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える「古典部の日常」 2
俺達が逃げ込んだのは、一番奥の物置小屋だった。
薄暗く、あまり広いとは言えない。
しかし幸いにも、引き戸であった。
少しだけ扉を開き、外の様子を伺う。
奉太郎「……何か、話し合っているな」
摩耶花「多分、二手に分かれようとかそんな感じでしょうね」
奉太郎「だろうな」
さて、どうするか。
このままではいずれ、俺と伊原は見つかってそのまま負けてしまう。
……今のこの状況を、どうにか打破しなければいけないのだ。
奉太郎「俺達も、二手に分かれよう」
摩耶花「でもそれは、最初に駄目って言ってなかった?」
奉太郎「状況が変わった、そうしなければ負けるぞ」
摩耶花「って言っても、どうやって分かれるの?」
伊原の疑問はもっともだった。
確かにこの物置部屋の中だけで、分かれるとはいかないだろうから。
奉太郎「恐らく片方……里志が部屋の捜索に刈り出るだろう」
奉太郎「この物置から一番近い部屋に入った瞬間、俺が外に出る」
摩耶花「……なるほど」
摩耶花「それで、ふくちゃんを挟み撃ちって事ね」
奉太郎「それは俺が千反田を倒せた時、だな」
奉太郎「しかし俺が考えているのは少し違う」
摩耶花「……つまり?」
奉太郎「そうした方が、勝算はあるだろ」
奉太郎「豆のぶつけ合いになってしまっては、俺達の体力は少し心許ない」
摩耶花「確かにそれはそうだけど……うまくいくの?」
奉太郎「さあな、やってみなければ分からん」
成功率は五分と言った所か。
奉太郎「ああ、それと」
俺は伊原に少しばかりの作戦を提案した。
摩耶花「……おっけー」
それに伊原は乗る、奥の手もあるが……まだ使う時では無いか。
外の様子を見ると、里志は丁度一番近い部屋に入る所だった。
……よし、行くか。
千反田は一瞬驚いた顔をしていたが、すぐに俺に向かって豆を1つ投げてきた。
それを避けつつ、千反田に迫る。
近づく前に、千反田に向かって豆を5個同時に投げる。
える「きゃ!」
千反田の短い悲鳴は、俺の豆のいくつかが命中した事を告げていた。
1……2……2個か。
さっきの対峙で、俺は1つぶつけている……つまり。
千反田の体力は、残り2か。
俺はすぐに千反田を倒すべく、投げる構えをした。
ここで千反田を倒せれば、里志を挟み撃ちにできる……それは多分、最善の成功例だろう。
しかし、その直後……俺の動きを止める出来事が起きてしまった。
千反田が……しゃがみ込んでしまったのだ。
える「わ、私……折木さんと敵は、嫌なんです」
える「もう、やめてください……」
奉太郎「……わ、悪い」
える「……いえ、大丈夫ですよ」
奉太郎「……すまなかったな」
える「あ、あの」
える「ちょっと、いいですか」
そう言い、千反田は俺の顔を見てくる。
……少しだけ違和感を感じたが、特に気にする事も無くそのまま千反田へと近づいて行った。
える「ごめんなさい!」
千反田はそう言い、俺に豆を3つ放ってきた。
……くそ、やられた。
まさか千反田がこんな行動をするとは、全く予想していなかった。
近づきすぎていた俺に、その豆を避ける暇は無く、全てが命中する。
奉太郎「……」
える「こ、これは福部さんに教えてもらった事なので……」
若干の冷や汗を流しながら、千反田は必死に言い訳をしていた。
そんな千反田に向かって、俺は片手に持っていた約10個の豆を全て千反田に投げつける。
投げつけると言っても、さすがに本気でぶつけたりはしないが。
無音で豆達が千反田にぶつかり、床へと落ちて行った。
奉太郎「……そうでもないな」
なんにせよ、これで千反田の体力は0となった筈。
奉太郎「さて、手持ちの豆を渡してもらおうか」
える「えっと、それなんですが」
その時、俺の後ろから声が掛かる。
里志「どうやら、同じ事を考えていたみたいだね」
奉太郎「……そういう事か」
里志「千反田さんはもう、豆を持っていないよ」
里志「4つを残して、僕に全て渡していたからね」
里志「丁度ホータローを倒せる数、渡していたんだけどね」
里志「そこまでうまくはいかなかったみたいだ」
奉太郎「……なるほど」
奉太郎「それに同じ事、と言うと」
その俺の言葉を聞いていたのか、伊原が里志の後ろから顔を出した。
奉太郎「気にするな、こうなるかもしれないとは思っていた」
里志「……さすがだね」
里志「でもまさか、摩耶花の手持ちを全部ホータローが持っていたのは予想できなかったなぁ」
そう、俺は伊原の豆全てを渡してもらっていたのだ。
奉太郎「このまま一騎打ちと行きたい所だが……」
奉太郎「一旦退かせて貰おう」
俺はそう告げると、その場を走り去る。
……少し、面倒な事になってしまったな。
残り体力/所持豆数
奉太郎:残り体力1/豆の数4
摩耶花:残り体力0/豆の数0
里志:残り体力5/豆の数8
える:残り体力0/豆の数0
折木さんにまたしても、やられてしまいました。
それに結局、逃げられてしまいます。
える「ふ、福部さん! 早く追いかけないと!」
私がそう言うと、福部さんはいつもの笑顔からもう少しだけ笑い、答えました。
里志「まあまあ、慌てないで」
里志「……落ちてる豆を、数えよう」
える「そんな事してどうするんですか?」
里志「ホータローの手持ちの豆の数が分かる」
里志「場合によっちゃ、わざわざ見つけ出さなくても僕達の勝ちさ」
そう言うと、福部さんは廊下に散らばった豆を数え始めました。
5分ほど豆を数え、私の方に向き直り、口を開きます。
里志「僕達の勝ちだ」
える「……どういう意味ですか?」
里志「千反田さんの周りに落ちている豆は15個」
里志「今まで投げられた豆を計算すると……」
里志「ホータローの手持ちは4個なんだよ」
える「ええっと……あ!」
える「福部さんの体力は5、ですよね」
里志「そういう事さ」
里志「全ての豆をぶつけられても、負けはありえない」
なるほど……確かに、豆の数を数えたのは正解でした。
やはり、福部さんも中々に手強い方です。
味方となれたのは、良かったかもしれません。
里志「それと、一つお願いがあるんだけど……いいかな」
里志「最後は一対一で、話がしたいんだ」
里志「だから、千反田さんはそのまま豆を持たなくてもいいかな」
える「……ええ、勿論いいですよ」
える「ここまで追い詰められたのも、福部さんのおかげですから」
里志「はは、千反田さんも中々の名演技だったよ」
える「え、ええと」
える「……実は少し、本心でした」
里志「……やっぱり、千反田さんは千反田さんだ」
里志「さて、と」
里志「そろそろ決着を、付けにいこうか」
える「ええ、そうですね」
そういえば、先ほどから摩耶花さんの姿が見えません。
……ですが、合流されても問題は無いでしょう。
折木さん達が持っている豆を全て、福部さんに当てたとしても……福部さんが全て外さない限り、私達の勝ちです。
……折木さんに勝負事で勝てると言うのは、少し気分がいいかもしれません。
さて、向こうも気付いた頃か。
だが全ての豆を避けるのは中々難しい、それに加えうまくやったとしても引き分けがいい所だろう。
……まあそれも、俺は分かっていた事なのだが。
奉太郎「どうするか」
摩耶花「どうするかじゃないでしょ、あんたがあんなに豆を使わなければこんな事にはならなかったのに」
奉太郎「ま、そうだな」
摩耶花「それで、どうするのよ」
奉太郎「……伊原」
奉太郎「お前はこの勝負、どうなると思う?」
摩耶花「どうって言われても」
摩耶花「負けか、あるいは引き分け」
摩耶花「……それと」
そこで伊原は一旦言葉を区切り、いかにも悪そうな笑顔をする。
摩耶花「私達の勝ち、かな」
奉太郎「そうだな、それしかない」
奉太郎「……準備は、出来てるか」
摩耶花「勿論、その為にわざわざここまで来たのよ」
奉太郎「なら、そろそろ行くか」
摩耶花「……そうね」
タイミング良く、居間の外から里志の声が聞こえてきた。
それはどうやら、俺に諦めろと説くような内容であった。
……あいつらしいと言えば、そうかもしれない。
里志「ホータロー、そろそろ諦めたらどうだいー?」
声が近くなる。
恐らくもう、目と鼻の先に里志と千反田は居るだろう。
俺はゆっくりと立ち上がり、廊下へと続く扉を開く。
そのまま廊下に出て、声の方を見据える。
里志「自分で気付いていなかったのかい?」
里志「……少し気になるけど、まあいっか」
里志「僕はまだ、体力が5あるんだよ」
里志「豆の数は8個、言ってる意味は分かるよね」
奉太郎「……はあ」
奉太郎「それに気付かない事を祈っていたんだがな」
奉太郎「……くそ」
俺は右の拳を握り締める。
里志「何年友達をやっていると思っているんだい」
里志「そのくらい、すぐに気付くよ」
奉太郎「そうか、どうやらこの勝負」
奉太郎「俺達の負けみたいだな」
里志「……うん、そうみたいだ」
里志にはそのまま俺に、豆をぶつけると言う手段も取れただろう。
しかし、里志は手に持っていた豆を一つ……廊下に落とす。
里志「無理にホータローに豆をぶつける趣味は無いんだ」
奉太郎「……なるほど」
奉太郎「つまりお互い豆を落として、終わりにしようと言う事か」
里志「察しが良くて助かるよ、その通りだ」
……悪い案では無い、俺も別に豆をぶつけられたい訳じゃないしな。
俺は言葉を返す変わりに、一つ豆を捨てる。
それを見た里志は、いつもより更に口角を引き上げて、もう一つ豆を落とす。
一回、二回、三回。
里志「それでホータローは手持ちの豆が無くなった訳だ」
里志「僕も、全部落とすよ」
そう言い、里志は全ての豆を廊下に落とす動作を取った。
……これで、終わりだな。
私は後ろから、その光景を眺めていました。
お二人が一つずつ、豆を廊下に落として行きます。
……少し勿体無い気もしますが、捨てる訳では無いので我慢です。
そして折木さんが豆を4つ落とした後、続いて福部さんも豆を落とし……
ちょっと待ってください。
私が知っている折木さんは、こう言っては何ですが、たかが遊びであそこまで悔しがるでしょうか?
……拳を握り締める程、悔しそうにしている折木さんはなんだが不自然なんです。
何故かは分かりませんが、嫌な予感がします。
える「ふ、福部さん!」
私は福部さんに声を掛けますが、時既に遅し……全ての豆は廊下へと落ちました。
折木さんは……小さく、笑っていたのです。
……もっと考えるべきでした。
える「何故、笑っているんですか」
奉太郎「分かるだろ、俺達の勝ちだからだ」
える「もう豆は無い筈です、それはしっかりと確認しているんですよ」
奉太郎「なら確認が甘かったって所だな」
そう言い、折木さんは握ったままの拳を私達の方に差し出します。
そのまま手の平を上に向けて、開きました。
……そこには、大量の豆が……あったのです。
里志「……どういう事だい」
何故あんなに豆を……もしかして、拾ったのでしょうか?
える「豆を拾ったのですか?」
私はそのままの疑問をぶつけます。
しかし。
奉太郎「拾ってはいない」
える「……なら、何故豆を持っているんですか」
奉太郎「分けたんだよ、皿に乗っていた豆を」
分けた……とは、どういう意味でしょうか。
それを聞く前に、折木さんは再び口を開きます。
奉太郎「俺達はな、豆を持ち込んでいたんだ」
奉太郎「そして始まってからその豆を皿に乗せ、半分にした」
奉太郎「しっかりお前らの分もまだ皿に乗っているぞ」
……卑怯じゃないですか!
奉太郎「……なんだか言いたそうな顔だな」
奉太郎「だがルール違反ではない」
奉太郎「皿に乗せた後で分けたなら、そうだろ?」
なら、なら今の内にお皿の所まで行き、私たちも豆を補充すれば……!
そう思い、振り返ると……
摩耶花「ごめんね、ちーちゃん」
摩耶花さんが、立ち塞がっていました。
奉太郎「だから言っただろ、俺達の勝ちだって」
里志「はは」
里志「参ったよ、僕達の負けみたいだ」
里志「でも一つだけ、教えて欲しい事がある」
奉太郎「なんだ」
里志「どうして僕が、自らの豆を捨てると思ったんだい?」
確かに、福部さんがこの案を出さなければ……折木さん達にはいくら豆があっても確実に勝てはしなかったでしょう。
奉太郎「俺はお前がどの様に行動するかくらい、分かるさ」
奉太郎「さっき自分で言ってただろ」
奉太郎「何年友達をやっていると思っているんだ、とな」
里志「……そうだった、すっかり忘れてたよ」
福部さんはそう言い、両手を挙げます。
私もそれに習い、両手を挙げ、降参の意を示しました。
里志「一思いにやってくれると、助かるね」
奉太郎「……ああ、そのつもりだ」
この豆まきで、私が最後に見た光景は……私達に降りかかる、大量の豆でした。
える「それにしても、なんで私も巻き込まれなくてはいけなかったんですか」
奉太郎「仕方ないだろ、位置が悪かったと思え」
える「それでも納得できません」
まあ確かに、投げすぎた感はあったが。
里志「いやあ、見事にやられちゃったね」
里志「やっぱりホータロー相手だと、分が悪すぎる」
摩耶花「ちょっと、私は居ても居なくても変わらないって言いたいの?」
里志「そ、そういう訳じゃないよ」
あれだけ動き回ったのに、こいつらは良くこんな元気がある物だ。
……ああ、そういえば。
奉太郎「豆がまだ残っているんだが、食べるか」
どうやら意見は同じだった様で、全員の手が袋に伸びる。
俺も豆を数粒取り出し、口の中に放る。
ポリポリとそれを咀嚼し、飲み込む。
……うまいな。
奉太郎「今日はちょっと、動きすぎた」
摩耶花「いつも動かない分、動いたって考えればいいんじゃない?」
える「たまにはいい物ですよ、体を動かすのも」
里志「そうだね」
……俺はそこまで動かない奴だっただろうか。
奉太郎「帰ってゆっくり風呂にでも入りたい気分だ」
里志「お、それには同意するよ」
摩耶花「……私も」
奉太郎「一致したな、帰るか」
その俺の言葉を聞き、千反田を除く三人は立ち上がる。
帰って風呂に入り、コーヒーでも飲んで残りの時間はゴロゴロしてよう。
本来休みとは、そういう物だから。
今日、色々と作戦を練ったが……これだけは予想外だった。
と言うのも……
える「駄目ですよ、まだ帰っては駄目です」
奉太郎「なんだ、また豆まきでもするのか」
える「いえ、そういう訳では無いです」
奉太郎「なら」
える「私の家を、汚したままにするつもりですか」
ええっと……何個投げたっけか。
最初に配られたのは全員合わせて40個か。
それは全員使った筈。
だがその後に俺と伊原は豆を補充している。
あれは何個だったっけか。
確か……
いや、考えるのはやめよう。
俺と伊原が持ち込んだ袋には豆が100個入っている。
それを半分に分けて俺達が使ったのは50個。
25個ずつ伊原と分け、俺はその25個全てを千反田と里志に投げつけた。
そして、何故か終わった後に伊原が喜びのあまり豆を上に向かって投げたのだ。
つまり拾わなければいけない豆の数は……90個。
あ、しまった……結局考えてしまったではないか。
……もういい、無駄な事は考えずに豆を拾おう。
える「皆さん、全部しっかりと拾ってくださいね」
そうしなければ、俺達はいつまで経っても家に帰れないからである。
結局家に着いた頃には、辺りはすっかり暗くなっていた。
そんな俺を待っていたのは、鳴り響く電話だったが……
誰も居ない様で、仕方なくそのまま俺は電話を取る。
奉太郎「折木です」
える「あ、折木さんですか?」
奉太郎「今、そう言った筈だが」
える「あ、いえ……私が言いたかったのはですね」
える「私が知っている折木さんか、そうではない折木さんか、という事でですね」
える「それはつまり、折木さんのご家族の方の可能性もあったので……」
奉太郎「やめてくれ、用件はなんだ」
放っておいたらいつまでも続きそうで、俺は手短に用件だけを聞くことにした。
える「実はですね、少し……やってみたい事があるんです」
奉太郎「やってみたい事? 気になる事では無くてか」
える「今回は少し、違います」
える「私がやってみたい事と言うのは……」
その内容を聞いた俺は、とても驚いたのを覚えている。
千反田からそんな提案があるとは、露ほども思わなかったからである。
それが面白くて、俺は珍しくその提案に乗ることにした。
奉太郎「……分かった、乗ろう」
える「ほんとですか、ありがとうございます」
……明らかに俺向きでは無いが、それもまた意外性があってこの提案にはいいかも知れない。
ゆっくり、進めていけばいいだろう。
とりあえず今日は風呂に入ろう。
奉太郎「じゃあ、またな」
える「ええ、また明日」
……さて、今日は豆の夢を見そうになりそうだ。
来年は普通の豆まきがしたい、切実に。
そんな事を思いながら、俺は風呂場へと向かった。
第4話
おわり
>>199
古典部の日常が終わったら、書いてみましょうか。
アイデア頂く感じで申し訳ないですが。
どの道、このお話が終わっても何かしら氷菓のSSは書くつもりでしたので。
次回投下ですが、本日の夜に投下致します。
える「難しいですね」
える「こっちのは、どうでしょう?」
摩耶花「それもちょっと、私には出来なさそうかな」
える「そうですか……」
似たような光景は去年も見ていた。
場所も同じ、古典部で。
奉太郎「今年もやるのか」
摩耶花「当たり前でしょ」
奉太郎「……ご苦労様」
去年は結局、里志はちゃんとチョコを受け取らなかった。
しかし今年なら……しっかり受け取るであろう。
それなのに何故、こんなにも悩んでいるのだろうか。
……俺には到底理解できない事だな。
える「折木さんはどう思いますか?」
不意に声を掛けられ、千反田の方に顔を向ける。
千反田の顔の距離には……未だに慣れない。
奉太郎「お、俺に聞いてもどうしようもないだろ」
わずかに身じろぎしながら俺は答えた。
摩耶花「……そうだ」
伊原は何やら思いついた様で、それに対して興味も無い俺は読んでいた小説に視線を戻す。
摩耶花「折木」
奉太郎「なんだ」
視線はそのままで、声だけを返す。
摩耶花「あんた、チョコ食べたくない?」
奉太郎「俺にくれるのか」
摩耶花「そんな訳無いでしょ」
摩耶花「毒見してみる気は無いかって聞いてるのよ」
つまり、里志に喜んで貰える様なチョコを俺が食べて、それを評価しろという事か。
……しかし自ら毒見と言うとは、ちと怖い。
いや、全く良くは無いだろう。
える「折木さん! 是非お願いします!」
奉太郎「いや……俺は」
える「折木さん!」
こうなってしまっては、もう俺に逃げ場は無い。
まだ日曜日にやった豆まきの疲れが残っていると言うのに、更に働けと言うのか。
でもまあ……他にする事も無いし、いいか。
奉太郎「……分かったよ、やろう」
摩耶花「じゃー日曜日に集まろうか」
える「ええ、私の家でやりましょう」
こうして俺は里志にあげるのに相応しいチョコを選ぶ為、日曜日の予定を埋められた。
摩耶花「……ありがとね」
しかし、まあ……悪い気は、しないか。
甘い。
まだチョコを食べている訳では無いが……匂いが甘すぎる。
俺は甘い物が好きと言う訳でも無い、どちらかと言うと逆だろう。
しかし当の千反田と伊原はとても楽しそうにチョコを作っている。
俺はそれからしばらく、その匂いと戦いながらチョコを待つ。
える「出来ました!」
そう言いながら、一つ目のチョコが運ばれてきた。
奉太郎「ほう」
とは言ったが、正直何の種類なのか見当も付かなかった。
える「本来は、トリュフ等に付けられるのですが」
える「これのみでも十分においしいので、どうぞ」
そうなのか。
まあ、食べない事には分からない。
そう思い、俺はチョコを一つ口に放る。
奉太郎「……甘いな」
える「ええっと……」
いや、旨いと言えば旨かった。
だがちょっと、くどい様な感じの……そんな甘さだった。
台所で未だに作業をしている千反田と伊原に、風を浴びてくるとの事を伝え、廊下に出る。
……しかし、本当に俺がこの役目で良かったのだろうか。
里志とは食べ物の好き嫌いも違うだろうし、それに対して感じる事も違うと思う。
なら、そうか。
あくまでも一般的な意見を出せばいいのかもしれない。
主観的な意見では無く、客観的な意見か。
……ううむ、難しいな。
やはり俺には、この役目は少し向いていないだろう。
そんな俺の考えを遮る様に、後ろから声が掛かった。
奉太郎「ああ、そうか」
その言葉を聞き、俺は再び部屋に戻る。
える「どうぞ、これはおいしいですよ」
そう言い、差し出されたのは……
奉太郎「これ、チョコなのか?」
える「マカロンです」
俺はチョコなのかどうなのか聞いたのだが、千反田の答えは俺の疑問を解決してくれなかった。
もしかすると、単純にマカロンという言葉を俺が知らないだけで、何かの種類なのかもしれない。
しかし……見た目的にはどうみてもチョコでは無い。
だとすると、やはり。
える「ええ、そうです」
奉太郎「……そういう種類のチョコなのか」
俺がそう言うと、千反田は首を傾げながら答える。
える「ええと、マカロンをご存知無いんですか?」
奉太郎「と言う事は、これはチョコでは無いのか」
える「チョコレートマカロンなので、チョコは入っていますよ」
なんとなく分かった。
つまり、マカロンにはいくつか種類があり、今俺の目の前にあるのはチョコが入っているマカロン……と言う事だろう。
奉太郎「そうか」
考え込むより、食べた方が早いだろう。
そう思い、俺はマカロンを口に入れる。
える「あ、えっと……」
さっきと同じ感想だったのがあれだったのかもしれない。
千反田は言葉に詰まってしまっていた。
奉太郎「まあ……さっきのよりは、好きかな」
える「そうですか、では次のチョコを準備しますね」
まだやるのか。
俺は去る千反田の後ろ姿に心の中で呟き、天井を眺めた。
……
何か、おかしくないだろうか。
つまり……俺が好きなチョコを作っても、里志は喜ばないかもしれない。
今、千反田と伊原がやっているのは、俺の感想を参考にチョコを作る……という作業である。
と言う事は、だ。
完成したチョコは多分、俺好みのチョコであって決して里志好みのチョコでは無いだろう。
似たような事をさっきも考えたな……結論は何だったか。
ああ、客観的な意見か。
さっきはすっかりと忘れていた、次は気をつけよう。
俺が再び結論を出した所で、丁度よく千反田がやってくる。
える「チョコレートタルトです」
何だかさっきから、千反田がウェイトレスに見えて仕方ない。
口には出さないが。
奉太郎「そういえば伊原は何をしているんだ」
える「摩耶花さんですか、先ほどからずっと頑張っていますよ」
奉太郎「……そうか」
奉太郎「って事は、これも伊原が作ったのか」
える「ええ、勿論です」
える「今までのも全部、摩耶花さんが作ったんですよ」
……あいつは見た目や性格に反して料理が出来るのか。
奉太郎「主に千反田が作ってる物だと思っていたよ」
える「ふふ、私は横で少しお手伝いしていただけですよ」
どうやら俺が考えていた事とは逆だったらしい。
そのお手伝いがどの程度なのかは分からないが、伊原も伊原なりに努力していると言う事だろう。
そう考えると、さっきまで適当な感想しか出さなかった自分に後悔してしまう。
奉太郎「ま、頂くか」
える「はい、どうぞ」
千反田の言葉を聞き、口に入れる。
さっきまでと同じ味だとしても、違う事を言おうとは思っていたが……今回のは素直に美味しかった。
える「本当ですか!」
奉太郎「あ、いや……あくもでも、俺からしたらだぞ」
奉太郎「俺は里志じゃないから、あいつの好みは分からん」
摩耶花「やっぱり、そうよね」
俺の言葉を聞いていたのか、台所から伊原がやって来た。
摩耶花「折木には折木の好みがあるし、それはふくちゃんも一緒だよね」
奉太郎「まあ、そうだろうな」
ううむ、やはりもう少しちゃんとした感想を言えば良かったか。
奉太郎「でも、その……おいしかったぞ」
摩耶花「……そっか、ありがとね」
奉太郎「それに」
える「気持ちが大事、ですからね」
える「折木さんが前に仰っていたので」
摩耶花「折木が? へえ、折木がねぇ……」
そんな事、俺は以前言っただろうか?
える「前に、部室でお弁当を一緒に食べた時、言っていましたよ」
そんな疑問にすぐに千反田が答える、今の疑問は口に出していなかった筈だが……顔に出ていたのかもしれない。
奉太郎「あったっけか、そんな事」
える「ええ」
こいつがここまで言うからには、あったのだろう。
奉太郎「ま、そういう事だ」
摩耶花「分かった」
摩耶花「やっぱり私が作れる様な奴じゃないと、難しいしね」
摩耶花「違うわよ、今日のはちゃんと私が作ったのよ」
摩耶花「本当よ?」
奉太郎「……分かったよ」
摩耶花「簡単に、って意味だからね」
摩耶花「ちゃんと分かってる?」
奉太郎「ああ、よく分かりました」
摩耶花「ならいいけど」
奉太郎「それで、もう今日はお開きでいいか」
摩耶花「うーん、そうね」
摩耶花「色々聞けて、いい物が作れそうだし……今日はお開きにしようか」
える「分かりました」
える「では私達は片付けがあるので、折木さんは先に帰りますか?」
奉太郎「あー、いや」
奉太郎「俺も手伝う」
える「そうですか、ではお願いします」
食べるだけ食べて、先に帰るのは流石にちょっと気が引ける。
二週連続で日曜日が使われてしまったのはいただけないが、仕方ないか。
食器の場所は千反田が把握しているだろうし、俺は皿洗いへと興じる事になった。
奉太郎「今年は多分、里志もちゃんと受け取ってくれるだろうな」
摩耶花「そうだといいんだけどねぇ」
える「大丈夫ですよ!」
縁側に腰を掛ける、ふと後ろを見ると俺たちの影が部屋の奥へと伸びていた。
摩耶花「あ、そういえばさ」
奉太郎「ん?」
摩耶花「ちょっとチョコ余っちゃったから、折木も持って帰ってよ」
奉太郎「別にいいが、そんなに作ったのか?」
摩耶花「うん、まあね」
そう言い、伊原から渡されたチョコはしっかりとラッピングがしてあった。
摩耶花「まあまあ、そう言わずに」
何故か千反田がもじもじしているのが気になったが……
ま、いいか。
奉太郎「分かったよ、ありがとうな」
摩耶花「折木って、最近ちょっと素直になったよね」
奉太郎「最近は余計だ」
摩耶花「それと、ちーちゃんにもしっかりお礼言っておきなさいよ」
奉太郎「千反田に?」
摩耶花「いいから早く」
さっきまで普通の伊原だったが、凄むと怖い。
奉太郎「ありがとうな、千反田」
える「あ、い、いえ」
える「あの、それは余っただけですので、贈り物の内には入らないですよね」
奉太郎「ん? 何を言っているんだ」
える「な、なんでもないです!」
……よく分からんが。
気付けば影は消え、辺りは暗くなっていた。
奉太郎「……さて、帰るか」
摩耶花「そだね」
える「はい、お疲れ様でした」
俺と伊原は千反田の家を後にする。
さすがに2月と言った所か、日が短い。
夏ならば多分、まだ薄暗い程度だろうが……既に周囲は真っ暗となっていた。
帰ってる途中、伊原と少し話をした。
摩耶花「それで、付き合ってるの?」
奉太郎「何が」
摩耶花「あんたとちーちゃん」
奉太郎「……そんな訳無いだろ」
摩耶花「いやいや、逆にびっくりなんだけど」
摩耶花「だって、ちーちゃんが戻って来た時、その」
摩耶花「……抱きついてたし」
奉太郎「……ああ、まあ」
摩耶花「もうてっきり、折木が告白したのかと思ったよ」
奉太郎「……したさ」
摩耶花「え? ならもしかして」
摩耶花「振られたとか?」
奉太郎「どうだろうな」
摩耶花「何よそれ」
奉太郎「……いや、そうだな」
奉太郎「振られたというのが、一番近いかもな」
本当の所は、色々あって有耶無耶になっているだけであったが……
あれから千反田も特にその事については言わなかったし、俺も別段言う気は無かった。
摩耶花「有耶無耶になったとか?」
奉太郎「……千反田に聞いたのか」
摩耶花「違うわよ」
奉太郎「じゃあ、なんで」
摩耶花「勘」
さいで。
摩耶花「なるほどねぇ」
奉太郎「……何か言いたそうだな」
摩耶花「そりゃね」
摩耶花「でもまあ、ゆっくり考えればいいと思うよ」
摩耶花「まだ1年あるんだし、ね」
奉太郎「ああ、そうだな」
確かに伊原の考えている通り、このままでは駄目だろう。
千反田との今の距離感は好きだったが……
このままで卒業したら、どうなるのだろうか。
俺には少し、難しい話か。
そういえば、先週の日曜日も千反田の家から帰った時は暗くなっていたな。
あそこに行くと、どうやら暗くなるまで帰れないのかもしれない……気を付けねば。
そんな事を考えながら、俺はベッドに横たわる。
去年は確か、姉貴に貰った一つを同じように部屋で食べたな。
今年はちょっと早く、一つだけチョコを貰えた。
貰えたと言っても、余り物だが。
ま、それでも貰えたには違いないだろう。
ラッピングを解くと、何の変哲も無い、普通のチョコがそこにあった。
俺はそのチョコをひとかじりする。
何故かそれは、とても俺好みの味だった。
第5話
おわり
奉太郎「ん、どうした」
える「……綺麗ですね」
奉太郎「そうだな」
俺はあの公園で、千反田と一緒に花火を見ていた。
遠くであがる花火を見る場所としては、この公園は意外と侮れない。
える「もう、夏ですね」
奉太郎「ああ」
える「早い物です」
える「ふふ、そうでしょうね」
える「……ここに来ると」
える「どうしても、去年の冬を思い出してしまいます」
奉太郎「……俺もだ」
える「私、初めてでした」
そう言い、千反田は俺の手をゆっくりと握った。
奉太郎「……何が」
える「それを聞くのは、少し意地悪ですよ」
奉太郎「……すまんな」
千反田が言っているのは、恐らく。
える「初めての、キスでした」
奉太郎「……俺もだよ」
える「……そうでしたか」
える「それはとても、嬉しいです」
奉太郎「……そうか」
夜になり、セミは昼間よりも大人しい。
辺りには、遠くであがる花火の音だけが響いている。
える「はい、なんでしょうか」
奉太郎「このままで、いいと思うか」
える「……」
奉太郎「俺は」
一際大きな花火があがった。
そして丁度、音が届く頃に……俺は次の言葉を心から紡ぎだす。
奉太郎「……夢か」
伊原と前に……確かバレンタイのチョコ作りの帰り道だったか。
あの時、千反田の事を話してからと言うもの、俺は今回の様な夢を何回か見ていた。
オチは必ず同じ。
俺が最後の言葉を言う前に、目が覚めてしまう。
全てが同じオチとは、大分つまらない夢である。
ああ、それよりもこんな朝っぱらからなんの電話だろうか。
そんな事を思いながら、時計に目を移した。
春休みに入ってからと言う物、なんだか起きるのが遅くなって仕方ない。
今日はたまたま電話によって目が覚めたが……もし電話が来ていなかったらもう少し寝ていただろう。
まあそれも、この前の卒業式で大分疲れたからかもしれない。
卒業式と言っても、俺たちが卒業するのはまだ先だ。 およそ一年後か。
……これは今考える事では無いか、それよりもまずは電話に出よう。
俺はようやく部屋から出ると、リビングにある電話機へと向かった。
姉貴はどうやらまたしても居ない様で、他に電話に出てくれる人は居ない。
まだ完全に目が覚めていない中、受話器を取った。
える「あ、千反田です」
奉太郎「……なんだ、千反田か」
える「あの、もしかして寝ていました?」
奉太郎「ああ……まあ」
える「駄目ですよ、休みだからと言って」
奉太郎「……気をつける」
奉太郎「それで、用事はなんだ」
える「あのですね」
える「去年と同じ頼みなんです」
俺はそう言い、カレンダーに目を移す。
今は四月……去年のこの時期は。
奉太郎「もしかして、雛祭りか」
える「はい、正解です」
……朝からクイズか。
奉太郎「……ああ、行くよ」
奉太郎「今年は見ているだけでもいいんだろ?」
える「あ、それは不正解です」
さいで。
える「いえ、そういう訳では無いんです」
つまり、どういう事だ。
える「私が、お願いしちゃったんです」
奉太郎「何を」
える「傘を持ってくれる人を、です」
奉太郎「……ええっと」
奉太郎「また俺に傘を持てって事か」
える「はい!」
奉太郎「……いいのか、毎年持っている人が居るんだろ」
える「それで私も、折木さんに傘を持って欲しかったので……」
える「少し、無理を頼んじゃったんです」
そういう事か……
それで、俺が断ったら千反田はどうしたのだろうか。
奉太郎「俺が嫌だって言ったら、どうするんだ」
える「え? 駄目ですか?」
奉太郎「……いや、駄目ではないが」
える「ふふ、なら良かったです」
まあ、確かにそこまでやられてしまっては断れない。
俺も外から一度、見ては見たかったが……貴重な体験としては雛に傘を差す方が当てはまるだろう。
奉太郎「時間と場所は、去年と同じでいいのか?」
える「はい、宜しくお願いしますね」
奉太郎「ああ」
千反田はそれ以上言う事は無かった様で、簡単な挨拶をすると電話を切る。
……前の雛祭りの後、確か風邪を引いたな。
今年も同じ様にならなければいいが、大丈夫だろう。
例年よりも暖かい地球に感謝し、俺はカレンダーに予定を入れた。
四月×日
生き雛祭り
去年と似たような慌しさの中、準備が行われている。
俺はやはり、一人ストーブで温まりながらその時を待っていた。
今年は橋の工事も無く、行列は例年と同じルートを通るだろう。
……その事は少しだけ、俺を安心させた。
狂い咲きの下を通る千反田は、多分とても美しいだろうから。
それを見れないのは、ちょっと辛い物がある。
だがそれを見てしまえば、俺はまた……
なので今年は、少しだけ安心していた。
どうやら時間が来た様だ、段取りは一緒の筈なので、俺はそのまま外に出る。
俺も傘を持ち、行列の中へと加わった。
やがて、人々が集まり、行列の形が彩られる。
そして……
ゆっくりと、去年と同じ様に。
最初に入須が出てくる、そしてその後に千反田。
俺が感じた事は、去年とほぼ同じだったと思う。
十二単を着た千反田はとても綺麗で、いつもの雰囲気は微塵も感じさせなかった。
なんだか、何時間も見ていたい気がしたが……そんな俺の思いを無視し、行列は歩き出す。
いかんいかん、しっかりと役目をこなさねば。
ルートこそ去年とは違うが、要領は同じだろう。
沢山の見物人が居て、その間をゆっくりと進む。
やはり今年は去年よりも暖かく、風邪を引くことは無さそうだ。
いや、俺も別にある程度の気温まで下がったら風邪を引く……なんて分かりやすい体をしている訳では無いが。
とにかく、その後の心配はしないで済むだろう。
そこまで考え、ふと気付く。
……あれ、去年よりも大分落ち着いているな。
里志や伊原にも声を掛けられるまで気付かなかった。
しかし今年は、俺の方が多分、先に気付いたくらいの感じがした。
終わった後も、しばらく俺はぼーっとしていたし、色々と思う事もあった。
だが、まあ。
それに比べれば、今年は幾分かしっかりと歩けている。
そして、少しだけ……少しだけだが。
千反田と同じ場所を、歩けている気がした。
える「お疲れ様でした」
奉太郎「そこまでの事じゃないさ」
俺と千反田は去年同様、縁側に座っていた。
今年は特に、千反田の気になる事が起きなかったので、こいつも大分楽に取り組めたのかもしれない。
える「どうでしたか、今年は」
奉太郎「どう、と言われてもな」
奉太郎「去年よりはしっかり出来たと思うが……」
俺がそう言うと、千反田は口に手を当てながら答えた。
奉太郎「なんだ、去年はそこまで駄目だったのか」
える「あ、いえ。 そういう事では無いですよ」
える「えっとですね、今年は少し」
える「折木さんと一緒に、歩けている気がしたので」
春を感じさせる陽光が、千反田の顔を照らしていた。
奉太郎「……そうか」
奉太郎「俺も、少しだけそう思ったな」
える「そうでしたか……一緒ですね」
何がそんなに嬉しいのか、千反田はやたらとにこにこしている。
今日初めて見せた千反田の笑顔に、なんだか照れて、俺は話題を逸らす事にした。
奉太郎「この後も、用事はあるのか?」
える「あ、大丈夫ですよ」
える「今年は父が、ほとんど引き受けてくれています」
奉太郎「……病み上がりだろ、大丈夫なのか」
える「私もそう思ったんですが」
える「迷惑を掛けてしまったから、その分やらせてくれ、と」
奉太郎「なるほど、お前の父親らしいな」
える「立派ですよ、私なんか全然です」
える「そうでしたっけ? それなら是非、今度会いませんか?」
千反田の父親か……いきなり男を紹介されて、例えそれが友達なだけでも大丈夫なのだろうか。
俺にはよく分からないが、あまりいい予感は出来ない。
奉太郎「千反田の父親って、どんな人なんだ?」
える「ええっと」
える「良く言われるのが、似ていると」
奉太郎「似ているのか」
える「らしいです」
える「私はそうは思わないんですけどね」
……想像するだけでも、恐ろしい。
奉太郎「さっきの話だが、遠慮させてもらう」
える「そうですか、ではまた次の機会と言う事で」
奉太郎「ああ、そうだな」
そこで千反田が首を傾げながら口を開いた。
える「ええと、それで折木さんは用事があるんですか?」
奉太郎「特には無いな」
える「そうですか、なら」
奉太郎「少し、散歩するか」
える「……はい!」
奉太郎「結局ここか」
える「私の家から、結構近いですからね」
そう言うと、千反田はいつものベンチに腰を掛けた。
奉太郎「何か飲むか」
える「……いつもいつも、悪いですよ」
奉太郎「今度何か奢ってもらえればいいさ」
える「なら、そうですね」
える「コーヒーを貰いましょうか」
奉太郎「お前、駄目じゃなかったか」
える「そうなんですが、そういう気分なんです」
える「大丈夫ですよ」
俺は渋々、コーヒーを二つ買う。
そして一つを千反田に差し伸べると、声を掛けた。
奉太郎「渡す前に一つ聞きたいんだが」
奉太郎「……酔った時と一緒には、ならないよな?」
える「ええ、ただちょっと寝れなくなってしまうだけなので」
奉太郎「それもあれだがな……」
まあ、酔った時みたいにならないのなら……いいか。
あれは本当に、なんというか、面倒だから。
そう言い、千反田はコーヒーを受け取った。
俺はそのまま千反田の横に腰を下ろす。
奉太郎「傘持ちも、慣れてきたのかもな」
える「ええっと、何故そう思ったんですか?」
奉太郎「去年より疲れてないから」
える「ふふ、それは良い事ですね」
える「なので来年も、お願いするかもしれません」
奉太郎「……いや」
奉太郎「1回くらい、外から見てみたい」
奉太郎「行列を……」
奉太郎「雛を、外から見てみたい」
える「……そ、そうですか」
奉太郎「ま、どうしても傘を持ってくれって言うのなら、別にいいけどな」
える「……考えておきます」
そう言うや否や、千反田は早速考え込んでいた。
何やら難しい問題だとか、どっちにすればいいのかだとか言っていた様だが、俺の耳にはあまり聞こえてこない。
奉太郎「ああ、そう言えば」
奉太郎「入須は、何か言っていたか?」
える「ありがとう、と言っていましたよ」
奉太郎「それは俺になのか」
える「ええ、そうです」
奉太郎「俺が思うに」
奉太郎「お前自身に言ったのが、一番大きいと思うけどな」
える「え? 何故ですか?」
奉太郎「決まってる、卒業式の事だ」
える「……ふふ、あれですか」
える「正解でしたね、あれは」
える「そんな事、ないですよ」
奉太郎「いや、正直驚いたぞ」
奉太郎「去年の秋以来、距離感みたいなのがあったからな」
える「え? 私と入須さんにですか?」
奉太郎「ああ」
える「でも、私が戻って来た時……入須さんは一緒に来てくれましたし」
奉太郎「……それは、千反田から見たらって事だろ」
奉太郎「俺には少し、入須から距離を取っている様に感じた」
奉太郎「それを気付いていて提案したんだと思っていたが……まあ、いいか」
える「……えっと、今はどうなんですか?」
奉太郎「今は、そうだな」
あれは確か……卒業式の少し前。
提案されたのは豆まきが終わった後だったか。
内容は確か、その時はとても単純な物だった。
千反田は
える「入須さんを驚かせませんか?」
と言ったのだ。
しかし卒業式の日、俺たちも多少驚かされる事があったな……
あの日はとても寒かったのを覚えている。
三月の卒業式。
入須がこの神山高校を、去る日の出来事だ。
第6話
おわり
Entry ⇒ 2012.10.26 | Category ⇒ 氷菓SS | Comments (0) | Trackbacks (0)
真美「お鍋の美味しい季節になってきたよ→!」
小鳥「…え、えぇ…そうね。良い頃合いよね」
小鳥「…え~っと。それはともかくとして…」
小鳥「…どうして、私の部屋に?」
真美「………」
小鳥「………」
小鳥「ぜ、全然答えになってないんだけど…」
真美「亜美も今日は遅くなるらしいし…そしたら、たまたまピヨちゃんが事務所から帰るとこ見つけて」
小鳥「えぇ」
真美「つけてきたの」
小鳥「………」
真美「真美、探偵みたいだよね!すごいっしょ!」
小鳥「うぅ、頭が痛くなってきた…」
真美「鍋!」
小鳥「え?」
真美「鍋しよーよ!鍋!鍋!」
小鳥「…え、えーと…ごめんなさい。さっきから立て続けに色々と起こり過ぎてお姉さんもう、何が何だか…」
真美「そ→だよ~…さっきも言ってたっしょ?」
小鳥「た、確かに言ってたけど…」
真美「真美、そろそろ鍋がやりたい気分なんだよね」
小鳥「やりたい気分なんだよね、と言われても…」
真美「うちの家だと、何鍋にするかで揉めて、結局鍋自体が出来なくなっちゃうんだ」
小鳥「あぁ…あるわよね、そういうの。私の実家も……っていやそうじゃなくって!」
小鳥「何?じゃないわよ…ほら、私が送っていってあげるから、今日はもう帰りましょう?」
真美「……やだ」
小鳥「真美ちゃん…」
真美「………」
真美「……真美ね、実は昨日、亜美とちょっと喧嘩しちゃったんだ」
小鳥「え?」
真美「だから……今日はあんまり会いたくないの」
真美「………」
真美「……うん、そうだよね。ごめんなさい」
真美「今日はもう…帰るね」
真美「………」しょぼん
小鳥「………」
小鳥「……あぁもう…!わかったわ。降参、私の負けです」
真美「え?」
小鳥「……明日はちゃんと会って仲直りするのよ?」
真美「!」ぱぁぁ
真美「うん!」
小鳥「……え?あ、はいっ。わかりました」くすっ
小鳥「それでは失礼致します」
がちゃり
真美「……お母さん、何か言ってた?」
小鳥「えぇ。娘をよろしくお願いします…って」
真美「えー、何それー」
真美「……そっか」
小鳥「……帰らなくていいの?真美ちゃんもホントは寂しいんでしょ?」
真美「なっ…!//さ、寂しくなんかないもん!」
真美「あ、亜美もたまには寂しがらせてやらないとね!」
小鳥「へぇ~…?そう?」
小鳥「真美ちゃんのお母さんがね、こうも言ってたわよ」
小鳥「『あの娘、寂しがり屋だから、夜はすっごく甘えてくるかもしれませんけど…』って」
真美「ーーッ!////な、なっ…!////」
真美「そっ、そんなことないもん…!//そんなのデマだよ、デマ!」
小鳥「くすくす…それじゃ、そういうことにしておきましょうか」
真美「すき焼き!」
小鳥「我が家にそんな財力はありません」
真美「え→…じゃあ、カレー!」
小鳥「………」
真美「…?」
小鳥「えっと…鍋…よね?」
真美「?うん、そうだよ?」
小鳥「…カ、カレー鍋とは邪道な…」ぼそり
真美「え?」
小鳥「い、いや、何でもないのよ。わかったわ。それじゃあ買い出しに行きましょうか」
真美「うん、全然へいきー」
小鳥「…暖かそうな服だものね」
真美「うんっ、この服、真美のオキニなんだ→」
小鳥「へぇ…」
真美「亜美とオソロでねー…」
小鳥「………」
真美「…はっ!//」
真美「…うぅっ、にっ、ニヤニヤすんなー!!//」
小鳥「ふふ…ごめんなさい♪」
小鳥「そうだ、真美ちゃん、何か食べられない物とかある?」
真美「野菜は大体嫌いかな!」
小鳥「それじゃあ鍋にならないじゃない…」
真美「まぁでも鍋なら大体何でも食べられるけどね!」
小鳥「そ、そう?なら良かったけど」
小鳥「…それと真美ちゃん、あんまり私の側から離れないようにしてね?」
小鳥「あなたは仮にもアイドルなわけであって…」
真美「あっ、焼き芋売ってるー!!」ぴゅーっ
小鳥「………」
小鳥「鍋特集かぁ…少し気が早いような気もするけど」トマトは無しね
小鳥「…でもまぁ、実際私みたいに鍋してる人もいるわけだし…」
小鳥「カレーだったら…ウィンナーとかもいれてあげようかな」
小鳥「えっ、今日ポイント3倍だったの?!」
小鳥「うぅ…こんなことならポイントカード持ってくるんだった…」
小鳥「えーっと…もやし、もやしはっと…」
「………」
小鳥「……いや、待った。確か、まだ家にあった気がするわ」くるっ
「……!」
小鳥「えっと次は…」
「………」
「うっうー…」
真美「………」
小鳥「…真美ちゃん、その手に持っているのは何?」
真美「食玩」
小鳥「返してきなさい」
真美「お願いっ!これ、真美ん家の近所には人気でもうないんだ…すっごくレアなんだよ?!」
真美「うぅ…お願い、可憐で清楚な美人事務員のピヨちゃん…」
小鳥「………」ぴくっ
真美「(もう一押し…)よっ!出来る事務員!あんたあっての765プロ!日本一!」
小鳥「……はぁ、も、もぅ、しょうがないわねぇ」
真美「…チョロいね」ぼそっ
小鳥「何か言った?」
真美「いえ、何も」
真美「こっ、これくらいへっちゃらだもん!」
小鳥「そう…?私がそっちの袋持ってもいいけど…」
真美「へーきだよ!」
小鳥「うふふ、ありがと」
真美「………」
小鳥「………」
小鳥「ん?」
真美「…………手、繋いでもいい?//」
小鳥「……//」きゅん
小鳥「……はい、どうぞ」そっ
真美「う、うん…//」ぎゅ
小鳥「!そう、そうなのよね~…やっぱり、仕事も増えてきたからか顔つきもしっかりしてきたっていうか…」
真美「うあうあ→ピヨちゃんが熱いよ→」
小鳥「えぇっ?話をフってきたのは真美ちゃんじゃない…!」
真美「えっへへー」
…ソウソウ、ソレデリッチャンガネー
ヘェー、ソウナノー
ソシタラハルルンガ…
ーーーーーーーーーーー
ーーーーーーー
ーーーー
ーー
ー
小鳥「こらこら、靴ぐらい揃えなさーい!」
小鳥「もぅ、まったく…」
小鳥「………」
小鳥(……でも、こんな形ではあるけれど)
小鳥(家に帰った時に一人じゃないっていうのは…)
真美「?はーやくぅ」
小鳥「はいはい」
小鳥(…うん、良いものね)
真美「了解!」
小鳥「………」とんとんとん
小鳥「……あ、厚揚げってまだあったかしら……」がちゃ
小鳥「うっ、危ない危ない…明日までだ…」
小鳥「…カレーに厚揚げって合うかしら…」とんとん
小鳥「…あーゆれでぃー♪あいむれいでぃー♪」とんとん
小鳥「ふんふふーん…」とんとん
小鳥「……あっちは上手くやってるかしら?」ちらっ
真美「あれ?これってこっちから開け…うあうあー!こちら側のどこからでも切れないよ→!わわっ、汁が飛びちったぁ→!」
小鳥「……;」
真美「真美のおかげだね!」
小鳥「えぇ…?」
真美「何さー、文句あんのー?」
小鳥「いいえぇ別に?」
真美「むー」
小鳥「えっ?ど、どうして?」
真美「鍋が出来るまでやろーよ!…この辺かな?」
小鳥「あっ…!ちょ、ちょっと待ってその棚は…!」
ガチャガチャガチャー
真美「………」
小鳥「………」
真美「…いっぱいあるね」
小鳥「……//」
小鳥「ふぅ…美味しかった」
真美「ひっさしぶりに鍋したなぁー。美味しかったー」
真美「……この鍋は…星みっちゅ!」
小鳥「あはは…微妙に似てる」
真美「でしょ?家族にも真美のモノマネは似てるって定評があるんだー」
真美「次のあみまみちゃんでやろうかな」
小鳥「…そ、それはプロデューサーさんにも聞いてみないと」
真美「んー…まぁまぁくらいかなー」
小鳥「まぁまぁかー…」
小鳥「…カレーなら…きっとチーズが良いわよね」
小鳥「よし」ことっ
つパルミジャーノチーズ
真美「………」
真美「………」
小鳥「ほっ」チーズふぁさ~
真美「………」
真美「……ピヨちゃん、じっぷ見てるでしょ」
小鳥「えっ?!どっ、どどどどうしてそんなことを…?!」
真美「いや…」
真美「うん」
真美「…でもオリーブオイルは無しだったね」
小鳥「そ、そうね…」
真美「思ってるほど万能じゃないよ、アレ。お母さんも言ってた」
小鳥「き、気をつけます…」
小鳥「はぁ、楽しかったけど疲れた…」じゃああ
小鳥「……子供ができたら、毎日こんな感じなのかしら……」がちゃがちゃ
小鳥「主婦って大変…」ごしごし
小鳥「………」ぴたっ
小鳥「はぁ…」きゅっ
真美「ピヨちゃーん、バスタオルどこー?」
小鳥「?!ちょっ…!だからって何も裸で出てくることないでしょう!」バタバタ
真美「だって~」
小鳥「…うわ、このバラエティ、ちょっと酷いわね…大体MCが」ぶつぶつ
真美「ピヨちゃん」
小鳥「…今度はどうしたの?」
真美「…いや、その」
小鳥「?」
真美「一緒に…入らない?」
小鳥「え、入るって…え?お風呂に?」
真美「……うん」
小鳥「………」
真美「………」
小鳥「…う、うちのお風呂狭いから…」
真美「…嫌なの?」
小鳥「はぁぁ…良い気持ち♪これは確かに心の洗濯だわぁ…」
小鳥「……なんとか、真美ちゃんを説得出来て良かった」
小鳥「あんまり…今の体型見られたくないし」つんつん
小鳥「…それを他の娘達に言いふらされたりして、それがプロデューサーさんの耳にまではいったりしようものならもう…」
小鳥「……//」ぶくぶく
小鳥「…ぷはっ、そういえば真美ちゃん、明日の昼からお仕事あったわよね」
小鳥「午前中にはお家に帰してあげなきゃ…」
ガラッ
真美「頼もう!」
小鳥「?!きゃあぁぁぁぁ??!!」
真美「ざま→みろ!」
小鳥「どうしてそんな誇らしげなのよ…」
真美「でねでね?真美、これがやりたい!」すっ
小鳥「!これ…格ゲーね。…ふふん、後で後悔しても知らないわよぅ…?」
真美「その間抜けなクチバシへし折ってやるぜ!」
小鳥「んなっ…!」
真美「…ぐあーっ!また負けたーっ!」
小鳥「まだまだ甘いわね」
真美「ピヨちゃん無駄に強いよ!何で?!」
小鳥「そっ、それは…」
小鳥(一日ほぼ丸々使ってやってたこともあるから、なんて言えない…)
真美「ピヨちゃんもうそのキャラ使うの禁止ね!」
小鳥「ふふっ、いいわよ」
小鳥「………」ぴっぴっ
真美「………」かちゃっ
小鳥「………」ぴぴっ
真美「ぐあーっ!また負けた!もーっ!もーっ!」
小鳥「!こっ、こら!コントローラー投げちゃ駄目ぇーっ!」
小鳥「………」ぴぴっ
真美「……真美ね」かちゃ…
小鳥「?えぇ」ぴっ?
真美「……時々…不安になるんだ。亜美に…置いてかれちゃうんじゃないかって」
小鳥「…!」
小鳥「…そっか」
真美「亜美、竜宮小町としてでびゅーしてから、お仕事すっごく増えてるでしょ?それなのに、真美は今日みたいに何にも無い日だってあるし…」
小鳥「それは亜美ちゃんだって同じよ…今日はたまたま」
真美「わかってる…!それはわかってるんだけど…」
真美「…でも、やっぱり不安になっちゃうんだ」
小鳥「それは、真美ちゃんが亜美ちゃんと離れたくないからよ。ずっと、一緒にいたいから」
小鳥「本当は、亜美ちゃんを応援してあげたい気持ちでいっぱいなの。違う?」
真美「……ピヨちゃんは何でもお見通しなんだね」
小鳥「くすっ…これでもみんなの事、よく見てるつもりなのよ?」
真美「……真美、亜美のことは本当に応援してるんだよ?でも、それ以上に…二人で、一緒に頑張りたいんだ」
真美「え?」
小鳥「プロデューサーさんを…みんなを信じて、自分のペースで頑張っていけばいいの」
小鳥「あの娘に負けたくない、ずっと一緒にいたい!っていうのはみんなが思ってることだと思うから…」
真美「………」
小鳥「…だから、焦る必要なんて無いの。私から見れば、真美ちゃんと亜美ちゃんの差なんて全然無いわよ?」
小鳥「ホントよ。仮にも事務してる私が言うんだもの、間違いないわ」
真美「……そっか…」
小鳥「…明日…ちゃんと亜美ちゃんと仲直りするのよ?」
真美「うん!ちょっと…元気になれたよ。ありがとうピヨちゃん」
小鳥「どういたしまして♪」
真美「よーしそれじゃ→景気付けにもう一戦だ→!」
小鳥「えっ!そ、そろそろ他のゲームにしない…?」
小鳥「ふぁ…あ、もうこんな時間…」かちゃ…
小鳥「…ねえ、真美ちゃんそろそろ寝…」
こてん
小鳥「へっ?」
真美「…zzZ」すぴー
小鳥「………」くすっ
真美「…zzZ」すやー
小鳥「…そうよ、まだ中学生なんだもの。色んなこと思って、当然よね」よしよし
真美「…ん、んぅ…」
真美「……お母さ…」すや
小鳥「………」
小鳥「…ふふ、可愛いなぁ」
小鳥「………」
小鳥(…写メっちゃお)ぱしゃ
ガチャ
小鳥「ただいまー。ふーっ…今日も疲れたーっ」
しーん…
小鳥「………」
小鳥(……やっぱり、昨日あれだけ騒がしかった分、いつも以上に部屋が静かに感じちゃうわね)
小鳥「…私もそろそろ潮時かなぁ…」
ぴんぽーん
小鳥「…前に注文してた本が届いたのかな。それにしては少し早いような…」
小鳥「はーい今開けまーす」
ガチャ
亜美「やっほー」
小鳥「………」
パタム
ガチャ
亜美「もー!何で閉めんのー!」
小鳥「え、えーっと…?」
小鳥「…亜美ちゃん?どうしてここに…」
亜美「どうしてってもー、ピヨちゃんはにぶちんさんだな→」
小鳥「にっ、にぶちんって…」
小鳥「ま、真美ちゃん?!こ、これは一体…」
真美「だって…亜美に昨日のこと話したら、亜美も来たい→って言うから…連れてきちゃった」
小鳥「つ、連れてきちゃったって…」
真美「まぁまぁ、いーじゃんいーじゃん減るもんでもなしー」
小鳥「私の精神は今確実にすり減っているけど…」
亜美「そゆわけでピヨ©、YO・RO・SI・KU〜♪」
小鳥「……え、えぇ〜…?」
亜美「ホントー?!」
真美「うんっ、ほら、こないだやりたいって言ってた…」
キャーキャー
小鳥「あはは…」
小鳥「………」
小鳥(……でも、ちゃんと仲直り…出来たみたいね。良かった)
亜美真美「「よーし、そうと決まれば…とっつげきぃ→→!!」」
小鳥「あっ…?ちょっ、こらっ…!待ちなさーーいっ!!!」
おわり
お姉さんピヨちゃん最強。
無駄に時間を空けてしまい申し訳ない。今からシャイニーフェスタ買ってくる。
ではノシ
Entry ⇒ 2012.10.26 | Category ⇒ アイマスSS | Comments (0) | Trackbacks (0)
P「真美に甘え癖がついた」
真美「めろめろにしてやるっしょー!」
P「あ、そうだ。ちょっと俺やることがあるから行きは律子に頼んである」」
真美「え?」
P「ま、帰りは迎えに行くから」
ギュッ
P「……真美?」
真美「……やだ」
P「お、おいおいそんなこと言われてもな……」
真美「兄ちゃんに送ってもらわなきゃ、真美やる気でないもん」
P「そんな子供みたいなこと……」
真美「まだ子供だもん!」
P「はぁこういうときばかり……わかった、最低限終わらせるからちょっと待ってろ」
真美「え、ホント!? う、うん! 待ってる!」
P「順番なんだから仕方ないだろ? まあそんなに長くならないし適当にくつろいでていいぞ」
真美「いいの? それじゃ、これっしょ!」
P「なっ! お前いつの間にゲームを……」
真美「甘いよ兄ちゃん、真美はいつでもゲームを持ちある……くしゅん!」
P「どうした? 風邪か?」
真美「ち、違うよちょっとくしゃみが……くしゅん!! う¨ー……」
P「あーあー、ほらティッシュだ」
真美「……んー」
P「……え?」
真美「んーんー」
P「……ほら、ちーん」
真美「ちーん!……ふぅ」
P「全くそれくらい自分で……」
真美「いいじゃん別に~!」
真美「え? なんで?」
P「くしゃみしてたし、どうせ夜更かししてたんだろ?」
真美「むっ、なぜわかった……」
P「というか、よく見たら顔色悪いし……熱は……ないよな」
真美「んっ……」
P「ちょ、へ、変な声だすなよ!」
真美「だって兄ちゃんの手、冷たくて気持ちいんだもん」
P「……真美としてはどうなんだ? 本当に大丈夫なのか?」
真美「……ちょっとだけ寒いかも」
P「困ったな……引き始めか肝心だろうに上着も持ってきてないぞ……」
真美「それじゃ、さ。兄ちゃんがあっためてよ」
P「……は?」
真美「……ダメ?」
P「……」
P「……これ、本当に大丈夫なのか?」
真美「なんで? いいじゃん兄ちゃんセーター!」
P「いや、その……誰か来たら、とか」
真美「むー……兄ちゃんは何か悪いことでもしてるの?」
P「そ、そんなことはないぞ! うん、これは大切なアイドルの体調管理だ! うん!」
P「……だからといって、プロデューサーの膝に座るアイドルもどうなんだ」
真美「普通っしょー」
P「まあ、それならいいんだが……」
真美「もー兄ちゃん! もっとちゃんとギュッとして!」
P「あ、あぁ」
真美「……兄ちゃんのにおいだ」
P「ば、ばか! 嗅ぐな! ……臭くないか?」
真美「ぜんぜーん、むしろ癖になっちゃうかも」
P「お前なぁ……そういうことをよくもまあポンポンと……」
真美「……」
P「どうした?」
真美「もっかいギュッてしてくれたら、降りるよ」
P「……お前なぁ。まあいい、これで」
クルッ
真美「……前から」
P「っ!」
真美「いいでしょ、兄ちゃん?」
P「……こ、今回だけだからな」
真美「うん」
ギュッ
真美「えへへ……さっきより兄ちゃんの匂いすごいや」
P「だ、だからそういう……」
ストッ
真美「よいしょっと……そんじゃ、行ってくるねー!」
小鳥「あら? 何かあったんですか?」
P「あ、音無さん。いえ実は……」
小鳥「なんと……でも嬉しいじゃないですか。懐かれるって」
P「そうなんですけど、なんていうか……甘えられてると言いますか」
小鳥「ふむふむ」
P「いつもみたいに激しく絡んでくるわけではないんです。妙にしおらしくて、子供っぽくて……」
小鳥「そういうことですか~。でもそれって真美ちゃんはそういう風に扱って欲しいんじゃないですか?」
P「……と言いますと?」
小鳥「亜美ちゃんは忙しいですし、それでもアイドルとして毎日頑張って本来なら中学生なりたてだっていうのに」
P「確かに小学生の頃からやってますからね」
小鳥「きっと、童心に戻りたい。っていうと変かもしれないですが、きっと。それもプロデューサーさんだからだとは思いますよ?」
P「なるほど、だから今になって甘えだして……まあそういうことなら少しは大目に見てあげようと思います」
小鳥「それがいいですよ! でも、甘えられすぎて手、出さないでくださいよ~?」
P「なっ! ま、まさか! ……それじゃ、迎えに行ってきます」
P「おぉ、お疲れ様」
真美「今日もばっちし、って感じ!」
P「それはよかった」
真美「……兄ちゃん、どうかした?」
P「え? 別に何もないぞ? それじゃ、帰るか!」
真美「それじゃ、手繋いで帰ろうよ」
P「て、手? 車すぐそこだぞ?」
真美「ダメ?」
P「ダメじゃないんだが……」
真美「……じゃいいや」
P「……真美?」
P「……」
真美「……」
P「……なぁ、真美」
真美「ん?」
P「その、さ。もう体調は大丈夫か?」
真美「あ、うん。もう平気~」
P「そうか、それはよかった」
真美「兄ちゃんにあっためてもらったおかげかな……」
P「なっ……やっぱり大丈夫か? その、いつもの真美らしくないって言うか」
真美「……兄ちゃんはいつもの真美の方が好き?」
P「い、いやそういうわけじゃないぞ」
真美「そっか、そうだよね……」
P「……真美」
P(いつもならば、真美のこと好きなんでしょー? ほらほらー! だとか)
P(おちゃらけた感じなのに、今はそれを感じない)
P(嫌味でもなくただ俺に甘えてくれてる。それならまだ嬉しいけれど)
P「……真美、いいか」
真美「うん?」
P「俺はお前のことが大切だから。これから変なことを聞くぞ」
真美「……うん」
P「何かあったのか?」
真美「それ、変でもなんでもないじゃん」
P「え? あ、いやそのだな……真美がいろいろ悩んでるものと思って一応……」
真美「……どうなのかな。わかんない」
P「真美?」
真美「もう、事務所着いた?」
P「え? あ、本当だ」
P「あぁ、今日はもう何もないし報告したら帰っていいぞ」
真美「ねぇ、兄ちゃん」
P「なんだ?」
スッ
真美「手」
P「……」
真美「兄ちゃん」
P「……誰かに見られでもしたら大変だろ?」
真美「……」
P「だから……事務所の前までな」
真美「う、うん!!」
P「って真美、手離してないじゃないか……」
真美「誰もいないんだし、別にいいじゃん」
P「ま、まあそうだけど……なんでそんな」
真美「えへへ……兄ちゃんの手、こんなにおっきかったんだ」
P「……一回、腕相撲した時同じことを言われた気がするな」
真美「あ、あの時とは違っ……」
P「え?」
真美「……なんでもない」
パッ
P「ん……そうか」
P「……よくわからないが、困ったときは言ってくれ。俺でよかったら相談に乗るから」
真美「……ホント?」
P「俺が約束を守らなかったことあるか?」
P「え、い、いつだ!」
真美「んー……真美も忘れちゃった!」
P「なんだよ……」
真美「……それじゃ、真美帰るね」
P「あ、あぁ」
真美「……じゃ」
P「あぁ、気を付けてな」
真美「……」
バタン
P「……年頃、ってやつなのかねぇ」
P(嫌と言うわけにもいかず、でも俺と二人の時だけ)
P(だがそうはうまくもいかず)
真美「それでね、亜美が~」
ガチャッ
亜美「おはー! 真美と兄ちゃんか……ってあれ?」
真美「……亜美」
P「い、いや亜美これはその……」
亜美「……」
亜美「もー、手なんて握っちゃって。流石は真美、兄ちゃんにメロメロですなぁ~」
真美「なっ! ち、違うもん! 亜美のバカ!!」
亜美「ば、馬鹿って何さ! いいもん、それじゃ言いふらしてやる!」
バタン
真美「……勝手にすればいいじゃん」
P「お、おい……」
P「なんだ?」
真美「真美が困ってたら、助けてくれるっていったよね」
P「あぁ、言ったな」
真美「……じゃ、ギュってして」
P「え? でも事務所で、また誰が来るか……」
真美「もう、いいの。亜美がどうせ……だから」
P「……でもさ」
真美「……にぃちゃぁん」
P「……ほら」
コクン
ポスッ
真美「……この匂い、久しぶり」
P「……」
真美「……ぐすっ、うっ、うわぁあん」
P「……落ち着いたか?」
真美「う、うん……ごめん、兄ちゃん……服グショグショで」
P「いいんだ、これくらい洗えばなんてことない」
真美「……バカ」
P「亜美か? 亜美だって、つい言い返したくなっただけだろう、気にするな」
真美「……違う」
P「ん?」
真美「……兄ちゃんだよ」
P「……俺? な、なんで?」
真美「なんで、なんでそんなに優しいの……?」
P「……真美が大切だから、だろうな」
真美「……うん。そうだよね……それじゃ、真美帰るね?」
P「……あぁ、亜美と仲良くするんだぞ」
バタン
真美「おはよ、兄ちゃん」
P「……亜美とは、仲直りしたか?」
真美「……うん。でも、まだ言ってないこともある」
P「言ってないこと?」
真美「あの約束、もっかい使う」
真美「全部、全部聞いてくれる……?」
P「あぁ、聞くよ」
真美「真美、兄ちゃんとお仕事して、みんなと遊んだりしてめっちゃ楽しいけど」
真美「亜美とどんどん離れて言っちゃう気がしてさ」
真美「アイドルになって、みんな周りは年上のお姉ちゃんばっかりだから話もついてくの難しいし」
真美「亜美と比べて、真美はまだまだだったから。……子供じゃないのに、子供のままだって思って」
P「……なるほど」
真美「でも、兄ちゃんは真美の方が近くにいるから」
真美「兄ちゃんといるときは、違う”真美”で……いつもより、甘えてみようって思ったの」
真美「それに兄ちゃんにも無理させてる気がして……」
P「……」
真美「手を握ってもらうと、不思議な気持ちになったんだ」
真美「本当にあったかくて、なんか胸のもやもやが消えるっていうか……」
真美「でも、亜美に言われたみたいな好きとは違うの」
真美「兄ちゃんのこと、好き。大好きって言えるけど」
真美「……ちゃんと言うのは、無理、かも」
真美「真美、自分でもなんの好きかわかんなくて……」
真美「兄ちゃんは兄ちゃんだから。兄ちゃんが、真美の兄ちゃんじゃなくなったら……絶対やだから」
真美「……好きじゃないって、ずっと思ってたし」
真美「わざわざ言いたくもなかった……でも」
真美「昨日亜美から言われたんだ」
P「亜美が?」
真美「……ただいま」
亜美「……おかえり」
真美「……」
亜美「その、真美……?」
真美「ごめんね、亜美」
亜美「え?」
真美「……やっぱり、真美だけずるいよね……皆の兄ちゃんなのに」
亜美「ちょ、ちょっと待ってよ! 急に何の話?」
真美「あ、ご、ごめん……」
亜美「……亜美も、ごめんね。ただふざけただけだったんだよ?」
真美「うん、わかってる。でも、真美子供みたいに言い返したりして……」
亜美「兄ちゃんと何かあったの?」
真美「……」
真美「……だから、さっきも」
亜美「……でも、多分それあれだよ」
真美「あれって?」
亜美「恋、みたいな」
真美「……」
亜美「あ、あれ?」
真美「やっぱりそうなのかなぁ……」
亜美「亜美は兄ちゃんのこと、兄貴~!みたいな感じだけど、手とかわざわざ握って欲しいとか思わないっていうかさ」
亜美「何かわかんなくても、きっと亜美の好きとは違うと思うんだよねー」
真美「そっかー……」
亜美「……なんか全部しゃべっちゃえば? 兄ちゃんに」
真美「え、えぇ!? む、無理だよそんなの!」
亜美「言ってもなんでもなかったらたださみしかったってことだし、恥ずかしくなったら恋しちゃってるってことで!」
真美「も、もう……他人事だと思って……でも」
――
P「なるほどな……よく言ってくれた」
真美「真美、怖かった……もう、兄ちゃんとふざけたりできなくなっちゃうのかと思ったら……」
真美「でも、言えてよかったって思うから」
P「……俺が思ってた以上に真美は子供で、大人だったんだな」
真美「え?」
P「正直、そこまで思い詰めてるとは思ってなかった。だから、俺のせいでもある」
真美「そ、そんな! 兄ちゃんのせいじゃ!」
P「いいや。どうあれ泣かせてしまうまで気付いてやれなかったのは本当だ」
真美「兄ちゃん……」
P「……最初、真美が甘えてきたとき何かとおもった。まあ正直また変なイタズラでも考えたのかと」
真美「……むー」
P「ま、まあでも真剣なのがすぐにわかって、でもそれが逆に不思議でな」
P「何か悩みがあるのか、って思ってただけで何もしなかった」
真美「……」
P「そんなふうに思ってた自分が情けない……」
真美「兄ちゃん……でも、真美は兄ちゃんのおかげで……」
P「あぁ、そういってもらえると俺も嬉しい。でも、やっぱり俺からお詫びがしたい」
真美「……何?」
P「……その、なんだ」
真美「?」
P「……また、いつでも頼ってくれ。甘えてくれてもいい」
P「だから、許してくれるか?」
真美「……あったりまえじゃん! バカぁ!! う、ぐすっ……」
P「あ、お、おい泣かないでくれよ……」
真美「し、知らないもん……ひっく……兄ちゃんが泣かせたんだかんね……」
真美「……真美、わかっちゃったから。自分の気持ち」
真美「責任、とってもらうっしょ……!」
P「ゆ、許すのか許さないのか……ま、まあいい。何が望みだ?」
P「……え?」
真美「……今の、ぜええええったいに忘れちゃダメだから! わかった!」
P「真美……? あ、あぁ……」
真美「……よし! もういつもの真美に元通りだから! 覚悟しててよね、兄ちゃん!」
P「……あはは、やっぱりそっちの方が真美らしいな」
真美「えへへ、そうでしょ?」
真美「そんじゃ今日も、張り切っていってみよー!!」
真美「次甘えるときは覚悟しててよね、兄ちゃん? んっふっふ~!」
完
良かった
Entry ⇒ 2012.10.26 | Category ⇒ アイマスSS | Comments (0) | Trackbacks (0)
咲「エロゲーって楽しいよね!」
シロ「今年もあと2週間かぁ……」
エイスリン「イチネン、スギルノハヤイ!」
豊音「今年はちょー楽しかったよー!」
エイスリン「ウン!」
塞「全国大会では準々決勝敗退だったけど、いい思い出になったよね」カチッ
胡桃「さっきから気になったんだけど、塞はさっきからノートパソコンで何してるの?」
塞「ちょっとね」カチカチッ
胡桃「別にいいけど」
http://ssweaver.com/blog-entry-1836.html
洋榎「エロゲしてる所を絹に見られてしもた……」
http://ssweaver.com/blog-entry-1845.html
菫「エロゲしてる所を宥に見られた……」
http://ssweaver.com/blog-entry-1848.html
竜華「怜、今日もエロゲをするで!!」 怜「ファンディスクや!」
http://ssweaver.com/blog-entry-1852.html
照「エロゲしてる所を咲に見られた……」
http://ssweaver.com/blog-entry-1875.html
今作がシリーズ最終回となります。
※余談ですが、今作は今までの2倍近いテキスト量となってしまいそうです。
今現在も書き留めが半分近くまでしか出来ていないため、
一旦保守して貰って後半は明日投下、という事もご配慮をして頂けますようお願い致します。
エイスリン「オオミソカ……?」
豊音「1年の終わりの日、12月31日の事だよー」
胡桃「私は何の予定もないよ」
エイスリン「ナイヨー!」
シロ「じゃあさ、初詣に行かない?」
豊音「初詣!?ちょー面白そうだよー!行く行くー!」
胡桃「去年も行ったけど、去年は3人だったからね」
シロ「うん、今年は5人で行こうよ」
エイスリン「サンセー!!」
塞「あ……私は……」
塞「うん……ごめん、家族でおじいちゃん家に行く事になってて……」
豊音「えー!じゃあ塞ちゃん行けないのー?」
塞「うん……だから皆で楽しんでおいでよ」
エイスリン「デモ……」
シロ「んー……どうでも行けないの?」
塞「うん……ごめんね、私に構わず4人で楽しんできて?」
塞(私も本当は皆と初詣に行きたかったけど……)
………
……
…
塞「え?千葉に?」
塞母「ええ、今年は千葉のおじいちゃん家で年越しをする事になってね」※当SSでの設定です
塞「年越しって……大晦日だよね?いつから?」
塞母「そうねぇ……31日は移動の疲れをゆっくりと癒したいから……」
塞母「――30日の昼かしら」
……
…
塞(もしかしたら31日にコミマへ行く事が出来るかもしれない……)
塞(岩手から東京に行くのは交通費がかかりすぎるから、行く機会は無いと思ってたけど……)
塞(お母さん達と千葉に行ったら、かかる交通費は片道千円と少し……)
塞(二度とこんなチャンスはやってこない)
塞(皆には本当に申し訳ないと思うけど)
塞(私はコミマに行くんだ……!)
シロ「……塞?」
塞「ふぎゅっ!?な、なに?驚かさないでよ!」
シロ(ふぎゅって……)
シロ「もう部室閉めるよ、帰ろう」
塞「あ、う、うん、すぐ行くよ」バタム
恭子「主将、もうすぐコミマやけど、何日目に行くんです?」
洋榎「うちは初日で考えとるけど」
由子「企業の物販目当てなのー?」
洋榎「せやな、同人の方はあんまり興味あらへんし」
洋榎「恭子と由子はいつ行くんや」
恭子「私は最終日に」
由子「私もよー」
洋榎「最終日とか創作とエロしかあらへんやろ……エロ同人でも買うんか?」
由子「あ、あはは……」
恭子「……でも主将、見てないんですか?」
洋榎「なんのことや」
恭子「これですよ」」
洋榎「なんやこれ……第1次スーパーヤエシュリー大戦……?」
恭子「主将が大好きな”ヤエシュリー”シリーズのキャラクターが戦う同人ゲームが最終日に出るんですよ」
洋榎「な……なんやと……!」
洋榎「こ……こんな同人ゲーム全然チェックしておらへんかった……」
由子「それが今回のコミマ限定らしいのよー」
洋榎「な、なんやて……!」
恭子「ええ、せやからどうしても手に入れるとなると、この最終日に行くしか無い訳です」
洋榎「……せ、せやけど、初日から3日目まで滞在する程の余裕は無いで……」
由子「最終日のみに行けばいいのよー」
恭子「そうなりますね」
洋榎「し、しかし、それやと企業行ってから西回ったんやと間に合わないんとちゃうか?」
由子「そうなのよー、しかも今回はかなり数を絞ってるらしいよー」
恭子「そこで、ひとつ相談があるんですよ、主将」
洋榎「……?」
……
…
洋榎「なるほど……な」
洋榎「確かにそれなら行けない事もないかもしれへんが……」
恭子「問題は、3人だと厳しいところですね……」
由子「あと一人いればいいのよー」
洋榎「……」
洋榎「……絹に頼んでみよか」
恭子「えっ、絹ちゃんですか?」
由子「で、でも絹ちゃんは確か……」
洋榎「心配ないで、絹ならきっとやってくれるで」
洋榎「今じゃあ絹も、うちとアニメ談義をするくらい……」
洋榎「一騎当千の戦士やからな――」フフッ
竜華「今年もあと2週間やなぁ」
セーラ「せやなー、なんだかんだ言って充実した1年やったわー」
怜「せやけども、まだ最後の戦争が残っておるわ」
竜華「戦争?」
怜「冬コミや」
セーラ「ふゆこみ?なんやそれ」
怜「なんや知らんのか」
怜「コミックマート、世界最大の同人誌即売会にして世界が誇る最大のオタクイベントや」
竜華「なんやそれ!そんなんあるんか!」
怜「東京ビッグサイトで12月29日から31日までの3日間、最大56万人もの来場者が一箇所に集まるんや」
セーラ「56万人!?」
セーラ(ってどれだけ凄いかわからへん……)
怜「勿論や」
竜華「ならうちも行きたい!」
怜「え、で、でも1日だけでも18万人近く集まるっちゅーし、むっちゃ人ごみやで……?」
竜華「だからこそや!そんな所に怜を一人で行かせるなんて、心配やで!」
セーラ「とか言うても、ホントは竜華がただ行きたいだけやないんのー?」
竜華「ちょ、セーラ!!」
怜「ははは、でも竜華が居てくれると正直助かるわ」
怜「一緒に行こか」
竜華「怜……うん、行こ!!」
セーラ「おいおーい、俺も忘れたらアカンでー!」ハハハ
怜「基本的には、同人誌即売会……オリジナルの漫画や小説を公開して販売するのが主なんやけど」
怜「今のコミマっちゅーんは、アニメやゲームを題材をした二次創作の漫画を販売したり」
怜「私らみたいな素人クリエイターが集って作ったゲームを販売したりするイベントやな」
セーラ「うおー!俺らみたいなんが、ゲームを作って販売しとるっちゅー訳やな!」
セーラ「むっちゃ面白そうやん!」
怜「それだけやない、企業ブースではエロゲブランドのグッズ販売も行なっとるんや」
怜「参加者の半分以上は企業目当て……まぁ私も”アコス”のグッズ目当てなんやけど」
セーラ「”アコス”のグッズとか、そんなんもあるんかー」
怜「せや、しかもコミマ限定販売やから、この機会を逃すと二度と手に入らへん」
竜華「も、もしかして……”きらめそふと”のグッズとかもあったりするん?」
怜「あるやろな、確か……」ガサガサ
竜華「”きらめそふと”……っと、何々……クロチャー抱き枕カバーにイケニャー人形……!?」
竜華「他にも、”麻雀で私に恋しなさい!”のコークスクリューセットとシャープシューターセットやて!!?」
竜華「なんやこれ!!めっちゃ欲しい!!」
怜「ただ、企業は早めに並ばんとすぐ売り切れてまう」
怜「本気で狙うなら始発で並ばんときついで」
セーラ「始発て……朝の5時とかやろ?」
怜「せや、それでもマナーの悪い徹夜組が大勢並んどるんや」
怜「人気のあるブースなんかは、下手すりゃ始発でも間に合わへん」
怜「それでも行くんか?」
竜華「……それでも!」
竜華「それでも、うちは行くで……!」
怜「……そか!」
怜「えっ」
セーラ「あー、俺は29日に予定があるなー30日なら行けそうやけど」
怜「え、ちょっ」
竜華「30日の午後からなら空いてるんやけど……」
怜「……」
怜「じゃあ行くのは最終日にしよか……」
竜華「ええの?」
怜「30日の午後に大阪を出発し、東京のホテルに泊まる事にしよ」
怜「セーラもそれでええ?」
セーラ「おう、それなら行けそうや」
竜華「了解や!」」
セーラ「どうせならそのまま東京で年越しするのもええな」
竜華「せやな!そーしよや!」
怜「はは、それも悪くないかもな」
――ス○イプのとあるグループチャット――
――とあるネット掲示板で知り合った数人の猛者達が――
――互いに集い語り合う 淑女達のグループチャットである――
ひろぽん:おるかーー?
塞:えっ?
ひろぽん:よーし、おるな!
トキ:ここやで (トントンッ
ピカリン: 西 濃 は 神
牛乳:なんなのこれもー
かじゅ:気にしたら負けだ
巫女みこカスミン:あら?珍しくフルメンバーですね
舞Hime:そういえばそうやね
トキ:珍しいなぁ
ひろぽん:いやー実はコミマに行くのが最終日になってもうてな
トキ:なんやひろぽんもなんか、私も急遽3日日に行く事になったんよ
塞:あ、私も最終日のコミマに行く事になりました
ピカリン:おお
かじゅ:塞さんは確か行かないはずだったんじゃないのか?
塞:実は岩手に住んでるんだけど、30日に千葉のおじいちゃん家に行く事になってね
塞:ついでにコミマも行こうかなって
かじゅ:……これはまさかのオフ会が実現できそうだな
牛乳:オフ会?
巫女みこカスミン:なんだから面白そうな話になってるわねー
舞Hime:私もオフ会に参加してみたいとよ
巫女みこカスミン:そうねぇ コミマに行く予定はないけどオフ会があるなら行こうかしら
牛乳:私もオフ会があるなら行ってみたいですね
舞Hime:私もよ
かじゅ:他の皆はどうだ?
