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春香「冬本番ですね。」 P「ああ。」
テレビから流れる天気予報を聞きながら、Pは窓の外に目をやる。
冬特有の澄んだ空を、下弦の月に照らされた雲が足速に流れて行く。
吹き抜ける風はとうに温かさを失い、肌寒く感じる季節になっていた。
P「いよいよ冬だな。」
今夜は冷え込みそうだ。
内心にそう思いながらも、疲労から来る眠気には打ち勝つことができず、5分と経たず寝息を立て始めた。
千早「お疲れ様でした。」
真「お疲れ様でしたー。」
二人がやや疲労の混じった声で挨拶を一つ残し、事務所を後にする。
春香「ふぅ。私も今日の仕事はこれでおしまいかな。」
いつも通りのハードなレッスンと明日のドラマ収録に向けた台本読みを終えた春香は、手に持った紅茶を一気に流し込んだ。
とうに温かみを失っていたその紅茶は、喉に焼け付くような感覚を残して胃の中に収まった。
P「お疲れさま、春香。」
春香は空になった紙コップをゴミ箱に放り投げ、とことことプロデューサーに駆け寄る。
春香「プロデューサーさんはまだお仕事ですか?」
春香「じゃあちょっと相談に乗ってもらってもいいですか?」
P「ああ、もちろん。なんだ?」
春香「ここの主人公の台詞なんですけど、感情の込め方が…」
P「なるほど。それならいっそ…」
一枚の紙を二人でのぞき込み、ああでもない、こうでもないと議論を重ねる。
一緒に仕事をこなしてきた年数はまだ浅い二人であったが、その様子にはさながら長年連れ添った夫婦のような阿吽の呼吸が見て取れた。
春香「なるほど…結構分かってきました。ありがとうございます。」
一通りの相談を終えた春香はにっこりと微笑んでお礼を述べる。
P「ああ。また相談があったらいつでもしてくれ。」
つられてPも口元に笑みを浮かべる。
8時を告げる時計の鐘が鳴った。
二人は示し合わせたように柱にかけられた時計を見やる。
P「もう8時か… そろそろ帰らないとな。」
春香「そうですね。」
先ほどまで事務所を目映いオレンジに染め抜いていた太陽はいつの間にか空から姿を消し、変わって小さな月が頼りなさげに輝いていた。
春香「もう冬ですけどね。」
話の片手間に帰宅準備を進めながら、くすくすと笑いあう。
P「よし、行こうか。」
春香「はい。」
軋む扉を開けると、室内のなけなしの暖と入れ替わりで寒風が吹き込んできた。
少し前まで沈丁花の香りを運んでいた夜風も、今は鼻腔を刺すような冷たい匂いをのせている。
P「なぁ、春香。」
春香「なんですか?」
P「今日は、歩いて帰らないか?」
春香「えっと 私はかまいませんけど。」
P「よし。じゃあちょっと道をいつもと変えようか。」
春香「お散歩ですか?」
P「まぁそんなところだ。」
今日もその例に漏れず、春香はPと共に帰宅する。
春香(どうして今日は歩きなんだろう?)
春香(よく分からないけど、たまには歩くのも悪くないよね。)
春香(でも夜に二人で…お散歩…)
それを包み隠してくれた夜の闇に春香は感謝をした。
P「どうした、春香。黙り込んで。」
春香「えっと なんでもないですよ、あはは…」
顔を合わせることすら気恥ずかしく感じられ、少しだけ俯く。
時折横を走り抜ける車のヘッドランプが二人を照らしだし、地面に揺れる影を描く。
真っ黒なキャンバスに描かれたその男女の影は、一つの芸術作品のような雰囲気を放っていた。
春香(夜って、綺麗なんだね…)
P「春香。」
春香「はい。」
P「たまには歩いてみるのもいいだろ。」
春香「そうですね。こんなに夜道が綺麗だなんて、知りませんでした。」
満足げな表情を浮かべる二人。
春香「もしかして、その為に今日歩こうって誘ってくれたんですか?」
P「まぁな。最近春香忙しそうだったし。それも理由の一つ。」
P「いや、気にしないでくれ。」
訝しげな表情の春香をよそに、Pは歩調を少し早める。
P「そういえば、この前言ってたケーキ屋ってここら辺だったよな?」
春香「あそこのモンブランは絶品なんですよ!」
何の変哲もない、他愛のない話を交わす。
日常にありふれたそんな光景すら、春香にとっては愛おしく感じられた。
春香(それもきっと、貴方が横に居るから、ですよ。)
再び頬をほんのりと赤らめる。
春香「今日は星が綺麗ですね。」
P「そうだな。空気が澄んでるんだろう。」
見上げた空には、白銀の輝きを放つ星々が無数にきらめいていた。
それをプロデューサーと二人で眺めている。
出来すぎた程にロマンティックな状況に、春香は頭がくらくらした。
春香「えっと、アンドロメダ座、でしたっけ。」
P「お。よく知ってるな。」
春香「その下のがペガサス、上のがペルセウスでしたよね。」
P「詳しいんだな。」
春香「次のドラマはテーマが天体観測ですからね。」
P「あの三つの星座はどれも神話が元になっていてな。」
P「アンドロメダはエチオピア王の娘で絶世の美女だったんだ。ところが、親がそれを自慢しすぎたせいで神様の怒りを買って、彼女は巨大な怪物の生け贄として差し出されてしまったんだ。」
春香「へぇー。」
P「そこを、ペガサスに乗ったペルセウスが偶然通りかかった。」
P「ペルセウスはあっと言う間に怪物を石にして倒して、アンドロメダを救った。」
春香「王子様みたいですね。」
春香「素敵なお話ですね。」
P「ああ。やっぱりハッピーエンドはいいもんだ。」
P「台本見たら、結構こういう知識も必要みたいだったからさ。春香も暇があったら調べてみるといいよ。」
春香「ええ。ありがとうございます。」
春香(私は絶世の美女でもないし、神話みたいに格好よく結ばれたいなんて思いませんけど。)
春香(ただ、あの星々みたいに、ずっと寄り添っていられたらいいなって。)
そして再び見上げた空は、地上からの光で霞んでいた。
春香「あれ・・・もう駅?」
P「ああ。もうすぐだ。」
春香「そっか…」
楽しいときほど早く時間は過ぎる。
それを身を持って感じた春香は、過ぎ行く今を愛おしむように目を細め、再び歩き始めた。
春香「いえいえ。ここまで送ってくださってありがとうございます。」
P「駅から家までは近かったっけ?」
春香「ええ。歩いていける距離です。」
P「そっか。」
駅の構内へと入った二人は、奥まった改札へと向かう。
P「それじゃ、また明日な。」
心なしか足速に離れていったプロデューサーに向けて手を振る。
春香「…」
春香(誘ってもらったからといって何を期待していたわけでもないけど。)
春香(ちょっぴり残念、かな。)
軽くため息をついて見上げた先には、無機質な白い天井が広がるばかりであった。
春香(あれ、私、久しぶりにちょっとリラックスしてる。)
春香(そっか…プロデューサーさん、休みが取れない私を気遣ってくれたんだ。)
春香(ほんとに、優しい人なんですね。貴方は。)
相反する二つの思いが頭の中を巡る。
そして不意に、その視界が遮られた。
春香「えっ?わっ!?」
何かが頭に乗せられたような感触。
手をやると、ふわりと柔らかいさわり心地。
それは、毛糸で編まれた帽子であった。
春香「えっ これって…」
P「いやぁうっかりしてた。」
春香「えっ えっ?」
事態が飲み込めずに手に持った帽子とプロデューサーとを繰り返し見つめる。
P「春香さ、いつも使ってる帽子無くしたって言ってただろ。」
P「これから寒くなるし、と思ってな。」
春香「もしかして、作ってくれたんですか?」
Pは黙ったまま頷く。
春香「あ…ありがとうございます。」
P「あとこれも一緒に作ったんだ。」
春香「こっちは…えっと。」
P「マフラーだよ。あんまり上手くできなかったけど、もしよかったら使ってくれ。」
春香「うわぁ…すごくうれしいです!」
事の次第を飲み込んだ春香の表情が見る見る明るくなっていく。
これ以上ない、太陽のような満面の笑みを浮かべる。
P「ああ。だけどうっかり渡すのを忘れてた。」
P「春香とはなすのがあんまり楽しくてさ。」
春香「えへへ。でも、プロデューサーさんってお裁縫得意だったんですか?」
P「まぁな。」
春香「ちょっと意外かも。」
春香「大事にしますね。ありがとうございます。」
ぎゅっと胸元にプレゼントを抱いた春香の頭を少しだけ乱暴な手つきで撫でたプロデューサーは、今度こそ、といって手を振った。
春香も、晴れやかな気分で手を振り返す。
小走りで去っていくプロデューサーの背中を見届けた春香は、軽い足取りで改札をくぐった。
プラットホームからわずかに見える星空には、仲睦まじく寄り添う二つの星座が輝いていた。
春香「雪だ…」
漆黒の空を背景に舞い落ちる粉雪。
空から星が降ってきたようにも見えるその景色。
春香はそれをゆっくりと目に焼き付け、電車に乗り込んだ。
~10月21日 深夜~
入浴を終えて体の芯まで暖まった春香は、パジャマ姿でベッドに寝転がった。
春香「ふぅ。」
枕元に置いた袋を取り、リボンをそっとあける。
取り出したヘリンボーン柄のマフラーは、店で売られているものと遜色無い程に上手く編まれていた。
何気なく袋を逆さまにすると、中から一枚の紙切れが落ちてきた。
春香「あれ。なんだろ?」
少し光沢のあるそれを手に取る。
図書館利用伝票
20xx年10月1日
0から始める編み物~小物編~
一日10分でできるマフラーの編み方
誰でも簡単!メリヤス編みの裏技
返却期限:10月15日
春香「得意だなんて、嘘じゃないですか。」
偶然挟まって入ったであろう伝票を見て、その瞳が不意に潤んだ。
春香「仕事で疲れているのに、勉強してまで編んでくれたんだ・・・」
優しげな笑みを浮かべ、マフラーと帽子をぎゅっと抱きしめる。
届くはずの無い人へと語りかける。
「こんな駄目駄目な私ですけど。」
「これからも、どうか。」
「よろしくお願いします。」
目を閉じ、二人で見たアンドロメダとペルセウスを思い浮かべる。
「来年は、初雪も一緒に見られたらいいですね。」
「そして、いつの日かきっと・・・」
それはまるで、少女のささやかな願いに声援を送るかのように。
そしてまた、純白の未来を象徴するかのように。
おわり
いい雰囲気でした
Entry ⇒ 2012.11.03 | Category ⇒ アイマスSS | Comments (0) | Trackbacks (0)
洋榎「絹に寝ている間にキスされた」
絹恵「あれ、寝とる?」
洋榎「…………」
絹恵「……ふふ、かわええなぁ」
絹恵(……な、なんか……じっと見てたら熱くなってきてもうた)
絹恵「誰も……まあ、おるわけないか」
絹恵(ほっぺた、触ってみよ)スッ
洋榎「……ん」
絹恵「……へへ、かわええ」
絹恵(あれ……あかん、顔、熱っ)
絹恵(手も……震えとる、なんやこれ……でも)
絹恵「……もっと触りたいな」
絹恵「お姉ちゃん、髪借りるで」スッ
洋榎「…………」
絹恵「はぁ、気持ちいいなぁ、手触りええし」
絹恵「……これもしかして、起きない?」
絹恵(なら、もう一回、顔触ろ)スッ
洋榎「……ん」
絹恵「あ……っ」
絹恵(どないしよ、心臓痛い……落ち着け……)
絹恵(私、今までで一番緊張しとるかも……)
洋榎「…………」
絹恵(く、唇……触ってみたけど、柔らかいなあ……)
絹恵「……はぁ、ふぅ」
絹恵(あかん、熱い熱い、息が熱い!)
絹恵(でも……ほんまに起きひんな)
絹恵「お姉ちゃーん?」
洋榎「…………」
絹恵(念のため、動かしてみようかな……それで起きたらどないしよ)
絹恵(……ちゃうやろ、なんで起きないほうがいいことになっとるん!)
洋榎「…………」
絹恵「おーい……はよせえ、キスしてまうで」
洋榎「…………」
絹恵(やっぱり、起きない……ほんまに、今くらいしか触れるチャンスないやろ)
絹恵(や、やるか……)ドキドキ
絹恵「……ちゅっ」
洋榎「……ぅ」
洋榎「…………」
絹恵「……ふ、はあっ、ふぅーっ」
絹恵(あかんあかんあかん! 熱い熱い、ぼーっとする……)
絹恵「……お姉ちゃん」
洋榎「ん……」
絹恵「! ……うなっただけ? よかった……」
絹恵「お姉ちゃーん、好きやでー」
洋榎「…………」
絹恵「まあ、聞こえてへんから言うんやけどな、こういうこと」
絹恵「……もう一回、キスしたいな」
絹恵(お姉ちゃんの唇が気持ちええから悪いんやな……うん、うん)
絹恵「……お姉ちゃーん? わざと声出してあげとるのに、起きひんってことは、してもええっちゅうことやろ」
洋榎「…………」
絹恵「…………」
絹恵(どえらいドキドキする……よし、一、二……)
絹恵「ん……」
「ただいまー」
絹恵「うぇっ!?」
絹恵「……ビビった、お母さんか」
……
風呂
絹恵(結局、夕食の時もほとんど俯いてもうた……)
絹恵(変な風に想われとらへんかなあ)
絹恵「はぁ……」
絹恵(柔らかかったなぁ……じゃないや)
絹恵「……熱くなってきた、もう出よ」
ガチャッ
絹恵「!」
洋榎「はろー」
絹恵「な、なんでやねん! 服着て!」
洋榎「あほ、風呂入るのに服着てはないやろ!」
絹恵「どないしたん?」
洋榎「風呂入ろう思うて服脱いだら、ちょうどその頃に絹が入っとることに気付いたんよ」
洋榎「で、もう脱いでもうたし、一緒に入ったるか、ってな」
絹恵「……まあ、なんでもええわ」
絹恵(良くないけど……)
洋榎「なんや冷たいなー」
洋榎「これから温まるんやから、そない冷たくしても意味あらへんで」
絹恵(全然冷たくないよ……むしろ熱いのに)
絹恵(こう見るとお姉ちゃん、私よりちっちゃいのがよくわかるなぁ)
絹恵(……可愛い)
絹恵「……ふー」
洋榎「よっしゃ、入るか」ザバッ
洋榎「……絹、ちと詰めたってや」
絹恵「うーん、限界あるやろ」
洋榎「じゃあ、身体借りるで」
絹恵「えっ」
洋榎「ふふふ、絹枕ー」
絹恵(し、心臓が……バレてへんかな?)
絹恵(良かった……)
洋榎「はー、あったかー、久しぶりに絹と風呂入った気するわ」
洋榎「髪当たっとらん?」
絹恵「平気、ちゅうか……髪綺麗やな」
洋榎「特別に触らせたるで」
絹恵「……ん」スッ
絹恵(……うわぁ、なんや品定めしとるみたい……)
絹恵(後で、このお姉ちゃんにキスするんか……)
絹恵(……わかっとると、余計緊張する)
……
洋榎「おやすみー」
絹恵「お姉ちゃん、お休み」
絹恵(言うても、後で部屋行くけど)
………
……
絹恵「……お姉ちゃーん?」ガチャ
絹恵「…………」
絹恵(起きとらんな、多分)
絹恵(あと、部屋の鍵閉めたほうがええやろ……私としては棚ボタやけど)
絹恵「ふぅー……」ドキドキ
絹恵「よし……ん、ちゅっ……」
洋榎「…………」
絹恵「……ぁ、っ……はぁ、ふー……」
絹恵(ま、まだ慣れん、あっつ……)
洋榎「……んー」
絹恵「ふふ、お姉ちゃんかわええなぁ」
絹恵「……も、もう一回」
絹恵「…………」ドキドキ
洋榎「ぁ……ん、絹?」
絹恵「な、うわあっ!? な、なんやねん!」
洋榎「それうちのセリフやわ」
絹恵(そ、それもそっか……)
洋榎「何しとるん?」
絹恵(……キスのことは、バレてへん?)
絹恵「ね、眠れなくて……」
洋榎「なら、一緒に寝ようか」
絹恵「えっ!?」
絹恵「……じゃ、じゃあ」
絹恵(平静、平静……)ドキドキ
洋榎「絹ー」ギュッ
絹恵「わっ!?」
洋榎「やっぱ暖かいなー」
絹恵(……お姉ちゃんも)
絹恵「お姉ちゃん」ギュッ
洋榎「お?」
絹恵(お姉ちゃん、好き、好き好き……)
絹恵(言えないのが、もどかしいな……)
絹恵「……おやすみ、お姉ちゃん」
洋榎「ん、おやすみー」
……
洋榎「はぁ、疲れた……久しぶりにあんな頭使ったなぁ」
洋榎「……寝よ」
洋榎「…………」
絹恵「……お姉ちゃん、いる?」ガチャ
洋榎(絹? ……あかん、眠すぎる)
洋榎(黙っとこ、堪忍な)
絹恵「……起きてる?」
洋榎(寝とるよー)
絹恵「……ふぅ」
洋榎(?)
洋榎「…………」
絹恵「……ちゅっ」
洋榎(なっ!?)
洋榎(えっ、え……あ、はっ……?)
洋榎(うち、キスされた? 絹に? なんで?)
洋榎(どないしよ、とにかく、冷静に……)
絹恵「……お姉ちゃん、好き」
洋榎(な……うわああああ……)
洋榎(無理無理、顔見せられへん……)
洋榎「う、んー……」ゴロッ
絹恵「あ……」
洋榎(か、間一髪……)
洋榎(絹……ほんまに? さっき言ってたのは、その……)
洋榎(じゃあ、キスの意味も……)
絹恵「お姉ちゃん、おやすみ」ガチャ
洋榎(行ったか……?)
洋榎「何がおやすみ、やねん……寝られるわけあらへんやろ……」
洋榎「……あー! なんやねんもう!」
洋榎「絹、マジでうちのこと好きなんか!? せやからキスしたっちゅうんか!」
洋榎「も、もしかして、今までも? ああああもう!」
洋榎「あ……あかん、顔熱すぎる……」
洋榎「……なんでこんなドキドキしとんねん」
洋榎(うちも、好きなんかなぁ……)
洋榎「いや、いやいやいや、なぁ? ただうちはキスされただけで、そのせいで……」
洋榎「……はぁ、寝るか」
……
絹恵「お姉ちゃーん……?」ガチャ
洋榎(ま、また……)
洋榎「…………」ドキドキ
洋榎(なんでうち、黙っとるんやろ……)
絹恵「……んっ」
洋榎「っ……」
洋榎(声出したらあかん!)
洋榎(このところ、毎日……やっぱり、前から……)
絹恵「ん……おねーちゃん」
洋榎(な、なんや)
絹恵「かわええなぁ……」
洋榎(絹、そう言うのやめて……頭揺れてまう……)
絹恵「あ、また……」
洋榎(しゃーないやろ、うちは寝返りするしか……)
絹恵(も、もうちょっと……)
絹恵「……お姉ちゃん、ごめん」
洋榎(え?)
絹恵「…………」グイッ
洋榎(なっ!)
絹恵「んむっ……」
洋榎「ん、っ……」
洋榎(あ、ああ……絹、強引すぎる……!)
洋榎(平常心、平常心……目開けたら、それだけはあかん……ああああ、もう!)
絹恵「……お姉ちゃん、好き、大好き」
絹恵「もっと、キスしたいなぁ」
洋榎「……ぁ」
絹恵「!」
絹恵(お、起こした!?)
洋榎(やばっ!)
絹恵「ご、ごめん!」ガチャ
洋榎(……ば、ばれた?)
洋榎(いやいや、別にうち、何も隠してへんし……それに、ただ声漏れただけ)
洋榎(そんなん、寝てても同じやろ……)
洋榎(……大丈夫、うん、そういうことにしよ)
洋榎「ふぅ……あっつ」
絹恵(……ば、ばれた?)
絹恵(こないなことしとるって知られて、お姉ちゃんに引かれるのは嫌や……)
絹恵(でも、キスはしたい……)
絹恵「……うーん」
絹恵(……ただの呻き声やし、寝てただけやろ……?)
絹恵(そういうことにしよう、うん……)
絹恵(でも、耐え切れずに無理矢理やるのは、ちょっと調子乗ってたかも)
絹恵(しばらく、これはやらんほうがええかなぁ)
絹恵「……はぁ」
絹恵「お姉ちゃーん……」
……
洋榎「…………」
洋榎「……寝られん」
洋榎(やっぱり今日も、キスされるんかなぁ)
洋榎(緊張するから、うちとしては早めの方が助かるんやけど)
洋榎「…………」
洋榎(まだ?)
洋榎「…………」
洋榎「……あーもう! キスしにきたらええやんけ! はよ来いや、絹!」
洋榎「い……今なら、来ても怒らへんで?」
洋榎「…………」
洋榎「……はぁ、寝たほうが利口やろなぁ」
洋榎(絶対眠れへんけど……)
……
洋榎「おやすみ、絹」
絹恵「おやすみー」
洋榎(おやすみってか、うちはそれどころじゃない……)
洋榎(結局三日間、絹はキスしにこないし)
洋榎(おかげで満足に眠れへんし、うちは生殺しやな)
洋榎(……生殺し? いやいやいや、ちゃうやろ!)
洋榎「なんやねん、もう、あほくさ……」
洋榎(……しっかし、あんながっついてきよった癖に、どうして急に、なぁ)
洋榎「絹、何しとるんやろ」
洋榎「……気になる」
洋榎「おーい?」コンコン
洋榎「……返ってこないな、もう寝とる?」
洋榎(でも引き返すのも……どうせこの鍵、外側から簡単に開くし……)
洋榎「……開けるか」
洋榎「……よし」ガチャ
絹恵「…………」
洋榎「やっぱり寝とったか、ふふ」
洋榎「久しぶりに見たかもなぁ、絹の寝顔」
洋榎「部屋別けてからは、いつもうちが起こされてばっかりやったしなあ」
洋榎「……しっかしよく見ると、やっぱりどえらい美人やな、絹」
洋榎(あ……うち、この子にずっとキスされとったんか……)
洋榎「…………」
洋榎「……絹?」
絹恵「…………」
洋榎「やっぱ、寝とるか」
洋榎(……あ、あれ?)
洋榎(これもしかして、うちからキスできるんとちゃうん?)
洋榎「……起きろー」ペチペチ
絹恵「ん……」
洋榎(ちょっと、呻いただけ……か)
洋榎(……ほんまに? ほんまにやるん?)
洋榎(ちゃう、これはただ、キスせえへんと眠れへんからやるだけで……)
洋榎「うん……しゃーない、しゃーない……」
洋榎「別に、うん、問題ない……」
絹恵「…………」
洋榎(なんやねん、これ、緊張する……)
洋榎「っ……んぅっ」
絹恵「……ん」
洋榎「……ぁ……はぁーっ、ふーっ……」ドキドキ
洋榎(あかん、あー……なんも考えられへん……)
洋榎(血登る、頭痛い……)
洋榎(絹、こんなこと毎日毎日、うちにしとったんか……)
洋榎(余計眠れん、あと、もったいない……ってなんやねん、それ)
洋榎(わけわからんなあ、もう! 自分がわからん……)
洋榎「い、今までのお返し……絹が悪いんやで?」
洋榎「……ちゅ」
絹恵「…………」
洋榎「……はぁ、っ……あー」
洋榎(やっぱり、ぼーっとする……けど、やめられへん……)
洋榎(別に、今までされてきた分、やり返すだけ……)
洋榎「……ちゅっ」
絹恵「ん……」
絹恵「……ぅ」
洋榎「……っ、んむっ」
絹恵「ん……」
洋榎(はぁ、絹、絹……)
洋榎(くそ、止まらん……なんで……)
洋榎「……絹、んうっ」
絹恵「…………」
洋榎「ぁ、ふぅ……好き、好き、絹……」
絹恵「んー……」
洋榎(だ、誰か、止めて……)
洋榎(絹、起きるかも……知らんわもう、どうせ止まらんし……)
洋榎「ちゅっ……」
絹恵「……ん」
……
洋榎「……あー」
洋榎(昨日、何回キスしたかなぁ……多分、十五は超えとると思うねんけど……)
洋榎(もし今日も来なかったら……)
洋榎(……また、行ってみよか)
………
……
絹恵(久しぶりに、お姉ちゃんとキスしたい)
絹恵(三日待ったし……もう、ええやろ、多分)
絹恵(これ以上はちょっと、耐えきれへんし……)
絹恵「お姉ちゃん……」
絹恵(……後で、行こ)
洋榎(ほ、ほんまに来た……)
絹恵(久しぶりやな……緊張する)
絹恵(あかん、抑えないと……)
洋榎「…………」
絹恵「…………」
洋榎(うち、今から、絹にキスされるんやな……)
絹恵(久しぶりに、お姉ちゃんに、キス……)
絹恵「……お姉ちゃん」スッ
洋榎「っ……」
洋榎(さ、騒ぐな……!)
絹恵「……ん」
洋榎「ん……ぅ」
洋榎(き、絹……っ)
絹恵(お姉ちゃん……お姉ちゃん、好きだよ……)
洋榎「ぅ……」
洋榎(長っ……さすがに、限界……)
絹恵「……ふぅ」
洋榎(ぁ……長かった、でも、もうちょっと……)
洋榎(絹……)
絹恵(やっぱりこれ、ぼーっとする……ブレーキ利かん)
絹恵(好き、大好き、お姉ちゃん……だから、許して……)
洋榎(絹、はようして……)
絹恵「……っちゅ」
洋榎「ん、っ」
洋榎(あかん、無理……絹、絹……)
絹恵(お姉ちゃん、お姉ちゃん……)
洋榎「……う、ぁっ」
絹恵「え……?」
洋榎(あ、声……しまった……)
絹恵(ぜ、絶対起きた……いや……)
絹恵(でも、くらくらして、動けへん……)
絹恵「…………」
洋榎「…………」
絹恵「……お、お姉ちゃん」
洋榎「……なに」
絹恵「え、えっと……っ!」
洋榎(……絹)
洋榎「んむっ……っ」グイッ
絹恵「ぅ、んっ……」
絹恵(なんで、急に……お姉ちゃんからなんて、気絶しそ……)
洋榎「……ん、ふぅ……はあっ……」
絹恵「……っ、あっ、お姉ちゃん、なんで……」
洋榎「やかましい……っ、んむっ」
絹恵「……ん」
絹恵(あ……舌、入ってきた……)
洋榎(あったか……)
洋榎「ちゅ、っ、んっ」
絹恵(キスの音しか、聞こえない……お姉ちゃんの音だけ……)
絹恵(お姉ちゃん……幸せ……)
絹恵「……ぅ、あっ」ギュッ
洋榎「っ……んぅ」ギュッ
洋榎(絹……)
洋榎「……ふぅ、っ」
絹恵「お、お姉ちゃーん……」
洋榎「……絹」
絹恵「好き……お姉ちゃん、好きだよぉ……」
絹恵「ずっと、ずっと、キスしたいくらい……」
洋榎「うちも、絹が好き……ずっと、こうしてたい……」
絹恵「……証拠」
洋榎「い、いまさら?」
絹恵「だって……」
洋榎「……じゃあ、普通にキス、してみよか」
洋榎「こう、恋人っぽい、感じ……ちゅうんかな、とにかく、えっと……」
絹恵「……うん」
菫「わかったから帰るぞ」ズルズル
絹恵「……手、ほっぺにつけながら、キスしてほしいな」
洋榎「こ、こう……?」スッ
絹恵「うん、そう……へへ」
洋榎(絹もやっぱり、あっつい……)
洋榎(絹、やっぱり可愛い……うちの、妹……)
絹恵「それで、あんなぁ、キスする前に……その……」
洋榎「……"好き"」
絹恵「あ……っ」
洋榎「ちゅっ……」
絹恵「ぅ……んっ」
絹恵(私も、お姉ちゃん、好き……大好きだよ……)
絹恵「ぁ……」
洋榎「……絹は」
絹恵「え……?」
洋榎「絹、からは?」
絹恵「……いいの?」
洋榎「さっきまで、しとった癖に」
絹恵「へへ、やった……じゃあ……」スッ
洋榎(ぁ、顎……? 顔、近っ……)
洋榎「……なぁ、絹も」
絹恵「お姉ちゃん……"好き"」
洋榎「っ……」
絹恵「っちゅ……」
洋榎「ぁ……んうっ」
洋榎「…………」
絹恵「あ、あのさ、お姉ちゃん……一緒に、寝てもええ?」
洋榎「え? うん、まあ……」
絹恵「……お姉ちゃーん」ギュッ
洋榎「ぁ……へへ、絹ー」ギュッ
絹恵「お姉ちゃん、ほんまにかわええ……ちっこくて」
洋榎「嬉しいけど、一言余計やろ……」
絹恵「ううん、全部、好きや」
洋榎「うちも、そういう熱心なところ好きやで……ああでも、寝込み襲うのに頑張ってもらってもなぁ」
絹恵「ご、ごめん……」
洋榎「いや、まあ、うちも……ちょっと、途中から期待してたけど」
絹恵「……やっぱり、お姉ちゃんは優しいなぁ」
洋榎「当たり前やろ、好きな人に優しくしないで、誰に優しくせえっちゅうねん」
絹恵「……えへへ」
洋榎「なんや?」
絹恵「寝る前の、キス」
洋榎「……ちゅっ」
絹恵「へへ……ちゅ」
洋榎「ん、うーん……」
絹恵「……手、繋いで寝よっか」
洋榎「……せやな」ギュッ
絹恵「はぁー、暖かい……ねえ、もう一回、キス」
洋榎「ちゅ、んっ……」
絹恵「へへ……おやすみ、お姉ちゃん……また、明日も……」
洋榎「当たり前やろ、また明日な……おやすみ、絹」
絹恵「うん!」
おわれ
乙乙
Entry ⇒ 2012.11.03 | Category ⇒ 咲-Saki-SS | Comments (1) | Trackbacks (0)
菫「宥と楽しい同棲生活の始まり」
菫「……ああ」
菫「ここが、これから私たちが住むアパートだ」
菫「コンビニやスーパーまで徒歩数分、ファミレスや大型デパートまで徒歩10分」
菫「駅までは徒歩20分ぐらいかかるが、まぁ歩いて行ける距離だ」
菫「治安も良く、住んでいる住民も若夫婦が殆どだ」
菫「立地条件としてはなかなか良い場所を確保出来た」
宥「ごめんね……何もかも菫ちゃんに任せちゃって」
菫「構わんさ、宥は宥で忙しかったんだろう?」
菫「それに私は一人暮らし慣れしてるから、このぐらい大した事ないさ」
宥「菫ちゃん……///」
咲「エ○ゲーって楽しいよね!」
http://ssweaver.com/blog-entry-1880.html
のスピンオフです。
菫「エ○ゲしてる所を宥に見られた……」の続きであり、
時系列的にはチャットのオフ会が終了後、菫さんと宥姉が大学に進学して二人の同棲生活が始まるお話。
菫「ああ……さすがにワンルームで2人暮らすのは厳しいだろうと思ってね」
菫「同棲生活をするなら、やはり2DKはあった方が良いらしい」
菫「一応家具や家電とかは、私が使っていた物をそのまま持ってきてるが」
菫「それでも足りない物とかは後で買いに行こう」
宥「うん」
菫「それじゃあ、まずは……」グゥー
菫「……」
宥「……お昼ご飯にしよっか」
菫「そ、そうだな……///」
菫「ガスとか水はもう使えるが、何分食材が何も無い」
宥「じゃあ……」
菫「……今日の昼は外食するか」
宥「うん」
………
……
…
菫「宥はまだこの辺りに詳しくないだろう?」
宥「うん、駅と大学の場所は覚えたけど……」
菫「じゃあ食事を終えたら、軽く街の案内もしよう」
宥「うんっ」
「いらっしゃいませー」
菫「2名、禁煙席で」
「かしこまりました、こちらへどうぞー」
宥「……」オロオロ
菫「……宥?」
宥「えっ……なに?」
菫「いや……そんなにソワソワしてどうしたんだ?」
宥「え、えっと……」
菫「そうなのか?インハイでも東京へは来てるし、奈良でだって外食ぐらいはするだろう?」
宥「う、うん……そうなんだけど……」
宥「私の住んでる所……近くに飲食店がひとつもなくて……」
菫「え、そうなのか?」
宥「う、うん……」
宥「だからこういう所はあんまり慣れてなくて……」
菫(奈良県は飲食店が少ないとよく聞くが……まさかそこまでとはな)
「それでは、ご注文決まりましたらこちらのボタンからお呼び出しください」
菫「……」
菫「宥は何にする?」
宥「え、えっとっ……えと……」パラパラッ
菫「ははは、慌てなくていいさ。ゆっくり決めてくれ」
宥「ご、ごめんねっ」
宥「……菫ちゃんはもう決まったの?」
菫「ん?ああ、私はもう決まってるが」
宥「じゃ、じゃあ……菫ちゃんと同じので」
菫「いいのか?好きなの選んでもいいんだぞ?」
宥「ううん、大丈夫……」
菫「そうか?なら呼ぶぞ」ピンポーン
菫「この、エビピラフを二つ」
「AセットとBセットのメニューがありますが、如何なさいましょう?」
菫「ふむ」
菫(Aセットが野菜サラダセット、Bセットがコーンスープか……)
菫(宥ならきっと温かい物の方が好きだしな……)
菫「じゃあ両方Bセットのコーンスープで」
「かしこまりました」
宥「うん」
菫「……別に時間をゆっくりかけて決めても良かったんだぞ?」
宥「う、うん……でも沢山種類がありすぎて迷っちゃうし……」
宥「それに菫ちゃんと同じ物を食べて、美味しさを共有したいから……///」
菫「なっ……///」
宥「……///」
菫「……///」
菫「こっ!この後は!小物でも買いに行こうか!」
宥「う、うんっ、そうだねっ」
………
……
…
菫「宥は大丈夫か?」
宥「うん、美味しかったね」
菫「ああ、そうだな」
菫「さて、お会計を済ませるとするか」
宥「……え、えっと」
菫「……どうした?」
宥「お、お金は……」
菫「ああ……そうだな……」
菫「とりあえず今日の所は私が払っておくよ」
宥「えっ、で、でも……」
菫「お金の管理とかそういう所も、後々ちゃんと決めないとな」
菫「私達は今日から二人で暮らすんだからな……」
宥「……うん……///」
菫「さて、次は……ここだな」
宥「わあ……おっきい」
菫「近辺では一番大きなデパートだ、ここで小物を揃えよう」
宥「小物で足りない物って……」
菫「歯ブラシとかタオルとか……あと食器とかだな」
宥「あ……そういえば私、歯ブラシとかは持ってきてない……」
菫「ははは、これから新生活が始まるんだ。新しく新調すればいい」
菫「それに……その、あれだ。お揃いの物にできるし……///」
宥「あっ……///」
宥「うんっ……!」
宥「ん……と……あまりそういうのは気にしないけど……」
宥「出来れば……菫ちゃんとお揃いのがいいな……っ///」
菫「そ、そうか……///」
菫「じゃ、じゃあ、こういうのはどうだ?」
宥「わあ、可愛い……」
菫「同じ模様の青と赤だ」
宥「……あったかい色」
菫「どうだ?」
宥「うん……これがいい」
菫「じゃあ、これにしよう」
宥「うんっ」
菫「宥は他に欲しい物はあるか?」
宥「え、えっと……な、何が必要なのかな?」
菫「そうだな……とりあえず暮らす分に必要な物は買い揃えたが……」
菫「あとは……夕食の食材だな」
菫「このまま買い出しに行ければよかったんだが、荷物は結構多くなってしまったな……」
菫「一度戻って荷物を置いてから、食材の買い出しに行こう」
宥「うんっ」
菫「ここが近所のスーパーだ」
菫「規模はそこそこだが、品ぞろえも悪くはなく値段も安い」
菫「これが徒歩数分圏内にあるんだから贅沢だな」
宥「便利だね……」
宥「私の住んでた所は、スーパーに行くのにも車を出さないと行けなかったから……」
菫「そうだな……私はずっと東京に住んでいるが、やはり東京は便利な街だと思うよ」
宥「うん……それに今は菫ちゃんも一緒だし、すごく楽しいよ……っ」
菫「宥……///」
宥「菫ちゃん……///」
アラアラ マァマァ ワカイッテイイワネー
菫「……///」
宥「……///」
宥「う、うんっ」
菫「まずは……野菜類だな」
菫「冷凍食品も余分に買っておいて……小麦粉……牛乳……卵……米……」
菫「調味料は私が使っていた奴がまだあるから……あとは」
宥「菫ちゃんすごい……主婦さんみたい」
菫「しゅ、主婦!?」
菫「さ、さすがにそれは……なんというか複雑な気分だな……」
宥「え、ええっ、だめだった?」
菫「いや……こう、年増に見られるというか……」
宥「ご、ごめんね……そういう意味じゃなくてっ……!」
菫「……」
菫「っくははは!わかってるよ、宥」
宥「むうーっ!菫ちゃん酷いよう」
………
……
菫「さて、買い出ししてたらすっかり遅くなったな」
菫「帰宅したばかりだが、早く夕飯の支度をするとしよう」
菫「あんまり時間もないし、今日はパスタでいいか?」
宥「うん」
菫「じゃあ、すぐに取り掛かるから、宥は適当に時間でも潰しててくれ」
宥「うんっ…………あれ?」
菫「~♪」
宥「……」ソワソワ
菫「~……ん?どうした宥?」
宥「何か手伝える事はない……?」
菫「そうだな……しかしパスタは茹でるだけだし」
菫「ミートソースも買ってきた奴を加熱するだけだしな……」
宥「で、でもでもっ……」
宥「せ、せっかく一緒に生活するのに、菫ちゃんだけにお料理させるのは……」
菫「ふむ……」
菫「そうだな……じゃあサラダでも作るか、宥頼めるか?」
宥「うん!」
菫「……」
菫「……ふむ、こんなものか」
宥「……」
宥「……私ね」
菫「ん?」
宥「こうして菫ちゃんと、一緒にお料理が出来て嬉しいなって」
宥「私、すごい幸せだよ」
菫「宥……」
菫「ああ……私も今、すごい幸せだ」
宥「菫ちゃん……///」
宥「っ痛っ!」
菫「宥!?」
宥「う、うう、ごめんね……」
菫「……ほら、指貸して」
宥「えっ?」
ちゅー
宥「す、菫ちゃんっ!?///」
菫「……んっ……ちゅ、あとは綺麗に洗って絆創膏を貼っておけば大丈夫だろう」
菫「宥はパスタの方を頼む、私がサラダの方をやろう」
宥「ご、ごめんねっ……」
菫「ふふ、気にするな。私は宥の恋人……だろ?」
宥「…‥~~~///」
……
…
菫「……ふぅ、ごちそうさま」
宥「ごちそうさまっ」
宥「美味しかったね」
菫「ああ、味もそうだが……」
菫「何より一人で食べる食事より、宥と一緒に食べる食事の方が断然美味しい」
宥「もう……菫ちゃんったら///」
菫「……///」
菫「さ、さて!今度は風呂の準備だなっ……食器任せてもいいか?」
宥「うん、おまかせあれっ、だよ」
……
…
菫「……」キュッキュ
菫「よし、こんなもんか」
菫「宥、お風呂沸いたぞ。先に入ってくれ」
宥「菫ちゃんが先でいいよ……?」
菫「いや、私はこういう暮らしに慣れてるから大して疲れちゃいないが」
菫「宥はこういう生活初めてだろう、結構疲れたんじゃないか?」
宥「う、うん……そうだけど……でも」
菫「私の事を気にかけてくれるのは嬉しいが、私の事は構わなくていいさ」
宥「……」
宥「じゃ、じゃあ……一緒に入ろ?」
菫「ふぁっ!?」
菫「……///」
宥「……///」
菫「……うっ……///」
菫(ゆ、宥の裸が……ハダカがっ……)
菫(髪は綺麗だし……肌はすごい手入れしてあるし……な、なによりっ……)ゴクリ
宥「……す、菫ちゃん?恥ずかしいよっ///」ポヨヨン
菫(む、胸が……すごい……///)
菫(私もそこまで小さくは無いと思うんだが……)ペタペタ
菫(あれと比較すると泣きたくなるな……)
菫「に、にしても、さすがに2人だと狭いな……」
宥「う、うん……そうだね……」
菫「……さすがに2人湯船に入るのは厳しかったか」
宥「……」
宥「で、でもっ……」
宥「菫ちゃんと一緒に入るお風呂、楽しいよっ」
宥「なんだか、わくわくするよねっ」
菫「ははは……わくわくか」
菫(すまん宥、私はわくわくどころではない……!)
宥「あっ……」
菫「す、すまない!」
宥「う、ううん……平気だよ……///」
菫「……///」
菫(まずい……このままではおかしくなりそうだ……)
菫(宥が……宥が可愛すぎる……!!)
菫(……だ、だがこの狭さなら、多少身体が触れても大丈夫なはず……)ゴクリ
菫(この狭さなら仕方ない、うん、仕方ないな)
菫(足を少し動かして……)
宥「……っあっ……///」
菫「す、すまん……///」
宥「きゃっ……ちょ、ちょっと菫ちゃん……?」
菫「ご、ごめん宥、身体をちょっとでも動かすと当たってしまうようだなっ……」ハハハ...
宥「……むっ」
宥「菫ちゃん……わざとやってるよね……?」
菫「な、そ、そんな事……っ」
宥「……じゃあ仕返しするねっ」
菫「えっ?……わああっ!」ザパァッ
菫「……このぉ、やったな!」
宥「ちょっ……やだっ、あはははっ」
菫「このこのこのっ、はははっ!」
ずるんっ
菫「なっ……宥危ないっ」
宥「っ……す、菫ちゃん」
菫「……ふぅ、大丈夫か」
宥「う、うん……滑っちゃったみたい……ごめんね」
菫「いや、こちらこそすまなかった」
菫「どこか痛い所とか……――っ!?」
宥「っ……!///」
菫(か、顔が……ち、近い///)
宥(ど、どうしよう……顔が近いよう……///)
宥「……///」ドックンドクン
菫「ゆ……宥……///」
宥「菫ちゃん……///」
菫「……―――ッ」
んちゅ...
宥「んっ……」
菫「……っ……んはっ」
宥「す、菫ちゃん……///」
宥「どうして謝るの?」
菫「えっ……いや、その――――んっ!?」
宥「んっ……ぁっ……ちゅ……」
菫「はぁっ……んんっ……ぁっ……」
宥「っちゅ……くちゅ……はぁっ……」
菫「ぷはぁっ……ゆ、宥……?///」
宥「……嫌だった?」
菫「……そんなことない」
菫「もっと……したいぐらいだ」
宥「っちゅ……んはっ、す、菫ちゃ……んっはっぁ」
菫「んはあっ……宥、好きだ……」
菫「好きという言葉では伝えきれないくらい、宥の事が好きだ」
宥「菫ちゃん……///」
宥「……私も……菫ちゃんの事が大好き……///」
菫「……ああ、私も宥の事が大大大好きだ……」
宥「わ、私の方がっ、菫ちゃんの事が大大大大大大大だーーい好きだもんっ」
菫「なっ……私の方が、大大大大大大大大大大大大大大だーーーーーーい好きだ!」
宥「……」
宥「ふふっ」
菫「はは……あはははは!」
………
……
…
宥「うん」
パチン
菫「……
菫「しかし、せっかく部屋を分けてるのに……わざわざこっちで寝なくてもいいんじゃないか?」
宥「ま……まだ私のベッド届いてないから……」
宥「そ、それに、一緒に寝るのって楽しいんだよっ」
菫「いや、確かにそうかもしれないが……まぁいい」
菫「とにかく寝るとするか、明日も色々やらなきゃ行けない事もあるしな」
宥「うん」
菫「じゃあ、おやすみ」
宥「うん、おやすみ」
宥「……」
宥「ねぇ、菫ちゃん」
菫「……ん?」
宥「これからもずっとずっと一緒だよ」
菫「……ああ、ずっと一緒だ」
菫「宥と結婚して、宥とおばあちゃんになって、最期の時が来るまで」
菫「――ずっと一緒だ」
宥「……うんっ」」
菫「宥……好きだ」
――ここから本当のはじまり――
――いずれ私達が結婚して――
――旅館を継ぐ事になるのはまた別のお話――
カン
やっぱり百合は難しいっす
次回からエロゲシリーズ同様、コメディ路線でやっていくので
次回も宜しくっすよ~
ネトゲでコメディって今やってるDTみたいな予感がする
Entry ⇒ 2012.11.03 | Category ⇒ 咲-Saki-SS | Comments (0) | Trackbacks (0)
宥「恋人に射ち堕とされた日」
玄「おまかせあれっ!」
宥「それじゃあ……行ってくるね」
玄「うん、いってらっしゃい、お姉ちゃん」
玄「……」
玄(お姉ちゃんは恋人さんとお出かけかぁ~)
玄(いいなぁ……私もお姉ちゃんとお出かけしたいよ~)
玄(……でもお姉ちゃんの恋人ってどんな人なんだろう?)
玄(……まあいっか!)
玄(さて、私は旅館のお手伝いをしなきゃ!)
菫「宥、こっちだ!」
宥「ご、ごめんね……待たせちゃった?」
菫「いや、こっちもさっき来た所さ」
宥「わざわざ東京から来て貰って……ごめんね」
菫「いいさ、私も宥の住んでいる所を自分の目で見たかったんだ」
菫「……それに、宥の親御さんにも挨拶しておきたいしな」
宥「んもう……菫ちゃん///」
菫「……///」
菫「さ、さて!街を案内してくれるんだよな?」
菫「早速行こうか!」
宥「うん」
………
……
…
宥「うん……同じ部員の子がここでお手伝いしてるの」ウィーン
灼「いらっしゃ……あれ、宥さん?」
宥「こんにちは、灼ちゃん」
灼「珍しい、今日はどうして……って、白糸台の!」
菫「……」ペコ
宥「うん、ちょっと街を案内してたんだぁ」
灼「え、じゃあもしかして……宥さんの恋人って」
宥「う、うん……///」
灼「へえ、そうなんだ……おめでとう」
宥「え、あ、ありがとう……?」
宥「え、でも私ボウリングは苦手だし……」
灼「デートでのボウリングは定番中の定番だし、やっておいても損は無いと思う」
宥「そ、そうかな……?」
灼「そう」
宥「……じゃ、じゃあ1回だけやろうかな……」
宥「菫ちゃんもいい?」
菫「あ、ああ……私もあまり得意ではないが」
灼「じゃあ決まりだね、じゃあこれ。3番レーンね」
菫「……ふぅ」
菫「スコアは……108か」
菫(私自身、ボウリングは数えるくらいしかやった事はないが……)
菫(まぁこんなもんか)
菫(それに対して……)
宥「……」
宥「……ボウリングって難しい」
菫(宥のスコアは……34か)
菫「宥は本当に苦手なんだな」
宥「わ、私……あんまりこういうのやった事ないから……」
菫「そ、そうか?私もあんまりボウリングはやった事がないんだが……」
宥「……なんかずるい」
菫「い、いや……そう言われてもな……」
菫「こればっかりは慣れなんじゃないか?」
宥「むー……」
菫「……そろそろ出ようか、まだ案内してくれるんだろう?」
宥「……」
宥「……うん」
………
……
…
菫「……?」
菫「宥、顔が少し赤いけど大丈夫か?」
宥「えっ?そうかな?」
菫「あ、ああ……」
宥「うーん……きっとボウリングで疲れちゃったのかも」
菫「少し休むか?」
宥「ううん、大丈夫。それにもうすぐ目的地だから」
菫「この先が目的地……?」
菫「ここは……神社か?」
宥「うん、ここにも部員の子がいてね……」
『あれー?宥姉?それと……白糸台の!?』
『えっ、宥さん!?』
宥「こんにちは、憧ちゃん、穏乃ちゃん」
憧「どうしたのこんなところで……というかその人、白糸台の人だよね?」
宥「うん」
憧「へえー、じゃああの話本当だったんだ!」
穏乃「なんの話?」
憧「宥姉に恋人が出来たって話だよ!」
憧「じゃあ、もしかしてその人が?」
宥「うん……菫ちゃんだよ」
菫「……」ペコ
穏乃「わあー……!」
穏乃(間近で見るとかっこいい人だなぁ……)
憧(むっ……)
憧「ゆっ!宥姉はどうしてここに?」
宥「えっとね、菫ちゃんに街を案内してるの」
憧「街を案内?」
宥「うん、それで憧ちゃん家の神社も寄ってみたの」
宥「え、えっと……本当に寄っただけだから」
憧「でもせっかく来て貰ってなんだし……そうだ」
憧「おみくじでも引いて行ってみる?」
穏乃「おみくじ!?」
憧「あんたが反応してどうすんのよ」
宥「おみくじ……面白そう」
憧「やる?お代はちゃんと頂くけど」
宥「うん、菫ちゃんもやるよね?」
菫「あ、ああ……」
………
……
…
「はい、じゃあこれね」
菫「私は……37番」
「37番……はい、これね」
宥「ありがとうございます」
宥「えっと……わわ、大凶……」
菫「……大凶」
憧「うわ……二人して大凶って」
菫「……おい、この神社……凶ばっかり置いてあるんじゃないだろうな?」
憧「そんなわけないでしょ、おみくじの大凶って相当少ない方よ」
憧「ふたりとも同じの引いたんだから、むしろレアよ」
宥「そうなのかな?」
菫「いや、さすがにそれはどうなんだ……」
宥「えっと……恋愛、別れの気配……病気、危機迫る……注意されたし」
菫「……恋愛、別れの気配……失物、二度と戻らず」
菫「……おい」
憧「あ、あたしは知らないわよ!」
憧「よっぽど運が悪かったんじゃないの!」
宥「た、たまたまだよっ菫ちゃん」
菫「はぁ……まぁおみくじなんてこんなものだろうさ」
菫「さっさと結んでしまおう」
宥「うん」
穏乃「憧ー!私もおみくじ引きたーい!」
憧「あーはいはい」
菫「宥の方も終わったか?」
宥「……」
菫「……宥?」
宥「えっ?」
菫「いや……ボーッとしてどうしたんだ?」
宥「う、ううん、なんでもないよ」
菫「……?」
宥「……それじゃあ、次の場所行こう?」
菫「あ、ああ……」
……
…
菫「……」
宥「……はぁっ……はぁっ」
菫「……宥?」
宥「っ……えっ?な、なに?」
菫「い、いや……本当に大丈夫か?さっきよりも顔が赤くなってるし……」
宥「……う、うん……大丈……夫…………」フラッ
菫「宥っ!」
菫(熱とか風邪とかそういうレベルじゃないぞ!?)
菫(どうする、とにかくまずは119…………なッ!?)
菫(アンテナが1本も立たないだと!?)
菫(くそっ!こんな時に限って電波が……!)
菫(一旦神社の方に戻って……いや、距離がありすぎる!)
菫(近くの民家まで……無理だ、宥をここには置いていけない)
菫(どうすればいいんだ……!!)
望「ごめんねー付き合わせちゃって」
晴絵「別にいいわよ、私も暇だったし」
望「そう言ってもらえると助かるよ」
望「……ん?誰か倒れてる」キィイ
晴絵「え?……あれは、宥!?」ガチャ
晴絵「宥!!ちょっと、どうしたの!!」
菫「すみません!この子、すごい熱みたいで倒れちゃって!」
晴絵「あなた白糸台の……いや、今はそれどころじゃないわ」
晴絵「とにかく車に乗せて!病院に行くわよ!」
菫「っ……はい!」
晴絵「望!」
望「わかってるわ、急いで病院に向かうよ!」
晴絵「すみません、急患です!」
「はい!?……松実さん!?」
「これはっ……まずいわね!すぐに運んで頂戴!」
「はい!」
菫「ゆ、宥……!」
晴絵「あなたはここにいなさい」
晴絵「私は玄の家に電話するから、望は急いで迎えに行ってきて!」
望「わかったわ」
……
…
憧「……はぁっ……はぁっ!ハルエ!宥姉は!?」
晴絵「憧!?みんなまで!」
玄「それで……お姉ちゃんは」
晴絵「……今は集中治療室よ」
晴絵「それより玄、お父さんはどうしたの」
玄「お父さんは……今出張で出かけてて、他のみんなも手が放せないほど忙しくて……」
晴絵「娘が倒れたのよ!?あなたのお父さんはなにやってるの!!」
望「晴絵、落ち着きなさい」
晴絵「……っ!くそっ」
穏乃「灼さんの所にも行ったんですか?」
晴絵「どういうこと?」
灼「さっき宥さんが恋人とボウリングしに来てた」
穏乃「私は憧の家にいて……そこに宥さんとその人が……」
菫「……」
玄(っ……この人……!)
晴絵「……あなた、弘世菫ね」
菫「……そうだが」
晴絵「ずっと宥と一緒にいたみたいだけど」
菫「……ああ、ずっと一緒にいた」
晴絵「宥が倒れてた時も一緒にいたのよね?」
菫「……」
菫「……」コクッ
菫「……」
菫「……わからないんだ、最初はあんなに元気だったのに」
菫「神社から移動中、急に倒れたんだ……」
晴絵「急に倒れた?」
菫「ああ……」
晴絵「……他に変わった事はなかった?」
菫「……」
菫「そういえば……顔が赤かったような」
玄「……!」
晴絵「顔?」
菫「あ、ああ……ボウリング終わった後、少し顔が赤かったんだ」
菫「本人はボウリングで疲れたと言っていたが……」
菫「神社から移動する時には、ボーッとしていて……顔も更に赤かった」
晴絵「それであの子、あんなに熱かったのね……」
「「!?」」
菫「ゆ、宥!?」
憧「宥姉!?」
晴絵「先生!宥の状態は!?」
「……率直に申し上げますと、我々の手には負えません」
「覚悟を……しておいてください」
穏乃「覚悟って……」
灼「つまり……もう長くないってこと」
憧「嘘……そんな……」
菫「っ……!!」ガシッ
菫「おい貴様!医者だろう!!なんとかならないのか!」
晴絵「お、おい!」
菫「なんとかするのがあんたらの仕事だろうが……!!」
憧「ちょっと!やめなってば!」
「……失礼します」
菫「そんな……嘘だろ……」
穏乃「宥さんは……このまま助からないの?」
灼「……」
晴絵「くそっ……!私達にはどうする事もできないのか!」
――無理だよ――
菫「……っ!?」
灼「どういうこと?」
玄「お姉ちゃんはもう助からないよ」
晴絵「……おい玄、どういうことだ」
玄「そのまんまの意味だよ」
玄「お姉ちゃんは助からない、もうすぐ死ぬ」
菫「……っ!!」
晴絵「……玄!!」
穏乃「のろ……い?」
憧「玄……何言ってるの?」
晴絵「”呪い”だと?そんなオカルト誰が信じるって言うんだ?」
玄「みんな不思議に思わなかったのかな、お姉ちゃんって異様に寒がりだよね」
玄「おかしいよね、普通夏場に長袖着てマフラーまでしないもん」
灼「それは……そういう体質の人も中にはいると思う」
玄「ありえない、ううん、ありえないよ」
玄「いくらそういう体質の人がいたとしても、限度があるよ」
玄「でもお姉ちゃんは特別、”呪い”を背負った人だから」
菫「お前……宥の何を知っている?」
菫「何?」
玄「弘世さん……だったよね、小さい頃に山で遭難した事ない?」(※当SSでの設定です)
菫「な……何故それを知っている」
菫「確かに私は、小さい頃に山で遭難し助けられた事がある」
菫「しかし、それが今回の件と何か関係があるのか?」
玄「……その時一緒に遭難したのは、弘世さん一人じゃないよね」
菫「……ッ……まさか、おまえ……」
玄「ううん、私じゃないよ」
――その時遭難したのは、弘世さんともう一人……私のお姉ちゃん――
菫「冗談はよしてくれ……だとしたらある意味すごい再会だな」
玄「冗談じゃないよ、と言っても私もつい最近知ったんだけどね」
玄「遭難した時、お姉ちゃんは弘世さんを助けるために”呪い”を負ったの」
菫「”呪い”を負った……?馬鹿な、何を言っている」
菫「大体、”呪い”なんて……―――」
――『早く逃げて』――
菫「……ッ」
玄「……思い出した?」
玄「そう……弘世さんとお姉ちゃんが遭難した時、お姉ちゃんは”傷”を負った」
玄「野犬から弘世さんを守る為に……」
菫「あ、あれは……でも野犬に噛まれただけだろう……」
菫「私達もすぐに発見されて、その子はすぐに病院へ連れていかれたはずだ」
玄「うん、治療も成功し命に別状はなかったよ」
玄「……ある病気を残して」
晴絵「病気……まさか」
菫「……それが、あの異様な寒がりなのか?」
玄「……」
玄「誰もが目を疑うくらいの厚着をして、男の子たちには虐められて」
玄「時には今回のように発作を起こして、病院に運ばれて……」
菫「……”呪い”」
玄「……」
ガチャ
「松実さんが目を覚ましました!!」
「「!?」」
菫「ゆ、宥!!」
菫「宥……!」
晴絵「宥!私が分かるか!?」
宥「……?赤土さん?それにみんな……」
憧「宥姉……よかったぁ」
灼「うん……」
玄「お姉ちゃん……」
宥「玄ちゃん……」
「失礼、親族の方は………」
玄「私です」
「親御さんは?」
玄「すぐには来られない状態なので……まだ」
晴絵「あの、私はこの子の部活の顧問です、私では」
「……わかりました、ではこちらに」
菫「わ、私も……!」
晴絵「駄目よ弘世さん、いくら貴方が宥の恋人と言っても」
玄「いいの、赤土さん」
晴絵「玄?」
玄「……弘世さんも知っておかなくちゃいけない事だから」
晴絵「……はぁ……わかった」
…
晴絵「見たこともないウイルス?」
「はい……このような事は初めてで……我々では対処できません」
晴絵「それなら……急いで専門の病院に見せた方が」
「……おそらく、その頃にはもう」
菫「そんな……」
「彼女がこうして目を覚ましたこと自体が奇跡なんです」
「彼女は精々持って……あと数日。いえ、明日かもしれない」
菫「……どうしようも出来ないのか!」
「……残念ながら」
菫「……っ――」
……
…
灼「……あ、ハルちゃん!」
憧「晴絵!玄!」
穏乃「宥さんは……!」
晴絵「……」フルフル
晴絵「精々持って数日……ヘタすりゃ明日かもしれないとさ……」
灼「そんな……」
憧「嘘……」
穏乃「……どうにか出来ないんですか?」
晴絵「……悔しい気持ちは私も一緒だ」
灼「……玄はそれでいいの?」
玄「……私達にはどうする事もできないよ」
玄(だからせめて……最期はお姉ちゃんの好きにさせてあげたい)
……
…
菫「……」
宥「……そう」
宥「私……もうすぐ死んじゃうんだね」
菫「……っ、まだ決まったわけじゃない」
菫「医者の言う事が全て正しいと決まったわけじゃない!」
菫「きっと、また奇跡だって!」
宥「……ありがとう、菫ちゃん」
菫「……ゆ……う……?」
宥「……いつか、こんな日が来るんじゃないかって思ってた」
菫「私のせいなのか……?」
菫「私があの時、宥に助けられたから……」
宥「……ううん、違うよ」
宥「菫ちゃんを助けたのは、私の意思だから」
宥「菫ちゃんのせいじゃないよ」
菫「でも!!」
菫「宥はそれでいいのか!?」
菫「もうすぐ死ぬかもしれないんだぞ!?」
宥「……」
宥「ねえ菫ちゃん、夜にまたここへ来てくれる?」
菫「えっ……」
菫「夜遅く……どうして?」
宥「それから…………」ヒソヒソ
菫「……」
菫「宥、一体何を」
宥「おねがい」
菫「……っ」
菫「……わかった」
宥「……それじゃあ私、少し眠るから」
菫「ああ、また後で……な、必ずだぞ」
宥「……うん」
………
……
…
……
………
『きゃあっ!な、なに!』
『犬……!っ……!あぶない!』
『き、きみ!!何してるの!!』
『早く逃げて!―――あああっ!!』
『……う……うああああああ!!』
『な……!?こ、この犬っ!!!』
『アア…‥ああああっ!!痛いっ……痛いよ!!』
『このっ!!あっちいけ!!』
『はぁっ……はぁっ……はぁっ……』
『やっと行った…………っ!?きみ!大丈夫!?』
『は……はっ……だ、大丈夫だよ……っ?った……』
『血がこんなに……!誰か!!早くたすけて!!!』
『助けて――――』
宥「……夢……」
宥「……懐かしい夢」
宥「思えば……あの時に菫ちゃんと会ってたんだね」
宥「なんだか……運命みたい」
カラカラ...
宥「……菫ちゃん?」
菫「……ああ」
宥「来てくれたんだね」
菫「……当たり前だろ」
宥「うん、じゃあ……行こうか……」ヨッ
菫「宥!?立っちゃ駄目だ、寝てないと!」
宥「いいの、行かせて」
菫「行くって……どこに……」
宥「……着いてきて」
菫「……ここは、川?」
宥「うん……最期に菫ちゃんと二人で見たかったから」
菫「……最期なんて言わないでくれ」
菫「私はこれからもずっと宥と一緒にいるつもりだ」
菫「だから……」
宥「……」
宥「ごめんね」
菫「宥……っ!」
宥「……」
宥「……ねえ菫ちゃん……私の最期のお願い聞いてくれる?」
――私を殺して……?――
菫「そんなこと……っ、そんなことできる訳ないだろう!!」
宥「……おねがい」
菫「……まさかその為に、私に”コレ”を持ってこさせたのか?」
宥「……」
宥「どうせ死ぬのなら……せめて菫ちゃんの手で……」
菫「……」
菫「……どうして、どうしてなんだ!」
菫「どうして愛する人を、殺さねばならんのだ!!」
菫「こんなにも好きで好きで堪らない恋人を、私に殺せだと?おかしいだろう!!」
宥「……」
宥「ごめんね」
菫「……っ……」
菫「……私が聞きたいのは、そんな言葉じゃない……」
宥「……」
宥「私、菫ちゃんと出会えて良かったよ」
菫「……」
宥「短い間だったけど、菫ちゃんと色んな事が出来て楽しかったよ」
菫「やめてくれ……」
宥「ううん、菫ちゃんだけじゃない。皆とも出会えて、とても楽しかった」
菫「やめてくれ」
宥「私、最高に楽しい人生だったよ」
菫「やめてくれ!!!」
宥「……」
菫「どうして……どうしてなんだ!!」
宥「……」
宥「……私はもう、明日まで生きられない」
宥「だから、最期は菫ちゃんの手で……私を」
菫「……そんなこと……っ」
宥「菫ちゃんは、私に深い”呪い”を負わせた」
宥「だから……今度は私が菫ちゃんに”呪い”を負わせる番」
菫「……卑怯だよ、宥」
宥「……ごめんね」
宥「だから、おねがい……」
菫「……」
宥「……菫ちゃん」
菫「……っ」
カチャ... ギギギ...
宥「菫ちゃん……」
菫「……っ!!」
――愛してる――
宥「っ……グァはぁっ!」ドサッ
菫「ゆ、宥!!」
宥「す……すみれちゃ……」
菫「宥!宥!!」
宥「あり……がと……う」
菫「っ!!」
宥「すみ……れちゃ……ん」
宥「きす……して……っ……?」
菫「っ宥……!」
―――んッ
菫「宥っ……?」
宥「……」
菫「……お、おい……宥?」
宥「……」
菫「……」
菫「……っ……――――!!!」
『うっあああああ……――――っ!!!』
……
…
菫「……」
菫「……これが……私の”呪い”なのか……宥」
菫「この”呪い”はあまりにも辛すぎるよ……」
菫「……宥を失った私に、生きる理由はもう無い」
菫「……宥……」
菫「私も今……そっちへ行くよ」
カチャ... ギギギ...
――殺し合う事もなかったけれど――
――こんなにも深く誰かを愛することを――
――知らずに生きたでしょう――
菫「宥……」
菫「大好き……だよ――」
――――タァン……
――愛する人を失った世界には どんな色の花が咲くのだろう――
カン
――幾度と無く開かれる 楽園への扉――
――第四の地平線――
作中での”呪い”や”傷”は、
宥の傷=野犬に噛まれた時、傷は癒える。
宥の呪い=傷によって出来た寒がり症、それによって長く生きられないこと。
菫の呪い=恋人を失い、殺めた罪という呪い。
という解釈をして頂ければ……
まさかこんな結末になるとは……。
Entry ⇒ 2012.11.02 | Category ⇒ 咲-Saki-SS | Comments (5) | Trackbacks (0)
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あかり「敵はほんのりしお味だよ!」
京子「へ?あかり、何言ってんだ?」
京子「それ、うすしお味じゃなくて」
京子「ほんのりしお味だよ?」
あかり「ほ、ほんのりしお味って何ぃ!?」
結衣「最近発売された新商品みたいだよ」
結衣「ちょっと食べてみな、すっごい微妙だから」
あかり「…」モグモグ
あかり「うっ…て、敵はほんのりしお味だよぉ!」
京子「そうだよね、さっすがちなつちゃん。あかりと結衣もちゃんと味わってみればおいしいって」
結衣「こんかいばかりはさすがに同意できん」
あかり「うんうん、やっぱりうすしおが一番だよぉ」
ちなつ「ま、しょせんお菓子ですから好きなもの食べればいいじゃない」
結衣「そうそう、ちなつちゃんのいう通りだよ」
ちなつ「キャー、結衣先輩も同じなんですねー! やっぱりわたしたち以心伝心なんですね!」
結衣「あはは、そうだね……」
その人気に反比例するようにうすしお味は売上を減らし、生産が縮小されていった。
そしてその日。うすしお味の生産が終了されることが発表された。
当然、この事実はあかりの耳にも届いていた。
あかり「……そんな」
あかり「嘘、でしょ……」
京子「……結衣、ニュース見たよね」
結衣「あぁ、見たよ」
京子「あかり、大丈夫かな?」
結衣「ただでさえ、うすしおの売り場がどんどん減っていって落ち込んでいたからな」
結衣「ここにきてさらに追い打ち、もうあかりの心はボロボロだろう」
京子「わたしたちが支えてあげないと」
結衣「うん、そうだな……っと、そろそろ来るころだよ」
ちなつ「こんにちはー」
あかり「……」トボトボ
あかり「……うん」
結衣(これは……)
京子(重傷だな……)
京子「あかり、そんな暗い顔あかりには似合わないよ」
結衣「わたしたちはいつもニコニコしてるあかりが好きだからさ」
あかり「……あはは、うん」
京子「あかり……」
結衣(やっぱり、根本的な問題が解決しない限り無理か)
ちなつ「ほ、ほら京子先輩。今日はなにして遊ぶんですか!」
京子(そうか、楽しいことをしてればあかりの気も紛れるかまおしれない)
京子「じゃーん。話題BOX。今日は久しぶりにこれであそぼー」
結衣「じゅ、順番はどうする」
京子「とりあえず、あかりから時計回りでいいよね」
ちなつ「はい。いいですね。早くやりましょう!」
京子「ささ、あかり引いてみて」
あかり「うーんと」ガサゴソ
あかり「えーとぉ」
好きなお菓子について
あかり「……」
京子「げ……!」
結衣「おい、京子!」
ちなつ「なにやってるんですか、このバカ!」
京子「ご、ごめんよぉ」
あかり「ふざけないでよぉ!!」ガタ
ちなつ「あ、あかりちゃん!」
あかり「京子ちゃん、そんなにまでしてあかりを馬鹿にしたいの」
あかり「そうだよね、京子ちゃんはほんのりしお味が好きだったもんね」
あかり「ずっと心の中であかりのこと笑ってたんでしょう!」
あかり「もう、帰る……!」
京子「ちがうよぉ、あかりぃ……!」
結衣「おちついて、あかり!」
ちなつ「あぁ、どうしてこうなるのぉ!」
あかり「離れて!」ブン
京子「……あぁ!」
ダダダダダダダダダ
京子「……あかりぃ」
あかね「おかえりなさい、あかり」
あかり「……ごめん、今日はもう疲れたから寝るね」
あかね「え、えぇ……」
ガチャ
あかり「……これから、どうしよう」
あかり「京子ちゃんにあんな態度とっちゃって……もう顔合わせられない」
あかり「せっかく、あかりを励まそうとしてくれてただけなのに」
あかり「……もうなにも考えたくない、寝よう」
結衣「昨日はメールも電話も返事がこなかったよ」
ちなつ「やっぱり、アレはまずかったですね。傷口に塩を塗ったようなものですから」
京子「……わたしのせいだ」
ちなつ「ほら、京子先輩が落ち込んでてても解決しませんよ」
ちなつ「昨日は馬鹿っていたの謝りますから、元気だしてください」
京子「あはは、ありがとね」
ちなつ「そうときまれば、善は急げです。さっそく出発しましょう」
京子「……そうだ!」
京子「二人とも、ちょっと協力してくれる」
ちなつ・結衣「え?」
あかりの部屋
あかり(……あかりだめだなぁ、ずる休みまでしちゃった)
あかり(どうせ仮病なんて急場凌ぎでしかない、いつまでもこんな方法つづけてられない)
あかり(明日、どうしよう?)
コンコン
あかね「あかり、起きてる?」
あかり「起きてるけど」
あかね「京子ちゃんたちがお見舞いにきてくれたの」
あかね「ごめんね、せっかく来てくれたのに」
結衣「いいんです、こっちだってそう簡単に会えるとは思ってませんでしたし」
ちなつ「……あかりちゃん、どんな様子ですか?」
あかね「そうね……昨日からずっと沈み込んでるままだわ。ご飯も食べないままなの」
あかね「ねぇ、話してくれないかしら。あかりになにがあったか」
京子「はい、えっと……」
あかね「なるほど、だいたい事情はのみこめたわ」
結衣「……でも、わざとじゃないんですよ。京子はただあかりを励ましてあげようとしただけなんです」
ちなつ「わたしたちにも責任はあるんです、悪いのは京子先輩だけじゃありません」
あかね「……安心して、怒ってないから」
あかね「みんながあかりを大切に思ってくれてるってことはよく伝わったわ」
京子「あかねさん……」
ちなつ「ありがとうございます」
あかね「ふふ、感謝されるほどじゃないのよ」
結衣「今日はこれで失礼しますね」
あかね「そう、明日もきてくれるの?」
ちなつ「はい、そのつもりです」
京子「……あかねさん、最後にお願いがあります」
京子「これをあかりに渡しておいてください」
あかね「これは……」
あかね「わかった、必ず渡しておく」
京子「よろしくお願いしますね」
あかり「……帰ったみたい」
あかり「はぁ、またやっちゃった。こうやってるとどんどん謝りにくくなっちゃうのに」
あかり「うぅ……どうしよぉ」
トントントン
あかり「お姉ちゃん……?」
あかね「あかり、京子ちゃんから預かったものがあるの」
あかね「部屋の前に置いておくから、受け取ってちょうだい」
あかね「できるだけ早くしてね、おいしくなくなっちゃうから」
あかり「……?」
あかね「お姉ちゃん、下にいくから。用があったらまた呼んね」
トントントントン
あかり「預かったもの、なにかな?」
ガチャ
あかり「これって……!」
あかり「でも、あかりがいつも食べてたのとちがう」
あかり「あれ、これは……カード?」
あかりへ。
昨日はごめんね。話題BOXのことはわざとじゃないんだ。
言っても信じてもらえないかもしれないと思って、お詫びの印にあかりの大好きなうすしおを手作りしてみました。
こんなのでは、満足してくれないかもしれません。でも、少しでもあかりがおいしいと感じてくれたら幸いです。
本当にごめんね
by京子
あかり「京子ちゃん……」
あかり「一枚、食べてみよう」
あかり「……ん」パリ
あかり「……ふふ、グス」
あかり「もう、一枚」
あかり「……」パリ
あかり「うぅ……」
あかり(それは、あかりの知ってるうすしおとは違うけど、なぜだかとってもおいしくて)
あかり(少しでも長く味わっていたくて、かみしめるように一枚一枚をゆっくり食べていく)
あかり「よし……いくよぉ!」
あかり「ふふ、おいしいよぉ」グス
あかり「ごちそう、さまでした」
あかり「……謝らないと、みんなと仲直りしないと」
あかり「電話しよう、京子ちゃんに」
プルルルルルルルル
あかり「そうだよぉ」
あかり「食べたよ、京子ちゃんの手作りのうすしお」
あかり「伝わったから、京子ちゃんの気持ち」
京子「よかった……ごめんねあかり」
あかり「ううん、あかりの方こそ八つ当たりだったよぉ」
あかり「だから、お互いさまだよ」
京子「……ありがとう」
京子「明日から、学校これるよね」
あかり「もちろんだよぉ」
京子「待ってるから、絶対だよ!」
あかり「うん……!」
京子「ほら、あかり今日も作ってきたよ」
あかり「いただきまーす」
京子「ふふ、いっぱい食べてね」
結衣「はぁ、一時はどうなると思ったけど。なんとかなって良かったよ」
ちなつ「そうですね、やっぱりあかりちゃんは笑ってるほうがいいです」
あかり「わぁいうすしお!あかり、うすしお大好きぃ!」
おわり
乙乙
Entry ⇒ 2012.11.02 | Category ⇒ ゆるゆりSS | Comments (0) | Trackbacks (0)
P「音無さんをプロデュースします!」
高木「ウォッホン! それではさっそく、君がプロデュースするアイドルを」
P「音無さんで」
高木「えっ」
P「音無小鳥さんでお願いします」
高木「し、しかし……彼女は我が765プロの事務員であり、アイドルでは」
P「いいえ、もう決めました。俺は音無さんをプロデュースします!」タタッ
高木「ま、待ちたまえ!」
P「音無さん!」
小鳥「あら、おはようございます、プロデューサーさん」
P「お、おお、おはようございます!」
小鳥「ふふっ、どうしたんですか? そんなに汗かいちゃって……」
P「……すー、はー……」
小鳥「……? プロデューサーさん?」
P「……単刀直入に言います」
小鳥「は、はい……」
P「俺に、あなたの人生をプロデュースさせてください!」
小鳥「え? ……えぇええ!?」
小鳥(ななな、何!? これ何!? ぷぷ、プロポーズってやつ!?)
小鳥(そんな……ま、まだ、知り合って間もないというのに……)
小鳥(で、でも、愛に時間は関係ないものね。漫画で言ってたし……)
小鳥(……どど、どうしよう、ふへ、こ、困っちゃうな。いきなりこんなこと言われても私……ふへ)
P「おぅわっ、すす、すみません! えっと、人生というのはたとえ話でありまして……」
小鳥「……あ、はい……」
P「初めて見たときから、ティンときたんです」
P「ああ、この人は俺の運命の人なんだって……」
小鳥「!?」
小鳥(やや、やっぱりそうじゃない!)
小鳥(……きた……?)
小鳥(苦節2X年……これまで色々とあったけど……あ、いや、特にはなかったけど)
小鳥(特になかったからこそ今の私がいるんだけど……とにかく、きた……?)
小鳥(我が世の春が来たぴよ!!)
P(……社長にティンと来られて、765プロに初めて顔を出したあの日)
P(正直、この目を疑った。あの幻の歌手、音無小鳥さんが事務員として働いていたんだから)
P(そうだ……俺は、以前から、この人のことを知っていたのだ)
P(俺は、この人の大ファンだったのである!)
P(音無さんなら、絶対にトップアイドルになれるぞ!)
小鳥「あ、あの……」
P「……はい」
小鳥「突然(のプロポーズ)すぎて、わ、私、少し混乱してしまっています」
P「無理もないですね……」
小鳥「……本気ですか?」
P「本気です。本気で(プロデューサーとして)音無さんの人生を変えていきたいと思っています」
小鳥「!!!」
P「……どうでしょうか」
小鳥「え、え、え……」カァァ
P(顔が赤くなっている……あがり症だったりするのかな)
小鳥(あうう……! こ、こんな熱烈にアッピルされるなんて……これなんて乙女ゲー!?)
小鳥「……あの、でもですね」
P「はい……」
小鳥「わ、私だって、出会って間もない人に、そんなすぐ心を開くような簡単な女じゃありません!」
P「!」
小鳥「だから、その……」ゴニョゴニョ
P「……」
P(やはりそう簡単にはいかないか。なんといっても一度引退してしまっているんだからな)
小鳥「……お、お友達からというか……」
小鳥(ああもう! 何を言っているのよ小鳥! なんでこの年になってガードの固い女アピールしてるの!)
P「友達? ……なるほど、わかりました!」
小鳥「え?」
P「少しずつ(アイドルとプロデューサーとして)親睦を深めていくということですね」
P「それは俺だってのぞむところです。やはり信頼関係は大事だと思いますから」
小鳥「あ、……はい……」
小鳥(こ、これ、ほんとにほんとの出来事なの……?)
小鳥「そ、それじゃあ……ふ、ふつつか者ですが……これから、よろしくお願いします」
P「はい!」
小鳥「……えへ、えへへ……」
P「可愛いなぁ……」
小鳥「え!?」
P「本当に、素敵な笑顔です。俺、改めてあなたのファンになってしまいましたよ」
小鳥「……――~~!」
P「これからずっと、いっしょにがんばりましょうね!」
小鳥「……あ、は、はい……」
【その夜、小鳥さん家】
小鳥「……ただいまぁ~……」
小鳥「……」
ぽふん
小鳥「……! ……!」
小鳥「うわ、うわうわわ……!」ジタバタ
小鳥「じ、人生で初めて、告白されちゃった……!」
小鳥「うへ、うへへへへ……♪」ゴロゴロ
ぴた
小鳥「……ま、まだ……付き合う、ってなったわけじゃないけど……」
小鳥「プロデューサーさん……」
小鳥「……」
ピピピ
小鳥「め、メール?」
ピッ
小鳥「! ……あの人からだ……!」
……………………………………………………………
FROM:プロデューサーさん
SUBJECT:嬉しいです
Pです。こんばんわ。
俺、さっきは言えなかったけど、
実は以前からあなたのことを知っていたんです。
音無さんは一目惚れされた、と思ったかもしれませんが、
俺はずっと前からこの気持ちを持っていたんですよ。
だからこの前、事務所で再会できたとき、運命を感じました。
本当に嬉しいです。
これからよろしくお願いします!
……………………………………………………………
小鳥「ま、前から知っていた? ……駅とかですれ違いでもしたのかしら」
小鳥「……」
小鳥「……嬉しい、かぁ……」
小鳥「ふふ……♪」
【翌日、765プロ事務所】
小鳥「……」
小鳥「……えへへ」
小鳥「男性とあんなにたくさんメールのやり取りしたの、もしかしたら初めてかもしれないわね」
小鳥「……えーっと……」
ピッ
小鳥「……♪」
小鳥「ほ、保護とかしたら気持ち悪いかしら? ……そうよね、だってまだ、あくまで私達はお友達同士……」
小鳥「でも……嬉しいこと、いっぱい書いて送ってくれたし……ううん……」
ガチャ
P「おはようございまーす!」
小鳥「!」
P「あっ、音無さん! おはようご……」
小鳥「あわわ……」
ガチャガチャ
P「あれ? 何をやってるんですか?」
小鳥「お、おはようございましゅ」
P「おはようございます。えーっと……」
小鳥「あ、いえ、ちょっと机の上の小物とかついでに領収書の整理をしていただけで……」
小鳥「決して、あなたとの昨日のメールを読み返してニヤニヤしてたわけじゃありませんから!」
P「そうですか! いやぁ、仕事が出来る女って感じがしますね!」
小鳥「あはは……」チラ
小鳥(か、顔が見れない! ああ、あんなにメールでは饒舌なあたしだったのに!)
P「事務仕事、手伝いますよ」
小鳥「え? でも……昨日も思ったんですけど、プロデューサーさん、お仕事は?」
P「え? これが仕事ですよ?」
小鳥「……? プロデューサーさんは、プロデューサーさんですよね?」
P「もちろん、俺は俺です。音無さんの人生のプロデューサー……」
小鳥「も、もう! またそんな言い方して……!」カァァ
P「あはは……すいません」
小鳥「……とにかく、えーっと……あなたは事務員じゃなくて、プロデューサーですよね」
P「はい!」
小鳥「だったら、アイドルの子達をプロデュースしないといけないんじゃ……」
P「でも、あなたの仕事が残ってたら(集中してレッスンが出来ないから)俺の仕事に集中できません」
P(俺の担当アイドルは音無さんだからな)
小鳥「……プロデューサーさん……そんな、気を遣わなくてもいいのに」
P「気を遣ってるわけじゃありません。俺は、全力でやりたいんです。全力で、あなたの人生を……」
小鳥「そ、それはやめてください! ……照れちゃいますから……」
カタカタ……
P「……そういえば」
小鳥「はい、どうしたんですか?」
P「社長にこの件について報告したら、心よく応援してくれると言ってくれましたよ」
小鳥「ブゥーーー!!!」
P「ど、どうしたんですか!? 急に吹き出して」
小鳥「い、いえ……すみません」
小鳥(え? ええ!? な、なんてこと!? もう社長公認の仲になっちゃってたの!?)
P「音無さんが(レッスンや営業で)外に出ている間は、社長と律子で事務仕事を請け負ってくれるそうです」
小鳥「で、でも……」
小鳥(外に出るって……それってあれ? ゆくゆくはあたしとプロデューサーさんが一緒になって)
小鳥(家庭を持って、育児休暇とか取る時ってこと? え? もうそんなところまで話が進んでいるの!?)
P「……みんな、俺達のことを応援してくれているんです。……頑張りましょうね!」
小鳥「は……はい……」
小鳥「……ふぅ」
P「一段落着きましたね。さ、それじゃあそろそろ行きましょうか!」
小鳥「どこへ行くんですか?」
P「そりゃあ、レッスンスタジオですよ」
小鳥「ああ、レッスンスタジオ。そうですね、それじゃあ……」
小鳥「……ええ!?」
P「?」
小鳥「『?』じゃないです! わ、私がレッスンスタジオに行くんですか?」
P「ええ……だって、そういうことも必要でしょう?」
小鳥「うぅ……」
小鳥(プロデューサーさん、見抜いているんだわ……)
小鳥(……あたしのおなかが、最近ちょっと油断し始めているということに……)
小鳥「……わかりました。エクササイズも必要ですよね……」
P「エクササイズというか……まぁ、そういう気持ちでやったほうが、楽しめるかもしれませんね! はは!」
【レッスンスタジオ】
小鳥「……うぅ……」
小鳥(これしかなかったから、ヨガウェアを着てみたけど……これ、露出度高すぎじゃない……?)
P「音無さん……綺麗だ」
小鳥「も、もう! からかわないでください……」
P「からかってなんかいませんよ、本心です。俺は、音無さんの一番のファンなんですから」
小鳥「!」
小鳥(どうしてこんなこと、スラっと言えちゃうのかしら)
小鳥(……やっぱり、この人はあたしのこと本気で……?)
P「……おや? あれは……」
どんがらがっしゃーん
春香「あいたた……」
P「どうやら先客がいたみたいですね。あれは、天海さんか……」
春香「うう~……なんでうまくいかないのかなぁ……」
小鳥「春香ちゃーん」
春香「え? あぁっ、小鳥さん! えへへ、おはようございます!」
P「こんにちは、天海さん」
春香「プロデューサーさんも……あ、ていうか、春香でいいですよ」
P「ん、そうか?」
春香「はい! 同じ765プロの仲間ですから!」ニコッ
P「そうだな! それじゃあこれから君のことは、春香って呼ばせてもらうよ!」
P(音無さん以外のアイドルの子達とも、昨日一通り挨拶は済ませてある)
P(まぁ、俺の担当は音無さんだから、あまりアイドル活動に協力は出来ないとは思うけど)
春香「小鳥さんも、レッスンですか?」
小鳥「う~ん、レッスンというか……ダイエットを……」
春香「ダイエットだなんてそんな……まだ全然、体のラインも綺麗じゃないですか」
小鳥「そ、そう? えへへ……そうかしら」
春香「……私、嬉しいです」
小鳥「え?」
春香「社長から聞きました。小鳥さん、プロデューサーさんという運命の人を見つけたんですね……!」
小鳥「うぇぇ!? は、春香ちゃんまでそんなこと……」
春香「でも、私だって(アイドルとして)負けませんよ! 小鳥さんは素敵な人だけど、私だって頑張っちゃいますから!」
小鳥「……!」
春香「(同じアイドルとして)これから切磋琢磨していきましょうね!」
小鳥「そ、そうね……」
小鳥(……も、もしかして……春香ちゃん、プロデューサーさんのこと……?)
小鳥(……そう考えてみると、確かに……)
小鳥「……」
P「春香。ほら、ポラリスウェット」スッ
春香「ありがとうございますっ! いただきまーす♪」
小鳥「……」
小鳥(春香ちゃんもまだ出会って間もないというのに、もうかなり仲が良くなってる気がする……)
春香「んぐ、んぐ……ぷは」
P「音無さんのこと、指導してもらえるか?」
春香「ええ!? し、指導だなんてそんな……私、まだまだヘタクソですし」
P「でもさ、やっぱり同じ仲間同士でやった方が色々と気が楽だと思うんだよ」
春香「……そうかもですね。えへへっ、わかりました! この天海春香、ばっちり小鳥さんを見てみせます!」
春香「さあ、行きましょう、小鳥さん!」グイグイ
小鳥「え、ええ……」
小鳥(……なんだろう、この胸のもやもやは……)
【レッスン終了後】
春香「おつかれさまでしたっ!」
小鳥「……ぜぇ、ぜぇ……」
P「大丈夫ですか、音無さん」
小鳥「うっぷ……こ、こんな……まるでアイドルの子達がやってるみたいなハードなレッスンだなんて、聞いてません……」
P「まぁ、運動は久しぶりだったでしょうからね。でも、これからは毎日ですよ」
小鳥「えぇ!? スパルタすぎるぅ~……!」
P「こうでもしないと、他のアイドルの子達に追いつけませんよ! 頑張りましょう!」
小鳥「うぅ……」
小鳥(プロデューサーさん、やっぱり引き締まった体の方が好きなのかしら)
小鳥(……でも、こんなの……)
小鳥(こんなの、まだ付き合ってもないのにやらされるだなんて……俺様もいいところよ……)
P「……音無さん?」
小鳥「……」プイ
P「えーっと……」
小鳥「……痩せてないと、ダメなんですか?」
P「う~ん……痩せているかはともかく、鍛えておかないとうまくダンスが出来ませんから」
小鳥「だ、ダンスなんて……私、する機会もありませんよ」
P「え? ……なるほど、そうでしたか」
小鳥「え」
P「……すみません。確かに俺達、まだ(どんな方向のアイドルにするか)話しあっていませんでしたね」
小鳥「そうです、話し合うことは(お互いをよく知るために)必要なことです」
P「ダンサブルな曲に合わせて踊るより、もっとこう、歌を重視したいと思いますか?」
小鳥「? ……ま、まぁ、どっちかといえば、踊るよりは歌う方が好き……かな?」
P「なるほど……」
P「わかりました。それじゃあ、明日からはボーカルレッスンを重視することにしましょう!」
小鳥「あ、はい……えっと、でもそれ、エクササイズになるのかしら」
P「エクササイズ?」
小鳥「だって……プロデューサーさんは、私に痩せてほしくて今日みたいなダンスレッスンをさせたんでしょう?」
P「いやぁ、別に痩せて欲しいというわけじゃあ」
小鳥「えぇ!? じゃあ、なんで……?」
P「……正直に言って、音無さんが踊る姿を見てみたかったんですよ」
小鳥「え……」
P「俺は、もっと音無さんのことを深く深く知りたいと思っています」
小鳥「!」
P「そうすることで、あなたのプロデューサーとして」
小鳥「も、もういいですっ! また人生のプロデュースとかなんとか言うんでしょうっ」カァ
小鳥(……もう……困ったときは、すぐそう言えばなんとかなると思っているのかしら)
小鳥(……そんなことで喜んじゃうあたしも、あたしだけど……)
小鳥「……プロデューサーさん、ずるいです」
P「え」
小鳥「そうやって……すぐ……」モジモジ
P「お、音無さん?」
春香「……」
春香(さっきからふたりで話してたから口を挟めなかったけど……)
春香(小鳥さんのこの表情……)
春香(これは恋の香りがする!)
小鳥「……も、もう、シャワー浴びに行きましょう、春香ちゃん!」
春香「はい♪ えへへ、詳しく聞かせてくださいね!」
【シャワールーム】
ザザァー……
小鳥「あいたた……筋肉痛が……」
小鳥「あ、でも、こんな早く筋肉痛が来るなんて……私まだ、体は若いのかしら? ウフフ」
春香「小鳥さ~ん♪」ヒョコ
小鳥「うひゃあ!?」
春香「さっきも言いましたよね! 詳しく聞かせてくださいよう」
小鳥「く、詳しくって……?」
春香「ふっふっふ……白を切ろうったって、私の目は誤魔化せませんよ!」
春香「ズバリ! 小鳥さんはプロデューサーさんのことが好きなんでしょう!」
小鳥「え? ……えぇええ!?」
小鳥「なな、何を言っているの!? っていうか、それは春香ちゃんじゃないの!?」
春香「へ? 私ですか?」
小鳥「そうよ……私、春香ちゃんはプロデューサーさんのこと好きなんじゃないかって思ってたんだけど」
春香「ええ!? なな、なんでそうなるんですか!?」
小鳥「だってさっき、負けませんからね、って……」
春香「確かに(アイドルとして)負けません、とは言いましたけど……」
春香「でも、小鳥さんの想い人……キャー!」
小鳥「……えーっと」
春香「あっ、す、すみません……ついテンション上がっちゃって」
春香「おっほん! とにかく、小鳥さんが好きな人を私が好きになるなんて、そんなことしませんよ!」
小鳥「ちょ、ちょっと待って。なんか……色々話が噛みあってない気がするんだけど……」
小鳥(なんだか頭が混乱してきたわ……)
小鳥(えーっと……春香ちゃんが負けないって言ったのはどういうこと? ううんと……)
春香「とにかく、小鳥さんはプロデューサーさんのこと好きなんでしょう!」
小鳥「ぴよっ!」
春香「ぴよ? それって肯定ですか?」
小鳥「あ、ううん! ちょっとビックリしただけだから!」
春香「えっへへ……♪ それで、どうなんですか?」
小鳥「……私がプロデューサーさんのこと……」
春香「はい!」
小鳥「……正直言って、まだわからないわ」
春香「……」
小鳥「プロポーズはされたけど……えへへ、きゅ、急な話だったし……」
春香「え……プロポーズ……?」
春香「ええええええええ!!!!!!?」
小鳥「ちょ、ちょっと、声が大きいわよ」
春香「……プロデューサーさん、やりますね……!」
小鳥「そ、そうよね、もう困っちゃうわウフフ」
春香「……」
小鳥「私ね、情けない話だけど、こういうの初めてなのよ……だからもう、どうしたらいいかわからなくて」
春香「……ふふ」
小鳥「ま、まだお付き合いしてるわけじゃないんだけど……少しずつメールとかで親睦を深めようってことになって」
小鳥「それで、昨日なんか……春香ちゃん?」
春香「えへへっ♪ やっぱり小鳥さん、恋する女の子の顔してます!」
小鳥「そ、そんなことわかるの?」
春香「そりゃあもう! 私もいつも、同じ学校の友子の恋の話をたっくさん聞いてますから!」
小鳥「……」
小鳥(高校生と同じレベルの表情をしていたのね、あたし……)
春香「プロポーズされたってことは、皆には黙っておきますね」
小鳥「そ、そうしてくれると嬉しいわ」
春香「……小鳥さん、ガンバ!」グッ
小鳥「うぅ……だ、だからそんな、私はまだ好きだって認めたわけじゃ……」
春香「またまたそんなこと言って~♪」
小鳥「……」
春香「とにかく、ひとつ私からもアドバイスをしておきますね!」
小鳥「アドバイス?」
春香「はい! あ、わ、私なんかの助言じゃあんまり頼りにならないかもしれないけど……」
小鳥「……ううん、聞かせて」
春香「それじゃあ……」
ヒソヒソ……
小鳥「……なるほど……なるほどなるほど」
P「……お、ようやくふたりが出てきたな。おーい」
春香「ほら、小鳥さん♪」ポンッ
小鳥「え、ええ……!」
テクテク
P「随分長かったですね」
小鳥「お、女の子は色々とあるんですっ」
P「あはは、それはすみません。それじゃあ、そろそろ事務所に――」
小鳥「あのっ、プロデューサーさん!」
P「どうしたんですか?」
小鳥「……」
ドックンドックン
P「……音無さん?」
小鳥「……――れから」
P「え?」
小鳥「……!」
小鳥(勇気を出すのよ、小鳥! 春香ちゃんも協力してくれるって言ってくれたし……!)
小鳥(こんなチャンス……逃がさないんだから!)
小鳥「……これから、私と……」
P「はい……」
小鳥「デート、してくれますか?」
【ショッピングモール】
P・小鳥「……」テクテク
P「……あ、あの店なんかいいんじゃないですかっ!?」
小鳥「そそ、そうですね! とっても素敵なお店……」
P(な、なんだなんだ? どうなっているんだ?)
P(きゅ、急にデートだなんて……こ、これはあれか)
P(プロデューサーとして、アイドルとして……親睦を深める的な意味だよな。うん……)
P(くそう……デートなんて言葉を使われたから、どうしたらいいかわからないぞ……)
P(これだから元インディーズアイドルオタクの童貞は困る……!)
小鳥(あうう……!)
小鳥(デートって言っても、何をしたらいいのよ!)
小鳥(プロデューサーさん、あたしなんかと違って、なんだか余裕そうね……)
小鳥(一方小鳥ちゃんはもうさっきからガッチガチよ……)
小鳥(これだから青春時代を暗いまま過ごした処女は困る……!)
カチャ、カチャ……
モグモグ……
P「……」
小鳥「……」
P・小鳥(何を話したらいいかわかりません!)
