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える「古典部の日常」 4

389: ◆Oe72InN3/k 2012/10/14(日) 19:28:57.83 ID:tJgzGdKt0

学校が始まってから既に何週間か経過していた。

だからと言って、どうなると言う訳でもないが。

そして、俺たち古典部は相変わらず何の目的も無しに部室へと集まっている。

える「今日は何をしましょうか」

奉太郎「いつも何かしている訳では無いだろ」

摩耶花「でも、折角集まってもする事が無いんじゃねぇ……」

里志「と言うか、全員のクラスが一緒になったせいで、集まる意味も……」

える「駄目です! 何か活動をしなければいけないんです!」

千反田の言う事も、もっとではあるのだが……如何せん、する事が無い。


390: ◆Oe72InN3/k 2012/10/14(日) 19:29:49.77 ID:tJgzGdKt0

里志「あ、良い事を思い付いた」

奉太郎「……何だ」

里志の良い事と言うのは、基本的に俺にとっては悪い事である。

それはもう、嫌と言うほど経験していた。

里志「ちょっと待っててね、すぐに戻ってくる」

里志はそう言うと、駆け足で部室から出て行く。

それを見送った後、席を立つ。

奉太郎「さて、帰るか」

える「え、何故ですか」

奉太郎「決まっているだろ、ろくな事にならないからだ」


391: ◆Oe72InN3/k 2012/10/14(日) 19:30:41.98 ID:tJgzGdKt0

摩耶花「……へえ、逃げるんだ」

逃げるとはまた……随分と人聞きが悪い。

奉太郎「面倒な事を避けているだけだ」

摩耶花「……ふうん」

いかんいかん、伊原の挑発に乗ってしまっては思う壺だ。

える「駄目ですよ!」

しかしこっちの奴は、実力行使で俺を押さえに来る。

簡単に言うと、俺の腕を掴んで離さない。

奉太郎「何が、駄目、なんだ!」

える「福部さんは待っていてと言ったのです! 帰ったら駄目です!」


392: ◆Oe72InN3/k 2012/10/14(日) 19:31:12.97 ID:tJgzGdKt0

奉太郎「そん、なの! 俺の勝手だろ!」

俺はグイグイと引っ張るが、千反田の方も負けじとグイグイ引っ張る。

える「諦めてください!」

今こいつ、諦めてと言ったか。

それはあれか、これから俺にとって良くない事が起きるだろうと言う事を、千反田も予想しているのだろうか。

奉太郎「い、や、だ!」

少しずつ、少しずつだが出口に近づく。

摩耶花「何してるの、二人とも」

そんな必死の戦いを繰り広げている俺と千反田を見て、伊原が冷静な一言を放つ。

しかしここで退いては駄目だ、千反田が持ってくる面倒事ならまだしも……里志が持ってくる物にまで巻き込まれる道理なんて無い。

もう少しで辿り着ける!

俺がそう思ったとき、静かに閉まっていた扉が開く。


393: ◆Oe72InN3/k 2012/10/14(日) 19:32:08.25 ID:tJgzGdKt0

里志「おっまたせー!」

里志「って、何してるの?」

ああくそ、タイムアップになってしまったではないか。

俺はようやく千反田を引っ張るのを辞め、若干上がった息を整えながら答える。

奉太郎「いや、まあ」

奉太郎「体を温めていた」

里志「それはちょっと、無理があると思うけど……」

える「あ、福部さん! お帰りなさい」

後ろから声が聞こえた、是非ともその勢いで俺に「行ってらっしゃい」と言って欲しい物である。

そうすればすぐに帰れるのに。


394: ◆Oe72InN3/k 2012/10/14(日) 19:32:48.02 ID:tJgzGdKt0


里志「ただいま、千反田さん」

里志は俺の後ろに居る千反田に向け、顔をずらしながら言った。

摩耶花「それで、どうして急に飛び出して行ったの?」

里志「よくぞ聞いてくれた!」

里志「実はね、ちょっと手芸部に行っていたんだ」

奉太郎「手芸部? 何でまた」

里志と千反田は席に着く。

俺もそれに習い、席に着いた。

待てよ……結局、流されてしまっているではないか。

くそ、今から扉まで走っていけば……逃げられなくも無いが。

なんだかそれすら面倒になってきてしまった。


395: ◆Oe72InN3/k 2012/10/14(日) 19:33:32.59 ID:tJgzGdKt0

里志「これさ!」

そう言い、制服とワイシャツの間から何やら随分とでかい物を取り出す。

える「何故、そこから出てきたのか……気になります」

その疑問を解決できるのだろうか、俺にはとても解決できそうにない。

奉太郎「それで、それは何だ?」

摩耶花「ええっと……何々」

摩耶花「人生ゲーム、再現度70%! リアルな人生ゲームをあなたに!」

摩耶花「って書いてあるわね」

何だそれは……70%とは、また微妙な。

奉太郎「何でそんな物が手芸部にあるんだ?」


396: ◆Oe72InN3/k 2012/10/14(日) 19:33:59.71 ID:tJgzGdKt0

里志「さあ、前に見かけたのを思い出しただけだよ」

まあ、前に天文学部を訪れた時は何やらボードゲームらしき物をやっていたし、そういう部活は多いのかもしれない。

里志「それで、皆でやらないかい?」

える「是非!!」

摩耶花「いいね、やろうやろう」

奉太郎「……ちょっと気になるんだが、いいか」

俺がそう言うと、三人ともが俺の方を見る。

奉太郎「これって、古典部と関係あるのか?」


397: ◆Oe72InN3/k 2012/10/14(日) 19:34:34.91 ID:tJgzGdKt0


里志「じゃあまずは駒である車とお金を分けるね」

摩耶花「うん、よろしく」

える「福部さんが銀行役ですね、宜しくお願いします」

……今、無視されたか?