ひろぽん:せやな、オフ会っちゅーんも悪くないな
トキ:うちもや、他の皆と会うてみたいしな
ピカリン:私も望むところ
かじゅ:決まりだな
かじゅ:詳しい日時と場所は、私の方で決めても構わないか?
巫女みこカスミン:任せるわ
トキ:かじゅなら心配あらへんやろ
ひろぽん:やな 楽しみや
………
……
…
恭子「お、来ましたね新幹線」
洋榎「N700系のぞみ、東京行きやな」
絹恵「降りるのは品川駅やったっけ?」
恭子「ええ、品川で降りてJR山手線に乗り換えて五反田駅で降ります」
恭子「五反田駅から徒歩数分、大崎駅から徒歩10分の所にホテルを2人2部屋予約しております」
恭子「東京ビッグサイトへの行き方は、大崎駅からりんかい線に乗れば国際展示場駅まで1本です」
由子「さすが恭子なのよー」
洋榎「ホンマ、こういう時は助かるで」
恭子「いえいえ、では乗りましょう」
セーラ「東京行きの新幹線がキタデー」
竜華「いよいよやね」
怜「こうして東京に新幹線で行くのは初めてやな」
竜華「せやねー、大会とかは全部バスやったし」
セーラ「確か、品川ってトコで降りるんやろー?」
怜「せや、品川で降りてJR東海道本線に乗り換え、1駅行った所の大井町駅で降りや」
怜「大井町駅から徒歩数分の所にホテルを3人1部屋予約してある」
怜「国際展示場までりんかい線で1本行ける絶好のポジションや」
竜華「さすが怜やな!」
セーラ「ほな、早速新幹線に乗るデー」
ゆみ(予算は高くついたが……場所的にもいいホテルを確保できた)
ゆみ(国際展示場まで1本、ここからなら始発ですぐに着く)
ゆみ(出来れば、明日行く前に一度会場を見て回りたいところだが……)チラッ
ゆみ(時間は……13時か、今から行けば2時間は見て回れるな)
ゆみ(とすれば、やる事はただひとつ)
ゆみ(会場の構造を直に確認し、最適なルートを考える事だ)
ゆみ(早速、出発するとしよう)
塞爺「おお、よくきたのぉ」
塞母「しばらくお世話になるわね」
塞爺「よかよか、塞も大きくなったのぉ」
塞「お久しぶりです、おじいちゃん」
塞爺「疲れただろう、今日はゆっくりしていきんしゃい」
塞「はい」
塞(とりあえず今日はゆっくりしよう)
塞(電車の時刻表も大丈夫、オフ会の開催地もチェック済み)
塞(あとは明日を待つだけだ……!)
小蒔「あら、霞ちゃん。これからお出かけですか?」
霞「ええ、少しばかり……東京に行ってくるわね」
初美「東京ですかー!私も行きたいですー!」
霞「ふふ、ごめんね。今回は私用なの」
春「ざんねん……」
小蒔「そういえば……巴ちゃんも東京に行くって言って、今朝出かけていきましたけど」
小蒔「一体何の用があるんでしょう」
初美「二人してずるいですー!」
霞「巴ちゃんも?」
霞(まさか……そんな事は無いわよね)
哩「……」
哩(もうすぐ搭乗開始時間)
哩(そろそろ準備しとかんと)ブルルッ
哩(なん……?メールが来とる……姫子か)
哩(「明日の大晦日一緒に過ごしませんか」)
哩(すまんな姫子、今日明日は用事があるんね)
哩(近いうちに埋め合わせするから、堪忍な)
哩「……」ピッピッピ
美幸「さ、さすがに早く着き過ぎちゃったかなー」
美幸(まだ前日の13時だし……オフ会は明日の20時……)
美幸(今からホテルに向かってもチェックインにはまだ早いし……)
美幸(かと言ってこれからコミマ会場に行くって言うのも……あーもー!)
美幸(どうやって時間を潰せばいいのよもー!)
美幸(……)
美幸(そういえばここから秋葉原って近いんだっけ)
美幸(秋葉原の方に行ってみようかな)
照「ただいま」
咲「おかえりお姉ちゃん」
照「ただいま咲、寂しくなかった?」
咲「う、うん、大丈夫だけど……お姉ちゃん、凄い荷物だね」
照「ちょっとね」
咲「昨日も今日もどこ行ってたの?」
照「少し友達の所にね、今日の夜も出かけるから母さんに言っておいて」
咲「う、うん……」
咲(友達の所に行ってあんな沢山の荷物……本当に何してるんだろう)
『見てください!ここにいるのは全部人間です!』
『その数、およそ20万人!これが世界最大のオタクイベントと言われるコミックマートです!』
菫「……」
菫「そういえばコミマの時期だったか」
菫(宥との幸せを選ばずに、オタクとして生きる事を選んでいたのなら)
菫(おそらくは、私もあの中にいたのだろうか……)
菫(まぁ、今の私にとっては全く関係のない事だが……)カチッ
菫(私も少し前まではエロゲオタクだ、コミマのレポートは少しばかり楽しみにしている)カチカチッ
菫(……ほう、今年も大荒れのようだな)カチッ
菫(……ん?なんだこれは)
「”ソフトハウスダヴァン”コミマ限定フィギュアを急遽増量!」
菫(珍しいな、このブランドは普段企業には出展しないはずなんだが……)カチカチッ
菫(しかもフィギュアだって?あのブランドがそんな事をするとは到底思えないが……)カチカチッ
菫「……なッ!!?」ガタンッ
菫「マツミー姉妹の戦闘服フィギュアじゃないか!!」
菫(ソフトハウスダヴァン史上、最も可愛いキャラであるマツミー姉妹)
菫(しかもあの可愛いデザインの戦闘服だと?)
菫(これは……正直欲しい!!)
菫(……だが――)
菫(……今の私に、これを手にする資格などない)
菫(私はエロゲを捨て、恋人を選んだ人間だ)
菫(そんな私に、エロゲはおろかコミマに参加する資格など……)
菫(……しかし)チラッ
「コミマ限定フィギュア マツミー姉妹戦闘服バージョン お一人様1体のみ」
菫(……それでも私は)
菫(……私は――)
菫(……)
菫(すまない、宥……!)
菫「……っ!」ガタンッ
ドタドタドタ
ガチャ バタンッ カチャ
………
……
…
「まもなく、国際展示場、国際展示場です」
洋榎「いよいよやな……」
絹恵「きたんやね……」
恭子「動画とか見た限りですと、ドアが開いた瞬間にダッシュが始まるようです」
由子「始発ダッシュなのよー」
洋榎「ダッシュするんは正直マナー違反やけど、ここは何としてでも早く並ぶで」
恭子「ええ、わかってます」
由子「電車が停まるのよー!」キィイ
洋榎「なっ……!エスカレーターの前は隣の車両やんけ!!」
ピロンピロンピロン ガララッ
恭子「言ってる場合じゃないです!行きますよ!」ダッ
『走らないでくださーい!』
ゆみ(後ろの混雑に巻き込まれずに済んだ)
ゆみ(そしてエスカレーターから直線的に一番近い改札を抜ける)
ゆみ(今回の為だけにSuicaも作った)
ゆみ(これで改札を抜ける時のほんの僅かなタイムラグも解消する)
ゆみ(改札から駅の出口を直線的に抜け、西の待機列を目指す)
ゆみ(駅から西待機列までの距離はおよそ300m)
ゆみ(全ては計画通りだ)
ゆみ(あとは徹夜組がどれだけ並んでいるか……だが)
洋榎「……ああ、頼むで恭子」
恭子「わかってます」
洋榎「恭子は東で同人誌の確保!」
恭子「はい」
洋榎「絹は西で同人ゲームの確保!」
絹恵「任せてやお姉ちゃん!」
洋榎「由子はうちと企業や!」
由子「はいなのよー!」
洋榎「我等『姫松-アルカディオス-』、皆生きてまた逢おうや!」
怜「始発ダッシュやなぁ」
セーラ「俺らは普通に歩いて行こーな」
怜「せやな」
竜華「無理をせず、マナー良く行こうで」
セーラ「ところで怜、さっきスタッフさんが東だが西だかってボード立ててたけど、なんなんあれ」
怜「東ホールと西ホールは並ぶ所が別々やねん」
怜「私らは西4の企業ブースに行くから西の待機列に並ぶんやけど」
怜「最初に東館に行きたい人は、あっちの東待機列に並ぶねん」
竜華「そうなんか、お、列が見えてきたで」
セーラ「うわ、すっごい並んどるなー!これ全部人なん?」
怜「これでもまだ少ない方や、後からもっと増えるで」
セーラ「開場は確か10時やったっけ?」
怜「せやな、このぐらいの多さやと……入るのに10分ちょいはかかりそやな」
竜華「あれだけ早よ来とんのに、それでも入るのに10分もかかるんか」
セーラ「まーこれだけ人が多いとしゃあないやろなー」
怜「せやね、とりあえずあと4時間、適当に時間でも潰そか」
竜華「怜は暇つぶしに何か物持ってきたん?」
怜「一応”ヒサプラス”を持ってきとるけど」
セーラ「それ自分で遊ぶ用のものやん……」
『まもなく、コミックマートxxを開催致します!』
ワーワー パチパチパチッ
竜華「おーようやくや!」
セーラ「なんか俺、ワクワクしてきたでー」
怜「はは、まぁ入るのにあと数分かかるし、入ってからも企業列でまた並ばなアカンけどな」
竜華「また並ぶんかいなー」
怜「まぁ並ぶっちゅーても、最終日やしそこまで人気のブースやないから大丈夫やと思うで」
怜「初日はどこも凄かったらしいけどな」
怜「問題なのは、初日と2日目で在庫分を売り切ってしまう所や」
セーラ「んー?どゆことやねんそれ」
怜「各日均等に在庫を用意してるブースもあれば、初日でひたすら数を捌いてしまうブースもあるちゅーことや」
怜「せやな」
竜華「なんやそれ!そんなん酷いで!」
怜「最近はそういうブースも少ないけど、稀にあるんや」
怜「まぁ”アコス”も”きらめ”も大丈夫やから、心配せんでもええと思うよ」
竜華「そ、そか……」
セーラ「お、列が動き出したで!」
竜華「いよいよやな!」
怜「私とセーラは”アコス”へ、竜華は”きらめそふと”やな」
怜「買い終わった後の待ち合わせ場所は覚えとるよね?」
セーラ「バッチリや」
竜華「うん、問題ないで」
怜「よし、それじゃあ各自健闘を祈るでや!行くでセーラ!」
セーラ「おう!」
照「少し出遅れたか……」
照(ま、いいか。最終日に残したのは確実に売れ残っているであろう企業の物販と……)
照(……妹系のエロ同人だけだからね)
照(まずは西の企業を先に回って……あれ?)
照(あの後ろ姿……どこかで見かけたような……)
照(あれは……菫?)
照(……)
照(でも菫がこんな所に居るはずないし……)
照(きっと気のせい……)
塞(来る前にネットで昨日や一昨日の様子をチェックしたけど……)
塞(まさかこんなに人が居るとは思ってなかった……)
塞(もう10時は過ぎてるから開場は始まってるはずなのに、全然前に進む気配がないし……)
塞(コミマって……本当に凄いんだなぁ)
塞(目当ての物もついでに買えればいいかなって思ってたけど)
塞(この様子じゃ買えるかどうか分からないな……)
塞(塞いでおくか……財布を)
「TOMOさん!こっち向いてください!」
「こっち目線いいっすかー!」
巴「はーい」ポーズ
「うぉおおおおおおお!」
「すみません!こっちおねがいするでござるよ!!」
巴「こうですかー?」ポーズ
「おおー!なかなかのおもちだよぉ!!」カシャ
「TOMOちゃん最高っす!」カシャカシャ
巴「あははーありがとー!」
巴(九州じゃあんまりコスプレを披露する機会がなかったけど)
巴(遠い所、コミマに来てよかったです)
巴(沢山の人達が私の事を見てくれている)
巴(もう不人気だなんて言わせない!)
ワーワー パチパチッ
………
……
…
竜華「終わってしもたなぁ……」
セーラ「ほんまあっという間やなぁ」
怜「せやね」
竜華「怜達はちゃんとお目当ての物を買えたん?」
怜「バッチリやで」
セーラ「俺もや」
竜華「そか、うちも欲しい物全部買えたから満足やわぁ」
竜華「せやねー、食事にはまだ早いし……一応明日の分までホテルは取ってあるんよね?」
怜「あ、え……えと……」
竜華「……?怜?」
怜「実は私……これから用事があってな……」
竜華「用事?なんかあるん?」
怜「せ、せや、詳しい事は言えへんけど……」
セーラ「それは俺らにも言えへん事なんか?」
怜「い、いや、そゆわけでも無いんやけど……」
竜華「……怜?」
怜「……あー……実はな、私これからオフ会があんねん」
竜華「オフ会って……あのオフ会!?ネットで知り合った人とリアルで会うっちゅー」
怜「せや、18時から都内の定食屋で会う事になってんやけど」
竜華「アカンで怜!オフ会って、知らん人と会うんやろ!」
竜華「そんなん危険すぎるで!」
セーラ「そもそも、何の集まりなん?」
怜「エロゲーが好きな同志の集まりなんやけど……」
竜華「エロゲーマーの集まりやて!?」
竜華「それ余計にアカンやろ!汚いオッサンとかきっと来るで!」
怜「せ、せやけど、皆同世代の女子やって言うてたし……」
竜華「そんなん嘘に決まってるやろ!きっとうちの可愛い怜を誑かすための嘘や!」
セーラ(誑かすて……)
怜「これでバックれてしもーたら、私二度とあのチャットに顔出せへんわ……」
竜華「ぐぬぬ……」
セーラ「竜華も落ち着きや、そもそも今回のコミマも(建前は)怜が心配で俺らついて来たんやろ」
セーラ「怜のオフ会にも俺らがついて行けばええやん」
怜「えっ」
竜華「せや……それや!怜、うちらも怜のオフ会についてくで!」
怜「で、でも、竜華達は他の皆の事知らへんやろし……」
セーラ「まー他の奴らが大丈夫そうな奴やったら、俺らは影でこっそりしとるしな」
竜華「せやせや、それでええやろ?」
怜「……」
怜「はぁ、わかった……そこまで言うならついてきてもええよ」
洋榎「皆ようやってくれたで!」
恭子「ええ、私の方もなんとか最後の1冊を手に入れる事が出来ましたし」
洋榎「絹もよくやってくれたで!」
絹恵「はは……こっちの方も人は多かったんやけど」
絹恵「東や企業に比べてそこまで多くはなかったみたいで、なんとかなったわ」
由子「結果オーライなのよー!」
恭子「そうですね、では早速ホテルに帰って戦利品を置いてどこか食事にでも……」
洋榎「あー……うち、ちょっと食事は一緒に取れへんわ」
恭子「……?どういうことです?」
俺の地元の友達はたまに飲むと俺の知らんツレを連れてくるわ…
サシで飲みたいのに
それはツライな…
オフ会参加者めっちゃ増えそうだなw
絹恵「お、オフ会!?お姉ちゃんが!?」
恭子「え、聞いてないですよ?」
洋榎「今まで言わんかったからな」
由子「洋榎がオフ会に参加するとは珍しいのよー」
絹恵「なんのオフ会なん?」
洋榎「え、えっと……エロゲーマーの同志が集まるオフ会やねんけど……」
恭子「エロゲーマーのオフ会ですか!?」
由子「何その面白そうなのー」
洋榎「うち、結構前からチャットで同世代のエロゲーマーと仲良うなってな」
洋榎「今回、たまたま参加者が最終日のコミケに行く事になったからってんで、オフ会が開催される事になったんや」
絹恵「じゃ、じゃあ……お姉ちゃんはうちらと一緒のご飯は食べられへんのね……」
洋榎「すまんな、食事は3人で取ってや」
恭子「いえ、私達もそのオフ会にお邪魔しましょう」
洋榎「ファッ!?」
洋榎「うちはともかく、恭子達は全く知らん人達やで?来ても面白くないで?」
由子「でも皆エロゲーマーなのよー」
恭子「私も主将が普段からチャットで話している人達ならすぐに仲良くなれそうです」
洋榎「そ、そうは言うけどな……絹はどうなん?絹はエロゲーマーやないやろ」
絹恵「そ、そやけど……うちはお姉ちゃんが普段どんな人達と会話してるか興味はあるで」
絹恵「先輩たちが行くなら、うちも一緒について行きたいです」
恭子「決まりですね、主将」
由子「のよー!」
洋榎「あ、あのなあ……」
洋榎「……あああーもう!好きにせえや!ぼっちになっても知らへんからな!」
3日目なんてボドボドになった身体と戦利品と最高の気分を持ち帰ってで帰ってお風呂入ってご飯食べて
コミケスレ覗いて寝るに限る
除夜の鐘?知らんがな
照(今日も沢山の戦利品を手に入れられた……)
照(一旦家に帰りたい所だけど……一旦戻って荷物を置きに行くとオフ会の18時に間に合いそうにない)
照(どこか適当に荷物をしまえれば…………ん?)
照(あれは菫……?間違いない、あの後ろ姿は菫だ)
照(並んでいた時に見たのは見間違いではなかった?)
照(でも何故こんな所に……)
照(……いや、そんなもの声をかけて確認すればいいだけ)タッタッタッ
照「おい」
菫「はい?……なッ!!て、照!?何故ここに!?」
照「それは私の台詞だと思う」
菫「わ、私は……その」
菫「た、たまたまニュースでコミマのことを知って……見に来ただけだ」
照「そう……」
照「じゃあその”ソフトハウスダヴァン”の紙袋はなんなの?」
菫「なッ!!」
照「それ、18禁ゲームのグッズだよね」
菫「こ、これは……その、違うんだ」
照「なにが?」
菫「し、知り合いに頼まれて」
照「なにを?」
菫「え、えっと……フィギュアを……」
照「そうなんだ」
照「え、だって……私もそれ買ったし」
菫「……は?」
照「私もそれを買った、初日に」
菫「いや、私が言いたいのはそうじゃない」
菫「お前、これが18禁のゲームだと知って買ったのか?」
照「うん」
菫「……そ、それはつまり」
菫「お前は……エロゲーをやった事があるのか?」
照「……」
照「そうよ、私はエロゲーマーだから」
王者の風格よ
菫(照がエロゲーマー……だって?)
菫(何かの冗談だろ……?今まで麻雀部でずっと一緒にいた私が知らないはずがない)
菫(確かにこいつはシスコンで、妹に対しては病的なまでにおかしくなる奴だが……)
菫(……妹に対して病的……?まてよ、どこかで似たような奴を見かけた気がする)
菫(あれは確か……チャットだ……ピカリン……)
菫(ピカリン……?まさか、照がピカリンだと言うのか?)
照「……菫?」
菫「あ、ああ……いや、すまない」
菫(いや、照があのチャットにいる筈はない……が)
菫(……照がピカリンだと言うのであれば、確かに納得は行く)
菫(……)
照「……なに?」
菫「……お前、ス○イプとかやってないか?」
照「ス○イプ?あのインターネットで通話が出来る奴?」
菫「ああ、そうだ」
菫「それでその……エロゲーの話をしたりとかする、チャットをやっていないか?」
照「……?なんで菫が知ってるの?」
菫「ッ―――!?」
菫(こいつ……本当にピカリンだったのか……)
菫(しかし……何故?何故照が……)
菫「あ、いや、その……なんだ、たまたま知り合いがあそこのチャットの住人でな」
照「そうなの?」
菫「あ、ああ……」
照「それはすごい楽しみ、これからそのグルチャのオフ会があるから」
菫「オフ会……だと?」
菫(グルチャの皆とオフ会……)
菫(すごく……気になる)
菫(私も元とはいえ、あそこの住人だ……)
菫(あそこの空間は私に取って、もうひとつの安らげる場所でもあった)
菫(一体どんな奴らなのか、会ってみたい……すごく興味がある……が)
菫(……今はあそこの住人では無い以上、呼ばれてすらもいない私が行っていいものでもない)
菫(本当にそれでいいのだろうか)
菫(あそこの連中は、私に宥と生きる道の決心を付けさせてくれた)
菫(普段はくだらないエロゲの話をしている連中ではあったが)
菫(私にとって、また大切な友人達に違いない)
菫(……)
菫(私は――)
照「あ、ごめん菫、これ以上いると遅れるから……じゃあ」
菫「待った」
照「……菫?」
菫「……私も」
菫「私も……行っていいか? ――オフ会」
ゆみ「18時に予約した加治木だが……もう入れるか?」
「加治木様ですね、こちらへどうぞ」
ゆみ「ありがとう」
「……こちらの広間になります、お食事等は如何なさいますか?」
ゆみ「あとでまとめて注文するから、今は結構だ」
ゆみ「それと、”かじゅ”という人物を訪ねてきた人がいたら、ここの部屋に通して欲しい」
「承りました、何か御用があればこちらのボタンでお呼び出しください」カタッ
ゆみ(ふぅ……)
ゆみ(予定の人数は8人だが、まさか数十人は余裕で入れそうな広間を使わせて頂けるとはな)
ゆみ(実にありがたい)
ゆみ(時刻は……17時45分、もうそろそろ皆集まる頃だろう……)
ゆみ(同世代のエロゲーマーだ、それも同姓ときた)
ゆみ(果たしてどんな奴なのか……)
塞「時間は18時少し前、”かじゅ”さんが先に入ってるって聞いたけど」
塞(な、なんか急に緊張してきた……)
塞(もしも変な人達だったらどうしよう……)
塞(……)
塞(でもせっかく来たんだし……)
塞(私だけ行かないって訳にもいかないよね……)「あ、あのー」
塞「は、はいっ!?」
美幸「すみません、中に入りたいんですけどもー」
塞「は、はい、すみません」ササッ
塞(まさか出入り口を塞いでしまうとは)
塞(……もうここまで来たんだ。覚悟を決めて中に入ろう)ガララッ
美幸「あの……えっと、”かじゅ”って人が来てる筈なんですけどもー」
塞「えっ、”かじゅ”?」
美幸「……え?」
塞「私も”かじゅ”って人に呼ばれてるんですけど……」
「はい、かじゅさんですね、承っております。こちらへどうぞ」
美幸「えっ、そうなのー!?」
塞「う、うん」
美幸「えーっだれだれー!私、牛乳だよー!」
塞「え、牛乳さん?私は塞っていう名前で……」
美幸「塞ちゃん?やだもー、本当に塞ちゃんなのー!?」
塞「うん、まさかこんなふうに牛乳さんと会うとは思わなかったよ」
美幸「びっくりしたよもー!」
「こちらのお部屋になります、どうぞ」
哩(ここか?)
ガララッ イラッシャッセー
哩「”かじゅ”という人がおるはずなんけど」 ガララッ
『あのーすみません、”かじゅ”という方は既に来ておられますでしょうか?』
哩「……なんと?」クルッ
霞「……?何か?」
「はい、かじゅさんですね、承っております。こちらへどうぞ」
哩「そうやけど」
霞「まぁそれはそれは、私は”巫女みこカスミン”です」
哩「カスミンなんか!?そいは”舞Hime”ゆーて」
霞「あら、舞さんでしたか!名前もそうですけど、容姿も可愛らしいのね」
哩「なっ、何言うとん!」///
「こちらのお部屋になります、どうぞ」
竜華「な、なんかキンチョーするわぁ」
セーラ「竜華がキンチョーしてどないすんねん」
怜「はは、でも竜華達がいてくれて正直助かったわ、思ったよりキンチョーせんでいれるわ」
セーラ「で、どないすん?もう中に入るんか?」
怜「せやな、確か幹事の人が先に待っとるゆーとったし……入ろか」
『ちょ、なんでセーラ達がここにおるん!?』
セーラ「……ん?なっ、洋榎!?」
竜華「なんやて!?」
恭子「こんな所で会うとは珍しいですね、ここは東京ですよ。なんでこんな所におるんです?」
セーラ「それはこっちの台詞や、なんであんたらがここにおるん!?」
怜「……オフ会やと?」
竜華「え、オフ会って……まさか、この店でなん?」
洋榎「せや、18時からや」
怜「え、それって」
竜華「まさか、愛宕さんもオフ会のメンバーなんか!?」
恭子「もってことは……あなた方もオフ会の参加者なんですか?」
洋榎「ん?どういうことや……?」
セーラ「いや、参加者は怜だけで俺と竜華は付き添いやけど……」
洋榎「……怜?まさか、お前があの”トキ”なんか!?」
怜「せ、せやけど」
洋榎「ホンマかいな!うちやで!”ひろぽん”やで!」
怜「”ひろぽん”?ホンマに?なんや、めっちゃ身近な人物やなぁ」
洋榎「ホンマやな!世間は狭いでまったく」
由子「洋榎と園城寺さんがオフ会参加者だったのよー」
竜華「ちゅー事は……二人はネットでも知人同士やったって事なん?」
恭子「うーん、そういう事になるんやろか……」
セーラ「よーわからんわー」
洋榎「っとと、もう時間やで、ほな入ろか」
怜「しかしええんかな、私ら部外者多すぎやろ」
洋榎「なんとかなるんとちゃう、事情を話せば分かってくれるやろ」
怜「せやろか……」
ガララッ イラッシャッセー
「はい、承っております。お連れ様の方もご一緒ですか?」
怜「あ、はい、そですー」
「承知いたしました、ではこちらにどうぞ」
恭子「今更なんやけど、ホントにうちら来ても良かったんやろか」
セーラ「ええんちゃうの?店員さんもフツーに通してくれたしな」
竜華「怜も心配やし、うちは何が何でもついてくで!」
由子「でも洋榎が普段どんな人と話してるのか気になるよー」
絹恵「そうやね、うちもお姉ちゃんがチャットでどんな人と話をしてるのか気になるわ」
「こちらのお部屋になります、どうぞ」
菫「……」
菫「おい、照。まだ着かないのか?」
照「……もう少し」
菫「本当だろうな?」
照「……多分」
菫「詳細な場所とか調べて来なかったのか?」
照「場所はこれ」サッ
菫「ん?……ああ、なんだ、割と近くじゃないか」
菫「さっき行ったT字路を逆方向に行ってたんだな、戻るぞ」
照「わかった」
菫「ここだな、18時を少し過ぎてしまったが何とか着いたな」
照「菫には感謝してる」
「いらっしゃいませ、2名様で宜しいでしょうか?」
菫「え、えっと……」チラッ
照「”かじゅ”さんという方が、来ていらっしゃると思うのですが」キラキラッ
菫「無駄に営業スマイルを使うな……」
菫(妥当だな、あいつぐらいしかあのメンツを纏められる気がしない)
「承っております、こちらへどうぞ」
菫「いよいよご対面だな」
照「そうだね」
菫「……緊張はしていないのか?」
照「別に、いつも通りにするだけだから」
菫(それは照としてのいつも通りなのか、ピカリンしてのいつも通りなのか……どっちなんだ)
「こちらになります」ガララッ
美幸「ち、ちゃちゃ……!」
怜「チャンピオンやないか……!!」
洋榎「な……ホンマや、なんでこんな所におるん!」
菫「あ……あれは千里山の……!」
菫(それだけじゃない、姫松の愛宕洋榎……!あっちには永水の石戸霞……!)
菫(準決勝で対戦した新道寺の部長まで……)
菫(本当にここなのか?何かの間違いじゃないのか?)
照「ここがオフ会の会場?」
ゆみ「オフ会の会場……と言えばそうだが」
ゆみ「まずは確認ついでに名乗りでて欲しい所だな、出来ればス○イプネームで」
照「そう……私は宮永照、スカ○プではピカリンという名前でやってる」
怜「な……!」
洋榎「ピカリン……やと……?」
霞「あらあら」
塞「まさかチャンピオンがピカリンだなんて……」
絹恵(ね、ねえ、なんでチャンピオンがこんな所におるんやろか)ヒソヒソ
恭子(そりゃ、チャンピオンもオフ会の参加者やったんとちゃいますかね)ヒソヒソ
由子(それって、チャンピオンもエロゲーマーって事なのよー)ヒソヒソ
竜華(ホンマかいな、チャンピオンもエロゲーとかやるんかいな)ヒソヒソ
セーラ(人は見かけによらんなー)ヒソヒソ
ゆみ「……」コホン
ゆみ「つまり、今回のオフ会の参加者という訳だな、わかった」
ゆみ「して、そちらのお連れさんは?”トキ”や”ひろぽん”と同じ付き添いか?」
照「ああ、彼女は――」
菫「いや、私から言おう」
照「……菫?」
菫「今回はたまたま、コミマ会場で照と会う事があったから付いてきただけだが」
菫「実は、私も皆とは無関係の人物ではないんだ」
ゆみ「……?どういうことだ?」
菫「私の名前は、弘世菫……そして――」
――魔法少女すみれ
数ヶ月前までこのチャットにいた、張本人だ――
霞「……嘘、まさかスミレちゃんなの?」
照「菫……それ本当?」
菫「……ああ、事実だ」
菫「くる日もくる日もエロゲをプレイし続けた私が、遥か遠い場所に居る恋人との幸せを選び」
菫「財宝のようなエロゲを全て捨て、オタクとの関わりも断ち切り、ネットから姿を消した……」
菫「それが魔法少女すみれ……私だ……」
照「菫……」
洋榎「ホンマに……あのスミレなんか?」
ゆみ「ああ……だとしたら、ある意味奇跡に近い何かだな」
霞「スミレちゃん……」
塞「し、しかし何故スミレさんまで……?」
菫「……たまたま照と会った時に、このチャットのオフ会をすると聞いてな」
菫「照がピカリンと知って、ここのオフ会だと確信してね。ご一緒させてもらった」
菫「尤も、既にチャットを抜けた私には参加資格など無いかもしれないが……」
哩「……」
美幸「……」
ゆみ「……いや、正直な所、君が来てくれてとても嬉しいよ、スミレ」
ゆみ「もう一度会いたいと思っていた。私だけじゃない……皆もだ」
怜「カスミンは一番スミレと仲よかったからなー」
霞「ちょっと、トキさん!」
菫「カスミン……?君があのカスミンか!?」
霞「……ええ、私がカスミン。”巫女みこカスミン”よ」
怜「私はトキ、園城寺怜やで、インハイでは世話んなったな」
菫「千里山の園城寺怜、まさか君があの”トキ”だったとはね……」
ゆみ「丁度いい、ちゃんとした自己紹介がまだなんだ」
ゆみ「全員揃ったみたいだし、まずは自己紹介と行こうか」
塞「そうですね」
洋榎「賛成や」
ゆみ「本名は加治木ゆみだ」
塞「本名も言うの?」
ゆみ「いや、どちらでも構わないが……」
洋榎「殆どが顔見知りみたいやからええんちゃうの」」
怜「せやな」
怜「私は園城寺怜、”トキ”っちゅー名前でやってます」
美幸「ト、トキさん……」
怜「……?あんたは確かインハイ2回戦の時に戦った……」
怜「その節はどうも」ペコリン
美幸「は、はいどうも……」
塞「愛宕洋榎……って確か……」
哩「姫松高校のエースやと……」
霞「洋榎でひろぽん……なんだか可愛いわね~」
霞「私は先程申し上げました通り、”巫女みこカスミン”です、名は石戸霞と申します」
霞「みなさん、宜しくお願いします」ボヨヨン
塞(む、胸が大きい……)
怜(ええ乳しとるなぁ)
洋榎(絹のよりも大きいんとちゃうか?)
絹恵(あの人、うちと2回戦で戦った人や)
塞「あんまりログインしない私がオフ会に参加しちゃっていいのかわかりませんけど……」
塞「よろしくお願いします」ペコリ
ゆみ「イン率の問題ではないさ、あそこのメンバーで参加したいという気持ちがあればそれで十分さ」
哩「次は私、”舞Hime”というネームでチャットをやっとる」
哩「白水 哩と言う、宜しくと」
塞(この人リアルでもこんな喋り方なんだ)
洋榎(時々日本語なんか分からん時もあるからな)
怜(牛乳って言うほど乳はそこまで大きくないと思うけどな)チラッ
霞「……?どうかしましたか?」
怜「ええ乳しとるなと思って(いや、なんでもないで)」
竜華(言ってる事と思ってる事が逆やで……怜……)
ゆみ「……あとは」チラッ
照「……私?」
ゆみ「ああ、改めて自己紹介をお願いできないか?」
照「わかった」
照「好きなエロゲは”私の妹のエロさが嶺上開花でとどまる事を知らない”」
照「妹が姉に恋焦がれて誘惑するなんて実に素晴らしい作品だ、思わず全店舗で特典を揃えてしまった」
照「やはり妹は素晴らしいな、全世界に”IMOUTO”という単語が出来てもいいくらいに素晴らしい、すばらっ」
照「最近”リアル妹がいる宮永さんのばあい”もプレイしたが、義妹も悪くない」
照「実妹と違って義妹は結婚が出来るからね、実妹に出来ない事を義妹は出来るから最高」
照「しかし実妹というのは血が繋がっているという点だけで興奮できる。こう、いつも繋がっているというか」
照「私にとって、妹と言うのはかけがえの無い存在なんだと思う、自分の一部というか」
照「とにかく、私は妹が大好きだ。よろしく」
菫「……」
ゆみ「……」
怜「……」
洋榎「……」
霞「……」
ゆみ(こいつは本物だ……)
怜(分かっとったけど、マジでアカンやろこいつ……)
洋榎(アカン、ホンマにこいつとは関わらん方がええかもしれへん……)
霞(面白い子ね~)
セーラ(な、なあ……チャンピオンからなんかとんでもない事が聞こえたんやけど……)ヒソヒソ
竜華(しっ!静かにせんと聞かれてまうで!!)ヒソヒソ
絹恵(きゅ、急に寒気がしたような気がしてんねんけど……)ヒソヒソ
恭子(絹ちゃん……チャンピオンとは目を合わせん方がええで……)ヒソヒソ
由子(チャンピオン恐るべしなのよー……)ヒソヒソ
菫「……」
菫「一ついいか」
ゆみ「なんだ」
菫「確かに私は、ここのメンバーだった。しかしそれは元だ」
菫「しかも自分の身勝手でチャットを抜けてしまった……」
ゆみ「……そんな私がここにいる資格があるのか、と?」
菫「……ああ」
ゆみ「……」
ゆみ「スミレ、言ったはずだ」
ゆみ「私は……いや、私達は、もう一度君に会いたいと思っていた」
ゆみ「それは何故か」
ゆみ「私達にとってスミレは、他人ではなく”仲間”だからだ」
ゆみ「私達のグループに、すみれという人物が居ない事などない」
菫「かじゅ……」
菫「……私は……弘世菫」
菫「先程も言った通り、魔法少女すみれというハンドルネームでチャットに参加していた者だ」
菫「私も、心のどこかで望んでいたのかもしれない」
菫「こうしてみんなとまた会える事を……」
ゆみ「……」
ゆみ「……ああ」
霞「スミレちゃん……」
照「菫……」
怜「スミレがおらんと、ツッコミがかじゅだけやからなー」
洋榎「ははっ、それは言えてるわ」
ゆみ「全く……大体お前達がふざけすぎてるんだ!」
照「ふざけてない、全部本気」
ゆみ「だからこそタチが悪いんだ!特にお前だ、ピカリン!」
霞「あらあら、楽しいからいいじゃないですか」
ゆみ「カスミン……キミも煽るような事は言わないでくれ」
塞「はははっ、なんだかいつものチャットみたいになりましたね」
哩「全くや」
美幸「なんだか、ようやくオフ会って感じがしますよねー」
怜「え?自己紹介って……もう終わりとちゃうん?」
ゆみ「そっちの5人の事だ」
竜華「えっ、うちら?」
絹恵(すっかり忘れられてるよーな気してたんやけど……)
恭子(本当今更やけど、私らここにいてええんやろか……)
由子(全く話に付いていけないのよー……)
セーラ(お腹減ったナー)
ゆみ「そうだ、君たちは……トキ……園城寺さんと愛宕さんの付き添いだろう?」
ゆみ「どうせなら一緒に楽しんで行って欲しい」
竜華「ま、まあ……そういうことなら」
恭子「そうですね、せっかくですしご相伴に預かりましょう」
恭子「あ、それなら一応主将から聞いてますけど」
竜華「うちも怜から聞いとるけど……」
ゆみ「知っていながらついて来るという事は、君たちはエロゲーに理解ある人達なのか?」
セーラ「理解ある人達っちゅーか……」
竜華「まぁうちらもエロゲーマーやから……」
恭子「ええっ!?そうだったんですか!?」
由子「びっくりなのよー」
竜華「え、末原さん達はちゃうん?」
恭子「い、いやまぁ……私らもエロゲーマーなんやけどね……」ハハハ
由子「のよー」
絹恵「うちはギャルゲーの方やけどね」
ゆみ「それなら尚更大歓迎だ、ぜひ一緒に楽しもう」
照「どうせならチャットにもご招待したらいい」
霞「あらあら、それも面白そうねー」
怜「い、いくらなんでもそれはアカンやろ……」
洋榎「せ、せや、恭子達に迷惑かけるっちゅーか」
恭子「いえ、私も興味ありますから、こちらこそご迷惑でなかったら是非」
竜華「せやせや、うちらからお願いしたいところや」
セーラ「それよりお腹減ったデー!はよメシくおー!」
ゆみ「ははは、そうだな。そろそろ注文をしようか」
………
……
…
照「何?」
菫「家に妹さん置いてきて大丈夫か?今夜は遅くなるんだろう」
照「それが……さっき家に電話したんだけど、今日は友達の家に泊まるって言ってたみたい」
菫「言ってた?」
照「私が電話した時には、もう出かけてた」
菫「そうなのか」
照「咲に会えなくて寂しいけど……今は今を存分に楽しむ」
菫「……そうだな!」
『ぶ、部長……っ!私は……!』
『いいんよ……姫子の全て……私にくれる?』
『部長……ああっ!』
咲「……」ドキドキ
モモ「……」ドキドキ
一「……」ドキドキ
巴「……」ドキドキ
憧「……」ドキドキ
誠子「……」ドキドキ
淡「……」ドキドキ
咲(まさか百合スキー集会のオフ会で百合アニメの鑑賞会をするとは……)
咲(やっぱ”哩”さんと”姫子”さんが裸で抱き合うこのシーンはいつ見てもいいなぁっ)
咲(百合って最高だよぉ)
すばらです
ゆみ「……少し盛り上がりすぎてしまったな、もうこんな時間だったか」
洋榎「ホンマや、あと30分で新年やないか!」
怜「ちゅーか、少しどころやないやろ、5時間近くここにいたんかい……駄弁りすぎやろ」
ゆみ「なんだかんだ言って、みんな話が弾んで仲良くなったみたいだしな」チラッ
竜華『やっぱそうやよねぇ~!うちも一ちゃんと透華ちゃんルートが一番泣けたわぁ」
美幸『あの二人はガチですよねー!私、思わず何十周もやりましたもーん!』
絹恵『”kei”はやっぱええですよね、うちも今じゃ”Kei”が一番やと思ってるぐらいやし』
塞『”Kei”と”Sela”は鉄板ですね、作品的にも商業的にもトップクラスだと思ってます』
霞『あらあら、このお団子可愛いのね~』
由子『お団子じゃないよー!』
怜「これを仲良くなったって言ってええんやろか……」
ゆみ「このまま解散するのもなんだし、神社にでも行って初詣に行かないか?」
照「初詣……」
竜華「おー、ええやん!行こ行こ!」
哩「ええね、楽しみばい」
塞「うん、皆で行きたい」
ゆみ「よし、そうと決まれば早速出発するとしよう」
菫「みんなで初詣か……」
霞「スミレちゃん?」
菫「ん、ああいや……なんだか、楽しいなって」
霞「……そうね、とっても楽しいわ」
ゆみ「あ、もちろんここの料金は割り勘だからな、忘れるなよ」
ざわ ざわ
セーラ「結構人多いんやなー」
菫「ここはそれほど大きな神社では無いが、地元民がよく利用するようでな」
ゴーン ゴーン
霞「除夜の鐘ね……」
ゆみ「時刻は23時55分……あと5分だな」
竜華「最初はどうなるかと思っとったけど、なんやかんやで一緒に新年を迎えられそーやなー!」
怜「せやね、竜華達と来て良かったわ」
恭子「まさか東京にまで来て新年を迎えることになるとは思ってもなかったですね」
洋榎「せやなぁ……コミマに行くだけならまだしも、恭子達とオフ会にまで参加するとは思ってへんかったわ」
絹恵「でも楽しかったで、今日1日」
洋榎「ああ……ホンマに楽しい1日やったな」
怜「3……2……1……」
「「あけましておめでとうございまーす!」」
菫「はっは……まさか本当にこうして新年を迎えるとはな」
霞「そうね……まるで夢の中にいるみたい」
洋榎「ところがどっこいっ……!これは現実や……っ!」
ゆみ「ああ、今こうして皆と一緒にいる……紛れもない現実だ」
ゆみ「っと、みんな、あけましておめでとう」
由子「おめでとうなのよー!」
塞「あけましておめでとう」
哩「おめでとう」
竜華「怜、あけましておめでとうなぁ、今年も宜しくな」
怜「おめでとうや、今年も宜しくされるで」
洋榎「せやせや!沢山願い事したるでー!」
恭子「沢山願い事をするって……ええんですかねそれ」
洋榎「有り有りやろ!願い事はいくつあっても願い事なんやで!」
塞「そういう問題でも無いような……」
照「私は咲と結婚できるようにお願いしよう」
菫「まて、それは願い事以前の問題だ」
照「……何故?」
菫「いやいや、どう考えてもおかしいだろ!」
照「神様ならきっとなんとかしてくれる」
菫「だめだこいつ、早くなんとかしないと……」
怜「竜華、そうやなぁ……願い事したい事は正直沢山あるんやけど」
怜「……たった一つだけ、選ぶとしたらあれやな」
セーラ「あれ?あれってなんなんー?」
怜「……私らがこれから進む、未来への成功―――かな」
竜華「……」
セーラ「……」
セーラ「ああ、せやな」
竜華「……うん」
怜(せや……これは私の願い毎だけやない)
怜(私ら3人の願い……3人の想い)
怜(私らの願い事―――)
怜(どうか――)
………
……
…
ゆみ『く……今作もギリギリだな』
蒲原『ワハハ、ここで延期したら今後に相当響くかもなー』
ゆみ『ああ、ようやく中堅レベルまで持ってこれたんだ』
ゆみ『ここで信用を失うわけにはいかない』
ゆみ『睦月!マスターアップはいつ頃だ!?』
睦月『明日中にはなんとか!』
ゆみ『頼む、今月は他に競合ソフトがない。ここで売上を伸ばすぞ!』
ゆみ『蒲原は妹尾と一緒に睦月のフォローを、私はモモと一緒に店舗を回ってくる』
ゆみ『鶴賀ソフトウェアの一生がここで決まると言っていい、頼むぞ!』
蒲原『ワハハ、任せれたぞー』
恭子『だから言ったんですよ、無理をしないで発売日は来月にしましょうって』
由子『いくらなんでも無茶すぎるよー』
洋榎『せやけど、”トキハウス”が今月に来るんやで!ここは直接勝負するしかないやろ!』
絹恵『お姉ちゃん、そう言って前作も負けたやないの……無茶しすぎやって』
洋榎『絹までそないな事言うんかいな、誰かうちに賛同してくれる奴おらへんのかー!』
漫『あ、あのー、先ほど店舗の人から、数を減らしたいと電話を頂いたんやけど……』
洋榎『あぁっ!?なんやてぇー!そんなんうちが許さへんで!』ポカポカ
漫『痛いっ痛いですよぉ!私に八つ当たりせんといてください!』
竜華『怜……』
怜『竜華か……どしたん?』
竜華『いや……なんかぼーっとしとるみたいで、どしたんかなーと』
怜『……や、なんでもないで』
怜『マスターアップも無事に終わって、ちょっと気ィ抜けたんかな』ハハ
竜華『怜……』
怜『……』
怜『その……な』
竜華『サークルを立ち上げた時……?そらまた随分と懐かしいわぁ』
怜『……あの時は色んな事があったけど、あの時皆に出会えたおかげで』
怜『今の私らおるんやなと思うと……少しな』
竜華『怜……』
怜『……他の皆は、元気にしとるんやろかね』
「トーキー!リューカー!ちょっとこっち手伝ってやー!」
竜華『んもう、セーラはホンマしゃあないんやから……行こ、怜』
怜『……はは、ホンマやなぁ』
菫『……っ』
菫『この時期は休む暇も無いな……ったく』
「弘世さん、それ運んだら竹の間のお布団片付けてきて頂戴」
菫『はい!わかりました!』
宥『ふふ、菫ちゃんは頑張り屋さんだね』
菫『宥!そっちはこれからかい?』
宥『うん、沢山休憩取ったから頑張るよっ』
菫『はは、程々にな』
「弘世さん!いつまでそこにいるの!早く運んで!」
菫『は、はいっ!すみません!……じゃ、またあとでな、宥』
宥『うん、がんばってね』
咲『お姉ちゃん?』
照『準備は出来た?』
咲『うん、いつでも大丈夫だよ』
照『そっか……じゃあ行こう』
咲『うん』
………
……
…
照『……』
咲『お姉ちゃん?』
照『ん?どうしたの?』
咲『ううん、なんか遠くの方を見てたから……』
照『……』
咲『昔の事?』
照『”仲間たち”と出会った時のことだよ』
咲『ああ……一緒にエロゲーを語り合った仲間たちだっけ?』
照『うん』
照『あの人達に出会わなかったら、今の私もいなかったと思う』
咲『お姉ちゃん……』
照『……』
照『……咲、エロゲーは好き?』
咲『……うん、好きだよ』
咲『私も元々百合が好きだったから、すんなり馴染んだし』
咲『結果的に、こっちの道は私に合ってたみたい』
咲『エロゲーって楽しいよね!』
照『……うん、そうだね』
照『そう、咲がこれから働く……”KIYOSUMI”だよ』
咲『私、やっていけるかな……』
照『咲なら大丈夫だよ、天才的なライターになれる』
咲『お姉ちゃん……』
照『さあ、行こう』
咲『……うん』
――エロゲーは終わらない
私達のような人が エロゲーを心から愛する限り
私達の物語は終わらない
そして これから始まる
私と私達の新しい物語は
新たな歴史の1ページとして
人々に語り継がれていくだろう――
Fin
咲「……ふぅ、いい話だったなぁ……」
咲「やっぱエロゲーは最高だよぉ!」
咲「まさに人生だよね!」
咲「さて、おまけモードでも見ようかな……て」
咲「あぁっ!もうこんな時間!」
咲「早く学校に行かなくっちゃ!!」
咲「これ以上遅刻すると、また和ちゃんに怒られるよー!!」
咲「むぅ、徹夜でやってたから眠いけど……授業中に寝ればいいかっ」
咲「それじゃ、行ってきまーす!」
咲「エロゲーって楽しいよね!」 カン
当初は予定していなかったシリーズ物になってしまいましたが、
皆様のご協力と支援により無事完結する事が出来ました。
近々違うネタでここにSSを投下しようと思うので
また次のSSでお会いしましょう、ありがとうございましたっ(ぺっこりん)
乙としか言いようが無いですわ
面白かったぜ!
コークスクリュー乙
えっ最終回…?
Entry ⇒ 2012.10.25 | Category ⇒ 咲-Saki-SS | Comments (3) | Trackbacks (0)
える「古典部の日常」
奉太郎「古典部の日常」 1
奉太郎「古典部の日常」 2
奉太郎「古典部の日常」 3
奉太郎「古典部の日常」 4
奉太郎「古典部の日常」 5
奉太郎「古典部の日常」 6
本スレは
奉太郎「古典部の日常」
の続編となります。
前作から読む事をおすすめします。
今の所、話数は未定となっております。
前作にあまり無かっただらだらとした日常を書ければ良いと思っているので、宜しくお願いします。
そして、ゆっくりと扉は開かれ……
俺は多分、いや……俺だけではない。
里志や伊原も、千反田が現れる事を望んでいたのかもしれない。
……そうであって欲しかった。
何しろ、古典部を訪れる変わり者など……今ここに居る三人を除けば千反田以外あり得ないからだ。
これが新入生が入ってくる時期、4月頃なら俺達はここまで期待はしなかったと思う。
だが今は1月、冬休みが明けてすぐの事だ。
それなら……もしかすると。
早く、早く開けないか、何をもったいぶっているんだ。
驚くほど、扉が開くのは遅かった。
……いや、俺が時間を長く感じているだけか。
だって俺がここまでの考えをするのに、多分まだ3秒程しか経っていないからだ。
里志や伊原の動きも、扉同様遅かったのでそういう事なのだろう。
しかし、時間は確実に刻まれている。
ようやく、そいつの体が隙間から見える。
制服は……女子の物だった。
つまり、それは……!
なんという事だ、ここまで必死に考えていたのに……この野郎。
奉太郎「……なんだ入須か」
入須「おい、今何て言った」
……つい言葉が漏れてしまったのだ、それを聞いていたとは嫌な奴だ。
里志「入須先輩、こんにちは」
里志「にしても……ホータロー、今のは流石にどうかと思うよ」
摩耶花「今の折木の顔、少し面白かった」
摩耶花「しかも、先輩の事呼び捨てにするなんて考えられないわ」
……いや、俺一人を犠牲にすればそれでこの二人は助かるんだ。
なるほど、これが生存本能と言う奴だろうか。
……少し違うか。
奉太郎「いや、あの」
奉太郎「……すいませんでした」
俺が取ったのは最善の選択だった。
とりあえず謝っておけば、入須もそこまで気にしないと思う。
入須「全く、君は普段からそんな風に思っていたのか」
奉太郎「……そんな訳、無いじゃないですか」
俺はこれでもかと言うほどの爽やかな笑顔を入須に向ける。
当の入須はそれを爽やかな笑顔だな、とは思わなかったが。
入須「……まあいい」
入須「君達、全員が残念そうな顔をしたのには見当が付く」
里志や伊原も顔に出していたらしい、それなのに俺だけに物を言うとは……やはり、嫌な奴だな。
入須「……千反田が来たと、思ったんだろう」
その入須の予想は、素晴らしくも当たっていた。
里志「……はい、入須先輩の言う通りです」
里志「間違いなく、僕達はそれに期待していました」
摩耶花「……」
里志は大体いつもの調子で、伊原は黙って首を縦に振り、それぞれ入須の質問に答えた。
奉太郎「あなたが古典部に来るとは、珍しい」
里志や伊原に反し、俺は悪態を付き入須に返答を促す。
入須「君は変わらないな」
入須「古典部へ来た理由か……」
入須「……そうだな、折木君が」
入須『入須先輩、わざわざ足を運んでくれるなんて光栄です』
入須「とでも言ったら教えようかな」
……絶対に言ってやるもんか。
入須「いや、思わんよ」
奉太郎「……」
こいつは、何を考えているんだ。
俺には見当が全く付かない。
入須「でもな、私がある一言を言えば」
入須「君は間違いなく、さっきの台詞を言うだろうな」
ある一言……?
奉太郎「言わせてみてくださいよ、俺に」
そう入須を挑発すると、入須は若干もったいぶりながら口を開く。
入須「……千反田の事だ」
俺は少し考える。
確かにその入須の言葉が本当なら、俺は間違い無くさっきの台詞を言うだろう。
しかし……しかしだ。
入須は本当に、千反田の話で来たのだろうか?
……俺には分からないが、多分。
入須はそんな冗談を言う奴では無いと言う事くらいは、俺にも分かった。
奉太郎「……分かりました」
奉太郎「入須先輩、わざわざ足を運んでくれるなんて光栄です」
今こいつ、笑ったよな。
俺はバツが悪そうに、視線を入須から逸らす。
里志「……」
摩耶花「……」
里志と伊原は、何か笑いを必死に堪えている様な表情をしていた。
……揃いも揃って、こいつら。
入須「……まさか本当に言うとは思わなかったよ」
入須「言わなくても、話はする予定だったんだがな」
……やはり苦手だ。
奉太郎「それで、その千反田の話、してもらいますよ」
入須「ああ、そうだな」
入須「……私から聞くよりも」
何を言っているんだ、こいつは。
しかし俺の思考は止まっても、入須の動きは止まらない。
入り口の扉から少し離れ、何やら顔だけを廊下に出して合図をしている様に見えた。
そして、次にその扉から現れたのは……
える「……あの、こんにちは」
俺が、俺が一番会いたかった人だった。
……あの日、千反田は確かに言った。
さようなら、と。
そして俺は結局、最後まで言葉を掛けられなかった。
足があんだけ動かなかったのは初めての経験だった。
しかし今も、足が勝手にこんだけ動くと言うのも、初めての経験だった。
俺はそのまま、千反田の近くまで行き、千反田を抱きしめる。
奉太郎「本当に、千反田なんだな」
奉太郎「いつもの、お前なんだな」
える「え、あ、は、はい」
その返答は、確かにいつもの千反田だった。
える「あ、あの!」
そして千反田は声を強くして、俺に申したい事がある様子だった。
える「……えっと、少し、恥ずかしいんですが……」
俺はその言葉で我に帰る。
入須は眉をひそめ、首を横に振っている。
これに台詞を加えるなら、やれやれとか、全く君はとか、そんな所だろう。
伊原はと言うと、顔を手で覆ってしまっている。
俺はそんな周りの奴らの反応を見て、初めて自分が千反田を抱きしめている事を恥ずかしく思った。
奉太郎「……す、すまん」
える「ふふ、いいですよ」
千反田は本当に、千反田だった。
いつもの笑顔が、それを俺に教えてくれる。
そしてゆっくりと千反田は部室の中に入っていく。
える「……ありがとうございます」
俺の横を通り過ぎるときに、確かに千反田はそう言っていた。
そのまま自分の席、いつもの席に千反田は座る。
える「ええ、ありがとうございました」
……結局、入須は何をしに来たのだろうか?
いや、そんな事はどうでもいい、今は……!
奉太郎「聞いても、いいか」
える「……ええ」
奉太郎「何故、学校に居る?」
える「……ふふ、私でも予想できました」
える「折木さんの言う事を予想できたのは、少し嬉しいです」
奉太郎「……そりゃ、どうも」
里志「……うん、僕も気になるな」
里志「なんで千反田さんが今日、学校に来たのか」
摩耶花「私も、今思っている事が当たって欲しい」
摩耶花「……会いたかったよ、ちーちゃん」
こういう時、里志は結構凄いと思う。
全くもって、動揺している様子には見えなかったからだ。
伊原はそれとは逆で、今にも泣き出しそうな顔をしていた。
伊原が言いたかった事は恐らく、千反田が本当に戻ってきたのか、という事だろう。
……俺は、どんな顔をしていたのかは分からない。
自分の事は難しいからな、仕方ない。
える「入須さんと一緒に来た理由から、お話した方がいいかもしれません」
意味があったのか、入須が同行していたのには。
える「実はですね……少し、一人で来るのが気まずくて」
奉太郎「……」
える「え、ええっと」
奉太郎「なんだ、気まずくて……の後は?」
える「い、いえ。 それだけです」
奉太郎「……はあ」
こいつは本当に変わらないな。
奉太郎「……それよりも、なんで今日来たんだ」
える「……やはり、言い辛いですね」
そう言い、千反田は顔を伏せる。
千反田を除く三人は、黙って千反田の言葉を待っていた。
やがて、顔を上げると……千反田は再び口を開く。
える「実は……」
える「その、父の容態が戻りまして」
里志「ええっと……」
摩耶花「……つまり、どういう事?」
える「あの、私も驚いたんですよ」
える「……結論から言いますと」
える「えっと……高校を辞める必要が、無くなりました」
摩耶花「……えっと」
える「あの、ですから」
える「皆さんとまた一緒に、居られます」
摩耶花「つまり……」
里志「ううん……」
える「あ、あの!」
駄目だ、こいつらに任せていては多分……日が暮れてしまう。
かくいう俺も、状況をうまく飲み込めては居なかったが……まとめるくらいの事はできるだろう。
奉太郎「千反田の父親は無事に千反田家を収める役目に戻り」
奉太郎「そしてそのおかげで、千反田も学校を辞める必要が無くなった」
奉太郎「また一緒に、古典部で活動できる」
奉太郎「……って事か?」
なんだ、俺も結局最後は本人に答えを促しているではないか。
……それより俺がまとめた事、合っているのだろうか。
える「ええ、そうです!」
える「……折木さんが居て、助かりました」
える「私本当に、父親の体調が直ったときですが」
える「あまりこう思ってはいけないのは分かりますが」
える「どうしようかと、思っちゃいまして」
える「折木さんにあれだけ言っておきながら、どうしようかと……」
奉太郎「そう、か」
くそ、千反田に俺の冬休みを無駄にされてしまったではないか。
里志「……僕は、なんとなくこうなるかと思っていたよ」
それに加え、新年の気分も最悪だったではないか。
摩耶花「本当に! 本当に良かったよ、ちーちゃん」
そしてついさっきまでも、最悪の気分だったではないか。
だが。
今は、とても良い、心地良い気持ちだった。
える「ええ、私一人では、とてもここまで来れなかったですよ」
える「……皆さんに、どんな顔をしていいか分からず……」
奉太郎「そんな事、どうだっていいさ」
える「そう、ですよね」
なんだか俺が随分悩まされていた時間が全て無駄になってしまったが、まあいいか。
とにかく、これでまた……古典部四人が揃った。
今年は絶対に、いい年になるだろう。
春は出会いと別れがあり、夏にはまた多分……どこかに出かけるだろう。
秋は文化祭、去年楽しめなかった分、今年は楽しみたい。
そして冬には……今年の冬は、暖かく過ごせるかもしれない。
俺はこの一年に、今までに無い期待を寄せながら、ゆっくりと千反田に向け言った。
奉太郎「……さようならでは、無かったな」
える「……ええ、私の間違いでした」
える「また、お会いできましたね」
える「折木さん」
第1話
おわり
1月のとある日、俺は早朝から家を出ていた。
それも昨日、千反田から電話があり……内容は朝早くに会えないか、と言ったものだった。
俺は別にそれ自体が嫌では無かったし、二人きりで話す事もあったので気が進まないなんて事は全然なかった。
なかった……のだが。
まだ起きて1時間も経っておらず、完全に目が覚めている訳では無い。
それに加え外のこの寒さ……足が鈍るのは仕方ない事だ。
夜に少し雨が降っていた様で、道端にある水溜りには氷が張っていた。
それらをバリバリと割りながら、俺はあの公園へと向かっている。
そんな馬鹿みたいな事を考えながら、途中にある自販機でコーヒーを買う。
奉太郎「……ふう」
冷え切った体に染み渡る、自販機に感謝しておこう。
しかし最後まで飲みきる前に、具体的には半分程飲んだ所でどんどんと冷めていってしまう。
この理不尽な現実に、俺は特になんとも思わず最後の一口を体に取り入れた。
そのまま自販機の横に設置されていたゴミ箱に空き缶を放り込み、再び俺は歩き出した。
体がぶるぶると震える。
……確かこの現象には名前があったはずだ、ええっと。
なんとかリングとか、そんな感じだったと思う。
体温調整をする為らしいが……これで暖かくなるとは到底思えない。
……まだ走ったほうがマシだと思う。
だが俺は走る気もせず、再び体をぶるぶると震わせながら公園へと向かった。
俺が公園に着くと、千反田は既にベンチに座っていた。
奉太郎「おはよう」
そう声を掛けると、千反田はすぐに振り返り俺に挨拶をしてきた。
える「おはようございます、今日も冷えますね」
える「これ、どうぞ」
そう言いながら千反田が渡してきたのは缶コーヒーだった。
俺はそれを受け取り、違和感に気付く。
確かに今日は寒いが……冷めすぎではないだろうか?
俺はほんの少しだけ考えると、一つの質問を千反田に向けた。
える「ええっと……間違えてしまいまして」
この馬鹿みたいな寒さの中、冷たい缶コーヒーを飲むことになるとは。
える「大丈夫ですよ、私のも冷たいので」
千反田はそう言うと、俺の手に自分の持っていた紅茶を当てる。
……確かに冷たいが、大丈夫という意味が分からない。
奉太郎「……ありがたく受け取っておく」
える「はい、どうぞ」
える「いつも奢ってもらってばかりな気がしたので……私の奢りです」
奉太郎「今度飯か何か奢ってもらわないと、割りに合わないな」
俺がそう言うと、千反田はムッとした顔をして、俺に向け口を開いた。
える「酷いですよ」
える「折角、折木さんが寒い思いをしていると思って……」
える「買って待っていたんですよ」
奉太郎「……」
奉太郎「……このコーヒー、冷たいけどな」
える「……そうでした」
これは冗談だろうと思って、反応を返すと本気で言っていたり……
かと思えば……本気で言っていると思って返すと、冗談で言っていたり、といった事が多々ある。
そして今回は本気で言っていた方か。
奉太郎「それで、朝から漫才をやる為に呼んだのか」
える「それもいいかも知れませんが……違います」
える「えっと……」
える「色々と、ご迷惑をお掛けしてしまってすいませんでした」
……やっぱりか。
える「……そんな事って、私はそうは思いません」
奉太郎「……もう終わった事だろ」
奉太郎「俺は別に気にしてないさ」
その俺の言葉は、今の俺の本心でもあった。
しかしそれは今だから言えるのだろう、冬休みは本当に最悪の気分だったし、前に千反田とこの公園で話した後の数日間はろくに飯も食えなかった。
……だけどそれも、終わった事だ。
える「で、ですが!」
多分、俺がいくら言ってもこいつは心のどこかでそれを思い続けるのかもしれない。
なら、口で言っても駄目なら。
パチン、と小気味いい音が乾いた空気に響いた。
える「……い、痛いですよ」
える「……折木さんのデコピンは、ちょっと痛すぎると思うんです」
奉太郎「なら丁度いい」
奉太郎「それで全部チャラだ、それでいいだろ」
俺がそう言うと、千反田は自分の頬を両手で叩く。
える「……分かりました」
える「もう、気にしない事にします」
奉太郎「ああ」
ふと、千反田が指を口に当てながら、思い出したかの様に言った。
える「新年のご挨拶がまだでしたね」
える「あけましておめでとうございます」
少し遅い新年の挨拶を、丁寧にお辞儀をしながら千反田は告げた。
そういえば……確かに、まだしていなかった気がする。
もしかしたらしたのかもしれないが、千反田がまだと言うからにはやっぱりしていないのだろう。
奉太郎「すっかり忘れてたな」
奉太郎「あけましておめでとう」
今日は朝が早かったせいもあり、若干眠い。
その眠気から来る機嫌の悪さを俺は里志に向けていた。
奉太郎「それで、用事は何だ」
里志「まあまあ、皆集まってからにしよう」
里志の呼び出しで集められる時はあまり良い予感がしない。
それは俺がここ2年近く、古典部で活動する事で学んだ事の一つだ。
える「すいません、遅れてしまいまして」
里志「お、来たね」
摩耶花「これで揃ったけど……どうして急に皆を集めたの?」
里志「そうだね……」
里志「もうすぐで2月になるよね」
待てよ……どこか辺境の地に住む人らは、日付の概念が無い可能性もある。
なら俺の言葉は訂正しなければならないな。
正しくは、カレンダーを見れば……日付の概念が無い人以外は誰にだって分かるだろう、か。
なんだか長くなってしまったので、やはり訂正しなくてもいいか。
える「あの、折木さん?」
奉太郎「……ん」
摩耶花「またくだらない事でも考えていたんでしょ、そんな顔してた」
どんな顔だろうか。
……私、気になります。 と言おうかと思ったが、部室に変な空気は流したく無いのでやめておいた。
里志「もうすぐで2月になるよね」
いや、そんな事……カレンダーを見れば誰にだって分かるだろう。
摩耶花「……ちょっと、聞いてるの?」
奉太郎「あ、ああ」
奉太郎「勿論」
釘を刺されてしまっては仕方ない、里志の話に耳を傾けよう。
里志「2月と言えばなんだと思う?」
奉太郎「……2月か」
奉太郎「寒いな」
里志「いや、そういう感想的な物じゃなくてもっとイベント的な奴だよ」
里志「……ホータローも少し意地悪になったね」
里志「確かにそれもそうだけど、その少し前の事さ」
少し前……何か、あっただろうか。
……ああ、あれか。
奉太郎「節分か?」
里志「そう! それだよ!」
里志がいきなり大声を出したせいで、俺と千反田が一瞬怯む。
伊原は……慣れているのかもしれない、いつも通りだった。
里志「節分と言ったら、何を想像する?」
える「ええっと、2月の節分ですよね?」
奉太郎「2月の? 他に節分など無いだろ」
里志「いいや、節分は元々季節の分け目の事を言うんだよ」
える「ええ」
える「立春、立夏、立秋、立冬の前日を節分と指すんです」
奉太郎「……ほお」
える「ですが、一般的には立春の前日の事を言うので、福部さんが仰っているのも2月のですよね?」
える「なら……」
摩耶花「豆まき、って事?」
里志「そう、それだよ摩耶花」
何がどう、それなのか分からないが……
やはり、良い予感はしない。
里志「……古典部で豆まきをしないかい?」
える「良い考えです!」
その里志の提案に、即座に反応したのは千反田だった。
摩耶花「楽しそうね、私もやりたい」
そしてやはり、伊原もそれに続く。
奉太郎「ここでするのか?」
俺も別に、絶対にやりたくないと言う訳でも無かったし、このくらいならいいだろう。
嫌な予感と言うのも、外れてくれると有難い物だ。
奉太郎「……いつも通り、本を読んでいたら駄目か」
今の言葉は試しに言ってみたのだが、里志はそれを冗談だとは思わなかったらしい。
里志「別にいいけど、豆を当てられながら本を読むのは……僕だったら嫌かな」
奉太郎「……ならやめておく」
部室で静かに本を読む俺、そこに現れる里志、千反田、伊原。
そして本を読みながら豆を顔にぺちぺちと当てられる。
……何か、おかしいだろ。
里志「ちょっと提案なんだけどさ、豆まき自体は皆賛成なんだよね?」
える「ええ、そうです」
俺は別に賛成とは一言も言った気はしないが……反対と言う訳でもなかったので、特に何も言わず続きを聞く。
奉太郎「……何故、俺の家なんだ」
里志「僕の家でもいいんだけどさ、妹がちょっとね」
そういえば、里志には妹が居るんだった。
……随分と、変わり者の。
奉太郎「……ああ、そうだった」
奉太郎「なら、伊原の家は駄目なのか」
摩耶花「私の家も、ちょっと」
摩耶花「その……都合が悪いかな」
何か隠しているような顔をしていたが、そこには突っ込まない。
……俺だって、部屋はしっかりと片付けてからで無いと人を上げるのは少し気が引けてしまう。
俺でさえそう思うのだから、他の奴は更にそう思っている事だろう。
える「私の家ですか……大丈夫ですよ」
里志「本当かい? 実はそっちが本命だったんだよ」
里志「千反田さんの家は広いからね、豆まきのやりがいがあるよ」
……悪かったな、俺の家は狭くて。
それにそっちが本命とは、俺は随分と失礼な奴を友達に持ってしまった。
結果的には俺の家でやる事は無くなり、良かったのかもしれないが……なんか納得がいかない。
しかし、それよりさっきから気になる事がある。
千反田ではないから、気になりますとまでは行かないが……少しだけ引っ掛かる事だ。
里志「ん? なんだい」
奉太郎「お前がやろうとしているのは、普通の豆まきか」
摩耶花「折木何言ってるの? 普通じゃない豆まきってどんなよ」
える「今の言葉、何か意味があるんですよね」
える「……私、気になります!」
ここで来たか、いや……少しだけ予想は付いていたが。
里志「……まあ、普通ではないかな」
……嫌な予感が当たってしまっただろう。
なんという事だ、今年初めの失敗はこれになりそうだな。
奉太郎「……予想と言う程の事でもないが」
奉太郎「まず最初、古典部で豆まきをするのか、と俺が聞いたときだ」
奉太郎「その後、俺は本を読んでいて良いかと聞いたな」
里志「うん、それに僕は」
里志「顔に豆を当てられながら読むのは嫌だな、みたいに答えたね」
奉太郎「……普通、豆は人にぶつけないだろ」
摩耶花「ええっと、つまり?」
奉太郎「それに里志は広い場所を探していた」
奉太郎「千反田の家が本命だったと、言った様にな」
える「……と言う事は」
奉太郎「お前がやろうとしているのは」
奉太郎「……豆の、ぶつけ合いか」
……反対しておけばよかった。
節分で豆をぶつけ合う馬鹿が、どこにいるのだろうか。
摩耶花「わ、私は別にいいけど……」
摩耶花「そんな野蛮な事、ちーちゃんは」
える「私、やりたいです!」
里志「……決定だね、ホータロー」
奉太郎「……はあ」
ここに居た。
日本の、神山市の、神山高校に四人ほど。
俺は是非ともその馬鹿達の顔を見てみたい。
……帰ったら、一度鏡でも見てみる事にしよう。
里志が言うにはチーム分けをするらしく、なんだかこういう遊びがあった気がする。
ええっと、サバイバルゲームか。
決戦は確か、2月3日。
節分の日と覚えておけばいいだろう。
曜日は日曜日か、昼に集合と言うのも問題は無い。
ただ一つ、問題があるとするならそれは。
摩耶花「また、一緒になったわね」
伊原と同じチームになってしまった事だった。
第2話
おわり
……とても面倒くさかったが、始まってしまった物は仕方ないか。
まあ、それはそうと里志のルール説明を理解しなければ。
里志「じゃあチーム毎に分かれて、10分後に始めよう」
奉太郎「ああ」
摩耶花「そうね、分かった」
える「ええ……! 負けませんよ!」
千反田はやけに張り切っている様だったが、今は敵だ……倒さねばなるまい。
というか、こいつは前に食べ物を粗末にするなという様な事を言っていた気がする。
える「へ? は、はい」
気合を入れていた所に、唐突に俺が話しかけたせいで変な声が出ていた。
奉太郎「この豆まきは、食べ物を粗末の内に入らないのか」
える「まさか、捨てる筈ありません」
奉太郎「……食べるのか」
える「いえ、それはちょっと、衛生上あれなので」
える「私の家には鳩がよく来るので、あげようかと思っています」
奉太郎「なるほど、それなら問題無いか」
える「心置きなく、投げてくださいね」
そして俺達は二つに分かれる。
俺は伊原と共に、台所へと向かった。
千反田と里志は恐らく、あの氷菓の時に使った部屋に行っただろう。
奉太郎「お前と一緒のチームになったのは不服だが」
奉太郎「やるからには負けたくないな」
摩耶花「ちょっと、もうちょっとやる気が出そうな台詞とか無いの?」
やる気が出そうな台詞……
奉太郎「……頑張ろう」
摩耶花「……はぁ」
それよりルールを確認しよう。
確か、里志の説明によると……
里志『一人に割り与えられる体力は5』
里志『そして、一人の弾の数……ここだと豆の数だね』
里志『それはこの皿に乗っているのを半分にしよう』
里志『一度使った豆を拾って再利用は認めない』
里志『場所は千反田邸、全て』
里志『体力が無くなったら自己申告で頼むよ』
里志『それと、自分を倒した相手に手持ちの豆は全て渡す事』
里志『そうしないと、全部使い切ってしまう場合もあるからね』
里志『どちらか片方のチームが全滅したら残った片方のチームが勝ち』
里志『景品とかは無いけど……楽しんでやろうか』
との事らしい。
そして俺達に割り当てられた豆の数は20。
一人当たり10個と言った所だ。
奉太郎「伊原、準備はいいか」
摩耶花「抜かり無いわ」
摩耶花「……それにしても、ありなのかなぁ」
奉太郎「ルール違反ではないさ、そうだろ?」
摩耶花「まあ……そうだけど」
奉太郎「なら問題無い」
奉太郎「里志は俺達を甘く見過ぎていただけって事だ」
里志「と、ホータロー達は考えている頃だろうね」
える「ええと……つまり、どういう事ですか?」
里志「このルールにはね、穴があるんだよ」
える「……折木さん達は、それに気付いていると言う事ですか」
里志「その通り、摩耶花だけならまだしも……ホータローが居るとなるとね」
里志「まず、間違いなく気付いていると思う」
福部さんが発表したルールの抜け穴……なんでしょうか?
える「す、すいません」
える「その抜け道を、教えて欲しいです」
える「私、さっきから気になってしまって」
える「ええ、その通りです」
私がそう伝えると、福部さんは特に焦らす事も無く、教えてくれました。
里志「……体力が0になった人の扱いさ」
える「え? それはつまり……どういう事でしょうか」
里志「このルールだとね」
里志「体力が0になった人はどうなるか……と言うのを決めていないんだよ」
里志「つまり……体力が無くなっても、離脱はしなくてもいいんだ」
里志「体力は無くなっても、攻撃が出来る」
里志「勿論それは、相方から豆を分けて貰ってからだけどね」
里志「はは、そう思うのも仕方ない」
里志「でもね」
里志「ルールで縛られていない以上、可能なのさ」
……納得、できませんが。
それでも確かに、ルールを決めた福部さんが言うのなら……そうなのかもしれません。
でも。
える「……ずるいですよ、福部さん」
える「そんなルールでやるなんて、ずるいです」
里志「でもさ、ホータロー達もこれには気付いているんだよ?」
里志「なら別に、フェアじゃないって事は無いと思うけどな」
……それもまた、言えているかもしれません。
える「……分かりました、ですが」
える「折木さん達も気づいているのなら、私達が有利という事も無いですよね」
里志「果たしてそうかな」
何やら、考えがあるのでしょうか。
里志「例え体力が0になっても動けると言っても……二人同時に倒されてしまっては意味がないんだよ」
あ、それには気付きませんでした。
える「なるほど……」
そう言い、私が腕を組んでいると……福部さんが再び口を開きました。
える「え? どういう意味でしょうか」
里志「その腕を組んだりする癖、そっくりだ」
わ、私はそんなつもりは無かったのですが……
少し、恥ずかしくなり腕を組むのをやめました。
える「そ、そんな事は無いですよ」
える「それより、作戦を考えましょう!」
里志「はは、分かった」
里志「あまり時間も無いし、簡単に伝えるよ」
里志「実はもう、大体考えてあるんだ」
福部さんはそう言うと、少し声を小さくして作戦を私に教えてくれました。
なるほど、確かに理に適っています。
~奉太郎/摩耶花~
奉太郎「さて、どう出るか」
摩耶花「ふくちゃんの性格だと……様子見、かな」
奉太郎「……俺もそう思う」
開始までは後5分も無い、俺達が取るべき行動は……
奉太郎「なるべく二人で一緒に行動は避けたいが……そうもいかないな」
摩耶花「どうして?」
奉太郎「俺達はこの家の構造を把握していないからだ」
奉太郎「向こうには千反田が居るんだぞ」
摩耶花「あ、そっか」
摩耶花「ばらばらに行動したら、ちーちゃんの攻撃を避けられないって事ね」
奉太郎「そう言う事だ」
しかし、全ての構造が分かっていない場所では話が少し変わる。
更には敵側には一人、構造を完璧に把握している人物がいるのだ。
なら行動を共にして、視野を広く持った方が安全だろう。
奉太郎「まずは様子を見よう、あいつらは多分……ばらばらで来るからな」
摩耶花「分かったわ」
奉太郎「危険なのは里志だ、あいつの考えている事は時々わからん」
摩耶花「でも、ちーちゃんも結構危険よね」
奉太郎「……ああ」
摩耶花「……勝てる見込みが、無いんだけど」
摩耶花「あんた、珍しくやる気ね」
……確かに、言われてみればこの豆合戦を楽しんでいる俺がいた。
まあ、やらなくても良かった事なのは事実だが……やるからには、やはり負けたくは無い。
奉太郎「かもな、だが」
奉太郎「勝算は、あるだろ」
摩耶花「……そうね」
作戦は大体さっき話してある。
うまく行けば、負ける事は無いだろう。
さてと、そろそろスタートか。
まずは、廊下の様子を見る事にしよう。
える「先手必勝、ですか」
福部さんが考えた作戦は、意外な物でした。
里志「そう、別に始まるまでここに居なきゃいけない理由は無いからね」
里志「ホータロー達が行ったのは台所だから、そのすぐ傍で待ち構える」
里志「僕が最初に突っ込むから、千反田さんは裏に回ってくれないかな?」
える「分かりました、挟み撃ちですね」
里志「うん、その通りだ」
里志「と言っても、中々相手も手強いからね」
里志「いきなり倒されたら豆が一気に10個も減ってしまう」
里志「それだけは気をつけてね」
単純に考えれば、私達の手持ちの豆が半分になってしまうと言う事です。
それに加えて、折木さん達の豆が増えるという事にも繋がります。
……気をつけましょう。
える「分かりました、任せてください」
える「この家は、私の家なので」
里志「頼もしい言葉だね」
里志「さて、そろそろ始まるから移動しようか」
里志「先手必勝、ホータロー達には悪いけど」
える「勝たせてもらう、という奴ですね」
里志「はは、本当に頼もしい」
私は反対側に行き、台所の裏手へと回りこみました。
こちら側の廊下からは、少し中が覗ける様になっています。
折木さんと摩耶花さんは何やら話している様子でしたが……しっかりとは聞こえませんでした。
そして時計に目を移すと、間もなく始まる時間を指す所です。
時計が……12を指し、豆まきがスタートしました。
……折木さん達はどうやら、最初は慎重に行く様ですね。
あ、折木さんが廊下に繋がる扉に手を掛けました。
駄目です!
そちらには、福部さんが!
……い、いえ。
今は敵なのでした、折木さんは倒さなければいけないんです。
私は、私のすべき事をするのです!
廊下に顔だけを出した俺に、最初に目に映ったのは里志の姿だった。
直後、飛んでくる豆。
その豆は見事に俺の額へと命中した。
奉太郎「いてっ!」
あいつ、全力で投げやがった。
豆もここまで本気で投げられると随分と痛い。
しかし、それに怯んでいては第二、第三の攻撃が来るのは想像に難くないだろう。
奉太郎「伊原! 逃げろ!」
台所の中に居た伊原に向け、声を発する。
その直後に、再び飛んでくる豆をなんとか避ける。
それと同時に俺も台所の中に避難し、伊原と一緒に裏手の扉から廊下に飛び出た。
……だが。
それすらも読まれていた。
前には千反田、後ろは行き止まり。
そして俺達が来た方向からは里志が追っかけてきているだろう。
千反田はそのまま投げる格好をし、豆を投げてきた……と言うよりは、放ってきた。
俺はそれをなんなく避ける、避けたはいいが……
放られた豆は、一つではなかった。
千反田は豆を3つ、投げていたのだ。
1個は床に落ち、2個は伊原へと命中する。
そう謝っているこいつは、とても申し訳無さそうな顔をしていた。
隙だらけではあるが……片方だけ倒してしまっても仕方ない。
いや、むしろ片方だけ倒してしまったらそれこそ不利になってしまう。
……そのルールの穴に、里志と千反田も気付いていての別行動だろう。
だが削っておく分には問題無いだろう……とりあえず一つ、千反田の頭へ向かって投げた。
俺が投げた豆は、千反田の頭に当たり跳ね返る。
える「い、痛いです……」
しまった、俺もつい謝ってしまった。
なんだこれは、謝りながら相手に豆をぶつけるゲームだったか。
摩耶花「何謝ってるのよ! 行くわよ!」
伊原はそう言うと、頭を抑えている千反田の横を通り抜ける。
俺は少しの後ろめたさを感じながら、それに付いて行った。
や、やられてしまいました。
つい謝ってしまったせいで、お二人とも逃がしてしまいました。
福部さんに何と言えばいいのか……分かりません。
で、ですが! まだ勝負は始まったばかりです!
里志「はは、やっぱり逃がしちゃったか」
福部さんはそう言いながら、台所から出てきました。
える「……ごめんなさい、摩耶花さんに二つ当てたのですが、つい謝ってしまいまして」
里志「いいさ、千反田さんらしいじゃないか」
里志「それに、計算外って訳でもないしね」
える「では、次の作戦があるんですね?」
里志「勿論」
里志「千反田さん、ホータロー達が逃げて行った先には何があるんだい?」
える「ええっと」
える「まず最初にあるのがお風呂ですね」
える「次にそのまま真っ直ぐ進めば客室が左右にあります」
える「突き当たりには物置部屋もありますね」
里志「ず、随分と部屋が多いんだね」
そうでしょうか? 確かに少し多いのかもしれませんが……そこまで驚く事でも無いと思います。
里志「好都合だよ」
える「……どういう意味ですか?」
里志「つまりホータロー達はその部屋の内のどれかに居るって事でしょ?」
里志「なら、ここより前の部屋に行くにはここを通るしかない」
里志「……分かるかな」
える「なるほど、と言う事は」
える「袋の鼠、と言う訳ですね」
里志「そう、ホータロー達はもう逃げ場が無い」
里志「片方はここで待機して、もう片方はしらみ潰しに部屋を探す」
里志「それで僕達の勝ちさ」
里志「部屋を探すのは僕がやるよ」
里志「千反田さんは今度こそ、宜しくね」
える「はい、任せてください」
今度は絶対に、逃がしません!
里志「はは、張り切ってるね」
里志「じゃあそんな千反田さんに取って置きの技を教えておくよ」
取って置きの技……なんでしょうか?
福部さんは少し声のトーンを落とし、私にその技を教えてくれました。
……やっぱり福部さんは少し、ずるいです。
でも、これを使えば確かになんとかなるかもです。
……私、頑張ります!