P(……しかし音無さん、やっぱり綺麗だな)
P(黙って食事をしているだけなのに、なんて絵になる人なんだ)
小鳥(プロデューサーさん……時折こっちを見て、意味ありげに微笑んでいる)
小鳥(そんなことされたら……緊張しちゃうじゃない……うへへへ……)
P・小鳥「……」ニヤニヤ
小鳥「……ごちそうさまでした」
P「お、お気に召しましたか?」
小鳥「そりゃあもう……」
小鳥(本当は料理の味なんてわからなかったけど……)
P「あはは、それは良かった……俺なんて、緊張で味がわかりませんでしたよ」
小鳥「え? き、緊張?」
P「そりゃそうです。あなたみたいな素敵な女性と食事をしたの、初めてでしたから」
小鳥「……!」
P「さて、それじゃあ……」
グイ
P「……音無さん? どうかしたんですか?」
小鳥「あっ、あの……!」
小鳥「あ、あたし、嘘をつきましたっ」
P「嘘? ……というか、あたしって」
小鳥「ぅわあ、す、すみませんっ!」
小鳥(プロデューサーさんの前なのに、思わず『わたし』じゃなくて『あたし』、なんて……)
P「……ふふ。それで、どんな嘘を?」
小鳥「……私も、本当は……料理の味なんてわからなかったんです」
P「……」
小鳥「緊張、してました。ドキドキしました」
小鳥「今だってほんとは、ガッチガチに震えてます」
小鳥「あんな風に言ってくれたあなたに嫌われたらどうしよう、って……」
P「……音無さん」
小鳥「だからっ……ごめんなさい」
P「……いいんですよ。俺も嬉しいです」
小鳥「え? 嬉しいって、それってどういう……」
P「あ、い、いや、なんでもありません! すみません……」
P(……相手は、アイドル。……いや、まだ曲も出していないし、デビューすらしていないけど)
P(ただ、俺は昔からこの人のファンで……憧れていただけなのに……)
P(なのに、俺は……)
小鳥(……嬉しいって、どういう意味だったのかな)
小鳥(プロデューサーさんとあたしが、同じ気持ちだったから嬉しい、ってことなのかな)
小鳥(……いきなりプロポーズしてくるようなあなたのことだから、それくらいキザなことも言えちゃうかもしれないわね)
小鳥(でも……もしそうなら、あたしも……)
小鳥(あたしも、嬉しい)
P「……」
小鳥「……」
P「暗く、なってきましたね」
小鳥「そう……ですね」
P「夕飯には少し早すぎたでしょうか」
小鳥「……プロデューサーさんも、今日はお昼取ってなかったでしょう? だからいいんです」
P「……」
小鳥「……あ」
P「どうしたんですか?」
小鳥「……星が」
P「……綺麗だ」
小鳥「……」
――…… いま 輝く 一番星 ……――
P「……!」
小鳥「……なんて。ふふっ、なんだかちょっと、昔のことを思い出しちゃいます」
P「歌手だった頃ですか?」
小鳥「え!? し、知ってたんですか……?」
P「あれ、言っていませんでしたっけ……俺、音無さんのファンだったんですよ」
小鳥「……そうだったんですか……」
小鳥(昨日メールで言ってたのは、そういうことだったのね……なんだか、恥ずかしい)
P「『光』。俺が一番好きな、あなたの歌です」
小鳥「……」
P「『空』も、『花』も、もちろん素敵な曲だけど……この曲からは、あなた自身の優しさが感じられる」
P「これを聴いて、俺はあなたに夢中になり始めたんですよ」
小鳥「……すぐそのあと、引退しちゃったけど」
P「残念でしかたありませんでした。でも俺は、数こそ少なかったけれど、毎日あなたのCDを聴いています」
小鳥「……ありがとう、ございます」
P「……」
小鳥「……」
P「……音無さん」
P「泣かないでください」
小鳥「な、泣いてなんか……いません」
P「……悲しいことが、あったんですか?」
小鳥「……ありません。あったとしても、もう忘れちゃいました」
P「……」
小鳥「……いま、もし、私が泣いているように見えるなら」
小鳥「それは、嬉しいからです……」
P「嬉しい?」
小鳥「……はい」
小鳥「あの頃の私のことを見ていてくれる人がいた」
小鳥「高木さん……じゃなくて、高木社長が言っていたことは本当だった……」
小鳥「そして……今でもちゃんと覚えてくれる人が……こんなにも、近くにいる」
小鳥「そのことが、とっても……嬉しかったんです……!」
小鳥「……すみません、なんだか変な空気にしちゃいましたね!」
P「いえ……」
小鳥「帰りましょう、私達の765プロへ」
P「……私達の?」
小鳥「そうですよ。プロデューサーさんはまだ、ここに来て日が浅いけど……」
小鳥「あの場所は、私にとって……ううん、私達にとっての家ですから」
小鳥「私と同じように……あなたにもそう思ってもらえたら……それもまた、とても嬉しいことです」
P「……そうですね!」
【その夜、小鳥さん家】
小鳥「……ただいまぁ」
ぽふん
小鳥「……今日はなんだか、いろんなことがあった気がするわ」
小鳥「もう寝ちゃいましょう……ああでも、メイク落とさなきゃ……」
のそのそ
小鳥「……いたた。うぅ、足が……」
小鳥「……」
小鳥(カッコ悪いとこ、見せちゃったな……)
フキフキ
小鳥「……ふぅ」
小鳥「……」
ジー
小鳥(うぅ……やっぱり、何度見ても春香ちゃんみたいなプルプルのお肌じゃないわ)
小鳥(765プロには、あたしより若くて綺麗な女の子がいっぱいいる……)
小鳥(……きっと、そのうちプロデューサーさんだって……)
『プロポーズ? 何を言っているんですか?』
小鳥(みたいなこと言ってくるに違いないわ)
小鳥(そうよ。だから調子に乗っちゃダメよ……)
小鳥(ダメ……なんだから)
小鳥(……でも、もし、本当にそうなったら。そんなことを言われたら)
小鳥(やだな……)
小鳥「……」ジワァ
小鳥「……!」
ブンブン
小鳥(やだ、もう……今日はとことん涙もろい日ね)
小鳥(……寝る前にちょっとだけ、ちょっとだけ)
ピッ
ウィーン……
小鳥「……えーっと……お肌、スキンケア、アンチエイジング……検索、っと」
―――
――
―
カタカタ
小鳥「ほー……へー……」
小鳥「なるほどなるほど……え、それじゃあ……」
カタカタ……
小鳥「って、三時!? うわわ……夜更かしこそがお肌の大敵だっていうのに……!」
小鳥「ね、寝ないと……」
小鳥(……あーあ)
小鳥(なんで……こんなに、頑張ろうって思ってるのかしら)
小鳥(まるで、思春期の女の子みたいじゃない。いい年して……)
小鳥(……プロデューサーさん)
小鳥(まだ、ちゃんと話すようになって二日くらいしか経ってないのに)
小鳥(人の心の中にズカズカズカズカ……)
小鳥(勝手すぎるわよ、もう)
小鳥(……やめてよ、もう。こんなあたし、情けなさすぎる……)
小鳥(……もう、本当に……本気で、――に、なっちゃうじゃない)
小鳥「……本気で……」
小鳥「……す、き……に」
小鳥「……――~~!!」ジタバタ
小鳥「お、おやすみなさいっ!」
ボフン
【翌日、765プロ事務所】
P「……」
ガチャ
P「!」
春香「おっはようございまーっす!」
P「な、なんだ……春香か」
春香「ひどい!」
P「ああ、いや、ごめん! むしろ春香で良かったよ」
春香「えっへへ♪ 冗談ですよぅ」
春香「プロデューサーさんプロデューサーさん! それで、あのあとどうなったんですか!?」
P「えーっと……あのあとって?」
春香「やだなぁもう、小鳥さんとのデートに決まってるじゃないですか!」
P「う……」
春香「なにか、進展ありました!?」キラキラ
P「し、進展ってお前なぁ……いいか、俺はプロデューサーであり、音無さんはアイドルであり」
春香「もう、そんなお決まりな台詞はいいんですよ!」
P「……春香の言い方だと、その……俺が音無さんに気があるみたいに聞こえるんだけど」
春香「え? ああ、それは逆で」
P「逆?」
春香「うわぁあ! い、いいえ! な、なんでもないですっ!」
春香「お、女の子はそういう話が大好きだから、だから気になってるだけです!」
P「……」
春香「あはは……」チラ
P「顔が『のヮの』←こんな感じになってるぞ」
春香「おおっと……」グシグシ
P「……なぁ、春香」
春香「なんでふか?」グシグシ
P「……現役女子高生アイドルであり、恋に恋する女の子であるところの春香に、ひとつ聞いてみたいんだけど」
春香「はい! なんでも聞いてください!」
P「プロデューサーとして、アイドルのことを好きになるのは……ダメだよな」
春香「……えへへ、何を言っているんですか」
P「え……」
春香「いいですか、プロデューサーさん」
春香「女の子は、誰かに愛されることで綺麗になるんです」
P「そ、そうなのか?」
春香「そうです。私はまだ経験ありませんけど……同じ学校の友子がいつも言っていますから」
P「そうか……友子さんは経験豊富なんだな」
春香「そうですよ、友子はすごいんです」
春香「昨日もついつい、例の件について長電話しちゃ……ああ、えっと、話がそれちゃいましたね」
P「……」
春香「とにかく! プロデューサーさんが誰のことを好きになりそうなのかは、わからないふりをしておきますけど」
春香「立場なんて気にしないで、どんどん、好きになっていいと思います!」
P「……そっか」
春香「はい! あ、でも、もちろんこんなこと、律子さんに知られたら怒られちゃうかもしれませんけど……えへへ」
春香「……それはそうと、小鳥さん、まだ来てないんですか?」
P「ん、そうだな。今日は俺が一番乗りだった」
春香「珍しいですね、遅刻だなんて」
P「珍しい? というか、まだ遅刻だなんて時間じゃあ……」
春香「あ、プロデューサーさんはまだ知らなかったかもしれないですけど……」
春香「小鳥さんって、毎日誰よりも早く事務所に来るんですよ」
P「へぇ。それならたしかに……」
ガチャ……
小鳥「……おはよう、ございます」
P「っと、噂をすれば……おはようございます、音無さ――」
P・春香「!?」
小鳥「……ご、ごめんなさい……遅刻……」
春香「どど、どうしたんですか!? ひどい顔……!」
小鳥「あはは……ちょっと、ね」
小鳥(結局あのあと、一睡も出来ずに朝を迎えて)
小鳥(これはイカンと、30分だけ仮眠するつもりが予定より大幅にオーバーしてしまって)
小鳥(大慌てで支度して、メイクもいつもよりだいぶ適当になってしまったからこんな顔をしているなんて言えない)
P「音無さん……」
小鳥「……事務所の鍵、開けてもらっちゃってごめんなさい」
P「いえ……それより、見るからに体調不良ですね」
小鳥「えぇ!? そ、そんなことないですよ! 元気げん……」
ふらっ
P「だ、大丈夫ですか!?」
ガシッ
小鳥「ああう……す、すみません……」
小鳥(徹夜明けで走ってきたから、貧血が……!)
小鳥(……何がなんだかわかんないけど、これはラッキー?)
ギュッ
春香「おお……!」
小鳥(え、えへ、えへへ)
P「音無さん……」
P(小さく震えながら、俺の体を掴んで……顔もこんなに真っ赤になって緩んでいる)
P(間違いない、これは風邪だ! 寒気と熱のせいでこんなになっちゃってるんだ)
P「……今日は休みましょう。家に帰って、安静にしていてください」
小鳥「え!? そ、そんなことできません! 大体、私がいないと誰が事務仕事を――」
P「俺がやります。あなたの仕事は、俺の仕事でもあるんですから」
小鳥「いや、でも……というか、本当に体調不良なんかじゃ……!」
P「……強がりはやめてください。俺には、あなたのこと、全てお見通しですから」
小鳥「……!」
P「ほら、また顔が赤くなって……熱が上がってるんです。お願いですから、休んでください」
【小鳥さん家】
小鳥「……」
小鳥(音無小鳥、2X歳です)
小鳥(なんだかよくわからないうちに、お仕事をサボってしまいました……)
小鳥(あのあとプロデューサーさんが、社長や律子さんにズババっと説明していって)
小鳥(なぜかみんな、すんなり納得して、帰ったほうがいいってことになって……)
小鳥(有給を取ることに……)
小鳥「……ま、いっか……」
小鳥「せっかくだし、休みを満喫しましょう!」
小鳥「買ったまま溜まってた漫画やゲームもあることだし……ウフフ」
【765プロ事務所】
P「……はぁ」
春香「元気ないですね、プロデューサーさん」
P「……」
春香「やっぱり、小鳥さんのこと心配してるんですか?」
P「当たり前だろ……」
春香「……」
春香(……たぶん、小鳥さんは風邪なんか引いてなかったんだろうけど)
春香(それを知ってるのは、私だけだよね)
春香(言わないでおこう……)
P「ああ、大丈夫かな……倒れてなんかいないといいけど」
春香「!」ティン
春香「ふっふっふ……」
P「……ん、どうした春香。悪い顔をしているぞ」
春香「プロデューサーさん! 私、閃きました!」
P「閃いたってなにを?」
春香「そんなに心配なら、お見舞いにいけばいいんですよ!」
P「……へ?」
春香「お見舞いですよ、お見舞い! きっと小鳥さんも喜びますから♪」
P「えええ!? いや、そんな……」
プルルル
P「!」
ガチャ
P「は、はい、765プロです……ああ、お世話になっております! ええっと……」
春香「それじゃあ私、そろそろレッスンに行ってきますね~♪」トテトテ
P「あ、はる……い、いえ、すみません……ええ、その件につきましては……」
P(……お、お見舞いって……)
【夕方、小鳥さん家】
カァ……
カァ……
小鳥「……」
小鳥「…………」
小鳥「つまんない、な……」
小鳥(あれだけ消化するのを楽しみにしてた、ゲームや漫画も……)
小鳥(全然、集中して読めなかった)
小鳥(……もう、こんな時間かぁ)
小鳥(プロデューサーさんは、今日、どんなお仕事をしたのかな)
小鳥「……うぅ……」
ゴロゴロ
小鳥「こんなの、ダメ人間すぎるわぁ~~……!」
ゴロゴロ
ぴんぽーん
小鳥「うあ! な、なに?」
小鳥(……もしかして、amamizonからようやくあれが届いたのかしら! 新作のあの音ゲー!)
トテトテ
小鳥「は~い!」ガチャ
P「……こ、こんにちは」
小鳥「……」
P「えーっと、具合はどうで」
バタン
P「え!? ちょ、ちょっと、音無さん!?」
小鳥「……」
小鳥(ついに幻を見るようになってしまったのかしら)
P「おーい……」コンコン
小鳥(ああ、幻聴まで聞こえる。あたしったら、もしかして本当に調子悪いんじゃ……?)
P「……」
ピピピ
小鳥「」ビクッ
小鳥「け、ケータイ? 電話の着信が……」
ピッ
小鳥「もしもし……」
P『あの……音無さん』
小鳥「は、はい。音無さんです。あなたはどなた?」
P『プロデューサーです。わかっていたでしょう』
小鳥「……はい、わかっていました……」
P『急に押しかけちゃってすみません。一目様子が見たくて……』
小鳥「……」
P『具合、どうですか?』
小鳥「あ、その……もう、だいぶ良くなりました……おかげさまで」
小鳥(嘘をつきました。最初から風邪なんて引いていないんですから)
P『……』
小鳥「……」
P『あの、色々と買ってきたんです。ゼリーとか、消化に良い物を』
小鳥「……」
ドックン ドックン
P『……すみません、こんなことをして。非常識すぎました。ここに置いておくから、あとで食べてください』
小鳥「……あ……」
P『それじゃあ……』
小鳥「……!」
小鳥(や――)
小鳥「やだ……!」
P『……え?』
小鳥「行かないでください……!」
P『でも……』
小鳥「いま……あ、いや、五分、五分だけ待ってください!」
小鳥「そしたら、このドアを開けます……だからっ……!」
P『……わかりました。五分でも十分でも、俺はここで待っています』
小鳥「……すみません、それじゃあ、またあとで」
ピッ
小鳥「……」
ゴシゴシ
小鳥「……サイアク……」
小鳥「サイアクの顔、してるわ……」
小鳥「顔、はやく洗わないと……バレちゃう、きっと」
小鳥「もう、泣き顔は見せてあげないんだから……」
小鳥「……お待たせしました」ガチャ
P「あ、はい」
小鳥「あの……散らかってますけど、入ってください」
P「お邪魔します……」
小鳥「……」
P「散らかってるとか言っていたわりには、綺麗な部屋じゃないですか」
小鳥「え、そ、そうですか? ……えっへえへ」
P「音無さんらしい、可愛らしい部屋だと思います」
小鳥「……あ、ありがとう……ございます」
小鳥(ふわああああああああああああ)
小鳥(なにこれ!? なにこれ!? よく考えたらなにこの状況!!)
小鳥(と、突然……ちょっと気になってるかも? って人が、部屋に来るなんて……)
小鳥(これなんて乙女ゲー!?)
小鳥「……て、適当に座っていてください」
P「わ、わかりました……」
小鳥「私、お茶を淹れてきますから」
P「あ、ああいえ、お構いなく」
小鳥「そそそういうわけにはいきませんよ。れでぃーの嗜みですから」
P「そそそうですか……嗜みなら仕方ないですね。お願いしましゅ」
小鳥「……」コポコポ
小鳥(さっきまで淀んだダメ人間が住まうドンヨリだった部屋に、一陣の爽やかな風が吹き抜けました)
小鳥(ああ、あう……ど、どうしよう。ファブリーズしたから、変なにおいとかしないわよね?)
P「……」
P(小鳥さんの部屋、良い匂いがする)
P(なんていうか、女の子の匂いっていうか……安心するなぁ)
小鳥・P「……」ニヤニヤ
小鳥「どうぞ……粗茶ですが」コトリ
P「ああこれはこれは……いただきます」
ズズッ
P「……美味しいです」
小鳥「……そ、それは何より」
P「……」
小鳥「……」
小鳥・P(何を話したらいいかわかりません!)
小鳥(……いつも通りに、ただ笑っていたいのに)
P(ただ、ありのままの自分でいたいのに……やっぱり、俺は……)
小鳥(……あたしは……)
小鳥・P(この人のことを……)
小鳥「……プロデューサーさん」
P「は、はい……」
小鳥「あの……ずっと、返事をしないままでここまで来ちゃって、ごめんなさい」
P「……え?」
小鳥「……すぐに、その……お返事するのは、軽い女だと思われたくなかったからで」
P「……」
小鳥「でも、やっぱり……まだ私には、そういうの……一緒になる、ってことがよくわからなくて」
P「えーっと……」
P(な、なんのことを言っているんだ?)
小鳥「それでもですね! やっぱり、あなたに言ってもらえたことは、私としてもとっても嬉しかったんです!」
P「……」
P(いまは、余計なことを言わないで黙って話を聞いているほうが良い気がする)
小鳥「だから、その……!」
小鳥「私と――」
ぐぅ~
P「……」
小鳥「……あ、あ、あう……」カァァ
P「えーっと……」
小鳥「私と、ごはんを食べませんか!」
P「えっ!?」
小鳥「せせ、せっかくここまでいらっしゃってくれたんですから、手料理を振舞っちゃいますよ!」
P「あの……返事、というのは……?」
小鳥「え? えへへ、そんなこと言いました? やだもう、まだ頭ふらふらしてるのかしら」
小鳥(死にたい!)
小鳥「ちょーっと待っててくださいね~うふふ~」
テクテク
P「あ、はい……」
小鳥「えーっと、冷蔵庫冷蔵庫……何が残ってたかしら~」ガチャ
P「……」
P(告白されるのかと思った! 告白されるのかと思った! うわあああ!!)
小鳥(うわあああ! あたしのいくじなし!!)
P(だってそういう空気だったから! 勘違いするだろ!!)
小鳥(せっかくそういう空気になったのに!)
小鳥(プロデューサーさんの気持ちはもうわかってるんだから、ただ、お付き合いしましょうって言えばいいだけだったのに!)
小鳥(……し、しかも……! その上、こんなことまで起きるなんて……!)
小鳥(食材がなんにもない!)
小鳥「……うう……」
ペタリ
P「お、音無さん!?」
小鳥「もうやだぁ……! グスッ、グス……」
P「大丈夫ですか……? やっぱりまだ、具合が悪いんじゃ」
小鳥「具合はもう平気でずっ! 最初っから元気だったんだから!」
P「……えーっと……」
小鳥「来ないでくだざい……な、泣き顔を見られたくありまぜん……」
P「……」
小鳥「……う、うぅ……!」ポロポロ
小鳥(――あたしは、昔からこうね)
小鳥(いざというときに、なんにも出来ないで……すぐ諦めて、グズって……)
小鳥(……本当に、情けない……!)
小鳥(……それなのに……)
小鳥(それなのに、どうしてあなたは――)
P「……音無さん」
小鳥「……」
P「泣く止むまで、俺、ここにいてもいいですか」
小鳥「……ダメです」
P「それじゃあ、いますね」
小鳥「ダメって言ってるのに……」
P「うそでしょう」
小鳥「……なんで?」
P「……音無さんの大ファンだからこそ、わかるんです。何年間、あなたのことを考えてきたと思ってるんですか」
小鳥「……どうして、あなたは……」
P「え?」
小鳥「どうしてあなたは、こんな情けないあたしのために、優しくしてくれるんですか……?」
P「……そんなの、決まっています」
P「音無さんのことが、好きだからですよ」
小鳥「……!」
P「……アイドルとプロデューサーとか、関係なく……」
P「ただひとりの女性として、音無さんに惚れてしまったからです」
小鳥「……」
小鳥(――また、言ってくれた)
小鳥(あぁ、でも……ちゃんと好き、と言ってくれたのはこれが初めてだったかしら)
小鳥(……そうね。あのときは、いきなりプロポーズだったから……)
小鳥(……あれ? でも……)
小鳥(なんかいま、プロデューサーさん、へんなこと言わなかった?)
P「……あの」
小鳥「ちょ、ちょちょ、待ってください」
P「え?」
小鳥「……アイドルと、プロデューサー?」
P「え、ええ……」
小鳥「……?」
P「……やっぱり、俺の立場からあなたにアプローチするのは、ダメでしょうか」
小鳥「ど、どうしてですか?」
P「だって、あなたはこれから、アイドルとしてデビューするんだから……」
小鳥「えっ」
P「えっ」
小鳥「……落ち着きましょう」
P「そ、そうですね」
小鳥「……あなたは、プロデューサーさん」
P「はい。俺はプロデューサーです」
小鳥「そうですね、ここまでは大丈夫です。それで……私は?」
P「アイドル」 小鳥「事務員」
小鳥「おっと?」
P「これはこれは……」
小鳥「……」
P「……」
ポクポクポク……
ティーン
小鳥・P「「えぇええ!!!?」」
小鳥「あっ、あの! わ、私がアイドル!? 何を言っているんですか!?」
P「え、いや、だって、最初に言ったでしょう!?」
小鳥「聞いていませんっ! そんなこと……いつ、どんな風に言ったの!?」
P「だから、この間事務所で、あなたをプロデュースさせてください、って……」
小鳥「い、言われてませ……ん? えーっと……」
小鳥(もしかして)
小鳥(もしかして)
小鳥(もしかして!?)
小鳥「……あ、あ、あ……」カァァ
P「あの……音無さん?」
小鳥「……誰が悪いと思います?」
P「え……」
小鳥「そりゃそうです、あんなこと言われたら、そりゃ、20代後半じゃなくても勘違いするってもんです」
P「何を言っているんでしょうか……」
小鳥「だからっ……! あなたは、この間!!」
『俺に、あなたの人生をプロデュースさせてください!』
小鳥「って言ったでしょう!?」
P「ええ、まぁ……そうですね」
小鳥「そ、そそ、それが……!」
P「えっと……それが、俺なりの、プロデュースの申し込みのつもりだったんですけど」
小鳥「うわああああん!!!」
P「!?」
P(……音無さんが、布団にくるまって団子虫になってしまった)
小鳥「……サイテーです」モゾモゾ
P「……すみません」
小鳥「……私は、どれだけそのあと……」
P「えっと……あの言葉で、俺の意図が伝わってなかったなら……音無さんはあれをどう解釈したんですか?」
小鳥「……」
P「……」
小鳥「……そ、そんなの……決まってるじゃないですか……」
P「聞かせてください」
小鳥「うぅううぅう~……!」
P(……さすがの俺も、ここまできたら……)
P(春香や音無さんの今までの言動から考えて、色々と理解してしまっている)
P(……しかし。それでも……たとえ最低だと罵られてもいい)
P(もっと可愛い音無さんを見たいからこそ、俺はわからないふりをするのであった)
小鳥「……けっこん、してくれ、って……言われたように……」
P「え?」
小鳥「……プロデューサーさん。聞こえているでしょう?」
P「……バレました?」
小鳥「……」
モゾモゾ
小鳥「……」ジッ
P「ようやく顔を見せてくれましたね」
小鳥「本当に、あなたはサイテーな人です」
P「……」
小鳥「……それなら、あたしだってサイテーになります。いいんですか?」
P「……いいですよ。どんな罰だって――」
ぎゅっ
P「……えーっと……」
小鳥「……」
P「お、音無さん……?」
小鳥「……まだ、付き合ってもないのに、こうやって抱きつくんです」
小鳥「軽い女でしょう、サイテーでしょう」
P「……」
小鳥「……」
P「……それでも、俺はあなたのことが好きです」
小鳥「!」
P「さっきみたいな……勘違いしたままの告白じゃない」
P「音無さんのことが、本当に好きなんです」
P「自分でも、信じられないくらいに……、こんなにもはやく、恋に落ちてしまいました」
小鳥「……アイドルなんて、しませんからね」
P「……フラれてしまいましたか」
小鳥「そうですね、その件については諦めてください。だって、アイドルに恋は厳禁なんですから」
P「あはは……春香とはまた別の意見だ」
小鳥「春香ちゃん?」ピク
P「春香にも、実は今日……相談、しちゃってたりして」
小鳥「……今度、どんな顔して春香ちゃんに会えばいいのかしら」
P「……」
小鳥「……でも、あたしは……もうひとつ、返事をしなきゃいけませんね」
小鳥「……あたしも、好きです」
P「!」
小鳥「勘違いから始まったこの気持ちだけど、今、この胸にあるものは……」
小鳥「はっきりと、自分でも信じられないくらいに大きくなってしまっている、この気持ちは……」
小鳥「あなたへの、恋心です」
【一週間後、765プロ事務所】
小鳥「……それでね、私、言ってやったのよ!」
春香「なんて言ったんですか!?」キラキラ
小鳥「……あなただけのアイドルになら……ってねっ!」キリッ
春香「うわぁ! すっごいです小鳥さん! 憧れちゃいます!」
小鳥「うふふふ♪ まぁ、春香ちゃんもそのうち……ね♪」
春香「えへへ……そ、そうですか? えへへ……」
ピンッ
春香「あ痛っ! えぇ~……、で、デコピン……?」
律子「ほ~ら。いつまでもくっちゃべってないの。小鳥さんも、鼻伸ばしてないで仕事してください、し・ご・と!」
春香・小鳥「「すみませ~ん……」」
律子「ったく……春香にもようやくプロデューサーが付いたっていうのに、これなんだから」
春香「えへへ……」
律子「ほらほら。今日はあなた、初めてのオーディションでしょ? 色々と準備しなくていいの?」
春香「え? ……うわぁあ! そ、そうでしたっ! ハンカチに、ティッシュに……っと、とっと」
春香「わあああっ!」
どんがらがっしゃーん
律子「……」
小鳥「ふふ、相変わらずねぇ、春香ちゃん」
律子「相変わらずすぎて、逆に安心するってところですかね」
小鳥「――そんなごく普通の女の子が、竜宮小町のライバルとなり、ゆくゆくは765プロを代表するトップアイドルとなるということは……」
小鳥「このときはまだ、誰ひとり予想していないのであった――続く!」
律子「はいはい……小鳥さんも、彼氏が出来たっていうのに、変わりませんね」
律子「……それで、どうなんですか?」
小鳥「へ?」
律子「あの……最近、あの人とは」
小鳥「……プロデューサーさん?」
律子「えぇ、まあ……」
小鳥「……ふふっ♪ 律子さんも、やっぱり女の子なのね。こういう話が好きなんだわ」
律子「い、いい、いけませんか!? だって、まさか小鳥さんが一番に恋人が出来るとは夢にも」
小鳥「むむ」
律子「あっはは……失礼しました」
小鳥「いーえ♪ ……順調、だと思いますよ」
律子「……思う?」
小鳥「ううんと……ま、まだ、特に、何もしていないし……」
律子「な、何もって……」
小鳥「あ、でも、手は繋いだ……かな。えへへ」
律子「……なるほど」
律子「……これは、先が思いやられますね」
小鳥「ええ?」
律子「小鳥さん、散々言ってたじゃないですか。プロポーズとかなんとか」
小鳥「あ、いや、だから……あれは勘違いであって!」
律子「でも、あの人と結婚したいんでしょう? そんな顔してましたよ」
小鳥「……やっぱり、まだそういうこと考えるのは気が早いかしら。焦りすぎ?」
律子「んー……私にも、そういった経験がないからなんとも言えませんけど……いいんじゃないですか?」
律子「恋に時間は関係ない! って、あなた自身があれだけ叫んでたんですし」
小鳥「……」
律子「……ま、頑張ってください! 私達はみんな、あなた達のこと応援していますから!」
小鳥「……えへへ。ありがとうございます!」
律子「……それで。肝心のあの人は……」
小鳥「あはは……たぶん、もうそろそろ」
ガチャ
P「おっ、遅れてすみませんっ!!」
小鳥「!」
トコトコ
小鳥「おはようございまーす♪」
P「ああ、おはようございます、音無さ」
小鳥「むむ」
P「……小鳥さん」
小鳥「正解!」
小鳥「プロデューサーさん? 初めてのオーディションだから眠れないなんて、子どもじゃないんですから」
P「ははは……面目ない」
小鳥「はい、今日の書類です」スッ
P「すみません、助かります……おーい、春香!」
春香「は、はーい!」
P「遅れてごめん! あとで埋め合わせはするから……と、とにかく今は、急ぐぞ」
春香「わかりました……って、うわわっ」
どんが
ガシッ
P「っとと……危ない危ない」
春香「えへへ……す、すみません」
P「そ、それじゃあ……行ってきます!」
小鳥「はい♪ ……春香ちゃん、プロデューサーさん!」
春香「え? な、なんですか?」
小鳥「ガンバ!」グッ
P・春香「……」
P・春香「はいっ!」グッ
タッタッタ
律子「……」
小鳥「……律子さん?」
律子「……なんというか、今となってみても意外です」
小鳥「え? なんのこと?」
律子「小鳥さんのことだから、事務所でもところ構わずベタベタするものかと」
小鳥「し、失礼ね。そんなに分別が付かないほど、子どもじゃありません!」
小鳥「それに……ベタベタなら、家で……」ゴニョゴニョ
律子「あーはいはい。ごちそうさまでした」
小鳥「まだ何も言ってないのに!? うぅ……律子さん、最近冷たい」
律子「そ、そんなつもりはないんですけど」
小鳥「……えへへ、幸せの代償ってやつですかね♪」
律子「……ったく」
律子「って、あら?」
小鳥「どうしたんですか? ……って、これは」
律子「……」
小鳥「……」
律子「……小鳥さん、お願いします」
小鳥「わっかりました! まかせておいてください♪」
【オーディション会場】
P「……」
小鳥「はい、どうぞ♪」ポン
P「すみません……本当に」
春香「なんと言ってお詫びしたらいいか……」
P・春香「「まさか、衣装を忘れるなんて……」」
小鳥「いいんですよ。ふふっ、間に合ってよかったです」
P「……とにかく、春香は着替えておいで」
春香「は、はいっ!」タタッ
P「……俺、本当にダメダメですね」
小鳥「大丈夫ですよ。こんなときのために、頼れる事務員さんがいるんですから!」
P「……」
小鳥「……こんなこと、言っちゃいけないかもですけど」
P「え?」
小鳥「あなたがこうやってミスをすると、私は……少し嬉しいです」
P「な、なんでですか?」
小鳥「だって、こういうときでもないと……主導権を握れませんから」
P「……えーっと」
小鳥「うぅ……な、なんでもないですっ!」
P「……」
ギュッ
小鳥「……――! えへへ……♪」
春香「おまたせしまし――」
春香「……って」
P「……あの、小鳥さん」
小鳥「なんですか?」
P「良かったら今日……あの、どこかに出かけませんか」
小鳥「! ほ、ほんとですか……?」
P「はい。春香のオーディションが終わってからだから、夜になるかもしれませんけど」
小鳥「……それでも、いいです。あなたから誘ってくれるなんて……嬉しい」
春香(天海春香です)
春香(いま、手を繋いでデートの約束をしているふたりを、物陰から見守っています)
春香(……ここ、オーディション会場なんだけどな。他にもたくさん、人がいるんだけどな)
P「それじゃあ、前に言ってたあの店とか」
小鳥「いいですね♪ 楽しみにしていま」
春香「……」ジー
P「……」
小鳥「……」
バッ
P「や、やあ春香。準備は出来たか?」
春香「ばっちりでーす」ムスッ
小鳥「が、頑張ってね」
春香「はーい。行ってきまーす」トテテ
P「……」
小鳥「……ふふっ」
P「あはは……はぁ」
小鳥「恥ずかしいところ、見られちゃいましたね♪」
P「まったくです。公私混同もいいところだ」
小鳥「しっかり頼むよ、君ィ!」
P「はい……」
小鳥「でも、まぁ……こういうのも、私達らしい、かも」
P「……なんだか、小鳥さん、前より余裕が出てきた気がします」
小鳥「え、そうですか?」
P「ええ……付き合う前はあんなに」
小鳥「も、もう! あのときのことは、もう言わないでください……」
小鳥「……でも、もしそれが本当なら」
小鳥「それは、あなたのおかげですよ」
P「え?」
小鳥「女の子は、恋することで、いくらでも進化できるんです」
P「……!」
小鳥「だから、あなたのおかげ。……私、もっともっと、良い女になります」
小鳥「私のことを好きだといってくれるなら、いくらでも頑張れちゃいますから!」
P「……」
P(そう言って微笑んでくれた、小鳥さんの表情は……)
P(俺のこれまでのオタク人生で見てきた、すべてのアイドル達の笑顔が霞んでしまうほどに)
P(可愛らしく、美しかった)
P「……俺、もっと頑張ります」
小鳥「どうしたんですか、急に……」
P「……今はダメダメなプロデューサーだけど」
P「努力して、いつか、トップアイドルを幾人も育て上げるような、立派なプロデューサーになって……」
P「きっと……いや、絶対に、あなたにふさわしい男になってみせます」
小鳥「……ふふ、そんなの、もう実現してるのに」
P「いいえ、まだダメです。そして……」
小鳥「そして?」
P「……ここから先は、まだ内緒です」
小鳥「えぇ!? ず、ずるいですっ! ここまで言ったのに!」
P(――そして)
P(いつか、こう言ってやるんだ)
『俺に、あなたの人生をプロデュースさせてください!』
P(今度は嘘でも、勘違いでもなく……)
P(本当の、気持ちで)
おわり
オチがうまく思いつかなかった でもそんなことよりピヨコ可愛いよねふとももスリスリしたい
ぴよちゃんがかわいすぎた
案外こういう真面目なピヨスレないから貴重
Entry ⇒ 2012.11.02 | Category ⇒ アイマスSS | Comments (0) | Trackbacks (0)
竜「なにをしに、ココにきた?」村娘「食べられに」
村娘「あの……なにかお手伝いできることは──」
村人A「ふん、魔女の娘に手伝ってもらうようなことはねぇよ!」
村人B「けがらわしい……」
村娘「は、はい……」
村人A「図々しい女だ!」
村人B「あっち行けよ」シッシッ
村娘「……すみません」スタスタ
村人A「バアさん」
婆「あの女の母親は魔女だったんだからね」
婆「絶対に気を許しちゃいけないよ」
村人A「もちろんだ!」
村人B「もっとも……例外はいるけどね」
婆「あの青年と、浮浪児かい」
婆「まったく、困ったもんだよ」
村娘「ふぅ……」
少年「お姉ちゃん、またいじめられたのかい」
少年「もう出てった方がいいんじゃないの、この村から」
少年「ここにいても、ろくなことないじゃん」
村娘「うん……ありがとねボウヤ」
村娘「でも、ここを出ても行くアテはないし……」
村娘「あ、青年さん!」
青年「……さっきも村の人たちに、なにかいわれてたみたいだね」
村娘「うん……でも、仕方ないわ」
村娘「お母さん、魔女だったんだし……」
青年「ちがう!」
青年「君のお母さんは魔女なんかじゃないよ!」
青年「そして、この国では禁じられている“一般人の魔法使用”を犯してしまった……」
青年「だけどそれは世を惑わすためではなく、病気の君を助けるためだ!」
青年「もし君のお母さんが法に触れることを恐れていたら、今頃君はここにはいない」
青年「君のお母さんは……命を賭けて君を助けたんだ」
青年「断じて魔女なんかじゃない!」
村娘「うん、ありがとう……」グスッ
少年「へへへ、なかなかいいこというじゃん」
青年「村人たちの君への態度は、日に日に厳しくなっている」
青年「俺がずっとついていればいいんだが……時々かばいきれなくなって、ごめん」
村娘「ううん、いいの……ありがとう」
少年「お兄ちゃんは優しいなぁ」
青年「……それと、心配事がもう一つ」
青年「君も知っているだろう? 近くの山に住む、竜のことを……」
村娘(竜……!)
青年「この村からも3人犠牲者が出てる」
青年「しかも、みんな若い女性だ」
青年「それを考えると、君なんかはうってつけの獲物だ」
青年「ヤツが山を下りてきたという記録はないが、もし下りてきたら──」
村娘「…………」ゴクッ
村娘(私が狙われる可能性が、高い……)
青年「ん?」
少年「なんなのさ、竜って」
少年「ボクにも教えてよ」
青年「君もこの村に住むのなら、知っていた方がいいね」
青年「竜ってのは、数ある魔物の中でも鬼や悪魔と並び称される存在だ」
青年「屈強な牙や鱗を持ち、吐く息は岩をも溶かす」
青年「知能は人間と同等、悪知恵が働き、人に化けることすらあるという」
青年「さらに力は強いわ、空は飛ぶわ、寿命は長いわで、非の打ちどころがない」
青年「優れた戦士なら竜も倒せるとはいうけどね」
青年「あの竜がいつからあの山にいるかは知らないけど」
青年「竜が人を襲うようになったのは、ここ数年のことなんだ」
青年「それに……さっきの村娘ちゃんじゃないけど、ここを出ても行く場所がなきゃね」
青年「決して陽気な場所ではないけど、慣れ親しんだところでもあるしさ」
青年「人はなかなか住む場所を変えられないものなのさ」
少年「ふうん」
村娘「私は大丈夫」
青年「村娘ちゃん」ガシッ
村娘「えっ」ドキッ
青年「俺はいつだって君をみ──!」
青年「い、いや……なんでもない……」
少年「君を見守っているから、かな? いやいや、魅力に感じている、かも!」クスッ
青年「コ、コラ、茶化すなよ」カァ…
村娘&青年&少年「アッハッハッハッハ……!」
婆「けがらわしいから、近寄るんじゃないよ! あたしにも呪いをかける気かい!?」
村娘「す、すみません……」
村人A「失せろ、ジャマだ!」ドンッ
村娘「ごめんなさい! すぐにどきます!」
村人B「魔女の娘が……!」ボソッ
村娘「向こうに行きます……」
青年「村娘ちゃん、大丈夫だ!」
青年「そうだ、俺と一緒にダンスでも踊ろうよ!」
少年「あっ、ボクとも踊ってよ!」
村娘「ありがとう……二人とも」
青年「君に涙は似合わないよ。さ、踊ろう!」スッ
村娘「うん……!」
婆(ちぃっ、また余計なことを……!)
婆「ちょっとアンタ」
青年「なんでしょう……?」
婆「アンタは村一番優秀で、将来はこの村を背負って立つ人材なんだ」
婆「なのに、なんであんな魔女の娘に関わってるんだい」
婆「あんなのと関わったら、アンタまでおかしくなっちまうよ」
村人A「そうだそうだ!」
村人B「悪いことはいわない……関わるのはやめとけ」
青年「…………」
婆「!」ビクッ
青年「彼女の母親はただの子供想いの母親でっ!」
青年「彼女は普通の人間なんだっ!」
青年「俺はいつだって彼女のことをみ──……」ハッ
村人A「彼女のことを、なんだぁ!?」
青年「…………」
村人A「いってみろよ、オイ!」
青年「…………」
村人A「……ちっ!」
村人B「あ~あ……やれやれ、そういうことか……」フゥ…
青年「とにかく、俺は彼女を見捨てることはしないよ! 絶対に!」ダッ
婆「ちょっと、お待ち!」
婆「……行っちまったか」
婆「ちっ、バカな奴だよ、まったく」
村人A「やれやれ困ったことになったなぁ、バアさん」
村人B「まさか彼をたぶらかすなんてね、やはり魔女の血を引いているよ」
婆「まったくどうしてくれようか、あの魔女の娘……!」
村娘「青年さん、もう私に関わらない方が……」
青年「なにをいってるんだ!」
青年「俺のことなら気にしなくていい!」
青年「君は自分が幸せになることだけを考えればいいんだ!」
村娘「うん……ごめんなさい……ありがとう……」グスッ
青年「さて今日は俺も暇だし、ボウヤと三人で何かして遊ぼうか」
少年「賛成!」
村娘「うん……!」
婆「今日の議題は、あの魔女の娘についてだよ」
婆「奴の母親のせいで、この村は王からの助成金を打ち切られちまった」
婆「そろそろなんとかしないといけないねえ」
青年「…………」
村人A「こっちから誠意を見せないといけねえな」
村人B「そうだね。この村全体としての総意としてね」
婆「だから……いっそ始末するってえのはどうかねえ?」
青年「!?」
村人A「そりゃあ名案だ」
村人B「娘の死体を差し出せば、王もきっと許して下さるよ」
青年「ちょっと待ってくれ!」
青年「そんなこと、許せるものか! 彼女をなんだと思ってるんだ!」
青年「いくら村のためとはいえ──!」
婆「あの娘の母親のせいで、この村がさびれたのは事実なんだよ!」
婆「それにアンタの目を覚まさせるいい機会さ」
婆「アンタにゃ、あんな女にたぶらかされず、しっかり勉学に励んでもらって」
婆「村を出て──この村に巨万の富をもたらしてもらわなきゃならんのだからねぇ」
青年「ふ、ふざけるな!」
村人A「ま、お前がいくら反対しようと俺らはやるぜ」
村人B「多数決多数決、これも村のためさ」
青年「…………!」
婆「ん、ガキ! どっから入ってきたんだい!?」
村人A「てめぇみたいな子供が来るところじゃねえ、とっとと出てけ!」
少年「どうせならさぁ……」
少年「山に住んでる竜に殺させればいいんじゃない?」
少年「直接手を下すのは後味悪いし、わざわざ手を汚すこともないでしょ?」
青年「君はなんてことをいうんだ!」
婆「ほぉう、悪くないね」ニヤッ
婆「クソガキのくせになかなかいいこというじゃないか」
婆「もちろん人間だよ」
婆「れっきとした、ね」
村人B「自分たちの生活のため、必要な犠牲を出す」
村人B「実に人間らしい行為じゃないか」
青年「そんな……!」
婆「そうさ、それが人間ってもんさ」
婆「そして人間じゃない魔女はどうされても文句はいえないのさ」
婆「決まりだね」
婆「竜のいる山にあの娘を送るのは、一週間後にしよう」
青年「見損なったぞ!」
少年「え、どうして?」
青年「君は村娘ちゃんの世話になってるのに、なんであんなこと──!」
少年「世話になってるからこそ、さ」
少年「ボクだって、あれ以上お姉ちゃんの不幸なところを見たくないんだよ……」
少年「ましてや村の人たちに袋叩きにされてるところなんか……」
青年「くっ……!」
バンッ!
青年「逃げよう!」
村娘「え?」
青年「たった今、集会で君を竜の餌食にすることが決定した!」
青年「このままでは、君は竜に殺されてしまう!」
青年「あいつらのいない、安全なところまで俺が送ろう」
青年「さ、早く!」
村娘「…………」
青年「!?」
村娘「私のお母さんが魔法を使って私の病気を治したおかげで」
村娘「この村が王様から罰を受け、助成金を得られなくなったのは事実です」
村娘「ですから今度は私が一人で……その罰を受け入れます」
青年「だけど……!」
村娘「もういいんです……ありがとう……」ニコッ
青年(村娘ちゃんは自分の過酷な運命に疲れきってしまっている!)
青年(なんとか説得しないと……!)
青年「!」
婆「あの竜は若い女を食う」
婆「ただし食うといっても、全部食うわけじゃない」
婆「一部だけ食って、あとはほとんど残してる。でかい図体して贅沢なもんさ」
婆「もっとも残った部分は弄んだのか、グッチャグッチャになってるがね」
青年「おバアさん……!」
婆「グッチャグッチャのお前の死体を王に見せれば」
婆「きっとまた村は潤うはずさ」
婆「ひぃっひっひっひっひ!!!」
村娘「分かりました……私の命、この村のために捧げます」
婆「一応逃げられないよう見張りは立てるが、逃げようとしたら承知しないよ」ジロ…
村娘「……もちろんです!」
青年(あの竜に村娘ちゃんを殺させるなど! 絶対許せない!)
青年(そんなことさせるもんか!)
青年(かといって俺じゃ、竜にはとてもかなわない……)
青年(村娘ちゃんと一緒に殺されるのがオチだ)
青年(優れた戦士でなきゃ、竜は倒せない……!)
青年「そういえば、“竜殺し”の剣士が今この国にいるというウワサを聞いたな」
青年「もし連絡が取れれば──……」
婆「じゃあアンタたち、頼んだよ」
村人A「竜の巣の近くに、こいつを置いてくりゃいいんだよな?」
村人B「夕方になったら死体を取りに来よう」
村人A「もしその時生きてたら、俺たちがぶっ殺してやるからな!」
村人A「手をわずらわせるんじゃねえぞ!」
村娘「は、はい……」
少年「行ってらっしゃい……お姉ちゃん」
青年「…………」
村人A「これでようやく村の疫病神を始末できるな」
村人B「ホントだよ、もっと早くこうしとけばよかったんだ」
村人A「しっかし俺たちまで山に入って大丈夫か?」
村人B「竜が若い男を殺した、という事例はない。大丈夫さ」
村娘「…………」
村人A「オラ、ちゃっちゃと歩け!」ドンッ
村娘「は、はいっ!」ヨロッ
村人A「よし、じゃあこっからはお前一人で行け」
村人A「せいぜいむごたらしく殺されることを期待しとくぜ」
村人A「あばよ」ザッ
村人B「もう会うこともないだろうさ」ザッ
ハッハッハッハッハ……!
村娘「…………」
村娘「……さてと、あとは竜に会うだけね」
村娘「!?」ビクッ
村娘(これが竜の声……? なんて大きい唸り声なの……!?)
村娘(怖い……)
村娘(でも……もっと近づかなくちゃ!)
村娘(あれ以上村にいたら、青年さんに迷惑をかけてしまうし)
村娘(村を出て、生きていくアテもない……)
村娘(やっと……楽になれるんだわ)
村娘(お母さん……助けてくれたのに、本当にごめんなさい……)
村娘「どんどん声が大きくなってきた」
村娘「こっちの方にいるのね」
村娘「!」
グルルルル……
村娘「これが……竜!」
竜「ホウ、こんなトコロにニンゲンがくるとはな」
村娘(鋭い牙、硬そうなウロコ……青年さんのいったとおりだわ!)
村娘「食べられに」
竜「たべられに、だと……?」
竜「ハッハッハッハッハ……!」
竜「かわったニンゲンがいたもんだ。イノチがいらないのか?」
村娘「私にはもう……こうするしかないんです」
村娘「もうこの国に、私が生きられる場所なんてない」
村娘「できれば……一瞬で楽にして下さい」
村娘「私にはもう、こうするしかないんです!」ポロポロ…
村娘「え?」
竜「だって、アレだけ優しくしてもらったんだしナ」
村娘「優しく……?」
竜「まだわからないかい。ってわかるワケがないか、ハハ」
竜「ボクだよ、ボク」
村娘「…………」ハッ
村娘「まさか、あなた──」
青年「お待ちしておりました」
剣士「うむ」
青年(なんて巨大な剣だ……!)
青年(人間なんか一振りで胴体ごとちぎれ飛んでしまいそうだ)
青年(もっともこのくらいの剣でなきゃ、竜には通じないんだろう)
青年「その剣で、数々の戦乱を生き延び、“竜殺し”の異名を勝ち取られたのですね?」
剣士「うむ、これは私にしか扱えまい」
青年「その腕を見込んで、ぜひドラゴン退治をお願いします!」
剣士「任せておけ」
青年(村娘ちゃん、必ず助けるからね……!)
竜「今まで、ダマっててごめんね」
村娘「あなた……あのボウヤなの!?」
村娘「でも、どうして……!?」
竜「村のヒトたちはオネエちゃんをコロそうとしてた」
竜「だから竜にくわせてやれってアドバイスしたのはボクなんだよ」
竜「ボク、どうしてもオネエちゃんを助けたかったから」
村娘「そうだったの……」
竜「竜はヒトに化けることもできるんだって」
村娘「でも、どうしてあんな子供に……?」
竜「いや好き好んでコドモに化けたワケじゃない」
竜「好きな姿に化けられるワケじゃなく、ボク自身の年齢や性別がハンエイされるから」
竜「ボクはこれでも100年は生きてるケド」
竜「竜としてはまだまだコドモだってことさ」
竜「な、なにがおかしいんだよ!」
村娘「だって、こんな大きい竜が、人間になるとあんなに可愛い子供だなんて……」
竜「ウウウ……」
竜「ホントウにたべちゃうぞ!」
村娘「いいわよ、元々そのつもりだったし」
竜「……たべるワケないだろ」
竜「もしたべるつもりなら、ニンゲンの姿でユダンさせてとっくにたべてるよ」
村娘「ふふっ、ありがとね」
村娘「いったいどうして、アナタは人間に化けていたの?」
村娘「それに……どうして女の人を何人も殺したりしたの?」
村娘「私をこうして助けてくれたのに、どうして……!」
竜「…………」
竜「それは──」
青年「どことなく足取りが慣れた感じですが……」
青年「もしかして……この山は初めてではないんですか?」
剣士「まぁな」
剣士「だからこの山の竜のことも知らぬわけではない」
青年「なるほど……」
青年「とにかく急ぎましょう。村娘ちゃんが食べられてしまいます!」
剣士「……うむ」
竜「そうさ、竜ってのはコレでもあまりたべなくてイイからね」
竜「草や木、土を食べるだけでジュウブン生きていけるんだよ」
竜「ヒトをコロすどころか、この山でケガした子を助けたこともあるくらいさ」
竜「へへへ、ボクやさしいだろ?」
村娘「そうだったの……ごめんなさい!」
竜「でもここ数年、村の女のヒトが次々山でコロされて」
竜「しかもそれが全部ボクのせいになってるっていうじゃないか」
竜「だから……真犯人を見つけるために、ヒトに化けたんだよ」
村娘「……犯人は分かったの?」
竜「ううん、結局ワカらなかった」
青年「そこまでだ! 殺人ドラゴンめ!」
剣士「……よし、お前さんはあの娘を連れて逃げろ」
剣士「あとは俺が引き受ける」
青年「分かりました!」ダッ
青年「村娘ちゃん、こっちへ!」グイッ
村娘「あっ、でも!」
竜「アンタは、ダレだ!?」
剣士「ふん……この剣のサビになる輩に、名乗る意味はないな」チャキッ
村娘「ねぇ、待って!」
青年「大丈夫、もう大丈夫だよ!」
村娘「あの竜は──」
青年「大丈夫、あの剣士がすぐに退治してくれるさ」
青年「彼は“竜殺し”と恐れられる剣の使い手なんだ」
青年「彼がいうには、唸り声からしてここの竜はまだ子供だっていってたし」
青年「絶対倒せるよ!」
村娘「そ、そんな……ダメよ!」
村娘「あの竜の正体は──ボウヤなのよ!」
青年「なんだって!?」
村娘「だけど、ボウヤは人を殺してなんかいないの!」
村娘「真犯人を見つけるために、人に化けてたの!」
青年「なっ……」
青年「そんなのウソに決まってるだろう!」
青年「品定めのために、人に化けていたに決まってる!」
村娘「違う! だってもしそうなら、私はとっくに殺されていたわ!」
村娘「だから一緒に戻って、あの剣士さんを止めて!」
青年「…………」
青年「分かったよ」ザッ
青年「君を説得できないってことが、よく分かった」
村娘「え?」
青年「もうちょっと君とは親しくなりたかったけど、仕方ない」
青年「今が一番のチャンスかもしれないし」
村娘「チャンス……?」
青年「俺はずっと君を──み」
青年「み……み……み」
青年「み、み……み、み、み……み……み、み……」
村娘「!?」
青年「み……ミ、み、ミミ、ミ……ミミミミ……」
青年「ミンチにしたかったんだァァァァァッ!!!」
村娘「今までこの辺りの若い女性が殺された事件は……みんなあなたが……」ガタガタ
青年「そうさ」ニコッ
青年「ある時、俺はちょっとしたイザコザで、ある女性を殺してしまった」
青年「いくら俺が村の期待を背負う秀才といっても、さすがに殺しはヤバイ」
青年「だから女の死体をグッチャグッチャにして、村人に発見させた」
青年「俺が“きっと竜の仕業だ”とつぶやいたら、奴らは簡単に信じたよ」
青年「そして事件を間接的にしか知らない君のような人間の間でも」
青年「竜が若い女を殺した、というのは周知の事実になった」
青年「──と同時に、俺も新しい快感に目覚めてしまった」ニィ…
青年「ちょうど君くらいの年齢の女を、グチャグチャのミンチにするという快感にね」
青年「よその村の女をターゲットにした時も同じ手を使ったら」
青年「奴ら簡単に誘導に引っかかって、竜の仕業だと疑わなかった」
青年「ま、同じ人間があんな殺し方をするなんて思いたくもなかったんだろうね」
青年「だから……魔女の娘といわれる君とも仲良くやっていたんだよ」
青年「仲間外れになってる奴ほど、優しくすれば簡単に心を開くからね」
青年「だけど村の連中が、君を殺すなんていい始めた時は焦ったよ」
青年「しかも竜に襲わせるなんて……もったいないにも程がある」
青年「もっともあの竜は、君を助けたかったようだけどね」
青年「でもまあ、竜は剣士に退治されるだろうし、君もこれから俺の餌食になる」
青年「めでたしめでたし、ってわけさ」ズイッ
村娘「ひっ……!」
タッタッタ……
青年「無駄だよ、君はこの山に入ったことなんてほとんどないだろう?」
青年「だけど俺にとっちゃ、この山は庭みたいなもんさ」
青年「なんたって今までの殺しは、全てこの山で実行してきたんだからね」
青年「逃げられやしないよ」
村娘(なんとかしてあのボウヤのところに戻らなきゃ……)
村娘(私も……あのボウヤも……! 助かってみせる!)
村娘(でも、だいぶ離れてしまったから場所が……!)
竜「ウ……グ……ッ!」ドズゥン…
剣士「あっけない……いかに竜といえど、子供では相手にならんな」
剣士「終わりだ」
竜(強い……! とてもボクじゃ太刀打ちできない……!)
剣士「眠れ」チャキッ
竜(もう……戦えナイ……)
竜(せめて……)
竜(せめて、ヒトに化けたボクに優しかったオネエちゃんたちに最期のアイサツを……!)
竜(サヨウナラ……)
グオオォォォォォォン……!
青年「!?」
村娘「あっちね!」
青年「ちぃっ! あのガキ、余計なマネしやがって!」
村娘「──お願い、無事でいて!」ダッ
青年「逃がすかよぉっ!」ガシッ
村娘「ああっ!」
青年「細い首だねぇ~、実にキュートだ」ギュウッ
青年「絞め殺してから、ゆっくりミンチにしてやるからね……!」ギュゥゥ…
村娘「あ……あ、あ……!」
村娘(お、お母さん……)
母『最後に、一番簡単な呪文だけ教えといてあげる』
母『だけど、この国では国が認めた人以外が魔法を使うのは厳禁だから』
母『どうしてもという時以外、使っちゃいけないよ』
母『本当はこんなことより、教えたいことが山ほどあったんだけどね……』
村娘「う、ぐぐ、ぐ……!」ジタバタ
青年「ハハハ……暴れたって無駄だよ。もう大声は出せない。終わりだ!」
村娘(呪文は……必ずしも大声を出す必要はない!)
村娘「…………」ボソッ
青年「ん?」
ドンッ!
青年「ぐ、は……!」
青年(なんだ今のは……衝撃波!? なにかボソッとささやいたのは、呪文か!)
村娘(お母さん、ありがとう……!)ダッ
青年「げほっ、げほっ……くっ!」
青年「ふん、やっぱり魔女の娘は魔女だったってわけだ」
青年「…………」ブチッ
青年「逃がすかっ!」
青年「二度と呪文なんか唱えられないよう、今度はそのノドを潰してやるっ!」ダッ
村娘(──いた! まだ、ボウヤも生きてる!)ハァハァ
村娘(あとはなんとか話し合──)
青年「おっとぉっ!」ガシッ
ドザァッ!
村娘(口を、塞がれた……!)
竜「オネエ、ちゃん……?」
剣士「む!?」
剣士「お前さんたちは逃げたはずだが、どうして戻って来たのだ?」
青年「私は食べられるために竜のところに戻る、と──」
青年「竜は賢い生き物です」
青年「おそらく村娘ちゃんは、竜に暗示でもかけられているのでしょう」
青年「さあ早く、竜にトドメを!」
竜(ボクはそんなことしていナイ……)
竜(だったらオニイちゃんは、なんでこんなウソをつくんだ……?)ハッ
竜(──そうか、今まで女のヒトをコロしてきたのはこのヒトか!)
竜「チガウ! ボクはやってない!」
竜「今までに女のヒトをコロしたのも、みんなオマエだな!」
青年「人を濡れ衣を着せようとは、やはり悪知恵が回るもんだな」
青年「さあ早くトドメを!」
青年「この人食い竜め!」
竜「ボクじゃない!」
剣士「…………」
剣士「竜は鬼や悪魔と並ぶ、最上位の魔物……狩れば俺の名も上がる」
青年「そのとおり!」
剣士「さてと最上位の魔物を一匹……狩らせてもらおうか」ザッ
竜「ウゥッ……!」
ドゴッ!
青年「ゲボォッ! ──え、なんで……!?」グラッ…
ドサァッ……
剣士「土壇場になると、目というのは口以上に真実を語る」
剣士「目を見れば、ウソかどうかすぐに分かるということだ」
剣士「……この殺人鬼が」
剣士「もう大丈夫だ、ゆっくり呼吸しろ」
少年「お姉ちゃん!」
村娘「あ、ありがとうございました……」
村娘「でもお願いがあります……ボウヤを、竜を殺さないで……!」
剣士「安心しろ。ハナから殺すつもりはない」
少年「え!?」
剣士「もちろん、本当に殺人竜だったら狩らなきゃならんところだが──」
剣士「俺にはこの竜が人を殺すとはどうしても思えなかった」
剣士「だから元々気絶くらいにとどめ、お茶を濁すつもりでいた」
剣士「ああ、お前さんは覚えてないだろうが──」
剣士「ガキの頃、山に迷い込んで……足をくじいた俺を助けてくれただろ」
少年「…………」
少年「あっ、あの時の!?」
少年(どことなく面影がある……!)
剣士「そうだ」
剣士「だから、今回の件もなにかの間違いじゃないかって思ってた」
剣士「そして、さっきのやり取りで全てを確信したってわけだ」
剣士「大丈夫だ」
剣士「ああいう奴は、絶対に殺しのたびに“コレクション”をしてるもんだ」
剣士「奴の家をちょいと調べれば、証拠の一つや二つあっさり出てくるだろう」
村娘「なるほど……」
剣士「ところでお前さん、魔法を使ったな?」
村娘「!」ギクッ
剣士「弱々しいが魔力の波動を感じる」
剣士「この国では一般人は魔力を持ってるだけで、差別の対象になる」
剣士「まして、魔法の研究や使用は厳禁のはずだ」
村娘「そ、それは──」
剣士「だが王宮の魔術師は、国内のどんな小さな魔力の波動でも嗅ぎつけると聞く」
剣士「もうこの村……いやこの国を出た方がいい」
剣士「その竜ともどもな」
剣士「一匹だけで暮らしてる子供の竜なんぞ」
剣士「名を上げたい戦士にとっては絶好の標的だからな」
剣士「次俺のような奴がやって来たら、まず命はないだろう」
村娘「でも……他に行くところなんて……」
少年「そうだよ、どうしようもないよ」
剣士「安心しろ」
剣士「俺は世界中を旅して──」
剣士「魔法を使う人間に偏見がなく、人と竜が共存してる国を知ってる」
剣士「連れていってやろう」
剣士「こう見えて金はあるし、お前たちが自立するまで世話してやることもできる」
村娘「そんな国があるなんて……!」
少年&村娘「やった、やったぁ!」
剣士「…………」
剣士「ところでお前の母は、父親について何かいっていたか?」
村娘「父、ですか?」
村娘「父といっても正式に結婚はしてなかったそうですが」
村娘「母がお腹に私を宿していると知る前──」
村娘「魔力を持つ母でも平和に暮らせる新天地を探しに行ったそうです」
村娘「ですが、旅先で大きな戦いに巻き込まれ、戦死したと聞いています……」
村娘「武骨だけど、とても優しい人だったと……」
村娘「これが……なにか?」
剣士「……いや、単なる好奇心だ。無粋な質問をしてすまなかったな」
村娘「はい」
少年「ボクは荷物なんかいらないしね」
剣士「あの青年の家から、若い娘たちの“一部(コレクション)”が見つかり……」
剣士「青年は兵隊に連行された」
剣士「村の希望が殺人鬼と判明し、村人もだいぶ混乱しているようだ」
剣士「最後に、恨みごとの一つでもいってやるか?」
村娘「……いえ、このまま黙って去らせてもらいます」
剣士「そうか」
剣士「ずっと昔から、こうやってきたわけなんだからな」
剣士「だが、お前さんたちはここから抜け出すチャンスができた」
剣士「だったら、思いきり幸せになってやれ! 俺も出来る限り協力してやる!」
村娘「はいっ!」
少年「うんっ!」
剣士「ふっ……いい返事だ、二人とも」
<おわり>
よかったよかった
Entry ⇒ 2012.11.02 | Category ⇒ その他 | Comments (0) | Trackbacks (0)
みゆき「も、モテモテすぎて……ウルトラハッピー?」
狼「ウールルルー、俺様ウルフル~ン♪……あぁん?なんだこりゃ、飲み物かぁ?」
鬼「オニ。ウルフルン、触らないほうが良いと思うオニ。さっきマジョリーナが『大発明完成だわさー!』って言ってたオニー」
狼「おうアカオーニ……はぁ?んなもんを、何度もあのババァの発明品を捨てちまってるお前の真ん前においてどっかいったのかよあいつ。いよいよもってボケてきたか?」
鬼「お前さんの方こそ何度か投げ捨ててるオニ!俺様のせいだけにするなオニー!」
狼「うるっせ赤ら面。んで、これはなんてんだ?またどーせ、しょーもない名前なんだろ」
鬼「うーん、確か……モテモテニナール、とか言ってたオニ」
狼「……モテモテだぁ?」
狼「あぁ……ババァが熱をあげてる人間な。それに使うわけか……」
鬼「オニ」
狼「……おうアカオーニ。むかーし、あのババァが若かった頃のこたぁ覚えてるよなぁ?」
鬼「忘れようとも忘れられんオニ。雄どもは跪いて文句も言えん散々な有様だったオニー……」
狼「未だに俺様ともあろうものがあの姿になられるとブルッちまうしな……もしもだ、こんなもんをあのババァがその、人間に使えば」
鬼「……バッドエナジーの手軽な供給源が得られて、あの姿を維持できちまうかもしれない、オニ?」
狼「……」
鬼「……」
狼「おーっとしまったぁー!俺様のフッサフサでモッフモフの尻尾がアカオーニの鼻をくすぐっちまったぜぇー!」
鬼「お、おにーこれはいかんオニーぶえっくしょおおおおおい!!!!」
ヒューーーッ
狼「……やったな」
鬼「バッドエンド王国の秩序は守られたオニ」
魔女「なーーーーにやってんだわさぁーーーーーーーーーー!!!!」
キャンディ「クルっクルぅ。みゆき、ご機嫌さんクルぅ!」
みゆき「えっへへ、だってだってぇ!ニコちゃんっていう新しいお友達もできたんだもーん!」
キャンディ「クルぅ、キャンディよくわかんないクルぅ」
みゆき「詳しくは劇場で……あれ?」
キラッ
キャンディ「どうしたクル?……ありなぁに?クルぅ」
みゆき「なんだろ、茂みの中に何か落ちてるね。えっと……あ、これ、お母さんが使うの見たことある!香水だよ、キャンディ!」
キャンディ「こうすい、クルー?」
キャンディ「?それで、何をするクル?そんな目立つ匂いなんて立ち上らせても捕食者から身を守る術にはならないとおmキャンディよくわかんないクルー」
みゆき「きゃ、キャンディ?あれ?今何か言った?えーっとね、楽しんだりとかー、ファッション?の一部で着けるんだー、って言ってたよ」
キャンディ「ふぁっしょん……お洒落クル!?キャンディもお洒落したいクルー!そりかしてクルー!」
みゆき「わ、わわっ、キャンディわかった、分かったから暴れないで、って……!」
プシュッ!!プシュゥゥッ!
みゆき「あわわっ!?は、はっぷっぷーー!!」
みゆき「あっ、も、もーぉキャンディ。私のお顔にこんなに……あれ?でもあんまり匂いしないね」
キャンディ「……クンクン」
みゆき「うーん?あ、キャンディの人より良い鼻なら何か匂う?」
キャンディ「……とーっても、良い匂い、クルぅ」
みゆき「ほんとー?うーん、自分じゃちょっとわっかんないかな……それじゃ、キャンディにも……れ?」
キャンディ「みゆきーぃ、だーいすきクルぅ」ギューーーッ
みゆき「えっへへ、キャンディいきなりどうしたの?私の胸に飛びついてあまえんぼさんだね!」
キャンディ「クルぅ……」
キャンディ「やークルー。みゆきにずーっとギューッってしてるクルー」
みゆき「あ、あっはは。嬉しいけどね?ほら、後で、後でしてあげるからっ!」
キャンディ「クルぅ……」ギューッ
みゆき「……うーん、なんでこうなっちゃったのか、分からない、けど」
みゆき「キャンディも、まだまだ子供なんだもんね。よっし!いいよ、そのままで行っちゃおう!でもなるべく、喋らないでね?」
キャンディ「クル、みゆきぃ。いいクル?」
みゆき「うん!きっと今更私が、ぬいぐるみを抱いてたところでみんなそんなに驚かないから、うん」
みゆき「うーん、なんで今日はれいかちゃん、朝の挨拶運動してなかったんだろー」
みゆき「倉田くんと寺田さんはいたけど……な、なんだか目があったのに二人とも固まっちゃったんだよね」
みゆき「……や、やっぱりぬいぐるみを抱いて登校は、ウルトラハッピー過ぎたかなぁ」
キャンディ「クルーぅ」
みゆき「キャンディは甘えたまんまだし……ま、まぁあんまり恥ずかしがらずに、行こうっと!」
ガラガラッ
みゆき「みんな、おはよー!」
みゆき「あっ、岡田さんおはよー!うん?私の顔に何かついてる?」
岡田「あっ、あ、あぁ……いいえ、そうじゃないわ。その、ほ、ほほ星空さんってあの、か、可愛い髪形ねっ!!すっごく、ステキよ!」
みゆき「えへへ、そうかな。お嬢様みたいな岡田さんに言われると嬉しい!」
岡田「さ、触ってもいい、かしら?」
みゆき「?いいよ!あ、でもコロネは崩さないでね」
岡田「え、えぇ……あぁ、揺れる髪から、星空さんの、良い匂い……」クラッ
みゆき「!?お、岡田さん!?岡田さん大丈夫!?」
「星空さん可愛い……」クラッ
「星空ってあんなに美人だったのか……」フラッ
「みゆきちゃんマジ天s……ふぅ」フゥ
みゆき「あ、あれ!?なんだか教室のそこかしこで同じ様子が!?」
金本ひろこ「私!には!!なお!!!なお!!!が!!!いる!!!で!!!しょうが!!!!」ガンッガンッガンッガンッ!!
みゆき「ひ、ひろこちゃーーーん!?!?何があったの!?机に頭を叩きつけて何をしてるのーーーぉ!?!?」
佐々木先生「えー、きょ、今日は日野さん、黄瀬さん、緑川さん、青木さんの四人が風邪でお休みで……」
みゆき「なんだかみんな、ソワソワしてるし……私のほう、チラチラ見てくるよぉ……そ、そんなにキャンディが気になるのかなぁ」
キャンディ「クルぅ」
佐々木「ほ、ほほ、ほ星空さん!?」
みゆき「ふわっ!?あ、は、はい先生!あ、あのこのお人形はその!」
佐々木「仲良しのみんながいなくって寂しいでしょうけど、人肌恋しかったら先生に!先生に言ってね!!」
みゆき「え……?」
井上「先生ずるいぞ!!」ガタッ
岡島「そうだそうだ!俺達だって星空さんと仲良くなりたいっ!」
佐々木「あなたたちは若さがあるじゃない!三十路前のギリギリ女に少しくらいハンデをくれなさい!」
みゆき「あ、あっはは……」
みゆき「な、なんだったんだろう先生。というか、みんな……」
豊島「星空、次、移動教室だぞ」
みゆき「あっ、豊島くーん!よかった、なんだか豊島くんは……」
豊島「ったく、他の四人がいねーから気がぬけてんじゃねーの、おまえ」
みゆき「あ、あっはは、面目ない……」
豊島「そんなんじゃ移動教室まで行けるかわっかんねーし……しかたねーな、ほら」
みゆき「……うん?」
豊島「手、繋いでやるよ。ほら、はy」
井上「いけっ!宗本!!!」
宗本「リア充は潰れろぉおおおおお!!!!」
みゆき「あ。あの、えっと……」
木角「さっ、星空さん。いいえみゆきさん」
岡田「バカな男どもは放っておいて、私たちだけで行きましょ?」
みゆき「あっ、う、うん。いいの、かなぁ」
音楽教師「星空さぁん?さぁ、一曲プリーズ?」
みゆき「あっ、は、はい……」 プピー♪
音楽教師「……ハァイ!みっなさぁーん!?星空さんのすっばらしぃ演奏に拍手ぅー!」
ワーーーーーワーーーー!
パチパチパチパチ!!!
みゆき「あ、あっはは。あり、がとう。音外しちゃったし、その、まだ一息しか吹いてない、けど」
キャンディ「みゆきぃ、上手ぅクルぅ」
みゆき「あ、ありがと。なんだかみんな、私にすっごく……甘い?の、かな」
みゆき「っふぅー、午前中の授業、おーわr」
豊島「星空!一人じゃ退屈だろうから俺がメシ、一緒n」
井上「宗本たのむ!!」
宗本「とぉぉよぉぉぉじぃぃぃまぁあああああ!!」
みゆき「ひぃ!?あ、あの、わ、わたし、えーっと!」
岡田「男子は黙ってなさいよ!」
木角「そうよそうよ!星空さんは私たちとご飯を食べるのよ!」
金本「むしろ食べさせあうのよ!食べあうのよ!!!!」
みゆき「えっ、えぇ!?あの、あのね、私その、一人d」
佐々木「ダメよ!星空さんは私と!」
みゆき「きゃ、キャンディのご飯があるので一人で、一人で食べますごめんなさーーーーい!!」
佐々木「あっ待って星空さん!星空さん!キャンディ!?水彩キャンディならすぐに、まってー!!」
待ってーーー! 待てーー!
星空さーーーん! 星空ーーーーーー!
みゆき「み、みんな怖いよぉはっぷっぷーーーーー!!」
みゆき「うぅ、どうしてこうなっちゃったんだろ……キャンディも放してくれないし」
キャンディ「みーゆきぃ、だーいすきクルぅ」
みゆき「うん、それは嬉しいよ?嬉しいけどね、キャンディ?はぁ……」
キャンディ「みゆきはやさしくてぇ、あったかくってぇ……そりで、そりで……あまーいにおいがするクルぅ」
みゆき「えへへ、そうかな……うん?匂い……匂い……あ、あぁ!まさか、今朝の!?」
みゆき「だとすると……また、あの魔女さんの発明なのかも……うわぁ、またやっちゃったよぉ……あかねちゃんにグリグリされるよぉ」
みゆき「でも今、みんなお休みだし……どうしようかなぁ。誰にも相談、出来ない……」
みゆき「……あっ、そうだ!」
みゆき「ぽpp……は、なんだか面倒なことになりそう。ニコちゃん!ニコちゃんを呼ぼう!」
みゆき「絵本の世界の人たちなら、きっとこのなんだかおかしなことになっているのにも、対処できるよね!」
みゆき「……ニコちゃーーーん!」
絵本 ピカッ!
ニコ「みゆき!私を呼んだの、みゆき!?どうしたの?笑顔が無くなるようなことになってるなら、私が絵本の世界総力を上げて現実世界を……!」
みゆき「ち、ちがうのニコちゃん!あのね、笑顔はあるんだけど、ちょっと困ったことが……」
ニコ「……」
みゆき「……ニコちゃん?あれ?」
ニコ「……みーゆきぃ♪」ギューッ
みゆき「はぷっ!?に、ニコちゃん!?なんでいきなり抱きしめ、え、えぇー!?絵本の世界の人にもこれ効いちゃうのー!?」
キャンディ「クルぅー」
みゆき「……あ、そっか。キャンディだってメルヘンランド……は、はっぷっぷー」
みゆき「な、なに?ニコちゃん」
ニコ「あのねー、わたし、みゆきが……大す――」ボソッ
みゆき「み、耳元で言わないでよぉー!嬉しいけど!嬉しいけどぉー!」
キャンディ「クルっ……みゆきぃ!キャンディもみゆきのこと大好きクルぅ!」ギューッ
みゆき「わ、わかった、分かってるよキャンディ!だから、えっと」
ニコ「むっ、なによこの子豚さん!みゆきは私のだよ!ずっとずっと前から私とみゆきは私と両想いなんだから!」
キャンディ「クルっ!年月なんて関係ないクル!キャンディとみゆきは出会った頃から今までの時間ちみよりも濃密な関係を築いてきたクル!」
みゆき「ふ、ふたりとも落ち着いてぇーーー!わぁーん、どうすればいいのぉーーー!!」
牛魔王「……ニコが突然いなくなったと思ったら。何をしてるんだお前、プリキュア」
みゆき「! 牛魔王さぁーーーん!」
牛魔王「あぁ?……なんだ、お前小娘のくせにその匂いは。似合わねぇし十年早ぇぞ、やめとけやめとけ」
みゆき「わ、わたしだってつけたくてつけたわけじゃないんだよぉ……うーん?ニコちゃんはこんなになっちゃったのに、牛魔王さんはどうして?」
牛魔王「俺を『西遊記』ってぇ話の中の中ボスAくらいにしか思ってんじゃねぇだろうな 、お前」
みゆき「あっ、そっか……牛魔王さんってれっきとした妖仙の類なんだよね!」
牛魔王「意外と話が通じて関心した。そういうことだ、俺様にそんな程度のあやかしの術は効かねぇさ。んで、何がどうなって……」
「ウーーールッフフフフフフ!!そいつぁ俺様たちの仕業ってぇわけよ」
牛魔王「あぁ?なんだ……建物の上に影がありやがる」
狼「ウルーーーッハハハハァ!ババァの言いつけで人間界に回収にきたら、とんだことになってやがるぜぇ!」
狼「これを放っておく手はねぇよなぁ!」
狼「世界よ!最悪の結末!バッドエンドに染まれ!」
狼「白紙の未来を黒く塗りつぶすのだ!!」
ニコ「そうだよね、みゆきがいればいつでも笑顔、笑顔が一番だってわたしはいつでもニコニコのニコだもん」ニコッ
みゆき「ふ、二人とも投げやりにならないで!」
牛魔王「こりゃぁ……瘴気?人間どもから漂ってやがる」
「星空さんが可愛すぎて辛い……」「仲良くなれない……」
「ヒロイン候補のはずがいつの間にか親友Aに……」
狼「ウルヒャーーーッハハハハァ!人間どもの発したバッドエナジーが、悪の皇帝ピエーロ様を……よみがえらせていくのだ!」
牛魔王「……なんだかよぉ、テメェからも随分とその、バッドエナジー?ってのが、溢れてるように見えるんだが、気のせいか」
狼「あぁ!?あったりまえだろうがこの牛野郎が!テメェ、そこの小娘は……」
みゆき「う、ウルフルン、あなたの好きには……」
狼「俺様の獲物なんだよぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」
みゆき「……」
牛魔王「……狼の嗅覚はすげぇらしいな、あぁ」
狼「プリキュアマジ天使!!!!!!」
牛魔王「いや、俺だって頼まれて来ただけなんだようるせぇな」
狼「大体なぁ!テメェ俺様と被りすぎだろうが!あぁーん!?ウルフルンヘアーを真似するたぁいい度胸だなコラァ!」
牛魔王「……ほざけよ狼風情が!!!こちとら16世紀から親玉張ってんだやんのかてめぇ犬っころぉおおお!」
狼「うるっせぇ牛がぁああああああ!!」
牛魔王「魔王がボケがああああああ!!」
みゆき「あ、あぁ、牛魔王さんまでヒートアップしちゃった……どうしよう、どうしよう」
佐々木「星空……さん」
みゆき「えっ……えっ!?せ、先生!?それに、クラスのみんな!どうしてこの空間で動けて……」
みゆき「そこまで詳しく解説したのに!?」
ニコ「みゆき……みゆき。大好きだよ、みゆき……私と、私たちと、一緒にいようよ」
みゆき「に、ニコちゃん!ダメだよ、バッドエナジーなんかに囚われたら、ダメ!」
岡田「星空さん……」木角「みゆきさん……」
豊島「nobody beats me in Hoshizora……」
みゆき「豊島くんは何事!?」
キャンディ「みゆきぃ……キャンディたちじゃ、ダメくるぅ……?」
みゆき「あっ、ち、ちがうの!そういうことじゃ、なくって!あっ、み、みんな、は、放して!みんなに乱暴したくないの!掴まないで!や、やめ……」
佐々木「大丈夫よ、星空さん……ふふっ」
金本「やさしく、してあげるから……」
みゆき「みんな、みんな、目を覚ましてぇえーーーーー!!」
「うちのみゆきに、手ぇださんといてんか」
ニコ「きゃぁ!?」キャンディ「クルっ!?」
みゆき「わ、わぁっ!?ほ、炎が飛んできて、みんなを……あれ、でも熱くない……みんなは驚いて飛びのいただけ?わわっ!」
「こっちや、みーゆき。遅なったな、すまんすまん」
みゆき「あ……あかねちゃん!」
サニー「太陽サンサン、熱血パワゥァ!キュアサニェー!」
サニー「……んで、ポップに叩き起こされてなんやメルヘンランド製の解熱剤飲まされた後ここに駆けつけたんやけど、これどういう状況なん?」
みゆき「やよいちゃん……!」
ピース「ぴかぴかぴかりん☆じゃん、けん、ぽん!キュアピース!」
ピース「プリキュア! ふわぁっ! ピース・サンダーーーーー!!!」
牛魔王「おっと」
狼「あぁん!?なんで他の邪魔キュアどもがいやgあばばばばbbbbbbbb」
「さってと。予告は筋が通ってないし、ね。合体技といこうか」
「そうね。幼馴染の息の合った動き、見せてあげましょ?」
みゆき「なおちゃん……れいかちゃん!」
マーチ「勇気凛々、直球勝負!キュアマーチッッ!」
ビューティ「深々と降り積もる、清き心。キュアビューティ!」
ビューティ「ビューティ・ブリザーーーード!」
狼「はらほろりれ……んなっ、ぐわぁあああああああ!!」
ピース「ま、マーチの打ち出した空気の塊に、ビューティの冷気が上乗せされてまるで雪崩のような勢いで狼さんを吹き飛ばしただってぇー!」
サニー「ごっつ目ぇキラキラさせて解説どうもや。みゆき、平気か?」
みゆき「う、うん。あの、サニー?助かったけど、お姫様抱っこはその……」
マーチ「あっはは、みゆきちゃんほんとにお姫様みたいだ」
ビューティ「ふふっ。よくお似合いですよ、お二人とも」
サニー「あ、ほんまー?なんやうれしーわー、なーみーゆきっ」
みゆき「はぷっ!?も、もーみんなー!」
ニコ「イチャイチャしないでっ!!」キャンディ「クルぅぅぅ!!!」
佐々木「そうよそうよ!!」金本「混ぜなさいy……あの緑の人、なおにそっくり……ハッ!私は何を!」
ピース「うーん?なんだかみんな、みゆきちゃんが好きで好きでたまらなくなってるみたい?」
みゆき「そ、そうなの!みんな、どうしよ!狼さんはどっかいっちゃったし、これ、どうすれば……」
マーチ「ははっ、簡単じゃない、みゆきちゃん」
みゆき「えっ……?」
ビューティ「みゆきさんの、愛を。みなさんに、分けてさしあげましょう?」
みゆき「……あっ!そ、っか!うん!それじゃ、私も!」
プリキュア!スマイルチャージ!
ゴー・ゴー!レッツゴー・ハッピー!
井上「うぉおおおおおおおお!!」
犬塚「天使だ!ほんまもんの天使だああああ!」宗本「ヒンヒン!ヒンヒン!」
サニー「盛り上がっとんな……でも、まだや。まぁだ、こんなもんちゃうやろ」
ピース「そうだね。まだ、みんなどうやってでもみゆきちゃんを手に入れよう、って。そんな欲望が目に映るよ!」
マーチ「なんか生き生きしてるねピース……さぁ、ハッピー」
ビューティ「先日手に入れた、あのデコルで!」
ハッピー「うん!……ニコちゃん、キャンディ」
ニコ「みゆきぃ、みゆきぃー!」キャンディ「クル、クルぅ!!」
ハッピー「すぐに、助けるから!みんながくれたあのときの、この力で!」
ハッピー「ウルトラハッピーに!!!」
カチッ パァァァァァアアアアアアア!!
キャンディ「く、クルっ……みゆきに、光がややく、翼……クル?」
「笑顔で包む、愛の光」
ハッピー「ウルトラキュアハッピー」
カッ!
プリンセスサニー・ピース・マーチ・ビューティ「「「「笑顔があふれる、世界へ!」」」」
バサァアアアアアアア!
キャンディ「クル……ぅ」
ハッピー「みんな……もうやめよう?」フワッ
佐々木「あ、あぁ……地面に降り立っただけで、辺りに花が……!」
岡田「天使……本物の、天使、だわ」木角「触れるなんて、恐れおおい……」
ハッピー「大丈夫。みんながそんなに、怒らなくったて。こわがらなくったって」
ハッピー「私はずっとずっと、みんなといるよ」
ハッピー「私、みんなが――大好きだもん」
ハッピー「だから、行こう――キラキラ輝く、未来に!」
ニコ「みゆ、みゆ、きぃ!」
キャンディ「大好き、クルぅーーーー!!!」
パキィン!サァァアアアアアアア……
ハッピー「……ウルトラハッピー!」
やよい「うんっ。バッドエンド空間での記憶は、ポップが持ってきたなんだかよくわからないもので編集済みだもんね」
なお「すごいねー、ポップ。頼りになるー」
ポップ「そ、それほどでも……あるでござるっ!ふぅ、みゆき殿。怪しげな物の洗浄は終わったでござるよ。これで拙者もようやくマスクが取れるでござる」
れいか「みゆきさんが被られた香水の効果を受けないためにはそうしないといけないのですものね」
みゆき「ありがと、ポップ!……ニコちゃん?キャンディ?」
ニコ「……ごめんなさい!ごめんなさいごめんなさいごめんなさいっ!」
キャンディ「ごめんなさいクルぅ……!」
みゆき「そ、そんなに謝らないでよぉ。もう近寄っても大丈夫だよ?ね?」
ニコ「だ、だって私!せっかく、せっかくみゆきに頼られたのに!迷惑ばっかり!!」
みゆき「うーん、えっとね。私、ニコちゃんに『大好き』って言われるのは嬉しいから、迷惑ではなかったんだけどー」
ニコ「ふぇ!?あ、わ、わわ、私そんな、そんなみゆきにそん、わ、わぁーーー!牛魔王!帰る!帰るよ!うわーんまおー!」バッ
牛魔王「へぇへぇ、ったく俺ぁ出てきて損ばっかりだったぜ。おいプリキュア、あの狼にあったらいつかぶっとばすっつっとけ。じゃあな」シュバッ
みゆき「ばいばーい!今度は魔王も一緒にねー!」
あかね「けったいな台詞やでそれ」
キャンディ「クルぅ……みゆきぃ」
みゆき「……キャーンディ。もう、気にしないで、って言ってるのにー。キャンディにたくさん甘えられて、私、嬉しかったよー?」
キャンディ「クル、ぅ……ほんとクルー?」
みゆき「うん!えへへ、だから気にしなーい、気にしない!」
キャンディ「……クルぅ!みゆき大好きクルぅ!」
みゆき「えへへー!」
キャンディ「クルぅ!!」
あかね「……またまた不用意に拾ったもんで大惨事一歩手前になってもーたんわ、しーーーーーっかり反省せんかいこらぁぁぁあああ」グリグリグリグリ
みゆき「いだっ!いだだだだいたいいたいよぉあかねちゃーーーん!」
キャンディ「クルぅクルぅくるうクルぅうううう!!」
なお「いや、うん。こればっかりはね、すこぶる気にしてくれないと」
れいか「毎度毎度、マジョリーナの術にはまってばかりだものね」
やよい「そのうち幼児化もありえるよね、お約束的に!」
なお「ごめん、それはすこぶるどうでもいい」
あかね「なーんや。あ、風邪のことなら平気やで、ポップ印の薬やし」
ポップ「奇天烈な出来でござろう、キテレツな」
あかね「よーわからんけど的確にうっさい」
みゆき「うん、あのね。みんなは、あの時。駆けつけてきてくれたとき、ね?」
やよい「ヒーローみたいにねっ!」
みゆき「あ、うん。その時は、ほら。みんな……変身はしてたけど。普通だったよね?」
なお「普通、って?」
れいか「確かに、プリンセスフォームではありませんでしたが……?」
みゆき「あっ、そう、そうじゃなくって……」
みゆき「うーん?みんなは、どうして……あの香水の影響、受けなかったのかなー、って」
やよい「……」
なお「……」
れいか「……」
みゆき「?」
あかね「……あー、っはは。それ、聞いてまう……?」
みゆき「え?うん、だって、気になるもん!他の人はみーんな、あんな風になってたのに……」
やよい「……それは、ね」
なお「……私たち四人が、みんな」
れいか「他の方には、誰にも。誰にも負けないくらいに」
みゆき「……えっ? わぷっ!?あ、あかねちゃん!?なんでまた、押し倒して……!」
あかね「これ以上ない、っちゅーくらい、あんたのことが大好きだからやで!みーゆきっ♪」
やよい「えへへっ。ニコちゃんには悪いけど、みゆきちゃんは譲れないよね!」
なお「うんうん。私たちの愛情は直球勝負だもん、負けられないよ」
れいか「みゆきさん?今更みゆきさんの魅力がどれだけ上がろうと、私たちは取り乱したりしないんです。それほどまでに、みゆきさんが大好きなんですから」
あかね「……って、ことや。ふっふぅーん、星空くん?こんな可愛い子をものにして、羨ましいですなー?」
みゆき「……えへへ、うん!」
みゆき「モテモテすぎて、ウルトラハッピー!」
完
鬼「ウルフルーン!やめるオニー!もう朝夜寒いオニー!凍えちまうオニよーーー!」
狼「うううううっるせええええええ!!おおおお俺様は俺様は俺様はなにをををを消えろ煩悩ぉおおおおおお滝に打たれて消え失せろおおおおおおおおお!!!」
今度こそ、完
みゆきちゃんマジ天使!
じゃあの!
ABC朝日放送 日曜朝八時半
スマイルプリキュア!
大好評放送中!
劇場版『スマイルプリキュア!絵本の中身はみんなチグハグ!』
大ヒット上映中!!
乙
Entry ⇒ 2012.11.02 | Category ⇒ プリキュアSS | Comments (0) | Trackbacks (0)
半兵衛「よ、良晴さん……! も、もうっ!」
半兵衛「いつ戦が起こるか分からないのに……」
良晴「でも少なくとも今は戦争だって起こって無いんだ、ちょっとくらいいいだろ?」
半兵衛「ちょ、ちょっとくらいって……ここ数日そう言って毎日いきなり背後から抱き付いて」
良晴「嫌か?」
半兵衛「い、嫌じゃありませんけど、くすん」
良晴「最近は信奈の奴とも十兵衛ちゃんとも会えないし、人肌恋しいんだよ」
半兵衛「わたしはお二人の代わりですか……」ムスッ
良晴「そんなわけないだろ! 半兵衛ちゃんが一番可愛いし大事だよ!」
半兵衛「ま、またそんな調子の良い事言って――ひゃぅっ」
半兵衛「み、耳をはむはむしないでくださいっ!」
良晴「半兵衛ちゃんが可愛くて、つい……」
半兵衛「んっ、"つい"ってそんな理由で……ひぁっ」
良晴「ん、五右衛門か。どうした」ハムハム
半兵衛「ぁっ……んぁ」
五右衛門「拙者、僭越ながら申し上げまちゅとちゃちゅがにちゃいきんにょちゃがりゃうじは……」
五右衛門「…………」
良晴「…………」ハムハム
半兵衛「あぅ……やぁっ……」
五右衛門「流石に最近の相良氏は気が緩みすぎかと」
良晴「……ふむ」ハムハム
半兵衛「ひゃぅ……よ、よしはるさん」
良晴「ん? なんだい半兵衛ちゃん」
良晴「…………」ハムハム
半兵衛「よし……はる、さん」
五右衛門「相良氏、度が過ぎるようなら拙者も容赦しないで御座るよ」
良晴「…………」
良晴「そうか、お前らがそういう気ならこっちにも考えがある」
半兵衛「えっ……」
五右衛門(噛まずに言えた……っ!)パァァア
半兵衛(あ……良晴さん)
半兵衛「良晴さんっ、おはようございます!」
良晴「…………」スタスタ
半兵衛(あれ……聞こえなかったのでしょうか)
半兵衛「良晴さんっ! おはようございます!!」
良晴「…………」スタスタ
半兵衛「殿っ!」
良晴「…………」スタスタ
半兵衛「とーのーっ!」
良晴「…………」スタスタ
半兵衛(……無視、されてる?)
半兵衛「くすんくすん、わたしはいぢめられてるようです」
良晴「…………」スタスタ
半兵衛「…………うぅ、くすん、くすん」
半兵衛「あ、五右衛門さん」
五右衛門「今の相良氏に何を言っても無駄でごじゃるよ」
半兵衛「無駄、とは……?」
五右衛門「相良氏は昨晩からだんまりを決め込んでいるようちゅでごじゃる」
五右衛門「拙者が何を話しかけてもうんともすんとも答えないでごじゃるよ」
半兵衛「そ、そんな……」
半兵衛「私は良晴さんの軍師ですっ」
半兵衛「絶対に良晴さんと会話してみせます!」
五右衛門「御武運をお祈りいたちゅでごじゃるよ、たけにゃかうぢ」
五右衛門「…………ぁう」
半兵衛(五右衛門さん、可愛いです……)
半兵衛(良晴さん……いた)
良晴「…………」スタスタ
半兵衛「…………よし」
半兵衛「良晴さんっ。今日は天気がいいのでお散歩にでも行きませんか?」
良晴「…………」スタスタ
半兵衛(やはり無視されてる……ぅぅ、早くも心が折れそうです……)
良晴「お、官兵衛」
官兵衛「ん、きみか相良良晴」
良晴「今日は天気も良いし、散歩にでも行かないか?」
官兵衛「ふむ……たまには町の様子を見てみるのもいいものか」
官兵衛「最近は戦も無く運動する機会も少ないからな……いいだろう、きみと散歩してやる」
良晴「はは、じゃあ行こうぜ官兵衛」
官兵衛「シム。エスコートしてもらうからな、相良良晴」
半兵衛「…………っ」
官兵衛「ふん……やはりここまでくると中々騒々しいな」
良晴「でも、そう悪いもんでもないだろう? ……おっ」
官兵衛「どうした、相良良晴」
良晴「団子屋だ。行こうぜ、官兵衛!」
官兵衛「!? い、いきなり手を握るな、びっくりするだろう!」
官兵衛「そそそれに最近身体を動かして無いからと外に来てるのに団子なんて食べたら意味が……」
良晴「なーに言ってんだよ官兵衛! 折角外に来たのに団子の一つも食べなかったらそれこそ意味が無いだろ」
良晴「こう見えても今は俺も一国一城の主、女の子に団子を奢るくらいの甲斐性はあるんだぜ」
官兵衛「き、きみがそれほど言うなら……食べてやらんこともない……っ」
良晴「じゃ、決まりだな! 団子食おうぜ官兵衛!」
官兵衛「だ、だからいきなり手を握るなと…………もう」
半兵衛(…………)コソコソ
半兵衛(良晴さんと官兵衛さん、あんなに楽しそうにして……)
半兵衛(良晴さんの軍師は私だというのに……)
半兵衛「…………はぁ、なんでこんな事になったんでしょう」
良晴「おばちゃん、団子二人分ください。はい、お代」
官兵衛「……本当に、奢ってもらっても良かったのかい、相良良晴」
良晴「何今更言ってんだよ! さっきから良いって言ってるだろ?」
官兵衛「む、だが……」
良晴「それに官兵衛は女の子だしさ、男の俺が官兵衛に奢るのは当然だろ?」
官兵衛「き、きみがそう言うなら……そうなのだろうな」テレテレ
良晴「おう、そうなんだよ」ニコ
半兵衛(ぅぅ……しかもなんか良い雰囲気になってます)
半兵衛「くすん、くすん」
半兵衛(良晴さんの隣にぴったりくっついて……席は結構広さがあるのに)
半兵衛(ま、まさか、官兵衛さんも良晴さんのことを……?)
良晴「お、きたきた」
官兵衛「ふん、中々美味しそうではないか」
良晴「そうだな。……官兵衛、あーん」
官兵衛「!?」
半兵衛「!?」
官兵衛「ちょ、ちょっと待て相良良晴!」
良晴「?」
官兵衛「そ、それはまさかこのシメオンに食べろと言う意味なのか!?」
良晴「それ以外にどんな意味があるんだよ」
官兵衛「と、とにかく! わたしはそんなの――むぐっ!?」
良晴「……どうだ? 美味いだろ?」
官兵衛「もぐもぐ……ごくん」
官兵衛「ま、まあ、悪くはないが……」テレテレ
官兵衛「それにしてもいきなり人の口に団子を突っ込むのは感心しないぞ」
良晴「ん、それは悪かった。ごめんな」
官兵衛「わ、分かればいいのだ……」
半兵衛「ぐぬぬ……」
半兵衛(それどころか手だって繋いでくれなかったし……)
半兵衛(あんなに幼い官兵衛さんにでれでれしてしまって……はっ)
半兵衛(もしや良晴さん、こんどこそついに未来の不治の病"露璃魂"に掛かってしまったのでは――?)
半兵衛(で、でも、だとしたら良晴さんが官兵衛さんにでれでれしてわたしにでれでれしない理由は?)
半兵衛(まさか、わたしなんかでは良晴さんにとっては歳が行き過ぎているというのでしょうか?)
半兵衛(良晴さん……いつの間にかそんなところまで"露璃魂"を進行させてしまって……)
半兵衛「わ、わたしが良晴さんをなんとかしなくちゃ……!」
半兵衛(むー……、中々良い策が思いつきません……)
良晴「おし、官兵衛、あっちの方に行ってみようぜ」
官兵衛「シム。……シメオンもあっちの方には行った事が無くてな。何があるのだ?」
良晴「んー、確か大きめの川が通ってたはずだ。天気も良い事だしそこでのんびりしよう」
官兵衛「のんびり、か。天下布武を為そうとする織田に仕えるきみがそんなんでいいのかい?」
良晴「大切なのはメリハリを付けることだ。遊べるときに遊び、のんびり出来るときにのんびりすることも大切なんだ」
官兵衛「ふむ、一理あるな」
良晴「よし、行くぞ官兵衛」
官兵衛「だ、だからいきなり手を握るなと言ってるだろうっ」デレデレ
半兵衛(あぁっ、お二人があちらに行ってしまいます……)
半兵衛(……しかも良晴さんはまたもや官兵衛さんの手を握り締めて)
半兵衛「前途多難です、くすんくすん」
官兵衛「シム。それにここらはあまり騒がしくなくてとても……良い」
良晴「やっぱり人込みは苦手だったか?」
官兵衛「別に苦手と言うわけではないよ。ただ、静かな方が好きだと言うだけの事だ」
良晴「…………」
官兵衛「…………良い、風だ」
良晴「……ああ」
官兵衛「…………」
官兵衛「…………相良良晴、もう少しあちらの方へ行って見ないか」
良晴「おう」
半兵衛(……あっちは見晴らしが良すぎてこれ以上近づく事が出来ませんね)
良晴「……何の事だ?」
官兵衛「ふん、とぼけても無駄だ。忘れたのか? シメオンは天才軍師なんだぞ」
良晴「…………」
官兵衛「きみは普段シメオンを散歩になんて誘ったりしない」
官兵衛「手を繋いだり、"あーん"をしたり、きみの普段の行動からは考えられない行為ばっかりだ」
良晴「それが、どうした」
官兵衛「それだけじゃない。きみも気付いていたかもしれないが、さっきから竹中半兵衛がシメオンたちの後をこっそり追って来ている」
官兵衛「……相良良晴、きみは竹中半兵衛と何かあったのか?」
良晴「……ふふ、天才軍師様は全部お見通しって訳か」
良晴「それで見晴らしが良く、半兵衛が近寄れないここに行こうと言ったのか」
官兵衛「……まあ、そんなところだ」
半兵衛「くすん、遠すぎて何を喋っているのか全く聞こえません」
官兵衛「…………」
良晴「喧嘩というか……いや、悪いのは一方的にこっちなんだけれどさ」
良晴「ちょっとからかってやろうと思ただけなんだけれど予想以上に良い反応が帰ってきたもんで」
良晴「本当はすぐに謝ろうと思ってたんだけれど、ついそのまま続けちまってさ……」
官兵衛「……それで、謝るタイミングを逃した、というわけか」
良晴「あ、ああ……」
官兵衛(この……馬鹿者が……!)