奉太郎「おい、聞いてるか」

里志「摩耶花は水色でいいかな?」

摩耶花「おっけー、ありがとう」

里志「千反田さんは……白って感じかな」

える「ふふ、ありがとうございます」

里志「僕は黄色を貰うとして……ホータローはどれがいい?」

奉太郎「いや、俺はだな」

里志「仕方ないなぁ、じゃあホータローはこれで」


398: ◆Oe72InN3/k 2012/10/14(日) 19:35:12.90 ID:tJgzGdKt0

そう言い、渡されたのはグレー色の車だった。

……まあ、俺らしいと言えばそうかもしれない。

いや、違うだろ。

そんな車なんてどうでもいいだろうが。

奉太郎「おい、これって古典部と」

里志「じゃあお金を配るね」

駄目だ、明らかに俺が出す話題は無視されている。

奉太郎「……分かった、やればいいんだろ」

里志「はは、やりたいならそう言えばいいのに」

……やはりあそこで千反田を振り切れなかったのは手痛いミスだ。

だがまあ、俺のミスか。


399: ◆Oe72InN3/k 2012/10/14(日) 19:35:51.92 ID:tJgzGdKt0

摩耶花「負けないわよ!」

える「私も、頑張ります!」

何やら女子達は盛り上がっている、ただのゲームだと言うのに、元気なこった。

そんなこんなで最初の持ち金、1500万円が配られる。

こうなってしまっては仕方ない……やるか。

里志「ホータローには前の豆まきでの借りがあるからね、しっかりと返させて貰うよ」

える「そう言えばそうでした! 負けませんよ」

随分と根に持つ奴等だな……

摩耶花「私も、今回はちょっと負けたくないかな」

そう言い、俺の方を伊原は睨んでいた。

……何故、俺なのだろうか。


400: ◆Oe72InN3/k 2012/10/14(日) 19:36:26.67 ID:tJgzGdKt0

里志「それじゃあ始めよう、最初は僕の左隣……摩耶花から時計回りで行こうか」

順番を整理すると。

1番、伊原

2番、千反田

3番、俺

4番、里志

と言う事か。

まあ、たかがゲームだ、気楽にやろう。

摩耶花「じゃあ、回すね」

そう言い、伊原は数が10まであるルーレットを回す。


401: ◆Oe72InN3/k 2012/10/14(日) 19:42:48.96 ID:tJgzGdKt0

表示された数字は。

【5】

摩耶花「えっと、5かぁ」

里志「最初は職業決めだろうね、定番だ」

【あなたは漫画を描くのが大好き! そんなあなたには漫画家の職業を差し上げます!】

摩耶花「漫画家かぁ、ちょっと嬉しいかも」

里志「はい、職業カードを渡すね」

摩耶花「給料は……600万ね」

里志「職業が決まったら最初の給料日マスまで移動みたいだね」

摩耶花「うん、りょーかい」

それにしても伊原が漫画家とは、確かにリアルな人生ゲームである。


402: ◆Oe72InN3/k 2012/10/14(日) 19:43:30.82 ID:tJgzGdKt0

える「次は私ですね!」

そう言うと、千反田はルーレットを回した。

【7】

里志「お、ラッキーセブンって奴かな」

える「ふふ、何の職業になるのでしょうか……気になります」

【あなたはどこにでも居る一般人! そんなあなたにはサラリーマンの職業を差し上げます!】

える「サラリーマンですか、いいですね」

何が良いのか俺には分からないが……本人がそう言っているなら良いのだろう。

里志「給料は300万だね」

える「そうですか……摩耶花さんよりは少ないんですね」

摩耶花「私の漫画もそこそこ売れてるみたいね」


403: ◆Oe72InN3/k 2012/10/14(日) 19:43:57.77 ID:tJgzGdKt0

奉太郎「次は俺か」

よし、最初の職業が重要だと言う事は分かった。

なら良い職業を引く事が出来れば、それはかなり楽な人生となるだろう。

そんな事を思いながら、ルーレットを回した。

【10】

里志「10か、最初から飛ばすねぇ」

奉太郎「飛ばそうと思って飛ばしている訳では無いがな」

ええっと、それより職業だ。

【あなたは何事にもやる気無し! そんなあなたはフリーター! 頑張ってください】

……

える「……ふふ」


404: ◆Oe72InN3/k 2012/10/14(日) 19:44:26.08 ID:tJgzGdKt0

奉太郎「千反田、今笑ったか」

える「え、いえ……」

摩耶花「ちーちゃんが笑うのも無理ないって、だって似合いすぎてるもん」

里志「ぴったしだよ、ホータロー」

里志「見事だ!」

そう言われても、いい気は全くしないのだが。

える「あ、あの!」

える「私、良いと思いますよ!」

える「自由に生きる人生! 素敵です!」

千反田の必死のフォローが俺の心をきつく締め付ける。

奉太郎「……まあいい」

里志「給料は100万だね」

里志「フリーターにしては、頑張ってる方じゃないかな」

さいで。


405: ◆Oe72InN3/k 2012/10/14(日) 19:44:58.52 ID:tJgzGdKt0

里志「次は僕の番だね」

里志「よっ」

【6】

里志「6は……お」

奉太郎「劇団員、となっているな」

里志「いいんじゃないかな、気に入ったよ」

里志「給料は……1500万! ホータローの15倍だね」

摩耶花「いいなぁ、私なんて6倍よ?」

える「私は3倍です……」

何故、俺を基準にするんだ、こいつらは。

里志「それじゃあ皆の職業も決まったし、ここからが本番だね」


406: ◆Oe72InN3/k 2012/10/14(日) 19:45:29.74 ID:tJgzGdKt0

里志「あ、それと保険はどうする?」

奉太郎「保険?」

里志「生命保険と車両保険があるね」

里志「他にもあるんだけど、最初に入るか入らないか決めるのは、どうやらこの二つみたいだ」

……念の為、入っておいた方がいいだろう。

里志「どちらも500万、両方入るなら1000万だね」

奉太郎「随分と高い保険だな」

里志「まあ、ゲームだしね」

ふむ、ならば仕方ない。

どうやらそんな俺の考えと全員一緒の様で、それぞれが1000万を里志に手渡す。


407: ◆Oe72InN3/k 2012/10/14(日) 19:45:55.55 ID:tJgzGdKt0

摩耶花「後は大丈夫かな?」

里志「うん、この後はルーレットを順番に回して進むだけさ」

摩耶花「じゃあ」

摩耶花「負けないわよ!」

伊原はそう意気込み、ルーレットを回した。

【1】

摩耶花「うう……」

里志「はは、力みすぎだよ、摩耶花は」

里志「えーっと」

【宝くじにチャレンジ! 偶数なら500万、奇数なら-500万】

摩耶花「ギャンブルは苦手なんだけど……」

里志「そう言わずにさ、50%の確率で当たるんだし」


408: ◆Oe72InN3/k 2012/10/14(日) 19:46:24.99 ID:tJgzGdKt0

摩耶花「……よし!」

今度はあまり力を入れず、伊原はゆっくりとルーレットを回していた。

【4】

摩耶花「やった!」

える「おめでとうございます!」

里志「さすが摩耶花だ、500万だね」

それにしても、やたらと色々とイベントがある様だな……

ええっと、次は確か千反田か。

える「私の番ですね、よいしょ」

【1】

える「あ、摩耶花さんと一緒ですね」

摩耶花「ほんとだ、ってことはちーちゃんも宝くじにチャレンジかぁ……」

える「では、回しますね」


409: ◆Oe72InN3/k 2012/10/14(日) 19:46:56.64 ID:tJgzGdKt0

【5】

える「外れてしまいました……」

摩耶花「……ごめんね、私が当たっちゃったから」

える「いいえ、気にしないでください」

える「一緒にゴールを目指しましょう!」

仲がいいのは結構だが……何やら里志が言いたそうな顔をしているぞ。

里志「えっと、話中で悪いんだけど……」

里志「同じマスに止まるとね、追突扱いになるんだよ」

える「追突、ですか?」

里志「うん、追突したら相手に1000万の罰金……となっているね」

える「い、1000万ですか?」

おお、千反田が動揺している。


410: ◆Oe72InN3/k 2012/10/14(日) 19:47:39.20 ID:tJgzGdKt0