奉太郎:残り体力4/豆の数9
摩耶花:残り体力3/豆の数10
里志:残り体力5/豆の数8
える:残り体力4/豆の数7
第3話
おわり
乙ありがとうございました。
書きながらになるので少し、投下遅いですが……良ければお付き合いください。
*古典部の日常とは無関係となります。
タイトル
える「お久しぶりです」
える「一年ぶりですからね」
奉太郎「大人になったしな、仕事がどうにも忙しい」
える「ふふ、高校の時からは考えられない台詞ですね」
奉太郎「……だな」
える「この縁側でお話をしていると、丁度10年前を思い出します」
奉太郎「……10年前となると、高校三年の時か」
奉太郎「秋で縁側……あれか」
える「思い出しましたか?」
奉太郎「……いい思い出では無い、かな」
える「……そうですか」
える「あの日は確か、私に用があると言って家まで来てくれたんでしたよね」
奉太郎「そうだったかな」
奉太郎「……お前がそう言うなら、そうなんだろうな」
える「ふふ」
える「用事は確か、告白でしたね」
奉太郎「……そうだな」
える「この縁側で、私は好きだと言われました」
奉太郎「……ああ」
奉太郎「なあ、もうやめないか」
える「いいえ、思い出に浸りたい気分なんですよ」
奉太郎「……」
奉太郎「お前の返事は……」
奉太郎「許婚が居る、って返事だったな」
奉太郎「……そうだな」
右後ろから、赤ん坊の泣き声が聞こえてきた。
奉太郎「呼ばれているぞ」
える「……その様ですね」
える「では少し、席を外しますね」
奉太郎「……ああ」
奉太郎「早いな……って」
奉太郎「連れてきたのか、その子」
える「ええ、月を少しみせたくて」
奉太郎「……そうか」
える「……私には」
奉太郎「……そうだろうな」
える「……一人で子育ては、中々大変ですよ」
奉太郎「……そう、だろうな」
える「辛い時も、ありますよ」
奉太郎「……そうか」
奉太郎「……悪かったな」
える「今日の月は、今までの中で一番綺麗かもですね」
奉太郎「ああ」
奉太郎「っと、もうこんな時間か」
える「また、お仕事ですか」
奉太郎「まあ、忙しいからな」
奉太郎「多分また、一年後だろう」
える「そうですか、ではまた一年後に会いましょうか」
奉太郎「……俺は」
奉太郎「俺は、いいのかな」
える「何がですか?」
奉太郎「お前に顔を合わせる権利が、俺にあるのか」
奉太郎「悪い事をしているようで、気が気じゃないんだよ」
える「そんな事……無いです」
奉太郎「……そうか」
奉太郎「……すまんな、そろそろ行くよ」
える「ええ、お仕事頑張ってくださいね」
奉太郎「ぼちぼちな」
次に会うのは一年後か。
そういえば今年は、里志と伊原……今は二人とも福部か。
あいつらに挨拶をできなかったな。
……まあ、来年でいいか。
まあそれも、全て俺への罰なのかもしれないが。
怠惰が過ぎると、随分と痛い目を見る事になると今更ながら理解する。
とにかく、これで神山市にはしばらく帰って来れない。
また昔みたいに、四人で遊びたいが……そうもいかないな。
俺は少々の名残惜しさを残し、神山市を後にする。
今まで怠けていた分、体を動かさないとどうにかなってしまいそうだ。
車で何日か掛けて、遠い地へと向かう。
今日は本当に、月が綺麗だ。
あいつと、その子供の為にも……頑張るか。
大好きな嫁と、俺の子供の為にも。
おわり
ありがとうございます。
Entry ⇒ 2012.10.25 | Category ⇒ 氷菓SS | Comments (0) | Trackbacks (0)
箒「一夏ー」
箒「うむ」ジト
一夏「そんなに時間かからないから先に待っててよ」
箒「……」
一夏「じゃあもうちょっと待ってて」
箒「あぁ」
箒「お前のタオルなら置きっぱなしだったから洗っておいたぞ」
一夏「ん、ありがと」
箒「タオルの一つや二つ変わらないさ」
一夏「でも悪かったなって」
箒「いいさ、いつものことだ」
一夏「それもそうか」
一夏「箒」
箒「ん、醤油」ホラ
一夏「ん、ありがと」
箒「一夏」
一夏「からあげ」
箒「ピーマンの肉詰め」
一夏・箒「ん」コウカン
シャル(ボクもああいうふうにすれば一夏わかってくれるのかも!)
シャル「一夏ー!」
一夏「お、どうかしたかシャル」
シャル「えっとね、あれが欲しいなって」エヘヘ
一夏「おいおい、アレじゃわかんないって」
シャル「え、でも……」
箒「一夏」
一夏「ノート?教室に忘れたんじゃないのか?」
箒「むぅ……」
一夏「まぁ無ければ俺も一緒に探すからさ」
箒「ん」
シャル「……」
箒「?」
一夏(今日のリボンも俺があげたやつとは違う……)
一夏「いや、なんでもない」
箒「…………?」
一夏(週二回くらいは付けてくれてるなって思ってたけど、最近はあんまりしてくれないな……)チクッ
箒「どうした?」
一夏「なんでもないって。呼び止めてごめんな」
箒(気付かれたか……?)
箒(あいつ、普段は鈍感なくせに妙に目敏いところがあるからきっと……)
箒(…………)
一夏(気に入ってくれてると思ってたのに……付けてるところ見るだけでじんわりと嬉しい気持ちになってたのに……)
一夏(何かの意思表示かな? もうおまえの世話にはならないぞーって言いたいのかな?)
一夏(俺、何かしたか……? 箒……)
箒「……今日は中庭に探しに行こう」
箒(洗濯して外に干していたら風に飛ばされてしまったとは言えない……)
箒「どうしよう……もしどれだけ探しても見つからなかったら……」チクリ
箒(嫌だ。せっかく一夏がプレゼントしてくれたのに……!)
箒「だ、大丈夫さ。きっと見つかるはず」
箒「んっ……風が強いな」
箒「…………」キョロキョロ
箒「ん? あれは!」ダッ
箒「あった! 木の枝に引っかかっている!」
箒「あれ……でも……泥だらけだ……すこし破けてもいる……」
箒(あそこに飛ばされる前に土の汚れが付いたんだ……)
箒(一夏……ごめん……)キュウゥゥ
箒(待っていろ。今木に上るからな!)
~木の上~
箒「はあ……はあ……も、もう少し」グイ~…
ビュウウゥゥゥ!!
バサッ!!
箒「ああ!」
ビュウゥゥゥゥゥゥ!!
箒「きゃっ!」グラッ
ドサァッ!!
箒「いた……いたた……」
箒「リボン……確か向こうに」ムクッ
ズキッ…!!
箒「う、あ、足を挫いてしまったか」
箒(一夏がくれたリボンなんだ……これくらい……)
箒「方向はあっちだな……くっ……うっ!……」ヒョコヒョコ
箒(足が痛くて移動に時間が掛ってしまった。また飛ばされてなければ良いのだが……)
箒「……あっ」
鈴「ねえ、これ……あんたが箒にあげたリボンでしょ?」
シャル「泥だらけでゴミ捨て場の近くに転がってたけど……」
ラウラ「……ひどいな」
セシリア「何故このような事になったのかは分かりませんが、一夏さん、気を落とさずに」
一夏「………………………」
箒「あ、あああ………」
ラウラ「いたのか!?」
シャル「……箒」
セシリア「まさかとは思いますが、箒さん……あなたが捨てたという訳では」
箒「ち、違う!」
一夏「………………」
箒「一夏、私は―――うっ」ズキッ
一夏「……!」
ビュウゥゥゥゥゥゥ!
箒「ううぅ……つぅ……」グラッ
一夏「!!」バッ!
ギュゥ
箒「あっ……」
一夏「…………」
箒「い、一夏、私は―――」
一夏(箒……何でそんな目をしてるんだ……)
一夏「―――――――――!」
箒「う、うう、私は、捨ててなんか、決して―――」
一夏「分かってる」
箒「!?」
一夏「全部言わなくていい。箒がそんなことしないってことは、誰より俺が知ってるから」
箒「―――――――――――――!!!!」
一夏「みんな分かるから。何が言いたいか、どういうことがあったのかくらい、箒の顔を見れば」
箒「…………うぅ」ジワッ
一夏「昔っから顔に出るんだよおまえは。嘘つくの苦手で分かり易い奴だったし」
箒「私……大切に、してた……これから何年も身に付けようと、決めてた……」
箒「そ、それなのに、こ、こんなことになってしまって……ごめん、ごめん一夏……プレゼントを……」ポロポロ
一夏「いいっていいって。そこまで大切にしてくれたのが凄く嬉しいよ」
シャル「……」
ラウラ「良かったな。箒」
鈴(今回はまあ、いっか)
一夏「おまえ、足挫いてるだろ?」
箒「あ、ああ」
一夏「大方、木に引っ掛かったリボン取ろうとして地面に落ちちゃって、そのときに痛めたんじゃないのか~?」
箒「ふぇっ!?」
一夏「何だ~? まさか図星か? しょうがねえなっと」ヒョイ
箒「きゃっ!」
箒(お、お姫様抱っこ……)ドキドキドキドキ
箒「?」
ラウラ「二度と無くすなよ」スッ
箒「あ、ああ……」
鈴「汚れも洗えば落ちるでしょ」
セシリア「私も子供の頃お洋服に染みを作ってしまったことはありますけれど、翌週にはまた元の美しさを取り戻せましたし」
シャル「ところどころほつれてるけど、修繕できる範囲だよ」
箒「ありがとう、ありがとうおまえたち……」
一夏「よーし。じゃあ食堂に行くか。腹減ったよな!」
全員「おー!」
箒(…………どうなることかと思ったが……よ、良かった……)
一夏「~~♪」
箒(こんなお気楽そうな顔して、私のことを心配してくれていたのかも知れない)
一夏「箒、医療室に寄るぞ」
箒「……うん」
箒「……何でもない」
一夏「ふーん……ま、良いか!」
箒(……一夏は私のことを考えてくれていたに違いない。こいつはずっと私に目を掛けてくれていた)
箒(今、こんなに上機嫌なのも、私へのプレゼントが大切にされていると知ったからだ)
箒(私にだって分かる……本当にありがとう……)
一夏(多分、俺が箒のリボンをずっと気にしてたって事は、多分こいつに気付かれてるだろうなあ……)
一夏(ちょっと気恥ずかしいぜ。プレゼントの現在を一々気にしてる軟弱者だって思われるかも)
一夏「……」チラッ
箒「……」チラッ
一夏「!」カアァァァ
箒「あ……」カァァァァ
箒(一夏はすぐに私の事情に気付いてくれた)
箒(リボンはボロボロになってしまった。皆はああ言ってくれたが、傷の痕跡を完全に消すことはできず、所々まだダメージが残っている)
箒(しかし、私はそれでも構わないと思っている)
箒(小さなほつれを見つめるたびに、抜けきらなかった染みあとを数えるたびに―――)
―――全部言わなくていい。箒がそんなことしないってことは、誰より俺が知ってるから
箒(あの日の一夏の優しさが、温かな気持ちと共に思い起こされるからだ)
箒「……」
ポタッ
おしまい
乙
Entry ⇒ 2012.10.25 | Category ⇒ インフィニット・ストラトスSS | Comments (1) | Trackbacks (0)
結衣「あかりも大きくなったんだなあ」あかり「降ろしてよぉ」
あかり「きたよー」
結衣「いらっしゃい。あれ、あかり一人なの?」
あかり「うん、ちなつちゃん用事があるから早く帰るってさ」
結衣「……ということは今日はあかりと二人きりか」
あかり「あ、京子ちゃんも休みなの?」
結衣「そうだよ」
結衣「……というわけなんだけど、どうしよう?」
結衣「二人だとさすがにやることもないしなぁ」
あかり「そうだねぇ、とりあえずお茶でも飲んでゆっくりしよ」
結衣「じゃあ、わたしがいれるよ。今日ちなつちゃんいないし」
あかり「え、あかりがやるって」
結衣「いいって、たまにはあかりはゆっくりしてて」
結衣「まかせて。ちなつちゃんほどじゃないけど、よく家で飲んでるから」
あかり「期待してるよぉ」
数分後
結衣「はい、どうぞ」
あかり「ありがとうね」
あかり「……ズズー」
結衣「ふふ、どう?」
あかり「うん、おいしよぉ」
結衣「ちなつちゃんと比べたら?」
あかり「うーん、技術だけならちなつちゃんのほうが優れてると思う」
あかり「……でも、やっぱり結衣ちゃんには結衣ちゃんのよさがあるよ」
あかり「このお茶には結衣ちゃんの真心が詰まってるから、それでいいんだよ」
結衣「あかりらしいや、でも嬉しい」
あかり「あかりは、このまま結衣ちゃんと一緒にゆっくりしたいなぁ」
結衣「いいの? わたしは京子みたいにおもしろいことなんて考えだせないし」
結衣「あかりを退屈させちゃうよ」
あかり「それでいいよ。さっきも言ったでしょ、結衣ちゃんには結衣ちゃんのよさがあるって」
あかり「あかりは、結衣ちゃんといれればそれでいいの」
あかり「だから、今日はこのままダラダラしよ」
結衣「……あかり」
結衣「そうだね、ダラダラしよう」
あかり「あ、あくびしてる」
結衣「いいんだよ、ダラダラするんだから」
結衣「なんかいつも以上にきがぬけるな、京子もちなつちゃんもいないと」
あかり「たしかに、いつもなら娯楽部でももっとしっかりしてるもんねぇ」
あかり「え、そうなの?」
結衣「きっと、あかりと二人きりだからだと思うんだ」
あかり「……あかりと二人きりだから?」
結衣「うん、あの二人の前だとどうしてもしっかりしてなきゃ」
結衣「クールでいなきゃって身構えちゃうんだ」
結衣「でも、あかり相手ならその必要もない」
あかり「そういうものなのかなぁ」
結衣「……ほら、ちなつちゃんの前だと尊敬される先輩を演じなきゃって、
京子の前だと突飛なこと言いだして私が止めないといけない」
結衣「なんか、いつのまにかそんな風に思ってるんだよね」
結衣「その点、あかりは幼なじみで気ごころ知れてるし、しっかりしてるから心配ない」
結衣「だからさ、……あかりとは自然体で接することができるんだ」
あかり「えへへ、そっか」
あかり「結衣ちゃん、あかりのことそんな風に思ってくれてたんだね」
結衣「うん、これが理由だよ」
あかり「結衣ちゃんの気持ちが聞けた」
結衣「そういえば、あかりと二人きりなんていつ以来だろ?」
あかり「覚えてないなぁ」
結衣「こんなことでもなきゃ、ゆっくりあかりと話すこともなかっただろうし」
あかり「そうだねぇ」
あかり「あ、そうだお菓子あまってるから食べよ」
結衣「……うん、そうし、ようかな……」
あかり「って、結衣ちゃん?」
結衣「ごめん、眠くなってきた」
結衣「ううん……スゥ」
あかり「結衣ちゃん……?」
あかり「寝ちゃったよぉ」
あかり「……ふふ、疲れてたみたいだね」
あかり(そうだよね、一人暮らしだから家事も一人でしなきゃいけない)
あかり(掃除、洗濯、料理……あと勉強に……ちょっと違うけどゲームも)
あかり(ちなつちゃんじゃないけど、尊敬しちゃうな)
あかり(……寝顔、随分リラックスしてるな)
あかり(さっきのあかりとは自然体っていうのは本当だったんだね)
あかり(なら、ゆっくり休んでね)
あかり「あ、そうだ!」
あかり「結衣ちゃん驚くかなぁ」
結衣「……ふわぁ、寝ちゃってたのか」
あかり「おはよう、結衣ちゃん」
結衣「あぁ、あかり」
結衣「ごめん、ほったらかしにしちゃって……って、あれ?」
結衣(あかりの顔が目の前に……)
結衣(それに、この後頭部の感触は)
結衣「ひざ、まくら……?」
あかり「そうだよぉ」
結衣「な、なんでこんなこと」
あかり「結衣ちゃん、そのまま床に寝ちゃったから頭痛いかなと思って」
結衣「そ、それなら座布団でも使ってくれたら……」
結衣「だめじゃないけど……」
あかり「なら、よかったよぉ」
結衣「……って、よくないよ!」バッ
あかり「あぁ! どうして起きあがっちゃうの!?」
結衣「だって、膝枕なんて恥ずかしいよ……」
結衣「実際やられてみてそう思った」
あかり「あかりは大丈夫なのに」
結衣「あかりはよくても、私はダメなの」
あかり「むー」
結衣「むくれても、ダメ!」
あかり「……あかりも結衣ちゃんと同じだから」
結衣「え?」
あかり「結衣ちゃんの前でならあかりも自然体でいられるんだよ」
あかり「この膝枕だってさ、京子ちゃんにしたらからかわれるかもしれないし
ちなつちゃんだと拒否されちゃうかもって」
あかり「二人相手だとこんなふうに嫌がられたりするかもって思っちゃう」
あかり「それに、あかりも恥ずかしいいんだ」
あかり「もちろん、そんなのあかりの思い込みかもしれないけど」
あかり「でも、結衣ちゃんなら恥ずかしがっても内心では喜んでくれるかなって素直に想像できたから」
あかり「あかりも恥ずかしくない」
あかり「現に、その通りになったし」
結衣「……う!」
あかり「ちがうよぉ、結衣ちゃんはそのままでいいよ」
あかり「そんな結衣ちゃんだからこそ、あかりは安心してられるんだから」
結衣「……あかりには敵わないや」
結衣「わかった、そうさせてもらうよ」
あかり「それがいいよぉ」
結衣「……あかり、ちょっと来て?」
あかり「え、なに?」
結衣「いいから」
あかり「……うん」トコトコ
結衣「目、つぶって」
あかり「なに、なんなのぉ?」ギュウ
結衣「…………よし」
グイ
あかり「って、うわぁ!」
あかり(わ、脇の下に手を入れて持ち上げられてる!?)
あかり「あわわ……!」
結衣「ふーん、なるほど」
結衣「あかりも大きくなったんだなあ」あかり「降ろしてよぉ」
結衣「もう少しだけ、ね」
あかり「……こんなの赤ちゃんみたいで恥ずかしいよぉ」
結衣「あはは、これは恥ずかしいんだね」
あかり「それとこれとは別だってばぁ!」
結衣「うぅ、もう腕が疲れてきたな」
あかり「ほらほら、もういいでしょお」
結衣「いーや、まだまだ」
あかり「もぉ……」
結衣「ごめんごめん、もう降ろすよ」スゥ
あかり「ふぅ、やっと終わったよ」
結衣「ふふ、恥ずかしがってるあかりかわいかったよ」
あかり「うう……からかってるの?」
結衣「ちがうよ、本当だって」
あかり「おだててもだめ、ビックリして心臓止まりそうだったんだから」
結衣「ほら、謝るから機嫌なおして。ごめん」
あかり「いいけどさ、あかりも大げさにしすぎたよ」
結衣「ははは……ってもう日が暮れてきてる」
結衣「結局、私は寝てばっかりだったな……こりゃ夜寝られないかも」
あかり「……ふふ」
あかり「結衣ちゃんの寝顔かわいかったよぉ」
結衣「あ、あかりが仕返し!?」
あかり「ずーと見てたんだよぉ、何時間もずーと」
結衣(うう、これが自然体のあかりか……けっこう手ごわいぞ)
あかり「あかりの勝ちだね」
結衣「な、なんで勝負になってるのさ」
あかり「仕返しだよぉ、結衣ちゃんもそう言ってたよ」
あかり「あかり、結衣ちゃんには遠慮しないからね」
結衣「はぁ……私の負けでいいよ」
あかり「ふふふ、これで仕返し終了だよ」
結衣「そろそろ出ないとホントに遅くなるよ」
あかり「うわぁ、そうだった。結衣ちゃんと話してて忘れてたよ」
あかり「急がなきゃ」
結衣「ほら、協力して片づけよう」
帰り道
あかり「ふぅー、なんとかバスに間に合ったねぇ」
結衣「ギリギリだったね」
あかり「最初はなんにもすることないって思ってたのに」
結衣「うん。あかりのいろんなことが知れてよかったよ」
結衣「あんまりいい言い方じゃないけど、京子とちなつちゃんが休んでくれてよかったかな」
あかり「皆でいるのも楽しいけど、それだと今日はなかったんだね」
あかり「あかりも……今日のことはずっと覚えてると思う」
あかり「いつもとは違う、特別な日として」
結衣「でも……明日は」
あかり「うん、明日はまた娯楽部のみんなでいたい」
あかり「やっぱり、あかりたちは4人で一緒じゃないと」
結衣「うん、この4人が一番しっくりくるや」
あかり「結衣ちゃんもあかりと同じ気持ちなんだ」
あかり「……いいな、こういうの」
結衣「……いいね、こういうの」
結衣「ねぇ、あかり」
あかり「なに?」
結衣「さっきも言ったけどさ、今日一日であかりの色んなことを知れたんだ」
結衣「そして感じたんだ、あかりも成長してるんだって」
結衣「……なんだか不思議だった。幼なじみなのに、私たちの間にはまだ知らないことがたくさんあったんだって」
結衣「恥ずかしがるあかりに、意外と負けず嫌いなあかり」
結衣「ちっちゃいって思ってたのに、持ち上げてみると重かったり」
結衣「私が知っていたいい子で子供のころのままのあかりじゃない、そんな素のあかりを知ることができた」
あかり「あかりも、いろんな結衣ちゃんを見れたよ」
結衣「できるなら、今日みたいに二人のいろんなことが知れたらいいと思うんだ」
あかり「いいと思うよ。あかりもそうしたい」
結衣「だからさ、あかりにも手伝ってほしいんだ」
あかり「手伝う……?」
結衣「うん。わたしもあかりも、あの二人には遠慮というかつい力んじゃうところがある」
結衣「でも、今日みたいにあかりがそばにいてくれたら心強いんだ」
結衣「最近はさ、娯楽部でのそれぞれの立ち位置が固定されちゃってるんじゃないかな」
結衣「もちろん、それが悪いことだとはいわない。仲良くなって心地のいい空気をつくれたってことだから」
結衣「私も、今日まではそれでいいと思ってた」
結衣「けど、あかりのいろんな面を知れて、それじゃ物足りないって思った」
結衣「だからさ、もっとあの二人のこと知りたくなったんだ」
結衣「あかり、一緒に頑張ってくれる」
あかり「うん、いいよ」
あかり「ふふ、やっぱり結衣ちゃんは凄いね」
あかり「あかり、そんなこと考えようともしてなかった。結衣ちゃんと仲良くなれて満足しちゃってた」
あかり「でも、結衣ちゃんに言われてそうしたいって思えたんだ」
結衣「……なんだか、照れるや」
あかり「三回目」
結衣「ははは、いまのは恥ずかしがるのとは違うよ。それにもう仕返しは終わりでしょ」
あかり「言ってみただけだよ」
結衣「そうだね、今のあかりはそんな冗談も言えるんだ」
結衣「また、一つ知れた」
あかり「……でも、まだまだあかりは謎が多いからね」
あかり「この程度じゃまだあかりを知りつくしたことにはならないよ」
結衣「そっか、それは楽しみだね」
あかり「……結衣ちゃん、明日からもよろしくね」
結衣「うん、よろしく」
Entry ⇒ 2012.10.25 | Category ⇒ ゆるゆりSS | Comments (0) | Trackbacks (0)
P「星井美希、5歳……と、届出はこれでいいか」
P「ただいまー。お出迎えとは感心感心」
P「俺がいなくてそんなに寂しかったかー?」
美希「ちがうの。ミキね、おなかすいたの」
P「……そうかい」
美希「ミキね、ばんごはんはおにぎりがいいとおもうな!」
P「お前……朝飯も作り置いといた昼飯もおにぎりじゃねーか」
美希「ふっ……はにーはわかってないの」
P「作ってんの俺なのになんでそんな偉そうなの?」
P「……つまり?」
美希「ここまでいってもわからないの? はにーはばかなの? しぬの?」
P「このクソガキ……」
美希「つまりおにぎりはさいきょうなの! だからおにぎりにするの」
P「はいはい、わかったよ」
美希「はにーほめてつかわすの! ぐはなーに?」
P「梅干しと味玉だ」
美希「ミキうめぼしキライなの。はにーにあげるの」
P「えー、何でだよ。おにぎりっつったら梅干しがセオリーだろ」
美希「うめぼしはすっぱいからイヤなの」
美希「ミキこどもじゃないの! たべられるけどたべないだけなの!」
P「じゃあ食べてみろよー、大人なんだろ?」
美希「れでぃーにいやがらせするなんて、はにーもてないよ?」
P「うるせーな、どーせ俺は年齢イコールですよーだ」
美希「だいじょうぶなの、いきおくれになるまえにミキがおムコさんにしてあげるね」モキュモキュ
P「へいへい、そりゃどーも」
美希「ミキね、ミキね、しょうらいははにーのおヨメさんになるの!」
P「はっはっは、そうかそうかー。楽しみにしてるぞー」
美希「もう! ミキはほんきなの!」
P「残念ながら俺はばいんばいんな女の子が好きなんだ」
美希「ばいんばいん……」
P「隣のあずささんとか最高だよなー……こう、胸もお尻もぼいーんと」
美希「ぼいんぼいん……」ペッタン
P「美希はまだぺったんこだからムリだなー」
美希「みきはせいちょうきなの! これからおおきくなるの!」
P「はっはっは、がんばれー」
美希「むー! はにーのいじわる!」
美希「あずさ、あずさ」ペタペタ
あずさ「あらあら、何かしら美希ちゃん」
美希「ミキね、ばいんばいんになりたいの」
あずさ「ばいんばいん……? 何かしら~?」
美希「あのね、はにーがあずさみたいなばいんばいんがだいすき、っていってたの」
あずさ「あらあら~……そうなの、うふふ」
美希「だからミキもばいんばいんになりたいの。どうやったらなれるの?」
あずさ「ごめんなさいね~、私も知らないうちに大きくなってたからよくわからないのよ~」
あずさ「ええ、きっとなれるわよ。美希ちゃん美人だし、Pさんもメロメロに出来るわよ」
美希「めろめろ……ミキがんばるの! どうしたらいいの?」
あずさ「ごはんをいっぱい食べて、いっぱい遊んで、いっぱい寝ることが大事よ」
美希「わかったの! ありがとうなの!」
あずさ「いえいえ~、うふふ。でもPさんは渡さないわよ~?」
美希「あずさとミキはらいばるなの! せいせいどうどうたたかうの!」
真「あずさ姉ちゃん、春香がプリンを……あれ、美希じゃん。どうしたの?」
真「二人で何の話してたの? ボクも混ぜてよ」
美希「はにーをめろめろにするためのさくせんかいぎなの」
真「え、何それ! ぼ、ボクにも教えてよ!」
美希「まことくんはぺったんこだからむりなの」
真「えっ!?」
あずさ「あら~……」
P「ん……んぅ……あ……?」
美希「はにー……おきて、なの」ユサユサ
P「んがっ……んあ、なんだ……? まだ夜の二時じゃねえか……」
美希「あのね、ミキね、おトイレいきたいの……」
P「あぁ……トイレ、トイレね……一人で行ってくれ……」
美希「やなの! れでぃーをよなかにひとりにするなんて、はにーはおとことしてしっかくなの!」
P「家の中じゃねーか……わかったよ……」
P「だからなんでそんなに偉そうなんだ……お前、一人で行くのが怖いだけだろ」
美希「そ、そんなわけないの! ミキはりっぱなおとなのおんなだもん!」
P「じゃあ一人で行けるだろー?」
美希「あの……その……ひとりにしたら、はにーがさみしがるかな、って」
P「へいへい……ふわぁ」
美希「! おにぎり! こうきゅうってなんなの?」
P「ものすごーくおいしい、ってことだ」
美希「はにーすごいの! さすがはにーなの!」キラキラ
P「はっはっは、もっと褒め称えろ」
P「一個五百円もしたからなー、四個で二千円だ。おにぎりの値段じゃねえよな」
美希「じゃあぜんぶミキのだね?」
P「何でだよ、半分ずつだろ常識的に考えて」
美希「しょうがないの、はにーにもわけてあげるの」フンス
P「お前な……まぁいい」
P「ダメだ。これは今日の晩御飯に楽しみに取っておく」
美希「えー! ミキいまからたべたいの!」
P「別にいいけど……夜、食べたくなっても俺のはあげないぞ」
美希「いいの! はやく! はやく!」ピョンピョン
P「知らないからな……ほら」
美希「わーいなの!」
P「んじゃ俺は仕事に行くけど……俺の分食うなよ。食ったらおしりペンペンの刑だぞ」
美希「わかったの!」
P「本当かよ……行ってきます」バタン
美希「いってらっしゃいなの」モキュモキュ
美希「すごく、すごくおいしいの……! しんじられないの!」モキュモキュ
美希「ふう……おいしかったの……」キラキラ
美希「……」チラッ
美希「みるだけ、みるだけなの……」ゴソゴソ
美希「……」ウズウズ
美希「……くさっちゃったらもったいないし、ちょっとだけあじみするの」
美希「……」モキュモキュ
美希「……! これもおいしいの!」キラキラ
美希「おにぎりはうちゅうなの……すばらしいの」モキュモキュ
美希「……ふう、おいしかったの」
P『なにい!? 俺のおにぎりを食べただと!?』
P『許せん……これはおしりペンペンの刑だな』
パシンパシン
ナーノー!
美希「……うう、なんとかしないとミキのおしりが……」ガタガタ
美希「!」ピコーン
美希「あ、そうだ。はるかならおりょうりできるはず!」
美希「はるか、はるかー」
春香「はいはーい……あら、美希ちゃん。どうしたの?」
美希「あのね、はるかにおねがいがあるの」
春香「なーに?」
美希「あのね、ミキ、はにーのおにぎりたべちゃったの」
春香「?」
美希「たべるな、っていわれたけどたべちゃったの……」
春香「おにぎりを?」
美希「うん、はにーはちょうこうきゅう、っていってたの」
春香「なるほど……大体わかったわ。でも全部食べちゃうなんて食いしんぼさんだね、美希ちゃん」
美希「だって……おいしかったから……」
春香「あらま。それもちょっと見てみたいけど……うん! 春香さんに任せなさい!」
美希「ほんとなの!? さすがはるかなの!」
春香「だーいじょーうぶ! まーかせて!」
春香「うーん……そうだねー、美希ちゃんも一緒に作ろうか」
美希「えっ、はるかがつくるんじゃないの?」
春香「大丈夫だよ! 美希ちゃんならおいしいおにぎり作れるよ!」
美希「うん! ミキおにぎりだいすきだからきっとつくれるの!」
春香「その意気その意気! じゃあ台所いこうか!」
P「ただいまー」
美希「お、おかえりなさいなの」
P「美希、俺のおにぎり食べなかったかー?」
美希「た、たべてませんなの」
P「……」ジロッ
美希「……」ビクビク
P「……そうか、じゃあ俺は食ってくるから」
美希「ど、どうぞなの」
P「……なんだ、このぐしゃぐしゃのおにぎりは……美希?」
美希「……」ビクビク
P「はぁ……じゃ、食うかな」
美希「……」
P「……」モグモグ
美希「はにー……お、おいしい?」
P「……ああ、うまいよ。さすが超高級おにぎりだ」モグモグ
美希「……」ホッ
美希「そして、いちごばばろあもさいきょう……」
美希「このふたつがいっしょになったら」
美希「きっと、ものすごくおいしいの……!」
美希「さっそくやってみるの!」
………
……
…
\ ナーノー! /
P「な、なんだ!? 何事だ!?」
美希「このふくは……いえにあるあれとくみあわせて……」ブツブツ
P「みーきー」
美希「ううん、やっぱりこのたんくとっぷでのうさつ……」ブツブツ
P「みーーーーきーーーー」
美希「はにーうるさいの! ようふくやさんはおんなのせんじょうなの!」
P「服なんてなんでもいいだろ……」
美希「だめなの! もっとキラキラするためにもようふくえらびはだいじなの!」
P「買うの俺じゃねーか」
美希「はあ……おとめごころがわからないはにーはだめなの」
真「本当、ダメダメですよ」
春香「ダメダメですねー」
P「……なんで真と春香がいるの」
春香「いえーい、こんにちはPさん!」
美希「まことくんとはるかはどっちがいいとおもう?」
春香「あら美希ちゃんったらおませさん、これならPさんも一発で悩殺! だね」
真「でも美希ならこれくらい派手でも可愛いよ」
美希「うーん……でもはにーのおさいふもかんがえてあげないとだめなの」
P「……」
美希「とうぜんなの」フンス
真「あ、こんなゴスロリフリフリとかどう? お人形さんみたいで可愛いよきっと」
P「それはない」
春香「それはないよ」
美希「それはないの」
真「えっ!?」
真「? いけませんか?」
春香「私達、元々夕飯の材料買いに来たんです」
美希「はにー! おかしかっていい!?」
P「あー、一個だけな」
真「あ、ボクも!」
春香「私もー♪」
P「何でだよ……まぁいっか、美希が世話になってるし」
真「やーりぃ♪ よし、出撃だ美希隊員!」
美希「れっつごーなの!」
春香「わっほい!」
春香「そういえばPさん今日の献立は何なんですか?」
P「あぁ、美希の影響でいっつもおにぎりだからたまには洋食でも作ろうかなー、なんて思ってるけど」
春香「洋食……オムライスとかですか?」
P「お、いいなオムライス。でも俺うまく巻けないんだよね」
P「だからいっつもチキンライスの卵和えになる」
春香「あ、じゃあよかったら作りに行きましょうか?」
P「へ?」
春香「い、いえ、たまにはいいかなー……なんて」///
P「オムライスなんて滅多に食べられないから来てくれると助かるけど……いいの?」
春香「は、はいっ! 是非!」///
真「ボクはこれで!」
P「予想通り二人とも単価が高いな」
真「あれ? 姉ちゃんなんかあったの?」
美希「はるか、かおがあかいの」
春香「へっ!? いいいいやななななにもないよ!?」
P「ああ、春香がうちに晩飯作りに来てくれるらしくてな」
真「むっ……姉ちゃん……?」ゴゴゴゴ
春香「い、いやそんな」
真「へ?」
P「ついでにあずささんも呼んでうちで食えよ。普段から美希が世話になってるし、それくらいするよ」
真「そ……そうですね! や、やーりぃ!」
春香「う、うぅ……」シクシク
美希「はにー! きょうのごはんはなんなの?」
P「なんとな! 春香お姉ちゃんがオムライス作ってくれるってよ!」
美希「おむらいす……! はるかすごい!」
春香「うん……ありがと美希ちゃん」
P「ん~? なんだ美希」
美希「あかちゃんはどうやったらできるの?」
P「ブッ!?」
美希「ミキね、このあいだテレビであかちゃんみたの」
美希「とってもかわいかったの!」
美希「それでね、ミキもはにーのあかちゃんほしいの!」
P「あばばばばっばば」
美希「あずさもはるかもまことくんもおしえてくれなかったの」
P「あー……うん、そうだな」
美希「?」
P「好き同士の男と女が一緒にいると、コウノトリさんが運んでくるんだ」
美希「……? でもミキとはにーのあかちゃんこないよ?」
P「残念ながら大人同士じゃないと来ないんだ」
美希「ミキおとなだもん! それともはにー、ミキのこときらい!?」ジワッ
P「うおっ、泣くな! 頼むから!」
P「はぁ……俺が美希のこと嫌いな訳ないだろう?」
美希「ほんと……?」
P「ああほんとだ。好きだよ」
美希「えへへ……ならあかちゃんくるね!」
P「あー、うん……そのうち来るかもな……」
美希「いつくるかなー。あした? らいしゅう?」
P(……早く忘れてくれることを祈ろう)
P「美希、雨になると頭すごいな」
美希「あめがふるともしゃもしゃになるの」
P「この際だ、切っちまうか」
美希「それはだめなの」
P「即答かい」
美希「かみはおんなのいのちなの」
P「まぁ、美希は短いより長い方が可愛いだろうしな」
美希「えへへ……そうなの! だからきっちゃだめなの」
P「なんだー?」
美希「おともだちをごしょうたいしたいの」
P「友達……? 別にいいぞ」
美希「ほんと!? じゃあつれてくるの!」タッタッタ
P「え、今から?」
美希「しょうかいするの! おともだちのひびきとたかねなの!」
P「は、はいさーい」
P「えーと、沖縄の子?」
響「そうだぞ! じぶんこのあいだおきなわからきたんだ!」
美希「ひびきはとってもげんきなの」
響「じぶんげんきいっぱいだぞ!」
貴音「はじめまして、しじょうたかねともうします」
P「これはこれはご丁寧に、美希がいつもお世話になってます」
貴音「いえ、わたくしもおせわになっておりますゆえ」
P「礼儀正しい子だね。じゃあ、ジュースでも持ってくるよ」
美希「ミキはぎゅうにゅうがいいな」
P「わかった、ジュースな」
貴音「……」
美希「はにーはつれないの」
響「みきのたーりーはかっこいいんだな……」///
貴音「このきもち……まこと、めんような……」///
美希「? たーりーってなんなの?」
貴音「おとうさんのことですよ」
美希「はにーはおとうさんじゃないよ?」
響「え? じゃあにぃに?」
美希「はにーははにーだよ?」
響「?」
貴音「?」
美希「?」
美希「……はにーはミキのだからあげないよ?」
P「んー……? な、なんだいきなり水着で」
美希「あのね、ミキね、みずぎもらったの!」
P「え、誰から」
美希「はるかなの」
美希「どう? ミキのみりょくにめろめろ?」ミキッ
P「うーん……お腹がぽっこりしてるな」
美希「!?」
P「うむ、見事なずんどうだ。以後精進するように」
美希「は、は、は……はにーのばかぁっ!」
春香「確かにねー、鈍感にも程があるよねPさんは」
真「隣にこんな美人三姉妹が住んでるのに全く反応しないもんね」
あずさ「生まれ付いてのフラグブレイカーよね~」
美希「はにーはあずさがいいっていってたの」
春香「えっ」
真「えっ」
あずさ「あら~♪」
美希「あずさみたいなばいんばいんがすきなんだって」
美希「だからミキもばいんばいんになるの」
春香「ああ、なるほど……そういうことね」ホッ
春香(ならまだ勝機はある……たぶん!)
あずさ「でも真も羨ましいくらいスタイルいいわよ~」
真「それでももうちょっと胸は欲しいよ……あずさ姉ちゃんほどとは言わないけどさ」
美希「ミキね! はにーをのうさつするの!」
あずさ「あらあら、おませさんね」
美希「あずさたちもミキにきょうりょくするの!」
春香「んー? 何すればいいの?」
美希「えっとね、えっとね……ミキをかわいくするの!」
あずさ「美希ちゃんはそのままでも充分可愛いわよ~」
美希「そういうのはいいの」
あずさ「あらあら」
春香「うーん、じゃあ軽くお化粧して髪型でも変えようか!」
………
……
…
P「……で、なにそれ。ツインテール?」
美希「こあくまけいもてかわめいくなの! ね、はにーはミキにめろめろ?」
P「あー、はいはい。メロメロだよ」
美希「えへへ……はるかたちにかったの!」フンス
美希「なの!」
P「ナノ?」
美希「なーのー!」
P「ナノ!」
美希「なの!」
春香「……何やってるんですか?」
P「美希語のレッスンだ」
春香「美希語って」
P「中々習得が難しくてな」
美希「はにーはまだまだなの」
P「なの!」
美希「いまのぐっどなの!」
春香「……」
P「お、どうした貴音ちゃん。美希は?」
貴音「みきとひびきはおひるねちゅうでございます」
P「そうかそうか。貴音ちゃんはお昼寝しなくていいの?」
貴音「わたくしはねむくないゆえ……」
貴音「ところであなたさま、ききたいことがあるのですが」
P「ん?」
貴音「あなたさまにおもいびとはいらっしゃいますか?」
P「はっはっは、貴音ちゃんはおませさんだなー」
貴音「わたくし、あなたさまのはんりょになりとうございます」///
P「はん……? あぁ、伴侶ね。それは嬉しいなぁ」
貴音「それまでにあなたさまにふさわしいじょせいに……」
\ ウギャー! /
\ ナーノー! /
貴音「な、なにごと!?」
美希「ははははははに゛いいいぃぃぃぃ!」ダダダダダ
響「うわああああああぁぁぁぁぁぁ!」ドドドドド
美希「うわああああん! はに゛いいいいいい!」ガッシリ
P「おーよしよし、どうした? 落ち着いて話せ」
響「ごっごっごごご、『ご』がでたさー!」
P「『ご』……?」
美希「くろくてはやくてちっちゃいやつ!」
貴音「……ゆるすまじ」
P「貴音ちゃん?」
貴音「しょうしょうおまちを」
………
……
…
\ぎるてぃ!/
パシーン!
P「そ、そう……たくましいね、貴音ちゃん……」
美希「うっぐ、えぐっ、たかねえええええ」
響「うう、ぐす……こわかったさー……」
貴音「よしよし」ナデナデ
貴音「むしけらのぶんざいでわたくしをじゃまするのがいけないのです」
P(……怖っ)
響「ふんふーん♪」カキカキ
貴音「ふむ……」サラサラ
P「おっ、お絵かきか?」
響「そうだぞ! にぃににぷれぜんと!」
P「にぃに……俺?」
響「そうだぞ!」
P「ははは、ありがとう。これは……俺の似顔絵、かな?」
響「うん!」
響「えへへ……」///
P「美希と貴音ちゃんは何を描いてるんだ?」
美希「おにぎりなの!」
貴音「らぁめんにございます」
P「……そうか」
真「いえーい」パチパチ
あずさ「きゃー」パチパチ
美希「わーい!」パチパチ
春香「え~、抜け駆け厳禁・恨みっこなしをモットーとして結成された我々三姉妹の会」
春香「今日は! なんと!」
春香「美希ちゃんにPさん秘蔵のえっちな本を持ってきてもらいましたー!」
あずさ「あら~」
美希「なんかね、べっどのしたにかくしてあったの」
美希「ミキにはよくわかんないほんだったから、はるかにあげたの」
春香「勝手に人のものをあげちゃいけないよ!」
春香「……と言いたいところですが、今日だけは感謝しましょう」
真「その本を見て、対策を練ろう、ってことだよね……?」
春香「そう……ちょ、ちょっと恥ずかしいけど……」///
真「ぼ、ボクも……」///
あずさ「とりあえず見てみましょうか~」ペラ
真「そう言いながらガン見しないでよ……うわ、すご……」///
春香「やだ、こんなことしてる……」///
真「ほんとだ……しかもこの子、ボクたちとあんまり歳変わらないんじゃ……」///
あずさ「……そんなに若いのがいいのかしら」ボソ
春香「!?」ゾクッ
あずさ「若さ……そうね、二十代は……そうよね」ボソボソ
真「ッ!?」ビクッ
美希「……? なんでこのひとたちはだかんぼなの? おふろ?」
あずさ「うふふ、美希ちゃんはまだ知らなくていいのよ~」ナデナデ
春香「……お姉ちゃん?」
真「……目が怖いよ?」
あずさ「何かしら?」ゴゴゴゴゴ
春香「ひぃ!? い、いえ何も」
あずさ「……おとなりに行って来るわね」
真「い、行ってらっしゃい……」
バタン
春香&真「……」ガタガタ
美希「あふぅ……ねむいの」
美希「―――」
P「……?」
美希「……」コックリ コックリ
P「……おい美希、寝るならベッドで寝ろ」
美希「う……? ね、ねてないの」フルフル
P「船漕いでるじゃねーか、もう寝ろよ」
美希「ねないの……はにーと……あばんちゅーるなの……」ウトウト
P「どこでそんな言葉覚えてくるんだ……」
美希「はるかと……まことくんに」ウトウト
P「あいつら……」
美希「うー……」
P「わかった、じゃあ俺はもう眠いから寝るけど」
美希「う……?」
P「美希も一緒に寝てくれると寂しくないんだけどなー」
美希「えへへ……しょうがないの」ウトウト
美希「さみしんぼのはにーのために……ミキも、いっしょ……に」コテン
美希「ねて、あげ……zzz」
P「変なところで強情な奴だな……よいしょっと」
美希「zzz……はにぃ……」
P「寝顔は一人前に可愛いんだけどな……」
美希「えへへ……zzz……」
P「うん? かしこまってどうした」
美希「あのね……ミキ、なりたいものがあるの」
P「なりたいもの? なんだ?」
美希「ミキ、あいどるになりたい……」
美希「このあいだね、てれびでみたの」
美希「きれいなおねえさんが、きれいなおようふくをきて」
美希「いっぱいのひとのまえで、いっぱいうたったりおどったり……」
美希「すっごく、いっぱいキラキラしてたの」
美希「ミキ、あんなふうにキラキラしたい……」
P「……そうか」
P「今のお前が思っているよりも、何十倍も辛い」
P「泣きたくなるような辛いこと、苦しいことも、たくさんある」
美希「……」
P「美希はまだ小さい」
P「あと少し大きくなって、色んなことを知って……」
P「それでもアイドルになりたいって言うなら」
P「何があっても俺が、全力で応援してやる」
P「ああ、その代わり俺は美希のファン第一号だからな」
美希「うん!」
美希「ミキ、いっぱいキラキラできるようにがんばる!」
記者「星井さんがアイドルになろうと思ったきっかけとは何ですか?」
美希「ミキはね、ずっと小さい頃から、アイドルになりたかったの」
美希「いっぱいキラキラしたい、ってずっと思ってた」
美希「だから、ミキはいっぱいキラキラできるようにがんばったの!」
美希「はいなの! でもね、ミキひとりじゃ絶対できなかった」
美希「ここまで来れたのは、周りの人たちのお陰なの!」
美希「それにミキはまだまだもっといっぱいキラキラするの!」
美希「だから、ずっと見ててね、ハニー!」
完!
よつばと、はなまる共に大好きです。
よかったよ
Entry ⇒ 2012.10.25 | Category ⇒ アイマスSS | Comments (0) | Trackbacks (0)
照「エロゲしてる所を咲に見られた……」
照「さ、咲っ!こ、これはそのっ……!」
照(なんてことだ……!よりによってエロシーンを見られたら言い訳できない!)
照(し、しかもまずい!今やっているゲームは!!)
咲「お、お姉ちゃっ」
照「さ、咲っ!冷蔵庫にプリンがあるんだ、一緒に食べ」ガタンッ ブツッ
『ふぁぁっ!!き、絹ぅ!アカン……アカンッうちもうっ!』
『お姉ちゃんっ……!お姉ちゃんっ!はぁっ……はぁっ!!』
照「」
咲「」
怜「うちがエロゲしてる所を竜華に見られてしもた……」
http://ssweaver.com/blog-entry-1836.html
洋榎「エロゲしてる所を絹に見られてしもた……」
http://ssweaver.com/blog-entry-1845.html
菫「エロゲしてる所を宥に見られた……」
http://ssweaver.com/blog-entry-1848.html
竜華「怜、今日もエロゲをするで!!」 怜「ファンディスクや!」
http://ssweaver.com/blog-entry-1852.html
照「さ、咲……これは……違うんだ……」
咲「……」
咲「……お姉ちゃん……そういう人なんだ……」
ガチャ バタム
照「さ……き……?」
照「……」
照(……え?)
照(どういうこと?)
照(咲に……エロゲしてる所を見られた……?)
咲「……」モグモグ
照「……」モグモグ
父「……なんだお前達、今日は随分と静かだな」
母「もう一緒に暮らし始めて、結構経つのにどうしたのかしらね?」
照「……」
照「さ……咲っ」
咲「ごちそうさま」ガタン
父「ん?もういいのか?」
咲「うん、この後やることがあるから」
母「あんまり夜更かしはするんじゃないわよ」
咲「うん」
照「……」
咲「……ふぅ」
咲(まさか……お姉ちゃんがえっちなゲームをする人だったなんて思わなかったよっ……)
咲(夕食の時、話しかけられそうになったけど……思わず逃げてきちゃったし)
咲(……)
咲(で、でもっ、お姉ちゃんがやってたゲームって……)
咲(多分……姉妹の奴だったよね……)
咲(お姉ちゃんも好きなのかな……)
咲(女の子同士の百合モノが……)
咲(……)
咲(あ、そういえば明日、コミック百合娘の発売日だ)
咲(早く寝ようっと)パチン
照「……」
照「はぁ……」
照(まさか咲に見られるとは思わなかった……)
照(それだけならまだしも……)
照(完全に無視されている……)
照(どうしよう……)
照「……」
照「そういえばトキとひろぽんが、エロゲバレしたとか言っていた気がする……」
照「あいつらの実体験から、何か得られるかもしれない」
照「私も相談してみよう」
――とあるネット掲示板で知り合った数人の猛者達が――
――互いに集い語り合う 淑女達のグループチャットである――
ピカリン:誰かいるか!
舞Hime:なん?
牛乳:もー、いきなりピコンて鳴るからびっくりしちゃったよもー
蓋:どうしたの?
ピカリン:誰だお前ら
牛乳:もー、ひどいなもー!
蓋:あまり私達はインしないから、忘れられてるのも仕方ないけどね
蓋:いつもログは見せてもらっとるけど
ピカリン:ああ……普段見かけないからすっかり忘れていた
舞Hime:仕方ないとよ
岩手の体エロい人
ピカリン:トキやひろぽんの奴はいないのか?
牛乳:今日はまだ来てないみたいですねー
蓋:珍しいね、あの人達はいつもいると思ってたけど
蓋:まぁ私達がこの時間にいるのも珍しいか
舞Hime:トキとひろぽの奴に何か用かと?
ピカリン:居ないなら仕方ない、この際お前達でもいい
牛乳:?
ピカリン:実は……
……
…
牛乳:えー!!妹さんにエロゲしてる所を見られたー!?
蓋:そ、それはまたなんというか……
舞Hime:どんまいだとよ
ピカリン:でだ、単刀直入に聞こう
ピカリン:私はどうすればいい
牛乳:どうすればいいって……
蓋:どうしたいの?
ピカリン:誤解を解きたい
舞Hime:正直に話した方がええとよ
牛乳:やっぱりそーだよねー
蓋:うん、正直に話すのがなんだかんだで一番だと思うよ
ピカリン:し、しかしだな
ピカリン:夕食の時も無視されたぐらいだ
蓋:無視は辛いね……
ピカリン:どう見ても嫌われているような気がする……
ピカリン:ああ……さきぃ……さきぃ……
牛乳:もー!くよくよしてても問題は解決しないよもー!
舞Hime:とにかく頑張るしかなかよ
蓋:話しかけなきゃ話も聞いて貰えないからね
照「……」
照「やっぱり正直に話すしかないか……」
照(でも今日はもう遅いし……)
照(明日にしよう……)
照(……)
店員「シャセェッス!!」
咲「これください」
店員「620イェンデァス!! チョゥドオァズカリシェス!! アリガトゥゴザィァシタ!!」
咲「……」
咲(きゅふふふっ)
咲(コミック百合娘、今週号は楽しみにしてるのがあったんだよね!)
咲(早く家に帰って読もうっと!)
「よよよ!?た、隊長~~!!あそこにサキちゃん似の子がいるでござるよ~~!!」
「なんだと~~!!我々の女神、サキちゃんがいたと言うのか!!」
「早速サキちゃんを保護するのだ隊員~!!!」
うらやま
咲「は、はい?」
「うひょ~~!!隊長~~!!まんまサキちゃんでござるよ~!!」
「こ、これはまんま”私の妹のエロさが嶺上開花でとどまる事を知らない”に登場するサキちゃんにそっくりなのです!!」
咲(え、な、なにこの人達……なんか怖い)カタカタ
「我々はついに2次元へと到達したのでござるな~~!!」
「ささ、サキちゃん!!我々とこっちに来るのです!!おねえちゃん達が保護するのだ!!」
咲「えっ、あ、あのっ、やめてくださいっ!」
「心配はいらないでござるよ~~!!隊長は超紳士でござるからね!!」
「さ、さあ、一緒に行くのだ!!」
咲「あ……や、やめ……」カタカタ
咲(や、やだ……!この人達気持ち悪い……!!に、逃げないとっ……!)
咲(誰か助けて……!!……――お姉ちゃん!)
照「……はぁ」
照(結局家に居てもやる事が無いから出てきてしまった……)
照(咲も家には居なかったみたいだし……)
照(適当に本屋で本でも買って帰ろう)
「えっ、あ、あのっ、やめてくださいっ!!」
照(……っ!咲の声!?)ピクッ
照(今の声……少し尋常では無い感じがする……!)
照(急ごう)
「さ、さあ、一緒に行くのだ!!」スゥーハァー
咲「あ……や、やめ……」カタカタ
『私の妹に何をしている!!』
咲「えっ……?」クルッ
「よよよ!!これはテルーでござるよ!!隊長!!」
「きたこれなのです!!姉妹キター!!」
照「私の妹に何をしていると聞いているんだ」ゴォッ
「お、おおふ……なんだこの人、テルーにそっくりなのになんかやばいよ玄さん」カタカタ
照「何をブツブツと言っている、さっさと私の前から消えろクズ」ゴォォオッ
「う、うぐぅ!!」
「う……お、覚えてやがれなのですーー!!うわあああああん、おねええちゃーーーん!!!」ドヒューン
咲「……」
咲「あ、あの……」
照「咲、大丈夫か?何かされなかったか?」
咲「えっ、あ、うん……だ、大丈夫だよ」
照「そうか……」ホッ
咲「……」
照「……」
照「……帰ろうか」
咲「……」
咲「うん……」コクッ
照「ただいま」
咲「……ただいま」
咲「……?お父さんとお母さんは?」
照「靴がなかった、どうやら出かけてるみたい」
咲「そ、そうなんだ……」
照「……」
照「じゃ、じゃあ、私は部屋に戻るから」
咲「あっ」
ギュッ
照「……咲?」
咲「……」
咲「もう少し……一緒にいて」
咲「……お願い、お姉ちゃん」
照「……」
照「わかった、咲の部屋に行こう?」
咲「……うん」
-咲の部屋-
咲「……」
照「……」
照「咲、大丈夫?」
咲「え、な、なに?」
照「……手、震えてる」
咲「あっ……」
照「ごめんね」
咲「え、お姉ちゃん……?」
照「私がもっと早く助けられてあげられたら……」
咲「お、お姉ちゃんが謝る事じゃないよっ!」
咲「わ、悪いのは……あの人達で……」フルフル
照「咲」
照「本当にごめん」
咲「……」
咲「……怖かったよ……お姉ちゃん」
照「うん……」
咲「私……あの人達に何かされると思うと……」フルフル
照「咲」
ぎゅっ
照「大丈夫」
照「咲はお姉ちゃんが守ってあげるから」
照「だから泣かないで?」
咲「おねえちゃん……っ……」
照「……」
照「咲」
照「私はね、咲に黙っていた事があるんだ」
咲「……?」
照「私は、ああいう連中の好きなゲームが大好きなんだ……」
咲「え……と……?」
照「その……えっちなゲームというか……ほ、ほら、咲も見ただろう、昨日」
咲「あっ……」///
照「もちろん私も違う、安心してほしい」
咲「……」
咲「お姉ちゃんは……」
照「……?」
咲「お姉ちゃんは……好きなの?その……女の子同士が恋愛してる……ものとか……」///
照(女の子同士の恋愛……?というと、百合……とかか?)
照(私が好きなのは妹モノだけど……一応女の子同士だし……)
照「まぁ……好きだけど」
咲「そうなんだ……」フフッ
照「咲?」
咲「……」
咲「あのね、お姉ちゃん。私もお姉ちゃんには言ってない事があるの」ガサガサ
咲「”コミック百合娘”……私、好きなの」
照「コミック百合娘……確か、女の子同士の恋愛をメインする漫画雑誌だったな」
咲「うん……私ね、こういうの憧れるんだ」
照「そ、そうなんだ」
咲「特ね、この”百鬼 藍子”さんが書いてる、”眼帯娘でも恋がしたい”が面白いんだよ」
咲「感情を顔に出すのが苦手な眼帯の女の子が、一つ上の先輩になんとか振り向いてもらおうと苦労するんだけど」
咲「麻雀をキッカケに、二人は通じ合うようになるの」
咲「これって、すごいロマンチックだよね」
照「う、うん、そうだね」
咲「あ、ごめん……私……百合の事になっちゃうとつい」
照「……いや、いいんだ」
照「咲はそうやって笑ってる方が可愛い」
咲「お姉ちゃん……」///
咲「……うん、お姉ちゃんと一緒にいたら安心したよ」
照「そっか……」
咲「あ、お姉ちゃん!」
照「……?」
咲「え、えっと……」
咲「さっきは……助けてくれてありがとう」
咲「あの時、お姉ちゃんが駆けつけてくれて……すごい嬉しかった」///
照「……ふふ」
照「私は咲のお姉ちゃんだからね」
照「咲の事は何があっても守るよ」
咲「お姉ちゃん……」
咲「うん、ありがとうお姉ちゃん」
照(ニコッ)
ガチャ バタム
照「……」
照「……ふふ」
照「ふふふ……ふふふふ」
照(咲と仲直りできたぞ……!)
照(エロゲ趣味を話しても引かれなかった)
照(咲がまさか百合趣味だったのは驚いたけど)
照(それはつまり、女の子同士の恋愛に興味があるという訳であって……)
照(姉との恋愛もオーケーという訳で……)
照「ふふふふ……」
ピカリン:諸君、私は最高に気分がいい
トキ:何言ってるんこいつ
ひろぽん:キモいわこいつ
ピカリン:今の私は何を言われても平気
かじゅ:妹さんと仲直りでもしたのか?
ピカリン:何故それを
蓋:過去ログ見れば分かると思うけど
ピカリン:誰だお前は
蓋:昨日相談に乗ってあげたのにそれは酷くない?
ピカリン:冗談だ
ひろぽん:しかしピカリンまで妹にバレるとはな
トキ:むしろこいつの場合、今までバレへんかったのがおかしいぐらいやろ
ピカリン:いや、普通に話したら受け入れてくれた
ひろぽん:ホンマかいな
蓋:言ったでしょう、こういうのは正直に話すのが一番なんですよ
ピカリン:しかも妹は百合が好きらしい
トキ:あー最近の高校生とか好きそうやもんな、ああいうの
ひろぽん:ピカリンの妹やから、てっきりエロいの読んでそうやと思ったけど案外普通なんやな
ピカリン:妹はいいぞ、最高だ
ピカリン:お前たちも妹ゲーをやってみたらどうだ
蓋:もしかしてその「妹」とはあなたの想像上の人物ではありませんか
ピカリン:ふざけんな!!私の咲はちゃんと実在すいくぁwせdrftgyふじこlp;
かじゅ:落ち着け
ピカリン:さすがだなひろぽん、妹の良さが分かるとは
トキ:ピカリンがシスコンなのは知っとったけど、ひろぽんお前もか
かじゅ:ひろぽんも確か妹がいるんだっけか
ひろぽん:いるでー!うちの絹はなぁ、そらもうおっぱいが大きいねんで!!
ピカリン:巨乳の妹などに興味はない、妹はやはり控えめなのが萌える
蓋:実の妹に萌えるとか、この人大丈夫?
トキ:知ってたけど相当やばい
かじゅ:私に妹はいないが、可愛い後輩がいてね
かじゅ:とても慕ってくれて可愛い子なんだ、なんとなく気持ちは分かるよ
ピカリン:妹と後輩と一緒にするとか……
ひろぽん:ないわー後輩は他人、妹は身内。しかもお姉ちゃんて呼んでくれる可愛い妹なんやで!
トキ:うちの後輩可愛くないしなぁ
かじゅ:こいつら……
トキ:さり気なくとんでもない事言いよったで
蓋:しかも今日はって言いましたよね、毎日やってるの?
ひろぽん:”妹に!メイド服を着せたら脱がすっ!”……雀荘で働く事になった妹がメイド服でお姉ちゃんを誘惑する奴やな
ひろぽん:うちも持っとるわ
ピカリン:さすがだな
ひろぽん:個人的にオススメなのは”メガネ妹は役満希望の大三元!?~責任とって中を捨ててよね!役満あねぇ!~”やで
ピカリン:メガネ妹が役満ばかり出す姉に、手取り足取り麻雀を教えるという……
ピカリン:さすがひろぽん、わかってるな
ひろぽん:せやろー
トキ:なんだこれは(驚愕)
かじゅ:こいつら本当に大丈夫か
蓋:この人たちの妹じゃなくてよかった……
蓋:コミマ?確か、東京で行われる大きなイベントですよね
かじゅ:そうだ
トキ:もうそんな時期なんやなぁ
かじゅ:みんなは行くのか?私は最終日に行く予定だが
ひろぽん:うちは初日に行く予定や
トキ:うちは2日目
蓋:私は行く予定が無いですね、興味はあるんですが……
ピカリン:私は全日だ
ひろぽん:ホンマやで、なんで大阪でやらへんのや!
かじゅ:しかし見事に全員バラバラだな、オフでも出来そうだったのに
ピカリン:私は全日だから誰とでも出来る
蓋:仮に行ったとしても、ピカリンさんとは会いたくないですね
トキ:せやな
ピカリン:なんでだ!!
かじゅ:お前は数行前の発言も読めないのか
ひろぽん:さすがのうちもちょっとピカリンとは会いたくないわぁ
ピカリン:こんなにも妹に愛される姉だというのに
トキ:だからやろ……
……
…
照「……」カタカタッーン
照「……ふぅ」
照(さて、エロゲをする前に……)ゴソゴソ
照(咲の写真でも見よう)
照(ふふ……やはり小さい頃の咲は可愛い)
照(もちろん、今の咲も可愛いけど)
照「……」ゴクリ
照(まずい、咲があまりにも可愛いものだから我慢できなくなってしまった……)
照(今日はエロゲまで我慢できない)
照(咲ニーで済ませてしまおう)
照「さ、咲っ……」ッチュ
照(ま、まずい、さっき咲の手を握った時の感触を思い出して……!!)
照(咲ニーが捗ってしまう……!!)
照「さ、咲ぃ……――――っ!!」ビビクンッ
ガチャ
咲「どうしたのお姉ちゃん?呼んだ?」
照「―――っ……!?さ、咲……?」
咲「」
照「」
つづカン
エロゲシリーズはネタ不足も相まってか、次回で最終回となります。
次も期待してる
Entry ⇒ 2012.10.25 | Category ⇒ 咲-Saki-SS | Comments (1) | Trackbacks (0)
照「演技の練習?」
いつもどおり行き当たりばったりでいきます
前スレのようなもの
菫「体育倉庫に閉じ込められるおまじない……?」
照「怜と久ってどっちがモテるの?」
照「怜と久どっちがモテるかに決着をつける」
照「保健室の荒川先生」
照(なんか……)
怜(久がまともなこと言い出した……)
久「私は演劇部の部長だし、こういうところでクラスに貢献しようかなー、って」ニコ
菫「おお……! 私は嬉しいぞ竹井! お前がそんなにもクラスのことを考えてくれてるなんて……!」
怜(委員長大喜びしとる……まあそらそうか。生徒会に演劇部に忙しいはずの久が、クラスに貢献、なんて言い出せば……)
久「そこまで珍しいこと言ってるつもりはないんだけど」アハハ
菫「しかし、とても良い事だとは思うが……あまりに気が早くないか? まだ劇の内容も配役も決まって無いぞ」
怜「ウチはとりあえず小道具あたりやろうと思ってたんやけども」
照「私も。目立ちたく無いから、出来れば裏方がいいんだけど……」
久「劇の内容もちゃんと考えて、配役もベストな人を選べば……ふふ、最優秀賞間違い無し♪」
久「きっとこの高校の歴史に名を刻むような物が生まれるわよ?」
菫「おお……!」
怜「なんかすごい話やなぁ」
照「あの、私は照明とかで……」
久「ってことでまあ、クラス劇を良くするためにも、今の段階から演技の練習をしておきましょう、ってことね」
菫「多いに賛成だ。準備は早いに超した事はない。早速今日から始めよう」
怜「まあウチは別になんでもええから、みんなに任せるけども」
照「えっと、私は人前で演技なんて絶対に出来ないから、裏方に……」
菫「演劇部? 大丈夫なのか?」
久「うん、小さい方の部室でやるから。それに何かあったとき部員の子たち呼べたりして便利だし♪」
怜「部長って立場は便利やなぁ」
照「あの、みんな。私の話を……」
久「面白い練習方法考えてるから、みんなきっと楽しいわよ♪」
―――――――――
久「さて、演劇の練習っぽくジャージにも着替えたし、早速演技の練習に移りましょう」
怜「具体的になにすんの?」
久「みんなにはこれからエチュードをしてもらうわ」
久「簡単に言うと即興劇ね。エチュードにも色々あるけど」
久「今回は何かシチュエーションを決めて、それに応じた役をアドリブで演じる。それだけ」
菫「それだけって……素人には難しく無いか? 」
怜「確かに。台本とかあった方が逆にやり易いと思うわ。いきなりアドリブで劇しろ言われても……」
久「普通はそうよね。だから、今回は台本半分アドリブ半分でエチュードをしてもらうわ」
久「シチュエーションや自分の役は最初から決められていて、台詞もある程度までは用意されている」
久「それで少し話が進行したあたりで台本に書いてある台詞が無くなるから、そこからアドリブ開始ってことで」
菫「なるほど……」
怜「それやったらまあ、ある程度はなんとかなるかもな」
照「あ、あの……」
菫「終わるタイミングはどうするんだ? 何か目的みたいなものがなかったら、寸劇がいつまで経っても終わらないぞ」
怜「途中で話が思いつかんなってアドリブが利かんくなるかもやしな」
久「それは大丈夫。こっちで寸劇における目標も指定しとくから、それを達成するために演技してもらえば」
怜「指定された目標を達成するために……」
久「ちょっと分かりにくいかもしれないけど、やってみればすぐに感じは掴めると思うわ」
久「最初は私がお手本を見せようかしら。相手は……あ、そこのあなた!」
>>22
菫さんの寿命がまた減ってしまう
宥「って、竹井さん? それに菫ちゃんたちも……」
久「ちょうど良いところに通りがかってくれたわ。松実さん今時間ある? 楽しいことしましょう」ニヤァ
怜(うわぁ……)
宥「た、楽しいこと……?」ゾクッ
菫「お、おい待て! 宥に何をする気だ竹井!?」
久「ちょっと練習に付き合ってもらうだけよ。取って食ったりしないから安心して」タハハ
菫「当たり前だ!! それより、付き合うって何に……」
宥「えっと、何の話、でしょうか……?」
久「松実さん、劇の練習しましょう! あなたの才能を腐らせるのはあまりに惜しいわ!!」
宥「ええっ!?」
久「そうそう。松実さんは主役級を演じるんだから、しっかりと練習しとかないと!」
宥「しゅ、主役!? そそ、そんなの無理です! クラス劇は私、小道具をするつもりで……!」アワワ
久「そんなこと私が許さないわ。松実さんみたいな素敵な人が小道具だなんて、断固拒否します」
宥「そ、そんなぁ……」
菫「何の権限があって物を言っているんだお前は……」
怜「でも松実さんが小道具は確かに勿体ない気がするなぁ」
照「小道具は私がするしね。松実さんはお姫様とか似合いそう」
宥「お、お姫様だなんてっ、わ、私には無理です!」
久「無理なのを出来るようにするために練習するのよ!」
久「やろうともしないで最初から諦めちゃうような子は……弘世さん嫌いって言ってたわよ?」
宥「え……」
菫「ま、待て待て。私はそんなこと一言も言っていない」
怜「似たようなこと照にいつも言っとるやん」
照『何故お前はやろうともせずに諦めるんだー。逆上がりくらい出来るようになれー』コエマネ
菫「何年前の話をしてるんだ!?」
久「それに弘世さんも松実さんのお姫様姿みたいわよね?」
菫「なっ……」
怜(お姫様やるのはもう決定なんや)
菫「……み、見たいか見たくないかなら、見たい、が……」シドロモドロ
照「素直に『見たいですだから頑張ってください』って言えばいいのに」
怜「そんな回りくどい言い方して。ホンマへたれやな」ハァ
菫「うるさい!!」
久「だ、そうよ?」タハハ
宥「で、でも……」モジモジ
久「松実さん、ちょっと頑張ってみない? 無理そうなら強要はしないから」
久「それに私が演劇部部長として手取り足取り優しく教えるから、ね?」
宥「竹井さん……」
菫(手取り足取り……)
照「卑猥な響きですわね。これはもう数時間後仲良く手を繋ぎながら下校する松実さんと久の姿が」
菫「……」ギロ
照怜「「ご、ごめんなさい……」」
久「よし、とりあえずやってみよう! はいこれ台本。これに書いてある通りに喋ればいいだけだから!」
宥「で、でもやっぱり……!」アワワ
久「だいじょーぶだいじょーぶ。初めての子はみーんなそう言うけどやってるウチにノリノリになるから」
久「はい、それじゃあ早速スタートねー」
宥「えええっ!? ま、待って……!」
怜(ゴリ押したなぁ……)
――――――――――
久『もうやめて宥……こんなことおかしいわ……』
宥「え、えっと……『ど、どうしたのお姉ちゃん、そんな顔して。何がおかしいの?』
久『早くこの鎖を解いて。もう一週間もこのままで……』
宥『く、鎖を解いたらお姉ちゃん逃げちゃうでしょ? そんなのダメだよ』
宥『お姉ちゃんは私と一緒にずっとここで幸せに暮らすんだから、絶対に逃げないって分かるまで鎖は解いてあげない……』
久『そ、そんなっ……』
宥『ふふ、ダメだよお姉ちゃん。そんなカオされると、私、変な気分に』
菫「おい、ちょっと待て」
久「どうしたの弘世さん。練習中だから邪魔しちゃダメよ?」
菫「どうしたのじゃない!! なんなんだその台本は!?」
久「いや、心を病んだ妹と気弱な姉だけど」
怜「なんていうか、薄々分かってたけども……」
照「面白そう……!」
久「まあまあ落ち着いて」
久「台本もそう数があるわけじゃないんだし、取っ替え引っ替えしてるとみんなの分なくなっちゃうから」
菫「こんなものが私たちの人数分あるのか……!」ワナワナワナ
怜(つまり、クラス劇の練習っていうのは表向きで)
怜(結局は遊びたいだけか……久らしいな……)
久「ふふふ♪」
宥「す、菫ちゃん落ちついて」アワアワ
照「二人とも、早く続きを。心を病んだ妹がどうなるか気になる」
宥「えっと、『そんなカオされると、私、変な気分に……』
菫「ゆ、宥!?」
照「菫うるさいっ」
―――――――――――
菫「んむっーーー!!」モガモガ
怜(割愛)
宥「す、菫ちゃん……」
久「練習の邪魔だからしょうがないわよね。クラスのためにも続きをしましょう」ニッコリ
照「松実さん、早く早く」
宥「は、はい……『そんなカオされると、私、変な気分になっちゃうよ……』
宥「あ、あ、あっ、あそっ……」カァァァ
怜「?」
宥『アソコもっ……! び、びしょびしょに……!』カァァァァ
菫「」
怜(エロい……)ドキドキ
久「松実さん、そこはもっとスラスラと言えるようにした方がいいわね」
宥「ふぇっ……!?」
久「変な気分になっちゃうよ、から少しやり直してみましょう。はい、どうぞ」
宥「え、えっ、えと……『へ、変な気分になっちゃうよ……あ、あ……アソコも、び、びしょびしょになって……!』
久「うん、さっきよりも良くなってるわ。あそこ、で噛んじゃったからもう一度言ってみましょう」ニッコリ
宥「は、はいぃ……」
宥『私、変な気分になっちゃうよ……あ、アソコも……び、びしょびしょに……』ナミダメ
久「うーん、可愛いんだけど、もうちょっとこう、感情を込め」
照「しゅ、修正はそのくらいにして、そろそろ次に……」
怜(アカン)
菫「……」ゴゴゴゴゴ
照(さ、殺気が……)
久「くふふ……弘世さん、顔赤く……くく……」
怜(ホンマええ性格しとるなぁ)
宥「あ、あの、竹井さん……こ、ここは帰って練習しときますから、次に……」プルプル
久「そ、そうね。くふふ……じゃあ、もう一度流れで通して進みましょう」
宥『私、変な気分になっちゃうよ……あ、アソコも……びしょびしょになって……お姉ちゃんのことが欲しいって……きゅ、きゅんきゅんするのぉ……』カァァァァ
久『な、なに言ってるの宥……? いや、やめて、来ないで……やだ……!』
宥「え、えっと」
宥(ゆっくりとにじり寄りながら……)
宥『うふふ、お姉ちゃん……宥と気持ちいいこと、しよ……?』
怜(なんやこの寸劇)
照「……」ドキドキドキ
宥(えっ!? こ、こんなこと……)ドキドキ
久「松実さん、続き続き」ボソ
宥「は、はい! 『……か、可愛いよお姉ちゃん、宥の大好きな、お姉ちゃん……』」ギュッ
菫「!?」
久『ひっ……! やだぁ、離してぇ……!!』
宥『お姉ちゃんが悪いんだよ? 私以外の女の人と仲良くするから……』
宥(く、首元に……キス……)
宥「……んっ」チュッ
久『あっ……』
宥(わ、私、竹井さんに……)
久「演技だから、ね?」ボソ
宥「は、はい……」
菫「……」
照「菫、可哀想……ちょっと泣いてる……」
怜「ロープ解いてもええんやけど、ごめんな委員長。これちょっとおもろいわ……くく……」
照「私も続きが気になるから……」
菫(コイツらを友人だと思っていた自分が恥ずかしい……!)
宥「え、えっと、続きいきますね」
久「うん♪」
宥『……お姉ちゃん、良い匂い。そのカオも可愛い……』
久『やめて宥……私たち、姉妹なんだよ……? こんなこと、もう……!』
宥『関係ないよ、そんなこと?』
宥『お、お姉ちゃんが私の事を好きになってくれないなら、好きになってくれるまで……え、えっちなこと、し続けるだけだから』
宥(う、内太ももをさする……)
久「っ……」
久(こ、こそばゆいっ……!)
久『ふぁっ……だめ、宥、それだけは……!』
宥『お姉ちゃん、宥と一つになろ? わ、私たち二人なら、いい、いっぱいいっぱい気持ちよくなれるから……』スリスリ
久『あっ……ふぁ……』
宥『ふふ、可愛いカオ。き、キス、するね…』
菫「……!!」
久『おねえ、ちゃん……』
久「ふふ、分かってるわよ。とりあえずフリだけで」ボソ
宥「は、はい……」
宥『ちゅ……』
久『んっ……』
怜(フリでもこういうの間近で見るんはキツいやろなぁ……)
照(このあとどうなるんだろう……)
菫(竹井……!!)
宥(えっと、次は)ペラ
宥「……あ、れ? 竹井さん、台本に台詞が書いてな……」
久「宥……」ギュッ
宥「!?」
久「やっとあなたの気持ちを理解できた気がする……」
宥「え、えとっ、たた、竹井さ」
久「ごめんね、宥……今まで寂しかったのよね、だから、こんなことっ……!」ギュウ
宥「ひゃあっ……!?」
照「きゅ、急展開……!」
怜「いや、明らかにアドリブ入っとるやろ」
菫「んんっーーーー!!」ジタンバタン
怜(まあ、久がどこまでやるかは知らんけども……流石に委員長が不憫やな)
宥「た、竹井さん! だ、だめ、ダメですっ! 私の台本、何も書いてなくてっ……!」
久「松実さん、アドリブアドリブ」ボソッ
宥「ふぇっ?」
久「そういう練習だから、頑張って」ニコ
宥「そそ、そんなこと言われても……!」アワワワ
久「これ、台本のここ読んで」
宥「ふぇ?」
宥「お姉ちゃんと幸せなキスをすると終了……」カァァァ
久「んで私が、妹を正常な状態に戻して終了」アハハ
宥(そ、そんなぁ……)
宥(え、えっと……)
宥「お姉ちゃん。やっと私の気持ちが通じたんだね……嬉しいよ……」
久「宥、今までの私を許して……あなたに怯え、あなたを理解しようとしなかった私を……」
宥「もういいよお姉ちゃん。そんな昔のことはもう……」
宥「で、でも、まだ許してあげない。お、お姉ちゃんの気持ちが本物だって証明してくれるまで、私は……」
久「証明って……」
宥「お姉ちゃんからキス、してくれたら……お姉ちゃんのこと信じてあげても、いいよ?」
久「そ、そんなぁっ……」
照(松実さんのアドリブすごい……!)
怜(早く終わらせたくてしゃあないんやろうなぁ……委員長がどう見るかは知らんけど)
菫「……」
久「違う! 嘘なんてついてない!」
久「私は本当に宥のことを……!」
宥「そ、それじゃあ、キス、出来るよね?」
久「それは……」
宥「ね、ねえ、キス、してよ……お姉ちゃんから、私に……」
久「宥……」
久(うーん、どうしよう……ぱっとやって終わらせてもいいんだけど……)チラ
菫「」チーン
久(……流石にこれ以上は可哀想ね)アハハ
久「……分かった。証明してあげる」キリッ
宥「ふぇっ!?」
宥「ひゃっ……た、竹井さん、まま、待って……!」
久「大好き、宥……」
宥(竹井さんの顔、近づいて……!)
宥「ごっ……」
宥「ごめんなさいこれ以上は無理です!!」バキィ!!
久「あぐぅっっ!?」
久(しょ、掌底……)
久「ばたんきゅう」
宥「あっ……」サーッ
怜(うわぁ……)
菫(宥……)ウルウル
宥「だ、大丈夫ですか竹井さん!? ごごご、ごめんなさい私反射的に……!」アワアワ
久「へ、平気平気……病弱娘とは鍛え方が違うから……」
宥「で、でもそんなにも辛そうに……! あ、荒川先生呼ばないと……!!」
久「それだけは勘弁して……」
怜「自業自得やな。でも結構おもろかったわ」
照「うん、面白かった。衝撃の結末だった。松実さんもお疲れ様。良い演技だった」
宥「へっ? あ、ありがとう……」
宥「だだ、大丈夫ですか竹井さん!?」
久「ノープロブレム。馴れてるから」ニッコリ
怜「なんで馴れてんねん」
照「流石女たらし序列1位だね」
久「その不名誉な呼び方はやめて欲しいわ」アハハ
久「……ひ、弘世さん? これはあくまで演技の練習だからね? 松実さんの合意の上だからね?」
菫「……」ジットー
宥「す、菫ちゃん……」
怜「まあ、あとで一発くらいは殴らせたり」
―――――――――――
久「」チーン
照(一発だけじゃすみませんでした)
宥「あわわわわ……」ガクガクガク
怜「委員長、ちょっとやり過ぎちゃう? 干物みたいになっとるで」
菫「……十分手は抜いたつもりだが」ギロ
怜「せ、せやろか」
照「でもちょっと可哀想。久は演技の練習でしただけなのに。松実さんも結構ノリノリだったし」
宥「ご、ごめんなさい菫ちゃん……でも、本気でやらないと練習にならないから……」アワワワ
菫「……バカ」
宥「す、菫ちゃん……」ウルウル
菫「どの口で言ってるんだお前は!!」
照「生き返った」
怜「殴られ馴れとるんやろ……」
久「とりあえず、やり方は教えたからもう大丈夫でしょう」
久「次行きたい人ー?」
菫「まさか続ける気なのか……?」
久「当たり前。このままだと殴られ損だわ」
怜「久はタフやなぁ」
照「さすが……!」キラキラ
久「もう適当に決めるわ。次>>108さんね」
照、菫、怜の誰かで
菫「わ、私?」
怜「頑張ってー。委員長なんか宝塚っぽいから案外イケると思うわ」
照「菫が演技するなんて信じられない。すごく楽しみ」
菫「あ、あのなぁ……」
久「松実さんもちょうどいるんだし、カッコいいとこ見せるチャンスよ?」ボソ
菫「うるさい。顔を近づけるな」グググ
久「ひどーい。そうだ。相手役松実さんにやってもらう?」
菫「もう黙れお前!!」
怜「でも実際のとこ相手どうすんの?」
照「今ここにいる私たちの誰かか……」
久「通りすがりの誰かでいいでしょ」
お相手 >>122
菫「誰も通らないな」
久「まあ、演劇部の部室って基本部員以外は来ないしね」アハハ
照「松実さんはどうしてここに?」
宥「えっと、教室のゴミ捨ての帰りに……」
怜「ウチゴミ捨てのときこんな場所通った事無いわ」
菫「そもそもお前は何かと理由を付けてゴミ捨てにいかないだろ……」
照「!」
照「誰か来る」
「「えっ?」」
久「そこのあなた!」
玄「は、はい!」
怜(犠牲者が決まってもうたか……)
菫(出来るだけ穏便に済ませたい物だが……ん?)