官兵衛(竹中半兵衛が相良良晴に抱いている感情も知らずに……!)
官兵衛(そしてこのシメオンを一瞬でも期待させておいて……!)
官兵衛(…………くそっ!)
官兵衛「…………に行け」ボソッ
良晴「え? 何だって?」
官兵衛「竹中半兵衛に謝りに行け! 今すぐにだっ!」
良晴「ひっ!? わ、分かりました!」
半兵衛(……ん? 官兵衛さん、怒ってる? 良晴さんに何か怒鳴りつけて――)
半兵衛「って、良晴さんがこっちに来る!?」
半兵衛「か、隠れなくちゃ」アワアワ
半兵衛「木、木の裏にでも隠れて――」
良晴「半兵衛!」
半兵衛「!」ビクッ
良晴「半兵衛……」
半兵衛「よ、良晴……さん?」
半兵衛(……良晴さんがわたしに話しかけてくれた?)
半兵衛「きゃぅっ!?」
半兵衛(よ、良晴さんがわたしを抱きしめてる――!?)
良晴「本当はすぐに謝るつもりだったのに、タイミングを逃してしまって……」
半兵衛「くすん、わたしは良晴さんがわたしに話しかけてくれたのでそれでいいです」
半兵衛「無視されるのはとても辛いです、くすんくすん」
良晴「本当に、ごめん」
半兵衛「……後で五右衛門さんにも謝っておいてくださいね?」
半兵衛「……五右衛門さんも傷ついてましたから」
良晴「ああ、分かった」
半兵衛(わたしは良晴さんに冷たくした事を謝って)
半兵衛(良晴さんはわたしたちを無視した事を謝って)
半兵衛(…………)
半兵衛(……良晴さんはこれからはわたしと出かけるときは手を繋ぐと約束してくれた)
半兵衛("あーん"をしてくれるとも)
半兵衛(……そして、それから一ヶ月)
半兵衛「ひゃっ!? よ、良晴さん……! も、もうっ!」
半兵衛「最近戦がないからって良晴さん、気が緩んでますよ!」
半兵衛「いつ戦が起こるか分からないのに……」
良晴「でも少なくとも今は戦争だって起こって無いんだ、ちょっとくらいいいだろ?」
半兵衛「ちょ、ちょっとくらいって……ここ数日そう言って毎日いきなり背後から抱き付いて」
良晴「嫌か?」
半兵衛「…………嫌じゃないです」
良晴「そっか」ニコ
そんな、のどかな昼下がりの日常。
わたしと良晴さんは"まだ"特別な関係ではないけれども。
わたしはなによりもこの日常を幸せに感じているのだ。
良晴「…………」ハムハム
半兵衛「で、でも耳をはむはむするのは止めてくださいっ!」
【終わり】
今度やるときは書き溜めて来るんでよかったら読んでください
ノシ
乙
Entry ⇒ 2012.11.02 | Category ⇒ その他 | Comments (0) | Trackbacks (0)
菫「照……?それに……宥……?!」
どうしてあの2人が、玄関先で抱き合っていたのか。
全てが分からない。私への天罰というのか。
胸が苦しい。冷たい空気が肺へと突き刺さる。
巻いてきたマフラーがないことに気付いた。
季節は、冬。
プリンケーキという看板に惹かれて洋菓子店に入るべきではなかった。
買わなければよかった。持って行こうと思わなければよかった。
そんな結果ばかりが浮かんでくる。
しかし、悪いのは自分だとわかっている。
でも、どうして宥なのか。それが、分からない。
まさか菫が来るなんて。でもいいんだ、先に裏切ったのはあっち。
その相手が宥だっただけ。私は何も悪くない。
悪く、ないんだ……。
菫ちゃん……だったよね。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。
でも、ドアは閉めていってね。あったかくないよ。
戸を閉めようとして気付く。
「あっ」
「どうしたの?」
背を向けた照ちゃんが振り返って尋ねた。
「あのね……菫ちゃんがマフラー、忘れたみたいなの。だから私……あっ」
ぱっと手のマフラーを引き、
「私が行ってくる」
照ちゃんは家を出ていった。この家は私一人だけ。
宮永姓でない私だけ。
やはり肩が冷える。そもそも受験勉強で肩が凝り気味だったことを思い出す。
考えてみれば、こうして勉強をしているのも照と同じ大学へ行くためだったはず。
後悔しか浮かんでこない。溜息がまたひとつ。
時計に目をやると塾の時間が過ぎていることに気付いた。
サボることにしていたとはいえ、目的も果たせなかったのだから、帰らずに塾でも行けばいいのかもしれない。
そんなことを考えていたら笑えてきた。なんて私は滑稽なんだ。
自分勝手で自業自得。いいざまだ。
気付いたら宥カラマフラーを奪って、菫の家へと駆け出していた。
寒い。上着くらい羽織ってくればよかった。
でもどうせすぐに追いつく。とぼとぼ歩いているに決まっている。
手に持ったマフラーは暖かかった。
後ろから駆けてくる足音がした。側溝側に避ける。勝手にあっちも避けていくだろう。
「菫!」
振り向くと声の通り照がいた。
息を切らし、上着も着ずに、私のマフラーだけを持って。
白い息と赤い頬のコントラストがとても綺麗だった。
「……照」
「忘れたから」
そう言ってマフラーを差し出す。
「ありがとう」
それしか言えなかった。言いたいことが、言うべきことがあったはずなのに。
渡されたマフラーから目を離すと、もう照は背を向けていた。
それ以上言葉が出てこない。
「なに?」
足を止め、振り向かずに答えた。
私はもう顔を見られなかった。うつむいたまま言葉を継ぐ。
「その、ごめん……」
「なんで菫が謝るの?マフラーを届けに来ただけで」
「私が悪かった。ごめん」
「謝らないで」
そうして照は近づいて私の顎に触れた。
ビクッとして顔を上げると、そこには照の顔があった。
シチューの香りがした。
菫の目からは何の意志も感じられなかった。
とてもつまらない目をしていた。
やっぱりそういう謝罪なのだ。
とてもイライラした。キスをした。
「これで宥と間接キスだね」
嘘を吐いた。
キスをされた。何を言っているのか分からなかった。
『これで間接キスだね』
~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~
何を言っている?
照は何を言っているんだ?
照の言葉が頭をぐるぐる回る。
顎から手を離し、照は歩いて行った。
私はまだ混乱している。
「ただいま」
と、声がしたので玄関に出る。
「お帰りなさい。大丈夫だった?」
しかし、何も答えない。表情まで凍っているかのよう。
「シチューできてるよ」
照ちゃんがかけっぱなしだった鍋について訊く。
「ありがとう。夕飯にしよう」
少し柔らかく言ってくれた。あったかい。
私はあったかい照ちゃんが好き。
あったかい菫ちゃんも、好き。
「よくわかんない」
「きっと宥なら受かってるよ」
「だったらいいなぁ」
受験生らしい会話。
受ける前からほぼ受かっている照ちゃんと、AOをたまたま受けた私。
そして、照ちゃんと一緒にいようとする菫ちゃん。
私が悪かったのかな。
やっぱり飛び出したのはよくなかった。
帰り道で強く思った。宥1人にすべきでなかったと。
こうして夕飯を食べながらでも分かる。おかしい。
でも悪いのは彼女ではない。
悪いのは、菫と、嫉妬深い私だ。
「ただいま」
自宅の扉を開いて呟く。
すると、母がやってきて塾はどうしたなどと聞いてきたが、体調不良と応えておいた。
風邪に気をつけろという話を聞きながら、自室に戻る。
ベッドに寝転がる。制服の皺なんてどうでもよかった。
焦点の合わない目を天井に向けながら、唇に触れた。
感傷で温度が変わったりはしない。
いつも通りの私の唇だ。
初めては照だった唇だ。
きっと母が入れてくれたのだろう。靴下も脱がされていた。
時計を見ると、10時。4時間程寝ていたらしい。
携帯を見るとメールが入っていた。
『あったかい菫ちゃんが好きだよ』
彼女にまで心配をかけてしまった。
最低だ。
1時になって寝ることになった。
お客さんはベッドだからと照ちゃんは言ったけど、
寒そうだから一緒に寝よって言ったら認めてくれた。
照ちゃんも寒がりなのかな?
照ちゃんの体温を感じながら切り出す。
「菫ちゃんと私が出かけたこと知ってたの?」
照ちゃんは答えない。でもそれは肯定と一緒だ。
「あれは遊びに行っただけだよ」
それでも何も言ってくれない。
「菫ちゃんはね、照ちゃんが大好きなんだよ」
「……うん」
きっと諭されている。分かっている。宥はお姉ちゃんなのだ。
私と同じ。だから私だってそう言うと思う。
それでもやっぱり宥に嫉妬はある。宥が悪くないとわかっていても。
「私は、あったかい菫ちゃんとあったかい照ちゃんが好き」
宥はそういう人間なのだ。ずるい。だから嫉妬する。
「私と菫、どっちが好きなの?」
いじめたくて言ってしまった。
「今は……よくわかんない。でも、2人とも」
「いいよ、ごめん」
私は何と言って欲しかったんだろう。
私も、菫とこのままでいたいわけじゃない。
待つくらいの気持ちはある。
待っていた。朝の数時間なんて短いものだ。
それに照なら宥を送ってから来るだろう。
待つのは嫌いじゃない。
10分も待たずにやってきた。
「照、ちょっといいか」
「何か用?」
「後で時間をくれないか」
「わかった」
すぐに照は通りすぎていった。
隣には誰も居ない。
『もっと素直になった方がいいよ』
駅まで送って行ったら宥が言った。
それは菫にも言って欲しかった。
そんな風に思ったけど、菫が声をかけてきたのは宥から何かがあったのかもしれない。
しかし、訊いても否定するだろう。
菫が決めたことだと。
ここまでくると菫が羨ましく思えてくる。
来るとわかっていると待つのは楽しい。
いや、照の顔が見られると思うと嬉しいだけかもしれない。
「待った?」
照が足早にやってきた。
「私の勝手に付き合ってもらったから」
来てくれただけで十分だと思う。
約束を破るとは思っていなかったが、正直ほっとした所はある。
「言っておきたいことがあって」
「また謝るつもり?」
混乱していたとはいえ、ただ謝るだけだった昨日の私が悔しい。
「照、好きだ」
先に行っておくべき言葉はこれだった。
照はそう応えるだけだった。
認めてはくれた。否定することはなかった。
もう一方通行になってしまっていたとしても。
それでも、心のどこかで期待していた。
照にも同じだと言って欲しかった。
「キスして」
そう言ってみた。
「今日は菫からキスして。それいいよ」
いつもキスするのは私からだった。
初めての時も、2回目の時も、そして昨日も。
キスがしたかったわけじゃない。
でも、菫からして欲しくなった。
紅潮する頬。少し歪んでしまった口。閉じられた瞼。
どこにキスするつもりなんだろう。
そのまま行ったら鼻だ。
そうして唇が触れる。
あっ、と菫から息が漏れる。
目を開け、鼻にキスをしていたことに気付く。
飛び退いて、ごめんと謝る。
何だかおかしくなってキスをした。
困り顔の菫はいつも通り可愛かった。
新幹線はもう東京を過ぎた。
菫ちゃんと照ちゃんはどうしているだろう。
春にはまたあったかい2人と会いたい。
それが私の幸せ。きっと、そう。
しばらくして、照と過ごす時間が少し増えた。
コミュニケーション不足なんて陳腐な言葉を使う気にはなれないが、足りない部分は確かにあった。
元々私も口が上手な方じゃない。誤解を受けたのもそのせいだ。
また、ただ漫然と受験勉強をするより、時間を作っててると過ごす方がメリハリが付いていい。
後は私が合格するだけだ。
「おめでとう」
「おめでとう」
発表会場には照と宥がいた。
菫は驚きつつも礼を言う。
「これで一緒だな」
そういって、彼女は照を引き寄せるとキスをした。
「おめでとう」
宥がまた呟いた。
Entry ⇒ 2012.11.02 | Category ⇒ 咲-Saki-SS | Comments (0) | Trackbacks (0)
える「古典部の日常」 5
俺は今、神山市から少し離れた所に来ていた。
話せば長くなるが……
面倒だな、話すのは今度にでもしよう。
入須「どうだ、中々に良い場所だろう」
奉太郎「そうですね」
俺と入須が居たのは、高台であった。
町並みを一望でき、キラキラと光る町の奥には海が見える。
奉太郎「入須先輩がこんな場所を知っているなんて、少し驚きです」
俺がそう言うと、入須はムッとした顔を俺に向けながら言った。
奉太郎「……先輩でしたね」
入須「そうとも」
入須「なら穴場の一つや二つ、押さえてあるさ」
奉太郎「それはそれは、失礼な事を言ってすいません」
入須「分かればいいんだが……」
入須はそう言い、手すりから町並みを眺める。
その時だった。
空がまばゆく光る。
遅れて……ドン、と言う音が耳に届いた。
入須「ああ、そうみたいだな」
ここに来ていたのには理由があった。
年に一度の花火大会、それを見るためにわざわざ神山市を離れ、こんな所まで来ているのだ。
最初は間隔をゆっくりと、花火達が上がっていく。
それを見ながら、入須は口を開いた。
入須「私ももう、大学生か」
入須「思えば随分と年を取ったものだ」
奉太郎「まだ、18か19でしょう」
奉太郎「年寄りみたいな台詞は、似合いませんよ」
入須「あっと言う間さ」
入須「青春なんてすぐに終わる」
入須「ああ」
思えば、俺も既に三年生か。
後一年も経たない内に、神山高校を去ることになるのか。
その後は……俺は一応、大学へと行く予定になっている。
里志や伊原もそうだろう。
だが、千反田は前に聞いた時、少しだけ悩んでいる様子だったのを覚えている。
また父親に何かあった時、何も知らなくていいのかと……千反田は言っていた。
もしかすると、千反田は大学には行かず、家の仕事に就くのかもしれない。
そして、それを俺に決める権利は無い。
恐らくそうなれば、段々と疎遠になって行くのだろう。
中学の時も一応、俺にも友達くらいは居た。
そいつらとは高校へ行っても遊ぼうな、等と言っていた物だが……
いざ高校生になってからは、ほとんど連絡なんて取っていなかった。
……そんな、物だろう。
入須「そうか、君の誕生日は確か……」
奉太郎「四月です」
入須「なるほど、君が一番早く年を取っているのか」
奉太郎「そう言う言い方は、出来ればやめて欲しいですね」
入須「ふふ、すまんすまん」
そこで俺は一度、空を見上げた。
花火が一つ……散っていく。
そんな光景を見ながら、一つの事を思い出す。
あれは確か……俺の誕生日の日だったか。
~折木家~
休みなだけあって、俺は随分と遅く、目を覚ました。
供恵「あんた、やっと起きたの?」
奉太郎「いいだろう、別に」
供恵「だらしないわねぇ」
奉太郎「休みくらいゆっくりさせてくれ」
供恵「あんたがそれを言うか」
朝から……いや、昼から姉貴との言い合いは、どうにも気が進まない。
最後の姉貴の言葉を無視すると、俺はとてもゆったりとした動作でコーヒーを淹れた。
供恵「私の分もよろしくねー」
奉太郎「……ああ」
それは少し違うか、おまけで作るのだし。
まあ……どの道、気が進まない事には代わり無いのだが。
供恵「あーそういえば」
供恵「誕生日お・め・で・と・う!」
奉太郎「……どうも」
姉貴の精一杯の笑顔に俺は精一杯無愛想に返す。
供恵「確か、去年はお友達が来てたけど」
供恵「今年はどうなんだろうねぇ」
奉太郎「さあな、分からん」
去年は確かに、俺の家で誕生日を祝われた。
しかし、あれは大日向が居たからだ。
あいつが居なければ、俺の誕生日を祝おうなんて、他に誰も思わないかもしれない。
別に俺も、祝って欲しいなんて事は無いし、構わないが。
供恵「ありがと」
姉貴のその言葉を流し、俺もソファーに座る。
腰を下ろし、背もたれに背中を預けようとした時だった。
俺に反抗するように、家の電話が鳴り響いた。
俺はなんとも中途半端な姿勢で止まる事となり、そこで止まったが最後……電話に出る役目は俺に回ってくる。
供恵「ほらほら、友達かもしれないでしょ」
奉太郎「……くそ」
コーヒーをテーブルに置くと、俺は電話機の前に移動し、受話器を取った。
奉太郎「もしもし、折木です」
える「折木さんですか? 千反田です!」
える「えっとですね、今日は何の日かご存知ですか!?」
なんだ、やけにテンションが高いな……
奉太郎「一週間に二度ある休みの内の、一日だな」
える「そうではないです!」
える「い、いえ……確かにそうかもしれませんが」
える「違います!」
千反田が言っている事は大体分かる、俺の誕生日の事だろう。
だが自分から言うのも、少しあれなので敢えてそうは言わない。
奉太郎「じゃあ、なんの日なんだ」
える「もしかして、忘れてしまったんですか?」
える「今日は、折木さんのお誕生日ですよ!」
奉太郎「それで、それがどうかしたのか」
える「お祝いをしようと思って、お電話しました」
奉太郎「ああ、そうか」
える「はい! お誕生日おめでとうございます」
奉太郎「ありがとう」
奉太郎「それで、用事は終わりか?」
える「ち、違いますよ……それだけではないです」
まだ何かあるのだろうか?
える「実はですね、誕生日会を開こうと計画していまして」
奉太郎「また、急だな」
える「そうでもないですよ、予め決めていましたので」
える「当たり前じゃないですか、福部さんと摩耶花さんと、秘密に計画していたんです」
奉太郎「……まあいい」
奉太郎「また俺の家でやるのか?」
える「いいえ、何度もお邪魔しては迷惑だと思いますので……」
える「今年は、私の家で開くことにしているんです」
待て待て、俺の家で開くのなんて全然迷惑じゃない。
わざわざ主役の俺を、遠い千反田の家まで足を運ばせると言うのか!
奉太郎「お前の家まで行けって事か」
える「はい!」
奉太郎「俺の誕生日を、お前の家で開く為に」
える「はい!」
奉太郎「わざわざお前の家まで、休みを堪能している俺が」
える「勿論です!」
奉太郎「……分かった、行けばいいんだろ」
える「ふふ、お待ちしてますね」
える「福部さんも伊原さんも今から来るそうなので、楽しみにしておきます」
奉太郎「そうか、じゃあ準備が終わったらそのまま行く」
える「ええ、宜しくお願いします」
そして話が終わり、俺は受話器を置く。
供恵「行ってらっしゃーい」
奉太郎「……はあ」
姉貴の満面の笑みを見て、溜息を吐くと俺は準備に取り掛かった。
と言っても、大した準備等は無いが。
ともかく、俺はこうして千反田の家での誕生日会をする為、わざわざ休日に出かける事となったのだ。
インターホンを鳴らすと、扉の前で待っていたのか、すぐに千反田は出てきた。
える「わざわざありがとうございます」
える「上がってください」
そう言われ、千反田の家へと上がっていく。
いつもの居間に通され、変わらぬ千反田の家でゆっくりとくつろいでいた。
奉太郎「そう言えば、里志と伊原はまだなのか?」
える「もう少しで来ると思うのですが……」
その時、インターホンが鳴り響く。
える「来た様ですね、私行ってきますね」
奉太郎「ああ」
何回来ても、まずその広さに驚かされる。
俺の家の何個分に当たるのだろうか……
とても比べ物には、ならないか。
多分、この家の広さが……千反田という名家を表しているのかもしれない。
そんな事を考えながら、里志達がやってくるのを待っていた。
出されたお茶を飲みながら、俺は考える。
……去年、俺はあいつの事を追い掛けていたのかもしれない。
社会的にも、俺の前を行く千反田の事を。
最終的に、それは不釣合いだったのだろう。
片や、神山市には知らぬ者等居ないほどの名家のお嬢様。
片や、ただの一般人。
それは多分、いくら追いかけても追いつけないのかもしれない。
あの日に起きた事は、起こるべくして起きたのかもしれない。
だが、だがもう少しだけ。
俺が高校を卒業するまで、追いかけてみよう。
それでも駄目なら、そこまでだったと言う事だ。
里志「お、ホータローはもう来ていたんだね」
奉太郎「……里志か」
里志「なんだい、随分と暗い顔をして」
奉太郎「いや、何でも無い」
奉太郎「それより、伊原と千反田は?」
奉太郎「手伝いに行かなくていいのか」
里志「何言ってるんだい、僕達が行っても足手まといになるだけさ」
奉太郎「まあ、間違ってはいないが」
里志「それより、何か考え事でも?」
奉太郎「……ちょっとな」
里志「僕には何を考えている何て事は、分からないけど」
里志「あまり、思い詰めないで今を楽しもうよ」
今を楽しむ、か。
それも……悪くないかもしれない。
里志「それに今日はホータローが主役だよ」
里志「さあさあ、笑って笑って」
いや、いきなり笑えと言われてもだな……
奉太郎「……それは難しい」
里志「釣れないなぁ」
奉太郎「いつも笑顔のお前が羨ましいな」
里志「何事も、楽しまなくちゃね」
里志「じゃないと時間が勿体無い」
奉太郎「ああ……それもそうだ」
そこまで話し、俺と里志は互いに外を眺める。
そのまま数分経ち、やがて伊原と千反田が部屋へと来た。
摩耶花「私も作ろうと思ったんだけど……ほとんどもう作ってあった」
里志「はは、さすが千反田さん、準備がいいね」
える「い、いえ……それほどでもないです」
そして並べられる料理、それらは実に美味しそうであった。
結構な量の料理を、全員で食べ、気付けばあっと言う間に無くなってしまっている。
奉太郎「悪いな、わざわざ」
える「いいえ、いいんですよ」
える「一年に一回なのですから、このくらいはいつでもしますよ」
里志「うーん、千反田さんは間違いなく良いお嫁さんになれるよ」
える「そ、そうでしょうか」
里志「僕が言うんだ、間違い無い!」
摩耶花「私はどうなの?」
里志「ま、摩耶花は……もうちょっと、優しくなった方が」
摩耶花「それ、どういう意味よ」
里志「いやいや、今でも十分に優しいけどね」
里志「もうちょっと、なんて言うのかな」
える「つまりは、今の摩耶花さんは優しく無いと言う事でしょうか……」
里志「ち、千反田さん?」
千反田も始めの頃から比べると、随分とこう言う流れが分かってきている。
それを見るのも、また楽しい。
奉太郎「そうだな、里志の言葉からすると……千反田が言っている事で間違いは無さそうだ」
里志「ホ、ホータローまで」
摩耶花「ふくちゃん、ちょっとお話しようか」
そう言い、引き摺られながら里志は部屋の外へと出て行った。
哀れ里志、また会おう。
千反田はそう俺に言い、部屋から駆け足で出て行った。
何かを思い出した様だが……何だろうか。
5分ほど待っていると、千反田は部屋へと戻ってくる。
その後ろから里志と伊原も入ってきた、どうやら話し合いは終わったらしい。
里志「……口は災いの元だ、ホータロー」
俺の隣に腰を掛けながら、里志はそう言った。
里志「ホータローも気をつけたほうがいいよ」
奉太郎「俺は災いになるような事は言わんからな」
里志「……羨ましいよ、それ」
奉太郎「お前が思った事を喋りすぎなだけだろ」
里志「ううん……今後気をつける」
ま、絶対に直らないだろうけどな。
奉太郎「どうしたんだ」
える「ふふ、これです!」
そう言いながら、千反田が出したのは、ぬいぐるみだった。
摩耶花「ちーちゃん、そのぬいぐるみがどうかしたの?」
える「私の宝物なんです!」
里志「へえ、随分と可愛いぬいぐるみだね」
える「そうですよね、私もそう思います」
……ここまで、千反田が考え無しに動くのは想定外だった。
つまり、千反田が持ってきたぬいぐるみと言うのは、以前俺がプレゼントした物。
それを里志や伊原には、絶対に知られたく無かったのだ。
奉太郎「ほ、ほう。 千反田らしいな」
冷や汗を掻きながら、俺は続ける。
摩耶花「ええ、いいと思うけどなぁ」
える「で、でもですよ」
える「このぬいぐるみをくれたのは……」
俺は多分、今日一番素早い動きをしたと思う。
千反田の首に腕を回し、そのまま引っ張る。
里志や伊原は不審がっていたが、このままではどうせばれてしまう。
ならこれしかないだろう。
える「あ、あの、どうしたんですか」
奉太郎「言うなって言ったのを覚えて無いのか」
える「お、覚えていますが」
奉太郎「なら何で言おうとした……!」
える「それは、その」
える「……自慢したくて」
える「は、はい……」
そこまで話、千反田を解放する。
摩耶花「ちょっと、二人で何話してたの?」
里志「気になるねぇ」
奉太郎「……何でも無い」
俺はそう言い、二人の視線を正面から受け止める。
俺から聞き出すのは無理と悟ったのか、里志達は千反田の方に視線を向けていた。
える「あ、えっと……」
える「その……」
える「言わなくては、駄目ですか」
摩耶花「駄目って訳じゃないけど、気になるかな」
える「わ、分かりました」
つい、30秒ほど前に言うなと言ったばかりなのだから、流石に言わない筈だ。
える「あのですね」
える「……折木さんが、ぬいぐるみを貸して欲しいと」
……帰りたい。
千反田は確かに、本当の所は言わなかった。
言わなかったのだが……もっと他に言い訳はあるだろうが!
摩耶花「お、折木が?」
里志「あ、あははは、本当かい、ホータロー」
くそ、こうなってしまっては千反田の言い訳に乗るしかないではないか。
全く持って納得行かないが、仕方あるまい。
奉太郎「別に、いいだろ」
里志「まさか、あはは」
里志「ホータローにそんな趣味があったなんてね」
摩耶花「……気持ちわる」
伊原の言葉がいつにも増して、辛い。
だが、それでもやはり……本当の事を言う気にはなれなかった。
俺があの日……わざわざ帰るのを放棄し、千反田のプレゼントを買いに行ったのを知られたく無かったのは勿論の事。
……千反田が宝物と言っていたそれを、俺がプレゼントした物だと言う事は、何故か人に知られたくは無かったのだ。
える「も、もうこの話は終わりにしましょう!」
里志「そ、そうだね」
里志「どんな趣味を持とうと、僕はホータローの友達だよ」
里志の何とも言えない表情が、やはり辛い。
千反田が一度、話題を切ってくれたお陰で、話の方向を変える事が出来た。
奉太郎「今日は俺の誕生日だろ、何か言う事とか無いのか」
里志「お、ホータローにしては随分と急かすね」
奉太郎「……まだしっかりと言われていないからな」
摩耶花「うーん、まあいっか」
える「そうですね、では」
里志「僕はもうちょっと、タイミングを見たかったんだけどなぁ」
そして。
里志・える・摩耶花「誕生日おめでとう!」
その言葉と共に、クラッカーの音が鳴り響いた。
ああ……また片付けが面倒な事になりそうだ。
まあ、それでも……今日くらい、別にいいか。
何と言っても一年に一度の、日なのだから。
第12話
おわり
一際大きな花火が上がり、その音で俺は意識を過去から引き戻した。
入須「そういえば」
入須はまだ、手すりから夜景を眺めていた。
俺は視線をそちらに移しながら、入須の次の言葉を待つ。
入須「答えは、出たか」
奉太郎「答え……ですか?」
入須「まさか、もう忘れたのか」
入須「先程、私が提示した問いに対する……答えだ」
奉太郎「……まだ、出そうに無いですね」
入須「……そうか」
入須「だが、あまり時間は無いぞ」
奉太郎「そうなんですか」
入須「今、決めた」
入須「この花火大会が終わる前に、答えを出してもらう」
……また急な。
そんなすぐに答えが出る問題でも無いだろうに。
入須「まあな」
入須「どの道、いつかは答えなければいけないんだ」
入須「それなら今でも、構わないだろう」
奉太郎「……分からない、というのは答えになりますか」
入須「それは、無理だな」
入須「もし……千反田に聞かれたら、君はどうするんだ」
入須「その時もまた、分からないと言うのか?」
奉太郎「それは……」
入須「答えを出すのは、この花火大会が終わるまで」
入須「それでいいな」
奉太郎「……分かりました」
俺はそれを、断れなかった。
……まあ、時間はまだある。
時刻は21時30分、か。
ゆっくりと、思い出して行けば十分に間に合うだろう。
何しろ花火大会は、まだ始まったばかりだ。
~古典部~
俺は、部室で勉強をしていた。
と言っても、一人で静かに……とは行かない。
える「折木さん、分からない所があれば言ってくださいね」
奉太郎「……ああ」
一人の方が集中出来るのだが、別に千反田が居る事に特別不快感などは無かった。
それにしても、何故放課後の部室で勉強をしなければならないかと言うと……
五月の中間テスト、それの対策の為である。
俺はまあ……熱心にと言う程でも無いが、ある程度は勉強をしなければならない程の成績だ。
対する千反田は、成績優秀者。
そいつに教えて貰うと言うのは、一般的に考えればそれはそれは良い事なのだろう。
例えば、俺が式の組み立て方……答えが出る経緯を忘れ、悩んでいた時。
俺の目の前に座るこいつは、答えをざっくりと言い、途中の経過は全く教えてくれない。
多分、千反田にも悪気がある訳では無いだろう。
だが、答えを言った後も悩んでいる俺を見る目は、何故答えが出たのに悩んでいるんですか? とでも言いだけで、なんだか虚しくなってくる。
そして今も、俺は目の前の問題に悩まされていた。
何度かペンをくるくると回し、考える。
……駄目だ、全く持って分からない。
える「……」
奉太郎「……」
ふと、千反田の方にちらりと視線を移す。
自分の問題を解いていて、静かなのだと思ったが……
奉太郎「……あまりじろじろ見ないでくれないか」
千反田は、俺の方をジッと見つめていた。
える「あ、ごめんなさい」
奉太郎「……まあいい」
そう言い、再度問題に目を移す。
それから5分程経ったが、結局何度考えても分からない。
またしても千反田に視線を移すと、やはりと言うか……千反田はまた、俺の方を見ていた。
俺は回していたペンを置き、千反田に向け口を開く。
奉太郎「何か、言いたい事でもあるのか」
える「……いえ、別に、大丈夫です」
何が大丈夫なのか分からないが。
奉太郎「なら、俺の方を見るのをやめてくれないか」
奉太郎「……集中できん」
える「そ、そうですよね」
少しくらい言っておかないと、こいつは多分また俺の方を見るだろう。
人に文句を付けるのは好きでは無いが……
それもまた、仕方の無い事だろう。
俺は一度置いたペンを取り、再び問題に取り組む。
える「だ、駄目です!」
奉太郎「な、なにが」
急に大きな声をあげる物だから、回している途中だったペンを落としてしまう。
える「折木さんが熱心に勉強していたので……我慢していたのですが」
える「やはり、我慢できません!」
える「折木さん!」
矢継ぎ早にそう言いながら、俺の方にぐいっと顔を寄せる。
……この感じ、あれか。
える「私、気になります!」
しかしまあ……その気になる事を解決出来たなら、千反田も幾分か落ち着くだろう。
なら、俺がやるべき事は一つ。
奉太郎「……何が気になってるんだ」
える「ええ、私」
える「そのペンが、気になるんです」
……ペンが?
まさか、俺が知らないだけで、千反田はシャーペンが大好きな奴だったのかもしれない。
ありとあらゆるシャーペンを集めていて、それで今日俺が持っていたシャーペンが千反田の持っていなかったペンだったのだ。
奉太郎「そうか、なら今度買った場所を教えよう」
える「……ええっと」
あれ、違うのか。
える「どちらかと言うと、筆の方が好みです」
える「いえ、そうでは無くてですね」
える「折木さんが持った時の、シャーペンが気になるんです」
奉太郎「……すまん、もっと分かりやすく説明できないか」
える「は、はい」
える「ええっと、折木さんはいつもこんな感じでペンを持ちますよね」
奉太郎「ああ、そうだな」
正直、自分がどんな感じでペンを持っているかなんて分からなかったが、ここで話の腰を折るような事はしない。
える「それでですね、時々こういう風に」
そこまで言うと、千反田は指をピクピクとさせている。
える「う、うまくできません」
ああ……そういう事か。
奉太郎「貸してみろ、そのペン」
える「あ、はい……どうぞ」
奉太郎「千反田が気になっているというのは、これだろ」
俺はそう言い、手の上でペンをくるりと回す。
そしてそのペンを、うまく掴むと、千反田は声を大きくしながら言った。
える「な、何が起きたんですか!」
奉太郎「ペンを回しただけだが……」
える「何故、その様な事が出来るのか……気になります」
何でだろうか、逆に聞きたい。
える「でも、私には全然出来そうに無いですよ」
奉太郎「うーん……」
奉太郎「授業中に、練習してみたらどうだ」
える「折木さんは授業中にやっているんですか?」
奉太郎「まあ、暇だしな」
える「いけません! しっかりと聞かないと駄目ですよ」
なるほど、確かに正論である。
だが俺にも言い分はあった。
奉太郎「それで、それを補う為にわざわざ放課後、部室に残って勉強しているのだが」
奉太郎「俺が集中出来ないのは何故か、分かるか千反田」
える「あ、そ、それとこれとは別です」
える「そんな事より、私にも教えてください」
俺の言い分は……そんな事と言う一言で片付けられてしまった。
奉太郎「しかし、教えると言ってもだな」
える「そこを何とか、お願いします」
奉太郎「ううむ……」
奉太郎「……まず、ペンを持ってみろ」
える「はい! こんな感じですかね?」
奉太郎「ああ、まあそれでいいんじゃないか」
奉太郎「で、その後はだな」
奉太郎「こうやって、こうだ」
そう言い、俺は自分が持っていたペンをくるりと回す。
何だろう、わざわざ失礼な事と前置きしてまで聞くと言う事は、大分失礼な事なのだろうか。
える「折木さんって、教え方が上手い方では無いのでしょうか」
奉太郎「……お前がそれを言うか」
える「す、すいません」
える「でも、全然分からなかったので……」
と言われても、俺も困ってしまう。
奉太郎「とりあえず、練習しておけばいいさ」
奉太郎「その内出来る様になるだろ」
俺は千反田にそう告げ、勉強を再開する。
える「……よいしょ」
奉太郎「……」
える「……あ!」
奉太郎「……」
える「……うまく行きませんね」
先程から、ペンの落ちる音が鳴り響いている。
その音が聞こえた後、千反田の独り言が聞こえてくる。
こんなんじゃ、勉強所では無いな……全く。
奉太郎「ああ、もう」
未だにペンを回そうと奮闘している千反田を見て、俺は席を立つ。
そのまま千反田の後ろに回り、ペンを持つ手を上から掴む。
奉太郎「こうだ」
俺はそう言い、いつもの要領で千反田の手を動かした。
うまく行くとは思わなかったが……ペンはうまい具合に一回転し、千反田の手に収まった。
える「すごいです、折木さん!」
奉太郎「別に凄くは無いだろ……」
奉太郎「もう一回、やってみろ」
俺は千反田後ろに立ったまま、手を離す。
える「はい、やってみますね」
える「……よいしょ」
……ああ、違う。
後ろから見ているとなんとなく分かる……こいつはペンを、指で追いかけ過ぎだ。
そう言い、俺は再び千反田の手を掴む。
その時、ふと千反田が俺の方に顔を向けた。
俺はこの時、まずいと感じた。
予想以上に、千反田の顔が近かったのだ。
そのまま数秒間、千反田と見つめ合う。
そんな沈黙に耐え切れず、俺は顔を逸らした。
千反田も顔を逸らし、口を開く。
える「あ、あの……」
える「少し……は、恥ずかしいです」
あえて言わなくてもいいだろうに、そんなの俺だって感じている。
そして千反田の手を離し、俺は自分の席へと腰を掛けた。
空気を変えるため、咳払いを一つすると、俺は千反田に話しかける。
奉太郎「……えっとだな、千反田はペンを追いかけ過ぎだ」
える「追いかけ過ぎ……ですか」
奉太郎「ああ」
奉太郎「ペンを押し出したら、そのまま戻ってくるのを待つんだ」
奉太郎「それで、タイミング良く掴む、それだけだ」
える「分かりました……もう一度、やってみますね」
える「ええっと、こんな感じで持って」
える「……えい!」
まあでも、さっきよりかは大分マシになっていた様に見える。
える「やはり、難しいですね」
奉太郎「その内出来るようになるさ、さっきも言ったけどな」
える「はい……頑張ってみます」
える「でも、折木さんは簡単そうに回して、凄いです」
奉太郎「そ、そうか」
える「折木さんの特技はペン回しだったんですね」
……なんか、とても情けない特技では無いだろうか。
奉太郎「そこまで大袈裟に言う程の物でもないだろ」
俺はそう言うと、千反田はやはりと言うべきか、顔を近づけ、言ってきた。
える「どんな些細な事でも、皆さんそれぞれ、得意な物や苦手な物があるんです」
奉太郎「……まあ、そうだな」
奉太郎「それは分かる」
える「ふふ、そうですか」
える「例えば折木さんは物事を組み立てるのが、得意ですよね」
そうなのだろうか、自分では良く分からないが……
える「でも、私は物事を組み立てるのが苦手です」
奉太郎「ああ、それは何となく分かる」
千反田に向けそう言うと、少しむくれながら続けた。
える「どんな些細な事でも、それらはその人と言う物を表していると、私は思います」
える「誰しも、これだけは負けられない、と言うのがあると思うんです」
奉太郎「俺にそれがあると思うか」
える「折木さんは……そうですね」
える「面倒くさがりな所は、誰にも負けませんよ」
さっきの仕返しと言わんばかりに、千反田はにこにこしながら俺に言ってくる。
奉太郎「……お前も随分言う様になったな」
える「でも、それもまた……折木さんという方を表しているんです」
える「写真を撮るのが得意な方、絵を描くのが得意な方、物を作るのが得意な方、ゲームが得意な方」
える「どれだけ小さい事でも、それらは立派な物だと……私は思うんです」
奉太郎「つまり、お前の好奇心も……千反田と言う人間を表しているのか」
える「ええ、そうなりますね」
える「それで、私も折木さんの様にペンを回せるのか……と感じまして」
奉太郎「ああ、それでペンが気になる、と言ったのか」
える「はい、そうです」
える「でも、私には少し難しいみたいです」
そう言いながら、笑う千反田の顔は……
どこか、寂しげだったのを俺はしっかりと記憶していた。
第13話
おわり
入須「千反田も、聞くだろうな」
入須はこちらに振り向きながら、続けた。
入須「必ず、聞くと私は思う」
奉太郎「……そうですか」
奉太郎「奇遇ですね、俺も丁度、同じ事を思っていました」
奉太郎「俺は……間違いなく、聞かれるでしょう」
入須「ふふ、君は千反田の事を一番理解しているからな」
奉太郎「……それは、過大評価って奴ですよ」
入須「……果たしてそうかな」
入須「それより、答えはまだなのか」
奉太郎「……今、考えている最中です」
入須「そうか、なら私は少し黙るよ」
奉太郎「ええ」
まあ、黙ってくれるなら有難い、今は考える事に集中したかったのだ。
俺は入須の横まで歩き、高台から下を見下ろす。
海の匂いが、少しだけした。
ふと、時計に目を移す。
時刻は丁度、22時を指している所だ。
そして視線を、高台から見える町並みより更に下に落とした。
……ああ、くそ。
まずいな、これは非常にまずい事になった。
俺がまずいと思ったのは、時刻のせいでは無い。
この高台に向かって、走ってくる人影が下に見えたのだ。
走り方や、外見の特徴。
そしてここからでも感じる、そいつの纏っている雰囲気。
間違いない、あれは千反田だ。
~折木家~
7月に入り、気温も大分上がってきた。
俺は勿論、この土日を満喫するつもりだ。
……満喫と言っても、外に出るつもりなんて一切無い。
家の中でぐだぐだと、ただ時を過ごすだけ。
まあ、そんな理想を抱いていたのもつい10分程前の事なのだが。
奉太郎「……わざわざ暑い中ご苦労様」
里志「うわ、嫌そうな顔だね」
摩耶花「暑いって言っても、今日は涼しい方よ」
える「そうですよ、折木さんも外に出てみたらどうですか?」
何の連絡も無しに、突然こいつらが家へ押し掛けてきたのだ。
奉太郎「それで、今日の用件は何だ」
里志「うーん、そう言われると困っちゃうな」
困る? つまりこいつらは用も無く俺の休日を妨害しに来たと言うのか。
俺がそれを言おうとした所で、千反田が割って入る。
える「ええっとですね」
える「今日は、折木さんのお姉さんに呼ばれて来たんです」
……俺の姉貴に?
姉貴がどうやってこいつらと連絡を取ったのも気になるが……それより今は。
俺はその言葉を聞くと同時に、玄関からリビングへと向かう。
供恵「あ、友達来たんだ」
供恵「暇そうなあんたの為に呼んだってのじゃ、駄目かな」
奉太郎「……」
供恵「嘘嘘、冗談よ」
供恵「じゃあ一回、リビングに集まって貰おうかな」
奉太郎「理由が分からんぞ」
供恵「いいからいいから、早く早く」
何だと言うのだ……
しかしそんな会話が聞こえたのか、玄関から里志の声が聞こえてきた。
里志「お姉さんもそう言ってる事だし、お邪魔しますー」
こうしてまたしても、俺の休日は浪費されていく。
……もう、慣れた。
奉太郎「それで、何故……里志達を呼び出したりしたんだ」
供恵「んー、もうそろそろ来ると思うんだけど」
丁度その時、チャイムが鳴り響く。
供恵「来たみたいね、ちょっと行って来るわね」
そう言い、姉貴は玄関へと向かう。
俺はそれを見送り、里志達の方へと顔を向けた。
奉太郎「大体、俺に一言くらい言ってくれれば良かったのに」
里志「いいじゃないか、驚かせたかったし」
奉太郎「……良くないんだが」
まあ、なってしまった物は仕方ないか。
過去を悔いるより、次に起こるべく問題の片付け方を考えた方が、効率的と呼べるだろう。
そう言いながら、姉貴はリビングへと戻ってきた。
……その後ろには、見覚えがある人物。
入須「お邪魔させて貰うよ」
入須冬実が居た。
それを見て、一番早く口を開いたのは千反田であった。
える「入須さん! お久しぶりです」
入須「ああ、久しぶり」
里志「驚いた、逆に驚かされる事になるとはね」
そんな里志の言葉に、入須は顔をしかめている。
無理も無い、さすがの入須でも里志が俺を驚かせようとしてた事なんて分かる訳が無い。
摩耶花「私もちょっと気になる、だって私達は折木のお姉さんから呼ばれたのに」
……そうか、こいつらは俺の姉貴と入須が知り合いだと言う事を知らないのか。
入須「私が来たのは用事があったからだ」
入須「君達、全員にね」
入須「この人が呼び出したのにも理由がある、私とこの人は知り合いなんだよ」
供恵「何よ、いつもみたいに先輩って呼んでよね」
入須「そ、それは」
珍しい、入須が口篭ってしまった。
やはり、姉貴の方が一枚上手と見える。
我ながら……末恐ろしい姉貴を持ってしまった物だ。
里志は何が満足なのか、とても嬉しそうな顔をしている。
える「それよりです!」
える「用事とは、何でしょうか?」
奉太郎「まあ、そうだな」
奉太郎「わざわざ集めてまでの用事は、俺も少し気になる」
入須「ま、隠す事も無いか」
入須「君達を、私の別荘に招待しようと思ってな」
える「別荘、ですか?」
入須「ああ、そうだ」
入須「私も小さい頃は良く行っていた」
やはり侮れない、別荘を持っている人は始めて見た。
里志「行きます!」
一番早く賛同を示したのは、俺の予想通り、里志であった。
摩耶花「私も行きたい!」
伊原は珍しく、自分の意見に素直になっている様子。
こいつも多分、別荘と言う響きにやられたのかもしれない。
える「入須さんのご招待を、断る理由はありませんね」
……こうなってしまっては、俺もやはり断れないか。
奉太郎「じゃあ俺も、行きます」
入須「実はね、その別荘の近くでは、一年に一回の花火大会があるんだよ」
える「わあ……素敵ですね」
入須「私とその花火師とは知り合いでね」
入須「今年が、最後の仕事だそうだ」
入須「それで、是非……彼が最後にあげる花火を見て欲しいんだ」
奉太郎「なるほど」
奉太郎「そう言われてしまったら、尚更行くしか無さそうですね」
える「最後の花火ですか、楽しみですね」
そう言いながら、千反田は俺の方に笑顔を向ける。
入須「次は彼の子供が受け継ぐそうだ」
ん、その入須が言う彼とは……一体何歳なのだろうか。
里志「その花火師の人は、おいくつなんですか?」
そんな俺の心の中の疑問を、里志が口に出す。
入須「今は確か……四十、だったかな」
入須「次の仕事は、ちゃんと決まっているみたいだよ」
奉太郎「随分、若く引退するんですね」
入須「まあ、そうだな」
入須「彼が仕事を始めたのは20歳と聞いている」
入須「仕事一筋な人でね、今まで失敗した事が無いそうだ」
ほう、それはいい花火が期待できそうだ。
入須「そうそう、彼の奥さんはこの神山市で働いているぞ」
……ま、それにはあまり興味が無かったので俺は受け流す。
入須「8月に入ってすぐだ」
える「……あ」
入須がそう言った後、千反田は何かを思い出したかの様に口に手を当てた。
える「実は、その日は家の用事がありまして……」
大変だな、こいつも。
える「でも、夕方には終わると思うので、それからでもいいですか?」
入須「そうだな……じゃあ先に私達で行って、千反田は後ほど合流という感じで、いいかな」
入須「地図は後で渡しておく」
える「ええ、分かりました」
8月の頭か……俺にも何か用事は。
……ある訳が無いな。
奉太郎「それで、花火大会は何時からですか?」
入須「午後の8時だ、これは毎年変わらない」
奉太郎「えっと、花火大会はどのくらいやっているんですか?」
入須「1時間半程だな」
奉太郎「……帰るのは大分遅くなりそうですね」
入須「何を言っている? 泊まりだぞ」
……予想はしていたが、いざ言われると、簡単に行くと言った事を後悔する。
奉太郎「……分かりました」
里志「はは、嫌そうな顔だ」
える「折木さんも行けばきっと、楽しくなりますよ!」
……どうだかな。
入須「それもそうだな」
入須「また、連絡するよ」
里志「予定は決まったね」
里志「宜しくお願いします、先輩」
入須「堅苦しいのは無しにしよう、折角の休みだろう」
摩耶花「楽しみだなぁ……花火大会」
入須「彼があげる花火は綺麗だよ、私も好きだ」
それより、いつまで話しているんだ、こいつらは。
奉太郎「じゃあ計画は決まった事だし、解散するか」
入須はそう言うと、席を立つ。
よし、これで残りの時間はぐだぐだとできる。
里志「何言ってるんですか、入須先輩」
里志「大学の話とか、参考までに聞かせてください」
なんの参考にするのかは分からない。
いや、待て待て、そうでは無いだろ。
入須「だが、迷惑では……」
ほら、入須はそう言ってるぞ。
える「いえ、大丈夫ですよ、お話しましょう」
千反田が大丈夫と言うと、俺も何だかそんな気が……する訳が無い。
摩耶花「それで、大学はどうなんですか?」
入須「まあ、特にこれと言って感想は無いが……」
入須「高校よりは、自由と言った感じかな」
里志「いいなぁ……憧れますね」
える「そうですね、楽しみです」
駄目だ……聞いちゃ居ない。
くそ、またしても俺の休日は消費されていく。
ああ、さようなら。
そうだった、こうして俺達はここへ来ているのだった。
思えばあの時、千反田は既に大学へ行く事を決めていたのだ。
真意は分からないが……あいつの決めた事だ、間違いは無いだろう。
それにしても、あれから何分経った?
時計に目を移すと、22時5分。
千反田がここへ来るまでは、もう少し時間がありそうだ。
ならそうだ、何故こうなってしまったのかを思い出そう。
全部繋がる筈だ、答えを出せば……まだ間に合う。
俺はそう思い、意識をまた、記憶を掘り起こす作業に向けた。
~別荘~
里志「うへぇ、これはまた随分と、立派だね」
摩耶花「すごい……」
今、俺達の目の前にあるのは……千反田の家までとは言わないが、立派な別荘であった。
入須「見ていても何も起こらんぞ、中に荷物を置こう」
呆気に取られる俺達に、苦笑いしながら入須が声を掛けた。
奉太郎「そうですね、電車が遅れていたせいで……いつにも増して疲れました」
里志「はは、ホータローらしい」
無理も無い、電車は何かしらの大きな工事があるらしく、一時間も遅れていたのだ。
本数も減っていたせいで、ホームでかなりの時間待たされた。
明日には通常に戻るらしいが……いや、今日いっぱいの工事が明日に延期されてしまっては、俺にはとても神山市まで帰れる気がしない。
そんな事を思いながら、別荘の中へと入る。
中は洋風な感じで、しっかりと掃除されているそれは、なんだか居心地が良かった。
入須「そう言ってくれると嬉しいな」
奉太郎「ミステリー映画の撮影に、良さそうです」
俺はふと思いついた冗談を口にすると、入須は困った様な顔をしながら言う。
入須「……君は本当に、執念深いな」
奉太郎「冗談ですよ」
入須「ならいいが……」
そんな会話をしながら、部屋を案内される。
どうやら一人一部屋あるらしく、入須家の恐ろしさを身を持って知る事となった。
その後、全員が荷物を置き、リビングへと集まる。
里志「海に行きたいですね」
入須「……それは明日にしないか?」
摩耶花「何か、理由があるんですか?」
入須「理由と言うほどの事でも無いが……どうせなら」
入須「全員で、行こう」
そうか、千反田がこの場には居ないのか。
それをちゃんと考える辺り、入須はただの冷血な奴では無いのだろう。
まあそれは、去年の事でも分かっていたが。
奉太郎「じゃあ、どうするんですか」
入須「そうだな……」
入須「この辺りの町を、紹介するよ」
入須「一緒に行こうか」
つまりは、歩くと言う事か。
だが……今は簡便してほしい。
摩耶花「何よ、また面倒とか言う気?」
奉太郎「いや……面倒なのは面倒なんだが」
摩耶花「……?」
里志「はは、ホータローはここで寝ていた方が良さそうだ」
入須「なんだ、来ないのか?」
里志「いやいや、ホータローも来たい気持ちはあるみたいですよ」
摩耶花「なら、なんで?」
里志「今の顔、酔ってる顔だから」
その通り、電車の酔いが、俺にはまだ残っていたのだ。
立ち止まったり、座っている分には平気だが……歩くとなると、ちと辛い。
入須「なら折木君はここで休んでいると良い」
入須「夜には花火大会が始まるしな」
入須「それまでには、体調を治してくれよ」
奉太郎「……すいませんね」
俺は入須にそう言い、先程荷物を置いた部屋へと向かった。
……やはり俺は、前に伊原が言っていた様に、イベントを楽しめないのかもしれない。
そんな事を考え、扉を開ける。
明日は、海か。
里志に事前に言われ、一応は水着は持ってきて居たのだが……まあ見ているだけでもいいか。
そして俺は、ベッドへと横たわる。
……ああ、待てよ。
と言う事は……千反田も、水着を着るのか。
見ているだけでは駄目だ、いやむしろ……見るのすら駄目だ。
違う違う、今はそんな事を考える時では無いだろう。
……体調が悪くなるのは、明日の方が良かったかもしれない。
そう俺は結論を付けると、ゆっくりと目を閉じた。
第14話
おわり
そろそろ……千反田がここに来る。
入須「……まだかな?」
奉太郎「黙っていてくれるんじゃ、無かったんですか」
入須「すまんな、私もあまり……気が長い方では無いんだ」
奉太郎「そうですか」
入須「それに、そろそろ千反田が来るぞ?」
そう言い、入須が指を指す。
ああ、くそ。
もう一度、後一回だけ意識を過去に向けよう。
そうすれば、きっと答えが出る筈だ。
花火大会もいよいよ、終盤へと向かっている。
一際派手にあがる花火を一度見て、視線を地面へと向ける。
あの後だ……俺が目を覚ましたら、確か。
~別荘~
入須「折木君、まだ寝ているのか」
奉太郎「……ん」
その言葉で、俺はゆっくりと目を開けた。
奉太郎「……勝手に、部屋に入らないでくださいよ」
入須「ここは私の別荘だぞ、つまりこの部屋も私のだ」
奉太郎「……さいですか」
寝起きは最悪だった、そんな気分を表す様に、部屋が随分と暗い。
奉太郎「あれ、もう夜ですか」
入須「ああ、私はついさっき戻ってきた所だよ」
入須「今は19時くらい、かな」
奉太郎「花火大会って、何時からでしたっけ」
入須「20時からだ、だからなるべく急いでくれるとありがたいな」
それは最初に言うべき事では無いのだろうか。
まあいい、準備をするか。
俺は適当に返事をした後、身支度を整える。
そして入須と一緒に別荘を出た時、ある事に気付いた。
奉太郎「そういえば」
奉太郎「里志と、伊原は?」
入須「ああ、彼らなら二人で花火を見ると言っていた」
入須「まあ、恋人同士なら、そうしたいのが本音だったんだろうな」
奉太郎「……そうですか」
入須「まだ来ていないよ」
入須「電話はあったが、電車が遅れているせいで……もしかしたら間に合わないかもな」
奉太郎「なるほど」
奉太郎「つまりは入須先輩と二人っきりって事ですか」
入須「何だ、やはり私と二人は嫌か」
奉太郎「……別に、そういう訳では無いです」
入須「また、千反田に勘違いされたらと考えているのか」
入須「私と折木君が、特別な関係の様に」
奉太郎「入須先輩」
奉太郎「……いくら俺でも、それ以上言うなら怒りますよ」
入須「……すまんな、冗談だ」
入須「千反田がそんな勘違いをもう起こさない事等、私は分かっているさ」
入須「あいつは、賢いからな」
奉太郎「……すみません」
奉太郎「それじゃ、行きますか」
入須「まだ時間はありそうだな」
入須「何か、話でもしながら歩くか」
奉太郎「話、ですか」
奉太郎「……俺が気になるのは、花火師の人の事ですね」
入須「花火師の?」
奉太郎「はい」
奉太郎「その人は、どんな人ですか?」
入須「そうだな……」
入須「一言で言うなら……やはり、仕事一筋、と言った所だ」
入須「自分の仕事に誇りを持っていて、何より信念を持っていた」
入須「そんな人だよ」
奉太郎「なるほど、やはり」
奉太郎「素晴らしい花火が、期待できそうですね」
入須「そうとも、私が一番好きな花火だ」
入須がここまで言い切ると言う事は、多分誰から見ても……素晴らしい物なのだろう。
入須「私が思ったのは……」
奉太郎「何ですか」
はあ、俺とその花火師が似ている……か。
奉太郎「あり得ませんよ」
奉太郎「第一、俺はそんな面倒な事はしません」
奉太郎「仕事で選ぶとしたら、絶対に無いですね」
奉太郎「それにその仕事に、信念やプライドを持つ事も、無いと思いますよ」
入須「きっぱりと言い切るのだな」
入須「観点を、変えてみたらどうだろうか」
奉太郎「観点を?」
入須「ああ」
また姉貴か、余計な事を。
入須「それを花火師の仕事と置き換えるんだ」
入須「君はそのモットーに感じているのは、信念だろう」
奉太郎「……どうでしょうかね」
入須「私から見たら、似ているよ」
やはり……俺にはとても、そうは思えない。
入須は時計に目をやっていた。
入須「そろそろ20時か」
俺は設置されていたベンチに腰を掛け、その時を待っている。
入須「君は、花火は好きか?」
奉太郎「どちらでも無い、と言ったほうが本当でしょうね」
入須「そうか」
入須は手すりに背中を預けながら、腕を組んでいた。
奉太郎「不満ですか?」
入須「不満……とはどう言う事かな」
入須「ふふ」
入須「……君の事は少しは分かっているつもりだ」
入須「だから別に、不満と言う事も無いかな」
入須「ある程度は予想できていたと言う事だ」
奉太郎「それなら……いいですが」
入須「君は、おかしな奴だな」
真顔で言われると、なんだか嫌だな。
奉太郎「そう言う事を、単刀直入に言うのはやめた方がいいと思います」
入須「それなら良い、と言うくらいなら……最初から、どちらでも無いなんて言わなければいいじゃないか」
奉太郎「……俺は」
奉太郎「嘘はあまり、好きでは無いので」
入須「……ふふ、そうか」
入須「そう言えば」
入須「千反田も、嘘はあまり好きでは無かったな」
その時の入須の顔は、本当に嫌な笑い方をしていた。
奉太郎「……それは、初耳です」
俺がそう言うと、入須は眉を吊り上げながら、口を開いた。
奉太郎「……全く」
奉太郎「嘘よりも、あなたの事が嫌いになりそうですよ」
入須「……それもまた、嘘だと良いのだがな」
奉太郎「さあ、どうでしょうね」
その時、夜風が一際強く吹く。
夏はまだ始まったばかりなのに、その風はとても冷たく、俺は少しだけ身震いをした。
入須「……おかしいな」
奉太郎「おかしいとは、俺の事ですか?」
入須「いいや、違う」
何だ、さっきまでの空気とは変わって……入須は少し、いや、いつも通り真面目な顔をしていた。
入須「あれだよ」
そう言いながら、入須が指を指したのは時計。
俺は促されるまま時計に目を移す。
奉太郎「20時10分ですね」
奉太郎「別に、おかしい所はありませんが」
入須「はあ……」
入須「君は何の為にここまで来たのか、忘れたと言うのか」
何の為だったか……
ああ、そうだ、花火だ。
入須「いいや、それはあり得ない」
入須「私は今日、一度彼に会っているんだ」
彼……とは、花火師の事だろう。
入須「準備は完璧だった」
奉太郎「なら、その後に何か予想外の事が起きて」
入須「それも無いな」
入須「彼はこの仕事に……大袈裟に言えば、命を賭けていた」
入須「そのくらい、誇りに思っていたんだ」
入須「それはさっきも言っただろう」
入須「1分くらいの前後なら、時計のずれとも言えるがな」
入須「ここまで遅れた事は……今まで無かった」
ふむ……つまり、よく分からん。
奉太郎「まあ、その内始まるでしょう」
入須「だと良いんだが」
入須「……少し、心配だな」
そう言う入須の顔は、どこか寂しげで……
気付いたら俺は、顔を入須から背けていた。
多分、いつもの入須らしくない入須を、見たくなかったのだろう。
入須「……ああ」
それから5分、10分と経つが、花火大会は始まらない。
入須はどこか、そわそわしている様子だった。
奉太郎「先輩らしく無いですね」
入須「ふふ、君が私の何を知っているんだ」
奉太郎「……何も」
入須「本当に、おかしな奴だな……君は」
入須はそう言い、俺の隣に腰を掛けた。
奉太郎「結構です」
入須「聞くだけでも聞け」
入須「君なら多分、分かるしな。 私も解決して欲しい問題だ」
……ううむ、どうしようか。
まあ、何もしないで待っているよりは、いくらかマシか。
それに……俺が今日ここに居るのも、入須の招待あってこそだしな。
考えても、罰は当たらないか。
奉太郎「分かりましたよ、何ですか?」
入須「君ならそう言ってくれると思ってた」
入須「私が提示する問題は一つ」
……また無茶な。
奉太郎「それが俺に分かる訳が無いでしょう」
入須「どうだろうな」
入須は何がおかしいのか、笑っていた。
奉太郎「まあ、頭の隅には、一応置いておきます」
入須「ああ」
ああ、そうだった。
そうして俺は入須の問題へと取り組む事になったのだ。
そう思い、顔を上に戻した。
える「私、気になります!」
奉太郎「うわっ!」
勢い余って、ベンチから落ちそうになる。
奉太郎「ち、千反田か」
奉太郎「いきなり声を出すな、びっくりするだろ」
える「いえ、何度か声を掛けましたよ」
える「でも、考えている様子だったので……」
俺はそれほどまでに、しっかりと考えていたのか。
える「入須さんと同じ事です!」
それを聞き、視線を入須に移す。
入須「暇だったからな、全て説明しておいた」
くそ、最初からこれが狙いだったのでは無いだろうか。
まあでも、千反田が見えた時点でこの展開は予想できていた。
える「それで、何か分かりましたか?」
奉太郎「花火大会が遅れた理由、か」
える「勿論です!」
える「何故、失敗をする事になったのか」
える「万全の準備が出来ていたにも関わらず、何故それが起きてしまったのか」
える「私、気になります」
俺は千反田の言葉をしっかりと聞き、返す。
奉太郎「……失敗とは、少し違うかもしれない」
える「それは……どういう事ですか?」
過去を遡ったおかげで、大体の答えは出ていた。
確認するべき事は、あと一つ。
奉太郎「入須先輩」
入須「ん、どうした?」
入須「ええっと、どうだったかな」
入須「昼間、挨拶した時は見えなかったから、恐らくそうだろう」
奉太郎「そうですか、ありがとうございます」
やはり、そうか。
ならもう、答えは出た。
なんとか間に合ったと言う所だが……間に合った物は間に合ったのだ。
奉太郎「じゃあ、何故……花火大会が遅れたのか、説明するか」
える「はい!」
奉太郎「まず第一に、今日の花火大会は20時に予定されていた」
奉太郎「それにも関わらず、始まったのは21時だ」
奉太郎「一時間のずれ……千反田は何を予想する?」
える「ええっと、そうですね」
える「準備不足、花火の設置ミスが考えられます」
える「後は……あまり言いたくないですが、急病なども」
奉太郎「大体、そうだろうな」
奉太郎「入須先輩、急病は考えられますか?」
入須「……無いと思うな」
入須「風邪にも滅多に掛からない人だ、考えられない」
入須「勿論、断言はできないが」
奉太郎「それだけ聞ければ十分です」
入須「いいや、それもあり得ない」
奉太郎「そう、入須先輩が昼間に確認した時は、完璧に準備は出来ていたんだ」
奉太郎「つまり、先程、千反田があげた理由は全てが違う」
える「それなら、何故?」
奉太郎「……」
らしくないな、俺がこれを言うのはらしくない。
だが、それしか……そう答えを出すしか無かった。
……
いや、違う。
俺は、期待していたのか。
そうあって欲しいと。
俺がそう言うと、未だにあがり続ける花火に一度目を移し、千反田は口を開く。
える「ええっと? 今現在、見れていますよ」
奉太郎「そうだ」
奉太郎「だが、通常通りの時間……20時に始まっていたらどうだ?」
える「……恐らく、見れなかったでしょうね」
入須「……そう言う事か」
どうやら、入須は分かった様だ。
さすがと言うべきか、だが少し……気付くのが早すぎでは無いだろうか?
ま、そんな事今はどうでもいいか。
俺はそう結論付け、話を再開する。
奉太郎「今は22時を過ぎた所、通常通り行われていたら」
奉太郎「もう、終わっている時間なんだよ」
える「でも、それとどう関係が?」
える「まさか、私の為に大会が遅れた等は、言いませんよね」
奉太郎「……俺が、花火師だったとしたら」
奉太郎「その可能性もあったな」
そう俺が言った言葉は、花火の音に掻き消され、千反田には届いていなかった。
える「あの、今何て言いました?」
奉太郎「花火師は……奥さんの為に、大会を遅らせたんだろうな」
える「奥さんの、為ですか」
奉太郎「千反田がここに来るのに遅れた理由は、何だ」
える「ええっと、電車が遅れていたせい、ですね」
奉太郎「その通り」
奉太郎「それに巻き込まれたのは、花火師の奥さんも同じだったんだよ」
える「……と言う事は」
奉太郎「……自分があげる最後の花火」
奉太郎「それを、自分が一番好きな人に」
奉太郎「見て欲しかったんだと思う」
える「……」
入須が提示した問題、千反田が俺の目の前に出した問題。
その問題の答えを千反田に教えると、しばらく千反田は黙って花火を見ていた。
それを見ながら、千反田はようやく口を開いた。
える「素敵、ですね」
奉太郎「……意外だな」
える「私が、大会が遅れた理由を素敵と言った事がですか?」
奉太郎「ああ」
える「……誰でも、そう思うのでは無いでしょうか」
奉太郎「……そうかもしれないな」
える「折木さんは、どう思いました?」
俺か、俺は。
奉太郎「……自分の信念を曲げ、最後は愛する人の為になる事をした」
奉太郎「それを悪い事とは、言えないさ」
える「ふふ、そうですよね」
そうして、俺と千反田、入須は最後の花火があがり、夜空に消えるまで、口を開く事は無かった。
入須「やはり、折木君に答えを求めたのは正解だったな」
奉太郎「……それが合ってるかも分からないのにですか?」
入須「間違ってはいないだろう」
入須「この中で一番、花火師と付き合いが長い私が言うんだ」
入須「君の答えは、正解だよ」
奉太郎「……そりゃどうも」
そう言い、自然と入須は俺と千反田の前を歩く。
千反田と横に並び、帰るまでの道を歩く事となった。
奉太郎「さっき、俺が言った事だが」
える「えっと」
える「折木さんが意外と言った事ですか?」
奉太郎「千反田は、今回の事……見覚えが無いか?」
える「見覚え……」
える「すいません、無いですね」
奉太郎「俺は、似たような事が前に合ったのを覚えている」
える「それは、私も知っている事でしょうか」
奉太郎「勿論」
奉太郎「そうじゃなきゃ、聞かないさ」
千反田は腕を組みながら、しばらく考えた後に、口を開く。
える「ごめんなさい、私にはやはり……」
そうだろうな。
千反田には、分からない事だろうから。
える「今年の、ですか?」
奉太郎「いや……去年のだ」
える「去年の……」
奉太郎「その時、通常とは違うルートを通った筈だ」
える「あ、そんな事もありましたね」
奉太郎「ええっと、誰だったか」
奉太郎「あの、茶髪のせいで」
える「ふふ、小成さんの息子さんですね」
奉太郎「そうそう」
える「もう少し、人の名前を覚えた方が良いですよ」
奉太郎「……努力はするさ」
奉太郎「ああ、それで」
奉太郎「あの時、俺は言ったよな」
奉太郎「茶髪が違うルートにしたかった理由を」
える「ええ、覚えています」
える「その……行列が、桜の下を通る姿を」
その行列のメインは勿論、雛である千反田だ。
それを分かっていてか、少しだけ恥ずかしそうに千反田は言った。
奉太郎「それで、それに千反田は何て答えたか覚えているか?」
える「……確か、そんな事のために、と」
える「えっと、それと今回の事に、何の関係が?」
奉太郎「……俺は、あの時、千反田がそう言った時」
奉太郎「そんな事とは、全然思えなかった」
える「……それは、どういう意味でしょうか」
奉太郎「あの茶髪は、自分が良い写真を撮りたい為に、ルートを外させた」
奉太郎「花火師は、奥さんの為に、花火大会を遅らせた」
奉太郎「そのどちらも、極端に言えば自分の為だろう」
える「……そうなりますね」
奉太郎「でも、それでも」
奉太郎「他にも、救われた人が居るんだ」
奉太郎「そして、行列が桜の下を通ることで」
奉太郎「……俺は、今までで一番綺麗な景色を見れた」
える「あ、あの……それって、折木さん」
奉太郎「後ろから見ていても、綺麗だった」
奉太郎「どんな景色よりも……いい物だったよ」
える「……は、恥ずかしいです」
奉太郎「……すまん」
奉太郎「俺らしく、無かったな」
える「い、いえ……良いんです」
しかし、口をモゴモゴさせながら、ありがとうございますと言う千反田を見たら、どうしても言葉には出来なかった。
……多分、恥ずかしかったんだと思う。
どうにも自分の事は、分かり辛い。
入須「そろそろ着くぞ」
ふいに入須が、声を掛けてきた。
気付けばもう、別荘が見えている。
……なんだか今日一日で、物凄いエネルギーを使った気がするな。
あいつは、最初から全て分かっていたのでは無いだろうか。
花火大会が遅れた理由を。
奉太郎「……やはり、苦手だ」
そんな俺の呟きが聞こえたのか、入須は振り向きながら、口を開く。
入須「結論が出た所で、もう一度言うが」
入須「似ているよ、君は」
ああくそ、まんまと嵌められたって訳だ。
……今度誘われたとしても、断る方向にしよう。
次に花火を見る時は、そうだな。
千反田と二人でと言うのも、悪くないな。
第15話
おわり
Entry ⇒ 2012.11.01 | Category ⇒ 氷菓SS | Comments (0) | Trackbacks (0)
真美「お菓子持ってなかった人には問答無用でイタズラする」
真美「あ、あそこにいるのは>>5!」
千早「おはよう真美。朝から元気ね」
真美「んっふっふ~♪ トリックオアトリート!」
千早「えっ? ああ、そういえばそんな日だったわね。ええと……」ガサゴソ
>>10
千早はお菓子を持っていた?
持っていた場合何のお菓子?
真美「………なにこれ」
千早「何って……都こんぶ。なかなかのどに優しいのよ?」
真美「いや……もっと、なんていうか……キャンディとかないの?」
千早「のど飴の方が良かったかしら?」
真美「違うよぉぉぉ! そうじゃないよぉぉぉ!」
千早「その割にしっかり食べてるじゃない……」
真美「というわけでイタズラするよ!」モサモサモサ
千早「ええ……」
真美「千早お姉ちゃんへのイタズラは>>15だ!」
千早「な、なに?」
真美「真美にお菓子を寄越さなかった罰だよ! さあ困れ困れ!」ギュウ
千早「えっと……」
真美「ふふふ……」
千早「……」
真美「……」
千早「……」ギュッ
真美「!?」
千早「何?」
真美「何でギュッとし返したの?」
千早「ダメだったかしら?」
真美「だ、ダメだよ! イタズラは真美にのみ許される所業だからね!」
千早「あら残念」パッ
真美「あ……」
千早「……」
真美「し、してないよ!」
千早「その割に私から離れようとしないのね」
真美「ま、まだ真美のイタズラは終了してないぜ!」
千早「はいはい」
真美「むう……」
千早「ふふっ、真美」
真美「?」
千早「私でよければいつでもイタズラしていいわよ?」ボソッ
真美「」
真美「初戦の相手としてはハードルが高すぎたか……不覚!」モサモサモサ
真美「……お姉ちゃんが欲しくなってしまった……」モサモサモサ
真美「さて、気を取り直して次は誰にしよーかなー」モサモサモサ
真美「お、あれに見えるは>>25!」
小鳥「おはよう、真美ちゃん」
真美「トリトリ!」
小鳥「えっ?」
真美「もー! 今日はハロウィンでしょ?」
小鳥「あ、あぁ、トリックオアトリートの略なのね……初めて聞いたわその略語……」
小鳥「ええと……何かあったかしら?」
>>30
ピヨ子の鞄にはお菓子は入っていた?
入っていた場合何のお菓子が?
真美「おぉぉ! チョコじゃーん! さっすがピヨちゃん!」
真美「いただきまーす」パクッ
真美「……もぐもぐ」
小鳥「どう?」
真美「……」
真美「……ひっく」
小鳥「!?」
小鳥「真美ちゃん、ウイスキーボンボン食べるの初めて?」
真美「うぃしゅきーぼんぼん?」フラフラ
小鳥(わかっててやったとはいえ、なんだか大変なことになってきちゃったわ……)
真美「はーい、じゃあいまからピヨちゃんにイタズラしまーしゅ」フラフラ
小鳥「お菓子あげたのに!?」
真美「"今"ピヨちゃんはおかしもってないれしょ?」
小鳥「ええぇ……」
真美「ピヨちゃんへのイタズラは>>38れす!」
超えちゃいけないライン、考えろよ(驚愕)
真美「おりーぶおいる」
真美「これからピヨちゃんのメイクをおとそうとおもいまーす」
小鳥「いやいや! 明らかに食用の油よねそれ!? オイルクレンジングには専用のオイルがあるから!」
真美「んー、真美お仕事以外でお化粧しないからわかんなーい」
小鳥(もはや目の焦点があってない……)
真美「レッツMAMI'Sキッチン!」バッ
小鳥「やめてぇぇぇ!」
小鳥「ああっ、高い! 打点が高い!」
小鳥「うぅ……心なしかベトベトする……」
真美「」
小鳥「まさか顔面にオリーブオイル垂らされる日が来るとは思わなかったわ……」
真美「」
小鳥「私にそういうプレイの趣味は……真美ちゃん? どうかした?」
真美「……ピヨちゃんさ」
小鳥「?」
真美「普段お肌のお手入れどんなことしてる?」
小鳥「え? いや、特にこれといっては……」
小鳥「えっと……紫外線対策に、サンバイザーと日傘を持ってるとか……」
真美「サンバイザー……」
小鳥「ああっ! 今『おばさん臭い』って思ったでしょ!」
真美「お、思ってな……」
小鳥「こちとら必死なのよ! 女なんて若さという財産を浪費していく生き物なんだからね!」
真美「お、落ち着いてピヨちゃん、ちょっと何言ってるかわかんないよ」
小鳥「うわぁぁぁん! もうメイク落ちちゃったし帰るぅぅぅ!」ダダッ
真美「……っていうか」
真美「肌キレイすぎだよ! 赤ちゃんかよ!」バンッ
真美「…………真美もサンバイザー買おうかな」
真美「さ、とりあえず次に行こう。まだちょっとフラフラするけど……なんなんだろこれ」
真美「お! ターゲット発見! あれは>>54!」
真美「876プロでりっちゃんのいとこの! ええと……」
涼「涼、秋月涼だよ」
真美「そうそう、涼ちん!」
涼「そ、その呼び方はちょっと……」
真美「涼ちん、トリックオアトリート!」
涼「え? ああ、そっかハロウィンかぁ」
涼「ええと……」ガサゴソ
>>63
お菓子の有無!
お菓子の種類!
涼「?」
真美「これは何を意味しているんだろうね……」
涼「ななな何も意味してないよ! たまたま鞄に入ってただけだよ!?」
真美「たまたま? 何がたまたまなんだろうね……」
涼(なんか怖いよ真美ちゃん……心なしかお酒のにおいがするし……)
涼「わぁぁぁ! その先は言わないで!」
涼「あ、あんまり言いふらさないで欲しいんだそのこと……」アセアセ
真美「? 別に隠すようなことじゃないと思うんだけど」
涼「隠すようなことだよぉ! ばれたら恥ずかしいどこの騒ぎじゃないよ……」
真美「ほうほう」ニヤニヤ
真美「じゃ、イタズラさせて!」
涼「えっ」
真美「はーい、涼ちんへのイタズラは>>78に決定!」
涼「え?」クルッ
真美「隙有りィ!」ガバッ
涼「うひゃぁぁ!?」ドサッ
真美「んっふっふ~♪ いけませんなぁ、敵に背中を見せるとは……剣士の恥ですぞ?」
涼「なんの話!? っていうか真美ちゃん絶対お酒飲んだでしょ?」
真美「違うよー。ちょっとぽんぽん食べただけだよ」ガシッ
涼「!? な、何する気……?」
涼「っ!」ビクッ
真美「ここか? ここがええんか?」グニグニ
涼「ちょ、ちょっ! ダメぇっ!」
真美「おやおやぁ? 涼ちんの涼ちんが疼いているみたいだけど?」グリッ
涼「な、何言って……あぁっ!」ビクンッ
真美「真美は落ち着いてるよ?
涼ちんこそ落ち着いた方がいいんじゃない?」
真美「顔赤いし息上がってるし……色気バツグンですなぁ」ニヤニヤ
涼(ダメだ……完全に酔いが回ってる……)
涼(真美ちゃんがこうなった原因は何だ……?)チラッ
真美「何よそ見してるの?」グリッ
涼「うあぁっ!」ビクビクッ
涼(! テーブルのウイスキーボンボン……あれを食べたせいか……)
真美「そりゃ」グリグリグリグリ
涼「ッッ!!」ガクガク
涼(か、考えるんだ……箱の中のチョコは一個しか減ってない……!)
涼(つまり、真美ちゃんはウイスキーボンボンを一個食べただけでこんな風になってしまった……)
真美「真美の責めはチョコバットほど甘くないよ!」グニグニグニ
涼「うわぁぁっ!」ビクビクンッ
真美「ふぅ……何か涼ちん見てたら真美もおかしくなりそうだよ……ふふ……」
涼(つまり……これ以上ウイスキーボンボンを食べたら真美ちゃんは……)ググッ
真美「どこに行く気かな? これから第2ラウン……」
涼「真美ちゃん、ごめん!」バッ
真美「!? もごっ……」
涼「何も言わずに飲み込んで!」
真美「むぐ……」
真美「…………きゅう」バタン
涼「………だ、大丈夫かな」
真美「うーん、むにゃ……」
真美「あれ……真美、いつのまに寝てたんだろ……」
真美「んー、何してたんだっけ……何か足の裏に心地良い感触が残ってる気がするんだけど……」ウニウニ
真美「……まあいっか」
真美「あ、そうだ! イタズライタズラ!」
真美「お、あそこにいるのは>>105! 次は君に決めた!」
律子「おはよう、ってもう昼過ぎよ?」
真美「細かいことは気にしない! とにかくトリックオアトリート!」
律子「はいはい、お菓子ね。何かあったかしら……」
>>111
お菓子はあるか
種類は何だ
持ち歩く女子はどうかとおもうけど
律子「麩菓子」
真美「知ってるよ」
律子「こう見えて意外とカロリー高いのよね。お麩だと思って甘く見てると痛い目見るわよ」
真美「いや別に甘く見てないよ。そもそも麩菓子をそこまで深く考えたことないよ」
真美「何か涼ちんにも似たような物を渡された気がするよ……記憶が曖昧だけど……。秋月家はハロウィンに黒くて太い棒状のモノを渡す風習でもあるの?」
律子「?」
律子(あ、結局食べるのね)
真美「……うわぁ……なんか口の中の水分全部持って行かれたよ……」
律子「それが醍醐味みたいなところ、あるから」
真美「ないよ」
真美「……何かテンション下がっちゃったから盛り上げるためにりっちゃんにイタズラするね」
律子「えっ」
真美「りっちゃんへのイタズラはこれだ!>>122」
律子「嫌よ……イタズラされるとわかってて渡すバカがどこにいるのよ」
真美「…………」
真美「! りっちゃん後ろ! 見て見て!」
律子「え?」クルッ
真美「隙有りィ!」サッ
律子「あっ! ちょっと!」
真美「ふっ……またつまらぬものを盗ってしまった……」
律子「なら返しなさい!」
律子「ちょっ……!」
真美「あっという間にメガネを分解!」バラバラ
律子「いやぁぁぁぁ!」
真美(やばいもう後に引けない)
真美「ふふふ……果たしてその心許ない視力でこの小さなネジを探すことが出来るかな?」
律子「……」
真美「まあ、これもせっかくのハロウィンだってのに麩菓子を持ってきたりっちゃんが悪…………りっちゃん?」
律子「……ぐすっ……ひぐっ」
真美「」
真美「なんか知らんけどやりすぎた!」
真美「だだだ大丈夫だからりっちゃん! ネジで留めるだけで直るから! ネジで……あれ?」
律子「………?」
真美「ネジどっかいった」
律子「」
律子「うわぁぁぁん! もう帰るぅぅぅ!」ダダッ
真美「あっ! りっちゃ……」
ガチャッ バタン
真美「どうしよう……とりあえずネジを探さないと……」
真美「床におっこっちゃってたらアウトだよこれ……絶対見つからないよ……」
真美「ん……? あぁっ、これは!」
真美「麩菓子に刺さってる!」ドーン
真美「まありっちゃんのことはさておいて、イタズラ続行しようかな」モフモフモフモフ
真美「飲み物が欲しい」
真美「お、次の獲物は>>137だ!」
冬馬「連呼すんな。ええと、765プロのでかい双子の……姉の方だっけか?」
真美「真美だよーん」
冬馬「そうそう、双海真美。何か用か?」
真美「菓子よこせ!」
冬馬「雰囲気もへったくれもねーなお前……」
冬馬「ちょっと待ってろ……何かあったかな」ガサゴソ
>>145
お菓子の有無
種類は?
真美「お? クッキー? いいじゃん、やっとまともなのが来たよー」
冬馬「今まで何食ってきたんだお前……」
真美「いただきまーす」サクサクサク
真美「」モフモフモフモフ
真美「なにこれすごいデジャブ」
冬馬「?」
冬馬「はあ? 贅沢なやつだな……」
冬馬「ほら、缶のおしるこならあったぞ」
真美「なめんじゃねー!」バシッ
冬馬「!?」ビクッ
真美「口の中の水分がピンチなの! おしるこなんて何の助けにもならないよ!」
冬馬「そ、そうか……すまねえ」
冬馬「? 俺の手作りだ」
真美「ぶふっ!」
冬馬「な、なんだよ!?」
真美「あ、あまとうが手作りクッキー……」プルプル
冬馬「なっ! 笑うな! 勘違いすんじゃねぇ! 番組の企画で作っただけだ!」
真美「はいはいそういうことにしておくよ」
冬馬(こ、こいつ……!)
冬馬「待て。その質問は色々とおかしい」
冬馬「ハロウィンってのは菓子もらうかイタズラするかの二択だろ? 菓子やったじゃねえか」
真美「でもみんなが通ってきた道だからねー。あまとうだけやらないってのも」
冬馬「何の話だよ……」
真美「じゃあ、あまとうには>>155のイタズラを決行しよう」
冬馬「はあ?」
真美「涼ちんの涼ちんはアレだったけど……あまとうのあまとうはどうかな……」ニヤリ
冬馬(意味がわからねえ)
冬馬「お前……テーブルの上のウイスキーボンボン食ったせいだろそれ」
真美「………」
真美「! あまとう後ろ! 見て見て!」
真美「隙有りィ!」バッ
冬馬「させるか!」サッ
真美「!?」
冬馬「舐めんなませガキ! ご褒美なんかいらねえよ!」
真美「逃がすかぁ!」ガシッ
冬馬「うわっ!」
真美「穫ったぁ!」
グニッ
冬馬「…………」
真美「……あれ?」グニッ
冬馬「残念、それはチョコバットだ」
真美「うわっ……しかも溶けてる……」ベトベト
冬馬「双海、口開けろ」
真美「? あーん」
冬馬「ほら、ウイスキーボンボン」
真美「むぐ……」
真美「…………きゅう」バタン
冬馬「……こいつは将来酒は飲めねえだろうな……」
真美「うーん……むにゃ」
真美「……はっ、デジャブ!」ガバッ
真美「……またいつのまにか寝ちゃってたなぁ……」
真美「あまとうのクッキー食べたとこまでは覚えてるんだけど……」
真美「なんか手がベトベトする……」ゴシゴシ
真美「ま、いいか。イタズライタズラ」
真美「とりあえず次で最後にしようかなぁ。口の中パッサパサだし」
真美「じゃあ最後のターゲットは>>175だ!」
やよい「おはよー、真美!」
真美「もう夕方になるのにおはようはないよ、やよいっち!」
やよい「えぇっ!? 最初におはようって言ったの真美だよ?」
真美「真美は今起きたとこだからいいんだよ」
やよい「そっかぁ……ならいいのかなぁ」
真美「それはさておきトリックオアトリート!」
やよい「?」
真美「お菓子くれなきゃイタズラするぞ!」
やよい「??」
やよい「はろうぃん……?」
真美「Oh...」
真美「とにかく、鞄の中漁ってみて。お菓子があるかどうか確認して」
やよい「う、うん……」ガサゴソ
やよい「……お腹空いてるなら何か作ってあげようか?」
真美「いや、そういうのいいから」
やよい「あ、うん……」
>>185
やよいの鞄にお菓子が入っている可能性があるのか?
あったとしてその種類や如何に?
真美「あの……やよいっち?」
やよい「ちょっと溶けちゃってるけど、ジュースだと思えばきっと美味しいよ!」
真美「やよいっち……」
やよい「あ、それとももう一回凍らせれば……」
真美「やよいっち!」
やよい「」ビクッ
真美「もういい……もう、休めっ!」
やよい「私はけっこう好きなんだけど、最近食べてなかったなぁ……みんなで分け合いっこしたりして……」
真美「違うんだよ……違うんだよやよいっち……」
真美「チューペットってね……チューペットはね……」
真美「三年前に……製造が終わってるんだよ……」
やよい「!!」
溶けていない場合は、な
真美「最低でも三年前の物……ってことになるね」
やよい「そ、そんな……」ガクッ
やよい「せっかく……真美と分け合いっこできると思ったのに……」ポロポロ
真美(やよいっち……)
真美(どうしよう……こんなに真美のために泣いてくれるやよいっちに、真美はイタズラをすべきだろうか?)
>>210
するorしない
する場合はどんなイタズラか
やよいにいっぱいお菓子あげる
やよい「え? でもこれ捨てた方が……」
真美「いいから貸して! 後、すぐ戻るからちょっとここで待ってて!」ダダッ
やよい「ま、真美?」
…………
真美「はぁ……はぁ……おーい、あまとうー!」
冬馬「ん? げっ! 双海……」
真美「はい、このチューペット一本あげる! だからお菓子ちょうだい!」
冬馬「はあ? さっきあげたじゃねえか……つーかこのアイス、色が……」
真美「いいから! パッサパサのクッキーでもいいから全部!」
冬馬「わかったよ……んじゃ、ついでにこのおしるこ缶も持って行け」
真美「全然嬉しくないけどありがと! じゃあね!」
冬馬「……あのやろう」
真美「りっちゃーん!」
律子「」ズーン
真美「死んでる場合じゃないよ! メガネ持ってきたんだから!」カチャ
律子「……はっ! 私は何を……」
真美「りっちゃん何も言わずにこのチューペットを受け取って! そして真美にお菓子をちょうだい!」
律子「……またイタズラするんじゃないでしょうね」
真美「今度は何もしないよ! 純粋にお菓子が欲しいだけなんだよぉ!」
律子(それはそれで考え物だけど)
真美「ありがとりっちゃん! チューペットここ置いとくね!」
律子「溶けてるじゃない……」
真美「ジュースだと思えばいいんじゃない?」
律子(何か嫌な予感がするからあれは後で捨てておこう……)
真美「涼ちん!」
涼「ま、真美ちゃん! さっきはごめんね、真美ちゃん寝ちゃったから起こさない方が良いと思って……」
真美「このチューペットと何かお菓子を交換して欲しい!」
涼「お菓子? チョコバットじゃダメかな?」
真美「できればそれ以外で」
涼「うーん、わかったよ。ちょっと待ってて」
真美「うん!」
真美(……待ってろやよいっち!)
真美「ピヨちゃん、ピヨちゃん!」
小鳥「ん? あら、真美ちゃん」
真美(化粧しなおしてる……)
小鳥「オリーブオイルはホントにもう勘弁してね?」
真美「反省してまーす」
小鳥「さて……真美ちゃん何か用事があったみたいだけどほっといて帰ろうかしら」
真美「ああん、ごめんなさい! 全力で謝るから!」
真美「とりあえずこのチューペットあげるから何かお菓子と交換して!」
真美「足りた……ような足りなかったような」
真美「気づいたら減っててなんか怖かった」
小鳥(酔った勢いで全部食べちゃったのかしら……)
小鳥「じゃあウイスキーボンボンもう一箱あるからそれあげるわ」
真美「ありがとピヨちゃん!」
小鳥(また酔って面白いことになるといいなぁ)
真美「千早お姉ちゃーん!」
千早「あら、真美。どうしたの? そんな息切らして」
真美「えっと、千早お姉ちゃんに頼みがあって……あれ?」ガサゴソ
真美「あ……チューペット、四本しかなかったんだ……」ガックリ
千早(チューペット……?)
千早「何かあったの?」
真美「えっと、実は…………」
千早「高槻さんのためにお菓子を……」
千早「そういうことなら、そんな対価が無くたってお菓子くらいあげるわよ」
真美「違うよー……やよいっちのチューペットと交換することが大事だったんだよ……」
千早「?」
真美「やよいっち、タダで物を貰うのを嫌がるから……せめて何かと交換くらいじゃないと」
千早(三年前のチューペットと交換されたお菓子を高槻さんが受け取るかどうかは甚だ疑問だけど……というか多分受け取らないだろうけど)
千早(それでも、真美は真美なりに考えた行動だったのね……)クスッ
真美「?」
真美「え?」
千早「対価が必要だっていうなら、イタズラと引き替えにお菓子を得るのがハロウィンなんじゃないかしら」
真美「千早お姉ちゃん……」
真美「と、トリックオアトリート!」
千早「ふふっ、ちょっと待っててね」
千早「はいこれ」
真美「?」
千早「チューペット……ではないけどね。似たような商品はいっぱいあるみたいよ」
千早「高槻さんと分け合いっこ、するんでしょ?」
真美「あ、ありがとう! 千早お姉ちゃん!」ダダッ
千早「どういたしまして」
千早「……たまにはイタズラされるのもいいんだけれど……」
千早「…………」
千早「高槻さんは都こんぶ、好きだったかしら……」
真美「やよいっちー!」
やよい「真美! 何その荷物!?」
真美「チューペットと交換してきた! お菓子軍団!」
やよい「で、でもあれ三年前の……」
真美「アイスに賞味期限はないらしいから大丈夫大丈夫!」
やよい(そういう問題なのかな……?)
真美「涼ちんは無難に板チョコとかスナックとかたくさんだね。ピヨちゃんはウイスキーボンボンくれたよ。中に変な液体が入ってるチョコね」
やよい「な、なんかすごいね……」
真美「で、千早お姉ちゃんからはこれ!」
やよい「これ、チューペット? でもなくなったはずじゃ……」
真美「チューペットに似てる何からしいよ。とりあえず分け合いっこ分け合いっこ♪」
真美「」チュー
やよい「美味しいね、えへへ」
真美「美味しいねー。分け合うと美味しさ二倍だね!」
やよい「みんなに後でお礼しないと……」
真美「ダメダメ! そんなのハロウィンにあるまじき行為だよ!」
やよい「ええっ、でも……」
真美「いいの! イタズラと引き替えだから!」チュー
やよい「ふーん……よくわからないなぁ」チュー
真美「来年はもっともっとイタズラしまくっちゃおっかなー? んっふっふ~♪」
終わり
安価SS初めてで出来心でした
おやすみなさい
お疲れ様でした
Entry ⇒ 2012.11.01 | Category ⇒ アイマスSS | Comments (0) | Trackbacks (0)
やよい「お姉ちゃん♪」春香「うひゃあ」
春香「ね、ね。もっかい言って?」
やよい「おね~えちゃん♪」
春香「はうっ! うぅ……やっぱりかわいい……!」
やよい「あの……春香さん。なんだかちょっと、恥ずかしいかなーって」
春香「そんなことないよ! うん、バッチリ! ねぇねぇ、もう一回!」
やよい「……おねえちゃん」
春香「――~~!!」
ぎゅっ
春香「やよいはかわいいなぁ……えへ、えへへ……」スリスリ
やよい「……えへへ……」
春香「ほ~らやよい、今日はクッキー作ってきたの!」
やよい「クッキーですかっ!?」パァ
春香「うんっ! 一緒に食べよう?」
やよい「うっうー! ありがとうございまーっす!」
春香「じゃあじゃあ……はい、あーん」
やよい「え?」
春香「あ~ん」
やよい「え、えーっと……わ、私、ひとりでも食べられま」
春香「あ~ん」
やよい「……あーん」
ぱくっ
春香「うひゃあ! 食べた食べた!」
やよい「……もきゅもきゅ……」
春香「もう、かわいいわね本当にもう! えへへへ」
やよい「……えへへ。おいしいですー……♪」
春香「ウフフフ」
やよい「えへへへ」
P「あはは、最近春香とやよいは仲が良いなぁ。本当の姉妹みたいだ」
小鳥「そうですねぇ~。眼福眼福……♪」
千早「……」
P「うわあ!? ち、千早……いたのか」
千早「……ええ」
P「どうかしたか? いつもより暗いというか……」
千早「私はいつもこんな顔ですから」プイ
P・小鳥「「……?」」
P「春香、やよい」
春香「あっ、プロデューサーさん!」
やよい「おはようございまーっす!」
P「おはよう。調子はどうだ?」
春香「もう絶好調ですよっ! あっ、そうだ、プロデューサーさんもクッキーいかがですか?」
P「おお、それはいいな! それじゃあ……」
春香「……?」
P「……」アーン
やよい「プロデューサー、どうしたんですか? お口がカラカラになっちゃいますよー」
P「いや、こうしてれば俺にもあーんしてくれるかなーって」
春香「あはは!」
スッ
P「え……」
春香「はい、どうぞ♪」
P「……手渡し……うん、わかってた。わかってたよ」
P「さみしいなぁ……」モグモグ
春香「そ、そんな顔しなくても……」
P「俺もあーんってされたかった……美味いけど」
春香「もうっ……いつもみたいな冗談なんでしょう? わかってますよーだ」
P「……」
春香「うぅ……」カァ
春香「わ、私はいま、やよい限定のお姉ちゃんだから、他の人には優しくしないんです!」
P「お姉ちゃん?」
春香「そうですよっ! んふふ……」
スリスリ
やよい「はわわ……えへへ」
P「本当に最近、ふたりは仲がいいよな。何かあったのか?」
春香「よくぞ聞いてくれました! えへへ、実はですね……♪」
【回想】
春香「思うに!」
亜美「へ?」
春香「亜美達は私への、えーっと、あれ! あれが足りないと思う!」
真美「急にどったのはるるん。落ちてるお菓子でも食べちゃったの?」
亜美「三秒以上経ったらキケンだよ~?」
春香「ち~が~うぅ~!」
春香「私が言ってるのはね、なんというか……お姉さんとしての威厳! ……というか」
真美「インゲン……?」
亜美「はるるんはお豆が食べたいのかな?」
春香「それも違うわよぅ!」
春香「つまりね、亜美たちは私のことを、同い年の友達みたいな感じに思ってるでしょ?」
亜美「うん!」
真美「あったりまえっしょ~! むしろ年下の後輩ちゃん、みたいな?」
亜美「そだね! はるるんってば、目を離したらすぐ3どんがらくらいしちゃうんだもん」
春香「うぐ……そ、そうはっきり言われるとは思ってなかったわね……」
春香「……とにかく、私は亜美や真美よりずっと年上なんだよ? だから、年上への敬いが足りない! ……と思うの」
亜美「そんなこと言われても~……」
真美「今更、ねぇ~」
春香「伊織や美希だってそうだし……たまには、お姉さんっぽく扱ってよう」
亜美「んっふっふ~! はるるん、そりゃ無理な相談ってもんっしょ!」
真美「そうだよ~。だって……真美達はみんな」
亜美・真美・春香「仲間だもんげ!」
ウフフ……
アハハ……
春香「……ってちがうぅ~!」
亜美「さっすがはるるんだね!」
真美「ノリツッコミもバッチリだね!」
春香「もう……中学生組の中で私のことを敬ってくれるのは、やよいだけだよ」
やよい「呼びましたかー?」ヒョコ
春香「あっ、やよい!」
やよい「えへへ、もうちょーっと待っててくださいね! もうすぐお茶の準備が出来ますからっ!」
春香「……やよいは良い子だなぁ……」
亜美「亜美達だって良い子だよ?」
真美「うんうん。……はるるん、真美達のこと、悪い子だって思ってるの……?」
春香「うぇ!? あ、い、いや、そういうわけじゃないのよ? で、でも……」
亜美・真美「「……」」ウルウル
春香「そうじゃないけど、そうじゃないけど! うぅ~……」
亜美・真美「「んっふっふ~!」」
春香「……もう……」
雪歩「はい、どうぞ」コト
春香「ありがと、雪歩……」ズズッ
雪歩「……春香ちゃんの気持ち、私もちょっとわかる……かも」
春香「え!? ほ、ほんと?」
雪歩「うん。あ、で、でも、気にしてるわけじゃないよ? ただ……えへへ、たまにはお姉さんになってみたいよね」
春香「うんうん! そうだよねっ!」
雪歩「やよいちゃん以外は、みんななんというか……そういう感じだし」
亜美「でもそれ、はるるんもだよね~」モグモグ
春香「う」
真美「はるるんの方が、ゆきぴょんより年下っしょ? 学年も違うもんね」
雪歩「あ、亜美ちゃん真美ちゃん! べ、べつに私は本当に、気にしてるわけじゃ……」
春香「……ご、ごめんね、雪歩……さん」
雪歩「やめてよぅ……なんか、恥ずかしくなっちゃうから」
春香「……ねぇ、やよい」
やよい「なんでしゅかー?」モグモグ
春香「私のこと、お姉ちゃんって呼んでみて?」
やよい「!? ……けほ、けほ」
春香「あぁ、ご、ごめんね! ビックリさせちゃったかな」
やよい「あう……だ、だいじょぶですっ。それで、あの……お姉ちゃん?」
春香「うん! 亜美達が私のことお姉ちゃん扱いしてくれないなら、
その分やよいがとことんお姉ちゃん扱いしてくれればいいかなーって!」
雪歩「春香ちゃん、その理屈はおかしいんじゃ……」
やよい「いいですよ! えへへ、私も春香さんのことは前からお姉ちゃんみたいだって思ってましたから!」
春香「ホント!? やった~♪」
やよい「それじゃあ……こほん」
やよい「……おねえちゃん♪」
春香「!!!!!!」ズキュン
【回想おわり】
春香「……というわけで、ズキュンと来ちゃったから、それ以来私はやよいのお姉ちゃんなんです!」スリスリ
やよい「はわわ……」
P「なるほど……ん? なるほどか?」
春香「それによく見たら、私達どことなく似てるって思いませんか!?」
P「そうだなぁ……瞳の色とか」
春香「はい! あとあと、元気いーっぱいなところとか!」
やよい「そうですね! 私と春香さんは元気くらいしか取り得がありませんからっ!」
春香「うんうん! ……うん?」
P「あはは……まぁ、深くは考えるな」
春香「……う~ん……ま、いっか」
P「でもまぁ……良いな、こういうの」
春香・やよい「?」
P「うん、うん……ふたりとも、ちょっと手を繋いでこっちに微笑んでくれないか?」
春香「いいですよ♪」
ギュッ
やよい「えへへ……」
P(ナチュラルに指を絡ませてる。よほどお気に入りなんだろうな)
P「ほい、ポーズ」
春香・やよい「♪」ニコッ
P「……うん! 思った通りだ、これは良い! ティンときたぞ!」
春香「プロデューサーさん、どういうことですか?」
P「ふっふっふ……」
やよい「ぷ、プロデューサーが悪い人みたいな顔してますっ! はわわ……」
P「春香とやよいで、デュオのユニットを組むぞ!」
―――
――
―
春香「リスナーの皆さんこんにちは! 『四月三月』の天海春香と……」
やよい「高槻やよいでーっす! いぇい!」
春香「やよい、なんだか元気いっぱいだね! 何か良いことでもあったの?」
やよい「はい! えへへ、実は今日は、週に一回のもやし祭りの日で……」
春香「わぁ! それってあれだよね、前も言ってたあの……」
P(春香とやよいの新ユニット、『四月三月』がデビューして約一ヶ月……)
P(一見姉妹のように見えるふたりだが、その実、時にはやよいがお姉さんになって春香のドジっ子をフォローしたりと)
P(ふたりのやり取りの微笑ましさが、様々な年齢層のファン達の間で大ブレイク!)
