が、魔法少女と同レベルの闘い。しかしながら、戦闘経験を積んだ2人の戦士は次々と幻影を斬り捨てていくのだった。
――― しかし。
ほむら(… 終わ、らない…ッ!!)
コブラ「くそっ!出し惜しみなしか!」
幻影は減るどころか、次々と城塞からこちらに向かってくるのだった。
マミ「はぁっ、はぁ…!」
さやか「くっ…!ぐ、ゥ…っ!!」
幻影を次々と倒していく魔法少女とコブラ。しかしながら、長引く戦闘による魔力の消費で、魔法少女のソウルジェムはどんどん黒く濁っていく。
ほむら(このままじゃ…私達まで危なくなる…!!)
さやか「あ、ッ…!!」
杏子「!!さやかッ!!」
最も経験が浅いさやかの限界が、一番先にきたようだった。体勢が崩れ、地面に膝をつけてしまうさやかに襲い掛かる、複数体の幻影達。
さやか「… !!!」
自分の最期を感じたのか、思わず目を瞑ってしまうさやか。 …しかし、そのさやかの目の前に立つ、一人の男の姿。サイコガンは次々と幻影を撃ち抜き、倒していった。
さやか「コブラ…さん…!」
コブラ「安心しな。何があっても守ってみせるぜ」
…しかし、状況はどんどん苦しくなっていくばかりだった。
そして…5人は未だ、気付かなかった。
ワルプルギスの夜が、次なる攻撃を仕掛けようと動いている事に。
まどか「 … !!!」
その異変に気付いたのは、鹿目まどかが最初だった。誰よりも遠くから状況を見ていたからこそ、気付けた事実。
彼女は、戦いを続ける5人の元へ急いで駆け寄る。
そして、あらん限りの声で叫ぶ。
まどか「逃げてええええ――――――ッ!!!!」
ほむら「…! まどかっ!?」
マミ「鹿目さん…!?どうして…!!」
コブラ「… … …!! 何だ、ありゃあ…っ!!」
そして、まどかの叫びの意味を、5人は知る。
城塞の周りを取り囲んでいるのは…根本が折れた、幾つもの巨大ビルだった。
ワルプルギスの夜はそれらのビルを、こちらに向けて飛ばしてくる。まるで、とてつもなく巨大な弾丸のように。
コブラ「くそおおお―――ッ!!!」
コブラはサイコガンを次々と巨大ビルに向けて発射する。
しかし…間に合わない。崩れた鉄塊は全員を押し潰そうとばかりに、ゆっくりと、しかし確実に迫い来るのだった。
ほむら(… !! このままじゃあ、まどかまで…ッ!!!)
カチリ。
ほむらは時間停止をして、こちらに走り寄ってくるまどかに近づき、引き留めようとその場に押し倒した。
カチリ。
魔力を消費した状態での、精一杯の時間停止。
まどか「あっ…!」
砂埃をあげ、地面に倒れ込むほむらとまどか。
その先には…
魔力を消費しすぎて動けなくなったさやか、杏子、マミと…その3人を必死で守ろうとサイコガンの連射を続ける、コブラの姿。
さやか「…もう、駄目…っ!!」
杏子「くそ…っ!!ここまで、かよ…!!」
マミ「そんな…そんな…ッ!!!」
眼前まで迫る、巨大なコンクリートと鉄の塊。
コブラは、喉が引き裂かれるような声をあげた。
コブラ「俺に掴まれぇぇぇぇぇ―――――――――――ッッッ!!!!!!!」
ドオオオオオオオオオオオオオオオンッ!!!!!!!
墓標のように、4人を押し潰すコンクリート。
爆風が、ほむらとまどかを襲う。
そして、無情なまでの静けさが、辺りを包むのだった。
まどか「… … …」
ほむら「… … …」
そこには、さやかと、杏子と、マミと、コブラの姿は無かった。
今まで、確かに4人が存在した場所。しかしその場所は、無数の建造物の残骸により、掻き消えてしまっていた。
コブラの叫びが、嘘のように消えていた。静寂は恐怖心と絶望を現し…同時に、4人の死を現すのだった。
ほむら「… ぐ …ッ …!!」
まどか「…嘘…だよ…。みんな…みんな、死んじゃったの…?」
まどか「そんなの、嫌だよ…。 …返事、してよ…マミさん…。さやかちゃん…杏子ちゃん…!コブラさん…!」
まどか「こんなの… こんなのって… !!!」
ほむら(… 駄目だった…。 今回、も…)
まどか「いやあああああああああああああああああああああああああッ!!!」
まどかの悲痛な叫びが、静寂を切り裂いた。
絶望を表情に灯す2人の眼前に現れる、1つの影。
それは、インキュベーターだった。
QB「さぁ、鹿目まどか、暁美ほむら。君達はどうするんだい?」
まどか「… … …」
ほむら「…!くッ…!!」
QB「希望は、全て消えた。後に残った物は絶望しかない」
QB「どうするんだい?このままこの街が…いや、この世界が滅びるのを待つのかい?」
まどか「… … …」
QB「手段はある筈だ。それは、2人とも分かっている事だね。 …鹿目まどか、君自身が希望となる以外に絶望を払拭する方法は存在しない」
QB「もし、君自身が希望となる決意があるのなら…」
ほむら「駄目…っ!まどか…!あいつの言う事に…ッ!!」
まどか「…ある、のなら…」
ほむら「… まど、か…っ!!」
QB「もし君に決意があるのなら」
QB「ボクと契約して、魔法少女になってよ」
――― 次回予告 ―――
全く、コブラと魔法少女の下敷きなんて喜ぶのはどこのどいつだぁ!?勘弁してほしいよホント。
憐れ、宇宙海賊コブラの冒険もここで仕舞い…って、俺を待ってる美女がうじゃうじゃいるのにおちおち死んでられるかってんだチクショー!!
一方、まどかはいよいよ決意を固めて魔法少女になっちまう。しかしその願いは、誰も予想しなかったとんでもない願い事だった!!
まどか、ほむら…一体どうなる事やら。平穏が宇宙の彼方で欠伸してるぜ。どんな結末が待っているのか、いよいよラストスパートだ。
次回のCOBRA×魔法少女まどか☆マギカ。【五人の魔法少女(後編)】。よろしくゥ!
瓦礫の山にぴょこんと飛び乗ったその生き物は、2人の少女に向けて告げる。
その声に、感情は無い。ただ、今そこにある事実をただただ冷酷に告げ、そして選択を迫るのだった。
QB「――― ボクと契約して、魔法少女になってよ」
その言葉に、1人の少女は明らかな敵意を向ける。
しかし、もう1人の少女は…その言葉に希望を見出してしまうのだった。
ほむら「…ッ…!ま、どか…っ!駄目…っ!駄目よ…!!」
まどか「… … … ほむらちゃん …」
ほむら「やめて…!貴方が魔法少女になったら、私は…っ、私は…!!」
まどか「… 約束、守れなくてごめんね、ほむらちゃん…」
ほむら「そんな言葉…聞きたくない…!まどか…!お願い…っ!やめてぇ…!」
QB「さぁ、まどか、君は何を願うんだい?君の魂なら、どんな願いでもその対価となり得る」
まどか「… … …」
まどか「私の願いは ―――」
ほむら「駄目ェェェェェェェェッ!!!!!!」
第10話「五人の魔法少女」
吹き荒ぶ嵐の中、1人の少女はハッキリとした眼差しでその生物を見つめる。
それは、今までの鹿目まどかからは考えられない程の明瞭な言葉だった。
まどか「私の願いは…」
まどか「全ての魔女を、生まれる前に消し去りたい」
まどか「全ての宇宙。 過去と未来の全ての魔女を。 …この手で!」
ほむら「っ…!!」
QB「! その祈りは…そんな祈りが叶うとするなら、それは時間干渉なんてレベルじゃない!因果律そのものに対する叛逆だ」
QB「まどか、君は… 神になるつもりなのかい」
まどか「神様でも、何でもいい。皆… これまで魔女と戦い、希望を信じてきた人達の涙を、もう見たくない。そのためなら、どんな事だってしたい」
まどか「それを邪魔するものなんて… ルールなんて、全部壊して、変えてみせる!」
まどか「これが、私の願いよ。…インキュベーター」
ほむら「駄目…!!まどか…!!そんな事をしたら… そんな願いが叶ってしまったら、まどかは…!!」
まどか「… ほむらちゃん …」
まどか「本当に、ごめん。 …でも、私は…皆の笑顔が戻るなら、この命を使っても構わない」
ほむら「そんな…!それじゃあ、私は…何の為に…!!」
まどか「… … …ごめん…いくら謝っても、足りないと思う。 …でも、ほむらちゃんがずっと私を守ってきてくれたから、今のわたしがあるの」
まどか「魔女が存在する限り、いつか…わたしもほむらちゃんも、きっと哀しみを背負わなくちゃいけない」
まどか「ううん、マミさんだって、さやかちゃんだって、杏子ちゃんだって… 世界中の、どの時間でも… 哀しみはずっと消えない」
まどか「コブラさんが、みんなの希望になろうとしてくれた。…でも…それは、叶わない願いだった」
まどか「だから…代わりになれるのは、わたししかいない。わたしは…皆の、希望になりたい。その為なら…この命を犠牲にしても、構わない」
ほむら「嫌よ…!まどかがいなくなったら…私は、どうすれば…!!」
まどか「… … …」
まどか「ありがとう、ほむらちゃん。…本当に、今まで…ありがとう。…だから、もう、いいんだよ」
ワルプルギスの夜が、笑っている。
まるで世界そのものに対し嘲り笑うかの如く、その笑いは響き渡った。
しかし、まどかとほむら、そしてキュウべぇの周りはまるで時間が止まったかのように静まり返っているように思えた。
まどかは一歩、キュウべぇに対して近づき、その手を差し出した。
まどか「――― さぁ、インキュベーター。 どんな願いも叶えられる…そう言ったよね。 …今のが、わたしの願いよ」
QB「… … …」
まどかの周りを、光が包む。
それは、まどかの願いが成就されようとする瞬間を示していた。
ほむら「まどか…ぁっ!」
まどか「――― !!」
インキュベーターとの契約がなされ、新たな魔法少女が誕生する瞬間。
祈りを捧げるように瞳を閉じ、手を差し出すまどかは、微笑みを浮かべていた。
光が増す。風が巻き起こる。 …全てが、変わる。
――― その時。
「おおっと、その契約 ――― 異議アリだ」
まどか「――― !!」
まどかの瞳が、開いた。
「まどか、俺は言った筈だぜ。 自分を犠牲にして、他人を助けようとするな、ってな」
「希望ってのは、なるモノじゃない。 作るものだ。 まどかの今までしてきた事は、十分『俺達』の希望になって…力になっている。 まどかは、まどかが思っている以上に、強い」
まどか「… !!」
ほむら「この…声…」
「それにな、俺のいた世界では、神様ってのはもっとボインなんだぜ」
「14歳のいたいけな少女が神様になっちまっちゃあ、俺の世界と違っちまうんだよ。 ――― お前さんにそんな重荷を背負わせる世界なら、俺が変えてやる」
「――― いいや、壊してやる」
QB「…!!」
「俺は、あんた達を守ると約束した。 そして、男ってのは… 一度交わした約束は、守りきらなきゃいけない生き物なんだぜ!!」
まどか「!!!」
瓦礫の山。そこから、光が溢れだしてる事に気付いた。
その光は段々と強くなる。鉄筋を、コンクリートを、硝子を… 全てを溶かし、『道』を作ろうとする、その光。
「そのためなら… 俺は何度でも立ち上がる!何度でも挑むッ!! だから… 俺を、俺達を、信じろ!!まどかッ!!」
コブラ「俺は ――― 不死身のコブラなんだからなァッ!!!」
ドゴォォォォ――――――ッ!!!!!!
上空に放たれた巨大なサイコショットは、雲を切り裂き、太陽の光を浮き出させた。
その光に包まれる、1人の男。
天に構えたサイコガンを右手で抑え、その男はまどかとほむらに向け、不敵な笑みを浮かべるのだった。
そして、その男の周囲には、マミ、さやか、杏子…それぞれの姿があった。
まどか「コブラ…さん…!」
ほむら「コブラ…!」
QB「…信じ難い。一体、どうやって」
コブラ「へへへ、覚えときなインキュベーター。 サイコガンは、心で撃つものなのさ。この銃は俺の精神(サイコ)エネルギーに反応し、そいつを曲げる事も、増す事も出来る」
コブラ「つまり、だ。オタクらに無い『感情』の力が、俺達を救ったのさ」
QB「!」
コブラ「かの女達、魔法少女を助けたいという感情。その思いは力になり、鉄だろうが何だろうが一瞬で溶かしちまうくらいのエネルギーを持つ。そいつが、俺達を助けた」
コブラ「な?キュウべぇ。感情ってヤツも、捨てたもんじゃないだろ?」
QB「…」
さやか「ビルが飛んできた瞬間、コブラさんのサイコガンが一瞬でビルを溶かしてくれた。そいで、その熱があたし達にこないように、あたしの魔力でバリアを張ってたのさ!」
マミ「美樹さんの自己回復能力の応用ね。…本当に助かったわ」
ほむら「そんな… だって、私達は魔力を消費して…ほとんど動けないくらいまで…」
さやか「へっへっへー」
さやかはニヤリと笑い、見せつけるように右手を差し出す。その手には、グリーフシードが握られていた。
コブラ「色々と賭けだったぜ。あの瞬間、俺がセーブせずサイコガンを撃つ瞬間、さやかがバリアを張ってくれなけりゃいけない」
コブラ「保険はかけておくもんだな。堅実ってのも少しは悪くないかもな」
コブラの大きな手には、大量のグリーフシードがあった。
QB「その為に…君は、魔女を倒していたのか」
コブラ「そういう事。もしもの時のために…ってヤツさ。こう見えて俺は貯蓄派でね」
コブラ「俺の手をさやかが握った瞬間、その穢れはコイツが吸い取ってくれる。もう少し遅かったら火傷しちまうところだったが、間に合ってホッとしたよ」
杏子「ホント、ギリギリの賭けだったな。…正直生きた心地しなかったぜ」
コブラ「まぁ、これで全ては解決だ。…ほむらっ!」
ほむら「…!」
コブラはほむらに向け、グリーフシードを投げた。それを受け取ったほむらは自分のソウルジェムにグリーフシードを当て…再び立ち上がった。
コブラ「さ、後半戦だ。…9回裏、逆転ホームランはここからだぜ!」
さやか「うんっ!」
マミ「ええ…!」
杏子「おうっ!」
ほむら「…!」
ゆっくりと、しかし確実に都心部へと移動しようとするワルプルギスの夜。
しかし、その巨体に刺さるようにぶつかる、巨大なサイコガンの一撃。
ワルプルギスの夜「!!!」
コブラ「何処にもいかせねぇぜ、城の化け物。 ここから先は通行止めだ!」
ワルプルギスの夜「キャハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!」
再び現れた『敵』に反応したワルプルギスの夜は、再びその周囲から幻影を出現させる。
マミ「…!来るわッ!」
杏子「よっし、いくらでも相手してやるぜ!」
さやか「もういくら来ようが平気だもんね!…絶対、負けないッ!」
まどか「… コブラ、さん… わたし…」
コブラ「…まどか、俺はお前さんに何かをしろ、なんて命令した事は一度も無いぜ。 自分の進むべき道、切り開くべき道は自分で決めるんだ」
コブラ「まどかには、仲間がいる。魔法少女だけじゃあない。お前さんの周りにいる全ての人々が、まどかの希望となっている筈だ」
まどか「…!」
コブラ「神様なんざ必要ない。…希望ってのは… 自分の手でも、作り出せるんだぜ!」
まどかの頭にポン、と手を乗せたコブラは微笑みを向ける。そしてその手を離し、迫りくる幻影に向けて駆けだすのだった。
まどか「…自分で作り出す…希望…」
まどか「… … …」
まどかはキュウべぇの方をもう一度振り向き、その生物を見つめるのだった。
杏子「マミッ!危ねぇぞ!!」
マミ「!!」
背後に忍び寄っていた幻影を、杏子の槍が切り裂く。
杏子「ったく、昔っから甘ったるいんだよ。…弟子に助けられるようじゃ、師匠としてまだまだだな」
マミ「…クス。そうね…佐倉さん。 …ありがとう」
杏子「へっ。…油断すんなよ!来るぞ!」
次々と迫ってくる幻影を、コブラのサイコガンが撃ち落す。
それを避けきり、コブラに近づく幻影は…さやかの斬撃によって斬り捨てられた。
コブラ「様になってきたじゃねぇか!その調子なら彼氏もしっかり守れそうだな、さやか!」
さやか「バッ…!か、彼氏とか言わないでよっ!そういう話は後回しっ!!」
コブラ「こりゃ失礼!それはそうと、どんどん来るぜ!照れてる場合じゃないぞ!」
さやか「誰が照れさせてるのよっ!!」
ほむら「…ッ!」
迫る幻影を銃器で次々と撃つほむら。 …しかし、間に合わず至近距離まで迫られてしまう。
一体の幻影が、笑い声をあげながらほむらの目の前で斧を振りかざした。
ほむら「しまッ…!」
その幻影をかき消す、一筋の光。
まるで『矢』のようなその光は、かき消すように幻影を撃ち抜く。
ほむら「な…ッ!」
ほむらの見た先には… 弓を構え、微笑むまどかの姿があった。
まどか「…あ、あはは… 当たった…良かったぁ…」
ほむら「まどかッ! その恰好… 貴方は、魔法少女に…!!」
まどか「…うん」
ほむら「どうしてッ!? 契約してしまっては、折角コブラが繋いでくれた事が…!」
まどか「違うよ。 …願い事は、もう叶ってるから」
ほむら「え…!」
まどか「神様にはならない。ただ、わたし自身が一つの希望になれれば…それで十分なんだ、って…ようやく分かったんだ」
まどか「わたしは、ほむらちゃんに守られるわたしじゃなくて…ほむらちゃんを守るわたしにもなりたいの」
まどか「ほむらちゃんが…ずっと、わたしにそうしてきてくれたように」
ほむら「!!!!!」
まどか「だから戦う。皆と同じように、わたしも…街を守る、魔法少女になる!」
まどか「どんな絶望にも… 勝てるようにッ!!」
ワルプルギスの夜に弓を向けるまどか。
繰り出される幻影を次々とその矢で射ぬく。正確なその射撃は一撃も外れる事なく、目標に当たっていく。
さやか「え…ま、まどかっ!その姿…!」
マミ「…なったのね、魔法少女に」
まどか「ティヒヒ、遅ればせながら。…えと、似合うかな…?」
杏子「…ちょっと少女趣味すぎやしないか?アタシには死んでも似合いそうにない服だ」
マミ「うふふ、とってもよく似合っているわよ、鹿目さん」
まどか「あ、ありがとう…ございます」
まどか「…コブラさん。 …わたし、答えが出せたよ。 …1人で、考えて…!」
コブラ「… へへへ、似合ってるぜ、まどか。…それに、いい顔が出来るようになったじゃねぇか。先生は100点満点をあげるぜ」
まどか「…!ありがとうございます!」
ほむら「… … …」
まどか「…ほむらちゃん…」
コブラ「ほむら。お前さんの願いは、崩れ去っちまったか?違うんじゃないのか」
コブラ「未来は、1人で掴みとらなくてもいい。5人で掴みとる希望も、あっていいんじゃないか。5人の魔法少女が…希望となれる世界だ」
ほむら「…!」
まどか「…違うよ、コブラさん! …今は、6人… コブラさんも入れて、6人!…でしょ?」
コブラ「! …ああ、そうだな!」
ほむら「… 私は…」
ほむら「私は… まどかが…いいえ、皆が笑っていられる世界なら、それでいい。…だから…」
ほむら「だから私は…ワルプルギスの夜を、倒す!!」
コブラ「ようし!そんじゃさっさと、あの馬鹿でかい疫病神を追い払うとしますかぁ!!」
さやか「…!みんな!もう一回アレが来るよ!!」
ワルプルギスの夜の周囲に、再び崩れた建造物が浮遊しはじめた。もう一度、こちらへの攻撃を開始しようとする狼煙。
しかし、それを見ても6人の表情に恐怖はなかった。
全員が対象を見据え、それぞれの構えをとる。
コブラ「それじゃ、いい加減終わらせるとしますかぁ。少しオイタを許し過ぎたぜ」
まどか「…はいっ!」
さやかと杏子は、剣と槍に力を宿す。
マミとほむらは、それぞれの銃の照準を対象に合わせる。
そして、コブラとまどかはお互い背中合わせの恰好になり、サイコガンと弓を構える。
ワルプルギスの夜「キャハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!」
ほむら「…これで、終わらせる…!」
マミ「ええ… 魔女に… あんな姿になった、魔法少女を…放ってはおけないわ」
さやか「… あたし達の街は、あたし達が守らなくちゃ…ね!」
杏子「跡形もないくらいに… 吹き飛ばしてやるぜ!」
まどか「どんなに大きな壁でも… 必ず、超えてみせるっ!これからも!」
コブラ「…ようし、意気込みは良し、だ!派手な花火をぶっ放してやろうぜ!皆!」
コブラ「行けぇぇぇぇ――――――――ッッ!!!!!」
2つの刃の投擲。2つの銃弾の発射。そして、2つの光が同時に、ワルプルギスの夜へと向かって行く。
浮遊するビル群を物ともせず、それぞれが滅ぼすべき対象の元へと、真っ直ぐに。
そして… … …。
大きな爆発が起きた。
大きな光が辺りを包んだ。
それはまるで、嵐を吹き飛ばすかのような衝撃。
そして、それが止んだ時、その爆発の後には何も存在しなかった。
あれだけ街を包んでいた雷雲すら、そこには存在しない。
ただ一つそこにあったのは…吹き飛んだ雲の間から照らす、太陽の光。
その光が、まるで6人を称えるように差し込む。
ほむら「… … …」
コブラ「夜明け、ってのはいつ見ても良いもんだな、ほむら」
ほむら「… … … ええ。 …とても、綺麗」
コブラ「…ああ。 最高だぜ」
一筋の涙がほむらの頬を流れた。
まどか「終わった… 終わったんだよ!ほむらちゃん!ワルプルギスの夜を…倒したんだよっ!!」
ほむら「…!まど、か…」
思わずほむらに抱きつくまどか。
まどか「ほむらちゃん…!これで… これでようやく、ほむらちゃんの…っ!うう、っ…!ぐすっ…!」
ほむら「… … … ありがとう、まどか…」
肩に回されたまどかの手をぎゅっと握り返す、ほむらの手。
さやか「やったんだ… あはは、夢みたい…あんな大きな魔女を、倒せた、なんて…」
杏子「ようやく生きた感じがするな。今更ながら、随分無茶したもんだよ」
マミ「うふふ…でも、皆無事だったんだから、良かったんじゃないかしら」
杏子「…そうだな。 …あ?」
さやか「?どうしたの?杏子」
杏子「コブラは… どこ行きやがったんだ、あいつ」
マミ「…あら… 本当…」
レディ「… … …!」
コブラ「ようレディ、ただいま」
レディ「おかえりなさい、コブラ」
コブラ「心配したか?」
レディ「いいえ、ちっとも。だって、貴方の仕事だもの。 無事で帰ってこないはずがない、でしょ?」
コブラ「おーヤダヤダ。男心をちっとは分かってくれよ。心配した、なんて優しい言葉を求めてる時も俺にだってあるんだぜ?」
レディ「ふふ、考えておくわ。…さ、コーヒーを淹れておいたわ。船内で飲みましょう」
コブラ「嬉しいねぇ。帰るべき我が家と相棒と、最高のコーヒー。文句のつけようがない」
コブラ「それじゃ… ささやかな祝杯でも、あげるとしますか」
―― 次回予告 ――
ワルプルギスの夜も倒して、ようやく俺の肩の荷も下りたってところだな。お伽話ならめでたしめでたしで終わるところだが…ところがそうもいかないんだなぁ。
なにせ元の世界に戻る方法が見つからないときてる。これには流石のコブラさんもお手上げってわけ。どうしたもんかね。
しかし、ひょんな事から俺は元の世界に戻る事が出来るようになったわけ!いやー、めでたしめでたしで終われそう… って、毎度の事ながら、そう簡単にいかないわけだコレが。
最後くらい平和に終われないもんかね、全く、海賊のつらぁーいところよ。
次回、最終話【エピローグ さようなら、コブラ】で、また会おう!
ピピピピピ…
まどか「うぅ~ん…っ…」
カチッ。
まどか「…ふぁぁ…よく、寝たなぁ…」
まどか「… … …」
まどか「夢…見なかったなぁ…」
詢子「おーい、まどか起きてるか~?メシにするぞ~」
まどか「あ…はーいっ」
まどか(…えへへ…なんだか、いい一日になる気がするなぁ…)
最終話「エピローグ さようなら、コブラ」
まどか「うーん…」
詢子「ふぁぁ…おはよ、まど… …なんだ、またリボンの色、悩んでるのか?」
まどか「…あ、ママ、おはよう。ティヒヒ…みんなかわいくって…」
詢子「前から言ってるだろ?赤だって。 …ま、そこまで悩むんならいっそ両方持って行っちまえばいいんじゃないか?」
まどか「あ!そうだね…うん、そうする!」
詢子「決めたら朝食食べに行くよ。…あー、台風の低気圧がまだ残ってて頭痛いわー」
まどか「ママ…それ、単に飲み過ぎだと思うよ…」
詢子「はっはっは。…さ、行くぞ」
まどか「それじゃ、行ってきまーす!」
知久「行ってらっしゃーい!」
タツヤ「いったーっしゃーい!」
詢子「気を付けてなー!」
まどか「はーいっ!」
まどか(いつも通り、何の変りも無い朝…だったなぁ)
まどか(わたしは…ううん。さやかちゃんも、マミさんも、ほむらちゃんも、杏子ちゃんも…コブラさんも。みんな、あの戦いを生き抜いて…この街を守った、なんて…。実感ない)
まどか(でも…空は今日も晴れていて。清々しい空気を…胸いっぱいに吸い込める)
まどか(私は…魔法少女になったんだ)
まどか「…えへへ」
さやか「…なーに朝からにやついてるんだぁ?まどかー」
まどか「ふぇっ!?い、いつの間に…」
仁美「…いつの間にも何も、今ここまでまどかさんが歩いてきたのではありませんか?」
まどか「… … … 天狗の仕業」
さやか「何を言っているお前は」
さやか「しかし、実感ないよねぇ、まどか」
まどか「あ、さやかちゃんも同じ事思ってた…?実はわたしも」
さやか「うん。こんなふうに朝フツーに登校できるなんて、夢にも思わなかったもん」
仁美「…お2人とも、何のお話をされているのでしょう?」
さやか「! あ、あははは!いやぁ、あんな台風が起きた後でよく学校やってるなーって!学校吹き飛んでるかと思ってさぁ!」
まどか「そ、そうそう!そういう事なんだよっ!」
仁美「…また私に内緒のお話を… 不潔ですわー!」
涙を流しながらダッシュをして学校に向かう仁美。
まどか「… 行っちゃった。 …ところで、さやかちゃん。…仁美ちゃんと、恭介くんの事は…」
さやか「ああ、アレ?しばらくその話は抜きにしよう、ってお互いに話したの」
まどか「…?」
さやか「恭介のヤツ、今はリハビリの事しか頭に無いし。そういう所鈍感で嫌になっちゃうからさ。…仁美にも、かわいそうだし。だからしばらくこの話はやめて、友達として改めて…って話したの」
まどか「…すごいね、さやかちゃん。そういう事ズバっと言えるって」
さやか「うーん。前までのあたしだったら、無理だったかな? 一皮剥けた、って感じかな。スーパーさやかちゃん的な」
まどか「あはは」
さやか「お。前方に目標確認」
まどか「…あ、ほむらちゃんだ」
さやか「おっはよー、ほむら!今日も暗いぞー!どうしたー!?」
ほむら「…おはよう、まどか」
まどか「おはよっ、ほむらちゃん」
さやか「うおぉい!出会って即無視かいっ!しかもまどかまで!?」
ほむら「… … …」
まどか「… … …」
さやか「…おーおー、見つめ合って頬赤く染めあっちゃって…新婚初日かっての、あんたらは」
まどか「な、なにいってるのさやかちゃんてばっ…!て、ティヒヒ、…えと…い、一緒に行こ?ほむらちゃん」
ほむら「ええ」
杏子「よう」
まどか「!?杏子ちゃん!どうして…それに、その恰好…」
さやか「ウチの制服じゃん!…ま、まさかアンタ…」
杏子「今日からこの学校に転校してきたんだよ。拠点を本格的に移そうと思ってな。この方が好都合だからさ」
さやか「えええええっ!?」
まどか「あはは、杏子ちゃんのスカート初めて見た。すごく可愛いよ」
杏子「!? ばっ、ばっかやろ…!こっちだって恥ずかしいんだよ…!そういう事言うのやめろ…!」
さやか「あれー?制服違ってるんじゃないのー?男子用制服じゃなかったっけー?」ニヤニヤ
杏子「こ・の・や・ろ…!」
さやか「やるかこのー!!」
ほむら「…騒がしいわね」
まどか「あはは…でも、2人ともすごく嬉しそうだよ」
ほむら「… … …」
キーンコーンカーンコーン
まどか「あ!大変!授業はじまっちゃう!」
さやか「にゃんだとー」
杏子 「にゃんだとー」
お互いに頬を引っ張り合っている2人。
4人は学校まで駆けて行こうとするが…その前方を遮るように、1つの影が出てきた。
マミ「はぁっ、はぁ…!」
まどか「ま、マミさん!?」
さやか「どうしたんですか、そんなに息あげて…」
マミ「た、大変なの…」
杏子「魔女か!?朝っぱらから迷惑な野郎がいたもんだな」
マミ「ち、違うの!そうじゃなくて…!」
まどか「それじゃあ、一体…?」
マミ「コブラさんが…いなくなっちゃうの!!」
一同「えええええええええっ!?」
森林の中。タートル号の外で、コブラとレディは森林浴を楽しみながら、朝のコーヒーを啜っている。
コブラ「くぁぁぁあ…。やっぱり地球で感じる朝の光と空気が一番だね。過去の世界だとしても」
レディ「ええ。あれだけ風が吹き荒れたから、雲1つないわね」
コブラ「新鮮な空気を吸い込み、朝の森林浴。…なーんて健康的な生活かね。健康診断、一発オッケーだな」
レディ「元から何の問題も出てないでしょ?貴方の身体は」
コブラ「色々不具合が起きてるんだよ。特に最近、グラマラスな身体を見てないからな。精神的に問題アリだ」
レディ「…怒るわよ、かの女達」
コブラ「おおっと、オフレコで頼むぜ。 …それで、データは間違いないのか?」
レディ「ええ。何百光年か離れた先に、ブラックホールが発生したわ。周囲には何もない宙域なのだけれど…そのブラックホールのデータ、私達が吸い込まれた物と一致している」
コブラ「原因不明のブラックホールが再発…ねぇ。何か裏がありそうだが、まぁ、この話に乗っからないわけにはいかないな」
レディ「詳しい分析は付近でするけれど…元の世界に戻れる可能性は、極めて高いわね。行ってみる価値はあるわ」
コブラ「ああ。名残惜しいが、この世界ともさよならだ。忙しい海賊稼業に戻るとするかね」
レディ「でも…少し不安ね。かの女達…魔法少女。別れくらい言ってからの方がいいんじゃない?」
コブラ「俺の性分じゃない。…それに、もう俺の力は必要ない。だったら、この世界の役割は、かの女達に任せるとするさ」
レディ「…悲しむわよ、きっと」
コブラ「…乗り越えて行けるさ。可憐な魔法少女の闘いに、俺みたいな血生臭い男がずっと隣にいたんじゃ、絵にならない。別れを言えば余計辛くなる。…だろ?」
レディ「… … …ええ、そうね」
コブラ「そうと決まれば出発だ。俺の気が変わらない内にな」
レディ「それじゃあ、タートル号の調整をしてくるわね。数分したら発てると思うわ」
コブラ「ああ、頼んだぜレディ」
コブラを残してタートル号のコクピットに戻るレディ。
コブラ「… … …」
コブラは、何か思うような表情をしながら、葉巻の煙を青空に浮かべるのであった。
森の中を駆けていくマミ、まどか、さやか、杏子、ほむら。
まどか「ど、どうして急に…!?」
マミ「今朝…コブラさんに改めてお礼を言おうと思って、宇宙船のところまで行ったの…そうしたら…!」
さやか「元の世界に帰れるっ、て…!?」
マミ「…ええ、偶然聞いてしまったから、急いで皆のところに来たの…」
杏子「あのヤロー、何も言わないで帰るつもりかよ!」
さやか「でも…どうやって!?確か元の世界に戻る方法がないとか言ってなかったっけ!?」
マミ「…確かに、そう言っていた筈だけれど…」
まどか「… … …」
ほむら「… … …」
ほむら(…まどか…)
レディ「メインエンジン、反加速装置、制御システム、オールクリア。…それじゃあ、行くわよコブラ」
コブラ「…よろしくどーぞ」
コブラは葉巻から煙を吐き出し、苦笑いを浮かべた。
レディ「…タートル号、発… … …」
コブラ「…?どうした?レディ」
レディ「出発は遅れそうね、コブラ」
コブラ「んん? … … … ありゃあ」
タートル号のコクピットから、こちらに駆けてくる5人の少女の姿が見えた。
まどか「コブラさーーーーんっ!!!」
コブラ「あーあ。これじゃ恰好がつかないねぇ、参った参った」
コブラは頭をボリボリと?きながら、両手を大袈裟に上げた。
レディ「…ふふふ、そう言う割には嬉しそうじゃない?コブラ」
コブラ「言ってくれるなよ、レディ」
マミ「はぁっ、はぁっ…」
さやか「ま、間に合ったぁ…」
タートル号のハッチが開き、中から苦笑いをしたままコブラとレディが出てくる。
コブラ「おいおい、おたくら、学校が始まるんじゃないかい?無断欠席とは褒められないなぁ」
杏子「怒れるような性格もしてないだろ?お前の場合」
コブラ「ははは、ごもっとも」
マミ「…何も言わずに帰っちゃうなんて…寂しすぎるわ」
さやか「そうだよ!…それにあたし達、まだお礼も何もしてないよ!」
コブラ「したさ」
さやか「え?」
コブラ「久しぶりに、いい物を見せてもらった。…仲間と呼べる者の絆。そしてそいつが起こす奇跡。…俺が久しく忘れていたものを、思い出させてくれた」
まどか「…コブラさん」
コブラ「…まどか。お前さんの願い事が叶った結果かい?これは」
まどか「… … …はい」
コブラ「…全く。何でも願いが叶うっていう折角のチャンスをこんな事に使っちまいやがって」
ほむら「…!まさか…!」
杏子「…?どういう事だ?」
レディ「…!まさか、鹿目まどかの魔法少女になる願い…そのおかげで…!?」
まどか「…私、魔法少女になって、皆を助けられるようになれば…それだけでいいんです。…だから、その時の願いは…一番役に立つ人のために使おう、って」
コブラ「… … …」
――― ワルプルギスの夜との決戦の日。
ワルプルギスの夜へと向かって行くコブラと魔法少女達。
その後ろで、対峙をするまどかとキュウべぇ。
まどか「…キュウべぇ。私、魔法少女になる」
QB「…!」
まどか「願いは… コブラさん達に、元の世界へ戻る方法を与える事。…それだけだよ」
QB「たったそれだけかい?君には、宇宙そのものを作り変える力すらあると言うのに」
まどか「…それでも構わないって、思ってた。わたしが神様になれるなら…こんな世界、作り変えちゃえ、って」
まどか「でも…わたしはまだ、信じていたい。わたしを含めた皆が笑いあえて…信じあえる。神様なんていなくても、そんな世界が築ける、って」
まどか「…例え、コブラさんが…元あるべき場所に戻ったとしても。…『わたし達』魔法少女が、この世界を守れる。…そう信じていたい」
QB「…」
QB「君の願いは、エントロピーを凌駕した。本当に構わないんだね、まどか」
まどか「うん」
QB「それじゃあ…君の願いを――― 叶えよう――――」
そして、2人の間を眩い光が包んだのだった。
QB「そしてまどかは、魔法少女となったというわけさ」
さやか「アンタ、いつの間に…」
まどか「わたし達の願いは、コブラさんのおかげで全て叶った。…でも、コブラさんとレディさんの願いが、まだ叶っていない。…そう、だよね?」
レディ「…鹿目さん…」
まどか「だからせめて…。…これが、わたしの恩返しだと、思うから…」
コブラ「…全く… あんな弱々しかったヤツが、いつの間にかこんなはっきり物事を決められるようになるとはな」
コブラはまどかに近づくと、まどかの頭にポン、と右手を乗せた。
コブラ「…ありがとよ、まどか」
そして髪型がぐちゃぐちゃになるほど、頭を撫でる。
まどか「ティヒヒ」
さやか「宇宙の果てにブラックホール…」
マミ「その中に再び入れば…私達の前に現れた時と、同じ現象が起きて…コブラさん達は元の未来へ帰れる…。…そうなの?キュウべぇ」
QB「ブラックホールが、まどかの願いによって生じたものだと言う事は間違いないね。まどかの願いは、コブラが元の世界へ戻る方法を『与える』事。だから、その中へ入るのは自由というわけだ」
マミ「…でも、貴方は行くのでしょう?…コブラさん」
コブラ「どんな人間にも、帰るべき場所はあるのさ。…それに、おたくらは俺が思ったより遥かに成長した。これなら俺がいなくなっても安心だ」
杏子「師匠気取りかよ。…気に入らねェなぁ」
コブラ「…杏子。初めにお前さんに斬りかかられた時はどうなるかと思ったが…ようやく人前で素の自分が出せるようになったみたいだな」
杏子「…どういう意味だよ」
コブラ「さぁてね。ま、とにかく、さやかの面倒をしっかり見てやってくれよ」
コブラはそう言うとにぃと悪戯っぽく笑った。
さやか「ちょ、ちょっと、どういう意味よ!なんでこいつに面倒みてもらわなきゃならないワケぇ?!」
杏子「…ま、確かに面倒見甲斐がある後輩かもしれねーな」
さやか「うがあああああ」
コブラ「さやか」
さやか「何さっ」
コブラ「お前さんの明るさなら、どんな絶望も払拭できる。笑顔を忘れるなよ。アンタの最高の魅力だ。…彼氏とのデートの時にも、な」
さやか「なっ…か、彼氏ってなによ…恭介とはまだ別に…!」
コブラ「恭介とは一言も言っていないんだがね俺は」
さやか「うがああああああああああ」
まどか「あははは」
コブラ「マミの作るお菓子や紅茶は最高だったぜ。俺の相棒に勝るとも劣らない。おかげで甘党になるところだった」
マミ「…有難う。光栄だわ」
レディ「珍しいわね。お酒と料理以外でそんな事言うなんて」
コブラ「おいおい、グルメなんだぜ俺は。何に対しても、だ。 …これからは、お前さんが皆の先頭に立つんだ。しっかり頼むぜ、マミ」
マミ「ええ。…先輩だものね。しっかり舵を取るつもりだわ」
コブラ「ああ。ついでに後輩のバストやヒップの向上計画に是非とも取り組んで欲し… いでえーーーーっ!!!」
マミに足を踏まれ、レディに頭を叩かれるコブラ。
マミ「…こうしてツッコミを入れるのも最後なのね。少し…寂しいわ」
レディ「同胞をなくしたような気分だわ」
コブラ「…ああ、全く寂しいね、ホント」
頭を摩りながら、足に息を吹きかけるコブラ。
コブラ「…ほむら。…これからも…まどかを、いいや、魔法少女達を守る存在であってくれよ」
ほむら「… … …」
コブラ「自分だけで苦労すればどうにでもなる…。綺麗事かもしれないが、そんな事は無いんだ。…もう時間を繰り返す必要も無いんだしな」
ほむら「… … …」
ほむら「そう、ね…」
コブラ「まだまだ、まどかは頼りない。かの女を引っ張っていくのは君だ。…よろしく頼むぜ」
まどか「た、頼りない…かぁ…。…うう、少しショック」
ほむら「…ええ、解かったわ」
コブラ「…まどか。お前さんの心と力があれば、全ての絶望を払拭できる。そこのエイリアンとも仲良くしていってくれよ」
QB「インキュベーターと呼んで欲しいのだけれどね」
まどか「…はい。…わたし、頑張ります!」
コブラ「ほむら、まどか。誰かを、何かを守るために、犠牲はいらない。 必要なのは、守りたいという意志だ。結果は関係ない」
コブラ「だから、これからも精一杯学生生活を満喫して、いい女になって、未来の俺のために美人の先祖を作っておいてくれよ?」
ほむら「… … …」
まどか「あはは…動機は不純ですね…」
コブラ「…お。…いい物があったぜ。…まどか」
まどか「?」
コブラは、ポケットから1つ、ガーベラの花を取り出した。それをまどかの頭につける。
コブラ「タートル号でコーティングしておいたモンさ。枯れる事なき希望。…なぁーんてね」
まどか「わぁ…有難うございます!…あ」
そして、まどかの髪を結ってあるリボンを解き、手にするコブラ。
コブラ「俺は、君達の事を忘れない。…交換しておくぜ」
まどか「…はい。…私も…忘れません」
コブラ「それじゃあ…行くとするか。こういうのは長引かせるもんじゃないね。どんどんこの世界に居たくなってくるぜ」
さやか「…いいんだよ。いつまでも居ても」
コブラ「そうもいかない。人は皆、あるべき場所へ戻る。そいつに逆らっていちゃあいけない。自然の摂理ってやつさ」
マミ「…そう、ね。…もしも…もしも、もう一度逢えるのなら…また、この世界に来てくれるかしら?コブラさん」
コブラ「もちろん!女の子の成長過程の観察は俺の趣味の一つなんだ」
杏子「大した趣味だな。…ま、その時は熱烈に歓迎してやるよ」
コブラ「楽しみにしてるぜ。…その時は、何も言わずに笑って待っててくれよ?」
まどか「…勿論ですっ!」
レディ「…それじゃあ、コブラ。…行きましょうか」
コブラ「ああ。そうだな…」
コブラ「それじゃあ、愛しき魔法少女諸君!…元気でな! …あばよ」
上空にゆっくりと浮上をするタートル号。
エンジンに火がついたかと思うと、あっという間に空の彼方へと飛び去ってしまう。
その様子を、ただただ見上げる5人の魔法少女。
まどか「…行っちゃったね」
さやか「…何か、あっという間だった…な。今まで」
マミ「辛いものね。…お互い、住む世界が違う、というのは…」
杏子「落ち込んでても仕方ねーよ。…アタシ達はアタシ達で、精一杯生きていく。それしかないだろ?」
まどか「…そうだね。… … …」
さやか「なーに落ち込んでんのよまどかっ、あたしの嫁は笑顔が一番可愛いんだぞぉ?」
そう言いながらまどかに抱きつくさやか。
まどか「わ、わ…っ!んもぅ…分かったよ、さやかちゃん…」
マミ「うふふ…それじゃあ、行きましょうか?」
杏子「そうだな。行くぞ、まどか」
まどか「…うん…。 …?ほむらちゃん?」
ほむら「… … …」
まどか「どうしたの?ほむらちゃ…」
カチリ。
その時、大きく時計の秒針の音が聞こえた。
ほむら「…え…!!??」
それは、暁美ほむらが幾度となく経験をした感覚。
全ての時間が流れを止め…そして、逆戻りをしていく。
時間が、巻き戻っていく…その感覚――――。
ほむら「そんな…!私は時間を戻そうとは思っていない!…どうして…!?どうしてなの…!?」
しかし時間は非常なまでに崩れ、ほむらの意識は暗闇へと落ちようとしていた。…元の、自分が病室へといる、あるべき時間へと。
ほむら「どうして…っ!!??」
その時。自分自身の声が、暗闇の中で響いた。
QB『――― 君は、どんな祈りでソウルジェムを輝かせるのかい?』
ほむら『私は―――』
ほむら『私は、鹿目さんとの出会いをやり直したい。彼女に守られる私じゃなくて、彼女を守る私になりたい―――』
ほむら「…!」
ほむら(…そう、だったの…)
ほむら(この結果は…彼女を、まどかを【守る】結果には繋がらなかったのね)
ほむら(わたしが時間を巻き戻せる限界は、ここまで…。これ以上時間が進めば、まどかが魔法少女になる【後】へしか戻れなくなる)
ほむら(そして…このまま時間が進めば、再び私達は…滅んでしまう。…そういう事…)
ほむら(… … …)
ほむら(それに…私は、この世界を望んでいないのかもしれない)
ほむら(まどかが…【皆に】微笑む…この世界では…)
ほむら(数多の時間の中で巡り合った、1人の男。…可能性はゼロに近くても、こんな時間も確かに存在はしていた)
ほむら(それが、ワルプルギスの夜すら超えさせられる。…そんな希望がある、世界)
ほむら(…いい夢を、見させて貰ったの。…だから…)
ほむらは、病室で目を覚ます。
カレンダーは、見覚えのある日にちで止まっていた。
ほむらは傍らのテーブルに置いてあった眼鏡をそっと手にすると、それをかけた。
ほむら「…コブラ。…有難う。希望は、存在する。それを思い出させてくれて」
ほむら「…今度こそ、私は…この世界で、彼女を助けてみせる」
ピピピピピ…
まどか「うぅ~ん…っ…」
カチッ。
まどか「…ふぁぁ…よく、寝た…」
まどか「… … …」
まどか「…すごく、悪い夢見てた気がするなぁ…」
まどか「…歯、磨きにいこ…」
まどか「おはよ、ママ」
詢子「おう、おはようまどか。…うぅん?」
まどか「…?どしたの…?」
詢子「…それ、誰に貰ったんだ?…まさかぁ、男の子からかぁ?」
まどか「な、なに?何のこと…?」
詢子「今時花の髪飾りねぇ。ロマンチックだとは思うけれど、さすがにチョイと幼すぎないかな」
詢子は少し笑いながら、まどかの頭から1つの白い花を取り出した。
まどか「え…あ…?…??なんでだろ…?」
詢子「…覚えがないのか?…じゃあ…まどかの部屋にあったのかな?うーん、でもガーベラなんて花瓶にさしておいたっけな」
まどか「… … …」
まどか「でも…すごく、綺麗な花だね」
コブラ「ふぁぁ…よーく寝たぜ」
レディ「おはようコブラ。ふふ、久しぶりにぐっすり寝れたようね」
コブラ「ああ、このところ退屈なくらい平和だからな。…おかげで変な夢見ちまった気分だ。なんだったか忘れたが」
レディ「貴方らしいわね。…あら?コブラ」
コブラ「んん?」
レディ「…コブラ。平和を謳歌するのもいいけれど、そういう物を私の前に出すのはどうかと思うわね」
コブラ「…?何の事だ?」
レディ「貴方の首にかかっている赤いリボンの事よ」
コブラ「…。本当だ。…おかしいな、見覚えのないリボンだ」
レディ「まぁ、覚えがないのにリボンを貰ったの?」
コブラ「ご、誤解だよレディ。はは、えーと…ホントになんだっけか」
そう言いながら、慌ててポケットにリボンを仕舞い込むコブラ。
コブラ(…しかし、どこか懐かしい香りだな)
その時、タートル号のレーダーのアラート音が鳴る。
コブラ「…!なんだ!?」
レディ「…! コブラ、前方に海賊ギルドの艦隊よ!」
コクピットから見えるのは、ギルドの大型戦艦が幾つも宙域に待機する光景。
そして、モニターに映し出される男の姿。
ボーイ「久しぶりだなコブラ。会いたかったよ」
コブラ「!!クリスタルボーイ!お前の仕業か」
ボーイ「くくく…お前さんがこの辺りの宙域にいるという情報を掴んでね。首を長くして待っていたところだよ」
コブラ「大層な歓迎だぜ。パレードでも開いてくれるのかな?」
ボーイ「軽口もここまでだ。…この宙域が貴様とタートル号の墓場だ!」
レディ「どうするの!?コブラ…」
コブラ「… … …」
コブラ「上等じゃねぇか。売られた喧嘩は買う主義。ここは…正面から突破だ。タートル号の性能を見せてやろうぜレディ」
レディ「了解。連中に一泡吹かせてやりましょう」
コブラ「よろしくどーぞ!…覚悟しろよ、ガラス人形!」
コブラ「俺は…不死身のコブラだからな!!」
艦隊へと単独で突っ込んでいくタートル号。
しかし船内のコブラの表情に不安はない。
葉巻を銜えたその顔は、自信に満ち溢れた不敵な笑みだった。
コブラ最高にかっこいいな!