里志「でも、千反田さんはさっき保険に入っているから、そのお金は銀行から出ることになる」

里志「車両保険の方は、回収されてしまうけどね」

える「は、はい……」

渋々、千反田は車両保険のカードを里志に手渡す。

える「……酷いです、摩耶花さん」

摩耶花「わ、私はそんなつもりじゃ!」

里志「はは、気を付けないと、千反田さんに追突した時が怖そうだ」

まあ、千反田も本気で酷いと言っている訳では無いのが俺なら分かるが。

里志も恐らく分かっているだろう、しかし伊原は全く気付いていない様子だった。

える「負けません!」

こいつもこいつなりに、楽しんでいると言う事か。


411: ◆Oe72InN3/k 2012/10/14(日) 19:48:07.09 ID:tJgzGdKt0

摩耶花「次、折木の番でしょ。 早く回して」

そのとばっちりが回り回って俺の方に向いてくるのは納得できんが。

奉太郎「言われなくても、回すさ」

【9】

里志「好調じゃないか、先行するのはホータローになりそうだね」

奉太郎「フリーターだがな」

える「それでもゴールまで辿り着けば億万長者ですよ!」

奉太郎「……そうか」

奉太郎「じゃあ、それなりに頑張るかな」

ええっと、それでマスは何だろうか。


412: ◆Oe72InN3/k 2012/10/14(日) 19:48:58.11 ID:tJgzGdKt0

【リストラ、仕事にやる気の無いあなたは、上司にクビを宣告されました。 職を失い、フリーターとなります】

摩耶花「フリーターからフリーターになったわね」

里志「職業に付いてないのにリストラされるなんて、どんだけやる気が無いんだい……ホータローは」

……俺に言わないで欲しい。

える「……将来が大変そうですね」

さっきゴールまで辿り着けば億万長者だと言ったのはどこの誰だったか。

ああ、そうそう。

この俺の将来を心配してくれている方では無いか。 ありがとうございます。


413: ◆Oe72InN3/k 2012/10/14(日) 19:49:23.81 ID:tJgzGdKt0

里志「さ、気を取り直して僕の番だ」

【6】

里志「6だね、良いとは言えないけど9よりはマシかな」

【仕事中に腰を痛めてしまいました、一回休み】

里志「開始早々これかぁ……」

奉太郎「腰を痛めるとは、もうお前も年だな」

俺がそう言うと、里志はいつもの笑顔のままこう返した。

里志「はは、クビにならないだけマシだよ」

……どう足掻いても、里志にだけは負けたくないな。


414: ◆Oe72InN3/k 2012/10/14(日) 19:50:16.96 ID:tJgzGdKt0

摩耶花「ま、まあまあ二人とも」

摩耶花「これから何が起こるか分からないし、仲良くやろう?」

える「そうですよ、私だって追突しても頑張っているんですから」

摩耶花「ち、ちーちゃん」

える「頑張りましょうね、摩耶花さん」

千反田はいつもの感じではあったが、何やら今日のこいつは随分と怖い気がする。

まあ……結局俺もこうして人生ゲームへと参加する事となったのだが。

なんだか出鼻を挫かれた感が否めない。


       所持金   保険

摩耶花   2600万  生/車
奉太郎     600万   生/車
える        300万   生
里志      2000万  生/車

第9話
おわり


427: ◆Oe72InN3/k 2012/10/16(火) 00:04:58.20 ID:huvFN7CL0

里志「それで、次は摩耶花かな?」

摩耶花「うん、回すね」

カラカラと音を立てながらルーレットは回る。

【3】

摩耶花「中々進まないなぁ」

摩耶花「えっと」

【特急券購入のチャンス! 100万を払えばルーレットをもう一度回す事が出来ます】

摩耶花「お、買う買う」

里志「100万くらいなら、摩耶花にとっては安い物だからね」

……俺にとって、給料一回分とは悲しい物だ。


428: ◆Oe72InN3/k 2012/10/16(火) 00:05:26.63 ID:huvFN7CL0

摩耶花「よいしょ」

【10】

摩耶花「やった! 買った甲斐があった!」

里志「10は……ここだね」

里志「あ、それと給料日を通過したから給料を渡すよ」

ふむ、どうやら10マス毎に給料日は設置されている様だ。

摩耶花「ありがと、ええっと……このマスは」

【ジェット機購入のチャンス! 500万を払えばルーレットをもう一度回す事が出来ます】

摩耶花「どうしよう……まあ、払おうかな」

奉太郎「随分と優雅な人生だな」

摩耶花「お金はあるしね」

える「……」


429: ◆Oe72InN3/k 2012/10/16(火) 00:06:03.76 ID:huvFN7CL0

無言の千反田が怖い。

伊原は気付いていない様だが、現在所持金がもっとも少ないのは千反田なのだ。

摩耶花「じゃ、回すよ」

【4】

摩耶花「今回だけで17マスも進めたのは良かったなぁ」

摩耶花「何々」

【母親の危篤! 10マス戻る】

摩耶花「……」

奉太郎「7マス進めたの間違いじゃないのか?」

摩耶花「……っ!」

あまり無用心な発言は避けた方がいいかもしれない。

明日は我が身と言う言葉があるからな。


430: ◆Oe72InN3/k 2012/10/16(火) 00:06:30.76 ID:huvFN7CL0

里志「イベントで移動した時はマスに書いてある事を無視するみたいだね」

里志「と言う訳で、次は千反田さんの番だよ」

える「はい!」

える「では、行きますね」

【5】

える「ええっと、5ですね」

奉太郎「あ」

える「……?」

思わず声が出てしまった。

まあ、でもすぐに分かる事だし、いいか。

里志「ええっと……僕と一緒のマスだね」

える「え、と言う事はですよ」

える「追突、ですか?」


431: ◆Oe72InN3/k 2012/10/16(火) 00:06:56.30 ID:huvFN7CL0

里志「……そうなるね」

奉太郎「それに加えて一回休みだな」

える「……そうですか」

える「で、でも……私もう、お金ありませんよ」

里志「その点は大丈夫かな、借金が出来るから」

える「借金ですか……」

なんとも、現実とは非情な物だ。

……ゲームだが。

里志「千反田さんの手持ちは300万だから、足りないのは700万だね」

里志「約束手形が一枚1000万、これを一枚と現金300万を渡すよ」

える「はい、ありがとうございます」

……ううむ、千反田がとても物悲しそうな表情をしている。

それを見ていると、なんだが少し……こう、胸に込み上げてくるものがあるな。

……いかんいかん、さっきも思ったが、明日は我が身、忘れる所だった。


432: ◆Oe72InN3/k 2012/10/16(火) 00:07:23.62 ID:huvFN7CL0

奉太郎「それで、次は俺か」

なんだか空気が若干重くなった中、俺はルーレットを回す。

【7】

奉太郎「7か」

奉太郎「ええっと」

【おめでとうございます、あなたはめでたく結婚しました。 他のプレイヤーから祝儀として300万ずつ貰えます。 結婚相手としてピンを一つ車に乗せましょう】

奉太郎「おお、結婚か」

里志「……おめでとう、頑張って稼がないとね」

摩耶花「フリーターで結婚なんて、いい身分ね」

そう言われながら、300万ずつ受け取る。

える「ど、どうぞ」

千反田からなけなしの300万を渡された時は、なんだかとても悪い事をしている気がした。


433: ◆Oe72InN3/k 2012/10/16(火) 00:09:07.91 ID:huvFN7CL0

える「結婚しちゃったんですね、折木さん」

奉太郎「ん? そうだが」

える「い、いえ。 おめでとうございます」

奉太郎「ああ」

変な奴だな、まあいいか。

とりあえずこれで、一回100万の給料も貰い、ある程度手持ちは増えてきた。

次は里志の番だが、一回休みなので伊原か。


       所持金   保険    マス

摩耶花   2300万   生/車   8マス目
奉太郎     1600万   生/車  16マス目
える        -1000万  生      6マス目
里志      2700万   生/車   6マス目