久「可愛い!」
玄「ええぇっ!?」
久「あなたみたいな可愛い子が演劇をしないなんて勿体ないわ! ぜひ演劇部に入ってちょうだい!」
玄「そそ、そんなっ……! いきなりそんなこと言われても困り」
玄「えっ、お、お姉ちゃん?」
玄「そ、それに……!」
照「?」
玄「み、宮永さん……」
照「この前はお世話になりました」ペッコリン
玄「いえ、そんな……」
宥「?」
菫「そうか、宥は知らないんだったな……」
怜「まあ、あの一部始終見てたのウチらだけやしな」
久「ふふ、これは面白くなりそうね♪」
玄「えっと……あ、お姉ちゃん。クラスの用事か何かで集まってるの?」
宥「うん、演劇の練習で……クロちゃんは?」
玄「私はゴミ捨ての帰りで……」
菫(宥の妹……そういえばあのとき、照や福与先生と一緒にいたな……)
菫(あの事件の被害者の一人でもあるし……一体何の縁なのか……)
久「松実玄さん、単刀直入に言うわ。演劇の練習に付き合ってくれない?」
玄「え、演劇の練習?」
玄(ってこの人、生徒会長だ……)
久「そうそう。実はね……」
照(なんか)
怜(蚊帳の外になりそうな予感……)
―――――――――――
玄「そうなんですか……でも、どうして私に……?」
久「弘世さんの練習相手は松実さんの妹である玄さんにしか努められないの」キリ
怜(嘘付け)
玄「わ、私だけだなんて、そんな……」アワワ
玄「クラス劇なら、私みたいな下級生で部外者の人間が関わるよりも、それこそ宮永さんやお姉ちゃんの方が……」
久「宮永さんさっきからずっと嫌がってるのよ。照明がやりたいとかで」
照「目立ちたく無い」
久「それで、松実さんはさっき私と一緒に練習しちゃって」
宥「う、うん」
久「んで、もう一人は病弱だから動きたくないんだって」
怜「なんでもええよー」
玄(り、理由が……)
玄「用事は無いです、けど……」
菫「……嫌がっているんだ。無理にやらせることもないだろう」
菫「練習ならいつでも出来るし、それこそ照や園城寺に付き合わせればいい」
照怜「「え」」
菫「引き止めて悪かった、松実玄さん。もう帰ってもいいよ」ニコ
玄「弘世さん……」
宥「年上で知らない人ばかりだし、無理しなくていいよクロちゃん?」
菫「そうだな。わざわざ宥の妹さんを巻き込むことでもない」
玄(お姉ちゃんのこと、下の名前で呼んでる……)
宥「菫ちゃんの相手は、その、別に私でも……」ゴニョゴニョ
玄(お姉ちゃんも、弘世さんのこと……)
久「ふむふむ……」
玄「は、はい……?」
久「この機会を利用すれば、弘世さんのことを詳しく知れるかもしれないわよ?」ボソ
玄「!」
久「気になるんでしょ? 弘世さんのこともお姉さんとの関係も」
玄「そ、それは……」
久「ここは私に任せてみない? きっと玄さんの胸の中をスッキリさせることが出来るから。ね?」
玄「……分かりました。私、やってみます」
久「ふふ、決まりね♪」
菫(一体何の話を……?)
菫「えっ……? あ、ああ……」
宥「く、クロちゃん……?」
久「お姉ちゃんのクラスに貢献できるなら、って。快く承諾してくれたわ♪」
怜(口説き文句が気になるなぁ。ま、松実さん関連やろうけど……)
照「菫と松実玄さん……不思議な組み合わせ……」
菫「お前と玄さんのがよっぽど不思議だ」
宥(菫ちゃんと、クロちゃんが……)
久「それじゃあ、はいこれ台本。二人とも頑張って頂戴」
照「楽しみ」
菫「はぁ……」
玄(弘世さん……お姉ちゃんの……)
――――――――――――
菫『こんばんは、玄』
玄『菫さん……こんばんは。今日も、来てくれたんですね」
菫『ああ。二日に一度は来ると彼女に約束したからな』
玄『本当にありがとうございます……どうぞ、あがっていってください』
菫『ああ、お邪魔するよ』
照「これはどういう設定なの? なんだかシリアスな雰囲気」
久「それはまあ、お話が進んでからのお楽しみで」
怜「てかあの二人普通に上手いな。全然噛まんし、自然やわ」
照「二人がどういう関係なのか気になる……!」
宥「……」
菫『……ああ、そうだな。だからと言って、することは特に変わらないが』
玄『お姉ちゃん、きっと喜んでいます。こうやって、今でも菫さんが会いに来てくれて』
菫『……こうやってここで目を閉じると、彼女がすぐ側にいるような……そんな温かい気持ちになるんだ』
菫『ただその温もりを少しでも感じたくて、風化させたくなくて……私はここに来続けてるのかもしれない』
玄『菫さん……』
菫『自分でも未練がましいと思う。いつまで前を向かないつもりだと周囲に諭されることもある』
菫『ただ、それでも……私にとって最愛の人は彼女ただ一人だけなんだ』
菫『いなくなっても、会えなくても。この気持ちが変わることは絶対にない』
菫『だから安心してくれ、玄さん。私は死ぬまで彼女を思い続ける』
玄『……菫さん。お昼、食べましたか?』
菫『いや、そういえば何も……』
玄『何か作ってきますね、少し待っていてください』ニコ
菫『ありがとう。助かるよ』
照「……」ウルウル
怜「なあ久、この脚本流石に酷すぎると思うんやけど……」
久「あ、あくまでフィクションだから。それに、この二人が演じるから無粋なことを妄想してしまうだけで」タハハ
宥「……」
―――――――――――
玄『お待たせしました。昨日余った食材で作った簡単なものですけど……』
菫『とんでもない。ありがたく頂くよ』
菫『……うん、おいしい』
玄『ふふ、ありがとうございます』
菫『やっぱり、玄さんの料理は彼女が作る料理の味にとても似ているな』
玄『ここでご飯食べるたびに言いますよね、それ』フフ
菫『実は泣きそうになっていたりするんだぞ? あまりに似ていて……懐かしくてな』アハハ
玄『菫さんさえよければ、私はいつでも待ってますから』ニコ
菫『ふふ、ありがとう。その気持ちだけでもすごく嬉しいよ』
菫『玄さんは本当に優しくて綺麗で、よく出来た女性だ。どうして今でも独り身なのか不思議でならないよ』
玄『また、そんな冗談を……』
菫『本心からそう思ってる。まだまだ若いし、魅力的なのに……どうして身を固めようとしないんだ?』
菫『君ほどの女性なら、相手には困らないだろうに』
玄『そ、それは……』
玄『……』
菫『玄さん?』
玄『わ、私にも、色々と事情があるんです。それに、今はお姉ちゃんのことも……』
玄『そんな……』
菫『心配しなくとも、私は再婚なんて絶対にしない。死ぬまで彼女一人を愛し続けると誓う』
菫『彼女が住んでいたこの家だって、玄さんがいなくなっても私が守り続ける』
菫『だから、玄さんはもっと自分の幸せを考えて……』
玄『それなら、菫さんの幸せはどうなるんですか……?』
菫『えっ……?』
玄『さっき年齢のことを言いましたけど、菫さんだってまだ28歳です……』
玄『こんなにも若い時期から最愛の人を亡くして、それでいて残りの人生、全てを捧げるなんて……そんなの……!』
菫『私は彼女を裏切るような真似は絶対にしない』
菫『彼女を失ったその時に決めたんだ。彼女と彼女が残した全てのものを、この残りの人生の全てで守り通すと』
玄『菫さん……』
菫『玄さん。私にとって君もそうだ。かつて彼女が愛した、たった一人の妹』
菫『私はそんな君を幸せにする義務と責任もあるんだ』
玄『やめてください……義務や責任なんて言葉、聞きたく無いです』
菫『玄さん……』
玄『それはつまり私がお姉ちゃんの妹だから、色々と良くしてくれたり気遣ってくれているってことでしょう……?』
玄『そんなもの……!』
菫『っ……』
玄『……菫さんにとって、私ってなんですか……?』
菫『玄、さん……?』
玄『お姉ちゃんの妹じゃなかったら、菫さんにとって私はただの他人なんですか……?』
菫『そ、そんなことは……』
玄『菫さんは、私に死んだお姉ちゃんを重ねています……』
菫『……!』
玄『この家に来て、私に会うことで……今でも死んだお姉ちゃんの名残を探して、しがみついているんです』
菫『ち、違う……私は……そんな……!』
玄『お姉ちゃんの気持ちを勝手に想像して、自分の体に巻き付けて』
玄『私にお姉ちゃんを重ねて……覚めない夢を見続けて』
玄『でも……私はどうなるんですか……?』
玄『お姉ちゃんが愛した菫さんを……好きになってしまった私はどうすればいいんですか……?』ポロポロ
菫『玄……さん……』
玄『それでも菫さんと一緒にいたいから、菫さんを少しでも感じていたいから、お姉ちゃんの真似をして……』
玄『私という要素を少しずつ削って、そこにお姉ちゃんの面影をあてはめて……』
菫『……』
玄『菫さん……好きです、愛しています……』
玄『お姉ちゃんばかり見続けないでください……私のことも見てください……』
玄『松実玄を、愛してください……』ギュウ
菫「……玄、さん……』
照「ひぐっ……」ポロポロ
怜(なんでガチ泣きやねん……)
久「それにしても、迫真の演技ね……」
宥「あぅ……」
怜(松実さん、顔めっちゃ赤い……)
怜(まあそりゃ、あんだけ自分と思われる人物のことで盛り上がってればなぁ……)
菫(……ここから台詞が無くなっている)
菫(台本には、告白を受けてもなお、最愛の人を思い続けて終了、とだけ書いていて……)
菫(つまりはアドリブ開始……はぁ。竹井のヤツ、こんな台本をよりによって私に……)
菫(最愛の人を、思い続けて……)
玄(台本には、死んだ姉の最愛の人と結ばれて終了、って書いてあるけど……)
玄(ど、どうすれば結ばれて……)
菫「……ごめんなさい」
玄「えっ?」
菫「私には……松実宥さん以外の女性を愛することは出来ません……」
宥「……!!」
玄「そ、そんな……」
菫「私が玄さんに彼女のことを重ねてしまっていたのは……事実です」
菫「彼女の言葉を自分の中で作り上げ、それを糧にあの日から生きてきたのも……事実です」
玄「……」
菫「私は自分自身のエゴで、玄さんを深く傷つけてしまっていた……」
菫「玄さんを私という存在に縛り付けてしまっていた……」
菫「どれだけ謝罪の言葉を重ねても、今の私に償う事はできません……」
玄「謝罪の言葉なんて、いらないです……」
玄「私が本当に欲しいのはただ一言、菫さんの……」
菫「……その言葉を紡ぐ事も、できません」
玄「どうして……どうして……!?」
菫「彼女以外の人に愛の言葉を手向ける事は……私の彼女に対する想いの全てを」
菫「私と彼女が過ごして来た在りし日の全てを否定する事になります」
菫「それだけは……私には出来ません……」
玄「……なら、嘘でもいいです……」
玄「嘘でもいいから……心はいらないから……」
玄「今日だけ私を、好きになってください……」ギュゥッ
菫「玄さん……」
玄「私のこと、お姉ちゃんと思ってくれてもいいです……菫さんが望むなら、私の全てをお姉ちゃんにします……」
玄「だから……だからっ……」
玄「そんな顔、しないで……」
菫「……ごめんなさい」
玄「……!!」
玄「そん、な……」
菫(……もういいだろ。終了条件はとっくに満たしているはず……)チラチラ
久「?」
久「……」ウーン
久(続行!)
菫「!?」
菫「い、一体どういうつもりだたけ……」ガシ
菫「く、くろ、さん……?」
玄「……」
菫「へっ……?」
玄『嫌です……そんなの、絶対に……!』グイッ
菫「きゃっ……!」
宥「!?」
菫(お、押し倒されて……)
玄『菫さん……好きです……』
菫「なっ……」
玄『菫さんが愛してくれなくても、私は愛してます……誰よりも、菫さんのことを……』
菫(ま、まだ続行する気なのか……!?)
照「な、なんか盛り上がって来た……」
怜「松実玄さんの様子おかしない?」
久「もしかしたら役になりきっちゃってるかもしれないわね」
宥「……!」
菫(くっ……!)
菫「や、やめてください玄さん! こんなこと……!!」
玄『菫さんがいけないんですよ……?』
玄『私の気持ちも知らずに、お姉ちゃんお姉ちゃんって……』
玄『お姉ちゃんのことなんて、私が忘れさせてあげます……』ウフフ
菫「!?」
菫「や、やめっ……」
玄「ごふぅぅっ!?」ドガッシャーン
菫「ゆ、宥!?」
怜(ものすごいタックル……)
久(また綺麗に机と椅子の山に突っ込んだわねー……)
宥「あっ……クロちゃ……」サーッ
玄「だ、大丈夫だよお姉ちゃん……おかげで、目が、覚めた……」チーン
宥「クロちゃぁぁん!?」
照「またしても衝撃の結末……死んだはずのお姉ちゃんが生き返って、菫を守った……」
怜「なんでやねん」
菫(今……本気でキスされそうに……)ドキドキドキ
―――――――――――
照(玄さんは菫と松実さんの手で保健室へと運ばれました)
久「弘世さん行っちゃったし、今日はこれ以上練習出来そうにないわね」
怜「結局このオチ……既視感すごいわ……」
照「松実さんは口より先に手が出るタイプらしい。今日で確信した」
久「それにしても、弘世さんも松実さんも今日でかなり演技上達したと思うわ」
久「いやー、また優秀な人材を育ててしまった」エヘヘ
怜「委員長は元から上手やったし、松実さんは台本朗読やったと思うけど……」
怜「てか演技練習してる人、ロクな目に遭ってない……」
久「次は宮永さんと園城寺さんの番ね。これまた面白くなりそうで楽しみだわ♪」
照怜「「勘弁して……」」
終わり
遅くまで支援ありがとうございました
お疲れ様でした
Entry ⇒ 2012.10.24 | Category ⇒ 咲-Saki-SS | Comments (2) | Trackbacks (0)
岡部「俺が女だと!?」
岡部「催眠術だとか超スピードだとか、そんなチャチなものじゃあ断じてない」
岡部「もっと恐ろしいものの片鱗を…ではない!」
岡部「ポルっている場合ではないぞ鳳凰院凶真よ!」
岡部「俺の体に何が起きたというのだ。こんな…」サワサワ
岡部「無い…」フルフル
岡部「……」ペタペタ
岡部「…こっちも無い」ショボン
岡部「……」
紅莉栖「あら、ハロー岡部」
岡部「おお、助手か!!助手に聞きたいことがある。どうして俺は女になっているのだ!?」
紅莉栖「はぁ!?あんた何言ってるの?またいつもの中二病ですか?」
岡部「俺はさっきまで男だったろう助手よ!それがどうして女になっているのだ!?これは冗談で言っているのではない!」ドンッ
紅莉栖「ビクッ…何よもう、そんなに大声で話しちゃって……冗談にしては悪質よ、岡部」
岡部「これが落ち着いていられるかッ!!はっまさか…」
岡部「なあ、紅莉栖、俺のフルネームを教えてくれ」
紅莉栖「今紅莉栖って言った!?…あなたの名前は岡部倫子よ。学生証にもそう書いてあると思うけど」
岡部「まさか」ガサゴソ
岡部「ウソだろ、おい…」
岡部「俺の本名が…岡部倫子だと…!?」
岡部「この場合いつDメールを送ったのかは重要でないな。今重要なのは誰がどんな文面で誰に送ったかだ」
紅莉栖「ちょっと、さっきから何を一人でぶつぶつ言ってるのよ」
岡部「助手よ。俺が寝ている間にDメールを送ったか?」
紅莉栖「送ってないわ、それと助手ゆーな」
岡部「そりゃそうだよな…俺が女になってるって事はDメールを送った事実が無かったことになっているということだろうし」
バタン
ダル「うひーあちー。脂肪が溶けてゲルになるレベル」
ダル「いきなり倫子ちゃんの嫉妬イベントキター!!度重なるフラグクラッシュによく耐えてここまで来たかいがあったお」
岡部「何を訳わからんことを言っているのだ!!未来からメールが来てるか確かめるだけだ。助手もそういったのは届いているか?」
ダル「なんだ。また、実験かお。どんなメール送ったん?」
岡部「それが俺にも分からないんだ」
紅莉栖「分からない()とか、ラボ創設者()のくせに管理がなってないwww」
岡部「煽るなネラーが!!そんなことよりメールは届いていないのか!?」
ダル「僕も届いてたとしたら真っ先に倫子ちゃんに報告しますし、はい」
岡部「そうか…、じゃあ一体誰に届いているんだ?」
紅莉栖「どんなメールを送ったか分からないって言ってたけど、送る前と送った後でどんな変化が起きてるの?もしかしたらその変化からメールの内容と人物を特定できるかもしれない」
岡部「気がついたら女になってた」
紅ダ「は?」
岡部「だから、ラボで寝てて気がついたら倫太郎が倫子になってたんだ」
紅莉栖「つ、つまり、俺があいつであいつが俺で、アポトキシンを服用したと」
岡部「落ち着け、クリスティーナ」
ダル「厨二病の男とか誰得。そんな世界線僕は認めないお」
岡部「お前の意見なんかしるか!!」
紅莉栖「すぅーはぁー、よし落ち着いた。そうね、もし岡部が男の世界線から女の子になってる世界線に移動したんだとしたら因果となるメールは岡部が生まれてくる前に送られてないと辻褄は合わないんじゃないかしら?」
岡部「作戦名:お父様に聞きましょう(オペレーションリーディングオイディプス)を発動させる。各自両親のポケベルに未来からの連絡は入ったかを聞いてくること」
ダル「そんな…もったいないこと僕には出来ない!!そんなことしたらせっかくの比翼連理のダールン、ハーレムルートが台無しだお」
紅莉栖「語呂悪いし、橋田は比翼連理ってよりも肥沃連理って感じね」
ダル「ちょっ、牧瀬氏酷いお」
岡部「ええい、話を聞け!!全く、俺の一生がかかってるんだぞ!!」
紅莉栖「冗談よ。とりあえず聞いてはみるけど、あんたはDメールを打ち消す内容を考えなさいよ」
岡部「うむ、わかっている。それとダルは聞き出した暁にはフェイリスとるか子の手料理を振る舞ってもらうよう取り計ろうではないか」
ダル「その中に倫子ちゃんとまゆ氏もキボンヌ」
岡部「俺はともかくまゆりはやめといた方がいいと思うが」
紅莉栖「あれは、科学者的な知的探求心を満たしていったらああなっただけで、まともなのも作ろうと思えば作れるはず…」
岡部「お湯入れて三分待つのは料理に入らないからなインスタント処女」
紅莉栖「あんたも処女でしょ、ブーメランよブーメラン」
ダル「女の子達が目の前で処女発言。二次元にいかなくても桃源郷はここにあったんだお」
岡部「俺は男だ!いや、そうじゃなくてまゆりも相当酷かったような気がするが…」
バタン
まゆり「トゥットゥルー、おはよーみんな」
ダル「まゆ氏、まゆ氏、倫子ちゃんがまゆ氏の料理食べない方がいいとかって」
まゆり「えー、ひどいよオカリン。オカリンがまゆしぃに料理を教えてくれたのに」
岡部「なん…だと…俺がまゆりに料理?」
まゆり「家事を教えるのは姉の役目だーって言って教えてくれたの忘れちゃったの?」
紅莉栖「それがね、まゆり…」
まゆり「ええーオカリンは実は男の子だったの?じゃあお姉ちゃんじゃなくてお兄ちゃんだねー、えっへへ」
まゆしいを抱きしめたん? って想像したらなんか高まってきたわ
有りだな。全然ありだわ
まゆり「そっかぁ、オカリンはリーディングシュナイゼルさんが出てるから分からないんだっけ?」
岡部「シュタイナーだ!!」
まゆり「オカリンはまゆしぃがお婆ちゃんにしごかれて大変だったときに、女の子は筋肉を鍛えるものじゃない。私がお姉ちゃんになって、家事とかを教えるから鍛えるのは止めろって抱きしめて言ってくれたんだよー」
岡部「そうか…お婆ちゃんにしごかれてるときに…えっ!?」
まゆり「だからオカリンはまゆしぃのお姉ちゃんなのです」
まゆり「紅莉栖ちゃんだって可愛くて頭も良いからまゆしぃうらやましいって思うなー」
ダル「牧瀬氏とまゆ氏と倫子ちゃんの百合展開はぁはぁ」
岡部「ああ、そうだ。機関の工作により今までで一番酷い敵地に送り込まれてしまった。今回ばかりは生きて帰れそうに無い。そうだな、俺に何かあったら彼等に伝えてくれ…最期まで強く戦ったと…エル・プサイ・コングルゥ」
岡部「ゴホン、話が逸れてしまったが、まゆりにももう一度説明する。両親にポケベルに未来からの連絡があったかどうか確認してくれ」
岡部「今日のところは以上で解散とする」
岡部「精神的に疲れた。こんな世界線は早くなかったことにしたいのだがな」
翌日
岡部「昨日は何が何だか分からなく取り乱してしまったが、紅莉栖の前で父親の話は良くなかったな」
岡部「それにしても、両親に聞いてもそんな連絡は無かったと言うことらしく八方塞がりになってしまった」
バタン
ダル「グーテンモルゲン、あれ?倫子ちゃん一人なん?」
岡部「ああ、二人はまだ来ていない。それと倫子ちゃんと言うのはやめろ。寒気がする」
岡部「昨日の説明を聞いてなかったのか?今の俺は男だぞ」
ダル「そんなものは関係ないんだお。可愛いは正義」キリッ
岡部「なにがキリッっだ。それより聞いてきてくれたか?」
ダル「聞いたけどその前にやることがあるよね。倫子ちゃん」
岡部「ああ、料理のことか?それならばまゆりが来てからにしようと思うのだが」
ダル「違うお。人に頼んだときはそれ相応の対価を支払うものだってばっちゃが言ってたお」ハアハア
岡部「息を荒げてこっちに来るな!!いや、マジでやめてくださいお願いします」
ダル「もう遅いお」
岡部「いやー」
まゆり「トゥットゥルー、あれダル君。オカリンに何やろうとしてるのかな?」
岡部「た、助けてくれまゆり!ダルが俺のことを襲おうとして」グスッヒッグッ
ダル「ち、違うお。毎回やってるミニコントみたいなものだお。ちょっとしたジョークだお」ブルブル
まゆり「ダル君。冗談でも女の子を泣かせるのはいけないのです」
まゆり「だから覚悟してね」
ダル「…ああ、オワタ。分子レベルでズタズタにされる未来しか見れない」ガタガタ
アッ―――!!!
岡部「ああ、ありがとな。まゆり」グスッ
まゆり「いいんだよ。ダル君も一回懲らしめないとダメなのです」
岡部「しかし今になって思えば、いやーって女子か!俺は」
まゆり「今オカリンは女の子なんだから良いんだよ。それにオカリンに何かあったらまゆしぃが守ってあげるのです」
岡部「まゆり…」
バタン
紅莉栖「ハロー、あれ?あそこに転がってるのは新作ガジェットの部品?」
まゆり「大丈夫。壊さないようにお仕置きしたから、まだダル君だよ」
紅莉栖「相変わらず、えげつないわね…」
岡部「皆揃ったところで昨日の作戦の報告を聞こうではないか」
紅莉栖「…岡部、…その事なんだけど」
岡部「そうだったな、すまなかった紅莉栖」
紅莉栖「なんで謝ってるのよ?」
岡部「だって、紅莉栖はあまり父親との仲は良くなかったんだろう?」
紅莉栖「いえ、普通に仲良いですけど?」
岡部「バタフライエフェクトか…」
紅莉栖「それが、岡部の女体化がバタフライエフェクトの可能性があるの」
紅莉栖「それが、パパのポケベルに不思議な連絡が来てたらしいのよ」
岡部「なら紅莉栖がDメールを送ったのは確定したのか」
紅莉栖「そうらしいわ、内容は直接言いたいって、今こっち向かってるわよ」
岡部「な、なに!?助手の父さんがこっちにくるだと!!」
紅莉栖「そう。ここの場所を教えたからもうちょっとしたらつくと思うわ」
コンコン
紅莉栖「パパかも」
岡部「取りあえず、そこにあるダルらしき物体をシャワー室に押し込め。警察を呼ばれては適わん」
まゆり「どうぞー」
中鉢「お邪魔します。おおー、ここが紅莉栖が言っていた未来ガジェット研究所か」
紅莉栖「パパ!!ずいぶん早かったのね」
岡部「なっ、中鉢だと!!」
中鉢「そこにいる人達はラボの皆さんか?紅莉栖がいつもお世話になってるね」
岡部「いや、こちらこそ。…じゃなくて紅莉栖の父さんがドクター中鉢…」
中鉢「私を知っているのかい?お嬢さん」
岡部「お嬢さんではない!!我が名は鳳凰院凶真だ!!ラジ館でタイムマシンの発表会を開こうとしていたろ、それを見に行こうとしてたんだ」
まゆり「紅莉栖ちゃんのお父さんかぁ。トゥットゥルー、まゆしぃです」
岡部「分かるのか?この良さが」
中鉢「もちろんだよ、私の中鉢という名前も8という数字を中に入れる事によって永遠や無限をあらわしているのだからね」
岡部「なるほど、貴様もなかなかいい名前をしているな」
中鉢「紅莉栖はいい友人をもったな」
紅莉栖「そこで共感しあうってどうよ…それに鳳凰院じゃなくて岡部倫子だから」
岡部「しかし、なぜあなたほどの男がジョンタイターの理論をパクったのだ?」
中鉢「酷い言いぐさだな、あれは私と鈴さんや皆で作った理論だからあんな奴とは一緒にして欲しくは無いのだがね」
岡部「鈴さんって橋田鈴のことか!?」
中鉢「そうだよ、鳳凰院さんは鈴さんを知っているのかい?」
中鉢「そうか…思っていたよりも世界は狭いんだな」
岡部「そうだ、せっかく来たんだ。我がラボの発明品を見てゆくかドクター」
中鉢「いいのかい?なら少し拝見していこうかね」
紅莉栖「今はその話じゃなくてポケベルに入った内容でしょパパ」
中鉢「そうだった。あの時のことはよく覚えてるよ」
――
中鉢「なんだ?差出人不明?むすめうまれたらなかよくしろ?」
中鉢「間違いか?いや、それではつまらんな。きっとこれは宇宙人が送ってきた信号に違いない、もしくは未来人とか。鈴さんに意見でもきいてみるか」
ヤスイヨーヤスイヨー
中鉢「八百屋か…何時もお世話になっているし、たまにはメロンでも買っていくのもいいな」
中鉢「すいませんメロン一つください」
八百屋「はいよ毎度あり。嬉しそうな顔してるけど良いことでもあったのかい?」
中鉢「もしかしたら未来か宇宙と交信出来る発明ができるかもしれないんだ」
中鉢「子供ですか、それは良いことですね」
八百屋「まあな、これからもっと忙しくならなくちゃ食わせるのに苦労しそうだけどな」
中鉢「でも、生まれて来る子供はきっと健康に育ちますよ。野菜食べると元気な子産めるって言いますし」
八百屋「なら嫁にも野菜をたんまり食べてもらわないとな。はいよお釣り。また来てくれよ」
中鉢「ええ、また来させて貰いますよ」
中鉢「申し訳ない、大丈夫か?」
不良1「いったいのー。ああ、これ骨折してるわ」
中鉢「いや、それはない」
不良1「なんだとこら、この炎の絶対零度、0℃になにいちゃもんつけてくれてんだ」
中鉢「炎の癖に絶対零度は可笑しいだろ。絶対零度は0℃じゃなくて0Kだし」
不良2「てめぇ痛い目見ねぇと分からないらしいな」
中鉢(つい反応してしまったが、逃げた方が良さそうだな)
ダッ
不良3「まてやわれぇ」
「なんか楽しそうなことをしてるねぇ。私も混ぜてくれよ」
不良2「うっせぇな。誰だよ」
「あんまり大勢で男を追いかけてるのは見ててみっともないよ」
不良3「ああ!?怪我したくなけりゃ引っ込んでろババア」
お婆さん「全く酷い言い草だ。これは少しお仕置きが必要かねぇ」ヒュン
不良2「ガハッ」バタッ
不良3「なんだこの婆さん。動きが人間じゃねぇぞ、ヘブッ」バタッ
お婆さん「全く、この程度で粋がるなんて百年早いよ坊やたち」
不良1「この婆さんやべぇよ。逃げんぞ、お前ら」
不良2、3「ま、まってくれよー」
お婆さん「お前さんもお前さんだよ。自分の身は自分で守れないんじゃ男として失格だよ」
中鉢「すいません」
お婆さん「たまたま私が見かけたから良かったけど、こういうこともあるんだから気をつけなさいよ」
中鉢「は、はい。本当にありがとうございました」
お婆さん「…最近の若い者はこれだから、うちの息子も貧弱で困ったものだわ。やっぱり孫が生まれたら私が鍛えてあげなきゃダメなのかもしれないねぇ」
――
中鉢「と、その日はこんな風に色々あったから記憶に有ったんだろうね。紅莉栖にポケベルに連絡が来たかどうか聞かれたとき、すぐ思い出したよ」
岡部「き、貴様の仕業だったのかぁぁ!!」
中鉢「いきなりどうしたんだね。大声なんか出して」
岡部「あなたが会った八百屋は俺の父だろう。そして助けてくれたお婆さんはまゆりのお婆ちゃんに間違いないだろうな!!」
まゆり「まゆしぃのお婆ちゃんはやっぱりすごいのです」
岡部「あなたが野菜を食べろといったから俺は女になって、あなたが不良に絡まれたからまゆりは人間離れした筋力を手にしてしまったんだ」
中鉢「話はよくわからんが、やはり世界は狭いと言うことがよくわかったよ」
ダル「やっと直ったお。僕の凄まじい生命力に感謝。あれ、そこにいるおじさんはどちらさん?」
紅莉栖「あ、橋田が居るの忘れてた。私のパパよ」
ダル「お義父さん。娘さんと健全な交際をさせて頂いてます。橋田至ともうします。」キリッ
中鉢「それは本当か紅莉栖?」
紅莉栖「んなわけなかろーが。誰が好き好んで橋田と付き合わなきゃいけないのよ」
中鉢「良かった。こんな奴と付き合ってるなんて言われたら、父さん3日は寝込むからな」
ダル「なんで、僕の周りにはおにゃのこが多いのに1人も落とせないの?教えてエロい人ー」
ダル「それは、倫子ちゃんが彼女になってくれるって事でFA?」
岡部「何度も言っているが今は男だ!」
まゆり「ダル君はまだお仕置きが足りなかったのかな?」
ダル「すいません。調子に乗りすぎました」ドケザ
中鉢「意外と長居してしまったから、私はそろそろ帰るよ」
紅莉栖「えっ、パパもう帰っちゃうの?」
中鉢「紅莉栖がどんな所でどんな友人と過ごしているかが気になっただけだからな。紅莉栖が楽しそうな所にいることがわかって良かったよ」
中鉢「なんだね?」
岡部「もし、あなたが紅莉栖の才能に嫉妬して、紅莉栖につらく当たってしまう世界があったらどうする?」
中鉢「そんな自分がいたら、そんな事はくだらないと説教をしてしまいたいね」
岡部「そうか…」
中鉢「じゃあ私はもう行くよ。これからも紅莉栖の事をよろしく頼むよ」
岡部「任せてください」
中鉢「ただしピザ、てめーはダメだ」
ダル「牧瀬氏の父さん、最後とんでも無いこと言ってなかった?」
岡部「全面的にお前が悪いだろ。それにしても助手は純血のネラーだったとはな」
岡部「そして、お前がDメールを送った犯人だったとはな助手よ」
紅莉栖「そうみたいね。岡部、前の世界線での私とパパの仲ってそんなに悪かったの?」
岡部「ああ、お前から聞いた話だと相当悪かったっぽいな」
紅莉栖「そう…」
岡部「どうする?Dメールを送るか?」
紅莉栖「だって、そうしないと岡部は女の子のまんまになっちゃうでしょ」
岡部「そうなんだが…いいのか?過去を変えることに反対していたお前がDメールを送るほど悩んでいたんだぞ」
岡部「考えればいい、俺はお前の気持ちを尊重するぞ」
岡部「それに、この世界線ではまゆりは死にそうにないしな」ボソッ
紅莉栖「わ、私は――――」
紅莉栖「パパと仲の悪かった世界に戻るだけなのに、それが恐いの…」
岡部「…それが紅莉栖の選択なら俺は否定しない」
岡部(俺の性別一つでまゆりが助かり、紅莉栖も苦しむことの無い世界に来れたのだから安いものだ)
紅莉栖「なんで…なんで岡部はそんなことが言えるの?性別が変わっちゃったのよ」
岡部「俺はルカ子に、そんなものは関係ないと言ってきている。実際に我が身に降りかかったらそんなことは言えないというのが本音だが…」
岡部「いいんだ、好きな人の気持ちを変えてまで俺は戻りたいとは思わん」
紅莉栖「えっ!?」
岡部「気付いたんだよ。普通ならば迷うことなんか無くDメールを送るはずなのに、俺は迷って、結局紅莉栖に決断してもらった」
岡部「それ程、紅莉栖の気持ちが大切だったんだろうな」
紅莉栖「おかべ…」
岡部「お前はどうなんだ?」
紅莉栖「と、言いますと?」
岡部「お前は俺が好きかと聞いているんだ」
紅莉栖「で、でも岡部は女の子だし…」
岡部「体は女だが心は男だ。それに今更野郎なぞ好きになれる訳ないだろう」
岡部「責任感などは無くてもいい。紅莉栖が俺の事を好きかどうかが知りたいんだ」
紅莉栖「私も岡部のことが…好き…だよ」
ダル「キター!!!本物の百合展開!!!これで勝つる!!!」
まゆり「もー、ダル君!二人を邪魔しちゃうのはまゆしぃあんまり好きじゃないなー」
ダル「ご、ごめん、まゆ氏。だから引っ張ってかないで」ズルズル
まゆり「じゃあ、まゆしぃはダル君とメイクイーンに言ってくるのです」
紅莉栖「…邪魔があったけど伝わったよ…ね?」
岡部「まだ伝わらないな」
紅莉栖「そっか…なら」チュッ
紅莉栖「これなら伝わった?」
岡部「ああ、伝わったよ。紅莉栖」
岡部「これが二人の選択だってことがな」
おわり
昨日この名前でスレ立てしてくれた人
ありがとニャンニャン
Entry ⇒ 2012.10.24 | Category ⇒ シュタインズゲートSS | Comments (5) | Trackbacks (0)
やよい「今日はおうちに帰りたくないです……」
あずさ「今日は何と一度も迷わず事務所にたどり着けました。ただいまですー」
やよい「……おかえりなさい」
真美「……おかえりー」
あずさ「あら二人ともまだ居たの? もう結構遅い時間なのに。特にやよいちゃん。あなた家族の夕食はどうしたのかしら? いつもそのために早く帰ってるし訳でしょう」
やよい「今日は家に誰も居ないんです。だから──なんとなく帰りたくないんです」
真美「私も同じ。亜美はいおりんと地方遠征。両親も用事で留守だしさ……」
あずさ「へえー、そうなんだ。でも、やよいちゃんちの家族が全員居ないなんて珍しいわね」
やよい「私のアイドル活動で少し家計に余裕ができたんです。それでお父さんが少しづつ貯めてみんなで温泉旅行に行こうと。でも……」
あずさ「そういえばやよいちゃん、今日は生の収録があったわね」
やよい「はい……だから、私はひとりでお留守番です」
真美「あー、なんか誰も居ない家なんて帰りたくないよ。寂しいんだもん」
あずさ「まあ、そうよね……特に二人の年頃だと」
あずさ「そうだわ! 二人とも今日は私の家に泊まるというのはどうかしら」
真美「賛成賛成! 泊まる泊まるー!!」
やよい「えっ、いいんですか? 迷惑じゃないです?」
あずさ「全然! さあ行きましょう。今日はご馳走よ。うふふ」
真美「あずさお姉ちゃん、出口そっちじゃないよ」
──大型スーパー。
真美「あ゛ー、づがれだー。あずさお姉ちゃん、少しでも目を離すと全然別な方へ行こうとするんだもん」
やよい「──大きいスーパーですね」
あずさ「うふふ、なんでも揃ってるのよ。さて、今日は何にしようかしらね~」
あずさ「うふふ、なんでも揃ってるのよ。さて、今日は何にしようかしらね~」
あずさ「そうねー。ちょっと奮発してステーキなんてどうかしら」
真美「おおっ、久しく肉をガブリついてないかに良いですな→」
やよい「ええっ、ステーキ!! そっ、そんなお大臣な食べ物、もったいなくてバチが当たります!!」
あずさ「あら、やよいちゃんの家族は温泉旅館でご馳走を食べてるのよ。これでも足りないくらいよ」
やよい「でもー」
あずさ「いいからいいから。遠慮しないでちょうだい」
あずさ「マリネする時間は無いから和牛のほうが良いわよね。この百グラム五百円ので良いかしら」
やよい「高すぎますー! えーと、えーと。あっ、こちらのお肉は安いです!!」
真美「……やよいっち、それ、挽肉だよ」
やよい「こっ、これなら!」
真美「薄切りだし」
やよい「なら、これ!」
真美「だからそれは豚コマー!!」
あずさ「はいはい、おねえちゃんに任せて。肉を役なら牛脂は必須よね」
真美「うんうんサラダ油で焼くなんて肉に対する冒涜だよ→」
やよい「ええっ、ダメなんですかー!」
あずさ「絶対にダメというわけでないのよ。ただ、サラダ油を鉄板にひいて熱すると独特の匂いが出るからね」
やよい「へえー、そうなんですか」
あずさ「さて、後は──スープストックはまだあるから良いとして、サラダと……やよいちゃんはパンとご飯、どっちがいいかしら?」
やよい「んー、ご飯かな。パンだとなんか力が出ない気がします」
真美「真美はどっちでもいいよ」
あずさ「ならガーリックライスでも作ろうかしら。あと、ワインワインと」
やよい「……何か見たこともないご馳走が出てきそうです」
真美「やよいっちは大げさだなー」
やよい「だって、どう見ても一人分でうちの家族全員の一度に使う食費を超えているんですよ」
真美「……うわー」
──あずさの家
あずさ「ふうー、着きました」
真美「……よかった、あずさ姉ちゃんの家をこんなこともあろうかと知っていて」
やよい「──誘導大変でした」
あずさ「うふふ、ありがとうね。さっ、ご飯作るわよ」
やよい「あっ、手伝います」
真美「真美、テレビ見てるねー」
あずさ「はいはい。さて、肉はほぼ常温だからいいとして、軽く筋を切って塩コショウをパッパ」
あずさ「適度に脂を取って──これもあとから使うのよ」
あずさ「やよいちゃんは冷凍庫のご飯とスープの解凍お願いね」
やよい「はい、分かりました。スープとかはこっちで作りますね」
あずさ「フライパンを熱したら牛脂を入れてと。やよいちゃん、玉ねぎともやしの準備をお願い」
やよい「あっ、はい」
あずさ「牛脂が溶けたら肉の投入」ジュー
真美「おおっ、この肉を焼く音。いつ聞いても食欲揺さぶりますなー」
あずさ「うふふ。前にある洋食屋さんでランチを食べたの。すごく美味しくて満足したけど、帰ろうとしたら隣の人が注文したステーキが来たのよ」
あずさ「大きくジューという焼く音が響いて、お腹いっぱいなのに生唾が出てきて仕方なかったわ」
真美「ああっ、分かる! 分かるなー!」
あずさ「その店で次にランチを取ったときは迷わずステーキにしたわ」
真美「そして後で体重計に乗って後悔すると」
あずさ「──真美ちゃんのお肉は小さくカットしようかしら」
真美「ああっ、それだけは、それだけは勘弁してくだせ→」
あずさ「うふふ、冗談よ。さて肉はすぐにひっくり返さない。肉汁が浮いたらひっくり返してと」
あずさ「少し火を弱めてじっくり焼いたら香り付けにワインを軽く。はい出来ました」
あずさ「やよいちゃん、玉ねぎともやしの準備はいい?」
やよい「はい、ここにあります。スープもいい感じに出来ますよ」
あずさ「うふふ、ありがとう──さて、フライパンに残った肉の脂。これで玉ねぎともやしを炒めます。さっき取り除いた肉の脂も入れますよ」
やよい「おっ、美味しそうです!」
あずさ「まだまだよ。炒め終わったら、次はご飯入れてガーリックライスを作るわよ」
真美「うーん、あずさお姉ちゃん、料理が上手いよね→」
あずさ「ふふ、いつ運命の人を出迎えても良いようにしないとね」
あずさ「それからサラダと。というわけで出来ましたー」
やよい「出来ましたー」
真美「できまちたー」
真美「ステーキにサラダにスープ。そしてガーリックライス。ご馳走ですな」
やよい「スープには刻んだキャベツとかベーコンを入れてみました。サラダはレタスとトマトを中心にしてます」
あずさ「では、いただきます」
やよい「いただきます」
真美「いっただきまーす」
やよい「にっ、肉が柔らかくてとろけて美味しすぎます」
真美「すっごいジューシーだよ→」
あずさ「霜降り和牛は脂の旨味を生かして塩コショウでシンプルに仕上げるのが一番だからね」
あずさ「でも、たっぷり噛み締めないといけないステーキも肉本来の味が味わえて美味しいのよ」
あずさ「たまには歯ごたえたっぷりの肉も良いものね」
真美「スープも具だくさんでサラダも最高!」
やよい「おおっ、肉の下に引いてあるもやしもいつも食べるもやしと全然違います」
あずさ「肉の脂の旨味をたっぷり吸ったもやしだから。ほうれん草とか炒めてもおいしく仕上がるわね」
やよい「ううっ、こんなに幸せでいいのかな。みんなに悪いよ……」
真美「も→、やよいっちはこじまめ過ぎるよ。家族のみんなは今頃美味しい料理を堪能してるんでしょう」
やよい「そっ、それはそうだけど……あと、こじまめじゃなくて生真面目じゃないのかな」
真美「まあ、そんな細かい事はどうでもいいの! せっかくのお泊りなんだからリラックスしようよ」
あずさ「そうね。これはいつも頑張っているやよいちゃんのご褒美と思えばいいのよ」
やよい「ご褒美──か」
あずさ(なんか急に暗くなったわね。どうかしたのかしら?)
──お風呂。
やよい「お風呂が大きいです!」
真美「大きいです!!」
あずさ「やっぱり足を伸ばしてゆったりしたいから……結構こだわりました」
真美「でも、流石に三人は入れないね」
あずさ「もう一人もこうやって私が抱えるようにしないと難しいようね」
やよい「あずささんに抱かれて幸せです! すっごく柔らかいんだもの」
真美「おおっ、見て見てやよいっち! あずささんの胸が、胸が浮いてるよ→」
やよい「ああ、本当です! 千早さんは胸が大きい人は沈んで大変だと言ってたのに」
あずさ「うふふ、沈んだりしないわよ」
真美「しかし、いいな→ あずささんは胸が大きくて凄いせくちーだもの」
やよい「うん、私なんてまだまだ小さいし……」フニフニ。
真美「うん、全然だよ」フニフニ。
あずさ「二人ともまだまだこれからよ。焦らなくていいわ」
やよい「大人になったら私の胸も大きくなるの」
あずさ「ええっ、やよいちゃんは美人になるでしょうね」
真美「真美も大きくなる?」
あずさ「もちろん大きくなるわ」
真美「じゃあ千早お姉ちゃんは?」
あずさ「えっ?」
真美「このごろ豊胸うんど→ に熱心なんだよ。千早お姉ちゃん。牛乳毎日飲んだり腹筋したり。他にも色々やってるみたい」
真美「そのけんめーな努力は実るかな→」
あずさ「ええと、ええと」
あずさ「どっ、努力は結果が全てでないの。行ったという過程が尊いのよ」
あずさ「夢は叶うものと言うけどやっぱりどうしても仕方ないときはあるわ。でっ、でもね奇跡は絶対にないという訳は無い……はずよ」
真美「千早お姉ちゃんがあずさお姉ちゃん並みになるのはどれくらいの確率だと思う?」
あずさ「……たぶん「ハヤテのごとく!」の原作者がヒナギクさんの胸を大きく成長させるぐらいかしら?」
真美「それ、ゼロと言ってるのと同じだよ→」
あずさ「あっ、あははは……」
あずさ「でも、千早ちゃんはこの頃女らしい魅力が本当に出てきたわよ。何て言うか柔らかくなった?」
やよい「前に比べて優しくなりました。レッスンで私が汗をかいたらタオルとかすぐに貸してくれます。洗って返しますと言っても「いいのよ」とニコニコしてるんです」
真美「あ→、いおりんもやよいに同じことしてるね。でも、それ本当に親切心だけなのかな→」
あずさ「多分、彼女……恋をしてるわね」
真美「千早お姉ちゃんが?!」
やよい「ふえー、相手は誰なんでしょう」
あずさ「何となく予想は付くのだけどね。……私も同じだから」
真美「恋──まだ全然分かんないな。歌で愛を歌ったりするけどちょっと実感が無いんだよね」
やよい「私も同じです。みんなが好きだけど、恋の好きと今思っている好きは全然違うのかな」
あずさ「違うわよ。恋の好きはたった一人に捧げたい特別な想いなの。家族や友情の好きとやっぱりね……」
真美「んー、どういうものなんだろう」
あずさ「そうね、心の奥で家族以外に今誰に一番会いたいか。誰ともう会えなくなったら一番悲しいか。思い浮かべて真っ先に出てきたら恋をしている証よ」
やよい「────」
真美「…………」
やよい「──プロデューサー」
真美「……兄ちゃん」
あずさ「うふふ、この子たちも同じなのね。本当、罪作りな人」
やよい「あずささん、ギュッと抱きしめてもらっていいですか。なんか切なくなっちゃいました」
あずさ「……いいわよ。思いっきり甘えなさい」
やよい「──はい」
あずさ(なんだか赤ちゃんみたいね。でも何か別なのを思い出したのかしら)
やよい「────」モミモミ、チューチュー。
あずさ「えっ、あっ?」
真美「おおっ、やよいっちがあずさお姉ちゃんの胸を揉んで吸ってる→」
やよい「………」
あずさ「あっ、あんっ、あの、やよいちゅん、ちょっと強い……くぅ、えっ、そこはダメ。いや、噛まないで」
真美「すっ、すごいエロエロです。正直たまらんですタイ」
あずさ「どっ、どこの薩摩の人よ。んぅ~、やめて、それ以上だとこっちが切なくなっちゃう──」
真美「うーん、ここは真美も参戦していっきにいちはちきんモードに移行すべきかな?」
あずさ「そっ、それはらめぇぇぇ!!」
──寝室
やよい「くぅーくぅー」
あずさ「ふうー、やっと落ち着いたわね」
真美「いやー、あれから原稿用紙四百枚ほどのエロエロ行為が──乱れに乱れたあずさお姉ちゃんが若い真美たちを食い漁り」
あずさ「もうー、そんなのはありませんよ!」
真美「ははっ、冗談っす」
あずさ「それにしても……」
あずさ「何となく今日のやよいちゃんはおかしい感じがするわね」
真美「というと?」
あずさ「妙に甘えてくるというか情緒不安定というか……いつもしっかりしてるのに。やっぱりまだ子供なのね」
真美「……ちょっち違うと思うよ」
あずさ「?」
真美「真美と亜美は双子だけど、一応真美の方がお姉さんじゃん。だからギリギリの所で我慢というか譲らないといけないの」
真美「真美、お姉さんでしょう。そう言われる訳」
真美「亜美と喧嘩したり物の取り合いになると最後にそう言われて諌められたりする。真美としては理不尽極まりないよ」
真美「でも、そう言われたら引き下がるしかないの。お姉さんだからさ……」
真美「やよいっちは一番上だよね。たぶん……真美より大変だと思う。心情的にさ」
あずさ「私は一人っ子だから実感ないけど……そういうものなの?」
真美「うん、どうしてもね。まず下の子を優先したり考えてりすると思う」
真美「やよいっちの家は小さい子もいるし両親は仕事で忙しいしほとんどお母さんと同じ立場だよ」
あずさ「それは大変よね……」
真美「真美とかは自由に遊べるけど、やよいっちはそうでもない。真美たちが携帯ゲームをしてると少し羨ましそうに見てたりするの」
真美「でも『やってみる? 貸してあげるよ』といっても首を横に振って断るの。一度遊んだら歯止めが効かなくなると分かってるからだと思う」
あずさ「全部抑えて大人にお姉さんにならないといけないか──」
真美「もちろん、それはやよいっちの両親も分かっていたと思うよ。もともと温泉旅行はやよいっちのために考えたものらしいし。でっ、サプライズのため黙っていたら」
あずさ「やよいちゃんのお仕事と被ってしまったわけね」
真美「だから、本当は中止にしようとしたらしいけど喜ぶ弟たちに悪いとやっぱり引いて譲ったみたい」
真美「本当は温泉に行きたかったらしいよ。けど、空けられない仕事だったしさ」
あずさ「────」
やよい「うーん」ギュ、
あずさ「あらあら、私はどこにもいかないわよ」
あずさ「そうね。流石に家族で旅行という訳には行かないけど……ちょっとぐらい癒されても良いわよね」
真美「うん? あずさお姉ちゃん、携帯取り出して何する気?」
あずさ「あっ、プロデューサーさん夜分遅く済みません。先日の企画の話なんですが少し変更を。ええっ、企画書はこちらで作成します。はい、詳しいことはまたあとでお送りします」
真美「えっと、何するの?」
あずさ「うふふ、頑張っているお姉ちゃん達にご褒美です」
──某温泉街
やよい「○×温泉に来てまーす」
真美「効用は肩こり、よういた?」
あずさ「腰痛よ、真美ちゃん」
真美「分かってたよ→ わざとボケたに決まってるじゃん」
やよい「でも、顔が真っ赤ですよ」
真美「おっ、温泉に入っているから顔が火照っただけ。それだけなんだから!」
あずさ「あらあらまあまあ」
──事務所
P「あず散歩の温泉バージョン。おかげで大人気だな」
小鳥「大人っぽい色気あるあずささんに無邪気な二人。初めは大丈夫かなと心配しましたけど杞憂でしたわね」
P「子供の視点から温泉宿を見るという新鮮な発想だよな」
小鳥「的確なボケとツッコミの真美ちゃん。天真爛漫なやよいちゃん。人気が出るのも頷けるわ」
P「特にやよいは食事の時のリアクションが本当に美味しそうと評判でね……真美は食べ物で遊ぶけどな」
小鳥「でも、それをまとめるあずささんは凄いわ。最後はきっちり締めてくれるし」
亜美「それはいいけどさ→ 何で真美なの? 亜美でもいいじゃん」
伊織「そうよ、元竜宮小町で組んでいたのに水臭いとしか言い様がないわ」
P「んー、伊織はあずさと組みたかったのか」
伊織「べっ、別にそういう訳じゃないわ。ただ、日本の温泉はあまり行ったことないから興味が湧いただけ。それだけ、それだけなんだから! あと、どちらかというとやよいと一緒に温泉に……」
亜美「亜美も温泉に入って美味しいもの食べたーい」
小鳥「そういえばあずささんが言っていたわね」
小鳥「これはお姉さんキャラへのご褒美ですって」
亜美・伊織「「? どういうこと→(意味なの)」」
終わり。
いずれ、あず散歩温泉編とかも書いてみたいかな。いろんなキャラを組み合わせたりしてね。
まあ、そんな感じで。ではまた、
Entry ⇒ 2012.10.24 | Category ⇒ アイマスSS | Comments (0) | Trackbacks (0)
モバP「汚れた猫を見つけたのでいじめることにした」
ザァァァァァァ・・……――――――――
スタスタ…
P「ったくあの馬鹿どこいったんだか……」
スタスタ……
P「……っと、やっと見つけた」
タタッ
P「おい何してんだ、この猫娘が。こんなずぶ濡れになりやがって」
みく「…………Pチャン…」
P「ったく突然いなくなったと思ったらこんなとこほっつきよって、ほら帰るぞ」グイッ
みく「あっ……」
――――――――
―――――――
――――――
P「ほれ、ついたぞ」
みく「にゃ……ここって事務所じゃなくて……Pチャンのおうち?」
P「とりあえず入れ」
みく「うん……おじゃまします……」
P「んでそのままこっちゃこい」
スタスタ
みく「うにゃ……お風呂場?」
P「いいかー……じっとしてろよ?」スッ
みく「目を閉じてどうしたのかにゃ?」
P「秘技!十時直伝!!『一発脱がせ』ッ!!!」バッ!
みく「に”ゃっっ!!??」スポーン
P「かーらーのー? 桐野直伝!『フェザースロー』! そぉい!!」
フワッ
みく「に”ゃぁぁぁぁ!?」ステーン
みく「ちょ、ちょっとぉぉ!? 何するにゃあああPチャーーン!?」
P「ふはは驚いただろう! だがこれだけではないぞっ」
P「続いてはお風呂場のハイテクリモコン攻撃!」ピッピッピ
シャワワワー
みく「うにゃぁぁ!? いきなりシャワーからお湯が出てきたぁぁ!?」
P「この風呂場は外からリモコンでお湯を出せるのだフハハハ! さあ食らえ食らえぃ!」
みく「ちょっと本当に何なのこれぇぇ!!」
――――――――
―――――――
――――――
みく「その上脱いだ服は勝手に洗濯機に入れられていつのまにか用意された着替えまで渡されて」
みく「一体何が何やら……」
P「お、上がったな」
みく「うん……お風呂ありがとうにゃ」
P「勘違いするなよ? 悪い子へのお仕置きファーストステップをこなしただけだ」
P「次はここへ正座しろ」
みく「うにゃ~……お次は何なのにゃ」
P「ライブにボロ負けしたからといって突然飛び出したお馬鹿の子にお説教だ」
みく「うぅ……ごめんなさいなのにゃ」
カチッ ブォォォ
みく「わぷっ」
P「但し、普通にお説教するだけでは効かんだろうからな、熱風攻撃をしながらお説教だ!」
P「俺が良いと言うまで正座して動くんじゃないぞ? そもそも一回ライブに負けたぐらいで逃げ出すんじゃない――――」
みく「にゃぁぁぁ――」
P「よーしまだまだお仕置きは続くぞぉ」コトッ
みく「にゃ? ごはん……?」
P「お仕置きその3! 『昨日の余り物+俺の嫌いな食べ物押し付け攻撃』!!」
みく「えっと……食べなさいって?」
P「その通りっ! 余り物という粗末な食べ物に加え俺が食うのを躊躇われるものを押し付けてやるっ」
P「冷凍庫から鮮度の落ちた昨日作ったご飯を解凍し温め、加えて俺が苦手な味噌汁と野菜の炒め物だ」
P「味をごまかして食べれないように野菜炒めは薄味! 塩コショウと醤油少し」
P「さあ食らえっ」
みく「にゃ、にゃ……でもPチャンの分は無いのかにゃ?」
P「俺はお前を見つける前に食っておいた」グゥ
みく「…………」
P「……そ、それと俺にはこの小腹がすいたときの『にぼし』がある!」
みく「えっと……p、Pチャンも一緒にたb」
P「ならぁぁん!それは俺がお前にお仕置きで用意したスペッシャルメニューなのだ!」
みく「に”ゃっ! い、いただきますにゃ!!」パッ モグモグ
P「ふはは食べたくないという意思を押さえつけられて食うご飯は十分にお仕置きになるだろう!」ポリポリ
みく「……ごちそうさまにゃ」カチャッ
P「うむ、腹が膨れて苦しかろう。どうだ参ったか」
みく(何だかんだでとってもお世話してくれてるにゃ……なんかヘンな言い方されるけど…)
P「お次はその膨れた腹に更にこれを追加だっ」コトッ
みく「にゃ……ミルク?」
P「一度温めた後にわざと冷やして少しぬるくなった飲み物だ。因みにこれも俺の苦手な物の一つだ」
P「さあ飲めっ」
みく「にゃ……あったかいにゃ、猫舌だから飲みやすいにゃ」ズズ…
P「冷たいと腹を壊してしまう上に、あっためると少々においがきつくなる。その両方を兼ね備えた恐怖の液体!!」
P「ふはは! じっくりと味わうがいい!」
みく「あったかいにゃ……ミルクも、Pチャンも……」ズズッ…
P「ふむ……少々失敗したようだ、逆効果になってしまった」
P「ならばここで挽回のお仕置きは……これだ!」サッ
みく「!!」
P「ふはははは! どうやらこれは効果ありそうだなぁ、んん?」フリフリ
みく(ねこじゃらし……)ウズウズ
P「ほぅれどうしたぁ? お前の目の前をチラチラして邪魔だろう? イライラするだろう?」フリフリ
みく「う”~……に”ゃっ!」ヒュン!
P「おっと甘い!」サッ
P「ほれほれまだこいつは健在だぞ~?」フリフリフリフリ
みく「にゃっ! にゃぁぁっ!」ヒュッ ヒュン!
P「まだまだまだぁっ! そしてもう一本追加ぁっ!!」フリフリフリフリフリフリフリフリフリ
みく「にゃぁぁぁぁっっ!!!!」シュバーッ
―――――――
――――――
―――――
P「ふ、ふ、はは……どぉだ……ゼハァ……これには参っただろ……う…………ゼーハー」
みく「Pチャン……疲れすぎだにゃ……」
P「お仕置き……だからな……フーッ……お前をお仕置きする為ならば全力も厭わん」
みく「もうお腹一杯の上に疲れて一歩もうごけないにゃ……」
P「お仕置きの甲斐あったなこれは、ふはは。動けるようになるまでそこで放置プレイだ」
みく「にゃ~……いいもん疲れたからここで寝ちゃうにゃ……」クター
P「おー寝ろ寝ろ。お仕置きの最後は『普段自分が寝ている場所とは違う所で寝かされる』だ」
P「ここは俺の家であってお前の家ではないからな。安眠できないという事が最大のお仕置きだっ」
みく「知らないにゃーん。みくを励ましてくれてご飯までご馳走してくれた人とそのお家が居心地悪いと思うかにゃ?」
P「ぬっ。反抗的なやつめ、いいからそのまま熟睡できん眠りに落ちるがいい」
みく「そうさせてもらうにゃん♪ おやすみなさいにゃ……Zzzzz」
P(しかぁし! お仕置きにはあともう一つ裏メニューがあるのだ!!)
P(裏メニューは……『普段俺が使っている汗臭い筈のベッドへ放り込む』だ!!)
ソッ……グッ……
P(このお仕置きは途中で起こしてしまったら失敗だからな、慎重に運んでやらねば……)ススッ
ポスン
P(よし、作戦は成功。あとは掛け布団もかけて圧迫してやる)
P「………んじゃあな、おやすみさん。みく、今日のライブは悔しいかったろう。次は勝とうな」ナデナデ
P(俺はっ…と……んま、とりあえず床でごろ寝でもすっか、もう疲れてだりぃし)ゴロン
P「んじゃ俺もおやすみっと……Zzzz」
――――――――
―――――――
――――――
翌日
みく「んぅ……あれ、ここ……Pチャンのベッド?」
みく「いつのまにかベッドに運んでくれたのかにゃ……Pチャンにあったかく包まれる夢はこのせいだったかにゃ…」
みく「んぅ~~っ……ふぅ、Pチャンはどこかにゃー?」
みく「Pチャーン? どこにいるにゃー?」
みく「に”ゃっ!? 床で寝てるにゃ!?」
みく「しかも咳き込んでるにゃ!」
ソッ…ピト
みく「Pチャン!……熱もあるにゃ!」
モゾモゾ
P「んぁ”~……お”はよう……ゴホッゴホッ!」
みく「にゃんでこんな所で寝てるにゃ! Pチャン風邪ひいちゃってるにゃ!!」
P「あ”~……昨日のお前へのお仕置きの後に俺も寝たからな……ゲホッ」
みく「みくばっかりお布団で寝させて自分は床にゃんて……だから冷えて風邪ひいちゃうんだにゃ!」
みく「Pチャン自分の事をおろそかにしすぎにゃ!! もー怒ったんだから!」
みく「……今日はたっぷりPチャンにつきっきりで『お仕置き』してあげるんだから覚悟してにゃん♪」
みく「名づけて『動けない体を無理やりおこして引きずるアタック』にゃ!!」
P「う”~……体がいてぇ」
みく「ほらー! 床でなんて寝てるからにゃ!! もうこのまま担いで連れてくにゃ」
グググ………
みく「に”ゃ、ぁ、ぁ……お、重たいにゃ」
P「あんま無理、すんな…ゲホッ……なんとか立てるから」ググッ
みく「にゃぁ~……それなら少しでも支えるにゃ」
P「ゲホッ!……こりゃ完全にアウトだわ……今日はオフだったから良かったものの、ゲホッ!」
みく「大丈夫かにゃ……?辛そうだにゃ……」ジワッ
P「あ”ー心配しすぎだ、風邪ぐらい寝てれば治る」ナデナデ
みく「にゃっ!? お仕置きするつもりが逆にし返されたにゃ!」
みく「こうしてはいられないにゃ!次のお仕置きにゃ!」
みく「にゃにゃにゃーん! 『口に棒状の機械を無理やり押し込むアタック』!!」
P「あだっ……歯に当たったぞ」ムグ
みく「あにゃ、ごめんにゃ……って! お仕置きだからそれぐらい我慢するにゃ!」
P「へいへい……ゴホッ」
みく「えーと……熱は38度!? ちょっとこれ高すぎじゃないかにゃ!?」
P「……あー頭痛もひどいワケだ……脳天にお仕置きされっぱなしだぞ…ゲホ」
みく「それみくのせい!? ちょっとはみくのせいかもしれにゃいけど……」
みく「とりあえず! このおうちに風邪薬とかは無いのかにゃ?」
P「えーっと……そこの棚、上から3段目の引き出しんとこ」
みく「にゃ、あったにゃ。ではー続いて続いて『お口ににっがーいお薬とお水を入れるアタック』!!」
みく「お薬は苦いにゃ! これに耐えられるかにゃ~?」
みく「それだけじゃないにゃ! これはみくのスペシャル攻撃にゃ!」
サラサラ……クピクピ
P「っておい…そっちが薬飲んでどうすんよ……ゲホッ」
みく「にゅふふ~、ふぃーひゃんひょっひょひゃはんひへへひゃん」(Pチャンちょっと我慢しててにゃん)
ガシッ
チュゥゥゥゥゥ
P「!?」ゴクッ……ゴクッ……
P(口移しで流し込まれ……!)
みく「にゃっふふ~……Pチャンには昨日いーっぱいお仕置きされたからにゃん。こっちもその分のお返しにゃん♪」
P「色々突っ込みどころがありすぎるわ……アイドルだってのにキスなんぞ……それに移ったらどーする…」
みく「Pチャンとならちゅーしても問題ないにゃん、ここはPチャンのおうちだし♪ Pチャンの事だーいすきだしにゃん♪」
みく「それに風邪が移ったらPチャン治るでしょ? それでよくなるならばっちこいにゃ!」エヘン
P「自慢する事か……風邪ひいてなかったら頭にチョップだぞ……」
みく「なら今は風邪ひいてるから何もしないにゃ? お仕置きし放題にゃー」
P「……勝手にしろ、やり過ぎは許さん」
みく「うー……治った後が怖そうにゃ……程ほどにお仕置きするにゃ」
みく「にゃにゃ!? さっきよりも顔赤いにゃ!……ははーん、照れてるにゃ?」
P「このバカ猫……んなわけあるか……」
みく「ひっどーい! こんな可愛い子からキスされて照れにゃいなんてー!」
みく「おまけにバカって言ったにゃぁぁぁ!! アホならまだしもーっ」
P「……ゼーハーー」
みく「って……さっきより辛そうにゃ!? お薬効かなかったかにゃ!?」
P「そりゃ騒がせるからだ……それに薬は飲んで暫くしてからだろ……」
みく「うにゃ……じゃあ後はこのままゆっくりするしかないのかにゃ?」
P「ああ……あとは静かにさせてくれ………」
P「それと……タンスの上から2段目の引き出し、ちょっと着替えを取ってくれ……」
みく「にゃっ。それならおやすい御用にゃーん」
みく「にゃっ? あわわわPチャンのぱんつ……」ピローン
P「広げんなっ!ゲホッ!!……う”~喉まできてるわ」
みく「にゃっ、ごめんにゃ、お着替えはこれだけかにゃ?」
P「いや……あとパジャマも換えがある筈だ、タオルも頼む」
みく「はいにゃ!」
ゴソゴソ……トテテッ
みく「お着替えとタオルって事はー……汗かいてるのかにゃ?」
P「ああ……嫌な汗ずっとかいてて気持ち悪い……」
みく「それなら背中ふいたげるにゃん。『白い布で背中をゴシゴシさすりアタック』にゃー」
P「……自分でやる、あっち行っとけ」
みく「駄目にゃ!!」クワッ
みく「Pチャン、寝る前に最後頭撫でてくれたにゃ? みくちょっと覚えてるにゃ」
みく「昨日励ましてくれて……元気づけてもらえたのに……そしたら今度はみくが原因で風邪までひかせちゃって……」ジワッ
P「…………」
みく「だから、何も、できないにゃんて嫌にゃ……」
P「わかった……頼む」プチプチッ
みく「うん……」
みく「背中……広いにゃ……」ゴシゴシ
P「そうか……ん…力加減も悪くない……」
みく「ん……前も拭いてあげるにゃ」ソソソッ
ダキッ
P「…おいっ…ゲホッ…なんで後ろから抱きつく」
みく「こうしないと前を拭いてあげられないにゃん♪」ゴシゴシ
P「今のさっきで態度を変えおって……」
みく「聞こえないにゃーん。じっとしててにゃんー」フキフキ
P「まぁ…ありがとな……ケホッ」
P「さすがに着替えるのは一人でやるから、さ」
みく「うー……お手伝いしたいけどこれはさすがに……」
P「やったら怒るぞ?」
みく「だよねー……向こういっとくにゃ」
トテテテッ
―――――――
――――――
―――――
P「ああ……さっぱりした事もあってか、少し楽になったわ」
みく「おぉー! みくのお仕置き効果あったにゃ!」
P「薬飲ませて背中拭いただけだけどな……」
P「まぁ……ありがとな」ナデナデ
みく「えへへ……どういたしましてにゃん♪」
P「布団で寝れなかったのもあってまだ眠いわ……ケホッ……ちと寝る」
みく「うんっ。おやすみなさいなのにゃ」
P「明日っからまた……頑張るぞ…………ZZZzzzz」
みく「はいにゃっ」
みく「もう一回くらい……いいよね?」
ソソソッ
チュッ
みく「みくの大好きなPチャン……一緒に頑張ろうね?」
―――――――
――――――
よくじつ
P「う”~……」
みく「に”ゃぁ~……」
P「おかしい……なんで治らないどころか、二人とも風邪なんだ」
みく「Pヂャ~ン……ケホッケホッ!……頭い”た”いにゃ……」
P「駄目だ……今日は休むか……ゲホッ」
みく「うん……ごめんにゃん…ケホッ」
P「とりあえず……布団一つしかねぇから、入れ……」
みく「に”ゃ」モゾモゾ
P「ボイトレの予定が……咳のハーモニーレッスンになるとは……ゲホッ」
みく「う”-に”ゃー…う”-……ゲホッに”ゃぁぁ……」
支援もらった割に短くてすんません
Entry ⇒ 2012.10.24 | Category ⇒ アイマスSS | Comments (0) | Trackbacks (0)
櫻子「私たち付き合ってるよね」あかり「え」
櫻子「ジーーーーー」
向日葵「……」
ちなつ「……」
あかり「…えっとぉ…えへへ…」
櫻子「ジーーーーー」
向日葵「……」
ちなつ「……」
あかり「…あっ さ、櫻子ちゃ」
先生「コラッ大室!」パコーーーン
先生「なに後ろばかり見てるんだ!黒板は前だろ!」
先生「何を見てたんだ何を!」
櫻子「はい!あかりちゃん、赤座さんを見てましたー」ドーン
先生「」
向日葵「」
ちなつ「」
あかり「///」
ヒソヒソヒソヒソ
あかり「もー櫻子ちゃんびっくりしちゃったよぉ~」アセアセ
向日葵「あなた授業開始から30分くらい赤座さんのこと見てましたわよ?」
ちなつ「ってか先生もよく30分間も放置してたね…」
櫻子「うんうん」
向日葵「うんうんって…」
ちなつ「なんであかりちゃんを見てたの?」
あかり「あかりのお顔に何かついてかな?」
櫻子「それはね…私があかりちゃんのこと好きだからなのだー」ババーン
向日葵「またこの子は唐突に…」
ちなつ「あーでも櫻子ちゃんそんな感じだよね~」
櫻子「ぅえっえへへへ」テレテレ
向日葵「キモい」
櫻子「うるさーいおっぱお魔人は黙ってろ!」バイーンバイーン
櫻子「(バイーンバイーン)そ、それでさ…(バイーンバイーン)あ、あかりちゃんは私のことどう思ってるなかな~って///(バイーンバイーン)」
向日葵「人の胸を叩きながら!」ドゴォン
櫻子「ウグゥ」グヘー
櫻子「…ほ、ほんとに!?」
あかり「うん!」
櫻子「ーーーーーーーーーやっっっったぁぁぁぁーー!!」パァァァァァ
向日葵「うるさっ」
櫻子「うんうん!これかもよろしくねあかりちゃん!」
あかり「?う、うんよろしくね」
ちなつ「?」
櫻子「あーかりちゃん一緒に帰ろーーー!!」
あかり「えーあかり部活が…って櫻子ちゃんも生徒会がが」
櫻子「ええー生徒会の仕事なんて向日葵がやっとけ!!」ブーブー
向日葵「はぁ馬鹿なこと言ってないで、赤座さんも迷惑してますわよ?」
櫻子「じゃ、じゃー終わってから一緒に帰ろ?」
あかり「うんいいよぉー」
櫻子「(パァァァァ)じゃあ行ってくるよ!向日葵早くしろ!」
向日葵「なっ…あなたg」
バイイイイーーーン
あかり「…あはは、いっちゃった」
あかり「じゃあかりたちも部活に行こっかちなつちゃん!」
ちなつ「…」
あかり「…ちなつちゃん?」
ちなつ「あっごめんごめん……うん!行こっか」
~生徒会室~
櫻子「うぉおおおおおお!」ビジッビシッ
向日葵「いや声だけであまり進んでませんが…」
櫻子「いやー私の掛け声で向日葵が動かないかな~って」
向日葵「」バシッ!
千歳「なんや~大室さん今日は一段と元気やなー」
綾乃「そうね何かいいことがあったのかしら?」
櫻子「えっやっぱわかっちゃいますかね~」エヘヘッヘ
向日葵「…気持ちが悪いですわ」
櫻子「じ実はですねー…私あかりちゃんと付き合い始めたんです!」
綾乃「えっ」
千歳「あらまあ」ウフフフ
向日葵「!?」
綾乃「えっ あ、ええ後は私たちがしとくわ」
櫻子「じゃっ失礼しまーす!」ダッガラガラピシャ
千歳「は~まさか大室さんと赤座さんとは…これはこれで…」
綾乃「そ、そうね…って古谷さんさっきの本当なの!?」
向日葵「え、えっとそうーみたいですわ…?」
千歳「なんや微妙な感じやな~?それよりええの?古谷さんは大室さんのこと…」
向日葵「い、いえ私は別に…」
向日葵(赤座さんにその気はなさそうですし…というかそれ以前に色んな意味で櫻子のことが心配ですわ)
向日葵「先輩方すみません私も本日分が終わったのでお先に失礼します!」ガラガラピシャ
千歳「いやぁ~綾乃ちゃんも負けとられへんなぁー」
綾乃「ななななんでわわ私は別に歳納京子なんかとー」アセアセ
千歳「あはは別にうち歳納さんのことなんて言っとらへんよ~?」
綾乃「も、もう千歳!////」
向日葵「失礼します!」ガラッ
京子「おっひまっちゃーん」
向日葵「あの赤座さんは……?というか櫻子が……」
ちなつ「あかりちゃんならさっき櫻子ちゃんと一緒に帰ったけど……なんだか」
向日葵「吉川さん……あの……」
ちなつ「!」ピピーン
ちなつ「結衣先輩すみません今日は私ももう帰ります!向日葵ちゃん行こう!」
向日葵「は、はい」
ダッダダダ
京子「……ってか結衣!私たちの出番これだけなのかなぁ!?」
結衣「…いやこれくらいでいいよ……」
結衣「なんだか京子は酷い目にあってる気がするし……」
京子「?」
京子「いやいや私は別に……」
結衣「なんだか死んだり精神的に病んだり……」
京子「ええー!?なにそれ怖い!」ガガーン
京子「私は元気だよ!?」
結衣「そうだな……京子は元気だな」フフフ
京子「!?!?」
向日葵「あっいましたわ!」
ちなつ「ちょっと様子見てみようか」
…………
あかり「えへへ櫻子ちゃんと二人で帰るなんて初めてだね」
櫻子「えっ!う、うんそうだね!」
櫻子(いざとなるとちょっと恥ずかしいもんだな……)ドキドキ
あかり「でもよかったの?いつもは向日葵ちゃんと……今日も一緒かと思ってたのに」
櫻子「いいのいいの!ってかいっつもたまたま一緒な道にいるんだよね~あいつ」
あかり「それは家が隣だからじゃないの!?」
あかり「でも二人はほんと仲良しさんだよね~」
櫻子「べ別に仲良くはないよ!……あっアイスクリーム屋さん!あかりちゃん食べてこ!」
あかり「わぁいいいの?」
櫻子「もち…ん?あれ?」
…………
ちなつ「なんだか櫻子ちゃんバタバタしてるね?」
向日葵「ええ……(なんとなく予想はつきますが…)」
ちなつ「あぁ!そして明らかにテンション下がったー!」
ちなつ「もうちょっと近づいてみよう!」
向日葵「吉川さん楽しんでませんわよね……?
あかり「(記念日?)ええーでも……」オロオロ
向日葵(あの子にも一応プライドがあるのですのね……)
櫻子「……」
あかり「じゃああかり一つ買うから一緒に食べて?」
櫻子「えっ……でも」
あかり「あかり全部食べれないよぉ~だから食べるの手伝ってくれたら嬉しいかな~って!えへへ」パァァアッカリーン
櫻子「うっあかりちゃん……」マブシー
向日葵(赤座さん……!)マブシー
ちなつ(あかりちゃん)マブシー
櫻子「うん!」
ちなつ「私たちも行こ!」
向日葵「ええ……」
あかり「はい櫻子ちゃん!」
櫻子「ありがとう!」
櫻子(あかりちゃんの食べかけ……)ドキドキ
櫻子「おいしいー!」
櫻子「……あのさぁあかりちゃん」
あかり「なにー?」
櫻子「改めて聞くけど私のどこが好きかなーって……へへへ」テレテレ
向日葵「!」
ちなつ「そろそろ気づかないかな……」
あかり「えーっとねー」
あかり「元気なところに~話しててとっても楽しいし!可愛いし」
ちなつ(友達としてね……)
あかり「それと京子ちゃんに似てるところもかな~」
櫻子「えっ……」
あかり「うん!」
櫻子「……」
櫻子「あかりちゃん……歳納先輩のこと好き……?」
あかり「うん!あかり京子ちゃんのことだぁいすき!」
櫻子「!」
ちなつ「解説の向日葵さんお願いします」ズイズイ
向日葵「やはり楽しんでませんか……?」
向日葵「…そうですね多分赤座さんが歳納先輩を恋愛的に好きと言ったと思っているのでは」
ちなつ「うーんなんという」
あかり「あかり二人とも好きだよぉ」
櫻子「そんなんじゃダメ!!」
あかり「ええー!」ガーン
櫻子「例えば!私と歳納先輩が死にそうだったらどっち助けるの!?」
あかり「ええー!」2ガーン
あかり「どっちも助けるよぉ……」
櫻子「ぬぬぬぬ……」
櫻子「じゃじゃあ今!今現在!この距離で私と歳納先輩」
櫻子「どっちも、えーと、お餅!お餅詰らせたら!?」
あかり「ええー!」3ガーン
あかり「櫻子ちゃんお餅食べてないよぉ……」
櫻子「ぬぬぬぬ……」
櫻子「じゃあ!このアイス!アイスが詰まって死にそう!」
あかり「ええー!」4ガーン
櫻子「アイスが喉に詰まったー多分歳納先輩も今アイス詰まらせてる!さぁどっち!?」
あかり「うぅぅ……」
ちなつ「暴走してるね」
向日葵「櫻子……」
櫻子「本当!?」
あかり「う、うん」
櫻子「わーいわーい」パァァァァ
向日葵「もうわけがわかりませんわ……」
ちなつ「うん」
~別の帰宅道~
京子「うわぁぁぁ!結衣!アイスが詰まったー!死にそうだ助けてくれー」
結衣「!」
結衣「京子!大丈夫か!今助けるぞ!」
京子「いやいや……結衣にゃんギャグなのに……つっこんでよ」オロローン
結衣「そうか……ごめん京子の死に敏感で……」
京子「!?」
あかり「うん!」
ちなつ「じゃああとお願いね向日葵ちゃん!」
向日葵「えっ」
ちなつ「家となりだし今日にでもちゃんと櫻子ちゃんに伝えたほうがいいんじゃない?」
向日葵「そうですね……このまま勘違いさせとくわけにもいきませんわね」
向日葵「わかりました後は任せてくださいちゃんと櫻子には伝えときますので」
ちなつ「うん!」
櫻子「おっはよーあかりちゃーん」ギュッ
あかり「ぐぇ、お、おはよう櫻子ちゃん」
ちなつ「……向日葵ちゃん?」
向日葵「……申し訳ありません……」
ちなつ「言えなかったの?」
向日葵「昨日櫻子の家に言って伝えようと思ったのですが」
向日葵「あまりに楽しそうに話す櫻子を見てなかなか言い出せず……」
ちなつ「まぁ仕方ないよ」
向日葵「でも!今日中には言いますわ!」
ちなつ「そんな無理しないでも……」
向日葵「大丈夫ですわそれに早く伝えないと赤座さんにも迷惑がかかってしまいますし」
ちなつ「うん!じゃあ頑張ってね!」グッ
櫻子「ジーーーーーーー」
先生「コラ!大室はまた後ろを向いて!」
ちなつ「……」
給食~
櫻子「はいあかりちゃんのは大盛りね!」
あかり「こんなに食べれないよぉー」
ちなつ「……」
放課後~
櫻子「さぁ帰ろうよあかりちゃん!」
あかり「部活と生徒会が…(略」
ちなつ「……」
向日葵「うぅすみませんやっぱり無理でしたわ……」
ちなつ「大丈夫!こうなったら私が言ってあげるよ」
向日葵「吉川さん……」
ちなつ「こういうのは一気に言おうとしたらダメなんだよ」
ちなつ「徐々に伝えていく感じでね!」
向日葵「お願いいたしますわ吉川さん!」
ちなつ「まかせてよ!」
櫻子「いやぁ~昨日はお楽しみでしたね」ニヤニヤ
あかり「櫻子ちゃんへ変な言い方しないでよ」アセアセ
向日葵「……」
授業~
櫻子「あいらぶあっかり」
先生「何を言ってるんだ」
向日葵「……」
体育~
櫻子「あかりちゃんは私の後ろに隠れて!」
あかり「櫻子ちゃんバスケだよぉ~……」
向日葵「……」
櫻子「はいあかりちゃん私の好きな磯部揚げおたべよ」アーン
あかり「んん!?櫻子ちゃんが好きなんだよnもがぁ」
向日葵「……」
放課後~
櫻子「よーし今日も早く終わらせるからねー」
あかり「頑張ってねー」
向日葵「吉川さん……?」
ちなつ「うっ」
ちなつ「無理だよー!!」
向日葵「!?」
ちなつ「なんか櫻子ちゃんと意思の疎通できなし!」
向日葵「そこまで!?」
ちなつ「ってかなんでここまできてあかりちゃんは気づかないわけ!?」プンプン
向日葵「そ、そうですわね」
ちなつ「ということで諦めました」
向日葵「そんな……」
ちなつ「でも大丈夫!安心してね!」
向日葵「え?」
向日葵「船見先輩!?」
京子「京子ちゃんもいるよー」
結衣「大室さんが勘違いしちゃってあかりと付き合ってることになってるんだよね?」
ちなつ「もうね私たちじゃあ無理だから先輩方に頼ることにしました」
向日葵「すみません櫻子の勘違いのせいで……いえ、わたくしも何も出来ずお二方にもご迷惑をおかけしてしまって」ペコリ
結衣「大室さんと古谷さんのせいじゃないよあかりもそういの疎いし」クスッ
京子「私はなんだか楽しそうだから来た!」ババーン
ちなつ「京子先輩はホントに楽しんでますね」
結衣「うん大室さんにも伝えないといけないけど先ずあかりに言おうと思うんだ」
京子「あかり気絶したりしてな」
ちなつ「冗談になってないですよ……」
結衣「あかりに伝えた上で一緒に大室さんに言いにいこう」
京子「あかり泣いたりしてな」
ちなつ「だから冗談に……」
向日葵「でも赤座さんにどう伝えますの?」
ちなつ「ストレートですね」
結衣「経緯を伝えないとな大室さんが言った好きは恋愛の意味であかりの好きは友情の意味だろうし」
ちなつ「それ以来櫻子ちゃんはあかりちゃんと恋人として付き合ってるって思ってるし……」
向日葵「赤座さんは当然友達として付き合っているでようから……」
京子「まぁあかりもショック受けるだろうなぁ~」
あかり「」
あかり「……その話本当なの……?」
全員「!?」
あかり「最初からいたよぉ……」
向日葵「あの、全部聞きましたか……?」
あかり「うん……」ウルッ
ちなつ「泣いたーー」
京子「よし」!京子ちゃん正解!1Pゲット!」
結衣「ふざけるな」ビシッ
ちなつ「う、うんその」
向日葵「赤座さん……」
結衣「あかりさっき言った通りだ」
あかり「!」
結衣「大室さんはあかりのことが好きなんだ」
結衣「友達としてじゃなくて……わかるよね?」
あかり「」コクッ
結衣「それでちょっと食い違いかな?があってさ」
あかり「うん……」
結衣「大室さんはあかりと付き合ってると思ってるんだ」
あかり「うん……」
結衣「でもそれは友達としてだよね」
あかり「うん……」
あかり「あかりわかんないよぉ……」
あかり「櫻子ちゃんのこと大好きだけど付き合うとかそんなこと……うぅぅ」グスッ
ちなつ「あかりちゃん……」
あかり「で、でも!」
結衣「大丈夫私たちもついて行くから」
あかり「櫻子ちゃんに何を言えばいいかわからないよ……」
結衣「自分の気持ちをちゃんと伝えるしかないよ」
結衣「私たちが大室さんに伝えてもいいって言ったけどやっぱりあかりの口からあかりの気持ちを伝えるべきだ」
あかり「うん……!」
櫻子「嘘……?」
櫻子「大体最初から…」
京子「あかりと一緒に過ごしてたからあかりのスキルを身に着けた!?」
ちなつ「すごいですねー」
あかり「あ櫻子ちゃんあのね……」
櫻子「なんにも聞きたくなーーーーい!」
あかり「!」ビクッ
向日葵「櫻子!そもそもあなたがっ」
あかり「ごめんねごめん!ねあかりのせいだよ」
櫻子「うーーーー」
ちなつ「うずくまった!」
向日葵「櫻子はうずくまったままですし…」
京子「あかりは泣いてるし」
結衣「あかり……」
櫻子「昨日もあんなに遊んだのに!」
櫻子「一緒に帰ったのに!」
櫻子「一緒の布団で寝て!風呂も一緒に入って!」
向日葵「!?」
ちなつ「!?」
櫻子「キスだってしたのに!!」
京子「!?」
結衣「!?」
あかり「ごめんねごめんね」グスッヒックヒック
結衣「あかり……?」
あかり「?」
ちなつ「えっキスしたんだ」
あかり「う、うん」
結衣「その……キスしてどうだった?」
あかり「えっえその……」ドキドキ
結衣「えっと嫌ではなかった?」
あかり「うんドキドキしたけど……嫌じゃなかったよ」
あかり「う、うん」
結衣「京子とキスできる?」
あかり「ええええ京子ちゃんと!?」チラッ
キョウコダヨー
あかり「むむ無理だよぉ」アセアセ
京子「ガーンなんだかショック」ズーン
あかり「ごごめんね京子ちゃんででも嫌いだからとかじゃないよ!?」
あかり「う、うん」
ちなつ「もう!あかりちゃん!キスは好きな人としかできないんだよ!」
結衣(あっちなつちゃんがそれ言うんだ)
ちなつ「つまりあかりちゃんは櫻子ちゃんが好きなの!」ズバァァン
あかり「………えええそうなのぉ!?」
結衣「あかりはまだその辺の感情がわからなかったかもな」ナデナデ
櫻子「やだーやだー」ジタバタ
向日葵「あなた先ほどの話聞いてなかったのですか?」
櫻子「?」
あかり「さ櫻子ちゃん……」
櫻子「!」
あかり「あのねごめんね私櫻子ちゃんの気持ちわかってなかった」
あかり「櫻子ちゃんが仲良くしてくれて嬉しかった」
あかり「でも櫻子ちゃんは私のことがその、恋人として好きだったんだよね?」
櫻子「」コクッ
あかり「櫻子ちゃん傷つけちゃった」
あかり「ごめんね。でも今わかったの!」
あかり「あかり櫻子ちゃんのこと大好き!」
櫻子「!」
あかり「友達以上に……これからも櫻子ちゃんのことが知りたいよ」スッ
櫻子「あかりちゃん……」ギュッ
櫻子「どういこと?」
向日葵「いやわかりなさいよ」
櫻子「あかりちゃーーん終わったよ帰ろ!」ガラッ
向日葵「なにズルしてますの全然終わってませんわよ!」ガシッ
櫻子「わー!おっぱい魔人に捕まった!助けてあかりちゃん」
あかり「あはははもぅ櫻子ちゃんだめだよぉあかりも手伝うからー」
櫻子「わーい」
向日葵「あなたはいつもいつも」
あかり「じゃあみんなごめんねあかり生徒会室に行ってくるよ」
ちなつ「最近はいっつもあんな感じですね」
結衣「はははなんだか寂しい気持ちもでもあるけどね、な京子?」
京子「……父さんは許さんぞー!あかりはうちの子じゃーーい」
結衣「!?」ビクッ
第一部 オッワリーン
乙
次も期待してる
Entry ⇒ 2012.10.24 | Category ⇒ ゆるゆりSS | Comments (0) | Trackbacks (0)
エルフ「見ないで……」
「お願いだから……」
屋敷の地下牢に繋がれた彼女は、目を伏せてそう懇願した。
信じられないくらい悲痛な声で、少年の心まで潰してしまいそうな程だったけれど、それでも彼は目をそらせなかった。
とても綺麗だったからだ。
薄暗がりで薄く発光しているようにも錯覚する白い肌が何より目を引いた。
白磁のように滑らかで冷たい、そんな肌。
纏っているのは元は上等だったようにも見えるが、今はぼろきれとなった布の残骸なので、いたるところからその透き通った白が覗いていた。
光っているのは肌だけではない。白光を縁取るのは金色。
おとぎ話の不死鳥が本当にこの世界にいるとしたら、こんな色だろうなあと思う、そんな髪の色。
柔らかい上質な絹糸がさらりと音を立てるのを思い浮かべた。
涙のたまった瞳は、名前も知らない宝石のような輝きを湛えてただ悲しい。
息をするのも忘れて見入る。
花をそのまま結晶にしてしまったらこんなふうになるだろうか。
時が止めてしまったような、泣きたくなるような美しさ。
泣きたい? 少年は戸惑う。
美しいってのはもっと、こう、違うものだ。
美しいというのはもっと誇り高くて、豪華で、太陽のようで。じゃあこれは間違ったものなのか?