面白かったよ
Entry ⇒ 2012.10.15 | Category ⇒ その他 | Comments (0) | Trackbacks (0)
律子「んんwwwwwwwプロデューサー殿wwwwwwwwwww」
律子「ヤケモーニンwwwwwwwwwwwプロデューサー殿wwwwwwwwwwwww」
P「ああ、おはよう律子」
律子「今日は我ら竜宮小町とのヤイドルバトルですなwwwwwwwwwww」
P「あはは! それを言うならフェスな」
律子「負けませんぞwwwwwwwww異教徒は優しく導く以外あり得ないwwwwwwwwwwww」
P「こっちだって!」
【フェス会場】
P「よし、みんな! 準備はいいか!」
春香「はい! あ、でも……」
P「どうした、春香」
春香「……竜宮小町って、あの……律子さんがプロデューサーのユニットですよね?」
P「おいおい、今更どうしたんだよ? そんなの、俺が入社する前から知ってることだろ?」
春香「……」
P「あっはっは! もしかして、萎縮してるのか?」
春香「そういうわけじゃないんですけど……」
春香「最近の律子さん、なんかおかしくないですか?」
P「え、そうかな……」
千早「春香。プロデューサーは知らないのよ」
春香「あ、そっか……律子さんがああなったのは、プロデューサーさんが入社する少し前からだもんね」
P「なんの話だ?」
春香「あ、い、いえ! いいんです、こっちの話ですから」
P「……まぁ、確かに竜宮小町は俺達のユニットより先にデビューした、いわば先輩だ」
P「今日は胸を借りるってカタチになると思うけど……」
P「どんな結果でも、得られるものは必ずあると思う。全力で、頑張って来い!」
みんな「はいっ!」
P「さて……みんなは準備に行ったか」
亜美「あ、兄ちゃん!」
P「おお、亜美じゃないか!」
亜美「なんでここにいんの~?」
P「あれ? 律子から聞いてなかったかな……今日のフェスに、俺達も参加するんだよ」
亜美「ええ!!!? ってことは、亜美たちとヤイドルバトルするってこと!?」
P「そういうことになるな。ちなみに、ヤイドルバトルじゃなくてフェ……」
P(ってマズイ! 知らないなら、黙っておけばよかった!)
亜美「……」
P「……あ、亜美?」
亜美「絶対負けないんだから!!!!!!!!!!!!!」
P「っ!」
亜美「絶対絶対、負けないんだから!!!!!!!!! うあうあうあー!!!!!!!!!!!」
P「ははは……いじっぱりな性格は相変わらずだな」
亜美「ガルルルル……!」
P「どう、どうどう……」
伊織「……あら……亜美、こんなところにいたの。……それに、プロデューサーも」
P「伊織。おはよう」
伊織「おはよう。どうしたのよ、亜美の様子が……へんね」
P「それがなぁ……今日のフェスで俺達と対決するって聞いて、熱くなっちゃったようだ」
亜美「いおりん!!!!!! がんばろうね!!!!!!!」
伊織「ええ、そうね……まぁ、私達に相応の戦い方が出来れば、それで十分でしょ」
亜美「んなこといっちゃダメっしょ!!!!!! 何がなんでもブっとばしてやろう!!!!!!!」
伊織「そんなに力んだところで、いつも以上に頑張れるってわけでもないじゃない……」
伊織「それに勝つ、なんて大それたこと、私には言えないわ……それなりにやれれば、それで……」
P「伊織はひかえめだなぁ」
亜美「またそんなこと言って!!!!!」
伊織「だって……」
P「うーん……どうしたら収拾がつくだろうか……」
あずさ「プロデューサーさん」
P「あっ! あずささん、ちょうどいいところに!」
あずさ「ふふっ、困ってるみたいですね。ごめんなさいね、今連れていきますから」
P「助かります、それじゃあ……」
あずさ「……ふたりとも」ピシッ
亜美・伊織「」ビクッ
あずさ「そうやってケンカするよりさきに、やることがあるでしょう?」
あずさ「メイク、衣装、振り付けの確認……もう完璧だって言えるの?」
亜美「そ、それは……」
あずさ「口を動かすより先に、体を動かしましょう。ストレッチ、まだ済んでいないでしょう」
あずさ「勝ちたいなら、やることをやらなきゃ。ね?」
P(あずささんのれいせいな性格には、いつも助けられちゃってるな)
律子「んんwwwwwwwwwwヤーティの前に怖気づいているのですかなプロデューサー殿wwwwwwwww」
P「律子……まあ、さすが竜宮小町、って言ったところだな」
律子「当然ですぞwwwwwwwwwwwヤミ、ヤズササン、ヤオリは我が半年かけて厳選した至高のヤイドルですからなwwwwwwwwwwwww」
P「俺が入社する前に、そんなことがあったのか……」
律子「ちなみに我は儀式は使わない派ですぞwwwwwwwwwwwww」
P「儀式?」
律子「オウ助殿をわざと鳴かせるなんて我の主義に反しますなwwwwwwwwwwww」
P「へえ。言ってる意味はよくわからないけど、律子は動物に優しいんだな」
律子「褒めても何も出ないですぞwwwwwwwwwwwww」
律子「ちなみにヤイドルマスターの中には儀式に賛成派も反対派も多くいるから、ここでその議論はやめていただきたいですなwwwwwwwwwwwww」
P「ヤイドルマスター?」
律子「ヤイドルを使役しヤーティを勝利に導くトレーナーのことですぞwwwwwwwwwwww」
P「ああ、つまりプロデューサーってことか」
【フェス VS竜宮小町】
ワァァ……
春香「……」ドキドキ
春香(初めてのフェス……うう、ちゃんと歌えるかなぁ……)
千早「……春香、春香」
春香「ひゃい! あ、えーっと……」
やよい「歌、はじまっちゃいますー!」
春香「! う、うん!」
春香「……ひとりでは、出来ないこと♪ 仲間となーらでk――
律子「ヤオリwwwwwwwwwwりゅうせいぐんですぞwwwwwwwwwwwwwww」
ワァァァァ!!!!!
春香「!?」
ヒュルルル……
ドカーン ドカーン!!!
ドカーン…… ドドカーン
春香「あ、あっつ! え、ええ!?」
P「春香! 頑張れ!」
春香「がんばれって言われても……」
やよい「なんで空から隕石が降ってくるんですかーっ!?」
P「くそっ、これが伊織のバーストアピールか……なんて威力だ」
律子「んんwwwwwwwwww我のヤオリは当然ひかえめHC振りですなwwwwwwwwwwwww」
律子「ヤオリwwwwwwwwwwもどれwwwwwwwwww」
伊織「……はぁ……それなりにできたかしら」
律子「いいですなwwwwwwwwwwww続いていくんですぞ、ヤミwwwwwwwwwwww」
ぽんっ
亜美「おっしゃー!!!!」
P「あれ? ハチマキ巻いてる……あんなアクセサリ、あったっけかな」
律子「ボハヤにインファイトwwwwwwwwwwwww鉄壁を砕いてやるんですなwwwwwwwwwwwwwwww」
亜美「ふんっ!」
バシバシバシッ
千早「くっ……!」
春香「千早ちゃん、大丈夫!?」
千早「え、ええ……実際に殴られてはないから、平気だけど……」
亜美「ンッフッフー!!! 衣装が脱げちゃったよ!!!!!!!!!」
ヤミのぼうぎょ、とくぼうが下がった!▼
千早「……なんというか、精神的にダメージが……」
やよい「はわわ……亜美、すっぽんぽんですー……」
律子「ちなみにヤイドルバトルはヤケモンバトルと違って実際に殴ったり炎を当てたりするわけではないんですなwwwwwwwww」
律子「そんなことをしてヤイドルの顔を傷つけるなんてありえないwwwwwwwwwwwwすべては精神へのダメージですなwwwwwwwwwww」
P(その後も、俺達のユニットは竜宮小町にまったく手も足も出ず……)
P(めまぐるしくステージの上を入れ替わる伊織たちを前に、何も出来ずに敗退してしまった……)
律子「いかがでしたかなwwwwwwwwwwwプロデューサー殿wwwwwwwwwww」
P「……さすがだよ。完敗だ」
律子「当然ですなwwwwwwwwww先輩ヤイドルマスターとしては勝利以外ありえないwwwwwwwww」
律子「しかしながらプロデューサー殿のユニットも、旅パにしてはなかなかでしたぞwwwwwwwww」
P「え、そ、そうかな? ていうか旅パってなんだ……?」
律子「いかがですかなwwwwwwww我のヤイドル講座を受けてみるというのはwwwwwwwwwww」
P「ヤイドル講座?」
律子「これを受ければ、今よりもっと強くなれますぞwwwwwwwwwwwwww」
P「へえ……」
P(こうして俺は、担当アイドルにレッスンや営業を指示しつつも、律子の指導を受けることになった)
P(毎日が忙しい日々だが、これもあの子たちをもっと強くするためだ。頑張るぞ!)
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
律子「プロデューサー殿wwwwwwwwww基本的なことですが三値についてご存知ですかな?wwwwwwwww」
P「三値? ああ、あれだろ。ダンス、ボーカル、ビジュアル。アイドルとしての力量の評価基準のことだ」
律子「さすがの我もそれは引きますな」
P「えっ」
律子「そのような価値観はもう古いですぞwwwwwwww三値とは、種族値、個体値、努力値のことですなwwwwwww」
P「な、何を言っているんだ……?」
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
律子「プロデューサー殿wwwwwwwwwww今使用している技はなんですかなwwwwwwwwwwwwww」
P「わざ? えっと、歌のことか? The world is all oneだけど……」
律子「言っていることがまったく的はずれですなwwwwwwwwwwwwwww」
P「ええ……」
律子「補助技はありえないwwwwwwwwwwww『うたう』なんて論外ですぞwwwwwwwwwwwwww」
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
P(そうして日々は過ぎ去っていった……)
P「千早。今日はちょっと美容院へ行こうか」
千早「え? そ、そんなに野暮ったくなっていますか?」
P「そういうわけじゃないんだけど……努力値を振り直すためにさ」
千早「……?」
P「お金は事務所のマニーから出すから」
春香「プロデューサーさんっ! 千早ちゃんだけずるいです!」
P「……春香たちは、また今度な」
やよい「え……ぷ、プロデューサー?」
P「どうした?」
やよい「なんか……お顔がいつもと違うかなーって……」
P「……そんなことはないさ。さ、千早。行こう」
千早「は、はい……ごめんなさい、ふたりとも……」
春香・やよい「「……」」
P「響。ちょっと、ペットを貸してもらえないかな」
響「ペット?」
P「ああ。一日だけでいいからさ」
響「あ、わかったぞ! プロデューサーも、動物飼いたいって思ったんだね!?」
P「……まあ、そんなところだ」
響「いいよっ! 一日くらいなら……それで、どの子と過ごしてみたいの?」
響「いぬ美は体はおっきいけど、とっても優しい子さー! あとあとネコ吉なんかは……」
P「オウ助」
響「え?」
P「ペラッ……いや、オウムのオウ助がいいな」
響「ふーん……いきなり鳥を飼いたいなんて、変わってるね」
P「……まあな。んんっ……」
響「どうしたの? 風邪?」
P「……なんでもない、ですぞ……あ、いや、なんでもないさ。うん、大丈夫大丈夫」
響「……?」
P(そして……)
P「……春香たちに、伝えなくてはならないことがある」
春香「はいっ! えへへ……なんですか? 久しぶりのお仕事、ですよね!?」
やよい「わ、私! どんなレッスンでもお仕事でも、ババーンって頑張ってみせますーっ!」
P「……」
千早「……」
春香「……プロデューサーさん? それに……千早ちゃんも、どうしたの?」
やよい「なんか、いつもよりどんよりしてますー……」
P「……春香」
春香「はい……」
P「今日で、このユニットは解散だ」
春香「え……」
P「春香とやよいは、ボックス行きとなる。……急な話で、すまん」
春香「そっそんな! そんなことって……!」
P「……すまない」
やよい「ぷ、プロデューサー……私達、だけなんですか? 千早さんは?」
P「千早は、俺が新しくプロデュースするヤーティのメンバーとして、もう内定しているんだ」
春香・やよい「「!?」」
千早「……ごめんなさい。こんなことになってしまって」
P「新しいユニットのメンバーは……」
P「ヤハヤ、ヤコト、ヤビキの三人だ。AとCの種族値、個体値ともに最高だからな……」
春香「え、あの……さっきから、何を……」
P「春香、さよならですぞ」
春香「説明してくださいっ! 説明を……あ……」
やよい「行っちゃった……」
律子「……別れは済みましたか?」
P「ああ……」
律子「……本当にいいんですか? プロデューサー……」
P「それがいいって教えてくれたのは、律子だろう?」
律子「そりゃそうですけど……だけど、私はそれでもなお、やり方はあるってことを……」
P「いいんだ!」
律子「……っ」
P「……俺の実力じゃあ、春香たちを輝かせてやることは出来ない。厨ヤイを使わないと、レートは伸びないんだ」
律子「プロデューサー……」
P「厨パ使いと呼ばれてもいい。俺は……使命があるんだから」
P「最強のヤイドルマスターになるという、使命が……」
律子「……わかりました。それじゃあ……」
P「ああ……」
律子「行きますぞwwwwwwwwwwwwww」
P「了解ですぞwwwwwwwwww潜りますなwwwwwwwwwwwww」
【フェス会場】
P「んんwwwwwwwwwwwww調子はどうですかなwwwwwwwwwwww」
真「へへっ! もう最高ですよっ!!! 律子たちには意地でも絶対負けません!!!!!!!」
P「ヤコトは見事にいじっぱりな性格になりましたなwwwwwwwwwww」
響「自分もだぞ!! つっこんでつっこみまくって、見事に勝利してみせるさー!!」
P「ヤビキのゆうかんな性格は我は嫌いじゃないですぞwwwwwwwwwww」
千早「……あ、あの……」
P「どうしたんですかなwwwwwwwwwwwwww」
千早「……いえ、なんでもないです。私なんかの意見は、べつに聞いてくれなくても……」
P「ヤハヤはひかえめですなwwwwwwwwwwwww」
伊織「あら……プロデューサー」
P「ヤオリ殿wwwwwwwwwヤケモーニンwwwwwwwwwwwwww」
伊織「気合十分って感じね。それなら私たち、今日は負けてもおかしくないわ」
亜美「なにいってんのいおりん!!!!! そんなこといってちゃ」
あずさ「……」ジッ
亜美「あうう……な、なんでもないっぽいよ~……」
P「んんwwwwwwwwwwwwヤゥグウコマチは相変わらずの調子ですなwwwwwwwwwwww」
【フェス VS竜宮小町(二回目)】
ワァァ
P「二度目の対戦ですなwwwwwwwwwwww」
律子「ランダムマッチのはずなのにこんな短スパンで再戦とはヤーティ神の意図を感じますなwwwwwwwww」
P「今度は負けないですぞwwwwwwwwwwwww」
律子「それは我の台詞ですなwwwwwwwwwwww必然力によって勝利が舞い込んでくる以外ありえないwwwwwwwwwwwwwww」
P「それでは……」
律子「ええ」
P・律子「「いきますぞwwwwwwwwwwwwwwww」」
P「いくんですぞwwwwwwwwwヤコトwwwwwwwwwwwww」
ぽんっ
真「まっかせといてください!!」
律子「ヤズササンwwwwwwwwwww」
ぽんっ
あずさ「あら、最初は私ですか~?」
P(あずささんは超/水。対して真は格闘/炎タイプだ。ここは……)
律子「サイコブーストですぞwwwwwwwwwwww」
P「もどれwwwwwwwwwwwヤコトwwwwwwwww」
シュルルル
P「いくんですぞwwwwwwwwwヤハヤwwwwwwwwwwwww」
ぽんっ
みょんみょんみょん
千早(鋼/草)「くっ……でも、効果はいまひとつだわ」
律子「なかなかやりますなwwwwwwwwww」
P「当然ですぞwwwwwwwwwww交代戦は基本ですなwwwwwwwwwww」
律子「だてにこれまで鍛錬を重ねてきたわけじゃないわね……」
P「ああ……今度こそ、勝たせてもらう!」
P「ヤハヤwwwwwwwwwリーフストームwwwwwwwwwwwサイクルをぶち壊してやるんですぞwwwwwwwwww」
律子「もどれwwwwwwwwwwヤズササンwwwwwww」
シュルルル
律子「いくんですぞwwwwwwwwwwヤオリwwwwwwwww」
ぽんっ
ドカーン
千早「あ……ご、ごめんなさい、水瀬さん」
伊織「うっ……ま、まあ……そこそこのダメージってところね。平気よ、気にしないで」
P(出たな、竜宮小町のリーダー、伊織。竜/炎か……)
P(しかし、俺達だって負けない! 散っていった者ためにも、負けてなるものか!)
律子「ヤオリwwwwwwwwだいもんじwwwwwwwwwww」
P「四倍はさすがに死にますぞwwwwwwwwwwヤハヤwwwwwwwwもどれwwwwwwwww」
シュルルル……
P「再びいくんですぞwwwwwwwヤコトwwwwwwwwww」
~ 中略 ~
P(そして……)
ワァァァ
P「はぁ……はぁ……!」
律子「……っ……はぁ、はぁ……!」
P「……お、終わった……」
律子「……そう、ですね……しょ、勝敗は……!?」
P「結果は……」
律子「……まあ、見ればわかるけどね……結局響しか戦闘不能にできなかったわ……」
P○○● / 律子●●●
P「俺達の、勝ちだ……!」
ワァァァァ!
律子「……ふふっ」
P「ど、どうしたんだよ、急に笑ったりして」
律子「いえ……強くなりましたね、プロデューサー」
P「……ああ!」
律子「あの頃とは見違えますなwwwwwwwwwwwwww」
P「律子殿のおかげですぞwwwwwwwwwww」
律子「100パーセント我のおかげというのはありえないwwwwwwwwwひとえにヤーティ神の加護のおかげですなwwwwwwwwww」
P「違いありませんなwwwwwwwwwwwwww」
律子「いかがですかなwwwwwwww今度はダブルバトルというのはwwwwwwwww」
P「役割論理はシングルでの6350を想定した理論ですぞwwwwwwwwwwwwww」
律子「それもそうですなwwwwwwwwwwww」
??「ふぇぇ……」
P・律子「「!?」」
黒井「あまいんだよぉ……あますぎるんだよぉ……」
黒井「なかまうちでダブルバトルだなんて、あますぎてわらっちゃうんだよぉ……」
P「……あなたは?」
黒井「セレブでゴージャスなプロダクションのしゃちょうさんなんだよぉ……えへへ、くろいたかおっていうんだ」
律子「な、何が甘いっていうんですか!? 私達がおかしいっていうの!?」
黒井「うぃ。そのとおりだよ」
P「……なんのつもりだかはわかりませんが、俺達の身内の話だ。口を出さないでください!」
黒井「そういっていられるのも、これまでなんだよぉ……」
律子「一体なにを……」
黒井「このこたちを、みたことあるよね?」
ぽんっ
春香「ふぇぇ……」
やよい「ふぇぇ……」
P・律子「「!?」」
黒井「おかねのちからでむりやりゲットしたんだよぉ……えへへ、ハルカとハヨイっていうんだ」
P「は、春香……やよい……一体どうして……!?」
春香「ふぇぇ……わたしたちだって、ほんとはやだったんだよぉ……」
やよい「でもおかねのちからにまけて、たかぎしゃちょうが……」
律子「なんてことなの……!」
P「ああまったく、そんなこと気付きもしなかったぞ……!」
黒井「ふぇぇ……ろんじゃなんてもうふるいんだよぉ……」
黒井「いまのじだいは、はんようせいだよ。えへへ……ひとりでなんでもできるんだもん」
P「そ、そんなの、聞いたことないぞ! ヤイドルバトルと言ったら、役割論理だろう!」
律子「そうよ! 一人ひとりが役割を持って……それで」
黒井「たかぎのところのボンクラプロデューサーたちは、まだそんなこといってるの?」
律子「……っ」
黒井「じゃあ、おしえてあげるね。これからのアイドルのたたかいかた。それは……」
P「……」ゴクリ
黒井「はんようりろん、なんだよ! えへへ……♪」
黒井「さ、いくんだよぉ……かえって、いっしょにハケモンサンデーをみようね」
はるか「ふぇぇ……ばいばい、プロデューサーさん」
やよい「さよなら……」
P「ま、まってくれ! あ……」
律子「……いっちゃった……」
P「……くそうっ! 俺の……俺のせいだ……!」ガンッ
律子「プロデューサー……」
P「俺が……あのとき、春香達を見捨てなければ……こんなことにはっ!」
律子「……あなただけのせいでは、ないです。そもそも私が、あなたにこんなことを教えなければ……!」
P「俺は……一体、どうしたらいいんだ……」
律子「……そんなの決まっています、プロデューサー」
P「え……?」
律子「どんなことがあったって、私達がやることは変わらない」
律子「戦って戦って戦って……そして、勝ち続けることよ」
P「律子……」
律子「――体は、H振りで出来ている」
P「……!」
道具は拘りで、喋りはロジカル。
幾度の異教徒を倒し不敗。
ただの一度も素早さ振りはなく。
ただの一度も調整はない。
彼の者は常に独り 流星群で勝利に酔う。
故に、理論として意味がなく。
その戦術は、きっと論理で出来ていた。
「いくぞ異教徒―――素早さ調整は十分か」
――――――――――――Unlimited Logic Works
律子「それがヤイドル。そして……」
P「それを使役するのが……俺達、ヤイドルマスター……」
律子「そうです。それならもう、やることはひとつでしょう?」ニコッ
P「……そうだな。戦って戦って戦って……勝つんだ!」
律子「ええ! その意気です!」
P「黒井社長に教えてやろう。真のヤイドルバトルってやつをさ」
P「そして……春香とやよいを、絶対に取り戻してみせよう!」
律子「んんwwwwwwwプロデューサー殿wwwwwwwwwww」
P「どうしたんですかなwwwwwwwwwwwww律子殿wwwwwwwwwwwww」
律子「いつもの調子が戻ってきましたなwwwwwwww我も嬉しいですぞwwwwwwwwwwwww」
P「いつだって律子殿のおかげですなwwwwwwwwwwwwwwww」
律子「褒めたって何も出ないですぞwwwwwwwwwwwwwww」
P「しかしながら我このだいもんじよりも熱い気持ちは本物ですぞwwwwwwwwwwwwwwwww」
律子「えっ……」
P「……律子。これからも、頑張ろうな! 765プロ一丸となって、IA大賞受賞を目指そう!」
律子「は、はい……そ、そうですね! あはは……」
律子「……そ、そうよね。こういうことよね……」ドッキドキン
律子「んんwwwwwwwプロデューサー殿wwwwwwwwwww」
P「今度はどうしたんですかなwwwwwwwwwwwwwww」
律子「私も……その……同じ気持ちですから……」
P「え?」
律子「なんでもないですなwwwwwwwwww我としたことが、ねごとを使ってしまったようですぞwwwwww」
P「ねごとは変化技ですが場合によっては採用の価値ありですなwwwwwwwwwwwwwwwwwww」
律子「それもそうですなwwwwwwwwwwwwwwwww」
P(敵になってしまった、春香とやよい……)
P(そしてこれからも次々と現れるであろう、まだ見ぬライバルたち……)
P(これから先、何が起こるかなんてわからない。でも俺達は……戦い続け、そして……)
P「異教徒共を殲滅してやるんですなwwwwwwwwwwwwwwwwww」
律子「その意気ですぞwwwwwwwwwwwプロデューサー殿wwwwwwwwwwwwwww」
P(俺達の戦いは、これからだ!)
完
実際のアイドルマスター2のゲームでは、このようなバトルは起こりません
また、ステータスなんていうものはあまり関係なく、どんなアイドルの組み合わせでもベストENDは余裕で狙えます
ステではなく、愛でメンバーを選んでください
ただしプロデュース後ならありえますなwwwwww
Entry ⇒ 2012.10.15 | Category ⇒ アイマスSS | Comments (4) | Trackbacks (0)
淡「アコ。早く脱いで」憧「くっ……」
憧「……」
淡「アコがいうこと聞かなかったら阿知賀の大将さん……、潰すから」
憧「やめてっ!」
淡「へー。必死」
憧「なんでも言いなりになるからシズに酷いことするのだけは……」
淡「大丈夫、私の好みはテルーみたいに目の鋭い子」
淡「そしてあなたの目はテルーやスミレよりも更に私好み」
淡「アコをはじめて見たとき、まったくもって私の理想そのままで驚いたんだよ」
淡「アコが言いなりになってくれるなら悪いようにはしないから、ね?」チュッ
憧(シズ……)
憧「……」
淡「ふふ。ほっぺがリンゴみたいにまっかっか」
憧「あっ、赤くなんてなってない!」
淡「意地はっちゃって」
憧(あたしがシズ以外の相手に赤面するなんて、そんなの、ありえない!)
淡「……」チュッ
憧「きゃっ!?」
淡「あはは。きゃっ、だって。可愛いー!」
憧「……」
淡「ほっぺのリンゴにチューしただけなのにねー。うぶなんだー」
憧「何よ」
淡「このままじゃ不平等だから私も脱ぐね」
憧「好きにすればいいじゃない。どうせあたしに拒否権はないんだし」
淡「ま、そうなんだけどね」バサッ
淡「それでもせめて少しでも心の距離を近付けたくて」バササッ
憧(……肌、白いなぁ)
淡「あー。アコが私の身体じろじろ見てるー」
憧「はぁ!? だだ、誰がそんな!」
淡「やーい、エロエロー!」
憧「あんたにだけは言われたくない!」
憧「っ……」
淡「胸がドキドキいって、ほっぺがリンゴで、まるで私より憧の方がこの状況に夢中みたいだね」
憧「誰が……。シズのことがなければ絶対こんなことしないわよ」
淡「ふふん。説得力ない」
憧「……」
憧(目を閉じて、想像するんだ)
憧(あたしを抱き締めてるのは大星淡なんかじゃない。シズだ)
憧(あたしはシズに抱かれてるんだ。シズに……)
淡「私は、お・お・ほ・し・あ・わ・い、だよ」
憧「……」
淡「あなたをはじめて抱いている女は大星淡。タカカモシズノじゃない」
淡「現実逃避っていうんだよ、そーいうの」
憧「いちいち聞かなくても好きにすれば」
淡「違う違う、そうじゃないの。ただキスするんじゃ足りないよ」
淡「私は、アコから私にチューして欲しいんだ」
憧「あたしからあんたに……?」
淡「うん。ねー、いいでしょ?」
憧(嫌だ嫌だ嫌だ)
憧(自分からこいつにキスするだなんて、そんなの……)
淡「大将戦……、忘れてないよね」
憧「この卑怯者!」
憧「……」チュッ
淡「ふふっ。アコにキスされちゃったー」
淡「はじめては一度だけなの」
淡「この先アコがどんなに願おうが、大金を積もうが、タイムマシーンを発明したって……」
淡「アコのファーストキスは私。もうくつがえらない」
憧「……んなこと、わかってんのよ」ギリッ
淡「怒ってる怒ってる。でも怒った目も可愛いよ」
憧「……」
淡「嫌なヤツだよね、私。ごめんねアコ、こんなんで」
憧「謝るぐらいなら終わりにしてよ」
淡「それはダーメ。悪いことだとわかりつつも止められないのが恋なんだよ」
憧「恋……?」
憧「こんな最低のやり方で、しかも面識もまだほとんどないのに! これのどこが恋だっていうのよ!」
淡「そっかー。アコは恋ってものを綺麗な宝石かなにかと勘違いしてるんだー」
憧「……」
淡「ほら。アコはこんなに濡らしてるでしょ」サワッ
憧「ちょっ、やだっ!」
淡「私もおんなじ。アコを目の前にして、胸が高まって、あそこが落ち着かないの」
淡「恋っていうのは人間の中のドーブツ部分に過ぎないんだよ」
淡「だから理性じゃ御せないし、理由がめちゃくちゃでも恋できるの」
淡「どうやら憧のドーブツ部分は私に興味津々みたい」ナデナデ
憧「だとしても……、あたしは、シズ一筋だから」
淡「一途なんだね」
憧「ずっと好きだったから……」
淡「へー」
憧(シズ……)
淡「だいたいさ、不公平なんだよねー」チュッ
憧「何がよ……」
淡「アコみたいにキラキラした世界を信じて生きていられる子がいるってのに、片や私は……」
憧「あんたは?」
淡「……ねえアコ。想像できる?」
淡「少し前まで仲良しだった相手から嫌われる気持ちが」
憧「……?」
淡「アコは大好きな相手に話しかけても無視されるようになったことがある?」
憧「ない、けど……」
淡「ズルいよそんなの。なんで私だけ」
淡「私はただ自分を見てほしかっただけなのに……」
憧(さっきから何を言ってるのこの子?)
憧(支離滅裂すぎる、けど……。なんでだろう、何か……)
憧「……」
淡「麻雀が上手くなれば誉めてくれたから、そのために頑張ったりして」チュッ
憧「……」
淡「それが何、ある一線を越えたら化け物呼ばわり」
淡「だから私、人間の中のドーブツしか信じないの」
淡「損得とか利害とか理性とか、そんなのよりこっちの方がよっぽど信用でるよ」
淡「だからドーブツ部分が大好きだって囁いたアコに恋しようと思ったの」
淡「恋はドーブツ。綺麗なキラキラなんかじゃない」
憧「……事情はよくわかんないけど。あんたの話聞いててわかる部分もあったよ」
淡「えっ?」
憧「あたしも気を惹くための努力が上手くいかずに悲しくなることはあるから」
淡「私とアコとじゃ事情が違うよ。一緒にしないで」
淡「……」ガジッ
憧「いたっ!?」
淡「なんか見透かしたような言い方されるとムカつく」
憧「あーもう……。痣になってる……」
淡「……痛いことしてごめんね。謝るから私のものになって」ギュッ
憧「だからあたしはシズに」
淡「無理だよ。どうせ叶わないって」
憧「だとしても……」
淡「こんなにビチャビチャなのに一途気取って」スリスリ
憧「……っ!!」
淡「アコ。私アコならずっと好きでいられそうだよ」
淡「だからアコも私のこと好きになって」
憧(凄く必死に、あたしの太ももへアソコをこすりつけて)
淡「私、もうっ……、こういう恋しか……、でき、ないの……」スリスリ
憧(必死にあたしにすがりつこうとして……)
淡「だからアコ。最後の拠り所をっ……、否定、しないで……」スリスリ
淡「アコ……」スリスリ
憧(なんだか他人事じゃないみたい)
憧(あたしだって、明らかに片想いだと分かりつつもシズに振り向いてもらおうと、必死で……)
憧「淡」ギュッ
淡「アコ……?」
憧「やっぱり根っこは同じなのよ。あたしとあんたは……」ギュッ
憧「そうね」
淡「なのに抱き締めてくれるの?」
憧「うん。嫌だった?」
淡「嫌じゃない、けど……」
憧「じゃあいいでしょ」
淡「……うん」ギュッ
憧「……」
淡「……ふふ、アコ落ち着いてるふりしてるけど心臓がマッハで動いてる。やっぱ一年坊だねー」
憧「あのねー。こちとらいっぱいいっぱいだっての。っていうかあんたも一年だし」
淡「うん。同じだね」
淡「なんだかドーブツのドキドキよりあったかくなってきた……」
憧「……」
淡「アコはシズノが好きなんだよね?」
憧「うん」
淡「じゃあ私は?」
憧「そうね。姑息な手を使うし、むりやりファーストキス奪ったし、嫌い……」
淡「……」
憧「……になりそうなものなんだけど、不思議とそんなこともないかな」
淡「物好きだね」
憧「あんた歯に衣着せないわよねー……」
淡「でも今はその物好きに感謝!」チュッ
憧「わっ!? そ、そういう不意打ちはやめてったら!」
淡「アコ……。シズノはアコにこんなことしてくれる?」
憧「それはまだ、だけど……、いつかはきっと」
淡「私ならアコにちゃんと応えてあげられるよ? いつかもきっともつかないよ?」
淡「淡ちゃんが好きです?」
憧「そう、アワイが……、って何言わせようとしてんのよ!」
淡「あはは、ノリ突っ込み」
憧「あたしはさ。何度も言った通りシズが好きなの。この気持ちは裏切れないよ」
淡「ふーん。でもその選択って、アコの中にある別の気持ちは裏切ることになるよね」
憧「別の気持ち……?」
淡「そ。私を欲しがる気持ち」
憧「ばっ! そ、そんな気持ちなんて!」
淡「ない、とは言わせないよ。だってアコ、ドキドキしてるんだもん」
憧「うっ……」
淡「アコが綺麗な恋を好きなのはわかったよ」
淡「でもね。キラキラの恋心と、ドキドキするエッチな気持ちと、そこに尊いとか劣るとかいう違いは無いと思うの」
淡「だから……、エッチな気持ちに身を任せちゃおうよ。そしたら私、アコ一筋になってあげるから」
憧「あたしの牌譜を?」
淡「そしてわかったことが一つ! アコは不確実な賭けよりも、手近な現実を選ぶ!」
憧「いや。それは麻雀に限ったことだから」
淡「ううん、違うよ。牌譜はその人の人格や価値観まで写すの」
淡「期待値よりも目先の確実を選ぶ。アコ、そういうとこあるでしょ?」
淡「マウストゥーマウス!」チュッ
憧「むぐっ!?」
淡「今一番アコのそばにいるのは私だよ」
淡「アコのエッチなムラムラに一番応えてあげられるのも、私だよ」
淡「アコ……。ここまで言っても求めてくれないの? 私は――」
憧「淡……」ムニッ
淡「あ……」
憧「淡、あたし……」ムニムニ
淡「えへへ。私の太もも気持ちいいでしょ?」
憧「うん……」ムニムニ
淡「憧から私に触ってくれて嬉しい」
憧「あたしこんなことしていいのかな?」チュッ
淡「身体がしたがってることはしていいことなんだよ」チュッ
憧「そう……、なの?」
淡「そうだよ。初志貫徹の美徳なんて後付けの価値観」
淡「人間の本音を一番よく知ってるのは身体なんだから」クリッ
憧「ま、待って! そっちは、本当に恥ずかしい……」
淡「でも気持ちいいんでしょ?」クリクリッ
憧「……うん」
淡「かわいいよアコ。だから面倒なもの全部投げ捨てて、私に飛び込んでよ」
淡「今、アコの身体が本当に欲しがってるのは、シズノじゃなくて私なんだから」
憧「……」ツンツン
淡「ふふっ。こうされるの好き」ナデナデ
憧「ちゅー……、ちゅっ」
淡「あのさ、アコ……、んっ。ここは2回戦までぇ……、選手控え室としてっ、使われてた部屋なんだ……」
憧(どうしてこのタイミングでそんなことを?)チュッ
淡「だからインハイ団体戦が終わるまで……、はっ、飽き部屋なん、だけど……」
憧「へ?」
がちゃ
穏乃「憧……?」
穏乃「えーと、呼ばれて……、ととっ、とにかく! 失礼しました!」
ばたん
憧「あ……」
淡「アコ。私の牌譜、見たことある?」
淡「麻雀をする時、普通の人にとって見渡す世界は雀卓の上だけになる」
淡「だけど私は違う」
淡「私は雀卓の外側を、世界の外側を、宇宙を、躊躇わずに利用できる」
淡「ちょうど今みたいに、ね。私は遠慮も容赦もしないんだよ」
淡「アコが欲しいの」
淡「そんな上着だけはおってどこいくつもり?」
憧「あた、し……、追いかけてシズに説明しなきゃ……」
淡「なんて説明するの?」
憧「それは……」
淡「脅されてキスしてましたー。ペッティングしてましたー」
淡「そんな説明であの子の心は元通りになると思う?」
憧「……」
淡「今、アコの手の中にあるのは全部危険牌」
淡「振り込む相手は……、私」ギュッ
憧「あ……」
淡「恨んでくれてもいいけど離さないんだから」ギュッ
淡「泣いてもいいけどこっちを見て」
憧「あたしっ……、シズのことずっと好きだったのに……」
淡「好きならむくわれるとは限らないんだよ。自分から動かなきゃ」ナデナデ
淡「まあもう遅いんだけどね」
憧「……ぐすっ」
淡「でも大丈夫。アコには私がいるから」サワッ
憧「あっ」
淡「好き好き」サワサワッ
憧「うっ……、く……」
憧「淡……」ギュッ
淡「アコ」ギュッ
憧「うっ、うん……」
淡「えいっ。ちゅっちゅっちゅ」
憧「……ちゅっ」
淡「ちゅっちゅっ」
憧「ちゅっ……」
淡「えへへー。きちんとアコからもキスしてくれて嬉しいよ」
憧「そういうことあんま口に出して言わないでよ……」
淡「やーだよん。アコの頭がふわふわしてるうちに淡ちゃん大好きって気持ちを定着させたいんだもん」
淡「こう見えて私だって必死なんだからね?」
憧「えっ?」
淡「たまにはアコの方からしたいことを選んでよ。なんでもいいよ」
憧「……」
淡「あ、でも、あんまり痛いのとかは怖い……、かな」
淡「アコのためならできる限りは頑張るけど」
憧「じゃあ、太もも……」
淡「太もも?」
憧「あたしと淡の太ももをすりすりってしたい……」
淡「なるほど。アコは太ももフェチと!」
憧「……うん」
淡「そういえばさっきも私の太ももさわさわしてきたもんね」
淡「好きなんだね、女の子の太もも」
淡「気持ちいいね」スリスリ
憧「うん……」スリスリ
淡「私、思ったんだけどね」
憧「……?」スリスリ
淡「アコがシズノのこと好きだったのって、あの子がいつも太もも出す格好だったからなんじゃない?」
憧「えっ……?」
淡「つまりー。けっきょくシズノへの気持ちも、根本たどればエッチ心に繋がるってわけ」
憧「違う! あたしはただ純粋に!」
淡「でもどうせシズノでオナニーしたことあるんでしょ?」
憧「それ、は……」
淡「そうだ。妄想の中でシズノにしたこと、全部私に再現してよ」
淡「そしたらきっと絶対もっと気持ちよくなれるよ?」
憧「あんたはあたしのシズへの気持ちまで踏みにじろうというの……?」
淡「だってアコのこと全部まとめて好きになりたいんだもん」
淡「だから恋を私で上書きしちゃおうよ……、ね? ムラムラしてるんでしょ?」
憧「淡……」
淡「愛してるよ」チュッ
憧「……たしも」
淡「ん?」
憧「なっ、なんでもない!」
淡「そうー?」
憧(ああもう、なんなのよあたしは!)
憧(淡相手にドキドキして、これじゃまるで本当に気持ちを上書きされちゃったみたい……)
憧(淡……、淡……)
淡「うん。アコがシズノにしたかったことは全部して」
憧「それなら足を大きく開いてくれる?」
淡「えっ!? それはー……、さすがに恥ずかしいような……」
淡「でっ、でもアコのためだもんね! わかった開くよ!」
憧「……」スッ
淡「って、わーっ!? 何そんなに顔近づけてるの!?」
憧「ちゅっ」
淡「あ、あの……、私のアソコ、臭くない? 形とか大丈夫かな?」
憧「うーん。エッチな匂いかな」
淡「それって嫌な匂い……?」
憧「ううん。そんなことない」チュッ
淡「よかったぁ……」
淡「えへへ……。そ、そうかな」
憧「ちゅっ、ちゅ、ちゅっ」
淡「……」
憧「どう、かな? 気持ちいい?」
淡「うーん。ぎこちない感じだしまだあんまり気持ちよくはないかなー」
憧「うっ……」
淡「でもね。代わりにとっても幸せな気持ちだよ!」
憧「幸せな気持ち?」
淡「うん。アコに女の子の部分をたくさんキスしてもらって、とってもキュンキュンするの」
憧(ぐっ。不覚にも可愛いと思ってしまった……)
淡「ところでアコ。妄想の中では、アコはキスするだけだったの?」
淡「自分がシズノにされる妄想はしなかった?」
淡「つまりしたんだね。シズノにまん……、えっとあの、アソコをキスされる妄想」
憧「うん……」
淡「じゃ、私が代わりにキスしてあげる!」
憧「い、いいってそんな! ハズいって!」
淡「いいからいいから。ほら、足を開いて?」
憧「……うん」
淡「わっ。ぬらぬらしてる! アコ興奮してるねー」
憧「だだだって! 仕方ないでしょこの状況じゃ!」
淡「ぺろっ」
憧「ひゃっ!?」
淡「へー。憧ってもしかして敏感?」
憧「かも、しれない……」
淡「エッチな身体だこと」
憧「言わないでよ、もうっ……」
憧(自分のアソコに淡が吸い付いて……)
淡「ちゅ。ちゅぅー、ちゅ」
憧(変な気分)
憧(だんだん淡が愛しくなって……)
憧(ハッ! 違う違う! あたしシズが……、シズが……)
憧(……こんなことしておいて、今さらシズが好きなんて言う資格あたしにあるのかな?)
淡「かぷっ」
憧「んっ……」
淡「ちゅー、かぷっ」
憧「やっ……、やぁ……」
TELLLLL TELLLLL
憧(あ、え……? 電話?)
憧(携帯、携帯、と。相手は……、シズ!?)