434: ◆Oe72InN3/k 2012/10/16(火) 00:09:49.81 ID:huvFN7CL0

摩耶花「よし、私の番ね!」

里志「ううん……中々進めないなぁ」

奉太郎「腰を痛めているからな、安静にしとけ」

里志「……そうだね、それがいい」

摩耶花「それで、回すけど……いいかな?」

える「どうぞ」

摩耶花「……よっ」

【7】

摩耶花「あぶな、折木に追突する所だった……」

奉太郎「人が二人乗っているから、罰金も二倍だぞ」

摩耶花「え? そうなの?」

奉太郎「……さあ」


435: ◆Oe72InN3/k 2012/10/16(火) 00:10:17.17 ID:huvFN7CL0

摩耶花「ちょっと、くだらない事言わないでよ」

里志「安心して、何人乗っていても罰金は1000万だよ」

摩耶花「まあ、当り屋みたいな事しないと、生活厳しいもんね」

奉太郎「……むう」

何も言い返せない、確かに給料が100万ではその内底を尽きてしまうのは火を見るより明らかだろう。

奉太郎「それで、マスにはなんて書いてあるんだ」

摩耶花「はいはい、今見るわよ」

【一発逆転のチャンス! ルーレットに一つピンを指し、当たれば10倍! 3000万まで賭ける事が出来ます。 そしてこの賭けに勝てば、もう一度ルーレットを回せます】

摩耶花「またギャンブルかぁ……」


436: ◆Oe72InN3/k 2012/10/16(火) 00:10:45.97 ID:huvFN7CL0

里志「まあ、3000万 まで って事は賭けなくてもいいんじゃないかな?」

奉太郎「なんだ、負けるのが怖いのか」

摩耶花「……折木に言われたら、賭けない訳にはいかないわね……」

ここまで単純に引っ掛かってくれるなら、挑発し甲斐がある。

摩耶花「いいわ、1000万賭ける」

里志「いいのかい、本当に」

摩耶花「言ったからにはやるわ」

摩耶花「私が選ぶのは……3!」

里志「……仕方ないなぁ、それじゃあ1000万、受け取るよ」

そう言い、摩耶花は1000万を里志に手渡した、千反田の目の前で。


437: ◆Oe72InN3/k 2012/10/16(火) 00:11:11.74 ID:huvFN7CL0

摩耶花「じゃあ、回すわね」

千反田が先程から、何かを願っている様な眼差しでルーレットを見ていた。

……何を願っているかは、聞かないでおこう。

しかし現実はやはり、非情な物。

主に、俺や千反田にとってと言うのが皮肉な物であるが。

【3】

摩耶花「うそ、やった……当たった!」

摩耶花「1000万の十倍だから……1億!?」

里志「はは、おめでとう」

……まさか当たるとは、とんだ強運だ。

千反田の顔は見ないでおこう、とても悲しそうな顔をしているだろうから。


438: ◆Oe72InN3/k 2012/10/16(火) 00:11:37.70 ID:huvFN7CL0

摩耶花「もう一回、回せるんだよね」

【2】

摩耶花「2だと、ここかぁ」

摩耶花「あれ? 何も書いてない」

里志「そういうマスもあるみたいだね、じゃあ次は」

奉太郎「俺か」

里志「千反田さんは一回休みだから、そうなるよ」

奉太郎「んじゃ、回す」

【10】

奉太郎「また10か」

摩耶花「またってなんか、感じわる」

奉太郎「ゆっくり進むのも良い人生だと思うぞ」

摩耶花「……ふん」


439: ◆Oe72InN3/k 2012/10/16(火) 00:12:05.21 ID:huvFN7CL0

里志「ホータローは随分と急いでいる様だけどね」

奉太郎「ま、早く終わるに越した事は無いからな」

奉太郎「それよりマスだ、えっと」

【おめでとうございます。 結婚している場合、子供が一人生まれました。 そうで無い場合は、結婚する事ができます】

【お祝いとして、他のプレイヤーから100万を受け取ります。 結婚の場合、祝儀はありません】

奉太郎「悪いな、何回も貰って」

里志「まあまあ、祝い事だからね」

摩耶花「100万と言わず、500万くらいならあげてもいいんだけどなぁ」

是非欲しいが、俺のプライドが許さない。

……いや、貰っておこうかな。

駄目だ駄目だ、弱気になってしまっては勝ち目が無いではないか。


440: ◆Oe72InN3/k 2012/10/16(火) 00:12:31.50 ID:huvFN7CL0

える「子供ですか……おめでとうございます」

える「あ、すいません。 細かいのが無いです」

そう言い、千反田は里志から約束手形を更に一枚と、現金900万を受け取る。

いつもの元気は既に、どこか遠くへと行ってしまった様子だ。

える「はい、どうぞ」

奉太郎「あ、ああ……悪いな」

える「……いえ、いいんですよ」

頼むから、次のマスでは千反田から金を受け取る事が無いよう、お願いしたい。

里志「それと、また給料日を通過したから給料だ」

奉太郎「ああ、すまんな」

100万ずつだが、貰える物は貰っておこう。


441: ◆Oe72InN3/k 2012/10/16(火) 00:14:30.99 ID:huvFN7CL0

里志「やっと僕の番だね!」

里志「ホータローとは随分と離れちゃったからなぁ、頑張らないと」

【4】

里志「4かぁ」

里志「どれどれ」

【落し物を届けたあなた。なんとビックリ! その持ち主は大金持ち! 1000万を受け取ります】

里志「落し物を届けただけで1000万とは、随分と凄い落とし主だね」

奉太郎「俺が届けられたとしても、せいぜい飲み物一杯が良い所だな」

里志「そりゃ、僕だって一緒だよ」

そんな会話をしながら、里志は自分の給料と合わせて、2500万を自分の手元へと置く。

さて、次はまた伊原か。


       所持金   保険    マス

摩耶花   1億600万  生/車    17マス目
奉太郎     1900万   生/車    26マス目
える      -1100万   生       6マス目
里志       6100万   生/車   10マス目