P(今ではネットラジオの番組を持てるまでに人気のユニットとなった! おそろしいくらいトントン拍子で怖いな!)
【765プロ事務所】
P「はい、はい……本当ですか! ええ、是非……ありがとうございますっ!」
P「……それでは……はい、失礼します」
ガチャ
小鳥「プロデューサーさん、またお仕事の依頼ですか?」
P「ええ! なんと、テレビですよテレビ! 完璧テレビ君!」
小鳥「まぁ、あの有名な教育番組の」
P「いやーあはは! これでまた、知名度も上がるってもんですよ!」
小鳥「ふふっ、順調ですね♪」
P「そりゃあもう! ……おや?」
千早「……」ブスー
P「……千早?」
P「えーっと……」
千早「……」
P「……千早さん?」
千早「……」シャカシャカ
P(ヘッドホンを付けてるから聞こえてないのかな)
P「……」
トントン
千早「……」プイ
P「……」
ガバッ
千早「きゃあっ! なな、何をするんですか!」
P「いや、なんか不機嫌そうだったから……」
千早「……私はいつもこんな顔です」ムスー
P「なんかそれ、前にも聞いた気がするけど……」
千早「……」
P「……何かあったなら相談に乗るぞ」
千早「ほ、ほっといてください。プロデューサーは今、春香達のことで忙しいでしょう?」
P「だけどさ、一応、俺はみんなのプロデューサーだし……ほっとけないよ」
ドタドタ
ガチャ
千早「!」
春香・やよい「「ただいまでーす♪」」
千早「……私、レッスンがありますから、これで」
P「あ、ああ……」
春香「あっ、千早ちゃん! 待っててくれたんだね!」
千早「……春香、高槻さん。お疲れ様」
春香「うん! えへへ、今日もいっぱい――」
千早「ごめんなさい、レッスンに遅刻しちゃうから……」
スタスタ
春香「歌って……あ、あれ?」
やよい「千早さん……?」
P「……う~む」
P「春香、千早と約束でもしてたのか?」
春香「はい……あの、借りてたCDを返そうと思って……」
P「そうか……しかし、取り付く島もないって感じだったな」
やよい「うぅ……千早さん、いつもよりちょっと怖かったかもです……」
春香「……そうかな?」
やよい「え?」
春香「こわい、って言うより……悲しい、って感じだったような」
P「……」
春香「……なにかあったのかな……」
P(千早……)
P(あいつ、もしかして……)
―――
――
―
千早「……私がゲスト、ですか?」
P「ああ。春香とやよいのラジオに、同じ765プロのメンバーとしてさ」
千早「……」
P「……どうだ?」
千早「……プロデューサーがそうしろ、というなら出演します。でも……」
千早「私なんかが、その……ゲストとして出演したって、きっと、楽しい話なんて……」
P「そんなことはないよ。春香もやよいも、千早のことは大好きなんだから」
千早「……っ」
P「いつも通り、事務所にいるみたいな感じで話してくれればきっと……ん、どうした?」
千早「……いえ」
P「……」
【ラジオ収録当日】
春香「ち~は~や~ちゃんっ♪」
ガバッ
千早「きゃ! は、春香……」
春香「えへへ、今日はよろしくね! 私、ずっと楽しみにしてたんだ~!」
千早「……そ、そうなの?」
春香「うん! それに、楽しみにしてたのはもっちろん……」
やよい「私もですーっ!」ピョン
千早「高槻さん……ふふ、ありがとう」
やよい「あの……それで、今日は」
春香「ああっ! だめだよやよい、アレのことはまだ、ない……しょ……」
千早「……内緒?」
春香「……えへへ……ま、まぁ、こうご期待ってことで!」
春香「リスナーのみなさーん! 『四月三月』の天海春香です!」
やよい「それと私は、高槻やよいでーっす! いぇい!」
春香・やよい「「こーんにちはー!」」
春香「……うんうん、いつも通り、良い返事ですね!」
やよい「みなさんのメラメラーって声が、ここまで伝わってくるかもー!」
春香「さぁ、今日も始まりました『春STATION』!」
やよい「今日はなんと! スペシャルゲストが来てくれてるんですよー!」
春香「それでは……どうぞ!」
クィドゥルルルル……
ジャジャン!
千早「……あ、あの」
春香「わー! ひゅーひゅー!」ドンドン
やよい「765プロの如月千早さんでーっす! わー!」パチパチ
千早「……うぅ……は、恥ずかしい……」
千早「……あなた達、いつもこんな感じなの?」
春香「え? こんな感じって?」
千早「なんというか、元気すぎるというか……」
やよい「えっへへ! 千早さん、このラジオのテーマは『元気!』ですからっ!」
春香「そうだよねぇ~♪ あっ、ほらほら、じゃあさっそく、今日の元気アイテム出しちゃうね!」
千早「え、元気アイテム?」
ジャーン
春香「じゃじゃん! なんと、お菓子ですっ! えへへ、全部私の手作りなんだよ!」
やよい「あ~……ケーキ……」ダラー
春香「あぁ、だめよやよい。今日はゲストがいるんだから、前みたいに全部食べちゃうのは」
やよい「はい……わかって……はわ~」
千早「……ふ、ふふっ……」
春香「! ……えへへ……」
P「……」
P(千早が、ようやく笑ってくれたな)
P(俺は思ったんだ。最近千早が元気なさそうだったのは、友達である春香達が忙しくて中々会えなかったからだと)
P(……無理矢理スケジュールを調整して、千早にゲスト出演させてよかった……よな?)
春香「しょれでね~」モグモグ
やよい「きょふは~」モグモグ
千早「え、今収録中よね? お菓子食べていいの?」
春香「あぁ……ゴックン。うん! いつもこんな感じだから!」
やよい「はーい、千早さんも!」
千早「……そ、それじゃあ……」
パクッ
千早「! ……おいしい……!」
春香「えへへ……よかったぁ♪」
春香「今日は、千早ちゃんがいるということで! 特別コーナーをご用意しました!」
千早「特別コーナー? それって……」
やよい「えへへ! そ・れ・は~……じゃじゃん!」
春香「題して! 『千早お姉ちゃんに聞いてみよう!』のコーナーです!」
千早「え? ……えぇ!?」
春香「私とやよいが千早ちゃんの妹になってね」
千早「ちょ、ちょっと春香、こんなの台本に」
春香「あぁっ、だめだめ! 台本とか言っちゃだめだよ!」
やよい「さぷりめんとってやつですっ!」
春香「サプライズね! え~と、かいつまんで言うと……」
春香「私とやよいが千早ちゃんの妹になって、千早ちゃんに普段聞けないあれこれを色々聞いてみようってコーナーです!」
千早「……そ、そう……」
千早(……この企画、誰が考えたの?)ヒソヒソ
春香(プロデューサーさんだよ)ヒソヒソ
千早(……やっぱり……)ヒソヒソ
春香「えーっと、質問の内容はリスナーの皆さんから送られてきたハガキの中から選びます!」
ドサァ
やよい「わぁ、こんなにたくさん! えへへ、ありがとうございまーっす!」
千早「サプライズ企画なのに、私への質問が来てるの?」
春香「千早ちゃんが来ること自体はサイトでお知らせしてたからね!」
千早「そ、そう……」
千早(私としたことが……インターネッツのことはよくわからないから、チェックしてなかったわ)
春香「それじゃあさっそく……」ガサゴソ
やよい「あっ、春香さん! めっ! ですよ!」
春香「えぇ? な、何か私、またドジしちゃった?」
やよい「もうコーナーは始まってるんだから、妹にならないとだめですっ!」
千早「えぇ!? 高槻さん、それは質問のときだけでいいんじゃ……」
春香「なるほどぉ……たしかに、一理あるかもね」
千早「は、春香まで……」
春香「それじゃあ、改めまして……」
春香「千早お姉ちゃん♪」
千早「!」
春香「えへへ……はるか、一生懸命選ぶからね。ちゃんと答えてくれると、嬉しいなっ」
千早「え、ええ……」
やよい「おねえ~ちゃん♪」
千早「!?」
やよい「私もがんばります! えへへ……お姉ちゃんのこと、もっともーっと! 教えてねっ♪」
千早「……!」プルプル
P(ふふ……指導の甲斐があったな)
春香「えへへ! それじゃあそれじゃあ、最初のお姉ちゃんへのお便りは……これっ!」スッ
春香「千早さ……じゃなくて、千早お姉ちゃんは、とっても歌が上手だと思うの。あふぅ」
千早「そ、そうかしら……ふふ、でも、そういってもらえるのは光栄なことね」
春香「ラジオネーム『イチゴババロア』さんからのお便りだよっ♪」
千早「って、終わり!? それ、質問って言うのかしら……?」
春香「う~んとね、はるかは、どうやったら歌が上手になれるかをふわーって答えればいいんじゃないかって思うな!」
千早「そ、そうね……どうしたら歌が上達するか……」
千早「やはりまずは、トレーニングかしら。私も毎日、ボイストレーニングとはまた別に腹筋をしているし……」
千早「あと、歌いたい曲を聴き込むことも必要だと思います。その曲の世界観を知って、自分がその世界の……」
春香「お姉ちゃん!」
千早「え? な、なに?」
春香「もぅ~! そんなの、全然可愛くないよ!」
千早「……可愛く?」
春香「なんというか……他人行儀すぎるっていうか……もっとこう、お姉ちゃんっぽく!」
千早「そう言われても……」
春香「ほらほら~……」ワクワク
やよい「えへへ……」テカテカ
千早「……わ、わかったわ。そういう趣向の企画だものね」
千早「こほん。それでは、改めて……」
千早「……お姉ちゃんはね、歌うことが大好きなのよ」
千早「昔から、歌を歌って……それを聴いて、楽しんでくれる人がいたから」
千早「その人の笑顔を見ることが、お姉ちゃんは何より好きだった……ううん、違うわね」
千早「今でも、好き。私の歌で、誰かの心に、何かを残せたら……それが、感動でも、喜びでも……」
千早「それって、とっても素敵なことだと思わない?」
千早「……だから私は、歌うことが好き。まるで、恋人のようにね。ふふっ」
千早「恋人のことなら、自然と……どんなことでも頑張れると思う。イチゴババロアさんも、きっとそうよ」
春香「……だから千早お姉ちゃんは、いっぱいいっぱい練習して、歌が上手になったんだね」
千早「まあ、そんなところかしら……でもまだまだ私の歌なんて、レベルが低いと思うけれど」
やよい「そんなことないですーっ!」
千早「ありがとう、高槻さん。でも……今よりもっと上のレベルを目指すということは、明日への活力にも繋がるわ」
やよい「……千早お姉ちゃんは、頑張り屋さんなんですね」
千早「ふふ、そう? ……っと、こんな感じでよかった? 春香」
春香「うん! えへへ、なんというか……お姉ちゃんって感じがしたからオッケー♪」
千早「そう、それなら良かった……」
P「……」
P(千早……)
やよい「それじゃあそれじゃあ、次は私の番ですっ! えーっと……」
ガサゴソ
やよい「はーい! これに決めましたー!」スッ
千早「ふふ、高槻さんは何を選んだのかしら」
やよい「あっ、お姉ちゃん! めっ! ですよー!」
千早「え?」
やよい「あの……さっきもそうだったけど、その……妹なんだから、高槻さんって言い方は、や、です……」
千早「で、でも……」
やよい「……やよい、って……呼んで欲しいかなーって」チラ
千早「……――~~!」キュン
やよい「あの……」
千早「……え、ええ……」
千早「や、やよい……」カァァ
やよい「! えへへ……それじゃあ読むね、お姉ちゃん♪」
千早「うぅ……」モジモジ
春香(効いてる効いてる! えへへ、プロデューサーさんの読みどおり!)
春香(千早ちゃんの密かな性格、かわいいもの好き……!)
春香(実は千早ちゃんって、ちっちゃくてチョコチョコしてる、やよいとか響ちゃんのことが大好きなんだよね!)
春香(普段はあまり、ベタベタしたりしないけど……こういう機会を与えてあげれば、きっと……)
春香(千早ちゃんは元気になる!!)
やよい「えっへへ……♪」
千早「……は、はやく呼んでちょうだい、やよい……」
やよい「はーい! えーっと……」
やよい「千早お姉ちゃん、ののしってください!」
千早「……え」
やよい「ラジオネーム『P』さんからのお便りでーっす! ありがとうございまーっす!」
千早「の、ののののの……!?」
春香「あ、えーっと……」
やよい「あの、春香さん。ふりがな振ってあったから読めましたけど……ののしる、ってどういう意味なんですか?」
春香「うぇ!? わ、私に聞くの!? の、罵るって言うのは……うぅ~……」
春香「おねえちゃん、パスっ!」
千早「えぇ!? な、なんで私が……!」
春香「……お姉ちゃん、お願い」ウルウル
やよい「おしえてください……おねえちゃん」ウルウル
千早「うぅ……」
千早「」キッ
P「おうふ」ゾクリ
千早「……わ、わかったわ。妹の頼みとあれば、断ってしまってはこの企画の趣向に合わないものね」
千早「私はいま、お姉ちゃんなんだから……!」
春香「ワックワク」
やよい「テカカ」
千早「えーっと、罵るっていうのは……簡単に言ってしまえば、ば、ばかにすること、よ……」
やよい「ばかにするんですか!? えー……そんなの、ゼンゼン嬉しくなさそうかもです……」
千早「そうね。普通はそう。でも、たか……じゃなくて、やよい」
千早「世の中には、そういうことで喜びを感じる人もいるのよ……信じたくない事実だけれど」
やよい「そーなんですかー……世界はまだまだ私の知らないことでいっぱいです」
春香「……それで、どうするの、お姉ちゃん」
千早「え?」
春香「もしお姉ちゃんがどうしても無理って言うなら、パスすることも出来るけど……」
千早「……」
千早「……パスなんて、しないわ」
春香「!」
千早「……そう、お姉ちゃんはいつだって逃げない存在だもの」
春香「千早ちゃん……! きっとそれは、どこか間違った認識だけど……かっこいいよ!」
やよい「かっこいいですー……!」
千早「それじゃあ……ラジオをお聞きになっている『P』さん」
千早「精一杯、心を込めて罵りますから……聞いてください」
P「……」ワクワク
千早「……本当に、どうしようもないわね、あなたは」
P「!」
千早「やることなすこと、全部からまわり。今日もまた、失敗したんでしょう?」
千早「本当、姉として情けないわ……出来の悪い弟を持つと」
P「……!」
千早「……その顔、本当に……見ていて腹が立つわ」
千早「無理矢理笑ったって、だめよ。お姉ちゃんにはわかってるんだから」
千早「心の中で、まだまだそのことを引きずっているって」
千早「いつまでウジウジしているの?」
千早「失敗なんて、誰にだってあるでしょう」
千早「……そう、そうよ。私にだってある。でもね、あなたが自分の足で立たないで、どうするのよ」
千早「教えてもらったでしょう」
千早「あなたは、ひとりじゃないって。私を始めとした、大切な家族がいるって」
千早「……まだ、素直になれないの? 情けない、本当に……」
千早「……もう、本当に……」
ジワァ
春香「……!」
千早「嫌になる、わ……」
千早「……そんなあなたなんて、大嫌いよ……! 顔も、見たくない……!」
千早「……」
春香「……こ、これはPさんも、大満足の罵りだったんじゃないかな!」
やよい「あの、千早さん……」
千早「……ふふ、どうしたの?」
やよい「……えーっと」
千早「大丈夫、これは演技だから。本当に怒ってるわけじゃないわ」
やよい「……はい」
春香「えーっと! なんだかへんな空気になっちゃいましたけど! 時間も押してることですし、次のコーナーへ……」
―――
――
―
P(その後は、特に言うこともなく……みんないつも通りの明るさを取り戻して、ラジオの収録は終わった)
P(……千早……)
P(もしかして俺は……千早が元気が無かった原因を、勘違いしてしまっていたんじゃないか……?)
P「お疲れ、みんな」
春香「……はい!」
千早「……ええ」
やよい「あう……」
P「……千早、ちょっといいか?」
千早「……はい」
P「あの、さ……」
春香「待ってください、プロデューサーさん!」
P「え?」
春香「……千早ちゃんとは、私がお話しますから」
P「……春香……」
―――
――
―
テクテク
春香「……えへへ」
千早「……」
春香「こうやって一緒に帰るの、久しぶりだね」
千早「……そうね」
春香「さ、さっきメールで見たんだけど、小鳥さんがね! 美味しいお菓子を買ってきてくれたんだって!」
千早「お菓子?」
春香「うん! 事務所に置いてあるからって……楽しみだね」
千早「……そうね」
春香「……」
千早「……」
春香・千早「「あのっ!」」
千早「……ごめんなさい、春香から言ってくれるかしら」
春香「え、でも……」
千早「私、実はまだ、考えがまとまってないから……」
春香「そ、それは私だって同じだよう! うぅ~……」
千早「……お姉ちゃん命令」
春香「えぇ!? も、もう、収録は終わったんだよ?」
千早「ふふっ……でも、今日は散々、あなた達の言うこと聞いたじゃない」
千早「だから……お願い。春香ちゃんは素直で可愛い妹! ……なんでしょ?」
春香「……ズルいなぁ、千早ちゃんは」
千早「……」
春香「あのね……私、謝らなきゃいけないんだ」
千早「謝る?」
春香「うん……勘違い、しちゃってたと、思うから」
春香「……千早ちゃん、最近元気なかったよね」
千早「……そうかもしれないわね」
春香「その原因、ね。プロデューサーさんとも話したんだけど……
あんまり私達とお話が出来てなかったから、なんじゃないかなって思ったの」
千早「……そう」
春香「あ、あのね! わ、私なんかと話せなくて、千早ちゃんが元気なくなるなんて、
そんなのおこがましいというかなんというかだけど!」
春香「でも……その、千早ちゃんが元気なくなった時期が、ちょうど私とやよいが新ユニットを組んだ頃と重なってたから」
千早「……」
春香「だから……今日みたいに、前みたいにお喋りできれば、きっと千早ちゃんは元気になるって、思ったの」
千早「……でもそれが、勘違いだったの?」
春香「うん……実際お喋りしても、なんというか……あんまり、変わらなかったような気がするから」
千早「……そんなことないわ」
春香「でも……っ!」
千早「今日の収録、私も楽しかった。あんまり顔に出せなくて、申し訳ないけれど……
それでも、あなた達とお喋りが出来て、私だって本当に嬉しかったわ」
春香「……」
千早「……こういう表現は、まだ苦手なのよ。ごめんなさい」
春香「……うそ」
千早「え?」
春香「うそだもん……それくらい、わかるもん」
千早「……」
春香「ね、ねぇ……でも私、バカだから、それ以上はわかんないよ」
春香「千早ちゃんは、何を考えているの? な、なんで……」
春香「今も、苦しそうな顔をしているの?」
春香「……」
千早「……素直になれない自分に……腹が立ったのよ」
春香「え?」
千早「春香が言ったこと、それはほとんど、私の心境そのものだったわ。
……確かに私は、あなた達との時間が取れなくて、少し、寂しい思いをしていた」
春香「……」
千早「でも、何より私は……その、ね」
春香「千早ちゃん……?」
千早「自分の心が、憎らしくてしょうがなかったのよ」
春香「ど、どういうこと?」
千早「……も、もう……正直に、言ってしまうわね」
春香「う、うん……」
千早「ねぇ、春香。それを聞いても、私のことを嫌いになったりしない?」
春香「当たり前じゃない! 私が、千早ちゃんのことを嫌いになるなんて」
千早「……そう……」
千早「……――られちゃったんじゃないかって」
春香「へ?」
千早「だっ、だから……!」
千早「……春香が……高槻さんに取られちゃったんじゃないかって」
千早「そう……思ったのよ」
春香「!」
千早「……嫉妬、してたの。高槻さんに」
千早「お姉ちゃんだって言って、高槻さんにベタベタしてた春香を見ていて……」
千早「それと同時に、なんだか……私が、春香にほっとかれている気がして、いやな気持ちになった」
千早「私にとっては、春香も高槻さんも、同じくらい大好きなのに……!」
千早「そんな気持ちを感じてしまう自分が、いやになって、しょうがなかったのよ……」
春香「ほえ……」
千早「……以上です」
スタスタ
春香「うああっ! ちょ、ちょっと待ってよ千早ちゃん!」
千早「いやよ、い、今の私の顔を見ないで……!」
春香「やだ! 見~せ~て~……!」グググ
千早「……恥ずかしくて消えてしまいたい……!」グググ
春香「そっちがその気なら~……えいっ!」
ガバッ
千早「きゃっ!?」
春香「……」
ギュー
千早「……は、春香?」
春香「……えへへ。千早ちゃぁん……♪」スリスリ
千早「……なによ……うぅ……」
春香「千早ちゃんの体、熱いね」
千早「……春香には負けるわ」
春香「ここからじゃ見えないけど……きっと顔も、こんな感じになってるんだろうなぁ」
千早「じゃ、じゃあもう、確認は済んだでしょ? 離してくれないかしら」
春香「だーめ!」
千早「な、なんで……!」
春香「そんなの、決まってるじゃない!」
春香「私だって、千早ちゃんとずーっとお喋りできなくて、寂しかったんだから」
ギュー
千早「……春香……」
春香「……ばか」
千早「……本当に、そうね。ごめんなさい……」
春香「ううん……謝らないで。ほんとは……私のほうが、もっとばかなんだから」
【765プロ事務所】
春香「ただいま戻りました~♪」
P「おお、春香! それに、ちは……や……も」
千早「……見ないでください」カァァ
P「はは……なんだか、元どおりになったみたいだな。いや、前まで以上か……」
千早「……」プイ
春香「えへへ♪」
千早「……ね、ねぇ春香。やっぱり、その……」
春香「なあに?」
千早「さすがに事務所の中では恥ずかしいわ。手を離してくれないかしら……」
春香「だーめ!」
P「……千早、すまなかったな」
千早「え?」
P「お前達と別れてから考えたんだけどさ……
やっぱり俺が、あんなことを言い出したのがきっかけだったんだろ?」
千早「……ユニットの件ですか?」
P「ああ」
千早「ふふっ、いいんです。今ではこうして……その、元に戻りましたから」
P「……そうか……それなら良かった」
千早「……でも、プロデューサー?」
P「ん? どうした?」
千早「ああいうハガキは、今後一切送らないでくださいね」
P「う……はい、肝に銘じます」
春香「はい、あ~ん♪ 美味しい美味しい、小鳥さんのお菓子だよ!」
千早「じ、自分で食べられるわよ」
春香「でもでも、やよいはあーんで食べてくれたもんね?」
やよい「はいっ! えへへ……千早さん、一緒に食べましょーっ!」
千早「……た、高槻さんがそういうなら……」
春香「あーん♪」
千早「……」
ぱくっ
春香「うひゃあ! 食べた食べた!」
千早「……もぐもぐ……」
春香「もう、かわいいなぁ本当にもう! えへへへ」
千早「……は、恥ずかしい……!」カァァ
やよい「千早さんが元気になったみたいで、私もとっても嬉しいですーっ!」
春香「ねぇねぇやよい。千早ちゃんってばね、やよいに嫉妬してたんだって♪」
やよい「へ? シットですか?」
春香「うん! えへへ、なんでも……もがもが」
千早「……春香」
春香「ひゃい……」
千早「……お姉ちゃんさすがに怒るわよ……」
春香「す、すみません……」
やよい「あの……でもでも……ごめんなさいっ、千早さん!」
千早「え? た、高槻さんが謝ることなんて」
やよい「だって……千早さんが元気なかったのは、私が春香さんを独り占めしちゃってたからなんですよね?」
千早「!?」
千早(……言ったの?)ヒソヒソ
春香(言ってない言ってない!)ヒソヒソ
千早「……それは、どこの誰から聞いたのかしら」
やよい「えーっと……なんとなく、見ててわかりました。だから、ごめんなさいっ!」
千早「……そう」
やよい「……そうだってわかってたのに、私……春香さんにぎゅーってされると嬉しくて、だから……」
千早「ううん、気にしないで。私はもう、大丈夫だから」
やよい「ホントですかー……?」
千早「ええ。だから、そんな顔しないで」
ナデナデ
やよい「はわわ……えへへ」トローン
千早「……」
ナデナデ
やよい「えへへ……やっぱり千早さんも、お姉ちゃんみたいですー……♪」
千早「」キュン
春香「……あ、あれ? 千早ちゃん? なんか、顔が……」
千早「春香。私、決めたの」
春香「え? なにを……?」
千早「これからは、もっと素直になる、って」
春香「う、うん! それがいいよね! でも、その……」
千早「だから……私、高槻さんに言うわ」
やよい「なんですかーっ?」
千早「……高槻さん」
千早「私のこと、お姉ちゃんって呼んでくれないかしら」
春香(……こうして、素直になりすぎた千早ちゃんのおかげで……)
春香(今度はやよいと千早ちゃんが、私を残してベタベタするようになってしまい……)
春香(そして私は、ちょっぴり、ふたりに嫉妬するようになってしまうのでした)
春香(でもそれは、また別のお話です……)
終わり
Entry ⇒ 2012.11.01 | Category ⇒ アイマスSS | Comments (2) | Trackbacks (0)
豊音「ハロウィンパーティー?」
塞「ほら、うちの学校ってエイちゃんみたいに交換留学生がいるでしょ?」
塞「だから国際交流の一環ってことでこの時期にハロウィンパーティーをするの」
胡桃「皆で仮装したり、お菓子を交換し合ったりで実際のハロウィンとはちょっと違うけどね!」
豊音「そんな行事があったんだねー」
豊音「最近カボチャとか置いてあったりしたから、ずっと不思議に思ってたよー」
胡桃「三年生にとっては最後のイベントだし、皆気合が入ってるんだよね!」
豊音「何だか私ワクワクしてきたよー」キラキラ
エイスリン「ワタシモ、タノシミ!」
エイスリン「コトシハ、ミンナデマワレルカラ、ウレシイ!」
白望「お菓子を貰えるのは楽だけど、仮装するのはダルいなぁ……」
豊音「シロ、去年のパーティーで何かあったのー?」
塞「あー、えっと、ね」
塞「去年はシロ、ダルいダルい言いながら仮装したんだけどね……」
胡桃「タキシード姿だったから皆に人気でもみくちゃにされたんだよ!」
エイスリン「!」 カキカキ バッ(人に群がられるタキシード姿のシロの絵)
豊音「アハハ、何それー!」
塞「胡桃と二人でシロを引きずり出して助けるのが大変で大変で……」
胡桃「お菓子はたくさん貰えたのは有難かったけどね!」
豊音「人気があるのも困りものなんだねー」
エイ豊胡「オー!」
白望(……ダル……)
豊音「どんな仮装しようか迷っちゃうよー」
塞「また胡桃は子供っぽい格好になっちゃうのかな」ケラケラ
胡桃「う、うるさいそこ!」ウガー
エイスリン「カソウ……!」 カキカキ...
塞「それじゃあ当日、会場の体育館の前に集合ってことで!」
胡桃「ごめんごめん!ちょっと着替えるのに手間取っちゃって!」
豊音「まだシロが来てないから大丈夫だよー」
塞「たぶん自力で来てくれるとは思うんだけどね………」
エイスリン「シロ、マイペース!」
胡桃「それにしても色々と仮装してきたね!エイちゃんなんか凄い気合い入ってるじゃん!」
エイスリン「フランケンシュタイン!ガンバッタ!」フンス
豊音「頭にペンが刺さってるように見えるとか、発想が面白いよー」
塞「まさか顔の縫合跡まで自分でペイントするとは思わなかったけどね…」
胡桃「えっ!?それペイントだったの!?」
豊音「そうだよー!……似合ってるかなー?」
エイスリン「very good ダヨ!」
胡桃「うん、凄い似合ってる!」
塞(高身長に白い肌、赤い目に黒い服………)
塞(よく考えると普段から吸血鬼みたいな格好してるんだよね……まぁ、それはおいとこう)
胡桃「塞は魔女なんだね!モノクルもしておけば雰囲気出たのに!」
塞「いや、それはそれでどうかと思うんだけど」
エイスリン「」カキカキ バッ(モノクルの絵)
塞「いや、頼まれても今はモノクル持ってきてないしなぁ……」
胡桃(......)
胡桃(魔女→老魔女→年寄り→おばーちゃん!)
胡桃「おばーちゃんだからだね!」
塞「誰がおばーちゃんだ」ゴッ
……
豊音「あ、シロが来たよー」
白望「…………ダル」ノソノソ
エイスリン「シロ、ハヤ……ク…?」
胡桃「ちょっとシロ!流石に遅すぎる……よ……?」
塞(えーと、白い耳に尻尾、首元に光る赤い首輪……)
胡塞(……猫!?しかも白猫!?)
胡桃「……念のため病院行く?」
豊音「シロが猫になってるからシロネコさんだねー!ちょーかわいーよー」
エイスリン「......!」カキカキ バッ
胡桃「おー、シロにそっくり!さすがエイちゃん!……じゃなくって!」
塞「どんな風の吹き回し?シロがそんな格好してくるなんてさ」
白望「これを付けるよう頼まれた……」
白望「付けるだけだったし、着替えるのはダルくない……」
胡桃「まぁ…シロらしいからいいんじゃない?」
豊音「それで誰から頼まれたのー?トシさんとかかなー?」
塞「いや、トシさんは流石に違うでしょ」
白望「…………」ウーン
白望「確か黒髪で長髪の子だった……」
塞胡((あぁ、あの娘か……))
塞「胡桃は……何で着物?えーと、座敷童子…で合ってる?」
胡桃「……い、いーでしょ別に、座敷童子だって妖怪なんだから!」
胡桃「私が魔女とか幽霊の衣装をしても、どーせちんちくりんだって言われるし」
胡桃「だったらいっその事自分に似合う方がまだいいかな、と思って……」
塞(それでも十分子供っぽさは抜けてないと思うけど)
白望(むしろ幼さを強調してるんだよなぁ……)
塞「まあ、ここでハロウィンをやる自体が和洋混在だし、良いんじゃないかな」
豊音「そうだよー、十分似合っててちょーかわいいよー!」
エイスリン「ニンギョウ、ミタイ!」
胡桃「……あ、ありがとっ」テレテレ
塞「何だか顔が赤くない?胡桃」ニヤニヤ
胡桃「う、うるさいそこっ!」
白望(胡桃、誉められ慣れてないからなぁ……)
豊音「盛り上がってるみたいでちょードキドキだよー」
......
ワイワイ ガヤガヤ
モブ「わー、姉帯さんきれーい!」ハイ、オカシ
モブ「吸血鬼かー、かっこいいねー!こう、貴族みたいな?」ハイ、オカシ
モブ「黒い服と白い肌のミスマッチだし!本物の吸血鬼みたいだし!」オカシダシ!
豊音「え、えへへー/// そんなに似合ってるかなー///」テレッ オカシダヨー
胡桃「豊音、凄い人気だねー」
塞「まあ女子であそこまで吸血鬼が似合う人もそんなにいないしね」
胡桃「ちょっ、な、なでるの禁止!」
エイスリン「」カキカキ バッ
モブ「エイスリンちゃん、ありがと~!この絵、大事にするねー」オレイノオカシ
………
塞(胡桃もエイちゃんも楽しめてるようで良かった、まあ私も楽しめてるから良いけど)
塞(さて、問題はシロの人気なんだけど……)
???「あああああぁぁぁぁぁぁん!小瀬川さぁぁぁんっ!」ダキッ
白望「!?」
塞「!?」
黒髪「このまま家に連れて帰りたいくらい!そして私が身の回りの世話を全部してあげるの!」
黒髪「ねえ、頭なでさせて!匂いクンカクンカさせて!耳ハムハムさせて!」
黒髪「あ、そういえばこれはハロウィンパーティーだったわね!ゴメンなさいね、テンション上がっちゃって!」
黒髪「とりあえずお菓子あげるから悪戯させて!ね、小瀬川さん!」ダッ
白望(………何かダルいことになっちゃったなぁ……)ハァ
黒髪「小瀬川さん小瀬川さん小瀬川さん小瀬川さん小瀬川さん小瀬川さん……」スリスリナデナデ
胡桃(きもちわるい……!)ドンビキ
豊音「な、何か分からないけどシロが攫われちゃったよー」アタフタ
エイスリン「!!!」カキカキ バッ(黒髪モブ子をドツいている絵)
塞「ちょっと待ってて、あの子物理的に塞いでくる」ダッ
???「ふー、やっと治まったかな?」
塞「ごめん、正直助かった。引き剥がすの手伝ってくれてありがとね」
着崩しモブ子「いえいえ、むしろお礼を言わなきゃいけないのはこっちの方だし」
着崩し「ゴメンね、二人とも。この子、小瀬川さんのこととなるとちょっと周りが見えなくなっちゃうのよ」
塞(これでちょっと!?)
着崩し「とりあえずお礼とお詫びを兼ねて、はいお菓子」
白望「ありがとう……」
白望「……でも、ダルいのは止めて欲しい……」
着崩し「あぁ、それは大丈夫」
着崩し「ちょーっと私が代わりに『イタズラ』しておいてあげるから」ニヤリ
塞「」
塞「正直今年もここまでお菓子が集まるとは思ってなかった……」ドッサリ
エイスリン「トヨネ、ニンキダッタ!」
豊音「あんなに誉められたの、生まれてきて始めてだよー」カンゲキ
豊音「エイスリンさんも、たくさんお菓子貰ってきたねー」
エイスリン「ミンナニ、エ、カイタ!」
エイスリン「オモイデノオスソワケ!ソレデモラッタ!」
胡桃「うぅ……下級生にまで頭なでなでされたっ……」
塞「ほら、愛らしさがあるってことで!私がたぶん一番この中だと平凡だし!」
豊音「あれ、そういえばシロはー?」
エイスリン「アソコデ、ダルクナッテル!」
白望「」グテー
胡桃「シロが寝そべってると、何か本物の猫みたいだね!」
豊音「シロに猫耳って本当ピッタリだねー」
塞(……シロの横にあるお菓子の山についてはツッこまないでおこう、うん)
豊音「ちょーたのしみだよー」
エイスリン「ブシツデ パーティー!」
白望「……お菓子を運ぶのダルい……」ドッサリ
~~部室~~
白望「!」ピキーン シュバッ
塞「わっ、シロどうしたのそんな急に動いてっ……こ、こたつ!?」
胡桃「あれは部の奥に封印しておいたはずなのに!?」
白望「着替えるときについでに出しといた……」グデーン
塞「あーもう!シロこれずっと出てこないじゃん」
白望「……猫はこたつで丸くなる……ダル……」
胡桃「ちょっと上手いこといってゴマかさない!」
エイスリン「シロ、オカシタベル?」ハイ、アーン
白望「ん」アーン
塞「……そうだね、せっかくのハロウィンなんだし、ウンザリするまで満喫しようか!」
胡桃「……ウンザリするまではちょっと勘弁かな」
塞「いや冷静に返さないでよ」
はしゃぎすぎだアラフォー
豊音「ハロウィンパーティー、ちょーたのしかったよー」
胡桃「途中トシさんも来たのには少し驚いたけどねっ」
塞「お菓子だけじゃなくて、カボチャのランタンも皆にくれたしねー」
豊音「こうやってランタンを吊るしながら歩くのも良いかなー、とかとか」
エイスリン「………………」
白望「…………どうしたの、エイスリン?」
塞「あれ?エイちゃん浮かない顔してるけど」
胡桃「もしかしてパーティーでホームシックになっちゃった?」
エイスリン「.........」カキカキ バッ
豊音「これは……飛行機と、エイスリンさん?」
胡桃「あー、エイちゃん来年には帰っちゃうもんね……」
エイスリン「キョウハタノシカッタケド、、ワタシ、モウスグミンナトハナレル……」
エイスリン「カエラナキャ、ダケド……ミンナトハナレタクナイヨ……」グスッ
胡塞「エイちゃん……」
豊音「エイスリンさん……」
塞「ちょ、シロ!?」
白望「……別に離れ離れになるだけで、一生会えない訳じゃない」
エイスリン「デモ、シロ……!」
白望「……塞は永水の薄墨さんと仲良くなったし、胡桃も姫松の人と意気投合した」
塞「(……!)……まぁねー、試合中はアレだったけど話してみると普通の子だったしね」
胡桃「こっちは試合中も普段もあの調子だったけどね!……楽しいけど」
白望「豊音も団体戦や個人戦で知り合った人たちと今でも連絡を取ってる」
豊音「皆と麻雀が打てて楽しかったし、友達も増えてちょーうれしいよー」
豊音「それに色んな人からサインも貰えたから感激だよー」
白望「……どんなに離れていても、一回出来た絆は早々消えない」
白望「日本とニュージーランドくらい離れてても、それは変わらない……と思う」
白望「……だったら、帰国しても私達はずっと『友達』なんじゃないかなぁ」
塞「それに私達のほうからニュージーランドを訪ねることだって出来るし」
豊音「あ、それナイスアイデアだねー!こっそり行ってサプライズっていうのも面白そうかもー」
白望「……ほら、皆だって考えてることは同じでしょ……?」
白望「だから泣かないで……それにまだ帰るまで四ヶ月もあるんだし」
白望「その間にもっともっと、忘れられないくらい思い出を作っていこう……」
白望「そうすれば、私達もエイスリンも、絶対に今年のことを忘れないから」
エイスリン「……ウン!」ゴシゴシ
エイスリン「クルミ、サエ、トヨネ、シロ!」
エイスリン「……ミンナ、ズットトモダチ!」
白望「………………」クテー
胡桃「ちょっとシロ、何で座り込んでるの!?」
エイスリン「シロ、ハヤク!」
白望「……喋りすぎてダルい、誰かおんぶして……」
塞「せっかくの感動が台無しじゃないそれ!?」
豊音「アハハ、じゃあ私が途中までおんぶしていくよー」ヨイショ
塞「あんまり甘やかすのも……まぁ、今日くらいは良しとしてあげますか」
……サエ、カボチャモッテ エ、ワタシ!? ソコ、オバーチャンニモタセナイ! ダレガオバーチャンダ! ギャー! アハハ
………
……
…
……
………
「何か色んな人からお菓子を貰ったんだけど……」
「そりゃ見た目小学生だし、ニュージーランドなら尚更でしょ」
「……お菓子は嬉しいけど、なんかフクザツ!」
「……まさか空港で年齢詐称を疑われるとは思わなかったなぁ」
「うるさいそこ!これでも少し身長伸びたんだからね!」ムキー
「もしもだけど、プリーズとフリーズを間違える、とかはないよねー?」
「……アメリカじゃないし大丈夫……だと思う」
「まぁ、エイちゃんが出てくれば大丈夫でしょ」
「それじゃ押すよー?」
ピンポーン…… パタパタ、ガチャ
エイスリン「Who's i……ミンナ!」
白胡塞豊「「「「トリックオアトリート(だよー)!!!!」」」」
カン!
とりあえずハロウィンである内に終えられてよかったです
短かったですが保守・支援ありがとうございました
乙!
宮守最高や
Entry ⇒ 2012.11.01 | Category ⇒ 咲-Saki-SS | Comments (0) | Trackbacks (0)
京子「trick or treat!!」
京子「よし、仮装してお菓子でも貰いに行くか...」
京子「何に仮装しようか...ドラキュラかな?」
京子「よし!じゃあさっと作って出発だ!」
ピンポーン
あかり「はーい」ガチャ
京子「trick or treat!!」
あかり「.......え?」
京子「あ...お菓子をくれなきゃいたずらするぞ~」
あかり「意味くらいあかりだって知ってるよ!」
京子「あれ?そうなの?反応薄いから分からないのかと...」
あかり「いや、そうじゃなくて...どうして家に来たの?」
京子「ほら、今日ハロウィンじゃん!」
あかり「そういえばドラキュラの仮装してるね」
京子「だからお菓子貰いに来ました!」
京子「何?」
あかり「あかり、今お菓子持ってないよ...」
京子「なに!?」
あかり「ごめんね京子ちゃん!来るって分かってたら用意してたんだけど...」
京子「な~に、気にすることはないよ」
あかり「京子ちゃん...!」
京子「ただ、お菓子が無いなら...い・た・ず・らをするしかないよね」ニヤ
あかり「い、いたずら...」ビクビク
あかり「ほ、本当?」
京子「本当本当!それじゃあイタズラするね」
あかり「うん....」
京子「かくごー!」
ギュ
あかり「えっ?」ドキッ
京子「終わったよー」
あかり「えっ...でも今のはイタズラなの?」
京子「私はあかりの心をイタズラしました!」ニカッ
あかり「...!!」ズッキューン!
あかり「...京子ちゃんはずるいな...」
京子「えっ?」
あかり「ううん、なんでもない」ニコ
京子「...じゃあそろそろ私はまたお菓子を貰いに行くね」
あかり「あっ、待って!」
京子「ん?」
あかり「あかりも一緒に行っていい?」
京子「えっ、いいの?」
あかり「パーティは多い方が楽しいでしょ?」ニコ
京子「あかり...!」
あかり「あかりも仮装するの?」
京子「当然!私たちはお菓子を貰いにいくんだよ?仮装しなくてどうする」
あかり「言われてみれば...」
京子「う~ん、何が良いか...」
『怨念がおんねん』
京子「...幽霊」
あかり「へ?」
京子「よし!あかりは幽霊に仮装だ!」
あかり「え~~~!」
あかり「いや、そうじゃないけど...」
京子「じゃあ白いシーツでも被っといて」
あかり「ええー!なんか適当じゃない!?」
京子「いやだってさ、幽霊ってさ全身白じゃん?」
京子「だから頭からシーツ被って顔の部分を切っちゃえばいいかな~って」
あかり「う~、そこまで言うならそうするよ」バサッ
京子「良い子だ」ナデナデ
あかり「えへへ~♪」
京子「そんじゃあしゅっぱ~つ!」
あかり「おー!」
京子「さて、どこに行こうかな~」
あかり「決めてないの?」
京子「今から決めるよ~...でも最初はあかりからって決めてたよ」
あかり「えっ?」ドキッ
京子「最初に行かないと忘れそうだから!」
あかり「ひどいよ~!!」ウガー!
京子「ごめんごめん」
あかり「...ふん」ツーーン
京子「拗ねちゃったよ...」
あかり「京子ちゃんが悪いんだもん!」
京子「まったく、そんなことで...」
あかり「う~~、そんな事じゃないもん!」
あかり「ふ~~んだ」
ギュ
京子「私があかりのことを忘れるわけないじゃん」
京子「あかりは私の大切な友達なんだし」ギュウ
あかり「...友達...か」ボソ
京子「親友のほうがよかった?」
あかり「なっ!なんで聞こえてるの!?」
京子「声にでてるよー」
あかり「う~~」
京子「ほら、次行くとこ決めよう?」
あかり「うん...」
京子「次は結衣あたりかな~~」
あかり(最初に来てくれたからもしかしたらって思ったのにな...)
京子「あかりは結衣ん家で良いと思う?」
あかり「うん、いいんじゃない」
京子「あれ?まだ怒ってる?」
あかり「別になんでもないよ」ニコ
京子「な、ならよかった///」
京子「じゃあレッツゴー!」
あかり「ゴー!」
ピンポーン
結衣「ん?誰だろう」ピッ
結衣「...誰もいない...」
『今日は何の日でしょうか?』
結衣「えっ?京子???」
『早く答えてよ~』
結衣「えー...え~っと...」
結衣「七森中の創立記念日?」
京子「ちがーーーう!!!!」ガバッ
結衣「下の方にいたのか...」
京子「なんで創立記念日がでてくるのー!」
結衣「ごめんごめん、ハロウィンでしょ」
京子「分かってるなら最初から言ってよ!」
ガチャ
あかり「トリック・オア・トリート♪」
結衣「ええ!?あかり!?」
あかり「えへへ、あかりだよー♪」
結衣「おばけ可愛いな~、似合ってるよあかり」
あかり「///」
結衣「そういえば京子は?」
京子「ドアの後ろでーす」ヒョコ
京子「trick or treat!!」
結衣「うわああ!大声だすなよ、近所迷惑だ!」
結衣「ん~、今お菓子あるかなー?」
結衣「ちょっと待ってて」
タッタッタ
結衣「うすしおチップスとラムレーズンしかなかった」
あかり「うすしお!」パアア
京子「ラムレーズン!!」キラキラ
結衣「はい、どうぞ」スッ
あかり「わぁいうすしお あかりうすしお大好き♪」
京子「ラムレーズン♪ラムレーズン♪」
結衣「この子達可愛すぎる...!!」
結衣「何かに目覚めそうだ...」
結衣「とりあえず家にあがりなよ」
京子「ほーい」
結衣「なあ京子?」
京子「なあに?」
結衣「今朝の9時30分だけど何時から始めてるの?」
京子「う~~ん?8時ごろかな~」
結衣「朝ご飯は食べた?」
京子「あ...忘れてた」
結衣「あかりは?」
あかり「あかりもご飯食べずに来ちゃった...」
グウウ
京あか「.....」
結衣「作ろうか?」クスッ
京子「ありがとうございます、結衣様~」ドゲザァ
あかり「ご、ごめんね?」
あかり「ありがとー」ニコ
---結衣調理中---
京子「今のうちに回るとこ決めようぜー」
あかり「いいよー」
京子「とりあえずちなちゅは次だな」
あかり「えっ?なんで?」
京子「ここから一番近いから」
あかり「あ...そういうこと」
京子「問題はちなちゅの次だな~」
あかり「櫻子ちゃんのお家は?」
京子「ちっぱいちゃんか...よし!ちなちゅの次はちっぱいちゃんだ!」
結衣「これ以上迷惑かけるなよ」コト
結衣「あかりを誘ってる時点で」
京子「え...迷惑だった?」ジワッ
あかり「!!迷惑じゃないよ!?あかり今日暇だったし!」
あかり「寧ろ誘ってもらって嬉しいよ♪」
京子「あかり...!」
結衣「はい、出来たよ」コト
京子「おおおお、美味しそう...!」キラキラ
あかり「うんうん!」キラキラ
京あか「いただきまーす!」
結衣「召し上がれ」ニコ
京子「はむっ!...うめぇ!」パクパク
あかり「あむっ!うん♪やっぱり結衣ちゃんのオムライスは最高だね!!」モグモグ
結衣「ふふっ、よかった」
京子「ごちそうさまー」
あかり「ごちそうさま~」
結衣「お粗末さまでした」
京子「よし!ラムレーズン!」パクッ
京子「んん!うまい!!」パクパク
結衣「京子は食ってばっかだな」クスッ
あかり「ねー♪」
京子「ん?何の話ー?」
あかり「なんでもなーい」ニコニコ
結衣「そうそう」ニコニコ
京子「結衣も食べる?」
結衣「ん、じゃあ」ヒョイ
京子「だめ!」
結衣「ええええ!?」
京子「私が食べさせるの!」
結衣「まったく...」
京子「はい、あーん」スッ
結衣「あ、あ~ん」パクッ
結衣「...」モグモグ
京子「美味しい?」
結衣「うん、美味しい」
京子「いいよ食べて」っカップ
あかり「....ふぇ」
あかり「ひどいよぉ...うぅ...あかりには...グスッ...食べさせてくれないんだ...えぐ...」ポロポロ
京子「あわわわ、泣かないでよあかり!?」アセアセ
京子「冗談だからね?」
あかり「...ぐすっ...本当?」
京子「本当本当!あかりが可愛いからちょっと意地悪したくなっただけ」
あかり「可愛い...///」カアアア
京子「はい、あ~~~ん」ニコ
あかり「あ、あ~ん///」パクッ
京子「私が食べさせたアイス美味しい?」
あかり「うん、美味しい♪」
あかり「もう意地悪しないでね?」
京子「うん、もうしないよ」ギュ
結衣「...私もいいかな?」
京子「いいよ、おいで」
結衣「」トテトテ
結衣「」ギュ
京子「」ギュ
結衣「あったかい...」ギュ
京子「最近寒いもんね」ギュ
あかり「ぽかぽか~♪」ギュ
京子「あかり...良い匂い...」
あかり「京子ちゃんもだよ...」
京子「もちろん結衣も」
結衣「あかりも京子もだよ」ギュ
結衣「え...」
あかり「次はちなつちゃん家行かないといけないし」
結衣「....」シュン
京子「...一緒に来てほしいな~」ニコ
結衣「まったく、しょうがないな、京子は」ニコ
~~~~~~~~~~~~
京子「結衣も行くなら仮装しないとな」ニカ
結衣「やだよ、中学生にもなって恥ずかしい...」
京子「じゃあ連れて行かないぞー」
京子「え~っと...」キョロキョロ
京子(あ、救急箱...なんかはみ出てる...包帯?)
京子(包帯...包帯...ミイラ...?)
京子「よし!結衣はミイラね」
結衣「なんでだよ」
京子「いや、だって包帯があったから」
結衣「明らかに足りないよ」
京子「...縮めばいける」
結衣「無茶言うなよ」
結衣「それ以前に私はミイラはお断りだ」
京子「なんでだよ」
京子「そりゃあ道歩くんだし」
結衣「包帯グルグル巻きの人が道歩いてたらどう思う?」
京子「包帯巻くのが下手な人」
結衣「どんだけ下手なんだよ!」
京子「じゃあ全身血だらけで包帯を全身に巻きつけて歩いてる人」
結衣「病院いけよ」
京子「まあ、どちらにせよ変なのは確かだね」
京子「でも今日ハロウィンだし、大丈夫だよ」
結衣「だとしても...」
京子「じゃないと一緒に行けないよ~?」
結衣「...もうどうにでもなれ」
京子「」ニヤ
京子「じゃあ包帯買ってくるからちょっと待ってて」
京子「ただいまー」
結衣「おかえり、京子」
京子「じゃあさっそくいきますか」
結衣「...優しく巻けよ」
~~~10分後~~~
京子「完成ー!」
結衣「うぅっ、恥ずかしい...」
あかり「わああ~、結衣ちゃん可愛い~」
京子「似合ってるぞー」
結衣「...まあ、嫌いじゃないかも」
京子「それじゃあしゅっぱーつ!」
結あか「おー!」
ピンポーン
ちなつ「はーい」ガチャ
京子「trick or treat!!」
あかり「とりーと~♪」
結衣「おはよう、ちなつちゃん」
ちなつ「結衣先輩!?どうしたんですかその包帯!?」
ちなつ「もしかして大怪我!?」
結衣「いや、実はね...」
-------------
ちなつ「...なるほど、そういうことですか」カシャ
あかり「!?」
京子「いえーい!クッキー!!」パク
ちなつ「結衣先輩もどうぞ」サッ
結衣「ありがとう」パク
ちなつ「はい、あかりちゃん」スッ
あかり「わーい」パク
あかり「美味しいー!」
結衣「ほんと、甘さがしつこくないし焼き加減も上手だね」
ちなつ「ありがとうございます♪」
京子「」モグモグ
ちなつ「どうですか?」
京子「うん、美味しい♪」
ちなつ「それ食べたらさっさと行きますよ」
京子「あれ、ちなつちゃんも来てくれるの?」
ちなつ「暇だからですよ、暇だから」
京子「ありがとーちなっちゃーん」ギュ
ちなつ「ちょっ、抱きつかないでください!」グググ
京子「ちなつちゃんは魔女ね」
ちなつ「魔女ですか...」
京子「やっぱりちなつちゃんは魔女系が似合うよ」
ちなつ「それ喜んでいいんですか...」
ちなつ「やっぱり着るんですか...」
ちなつ「じゃあちょっと待ててください」ヌギ
結京あか「!!??」
京子(な、なぜここで...)
あかり(ここ、お外だよ...)
結衣(一体何が...)
ちなつ(先輩...私を見て下さい...!)ヌギ
ちなつ「出来ましたー!」キャルルル
京子「よし!後はホウキだな」
京子「お!こんなところにちょうどホウキがある!」スッ
結衣「おい、それ勝手に使って良いのか?」
京子「大丈夫!後で返すから!」
結衣「絶対返せよ」
京子「これでパーティはドラキュラ、幽霊、ミイラ、魔女の四人だ!」
結衣「ハロウィンっぽくなってきたな」
京子「次はちっぱいちゃんだー!」
櫻子「あ~、暇だな~」
櫻子「何か面白い事ないかな^^」
ピンポーン
櫻子「はーい」ガチャ
京子「トリック・オア・トリート~♪」
櫻子「?なんです、それ?」
京子「え?」
櫻子「そのトリックなんちゃらって?」
結衣「.....」
あかり「.....」
ちなつ「.....」
京子「...お菓子をくれないとイタズラするよ」
櫻子「ああ~!そういう意味ですか!ようやく分かりました!」
櫻子「向日葵のクッキーならありますよ」サッ
京子「さっき食べたけど別にいいか」パク
京子「!!なんだこのクッキー...!?すごく美味しい!」パアア
ちなつ(私の時はそんな反応しなかったのに...)
櫻子「で、私今暇なんですよ、だからもし良かったら一緒に仮装しても良いですか?」
京子「もちろんいいよー」
櫻子「やったー!ハロウィンならなんでもいいんですよね?」
京子「うん、そうだね」
櫻子「なら私、かんおけがいいです!」
結衣「かんおけって...」
あかり「かんおけは歩きづらいよ?」
京子「ツッコミ所そこじゃねえ」
結衣「なんでかんおけがやりたいの?」
櫻子「そんなの決まってますよ!夢ですよ夢!!」ドヤ
櫻子「ほら、かんおけの中ってどうなってるか気になるじゃないですか!」
櫻子「だから中に入って確認したいんです!どうなってるか!」キラキラ
結衣「そ、そうなんだ...」
京子「確かに気になるよね!」キラキラ
ちなつ「かんおけに入っても面白くないと思うよ?」
櫻子「そんなの入ってみないと分からないじゃん?」
ちなつ「ま、まあね」
ちなつ「京子先輩はだめです!」
京子「へ?なんで?」
ちなつ「中に入ったら前が見えなくて危ないじゃないですか!」
ちなつ「もし京子先輩が転んで怪我でもしたらどうするんですか!」
京子「あ、えっと....ご、ごめんね」
ちなつ「分かれば良いんです、分かれば」ニコ
京子(え、笑顔可愛い...)キューン
京子「かんおけは時間かかるからちょっと待っててね」
あかり「あかりも行こうか?」
結衣「大丈夫、私と京子で作るよ。あかりに迷惑かけられないし」
あかり「迷惑なんかじゃないよ?」
結衣「平気平気、パッパと作ってくるから」
京子「てなわけで倉庫貸してね~」
櫻子「どうぞー」
結衣「よし!完成だ!」
京子「じゃあさっそく持って...」ズルッ
京子「うわあああ!!!」
結衣「えっ、ちょっ」ズルッ
バタン、ガチャ
結衣「いてて...」
京子「...ここどこ?」
結衣「たぶんかんおけの中だから出ればだいじょう...」ガチ
京子「どうしたの?」
結衣「...開かない」
京子「ええ!?」
結衣「たぶん飾りに使おうとした鎖がかんおけの上に落ちたんじゃないかな」
京子「...つまりそれって」
結衣「閉じ込められちゃったわけだ」
ピーーーー
結衣「こんな時に電池切れかよ...」
結衣「京子携帯は...?」
京子「家に置いてきちゃった...」
結衣「...まあ、なかなか帰ってこなかったらあかり達が探しにくるよ」
京子「......」ギュ
結衣「...京子?」
京子「....っ」ブルブル
結衣「ま、まさか京子...暗いの苦手?」
京子「....くらいよゆぃ~」ジワッ
結衣「安心して京子、私が付いてるからさ」ギュ
京子「こわいよ...ゆぃ...」
京子「えへへ、ゆぃの手あったかい...♪」
結衣「よかった」ナデナデ
京子「...ゆぃの顔、見えない...うぅ...」ジワッ
結衣「あっ、....じゃあこうしたらどう?」ズイッ
京子「ゆぃの顔だぁ」ニコ
結衣「顔近づけたからね(京子が昔の頃みたいになってる...)」
京子「ゆぃ~♪」ギュ
結衣「甘えん坊な京子だな」ナデナデ
京子「えへ~♪」ギュ
ちなつ「先輩大丈夫ですか!?」
あかり「結衣ちゃん、京子ちゃん!?」
櫻子「大丈夫ですか!?」
結衣「うん、大丈夫だよ。ありがとう」
ちなつ「ん?」チラッ
京子「...ぐすっ」
ちなつ「京子先輩どうしたんですか?」
結衣「どうやら暗いのが怖かったらしくて」
京子「....」ギュウ
ちなつ「まったく、先輩にあんまり迷惑かけちゃだめじゃないですか」
京子「うぅ、ごめん...」
ちなつ「...私がいるからもう大丈夫ですよ」ナデナデ
京子「うん!」パアア
櫻子「あ、向日葵じゃん、どうしたの?」
向日葵「なんかやけに騒がしかったので様子を見に来たんですけど...」
ちなつ「ああ、それなら大丈夫だよ、もう解決したから」
向日葵「そ、そうですの...?」
京子「んじゃあ助かった所でおっぱいちゃんも入れて出発だー!!」
櫻子「おーー!」
結衣(さっきの京子...なんだか可愛かったな~)
櫻子「かんおけー!」バタン
櫻子「うおおお!かっこいいーー!」
向日葵「落ち着かない子ですわね...ん!?みなさんその格好は!?」
京子「気づくの遅いよーおっぱいちゃん!」
ちなつ「みんなで仮装して家を回ってたんだよ」
向日葵「そうでしたの...」
向日葵「これは...コウモリの着ぐるみ...?」
京子「うん、おっぱいちゃんはそのコウモリに仮装ね」
向日葵「コウモリ...微妙ですわね...」
ちなつ「でもかんおけよりかは良いかも」
向日葵「そうですわね...あっ!」
あかり「どうしたの?」
向日葵「その、もしよろしかったら楓も一緒に連れて行ってはダメでしょうか?」
結衣「楓ちゃん...?」
櫻子「向日葵の妹ですよ」
京子「そうなんだ~、全然大丈夫だよ」
向日葵「ありがとうございます、では楓も連れてきますわね」
櫻子「あ、私もー」
向日葵「着替え完了ですわ」
楓「おねえちゃん達、こんにちは」ペコリ
京子「おお!なんと礼儀正しい!」
結衣「京子とは正反対だな」
京子「何をー!」
楓「あ、あの...楓の魔女姿...どうですか?」
京子「すっごく可愛いよ!」キラキラ
結衣「ちなつちゃんとはまた違うオーラがあるね」
ちなつ「まあ、こどもですしね」
花子「......なんで花子まで」
花子「花子の都合も考えて欲しいし!」
楓「花子お姉ちゃんも楓と同じのだー♪」
花子「本当だし...」
京子「うーんと、花子ちゃんは行くで大丈夫だよね?」
花子「楓もいるし迷惑でなければお願いだし...」
京子「やったー!これでお菓子が貰いやすくなるー!」
結衣「オイコラ」ペシッ
京子「あうっ」
京子「じゃあレッツゴー!」
ピンポーン
千歳「お客さんやね~」
綾乃「ちょっとみてくるわね」タッ
綾乃(誰かしら...もしかして歳納京子...んなわけないか...)
ガチャ
京子「トリック・オア・トリート!」ババン
綾乃「と、歳納京子ー!?」
綾乃「なんでいるのよー!!」
千歳「どないしたん?」
結衣「実はね...」
綾乃「なるほどね、それで家にお菓子を貰いに来たと」
京子「そうそう」
綾乃「じゃあ、楓ちゃんと花子ちゃんにお菓子あげればいいわね」ゴソゴソ
京子「なんで!?」
綾乃「お菓子が二人分しかないのよ...」
京子「....ちぇ」
綾乃「あ、後でまた作ってあげるわよ!!」
京子「ほんと!?」
綾乃「ほんとよ!!」
綾乃「はい、楓ちゃん、花子ちゃん」スッ
楓「わああっ....お姉ちゃんありがとう!」
花子「...ありがとうだし」
綾乃(可愛いわね...こどもって)ホワアア
綾乃「な、なによ」
京子「仮装だけど...もう思いつかなくて...」
綾乃「...えっ?」
京子「だから私と同じだけど良い?」
綾乃(と、歳納京子とおなじ...///)
京子「綾乃?」
綾乃「しょ、しょうがないわねっ!しかたないから着てあげるわ!」
京子「ほんと!?ありがとう綾乃ー!」
綾乃「///」
京子『私と一緒だよ綾乃』
綾乃『い、一緒...』カアアア
京子『そうだよ、私と綾乃は一心同体なんだよ』
綾乃『/////』
京子『赤くなって美味しそうな頬...』ペロッ
綾乃『ひゃい!?』ビクッ
京子『私がいっぱい食べてあげるね...』スッ
綾乃『ふぁ...そこはだめぇ...』ビクッ
千歳「最高やーー!」ビシャビシャ
結衣「うわっ!?鼻血!?」
あかり「結衣ちゃん、ティッシュ!」サッ
結衣「ありがとう」スッ
ブスッ!
結衣「妄想もほどほどにね」
千歳「せやね~」
京子「千歳はおばけで良い?」
あかり「!!!」
千歳「全然かまへんよ~」
京子「よかった~...ん?」
あかり「むぅぅ....」プクッ
京子「あかり...?」
あかり「京子ちゃんはあかりのために作ってくれたんじゃないの!」
京子「へ?」
あかり「~~~~!!」
京子「何?」トコトコ
結衣「お前気付かないのか...?」ヒソヒソ
京子「何が?」ヒソヒソ
結衣「あかりはあのおばけ、自分のためだけに作ってくれたと思ってるんだぞ」ヒソヒソ
京子「そ、そうなの...?」ヒソヒソ
結衣「あかりがあんなに嬉しそうに着てたのはそういう事だと思うぞ」ヒソヒソ
京子「そうだったのか...ごめん、あかり」ヒソヒソ
京子「ごめん千歳!あのおばけは『あかりのために』作ったものだから!ごめん!」
あかり「...えへへ」ポカポカ
結衣「なんとも幸せそうな顔」クスッ
京子「んなわけだから千歳も私と同じで良い?」
千歳「ええよ~」
京子「よし!これで全員着替えたな!」
あかり「うん~!」
京子「それじゃあお菓子を貰いに行くぞーー!
一同「おーー!!」
それから京子達はたくさんの人を訪れ、手に持ちきれないほどのお菓子をたくさん貰い、みんな笑顔になった。そんな京子達の大仮装は七森でも有名になり、とても可愛らしい笑顔に見る人全てが幸せな気持ちになった...時は午後6時、京子達はそれぞれ帰路に着こうとしていた。
京子「今日は楽しかったなー!」ノビーッ
櫻子「とっても楽しかったです!」
向日葵「ほんと、今日はお誘いいただいてありがとうございました」
結衣「いいっていいって」
綾乃「まあ、それなりに楽しめたし、一応感謝するわ!」///
千歳「綾乃ちゃんたっら素直やないんやから」
綾乃「ふん!」
京子「それじゃあ今日はこの辺で」
向日葵「はい、今日はありがとうございました」
楓「お姉ちゃん達ありがとうー!」
花子「また一緒に仮装するし!」
櫻子「来年もまたやりましょうねー!」
京子「とうぜんよーー!」
トコトコトコ
櫻子「ねえ、向日葵?」
向日葵「なんですの?」
櫻子「...今日泊まって良い?」
向日葵「...もちろん良いに決まってますわ」
向日葵「まったく...櫻子は」
花子「...楓」
楓「なあに?」
花子「楓は今日花子の家でお泊りするし」
楓「ええ、良いの?」
花子「良いに決まってるし!」
楓「やったーー!」
花子(...ひま姉、頑張るし...)
綾乃「じゃあ私たちも帰るわね」
京子「うん、また明日」
千歳「ほな、気いつけて帰りや」
結衣「うん、そっちこそ気をつけてね」
...................
結衣「...私たちも帰ろっか」
ちなつ「はい」
あかり「うん」
京子「ちょっと待ったーー!」
三人「!?」
結衣「いや、もう暗いし...」
京子「そんなの関係ない!よし!決めた!!」
結衣「?」
京子「今から結衣の家で娯楽部ハロウィンパーティを開催する!!」
結衣「ハロウィン...?」
あかり「パーティ...?」
ちなつ「...ですか...?」
京子「そう!私たちは『大事な友達』だからね」
あかり「.....」
結衣「...やれやれ、しょうがないな、京子は」
ちなつ「今回だけですよ」
京子「よっしゃあーー!やるぞーーー!!」
京子「じゃあ結衣の家目指して出発!」テクテク
...私はきっと...京子ちゃんだけの『特別』になりたかったんだと思う...
ちなつ「ちょっと待って下さいよー!」
...でも、今は違う。こうして結衣ちゃんやちなつちゃん、京子ちゃんと過ごすこの瞬間が私は大好き...
結衣「走ると危ないぞ京子」
...たとえ京子ちゃんだけの特別になれなかったとしても...
京子「あかりー?早く来いよー!」
あかり「あ、ごめんー!今行くー!」
...今この瞬間は私の求めていた『特別』なのだから...
~~~fin~~~
Entry ⇒ 2012.11.01 | Category ⇒ ゆるゆりSS | Comments (0) | Trackbacks (0)
雅枝「エロゲしとる所を娘に見られてしもた……」
雅枝「……ふふ」
雅枝「かわええなぁ、やっぱ小さい子は最高やわ」
雅枝(……―――ハッ!誰か来る)カチカチッ
雅枝(ALT+TABで作業用のファイルと切り替えや!)ポチッ
コンコンッ ガチャ
絹恵「ご飯できたでー」
雅枝「おー、ご苦労さん」カチッ
絹恵「母ちゃん、家にまで帰ってきてお仕事?」
雅枝「まあなぁ、インハイが終わったとはいえ結構忙しいんやで」カチッ
絹恵「大変なんやなぁ……」
雅枝「ほな、メシにしよか」
絹恵「せやね」
咲「エロゲーって楽しいよね!」
http://ssweaver.com/blog-entry-1880.html
のスピンオフです。
時系列的には、洋榎ちゃんがエロゲバレして菫さんがまだチャットに居る頃のお話。
雅枝「はいはい」
絹恵「ほな、食べましょ」
「「いただきますー」」
洋榎「今日の夕飯は絹が作ったんよな?」
絹恵「せやでー」
洋榎「さすが絹やな、めっちゃ美味いで!」
絹恵「ほ、ほんまか!」
絹恵(お姉ちゃんに褒められた……めっちゃ嬉しいわ……///)
洋榎「さすがうちの妹やな!」
雅枝「アホ、うちのお陰や」
洋榎「でもほんま、美味いで絹」
洋榎「次も絹のメシが食べたいわ」
絹恵(お姉ちゃんがこんなにも喜んでくれとる……)
絹恵(ほんまに嬉しいわ……)
絹恵「あ、ありがと……」
絹恵「……お姉ちゃま///」
雅枝「ブゴォォッ!!」ブフォ
洋榎「ちょ、オカン汚っ!!」
洋榎「お、オカン……大丈夫か?」
雅枝「だ、大丈夫や……そ、それより」コホン
雅枝「絹」
絹恵「えっ、なに?母ちゃん」
雅枝「……」
雅枝「……う、うちのこと、”おかあたま”と呼んでみてくれへん?」
絹恵「……」
絹恵「……は?」
雅枝「えっ、あ、いやっ、これはやな……その」
雅枝「……ご、ごっそさん!」ガタッ
絹恵「あ、母ちゃん!?」
洋榎「お、おい!オカン――」
洋榎「――……て、行ってもうた」
洋榎「なんやったんや……」
絹恵「せやね……」
………
……
…
雅枝「……はぁ」
雅枝「うちは娘に何を言わせようとしてんのや……」
雅枝(親として色々と失格やろ……)
雅枝(……でも)
雅枝(一度でええから呼ばれてみたいわぁ~!!)
雅枝(何がええやろ、やっぱ”おかあたま”やろか!)
雅枝(いや、”おかあちゃま”も子供っぽくてええなぁ……!)
雅枝(あえて”かあさま”や”かあや”ってのも悪うないな……!)
雅枝「ふふっ……ふふふふふ……」
雅枝「ふ……ふ…………」
雅枝「はぁ……くだらん事考えとらんで、”はじめてのおやばん”でもやるとしよ……」カチカチッ
洋榎「ん?なんや電話鳴っとんで……」
洋榎「……誰も取らんのかいな」
洋榎「絹は風呂に入っとるやろし……オカンは何しとんのや」バタム
TELLLLLLLLLL TELLLLLLLLLLL
洋榎「ああもー!わぁったわぁった、出るっちゅーねん!」ガチャ
洋榎「はいー愛宕ですー……はい……はい、ほなお待ち頂けますかー」
洋榎「オカーン!電話やでー!」
洋榎「……」
洋榎「なんや、聞こえてへんのか?」
雅枝(でゅふふふ……!)
雅枝(最高や……やっぱ小さい子はええなぁ)
雅枝(裸でも子供やから恥ずかしくないもんな!!)
雅枝(うひょおお……!来るでー!えっちなこと来るでー!!)
洋榎「オカン、オカンに電話来とるでー」ガチャ
雅枝「えっ?」
『ふぁあっ……!純君っ……だ、だめだよおっ!』
『はぁっ……はぁあっ……国広君!!そろそろイクぞっ!』
洋榎「」
雅枝「」
雅枝「こ、これは……その、あれや!」
雅枝「うちの部員が如何わしいモン持っとったから、没収しただけや!」
雅枝「確認ついでに中身も見とっただけやねん、何もおかしい事なんてあらへん」
雅枝「せやろ!?」
洋榎「……」
洋榎「や、さすがにちょっとそれはキツい冗談やろ……」
雅枝「せ、せやろか……」
洋榎「せやろ」
雅枝「…………えと……」
洋榎「……とにかく電話来とるから、はよ」
雅枝「あ、ああ……」
……
…
雅枝「はい……はい、わざわざありがとうございますー」ガチャン
雅枝「……ふぅ」
洋榎「……」
雅枝「……」
洋榎「……オカン」
雅枝「……なんや」
洋榎「なんでオカンがエロゲーなんてしてるんや……」
洋榎「知っとったんかいな……」
雅枝「大体ヒロ、部屋に入る時はノックしろ言うたよな?」
雅枝「ノックしてへんやろ、悪いんはヒロやで」
洋榎「いや……確かにうちがノックせえへんかったのは悪いと思っとるけど……」
洋榎「そうとちゃうやろ……悪い悪くないの話やないでこれ」
洋榎「別にエロゲーするんはええと思うよ、うちもしとるし」
洋榎「せやけど……」
洋榎「ロリゲーはさすがにアカンとちゃうか……」
雅枝「……っ」
雅枝「き、絹っ……」
洋榎「絹……丁度ええわ、絹もこっちきい」
絹恵「?」
洋榎「絹、オカンはな……」
雅枝「なっ……ヒロ!おまっ!」
洋榎「エロゲーを‥…しとるみたいなんや」
絹恵「」
雅枝「き、絹……っ」
洋榎「それもただのエロゲーやない、ロリゲーや」
絹恵「ろ、ろりげい……」
絹恵(ロリゲーってなんやろ……エロゲーとはちゃうんか?)
洋榎「せやけど、ロリゲーはアカンと思うねん……」
雅枝「な……何がアカンねん」
洋榎「だってせやろ、高校生の娘がいるオカンがいい歳してロリゲーやで!?」
洋榎「人妻モノとか熟女モノとか、そういうのもさすがにあれやけど……それならまぁわかるわ」
洋榎「せやけどロリゲーはアカンやろ、どうみても○学生にしか見えへん奴ばっか出るやろ!」
絹恵「え……母ちゃん、○学生とかが好きなん……?」
雅枝「ちゃ、ちゃうねん絹、ホンマ誤解や」
洋榎「誤解もクソもあるか!普通やないで!」
雅枝「……は?」
洋榎「えっ」
雅枝「普通やないからうちがロリゲーやったらアカンの?」
洋榎「そ、そらアカンやろ……」
雅枝「こんのドアホォォ!!!」ガタァッ
絹恵「ひっっ」
雅枝「ロリゲーはアカン?何言うとんのや!」
雅枝「アカンのはあんたのしょぼくれた脳みそやないのか!!」
洋榎「オ、オカン……?」
雅枝「ああそうや!うちはロリゲーが大好きや!!」
雅枝「”牌少女”……”野外麻雀”……”ボクのメイドたいけん”……”赤土先生だーいすき”……”むすメンゼン”」
雅枝「どれも最高やないか!!」
洋榎(つか、今の作品名を知っとるうちも結構アカンとちゃうか……)
雅枝「ロリゲーをやった事もない連中がただひたすらにロリゲーを批判する」
雅枝「あまりにも幼すぎる容姿が大げさに叩かれ、メディアで無様に晒される」
雅枝「ロリゲーを持ってるだけであいつは犯罪者やと」
雅枝「何がアカンねん!!うちらは何も悪い事してへんやろ!!」
雅枝「ロリゲー言うても、見た目がちょっと子供っぽく見えるだけやないか!」
洋榎「せ、せやけど……いくらゲームて言うても子供のエロシーンはアカンやろ……」
雅枝「誰が子供や言うたんやタコォ!!」
雅枝「子供っぽく見えるから子供やと?ふざけんな!!」
雅枝「登場人物は全員18歳以上やろが!!」
洋榎「い、いや……さすがにどうみても18歳以上には見えへんやろ……」
雅枝「人を見た目で判断すんなやボケェ!!」
雅枝「世の中にはな、どうみても○学生なのに20代の子とか普通におんねん!」
雅枝「どうみても30近いのに17か18歳の子とかも普通におるんや!!」
雅枝「AVかて、大抵○学生モノっちゅーもんは30近いオバハンがやっとんねん!!」
洋榎(そんなんうちに言われても)
洋榎「や、誰も言ってへんけど」
雅枝「絹はどうなんや!?」
絹恵「え、う、うちぃ!?」
雅枝「絹もうちの事を変態ロリコン年増BBAと思っとるんか!?」
洋榎「や、だから誰もそこまで言ってへんがな」
絹恵「……え、えっと……その」
絹恵「うちは別に……母ちゃんの好きにしたらええと思うで」
雅枝「……」
雅枝「えっ?」
絹恵「たまたまえっちなゲームしとったからって」
絹恵「その人の事を全否定するのはおかしい」
絹恵「他人を嫌う前に、まず自分からその人の事を理解せなアカンて」
絹恵「人間誰にでも一つや二つ秘密がある」
絹恵「その秘密を知ってもうたからって、うちは母ちゃんの事を嫌いになったりはせんよ」
絹恵「ま、まあ……さすがに子供っぽい女の子ばっかり登場するゲームをやってたんは驚いたけど……」
絹恵「好きなものは好きだから、しゃあないよね」アハハ...
雅枝「絹……っ」
絹恵「ええもなにも、母ちゃんの趣味にうちらが首突っ込むのとちゃうやろ」
洋榎「そういう問題なんか……?」
絹恵「お姉ちゃんも他人にエロゲーを全否定されたらどう思う?」
洋榎「……」
洋榎「ま……まあ……イラッとは来るかもしれへんな」
絹恵「せやろ」
絹恵「なにもかも否定する前に、まずはうちらがオカンの事を理解してあげなアカン」
絹恵「そうやとちゃう?」
洋榎「……」
雅枝「え?」
洋榎「うちが間違うてた……なんて言うつもりはあらへんけど」
洋榎「ロリゲーも立派なエロゲーや、それを否定してしもたら自分を否定してまう事になるからな」
洋榎「だからオカンの事、認めるわ」
雅枝「ヒロ……」
絹恵「……うん、これでこの話はおしまいや!」
絹恵「ほら、お姉ちゃん。風呂上がったからはよ入ってき」
洋榎「お、おおう……」トコトコ
雅枝「……」
絹恵「……」
雅枝「ありがとうな、絹」
絹恵「母ちゃんが以前言ったことをそのまま言っただけやから」
雅枝「絹……」
ぎゅっ
絹恵「……?母ちゃん?」
雅枝「ホントに……ありがとうな」
雅枝「絹が娘でホントに良かったわ」
絹恵「……んもう」ギュッ
雅枝「……」スンスン
雅枝(風呂から上がったばかりなせいやろか、めっちゃいい匂いするな……)
雅枝(胸も随分と大きくなったし……腰つきも細いし……)
絹恵「……」
絹恵「母ちゃん、なんかヘンな事考えておらへんか?」
雅枝「ふぁっ!?」
絹恵「いくら小さい子が好き言うても、うちはもう高校2年生やで?」
雅枝「な、何を言うとるんや!うちかて娘に邪な事を考えたりせぇへんわ!!」
雅枝(ちょっと考えたけどな!!)
絹恵「ホンマかいな……まあええけど」
絹恵「母ちゃんも程々にな」
雅枝「あ、ああ……」
雅枝「……」
雅枝「……ふぉ……ふぉおおお……」
雅枝(フォオオオオオオーーーーーッ!!!)
雅枝(絹ちゃんまじ天使!!きゅいんきゅいんっきゅっきゅいーーーーんん!!ぺろぺろぺろぺろ!!)
雅枝(娘最高や!!まじで!!ほんまに!!イヤッホオオオオオゥゥゥ!絹ちゃん最高ーーーっ!!)
雅枝(ロリもええけど、娘の破壊力はやっぱたまらんな!!)
雅枝(今日は絹ニーで決まりやな!はい決定!超決定!!)
雅枝(そうと決まれば早速、今まで撮り続けてきたアルバム全38巻を引っ張りださな!!)
………
……
…
――とあるネット掲示板で知り合った数人の猛者達が――
――互いに集い語り合う 淑女達のグループチャットである――
ひろぽん:おるかーー?
かじゅ:えっ?
ひろぽん:よーし、おるな!
トキ:ここやで (トントンッ
ピカリン: 西 濃 は 神
魔法少女すみれ:もう何も言うまい
巫女みこカスミン:今日はどうしたのかしら?
ひろぽん:いや、それがな……聞いてくれへんか
ひろぽん:実はな、オカンがロリゲーやっとったんや……
かじゅ:ロリゲー?
トキ:ロリゲーってあれやろ、”はじおや”とかそういうの
魔法少女すみれ:はじおや……”はじめてのおやばん”だっけか
トキ:小さい子供がはじめての親番で絞り取られるまくるっちゅーあれや
ピカリン:わかってるくせに
かじゅ:実際にやったことはないが、名前くらいは聞いたことがあるな
巫女みこカスミン:で、その神ゲーをお母様がやってらしたの?
ピカリン:誰も神ゲーなんて言ってないと思う
巫女みこカスミン:は?(怒)
ひろぽん:まぁその通りや、部屋に入ったらやってる所を見てしもた……
かじゅ:親がエロゲー……それもロリゲーをやってるとはな……
魔法少女すみれ:なんとも言えない気持ちになるな
トキ:ちゅーか、ひろぽん家すごすぎやろ
トキ:自分もエロゲーマーで妹はギャルゲーマーでオカンもエロゲーマーとかどんだけやねん
ピカリン:エロゲーマーの家系か
怜ちゃんが監督と会った時の心境はどんなんやったんやろか
そういやそうやったな…
ひろぽん:うちも今でこそは納得しとるけど
魔法少女すみれ:まぁそうだろうな
かじゅ:普通のエロゲーですら親がやっていたら誰だって驚くさ
巫女みこカスミン:そうかしら、私は別にいいと思うわ
トキ:カスミンはロリゲーマーやからそう言えるんやろ……
ピカリン:私も妹がエロゲーやってたら驚く、歓喜の意味で
魔法少女すみれ:誰も妹の話はしてない
ひろぽん:やっぱ皆もそう思うやろ
トキ:私は別にええと思うけどな
かじゅ:ほう?
トキ:人が何を趣味にしとったって別にええと思わへん?
魔法少女すみれ:そりゃあ…‥そうかもしれないが
かじゅ:でもロリゲーだぞ?
トキ:ロリゲーでもエロゲーでも一緒や
トキ:そりゃリアルで幼女にエロい事したりするのはアカンけども
トキ:ゲームでくらい好きにやったってええと思うで
巫女みこカスミン:私もそう思います
巫女みこカスミン:他人に迷惑をかけるのは勿論いけない事ですけど
巫女みこカスミン:別にエロゲーが趣味なくらいいいのではないでしょうか
魔法少女すみれ:ふむ……
ひろぽん:今ではオカンがロリゲーやってても別にええと思っとるんや
ひろぽん:なんちゅーか、オカンがロリゲーをやっているのを否定してしもたら
ひろぽん:自分自身まで否定してしまう事になるやろ
かじゅ:なるほどな
魔法少女すみれ:自分自身を否定する事になる……か
トキ:ロリゲーもエロゲーもジャンルは違えど同じエロゲーやからな
トキ:それを否定してしもたら、エロゲー全般を
トキ:そしてエロゲーをやっとる自分まで否定してしまう事になるっちゅー事や
ひろぽん:そういうことやな
巫女みこカスミン:私達って、結局どこまで行っても表には出ることの出来ない存在だと思うの
巫女みこカスミン:表に出られない私達を自ら否定してしまったら
巫女みこカスミン:それこそ、私達の居場所がなくなってしまうわ
魔法少女すみれ:……
かじゅ:結局、私達はどこまで行ってもエロゲーマーなんだ
かじゅ:エロゲーマーがエロゲーを否定する事など、無意味なことに過ぎないのかもな
トキ:なんかかっこいい事言っとる
ピカリン:\キャーカジュサーン/
かじゅ:う、うるさい!
………
……
…
洋榎「結局のところ、うちらはエロゲーマーなんや」
洋榎「いや、うちだけやない、オカンも……他の皆もそうなんや」
洋榎(……でもよう考えたら、むしろうちって恵まれてる方なんとちゃう?)
洋榎(親がエロゲーしとるってことは、エロゲーに理解があるっちゅーことやろ?)
洋榎(普通は娘がエロゲーしとったら、親はええ顔せえへんもんな……)
洋榎(うちかて、オカンにエロゲーを全否定されたら流石にヘコむわ)
洋榎(……)
洋榎(オカンも……うちに否定されてヘコんでたりするんやろか)
洋榎(結構キツい事言ってしもたしなぁ……)
洋榎(やっぱもう一度ちゃんと謝った方がええかもしれん……)
雅枝「幼稚園児の絹はめっちゃちっこくてかわええなぁ」
雅枝「お、こっちは音楽祭の奴やな、他の子とは比べ物にならんくらいめっちゃかわええで」
雅枝「んひょお!これは家族でプールに行った時のやつや!」
雅枝「子供用水着って露出も少ないのになんでこんなに反則的な可愛さなんやろか……」
雅枝「アカン、どれも素晴らしすぎて決められへん……」
雅枝「……しゃあない、今日はこれでスるとしよか……」ヌギヌギ
雅枝「おぉっと……ついでヘッドホンもして”むすメンゼン”のエロシーンも起動しておかな」カチカチッ
洋榎「オカーン、おるかー」
洋榎「……」
洋榎「……?おらんのかいな?」
コンコンッ
洋榎「……」
洋榎「オカン、入るでー?」ガチャ
『お母様ぁっ!わ、わたしもうだめだよおおっ!』
『ええよ!穏乃っ!もっと気持ちよくしたるからなぁっ!』
雅枝「絹―――っ……!……?!ひ、ヒロ!?」グショ
洋榎「」
雅枝「」
つづカン
エロゲバレなど序章に過ぎなかったかぁ
楽しみにしてる
Entry ⇒ 2012.11.01 | Category ⇒ 咲-Saki-SS | Comments (3) | Trackbacks (0)
白望「王様ゲーム?」
豊音「そうだよー」
白望「パス。ダルい」
塞「まあまあ、そう言わないでさ」
エイスリン「オウサマゲーム?」
胡桃「あ、エイちゃんは知らないんだ。王様ゲームっていうのは……」カクカクシカジカ
エイスリン「ホウ!」
エイスリン カキカキ
エイスリン「……シロ!」バッ!
白望「やりたいって?……しょうがないなぁ」
王様:>>11
5人以外を出されても困るので、断らない限りキャラは安価先のコンマ一桁目で判定します
被りとかは安価下で
0,1 白望 2.3 エイスリン 4,5 胡桃 6,7 塞 8,9 豊音
塞「ぬぎゃー、取れなかったかー」
胡桃「くっ」
白望(トヨネなら変な命令は……出さないよなぁ……?)
豊音「それじゃあ、>>15に>>16してもらおうかなー!」
>>16には命令をお願いしますー
豊音「そうだよー。きてきて!」ヒザポン
胡桃「じゃあ遠慮なく」ポスン
胡桃「充電充電!」
豊音「胡桃ちゃんあったかいよー」
胡桃(……胸が頭に乗るってどういうこと……!?)
塞「……完全に親子にしか見えないわあれ」
エイスリン「クルミカワイイ!」
白望(平和な命令でよかった……)
王様:>>24
塞「今度はシロが王様かー」
豊音「ちょーたのしみだよー」
白望「ん……じゃあ>>29に>>30してもらう」
安価なら対戦相手で気になった人のどんなところが気になったか告白
胡桃「えっ」
エイスリン「エッ」
豊音「えっ」
ALL「「「「えええええええええええっ!!!?」」」」
塞「シ、シロがそんな命令出すなんて……!?」
胡桃「予想外にもほどがあるよっ!」
エイスリン「デ、ダレガ……!?」
豊音「あ、わ、私だよー///」
豊音「う、うん///」
白望「そっか。じゃあ軽めにしよう」
白望(実は私も初めてだけど……)
白望「少しかがんで……」チュッ
豊音「んっ……///」
白望「……こんな感じかな」
豊音(わ、わー///)ドキドキ
エイスリン(oh……)ドキドキ
塞(うわわわわわ!?)ドキドキ
胡桃(本当にキスしたー!?)ドキドキ
王様:>>37
塞(次はどんな命令が来るんだろ……予測できない……)
豊音 ///
胡桃「トヨネはいつまで照れてるの!」
豊音「だ、だってファーストキスだったから///」モジモジ
白望「じゃあ>>40に>>41でもしてもらおうかな」
はいてない世界じゃないならスカートではなく下着脱ぐ
白望「マジ」
エイスリン「シロェ……」
豊音(シロを見る目が変わっちゃいそうだよー……)
胡桃「で、誰が脱ぐの……って、わ、私じゃん!?」
白望「胡桃になったかー」
胡桃「で、でも恥ずかしいし///」
白望「裸の付き合いは済ませた仲でしょ」
胡桃「お風呂でしょそれ!?」
白望「はやく」
胡桃「う、うぅ~」
胡桃「あーっ!ぬ、脱げばいいんでしょ脱げばっ!」バッ
胡桃「ほら脱いだよ!文句ある!?」
白望「ないよ、次行こう」
胡桃「……そこまでノーリアクションだとさすがに傷つくんだけど」
王様>>50
塞「胡桃の命令は普通だよね!信じてるよ!」
白望「普通の命令だとデンジャラス不足じゃない?」
塞「シロは黙ってて」
胡桃「じゃあ、>>53は>>54するっ!」
豊音「一安心だよー」
白望「デンジャラス不足……」
塞「で、誰が肩車するの?」
エイスリン「ワタシデス」
胡桃「じゃあエイちゃん、頭下げて」
エイスリン「リョウカイデス!」
胡桃「おー、高い高い!」
エイスリン「ハシッテミタリ!」
胡桃「ちょ、怖い怖い!エイちゃん怖い!」
塞「……どう見る、シロ?」
白望「久しぶりに親戚に会ってはしゃぐ子供」
塞「そんな感じか……」
白望「でも、トヨネじゃなくてよかったね」
豊音「え、なんでー?」
白望「トヨネだと天井にぶつかってたでしょ」
塞「あー、確かに」
王様:>>60
塞(これで王様してないの私だけか……)ズーン
塞(というか、命令すらされてない!?)
胡桃(エイちゃんの命令って、一番読めないよっ)
エイスリン「デハ、>>64に>>65シテモライマス!」
胡桃「あー、エイちゃんはそっち側だったかー」
白望「いいね、中々デンジャラス」
エイスリン「ワタシガチョコノホウ!」
エイスリン「サエ、カモン!」
塞「あわわわわわわわ///」
塞(え、エイスリンはやっ!?)ポリ…
エイスリン ポリポリポリポリ
白望「エイスリン選手果敢に攻めるー。塞選手は硬直気味ですねー。どう見ますか胡桃プロ?」
胡桃「誰がプロか!?私に振らないでよっ///」
豊音「見てるだけでドキドキするよー///」
次レスのコンマが偶数でポッキーゲーム成功、奇数で失敗
塞(うわわー!?)
エイスリン チュッ
塞 チュッ
白望「エイスリン選手行ったー。これは文句なし。いかがでしたか胡桃プロ?」
胡桃「だから私に振らないでよっ!?」
豊音「わぁー///」カァァ
エイスリン「エヘヘ」///
塞 ポケー
王様:>>76
塞「ここまで半分がシロとか……」
白望「王様の資質があるのかも」
胡桃「鬼畜王シロか……」
白望「じゃあ>>80に>>81してもらう」
白望「塞は中学生のときによく考えてたよね」
塞「な、なんで知ってるの!?///」
白望「国語のノートに書いてたでしょ。確か内容は……」
塞「わーっ!わーっ!」
胡桃「……で、誰が朗読するの?」
エイスリン「ワ、ワタシジャナイデスヨ!?」
豊音「私だよー」グスン
豊音「そ、それじゃあいくよー」
.r⌒ヽ /⌒ヽ
. / .\ / .i |
| \ \/| | 錆びつけば 二度と突き立てられず
._______ | .| ヽ ヽ_| .|
|. | | .ノ /\ ヽ 掴み損なえば我が身を裂く
|. | | / (__/ .\ i
|. /_) ̄ ̄ ̄ヽ) .| そう誇りとは
|________(___/ / |
\ / ./ / 刃に似ている
\__(⌒ヽ| /
 ̄ ̄ \ ''ー― ノ_____/
' 'ー――-'´
胡桃「ぶふぅっ!」
白望「く、胡桃、笑っちゃダメだよくふふっ!」
胡桃「シロもでしょぶふふっ!」
塞(トヨネのこと笑えないんだよなぁ……)
エイスリン「? ? ?」
王様:>>88
塞(また私じゃないなんて……)ズズーン
白望「デンジャラスな命令よろしくー」
豊音「ふ、普通の命令でいいよー!」
胡桃「じゃあ>>91に>>92してもらうよっ!」
>>1のでもいいよ(ニッコリ
胡桃「ちょっとはっちゃけたくなったのっ!」
豊音「い、痛いのはやだよー」
白望「誰がビンタするの……?」
エイスリン「ワタシデス!」
塞「どこで覚えてくるのそういう言葉……?」
エイスリン「トヨネ!」バチン!
豊音「い、痛いよー!」グスン
エイスリン「サエ!」バチン!
塞「いたぁ!?何でそんなに全力なの!?」
エイスリン「クルミ!」バチン!
胡桃「つぅ……いいビンタだよエイちゃんっ……!」
エイスリン「シロ!」バチン!
白望「……ナイスビンタ」
エイスリン「スッキリ!」
白望(色々溜まってたのかなぁ……)
王様:>>99
塞「シロだったのか」
白望「また引けなかったな」
塞「全くダメだったぞ」
白望「暇を持て余した」
塞「王様の」
白望・塞「あ・そ・び」
胡桃「何言ってんだこいつら……」
白望「じゃあ>>103に>>104してもらう」
白望「たまたま。はい、塞。着て」
塞「な、なんで私だってわかったの!?」
白望「今日はそういう流れだから」
塞「わーん厄日だー!!」
豊音「が、頑張ってー!メゲないでー!」
エイスリン「フムフムフムフムナルホドナルホドー」
白望「痴女がいるね胡桃」
胡桃「困ったもんだねシロ」
塞「シロの命令でしょぉ!?」
塞「ぐすん……」
豊音「塞、元気出して」
塞「トヨネ……」
豊音「今日はそういう日らしいから仕方ないよ」ニッコリ
塞「ちくしょー!」
王様:>>111
塞「知るかよもー勝手にしろ」
胡桃「塞がグレた……」
豊音「私でもグレると思うよー……」
白望「んー、>>115に>>116してもらおうかな」
白望「どちらかというと揉まれてるところを見たい」
胡桃「そっか……」
白望「んで、誰が……」
エイスリン「ハイ!ハイ!ワタシデス!」
塞「誰でもいーからはやくしろよ」
豊音「さ、塞、落ち着いてー」
白望「どうぞ」
エイスリン「エヘヘ」モミモミ
白望「んっ……」
エイスリン「ツギサエ!」
塞「さっさとして」
エイスリン「ハ、ハイ」モミモミ
塞「ひゃ……」
エイスリン「トヨネ!」
豊音「や、やさしくしてねー///」
エイスリン「ドリョクシマス!」モミモミ
豊音「はふぅ……」
胡桃「酷くない!?」
エイスリン「ハイハイ」モミモミ
胡桃「釈然としない……」
王様:>>124
塞「ケッ」
豊音「さ、塞ー……」
エイスリン(サエコワイ……)
エイスリン「デ、デハ、>>127ガ>>128スル!」
白望「……正直ここまでエグいのくるとは思わなかった」
豊音「わ、私やだよー!?」
胡桃「あ、トヨネなんだ」
エイスリン「トヨネ、ダイジョウブ!」
豊音「な、なにがー?」
エイスリン「ブロンドナカマニナレル!」
豊音「わけわかんないよー!?」
塞「さすがに同情するわ……」
エイスリン(実は洗えば落ちるんだけどねー)
豊音「こんな髪で帰ったら怒られちゃうよー……」
白望「……今日はうちに泊まっても良いよ」
豊音「ほ、ほんとに!?」
白望「うん、それじゃ帰れないでしょ……」
豊音「ありがとうシロー!」ダキッ
白望「ちょ、おもっ……ぷぎゅる」
胡桃「あ、シロ死んだ」
はっちゃん巫女服の塞
折り紙金髪の豊音
カオスになってきたな…
王様:>>137
気にしない気にしない
白望「んー、エイスリンの流れになってきたかな?」
胡桃「……なんかこの二人だけ無傷じゃない?」
豊音「本当だー」
塞「悪運の強いやつら……」
エイスリン「ジャア、>>143ハ>>144シテ!」
エイスリン「キンパツハヤリスギマシタ。ハンセイ」
胡桃「わかった。ちょっと待っててね」
胡桃「買ってきたよ」
エイスリン「ゴクロウ」
エイスリン「ウマイウマイ」モグモグ
胡桃「うん?」
白望「今、履いてないよね」
胡桃「え?」
胡桃「…………………………」
白望「…………………………」
胡桃「ちょっと首吊ってくるね」
豊音「だ、ダメだよ胡桃ー!!」
王様:>>152
エイスリン「ジャアクナフンイキヲカンジマス」
白望「そりゃそうだ」
塞(私ってまだマシなほうなのかも……?)