淡「出ないで」
憧「え?」
淡「シズノの電話に出ないで」
憧「や、それは……」
淡「出ないで」ギュッ
憧「あ、淡っ!?」
淡「私だけ見てよ」クニクニ
憧「ちょっ! 指が中に入ってきて……」
淡「ちゅーっ」
憧「んぐ!?」
憧(キス、今度は舌まで入れられちゃった)
淡「ん、んっ……! んっ!」
憧(たくさん舌が絡んでくる……。淡は、電話からあたしの気を反らそうとこんなに必死で……)
憧(もしかしたらまだ引き返せるかもしれない……)
TELLLLL TELLLLL
憧(シズは自分からあたしと対話しようとしてくれている)
TELLLLL TELLLLL
憧(だから今ならまだ……、でも)
淡「アコ……」ギュッ
憧(淡はこんなにも一生懸命あたしに抱き付いてきて……)
憧(あたしは……)
憧「……」
TELLLLL TELL カチッ…
淡「電話、切っちゃったの……?」
憧「うん」
淡「私のために?」
憧「……うん」
淡「アコーっ!」ギュッ
憧「淡……」
淡「えへへ、アコぉ、嬉しいよ……」
憧「うん」ギュッ
憧(ああ。これでもうあたしは本当に選んじゃったんだな)
憧(さよならあたしの初恋……)
憧「ああ、うん」
憧(いつかシズと……、なんて考えたこともあったから)
淡「あのね。私、貝合わせがやってみたいの」
淡「あんまり気持ちよくないって話も聞くけど……」
淡「でもね! それ以上に、アコと私の大事なとこくっ付け合いたいなって思うんだ!」
憧「わかった。してみよう」
淡「うん!」
憧「うーん。位置を合わせるのってけっこう難しいね」
淡「そだねー。んしょ、んしょっと」ピトッ
憧「あっ……」ヌルッ
淡「うわー! こうやって合わせるだけでなんだかエッチな感じ!」
憧「あはは、たしかに。……ドキドキしてきた」
淡「私もドキドキで叫びたいぐらいだよ」
淡「ただ、この姿勢だと上の口同士ではキスできないねー」
憧「それは後からだってできるよ」
淡「うん! そうだよね!」
淡「これが終わっても、私アコとキスできるんだよね……?」
憧「うん」
淡「じゃ、じゃあ! シズノに手出しするって脅しがなくなってからは?」
憧「脅しがなくなってからも……、できるよ、キス」
淡「やったー!」
淡「思わない。だってアコは嘘も建前も嫌いな子だもん」
憧「どうしてそんなこと断言できるのよ」
淡「ふふっ。それも牌譜からわかるって言ったらどうする?」
憧「いやいや、牌譜心理学はなんでもありかい」
淡「でしょー、凄いでしょ! ……なんてね。さすがにこれはジョーダン」
淡「アコがそういう嘘を嫌いそうだってのは、本人を見てればなんとなくわかるよ」
憧「んなこと嬉しそうに言われたら……、ますます裏切れなくなるじゃない」
淡「やったね嬉しい誤算だ」
淡「……さ、動くよ」
淡「なんかっ……、気持ちいとこが上手く、こすれあう、ね……」クチュクチュ
憧「そう、ね……」ヌルヌル
室内に湿った音が響く。
息づかいが熱を帯びていく。
淡「もしかしてっ……、私と、アコって……」
憧「あっ、あっ……」ヌルヌル
淡「身体の相性バッチリなんじゃないかなぁ……?」
憧「そう……、かもっ」ヌルヌル
淡「なんだか私よりアコの方が夢中で腰を動かしてるね」
憧「だっ、て……」ヌルヌル
淡「かわいい。好き」
その淡の言葉に、胸の中で血潮がひときわ大きく波打つ。
跳ねるような水音がして、更に大きな快楽が下腹部へと広がる。
淡「アコっ……、アコっ……」ヌルヌル
淡はあたしの太ももを掴んで姿勢を安定させると、より強い力で股間をこすり付けてきた。
無理やり自分の身体を使われるような感覚に、気持ちの昂りがますます勢いを増していく。
憧「あっ……、……ぁ」
堪えようとしても、自分のものとは思えないような細く絞る声が漏れでてくる。
憧「あわっ、い……」クチュクチュ
淡「うっ……、ん……」クネクネ
淡「はっ、はあっ……、はあっ……」スリスリ
憧「あわいの、ことっ……」ヌルヌル
淡のことが好き。
そう口にした瞬間、淡の身体が小さく震えた。
淡「ううっ」ピチャピチャ
淡の達した震えが身体から直に伝わってくる。
事後。
絶頂の感覚に頬を染めながらも、淡は泣いていた。
淡「アコを手に入れるためにひどいやり方して……、そのくせ一人で先にいっちゃって……、ごめんね……」
憧「だい、じょうぶ……」
淡「え……?」
憧「淡がいった時の震えで、あたしも……、一緒にいけたから」
淡「……ふぇぇ」
憧「ちょっと淡!?」
淡「アコぉ……、好きだよアコぉ……」ギュッ
憧「……うん。あたしも」ギュッ
憧「うーん。ちょっと疲れたかな」
淡「私もー。じゃ、晩御飯食べにいこうよ!」
憧「あ、それならちょっと部のみんなに連絡いれなきゃ」
淡「シズノに電話かけるの……?」
憧「……」
淡「かけるんだね……」
憧「大丈夫」
憧「もう……、割りきった、から」
淡「ウソ」
憧「……今は嘘でも、本当にするから」
淡「そっかー……。わかった。アコを信じる!」
「うん。あの人とは……、妙に気が合って、恋人みたいな関係になっちゃった」
「え? そんなの嫌だ、って……」
「そんなこと言われても……、もう、遅い、よ……」
「……」
「うん。ありがとう」
「……ごめんね」
「そうそう。晩御飯、外で食べてくるから玄達にも伝えておいてくれる?」
「うん……。大丈夫、ちゃんと帰るから……」
「またね。バイバイ」
憧「どうして淡が沈んだ顔するのよ」
淡「だってアコ、泣いてるから……」
憧「……」
淡「ごめんね、アコ。ごめんね」
憧「……淡」
淡「アコ……。それでも私、アコが欲しいの……」ギュッ
淡「はじめはただ好みってだけの理由だった」
淡「でも今は、私の全部がアコを求めてるの……」
憧「うん……。それはあたしも」
憧「今はちょっと、大人になる痛みに泣いてるだけ、だから……」
憧「後悔はしてない、よ……」
淡「本当?」
憧「うん……」
淡「よかったぁ……」
インターハイ会場の外に出ると辺りはすっかり日も落ちていた。
生まれ育った阿知賀とは違う、どこか無機質な風景。
「アコー、暗くて道がよく見えなーい」
淡はわざとらしくおどけながら腕を深く絡めてきた。
ひときわ小柄なシズとは違うその高さに、自分の選択の意味を改めて知る。
「ここの空は星がほとんど見えないんだよね」
「うん」
「星といえば……、もしも今流れ星が見えたら、アコはなんてお願いする?」
「願い事? そうね、あたしの願いは……」
「願いは?」
私の、願いは――、
水遊びした河原。
何度も一緒に通った部室。
全部全部、追い払って。
「……ずっと淡といっしょに、かな」
「わー! 私もおんなじ!」
都会の夜風はほんの少しだけ大人の匂いがした。
このほろ苦い空気を浴びて、きっと夢見がちな少女だったあたしも変わっていくのだろう。
胸の痛みを夕食の考え事で無理やり追い出したりなんかして――
おわり
Entry ⇒ 2012.10.15 | Category ⇒ 咲-Saki-SS | Comments (0) | Trackbacks (0)
亜美「年上を……これ何て読むの?」真美「けいう?」
真美「何したの?」
亜美「レコード会社のお偉いさんに挨拶回りしたんだけどね」
真美「うん」
亜美「おっちゃん相手に、おっちゃん!亜美達の新曲よろしくね!って言ったらポカリだよ」
真美「マジっすか」
亜美「マジっすよ」
真美「それでポカリ?理不尽ですなぁ」
亜美「でしょ~?」
真美「真美達の間じゃ愛称で呼び合ってるのにねぇ」
亜美「だよね……ん?」
真美「どしたの?」
亜美「……呼び合ってたっけ?」
真美「えっ?」
真美「うん」
亜美「でもそれって、亜美達以外に使ってる人っていないよね」
真美「そう言われれば……」
亜美「もしかして、愛称付ける程仲良くなってると思ってたのは、亜美達だけだったのかも……」
真美「実態は真美達の一方的な好意で、本当は皆、真美達を馴れ馴れしいと思ってたりとか……?」
亜美「そうだったら亜美達は、律っちゃんの言ってた暴虐夫人になっちゃうよ!」
真美「ぼ、暴虐夫人……!」ゴクリ
真美「とりあえず愛称で呼ぶのをやめてみるとか?」
亜美「うーん、少々名残惜しいけど……真美のその考え方、イエスだね」
真美「でもやめた後、どう呼べばいいのかが問題だよね」
亜美「もっと相手に好かれるような呼称が良いのかもしんないね」
真美「じゃあ……ハニーとか?」
亜美「こないだの生っすかでミキミキにそう呼ばれて顔真っ青になってたらしいよ、兄ちゃん」
真美「マジっすか」
亜美「マジっすよ」
亜美「無難なものに限られるね」
真美「無難、ねぇ……真美達、そーゆー人生は送ってこなかったからなぁ」
亜美「送りバントより初球打ちでホームラン狙うタイプだかんね……」
真美「……じゃあさ、いっそこんな風にしてみない?」
亜美「おっ、なになに?」
真美「えっとね……」ゴニョゴニョ
ガチャッ
やよい「おはようございまーす!」
「「おはよう、やよいお姉ちゃん!」」
やよい「」
亜美「どしたの、やよいお姉ちゃん?」
やよい「お、お姉ちゃん?」
亜美「そうだよ。だってやよいお姉ちゃんは真美達より年上じゃん」
真美「だからやよいお姉ちゃん!」
やよい「えっと……何でいきなり、そんな風に?」
真美「いやぁ、今までの呼び方じゃ何か馴れ馴れしいと思って」
亜美「亜美達、一応最年少だしさ。年上ならもうお姉ちゃんと呼ぶのが筋だな、と」
やよい「そっか~……でも亜美達に改めてそう言われると、何だかくすぐったいね」
真美「まぁでも実際、リアルお姉ちゃんだしね」
やよい「……年上、かぁ」
やよい「あ、伊織ちゃ……」
伊織「?」
亜美「伊織お姉ちゃん!」
真美「伊織お姉ちゃーん」
伊織「」ゾワワッ
やよい「えーっと……い、伊織お姉ちゃん……おはよう」
伊織「」
亜美「何?伊織お姉ちゃん」ニヤニヤ
伊織「今すぐやめなさい、それ。あんた達に言われると鳥肌立つから」
真美「えぇー!?」
やよい「ご、ごめんね、伊織ちゃん……」
伊織「あ、やよいは別にいいのよ、うん」
亜美「何だよそれー!」
真美「何で真美達はダメでやよいお姉ちゃんはオーケーなんだよー!」
伊織「バカね。姉って呼ぶからには、その姉の言う事には従うってのが筋じゃない?」
亜美「ぐっ……そ、それを言われると従わざるを得ない……!」
真美「早くもヒエラルキーが確立してしまったか……!」
伊織「……え?何?」
やよい「伊織お姉ちゃん」
伊織「ごめん、ちょっと聞き取り辛くて」
やよい「……お、お姉ちゃんっ!」
伊織「なにかしら、やよい」ニコニコ
亜美「(……策士だ)」
真美「(策士だね)」
美希「……デコちゃん、何でニヤニヤしてるの?不気味なんだけど」
美希「お姉ちゃん?」
真美「真美達より年上にはね、一応皆お姉ちゃんって呼ぶことにしたんだ~」
美希「ふ~ん……ねえねえ、デコちゃん」
伊織「何よ、ってかデコちゃん言うな」
美希「ミキのこと、お姉ちゃんって呼んでもいいよ?」
伊織「はぁ?何でよ?」
美希「えっ?だってデコちゃん、どう見てもミキより年下……」
伊織「あのね……一応、あんたと同い年なんだけど」
真美「ウソッ!?」
亜美「マジで!?」
やよい「えぇっ!?」
伊織「………」
真美「ウチら辺りの年齢って、特に気にしてなかったからねぇ」
美希「伊織は割とぺったんこだしね」
伊織「うっさいわね!あんたの発育が特別いいだけよっ!」
やよい「い、伊織お姉ちゃん、落ち着いて……」
伊織「えぇ、すごく落ち着いたわ。ありがとう、やよい」キリッ
亜美「呼び方一つ変えただけでこれだよ」
真美「効果は抜群だね」
ガチャッ
響「はいさーい、みんなー!」
亜美「おはよー、響お姉ちゃん」
真美「響お姉ちゃーん」
響「」ゾワッ
響「」ゾワワッ
美希「えっと……響お姉ちゃん?」
響「」ゾワゾワゾワッ
やよい「響お姉ちゃん、おはようございまーす」
響「High sigh!」
伊織「……何よ、この反応の差」
亜美「響お姉ちゃんだからね、ちかたないね」
真美「そうだね、響お姉ちゃんだしね」
響「いきなりそんなっ!呼ばれても困るさー!」
伊織「の割にはやよいで思いっきり動揺して英語になってたわね」
美希「響も妹だからねー。気持ちは分かるよ?ミキも呼ばれた時ちょっと嬉しかったし」
響「う……うがー!」
真美「んー……純粋にお姉ちゃんなのは、やよいお姉ちゃんだけっぽい?」
亜美「ふむ……」
やよい「そ、そんなことないと思うけど……」
ガチャッ
千早「……おはようございます」
美希「おはよー、千早お姉ちゃん」
ドンガラガッシャーン
美希「大丈夫?千早お姉ちゃん」
千早「何?……あなた達、ふざけてるの?」
響「そ、そうだぞ、一体どうして自分達をお姉ちゃんとか……」
亜美「かくかくがしかじかで~」
千早「……やっぱりふざけてるんじゃない」
真美「えー?ふざけてないよ、ちーちゃん」
ズルッ
響「あ、またずっこけた」
真美「いつもは『千早お姉ちゃん』だからさ、ちょっと捻ってみたよ」
伊織「影おくりできそうな名前ね……」
千早「……あ、あなた達にそう呼ばれるのは想定外……」
やよい「大丈夫ですか、千早お姉ちゃん!?」
千早「えぇ、もうすごく大丈夫。ありがとう、高槻さん」スクッ
真美「言葉一つ変えたらコレだよ」
亜美「やよいお姉ちゃん、リアルお姉ちゃんなのにね」
響「本物の妹より妹が似合うとか……それはそれで、ちょっと複雑だなー」
美希「むー……」
春香「天海春香、ただ今戻りましたー!」
真「ふぃー、やっぱり朝から生は大変……」
雪歩「ただ今戻りまし……」
美希「おかえり!雪歩お姉ちゃん!」
雪歩「ふぇっ!?」ゾワワッ
伊織「あら、おかえりなさい真お姉様」
真「っ!?」ゾワワワワワワワ
千早「お、おかえり……春香お姉ちゃん」
春香「」ブバッ
亜美「あ、春香お姉ちゃんが血吐いた」
響「何をどうしたらそんな反応になるんだ……」
雪歩「な、何ですか?一体、何なんですか……?」ガタガタ
真美「全略」
真「伊織が妹ぉ?……こんな面倒なのが?」
伊織「は?」
亜美「むしろ全然いいよ、割と本気で」
真美「守ってあげたいお姉ちゃんってのも、需要ありそうだしね」
美希「雪歩お姉ちゃんはもっと自分に自信を持った方が良いと思うな」
雪歩「うぅぅ、妹達にに励まされるなんて……でも、ちょっとだけ、嬉しいかも……」
真「だからさ、例えオーキド博士が『そこに伊織がおるじゃろ?』って指したとしてもだよ?」
真「伊織を妹に選ぶってのはあり得ないよ、大体それなら……」
伊織「あんた、ちょっと屋上に来なさい。久々にキレたわ」
やよい「い、伊織お姉ちゃん、落ち着いて……!」
響「だ、大丈夫か、春香ー?」
春香「……ち、千早ちゃんに……お姉ちゃんと呼ばれる日が来るなんて!」ハァハァ
千早「えっ?」
春香「でもまぁそうだよね私は千早ちゃんより一コ上だしそう呼ばれるのもそう不自然ではないよね」
春香「だからと言って血は繋がってない訳だしそこは妥協して先輩とか呼ばれるのもまぁ別に悪くないんだけど」
春香「あ、でもマリみてとかじゃ女学園限定だけど普通にお姉さまとか呼ばれる関係だってあるし千早ちゃんもそれに倣えばバッチリなんじゃないかな」
春香「私としてはホントはお姉さまとか呼ばれてみたいしだけどやっぱりお姉ちゃんの方が破壊力抜群かなって思うからこのままでもいいかなって感じなんだけど」
春香「あ、千早ちゃんはどっちがいい?」
響「………」
千早「……ど、どっちがいいって言われても……」
亜美「とりあえずこれまでの反応見る限り、案外イケそうではあるね」
真美「んっふっふ~、そうだね」
貴音「嬉しそうですね、二人とも。何かあったのですか?」
亜美「あっ、お姫ち……じゃなかった」
真美「えっと……」
貴音「?」
亜美「貴姉ちゃん!」
真美「貴姉ぇ!」
真美「何?貴姉ぇ」
貴音「真美は、あの方の真似をしているのですか?」
亜美「あ、えっとね、多分呼び捨てじゃなくて……」
真美「貴と姉で貴姉ぇ、だよ」
貴音「!!!」
真美「ねー、語呂が良いっしょー」
貴音「なるほど……!」
亜美「た、貴姉ちゃん……?」
貴音「嗚呼、双海真美……貴女は何と素晴らしい才能を持っているのでしょう……!」ナデナデ
真美「……ものすごい褒められちったよ」
亜美「いいなぁ」
亜美「ヘイ!律子姉ちゃん!」
律子「………」ピクッ
真美「ヘイヘイヘーイ!律子姉ちゃーん!元気ぃー?」
律子「………」カタカタ
亜美「律子姉ちゃん!今何してるの律子姉ちゃん!」
真美「もしかして律子姉ちゃんお仕事中?ねぇ、もしかして真美達って邪魔?律子姉ちゃん」
律子「………」
亜美「ねぇ律子姉ちゃん!律子姉ちゃん!ねぇってば!」
真美「律子姉ちゃん!ヘイ!律子姉ちゃん!」
律子「うるせぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!」バンッ
真美「本当なんだよ律子姉ちゃん、真美達を信じてよ律子姉ちゃん」
律子「今すぐ、その連呼を、やめなさい」
亜美「………」
真美「………」
亜美「そんじゃあさ、律姉ぇでいいかな」
真美「律姉ぇ!律姉ぇ!」
律子「もう、何なのよ一体……」
亜美「全略」
亜美「な、なんでー?」
律子「呼称が変わっただけで敬語の一つも使えてないじゃない」
「「!!!!!」」
亜美「ま、真美!これって……!」
真美「……そういう説も、アリだったか~」
亜美「盲点、だったね……」
真美「うん……」
律子「(何で驚愕の事実が判明したみたいな驚き方すんのよ……)」
真美「そだね。真美達はいつでも自然体だもんね」
亜美「そうそう、フリーダムイズ亜美だったかんねー」
真美「でもこれからは、ちゃんと覚えなきゃいけないのかー……」
亜美「世知辛い世の中になったねー」
真美「ねー」
あずさ「この前行ってきたお店のプリンがもう、おいしくって……」
小鳥「えっと、そのお店ってどこに……」
ワイワイ キャイキャイ
亜美「……ねぇ真美」
真美「んー?」
亜美「『ピヨちゃん』じゃあ流石にアレだよね」
亜美「……それ、思いついたんだけどさ。何か……」
真美「うん、違和感あるよね」
亜美「って言うか、さんを付けなきゃいけない気がするんだよね」
真美「!……そっか!ちゃん付けじゃなくって、さん付けすれば敬語になるんじゃない!?」
亜美「おぉーっ!真美あったまいー!」
真美「じゃあじゃあ、今度からピヨちゃんの事は小鳥おばさ
真美「いつも私達の為に頑張ってくれてありがとうございます小鳥お姉さん大好きです」
小鳥「よろしい」
あずさ「あらあら~……それじゃ、私にも何か付けてくれるのかしら?」
亜美「そだねぇ……あずにゃんとかどーよ?」
あずさ「にゃん?」
真美「あーずにゃーん」
あずさ「……にゃーん♪」
亜美「にゃーん♪」
真美「にゃんにゃん♪」
小鳥「にゃーん(笑)」ププッ
あずさ「………」
あずさ「でも音無さんは訂正しないとお姉さんって呼ばれませんでしたよね」
あずさ「………」
小鳥「………」
あずさ「……ふっ」
小鳥「ほくそ笑みましたよね。今私見てほくそ笑みましたよね」
あずさ「にゃーん☆」
小鳥「にゃーんじゃねぇよコノヤロー喧嘩売ってんのか」
┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨
真美「まさにグラウンド・ゼロだね……大人って難しいねー」
亜美「そういやピヨちゃ、小鳥お姉さんの時に敬語使ってたけど、どうだった?」
真美「………」
亜美「真美?」
真美「……読書感想文読まされてる気分だったよ……」
亜美「あー」
亜美「あと残ってるのは……兄ちゃんかー」
真美「ここは無難にお兄さんとか?おにぃとか……おじさまも……」
亜美「あ、いた!」
真美「……何か兄ちゃん、真剣な顔して悩んでるよ」ヒソヒソ
亜美「声、かけづらいなぁ……どうしよっか」ヒソヒソ
P「……セクハラ……」
亜美「えっ?」
P「……お堅い貴音や千早に合法的にセクハラするには、どうすればいいんだ……」
亜美「………」
P「そんな夢のようなやり方があるとすれば……うーん」
真美「………」
P「ここはやはりカラオケで『最強○×計画』を貴音に……歌詞といい、あれは素晴らしいの一言に尽きる」
P「貴音だったら、意外に了承してくれそうではある……だが、きっかけはどうする?」
P「それに、カラオケならば千早だって容易に……」
亜美「ねぇ、おっちゃん」
真美「考えが口に出てるよ、おっちゃーん」
P「!?」
真美「おっちゃんの事だよ、おっちゃん」
亜美「おっちゃんにはガッカリだよ。セクハラする事で頭がいっぱいだなんて」
P「男は暇な時、みんな頭の中はセクハラでいっぱいなんだよ……つーかおっちゃんはないだろ、おっちゃんは」
亜美「じゃあ、おっさん」
P「おっさんじゃない!もうちょっと親しみを込めた呼び方をだな……」
真美「ならさ、ハニーで良いよね」
P「えっ」
亜美「そだね~。美希お姉ちゃんだけじゃなくって、亜美達もちゃんと呼んであげないと不公平だしね」
P「」
真美「真美達はそんなハニーでも応援してるからね、頑張ってねハニー」
P「おいバカやめろ」
あずさ「どうして亜美ちゃん達にハニーって呼ばれてるんですか……?」ヌッ
P「うわぁっ!……あ、あずささん!?」
小鳥「プロデューサーさん、まさか亜美ちゃん達にまで手を付けて……!?」
貴音「何と不埒な……あの子達はまだ年端も行かぬ少女だというのに、あなた様は……!」
P「ど、どこからわいて出てきたんですか二人とも!つーかまだ付けてない!付けてませんから!」
小鳥「ゴムを?」
あずさ「えっ」
貴音「ゴム……?」
P「違うから、全然違うから。小鳥さんはちょっと黙ってて下さい」
真美「うーん……なぁんか、イマイチだね。皆はわりかし喜んでたみたいだけど」
亜美「どゆこと?」
真美「敬語の方もそうなんだけどさ、コレジャナイ的な感じがするんだよね」
亜美「そうかなぁ?亜美は結構イイ線いってたと思うんだけど」
真美「……じゃあさ、ちょっと試してみよっか」
亜美「?……試す?」
真美「ね、亜美。真美の事、お姉ちゃんって呼んでみてくんないかな」
真美「ほら、だって真美も年上だしさ」
亜美「いや、年上も何も双子じゃん」
真美「それでも姉だよね一応」
亜美「……アーケード版では亜美がお姉ちゃんだったよ?」
真美「続編やアニメは真美がお姉ちゃんだけど?」
亜美「ぐぬぬ……」
真美「あれー?どしたの、亜美?」ニヤニヤ
亜美「な、何か……恥ずかしいってゆーか……」
亜美「えっ?」
真美「許してあげようじゃないの、お姉ちゃんの寛大な精神で……!」
亜美「!……ま、まだ真美をお姉ちゃんと認めた訳じゃないんだかんね!」
真美「ふふん」
亜美「………」
真美「………」
亜美「……ま、真美……お姉、ちゃ……」
真美「えっ?何?聞こえない」
亜美「………」イラッ
真美「………」
亜美「(お姉ちゃんって呼ばないと反応しない気満々だな、こんにゃろ……)」
真美「………」
亜美「じゃ、じゃあ、呼んでやんよ!耳の穴かっぽじってよく聞きやがれ!」
真美「………」
亜美「い、言うぞー!」
真美「(早く言いなよ……)」
真美「………」
亜美「……ま、真美、お姉ちゃん」
真美「………」
真美「ごめん、やっぱやめようこれ」
亜美「えっ?」
真美「亜美の口からお姉ちゃんって聞いたらさ、すんごいゾワゾワする」
亜美「あ、真美も?……やっぱ、慣れない事はするもんじゃないね」
真美「真美達が呼び合う時に合わないってのは、致命的だよね」
亜美「ってか、別にどーでもいいじゃんね。どっちが姉で、どっちが妹でもさ」
真美「亜美は亜美だし、真美は真美……それでいいのだ!」
亜美「そだね!」
亜美「この気持ち、さ……大事にしていこうね、真美」
真美「もちろんだよ、亜美」
亜美「結論を言いますと、亜美達が暴虐夫人なのはつまり、個性なんだよね」
真美「そうそう。フリーダムってのはとどのつまり、かけがえのない個性なんだよね」
亜美「個性だからさ、亜美達は変にかしこまったりできないんだよ。これはもう、ね」
律子「(……要するに開き直ったのね)」
真美「ま、そーゆー訳だから!こうなればもう逆に個性押しまくって、どんどんタメでいっちゃうかんね!」
亜美「よろしくね!律っちゃん!」ポンポン
律子「あぁ、そう……」
亜美「そんじゃ手始めに律っちゃん、焼きそばパン買ってこいよ~」
真美「真美は肉まんでいいからね~」
律子「……あぁん?」
おわり
雪歩「お、お姉ちゃん、頑張るから!命懸けで、頑張るからねっ!!」
美希「うん、頑張ってね~……あふぅ」ヒラヒラ
伊織「あんたみたいなお姉様なんて、こっちから願い下げよっ!」
真「な、何をぉ!ボクだって伊織みたいな妹なんか……!」
やよい「めっ!」
伊織「いたっ」コツン
真「てっ」コツン
やよい「これ以上喧嘩したら、めっ!」
響「……やよいはやっぱり、お姉ちゃんだなー」
千早「こーうん こーうん こーうん こーうん 種まき花咲き収穫期~♪」
千早「手放しハッピィー♪手ブラでラッキィー♪」
千早「こーうん こーうん こーうん こーうん こーうん こーうん こーうん こーうん」
千早「こぉーっ!うん こ~っ!うん こーうん こーうんこっ!!」
P「Fooooooooooooooo!!」
P「最高だ!やっぱりお前は最高だよ、千早っ!」
千早「歌に貴賎は、ありませんから」キリッ
P「次のカバー曲は決まったな……!」
春香「絶対にやめてくださいっ!!」
ちーちゃんは不器用かわいい!
千早にお姉ちゃんって言われる春香がよかった
お姉ちゃんって呼ぶ千早はもっとよかったww
おまけの千早は…
しかも2番wwww
とにかく乙
Entry ⇒ 2012.10.15 | Category ⇒ アイマスSS | Comments (0) | Trackbacks (0)
照「保健室の荒川先生」
宥「失礼します……」
憩「弘世さんに松実さん。ってことは……あはは、今日もやってもうた感じか」
宥「ごめんなさい……」
菫「本人は大丈夫だと言い張るんですが、何分血が出てて……」
憩「傷口そのままにしとくんは危ないからなぁ。消毒するからこっち来てー」
宥「はい……」
菫「宥の運動音痴は筋金入りだな……」
憩「今日はどうしてもうた感じ? この前はバレーで転けて、その前はバスケで突き指してたけど」
宥「マラソンの最中に足がほつれて転んじゃって……」
憩「はは、マラソンで転んだか。松実さんはおもろいなぁ」
菫「笑いごとじゃありません……」
憩「うーん、別に気にせんでもええと思うで? ウチはこれが仕事やし」
憩「弘世さんもこうやって二人で授業抜け出せて、満更でも無さそうやし」
菫「なっ……」
宥「えっ……?」ドキッ
憩「こんなちょっとした怪我でおんぶしてくるなんて、なぁ?」ニヤニヤ
菫「わ、私は宥の大事を取っただけでそんな下心は……!」
憩「あはは、冗談冗談。ほい、終わりっと。二日もすれば綺麗に治ってると思うわ」
宥「あ、ありがとうございます」
宥「ごめんなさい……」
憩「こんなしょっちゅう来られるとワザと怪我してるんかな思ってまうわ」ケラケラ
宥「そそそ、そんなことは……!」
憩「保険委員でも無いのに毎回弘世さんが付き添ってきたり、ホンマ二人は仲良しやね」
宥菫「「……」」カァァ
憩「そんじゃま、いつもどおり見学届け渡しとくわ」
憩「……寄り道してもええけど、怪しまれん程度に戻りや?」ニッコリ
菫「寄り道なんてしません!!」
>>12
憩「どうぞー」
玄「失礼します……」
憩「はいはい。あ、初めてやんな? この入室確認書ぱぱっと書いちゃって」
玄「は、はい」カキカキ
憩「ありがとー……ふむふむ、松実玄さん。3年生に松実宥さんっていうお姉さんおったりする?」
玄「え、どうしてお姉ちゃんの名前を……?」
憩「お姉さんはここの常連さんやからなー。二回も来てくれれば顔と名前は覚えるわ」
憩「うん、確かにお姉さんによく似てる……」ジーッ
玄「そ、そんなにまじまじ見られると恥ずかしいです……」
玄「ほ、本当ですか!?」
憩「まあ大した怪我やないから」アハハ
玄「そうですか……」ホッ
憩「二人は仲良さそうやね、そんなにも心配して」
玄「お姉ちゃん昔から怪我とかよくしてたし、目が届くところにいない時は少し不安です……」
憩「そっか。でも大丈夫やと思うで? 松実宥さんには過保護なくらい親身に接してるクラスメイトがおるから」
玄「えっ……そ、それって、誰ですか……?」
憩「弘世菫さん、って子なんやけど、知らん? 濃い青髪でロングヘアーで、真面目そうな弓道部の子」
玄「もしかして、あの時の……!」
玄「す、すみません、こっちの話です……」
憩「二人ともホンマに仲良くてなぁ。よく二人でここに来るんやわ」
玄「それは一体どういう理由で……?」
憩「体育の時間に怪我した松実さんを弘世さんが連れてくる、ってパターンがよくあるかな。週1くらい」
玄「そうですか……」
憩「お姉さん取られたみたいで寂しかったりする?」
玄「っ……い、いえ。そんなことは……」
憩「察するに、嫉妬半分安心半分って感じやね」
憩「まあスクールカウンセラー兼任やから、そっち方面の勉強もしとるんやわ」ニコ
玄「なるほど……」
憩「たぶんお姉さん昔からあんな感じで、自分がしっかりせえな、とか、お姉ちゃん守らな! とかっていう気持ちが強かったんやろうけど」
憩「お姉さんもええ年やし、ちゃんとお姉さんのこと見てあげてる子も今はおるから、妹ちゃんがそこまで気張らんでええと思うで?」
玄「……」
憩「まあお姉ちゃん好きで、お姉ちゃん離れでけへん、って言うんやったら話は別やけども」アハハ
玄「そ、そんなことないです! たぶん……」
玄「自分のこと……」ドキッ
憩「用件に相談、って書いてあるけど。今日はどういった相談? お姉さん関係あったりする?」
玄「お姉ちゃんのことは……気になるけど、しばらく見守ろうと思ってて」
憩「なるほど」
憩(思ったより理性的な子やなー)
玄「今日は、その……別の相談が」
憩「ふむふむ。内容はどんなもん?」
玄「先生は、そのっ……初対面の相手に好き、って言われたら、どうしますか……?」
憩「……えっ?」
玄「こ、恋、かどうかは、自分でも正直分からないです……ただ……」
憩「とりあえず、何があったか説明してくれる?」
玄「は、はい」
―――――――――
憩(要約すると、初対面の先輩に告白されてキスを迫られたそうです)
憩(そして流されるがままに唇……とまではいかなくてもおでこにキスされたと)
玄「……どう思いますか、先生?」
憩「ど、どう思うって言われても……」
憩(すごい話やなぁ、っていうのが正直な感想なんやけども……)
玄「で、でも! これって普通じゃないですよね……? 普通だったら、付き合ってください、とか、お友達になりましょう、とか……」
憩「いくら惚れたから言うても、いきなりキス迫るようなアホはそうおらんとは思うわ……」
憩(それで迫られるがままにキスされたこの子も相当アレやと思うけど……)
玄「あの人はどういう気持ちで私にあんなことをしたんでしょう……」
玄「キスし終えると、お礼だけ言って帰っちゃったし……」
憩「うーん、どういう気持ちで……」
憩(ホンマに惚れとるんやったらいきなりそんなこと出来るわけないし)
憩(ってことは……罰ゲームとか? いや、そんなことでそこまで必死にはならんか)
憩「うーん……」
玄「そう、ですか……」
憩「相手さんに訊いてみるのが一番早そうやな……名前とか分かる?」
玄「えっと……3年生の宮永照さん、です」
憩「!?」
憩「え、そ、それはホンマなん? 間違いとかじゃ……?」
玄「赤い髪の毛でおもちがあまり無くて、すごくカッコいい人、ですよね……?」
憩(初対面の相手にはあの子がカッコ良く見えるんか……てかなにやってんねん……)
憩(あー、でも。なんとなーくやけども事情が見えてきたような……)
憩「とりあえず相手側のことは置いとこか。またウチから詳しく話聞いて、また妹ちゃんに知らせるわ」
憩「それで、妹ちゃんは好きって言われてどう思ったん?」
玄「え、えっと……ドキドキ、しました……」
憩「そっか。それでなし崩しでもキスされて、相手のことが気になって仕方が無いと」
玄「はい……」
憩(これは呼び出しやなぁ……場合によっては鉄拳制裁せんと)
玄「これって、その……恋、なんでしょうか……?」
憩「う、うーん、そうやなぁ……他人に好意向けられて嫌な気分する人なんておらんし」
憩「そういう嬉しいと思う気持ちと恋心をごっちゃにしとる可能性がある、と思うかな」
玄「なるほど……」
憩「ウチもめちゃくちゃタイプの人に好きって言われたり」
憩「でこチューさせてって本気で言われたら、冷静じゃなくなってええよ言うてまうかもやし」アハハ
玄「そうですよね……わ、私が別段おかしいってわけじゃないですよね……」
憩「う、うん。だからそんなに思い詰めんでも大丈夫やで。でこチューくらいスキンシップみたいなもんやよ」
玄「そうですよね! スキンシップですよね!」
憩「そうそう。なんならウチでも妹ちゃんにでこチュー出来るで」ニッコリ
憩(とりあえず、どんな事情があっても妹ちゃんが傷つかんようにだけ心持ちを上向きにせんと)
玄「ありがとうございます。私、直接訊けるような勇気なかったから……」
憩「まあそれが出来ればウチに相談なんてせえへんわな」アハハ
玄「荒川先生、今日はどうもありがとうございました。おかげで、胸がすっと楽になりました」
玄「私、ずっとそのことばかり考えてて、自分はおかしいんじゃないかと思っちゃって……」
憩「妹ちゃんは何にもおかしくないから心配せんで大丈夫やで」ニコ
玄「先生……」ウルウル
憩(この子も涙もろいんやなぁ)
玄「あっ、もうこんな時間……料理研でミーティングあるので、失礼します」
憩「はーい。思い詰めすぎず、気楽に構えなさいね」
玄「はい! 改めて、ありがとうございました」ペコリン
憩(とりあえずは相談解決……かな?)
―――――――
憩「今日はまあ、今のとこはいつもくらいの訪問者かな……」
胡桃「失礼します」ガラ
憩「あ、胡桃ちゃん。こんばんはー」
胡桃「こんばんは先生。今日も……いいですか?」
憩「ええよ。ほんじゃ、早速しようか」ニコ
胡桃「よろしくお願いします」ペッコリン
憩(鹿倉胡桃ちゃん。2年生。その小さい身体がコンプレックスなのか、月2回ほどこうやって身長を測りに来ます)
胡桃「今月こそ伸びてるはず……!」
憩「えーっと……130cm。ぴったりやね」
胡桃「み、ミリも変わってないですか……?」
憩「残念ながら」ニコ
胡桃「そんな……」
憩「みんなまったく伸びへんなぁ。1年生の頃から測ってるつもりやけど、誰一人として成長してないような気がするわ」
憩「この前も天江さんと薄墨さん来とったけど、まったく変わり無しやったし」
胡桃「あの二人も……!」
憩「ウチとしては同じ学年クラスなんやし、三人まとめて来て欲しくはあるんやけども」アハハ
憩「まあそうやわな。普段仲良くしてても、身長に関してはみんなライバルやもんな」
胡桃「衣に負けたくも無いし、初美にもいつか勝ちたいです。そのために毎日牛乳飲んで9時に寝てるのに……」
憩(優等生やなぁ……てか三人ともぱっと見まったく変わらんけども)
胡桃「先生……どうすれば身長って伸びますか?」
憩「難しい質問やなぁ。一般的には胡桃ちゃんがしてるみたいな方法って言われとるけど、結局は遺伝が大きいから」
胡桃「い、遺伝……」
憩「まあその遺伝もあやふややから、体質って言った方がええかな?」
憩「身長伸びる人はなーんもせんでも180cm超したりするし、逆に胡桃ちゃんらみたいな子たちもおるし」
憩(かなり珍しいけども)
胡桃「背が高い人って言えば……」
憩「胡桃ちゃんらと同じクラスで2年の井上さんとか、あとは有名人で3年生の姉帯さんかな」
胡桃「純に姉帯さん……」
憩「まあ二人とも女の子にしてはかなり規格外やね。姉帯さんは井上さんもびっくりしてたくらい大きいけど」
胡桃「その二人に話を訊けば、何かヒントが……!」
憩「でもまあ正直、あんまし期待できんとは思うかなぁ」
憩「あの子らも胡桃ちゃんらがちっちゃいのと同じ理由でおっきい訳やし」アハハ
胡桃「ですよね……」はぁ
胡桃「あ、初美!」
憩「あらら。なんとも奇遇やね」ニコ
初美「な、何してるですか胡桃? こんなところで」
胡桃「そ、そういう初美こそ保健室に何か用なのかな? 超健康優良児のクセに保健室なんて」
初美「うるさいですねー……私だって保健室に用の一つや二つくらい……」
憩「はっちゃんも身長測りにきたのー?」
初美「せ、先生それは言わない約束!」
憩「まあまあ。胡桃ちゃんもよう来とるから」
胡桃「ちょ」
初美「同類はみんなライバルですよー……!」ゴゴゴ
胡桃「ただでさえ小さいのにその中でも小さいなんて屈辱以外の何物でもないからね……!」ゴゴゴ
憩「あはは、なるほどなー」
憩(二人ともかわええわぁ)
憩「それじゃあ早速はっちゃんも測ろうか。ちなみに胡桃ちゃんの身長は」
胡桃「せせせ、先生!!」
憩「トップシークレットらしいわ」
初美(気になる……)
初美「はいですよー」
胡桃「てか胡桃、水泳部は? この時間帯なら絶賛部活中だと思うけど」
胡桃(だから鉢合わせにならないようにこの時間帯狙ったのに……)
初美「排水溝? が壊れたとかでプール使えないらしいんですよー。一日でも水に浸かっていないなんて落ち着かないです」
胡桃「なるほど。そんなことってあるんだ」
初美「胡桃も部活は……って、あんなお遊びサークルは基本自由参加ですか」
胡桃「まあね」
憩「んじゃそろそろ身長発表するね。ひゃく……」
初美「せ、先生!?」
憩「あはは、冗談冗談」
憩「そんじゃま、耳打ちで」ニコ
初美「当たり前ですよー……」ジトー
憩「……」ボソボソ
初美「うぅ……」
胡桃(よし、伸びてない)
憩「ま、はっちゃんも気にしないで。な?」
初美(胡桃より高いのか気になります……)
胡桃(たぶん負けてると思うけど、もしかしたら……)
憩(熾烈な戦いやなぁ)
憩「ん? 今日はえらい多いな。はーい、どうぞー」
衣「失礼する」ガラ
胡桃「あ」
初美「あ」
衣「あっ……お、お前らなんでここに……!?」
憩「今日は面白い日やわぁ。三人が同時に揃うなんて初めてやでー」ニコニコ
胡桃「そ、そういう衣こそ、放課後のこんなところに何の用かな?」
初美「ひ、引きこもりの衣には似合わない場所ですねー」
衣「ふ、二人も十分に似合わないと思うが?」
衣「衣『も』? ってことは……」ジロジロ
胡桃「な、なに?」
初美「なにか文句あるですかー……」
衣「ふっ」
初美「あー! 今鼻で笑いましたよコイツ!」
胡桃「私たちの中で一番ちっちゃいクセに生意気だね……!」
衣「何を言う! お前らなんかに遅れを取った覚えなどない! 寝言は寝て言え!」
憩(小学生の喧嘩にしか見えない……)
初美「その通りなのですよー。衣ほど乳臭い高校生なんてこの世に存在しないです」
衣「そんなことはない! 衣が一番お姉さんだ! てかこども言うな!!」
憩「まあまあ三人とも落ち着いて。身長のことで熱くなんのは分かるけども」タハハ
衣「憩! この中で誰が一番お姉さんに見える!?」
憩「へっ?」
胡桃「私だよね先生!? こんな小学生にしか見えない二人と比べたら一目瞭然だよね!?」
憩「え、っと……」
初美「何をふざけたことを言ってるですかー!」
初美「ちんちくりんで色気の欠片もない胡桃と衣に比べたら私が一番レディーに決まってます! そうですよね!?」
憩「」
胡桃「答えを!」
初美「聞かせてください!」
憩(きゅ、究極の選択や……先生としてウチはどういう答えを出せば……)
憩「えっと、そうやな……ここは分かりやすく、身長の高さで決めよか」
「「!」」
憩「ほら、ウチの主観が必ずしも正しい答えやとは限らんし」
憩「そういう不明瞭な尺度で順序を決めるのは良く無いから……」アセアセ
衣「確かに一理ある……」
胡桃「ちゃんとした基準がある方が言い訳もつかないしね」
初美「それじゃあそれでいいです。衣、身長ちゃっちゃと測ってください」
衣「ふっ、そんな強気でいいのか? 衣の身長を聞いたとき、泣く事になるのは貴様だぞ?」
胡桃「先生! やっちゃって!」
憩「了解でーす……」
憩(胡桃ちゃんと初美ちゃんの身長は同じやった)
憩(まあミリ単位の違いはあるけど、それは伝えてないから問題ないとして……)
憩(重要なのは衣ちゃんの身長やな)
衣「よ、よろしく頼んだ」ドキドキ
憩(もしこの子の身長が130cmより大きかったり小さかったりしたら……)ドキドキ
胡桃「……」ジーッ
初美「……」ジーッ
憩(128cm……)
衣「な、何センチだ?」
憩「……」
憩「……」ボソボソ
衣「本当に!?」
胡桃「!?」
初美「な、何センチですか衣!?」
衣「130cm! 2センチも大きくなった!!」
「「えええ!?」」
胡桃「ってことは……」
初美(まったく同じ……)
初美「な、何を言うですか! 私も130cmです!」
胡桃「ええ!? 初美も!?」
衣「ほ、本当なのか憩?」
憩「う、うん。全部本当だよ」
憩(衣ちゃんの身長以外は……)
胡桃「ってことは……」
初美「引き分けですねー……」
衣(二人とも意外と大きかった……成長してなければ負けていた……)
衣「ふ、ふっ、それでこそ我がライバルであり同胞だ」
胡桃「まさか衣と同じとはねー……なんかショックだなぁ……」
初美「私もですよー」
衣「失礼なー!」
憩「いやぁ、三人ともまったく同じ身長なんてびっくりやわー」
胡桃「ま、良い勝負だったね」
初美「次やるときは私が一番でしょうけどねー。運動してるし」
衣「成長期に入った衣に勝てるわけあるまい! 次来たときには3cmは伸びてるはず!」
胡桃「どうせ2年くらい測ってなくてその結果でしょ」
初美「なるほど。それなら納得です」
衣「そんなわけあるか!」
憩「まあまあその辺にしといて」
胡桃「まさかの展開だしね……」
衣「衣は身長が伸びて嬉しい!」
胡桃(素直に羨ましいなぁ……)
初美「そんじゃま、衣の130cm祝いに三人でどこか行きましょうか」
衣「おお! それは良いはみれす行こう!」
胡桃「なんでお嬢様なのにそこでファミレス?」
初美「お嬢様だからこそじゃないんですかー」
憩(ふふ、仲良しで微笑ましいわ……)
胡桃「っと、先生、今日はどうもありがとうございました。またよろしくお願いします」ペッコリン
憩「喜んで」ニコ
初美「次来る時はなんかお土産持ってくるですよー」
衣「ばいばい憩! また会おう!」
――――――――――
憩「昨日はなんだかんだで忙しかったなぁ」
憩「一日誰も来ないときもあるし……今日はどんなもんでしょう」
コンコンコン
憩「お、3限目にして遂に」
憩(しかもこのノックは……)
憩「どうぞ、園城寺さん」
怜「こんばんは。ノックで分かるとは、先生は流石やなぁ」
憩「アンタが一番保健室によう来るからな。んで、今日はどないしたの? はい入室確認書」
怜「今日は、まあ……こんなところで」カキカキ
憩「……持病て」
怜「別にええやん。ウチと先生の仲やし」
憩「サボりやったら帰って欲しいんやけどもなー」
怜「そんな殺生なこと言わんとってや。藤田先生の理科がウチには難解過ぎて、頭痛が酷くなったんや」
憩「藤田先生にそのまま言っときますわ」
怜「やめてー」
憩「ふふ。ま、いつもの場所空いてるから、寝ていき」
怜「おおきに」
―――――――――
怜「……なぁ、憩」
憩「学校でその呼び方はやめて欲しいんやけど……」
怜「ええやん。どうせウチら二人きりやし」
憩「はぁ……」
怜「ところで、なんかナース服変わってない?」
憩「!」
怜「図星か」
憩「まさか気付かれるとは……」
怜「ウチで気付かんかったら誰も気付かんやろ」
憩「ふふ、まあそやろな」
憩「うっ」
怜「寒くなってくる季節やのにまたなんでやろ、思って」
憩「……別になんでもええやろ。黙って寝とき」
怜「ええー、気になるやん。教えてや。誰かに色目使ってたり?」
憩「そんなことしてません」
怜「またまたー。でも憩と仲良い人なんてパッと思い浮かばんしなぁ……ウチくらいしか」
憩「と、友達少ないみたいな言い方やめてくれへん?」
怜「だって本当のことやん。年の差結構あって、先生らとも心の底から打ち解けてる雰囲気なさそうやし」
憩「それは怜が先生らと過ごしてるウチを知らんだけや」
怜「……へぇ」
怜「例えば?」
憩「恒子さん……じゃなくて福与先生とか、えり……じゃなくて、針生先生とか」
怜「ふーん」
憩「あと誰やろ。あー、理事長とか三尋木先生もたまに来るわ」
怜「あの二人が……想像できん……」
憩「スクールカウンセラーは生徒以外の相談にも乗るからなー」
怜「……どんな話すんの?」
憩「えらい突っ込んでくるんやね。らしくないやん、園城寺さん」
怜「その呼び方やめて」
憩「ウチは公私混同はせえへんの。社会人の常識や」
怜「むかつくわぁ……年下のクセに……」
憩「……何度も言っとるけど、年齢について他の子に話したら怒るからな」
怜「ウチと憩だけの秘密やな」
憩「先生方は知っとるけどな」
怜「……ホンマ、おもろないこと言うんやなぁ」ハァ
憩「本当のことやからねー」
怜「……寝るわ」
憩「おやすみ」
――――――――――
コンコン
憩「はーいどうぞー」
「すみません先生、ちょっと擦りむいちゃって……」
憩「あらら。とりあえず見せてくれる?」
怜(憩はいつも通りやなぁ)
怜(ウチと接するのも他の子と接するのも、大して変わらずに……)
怜(……特定の生徒に対してえこひいきすんのはアカンやろうし)
怜(公私混同せん、ってのも立派やとは思うけど)
怜(……やっぱりおもろないなぁ)
怜(ウチと憩、二人だけの空間に誰かが入ってくるのも気に食わんわ……)
「ありがとうございました、先生」
憩「お大事にねー」
憩「ふぅ……」
怜「お疲れさん」
憩「こんなもんで疲れてたら身体もたんわ。てか起きたてたんや」
怜「さっきからずっと起きてるで」
憩「頭痛いんとちゃうかったっけ?」
怜「うーん、この枕固いからなぁ。あんまり良くはならんなぁ」
憩「そんなことばっか言って……」ハァ
憩「うーんと……11時ちょうどくらいやから、授業終わるまであと20分ほどかな」
怜「そっか……」
憩「授業参加する気になった?」
怜「うぅー、元素記号がウチの前頭葉を襲うぅ……」
憩「なんやそれ」アハハ
怜「……なあ憩」
怜「膝枕してくれへん?」
憩「嫌です」
怜「辛辣やなぁ……」
憩「どこの学校に生徒に膝枕する先生がおるの」
怜「憩が第一人者やな」
憩「アホ言いなさんな」
憩「言ってるやろ。公私混同はせえへんて」
怜「……ええやん。ちょっとくらい。他の生徒と同列なんて、嫌や」
憩「あのなぁ……」
怜「なー。やってーやー。ひーざーまーくーらぁー」
憩「駄々こねない。それでも年上か……」
怜「……膝枕してくれへんかったら憩の年齢言うからな」
憩「なっ」
怜「本当はきゃぴきゃぴのセブンティーンや言いふらしたる」
憩「……そ、そんなこと言ってもやらんからな」
憩「アホはと……園城寺さんでしょ。そんなに元気やったら教室戻りなさい」
怜「あぁ、貴重な時間が……次の時間も休もかな」
憩「こら」
怜「膝枕してくれるまで絶対に動かへん……無理やり連れてこうもんなら教育委員会訴えたる……」
憩「……今日はどうしたん、我がままばっか言って。お利口さんな園城寺さんらしくないで」
怜「憩がそんな呼び方でウチのこと呼ぶからや」
憩「保健室ではいつもこうやろ」アキレ
怜「……アホ」
憩(学校外では頼りになるお姉ちゃんやのに、どうしてここまで変わるのか……)
キーンコーンカーンコーン
憩「あ、チャイム」
怜「……」
憩「動く気なして」
怜「……学校終わるまで動かんもん」
憩「……はぁ。ホンマ、しょうがないんやから……」
怜「!」
憩「……4限目のチャイム鳴ったらすぐに帰るんやで」
怜「うん……」
憩「はぁ。短い時間でも居留守使うなんて、養護教師(保健室の先生)失格や……」カラン
出張中
怜「鍵も締めて」
憩「当たり前や……」
憩「はいはい」トサッ
怜「……やっぱり、丈短い。太ももの面積広なってる」
憩「別にええやろ。……ウチかってたまにはそういう気分になるの」
怜「セブンティーンやもんな」
憩「うるさい」
怜「それじゃあ、失礼するな……」
憩「っ……」
憩(やっぱこのくすぐったい感じ馴れへんわ……)
怜(憩の膝枕……久しぶりや……)
憩「チャイム鳴ったら終わりやで」
怜「そんな寂しい事言わんとってや……あったかいんやから……」
憩(うぅ、いくらプライベートで親交が深いとは言え、一人の生徒と先生がこんなことしてるなんて……)
怜(この背徳感というか、学校でみんなに内緒で憩とこういうことしてる、ってのがたまらんわ……)
怜(校内屈指の人気者、荒川先生。そんな人の素性を知ってて、下の名前で呼んでるのはウチだけか……)
怜「ふふ……」
憩「はぁ……」
憩「なんですか」
怜「下の名前で呼んでや」
憩「これ以上は何も出来ません」
怜「ケチ」
憩「十分大盤振る舞いしてるつもりですけどもー」
怜「呼んでくれるまで離さへんから」ギュッ
憩「なっ」
キーンコーンカーンコーン
憩「ほ、ほら、チャイム鳴ったで! 約束守って!」
怜「嫌や」
憩「と、怜!?」
怜「別にええやん。昼休みまで……」」
怜「ええやん、憩も一緒に寝よ」グイッ
憩「きゃっ……ちょ、ちょっと……!?」
怜「おやすみー」
憩(結局昼休みまで付き合う事になりましたとさ)
安価なら洋榎
――――――――――
憩「はぁ……酷い目に遭った……」
憩「おかげで午前中に終わらそうと思ってた仕事残してまうし……」
憩「今日は残業かもなぁ……」
洋榎「失礼しまーす……」ガラッ
憩「はいはい……って愛宕さん。珍しいね、愛宕さんが授業中に保健室やなんて」
洋榎「体育の授業中にちょっとぼーっとしてもうて……」
憩「ぼーっと? ……とりあえず、どこ怪我したの?」
洋榎「この辺にデカいたんこぶが……」
憩「あっちゃー。また派手にやったなぁ……軽い打撲かもやでこれ」
洋榎「とりあえず冷やしといたら治る感じのアレやないの?」
憩「まあマシにはなるけど……でも病院行くほどじゃないかな」
洋榎「そらよかったわー」
洋榎「ほーい。って冷めたっ……こういうのって氷持ってる手が痛くなってくるよなー」
憩「あるあるやねー。タオルあげるわ、これ使って持ったらマシちゃう?」
洋榎「さすが憩ちゃん。至れり尽くせりやで」
洋榎「ところで。授業戻ったらアカン?」
憩「うーん、出来ればここで安静にして欲しいかなぁ」
洋榎「そっか……んじゃあそうするわ」
憩(なんか、聞き分けが良い愛宕さんって不気味やわ……)
憩「で、何やっててこんなんなったの?」
洋榎「ソフトボールやな。フライ取り損ねて」
憩「愛宕さんが?」
洋榎「情けない話やけどもなー」
憩(信じられない……体育の授業で初心者が打ち上げるようなフライをあの愛宕さんが……)
洋榎「ふいー。冷たい冷たい」
憩(妙に大人しいというか、しおらしい雰囲気も気になるし……ちょっとお話してみようかな)
憩「最近ソフトボール部はどんな感じ?」
洋榎「まあ基本的には普段と変わらず……やけども」
憩「?」
洋榎「副部長がここ最近めちゃくちゃ不機嫌やなー……」
憩「ソフトボール部の副部長といえば……末原さん?」
洋榎「そうそう。ちょっと前に面倒なことがあって、それ以来なぁ」
洋榎「もちろん。普通やったら笑い話にもならんくらいくだらん話やで」
洋榎「ただ、どうしてかそれが恭子の逆鱗というか、なんか気に入らんことに触れたらしくて」
憩「何があったんか訊かせてや。面白そう」
洋榎「えっとな……」
―――――――――――
憩(簡潔にまとめると、生徒会長……もとい竹井さんの悪ふざけで愛宕さんがキスされて、その現場を見られたそうです)
洋榎「まあ確かにウチが目撃した立ち場としても、練習が始まってるにも関わらずそんなふざけたことしとる部員がおったら蹴っ飛ばすと思うわ」
洋榎「ただ、それにしては尾を引きすぎてるというか……ウチとしてはいつまでそんなくだらんこと引きずんねん、って感じで……」
憩(うーん、これは末原さんが憤慨するのも無理はないかなぁ……)
洋榎「なぁ、どう思う憩ちゃん? いくらなんでも怒りすぎやと思えへん?」
洋榎「一週間前くらいから今までずっとやで。口聞いてくれへんし……」
憩「ウチは末原ちゃんの気持ちわかるかなぁ」
洋榎「えっ……ほ、ホンマに? なんで恭子はそんなに怒っとんの?」
憩(洋榎ちゃんは鈍感なんかなぁ……結構賢そうに見えるけども、恋愛は別なんかな?)