それは違う、と胸の内から囁きかける声がある。
月だ、とその声は言う。
自分では輝けない、自分では飛べない、自分では歌えない。これはそういう美しさだ。
悲しいがゆえに美しい。
欠けているがゆえに満ちている。
矛盾をはらんだ合理だ。
その日、少年は初めてエルフというものに出会ったのだった。
・
・
・
屋敷の敷地に大きな馬車が入ってきた。
みんなからねずみと呼ばれる少年は、その屋敷の二階、自分の部屋からそれをこっそり見ていた。
街で買いこんだ食料品や貴重品を運びこむいつもの馬車より大きい。何だろう、と少年は思った。
やがて停まった馬車から毛布が歩いて出てきた。変な言い方だけど、少年にはそう見えた。
毛布から足が生えて歩いていたのだ。すぐに毛布をかぶせられた人が歩いているのだと気づいたけれど。
毛布からはみ出す足にはなにも履いていない。裸足だ。石とか痛くないのかな、と奇妙に思った。
ただそれよりも、なんで毛布をかぶっているのかの方がずっと気になった。
毛布たちはひどく頼りない足取りで、いかめしい男の後を歩いている。
毛布の歩みが少しでも鈍ると男は大声をあげた。毛布はもちろん、二階にいる少年をも震わせる怖い声だった。
と、その時一人の毛布が転んで倒れた。足元がおぼつかなかったせいだろう。
毛布が落ちて、その下にあったものが明らかになった。
それは白かった。
少年は驚いて身を乗り出した。あんなに白いものは見たことがなかったのだ。
それは人の形をしていた。裸の人だった。女の人。どきりとした。
いかめしい男が一際大きく怒鳴って、その人は慌てて毛布にもぐりこんだ。
彼らは屋敷の裏に回って消えた。
あれはなんだったのだろう、と少年は考えた。まだ胸がどきどきしていた。
「汚れた血脈だよ」
夕食の席で父親に聞くと、彼はそう吐き捨てた。
一流の調理師に作らせた食事なのだけれど、そのときは心底不味そうな顔をした。
といっても父親はいつだって難しい顔をしている。
汚れた血脈。そう呼ばれるものを少年は知っていた。
森の種族、古木に集う子供、汚れた血脈、頭の固いクソども。それは色々な名前で呼ばれている。
だが、多くの人はエルフと呼ぶ。
「あれがエルフなの?」
「関わるな」
ぴしゃりと父親は告げた。少年の声に好奇心の片鱗を見つけたからだろう。
少年は黙り込んだ。父親の言うことは絶対だ。
逆らうことは許されない。疑問を持つことすら。
それがこの屋敷の、いや少年の絶対的なルールだ。
だから。
それは絶対に起こらなかったはずだった。
その日、少年が夜中に起きだして地下牢に行くことなど。
夜の空気は冷えていた。月の光も同じように冷たい。
まだ冬にはなっていない。それでもどこか凍える心地で、屋敷の裏の地下牢の入り口に回った。
見張り役は眠っていた。
地下牢は当たり前だけれど暗闇に沈んでいた。
ひっそりとしていて、それでも何かが潜んでいる気配。
息づく何かに怯えそうになるが、もう自分は十四歳なんだと言い聞かせて階段を下りた。
ただ、手に持つ明かりはあまりにも小さくて頼りない。
地下牢には初めて下りた。
そこは思ったよりは広かった。
水音が遠くから聞こえる。
鉄格子がいくつか見える。
一つ一つ覗くが、エルフは隅にうずくまってこちらに怯える目を向けるだけだった。
その目は今にも狂って叫び出しそうで、少年は目をそらした。見続けるのは少し苦しかった。
ここにはなにもなかった。怯えたエルフ以外は。
少年は好奇心を裏切られた心地で、階段を振り返った。部屋に戻るつもりだった。
その時気付いた。階段の陰にもう一つ牢がある。
それだけ他の牢とは区切られているように見えた。
明確に何かが違うわけではないのだけれど、何か線が引いてあるように思えたのだ。
覗きこんで。はっと息を呑んだ。
「見ないで……お願いだから」
少年をちらりと見て、それから目を伏せ、彼女は言った。
彼女は牢の真ん中に座りこんでいた。
他のエルフと違って、怯えなかった。ただただ悲しそうだった。
まるで身を切り刻まれてそれを堪えるのように唇をかみしめ、目には涙を浮かべていた。
少年はぼうっと、それを見ていた。
水音がぴちゃり、ぴちゃりと遠くで鳴っている。
はっと、少年は我に返った。
ずいぶんと時間が経ったように感じた。
エルフはなにも言わず俯いていて、少年はただ立ち尽くしていて。
立ち去らなければ、と感じた。自分はここにいてはいけない、と。
この場に自分は不似合いだ。
足早に階段を引き返し、部屋に戻った。
少年はねずみと呼ばれている。
いつもびくびくと臆病で、人の顔色をうかがい隠れてばかりいるからだ。
少年を知る者は面と向かってかどうかは別としてそう呼ぶし、使用人たちも陰でそのように呼んでいることを彼は知っている。
父親すらたまに彼のことをねずみのような面をするなと叱る。
そんな自分が言いつけを破ってまで地下牢に向かったのはなぜなのだろうか。
あの夜のあと、彼はそのことについて考える。
「呆けてないで勉強に集中しなさい」
その日も家庭教師に怒られた。
慌てて姿勢を正す。そうしないと叩かれることを彼は知っている。
「旦那さまのように立派な方にならなければいけないのですよ。しっかりしなさい」
そう言われると、少年は心がきゅっと痛くなる。
自分はいつかはこの屋敷を継がなければならない。
この家の全てを背負って立たなければならないのだ。そう言い聞かされて育った。
それはとても誇りに思うべきことなのだけれど、少年は時々不安になる。
ぼくにはその資格があるのだろうか。
「……ごめんなさい」
「よろしい。では次のページを読み上げなさい」
家庭教師の言いつけにしたがって音読する。
そういえばこの人も例の陰口をたたいていたな、と彼は思い出した。
だからどうということもないけれど。
「見ないで」
あの夜以来、実はたびたび地下牢を訪れていた。
あのエルフを眺めるためだ。
そのたびに彼女はそれを拒絶する。とはいえ見ることをやめさせることなどできないのだけれど。
彼女を見ていると不思議と心が落ちつく。
泣いているところを見ているのに落ちつくというのも変かな、とは思った。
この場に彼は不似合いでもある。でも落ちつく。
ただ、いつも泣いてばかりというのは、と少し思うところがあった。
「ぼくはねずみって呼ばれてるんだ」
牢屋の前に座って膝を抱える。視線の高さが一緒になった。
「いつもびくびくしているから」
お尻がひんやりと冷たかった。地面は少し湿っている。
「ねずみの方がぼくよりずっと勇敢だと思うけどね」
言って、苦笑する。ねずみが蛇を噛み殺すのを見たことがある、と。
エルフは何の反応も示さなかった。たださめざめと泣いていた。
泣き続けて身体の水分がなくならないのかなと思った。
食事はもらっているだろうけれど、その分を全て涙に使っているのだろうか。
「君の名前は?」
エルフは答えなかった。
当たり前といえ、少し残念だった。
少年は立ち上がって階段に向かった。
後ろからは静かな嗚咽が聞こえていた。
そういえば、自分から誰かに話しかけるのなんて久しぶりかもしれないなと彼は思い出した。
いつもは事務的な何かを告げられてそれに対して必要最小限を答えるだけだ。
後は叱られて謝るとき。それが彼の周りとの交流のほぼ全てだった。
この時期は大体週に一、二回、公爵らの屋敷でパーティーが行なわれる。
少年の父親はそれに呼ばれる。少年はそれについていくことになっていた。
おめかしするのは面倒だし大勢の人がいるところは緊張するけれど、パーティーの華やかさは好きだ。
そこにいると小さな自分も大きくなったような気分になる。認められていると思う。
父親の後をついて(というか背中に隠れながら)色々な「偉い人」に挨拶して、食事をとって。とても気持ちいい。
パーティーも後半になると、会場が少し退屈な空気になる。
みんな腹が膨れて、話の種も尽きてくるからだ。
そんな空気を盛り上げるために、公爵は「目玉」を用意している。
公爵の声に従って、この屋敷の使用人たちが奥の部屋から出てきた。
使用人たちはそれぞれ紐を手にしている。その紐の先には首輪。首輪にはエルフ。
彫刻のような美しさを持つ彼らに人々は視線を集める。
来客の一人一人にエルフがあてがわれ、彼らは食事を再開する。
エルフの匂いを嗅ぐ者がいる。エルフに触れる者、舐める者。もちろん気にせずなにもしない者も。
しばらくするとちらほらと来客が会場をエルフと共に出ていく。
少年は父親に聞いて知っている。彼らは屋敷の奥に用意された部屋を借りてエルフと過ごすそうだ。
少年は父親が奥の部屋に行っている間は待たされる。所在なく会場の隅でぼんやりしている。
だいぶ経って戻ってきた父親はいつもの通りしかめっ面だ。
その服にかすかに血が付いている。
美しいものほど壊したくなる。
こびりついた血を見るたびにそんな言葉が頭をよぎる。
父親は大人だからそういうことが許される。大人になるってそういうことなんだ、と少年は思っている。
早く大人になりたい。
エルフは今夜も泣いている。
少年は思い付く限りの色々な話しを聞かせてみた。
ねずみという名前についての補足、家庭教師が厳しいこと、使用人たちがする世間話、庭の木に花が咲いたこと。
最後の話にエルフは反応した。ように見えた。
尖った耳がわずかに動いた様子だった。
少年は何気なく庭の木について話の重点を置いた。
その木は秋になると花を咲かせる。黄色い小さな花で、色合いの関係から金色にも見える。
「ちょうど君の髪みたいにね」
反応を待つが、エルフはなにも言わなかった。
仕方なく続ける。
その木は少年が生まれる前からそこにある。
母が植えたのだそうだ。母は植物が好きだったらしい。
らしい、というのは、今はもういないからだ。死んでしまった。
「ぼくがまだ物心つく前だったんだ。母さんは流行り病で死んじゃった。これ、母さんの形見」
胸元のペンダントをたぐって、見せる。
エルフはちらりとそれを見たようだった。
それでもなにも答えなかった。
またパーティーの日がやってきた。
父親は服に血をつけて戻ってくる。
夜になる。エルフに話しかける。
エルフは相変わらず泣いたまま。
ある夜は見張りが起きていて地下牢に行けなかった。
その日は諦めて部屋に戻った。
そしてベッドに寝転びながら考えた。どうしたらあのエルフの名前を聞きだせるだろうか、と。
次に牢屋を訪れた時、少年は木の枝を手にしていた。
例のエルフの牢屋、その前に立ち、明かりをかざした。
「これ。この前話した花なんだけど」
鉄格子の隙間から差し伸べる。
同時に光をかざすと、花が鮮やかにそれを照り返した。
「綺麗でしょ?」
エルフはそれをじっと見ていた。
「あげるよ」
地下牢で明かりなしじゃ、対して楽しめないと思うけど、と付け加えた。
エルフは恐る恐るといった様子で近付いてきた。
そっと出してきた手に木の枝を押し付ける。
同時にもう一つ押し付けた。
「あげる」
「え……?」
エルフの手に、木の枝とペンダントが乗っている。
母親の形見だ。
「これは……」
エルフがうめく。
少年は、あげるよ、と繰り返した。
「もらえない、こんなの」
返そうと伸ばしてくる手から逃げる心地で身を引いた。
「駄目だよ。いったん渡したものは受け取れない」
「でも」
「気になるなら、お返しをもらおうかな。君の名前を教えてよ」
エルフは戸惑ったようだった。
しばらく手の上のものをぼうっと眺めていた。
それから口を開いた。
「――」
「え?」
よく聞き取れなかった。
彼女はもう一度それを繰り返したが、少年にはよく理解できなかった。
「エルフの古い言葉で、月という意味」
ふうん、と少年は頷いた。
「じゃあ、月って呼ぶよ」
それからまた少年が喋るのが続いた。
でも、少し変化があったとすれば、エルフが少年の話を聞くようになった。
またパーティーの日が来た。
くしくも少年が十五歳になった翌日のことだった。
いつもと少し違うことがあった。
エルフが来客たちにあてがわれ(よくエルフが尽きないものだと不思議に思う)、それぞれ奥の部屋にひっこんでいく頃合い。
父親が少年に声をかけた。
「お前も行くか?」
少年は驚いて父親を見上げた。
ベッドに腰掛けたその女エルフは、何の表情も浮かべていなかった。
無表情でうつむき、少年らが存在していないかのようにそこにいる。
少年は途方に暮れて父親を見た。
父親は椅子に座って腕組みしていた。
目で問うと、
「好きにしろ」
と言われた。
好きにしろと言われても、と改めて途方に暮れる。
とりあえずエルフの隣に座ってみた。いい匂いがする。
自分の中からむくむくと何かがわき起こってくるのが分かる。
そのエルフを優しく撫でたいような、しかし反対に荒々しく引き裂きたいような、矛盾した何か。
エルフに手が伸びる。エルフはなにも答えない。
柔らかい肌に指先が触れる。
さらに身体の中で何かが首をもたげる。
けれど。
触れた感触から思い出すことがある。
月の指先。触れ合う手と手。
「ぼくはねずみって呼ばれてるんだ」
思わず呟いてしまっていた。
次の瞬間視界が反転し、少年は床に倒れこんだ。
「馬鹿者が!」
大声が遠くで響いた。父親の声だ。
「この馬鹿者が! 家の恥さらしが!」
ぐるぐる回る視界を持ちあげると、父親がエルフを押し倒していた。
「エルフはこう扱うんだ」
そう唸るように言って、父親はエルフのわずかな衣服を引き裂いていった。
父親に殴られたんだ。
少年はようやく気づいた。
素肌をいっぱいに晒したエルフの唇に、荒々しく父親が吸いつく。
エルフは初めて声らしい声を上げた。
少年はへたり込んだままなにもできなかった。
父親は乱暴にエルフを扱う。
ありとあらゆる暴力をそのまま叩きつけているように見えた。
動けなかった。
恐ろしかったし、腰が抜けていたし、何より目の前の光景に目を奪われていた。
何よりも美しいものが何よりも猛るものに犯されている。
震えがこみあげてきた。快感にも似ていた。
でも。やっぱり重なってしまうのだ。月が犯されている、そう錯覚した。
それなのに、自分は動けない。
きらりと何かが光った。
次の瞬間には熱いものが顔に降りかかってきた。
口に流れてわずかに下に触れる。苦い。血だ。
いつの間にか父親が立ち上がっていた。何事もなかったかのように服も来ている。
ただ、顔だけが血まみれだった。
帰り道で父親に訊ねた。
屋敷のエルフたちもいつか……ああいうふうにするの?
殺す、とは恐ろしくて口に出せなかった。
父親は黙って歩き続けたが、少年には分かっていた。
そうしない理由がない。
やだな。とは口に出せなかった。そうすればまた殴られる。殺されるかもしれない。
これも分かっていることだ。
ねずみ! ねずみ!
みんなが周りで囃したてている。
ねずみ! ねずみ!
みんなが自分を馬鹿にしている。
みんなって誰だろう。
みんなってどんな奴だろう。
そいつらを見上げると、少年自身の顔がそこにあった。
「行こう」
牢の鍵を開けて少年は手を伸ばした。月は訳が分からずに少年を見返した。
「もう、自由だ。行こう」
「……なんで?」
彼女はようやくそれだけ言った。
そして気づいたようだった。
少年の手は血まみれだ。少年自身の血ではない。でも近しい者の血だ。
気づいて、月は口をきゅっと閉じた。
少年の血まみれの手をとった。
夜明けには城門を出ていた。
朝早く門を出る商隊に混じって、外に飛び出した。
門番の止まれという声に構わず走り続けた。
泣きたいほど風が気持ちよかった。
持ち出せたものは少なかった。
旅するために必要な量の半分にも満たないようだ。
月の導きで森に入った。
森の中は暗く、進むのに苦労したが、それでも月の先導には迷いがなかった。
歩き続けて歩き続けて。
開けた場所に出た。
密集していた木々が、そこだけない。
代わりに石造りの古城がそびえていた。
月に問うと、エルフたちの最後の砦だったとのことだ。
古城の中には、誰もいなかった。
巨大な空隙がそこにあった。もう何年もずっとそのままだったようだ。
古城を真っ直ぐ抜けて、広いバルコニーに出た。
崖の上に造られていて、そこから広がる壮大な景色が見えた。
連なる山々とそれにかかる雲。広大な森の緑。崖下に流れる谷川。
あらゆる素晴らしいものがそこにあって、でも何もなかった。
「エルフは滅んだんだね」
少年は崩れ落ちていた石材の一つに腰掛けた。月もその隣に腰を下ろした。
「そっか。そっか……」
ここは月の故郷だったんじゃないか。そう思った。
そう思ったらなぜだか視界が滲んできた。
「……なんであなたが泣くの?」
優しい顔で月が問う。
分からない。少年は答えた。でも、月が泣かないから代わりにぼくが泣くんだ。
月は手を伸ばして少年の背中を撫でた。
優しく優しく撫で続けて、それから立ち上がった。
「見ていて」
月は夕焼けの中で数歩を踏み出した。
それからゆっくりと歩をゆるめ、そう思った次の瞬間また足を踏み出す。
不思議な足取りで、バルコニーを踏んで行く。
そうか。踊っているのか。と少年は気づいた。
帰る場所を失ったエルフが、夕日の中を静かに舞う。
涙は止まっていた。
「見ていて」
月が言う。
これからのことは分からない。帰る地を失った者たちが生きられる場所がどこにある?
そんなことは知らない。ただ、少年はいつまでもいつまでも月の舞を眺めていた。
支援・保守してくれてありがとでした
気が向いたらまた何か書いてくれ
Entry ⇒ 2012.10.24 | Category ⇒ その他 | Comments (0) | Trackbacks (0)
菫「魔法少女シャープシューター☆スミレだ」
菫の部屋
仁美「ふー。やーっと落ち着いたばい。やっぱ風呂はよかね。気持ちリフレッシュ」ゴシゴシ
仁美「おー。ドライヤーで急速に髪が巻き戻るー」ゴーーーー
仁美「…ふう」
仁美「…」チラッ
仁美「…お、そうだ。冷蔵庫にカフェオレ入れてたんやった」ガチャッ
仁美「うしうし、冷えとる冷えとる」
仁美「…」チラッ
仁美「…いただきます」プスッ
仁美「チュー…」
仁美「…」チラッ
菫「…」イライラ
仁美(めんどくさ。まーだ引きずってるんかいあいつは)
菫「あの石戸霞とかいうババア。いつか殺す。あっさり殺す。絶対殺す…」ブツブツ
仁美(しかも自分の目指す正義の味方像にあるまじき呪詛吐いとるし)
仁美「ん?」
キラキラシャラーン
仁美「な、何の音だ!?」ビクッ
キラキラシャラーン キラキラシャラーン キラキラシャラーン
仁美「あわわ、ま、まさかかすみんが何か仕掛けて!?ば、馬鹿な。昼にやっとこさ逃げたのに…」
菫「…はい、もしもし。弘世ですが」ピッ
仁美(着信音だとぉおお!?)メェー!?
菫「…あ」
『こんばんわー☆菫ちゃん!それに、仁美ちゃんもっ!』
仁美「おおう。その声」
菫「瑞原プロ…」ホッ
仁美(…なんだはやりんか)ホッ
菫「…一体どうされたんですか?」
はやり『んー?あはは。聞いたよ、仁美ちゃんから。こっぴどくやられたんだって?』
仁美「ん。うちが連絡した」
菫「…はあ」ガクッ
仁美「チュー…」
菫(…まあ、あれだけ好き放題されて、師匠に報告しない訳にもいかないよな。くっそ。格好悪い…)ズーーン
はやり『あれ?菫ちゃん?』
菫(あれもこれも全部あの奇乳のせいだ。糞。糞。舐められっぱなしで終われるか。絶対復讐してやる。畜生…!)
はやり『おーい』
菫(…仕方ない。ここは正直に話すか…)
はやり『菫ちゃーーーん』
菫「…すみません」
はやり『ん?』
菫「聞いてくださいよ!瑞原プローーーー!!」ガーーーー!!
はやり『うわっ!?』
「おまえには魔法少女の才能がある」
「魔法少女?」
『メェー』
「『風潮』被害」
「ネトウヨだこいつ!?」
「ふはははー!全てはヒトラー総裁の為にーーーー!!」
「いえーっす☆はやりんだよー☆」
「ふふ…面白い子、見ぃつけたぁ♪」
「あ、あの…どうしたの菫…怖い顔…」
「ポリポリ」
「あの野郎逃げやがったああああああああああああああああああああああ!!!」
「次は…殺すわ…」
菫「いいだろう。なってやるよ、魔法少女!!」
http://ssweaver.com/blog-entry-1778.html
仁美「チュー…」コクコク
菫「ええ…ええ…で、それで、情けないことに全然歯が立たなくて…」
はやり『そうだったんだ。ごめんね。朝までの段階では、まさかかすみんが帰って来てるなんて思わなかったんだ。昨日の夜に大阪で風潮被害を追いかけてるって情報があって、それで問題ないと考えちゃって』
菫「悔しいです…仁美から聞きましたよ。奴も私とそれほど変わらない時期に魔法少女になったんでしょう?なのにあそこまで実力の差があるだなんて」
はやり『あの子は特別だからねー。私だってあの子相手には多分結構手こずるんじゃないかな』
菫「けど、一矢だって報いることが出来なかった。こんな屈辱は生まれて始めてです。…くっ!」
はやり『随分落ち込んでたみたいだね。もっと早く電話してあげられれば良かったんだけど、本業の方が忙しくて電話にも出られなくって。…私のミスだね』
菫「…」チラッ
はやり『今やっとプライベート携帯確認出来たくらいなんだ』
仁美「」ゴソゴソ (←本棚の少女漫画漁ってる)
菫《カフェオレで汚すなよ。殺すぞ》(念話)
仁美「」ビクッ
はやり『菫ちゃん?』
菫「あ、すみません。少々しつけを」
菫「あ、あと、電話の件。仕方ないですよ。瑞原プロの落ち度では無いのでお気になさらず。念話も離れすぎていると出来ないようですし」
はやり『念話は精々1kmってところかな。そうだねー…。…ねえ、菫ちゃん。かすみんの事、どう思う?』
菫「ある意味、暴走風潮被害よりも許せません。魔法少女の力をあんな風に使う奴が居るなんて。それも強大な力の持ち主が」
はやり『うーん…普段は意外に結構真面目に魔法少女してる子なんだけどね?』
菫「そうなんですか!?」
はやり『うん。実際ね。あの子一人で九州の南部の風潮被害の大半を抑えられてるし。お陰で九州の魔法少女はみんな随分楽が出来てるって聞くし。ちょっと怖がってるけど」
菫「それほどの奴なんですか」
はやり「どころか、最近は暇を持て余してるのか強大な風潮被害者が多い大阪とかまでよく出張してるくらいだもん』
菫「それって私が鹿児島まで行く必要なかったんじゃ…」
はやり『それは菫ちゃんに経験値を積んで貰う意図も有ったからだよ。それにあの子、さっきも行ったけど前日の夜に大阪に居たしね。…結果的に私の判断ミスだったし、そのせいで菫ちゃんを危ない目に合わせちゃったけどね」
菫「…」
はやり「けど、かすみんだって目に付いた魔法少女全部襲うような子でもないし、凶暴性を唆られるような強い子以外だったら他の魔法少女と協力する事さえあるんだよ?』
菫「…俄には信じられません。あいつ、私を大阪で見かけた時から目を付けていたと言っていましたし」
はやり『普通の新人さんに目を付けるような子じゃないんだけどね。あ、あと、私と再会した時も意外と礼儀正しかったな。「あの時は暴走する前に助けて下さってありがとうございました」って』
菫「あまり嬉しくないです。それに私はあいつ大嫌いですしね」
はやり『まあまあ。きっと、いつか和解出来る日も来るって』
菫「少なくとも、それは私が一回はあいつを叩きのめしてからですが」
はやり「もぉー」
菫「今度あったらギッタンギッタンに…」イライラ
仁美「やめとけやめとけ。されんのがオチたい」
菫「…」ポカッ!
仁美「メ゙ッ!?」
はやり『菫ちゃーん。どうしたのー』
菫「いえ、あはは。なんでも…」
仁美「いたたた…凶暴性だけならほぼ互角だって保証してやるよ」サスサス
菫「しかし、憧れの瑞原プロとこうして電話出来るようになったっていうだけでも魔法少女になった価値があったなぁ」ギリギリ
仁美「ヒールホールドはガチ過ぎるからラメェェエエエエエ!!」ジタバタ
はやり『じゃ、じゃれ合いもほどほどにねー…☆』
菫「っと、いけない。話の腰を折ってしまった。申し訳ありません」
はやり『う、ううん…。仲いいねー』
菫「そんな事は無いと思いますが…ところで、今回電話して下さったのには、どんな用件が?仁美の事です。報告なんて私がかすみんにやられたっていう話くらいでしょう?」
はやり『うん。メールで菫ちゃんがギッタンギタンのケッチョンケッチョンのボロッカスにやられて、仁美ちゃんのとっさの機転でギリギリ紙一重切り抜けたって書いてあったから、心配で…』
菫「へえ…」ギロッ
仁美「」ダラダラ
菫(…ま、あながち間違ってもいないんだが)
菫「…まあ、当たらずとも遠からずと言ったところです。さっきも言ったようにまるで手も足も出なかった」
はやり『そっか…』
菫「…」ギリッ
はやり『…ちょっと安心したな』
菫「へ?」
はやり『気持ちまで折られてない感じで』
菫「…まあ、これでも曲者ぞろいの白糸台麻雀部で1年間部長をしてきた人間ですので。多少の挫折如きで一々折れていられませんから」
菫「や、止めて下さい。なんか照れくさい…」
はやり『そんな菫ちゃんに、私からのプレゼント☆』
菫「は…はあ」
はやり『魔法少女としての特訓方法教えちゃいますっ!』
菫「!!」
はやり『ついでに、軽く魔法少女と風潮被害についておさらいしておこうか』
菫「よろしくお願いします!」
はやり『お~。ヤル気ある良い返事だね~☆』
菫「それで強くなれるなら!」
はやり『よしよし。それでは~』
菫「…」ドキドキ
はやり『まず、私達魔法少女について!』
菫「はい!」
菫「…」チラッ
仁美「チュー…」ペラッ
菫(頼むから本汚してくれるなよ)ハラハラ
はやり『うん。よし、それじゃあ、魔法少女とは何なのかっていうところから!』
菫「なんなのか…ですか?」
はやり『そうでーす☆魔法少女とは、何者か!実はよくわかっていません!』
菫「え?」
はやり『魔法少女がいつから現れ、何故存在するのか!その正体を知ってる人はゼロです☆』
菫「ぜ、ゼロって…」
はやり『わかってるのは、マスコットって言われる子達が先に存在して、その子達に導かれるようにして私達魔法少女が生まれるっていうこと』
菫「そうなんですか…」
はやり『だから、よく魔法少女の仲間内でも色々議論あるんだよね。私達は一体どこから来てどこへ行くのかー!って』
菫「…」
はやり『でもまあ、一応目下の目的があるからみんなそんなに悩まないでやってられるんだけどね』
はやり『そう。風潮被害』
菫「…私には、こっちのほうがわからない。風潮被害とは一体なんなんですか?一体何故そんなものが」
はやり『それもあんまり良くわかってないの』
菫「…」
はやり『風潮被害って言うのは、読んで字の如く人々の間で広がる虚偽の風潮がそうであるように世の中を書き換えてしまう事象。それはもはや強制力をすら持って発動し、やがて暴走する』
菫「…」
はやり『酷い話だよね。例えば、一人の女の子が居るでしょ?その子が本当は心優しい文学少女だったとして、その子が驚くぐらい凶悪な人間だってっていう風潮が出来たら、その子は本当に凶悪な人間になってしまう』
菫「ええ。私も何人かと対峙しましたので、わかっているつもりです」
はやり『風潮によっては性格どころかポンコツになったり、体格まで変わったり、ひょっとしたらもっと凄い、私達も知らないような風潮もまだまだあるかも…』
菫「…」
はやり『けど、それで不幸になる人が現れないように、被害を未然に防ぐのが私達魔法少女でもあるんですっ☆』
菫「…ふふ。ですよね」
はやり『魔法少女とはこの世の法則より解放されしモノ。魔を操り、超常の力を行使する…常套句だけどね』
菫「ああ。それは仁美からも聞いたことがあります」
菫「ええ」
はやり『そういう超常的な力、その中に風潮被害を浄化する力も備わっている私たちは、清く正しく有りましょうって事で。ようは…』
菫「ええ」
はやり『魔法少女の本質は愛と希望の象徴なのです☆』
菫「ですよねっ!」
はやり『うんっ!それだけ覚えてれば十分!』
菫「やあ、やはり瑞原プロの講義は勉強になるなぁ!」ウキウキ
はやり『いえー☆』
仁美(アホらし)チュー
菫「よーし!俄然ヤル気が上がってきたぞ!瑞原プロ!次の講義を!」
はやり『おまかせあれ!それじゃあ、次はマスコットについて』
菫「はい!」
はやり『マスコットはね。人を、魔法少女に導く者』
はやり『そして、人をマスコットへと導くものは、『声』。…らしいね』
はやり『マスコットたちの話によると、ある日突然、『声』が聞こえてきて、使命に目覚めるらしいよ』
菫「…なのか?」
仁美「ん」ペラペラ
菫「…」
仁美「まあ、どっかからな。聞こえてくるんよ」
仁美「『パートナーを探せ』。『魔法少女を生み出せ』。『共に戦い、風潮被害を倒せ』。…で、こうムラムラと行動しなきゃいかん気になって…」
菫「…」
はやり『…私たちは自分自身に関して余りにも色々わからない事だらけだけど…まあ、これが一番の謎…かもね』
仁美「…」チュー…
菫「謎の声…か」
はやり『で、その声とともにその子は強制的にマスコットとなって、パートナーとなる魔法少女になる才能のある人間を探すの』
はやり『普通手がかりなしでそんな出会いは出来ないと思うんだけど、まるで引かれ合うように巡り合う…らしいよ』
菫「…それが、仁美には、私だったと」
はやり『素敵な縁だよね☆』
菫「…結構多彩ですね」チラッ
仁美「…」シャカシャカ
菫(歯磨いてるし。もう寝る気だコイツ)ハァ
はやり『だよねー。特に風潮被害の感知に関しては普通の魔法少女とは比べ物にならないくらい凄く優秀だから、凄く助かるよ!』
菫「へえ…」
はやり『マスコットに関してはこれくらいかな?えーっと、あとは…何話そうか。何か質問ある?』
菫「そうですね…」
はやり『私に分かることだったら、なんでも答えるよー』
菫「なら、一点」
はやり『はい!』
菫「その…魔法少女っていうのは、何か組織だったものとかはあるんですか?」
はやり『うーん…』
菫「?」
はやり『有るって言えばあるし、無いって言えば無いって言うか…』
はやり『基本的にみんな自由にやってるんだけど、連絡網だけはしっかりしてる。みたいな』
菫「なんですかそれ」
はやり『風潮被害が凶悪で自分一人の力で手に負えない時は助けを求めるのも簡単だし、協力もしようって思ったら出来るけど、なんかやり辛いと言うか…』
菫「…ますますわかりません」
はやり『…つまりね』
菫「…ええ」
はやり『魔法少女って、みんな成る前から大体知り合いなんだよね』
菫「…」
はやり『…』
仁美「くー…かー…」
菫「…はい?」
はやり『知り合い』
菫「…」
はやり『もっと言うと、麻雀部』
はやり『びっくりしたでしょー』
菫「…ええ」
はやり『ちなみに風潮被害者もそうだよー☆』
菫「…確かに、今まで出会った風潮被害者は…」
はやり『なんでなんだろうねぇ~』
菫「…」
はやり『麻雀をやってる人間の中に特別な才能を持ってる人間が多いのか、才能持ちが麻雀に惹かれるのか、はたまた偶々なのか。わかんないけど』
菫「はあ…」
はやり『知らない街で魔法少女に会った!って言ったら、大体知り合い』
菫「ははは…」
はやり『まあ、最近は若い子も増えてきて、私は知らないけど私の番組見てましたーって子も多いけど』
菫(マジか!)
はやり『あははは~☆』
菫(こんな狭い業界だったのか!)
菫「…ああ」
はやり『がっかりした?』
菫「え?」
はやり『思ったよりスケール小さくって』
菫「いや…そんな事はないと思いますけど…一歩間違えたら被害事態は甚大じゃなくなりそうですし」
はやり『…ま、なんにせよだけど』
菫「…ええ」
はやり『わからないことが多過ぎるんだ。今は。だから深く考えてもしょうがないよ』
菫「…」
はやり『私達に出来ることは、風潮被害を未然に防いで、不幸になる人を一人でも減らすことだけ』
菫「…そうですね。それが一番大切です」
はやり『うんっ☆』
菫「…ふふ」
はやり『それじゃあ、次に、菫ちゃんが魔法少女として強くなる方法!』
はやり『まずは、変身前』
菫「はい!」
はやり『筋トレ。単純に変身した時の身体能力も上がります。スタイルも良くなって一石二鳥』
菫「…はい。地味ですが、説得力があります」
はやり『格闘技…も、習った方が有利に成るだろうけど、そこまでは難しいか』
菫「うーん…まあ、DVDで勉強くらいはしてみます」
はやり『それでも効果はあるよ。変身したら単純な身体能力以外にも運動神経とか反射神経諸々向上するから。やろうと思えばどんな技でも出来ちゃう』
菫「はあ…」
菫(肉弾重視だなぁ…まあ、プリキュアも結構格闘してるし良いんだが、もっとこう…魔法的な…)
はやり『あとは、魔法だね』
菫「!!はい!!」
はやり『魔法は、沢山戦闘経験を重ねて、今使える魔法を実戦で沢山使って、徐々に慣らしてくしか無いかな』
菫「…」
はやり『ちなみに私は最初からなんでも使えちゃいました。ごめんなさい…』
はやり『ご、ごめんね…』
菫「いえ、いいんです。才能という壁に立ち塞がられた経験なんて、それこそこの3年間何度でも…」
はやり『あわわわ!菫ちゃん!ご、ごめん!ごめんなさいって!落ち込まないで~』
菫「はあ…まあ、なんとか工夫してみますよ」
はやり『う、うん…協力は惜しまないから…』
菫「それよりも」
はやり『うん?』
菫「私なんかのために色々とお手を煩わせてしまって、申し訳ありません」
はやり『へ?』
菫「だって。基本、魔法少女は群れないんでしょう?」
はやり『…』
菫「それなのに、私みたいな唯の新人を最強の魔法少女たる瑞原プロが目をかけてくださり…」
はやり『ああ…それなんだけどね』
菫「はあ」
菫「?」
はやり『…勿論これは風潮被害じゃなくて、実際に形成されてきた風潮だし、暴走とかはしないけど』
菫「…ええ」
はやり『私、寂しいなって』
菫「…」
はやり『常々思ってたんだけどね。ただ、なんとなく慣例的な物があって誰も異議を唱えてこなかったし、そうする必要性も今まで無かったし、それで上手く回ってたんだけど』
菫「…」
はやり『…でも、なんとなく、ね。この風潮も、打破…してみようかなって』
菫「…」
はやり『ねえ、菫ちゃん』
菫『…はい』
はやり『だから』
はやり『私と』
はやり『魔法少女隊、結成してみない?』
はやり『…どう?そしたら、その…危ない時に助け合ったり、師匠みたいな事も、沢山してあげれるし…』ゴニョゴニョ
菫「喜んで」
はやり『やた!』
菫「…ふふ」
はやり『やった!やった!ありがとう!ありがとう!』
菫「ふふふ…いえ。こちらこそ。憧れの人の傍で戦えるなんて、こんなに素晴らしいことはありません」
はやり『ありがとうねー!それじゃあ、今この瞬間に、魔法少女隊結成だ!』
菫「ええ。初代プリキュアのような最高のタッグを目指して行きましょう」
はやり『え?』
菫「…ん?」
はやり『…』
菫「…」
はやり『…あ、そっか』
菫「…へ?」
菫「…何を…ですか?」
はやり『うんとねー。確かに今はまだ二人なんだけど』
菫「…ええ」
はやり『最終的には、もっと…初代セーラームーンみたいに5人は欲しいかなーって』
菫「…おお」
はやり『それでね。勿論前口上とか決めポーズとかも格好良いの付けたりなんかして』
菫「うんうん。それは必須ですね」
はやり『で、最終的には、合体技なんかも作っちゃったりして』
菫「いいですねぇ」
はやり『それでね!それでね!お揃いのコスチュームとかも揃えて!』
菫「おおー!あ、でも衣装は変わらないんじゃ…」
はやり『魔法で瞬間着替えするのあるよ!頑張って覚えて!』
菫「やった!頑張ります!」
はやり『あと、イルミネーション魔法も!』
はやり『おお!わかってるねあの子!』
菫「いけ好かないやつですが、口上も有ったし、美学には共感出来るところが多々…」
はやり『うむむむむ!欲しい!』
菫「えー…」
はやり『いいじゃない!反発する者同士、共通の目的の為に共に戦う的な!』
菫「それは確かに王道ですが、実際にやるとなるとどうしても心情が…」
はやり『うー…じゃあ、仲直りしたらねっ!絶対だからねっ!』
菫「無いとは思いますが…」
はやり『いえ~い☆』
菫「…で、話を戻しましょう!」
はやり『ん?』
菫「ここはやはり、取り敢えず二人でもキメれるような口上を…」
はやり『うん!うん!そうだねー!それじゃあ…~~~!』
菫「いやいや、ここは…~~~!」
菫「いいですね。そうしたらまず瑞原プロが~~~~」
はやり『もうっ!水臭いぞ!はやり☆って呼んで!』
菫「わかりました!はやりん!」
はやり『変身後はマジカル☆はやりんだよっ!』
菫「あっ!そういえば私まだ決めて無かった…!」
はやり『なに~!それじゃあ今から考えるよー!』
菫「わかりました!はやりん!」
仁美「…」モゾッ
はやり『~~~~~』
菫「~~~~~」
仁美「…」チラッ
はやり『~~~~~~~~~~!!』
菫「~~~~~~~~~~~~~~!!!」
はやり『~~~~~~~~~~~~~~~~~!!!』
菫「~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!!!!!!」
はやり『~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!!!!!!!』
仁美「…」
仁美(うるせーーー…)ゴロン
菫「それじゃあ、私は魔法少女シャープシューター☆スミレを名乗るということで!!」
仁美(決まったんかい)
はやり『オッケー☆じゃあ、前口上、一回合わせてみようか!』
仁美(今やるんかい)
菫「人々の小さな幸せを踏みにじる風潮被害は許さない!純潔なる一輪の花!魔法少女シャープシューター☆スミレ!」
仁美(何が一輪の花だ。ってかスミレの花言葉並べただけやろがそれ。お前毒持ちのニオイスミレだろが)ゴロゴロ
はやり『お星様に変わって、お仕置きよ!キラキラ光るみんなのアイドル!魔法少女マジカル☆はやりん!』
仁美(表現が一々古いな!)
菫はやり「『二人は!シューティグ☆スター魔法少女隊!!』」バーーーン!!
仁美(だっせえええええええええええええええ!!!)メエエエエエエエエ!!!
仁美(…静かになりおった)
菫「…マズイです。はやりん」
はやり『…うん』
仁美(ようやく我に返ったか。恥じれ恥じれ)ゴロゴローン
菫「テンション上って来た!!」
はやり『私も!!』
仁美(マジで!?)メェ!?
菫「これは…!今晩は眠れないかもしれない…!!」
はやり『私も!!』
菫「もう一個!もう一個考えましょう!」
はやり『わかった!!』
菫「それじゃあ、今度は敵が悪さしてるところに割り込むシチュエーションで…」
はやり『絶対許さない!って言う台詞はどっかに欲しいよね…!それとそれと…』
仁美「…」
仁美「…せからしかぁ…」ハァ
仁美「メェ~…」
第六話
「シャープシューター☆スミレとグダグダ前口上」 終わり
ガチャッ
菫「お、お邪魔します…」コソコソ
仁美「ちーっす」テクテク
「ん?おや、君は白糸台高校の…」
菫「ど、どうも…弘世です」カチコチ
「これは珍しいお客さんも来たもんだ。…ああ、もしかしてお目当ては瑞原プロかい?」
菫「ええ。彼女とはその…多少親交がありまして。本日、公開収録のご招待を預かりました」
「ははは。今は、牌のおねえさんとして子供達に麻雀の指導をするコーナーの収録中だよ」
菫「そうですか…」
「そう。そしてここは、子供達の保護者の皆様方がその様子を見届けられる観覧席って訳さ」
菫「はあ…」
仁美「チュー」ゴクゴク
「あ、ちょっと君。ここは飲食は禁止だよ」
仁美「チッ」
仁美「…分かった分かった。今飲み終わったから捨ててくるばい」スタスタ
「…」
菫「あ、すみません。連れがとんだ無礼を…」ペコリ
「あ、いや…構わないさ」
菫「どうも今日はあいつ機嫌が悪くて」
「ははは…」
菫「しかし凄いご父兄の人数ですね」
「ふふふ。まあね。なんて言ったって、この番組は超人気番組だから」
菫「…」
「この、『麻雀で遊ぼう!』は」
菫(某局教育テレビの超人気番組『麻雀であそぼう!』)
菫(牌のおねえさん演じるはやりん…瑞原はやりプロは、この生放送番組で子供達相手の授業方式という形で、麻雀の基礎を教えている)
菫(基本的なルールから点の計算方法、麻雀の楽しさ、トレーニング方法などをコミカルな歌や遊びで誰にでも分かりやすく説明する、麻雀への入門番組だ。広く若年層への麻雀普及への貢献度は、テレビ史上でも白眉に値する)
菫(どころか、毎年状況判断や河の見極めなどについても最新の理論を取り入れて再構成が為され、何年経っても新鮮さが薄れず、その視聴層は若年者に留まらず、プロにも参考にされる程だという)
菫(…かく云う私も、そのファンの一人だ。毎回勉強になるし、なにより難解な筈の最新の理論をプロの解釈で噛み砕いたものを分かりやすく勉強できるという点で、非常に勉強になる)
菫(それと、衣装とか可愛い)
菫(…こほん)
菫(…ところで、何故そんな番組に私達が今日招待されているのかと言うとだが…)
仁美「…」テクテク
菫「戻ってきたか」
仁美「…けったくそ悪いわーここ」
菫「ふふ…まあ、そう言うな」クスッ
仁美「なんで善良なる一般市民たるうちが売国奴のマスゴミの連中共と同じ空気を…」ブツブツ
菫(マジカル☆はやりんから、風潮被害の微かな反応を感じ取ったと連絡が有ったからだ)
菫の部屋
菫「テレビ局に…ですか?」
はやり『うん。どうも、最近教育テレビのスタジオに出入りしてる子の中に、風潮被害者が居るみたいで』
菫「ええ」
はやり『まだ反応が微弱で誰かっていうのは特定できないんだけどね。たまにスタジオや帰り道の廊下で、気配の残渣を感じるんだ』
菫「大変ですね。もしも万が一、生放送中にでも暴走なんてされたら」
はやり『うん。最悪だね。日本中に風潮被害の事がバレてしまう。そこまでなっちゃったら、魔法で被害者の記憶を消すとかももう追いつかないだろうし…』
菫「そうしたら、どうなるんです?」
はやり『風潮被害のキャリアってバレたら、きっと迫害されるよ。石持て追われる、ってやつだね。いつ暴走されるかわからない隣人なんて、たまったものじゃない』
菫「…」
はやり「勿論一般人には簡単に特定は出来ないだろうけど…でもだからこそちょっといつもと様子が変だぞってなったら、どんどん疑心暗鬼が広がっていっちゃう」
菫「…想像するだに恐ろしいですね」
はやり『それに、私達魔法少女だって同じ。特定だってされやすいしね。人間を超えた力を持ってる者は、ただの人間には怖がられる』
菫「やれやれです。お約束とは言え、現実は厳しい」ハァ
菫「聞いたか羊。お前いつか言ってたが、新聞社なんて襲撃したら歴史に残る大悪人として魔法少女に滅ぼされるってよ」
仁美「どーせ力奪うために魔法少女に集団レイプされるだけやろ。おまえが。うちに関係なか」メッヘッヘ
菫「あ?」スッ
仁美「なんでもなか!」
はやり『…ま、それはともかく。私はこれから数日の間に暴走するであろう風潮被害者を未然に特定して、浄化しようと思ってます』
菫「なるほど。まだはっきりと特定出来ないような段階でも、風潮被害者に最接近すれば特定して浄化出来るんでしたっけ」
はやり『そーそー』
菫「となると、必要なのは調査力…」
はやり『あと、人手だね!』
菫「…うん?」
はやり『ところで菫ちゃん。明日のお休み、夕方って暇じゃないかな~』
菫「…ええ、そうですね。その時間は私はいつも家で『麻雀であそぼう!』を見ているので…」
はやり『おっ!視聴者様でしたか!いつもありがとうございます☆』
菫「いや…あの…はい。…それで?」
菫「ええ」
はやり『その日公開収録があるから、その時間に教育テレビのスタジオにおいでよ!話は通しておくから☆』
菫「な!い、いいんですか!?」
はやり『もちもち♪私を誰だと思ってるの!牌のおねえさんだよ~☆』
菫「それは…確かにそうですが…」
菫(だからと言って、いいのか?番組に参加する子供だけでも競争率何十倍、大友入れれば何百倍の超人気番組の公開放送に、コネで入らせて貰うなんて!)
はやり『勿論タダだとは言わないよ?ちゃーんと、菫ちゃんにも働いてもらいます!』
菫「…それは勿論構いませんが…と、言うと」
はやり『放送終わった後に番組の責任者の人達と番組に関して何十分かの打ち合わせがあるんだけど、その前にスタジオの撤収があって、いっつも私は1時間の休憩を貰っているの』
菫「…はい」
はやり『その間に一緒に風潮被害者を探して欲しいなって』
菫「!!」
はやり『私あんまり探しものは得意じゃないし、時間も少ないし、菫ちゃんと仁美ちゃんが一緒に探してくれるとすっごく助かるんだ』
菫「~~っ!なっ!なるほど!」プルプル
菫「っ!っ!っ!」ピョンピョン
はやり『駄目…かな?』
菫「万難を排して行きます!!」
はやり「そ、そっかー。それじゃあよろしくね。詳細は後でメールで送るから…」
菫(ついに…)
菫「はい!!」
菫(ついにはやりんと一緒に戦える!!)
仁美「…」
仁美「…ふぅ」
菫「ふふふ…楽しみだ…」ニヤニヤ
仁美「だらしない顔しおってからにこの女は…」
菫「はやりん…すみすみ…二人は魔法少女…」ブツブツ
仁美「おい。おい。菫」ユサユサ
菫「…おっと、なんだ仁美。急に揺するな」
仁美「やかましい。変な妄想に浸ってるな怪しまれるぞ」
菫「…むう」
仁美「しっかりせーよ?ったく…ここは日本人の敵の総本山ばい。気を抜いたら何されるかわからん」
菫「お前はまだそんな…」
仁美「それと」
菫「ん?」
仁美「収録終わったっぽい」
はやり「みんなー!今日もありがとうねー!それじゃあ、またあしたー!ばいばーい☆」フリフリ
子供達「「ばいばーーーい!」」
はやり「…」ニコニコ
「…はい、カットでーす」
はやり「…ふう」
はやり「君たちも、ありがとうねー☆」
子供A「わーい!」
子供B「はやりおねえさん、ありがとー!」
子供C「ありがとうございましたー!」
子供D「楽しかったー!」
はやり「うふふふふー。はやりも楽しかったよー☆」
子供E「わーい!」
はやり「さあ、みんな。パパとママがあっちのお部屋で待ってるから、はやりおねえさんと一緒にスタジオに出ようねー」
子供F「はーい!!」
はやり「あ、ADさん!すみません。私はこのまま子供達を親御さん達に引き渡してきますので、その後は…」
AD「はい、わかってます。明日の打ち合わせの前に1時間ほど休憩ですよね?もうDからは承諾得てますので」
はやり「すみません。すぐにするべきだとは思ってるんですが…」
AD「仕方ありませんよ。子供たちの相手は体力を使いますし」
はやり「ふふ。なんだかんだ年ですかねー」
AD「えー?瑞原プロ全然お若いですってー。羨ましいくらい」
はやり「あはは。お世辞はよして下さいよ。褒め殺しなんて、怒りますよ?もうっ!」
AD「ははははは」
子供G「はやりおねえさーん!早く行こうよー」
はやり「おっと。ごめんねー?キミ。それじゃあ、行こうか」ナデナデ
子供G「うんっ!」
はやり「では、失礼します」ペコリ
AD「…立派な人だなぁ。あの若さでプロとしての地位も確立して、テレビの仕事すら卒なくこなすとは…」
AD「あの人になら、親御さんも安心して、子供達を任せられるな」ウンウン
「…」キョロキョロ
「…ここじゃ…ない」ボソッ
「…」コソコソ
バタン
はやり「お疲れ様でしたー」ガチャッ
菫(あ、はやりん!)
子供A「わーい!おかあさーん!」タタタタ
母親A「おかえり~。どうだった?」
子供A「楽しかったー!」
母親A「そっかー。よかったねー。おねえさん、優しかった?」
子供A「うん!」
はやり「ふふふ。ありがとう。はやりも楽しかったよ~☆」ナデナデ
子供A「おねえさん!」
はやり「また遊びに来てねー?」ニコニコ
子供A「うん!」
菫「いいなぁ…」
仁美「ほー」
仁美「あんなに子供にも保護者にも好かれて…なんだかんだ人気者なんやねー」
菫「素晴らしい。やはり憧れのはやりんは人格者だった」
仁美「メェー」
菫「その羊の鳴きマネして茶化す癖止めろ…って、瑞原プロ来た」
はやり「ごめんねー。お待たせっ☆」
菫「いえ。お構いなく。…大変ですね」
はやり「そう?子供達の相手、楽しいよっ!」
菫「ふふ…羨ましいです。私は子供や動物に怖がられるから」
はやり「そうなの?」
仁美「やはり本能的な危険を察知し…いたたた!こら!止めい!穏やかな会話のままの表情で首引っ掴むな!」
はやり「本当、短期間で随分仲良しになったねー。それじゃあ衣装の着替えもしたいし、まずは楽屋に一緒に行こっ☆」
菫「ははははは。ええ、よろしくお願いします」スタスタ
仁美「メェヘエエエエ!?」ズルズル
菫「…で、風潮被害者を見つける手段なんですが」
はやり「うん。ごめんね。私だけだとどうしても反応が追いきれなくて」
菫「まあ、我々は魔法少女ですので」
仁美「…ん?」
はやり「うん。そこで、マスコットの仁美ちゃんに…」
仁美「タンマ」
菫「仁美?」
仁美「…」ジー
はやり「…どうしたの?」
仁美「いや、どうしたのっち言うか…」
はやり「…」
菫「…あ」
仁美「はやりんのマスコットは?」
はやり「…」
はやり「あー…」
仁美「思えば、今までの会話に一回も名前すら出とらん」
菫「確かに。今どちらに?遅ればせながらも、はやりんと魔法少女隊を結成したからには、御挨拶をしなくては」
はやり「…」
仁美「…ん?」
菫「…あの」
はやり「…」
仁美「…?」
菫「えっと…」
はやり「ま、まあ、その辺の話は追々って事で」
仁美「はぁ~?」
菫「え…」
はやり「う、うん!そうだ!今ちょっと遠くに行っててね!皆に会わせてあげられないんだ!だから、帰ってきたら!帰ってきたら改めて紹介するから…」
菫「は、はあ…」
仁美「んー…」ジトー
はやり「うわーん!お、お願いだからそんな目で見ないでよー!」ギュー
仁美「…なんやこれ」
菫「仁美」
仁美「ええの?」
菫「はやりんが口を濁したという事は、私達に伝えられない事情でもあるんだろ。余計な詮索は好きじゃない」
仁美「…まあ、ええけど」ブツブツ
はやり「ご、ごめんねぇ…」
仁美「貸一個…」
菫「いやいや。協力体制にそんなの要らんから」
はやり「ううう…本当にごめんね」
仁美「ま、それじゃあパパっと探してみますかねー」
仁美「……すー……はー……すー…」
仁美「…んーーーー」
仁美「何人か怪しいなーってのの気配はおるけど…」
仁美「…ん。こん人かいな?」
菫「この人?」
はやり「…」
仁美「…うん。近か。3部屋隣の楽屋たいね。そこに居る人、なんかそれっぽい気配感じる」
はやり「!!」
菫「随分精度が高いな…って、3部屋隣の楽屋?」
仁美「ん…多分やが…あんま確信は持てんっちゅーか…」ブツブツ
菫「煮え切らないなぁ…」
仁美「仕方なかろう。なんつーか、反応がまだ微弱たい」
菫「…まあ、とにかく近くに行ってみないことには始まらないか。どんな人物がそこに居るのかも気にな…」
はやり「小鍛治プロ」
菫「…」
はやり「…その部屋は、小鍛治健夜プロの楽屋…だね」
本当にアラフォーになってるとか?
健夜「…」ペラ…ペラ…
健夜「ズズ…」
健夜「…コクン」ペラ…
健夜「…ふう。ちょっと目が疲れちゃった。休憩」パサッ
『スイート婚活女子応援特集 30代の輝ける貴女へ 年収1000万以上のイケメン高身長爽やか男子と結婚するための方法』
健夜「ふふ…なんだか、この雑誌読んでたら私も今年中に結婚出来る気がしてきた。結構簡単なんだね」
健夜「早速この本に載ってる事を実行して、近所でやってるお見合いパーティーに行こう」
健夜「どんなパーティ-が良いかな。雑誌で紹介してるやつだと…あ、これなんか良さそう。参加費1000円。お持ち帰り自由。一緒に爽やかな汗を流しましょう」
健夜「新じゃが芋掘り大会」
健夜「えーっと、連絡受付の電話番号は…」
コンコン
健夜「…ん?」
コンコンコン
健夜「誰だろう?」
健夜「こーこちゃんかな?さっきオフだから遊びに来るって言ってたし。…はーい。開いてますよー。どうぞー」
ガチャッ
健夜「いらっしゃい。今コーヒーでも…」
健夜「…」
健夜「…え」
菫(青のミニスカメイド服+黒ニーハイ)「どうだ?」ヒソヒソ
はやり(白の同上+白ニーハイ)「ここまで近づいたらわかると思うけど…」ヒソヒソ
健夜「瑞原…プロ…?」
仁美「うん。間違いなさげやね」ヒソヒソ
はやり「よし。それじゃあ、本人はまだ自覚無さそうだけど、やっちゃうよ。記憶操作は後でなんとでもなるから」ヒソヒソ
菫「しかし、まだ唯の一般人みたいなものなのに、大丈夫なんでしょうか…」ヒソヒソ
仁美「面倒なる前にやっちまったほうが楽ばい」ヒソヒソ
健夜「あ、あのぉ…その格好は…それに、一体何の話を…」
はやり「それじゃあいくよ。せーの…」ボソッ
菫「変身!」シャランラ
はやり「変身☆」キラリン☆
健夜「え…」
菫「人々の小さな幸せを踏みにじる風潮被害は許さない!純潔なる一輪の花!魔法少女シャープシューター☆スミレ!」
健夜「…」
はやり「お星様に変わって、お仕置きよ!キラキラ光るみんなのアイドル!魔法少女マジカル☆はやりん!」
健夜「…」
菫はやり「「二人は!シューティグ☆スター魔法少女隊!!」」
健夜「…」
菫はやり「「悪い風潮被害は、ポイポイのポイー!」」ビシッ
健夜「…」
菫はやり「「…」」ドヤァ
健夜「いや、特に姿変わってないよね!?むしろ最初っから変身後みたいな格好してきたよね!?」ビクッ
健夜「っていうか、何しに来たんですか貴女達は!!」
はやり「私としては、もうちょっと口上までに溜めを作った方が…」
仁美「帰りたい」
健夜「しかも速攻で反省会もみたいなのしてるし!?」
菫「…っと、そうでした。今はこんなことをしている場面ではなかった」スッ
はやり「あ、うん。そうだよね。てへぺろ」
健夜「もういい加減そろそろきついです!瑞原プロ!」
菫「…」パタン…ガチャガチャ
健夜「なんでさり気なく入り口のドアの鍵かけてるの!?」
菫「仁美。人が近くに来たら声かけろ」
はやり「一応防音の結界と人払いの魔法はかけておくから…」
健夜「な、なに…何が始まるの…」カタカタ
菫「小鍛治プロ。これより浄化作業に入ります。なるべく苦しまないように努力いたしますので、抵抗はされない方が懸命かと」ジリジリ
はやり「大丈夫。ちょっと苦しかったり痛かったりするけど、目が覚めた後にはもう記憶とか抜け落ちてるから…」
健夜「怖いよ!?不安だらけだよ!?」
健夜(なんか拳鳴らしてるし)
はやり「菫ちゃん、一人でやってみる?」
菫「そうですね」
健夜「何を!?」
菫「では、申し訳ありませんが…」スタスタ
健夜「ちょ…ちょっと…ホント、なんなの…」オロオロ
菫「んー…効率良く且つ格好良く相手を無力化する技は…」ブツブツ
健夜「や…ちょ、やだ、やめて、来ないで…」ブルブル
菫「よし、決めた。マジカル☆ボーアンドアローで」
※参考画像
健夜「超地味かつ肉体派!?」
菫「すみません。これも仕事なんです。被害は未然に防げるに越したことがありませんし」ジリッ
健夜「ちょ…」タジッ
菫「本当はこんな事やりたくないんですが」ウキウキ
健夜「だったらなんでそんな嬉しそうなの!」
健夜「や、やめて!今日私服のワンピースなんだからそんな技かけられたら…」
菫「引っ掴んで引きずり倒すっ!」ブンッ
健夜「いやああ!?」ドサッ
菫「ふんっ!」メキメキッ
健夜「いたああああああああああ!!?」ボキグキグキッ
菫「はっはっはー」ユサユサ
健夜「あががが」メシメシメシ
仁美「おーおー。効いとる効いとる」
はやり「頑張れ菫ちゃーん!」キャッキャ
菫「がんばりますよー!」ユッサユッサ
健夜「あ、あふ…ケホ…」
はやり「そういえば」チラッ
仁美「うん?」
はやり「あの子の風潮被害ってなんだったの?」
健夜「は…あ…あう…たすけ…こー…ちゃ…」
仁美「ああ」
菫「んー。なかなか落ちませんね。小鍛治プロ、早く落ちないと大変な目に合いますよ」ギシギシ
健夜「こ…ちゃ…」ビクッビクッ
仁美「あれは」
菫「まあ…その、突如降って湧いた理不尽な暴力に対する怒りと絶望と諦観に満ちた怯えた小動物の目も…嫌いじゃないですがっ!」ギチッ!
健夜「はぐっ!?」
はやり「うん」
菫「けど…可愛すぎて、私、歯止めが効かなくなってしまいそうです」ギチギチ…
健夜「…」ビクビクビクッ!
仁美「未然に防げたからまだ兆候くらいしか見えてなかったけど」
菫「…ん?」
はやり「うん」
健夜「…」ガクガクガク
健夜「…」ドサリ
菫「…調子に乗ってやり過ぎてしまった。一応退治、完了…です」
はやり「…お疲れ。それは…なんていうか、私達の年代にとっては究極に恐ろしい風潮の1つ…だね」
菫「…も、申し訳ありません小鍛治プロ…って、気絶してるよな…」
仁美「よくやった。では誰かに見つかる前にさっさとずらかるばい」
はやり「お疲れ様。今後も今回みたいに早期解決できれば楽なんだけどね。…そろそろ時間も無いし、アフターケアは勘弁してもらおうか。一旦私の楽屋に戻ろう」
菫「…ふう」
仁美「チュー…」
菫「何飲んで…ああ、自販機の紙パックか。好きだな。カフェオレ」
仁美「ん」チュー
菫「はやりんも仕事に行ってしまったし」
仁美「仕事終わりにファミレスば行くんだっけか?」
菫「ああ。祝勝記念に奢ってくれるらしいぞ」
仁美「よっしゃ」
菫「ふふ…なんだか、好き放題暴れてそのご褒美っていうのも、なんだか妙な感じもするが…」
仁美「…チュー…」
菫「…そういえばお前、あれだけ嫌がってた割に今回意外とおとなしかったな。なんだかんだ弁えてるしサポートとしては…」
仁美「…」ビクッ
菫「有能…ん?」
仁美「…」サッ
仁美「メ、メヘ…」ダラダラ
菫「何故冷や汗をかく」ジーーーー
仁美「え、えっと…」ダラダラダラ
菫「…」
ダダダダ
はやり「大変だよ二人共!!」
菫「はやりん!?」
仁美「…」
はやり「大変大変大変なんだから!」
菫「お、落ち着いて下さい!一体に何が…」
仁美「…」ソーッ
はやり「さっき、なんだかスタジオをこそこそ見回ってるスタッフの人が居てね!」
菫「…はあ」
はやり「怪しいんで声掛けて事情をこっそり聞いてみたら、なんとさっきテレビ局に爆弾を仕掛けたって言う犯行声明が!!」
菫「…」チラッ
仁美「…」カサカサ
はやり「なんでも、『コノ国ノ腐敗ノ根源タル貴様等マスゴミニ天誅ヲ下ス』って…」
菫「…」ガシッ
仁美「!?」ジタバタ
菫(まさか、最初にジュースを見咎められてどっか行った時か…まさかまさか、あそこで見咎められたのすらコイツ、計算ずくか)
はやり「怖いよねー…私達魔法少女も、風潮被害が噛んでないと流石に手を出しにくいし…」
菫「…悪戯なのでは?」ハァ
はやり「私もそうだとは思うけど…けど、最近ほら、マスコミに対する嫌がらせとかも多いし、みんなこういうのにピリピリしてるんだ」
仁美「ククク…ザマア反日組織め。怯えるが良い。貴様らが敵に回した救国レジスタンス、我ら『ネトウヨ』の見えざる影に…」ボソボソ
菫(こいつは…)
はやり「と、とにかく!万が一の事があったら事だし、閲覧の人達はもう大体帰ってたけど、関係者以外は早急に避難を…」
菫「…」
仁美「メッヒヒヒ…ざまあ。ざまあ。帰った後の2chが楽しみばい…」ニヤニヤ
菫《おい羊》 (←念話)
仁美《し、知らんし!うち何のことだかさっぱりわからんたい!》
菫《本当に仕掛けてはいないんだな?あ?答えろよ殺すぞ》
仁美《…お、おう。仕掛けてません》
菫「…」
仁美《…あ、あの…》
菫「…はあ」
はやり「ね、だから二人共。申し訳ないんだけど、祝勝会はまた今度にして…」
菫《お前なぁ…》
仁美《れ、連帯責任…》
菫《脅すな。…くっそ…だが、ここでお前突き出したら公開収録に招待したはやりんまで責任追及されるだろうし…》
仁美《まあ、それは考えた》
菫《悪魔の知恵かお前は!》
菫《あああああ!もうっ!分かったよ!今回だけは知らなかったことにしてやる!!》
仁美「…ふひ」
菫(寧ろやっぱ悪だコイツ!)
菫(ああああああああ!!!)
菫(勝ったのに大負けした気分だ!!)
第七話
「アラフォーと読んでる時点でもう色々終わってる婚活雑誌」 終わり
奈良・阿知賀
菫「…ふう。やっと着いたか」
仁美「メエー…」
菫「朝に出て、もう昼近くだ。宿に行く前に、どこかで昼食でも摂るか?」
仁美「そーだなー。腹減ったばい」
菫「ん。それじゃあ適当にファミレスでも…って、何もないな、ここ」
仁美「この間の鹿児島よりど田舎…」
菫「どうする?」
仁美「仕方なか…やっぱ宿まで行って、近所で食事できるとこ聞こうか」
菫「ん…」
仁美「なんだっけか?宿の名前」
菫「ああ、ちょっと待て。今住所書いた手帳を確認するから…」
仁美「…」
菫「ああ。あったあった」
菫「松実館だ」
仁美「松実館かー。なんか高そうな名前やね」
菫「そうだな。向こうで調べたが、ネットでも評判は上々だった」
仁美「そりゃあ楽しみばい」
菫「しかし、幾ら複数の風潮被害が確認されたとは言え、土日を利用するために宿まで手配してくれるなんて…」
仁美「またはやりんが金出してくれたんだって?魔法少女になって良かったことの1つは、ただで色んな土地に行けることやね」
菫「遊びでやってるんじゃないんだぞ。はやりんはついでに楽しむのも大事と言ってくれたが…」
仁美「まあええやんええやん。…はやりんは遅れてくるんやったっけ?」
菫「軽いなぁ…お前は。…ああ。今日の夜にこっちに着くそうだ。…はあ」
仁美「またそうやって溜息吐いて…仕方なかろう。うちら学生やもん」
菫「うう…心苦しい。早く稼げるようになって恩返しをしなくては…」
仁美「あの人に返せるくらいっち言うたら、相当稼げるようにならんとな」メッヘッヘ
菫「…まあ、精進するさ。大学に行ったら、バイトだって出来るし…」
仁美「進学かー。何処受けるかもう決めてるん?」
菫「ああ。もう秋だしな。だが、幾つか貰ってる推薦のお誘いのうち、実はまだ数校のうちで悩んでるんだ…」
菫「そういえば、お前はどうするんだ?進学とか、就職とか…」
仁美「ん?んー。そうやねー」
菫「ああ」
仁美「どーすっかねぇ」
菫「おい…」
仁美「メハハハハ」
菫「笑い事じゃないぞ?もし推薦無いなら進学するなら早めに準備も必要だろうし、就職するにしてもだな…」
仁美「…っと」ピタッ
菫「…なんだよ。どうしたいきなり立ち止まって」
仁美「ほれ、横見てみ」
菫「ん?」チラッ
仁美「いつの間にか着いとるばい」
菫「…おお」
菫「ここが松実館か」
玄「いらっしゃいませ!ようこそ松実館へ!」
菫「…へ?」
仁美「おおう」
玄「え?あっ!うわわ」
菫「君は…」
仁美「確か、阿知賀女子の…」
玄「ま、松実玄です!お久しぶりです!」ペコリン
菫「驚いたな…そういえば、ここは阿知賀で君は実家が旅館だと実況が言っていたものな。今思い出したよ」
玄「ま、まさかお客様として白糸台の弘世さんと新道寺の江崎さんがお越しになられるとは…」
菫「なんだ?私達の名前は聞いてなかったのか?」
玄「はい。お父さんに、私と同年代のお客様がお目見えになられるのでご挨拶するようにとしか…」
菫「へえ…実家の手伝い、しっかりやってるんだな。尊敬するよ」
玄「えへへ…」
菫「ところで、ちょっと早いがチェックインはもう大丈夫かな?」
菫「いや、別に謝らなくても…」
玄「えーっと…二名様でしたっけ?」
菫「ああ。取り敢えずはね。今晩遅くにもう一人。その人だけは外で食べてくるので夕飯は要らないよ」
玄「かこまりました!」ビシッ
仁美「敬礼っち…」
菫「ははは…」
玄「それではお部屋にご案内しますね。お荷物お預かりしますが」
菫「いや、大丈夫だよ。結構重いし、自分で持っていくさ」
仁美「うちも」
玄「あ、そ、そうですか…」シュン
菫「…」
玄「みゅー…」ショボーン
仁美「…」
菫「…気が変わった。じゃあ、このボストンバッグの半分だけ持ってくれるかな」
玄「はい!おまかせあれ!」
菫(一生懸命で素直な子だなぁ…)
菫「あ、そうだ」
玄「それじゃあ私こっち持ちますねー…はい?」
菫「そういえば」
玄「よいっしょ…はい!なんでしょう!」ヒョイッ
菫「君のお姉さんは今どちらに?」
仁美「プッ」
玄「?」キョトン
菫(…なんて言うか)
仁美「ククク…」
菫「…いや、もし此方に居るのなら、後で挨拶にでもと」ゴチン
仁美「メッヘ!?」
菫(あの子は…インターハイで中々痛い目合わされてるんでちょっと苦手なんだが)
菫「あ、ああ…」
玄「おねえ…姉は、今日は学校で赤土…うちの顧問とちょっとお話をしていまして」
菫「そうなのか」
玄「はい。なんでも、進路についてちょっと相談したいことがあるらしくって」
菫「ふーん…」
玄「後で帰ってきたら、姉からご挨拶に伺わせますので」
菫「ああ、ありがとう。お構いなく…すまない。それと質問ついでにもう一つ」
玄「はい?」
菫「この辺で、どこか手頃な食堂は無いかな」
玄「ああ、それでしたら…」
玄「…」
玄「…あっ!またお客さんだ!」
玄「いらっしゃいませ!ようこそ松実館…!!!?」
玄「…」ポヘー
玄「…あ、ああ。すみません。大丈夫です。ちょっとボーっとしちゃっただけですので…」
玄「えっと、二名様でよろしいですね?」
玄「はい!もうチェックインは大丈夫ですよ。この名簿に名前を書いていただいて…はい!」
玄「…え?どうしました?」
玄「…?なんだか嬉しそうですけど…」
玄「…あ、はい!ご案内します!」
玄「どうぞごゆっくりー」パタン
玄「…ほえー」キラキラ
玄「ものすっごいおもち…」ワキワキ
仁美「ふー。美味かった美味かった」
菫「…」
仁美「ジンギスカン定食」
菫「だから何故そのチョイスを…」ゲンナリ
仁美「メヘ?」
菫「…なんでもない」
仁美「お、おう。さってー。それじゃあ、これからどーすっかねー」
菫「そうだな…荷物も置いてきたし、このまま風潮被害者の探索に出るとしようか。まだ反応が薄くてお前でも察知し切れないんだろう?」
仁美「ん」
菫「そこで前回のように事前に当たりを付けて、あわよくば未然に防げるように、まずは一番可能性の高い麻雀部のある所を探してみようと思っているのだが…」
仁美「ん?」
菫「この辺、麻雀部のある学校は二つあるらしい」
仁美「ほう。調べてきとるねぇ」
菫「当たり前だ。こういう時、時間は有意義に使わねば。…話を続けるぞ」
菫「一つは、松実姉妹も属す阿知賀女子。但しこちらは部員数も少なく、部の中心人物の一角であろう姉妹の妹が家に居た事からも今日は休みの可能性が高い」
仁美「おう」
菫「もう一つは、奈良一番の名門、晩成高校。調べたところによると、この辺で麻雀をやる人間はほとんどここに行くらしい」
仁美「ほー」
菫「当然、部員数も圧倒的に多く、確率的にも風潮被害者に当たる確率は高い」
仁美「なら」
菫「ああ。流石に全員と会うことは不可能かもしれないが…それでも、訪ねて見る価値があるのはこっちだろう」
仁美「よっし。そうと決まったら…」
菫「早速行こう」
仁美「…待った」
菫「ん?」
仁美「…その前にちょっと」
菫「どうした?」
仁美「…やっべ。今、なんか感じた。もうすぐ誰か一人暴走するぞ」
仁美「反応が小さすぎて今まで気付けんかった。そんなに強い奴じゃなかぞ。それにここから近い。こげん感知から暴走までん間の短かとは…」
菫「くっ…!どこだ!?」
仁美「あっちたい!!」
菫「変身!人々の小さな幸せを踏みにじる風潮被害は…」シャランラ
仁美「うるさい!急げ!」
菫「…わかったよ」ショボン
仁美「えーっと、こん感じだとここから1~2kmくらいだっち思うばってん…」
菫「じゃあお前背負ってくからナビしろ!」ヒョイッ
仁美「うおっ!?わーかったわかった!じゃあまずあっち!」
菫「応!!」ダッ
仁美「この反応は…うーん…」
菫「どんな風潮被害だ!」
仁美「…んー?なんだこれ、わけわからん」
菫「何だ!」
菫「…は?」
仁美「…あと、Tシャツの胸のアライグマが意思を持ってるっち風潮」
菫「…」
仁美「…」
菫「訳わからん」
仁美「うん」
菫「…とにかく、現場行くか」
仁美「ん」
タタタタタ…
灼「…誰?」
菫「…君か」ハァ
仁美「きっ!貴様はーーー!」キシャーー!!