胡桃「じゃあ>>156は>>157してね」
胡桃「あ、シロなんだぁ?クスクス、もうあんたの時代は終わったんだね」
白望「んー、これは参ったなぁ」
豊音「し、シロの好きな人ってー?///」
白望「……>>162」
キャラの名前お願いします。キャラの名前が書いてない場合はコンマで判定します
コンマ判定がシロの場合は安価下
普通にコンマでお願いします
白望「うん……豊音」グイッ
豊音「わ、わ、わ、わ///」
白望「好きだよ……」(なんかすごく扇情的なポーズ(丸投げである))
豊音「シ、シロ……///」
エイスリン「イイハナシダナー」
胡桃「ちっ!罰ゲームになってないじゃん!」
塞「でも、あくまで"この中"での話だから、シロの好きな人がトヨネと決まったわけじゃないんだよね」
エイスリン「サエクウキヨメヤ」
塞「ええっ!?」
王様:>>170
胡桃「くっ」
塞「どこまで好き勝手すれば気が済むんだ……!」
白望「じゃあ、>>176に>>178してもらおうか」
塞「シロの命令にしては平和だね」
胡桃「正直安心したよ」
豊音「あ、わ、私だ///」
白望「では申告どうぞ」
豊音「えっと、93/66/93のCカップです///」
白望「そっか。今度一緒に下着見に行こう」
豊音「ええっ!?」
王様:>>184
胡桃「それは結構なことで」
塞「またかよクソッ!」
豊音「さ、塞……」
白望「うーん、>>188に>>189してもらおうかな」
塞「いやいやそんなオカルト……」
豊音「あ、本当だ、私だよー」
塞「ありえた!?」
エイスリン「スゲー……」
胡桃「どうなってるんだ……」
豊音「気持ち良い?」
白望「うん、気持ち良いよ」
豊音「そっか、よかったー」
胡桃「罰ゲームとはなんだったのか」
塞「知るかよもう」
エイスリン「ゲンキダシテサエ……」
塞「同情するなら私を王様にして!」
胡桃(切実すぎてきもちわるい!)
王様:>>196
塞 ツネリ
塞「……いたい。夢じゃない」
塞「っしゃああああああああああああああああっ!!!王様だあああああああああああああああ!!」
白望「よろこびすぎでしょ……」
豊音「まあ、あれだけ我慢してきたわけだからー……」
塞「じゃあ!>>201に!>>202してもらうよ!!」
塞「さあ!はやく!誰か知らないけどはやく全裸に!」
胡桃「こんなにも鬱憤が溜まってたんだね……」
エイスリン カキカキ
白望「ん?……ツキに見放されたギャンブラーの末路?」
エイスリン「ウン」
塞「さあ!誰が全裸になるの!?」
白望「私じゃないよ」
エイスリン「ワタシデモナイデス」
胡桃「私も違うよ」
塞「えっ、ということは……」
豊音「ぐすっ、塞、ひどいよー」
豊音「ううん、いいよ、王様の命令だもんね……」スルスル
塞「ト、トヨネ……ごくり」
豊音「ぬ、脱いだよ。これでいいんだよね?///」
塞「う、うん///」
白望「眼福」
胡桃「眼福」
エイスリン「ガンプク」
塞「あ、もうこんな時間なんだ……」
白望「行こう、トヨネ」
豊音「うん、シロ」
塞「……あの二人、明日の朝までには一線越えてたりしてね」
胡桃「普通にありうるからやめて」
エイスリン「ワタシタチモカエロウ」
塞「そだね」
白望「王様だーれだ……私か」
塞「またァ!?」
白望「じゃあ3番の人は王様にキスして」
豊音「はーい!」チュッ
エイスリン「バカップル!」
胡桃「砂糖吐きそう!」
豊音「王様ゲームちょーたのしいよー」
おわり
豊音→胡桃(豊音の上で充電)
白望→豊音(ちゅう)
白望→胡桃(スカートを脱ぐ)
胡桃→エイスリン(肩車)
エイスリン→塞(ポッキーゲーム)
白望→豊音(恥ずかしい自作ポエムを朗読)
胡桃→エイスリン(全員にビンタ)
白望→塞(たまたま用意してあった初っちゃんの服に着替える)
白望→エイスリン(全員のおもちを揉む)
エイスリン→豊音(髪の毛を折り紙みたいな色の金色に染め上げる)
エイスリン→胡桃(ファミチキ買って来る)
胡桃→白望(この中にいる一番好きな人に自分が思うもっとも扇情的なポーズをする)
白望→豊音(3サイズとカップ数を自己申告)
白望→豊音(膝枕)
塞→豊音(全裸)
白望7、1 エイスリン3、3 胡桃3、3 塞1、2 豊音1、6
おつかれさまでした
シロが強すぎてやばい
流石宮守の中心
Entry ⇒ 2012.10.31 | Category ⇒ 咲-Saki-SS | Comments (0) | Trackbacks (0)
ほむら「杏子、私が思うにハロウィンは先攻が有利過ぎない?」
ほむら「例えばここで私が先攻をとってあなたにトリックオアトリートと言うわ」
杏子「あぁ」
ほむら「そうするとあなたはお菓子を出さなくてはイタズラをされるわよね?」
杏子「そうだな」
ほむら「それを回避するためにあなたはポッキーを1本私にくれるとするわ」
杏子「あぁ」
ほむら「その後あなたが仕返しに私にトリックオアトリートと言うと…」
杏子「まさか!」
ほむら「そう、あなたがくれたポッキーを返すだけになってしまうのよ」
杏子「そ、そんなのずりぃじゃねぇかよ」
ほむら「でもお菓子を返されたとはいえお菓子を渡したのは事実」
杏子「クソッそんなのおかしいだろ…」
ほむら「先に言ったものが必ず勝つなんてもはや勝負が成立しない」
ほむら「まるで♯を描いてマルバツで埋めていく後攻の気分よ」
杏子「あぁ、真ん中をとられてどうしようもないんだよな…」
ほむら「というわけでこの事実を皆に伝えに行きましょう」
ほむら「皆にこの危険性を伝えるためにもトリックオアトリートしにいくのよ!」
杏子「ほむら…お前、また自分をお菓子を巻き上げる犠牲にして…」
ほむら「嫌われるのは慣れているわ」ファサ
杏子「へっいいよ、付き合ってやるよ、一人ぼっちはさみしいもんな」
ほむら「杏子…」
さやか「ふんふーん♪」
杏子「さやかだな、音楽を聞いてるけど気づくのかあいつ」
ほむら「任せなさい、ハロウィンでお菓子を巻き上げる側といえば仮装よ」
ほむら「この牙をつけてマントを羽織るのよ杏子」
杏子「これは…」
杏子「へっ教会の娘が魔女扱いされて末は吸血鬼なんて笑えねぇ」
ほむら「私はこれでいくわ」
杏子「ネコミミに尻尾で仮装になるのか?」
ほむら「あまり凝った仮装は時間がかかるわ」
杏子「それもそうだな」
ほむら「そこまでよ」
杏子「悪いがお前の楽しいお出かけはここまでだ」
さやか「…は?」ゴシゴシ
さやか「帰って寝た方がいいのかな…」
ほむら「トリックオアトリート」
杏子「トリックオアトリートだ」
さやか「え?あ、あぁ!ハロウィンね、あんた達がそんな仮装なんてしてるから何事かと思ったよ」
さやか「楽しいお出かけおしまいとか言うからそういう魔女でも出たのかと」
ほむら「御託はいいわ、トリックオアトリートよ」
さやか(そんなにお菓子が欲しいのかな?)
ほむら「え?えぇ…」
杏子「お、おう…」
さやか「んじゃねー」
ほむら「ってちょっと待ちなさいさやか!」
さやか「どうかした?」
杏子「なんか私達にいうことがあるんじゃないか?」
さやか「あんた達に?」
ほむら「…」
杏子「…」
さやか「うーん」
さやか「あ、そうだ」
ほむら「気がついたみたいね」
さやか「あんた達仮装似合ってるけど、そういうことする柄じゃないと思うよ」
杏子「そこじゃねぇよ!」
ほむら「もっと重要なことがあるでしょう」
杏子「そうそう」
さやか「…ごめん、わかんない」
ほむら「あなた、私達にお菓子を奪われたままでいいの?」
さやか「別に飴ぐらいいいけど?」
杏子「…」
ほむら「…」
さやか「よくわかんないけどんじゃね」
杏子「…」
ほむら「…」
杏子「いや、あいつがおかしいだけだって…」
ほむら「そうよね!それよりも次に行きましょう」
杏子「そ、そうだな!」
ほむら「さやかが行った方向に行ってまた会うのはなんだか気まずいから逆方向へ行きましょう」
杏子「マミの家がある方向だな」
ほむら「マミの家に乗り込むのもいいわね」
杏子「だな」
杏子「なんか買い物帰りみたいだけど」
ほむら「あれは……いいお菓子をもっていそうね」
杏子「あぁ、マミの家には必ずお菓子があるからな」
ほむら「そんないいお菓子を奪われたマミはきっと怒るわ」
ほむら「そして私達が伝えようとすることに気がついてくれるはずよ」
杏子「だな!」
マミ「それに…仮装?」
ほむら「マミ、先攻はいただくわ、トリックオアトリートよ」
杏子「トリックオアトリートだ」
マミ「あ、そっか、もうハロウィンの時期だったわね」
ほむら「さぁ、お菓子を渡さなければあなたに私達の本気のイタズラが」
マミ「そうねぇ、今持ってるのはそのお菓子の材料だから…」
マミ「あ、そうだわ、ちょうどこれからクッキーを焼く予定だったから食べてみない?」
マミ「普段は自分が食べて美味しかったものしか出したことはないけどたまにはね?」
杏子(マミのクッキー…)ゴクリ
ほむら(なんて誘惑なの、逆らえないじゃない…)ゴクリ
ほむら「えぇ」
杏子「あぁ」
ほむら「…」
杏子「…」
ほむら「おかしいわ」
杏子「あぁ」
ほむら「突然お菓子をよこせ、さもないとイタズラをすると脅されているのにどういうことなの?」
杏子「わからねぇ…あたしにはさっぱりだ」
ほむら「えぇ」
杏子「あぁ」
マミ「ふふっわかったわ、すぐに入れてくるわね」
ほむら「…」
杏子「…」
ほむら「どうしてかしら…」
杏子「どうしてだろうな…」
杏子「どうしたんだ?」
ほむら「マミもさやかも魔法少女、つまりそういうことだったのよ!」
杏子「な、なんだ?」
ほむら「マミは魔法で紅茶を出したりしていたわ」
ほむら「つまりマミもさやかもお菓子ぐらい魔法で作れるってことよ!」
杏子「そ、そうか、少しぐらい魔法をお菓子に使ったっておかしくねぇもんな」
ほむら「え?あぁ、食べるわよ」
杏子「あ、そうだった忘れるところだった」
マミ「?」
ほむら「あ、美味しい…」
杏子「だな」
マミ「本当?よかったわ」
杏子「にしてもマミのクッキーうまかったなぁ……」
ほむら「そうね、思わず全て食べてしまったわ」
杏子「で、まどかのいる場所に目処はあるのか?」
ほむら「えぇ、私レベルになるとまどかの居場所なんて常に把握できるわ」ファサ
ほむら「というわけでここを真っ直ぐ行くと」
まどか「うぇひひ、今日はいっぱい買い物しちゃった」
ほむら「いたわね」
杏子(やっぱり行動パターンとか知り尽くしてるのかこいつ)
杏子「ん」コロコロ
ほむら「何を食べているの?」
杏子「さやかの飴」コロコロ
ほむら「そういえば食べてなかったわね」
杏子「うめぇぞこのりんご味の飴」コロコロ
ほむら「私はグレープみたいだけど…まぁいいわ」コロコロ
ほむら「あ、美味しい…今度どこのメーカーのものか聞いておきましょう」コロコロ
ほむら「ってまどかを見失うじゃない!いくわよ杏子」コロコロ
杏子「んな急がなくてもまどか相手なら追いつけるって」コロコロ
杏子「悪いな、ここは通せねぇ」
まどか「え?え?ほむらちゃんと杏子ちゃん?」
ほむら「心苦しいけれどまd」
まどか「わぁ!ほむらちゃんの猫さんとっても可愛い!」サワサワ
ほむら「ちょ、ちょっとまどか///」テレテレ
まどか「杏子ちゃんもこの牙は作り物?」
杏子「お、おう」
まどか「杏子ちゃんはかっこいい感じでとっても似合ってるね!」
杏子「そ、そうか?」テレテレ
杏子「あ、そうだったそうだった」
まどか「あ、そっか!えっとトリックオアトリートだよね」
ほむら「!!」
杏子「!!」
まどか「?」
ほむら(先攻を奪われた…どうしよう…)
杏子(お菓子もってない…)
まどか「どうかしたの?」
ほむら「わかったわ、まどか、目を閉じてもらえるかしら?」
まどか「?うん、わかったよ」パチ
ほむら「食べかけで悪いけれど…」
杏子「ってちょっと待て!」
ほむら「離しなさい!このままだとまどかは望まないイタズラをしなくてはいけないのよ!」
ほむら「まどかは優しいからきっと心を傷つけながらイタズラをするのよ!」
杏子「落ち着け!ちょっと落ち着けって!」
まどか(どうしたんだろう?)
杏子「いや、まぁお菓子持ってないんだからしょうがねぇよ」
まどか「えっと、もう目を開けてもいいの?」
ほむら「えぇいいわよ」
まどか「えっと、どうしたの?」
ほむら「まどか、ごめんなさい…私たちはお菓子を持っていないわ…」
杏子「イタズラでもなんでも受け入れるよ悪いな」
まどか「え?え?」
ほむら「確か本場だと生卵を叩きつけるのよね、いいわ、存分に投げつけなさい」
杏子「食い物を粗末にするのはやめてくれ、そうだな、私達ならその辺の石でも死にはしないから」
ほむら「そうね、じゃあその辺の石でも投げつけなさいまどか」
まどか「とっても危ないよ!?」
ほむら「え?そ、そうなの?」
杏子「ど、どうしてだよ」
まどか「え?うーん、お菓子は皆で食べたほうが楽しいよね?」
杏子「まぁマミの家で皆で食べると確かに楽しいな…」
ほむら「…確かにまどかと食べると幸せね…」
まどか「こういうのも皆で楽しもうってしてるだけだから本気にしなくてもいいんじゃないかな」
まどか「あった!」
ほむら(途中まで食べたと思われるポッキー?)
まどか「はい、ほむらちゃんあーん」
ほむら「あ、あーん」パク
まどか「美味しい?」
ほむら「え、えぇ…」
まどか「うぇひひ、こうやって食べてもらって美味しいって言ってもらえても嬉しいんだよ」
まどか「杏子ちゃんもあーん」
杏子「い、いやあたしはあーんはいいって」
まどか「…」ジー
杏子「わ、わかったよ!あーん」パク
まどか「うぇひひ」
杏子「んでほむらと一緒にってわけだ」
まどか「えっと、ところでどうしてそんなふうに考えたの?」
ほむら「言われてみるとどうしてだったかしら…」
杏子「あたしはほむらに言われてそういえば本来はそういうイベントだったって思って」
杏子「元々そういうイベント参加してないしな」
ほむら「私も同じだけどどうしてだったかしら…うーん…」
ほむら「そういえばお菓子がもらえるイベントだったわよね、病院でもらっていたわ」
さやか「あーそっか、病院にいたから真のハロウィンを知らないんだね」
ほむら「真のハロウィン?」
さやか「そうそう、実はさ、その日は…」
ほむら「…」
まどか「ほむらちゃん?」
ほむら「さやかあああああああああああああああああ騙したわねええええええええ」
杏子(犯人がさやかならさやかから飴もらった時点できがつけよ!)
ほむら「え?」
まどか「仮装してるしママもパパもきっとびっくりするよ!」
杏子「いいのか?」
まどか「うん、大歓迎だよ」
ほむら「じゃ、じゃあ是非…」
杏子「あ、あたしも行こうかな…」
まどか「どうせならさやかちゃんや仁美ちゃん、マミさんも呼んでみようかな…」
ほむら「あなたのご家族がいいなら良いんじゃないかしら?」
ほむら(さやかに軽い復讐も考えておこう…)
杏子「だな、複数人で食べたほうがうめぇっていうなら呼ばない手はないし」
まどか「うぇひひ、そうだね!」
このあと流れでまどっちのお家にお泊りでまどっちの無防備さにほむほむがどっきどき
と言いたいけど眠いしハロウィン終わったし終わりにしましょうおやすみなさい
Entry ⇒ 2012.10.31 | Category ⇒ まどかマギカSS | Comments (0) | Trackbacks (0)
P「あずさ2号」
P「いえいえ、いいんですよ。そこまでがお仕事というか、あずささんを迎えに行くときのお約束と言いますか」
あずさ「そうですか……?」
P「むしろそれがなくなったら物足りなくなるという感じで!」
あずさ「私は、迷った方がいいんですか?」
P「あ、いやそういうわけじゃないんですよ? でも気にしなくていいんです、仕方ないですから」
あずさ「はい……」
あずさ「はぁ、本当に困ったわねぇ……」
律子「どうかしたんですか?」
あずさ「あ、律子さん。いえ、そのこの方向音痴がどうにか直らないものかと思いまして……」
律子「あー……でも、気にしなくていいんじゃないですか? あずささんのはその、いい方向に行くときもありますし」
あずさ「自分で迷う分には構わないんですけど、他の人に迷惑をかけてしまうのが、どうしても……」
律子「まあ、確かにそうですね……目的地に着くまでは頑張ってそのことだけ考える、とか?」
あずさ「なるほど……やってみますね。ありがとうございます、律子さん」
律子「いえいえ、頑張ってくださいね。逆に言ってしまえば、あずささんの弱点はそれくらいなんですから」
P「あ、おはようございますあずささん……ってあれ? 早いですね?」
あずさ「はい! 昨日律子さんに相談してアドバイスの通りやってみたら迷わずに来れたんですよ?」
P「おぉ、それはよかったです!」
あずさ「これでプロデューサーさんに迷惑を掛けなくて済みますね。あ、でも迷った方がいいんでしたっけ?」
P「あはは、それはそれですよ、確かにすんなり来てくれた方が楽ですしね」
あずさ「そうですよね。でも、もう大丈夫だと思います」
P「今日のあずささんは頼もしいですね! っと、まさに今日はそんなスケジュールでして」
あずさ「あら、そうなんですか?」
P「ちょっと長野まで行ってもらいたいんです」
あずさ「長野、ですか?」
P「あの、よくある散歩番組みたいな感じでやってほしいとのことなんです。それで、新幹線を使ってもらうんですけど」
あずさ「そうなんですか~」
P「生憎、俺他のところに行かなきゃいけなくてですね、できればお一人で現場まで向かって欲しいんです……」
あずさ「えっと、一人で……ですか」
あずさ「……わかりました、一人で行きますね」
P「大丈夫、ですか? とはいっても今日その後一旦撮影があったりと忙しいのでできればお願いしたいんですが」
あずさ「大丈夫だと思います、今日は自信ありますよ」
P「それなら大丈夫そうですね、と万が一と考えて1時間取ってありましたし、早くついてもらったので最悪2時間は大丈夫かな、と」
あずさ「はい、わかりました」
P「こっちも片付き次第合流して、次の仕事こなしていきますんで。お願いしますね!」
あずさ「えっと……こっちかしら」
あずさ「あっ、ここが駅ね」
「すみません、ちょっといいかしら……」
あずさ「あら? どうかされました?」
「765プロはどこでしょう?」
あずさ「あ、765プロなら……えっと、近くまで案内……で、でも」
あずさ(……一旦駅に来れたし、案内しても多分大丈夫、よね)
プルルルル……
P「おっと、はい765プロです。……はい、えぇ確かに今日これから向かわせて……えっ!? 時間が違った!?」
P「あ、それは……いや、多分もう駅について……えぇ、わかりました」
ガチャン
P「参ったなぁ……時間がずれるとは。まあ、最悪あずささんにはあっちで待機してもらっててもいいが……」
P「そうすると今日中に撮らないといけない写真といい、インタビューといい……どうする」
ガチャッ
あずさ「あら?」
P「えっ? あずささん!?」
あずさ「あ、私……」
P「ちょうどよかった! まだ乗ってなかったんですね!」
あずさ「あ、えっと……ごめんなさい」
P「いえ、今日ばっかりは助かります! それが実は……」
P「方向音痴がいい方向に行きましたね、っと気にしないでください! 結果が大事ですから!」
あずさ「あ、えぇ」
P「それじゃ、先に撮っちゃいましょうか」
あずさ「そうですね、お願いします」
あずさ「……」
――
「ありがとうございました」
あずさ「いえいえ! さてと……」
あずさ「あ、あら? ここは……変ねぇ確かこの辺だったと思うけれど」
あずさ「やっぱり引き返したのが間違いだったのかしら……」
あずさ「このままじゃ、遅れちゃうわ……」
あずさ「こんなに迷うなんて、私……あれ? ここ……事務所」
――
――
P「えっと、すみませんあずささん! 俺これ片づけるんで少しだけ待っててもらえますか?」
あずさ「えっと、この後はさっきの収録に向かうんですよね?」
P「そうなんですけど、これ終わらせてからじゃないと……あぁでもちょっと走ることになるかも……」
あずさ「でしたら私、先に行ってた方がいいですか?」
P「え? まあそうですけど……その」
あずさ「大丈夫です、さっきは迷っちゃいましたけど、今度こそ」
P「……でも」
あずさ「……信じてくれないんですか?」
P「……わかりました、でもちょっと怪しいなって思ったら電話くださいね?」
あずさ「はい!」
P「……片づけてから行くと30分、その分余裕があると言っても、さっき30分くらいで事務所に戻ってきたからなぁ……迷ったらアウトか」
P「まあ最悪あっちも悪かったと責任分割で……無理か」
P「……」
あずさ『新幹線、乗れましたので連絡しておきますね!』
P「……おぉ! 流石はあずささん!」
P「うん、やっぱりやるときはやる。って俺は何様だ」
P「でも、もう心配ないのかもな」
P「っと、そろそろ着いたかな?」
プルルル
P「おっと、はいこちらプロデューサー……えぇ、え? ちょ、ちょっとそれどういう!」
P「……わかりました、駅で待たせておきますので……はい」
ガチャン
P「どういうことだ……スタッフが時間変わったのを把握してなくて駅で待機してないとか、どうなってんだ」
P「まあおおかた名が知れてないからって適当にやってるんだろう……全く。あ、そうだあずささんに電話しておかないと」
P「……もしもしあずささんですか?」
あずさ「あ、プロデューサーさん。すみません、今着いたところで」
あずさ「え? ……その、収録現場についたんですけど、ダメでしたか?」
P「え? 収録現場って……あぁ! 地図を渡してましたけど、あ、あそこまでお一人で!?」
あずさ「あ、えぇ、まあ」
P「……すごいですよあずささん! 俺一回行ったとき迷ったくらいなのに! いやぁ、効果でてますね!」
あずさ「あはは、ありがとうございます。それじゃ、お仕事行ってきますね」
P「はい、頑張ってください!」
ピッ
P「ふぅ、いやぁあずささんには参ったな。でも、おかげさまであっちのスタッフにいい顔ができるってもんだ。あずささんには感謝しないとな」
P「収録は30分くらいで、すぐ帰ってくるとして……まあ2時間はかかるだろうけど、帰りもそんなすんなり……大丈夫だろう」
ガチャッ
P「っと、おかえりなさい……あずささん!」
あずさ「あ、あの……戻りました」
P「ホント、お疲れ様でした! うわぁ、きっかり電話から2時間! 流石ですね!」
P「どうしたんですか? 今日は流石、参りました! 方向音痴なんて言ってすみませんでした」
あずさ「す、すみません……私」
P「どうしたんですか? でも、迷わなくなったあずささんはもう完璧って感じですよね」
あずさ「ごめんなさい……プロデューサーさん」
P「何をそんなに、今日はすばらしかったですよ? 全部の仕事がスムーズに行って」
あずさ「い、いや……これからは気を付けますから……」
P「……あずささん?」
あずさ「ごめんなさい……きっと、きっと直しますから……」
P「いや、だからもう方向音痴なあずささんじゃないですよ。まあ正直、方向音痴だと手間はかかりますし、よかったです!」
あずさ「ぁ……っ!」
バタン
P「えっ? ちょ、ちょっとあずささん!?」
P「……俺、何か言っちゃったかな? やっぱり方向音痴うんぬん言わない方がよかったか……」
あずさ「……プロデューサーさんはもう私のこと見捨ててしまったのかしら」
あずさ「駅に向かったところまではよかったの。でも、道を聞かれて一旦戻って」
あずさ「その後すぐに駅に向かおうとしたけど、やっぱり迷ってしまって」
あずさ「もう、どうしようもないから携帯で連絡を取ろうと思ったら、ない」
あずさ「きっと、駅か、どこかで落としてしまった……」
あずさ「もう、遅刻……それどころじゃない、ドタキャンですもの」
あずさ「こんな、プロデューサーさんに会わせる顔がない……」
あずさ「なんて謝ったらいいのかしら……それでも、大丈夫ですって言ってくれるのかしら……」
あずさ「そう思っていたら、仕事が成功したって……そんな、皮肉を言わなくても……」
あずさ「私、次から頑張りますから……だから、許してください……」
「方向音痴は、手間がかかる」
あずさ「……私なんて」
「あの~すみません」
あずさ「……はい。……え?」
あずさ「……嘘」
「どうかしましたか?」
あずさ「どうして……私」
「あら、私ですよ?」
あずさ「い、いや……」
「……プロデューサーさんとお仕事をしてたのは、私ですよ?」
あずさ「……え?」
「それを言いに来たんです。よかった、迷わなくて~」
あずさ「そ、そんな……どうして、私、貴方は誰なんですか?」
「私ですか? そんな、三浦あずさですよ?」
あずさ「ち、違います! 私が三浦あずさです!」
「あらあら~? おかしいわねぇ……普通、同じ人って一人しかいないんじゃ、でも同姓同名なら」
あずさ「そんな、私は765プロの三浦あずさです!」
「でも、今日765プロでお仕事をしたのは私ですよね?」
「混乱しているようですから、私が教えてあげますね」
「AM8時、貴方が事務所に到着して、その30分後駅に向かいました」
「AM8:45に駅で会った人に道案内。その後貴方は迷子になりましたね」
あずさ「な、なんでそんなことを……」
「実はその人、私だったんですよ? それでちょうどプロデューサーさんが困ってたのでそのままお仕事をして」
「PM1:00、私は新幹線に乗って収録現場に。収録現場に3時位に着いて貴方が事務所に帰ってきたのが6時くらいですか?」
あずさ「私は……」
「あらあら、泣かないで? 私まで悲しくなってしまうから、ね?」
あずさ「どうして……それじゃあ携帯も……」
「そう、私がもらったんです」
あずさ「……そんな」
「だって」
「方向音痴な私は、いらないんです」
あずさ「え……」
あずさ「……」
「私は、貴方が憧れる方向音痴じゃない私」
あずさ「……」
「でも、直に私が三浦あずさになりますから」
あずさ「やめて……」
「そう思うなら、プロデューサーさんに言ってみたらどうかしら?」
あずさ「……それは」
「明日、来なくてもいいですよ? 私が代わりにお仕事しますから」
「でも、貴方はそうですね……さしずめ”あずさ2号”になるかしら」
あずさ「2号……」
「……それじゃ、また会いましょう。と言っても、貴方から私を探しちゃダメよ?」
「きっとまた、迷ってしまうから。……ふふっ」
あずさ「……」
――
「なんだかこのままどこかに迷い込んでしまいたい……」
「こうやって歩いている時だけ、迷わないんですけど」
「……明日、事務所にいけるのかしら」
「もし、あの人がいたら私は……」
「……なんだろう、この歌は。聞いたことがあるけれど、随分と古い曲……」
「あずさ、2号……ふふっ、そんな偶然があるのかしら」
「どうして、そんな歌が流れる場所に来ちゃうのかしらね」
「……今、7時……もう8時かしら」
「このまま8時ちょうどの列車にのって、どこか遠くへ……なんて」
「そんなことをしても、始まらない。か」
「……帰りましょうか」
「プロデューサーさん……」
あずさ「おはようございます」
P「おはようございます、あずささん。今日も早いですね」
あずさ「いえいえ、慣れてしまったらこれくらいは~」
P「ホント、別人みたいですよ! って、これは失礼ですかね?」
あずさ「そんなこと、嬉しいですそういってもらえて」
P「それじゃ、今日はレッスンですね。車出しますんでちょっと待っててください」
あずさ「大丈夫ですよ、あのレッスン場でしたら近いですし」
P「え? いいんですか?」
あずさ「はい、その……ちょっと歩いて運動ついでに」
P「あぁ、なるほど。それじゃ、すみませんお願いします」
あずさ「はい!」
P「いやぁ、ホントあずささんがこうなると怖いものなしって感じだなぁ」
あずさ「あ、おかえりなさい、プロデューサーさん」
P「あ、えぇ。どうも、帰ってらしたんですか」
あずさ「はい、早く着いたのでその分前倒しでやっていただきました」
P「それにしても……いやぁ、無駄な時間がないですね。流石としか」
あずさ「そんなこと言って、私は方向音痴じゃなきゃいけないんですか?」
P「あ、い、いえそういうわけじゃ!」
あずさ「……なんて、冗談ですよ?」
P「な、なんだ……あ、あはは、よかった~」
あずさ「ふふっ、それで次はどちらに?」
P「あ、えっと……あぁまたここですね。ちょっと遠いですが……」
あずさ「でも、ご近所ですから私一人で大丈夫ですよ?」
P「そうですか? いやぁ頼もしいなぁ。でも、たまには付き添いますよ?」
あずさ「私を信用してください、プロデューサーさん?」
P「あ、えぇ……それはもう。それじゃ、頑張ってきてください」
P「あぁ、そうか。あずささんの送り迎えがなくなったというのが」
P「……でもなぁ、なんか物足りないんだよな。いいことなんだけど」
P「っていかんいかん。いいことなんだしこれを機にもっといろんな仕事とってきますかね!」
P「……さて、そろそろ時間だが。うん、まあ帰りくらいはいいだろう、迎えにいくとしよう」
P「えっと、あずささんは……もう帰っちゃったかなぁ……」
P「あ、いたいた! あずささーん!」
あずさ「っ!」
P「あずささん、すみません迎えに来ちゃいました」
あずさ「……プロデューサー、さん」
P「あ、やっぱり迎えに来ちゃダメでしたか?」
あずさ「……いえ」
P「それはよかった、まあ帰りくらいは楽しましょうよ」
あずさ「……」
あずさ「……」
P「さっき気が付いたんですけど、やることが減ってて。なんでかなって思ったら昨日今日と送り迎えしてないんですよね」
あずさ「……」
P「まあ、本当はアイドルなんですから車で送迎! って普通でしょうけど、まだうちも小っちゃいのでね……あはは」
あずさ「……プロデューサーさんはやっぱり、迷わないで行ってもらった方が嬉しいですか?」
P「え? まあそれは、いくらでも楽っていうのもありますし」
あずさ「そう、ですよね……」
P「……でも、なんていうか。こうやって車でお話しながら行くのも必要かな、なんて」
あずさ「……え?」
P「あ、い、いやその……言ってしまうと、ちょっとさみしいかな、なんて。最低限自力でやってもらう分にはありがたいんですけど」
P「俺も、好きであずささんや他のアイドル達もプロデュースしてますから、やっぱり少しでも……何て言ったらいいんですかね」
P「今思うと、方向音痴だったあずささんが懐かしいですよ」
あずさ「方向音痴だった……私が懐かしい」
P「なんか変な話ですけどね、俺は迷ったあずささんを迎えに行くのもお約束って言ってたじゃないですか」
P「え、えっ? ちょ、ちょっとあずささんひょっとして泣いてます?」
あずさ「な、泣いてませんよ? 安全運転お願いしますね?」
P「あ、す、すみません……大丈夫ですか?」
あずさ「……えぇ、ちょっと」
P「……」
あずさ「……その言葉を聞けて安心しました」
P「……え?」
あずさ「この後、スケジュールは?」
P「あ、えっと事務所で少し打ち合わせを」
あずさ「……それじゃあ、その駅で下してもらえますか?」
P「え? あ、えっと」
あずさ「大丈夫ですよ。私はもう、迷わないんです。ちょっとやりたいことがあるだけなので。事務所には後で向かいますから」
P「わかりました、それじゃまた後で」
あずさ「……プロデューサーさん、ありがとう」
あずさ「でも、私は……やっぱりプロデューサーさんのためにこれを直したい」
あずさ「だから、少し旅にでますね? やっぱり、あの歌が響いたのかしら」
あずさ「……ふふっ、良く考えたらすごいラッキーよね」
あずさ「私はちゃんとお仕事をしたことになってるのに、一人旅なんて……ふふっ」
あずさ「……もしかしたら、迎えに来てくれるのかしら」
あずさ「私がいないことに気が付いて、いつもみたいに」
あずさ「嫌な顔一つしないで、ここにいたんですね、よかった。そう言っていつも迎えに来てくれる」
あずさ「……それじゃあ、待ちます。8時まで」
あずさ「……プロデューサーさん」
P「あの駅に何かあったかな、まあいいか」
P「戻りましたー」
あずさ「おかえりなさいプロデューサーさん」
P「あれ? もうお帰りになってたんですか?」
P「それは、まあ。駅で何かしてらしたんですか?」
あずさ「駅? ……あぁ、そうですね。少し見たいものがありまして」
P「なるほど、いやぁそれにしてもお帰りが早い。これなら本当に迎えはいらないですね」
あずさ「そういってもらえると~これでもうプロデューサーさんにご迷惑をかけることはないですから~」
P「いえいえそんな、迷惑だなんて」
あずさ「でも、やっぱり時間を割いてもらっていたのは本当だと思うので」
P「ま、まあ」
あずさ「その、プロデューサーさんも方向音痴な私より、今の私の方がいいですよね?」
P「え? あ……まあ、そうですね」
あずさ「……嬉しいです」
P「……あずささん」
あずさ「今日はもう終わりですか?」
P「あ、そうですね一応これで」
あずさ「わかりました、それじゃお先に失礼しますね」
バタン
P「ふぅ。……あずささん、変わったなぁ」
P「本当、迎えに行ってた頃が懐かしい」
P「おっと、7時過ぎ? もうこんな時間か。なんか適当に買って帰るか……ん?」
P「あっ、あずささん忘れ物」
P「あずささん!」
あずさ「あら?」
P「よかった、これを」
あずさ「……これは」
P「え? いや、お守りって言って持ってたじゃないですか」
あずさ「あ、あぁ! そうでした」
P「思えば、このお守りからでしたか? 迷わなくなったの」
あずさ「……」
P「そういえば、律子のアドバイスってなんだったんですか?」
あずさ「えぇと、そのことだけに集中して目的地に向かう、というお話で」
P「ほうほう、それは確かに効き目がありそうですね」
あずさ「どうしようかな、と思ったんですけどその時思いついたのがこのお守りで」
P「お守りを握りながら、ってことですね。確かにそうすれば他のことに気を取られなくて済みますもんね」
あずさ「はい、おかげさまで」
P「なかなか、普通な感じのおまもりですね。……ん? P?」
あずさ「あっ、それは、その……」
P「なんのPですかこれ? あずささん……だから、Aでもないし……」
あずさ「そ、その……プロデューサーさんの……」
P「え? お、俺ですか?」
あずさ「は、はい……迎えに来てもらってるので、やっぱり一番迷いにくくなるかなぁ、なんて」
P「あはは、それはそれは光栄です。……それじゃ、ちょっと貸してもらえませんか?」
あずさ「え? あ、どうぞ」
P「……はっ!」
P「俺の気を込めておいたんです! 迷わなくなるように!」
あずさ「……」
P「なんて、ちょっと子供っぽいですかね……お守りだから、なんて思ったんですけど……」
あずさ「……ぷっ!」
P「あっ、ちょ、ちょっと!」
あずさ「ご、ごめんなさい。でも、おかしくって……」
P「もうー……ひどいなぁ」
あずさ「ふふっ、そういうつもりじゃないですよ? でも……嬉しいです。ありがとうございます。これ、大切にしますね」
P「……はい、ぜひぜひ」
~~~
あずさ「……そう、でしたね」
P「本当に忘れてたんですか?」
あずさ「そ、その……もう迷わなくなったのでいいかなぁなんて」
P「……なるほど」
あずさ「今までお世話になりましたから。でも、もうプロデューサーさんに迷惑をかけることもないです」
あずさ「やっぱり、いつまでもこういうものに頼ってちゃダメですよね」
あずさ「だから、プロデューサーさんも気にしないで下さい」
P「……あずささん」
あずさ「はい?」
P「俺はあずささんのことを迎えに行くこと、迷惑だなんて考えたこと一度もないですよ」
あずさ「あ……えっと、それはでも私としては迷惑かな、と」
P「そうですね、いつもそういってくれます。でも、俺は嬉しいんです」
あずさ「……え?」
P「すみません、っていつも謝ってくれます。でも、最後にはありがとうございますって。そういってもらえると嬉しくて」
P「迎えにいくと、それだけ一緒にいる時間も長くて、いろんな話もできますし」
あずさ「……」
P「だから、迷惑だなんて思ってないです。むしろ今の方がなんとなくさみしい気もします」
あずさ「そういうことなら、たまにはお願いします」
P「……なんか、違うんですよね」
P「ごめんなさい、なんとなくなんで。でも、今のあずささんはなんとなく、違う」
あずさ「……」
P「今まで一生懸命迷わなくなるように努力してました。でも、実際無理でしたよね?」
P「それでも俺は構わなかったです。でも、やっぱりあずささんは頑張ってました。それで今回のお守りに」
P「それなのに……あのお守りを手放しちゃうような、たとえ俺のためだからと言ってやっと直った方向音痴」
P「そのきっかけになったお守りを……なんか、あずささんがそんな人だと、思えないんです」
あずさ「……」
P「俺の勘違いだったら、すみません」
あずさ「……私は、間違っていましたか?」
P「……え?」
あずさ「もし、プロデューサーさんの言う通り、私はプロデューサーさんのために。もう迷惑をかけないようにお守りは、大丈夫なんです」
あずさ「そう、言い切ったとしたら……私は、三浦あずさではないですか?」
P「……一つだけ、うかがわせてください」
あずさ「……はい」
あずさ「……いえ、それは。でも、やっぱりお守りは大切にしようって思います。いつそうなるかわからないので」
P「……そうですか」
あずさ「……プロデューサーさん」
P「今のが本当なら、俺は貴方をあずささんだと……認めたくない、っていうのはすこし傲慢かもしれませんけど」
あずさ「……」
P「ごめんなさい、なんだか俺も混乱してて。俺の方が、方向音痴になっちゃったみたいですね」
P「忘れてください、また明日から……」
あずさ「……迷っちゃってたのは、私の方でしたよ?」
P「え?」
あずさ「……やっぱり、私は”2号”だったみたいですね」
P「……あずささん?」
あずさ「私は、まっすぐ帰ります。でも、まっすぐ帰れてない、としたら。迎えに行ってあげないと」
P「……一体何を」
あずさ「……私は、あずさ2号なんです。もう、会うことはないでしょう」
あずさ「もしかしたら、ちょうどそんな曲が。……それじゃ失礼します」
P「……あずささん」
あずさ「私は、絶対に迷わない。……だから、もうあなたのところに迷い込むこともないですよ?」
あずさ「……私は、私だったみたい……あぁでも最後までこの想いは」
「迷ったままだった、かしらね」
P「あずささん……一体どういう……」
P「あれ? どうして俺こんなところ……あずささんが移った、ってそれは失礼だろ」
P「駅……そういえばさっきあずささんが……」
あずさ「……来ない」
あずさ「そう、来るはずなんてないわ……」
あずさ「あの私は迷う事はない。でも、私は……もう、迷い過ぎたの」
8時ちょうどの~
あずさ「あら、また……」
あずさ2号で~
あずさ「ふふっ、あずさ2号ね。できればそれに乗りたかったかな……」
あずさ「……私は私は貴方から旅立ちます」
「あずささん!!」
あずさ「……え?」
P「……どこに行くんですか? そこまで、方向音痴じゃないでしょう?」
あずさ「……プロデューサーさん」
P「……この曲は」
あずさ「……ごめんなさい、私。”2号”なんです」
P「……え?」
あずさ「方向音痴、ってわかっていてもずっとずっと直せなくて……」
あずさ「それでも迎えにきてくれるプロデューサーさんに甘えて……」
あずさ「もう、こんなことじゃいけない。迷惑なんて、とっくに通り越して……」
あずさ「わかってたんです……だから、私は……」
P「そんな、今更のことを言わないでください」
あずさ「……え?」
P「迷惑をかけたとか、今までの分を数えたらどれだけになると思ってるんですか?」
あずさ「そ、それは……」
P「だから、逃げるんですか? もう、諦めるんですか?」
あずさ「違います……私なんていなくても……私が……」
P「あずささんは、あずささんしかいません」
あずさ「……」
P「例え2号でも、あずささんに変わりはいないでしょう?」
あずさ「プロデューサー、さん……」
P「何度も何度も言ってきたじゃないですか、俺は迎えに行くことまでがお約束だって」
P「だったら……最後の最後まで、お迎えさせてくださいよ」
P「アイドルが終わるまで、ずっとずっと、迷子でいいですから。そのかわり、絶対に待っていてください」
あずさ「ぷろでゅーさーさん……」
P「……あずささん」
あずさ「ぐ、ぐすっ……プロデューサーさぁん……」
P「……おかえりなさい、あずささん」
あずさ「すみません……こんな、こんな格好で……」
P「……いいんです、これが俺の仕事ですから。今は、好きなだけ……」
あずさ「ごめんなさい……ごめんなさい……」
あずさ「……ごめんなさい、お恥ずかしいところを……」
P「だから大丈夫ですって。あ、そうだ、これ」
あずさ「……あ」
P「……あずささん、一つ聞いてもいいですか?」
P「このまま方向音痴でいいと思いますか?」
あずさ「……できれば、直したいですけど、このままでもいいかなって思いました」
P「……」
あずさ「……迎えに来てくれる人が、いますから」
P「そうですか……うん、やっぱりあずささんですね」
あずさ「……私からも、一つ聞いていいですか?」
P「えぇ、どうぞ」
あずさ「……さっきの、ずっと待っていてくれって……その」
P「え?……あ、あぁ!」
あずさ「……」
P「ち、違います! そ、そのプロポーズとかではなく迷子的な意味で! 俺ごときがそんなおこがましい!」
あずさ「……」
P「あ、あれ? 怒ってます?」
あずさ「……知りません。もういいです、一人で帰ります……」
あずさ「……また、ちゃんと言ってくれますか?」
P「え?」
あずさ「いいですよ、もう。……早く、帰りましょう?」
P「……そうですね」
あずさ「ふふっ……」
タタタ……
あずさ「プロデューサーさんの方向音痴!」
P「え? な、なんで?」
あずさ「知りません! ふふっ!」
あずさ「ずっとずっと、待ってますからね? プロデューサーさん」
完
Entry ⇒ 2012.10.31 | Category ⇒ アイマスSS | Comments (0) | Trackbacks (0)
春香「それでね、プロデューサーさんが!」 冬馬「そうなのか」
冬馬「へぇ」
春香「でもプロデューサーさんがお前なら大丈夫だって言ってくれて」
冬馬「ふーん」
春香「その一言ですっごく安心して、何とか乗り切れたんだ」
冬馬「なるほど」
春香「私って単純なんだなーって」
冬馬「別にプラス方向に働いてるなら良いんじゃねえの?」
冬馬「お前よく転んでるもんな」
春香「その時プロデューサーさんが私の腕を掴んで」
冬馬「あ、店員さんクリームソーダ1つ」
春香「私はこのチーズケーキお願いします」
冬馬「太るぜ」
春香「ちゃんと消費してます。えっと……あ、それでグイッって引き寄せられて」
冬馬「引き寄せられて」
春香「距離がすごく近くてもう……」カァー
冬馬「そりゃ大変だ」
冬馬(それもほとんどプロデューサーの話)
春香「冬馬君も何か話してよ」
冬馬「別に、特に話す事もねえな」
春香「翔太君とか北斗さんと何も無いの?」
冬馬「ああ」
春香「えー、あの2人と一緒なら絶対何かあると思ったんだけど」
冬馬「無い。一切無い。全然面白くも無い、少なくとも俺にとっては」
冬馬「……いきなりで悪いがお前プロデューサーの事好きだろ」
春香「えっ!?き、急にな、な、何言ってるの!?や、やだなー」ワタワタ
冬馬「分かりやすいやつ」
春香「そ、そういうのじゃ……」
冬馬「プロデューサーの話ばっかだし、話す時やたら生き生きしてるから丸分かりなんだよ」
春香「うぅ……ち、違うって……」
冬馬(……やっぱ好きなのか)
春香「だ、だから違うよ!」
冬馬「しかも相手はプロデューサー」
春香「あぅぅ……」
冬馬「トップアイドル目指してんのに何考えてんだお前は?馬鹿だろ」
春香「……」
春香「……」
冬馬「所詮上っ面の関係だ。信頼も愛情もあるわけねえよ」
春香「っ!」
冬馬「断言しといてやる。うまくいく確率は0%だ」
春香「そんなことないもん!!」
冬馬「うおっ」
春香「……ごめんなさい」
冬馬(この反応でもう確定だな)
春香「え?」
冬馬「俺も男だ。765プロの連中よりはプロデューサーの気持ちが分かるつもりだ」
春香「それって……」
冬馬「勘違いすんじゃねえぞ!無駄な努力してる馬鹿を見て楽しむだけだからな」
春香「……ありがとう」
冬馬「フン」
冬馬(……)
春香「うーん、結構送ってるつもりなんだけど」
冬馬「……意外と積極的なんだな」
春香「え?メールぐらい事務所の皆もしてるよ?」
冬馬「そ、そういうもんなのか……」
春香「……もしかして女の子とメールしないの?」
冬馬「ば、ば、馬鹿野郎!毎日100通ぐらいやり取りしてるっつーの!」
春香「ふーん」
冬馬「な、何だよ……てか他の連中ももしかしてプロデューサーが好きとか……?」
春香「うーん、はっきりとは言えないけどそうなんじゃないかな」
冬馬(765プロって……ファンに同情するぜ……)
冬馬(それにしても身内が全員ライバルとなると相談も出来ねぇって事か……すげえな……)
春香「あー、電話はあんまりしないかも」
冬馬「頻度は?」
春香「3日に1回ぐらい」
冬馬「十分だろうが!!お前らのプロデューサーはそんなに暇なのかよ!!」
春香「むっ、プロデューサーさんはちゃんと仕事してるよ!」
冬馬「他のアイドルも電話してると仮定したら大体1日4回お喋りしてる計算じゃねえか!」
春香「それはちょっと多いかも……」
冬馬(電話ってなんだよ……男と以外しねえだろ普通……)
春香「具体的には?」
冬馬「そりゃお前……ほらアレだよ」
春香「アレ?」
冬馬「えーっと、その、ほら、よくあるじゃん?」
春香「うん」
冬馬「だから、なんだ……うーん」
春香(冬馬君ってやっぱり恋愛経験少ないのかなぁ)
春香「ほほー!」
冬馬「お前よくお菓子とか作ってるんだろ?渡してみたら良いんじゃねえか」
春香「お菓子はよく渡してるよ?」
冬馬「ブホッ!!」
春香「ど、どうしたの?」
冬馬「い、いや……それでそのお菓子ってのはプロデューサーだけにあげてるのか?」
春香「ううん、皆にも」
冬馬「じゃあ、あいつのためだけに特別に作ったらいいと思うぜ。カードでも入れて」
春香「なるほど!プロデューサーさん専用のお菓子って事だね」
冬馬(手作りお菓子を日常的に渡してるって……カップルかよ!!)ワナワナ
冬馬「へぇ、良かったな」
春香「えへへ、頑張って作った甲斐があったよ」
冬馬「いつもは美味いって言ってくれないのか?」
春香「あっ、そう言われると毎回言ってくれてるような気も……」
冬馬「何だそりゃ……」
春香「で、でもプロデューサーさんに特別に作ったって事は多分伝わったから大丈夫!」
冬馬「ふーん」
春香「あっ、冬馬君もお菓子どうかな?作りすぎちゃったんだ」
冬馬「……じゃあ」
春香「どうぞどうぞ」
冬馬(複雑な気分だな……)
春香「ありがとう、それで男の人がされて嬉しい事って何だろ」
冬馬(って言われても、あんまり具体的なのは思い浮かばねえな……)モグモグ
春香「……」
冬馬「……フィギュアとか?」
春香「え゛」
冬馬「い、いやフィギュアあげるとかそういう意味じゃねえぞ!一緒に選びに行くとかな!」
春香「それってそういうお店に一緒に行くって事……?」
冬馬「そ、そうだ。いや、違う!一緒にワイワイ言いながら見たいとかじゃなくて買い物の一環として!……あれ?」
春香「……」
春香「落ち着いた?」
冬馬「ふぅ……とにかくデートにでも誘えば良いんじゃねえの」
春香「い、いきなりデートに!?」
冬馬「デートっつても別に公園をちょっと散歩するとか」
春香「……まあそのぐらいなら何とか」
冬馬「プロデューサーも忙しいだろうしあんまり時間かけられねえだろ」
春香「一理あるかも」
冬馬(それに公園はエロゲだと定番スポットだぜ)
春香「楽しかった!お弁当も褒めてもらえたし!」
冬馬「……手作りか?」
春香「うん」
冬馬「へ、へ、へぇー!そ、それじゃ……あ、あ、『あ~ん』とかやったのか?」
春香「そこまでは流石にまだ……」
冬馬「……」ホッ
冬馬「……」
春香「冬馬君のアドバイスのおかげだね」
冬馬「……そうか」
春香「もしかしたら成功率0%も覆しちゃったりして!」
冬馬「……そうか」
春香「……何か元気無いね、大丈夫?」
冬馬(嬉しそうなの見ると、……いや、落ち込んでるのを見るよりはマシか)ハァ
春香「!?」
冬馬「男なら誰でも喜ぶぜ」
春香「そ、そんなの嫌だよ!恥ずかしいもん!」
冬馬「別にいつもみたいにこけてパンチラしときゃ良いじゃねーか」
春香「い、いつもみたいに!?どういうこと!?」
冬馬「いや、だって……なぁ?」
春香「……」
冬馬「あっ!別に意識して見てるわけじゃねえからな!お前が撮影の時目の前でこけるのが悪いんだからな!」
春香「いやあああああああああ!!!」
冬馬「わ、悪かったって……じゃあ軽いボディタッチだ!」
冬馬「女に、それもアイドルに触られて嫌な気はしねえだろ」
春香「……そういうものなの?」
冬馬「男はそういうもんだ」
春香「いきなりベタベタしたら変じゃないかな?」
冬馬「そこはお前がごく自然な流れで」
春香「……」スッ
冬馬「おわぁ!?何しやがんだ!?」ガタッ
春香「やっぱり嫌がられそう……」
冬馬「アホか!俺にやってどうすんだよ!!いきなりやられちゃビックリするだろうが!!」ドキドキ
春香「難しいなぁ……」
冬馬(心臓止まるかと思ったじゃねえかちくしょう!!!!)
冬馬「何したんだよ」
春香「えーっと、プロデューサーさんがソファに座ってる時にもたれて」
冬馬「うぇ!?」
春香「あ!でも、そのまま話の流れで頭撫でてもらったのはラッキーかも!」
冬馬(どんな流れだよ!!!)
春香「すっごく気持ち良いし、嬉しかったなぁ。うまく言えないけど」
冬馬「……へぇ」
春香「それから後は、手の大きさを比べたり」
冬馬(まだあんのか……)
冬馬(もうお腹いっぱいだ……話聞く限りイチャイチャしてるようにしか……)
春香「でも反応薄いって事はあんまり私に魅力が無いのかな……」
冬馬「……そんなことねえよって言ってほしいのか?」
春香「そういうつもりじゃ……」
冬馬「安心しろよ、まともな男なら誰でも惹かれるレベルだと思うぜ」
冬馬「単純にプロデューサーとして感情を表に出さなかっただけだろ」
春香「えっ、そ、そうかな?」
冬馬「あくまで一般論だからな!!惹かれるってのは俺の意見じゃねえから!」
春香「弱い所……」
冬馬「あ!やらしい意味じゃねえぞ!」
春香「いや、それは分かってるよ」
冬馬「……とにかく男は女を守りたくなる。そういう生き物なんだよ」
春香「……迷惑じゃないかな?」
冬馬「大丈夫だ。お前みたいに普段絶対に弱い所見せない奴だと尚更な」
春香「……」
冬馬(ギャルゲーでもそういうシーンでキュンッってなるとは言えねえ)
冬馬(やっぱりこいつにも悩みはあったか。あいつにしか話せない悩みが……)
春香「思わずそのまま色々話しちゃって、プロデューサーさんは全部優しく聞いてくれたんだ」
冬馬(……別に俺だってそのぐらい)
春香「距離が縮まったかは分からないけど冬馬君の言う通り相談して良かった」
冬馬「距離も……縮まったんじゃねえか」
春香「そうだと良いなぁ」
冬馬「……」
冬馬「!!」
春香「相談に乗ってもらったお礼って形で」
冬馬「まだ早いだろ!!」
春香「やっぱりそうかな?」
冬馬「あ、ああ。もう少し慎重にやるべきだ」
春香「……あれ?でも最初の頃デートに誘えって……」
冬馬「よく考えたらあれは時期尚早だったんだよ!」
冬馬「ボディタッチに悩みの相談……後は一緒に飯食ったりカラオケ行くぐらいしか俺には思いつかねえよ」
春香「ずっと一緒にいる事なんて出来ないし……うちの学園祭もう終わっちゃってるからなぁ……」
冬馬「じゃあもう諦めるか?」
春香「冬馬君」
冬馬「……冗談だって」
春香「やっぱり……デートするしか」
冬馬「ま、まだだ!まだ肝心なイベントが起こってねぇ!」
春香「イベント?」
春香「そんなタイミング良く病気になるはず……」
冬馬「だからそれまで待つんだよ。忍耐だ」
春香「それじゃクリスマスに間に合わないよ……」
冬馬「っ……別に良いじゃねえか。来年でも再来年でも」
冬馬「今デートに誘っても怪しまれるだけだ。今までの努力がパーだぞ」
春香「怪しまれる……そうだよね」シュン
冬馬(……ちっ、一々凹みやがって)
バシャーン
P「!?つめたっ!誰だぁ!?」
タタタッ
P「ま、待て……うぅ、寒っ……」ガクガク
冬馬「悪いな」
冬馬「……本当、何やってんだ俺って」
冬馬「プロデューサー風邪引いたのか」
春香「数日で治っちゃったけどね」
冬馬「あいつの自宅よく知ってたな」
春香「事務所の人は皆知ってるよ?」
冬馬(765プロってやっぱりおかしいだろ……)
冬馬「へぇ……何も無かったのか?」
春香「え?」
冬馬「……だから、ガキじゃねえんだから分かるだろ?」
春香「……そ、そんなの無いよ!!無い無い!」
冬馬「だよなぁ、天海にそんな度胸ねえよな」
春香「むっ……で、でも雑炊作って食べさせてあげたもん!」
冬馬「は?」
春香「他にも身体拭いたり……ちょっと恥ずかしかったけど……」
冬馬「身体……拭いた……?」
春香「あ、って言っても上だけだよ。あとは寝るまで子守唄……とか……」ゴニョゴニョ
冬馬「……」
春香「それでプロデューサーさんからお礼がしたいって連絡が来たんだ」
冬馬「えっ……」
春香「今度のオフの日にどこか行こうって」
冬馬「……良かったな。デートじゃねえか」
春香「うん!色々アドバイス本当にありがとう!」ニコッ
冬馬(……俺も風邪ひいたら……来ないだろうな)
春香「冬馬君に好きな人が出来たら私に言ってね。お礼がしたいから」
冬馬「……そんなの出来ねえよ。俺はトップアイドルしか眼中にねぇ」
春香「恋なんてふとしたきっかけではじまっちゃうものだよ」
冬馬(……はじまってるのか終わってるのか)
冬馬「俺は……清楚な感じが良いな」
春香「ふむふむ、プロデューサーさんはどんなのが好きなんだろ」
冬馬「知らねえって……俺はあいつじゃねーんだから分かるはずないだろうが……!」
春香「あっ、……そうだね……つい……」
冬馬「……別にお前なら何着ても大丈夫だろ。もっと自信持てよ」
春香「……うん!私がんばる!」
冬馬(楽しそうにしやがって……)
冬馬「……」
冬馬「あ……アレは……」
春香「――。――」
P「―――――」
春香「――!――――――」
P「――」
冬馬「……」
冬馬(こういう時に限って何で見つけちまうんだ……)
冬馬(……天海のあんな嬉しそうな姿見た事ねえな)
冬馬「ははっ……」
冬馬「何ちょっと期待してたんだ俺は」
冬馬「最初から分かり切ってた事じゃねえか」
春香「プロデューサーさんとお買いもの――」
春香「今着てる服プロデューサーさんのプレゼント――」
春香「一緒に夜ごはん――」
春香「こうした方が暖かいって手を握ってもらって――」
冬馬(――――プロデューサー、プロデューサー、プロデューサー)
冬馬「……それで?」
春香「まだ……どうなるか分からないけど」
冬馬「どうせイブもクリスマスも仕事だろ」
春香「うぅ……そういう事言わないで」
冬馬「俺は事実を言っただけだ」
春香「でもでも!その日に手編みのマフラーだけは絶対に渡すよ」
冬馬「手編み……」
春香「うん!じゃーん!まだあんまり進んで無いけどね」ヒョイッ
冬馬「……」
春香「え?」
冬馬「アイドルとプロデューサーなんだ。恋人なんかになれるわけねーだろうが」
春香「と、冬馬君?」
冬馬「何夢見てるんだよ。ちょっと1日遊んだぐらいで舞い上がって馬鹿じゃねえの」
春香「ど、どうして急に……そんな……」
冬馬「プロデューサー、プロデューサー、プロデューサーうるせえんだよ……!」
春香「え……」
冬馬「もうこんな下らねえ事に付き合ってらんねえ……!じゃあな!!」
春香「冬馬……君……?」
冬馬「……」ハァハァ
冬馬(俺は何であいつに協力してたんだっけな)
冬馬(……)
冬馬(……)
冬馬(ああ……そうだった、俺は天海のためって事で自分を正当化してたが)
冬馬(心の奥底では……天海がフラれて……)
冬馬(そのままあわよくば俺と……とか考えてたんだっけ)
冬馬(問題無くあいつらが進展して)
冬馬(気に入らねえけど悲しむ顔は見たくないから協力して……)
冬馬(結局思い通りにならずに勝手にキレて)
冬馬(俺の行動矛盾だらけじゃねえか……)
冬馬(最後にはあいつの笑顔を奪って……最低だ)
冬馬「……」
春香「と、冬馬君、今日の撮影がんば」
冬馬「……」スッ
春香「あ……」
冬馬(何で俺は……逃げてるんだ)
冬馬(あいつの顔見て、謝る。そんな事すら出来ねえのか……!)
冬馬(こんなに臆病だったのか……)
冬馬(何が正々堂々だ……)
冬馬(結局あいつを避けて、自分を守って)
冬馬(あいつは……)
冬馬(傷つく事が怖くても……必死に逃げずに立ち向かって……)
冬馬(……クソッ!)
[Sub]ごめんなさい。
―――――――――――――――――――――――――
冬馬君の気持ちも考えず
本当にごめんなさい。
迷惑だったよね。
会うたびに恋愛の相談されたら
普通嫌だもん。
どうして気付けなかったんだろう……。
もう二度とこんなことしません。
こんな私だけど
またお話ししてほしいです。
冬馬「……何でお前が謝るんだよ。相談しろって言ったのは俺だ」
冬馬「調子に乗ってアドバイスしたのも俺だ」
冬馬「全部俺が悪いのに……」
冬馬「……馬鹿野郎」
春香「ぁ……」
冬馬「……」スー ハー
春香「……あの」
冬馬「悪かった、天海!」バッ
春香「えっ?何で冬馬君が謝るの!?」
冬馬「いきなりキレてお前に暴言吐いた事、マジで反省してる!勘弁してくれ!」
春香「そ、そんな!私がいつもいつも……」
冬馬「いや、俺が!俺なんだ!!」
春香「私のせいで!」
冬馬「俺だって!俺が100悪いんだ!」
春香「私が1000悪いんだってば!」
冬馬「何言い争ってんだ俺ら……」ハァハァ
春香「あははっ、本当そうだね……」ハァハァ
春香「!」
冬馬「トップアイドルになって結婚して引退した伝説のアイドルもいるんだ」
春香「あ、知ってるかも」
冬馬「まあ俺に否定されたぐらいであいつへの気持ちが揺らぐわけねえと思うけど」
春香「えへへっ、バレてた?」
冬馬「……とにかく、トップアイドルになれよ。トップに立って堂々と言え」
冬馬「私はこの人と結婚しますってな。そういうのカッコいいじゃねえか」
春香「け、結婚……トップ……」
冬馬「そんぐらいの気持ちでいかねえと、事務所のやつら皆狙ってるんだろ?」
春香「確かに激しい競争になりそう……」
春香「変な集団じゃないよ」
冬馬「その中でお前みたいな普通なやつがあいつをオトすには1番になるしかねえ」
春香「普通って……」
冬馬「まあ俺達ジュピターがいる限りトップアイドルになるのは無理だろうがな」
春香「……トップアイドルと結婚の関連性がよく分かんないけどそんな風に言われたらやるしかないよね」
冬馬「まあその前にクリスマスがうまくいくかどうかだな」
春香「うまくいくもん!見てよ、マフラーあれからこんなに進んだんだよ」バッ
冬馬「……家事出来るって聞いたけどお前って案外不器用」
春香「ちょっとぉ!?」
春香「うん、ありがとう」
冬馬「けりがついたら結果だけはちゃんと報告頼むぜ」
春香「残念な結果の時は慰めてね」
冬馬「ばーか」
春香「またバカって言った!バカじゃないもん!」
冬馬(心の底から……とは言えねえが頑張れよ)
おい、そのオチ…
乙
Entry ⇒ 2012.10.31 | Category ⇒ アイマスSS | Comments (0) | Trackbacks (0)
憧「コミック百合娘を読んでたらシズに見られた……」
憧「……」ペラッ
憧「……」ペラッ
憧「んふふふ」
憧(やっぱ”永水の巫女”はいいわよねー!)
憧(神代小蒔と石戸霞の二人が、雀神スコヤとその下僕に狙われて……)
憧(共に戦っているうちに愛が芽生える話……素敵よねー)
穏乃「憧ー!何読んでるのーっ?」
憧「えっ!?シズ!?」
『小蒔ちゃん……私……貴方の事が好きよ』
『霞ちゃん……嬉しい……』
穏乃「……な、なにこれっ!?女の子が抱き合ってる……っ」///
憧「」
憧「ち、違うのシズ……」
穏乃「え、えっと……!」
穏乃「……あ、憧も女の子だから!」
穏乃「そういうのに興味持ってても……おかしくないよね……ハハハ」
憧「し、シズっ……!」
穏乃「ご、ごめん憧!読書の邪魔しちゃ悪いよね、先帰るよ」
憧「ま、待ってシズ!」
憧「……」
憧(あれって完全に引いてたよね……)
憧(……)
憧(……え、それって)
憧(シズが私の事を嫌いになっちゃうってこと……?)
憧(……)
憧(嫌だ……)
憧(嫌だよそんなの……)
憧(シズに嫌われたくなんかないよっ……)
憧「……はぁ」
憧(明日からどんな顔をしてシズを会えばいいんだろ……)
憧(……シズ、私から避けるように帰ったよね……)
憧(……やっぱりおかしいのかな、女の子同士の恋愛って……)
憧(……)
憧(ううん、そんなことない!)
憧(たまたま好きになったのが同姓なだけだもん)
憧(何もおかしいことなんて無いよね)
憧(シズだってちゃんと話せば分かってくれるはず!)
憧(大丈夫だよね)
憧「あ、シズ!おはよー!」
穏乃「あ、憧っ……!?お、おはよう」
憧「おはよーって、どうしたの?」
穏乃「へっ!?な、なんでもないよ!」
憧「ふーん、そう?」
穏乃「う、うん……」
憧「……」
穏乃「……」
憧「……」
憧(す、すごい気まずいんだけど)
憧「ね、ねぇシズ」
穏乃「ご、ごめん憧!私日直なんだ!」
憧「えっ?」
穏乃「だから先急ぐね!」
憧「え、ちょっ、シズ!?」
憧「……」
憧(シズ……)
憧「……」
憧「はぁ……」
憧(結局、話す機会が無いまま放課後になっちゃった……)
憧(休み時間に話そうと思ったら、どっか行っちゃうし)
憧(ホームルームが終わったと思ったら、既にいなくなってるし)
憧(もしかしたらと思って部室に来てみたらまだ来てないし……)
憧(やっぱりシズ……あたしの事を避けてるのかな……)
憧(……)
憧「はぁ……」
憧「あれ……」
憧「コミック百合娘……なんでこんな所に」
憧(……あたし持って帰るの忘れてたっけ?)
憧(ううん、あたしはちゃんと持って帰ったし……)
憧(じゃあ誰のだろ……)
ギィイ……
憧「!?だ、誰!?」
灼「……」
憧「灼さん?」
灼「……見た?」
灼「その本」
憧「えっと……」
憧「見たって言えば……見たけど」
憧(昨日自分で買って読んだし)
灼「……そう」
灼「その本、私のだから。返して」
憧「えっ、この本灼さんのだったの?」
灼「……悪い?」
憧「いや、そうじゃなくて……灼さんも読むんだ、コミック百合娘」
憧「うん、まぁね……」
灼「へえ、意外」
憧「そう?」
灼「うん、あんまりこういうのに興味無さそうだったから」
憧「そういう灼さんこそ、あんまりこういうのは読まなそうだけど」
灼「そんなことない、私はこういう結構好き」
灼「こういうのって憧れるし」
憧「へえー」
灼「私は”少女ピンフ”とか”そのイーピンにくちづけを”とかが好きかな」
憧「うわ、結構濃いじゃんそれ」
灼「うん、真剣に恋愛してる女の子の物語だからね」
灼「それに教師と教え子が恋人になる珍しい作品でもあるし」
憧「そ、そうなんだ」
灼「憧はどうなの?」
憧「え?」
灼「どんな作品が好きなの?」
憧「あ、あたし?」
憧「”少女革命ノドカ”も好きだし、”麻雀性恋愛症候群”……”すばらきこと”とか……」
灼「”少女革命ノドカ”って……それもうとっくに終わってるやつ……」
憧「うん、昔から好きなんだよねー」
灼「ノドカが世界に革命する力を手に入れて、同姓結婚を認めさせちゃうやつだっけ」
憧「そうそう、灼さん詳しいじゃん」
灼「まぁね、私も小さい頃から読んでるから」
灼「そういう憧も結構詳しそうだね」
憧「私も中学ン時から読んでたから……」
灼「ふうん、やっぱり好きなの?穏乃の事が」
憧「ファッ!?」
灼「違うの?」
憧「ち、違うっていうか……」
憧「そ、そりゃ……シズの事は嫌いじゃないし、むしろ好きっていうか……」ゴニョゴニョ
憧「あ、灼さんこそどうなのさ!」
灼「私?」
憧「灼さんも好きな人とかいるんじゃないの?」
灼「うん、私はハルちゃんが好き」
憧「えっ、晴絵!?」
憧(というかあっさり答えたわね……)
憧「わからない……?」
灼「この気持ちが、好きなのか。それともただの憧れなのか」
憧「灼さん……」
灼「正直、この気持ちをハルちゃんに伝えるには怖い」
灼「今までの関係まで変わっちゃうんじゃないかって」
灼「私は今の関係でも十分満足してるし」
灼「それにもし、私がこういう本を読んでるってハルちゃんに知られたら……」
灼「……きっと嫌われる」
憧「……」
灼「憧……?」
憧「あたしもさ、シズに自分に気持ちを伝えて」
憧「それで関係が壊れちゃったりすると思うと……やっぱり怖いもん」
憧「……尤も、今は話す機会すらないんだけど」
灼「……?どういうこと?」
憧「実は……百合娘読んでるところをシズに見られちゃってさ……」
憧「なんか、すごい引いてたみたいで……」ハハ
憧「それ以来、上手く話せてないんだ……」
灼「そう……」
憧「灼さん……私、どうしたらいいんだろう」
憧「このままだと、シズと話せなくなるどころか」
憧「一生シズに嫌われたままになっちゃう……」
灼「……」
灼「……多分だけど」
灼「これは逆にチャンスだと思う」
憧「……え?」
憧「チャンス……?なんでよ?」
灼「憧は、お互い話せままの今の関係を続けたい?」
憧「いっ、嫌よ!そんなの!」
灼「なら、変えるしかない」
灼「百合娘を読んでる所も見られて、憧の趣味は穏乃にバレたから」
灼「これはもう正直に穏乃に話すしかないと思う」
憧「そ、それができたら苦労しないわよ!」
憧「今だって若干避けられてるのに……」
灼「呼び出しの手紙を机か下駄箱に入れておけば来るんじゃない?」
灼「穏乃は素直だから、なんだかんだで来そうだし」
憧(否定できないわ……)
憧「で、でも、何て言えばいいのよ」
灼「正直に言えばいいんじゃない?しずの事が好きですって」
憧「ていうか、なんでそこで告白する事になるのよ!」
灼「でも好きなんでしょ?穏乃の事」
憧「だ……だからって告白はさすがに……」
灼「今の穏乃は結構混乱してると思う、もしそこで誰かが穏乃を慰めて」
灼「その人が穏乃と恋人になったりしたら、どう思う?」
憧「シズに……恋人……?」
憧「嫌……嫌だよ、そんなの」
憧「あたしが……?」
憧(あたしがシズの恋人に……?)
灼「……まぁ別に、告白はしてもしなくても別にいいけど」
灼「部活の士気に影響が出るから、ちゃんとしずとの誤解は解いておいてね」
灼「じゃあ、私は帰るから」
憧「えっ、部活は?」
灼「聞いてなかったの?今日はハルちゃん用事あって部活に顔出せないから、部活はおやすみ」
灼「昨日言ったと思うんけど」
憧(そういえばそんな事も言ってたような……)
憧「あ、うん……おつかれ」
憧「……」
憧(あたしが……シズに告白……?)
憧(……できるのかな)
憧(……)
………
……
…
穏乃「みんなおはよー」
穏乃(結局、憧と顔が合わせ辛くて時間ずらしちゃった……)
穏乃(憧怒ってるよなー……)ガサゴソ
穏乃「……あれ?何か入ってる?」
穏乃「……手紙?なんだろ?」
穏乃(えっと……放課後、麻雀部部室に来てください……?)
穏乃(名前は書いてないし……誰からだろう)
穏乃(ま、どのみち部活があるからいいけど)
憧「……」
憧(……やばい、緊張してきた)
憧(シズ……来るかな?)
憧(……ううん)
憧(シズなら絶対に来る……!)
キィイ……
穏乃「……あれ?憧?」
憧「し、シズ……っ」
憧「うん……そうだけど」
穏乃「そ、そうなんだ……ハハハ」
穏乃「私、手紙に麻雀部の部室に来てって書いてあったから来たんだけど……」
穏乃「他に誰か来なかった?」
憧「……」
憧「……その手紙ね」
憧「あたしが、私が書いたの」
穏乃「へ?憧が?」
穏乃「どうして憧がこんな手紙を?何か用事があるなら直接言えばいいのに」
憧「それは……最近、シズが私を避けてるっていうか……」
憧「なかなか話す機会がなかったら……」
穏乃「あ……」
穏乃「……」
穏乃「……ごめん、憧」
憧「……なんでシズが謝るの?」
穏乃「なんだか私が避けてる感じになっちゃって……」
穏乃「本当にごめん!」
憧「シズ……」
憧「悪いのはあたし」
穏乃「憧……?」
憧「……あの時からだよね、私達がちょっと気まずくなったのって」
穏乃「あの時……?」
憧「シズが私の漫画を見ちゃったこと」
穏乃「あっ……」///
憧「……」
憧「シズ……前に言ったよね」
憧「あたしはそういうのに興味持っててもおかしくないって」
穏乃「……」
憧「百合が好きなの」
穏乃「ゆ……ゆり……?」
穏乃(ゆりってなんだろう)
憧「今まで黙っててごめんね、シズ」
穏乃「え、あっいや……別にいいけど」
穏乃「でもなんで急にそんな話を?」
憧「……」
憧「これ以上シズと気まずい関係になるのは嫌だったから……」
穏乃「えっ……?」
憧(やっばっ……めっちゃ緊張するんですけど~!!)
憧(どうしよう……!やっぱり言わない方がいいのかな?)
憧(……でも、もしシズに他の恋人ができちゃったりしたら……)
憧(ううん……いや!それだけは絶対に嫌!)
憧(言うのよあたし!がんばれっあたし!)
憧「し、しず……!」
穏乃「は、はいっ!」
――好きよ――
憧「~~~~~!!」///
穏乃「あ、憧……今なんて」
憧「だ、だから……っ……そのっ」///
憧「……好きなの!シズのことが!」///
穏乃「憧……」
憧「~~~……」///
穏乃「……うん」
穏乃「私も好きだよ!」
憧「えっ……」
憧「シズ……それ本当……?」///
穏乃「うん、憧も玄さんも宥さんも灼さんも大好きだよ!」
憧「……」
憧「えっ?」
穏乃「憧も好きだよね?みんなのこと!」
憧「……」
憧(そっか……シズはあたしの事だけが好きって訳じゃないんだ……)
憧(ばかみたい……一人で盛り上がっちゃってさ……)
憧(ほんと……情けないな……あたし)
穏乃「……憧?」
憧「あたしも好きだよ、みんなのこと」アハハ
穏乃「だよねー!やっぱり皆仲良しが一番だよ!」ハハハ
憧(……でも)
憧(なんか、シズらしいや)
憧「憧も急に変な事言うからびっくりしちゃったよー!」
憧(シズと恋人になれたら……なんて思ったけど)
憧(その必要はなさそうね)フフッ
穏乃「それよりみんな遅いなー、もう部活始まってる時間なのにー」
憧(……だって、あたしは今の関係でも十分幸せだから)
憧「……ふふ、はははっ」
穏乃「……?憧?」
憧「なんだか、無駄に緊張しちゃったね」
穏乃「へ?緊張?」
憧「あれ、シズは緊張しなかったの?」
憧「ついさっきまではお互い気まずかったのに」
穏乃「あっ……」
憧「ふふっ、でもそれも今日でおしまい!」
憧「シズ」
憧「あたしたち、これからも友達だよね?」
穏乃「……」
穏乃「ああ!憧とはずっと友達だっ!」
憧「……うん!」
憧(私はシズの事が好き)
憧(でも、あたしは今のままでいい)
憧(だって、シズと一緒にいれるだけで十分だから)
憧「……シズ」
――これからも
ずっと友達でいようね――
つづカン
. / /: :.,ィ: : : : : : : : : : : : : : : \i
/ / / i: : : : : : : : : :i: : : : : : : :.\
__i / /: : : : : : : ;ィ: :}: : : : : : : : : : :.
i 「`7 /!: : : :∠」_ ハ: i: : : : : : : : :i
=-x /// : :/ ! 「 卞}: : : : : : : : :} 雅枝「エロゲしとる所を娘に見られてしもた……」
::::i. / / ==ェx、_ i/i: : : : : : : :/
:C !::::::::::「ヾ' i: : : : :..:/
''′ |::::::::C /イ: : :/
∨::::ソ i,厶イ\ 10/31 20:00
 ̄` .!: : / \\
}: :.! )::)
/\ ノ|: .:| //
;,、  ̄ ̄ _,, < |: :.!// アカン……
| ̄ !: :|/
|∧ |: :| おかんがエロゲーしとる所を見てしもた……
ヽ_,/ ',__ |: :i
_/ ヘ .i \. !:/
》ェ≪ | \ /
.|| || 》__/ `ヽ
.|| |〃 ̄`ヾ ハ
おつです
本当すみませんっす
っす
Entry ⇒ 2012.10.31 | Category ⇒ 咲-Saki-SS | Comments (0) | Trackbacks (0)
淡「××××」
けどそれは激情的なものではなく、静かに芽生えた恋だったのは確か。
最初に麻雀部へ入って、テルに見蕩れて。
それからは、手段と目的が逆転していたんだと思う。
麻雀をやるために麻雀部に入ったのに、今はテルと会うために、会うためだけに麻雀をしてる。
私がもっと強くなれば、テルは私をもっと認めてくれると思ったし、それは事実らしかった。
いつしかそれは行きすぎて。
たったの数ヶ月で、私はテルの二番手、つまり、誰よりも強くなっていた。
それはとても嬉しかったけど、麻雀が強くなれた嬉しさなんか、欠片ほども持ち合わせていなかった。
私はただ、テルに認めてもらえたことが嬉しい。
それだけ。
テルに認めてもらうためなら、なんでもする。
麻雀の強さなんて、その道具でしかない。
本当に行き過ぎていると思うけど、そうやって考えが逆転した頃には、もう遅かった。
そして行き過ぎていたのは、どうやら私だけじゃなくて、テルもそうだったみたい。
それを知るのは、もっともっと、後のことだけどね。
別に、私達は付き合ってるわけじゃないし、まだ告白する勇気もない。
それでもお互いがお互いに対して行き過ぎてて――狂うだけの材料としては、十分だったらしい。
一番最初に狂うのは、自分でも私の方からかと思ったんだけど、実はテルの方からだった。
私は階段を歩いている時に、ちょっと調子に乗って揺れていたものだから、てっぺんの方から踊り場のところへ崩れ落ちてしまった。
あんまり高さはない癖に、体制が変だと、身体には予想よりもずっと重い負担がかかってくる。
菫「なっ……大丈夫か!?」
大丈夫――そう言おうとしたのに、その言葉が出てこなかった。
口から出す前に、私の身体が、脚に走る鈍痛を迎え入れてしまったからだ。
淡「あっ、だっ……がっ……」
そんな呻き声を上げたと思うけど、正直あんまり記憶にない。
落ちたこと、脚に走る痛み、揺れる意識。
痛みに奪われつつある思考で、これらの要素を繋ぎ合わせて骨折したという一つの現象を確認するのには、結構な時間がかかった。
昔から、骨折すると痛みが身体を支配するものと思ったのに、それに吐き気も混ざってきていた。
こいつらに集中するので精一杯で、スミレの心配には、あんまり返答できてなかったはず。
そうして、すぐに行動に移してもくれた。
菫「っ、救急車を呼んでくる! 照、お前は淡のことを……」
照「……ぃ」
菫「……照?」
スミレの言葉に、テルは反応しなかった。
それが一瞬だけ、見捨てられたように思えて。
それはこの骨折の痛みよりも、ずっと重い精神の痛みとなって具現化した。
指先が、急に寒くなった。
でも、それも一瞬のこと。
私は朧気な意識の中で、私よりも危ないテルの様子を見てしまったから。
目には涙が溜まって潤っていた、そうして、少し遠くの方を見ている。
手は震えて、歯も震えて、そのせいかカチカチと軽い音も聞こえていた。
やがて本当に寒くなったように、自分の両腕で自分の身体を抱きしめて――
照「あっ、ああぁあ!! い、ぃ、嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!!」
菫「おい、照!」
照「いやあぁああああぁ!! ××××、××××!!」
――私の知らない、誰かの名前を口にした。
菫「照!」
照「××××××××××××××××××××××××」
もう言葉が交じり合って、なんて言っているのかよく聞き取れない。
それが私の名前でないことだけはわかっている。
テルの大声を聞いて、側の教室から生徒が数名かけつけてくるのが見えた。
野次馬根性からくるそれだと思うけど、私とテルの様子を目にして、心を変えたみたい。
焦燥が見て取れる表情でスミレにしきりに何かを聞いていて、スミレも生徒たちと同じ顔で、何かを返答している。
それから、スミレはテルを抱えたまま動かないで、生徒達の方が辺りに散らばっていった。
スミレに揺さぶられるテルは、もうどこを見ているのかよくわからない。
喘息のような音を最後に、テルの声は全く聞こえなくなっていた。
私もちょうど同じ頃、意識が激痛に覆い隠される。
テルが静かになったのか、私が気絶したのか、どっちだろ――。
そうだ、私は階段から崩れ落ちて、脚を打って、骨折して。
それから、どうなったんだろう。
尭深「起きた……!」
誠子「具合悪くない!?」
セーコとタカミが、目の前に立っていた。
二人の言葉で頭が冴えて、すぐにこの場所が病院だと理解できた。
理解したら、また脚に激痛が走る。
脚に意識を置くと、ぐるぐる巻きにして固定されているのが伝わってきた。
激痛で気絶して、病院に運ばれて、一通りの処置はされたみたい。
ただ一つだけ、気になるところがある。
激痛を強引に沈めて、私は二人に質問をした。
淡「……テルとスミレは?」
この場には、名前を挙げた二人がいない。
特にテルがいないのは、何よりも不安だった。
そんな様が、私の不安を更に加速させていった。
しばらくそんな停滞が流れた後、口を開いたのはセーコの方。
誠子「……ちょっと、色々あって」
色々。
踊り場で見えた、青ざめたテルを想起した。
身体の損傷で言えば、テルは無傷で、私は重傷なのにね。
それでも自分のことよりも、テルの方がどうなっているか心配になってるよ。
でも、特別変だとは思わなかった。
それが、私の自然だから。
だから私は、自分のことを二人の視界から遠ざけるように、テルの状態を深く聞くこととした。
淡「色々って、何」
誠子「…………」
尭深「…………」
二人とも、何も答えてくれない。
私は静かに、二人はやや大げさに、室内に入ってきたスミレを凝視する。
スミレは右手の手の平で顔を覆いながら、俯いて歩いてきた。
誠子「先輩は、どうしました?」
菫「ああ、大丈夫……それよりも、淡は……」
淡「それよりも、じゃないよ!」
スミレの言葉に、反射的に口が動いてしまった。
身体がそれについてこれずに、脚の痛みはまた強くなった。
でも今は、感情の方が、その痛みよりももっと強い。
淡「テルは大丈夫なの!?」
菫「……まずはお前の身体のことからだ」
ふと見えた菫の眼は、なんだか生気を失っているように感じ取れた。
私も釣られて、それ以上突っ込んで聞く勇気を喪失してしまった。
どうやら、私の担当医みたい。
その医者は色々と難しい言葉を並べていたけれど、よくわからなかったし、理解する気もなかった。
そんな言葉は、テルの様態がどうなっているのか気になる私にとって、ただの焦らしにしかならない。
だから医者に対する受け答えも、ほとんどスミレが行なっていた。
私はただ、最短で全治三ヶ月ほどになる、ということしか記録していない。
医者がこの場所を出てから、一目散にスミレに話を聞いた。
スミレならきっと、テルがどうなってるかわかるはずだから。
淡「テルは?」
スミレは、何も答えてくれない。
セーコもタカミも、おんなじ。
淡「……ねえ」
誠子「……大丈夫、でしょうか?」
菫「多分……な。 とにかく呼んでくる」
――何が、大丈夫なの?
ねえ。
後には、気不味い雰囲気の私達三人だけ。
淡「テルに、何かあったの?」
誠子「いや……」
セーコは私から目を逸らす。
反対に、タカミの方が、私に答えを教えてくれた。
尭深「先輩は、過去に……」
淡「……テル!」
照「……淡?」
その答えを聞き終わる前に、スミレがテルを連れて戻ってきた。
自然と、意識の全てがそちらに向いてしまう。
照「脚はともかく、元気そうで安心した」
すごい、テルがいるだけで、こうも安心できるなんて。
私はその言葉だけで、脚の痛みがいくらか和らいでしまったもの。
この安堵感に、タカミが言いかけていたテルの過去が、私の意識と一緒に呑み込まれてしまった。
この時に聞いていれば、まだ良かったのかも。
これが片足だけなら、引き摺ってでもテルのいる部活に、顔を出せたんだけどね。
両足だから、仕方ないかな。
でも、別に不満はない。
テルは麻雀部を早番してまで、毎日毎日、お見舞いに来てくれるから。
今この時だけは、テルの意識が私だけに向いている。
すごい、幸せ――だった。
ちょっと忘れるだけのつもりだった、テルの発狂。
私はそのことを、テルが毎日お見舞いに来てくれることの心地よさに、思わず長いこと忘れてしまっていた。
入院してから、幾分か経った頃。
医者に聞いた話では三ヶ月が治療期間の目安だったけれど、私はそれより一ヶ月ほども早く丈夫になった。
こればかりは、今でもテルのおかげだと信じている。
でもその先に待ち受けていた未来は、とても受け入れがたいものだった。
当時の私は、ひどく喜んでいた。
その喜びもやはり、退院できるその事実からではなく、テルに退院報告をできることから来ているものだと思う。
やっぱり私は、テルと打つ麻雀が好きで、テルと色々なところ――ってほど行ってないけど、一緒に行動するのが好きだもの。
それに退院後も、テルは入院時と等しい優しさを与えてくれると、無根拠に思っていたのもある。
さっきも言ったけど。
私を待ち受ける未来は、それらを全て拒絶するどころか、また新たな傷口を創りだしてしまった。
例の喜びを引き下げたまま、私はテルを病室に迎え入れた。
もちろん、いの一番に退院できることを伝えたよ。
そうして、もう動けるようになった脚を子供らしく、そしてわざとらしくぷらぷらさせても見た。
この様子を見たテルは、今まで目にしたことのない、眩しい笑顔を贈ってくれた。
クールな顔も素敵だけど、この笑顔もよく似合っている。
でもその笑顔は、どこか遠くの方を、あるいは別領域の方を見ている。
そのまま、テルはその笑顔を言葉に包んで、プレゼントしたんだ――
照「治ってよかったね、××××」
――私の知らない、誰かに対して。
私の怪我に見向きもせず、別の方を向くための名前。
私の激痛を想起させる名前。
私の知らない名前、私のじゃない名前。
自分の思考が、よくわからなくなった。
わかりたくもないのかもしれない。
血液の色が青色に染まっていく様だけは、皮肉にも鮮明に理解できた。
照「また、あの海に行けるといいね」
テル、海って、何?
私、そんなの知らない。
テルは一体、誰に話しかけてるの?
ここに、××××はいないよ?
ここにいるのは、私、大星淡でしょ?
輝かしいその笑顔から、一筋の曇を感じたのはどうしてだろう。
照「ねえ、××××?」
テルは確かに、私の目を見て話している。
確かに、私の口から、何かの返答を待っている。
外面、だけは。
照「……大丈夫?」
ねえ、テル。
なんでテルが、そんなに弱々しい顔をするの?
弱々しいのは私なのに、今ここで泣きだしたい、錯乱したいのは私の方なのに。
治ったらしい脚の骨が、触られた炭のようにボロボロと崩れていく錯覚にも陥っていた。
こんな状態でも、私は――テルの都合を、テルの精神を優先してしまったんだ。
淡「……うん、大丈夫だよ」
作った笑顔のしわ寄せかな。
身体のどこかから、崩れた瓦礫の声が聞こえてきた。
今こうしてテルに対応しているのは、必死になって拾い集めた破片を、無理矢理くっつけた、私の模型。
そんな私じゃない私は、テルの都合を案じる一心で、知らない誰かに演じた。
その誰かが、気を緩めればすぐにでも私の身体に貼り付いてきそうで。
気持ち悪くて、吐きそうになって、頭痛も目眩もした。
耐え切った私のことを、テルは褒めてくれなかった。
褒めてくれたとしても、それは多分、私に向けられたものじゃないだろうね。
淡「ありがとね、照さん」
照「昔みたいに、照お姉ちゃんって言ってもいいよ?」
淡「……そうだね、照お姉ちゃん」
別れ際の会話。
その時になって、知らない誰かが、テルのことをそう呼んでいるのがわかった。
テルが帰ってから、すぐに過呼吸を起こしてしまった。
実際私の肺は、物理的に四分の一くらいに縮まってたんじゃないかと思う。
それは身体だけでなく、精神も同じこと。
元来の図太い性格は、今や糸よりも細いものになっていたことを、過呼吸を通じてよく理解できた。
テルは終始、不思議がることはなかった。
それはきっと、ううん、確実に、テルは私のことなんて、認識していなかったことを意味している。
一度演じた、演じてしまった、でも、誰かは知らない。
その事実は、肥大しつつ私に重くのしかかってきていた。
テルに対して、これからずっと、知らない誰かとして、かき集めた破片の集合体として、接していかなければならないのかな?
テルの中から、私は消えちゃうのかな?
一度だけ譲ってあげた私の席は、知らない誰かに乗っ取られちゃうのかな?
私はテルに認めてもらうために麻雀部に入って、一軍になって。
骨折によって麻雀ができなくなって、それでも全く暗くならずに、最後まで笑顔のまま完治を迎えたのに。
テルの瞳は確かに私を捉えていたはずなのに。
本当は、どこを見ていたの?
私を見る振りをして、その実、反対の方向でも見ていたの?
テル、テル、テル――
菫「……ぃ、淡!」
――気が付いた頃には、スミレに肩を揺さぶられていた。
顔の真下に位置する毛布には、ひどい色の染みがついていた。
そんなこと、すぐにわかるはずなのにね。
淡「……スミレ」
菫「よかった、意識が戻ったか! 悪い、そっちに夢中になって、まだ医者を呼んでいない」
ただ一言、返事をしただけなのに、スミレは何もかもを世話してくれようとしていた。
それがなんだか、さっきまでテルに受けていた仕打ちとの対比に思えて。
菫「気分が悪いんだろう、すぐ呼んでやる。 脚の痛みが再発したのか? それか、別の部分……」
淡「……テルは?」
その思考を拭い去るように、スミレの手を止めようとした私は、きっとバカなんだろうね。
自分を解体してまで、スミレから目を逸らしてまで、テルを優位にしようとしている。
こればかりは、錯乱なんて言い訳はできそうにない。
私のテルに対する愛は、間違いなく病的なもの。
その所々には、何かを察した跡が見て取れた。
テルに関することに違いないと思った私は、さっきの行動を、無意識の内により強いものにしていた。
淡「私は大丈夫」
菫「いや、お前……」
淡「ねえ、テルには何かなかったの? すれ違ったと思うけど」
菫「……テルに、また何か言われたのか」
淡「……ぃ、……」
菫「……多分、脚のことだろうな」
やっぱり、察してた。
スミレの言う"何か"が、決していい意味を内包していないことはよくわかる。
だから思わず否定しようとしたけど、そのための言葉は、喉の辺りで自我らしいものに押し返されてしまった。
テルは一度、階段で私以外の誰かを心配していたこと。
今日もまた、私に向かって、でもやっぱり、知らない誰かと話していた。
淡「……教えてよ、テルのこと」
自然と、口に出ていた言葉。
好奇心から出たものでないことを、少し安静になった私の心中は、しっかりとわかっている。
私はとことん、テルのことばかりに夢中らしい。
菫「わかった、が……一つだけ、言っておく」
淡「何?」
菫「これを聞いたら、お前は絶対にショックを受ける、だから私としては言いたくない。 それでも……」
淡「それでも、いいよ」
私の口に、淀みはなかった。
ショックなら、一度受けている。
それに、テルに受け入れられてもらうためには、まず自分が、一つの傷を受け入れなきゃね。
それからは、斜め上の遠くの方を見つめている。
私はただ、スミレの方から何か言い出してくれるのを待っていた。
菫「……××××」
始めに出てきた言葉は、心中に根強く残っている、誰かの名前。
スミレまでその名前を言うものだから、心臓が動揺してしまったのも、無理はないと思う。
菫「照の、従姉妹に当たる人間でな」
淡「……そうだったんだ」
菫「やっぱり、何回か聞いたのか」
淡「うん」
不思議と、知らない誰かの正体がわかっても、何ともなかった。
むしろ、重力が少し和らいだような気もしていた。
さっきの心臓の重さが、正体を知ったことで、少しずつ解放されつつある。
私とその誰かは、あくまで別々の人間。
そのことを、第三者からの言葉で理解できたから、なのかな。
菫「私も、写真でなら見たことがある、綺麗な金髪の、長髪の子……その子」
その誰かは、私とあまりにも境遇が似ていたのだから。
菫「照の目の前で、転落事故を起こして、下半身付随になって……」
淡「…………」
何も言うことができなかった。
けど、思うことだけはあった。
私と同じ容姿で、私と同じ事故を起こして、やはり下半身を怪我して。
唯一違うのは、私だけが、こうして平常に戻ることができた点。
運命のいたずら? 気遣い?
あるいは――手助け、なんて考えちゃう私は、きっと相当に悪い人間なのかな。
とにかく、これが故意的な何かであると、疑わずにはいられなかった。
菫「それから……照が時折狂い始めたのは、それからだ」
淡「そんなとこ、今まで見たことなかったよ?」
菫「ああ、最近は治まってた。 淡が骨折するまでは……」
淡「フラッシュバック、しちゃったんだね」
菫「……そうなるんだろう」
知らない誰かのことを、少しだけ知った。
その誰かが、私と被っていることを知った。
知ったからこそ、スミレが教えてくれたテルの過去に対して、あんまり大げさな反応はしなかった。
運命の眺めたような、そんな、俯瞰的な心持ち。
不思議。
自分の心を綺麗に取り繕っても、その中身が何であるかなんて、本人の私が一番よく気が付いている。
私はきっと、その誰かのことなんて、大して気にもしていなかったのかもしれない。
だからこそ、大げさな反応をしなかったのかもしれない。
私が知りたいのは、私がテルに認められているかどうか。
テルの中での、私の立ち位置。
自分のどこから生まれたか知らない、ちょっとだけの異常性。
やっと、本当に自覚できた。
私は少しずつ、誰かのことを聞くことにした。
糸を手繰り寄せて、先のものを引っ張るように。
淡「その子は、今どうしてるの?」
菫「その後のことは、詳しく知らないが、まだ、入院中らしい」
彼女は、今の境遇すら私と同じ。
同じ枠の中から、私だけが先に脱出しようとしているらしい。
だから、私のことを「××××」なんて呼んだんだろう。
淡「テルがね、私のことを、××××って呼んだんだ」
菫「…………」
淡「ねえ、なんでだと思う?」
その答えは、わかりきっている。
それは私だけでなく、スミレも同様らしかった。
沈黙するスミレの表情から、疑惑の念は感じ取れない。
感じ取れるとするなら、それは私に対する哀れみ、気遣いといった負の感情だけ。
もっと言えば――そうだね、禁忌、かな。
テルの本心には、私に触れさせてはならない禁忌がある。
淡「テルはさ、私じゃなくて、ずっと、××××を見ていたんだね」
それをスミレは知っていて。
淡「私は、××××の代用品なんだ」
そして私も今、気が付いてしまった。
私の喋った内容が、禁忌そのものであることを証明するのに、十分すぎる材料だ。
淡「でもね、私はテルに大して、そんなに悪い感情を抱いてないんだ」
菫「…………」
やっぱり、スミレは黙ってる。
別に、何か喋ったらいいのに。
それが正解だと教えたくないから黙ってるんだろうけど、私はもう、気が付いてるんだよ?
淡「人をどう思うかなんて、その人の勝手だもん。 それでも私は、テルに認めてもらいたい」
そしてもう一つ、気が付いたこともある。
一度開けた禁忌は、また別の扉を開けてしまった。
淡「ねえ、スミレ、私はどうすればいいのかな? もう、一生認めてもらえないのに」
菫「……淡、もうやめろ」
淡「テルが私と××××を混ぜちゃったのは、骨折しているのが私で……」
菫「言うな!」
淡「……治ってるのが××××であってほしかったから」
釣られて自分の顔に手で触れてみると、爪を伝って、手の甲に涙が流れてきた。
さっきまで、あんなに平静だったはずなのに。
泣いている感覚なんか、全然なかったのに。
淡「……そうでしょ?」
できるだけ平静に加工しようとしたけれど、絞り出した声は、ひどい濁り具合。
濁ってるし、雑音も入っているし、ちゃんと届いたかすら怪しい。
ねえ、スミレ、何か喋ってよ。
嘘でもいいから、否定してよ。
菫「…………」
あの時みたいに、私の怪我に対して、迅速に対応してよ。
でないと本当に、答えが固まっちゃうじゃん。
ねえ、スミレ。
菫「……ごめん」
あ――固まっちゃった。
脚が治ったのは××××、下半身が動かないのが大星淡。
本当は逆なのに。
一度、テルのトラウマを起こしちゃった責任なのかな。
この骨折は運命の気遣いでも、手助けでもなんでもなく、生意気でテルに擦り寄った私に対する、お仕置きなのかな。
だとしたら、重すぎるよ。
どうして、私が一番テルのことを好きな時期に、こんな仕打ちを受けなきゃいけないの?