憩「自分が何とも思ってない人がそんなことしてたら、何やってんねんコイツ、くらいで済むんやろうけど……」
憩「末原ちゃんにとって愛宕さんはそうじゃなかったってことやなー」
洋榎「ウチの部長という立場がまずかったんか……」
憩(うーん、そうじゃないねんなぁ)アハハ
洋榎「半分くらい?」
憩「末原ちゃんはソフトボール部一筋やから、めちゃくちゃ部を愛してると思うねん」
憩「で、その愛する部の象徴とも言える愛宕さんは、生徒会の役員でもあるわけやん」
洋榎「うんうん」
憩「自分が末原ちゃんの立場としたら、なんかそれだけでも嫌じゃない?」
洋榎「む……」
憩「例えば、自分が本気で好きな人が自分のとこだけやなく、別の人らのところでも仲良さげ楽しげにしてるというか……」
洋榎「それは確かに気に食わんな。どっちかハッキリせえ! ってなる」
憩(うん、いやまあ、まさにその通りなんやけど……)
洋榎「でもウチは両方本気でやっとるし、疎かにしたことなんて無いって断言出来……!」
憩「うん、まさにその通り。だから愛宕さんが部と生徒会を両方やってることについては、末原ちゃんも認めてるし納得いってるねん」
憩(心の奥底ではこっち一本にして欲しいとか、そういう気持ちはあるやろうけど)
洋榎「じゃあなんで……?」
憩「今度はこれが部と生徒会じゃなくて、末原ちゃんと竹井さんに置き換えて考えてみ?」
洋榎「!」
憩(愛宕さんは恋愛ごとに鈍感なだけで、頭も良いし勘も鋭いから……)
洋榎「ひ、久に嫉妬した、ってこと……?」
憩「そういうこと」ニコ
洋榎「つまり、恭子はウチのこと……」
洋榎「……!!」
憩(やっと分かったか)
憩「まあ、そんな生徒会のボスでもあり恋敵でもある竹井さんと」
憩「ソフトボール部の部長で主将で、自分の好きな人でもある愛宕さんがキスなんてしてるとこ見た日には……ね?」
洋榎「……」
憩(愛宕さん可愛い顔しとるなぁ……相当動揺してるみたいやけど……)
憩「それってつまり竹井さんを受け入れたってことで、愛宕さんは軽い気持ちでやったことかもしれんけど……」
憩「生徒会とソフトボール部とか、末原ちゃんの気持ちとかもろもろ考えたら……相当まずいことしたと思うで?」
洋榎「……!!」
憩「まずはちゃんと謝って、自分がどう思ってるのかを話さんとな」
憩(しかし、竹井さんはホンマにトラブルメイカーやなぁ……何の目的でそんなことを……)
洋榎「……すまん、憩ちゃん。いや、ありがとう。頭思いっきりぶん殴られた気分やわ」
洋榎「恭子のとこ行ってくる」ダッ
憩「ちょ、まだ授業中……」
憩「思い立ったらすぐに行動で、愛宕さんらしいなー。安心したわ」
憩「これも青春、なんやろうなぁ……」
憩(……ウチまだ17やのに、なんでこんな年寄りみたいなこと……)
憩(後日談。愛宕さん3ーC乱入事件は後の伝説になりましたとさ)
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>>179
安価ならたかみちゃん
―――――――――
憩「言うてる間に放課後かぁ」
憩(愛宕さんどうなったんやろ……)
憩(まあ、あの子も有名人やし、そのうち風の噂として耳に入ってきそうやな)
コン…
憩(……ん? 今のは……ノック?)
憩「はーい、どうぞー」
尭深「失礼します……」ガチャ
憩「初めて……だよね? これぱぱっと書いちゃってくれる」ニコ
尭深「……」コク…
尭深「……」カキカキカキ
憩(これまた保健室には似合わないくらいに奥ゆかしい子が来たなぁ……)
憩(どういう用件だろう?)
憩「ありがとー」ニコ
憩(渋谷尭深さん。2ーB、茶道部……部長、か)
憩「茶道部の部長なんだね。二年生なのにすごいわぁ」
尭深「部員が少ないから、必然的に……」
憩「それでも何かの集団の長になるってことはすごいことやで。もっと誇ろう!」
尭深「……」
憩(顔赤いけど……シャイな性格なのかな?)
憩(保健室に来る子は黙ってれば勝手に喋りだすような子ばっかりだから、こういうこの相手は大変かも……)
憩「えっと渋谷さん、今日はどういったご用件で保健室に?」
尭深「……猫」
憩「え?」
尭深「……付いて来て、欲しいです……」
憩「う、うん……?」
尭深「……」ギュ
憩「あっ、ちょ……し、渋谷さ……」
―――――――――
憩(手を掴まれ連れ出されてしもた)
憩(見た目よりずっと積極的なんかなぁ……)
尭深「……」テクテクテク
劔谷の梢ちゃんが部長でもよかったかもな
尭深「……茶道部室」
憩「茶道部室……そういえば茶道部って部員何人くらいおるの?」
尭深「……私を入れて、5人くらい?」
憩「ぎ、疑問系で訊かれても困るかな……」
憩「そういえば、茶道部って普段なにしてるの?」
尭深「……お茶を淹れて、飲む」
憩「そっか……お茶飲むのかー……また用事は済んだらでいいから、私にも淹れてもらえるかな?」
尭深「……どうして?」
憩「うーん、どうして、か……渋谷さんが淹れたお茶を飲んでみたいから、かな?」
尭深「……」
憩「ふふ、楽しみにしとくわ」
憩(相変わらず用事が何なのか分からないままやけど……ま、なんとかなるか)
憩(茶道部室に行けば他の子から事情を訊ける、はず……)
――――――――――
尭深「着いた」
憩「ほえー。茶道部室ってこんな場所にあるんやね……」
友香「あ、尭深先輩帰って来た!」
美幸「やっと帰って来たよもー……」
尭深「二人ともただいま」
憩「えっと、お二人は……?」
尭深「茶道部の部員。この子が1年で」
友香「ども!」
尭深「この人が3年」
美幸「あ、よろしくお願いします……」
美幸「茶道部は代の移り変わりが早くて、この時期にはもー部長は変わるんです」
友香「まだ他にも部員はいるっすけど、今日は私ら三人以外休みです!」
尭深「……休みです」
憩「な、なるほど……」
憩(まあ、こういう部活は基本自由やからなぁ……)
憩「っと、で、用事って何かな? ウチ、渋谷さんに何も告げられずにここまで連れて来られてんやけど……」
友香「せ、先輩……」
美幸「尭深ちゃん、ちゃんと訳は話さないとー……」
尭深「……ちゃんと言った。猫って」
憩「猫? あ、そういえば……」
友香「えっと、説明させてもらうと、茶道部室の窓から見えるところに猫がいて、そいつが怪我してるんです……」
憩「猫が怪我……」
尭深「……足のところから血が出てて、動けないみたい。助けて欲しい」
憩「あー、なるほど。そういうことなんやなー」
美幸「説明不足でごめんなさい……」
友香「自分からも謝るんでー……」
尭深「……ごめんなさい」
憩「あはは、まあようあることやから気にせんとって」アハハ
憩(しかし、なるほどなー……猫、か……)
憩「おー、かなり本格的な和室やねー……」
友香「私らいつもここでお茶淹れたりしながらくっちゃべってます!」
美幸「茶道部ではお茶は立てる! 何度も言わせないでよもー……」
憩(なかなか雰囲気良さそうな部やな……全然どんな部か知らんかったけど……)
尭深「……あそこ」
憩「あー……本当だ。素人目で見ても酷そうだね……」
尭深「……助かる?」
憩「助ける、やで」ニッコリ
尭深「……!」
友香「カッコいい……」
美幸(保険の先生って、動物治せるのかな……?)
憩(保険の先生言っても、人と動物なんて処置の仕方絶対違うやろし……)
憩「……とりあえず、なんでも出来そうな人呼ぼか」
「「?」」
―――――――――
戒能「ハロー、みなさんこんばんは」
憩「どうも、お忙しいところすみません」
美幸「か、戒能先生……」
友香「ど、どういうことでー……?」
尭深「荒川先生……?」
憩「いや、ごめんな渋谷さん。ちょっと専門外やわ。素人が下手なことするより、ある程度知ってそうな人のがええかな、と思って」アハハ
憩「いや、戒能先生、アフリカで獣医の助手してたらしいとかっていう噂聞いたから……」アハハ
友香「噂!?」
美幸「どういうことなのよもー……」
戒能「なるほど。あの猫は怪我をしているんですね。了解です。応急処置だけならなんとかしてみます。とりあえず、保健室からこれだけの道具を……」
憩「ふむふむ……」
友香「マジでー!?」
美幸「この人めちゃくちゃだよー……」
尭深「治りますか……?」
戒能「あの状態なら、早い段階で処置してちゃんとした獣医に見せればノープロブレムです」
尭深「……!」パァァ
憩(いやぁ、戒能先生は頼りになるなぁ……大抵のことは出来るって聞いたけど、まさか本当やとは……)
―――――――――――
憩(戒能先生の応急処置の後、猫は動物病院に連れて行かれました)
憩(怪我の具合は見かけだけで、戒能先生が大雑把な作業はやっていたので消毒とかしかすることはなかったそうです)
憩「……以上が猫ちゃんの経緯でした」
尭深「良かった……」ホッ
美幸「心配して損したよもー……」
友香「遅くまで学校に残ってる意味なかったですね」アハハ
憩「応急処置をした上に、動物病院にまで連れて行ってくれた戒能先生にあとで土下座せえなな」ニコ
美幸「ございましたー……」ペコ
友香「感謝です!」
憩「いえいえ。ウチ、なんもしてないし」
憩(割とホンマに)
尭深「……きっと先生を呼んでいなければ、私たちだけで無理に獣医に連れて行こうとして……」
尭深「猫の様態が酷くなっていました」
尭深「本当に、ありがとうございました」ペッコリン
憩「……自分の力じゃどうにもならんときに人のこと頼れるって結構すごいことなんやで?」
憩「ま、三人ともよく出来ました、ってことで」ニコ
尭深「先生……」
美幸「本当だ……もーこんな時間……」
友香「ずっと猫の心配してましたからね」アハハ
憩「渋谷さん。今日は遅いから無理やけど、また遊びに行くからお茶お願いな?」
尭深「……はい」ニコ
荒川(……さて、ウチは残業やなー……こういう仕事と承知でやってますけども……)
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>>225
――――――――――
憩(昨日はホンマに忙しかったなぁ……)
憩(午前は怜に振り回され、午後は愛宕さん、立て続けに渋谷さんで……)
憩「それに関係あるかは知らんけど、今日は放課後まで特に何もなかったなー……」
憩(ウチが働かんでええのが一番幸せな状態なんやと思うけど……)
コン コン
憩(そういう訳にもいかんよなぁ)
憩「はーい。いますよー」
咲「失礼します……」ガチャ
憩(1年生かな? 何にせよ初めてやなー……)
咲「は、はい」
咲「……」カキカキカキ
憩(物静かな雰囲気の女の子やなー……いかにも文学少女って感じの……)
咲「あ、書けました」
憩「ありがとうね」ニッコリ
憩(……宮永咲。1ーB、文芸部)
憩(うーん。なんか、所々既視感のあるプロフィールやなぁ……)
咲「……」モジモジ
憩「あ」
咲「へっ?」
憩「もしかして、3年にお姉ちゃんおる? 宮永照っていう赤髪の」
咲「えっ……あ、は、はい。宮永照は私の姉です……」
憩「なるほどなぁ、通りで……」ジロジロ
咲「あ、あの……」
憩「いやぁ、ごめんな。しかし、お姉さんに似てるね」
咲「えっ……ほ、本当ですか?……」
憩「うん。顔立ちも面影あるし、髪型の特徴もそっくりやし、同じ文芸部やしな」ニコ
憩(この子もお姉ちゃん子なんやろうなぁ……そんなオーラが滲み出てるわ……)
憩(まあ、この学校の妹ちゃんはみんなお姉ちゃん大好きな子ばっかやけど……)
憩「で、今日の用事に相談って書いてあるけど……どんなお悩みで?」
咲「その……お姉ちゃんのことなんですけど……」
憩「宮永さんのこと?」
咲「じ、実は……私……!」
咲「お姉ちゃんのことが好きなんです!!」
憩「……」
憩「そ、そっか。えっと……それはどういう……?」
咲「……」カァァァ
憩(な、なんか。今までで一番ヤバげな雰囲気が……)
???「ナシですね」
憩「その好きは……その、ライク? ラブ?」
咲「……ライクです。たぶん」
憩「そっか……ライクか……」
憩(限りなく黒に近そうなグレーって感じやな……)
憩「まあ、お姉ちゃん離れでけへん子はいっぱいおるし、そこまでマイノリティでもないと思うで?」
咲「出来れば、お姉ちゃん離れはしたくないです……」ウルウル
憩(何か惹かれるモノがあるんやろうなぁ。松実玄さんにしろ、この子にしろ……)
咲「……はい」
憩「出来ればこの先も末永く今の姉妹関係でいたいと」
咲「……もうちょっと、距離が近くなっても大丈夫、です」モジモジ
憩「な、なるほど……咲ちゃんがお姉さんのこと大好きなんは分かったわ。それを前提にどういったお悩みで?」
咲「実は……最近、お姉ちゃんの周りにたくさん女の人が増えてきていて……」
憩「つまり、お姉さんがどこぞの馬の骨かも分からん誰かに取られるのが怖い、ってことかな」
咲「! ……すごいです先生、その通りです……」
憩(ただ単に大好きなお姉ちゃんが取られるのが怖い、ってだけやったらええんや けども)
憩(この子の場合、何かそれ以外の、ただならぬ理由がありそうなオーラが……)
咲「先生、私どうしたらいいんでしょう……?」ウルウル
咲「お姉ちゃんがいなくなったら、私……!」
憩「うーん、正直に言うと、そない心配せんでも大丈夫やと思うで? あの宮永さんが誰かとお付き合いしてる姿なんて想像でけへんし」
憩「そもそも誰かと付き合ったからと言って咲ちゃんを蔑ろにするとも思えんし」
咲「……蔑ろにされなくても、お姉ちゃんが誰かと付き合ったりキスしたりするなんて……嫌です」
憩「神聖なお姉ちゃんに気軽に触れられたくない、ってこと?」
咲「はい……」
咲「昔からの馴染みの人とか、私がよく知ってる人とかならまだいいんですけど……」
憩「ウチが知る限りじゃ、宮永さんの昔からの馴染みって弘世さんくらいかなぁ」
咲「菫さんは、はい。大丈夫です。お姉ちゃんとは幼稚園児のときからのお友達なんで」
憩「ほえー。あの二人そんな長かったんや」
咲「まあ、だからと言って私とかと特別仲が良いってわけでもないんですけど」アハハ
憩「他に宮永さんと付き合い長い人っておるの?」
咲「私と菫さんくらいに長いのは、この学校の1年生で私と同じクラス大星淡ちゃんですね」
憩「あのダンス部の元気な子?」
咲「はい。知ってるんですね」アハハ
咲「昔からずーっと一緒に三人で遊んでたように思えます」
憩「そっかぁ。大星さんと宮永さんらがそんな関係やとは……」
咲「この高校に入ってから、お姉ちゃんにも同年代の仲の良い友達が増えてることを知って……」
咲「良い事だとは思うんですけど……やっぱり、私たちが知らないお姉ちゃんがいることは……すごく寂しいです」
憩「なるほどなぁ」
憩(なんか咲ちゃんの気持ちが分かってきたように思えるなぁ……)
咲「あ、そうだ。聞いてください先生、この前、お姉ちゃん知らない女の人にキスしてたんです……!」
憩(松実さんか……)アハハ
咲「あんなにも簡単に好きとか言って、キスして……羨ましい……」ブツブツ
憩(なんか羨ましい聞こえたような気が)
憩「そやなぁ……もしかしたらキスされてたその人、宮永さんにとってすごく付き合いが長くて」
咲「あり得ないです。お姉ちゃんにあんな知り合いいませんでした。断言できます」
憩(なんで断言出来るんでしょー……)
憩「えっと、それじゃあ、宮永さんが一目惚れしちゃった」
咲「そんなことあり得ません!!」
咲「……たぶん」
憩「はは、そこは自信ないんや」
憩(所々理性的なのが救いやなー)
咲「お姉ちゃんがその人に一目惚れって、あり得ますかね……?」
咲「2年生の松実玄さん、って人らしいんですけど……」
憩(ある程度のことは調べてそうな雰囲気……)アハハ
憩「うーん、あり得へん話ではないんちゃうかな? 宮永さんも人間やし、松実玄さん可愛いし」
咲「そ、そんな……」
咲「……胸、ですか?」
憩「……え?」
咲「私が胸小さいからお姉ちゃんは……」ジワァ
憩「なんでそうなるの!?」
咲「それに引き換え私は……」
憩「さ、咲ちゃん落ち着いて。胸の大きさは関係ないと思うから……」
咲「じゃあどうして……?」
憩(まあ、そう言われるとこれと言った答えも浮かばへんのよねぇ)
憩「うーん、考えてもしゃあないし、お姉さんに直接訊いてみたら?」
憩「なんかきっと重大な事情があるんやって」
咲「キスしないと死んじゃう病気とか……?」
憩「いや、そこまで重大でもアホらしくも無いと思うけど……」
憩「ちょっと勇気ない感じ?」
咲「はい……」
憩(宮永さんに関してかなりアグレッシブに動いてそうやのに)
憩(なんで直接ってなったら臆病になるんや……)
憩「……よし。ほんならウチが手伝ったるわ」ニッコリ
咲「えっ……? でもどうやって……」
憩「まあまあ。ちょっと待っといて」
憩「……」
キーンコーンカーンコーン
憩『3年A組宮永さん。宮永照さん。校内にいましたら、至急保健室まで来てください』
憩『繰り返します。3年A組宮永さん……』
―――――――――
憩「さ、これであとは来るの待つだけやな」ニコ
憩(松実さんの相談に対してもケリ付けなアカンかったし、ちょうどよかったわ)
咲「お、お姉ちゃんがここに……!」アワワ
憩(急にそわそわし出すあたり咲ちゃんも分かりやすいなぁ……)
憩「ま、この際やし、思ってること全部ぶつけたらええで」
憩「もっと構えとか、あんまし知らん子とイチャイチャするなとか」
咲「そう、ですよね……ちゃんと気持ち伝えないと、ダメですよね……」
憩「うんうん♪」
憩(宮永さん、早く来てくれたらええけど……)
――――――――――
咲「……来ない、ですね」
憩「う、うん……おかしいなぁ、帰ったんやろか」
咲「今日は文芸部あるので、学校にいるとは思うんですが……麻雀部の方に行ってるかもですけど……」
憩「……もしかして、迷ってるとか?」
咲「えっ」
憩「いや、あの子保健室に来るときいつも誰か側におったから……」
菫「失礼します」ガラ
照「失礼します……」
憩「あ、来た」
照「うぅぅぅ……」
菫「申し訳ないです先生。遅れました」
憩「いや、全然大丈夫やで?」
菫「コイツ、呼び出された瞬間帰ろうとして」
憩「あらら」
菫「行けと言っても逃げそうな雰囲気だったので……無理やり連れてきました」
照「うぅぅぅ……」
咲「お、お姉ちゃん……」
憩「なるほどなー。ってことは、呼び出されることに対して心あたりがあるわけか」
照「こ、心あたりなんて無いです。私なにもしてないです」
菫「おまえなぁ……」
憩「じんも……じゃなくて、質問にはちょうどええわ」ニコ
照「」
菫「しっかりと報いを受けろ。あんな連中集めてあんなことしておいて、何も音沙汰が無いわけがないだろ……」
照「うぅぅ……賢者はいつも愚者の犠牲になる……」
菫「殴るぞお前」
憩「まあ、質問するのは私やなくて咲ちゃんなんやけどね」
照「咲……?」
咲「うぅぅ……」モジモジ
憩「さ、弘世さん。こっちこっち」
菫「は、はい……」
照(菫と先生がいなくなった………)
照(これは……チャンス……)ソローリ
咲「あ、あの……」
照「!」ビクッ
照「な、なに……?」
咲「お姉ちゃん一体何をして……?」
照「い、いや、ちょっと花を摘みに……」
菫「アイツ……」
憩「なんかもう見てて気持ち良くなってくるな」アハハ
咲「あの、お姉ちゃん。話があるんだけど……いいかな?」
照「は、はい……」
咲「と、とりあえず座ろうよ。ね?」
照「いや、花を……」アセアセ
咲「お姉ちゃん……?」
照「あ、後で行きます」
照「……」
咲「なんか、こうやって向かい合って話すって珍しいね」アハハ
照「そうだね……なんか悪い事したみたいな気分……」
菫(いやいやいや)
咲「その、ね。今日お姉ちゃんをここに呼び出してもらったのは、私なんだ」
照「咲が……?」
咲「色々と訊きたいことがあって……」
照「それは家では話せないことなの?」
咲「う、うん。淡ちゃんとかもよくいるし、ちょっと話しにくいと言えば話しにくいかも」
照「そっか……」
照「す、好きな人……?」
咲「うん……」
照「えっと、それはどういう意味の好き?」
咲「……キスするとかの好き」
照(キスするとかの好き……)
照「……うん。そういう意味なら、好きな人はいるよ」
咲「えっ……!?」
憩「そ、そうなんや……なんか意外やわ……」
菫「いや、アイツのことです。また何か意味をはき違えてそうな……」
照「咲が知ってる人もいるよ?」
咲(えっ……どど、どういうこと!?)
咲「お、お姉ちゃん? 好きな人だよ?」
照「うん、好きな人」
照「咲のことも大好きだよ」ニコ
咲「!?」ドッキーン
菫「またあんなこと言って……」
憩「松実玄ちゃんが勘違いするのも分かる気がするわ……いや勘違いかはまだ分からんけども…‥」
菫(何の悪気もなく純粋な気持ちで言ってるんだから厄介なんだアイツは……)
咲「あぅ……ぁ……」カァァ
照「どうしたの咲? 顔が赤い」スッ
咲「ふぁ!?」
咲(お姉ちゃんの手……ほっぺに……!)
照「熱でもある? 先生呼ぼうか?」
咲「だ、だだ、だいじょぶ……」
照(また赤くなってる……)
憩「なんか宮永さんってすごいんやね……」
菫「アイツが人見知りのおかげで被害は最小限で済んでますがね……」
菫(私も昔、本気で……)
照「なに?」
咲「お姉ちゃんは……私のこと、大好きなんだよね……?」
照「うん」
咲「それなら、その……」
咲「キス、して欲しいです……」ウルウル
菫(完全にネジを飛ばされてるな……)
憩(あっちゃー……これはまずい気が……)
照「うん、いいよ」ニコ
咲「……!」
照(キスくらい言ってくれればいつでもしてあげるのに)
照「それじゃ、するね」スッ
咲「ま、待って! ここ、心の準備が……!」
照「ふふ、咲は可愛いね」チュッ
咲「ぁ……」
咲(おでこ……)プシュー
照「咲?」
憩「はいストップストップー……」
菫「尋問されて責められるはずがどうしてこうなるんだ……」
照「せ、先生に菫……いたんだ……」
菫「自制出来ない分、竹井や園城寺よりタチが悪いぞお前……」
照「ふ、二人とも一体何を……」
咲「ふにゃぁ……」
憩(咲ちゃんの相談何一つ解決出来てないと思うけど、本人幸せそうやからこれでいいんかな……ってよくないか)
憩「宮永さん!!」
照「は、はい!」
憩「さっき弘世さんから訊いたで……? 宮永さんずいぶん面白い事やってたみたいやなぁ……」ゴゴゴゴ
照「ひっ!?」
憩「反省文、400時詰め原稿用紙20枚分と明日から1週間校内清掃をすること」
照「そ、そんな……何も悪い事してないのに……」
菫「悪い事してる自覚がないのが一番悪いんだよ……」ハァ
憩「分かりましたか?」ニコ
照「あ、あれは高尚な研究であって……」
憩「分かりましたか?」
照「分かりました……」
憩「それとちゃんと松実さんに事情説明して謝る! 他の子も連れて来なさい!」
照「はい……」シュン
菫(あぁ、なんという常識人……)ジーン
―――――――――――
菫(その後、続いて呼び出しを食らった竹井と園城寺も仲良くお説教を食らった)
怜「委員長がチクるから……」セイザ
久「私は反省してたつもりなんだけどなー……」セイザ
照「賢者はいつの時代も愚者の犠牲に……」セイザ
菫(その後、各々謝罪に出向いたりしたのだが……それはまた別の話)
―――――――――――
憩「はぁ……宮永さん、気軽に人に好きって言ったりキスしたらアカンで?」
照「そんなことしてな……」
憩「してなかったら咲ちゃんはこんな風にはなりません」
咲「……ふふっ」ポケー
憩「……そういうことは本当に好きな人が出来たとき、その子だけにしてあげ」
憩(いっぺん襲われるかなんかせな分からなさそうやなこの子……)ハァ
憩「まあええわ。いつか身を以て学ぶときが来るから……」
憩「宮永さん、咲ちゃんと一緒にもう帰り。これからはアホなことしたアカンで?」
照「はい。……咲、咲」ペチペチ
咲「ふぇ……? あ、お姉ちゃん……」ポケー
照「帰ろうか」ニコ
咲「うん……」ニヘラ
憩(これで解決……なんかな? いや、ウチではこれ以上何も出来そうにないし、被害出るとしても宮永さんやから別にええか……)
憩(もうこんな時間……明日も明日で大変そうやなー)
憩「ま、楽しいからええけどな♪」
終わり
途中で死んたり席外して申し訳なかったです
次からこの設定で書く時は前スレ貼ります
お疲れ様でした
咲さんが幸せそうでなにより
Entry ⇒ 2012.10.15 | Category ⇒ 咲-Saki-SS | Comments (1) | Trackbacks (0)
照「……ごめん、菫。 付き合うことはできない」
私と照は、”気兼ねなく話せる友人”だ。
お互いに、あまり感情任せな性格はしていないから、こういった友人は一人いるだけで助かるもの。
菫「照、大丈夫か?」
照「大丈夫……少しは、落ち着いた」
とはいえ、悲しむことも、落ち込むことも、怒ることもある。
そんな時には、私は照に、照は私に相談して、お互いに隠れて宥めている。
この関係が変わったのは、いつ頃だったろうか――。
二年生のインターハイが終了し、私たちは晴れて二連覇を成し遂げることに成功した。
あらゆるメディアから引っ張りダコだった状態も落ち着き始めた、秋の中頃の話だ。
菫「今は部活中だ。 そういう話は後にしろ」
「あ、先輩すみません」
「それじゃ、あっち行って打とうか」
卓につくこともなく恋話をしていた、一年生の二人に注意をする。
白糸台が二連覇を達成したことにより発生した結果は、決して良い物ばかりではない。
一軍の座に座ろうと精進する生徒こそ多かったものの、諦めてしまう生徒もまた多かった。
菫「お前、誰かと付き合ったことあるのか?」
照「ない」
菫「だろうな」
照「もし付き合うことがあれば、真っ先に菫に報告する」
少し、胸の温度が変化した。
すぐに原因を探るものの、どうもよくわからない。
照「それに私は、誰かに恋するつもりもない」
菫「……そうか」
再び、温度が変化した。
上がったり下がったり、妙な気分。
二回目のそれは温度の変化に加えて、少量の痛みまで伴うようになっていた。
照はどうも、人との間に壁を作りやすい節がある。
一番近くにいるであろう私ですら、時折壁を作られているのではないかと感じてしまうほどに。
照が恋人を作ったことをないという話も、恋をするつもりがないという話も、実に照らしい回答だと思う。
それなのに、なぜ、私は妙な気分になってしまったのだろうか。
菫「……ああ」
閃いた時、思わず声が漏れてしまった。
一回目の変化は、照に恋人がおらず、安堵したところから来ているのだろう。
二回目の変化は、照に恋する気がなく、落胆したところから来ているのだろう。
それらを繋げると、設問の答えは簡単に浮かび上がってしまった。
菫「……私は、照が好きなのかもしれないな」
その日は、うまく眠れなかった。
菫「…………」
照「どうしたの? ずっとこっち見て」
菫「あ、いや……」
照「最近、ぼーっとしていることが多い」
菫「ん、ああ、すまない」
私の照に対する恋心は、加速度的に成長していった。
照の挙動が一々気になってしまうし、そっぽを向いていればいい機会だと思うのだろう、無意識の内に眺めてしまうことがある。
赤面しやすくなり、指摘された通り、上の空になってしまうことも多くなっていた。
照「どうかしたの?」
菫「……別に、なんでもないさ」
記憶にある限りでは、その日初めて、照に隠し事をした。
人に言いにくいことは、大体この時に全て処理してしまうのだ。
とはいえ、私も照もあまり喋る性分ではないから、話はいつもそこそこに終了する。
照「おやすみ」
菫「ああ、おやすみ」
それからしばらくは、とても眠れる状態になかった。
時計を確認すると、会話を切り上げてから一時間も経過している。
すぐ隣には、心を寄せている照がいる。
その事実を確認する度に、私の心臓は段々と活発になっていた。
少しだけ、休息している照の手に触れてみた。
触れてみて、緊張と罪悪感で、咄嗟に離してしまった。
離してしまったけれど、やはり照には触れていたい。
再び手に触れて、今度は握ってみると、顔が簡単に沸騰して、秋だというのに真夏のように熱くなってしまった。
――私はこの時、多少なりとも発情してしまったのだと思う。
菫「……ぁ……んっ」
私は、照の隣で自慰をしてしまった。
かつてない勢いで絶頂したのと同時、同じ程度の後悔が押し寄せてきたのは言うまでもない。
が、それも虚しい。
照「……菫、聞いてる?」
菫「え、ああ……」
照「先生が呼んでる」
菫「そっか、悪い」
照「また、ぼーっとしてる」
菫「…………」
結局その抑圧は、三日と持たずに終了してしまったのだ。
麻雀にも精が出ないし、最近は家の中ですらぼーっとしてしまうことがあった。
これを断ち切る方法など、実際のところはとっくに気が付いている。
照とは今のように、このまま大人になり環境が変わっても話し続けられる仲でありたいと思う。
照とは今と違い、恋人になりもっと進んだ仲になりたいと思う。
どちらかを選択すれば、その逆を切り落とさなければならない。
私はこの答えを決められないまま、腹をくくった"つもり"で、照に告白しようと決心した。
誰もいなくなったことを確認して、照をここに呼び寄せた。
照が来るまでに済ませた心の準備は、足音が聞こえただけで軽く吹き飛んでしまっていた。
照「話って、どうしたの」
菫「…………」
照「菫?」
好きです、と、ただ一言の言葉が出てこない。
毎日毎日、心の中は復唱した言葉。
今だって、復唱している。
けれどいくら口を開けたって、出てくるのは熱い息ばかり。
照「大丈夫?」
照の方からは、私が病人にでも見えたらしい。
私は、照に手を握られた。
それがただの気遣いであることは、重々承知している。
照「菫……っ!」
菫「…………」
照「……ねえ、ちょっと」
――気が付けば、照を抱擁していた。
あの時と同じく、照の手に触れたことで、私の中の枷が弾け飛んでしまったのだろう。
抱きしめる力が強すぎると、なんとなくわかっている。
照がやや混乱していることも、なんとなくわかっている。
それらに対して、照は何一つ言及しない。
私も、照に対する気遣いなど全くもって忘れてしまっていた。
菫「……照、好きです」
照「え……」
菫「私と、付き合ってくれ……」
私はただ、勢いに任せて自分の恋心を照にぶつけたのみだ。
照「……ごめん、菫。 付き合うことはできない」
元々、たったの1%しかない、あるいはそれよりもっと低い希望にかけて告白したのだから。
これは当然のもの、こんなことはわかっていた、はずなのに。
なのになぜこうも、胸の奥がぽっかりと空いたような気分になるの?