灼「あ…白糸台と真道寺の…」
菫「弘世菫だ」
仁美「グルルルル」
菫「そして、こちらが三年生なのに準決勝で君に稼ぎ負けた戦犯の九州羊」
仁美「おい!おまえもマイナスやったろうが!!」
菫「な…!なんだやる気かお前!」
灼「えーっと…」
菫「おっと、すまない」
仁美「くっ…!この暴君魔法少女め…」
灼「その、なんで二人がうちに…来てるのかがよくわからない…です」
菫「…」チラッ
菫(本当にTシャツの柄がアライグマだ…)
仁美《おい。もうこいつ暴走しとるぞ》
菫《何!?》
灼「…何しに来たの」
菫《どういう事だ?彼女、一見何の変哲もない感じだが…》
菫「…ちょっと聞いても良いかな?」
灼「え?あ…はあ。答えれることなら」
菫「そのシャツ、いつどこで買ったか覚えているかい?」
灼「あ、このシャツ…ですか?ふふ…可愛いでしょ。今年の夏おばあちゃんがジャスコで買ってきてくれたんです。ハイカラで灼にピッタリだって…」
仁美《おい!風潮被害に虚飾有りだぞ!こいつハイカラの意味わかっとらん!》
菫《そもそもこれは…なんだろう。うーん…被害って言うか…被害なんだろうけど…》
仁美《どうする?ボコるか?いつもみたく、さながら有言実行の北朝鮮のように》
菫《お前後で無慈悲な制裁な》
灼「えへへ…けど、なんだか嬉しいな。都会に住んでてしかもこんな美人な人に着てるものをどこで売ってかって聞かれるだなんて…」
菫「…」キュン
仁美《穢れとらんなー。お前と違って》
菫《…ぐ、浄化されるところだった》
仁美《さて、どうしたもんか…》
菫《放っておいて良いじゃないか?これは》
仁美《んー…》
菫《特に実害も無さそうだし…》
仁美《けど、どげんかして退治しとうしなー》
菫《なあ、いいだろ?なんだか流石にこの子を傷付けるのは、人としてやってはいけないような…》
仁美「…」
灼「…ね、たぬタンもそう思うでしょ?」
菫「…へ?」
仁美「…メ?」
狸「ソウデスネ。アラタサン」
仁美「メエエエエエエエエエ!!?」
灼「あ、いけない…つい」
アライグマ「ドンマイデス。アラタサン。間違ッテ上デ狸ッテ書イチャッタノモ、ドンマイ」
菫「ど根性ガエルのラスカルバージョンかお前は!!」
仁美「よく見たら目が怖い!?当然たい!奴は凶暴にして残虐な雑食獣!日本生態学会によって日本の侵略的外来種ワースト100のひとつに選定されとる凶悪な生物ばい!!」
アライグマ「アラタサン、オハダツルツルスベスベ、アッタカイ…」
灼「ふふ…たぬタンも。綿100%で生地厚なのに柔らかく、ゆったりした着心地。こういった暖かい緩やかなオフの日には、日中なら秋でもたぬタン一枚で過ごせちゃうよ…」
アライグマ「アラタサン…アラタサン…アラタサン…ハァ…ハァ…ハァ…」
灼「あん…くすぐったい…衣擦れ…やだ…えっち…」モジモジ
アライグマ「フヒヒヒ…アラタサンノ、乳臭イ体臭クンカクンカスーハースーハー」
菫「しかも淫獣だった!!」
仁美「流石外道よ…毎年日本だけで3億近い農業被害を出しているだけはある」
菫「これは…やはり滅ぼすべきだな。主にシャツの方を」
仁美「異議なし」
灼「…え?」ビクッ
菫「すまないね、君」ジリッ
灼「え…」
菫「そのシャツ…大切なものなんだろうが、破壊させてもらう」
灼「あ、あの…」
アライグマ「スーハースーハースーハー」
菫「この期に及んでまだ深呼吸してるし…」
灼「ちょ…やめ…誰か、あ、あれ…もがっ?」
菫「ちょっと二人で誰も居ないところに行こうか…」
仁美「ククク…催眠術による隠蔽は任せろー。客少ないし楽勝ばい」
灼「もがー!」
菫「大丈夫…苦しいのは一瞬だから」
灼「もがっ!もぐー!」ジタバタ
菫「力も大した強くないな。これなら簡単に退治できそうだ」
菫「さて…」ドサッ
灼「や、やだ…助けてたぬタン…」
菫「そのシャツ、ビリビリに破かせてもらおうか!!」ビリビリー
アライグマ「ア、アラタサーーーーン!!」ビリビリー
灼「いやああああああああああああああああああ!!!?」
仁美(おお、流石魔法少女。素手で半紙破るが如くシャツ引き裂いとる)
灼「たぬターーーーーン!!」
菫「この淫獣が!!可愛い見た目笠に着て主人の肌に密着して好き放題やりやがって!キモいんだよ!死ね!!」ビリビリー
アライグマ「ヌワアアアアアアアアアアアアアア!!!」
菫「細切れにしてやるー!!」ビリビリビリー
灼「たぬターーーーーーーーーーン!!!」
アライグマ「モットノノシッテエエエエエエエエ!!」
菫「…」
仁美「…ノーブラだったか。周りにシャツの残骸散らばって、なんかレイプされた後みたくなっとる」
灼「ううう…たぬ…たぬタン…」シクシク
菫「…と、取り敢えず、ついでだし絞め落としとくか?」
仁美「やっとけやっとけ。暴走した後の記憶消しとけ」
菫「なんか、どんどん取り返しのつかないことしてるような気がしてきた…」ミシッ
灼「あうっ!?」
菫「…」ギリギリ
仁美「今回はシンプルにスリーパーやね」
灼「かは…うう…」ジタバタ
菫「早く落ちろ…」ギリギリ
灼「うううう…う…あう…けほっ…」
菫「…ここ最近ずっと後味悪いなぁ…」ギリギリ
灼「あ…あああ…た、たすけ…」
菫「…」
仁美「ご苦労」
菫「…自宅の裏とは言え、半裸で気絶したまま放置はヤバイ。絶対にヤバイ」
仁美「ならどうする?」
菫「…はあ」
仁美「…」
菫「…ちょっと頑張ってみる」
仁美「ん?」
灼「…ん」ムクッ
灼「…あれ?ここ…」キョロキョロ
灼「家の裏?いつのまに出たっけ…しかも寝ちゃってたし」
灼「…」ブルッ
灼「…さむ」
灼「流石に秋風は冷えるなぁ」
灼「シャツ一枚じゃ、もう限界だね…」スタスタ
灼「…あれ?」
灼「なんか、このアライグマ、ちょっといつもと表情違うような…」
灼「…馬鹿らし。そんなわけないか」
ヒューー
灼「…早く中に入ろう。店番の続きしなきゃ」スタスタ
菫「…疲れた。魔法使いたい…」グダーー
仁美「…力技やね。ビリビリに破いたシャツ、魔法少女の身体能力と集中力で自力で縫合とか…」
仁美「メエー」
菫「…で、はやりんが来た頃に起きてまた魔法少女談義するんだ」
仁美「…げっ」
菫「松美館戻るぞー」
宥「ただいま玄ちゃん」ブルブル
玄「うん。お帰り、お姉ちゃん…」ユラリ
宥「?」ブルブル
玄「お姉ちゃん、後でお客さんに挨拶行ってあげて。白糸台の弘世菫さんが泊まりに来てるの。今出かけてるけど」
宥「え?そうなの?インハイで対戦した…うん、わかった。じゃあ後で挨拶してくるね」
玄「…おもち」ボソッ
宥「え?」ブルブル
玄「じゃあ、私はこれで…」スタスタ
宥「…」
宥「…玄ちゃん?」
バタン
玄「…」
玄「おもち…」
第八話
「こけし灼と淫獣アライグマ」 終わり
菫「…ふう。あったまる…」チャポン
仁美「…」ワシワシワシワシ
菫「大変そうだな仁美。その…なんだ。巻き毛」
仁美「くせっ毛たい。ストパー掛けても3日で戻る」
菫「本当、羊毛みたいだ…」
仁美「くぬくぬ…」ワッシャワッシャ
菫「あんまり乱暴に扱うなよ。痛むぞ…」
仁美「ぐぬぬぬ…」ワシワシワシ
菫「それにしても…ふぅ~…」
仁美「なんぞ婆臭い」ワッシャワッシャ
菫「いや…広い風呂は久しぶりだなと…」
仁美「ん。まあ、おまえの寮の風呂に比べたらな」ワシワシワシ
菫「あ~…いいなぁ。広い風呂。東京でもたまには照達誘ってスーパー銭湯とか行くかー」ノビーー
仁美「好きにせー」ザバーーー
仁美「おまえの髪質羨ましかー!うちより長いのに余裕で早く洗い終わっとるし!」ケッ
菫「ははは…」グテー
仁美「随分緩んどるなぁ」チャプッ
菫「ああー…身体が暖まるー」
仁美「おまえいっつも張り詰めとうからなあ。こういうとこでやっと緊張緩むタイプか」
菫「ん…まあ、ここのところ色々ストレスも溜まってたし。…主にお前のせいで」ジトッ
仁美「メッヘッヘ」
菫「風呂上がったら食事か。楽しみだ…」
仁美「うちも腹減ったばーい」グテー
菫「おー」グテー
仁美「他に人おらんち、貸切状態ええねー」
菫「そうだなぁ。今はシーズンも微妙にズレてるらしく、客が全然居ないらしいし」
仁美「今泊まっとるの、他に一組だけやったっけ?」
菫「ああ、らしいなー。まだ会ってないけど」
菫「ん?」
仁美「泳ぎたくなるばいね」
菫「やめい」
仁美「メッヘヘヘ…」バシャバシャ
菫「あっ!こら!行儀の悪い…ぶっ!おい!顔にお湯がかか…おい!!」
仁美「」バシャバシャ
菫「ぶふっ!?この…!しかも犬かきか!羊のくせに!」
仁美「メハハハハハ!!」バシャバシャバシャ
菫「うがっ!?お前わざとバタ足で私に飛沫浴びせてるな!?いい加減に…」ザバッ
「あら、広くて素敵ねぇ。ここの温泉」ガラガラッ
「…」
菫「…っ!おい、人来たぞ!マジで止めろ!」ヒソヒソ
仁美「…おっととと」チャポン
菫「…ったくこいつは…」
「…」
菫「…ん?」
菫(この声…何処かで聞いたことがあるような)
「うふふ…そう。いやねぇ。まさかこのタイミングで会っちゃうなんて…」
菫(なんて言うか、物凄くムカツク声…)
仁美「…おい、菫」タラリ
「失敗したわぁ。着替えが何処に置いてあったのか気付かなかったんだもの。知ってればゴミ箱にぶち込んでおいてあげたのに」クスクス
菫(それと、湯けむりで姿が隠れてるが、それでも分かる糞特徴的なボディライン…)
仁美「これちょっとヤバくなかとか」
菫(うるさい。わかってる)
「…え?…何?流石にやり過ぎ?」
仁美「おい。菫。ここは戦略的撤退をだな…」グイグイ
菫「…」
「…も、勿論冗談よ…冗談ですから…」
仁美「おい!菫!」ヒソヒソ
菫「うるさい。女にはな。分かってても退けない事ってあるんだ」
仁美「こんの阿呆…」ハァ
菫「第一、今更どうやって逃げんだよ」
仁美「…ブクブク」
菫(潜水しやがったこいつ)
霞「うふふふふ。相変わらず性格悪そうな顔してるわね?お久しぶり。弘世菫」
菫「…そっちこそ、婆臭さが相変わらずで何よりだ。石戸霞」
霞「うふ♪」ニコッ
菫「…ちっ」ギロッ
霞「お風呂ご一緒しても良いかしら?必然色んな所比べちゃうことになるし申し訳ないのだけど」ニコニコ
菫「ちゃんとその加齢臭漂う身体洗浄してから湯船入れよ」
霞「…」ゴゴゴゴゴ
菫「…」ドドドドド
霞「…」ゴシゴシゴシ
菫「…」グテー
仁美「…」プカー
菫(連中が身体洗いに行ったら浮上してきやがった)
仁美「おい。菫」ヒソヒソ
菫「なんだ羊」グテー
仁美「大物ぶって緩んどる場合か。今の内にあがるぞ」
菫「やだ」ツーーン
仁美「このアホ…」ワナワナ
菫「なんで私が逃げるように出ていかなきゃならないんだ。私は長風呂なんだ」グテー
仁美「強情っぱりも大概にせーよと…」ハァ
霞「あら。いいのよ?別に。どの道こんな素敵なリラックス出来る空間で弱い者いじめなんてするつもり無いし」クスクス
菫「へえ…」ビキッ!
仁美(お前ら来た時点でここはもう極上のストレス空間ばい…)ガックリ
菫「大体なんでお前らが居るんだ」
霞「あら、それはこっちの台詞だわ。なんで東京者が奈良くんだりまで」
菫「…分かってるくせに」
霞「そっちこそ」クスクス
菫「…はー」
霞「くすくす…」
菫「…潮被害だよ。はやりんも夜中には来る」
霞「あら、瑞原プロも?だったら挨拶しておかなきゃ。以前は危ない所で風潮被害から救って頂いた恩もあるし」
菫「…ああ。そういえばお前そうだったらしいな」
霞「…」
菫「…暴走ねえ」
霞「…」
菫「ま、大変だったんだろうから、ご苦労さんって言っておいてやるよ」
霞「…」
菫「ま、私はする前に魔法少女になったけどな」フフン
霞「…」
菫「…んーーーーっ!」ノビーーー
霞「…」
菫「…ふう」グテー
仁美「…ブクブクブク」
菫(何潜水と浮上繰り返してんだこいつ)
霞「そうね。暴走、しんどかったわね」
菫「あ?」
霞「…いっそ死んでしまいたかったほどに」ボソッ
菫「…」
霞「…」
美子「…」
仁美「…」プカーーッ
霞「それにしても、瑞原プロも大変ねぇ」
菫「ん?」
霞「育成枠だか知らないけど、わざわざこんな才能無しのために色々動いたりして」クスクス
菫「ああ?」ギロッ
霞「才能ないんだから、危ない目に合う前に自分でバイブでも突っ込んでさっさと引退しちゃえばいいのに」バシャァ
菫「なんだと?」ザバァ
霞「…ふう。美子ちゃん、先に湯船行ってますからね」
美子「」コクコク
菫「やっぱり喧嘩売ってるだろお前」
霞「何が?」
菫「傲慢な糞女が」
霞「ふふ…身の程知らずの馬鹿女に言われたくないわね」チャプッ
霞「…ふう。いいお湯」
仁美「…」ビクビク
霞「…何よ。全裸で湯船に仁王立ちなんかしちゃって。はしたない」
菫「っ!」チャプンッ!!
菫「…ブクブク」
霞「…呆れるわ。今度は口元まで浸かるのね」
菫「…」
霞「子供っぽいわぁ。…餓鬼」クスクス
菫「…」スッ…
霞「?」
菫「喰らえ」ピューーーッ
霞「きゃっ!?」
仁美(やりおった。水鉄砲とか…)
霞「ちょ、やめなさ…わぷぷっ!?」ワタワタ
菫「ほらほらほら。口開けたらお湯入るぞー」ピューーーーッ
霞「はぷっ!んぐっ!こ、この糞餓鬼…きゃっ!?」コケッ
霞「ガボガボ」
霞「何するの!!」ザバーーーン!!
菫「やっぱり思ったとおりだ。お前、あれだな。変身したら強いが、変身前は運動音痴だ。それを確認したかったんだよ」フフン
霞「この…!!人が下手に出てれば!調子に乗るのも大概になさいよ!?」
菫「何処が下手だった!なんだ!?やるか!!?」
霞「変身さえすれば貴女なんか…!」ワナワナ
仁美「ちょ…!こら!おい菫!」
菫「上等だ!なんなら文字通り今ここでお前を風呂に沈めてやろうか!」
霞「あはははは!!言ったわね!?良いわ!それじゃあここでこの間の続きしましょうか!『阿知賀松実館拷問殺人事件 羊は見た!湯船に沈む菫の花は最初から枯れていた』今から2時間たっぷりロードショーしてやるわよ!!」
菫「なんだとこの奇乳がコラァ!!」
霞「目付き悪いのよ貴女!!」
仁美「ちょ…!お、おい…!!」
菫霞「「ぶっころ…!!」」
仁美(いかんいかんいかん!?こうなったらもう巻き込まれる前に逃げるしか…)
仁美「!?」
仁美(美子!?狂犬共に洗面器に汲んだお湯ぶっかけた!?)
菫霞「「…」」
美子「…」スッ
菫「…」ポコン
霞「…」ポコン
仁美(しかも追撃に洗面器の腹で頭殴っただとぉ!!?)
美子「…」チャプン
菫「…」ビショビショ
霞「…」ビショビショ
美子「…」キュー…
菫「…」ポタポタ
霞「…」ポタポタ
美子「…マナー違反」ボソッ
菫「…」
霞「…」
仁美「あわわわ」オロオロ
菫霞「「…すみませんでした」」ブクブク
仁美(収まった!!)
仁美「~ったく、お前はだなぁ…どうしてこう、喧嘩っ早いっていうか、肝心なところで我慢をしないっていうか…」グチグチ
菫「…はい。はい。反省してます」
仁美「あそこで万が一バトルファイトになってたらどう考えてもなぶり殺しばい。どうせ戦うにしても、もっとこう、搦め手をだなぁ。例えば寝込みを襲うとか」
菫「それじゃあ勝った気にならないから却下だ。それに私のプライドが許さないし」プイッ
仁美「はぁ~…」
菫「…悪かったよ。久しぶりに奴の顔見てつい頭に血が昇ってしまったんだ」
仁美「ホントに勘弁してくれ。どうせバンザイアタックするにしても、うち居ないところで頼むわ…」
菫「…以後気を付ける」
仁美「いまいち信用ならんなぁ…」
菫「…今回ばかりは返す口もない」
仁美「それって約束破る気満々って事じゃ…いや、まあええわ。向こうこそ美子にがっつり絞られとるやろうし」
菫「なんか変な迫力有って逆らえなかったなぁ」
仁美「昔からあいつ、怒ったら部で一番怖かったばい」
菫「そうか。お前あの子とチームメイトだったな」
菫「なのにお前この間彼女人質に…」
仁美「ま、まああれは緊急事態だったし!?」
菫「…」
仁美「そ、それより夕飯たい!いい加減腹減って仕方なか~!」
菫「…まあ、私も確かに空腹ではあるが」
仁美「…食堂でアイツらと4人で食うのは気まずかな~」
菫「私は別に」
仁美「うちと美子が気まずかな~」
菫「…分かったよ。確か、部屋まで配膳してくれるんだっけ?松実さんに頼んでくるから」スクッ
仁美「んー」
コンコン
菫「ん?」
仁美「お。誰か来たか?はやりんにしては早すぎる気がするが…」
菫「はいー。開いてますがー」
スーーッ
菫「!」
宥「こ、こんばんわ~」カタカタ
菫「君は…」
宥「本日は当松実館をご利用頂きありがとうございます~」カタカタカタ
仁美「相変わらず寒そうな…」
宥「お久しぶりです。松実宥です~…カタカタ
菫「あ、ああ。お久しぶりです。弘世菫です…」
仁美「江崎仁美たい」
宥「先程妹からお二人がお越しくださったと聞き及んだものですから~」カタカタ
菫「あ、ああ…取り敢えず中に入ったらどうだい?この季節の夜は廊下も冷えるだろうし…」
仁美「なんか今にも凍死しそうばい。冬どうやって生きとるん?」
宥「なんだかすみません…」カタカタ
菫「え、エアコン入れようか。暖房で…」ピッピッ
菫「いや。その…。まあ、こっちも寒かったからな。気にしないでおくれ」
仁美「ところで、なんか用事でもあったんと?」
宥「あ、そうでした」ポン
宥「一つはお二人へのご挨拶のつもりだったんですけど、もう一つは、お食事をどちらで召し上がられるのかを伺おうかと」カタカタ
菫「それは助かるよ。ちょうど今からそれを伝えに行こうかと思っていたところなんだ」
宥「そうだったんですか?」
菫「ああ。部屋で食事をさせて貰えないかと…」
宥「畏まりました~」ニコッ
菫「ありがとう」
宥「では、もう一組のお客様のところにもご挨拶と、同じ要件がありますので失礼しますね」スクッ
菫「わかったよ」
仁美「どーもね~」
宥「それでは~」トテトテ
スーーーッ…パタン
宥「…あ、いけない。忘れてた。混ぜご飯と白いご飯があるけど、どっちが良いか聞くように言われてたんだった」
宥「申し訳ないけど、もう一回…」スッ
「…さて、それじゃあ食事まで暇だし明日の風潮被害者捜索の話でもしていようか…」ボソボソ
宥「…え?」
「メェー?お前とことん真面目やな~。そんなのはやりん来てからでええやろ」ボソボソ
宥「風潮被害…?」
宥「…」ソッ
宥(盗み聞きみたいで申し訳ないけど…)ピトッ
「何言ってるんだ不真面目羊。いいか?私達は魔法少女とそのマスコットして一刻でも早く風潮被害者をだな…」
宥「…」
「わーかったわかった。それじゃあちょっとだけなちょっとだけ。メェー…早くご飯来ないかな」
「こら!」
宥「…」
菫「…で、私はやはり明日こそ晩成高校にだな…って、おい羊」
仁美「…?」ジーッ
菫「…どうした?入口の方見たりして」
仁美「いや…なんか」
菫「誰かの気配でも感じたか?…はっ!まさかあの霞ババア私達の作戦の盗み聞きを…!!」タタタタ
菫「こらぁ!」ガラッ
菫「…」
菫「…」キョロキョロ
菫「…誰も居ないじゃないか」
仁美「…」
菫「…お前の勘違いだったんじゃないか?」パタン
仁美「…」
菫「さあ、話を続けるぞ。で、明日の午前中ははやりんと晩成高校に行って…」
仁美「…菫。話があるたい」
仁美「夕方こっちに帰ってきてから気付いたんやけど…」
菫「ああ」
仁美「松実姉妹」
菫「?」
仁美「あいつら、どっちか風潮被害者やぞ」
菫「!?」
第九話
「あったか温泉と狂犬魔法少女達」 終わり
宥「お待たせしましたー」ブルブル
菫「…」チラッ
仁美「…」フルフル
菫「…」
玄「…弘世さん?」
菫「ん?…ああ、すまない。ありがとう。ちょと考え事をしていてね」
玄「はえー」
宥「あったかいうちにどうぞ~」
仁美「おお、混ぜご飯!」
菫「…と、白いご飯もかい?ありがたいが、食べきれるかな…どちらかで良かったのに」
宥「…」
玄「おねーちゃん?」チラッ
宥「あ、え、えっと、う、うちはどっちも自慢ですので、お二人に両方味見してもらいたくて~」
玄「おお、なるほど!そういう事なのです!」
仁美「うち、どっちも食べきれるばい」
玄「おお~」
菫「食べ過ぎで腹壊すなよ?」
玄「万が一食べ過ぎてしまっても、お腹壊してもお薬ありますよー」
仁美「メヘッ!?」
菫「はははは…」
宥「…く、玄ちゃん!」
玄「?はいなのです?」
宥「つ、次!」
玄「んにゅ?」
宥「次、石戸さん達待たせてるから、行こ?」
玄「おお!そうでした!すみませんお二方!我々はお仕事の最中でしたので、これにて失礼をば!」
菫「あいつらか。ああ、あの石戸霞ってやつは今ダイエット中らしいからご飯減らしてやってくれ」
玄「そうだったんですか!ではそうしておきますね」ニコッ
菫「…駄目か?」
仁美「んん~…なんか、よくわからん」
菫「結構進行しているんだろう?」
仁美「もう暴走一歩手前やね。なんやけど…なんっつーか、二人がボヤけて見えるっつーか…」
菫「ボヤけて見える?」
仁美「二人が姉妹で近くに居るせいなんかね?まるでこう、風潮被害の気配が3D映画を肉眼で見たみたくダブってる感じばいね」
菫「それで、正体が掴めないと?」
仁美「こんなケース初めてよ…」
菫「うーん…困ったな。どちらかはほぼ確実だというのに、このままでは手を出せないのか」
仁美「いっそまとめてやっちまうか?」
菫「馬鹿。風潮被害者は感染時の記憶が消えるから良いかもしれないが、違う方はがっつり記憶に残るんだろう?」
仁美「ちっ…面倒な…」
菫「参ったな…霞の奴の方は大丈夫だろうな?多少の被害は目を瞑ってやったりしそうな女だし」
仁美「んな事しようとしたら美子がブチ切れるやろ」
仁美「それよりも、たい。うむむむ…さあ、どうするか…」
菫「…ふう。まあ、仕方ないか」
仁美「ん?」
菫「確実な方法は一個しか無いだろ」
仁美「…?っつーと?」
菫「簡単な事だよ」
仁美「??」
菫「暴走したら流石にわかるだろ」
仁美「…おおう。力でねじ伏せに来たか」
菫「気配ちゃんと探っておけよ。霞の奴に先んじて私が獲る。必ずな」
仁美「猟犬かお前は」
菫「…話はここまで。食べよう。…いただきます」ペコッ
菫「…モグモグ」
仁美「…はぁ~…なんでお前白糸台の部長やってこれたん?その脳筋で」
菫「ん」モグモグ
仁美「…いただきます」ペコッ
菫達の部屋
シーーーーン
菫「…」
仁美「…」
菫「…」
仁美「…」モゾッ
菫《動くな》
仁美「…」
菫「…」
仁美《…なあ》
菫《…なんだ》
仁美《…なんていうか、これでええんか?》
菫《何がだ》
仁美《何っち…結局やることと言うたら、電気消して布団潜って、寝たふりして待ち伏せ?》
菫「…」
仁美《さっきあんだけ威勢よく狩人みたいな事言っといて待ち伏せ型ハンティングかい》
菫《…どこかで反応があったら飛び起きて向かうさ》
仁美《じゃあなんでこんな事してんのうちら》
菫《ここは風潮被害者の、文字通りホームだろう?》
仁美「…」
菫《もしかしたら、どこかでこっそりこちらの様子を伺っているかもしれない》
仁美「…」
菫《もし私が風潮被害者なら、このタイミングで泊まりに来た若い女…魔法少女になりうる人間は、魔法少女だと疑うに決まってる》
仁美《…ふむ》
菫《だとしたら…暴走して力を得たら、勘付かれる前に直ぐに潰すのが上等だろう》
仁美《…つまり、隙を見せて炙り出すと?》
菫《上手くいくかはわからないがな。それでも何もしないよりは良いだろうさ》
仁美《布団気持良か~…》
菫《おい、寝るなよ。飽くまでもお前の感知が最良の手段なんだからな》
菫《おい。叩き起こすぞ》
仁美《五分だけ休憩…》
菫《こいつ…いい加減に…!》
菫「…」
菫《…いや。やっぱ寝てて良いぞ》
仁美《んぁ~?》
菫《そのまま寝たふりしてろ》
菫《どうやら掛かったみたいだ》
仁美《うそん》
スス…
「…」チラッ
「…」キョロキョロ
スス…スーーーーッ…
「…」コソコソ
仁美「…」
「…」ジーーッ
菫「…」
仁美「…」
「…」ゴクリ
菫《…用心してるな》
仁美「…」
菫《仁美?》
仁美「…」
菫《おーい》
仁美「…」
菫《仁美ーー》
仁美「…くぅ」
菫(この羊、マジで寝やがった…)
菫(ふふふ…霞の奴悔しがるだろうな。私の頭脳プレイが風潮被害者をここへ向かわせたんだ。1杯食わせてやったって訳だ)
菫(後は、奴がこちらが完全に寝入ってると確信して近づいてきたタイミングを見計らって、奇襲をかけてやれば…)
「…」
菫(完璧だな)
「…寝てる…よね?」ボソッ
菫「…」
「…新道寺の人も寝息立ててるし…うん」
菫「…」
「…この人達、魔法少女らしいし…」
菫(…ふっ…私の作戦、完璧だったな)
「…ごめんなさい」
菫(なに。謝る事は無いさ)
「私…」
菫(こっちこそ、今から君を気絶させなくてはいけないんだからね)
菫(…へ?)
宥「変身っ!」
菫「…」
菫「…はああ!!?」ガバッ
宥「っ!!起きてた!?」シャランラ
菫「な…!」
宥「…ごめんなさいっ!えいっ!」ブンッ
菫「くっ…うおっ!?」
宥「あっ!」スカッ
菫(っ!危なっ!身を引いた場所をフックが掠めてった!)
菫(このっ!反撃だ!蹴り飛ばしてやる!)
菫「ふっ!」ブンッ
宥「きゃっ!?」サッ
菫(かわされた!?くっそ!コイツに攻撃かわされるとインハイの準決勝思い出す…って、それより確認しなくてはいけないことがっ!)
菫「おい!」
宥「ひっ!?」
菫「き、君!どう言うことだ!?答えろ!」
宥「あ、あううう…この人怖い…」ブルブル
菫「なんで君が魔法少女に!?」
宥「え、えっと…」オロオロ
菫「他にもだ!なんで私を襲った!それに、妹さんを守るだと!?なら彼女が風潮被害者なんだな!?」
宥「っ!」ギュッ
菫「それにさっきの口ぶり…君はそれを知っていて放置してたのか!!」
宥「…っ!」
菫「どうなんだ!答え…」
宥「えいっ!」ブンッ
菫「ろおおお!?」サッ
菫(大振りストレート!?危なっ!)
菫「くっ…問答無用か君は」
宥「絶対に…絶対に…私お姉ちゃんだし…」ジリジリ
菫「馬鹿言うな!妹さん、風潮被害者だぞ!?早いとこ浄化してやらないと周囲にエラい被害が…」
宥「それでもっ!」ダッ
菫「…っ!」グッ
宥「私には玄ちゃんが一番大切だもん!」ドカッ
菫「がふっ…!」
菫(ぐえ…体当たり…衝撃受け止め切れなかった…)
菫「…ちっ!」ドサッ
宥「玄ちゃんは私が守るんだから~!!」ピョンッ
菫「くっ!?」トスン
菫(マズい、マウント取られて腕も抑えられた!ぐ…!動か…ない…!)グググ
宥「そ、そのためには、あ、貴女のしょ、処女だって…奪うんですから…ご、ごめんなさい…」カタカタ
菫(この子、性格と裏腹にかなり力あるぞ…!)
菫「ぐぎぎぎ…!」ググググ
菫(駄目だ…力じゃ向こうが上だ…)
宥「ううううう~~~!!」ギチギチ
菫(第一、処女奪うって言いながらずっと腕抑えたまんまだし…!何する気だ?)
宥「えいっ!」
菫「くあっ!?」ビキッ
宥「はぁはぁ…!うううう~~~!!!」
菫(抑え付けられた腕が攣りそうだ…!どんな力だよ!)
宥「やっつける!やっつけるもん!」ギチギチ
菫「この…いい加減に…」
菫「離れろ!」バッ
宥「え…あれ…?え…脚…?なんで…」
菫「首捕ったぞ!この野郎!」グイッ
宥「きゃ!?」ドサッ
宥「うううううう~~!!」ジタバタ
菫「け、けど、はぁ…こ、これで完全に極まったぞ。もう逃げられると思うなよ」ギチギチ
宥「かふっ…!」ビクビクッ
菫「ふぅ…ふぅ…っ!よ、よし!それじゃあ答えろ!何のつもりだ魔法少女!」
宥「く、玄ちゃんを守るためだもん!」ジタバタ
菫「ああ!?風潮被害者暴走したの魔法少女が止めないでどうするんだよ馬鹿野郎!」ギシッ
宥「ぐっ!だ、だけどっ!玄ちゃん、大事なんだもん!たった一人の妹なんだも…あああっ!」メシメシ
菫「ふざけるな!だったら尚更だろう!早いとこ浄化してやらないと悪戯に罪を増やすだけだ!姉だって言うならむしろお前こそが…」ギチギチ
宥「やだ!絶対にやだ!!」ポロポロ
菫「泣くほど嫌か!このわからず屋!」
宥「わからず屋でも…!暴走風潮被害でも…!!」
菫「だったらまずお前を絞め落として…」グググ
宥「あぐ…っ!かっ…!け、けどっ!負けないっ!」
宥「絶対に玄ちゃんは殺させないもん!」
菫「…え?ころ…」
宥「たあ!」コロン
菫(あ、抜けられ…って、待て待て。なんか双方重大な勘違いしてないか?)
宥「はぁ…はぁ…うう~…く、苦しかったよぉ…」ヨロヨロ
菫「えーっと…君、なんか勘違いしてないか?魔法少女は別に…」
宥「とぼけないで!魔法少女は風潮被害者を殺すために現れるんでしょう!?」キッ
菫「いやいや、幾らなんでもそこまでバイオレンスな世界観じゃないが…」
菫(えー…そこから勘違い?)
菫「っていうか、どこからの情報でそんな勘違いを…」
宥「…え?だって、マスコットの穏ちゃんが、風潮被害をやっつけるのが魔法少女の使命って…」
菫(穏って…もしかしてあの阿知賀の大将の子か?)
仁美「あの大将か?あいつアホっぽそうやったからな~。説明じゃんじゃん端折ってる内に勘違いさせてそうたいね~」ムクリ
菫「仁美…」
仁美「ちなみに、お前さん魔法少女初めてどんくらいよ?」メェー
菫「超タイムリーだなぁ!」
仁美「ほーほーほー」
宥「赤土先生に進路相談して、その後校舎で遊んでる穏ちゃんに会ってお話して、そしたら『なんかきたー!』って穏ちゃんが突然叫びだして…」ブルブル
菫「マジか」
宥「それから私と穏ちゃんがパートナー?っていうのらしいからキスしようってなって…」
菫「アバウトだな!」
仁美「風潮被害とか魔法少女について知ってることは?」
宥「風潮被害は、悪い噂に従わなきゃいけなくなることで、魔法少女はそのかかった人をやっつける専門の人って…」
菫「おお…」
仁美「…まあ、勘違いしてもおかしくない説明たいね」
菫「はぁ~…」シオシオ
宥「え?ええ!?」オロオロ
菫「羊。説明任せた」
仁美「仕方なかね~…」
仁美「以上。魔法少女に関する講義終了」
宥「そ、そんな…それじゃあ、私勘違い?」
菫「あ~…どうやらそのようだね」
宥「ごっ!ごめんなさい!私そうとは知らずお客様にとんだ失礼を!」ペコリン!!
仁美「メェ~…」
菫「…まあ、妹さんを守ろうとした気概は立派だと思うよ」
宥「うううう…」シュン
菫「しかし…そのマスコットの子…ええと…」
宥「高鴨穏乃ちゃん」
菫「なんて言うか、ちょっと説明力が無さ過ぎるというか…」
仁美「アホたい」
宥「ほ、本当はいい子なんです!ただちょっと落ち着きが足りないというか…」オロオロ
菫「まあ、今度会って話しようか。明日にでも」
仁美「…と言うことは」
宥「え?」
仁美「…おお。暴走しとる暴走しとる」
菫「ああ!」
宥「え…ああっ!」
仁美「妹さんド派手に暴走しとるね~。これは…アホの子という風潮に腹黒い犯罪者という風潮に…おもちマイスターだという風潮?トリプルやね」
菫「げっ!」
宥「えっと…それって」
仁美「初陣で菫が手も足も出なかったタイプ」
菫「くっ…け、けど今ならあの頃とは違うしなんとか…」
宥「大変!玄ちゃんを止めなきゃ!」
菫「松実宥さん。だったら、私も手伝うよ。さっきはああ言ったが新人一人じゃ手に余るだろう」
宥「すみません。恩に着ます。早く玄ちゃんを助けてあげなきゃ…」
仁美「ん?あ~…れ~…?」
菫「どうした?」
菫「仁美?」
宥「?」
仁美「…や、ええよ。行かんでも」
菫「は?」
宥「駄目!」
仁美「いや。駄目ち言うても…」
宥「玄ちゃんきっと苦しんでる!私が助けてあげなきゃ!」
仁美「ん~…」
菫「どうした羊。なんだか煮え切らないが」
仁美「…うん。もう終わったわ」
宥「へ?」
菫「…」ピクッ
宥「え…?それは…つまり?」
仁美「解決。お疲れ。おめでとう」
菫「おい、羊。まさか…」
仁美「ん」
宥「????」
仁美「かすみんが一晩でやってくれました」
霞達の部屋
スス…
玄「…」チラッ
玄「…」キョロキョロ
スス…スーーーーッ…
玄「…」コソコソ
玄「…くふふふ」
霞「…すー…すー…」
玄「ふふふ…よく眠っているのです」ニヤニヤ
霞「…すー…すー…」
玄「これから私に手篭めにされ、調教され、骨抜きにされ…己の意思すら持たぬ哀れなおもち人形として一生を終えるとも知らずに」クフフフフ
霞「…すー…すー…」
玄「可哀想なギニーピッグよ…恨むなら、己の呑気さと神すら恐れる至高のおもちに育ってしまった自分を恨むのですね」ジリジリ
霞「…すー…すー…」
玄「貴女のそのおもちは、この瞬間よりこのクロチャー様の所有物なのです…」ジリジリ
玄「ふふふ…素晴らしい…寝息で呼吸するだけで大山鳴動…もはや我慢できません」
霞「…くす…すー…」
玄「さあ、いざ霊峰へ我が魔手にて征服をせんや…!」スッ
霞「はい♪」バサッ
玄「へ?」
霞「一名様ご案な~い♪」グイッ
玄「むきゅっ!!?」
ボフッ
霞の布団「ドタンバタン!!」
霞の布団「ドタバタ!!」
霞の布団「ドタ…」
霞の布団「…」
シーーーーン
…
美子「…」ボーー
美子「…」キョロキョロ
美子「…」ジーー
霞「…すー…すー…」
美子「…?」キョトン
霞「…すー…すー…」
美子「…」ポリポリ
霞「…すー…すー…」
美子「…」ポケー
美子「クアー…」
美子「…」コシコシ
美子「…」コロン
美子「…すー…すー…」
玄「 」ピクピク
宥「はい?」
菫「妹さんは、その…」
宥「はあ」
菫「…まあ、野良犬にでも噛まれたと思って…」サッ
仁美(あ。目逸らした)
宥「何があったんですか!?」ガーーーン
第十話
「松実姉妹と恐怖のおもち」 終わり
菫達の部屋
はやり「みんなー☆お待たせこんばんわ~…てぇ…」
菫「…」ゴツッゴツッ
霞「…」ゴチンゴチン
宥「あわわ」オロオロ
仁美「チューチュー」
美子「すやすや…」
玄「 」チーーーーン
はやり「何この状況」タラリ
菫「あ、はやりん。お疲れ様です。お待ちしていました」ゴツンゴツン
霞「あら瑞原プロ。いつぞやはお世話になりまして、大変感謝しております」ゴッ!ゴッ!
はやり「ふ、二人はまずその激しい頭突きのし合いっこを止めてからお話しようね…」タジタジ
玄「新たなおもちの気配!?」ガバッ
仁美「おい。こいつ風潮被害消えとらんのじゃなかか」
宥「玄ちゃんいつもこんな感じだよ~」ブルブル
はやり「はぁ~…まさか、この局面で新しい魔法少女に出会うとはねー」
宥「あ…ま、松実宥です…瑞原プロですよね?」ペコリン
はやり「ども~。はやりんだよ~☆」
玄「みなさん!お茶を淹れてきたのです!」ガラッ
仁美「おお、気が利くね」
美子「…」ペコペコ
霞「あら…確かにあんまり変わってないわねこの子」
菫「…と、まあ、こんな感じなんですが…」
はやり「暴走風潮被害、今日だけで2人かぁ~…」
仁美「ついでに言えば、マスコットと魔法少女も一人ずつ出来とる」
はやり「なるほどねぇ…って事は、やっぱり…」ブツブツ
菫「?」
霞「あら。と言うことはやはり、瑞原プロも?」
はやり「霞ちゃんも?…うん。多分、間違いないんじゃないかな」コクン
はやり「面倒臭いなぁ…」ヤレヤレ
菫「あの…」
はやり「ん?…ああ、たはは…ごめんごめん」
菫「あの…申し訳ありません。話の腰を折るようで。けど…」
はやり「うん。わかってるわかってる。説明だよね?」
菫「ええ…何やら、わかって無いのは私と宥さんだけのようですので…」
宥「…?」キョトン
美子「…」
玄「私もわかってないのです!」ビシッ
仁美「はいはい」
霞「くすくす…」
菫「むっ…なんだよ。ちょっと知ってるからって古参気取りか」
霞「いえいえ…そんなつもりではないのだけど…」
菫「ああ?」
菫「ぐぬぬ…」
はやり「霞ちゃんもね?あんまり喧嘩しないでね?」
霞「…ぷう」
はやり「はい、それでは今から、私達…って言っても霞ちゃん達はたまたま合流しただけなんだけど、目的同じっぽいから良いよね?」
霞「ええ♪」ニコッ
美子「…」コクン
はやり「…私達が何故宿泊までしてここ、阿知賀にやってくることにしたのかのネタばらしをしようとおもいま~す☆」
菫「ネタばらしって…風潮被害が多く発生する前兆を感じたからでは?」
はやり「それもそうなんだけどね~。けど、そっちはどっちかって言うと、オードブルって感じ」
菫「…はあ」
はやり「メインディッシュは、その後に控えています」
菫「…?」
はやり「今回のメインディッシュの名前はー…大風潮被害」
菫「大風潮被害?」
菫「それは…一体?」
はやり「うん。ぶっちゃけて言うとね。超々強力な風潮被害の事」
菫「…はあ」
はやり「どれくらい強力かって言うと、その感染者のイメージを全て、真っ白から真っ黒にまで塗り替えるといっても過言ではないくらいの強力なもの」
はやり「まるで風潮被害自身が意思を持ち、人格を形成し、一人歩きし、元の人格を完全に乗っ取るかの如く。しかも、それがあっという間に広がっていく。まさに風のような速さでね」
菫「それは…恐ろしいですね」
はやり「あまりに強力なその風潮被害は、感染者本人だけに留まらず周囲の人間にまで風潮被害汚染を引き起こすと言われているよ」
菫「っ!まさか、それで今回も!」
はやり「うん。ここ阿知賀で数多くの風潮被害者が急に発生しているのは、大風潮被害者が生まれようとしているからじゃないかな」
菫「やっぱり…」
はやり「そんな状況で魔法少女とマスコットが急に生まれたっていうのも、過去に結構事例があるね。まるでウィルスに対して身体が免疫が作り出すかのように、大風潮被害者の周囲には魔法少女が発生し易くなるらしいの」
宥「それが、私と穏ちゃん…?」
はやり「多分ね。そういうケースで発生した魔法少女は強大な才能を持ってる事が多いって言うけど…どう?君。私達と一緒に魔法少女隊やってみる気ない?☆」
宥「え?え?」オロオロ
はやり「あはは…ごめんごめん。でも、良かったら真剣に検討して欲しいな」
霞「へえ…面白そうなことやってるのね貴女達」
菫「なんだよ。お前も入れて欲しいのか?」
霞「まさかぁ?確かに瑞原プロとチーム組むのはとても魅力的だけど…貴女と一緒じゃ…ほら…ねえ?」クスクス
菫「…」ビキビキ
はやり「喧嘩駄目だヨー」
菫「…コホン。では、先ほどの話の続きを。その、大風潮被害に関してですが。それほどまでに強力なケースなら、感知も容易で暴走前に未然に止めることも簡単なのでは?」
はやり「それが、そうもいかないんだよねぇ~…」
菫「…というと?」
はやり「…大風潮被害者は、完全暴走前から私達魔法少女に敵意を剥き出しにするの」
はやり「風潮に従った行動をするのは暴走後なんだけど…大風潮被害はその強大さ故に暴走までの期間が凄く長くて、それまでに自己防衛みたいな機能を働かせるようなの」
はやり「暴走前から通常の風潮被害体を遥かに超える能力を有し、狡猾に身を隠し、羽化の時を待つ」
はやり「察知するには、その強大な波動を一瞬でも感知するより他にない。だから、こうやって近くまでは特定できてもその先、個人の特定が難しい」
はやり「…ねえ?霞ちゃん」
霞「…ふふふ。ええ、そうですね。私もその大風潮被害者だった一人」
菫「お前が…」
霞「本当に辛いのよ?自分が自分でなくなる感覚…やりたくないことをやりたいと考えている自分。やらなきゃいけないという使命感に必死に抗う孤独」
霞「…誰かに必死に助けって!って叫んでも、喉元にすら言葉は上がってこない」
霞「あの時暴走前に瑞原プロに見つかっていなかったら…ふふ。考えるだけで虫酸が走るわ」
菫「そうだったのか…」
霞「兎に角、今この瞬間にでも同じ思いをしている子が居るのなら救ってあげたい…」
霞「…」
霞「…なんて、冗談。ただ歯ごたえのある遊び道具があるから遊びに来ただけ」
霞「…それだけだわ。それだけで十分」
はやり「…うん。それでもいいと思うよ。私は」
霞「…」
はやり「大事なのは、救うこと。理由なんて二の次」
はやり「だから、そのためにみんな。今この瞬間から、その時まで…力と知恵を私に貸してね」
霞「当然ですね♪」
宥「わ、私で力になれるなら…!」
美子「…」コクン
玄「わ、私だって力になれることが有ったら言って下さい!」
はやり「みんな…ありがとう…」
仁美「…」
菫「…仁美?」
仁美「…面倒くさ」ボソッ
菫「…お前なぁ」ハァ
仁美「あーめんどくさめんどくさめんどくさ…っ!」ガリガリガリ
はやり「ふふふ…」ニコニコ
菫「はやりん?ちょっとはやりんからもこの羊になんか説教の一つでも…」
はやり「大丈夫☆」
菫「…」
仁美「なるったけ早く終わる手段考えるばい…!」
はやり「それじゃあ、手筈通りに☆」
菫「ええ。お互いの健闘を祈りましょう」
霞「みなさん、お気を付けてくださいね。口だけの3流魔法少女以外」
菫「ああ!?なんか言ったか垂れ乳!」
霞「何!?図星突かれてトサカにきちゃった!?」
はやり「もー!こら二人とも!」
菫「ちっ…!」
霞「くっ…!」
はやり「…本当に大丈夫?」
菫「…ええ。頭を冷やしました。これからは白糸台の部長やっていた時のモードです。冷静沈着に行きますよ」
霞「なら私も永水女子モードで…」
菫「2回戦ガール(笑)がなんだって?」
霞「!!」ビキビキッ
はやり「…あー。これこれ。仲いいのはわかったから、お姉さんだって怒る時は起こりますぞ」
菫「Aチーム:はやりん、宥さん、玄さん。Bチーム:霞、美子さん。Cチーム:私、仁美 の編成です」
はやり「よろしい。じゃあ次。宥ちゃん、仁美ちゃん、霞ちゃん。それぞれの所属チームの行動目的言える?」
宥「Aチームは、まず私のマスコットである高鴨穏乃ちゃんと合流します。その後瑞原プロが彼女に事態の説明。使用可能な魔法等の確認。私と穏ちゃんの総合的な戦力を瑞原プロが分析し、決戦に参加可能と判断すれば参戦します」
霞「Bチームは晩成高校の調査です。大風潮被害者として疑わしき人物が居ないかを観察及び近日行動の変わった人物が居ないかを聞き込み。随時各チームに報告も行い、最終的な判断は瑞原プロに任せます」
仁美「Cも大体おんなじ。ただしこっちは阿知賀女子の調査。当該人物が少ないんで問題ないと判断したら速攻晩成に移動」
はやり「オッケー。あとは、玄ちゃんだけど…」
玄「はい!なんでもします!」フンスッ!
はやり「あ~…」
はやり「…私とお姉ちゃんから離れないように」
玄「了解なのです!」ビシッ
はやり「…そ、それじゃあ、行動に移りましょうかー。みんな。各チームでの行動はいいけど、深追いはしないように!確信を得たら、すぐに他のチームに連絡すること!1対1で戦おうなんて考えちゃ駄目だよ!」
はやり「特に二人は!!」
菫「こ、心得ています…」
霞「わ、わかりましたから…」
菫「それは勿論」
霞「当然よね」
はやり「…」
はやり「…じゃあ…」
はやり「みんな、行くよっ!」
はやり「…ふぃ~。BとCは行ったね~?…不安だぁ~」ガクー
宥「あ、あのあの…」
はやり「…おっとぉ。ごめんごめん。はやり、一番お姉さんだもんね。ごめんね?みんなに心配かけるような事言っちゃって…」
宥「いえ、そんなことないですけど…」
玄「携帯準備出来ましたよー」
はやり「…ああ。そっか。ありがとうね~」
宥「まず穏ちゃんの携帯に掛けてみます」プルルルル…
はやり「…これで繋がってくれれば話は早いんだけどねぇ~」
玄「穏乃ちゃん、すぐに携帯置いてっちゃうから…」
宥「…やっぱり駄目です」
はやり「あう…」ガックリ
宥「次、お宅の方に電話してみます…」プルルルル…
はやり「何処に行ったのかな?」
玄「休日は顧問の先生が監督していないと部活出来ないのです。で、顧問の赤土先生が先生の方のお仕事で出張中なので、それに合わせて部活もお休み。一日休みだから山の方に行ってるかも…」
宥「…あ、高鴨穏乃さんのお宅ですか?いつもお世話になっています。私、穏乃さんの麻雀部の友人で、松実宥と申しまして…」
はやり「…山だったら時間かかるなぁ…」
宥「…ええ、ええ。そうです。玄の姉です。…あの…穏乃さんは今どちらに居らっしゃるかご存じないでしょうか…」
はやり「…」
宥「…はあ…山が呼んでいると…はあ…」
はやり「…」
宥「…わかりました。ありがとうございます」
宥「…」ピッ
宥「…」
はやり「…」
玄「…」
宥「…山です」
テクテク…
霞「晩成高校か…ねえ、美子ちゃん」
美子「?」キョトン
霞「そこに居ると思う?」
美子「…」
霞「…ふふ。そうよねぇ?わからないわよねぇ?」
霞「けど」
霞「…鷺森灼」ボソッ
美子「?」
霞「松実玄」
美子「…」
霞「松実宥」
霞「…そして、高鴨穏乃」
霞「…全部、何かしら成ってるのよねぇ…」クスクス
霞「…阿知賀女子は、今日部活休みなんだっけ?」
美子「…」コクコク
霞「だったら阿知賀なんか行っても無駄骨だと思うんだけど」
美子「…」
霞「…羊が提案したチーム分け…晩成はここから一番遠い…」
美子「…!!」
霞「…まあ、良いけどね。面白いから真面目に役割こなしてあげましょうか。何か考えがあるんでしょう」
美子「…」
霞「…けど、あの子、何企んでるのかしらね?」
霞「ふふ♪」
菫「…ん?どうした仁美。そっちは阿知賀女子じゃないぞ」
仁美「いや…その前にちょっとな」
菫「寄り道は許さんぞ」
仁美「ちょっとだけいいだろ?」
菫「は?」
仁美「大勝負前の神頼みたい」
菫「神頼みって…」
仁美「ちょっと神様に一参り。必勝祈願にお祈りしてくるくらい良かろ」
菫「お前信心深かったっけ?」
仁美「…ま、そこそこな。駄目か?」
菫「…まあ、それくらいなら」
仁美「助かるわ~」
菫「…で、肝心の神社って何処だよ。あまり時間は取れないぞ」
仁美「大丈夫大丈夫」メッヘッヘッヘ
仁美「偶然、な」
第十一話
「大風潮被害と魔法少女達」 終わり
アコチャーの風潮被害はやばい
Entry ⇒ 2012.10.23 | Category ⇒ 咲-Saki-SS | Comments (0) | Trackbacks (0)
P「やよいの昇格祝いを高級和食店でしてみよう」
P「ああ、いつもは接待に使ってる店なんだが、今回はお前のために抑えたんだ」
伊織「…ってこの店、あの有名な○○じゃない!」
P「お、よく知ってるな。さすが伊織だ。今回はやよいのAランク昇格祝いだからな、特別だ」
伊織「あ、アンタねぇ…予算は大丈夫なの!?」
高木「なぁに、心配無いさ。これから君たちが頑張ってくれるなら安いもんだ」
P「さぁ、店に入ろう」
真美「だね!」
やよい「うっうー!……あれ?プロデューサー?」
P「ん?どうした、やよい」
やよい「このお店、メニューが無いですよ?」
P「一部の料理はちゃんメニューとしてあって、値段も決まっていたりするけどな」
やよい「へぇ~、そうなんですか。でも…お値段がわからないと…」
P「だいたいこのぐらいでお願いしますって金額を提示したらそれに見合った料理を出してくれるんだ」
小鳥「そそ、そうですよ、だ、だから安心して食べていいんですよ……ね?」
P「こういうお店が初めてなのはわかりますが落ち着いて下さい」
~和室~
高木「さて、ご主人の挨拶も済んだし、楽にしていいぞ」
美希「あふぅ、ミキ堅苦しいのは苦手なの」
千早「高級店だもの。仕方ないわ」
やよい「なんだかご飯食べる前にお腹いっぱいになりそうです」ドキドキ
P「そんなに緊張してたら料理の味がわからなくなるぞ。今日はやよいが主役なんだぞ?」
やよい「は、はい!で、でもここのお料理一つで一体どれだけのもやしが…はわっ!」
小鳥「ぷぷぷぷろりゅーしゃー、わわわ、私もきき、緊張s」
P「やよいがそんなんじゃ、ここに連れてきた意味がなくなるじゃないか」ナデナデ
小鳥「わ、私も…」
やよい「そ、そうですね///あ…でも…私だけ…」
P「妹弟達の事だろ?大丈夫、お弁当を頼んであるから」
やよい「お弁当?ですか?」
やよい「はい!ありがとうございますっ!」
P「やよいは家族想いだな(やよいはかわいいなぁ)」ナデナデ
小鳥「あの、わ私も…き、き…」
P「小鳥さん?ああ、事務所の電話は全て転送されるようになってますので安心してください」
小鳥「ピヨ…」
真美「これ、カイセツ料理って奴でしょ!…ご飯は?」
律子「言いたいことはわかるけど多分漢字が違うわね。今日のは会席料理よ」
響「うう…自分、よくわかんないぞ」
雪歩「あの…、皆さんがよく耳にする懐石料理っていうのは、元々はお茶会の席に出されるもので…」
P「そう、こういったお祝い事ではそこからさらに発展した、会席料理になるんだ」
亜美「なんか難しいよ~」
P「雪歩、よく知ってたな偉いぞ」ナデナデ
雪歩「それは…///あの……家の人と…その…///」ボッ
やよい「プロデューサー…、これ、これって…」
P「ああ、金箔か、食べられるから安心していいぞ」
やよい「金ぱ…」パタッ
P「おい!大丈夫かやよい!?」
律子「お造りなんか見たらどうなるのかしら…」
律子「先付と吸物の次は向付ですね、今日はお祝いなのでおそらく…」
一同「おおーっ!」
主人「鯛の活造りです」
真美「こっ…これは!」
亜美「生きてる?生きてるよ!?」
あずさ「すごいわね…」
やよい「うっうー…」
P「どうした?やよい?」
やよい「お魚さんが苦しそうだなぁーって…」
P「やよい…(やよいはかわいいなぁ…でもどうするか…)」
律子「でも新鮮な証拠よ?それに、腕が良い人が捌かないとできない料理よ?」
やよい「でも、でも…」
P「そうだぞ、腕が良いから痛くないように切れるんだ、痛かったら気絶しちゃうだろ?」
やよい「なるほど!そうですね!」
P「(やよいはかわいいなぁ)」ナデナデ
小鳥「でも結局鯛は息が出来なくて苦し――P「小鳥さんは少し黙っててください?」
小鳥「胸が苦しいピヨ…」
真美「準備はバッチリであります」ヒソヒソ
亜美&真美「それっ、お醤油投入!」
鯛「」ビックーン
一同「うわぁっ!」ドンガラガッシャーン
美希「あはっ!でこちゃんのオデコにお刺身が張り付いたの!」
伊織「アンタ達ねぇ……!」
P「(あ、あずささんの胸元に刺身が……これは目のやり場に困る…ん?)り、…律子…?」
春香「(頭に海老が!律子さんの頭に海老が乗ってますよ!)」
律子「あなた達……ちょっとこっちへ来なさい……」ユラァ
亜美&真美「り、りっちゃん!!」
・
・
・
亜美&真美「」キュゥゥ
P「あれは、俺にもかばいようがないな……」
律子「さて、次は焼き物ですね」
主人「本日はこちらの▲▲牛を使います」
やよい「プ、プロデューサー!お肉ですよ!お肉!」
P「ああ、焼き物はお前達向けにお肉でお願いしておいた」
やよい「でもこれ、なんか模様が綺麗ですね」
千早「高槻さん、これは霜降り肉って言うのよ」
あずさ「ブランドにもよるけど100gで数万円する物もあるわね~」
やよい「す…数万……」キュゥ
千早「ちょっ、高槻さん?」ガシッ
P「まあ、やよいには想像もつかない世界だろうな…って千早、鼻血が…おい」
千早「」キュゥ
律子「あ、もう結構ですのでお願いします」
高木「煮物はそのお店の腕が一番如実に現れる物でな、ここの煮物は最高だぞ」
春香「美味しそうですね!」
P「さぁ、いただこう」
真「すごく…上品な味ですね」
亜美「それでいて素材の味が引き立っていて…」
真美「んっふっふ~、これぞまさに最高の煮物っ!」
響「わ、わかるのか!?」
真美&亜美「もっちろん!」
一同「!!」ざわ・・・」
亜美&真美「えっへん!(作戦通り)」
律子「で、何の料理かわかるの?」
亜美「え」
真美「そ、それは~」
伊織「まさかアンタ達……!」
亜美「い、いや~、なんとなくそういう雰囲気だったし」
真美「な、流れで…」
律子「まあ、そんなことだろうとは思ったわ」
真美「お、美味しいのはわかるよ!」
律子「ふ~ん?」
亜美「な…なんとなく…だけど」
響「よかった…美味しいけどよくわかんないのは自分だけじゃなかったぞ」
小鳥「(私もよくわかんない…)」
春香「プロデューサーさん!頭と身が別々に揚げてありますよ!」
P「この頭が最高に美味い酒の肴になるんだよなぁ」
律子「出汁をとってお味噌汁にするのも良いわね」
やよい「こ…こんな立派な天ぷら初めてです…た、食べてもいいのかなーって…ちょっと思ったり」
P「遠慮しないで食べてくれ。何度も言うが今日はお前が主役なんだから」
やよい「はい!いただきます!」
伊織「ったく、食べなきゃ何しに来たのよ…ってやよい?」
やよい「ふぁい?」モグモグ
伊織「塩で食べるのは初めてじゃないの?」
やよい「はわっ?天ぷらってお塩で食べる物じゃ無いんですか?」
一同「!!!!」ガタンッ!
ざわざわ・・・・ざわざわ・・・・
P「そ、そうか」
やよい「あ、でもお野菜をタレにつけて食べるのは初めて聞きました!美味しいですねー!」
P「ああ……いや、なんでも無いんだやよい、いやぁ、良い塩を使ってるなぁ、うん」
やよい「なんで泣いてるんですかプロデューサー…?」
P「い、いや、あまりの美味しさに感動してだな、うん…今日はここに来てよかったなぁ……」
やよい「はいっ!ありがとうございますっ!」
プルルルル
律子「あら?電話だわ、少し席を外しますね」
ヨォシキョウハノムゾー!オオ、ユキホはキガキクナァ
律子「まったく……大丈夫かしら?……もしもし――
書いてる途中にくると思ったがやよいwwwwwwww
律子「…………。何か嫌な予感がするわね」
――――――――――――――――――――――――――――――
亜美「おおっ!」
真美「ご飯だ!」
貴音「鯛飯ですね」
P「お祝いらからな~」
律子「……プロ…デューサー?」
P「おお!律子ぉ、おきゃえり~」
律子「…………どういう事なの?」
響「じっ、自分は最初だから違うぞ!」
律子「私が席を外してから戻ってくるまでの事の顛末を詳しく聞かせてもらおうかしら…」ユラァ
響「り、律子…な、なんだかこわいぞっ!」
やよい「え~…えっとですね…」
P「さあ今日は呑むぞー!」
雪歩「あ、あのプロデューサーさん…」スッ
P「おお、雪歩は気が利くなぁ」ナデナデ
雪歩「ええっ///(…また頭を!?)……いえ、そのっ…///」ボッ
響「(うう…なんだかうらやましいぞ)」
P「ありがとう、雪歩は良いお嫁さんになるなぁ!」ナデナデ
一同「!!」ガタッ
雪歩「っ~~!!!///あ……あ……穴掘って埋まってますぅ~!!」
響「じっ、自分もお酒!……注いでみたいぞ!」
P「ん?どうしたんだ急に…まあ、せっかくのお酌だし……ごくごく…ぷはぁ……頼むよ」スッ
響「お、おー!(な、なんか近いぞ!緊張して……)」トクトク…
P「おっと、ありがとう。んん?いつもの響らしくないな~、大丈夫か?顔も赤いし熱でもあるんじゃないか?」スッ
響「~っっ!!//////……な、…なんくるないさー!!///」ダッ
P「あっ!響?……何なんだ?」
P「いいのか?やよい。今日はお前がもてなしてもらう側なのに…」
やよい「いいんです!ご馳走してもらってばっかりだとくすぐったいかなーって」
P「そうか、じゃあお言葉に甘えて……ごくっ……ふぅ……お願いします」スッ
やよい「はーい!」
やよい「えへへ///」
P「毎日家事をやってるだけの事はあるな」
やよい「そ、それで……あの」
P「どうした?」
やよい「わ、私も…良いお嫁さんになれるかなー……って///」
P「ああ、なれるさ、むしろやよいみたいなお嫁さんならこっちからお願いしたいくらいだな」
やよい「はわっ!……え?……それって///ええっ!/////」
P「ん?……ああっ!いや、そういう事じゃなくてだな、いや、そうなんだけど!」
やよい「はわ~」プシュー
P「あ、思考停止した…………うん、しばらくそっとしておこう」
やよい「ありがとうございます!」
P「忘れ物は無いか?」
やよい「あ、あの!プロデューサー!」
P「どうしたやよい?」
やよい「さっきの……お話…」
P「さっきの…?」
やよい「私、頑張って良いお嫁さんになりますね!」
P「んん!?(しまっ…>>73のフォローを忘れてた!)」
やよい「今日はどうもありがとうございました~!」タッタッタッ
終わり
P「お?珍しいな千早がこんな事してくれるなんて」
千早「い、いえ、プロデューサーには普段からお世話になってますから」
P「そんなに気を使わなくてもいいのに…ありがとう…んっ……ぷはぁ…じゃあ、頼むよ」スッ
千早「はい」
千早「さっきの話なんですけど……」
P「さっきの……ああ?お嫁さんがどうのか?大丈夫、うちのアイドルはみんな良いお嫁さんになれるさ」
千早「わ、私もですか!?///」
P「ああ、もちろんだ」
千早「でも私…………高槻さんや春香みたいにお料理が上手でもないし……」
P「何を言ってるんだ、今は男も料理をする時代だぞ?それに家庭っていうのは二人で作り上げていくものじゃないか?」
千早「プロデューサー……」
千早「はい」
P「そんな人がお嫁さんになってくれたら素敵な事だと俺は思うぞ」
千早「え……ええっ?//////」
P「ん?あ…なんかまた……ああっ!いや!千早、ええとだな!」
千早「ふふっ……安心しました」
P「あれ?」
千早「いいですよ、そういう風に考えてくれる人がいるってわかっただけでも」
P「あ……そう?」
千早「ええ、頑張って素敵な人になりますから」
P「ああ、そこは問題無い、千早は今でも素敵だと思うよ」ナデナデ
千早「なっ///……プロデューサー…酔ってますね?///」
P「んー、うん、酔ってるなぁ……でもまあ気にするな!」
千早「…もう///」ボソッ
P「社長!いや~申し訳ないです。御返杯を…」
高木「なに、気にすることはないさ、君のおかけで高槻君がAランクに昇格出来たようなものだからな」
P「恐れ入ります」
高木「これからもよろしく頼むよ!」
P「はい、頑張ります!」
真「あ、あのっ!」
P「おお、真か」
高木「丁度良い、ここは菊地君に任せて私は他のアイドルの所へ行くよ」
真「あの、ボクも……お酌…してみたいな…なんて」
P「なんだなんだ、らしくないじゃないか…ぐびっ……はい、お願いします」スッ
真「は、ハイ!」
P「おおっと!」
真「あ!す、すみません!」
P「あ、すまん(思いっきり真の手を掴んでしまった…)」
真「い、いいえ!だ、大丈夫…です///…そ、それより」フキフキ
P「残りが少なかったから一気に出ちゃったんだな、気にするな」
真「すみません…」
P「だから気にするなって…あ、ほら手、かして」
真「はい…ええっ!!?///」
P「さっきお酒がついた手で真の手を握っちゃったからな、拭かないと」フキフキ
真「あ、…あの手を拭くくらい自分でも///」
P「これは俺のせいだから気にするなって…はい終わり。これに懲りずにまた頼むよ」
真「はい…あ、あの、プロデューサー」
P「どうした?」
P「真、ちょっと手を貸して」ピタッ
真「プロデューサー、何をっ///」
P「真の手はちっちゃくて可愛いな」
真「ええっ!?いきなり何を?///」
P「さっき、自分が女の子らしくないって思ってただろ?」
真「…………」
P「確かにお前は女性に人気があるけど、俺からみたらただの可愛い女の子だよ」
真「かっ…可愛い!?///でっ、でもっ!…さっきのお嫁さん…とかには」
真「プロデューサー…」
P「な?もっと女の子である事に自信を持っていいぞ?俺はお前みたいな悩める少女は好きだぞ」ナデナデ
真「あ…///」
P「ん?あ!………本日三回目……いや、変な意味じゃないぞ、真!」
真「わかってますよ。ありがとうございます、プロデューサー///」
P「お…おう、そうか?まー、深く考え過ぎるな、真は今のままで良いさ、うんうん」ナデナデ
真「ハイ!///…って、だいぶ酔ってますね」
オオッゴハンダー
P「ん~?次の料理がきたか~…おっと……」
律子「なるほどね…」
P「まぁまぁ、そんなに怒ると可愛い顔が……怒ってても可愛いれすね?」
律子「なっ///……ごほん……とにかくっ!小鳥さんっ!」
小鳥「ピヨっ!?」
律子「あなたも何で止めな…かっ…小鳥さん?」
小鳥「らってぇ……ぷろりゅーしゃーがぁぁ、ぷろりゅーしゃーがぁ…」
律子「………。はぁ」
小鳥「冷ひゃいんれすよぉ?……初めてこんな立派にゃおみしぇにきてあーんなことやこーんなことをしてもらおうと……」
千早「プロデューサーより酔ってますね」
律子「何?」
やよい「プロデューサー、すっごく喜んでくれてたんです!」
律子「いきなりどうしたの?」
やよい「私がAランク昇格が決まった時、自分の事みたいに……」
律子「……」
やよい「ずっとウキウキしてて、だからちょっと嬉しすぎて……その……」
律子「……そうね」
やよい「律子さん…!」
律子「今日ぐらいは無礼講でも良いかもしれないわね。せっかくのお祝いなんですし」
貴音「私もです」
あずさ「あらあら…なんだか寂しいわね~」
真美「食後のデザート?」
律子「ええ、水物って言うのよ」
春香「プロデューサーさん!綺麗な形に切り分けてあります!」
真「器と盛り付け方だけでこんなにも変わるものなんだ…」
P「和食は目れも楽しむ物らからな」
P「ん?どうした美希?」
美希「ハニー、あ~ん」
P「いいっ!いや、それはちょっと…」
亜美「んっふっふ~。兄ちゃん鼻の下が伸びてますぞ~!」
P「なっ!亜美!……あっ!」ガッ
美希「ひゃんっ☆」
真美「おおっ!これは!」
あずさ「あらあら、胸元に落ちちゃいましたね」
律子「わざとですか…プロデューサー?」ユラァ
美希「…ふーん」
P「美希?」
美希「ハニーってば、こういう事したかったの?」
小鳥「ピヨっ!?わ、私らってぇ、しょれなりにれすねぇ」ヌギッ
P「小鳥さんまれ!?いや、ちょっと待っれ……おっと」フラッ
ぽふっ
貴音「……面妖な」
貴音「すこし驚きましたがあなた様が望むならもう少しこのままでも///」
亜美「ファインプレーの連発です!」
真美「いや~、いい仕事してますねぇ~」
P「うぅ……でもさすがに……ちょっと呑みすぎたな……少し、横になります……」
律子「まったく…」
小鳥「わ、私も少しは自信がぁ……うぅ」
あずさ「あら、起きましたか?」
P「ああ…あずさ……さん?どこから声が?」ムクッ
ボインッ
あずさ「あらあら」
P「!?(何かに当たっ……俺は?)」ウトウト
あずさ「もう少し横になってた方がいいですよ~」
P「(この柔らかい感触……まさか膝枕!?……そしてさっき当たったのはあずささんの…?)っ!!」
あずさ「ええ」
律子「ほら、そろそろ帰りますよ」
あずさ「立てますか?」
P「ああ、すまない」
あずさ「いいえ~、お気になさらず」
P「ありがとう、あずささん」
あずさ「さっきの『ボインッ』は内緒にしてあげますね?」ボソッ
P「!!!」
あずさ「うふふ~♪」
P「いやあ、申し訳ない…」
律子「これからやよいをAランクアイドルとしてプロデュースしていかなくちゃいけないんですよ?」
P「ああ、そうだな。やよい、これからもよろしくな」
やよい「うっうー!私こそです!あ、そうだ!」
P「ああ、アレか」
やよい&P「ハイ、ターッチ!」
やよい「えへへ…」
小鳥「こんなか弱い乙女を残して帰るなんて何かあったらどうするんれすか?」
小鳥「帰り道を一人寂しく歩いていると声をかけられて……ああっ、そんなイケメンに声をかけられたら私……」
律子「(ようやくトイレから出てきたのは良いけどいつ声をかけようかしら)」
今度こそ終わり
Entry ⇒ 2012.10.23 | Category ⇒ アイマスSS | Comments (0) | Trackbacks (0)
伊藤香苗「文化祭なにするの?」
梨穂子「んーとね、確か今日のHRで色々と話し合うみたいだよ~」
香苗「へー」
梨穂子「香苗ちゃんは何がしたいとか、あるの?」
香苗「別に特にやりたいことなんてないけど……まぁ、楽しめればいっかなぁって」
梨穂子「そうだねぇ、最後の文化祭だし、思い出に残る事をしたいなぁ」
香苗「……思い出」
梨穂子「どうかしたの?」
香苗「あ、ううん、なんでもない」
香苗(文化祭……かぁ)
絢辻「───それでは、今年の文化祭で私たちのクラスの出し物を決めます」
絢辻「なにか提案がある人、挙手をお願い」
香苗(わお、凄いね絢辻さん。なんていうか、
本当に私らと同じ年代なのかってぐらい大人びてるわ~)
梨穂子「はいはーい」びっ
絢辻「はい、桜井さん」
梨穂子「えーっとですね、その喫茶店とかどうかな~って」
絢辻「喫茶店。なるほどね、じゃあ…喫茶店と」カキカキ
絢辻「じゃあ次は───そこの暇そうにしてる梅原君」
梅原「うぇっへっ!? お、俺!?」ビクゥ
絢辻「ぼーっと外を眺めてる余裕があるのなら、提案の一つもあるでしょう?」
梅原「そ、そのー……あははは」
絢辻「笑ってごまかさない」
梅原「なっ…オイ! 棚町ぃっ!?」
薫「あーら、本当の事じゃないのよ? ねえ、純一?」
純一「すぴー」
薫「ちょっと、純一?」ゆさゆさ
純一「んあっ…やめろよっ…もう食べれないからっ…」
薫「……ふんっ!」ドス!
純一「ふごっ───ハッ!? あ、ごめんなさい絢辻さん!?」
絢辻「私はなにもしてないわよ」
純一「えっ!? じゃ、じゃあ梅原か!? お前、振られたからって僕に八つ当たりするなよっ!」
梅原「してねぇーよ!? つうか振られた振られたうるさいぞお前ら!」
純一「え?」
梅原「あーもう……なんなんだよ、お前らは…俺がそんなに振られた事おもしれえのか!」
梅原「さ、桜井さんまでっ」
薫「あれだけの大人数の前で告白しちゃあ、誰だって面白がるわよ」
純一「しかも、振られたというオチ付きだもんな」
梅原「く、くそっ…!」
薫「フツー卒業式に告白しちゃうかしら? あんなの見せ物になってます。
って言ってるようなもんじゃないの」
純一「いや、梅原的には色々と作戦は考えてたんだよ。一つ目ね?」
梅原「橘ァー! おまっ、なに恥ずかし黒歴史を語ろうとしてるんだ!」
絢辻「ゴホンッ!」
薫「あちゃーっ…怒ったわよ、静かにしなきゃ」ペロ
純一「お前の所為だろ…梅原!」
梅原「ち、違うわ! お前ら二人の所為だろ…!」
絢辻「静かに」
三人『はい…』
絢辻「──確かにあの三年生の卒業式で、
厳粛な空気をぶち壊した梅原君の告白は私にとってもとても印象に残ってます」
梅原「うっ…」
絢辻「いくら卒業する三年生に後悔なく告白をしたいと思ったとしても、
もっと場所を選ぶべきだと今頃ですが、忠告しておきます」
梅原「…ハイ、スンマセン」
絢辻「そしてそこの二人も、そんな梅原君の頑張りを笑ったりしたらいけないのよ?」
薫「は~い」
純一「え? でも、あの後一番笑ってたのあやつ──ふがっ!?」ゴス!
絢辻「あら、ごめんなさい。チョークが滑ったわ」
純一「……えらくまっすぐ僕に飛んできたよね、チョーク」ヒリヒリ
絢辻「それでは話し合いを続けます。次に誰か提案がある人は?」
香苗「………」
純一「本当の事だろ? いくら何カ月経とうが笑いもんのまんまだよ…」
香苗「……」
香苗「……はぁ」
梨穂子「…香苗ちゃん? どうしたのため息なんてついて」
香苗「ふぇっ? あ、ううん! なんでもない! あははっ」
梨穂子「そお? けっこう深刻そうに見えたけど…大丈夫?」
香苗「うん、平気平気~。まったく桜井は本当に心配性だね~」
梨穂子「あはは、だって香苗ちゃんがため息つくなんて珍しいからね~」
香苗「え? あ、うん……そう思う?」
梨穂子「うん、いつだって元気なのが香苗ちゃんじゃない」
香苗「……。このこのっ、いってくれるじゃないの桜井っ」ぐりぐり
梨穂子「あ、ちょっと…やめてよ香苗ちゃん…くすぐったいよぉ」
香苗(は……ため息、かぁ。そりゃ付きたくもなるよ)
香苗(…本当に、本当に)
純一「──じゃあ、はい! 絢辻さん!」
絢辻「次、誰か提案がある人はいますか?」
純一「絢辻さん!? 僕は!?」
絢辻「…しょうがないわね。じゃあ橘くん」
純一「しょうがないってなんなのさ……えっと、ゴホン」
純一「僕から一つ、提案があるんですが!」
絢辻「却下」
純一「まだ何も言ってないよっ」
絢辻「早くして」
純一「ううっ…最近はみんなが居る時も冷たくなって…つらい…」
絢辻「早くしなさい」
純一「わかりました!」
絢辻「もとから一人一つよ」
純一「出鼻をくじかないでください……」
薫「…くっひひ、アイツの顔見てよ? すごいでしょ?」
梅原「何時の間に顔に落書きしたんだ棚町…」
梨穂子(額に肉って書いてある…)
純一「それはですね!」
純一「───このクラス皆で、劇をしようと思わない!?」
香苗「……劇?」
純一「おっ? 香苗さん、もしかして興味ある?!」
香苗「えっ? いやーそこまではー……」
純一「ほらほら! 絢辻さん! もう一人居たよ!」
絢辻「…伊藤さんも劇を推薦するの?」
香苗「えっ!? い、いやだからその…っ!」
純一「だろ? ほら、二人目だよ!」
香苗「た、橘くん? 私は別にやりたいってわけじゃなくてさ…!」
純一「えー? やろうよ、みんなで劇。絶対に思い出に残ると思うよ?」
香苗「…思い出…?」
純一「うん! そう思わない? 三年生最後の文化祭、みんなで劇をするんだ」
純一「──一人一人役割を決めて、役者の人、裏方の人、衣装を用意する人。
みんなみんな頑張って一つの劇を作り上げるんだ」
香苗「………」
絢辻「…簡単に言うわね、どれだけ大変かわかってるのかしら」
純一「うっ、そうですよね……」
薫「でも、最後ってのは一発大きいのやっておかなきゃダメじゃない?」
絢辻「…まぁ、その気持ちも分からないでもないけど」
「橘が乗り気だ…」
「劇かぁ~、ま、面白そうだよね」
「そういって女の子の衣装見たいだけだろ橘!」
純一「ち、違うよ!」
絢辻「それが狙いだったのね、はぁ…」
純一「絢辻さん!? ち、違うってば…!」
薫「アンタ、そんなこと思ってるのなら女の子の役やらせるわよ?」
純一「やめて!」
香苗「………」
梨穂子「あはは、みんなすごくやる気だね香苗ちゃん」
香苗「あ、うんっ…そうだね、劇ね…」
梨穂子「色々と大変そうだけど、やってみたいなぁ~」
香苗「…桜井もやってみたいの?」
梨穂子「…大きな大きな思い出が残りそうだなぁって思うんだぁ~」
香苗「……そうね、大きな思い出ね」
純一「ほらほら! 梅原はどう思うんだ!」
梅原「お、俺か? いや、劇っていうと…こう、良いイメージが出来ねえんだが…」
薫「大丈夫でしょ、あんだけ大胆に告白出来る度胸があるじゃない」
梅原「ま、まだいうか棚町…!」
香苗「……」
梅原「──はぁ……まぁ別に嫌って言うわけじゃねえさ、結構面白そうだって思うしな」
香苗「っ…」
純一「うんっ! それじゃあ梅原も───」
がたっ
香苗「──私も劇に賛成する!」ばっ
純一「うえっ?!」
香苗「ううん、そんなことないよ! 私も劇するわ!」
香苗「…橘くん、絶対に成功させようね」すっ
純一「……香苗さん…」すっ
ぐっ!
香苗「…出来る限りの事は、全てやるよ私」
純一「…頼りにしてるよ、僕だって全てを出すから」
梨穂子(仲いいなぁ…)
絢辻「盛り上がってる所悪いけど、判断は多数決よ」
「どうする? なんの劇にするかな?」
「面白そうなのがいいよね~、私裏方とかやってみたかったし~」
「衣装とか私の部活にいっぱいあるから、出来ればロミジュリとか~」
絢辻(…はぁ、もう決まったも当然ねこれは)
絢辻「──それじゃあここで多数決を取ります、やりたい項目にみんな手を上げてね」
絢辻「じゃあ、クラスで劇をした人!」
バッ!
絢辻「はい、決定」
~~~~~~
梨穂子「香苗ちゃん、今日はどこか寄っていかない?」
香苗「ん? どっしたの、桜井から誘ってくれるなんて珍しいじゃん」
梨穂子「えへへ~」
香苗「……。あーなんとなくわかった、何処かでスィーツ新作出た感じ?」
梨穂子「…だめ?」
香苗「ううん、別にかまわないよ」
梨穂子「わぁ! ありがと~! 香苗ちゃん!」
「──そこの二人、ちょっといいかしら?」
薫「ごめんなさいね、話の腰を折っちゃって」
梨穂子「ううん、別にいいよ~」
薫「てんきゅ、そのね。これからちょっと文化祭の話し合いをするんだけど…」
薫「…伊藤さんも桜井さんも、参加しないかしら?」
伊藤「話し合いって…誰が集まるの?」
薫「ん」ぴっ
伊藤「…あっち?」すっ…
純一「…待ってください、あれには訳がありまして」
絢辻「どういうワケかしら」
純一「僕的には、みんなで楽しめるような文化祭にしたいと思ってる所存でして」
絢辻「へぇ、だから私が指揮を務める会議を壊しても良いと?」
純一「…そんな事は思っていません、ええ、決して」
梨穂子「怒られてるね、あはは」
香苗「…!」
梅原「まぁまぁ絢辻さん──……ん? よっ!」
香苗「っ……よ、よっ!」
梅原「……ありゃ駄目だぜご立腹だ」すたすた
薫「くひひ、でしゃばるからいけないのよ」
梅原「ちげーねえ、それっと誘ってんのか? 集まりに?」
薫「そそそ。ほら、劇に乗り気だった二人じゃない?」
梨穂子「え? 私はそこまで言ってなかった気がするんだけど…?」
薫「あら? やりたいって言って無かったかしら?」
梨穂子「うぇっ!? き、聞こえてたのー…?」
薫「バッチシねっ」
梅原「──伊藤さんは行かねえのか?」
香苗「ひゃいっ!?」
話し合いをしようと思ってるんだがー…駄目ならいいんだぜ?」
香苗「あっ…う、うんっ…えっと…そのっ…」くるくる…
梅原「なにか用事でもある感じか、なら仕方ねぇな!」
香苗「い、いやっ! 違うよ! ないない! 全然ないからねっ!」
梅原「お、おう! そ、そうか」
香苗「はっ!?」びくっ
香苗「あっ………うん、そんな感じ……ごめん……大きな声出して……」ぷしゅー
梅原「いいっていいって、楽しみにしてるんだろ? 乗り気だったしよ、わかるわかる」
香苗「………うん」モジモジ
薫「スィーツ? あ、そこなら今から行く場所よ?」
梨穂子「ホントにー? よかったぁ、ねぇねぇ香苗ちゃん! …香苗ちゃん?」
香苗「ワ、ワタシッタラモウチョット…オチツイテ……ふぇあっ!? な、なに桜井!?」
梨穂子「一緒に話し合いも参加させてもらおう?」
香苗「そ、そうなのっ? そりゃラッキーだわー! あはははっ!」
梨穂子「う、うんっ」
香苗「じゃ、じゃあさっそく向かおう! そうしよう!」ガッタ
薫「おっけー! じゃあ二人参加で、そろそろ行くわよそこの二人ぃ!」
絢辻「ん、わかったわ。……行くわよ橘くん」
純一「わん」
梨穂子(わんっ!?)
梅原「うっし、行こうぜ伊藤さん」
香苗「う、うん!」
ファミレス
梨穂子「───ふっわぁぁっ…!」キラキラキラ
香苗「桜井…これは一体…?」
薫「私もここで働いてて初めて生で見るわ…」
純一「新作じゃないの?」
絢辻「…メニューによると隠しメニューらしいわね」
梅原「さ、桜井さんこれ食べんのか?」
梨穂子「…うん、これだけ綺麗に盛り付けられたパフェを食べるなんてもったいないよねっ…」
梅原「お、おう…」
絢辻(量に突っ込みを入れたと思うんだけど…)
薫「アンタは何か食べるの?」
純一「ドリンクバー」
薫「しけてるわねー」
純一「うるさいなっ。香苗さんは何頼む?」
香苗「あ、じゃあ私はコーヒーでお願い」
絢辻「コーラ」
みんな『こ、コーラッ!?』
絢辻「え、えっ? ど、どうして皆びっくりするのよ…っ?」
薫「いや、まさか絢辻さんがコーラなんて飲み物を頼むなんて…」
香苗「紅茶とかいいそうなのに…」
梨穂子「でも、コーラはたまに飲むと美味しいよね~」
純一「おい、昨日一昨日と飲んでる姿を僕は見たぞ梨穂子」
梅原「俺見たぜ…」
梨穂子「ええぇっ!? か、隠れて飲んでたのにぃ~…!?」
香苗「あ、今日も飲んでたのよ桜井の奴。なんか言ってあげてよ橘くん」
純一「無理だよ、だって梨穂子だし」
梨穂子「ちょ、ちょっと純一ぃ~!」
梨穂子「そ、そうだよ~! 絢辻さんの言う通りだよ~!」
香苗「…で、今日は何本飲んだの桜井」
梨穂子「え? 三本ちょい…だけど?」
純一「こりゃまたダイエット始まるな、すいませーん注文良いですかー?」
梅原「おい、まだ俺の聞いてないだろ大将っ」
絢辻「…ごめんなさい桜井さん、それはちょっとどうかと思う」
薫「逆に尊敬するわ~。お腹痛くならないの?」
香苗「桜井は食べ過ぎで体調悪くなった事無いよ、一回も」
梨穂子「あ、ありますぅ~! お腹が痛くなったことぐらい、ありますぅー!」
香苗「そうなの? じゃあ桜井がお腹痛くならないように、
そのパフェはみんなで食べていい?」
梨穂子「……」すっ…
絢辻(そっと伊藤さんから視線を外した…)
香苗「んー、結局は皆が知ってるような奴がいいんじゃないの?」
薫「そうよねー、全然知らないのやって滑ったら身も蓋もないし」
絢辻「出し物で報告に行った所、聞いた話だと他のクラスでも劇をするみたいよ?」
純一「本当に?」
梅原「あー、マサの奴が言ってたな。俺のクラスでも劇をするって」
梨穂子「もぐもぐ」
純一「それは大変だ…見に来る人だって、別に僕らの演技を楽しむわけじゃないし…」
絢辻「物珍しさから見る、というのが大半でしょうしね」
薫「あ~、簡単に行くって思えばそうでもないのね~」
香苗「………」
梅原「…伊藤さんはなにか良い案とかあるか?」
香苗「えっ? わ、わたしっ?」
梅原「おうよ、なにか考えてるようだったし」
絢辻「なにかあるの?」
香苗「あーうん、ちょっと良い案っていうのかわからないけど…」
薫「あっ、ちょっと! 純一! あんた何零してるのよ!」
純一「えっ? あ、本当だ……ごめんごめん」ふき…
薫「なっ!? 何処触ってんの……よッ!」ブンッ!