442: ◆Oe72InN3/k 2012/10/16(火) 00:15:20.09 ID:huvFN7CL0

摩耶花「この調子で、折木を抜かしたいなぁ」

奉太郎「9が出れば追いつけるぞ」

摩耶花「……追突するじゃない」

摩耶花「9だけは出ません様に……」

【10】

摩耶花「あっぶない」

摩耶花「さっきから、ひやひやしっぱなしなんだけど……」

奉太郎「惜しいな」

摩耶花「何がよ、えっと」

【突然の災害! そのせいで車はボロボロに……修理費として、500万を支払います】


443: ◆Oe72InN3/k 2012/10/16(火) 00:16:15.04 ID:huvFN7CL0

奉太郎「は、とんだ災難だ」

摩耶花「車の修理に500万って……どんな車なんだろ」

奉太郎「いいんじゃないか? 金持ちなんだし」

摩耶花「そうね……別にいいけど」

摩耶花「それより、他人事みたいな言い方ね」

……おかしな事を言う奴だ、実質、他人事なのだし。

里志「ホータロー、ちゃんとこのマス、読んだ方がいいよ」

そう里志に言われ、目を通す。

先程の文の下に、小さくこう書かれていた。

【前後5マスの方も被害に遭います、同額の修理費を支払います】


444: ◆Oe72InN3/k 2012/10/16(火) 00:16:44.24 ID:huvFN7CL0

奉太郎「何故俺まで……」

しかしまあ、そう書かれているなら仕方ない。

巻き込まれる前に逃げろと言いたいが、それはもう手遅れか。

俺は手持ちから500万を里志へと渡す。

摩耶花「フリーターの癖に、随分と良い車に乗ってるのね」

摩耶花「生活をもっと見直した方がいいと私は思うかなぁ」

奉太郎「……さいで」

里志「まあまあ、二人とも仲良く仲良く」

里志「ホータロー、確かに受け取ったよ」

奉太郎「……他には何も書いてないな、次だ」

える「私の番ですね!」


445: ◆Oe72InN3/k 2012/10/16(火) 00:17:32.01 ID:huvFN7CL0

びっくりした、今までずっと静かだったせいもあるが。

奉太郎「……大丈夫か」

える「え? 私は大丈夫ですよ」

奉太郎「ならいいが」

える「では、回します」

【9】

える「ええっと、9ですか」

9……確か、あのマスか。

える「ギャンブルですね、先程、摩耶花さんがやっていた」

奉太郎「まあ、手持ちが無いなら関係は無さそうだな」

里志「……いや、ちょっと待って」


446: ◆Oe72InN3/k 2012/10/16(火) 00:17:58.15 ID:huvFN7CL0

そう言うと、里志はルールブックへと目を通す。

里志「ギャンブル系は、どうやら手持ちが無くても賭けられるみたいだよ」

里志「せめてもの救済なのかもしれないけど……これは随分と酷いルールだ」

奉太郎「借金まみれでギャンブルとはな」

やけにここだけ、現実じみている……恐ろしい。

える「ええっと、では何番にしましょうか」

奉太郎「おい、ギャンブルはしなくてもいいんだぞ」

える「ええ、分かっていますよ」

奉太郎「ならやめた方がいいと思うが」

える「……もう、今更いくら増えても一緒だとは思いませんか?」

何という事だ、千反田がギャンブラーとなってしまった。

……止めはしないでおく、外れて借金が増えれば、正気に戻るかもしれない。


447: ◆Oe72InN3/k 2012/10/16(火) 00:18:36.86 ID:huvFN7CL0

える「どうしましょうか……」

里志「確かに難しい選択だ、何しろ1/10だからね」

里志「ならさ、まずは賭ける金額を決めたらどうかな?」

里志「千反田さんは1100万の借金があるから……200万なら負けてもそこまで大した損はしないよ」

える「そうですね、では3000万で」

駄目だ、もう手遅れかもしれない。

摩耶花「ちーちゃんが壊れた……」

里志「は、はは」

里志「まあ、僕はただの銀行員だからね……千反田さんの決定を止める事はしないよ」

そして千反田に渡される3枚の約束手形。


448: ◆Oe72InN3/k 2012/10/16(火) 00:19:22.79 ID:huvFN7CL0

える「後は数字ですね、どうしましょうか……」

ふと、千反田と目が合った。

える「あ!」

……本日二度目の、嫌な予感がする。

える「折木さんに決めてもらいましょう!」

奉太郎「な、なんで俺なんだ!」

える「折木さんは結婚もして、子供も産まれて、幸せそうなので……」

える「そんな折木さんが選べば、当たる様な気がするんです」

か、簡便してくれ……

しかし、ここに俺の味方など居る訳が無い。


449: ◆Oe72InN3/k 2012/10/16(火) 00:19:48.91 ID:huvFN7CL0

里志「いいじゃん、ホータロー」

摩耶花「そうよ、選んであげなさいよ」

奉太郎「……外れても俺は知らんぞ」

える「大丈夫ですって、お願いします!」

参ったな……外れた時、俺はどうすればいいんだ。

さっきまでは外れて、千反田がギャンブルをしなくなる事を願ったが……今は逆。

ううむ……

単純に、行くか。

奉太郎「……そうだな」

奉太郎「じゃあ、6で」

える「6ですね、分かりました!」

里志「7を選ぶと思ったんだけど、何で6を?」


450: ◆Oe72InN3/k 2012/10/16(火) 00:20:28.98 ID:huvFN7CL0

奉太郎「単純な理由だ、気にするな」

摩耶花「気になるけど……今はルーレットの結果の方が気になるわね」

奉太郎「外れても恨まないでくれよ、千反田」

える「ええ、分かっています」

える「それでは……回しますね」

そう言うと、勢いよく千反田はルーレットを回した。

クルクルと回り、その時間は少しだけ長くも感じた。

やがて、針が止まる。


451: ◆Oe72InN3/k 2012/10/16(火) 00:20:54.14 ID:huvFN7CL0

【6】

える「……」

良かった……本当に良かった。

千反田は6を指して止まるルーレットをしばし、見つめていた。

そして数秒それを続けた後、隣に座る俺の方を見る。

える「す、すごいです! 当たりました!」

奉太郎「あ、ああ。 そうだな」

なんだか恥ずかしくなり、視線を千反田から逸らした。

える「ありがとうございます! 折木さん!」

横からそんな声が聞こえたが、俺は頬杖を付きながら反応を返す事はしなかった。

しかし、何かが近づいてくる。

気付いた時には遅く、近づいてきていた物は千反田本人であった。


452: ◆Oe72InN3/k 2012/10/16(火) 00:21:21.10 ID:huvFN7CL0

える「嬉しいです! なんとお礼を言ったらいいか……」

奉太郎「わ、分かったから離れろ! 抱きつくな!」

奉太郎「里志も伊原も、見てるだけじゃなくて千反田をどうにかしてくれ!」

里志「いいんじゃない? 別に」

摩耶花「そうそう、折木が選んだ数字なんだしねぇ」

こいつら、他人事だと思いやがって。

それから数分、千反田を引き剥がすのに必死になり、随分と体力を使ってしまった。