泣き声だけは、なんとか堪えられている。
その代わり、恋心だけは堪えきれずに、その辺りに散らばってしまっていた。
それから照は、私に追い打ちをかけてきた。
実際追い打ちではなく、黙っている私を見兼ねてのことだと思う。
しかし私には、照が言う”付き合えない理由”というのが、全く追い打ちにしか感じられなかった。
照「菫のことはいい友達だと思っているし、一番仲もいい」
菫「……ああ」
照「それでも、恋愛感情は持っていない、持てない。 ごめん」
胸のほうに、得体のしれない気味の悪さが押し寄せてくる。
私はきっと、激情でひどい顔をしているはずだ。
その表情を隠蔽するように、耳をくっつけて、照の理由全てを聞いていた。
照が今どんな顔をしているのかは、よくわからない。
抱きついた時と同じく、この時もまた、照は一言も喋らない。
私達の仲は、これで終わってしまうのだろうか。
もしかしたら関係を切られるかもしれないと、片隅では理解した上で告白している。
それについて、腹はくくっている――つもりだった。
照「……帰ろっか」
その言葉が、あろうことか別れの言葉に聞こえてしまう。
こうして帰宅して、一度照と別れれば、それ以降一緒に歩くこともなくなるのだろうか。
頭に過るその考えは、照に対する恋心と同じく、どうしても振り払えないものだった。
どうにかして、繋ぎ止めないといけない――そんな焦燥から出た言葉は、最悪のものだった。
菫「なんでもいいんだ! ……身体だけの関係でも」
照「…………」
菫「照、私を見捨てないでくれ!」
振り向いた時に見えた照の顔には、僅かな哀れみが色濃く反映されていた。
可哀想だと思われていることは、わかっている。
でも、後に引くことなどできない。
それに、もし引くことができたとしても、私はきっと引かないことを選択すると思う。
照「それで、どうすればいいの」
菫「いつも一人でするようなのと変わらないさ……ただそれが、二人に増えただけ」
照「私、ほとんどしないけど」
菫「それならそれで、構わない」
それからは、照の制服を上から脱がしていった。
ブレザーを剥がして、ネクタイをほどいて、ボタンを上から順に弾いていく。
私がする行為を、照はただただ静観していた。
これからする行為がわからないわけじゃないだろうに、全く緊張している様子が見られない。
照にとっては自慰の延長線上であり、同時に私を慰めるための儀式でしかないのだろう。
私も私で、半分程度は線が切れてしまっているから、取り乱したり、必要以上に赤面することはなかった。
切れたのが緊張の線ではなく、恋心の線であったのなら、どんなに良かったことか。
そうして、私たちは何もなくなった。
双方ともに、脱がし終えた服を畳むことなど忘れてしまっていた。
菫「照、触るぞ」
照「待って」
菫「何?」
照「こういうの、最初はキスするものじゃないの?」
しよう、ではなく、するもの、か。
やっぱり照にとっては、こんなことはとことん儀式らしい。
先の言葉は、それを私に知らしめるかのよう。
そして同時に、哀れんでいる様が見て取れる言葉でもある。
それらのことを知りつつも、この行為を中断する気など、私は持ち合わせていなかった。
菫「照、目を閉じてくれ」
照「……んっ」
照の頭に手を添えて、私たちは静かに唇を重ねる。
初めてのキスは、よくわからない味、ヘドロのような感触がした。
私達は、それから幾重にも身体を重ねていった。
正確な回数は、もう覚えていないし、取り立てて数えることもしていない。
いくら歪な関係になろうとも、本質である照との友人関係は未だ変わらず。
――いいや、実際には、少しは変わってしまったかもしれない。
少なくとも私は、あれ以降ガラス張りの壁のようなものがあるのではないかと、不安で仕方がなくなっている。
二年の春も終わり、私達は三年生へと進級した。
一軍である私たちは、そのまま成り行きで指揮を取るような立ち位置につくこととなった。
インターハイを二連覇に導いたのは、一軍の地力もあることだろうが、私は偏に照の功績だと思っている。
それはなにも、私だけの思考ではないらしい。
新入生が皆、口を揃えて宮永照、宮永照と言っているのがその証拠だった。
公平のために口に出さないものの、教師陣も皆同じような考えに至っているはずだ。
菫「目ぼしい生徒はいたか?」
照「正直、全然。 菫は、いた?」
菫「私も同じ意見だ」
けれど皆、憧ればかりが先行していて、実力がそれに追いついていなかった。
いくら入部者が殺到しても、力なきものは一軍には入れない。
菫「今年は、不作だな」
そう思った、直後の出来事だった。
普段ならば気にすることではないのだが、入室者の一声によって、部室内の全員が彼女に注目することとなった。
淡「ごめんなさーい、遅れちゃったよ」
金髪のその少女は、全く悪びれる様子も見せずに、挑発と勘違いしてしまうようないい加減な謝罪をした。
白糸台は、照が二連覇へ導いたことも影響して、その実力重視は完璧なものとなっている。
そのため一軍に上がった者達はともかく、それよりも下に位置する者は、皆多少なりとも神経質になる。
あるいは先のように、やる気をなくしてしまうかのどちらかである。
この金髪の少女は新入生と見えるが、入学早々やる気がないのだろうか。
フランクなのは結構だが、時と場合を考えてもらいたい。
菫「遅れちゃった、じゃないだろう。 一時間は経過しているが」
淡「だから、ごめんなさいって」
菫「……お前、名前は」
淡「大星淡、一年生!」
菫「入部希望か?」
淡「うーん、私は……宮永照を、倒しに来ました!」
大星の発言により、部内の雰囲気は注目から清寂へと変化した。
照相手にも、全く引けをとらない。
あるいは、半荘の途中に限って、一時的に優位になることすらあった。
照を相手にそれほどの闘牌ができたのは、他に誰がいただろうか。
照の苦境を見るのは、何時ぶりだろうか。
照「ツモ、12900オール」
淡「うわ、噂通りだねー」
最後の半荘は、照の親番、東二局九本場の二巡目で終了する。
この五回の半荘、結局、照が一度もトップを逃すことはなかった。
それでも、私には大星が照に劣るようにはとても思えなかった。
確かに負けは負けだが、彼女もまた常に二位をキープし、照と棒一本分程度の点差しかなかった半荘だって、二回もあったのだから。
淡「こんな面白い人と打てるなら、ここに入部する!」
それからは、一ヶ月も待たずに大星は白糸台の一軍に参加することとなる。
もしかしたら、照は最初の対局時に、大星を一軍にすることを決めていたのかもしれない。
ただ、皆のことを考えて、すぐに迎え入れなかっただけで。
麻雀部での照は、彼女といることが多くなっていった。
最も照の方からそうしているわけもなく、専ら淡が照へちょっかいをかける形だ。
照も全面的に受け入れるわけではないが、かといって拒絶もしていない。
それを見ると、ひどく胸焼けがする。
時が経ち、早くもインターハイの時期が迫ってきた。
この一年は、白糸台の三連覇がかかった重要な年。
必然、実力主義に更に磨きがかかる。
そうなると他の三年生を押しのけて、大星もメンバーに入ってくることだろう。
「先鋒、宮永照」
照「はい」
「次鋒、弘世菫」
菫「はい」
入ることはわかっていたけれど、いざ発表されると、照と同じチームでいられることに安堵してしまった。
全く、情けない。
「中堅、渋谷尭深」
尭深「! はい……」
彼女もまた、同じく安堵の体だった。
そういえば、渋谷は今年が初めてだったか。
「副将、亦野誠子」
誠子「はい」
「大将……大星淡」
淡「はいはーい」
大星が、大将。
照が先鋒として選ばれた時点で、薄々は理解していたことだ。
彼女の実力なら、その大将の座もしっかりと務まることだろう。
照が座ったことのあるその席を大星に任せることには、誰も異論はない様子だった。
それもそうだ、彼女が照に引けをとらない実力を持っていることは、否定しようもない事実なのだから。
帰りの道で、私は照に対して、大星について問いかける。
大将の座に、自分が座らなくていいのかという旨の問いかけだ。
菫「いいのか? お前じゃなくて、大星を対象に置いて」
私はてっきり、照が大星を褒めるだけの返答を寄越すと思っていたのに。
照「私が、大星に大将を譲った。 あそこはあの子にこそ相応しいから」
照の返答は、予想も濃度の高いものだった。
照「他の誰にもできないと思う」
――また、胸焼けがした。
その原因がただの醜い嫉妬であることは、既に気が付いている。
気が付いていても、どうしようもできない。
菫「んっ、照っ……」
照「う、あ、あっ……」
菫「ん、んうっ!」
どうしようもできないから、乱れた。
私達の行為は、大星が入学してきてから明らかに変化している。
端的に言えば、激しくなっていった。
今日もまた、同じ場所を重ねて、快楽を共有するばかり。
他には、何も考えてない。
こうしている内は、考えなくていい。
菫「照……んむっ」
照「ん、ぅ……」
一通り終えた後は、汗だくになりながら、体液の塗りたくられた身体を重ねあって身体を休める。
と言っても、私はその際にも照の口へ自分の舌を繋げるのだから、実際は名前ばかりの休憩だ。
それが終われば、再び先のような行動を機械的に繰り返して、脳に快楽を命令するのみ。
これでもう、今日は三度目だ。
照「菫、苦しいっ……」
菫「す、すまない」
その言葉で、頭が一気に冷却されてゆく。
照の腰から自分の腰を下ろしてすぐ、照は自分の身体を起こして、胸に手を当てて深呼吸を始めた。
それほどまでとは、私は一体、どれほど錯乱していたんだろうか。
照「今日、なんか、強引……」
菫「……悪かった」
照「今日はもう、休憩したい」
菫「……そうだな」
照「ねえ、菫、何かあったの?」
そんなこと、一々聞かないでくれ。
照、お前はどうして、そうやって私の心を分解しようとするんだ。
菫「……お前は、大星のことをどうしたいんだ、どう思っているんだ」
自分でも、見苦しい返答をしたと思う。
大星が照とよく対決するのも当然のことだ。
照が大星を一軍へ引き入れたことも、大将の座を譲ったことも、納得できないわけがない。
その上で、大星に嫉妬の念を抱いているわけだ。
むしろ、それだけならまだ可愛いものだろう。
私はあろうことか、照の彼女面をしているのかもしれない。
自分が憎らしい――そう考えれば、全ての感情に説明がつくのだから。
照「どう、って……。 実量があるから、一軍に推薦したし、大将の座も譲った」
菫「確かに、実力はあるが……」
照「菫だから言うけど、私が抜けた後、白糸台を支えるのは尭深でも誠子でもなく、淡だと思ってる」
"菫だから"なんて本来なら嬉しいはずの言葉は、この時ばかりはむしろ嫌悪してしまった。
照「念のため言っておくと、私は……淡のことは、後輩としか思っていない」
そういった照の赤い視線は、真っ直ぐに私の目を突き刺してきた。
思わず、目を逸らしてしまった。
その言葉の役割は、本来なら、私を宥めるものであるはずなのに。
淡がどう思っているかはともかく、照はただの後輩としか思っていない、それだけの意味しかないはずなのに。
どうしてだろうか。
”菫のことも、彼女ではなく友人としか思っていない”――そんな風に、聞こえてしまうのは。
照「私は、菫が一番の友人だと思ってるから」
現在考えていた思考を読み取られたかの如く、照は顔を変えずにそんな言葉を投げかけてくるのだった。
胸焼けこそしなかったけれど、今度は吐き気がこみ上げてくる。
照は最初から、私とは恋人ではないと、言葉にして伝えてきているじゃないか。
そんなことはどうでもいい、私たちはただ、身体だけ重ねていればそれでいいはずである。
勝手に期待しているのは、私だけ。
先の発言だって、そんな風に聞こえるもへったくれもない。
照は一貫して、最初からそんな風に言ってきているじゃないか。
――それでも私は、照が好きだ。
大星が一方的に照に擦り寄るように、私もまた、照に一方的な恋慕の情を抱いている。
菫「お前はどう思っているか知らないけどなぁ!」
照は私も大星も等しく否定するだろう、そんなことはわかっている。
わかりきっているのに、何度も否定されているのに、求めてしまう。
菫「私は、お前のことが好きなんだよ……! なんでわかってくれないんだ……」
そんな自分に、嘔吐感を覚えてしまったわけだ。
腹中に渦巻く気持ち悪さは、全て言葉にして吐き出すことで、なんとか誤魔化すこととした。
照「……それでも、私は」
照はただ、淡々と告げる、そこには何の感情もない。
強いて言えば、友人である私に対する哀れみが含まれているばかり。
その口から出てくる言葉は、もう、わかっている。
照「菫に恋愛感情は抱けない、抱くこともない」
だろうな。
照も、異存はない。
大体、求めているのは照のほうではなく、私だけなのだから。
菫「……すまない、今日はもう帰る」
照「シャワー浴びて行かないの?」
菫「いい」
いつもなら、シャワーを浴びてから二、三の会話をして帰るのだが、今日はもう早く帰りたい一心だ。
体液を落とすためにここに居続けるよりも、湿った格好でもいいから、とにかくこの場から離れたい。
本当、自分勝手だと思う。
家に帰ってからは、靴を脱ぐのを待たずして、玄関で泣き崩れてしまった。
服も髪も、汗でとっくに汚されているから、涙が出てくることは特に気にならない。
先刻の嘔吐感が再発して、咄嗟に手のひらを口に当てるも、何か出てくることはなかった。
服を汚さずに助かった、などとは思えなかったし、また何か出てきてしまっても、同じように何も思わなかったろう。
菫「……照」
無意識に、恋愛対象の名前を呟いてしまった。
私はどうやら、まだ照のことが好きらしい。
恋は病と言うが、全くその通りだと思う。
できることなら、薬で治してしまいたい。
こんな関係になってから、嫌悪感を抱かなかったことが無い、といえばそれは嘘になる。
けれど、それは照に対してではなく、むしろ不可能な恋をしてしまった自分に対して、だ。
偽りの罵倒を頭の中にいる照にいくら投げかけても、どうしても嫌いになることができない。
身体を重ねる行為だって、やめたくない。
これが唯一、崩れた私達を繋ぎ止める糸に見えて仕方がないのだから。
繋げるというよりも、縛っているといったほうが適当だろう。
どちらにせよ、照との関係がなくなるよりは、ずっとマシだ。
シャワーを浴びて、体液を全て削り落とした後は、夕食も食べずに眠ってしまった。
あれから三日が過ぎる。
大星は、相変わらず照に懐いていた。
私と照も、表面上こそ変わりない。
亦野はしっかりしているし、渋谷も気を使いながら落ち着いている。
麻雀部の風景は、全く変わっていない。
この三日間、私達は身体を重ねていなかった。
無論、行為をやめることはできる限りしたくない。
かといって、積極的に身体を重ねることも、またしたくはなくなっていた。
あの吐き気が襲ってくるかもしれない――そう考えるだけで、身体が縮こまってしまう。
照はただ、私が求めれば素直にそれに従うのみ、照のほうから私を求めてくることなど一度もない。
そんな理由が重なったのが、身体の関係が疎遠になった理由である。
それに。
菫「調子は、大丈夫か?」
照「大丈夫。 準決勝と、決勝だけ問題にしていればいい」
菫「お前が負けるということはないだろうが……油断はするなよ」
照「わかっている」
もう、三日後にはインターハイがある。
照の雀力に関しては、私なんかが文句を言えるものでもない。
しかし、身体の問題は別だ。
いくら強くとも、雀卓につけなければ意味がない。
破綻した今の状態では、照の身体を崩してしまいかねない行為に及ぶ可能性が十分にある。
照との関係が壊れるよりも、照自身が壊れることのほうが、私には耐えられない。
菫「照」
照「なに?」
菫「……しばらく、私達の関係は終わりにしよう」
照「…………」
だから私は、自分の感情を押し殺して、照との関係を断つことにした。
照「……どうして?」
菫「もう、インターハイだ。 万が一身体を壊してしまったら、私は責任を負いきれない」
照「最近してなかった理由も、そういうこと?」
菫「……ああ」
本当は、違う。
照の彼女になれない現実、それを見つめたくなかったから。
これで私は、照に二度目の嘘をついたことになる。
照「わかった」
菫「…………」
照が理由を聞いてきて、正直、内心では期待していた。
もしかしたら、照のほうからこの関係を繋ぎ止めてくれるのではないか、と。
しかし、そう都合良くいくはずもなく。
照の淡白な返事からは、そんな影は全く見られなかった。
それもそうだ、元々私が勝手に求めて、私が勝手に断ち切ろうとしているだけなのだから。
どんな行動を取ろうとも、照の彼女ではいられない。
そういった現実を自覚するのには、もう十分すぎる期間が経過している
照「ツモ、2000.4000」
淡「おー」
白糸台は、何の問題もなく勝ち進んでいる。
そのためだろうか、他の学校は知らないが、少なくとも白糸台の控え室は重苦しい空気にはなっていない。
それ故に、大星はいつものように照にべたついていた。
淡「おかえりテルー、やっぱりすごいね!」
照「今回は相手が弱かっただけ」
淡「ま、それもそうだけどね。 決勝にさっさと行っちゃえば、少しは楽しめそうだけどなー」
また、胸焼けがする――だが、意外にもそれもすぐになくなった。
私の心中に、触った端から肉が腐り落ちてしまいそうな、どす黒い感情が宿ったためだ。
大星は、照のことを友人以上、先輩以上だと思っているのだろう。
大星ほどの実力であれば、自分より強い人間を見たら敬愛してしまう気持ちもわからないじゃない。
私も照のことを友人以上だと思っているし、願わくばそれをしっかりとした形にしたいと思っている。
しかし照は、両者共に、明確な言葉にして否定した。
その事実は、私だけが知っているもの。
照に対しては、大星はそんな事情を知らずに突っ込み、私は知っていても尚突っ込んでいる。
ああ、なんだ。
大星も、結局、私と同類じゃないか。
その頃になって、私の元に一つの転機が訪れる。
廊下を歩いている時に、どこかの記者に質問を求められたのが発端だ。
「ちょっと、いいですか」
菫「はい、なんでしょう」
「宮永照選手について、聞かせてもらいたいんです」
菫「本人に、直接伺ったほうがいいと思いますが」
「そう言わずに……ほら、これ見てください」
菫「……?」
その記事には、清澄高校・宮永咲のことが記述されていた。
宮永咲――照の妹。
照の家庭はどうも複雑らしいが、私は未だにその全貌を教えてもらったことはない。
しかし長いこと一緒にいる身だ、妹がいることなど、とっくに知っているさ。
無闇矢鱈に、こんな人間にお喋りするつもりもない。
「あなた、宮永照選手のご友人ですよね? 妹さんについて、何か知りませんか?」
菫「いいえ、全く」
「そうですか……残念」
なんの嫌悪感も抱くことなく、記者に嘘をついた。
照が私を拒絶する際も、きっとこんな風に、何も思っていないのだろうか。
そう思うと同時、先程大星の方を向いていた黒い感情は、今度は照の方を向いてしまった。
気が付いた頃には、もう遅い。
いくら修正しようと思っても、命令を受け入れてくれない。
修正しようと思いつつ、心の底のほうでは照を独占したいと思っているためだろうか。
菫「この記事……」
「はい?」
菫「私も、照のことについて知らないことは多くあります。 ですから、この記事をお借りしたいのですが」
「あ、ああ、はい! 構いませんよ、いくらもっていっても」
菫「ありがとうございます」
私は、照に振り向いてもらいたい一心で、こんなことをする。
こんなものは、言い訳にしかならないか。
照「おかえり、ずいぶんと長かったけど……何持ってるの?」
菫「ああ、これか」
そう言った切り。
大星が帰ってきたために、この会話は中断される。
大星と照が二、三の会話をぽつぽつとした後。
私は手元の記事を、先ほどのお望み通り、照の側へと投げつけてやった。
菫「……お前、妹がいたんじゃないのか?」
照は何も喋らず、ただその記事を読み取るのみだった。
照の家庭が複雑であることは、私だけが知っている事実。
同じ秘密を共有できる唯一の相手として、私を頼って欲しい。
照の方から、私を求めて欲しい。
真っ黒な感情に突き動かされてとったこの行動は、すぐに後悔することになる。
照「……私に、妹はいない」
照の身体に走る、確かなショックを見つけてしまったから。
新聞を投げた一件以降、照とは会話をしていない。
夕食や風呂など諸々の事柄を済ませて、各自ホテルの自室へと戻る。
大星なんかは、もしかしたら照にちょっかいを出しているかもな。
どうせ実らないのだから、好きにすればいい。
私も、実らないと知りつつ好きにしているのだから。
そう思った直後、ドアに軽い音が二つ鳴り響き、用心することもなく鍵を開けた。
菫「照か」
照「明日の対戦校の牌譜を、一通り見せて欲しい」
菫「……わかった」
用事があるのは、私ではなくて、牌譜ってわけだ。
牌譜の入った端末を持って、照に渡す。
受け取った照はそのままベットへと座って、膝の上に端末を乗せて牌譜を眺めはじめたのだ。
てっきり、さっさと帰ると思っていたのに。
菫「自分の部屋で見なくていいのか?」
照「さすがにこれを持ち出すのは申し訳ない。 全部覚えて帰る」
違う、帰ってくれ。
困るのはお前じゃなくて、私なんだよ。
それからも、照は居座っている。
菫「帰らなくていいのか?」
照「帰って欲しいの?」
菫「そういうわけじゃないが……」
照「もう少し、居たい気分」
私はお前と違って、淡白な性格はしていない。
私がいつからお前に抱かれてないと思っているのか、覚えているのか?
そんなこと、お前は興味がないのか?
照「飲み物、もらっていい?」
菫「ああ……その冷蔵庫に入ってる」
腰の低い冷蔵庫に合わせて、照はやや屈んでその中身を覗いていた。
こちらから見える横顔と腰を見ると、とても我慢できそうにはなかった。
いつもいつも、行動ばかりが先行する。
そんなだから、私たちはこんな醜い関係になってしまったのかもしれない。
照「……あっ!」
私は、とことんバカだ。
腰を起こした照の両腕を掴み、そのまま床に押し倒してしまったのだから。
暴発してしまったら大変だけれど、今の私はそれに構っている余裕はない。
菫「照」
照「んっ……」
それから、強引に照の唇を奪った。
照は全く抵抗しない。
それどころか、いつもより少しばかり火照っているようにも見える。
こんな表情、燃料としては十分すぎる。
それからは四回ほど、互いの舌と舌を、唾液と唾液を混ぜ合った。
どちらの口にどちらの唾液が入っているのか、もう、わからない。
私たちはそのまま服を脱ぎ終えて、あろうことか床の上で行為に及んでしまう。
照はいつもよりも数倍乱れて、喘ぎ声は下手したら騒ぎ声にも錯覚してしまうほど。
今まで照が、なんで私とこんなことをしているのかわからなかったのだが、その時、ふと気が付いてしまった。
照はきっと、家族関係に関するストレスを解消するために、私を抱き続けていてのだろう、と。
お互いに、決して埋められることのない傷を埋めたいがために、こんな行為に及び続けているわけだ。
私は照を利用しているし、照も私を利用している。
照と同じ堕ち方をしているのは、なんだか嬉しく思えてしまう。
払いきれない冷たさと、湿っぽい熱さ。
その二つを同時に、互いに感じながら、私たちは同じ頃に果ててしまった。
――結局この年、白糸台は三連覇を逃してしまった。
けれど、元々は白糸台を勝ちへと導くために始めた禁欲だ。
それを解除した途端の敗退。
これで責任を感じるなという方が、無理な話だ。
菫「照、ごめん、ごめん……!」
照「菫のせいじゃない、誰のせいでもない。 ただ、相手が強かっただけ」
菫「でも!」
照「三連覇を逃したのは、私だけじゃなくて菫も同じ。 一方的な責任を感じないで」
私には自分の"無理"を押し付けてくる癖して、私の"無理"は無視しようとする。
お前は、どうしてそうなんだ。
こんなの、私を責め立てればそれで終わる話じゃないか。
私のことを一発や二発でも叩いて、菫が襲ったせいと一つ言うだけで、全てが丸く収まる。
もう関係は終わりなんて言えば、ちょうどいい機会だ、綺麗サッパリ関係を断てることなのに。
そう言われてしまえば、私が次に返せる言葉はない。
そんなこと、お前ほどの人間が、理解できないわけがないだろ。
どうしてお前は、中途半端に私に優しくするんだよ。
インターハイ中の一件があってからは、どちらが言い出すまでもなく、自然と行為は再開していった。
そのペースは、意外にも安定している。
私も照も、あれから極端に乱れることはなくなっていた。
ただただ、作業的に快楽に包まれているだけだ。
この頃はもう、どうして身体を重ねているのか、なんだかよくわからなくなってしまっていた。
私にわかっていることは、私が照を好きでいることと、その恋は永遠に成熟しないこと。
そして、関係を断ち切りたくないこと――この三点のみ。
だから私は、今日も照に身を委ねる、照もまた同じだ。
ある日の帰り道で、照とこんな会話をした。
照「菫は、卒業したらどうするの?」
菫「進学しようと思う」
照「プロ行きの推薦は?」
菫「一旦、保留だろうな」
最高学年ともなると、当然のように進路の話を進めなくてはならない。
照にはもちろん、幸い私にもプロ行きの話は転がってきたのだが、私はこれを蹴って、大学へ進学することとした。
大学に行って、何かしたいわけではないし、将来的にはプロになるつもりでもある。
ただ、今はその地位は欲しくない。
今そんな地位を入手して、一体何になると言うんだ。
少なくとも、照に関しても、麻雀に関しても、気持ちの整理が全くついていないことは事実であった。
照「なら、私と同じ」
どうやら、照も進学を決めたらしい。
普段ならば喜ぶ、以前ならば喜んでいたのかもしれないことなのに、全く喜べずにいたのが不思議だった。
最終的に私たちは、別々の大学へ進学することを決定した。
その方が、後腐れなく済むだろう。
進路を固めた後は、少しばかりペースの落ちていた例の行為を、再び元のリズムに戻した。
もう、照に溺れる必要もないのに、未だにこんなことを続けてしまっている。
自分の選択、照の心中、自分の非力さ、現状。
全てが、よくわからなくなる、満足とも不満足ともつかない。
そんな不安定な状態だからこそ、強引に精神を安定させるために、互いの身体を貪りあっているのかもしれない。
願わくば照の方にも、多少なりとも似たような感情が宿っていてほしいものだ。
未だに照のことは好きだ、だけど、付き合う希望はもう抱いていない。
実のところどうかはわからないものの、そう決心したのは事実である。
だからクリスマスは、照と会わないことにした。
もし会ってしまえば、再び処理し切れない希望を抱いてしまうかもしれないから。
余談だが、大星は私の予想通りの感情を抱いており、卒業式の今日の日に告白をしたらしい。
結果は言うまでもないだろう。
同類だと思うものの、私のように泥沼に陥らなかっただけ、彼女はまだましだ。
それだけは、素直に羨ましかった。
こいつは、最後まで一貫していた。
対して私は、最後までブレ続けていた。
照「お疲れ」
菫「ああ、背中が痛くて仕方ない」
照「……なんだか、こうなると少し寂しくなる」
菫「全く動じなかった癖にか?」
照「それとこれとは別、菫だって動じてなかったでしょ」
菫「まあ、な」
照の言うとおり、私は泣いてはいなかった。
でも――何が"動じてなかったでしょ”だ。
菫「……すまない、先に出ててくれ」
照「わかった」
こんなちぐはぐな感情を抱えたままの卒業式で、感傷に浸らないわけがないだろう。
気持ちはもうとっくに整理した、はずなのに。
菫「照……照……」
もう、照と付き合うことは考えないようにしよう。
プロ行きも、一旦はやめにしよう。
私はまだ、大人ではないから。
そんな諸々のことは、先程までは確固たる思考として、確かに私の中に存在していたものだ。
でも、照に話しかけられただけで、"寂しくなる"と一つ言われただけで、それらは簡単に崩れ去ってしまった。
どうやら自分に言い聞かせて、無理矢理、自己暗示的に納得していただけらしい。
本当はもっと、照と一緒にいたい。
本当はもっと、照と麻雀を打ちたい。
全て、叶わない。
もう、遅い、遅すぎる。
それどころか、叶うタイミングすら、最初から存在していなかったのだろう。
照と出会ったことそのものが、間違いだったのかもしれない。
私の初めては両方とも、快楽ごと照に預けてしまったのだ。
そのことを理解すると、また、少しばかり吐き気がこみ上げてきた。
照は玄関のすぐ側にいた。
菫「すまない、待たせた」
照「……泣いてきたの?」
なんで、一発で見抜くんだよ。
しっかりと、鏡で跡を直してきたはずなのに。
なんでこいつは、私のことを知り尽くしているんだ。
なんで私は、こいつのことを知り尽くしているんだ。
ああ、なるほど。
こうして互いを理解し合えるほど深い関係だったなら、せめてもの救いと言える。
結果がどうあれ、私たちはただ、身体を重ねるだけの関係ではなかったのだ。
照「っと……大丈夫?」
奇しくも、最初の頃と全く同じ状況だった。
照に寄っかかるように強く抱きついて、耳をくっつけて、お互いの顔を隠している。
私が泣いていることは、照は察しているだろう。
だからこそこうして抱きついていることも、照は知っているはずだ。
内面が筒抜けだろうと、それで構わない。
もう最期になるのだから、せめて外面くらいは、破綻していない弘世菫として過ごさせてほしい。
口に出して決めたことではない。
けれど私も、照も、これが最後になるであろうことは察している。
照「っ、あっ、うぁっ……」
菫「はあっ、あっ……んぅっ!」
私は、照よりもやや遅く絶頂を迎えた。
いつもは、照の名前を呼びながらすることなのに――なあ。
喉の方まで出かけた想い人の名前は、口に出さず身体の中へ押し返すことにした。
くたびれた私たちは、お互いに胸を重ねて、倒れたまま休憩する。
最後の最後は、ひどく疲れてしまった。
耳には、照の激しい呼吸音が侵食してきている。
恐らく照の方にも、私のそれが侵食しているはずだ。
しばらく荒い呼吸をした後、私たちは一言も喋ることなくキスをした。
舌を重ねない、軽いキス。
行為の最初と最後には、毎回キスをするのだから、これが正真正銘最後の触れ合いだ。
この触れ合いで、私達の関係は全て解除される。
最後のキスは最初と違って、不思議と甘い味がした。
お互いに、最後はどうやってケリをつけるべきか手探りしている状態だ。
照はどうだかわからないが、私にはただ一つだけ、やり残したことがある。
それだけは、どうしても実行しておく必要があった。
もし照にやり残したことがあったら申し訳ないけど、その枠はどうしても私に譲って欲しい。
菫「照、私は今から告白する。 こっびとく振ってくれ」
照「……わかった」
トイレで泣いた通り、私には確かに未練が残っていた。
それを本当の意味で断ち切らねば、お互いに先へは進めない。
告白の言葉は、最初と違って簡単に口から出ていってくれた。
菫「照、好きだ。 付き合ってくれ」
照「菫に恋愛感情を抱くことは"絶対に"ない」
菫「……ふふ、ありがとう」
照「…………」
最後にしぶとく残っていた未練は、心の中心部を道連れにして切り落とされていった。
ぽっかりと空いた穴を見つけた後――身体が、なんだかひどく軽くなった気がした。
私は、ありがとうの言葉と一緒に、うまく笑えているだろうか。
涙を流しつつも、最後に相応しい顔を作れているだろうか。
なあ、照――。
時が過ぎて、私と照は大学二年生になっていた。
年齢も互いに二十歳になり、もう酒も飲める。
自分で言うのもなんだが、高校生の頃と比べると、随分と大人になったと思う。
少なくとも、二十という年齢に恥じない程度の精神力は身につけたつもりだ。
照との最後の日を補足しよう。
私は帰宅してから、照のアドレスを削除しようと考えたのだ。
アドレスを削除しても、向こうからメールが来たら意味がないから、まずはアドレスを変えることとした。
そうした後で、照へ別れの連絡を入れるために、メールの作成画面を開いた。
"さようなら"
――この一文が打てたら、どんなに楽なものか。
未練こそない、が、やはり照のことは好きなのだ。
友人としても、それ以上のものとしても。
私はただ、こいつと連絡を取り合える仲であれば、それで十分だ。
最終的に、最初の”さ”すら打つことなく、打つことができず、この計画は断念してしまう。
"さようなら"と打つべきはずだった入力欄には、"アドレスを変えた"とだけ入力して、送信ボタンを押した。
私は大学に不慣れなこともあって、勝手がわからずに講義を入れすぎてしまった。
それに加えて、照への想いを埋葬するかの如く、麻雀へと没頭しいった。
照も淡々とした性格だから、多少のやりとりこそするものの、向こうから遊ぼうなどといった連絡は寄越さない。
そんな様々な要素が重なったせいか、一年の内はメールこそすれど、一度も照に合わずに終わってしまった。
もしかしたら、それでちょうど良かったのかもしれない。
今の私は照の横に並んで、照と競い合いながら麻雀をできる、なんて、それだけの自信と力を身につけることができたのだから。
本当は、わざと講義をたくさん入れたことも、わざと麻雀漬けになっていたこともわかっている。
こちらから会おうと申し出れば、照はきっと空いている日時を教えてくれただろう。
私のほうから空いた日時を教えてやってもいいし、それを無視するほど照は冷めた性格ではない。
調整なんて、いくらでも可能だ。
つまるところ、私は再会するという選択から、敢えて目を逸らしていたらしい。
年齢的に区切りがつき、大人になったと自覚できる二十になるまで。
菫「久しぶりだな」
照「変わらないね」
菫「照もな」
今日が、その再会の日である。
先刻は照に対して"変わらない"とは言ったものの、実際、照はそれなりに変わっていた。
なんだか背も少しばかり伸びたように思えたし、見たところ雰囲気が大人びている。
元々照は大人びていたのだが、大人びている高校生とはまた違った、本物の大人の雰囲気を身に着けていた。
加えて、整った顔立ちも相まって、高校の時よりも更に美人に成長している。
昔の私が見たのなら、顔を真っ赤にして動けなくなっていたろうな。
無論、今ここにいる私も、頬がやや熱くなったのは自覚している。
当時と違うのは、吹っ切れたような熱さを持ち合わせていないこと。
それと、仮に持ち合わせていたとしても、それを実行する気がないということ。
「お待たせしました」
菫「ありがとう」
照「じゃあ、乾杯」
菫「乾杯」
大人になっても、私達の関係は変わらない。
それを今日この時になって、やっと自覚できた。
口に入れたビールは、確かに美味しいけれども、ひどく苦い味をしていた。
私も私で調子がよくなり、高校の頃を思い出して、照に一つの質問をする。
あの時と、同じく。
菫「お前、恋人とかできたのか?」
照「全く、作るつもりもない」
それにはもう、何も思わなくなっていた。
ただただ、こんな美人がもったいないな、なんてと思うばかり。
照「菫は?」
菫「私だって、いないさ」
照「もったいない」
菫「そうはいっても、気がないんだから仕方ないだろ」
そう、私はもう、恋人を作る気など持ち合わせていなかった。
なぜなら、照――お前の存在があるからだよ。
私の片思いは、弘世菫か、宮永照のどちらかが生き続ける限り続くものだろう。
それは仕方ないさ、回避する手段も、成熟させる手段も、高校に置き忘れてしまったから。
この恋を実らせることもなく、ただ照の友人でいること――それが現在、私が唯一願っていることだった。
卒業式の日にできた、埋まる兆しのない心の空洞は、もうどうしようもないから目を背けることにした。
おわれ
死にたい
Entry ⇒ 2012.10.14 | Category ⇒ 咲-Saki-SS | Comments (0) | Trackbacks (0)
雪歩「甘くて、甘い、雪解けの水」
P「ひと段落したし、少し休憩するか…」
雪歩「あの、プロデューサー。お茶、どうぞ」
P「お、さんきゅ…」ズズー
P「ふぅ…なんて言うか雪歩のお茶は落ち着くなぁ…」
雪歩「そ、そうですか?ありがとうございますぅ」
P「礼を言うのは俺の方さ、ありがとな」
雪歩「えっと、あの…どういたしまして///」
P「それにしても…他のアイドル達がいないとこんなに静かなんだなぁ…」
雪歩「…そ、そうですね」モジモジ
P「ん?どうした、なんか様子が…」
雪歩「あの、昨日お茶を淹れたとき…」
P「あ、あぁ…ついうっかり頭撫でちゃったな。一昨日姪っ子が来てたからつい癖で…すまん、もうしないからそんなに警戒しないでくれ」
雪歩「いえ、そうじゃなくて…」
P「?」
雪歩「また、撫でてくれると嬉しいなって…」
雪歩「男の人ですけど、プロデューサーですから…」
P「そっか、慣れてかないと駄目だもんな。うーん…じゃあそこに座って」
雪歩「そ、そういうことじゃ…うぅ…」ポスッ
雪歩「ぁぅ…」
P「えーっと…そんなに緊張しなくてもいいぞ?」
雪歩「そう言われても緊張しちゃうんですよぉ」
P「そっか、まあできるだけ優しくするように気をつけるよ」スッ
雪歩「ぁ…」
P「…」ナデナデ
雪歩「はい…大丈夫ですぅ」
P「そっかそっか」ナデナデ
雪歩「なんだか、とっても優しい感じがします」
P「そうなのか?姪っ子もいつもそう言ってせがんでくるんだが、俺にはよく分からんな…」ナデナデ
雪歩「姪ちゃんと仲良いんですね」
P「うーん、どうだろ…時々世話を押し付けられてるだけだし」ナデナデ
雪歩「でもよく頭を撫でてあげるんですよね?」
P「まあ、それはそうだが…」ナデナデ
P「そうかな?」ナデナデ
雪歩「そうですよ。だから私も…」
P「雪歩も?」ナデナデ
雪歩「あっ、えっと、男性恐怖症でもプロデューサーなら大丈夫なんじゃないかなって…」
P「他の男の人はまだ苦手か」ナデナデ
雪歩「はい…挨拶するくらいなら大丈夫になりましたけど」
P「まあ少しずつ慣れていけばいいさ」ナデナデ
雪歩「はい、ありがとうございます」
P「大丈夫だよ、いつもは1時間くらいぶっ通しとかざらだし」ナデナデ
雪歩「でもなんだかぎこちなくなってますよね?」
P「それは…撫でる相手が膝の上にいるから…」ナデナデ
雪歩「じゃ、じゃあ…」スッ
P「ゆ、雪歩…!?」
雪歩「さ、さすがに膝の上は無理ですから…隣で…」ポスッ
P「大丈夫か?さっきより近くなるし…それに抱き寄せるみたいになっちゃうけど…」
雪歩「は、はい、大丈夫です…!」
雪歩「ぁ…」
P「…大丈夫か?」
雪歩「はい…だ、だからその…」
P「はは、今日の雪歩はなんだか甘えん坊だな」ナデナデ
雪歩「それは…!だって…」
P「…だって?」ナデナデ
雪歩「うぅ……もしかしてからかってます?」
P「若干」ナデナデ
雪歩「プロデューサー!」
雪歩「ほんとにそう思ってますか?」
P「あぁ、雪歩が可愛いのが悪い」ナデナデ
雪歩「そ、そんな…!私なんてひんそーでちんちくりんで…」
P「あんまり言うといろんな奴に怒られるぞ?っていうか今のは突っ込むところ…」ナデナデ
雪歩「そ、そうなんですか?」
P「そうなんですよ」ナデナデ
雪歩「すみません…」
P「いや、別にいいさ」ナデナデ
雪歩「…」
P「…」ナデナデ
雪歩「あとでちゃんとお仕事しないと律子さんに怒られちゃいますよ?」
P「…アイドルのコンディションを整えるのも仕事の内ってことで」ナデナデ
雪歩「律子さん怒りそうですぅ…」
P「というか、現在進行形で仕事できないようにしてる奴に言われてもなぁ…」ナデナデ
雪歩「あぅぅ…や、やっぱり迷惑でしたか…?」
P「まさか、迷惑ならこんなことしないさ」ナデナデ
雪歩「そうですか…少しだけ安心しました」
P「それはよかった」ナデナデ
P「いい天気だし、美希じゃないが昼寝でもしたくなるな…」ナデナデ
雪歩「…」ウト…ウト…
P「雪歩?おーい、雪歩ー」
雪歩「あ、す、すみません…!今私寝ちゃって…」
P「眠いなら寝たらどうだ?収録までまだ時間あるだろ」
雪歩「で、でも折角……なんですし」
P「ん?何って?」
雪歩「あ、あの…よかったら膝枕とか…してもらえませんか?」
P「膝枕?」
雪歩「でもでも、きっと安心できると思うんです…!」
P「まあそんなに言うんならいいけど…寝心地悪くても文句言うなよ?」
雪歩「は、はいっ!」
P「えーっと、俺はここに普通に座ってればいいんだよな?」
雪歩「…」
P「雪歩?」
雪歩「…」
P「おーい」ペシペシ
雪歩「ひゃいっ!ふ、不束者ですが、精一杯頑張りますのでよろしくお願いしますぅ…!」
雪歩「は、はい…」スー…ハー…
P「もう一回」
雪歩「スー…ハァー…」
P「…落ち着いたか?」
雪歩「はい…」
P「まあ無理することはないさ。さっきも言った通りゆっくり慣れていけば…」
雪歩「…えいっ」コテン
P「大丈夫なのか?」
雪歩「私が…したいと思ってしてることですから…」
雪歩「!」ビクッ
P「っと、悪い…調子に乗りすぎた」
雪歩「い、いいんです…!ちょっと吃驚しただけですから」
P「でも…」
雪歩「続けてください…」
P「分かったよ」ポンポン
雪歩「ありがとうございます」
P「…」ポンポン
雪歩「ふふっ」
P「こういうの?さっきも言った通り姪がいるからな」ポンポン
雪歩「こ、恋人さんとかは…」
P「残念ながらお前達のプロデュースが忙しすぎてなぁ…」ポンポン
P「せいぜい学生時代の真似ごと程度だよ」ポンポン
雪歩「そ、そうなんですか…」
P「でも急にそんなこと聞いてどうしたんだ?」
雪歩「えっと、私にはそういうの、ないですから…」
P「何言ってるんだ、雪歩はまだまだこれからだろ?」ポンポン
雪歩「はい…これから、ですね…」
雪歩「な、なんですか?」
P「なんかこう、複雑だなぁ…」ポンポン
雪歩「それって…」
P「いや、雪歩が選ぶくらいなんだからいい奴なんだろうけどさ、なんつうか俺の雪歩をー!みたいな?」ポンポン
雪歩「お、俺の…///」
P「娘を嫁にやる父親の気持ちってこんななのかなぁ…」ポンポン
雪歩「…父親ですか」シュン
P「あれ?なんかテンション下がってる?」
雪歩「別になんでもないですぅー」
P「…さすがに仰向けになられるとバッチリ目が合って少し恥ずかしいな」
雪歩「わ、私って、娘みたいな感じなんですか?それってやっぱり私がひんそーでちんちくりんだから…」
P「雪歩がっていうかアイドル全員が娘みたいな感じかなぁ…」
P「やっぱり俺が世話してやらないと、みたいなとこあるっていうか…」
雪歩「だったら!トップアイドルになって独り立ちできるようになったら…もう違うんですよね?」
P「んー、まあそうかもな。ちょっとさみしい気はするけど」
雪歩「じゃあ私、今まで以上に頑張ってトップアイドルを目指します…!」
P「えっ…俺の娘ってそんなに嫌か?直接そう言われると少し悲しいものが…」
雪歩「嫌じゃないけど…嫌なんですっ…!」
P「むぅ…よく分からん」
雪歩「あっ…そうですね」
P大丈夫か?「なんだかんだで結局寝なかったけど…」
雪歩「はい、やる気は十二分ですっ!」
P「いい返事だ。それじゃ、終わったら迎えに行くから、しっかりやってこいよ?」
雪歩「プロデューサーも、律子さんに怒られないように頑張ってくださいね?」
P「いやいや、律子に怒られないためじゃなくてお前達のために頑張るさ」
雪歩「ふふっ、ありがとうございます」
P「じゃあ雪歩、行ってらっしゃい」
雪歩「行ってきます、プロデューサー」
P「よ、お疲れ」
雪歩「プロデューサー、見てたんですか?」
P「最後の方だけだけどな。ほれ、お茶」
雪歩「ありがとうございますぅ」
P「今日は調子よかったみたいだな」
雪歩「えっ…!」
P「スタッフの人が褒めてたぞ?『今日は男と話すシーンが多かったのにNGが少なかった』って」
雪歩「それは…プロデューサーのおかげです」
P「あぁ、行く前のあれでちょっとは慣れたか」
雪歩「そういうことじゃ……やっぱりいいです」
P「それじゃ、少し早いけど帰るか」
雪歩「はい、急いで着替えてきますね」
P「あんまり慌てると転ぶぞ?」
雪歩「春香ちゃんじゃないんですから…私は転びませんよ」テクテク
P「いやいや、そう言って油断してると…」テクテク…ズルッ
P「おわっと…危ないところだった」
雪歩「プロデューサーの方が心配です」
P「ははは、面目ない」
雪歩「はい!よろしくお願いしますぅ…!」
P「いい返事だ。そんじゃしゅっぱーつ」ブロロロロ
雪歩「お、おー…?」
P「でも助手席でよかったのか?今日は疲れただろうし家に着くまで後ろで寝ててもいいのに…」
雪歩「いえ、私はこっちの方が…」
P「助手席ってあんまり広くないし俺は後部座席の方が好きだけどなぁ…」
雪歩「でも私は助手席の方がいいんです」
P「へぇ、珍しいな」
雪歩「そうかもしれません」
雪歩「はい?」
P「今日はほんとに調子良かったんだな。雪歩の演技見るために早めに仕事切り上げて来たのにちょっとしか見れなかった…」
雪歩「怒られますよ?」
P「いいさ、雪歩のためなら…」
雪歩「アイドルのコンディションを整えるのも仕事の内、ですか?」
P「そういうこと」
雪歩「でもそうされているうちは、まだまだってことですよね」
P「そうともいうかもな」
P「ちょっとしか見てないけど現場全体の雰囲気もすごかった」
雪歩「…生意気かもですけど、私のやる気でみんなを引っ張って行ったような感覚でした」
P「いや、実際そうかもしれん」
P「トップアイドルっていうのは、今日みたいな感じがずっと続けられるやつのことなんだよ」
P「やっぱり雪歩には素質がある。社長も俺も見る目があるってことだな」
雪歩「そしたらプロデューサーも私の調子を見に来なくなりますか…?」
P「なんだ、見られたくないのか?」
雪歩「そういうことじゃ、ないんですけど…」
P「ま、確かにそうなるだろう」
雪歩「そうですか」
P「しかしそんなことになってしまってはサボりの口実が…」
雪歩「やっぱりサボりなんですか?」クスッ
P「ん?なんだ」
雪歩「今日の私、頑張りましたよね?」
P「おう、過去最高の頑張りだったんじゃないかと思うぞ」
雪歩「だからご褒美を、もらえませんか…?」
P「ご褒美…?」
雪歩「はい」
P「って急に言われてもなぁ…あっ」ティン
P「じゃああそこ入ろうか」
雪歩「え?」
雪歩「それでファミレス、ですか?」
P「ホントはもっといいとこ連れて行ってあげたいんだけど給料日前で…すまん」
雪歩「そ、それは別にいいんですけど」
P「まあ給料出たらもっとちゃんとしたとこに連れて行ってやるからさ、オフの日にでも」
雪歩「ホントですか…!?」
P「ほんとほんと、今日はその前哨戦ってことで」
雪歩「いえ、そういうことなら今日は自分で出します…!」
P「え?でも…」
雪歩「給料日前で辛いんですよね…?」
P「…ありがとな」
P「もちろんだ。って言うかそんなに期待されるとは…」
P「接待用の店でちょうどいいとこあったかな…雪歩はどんなもの食べたい?」
雪歩「お店はどこでもいいんです」
P「どこでも?」
雪歩「はい、どこでも…」
P「それはそれで難しい注文だなぁ…」
雪歩「すみません」ニコニコ
P「顔が満面の笑みなんだが?」
雪歩「そうですか?」ニコニコ
P「そうですよ」
雪歩「忘れてました…」
P「俺も若干忘れかけてた」
雪歩「うーん…なににしよう…」
P「あ、俺決めた」
雪歩「もうですか…!?」
P「うん、この期間限定のやつ」
雪歩「プロデューサーって結構限定物に弱いですよね」
P「だって今しか食べれないんだぜ?」
雪歩「それは確かにそうですけど…」
雪歩「うーん、でもそれは…あ、これにします」
P「定番もど定番なメニューだな」
雪歩「はい、これとってもおいしですし」
P「へぇ…そうなのか」
雪歩「食べたことないんですか?」
P「いつも限定物ばっか食べてるから…」
雪歩「本末転倒じゃないですか」クスッ
P「言われてみればそうかもしれん」
P「じゃあ店員呼ぶぞ」スイマセーン
雪歩「そうなんですか…?」
P「うん、ほんと。ほらこれ、一口食べてみ?」
雪歩「ひぅっ!」
P「っと、すまん。あまりのうまさについうっかり…」
雪歩「い、いえ…その……も、もう一回お願いします!」
P「えっ?」
雪歩「……あ、あーん///」フルフル
P「えーと…いいのか?」
雪歩「…」アーン
雪歩「…」ハムッ
P「ど、どうだ?」
雪歩「お、おいしいですぅ」
P「だろー?これめっちゃうまいよな」
雪歩「で、でも…こっちもおいしいですよ?」
P「え?」
雪歩「あ、あーん…」オズオズ
P「さすがにそれはちょっと恥ずかしいって言うか…」
雪歩「わ、私だって恥ずかしかったんですよ…!?」
雪歩「えっと、お返しです!お返し……あの、こうして待ってる方が恥ずかしいんですけど…」
P「分かったよ。じゃあ…」パクッ
P「…うまいな」
雪歩「でしょう?」
P「割と当たりはずれの大きい店だと思ってたから意外だな」
雪歩「それは、期間限定の物ばかり食べてるからだと思いますぅ…」
P「雪歩のおかげでこの店の新しい一面を知れたよ」
雪歩「それは大げさですよ」クスッ
P「ふー、食った食った」ポンポン
雪歩「プロデューサー、おじさんみたいです」
P「なに?俺はまだまだ若…ってまあ雪歩から見ればおじさんかもしれんな」
雪歩「そんなことないです」
P「初めに言いだしたのは雪歩じゃないか」
雪歩「そ、それは…おじさんじゃないのにおじさんみたいなことするからですよ…!」
P「なるほど、やっぱまだまだ若いつもりでいいってことか…さて、そろそろ行くぞ」
雪歩「はいっ」
雪歩「お父さん、もう怒ったりしてませんよ?」
P「それでもなんとなく、プレッシャーみたいなものが…」
雪歩「?」
P「ま、まあそれはいいんだ。ほら、そろそろ帰りな」
雪歩「あ、あの…」
P「どうした?」
雪歩「少しだけ、お散歩しませんか?」
P「こんな時間に?まあ腹ごなしにはいいかもしれんが…」
雪歩「ダメでしょうか…」
P「いや、いいよ。でも少しだけだぞ?」
雪歩「そろそろ衣替えしないとですね」
P「俺はほとんどスーツだから、涼しい方がありがたいよ」
雪歩「確かに、夏はすごく暑そうでした」
P「…」
雪歩「…」
P「おっ」
雪歩「?」
P「月が綺麗だ」
雪歩「へっ…!?」
P「ほら、満月ではないみたいだけどさ、真っ黒い空に少しだけ欠けた月が浮かんでて…」
雪歩「あっ、そうですね…」
P「これも散歩に誘ってくれた雪歩のおかげだな」
雪歩「そんな…!」
P「…」
雪歩「…」
雪歩「知ってますか?夏目漱石さんは英語のI love youを『月が綺麗ですね』と訳したそうですよ」
P「へっ?あ、いや、さっきのはそういうつもりじゃ…」
雪歩「分かってます」
P「そうだな」
雪歩「プロデューサー」
P「ん?」
雪歩「月、綺麗ですね」
P「あぁ、そうだな」
雪歩「手を繋いでもいいですか?」
P「犬でもいたか?」
雪歩「いえ、私がそうしたいからするんです」ギュッ
P「そっか」
雪歩「え?」
P「雪歩の手」
雪歩「そうですか?」
P「大事にしないとすぐ折れちゃいそうだ」
雪歩「そんなことないですよ」
P「確かに、脆そうに見えて芯は強いからな」
雪歩「何の話ですか?」
P「雪歩の話だよ」
P「男の手なんてこんなもんさ」
雪歩「そうなんですか…」
P「そういうことも少しずつ知っていけばいいよ」
雪歩「あと、すごく大きいです」
P「そうかな?普通だと思うけど」
雪歩「そんなことないですよ」
P「雪歩が言うのなら、そうなのかも」
雪歩「はい、そうなんです」
雪歩「…そろそろ戻りましょうか」
P「ん、そうだな」
雪歩「はい、また明日」
雪歩「プロデューサー、約束、忘れないで下さいね?」
P「約束…?なんかしたっけな…」
雪歩「オフの時に食事に連れて行ってくれる約束です…!」
P「冗談だよ、冗談」
P「期待にこたえられるかは分からんが、できるだけ頑張るよ」
雪歩「よろしくお願いします」
P「ん、じゃあおやすみ」
雪歩「はい、おやすみなさい」
雪歩「いえ、まだ10分前ですし」
P「でも待たせちゃったんだろ?なら遅刻さ」
雪歩「私が早く来すぎたばっかりに…!ごめんなさいー!」
P「ここで謝罪合戦しつづけるのもなんだし、行こうか」
雪歩「あ、はい。ごめんなさ…」
P「はは、でもなんか安心したよ」
雪歩「安心、ですか?」
P「最近の雪歩はキリッとしてるって言うかしっかりしてるからさ」
P「そういう後ろ向きなとこ見るの久々だからちょっとな」
P「しっかりしてる雪歩は仕事する上では助かるけどな」
雪歩「そう言ってもらえると頑張ってる甲斐がありますぅ」
P「それにしても、なんでこんなとこで待ち合わせなんだ?」
P「別に家まで迎えに行ってもよかったし万一アイドルってばれたら大変だろ」
雪歩「それは…」
雪歩「やっぱり待ち合わせが醍醐味って春香ちゃんが言ってましたし…」
P「醍醐味?」
雪歩「はい、待ってる間もずっと楽しかったです」
P「よく分からんが変な奴だな」
P「ふっふっふ、それはだなぁ…」
雪歩「それは…?」
P「着いてみてのお楽しみだ」
雪歩「えぇっ…そこで焦らすんですか?」
P「っていうか着いたし」
雪歩「プロデューサー、楽しんでます?」
P「そりゃもう」
雪歩「ほどほどにしてくださいね?」
P「善処する」
P「だろ?雪歩が気に入りそうな店を頑張って選んだんだ」
雪歩「ありがとうございます」ニコッ
P「最近の雪歩は頑張ってるしな。大サービスだ」
雪歩「えへへ、なんだか少し照れちゃいます」
P「いやいや、雪歩は堂々としててくれ」
雪歩「?」
P「実は俺もこの店来るの2回目だから、ちょっと緊張してるんだ」
P「雪歩が縮こまってたら俺が隠れられない」
雪歩「ふふっ、なんですかそれ」
雪歩「そ、そんな…!責任重大すぎますぅ…」
P「心配しなくてもこの店の物は多分大体おいしいし、なにより俺は雪歩を信じてるからな…!」
雪歩「その言葉はもっと別の時に聞きたかったです…」
P「んじゃ、俺ちょっとツイッターにランチなうって投稿してるから」
雪歩「全然余裕そうですよね…?」
P「いや、今にも空気に押しつぶされそうだ」ピロリロリーン
P「雰囲気のいいお店でランチなうっと」
雪歩「ほ、ホントに決める気ないんですか…?」
雪歩「そうなんですか?私、自分が食べたい物を頼んだだけなんですけど…」
P「へぇ、ファミレスの時のイメージで雪歩とは食べ物の好みが真逆なのかと思ってたよ」
雪歩「でもプロデューサーの頼んだものも、私が頼んだものも、どっちもおいしいって思いましたよ?」
P「なるほど、確かに…」
雪歩「あ、あの…それより…」
P「ん?」
雪歩「ここ個室で、誰にも見られないですから…」
P「ほうほう」
雪歩「えと、その…」
P「うんうん」
P「いやー、全くわからないなー」
雪歩「うぅ……あの…一口、もらえませんか?」
P「良く言えました。じゃあ、あーん」
雪歩「あ、あーん…」ハムッ
P「うまいか?」
雪歩「…はい、とっても」
P「じゃあ俺にもお返し」
雪歩「あ、はい…あーん」
P「あーん…」パクッ
雪歩「二人?」
P「俺が店を選んで雪歩がメニューを選んだ。だから二人、な?」
雪歩「あっ……そうですね!」
P「それにしても雪歩、人にあーんってする時まで、口開けなくてもいいんじゃないかと思うんだけど」
雪歩「へっ?開いてました…?」
P「うん、ばっちり」
雪歩「きゅ、急に恥ずかしくなってきましたぁ…」
P「個室とはいえ真昼間から食べさせ合いっこしといて何言ってんだ」
雪歩「うぅ…そういうこと言わないでください…改めて聞くともっと恥ずかしく…」
雪歩「ごちそうさまでした」
P「どうだった?」
雪歩「とってもおいしかったです!」
P「そう言ってもらえると連れて来た甲斐があるよ」
雪歩「ありがとうございました」
P「別にいいって」
雪歩「あの、この後ってなにか予定とかありますか…?」
P「いや、特にはないな」
雪歩「だ、だったら…私に少し、付き合ってもらえませんか…?」
P「もちろん」
雪歩「えと、美術館に…今茶器の展示をやってるって聞いて…」
P「なるほど」
雪歩「あの、興味なかったですか…?」
P「んー、そうでもないさ」
雪歩「ならよかったです…」
P「んじゃ行くか?」
雪歩「あ、その前に…今日ってご褒美なんですよね?」
P「ん?まあそうだな」
雪歩「なら手を、繋いでもらえませんか?」
雪歩「そんなこと言ったら今こうしてることが既に問題です…!」
P「まあそれは確かにそうだけど…」
雪歩「だから、その…お願いします」
P「うーん…雪歩に頼まれちゃうと弱いなぁ」
雪歩「ありがとうございます…!」
P「そんじゃ今度こそ、行こうか」ギュッ
雪歩「あ、あの…」ギュッ
雪歩「こっちの方がいいです」
P「…これって恋人繋ぎってやつだっけ?」
雪歩「は、はい…」
雪歩「そんなこと言ったら今こうしてることが既に問題です…!」
P「まあそれは確かにそうだけど…」
雪歩「だから、その…お願いします」
P「うーん…雪歩に頼まれちゃうと弱いなぁ」
雪歩「ありがとうございます…!」
P「そんじゃ今度こそ、行こうか」ギュッ
雪歩「あ、あの…」ギュッ
雪歩「こっちの方がいいです」
P「…これって恋人繋ぎってやつだっけ?」
雪歩「は、はい…」
雪歩「それにこうして握れば」ギュッ
雪歩「すぐ近くにいられます」
P「なるほど、世の恋人たちってのは中々考えてるんだなぁ」
雪歩「みんながみんな考えてこうしてるわけじゃないと思いますけど…」
P「じゃあ最初に考えたやつがすごいってことで」
雪歩「誰なんですか?」
P「さあ、わからん」
雪歩「別に誰でもいいですけどね」クスッ
P「なんだ、千早の真似か?」
雪歩「はい。ポスターを見るだけでワクワクしてきます」
「ご来場ありがとうございます」
P「じゃあ俺が…」ゴソゴソ
雪歩「あ、私割引券持ってますから…」
「ありがとうございます。ごゆっくりどうぞ」
P「…あのくらい払ってもよかったのに」
雪歩「お昼ごちそうしてもらいましたし、ここに来たのは私の我儘ですから」
P「我儘じゃないさ。俺は雪歩と一緒に来たいと思ったから来たんだしな」
雪歩「…ありがとうございます」
P「確かに、すごく素敵だ」
雪歩「やっぱりこういうのって自然と職人の技が合わさってできるんですよね…なんだか感動ですぅ」
P「そんなことないはずなのになんだか輝いているように見えるよ」
雪歩「はい、お茶碗のヒビだとか形だとか…今の物のように決して綺麗なものばかりではないですけど」
雪歩「そこに人の想いや生活が詰まっているんだと思うとなんだか考えさせられちゃいます」
P「うん、やっぱり生き生きしてる雪歩はいい」
雪歩「へっ?」
P「茶器を見て興奮してる雪歩は水を得た魚みたいだ」
P「今度こういう博物館の取材収録でもとってくるかな…」
P「だって俺、ぶっちゃけると茶器にはあんまり興味ないし」
雪歩「やっぱり私が無理を…」
P「茶器には興味ないが茶器に興味がある雪歩には興味がある」
雪歩「うぅ…なんだかごまかされてる気がします…」
P「そんなことないさ。今日はいつもと違ってリフレッシュできてるからな」
雪歩「いつも…プロデューサーはお休みの日何をしてるんですか?」
P「だらけてるか仕事してるかのどっちかだな」
雪歩「それは確かにリフレッシュできそうにないです…」
P「趣味と言えることがないからなぁ…割と真面目に仕事が趣味かもしれん」
P「分かってはいるんだが…」
雪歩「あの、今日はリフレッシュできたんですよね?」
P「まあな。雪歩といるとなんか落ち着くし」
雪歩「じゃあまた時々…こうやって一緒に過ごしませんか?」
P「雪歩と?」
雪歩「プロデューサーがよければですけど…」
P「時々?」
雪歩「…プロデューサーがよければもっとでも」
P「ん、ありがと」ポンポン
雪歩「はい…!これも約束、ですよ?」
P「ん、約束だ」
P「っと、もう展示は終わりか」
雪歩「みたいですね」
P「どうする、帰るか?ちょっと微妙な時間だが…」
雪歩「あの…」
P「さてさて、今度は何が来るんだ?」
雪歩「プロデューサーのお家に、行ってもいいですか?」
P「え?」
P「誰が?」
雪歩「私が」
P「どこに?」
雪歩「プロデューサーのお家に行きたいんです」
P「えーっと…さすがにそれはまずいんじゃないかなーと思うんだけど」
雪歩「ダメですか?」
P「ダメって言うかやっぱり世間体とかそういうのが…」
雪歩「プロデューサー」
P「…」
雪歩「お願いします」
雪歩「ここがプロデューサーのお家ですか…思ったより片付いてますね」
P「まあいつもは寝に帰ってきてるだけだからな」
雪歩「あっ、私達のDVDとか写真集…ちゃんととっておいてくれてるんですね」
P「当たり前だろ?」
雪歩「あれ、でもなんで私のが真ん中に…他の皆は50音順なのに…」
P「えっ、あーそれはだな…そう、最近見たんだ!それでちゃんと戻すのが面倒になって…」
雪歩「なるほど…ちょっと残念かもです」
P「残念って?」
雪歩「なんとなく、私が皆の中でトクベツだったらいいなって…」
雪歩「おかしいですね、私なんかが…」
P「俺は雪歩が他の皆より劣るだなんて、思ってないよ」
雪歩「プロデューサー…」
P「それに家まで来ちゃったのはさすがに雪歩が初めてだし、そういう意味では特別だよ」
雪歩「そう、ですか…嬉しいです」
雪歩「…あの、隣に座ってもいいですか?」
P「なんだ今更そのくらいのこと…」
雪歩「ありがとうございます」トテトテ…ポスッ
P「それで、俺の家に来たはいいが…なにをするんだ?」
雪歩「別に何も。私はただ、プロデューサーと一緒にいたいと思っただけですから…」コテン
雪歩「重いですか?」
P「いや、そんなことはないけど…」
雪歩「けど?」
P「こんなに近くて男性恐怖症は大丈夫なのかと思ってな」
雪歩「前にも言った気がしますけど、プロデューサーだから大丈夫ですよ」
P「俺だから…か」
P「信頼されてるんだな」
雪歩「はい、信頼しています」
P「ありがとな」
雪歩「え?」
P「ゆったりと時間が流れててさ…」
P「さっきも言った通り帰ったらすぐ寝ちゃうし。朝は朝でばたばたしてるからな」
雪歩「朝、弱いんですか?」
P「実はちょっとだけな」
雪歩「初めて知ったかもです」
P「そりゃばれないようにしてるからな」
P「寝ぐせチェックの時間がなければあと5分は長く寝てられる」
雪歩「そんなに気にしなくてもいいと思いますけど」
P「いやいや、営業もするんだし気にしなきゃまずいだろ」
P「…」
雪歩「…プロデューサー?」
P「…zzz」
雪歩「寝ちゃったんですか?」
P「zzz」
雪歩「寝てるんですよね…?」
P「zzz」
雪歩「プロデューサー、私、プロデューサーのことが好きです」
P「zzz」
雪歩「だけど、ちゃんと気持ちを伝えるのは、もっと後にします」
P「…」
雪歩「いつか、トップアイドルになれたときに…」
雪歩「今までの感謝の言葉と一緒に、伝えますから…」
P「…」
雪歩「その時にはきっと、聞いてくださいね?」
P「…zzz」
雪歩「…今はまだ、このぬくもりだけで十分です」
雪歩「気にしないでください。お疲れみたいでしたし」
P「でもちょっと寝たおかげでかなり元気になったよ。雪歩のおかげだな」
雪歩「そんな…でもお役に立てたのなら、嬉しいです」
P「ありがとな」
P「…よし、また明日から仕事がんばるぞー!」
雪歩「プロデューサー、頑張ってくださいね」
P「他人事みたいに言ってるが、雪歩もだぞ?」
雪歩「も、もちろんですぅ…!」
P「ってもうこんな時間じゃないか。家まで送るよ」
雪歩「あっ、ありがとうございます」
雪歩「いえ、お礼を言うのは私の方です。お昼ごちそうになっちゃって家にまで押し掛けて…」
P「ま、最近頑張ってたご褒美ってことで。それに俺も久々に休日を満喫できたし」
雪歩「ならよかったです」
P「あ、そうだ。家に来たことは内緒にしてくれよ?怒られたりいじられたりするのはごめんだ」
雪歩「一つだけ条件が…」
P「条件?」
雪歩「また、お家に行ってもいいですか?」
P「んー…まあ雪歩ならいいか」
P「お、この約束は指切りするのか」スッ
雪歩「はい」キュッ
二人「「ゆーびきーりげんまん うそついたら はりせんぼん のーます」」
二人「「ゆーびきった」」
P「…指切りもしたし、この約束は絶対に守らないとな」
雪歩「よろしくお願いしますね」ニコッ
雪歩「…それじゃあ、おやすみなさい」
P「おやすみ、雪歩。また明日」
雪歩「はい、また明日です」
終わり
かわいいゆきぽでした
Entry ⇒ 2012.10.14 | Category ⇒ アイマスSS | Comments (0) | Trackbacks (0)
士郎「セイバー……好きだ」ギュッ セイバー「!?」
TV<ヘヴィマシンガン!!