純一「ぐはぁっ!?」どたっ
梨穂子「むぐぅ!? げほってこほっ!」
絢辻「さ、桜井さん!? 大丈夫…!?」
梨穂子「むぎぅ~! むぎぅ~!」プルプル
絢辻「…むぎぅ? あ、水! 水水!」
香苗「え、ええっ…?」
梅原「なにやってんだ皆……で、伊藤さん」
香苗「あ、うん!」
香苗「…そのね、みんなが知っていて、かつ物珍しさも兼ねそろえている」
香苗「──他のクラスと一線を越えるかもしれない、そんな演劇になるかも…」
梅原「おお、結構自信満々じゃねえか」
香苗「う、うん…っ」
梅原「それで? 一体どうすればいいんだ?」
香苗「ええ、それはね───」
~~~~~
絢辻「いいわね」
薫「…面白いわ、いや、本当に」
梨穂子「香苗ちゃんすご~い」
香苗「そ、そうかな? あはは」
絢辻「確かにそれは、他のクラスの劇を圧倒するでしょうね」
薫「いいんじゃないかしら? それなら誰だって知ってると思うし」
梨穂子「わぁ~! いいな、いいな。今から楽しみになってきたよぉ~!」
香苗「えへへ…」
絢辻「明日にでも皆に報告してみましょう、そして所で───男子二人」
純一「……」
梅原「……」
絢辻「えらく不服そうね、どうしたのかしら」
純一「…どうしたもこうしたもないよ」
梅原「…クラスの男子が全員こんな顔になるぜ、きっと」
梨穂子「どうして?」
薫「あっははは! 楽しみねぇ、どんな劇になるのかしら~! ぷっ、くすくすっ」
純一「笑いすぎだっ」
梅原「…いいよ、伊藤さん。俺だって面白いもんには俄然乗り気になる」
梅原「──それに伊藤さんが考えてくれた事だ、ゼッテー成功するに決まってらぁ」
伊藤「っ……あ、ありがと梅原君…」
純一「何カッコ付けちゃってんの梅原…」
梅原「しかたねーだろ、だったら大将が提案しやがれよ」
純一「……ん、無理」
梅原「だろうが、俺だって出来ればしたくねぇけど…ま、面白いって思っちまったからな!」
純一「それには僕も同感だ、これは絶対にウケると思う。凄いよ香苗さん」
香苗「あはは、二人とも褒めすぎだから」
梨穂子「んー、それじゃあこれで決まりなのかな?」
薫「良い感じにまとまりそうね、明日の話し合いは~」
純一「楽しそうだな…」
絢辻「…いいわよ、ちゃんとメモっておいたわ」
絢辻「───性別反転ロミジュリ、で決まり!」
薫「イェーイ!」パチパチ
梨穂子「わぁ~~!」ぱちぱち
香苗「あはは」ぱちぱち
純一「木の役ってのもあるよな?」
梅原「多分だが、橘は絶対に女役をやらされると思うぞ」
純一「……だよね、なんとなくわかる」
梅原「……ああ、そして多分俺もだ…」
純一「頑張ろう…」
梅原「そうだな…」
~~~~~
香苗「あ、コーヒー無くなっちゃった」
純一「…ん、そしたら僕のドリンクバーでおかわりしたら?」
純一「いいだろ、薫にお金渡しとくからさ」
絢辻「犯罪よ」
梨穂子「純一?」
純一「うっ……じゃ、じゃあ僕が持ってきて香苗さんにあげるのはどうだ!」
香苗「あ、コーヒーはおかわり自由って書いてるけど」
純一「え?」
薫「パスタ美味しかったわ~、ずっと気になってたからスッキリスッキリ」
絢辻「美味しそうだったわね、今度私も食べてみようかしら」
梨穂子「ここのチーズケーキも美味しいんだよ~」
純一「三人とも!? 実は知ってて怒ってたでしょ!?」
香苗「くすっ…じゃあ行ってくるね」
香苗「えっと、コーヒーコーヒー…っと」
香苗「あった、これね」コト
ジジジジジジジ…
香苗「……」
香苗(今日は来て良かった…よね、うん。だって色々と話せたしさ)
香苗(普段は桜井も居て、橘くんもいて……それなのにちっとも話す機会が増えずに)
香苗(はたまた同じクラスになっても、とんと会話する機会も来なず仕舞い…)
香苗「……はぁ」
コポポ
香苗「おっとと、危ない危ない…」コト
香苗「……」
香苗「…もっと頑張らなくちゃいけないんだろうけど、なぁ」
香苗「でも……そんなのこと、無理に決まってるから…」
香苗(…よっし、ウジウジしてたってそんなの私らしくない!)
香苗「……」
ごくっ
香苗「ぶぇっ…に、ににゃいっ……ぐすっ、だけど! 私の想いはもっと苦い!」
香苗「全然意味が分からないけれど! 頑張る!」
香苗「……」ぐっ
香苗「それはそれで、ミルクたっぷり入れないと…ミルクミルク…」
すっ
「──これでいいのか?」
香苗「あ、どうも。ありが」
梅原「おう、どういたしまして」
香苗「……と……」
梅原「ん? どうした?」
香苗「う、うめひゃらくんっ!?」
梅原「お、おう。そうだが…俺の顔忘れたのか?」
香苗「っ…っ…っ…」ブンブンブンブン!
梅原「だよな、びっくりしたぜ」
香苗「あっ…がっ…そっ……その!」
梅原「どした?」
香苗「き、聞いてたっ!? さっきの独り言!?」
梅原「…独り言? いや、別になにも聞いてねえけど?」
香苗「…………」
香苗「……そっかぁ~~~~っはぁ~~~よかったぁ~~~」
梅原「そんなに聞かれちゃヤバい事言ってたのかよ?」
香苗「う、ううん! 違うよっ! そんなことないから!」
梅原「逆にそこまで言われると気になってくる…ま、聞きだしたりしないからよ」
梅原「ん、それでミルクはいらねえのかい」
香苗「い…イタダキマス」
梅原「ほらよ」
香苗(わっ、わわっ…梅原君が…私のコーヒーにミルクを入れてくれてる…!)
梅原「これぐらいか?」
香苗「へっ!? あっ…その、もうちょっとお願い…」
梅原「結構入れるんだな、ほら」
香苗(ひゃ~ぁ! なんだろっ、なんだろっ……凄く恥ずかしい…!)
梅原「うっし、ここまででどうだ」
香苗「…ぅ、うん…ありがと…」
梅原「はは、これぐらいでお礼は要らないぜ」
香苗「……うん…」
香苗(はっ!? い、いまって二人っきりだよね!? そうだよね!?)
香苗(そしたら会話できるチャンスじゃん! よ、よし…やってやるわよ…)
香苗「っ……その、梅原君…」
梅原「お茶お茶っと。ん、なんだー?」
香苗「す、すこしだけ、聞きたい事があるんだけど…っ」
梅原「話?」
香苗「う、うん。だめ……かな?」ちら
梅原「別にかまわねーけど、あっちじゃだめなのか?」
香苗「…うん」
梅原「……。まあいいけどよ、なんだ話って?」
香苗(来た───!!!)
香苗「その、ね。今回って私たちのクラス……演劇する事になったでしょ?」
香苗「そ、それでねっ……梅原君はなにかやりたい役とか、あるのかなってさ~」
梅原「やりたい役、かぁ。んー特にねえな…ずずっ」
香苗「そ、そっか」
香苗(ううっ…話が続かないっ…)
梅原「───あ、でもよ」
香苗「え、なに梅原君?」
梅原「俺はさ、伊藤さんで見たい役ならあるぜ」
香苗「え、私っ?」
梅原「おうよ、今回はロミジュリをやるんだろ?」
香苗「う、うん」
梅原「そしたらロミオ役をやってる伊藤さん、俺は見てみたいねぇ」
香苗「ろ、ロミオ役!?」
香苗「嫌って言うか…その、ロミオなの…?」
梅原「性別反転なんだろ? 出来ればジュリエット見てみたいけどよー」
香苗「あ、そっか…うん…」
梅原「ははは、そう考えると女子も色々と大変だな。男子はそれ以上大変だろうけどよ」
香苗「あの…」
梅原「おう?」
香苗「……で、でも…私たちのクラス可愛い子他にいっぱいいるじゃん…だけど、私のロミオが見たいの…?」
梅原「んー、確かに可愛いって言うか人気の高い女子が集まってるよな、俺らのクラス」
香苗「………っ」ぎゅっ
梅原「──でも、俺はそれでも伊藤さんのロミオを見てみたい」
香苗「え…」
梅原「どうして、と聞かれても…はは、ちっと恥ずかしいけどよ」
梅原「───すっげー似合いそうだから、としか言えねえよ…」
香苗「……」
梅原「くはぁー! なんだなんだ、恥ずかしいなオイ…俺、顔真っ赤になってるか?」
香苗「…ちょっとだけ」
梅原「だよなー! …くっそ、照れてんじゃねえよ俺。ただ見てみたいって言っただけだろうが…」
香苗「…くす」
梅原「わ、笑わないでくれっ…とんだチキンやろうってのは分かってるんだ…」
香苗「あははっ、そうだね。女子になって欲しい役を言うぐらいで、なに照れてるんだ~このこの」ぐりぐり
梅原「やめろ…やめてくれぇ…」
香苗「ふふふっ」
梅原「あん?」
香苗「その、言ってくれて…ありがと、嬉しかったわ」
梅原「嬉しかったって、別に大したこといってねーだろ?」
香苗「ううん、それでもね」
香苗「梅原君にそう言ってもらえて、嬉しかったから」
梅原「………」
香苗「えへへ」
梅原「お、おう…そっか」
香苗「うんっ」
梅原「………その」
香苗「ん? どしたの?」
梅原「いや……なんでもねえよ」
香苗「えー? 気になるじゃん、ハッキリ言いなよ」
香苗「ん~…?」ずいっ
梅原「……」
香苗「どうして顔を見てくれないのよ、梅原君?」
梅原「…なんでもだ」
香苗「嘘だって、なにか隠してるじゃん。どしたどした?」
梅原「っ…」ぷいっ
香苗「おっ? じゃあこっちに来ようっと」すたすた…
香苗「んふふ、ね?」
梅原「うっ、なにが…ね? なんだよ」
香苗「さあ?」
梅原「よくわかんねーけど…なんだか伊藤さん…しつこいぞ…」
香苗「しつこくないよ~? 黙ってる梅原君のほうがしつこいんじゃないの?」
香苗「わぁっ?!」
梅原「──じゃあ言ってやるぞ、いいんだな?」ずいっ
香苗「うっひ! ……か、顔が近くない…?」
梅原「良いんだよなっ? なっ?!」
香苗「ぁっ…ぇっ…っと…」ドキドキ
梅原「…じゃあ言うぞ」
香苗(息が頬にっ)ゾクゾク
梅原「はぁ、あのな伊藤さん…」
梅原「…あんまり、男に対して期待させるようなことを───」
純一「そんなに至近距離で何やってるの二人とも?」
梅原&香苗「うぇっ!?」
純一「………」
梅原「た、橘ァ!? なにを思った!? 何を考えたぁ!?」
香苗「ち、違うからね! たちばばばば!」
純一「え? ごみを取ろうとしたんじゃないの?」
梅原「えっ…がっ……そ、そうだぜぇ! なぁ伊藤さんん!?」
香苗「そ、そうだよねぇ梅原君!? いやーまいったわー! あはっはは!」
純一「なんだろう、違うんだったら……あっ! も、もしかしてキ───」
香苗「ふんっ!」ドス!
純一「フングォッ!?」ドタリ…
梅原「いとっ…伊藤さん!? 橘ァ!?」
香苗「あ、なんとなくやっちゃった…」
梅原「ええぇええっ!?」
絢辻「──どうしたのよ、騒がしいわね……橘くん!?」
薫「え? 純一が妄想してる?」ひょこ
梨穂子「なにやってるの純一?」ひょこ
絢辻「わからない、だけど──……これは事件ね」
梅原&香苗「えっ!?」
薫「じ、事件ですって…!?」
梨穂子「…うん、犯人は誰かな」
香苗「さ、桜井…? 何言ってんの…?」
絢辻「──いいわ、ここは私に任せて伊藤さん」
香苗「へ?」
絢辻「この事件、絢辻詞に任せて頂戴…絶対に犯人を見つけ出して見せるから!」
薫&梨穂子「おー」ぱちぱち
梅原「…いや、なんとなくわかった、みんなで覗いてたんだろ」
香苗「え、えっ?」
梅原「それで橘が空気を読まずにここに来たから、色々と誤魔化しにかかってると…」
香苗「つ、つまり……みんな隠れてみてたって事…?」
梨穂子「…えっと、パフェを食べきらないとね~」
絢辻「話し合った結果をまとめないと…」
薫「ほら、起きなさいアンタ」ぐいっ
純一「ぐえっ」ずりずり…
梅原「…はぁ」
香苗「ぜ、全部見られてたって事…っ? えっ? えっ? じゃ、じゃあさっきの私のっ…ぎゃー!」
梅原「俺らも戻ろうぜ、伊藤さん」
香苗「あ、うんっ…だけど、そのっ…!」
梅原「大丈夫だろ、ちゃんと誤解を解けばよ」
梅原「すまねえな、変な勘違いをさせちまってよ」
香苗「…うん、そうだね」
梅原「おう、じゃあ戻ろうぜ。コーヒー忘れずにな」
香苗「うん」
梅原「うっし───…おい、何を勘違いしてるか知らねえけどな!」すたすた…
香苗「……」
香苗「…勘違い、か」コト…
香苗「ずずっ…」
香苗「……まだ、苦いなぁ」
~~~~~~
薫「それじゃーまったね~」
絢辻「さようなら、気を付けて帰るのよ」
薫「なにその子供扱いっ!」
純一「正当な心配だと僕は思うよ?」
梨穂子「わぁー…純一が宙を回ってる…」
純一「なれたもんさ…」
薫「ふぃ、んじゃ改めてさいなら~」
絢辻「さようなら、それじゃあ私たちも帰るわよ」
純一「えっ? 今日は用事があるって言ってなかった?」
絢辻「………」
純一「…あはは、了解」
純一「それじゃあ梨穂子、梅原、香苗さんバイバイ」
梅原「おうよ、明日学校でなぁ」
梨穂子「ばいばい~」
香苗「まったね~」
絢辻「みんな、さようなら。…ほら行くわよ」ぎゅっ
純一「そうだね、行こうか」ぎゅっ
絢辻「…うん」
梨穂子「ね~」
香苗「…なんていうか、豹変レベルよね」
梅原「あれも大将がすげーからだろうな、うっし俺らも当てられないうちに帰るか」
梨穂子「あはは、そうだね~」
香苗「そうね、ふぁーなんだかすごく疲れた気がするわ…」
梨穂子「みんなで色々と話し合ったしね。香苗ちゃんだってあの案、良く思いつたって思うよ?」
香苗「ん~、以前からこんなことやったら面白いかも~なんて考えてたの、実はね」
梅原「ほー、性別反転をか?」
香苗「…なんだか変態さんに思えるから、やっぱ聞かなかった事にして」
梅原「そりゃ無理な相談だ」
梨穂子「くすくす…なんだか純一みたいだね、香苗ちゃん」
香苗「どういうことー!?」
梨穂子「そうなの?」
梅原「おうよ、橘って男は何を考えてるのかさっぱり見当もつかねえ奴なんだ」
梨穂子「…うむうむ、それには同意かも」
梅原「だろ? この前なんてよ、放送室でカギを借りてきて───」
梨穂子「え~! どうしてそんなことに───」
香苗「……」
香苗「……」すたすた…
梅原「──だからよ、アイツには絶対に悩み事を打ち明けちゃ…ん?」
香苗「んっ? どしたの梅原君、話を続けてていいよ?」
梅原「そうか? いや、なんか隣に来たから話でもあるのかなと」
香苗「な、なんでもないよ。気にしないで良いからね」
梅原「…おう、わかった」
梅原「んでもって、話の続きなんだけどよ」
梨穂子「あ、うん。それで純一がどうしたの?」
香苗「………」
香苗(…今はこの距離でいい。近くもなくて、遠くでもない)
香苗(私に話しかけてくれてるわけでもないし、二人っきりで居るわけでもない)
ぎゅっ…
香苗(──だけど、隣で歩けてる。声も聞こえてる)
香苗(私にとっての第一歩は、今この一歩)すた…
香苗(決して見逃しはしない、だって歩きだしたのは私だから)
香苗(一歩一歩、またどんどんと……彼に近づいて行けばいい)
香苗(この二人の距離が、ゼロになるまで)
香苗(なんの後悔もなく、私が貴方に触れる時まで───)
~~~~~
『性別反転ロミオとジュリエット』
絢辻「これで決定よ! じゃあさっそく報告をしに行ってくるから」
「すげーもんが出来そうだな!」
「えー男装するの?」
「でもでも、女装とか面白そう! 化粧するんでしょう?」
「ぐぁー! マジかー!」
香苗「……」ドキドキ
「──どうやら皆も気に行ってくれたみたいだね」
香苗「あ、橘くん…もうなんだろう、気が気でなかったわよ…」
純一「ははっ、どうして? 僕なんて安心しきって寝ちゃってたよ!」
香苗「…それはそれでどうかと思うけど、うん、でも良かった」
香苗「やりたいって──言って、本当に良かったって思ってる」
純一「………」
香苗「え? 変わったって…変なキャラになってる…?」
純一「ううん、そうじゃないよ。ただ雰囲気が変わった…というのかな?」
純一「──前よりもっと魅力的な女の子になったなぁ、って思ったんだ」
香苗「みっ…魅力的ぃ!? わ、私が…?」
純一「そうだよ、今の香苗さんなら大抵の男はころっといっちゃうだろうね」
香苗「ううっ…あんまりそう言う事言わないでよっ…恥ずかしいじゃん」
純一「あはは、そうかな? ホントに思ってるんだけどなぁ」
香苗「…ぅぅっ」
薫「コラ、なにか弱き女子高生を困らせてるのよ。あんたは」
純一「え? 困らせてる?」
香苗「……」
薫「アンタは余計な事は言わなくていいの、出る幕じゃないってことぐらいわかりなさいよ」
純一「えー、なんだよその言い草…」
純一「いたた!」ずりずり
香苗「あ…」
「──なんだなんだ、相変らず元気だなあの二人は…」
香苗「…梅原君」
梅原「おうよ、良かったな無事に決まって」
香苗「あ、うんっ……本当に良かった。みんなも喜んでくれてるみたいだし」
梅原「おう! 全て伊藤さんのお陰だなっ!」
香苗「そ、そんなこと……全然…!」
梅原「んな謙遜するなって、本当の事だろ?」
香苗「…あ、ありがと」
梅原「後はそうだな、役割と担当を決めなくちゃいけねーとなぁ」
香苗「…梅原くんは、まだ何をやりたいか決まったない感じ?」
香苗「…そっか、裏方ね」
梅原「伊藤さんはどうなんだ、そこの所は」
香苗「私は特には……あ、でも梅原君的にはロミオがいいのかね~?」
梅原「うっ、まだ言うか…忘れてくれ! もう!」
香苗「ふっふっふ、いーや。忘れないよ~」
梅原「くっそ…こんなからかわれるなら言わなきゃよかったぜ…」
香苗「まあまあ、そういわないでよ。ね?」
絢辻「──みんな、ただいま」
梨穂子「…よいしょっと」ぽすっ
絢辻「ごめんなさいね、荷物運び手伝ってもらちゃって」
梨穂子「いいよ~。ちょうど部活の話し合いの帰りだったしね~」
純一「それで? 申請は通ったの絢辻さん?」
絢辻「数分で了解を得て来たわ。そして私だけ一人、申請会議を抜けてきたの」
薫「へ? そんなことして大丈夫なの?」
絢辻「当たり前よ、私を誰だって思ってるのかしら」
純一「流石だ…」
梅原「…行こうぜ、なにやら始まるみたいだ」
香苗「うん、そうだね」がたっ
~~~~~
絢辻「文化祭での資金は既に貰ってあるの」
薫「準備いいわね、まだ先の話だって言うのに」
絢辻「元から話をしておいたのよ、資金だけは直ぐに取れる様にしておいてくださいってね」
純一「あー、だからあんなに忙しそうだったんだ…」
梅原「それで? 絢辻さん、この荷物は?」
梨穂子「衣装らしいよ~、以前に文化祭で使われてた奴らしくてね」
香苗「けほっ…すごく埃っぽいっ」
純一「着れるのこれ…?」
絢辻「カビも生えてるでしょうし、それでもいいのなら着てもいいわよ?」
純一「…勘弁してください」
薫「クラスの中に、衣装を作りたいって言ってる子がいるんだけど?」
絢辻「ええ、把握してるわ。これを持ってきたのは別の理由よ」
梅原「あーつまり、参考にしろって話か」
絢辻「そういうこと、もとになるモノがあれば短期間で作れるはずよ」
薫「ひゅ~♪ さっすが絢辻さん、ねー! みんなー! これ見てみなさいよー!」
「うわ、なにこれすっご!」
「きれぇー!」
「きたねえけど、すげえ作り込まれてるな…」
香苗「そういえば絢辻さん、担当とかどうするの? まだ決まってないけど?」
純一「揉めちゃうの?」
梨穂子「揉めると思うよ…」
純一「え? なんで?」
梅原「じゃあ橘、ジュリエットやれって言われたらやるか?」
純一「やらない!」
梅原「だろう」
梨穂子「あ、でも純一のジュリエットとか似合いそう~」
純一「やめろ梨穂子っ…そう言うと本当になりそうで怖いからっ…!」
絢辻「私の独自のアンケートだと、トップは橘くんだったり」
純一「ぐぁー! やだー!」
香苗「あはは、でも、似合いそうだよね橘君だとさ~」
絢辻「当たり前じゃないの、さあ! みんな! ちゃっちゃと決めて演劇の準備に入るわよ!」
~~~~~
絢辻「…これで村人aは決定と」かつ
絢辻「だいたい決まってきたわね、後は───」
絢辻「──お待ちかね、ロミオとジュリエットの役を決めるわよ」
クラス一同『………』
絢辻「…誰かやりたい人は?」
薫「はいはーい! 推薦なんだけど、純一むぐぅっ!?」
純一「な、なんでもないです! 気にしないでください!」
薫「むぅー!」
絢辻「…でも、そうね。自主的に手を上げるのは少し難しいかしら」
絢辻「──では推薦したい人を上げて行って下さい、文句なしの多数決で決めましょう」
絢辻「既に担当が決まってる人は除外してね、
決まってないのはロミオとジュリエットに幾つかの役…あとは裏方の担当ね」
絢辻「どれも演劇には不可欠で、重要な担当よ。それなりの覚悟を要いると考えて頂戴」
香苗「……」
純一「余計な事は言うなよ薫…! お前がやればいいじゃないか!」
薫「無理に決まってるじゃない、あたしはもう裏方担当よ? 化粧係のね!」
純一「それ、絶対に他人を男を化粧して楽しみたいだけだろ…」
梨穂子「…香苗ちゃんはどうするの? まだ決まってないけど」
香苗「うん、そうだね。桜井は?」
梨穂子「私は~……その、実はちょっとロミオを狙ってたりして」
香苗「ま、マジでいってるの?」
梨穂子「やっぱり駄目かなぁ」
香苗「いや、駄目って事無いけど…桜井がやりたいっていうのが、ちょっと不思議でね」
香苗「それに? なんなの?」
梨穂子「…やるなら、後悔をしたくないなぁって」
香苗「…後悔?」
梨穂子「うん、だってそうじゃないかな? 最後の文化祭で、なにか悔いが残っちゃ嫌じゃない?」
香苗「…確かに、そうだわ」
梨穂子「でしょ? 香苗ちゃんだって、絶対にやりたいことをやった方が良いと思うよ」
香苗「…」
梨穂子「ね?」
香苗「……───」
がたっ
絢辻「誰か挙手を──あら、どうしたのかしら伊藤さん?」
香苗「……」
香苗「私、ロミオ役をやりたい」すっ
香苗「ううん、違うのよ」
香苗「──絶対にやりたいの、ロミオ役を」
絢辻「………」
「うぉっ? すげーやる気だ伊藤の奴…」
「でも似合いそうだよね、香苗って」
「男装したらキリッとした良い男になりそうだわ」
薫「伊藤さーん! アタシも推薦するわよー!」
香苗「…え、ホントに?」
薫「勿論! それにアンタも…推薦するでしょ?」
純一「え? いいんじゃないかな、香苗さんってロミオが似合うと思うよ!」
香苗「あはは、それって褒めてるの? 貶してるの?」
梨穂子「あはは、えーと私も香苗ちゃんを推薦しまーす」
香苗「桜井、アンタやりたいって…」
梨穂子「えへへ、えっと…そんな事言ったかな?」
梨穂子「うん? あはは」
絢辻「ということらしいけど、みんなはどう思う?」
絢辻「──やる気は十分、誰よりもあると思う。私も伊藤さんを推薦するわ」
香苗「あ、絢辻さん…」
絢辻「絶対にやりたいんでしょう、ロミオ役を」
香苗「……うん! やりたいのよ私!」
絢辻「結構、じゃあどうかしら皆?」
「いいんじゃね?」
「あたしもさんせーい!」
「伊藤なら全然不自然じゃないよなー」
香苗「だーれだ今、不自然じゃないって言った奴!」
絢辻「ではロミオ役は───伊藤香苗さんに決まりって事で」カツカツ
薫「ピュー! ピュー!」
純一「頑張ってね! 香苗さん!」
梨穂子「香苗ちゃんなら、どんなロミオよりもカッコ良くなると思うよ!」
パチパチパチパチワーワーヒューヒューパチパチパチ
香苗「あはは…照れるなぁ、やめてよ皆」ちら
梅原「…ん?」パチパチ
香苗「んっふふ」ぐっ
梅原「っ……はぁ…」
梅原「…」ぐっ
香苗(やった、返してもらった!)
絢辻「……では、ロミオが決まった所で。この流れに乗ってジュリエットを決めましょうかしら」
純一「──ハイハイ! 絢辻さん!」
純一「違うよ!? 推薦だって言ってたよね!」
絢辻「そういえばそうだったわね、それで誰を推薦するのかしら」
純一「びっくりした……えっとね、実は以前からある男が
ジュリエットに向いてるんじゃないかと思ってたんだよ」
絢辻「ほう」
純一「例えるのなら、そう誰に対しても男気溢れる日本男児であり」
薫「……」
純一「約束の為ならいつだって身体張って気を張って頑張る奴であり」
梨穂子「……」
純一「僕としても大いに尊敬している、そんな男がいるんだよ」
香苗「……」
純一「僕はそんな肝っ玉のある奴をジュリエットに推薦したいんだ!」
絢辻「なるほど、では誰なのかしら?」
梅原「ま、待ってくれ!」
梅原「ひ、非常に嫌な予感しかしねえんだが…橘、それ誰の事を言ってやがる」
純一「え?」
絢辻「まだ誰とは言ってないわよ? ねえ橘くん?」
純一「言ってないけど? …まさか、もしかして梅原自分の事だと…?」
「はっずー」
「梅原ちょっと空気読めよー」
梅原「うるせぇー! な、なんなんだ…絢辻さんと橘!」
梅原「なんだかそこの二人、組んでるような空気を感じるぞ俺は!?」
薫「馬鹿言っちゃ困るわよ、梅原君」
薫「こんな大役を個人の意見で螺子負けるわけないでしょ?」
梅原「だ、だがよっ…なんだか仕組まれてるような気がして…」
「梅原君、ちょっと落ち着きなヨ~」
梅原「ぐっ……確かに、そうかもしれねえな…」
香苗「……」
梨穂子「香苗ちゃん香苗ちゃん」つんつん
香苗「…へ? なに桜井?」
梨穂子「大丈夫だよ、わかってるから」
香苗「な、なにを?」
梨穂子「──これはね、全部絢辻さんが考えた事だから」
香苗「…どういうこと?」
梨穂子「みてれば分かると思うよ」
絢辻「──少し落ち着いたらどうかしら、梅原君」
梅原「お、俺はっ…」
絢辻「いいの、確かにわかってる。橘くんが言っている事は…少なくとも貴方を推薦している事は」
絢辻「だけど、これは只の推薦よ? そう焦る必要はないじゃないの」
梅原「そ、そうだがっ…橘の野郎が言うと、それで決まっちまいそうな気がして…」
純一「僕にそこまでの権限はないぞー?」
絢辻「橘くんが言っている通り、彼にそこまでの権限は無いわよ?」
梅原「っ……」
絢辻「時に梅原君、話は変わるけど……目立っちゃったわね?」
梅原「えっ…?」
絢辻「この場での話よ、えらく梅原くんの存在が表立ってないかしら」
梅原「………」
「…梅原かぁ、面白そうかもな」
「女装とか似合うかな?」
「いけるんじゃない? こう、お嬢様って感じになりそう」
「ぴったりじゃん! いいねいいね!」
絢辻「橘くん、推薦者は誰なの?」
純一「梅原です」
絢辻「わかりましたじゃあこの推薦に賛成の人手を上げてっ!」
ばっ!
絢辻「決定、これにてジュリエット役は梅原正吉くんに決定されました」かつかつ
絢辻「はい、盛大な拍手を送りましょう!」
ぱちぱちぱちぱちぱちぱち!!
梅原「……ってちょっと待てェ! なんだ今のスピード解決!? 置いてけぼりじゃねえか俺!」
薫「うだうだいうなー」
純一「そうだそうだー」
絢辻「…文句なしの、多数決よ? 梅原君?」
梅原「ぐっ…ごっ…!」
香苗「………」ポカーン
梨穂子「おおっ…流石絢辻さん~」
梨穂子「絢辻さんがね、二人にロミオとジュリエットをやらせてあげたかったんだって」
香苗「絢辻さんが…?」
絢辻「! ……ふふっ」パチッ
香苗「……」
梨穂子「そうだよ~、それで純一も色々と考えて今の状況…なんだよね~」
香苗「……」
梅原「くそっ…やりやがったな、橘のやつ…」
香苗「……そっか、はは」
香苗「──梅原くん! 一緒にがんばろうね!」
梅原「うぇっ? ……ぐぉおお! ここまで嵌められちまったらやってやろうじゃねえか!」
梅原「──いいジュリエットを演じてみせるぜ! 俺はぁよぉ!」
香苗「私も頑張るわ!」
ワァーーーーー! パチパチパチパチ!!
絢辻「詳しいことはまた後日に」
香苗「りょーかい」
梅原「…了解」
絢辻「ごめんなさいね、梅原君」
梅原「…悪いと持ってんなら、やらないでくれよ」
絢辻「ふふ、たしかにそうだわ。それじゃあ私はこれから報告書を書かなくちゃいけないから」
絢辻「また明日に」くる…
香苗「えっと、絢辻さん!」
絢辻「…なにかしら?」
香苗「その、さ…なんて言ったらいいのかわからないけど」
絢辻「お礼はいらないわよ」
香苗「っ……で、でも!」
絢辻「だって気まぐれだもの。たいした理由もないし、感謝されるような覚えもないわ」
香苗「……」
香苗「っ……──ありがと! この御恩、絶対に忘れないから!」
絢辻「…大袈裟よ、くす」がらり…
香苗「……」
香苗(…恩が出来ちゃったわね、いつかちゃんと返さないと)
香苗「……」
純一「良かったじゃないか、ジュリエット役」
梅原「なんにもよくねーよっ」
純一「ははっ、そういは言いつつも。実は嬉しいんだろ?」
梅原「このっ…このっ!」
純一「痛い痛い!」
香苗「…くすっ」
香苗「ふぅー」ドサリ
香苗「……ロミオ役、かぁ」
香苗「ふっふっふー、やっちまったぜ~」
香苗「……んきゃー!」ぽふっ
ぱたぱたぱた!
香苗「………ハズい、すっごくハズい」
香苗「はぁ、思わずやりたいって言っちゃった…私ってば本当にどうしようもない…」
香苗「……」
香苗「彼が……ジュリエット役、かぁ」
香苗「……っ……」ドキドキ
香苗「…どうしよ、心臓が強くなる」
香苗「頬が、熱くなっちゃう…」
香苗「……」もぞっ
香苗「…これでよかったんだよ、香苗」
香苗「ちゃんとあれから、一歩ずつ…歩き出してる筈だから」
香苗「あの日から…私は…」
すっ…
~~~~~
香苗「………」
『──俺は! 貴女のことが大好きだ! 今までずっと! 貴女のことしか見て来なかった!』
『部活だってなんだって、貴女に近づけるのならっ…全てをやってきたつもりです!』
香苗「梅原君…」
「おいおい、卒業式になんてやつだ…」
「梅原だろ? アイツ?」
「三年生に告白してるんだよな? 勇気あんなー」
『俺は貴女にこうやって告白することができます! この場であっても好きだと伝えられるんです!』
「在校生の言葉で、なにやってるんだアイツは!?」
「止めろ止めろ!」
『どれだけ抵抗があろうとも! 俺は貴女に伝えたい!』
『──どうか俺と、付き合ってください! お願いします!』
香苗「………っ…」
~~~~~
香苗「───んっ……」
香苗「あれ、寝ちゃったんだ…ふぁ…」
香苗「………」
香苗「…またこの夢をみたんだ、私」
香苗「……やっぱり、忘れられないよね」
香苗「っ…すぐ泣くんだから…」ぐしっ
香苗「流れるんじゃないわよ…なに勝手に悲しんでるのよ」
香苗「───泣く権利なんて、無い癖に…」
香苗「………」
香苗「…頑張らなくちゃダメよ私」
香苗「もう、遠くから見てるのを……やめたんだから」
香苗「今度はもう、あの時の彼を見たくないんだからっ」
香苗「……絶対に」
放課後
絢辻「これ、台本よ」
梅原&香苗「え?」
絢辻「どうかしたの?」
梅原「もう、台本の準備できたのか…?」
絢辻「ええ、早いほうがいいでしょう? こういうのは」
絢辻「別にすべての仕事をやり切るワケじゃないわよ、これはってこと」
梅原「お、おう」
絢辻「台本は少なくとも基盤があるわけだから、そこから少しずつアレンジを加えていけばいいと思うわ」
絢辻「…橘君、貴方もキチンと台本をおぼえるのよ」
純一「僕は少ししか無いから大丈夫だよ」
絢辻「油断してると足元を救われるのが貴方よ」
純一「…厳しい言葉です」
梨穂子「絢辻さ~ん、ここの所どうするのかな~?」
絢辻「はーい、今行くわね。……それじゃ二人共、後は任せたわよ?」
梅原「……」
香苗「……が、頑張ろっか!」
梅原「そうだな、頑張るしかねえよな」
梅原「おー、ロミオ…どうして貴方はロミオなのぉ?」
「ぷーくすくす」
「梅原上手いぞ!」
「もうちょっと女の子っぽく言ってみたら?」
梅原「ぐっ、うっせーな!」
香苗「…っ…っ…」ぴくぴくっ
梅原「そして一番笑いすぎだ伊藤さん!」
香苗「ご、ごめっ…ちょ、ちょっとツボに入って…はははっ!」
梅原「ったく」がしがし
梅原「俺だって恥ずかしいのを我慢して言ってるんだぞ? そこの所をもうちっとだなぁ…」
香苗「う、うんっ…ごめ、ごめんねっ…わかってるん、だけどっ……くひっ…!」
梅原「はぁ~、まあ、これが狙いだから仕方ねえけどよ」
香苗「あははっ! やっぱだめだわ! ごめんね梅原っ…くんっ…あははは!」
香苗「ご、ごめんねっ…くすくすっ…いや~、ここまでツボるとは予想外だわ~」
梅原「俺も予想外だよ…演技でコレなら、本番で女装したらどうなるんだ…」
香苗「ぶふぅっ!」
梅原「想像して噴出すんじゃねえっ」
薫「ねえねえ、アンタ達。ちょっといいかしら?」
香苗「ど、どしたの…けほっ……棚町さん?」
薫「あのね、少し化粧してどんなもんか確かめておきたいのよね」
香苗「っはぁ……あ~、化粧の伸びとか?」
薫「そそそ。出来れば肌に合うのを使いたいじゃない? でしょ?」
香苗「まあね」
梅原「お、俺は本番だけで十分だ…!」
薫「ダメよ、こっちは男に化粧は初めてなんだから。慣れておかないと」
梅原「…そっちの実験台を使い続ければいいだろ」
純一「うん?」
「あ、コレも使ってみない?」
「いいねぇ、これも使おうよ!」
純一「ふふん、よくわからないけれど綺麗にしてくれるって言うからさ!」
梅原(馬鹿だ…)
薫「足りないのよ純一だけじゃ、他の男子も嫌がってやらせてくれないし~」
梅原「俺だって嫌だ!」
薫「そんな事言わないでよ、ね? ジュース奢ってあげるから!」
梅原「ジュース一本と男のプライドを踏みにじるのは一緒かよ…」
香苗「梅原君、してみればいいじゃん。色々とイメージがつきやすくなるかもよ?」
梅原「…イメージ?」
香苗「そうそう、いきなり女の役をやれって言われても。
簡単に慣れるわけじゃないし、そしたら身体から女の子になってイメージを持ちやすくするのよ」
香苗「──そうすれば今よりは上手く、ジュリエットになりきれると思ったりするよ?」
薫「そそそ! 伊藤さんの言うとおりよ梅原君! イメージよイメージ! それを大切にしていきましょ!」
梅原「…本気でそう思ってるのか? 信じるぞ? 信じちまうぞっ?」
伊藤「もちろん」
梅原「……ぐぬぬ───わ、わかった棚町…よろしく頼む」
薫「おっけ、まっかせないさーい」
薫「あはっ」ぐっ
香苗「んっ」ぐっ
梅腹「…どうしてそこで親指を立て合うんだよ、
やっぱ普通に化粧させたいだけ──ひ、ひっぱるなよっ…」
梅原「…へ、ここに座るのか? ま、まってくれ! いきなりなにをっ……うぁあああー!」
香苗「おおー手早い対処ー」
~~~~
「橘くぅーん、こっちみて! あははは!」
純一「こうかな」キリ
「こっちこっち!」ぱしゃぱしゃ
梅原「ううっ…」
薫「──いやー、見事に女の子に出来たわ~」
香苗「っ……っ…っ…」ぷるぷる
梨穂子「笑いすぎだよ、香苗ちゃん~」
香苗「だ、だって梅原君もっ…橘君もっ…似合いすぎだからっ…なにそれ、ほんとっ…!」
香苗「ころされっ…る…助けて、桜井っ…!」
梨穂子「あはは、確かに似合い過ぎだよね~」
薫「そりゃー頑張ったもの、というか、頑張った程度で似合うランクまで行くあんたら何者なのよ」
梅原「知るかっ!」
純一「ほほう…なるほどなぁ、女装ってこうやってなれるのかぁ」
「このカツラとかつけてみる?」
純一「お、いいねぇ。本格的じゃないか、どれどれ」
香苗「ぶっはぁー!」
薫「似合っててムカツク」
純一「…どういうことー」
梨穂子「かわいいよ~!」
純一「ありがとう! 梨穂子!」
梅原「い、いや! 俺はカツラいらねえから!」
「いいからいいから、ね?」
「つけてみなって~」
「……梅原、お前のことは忘れない」
「ひとまず生贄になってくれ」
梅原「うぉい! 結局お前らもやらされるんだからなっ!?」
パサ…
香苗「……」
梅原「…な、なんだよ伊藤さん…」
香苗「ぶはっ」
香苗「ひっ…はっ……くっ……」
薫「本気で大丈夫かしら…」
梨穂子「息出来てるの? 香苗ちゃん…?」
香苗「ひっは…ひっは……くひっ」
純一「…過呼吸じゃないよね、これ」
梅原「なわけ無いだろ、過呼吸なら倒れこんでもおかしく──」
香苗「きゅはっ……くぅー」バタリ
梅原「──倒れたぁー!!」
薫「やばっ…保健室連れて行くわよ!」
梨穂子「香苗ちゃん! 香苗ちゃん!?」
純一「梨穂子落ち着いて──まずは好きな食べ物を数えるんだ、いいな?」
梨穂子「シュークリームが一個、2個、3個、えへへ~」じゅる
薫「馬鹿なことやってないで連れて行くわよ!」
純一「僕も付いて行く! 他の人は絢辻さんに報告しておいて、後先生にも!」
薫「私も行くわよ! 桜井さんお願い!」
梨穂子「わ、わかったよっ」
~~~~
香苗「う、う~ん……」
香苗「…はれ? ここは?」もぞっ
香苗「……」
香苗(消毒液の匂い…それにシーツ…)
香苗「保健室? どうして私ここに…」
香苗「…ん?」ちら
梅原「すぴー…すぴー…」
香苗「…梅原君」
梅原「すぴ……うっ…」ビクン
香苗「…!」びくっ
香苗(お、起きたと思った…)
香苗「というか私、どうして…」
香苗「…あ、そっか。笑いすぎて息が段々できなくなってから」
香苗「……それでぶっ倒れちゃったような、くぉ~…私…ったら何をしてるのよ…」
香苗「………」
香苗「…梅原君、もしかしてずっと見ててくれたの?」
梅原「すぅ……すぴー…」
香苗「……」
香苗(何だか、腕が暖かいような気がする…誰かに握られてたような…)にぎにぎ
香苗(まさかね、そんなわけない。だって、それは……)
香苗「……梅原くん?」
梅原「すぴぃ……ふへへ…」
香苗「………」
梅原「むにゃむにゃ…」
香苗「……」
香苗「こんなところで、座ったまま寝たら風邪……引くよ」
すっ…
香苗「身体冷えちゃうし、それに……」
すすっ…
香苗「……それに」
すっ…
梅原「すやすや…」
香苗「……」
ぴと
香苗「それに……そんなに無防備だと、キス…されちゃうよ…」
香苗「……っ…」ドキドキ
香苗(…だめ、そんなことして嫌われちゃったら身も蓋もない)
香苗(私は決して彼を傷つけたいわけじゃないんだから、ただ私は…あの時の梅原くんを見たくないだけ)
香苗(遠くから見てるだけなんて、そんな後悔をしたくなくて)
香苗(ただ近くで…貴方を見ていたいだけ…)
香苗「…だけど」
梅原「すぷゅぅ……すぅー」
香苗「………」ドキドキ…
香苗「……ごめんね、今の私はどうも…コレ以上…」ドキ…
すっ
香苗「──我慢、出来ないと思う…から」
……ちゅっ
香苗「──……」すっ…
香苗「…ぁ……」
香苗(…唇が凄く熱い)
香苗(自分のじゃない熱が唇に残ってる…)
香苗(私、しちゃったんだ……彼にキスを…私)
~~~~
『───貴女がいるから……よね』
~~~~
香苗「っ!」びくっ
香苗「あっ…わた、し……っ」
梅原「──ぅあ? はっ!? やべ、寝てた!」ジュル
香苗「………」
梅原「おおう、起きたのか伊藤さん? すまねえ、なんか俺寝てて…伊藤さん?」
香苗「……」ぽろぽろ…
梅原「ちょ、ちょっと伊藤さん…? なんで泣いてるんだっ?」
香苗「…ごめん…っ」ぎゅっ
香苗「ごめんね…私、私またやっちゃった…」ポロポロ…
梅原「はいっ? 何言ってやがんだオイオイ。まだ苦しいのか?」すっ…
香苗「………っ…」ぎゅうっ
梅原「苦しいなら無理するなよ……ほら、大丈夫か」さすさす
香苗「………ごめんね、梅原君…」
梅原「謝るなよ、気にすんなって…先生呼んでくるか? 平気なのか?」
香苗「うん、うん……ぐすっ」
梅原「おう…」さすさす…
香苗「………」
~~~~
香苗「…あはは、ごめんね。急に泣いちゃってさ」
梅原「おーびっくりしたぜ、でも今は平気なんだろ?」
梅原「あらかた帰ったと思うぞ。まあ何人かは文化祭準備で残ってるかも知れねえが」
香苗「そっか」
梅原「…悪いことをした、とか思ってるんじゃねーだろうな?」
香苗「えっ?」
梅原「別に倒れたからって、雰囲気壊れてなんかいねーからな?
むしろあのクラスは盛り上がったわ、死んだ伊藤さんの為に頑張るぞ! …みたいな感じでよ」
香苗「死んでない死んでない、でも…そっか。うん、ありがと」
香苗「安心した、その言葉を聞いてね」
梅原「ったくよー、笑い過ぎで過呼吸とか普通有り得ないだろ。何やってるんだよ伊藤さん」
香苗「…あはは、なんだろ。やけにツボに入ったんだよね」
梅原「そんなに面白かったのか…俺らの女装姿…」
香苗「くすくす、うん! 稀に見ぬ似合いっぷりで」
梅原「…はっは、そりゃすげーぜ」
香苗「…ふふっ」
香苗「…? どうしたの梅原君?」
梅原「あ、いやっ……大したことはねえけど」
梅原「一つだけ、伊藤さんに言っておこうと思ってな」
香苗「え?」
梅原「お、俺はよっ…その~」ポリポリ
梅原「演技がさ、すっげー苦手なんだ…実は…」
香苗「……」
梅原「ほら! 昔っから嘘とか苦手でさ、よく橘にも騙されたりなんかしてさ…!」
梅原「……まあ、なんていうか。すっげー不安なんだわ、ジュリエットの役」
香苗「…それで?」
梅原「もしかしたら……伊藤さんにはこれから迷惑をかけるかもしれねえってことだ」
香苗「別に私は…だって誰だって演技をしろって難しいじゃん、でしょ?」
梅原「…まあな」
香苗「……」
梅原「初めてだからって、苦手だからって、んなもんで言い訳してる場合じゃねえんだ」
梅原「最後の最後の文化祭だ、みんなだって驚くほどヤル気を出してる」
香苗「…そうだね、うん」
梅原「だろ? だったら俺も本気でやんねーとダメなんだ、例えジュリエット役だったとしてもな」
梅原「──俺は後悔なんてものを心に残して、卒業するのだけは嫌だから」
香苗「……すごいな、梅原くんは」
梅原「なんでだよ、ただの頑固者だけだ」
香苗「ううん、凄いって。みんな真似できないよ、そんな強い所はさ」
梅原「そ、そうか? はは、照れちまうなそう言われると…」
香苗「……」
梅原「ん?」
香苗「私と梅原君、二人で秘密の特訓……してみる?」
梅原「秘密の特訓?」
香苗「そう、演技が苦手な梅原くんのために。私と二人でどこか河原とかで練習するの」
香苗「…二人だけだと、ほら。色々とやりやすくない?」
梅原「まあ、確かにそうだな」
香苗「どう? やってみる?」
梅原「……」
香苗「……」ドキ…
梅原「──うっし、やってみっか! 秘密の特訓とやらを!」
香苗「え、本当に?」
梅原「オウヨ、不安がってる今よりちっとは良くなりそうな気がするしよ」
梅原「どーしてだ? …もしかして」
香苗「えっ!?」
梅原「──伊藤さんも、実はロミオ役が不安だったオチか?」
香苗「……」
梅原「ははっ、俺と一緒か! んじゃ頑張ろうぜ二人でよ!」
香苗「……ばか」もぞ…
梅原「って、おい。伊藤さん? どうして毛布の中に戻るんだ…? おーい?」
香苗「……」
梅原「伊藤さ~ん?」
香苗「……バカ…」
香苗「……私の、馬鹿」ぼそっ
がら…
絢辻「失礼します」
梅原「ん、おう絢辻さん」
絢辻「…あら? 貴方だけ?」
梅原「まな、伊藤さんか?」
絢辻「ええ、そろそろ最終下校時間だから」
梅原「なるほどな、あ~伊藤さんなら先に帰ったぜ、親御さんが迎えに来てよ」
絢辻「了解したわ、じゃあ梅原くんは何をここで呆けているの?」
梅原「うっ…」
絢辻「まさか文化祭の準備をサボってる訳じゃあ」
梅原「ち、ちげーよ! って、違います。本当にそんなつもりはなねえからさ…」
絢辻「じゃあ理由はなんなの」
梅原「……れ、練習してたんだよっ」
絢辻「練習?」
絢辻「本番はもっと大人数に見られるから、今のうちに慣れておかないと」
梅原「ぐっ…だがよ! 今はその、台本を覚えなきゃいけないだろ? 集中力ってのは大切な筈だぜ?」
絢辻「時に慣れない現場だと、どれだけ時間を掛け覚えた記憶も、ふとしたきっかけで全て忘れるわ」
梅原「…勘弁して下さい、絢辻さん」
絢辻「ふふっ、つまらない言い訳をしたお返しよ」
梅原「……お見通しってわけか、敵わねえな絢辻さんには」
絢辻「もちろん、伊藤さんが帰ったのなんて嘘でしょ?」
梅原「……」
絢辻「お手洗いに行っているか、もしくは他のところへ行っているか。
どちらにせよ梅原くんが伊藤さんの帰りを待ってることぐらい、見てわかるから」
梅原「…まいった、降参だ」
絢辻「正直で結構、だけど早く帰ってちょうだいね? 私も戸締りして帰るつもりだから」
梅原「わかった、すぐに買える支度するぜ」
絢辻「ありがと、ふふっ」
梅原「あー、ちょっと待ってくれ絢辻さん」
絢辻「ん、なにかしら?」ちら
梅原「…少しだけ、話したいことがあるんだが」
絢辻「話し?」
梅原「おう、少しの時間でいいからよ」
梅原「───あの卒業式のことについて、『また』話しをしたいんだ」
絢辻「………」
~~~~
香苗「…ふぅ、よかった間に合った」
香苗「カバンカバンっと、あった。私のと梅原くんの」ぎしっ
香苗「よし、これからどこか広いところでも行って練習───」
「──あれ、香苗さん?」
純一「元気なったの? よかった~」
純一「ううん、香苗さんが来にすることじゃないよ。寧ろあのあと、僕ら凄く怒られたし」
純一「──あなた達の格好は、もはや凶器よ! 扱いには注意しなさい! って絢辻さんに…とほほ」
香苗「凶器って、くすくす。確かにそうかもしれないね~」
純一「香苗さんまで……でも、それほどのインパクトが
あったほうが本番でもバッチシだろうね、きっとさ」
香苗「あったりまえじゃん! だからもっともっと可愛くならなきゃだめだね~」
純一「どうしよう、僕の可愛さには限度がないのだろうか…」
香苗「あはは」
純一「ははっ、おっと…そういえば誰か待たせてるの? カバン2個持ってるしさ」
香苗「え? あ、うん。梅原くんを保健室に…」
純一「梅原を? そうか、ずっと寝てた香苗さんを見てたのか……なにか悪戯されてないよね? 大丈夫?」
香苗「えぇっ!? だ、大丈夫って思うけど…?」
裏では何を考えてるかわからないからね。きっとそれは…口ではいけないことをドロドロと…!」
香苗「ま、まかさ…というか橘くん、あれだけ良い奴だってジュリエット役に推薦してたじゃん」
純一「え? まあ絢辻さんが言えって言ったから、僕は言っただけだよ」
香苗「へ? えっと、特になにも…橘君的に思うことはなく?」
純一「うん、丸々絢辻さんが言った言葉を言っただけだね」
香苗(もしかして、気づいてないの? 私の…彼への気持ちとか)
純一「?」
香苗(あー……気づいてないっぽい、絢辻さんよく振り向かせられたなぁ…この橘くんを…)
純一「…なにか良くないことを思われてる気がする」
香苗「う、ううん! そんなことないってっ」
純一「本当に?」
香苗「ホントホント!」
純一「ならいいけど、よし。元気そうな香苗さんも見れたことだし、教室の戸締りするよ」
純一「うん、僕も香苗さんと同じで絢辻さんを待たせてるからさ、早く家に帰ろうよ」
香苗「ええ、そうね」
保健室前廊下
純一「……ん、あれは」
香苗「あれ? 梅原くんと……絢辻さん?」
絢辻「…」
梅原「…」
純一「……なんだろう、変な雰囲気だ」
香苗「えっ? そ、そうなの?」
純一「うん、何となくだけどね…多分アレは絢辻さん、怒ってる…?」
香苗「怒ってる? 梅原くんにってこと?」
純一「………」
香苗「…橘くん?」
香苗「え、ちょ、ちょっと橘くんっ…!?」
たったった
香苗(な、なんなのよ……怒ってるって、絢辻さんどうして梅原くんに…?)
香苗「っ……私も気になるじゃんっ」だっ
絢辻「──ホラきたわよ」
梅原「……」
純一「…絢辻さん、落ち着いて」
絢辻「貴方は黙ってなさい、今は梅原くんと会話してるの」
純一「黙ってられないよ、絢辻さんが怒ってるんだ。訳を知る権利は、僕にだってあるはずだよ」
梅原「……」
香苗「えっと…なにがあったっていうの…?」
梅原「…なんでもねえよ」
純一「…梅原、なんて声出すんだよ。びっくりしてるじゃないか、香苗さんが」
梅原「……」
絢辻「ねえ梅原くん。なんでもなくは無いでしょう、
私に聞くぐらいなら、一番あやしい人に聞くべきじゃなくて?」
梅原「…だから俺の勘違いだった、で、終わりでいいだろうが」
絢辻「良くないわよ、変に疑われたまんまだと気持ち悪いわ」
絢辻「貴方だってわかってるんでしょう? …伊藤さんが一番怪しいのだと」
梅原「……」
香苗「わ、私…? なにがどうなってんのっ?」
純一「…梅原?」
梅原「──はぁ、なんだよ本当に…こんなつもりはなかったっていうのによ…」
絢辻「……」
梅原「なあ、伊藤さん。覚えてるか?」
香苗「なにが…?」
梅原「──俺が卒業式で、先輩に告白した時のことだよ」
香苗「っ……」
梅原「まあ誰だって忘れることは出来ねえよな、今になっても誰だって覚えてる」
香苗「…覚えてるけど、それがどうかしたの?」
梅原「おう、あのあと直ぐにきっぱり断れたろ?」
梅原「『──ごめんなさい』ってな、覚えてるか?」
香苗「うん、覚えてる」
梅原「んだからって何のことも無いんだけどよ、実にその通りだし、なんの意味も篭ってない」
梅原「…だけどな、実はあのあとこっそりまた──先輩に会ってるんだ、俺」
香苗「………」
梅原「卒業式が終わって、先輩が一人の時を狙って、もう一度会いに行ったんだ」
梅原「…卒業式での謝罪を込めて、話をしにいったんだ」
絢辻「……」
梅原「──その時よ、実はもう一回だけ……考えてみてくれないかって、言っちまったんだ」
純一「…情けないな、梅原…」
梅原「わかってるよ、言ってくれるな。だけど、やっぱ後悔が残っちまってたんだよ……ちっとばかし」
梅原「きちんと二人っきりで先輩の話を聞きたかったんだ、
どうして、なんて聞いちまえばもっと辛くなるのはわかってたけどよ」
梅原「──そしたら先輩は、こう言ってくれたんだ」
『──四時にここで、待ち合わせ。そこで話しをしよう』
梅原「ってな」
絢辻「……」
香苗「……」
梅原「…いや、何も話してねえよ」
純一「え?」
梅原「《すっぽかされたんだ、約束の時間が過ぎても、夜になっても先輩は来なかった》」
純一「っ……!?」
梅原「…おうよ、すまねえな。橘、こんな話しを聞かせちまって」
純一「梅原……お前…」
梅原「同情すんなって、本当に情けなくなっちまうから」
純一「……」
梅原「…だけどよ、俺は信じられねえんだ。あの先輩が約束の場所に来なかったことが」
梅原「どうして、なんでだって、いくら考えても分からなかった」
梅原「…泣きてえのに、全然泣けねえんだ。何が起こってるのかちっとも頭が理解しやがらねえ」
梅原「──そうしてるうちに、ふと、思いついたんだ」
梅原「俺と合う前に、誰か先輩と会ってたんじゃねえかって」
梅原「──もしくはその他の誰かに、俺への言付けを頼んだんじゃねえかってな」
絢辻「…それで私を疑ったというわけ、なんて言ったって、あの卒業式で梅原くんが告白するように」
絢辻「手配したのは全て、私がやったことだもの」
純一「あ、絢辻さんがっ?」
絢辻「ええ、それなりに対価は貰ったわよ。大いにね」
梅原「……」
絢辻「だけど、私は卒業式内でのことはやってあげると言ったはずよ」
梅原「ああ、あれは確かに俺の独断だった。絢辻さんは関係ねえよな」
絢辻「……」
純一「ちょ、ちょっと待って! とにかく約束の場所に先輩が来なかったことはわかったけど…!」
純一「──どうして、香苗さんが怪しいの…っ? 全然、関係無いじゃないか!」
純一「だ、だよね? 香苗さんは別に関係ないよね…?」
香苗「………」
純一「…香苗さん?」
梅原「やっぱり、なにか知ってんのか。伊藤さん」
香苗「っ……」
梅原「…んだよ、やっぱりそうか。はぁ、あの人は本当に…」
香苗「……」
梅原「…すまねえ伊藤さん、あの人はなんて言ってたんだ?」
梅原「どういう経緯であの人が伊藤さんに言付けを頼んだかは、わからねえけど」
梅原「どうか教えてくれ、先輩は俺になんて言ってたんだ?」
香苗「…」
香苗「……《もう大丈夫》って言ってたよ、先輩は」
梅原「…そっか、先輩はそういってたか」
絢辻「……」
純一「大丈夫って…」
絢辻「…もういいわよね、私たちは行くわよ」
梅原「すんませんした。変に疑っちまって」
絢辻「いいわよ、それよりちゃんと話を聞いておきなさいよ」
絢辻「──文化祭に支障をきたさないよう、しっかりとね」
香苗「……」
絢辻「さあ、帰るわよ橘君」ぐいっ
純一「えっ? でも…!」
絢辻「いーから、早く!」ぐいぐいっ
純一「う、梅原ぁー! 香苗さーん! 喧嘩はしちゃだめだよー!」
香苗「………」
梅原「場所移すか、近くの公園でもいいか?」
香苗「…うん」
公園
梅原「……その、な」
香苗「……」
梅原「他に先輩は何も言ってなかったのか?」
香苗「…それだけ、特に何も言ってなかった」
梅原「そうか、そうだろうなぁ」
香苗「……」
梅原「──いやー! あんがとな! すっきりしたぜ!」ぱんっ
梅原「まっさか本当に伊藤さんが先輩の話をきいててくれてたとはよぉ~!」
香苗「…梅原君」
梅原「おう、なんだ伊藤さん!」
香苗「…どうして、怒んないの」
梅原「へ? 怒る?」
香苗「…さっきの絢辻さんの時みたいに、どうして私に怒ったりしないの」
梅原「怒ったりしないのって……そりゃ、起こる必要がないからだろ?」
香苗「っ…だ、だって今まで! ずっと黙ってたんだよ私…っ?」
梅原「……」
香苗「ずっとずっとっ…梅原くんにとって大切な言葉を、私だけが一人で隠し持ってた…!」
梅原「…伊藤さん」
香苗「それなのにっ……私、私はっ…!」ぎゅうっ…
梅原「……」
梅原「…いいって、気にすんなよ。伊藤さんは悪くねえから」
梅原「いーや、悪かねえよ。……悪いのはあの先輩だ」
香苗「…っ…!」
梅原「俺は怒ってやりたいんだ、先輩に。どうして俺に言わずに、伊藤さんに言付けを頼んだのかってよ」
梅原「そんな重たい責任を、どうして伊藤さん何かに背負わせたのかってよ!」
香苗「梅原くん…」
梅原「…だけど、あの人は理由なしにこんな無責任な事はしねえ。絶対だ」
香苗「……」
梅原「今は先輩と簡単に会話できるような状況じゃない、
今直ぐにでも理由を聞きに行きてえが我慢しなきゃいけない」
梅原「とにかくいまの現状で、伊藤さんが悪いってことは…絶対にないからな」
香苗「でも…」
梅原「でももクソもねえよっ! 伊藤さんっ!」
香苗「っ…」
香苗「…それはっ…」
梅原「わかってるよ、俺ってば振られてから……ちょっと低飛行気味だったろ?」
香苗「……」
梅原「まあ原因は先輩が来てくれなかったことだったけどよ、だが、あの時に…」
梅原「…伊藤さんが正直に言ってくれてたら、もっと落ち込んでたと思う」
梅原「裏切られたって思ってた気持ちは治るだろうけどよ、
それでも…振られて荒んでた気分は更に悪化してたと思うぜ?」
香苗「……」
梅原「あんがとよ、嬉しかったぜその気遣い。そしてごめんな、変に気苦労させちまってよ」
香苗「……っ…」
香苗(…嘘つき、本当は教えて欲しかったくせに…)ぎゅっ…
梅原「んーーーーーーーーーーー! くっそー! やっぱ振られちまってたかぁ~! だよなって思ってたぜ~!」
梅原「はぁーあ──」ぎゅっ
梅原「──後悔したくない、なんて言い訳だろ…そんなのっ…ただの諦めが悪いだけじゃねえかっ…」
梅原「くそがっ…くそっ…!」
香苗「………」
~~~~
絢辻「どうして伊藤さんが怪しいと分かったのかって?」
純一「…うん、確かに香苗さんは認めたけど。
それでも外れてたらどうするつもりだったの?」
絢辻「…はあ」
純一「え? どうしてため息をつくのさ…」
絢辻「本当にわかってなかったのね、
相変わらずきっかけがないと本当に頭が働かない人だわ」
純一「む」
絢辻「拗ねないの、だって本当のことじゃない」
絢辻「ええ、余計なことをする前に釘を差しておくわ。きちんとね」
絢辻「──ここ数日の伊藤さん、変じゃなかったかしら?」
純一「え…?」
絢辻「そうね。わかりやすく言えば…そう、文化祭の準備が始まるぐらいの時期ね」
純一「……」
絢辻「やけに前に出てくる節がなかった?」
純一「…そういわれれば、そうかも知れない」
絢辻「でしょう、それに梅原君のこと」
純一「梅原?」
絢辻「ええ、伊藤さんは特に梅原くんの前に出たがってるように思えたのよ」
純一「うーん…」
絢辻「言い換えれば、『梅原くんの役に立ちたいと感じる立ち振舞』ね」
絢辻「──恋するオトメ、のようだったと?」
純一「そうそう! それだそれ! やっとすっきりした…って恋!?」
絢辻「いやいやちょっと待ちなさい、そこもう驚くところじゃないわよ」
純一「そ、そうなの…? えっ! でも香苗さん梅原にっ…?」
絢辻「まあ、確かにそう思わせる雰囲気だったわよね。だけど…」
絢辻「…私が思うに、もっと伊藤さんはガッツリ向かう性格だと思ってる」
絢辻「自分の恋には、正直に、熱く燃えるように走っていくような気がするのよ」
純一「…うーん、女の子はわからないよ? どんな顔だって持ってるし…」
絢辻「…誰を見てそんな事言ってるのかしらねぇ」
純一「は、ははっ…どんな絢辻さんだって愛してるってことだよ!」
絢辻「…ま、まあいいわ。それなら」
絢辻「とにかく私は伊藤さんがらしくないと思ってた、まるで出そうになる感情を押しこらえてるような」
絢辻「──恋することを、頑張って押し留めてるような。そんな頑張りを感じたの」
純一「恋することを、押し止める頑張り…?」
絢辻「そう、例えばこの私とあなたの距離」
絢辻「…どう思うかしら?」
純一「近いよ、ちょっと緊張するぐらいに」
絢辻「私もよ、だけど伊藤さんはこれを…決して近づけないようにしてるはず」
純一「……」
絢辻「きっと、できれば、いつかは、未来に。──そうやって今から始めようとはせず」
絢辻「…将来はこの距離を近づけられるのだと、自分を騙しこんで」
絢辻「梅原くんのために、役に立ち続けようと思ってると」
純一「…そういわれれば、そうだったかもしれない」
絢辻「多分、それは…後悔してるんでしょうね」
絢辻「──梅原くんの先輩から貰った言付けを、言えなかったことに」
純一「……」
絢辻「伊藤さんはそれをずっと後悔してる、だからこそ、梅原くんにあそこまで頑張るのよ」
絢辻「──不自然な恋の頑張りを、ね」
純一「…絢辻さん」
絢辻「無理よ」
純一「まだ何も言ってないじゃないか」
絢辻「言わなくたってわかってる、私達にできることなんてなにもないわ」
純一「そ、それでも! 可哀想だよ…! そんなの、僕は…!」
絢辻「見過ごしなさい、絶対に」
純一「どうしてさっ」
絢辻「私達まで後悔することになる」
絢辻「…出来るっていうのかしら、本当に?」
純一「っ…絢辻さん!」
絢辻「出来るわけない、わかってるでしょう。私たちは幸せになったばかりよ」
純一「…だけど」
絢辻「人の幸せを願うには早すぎる。それに、
手を出していい問題でもないことをわかってちょうだい」
純一「……」
絢辻「…それにね、橘くん。もう遅いわよ、きっと」
純一「え…?」
絢辻「もう既に伊藤さんは決断をしてるはずよ、バレてしまったからには…きっとそう思ってるはず」
純一「絢辻さん…? ど、どういうこと…?」
絢辻「さあ? …でも、私たちは明日に分かるはず」
絢辻「──あの二人は今日、覚悟を決める筈だろうけど」
香苗「───梅原君…」すっ…
梅原「っ…すまねえ、ちっとどうしようもなくなっちまってさ…」
香苗「……」
梅原「これじゃあ…はは、文化祭でも迷惑かけちまいそうだよな、俺…」
香苗「……」
梅原「すまねえな、俺って本当にどうしようもない───」
どがっ!
梅原「──痛っ!?」
香苗「はぁっ…はぁっ…」
梅原「えっ? あれ? い、伊藤さん…? 今、背中殴った…よな?」
香苗「うじうじするなッ! 梅原正吉ッ!」
香苗「アンタがそんなんでどうするのよッ! いっぱいっぱい、なんで頑張ろうとしないのよ!!」
香苗「頑張ったんだよね!? その人のために、好きでありたいって頑張り続けたんだよね!?」
香苗「それなのにっ…たった二回振られただけで、諦めちゃっても言いワケ!? ねえそうなのッ!?」
梅原「い、伊藤さん…?」
香苗「アンタはっ…! そんなヤツじゃない! 私はそれを知ってるよ!!」
梅原「っ…」
香苗「あの時の先輩はっ……きっと本当に梅原くんを思ってたはず!」
香苗「だけどやっぱりッ…なにかしらの理由があって頷くことが出来なかったかもしれない!」
香苗「それを簡単に確かめることができないってッ…言わないでよっ! 弱虫! ばかっ!」
梅原「……」
香苗「あ、アンタはっ…後悔してるわけでも、諦めが悪いわけでもないよそれ!!」
香苗「──答えを知ることを逃げてる!! 今の梅原くんはただの弱虫だもん!!」
香苗「ばかっ…! 言わないでよ、そんな事っ…!」ぼろぼろ…
香苗「そんなの、駄目じゃんっ…きっと、そんなのっ…梅原君が…」
香苗「…可哀想でしょっ…! ぐしっ」
香苗「っはぁ…ふざけないでよ、そんなの許さないんだからっ…!」
梅原「え…」
香苗「絶対絶対、許さないっ…あーもう! コレでよかったんだよ最初から!」
香苗「……告白するよ、また先輩に」
梅原「こ、告白って……まさか三回目をしろってか!?」
香苗「あったりまえじゃない! 絶対にさせてあげるんだから!」
香苗「…梅原くんにまだ悔いが残ってるって、思ってるんだったら!」
香苗「──その気持はちゃんと相手に届けなきゃ、いけないんだよ絶対に!」
梅原「ど、どうやって…だよ?」
香苗「──文化祭がある」
梅原「っ…文化祭の劇で、やれっていうのか…? ムリムリ!」
香苗「…無理じゃない、梅原くんならきっと出来るよ」
梅原「ど、どうしてだよっ…俺はもう先輩のことは諦めようとしてるんだぜ…?」
香苗「じゃあ、ポケットに入ってる生徒手帳の…中の写真、今ここで破って見せて」
梅原「っ……何で知ってるんだ…!」
香苗「いいから」
梅原「ぐっ…わ、わかったよ! 破けばいいんだろっ? なんだよ…」すっ…
ぺら
梅原「…コレを破けばいいんだな、そしたらその意味のわからねえ目的をやめてくれるんだな?」
香苗「うん…ぐすっ…」
梅原「んなの、簡単に決まってらぁ……」ぐっ…
梅原「……あれ?」
梅原「く、くそっ…そんな訳──」
香苗「──結局はそうなんだって、梅原君」
梅原「ち、違う…俺はもう…!」
香苗「違うもんか、それがアンタの答えなんだよきっと」
香苗「──先輩のことを諦めきれてない、それが梅原くんの答えだって!」
梅原「っ……」
香苗「だったら…立ち向かわなきゃ、ちゃんと現実にさ!
逃げないで男らしく突っ込んでいきなよ! 前みたいに!」
香苗「男がグジグジと悩んでんじゃないやい!!」
梅原「っ───……」
香苗「はぁっ…はぁっ…平気だよ、私もちゃんと付いててあげるから…」
香苗「ね? だから…」すっ
香苗「頑張ろうよ、今度こそ…キチンとスッキリさせよう梅原君?」
香苗「…大丈夫だから」ぎゅっ
香苗「この手に握ってる、写真の人は……必ずアンタにとって大切な人になる」
梅原「……」
香苗「きっと、そうなるから」
梅原「…なんで、そこまで…」
香苗「うん…?」
梅原「俺の為に…やってくれるんだ…?」
香苗「ぐすっ…えへへ、なでかってそれは……」
香苗「……私がロミオ、だからじゃないの? ねえ、ジュリエット」
梅原「……は、はは、なんだよそれ…」
梅原「ロミオだから…手助けしてくれるのか? 俺のことを?」
香苗「そうだよ、なんか文句でもあるの? うん?」
梅原「……無い、全く無いぜ」
香苗「ふふっ、んじゃ決まりね!」
香苗「…三回目の告白、絶対に成功させるわよー!」
梅原「…おう」ぎゅっ
香苗「声がちっさーい! おー!」
梅原「お、おー!」
香苗「おー!」
~~~
その日、夢を見た。
遠い記憶の片隅に、だけど忘れることの出来ないモノで。
ただひたすらに、その時の私は焦っていたことを覚えてる。
香苗「はぁっ…はぁっ…」
何故そこまで息を切らしていたのだろう。
何故そこまで急いでいたのだろう。
一体何時の記憶なのか、今の私には少しも分からなかった。
香苗「はぁっ…だめだ、もう間に合わない…」
何度見返したのだろう腕時計を確認し。前方へと視線を向ける。
先には白い霧しか無く、目指しているものなんてちっとも見えはしない。
香苗「っ……」
焦燥がゆっくりと、諦めへと変わっていく。
もう私だけの力では無理だ。この霧は晴れ渡すことなんて出来ないのだから。
───その時、風が吹いた。
立ち込めていた霧は急激に一掃され、私の視界はよりクリアのものになっていく。
「……」
霧が消え去った先に、一人の男性が立っていた。
その人はゆっくりと私に手を伸ばし、そして優しい声色で話しかけてくる。
「──もう大丈夫、後は俺に任せておけ」
続きを見たいと思っても、私はもう見れることは出来ないと分かってしまっていた。
香苗「──……」ぱちっ
香苗「……朝」
──もう続きなんてものは、私自信が諦めてしまったのだから。
香苗「さーて、学校だぁー!」
ばさぁ!
~~~~
シィーーン…
梅原「……」
香苗「……」
純一「っ…ゴクリ…」
薫「何この空気…」
絢辻「シッ! 静かに!」
梅原『お父様と縁を切り、家名をお捨てになって!もしもそれがお嫌なら、せめてわたくしを愛すると、
お誓いになって下さいまし。そうすれば、わたくしもこの場限りでキャピュレットの名を捨ててみせますわ』
香苗『 黙って、もっと聞いていようか、それとも声を掛けたものか?』
梅原『わたくしにとって敵なのは、あなたの名前だけ。たとえモンタギュー家の人でいらっしゃらなくても、
あなたはあなたのままよ。モンタギュー――それが、どうしたというの? 』
梅原『手でもなければ、足でもない、腕でもなければ、顔でもない、他のどんな部分でもないわっ…』
梅原「けほこっ…駄目だ、息が続かねえ!」
香苗「だ、大丈夫っ…?」
梅原「お、おう。ちょっとはマシになったと思うんだがよ…いまいちダメだな、こりゃ」
香苗「そんなことないって、前より随分と上手くなってるって!」
梅原「そ、そうか?」
純一「………」
梅原「…ん? どうした大将?」
純一「──凄いな梅原ぁああ!何なんだ今の演技力! もうジュリエットにしか見えなかったぞ!」
梅原「何の冗談だよ橘っ…!」
絢辻「いいえ、冗談では決してないわ」
薫「やるじゃない梅原君っ! 前世はジュリエットだったんじゃないの?」
梅原「えっ? えっ?」
香苗「ふふふ」
梨穂子「香苗ちゃんも凄かったよ~! あの迫真の演技…本当に陰ながら見てるような、
そんな怪しさや気遣いを感じるような……とにかく凄かった~!」
香苗「さ、桜井っ…褒めすぎだってば」
梅原「なんだか…えらく褒められるな、はは、頑張ったかいがあったぜ」
マサ「……」
梅原「…ん、マサ? なにやってるんだこっちのクラスを覗いて?」
だだだだっ!
梅原「ちょ、おまっ! 何言ってやがる!」
「振られたから女に走ったって本当か梅原!?」
「応援するよ!」
「次は男子だな! …俺は無しな方向で」
ぞろぞろ
梅原「うおっ…なんだなんだ、一気に来すぎだろお前ら!」
薫「あらら、えらく人気者だったのね梅原君って」
純一「前の告白で一気に名前が知れ渡ったからね、当たり前だよ」
絢辻「……」
純一「凄い奴さ、梅原って男はね」
香苗「……」
梅原「だぁーもう! ちげーって! これは演劇の役でなっ…!」
香苗(…頑張らないっと、私も!)ぐっ
香苗「うっしー! 梅原くん、練習の続き行くよー!」
梅原「お、おう! ちょっと待ってくれ! …だから、違うっての!」
香苗「あはは」
梨穂子「………」
夕方
香苗「──ふぅ…こんなもんじゃない? けっこう出来たと思うけど」
梅原「そうだな、疲れた…声を出し続けるのって大変なんだな…」
香苗「あ、飲み物買ってこようか?」
梅原「公平にジャンケンだ」
香苗「おっけー、じゃんけんっ」
梅原&香苗「ぽんっ」
香苗「…あいこか、そんじゃ次にっ」
香苗「え? いいの?」
梅原「おうよ、どっちにしろ二人とも疲れてんだ…労働はお相子にしようぜ」
香苗「りょーかい、んじゃ行こうか」
梅原「おう」
~~~~
すたすた…
梅原「しっかし、なれねえもんだなぁ…演じるってのは難しすぎる」
香苗「私たちが特別、意識しまくってるからじゃない? 気入り過ぎっていうかさ」
梅原「…確かに、頑張りすぎてる所は否めないな」
香苗「だけど、ね。大切だよ、今の私たちの頑張りはね」
梅原「わかってるよ、ちゃんとな」
香苗「…うん」
香苗「あ、私はコーヒーでお願い」
梅原「あいよ、コーヒー好きだなぁ…」ガタン…
香苗「そお? 人それぞれ好みはあるもんでしょ」
梅原「そりゃわかってるけどよ、なんつぅーか…飲み過ぎじゃね?」
香苗「ふーんだ、べっつにいいじゃない。飲み過ぎたって」
梅原「いじけるなよっ…はは。おらよっ」ぽいっ
香苗「わわっ、わっ…!」
梅原「落とすなよっ」
香苗「ととっ…むー! 意地悪しないでよね! まったく…」かしゅっ
梅原「すまねえすまねえっと、俺はどうすっかな。ん~」
香苗「ぷはっ、お茶じゃないの?」
ガタン…
梅原「…俺もコーヒーを飲んでみようと思う」
香苗「どうして? コーヒー好きだったっけ?」
梅原「いや特別好きじゃねえな。むしろ好きではない」
香苗「…断言しないでよ」
梅原「はは、いいじゃねーか。人それぞれの好みはあるんだろ?」
香苗「む、そうやって直ぐ人の上げ足を撮るんだからっ…」
梅原「上げ足を取ったのではなく、訂正をしただけだ」かしゅっ
梅原「ん、ちょっと遅れたけど」
香苗「あ、うん」
かつん…
梅原「今日もお疲れ、伊藤さん」
梅原「おう! ……ごく、ぶへぁっ! 駄目だ苦いっ」
香苗「なにやってんのよっ…ぷっ」
梅原「緑茶の苦みとは比べ物にならねえな…あっちは平気なのによぉ」
香苗「あったり前じゃない、苦いのが苦手ならミルクたくさん入れれば?」
梅原「お、そうか! その手があったか~…って、缶コーヒーだぞ」
香苗「家で作った時にやってみれば?」
梅原「俺ん家にコーヒーなんぞ洒落たものは置いてねえ!」
香苗「自慢した言い方しないでよ…じゃあ何時もなに飲んでるの? ただの水?」
梅原「お茶って選択肢はないのかよお前さんには…」
香苗「そ、そんなんじゃないし! コーヒーばっかり飲んでるわけじゃないからっ!」
梅原「嘘だ…四六時中飲んでるんだな…もう既にカフェイン中毒なんだろ…」
梅原(何時も飲んでるように見えるけどなぁー)
香苗「…ったく、なによもう…」
梅原「……」
梅原「……なあ伊藤さん」
香苗「なに、梅原君…また変な事言ったら怒るからね」
梅原「言わねえさそんなこと。……いや、もしかしたら、怒るかもしれねえわ」
香苗「…どっちよ」
梅原「俺にはわかんねえな、なんつぅーか…俺個人の意見じゃ決められねえんだ」
香苗「…?」
梅原「………」
香苗「…梅原君?」
香苗「こ、恋ぃ? どーしたのよ急に…」
梅原「いいからよ、ちょっと答えてくんねーか」
香苗「え、ええっ……そりゃーまぁ、ちょっとぐらいは…」
梅原「そうか、そりゃそうだぜ。
だって花の女子高生だもんな、恋の一つや二つしてるに決まってる」
香苗「一つや二つって…そこまで気移りしやすい性格じゃないわよ、言っておきますけどね」
梅原「そうなのか、そりゃ失敬。すまんすまん、謝っておく」
香苗「……それで? 結局は何が言いたいワケ?」
梅原「……俺的な意見だから、気にはしなくていいんだ」
梅原「ただよ、一つ思っちまったんだ」
梅原「──恋は、いつになったら恋になるんだってさ」
梅原「どう思う? 伊藤さん?」
香苗「…良く分からないけど、好きになったら恋じゃないの?」
梅原「おっ! 良い所を付くねぇ、確かにその通りだ」
梅原「俺はその人のことを──気になりだした瞬間から、それは恋だと思う」
梅原「他の誰よりも違う、どんな人間よりも……近くに居たいと心から望んじまう」
梅原「そんな相手を見つけちまった時、それは恋だって言っても良いんだってな」
香苗「……」
梅原「…もう一つ、最後に伊藤さんに聞きてえんだが」
梅原「──その恋を、忘れる時って何時だ?」
梅原「つまりは失恋、って奴だな」
梅原「──気になりだした人のことを忘れたいと願った時が、失恋なのか?」
梅原「──それとも別れを告げられた時、それが失恋なのかね?」
梅原「それとも──なんだ、想いを受け取ってくれなかったときは、失恋になっちまうのか」
香苗「それは…人それぞれじゃない、どうその現実を受け止めるかが大切でしょ」
梅原「まあ、その通りだ。だが、それだと俺は納得できねえ部分がある」
梅原「──最初に言った恋は何時になったら恋なんだって話だ」
梅原「恋は好きになった時から、恋だと言うんならよ」
梅原「……じゃあ失恋しちまった時は、好きだって思いを忘れないと駄目なのか?」
香苗「それはっ……当たり前じゃん、だって辛いだけでしょそういうの…」
梅原「…そうだな、辛いだけだな」
香苗「もう自分の気持ちを伝えられないんだから、いくら好きだって思いを持ってても…忘れた方が良いわよ」
香苗「…なんなの、こんな事聞いてきて…不安なの? 先輩に告白するの?」
香苗「でも…! やるって決めたのなら、最後までやり通さなきゃ!」
梅原「わかってるって。それはちゃんと心に決めてる」
梅原「──きちんと先輩に告白するってよ」
香苗「じゃあ…どうして…」
梅原「…だから、気付いちまったんだ」
香苗「え?」
梅原「どうして俺は失恋なんかしてもー……あの人のことを好きでいられるのか、その理由を」
梅原「俺は気付いちまったんだ、いまさっき」
香苗「…どういうこと?」
梅原「なあ、伊藤さん。どうして俺の為に頑張ってくれるんだ」
香苗「え、だから……」
梅原「ロミオだからって? そうじゃねえと、今の俺は思ってる」
梅原「いや、そう思いたがってるが正しいかもな。だってそれは俺の我儘だから」
梅原「とんだ勘違い野郎って蹴っ飛ばしてくれても良い、
馬鹿だな根性ねえ奴だって、また背中を殴ってくれても良い」
梅原「…だがよ、俺は思っちまったんだ」
梅原「今まで文化祭の為に、俺たちは演技の練習をやるだけやって来たよな」
梅原「…たまに喧嘩もしたよな、それに、お互いの演技を褒め合ったりもした」
梅原「それから告白の仕方の作戦も考えて、数日後の文化祭の為に頑張り続けたよな」
香苗「なにが、言いたいの…?」
梅原「……俺だって、なにが言いたいのかわかんねえよ」
梅原「だけど…」すっ
梅原「これだけは、必ず自信を持って言えると思う」
香苗「え…?」
梅原「──俺、伊藤さんのこと好きだ」
梅原「ああ、何だそれって思うよな。俺だって…そう思ってる」
梅原「だけど俺は、今誰よりも近くに居てほしい奴は──伊藤さんだけだ」
香苗「っ…そんなの…! だって、梅原君は先輩のことがっ…!」
梅原「ああ、好きだ」
香苗「だ、だったらっ…変な事を言ってないで、まっすぐあの人の事を見てればいいじゃないっ…!」
梅原「……」
香苗「っ…」
梅原「…さっきも言ったけどよ、俺は、どうして先輩のことが好きで居続けるのか分かったんだ」
梅原「だって、それは───伊藤さんと俺の繋がりだったから」
梅原「そして伊藤さんの頑張りに後押しされて、俺も…先輩を好きで居続けた」
梅原「…だけど、伊藤さんのお陰で好きで居続けられた」
香苗「……」
梅原「俺は少し道を逸れちまったんだ。本来行く場所とは違った所に来てしまってる」
梅原「──そして伊藤さん。俺は今、君の隣にいるんだ」
香苗「っ…」
梅原「本当はもっと違った場所に居るはずだったと思う。
だが、それでも、今は…ここで一緒にコーヒーを飲んでる」
梅原「全て伊藤さんの所為だとはいわねえ、全部ハッキリと言わなかった俺の所為だ」
梅原「俺が素直にならねえから、あの時…ちゃんと写真を破けば良かった話だからな」
香苗「……」
梅原「だからもう後悔は、しないって決めたんだ。
何度だって後悔の連続で、全然その思いを守れてこなかったけど…」
梅原「…今はハッキリと伊藤さんにこの想いを伝えたい」
梅原「…だけど、伊藤さんのお陰で好きで居続けられた」
香苗「……」
梅原「俺は少し道を逸れちまったんだ。本来行く場所とは違った所に来てしまってる」
梅原「──そして伊藤さん。俺は今、君の隣にいるんだ」
香苗「っ…」
梅原「本当はもっと違った場所に居るはずだったと思う。
だが、それでも、今は…ここで一緒にコーヒーを飲んでる」
梅原「全て伊藤さんの所為だとはいわねえ、全部ハッキリと言わなかった俺の所為だ」
梅原「俺が素直にならねえから、あの時…ちゃんと写真を破けば良かった話だからな」
香苗「……」
梅原「後悔は、しないって決めたんだ。
何度だって後悔の連続で、全然その思いを守れてこなかったけれど…」
梅原「…それでも今、はハッキリと伊藤さんにこの想いを伝えたい」
梅原「とんだふがいねえ男だってことは、アンタが一番知ってると思う」
梅原「俺の気持ちは…確かに伊藤さんで一番だ、だけど! 先輩に告白する勇気はここにある!」
梅原「…矛盾してることぐらいわかってる、けどよ! 俺はちゃんとやりたいんだ!」
梅原「──伊藤さんへの気持ちと、伊藤さんの頑張りをっ…俺は認めてぇんだ!」
ぐっ…!