ようやく千反田が落ち着きを取り戻したところで、千反田はマスの通り、もう一度ルーレットを回す。


453: ◆Oe72InN3/k 2012/10/16(火) 00:21:47.39 ID:huvFN7CL0

【3】

える「3ですね」

える「少しだけ、私にもツキが回ってきたかもしれません」

千反田のその発言を受け、マスに目をやる。

【ランプの魔人が現れ、あなたにもう一度ルーレットを回すチャンスをくれました。 ルーレットを回せます】

ほう、まあ今まで散々な人生だったし、いいのではないだろうか。

える「では、もう一度回しますね」

【8】

える「……あ」

ああ、そこは俺が居るマスではないか。

しかし1000万くらい、今の千反田なら安い物か。


454: ◆Oe72InN3/k 2012/10/16(火) 00:22:14.47 ID:huvFN7CL0

里志「ああ、言い忘れてたけど」

里志「この色のマスでは、追突は発生しないみたいだね」

摩耶花「え? じゃあさっきまで私がひやひやしてたのって……」

奉太郎「無意味って事だな」

摩耶花「ちょっとふくちゃん、次からもっと早く言ってよね」

里志「ご、ごめんごめん」

える「良かったです……追突してばかりでしたので」

それで確かマスは……結婚か。

える「結婚ですね、お祝いは貰えないみたいですが」

里志「とは言っても祝い事さ、おめでとう」

摩耶花「そうそう、おめでとう、ちーちゃん」

える「あ、ありがとうございます」


455: ◆Oe72InN3/k 2012/10/16(火) 00:22:46.96 ID:huvFN7CL0

……なんだか、あまり良い気分がしない。

何故か、と言われると分からないが……何故かそんな気分だったのだ。

ようやく、次は俺の番か。

千反田もいつもの調子に戻ったようだし、良かった。

……にしても、もう半分は通過している。

どうやら全部で50マス、そんな所だろう。

奉太郎「さてと」

【2】

奉太郎「極端だな……」

【あなたの出した漫画作品が認められました。 漫画家の職業に就くことができます】

【現在、漫画家の職業に就いている方が居る場合、その方はフリーターとなります】


456: ◆Oe72InN3/k 2012/10/16(火) 00:23:18.67 ID:huvFN7CL0

ほう、良いマスだ。

奉太郎「だそうだ、伊原」

摩耶花「……絶対に許さない」

……最悪のマスだったのかもしれない。

とにかく、これでようやく俺も職業に就けた。

伊原から奪った形にはなってしまったがな。

まあ、散々俺を馬鹿にしていた罰が当たったのかもしれない……でも少し、悪い事をしてしまったか。

里志「次は僕だね」

【10】

里志「お、良い数字だ」


457: ◆Oe72InN3/k 2012/10/16(火) 00:24:13.29 ID:huvFN7CL0

【20マス目記念! ルーレットを三回回し、合計の数進む事が出来ます】

里志「いいね、これで一気に進める」

そう言い、里志はテンポ良くルーレットを回す。

【7】 【4】 【10】

里志「21だ、一気にゴールまで近づけたよ」

里志「このマスには何も書いてないけど……次でゴールの可能性も出てきた」

里志「うん、満足だね」

奉太郎「そういえば、最初にゴールすれば何かあるのか?」

里志「ええっと、このルールブックによると……」

里志「現金1億円、生命保険に入っていれば更に1億円」

里志「これは1位だけが貰えるみたいだね」

里志「他の順位については特に書いてないから、1位だけの特典って訳だ」


458: ◆Oe72InN3/k 2012/10/16(火) 00:24:39.64 ID:huvFN7CL0

なるほど……そういう事か。

ならば俺でも最初にゴールに到達できれば、まだトップになれる可能性がある。

……いよいよ勝負も終盤だ。

なんだかんだで俺が最下位だが……最後まで何が起きるか分からない。

ま、なるようになるだろう。

       所持金     保険     マス

摩耶花   1億700万  生/車    27マス目
奉太郎     1400万   生/車    28マス目
える     2億8900万   生      27マス目
里志      1億600万  生/車    41マス目


第10話
おわり


487: ◆Oe72InN3/k 2012/10/17(水) 21:29:00.91 ID:4KtsUpEa0

摩耶花「1位はふくちゃんになりそうね……」

里志「どうかな、何が起こるか分からないからね」

える「諦めませんよ!」

借金まみれから登り詰めた千反田は力強くそう言った。

奉太郎「そうだな……俺もギャンブルでもするか」

える「駄目ですよ、堅実に行くのが大事です」

……お前が言うのか、それを。

摩耶花「そろそろ回してもいいかな」

える「あ、どうぞ」

伊原はそれを聞き、ルーレットを回す。

【1】

摩耶花「1かぁ……って」


488: ◆Oe72InN3/k 2012/10/17(水) 21:29:30.46 ID:4KtsUpEa0

摩耶花「これ、さっき折木が止まったマスね」

……ああ、そういう事か。

摩耶花「はい」

そう言い、伊原はこれでもかと言うほどの笑顔を俺に向け、手を差し伸べる。

漫画家の職業カードを渡せ、と。

奉太郎「短い職だった」

摩耶花「似合わないから、仕方ないわよ」

摩耶花「自分に合った職業も大事よ」

……それがフリーターと言う事なのか。

奉太郎「まあ、忘れては居ないと思うが追突だぞ」

摩耶花「分かってるわよ、でも私、保険があるしね」

摩耶花「ここまで終盤になってきたら保険も意味無くなる可能性もあるし……丁度良かった」


489: ◆Oe72InN3/k 2012/10/17(水) 21:29:56.59 ID:4KtsUpEa0

里志「いやいや、待ってよ」

里志「このマスは追突無効だよ? さっきも言ったじゃないか」

……あまり、記憶に無いな。

摩耶花「えー……じゃあ保険に入らなくても良かったなぁ」

里志「そうでもないさ、最後まで持っていれば資産として計算されるみたいだしね」

里志「まあ、払った額と同額だけど」

ならやはり、1回以上の追突は避けた方がいいだろう。

される分には構わないが。

ともあれ、これで俺はまたしてもフリーターへと逆戻り。

次は……千反田か。

先程のギャンブルで大分勢いが付いている、一番危険なのはこっちかもしれんな。


490: ◆Oe72InN3/k 2012/10/17(水) 21:30:27.05 ID:4KtsUpEa0

える「では、回しますね」

【10】

える「10ですね」

える「ええっと」

【不思議な妖精が現れました。 願いを一つ叶えてくれます】

【全プレイヤーの中から一人を選び、その人の資産を10倍へとします】

える「10倍……ですか」

なんと言う事だ、こんなマスを考えた奴は碌な奴では無いな……

ええっと、今の千反田の手持ちは確か、3億くらいあった筈。

それが10倍になると……30億!?