セイバー「あっ、凛! それは私のヘビーマシンガンです!!」
凛「いいじゃない協力プレイなんでしょ? 堅いこと言わないでよ
あっ、ほらアレとりなさいよ」
TV<ドゥロップショッ!!
セイバー「あっ!! クソ武器ではないですか!! いりませんよこんなもの!!」
ガラッ
士郎「セイバー」
セイバー「あ、士郎。すみません、うるさかったですか」
凛「ほっときなさいよ、ほらほらよそ見してると落とされ……」
士郎「セイバー……好きだ」ギュットダキシメル
セイバー「!?」
凛「えええええええ!!!!!」
TV<ア゙ッ-!!
凛「ちょっちょっちょっちょ、アンタなにやってんのよ離れなさいよ!」
セイバー「いや私ではなく士郎が! は、離れてくださ…」
士郎「セイバー……」ギュッ…
セイバー「ふわぁ……」
凛「ふわぁ……じゃないわよ!! えっ、なにどうなってるの!? ちょっと士郎!」
士郎「どうした、遠坂」キリッ
凛「えっ冷静?」
士郎「ああ、夕食か? そろそろ桜が買い物から帰ってくるはずだ」
凛「あ、ああ、そうなの……ところで」
士郎「セイバー、好きだよ」アタマナデナデ
セイバー「あっ……気持ちいいです、士郎……」
凛「あああああ駄目だったあばばばばばば」
士郎「なに慌ててんだよ、別に今日は何も無いよ。
強いて言うならさっき葛木先生と組み手やってきたくらいかな。やっぱ強いな、先生」
凛「そ、そうね……えーっと、士郎」
士郎「うん?」ホッペスリスリ
セイバー「あっ……あっ……」
凛「……とりあえずセイバーから離れない?」
士郎「なんでさ」
凛「えっ」
士郎「えっ」
セイバー「しろぉ…」トロ-ン...
士郎「そうかな」
セイバー「ハッ!そ、そうです士郎!離れてください!」
士郎「セイバー……嫌なのか?」シュン
セイバー「あっ、いや……そういうわけでは……」
士郎「そっか!!」パァァ
凛「いや止めなさいよセイバー!」
セイバー「あっ、えと、そもそもいきなりなぜこんな」
士郎「だって好きなんだ、仕方ないだろ」ホッペニチュッ
セイバー「えっ!?」カオマッカ
凛「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!」
桜「戻りましたー、どうしたんですか姉さん大きな声出して……
ってキャアアアアアアアアアア!!!!」
ガラッ
ライダー「どうしました桜!!ってのおおおおおおおおおお!!!!!!」
ガラッ
藤ねえ「士郎ー!おなかへっ……たあああああああああああ!!!!!」
4人「ぎゃああああああああああああああ!!!!!!!」
しばらくおまちください
凛「まずは状況を整理するわよ」
桜「そうですね」
士郎「ふふっ。セイバーの手、柔らかいな」
セイバー「そ、そんなこと……」
凛「なんとかハグはやめさせたものの」
桜「手は離しませんでしたね」
士郎「セイバーと離れるなんて、俺には考えられないよ」
セイバー「士郎‥‥」キュン
凛「キュンじゃないわよしっかりしなさいよ騎士王」
士郎「慌ててるセイバーも、かわいいな」テノコウニキス
セイバー「ひゃん!」
凛・桜「あああああああああ!!!!!!!」
しばらくおまちください
凛「はぁ、はぁ……何よコレ」
桜「ストレスで死んでしまいそうですね……」
凛「藤村先生もそりゃ壊れるわ……」
別室
藤ねえ「ねえおねえちゃんさっきのなーにー? えへへへ」
ライダー「幼児退行してしまった……」
桜「そうですね」
士郎「なにかあったのか?」
凛「アンタのことでしょうが!!」
士郎「な、なんだよ遠坂……あ、そうか腹減ってるんだな? よし、メシにしよう」
凛「いやいやいや」
士郎「セイバー、何が食べたい?」
凛「おい」
セイバー「し、士郎の作る料理なら……」
凛「止めろよ空腹王」
士郎「ははっ、そういわれると嬉しいな!よーし今日は気合い入れて作るぞ!」
セイバー「はいっ!!」
凛「話聞きなさいよ!!!」
凛「……なんで料理するときまでセイバーの手を離さないのよ」
桜「片手でやってますからなんだかやりづらそうですね」
凛「あっ」
桜「セイバーさんが後ろから抱きつく形に変わりましたね」
凛「セイバーが気を利かせたのね」
桜「そうでしょうね」
凛「よし、殺すわ」
桜「姉さん落ち着きましょう」
凛「じゃあアンタもその果物ナイフ置きなさいよ」
桜「積極的になったとかそんなレベルじゃないですからね。明らかに変です」
凛「誰か他のサーヴァントに何かされたのかしら」
桜「あり得ますね。ゴールデンボンバーとか怪しくありませんか?」
凛「それはないわね。アイツが好きなのはセイバーよ、わざわざこんな状況にしないでしょ」
桜「たしかに。むしろこの状況を見たら発狂しそうですね」
凛「フラグね」
桜「ですね」
ガラッ
ギル「セイバー!!我が愛する貴様に逢いにきてやっわああああああああ!!!」
凛「あらら」
凛「あいつ叫びながら泣いてるわよ」
ギル「うひゃああああああああああああ!!!」
桜「自分のほっぺをつねりはじめましたね」
凛「まあ夢ならよかったのにとは思うわよね」
ギル「うぅおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!」
桜「くずおれて膝をつきましたね」
凛「現実を知ったのね」
ギル「雑種めがああああああああ!!!!!」ダダダダ…
桜「この現状に耐えきれず帰っちゃいましたね、珍しい。てっきり宝具で先輩が串刺しになるかと」
凛「あいつ童貞くさいし多分こういうのだめなのよ」
桜「童貞王ですものね」
凛「そうね」
桜「そして姉さんは処女」
凛「黙れ」
凛「あっ」
桜「なにか?」
凛「そういや葛木先生と組み手したって言ってたわ」
桜「葛木先生と?」
凛「ええ」
桜「うーん、あの人が何かするとは思えないのですが……」
凛「そうよねぇ」
──そのころの柳洞寺では──
キャスター「あらー……? おかしいわね。どこにやったのかしら?」
葛木「ただいま」
キャスター「おかえりなさいませ、宗一郎さま。組み手はどうでした?」
葛木「ああ、やはりあいつは悪くない。中々に楽しい。……なにを探している」
キャスター「ああ、その、昔戯れに作った惚れ薬を……」
葛木「これか」
キャスター「えっ」
葛木「さきほど衛宮に飲ませた」
キャスター「!?」
葛木「スポーツドリンクに混ぜてな。うまいうまいと飲んでいたぞ」
キャスター「な、なぜそのようなことを……」
葛木「……キャスター。セイバーを監視、いや、盗撮しているな?」
キャスター「あう、そ、それはその……」
葛木「ならば、いつもと違うセイバーも見たくはないか?」
キャスター「……!! まさか、わたしのために……?」
葛木「私にできるのは、これぐらいしかない。すまない」
キャスター「宗一郎さま……嬉しい」
葛木「キャスター、いや、メディア……」
キャスター「宗一郎さまぁ……」
ここからは濃厚な大人の時間なのでカットされます。
続きを読むには「桜さんは純情可憐で素敵な乙女です」と書き込んでください。
桜さんは純情可憐で素敵な乙女です
桜さんは純情可憐で素敵な乙女です
桜さんは純情可憐で素敵な乙女です
桜さんは純情可憐で素敵な乙女です
凛「ちょっと。よく考えたらキャスターがいるじゃない。アイツの仕業ね」
桜「間違いありませんね」
凛「どうせ惚れ薬とか媚薬とかそのへんでしょ」
桜「でしょうね。なんとか解毒しないと……」
凛「そうね、士郎のことだから、その……あ、アレなこと?にはならないと思うのだけど」
桜「でも、さっきはキスしてましたよね?」
凛「……で、でもほっぺと手の甲でしょ?ぎ、ギリギリセーフよ」
桜「セーフですか。じゃあ私も先輩のそこにキスしますね」
凛「今そういう話してるんじゃないわよ!ていうか駄目に決まってるでしょ!!」
桜「それでは姉さんもご一緒に」
凛「えっ……や、ややややらないわよ!!!!」
アーチャー「凛、良い魚が穫れたぞ。刺身にしよう」
凛「アーチャー、いいところに来たわね。緊急事態よ」
アーチャー「ほう、どういうことかな?」
凛「アレよ」
士郎「セイバー、味見してくれ」
セイバー「はい……うん、大変美味です」
士郎「良かった!あ、ほっぺについちゃったな」ペロ
セイバー「ひゃうん!!し、しろぉ……だめですよぅ……」
士郎「ははっ、いいじゃないか。それにセイバーがかわいいのが悪いんだぞ?」オデココツン
セイバー「むぅ……」
アーチャー「……なんだアレは」
アーチャー「そうだな……まずは2人ともテーブルから手を離さないか?限界が来ているぞ」
テーブル<メキメキメキャァヤメテェ
桜「あらあらまあまあ」
凛「こいつが貧弱すぎるのよ」
アーチャー「まあいい。しかし薬か……」
ドクンッ
アーチャー「!? んなっ……!!」
アーチャー「かはっ……く、くるな、凛……」
凛「何言ってんのよ!? 何よ、どうしたのよ!!」
桜「キャスターの魔術でしょうか!?」
凛「まずいわね……しっかりしなさい、アーチャー!!」
アーチャー「く、来るなっ……ぐああああああ!!!!」
凛「アーチャー!!!」
アーチャー「うわあああああ!!!」リンニダキツキッ
凛「」
桜「」
凛「ち、ちがう!!そんなんじゃない!!なにやってんのよあんた!離れなさい!!」
アーチャー「だ、駄目だ!! 抗いきれんっ!! 凛!! 好きだ、凛!!」ギュウウウ
凛「ちょっ、なんであんたまで……」カァァ
桜「……まさか」
凛「なに!? なんかわかったの!?」
桜「アーチャーさんって一応未来の先輩なんですよね?」
アーチャー「まあ……そうだな……。平行世界、ということにはなるが……んぎぎ」メッチャタエテル
桜「だから今の先輩の状態が作用しているんじゃないですか?
もしこのまま先輩が元に戻らなければ、一生このままになっちゃって、好きな人に気持ちを抑えられなくなる、と……」
凛「な、なるほど。ってアーチャーあんた私のこと……」
アーチャー「ち、違う!! これは断じて……違っ! ぬぁっ」アスナロダキッ
凛「きゃっ……うわぁすごくいいこれ……」トローン
桜「……家に帰ろうかなぁ……」
凛「あっ……」ショボン
桜「……姉さん?」
凛「あっ、いやその、これはちが」
アーチャー「と、とりあえず私は一度霊体化して、キャスターのところへ行ってみよう」スッ…
凛「えっ……」
桜「そうですね、お願いします」
凛「や、やれやれ!!しょうがない奴ね!!」
桜「姉さん、すごくツヤツヤしてますよ」
凛「……」
士郎「セイバー、あーん」
セイバー「あーん……うん、美味です! さすが士郎ですね!」
士郎「へへ」
セイバー「し、士郎!」
士郎「ん?」
セイバー「あ、あーん」
士郎「!!あ、あーん……うん、美味い。セイバーが食べさせてくれたから、もっと美味い」
セイバー「そ、そんな……」テレテレ
凛「‥‥」
テーブル<ヤメテーベキバキボキ
桜「あ、もしもし、壁殴り代行さんですか? はい、そうです、冬木の……」
士郎「セイバー、風呂に入ろう」
セイバー「い、一緒にですか」
士郎「嫌か?」シュン
セイバー「いえ、いきましょう!! お風呂に!! 2人で!!」
スパ-ン!
凛「行きましょうじゃないわよ!! 落ち着け!! あんたそれでも騎士王か!?」
セイバー「はっ!! あまりの快感に夢見心地でした」
桜「セイバーさん……」
セイバー「し、士郎。申し訳ありませんがお風呂は……また今度というこt」スパーン
凛「だから!そうじゃ!ないっ!!!」パーン!パーン!パーン!
セイバー「痛いっ!痛いっ!すみません出来心だったんです!!」
士郎「……だめか……うっ!!」
ドサッ
凛・セイバー「!?」
凛「あ、ありがとう」
セイバー「……で、では今度こそ解決策を……あっ」
凛「何よ……あっ」
桜「……気絶してるのに、セイバーさんの脚を掴んでますね」
凛「どんだけ離れたくないのよ……」ハァ
桜「ここまでくると、微笑ましささえ生まれますね」
凛「この瞬間だけね」
アーチャー「戻ったぞ」
凛「どうだった?」
アーチャー「やはりキャスターのモノだった。しかし今回のことは事故のようなものらしい。すでに解毒剤を用意していたよ」
凛「あらそうなの? 変なこともあるのね。まあいいわ。さっさと終わりにしましょう」
アーチャー「ああ、これが解毒剤だ」マッカナバラ
凛「えっ」
アーチャー「受け取って欲しい。これが私の気持ちだ」
凛「あ、アーチャー……」キュン
慎二「えんだああああああああああああああ!!!!!!いやあああああああああ!!!!」
桜「兄さんは帰って!!!!!姉さんも冷静になってください!!!」
セイバー「ていうかどっからわいたんですかこのワカメ!!」
凛「むしろ悪化してたわよ……」
桜「まんざらでもなかったくせに」
アーチャー「ちなみに先ほどの薔薇は、投影したものではない。君のために、買ってきたものだ」
凛「えっ……?」キュン
アーチャー「まがいものではない、私の……いや。俺の、本当の気持ちだよ、遠坂」
凛「……士郎……」
慎二「えんだあああああああああああああ!!!!!」
セイバー「エクス……カリバァァァァ!!!」ドカーン!!
慎二「僕の出番これだけだよおおおお!!!!」
桜「姉さん……」
桜「落ち着きましたか、お二人とも」
凛「はい……」
アーチャー「面目ない……」
桜「まったく、話が進まないじゃないですか」
アーチャー「これが、本当の解毒薬だ」
桜「ありがとうございます。あとはこれを先輩に飲ませるだけですね」トコトコ
セイバー「……桜」
桜「なんです?」
セイバー「それを飲ませれば、士郎は元に戻るのですか?」
桜「そのはずです。キャスターさんが嘘をついていなければ」
アーチャー「その可能性はないだろうな。奴、やたら満足げな顔をしていた」
セイバー「そうですか……」
セイバー「そ、そんなことは……」
桜「まあ、仕方ないですよね。朴念仁な先輩があれだけアプローチしてくれれば……」
セイバー「ですよね!!!」
桜「えっ」
セイバー「えっ」
凛「えっ」
セイバー「いや、だって、最高のひとときだったんですよ!?」
アーチャー「これはひどい」
セイバー「私は……私は!! この幸せを手放したくありません!!」
凛「いやいや何を」
ランスロット「血迷ったかアーサー!!」
凛「今の誰よ!?」
凛「違う、今してる話はそんなスケールの話じゃない」
桜「せ、セイバーさん落ち着いて……」
セイバー「何を言う。私はいたって冷静です。さあ桜、解毒剤をこちらに」
桜「い、嫌です……だ、だって私も先輩が……」
凛「そ、そうよ!! 第一惚れ薬なんてフェアじゃないわ!!」
セイバー「 勝 て ば 官 軍 !!!!」
アーチャー「駄目だな、目がイッている」
セイバー「それに凛、士郎がもしもこのままならばあなたはアーチャー、いえ、大人になった士郎といちゃいちゃし放題です!!」
凛「!!!!」
桜「姉さん『!!!!』じゃないですよ? 刺しますよ?」
凛「そうね、確かにそうかもしれないわ」
アーチャー「頼むから落ち着いてくれ、我がマスターよ」
セイバー「さあ、共に戦いましょう!!凛!!」
凛「分かったわ!! 契約成立よ!!さあ、2人で-約束された勝利の剣-エクスカリバーを!!」
セイバー「心得ました!!!凛、手を!!」
凛「ええ!!」
アーチャー「ちょ」
凛・セイバー「エクス……」
桜「ま」
凛・セイバー「カリバァァァァァ!!!!!」
桜・アーチャー「あああああああああああああ!!!!!!!!!!!」
幸い、死傷者はたまたま付近を歩いていた全身青タイツの男だけで済んだらしい。
そして後日、解毒剤が改めて渡され、士郎はようやく元に戻ることが出来た。ついに、再び衛宮家に日常が戻ったのである。
士郎「セイバー」
セイバー「は、はいっ!なんですか、士郎」
士郎「なんかさ、こないだは悪かったな」
セイバー「い、いえ……」
士郎「だからさ、改めて言うよ」
セイバー「えっ?」
士郎「好きだ、セイバー」
セイバー「し、士郎……?」
士郎「抱きしめても、良いか?」
セイバー「……ずっとじゃなきゃ嫌ですよ?」
士郎「セイバー……好きだ」ギュッ
セイバー「……はい!」
おしまい
乙
乙
支援も助かりましたです。嬉しいですねこういうの。
5年ぶりに書いたのですが楽しかったのでまた書こうと思います。
次はもう少し早い時間に立てます!ありがとうございました!
士郎「はいはいここにいますよっと。どうした? メシならさっき食べたろ?」
藤ねえ「食べてないわよ!!」
士郎「嘘……だろ……?」
藤ねえ「何愕然としてるの!?」
士郎「一度やってみたくてさ」
藤ねえ「いやーちょっと確かめたいことがあってさー」
士郎「? なんだよ」
藤ねえ「士郎さ、最近いろんな女の子と仲良くなったわよね」
士郎「そうだなぁ。遠坂にセイバー、イリヤ、ライダー……あれ、なんか多いな」
藤ねえ「そうよ。あんた自覚なかったの?」
士郎「いや、なんとなく女の子多いなぁとは思ってたけど……まさかこんなにとは」
士郎「自分でもびっくりだよ」
藤ねえ「うんうん。で、誰にするのかな?」
士郎「えっ?」
藤ねえ「いやだから、恋人」
士郎「なんでさ」
藤ねえ「えっ」
士郎「えっ」
士郎「ええー……藤ねえまでそんなこというのかよ、慎二じゃあるまいし」
藤ねえ「うん? ワカメ君もなんか言ってたの?」
慎二『衛宮はどいつにするんだ? 桜とかどうだ? 桜は純情だしいいぞ!早くもってけ!!頼むから!!』
士郎「……って」
藤ねえ「あら、妹を推すだなんて良いお兄ちゃんじゃないの」
士郎「うーん……なんか目がヤバかった気もするんだけどなぁ」
士郎「うーん……どうって言われてもなぁ」
藤ねえ「何よー、家庭的だし気だても良くって最高じゃない! 何がダメなのよ」
士郎「いや、だって……桜は別に俺のこと好きじゃないだろう?」
藤ねえ「……はぁ?」
士郎「やっぱりそういうのはさ、両思いじゃないとって思うんだ。彼女いたことも無いくせに生意気だとは思うけどさ」
藤ねえ「……そーですねー」
士郎「遠坂!? ないないもっとないって!! 遠坂とは絶対無理だって!」
士郎「いつも俺につっかかってくるし、アーチャーもやたら俺にきっついし……」
藤ねえ「アーチャーはさておき……それは……ねえ?」
士郎「あれ? でもだったらなんでうちに居座ってるんだ? 家もあるんだし別に出て行ったっておかしくないよな……」
藤ねえ「!! そうよ、そうなのよ!! その理由を考えなさい!!」
士郎「うーん……」
藤ねえ「おっ! やっとわかったのね!!」
士郎「メシだ!! メシのためだ!!」
藤ねえ「」
士郎「桜のメシは言うまでもなく美味いし、俺の作る料理だって、自分で言うのもなんだけど美味いはずだし」
士郎「セイバーだって美味いっていってくれてるんだ。結構自慢できるはずだよな」
士郎「そんなメシを毎日喰えるんなら、そりゃ居候するよなぁ。うん、なるほど!」
藤ねえ「士郎、さすがねぇ」
士郎「なんだよ藤ねえ。照れるじゃないか」
藤ねえ「褒めてないわよ」
士郎「セイバーは……どうだろう」
藤ねえ「ん?」
士郎「ちょっと、自分でもわからないな。なんて言うんだろう……」
藤ねえ「何が?」
士郎「なんか、アイツといると……落ち着く気がする」
藤ねえ「……ふぅん」
藤ねえ「そうねぇ、私も歯が立たなかったし……あれは悔しかった……!!」
士郎「はは……しょうがいよ。藤ねえも強いけど、セイバーはもっと強い」
士郎「強く無きゃ、ダメだったんだ。だから出会った頃も、もっと堅くってさ」
藤ねえ「そうね、今みたいに『士郎、おかわりです!!』なんて言うようになるとは思えなかったわね」
士郎「うん、最初はおっかないとこもあった」
士郎「でも今はさ、いっぱい笑うようになった」
士郎「満面の笑みって訳じゃないんだけどさ、嬉しさが伝わってくる感じで」
士郎「……もっといっぱい、アイツのいろんな顔、見たいな」
藤ねえ「……そうね。そっかそっか」
士郎「うん?」
藤ねえ「やっぱりアンタは、セイバーちゃんが好きか!」
士郎「ええええ、なんでさ!!?」
士郎「藤ねえに言われたくないよ!!」
藤ねえ「何よー!! 私はまだ20代よ!?」
士郎「わわっ、冗談だってば! でも、そうなのかな」
藤ねえ「ええ、そうよ。誰がどう見てもそうなんです!」
藤ねえ「士郎が気づいてないみたいだから言っちゃうけどさ、セイバーちゃんもあんたのこと。好きよ」
士郎「……えっ?」
藤ねえ「このままあんたたち進みそうにないから言っちゃう!あんたたちは両思い!」
士郎「ええええ!!! いやでもそんな!! ……そうだったら、そりゃ嬉しいけどさ」
藤ねえ「でしょでしょ? あんた達さ、もうお似合いよ!」
士郎「そっか……」
藤ねえ「ねっ、だからさ、もうあんた達付き合いなさいな!セイバーちゃんなら私も許す!」
藤ねえ「何よ、もしかして不満なの!? お姉ちゃんはそんなわがままな子に育てた覚えはありません!!」
士郎「いやそうじゃなくって!! ……藤ねえさ、どうして泣いてるのさ」
藤ねえ「……えっ?」
士郎「ほら、涙が……」
藤ねえ「うそうそ、そんな……な、なんでかな? ははは……」
士郎「藤ねえ……」
「言わないで!!」
「お願いだから、言わないで……」
藤ねえはそう言って俺に体を預けてきた。しおらしくなった藤ねえ。
今までこんなことが、なかったわけではない。
なかったわけではないが、その姿は初めて見るものだった。
疲れた、とか。辛い、とか。そういったものではない。
もっと別の何か。
それは、やっぱり。
「……うん」
藤ねえが腕をそっと背中に回す。俺はそれを受け入れた。
自分の腕も、藤ねえの背中に回した。少し、力を込めた。
藤ねえも力を込めてきた。はじめは少し。そのまま少しずつ強く。
「私は、士郎のことが……好き」
そう言って、より力を込めてきた。
強く、強く。それでも、痛くはない。心地が良い。
ぬくもりが強く伝わる。それが、嬉しくて。
「……ありがとう」
口からこぼれたのはそんな言葉だった。素直な言葉。
ほんの少しの時間だった。きっと、数秒程度だろう。
でもそれが、長く感じられた。長い長いあいだ、そうしていた気がする。
それを終らせたのは自分の言葉だった。
「でも、ごめん」
それが彼女を傷つけることになるのはわかっていた。
わかっていたけれど、言わなきゃならなかった。
うやむやにしてはいけない。それぐらい、馬鹿な自分でもわかる。
だから、伝えた。彼女がそれに応える。
「……うん、わかってた」
短い言葉。彼女が言ったのはそれだけだった。
でもそれで良かった。お互いが交わすぬくもりで、全て伝わった。
──家族だって、思ってるからでしょ?
──うん。
──私は、好きだって言えた。それで満足だから。
──そっか。
──そうなのよ。
──藤ねえのこと、本当の家族だって思ってるよ。とてもとても、大事な人だ。
──うん……うん。ありがとう。私は、幸せだよ。
さっきとは違って、実際の時間すらも予想できない。
それぐらい抱き合っていた。とても充実した時間。
少し、彼女から離れた。
「あ……」
残念がる声が唇から漏れる。
俺はその唇に、自分の唇をそっと重ねた。
仕方が無い。自分だって驚いている。
そっと目を閉じ、彼女は自分に身を委ねてくれた。
そのまま唇を重ね続ける。舌を絡めることも無い、優しいキス。
やがて唇は離れ、再び強く抱きしめ合った。
「こんなこと、するようになったんだ」
藤ねえが少し照れた声で言う
「ふ、藤ねえが初めてだよ」
声がうわずった。恥ずかしい。
ここまでしておきながら今更、という感は拭えないが。
嬉しそうな顔で、彼女は笑った。
今まで見てきた表情の中でも、とびっきりの笑顔だった。
「ありがとう、士郎。……私、今日は帰るね」
そういって彼女は向こうを向いてしまった。
そのとき見えた最後の表情はとても魅力的だった。
いつか、あの表情をずっと見られる男がいるんだな、と思うとなんだか複雑な気持ちになった。
たった今フっておきながら何を身勝手な。我ながら情けない。
まあ、自分も男だったということか。
そう言い残し、走り出した彼女を俺は見送った。
少し先の角を曲がって、姿が見えなくなってしまうまで見送った。
胸の中に、切ない気持ちが残った。切ないけれど、あたたかい。
決して嫌な気分ではない、心地よい気分。
明日からも藤ねえとはいつも通りでいられる。そんな気がした。
そして、勇気ももらえた。
帰ったら、自分の気持ちを伝えよう。
きっと今言わなきゃいけない気がする。
そうじゃなきゃ、藤ねえに悪いもんな。
そう心に決めて、俺は強く歩き出した。
──藤ねえ、ありがとう。
終わり。
まだ見てくれてる人がいたので良かったです。
こっちは即興だったので時間かかって申し分けない。
みなさまよい週末になりますように。私は深夜に冷蔵庫を運ぶバイトへ行きます。
こんな時間までお疲れさまでした!ありがとう!
藤ねえマジ大人の女性
乙
Entry ⇒ 2012.10.13 | Category ⇒ FateSS | Comments (1) | Trackbacks (0)
翔太郎「赤坂美月、か」フィリップ「ダブルキャストだね」
美月「えと……そういうこと、らしいです」
照井「今朝保護した時にはとっくにだ。精神鑑定を頼んだところ、嘘をついている様子もない。生活に関しての記憶は健在だが、自分の生まれや個人情報などのことはさっぱりだ。名前をのぞいてな」
亜樹子「え~と、赤坂美月さん、だっけ?」
美月「は、はい」
亜樹子「どこまで記憶があるのかな?」
美月「うんと……駅前で歩いてた所に、ちょっと怖い人が絡んできて、それで、警察の人が助けてくれたところまでなら」
照井「つまり刃野警部補に保護された直前まで。手掛かりはまったくなんだ」
照井「戸籍がなかった」
フィリップ「ほう、それは不可解だね」
美月「わっ!?」
翔太郎「お前、湧いて出たように現れるなっつーの」
フィリップ「何、照井夫妻が久しぶりにここにそろったから、ちょっとしたお茶菓子を買ってきただけさ」
照井「話を続けるぞ。さっきも言った通り、赤坂美月という人物についての戸籍が存在していなかったんだ。同姓同名の人物のはいくつが見つかったが、どれも顔が違う」
亜樹子「家族の戸籍とかは?」
照井「それすらもなかった。まぁ、この女が赤坂美月という名前ではない、というなら戸籍が見つからない理由も一応納得はいく」
照井「そうだ。だから俺はここにやってきた」
亜樹子「そうか! フィリップ君だったら、赤坂さんについて一発でお見通しか」
翔太郎「まっ、こんな美人さんが困ってるようなら、ほうっておけないよな。フィリップ」
フィリップ「キーワードが少なそうだが、やってみよう」
美月「調べる?」
照井「ああ、情報捜査は、こいつの専売特許だ」
美月「赤い城って書いて、後は美しい月の美月です。はい、多分」
フィリップ「ふむ……やはり個人名だから、かなりの数を絞れた。もう少し絞れそうなキーワードがほしいところだね」
翔太郎「赤坂さん、なんでもいい。何か少しでも思い出せそうな記憶とかないか?」
美月「う~ん……でも、本当にさっぱりで」
照井「身体的特徴でもダメか?」
フィリップ「ふむ、現状ではそれしかなさそうだ。特徴は――」
翔太郎「赤くて長い髪、性別は女性だ」
フィリップ「――見つけた。……ん?」
フィリップ「……情報が、損失している?」
翔太郎「はぁ? おいそりゃどういうことだ?」
フィリップ「言葉通りだ。赤坂美月についての情報は確かに存在した。存在はしているが……ところどころ、いや、大部分に渡って情報が欠けている。破かれた本のページみたいにね」
照井「地球の記憶の情報が損失? あり得るのか、そんなことが」
フィリップ「外部からの強い力によってならあり得る。だが、星の本棚に介入出来る存在は僕ぐらいしかいないはず。……いや、あり得るケースがもう一つ」
翔太郎「地球の記憶に介入……ガイアメモリっ!?」
フィリップ「その通り。彼女がガイアメモリ関連の何かしらの事件に巻き込まれたなら、一応あり得る」
亜樹子「そういえば、ガイアメモリの副作用で記憶喪失になった人もいるし……」
翔太郎「こりゃあ、ちょっと無視できない事態になっているかもしんねぇな」
フィリップ「もしかすれば、最近調べている例の組織とも赤坂美月は関連しているかもしれない」
照井「例のメモリ販売組織か……そっちの調査にも、もっと力を入れなければならないらしいな」
亜樹子「でも、情報がなくなってても、ある程度はあったんだよね?」
フィリップ「とはいっても、本当に些細な情報だけどね。赤坂美月。生年月日は9月30日。血液型は0型。身長160センチ。スリーサイズは――」
亜樹子「すとーっぷ! 乙女のプライバシーにかかわります!」
フィリップ「おっと、これはすまない」
翔太郎「まぁ、あいつの特技みたいなもんだ。でもそれしかわかんねぇのはきついな。手掛かりなんてさっぱりだ」
照井「それより、今後の彼女の処遇について相談したいのだが……左」
翔太郎「あん?」
照井「赤坂美月をここに置いてはくれないか?」
翔太郎「……はぁ!? ここって、事務所に!?」
照井「様子を見るに長期にわたる案件になりそうだ。だとするとずっと署に置くのも気が引ける。それに、ガイアメモリの事件に巻き込まれた可能性が否定できない以上、ここはスペシャリストに保護を任せたい」
翔太郎「ちょっ、待ってくれよ! だったら照井のとこで預かればいいじゃねぇか」
亜樹子「う~ん、でもウチはちょっと……」
照井「あー……んん」
照井「実はだな、最近、あいつが通販にはまりだしてだな……基本安いものばかりなので、そこまでお金に関しては困ってはいないのだが……」ボソボソ
翔太郎「あー……でも安い代わり、とにかくたくさんため込むってか」ボソボソ
照井「どうもな……今の現状を、他の人に見せたくないのだろう。正直、足の踏み場もない」
翔太郎「あいつ、結婚してからだらしなくなってないか?」
照井「家事は出来なくはないのだが……」
フィリップ「通信販売。店舗を介せずに消費者と業者が取引を行う販売手段。主にテレビ通販やネット通販が主流。確かに家事に時間を取られてしまう主婦にとっては魅力的なセールスだね」
翔太郎「おいこら、勝手に検索を始めるなっての。……まぁ、実際メモリ関連の事件に巻き込まれている可能性がある以上、俺も無視はしないが」
翔太郎「でもなぁ……亜樹子はともかく、美少女がここに泊りこむってのはなぁ」
亜樹子「ごらぁ!」
美月「えと……あのっ!」
翔太郎「ん?」
美月「あの、ボク、手伝えることがあったらなんでもします! ここって探偵事務所なんですよね? 推理なんて全然だけど、雑務とかだったら全然オッケーなので! 迷惑もかけません! ですので……」
翔太郎「……仕方ねぇか」
美月「ほんとですか!」
翔太郎「うぉ、なんだいきなり元気になって……まっ、こっちも手伝いが増えるのはありがてぇし。何よりこの男だけの事務所に花が増えるんだ。いいぜ、美人の頼みだったら断れねぇ」
美月「あ、ありがとうございますっ! ボク、一生懸命働かせてもらいますっ!」
美月「秘書?」
フィリップ「『探偵には美人秘書が付きもの』とマッキーが言っていた。これで探偵として顔が立つ。よかったじゃないか、翔太郎」
美月「そ、そんな、美人だなんてっ」
亜樹子「なんだろう、このあたしが来た時との扱いの差……」
照井「その……気に病むな」
亜樹子「竜君もなんだかんだで否定しないし」
照井「へ? あ、いや、そういうわけじゃ――」
亜樹子「竜君も赤坂さんに鼻のばしちゃって! きーっ!」
フィリップ「おおっ、あれがドラマでよく見かけられる、ハンカチを噛む嫉妬のポーズ! 生で見るのは始めてだよ」
翔太郎「実際にやる奴なんか亜樹子ぐらいだからな、そりゃ」
――
―
美月「ということで、今日からよろしくお願いしまーす!」
翔太郎「おお、朝から随分と元気だな」
美月「う~ん、なんというか……何か目的が出来たら、やる気とか出ませんか?」
翔太郎「なるほど、それも一理あるか。とはいっても、やることか……今まで俺だけでこなせたから、何も思いつかねぇな」
美月「なんでしょうね? 探偵の秘書なんですから……情報の資料をまとめたり、とか?」
翔太郎「も、情報面はフィリップがなんとかしてくれるところもあるしなぁ。じゃあ、コーヒー頼めるか?」
美月「あっ、はい! わかりましたっ」
―
美月「はい、インスタントですけど……」
翔太郎「おう、ありがとな。……んん~、やっぱり、男の朝はブラックに限る」
美月「そういえば、えと……フィリップさん? でしたっけ?」
翔太郎「ん? ああ」
美月「フィリップさんの姿が見えないのですけど」
翔太郎「ああ。あいつは別室で情報捜査中だ。喉が渇いたり腹がすいたら勝手に出てくるから、ほっといても大丈夫だ」
美月「はぁ……あの、ボクもコーヒー、いいですか?」
翔太郎「もちろんだ。依頼人が来ない限りやることも基本ないし、ゆっくりしといてくれ」
翔太郎「ああ。亜樹子が結婚してからはそうだな」
美月「フィリップさんと翔太郎さんって、どういう知り合いなんですか? 昔からの友人だとか」
翔太郎「なんていえばいいかな……ひょんなことから巡り合ったって感じだな。今では唯一無二の相棒だ」
美月「『相棒』かぁ、なんだかいいですねっ」
翔太郎「そうだな。なんだかんだで、あいつが一番頼りになる」
美月「へぇ。それじゃあ、この事務所はフィリップさんと知り合った時に建てたんですか? でも、それにしてはちょっと古いような?」
翔太郎「いや。この事務所自体は昔からあってな。ほら、ここの事務所名『鳴海探偵事務所』だろ?」
美月「そういえば、鳴海って名前が……」
美月「探偵の師匠! う~ん、なんか探偵小説みたいでかっこいいですね!」
翔太郎「ああ、おやっさんはそりゃかっこよかったんだぜ? 俺の目指すハードボイルドを体現していた」
美月「機会があったら是非会ってみたいなぁ」
翔太郎「あっ……」
美月「へ? えと……あっ」
翔太郎「ああ、気にするんじゃない。ただな……少し前、死んじまったんだ」
美月「あの……すいませんっ」
翔太郎「気にすんなって」
美月「あ、はい……」
美月「はい!」
翔太郎「俺はちょっと用事で出る。留守番を頼む」
美月「わかりました! フィリップさんにも伝えておきますか?」
翔太郎「大丈夫だ。後、昼食はそこのインスタントのやつで適当に済ませてくれ。すまねぇな、今度買い物するわ」
美月「でしたら料理は任せてくださいよ! ボク、料理は出来るらしいので」
翔太郎「おお、そりゃありがたいな。……ああ、あとな」
美月「はい?」
――
―
美月「時間になっても姿を表さなかったら、あそこの扉からフィリップさんに声をかける」
美月「時間になりましたし、仕方ないです……よね?」
美月「それにしても、こんなところに扉があるなんて、秘密基地みたい。ちょっとわくわくするかもっ」
美月「失礼しまーす……わぁっ」
美月「すごいっ! ほんとに秘密基地みたい! えと……フィリップさーん!」
シーン……
美月「う~ん……失礼しま~す」
フィリップ「地理情報から推測するに、本拠地はここにある可能性は高い。規模は小さいが、少し興味深い動きをしているね」ボソボソ
美月「あ、あれ? 寝て……は、ないよね。フィリップさーん!」
フィリップ「人員はこれほど。危険性はそれほどではなさそうだね――」
美月「フィリップさぁーんっ!」
フィリップ「っと。ん? どうしたのかな?」
美月「はぁ、はぁ……いや、さっきからずーっと呼んでるのに、どうも反応がなかったので……」
フィリップ「ああ、それはすまない。何かを考えたりしていると、夢中になってしまう癖でね」
美月「は、はぁ。……それにしても、すごい場所ですよね。まるで秘密基地みたい」
美月「おお、なんだか探偵っぽいっ」
フィリップ「……ところで、赤坂美月」
美月「あっ。えーと……美月、でいいですよ? 多分同年代でしょうし」
フィリップ「ふむ、そうか。なら美月。君にひとつ質問がある」
美月「はい?」
フィリップ「君は、『ガイアメモリ』という単語について何か心当たりがあるかな?」
美月「がいあ……めもり? そういえば、昨日の話にも出てましたけど……」
カチッ サイクロンッ!