重い、寒い、怖い――スミレ、早く私を助けてよ。
その手際の良さで、私を誘導してよ。
でないと私、自分でこの怪我を治しちゃうよ?
下手な応急処置は、より傷を深くするだけ。
そんなこと、怪我の当事者はきっと、わかってるんだよ。
でも当事者にとっては、何かしないと落ち着かないんだよね。
菫「どうしたんだ?」
淡「気持ち悪いから、ちょっと、歩きまわりたいな……」
菫「……なら、付いてく」
淡「……ありがと」
それはきっと、今の私のこと。
明日には退院できる人間が、そんなことする意味ないと思うんだけど。
スミレも、そのことは知っている。
だから余計な心配はさせないように、利口に車椅子で移動することにした。
以前の私ならきっと、大丈夫大丈夫と言いながら、軽い気分でスキップでもしていたはず。
淡「ありがとね、スミレがいて助かったよ」
菫「……いいや、私ができることなんて、これくらいしかない」
嘘つき。
私の思考を、否定してくれなかったくせに。
私を騙し続けてくれなかったくせに。
病院内だと、確かに窓のある箇所なんていくらでもあるけど、やはり天然の空気を吸える場所はここだけ。
部長で特に忙しいスミレは、テルみたいに早番するわけにはいかない。
必然、お見舞いの回数も少ないのに、それでも病院の環境に気付いて、私を気遣ってもくれてる。
屋上の空気は、季節柄ずいぶんと冷え込んでて。
ふと横を見ると、空気がスミレの長い髪を持ち上げて、目立つように靡かせているのが目に入った。
私の髪は、車椅子に預けているせいで、前髪くらいしか靡いてくれない。
淡「もうちょっと、街の方がみたいな」
菫「わかった」
途端に強くなった風に抗いながら、私達は屋上の隅に向かった。
柵の向こう側は、不思議と吸い込まれそうなほどのいい景色に見えた。
少し目を強めると、私達が普段通っている、白糸台も見える。
もう二ヶ月も行っていない。
またあそこに通って、皆と勉強をして、皆と麻雀をしたいな。
やっぱり勝てないなんて呟いて、セーコが私を態度を弄って、タカミが休憩のお茶を入れてくれて、スミレがうるさいと注意して。
でもこっちに呼んだら、やっぱりスミレも仲間に入ってきて。
そんな形式美的ないつもの光景も、もう懐かしい。
あんなじゃれ合いを、またしたい気持ちは、確かにある。
菫「なんだ、やけに風が強くなったな……身体、大丈夫か?」
淡「ちょっと、寒いかも。 タカミのお茶が飲みたいな」
菫「……それは、今日は無理だな。 また明日、部活に来たら言っておこう。 退院祝いに、ケーキでも買ってやる」
淡「いつもは注意するのに」
菫「退院祝いをしないほど、頑固な人間じゃないつもりだ」
淡「……そっか」
淡「そうだね、お願い」
振り向いて見えたスミレの背中は、なんだか暖かく感じた。
逆に、私の身体はひどく冷たい。
でもねスミレ、私が寒がったのは、風が熱を奪ったからじゃないんだよ。
私が車椅子を使ったのは、医者にそう言われたからじゃないんだよ。
外に出たのは、新鮮な空気が吸いたかったからじゃないんだよ。
寒がったのは、テルに認めてもらえない恐怖と、もう一つの別の恐怖が混ざったから。
車椅子を使ったのは、私が少しでも脚が悪いままでありたいと願ったから。
外に出たのは、応急処置をするため。
スミレ、騙してごめんなさい。
私は確かにそう理解したし、それはスミレもわかってるでしょ?
でもねスミレ、私が気付いたのは、これだけじゃないんだよ。
それと、スミレはちゃんと私の応急処置を手伝ってくれた。
だから、言いがかりをしちゃったことも謝るよ。
スミレがいないと、ちょっと、調整が効かなかったからさ。
健常な人間の席は、確かに××××のだよね。
でも、その隣の席は、××××が座っていた席は、一体誰のかな?
そこってさ――今、空席だよね。
私は本来、元気な人間だったから。
柵を乗り越えるのは、そこまで難しいことじゃなかった。
スミレがこっちに気付いて、少しの目配せをして。
そんな、焦った顔しなくてもいいよ?
私は死ぬ気なんてないもん、テルに認めてもらいたいのに、それじゃあ本末転倒ってやつ。
私は戻ってくるよ――脚を失って、ね。
最低限の準備を整えて、治った足で最初の一歩を踏み出すのは、とても楽なことだった。
一つだけ違うのは、顔がやけにべたべたするところ。
菫「……淡、淡!」
スミレの顔を見て、気が付いた。
この顔に貼り付いたものは、スミレの涙だったんだね。
スミレの言葉は、掛け声になって、側にいたセーコとタカミを反応させた。
セーコなんて目が真っ赤になってたし、タカミも袖を目から離さなかった。
スミレに至っては、私のお腹のあたりに抱きついて、全く聞き取れない呻き声をあげている。
私の目だけが、濁っていた。
寝ぼけたような、光に慣れない真っ黒い目で室内を見渡しても、テルの姿だけがどこにも見えなかった。
一通り皆が泣き終えた後、その医者に、物凄い勢いで怒られてしまった。
飛び降りた後に、予定通りスミレが医者に連絡を取ってくれて。
そうしてすぐに、私の治療が始まったらしい。
治ったばかりの脚に与えた衝撃は、生半可なものではない。
私は三ヶ月の治療期間が、今回、五ヶ月に伸びてしまった。
でも、それでいい。
だって私の脚が使えない間は、テルが私を私と認識してくれるんだもの。
五ヶ月というと、ちょうど、テルが卒業して、少しした辺りかな?
なら、タイミング的にもいいよね。
皆の声は、もう、頭に入っていなかった。
私はただただ、テルが認めてくれるのを待っているだけ。
でもさ。
一度崩れた運命は、人の手では修復できないんだね。
テルはてっきり、脚を失ったのが私で、脚が治ったのが××××であればいい、と。
そう、考えていると思ってた。
それだけの、単純な話だと思ってた。
一度席を立って、それを××××に譲ってあげた。
そうして、空いた席に私が座る。
でもね、彼女は生きていて、そして脚を失う席が、生涯の定位置と決まってる。
それはテルがどう思っているか、なんて関係ない。
私も今は、脚を失う席。
治ったはずの××××は、再び脚を失ってしまった。
そうして、同じ席、××××の席に、二人が座ってしまった。
テルが後から入室してきて。
私を、怨霊だか妖怪だかを見るような、怯えたような目で見つめて。
それだけで、私はすぐに自分の過ちに気が付いた。
照「……どうして、なんで、脚……二人、なんで……?」
聞き取れたのは、ここまで。
それからテルは、また階段の時みたいに、狂いだしてしまった。
菫「おい、照!」
テルはひどく錯乱して、あの時と同じように、震える身体を自ら抱きしめていて。
私も自分の失敗に気が付いてから、視界が朧になる。
身体の芯がどこにあるのかわからなくなって、平衡感覚が崩れて、横に倒れそうになってしまった。
スミレの次に私と近かったセーコが支えてくれたおかげで、なんとか助かった。
今なら、テルがどうして寒がったのか、よくわかる。
私も、一度体験していたから。
最愛の人が離れていくのは、身体の体温を全て奪われるに等しいことなんだよね。
私はテルの側にいれないと気が付いてから、急激に体温を奪われた。
じゃあ、テルは?
テルは今どうして、寒がってるの?
なんて、もっと前からわかってるでしょ。
テルの隣に立てないのは、テルが発狂しちゃうからじゃない、認められないからじゃない。
そんなものは二次的なものに過ぎない。
テルの最愛の人が××××で、私は彼女ではない。
テルはずっと、××××の脚が治ることを夢見ていたから。
夢の具現化で、代用品の私が壊れる様に、気が狂っているだけ。
ただ、それだけの話。
でも、ここで気を失ったらダメ。
ここで何もできなくなったら、私は今度こそ、××××に席を奪われてしまう。
空になった席を見つけたテルが正気に戻った時。
動けない人間が二人いる、××××の役が二人いることに気が付いてしまうだろう。
そしてすぐに、どっちが本物かわかっちゃうはずだ。
テルが現実を理解してしまったら、××××の脚が治らないことにも、気が付いちゃうんだもん。
夢の代用品は、必要なくなってしまう。
そうなると、私はどうなるんだろう。
テルの視界の外に、ポツンと一つだけ席を作って、そこに一生座らなくてはならないのかな。
――絶対に、嫌だ。
テルが落ち着いて、少しずつ、声が聞き取れるようになってきた。
照「なんで、脚……わかんないよ……ねえ、誰、誰……?」
淡「忘れちゃったの? 照お姉ちゃん」
ねえ、私の知らない誰か。
一度、譲ってあげたんだからさ。
淡「××××」
今度は、私にその席を譲ってね。
ずっと狂っていたテルも、呼びかけていたスミレも、何も喋らない。
静観していたセーコとタカミ、テルに静かに対応していた医者の方なんて、心臓の音一つ聞こえない。
そんな静かな室内で。
私は、私の体内の音だけをよく聞き取れていた。
また、心が崩れる音がしている。
二回目なのに既に慣れちゃったのは、おかしい話だよね。
でも、心が崩れてくれたおかげなのかな。
身体は自然と軽くなって、セーコの腕から離れた後、自分で姿勢を直すことができていた。
私は、テルの隣にいられればいい。
大星淡じゃなくて、私がいられれば、それでいい。
照「××××?」
テルも同じく姿勢を持ち直して、私の方へと歩み寄ってきた。
スミレが唖然として、こっちを見ているけど、それももう関係ない。
そうやって、もっと近づいてよ。
私を見てよ、テル――
尭深「……やめて、ください」
――なんで、止めるの?
実際テルの腕を掴んで止めたのは、医者の方だった。
スミレだって、衰弱した表情で、テルの手を握っている。
セーコもまた、私の前に腕を伸ばして、手の平をこちらに向けていた。
尭深「いい加減、目を覚ましてよ……!」
タカミが、地面の方を見つめながら、そんな大声をあげた。
大人しいタカミがこれほどの声を出すのなんて、初めて聞いたと思う。
淡「……嫌だよ」
私も同じように、声を張り上げてしまった。
意地ばっかりが先行していたんだろうね。
淡「邪魔しないでよ! ねえ、私を見てよ……」
誠子「淡!」
そんな声を一緒に、セーコの方へと引っ張られてしまう。
誠子「もう、やめようよ……」
それぞれが、それぞれに抑えられて。
「二人とも錯乱していますし、皆さんも落ち着いていない。 今日は一旦、帰ったほうがいい」
最終的に、医者の一言で、この場は強制的にお開きになってしまった。
私はずっと、知らない誰かを演じている。
全然知らない癖に、もうこうしていることも、板についてきてしまった。
こう言うとわかると思うけど、テルはあれからずっと、私が××××であることを疑ってはいない。
テルはもう、誰かの病室に行く事がなくなったらしい。
これは看護師経由で聞いたことだけどね。
突っ込んで聞いてみると、テルのことを考えて、××××が同じ病院にいるのだとわかった。
聞いた後で、テルの来る時間が一時間程度早まっていることに気が付いてしまう。
私の推測は、やはり間違っていなかったみたい。
動けない席と同様に、テルの隣の席は、生涯彼女の定位置に決められているものだった。
私が座っているのは、××××だけの席。
座っている私も、今は、大星淡じゃない。
でも、時々、わからなくなることがある。
私はどうして、心のなかではテル、テル、なんてしつこく呼んでいて。
心の中のテルは、どうして私のことを淡、淡、なんて呼ぶんだろう、と。
最初の方はスミレがよくついてきたけれど、その回数は次第に減っていった。
今では、セーコとタカミが、大体同じくらいの回数。
テルがいつ狂っても止められるように。
それが、付き添いがついた原点らしい。
でも私からみたら、それは本末転倒にしか見えなかった。
セーコもタカミも、共通して、私とテルの会話から、表情から目を逸らしているのだから。
スミレが来なくなってしまった理由も、きっとそれに関連しているはず。
そっか、私は、スミレの目の前で飛び降りちゃったから。
下手したら、スミレもテルか、私のようになっちゃったかもしれないんだ――。
淡「入っていいよ」
ノックの音に反応して、そんな返事をした。
気付けば、テルの来る時間帯。
誰かは、私と似たような調子の人間らしい。
こうやって不自然なく応答できるのだけは、唯一、幸いなことだった。
付き添いは、今日はタカミみたい。
テルはいっつも、やや駆け足で私の方へ向かってきてくれる。
淡の方には、そこまで急いでくれなかったのにね。
そうして、学校のことを中心に、とにかく色々なことを話すのがいつものこと。
たまにテルが知らない本のことを話して、あんまり読書家じゃなかった私は、これに結構苦労する。
とはいえやっぱり、テルの話を聞いているのは楽しい。
見ることができる表情だって、格段に増えている。
私の状態の話なんて、一度もしたことがない。
だってそうでしょ?
私はもう、一生脚が動かない席なんだから。
でも、それはあくまで仮初で、いつかは元通りになってしまう。
その一瞬の間、私はテルの隣にいられなくなるのだろうと考えてしまうのが、最近は苦しくて仕方がないよ。
大星淡の席では、テルの柔らかい表情も、優しい声も、全て見ることも聞くこともできない。
そんなことを、考えていたせいだろうか。
あの時聞いた、タカミの言葉が、奥底から聞こえる気がしていた。
尭深「……やめようよ、こんなこと!」
――また今日も、聞こえてしまった。
聞き取ったのは、私の耳じゃなくて、奥の方の何か。
まだ、タカミは一言しか喋ってないのに、それが騒音のように身体に響く。
そのせいか、少しずつ、身体が震えているのを自覚した。
違う、そうじゃない。
私はきっと、こんなことをしていてはいけないと、もうとっくに気が付いてる。
気が付いていない振りをしていただけ。
でも、今身体を制御しているのは私だから。
強引に抑えることは、そこまで難しいことでもなかった。
内側、だけは。
尭深「弘世先輩だって、不眠症になっちゃったんだよ……! ねえ」
知らない、知らない――その先まで、言わないで。
尭深「淡ちゃん!」
照「……え」
私の名前を、呼び起こさないで。
ずっと突き通し続けた嘘は、内側の、簡単なイレギュラーで崩れ去ってしまった。
私がちょうど、最初に崩れ落ちたのと同じように。
テルの意識が、私に集中する。
遠くを見ていて、今やっと、近くを見つめてくれたテルの瞳。
一回遠くを見つめてから、また、近くに戻っていった。
その瞳は、紛れもなく"大星淡"を見つめていた。
なのに私の中では、嬉しさよりも、喪失感の方が優っているのだから。
私はどれだけ、この席に慣れてしまっていたのかな。
照「淡……?」
違う、淡じゃない。
違う、淡じゃなくていい。
だからこそテルは、私を見てくれていたんでしょ?
誠子「お待たせ。 納得してもらうのに、ちょっと時間がかかった」
尭深「……ありがとう」
扉の奥から、セーコともう一人――すぐに、理解した。
鏡写しのような、ドッペルゲンガーのような人間が、車椅子に乗っている。
私の体温は、めまぐるしく変化していた。
そっか。
最初は、狂ってしまったテルのことを意識していただけなのに。
いつの間にか、私の方が狂うようになってしまっていたんだ。
てっきり、テルはまた錯乱してしまうと思っていたのに。
私の予想よりも遥かに平静で、狂う兆しなんか、最初にちょこっと見えた切り。
タカミはこうして、私達を元に戻そうとしてくれている。
セーコもまた、タカミに協力してくれて、私の身を案じてもくれた。
スミレは自分が精神病になってしまったことを、どうあれ自覚している。
残りの、三人。
隣の席を私に奪われた彼女は、それでも平常心を保っている様子だった。
「あの……はじめまして」
照「……××××、なんだね」
テルはやっと、現状を受け入れ始めていた。
この明確な現実を突きつけられて。
それもそっか。
テルは本来、冷静な人間だったのだから。
「うん、照おねえちゃん」
――ああ、ダメだよ。
その呼び方が、破片の集まりだった私よりも、ずっと似合っているんだもの。
現実を受け入れていないのは、もう、私だけ。
狂った人間としてのテルも、私の奪った席の隣にいたテルも、私の側にはいなくなっていた。
最善だと思って取った行動、その全ては、いたずらに傷を生むだけに終わってしまったみたい。
それは奪われるといったような人為的なものじゃない。
もっと自然現象的な、予めそうなっていることが、決まっているような。
彼女の事故も、私の事故も、全部決まっていたことだと、思ったことがある。
だから今回も、きっとそう。
関係を修復することも、介入もできない。
テル、離れないでよ――
照「……淡、ごめんなさい」
淡「……え?」
照「ごめんなさい……ごめん、ごめんね……」
――なんでテルは、私に抱きついてるんだろう。
なんで、私を優先するの?
あの子をほっといていいの?
最愛の彼女と、偽物の玩具でしかない私との区別がついたんだよ?
だったら、彼女の方に行けばいいのに。
今日私に話してくれたこと、表情、全部あの子にあげればいいのに。
「……良かった」
唯一自由な顔が観測した、彼女の言葉と表情。
それを見て、私は彼女にはなれないんだと悟ってしまった。
そりゃ、バレちゃうよね。
私はテルが離れていく様を見た上で、あんな笑顔を作ることなんてできないから。
そしてその笑顔は、私の隣に、確かにテルがいるのだと教えてくれた。
予め用意されていた、ただ一つの席。
テルがその隣にもう一個席を用意して、私を座らせてくれた理由。
どうしても、わからない。
昔の私なら、きっとわかっていたのかな?
それとも、無根拠な調子にでも乗ったりしていたかも。
運動していない私が抱きしめられるには、少し強すぎる力。
でも、その痛さが、今はとても心地良かった。
それもそのはず。
彼女はただ、普通に過ごして、唐突にこのことを知っただけだもの。
狂っていたのは、テルと私だけ。
お互いが、訳の分からない幻影を追っていただけ。
淡「テルのことは、どう思ってるの?」
「……わかんないや。 優しいお姉ちゃん、かな」
淡「そっか、私は、テルのことが好きだよ」
「……そっか」
二人きりになって、こんな簡単な会話をした。
答え方まで同じなのは、なんだかくすぐったかったけど、声には出さなかった。
この会話は、自らに釘を刺すためのものでもあった。
もし彼女がテルのことを好きだと答えたら、私はきっと、それで諦めていたと思う。
私には、その権利がないから。
「頑張ってね」
それでも彼女は、またあの時の笑顔で、私に権利を与えてくれた。
テルは席を作ってくれて、彼女はそこへのチケットを譲渡してくれている。
今まで溺れていた私は、この時ようやく助かることができたんだと思う。
でもさ。
震災は何かを巻き込まずして解決しない、それと一緒だよね。
私とテルは今でこそ元に戻れたけど、代わりに他のものを喪失しなくてはならなくなった。
スミレは睡眠欲を失ってしまったし、後に聞いた話では、しばらく重度の鬱病に陥っていたらしい。
これは100%、私が原因のことだった。
一時的な睡眠障害は慢性的になって、今でもやはり、睡眠薬は必要らしい。
正気に戻った後、馴れ馴れしい口調じゃなくて、ちゃんとした敬語でスミレに謝罪した。
土下座をしようとした時に、肩を掴まれて止められてしまったのは鮮明に記憶している。
居た堪れなくなって、罪悪感と嫌悪感が混じり合って、スミレもやっぱり何か思ったんだろうね。
それから三十分くらい、ずっと二人でわーわー泣いていたんだもん。
テルもやっぱり、精神的な問題。
テルの場合は、昔から長く根付いていて、一体化しかけていた傷を今更修復しようという話になる。
それに、杭が刺さりっぱなしの傷があれば、それを引っこ抜く必要もあった。
数年単位の長期的な精神治療になるし、大きな杭が抜けた影響で、ちょっとしたパニック障害も発症していた。
もちろんそれだけじゃないけど、でもテルの名誉のために、一つ挙げるだけに留めておく。
今は、私が常に隣にいて、テルの状態を整えるようにしている。
それが私に科せられた責任だし、もしそうでなくとも、きっと同じ行動をとっているんじゃないかな。
最後に、私。
私のは、身体的な喪失。
端的に言うとさ。
長期の歩行と、走ることが、できなくなった。
といっても、時折車椅子も使うからかな。
医者が言うには、20分も通して歩いちゃいけないらしい。
今はもう、一日3時間も歩けば良い方だった。
一生治らない傷。
後一回似たような事故を起こしたら、間違いなく下半身不随になってしまうもの。
少しタイミングがズレていたら、私はきっと、喜んでそうしただろうと思う。
今では、その思考が恐ろしいものだとわかるだけ、正常になったんだろうね。
こうして歩ける許可を出された頃には、スミレもテルも、卒業する間近だった。
だからテルと付きっきりといっても、その期間は大して長くない。
後数週間、なんて、数えられるくらいの日数すら残っていない。
そういう意味ではさ。
貴重なテルとの時間も、全て病室で、狂いながら過ごしていたわけだから。
半年間、まるごと喪失していたと言ってもいいのかな。
彼女からもらったチケットは、まだ行使していない。
このチケットは、いずれ返すつもりでいる。
もちろん嬉しいことは嬉しいんだけど、私は何度も卑怯なことをした分、今度は自力で隣に居座りたい。
でも、その種類がいくらでもあることに、最近になって気が付いた。
例えばスミレとか、友人として、テルの隣に座っているよね。
私も、そうだな、テルの隣に座れるくらい、強くなりたい。
肩がくっつくくらいの席に座るのは、それからでも遅くないと思う。
いくらか、経過した頃の話。
ちょうどキリもいいから、退院祝いと卒業祝いを一度にやることになってしまった。
日時が退院祝いとも卒業祝いともつかない半端な日だから、なってしまった、だ。
また厄介なことに、脚が妙に軋んで仕方ない日でもあった。
こんな日は、ベットの上で寝っ転がっていろ、なんて医者に言われてるけど、そんなわけにもいかない。
もちろん、あの子も呼んでるよ。
準備も整って、さあ席に座ろうとなった時。
テルの隣にスミレが座ろうとして、なんだか面白くなった。
やっぱり二人は友人なんだと、さっきの考えがまた頭に浮かんできた。
でも、そこはダメかな。
だから私は生意気にも、先輩であるスミレに注意してやる。
淡「そこ、だめ!」
菫「なんでだ?」
淡「今は、この子の席!」
そうして、私は車椅子の、私にとても似た子を指差した。
テルの隣に座るべき、私じゃない、その子に。
チケットは、もう返したよ。
"今は"なんて、自力で座る予約も付け加えながら、ね。
おわれ
面白かった
救いがあるENDで個人的に安心した
Entry ⇒ 2012.10.31 | Category ⇒ 咲-Saki-SS | Comments (1) | Trackbacks (0)
P「気づいたらやよいと同棲してた」
P「あぁ、ありがとう」
やよい「はい、召し上がれ!」
P「おぉ、今日もまたうまそうだな」
やよい「えへへ、頑張って作っちゃいました!」
P「助かるよ、本当にやよいはいい子、というかいい嫁さんになるな」
やよい「そ、そんな! ま、まだそういうのは……は、早いっていうか……」
P「……」
P(でももうこれ、新婚みたいになってるんだが)
P(そもそもどうしてこうなったんだっけか……)
P「おぉ、やよいおはよう……とと」
やよい「だ、大丈夫ですかプロデューサー!?」
P「いや、ちょっとしためまいだ……」
春香「プロデューサーさん、どうかしたんですか?」
P「なんだろうな、疲れかもしれん」
美希「ハニー大丈夫? ミキのところで休んでもいいよ?」
P「いや、もうすぐ出なきゃならんし……ぐっ……」
やよい「わわっ! とりあえず座ってください!」
P「すまんな……」
春香「ちゃんとご飯とか、食べてるんですか?」
P「最近は抜くことの方がおおいかもしれん」
やよい「そんな! ダメですよ、ご飯はちゃんと食べないと!」
P「そうは思うんだが、忙しいとどうしても、食べてもカップめんって感じでな」
美希「それならミキがハニーにご飯を作ってあげるの!」
美希「ハニーさえよかったら、ハニーの家に行って作ってあげてもいいよっ!」
春香「なっ! だ、だったら私も!」
P「ど、どういうことだ……」
美希「ちょっと春香! ミキが先に言ったんだよっ!」
春香「私の方が料理は得意だもん!」
P「だったら両方交互にってわけにはいかないのか?」
美希「……それでもいいけど」
美希(ハニーとの時間が、半分になっちゃうの……)
美希(それにきっと、春香のことだからごめん曜日間違えちゃったー! とか言ってくるに決まってるの!)
春香「まあ、確かに……」
春香(でも、プロデューサーさんにアピールする絶好のチャンスが……)
春香(ミキのことだからプロデューサーさんの家に上がったら、何するかわからないし……)
美希「やっぱりそれはなんていうか……」
春香「そ、そう。なんかごっちゃになっちゃいそうで……プロデューサーさんはどっちがいいですか!」
P「えぇ……でも悪いだろ?」
春香「それくらいなんてことないです!」
美希「ミキも! ハニーのためならなんてことないの!」
P「でもなぁ……お前らは特に忙しいし、なかなかな。確かにありがたい話だから暇なやつに来てもらえるなら願ったりかなったりなんだが」
律子「何をやってるんですかまた」
P「あぁ、律子おはよう。いや、春香たちがありがたいことに飯を食わせてくれるって話でな」
律子「はぁ……アイドルに食べさせてもらうなんて、キャバクラにでも通ってるんですか?」
美希「えっ!? は、ハニーそれ本当!?」
P「そんなわけないだろう……違うんだ、実は……」
律子「なるほど、そういうことだったんですね」
P「まあ、誰かに来てもらっても申し訳ないことに変わりはないんだが」
律子「そうですね、でもまあ嬉しいじゃないですか」
P「そうだな、それじゃせっかくだし誰かに頼むとしようか」
やよい「は、はいっ!」
やよい「私も、プロデューサーのために何かできないかって思ったんですけど、お料理とか家のことなら!」
春香「なっ! ……でも、確かに」
美希「うん、やよいなら……安心なの」
P「あ、えっと……いいのか?」
やよい「はい! その、家のことをやってからになっちゃいますけど!」
P「もうそれは全然、ついでで構わないからな。それに、面倒くさくなったらいつでもやめていい」
やよい「はい!」
P「ってことなんだが、春香と美希もそれでいいのか?」
春香「は、はい」
美希「わかったの」
春香(やよい相手に家事はリスクが高すぎる……もうすこし別の案を)
美希(違うところで頑張るしかないの! 待っててねハニー!)
律子「……まあくれぐれも変なことにはならないようにお願いしますよ」
やよい「こんばんは! えっと……」
P「あぁ、いいぞ。散らかってるけど勘弁してくれ」
やよい「あ、は、はい! 失礼します!」
P「あんまりかしこまらなくていいぞ? くつろげって言っても難しいかもしれんが」
やよい「うわぁ……なんか、すごいですね」
P「そうかそうか」
やよい「あ、えっと一応作ってきました!」
P「おっ! ありがたいね。どれどれ……」
やよい「その、もやしですけど……」
P「うんうん、全然ありがたいよ。というか後で考えたらきっと野菜不足だったみたいだ」
やよい「そうなんですか~、でも確かに栄養のバランスは大切ですから!」
P「そうだな、じゃ早速いただきます」
やよい「……ど、どうですか?」
P「うん! 流石やよいだな。おいしいよ」
P「こんなものが食える奥さんは幸せだろうなぁ」
やよい「えっ!? お、奥さんですか!?」
P「あはは、まあまだまだ先の話だろうけどな」
やよい「あ、う……」
P「ふぅ、ごちそうさまでした。いや、久しぶりに飯という飯を食べたな」
やよい「もう、ちゃんと食べないとだめですよ?」
P「そうだな、これを機にできるだけちゃんと食べるようにするよ」
やよい「……その、また持ってきますから」
P「本当か? いいんだぞ無理しなくても」
やよい「無理なんてしてません! その、おいしいって言ってもらえたらすっごく嬉しいんで!」
P「そうか、うん。それならまた、お願いするよ」
やよい「は、はい!」
P「それじゃ、今日はもう遅いし。送るよ」
P「いやいや俺のセリフだ。ありがとうな」
やよい「はい! それじゃ! ……プロデューサー?」
P「ん?」
やよい「ちゃんと元気になってくださいね!」
P「……あぁ」
「はい、たーっち! いぇい!!」
P「今日も来てくれたのか」
やよい「はい!」
P「あ、そうだ。一応だな、お礼にとこれ」
やよい「わぁ! お肉と野菜と……こ、こんなにいいんですか!」
P「あぁ、もちろん。弟たちもさみしいだろうに、俺がとっちゃって。やよいも食材もな」
やよい「そ、そんなこと! でも、これ喜ぶと思います! あ、そうだ! よかったらこれで何か作りましょうか?」
P「え? いやいや悪いよ、全部持って帰ってくれていいんだぞ?」
P「……そういうことなら、ご馳走になるか」
やよい「はい、できました!」
P「流石手際がいいな、うわぁうまそう……」
やよい「どうぞ!」
P「それじゃ、いただきます。……うん、やっぱりうまいな」
やよい「ありがとうございます!」
P「ホント、これは毎日来てほしいって感じだ」
やよい「え、そ、そんな……」
P「いやいや、本気にしなくていいからな? それくらいおいしいっていうのもあるし、やっぱりいいもんだよな」
やよい「え?」
P「家で料理を作ってもらう、っていうのがさ。俺も年的に結婚とか考えた方がいいんだろうけどなぁ」
やよい「……プロデューサー、結婚しちゃうんですか?」
P「あはは、言ってるだけさ。俺みたいな仕事人間誰も引き取ってくれないさ。それこそ、やよいくらいのもんで」
やよい「……」
やよい「あ、はい……」
P「さてと、そろそろだな」
やよい「そ、そのプロデューサー!」
P「ん?」
やよい「次のお休み、朝から来てもいいですか?」
P「え? どうしてだ?」
やよい「その、なんていうか、もっとプロデューサーのために頑張りたいって思ったんです!」
P「それはありがたいけど……家はいいのか?」
やよい「長介もかすみも、最近は自分で頑張ってくれてるんです。ずっとあのままじゃかわいそうだけど、きっと大丈夫です!」
P「……そうか」
やよい「プロデューサーが嫌なら、私は……」
P「いやいや、嫌なわけはないんだ。それじゃ、お願いできるか?」
やよい「は、はい!!」
P「すまん、今の今まで寝てたんだ……」
やよい「いえ、いいんです! ついでにやっちゃいましょう!」
P「……ホント、すまないな。何から何まで」
やよい「いえ! 慣れてますから!」
P「俺の部屋が、部屋じゃないみたいだ……洗濯から全部やってもらって……」
やよい「喜んでもらえたら嬉しいです!」
P「そりゃもう、やよい様様って感じだよ。ありがとな」
やよい「えへへ……あ、お昼作りますね!」
P「あぁ。……なんか、すごい贅沢なオフだな」
やよい「できましたよー!」
P「へぇ、そういうことか」
やよい「はい! だから私も一緒になって……」
P「なるほどな。……あ、もうこんな時間か」
P「だな。どうする? 帰るなら送るけど」
やよい「大丈夫です! その、夕飯まで食べてくるって言っておいたので!」
P「……大丈夫なのか?」
やよい「長介も張り切っちゃって、留守は任せろ!なんて。だからいいんです!」
P「まあ、そういうことならいいんだけどな」
やよい「それじゃ、作っちゃいますね! あ、お風呂入れておきましたからどうぞ!」
P「なんといつの間に……」
やよい「あ、勝手にすみません!」
P「いやいや、もうこちらこそすみませんホント。それじゃ、甘えてしまおうか」
P「ふぅ……極楽極楽、って俺はいくつだ」
P「それにしても、至れり尽くせりといいますか。こんなの、どこのリゾートホテルでもないサービスだな」
P「さてと、上がるか……」
P「いや、もうなんて言ったらいいか。一生分の運を使ってしまったんじゃないかって感じだな」
やよい「そ、そんな!」
P「それじゃ、いただきます。……」
やよい「……どうですか?」
P「……これ以上ないくらいおいしいよ、やよい」
やよい「……えへへ、よかったです」
P「なんていうか、俺は幸せものだよ。一日中プロデュースしてるアイドルに世話してもらって」
やよい「私も嬉しいです! プロデューサーに喜んでもらえて、それに元気になったみたいで!」
P「もうそれはそれは、今ならダッシュで富士山を駆け上れる気がするさ」
やよい「あはは! あ、そろそろ……」
P「あぁ、そうだな。よし、送るよ」
やよい「……プロデューサー」
P「ん? どうした、やよい?」
やよい「……泊めてもらえませんか?」
やよい「その、せっかくお風呂に入ったのに……」
P「あ……いや、それくらいいいって。男だからそういうの気にしないっていうか」
やよい「だ、ダメですよ! せっかく良くなったのに、私のせいで……」
P「……だからって泊まるって……それに家はどうするんだ」
やよい「多分もう寝ちゃってると思います……その、長介には言っておいたので。一日中、プロデューサーの家に行くって」
P「でもなぁ……」
やよい「私一人で帰るのはちょっと怖い、ですし……」
P「それはもちろんダメだ、が……」
やよい「……プロデューサー」
P「……今日だけ、ならまあ。それ以降はあいつらも心配するだろうし」
やよい「ホントですか?」
P「あぁ、いいぞ」
やよい「ありがとうございます!」
P「……」
P「あぁ、そうか。着替えも何もないのか……」
やよい「……はい」
P「同じの履くのもあれだけど……俺のを貸すっていうのもな……ちょっと買ってくるか」
やよい「だ、大丈夫です!」
P「あ、そうか……やよいが心配してくれた意味がなくなるな」
やよい「……その、一日くらいなら大丈夫ですから!」
P「……でも、気持ち悪いだろ?」
やよい「……」
P「でも、俺のも同じようなもんだしな」
やよい「その……プロデューサーのでも、大丈夫です……」
P「……マジ?」
やよい「……はい!」
P「……わかった」
P「とはいいつつ奥底に眠っていた新品のを。でも……やっぱりでかすぎないか」
P「こんなのしかないから、好きにしてくれ。そのまま持って帰って捨てるなりしてくれていいから」
やよい「で、でも……」
P「いいんだ、安物だし」
やよい「……それじゃ、お風呂お借りします」
P「あぁ」
P「……何緊張してるの俺」
P「流石にこの年で独身には辛い状況、ってわけですかそうですか」
P「……情けない」
やよい「ありがとうございました~」
P「それはよかった……っと、ドライヤーがあったかな……おぉ、危ない危ない」
やよい「……その、プロデューサー」
P「ん? なんだ?」
やよい「やっぱり、迷惑でしたか……?」
やよい「……でも」
P「まあ、俺が心配してるのはこんなところに泊まってることが知れたらうんぬんと、やよいの兄弟のこと」
P「やよいが俺のことを気遣う必要はないから、それは安心していいぞ」
やよい「……はい、ありがとうございます」
P「さてと」
やよい「あ、あのやっぱり……」
P「いいっていいって、俺はそっちで」
やよい「大丈夫です! だから、こっちで……」
P「……でも」
やよい「……」
P「……わかった」
P「それじゃ、消すぞ」
やよい「は、はい」
やよい「……プロデューサー?」
P「……」
やよい「……私、嬉しかったんです」
やよい「兄弟のために何かするのは当たり前だったけど、他の人にすることってあんまりなくて」
やよい「おいしいって言ってくれたり、褒めてくれるのがすっごく嬉しくて」
やよい「……もっともっとプロデューサーのためにできること、したいなって」
やよい「だから、わがまま言っちゃいました……ごめんなさい」
やよい「……それじゃ、おやすみなさい」
P「……やよい」
P「あぁ、おはよう。こういう時は遅れて起きて朝食できてますよ! ってパターンなんだろうけど」
やよい「え?」
P「いや、なんでもない。あれだったら別に朝はいいぞ? というかこのまま事務所の行くのはまずいよな」
やよい「ダメなんですか?」
P「まあそりゃ、不自然だろ……律子なんかにばれたら……って他のメンバーでもダメか」
やよい「?」
P「それはともかく、朝は俺が作ろう!」
やよい「え、ホントですか!」
P「あぁ、料理ができないわけじゃないからな! 楽しみにしててくれ」
やよい「おいしかったです! プロデューサー、お料理上手なんですね!」
P「あはは、お世辞でも嬉しいな。やよいさんには負けますけどね」
やよい「そ、そんなことないです!」
P「さて、そろそろ……じゃあやよい、先に行ってくれるか?」
やよい「あ、わかりました! それじゃまた事務所で!」
P「……夢のような一日だったな」
P「……でも、この静かな部屋もまた恋しい。なんてそんなわけないですけど」
P「独り言言ってる場合じゃないな、そろそろ行かないと」
P「おはようございます……あれ? やよいは?」
律子「あ、おはようございます。やよいなら今日お仕事休みになったので、帰りましたよ」
P「あ、そうかそうか。それはちょうどよかった」
律子「え、なんて?」
P「あ、いやこっちの話だ」
律子「? ……まさか、やよいと何かしてるんじゃないですよね?」
P「バカな事言わないでくれ、シャレにならん」
律子「シャレにならないから釘を刺してるんです。ま、そこまでだとは思ってませんけど」
P「信用ないなぁ……ま、心に刻んでおきますよ、っとそれじゃ俺も仕事にかかりますか」
P「さて、仕事も終わったことだし帰りますかね」
P「おぉやよい。……今日は休みになったんじゃなかったか?」
やよい「あ、はい。だから家に行って、言ってきたんです」
P「何を?」
やよい「……その」
P「ん?」
やよい「これからはプロデューサーのおうちで暮らすって!」
P「……え?」
P「ちょっと待とう、やよい。それは一体どういう」
やよい「……プロデューサー、昨日起きてたんですよね」
P「……あ」
やよい「聞かれちゃってたなら、仕方ないです。でも、私本当にうれしかったんです」
やよい「だから、もっともっとプロデューサーと……」
やよい「ダメ、ですか?」
やよい「全部、やりますから! お願いします!」
P「……兄弟はどうするんだ」
やよい「……長介が、頑張ってくれるって」
P「……なんでまた」
やよい「……実は、喧嘩してるんです。反抗期、みたいで」
P「あぁ……」
やよい「だから、私が帰ってもしゃべらないし……かすみとかには何もしないんですけど」
P「まあ、年頃だもんなぁ」
やよい「だからこの前も……ごめんなさい」
P「あぁ、それも理由の一つだったわけか。……でもなぁ」
やよい「長介の機嫌が直るまででもいいです! ……長介はご飯があれば自分で作れますし、みんなはきっと大丈夫です」
やよい「もしものことがあったら、ってかすみにもプロデューサーの家、教えてありますから」
P「……本当に、長介が治ったら家に帰るんだな?」
やよい「はい!」
やよい「ありがとうございます!!」
P「というところから同棲生活が始まったわけだが」
P「なんだかんだで2週間目」
P「人間慣れてしまうと、怖いもので。……もしかしたらやよいが長介のことを忘れてるんじゃないかと思うほど」
P「それも、やよいはどんどんリアルな嫁さんポジションが似合う存在になりつつあるし」
P「……この先どうなるのやら」
P(すっかりうちのキッチンはやよいの縄張りというか、後片付けもさまになってるよな……)
やよい「……どうかしましたか?」
P「えっ? あ、い、いや。ちょっと考え事をな……」
やよい「考え事、ですか?」
P「あぁ」
P(俺が思ってたよりずっとしっかりしてて、それでいて幼さの残る可愛らしさ)
P「……なんでもない」
やよい「? 変なプロデューサー」
P(それでいて毎日誠心誠意込めて、ここまでやってもらったらさ。例えロリコンじゃなくても……)
P「……好きになるだろ」
やよい「え? 何ですか?」
P「あ、いや、独り言!」
P(やよいがどう思ってるか確証もない。けれど、善意でここまでやってくれてる、とも思いづらい……)
P(こういうときに経験不足が仇になるか。……なんて自虐してる場合じゃない。それより今気掛かりなのは……)
やよい「本当、今日のプロデューサー変ですよ?」
P「あ、うん。……ほら、一緒に暮らして結構経っただろ?」
やよい「……そうですね。すごく迷惑かけちゃって」
P「いやいや、そういう意味じゃない。これだけ長くここにいたってことは、やよいの家も」
やよい「……」
P「やよいはわがままだけでこんなことすると思ってないから俺もこうして一緒に暮らしてた」
P「でも、そろそろちゃんと話をしておいた方がいいと思ってな」
やよい「……たまに、帰ったりはしてました」
P「そうだったのか。それを聞いて少し安心したよ」
P(基本事務所に残って一緒に帰っていたが、やはり気になってたのか仕事の合間を見つけて様子を見に行ってたんだろう)
やよい「……はい」
P「……そろそろ話して欲しい。きっと、ただの喧嘩じゃないんだろ?」
やよい「……すごい私の勝手な話になっちゃうんです」
P「そうか」
やよい「それでも聞いてくれますか?」
P「あぁ、もちろん」
やよい「……それじゃ、これ洗っちゃいますね。プロデューサー、お風呂入って来て下さい」
P「わかった」
やよい「今日はもやし祭りだよー!」
かすみ「やったー!」
長介「……また?」
やよい「またって長介! 贅沢言うなら食べなくていいよ!」
長介「なんだよ俺ばっかり」
やよい「だってみんなは文句言わずに食べてるでしょ」
長介「自分は好きな事してるくせにさ……」
やよい「なっ!」
かすみ「あっ、それはちょっと……」
やよい「確かにそうだけど、違うでしょ! みんなにもっとおいしいものを食べさせてあげようって……」
長介「いつまでたっても食べられないじゃんか! それがこんなのだったらいらないよ!!」
やよい「あっ! 長介!」
やよい「……最近、ピリピリしてる気がする。少しくらい、おいしいもの食べさせてあげたいけど……」
長介「……」
やよい「確かに、今はまだ余裕がないけど、きっと! 少しずつお金も入るから!」
長介「……うん」
やよい「……それじゃ、食べよ?」
長介「その、さ。俺もやよい姉ちゃんが頑張ってるのは知ってる」
やよい「……うん」
長介「なのに、なんで? それって仕事がないってことだろ?」
やよい「それは……仕方ないんだよ! みんな一生懸命頑張って……」
長介「こんなに頑張ってるのに……きっとそのプロデューサーが悪いんじゃ……」
やよい「えっ……」
長介「もっとやよい姉ちゃんのために頑張ってくれるようなプロデューサーに変えてもら」
パシン
長介「っ……」
やよい「それ以上、プロデューサーのことを悪く言わないでっ!!!」
やよい「あっ……」
やよい(どうしよう……流石に叩いちゃダメだったよね……)
やよい(でも、プロデューサーは悪くない……私が、私がしっかりしてないから……ぐすっ)
やよい(ううん、これから頑張ればいいの! よし! ……でも、あの様子だと家に戻るのは)
やよい(プロデューサーは、おいしいって言ってくれるのに……)
やよい(長介のバカ……)
やよい「わぁ! お肉と野菜と……こ、こんなにいいんですか!」
やよい(プロデューサー、ありがとうございます! これを持って帰れば、きっと長介も……)
やよい「ただいま~」
かすみ「あ、おかえり!」
やよい「……長介は?」
やよい「……これ! お肉と野菜! 今日は贅沢にお肉入りのもやし祭りだよ!」
かすみ「え! ホント! ちょうすけー!!!」
長介「……」
「「「いただきまーす!!」」」
かすみ「おいしーい!!」
やよい「よかった~ ……長介、食べないの?」
長介「……この肉、どうしたんだよ」
やよい「え? そ、そのお給料日で!」
長介「こんなに……もらえるはずない。それに今日はいつもより遅かった」
やよい「……プロデューサーから分けてもらったの」
長介「……」
やよい「ね、プロデューサーは私のためにこんなに頑張ってくれてるの。だからもう少し」
長介「こんな、仕事がとれないからって肉で……」
やよい「ちょうすけ――」
やよい「……違う」
長介「俺のこと殴ってまでかばうんだ……そうだ、プロデューサーのことが好きなんだろ」
やよい「……やめて」
長介「そうやって楽しんでるのは姉ちゃんだけじゃないか。ねぇ!」
かすみ「ちょ、長介ダメだよ……お姉ちゃんのおかげで食べられてるんだよ?」
長介「……その気になれば俺だってこれくらい」
やよい「……だったら長介がやってよ」
長介「え?」
やよい「もう勝手にして!!!!」
バタン
長介「……」
かすみ「あ、お姉ちゃん……」
――
P「なるほど……」
やよい「私が、悪かったんです……長介を叩いちゃったから……」
P「……」
やよい「ごめんなさい、せっかくプロデューサーからもらったのに……」
やよい「私のわがままで迷惑かけちゃって……う、うぅ……」
P「……やよいだけのせいじゃないさ。でも、そうだな、よし」
やよい「プロデューサー……?」
P「明日、やよいの家に行こう」
やよい「え?」
P「俺もついていく、ちゃんと話をしよう」
やよい「……でも」
P「こういうのは誰かが入った方が話が進みやすいんだ。それに、俺も相当お世話になったからこれくらいはな」
やよい「……すみません、プロデューサー」
P「いいんだ、でもよく話してくれたな」
やよい「はい……」
P「大丈夫」
やよい「……はい!」
やよい「ただいま……」
かすみ「お姉ちゃん……おかえり」
やよい「かすみ、ごめんね?」
かすみ「ううん、大丈夫」
やよい「……今日は、お客さん連れてきたの」
P「こんばんは。やよいのプロデューサーだ、かすみちゃんかな? よろしくね」
かすみ「あ……お肉の人」
やよい「こ、こらかすみ!」
P「あはは、いいじゃないか。肉の人で十分。これは思ったよりなんとかなるかもな」
やよい「あ、あはは……すみません」
P「どうも、肉の人ことプロデューサーです」
長介「……ふん」
やよい「長介……」
P「それじゃ、長介君と呼んだ方がいいかな」
長介「……別に」
P「……それじゃ、やよい」
やよい「あ、はい。……その、長介」
長介「……なんだよ」
やよい「ごめんなさい。まず、叩いちゃったこと」
長介「……」
やよい「それだけじゃなくて私も、やっぱり悪いところあったな……って」
やよい「だから、もう仲直りしよう?」
長介「……」
やよい「長介……?」
P「ん? 俺?」
長介「……ずっと姉ちゃんと一緒だったんだろ?」
P「……まあな」
長介「……本当は殴りたいくらいだけど、許してやる」
P「……」
やよい「ちょ、長介!?」
長介「姉ちゃんは頑張ってるのに……」
P「……長介、君」
長介「……」
P「むしろ、俺を殴ってくれてもいい」
長介「え?」
やよい「プロデューサー?」
P「年頃だもんな、いろんな葛藤があるだろう。心のもやもやが」
P「なんていうか、言葉にするのが難しいんだよな。恥ずかしいっていうか」
P「俺はやよいのプロデューサーとして、できることをやってるつもりだし、やよいもそれに応えてくれてる」
P「長介君は俺といることでやよいがダメになってる。そう思ってるんだろうけど、それは違う」
P「ちゃんとしたタイミングさえ合えばやよいはきっと光るって俺も信じてる。それは長介君もそうだろ?」
長介「……」
P「それにさ、俺がたとえやよいが売れなくても見捨てる気なんてない」
P「あ、でもそれはそれで困るのか。見た感じ、お姉ちゃんが大好きって感じだもんな」
長介「なっ!」
P「よし、やっとしゃべってくれたな」
長介「……」
P「でも、ちゃんと言葉にしないと伝わらないぞ? 今は何言ってんだこのおっさん、って思うかもしれないけどさ」
P「いつか後悔する。家族ならなおさら、言いたいことを言い合えるけど、その逆言っちゃいけないことを言っても平気だったり」
P「そんなまま生きていくの、辛いだろう? だから、何かしたらちゃんと言わないとな。長介君だって、やよいのこと応援してるんだろう?」
長介「俺は……・」
やよい「長介……」
やよい「何?」
長介「ごめん、俺……ひどいこといって……」
やよい「……ううん、私こそ」
長介「でも、俺応援してるから。……だから、絶対」
やよい「……うん!」
長介「それと……プロデューサー、さん」
P「ん?」
長介「やよい姉ちゃんのこと、よろしくお願いします」
P「……あぁ、任せておけ!」
やよい「えへへ、これで元に戻ったかな……」
かすみ「よかったー! これでお姉ちゃん戻ってくるの?」
やよい「あ……そ、そう、だね」
P「……」
長介「……ちょっと、プロデューサーさん」
長介「あの、ごめんなさい。俺、結構ひどいこと言っちゃってて」
P「あぁ、それはいいぞ。言いたいこと言い合ってぶつかりあうのは、男同士の特権だからな」
長介「あ、う、うん」
P「よかったらタメ口でいいぞ? なんならそうだな、兄ちゃんとかでも!」
長介「え……あ、それじゃ、プロデューサーの兄ちゃん」
P「よし」
長介「……それで、ちょっと聞きたいんだけどさ」
P「ん、なんだ?」
長介「兄ちゃん、やよい姉ちゃんのこと好きなの?」
P「……はい?」
長介「いや、だってさ。普通こんな長く泊めたりするの嫌じゃないか?」
P「あー……た、確かにそうだが、ほら! やよいが全部家事とかやってくれ……あ、いや」
長介「……」
P「ち、違うぞ! 断じてそれだけが理由じゃない! な、信じてくれ!」
P「だから、何もしてないって!」
長介「そういえば兄ちゃん、とか呼ばせたし……」
P「それも偶然だって! なんならおっさんでも肉の人でもいいから!」
長介「……わかった」
P「はぁ、焦らせないでくれよ……」
長介「でも、やよい姉ちゃんのこと、大切に思ってるのはわかった」
P「……あぁ、それは本当だ」
長介「……よし」
やよい「できましたー! 今日はまた、お肉入りのもやし祭りですよー!」
P「おっ! 流石はやよいだな!」
やよい「皆いっぱい食べてくださいねー! これからもみんな仲良く頑張りましょー!!」
P「これにて一件落着、だな!」
長介「えと、ちょっといい?」
長介「……その、やよい姉ちゃんはいいの?」
やよい「え?」
長介「今まで兄ちゃん、プロデューサーの家に居たのに」
やよい「あ、それは……」
長介「なんていうか、兄ちゃんも姉ちゃんがいて助かったみたいだし」
P「ば、馬鹿! 余計な事を……」
やよい「……それで?」
長介「やよい姉ちゃんさえよかったら……またあっちで暮らせば?」
やよい「……え?」
P「長介……?」
長介「か、勘違いするなよ! 別に認めたわけじゃないからな! でも、姉ちゃんだってほら」
やよい「え?」
長介「兄ちゃんと暮らせなくなるってわかったらすごくがっかりし「わわわわわー!!」
P「え?」
長介「それじゃあ、いいの?」
やよい「それは……う、うん」
P「……」
長介「俺はその、いろいろ教えてもらった方が、仕事も増えるかなって思っただけで。だったら一緒に居た方がさ」
長介「嫌なら、別に。でも、うちのことは俺がやるから心配しなくていいぞ」
やよい「長介……」
長介「そのかわり! 今度はちゃんと食べるから、肉! 持ってこいよ!」
P「……あぁ、腹いっぱい食わせてやるさ」
やよい「本当にいいの、長介? 浩二の世話とか、大丈夫?」
長介「俺だっていつまでもガキじゃないんだから。姉ちゃんがいない2週間誰が面倒みてたと思ってるんだよ」
かすみ「え、それは私が「と、とにかく!」
長介「そっちで話合って決めればいいだろ」
やよい「……」
P「うむ……」
P「……」
やよい「……」
P「その、よかったな。仲直りできて」
やよい「はい、ありがとうございます……プロデューサーのおかげで」
P「いやいや、やっぱりやよいの頑張りあってこそだ」
やよい「い、いえ……」
P「……」
やよい「ぷ、プロデューサーは!」
P「ん?」
やよい「私と、暮らしてもいいんですか……?」
P「……」
P「……問題ないけど、問題があるっていうか」
やよい「問題、ですか?」
P「俺は構わないんだ。でも、やっぱりそれはアイドルとプロデューサーとしてどうなのか、っていう……」
P「……ごめんな、うまくいえなくて」
やよい「それじゃ、プロデューサーは私と暮らしたい、ですか?」
P「やよい……?」
やよい「答えてください……」
P「……」
P(やよいも、こんな目をするんだなと改めて気づかされた)
P(まっすぐで、いつものかわいらしさとは裏腹に真剣な。そんな顔されたら)
P「……俺だって、嫌じゃない。むしろ、来て欲しい」
P「もう一度、うちに来てくれるか? やよい」
やよい「は、はい! よろしくお願いします!!」
P(でも、俺たち)
P(お互いの気持ちは知らないんだよな……)
P「これなら同棲って言われない。……なんてうまい話にはならんよな」
P(かくしてやよいとの同棲生活が改めてスタートしたわけだが)
P(家族の了解済み、とは言え。俺たちがなんのために同棲しているのか……)
P(アイドル以上、コイビト未満……ってとこか?)
やよい「プロデューサー?」
P「あ、あぁ」
やよい「……えへへ」
P「どうしたんだ、急に」
やよい「……やっぱり、ここがおちつくなぁって」
P「そんな、1か月もいなかったのにか? 時間だけなら家の方が長いだろうに」
やよい「そうですけど、なんていうか……」
P「うん、でも確かに俺も落ち着く」
やよい「……プロデューサー」
P(”プロデューサー”、か)
P「ん……あぁ、朝か。おはようやよい」
やよい「……」
P「どうした?」
やよい「お願いがあるんですけど……」
P「おぉ、なんだ言ってみろ」
やよい「そ、その……今日は一緒に事務所に行きませんか?」
P「……ん?」
やよい「だ、ダメ、ですか……?」
P「どうしてか、理由を聞いてもいいか?」
やよい「せっかく一緒に暮らしてるのに、別々に家を出るっていうのが……ちょっと」
P「まあ、わからなくもないが……やはり怪しまれる恐れが」
やよい「……そうですよね」
P「……でもまあ今日だけならいいぞ」
やよい「ほ、ホントですか!?」
やよい「あ、は、はい」
P「よし、それじゃあ行くか」
やよい「あ、あの……」
P「ん?」
やよい「……いえ! 行きましょう!」
P「おはようございます」
やよい「おはようございます!」
律子「あら、珍しく同時に到着ですか」
P「あ、あはは! 偶然会っちゃいまして!」
やよい「……」
春香「おはようございます! プロデューサーさん! やよいもおはよう!」
やよい「あ、春香さんおはようございます!」
P「え? そ、それはだってほら! 春香と美希とやよいのグループなんだ、誰かと一緒に居たって変じゃないだろ?」
春香「あ、そういえば結構前にやよいにご飯作ってもらうって言うの、どうだったんですか?」
P「ど、どうっていうか……今も続いてるというか……」
春香「え、えぇ!? そ、そんな……やよい意外とすごいね……」
やよい「え、えへへ……ありがとうございます」
春香「私も負けないように頑張らなくちゃー……って、もしかして二人はそういう関係になってたり?」
P「なっ!? ど、どういう意味だそれ!」
春香「冗談ですって! やよいに限ってそんなこと。ましてやプロデューサーさんが手を出すなんてことはないと思いますし」
律子「ちょっと春香? 変な事言わないでよ少しでも噂にされたら面倒なんだから」
春香「あ、あはは。ちょっとした雑談ですって。でもいいなぁ、私もプロデューサーさんの家に行きたいです!」
やよい「……」
P「は、はは、まあそのうちな」
律子「プロデューサーもです、くれぐれも気を付けてくださいね?」
律子「え?」
やよい「私は……あの……う、うぅ……」
P「ど、どうしたやよい? 具合が悪いなら、こっちに」
やよい「……」
P「どうした、急に」
やよい「私、変なんです……」
P「え?」
やよい「……プロデューサー」
P「……なんだ?」
やよい「みんなに、話したら……ダメですか?」
P「……やよい?」
やよい「私……なんていうか……」
やよい「今プロデューサーの家にいるのが、偶然だとか思いたくないんです」
やよい「ごめんなさい、わがままですよね……わかってるんです。でも」
P「うん、やよいの気持ちはわかるよ。俺だって、偶然だなんて思ってない」
P「でも、今言ったからと言ってどうにかなるもんじゃない。それどころか一緒に住めなくなるかもしれない」
P「……苦しいかもしれないけど、もう少し我慢してくれるか?」
やよい「はい……すみません」
P「……」
P「やよいは俺が好きか?」
やよい「え?」
やよい「……あ」
P「……やよい」
やよい「……好き、です。プロデューサーのことが好きです。大好きです!!」
やよい「プロデューサー……」
P「俺もだ。ダメプロデューサーかもしれないけど、やっぱり好きになってた」
やよい「ぷろ、でゅー……」
P「なんで今まで言わなかったんだろうな。俺たち、こんなに近くにいたのに」
やよい「あっ、うっ、ぐすっ……」
P「やよい? どうした?」
やよい「あ、い、いえ……わかんない、ですっ……なんか、涙が……あぅ……」
P「……いいぞ、今は泣いてくれ」
やよい「う、うわぁ、うわああああん!!」
P「落ち着いたか」
やよい「は、はいっ……」
P「……でも、確かめられてよかった。そうとわかったら、俺もやることが決まったから」
やよい(私、自分で元気元気って頑張ってました)
やよい(でも、実はすっごく弱くって。迷惑ばっかりかけて)
やよい(私なんて、って思いながらでも頑張るぞ!って)
やよい(そうやって応援してくれたの、プロデューサーでした)
やよい(だから、私もプロデューサーに恩返しがしたかったから、お料理を作りに行ったんです)
やよい(でも、おいしいおいしいって喜んでくれるプロデューサーの顔を、声を聞いてるとどんどん心があったかくなって)
やよい(もっともっと聞きたい、もっともっと喜んでもらいたいって! 思ったんです!)
やよい(気が付いたら、泊まらせてもらってて。やっぱりプロデューサーは優しくて、私の弱いところを隠してくれたんです)
やよい(そうじゃなかったら今頃、長介とも仲良くなれてなかったと思うし、ありがとうございます)
やよい(でも、気が付いたら。プロデューサーが近くにいないと、不安になって。すごく、変な嫌な気持ちだった)
やよい(プロデューサーの家でまた暮らせるって思った時、すっごく嬉しかった!)
やよい(そして、プロデューサーに聞かれたとき、やっとわかったんです。私、プロデューサーのこと……)
やよい(えへへ、今頃わかるなんて私、やっぱり。……ううん、プロデューサーがいるから大丈夫)
やよい(これからも元気いっぱいで頑張りますから、よろしくお願いします! プロデューサー!)
P(それは、仲直りと同じだ)
P(いいたくても、相手が。それを理由に、言い訳に、自分から言おうとしない)
P(もし言って拒否されたら? 悪い方向に考え出してしまうともう止まらない)
P(なんて、格好つけて言ってみても、どこにでもあるような話か。うん、ただ俺はやよいに気持ちを伝えたかったそれだけ)
P(もちろんこのまま結婚! なんて馬鹿な真似はしないし、公表もしないさ)
P(だから、それまでの基盤づくりだ。もうやよいの言葉を聞いたときから決めたんだ)
P(俺がやよいを幸せにしてみせる、そのためにはまずトップアイドルにしてあげなければいけない)
P(しかもだ、同じグループのメンバーに影響が出ない程度に……あれ? そんなこと俺、できるのか?)
P(……とにかく、やよいとの生活は続けるが、それなりの覚悟を持って挑むってことだ)
P(やよいにもらったものは、数えきれない。それを返すために、俺は一生働いてみせるさ)
P(まずは、その一歩だ!)
P「それじゃ、やよい」
やよい「あ、はい!!」
「「ハイターッチ! いぇい!!」」 終わり
だから機会があれば続き書こうと思ってるこのままだとグダりそうだし一旦ね
メンバーに知られて軽い修羅場展開とか、新しい同棲生活とか
とりあえずここまで長々とお付き合い&支援ありがとう 乗っ取りだったけど楽しかった
Entry ⇒ 2012.10.30 | Category ⇒ アイマスSS | Comments (0) | Trackbacks (0)
照「咲のお誕生日会に呼ばれたい」
照 「だから、咲のお誕生日会にお呼ばれしたい」
淡 「妹さんだっけ? 長野の」
照 「そう。とても可愛い」ムフー
菫 「……いや、呼ばれるわけがないだろう」
照 「何故」キョトン
菫 「普段から『私に妹はいない』なんて言ってる姉だぞ? そんなのを誕生日に呼ぶヤツがいるか」
照 「遠回しな愛情表現で咲をやきもきさせる作戦」フンスッ
淡 「なるほどー。テルーは策士だねー!」
照 「それほどでもない」ドヤッ
菫 「……」ハァ
菫 「照。たとえ話をしよう」
照 「?」
菫 「お前に好きな人がいたとする」
照 「咲のこと?」
菫 「その人が『照のことなんて知りません』と言ったとする」
照 「!?」ガーン
照 「咲に嫌われた人生なんて価値が無い。もうダメ、死ぬしかない」ドヨン
淡 「ちょ、テルー! これたとえ話、たとえ話だから!」
菫 「そんな相手を誕生日会に誘おうと思うか?」
照 「無理、絶対無理。もっと嫌われそうで……」
菫 「…それが、今のお前の妹の状況だよ」
照 「!」
菫 「お前の作戦とやらは知らんが、すこし妹さんを遠ざけすぎだ。
そんなじゃ嫌われていると勘違いされても仕方ないな」
照 「…うぅ」ションボリ
淡 「……スミレー、なんとかならないの? テルーが可哀そうだよー」
菫 「…まあ、直接妹さんのところに行けば良いんじゃないか? 招待されてなくとm」
照 「菫は何も分かってない」ガバッ
菫 「うおっ!? 急に顔を上げるなッ!」
照 「招待状を貰ってこそのお誕生日会。招待状無しで遊びに行くなんて趣がない」キッ
菫 「趣なんて気にするのか、お前が……」
淡 「なるほどなるほどー」
菫 「……」
菫 「…淡。先日、お前の誕生日会をこの部室で行ったな」
淡 「? うん、すごく楽しかったよー!」
菫 「瑞原プロがサプライズゲストとして来てくれたことを覚えているか?」
照 「!」
淡 「うんうん! びっくりしたけど、とっても嬉しかった!」
照 「……サプライズゲスト」
菫 「そうか。招待状はいいのか?」
照 「……たまには、菫の案を採用するのも良い」
菫 「ん。分かった」
淡 (さすがだね、スミレー。テルーのコントロールはばっちりって感じ?)ヒソヒソ
菫 (まあ、もう3年の付き合いだからな。あいつの考えることは大体分かるさ)ヒソヒソ
淡 (アハハ、まるで夫婦だ)ヒソヒソ
菫 (……先輩を茶化すんじゃない)ヒソヒソ
照 「それじゃ、今から長野に行ってくるから。今日の部活は休むね」
菫 「ん、そうか。頑張ってな」
ガチャ バタン
菫 「……」
菫 「ちょっと待てぇッッ!!」
淡 「言ってたねー」
菫 「あの超ド級の方向オンチが一人で長野へ!? 行けるわけがないだろ!」
淡 「前言撤回、全然コントロール出来てなかったねー」ケラケラ
菫 「亦野! 亦野っ!」
亦野「サー! いかがなさいました!」
菫 「照は今どこに?」
亦野「サー! 宮永上官は正門を抜け、駅に向かって……」
菫 「! 駅の方向が分かっていたのか、アイツは!?」
淡 「あはは、ひどい言いぐさだねー」
亦野「…向かっていましたが、途中焼き芋屋のトラックを発見、そのトラックを追従しています」
亦野「白糸台部室より西南に500mの地点であります、サー!」
亦野「サー、サンキューサー!」
菫 「淡、私は照を追う。今日の部活は……そうだな、渋谷の指示に従うように」
淡 「はーい」
菫 「それじゃあ。 …まったく、アイツは……」ブツブツ
ガチャ バタン
渋谷「……? 淡ちゃん、今弘世先輩が出て行ったけど…何かあったの?」
淡 「あっ、タカミー! えっとねー、またテルーのことだよ!」
渋谷「そっか、宮永先輩か。 仲良いね、あの二人」
淡 「まったくもって!」
渋谷「…そういえば、宮永先輩に麻雀部宛てでこんなのが届いてたんだけど……」
淡 「?」
亦野「『宮永咲・お誕生日会 御招待状』……」
淡 「……どうしよー!」ケラケラ
【長野】
照 「やっと長野に着いた」
菫 「まったく…方向感覚ゼロのくせにうろうろするから迷子になるんだぞ、お前は……」
照 「長野の空気……」クンクンクンクン
照 「咲の匂いがする!!」キラキラ
菫 「人の話を聞いてるのか、お前は」ポコン
照 「ちゃんと聞いてる。菫も咲の匂いをかぎたいんだよね」
菫 「…はぁ……」
照 「でも、菫が来てくれて助かった。菫がいなかったら、ひょっとすると迷子になって咲の誕生日に間に合わなかったかもしれない」
菫 「……ふん」
菫 「妹さんの誕生日は明日だろう? いくらなんでも迷子でそこまで遅くなるということは……」
菫 (…函館行の新幹線に乗ろうとしていたコイツならあり得るか……)
照 「咲と一緒に寝る。当然」フンッ
菫 「…サプライズは?」
照 「……」
照 「…と、とりあえず、家の前に着いてから考える。うん、そうしよう」
菫 「分かった。じゃ、妹さんの家まで案内してくれ」
照 「お任せあれ!」
菫 「ふふ、冗談だよ。方向オンチのお前が道案内なんて出来るわけ……」
照 「クンクンクン…… …!」
照 「こっちの方が咲の匂いが強い! こっち!!」トコトコ
菫 「……冗談のつもりだったのだが」
菫 「表札に『宮永』……まさか、本当に到着するとはな」
照 「咲が関わることならざっとこんなもの」ドヤァッ
菫 「すごいな、照は」
菫 (……軽く引いてしまうが)
照 「…ん!」ズイッ
菫 「うん? どうした、頭突き出して」
照 「……ん。ほら」
菫 「…あー、なるほど」
ナデナデ
照 「……ふふふ」
菫 「まったく…これで良いか?」
照 「もうちょっと。私、褒められれば褒められるほど伸びるタイプだから」
菫 「はいはい…。 で、結局どうするんだ?」ナデナデ
菫 「お前なあ……」
久 (遅くなっちゃったなー…もうみんな、誕生日会の準備始めちゃってるかしら)
久 (…あら、あれは……)
菫 「やめろ照! インターホンを舐めまわすのはやめないか!」
照 「咲の触れたインターホンと一体化することで名案が思い付くかも」ペロペロ
菫 「うるさい馬鹿っ!」
久 (咲のお姉さんと白糸台の部長さん?)
久 (……なんだか面白そうじゃない!)ワクワク
菫 「コンクリートに頬ずりするのはやめろぉ!」
久 「ちょっといいかしら?」
菫 「!」
久 「白糸台の部長さんよね、アナタ。それとそっちの……」
照 「咲の足の匂いがする……」ポワーン
久 「……宮永照さん?」
菫 「すまない、ちょっと頭が残念なヤツで」
久 「アハハ……。もしかして、咲の誕生日会に?」
菫 「ああ。実は……」
久 「なるほど、サプライズゲストで……」
久 (招待状のこと、知らないのかしら? ……まあ、面白そうだから黙っておくけど)
菫 「そのつもりだったのだが、今日どこで一晩過ごすかを決めていなくてな」
久 「…なんだったらウチに泊る?」
菫 「……は? いや、だがそんな迷惑を……」
久 「いいっていいって! 私一人暮らしだから!」
久 (それにこんな楽しそうなこと、見逃せないわ!)キランッ
久 (まこ達には悪いけど……メールしておけばいいかな?)
・ ・ ・
ブブブブブ……
優希「染谷先輩、携帯鳴ってるじぇー?」
まこ「…部長からじゃ。えーと…?」
『今日の準備、行けなくなっちゃった! 悪いけど後はヨロシク、まこ!』
まこ「……相変わらず自由なヤツじゃねえ」
京太郎「部長来ないんですか? この辺りの飾りとか、どうしようか相談しようと思ってたんですけど」
優希「お前の判断に任せるじぇ! テキトーにやっちゃえばいいのだ!」
京太郎「そんなアバウトな……」
まこ「よっしゃあ! いっちょ頑張っちゃるけえ!」
優希「犬、お前も頑張るんだじぇ!」
京太郎「おう! …って、お前も働けっ!」ペチン
咲 「……」ハァ
和 「…咲さん? どうかしましたか?」
咲 「和ちゃん。 えっと……」
和 「お姉さんのことですか?」
咲 「……うん」
咲 「うん。 でも、来てくれるかどうか心配で……」
和 「きっと来てくれますよ」
咲 「でもでも、もし来てくれなかったら……私、私っ」ウルウル
和 「……失礼します、咲さん」
ギュッ
咲 「! の、和ちゃんっ……」
和 「大丈夫です。お姉さんだって、きっと咲さんと仲直りしたいはずですよ」
和 「私は……その。 ……明るい咲さんの方が、す…好きなので……」ゴニョゴニョ
咲 「…うん、そうだね。和ちゃんの言う通りだよ」
咲 「ちょっと元気出たかも。ありがとう、和ちゃん!」ニコッ
和 「!」キュン
和 「……いえ、どういたしまして。さ、誕生日会の準備を続けましょう」
咲 「うん!」
和 (……それにしても、さっきから外が騒がしいですね。誰かが表で騒いでいるような……)
・ ・ ・
菫 「照! いい加減にしろ! 早く行くぞ!」グイグイ
照 「あと3時間。久しぶりの咲成分、たっぷり補給していかないと」グググ
菫 「ドアノブから何が補給できるっていうんだ、このシスコン!」グイーッ
久 「アナタも大変ねー……」シミジミ
久 「さ、入って入ってー」
菫 「お邪魔します。 …いつまで拗ねてるんだ、照」
照 「……」ムスー
菫 「…まだ根に持ってるのか」
照 「菫のせいで私の必須咲成分、サキニウムとサキ酸が不足している」
照 「菫とはもう口をきかない。私は怒ってる」プンスコ
久 「チャンピオンって素はこんなだったのねー」カラカラ
菫 「まったく……」
菫 「照」
照 「聞こえない。菫の声が聞こえた気がするけど気のせい」
照 「……」ツンッ
菫 「外が騒がしいのを不審に思って、妹さんが家から出てきていたかもしれない」
久 「騒がしかったのは主にアナタだけどね」
菫 「玄関の戸を開けた妹さんの目に写るのは、ドアノブにむしゃぶりつく姉」
菫 「…これは嫌われても仕方ないよなぁ」
照 「! ……それは困る」
菫 「そうなってはマズいと思ったからこそ、私は無理矢理お前を連れてきたんだ」
照 「そうだったのか……」
照 「ありがとう、菫。危うく咲に嫌われるところだった」
久 「なんていうか…扱いに慣れてるわねぇ」
久 「うん。適当にくつろいでねー、ちょっと散らかってるけども」
菫 「本当にありがとう。 …ええっと……」
久 「あ、名前覚えてなかったかしら。竹井久、久でいいわよ」
菫 「ああ、ありがとう久。迷惑をかける」
久 「いいのよ、私も天下の白糸台の部長と話してみたかったし」ニコ
菫 「む…そ、そうか……」
久 「ねえ。私も、菫って呼んでいい? アナタのこと」
菫 「ああ、構わないが」
久 「ありがと。 …菫」
菫 「! ……ああ、いや、こちらこs」
照 「久、お腹すいた」
菫 「……」ハァ
菫 「…少しは遠慮というものを知れ、お前は……」
ハムッ モグモグ ングッ
照 「…とても美味しい。久は料理が上手い」
久 「あら、チャンピオンに褒められるなんて光栄ね」
菫 「悪いな、夕飯までいただくなんて」
久 「大丈夫よー、どうせ残り物だから。じゃんじゃん食べちゃって!」
照 「ん。おかわり」ズイッ
菫 「お前は……」
・ ・ ・
久 「ウチ、お風呂だけは広いのよねー」
菫 「3人同時に入ってなお余裕があるとは…」
照 「……」ブクブクブク
菫 「照。湯船でぶくぶくするのは行儀が悪いぞ」
菫 「ずるい? 何のことだ?」
照 「……」ブクブク
久 「…ははーん、なるほど」ニヤ
久 「確かに、菫のスタイルは同姓から見てもそそるものがあるわよねえ」
菫 「久? 何を言って……」
久 「えいっ!」ドンッ
菫 「うおっ!?」
バシャーン
久 「ねえ照。照が言うズルいって……これのことじゃない?」ムニッ
菫 「ひゃうっ!?」
照 「うん。私はこんなぺったんなのに、菫はズルい」
久 「…ねえ。提案があるんだけれど」
照 「…オーケー、大体分かった」
菫 「お、おい。久、何のつもりだ……。照、お前も何だその手は…」
菫 「馬鹿、バカ、やめろ、近づくな……。やめて、いやだ……イヤ……」
イヤーーーーッ
・ ・ ・
久 「いやー、いいお湯だったわ!」ツヤツヤ
照 「気持ち良かった」ツヤツヤ
菫 「……お前ら、覚えておけよ……」
久 「あら、覚えててもいいのかしら?」
菫 「…やっぱり忘れろっ!」
菫 「…なんで布団が人数分あるんだ……」
照 「寝床が違うと寝つきが悪くなる。ゆっくり眠れそうにない」
菫 「羊でも数えてろ」
久 「電気消すわよー?」
パチン
照 「ぐう」
菫 「早っ!」
久 「寝つきが良いっていいわねー」
菫 「ん、どうした」
久 「あは、良かった。起きてたんだ」
久 「…咲のことなんだけれど」
菫 「……」
久 「あの子、明日の誕生日を本当に楽しみにしてたの」
菫 「…照とのことか」
久 「そ。お姉ちゃんと絶対に仲直りするんだ、って。姉想いよねー」
久 「……咲の気持ち。大切にしてあげてね?」
菫 「…ああ、分かった。照にも伝えておくよ」
久 「んー。その必要はないかも、ね」
菫 「? どういう意味だ?」
久 「ふふ、別にー?」
照 「…ぐー」
久 「朝よー! さっ、起きて起きて!」
菫 「ん……あー、おはよう……」
照 「うーん……さ、咲ぃ……」
・ ・ ・
久 「さ、これからのことを決めていきましょうか」
照 「咲とちゅっちゅする。以上」
菫 「異議あり!」
照 「どうして。作戦はシンプルな方が良いはず。これ以上シンプルなプランはない」
久 「あはは……そうねぇ」
久 「照。アナタ、恋愛映画とかって観たことあるかしら?」
照 「? 当然。特に姉×妹系のジャンルが好き」
菫 「あるのか、そんなジャンルが…」
照 「そう。恋仲になるまでを見守るのがとてもドキドキする。まさに見せ場」
照 「……あっ」
久 「そ。そういうことよ」
久 「大抵のことはシンプルな方が良いけれど、恋愛っていうのは複雑な方が好まれるのよ」
照 「なるほど……奥が深い」
菫 (……久も慣れてきたな、照の扱いに)
久 「それじゃ、改めてこれからのプランについて」
久 「まず咲のお誕生日会の時間ね。13時から18時までを予定しているわ」
久 「場が盛り上がったりしたら、もう少し延長したりもするかもね」
菫 「特に気にするようなこともなさそうだな。 問題は我々がいつ入っていくか、ということだが」
久 「プレゼントを渡すときに、っていうのはどうかしら? 大体17時頃になると思うのだけれど」
菫 「プレゼント?」
久 「そ。タイミングを見計らって咲を部屋の外に連れ出して、その間にみんなからのプレゼントを準備して……」
久 「部屋の電気を消しておいて、咲が帰ってきたところで電気を点ける! プレゼントどんっ!」
久 「…っていうのを予定しているの」
菫 「なるほど。そしてそこに照を……」
久 「ええ。良いサプライズになるんじゃないかな、って」
菫 「良いアイデアだと思う。照、お前はどうだ?」
照 「咲といちゃいちゃ出来るならなんでもいいよ」
菫 「……。 …それで行こう」
久 「OK。じゃ、タイミングが来たらメールするから。それまで待機ってことでヨロシクね!」
照 「任せて。どんとこい」フンスッ
菫 「……不安だ」ハァ
菫 「……」
照 「菫、もうちょっとそっちに退いて。よく見えない」モゾモゾ
菫 「…なあ照。確かに待機とは言われたが……」
照 「ああ、やっぱり咲は可愛いなあ……」ウットリ
菫 「こんなところに隠れる必要はあったのか? 庭の垣根の中って……」
照 「中の様子はしっかりチェックしておかないと」
菫 「確かにそうだが…痛たたっ! 枝が、枝が刺さるっ!」
照 「静かに。気付かれたらすべてが台無し」
菫 (……正論なんだが、何でだろうな。コイツに言われるとイラッとくるのは)
・ ・ ・
衣 「咲ー! お呼ばれして来たぞー!」
咲 「あ、衣ちゃん。 いらっしゃい」
衣 「だーかーら! 衣は年上だ! 『ちゃん』ではなく!」
衣 「お前は風越の! …えー……」
池田「池田! 池田華菜ちゃんだし!」
衣 「すまない、凡俗どもの名前を覚えることには疎くてな」
池田「よっしゃ、その喧嘩買ったし!」ニャー
衣 「ん? 塵芥が衣に挑むつもりか?」ゴッ
まこ「はいはい、そこまでじゃ。せっかくの誕生日会を乱闘祭りにする気かいのう?」
福路「そうよ、華菜。私たちは一応、風越の代表として来てるんだから」
池田「キャプテンがそう言うなら……」
純 「衣も。今日は清澄の大将をお祝いに来たんだろ?」
衣 「…そうだな。せっかくの誕生祝いに喧騒で水を差すのも不粋だ」
池田「この喧嘩は次に持越しだし!」
衣 「ふん、いつでも来るが良い!」
久 「そうね。楽しそうで何よりだわ」
透華「……」ムスー
久 「あら、龍門渕さんは不機嫌そうね」
透華「…私が全然目立てていませんわ」
加治木「今日の主役は宮永さんだからな。仕方ないだろうさ」
透華「それはそうですけど……」
一 「大丈夫だよ、透華。ボクの視界には透華しか映ってないからさ」
透華「な、何を言ってますの! 貴方は……! ……もう」
久 「あら、自分にはそういう相手がいないような言いぐさね」クス
加治木「はは、あそこまで深い関係の相手はいないさ」
久 「そっか。じゃ、私が立候補してm」
モモ「先輩! 危ないっす!」
加治木「モモ!?」
モモ「ふー…危機一髪っすね。先輩、今この女に狙われてたっすよ!」
久 「狙うだなんて、そんな人聞きが悪い」
モモ「あ、ダメっす! 先輩に近づいちゃダメっすよ! 先輩は私のものっすから!」
加治木「お、おいモモ……」
モモ「さ、先輩! あっちの料理見に行きましょ、ほらほらっ!」グイーッ
加治木「こら、引っ張るんじゃない……。 それじゃ久、また後で」
久 「ふふ。うん、また後で」
京太郎「自分の胸に手を当ててよーく考えてみ」
優希「……?」サワ
智紀「まったいら」ボソッ
未春(…この人、やっぱり敵……!)
優希「さっぱり分からんじぇ!」
京太郎「お前が昨日のうちにほとんど食っちまったからだろーが!」
優希「むむむ……これもタコスが魅力的すぎるが故に……」
優希「よし、京太郎! お前に買い出しを命ずるじょ!」
京太郎「はあ!? 今からか!?」
優希「ほら、もたもたしないっ!」
蒲原「ワハハ、なんだったら車出そうかー?」ワハハ
京太郎「あ、鶴賀の……蒲原さん、でしたっけ?」
蒲原「あのタコスは私ももっと食べたいしなー。ほら、行くぞー!」
文堂「こんなにも……!」
和 「お二人とも、プロ麻雀せんべいが好きだと深堀さんと妹尾さんから聞いていましたので」
深堀「カードは2人にあげよう、ってことも決まってます」
妹尾「良かったね、2人とも!」
文堂「ありがとうございます! ではさっそく!」バリッ
睦月「うむっ!」バリッ
睦月「…うむ……」
睦月「藤田プロ……」
文堂「こっちもです……」
和 「そんなオカルトありえませんっ!!」
菫 「なかなか盛り上がっているようだな。 …照?」
照 「入りたい……今すぐあの中に入って咲と……」ハァーッ ハァーッ
菫 「照!? ストップ、落ち着け! まだだ、まだ久から合図は来てないぞ!」
照 「…うん、分かってる…。我慢、我慢……」プルプル
菫 「しかし、人の集まりがすごいな。人望がある、ということか」
照 「私の妹だから当然……」プルプル
菫 「……ん? あれは……」
・ ・ ・
咲 「……」ソワソワ
和 「咲さん」
咲 「あ、和ちゃん」
咲 「…お姉ちゃん、遅いね……」
和 「東京はすこし遠いですから。遅くなるのも仕方ないです」
和 「ですから…2人で、待ちましょう? お姉さんを」ニコ
咲 「…! うんっ!」
優希「咲ちゃーん! こっちの料理も美味しいじぇー!」
純 「お前にはこれがお似合いじゃねーのか?」ヘラヘラ
優希「焼き鳥……ってふざけんなノッポー!」ムキー
和 「もう、優希ったら…。 …行きましょ、咲さん」グイッ
咲 「わわっ、和ちゃんっ!」
・ ・ ・
照 「あのピンク…! 私の咲の手を……!」ギュルルル
菫 「おい馬鹿、落ち着け! その右腕を止めろ!」
久 (垣根がこれでもか、ってくらい揺れてるわ……。照はもう我慢できない、って感じかしら)
久 (もうちょっと待ってて欲しかったけれど、限界かしらね)
透華「…? どうかしましたの? 窓の外をぼけーっと」
久 「へ? ああ、いや……そろそろ、アレを始めちゃっても良いかなって」
透華「アレというと……」
透華(誕生日プレゼント、ですわね)ヒソッ
久 (そ。ちょっと早いけれど……こういうのは盛り上がってるうちに、ね?)ヒソヒソ
透華(分かりましたわ。 ……智紀)クイッ
智紀(…透華からの合図。了解、っと)スッ
智紀(……)カチャ カチャカチャ タンッ
福路「? 沢村さんは何をしてるのかしら?」
未春(アレですよ、誕生日プレゼントの。多分、PCで須賀くんに連絡を取ってるんです)ヒソヒソ
福路(! あのノートみたいなものはパソコンなの!?)
未春(…キャプテン……)
蒲原「たっぷり買えたなー。これでタコスがたくさん作れるぞー」
京太郎「ありがとうございます、車出してもらって。おかげで助かりましたよ」
蒲原「なーに、いいってことよー」ワハハ
ティロロンッ♪
蒲原「ん、メールかー?」
京太郎「そうみたいっすね。…あ、とうとう始めるみたいですよ」
蒲原「おっ、始めちゃうのかー。よーし、ガンガン電話しちゃってくれー!」
京太郎「それじゃ、失礼して……」
ピポパポ……
・ ・ ・
プルルルルル プルルルルル
和 「あ、電話ですね」
咲 「ごめんね、ちょっと電話出てくるよ」トトトッ
ガチャ バタン
透華「今のうちにプレゼントを準備しますわよ! 各自プレゼントをお出しなさいっ!」キラキラッ
衣 「おぉ、透華が溌剌と!」
一 「今まで全然目立ってなかったからねー」アハハ
純 「お前ら何持ってきた?」
衣 「衣はこれだ! 限定盤・アヒルちゃんプロペラ!」
一 「アヒルちゃんプロペラ?」
衣 「うむ。以前、智美からもらってな。趣深き品ゆえ、是非咲にも!」
一 「ボクは無難に服だよ。可愛いやつ」
純 (無難……ねぇ)
透華「私はアクセサリーですわ! 宮永さんはもう少しオシャレに気を遣うべきと思いましたから!」
智紀「本を数冊……」
透華「…何の本ですの?」
智紀「秘密」
透華「あら、良いじゃないですの。お菓子だなんて」
一 「わ、クッキーにチョコレートにマカロン!女の子してるねー」
純 「う、うるせえっ!」カァァッ
優希「ふっふっふ、ノッポじゃ所詮その程度しか持ってこれまい……」
純 「ほー、じゃあお前は何を持ってきたって言うんだ?」
優希「これだじぇ! 家庭で作れるタコスレシピ100選!」ドヤーッ
優希「これで咲ちゃんも呪われしタコスの血族の仲間入りだじょ!」
純 「……」
加治木「モモは何を持ってきたんだ?」
モモ「ちょっとしたハウツー本を持ってきたっす」
加治木「なになに……。…『百合のススメ』……」
モモ「一押しっす!」
モモ 「そういう先輩は何を?」
加治木「CDだ。以前、このアーティストが好きだという話を聞いてな」
モモ 「……いつ聞いたんすか? 私の知らないうちに、そんな好みまで教え合う仲に…?」ゴゴ
加治木「合同合宿のときに…。 …ってモモ? ど、どうした、何か怒らせるようなことを言ったか?」アタフタ
妹尾 「加治木先輩も大変だねー…。 …睦月ちゃんは何持ってきた?」
睦月 「うむ、これを」
妹尾 「わ、かわいいリボン! きっと喜んでくれるよー!」
睦月「佳織は?」
妹尾 「麻雀の戦術書だよー。私の愛読書!」
睦月 「う、うむ。なるほど」
睦月 (…アレに今更戦術書なんて役立つのだろうか……)
池田「キャプテン! 見てください、このネコミミ!」
福路「可愛いわね。これをプレゼントに?」
池田「はい! 宮永にきっと似合うはずだし!」
福路「さすが華菜ね。良いチョイスだと思うわ」ニコリ
池田「! キャプテンに褒めてもらったし! にゃあーっ!」
深堀「キャプテンは何を持ってきたんですか?」
福路「マフラーと手袋よ。これから寒い季節になるでしょ?」
文堂「わ、もしかして手編みですか?」
福路「ええ、ちょうど毛糸が家にあったから」
未春「すごい…しかもイニシャル入りだ」
福路「……華菜にも誕生日に編んであげるわね?」
池田「にゃっ!? ほ、本当ですかキャプテン!?」
福路「華菜にはいつもお世話になってるから」フフ
池田「……にゃ、にゃにゃ、にゃにゃにゃにゃーーーっ!!」ピコピコピコ
未春「華菜ちゃんのしっぽがものすごい動きを!?」
文堂「みんなは何を持ってきたんです?」
未春「私はこれだよ! 髪留めー!」
文堂(まさか吉留とかけた、なんてことは……)
深堀「私は小物入れを」
未春「文堂さんは?」
文堂「私のはすごいですよ! じゃんっ!」
文堂「今シーズンのトップレア、小鍛治プロのプロ麻雀せんべいカードです!」
未春「……わー、すごいねー」
久 「まこは何を持ってきたの?」
まこ「これじゃ! 増えるワカメ!」デンッ
久 「……」
久 「の、和は何をm」
まこ「冗談! 冗談じゃから! さすがにこんなもんプレゼントには出来んよぉ!」
久 「はいはい、それで、本当は?」
まこ「まあ、大したもんじゃないんじゃがねぇ。ほれ、これじゃ」
久 「色紙? …って、何これ!? 小鍛治プロに三尋木プロに戒能プロに……どうしたの、これ?」
まこ「ちょっとツテを頼ったんじゃあ」
久 「ツテ……ああ、靖子ね」
和 (これでは私のが浮いてしまいます。包装されてるからまだマシですが)
和 (……)
和 (…下着は失敗だったのでしょうか)
和 (いや、しかしこのエロ可愛い下着をつけた宮永さんを想像すると…!)
和 (……このチョイス、やはり間違ってはいませんね)キリッ
久 「のーどか」
和 「あ、部長」
久 「プレゼント、何持っt」
和 「ぶ、部長はプレゼントに何を持ってきたんですか!?」
久 「あら、私? うーん、そうねえ……」
久 「ま、もうバラしちゃっても良いかしら。みんな、外を見てもらえる?」
菫 「…おい、照。久からの合図が来たぞ」
照 「あと5分……」
菫 「起きろ」ポコン
照 「あうっ!?」
菫 「何寝てるんだ、お前は……」
照 「咲がいない場所なんて見張ってても仕方ない」
菫 「よだれを垂らしながら何を言ってるんだ。ほら」フキフキ
照 「ん」
菫 「…久からの合図だ。行くぞ」
照 「がってん」
透華「な……あれって」
加治木「おいおい、まさか……」
福路「上埜さん、こんなサプライズを……」
久 「じゃーんっ! 私のプレゼントは実の姉、宮永照ですっ!」
菫 「プレゼント扱い!?」
照 「~~~っ」テレテレ
菫 「お前も照れてるんじゃない!」
久 「で、おまけに白糸台高校麻雀部の部長さんの菫です」
菫 「私はおまけ扱いか!」
ワイワイ ガヤガヤ
久 「ほらほら、色々話したいことはあると思うけれど、もうそろそろ咲が戻ってくる頃よ!」
透華「! そ、そうですわよ! 電気を消す! みんなは隠れるっ!」
菫 「私たちはどうすれば?」
久 「菫は一緒に隠れて! 照はそこに立ってて!」
照 「えっ? えっ?」アタフタ
モモ「電気消すっすよー!」
パチン
咲 「京ちゃんったら、長電話すぎだよぉ……よくあんなに話題を作れるよね……」
咲 「みんなー、戻ったよー」ガチャ
咲 「あ、あれ? 真っ暗?」
咲 「み、みんなー……どこー…?」
咲 「…あれ、そこに誰か立ってる?」
照 「!」ビクンッ
久 「さー、どうなるかしら」ニヒヒ
菫 「さては久、お前これを見るためだけに協力してたな?」
久 「だって面白そうなんだもーん」
菫 「やれやれ……」
咲 「あ、あのう…みんなどこに行ったんですか…? どうして電気が消えてるんですか…?」
照 (咲の匂い……ああっ! 今私、咲と同じ空気を吸ってるっ!)ドキドキドキ
咲 (暗くてよく見えない…もっと近づかないと)
トコトコ
照 (! 咲の匂いがより一層強まって……!)
照 (かぐわしい咲の香り…! ダメだ、脳が蕩ける…っ!)ドキドキドキドキ
モモ(な、なんかヤバそうなんすけど……電気、まだ点けないんすか?)チラッ
久 (ま・だ)クイッ クイッ
モモ(…あれは絶対楽しんでるっすね)ハァ
照 (咲咲咲咲咲咲咲サキサキサキさきさき)
咲 (顔がよく見えない…もうちょっと)トコトコ
照 (! ……)プッツーン
咲 「あの……」
照 「……咲」
咲 「へ? ってその声、もしかs」
照 「咲ぃぃぃぃぃぃっっ!!」ガバァッ
咲 「わ、ひゃ、うわあっ!?」
ドテッ
『『『『『咲ちゃん! お誕生日おめでとう!!』』』』』
咲 「……」
照 「ぺろぺろぺろぺろぺろぺろ」
咲 「…おねえ、ちゃん?」
照 「ぺろぺろぺろぺろぺろぺろ」
菫 (お、おい。どうするんだ、この空気)
久 (さあ?)
菫 (さあ、って……)
咲 「……」
照 「ぺろぺろぺろぺろぺろぺろ」
咲 「……」
咲 「…ふふ」
咲 「くすぐったいよ、お姉ちゃん」ナデ
照 「ぺろぺろ…… …ん。ごめん」
咲 「ううん。 …あ、あのね」
咲 「お…おか……」ウルッ
咲 「おかえりっ…! おね、ちゃ……!」ブワワッ
咲 「! ……おねえちゃっ…! う、うわああああ……! ああぁぁん!」ボロボロ
照 「ん。咲は泣き虫だね」ナデナデ
アーン ウワーン
久 「…何とか良い感じに収まったんじゃないかしら?」
菫 「照が妹さんを押し倒したときはどうなるかと思ったがな」
久 「ま、ハプニングは付き物ってことで」
菫 「…まったく」
菫 (だが……こうして照が妹と仲直りできた。それは良いことだと思うよ)
菫 (良かったな、照)
・ ・ ・
和 「……」
和 「…ハッ!? あまりのことに思わず思考のヒューズを飛ばしていました!」
和 (!)
優希「アンタが咲ちゃんのお姉ちゃんかー。確かに似てるじょ!」
照 「そう? …えへへ」テレッ
咲 「似てるって! …えへへ」テレッ
まこ「仲が良いのう。とても喧嘩しとったとは思えんわ」
照 「別に喧嘩していたつもりはない」
咲 「えっ、そうなの?」
照 「私が咲を嫌いになるはずがない」
咲 「そっかー…。 …私も大好きだよ、お姉ちゃん」
照 「咲……」
イチャイチャ イチャイチャ
和 「……」ギリギリ
和 (久しぶりに会えた家族なんです。少しは仲良くしていても……)
イチャイチャ イチャイチャ
和 (…少しくらいなら……)
イチャペロ イチャペロ
和 (……)
咲 「それでね、お姉ちゃん! その時の京ちゃんったら……」
照 「ふふ、京太郎は相変わらずなんだな」
ずずいっ
照 「!」
咲 「あ、和ちゃん」
和 「はじめまして、お姉さ……いえ、お義姉さん」
優希「? なんで言い直したんだじぇ?」
和 「この1年間、咲さんと ふか~い 関係を築いています」
まこ(和……照に対抗意識燃やしすぎじゃ)
和 「よろしくお願いしますね。 お 義 姉 さ ん 」ニッコリ
照 「……」
照 (このピンク、さっき咲の手を汚した……)
照 (ここで××することも出来るけど…。 …今は咲が見てるし)
照 「ああ。よろしく、 原 村 さ ん 」ニッコリ
照 「握手しないか?」
和 「握手……いいですね」
ギュッ
和 「……咲さんは渡しません」ボソッ
照 「……潰す」ボソッ
ギュウウウウウウウッ
照 「く、ぬ、ぬ……」ギュウウウウッ
咲 「お姉ちゃんと和ちゃんも仲良くなってくれたようで何よりだよー」ホッコリ
まこ「いや、これは仲良くなっとるというより……」
照 「ふ、ふふ……! 聞いたか、咲はお前より先に私を呼んでくれたぞ……!」ギギギ
和 「お義姉さん……咲さんは私のことを『名前』で呼んでくれているんですよ……?」ゴゴゴ
久 「はいはい、ストップストップ! 今日は咲の誕生日なのよ?」
透華「貴方達まで目立ってしまっては私の立場がありませんわ!」
照 「……」
和 「……」
照 「それもそうだな」パッ
和 「それもそうですね」パッ
咲 「わ…すごい……! これ全部、私に?」
和 「そうですよ。それだけ咲さんがみんなに愛されてるということです」
照 「その中でも一番愛しているのが私」ドヤッ
和 「何年もほったらかしにしていた姉が言えた台詞ではありませんね」フフン
照 「! ……菫」グス
菫 「擁護のしようもない事実だな」
照 「うう……」
優希「さあ咲ちゃん! 気になるものを存分に手に取るのだ!」
咲 「うーん……これとか可愛いね」
衣 「お! それは衣が持ってきたのだ!」
咲 「衣ちゃ……衣おねえちゃんが?」
衣 「そうだ! 音に反応して飛ぶんだぞ」フンスッ
咲 「飛ぶの!? へー……ありがとう、衣おねえちゃん!」
一 「ああ、それはボクが持ってきた物だよ」
咲 「えっと……何ですか、これは」
一 「何って、見れば分かるじゃないか。服だよ服」
(((((服……? アレが……?)))))