491: ◆Oe72InN3/k 2012/10/17(水) 21:30:53.01 ID:4KtsUpEa0

里志「そこが本当のゴールだったのかもね……」

摩耶花「2位争い、頑張ろうかな」

勿論、里志や伊原もその事実に気付く。

える「えっと、では折木さんの資産を10倍にしましょう」

奉太郎「え?」

思わず間抜けな声が出る、そしてその後に気付く。

これがもし、千反田の性質の悪い冗談だったとしたら……とんだ赤っ恥だ。

でも、俺は知っていたのかもしれない。

千反田はそんな冗談を言わない、と。

える「折木さんの資産を10倍に、と言ったんです」

える「先程のお礼です」


492: ◆Oe72InN3/k 2012/10/17(水) 21:31:19.39 ID:4KtsUpEa0

奉太郎「……天使か」

いや、女神か。

女神、チタンダエル……いい響きである。

摩耶花「ちょっと、優しすぎない?」

える「いいえ、折木さんが数字を当ててくれなければ、私は今も借金があった筈です」

える「それに、折木さんはそこまで資産を持っていないので……勝負が決まるという事も無くて、面白いと思いませんか?」

……最後の言葉は余計だ。

里志「あはは、ホータローのヒモ生活の始まりって所かな」

奉太郎「俺だって一応働いているぞ」

里志「ま、これで千反田さんには逆らえないね」

奉太郎「……」

確かに、里志の言う通り。

これで何かしらのマスを俺が踏み、千反田を蹴落としたらそれは酷い事になるだろう。

多分、人生ゲーム所では無くなるかもしれない。


493: ◆Oe72InN3/k 2012/10/17(水) 21:31:47.11 ID:4KtsUpEa0

里志「それじゃ、受け取りなよ、ホータロー」

そう言い、里志から金を受け取る。

今までの手持ちと合わせ、1億4千万。

最下位から一気に2位へと登り詰めた、なんとも大逆転の人生である。

そして回ってくる俺の順番。

奉太郎「よし、回すぞ」

【10】

里志「さっきから、10出すぎじゃない?」

奉太郎「1回、2が出たろ」

里志「それでもすごい確率だね……ホータローの早く終わらせたいって思いが届いてるのかもしれない」

奉太郎「それは嬉しい知らせだな」

奉太郎「えっと、マスは……」


494: ◆Oe72InN3/k 2012/10/17(水) 21:32:13.90 ID:4KtsUpEa0

【世界一周旅行のチャンス! 好きな数字を選び、外れたら世界一周へとご招待!】

奉太郎「外れたら旅行なのか? 意味が分からんな……」

里志「これ、ちゃんと最後まで読んだ方がいいよ」

【世界一周へと旅立ったあなたは、5回休み】

奉太郎「……くだらん」

里志「当てるしかないね」

里志「大丈夫さ、さっきも当てたじゃないか」

とは言っても……他人のだったから気軽に選べた、と言うのもあった。

それとは違い、今回は自分のである。

……それなら、そうか。

奉太郎「千反田、数字を選んでくれ」


495: ◆Oe72InN3/k 2012/10/17(水) 21:32:41.80 ID:4KtsUpEa0

える「え、わ、私ですか」

奉太郎「さっきは俺が選んで当たったんだ、次は千反田が選べば当たる気がする」

える「大丈夫でしょうか……」

まあ、別に外れても千反田を責める事なんてしない。

える「では……7でお願いします」

里志「いいね、ラッキーセブンだ」

奉太郎「分かった、じゃあ回すぞ」

そして、俺はルーレットを回す。

出た数字は……

【1】

ううむ、やはり10%の確率と言うのは中々に手強い物だ。


496: ◆Oe72InN3/k 2012/10/17(水) 21:33:08.62 ID:4KtsUpEa0

える「ご、ごめんなさい!」

奉太郎「いいさ、気にするな」

奉太郎「後は結果を見守るだけと言うのも、悪くないしな」

える「で、ですが……」

奉太郎「千反田、ルーレットを回したのは俺だ」

奉太郎「それに、お前に数字を選んでもらったのも俺だ」

奉太郎「お前は悪くない」

える「は、はい……」

俺がそう言うと、千反田は渋々と言った感じで頷いた。

これで俺のゴールは無くなったが……まあ、疲れていたし丁度良かったのかもしれない。

色々と頭を使うのは、もう終わりにしたかった。


497: ◆Oe72InN3/k 2012/10/17(水) 21:33:53.42 ID:4KtsUpEa0

里志「じゃあ、次は僕の番だね」

里志「ホータローも動けない事だし、一発ゴールを狙いたいなぁ」

里志「……よし!」

【7】

里志「……ここで7とは、さっき出るべきだったのかもね」

奉太郎「いいじゃないか、マスには何て書いてあるんだ?」

里志「ちょっと待ってね、ええっと」

【本日は2倍デー! プレイヤー全員の資産はなんと、2倍となります!】

里志「うへ……厳しいなぁ」

里志「ちょっと千反田さんに追いつくのは無理かもね、これは」


498: ◆Oe72InN3/k 2012/10/17(水) 21:34:20.22 ID:4KtsUpEa0

摩耶花「で、でもまだ2位は残ってるわよ」

摩耶花「ちーちゃんは無理にしても、ふくちゃんには負けないからね」

奉太郎「俺はここに居るだけで2位になれる可能性が上がっただけで満足だな」

俺がそう言うと、またしても伊原に睨まれる。

何もしていないのに、本当にただこのマスに留まっているだけなのに。


       所持金     保険     マス

摩耶花   2億1400万   生      28マス目
奉太郎   2億8000万    生/車     38マス目
える      5億8400万    生      37マス目
里志     3億1200万   生/車     48マス目


499: ◆Oe72InN3/k 2012/10/17(水) 21:34:46.40 ID:4KtsUpEa0

摩耶花「私の番ね!」

【2】

摩耶花「……全然良いのがでないなぁ」

摩耶花「マス頼みね、これは」

【台風に巻き込まれる、しかし幸いな事に追い風となった! 1マス進みます】

摩耶花「たった1マスって……それに次のマスには何も無いし……」

里志「まあまあ、そんな事もあるさ」

摩耶花「ふくちゃんはいいかもね、次でほぼゴールできるから」

里志「あ、あはは」

怖い怖い、人生ゲームで仲違いとは……恐ろしいゲームだ。

える「次は私ですね」


500: ◆Oe72InN3/k 2012/10/17(水) 21:35:13.11 ID:4KtsUpEa0

える「えい!」

【8】

える「ふふ、私にもゴールが見えてきました」

える「このマスも、何も無い様ですね」

える「ええっと、次は折木さんですが……お休みなので、福部さんですね」

里志「よし、流石にここでゴールしたい所だよ」

里志「後ろから千反田さんも追い上げてるしね」

里志「行くよ……!」

【1】

里志「……ちょっと酷いね、これは」

里志「自分の運の無さに驚きかな」

奉太郎「一つ一つ踏んで、人生を楽しんでいるって所が……里志らしいな」

里志「……それはどうも」


501: ◆Oe72InN3/k 2012/10/17(水) 21:35:38.59 ID:4KtsUpEa0

里志「ええっと、マスによると」

【一発逆転の大チャンス! ルーレットから数字を3つ選ぶ事ができます、当たれば資産が2倍になります!】

【しかし外れた場合、残念……資産は全て、消えて無くなります】

里志「ギャンブルマスかぁ……」

奉太郎「でも、今までのより確率的には良さそうだな」

里志「ううん、そうなんだけどねぇ」

奉太郎「なんだ、当たれば1位だぞ」

里志「……いいや、パス」

里志「僕にはギャンブルは向いてないからね、外れる気しかしないよ」

里志らしいと言えば、里志らしい選択だろう。

里志「ま、そういう事で次は摩耶花の番だよ」

摩耶花「私はもうゴールできる気がしないんだけど……まあいっか」


502: ◆Oe72InN3/k 2012/10/17(水) 21:36:06.94 ID:4KtsUpEa0

摩耶花「よいしょ」

【9】

摩耶花「9だね、もっと早く出てくれればいいのに!」

【あなたは決闘をする事になりました! 一人を選び、ルーレットで勝負をします】

【数字が大きい方の勝利、勝てば相手から1億円を受け取ります】

【負けた場合、あなたは相手に1億円を支払います】

摩耶花「嫌なマスだなぁ……」

伊原は確か……今の資産は2億程だろうか?