美月「え? なんだろうこ――っ!?」
フィリップ「ん?」
美月「んっ……! いつっ……!?」
フィリップ「大丈夫か!?」
美月「っはぁ……あ、ごめんなさい。ちょっとなんか、めまいみたいな感じがしちゃって……」
フィリップ「思ったより疲労がたまっているのかもしれない。ソファで休みたまえ」
美月「ご、ごめんなさい。ちょっとだけ休ませてもらいます……」
フィリップ「ああ」
フィリップ(単語には反応はなかったが、実物を見た瞬間興味深い反応を示した。記憶の深層にメモリについての記憶が眠っているのか? どうも判断しがたいな)
――
―
【風麺屋台】
翔太郎「――そっか。まさか風都の外でも動いていたとはな」
ウォッチャマン「どうも外ではこそこそ怪しいことしてたみたいよ?」
翔太郎「なるほど。……で、実は別件で話があってな」
ウォッチャマン「新しい依頼?」
翔太郎「それがまた違ってな。……この少女についてなんだ」
ウォッチャマン「あらら! これ随分と美人さんじゃない! 何? ついに彼女が出来たの!?」
ウォッチャマン「記憶喪失? なんだ、ずいぶんと興味深い子ね。まるで小説みたい」
翔太郎「個人的な感想はいい。で、聞きたいことは言うのは、この子を見たことがあるかってことだ。これぐらいの美人さんだったら、知ってると思ってな」
ウォッチャマン「う~ん……これが知らないんだな、残念ながら」
翔太郎「ウォッチャマンでも知らない、だと?」
ウォッチャマン「こんな美人さんだったら一度見かけたら絶対覚えてるから間違いなし! 自分でも知らないってことは、多分この子、風都の子じゃないね」
翔太郎「そっか……」
ウォッチャマン「で、今度、この子の写真撮ってもいい?」
翔太郎「あー言うと思った。まっ、本人がいいって言ったらな」
―
翔太郎(風都の住みじゃないとなると……こりゃ調べるのに少し骨が折れそうだな)
~♪
翔太郎「うん? はい、こちら左翔太郎――照井?」
照井≪左。今いいか?≫
翔太郎「ああ。こっちは丁度捜査の切上げ時だ」
照井≪実はだな、先ほど例のガイアメモリ販売組織の本拠地をつぶすことに成功した≫
翔太郎「本当か!」
照井≪住宅街にまぎれるような場所にあったが、なんとか見つけてな。ドーパントによっての抵抗もあったが、それも倒せた。今は警察の方で事後処理をしている≫
照井≪それが……そうもいかないらしい≫
翔太郎「どういうこった?」
照井≪組織の構成員の一人に、財団Xの元ガイアメモリ研究者がいた。構成員の証言によれば、この組織で独自に新たなガイアメモリの研究を行っていたらしい。これの意味がわかるか?≫
翔太郎「つまり……その新しいメモリは、とっくに人の手に渡ってるのか?」
照井≪押収したメモリに、その詩作品メモリがなかった。そう考えるしかないだろう。メモリの詳細についてはまだ不明で、その研究員が目覚めしだい取り調べをするつもりだ。その研究員がドーパントに変身しなかったら、ここまで面倒なことにならなかったのだが……≫
翔太郎「詩作品のメモリ……かなり危ないにおいがプンプンするぜ」
照井≪警察はそのメモリを追跡し、回収するつもりだ。左の方も協力を頼みたくてな≫
翔太郎「もちろんだ。そっちも情報をつかんだら連絡をくれ」
――
―
ガチャッ
翔太郎「今帰ったぞ~」
美月「あっ! お帰りなさい!」
翔太郎「ああ――ん? なんだ、その写真」
美月「あっ、えーとですね、実は先ほど、お客さんがいらっしゃいまして……」
―
フィリップ「迷い猫の捜索か。名前はトラ。由来は虎猫なところかな」
翔太郎「ふむ。放し飼いにしていて、いつも帰ってくる時間になっても帰ってこなかった、と」
美月「目印になるアクセサリーとかも付けていないので、ちょっと手こずりそうですね」
翔太郎「それにしても、接客ごくろうさん。ちゃんんと働けてるじゃねぇか」
美月「えへへ~、どもども~」
フィリップ「美月、この猫について他に情報はあるかい?」
美月「え? えと、確かにメモにまとめてあったはず……魚が好きで、よく近所からお魚をもらっていたらしいですね」
フィリップ「ふむ、魚……」
翔太郎「居場所が分かりそうか?」
美月「フィリップさん、今なにやってるんですか?」
翔太郎「ああ、なんていうか……あいつのシンキングポーズみたいなものだ。あいつは人一倍記憶力がいいんでな。それに、ちょっとした裏技も持ってる」
美月「そういえば、昨日のあれすごかったですよね! なんでボクの誕生日とかわかるんだろう?」
翔太郎「まぁ、説明してもいいかな。あいつは今、地球の記憶の中で情報を調べているんだ?」
美月「地球の……記憶?」
翔太郎「地球規模の図書館だと思えばいい。フィリップに任せれば、地球上のありとあらゆる知識を教えてくれる」
美月「な、なんだかスケールの大きい話ですね」
翔太郎「客観的に見ればそうだな。あっ、あとこれは他の奴には秘密な?」
美月「はい、わかりましたっ」
フィリップ「……検索は完了した。商店街の鮮魚店の店主が大の猫好きで、よく野良猫に魚をあげているそうだ」
翔太郎「なるほど、そこにいる可能性が高いってわけか」
美月「すごいです、フィリップさん!」
フィリップ「何、朝飯前さ。よく猫が集まり始める時間は昼頃、明日の昼にその場所に行けば遭遇する可能性は高いだろう」
翔太郎「そんじゃあ……なぁ美月」
美月「はい?」
翔太郎「明日、俺達と一緒に風都散策でもどうだ?」
美月「案内してくれるんですか!」
翔太郎「もちろんそれもあるが、探偵事務所で働くからには、仕事場である風都のことを知らないといけないしな。それに、ずっと事務所の中でこもってるわけにもいかないだろ? たまには外に出て、気分転換も必要だ」
美月「ありがとうございますっ! 実はボク、この町のこと気になってたんですよ」
フィリップ「ほう、主にどこが?」
美月「そうですねぇ……駅前で歩いてた時、なんとなーく思ったんですよね、『この風、少し心地いいかも』って。夏場の夜でちょっとほてった体に、この町の風はすごく快適だったんですよ。優しい気持ちになれて……」
翔太郎「ほう、これは話が合いそうだな。期待しとけ、この町にはいっぱい楽しい場所があるからな」
美月「期待させてもらいまーす!」
フィリップ(ここに初めて来たときと比べ、目覚ましく元気を取り戻している。心身状態も安定している今、記憶を取り戻せればいいのだが…)
フィリップ(何より、気になるのはメモリを見たときの反応だ。あれが偶然か、それとも記憶喪失と関連があるのか)
―
フィリップ「詩作品のメモリ?」
翔太郎「ああ。情報がない以上、照井の連絡を待つしかないけどな」
フィリップ「なるほど、道理で美月を席から外すわけだ。それにしても、財団Xの研究員が協力していたとはねぇ」
翔太郎「さらにウォッチャマンによると、例の組織は風都の外でも密かに活動していたらしい」
フィリップ「風都の外で……? 少し怪しいね」
翔太郎「ちょっといや~な香りがするぜ。で、肝心な赤坂美月についてだが……おそらく風都の人間ではない。外から来た人間だ」
フィリップ「それは色々と面倒になりそうだ。風都に手掛かりがある線が薄いとなると、少し苦労しそうだね」
翔太郎「そうだな。明日の風都案内で、何か記憶が少しでも思い出せればいいんだが」
――
―
【風都大通り】
美月「ほんと、風車が多いですね」
フィリップ「風都はその名に恥じず風力発電が多いエコロジー都市、観光都市として有名だ」
翔太郎「あれが風都タワー。風都のシンボルだな」
美月「あの風車に顔をつけたようなキャラクターは?」
フィリップ「あれは『ふうとくん』。風都のイメージキャラクターだよ」
美月「へぇ、ちょっと可愛いかも。あっ、ストラップもあるんだ~」
翔太郎「よし、ならば美月にストラップをプレゼントしよう」
美月「え? いいんですか?」
美月「ありがとうございます!」
フィリップ「よかったじゃないか、男らしくかっこつけられて」
翔太郎「っておい、言葉にしちゃおしまいだろ。おじさん、ふうとくんストラップひとつ!」
おじさん「へいへい、ふうとくんね。色はどうする?」
翔太郎「色? そういえば、ふうとくんはふうとくんでも、見ないような色ばかりだな」
おじさん「最近の流行りよ~。みんなね、仮面ライダーの色をしてるの」
フィリップ「紫と緑、赤と銀、これは青と金だね! これはアクセルかな?」
美月「かめん、らいだー?」
美月「仮面、ライダー……ヒーローかぁ」
翔太郎「ま、まぁいいだろ。仮面ライダーについての新聞を後で見せてやるさ。おじさん、だったらこの緑と紫のもらえる?」
おじさん「お兄さんお目が高いねぇ! 毎度!」
美月「仮面ライダー……まるでテレビみたいですね。でも本当にいるんですか? 実際見たことないので、どうもにわかに信じがたいというか……」
翔太郎「いるいないは関係ねぇさ。でも……この町を泣かせたくないのは、みんな同じだよ。もちろん、俺もな」
フィリップ「少なくとも、仮面ライダーの存在はみんなの心の支えになっている。この町には危険な存在も潜んでいるが、それを打ち倒す存在も潜んでいる。この事実だけで人は安心してこの町で生活ができる」
美月「なんだか……そう考えると、素敵ですねっ!」
翔太郎「だろ?」
―
フィリップ「もうすぐ目的地だ」
翔太郎「確かに、猫の姿が多いような気がするな」
美月「ここの猫って人懐っこいんですね! おいでおいで~」
「ニャーン」ヒョイッ
美月「あーもう! かわいいなこのこの~」
翔太郎「美月も楽しそうで何よりだよまったく」
フィリップ「翔太郎!」
翔太郎「ん? あれは……」
美月「あの特徴的な額のハートマーク……間違いないです! トラちゃんですよ!」
「ニャーッ!」ダッ
翔太郎「おい思いっきり威嚇して逃げたじゃねぇか!」
フィリップ「おかしいな……」
美月「そういえば、飼い主以外の人には警戒して近づかないって言ったような……」
フィリップ「それを早く言いたまえ」
翔太郎「言い争いしてる場合じゃねぇ! 追うぞ!」
美月「まてー!」
フィリップ「こんなことなら、日頃から適度な運動をしていればよかった」
―
翔太郎「くそっ、路地裏に逃げ込まれた!」
フィリップ「いや、幸いあの先は行き止まりだ」
美月「絶好のちゃーんす!」
ダッダッダ
美月「ねこちゃーん――って、ありゃ?」
「ニー……」
翔太郎「おいおい、随分と高い場所にお座りになってるな」
フィリップ「様子を見るに、逃げた勢いで高い場所に逃げたのはいいが、どうも降りれなくなってしまったようだ。懐かしいな、ミックもよくこんな風に困っていたよ」
美月「どうやってあんなところまで……」
翔太郎「豆知識どうも。でもどうするよ、あんあところいくら俺でもジャンプで届きやしないぜ?」
フィリップ「僕たちが肩車しても……微妙だね。足場も不安定で非常に危険だ。一番の安全策は、梯子を持参して――」
美月「――ていっ!!」
「ニャーッ」
美月「――とっ!」
翔太郎「おおっ!?」
フィリップ「これはすごい……」
フィリップ「すごい跳躍だったねぇ。人間業とは思えない」
翔太郎「おいおい、あの距離で届きやがったぜ」
美月「あ、あはは~、自分でも届くとは思ってなかったので。正直びっくりです」
フィリップ「もしかすれば、美月はバレーボール部にでも所属していたのかもしれないね」
美月「そうかなぁ? 個人的にはバスケットボールの方が好きだけど」
翔太郎「まぁとにかく、これで迷い猫は確保。お手柄だ、美月」
美月「えへへ~!」
―
翔太郎「依頼者の家に寄ったら、すっかり日が暮れちまったなぁ」
美月「夕焼け……きれいですね」
フィリップ「この町の空は澄んでいるからね。夜は星もよく見える」
美月「素敵な町ですねぇ……ほんと」
フィリップ「……ああ」
翔太郎「そうだ! 美月」
美月「……」
翔太郎「美月?」
美月「へ? わたし……ごめんなさい。ぼーっとしちゃってました」
翔太郎「おいおい、しっかりしてくれよ? 今日、よかったら夕食を作ってくれないか?」
フィリップ「ほう、手作りか。それは実に興味深いね」
翔太郎「美人の手料理……男として、期待するしかねぇなこりゃ」
フィリップ「……」
翔太郎「フィリップ?」
フィリップ「済まない。僕も少し考え事をしていた」
翔太郎「おいおい、フィリップまでどうしたんだよ? 考え事は帰ってからにしてくれよ?」
フィリップ「大丈夫、わかっているさ」
美月「それじゃあ、お二人は先に帰っておいてください。場所は案内の時に教えてもらいましたし、道も覚えましたから!」
翔太郎「そうか? それじゃあ先に戻ってるぜ。とびっきりの待ってるぞ」
フィリップ「気を付けて戻りたまえ」
美月「はいっ!」
――
―
美月「~♪」
照井「預けてから三日経過したが、ここの雑務も身についてきたようだな」
翔太郎「今ではすっかりここの花形秘書さ。で、本題だが。ここにわざわざ来たってことは、捜査に進展があったのか?」
照井「そうだといいたいのだが……実は、それどころじゃなくなってきた」
翔太郎「事件か?」
照井「ああ。ここ最近、連続通り魔事件が発生しているのは知っているな?」
翔太郎「ああ。確か三日連続だっけか……被害者はどれも男性で、刃物でザックリだっけか。ギリギリ命に別状はなく、死者は出ていないって……ドーパントか!?」
照井「その可能性が高い。襲われた男性は全員、彼女や妻といった異性と一緒に歩いているところ、いきなり男だけが襲われている。そばにいた女性は無事だったので証言を取った見たところ、全員が共通して『怪物に襲われた』と証言している」
照井「傾向からしてそういう可能性が高い。それもカップル連れとなると……嫉妬に駆られた男性の犯行、ともとれるが、まだ確定ではないな。外見的な特徴が分かれば、対策は立てられるんだが、証言者はパニックを起こして記憶があいまいだから仕方ない」
美月「あのぉ……今話してるのって、例の連続通り魔事件ですか?」
照井「ああ。ちょっと面倒なことになりそうだと思ってな。現時点では死者は出ていないが、いつ死人が出るかわからない以上、警戒する必要がある」
翔太郎「美月も一応気を付けろよな。もしかすれば女性も襲う可能性も否定できないから」
美月「は、はい。気を付けますっ」
―
フィリップ「ふむ、刃物を扱うドーパントか」
翔太郎「それも刃渡りは体をやすやすと貫通するほどらしい。しかも、ここ三日間で随分な人数を襲ってる」
フィリップ「襲われた時間帯を見るに、翔太郎が外出している時間帯で発生している。それでも気付けなかったということは、相手はかなり素早いね」
翔太郎「大きな刃物を使う俊敏なドーパント。それも目撃者によれば、負傷者はかなり様子がひどかったらしい。生きてるのが不思議なくらいだ」
フィリップ「刃物を扱うドーパント。残虐性も確認できる……検索完了だ。おそらく、犯人のドーパントは『ジェノサイド』のメモリのドーパントだ」
翔太郎「ジェノサイド?」
フィリップ「『ジェノサイド』、意味は大量殺戮。その名の通り、使用者の残虐性を増幅させる危険なメモリだよ。使用者を『殺人』へと駆り立てる一面を持っている」
翔太郎「おいおい……てことは、使用者は問答無用で殺人者になるってわけかよ!」
翔太郎「なにより、それが犯人だったら、一刻も早く止めなくちゃな!」
フィリップ「……翔太郎。照井竜は『三日前から』連続通り魔事件は起こったって言ったよね?」
翔太郎「ん? ああ、丁度美月が来てからだから――っておい、まさか……」
フィリップ「その通りだ。僕の頭の中では、容疑者の一人として『赤坂美月』も考えている」
翔太郎「そんわけねぇだろ! あいつの様子を見てきたけど、メモリの力に侵されているようには見えなかった。なにより、そんなメモリを使ってるなら俺達だってとっくに……」
フィリップ「彼女が、ジェノサイドのメモリを使っていながら、その力を押えていたのだとしたら?」
翔太郎「それは……」
フィリップ「今のところ死者は出ていない。ジェノサイドのメモリを使っていながらだ。メモリに支配されているなら襲われた人間は必ず死んでいるはず。けど死者は出ていない。使用者にメモリの適性があるなら、それもあり得る」
翔太郎「けどよ……」
翔太郎「くっ……だが、まだ確定はしていないだろ?」
フィリップ「ああ。確かに彼女の行動は理性的で、メモリの力が干渉しているとは思えないのも事実。あくまでタイミングが合ったことで浮上した容疑者だ。けど……可能性はある程度高い」
翔太郎「その根拠は?」
フィリップ「通り魔の犯行は翔太郎が外出している時間帯に発生している。それもすべてだ。僕は基本この部屋にいるから、彼女の行動を把握しているわけではない。翔太郎が外出してしまえば、彼女は誰にも知られずにここから出られる」
翔太郎「くそっ、ますます怪しくなっちまったな……」
フィリップ「そういえば、美月は?」
翔太郎「今は買い物に行ってる。あいつ、俺達が飯がうまいって言ったのがうれしかったらしくてな。随分と張り切ってたぜ」
フィリップ「そうか……ますます疑うのが心苦しくなってきたね」
翔太郎「ん? はい、こちら左――照井? ……何!? 大通りでドーパントが現れた!?」
フィリップ「噂をすれば、か」
翔太郎「おいおい、大通りだったら美月も巻き込まれてるんじゃ……行ってくる!」
――
―
【大通り】
男「あ、ああ……来るな! 来るなぁっ!?」
ドーパント「ふん、そうやって女を見捨てて自分だけ逃げるなんて、最っ低! 死になさい!」
男「うわぁっ!?」
カンッ!
ドーパント「ん?」
アクセル「間一髪ってところか」
男「か、仮面ライダー!」
アクセル「今すぐ逃げろ!」
ドーパント「待て!」
アクセル「させるかっ!」
カンッ!
ドーパント「くっ!」
アクセル「手首から生えてる刃……お前が例の通り魔か」
ドーパント「お前が仮面ライダー……目ざわりだ! 消えろ!」
アクセル「俺は消えるわけにはいかない。仮面ライダー、だからな」
―
アクセル「はぁっ!」
ドーパント「遅いっ! はぁっ!」
アクセル「ぐぁっ!? くっ、速い……」
ドーパント「ふんっ! 貧弱な男……これだから男は」
アクセル「なぜ男ばかりを狙う? 嫉妬か? 恨みか?」
ドーパント「強いて言うなら、恨みよ! 男は女を騙して、暴力を振るって、女を不幸にする! わたしは女を助けるために男を皆殺しにするのよ!」
アクセル「では、なぜカップルばかりを狙う! 男なら風都にもごまんといるはずだ!」
ドーパント「うるさい! 速く黙りなさい!」
カンッ! キィンッ!
アクセル「ぐあっ!? 力勝負でも勝てないとは、こいつ、強い!」
ドーパント「はぁぁ!!」
「トリガーエアロバスター!」
バシュンッ! バシュンッ! バシュンッ!
ドーパント「うあっ!」
W(翔太郎)「ふぅ、間一髪だなおい」
アクセル「来てくれたか、W」
W(翔太郎)「ああ。だが……照井でも苦戦するとは、油断できねぇなおい」
W(フィリップ)「む? どういうことだ?」
W(翔太郎)「どうした? フィリップ」
W(翔太郎)「そうじゃないのか? 手首から刃も生えてるし……」
W(フィリップ)「だが、外見が大きく違う。ジェノサイド・ドーパントにはあんな大きな角は生えていないはずだが……」
W(翔太郎)「とにかく、今はあいつを倒すのが先だ!」
アクセル「そうだな。これ以上犠牲者は増やさせない」
ドーパント「そうか、お前が二人目の仮面ライダー……わずらわしい! 男はみんな消えてしまえばいい!」
W(翔太郎)「おいおい、随分と物騒なこと言ってくれるじゃねぇか」
アクセル「あいつの力と速さは油断できないぞ」
W(フィリップ)「しかしジェノサイド・ドーパントは防御力がないはずだ。そこをつけばなんとかなる」
W(翔太郎)「だったら、熱々のランチを持っていけ!」
【HEAT/METAL】
キィンッ!
W(翔太郎)「っと! 確かに力はあるが……こっちの勝ちだな! おりゃっ!」
ドォンッ!
ドーパント「ぐぅっ!?」
アクセル「俺も忘れるな、よ!」
キィンッ!
ドーパント「うぁ! こんのぉっ!」
ダッダッダッ!
W(翔太郎)「おいおい! あの角で突撃なんて洒落になんねぇぞ!」
カキィンッ!
ドーパント「はぁぁ!」
W(翔太郎)「ぐぅぅ!」
アクセル[バイクフォーム]「はぁぁっ!!」
ドゴォンッ!!
ドーパント「うがぁっ!!」
W(フィリップ)「助かった、感謝する」
アクセル「何、相手が冷静さを失っているから出来た」
ドーパント「ぐぅぅっ……」
W(フィリップ)「さっきの突撃が効いているようだ」
W(翔太郎)「なら、いっきに『ツインマキシマム』いくか?」
アクセル「それがいいだろうな。逃げられる前に」
ドーパント「こ、このぉっ!」
W(翔太郎)「これで決まりだ!」
【TRIGGER MAXIMUM DRIVE】
アクセル「これでゴールにしてやる」
【ACCEL MAXIMUM DRIVE】
ドーパント「はぁぁ!」
W(翔太郎)「俺に合わせろ!」
アクセル「了解した!」
W「トリガーフルバースト!!」
アクセル「はぁぁっ!!」
バァンッ! バァンッ! バァンッ!
ドーパント「あぁぁっ!?」
アクセル「たぁっ!!」
ドーパント「ぐぁぁぁっ!!?」
アクセル「ああ、これで通り魔も――」
W(フィリップ)「待ってくれ!」
ドーパント「ぐ、ぐぅぅ……」
アクセル「メモリブレイクされないだと?」
W(翔太郎)「ツインマキシマムを受けたのにか!?」
W(フィリップ)「いや、ダメージは充分なはずだ。だがどういうことかメモリが排出されない」
ドーパント「ぐ、ぐぉぉ!」
バシュッ! バシュッ!
アクセル「なっ!?」
W(翔太郎)「あいつ、翼生えやがった!」
ドーパント「くっ……」
バサッ バサッ
W(翔太郎)「あっ、おい! 待ちやがれ!」
カシュン ヒュゥーン
翔太郎「さすがに空を飛べられたらな。けどやばいな」
照井「ああ。おそらくまた犯行に及ぶだろう。せめて予防策があればいいのだが……」
翔太郎「せめてメモリの所持者が分かればいいんだがな」
翔太郎(メモリの所持者……か)
――
―
翔太郎「ただいま」
美月「あっ、おかえりなさい!」
翔太郎「美月! 帰ってたのか」
美月「ええ。けどさっきニュースで大通りで事件があったって聞いて不安で……。大丈夫でしたか?」
翔太郎「ああ、俺は大丈夫だ。美月は?」
美月「わたしは、事件と運よくすれ違ったので……」
フィリップ「美月。ちょっといいかな?
フィリップ「開発用の材料が不足していて、早急に買い物に行きたい。荷物持ちに付き合ってもらえないかな?」
美月「わかりました、そういうことでしたら」
翔太郎「おいおい、随分と急だな。荷物持ちだったら俺でもいいだろ?」
フィリップ「今はいつドーパントが現れてもおかしくない。だったらここで待機して、どこで現れても対応できるようにしてほしい。いざとなって一人で変身出来るのは一人なんだしね」
翔太郎「……わかった。だがドーパントが現れてもおかしくないのはそっちも同じだかんな。気を付けろよ」
美月「はいっ!」
フィリップ「では、行ってこよう」
アッー
詩作品→試作品、ですね
脳内保管をお願いします……
―
翔太郎「にしても、なぜあのドーパントはメモリブレイクされなかったんだ? ツインマキシマムを受けて無事なはずが――」
ダンダンッ
翔太郎「ん? どうぞ」
ガチャッ
柏原「あ、あの……鳴海探偵事務所でいいんでしょうか?」
翔太郎「はいこちら鳴海探偵事務所! どんな依頼もハードボイルドに解決いたします」
柏原「はぁ……」
翔太郎「で、どんなご用件でしょうか?」
柏原「っと、そうだ。えーとですね……人捜し、なんですけど」
――
―
美月「売ってるところまで、随分と遠いのですね」
フィリップ「僕の発明品は特殊だからね。その筋の店で買う必要があるんだ。それにしてもすまない。もう夕刻に入っている時に付き合わせてしまって」
美月「構いませんよ! わたしもあの事務所の一員なわけですし、好きでやってるんですから」
フィリップ「それは非常にありがたい。……そうそう、実は美月に大事な話があったんだ」
美月「大事な?」
フィリップ「実はだね。僕と翔太郎は――」
――
―
翔太郎「――おいおい、そりゃマジかよ!」
柏原「でしたら、今その人は危険です! 特に今は夕日がある!」
翔太郎「おいおい! 早く連絡を――」
ピョインッ! ピョインッ!
翔太郎「ん? ……フロッグポッド?」
フロッグポッド「――!」
翔太郎「……録音データがある?」
――
―
美月「――お二人が、仮面ライダー……?」
フィリップ「仮面ライダーW。二色の色を持つ風都のヒーローだ。ドーパントという、ガイアメモリの力を持つ怪物を相手に戦っているんだ」
美月「……すごいですね。ただの探偵さんとは思わなかったけど、まさかみんなのヒーローだなんて」
フィリップ「改めてそう言われるとうれしいものだね。ということで、事件にもあった怪物に出会ったら、迷わず連絡してくれ」
美月「ええ……そうさせてもらいます」
フィリップ「それじゃあ、早く向かおう。翔太郎が今日の夕食に待ちくたびれているはずだからね」
美月「ええ。……今日も、腕によりをかけますよ」
フィリップ「それはうれしいな――」
ブンッ!
美月「ふんっ!」
美月「なにっ!?」
フィリップ「やはり期待通りの働きを見せてくれるね、ファング」
ファング「――!」
美月「なんなのよ、そいつ!」
フィリップ「この子はファング。僕のSPみたいなものかな? それにしてもなんなんだろうね? ファングは僕の命の危険を察知しないと現れないんだけれど……それと、その左手に持っている岩はなにかな?」
美月「こ、これは……」
フィリップ「ついに正体を現したか、赤坂美月。……本当は嘘であってほしかったけど」
美月「仕方ないか……仮面ライダー、わたしの邪魔をする憎き男! ここでわたしが殺す!」
【GENOCIDE/GOAT DOUBLE CAST】
カチッ シュイーン
ドーパント「ここで死ね! 仮面ライダー!」
フィリップ「ダブルドライバー……どうやら僕も準備ができたようだ。翔太郎!」
翔太郎≪ったく、無駄に心配させやがって。『スタッグフォンが鳴ったら、ドライバーを装着してくれ』っていうフロッグポッドのメッセージ、聞いてなかったらどうしてたんだ?≫
フィリップ「心配ない。僕のメモリガジェットは優秀だからね。もちろんファングも」
翔太郎≪あまり無茶はしてほしくないが、今は説教をやってる場合じゃないな!≫
フィリップ「行くよ、ファング!」
ファング「――!!」
フィリップ・翔太郎「変身!!」
【FANG/JOKER】
W「さぁ、お前の罪を数えろ!」
【ARM FANG】
ダブルキャスト・D「はぁぁ!」
W(フィリップ)「させない! たぁっ!」
ダブルキャスト・D「ぐぁっ!」
W(翔太郎)「フィリップ! 赤坂美月についての正体が判明した! さっき美月の関係者が来てな、隅々まで教えてもらったぜ」
W(フィリップ)「赤坂美月の関係者?」
W(翔太郎)「ああ。そもそも正確には彼女は赤坂美月ではない。彼女の本名は『赤坂志穂』。赤坂美月ってのは志穂の双子の姉だ!」
W(フィリップ)「双子の姉? では本物の赤坂美月は?」
W(翔太郎)「……自殺したそうだ」
――
―――
翔太郎「赤坂美月は自殺している?」
柏原「はい。……美月と志穂は、二人暮らしをしていました。ですが、ある日姉の美月に男ができたんです。それだけなら、いい、それだけなら」
翔太郎「よくある恋愛話じゃ済まなくなった、てか」
柏原「僕も、人伝から聞いた話なんですけど……その男がたいそうひどくて、金はせびるわ暴力は振るうわ……結局それに耐えきれず別れ、美月の精神はボロボロになってしまいました。と、同時に、男に対してとてつもない『敵対意識』も美月に生まれたのです」
翔太郎「そりゃあひでぇ話だ……その男、許せねぇ」
柏原「その敵対意識は半端なものではなく、美月は一切男を寄せ付けなくなりました。……それは、妹である志穂にも飛び火しました。
妹を不幸にしまい、二の舞は踏ませない、と志穂の周囲からも男という男を跳ね除けました。志穂が誰か男性の人と少しでも接触すると、虐待すらしてしまうようになってしまったようで……」
翔太郎「赤坂美月はどんどんすさんでいった……で、その終局が、自殺か」
柏原「お風呂場でのリストカット。第一発見者は他でもない赤坂志穂。度重なる虐待でストレスがたまっていた矢先、姉の自殺現場を目の当たりにしてしまった志穂は、あまりの心的ショックによって――」
W(翔太郎)「彼女が持つ人格は専門家によると三つ。ひとつは普段の生活を過ごしている赤坂美月。ひとつは志穂に近寄る男を殺しさえもしてしまう志穂が投影した残忍な姉、赤坂美月。さらに、表に滅多にでることのない、本人格である赤坂志穂」
W(フィリップ)「なるほど、メモリ使用者に見られる感情の高ぶりが感じ取れなかったのは、メモリを使う人格が違っていたから。たびたび『ボク』や『わたし』といった一人称に違和感があったのは、人格が変わっていたからか」
W(翔太郎)「残忍な姉である赤坂美月の人格は非常に危険で、近づく男は殺すこともためらわない。おそらくメモリによって、その残忍性が増幅されてしまったんだ」
W(フィリップ)「大体理解は出来た。そして、相手がかなり厄介なこともね」
W(翔太郎)「そういえば、ジェノサイド・ドーパントとは違うってフィリップ言ってたな」
W(フィリップ)「ああ。あれは『ダブルキャスト・ドーパント』だ」
W(翔太郎)「ダブルキャスト?」
W(翔太郎)「ああ、覚えてるぜ。あのどんぶりドーパント、見た目の割に妙に強かったぜ」
W(フィリップ)「簡単に説明するなら、あれの強化版だ。『ダブルキャスト』のメモリは、ふたつのメモリの特性を合体し、一つのメモリにすることができるんだ。
まさか理論段階だったあれが完成するなんてね」
W(翔太郎)「ってことは、かなり厄介なんじゃ……」
W(フィリップ)「ああ。親子丼ドーパントみたいに、弱いメモリ同士の合体じゃない分、強力になる。しかしそのメモリの特殊性故、適正者が現れるのはありえなかったんだ。
『ダブルキャスト』は二面性のメモリ。同じ二面性を持つ人にしか惹かれないはずだからね」
W(翔太郎)「なるほど、多重人格である美月にはもってこいのメモリってわけか!」
W(フィリップ)「偶然が重なりあった結果、強力なドーパントがうまれたわけだ。合体したメモリは『ジェノサイド』と『ゴート』。
『大量殺戮』と『羊』だね。逃走の際に見た飛行能力は、羊が悪魔の象徴であるための能力だろう。『ゴート』の能力が、『ジェノサイド』の影響を諸に受けている」
W(翔太郎)「相変わらず、ガイアメモリはなんでもありだなこんちくしょう!」
W(フィリップ)「うぅっ!」
W(翔太郎)「大丈夫かフィリップ!?」
W(フィリップ)「くっ、明らかに力が増幅している。赤坂志穂に近しい男と戦っているための執念もあるが、メモリとの適合が徐々に進んできている。メモリとの適性が高すぎるんだ!」
W(翔太郎)「ってことは、暴走するかもってことか!?」
W(フィリップ)「だから、暴走する前に早く勝負を付ける!」
「その通りだ。この町で暴れさせるわけにはいかない!」
キィンッ!
ダブルキャスト・D「ぐぅ! 来たか、赤い仮面ライダー!」
アクセル「すまない、遅くなった」
W(フィリップ)「いや、また助けられたようだ。ありがとう」
ダブルキャスト・D「ふんっ! まぁ二人がかりでもいいわ! 今のわたしは誰にも止められない!」
W(翔太郎)「けど、実際厄介なのは間違いねぇし。なによりメモリブレイクされないんだぜ! フィリップ、何かいい方法はないか?」
W(フィリップ)「メモリブレイク出来なかったのは、おそらくふたつのメモリが合体している状態だからだ。方法は……ふたつのメモリを分離させて、同時にブレイクするしかない」
アクセル「そんなことができるのか?」
W(翔太郎)「同時にブレイクってのは、俺達とアクセルなら問題ねぇ」
W(フィリップ)「だが、問題なメモリの分離だ。メモリは赤坂美月のふたつの人格に依存しているはず。外から精神世界へ呼びかけるしかない!」
W(翔太郎)「言葉で語れ、か。説得あるのみだ!」
ドゴンッ!
アクセル「くっ! なんて馬鹿力だっ」
W(翔太郎)「おい! 美月! 聞こえるか!」
ダブルキャスト・D「ぴーぴーうるさいわね、この!」
W(フィリップ)「ぐあっ!」
W(翔太郎)「耐えてくれ、フィリップ! 美月! お前、この町の風は心地いいって言ってくれたな! なんだか優しい気持ちになるって!」
ダブルキャスト・D「うる、さいっ!」
カキィンッ!
アクセル「左の邪魔はさせない!」
ダブルキャスト・D「くぅっ!」
W(フィリップ)「赤坂美月! この声を覚えているかな?」
柏原≪美月? 美月か! 俺だ、柏原だ!≫
ダブルキャスト・D「柏原さん……?」
柏原≪今ちょっと探偵さんの電話を借りてるんだ。美月! お前がいきなり姿を消して、みんなが心配してたんだぞ! 部長や映研のみんな! 森崎先生もだ! みんな美月の帰りを待ってる!≫
ダブルキャスト・D「あ、ああ……」
柏原≪俺は世界で一番お前のことを心配してるつもりだ! だって、だって……≫
ダブルキャスト・D「や、やめろぉ! これ以上、あの男の声を――ぐっ!?」
W(フィリップ)「美月の人格が分離し始めている! 人格の力関係を覆そうとしているんだ!」
W(翔太郎)「美月! お前、風都の風が好きなんだろ? 何より、お前を待ってくれている人だっているじゃねぇか! なのに、なのに――」
ダブルキャスト・D「やめろって言ってるんだよぉ!」
W(翔太郎)「お前がこの町を、待ってくれている人たちを泣かせてどうするんだ! 戻ってこい!!」
シュゥゥーン
ジェノサイド・D「あ、あぁ……」
ゴート・D「あぁっ!」
W(フィリップ)「メモリが分離した!」
ジェノサイド・D「お、おのれぇぇぇ!!」
ガシッ!
ジェノサイド・D「何っ!?」
ゴート・D「翔太郎さんたちに、怪我なんてさせないっ!」
W(翔太郎)「美月! 美月なんだな!」
ジェノサイド・D「放せぇ! お前なんか、わたしでも志穂でもないただの取り繕いの人格のくせにぃ!」
ゴート・D「たとえ本当はない人格でも! 柏原さんや翔太郎さん、フィリップさんと……みんなと生きてきたから! 短い間でも、みんなと過ごしてきたから!
だから、大事な人達を守るのは当たり前でしょ!」
ジェノサイド・D「この出来そこないがぁ!!」
W(フィリップ)「おそらく彼女は気づいているのか……メモリブレイクされた瞬間、完全にメモリに寄生した人格も消えると」
W(翔太郎)「なにっ!? そ、それじゃ、美月は……」
ゴート・D「迷ったらだめ! だって、あなたたちはこの町を守る仮面ライダーでしょ! あの店のおじちゃんも、みんなも、守らなきゃいけないんでしょ! だから――」
W(翔太郎)「美月……」
アクセル「フィリップ、左。行けるか?」
ゴート・D「……伝えてください。柏原さんに。……『ありがとう』って」
W(フィリップ)「そのメッセージ、僕の本棚にしっかりと記録した。行くよっ、ツインマキシマムだ!」
アクセル「二人同時に……たたく!」
ガションッ! ガションッ! ガションッ!
【FANG MAXIMUM DRIVE】
アクセル「お前の憎しみ、恨み。……俺が振り切ってやる」
【ACCEL MAXIMUM DRIVE】
ジェノサイド・D「や、やめろぉぉ!!」
ゴート・D「……」ギュッ
W・アクセル「はぁぁ!!」
W・アクセル「ライダーツインマキシマム!!」
ズドンッ! ズドォンッ!!