和 (この場のほぼ全員の思いが一致した気がしますね……)
照 (しかし、服か……)
和 (アレを咲さんが着たとしたら……)
照和「……」ホワンホワーン
照和「ごぼぉっ!!」ブーッ
優希「わわ! のどちゃんと咲ちゃんのお姉ちゃんが吐血しながら鼻血を!!」
透華(わ、私のプレゼントがスルーされましたわ!)キーッ
純 (どうどう、俺のもスルーされてんだから落ち着け)
モモ「本だったら私が持ってきたヤツっすかね」
智紀「…私も」
咲 「こっちの本は……『百合のススメ』?」
和 「!」キュピーン
照 「!」キュピーン
モモ(2人とも、頑張るっすよ。私も陰ながら助力させていただくっす)グッ
和 (ありがとう、東横さん……!)
咲 「それでこっちはマンガかな? ……わわわ!」
咲 「誰ですかっ、こんなの持ってきたのはっ! もー……」カァァッ
和 (間違いありません、あれはえっちなマンガですね)
照 (ジャンルを確認しないと……。…『テルテルアイ』っ、倍率×10!)カシャシャシャッ
和 「…! 馬鹿な、姉妹モノですって……!?」カタカタ
照 「!」バッ
智紀(和×咲はもうお腹いっぱい。次は照×咲に切り替えていく)
和 (なんてことでしょう……彼女はお義姉さん派でしたか……)
咲 「もー…もっと普通なのは……」
池田「私の持ってきたネコミミはどうだ! 可愛いぞ!」
咲 「ネコミミ…あ、これだね」
まこ「せっかくじゃ、付けてみたらどうかいの?」
咲 「今ですか? んっと……」ゴソゴソ
咲 「こう、かな……?」テレテレ
照和「イエスッッッッ!!」ブバババッ
優希「うわああっ! 体中の穴という穴から出血!?」
池田「それはキャプテンが編んだものだし! キャプテンのまごころに感動しながら使うといいぞ!」
咲 「へえ……。あっ、イニシャル入りだ! S・Mって!」
照 「S!?」ピコーン
和 「M!?」ピコーン
菫 「お前ら仲良いな……」
咲 「わ、プロ麻雀せんべいのカードもあるよ」
文堂「それ、私が持ってきたヤツです! 小鍛治プロですよ!」
睦月「うむっ…! さすが星夏ちゃんだ。いつでもプロ麻雀せんべい魂を忘れていないな」
文堂「そういう津山さんだって、さっきからプロ麻雀せんべいの山を探る手が止まってませんよ」
ハハハハ……
照 「……」じーっ
菫 「そういえば、お前もプロ麻雀せんべいカードを集めていたな」
照 「……」コクン
菫 「だったら行って来ればいいだろう」
照 「でも恥ずかしいっていうか…その……」モジモジ
菫 「ああ、もう! うだうだ言ってないで行って来い!」ドンッ
照 「うわわ!」
文堂「…で、瑞原プロだけずっと出なくて困ってるんですよ」
睦月「うむ、確かに瑞原プロの出現率は他のスターカードより低めに設定されているな」
文堂「ですよね! 気のせいじゃないですよね! この前だっt」
照 「あの……」
睦月「うむァ!?」ビクッ
文堂「チャンピオン!? な、何か用ですか…?」ビクビク
文堂(え? 何これ、何で私、チャンピオンに話しかけられてるの?)
睦月(まったく分からない…チャンピオンの意図が)
照 「……!」スッ
睦月「…プロ麻雀せんべい?」
照 「……」コクン
文堂「…ひょっとして、チャンピオンも集めてたり?」
照 「!」パァァッ
菫 「…お、どうだった?」
照 「友達になれた! 星夏ちゃんと睦月ちゃんだって!」ウキウキ
菫 「そうか。良かったな」
照 「ん!」ニコー
和 (…良かった。どうやら私のプレゼントは触れられずに済みそうですね)ホッ
優希「咲ちゃん、まだその包みを開けてないじぇー」
和 (優希っ……! 余計なことを……!)
咲 「あ、ホントだ。これは誰からの物かな?」
シーン
咲 「あれれ……?」
和 (黙っていればバレないはずです。咲さんには悪いですが)
久 「それ、確か和の持ってきたのじゃなかったっけ?」
和 (ぶ、部長ーっ!!)
久 (ふふ、私も中身が気になるのよねー)ニヤニヤ
咲 「そうなの? 和ちゃん」
和 「え、ええ。まあ、一応……」
咲 「うん。開けちゃうね、和ちゃん」
和 「ま、待ってください!」
咲 「?」
和 「それを開けるのは、その……みんなが帰ってからにしてくれませんか?」
優希「どうしてだー? 何か問題でもあるのか?」
和 「そういうわけではありませんが……何となくです、何となく!」
照 (…あの反応。さてはピンクめ、恥ずかしいものをプレゼントにしたな)
照 (私だってこんな機会があれば同じことをする。間違いない)
照 (……と、なれば。あれを無理矢理開けてしまえばピンクの株を落とすことが出来る)
照 (そうすれば私の株が逆に急上昇、咲ルート一直線)
照 「…よし、やるか」ギュルルルル
和 「! ありがとうございます、咲さん!」
優希「ちぇー、つまんないじぇ……」
照 「……」ギュルルルル
照 「……ふんっ!」
ゴォォォォッ!!
まこ「な、なんじゃ!? 急に突風が!」
優希「咲ちゃんの持つ包みに向かって!」
咲 「うわっ!?」
久 「あら、上手い具合にラッピングが破れていくわね」
バリバリッ ビリッ
咲 「……ぱんつ?」
和 「 」
和 「さ、咲さん。違うんでs」アタフタ
照 「うわー なんだーこれはー!」
和 「!」バッ
照 「まさかたんじょうびにー ぱんつをぷれぜんとする へんたいがいたなんてー!」
照 「ひゃー これはびっくりだなー ひととしてどうなんだろうなー!」
照 「こんなへんたいはー さきのおよめさんにはふさわしくないなー!」
和 「……」ワナワナ
菫 (…うわあ)
久 (すっごい棒読みね、照……)
文堂(あれでも本人的には迫真の演技なんだろうなあ……)
睦月(うむ……)
モモ(お姉さん、さすがにそれは必死すぎっすよ……)
智紀(ぽんこつな姉のヘタレ攻め……アリかも)
和 (うう……)プルプル
咲 「……」
スタスタ
照 「これはもー わたしがかわりにさきのおよめさんになr」
パシンッ
照 「……」
咲 「…お姉ちゃん。」
照 「さ…さき……?」
咲 「いくらお姉ちゃんでも、和ちゃんを馬鹿にしたら怒るよ?」
クルッ
咲 「和ちゃん。ぱんつ、ありがとうね!」
和 「咲さん……」ウル
照 「…う……」
智紀(照NTRモノ……なるほど、これは盲点)
照 「う……うぐっ……」プルプル
照 「さ、咲ぃ……」グスッ
咲 「? お姉ちゃん?」
照 「ご、べん、なざいっ…私が、悪かった、がらぁっ」ヒック ズズッ
照 「私のごと……嫌いに、なっちゃ、やだぁっ……」グスンッ
咲 「……」
咲 「ちゃんと人に謝れるお姉ちゃんだったら、私は嫌いにならないよ?」
照 「…! う、うんっ!」
照 「ごめんなさいっ、咲!」ペッコリン
咲 「…お姉ちゃん」
咲 「謝る相手が間違ってるよ」ニコッ
照 「……へ?」
和 「……」
照 「…なんでこんな変態ピンクに」
咲 「お姉ちゃん?」ゴッ
照 「ぐ……」
照 「…メンサイッ」ピコッ
咲 「聞こえないよ、お姉ちゃん」
照 「……ごめんなさい」ペコリン
菫 「あの照が人に謝っている……!?」ワナワナ
菫 「馬鹿な、私は夢でも見てるのか? こんなことが実現するなんて……!」
久 「ひどい言いぐさねー」
和 「そうですね。あと土下座して私の足を舐めて『二度と咲さんに手を出しません』と誓えば」
咲 「……」ゴゴゴ
和 「…こほんっ。まあ、咲さんに免じて許してあげます」
咲 「良かったー! これで仲直りだね、2人とも!」パァァッ
照 (…ふふ。咲には敵わないな)
和 (やっぱり咲さんが一番ですね)
久 「さ! 良い感じの雰囲気になったところでお開きにしましょうか!」
咲 「あの、今日は本当にありがとうございました! とても嬉しかったです!」ペッコリン
パチパチパチ パチパチパチパチ
ヒューヒューッ ヒューッ
久 「それじゃ、解散っ!」
優希「そうか、もう帰っちゃうのかー……」
菫 「私たちも学校があるからな。今日中には東京に戻らなければ」
まこ「ま、またいつでも来んしゃい。歓迎するけえ」
久 「そのときはまたウチに泊っていく?」
菫 「それはお断りだ!」
久 「あら、残念ね」ヘラッ
菫 「……おい、照! そろそろ出発するぞ!」
照 「待って、菫。もう少しだけ咲とお話してから」
菫 「……」
優希「本当に妹想いだじぇー……」シミジミ
菫 「少しは妹離れすべきな気もするがな」
久 「まあ、久しぶりの再会なんだし。今日くらいはいいんじゃない?」
菫 「…まあ、そうだな」
照 「…それじゃ、そろそろ私は行く」
咲 「そう……」シュン
照 「大丈夫。咲が寂しくなったときは、また会いに来る」
咲 「本当?」
照 「ああ、必ずだ」
咲 「…うんっ! 絶対だよ!」キラキラ
和 「……もういいんですか?」
照 「…ピンク」
和 「ピンク呼びはやめてください。私には原村和という名前があります」
照 「ん。分かった、和」
照 「…私がいない間、咲のことをよろしく頼む」
和 「! それって……」
照 「ただ、私並みに咲のことを思っているのがお前だけということ」
和 「……お義姉さん」
照 「お義姉さん呼びは認めてない」
和 「…分かりました。照さんがいない間、私が貴方以上の愛情を持って咲さんと接していきます」
照 「ちょっと待って。その言い方じゃまるで、私より和の方が咲への愛が深いみたい」
和 「事実ですから」
照 「……」グヌヌ
和 「……」ムムム
照 「……はは」
和 「……あはは」
「「ははは、はーっはっはっは! あははははっ!!」」
照 「咲を任せた!!」ドンッ
和 「任されました!!」ドンッ
蒲原「ワハハ、もう待ちくたびれたぞー」
京太郎「買い出しから帰ったと思ったら既に終わってて、しかも即送迎に付き添えだなんて……」ヨヨヨ
久 「ごめんね、須賀くん?」
優希「まあこれも運命だじょ。受け入れるんだな!」
京太郎「やかましいっ!」
照 「…じゃあ、本当にもう行く」
和 「ええ。お気をつけて」
照 「でも、最後に一つ。 …咲、ちょっと来て」
咲 「ん? なあに、お姉ちゃん」トコトコ
和 「……って、それはちょっと待っt」
チューッ
咲 「…お、お姉ちゃん……?」カァァッ
照 「誕生日プレゼント。 じゃあね、咲」タッタッタッタ
ガチャ バタン
ブロロロロロ……
咲 「…えへへ」ポーッ
和 「……ず」
和 「ズルいですよ、お義姉さーん!!」ムガーッ
淡 「…へー。仲直り出来たんだ、テルー」
照 「うん。もう咲といつでも会える。文通もしてる」
淡 「メールじゃなくて文通ってあたりがいいねー。 …ところで」
照 「?」
淡 「ほら、お土産は無いの? お土産!」
照 「お土産。欲しいの?」
淡 「うんっ!」キラキラ
照 「仕方ないな。 はい、これ」スッ
淡 「…? 何コレ、ビニール袋?」
照 「中に咲の息が詰まってる。至宝」
淡 「…スミレー……」
菫 「…ほら、おやき」
淡 「! ありがと、スミレー!」モグモグッ
菫 (色々とムダな遠回りをしたような気がするな)ハァ
菫 (……まあ)
菫 (2人が仲直りできたことだし、すべて良しとしようかな)
菫 「なあ、照?」
照 「……サ……キ……」ピクピク
淡 「あわあわわ! テルーがビニール袋でで吸引しすぎて酸欠に!!」アワアワ
菫 「……」
カン
久々にこんなアホなシスコン照みた
また増えろ
Entry ⇒ 2012.10.30 | Category ⇒ 咲-Saki-SS | Comments (1) | Trackbacks (0)
える「古典部の日常」 4
だからと言って、どうなると言う訳でもないが。
そして、俺たち古典部は相変わらず何の目的も無しに部室へと集まっている。
える「今日は何をしましょうか」
奉太郎「いつも何かしている訳では無いだろ」
摩耶花「でも、折角集まってもする事が無いんじゃねぇ……」
里志「と言うか、全員のクラスが一緒になったせいで、集まる意味も……」
える「駄目です! 何か活動をしなければいけないんです!」
千反田の言う事も、もっとではあるのだが……如何せん、する事が無い。
奉太郎「……何だ」
里志の良い事と言うのは、基本的に俺にとっては悪い事である。
それはもう、嫌と言うほど経験していた。
里志「ちょっと待っててね、すぐに戻ってくる」
里志はそう言うと、駆け足で部室から出て行く。
それを見送った後、席を立つ。
奉太郎「さて、帰るか」
える「え、何故ですか」
奉太郎「決まっているだろ、ろくな事にならないからだ」
逃げるとはまた……随分と人聞きが悪い。
奉太郎「面倒な事を避けているだけだ」
摩耶花「……ふうん」
いかんいかん、伊原の挑発に乗ってしまっては思う壺だ。
える「駄目ですよ!」
しかしこっちの奴は、実力行使で俺を押さえに来る。
簡単に言うと、俺の腕を掴んで離さない。
奉太郎「何が、駄目、なんだ!」
える「福部さんは待っていてと言ったのです! 帰ったら駄目です!」
俺はグイグイと引っ張るが、千反田の方も負けじとグイグイ引っ張る。
える「諦めてください!」
今こいつ、諦めてと言ったか。
それはあれか、これから俺にとって良くない事が起きるだろうと言う事を、千反田も予想しているのだろうか。
奉太郎「い、や、だ!」
少しずつ、少しずつだが出口に近づく。
摩耶花「何してるの、二人とも」
そんな必死の戦いを繰り広げている俺と千反田を見て、伊原が冷静な一言を放つ。
しかしここで退いては駄目だ、千反田が持ってくる面倒事ならまだしも……里志が持ってくる物にまで巻き込まれる道理なんて無い。
もう少しで辿り着ける!
俺がそう思ったとき、静かに閉まっていた扉が開く。
里志「って、何してるの?」
ああくそ、タイムアップになってしまったではないか。
俺はようやく千反田を引っ張るのを辞め、若干上がった息を整えながら答える。
奉太郎「いや、まあ」
奉太郎「体を温めていた」
里志「それはちょっと、無理があると思うけど……」
える「あ、福部さん! お帰りなさい」
後ろから声が聞こえた、是非ともその勢いで俺に「行ってらっしゃい」と言って欲しい物である。
そうすればすぐに帰れるのに。
里志「ただいま、千反田さん」
里志は俺の後ろに居る千反田に向け、顔をずらしながら言った。
摩耶花「それで、どうして急に飛び出して行ったの?」
里志「よくぞ聞いてくれた!」
里志「実はね、ちょっと手芸部に行っていたんだ」
奉太郎「手芸部? 何でまた」
里志と千反田は席に着く。
俺もそれに習い、席に着いた。
待てよ……結局、流されてしまっているではないか。
くそ、今から扉まで走っていけば……逃げられなくも無いが。
なんだかそれすら面倒になってきてしまった。
そう言い、制服とワイシャツの間から何やら随分とでかい物を取り出す。
える「何故、そこから出てきたのか……気になります」
その疑問を解決できるのだろうか、俺にはとても解決できそうにない。
奉太郎「それで、それは何だ?」
摩耶花「ええっと……何々」
摩耶花「人生ゲーム、再現度70%! リアルな人生ゲームをあなたに!」
摩耶花「って書いてあるわね」
何だそれは……70%とは、また微妙な。
奉太郎「何でそんな物が手芸部にあるんだ?」
まあ、前に天文学部を訪れた時は何やらボードゲームらしき物をやっていたし、そういう部活は多いのかもしれない。
里志「それで、皆でやらないかい?」
える「是非!!」
摩耶花「いいね、やろうやろう」
奉太郎「……ちょっと気になるんだが、いいか」
俺がそう言うと、三人ともが俺の方を見る。
奉太郎「これって、古典部と関係あるのか?」
里志「じゃあまずは駒である車とお金を分けるね」
摩耶花「うん、よろしく」
える「福部さんが銀行役ですね、宜しくお願いします」
……今、無視されたか?
奉太郎「おい、聞いてるか」
里志「摩耶花は水色でいいかな?」
摩耶花「おっけー、ありがとう」
里志「千反田さんは……白って感じかな」
える「ふふ、ありがとうございます」
里志「僕は黄色を貰うとして……ホータローはどれがいい?」
奉太郎「いや、俺はだな」
里志「仕方ないなぁ、じゃあホータローはこれで」
……まあ、俺らしいと言えばそうかもしれない。
いや、違うだろ。
そんな車なんてどうでもいいだろうが。
奉太郎「おい、これって古典部と」
里志「じゃあお金を配るね」
駄目だ、明らかに俺が出す話題は無視されている。
奉太郎「……分かった、やればいいんだろ」
里志「はは、やりたいならそう言えばいいのに」
……やはりあそこで千反田を振り切れなかったのは手痛いミスだ。
だがまあ、俺のミスか。
える「私も、頑張ります!」
何やら女子達は盛り上がっている、ただのゲームだと言うのに、元気なこった。
そんなこんなで最初の持ち金、1500万円が配られる。
こうなってしまっては仕方ない……やるか。
里志「ホータローには前の豆まきでの借りがあるからね、しっかりと返させて貰うよ」
える「そう言えばそうでした! 負けませんよ」
随分と根に持つ奴等だな……
摩耶花「私も、今回はちょっと負けたくないかな」
そう言い、俺の方を伊原は睨んでいた。
……何故、俺なのだろうか。
順番を整理すると。
1番、伊原
2番、千反田
3番、俺
4番、里志
と言う事か。
まあ、たかがゲームだ、気楽にやろう。
摩耶花「じゃあ、回すね」
そう言い、伊原は数が10まであるルーレットを回す。
【5】
摩耶花「えっと、5かぁ」
里志「最初は職業決めだろうね、定番だ」
【あなたは漫画を描くのが大好き! そんなあなたには漫画家の職業を差し上げます!】
摩耶花「漫画家かぁ、ちょっと嬉しいかも」
里志「はい、職業カードを渡すね」
摩耶花「給料は……600万ね」
里志「職業が決まったら最初の給料日マスまで移動みたいだね」
摩耶花「うん、りょーかい」
それにしても伊原が漫画家とは、確かにリアルな人生ゲームである。
そう言うと、千反田はルーレットを回した。
【7】
里志「お、ラッキーセブンって奴かな」
える「ふふ、何の職業になるのでしょうか……気になります」
【あなたはどこにでも居る一般人! そんなあなたにはサラリーマンの職業を差し上げます!】
える「サラリーマンですか、いいですね」
何が良いのか俺には分からないが……本人がそう言っているなら良いのだろう。
里志「給料は300万だね」
える「そうですか……摩耶花さんよりは少ないんですね」
摩耶花「私の漫画もそこそこ売れてるみたいね」
よし、最初の職業が重要だと言う事は分かった。
なら良い職業を引く事が出来れば、それはかなり楽な人生となるだろう。
そんな事を思いながら、ルーレットを回した。
【10】
里志「10か、最初から飛ばすねぇ」
奉太郎「飛ばそうと思って飛ばしている訳では無いがな」
ええっと、それより職業だ。
【あなたは何事にもやる気無し! そんなあなたはフリーター! 頑張ってください】
……
える「……ふふ」
える「え、いえ……」
摩耶花「ちーちゃんが笑うのも無理ないって、だって似合いすぎてるもん」
里志「ぴったしだよ、ホータロー」
里志「見事だ!」
そう言われても、いい気は全くしないのだが。
える「あ、あの!」
える「私、良いと思いますよ!」
える「自由に生きる人生! 素敵です!」
千反田の必死のフォローが俺の心をきつく締め付ける。
奉太郎「……まあいい」
里志「給料は100万だね」
里志「フリーターにしては、頑張ってる方じゃないかな」
さいで。
里志「よっ」
【6】
里志「6は……お」
奉太郎「劇団員、となっているな」
里志「いいんじゃないかな、気に入ったよ」
里志「給料は……1500万! ホータローの15倍だね」
摩耶花「いいなぁ、私なんて6倍よ?」
える「私は3倍です……」
何故、俺を基準にするんだ、こいつらは。
里志「それじゃあ皆の職業も決まったし、ここからが本番だね」
奉太郎「保険?」
里志「生命保険と車両保険があるね」
里志「他にもあるんだけど、最初に入るか入らないか決めるのは、どうやらこの二つみたいだ」
……念の為、入っておいた方がいいだろう。
里志「どちらも500万、両方入るなら1000万だね」
奉太郎「随分と高い保険だな」
里志「まあ、ゲームだしね」
ふむ、ならば仕方ない。
どうやらそんな俺の考えと全員一緒の様で、それぞれが1000万を里志に手渡す。
里志「うん、この後はルーレットを順番に回して進むだけさ」
摩耶花「じゃあ」
摩耶花「負けないわよ!」
伊原はそう意気込み、ルーレットを回した。
【1】
摩耶花「うう……」
里志「はは、力みすぎだよ、摩耶花は」
里志「えーっと」
【宝くじにチャレンジ! 偶数なら500万、奇数なら-500万】
摩耶花「ギャンブルは苦手なんだけど……」
里志「そう言わずにさ、50%の確率で当たるんだし」
今度はあまり力を入れず、伊原はゆっくりとルーレットを回していた。
【4】
摩耶花「やった!」
える「おめでとうございます!」
里志「さすが摩耶花だ、500万だね」
それにしても、やたらと色々とイベントがある様だな……
ええっと、次は確か千反田か。
える「私の番ですね、よいしょ」
【1】
える「あ、摩耶花さんと一緒ですね」
摩耶花「ほんとだ、ってことはちーちゃんも宝くじにチャレンジかぁ……」
える「では、回しますね」
える「外れてしまいました……」
摩耶花「……ごめんね、私が当たっちゃったから」
える「いいえ、気にしないでください」
える「一緒にゴールを目指しましょう!」
仲がいいのは結構だが……何やら里志が言いたそうな顔をしているぞ。
里志「えっと、話中で悪いんだけど……」
里志「同じマスに止まるとね、追突扱いになるんだよ」
える「追突、ですか?」
里志「うん、追突したら相手に1000万の罰金……となっているね」
える「い、1000万ですか?」
おお、千反田が動揺している。
里志「車両保険の方は、回収されてしまうけどね」
える「は、はい……」
渋々、千反田は車両保険のカードを里志に手渡す。
える「……酷いです、摩耶花さん」
摩耶花「わ、私はそんなつもりじゃ!」
里志「はは、気を付けないと、千反田さんに追突した時が怖そうだ」
まあ、千反田も本気で酷いと言っている訳では無いのが俺なら分かるが。
里志も恐らく分かっているだろう、しかし伊原は全く気付いていない様子だった。
える「負けません!」
こいつもこいつなりに、楽しんでいると言う事か。
そのとばっちりが回り回って俺の方に向いてくるのは納得できんが。
奉太郎「言われなくても、回すさ」
【9】
里志「好調じゃないか、先行するのはホータローになりそうだね」
奉太郎「フリーターだがな」
える「それでもゴールまで辿り着けば億万長者ですよ!」
奉太郎「……そうか」
奉太郎「じゃあ、それなりに頑張るかな」
ええっと、それでマスは何だろうか。
摩耶花「フリーターからフリーターになったわね」
里志「職業に付いてないのにリストラされるなんて、どんだけやる気が無いんだい……ホータローは」
……俺に言わないで欲しい。
える「……将来が大変そうですね」
さっきゴールまで辿り着けば億万長者だと言ったのはどこの誰だったか。
ああ、そうそう。
この俺の将来を心配してくれている方では無いか。 ありがとうございます。
【6】
里志「6だね、良いとは言えないけど9よりはマシかな」
【仕事中に腰を痛めてしまいました、一回休み】
里志「開始早々これかぁ……」
奉太郎「腰を痛めるとは、もうお前も年だな」
俺がそう言うと、里志はいつもの笑顔のままこう返した。
里志「はは、クビにならないだけマシだよ」
……どう足掻いても、里志にだけは負けたくないな。
摩耶花「これから何が起こるか分からないし、仲良くやろう?」
える「そうですよ、私だって追突しても頑張っているんですから」
摩耶花「ち、ちーちゃん」
える「頑張りましょうね、摩耶花さん」
千反田はいつもの感じではあったが、何やら今日のこいつは随分と怖い気がする。
まあ……結局俺もこうして人生ゲームへと参加する事となったのだが。
なんだか出鼻を挫かれた感が否めない。
所持金 保険
摩耶花 2600万 生/車
奉太郎 600万 生/車
える 300万 生
里志 2000万 生/車
第9話
おわり
摩耶花「うん、回すね」
カラカラと音を立てながらルーレットは回る。
【3】
摩耶花「中々進まないなぁ」
摩耶花「えっと」
【特急券購入のチャンス! 100万を払えばルーレットをもう一度回す事が出来ます】
摩耶花「お、買う買う」
里志「100万くらいなら、摩耶花にとっては安い物だからね」
……俺にとって、給料一回分とは悲しい物だ。
【10】
摩耶花「やった! 買った甲斐があった!」
里志「10は……ここだね」
里志「あ、それと給料日を通過したから給料を渡すよ」
ふむ、どうやら10マス毎に給料日は設置されている様だ。
摩耶花「ありがと、ええっと……このマスは」
【ジェット機購入のチャンス! 500万を払えばルーレットをもう一度回す事が出来ます】
摩耶花「どうしよう……まあ、払おうかな」
奉太郎「随分と優雅な人生だな」
摩耶花「お金はあるしね」
える「……」
伊原は気付いていない様だが、現在所持金がもっとも少ないのは千反田なのだ。
摩耶花「じゃ、回すよ」
【4】
摩耶花「今回だけで17マスも進めたのは良かったなぁ」
摩耶花「何々」
【母親の危篤! 10マス戻る】
摩耶花「……」
奉太郎「7マス進めたの間違いじゃないのか?」
摩耶花「……っ!」
あまり無用心な発言は避けた方がいいかもしれない。
明日は我が身と言う言葉があるからな。
里志「と言う訳で、次は千反田さんの番だよ」
える「はい!」
える「では、行きますね」
【5】
える「ええっと、5ですね」
奉太郎「あ」
える「……?」
思わず声が出てしまった。
まあ、でもすぐに分かる事だし、いいか。
里志「ええっと……僕と一緒のマスだね」
える「え、と言う事はですよ」
える「追突、ですか?」
奉太郎「それに加えて一回休みだな」
える「……そうですか」
える「で、でも……私もう、お金ありませんよ」
里志「その点は大丈夫かな、借金が出来るから」
える「借金ですか……」
なんとも、現実とは非情な物だ。
……ゲームだが。
里志「千反田さんの手持ちは300万だから、足りないのは700万だね」
里志「約束手形が一枚1000万、これを一枚と現金300万を渡すよ」
える「はい、ありがとうございます」
……ううむ、千反田がとても物悲しそうな表情をしている。
それを見ていると、なんだが少し……こう、胸に込み上げてくるものがあるな。
……いかんいかん、さっきも思ったが、明日は我が身、忘れる所だった。
なんだか空気が若干重くなった中、俺はルーレットを回す。
【7】
奉太郎「7か」
奉太郎「ええっと」
【おめでとうございます、あなたはめでたく結婚しました。 他のプレイヤーから祝儀として300万ずつ貰えます。 結婚相手としてピンを一つ車に乗せましょう】
奉太郎「おお、結婚か」
里志「……おめでとう、頑張って稼がないとね」
摩耶花「フリーターで結婚なんて、いい身分ね」
そう言われながら、300万ずつ受け取る。
える「ど、どうぞ」
千反田からなけなしの300万を渡された時は、なんだかとても悪い事をしている気がした。
奉太郎「ん? そうだが」
える「い、いえ。 おめでとうございます」
奉太郎「ああ」
変な奴だな、まあいいか。
とりあえずこれで、一回100万の給料も貰い、ある程度手持ちは増えてきた。
次は里志の番だが、一回休みなので伊原か。
所持金 保険 マス
摩耶花 2300万 生/車 8マス目
奉太郎 1600万 生/車 16マス目
える -1000万 生 6マス目
里志 2700万 生/車 6マス目
里志「ううん……中々進めないなぁ」
奉太郎「腰を痛めているからな、安静にしとけ」
里志「……そうだね、それがいい」
摩耶花「それで、回すけど……いいかな?」
える「どうぞ」
摩耶花「……よっ」
【7】
摩耶花「あぶな、折木に追突する所だった……」
奉太郎「人が二人乗っているから、罰金も二倍だぞ」
摩耶花「え? そうなの?」
奉太郎「……さあ」
里志「安心して、何人乗っていても罰金は1000万だよ」
摩耶花「まあ、当り屋みたいな事しないと、生活厳しいもんね」
奉太郎「……むう」
何も言い返せない、確かに給料が100万ではその内底を尽きてしまうのは火を見るより明らかだろう。
奉太郎「それで、マスにはなんて書いてあるんだ」
摩耶花「はいはい、今見るわよ」
【一発逆転のチャンス! ルーレットに一つピンを指し、当たれば10倍! 3000万まで賭ける事が出来ます。 そしてこの賭けに勝てば、もう一度ルーレットを回せます】
摩耶花「またギャンブルかぁ……」
奉太郎「なんだ、負けるのが怖いのか」
摩耶花「……折木に言われたら、賭けない訳にはいかないわね……」
ここまで単純に引っ掛かってくれるなら、挑発し甲斐がある。
摩耶花「いいわ、1000万賭ける」
里志「いいのかい、本当に」
摩耶花「言ったからにはやるわ」
摩耶花「私が選ぶのは……3!」
里志「……仕方ないなぁ、それじゃあ1000万、受け取るよ」
そう言い、摩耶花は1000万を里志に手渡した、千反田の目の前で。
千反田が先程から、何かを願っている様な眼差しでルーレットを見ていた。
……何を願っているかは、聞かないでおこう。
しかし現実はやはり、非情な物。
主に、俺や千反田にとってと言うのが皮肉な物であるが。
【3】
摩耶花「うそ、やった……当たった!」
摩耶花「1000万の十倍だから……1億!?」
里志「はは、おめでとう」
……まさか当たるとは、とんだ強運だ。
千反田の顔は見ないでおこう、とても悲しそうな顔をしているだろうから。
【2】
摩耶花「2だと、ここかぁ」
摩耶花「あれ? 何も書いてない」
里志「そういうマスもあるみたいだね、じゃあ次は」
奉太郎「俺か」
里志「千反田さんは一回休みだから、そうなるよ」
奉太郎「んじゃ、回す」
【10】
奉太郎「また10か」
摩耶花「またってなんか、感じわる」
奉太郎「ゆっくり進むのも良い人生だと思うぞ」
摩耶花「……ふん」
奉太郎「ま、早く終わるに越した事は無いからな」
奉太郎「それよりマスだ、えっと」
【おめでとうございます。 結婚している場合、子供が一人生まれました。 そうで無い場合は、結婚する事ができます】
【お祝いとして、他のプレイヤーから100万を受け取ります。 結婚の場合、祝儀はありません】
奉太郎「悪いな、何回も貰って」
里志「まあまあ、祝い事だからね」
摩耶花「100万と言わず、500万くらいならあげてもいいんだけどなぁ」
是非欲しいが、俺のプライドが許さない。
……いや、貰っておこうかな。
駄目だ駄目だ、弱気になってしまっては勝ち目が無いではないか。
える「あ、すいません。 細かいのが無いです」
そう言い、千反田は里志から約束手形を更に一枚と、現金900万を受け取る。
いつもの元気は既に、どこか遠くへと行ってしまった様子だ。
える「はい、どうぞ」
奉太郎「あ、ああ……悪いな」
える「……いえ、いいんですよ」
頼むから、次のマスでは千反田から金を受け取る事が無いよう、お願いしたい。
里志「それと、また給料日を通過したから給料だ」
奉太郎「ああ、すまんな」
100万ずつだが、貰える物は貰っておこう。
里志「ホータローとは随分と離れちゃったからなぁ、頑張らないと」
【4】
里志「4かぁ」
里志「どれどれ」
【落し物を届けたあなた。なんとビックリ! その持ち主は大金持ち! 1000万を受け取ります】
里志「落し物を届けただけで1000万とは、随分と凄い落とし主だね」
奉太郎「俺が届けられたとしても、せいぜい飲み物一杯が良い所だな」
里志「そりゃ、僕だって一緒だよ」
そんな会話をしながら、里志は自分の給料と合わせて、2500万を自分の手元へと置く。
さて、次はまた伊原か。
所持金 保険 マス
摩耶花 1億600万 生/車 17マス目
奉太郎 1900万 生/車 26マス目
える -1100万 生 6マス目
里志 6100万 生/車 10マス目
奉太郎「9が出れば追いつけるぞ」
摩耶花「……追突するじゃない」
摩耶花「9だけは出ません様に……」
【10】
摩耶花「あっぶない」
摩耶花「さっきから、ひやひやしっぱなしなんだけど……」
奉太郎「惜しいな」
摩耶花「何がよ、えっと」
【突然の災害! そのせいで車はボロボロに……修理費として、500万を支払います】
摩耶花「車の修理に500万って……どんな車なんだろ」
奉太郎「いいんじゃないか? 金持ちなんだし」
摩耶花「そうね……別にいいけど」
摩耶花「それより、他人事みたいな言い方ね」
……おかしな事を言う奴だ、実質、他人事なのだし。
里志「ホータロー、ちゃんとこのマス、読んだ方がいいよ」
そう里志に言われ、目を通す。
先程の文の下に、小さくこう書かれていた。
【前後5マスの方も被害に遭います、同額の修理費を支払います】
しかしまあ、そう書かれているなら仕方ない。
巻き込まれる前に逃げろと言いたいが、それはもう手遅れか。
俺は手持ちから500万を里志へと渡す。
摩耶花「フリーターの癖に、随分と良い車に乗ってるのね」
摩耶花「生活をもっと見直した方がいいと私は思うかなぁ」
奉太郎「……さいで」
里志「まあまあ、二人とも仲良く仲良く」
里志「ホータロー、確かに受け取ったよ」
奉太郎「……他には何も書いてないな、次だ」
える「私の番ですね!」
奉太郎「……大丈夫か」
える「え? 私は大丈夫ですよ」
奉太郎「ならいいが」
える「では、回します」
【9】
える「ええっと、9ですか」
9……確か、あのマスか。
える「ギャンブルですね、先程、摩耶花さんがやっていた」
奉太郎「まあ、手持ちが無いなら関係は無さそうだな」
里志「……いや、ちょっと待って」
里志「ギャンブル系は、どうやら手持ちが無くても賭けられるみたいだよ」
里志「せめてもの救済なのかもしれないけど……これは随分と酷いルールだ」
奉太郎「借金まみれでギャンブルとはな」
やけにここだけ、現実じみている……恐ろしい。
える「ええっと、では何番にしましょうか」
奉太郎「おい、ギャンブルはしなくてもいいんだぞ」
える「ええ、分かっていますよ」
奉太郎「ならやめた方がいいと思うが」
える「……もう、今更いくら増えても一緒だとは思いませんか?」
何という事だ、千反田がギャンブラーとなってしまった。
……止めはしないでおく、外れて借金が増えれば、正気に戻るかもしれない。
里志「確かに難しい選択だ、何しろ1/10だからね」
里志「ならさ、まずは賭ける金額を決めたらどうかな?」
里志「千反田さんは1100万の借金があるから……200万なら負けてもそこまで大した損はしないよ」
える「そうですね、では3000万で」
駄目だ、もう手遅れかもしれない。
摩耶花「ちーちゃんが壊れた……」
里志「は、はは」
里志「まあ、僕はただの銀行員だからね……千反田さんの決定を止める事はしないよ」
そして千反田に渡される3枚の約束手形。
ふと、千反田と目が合った。
える「あ!」
……本日二度目の、嫌な予感がする。
える「折木さんに決めてもらいましょう!」
奉太郎「な、なんで俺なんだ!」
える「折木さんは結婚もして、子供も産まれて、幸せそうなので……」
える「そんな折木さんが選べば、当たる様な気がするんです」
か、簡便してくれ……
しかし、ここに俺の味方など居る訳が無い。
摩耶花「そうよ、選んであげなさいよ」
奉太郎「……外れても俺は知らんぞ」
える「大丈夫ですって、お願いします!」
参ったな……外れた時、俺はどうすればいいんだ。
さっきまでは外れて、千反田がギャンブルをしなくなる事を願ったが……今は逆。
ううむ……
単純に、行くか。
奉太郎「……そうだな」
奉太郎「じゃあ、6で」
える「6ですね、分かりました!」
里志「7を選ぶと思ったんだけど、何で6を?」
摩耶花「気になるけど……今はルーレットの結果の方が気になるわね」
奉太郎「外れても恨まないでくれよ、千反田」
える「ええ、分かっています」
える「それでは……回しますね」
そう言うと、勢いよく千反田はルーレットを回した。
クルクルと回り、その時間は少しだけ長くも感じた。
やがて、針が止まる。
える「……」
良かった……本当に良かった。
千反田は6を指して止まるルーレットをしばし、見つめていた。
そして数秒それを続けた後、隣に座る俺の方を見る。
える「す、すごいです! 当たりました!」
奉太郎「あ、ああ。 そうだな」
なんだか恥ずかしくなり、視線を千反田から逸らした。
える「ありがとうございます! 折木さん!」
横からそんな声が聞こえたが、俺は頬杖を付きながら反応を返す事はしなかった。
しかし、何かが近づいてくる。
気付いた時には遅く、近づいてきていた物は千反田本人であった。
奉太郎「わ、分かったから離れろ! 抱きつくな!」
奉太郎「里志も伊原も、見てるだけじゃなくて千反田をどうにかしてくれ!」
里志「いいんじゃない? 別に」
摩耶花「そうそう、折木が選んだ数字なんだしねぇ」
こいつら、他人事だと思いやがって。
それから数分、千反田を引き剥がすのに必死になり、随分と体力を使ってしまった。
ようやく千反田が落ち着きを取り戻したところで、千反田はマスの通り、もう一度ルーレットを回す。
える「3ですね」
える「少しだけ、私にもツキが回ってきたかもしれません」
千反田のその発言を受け、マスに目をやる。
【ランプの魔人が現れ、あなたにもう一度ルーレットを回すチャンスをくれました。 ルーレットを回せます】
ほう、まあ今まで散々な人生だったし、いいのではないだろうか。
える「では、もう一度回しますね」
【8】
える「……あ」
ああ、そこは俺が居るマスではないか。
しかし1000万くらい、今の千反田なら安い物か。
里志「この色のマスでは、追突は発生しないみたいだね」
摩耶花「え? じゃあさっきまで私がひやひやしてたのって……」
奉太郎「無意味って事だな」
摩耶花「ちょっとふくちゃん、次からもっと早く言ってよね」
里志「ご、ごめんごめん」
える「良かったです……追突してばかりでしたので」
それで確かマスは……結婚か。
える「結婚ですね、お祝いは貰えないみたいですが」
里志「とは言っても祝い事さ、おめでとう」
摩耶花「そうそう、おめでとう、ちーちゃん」
える「あ、ありがとうございます」
何故か、と言われると分からないが……何故かそんな気分だったのだ。
ようやく、次は俺の番か。
千反田もいつもの調子に戻ったようだし、良かった。
……にしても、もう半分は通過している。
どうやら全部で50マス、そんな所だろう。
奉太郎「さてと」
【2】
奉太郎「極端だな……」
【あなたの出した漫画作品が認められました。 漫画家の職業に就くことができます】
【現在、漫画家の職業に就いている方が居る場合、その方はフリーターとなります】
奉太郎「だそうだ、伊原」
摩耶花「……絶対に許さない」
……最悪のマスだったのかもしれない。
とにかく、これでようやく俺も職業に就けた。
伊原から奪った形にはなってしまったがな。
まあ、散々俺を馬鹿にしていた罰が当たったのかもしれない……でも少し、悪い事をしてしまったか。
里志「次は僕だね」
【10】
里志「お、良い数字だ」
里志「いいね、これで一気に進める」
そう言い、里志はテンポ良くルーレットを回す。
【7】 【4】 【10】
里志「21だ、一気にゴールまで近づけたよ」
里志「このマスには何も書いてないけど……次でゴールの可能性も出てきた」
里志「うん、満足だね」
奉太郎「そういえば、最初にゴールすれば何かあるのか?」
里志「ええっと、このルールブックによると……」
里志「現金1億円、生命保険に入っていれば更に1億円」
里志「これは1位だけが貰えるみたいだね」
里志「他の順位については特に書いてないから、1位だけの特典って訳だ」
ならば俺でも最初にゴールに到達できれば、まだトップになれる可能性がある。
……いよいよ勝負も終盤だ。
なんだかんだで俺が最下位だが……最後まで何が起きるか分からない。
ま、なるようになるだろう。
所持金 保険 マス
摩耶花 1億700万 生/車 27マス目
奉太郎 1400万 生/車 28マス目
える 2億8900万 生 27マス目
里志 1億600万 生/車 41マス目
第10話
おわり
里志「どうかな、何が起こるか分からないからね」
える「諦めませんよ!」
借金まみれから登り詰めた千反田は力強くそう言った。
奉太郎「そうだな……俺もギャンブルでもするか」
える「駄目ですよ、堅実に行くのが大事です」
……お前が言うのか、それを。
摩耶花「そろそろ回してもいいかな」
える「あ、どうぞ」
伊原はそれを聞き、ルーレットを回す。
【1】
摩耶花「1かぁ……って」
……ああ、そういう事か。
摩耶花「はい」
そう言い、伊原はこれでもかと言うほどの笑顔を俺に向け、手を差し伸べる。
漫画家の職業カードを渡せ、と。
奉太郎「短い職だった」
摩耶花「似合わないから、仕方ないわよ」
摩耶花「自分に合った職業も大事よ」
……それがフリーターと言う事なのか。
奉太郎「まあ、忘れては居ないと思うが追突だぞ」
摩耶花「分かってるわよ、でも私、保険があるしね」
摩耶花「ここまで終盤になってきたら保険も意味無くなる可能性もあるし……丁度良かった」
里志「このマスは追突無効だよ? さっきも言ったじゃないか」
……あまり、記憶に無いな。
摩耶花「えー……じゃあ保険に入らなくても良かったなぁ」
里志「そうでもないさ、最後まで持っていれば資産として計算されるみたいだしね」
里志「まあ、払った額と同額だけど」
ならやはり、1回以上の追突は避けた方がいいだろう。
される分には構わないが。
ともあれ、これで俺はまたしてもフリーターへと逆戻り。
次は……千反田か。
先程のギャンブルで大分勢いが付いている、一番危険なのはこっちかもしれんな。
【10】
える「10ですね」
える「ええっと」
【不思議な妖精が現れました。 願いを一つ叶えてくれます】
【全プレイヤーの中から一人を選び、その人の資産を10倍へとします】
える「10倍……ですか」
なんと言う事だ、こんなマスを考えた奴は碌な奴では無いな……
ええっと、今の千反田の手持ちは確か、3億くらいあった筈。
それが10倍になると……30億!?
摩耶花「2位争い、頑張ろうかな」
勿論、里志や伊原もその事実に気付く。
える「えっと、では折木さんの資産を10倍にしましょう」
奉太郎「え?」
思わず間抜けな声が出る、そしてその後に気付く。
これがもし、千反田の性質の悪い冗談だったとしたら……とんだ赤っ恥だ。
でも、俺は知っていたのかもしれない。
千反田はそんな冗談を言わない、と。
える「折木さんの資産を10倍に、と言ったんです」
える「先程のお礼です」
いや、女神か。
女神、チタンダエル……いい響きである。
摩耶花「ちょっと、優しすぎない?」
える「いいえ、折木さんが数字を当ててくれなければ、私は今も借金があった筈です」
える「それに、折木さんはそこまで資産を持っていないので……勝負が決まるという事も無くて、面白いと思いませんか?」
……最後の言葉は余計だ。
里志「あはは、ホータローのヒモ生活の始まりって所かな」
奉太郎「俺だって一応働いているぞ」
里志「ま、これで千反田さんには逆らえないね」
奉太郎「……」
確かに、里志の言う通り。
これで何かしらのマスを俺が踏み、千反田を蹴落としたらそれは酷い事になるだろう。
多分、人生ゲーム所では無くなるかもしれない。
そう言い、里志から金を受け取る。
今までの手持ちと合わせ、1億4千万。
最下位から一気に2位へと登り詰めた、なんとも大逆転の人生である。
そして回ってくる俺の順番。
奉太郎「よし、回すぞ」
【10】
里志「さっきから、10出すぎじゃない?」
奉太郎「1回、2が出たろ」
里志「それでもすごい確率だね……ホータローの早く終わらせたいって思いが届いてるのかもしれない」
奉太郎「それは嬉しい知らせだな」
奉太郎「えっと、マスは……」
奉太郎「外れたら旅行なのか? 意味が分からんな……」
里志「これ、ちゃんと最後まで読んだ方がいいよ」
【世界一周へと旅立ったあなたは、5回休み】
奉太郎「……くだらん」
里志「当てるしかないね」
里志「大丈夫さ、さっきも当てたじゃないか」
とは言っても……他人のだったから気軽に選べた、と言うのもあった。
それとは違い、今回は自分のである。
……それなら、そうか。
奉太郎「千反田、数字を選んでくれ」
奉太郎「さっきは俺が選んで当たったんだ、次は千反田が選べば当たる気がする」
える「大丈夫でしょうか……」
まあ、別に外れても千反田を責める事なんてしない。
える「では……7でお願いします」
里志「いいね、ラッキーセブンだ」
奉太郎「分かった、じゃあ回すぞ」
そして、俺はルーレットを回す。
出た数字は……
【1】
ううむ、やはり10%の確率と言うのは中々に手強い物だ。
奉太郎「いいさ、気にするな」
奉太郎「後は結果を見守るだけと言うのも、悪くないしな」
える「で、ですが……」
奉太郎「千反田、ルーレットを回したのは俺だ」
奉太郎「それに、お前に数字を選んでもらったのも俺だ」
奉太郎「お前は悪くない」
える「は、はい……」
俺がそう言うと、千反田は渋々と言った感じで頷いた。
これで俺のゴールは無くなったが……まあ、疲れていたし丁度良かったのかもしれない。
色々と頭を使うのは、もう終わりにしたかった。
里志「ホータローも動けない事だし、一発ゴールを狙いたいなぁ」
里志「……よし!」
【7】
里志「……ここで7とは、さっき出るべきだったのかもね」
奉太郎「いいじゃないか、マスには何て書いてあるんだ?」
里志「ちょっと待ってね、ええっと」
【本日は2倍デー! プレイヤー全員の資産はなんと、2倍となります!】
里志「うへ……厳しいなぁ」
里志「ちょっと千反田さんに追いつくのは無理かもね、これは」
摩耶花「ちーちゃんは無理にしても、ふくちゃんには負けないからね」
奉太郎「俺はここに居るだけで2位になれる可能性が上がっただけで満足だな」
俺がそう言うと、またしても伊原に睨まれる。
何もしていないのに、本当にただこのマスに留まっているだけなのに。
所持金 保険 マス
摩耶花 2億1400万 生 28マス目
奉太郎 2億8000万 生/車 38マス目
える 5億8400万 生 37マス目
里志 3億1200万 生/車 48マス目
【2】
摩耶花「……全然良いのがでないなぁ」
摩耶花「マス頼みね、これは」
【台風に巻き込まれる、しかし幸いな事に追い風となった! 1マス進みます】
摩耶花「たった1マスって……それに次のマスには何も無いし……」
里志「まあまあ、そんな事もあるさ」
摩耶花「ふくちゃんはいいかもね、次でほぼゴールできるから」
里志「あ、あはは」
怖い怖い、人生ゲームで仲違いとは……恐ろしいゲームだ。
える「次は私ですね」
【8】
える「ふふ、私にもゴールが見えてきました」
える「このマスも、何も無い様ですね」
える「ええっと、次は折木さんですが……お休みなので、福部さんですね」
里志「よし、流石にここでゴールしたい所だよ」
里志「後ろから千反田さんも追い上げてるしね」
里志「行くよ……!」
【1】
里志「……ちょっと酷いね、これは」
里志「自分の運の無さに驚きかな」
奉太郎「一つ一つ踏んで、人生を楽しんでいるって所が……里志らしいな」
里志「……それはどうも」
【一発逆転の大チャンス! ルーレットから数字を3つ選ぶ事ができます、当たれば資産が2倍になります!】
【しかし外れた場合、残念……資産は全て、消えて無くなります】
里志「ギャンブルマスかぁ……」
奉太郎「でも、今までのより確率的には良さそうだな」
里志「ううん、そうなんだけどねぇ」
奉太郎「なんだ、当たれば1位だぞ」
里志「……いいや、パス」
里志「僕にはギャンブルは向いてないからね、外れる気しかしないよ」
里志らしいと言えば、里志らしい選択だろう。
里志「ま、そういう事で次は摩耶花の番だよ」
摩耶花「私はもうゴールできる気がしないんだけど……まあいっか」
【9】
摩耶花「9だね、もっと早く出てくれればいいのに!」
【あなたは決闘をする事になりました! 一人を選び、ルーレットで勝負をします】
【数字が大きい方の勝利、勝てば相手から1億円を受け取ります】
【負けた場合、あなたは相手に1億円を支払います】
摩耶花「嫌なマスだなぁ……」
伊原は確か……今の資産は2億程だろうか?
なんだか途中から計算が面倒になってきて、数えるのをやめてしまったが……恐らくその程度だろう。
2位を狙うなら相手は里志、可能性は限りなく薄いが1位を狙うなら千反田、と言った所か。
俺も選ばれる可能性はあったが……勝ったとしても始めにゴールするだろう里志には勝てなくなってしまう。
だとすると、選ばれるのは先程挙げた2名の内どちらかだ。
ふむ……伊原も中々に勝負師だな。
える「受けて立ちます!」
千反田はそう言い、ルーレットに手を伸ばす。
える「最初は私でいいでしょうか?」
摩耶花「うん、いいよ」
える「では、回します」
そう言うと、ルーレットをゆっくりと回した。
【2】
なんと、ここで2を出すのか……
さっきのギャンブルやイベントマスで、運を使い果たしたのかもしれない。
える「2ですか……」
摩耶花「ごめんね」
そう言うと、伊原も続いてルーレットを回す。
【1】
摩耶花「……」
前言撤回、こいつの方が運は無いようだ。
える「……勝っちゃいました」
摩耶花「うう……ちーちゃん強すぎる」
奉太郎「千反田が強いと言うよりは、お前が弱いと言う方が正しいと思う」
摩耶花「なによ、じゃあ私と勝負する?」
奉太郎「お前がまたそのマスを踏めたなら、受けて立つさ」
摩耶花「……ふん」
俺がここまで挑戦的なのにも、理由がある。
里志は次でゴールするからである。
それならばもう、伊原に何を言っても俺に災いは降りかからない。
える「では」
【2】
える「やはり、ゴールは厳しかった様です……」
里志「はは、それだけは譲れないよ」
奉太郎「どの道、千反田の勝ちだろうけどな」
奉太郎「それより、マスには何て?」
える「ええっとですね」
【流れ星が降り注ぐ中、あなたはお願いをしました】
【そんな願いを星達は叶えてくれます、プレイヤーを一人選び、選ばれた方の資産を0にします】
いや、それは分かるが。
千反田がそんな願いをしない事くらい、ここに居る全員が分かっているだろう。
奉太郎「里志を選べば俺が2位」
里志「摩耶花かホータローを選べば僕が2位って事だね」
える「選べませんよ……そんなの」
難しい選択かもしれないが、選ばないとこのゲームは終わらない。
奉太郎「俺を選んで終わらせよう、別に俺は順位等気にしない」
える「それは……それは分かりますが」
……分かるのか。
える「でも、それでも出来ません」
俺はこの時、千反田が誰を選ぶのかが分かった。
それはもう、ほとんど確信と言っていいかもしれない。
そう言うと、千反田は何かを思いついた様に目を見開く。
える「プレイヤーと言う事は、人生ゲームをやっている人達ですよね」
える「それではですね、私は」
える「私を選びます」
……やはり、そうなるか。
奉太郎「お前ならそう言うと思った」
える「え、どうしてですか」
奉太郎「そういう奴だから……って思っただけさ」
える「ふふ、そうですか」
里志「やっぱり、千反田さんには適わないなぁ」
摩耶花「そうね、順位なんてどうでもよかったのかも」
える「駄目ですよ、ちゃんとゴールしてください」
里志「了解、じゃあ最後に……回すね」
里志「最後にようやく10とはね、僕も運が悪い」
える「そうでもないですよ、福部さんが1位です」
奉太郎「ま、あって無い様な物だろう」
里志「ホータローの言う通りさ、今回のは引き分けって所かな」
摩耶花「そうね、また今度……やろっか」
奉太郎「却下で」
摩耶花「何よ、もう」
とにかく、物凄く長い人生ゲームはこれにて終わり。
後は片付けて……帰るだけだ。
奉太郎「じゃあ、片付けるか」
奉太郎「手短に終わらせて、真っ直ぐ帰ろう」
里志「まー、結果よりは過程が楽しかったかな、僕は」
摩耶花「あ、それちょっと分かるかも」
える「ふふ、私もですよ」
奉太郎「俺は……ちょっと違うな」
摩耶花「違うって、楽しくなかったの?」
奉太郎「……そう言う訳では無いが」
奉太郎「どちらかと言うと……」
里志「ホータローは、結果も過程もどっちでも良い、ってタイプだから」
奉太郎「……そういう事だろうな」
奉太郎「付け加えると、とっとと片付けて真っ直ぐ家に帰りたいタイプだ」
摩耶花「じゃ、そんな折木の意見を尊重して片付けようよ」
摩耶花「私もなんだか疲れちゃった」
これにて一件落着……とは行かない。
里志「ちょっと待って」
里志「人生ゲームと言ったらさ、あれがあるじゃないか」
……あれ、とは何だろうか。
いやむしろ、まだやる事があるのか?
俺のした考えは、千反田や伊原もしていた様で、顔に困惑が浮かんでいる。
そう言いながら、里志が指を指すのは自分の手元にある紙。
正確に言うと、銀行の役目を担った里志が持っている金。
……まさか。
奉太郎「おい! やめろ馬鹿!」
どうやら千反田と伊原はまだ気付いていない。
それが手遅れとなってしまった。
里志は……そこにあった大量のお金を、宙へとばら撒いた。
奉太郎「とんだ災難だった……」
える「私も最初はびっくりしましたよ」
奉太郎「最初だけだろ、最後はお前も笑ってばら撒いてたぞ」
える「は、恥ずかしいのであまり言わないでください」
さいで。
奉太郎「にしても、本当に余計な時間を食ってしまった……」
える「たまにはいいじゃないですか」
奉太郎「ほとんど毎日の様な気がするんだが」
える「それでもいいじゃないですか」
奉太郎「……はあ」
そんな事を話しながら、千反田の家へと向かっていた。
何故かは分からないが、今年に入ってからと言う物、千反田を家まで送っていくのが習慣となっていたのだ。
真っ直ぐ帰る事が出来るのは……いつになるのだろうか。
突然、何かを思い出したかの様に千反田が口を開く。
える「少し、気になる事があるんです」
奉太郎「今からか? 明日にしてくれ」
える「いいえ、折木さんはもう答えを知っている事ですよ」
何だろうか……まあそれなら、いいか。
奉太郎「……何だ?」
える「私が、ギャンブルに勝った時……」
える「折木さんは何故、6を選んだんですか?」
える「何か、理由があった様ですが」
奉太郎「ああ、あれか」
奉太郎「……言わなきゃ駄目か」
える「はい、気になります」
……本当に単純に、浮かんできた数字なんだが。
まあでも、千反田に嘘を付く理由も……無いか。
奉太郎「千反田える」
える「え?」
奉太郎「それで、6文字だ」
奉太郎「だから6を選んだ」
える「ふ、ふふ」
える「そうでしたか……なるほどです」
奉太郎「単純な理由さ、特に意味も無い」
える「でも私は、他にも良い数字はあると思いますよ」
奉太郎「他にも良い数字?」
俺はしばし、腕を組みながら考える。
しかし答えは出ず、千反田に答えを求めた。
奉太郎「教えてくれるか」
える「ええ、勿論」
える「えっとですね……」
える「9や、5も良かったと思います」
9に……5?
千反田が言った数字の意味が俺には分からなかったが、わざわざ聞くのもあれだな。
家も見えてきた事だし、時間がある時にでも考えればいいか。
える「ふふ、折木さんには分かると思いますよ」
奉太郎「……そうだな、考えておく」
える「ええ、宜しくお願いします」
それから千反田と別れ、俺は家に帰る。
その数字の事を思い出したのは、風呂に入り……布団の中で目を瞑っていた時だ。
奉太郎「……9と5」
……まさか。
……いや、それしか無い。
俺はその数字の意味に気付き、顔に熱が篭るのを感じながら、目を閉じた。
第11話
おわり
第1章
おわり
Entry ⇒ 2012.10.30 | Category ⇒ 氷菓SS | Comments (0) | Trackbacks (0)
咲 「この本なんだろ……。『まーじゃん部昔話』?」
『モモ太郎』
むかーしむかしのことです。
あるところに、おじいさんとおばあさんが住んでいました。
おじいさんは山へ芝刈りに、
大沼プロ 「裏鬼門へ行ってくる」
おばあさんは――
小鍛冶 「アラサーだよっ!」
――川へ洗濯にいきました。
おばあさんが川でせんたくをしていると、
桃子 「ドンブラコっすよー。もひとつ、ドンブラコっすよー」
と大きなモモが川上から流れてきました。
たいへん立派なモモでしたが、おばあさんはその存在に気づくことなく、
桃子 「ドンブラコっすよー。ドンブラコっすよー……。ょー……」
川下へと流れて、消えてしまいましたとさ。
『モモ太郎』 了
『北風と太陽』
あるところに、いつも競っている北風と太陽がいました。
洋榎 「なあ太陽、ウチのほうが凄いのはわかっとるんやろ?」
胡桃 「私のほうが優れてるに決まってるでしょ!」
売り言葉に、買い言葉。二人は北風の提案により、
「旅人の上着を脱がせることはできるか」という勝負で決着をつけることにしました。
そして、早速二人の前に旅人がやってきました。
宥 「……」
洋榎 「ほな、うちからいくでー」
胡桃 「負けない……」
旅人は夏であるにも関わらず、上着を羽織り、マフラーをしています。
北風はそんな旅人の前に降り立ち、こう言いました。
洋榎 「北風がキタでー!」
宥 「さ、寒い……」 ブルブル
胡桃 (馬鹿みたい……)
北風のダジャレがよっぽど寒かったのか、
旅人は両腕を体に回し、しっかり上着を押さえ座りこんでしまいました。
洋榎 「なんで今のダジャレで笑わんのやっ!」
胡桃 「じゃあ、次は私がいくよー」
今度は、太陽の番です。
太陽は座り込んでいる旅人の前に立つと――
おもむろに旅人のひざの上に座りました。
胡桃 「充電! 充電!」
宥 「!」
胡桃 (一見、わけのわからない行動に見えるけど……)
胡桃 (体を寄せ合うことにより暑くさせて、服を脱がせる作戦!)
無鉄砲な北風の作戦に対して、策を擁した太陽でしたが――
宥 「あったか~い……///」 ムギュウウウウ
胡桃 「ぎゃー! あついよー!」
逆に抱きしめられ、暑さで慌てて退散したのでした。
洋榎 「今回は、引き分けのようやなー」
胡桃 「……次は負けない!」
今回の勝負は引き分けに終わってしまいました。
北風と太陽はきっと、またこうやって勝負を繰り返すのでしょう。
洋榎 「しかし、ウチのダジャレが滑るとはなー」
胡桃 「あれはないでしょー。私の作戦は良かったと思うんだけどなー」
洋榎 「策士策に溺れる、やな」
胡桃 「むぅ……」
洋榎 「まあ、なんや。勝負したら腹減ったなー。一緒に飯でも食いにいこか?」
胡桃 「うん!」
ただ、なんだかんだで、仲が良いようです。
喧嘩するほど仲が良い、まさにそんな関係の二人でした。
『北風と太陽』 了
『かさこ地蔵』
むかしむかし、あるところに貧乏なおじいさんとおばあさんがいました。
貧乏をしのぐために、おばあさんは笠をこさえ、大晦日におじいさんは街に売りにでかけました。
すると、おじいさんは道すがら、六体のおじぞうさまを見つけました。
おじぞうさまの頭には、雪が積もってしまっています。
副会長 「ああ、気の毒に。そうだ、笠はいっぱいあるからかぶせてあげよう」
衣 「……」
副会長 「……あり」 ポスッ ←笠をかぶせる音
衣 (わーい)
一 「……」
副会長 「……あり」 ポスッ
一 (あり、ってなんだろう……)
胡桃 「……」
副会長 「……あり」 ポスッ
胡桃 (……きもちわるい)
健夜 「……」
副会長 「……ババアはなし」
健夜 (まだアラサーだよっ!)
漫 「……」
副会長 「う~ん……」
副会長 「……なし」
漫 (な、なんでやっ!?)
晴絵 「……」 ドキドキ
副会長 「……チッ」
晴絵 (えっ)
マホ 「……」
副会長 「……ど」
マホ (……ど?)
副会長 「……どストラーイクッ!」 ポスポスポスポスポスポスッ!
マホ (きゃ、きゃああああああああああ!)
――――きゃあああああああああ!
―――きゃあああ……
――ぁぁ……
―……
副会長 「というわけで笠が無くなったんですけど」
副会長 「これ――緊急案件でOKですよね?」
久 「今すぐ出てって」
『かさこ地蔵』 了
『おおきなカブ』
ゆみ 「出席をとるぞ。蒲原」
智美 「あい」
ゆみ 「妹尾」
佳織 「はい」
ゆみ 「モモ」
桃子 「はいっす」
ゆみ 「津山」
睦月 「うむ」
ゆみ 「津山……返事が小さいぞ」
睦月 「……!」
ゆみ 「気合をいれろ! 津山!」
睦月 「……うむ!」
ゆみ 「もっとだ! 津山!」
睦月 「うむっ!!」
ゆみ 「やればできるじゃないか、さあ練習を始めるぞ」
桃子 (大きなウム、っすね)
『おおきなカブ』 了
『さるかに合戦』
むかーしむかしのことです。
あるところに、サルとカニがいました。
穏乃 「ウッキー!」
洋榎 「今度はカニかいっ! ……自分、ノリノリやな」
穏乃 「ウッキキー!」
ある日、サルとカニが一緒に遊んでいると、
カニはおにぎりを、サルは柿の種を拾いました。
洋榎 「おー、うまそうなおにぎりや!」
洋榎 「さっそく、頂くでー」
穏乃 「……」 ジーッ
洋榎 「……なに、こっち見てんねん」
穏乃 「……」 ダラダラ
洋榎 「ヨダレぎょーさん垂らして、これ食べたいんか?」
穏乃 「……!」 コクコク
洋榎 「すまんな、これはウチが拾ったんや。諦めてくれ」
穏乃 「あきらめるわけがない!」
洋榎 (……うざい)
そこには、とてもしつこいサルがいました。
サルがあまりにしつこいので、カニは柿の種とおにぎりを交換してあげました。
穏乃 「やったー! カニさん、ありがとうございます!」
洋榎 「ええよー。ウチは柿の種を育てて、ぎょーさん柿を食ーたるでー」
カニはサルからもらった柿の種を庭に埋めると、妹と一緒に丁寧に世話をし始めるのでした。
洋榎 「早くおっきく、おっきくなるんやでー」
絹恵 「秋にはいっぱい実をつけてるんやでー」
洋榎 「絹みたいにおっきな実をつけるんやでー」
絹恵 「お姉ちゃん、セクハラは柿ちゃんの成長に悪影響やで!」
二人の気持ちがしっかり届いたのでしょうか。
やがて柿の種は芽を出し、木へと成長し、豊かな実をつけました。
絹恵 「やったー! ウチらもやればできるなー」
洋榎 「せやろー! さすがやろー!」
二人はオレンジ色に彩られた、大きな柿の木を見上げます。
絹恵 「おいしそう……」
洋榎 「今から食べるんやで……」
絹恵 「ウチらはどう考えても……」
洋榎 「カニ組……!!」
絹恵 「そこは、勝ち組とちゃうんかい!」
しかし、二人はここで大変なことに気がつきました。
大きな柿の木を見上げ、そして自分たちの体を確認します。
洋榎 「甲殻類に、この木を登れっちゅーのはちょっときついで」
絹恵 「甲殻類の悲しいところやな……」
すると、打ちひしがれる二人のもとにサルがやってきました。
穏乃 「うっきー! カニさんたち、どうしたんですか?」
洋榎 「実はな、サルからもろーた柿が実になったんやけど」
絹恵 「ウチらじゃ、木に登ることができへんのや」
穏乃 「じゃあ、私に任せてください!」
そう言うと、サルはするすると木を登っていきます。
そして、ほどよく熟した柿をもぎとると、もぐもぐと食べ始めました。
穏乃 「ハムッwww ハフハフ、ハフッwwww」
絹恵 「サルさーん!?」
洋榎 「あいつ、ウチらが育てた柿をひとり占めするつもりやで!」
穏乃 「うめぇwwwwwwwwww」
サルの身勝手な行動に、カニさんたちは怒ります。
絹恵 「エテ公、しばいたるどっ!」
洋榎 「こらーっ! ウチらにも柿をよこさんかい! ウチらが育てたんやで!」
穏乃 「確かにその通りです。でも……」
穏乃 「食わせるはずがない!」
そこには、とても腹立たしいサルがいました。
穏乃 「そんなに柿が食べたいなら、これでもどうぞ!」
サルはそう言うと、カニたちに向かってまだ青い上柿を投げました。
恵 「あたしゃ、いつも通り食われて、栄養となりますよ」 ヒューッ
しかし、サルのコントロールが悪かったのか、
まだ青い上柿は、そのまま地面へとぶつかりました。
絹恵 「これはもう食われへんなぁ」
洋榎 「せやな」
恵 「えっ」
ふと冷静になった二匹でしたが、サルに対する怒りは収まりません。
そこで二匹はサルを懲らしめるために、友達に協力してもらうことにしました。
洋榎 「作戦はこうや。まずはクリ、あんたが高火力でサルを火傷させる」
玄 「おまかせあれ!」
洋榎 「するとサルは火傷を直すために、水がめのところへいく」
洋榎 「そこであんたの出番や、ハチ」
洋榎 「水がめに隠れて、おもっくそコークスクリューツモをくらわせたれ」
照 「……ああ」
絹恵 「最後はウスさんですね」
純代 「……」
絹恵 「サルが慌てて家から飛び出したら」
絹恵 「屋根の上からサルめがけて思いっきり飛び降りてください」
純代 「……わかった」
洋榎 「懲らしめるのが目的やから、みんなほどほどになー」
洋榎 「そしたら、作戦開始やで!」
クリとハチはそれぞれの位置につき、サルの帰りを待ちます。
そして、最後にウスが屋根に登りはじめました。
絹恵 「お、お姉ちゃん。大丈夫かな、家が揺れてるで」
洋榎 「ウスが思ってたより重いみたいやな……」
そして、とうとうウスが屋根の上にたどり着こうとしたとき――
純代 「どっこいっしょ……あっ」 バギッ
洋榎 「あっ」
絹恵 「あっ」
ズゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……ドガシャーン!
――サルの家が潰れました。
サルが家に帰ると、そこには木片の山があるだけでした。
穏乃 「なんだこれ……」
そのそばには、カニたちがバツの悪そうな顔をして立っています。
そして、二匹はサルに事の顛末を話します。
洋榎 「ちょっとあんたを懲らしめようと思っただけなんや……」
洋榎・絹恵 「ほんまに、ごめんなさいっ……!」
穏乃 「家が壊れた、寝床もない、食料もない。でも……」
穏乃 「……諦めるわけがない!」
サルはそう言うと、木片の山を黙々と片付け始めました。
カニさんたちはその姿を、唖然とした表情で見つめます。
穏乃 「家が壊れちゃったのはショックだけど」
穏乃 「もとはといえば、私のせいだから……頑張って、家を建て直すよ」
そこには、とても頑張り屋なサルがいました。
汗をたらしながら、サルはせっせと片づけを続けます。
その姿を見ていたカニさんたちは……一緒に片付けを始めました。
穏乃 「……!」
洋榎 「……ウチらにも、手伝わせてくれへんか」
絹恵 「せやせや、やっぱり家が壊れたのはウチらのせいやしな」
穏乃 「……ありがとうございますっ!」
三匹は満面の笑顔で、仲直りをすることができました。
――崩れた家の下
玄 「助けてお姉ちゃん……」 ブルブル
照 「暗いところ怖いよー……」 ガクガク
純代 「私だけ道具……」
※このあと助け出されました。
『さるかに合戦』 了
『ピノキオ』
むかしむかし、子どもの好きな時計職人のおばあさんがいました。
しかし、子どもがいないおばあさんは、かわりに木のあやつり人形をつくりました。
おばあさんは、人形にピノキオという名前をつけました。
そして、不思議なことにピノキオは自ら動き、自ら喋るのでした。
豊音 「おばーさん! おはようございます!」
トシ 「あら、ピノキオは今日も早起きねぇ。昨日は夜更かししなかった?」
ピノキオには、とても不思議な特徴がありました。
豊音 「うん! ちょーぐっすり寝たよー……って、うわわ!」 グィーン!
トシ 「あらあら……。昨日はオリンピックが放送されていたからねぇ」
ピノキオは嘘をつくと、背が伸びるのです。
ここ一年、ほぼ毎日嘘をついた結果、ピノキオの身長は30メートル程になってしまいました。
いくらなんでも酷過ぎるwww
そして現在、日本のシンボルとして聳え立っている東京ス○イツリー。
その支柱となっているのは、何を隠そう、背が伸び続けたピノキオなのです。
豊音 「今日も観光客がいっぱいだよー」
豊音 「昔は都会や有名人に憧れてたけど」
豊音 「今や私は見られる側なんだねー」
すると、そこへ四人の少女がやってきました。
エイスリン 「スカイツリー、タカイ!」
胡桃 「エイちゃん、走っちゃだめだよ!」
塞 「ほらシロ、しゃきっとして」
白望 「……だるい」
豊音 「なんだか楽しそうな子たちがきたね」
豊音 「友達になりたいなー……」
ピノキオは思い切って、少女たちに話しかけてみることにしました。
豊音 「あのー……」
塞 「今、誰か話しかけた?」
エイスリン 「?」
胡桃 「頭大丈夫?」
塞 「ひどっ! でも、確かに聞こえたんだけどなぁ」
豊音 「あの!」
胡桃・エイスリン・塞 「!」
塞 「今、確かに聞こえたよね!?」
胡桃 「う、うん……シロ?」
白望 「……そこ」
シロと呼ばれた少女が指さした先には、スカイツリーの中心部から顔を出すピノキオがいました。
四人はあまりの大きさに腰が引けてしまいましたが、話をするうちに打ち解けていました。
塞 「なんで、そんなに大きくなっちゃったの?」
豊音 「私、嘘をつくと背が大きくなるんだー」
胡桃 「!」
塞 「すごい特異体質だね……。胡桃、どうしたの?」
胡桃 「わ、わたし! 実は男の子なんだ!」
塞 「は?」
エイスリン 「?」
白望 「……」
胡桃 「……」 ドキドキ
胡桃 「……」 ズーン
塞 「胡桃はなんで落ち込んでるの?」
白望 「……背が伸びると思ったんじゃない」
豊音 「ちょーかわいいよー」
エイスリン 「ピノキオ!」
豊音 「エイスリンさん、どうしたの?」
エイスリン 「ピノキオ、シンチョー、イクツ?」
豊音 「身長かー。今は1000メートルぐらいかなー」
豊音 「って冗談だよ!」
塞 「あっ」
胡桃 「あっ」
エイスリン 「アッ」
豊音 「あっ」
白望 「……ダルい」
豊音 「ち、違うの! 今のはなしいいいいぃぃぃぃぃぃぃ……!」 グィーン
――2012年・東京ス○イツリーは崩壊し、日本は世紀末を迎えた。
『ピノキオ』 了
『おおきなカブ・2』
純代 「……」
華菜 「……大きなデブ」
純代 「ふんっ!」 バキッ!
華菜 「ぬぎゃー!」
『おおきなカブ・2』 了
『浦島太郎』
むかしむかし、ある村に浦島太郎というやさしい心をもった若者がいました。
智美 「蒲原太郎じゃないぞ~」 ワハハ
智美 「蒲焼さん太郎でもないぞ~」 ワハハ
今日は釣りをするために、海辺へとやってきました。
するとなにやら騒がしい声がします。
そちらを見ると、子どもたちが大きなカメをいじめていました。
緋菜 「えい! ひっくりかえしてやるし!」
菜沙 「とー! 棒でつっついてやるし!」
城菜 「とりゃ! まいったといえし!」
華菜 「いたいっ! 痛いからやめろしっ!」
智美 「なんか色々とおかしいな~」 ワハハ
カメが色々と可哀想だったので、浦島太郎は助けてあげることにしました。
智美 「おい、お前たち。カメをいじめちゃダメだぞ~」 ワハハ
緋菜 「おまえ誰だし!」
菜沙 「邪魔するなし!」
城菜 「代わりにいじめてやるし!」
智美 「……いじめられるのって辛いんだぞー」 ワハハ…
緋菜 「……なんかごめんだし」
菜沙 「……そのうちいいことあるし」
城菜 「SSでいじめられたぐらいでめげるなし!」
浦島太郎の大人の説得で、子どもたちもカメをいじめるのをやめて引き上げていきました。
華菜 「そろそろまぜろよ」
智美 「なんだ、1レス出番なかっただけなのにでしゃばりだな」 ワハハ
華菜 「……とりあえず、ありがとうだし」
智美 「なーに、気にするなー」 ワハハ
カメは助けてもらったお礼に、浦島太郎を竜宮城へ連れていくことにしました。
浦島太郎を背中の甲羅に乗せると、カメは海の底へともぐっていきます。
華菜 「竜宮城はとても綺麗なとこなんだ」
智美 「ごばばばばばば、ばぼっ」 ガババ
華菜 「姫様も仕え人もみんな良い人だから、楽しみにしてろし!」
智美 (い、息が……)
やがて、竜宮城へと到着しました。
浦島太郎は途中何度も気を失いましたが、
苦行には耐性があるのか、なんとかもちこたえました。
華菜 「ほら、竜宮城に到着だし!」
智美 (綺麗なとこだなー) ブクク
竜宮城はこの世のものとは思えない、とても美しいものでした。
見たこともないような色とりどりの魚が泳いでいたり、緑色のわかめが揺らいでいたり。
浦島太郎は、その光景を見れただけで満足してしまいました。
華菜 「姫様ー! 客人の到着だし!」
カメが叫ぶと、竜宮城の奥から女性があらわれました。
小蒔 「ようこそいらっしゃいました。カメを助けてくださったそうですね」
智美 (……!)
女性は――とても綺麗でした。
さきほど感動を受けた竜宮城ですら霞んでしまう、そんな美しさを備えていました。
智美 「がばっ! ごぼぼっ!」 ガババ
小蒔 「まだ水中に慣れていないみたいですね。これは失礼いたしました」
小蒔 「……えいっ」 パチッ
姫様が指をならすと、浦島太郎はたちまち呼吸ができるようになりました。
智美 「おおー、一気に楽になったぞー」 ワハハ
それからというものの、浦島太郎は竜宮城でとても楽しい時間を過ごしました。
姫様と語らい、
小蒔 「私、友達ができて嬉しいです!」
智美 「まだまだ、いっぱい遊ぼうなー」
従者たちと遊び、
霞 「ほら、水中だとおっぱいが浮くのよ」
初美 「浮かないですー」 グスッ
智美 「私もだー」 ワハハ
美味しいものを食べ、
巴 「今日はウミガメのスープですよ」
華菜 「にゃっ!?」
智美 「おー、うまそうだなー」 ワハハ
春 「……」 ポリポリ
智美 「春はなにを食べてるんだー?」 ワハハ
春 「……サンゴ」
素敵な海の底の景色を眺めて……。
智美 「綺麗だなー……」 ワハハ
しかし、馴れとは恐ろしいものです。
十日もすると、浦島太郎は竜宮城に飽きてしまいました。
智美 「おーい、姫様ー」 ワハハ
小蒔 「太郎さん! 今日はなにをして遊びましょうか?」 ニコニコ
智美 「いやー、実は……そろそろ地上に帰ろうと思うんだ」 ワハハ
小蒔 「えっ……」
智美 「そろそろみんなも心配しているだろうし、私も家族が恋しくてなー」
小蒔 「そうですか……。残念ですが仕方ありませんね、それではお見送りをしましょう」
浦島太郎の帰り支度が済むと、従者や大勢の魚たちがお見送りをしてくれました。
さらに姫様から「絶対に開けてはいけませんよ」、と大きな玉手箱をお土産にもらいました。
帰りもカメに送ってもらい、浦島太郎は十日ぶりに地上へと出ました。
しかし、辺りを見回すと以前と様子が違います。
智美 「おかしいなー。私の家がないぞー」 ワハハ
あるべき場所に浦島太郎の家はなく、
また、いるべき場所に浦島太郎の家族はいませんでした。
智美 「どういうことだ……。おっ、第一村人発見だ」 ワハハ
智美 「おーい!」
健夜 「……はい?」
村人に事情を聞くと、どうやら浦島太郎が竜宮城へ行ってから、十年の歳月が経っているようでした。
竜宮城での一日は、地上での一年だったようで、浦島太郎は大きなショックを受けました。
智美 「でも、十年しか経ってないのに、なんで私の家と家族はいないんだ?」 ワハハ
健夜 「あ、浦島さんでしたら、お父さんに問題があったみたいで」
健夜 「朝寝と朝酒と朝湯が大好きで、数年前に身上をつぶしたみたいです」
智美 「そりゃーもっともだー」 ワハハ
智美 「色々とありがとうございました。アラサーの村人さん」 ワハハ
健夜 「もうアラフォーだよ!」
帰る家もなく、迎えてくれる家族もなく、浦島太郎はとうとう一人ぼっちになってしまいました。
浦島太郎は海辺に座り、沈み行く夕陽を眺めながら、一人で「ワハハ」と笑い続けました。
そして、ひとしきり笑った頃には、空は満天の星空となっていました。
智美 「さーて、これからどうするかなー……」 ワハハ…
途方に暮れた浦島太郎は、そこでふと姫様から貰った玉手箱を思い出しました。
地上で孤独になった浦島太郎は、「絶対に開けてはいけない」という姫様の忠告など、もうどうでも良くなっていました。
智美 「どうせもう、私はひとりぼっちだしなー」 ワハハ…
智美 「開けちゃうか」 ワハ…
浦島太郎は意を決して、玉手箱に手をかけました。
智美 「なにが出るかな、なにが出るかな、ワハハッハッハ、ワハハハ」 パカッ!
睦月 「……」
智美 「……」
睦月 「……」
智美 「……お前も一人かー?」 ワハハ
睦月 「うむ」
智美 「それじゃあ、二人で暮らすかー?」 ワハハ
睦月 「うむ」
智美 「そうかー、ありがとうなー。家事はできるか?」 ワハハ
睦月 「うむ、私なりに精一杯……」
智美 「そうかー。それじゃあ、今日からよろしくなー」 ワハハ
睦月 「うむ」
それから十数年、浦島太郎と寡黙な少女は、
末永く、末永く、二人で仲良く暮らしていきましたとさ。
『浦島太郎』 了
『三年寝太郎』
星夏 「……」
久保 「……」
星夏 「……コーチ」
久保 「!!」
久保 「……な、なんだ、文堂」
星夏 「私、こうやって高校生活の三年間、両目を閉じてましたけど」
星夏 「寝てたわけじゃありませんからね」
久保 「……そ、そうか」
星夏 「……」
久保 「……」
『三年寝太郎』 了
『金のオノ 銀のオノ』
むかしむかし、ある森の中で木こりたちが木を切っていました。
未春 「……よいしょっ」 ギコギコ
星夏 「……よいしょっ」 ギコギコ
純代 「……」 バキッ バキキッ
久保 「手を休めるなよ! 特に……」
久保 「池田ァ!」
華菜 「は、はいぃぃ!」 ギコギコ
木こりたちは仕事に精を出し、せっせと木を切り続けます。
そしてしばらく経ち、お昼休憩を取ることにしました。
久保 「よーし、休憩だ。みんなでお昼を食べるぞ」
久保 「こんな木屑が舞ってるところでご飯を食べるのもなんだからな」
久保 「少し歩いて、景色の良い所にいこうか」
木こりたちはお弁当を手に持ち、森の中をてくてくと歩き始めました。
そしてしばらくすると……一面に水面が広がる、ひらけた空間に出ました。
久保 「これは……」
久保 「池だァ!」
未春 「湖ですね」
久保 「そ、そんなことはわかってる……///」
華菜 「……」
久保 「なに笑ってんだ池田ァ……」
華菜 「え!?」
星夏 (完全な言いがかりだ……)
久保 「お前、私がハイキングにいったら」
久保 「山田君の前で『山だァ!』って言うキャラだと思ってんだろぉ……?」
華菜 「は? え、いや、全然そんなこと思ってないです!」
未春 (意味がわからない……)
久保 「これはお仕置きだな! おい、深堀!」
純代 「……」
華菜 「え、ちょ、ちょっとまって! いや、に、にゃあああああああああ!」
深堀と呼ばれた少女は、片手で池田を掴むと、池に放り込みました。
湖は大きな水しぶきをあげ、一瞬で池田を飲み込んでしまいました。
未春 「か、華菜ちゃん……!」
すると次の瞬間――湖から、とても美しい女神が現れました。
美穂子 「あなたたちが落としたのは、この娘ですか?」
緋菜 「ひなちゃんだし!」
久保 (か、可愛い……///)
星夏 「いえ、ちが―― 久保 「それだァ!」
未春 「え?」
美穂子 「それとも、この娘ですか?」
菜沙 「なずなちゃんだし!」
久保 (か、可愛すぎて鼻血が……)
久保 「そいつも貰っておこうかァ!」
星夏 (もう滅茶苦茶だ……)
美穂子 「最後にもう一人、この子もいかがですか?」
城菜 「しろなちゃんだし!」
久保 (も、もう、可愛すぎて……だめだあああ!)
久保 「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
ジャバーン!!
未春 「自ら飛び込んだ!?」
久保 「池だァ! ガボッ、池田ァ! ガボボッ、ガボダァ!」 バジャバジャ
未春 「……」
星夏 「……」
純代 「……」
美穂子 「……」
美穂子 「あなたたちが落としたのは、この久b 未春 「いえ、違います」
『金のオノ 銀のオノ』 了
『かぐや姫』
むかしむかし、竹を取って暮らしている夫婦がいました。
働き者の、お父さん。
純 「俺は女だっつーの!」
しっかりものの、お母さん。
透華 「しっかり働いて、稼ぎますわよ!」
二人は決して裕福な暮らしをしているわけではありませんでしたが、
つつましく、幸せな生活を送っていました。
ある日のこと、お父さんが竹やぶにいくと、根元が光っている不思議な竹を見つけました。
純 「へー、珍しい竹だな。金銀財宝が眠ってたりして」
おじいさんは強欲な一面を見せると、斧を一閃――
純 「うおりゃああああああああ!」
衣 「うわああああああああああ!」
――竹を切り落としました。
衣 「ひぃぃぃぃ……」 ブルブル
純 「こ、こ、こここここここ」
衣 「こ、怖いよぉ……」 ブルブル
純 「子ども!?」
衣 「こ、ここここここ子どもじゃない! わ、私は――」
純 (どうする? 喋ってるし、放っておいても大丈夫か?)
純 「いや――放っておけねぇ!」
玉のように美しい子どもを見つけたお父さんは、大喜びで腕に抱えて家につれて帰りました。
子どものいなかったお父さんとお母さんは、たいそう喜びました。
そして二人はその子を「かぐや姫」と名づけ、たいそう可愛がって育てました。
幾年の月日が経ち、かぐや姫はすくすくと背は伸びませんでしたが、美しく成長しました。
そしてお父さんの家業も順調で、一家は使用人を雇えるほど裕福な家になりました。
裏は竹林、表には広がる海。そんなところに、彼らの家はありました。
衣 「智紀! 一! 今日も一緒に遊ぶぞー!」
一 「今いきますよ、姫様」
智紀 「……今日は何をする?」
透華 「ふふ、まるで三姉妹のようですわね」
純 「ああ、二人とも良い子で良かったなー」
衣 「純! 透華! 二人も一緒に遊ぼうぞ!」
純 「ほら、姫に呼ばれたぞ」
透華 「ええ、行きましょうか」
かぐや姫を中心として、五人は毎日仲良く暮らしていました。
しかし、お父さんとお母さんは、かぐや姫のことで憂慮していることがありました。
衣 「……月が近い」
かぐや姫は満月の夜になると、いつもの無邪気さを失い、
一転、冷たいまなざしを空に向けるのです。
透華 「……」
純 「……」
一 「……」
智紀 「……」
そんな日の姫には、誰一人近づくことすらできないのでした。
次の満月の夜のことでした。
とうとうかぐや姫が両親に、話を切り出しました。
衣 「……純、透華。話がある」
透華 「……なんですの」
衣 「実は私は……月の世界のものなのだ」
純 「……!」
衣 「今まで二人に育ててもらったが、今宵月が満ちたとき……」
衣 「私は、月に帰らなければならぬ」
透華 「そんなっ……!」
純 「……そんなこと、認められるかよっ!」
二人は悲しみ、怒り、嘆きました。
そして使用人とも話し合い、今夜四人でかぐや姫を守ることを決めました。
その日は、五人一緒の部屋で過ごしていました。
今までの思い出を語り合いながら、今生の別れとわかっているかのように。
かぐや姫を守ると決めていながらも、予期するところがあったのでしょう。
ふと、使用人の一が空を見上げました。
赤い空が、夕闇へと変わり、そして黒に染まっていきます。
一 (夜の帳がおりてくる……)
そのときでした。
衣 「……きた」
純・透華・智紀・一 「!!」
かぐや姫の呟きと同時に、夜空が金色に光ります。
やがて光が薄らぐと、月より黒服の使者がまいおりてきました。
ハギヨシ 「衣様、お迎えにあがりました」
衣 「出迎えの大儀、ご苦労であった」
ハギヨシ 「父君と母君が、衣様のお帰りを心待ちにしておられます」
衣 「……わかっておる」
純・透華・智紀・一 「……」
四人は動かなければいけない、とわかっていながらも、
月よりの使者の神々しさ、奇怪さに気圧され動くことができませんでした。
そして、そんな四人に対して、かぐや姫は惜別の言葉を紡ぎます。
衣 「純、透華、一、智紀……」
衣 「生まれてこの方、私は何も知らなかった」
衣 「父の力強さも」
衣 「母の愛も」
衣 「姉妹の触れ合いも」
衣 「家族の絆も」
衣 「それら全てを教えてくれたのは……四人だった」
衣 「四人と日々過ごしていく中で」
衣 「月の国で孤独だった衣にも――家族ができるかもっ、と思うことができた」
衣 「ほ、ほんとうに、ありがとう……」
かぐや姫はそこで言葉を止めました。
ハギヨシ 「衣様、そろそろ行きましょう」
それを見た使者は、もうこれで用は済んだと判断したのか、かぐや姫を連れて月へと登り始めました。
衣 「……」
そのときでした。
お父さんが月に向かって叫びます。
純 「かぐや姫ー! 家族ができるかもってお前は言ったけど!」
純 「俺らは、本当の家族だったんじゃないのかよ!」
衣 「!」
衣 「で、でも……私とみんなは血の繋がりもないし!」
智紀 「そんなの関係ない……!」
一 「僕たちは姫様のこと、家族だと思ってる……それじゃダメなのかな!?」
透華 「そうですわ! あなたは私たちの、大切な家族ですわ!」
衣 「み、みんな……!」
衣 「わ、私もみんなを家族だと思ってる!」
衣 「純も、透華も、一も、智紀も……」
衣 「いや、お父さんも! お母さんも! 智紀お姉ちゃんも! 一お姉ちゃんも!」
衣 「大好きだっ!」 ポロポロ
純 「へへっ、あいつ初めてお父さん、お母さんって呼んだな」 ポロポロ
透華 「本当に……これで、本当の家族ですわね」 ポロポロ
一 「おとーさんも、おかーさんも泣きすぎだよ……」 ポロポロ
智紀 「そういう、一も……」 ポロポロ
そして、かぐや姫は月へと帰っていきました。
かぐや姫が月に帰ってから、再び幾年の月日が経ちました。
あれからも、四人は家族として仲良く暮らしています。
背中には竹林が、前面には海が広がる家に今も住んでいます。
そんな四人は、かぐや姫のことを忘れないためにも、
満月の夜には欠かさずあることをしています。
純 「さーて、今宵も満月だな。衣に会いにいくか」
透華 「そうですわね、一! 平たい花器は用意したかしら?」
一 「もちろんだよ、おかーさん。さあ、行こうか」
智紀 「……」 コク
四人は家を出ると、前面に広がる海へと向かいます。
そして海に花器を傾け入れると――海に映る月をすくいとるのでした。
『かぐや姫』 了
『アリとキリギリス』
夏のある日、アリさんがせっせと食料を運んでいます。
胡桃 「よいしょっ、よいしょっ」
汗をかきながら、一生懸命に巣へと運んでいきます。
そんな様子を、一匹のキリギリスが眺めていました。
白望 「……ダルい」
夏の暑い盛りに飛び回るわけでもなく、冬に備えて食料を準備するわけでもなく。
するとそんな様子を見かねたのか、アリさんはキリギリスさんに忠告をします。
胡桃 「ちょっと、キリギリスさん! 今のうちに食べ物を蓄えておかないと、冬に困っちゃうよ!」
白望 「あー……。でも、動けない」
胡桃 「もー、知らないからね」
そして、寒い寒い冬がやってきました。
アリさんは夏にしっかり食料を溜め込んでいたおかげで、冬を越すことができそうです。
胡桃 「しっかり夏に働いて良かった! さて、キリギリスさんはどうしてるかな?」
胡桃 「きっと、食べ物がなくて困ってるはずだから……仕方ないけど、私が助けてあげよう!」
胡桃 「別に好きとか、そんなんじゃないんだけどね///」
アリさんは、暖かい家の中から白銀の世界を覗きます。
すると、そこには夏のときと変わらず、まったく動こうとしないキリギリスさんの姿がありました。
白望 「お腹空いた……」 グー
胡桃 「やっぱり!」
しかし、よく見るとキリギリスさんの周りには数羽の昆虫が集まっていました。
エイスリン 「パン、タベル?」
白望 「うん」
塞 「ほら、このままじゃ凍え死ぬから……毛布かけとくよ」
白望 「あー、ありふぁふぉ」 モグモグ
豊音 「動けないみたいだから、周りにかまくら作っておいたよー」
白望 「これで寒さをしのげる……」
胡桃 「あ、ありー……?」
予想外の状況に、不適切な発言をしてしまったアリさん。
アリさんはこれ以降、適度に手を抜くことを覚えたそうです。
『アリとキリギリス』 了
『花咲かじいさん』
むかしむかし、あるところにおばあさんとおばあさんが住んでいました。
和 「そういえば、iPS細胞というので同性の間でも子供ができるらしいです」
咲 「え、えぇ~……。う~ん……」
二人はとても仲が良かったのですが、なぜか子宝には恵まれませんでした。
そのかわり、エトペンという喋るペンギンの人形をとても可愛がっていました。
ある日、エトペンが畑で言いました。
エトペン 「ココホレペンペン、ココホレペンペン」
和 「エトペン……。ここを掘れといっているのですか?」
咲 「掘ってみようよ! 金銀財宝ざっくざくかもしれないよ!」
和 「そんなオカルトありえません。さ、畑仕事に精を出しましょう」
エトペン 「チョwwwww」
エトペンがあまりにしつこいのと、おばあさんのススメもあって、
二人は畑を掘ることにしました。するとどうでしょう、案の定、大判小判が出てきました。
咲 「ほらね!」
和 「こ、こんなの偶然ですっ! ……でも、エトペンありがとうございます」
エトペン 「ペンペン!」
すると、そんな様子をとなりの欲張りおじいさんが見ていました。
舞 (財宝ほり当ててやんよ!)
そして、欲張りおじいさんは二人に近づくとエトペンをよこすように交渉します。
舞 「なぁそのペンギンなんだけど うちのなんだ……返してくれないかなー?」
和 「は?」
舞 「実は遠い昔に……うちがそれ落としたこと知らなかった?」
和 「この人はなにを言っているのでしょうか?」
咲 「わ、わけがわからないよぅ……」
欲張りおじいさんは、その後も訳のわからないことを言い続けます
しかし、それを冷静に対応する二人に対して切れました。
舞 「いい加減に貸さんか!」
咲 「とうとう、貸せって言っちゃったよ」
和 「そうなんだ、じゃあ私畑仕事いくね」
舞 「キサマーーッ!!」
二人と一匹は欲張りおじいさんを無視して、畑仕事を再開します。
それを見た欲張りおじいさんは、内心、怒り心頭でした。
舞 (真鍋和の真似なんぞでウチの交渉を流しおってからに!)
舞 (大体なんだよそのクソみたいなペンギンは!)
そしてとうとう、強硬手段にでました。
欲張りおじいさんはエトペンを掴むと、無理やり引っ張りました。
舞 「いいから貸せって!」 グイグイ
咲 「あっ!」 グイグイ
和 「は、離してください!」 グイグイ
エトペン 「ファー…ブルスコ…ファー…ブルスコ…ファ-」
舞 「よこせ……って!! ……あっ!」 グイッ!
和・咲 「あっ!」
エトペン 「モルスァ」
両側から引っ張られた結果、エトペンの腕が千切れてしまいました。
ちぎれた部分から白い綿が畑に飛び散ります。
和 「エトペン!う、うわああああああああああん」 ポロポロ
咲 「の、和ちゃん……」
舞 「やばっ、逃げよっ」
悲しみに打ちひしがれる二人をよそに、欲張りおじいさんは逃げ出しました。
二人はエトペンの白い綿を全て集め、布地の部分は庭に埋めました。
次の日、おばあさんとおばあさんがエトペンの墓参りにいくと、
なんと、エトペンを埋めた部分から大木が生えていました。
そのとき、ちょうどふわりと風が吹きました。
おばあさんたちが抱えた白い綿が風に乗り、大木にフワリとかかりました。
すると――綺麗な淫r、ピンクの花が咲いたのです。
和 「わぁっ、綺麗ですねっ……!」
咲 「本当! 和ちゃん、きっとこれはエトペンが生まれ変わったんだよ!」
和 「そ、そんなオカルト……。いえ、そうかもしれませんね」
満開の花の前で、二人は手をつなぎ二人はにっこりと笑いました。
咲 「さてと、もう一つ花を咲かせなきゃね……」
その日の夜、お殿様が従者を引き連れて山を登っていました。
頂上にさしかかると、山の上にある一本の大木の前におばあさんがいることに気づきました。
衣 「こんなところに人が……。おい、皆の衆とまれ」
殿様は従者を引き連れながら、おばあさんへと近づいていきます。
衣 「おい、そこの……ひぃっ」
咲 「森林限界を超えた高い山でさえ、可憐な花が咲くことがあるんだよ」
咲 「お前もそんな花のように強く――」 ギュアッ!
舞 「サ、サキサマーーッ!」
その日、山の上の大木に満開の花が咲きました。
その見事な咲きっぷりに、お殿様たちは花の下で宴会を始めるほどでした。
咲 「汚ねえ花見だ……」
『花咲かじいさん』 了
『雉も鳴かずば』
照 (……冷蔵庫に入れておいた、私の『牛乳プリン・四個入り』が無い)
照 「なあ、みんな」
菫 「……」
尭深 「……」
誠子 「……」
淡 「……」
照 「……菫」
菫 「……なんだ」
照 「とろふわプリンはうまかったか?」
菫 「……」
淡 「え? あれって牛乳プリンですよn……あっ」
照 「ほう、淡よく知っているな」
淡 「あ、あ、あああああ……」
照 「覚悟はいいな……?」
淡 「あ……あ……」 ブルブル
菫 (淡よ、おまえも喋らなければ、ばれずにすんだものを)
誠子 (無用な発言をしたばっかりに……アーメン)
尭深 (牛乳プリンおいしかった……)
照 「コークスクリューツモッ!」 ギュアア!