なんだか途中から計算が面倒になってきて、数えるのをやめてしまったが……恐らくその程度だろう。

2位を狙うなら相手は里志、可能性は限りなく薄いが1位を狙うなら千反田、と言った所か。

俺も選ばれる可能性はあったが……勝ったとしても始めにゴールするだろう里志には勝てなくなってしまう。

だとすると、選ばれるのは先程挙げた2名の内どちらかだ。


503: ◆Oe72InN3/k 2012/10/17(水) 21:37:04.34 ID:4KtsUpEa0

摩耶花「……じゃあ、ちーちゃんで!」

ふむ……伊原も中々に勝負師だな。

える「受けて立ちます!」

千反田はそう言い、ルーレットに手を伸ばす。

える「最初は私でいいでしょうか?」

摩耶花「うん、いいよ」

える「では、回します」

そう言うと、ルーレットをゆっくりと回した。

【2】

なんと、ここで2を出すのか……

さっきのギャンブルやイベントマスで、運を使い果たしたのかもしれない。

える「2ですか……」


504: ◆Oe72InN3/k 2012/10/17(水) 21:37:34.25 ID:4KtsUpEa0

摩耶花「……悪いけど、私の勝ちみたいね」

摩耶花「ごめんね」

そう言うと、伊原も続いてルーレットを回す。

【1】

摩耶花「……」

前言撤回、こいつの方が運は無いようだ。

える「……勝っちゃいました」

摩耶花「うう……ちーちゃん強すぎる」

奉太郎「千反田が強いと言うよりは、お前が弱いと言う方が正しいと思う」

摩耶花「なによ、じゃあ私と勝負する?」

奉太郎「お前がまたそのマスを踏めたなら、受けて立つさ」

摩耶花「……ふん」

俺がここまで挑戦的なのにも、理由がある。

里志は次でゴールするからである。

それならばもう、伊原に何を言っても俺に災いは降りかからない。


505: ◆Oe72InN3/k 2012/10/17(水) 21:38:15.73 ID:4KtsUpEa0

える「私の番ですね」

える「では」

【2】

える「やはり、ゴールは厳しかった様です……」

里志「はは、それだけは譲れないよ」

奉太郎「どの道、千反田の勝ちだろうけどな」

奉太郎「それより、マスには何て?」

える「ええっとですね」

【流れ星が降り注ぐ中、あなたはお願いをしました】

【そんな願いを星達は叶えてくれます、プレイヤーを一人選び、選ばれた方の資産を0にします】


506: ◆Oe72InN3/k 2012/10/17(水) 21:39:45.15 ID:4KtsUpEa0

える「……私、こんなお願いはしていませんよ」

いや、それは分かるが。

千反田がそんな願いをしない事くらい、ここに居る全員が分かっているだろう。

奉太郎「里志を選べば俺が2位」

里志「摩耶花かホータローを選べば僕が2位って事だね」

える「選べませんよ……そんなの」

難しい選択かもしれないが、選ばないとこのゲームは終わらない。

奉太郎「俺を選んで終わらせよう、別に俺は順位等気にしない」

える「それは……それは分かりますが」

……分かるのか。

える「でも、それでも出来ません」

俺はこの時、千反田が誰を選ぶのかが分かった。

それはもう、ほとんど確信と言っていいかもしれない。


507: ◆Oe72InN3/k 2012/10/17(水) 21:40:44.75 ID:4KtsUpEa0

える「……あ」

そう言うと、千反田は何かを思いついた様に目を見開く。

える「プレイヤーと言う事は、人生ゲームをやっている人達ですよね」

える「それではですね、私は」

える「私を選びます」

……やはり、そうなるか。

奉太郎「お前ならそう言うと思った」

える「え、どうしてですか」

奉太郎「そういう奴だから……って思っただけさ」

える「ふふ、そうですか」

里志「やっぱり、千反田さんには適わないなぁ」

摩耶花「そうね、順位なんてどうでもよかったのかも」

える「駄目ですよ、ちゃんとゴールしてください」

里志「了解、じゃあ最後に……回すね」


508: ◆Oe72InN3/k 2012/10/17(水) 21:41:59.69 ID:4KtsUpEa0

【10】

里志「最後にようやく10とはね、僕も運が悪い」

える「そうでもないですよ、福部さんが1位です」

奉太郎「ま、あって無い様な物だろう」

里志「ホータローの言う通りさ、今回のは引き分けって所かな」

摩耶花「そうね、また今度……やろっか」

奉太郎「却下で」

摩耶花「何よ、もう」

とにかく、物凄く長い人生ゲームはこれにて終わり。

後は片付けて……帰るだけだ。

奉太郎「じゃあ、片付けるか」

奉太郎「手短に終わらせて、真っ直ぐ帰ろう」


509: ◆Oe72InN3/k 2012/10/17(水) 21:42:34.90 ID:4KtsUpEa0

える「そうですね、とても楽しかったです」

里志「まー、結果よりは過程が楽しかったかな、僕は」

摩耶花「あ、それちょっと分かるかも」

える「ふふ、私もですよ」

奉太郎「俺は……ちょっと違うな」

摩耶花「違うって、楽しくなかったの?」

奉太郎「……そう言う訳では無いが」

奉太郎「どちらかと言うと……」

里志「ホータローは、結果も過程もどっちでも良い、ってタイプだから」

奉太郎「……そういう事だろうな」

奉太郎「付け加えると、とっとと片付けて真っ直ぐ家に帰りたいタイプだ」


510: ◆Oe72InN3/k 2012/10/17(水) 21:43:31.12 ID:4KtsUpEa0

える「折木さんらしいですね」

摩耶花「じゃ、そんな折木の意見を尊重して片付けようよ」

摩耶花「私もなんだか疲れちゃった」

これにて一件落着……とは行かない。

里志「ちょっと待って」

里志「人生ゲームと言ったらさ、あれがあるじゃないか」

……あれ、とは何だろうか。

いやむしろ、まだやる事があるのか?

俺のした考えは、千反田や伊原もしていた様で、顔に困惑が浮かんでいる。


511: ◆Oe72InN3/k 2012/10/17(水) 21:44:05.88 ID:4KtsUpEa0

里志「これだよ、これ」

そう言いながら、里志が指を指すのは自分の手元にある紙。

正確に言うと、銀行の役目を担った里志が持っている金。

……まさか。

奉太郎「おい! やめろ馬鹿!」

どうやら千反田と伊原はまだ気付いていない。

それが手遅れとなってしまった。

里志は……そこにあった大量のお金を、宙へとばら撒いた。


512: ◆Oe72InN3/k 2012/10/17(水) 21:44:46.25 ID:4KtsUpEa0

~帰り道~

奉太郎「とんだ災難だった……」

える「私も最初はびっくりしましたよ」

奉太郎「最初だけだろ、最後はお前も笑ってばら撒いてたぞ」

える「は、恥ずかしいのであまり言わないでください」

さいで。

奉太郎「にしても、本当に余計な時間を食ってしまった……」

える「たまにはいいじゃないですか」

奉太郎「ほとんど毎日の様な気がするんだが」

える「それでもいいじゃないですか」

奉太郎「……はあ」

そんな事を話しながら、千反田の家へと向かっていた。

何故かは分からないが、今年に入ってからと言う物、千反田を家まで送っていくのが習慣となっていたのだ。

真っ直ぐ帰る事が出来るのは……いつになるのだろうか。


513: ◆Oe72InN3/k 2012/10/17(水) 21:45:16.04 ID:4KtsUpEa0

える「あ、そういえばですね」

突然、何かを思い出したかの様に千反田が口を開く。

える「少し、気になる事があるんです」

奉太郎「今からか? 明日にしてくれ」

える「いいえ、折木さんはもう答えを知っている事ですよ」

何だろうか……まあそれなら、いいか。

奉太郎「……何だ?」

える「私が、ギャンブルに勝った時……」

える「折木さんは何故、6を選んだんですか?」

える「何か、理由があった様ですが」

奉太郎「ああ、あれか」

奉太郎「……言わなきゃ駄目か」

える「はい、気になります」

……本当に単純に、浮かんできた数字なんだが。


514: ◆Oe72InN3/k 2012/10/17(水) 21:46:24.23 ID:4KtsUpEa0

理由はある、だが少し恥ずかしい。

まあでも、千反田に嘘を付く理由も……無いか。

奉太郎「千反田える」

える「え?」

奉太郎「それで、6文字だ」

奉太郎「だから6を選んだ」

える「ふ、ふふ」

える「そうでしたか……なるほどです」

奉太郎「単純な理由さ、特に意味も無い」

える「でも私は、他にも良い数字はあると思いますよ」

奉太郎「他にも良い数字?」


515: ◆Oe72InN3/k 2012/10/17(水) 21:47:02.87 ID:4KtsUpEa0

ううむ、何だろうか。

俺はしばし、腕を組みながら考える。

しかし答えは出ず、千反田に答えを求めた。

奉太郎「教えてくれるか」

える「ええ、勿論」

える「えっとですね……」

える「9や、5も良かったと思います」

9に……5?

千反田が言った数字の意味が俺には分からなかったが、わざわざ聞くのもあれだな。

家も見えてきた事だし、時間がある時にでも考えればいいか。


516: ◆Oe72InN3/k 2012/10/17(水) 21:47:38.11 ID:4KtsUpEa0

奉太郎「9か5か……」

える「ふふ、折木さんには分かると思いますよ」

奉太郎「……そうだな、考えておく」

える「ええ、宜しくお願いします」

それから千反田と別れ、俺は家に帰る。

その数字の事を思い出したのは、風呂に入り……布団の中で目を瞑っていた時だ。

奉太郎「……9と5」

……まさか。

……いや、それしか無い。

俺はその数字の意味に気付き、顔に熱が篭るのを感じながら、目を閉じた。


第11話
おわり

第1章
おわり




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