ジェノサイド「いやぁぁぁ!!」
ドォォン……
―――――
――――
―――
――
―
こうして、『赤坂美月事件』は終結した。
赤坂志穂はほどなくして目を覚ましたが、その時には幸いにも残酷な姉の人格である赤坂美月はきれいさっぱり消えていたという。
……そう、もう一人の赤坂美月も。
柏原が言っていた赤坂志穂の行方不明は、例の組織の研究員の仕業だった。
名前だけ出ていた試作品のメモリ――『ダブルキャスト』のメモリの被検体として赤坂志穂を見つけ出した研究員は、
志穂が入院していた病院から半ば無理やり風都の病院に移送。
秘密裏に行うため研究員個人でやっていたところ、メモリの力によって志穂及び美月は脱走。
しかしメモリとあまりにも適性値が高く、人格の力関係が完全に変動。
治療によって抑えられ始めていた姉・美月の人格が上位となってしまう。
強大すぎるメモリの力が、本棚にも影響を与えていたとは驚きを隠せない。
やはりメモリについてはまだ未知数な点が多そうだ。
赤坂美月の記憶喪失に関して、犯人は姉・美月で間違いないだろう。
姉。美月が生活に溶け込むために、美月の人格の記憶に制限をかけていたのだ。これも解離性同一性障害の症状の一つらしい。
そしてこの事件の中心人物ともいえる赤坂志穂についての処遇であるが……これに関しては心配ないらしい。
赤坂志穂のカルテも発見、研究員が削除していた戸籍も復活。
その人物の特殊性故少しばかり議論があったらしいが、研究員の違法な実験に巻き込まれた被害者であるという点と、強制的に使用されたメモリによる犯行である点だということから、彼女自身は無罪放免となった。
しかししばらくは精神病棟でちょっとしたリハビリをしなければいけないらしい。今回は死者も出ていない、幸い後遺症が発生した被害者もいないので、比較的丸くおさまったといえよう。
猫を助けるときに見せた人間離れな跳躍……思えば、あれはメモリの力が浸食していた結果だったと推測できる。
だが、おそらく美月は……赤坂美月は、最後まで姉・美月に抵抗していた。
ジェノサイドの力を使いながら、なぜ姉・美月は一人も殺せなかったのか……。
これは、美月がメモリの力を、姉・美月を最期まで抑えていたから。
彼女がいなければ、この事件も解決できていなかったであろう……。
風都の風がいざなった、とある夏のむなしい事件だ。
フィリップ「一人の少女に宿るふたつの人格……ダブルキャストだね」
翔太郎「……プレゼントしたふうとくんが、泣いてるように見えるぜ」
フィリップ「そうかな?」
翔太郎「ほう、じゃあフィリップにはどう見えるんだ?」
フィリップ「……安堵。彼女は大事なものを守れたんだ。風都の風を愛する者として、ね」
翔太郎「……そうだな」
ダンダンッ
ガチャッ
志穂「えと……」
柏原「どうも」
柏原「はい。署での取り調べも終わったので。担当医の森崎先生のところに」
志穂「その……色々と、ありがとうございました」
翔太郎「何、俺は依頼を遂行したまでさ」
フィリップ「君たちの幸せを、心から祈っているよ」
柏原「あはは……」
翔太郎「……志穂、これを受け取ってくれ」
志穂「これって……確か風都のマスコットキャラ、でしたっけ?」
翔太郎「まぁ、俺達からの選別ってこった。……向こうでも、がんばれよ」
志穂「……ありがとうございますっ!」
――
―
フィリップ「よかったのかい?」
翔太郎「何がだ?」
フィリップ「あのふうとくん。彼女との唯一の形ある思い出じゃないのかい?」
翔太郎「……何、あいつが持っていた方がいいって思っただけだ。あれさえそばにいれば、あいつの『お姉さん』も安心して妹を見守れる……そう願っただけさ」
フィリップ「……ふぅ。慣れないことはしないほうがいいよ? まさか翔太郎が一瞬だけハードボイルドに見えてしまうとは」
翔太郎「なっ! 俺は正真正銘のハードボイルドだっつーの!」
フィリップ「はいはい」
―FIN―
保守してくれた人達に感謝感謝
PSゲーム「ダブルキャスト」、中古で発売中
乙
懐かしかった
Entry ⇒ 2012.10.13 | Category ⇒ 版権物SS | Comments (1) | Trackbacks (0)
サトシ「ピカチュウ!最大パワーで10万ボルト!」ピカチュウ「……」
サトシ「よーし!イッシュリーグに向けて今日もガンガン特訓するぞー!」
デント「んん~wwww気合い充分だね~wwサトシ」
サトシ「あぁ!早くイッシュリーグで戦いたくてワクワクしてるんだ!」
アイリス「そんなにはしゃぐなんてほんと子どもね~」
サトシ「うるさいなアイリスは」
デント「うるさいよアイリス。……あ!そうだサトシ。特訓がてらボクとポケモンバトルしないかい?」
アイリス「……」
サトシ「お!いいな!じゃあ、早速やろうぜ!」
サトシ「行くぞビカチュウ!」ダッ
ピカチュウ「……」タッタッタッ
アイリス「じゃあ、これからサトシ対デントのポケモンバトルを始めるよ!使用ポケモンは一た」
デント「さぁ、サトシ!早速始めようか!使用ポケモンは一体でどちらかのポケモンが戦闘不能の時点でバトルは終了!これでいいかい?」
サトシ「さすがデント!それでいいぜ!」
アイリス「……」
アイリス「……それじゃーはじ」
デント「じゃあ、行くよ!出てこい!マイ・ビンテージ、ヤナップ!」ポン
ヤナップ「ナップ!」
サトシ「よし、こっちはお前だ!いけ!ピカチュウ!」
ピカチュウ「……」タッタッ
ヤナップ「ナー、ププププププププ!」ププププ
サトシ「かわせ!ピカチュウ」
ピカチュウ「……」サッ
デント「逃がさないよ!ソーラービーム!」
ヤナップ「ヤーーー……」キュイイイイ
ヤナップ「ナッ!」カッ
サトシ「ピカチュウ!かわして10万ボルト!」
ピカチュウ「……」バリバリバリ
ヤナップ「ヤナー!」ビリビリビリ
デント「あぁ!ヤナップ!」
ピカチュウ「……」バチバチバチ
ピカチュウ「……」シュッ
デント「ヤナップ!あなをほるでかわすんだ!」
ヤナップ「ヤナッ!」ガゴッ
サトシ「ピカチュウ気をつけろ!どこから来るか分からないぞ!」
ピカチュウ「……」
デント「今だよヤナップ!」
ヤナップ「ナップ!」ボゴコッ
サトシ「ピカチュウ後ろだ!」
ピカチュウ「!?」バキッ
ピカチュウ「……」コクッ
サトシ「よし!10万ボルトだ!」
ピカチュウ「……」バリバリバリ
デント「ヤナップ!ソーラービーム!」
ヤナップ「ナッ!」カッ
バリバリバリ ドゴーン
アイリス「相変わらず二人共すごいパワー!二人共ー!がん」
デント「ヤナップ!タネマシンガン!」
サトシ「ピカチュウ!でんこうせっか!」
ヤナップ「プププププププ!」ププププ
ピカチュウ「……」シュッサッシュッサッ
ピカチュウ「……」ドカッ
ヤナップ「ヤナッ!?」ドゴッ
ヤナップ「ヤナッ!」コクッ
デント「ボク達の味わい深い強力なテイストでフィニッシュだよ!」
デント「ヤナップ!ソーラービームッ!!」
ヤナップ「ヤーーー……」キュイイイイ
サトシ「こっちも全力で迎え撃つぞ!」
サトシ「ピカチュウ!最大パワーで10万ボルト!」
ピカチュウ「……」
ピカチュウ「くだらんな」
デント「何がくだらないんだいピカチュウ?」
ヤナップ「ヤナ……?」ピタ
アイリス「ちょっと、一体どうし」
ピカチュウ「実にくだらん……何もかもがだ」
アイリス「……」
サトシ「具体的に言ってくれよ?」
ピカチュウ「全力」
サトシ「え?」
ピカチュウ「気合い」
サトシ「え?」
ピカチュウ「根性」
サトシ「え?え?」
ピカチュウ「そして、かわせ」
ピカチュウ「サトシ、お前は今まで何回この言葉を使ってきた?」
ピカチュウ「お前はこの軽い言葉で何回ポケモンに無理をさせてきた?」
ピカチュウ「いい加減にしてもらおうか」
サトシ「……いや、でも、俺は今まで気合いと根性でタイプの相性の壁さえ乗り越えて……」
ピカチュウ「それだよ」
サトシ「え?」
ピカチュウ「お前は気合いだの根性だのでタイプ相性の壁を無理矢理ぶち破ろうとしているが」
ピカチュウ「なぜお前はもっとそのようなことを戦いの中で学ばない?」
サトシ「……」
ピカチュウ「お前は気合いと根性で数々のピンチを乗り越えてきたと思っているだろうが……違う」
サトシ「違う?何が違うんだよ?」
ピカチュウ「主人公補正」
アイリス「主人公補正も知らないの?サトシってほんと子ど」
ピカチュウ「黙れ雌が」
アイリス「……」
ピカチュウ「話を戻す。いいか、お前は今までピンチの後に大逆転を果たして勝ったことが何回かあるだろ?」
サトシ「あぁ、毎回気合いと根性でなんとか……」
ピカチュウ「まだ言うか。……とにかく、それは少なくともお前お得意の気合いや根性のおかげではない」
サトシ「じゃあ、何なんだよ?」
ピカチュウ「それはお前が主人公だからだよ」
サトシ「主人公?」
サトシ「あぁ、でも俺と主人公って何の関係があるんだ?」
デント「(ピュアなのか単なる馬鹿なのか……わからないねぇ)」
ピカチュウ「……まぁいい。とにかくだ。お前の気合い根性論は普通は通用しない。お前は特別だからというのをよく覚えておけ」
サトシ「俺って特別だったのか……(神とかかな?)」
ピカチュウ「あぁ、そうだ。そして、お前が特別じゃなかったらさっきのバトルなんて一瞬で負けていた、ということも覚えておけ」
サトシ「つまりピカチュウの弱さを俺の特別な力で補っているのか……フフッ」
ピカチュウ「」イラッ
シリーズが変わる度にレベルをリセットされるピカチュウさん…
サトシ「えぇ!?俺は優勝する気でいるんだぜ!?」
ピカチュウ「無理だ」
サトシ「無理じゃない!気合いと根性で全力最大フルパワーでかわしまくれば……」
ピカチュウ「無理だ。ていうかさすがに詰め込みすぎだろ」
サトシ「そんなぁ……じゃあどうすりゃいいんだよ!」
ピカチュウ「まずは何でも気合いと根性で片づけようとするな。タイプ相性を勉強しろ。もちろんそれぞれのポケモンのタイプや特性も頭に入れておけ」
サトシ「そんな難しいこと考えられないよー!」
ピカチュウ「じゃあ、優勝は諦めるんだな?」
サトシ「!?」
サトシ「……したいさ。でも……」
ピカチュウ「ならば努力しろ。お前がポケモンについての知識を増やし、それにお前の今までの経験、そして俺達のチームワークが加われば」
ピカチュウ「優勝も夢じゃない」
サトシ「……分かったよ」
サトシ「俺……これから沢山勉強して……そして、必ずイッシュリーグで優勝してみせる!」
ピカチュウ「……フッ。いい心がけだ」
アイリス「その意気よ!分からないことがあっ」ドンッ
デント「分からないことがあったらボクに聞きなよ!なんたってボクはポケモンソムリエだからね!」
サトシ「ありがとうデント!遠慮なく聞いていくからなデント!」
デント「お手柔らかに」
アイリス「……」
ピカチュウ「サトシ。お前が勉強している間は、俺達もそれに見合うように自分達で特訓しているからな。頑張れよ」
ヤナップ「やれば、上がる」
サトシ「ありがとう……ピカチュウ!ヤナップ!」
アイリス「……」
それからというもの、サトシは一日のほとんどを勉強の時間にあてた
サトシ『ルリリは……水タイプだ!』
デント『ブーッ!ノーマルタイプなんだよこれが』
サトシ『えぇーっ!?』
―――――――――――――――
一方ピカチュウ達も一日中特訓に明け暮れていた
ピカチュウ『動きが遅い!そんなんじゃ、相手にすぐ捕らえられてしまうぞ!』
チャオブー『きっついわー……』ハァハァ
ミジュマル『文句言うなよ焼き豚が』
そして時は流れ──
―――――――――――――――
ワーワー ワーワー
実況『さぁー!今年のイッシュリーグの決勝戦も白熱しております!』
実況『サトシ選手対シューティ選手による決勝戦もいよいよ大詰め!』
実況『シューティ選手のポケモンは残すところあと一体!エースのジャローダのみとなりました!』
実況『対するサトシ選手は未だ六体残っております!』
実況『トップバッターのエンブオーだけで既に五体を倒しているという圧倒的な実力!』
実況『そしてなおもジャローダを追い詰めております!』
実況『シューティ選手の大逆転はあるのか!?』
シューティ「くっ……」
シューティ「(強い、強すぎる……。以前とは比べ物にならないほどの圧倒的な強さ)」
シューティ「(一体あいつに何があったんだ!?)」
エンブオー「……」ゴゴゴゴ
ジャローダ「ローダ……」ハァハァ
シューティ「(ジャローダの体力も限界に近い……。次の攻撃をまともに食らったらアウトだ……)」
サトシ「……ぞ」
シューティ「……?」
サトシ「いきますぞwwwwwwww」
シューティ「!?」
シューティ「(何だあいつ……しゃべり方がおかしいぞ……?)」
シューティ「……とにかく今はやるしかない!ジャローダ!にらみつける!」
サトシ「にらみつけるwwwwんんwwフルアタ以外ありえないwwwwwwww」
サトシ「ヤンブオー、とどめですぞwwww」
サトシ「フレアドライブwwwwwwww」
エンブオー「んんwwww」ゴオォォォォ
シューティ「かわせぇ!ジャローダぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
ドゴーーーン
シューティ「ジャローダ!」
ジャローダ「ロォ……ダ…………」ガクッ
審判「ジャローダ戦闘不能!よって勝者、サトシ選手!!」
ワアアアアァァァァァァァ
ヤトシ「やりましたぞwwwwぺゃっwwwwwwww」
ヤンブオー「んんwwwwwwww」
シューティ「……お疲れ様、ジャローダ」バシュッ
ワアァァァァァァァ
アイリス「やったわね!サト」グイッ
ヤント「やりましたなヤトシ殿wwwwwwww」
ヤナップ「んんwwwwwwww」
ヤンブオー「んんwwwwwwww」
サトシ「我はただ迷える子羊を導こうとしただけですぞwwwwwwww」
アイリス「(……なにこれ)」
アナウンス『サトシ選手。表彰式を行いますのでバトルフィールド中央におこし下さい』
ヤンブオー「んんwwwwwwww」
ヤント「胸を張って行くんですぞwwwwwwww」
ヤナップ「んんwwwwぺゃっwwwwwwww」
ワアァァァァァァァ
ピカチュウ「……」
アイリス「……」
アデク「えー、サトシ君本当におめでとう!」
ヤトシ「ヤトシですぞwwwwwwww」
アデク「ヤトシ……?ま、まぁ、とにかくおめでとう!何か一言あるかね?」
ヤトシ「じゃあ、一言だけ言わせてもらいますぞwwwwwwww」
シーン
ヤトシ「……トレーナー全員にヤーティ神の御加護があらんことを!」
ワアァァァァァァァ ワアァァァァァァァ
ピカチュウ「(どうしてこうなった)」
おしまい
最後まで見てくれて非常にありがたいですなwwwwwwww
ニャースとピカチュウのSSの続編は希望があれば近い内に書きますぞwwwwwwww
⇒ニャース「おミャーらを許さないニャ……」ピカチュウ「……」
んんwwwwwwニャースとピカチュウの続きを期待する以外ありえないwwwwwww
>>68ですぞwwwwwwwwwwwwww
Entry ⇒ 2012.10.13 | Category ⇒ ポケモンSS | Comments (4) | Trackbacks (0)
P「加蓮の親愛度がMAXになった」
P(加蓮は頑張り屋で、ちょっと身体が弱くて、でも最高に輝いてる)
P(今ではうちの事務所の顔として活躍してるけど)
P(最初の頃は本当に大変だったんだよな…)
P(社長や俺がスカウトしてきた候補生は、能力と本人の反応を見るためにしばらくレッスン場通いになる)
P(加蓮と初めて会ったのは丁度加蓮のレッスン詰め最終日)
P(一目見て惚れ込んで、社長に担当させて欲しいと頼み込んだ)
P(…今思えば、「流石だねキミィ」の意味をよく考えるべきだった)
加蓮「ん?アンタがアタシをアイドルにしてくれんの?よろしく」
P「よ、よろしく。プロデューサーのPです」
加蓮「でさ、アタシ努力とか練習とか、そういうキャラじゃないんだけど。ホントになれんの?アイドルなんてさ」
P「え、え?まあ険しい道程にはなると思うけど…やるからには二人三脚で頑張ろう、な?」
加蓮「えー…言っとくけどアタシ体力ないかんね。入院してた時期もあるし。ちゃんと休ませてよ?」
P「よろしくな、えっと、加蓮ちゃん?」
加蓮「うわ、なにそれ気持ち悪…加蓮でいいよ」
加蓮「はあ、先が思いやられるなー」
P(俺もだよ…うう、見事なまでの現代っ子…これからが心配だ…)
[同日、夕方]
ルキトレ「はい、6、2、3、4、7…ほら加蓮ちゃん頑張ってー!」
加蓮「ハッ……ハッ……あー、もう無理!休憩!」
ルキトレ「あー、もうちょっとだったのに…ダメだよ加蓮ちゃん、気合で最後までやろうよぉ」
加蓮「ハァ…ハァ…無理だってば、無理無理…ハァ…あー、喉渇いた…飲み物飲み物…」
ルキトレ「うー、加蓮ちゃぁん…」
P(でも原石としては最高の逸材だ。磨けば間違いなく輝ける)
P(それになにより、俺がこの子をプロデュースしてみたい)
P(担当を加蓮一人に絞っていいから全力でやれと社長は言ってたけど…)
P(まだ俺が加蓮のことを知らなさすぎる)
P(本人もこの程度のレッスンでかなり辛そうだし、一度ちゃんと話して心の内を聞いておかないと)
加蓮「え、わ、わ、っと…あ、レモン水じゃん!プロデューサーわかってるー♪」
加蓮「んっ…」ゴクゴク
P「ルキトレさん、今日は少し早いですけどここまでで大丈夫です。少し加蓮と話したいこともあるので」
ルキトレ「あ、はい…えっと、加蓮ちゃん、気分とか、大丈夫?」
加蓮「ん、休めば大丈夫だよ。お疲れ~」
ルキトレ「うう、それじゃ次もまた頑張ろうね?お疲れ様」
加蓮「疲れたー。やっぱしんどいよこれ」
P「そっか。じゃ、そのまま座っててくれ…っと、隣、いいか?」
加蓮「へ?と、隣?い、いいけど汗かいてるよ?」
P「構わないって、それくらい。そいじゃ失礼、と」
加蓮(構わない、って…臭わないよね?)クンクン
加蓮「うーん…なんか事務所の子達ってホント努力努力努力ーってカンジでさー」
加蓮「なのにアタシはこんなんだし、レッスンも休み休みじゃないとこなせないし」
加蓮「どうにかなんのこれ?って感じかな。あはは」
P「確かにうちの事務所は結構凄いのいるからなあ…」
P「加蓮はなんでアイドルやってみようと思ったんだ?」
加蓮「え、唐突…んー、なんていうんだろ」
P「へ?」
加蓮「あ、別にふざけてるわけじゃないよ?ほら、日高舞っていたじゃん、もう引退しちゃったけど」
P「ああ…ってまさか日高舞に憧れて?」
加蓮「うん。アタシ小さい頃から病気がちでさ。あんまり外で遊んだりできなくて」
加蓮「いつも家で遊んでたんだけど、そんなアタシのヒーロー?ヒロイン?が日高舞」
加蓮「お母さんも、『大きくなって、元気になればあんな風になれるから』とか言っちゃっててさ。アタシ、信じちゃってたんだ」
加蓮「そ。高校入って、相変わらず体弱くて、全然日高舞みたいにはなれなくて」
加蓮「あーネイルの勉強でもしようかなーなんて考えてたところで、アイドルやりませんか、とか言われるもんだからさ。ちょっと夢見ちゃった」
加蓮「でもやっぱダメだね、アタシみたいなポンコツが通用する感じじゃなさそうかも。あはは」
P「ポンコツってお前……」
加蓮「実際そうだよ。ルキトレちゃんも言ってたよ、アイドルって体力ないと務まらないって」
加蓮「アタシにはそれがないんだし、さ。根性も無いし」
P「…今も、アイドルになりたいと思ってるのか?」
加蓮「えー、実際無理そうじゃない?さっきのレッスン見てたでしょ?あれで人前に立つのは…」
P「加蓮、真面目に」
加蓮「……そりゃ、ね。夢だもん。でもお陰で現実見れたし、これで諦めつけてもいいかな、って」
加蓮「プロデューサーには付いて早々で悪いけど、そろそろ潮時ってことでもう…」
P「諦めも何も、まだ何も始まってないだろ。アイドル、なりたいんだろ?」
加蓮「なんで何度も言わせるのさ、嫌がらせ?」
P「そんなわけないだろ。加蓮をアイドルにするために、俺が知っておきたかったんだよ。プロデューサーなんだからな」
加蓮「…っ、だから無理だって、もう一週間やって分かったよ」
加蓮「アタシみたいなのはアイドルなんてなれない」
加蓮「体力もないし根性もない、そんなんじゃ通用しないって十分思い知ったって」
加蓮「もういいんだってば。帰る。さよなら」
P「おい、加蓮」
加蓮「もういいって言ってるでしょ!しつこい!」
P「待てよ、おい加蓮!」グッ
加蓮「離してよ、や、離してってば!」
P「話を最後まで聞けって!」
加蓮「っ、痛い、離して!」
P「…ごめん」
P「……俺は加蓮にこんなところで終わって欲しくないんだ。まだまだこれからだろ」
P「辛いのに、ちゃんと毎日レッスンも来てるし、根性あるじゃないか。続ければ必ずステージで輝く日が来るさ」
加蓮「…しつこいなあ。今日初めて会ったのになんでそこまで言えんの?」
P「一目見てティンときたんだよ。この子には他の子にはないものがあるって」
P「加蓮さえよければ、一緒に頂点を目指したいんだ」
加蓮「頂点って、話飛びすぎ。期待してもらって悪いけど、アタシ、やっぱこういうの無理だよ」
加蓮「去年の今頃は病院のベッドだったのにアイドルなんて目指させて貰えて、短い間だったけどいい夢見れたよ」
加蓮「いいじゃん、アタシの中で決着つきそうなんだから」
加蓮「………もういいってば……ホントしつこい…諦めさせてよ……」
P「…………加蓮はさ、目が違うんだ」
加蓮「………は?目?」
P「そう、目。アイドルはたくさん見てきたけど、加蓮みたいな目をしてる娘は他にいない」
P「アイドルってのは誰もが目が輝いてるけど、加蓮の瞳は夢を映して、こう、煌めいてて」
P「何て言うんだろうな。輝き方が違うんだ」
加蓮「……何それ、意味わかんない。口説いてるつもり?」
P「…そうだな、惚れたのかも。初めて加蓮の目を見たとき、ビビッときたんだ」
P「うん、一目惚れ、かもしれない」
加蓮「……………へ?」
加蓮「え、あ、手…」
P「お前の夢、叶えさせてくれ。俺が魔法使いになるから、加蓮がシンデレラになってくれ」グイ
加蓮「な、ちょっと…」
P「ちゃんと輝くステージに、ドレスと花を持たせて連れていくから」
P「だからさ、一緒にやろう、アイドル。二人なら出来る、約束する」
加蓮「だから、アタシはもう…」
P「今日まで一週間、辛かっただろ?でも今日からは俺と、二人でやっていこう」
P「まだ、これからだろ。スタートラインなのに、諦めるなんて悲しいこと言うなよ」
P「確かに今はまだまだ遠いかもしれないけど、だからこそのシンデレラストーリーじゃないか」
加蓮「でも、無理だよ………あたしじゃ………」
P「………できるよ。見たいんだ。加蓮の、シンデレラ。一緒にやろう」
P「舞踏会まで、俺が連れていく」
加蓮「……………本当に……?」
P「俺、これでもこの仕事では、結構評価してもらえてるんだぞ?」
加蓮「……私、すぐ疲れるよ?レッスンも活動も、迷惑かけちゃうかも」
P「それでも絶対、だ。約束する」
加蓮「二人三脚になんてならないかもしれないよ。道端でへたりこんじゃうかも」
P「そのときは肩車でもおんぶでもなんでもするさ。カボチャの馬車にだって変身してやる」
加蓮「…ぷっ、なにそれ、バカみたい」
加蓮「……ねえ、ホントに、アイドル、なれるのかな」
P「なれるよ。約束する」
P「やるって言うなら、今日この場から俺が北条加蓮のファン1号で、頂点までのパートナーだ」
加蓮「……わかった。ちょっとだけ、信じてみる」
加蓮「約束、だからね」
加蓮「ちゃんと、私の夢、叶えてね」
P「……加蓮!」ギュッ
P「うん。絶対に、絶対にお前の夢、叶えるから。明日からまた仕切り直して二人で頑張ろう」
P「…ってどうしたんだ?加蓮?」
加蓮「…あの、抱きつかれると…あたし…」
P「…あ、ははは、熱くなっちまって、つい……悪い…」
加蓮「…セクハラ」
P「う、ごめん…家まで送るから着替え終わったら呼んでくれ、外で待ってるから」
バタン
加蓮「………」
加蓮「……ぷっ、あは、あはっ」
加蓮「あはっ、だっさ、俺が魔法使い、だって、あ、あはははっ」
加蓮「しかもとんだセクハラプロデューサーだし、あはっ、ホント最悪、あは、は、は」
加蓮「自分も顔真っ赤なくせに、あは、は、カッコ、つけて、あはっ」
加蓮「しつこいし、ぷふっ、もうホント最低、っ」
加蓮「ヒッ、は、もういいって言ってんのに、あは、グスッ……ヒッ……」
加蓮「諦められると、思ったのに……ぅ、グスン、ぅぅ……」
加蓮「………ヒグッ……グスッ……」
加蓮「…グスン………私……なれるのかな………」
加蓮「…………アイドル、アイドルかあ……ひぐっ、う、うぇぇ」
加蓮「グスッ、う、う、ぅぅぅぅぅ」
加蓮「…ぁ、あ……あ……あ、あああ、」
P(あの日、加蓮がレッスン場から出てくるまで一時間待たされた)
P(ようやく出てきてから家に送り届けるまで、何度も「こっち絶対に見ないでよ」と言われたけど)
P(別れ際の「また明日ね」の声は、今でも耳に残っている)
P(これが俺と加蓮の、最初の一歩)
――――
―――
加蓮「あ、プロデューサー!今日もお迎えありがと」
P「おう、とりあえず乗った乗った、早く出よう」
加蓮「ん、何か急ぐの?今日はレッスンだけでしょ?」
P「いや、結構注目浴びてるっていうかさ…」
P「あんまり噂されたりすると、加蓮も学校でやりづらいだろ?」
加蓮「へ?うわ、ホントだガン見されてる…行こ行こ」
バタン
ブロロロロ
加蓮「普通かな。あ、今日から体育も頑張って出てるよ。先生びっくりしてた」
P「お、偉い偉い。ご飯はちゃんと食べたか?」
加蓮「朝はなんとか食べたけど…昼はちょっとしか食べられなかった。体育の後だったし」
P「それだとレッスン中に力出ないだろ。ほら、そこの紙袋のやつ食べとけ」
加蓮「はーい。今日のおやつは…フルーツサンドかー。こっちの惣菜パンは?」
P「ああ、それは俺の。ちょっと小腹が空いちゃってな」
加蓮「エビフライやきそばパン…?ね、私こっちがいい」
P「え、ええ?別にいいけど」
P「そういや言ってたな。今度からその路線の方がいいか?」
加蓮「んー、でも流石にお腹空いてないと無理だし」
P「なら欲しいときは連絡してくれ。おやつくらいならいくらでも出すから」
加蓮「はーい……んぐんぐ…ん、今日もレッスン頑張ろっと」
P「疲れとかは大丈夫か?」
加蓮「そりゃあれだけいろいろやれば疲れるけど、ね」
加蓮「ちゃんと言われたとおりに食べて、寝て、身体動かしてるから、すっごく調子はいいよ」
P「ならいいんだけどな」
加蓮「あ、それにプロデューサー、ちゃんと身体使うのと使わないのとでバランス取ってにレッスン組んでくれてるでしょ」
加蓮「ふふっ、助かってるよ」
P「その辺は任せとけ。でも頑張り過ぎは禁物だぞ?オフの日はしっかり休んで、遊ぶように」
加蓮「でも今はレッスンも楽しいし、まだまだやれるよ?」
P「他にもやりたいことあったりするだろ。押さえつけると、気がつかないうちにストレスになってくるんだ」
P「休みもちゃんと希望出して、発散すること。いいな?」
加蓮「はーい……うーん、やりたいことやりたいこと……あ」
P「ん?なんだ?」
加蓮「その、放課後デート」
P「…は!?加蓮、お前アイドルなんだから恋愛は…」
加蓮「うん、わかってる。そもそもそんな相手いないし」
加蓮「でも、Pさんならプロデューサーだからさ、その…」
加蓮「えっと、うわ、恥ずかし、何て言うか、その」
P「……」
加蓮「えっと、とにかく私ちゃんと休みとるからさ、Pさんも同じ日に、だって二人で頑張るって決めたんだから」
加蓮「二人で一緒に休んで、その…」
P「はぁ…」
P(加蓮の放課後なら仕事は早上がりさせてもらえば事足りるし…)
加蓮「……」
P「加蓮」
加蓮「ぅぅ…ご、ごめ」
P「来週の金曜な」
加蓮「!」パァァァ
P(純情、だなぁ…)
P(この頃の俺の担当アイドルは加蓮一人に絞られていた)
P(だから加蓮の育成に全力を注ぎ込むことができた)
P(送迎もレッスンも営業も、全部俺の担当で)
P(たまにオフを取っても、何らかの形で加蓮と一緒にいた)
P(忙しい日が続いても、加蓮は弱音一つ上げなかった)
P(仕事も順調、アイドルランクは一度上がり始めたら勢いが止まらず)
P(お互い、パートナーとして成長していった)
――――
―――
P「…」カタカタカタ
加蓮「…」ジー
P「…うーん……」カタカタカタ
加蓮「…ふふっ」
P「…」カタカタカタ
みく「…」ジトー
加蓮「ねえプロデューサー。そろそろいい時間だよ」
P「え?うわ、もうこんな時間か。ごめん、待ってたのか?」
加蓮「うん、プロデューサーがお仕事するの見てた」
P「そっか。よし、それじゃ今日はここで切り上げるかな。飯行こうか」
加蓮「ん。えっとね、今日は…」
みく「…Pチャン?」ジトー
みく「うん、お疲れ様…Pチャン、加蓮がずっと見てたっていうのにノーコメントなの?」
P「いつものことだし」
みく「に、にゃ…きょ、今日は加蓮とご飯の約束してたり?」
P「いや、別に」
みく「…じゃあなんで自然と一緒に食べに行く流れなの」
P「まあ、いつもの流れだし」
みく「…これもいつも!?いつも一緒にご飯食べてるの!?Pチャンみくの担当してた頃はいつも『早く帰って寝なさい』だったにゃ!?」
P「あの頃は忙しくてだな…」
みく「行く!Pチャン、みくはお肉を要求するにゃあ!」
P「回転寿司ならまだ開いてるかな?いいか?」
みく「Pチャン!?ひどくない!?」
加蓮「プロデューサー、私はどこでもいいよ」
みく「にゃ!ならそこのファミレスがいいにゃ!お肉お肉~♪」
みく(Pチャンと加蓮、仲良すぎにゃあ…ふふん、たまにはみくも構ってもらうにゃ!)
ゴチュウモンウカガイマース
みく「ガーリックステーキのデラックスセット!あと食後にストロベリーバナナパフェ!」
P「みくはこっちの焼き魚定食の方が…」
みく「はぁぁ?お断りにゃ!Pチャンの奢りだし、みくは贅沢するにゃ!加蓮はー?」
加蓮「んーっと、えっと…このアンガスバーガーのバッファローウイングセットで」
P「ん、じゃあ俺は野菜スープとシーザーサラダで」
みく「か、加蓮すごいの頼むね…」
加蓮「あはは…色々反動でね、ジャンクフード好きなんだ。こういうところ来ると、つい、ね」
みく「それに比べてPチャンはダイエット中かにゃ~?むふふ、みくを蔑ろにした罰としてお肉見せびらかしの刑にゃ~♪」
P「はいはい、食べ終わったらちゃんと歯磨いてブレスケアしろよ。明日ニンニク臭くなるぞ」
みく「え…ひどくない…?」
みく「ん~~やっぱりお肉は美味しいにゃ~~♪」ハグハグモグモグ
加蓮「ん……Pさん」
P「もういいのか」
加蓮「うん、意外と重くって」
P「そっか。じゃ、ほい」
みく「…!?」
みく(示し合わせたように頼んだもの交換…え、まさかお互い最初からそのつもりで頼んだの!?)
みく(というかそのハンバーガー、加蓮直接かじってたにゃ!?)
加蓮「あ、Pさんフォークとスプーンも」
みく(え、普通新しく頼まない?あと呼び方Pさんに変わった?)
加蓮「この間のカフェのとか酷かったもんね。あ、そのバッファローも割とよくない?」
P「うーん、ちょっと甘い気が…」アーダコーダ
みく(な、何コレ…)
ストロベリーバナナパフェノオキャクサマー
みく「あ、はい…」
P「加蓮はデザートいらないのか?」
加蓮「うん、今はいいよ」
P「そっか」
加蓮「ん、ありがと」
みく(アカンなんやこの空気アカンアカン)
P「みくはよく食べるなあ。ほら、加蓮もこれくらい普段から食べればもっと…」
加蓮「最近は頑張ってるよ。ほら、この間だってさ」
みく「に、にゃー!PチャンPチャン!!並んでる人いるし、食べ終わったらさっさと出よ!…んっんっんっ…ごちそうさま!ささ、早く出るにゃ!」
P「え?お、おう、それじゃ会計してくるか。みく、3000円な」
みく「に゛ゃ!?」
P「ぷっ、相変わらずいい顔するな。冗談だよ、車乗って待ってな」
加蓮「みく、Pさんと仲いいよね」
みく「え、加蓮がそれ言う?加蓮こそ入り込めないくらいPチャンと仲いいにゃ」
加蓮「ふふ、そうかな…でもPさんもさっきから酷いことばっかり言って」
みく「前からあんな感じだよ?みくもあれくらいでじゃれるのが丁度いいにゃ~♪」
加蓮「そっか。……みくはさ、Pさんが担当外れたとき、どうだった?」
みく「うーん、いろいろ思うことはあったにゃあ。でも最後はにゃんていうか、よかったー、って感じが一番強かったかにゃ」
加蓮「え?みく、Pさんのこと嫌いだったの?」
みく「そんなわけにゃいでしょー」
みく「……でもあの頃のPチャン、いつも死にそうな顔してたし」
みく「みくたちのためにやりすぎなくらい頑張ってたにゃ。いつもボロボロで、ちひろが救急車呼ぼうとしたこともあったにゃ」
みく「だからみくたちのLIVEが上手くいって、やっとの思いで出したCDが成功して」
みく「ちひろが新しいプロデューサーが雇えるって教えてくれたときは、寂しいっていうよりも、安心したかも」
みく「結果的にPチャンはみくの担当からも外れちゃって、仕事終わりくらいにしか会わなくなっちやったけど」
みく「もうボロボロのPチャンを見なくていいなら、みくはそれで嬉しいよ」
みく「……ふふーん、みくはいいオンナだにゃ?」
みく「魔法使い?」
加蓮「うん、みくも最初に言われたでしょ?俺が魔法使いでお前がシンデレラ~ってやつ」
みく「へ?何の話?」
加蓮「え、ちょっと待って、みんなに言ってたんじゃないの…?」
みく「…加蓮?もしかしてこれはのろけ話かにゃ?」
加蓮「あ、ウソ、ウソ、なんでもない、なんでもないよ。あ、ほらみく、Pさん来たよ」
みく「む!Pチャン!!Pチャンは魔もごごごご」
加蓮「わー!!わー!!」
P「お前ら仲いいなあ。あ、みくには歯磨きガムとミント買ってきたぞ」
みく「に゛ゃぁぁぁ!!Pチャンがいじめるに゛ゃぁぁぁ!」
P「みくー、着いたぞー」
みく「にゃ、Pチャンお疲れ様!」
P「みくもお疲れ。早めに寝るんだぞ」
みく「みくは夜行性にゃ!夜はこれからだにゃ!お断りにゃ!」
P「にゃあにゃあうっさいにゃあ!」
みく「に゛ゃぁぁぁぁ!もうやだみくおうち帰る!!」
P「おう帰れ!それじゃみく、おやすみな」
みく「にゃ!おやすみPチャン、加蓮」
P「今日はちょっと遅くなっちゃったな。加蓮、親御さんに電話を…」
加蓮「デザート」
P「へ?」
加蓮「どこでもいいから、ちょっと寄ろうよ。お話したい気分」
P「仕方ないなあ。駅前のシュークリームでいいか?」
加蓮「ん、いいよ。人前で、って感じでもないし」
加蓮「ね、Pさん。いつもありがとう」
P「なんだ急に改まって。なんかあったのか?」
加蓮「みくに昔話聞いた。そしたらなんか、溢れだしてきちゃって」
加蓮「ホントに、ホントに感謝してるよ」
P「…なら俺もありがとう。加蓮のお陰で毎日充実してるよ」
加蓮「うん…まだ全然言い足りないや。Pさん、私、Pさんに育ててもらって幸せだよ」
加蓮「今の私は、何から何までPさんのお陰」
加蓮「私の夢、拾い集めてここまで連れてきてくれて、ありがとう」
P「…なんか恥ずかしくなってきた」
加蓮「ふふ、茶化さないでよ。あのね、Pさん、私絶対にPさんの努力にも期待にも応えるから」
加蓮「だから、これからもずっとよろしく、ね?」
P「…当たり前だ。加蓮は俺の自慢のアイドルなんだからな」
加蓮「ふふっ、Pさんも私の自慢のプロデューサーだよ」
加蓮「うーん、どうすればこの気持ち、もっと伝わるかなぁ」
P「これ以上言われると俺が逆に恥ずかしいってば…」
P「ん?どうし…」
加蓮「ぎゅー」
P「お、おい加蓮!?」
加蓮「私から抱き付くのは初めてだね。ふふっ、でもこれが一番いいかも」
加蓮「Pさん、いつもありがとう。大好きだよ」
P「…うん、明日からもよろしくな、加蓮」
加蓮「もー、そうじゃなくて…ううん、やっぱりそれでいいや」
加蓮「ねぇ、次からありがとうって言う代わりにぎゅーってしてもいい?」
P「だーめ。人の目考えなさい」
加蓮「ちぇー。あ、じゃあ人目のないときだけにする。それより時間、そろそろ帰らないと流石にヤバいかも」
P「…はぁ…よし、それじゃ出ますか」
加蓮「うん。よろしくね、私の魔法使いさん」
P(そんな加蓮が倒れたと聞いたときは目の前が真っ白になった)
――――
―――
凛「そ、プロデューサー昨日はずっと上の空でさ」
奈緒「加蓮ガー加蓮ガーって聞かなかったんだぞ!ずっと『ううう加蓮、ううう』って、ぶふっ、思い出したら、ぷぷぷ」
凛「もう熱は大丈夫なんだよね?」
加蓮「うん、明日からは現場に戻れそう。ただの風邪なのに…ホント大袈裟だなあ、プロデューサーったら」
凛「今日は午前で切り上げて、お見舞いに来るってさ」
奈緒「プロデューサーに会ったらまた熱でちゃうんじゃない?」ニヤニヤ
加蓮「もう、そんなことないってば」
凛「それじゃ私たちは仕事に戻るから。お大事にね」
加蓮「うん、わざわざありがとう」
奈緒「がんばれよー」ニヤニヤ
加蓮「もー!頑張らないから!」
P『もしもし加蓮?大丈夫か?一応お見舞いにと思ってな、家の近くまで来てるんだけど』
加蓮『あ、うん、鍵開いてるから上がっていいよ。部屋は階段上がって左ね』
P『鍵開いてるってお前、危ないだろ…』
加蓮『さっきまで凛と奈緒が来てたの。上がるときに閉めといて』
P『無用心だぞー…ってご両親は?』
加蓮『仕事』
P『…そっか。それじゃ上がらせてもらうな』
加蓮「大丈夫だってば、何度もメールしたでしょ?Pさんこそお仕事大丈夫なの?」
P「はは、全然手がつかなくてさ」
P「ちひろさんに『あとは私がやるから今日はもう上がって下さい!』って言われちまった」
加蓮「もう、ホント心配性なんだから」
P「仕方ないだろ?身体弱いってお前が昔散々…」
加蓮「だからちょっと風邪ひいただけだってば。大げさ」
加蓮「……ね、それじゃ今日はもうお仕事戻らないの?」
P「今日は戻ってくるな、ってさ。だからこの後は家かな」
加蓮「そっか。ふふっ、それじゃ今日は一緒にゆっくりしよ?」
加蓮「ホントに大丈夫。それより一人でぼんやりしてる方が辛いよ。だから、ね?」
P「ならちょっとだけ、な。ほい、これ差し入れ」
加蓮「わ、ありがと!うわ重い…プリンにヨーグルトにジュースに…ふふっ、こんなに食べられないよ」
加蓮「でも私の好きなものばっか。流石私のPさん」
P「昼ご飯は?食べたか?」
加蓮「ううん、お母さんがお粥作っておいてくれたはずだけどまだ食べてない。ちょっと食欲湧かなくて」
P「取ってこようか?ちゃんと食べないとだめだぞ」
加蓮「久しぶりにそれ言われたかも…ふふ、それじゃあお願いするね。たぶん台所にメモがあるから」
加蓮「ん、ありがと……ね、Pさんが食べさせてよ」
P「お前なあ…」
加蓮「食欲湧かないのー。でもPさんがあーんってやってくれれば食べられるかもー」
P「全く…加蓮、お前来年17だろ?」
加蓮「来年17で今年16の年頃の女の子だもーん」
P「……お前……はぁ」
P「ほれ、あーん」
加蓮「え、やってくれるの?やった!あーん」
P「………今回だけだぞ。もう一口。ふーっ、はいあーん」
加蓮「あーん…ん、ふふ、幸せかも」
P「だーめ。今日は布団でじっとしてなさい」
加蓮「えー、折角Pさん来てるのに…あ、それじゃ奈緒から借りたアニメ一緒に見よ?ほらこれ、なんか夏の感動作なんだって」
P「それくらいならいいか。でもこの部屋、テレビは見当たらないけど」
加蓮「ベッドの下にノートパソコンがあるの。ん、よっと。で、ほら、横に座れば一緒に見れるよ」
P「……加蓮、流石に俺がベッドに上がるのは」
加蓮「いいじゃん、事務所のソファで一緒にライブのビデオ見るのと変わらないよ。ほら、こっちこっち」
P「スーツのままだし汚いぞ?」
加蓮「Pさんなんだから気にしないよ。ほら、早く入ってくれないと寒いー」
P「……ああもういいや、後で文句言うなよ。お邪魔します」
加蓮「ん、いらっしゃい。あ、足ちょっと曲げて?…よっ、と」
加蓮「ふふっ、あったかい。それじゃ、観よ?」
加蓮「こういうシャツ、杏が好きそうだよね」
P「無気力な若者の間のブームなのか…?」
~~~~~~~~~
P「なあ加蓮、この子加蓮にちょっと」
加蓮「………この子の名前で呼んだりしないでね」
~~~~~~~~~
加蓮「うわ、この人ヤバい変態なんじゃ…Pさん?」
P「」スヤスヤ
加蓮「もう、Pさんったら…」
P「zzz」
加蓮「ほら、枕使っていいから。んー!よっと、それじゃ私も」
加蓮「…うわ、近い…」
P「スヤスヤ」
加蓮「………」
加蓮(ちょ、ちょっとだけ)
ぎゅっ
加蓮(うわ、いつもと全然違う。すっごいいけないことしてる気分)
加蓮(Pさんの体温、すごく感じる…なんか、Pさんに包まれてるみたい)
加蓮(…もっと近くに……)
加蓮「………あ」
加蓮「…P、さん…」
加蓮(……ごめんね、Pさん。ダメだってわかってるのに)
加蓮(我慢、できない)
チュッ
加蓮(………やっちゃった……でも、今凄く………)
加蓮(も、もう一回)
チュ
加蓮(頭、じーんってする)
加蓮(……だめ、止まらない)
加蓮(Pさん、Pさん、Pさん)
加蓮(もう一回)
加蓮(もう、一回)
チュ チュウッ
加蓮「Pさん…………………あ」
P「………加蓮」
加蓮「あ、Pさんごめんなさい、あ、その、ちが、ん、んっ」
加蓮「……Pさん?」
P「加蓮……」チュ
加蓮「っ、ぷはっ……」
加蓮「あ、あのね、Pさん。私、私ね」
P「……ごめん、加蓮。これ以上は、その、ダメだ、とういか俺もダメだな。ごめん」
加蓮「Pさん、私は」
P「加蓮」
加蓮「………」
P「加蓮の夢は俺の夢だから。ここで魔法を切らしちゃダメだ」
加蓮「あ……Pさん、ごめん。私勝手に……」
P「……俺も、嬉しかったよ。でも、俺はこれからも俺加蓮と一緒に頑張りたいから」
加蓮「……うん。ホントにごめんなさい。なんか、勝手に盛り上がっちゃって」
P「俺からもしちゃったしおあいこ。だからこれ以上の言い合いは無し」
加蓮「うん。私、ちょっとおかしかった。ごめんね」
加蓮「なんか、ちょっと、不安で、さ」
P「……不安?」
加蓮「うん。こうして病気でベッドにいるしかない、って久し振りだったから」
加蓮「凛と奈緒が来てくれて、でもお仕事行っちゃって。なんかすごく置いて行かれた気分になって」
P「加蓮………」
加蓮「そしたら、そしたら……その、Pさんも、遠く感じちゃって。すごく怖くて………」
P「………大丈夫、一緒にいるよ。約束しただろ?」
加蓮「うん………でもいつか私がアイドル辞めたら、いつかPさんがプロデューサーやめたらって、考えちゃって」
加蓮「でも、Pさんが、すぐそこにいて、すごくあったかくって。だめだって分かってたのに」
P「加蓮」
加蓮「私、ずっとPさんと一緒がいい。ごめんね、アイドルなのに、こんなこと言って」
ぎゅー
加蓮「……Pさん?」
P「俺も、感謝してるよ。加蓮が頑張ってくれるから、俺も頑張れる」
P「……明日から、またお仕事、頑張ろうな。一緒に」
加蓮「……うん。ありがとう。頑張る」
加蓮「……私、単純だなあ。Pさんがぎゅってしてくれるだけで不安なんて吹き飛んじゃうみたい」
P「今回だけだぞ。もう倒れるのは本当に勘弁してくれよ?」
加蓮「ふふっ、凛と奈緒から聞いたよ。『ううう~加蓮~』、だって?ふふっ」
P「げ……とにかくちゃんと体調悪くなる前に休んでくれよ?本当に心配だったんだぞ。最近休んでなかっただろ?」
加蓮「うん、気を付けます。そうだね、最近お仕事が楽しくって、休むのすっかり忘れてたかも」
P「全くお前は……まぁ、頑張り屋なのは加蓮のいいところだからな。前も言ったけど、頑張り過ぎないように」
加蓮「…ね、Pさん。またお休みちゃんと取るから」
P「うん?」
加蓮「もう、その、さっきみたいなことは無いようにするからさ」
加蓮「また、こっそりデート、連れていってね?」
P(そして加蓮を、約束の舞踏会まで連れてこれたと実感できたのが)
P(夢のステージでのLIVE)
ワーワーワーワーワーワー
パチパチパチパチパチパチ
加蓮「はぁ、はぁ、凛、奈緒、やった、やったね!」
奈緒「やべェ、すッッッげェ楽しかった!夢みたいだ!」
凛「すごい、まだ、拍手、して、くれてる…やった、大成功、だね」
P「三人ともお疲れ!最高だったぞ!ほら水飲め水」
奈緒「んっ、んっ……あー、アイドルやっててよかったなァ」
凛「ぷはっ……本当に、ね。しかもこの三人で一緒にLIVEなんて、夢みたいかも」
加蓮「Pさん、また三人でできる!?できるよね!?」
P「そうだな、ユニット化も社長に打診してみるよ」
P「よし、風邪ひく前に着替えてこい、一息ついたらスタッフさんに挨拶行くぞー」
奈緒「お、そうだ加蓮行け行けー!」
加蓮「え、いいよ、ちょ、なんで今」
P「ん?どうかしたのか?」
加蓮「もー……えっとね、Pさん……」
加蓮「その、私、シンデレラに、なれたかな」
P「……ああ、どこに出しても誇れる、立派なお姫様だよ」
加蓮「ふふっ、ありがとう……うん、シンデレラになれたなら、言わないといけないことがあるんだ」
P「ん?なんだ?」
加蓮「……私ね、ガラスの靴……」
P「?」
加蓮「舞踏会が終わったら、ガラスの靴持って、会いに行くから」
加蓮「魔法が解けるときまで」
加蓮「魔法が解けた後も」
加蓮「一緒に、その、いて欲しいな、って」
奈緒(うわ、聞いてる方が恥ずかしくなってきた、なんだこれ…加蓮乙女すぎだろ……)
凛(顔真っ赤…)
奈緒「ほら、P返事………ってオイ、泣いてんのかよ!」
凛「プロデューサー、加蓮がこんなに勇気出して言ったんだから」
加蓮「……ううん、凛、奈緒、いいんだよ。ほら、着替えに行こ?」
凛「え、加蓮?ちょっと、プロデューサー!?」
奈緒「加蓮、いいのか?」
加蓮「うん。Pさん、また後でね?」
P「………おう」
奈緒「ああもうなんだよ、とびっきり恥ずかしい告白にとびっきり恥ずかしい返事が聞けると思ったのになァ」
凛「加蓮、本当によかったの?」
加蓮「うん。こうなるかなって、思ってたし」
凛「……どういうこと?」
加蓮「その、前にPさんが看病に来てくれた時にね」
奈緒「ああ、こないだのアレ」
加蓮「うん。その時に私がちょっと、その、迫っちゃって」
奈緒「え、ええ!?本当に頑張っちゃったのかよ!?」
加蓮「……うん。で、そのときはその、キスだけだったんだけど」
凛「え、えぇ!?き、キスしたの!?」
奈緒「ああ、加蓮が遠くに…」
加蓮「うん…でもそれ以来、Pさんそういうことに対して厳しくなっちゃって」
加蓮「あ、バレてた?でも手も繋いでくれないし、あんまり抱きつかせてもくれなくなっちゃって」
凛(オフの日毎回一緒で、その度デートプラン相談してたじゃん…名前伏せてたけど)
奈緒(あんまりって結局抱きついてんのかよ)
加蓮「でも、こんな感じのこと言うとやっぱりちょっとはぐらかされちゃって」
加蓮「今回ほどハッキリ言ったことはなかったけど……返事もらえるとも思ってなかった、かな」
奈緒「まあ、加蓮がいいなら…でもなあ」
加蓮「ごめんね、背中押してもらったのに」
凛「……まぁ、アイドルだし、ね」
奈緒「Pもプロデューサーだしなー。どう見ても両想いなのに」
凛「ふぅん……ね、加蓮、目元ちょっと滲んでるよ?」
加蓮「あ、え、嘘!挨拶行く前に直さないと!奈緒、私のポーチ取って」
奈緒「んー……あれ、なんかゴツいな。何入れてんだ?ほいよ」
加蓮「え?そんなに物入ってたっけ…」
ゴソゴソ
加蓮「?あれ、これ……」
凛「……加蓮?何その箱?」
加蓮「わかんない……でも、なんか……」
パカッ
凛「それ、指輪だよね?……箱に何か書いてある?」
加蓮「蓋の裏に何か………イニシャル?あ、やっぱりPさんからだ!」
加蓮「ふふっ、綺麗な指輪……あとは……えっと、Mors Sola?なんだろ、ブランドの名前?」
奈緒「え?え、ええ!?」
凛「奈緒、わかるの?」
加蓮「どういう意味?」
奈緒「そ、その……ラテン語、でさ」
加蓮「?」
奈緒「……『死が二人を別つまで』」
奈緒「いや、多分だけどな?」
加蓮「え、ねぇ、どう意味!?」
凛「……ほら、結婚式で言うやつ」
奈緒「加蓮の告白が恥ずかしいと思ったら、更に上行きやがった…」
加蓮「え!?え、えええ!?じゃあこの指輪って……え、うわ、嘘、わ、私どうしよう!?」
凛「もうお互い伝えたいこと伝えたんだからいいんじゃないの?おめでとう、加蓮。結婚式には呼んでね」
奈緒「あ、アタシも呼べよなー」
加蓮「え、わ、わかった、ちゃんと呼ぶ!あ、私、Pさんのとこ行ってくる!」
凛(茶化したつもりなのに…)
奈緒(完全にその気かよ)
加蓮「で、でも」
奈緒「それに外には記者とかいるんだぞ、指輪片手にうろうろしてたらまずいだろ」
加蓮「うう…でも、でも」
凛「まだやること残ってるんだから、プロデューサーのところ行くのはそれから」
加蓮「……うん、そうだね。……ふふっ、Pさん……」
凛「……あと指輪もしまって。見つかったらまずいし、ニヤケ顔治らないよ」
凛「はい着替えて。そしたらメイク直すよ。奈緒右目やって、私が左目」
加蓮「……はーい」
加蓮「……着けちゃダメ?」
凛「ダーメ。その時が来たら、Pさんに着けてもらいな」
加蓮「あ、それいいかも。そうしよ。ふふっ」
奈緒「にしても、『死が二人を別つまで』かぁ。ちゃんとさっきの告白の返事になってるんだよなぁ」
奈緒「図らずしてこれだよ、両想いどころか以心伝心じゃん」
加蓮「……えへへ、そう、かな」
凛「はーい、そうだよそうだよ。ほら、着替えたらそこ座って」
凛「落ち着いた?」
加蓮「うん。ありがと、凛。奈緒も」
奈緒「あー甘ったるい。砂糖吐きそ」
凛「もう飛び出して行かない?」
加蓮「うん、大丈夫。あのね、今度私からも指輪贈ろうと思う」
奈緒「まぁ、そういう指輪だしな。こっそりやれよ」
加蓮「うん。でもとりあえず、私はアイドル、やり切らないと。私の夢、Pさんの夢だもん」
加蓮「ちゃんと一花咲かせて、いつかステージ降りて、それから普通の女の子になって」
加蓮「それからも、ずっと一緒だもん、ね」
すごい砂糖吐きたい気分
Entry ⇒ 2012.10.12 | Category ⇒ アイマスSS | Comments (2) | Trackbacks (0)