淡 「うわああああああああん! ごべんなざーいっ!」
『雉も鳴かずば』 了
『シンデレラ』
むかしむかし、とても美しくてやさしい娘がいました。
しかし、悲しいことに母は若くして亡くなってしまいました。
今は父の再婚相手である新しいお母さんと、二人のお姉さんと暮らしています。
娘は今日も率先して家事をこなしていきます。
星夏 「掃除なら私たちもしますからっ……!」
未春 「それに、もっと綺麗なお洋服を着てください」
純代 「……」 コク
美穂子 「いいんですよ、私は。それより、みなさん今日も舞踏会ですよね?」
美穂子 「精一杯楽しんできてください、ドレスは綺麗にしておきましたから」 ニコッ
心の優しい彼女は、みんなからシンデレラと呼ばれています。
とても美しいシンデレラでしたが、自分に自信がもてなくてあまり外には出ませんでした。
なので、華やかな舞踏会に参加したこともありません。
ある日の事、お城の王子さまが、お嫁さん選びの舞踏会を開く事になりました。
シンデレラのお姉さんたちにも招待状が届きました。彼女らはおおはしゃぎです。
未春 「もしかすると、王子さまのお嫁さんになれるかも……」
星夏 「いいえ、絶対、必ずお嫁さんになりましょう」
純代 「……またうまい飯食べれる」 ジュルリ
シンデレラには招待状は届いていなかったため、
いつも通り、彼女たちの支度を手伝い、舞踏会へと送り出しました。
美穂子 「ああ、私も舞踏会にいきたかったわ。王子様に会いたかったわ」 シクシク
シンデレラが一人残された家で泣いていると、どこからか声がしました。
華菜 「泣いちゃだめだし!」
そこには、真っ黒なフードつきのローブを着た少女がいました。
頭からはネコ耳が、お尻からは尻尾が生えています。
美穂子 「あなたは誰……?」
華菜 「華菜ちゃんは立派な魔法使いだし!」
華菜 「華菜ちゃんの魔法で、シンデレラを舞踏会へといかせてあげるし!」
華菜 「まずは、お城へと向かう荷馬車と御者を用意するし!」
魔女はそう言うと、黄色く分厚い本を見ながら電話をかけはじめました。
そして十分後、彼女らはやってきました。
洋榎 「まいどおーきに!」
洋榎 「どこよりも速く! どこよりも安く! どこよりも荒く! がモットーの姫松運送です!」
絹恵 「おねーちゃん、荒くは余計やっ!」
華菜 「これで舞踏会に行けますね! 」
美穂子 「ありがとうございます、可愛い魔法使いさん」 ナデナデ
華菜 「にゃー……」
由子 「イチャついてるとこ悪いけど、先にお勘定お願いしますなのよー」
華菜 「えっ……」
華菜 「あっ……お金ないし」
美穂子 「大丈夫ですよ、ここは私が払いますから」 ニコッ
恭子 「おおきに、一万円になります」
華菜 (しかもたけぇっ!)
美穂子 「でも、舞踏会で踊るドレスがないわ……」
華菜 (ここが華菜ちゃんの腕の見せ所だし!) ピコーン
華菜 「安心してください! ちゃんと用意してあります!」
そういうと、魔女は白いドレスを取り出しました。
胸には「2-3 かな」と刺繍されています。
華菜 「このドレスはなんと、胸元の布で顔を隠すことができるし!」
華菜 「泣き顔も隠せる、超万能ドレスだし!」
美穂子 「ありがとう、小さな魔法使いさん。じゃあ早速……」
美穂子 「あら、ちょっと胸のあたりがきつくて……着れないわ」
華菜 「!」 ガーン!
漫 「それなら大丈夫ですよ。ウチでは冠婚葬祭用に、ドレスの貸し出しもしてますから」
美穂子 「あら、助かります。じゃあ、お願いしようかしら」
洋榎 「おおきにー。絹、適当に見繕っといてー」
絹 「オッケー」
そして、シンデレラの前に出されたのは、とても綺麗な純白のドレスでした。
美しい顔立ちのシンデレラに、映えることは間違いないでしょう。
美穂子 「素敵……。これにするわ」
恭子 「おおきに、三十万円になります」
華菜 (やっぱりたけぇっ!)
由子 「これで準備はバッチリなのよー」
美穂子 「ありがとうございます」
華菜 (全然役に立つことができなかったし……)
華菜 (それでも、これだけは言わなくちゃ!)
華菜 「シンデレラ、一つ守ってほしいことがあるし」
華菜 「必ず、十二時までに帰ってきてください」
美穂子 「それは何故ですか?」
華菜 「華菜ちゃんの魔法が解k 恭子 「ウチらの営業時間の関係ですね」
美穂子 「あら、それは大変。守らなきゃね」
華菜 「……」 グスン
装いを整えたシンデレラは、姫松運送の荷馬車に揺られてお城へと向かいます。
そして会場に到着したシンデレラを迎えたのは、煌びやかな世界でした。
美穂子 「すごい……」
シンデレラは初めての舞踏会に大興奮でした。
優雅に踊る男女、色鮮やかな装飾品、美味しそうな料理。
ハギヨシ 「お嬢様方、お料理はいかがですか?」
星夏 「あ、ありがとうございます!」
未春 「牛フィレ肉おいしい~」
純代 「私だけ焼き鳥……」
全てが新鮮でした。
そしてなにより――
久 「……」
美穂子 (……素敵な王子様)
王子に目が奪われてしまうのでした。
舞踏会はクライマックスを迎えます。
いよいよ、王子が会場の中から、一緒に踊る女性を一人選ぶのです。
久 (あんまり可愛い子がいないわねー……見つけたっ!)
美穂子 「……」 ドキドキ
久 「お嬢さん、良ろしければ私と一緒に踊ってくれませんか?」
美穂子 「……は、はいっ!」
幾人もの女性の中から、なんとシンデレラが選ばれました。
会場の注目を浴びながら、シンデレラは王子と夢のような時間を過ごします。
久 「あなたの目……綺麗ね」
美穂子 「……ありがとうございます///」
しかし、夢のような時間にも終わりはおとずれます。
時計の針は、間もなく12時を指そうとしていました。
久 「お嬢さん、この後もしよろしければ……」
美穂子 「あ、あのっ! 私帰らないと!」
久 「えっ、まだ12時よ?」
美穂子 「帰らないと、延滞料金が……ごめんなさい!」
シンデレラはそれだけ言うと、会場から走って飛び出していきました。
会場は騒然とし、王子様はその後姿を全速力で追いかけます。
しかし、結局シンデレラを捕まえることはできず、そこには小さなガラスの靴が残るだけでした。
王子様はその靴を優しく拾うと、こう言いました。
久 「明日……町に彼女を探しにいきましょう」
翌日、町の娘たちは大騒ぎでした。
王子様が結婚相手を探しにきている。ガラスの靴がぴったり履ければ、王子様と結婚できる、と。
王子様は順番に町の娘にガラスの靴を履かせようとしますが、
あまりに小さく、誰一人として履ける人はいませんでした。
そして、そろそろシンデレラたちの番です。
星夏 「履ければ、リーチッ……!」
久 「履けないな……次だ」
星夏 (王子様――!!!)
シンデラレの番は次の次です。
もし次の人が履けなければシンデレラだと、ばれてしまう――
純代 「……フンッ!」 バキィッ!
久 「えっ」
美穂子 「えっ」
――はずでしたが、なんと、ガラスの靴は、粉々に砕けてしまいました。
純代 「ずいぶん壊れやすい靴ですね」
純代 「まあ、でも壊れたものは仕方がないのですし」
純代 「恐らく私は履けたので、私と結婚しますか」
久 「えっ」
美穂子 (こんなのおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしい
あの靴を履けるのは、私なのに私なのに私なのに私なのに
王子様王子様王子様王子様王子様王子様王子様王子様)
純代 「それじゃあ、よろしく」
久 「えっ」
というわけで、王子様はシンデレラのお姉さんと結婚して、めでたしめでたし。
と、おもいましたが、おうじさまはさいわいなことにしんでれらのかおをおぼえていたみたいです。
すてきなおうじさまと、わt……しんでれらは、すえながく、しあわせにくらしたそうですよ。
『シンデレラ』 了
『三年峠』
あるところに、「三年峠」と呼ばれる美しい峠がありました。
しかし、そこにはこんな言い伝えがありました。
霞 「三年峠で転んではだめよ。そこで転んだら、三年しか生きられないから」
村人たちはこの言い伝えを恐れ、三年峠にさしかかると注意深く歩くようにしていました。
そんなある日のことでした。四人の少女が三年峠を歩いていました。
初美 「とうとう三年峠まできちゃいましたー」
春 「気をつけて歩く……」
巴 「特に姫様、気をつけてくださいよ」
小蒔 「大丈夫ですよっ!」
小蒔 「細心の注意を払って歩……き……ますか……ぐぅ」
初美・巴 「あっ」
少女は急に眠りに落ちると、そのまま崩れ落ち、三年峠で転んでしまったのでした。
小蒔 「うぅ……三年峠で転んでしまいました」
小蒔 「私はもうすぐ死んでしまうのでしょうか……」
少女は心配のあまり寝込んでしまいました。
不安で不安で、大好きなおやつも喉を通りません。
すると、その様子を憂慮した「ハルル」という少女がこう言いました。
春 「姫様、もう一度三年峠へ」
春 「一度転ぶと、三年生きることができる」
春 「それなら、二度、三度転べば、六年、九年」
春 「たくさん転べば、それだけ長生きできる」
それを聞いた少女は、もう一度三年峠にいきました。
そして何度もころん、ころん、と転び、すっかり元気を取り戻しました。
霞 「長生きねぇ……ふんふむ」
舞台は現代へと移ります。
20XX年、麻雀が空前のブームとなり、麻雀人口は一億人を突破しました。
恒子 「さあ、全国大会二回戦の大将戦がはじまります!」
恒子 「シードの永水女子、大将はもちろん、この人です!」
恒子 「永遠の17歳・石戸霞選手だーっ!」
霞 「よろしくお願いしますね」
恒子 「石戸選手は高校生とは思えない大人っぽさがありますね?」
健夜 「ええ……。石戸さんはこれで、37年連続の出場になりますね」
健夜 「私が高校三年生のときも、彼女と同卓になったことがあります」
恒子 「ということは、すこやんは今年で55歳だーっ!」
健夜 「37年前にあたったわけじゃないよ!?」
恒子 「さて、石戸選手の若さの秘訣はなんでしょうっ!?」
健夜 「三年峠がなんだか、とインタビューで読んだことはありますが……」
霞 「さて、また三年峠で転ぶ作業が始まるわ」 ニコッ
『三年峠』 了
『白雪姫』
むかし、ある城に女王が住んでいました。
女王は魔女であり、そして伝説(レジェンド)でもあります。
女王は今日も、魔法の鏡に向かってこう言います。
晴絵 「鏡よ鏡よ鏡さん、この世で一番美しいのは誰だ?」 ドキドキ
すると、魔法の鏡はこう答えます。
灼 「阿知賀の伝説(レジェンド)・晴ちゃんです!」
それを聞くと、女王は満足そうに頷くのです。
またある日、女王はいつものように、魔法の鏡に向かってこう言います。
晴絵 「鏡よ鏡よ鏡さん、この世で一番美しいのは誰だ?」 ワクワク
灼 「……」
晴絵 「……ん?」
すると次の瞬間、魔法の鏡は一人の可愛らしい少女を映します。
そして、鏡の中の少女はいたずら顔でこう言いました。
灼 「憧『晴絵だと思った? 残念! 阿知賀のアイドル・憧ちゃんでした~』」
晴絵 「……」
灼 「……はっ」
晴絵 「……」 グスッ
灼 「は、晴ちゃん!これは、ち、違うの!」
晴絵 「……鏡よ鏡よ鏡さん、この世で一番私服がダサいのは誰だ?」
灼 「憧 『ねぇ、シズ……。灼の服、ちょっとダサくない?』」
灼 「や、やめてええええええええええ!」
女王と魔法の鏡はお互い傷つけあいましたが、
やがて怒りの矛先は、阿知賀のアイドル・憧ちゃんへと向かいました。
女王は家来に阿知賀のアイドル・憧ちゃんを殺すように命令します。
しかし、阿知賀のアイドル・憧ちゃんを可哀想に思った家来は、
阿知賀のアイドル・憧ちゃんを殺すことができず、森の中に置いてきたのでした。
阿知賀のアイドル・憧ちゃんは、見知らぬ森の中をとぼとぼとさ迷います。
すっかり暗くなり、流石の阿知賀のアイドル・憧ちゃんも、森の中に一人でいるのは心細くなってきました。
憧 「も~、いきなりなんなのよ、最悪」
憧 「あ、家発見。事情を話して泊めてもらおう」
憧 「優しい人だといいな~」
運よく家をみつけた阿知賀のアイドル・憧ちゃんは、玄関をノックします。
しかし、返事はありません。仕方ないので、扉を開けて中に入ると、そこには7つの小さなベッドが置いてありました。
憧 「ちょっと小さいけど……寝させてもらおう……」 グー
阿知賀のアイドル・憧ちゃんは眠りへと落ちていきました。
すると、しばらくして陽気な歌声が聞こえてきました。
楽しげに歌うのは、七人のこびと達です。
衣 「ハイテー、ハイテー♪ 親番が好きー♪」
衣 「ペーポン、ペーポン、ペーポン、ペーポン♪」
衣 「ハイテー、ハイテー♪」
胡桃 「勝手に歌詞を変えない!」
マホ 「ハイテー、ハイテー♪」
胡桃 「そこ、真似しない!」
一 「まあまあ、それよりそろそろ家につくよ」
優希 「お腹ぺこぺこだじぇ! 早くタコスを食べるじぇ!」
淡 「食後のプリンも買ってあるしね~」
漫 (ウチは小人に入ってええんかな……)
七人の小人が家に到着し、扉を開けます。
すると、そこには阿知賀のアイドル・憧ちゃんがいました。
胡桃 「誰!?」
憧 「あ、お邪魔してまーす」
憧 「阿知賀のアイドル・憧ちゃんで~す」
七人は突然の来客に驚きましたが、
阿知賀のアイドル・憧ちゃんは、とても可愛かったのですぐに仲良くなりました。
わいわいと話しながら、夕ご飯を一緒に食べます。
時間は和やかに過ぎていきましたが、食後のデザートタイムに事件が起こりました。
淡 「さあ、みんなでプリンを食べよー」
優希 「待ってたじぇ~」
しかし、冷蔵庫を開けるとそこには――
空っぽになったプリンの容器が七つあるだけでした。
淡 「あ、あわあわ……」
マホ 「デザートなしになっちゃったのです!」
食後のとっておきのプリンが無くなり、七人は呆然としています。
すると阿知賀のアイドル・憧ちゃんは、舌をぺろっと出し、上目遣いでこう言いました。
憧 「ごめーん! 阿知賀のアイドル・憧ちゃんが食べちゃったんだ~」
憧 「許してほしいなっ! 阿知賀のアイドル・憧ちゃんからのお願いだよ?」
阿知賀のアイドル・憧ちゃん、かわいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!
そこらへんの男性諸君なら、そう言って許したことでしょう。
しかし、とっておきの楽しみを失った七人の小人は、それでは許しませんでした。
淡 「へ~……」
胡桃 「絶対許さないからね!」
衣 「この愚者に……裁きを下す!」
マホ 「マホ……今なら殺れる気がします」
優希 「とりあえず、こいつにプリンを買いにいかせるじぇ!」
一 「そうだね、ついでに皿洗いもしてもらおうか」
漫 「さあ、早速働いてもらうでー」
憧 「あ、あれ……?」
それからというもの、阿知賀のアイドル・憧ちゃんは七人の小人に厳しくしつけられました。
家事をこなし、山に木を切りにいき、一般常識の教育を受けます。
そして、一年後――
憧 「阿知賀女子麻雀部、新子憧と申します!」
そこには、立派に自立した新子憧がいました。
そう、七人の小人に出会ったことによって、かつてわがままし放題だった、
『阿知賀のアイドル・憧ちゃん』は死んだのです。
可愛ければなんでも許されるわけじゃない。
とても大事なことを、新子憧は教えてもらったのでした。
『白雪姫』 了
『鶴の恩返し』
むかしむかし、あるところにとても親切な少女が住んでいました。
彼女はとても心優しく、村人からも好かれています。
煌 「さあ、今日も頑張りますよ……おや?」
少女が見つけたのは、罠にかかっている二匹の鶴でした。
少女はすぐに駆け寄ると、すぐに罠を外してあげます。
すると、自由になった鶴は、二匹仲良く山のほうへと飛んでいくのでした。
煌 「今日もすばらな一日でしたね……ん?」
その晩、少女が家で晩御飯を食べていると、玄関を叩く音が聞こえました。
少女は腰をあげ、扉を開けます。するとそこには、美しい二人の少女がいました。
姫子 「こんばんはー」
哩 「道に迷ってしまいまして……今晩、泊めていただけませんか」
煌 「こんな狭苦しいところで良ければ、喜んで!」
姫子 「いいんですか?」
煌 「人助けができるなんて、すばらですっ!」
二人はこの言葉に喜び、そこに泊まることにしました。
次の日も、また次の日も雪は降り続き数日が過ぎました。
家主の少女は心優しく、二人のために炊事、洗濯、何でもやりました。
煌 「二人とも、お風呂が沸きましたよ!」
姫子 (あ~、人間に化けて恩返しするつもりだったのに、なんかどうでもよくなってきちゃった)
哩 (居心地がよか……)
ある日のこと、二人の少女はこう言いました。
姫子 「これから私たちは部屋にこもって話し合いをします」
哩 「話し合いをしている間は、決して部屋を覗かないでください」
煌 「わかりました!」
少女は二人の言いつけどおり、決して部屋を覗くようなことはしませんでした。
しかし、二人の話し声は大きく、薄い扉を隔てて声が漏れてきました。
哩 「ここは居心地が良いし、もう寄生しようか」
姫子 「そうですね! あの人もちょーお人よしですし、許可してくれますって!」
煌 「聞いてしまった、うわぁショック~」
煌 「なんってことはないですね!」
煌 (ヒモ扱いでも私を必要としていてくれる)
煌 (こんなすばらなことはないですねっ!)
煌 (二人のお世話――任されました!)
少女は二人と一緒に住むことを決めました。
一生懸命お金を稼ぎ、一生懸命に二人の世話をします。
そんな少女の噂は村をこえてたちまち広がっていきました。
そして今日もまた、彼女のもとには人が訪ねてくるようです。
咏 「なんか、ここで一生養ってもらえるって聞いたんだけど~」
煌 「これで60人目……すばらですっ!」
『鶴の恩返し』 了
『三匹の子豚』
あるところに、三匹の子豚の姉妹がいました。
長女は病弱ですが、頑張り者。
怜 「こほっ、こほっ……。さあ、今日も頑張るで……」
次女は天然ですが、頑張り者。
玄 「お姉ちゃん、疲れたら私にお任せあれ!」
三女は聖人のうえに、頑張り者。
煌 「お姉様、その心意気すばらですっ!」
怜・玄・煌 「ぶひぶひぶひ」
三匹はとても仲良しです。
怠け者は誰一人いないのですが、話も進まないので、
母親は三匹に家を出るように、と自立を促しました。
家を追い出された三匹は、それぞれ家を建てることになります。
怜 「なにも追い出さなくてもなー」
煌 「まあ、何事も経験がすばらですっ」
玄 「ふぅーむ、なるほどなるほどー」
みんな頑張りやさんなので、一日中せっせと働きます。
そして、三匹はレンガ作りの家を隣同士に並べて完成させたのでした。
怜 「やったでー。早速、お祝いや」
煌 「盛大にやりましょう!」
玄 「それじゃあ、私の家でやろっか!」
怜・玄・煌 「ぶひぶひぶひ」
三匹はとても仲良しです。
そんな様子を遠くから見つめるものがいました。
茶色い毛、大きな口、回転する右腕――そう、狼です。
照 「……うまそうな匂いがする」
狼は鼻をくんくん、と鳴らすと匂いの根源を探ります。
それは、さきほど完成した豚さんたちの家から匂ってくるのでした。
照 「……今夜は腹いっぱいになりそうだな」
狼は舌なめずりすると、迷わず子豚の家へと向かいます。
そして玄関の前に立つと、コンコン、とノックをします。
玄 「はい! どなたですか?」
照 「あ、狼です」
怜 「狼やて……!」
玄 「ど、どどどーしよー、おねーちゃーん」
煌 「あまりすばらくない状況ですね……」
三匹は突然の狼の来訪に慌てふためきます。
何度もノックの音が響きます。三匹は震えながら身を寄せ合いました。
照 「開けてもらえない……。しょうがない、これを使うか」
狼は右手でドアノブを掴むと、そのまま右手を回転させました。
するとどうでしょう! ドアノブが回転により破壊されてしまいました。
照 「よし、開いた」
一方、ドアノブが壊された三匹は恐怖で縮みあがってしまいました。
怜 「どーする、どーする……」 アタフタ
玄 「だ、誰かが止めにいきませんか……?」 アタフタ
怜 「え……ごほっ! ごほっ!」
煌 「わ、わざとらしい咳ですね」
怜 「なんや、仮病やないで。まあ、ええ。長女やし、ウチがいったるわ」
玄 「おねーちゃんに行かせるなら、私が行くよ」
煌 「それならばっ! 私が行きましょう!」
怜・玄 「どーぞどーぞ!」
煌 「……」
怜・玄 「ぶひぶひぶひ」
二匹はとても仲良しです。
煌 (まあ、仕方がないですね)
煌 (捨て駒――任されました!)
三女は意を決して、今にも開かれようとしている扉へと近づきます。
鼓動は高鳴り、手に汗が滲みますが、一歩ずつ扉へと近づきます。
煌 (大丈夫、大丈夫……。それに狼も客人、すばらな対応をすべきです)
そして扉まであと1メートルの距離となった瞬間――
照 「お邪魔します」
煌 「どひゃぁっ!」
狼さんがいらっしゃいました。
煌 「な、ななななななん、なん、何のようでしょうか!?」
煌 (用件ぐらいは聞いておくべきでしょう! もしかしたら、良い狼さんかもしれませんし!)
煌 (ただ、引越し祝いに粗品を差し入れにきただけかもしれませんしねっ!)
照 「腹減ったから、食いにきた」
煌 「ずばりですねっ!」
煌 (も、もうだめかもしれませんね……)
煌 (お姉様方、捨て駒すら全うできない私をお許しください)
三女が死を覚悟した、そのときでした。
照 「……この匂い」
煌 「え――」
子豚さんの家の中は、食欲をそそる匂いで満たされています。
裂かれた肉は、炎で焼かれ、食物連鎖のごとく強者の胃袋に入っていきます。
怜 「なんやー、狼さんも腹へってただけなんやなー」 ジュージュー
照 「焼肉の良い匂いにつられてしまった」 ジュージュー
玄 「私たち、ちょうど新築パーティーをしていたんですよ」 ジュージュー
照 「そうか……。せっかくのお祝いなのに、お邪魔して申し訳ない」 ヒョイパク
煌 「いえいえ、全然かまいませんよ。それに、人が多いほうがすばらですっ!」
照 「ありがとう。……このタレおいしい、なにを使っているの?」
煌 「エバラですっ!」
照 「なるほど、黄金の味というわけか。そして、このお肉は?」 ジュージュー
怜 「もちろん、牛にきまっとるやろ。ウチら、豚やで」
玄 「流石に共食いはちょっと……」
煌 「すばらくないですねっ!」
照 「なるほど、これは失礼した」
怜 「まあ、ええってことよ。牛肉焼いても、豚焼くな、ってな」
怜・玄・煌・照 「ぶひぶひぶひ」
四匹はとても仲良しになりましたとさ。
『三匹の子豚』 了
『赤ずきん』
むかしむかし、赤頭巾のよく似合う可愛らしい女の子がいました。
そのため、女の子はみんなから「赤ずきんちゃん」と呼ばれていました。
久 「おはよ~、赤ずきん」
咲 「おはよう、お母さん!」
決して、赤い血の色が似合うとかいう由来ではありません。
そんなある日のこと、赤ずきんちゃんはお母さんにお使いを頼まれました。
病気で寝込んでいるおばあさんのところへ、ケーキとワインを持っていくのです。
久 「いい、赤ずきん。森の中ではオオカミに注意するのよ?」
咲 「わかった! それじゃあ、いってきまーす!」
赤ずきんは元気よく出発します。
咲 「うぅ……。ここ、どこ……」 エグッ
そして、早速森の中で迷子になりました。
咲 「……うぅ」 キョロキョロ
照 「おや、あれは……赤ずきんちゃん?」
照 (って、なんでまた狼なんだ……まあ、いい)
そんな迷子の様子の赤ずきんちゃんを見つけたのは、オオカミでした。
赤ずきんちゃんの困っている様子を見かねて、オオカミは声をかけます
照 「赤ずきんちゃん、どうしたの?」
咲 「オオカミさん!実は迷子になっちゃって……」
赤ずきんちゃんは、これからおばあちゃんの家に行くことを話します。
照 「そうなんだ。じゃあ、私と一緒に行こうか」
咲 「ほんとっ!? 森の住人のオオカミさんと一緒なら、安心だねっ!」パァッ!
照 (赤ずきんちゃんかわいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!)
咲 「オオカミさん、鼻血でてるよ。大丈夫?」
照 「だ、大丈夫。じゃあ、一緒に行こうか!」
咲 「うん!」
赤ずきんとオオカミは元気よく出発します。
照 「迷ったよぅ……。ここ、どこ……」 エグッ
咲 「うええええええん! おかーさーん!」 ボロボロ
そして、結局森の中で迷子になりました。
夜もだいぶ遅くなった頃、迷子になった赤ずきんとオオカミをお母さんが見つけました。
久 「赤ずきん! 無事だった!?」
咲 「お、おかーさん……。怖かったよぅ……」 エグッ
久 「なにがあったの……? 怒らないから、言ってみなさい」
咲 「森の中で迷って、オオカミさんに会って、オオカミさんについていったらまた迷ったの」 グズッ
咲 「ごめんなざい……うええええええええええん!」 ボロボロ
久 「もう、だからオオカミに気をつけなさいって言ったでしょ」
照 「えっ」
久「でも、赤ずきんが無事で良かったわ」
咲 「うん!」
照 「ふぇぇ……」 エグッ
久 「じゃあ、一緒に帰りましょうか!」
咲 「うん!」
照 「うえええええええん!」 ボロボロ
森の中に、オオカミさんの大きな泣き声が木霊しました。
――おばあさんの家
京太郎 「きませんね……赤ずきんちゃん」
トシ 「そうだね」
『赤ずきん』 了
『走れメロス』
メロスは激怒した。必ず、かの邪智暴虐な王を除かなければならぬと決意した。
メロスには手に豆ができぬ。メロスは、麻雀打ちである。日々、麻雀を打ち、楽しく暮らしてきた。
けれでも、にわかに対しては人一倍に敏感であった。
メロスは気晴らしに町へと出ていた。
猿に似た少女があんぱんを買うのを眺めながら、ぶらぶらと大路を歩いた。
メロスには竹馬の友があった。ハツセンティウスである。
その友を、これから訪ねてみるつもりなのである。
しかしメロスは歩いているうちに、町の様子を怪しく思った。
町全体の雰囲気が暗いのである。メロスは若い衆を捕まえて、なにがあったのか訪ねました。
美幸 「王様は、ドラを集めます」
やえ 「なぜ集めるのだ」
美幸 「カンドラが乗っている、というのですが、誰もそんなに、カンなどしませぬ」
やえ 「たくさんのドラを集めたのか」
美幸 「はい、はじめはツモドラ6を。それから、ノベタン片上がりで三色ドラ6を」
やえ 「驚いた。王様はにわかか」
美幸 「いいえ、にわかではございませぬ。ドラしか信ずることができぬ、というのです、もー」
聞いて、メロスは激怒した。
やえ 「呆れた王だ。仕方が無い、私が見せてやろう……」
やえ 「王者のうち筋を!」
メロスは単純な男であった。そのまま、のそのそと王城に入っていった。
たちまち彼は捕縛された。調べられて、メロスの手には豆が出来ていなかったので、騒ぎが大きくなってしまった。
そうして、メロスは王の前に引き出された。
関係ねーだろうそこwwwww
いやいや大きくなるだろ、知らんけど
玄 「なにをしにきたのですか?」
暴君クロニスは静かに、けれども威厳を以もって問いつめた。
やえ 「ドラをにわかの手から救うのだ」
玄 「何故ですか?」
やえ 「ドラを集めるのは、最も嫌われる打ち筋だ。王は、民の赤ドラでさえ疑って居られる」
玄 「むぅ~……」
王の打ち筋を批判したメロスは、王の命令によって磔とされてしまった。
王は怒り心頭で、すぐにでもメロスを刑に処すつもりであった。
玄 「詫びたって、もう許しませんからね!」
やえ 「ああ、王はにわかだ。自惚れているがよい」
やえ 「私は、ちゃんと死ぬる覚悟で居るのに。命乞いなど決してしない。ただ、――」
メロスは視線を落とします。そして少しばかり躊躇い、こう言いました。
やえ 「ただ、私に情をかけたいつもりなら、処刑までに三日間の日限を与えて下さい」
やえ 「今度、麻雀の県大会があるのです。三日のうちに、私は母校を全国へ導き、必ず、ここへ帰って来ます」
メロスの言葉に、王様はくすくすと笑いました。
そんなことは、とうてい信じられぬ、といわんばかりの顔です。
やえ 「私は必ず、帰ってくるのです。約束は守ります」
やえ 「私の友人に、ハツセンティウスがいます。無二の友人だ」
やえ 「あれを、人質としてここに置いて行こう。私がここに帰って来なかったら……」
やえ 「あの友人を絞め殺して下さい。たのむ、そうして下さい」
玄 「願いはききました。身代わりを呼びなさい」
玄 「……少し遅れてくるといいですよ、そしたら、あなたの罪は永遠に許されます」
やえ 「なんとにわかなことを……!」
メロスは口惜しく、地団駄を踏んだ。ものも言いたくなくなった。
竹馬の友、ハツセンティウスは、深夜、王城に召された。
暴君クロニスの面前で、二人の友は二年ぶりに再開した。
メロスが友に一切の事情を語ると、ハツセンティウスは無言で首肯うなずき、メロスをひしと抱きしめた。
初瀬 「メロス先輩、私は一度友に裏切られています」
初瀬 「一緒の学び舎に進もうと誓った友は、黙って違う学び舎に進みました」
やえ 「なんと、にわかな奴よ」
初瀬 「それでも私は、メロス先輩を信じています」
初瀬 「先輩、頑張ってください!」
やえ 「……ありがとう」
メロスはハツセンティウスに背を向け、左手をスッと挙げる。
友と友の間は、それでよかった。そしてハツセンティウスは、縄打たれた。
それを見たメロスは、すぐに出発した。
小走りで。
ワロタ
くそっ、こんなんでwwww
結果からいうと、メロスの罪は許された。
小走りで走り続けた結果、三日で町まで戻ってくることはできなかったのだ。
さらに言えば、麻雀の県大会では初戦敗退であった。
初見のドラ麻雀相手に、メロスは大幅なリードを許してしまったのだ。
ちなみに、こちらの罪は某所でも未だに許されてない。
そして、一週間ほどして、メロスは町へと戻ってきた。
ハツセンティウスは王より哀れみをうけ、彼は磔から免れていた。
メロスが町に姿を現すと、群集はどよめいた。
にっわっか、にっわっか、と口々にわめいた。
やえ 「ハツセンティウス。私を殴れ、力いっぱい殴れ」
初瀬 「はい」
竹馬の友、ハツセンティウスは躊躇うことなく、メロスの頬を殴りつけた。
それを見た群集は、歓声をあげた。
群集は次々と、メロスに王者の言霊を浴びせ続けた。
「ありゃ相当打ってる(笑)」
「見せてやろう……王者のうち筋を(笑)」
「私は小3の頃から、マメすらできてない(笑)」
「ニワカは相手にならんよ(笑)」
やえ 「……」 プルプル
髪を逆立てた少女が、壁をドンと拳で叩いた。メロスは、まごついた。
佳き友は、気をきかせて教えてやった。
初瀬 「メロス先輩、あなたやっぱりにわかじゃないですか」
初瀬 「尊敬していた先輩の醜態を、中継で皆に見られるのが、私はたまらなく口惜しいです」
にわかは、ひどく赤面した。
『走れメロス』 了
『一寸法師』
むかしむかしあるところに、おじいさんとおばあさんがいました。
二人には子どもがいませんでした。なので、二人は神さまにお願いしました。
塞 「神さま! 親指くらいの小さい子どもでもいいから、どうか子どもをさずけてください!」
白望 「あんまり小さすぎてもダルい……」
すると願いが通じたのか、本当に小さな子どもが生まれました。
胡桃 「おぎゃー!」
ちょうど、おじいさんの親指くらいの男の子です。
あまりに小さいので、二人は一寸法師と名づけました。
二人は一寸法師を大層可愛がりました。
白望 「ほら、こっちおいで……」
胡桃 「ゎー!」 ピョンピョン
塞 「可愛いねー……って、あれ!? 見失った!」
白望 「……」
塞 「一寸法師、どこーっ!?」 プチッ
胡桃 「ぎゃー!」
塞 「あ」
あまりに小さいため、ときには潰してしまうこともありましたが。
やがて一寸法師も心が成長し、都へいって働くことになりました。
そして都で姫に出会い、姫のお守り役として働くことになりました。
胡桃 「姫さま、起きてください!」
エイスリン 「ンー……オハヨ。イッスン、ボーシ」
姫は愛用のホワイトボードの上に、一寸法師を乗せて歩きます。
二人はいつも一緒に行動していました。
ある日の、二人でお寺にお参りをしているときのことです。
道中、突然大きな鬼が二人の前に現れました。
豊音 「やっほー」
エイスリン 「ヒ、ヒィィ……」
胡桃 (すごいおっきいよぉ……)
胡桃 「でも、姫は私が守る!」
一寸法師は一本の針を取り出すと、鬼に向かっていきました。
胡桃 「とりゃあああああ!」
豊音 「ん?」
豊音 「なにこの小さい子……ちょー可愛いよー」
可愛さのあまり、鬼は思わず一寸法師を手で捕まえようとしました。
豊音 「えいっ」 プチッ
胡桃 「ぎゃー!」
豊音 「あっ」
エイスリン 「アッ」
豊音 「本当にごめんねー」
胡桃 「だ、大丈夫だよ……」
豊音 「お詫びに、これをあげるよー」
鬼がくれたのは、小さな木槌のようなものでした。
豊音 「これは打出の小槌といって、振るとなんでも好きなものが出てくるんだよー」
胡桃 「それじゃあ、私の身長を大きくすることもできる!?」
豊音 「もちろん! 背出ろー、背出ろー、って言えばオーケーだよー」
胡桃 「姫さま、お願いします!」
エイスリン 「ウン!」
姫は打出の小槌を握ると、大きく振りかぶります。
そして、ブンブンブン、と三回打ち下ろしました。
エイスリン 「セ、デロ! セ、デロ! セ、デロ!」 プチッ プチッ プチッ
胡桃 「ぎゃー! ぎゃー! ぎゃー!」
エイスリン 「アッ」
豊音 「あっ」
胡桃 「もー、ちっちゃいの嫌だー!」 ビエーン
『一寸法師』 了
『ウサギとカメ』
むかしむかしあるところに、足の速いウサギと、足の遅いカメがいました。
咲 「ねぇねぇ、カメさん」
恭子 「な、なんや、ウサギさん」
咲 「明日、向こうの山の頂上までかけっこの競争しませんか?」
恭子 「……え」
咲 「……だめ?」
恭子 「……べ、別にええよ」
咲 「やった~! 絶対ですよ!? じゃあ、明日の朝八時に山の麓に集合ですからね!」
恭子 「わかった……」
洋榎 「ええんか、恭子。あんな約束して」
由子 「カメのウチらじゃ、ウサギにかけっこで勝つなんて無理なのよー」
恭子 「ええんです、主将。それに――」
恭子 「凡亀のウチが、ウサギ相手にどこまでやれるか楽しみですわ」
――翌朝
咲 「あ、カメさん! おはよ~ございます!」
咲 「かけっこの話を友達にしたら、二匹も参加したいって」
霞 「バッファローです。よろしくお願いしますね」
豊音 「キリンだよー。よろしくねー」
恭子 「」
恭子 (なんやこれ……) カタカタ
咲 「それじゃあ、はじめよっか!」
恭子 (まて、考えるのをやめたら、それこそただのバカメや)
咲 「位置について……」
恭子 (諦めたらアカン……勝機はあるはずや!)
咲 「よーい……」
恭子 (甲羅を磨いて発想も磨くで!)
咲 「――ドンッ!」 ヒュッ!
霞 「――バッ!」 ドドドドドドド!
豊音 「――シッ!」 ダカダッ! ダカダッ!
恭子 「いくでー」 ノロノロ…
洋榎 「これは無理やろ……」
由子 「イジメなのよー」
正午になり、カメはやっと山の中腹部にたどり着きました。
すると、そこに広がる原っぱには先にいったはずの三匹がいました。
どうやら、お弁当を広げてランチをしているようです。
咲 「おいしいねー」
霞 「いっぱい食べてね」
豊音 「ちょーおいしいよー」
恭子 (なんや! なめやがって!)
恭子 (まあいい、この隙にウチがリードさせてもらうで)
恭子 (やっぱり、着実に努力を重ねるものに神様は味方するんや!)
カメさんは三匹に気づかれないようにしながら、一人だけ先に歩みを進めました。
そして、しばらく経つと三匹がいた原っぱは見えなくなりました。
恭子 「どや! 出し抜いてやったわ!」
豊音 「追っかけるけどー」
恭子 「どぅわっ!?」
気づけば、背後にキリンさんが迫っていました。
恭子 (こいつ、わざと先にいかせて後から仕留める――)
恭子 (背向のトヨネか!)
豊音 「おさきにー」
キリンさんは、あっという間にカメさんを追い抜いていきました。
日が傾きはじめたころ、カメさんは山の7合目まできました。
7合目まで来ると、頂上までは遠回りで緩やかな細道と、険しい近道にわかれています。
すると、さきほどカメさんを追い抜いていったキリンさんの姿を見つけました。
恭子 「キリンさん、どーしたんや?」
豊音 「これみてよー」
『バッファロー以外通行禁止』
なんと、近道にこんな札が立てられていました。
これでは、キリンさんとカメさんは遠回りをするしかありません。
恭子 (これは、バッファローだけに近道を限定する――)
恭子 (絶一門か……っ!)
仕方ないので、キリンさんとカメさんは遠回りの細道から行くことにしました。
二匹はゆっくり、ゆっくり進みます。
やがて、二つの道の合流地点にたどり着くと、今度はそこにはバッファローさんがいました。
霞 「あらら……」
よく見ると、落とし穴にはまって身動きがとれなくなっています。
恭子 「どうしたんやー、バッファローさん」
霞 「実はあっちの近道からきたんだけど、ここに着いたらカンされちゃったのよ」
恭子 「カンされた、ってどういうことや?」
霞 「そうねぇ……。どこからか『カン』って聞こえてきて、気づいたら穴に落ちてたわ」
豊音 「なんか怖いねー。今助けるよー」
恭子 (普通のかけっこさせてーな……)
二匹は頑張ってバッファローを穴から引っ張り挙げます。
なんとか穴から脱出できたバッファローでしたが、足を挫いてもう走れません。
三匹は一緒に頂上を目指すことにしました。
あたりはすっかり暗くなってしまっているので、ウサギさんはとっくにゴールしているでしょう。
三匹はゆっくり、ゆっくり頂上を目指し、とうとう山頂が見えてきました。
するとそこには、たくさんの観客がいました。
恒子 「おおーっと! ここで、カメ、キリン、バッファローがさんすくみで登場だーっ!」
恭子 「なんや、いつの間に実況なんておるんや」
豊音 「大事になってるねー。まあ、完走できたらいいんじゃないかなー」
霞 「そうね、ウサギさんに一位は取られちゃったけど、こういうのもいいわね」
ほのかな友情が芽生え始めた三匹ですが、直後思いもよらぬ言葉を聴きます。
恒子 「さー! 誰が一位となるのか! ウサギさんが迷子の今、優勝は誰の手に!」
恭子・豊音・霞 「えっ」
健夜 「ウサギさんはどうやら、山の八合目あたりで迷ってしまったようですね……」
恒子 「それは大変ですね! そして、三匹の中で頭抜けるのは誰でしょう!?」
実況と解説の言葉を聞いた後、三匹は顔を見合わせます。
そして、笑顔で頷くと、今までと変わらない歩調で進みます。
恭子 「ここまできたら、一緒にゴールしようや」
豊音 「そうだねー。盛り上がってるところわるいけどー」
霞 「さあ、いきましょう」
三匹が横並びとなり、ゴールテープの前に立ちます。
そして同時に足を踏み出した瞬間――
咲 「うぅ~……ここどこっ、ってみんな!」 パァッ
横の茂みから、迷子のウサギさんが飛び出してきて、
なんと四匹同時にゴールテープを切ったのでした。
恒子 「なんと! ここでウサギさんが迷子から生還! 奇跡の四匹同着だー!」
恭子 「なんや……ウサギさん、無事だったんかい」
豊音 「まあ、三匹でゴールも四匹でゴールも変わらないよー」
霞 「そうね、むしろこのほうが良かったかもね」
恭子 「せやな。とりあえず、みんなお疲れさん」
豊音 「ありがとうございましたー」
霞 「ありがとうございました」
咲 「ありがとうございました」 ピョッコリン
恭子 (ま、これで一件落着やな……)
恒子 「しかし、四匹同時ゴール! タイム差プラマイゼロとは珍しいですね!」
健夜 「そうですね。ただ、兎さんは過去に参加したレースで、二度同じようなことになっています」
恭子 (……え。ま、まさか……)
咲 「……カメさん」
恭子 「あ、あああ……」
咲 「かけっこって楽しいよね!」
恭子 「うわあああああああああああああ!」
洋榎 「トラとウマやな……」
由子 「タイトルとかけなくていいのよー」
『ウサギとカメ』 了
まだ主要キャラ出し切ってないし、
リクエストもらったごんぎつねも書けてないが
さて、このスレどうすっかな
きっちり区切りつけたかったけど、ちょうど日付も変わるし
これにてお開きということで。二日間ありやーした
怜以外の千里山面子といくのんを出せなかったのが心残りだったわ
楽しませてもらったよ
ちょーおもしろかったよー
Entry ⇒ 2012.10.30 | Category ⇒ 咲-Saki-SS | Comments (0) | Trackbacks (0)
P「貴音の髪の毛に絡まって取れなくなった」
響「うんうん、自分もあのもふもふは何度触っても飽きないし
いっそのこと絡みつきたいぞ!」
亜美「それはないっしょ我那覇さん」
響「えぇ!? そうかなー?」
真美「いくらなんでもそれはねー」
貴音「おはようございます」ズルズル
響「あ、おはよー貴音! ん? 貴音何か引きずってない?」
真美「た、大変だぁぁ! お姫ちんの髪の毛に兄ちゃんが絡まってるよ!」
亜美「うあうあ~! っていうかむしろ組み込まれ……」
真美「組み込まれ……」
真美・亜美「組み込まれてるーーー!」
響「ぷ、プロデューサー!? おーい! 大丈夫か!」
P「……」
貴音「プロデューサーが……?」クルッ
グイ
P「ぐぇ……ゲホッゲホッ」
貴音「……? 今、何か?」
貴音「ふふ、3人とも、プロデューサーが私の髪の毛に絡まっているなど
そのような世迷言……起こるはずがありません」
響「いやいやいや」
響「っていうか生きてるの……これ?」
貴音「あの……私、見えないのでなんとも言えないのですが、
それは真、なのでしょうか?」
真美「ほら、お姫ちん! 鏡! これで見てみてよ!」
貴音「……」
真美「ほら、髪の毛のあたりに何かいるっしょ!?」
響「自分と重なってて何にもわからないんじゃないのかな?」
P「俺はここにいるぞー」
貴音「 ――ッッ! 」ビクゥッ
貴音「」ドサッ
響「た、貴音ぇ!」
亜美「気絶しちゃったよ……どうすんのさこれ」
P「お、おいお前たち、ぐるじぃ……今のうちに外してくれ」
響「いや、早く自分で取りなよ」
P「そんな冷めた目で見るなよ! 取れないんだってば!」
もふもふしてみようかと思って触ってみたら……」
P「そのまま吸い込まれて……こうなった」
真美「ホラーや……」
亜美「じゃあじゃあ、もしかしたら亜美達だって触ったら吸い込まれちゃうかも
しれないってこと!?」
響「いくら貴音の髪の毛だからって……もちろん貴音は好きだけど
プロデューサーみたいに取れなくなるのはさすがに嫌だぞ」
P「おい、そんなこと言ってる場合か! トイレとか行きたくなったらどうするんだよ」
P「えぇー!」
亜美「ねえねえ兄ちゃん……段々お姫ちんの髪の毛みたいに体が
白くなって言ってない?」
響「確かに……。プロデューサーの顔はこんなに白くないぞ」
P「いや、それは貴音の髪の毛が首に巻き付いてもあるから
それで青白くなってるんじゃないのか?」
亜美「もしかして同化してるとか……!?」
真美「さながら、ダッチマン号の牢獄の壁に同化してた長靴のビル
みたいになってるよ……」
P「急にわかりづらい例えするんじゃないよ! なんでパイカリなんだよ!」
響「あの繰り返しを始めた瞬間はゾッとしたよね」
P「いや、パイカリの話はもういいから!」
単語「う、うぅ……」
亜美「あ、起きた」
貴音「わ、私は一体何を……」
響「貴音、落ち着いて聞いてね。実は貴音の髪の毛に
プロデューサーが吸い込まれて、そして組み込まれて取れないんだよ」
驚いてしまいました……」
P「なぁ、貴音、これ、どうにかなんねえの?」
貴音「ひッ! 自分のすぐ後ろから声がするというのは慣れないものですね」
響「さすがにその近さは慣れたくないけどな」
貴音「さながら真後ろに佐為がいて色々口出しされるヒカルの気持ちを
身を持って体験しているかのようです」
P「それは違うだろ! 今日はなんかすごい例えてくるな、みんな!
っていうかキャラ的にも貴音がヒカ碁知ってたらおかしいだろ!」
貴音「これでも年齢的には世代なのですが……」
P「嘘つけ! その世代はあずささんだ!」
P「…………」
P「……そうか、うん」
響「なんで受け入れたんだよ! 起きろよ!」
亜美「起きろ兄ちゃん!」
真美「寝たら試合終了だぞ兄ちゃん!」
貴音「プロデューサー、さすがにそれは私も困ります……。
私達をプロデュースしてくださる方がいなくなってしまうのは……」
P「そうだなぁ……って、レッスンの時間じゃないか! とりあえずレッスン上に向かおう!」
響「本当に受け入れ出してないか?」
P「くっ、よりによってダンスレッスンとは……」
トレーナー「あの……貴音ちゃん、後ろのソレは」
貴音「ソレとは! この方は私の一部。
そう、プロデューサーです」
トレーナー「えぇ!?」
響「なんで貴音も受け入れ出してるんだよ!」
貴音「何もお気になさらずに……さぁ時間がありません。始めましょう」
トレーナー「え、えぇ……それじゃあ今日はオーバーマスターだったわね」
P「そしてダンスの激しい曲……! 命の危険!」
……
…
貴音「お疲れ様でした」
真美「お疲れ、お姫ちん!」
響「あれだけ激しく動いてればそのうちスポーンって取れるかと思ったけど……」
亜美「見事にくっついたままだったね」
P「ぐぇぇええ……」
真美「うあうあ~! 白目むいてるよ!」
響「と、とりあえず事務所戻ろっか」
響「……で、あれから事務所帰ってきていろいろ試してみたけど」
P「だめだ……もうだめだ。取れねえ」
貴音「かくなる上は……切り落とすしか!」
P「やめるんだ貴音! それはダメだ!」
P「も、もう一日だけ考えよう。今日はもう帰って休むとしよう」
貴音「そうですね。では皆、今日はこれで」ズルズル
響「ちょっと待ったーー!」ガシッ
響「なんでさり気なく貴音の家にそのまま行こうとしてるんだよ!」
P「え? いや、それはしょうがないというか……」
しかも、髪の毛に絡まってて、こんなに密着した状態で!」
亜美「そうだそうだ!兄ちゃんのエッチ」
真美「兄ちゃん不潔」
響「プロデューサーのスケベ」
P「や、やめろ! そんな目で俺を! 俺を見るな!
ええい、これだからファンキーノートのロリ組は!」
響・亜美・真美「えへへへ」
P「褒めてねえよ!」
P「いや、それには及ばない。俺はどんなことがあっても貴音には手を出さない」
真美「イマイチ信用なりませんな~」
P「もう……手がどこにあるのかもわからないんだ」
亜美「……え?」
P「感覚がないんだ」
響「それって、どういうこと……?」
P「腕はさっきまでは感覚があったんだ」
P「だけど、結局腕も絡まっていて身動きが取れない状態になっていた」
P「そして段々と感覚が薄れていって、今じゃどこに自分の腕があるのかもわからない」
P「さぁ、どうだかな」
P「亜美がさらっといった同化してるってのはあながち間違いじゃないようだ」
亜美「そ、そんなぁ!」
P「首はもう固定されちまって全然動かない……」
P「同じ方向を見るしかないんだ」
P「首もさっきよりもどんどん締まってきている」
貴音「そ、そんな……!」
P「今夜中には俺はもう貴音の髪の毛の一部になっちまいそうだ」
真美「兄ちゃん、それ本当なの!?」
響「プロデューサー! 寝たらダメだぞ!」
貴音「私は……プロデューサーの最後の顔も見れないなんて……」
P「ごめんな、響、亜美、真美。そして貴音」
P「はは……貴音はこれからもよろしく、か」
亜美「そんなこと言ってる場合じゃないっしょ!」
P「トップアイドルにするって約束したのにな……だめだったな」
P「……本当にすまないと思っている」
貴音「この四条貴音、命をもって、プロデューサーの命を守る時!」
P「貴音。わかってるんだろう? そんなことをしても無駄だ」
P「今、俺は薄れゆく意識の中で貴音の生命エネルギーを吸って生きている
いや、生かされているようなものだ……」
P「だから、もう、もらった分だけ、俺は貴音になり、返さなくちゃいけないからな」
P「もう……ゴールしてもいいよな」
貴音「あ、あなた様ぁ!」
悪く……なかったぜ」
響「プロデューサー!!」
亜美「兄ちゃん……」
真美「そんな……嘘だよね、兄ちゃん! ねえ!」
貴音「……うぅ……プロデューサー……」
響「これからは……きっと貴音の中で生きてるんだよね……」
真美「ん?兄ちゃんの手、何か握ってない?」
亜美「もしかして遺言ってやつ!?」
『ドッキリ大成功』
亜美・真美・響「……え?」
P「いえぇぇえーーーーい!!」
貴音「ふふふ」
亜美「……え?」
響「えぇーーー!!」
真美「だ、騙したなぁ!!」
貴音「ふふふ、見事に成功しました」
真美「兄ちゃんのばかばかばか!!」
亜美「そうだぞ! 兄ちゃんアホタレー!」
P「ははは、いててて、ごめんごめん」
P「た、貴音、最後の聞いたかよ!
『これからは……きっと貴音の中で生きてるんだよね……』
だってよぉぉぉお!! あはははは!」
貴音「ふふふ、響らしくて可愛いではありませんか」
響「うぎゃーーー! やめてよーー!」
無茶苦茶悲しかったんだぞ!!」
P「ははは、ごめんごめんっと」
P「よっと」スポーンッ
P「ははは、それじゃあみんな帰る用意しないとな」
真美「はぁ……なんだか安心したらどっと疲れちゃったよ」
貴音「ふふ、騙す真似などしてしまってごめんなさい」
亜美「っていうかあれどうやってたの?」
真美「あー! 真美もやりたいやりたい!!」
響「こ、コラー、貴音が困ってるだろ……」
P「お前も素直に言ってこいよ」
響「う、うるさいなぁ! わかってるよ! た、貴音、じ、自分もー!」
貴音「で、では順番で……」
…………
……
…
響「えへへ~、もふもふだぞ」ズルズル
貴音「あの……私も少々つかれてきたのですが」
亜美「うあうあ~! もうちょっと頑張ってお姫ちん! 次は亜美の番なんだからね!」
P「ちょっと自業自得……なのかもな」
END
別のルートがあとひとつだけあるのでもう少しだけお付き合いください
>>61
の途中から別ルートです
無茶苦茶悲しかったんだぞ!!」
P「ははは、ごめんごめんっと、ん?」グイ
P「あれ? ん?」グイ
響「? どうしたんだ?」
P「あ、あれ? た、貴音さん? あの、取れないんですけど」
貴音「うふふ、ふふふふ」
貴音「ですから私は先程見事に成功しました、と言いました」
P「……はい?」
P「え? ちょ、え?」
貴音「うふふ、それでは帰りましょうか」
P「おい、響! 助けて!」
響「どうせ取れるんだろう!? もうだまされないからな!」
真美「そうだぞ! 真美達を騙した罪は重いかんね」
P「うわぁ、何それ! マジなんだって! ドッキリじゃないから!」
亜美「さてさて、真美さんや、もうご帰宅の時間ですぞ」
P「おいいいい! 聞いてくれよ!なぁ!」
貴音「ふふ、これからはずっと側にいてくれますね、あなた様?」
P「ぁぁぁああああ!」
BAD END
折角なんで書いてしまいましたすみません。
ではこれで終わりますね。ありがとうございます
貴音Pにとっては最高のHAPPY ENDだった
Entry ⇒ 2012.10.30 | Category ⇒ アイマスSS | Comments (0) | Trackbacks (0)
モバマスP「ついに仕事の依頼が来たぞ」
P「そうだ、やったな裕美!」
イヴ「おめでとうございます裕美ちゃん!」
あい「おめでとう、裕美」
裕美「そんな……私なんかに……」
P「おいおい……そんな卑下しなくてもいいじゃないか」
裕美「そんなこと言われても……」
P「約束、忘れたのか?」
あい「約束……?」
裕美「……そうだね、うん……やってみるよ」
裕美「うん、頑張るね」
がちゃ ばたん
あい「……裕美」
裕美「どうしました?」
あい「Pくんと約束? って何の話だろう……」
イヴ「ああ! あいさんはあの時まだ事務所に居ませんもんねぇ」
裕美「あっ、そうか」
イヴ「じゃあ、今夜はミーティングですね☆」
裕美「あのお店に行くの?」
あい「わかったよ」
がちゃ ばたん
P「裕美ー、今から軽い顔合わせに行くぞー」
裕美「うん、じゃあ2人とも……頑張ってくるね」
あい「いってらっしゃい」
イヴ「頑張ってくださぁい」
イヴ「裕美ちゃん、すごいですねぇ」
あい「……約束、か」
イヴ「あいさん? どうしたんですかぁ」
あい「私も、Pくんと約束の一つでもしておけば良かったかなってね……ふふ」
イヴ「あ、あいさんが微笑みましたぁ♪」
あい「……むぅ」
イヴ「♪」
――――――
――――
――
裕美「戻りました」
あい「お疲れ様、帰ってきて即行で悪いがPくん」
P「なんだ?」
あい「今日はミーティングをしようと思ってね」
P「ふむ、してその心は?」
あい「色々と聞きたいことがあるんだよ」
P「……お前何にジェラシー妬いてるの?」
P「わかった、わかったよ」
あい「最初からそう言えばいいんだよ」
イヴ「わぁ☆ じゃあ準備してきますぅ☆」
裕美「私も、親に連絡するね」
P「了解……んじゃ、俺はデスクワーク有るから適当に晩飯でも食べて来い」
あい「出前を頼もうじゃないか」
P「経費で落とす」
裕美「……いいの?」
あい「いいんじゃないか?」
P「事務員がああ言ってるだからいいんじゃない?」
ちひろ「混ぜるってのは晩御飯だけじゃなくてミーテングもですよー?」
イヴ「わぁ♪ 一緒にお話しましょう!」
裕美「……いいの?」
あい「いいんじゃないか?」
P「事務員だからいいんじゃない?」
P「ラーメンでいいな」
イヴ「ミソチャーシューメンでお願いしますぅ」
あい「塩野菜」
P「はいよ、裕美は?」
裕美「醤油ラーメンスープ薄め麺細め」
P「……そんなオプションあったか? 俺はチャーハンセット醤油で」
ちひろ「それでは電話かけちゃいますね」
・
・
・
ちひろ「食器は私が洗っておきますね」
イヴ「お手伝いしますぅ……というのは建前で、家事のお勉強です」
ちひろ「ふふっ……じゃあやってみましょう」
イヴ「はいっ♪」
裕美「……」
P「どうした?」
裕美「……うん、緊張するなって……」
P「大丈夫だって」
裕美「……本当にそう思う?」
なでなで よしよし
裕美「ん……わかった」
P「ああ、お前なら大丈夫さ」
裕美「……♪」
あい「……Pくん?」
P「なした?」
あい「今日は、Pくんの全面的なおごりだ」
P「は!? 何でそうなるよ!」
P「えー」
裕美「……??」
ちひろ「終わりましたよー」
イヴ「どんぶりの洗い方教えてもらいましたぁ」
P「よし、じゃあ移動するか」
イヴ「はぁい☆」
あい「……」
裕美「……あいさん?」
裕美「移動しますよ?」
あい「ああ、わかったよ」
社長「おお、ちひろ君まだ残っていたか」
ちひろ「え゛……なんでしょう?」
社長「ちょっと急務の事務作業が出来てしまってね、手伝ってもらうよ」
P「あ、じゃあ俺もですか?」
社長「君の手を借りるほど大きい仕事でもないよ、ちひろ君1人で十分だ」
ちひろ「そんなぁ~……」
P「南無」
P「今日もお邪魔します」
マスター「いらっしゃい、CD聞かせてもらったよ」
P「どうです? 良い出来だと思うんですが」
マスター「素晴らしかったよ、あらためて良いと思った」
P「練習場所を提供して頂いて本当ありがとうございます」
マスター「彼女らの素晴らしい歌が聴けるなら安いものさ」
イヴ「いやん☆ ありがとうございますぅ」
あい「照れくさいね、ありがとうございます」
裕美「……ありがとうございます」
P「わかりました」
あい「いつもありがとう、マスター」
マスター「いやいや……頑張るんだよ?」
あい「……何の事?」
マスター「はいはい、行った行った」
あい「……からかわれる事が最近増えた気がする」
P「打ち解けた証拠じゃないか?」
あい「そうかな」
あい「……むぅ」
P「まぁまぁ……で、ミーティングってのは?」
あい「それなんだが……」
P「あいにしては珍しく歯切れが悪いじゃないか」
あい「……えっとだな……」
イヴ「裕美ちゃんと何の約束をしたのか気になるみたいですよぉ☆」
裕美「え?」
P「……は?」
イヴ「あいさんたらですね、私もyもごもご」
あい「……」
P「……」
あい「……」
P「……まあ、なんでイヴの口を押さえたのかは聞かないでおくよ」
あい「賢明だね」
P「だからもう離してやってくれ」
※ 前々作の関ちゃんの口調には目をつぶってください><
ふりーまーけっと場
P「んー……」
「いらっしゃい」
P「あ、どうも」
「小物とかどう? うちの娘の手作りだよ」
P「へぇ……よく出来てる、これとこれくださいな」
「はい……ほら、裕美」
裕美「あ、ありがとう……ございます」
裕美「うん……」
P「……ねえ、ちょっとこっち見てくれない?」
裕美「……何?」
P「……うん! 顔立ちもいいしスタイルも悪くない……」
裕美「な……何なの?」
「あの……?」
P「アイドルやってみない?」
裕美「……あいどる?」
P「はい、私芸能プロダクションのプロデューサーをやっていまして、こういうものです」
裕美「……Pさん……」
P「うん、今日は名詞を渡すだけにしておくよ」
「ええ……はい」
P「気が向いたら電話してくれないかな?」
裕美「気が……向いたらね」
P「うん、それでいいんだ。 興味が沸いたらでいいよ」
裕美「……わかった」
「いえ、アクセサリー大事にしてくださいね」
P「はい……じゃあ、連絡待ってるよ?」
裕美「……」
「こらっ……すいませんね」
P「いえいえ、それでは失礼します」
「ありがとうございました」
裕美「私が……アイドル?」
「やってみる?」
裕美「こんな私が出来るとは思えないんだけど……」
「話だけでも聞いてみたら?」
裕美「……ちょっと、考える」
――――――
――――
――
P「忘れてた、すまん」
イヴ「もうっ 1人にしないでくださいぃ」
P「誤解を招くような事を言うんじゃありません」
イヴ「え~……そのブレスレット、どうしたんですかぁ?」
P「フリマで見つけてね、いいものだから買った」
イヴ「私もそれ欲しいですぅ」
P「実はここにもう一つブレスレットがある」
イヴ「きゃあ☆ Pさんは優しいですねぇ♪」
P「ふふふふ」
イヴ「じゃあ、帰りましょー」
P「そうだな」
Prrrrr...
P「はい、Pです……電話してくれてありがとう……うん……じゃあ、○○町前の喫茶店で」
Pi
イヴ「前スカウトした人ですかぁ?」
P「うん、話は聞いてくれるみたいだ」
イヴ「私のお友達が出来るんですねぇ☆」
P「一緒にコンビ組んでもらう予定だからな」
イヴ「私も一緒に行っていいですかぁ?」
イヴ「ぶー」
P「じゃあ、ちょっと出てきます」
ちひろ「わかりました、行ってらっしゃい」
イヴ「行ってらっしゃいですぅ☆」
P「お待たせ」
裕美「うん……」
P「とりあえず俺はアイスティー、君は?」
裕美「……レモネード」
「畏まりました」
P「ところで、親御さんは?」
裕美「1人で行って来いって……」
P「わー……」
P「ん?」
裕美「私は断りに来たの」
P「……何でだい?」
裕美「私なんかにアイドルは無理だよ……目つきも悪いし、ブサイクだし……」
P「……」
裕美「いつもにらんでるんじゃないかって言われて、髪もこんなだし……」
P「……」
裕美「そんな私に、アイドルなんか無理だよ」
P「そっか……」
裕美「だから、断りに来たんだ……私にアイドルは無理……アンタもそう思うでしょ?」
P「それなら、電話で断ればよかったんじゃないかな?」
P「電話までくれて直接来たってことは、ちょっとは興味あるでしょ」
裕美「興味はあるけど……私がなれるとは思わないんだ」
P「で、だ」
裕美「……え?」
P「掻い摘んで、アイドルの仕事を説明していくよ」
裕美「……う、うん」
・
・
・
裕美「……」
P「どうかな?」
裕美「……」
P「興味は、ある?」
裕美「……うん」
P「そっか」
裕美「でも……」
P「じゃあ、事務所まで来てみる?」
裕美「え?」
裕美「……わかった」
P「じゃあ、行こうか」
裕美「あ、お代……」
P「いいよ、俺持ちだ」
裕美「そんな」
P「話を聞いてくれたし、ここまで足を運んでくれたお礼だよ。 いい?」
裕美「……うん」
P「自己紹介がまだだったね、俺はP」
裕美「私は、関裕美」
P「じゃあ行こうか、裕美ちゃん」
裕美「うん」
――――――
――――
――
裕美「お……お邪魔します」
ちひろ「お帰りなさい、その子は?」
P「興味があって、見学です」
裕美「……こんにちは」
ちひろ「こんにちは、私はここで事務員をしている千川ちひろよ、よろしくね?……えーと」
裕美「あ……関裕美です」
ちひろ「裕美ちゃんね……プロデューサーさんは本当にすごい子を見つけましたね」
P「でしょう?」
裕美「……」
裕美「え?」
P「俺が今メインでプロデュースしてる子だよ、イーヴー、いるかー?」
イヴ「はぁい☆ お帰りなさいPさん☆」
P「ただいま」
裕美「……この人が?」
P「うん」
イヴ「イヴ・サンタクロースですぅ。 イヴって呼んでくださぁい☆」
P「どうしたのかな?」
裕美「イヴさん……日本人じゃないよ?」
P「日本人じゃなくてもアイドルになったっていいじゃないか」
イヴ「そうですよぉ! アイドルになっちゃうんです~! いやん☆」
裕美「……Pさん」
P「何だ?」
裕美「わたしも、イヴさんみたいに明るく笑顔になれる?」
P「裕美ちゃんは元々顔立ち整ってるし、笑顔もかわいいと思うよ」
P「裕美ちゃん?」
裕美「私はこんな性格な自分が嫌だったし外見も自信が無い、でもイヴさんみたいな笑顔になれるなら頑張ろうと思うんだ」
P「……そっか」
裕美「これから宜しくね? プロデューサーさん」
P「ああ、よろしく……裕美」
裕美「……うん、イヴさん」
イヴ「なんですかぁ?」
裕美「私、どんな事でも頑張る、イヴさんみたいな笑顔で皆を元気にしたいんです」
イヴ「私の笑顔ですかぁ?」
イヴ「私からもよろしくお願いしますぅ☆」
P「お前らには、ユニットを組んでもらうからな」
イヴ「2人ですかぁ?」
P「いや、トリオだ」
裕美「……あと1人は?」
P「……まだ探してる最中だ、バランスを取るとなると……大人びた落ち着いた人かな」
裕美「ねぇ、プロデューサーさん」
P「どうした?」
P「ああ、裕美はこんなブレスレットを作れる位器用なんだ、なんだってこなすさ」
裕美「……つけててくれてたんだ……」
P「うん、いいものだし……裕美との縁が出来たものだからね」
裕美「……ありがとう」
P「よし、レッスンに行くぞ!」
裕美「うん」
イヴ「はぁい☆」
裕美「プロデューサーさん……」
P「どうした?」
裕美「……私、アイドル辞め……ううん、なんでもない」
P「……」
裕美「……やっぱり……自信が無いよ……」
P「裕美はさ、レッスンが辛いか?」
裕美「うん……」
P「そりゃそうだな、トレーニングみたいなものだから」
裕美「笑顔の練習とかもしてみたけど、相変わらず顔はきついし」
P「……」
P「裕美」
裕美「……なに?」
P「お前はアクセ作ってる時すごく良い感じに笑顔になってるぞ?」
裕美「……そう?」
P「ああ、多分意識しないところで笑顔になってるんだろうな、そのほうが自然だからな」
裕美「……自然に、笑顔に?」
P「そう、自然に、笑顔にだ」
裕美「……うん。 私、頑張ってみるね」
裕美「……何?」
P「今、良い笑顔してるぞ?」
裕美「……私が一番笑顔でいられるのは……プロデューサーさんの前でだから……」
P「うおっ!?」
裕美「……ふふっ……プロデューサーさん?」
P「ど、どうした?」
裕美「私、何でも楽しんでみる。 そして、自然な笑顔でいられるようになる」
P「……」
裕美「だから、その時までアイドルやめない……約束する」
イヴ「一緒に頑張りましょう~☆」
P「イヴ!? いつからそこにいた?」
イヴ「ずっといましたよぉ!」
裕美「……イヴさん」
イヴ「はい?」
裕美「……可愛い」
イヴ「いやん☆」
裕美「プロデューサーさん、私、この笑顔をモノにするよ」
P「わ、わかった」
裕美「それまで、一緒にいてよね?」
P「……おう!」
P「……とまぁ、こんな感じ」
裕美「うん」
イヴ「そのブレスレットって、裕美ちゃんに会った時に買ったものだったんですねぇ」
P「ああ、そのときにどんな事でも楽しむって約束したんだ」
裕美「今は、アイドル楽しいよ……イヴさんもあいさんも良い人だし」
あい「そうか……嬉しいな」
裕美「プロデューサーさんもいるから、私は楽しめるんだ」
P「良かった、ありがとう」
なでなで よしよし
あい「……む」
P「ああ、魅力的だぞ」
イヴ「すごくかわいいですよ☆」
あい「私から見ても可愛いと思うよ」
裕美「良かった……そうだ、今度みんなの分のアクセも作るね」
イヴ「おそろいとかだと楽しそうですね☆」
裕美「うん、おそろいのブレスレットを作るね」
あい「それは楽しみだ」
あい「そういえば、仕事は何だったんだい?」
P「ハロウィンのイベントらしいよ、洋館でライブだ」
裕美「お客さんも私も、楽しめれば笑顔になるよね?」
P「勿論」
裕美「うん、楽しむ」
おわり
関ちゃんR昇格おめでとおおおおおおお!
心から望んでたよ!
お前らはもっと関ちゃんの魅力に気付くべき
それが感じられたら万々歳かな
雰囲気が好きって言ってくれるのはすごい嬉しい
ありがとうございました
Entry ⇒ 2012.10.30 | Category ⇒ アイマスSS | Comments (1) | Trackbacks (0)
涼「冬馬さんってかっこいいですね……」 冬馬「へっ!?」
冬馬(こ、こいつもしかして俺に惚れてる!?えっ!?)
涼「あっ、そろそろ私行きますね!それでは!」
冬馬「ぉ、ぉぅ」
冬馬「うぁぉおああああああああああああああ」
絵理「あの人ずっとこっち見てる……」
愛「あっ!!あの人はこの前も一緒に仕事した鬼ヶ島羅刹さんじゃないですか!」
涼「本当だ。何か用かな?」
冬馬「!!」サッ
絵理「……逸らした?」
冬馬(うわあああああああああ、やばいやばいやばいやばい!!!!)
冬馬「べ、別に見てねえよ!!」
北斗「もしかしてあの娘達かい?確かに皆可愛いね」
冬馬「そ、そんなんじゃねえし。ただ敵事務所の奴らはどんなもんかって見てただけだ」
翔太「ふーん……」
冬馬(神様、あの天使と巡り合わせてくれてありがとう……!)
冬馬「……」チラッ
涼「ん?」
冬馬「!」サッ
涼「……?」
冬馬「961プロからは当然俺が出るぜ!!誰が相手でも楽勝だぜ!」
涼「876プロからは私が!精一杯がんばります!」
冬馬(な、なにいいいいい!?こいつが出てくるなんて予想してなかった!!)
冬馬(ここは負けてやるべきなのか!?それとも勝って腕を見せつけるべきなのか!?)
冬馬(なんてこと考えてたら始まっちまった!)
冬馬(むこうは……)
涼「……」トントントントントントン サッサッ
冬馬(な、なにいいいいいいい!?かなり料理上手じゃねえかああああ!!)
冬馬(あれだけ可愛くて家庭的とか最強じゃねえかああ!!)
北斗「動かないな」
翔太「何ボケッとしてるんだろ」
絵理「楽勝……?」
愛「涼さんがんばれええええええ!!」
翔太「出たっ!!必殺技!」
北斗「これで勝つるっ!」
シューリョー
涼(冬馬さん、料理うまいんだ……前半何もしてなかったのにあれだけのものを)ジー
冬馬(うわっ!こっち見てる!!視線が突き刺さる!!うおおおおおお)
絵理「オリーブオイルをものともしない」
涼「ううん、今回はたまたま勝てただけだと思うな。冬馬さんが本気出してたら負けてたかも」
翔太「ちょっとー、あれだけ自信満々にやったのにダサすぎるよ」
冬馬(エプロンが似合う女って良いな……)ホッコリ
北斗「なんかイっちゃってるぞ」
冬馬(休みの日に2人で料理作るんだ……キャッキャしながら……)
絵理「あっ、どうも……」
北斗「エンジェルちゃん達、今日は楽しかったよ。また会えると良いな」
愛「はい!でもあたし達の中にエンジェルちゃんって名前の人はいませんよ!」
冬馬「お、お、おう!きょ、今日は負けたぜ。料理得意なんだな」
涼「そんな……私なんてまだまだです。冬馬さんの方こそあの短時間ですごいです」
冬馬「そ、そ、そ、そうか!?た、大した事ねえよ!」
冬馬「は?」
北斗「目線も泳いで、顔も真っ赤で声が上ずって」
冬馬「誰がだよ」
翔太「冬馬君しかいないじゃん。涼さんと話してる時かなり気持ち悪かったよ」
冬馬「な、なにいいいいいいいい!?」
北斗「自分で気付いて無かったのか?」
冬馬(や、やばい……このままじゃ童貞キモ男だと思われちまう……)
冬馬(もしかしてもう終わりか……!?)
涼(どうしたらあんな風になれるんだろ……)
涼(何かアドバイスもらえたら……)
冬馬(落ち着け、まだ挽回するチャンスはある)
冬馬(冷静になれ。要は普通に接したらいいんだ)
冬馬(そうだ、北斗や翔太を相手するみたいに自然な感じで)
冬馬(……それが出来たら苦労しねえええ!!)
冬馬「あ」
涼「どうも、こんな所で会うなんて思いませんでした」
冬馬「お、俺もだ。何してるんだ?」
涼「これから愛ちゃん達と買い物なんです」
冬馬「そ、そうか……じゃあ急がないとな」
涼「あっ、そうですね」
冬馬(ちくしょおおおおおおおおおおお!!)
涼「あの……よろしければメールアドレス教えて頂けないしょうか?」
冬馬「……あぇ?」
涼「そ、その!ご迷惑なら全然いいんです!ごめんなさい!急にこんな事!」
冬馬「あ、え、お、良いよ。うん」
涼「本当ですか!?ありがとうございます!」
涼(でも急にイケメンになるためにはどうしたらいいですかとか変だし……)
涼(うーん……)
冬馬「んおおおおおおおおおおお」ゴロゴロ
冬馬「なんだあああああああああ」
冬馬「やっべええええええええええええええ」
冬馬「これなんてエロゲ!?こんな事あんのか!?何!?俺もうすぐ死ぬの!?」
[Sub]秋月涼です
―――――――――――――――――――――
こんばんは、涼です。
急に失礼な事を申し訳ありません。
これからもっともっと冬馬さんとお話しできたら嬉しいです。
冬馬「ぬはああああああああああああああああああ」
冬馬「涼ちんマジアリス!」
冬馬「可愛さがギルティイイイイイイイイ!!」
[Sub]冬馬
―――――――――――――――――――――
全然迷惑じゃないから気にすんな!
お互いトップアイドル目指して頑張ろうぜ!
冬馬「やっぱりお友達からの関係が大事だよな!急に遊びに行こうとか変だもんな!!」
冬馬「黒井のおっさんの方向性とかもう関係ねえ!」
冬馬「こうなったら誰にも俺を止める事は出来ないぜええええ!!」
冬馬「ああ、専用コーナーまで出来るなんてな」
冬馬(最高のスタッフだな。うん)
涼「今日は負けちゃうかもしれません」
冬馬「ん、んなことねえよ。りょ、りょ、りょ、涼」
涼「?」
冬馬「ほ、ほら秋月って765プロの竜宮小町のプロデューサーと被るからさ!!だから涼の方がな!」
涼(律子姉ちゃんのことだぁぁぁ……)
涼(す、凄い迫力……僕にはあんな迫力出せない……)
冬馬「……」ジャッジャッ ジュワァァァ
涼(この前とは全然違う……これが冬馬さんの本気……)
冬馬「ここで追いオリーブ!!!」ダバダバ
涼(なんて大胆なんだぁぁぁあ!やっぱりイケメンアイドル冬馬さんはすごい!)
冬馬「いや、お前も俺に本気を出させるなんて大した奴だ」
涼「……私も冬馬さん……に……たら……」
冬馬「はぇ?」
涼「あっ……な、何でも無いです!今日はありがとうございました!失礼します!」タタッ
冬馬「あっ」
涼(女のアイドルの僕が『冬馬さんみたいになれたら』って言ったらおかしいじゃないか)
涼(あくまでさりげなく教えてもらわないと……危なかった……)
冬馬「あいつ何て言ったんだ!?冬馬さんに……たら……?」
冬馬「……冬馬さんにだったら抱かれて良い!?おおおおお!?」
冬馬「ま、まさかそんなわけねえよな!うん!何考えてるんだ!!!」
涼「大丈夫かな……?」
涼「……いっちゃえ!」ピッ
[To]天ヶ瀬冬馬
[Sub]失礼します
―――――――――――――――――――――
こんばんは、今日はお疲れ様でした。
冬馬さんの料理の腕には本当に驚かされました。
よろしければ、今度お暇な時に私に指導して頂けませんか?
涼(1日一緒に行動して……イケメンの秘訣をたくさん盗むんだ!)
涼(OKが出ればだけど……)
冬馬「これデート!?デートだよなぁおい!?」
冬馬「指導とか……指導とかいかがわしい響だな……」
冬馬「これ、もう俺の事好きなの!?あの天使!?」
[To]秋月涼
[Sub]分かった
―――――――――――――――――――――
向上心があるやつ俺は好きだぜ!
最近そういうやつが少ないからな。
そっちが空いてる日教えてくれないか?
冬馬「す、好きって別にそういう好きじゃないからな!」
冬馬「別にLOVEの方の好きじゃねえから!!だから良いんだ!!」ピッ
冬馬「……送っちまったあああああああああああ!!」
冬馬「あれ……何でこんなに早いんだ……絶対俺の方が先に着くと思ったのに」
涼「先輩をお待たせするのは流石にどうかと思うので」
冬馬「そんなに気を遣わなくても大丈夫だぜ?」
涼「そ、そうですか……?でも……」
冬馬「肩の力抜けって。とりあえず食材見に行こうぜ」
涼「は、はい!」
冬馬(うわああああああああああ服装可愛いいいいいいい!!清純な感じがたまらねええええええ)
冬馬(しかも俺より先に待ってるとかどれだけ健気なんだよ!!良い娘すぎる!!)
涼「そうなんですかー、知りませんでした」モゾモゾ
冬馬(そんなお尻突きだされて商品見るなよ!!目のやり場に困る!!)
涼「そ、そんな荷物は私が持ちます。付き合ってもらってる方なのに……」
冬馬「大丈夫だ。俺が持ちたくて持ってるんだからよ」
涼「で、でも……後輩の私が……」
冬馬「じゃあ先輩命令だ。俺に持たせろ」
涼(か、かっこいい!こういう所を真似しないと……今度やってみよう)
冬馬(デート!!!めっちゃデートっぽい!!こんなに可愛い娘とデート!!)
これはマジでかっこいいな。あまとうが言ったら惚れること間違いなしやろ
涼「あっ、そうですね。お昼にしましょう」
冬馬「食材持ったままだけどまあ大丈夫だろ」
冬馬「ハンバーグ……」ピッピッ
涼(い、イケメンはまずハンバーグを頼むんだ!子どもっぽいかなって思ってたけど……)
涼(冬馬さんが食べるぐらいだから業界ではカッコいいお寿司って事で有名なんだ!)
冬馬「何か食いたい物あるか?」
涼「じゃ、じゃあ私もハンバーグお願いします!」
冬馬「おっ、マジで!?趣味が似てるな!」
涼「私もえんがわで!」
冬馬「うーん、甘エビ」
涼「私も冬馬さんと同じのを!」
冬馬(さっきから俺と同じの食べてる……何、俺のハート崩壊させようとしてんの?)
涼(えーっと、何食べたっけ……ちゃんと覚えておかないと……)ムー
冬馬(一々仕草が可愛すぎるんだよ!!ああああああ、もうううう!!)
涼「はい」
冬馬「じゃあ先に出てくれ。後で金貰うからよ」
涼「分かりました」
涼「そ、そんな!そこまでしてもらうのは申し訳ないです!」
冬馬「いいから、気にすんな」
涼「うぅ……でも私結構食べちゃったんですよ?」
冬馬「じゃあ今度払ってくれよ。今日は俺の番」
涼「……はい。本当にありがとうございます」
冬馬(さりげなくまた会うような空気にしてやったぜええええええ!!俺天才じゃね!?)
涼(代金は黙って全部払う……これも覚えておかなきゃ)
涼「あ……」
冬馬「……」
涼(僕の家は……ダメだ!男だってバレちゃうかもしれない……)
冬馬「うーん……」
涼「あの……私、冬馬さんの家に行きたいです!!」
冬馬「え……」
涼「や、やっぱりダメですか……?」
冬馬「い、良いけど」
涼「ありがとうございます!わー、楽しみです!」
冬馬(な、何これ……これって……もう……マジで童貞卒業する五秒前だろ……)
冬馬「まあな。ちょ、ちょっと待っててくれ!部屋散らかってるから」
涼「分かりました」
冬馬(フィギュアを隠して……あと雑誌も……)ドタバタ ゴソゴソ
冬馬「……」キョロキョロ
冬馬(……良し!大丈夫だ!!)
冬馬「悪い、待たせた。入ってくれ」
涼「お邪魔します」
冬馬(お、俺の家に初めて女の子がきたあああああああああああああああああ!!)
涼「あっ、そうだったんですか……」
冬馬(何これ幸せすぎる……俺は今可愛い女の子と一緒に料理作ってるんだ……)
涼「あっ、冬馬さん。これちょっと味薄くないですか?」
冬馬「ん?……本当だ。おかしいな、俺分量間違えたかな……」ペロッ
涼「えへへっ、冬馬さんでもミスすることあるんですね。ちょっと安心しました」
冬馬「ぇ……ぅ、まあ……な」
冬馬(だって全然集中出来ねえんだよ!!こんなに近いと!!)
涼「血が……出てますね」
冬馬「ああ。ちょっと切っただけだから」
涼「痛そう……」
冬馬(俺ださすぎる……何でこんな失敗を……)
涼「救急箱とかありますか?」
冬馬「そこの棚にあった気が……」
涼(たまには良い所見せないと!カッコイイ男は迅速な行動を!)ガサゴソ
冬馬(おいおい、四つん這いになるなよおおおおおお!!俺の理性をどうしたいんだよおおおお)
涼「あれー……無い……」ガサゴソ
冬馬(神様ありがとう。そして指切った俺GJ)ゴクリ
冬馬「ああ、わざわざ悪いな」
涼「いえ、私なんかが少しでもお役に立てて私嬉しいです」
冬馬(健気ええええええええええええええ!!)キュン
涼(冬馬さんに認めてもらった……!)
冬馬「後はこのまま煮込めば完成だな」
涼「はい!ご指導ありがとうございました!」
冬馬「いや、俺が教える所なんかほとんど無かったぜ。お前の方が料理上手だろ」
涼「そ、そんな……全然ダメダメで……」
冬馬(謙虚な所もたまんねえなあ!!おい!)
涼「いただきます」
冬馬「……うめえな……」モグモグ
涼「冬馬さんの作ったドレッシングもすごく美味しいです」モグモグ
冬馬「俺のなんか大した事ねえよ」
涼「大した事ありますよ。あ、ほっぺたにソース飛んでます」
冬馬「うそ」
涼「動かないで下さいね」フキフキ
冬馬「……」ドキドキ
涼(ふふっ、気づかいが出来る男はイケメン……)
冬馬(うひょおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお)
冬馬「俺もやるぞ」
涼「傷口に染みちゃいますよ?私に任せて下さい!」
冬馬「……サンキュー」
涼(今日一日で分かった事は冬馬さんは面倒な事も自分から積極的にやってる!)ゴシゴシ
涼(あと人に対する気遣いがすごい!僕も見習わないと!)ゴシゴシ
冬馬(ああ、涼は良い奥さんになれる……子供は何人が良いかな……)
涼「じゃあ今日はお世話になりました!」
冬馬「……へ?」
涼「こんなに遅くまでお邪魔してしまってすみません」
冬馬「い、いや……ちょっと」
涼「本当に今日はありがとうございました。お邪魔しました」
冬馬「う、うん……」
ガチャッ パタン
冬馬「……」
冬馬「NOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!」ゴロゴロ
冬馬「なんだそりゃああああああああああああ」
冬馬「もっと必死に呼びとめればよかったじゃねえかあああああああああああああああ」
[Sub]こんばんは
―――――――――――――――――――――
今日は本当にありがとうございました!
とても楽しい1日でした。
後、迷惑かけてばかりですみません……。
今度会う時は今日の分お返しできるように頑張ります!
それではおやすみなさい。
冬馬「うん、楽しかったなら良いんだ……」
冬馬「俺も楽しかったし」
冬馬「……今度会う時……?また会える……?」
冬馬「いよっしゃああああああああああああ!!終わって無い!!」
[Sub]お疲れ
―――――――――――――――――――――
俺も楽しかった。
また遊ぼうぜ。おやすみ。
冬馬「ふぅ、こんなもんか」ピッ
冬馬「……」
冬馬「はぁぁ、今度いつ会えるんだ……」
北斗「ん?」
冬馬「かっこいいって言われてメアド聞かれて」
翔太「うん」
冬馬「メールをやり取りして遊んで」
北斗「うん」
冬馬「そのまま家に来たら、脈ありか?」
翔太「ブッ……ふ、そ、そうなんじゃない……?」プルプル
冬馬「な、何がおかしいんだよ!!」
翔太「だ、だってそんな具体的な例出すとか……冬馬君……あはははは!!」バンバン
冬馬「ばっ、別に俺の事じゃねえよ!!」
北斗「まあ少なくとも好意は抱いてると思うよ」
冬馬「そ、そうか!」
翔太(ただの友達としか見られてない可能性もあるけどねー)
涼「それじゃあ今日は私が全部払うね」
絵理「良いの……?」
涼「うん!任せて!」ドン
愛「わーい!!ありがとうございます!!」
涼「あれ……?足りない……」
涼「あ、冬馬さーん!」
冬馬「おっ」
涼「今日は遊園地に行くんですよね」
冬馬「そうだな、何か結構面白いアトラクションがあるって聞いたからな」
涼「そうなんですか。ワクワクします!」
冬馬(はぁぁあああああああああああん!!守りたいこの笑顔!!)
涼(冬馬さんチョイスのアトラクション!どんなのを選ぶんだろう)
涼「い、いきなり絶叫系ですか……」
冬馬「時間が経つと待ち時間が長くなるからな。最初に行っとこうぜ」
涼「そうですね……」
冬馬「どうした?怖いのか?」
涼「い、いえ……そういうわけじゃないんですけど」
冬馬「大丈夫だって、俺が隣にいてやるから」
涼(こういう事をサラッと言えるなんてすごい……僕にはとても……)
冬馬(ああああああああああああ!!しまったあああああ!!今のは流石にキモすぎる!!)
涼「そうですね……」
冬馬「俺ちょっとジュース買ってくる。何が欲しい?」
涼「そ、そんな大丈夫です」
冬馬「じゃあ適当にお前の分も買ってくるから待っててくれ」タタッ
涼「あ……」
冬馬(恋人の顔にいきなりジュースをピタッ!!やってみたかったんだよな!!)
涼(どうしてこんなに優しいんだろ……かっこいい人ってみんなこうなのかな)
チビ「お姉さん1人ー?」
涼「あっ、いえっ……、ちょっと」
チャオ「俺達とちょっと遊ばないかい?」
涼「そ、その……」
チビ「良いじゃん良いじゃん!絶対楽しいから!」
涼「私は……」
チャオ「さあ、俺達と共に楽園へ……」
涼(2人ともサングラスにマスク……怪しすぎるよ……)
涼「あ……」
チビ「あっ、逃げろ!!」
冬馬「待てコラ!!」
涼「だ、大丈夫です。何もされてませんから」
冬馬「チッ、あいつらどっかで見た事あるような……」
涼「そういえば……私もそんな気が……」
冬馬「……悪いな。俺が目を離したばっかりに」
涼「そんなことありません、その……とってもかっこよかったです。来てくれて嬉しかったです」
冬馬「あぇぇ……そ、そうかぁ?」
涼(僕にあんな勇気があったら、絡まれても何とかできたのに……)
冬馬(かっこよかった!!!俺はかっこいいのかああああ!!いえええええい!!)
翔太「はい、もう確定」
北斗「思ったより簡単だったな」
涼「ああああああああああああああああ!!」
冬馬(俺は悲鳴出したらダメだあああああああああああばばばば)
冬馬「だ、大丈夫か……?」
涼「ひゃ、ひゃい……」フラフラ
冬馬「ほら、さっき買った飲み物」
涼「ありがとうございます……」ゴクゴク
冬馬(……ペットボトルってエロイな。構造を考え付いた人に賞をあげたい!!)
涼「……あの、何か?」
冬馬「な、何でもないです!!」
涼「お、お化け屋敷!?」
冬馬「ジェットコースターよりよっぽど楽だと思うぜ?」
涼(お化け本当に苦手なんですけど……)
冬馬「まあどうしても嫌なら無理にとは言わねえけど」
涼「い、行きます!!行かせてください!!」
冬馬「お、おう?すごい気合だな」
涼(そ、そうだ!お化け屋敷なんかにビビってたら逞しい男の子になれない!今日僕は克服する!)
冬馬(お化け屋敷で抱きつかれる!!!これ定番かつ最強!!)
冬馬「うおぉ!?」
涼「ヒィッ!?」ビクッ
グアアアアアアアアアアア
冬馬「ほぁ……!!」
涼「あ……ぁあ……」ギュッ
冬馬(手を握ってくれたああああああああああああ)
ヌッ ダラーン
冬馬「うおあああああああ!?」
涼「ぎゃおおおおおおおおおおおん!!」ギュウウウウ
冬馬(だきつきいいいいいえあああああああああああああああああああああああ)
涼「みっともないところお見せしてしまって……」
冬馬「結構レベル高かったから仕方ねえって」
涼(はぁ……やっぱり僕はダメダメだぁ……)
冬馬「もうこういうのやめて楽しいアトラクションに行くか」
涼「はい……すみません……」
冬馬(あああああ、デートしてる感が半端じゃねえ!これぞカップルだろ!!!)
涼(かっこいい人とああいうアトラクション乗るって複雑な気分だなぁ……)
冬馬「やっぱりラストは観覧車だよな」
涼(最後は観覧車……これが冬馬さんの選択!)
冬馬「丁度今ぐらいの時間が夕焼けで一番綺麗に見えると思うぜ」
涼「そうなんですか、楽しみですね」
冬馬(確か北斗がこんな事言ってた気がする!!)
冬馬「お、おま、おま……」
涼「?」
冬馬(お前の方が綺麗だ!お前の方が綺麗だ!!)
涼「……」
冬馬(無理!!北斗の野郎、よくこんな台詞平気で喋れるな!!)
涼「……どうかしましたか?」
冬馬「い、いや!綺麗だよな」
涼「はい、この景色が見れるのも冬馬さんのおかげです!」
冬馬「別に俺は……」
涼「こういうの、大切な人と一緒に見れると幸せですよね」
冬馬(……ん!?今のって!?俺が大切な人!?そういうこと!?どうなの!?)
冬馬「良いんだよ。俺も楽しい!お前も楽しい!それで何か問題があるのか?」
涼「……冬馬さんは本当に優しいですね」
冬馬(……い、今言うんだ……俺……)ドキドキ
涼「あ、あの……」
冬馬「んぁ!?」
涼「その……良ければ!また少しだけ家にお邪魔してもよろしいですか!?」
冬馬(なんだああああああああああああ!?これはあああああああああああ!?)
涼(この前は料理に必死で忘れてたけど今日は冬馬さんがどんな家具を持ってるか覚えて帰らなきゃ)
涼(冬馬さんずっと車道側歩いてたな……やっぱり気遣いがすごい)
冬馬「お、おう!ついたぜ!」
涼「本当にごめんなさい。すぐに帰りますから」
冬馬「き、気にすんなよ!さあ入ってくれ!」
涼「それでは……お邪魔します」
冬馬(ついに俺は……今日……)
冬馬「そ、そうか!?何も考えてないけどな!」
涼「黒と白の家具で統一されてるのですごくかっこいいです」
冬馬(北斗とか翔太にはボロクソに言われたんだけどなぁ)
涼(物の配置は……ん?)
冬馬「ん?どうした?」
涼「それって……」
冬馬「ああ、これ俺達のライブの映像だ。反省点とか見直すためのな」
涼「……み、見たいです!その映像!」
冬馬「え?別に面白いもんじゃ……」
涼「お願いします!」
冬馬「……まあ、別に良いけどよ」
涼(これで冬馬さん達のステージのかっこよさの秘訣を……!)
冬馬(黙りこくってずっと見てる……)
涼「あの……」
冬馬「何だ?」
涼「どうして冬馬さん、こんなにかっこいいんですか?」
冬馬「は……?」
涼「……すいません。急に変な事言っちゃって……」
冬馬「……」
涼「……」
冬馬「……どうして涼はそんなに可愛いんだろうな」
涼「……えっ」
冬馬(俺……がんばれ俺!!)
涼「わ、私……」
冬馬(な、何でここまで言ったのに!……言っちまえよ!)
涼「その……あ!すいません!長居しちゃいました!」
冬馬「!」
涼「そろそろ……」
冬馬「……待ってくれ!」ガシッ
涼「!?」
冬馬(……ここで言わねえでいつ言うんだよ!!)
涼「冬馬さん……?」
冬馬「……涼、好きだ!!」
冬馬「涼が好きだ……!」
涼(そ、そんな僕は男で冬馬さんは男で……そんなありえない……)
冬馬「……お前の気持ちを聞かせてくれ!」
涼(も、もしかして今の僕が女の子だから!?でも僕なんかより可愛い人はいっぱい……)
冬馬「……」
涼「ぁ……ぅ……」
涼「ヒッ……」
冬馬「……」
涼「ぁ……あの……僕……」
冬馬「頼む、答えてくれ」
涼「……ご、ごめんなさい!!」
冬馬「ぇ」
涼「さよなら!!」ダダッ
ガチャッ バタンッ
冬馬「……」
冬馬「……」
冬馬「……」フラフラ バタッ
冬馬(いや、挨拶や共演する時は普通に接してくれる)
冬馬(だけど……明らかに怯えている……もう俺は……)
冬馬「……」
翔太「冬馬君あの日からずっとこの状態って事は……」ヒソヒソ
北斗「まあ、散ったんだろうね……」ヒソヒソ
冬馬「何ヒソヒソ話してるんだ……?」
翔太「い、いや!ただ冬馬君最近暗いなぁって!」
冬馬「俺はいつでも元気100%だぜ……」
北斗「そ、そうか……」
北斗「おい!冬馬、涼ちゃんが重大発表するらしいぞ!」
冬馬「は……?」
翔太「何ボケッとしてるの?ほら!早く早く!テレビ見て!」
冬馬「……」
涼『――――――。―――――――』
冬馬「……涼が……男……?」
冬馬「僕……か」
涼「……あんなにお世話になったのに……僕は……」
冬馬「……」
涼「冬馬さんを傷つけてしまって……」
冬馬「……俺の目が節穴だっただけだ。あんな変装も見分けられなくて何がトップアイドルだ」
涼「何度も……メールをしようとして……でも怖くて……」
冬馬「当たり前だろ。男に告白されたら俺でもビビるぜ」
涼「……僕は……僕は……」グスッ
冬馬「もう良いって言ってるだろ。男の癖にいつまでもウジウジしてんなよ」
涼「あ……」
冬馬「それなら問題ないだろ?俺も男に告白した過去があるとか嫌だからな」
涼「……」
冬馬「またどっか遊びに行こうぜ!もう遊園地は行かねえけどな」
涼「……はいっ」
涼「……」
冬馬「同じ男のアイドルとしてお前には絶対負けねえからな」
涼「ぼ、僕も冬馬さんみたいになって……きっと……!」
冬馬「俺を目指してどうすんだよ。頑張っても俺にしかならねえじゃねえか。トップアイドルになんだろ?」
涼「あ……」
冬馬「お前はお前のやり方でトップを目指すんだな。俺は俺のやり方を貫く」
涼「……分かりました。冬馬さんに勝って……そしてトップアイドルに!」
冬馬「良い度胸だ。俺を失望させんなよ」
涼(冬馬さん……ありがとうございます)
北斗「一時は目が死んでたからな……本当に良かったよ」
冬馬「けっ!いつまでもクヨクヨしてられるか!俺は涼だけには負けねえからな!」
翔太「へー、でも涼さんに惚れて……」
冬馬「うっせえええええええええ!もうその事は言うんじゃねえ!!」
―――――――数ヵ月後―――――――――
冬馬「なあ……」
北斗「どうした?また恋の悩みか?」
冬馬「……やっぱおかしいか?」
翔太「だから何が?」
冬馬「男でも……悪くないんじゃねえか?」
終わり☆
面白かったぜ
ついに目覚めてしまったかあまとう
Entry ⇒ 2012.10.29 | Category ⇒ アイマスSS | Comments (0) | Trackbacks (0)