梅原「ちゃんと、ちゃんと…っ! この数日間の想いを、裏切りたくはないっ…!」
梅原「どれだけっ…伊藤さんに嫌われても、俺は自分の気持ちに嘘を付きたくなんかねえ!」
香苗「……」
梅原「好きだって想いはっ…ここにあるんだ、だけど…!」
梅原「俺はっ…俺は……」
梅原「俺は……」
カラン…
梅原「! 伊藤さん…?」
梅原「伊藤、さん?」
香苗「っ……やめてよ、そんなこと…」すた…
梅原「ど、どうしたんだ?」
香苗「やめて…言わないでよ、好きなんて…駄目だってば…」
香苗「それじゃあっ…私、どうしたらいいのよ……今までの頑張りを…どう認めればいいのよ…っ!」
梅原「おい、大丈夫かっ?」すっ
パシィッ!
梅原「痛っ…!」
香苗「はぁっ…はぁっ…!」
梅原「伊藤さん…」
香苗「はぁ…一人に決めて……梅原君、アンタはキチンと先輩に告白してよ」
梅原「っ…告白はする、だけど俺は…!」
香苗「私が好きとか言わないでっ!」
香苗「私はっ…梅原君が先輩に告白して、きちんとスッキリするのが…目的だったのよっ…!」
香苗「──それなのに、どうして私のことっ…! なんで、好きになっちゃうのよっ!」
梅原「……」
香苗「だめ、でしょそんなのっ…だって、だって、梅原君はっ…!」
梅原「…こんな時でも、伊藤さんは俺の心配するのか」
香苗「っ…!」
梅原「何が言いたいんだ伊藤さん。もし、アンタが俺の告白を受け入れられない…その理由が」
梅原「──俺の為だなんて言ったら、本気で怒るぞ」
香苗「わ、私はっ…」
梅原「卒業式に、堂々と告白したのに。だけどすぐさま他の女子にうつつを抜かす奴と、思われたくないってか」
香苗「んぐっ…それはだって、そうじゃないのっ…!」
香苗「わかってない、全然分かってないよ梅原君は! あの卒業式の告白がっ…どれだけ周囲に広がってるのか!」
香苗「そしてまた同じような事をして、更にっ…私が好きだとか言ってるアンタは!」
香苗「当然のように周りから人が居なくなるわよっ! 最低な奴だって…どんな神経をしてるんだって!」
梅原「……」
香苗「ぜんぜんっ……わかって、ないよ…!」ぎりっ
香苗「っ……その告白、今ここで、断らせてもらうから」
梅原「…伊藤さん」
香苗「やめてよっ! 気安く呼ばないでっ!」
梅原「…そっか、ごめん」
香苗「……っ……私、もう帰るから」
香苗「……好きなんて、どうして思ったのよ…」
たったった…
梅原「……」
梅原「……うぁー」バタリ
梅原「…やっちまったぜー」
梅原「あー…このまま廊下のシミになりたい…」
梅原「……」
梅原「…馬鹿だなホンット、俺ってよぉ…」ぼそっ
梅原「…何が好き、だ。虫が良すぎるだろうがッ…」ゴツッ…
梅原「…正直にも程があるだろッ…ふざけるなよ俺ッ…」ゴツン…
梅原「…」ゴツ
梅原「──あー、やれるのかよ…これで、文化祭とか…」
「──やれるだろ、お前なら」
梅原「あ…?」
梅原「…見てたのかよ、趣味悪いなオイ」
「ははっ、仕方ないだろ? トイレに行ってたら、なぜか二人が喧嘩してるんだもの」
純一「──思わずトイレの中で数十分、立ち聞きだよ。どうしてくれるんだ」
梅原「…じゃあそのままトイレの亡霊さんにでもなっとけ」
純一「いやだ、男子トイレなんてまっぴらごめんだ」
梅原「…そう言う問題かよ」
純一「そう言う問題だよ、よいしょっと」
梅原「……」
純一「なあ、好きな子って良いな」
梅原「…は?」
純一「突然そう思った」
梅原「突然すぎるだろ…なんだよ急に…」
純一「それに好きな子からもっともな事を言われたら、口応えが出来ないだろ?」
梅原「…さっきの俺の事を言ってやがるのか」
純一「どうだろう、そう思うの梅原は?」
梅原「ドンピシャだな」
純一「ふふっ、なんだよ梅原。今日はやけに素直だ、気持ち悪いぞ」
梅原「うるせーよ」
純一「…うーん、結局はさ。梅原ってちょっと変わってるよな」
梅原「…お前さんに言われたくない言葉、ナンバーワンだ」
純一「そうだろう、僕もそう思う」
純一「絢辻さんにだって良く言われるよ、貴方は何を考えて生きてるの? 死ねば?って」
梅原「死ねって良く言われてるのか…可哀そうにな…」
純一「…だけど、それが僕には嬉しいんだよ、梅原」
梅原「……」
純一「──素直な自分を出して、素直な気持ちを伝えてくれる」
純一「そんな好きな子を、そんな大切な子を僕は見つけることが出来たんだから」
梅原「……」
純一「だから僕等二人、梅原と僕は変わってるんだ」
純一「──好きな子から本音を言ってもらえることに、喜びを感じてるんだもの」
純一「…どうだった? 好きだって伝えて、怒ってもらった時の気持ちは」
梅原「……」
純一「凄くスッキリしなかったか? 自分の想いを相手にぶつけて、それを否定してもらって」
純一「だけど分かってもらえなかった辛さより、理解してもらえなかった苦脳より」
純一「お前はきっと───なによりも嬉しかったはずだ」
純一「一人の女の子に、ちゃんと答えを貰ったことに」
純一「……どの感情よりもやる気を出したはずだよ、絶対に」
純一「…うん、一人ぼっちは寂しいよな。なんだって、言葉が欲しい時はあるよ」
純一「お前だってそれを経験してるはずだ、
誰も来ない約束の場所でずっと待ち続ける寂しさを」
純一「例え後で来れなかった意味を知ったとしても、そのときの寂しさは…決して無くならない」
純一「…絶対に、無くならないんだ」
梅原「……」
純一「ん、だからさ梅原」
純一「逃げるなよ、真正面から立ち向かって行け!」
純一「どんなに否定されても! 社会的死を宣告されても!」
純一「──好きだって想いに、勝てるモノなんてないぞ!」
純一「…だろっ?」キリッ
梅原「っくは、台無しだな…最後の決め顔で」
純一「だ、台無しとかいうなよっ!」
梅原「本当の事だろうがっ……くく、なんだよ本当にっ…」むくっ…
梅原「──はぁ~あ、成功者に色々と言われちまえば…」
梅原「…俺も頑張りたくなっちまうだろうがよ、大将」
純一「…おう、頑張れ。きっと良い明日が待ってるよ」
梅原「明日ねえ、そりゃ楽しみだ」
梅原「今日より良い明日になれるといいな…」
純一「……なあ、帰りに本屋寄って行かないか?」
梅原「…すまねえ、ちょっとやらなくちゃいけねえことがあるんだ」
純一「そうなのか…それは残念だよ」
純一「へぇ、それは僕も見れる事が出来るの?」
梅原「特等席で見せてやるよ、楽しみにしときやがれっ」
純一「了解、じゃあ僕はそろそろ帰るよ…」すっ
梅原「おう、その……ありがとな」
純一「なんの、同じ悩みを抱える同士だ」
純一「…いっちょ幸せ、掴んで来い梅原」
梅原「あいよっ! 大将!」
~~~~~
教室
梅原「ふぅー……はぁー……」
梅原(──文化祭まで残り数日、練習期間も限られてるな、
ついでにいうとロミオ役との合わせ練習は出来ないと考えるべきだ)
梅原「──だからどうした! 俺には関係ねぇ!」カッ
梅原「……」
梅原「…よしっ」
~~~~
文化祭当日
絢辻「……これでいいわ」
薫「ひゅ~♪ やるわねえ絢辻さんっ」
絢辻「そんなことないわよ、ふふっ」
絢辻「他になにか不備がある人はいないっ? 今のうちに色々と済ませておかなくちゃ駄目よー!」
クラス一同『はーい』
純一「あの、絢辻さん…」もじっ
絢辻「どうかしたの?」
純一「と、トイレに行きたいんだけど…っ」
薫「ハァッ!? 先に済ませておきなさいって言ったでしょ!」
薫「アンタが馬鹿みたいにがばがば飲むからいけないんでしょうが…」
純一「ううっ…ヤバい、これは駄目だよっ…スカートでトイレって、立ちション駄目なの…っ?」
絢辻「私は構わないけど、貴方はどうなのかしらね」
純一「うぁー! 目も当てられない光景が浮かび上がるよ!」
純一「っ…だけど我慢の限界だ! 行ってきます!」だだっ
梨穂子「あっ、純一~! カツラはちゃんと載せて行ってね~!」
純一「あ、うん! わかった…ってカツラいらないだろ!?」
梨穂子「宣伝の為だよ~えへへ~」
絢辻「はぁー」
「大変そうだね、絢辻さん」
絢辻「…そうね、まだ始まってないって言うのにこの騒動。本当に無事に終わる事──」
香苗「…? どしたの?」
絢辻「──凄く似合ってるわね、伊藤さん」
絢辻「そう? とても高級感のある王子様に見えるわ、思わず惚れちゃいそうになったもの」
香苗「ええっ!?」
絢辻「くす、冗談よ」
香苗「も、もう! ちょっと冗談に聞こえなかったよっ」
絢辻「冗談だってば、くすくす……あら」
ズズズズ…
絢辻「──このオーラは、みんな『ジュリエット』が帰って来たわよ!」
クラス一同『ジュリエットが…!?』
がらり…
「──今帰った、保健室の仮眠、ごめんな皆」
薫「い、いやっ…いいのよ? 色々と、ね~うんうん!」
梅原「…そうか、ならよかった、俺も安心だ」ズズズズ…
絢辻「──いいわね、私たちは最終項目。他のクラスが演劇が終わり、観客の目も肥えてる間際」
絢辻「たいしたものでなければ、それは全て一掃されてしまうほどにシビアな空気よ」
ごくり…
絢辻「…でも、大丈夫。けっして怖がらなくていい」
絢辻「私たちがしようとしている事、それは既に──観客からは注意をひくものなんだから!」
「うぉー!」
絢辻「だったらやってあげようじゃないの! 全てのクラスを圧倒させるほどの劇を!」
「うぉー!!」
絢辻「絶対に負けないわよ! 全てはこのクラス、みんなの頑張りなら成功するはずだから!」
「うぉおおおおー!!」
薫「あ、来たわよ純一っ…こっちこっち」
純一「ご、ごめんねっ…ふぅ…間に合ってよかった~」
クラス一同『あはははっ!』
絢辻「くす、それじゃあ行くわよ! 性別反転ロミジュリ、開始!」
カッ!
梅原『……』
どっ!ぷっはっはっはっは!
美也「こ、これはっ…」
紗江「わぁー……」
七咲「…」
田中「ぶっは! あはは! 梅原君!」
舞台裏
絢辻「よしッ! 受けてる!」
純一「晒しもんだよね、やっぱりこれ…」
絢辻「いいのよ受ければ!」
梅原『──……』
梅原『…ああ、ロミオ様、ロミオ様! なぜあなたは、ロミオ様でいらっしゃいますの?』
紗江「っ……!」キラキラ…
七咲「…凄いね」
田中「…」ぽかーん
梅原『 お父様と縁を切り、家名をお捨てになって! もしもそれがお嫌なら、せめてわたくしを愛すると、
お誓いになって下さいまし。そうすれば、わたくしもこの場限りでキャピュレットの名を捨ててみせますわ』
絢辻「………」
純一「…な、なんだアイツ」
薫「いやー何度見てもヤバいわよねアレ…」
絢辻「……凄いじゃない、梅原君」
カッ!
香苗『……』
絢辻「っ…来たわ、ロミオよ! 頑張って…!」
梅原『……?』
美也「…どうしたんだろうね?」
紗江「ふぁー……女装って凄いよね…っ」
七咲「トラブルでもあったのかな?」
田中「せ、せんせぇー!」
高橋「ごめんなさい、遅れちゃったわね…あら? どうかしたの?」
絢辻「…まさか」
薫「ちょ、ちょっとぉ! 伊藤さんなんでセリフ言わないのよっ?」
純一「…緊張して、全部忘れちゃったとか?」
絢辻「大いにあり得るわ、伊藤さん…何処か気持ちが浮いてたような気がするモノ…」
薫「ど、どうするのよっ! ここからカンペでもみせる!?」
梨穂子「…どうしたの?」
純一「い、伊藤さんが大変なんだ! セリフを忘れちゃったみたいでっ…
二人だけの場面だし、フォローも入れること出来なくて…!」
香苗『………』
ドッドッドッド…
香苗(なに、コレ…頭が真っ白に…なにも思いだせない…え…?)
香苗『あっ……う…』
香苗(っ…あれだけ必死に練習したのに! 声が出ない、出さなきゃいけないのに!)
香苗(だって───)
観客『………』じっ…
香苗(──ひっ…視線がみんな…私に──)びくっ
香苗(だめ、足が震えて立てない、もう倒れちゃう───)
ぽすっ
梅原「ふぃー、間にあったぜ」
香苗「え?」
全員『えっ?』
香苗「う、うん…」
梅原「──よし、なら良い。じゃあ続けるぞ…」
香苗「つ、続ける…?」
薫「な、何が起こってるのよ!? 舞台の二階から飛び降りて!」
純一「…絢辻さん、これは…」
梨穂子「…うん、やるしかないよっ…」
絢辻「……」
絢辻「──ええ、続行よ! 二人にライト浴びせて! 音もb-1に変更! 早く!」
薫「つ、続けるのっ? 台本めちゃくちゃよ!?」
絢辻「やるのよ、二人の信じなさい棚町さん」
純一「…仕方ないよ、元はあの二人が主役なんだ」
梨穂子「うんっ」
薫「うっ……~~~~! わかったわよ!
なにかしらのアドリブが入ったらこっちに寄こして!」
梅原『──この世で一番、美しい…』
香苗「……」
梅原(乗っかれ乗っかれ! 良いから良いから!)
香苗『っ…それは嬉しい言葉だ、だがしかし、そなたはあのベランダからどうして飛び降りてしまったのか』
梅原『我慢できなかったのです、ごめんなさい』
香苗「…ぶふっ」
美也「にしし! 我慢できなかったんだって!」
紗江「ほぇ~」
七咲(絶対にこれアドリブだ…)
田中「なんだかすごい事になってますよぉ…」
高橋「よくわからないけど…ロミオとジュリエットなのよね…?」
香苗『……───……』
ぷっ…くすくす……あははは…
純一「…なんだか静かだった客席が、騒がしくなってきてない?」
梨穂子「なってるなってる~!」
薫「っ…ちょっと待って、梅原君がなにか合図してるわよ!」
絢辻「え? どこどこ!?」
梅原『私はそなたと何処までも行きましょう、銭湯に寿司屋。日本の素晴らしき文化を───』ちょいちょい
絢辻「──橘くんを指さしてない?」
薫「純一が出て来いって言ってるの?」
純一「でも僕、キャピュレット夫人だよ!? 出てきたらおかしくない!?」
梨穂子「で、でもっ…面白いかもしれないよ~!」
絢辻「う、ううっ…行くしかないわよ! 行ってきなさい!」ドンっ
純一「……」すた…
梅原「…」
香苗「…」
純一「…」
純一『──そこの二人、なにをしているのですかっ! ワタクシにも日本の文化を教えなさい!』
絢辻「乗ったー!」
薫「ナイス! アドリブ最高よ純一ぃ!」ぐっぐっ
梨穂子「頑張れ純一~!」
純一『月も嘆くような寂しい夜に……薔薇のような匂いを感じ、着てみれば…』
純一『何と羨ましい事をっ! ワタクシだってそのような逢引きをしてみたかったのよ!』
梅原『…お待ちになって、お母様。これは確かに逢引き…のように見えるかもしれません』
純一『あら、違うのかしら。ではいってごらんなさい、私の愛しい愛娘よ』
梅原『──今の時代は、そう……逆ナンですわよお母様!』
純一『んんまぁ! 逆ナンですってぇっ!』
あっはっは! くすくすっ…!
美也「にぃに…」
紗江「橘先輩っ…梅原先輩っ…ふぉおおおおっ…!」キラキラキラ…
七咲「………」(ガン見)
田中「おー!」
高橋「もっとロミオとジュリエットはおごそかで美しさも兼ねそれた…」
梅原『…時代に乗り遅れてますのよ、お母様。ねえロミオぉ?』
香苗『そ、そうだ! 時代は逆ナン! 草食系男子万歳!』
あははははっ…!
薫「ぱ、パリス! ここで出てきたら本当にめちゃくちゃね!」
絢辻「いいのよ、見てみなさい。この空気を」
梨穂子「……みんなが笑ってる」
薫「…絢辻さん、やるっていうの? というか出来るの?」
絢辻「………」
絢辻「──生徒会長に、不可能は無いわ…」すた…
きゃーーーー! わはっはっはっはっは!
~~~~~~
薫「はぁっ…はぁっ…」
梨穂子「ひっく…体力がもう、残ってないよ…っ」
純一「あ、ああっ…僕ってば何回突っ込みを入れたのか憶えてないよっ…」
絢辻「お疲れ様、後は──なんていうのかしら、ちゃんとお墓のシーンにいけるのね…」
純一「いや、それよりもキャピュレット夫人とパリスが剣撃戦を始めたときはもう、意味が分からなかった…」
梨穂子「それよりも、登場人物全員で盆踊りってなんなの~っ!? よく音声データあったよねっ!?」
絢辻「…大変だったけれど、舞台はもうクライマックス」
梅原『……』
香苗『ああっ…』
絢辻「最後ぐらいは、きちんと締めるわよ」
三人『…うんっ!』
香苗『ジュリエット…私はなにもしてやれることはできなかった…!』
香苗『ただひとつの命さえも、尊き魂さえも、この手に残す事が出来なかった…!!』
美也「うっうっ…」
紗江「ひっく…そ、そんなっ…」
七咲「……グス…」
田中「……」ボロボロ…
高橋「……」ボロボロ…
梅原『──どうして、なぜこのようなことが…!』
梅原『私は貴方と何処までも一緒に愛し続けていたかったのに…!』
梅原『これから先、私はなにを信じ、何を愛し、行き続けなければならないのですか…!?』
梅原『私は……私は……』
梅原『…………』
純一「今度は梅原が…?」
薫「嘘でしょ、ああもう。ここまで来たら何も言わずに短剣ぶっさしなさいよっ」
梨穂子「それはちょっと…」
絢辻「……何かする気じゃないでしょうね」
純一「え? …どうしてそう思うの?」
絢辻「梅原君、私が卒業式で告白できるよう手配したと言ったわよね」
純一「う、うん」
絢辻「そこで対価の話をしたじゃない、それは数えて二つ。一つは橘くんを私の物にするって言う約束」
純一「なにを約束してるの? 僕は梅原の物なんかじゃないよ!?」
絢辻「二つ目が実は言いたかった事なんだけれどね」
純一「…うん、早く言って」
絢辻「それは───必ず告白を成功させること」
純一「え…?」
純一「…でも」
絢辻「そう、それは失敗した。告白は見事に玉砕、二つ目の約束は守られなかった」
純一「……もしかして、梅原また…?」
絢辻「ええ、もしかしたら。だけど」
純一「ど、どうするの!? ここまできたらっ…もう割り込むことなんてできないよ!?」
絢辻「………駄目」
純一「えっ?」
絢辻「駄目よ、思いつかない……」
純一「絢辻さん…」
絢辻「もうあの場所は、二人だけの空間っ…どう考えても、策なんて思いつけない…!」
純一「…今日のお客さんにあの先輩が来てるのかな」
薫「へ…? 梅原くんが告った先輩?」
純一「うん、どうやら梅原は──また告白をするつもりらしいんだ」
薫「でも、アンタそれ…」
純一「……それが梅原の選択なら、仕方ないよ」
薫「っ…で、でも! アンタだって言ってたじゃない! 梅原君の幸せは、絶対に伊藤さんだって…!」
純一「………」
薫「だからアタシだって色々と頑張ってきたのよ!?
明らかに不仲になっていたあの二人をここまで見守って…!」
純一「…ごめん、僕だってこうなるとは思わなかったんだ」
絢辻「……」
薫「……なによ、それっ…」
梨穂子「──諦めちゃ、駄目だよみんな」
梨穂子「信じるんだよ、あの二人を」
絢辻「桜井さん…」
薫「…信じるって、何を信じればいいのよ。梅原君は…きっと…」
梨穂子「違うよ、そうじゃないと思う」
梨穂子「梅原君は決して、嘘をつかない正直な男の子だもん」
梨穂子「──今の今まで、あの梅原君の頑張りをみんな見てきたハズだよっ!」
純一「……」
絢辻「……」
薫「……」
梨穂子「その頑張りは、努力は…絶対に自分の為じゃなかった…そうでしょう?」
純一「……ああ、確かにな」
絢辻「梅原君は…ずっと何かと…」
薫「……立ち向かいながら、練習してたわね…」
梨穂子「梅原君はちゃんと、前を向いて、後ろを振り向かずに!」
梨穂子「──ただまっすぐに、一人の女の子を見つめていたんだから…っ!」
純一「梨穂子…」
梨穂子「…梅原君は、だいぶ前から香苗ちゃんのこと。好きだったと思うよ」
薫「えっ……」
梨穂子「でも、それでも初めて好きになったのは先輩だからって…そう決めて、あんな告白をしたんだと思う」
絢辻「…自分に枷を嵌めるために、ってこと?」
梨穂子「うん、多分だけどね。ずっと二人を見てきて…そう思ったの」
梨穂子「──だって、二人の距離はいつだって一緒だったから」
梨穂子「──片方が寄り添ったら、いつかは触れ合うのに、いつまでも触れ合えないんだもん」
梨穂子「……だから、私は…」
梨穂子「……梅原君を信じるの、きっと、梅原君は覚悟を決めてるはずだから…っ!」
梨穂子「だけど、大切に出来るのは、後悔なく出来るのはきっと…! ひとつだけってわかってるはずだから!」
梨穂子「──だから、信じるんだよ! あの二人の絆を…!」
純一「……わかった、梨穂子を信じるよ」どすんっ
薫「じゅ、純一…?」
純一「そして梅原も信じる。僕はアイツの頑張りを、否定する馬鹿な親友にはなりたくないんだ」
薫「っ…なによ、かっこつけちゃって。しょうがないわねっ」とすん
薫「私だって、あんなに負のオーラを纏った梅原君が…何も考えずにやってないってことは、わかってるわよ!」
梨穂子「うんっ…!」
絢辻「──そうね、信用しましょう」すっ
絢辻「あの二人がどんな結末を望むのか、私たちは傍で見守っててあげましょう」
梨穂子「わたしもだよっ」どすん
梨穂子「──きちんと、答えを出した時…その時になって、私たちは助けてあげるべきなんだと思うから」
絢辻「…」
薫「…」
梨穂子「…」
梨穂子(信じるよ、二人とも……今の距離はちゃんと近づいてるはずだから)
梨穂子(ほら、だって、あんなにも近い距離で抱き合ってるんだもん…大丈夫、正直になれるはずだから)
梨穂子(───梅原君、そして香苗ちゃん。頑張ってね)
梅原『……私は、聞こえなくなった貴方にひとつのことを言っておくことがあります』
香苗『……』
梅原『っはぁ~……俺は、単純な奴だから。すぐに人を好きになって、その人の為ならって何処までも着いて行く癖がある』
香苗『っ…』
梅原『だけど、好きって想いは。誰にも負けるつもりなんてねぇ、
絶対に他の奴らに引けを取るつもりなんて、これっぽっちもねえんだ』
梅原『だけどよ、俺は……そうだ、梅原って男は!』
梅原『そんなちっぽけなプライドを持って生きるつもりなんてこれっぽっちもねえんだよっ!』
梅原『──んな小せえモンぶら下げて、なにを気取って生きてやがんだよッ…本当に馬鹿見てえじゃねえか!』
梅原『何処も格好よくねえんだ! 好きだって思って突き通せる俺、かっけーとか馬鹿だろう! なぁそう思うだろ!?』
梅原『自分の前で泣いてっ……私の事を好きだと言わないでとっ……小さい体に感情を押し隠して、歯ぁ食い縛ってっ!』
梅原『───そうやって他人の為に頑張れる奴の方が、よっぽどカッケーじゃねえか!』
梅原『俺はっ…俺は、結局は自分だけのことしか考えてない…人を好きになるって、凄いもんだって言ってるくせに…』
梅原『一人の女の子がっ…泣いて去っていく背中を、追いかけることすらできねえんだよっ……!』
香苗「っ……」
梅原『俺はよう、嫌われても良いって言ったよな』
香苗「……」
梅原『だけど、それは撤回だ』
梅原『…俺は答えを、そうやって伊藤さんに授けただけだ。許してくれるか、許してくれないかってな』
梅原『だけど、それは違うだろ。そういうのは違うんだぜ』
梅原『俺は───伊藤さんにとって、最高の男になってやる…!』
梅原『見てろ! これが梅原正吉って男の───』がばぁっ
香苗「んにゃっ!?」ぐいっ
梅原『───一世一代の、大告白だッ!』バッ!
梅原「この会場に居るであろうっ…先輩ぃいいい! 俺はアンタのこと、大好きだぁああああああああ!!!」
梅原「だけど、それよりもこの子をッ……俺はもっともっと大好きなんだぁああああああああ!!」
梅原「アンタへの好きな気持ちなんてのは、そんなもんだったっていうわけだよくそったれ!!」
梅原「後悔してもしらねえからなぁ! アンタが逃したこのデッカイ魚は!!」
梅原「──伊藤香苗って女に、身も心も全て!! やっちまうよていだからなぁああああ!!!」
梅原「はぁっ……はぁっ……」
香苗「……」きょとん
梅原「絶対に聞こえたよなっ…ここにいるのなら、あの人にもちゃんと聞こえたはずだぜっ…はぁっ…」
梅原「良し! 立ってくれ伊藤さん!」
香苗「あ、うん……」とん…
梅原「じゃあ、聞かせてくれ」
香苗「……え?」
梅原「答えを、どうか俺の告白に対して答えをここでくれ!」
梅原「ダメだぞ、もう逃げられねえからな」
香苗「に、逃げられないって…」
梅原「答えは必ず、今、聞かせてもらう」
香苗「い、今…?」
梅原「そうだぜ、もう遠くへ行かせたりはしない」
梅原「伊藤さん、アンタの悩みは…俺が乗り越えてやる」
梅原「わかってる心配ない、俺はいつだって……」
梅原「…アンタの隣に、立ってるからよ」
香苗「っ……となりに…?」
梅原「ああ、離れたりしない。絶対にいつまでも離しはしないぞ」
梅原「何処まで歩き続けて、伊藤さんが遠くへ歩きさってしまっても」
梅原「──ずっと、俺は伊藤さんを支え続けてみせるから!」
梅原「…ありがとうよ、いつまでも俺の隣に…立っててくれて」
梅原「ずっとずっと、感謝してたぜ。今度は俺の番だからさ、もういいんだよ伊藤さん」
梅原「───今度は俺のほうが寄り添っていく番だ」
香苗「あっ……わ、私っ…そんな事思ってっ…なんか…っ」
梅原「……おう、泣くなよ…」
香苗「ごめんなさっ…私は、梅原くんを困らせたくなくてっ…だから…!」
梅原「……」
梅原「…あーもう、うるせえなオイ」ぐいっ
香苗「ふにゅっ…」ぽすっ
梅原「───良いから俺の彼女になってくれ、伊藤さん」ぎゅう
「──ライトアップ! 全部のライトを二人に!」
「──花びらの用意! みんな一斉にふらせて!」
「──全力でぶちまけるわよ、いいわね!」
クラス一同『うぉおおおおお!!!』ドドドドド!
梅原「うぉっ?!」
香苗「ひぁっ!?」
純一「ふらせ! 花びらだ!」
絢辻「声をだすのよ! お祝いの言葉をできるだけ大きな声で!」
薫「小さいわよ! もっと腹から出しなさい!」
梨穂子「おめでとうぉおー! 二人共っ! おめでとぉおー!!」
ひらひらひら…
梅原「これは…」
「まーたこんな事してくれちゃって! 先生に怒られてもしらないからね!」ばっばっ
「きちんと大切にしろよ! 梅原ぁ! ちくしょう!」ばっばっ
梅原「お前らっ…」
「やるじゃん香苗! なになに熱いことこのうえないじゃないの!」
「一生大切にしてもらいな! 絶対にね! 絶対にだよ!」
「ちくしょー! 伊藤さん! 梅原の奴をの頼むぜ!!うぉおおお!!」
香苗「みんな…」
梨穂子「香苗ちゃーんっ! 本当によかったねぇ~うわぁ~んっ!」
香苗「さ、桜井…ちょっと泣きすぎだって…」
梨穂子「かなえちゃ~んっ…!」ぎゅうっ…
ひらひら…ひらひら…ひらひら…
香苗「うん、ありがと…アンタはいつもそんな子だよ…本当にさ…」
梨穂子「うんっ…うんっ…」
香苗「…ありがとう、本当に」ぎゅっ
ひらひら…
純一「んー……どうだ、今の幸せは」
梅原「…どうしようもねえぐらい、幸せだ」
純一「だよなー…どうだよ、この花ビラ。
みんなで急遽、紙をちぎって作ったんだぞ」
梅原「…おう、綺麗だ」
ひらひら…
純一「…じゃあちょっくら、聞いてこい。ちゃんとさ」
梅原「おうよ、大将!」すたっ
香苗「……梅原君」
梅原「…聞かせてくれ、伊藤さん」
香苗「……」
梅原「俺の気持ちは、いつまでも一緒だ」
香苗「…うん」
梅原「ずっと伊藤さんを、好きで居てもいいか?」
香苗「……───」
香苗「──うん! 私も梅原くんのこと好きだからっ…!」
ばっ
ぎゅっ…!
梅原「お、おおうっ…びっくりした」
香苗「好き、好きだよ梅原くん…絶対にもう、離したりしない」
香苗「私だって、これからもずっとずっと…そばから離れたりしないから…」
梅原「…おう、俺もだ!」ぐいっ
香苗「きゃっ…!」
梅原「───やったぜぇえええ! 彼女できたぁああああああ!!」
会場『うぉおおおおおおお!!』
梅原「もうクリスマスは一人で過ごさなくてもいいぜぇええええええ!!」
会場『うぉおおおおおおおおおお」!!』
梅原「うぉおおおおおおおおおおおおおおお!!」
香苗「や、やめっ! はずかしい、恥ずかしいから!」
絢辻「…えらくノリがいいわね、会場の人たち」
純一「それはね、だって梅原が主役だもん」
純一「──みんな何処かで、期待してたんだよ」
純一「あの梅原正吉は……なにかしでかすってさ!」
純一「うん? どうかした?」
絢辻「うん、一つだけね。貴方に私も言っておかなくちゃいけないような気がするのよ」
純一「えっと…それはなにかな?」
絢辻「それはね…」
絢辻「──橘純一は何を仕出かすのか、全くわからないってこと」
純一「……」
絢辻「どうかしら? くすっ」
純一「……さすがだね、ちょっと見破られたことに驚いてる」
絢辻「何を仕出かすのか、楽しみにしてるわ」
純一「うん、楽しみにしてて良いよ」
純一「───もうすぐ、来るはずだからさ」
ばぁーんっ!
梅原「あああ…あ?」
香苗「え、体育館のドアが急に空いて…」
薫「あれ、なにかしら…何処かで見たことのあるような…」
「──ハッローーーーー! ヒィーーーーハァーーーーーー!!」ヒヒィン!
「だ、誰だ!? 何かに乗ってるぞ!?」
「う、馬だァ!? 馬に乗ってるぞ!? なんでだ!?」
「───見て! あの暴れ馬を乗りこなしてる人っ……あれってもしかして!!」
森島「わお!」
在校生『森島先輩だぁあああああああ!!?』
純一「──流石だな、梅原。まず先に僕を疑うなんて」
梅原「ど、どうしてあの人をっ…〝このタイミングで呼んだんだ大将!?〟」
純一「さて?」
梅原「とぼけるなっ! あの人はっ…楽しそうな場所であれば何処にだって現れて!」
梅原「そして最大限に楽しんで、周りを盛り上げ、そして最後に残っちまうのは!」
梅原「──なぜか森島先輩一人という、恐ろしい伝説を知らねえとは言わせねえぞ!」
純一「ふっふっふ」
梅原「っ……」
純一「これは…僕からの最後の試練だ、梅原!」
純一「──そのつかみ取った幸せで、森島先輩に勝ち残って見せろ梅原正吉!!!」
梅原「はぁっ!? 何を言って──」
「きゃああああっ!」
香苗「う、梅原くんっ…!」
森島「──ふふっ、この子がターゲットの女の子ね。ボーイッシュで実に好みよ! ハイヨー!」ぱしんっ
ヒヒィイインン!
「う、うわぁっ!? こ、こっちくる!?」
「うわぁああああああ! 暴れ馬だぁあああああああ!!!」
美也「うっわー! 椅子がなぎ倒されていく…」
紗江「み、美也ちゃんっ…! 早く逃げないと…!」
七咲「そこの水泳部のキミ、はやく塚原先輩探してきて。近くに居るはずだから」
田中「ひぁあああー!」
高橋「ちょ、ちょっとぉ!? 森島さんっ!?」
純一「……………」
絢辻「今さら後悔してるでしょう、橘くん」
梅原「今の状況が既に魔に落ちてしまってるよな!? 阿鼻叫喚だよな!?」
薫「ふぁ~、さーて。恵子ー! 文化祭回りましょ~」
田中「あ、薫~!」
絢辻「そういえば、お昼ご飯まだだったわね。食べましょうか桜井さん」
梨穂子「えっ? う、うん~?」
紗江「きゃあああっ!?」
美也「にっしっし! こっちが面白そうだからねー!」
七咲「…へえ、美也ちゃん。森島先輩側に付くんだね」
森島「ハイヨー! たっちばなくーん! これからどうするのー?」
塚原「──どうもしないわ、はるか」すっ
森島「に、逃げてぇえええ! タネウマくぅうううんっ!」
「ちょ、これ危ないっ…危なくてあぶっ!?」
純一「…」
梅原「…」
純一「…と、とにかくだな!」
梅原「お、おう!」
純一「幸せ、なんだよな? 梅原?」
梅原「当たり前、だぜ? 大将?」
純一「……」
梅原「……とにかく、この状況をどうにかする案を考えやがれ! 橘ぁ!」
純一「いや、どうにかするって…あはは」
梅原「お前がやっちまったんだろ!?」
梅原「マジか!? なんだそれ、早く出しやがれ!」
純一「よ、よしっ……ピュ~イ!」
梅原「指笛…? なんだ、なにか呼びだすつもりなのかよお前───」
かっぱら かっぱら
馬「ひひーん」
純一「馬だ」
梅原「どう見てもハリボテだよな!? 誰か入ってるよな!?」
マサ&ケン『はいってないぞー』
梅原「マサケンーーーー!!」
純一「いいから梅原、突っ込んでる暇じゃない。助けに行くんだ!」
梅原「な、なんだよっ…! これに乗れって言うのかよっ」
純一「と、とりあえず森島先輩から香苗さんを奪え返せば大丈夫! ほら、行って来い!」
マサ『あっ…くそ、重てぇなちくしょう…』
ケン『しかたねえよ、後で伊藤さんの臀部の感触を楽しもうぜ!』
梅原「良いから走れ! お前ら!」ぱしっ
馬「ひ、ひひーん」
森島「はぁ…はぁ…なんとかひびきちゃんを巻けたわ…むっ?」
梅原「森島先輩っ!」
森島「来たわねっ! 掛かってきなさい!」
香苗「梅原君っ…!」
梅原「っ……俺は絶対に離れねえと決めたんだ…!!」
森島「ふふふっ」
森島「──かかってきなさい! ジュリエット!」
梅原「負けるかよっ…うぉおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
~~~~~~
香苗「…こりゃまた、すごい事になったよね~」
香苗(これが体育館の中…だとは思えないわ、ちょっとばかり)
香苗「……」
絢辻「次はそこよ! 素早く動きなさい!」
純一「はい! はい!」
絢辻「次はそこ!」
純一「はぃいいい!!」
薫「あ、これってまだ使えそうじゃない?」
梨穂子「え~でも、食べれないよ?」
薫「いや、これ、食べ物じゃないのよ桜井さん…?」
梨穂子「えっ!? じょ、冗談だよ~っ! あはは~っ」
マサ「ぐぁー! なんで俺等までー!」
ケン「自業自得だよな…」
塚原「……」ゴゴゴゴ
森島「ちょっとしたお遊びのつもりだったのよ~…」
塚原「怪我人が出るかもしれない事が、ちょっとした遊び?」
森島「ひっ」
七咲「美也ちゃん、大丈夫?」
美也「いや~! やっぱり逢ちゃんは強いよね~! だけどアレは引きわけだよ?」
紗江「はわわっ…二人とも、大丈夫だよねっ?」
七咲&美也「次は勝つよ!」
紗江「ふぁ~!」パチパチパチ
田中「大丈夫ですか~先生~?」
高橋「も、もうっ…なんてこと…」
香苗「……」すたすた…
香苗「……」
「──ん、どうしたんだ伊藤さん?」
梅原「こっちは俺の担当だったはずだろ?」
香苗「…うん、確かにそうだったわ」
梅原「…。一緒に掃除するか?」
香苗「いい? やっても?」
梅原「もちろんだ」
さっさっさ…
香苗「…なんだか、一瞬の事だった気がする」
梅原「え?」
香苗「ここ数週間のこと、長かったようで。あっという間な気がするんだよね」
梅原「…なんだか俺もそんな気がしてきた」
香苗「………」
ざぁああああ~……
香苗「……正吉」
梅原「ん?」
香苗「──正吉くんって、呼んでも良い…かな」
梅原「お、おおっ……別に構わねえけど…そしたら、その」ポリポリ
香苗「香苗でいいよ」
梅原「…いいんだな? 呼んじゃうぞ俺?」
香苗「もちろん、下の名前で呼ぶのは嫌なの?」
梅原「馬鹿言え! そんなわけないぜ!」
香苗「んっふふ、じゃあ香苗。さんはいっ!」
香苗「……」すっ
香苗「んっ」
梅原「かな、むぐっ!?」ちゅっ
香苗「……ぷはっ…」
梅原「………は?」
香苗「あはは、呼べなかったね。下の名前でさ~」くるっ
梅原「ちょっ、えっと、今の…っ?」
香苗「──これで二回目、我慢できなかったのは」
香苗「だけど、もう我慢する…必要無いんだよね?」
梅原「……」
梅原「……ああ、いつだってしてこいよ! その為に、何時だって傍にいてやるから!」
読んでくれる人いたのか疑問だけど終わりだよ
香苗ちゃんのss増えてください。
次もまためんどくせえ話で会えたら
ご支援ご保守ありがとう
ノシ
お疲れ様でした
Entry ⇒ 2012.10.23 | Category ⇒ アマガミSS | Comments (0) | Trackbacks (0)
奉太郎「古典部の日常」 6
奉太郎「古典部の日常」 2 (5,6,7,8話)
奉太郎「古典部の日常」 3 (9,10,11,12,13話)
奉太郎「古典部の日常」 4 (14,15,16,17,18,19,20話)
奉太郎「古典部の日常」 5 (21,22,23,24,25話)
ここはどうも、一対一の場面に恵まれている様だ。
ドアの左右には植木鉢が設置されており、前までこんな物は無かった気がしたが……文化祭の関係かもしれない。
そして、入須はゆっくりと俺の方に振り返る。
そんな入須の動作と一緒に、学校のチャイムが鳴った。
入須「授業が始まってしまったか」
入須「先輩にサボりを付き合わせるとは、褒められた事ではないな」
奉太郎「……すいません」
奉太郎「でも、あなたとは話をしなくてはならないんです」
奉太郎「……それは、あなたも分かっているでしょう。 入須先輩」
入須「……さあな」
……そうだな、始まりの時から、話をしよう。
奉太郎「最初から、振り返りましょうか」
奉太郎「……あなたは、何故こんな事をしたんですか」
入須「千反田にサプライズをしよう、と言った事か」
奉太郎「ええ、そうです」
入須「それは始めに言っただろう、君と千反田には恩があったと」
奉太郎「無いですね、もしあなたが千反田に恩を感じていたなら」
奉太郎「さっきの部室前での態度、あれは明らかにおかしい」
入須「あれの事か、君には言いふらす趣味は無かった様だが……盗み聞きする趣味はあったのは迂闊だった」
奉太郎「……気付いていたんでしょう、あなたは」
奉太郎「……果たして、そうでしょうかね」
奉太郎「だけど、今はその事についてはいいです」
奉太郎「何故、あんな態度を取ったんですか。 入須先輩」
入須「……確かに、あれは千反田に恩を感じている人の態度ではないかもしれない」
奉太郎「なら……」
入須「だが」
入須「それも状況によって、だ」
入須「私があそこで引いていたとしよう」
入須「そうしたらその後どうなる? 間違いなく彼女は君に、何故入須と居たのか聞きに来るぞ?」
入須「……君はそれを、千反田のその好奇心を拒絶する事ができるのか?」
入須「計画がばれてしまっては、元も子も無いんだぞ」
奉太郎「さすがは、女帝さんだ」
奉太郎「……そうですね、それは反論としてはもっともだ」
奉太郎「この事に関しては、俺が引きましょう」
入須「……何を考えている」
奉太郎「話を変える、と言う事です」
奉太郎「あなたは一つ、不自然な事を言っていたんですよ」
入須「……聞こうか」
奉太郎「喫茶店に行った時、あなたはこう言った」
奉太郎「私は人の心を覗きたくない、とね」
入須「人の心を覗くのは好きではない、と言ったんだ」
奉太郎「……一緒でしょう」
奉太郎「それより、これは本当にあなたの本心ですか? 入須先輩」
入須「……ああ、紛れも無く、私の本心だ」
奉太郎「……なら、随分とおかしな話になるんですよ」
入須「どういう事か教えてもらおう」
奉太郎「あなたは最初、この計画を始めるときにこう言った」
奉太郎「俺が千反田の事を好きという事を、誰から聞いたのか教えてくれた時です」
奉太郎「私にそれを教えてくれたのは、総務委員会の奴だ」
奉太郎「ま、最初そいつに問いただしたのは私だがね。 傍目から見て、もしかしたらと思ったら案の定って訳だ」
入須「……そんな事を、言ったかな」
奉太郎「惚けないでくださいよ、確かに言いました」
奉太郎「……もう、分かるでしょう? あなた程の人なら」
奉太郎「人の心を覗く様な真似が好きじゃない人が、どうして人の恋路を第三者に聞きだしたんですか?」
初めて、入須が押し黙った。
奉太郎「だがそれは違う、あなたはさっきそれが本心だと言った」
奉太郎「俺はその言葉を信じましょう」
奉太郎「だからこう考えます……あなたにそれを教えてくれたのは里志では無かった、と」
入須「……面白い意見だな、非常に」
入須「だが……事実でもある」
入須「認めるよ、私は彼に聞いたのでは無い」
奉太郎「意外とあっさりと認めるんですね」
入須「くどいのは嫌いだからな」
少しずつ、少しずつだが……入須に詰め寄っている気がする。
大丈夫だ、これで大丈夫な筈。
入須「話をコロコロ変えるのは、嫌われてしまうよ」
その言葉に返す気は、無かった。
奉太郎「俺が次にする話、それは」
奉太郎「今回の事、全てについてです」
入須「……随分と飛躍した物だ」
奉太郎「そうでもないですよ、これが核心でもあるんですから」
奉太郎「俺は、こう考えています」
奉太郎「……今回の計画、入須先輩にとっては」
奉太郎「千反田にばれてでも押し通す必要があった。 とね」
入須「そんな訳、ある筈が無いだろう」
奉太郎「正確に言うと、俺と入須先輩が遊んでいる……具体的には違いますが」
奉太郎「それを見られ、仲良くする二人の事がばれても押し通す必要があった」
入須「……ふむ」
入須「つまり、こう言いたい訳か」
入須「私が最初から、千反田にデート現場を見られる事を予測していた、と」
奉太郎「端的に言えば、その通りですね」
奉太郎「違いますか?」
入須「違うな、それは完全に計画外だった」
奉太郎「……そうですか」
奉太郎「それなら俺のこの推測は、外れてしまいました」
入須「どういうつもりだ」
入須「さっきから君は、何を考えている?」
奉太郎「俺が思っている様な人では、あなたは無かった」
入須「くどいのは嫌いだとさっきも言った、単刀直入に言ってくれ」
なら……終わらせよう。
全部、繋がっている。
奉太郎「あなたは、千反田に幸せになってもらう為に、敢えて千反田に嫌われる様な言動をした」
入須「……何故、そう思った」
奉太郎「最初に言ってたではないですか、計画がばれてしまったら元も子も無い……とね」
奉太郎「だからあなたは千反田を拒絶した、この計画を成功させる為に」
入須「意味が分からないな」
入須「私が本当に、千反田に幸せになって欲しいと思っていたとしたら、だ」
入須「幸せになってもらう前に、辛い思いをさせてしまったら……それこそ本末転倒だろう?」
入須「そして現に、千反田は今……辛い思いをしている」
入須「と言う事は、君の推理は外れているよ」
奉太郎「そう考えると、どうでしょうか」
奉太郎「それなら自分が憎まれる役を演じるのが最善、そうなりませんか?」
入須「……」
奉太郎「そして……次に俺が言う事、それを俺は真実だと思っています」
奉太郎「あなたは、入須先輩は」
奉太郎「俺の姉貴と、面識がありますね?」
入須「……どこで、それを知った」
初めて、入須の顔から余裕が消えた様な気がした。
俺はそのまま……言葉を続ける。
奉太郎「知った、というのとは少し違います」
奉太郎「あなたが与えてくれた情報から考えただけです」
奉太郎「それと、姉貴の言葉からも推測を組み立てられました」
奉太郎「そして、この事実はこうも言えます」
奉太郎「俺が千反田を好きだという事を、あなたは俺の姉貴から聞いた」
奉太郎「あいつはどうにも自分の事が分かって無さ過ぎる、少し……協力して貰えないか」
奉太郎「大体はこんな感じだと思っています」
入須「……なるほど」
入須「つまり私の裏には、君の姉貴が居るという事だな?」
奉太郎「ええ、そう考えています」
入須「……驚いたな、そこまで推理するとは」
入須「君を少し、甘く見ていた」
奉太郎「事実、なんですね」
入須「……私は、あの人にも恩があった」
入須「とても、君と千反田とは比べ物にならないほどの、な」
入須「計画は私に任されたよ」
入須「全部……話そうか」
空を見上げながら、ゆっくりと口を開いた。
入須「始めは本当に、君と千反田を幸せにしたかった」
入須「いや、それは今もだな。 結果は最悪になってしまったが」
入須「……プレゼントを決める為に、駅前に行った日」
入須「見られていたんだよ、千反田に」
入須「君は気付いていなかった様だがね」
奉太郎「……確かに、全く知りませんでした」
入須「そして、そこからどう持ち直すか必死に考えたさ」
入須「これから千反田はどう動く? 私はどう動けばいい? とね」
入須「私が出した結論は……」
俺の言葉を聞き、入須は柔らかく笑うと頷いた。
入須「そうだ、それが最善だった」
入須「私が憎まれ役になり、君と千反田は更に距離を縮める」
入須「君と千反田にとってはいい迷惑だっただろうな、悪いことをしてしまった」
入須「配慮が足らない先輩で、すまなかった」
入須はそう言うと……俺に頭を下げた。
その姿は、どうにも女帝という肩書きは似合いそうには無い。
奉太郎「確かに千反田を傷つけたのは……俺としては許せません」
奉太郎「ですが、あなたも……傷付いてしまった筈だ」
入須「私が? 面白いことを言うね、君は」
入須「本当にそう思うのかい? 私が望んでした事だと言うのに」
入須「君に見破られさえしなければ、君と千反田は私を憎んで丸く収まった」
入須「そして私はそれを気にしない、全てがハッピーエンドさ」
そんな、悲しそうな顔で言われても説得力と言う物に掛けるだろ、この先輩は。
奉太郎「まだ、おかしな点があるんですよ」
奉太郎「ですが、あたなはくどいのが嫌いと言っていましたね」
奉太郎「なので、一つだけ言わせて貰います」
奉太郎「あなたの言葉を借りましょう、入須先輩」
奉太郎「だから俺はこう返す」
奉太郎「あなたは俺に全てを見破られる事さえ、予想していたのではないですか?」
入須「ふふ、ふふふ」
入須「ふふ……君は本当に、あの人の弟なんだな」
入須「……そうだ」
入須「この状況も、私は計算していた」
入須「しかし、その計算していた事さえ見破られるのは……予想外だった」
奉太郎「……あなたも、傷付いているではないですか」
奉太郎「あなたは俺に気付いて欲しかった、自分を守る為に」
奉太郎「俺はそんな優しすぎる人を、責める事は出来ませんよ」
入須「……そう言ってもらえると、少しばかり気が楽になるよ」
入須「千反田にはどうしても、幸せになってもらいたかったんだ」
入須「理由は……私からは言わない方が良い」
それは、千反田が話そうとして……未だに決心が付いていない、あれの事だろう。
入須「……家の関係上な、知りたくなくても耳に入ってきてしまうのだよ」
それは……その入須の心までは、俺には分からなかった。
何故こいつは……ここまで自分を責めているのだろうか。
入須「……ここは中々良い場所だな、風が気持ち良い」
奉太郎「……俺も、嫌いな場所では無いですね」
入須「ここに来た時ね、少しだけ私にも希望があったんだよ」
入須「君はもしかしたら……と言う、小さな希望さ」
入須「それを見事に君は成就させてくれた、感謝している」
奉太郎「つまり、ここまで全てあなたの計画の内と言える訳ですか?」
入須「そんな事は無い」
入須「あそこの植木鉢にある花、名前は知っているか」
あれは……なんだったかな。
俺は元より花の種類についてはあまり詳しく無い。
奉太郎「……すいません、あまり詳しく無い物で」
入須「あれはね、ガーベラと言う花なんだ」
入須「花言葉は、辛抱強さ」
入須「そしてもう一つは」
入須「希望」
奉太郎「……そうでしたか」
奉太郎「俺はどうやら、この先あなたを恨めそうには無いです」
入須「……ありがとう」
入須「一応言っておくが、君のお姉さんを恨むなよ」
入須「この計画を考えたのは私だ、あの人は私にアイデアをくれたに過ぎない」
奉太郎「……分かっていますよ、あれでも姉貴は随分と優しい奴なんですから」
奉太郎「だから、多分後悔していると思います」
入須「……後悔? 何故だ」
奉太郎「あなたを傷付けてしまった事を、です」
入須「……それはどうかな」
奉太郎「俺はあなたより、姉貴の事を知っている」
奉太郎「なので断言できます」
奉太郎「姉貴に取って、あなたは大切な友達なんですよ」
入須「……そうか」
入須はそう呟くと、一度空を見上げた。
俺にはそれが、涙を零さない様に……している様に見えた。
入須「さて、それより」
次にそう言い、俺の方を向いたときには、先ほどまでの悲しげな表情は消えていた。
入須「君にはまだやる事があるだろう? 私と話すより大事な事が」
奉太郎「……そうですね、時間を取らせてすいませんでした」
入須「ふふ、いいさ」
入須「私はもう少し、ここで風を浴びているよ」
奉太郎「……あなたも随分と、後輩に無理をさせる人だ」
俺が最後にそう言うと、入須は小さく笑い……屋上の柵から景色を眺める。
奉太郎「入須先輩」
入須「まだ、何かあるのか?」
奉太郎「これ、お返ししますよ」
奉太郎「あなたの知り合いの、物でしょう」
俺はそう言い、先ほど古典部に落ちていたシャーペンを入須へと手渡す。
入須「……受け取っておくよ、確かに」
奉太郎「それでは、失礼します」
入須「……ああ」
授業中なだけあって、校舎の中は大分静かだった。
俺はそれをお構いなしに走る、屋上から廊下に降り、目的地は一番端っこだ。
走っている時は、とても長い時間だった気がする。
……もっと、早く。
そんな俺の願いが通じたのか、二年H組の札が見えてきた。
確か、千反田は一番後ろの席の筈だ。
後ろの扉から、入ろう。
俺はそう決めると、教室の後部に設置された扉の前で一度息を整える。
奉太郎(一つも俺は、気付いていなかった)
奉太郎(他の事に関しては気付けたが、お前の事になると少し感覚が鈍ってしまう)
奉太郎(お前は多分、俺が謝れば許してくれるだろう)
奉太郎(……そういう、奴だから)
奉太郎(俺は千反田に許してもらえないほうが、幸せなのかもしれないな)
奉太郎(……行くか)
心の中で、決意を固める。
扉に手を掛け……開いた。
奉太郎「千反田!」
教室中の視線が俺に集まる。
無理も無い、授業中なのだから。
千反田は教室の隅で、真面目に授業を聞いていた様だった。
俺に気付き、少しの間……目を丸くしていた。
そして俺はそのまま千反田の席まで駆け寄る。
奉太郎「……とにかく、来てくれ」
える「え、お、折木さん?」
奉太郎「早く!」
俺はそう言うと、千反田の手を取り、走り出す。
廊下に出た所で教室の中から教師の怒号が響いてきた。
……だが、関係ない。
奉太郎「走るぞ!」
える「え、は、はい!」
未だに千反田は状況を飲み込めていない様だったが……後でゆっくりと話せばいい。
とりあえず今は、ここから離れなくては。
久しぶりに握った千反田の手は、柔らかくて、しかし冷たくて。
どこか、暖かい気がした。
第26話
おわり
昇降口から出て、校門へ。
ふと、屋上に目を移した。
入須「……」
そこにはまだ入須が居て、遠くからだったのでよく分からなかったが……笑っていた気がした。
える「……あ、あの……! おれ……き、さん!」
途切れ途切れに、千反田が口を動かしていた。
その言葉で俺は前に向き直り、千反田に言葉を返す。
奉太郎「あとで……話す!」
奉太郎「今は……とりあえず……付いてきてくれ!」
千反田は返事をしなかったが、少しだけ強く握られた手に意思を感じる。
俺が向かった場所は、自分でも良く分かっていなかった。
目的地を決めていた訳では無かったので、当たり前と言えば当たり前かもしれない。
……どこか、静かに話せる場所がいい。
なら、あそこか。
奉太郎「……はあ……はあ……」
える「だ、大丈夫ですか?」
千反田は確か前に、長距離が得意とか言っていた。
なるほど、息が余り切れていないのはそういう事だろう。
奉太郎「……すまない、ちょっと……休ませてくれ」
える「……私は、もっと走れますが」
奉太郎「……簡便してくれ」
俺はそう言い、座り込む。
える「では、ここでお話……しましょうか」
千反田は俺の右隣に腰を掛けた。
える「……授業中だったのですが、用件はなんでしょうか?」
える「……」
奉太郎「全部、話す」
奉太郎「それからどうするか、決めてくれ」
える「……分かりました、聞きます」
それから何分も掛けて、俺がした事……入須がした事を話す。
計画は台無しになってしまったが、そんな事は言っていられないだろう。
……結局、一番傷付いてしまったのは……千反田だったか。
俺が話をしている時、千反田はずっと俺の目を見つめていた。
俺にはそれが辛く、だが目を逸らす事もしない。
そうしなければ、全てが本当に……終わってしまう気さえしていた。
話している最中でも、千反田の表情には何も変化が無かった。
……いつもの千反田では、無いか。
俺はここまで、こいつを傷付けていたのか。
奉太郎「本当に、すまなかった」
俺は語彙が少ないとは自分でも思っていない、しかし。
そう言うしか、無かった。
える「……顔を上げてください」
千反田の言葉を受け、俺はゆっくりと下げた顔を上げる。
パチン、と乾いた音が響く。
ああ、俺は。
叩かれたのか、千反田に。
える「……終わりです」
それも、そうか。
千反田が手をあげる等、ほとんどありえない。
いや、ほとんどと言うか……今、初めて人の事を叩く千反田を見た。
当然だ、このくらい……当然だろう、俺。
たった一つの言葉が、ここまで人を苦しくできるとは知らなかった。
だが、千反田は……もっと苦しかったのだろうか。
部活にも、文化祭にも来れない程に……苦しかったのだろうか。
……出来ることなら時間を巻き戻したい。
でもそれは、都合が良いにも程があるって物だ。
俺は、罰を受けなければならない。
それもまた、仕方の無い事だろう。
……だがやはり、辛いな、本当に……苦しいな。
ふと、頬に水が垂れてきた。
雨、か?
いや……空は晴れている。
と言う事は、俺は。
そういう事か。
奉太郎「……」
千反田の方を、向けなかった。
今あいつの顔を見たら、俺は自分が情けなさ過ぎて……どうしようも無くなってしまう。
千反田の顔を見たら、俺は多分、もっと泣いてしまうから。
える「……あの」
奉太郎「……」
言葉は返せなかった。
える「あの、勘違いしていませんか?」
える「私は、今回の事は終わりと言ったのですが……」
今回の、事?
それはつまり、どういう意味だ。
……くそ、頭が上手く回らない。
俺はようやく、千反田の方に顔を向ける事ができた。
奉太郎「……うっ」
だがやはり、俺の予想以上に千反田の顔が近く、思わず後ずさりしてしまう。
える「……すいません、私の言い方が悪かった様です」
える「それと、頬……大丈夫ですか?」
える「勢いで、思わず……」
える「……このくらいは、許してくれますよね」
奉太郎「あ、ああ」
それはつまり、終わりという事だろうか、今回の事については。
……良かった、良かった。
思わず、体から力が抜ける。
える「……私、本当に辛かったです」
える「折木さんの顔を見たら、おかしくなってしまいそうで」
える「あの様な気持ちは、初めてでした」
える「だから、部活にも……文化祭にも、行けませんでした」
える「……でも」
える「最後には、こうなりました」
千反田はそう言うと、優しく笑った。
奉太郎「本当に、悪かった」
奉太郎「お前の気持ちに気付けなくて、俺は」
える「最後にはちゃんと、こうなりましたから」
える「そ、それとですね。 一つ質問です」
える「さっきの話を聞いた限りだと……その」
える「私が入須さんとお話していたのも……聞いていたんですよね?」
奉太郎「まあ……そうだが」
える「なら、その……私が、折木さんの事を」
える「あの、ああ言ったのも、聞いていたんですか」
奉太郎「……そうなる」
える「……そうでしたか」
える「一緒、ですね」
その千反田の言葉の意味が、俺には分からなかったが……言う、しかないだろうなぁ。
える「……はい」
千反田も俺の言おうとしている事に気付いたのか、俺の顔を正面から見つめる。
奉太郎「俺は、大好きな人に……酷い事をしてしまった」
奉太郎「だが、それでも伝えずにはいられない」
奉太郎「……それを言うのは、俺には許される事では無いかもしれないが」
奉太郎「けど、俺は言う」
奉太郎「その大好きな人は、お前だ……千反田」
奉太郎「俺は、千反田えるの事が」
奉太郎「好きだ」
……これは本当に、省エネでは無い。
たったこれだけの言葉を言うのにも、俺の想定を遥かに上回る量のエネルギーが必要だった。
……だが、気分は良かった。
気持ちを伝えるのは、気分がいい物だった。
える「……気持ちは、私の心にしっかりと届きました」
える「ありがとうございます、折木さん」
える「でも私には、まだ答えを出せ無いんです」
える「……もう少し、もう少しだけ」
える「待って貰えますか?」
奉太郎「……ああ」
える「ありがとうございます」
綺麗で。
可愛くて。
愛おしくて。
俺は心底、こいつの事が好きなんだなと、実感した。
それから少しの間、千反田と一緒に話をしていた。
他愛の無い会話でも、嬉しかった。
千反田の一挙一動全てが、好きになれそうで。
俺は自然に笑い、千反田も笑い。
幸せとは、こういう事を言うのだろうか。
奉太郎「ん?」
える「喫茶店に、行きませんか?」
える「少し……喉が渇いてしまって」
奉太郎「ああ、そうだな」
奉太郎「じゃあ、行こうか」
える「はい! 今日は折木さんの奢りですね」
奉太郎「そうだな……好きなだけ頼めばいい」
える「ふふ、お言葉に甘えさせてもらいますね」
喫茶店に入ると、いつもの店主が軽く会釈をしてきた。
俺と千反田はそれに軽く返すと、カウンター席に着く。
俺はブレンドを頼み、千反田はココアを頼んでいた。
いや、ココアとスコーンと、サンドウィッチ……それに
奉太郎「おい」
える「え? 何でしょうか」
奉太郎「いくら俺の奢りとは言っても……持ち合わせが足りなかったらどうするんだ」
える「ここで、お皿を洗えば……」
奉太郎「……」
える「冗談ですよ、その時は私も出します」
える「でも、折木さんのお金が無くなるまでは、私は出しません!」
える「ふふ、私もそう思います」
ま、いいか。
今日くらいは、いい。
奉太郎「……そうだ、これ」
奉太郎「千反田にあげる予定だった、プレゼント」
奉太郎「受け取ってくれ」
える「これは、ネックレスですか」
える「ふふ、嬉しいです」
える「折木さんから貰ったのは、ぬいぐるみ以来かもしれません」
奉太郎「……そういえばそんな事もあったな」
える「今でもちゃんと、私の部屋にありますよ」
える「今度、来ますか?」
奉太郎「い、いや! いい!」
奉太郎「それはいい、やめておく」
える「あのぬいぐるみ、どこか折木さんに似ている様な気がして、可愛いんですよ」
える「どこと無くやる気無さそうな感じが、とても」
さいで。
奉太郎「……にしても、さっきの授業だが」
奉太郎「何の授業だった?」
奉太郎「あの怒号、余り良い予想ができないんだが」
える「ふふ、数学ですよ」
える「尾道先生の授業でした」
奉太郎「……明日は、大変だな」
える「……一緒に、怒られましょう」
奉太郎「……だな」
奉太郎「……ああ、そうだな」
える「私は勘違いして……お二人に、謝らなければなりませんね」
奉太郎「違う、悪いのはお前じゃない」
奉太郎「全部、俺が悪いから」
える「終わりだと、さっき言った筈ですよ。 折木さん」
える「一緒に、謝りましょう」
える「半分こ、です」
奉太郎「……分かった、そうしよう」
奉太郎「今年は、文化祭……楽しめなかったな」
える「ええ、でも……それより嬉しいことが、ありましたから」
える「……そうですね……来年も……」
気のせい、か?
一瞬悲しい顔をした気がしたが、違う……気がしたんじゃない、確かにした。
もしかすると……いや、今はやめておこう。
奉太郎「外も、暗くなってきたな」
える「……もうこんな時間ですか」
える「そろそろ、帰りましょうか」
奉太郎「ああ、家まで送っていくよ」
える「あの、折木さんは何故……あの時間に来たんですか?」
奉太郎「今日の事か?」
える「ええ、そうです」
奉太郎「居ても立ってもいられなくてって言った感じでな……悪いことをしたよ」
える「……今日の折木さん、謝ってばかりです」
える「私、折木さんが教室に入って来たとき」
える「……本当に嬉しかったんですよ」
える「今までの事が無かった様になる気がして、私……」
える「それで本当に、何も無かったかの様になっちゃいました」
奉太郎「……そうか」
える「何も無かった、とは違いますね」
える「折木さんの言葉が、聞けましたから」
奉太郎「千反田が話をしてくれる時って約束だったけどな」
える「いいえ、私は幸せですよ」
える「……かっこ良かったです、折木さん」
奉太郎「そ、そうか」
奉太郎「……照れるな、少し」
える「家まで送ってくれる折木さんも、かっこいいです」
奉太郎「……やめよう、恥ずかしい」
える「……そうですか、では」
える「手、繋ぎましょうか」
奉太郎「……ああ」
千反田は答えてくれなかったが……それでも、俺には勿体無いくらいの幸せな時間だった。
いや……その日だけでは無い。
それから毎日、一週間、一ヶ月。
里志と伊原にはしっかりと頭を下げた。
里志は「やはりホータローは、力だね」等と言っていた。
伊原は「今度何かしたら許さないから!」と言いながら俺の脛を蹴って来た。
……あれは結構、痛い。
まあそれほど伊原も怒っていたのだろう。 それもまた……仕方の無い事だ。
それから毎日、いつも通りで……毎日、千反田と一緒に帰った。
段々と寒くなっていったけど、千反田と居る時は不思議と暖かかった気がする。
そして、十二月のある日。
つい、昨日の事。
冬休みまで後、一週間。
そんなある日、千反田が
学校に、来なくなった。
第27話
おわり
普通に考えれば……一日休んでも、風邪か何かを引いたのだろうと思う所だ。
しかし、どうにも嫌な感じが拭えない。
何か、何かあったのではないだろうか?
それに今日も、どうやら千反田は休んでいる様だった。
前日までの千反田は……特に変わった様子等、無かった気がする。
なんとも無い会話を四人でしていたし、具合が悪そうという事も無かった。
普通の、本当にいつも通りの千反田だった。
それが昨日と今日、学校に来ていない。
とりあえずは帰ったら、電話をしてみよう。
それで千反田に何故休んでいるのか聞けば……体調を崩したというありきたりな返事が聞けるだろう。
……そうだ、そうに違いない。
里志「ホータロー、やけに考え込んでいるね」
奉太郎「ん、ああ……ちょっとな」
そうか、俺は部室に居たんだった。
それで……里志から聞いたんだった。
千反田が学校に来ていないと言う事を。
昨日は部室に行ったが誰もおらず、今日来たら里志が居て……その事実を聞かされたんだった。
里志「でもそこまで考え込む事も無いんじゃないかな?」
奉太郎「……そう、だよな」
里志「……とは言っても、僕にも少しだけ引っ掛かる事があるんだよ」
奉太郎「引っ掛かる事? 言ってくれ」
里志の情報網は意外と侮れない、俺は今……少しでも情報が欲しかった。
里志「うん、内容は勿論千反田さんの事なんだけど」
里志「どうやら、休むという事を学校側に伝えていない様なんだよ」
つまり、無断で休んでいるという事だろうか?
あの千反田が……確かにそれは、何かおかしい。
奉太郎「……そうか」
奉太郎「やはり今日、電話してみる」
里志「そうだね、それが一番手っ取り早い」
その時、部室の扉が開かれた。
俺は一瞬、千反田が来たのかと思い……顔をそっちに向ける。
摩耶花「……やっぱり、ふくちゃんと折木だけかぁ……」
なんだ、伊原か……紛らわしいな。
摩耶花「……折木、その見るからに残念そうな顔、やめてくれない?」
摩耶花「ちーちゃんが来なくて残念なのは分かるけどねぇ」
昨日もこうだった。
当の本人が居ないからといって、伊原はこの様な事を俺に言ってくる。
だが、間違っていないのがなんとも……
摩耶花「……きっぱり言われると少しムカツクわね」
奉太郎「……すまんすまん」
伊原は本当にムッとした顔を俺に向けながら、席に着いた。
里志「まぁまぁ、二人とも仲が良いのは分かるけど……少し落ち着こうよ」
奉太郎「……誰の事を言ってるんだ」
里志「え? それは勿論、ホータローと摩耶花の事さ」
摩耶花「ふくちゃん、冗談でも言って良い事と悪い事があるって教えてもらわなかった?」
……冗談でも駄目だったのか、ちと悲しい。
里志「あはは、悪かったよ摩耶花」
里志「それと、ホータローもね」
奉太郎「別に、お前の冗談には慣れているからな」
里志「そうかい」
さて、三人集まった所でどうしたものか。
いや、三人寄れば文殊の知恵という言葉がある。
何か……良い案が出るかもしれない。
奉太郎「……それで、二人は何か思い当たる事とか無いのか?」
里志「僕は、さっき言った事が引っ掛かるくらいかな」
摩耶花「それって、あれ?」
摩耶花「ちーちゃんが学校に無断で休んでるっていう」
里志「そうそう、情報が早いね」
なるほど……女子と言うのは噂話が好きとは聞いた事があるが……それも少しは役に立つと言う事かもしれない。
摩耶花「……教えてくれたのふくちゃんだけどね」
そうでもないかもしれない、やっぱり。
奉太郎「伊原は、何か思い当たる事とか……無いか?」
摩耶花「うーん……」
伊原はそう言うと、腕を組み、視線を落とし、しばし考え込む。
やがて、伊原は顔を上げた。
摩耶花「関係あるかは分からないけど……」
摩耶花「昨日は、入須先輩も学校を休んだとは聞いたわね」
入須が? それは関係あるのだろうか? 俺にはどうにも……分からない。
里志「関係あるかどうかは、何とも言えないね」
奉太郎「……ふむ」
摩耶花「でも、入須先輩って学校を休む事は滅多に無いらしいわよ?」
……確か、入須は千反田が抱えている事情を知っていた筈だ。
それはつまり、そういう事なのか?
なら千反田は体調不良などで休んだのでは、無い。
明確な、何かしらの事情があって休んだのだ。
奉太郎「考えても、拉致が明かないな」
里志「やっぱり、直接電話するのが早いかな」
奉太郎「……ああ、今日の夜電話してみる」
俺がそう言うと、伊原が少し言い辛そうに口を開いた。
摩耶花「……実は昨日、私電話したんだ」
奉太郎「千反田にか?」
摩耶花「それ以外誰が居るって言うのよ」
ごもっとも。
摩耶花「……駄目だった」
奉太郎「駄目だったとは、どういう意味だ」
摩耶花「繋がらなかったのよ、誰も電話に出なかった」
誰も?
……電話に出れない状態だったのか?
奉太郎「……そうか」
里志「何だろうね、あまりいい予感は出来ないかな」
確かに、それはそうだが……口にはあまり出して欲しくなかった。
奉太郎「やはり、千反田と話すのが一番手っ取り早いな」
奉太郎「伊原は電話したのは昨日だろ? なら今日は俺が掛けてみる」
奉太郎「それでもし繋がれば、全部分かるだろ」
摩耶花「……うん、そだね」
里志「了解、任せたよ……ホータロー」
奉太郎「……ああ」
もし、出なかったらどうしようという考えは俺の中に不思議と無かった。
……その時は、そうなってしまったら……その時に考えればいいだけの事だ。
とりあえずは今日の夜、一度電話してみよう。
それで何とも無い会話をして、明日千反田は学校に来る。
それを俺は望んでいた。
そろそろ、電話を掛けよう。
あまり遅くなってしまっては向こうが迷惑だろうし、今は夕飯時……居る可能性も高い。
受話器を取り、千反田の家の番号を押す。
一回……二回……
コール音が十回程鳴ったところで、俺は受話器を置いた。
駄目だ、やはり伊原の言うとおり……電話は繋がらない。
しかし……これで、諦めていいのだろうか。
明日、里志と伊原と会い、やはり電話は繋がらなかったと……言って終わりでいいのだろうか?
それでは、今までの俺の繰り返しでは無いか。
少し前に千反田を酷く傷付けた俺と、一緒ではないか。
なら……俺が取る行動は、一つしか無い。
奉太郎「……少し、出かけてくる」
供恵「最近夜遊びが多いわね、お姉さん心配よ」
奉太郎「……すぐに戻るから、ごめんな」
供恵「……あんたが素直だと少し気持ち悪いわね」
奉太郎「じゃあ、行って来る」
これなら、千反田の家まではすぐだ。
風呂にはもう入っていたが……必死で漕いだせいか、冬だと言うのに汗が気持ち悪い。
……そうか、もう冬になっていたのか。
冬休みまでは後少し……俺は何故か、今年が終わる前までに……何か大きな事が起きそうだと思っていた。
いや、思っていたというのは訂正しよう。 確信していた。
今までの事を繋げれば……俺には何が起きているのか、分かっていたのだ。
だが、まだだ。
何故、それが今起きているのかが……俺には分からなかった。
千反田が無断で休んだと言う事は、それが始まった事を意味する。
……何故、このタイミングだったのか。
恐らく、多分。
千反田は近い内に俺に例の話をしてくれるだろう。
しかしそれが分からない。
俺の予測が当たっていれば、それは今で無くても良かったのだ。
いや、むしろ……もっと早く、千反田は言うべきだったのだ。
考えろ、千反田の家まではもう少し。
それまでに、答えが出るかは分からないが……思い出すんだ。
やがて、長い下り坂に差し掛かる。
俺は漕ぐのを止め、今までの事を考える方に集中した。
奉太郎「考えろ、思い出せ……一字一句、繋がる筈だ」
……俺は、答えを出せなかった。
こんな感じは初めてだった。
ヒントは確実に揃っている、しかし……いくら考えても答えが出る気がしなかったのだ。
それはもう……直接、聞くしか無いのかもしれない。
しかし俺はある事に気付いた。
結局、俺は千反田がただの病気では無いと……感じている事に気付いたのだ。
千反田の家が段々とでかくなっていく。
俺はそこで違和感を覚える。
通常なら……この時間、家族で夕飯を食べているか、談笑しているか。
あるいはそれが無い家庭でも、家の明かりはついている。
誰かしらが家には居る筈だ。 そうでは無い家も確かにあるかもしれないが……千反田の家はそういう家の筈。
しかし俺が今見た千反田の家には、それが無かった。
俺はようやく千反田の家の門前に着くと、どこか人気のある場所は無いか探す。
だが、いくら見回してもそれを見つけられない。
奉太郎「……誰も、居ないのか」
そんな、何故誰も居ないんだ。
……俺はあの日、里志にある事を聞いた。
沖縄に行き、三日目の夜。
千反田と伊原が花火をしていた時の事だ。
俺は里志にこう聞いたのだった。
それに対し、里志はこう答えた。
里志「色々あるよ、でも一番有名なのは【別離】かな。 別れの花として有名だね」
そう、里志はそう言ったのだ。
その時だった、俺が嫌な推測を立ててしまったのは。
千反田は時間が無いと言っていた。
そしてスイートピー。
あの日、映画館に二人で行った日……千反田は俺に花言葉は知っているかと聞いてきた。
その二つを繋げると、千反田に待っているのは……別れ。
何故そんな事を千反田が言ったのかは分からない。
だが、それが今だとしたら?
千反田の家がもぬけの殻と言うのも……納得が行ってしまう。
これで終わりなのだろうか。
これで……俺と千反田は、終わってしまうのだろうか。
……いや。
そんな事はありえない。
絶対にありえないんだ。
千反田はこうも言っていた。
必ず、俺にその話をしてくれると。
……俺はその千反田の言葉を信じる。
誰が何と言おうと、例え俺の姉貴に言われても。
里志や伊原に言われても。
あの入須に言われても。
もう、終わりだと告げられても……
俺は、千反田の言葉を信じる事にした。
あれから一度も、千反田は学校に来なかった。
毎日電話をしたが……とうとう繋がることは無かった。
古典部の空気は大分暗く、気安い場所では無くなってしまっている。
だが俺は、毎日古典部へと足を運んでいた。
前触れも無く、千反田が来ると思っていたから。
そして今日も……俺は古典部へと足を向けていた。
すれ違う生徒の声が、ふと耳に入ってくる。
「そういえば、今日来てたらしいよ」
「え? 来てたって誰が?」
「H組のあの子、名前はなんだっけかな」
「あ、もしかしてあの有名な子?」
「そうそう、その子」
……
……
それは、千反田の事だろうか?
俺はそいつらにそれを聞こうと振り返るが、既に姿は無かった。
どこかの教室に入ったのかもしれないし、階段を使ったのかもしれない。
くそ、呆けていたのが失敗だった。
気付くのがもう少し早ければ、聞き出せていたのに。
それより! あいつが来ているのか?
なら、今は放課後……来るとしたら、あそこしかない。
そう思い俺は古典部へと向け、進む速度を上げる。
扉を開けると、里志と伊原が居た。
俺が一番居て欲しかった千反田は……居なかった。
奉太郎「……よう」
里志「ホータローも、噂を聞いたのかい?」
噂……それは、つまりあの事か?
奉太郎「千反田が、来ていたという奴か」
里志「そう、それだよ」
里志「僕と摩耶花もね、それを聞いて急いで来たんだけど……どうやら遅かったみたいだ」
奉太郎「……元々、ただの噂だろ」
奉太郎「最初から来ていない可能性だって、ある」
そうだ、俺は多分……良い様に解釈して、里志や伊原も俺と同じように噂話に流されていたんだ。
摩耶花「……それは無いわ」
……伊原がここまで言い切るのは、少し珍しい。
奉太郎「何故、そう思う」
摩耶花「これよ」
そう言い、伊原が手に取り俺に見せたのは……一枚の手紙だった。
いや、手紙と言うには少し文字の量が少なすぎる。
メモ、と言った所だろう。
奉太郎「……それは、千反田が書いたのか?」
摩耶花「間違いないわ、私……ちーちゃんの字は良く覚えているから」
摩耶花「私とふくちゃんもう読んだ、次は折木の番」
摩耶花「……はい」
奉太郎「……」
俺は黙ってそれを受け取った。
そこに、書いてあった内容は……
第28話
おわり
そこにはいかにも千反田らしい、達筆な字でこう書いてあった。
『すいません、この様な形での挨拶となってしまいまして。』
『私は、本当に感謝しています』
『何度も私の気になる事を解決してくれて』
『私の事を、助けてくれて』
『今日の夜22時、約束のお話をします』
『あの場所で、待っています』
誰に宛てた物なのか、誰が書いた物なのか書いていないのは……多分、あいつが純粋に忘れていただけだろう。
……そういう奴だ、千反田は。
そして俺は……認めたくなかった。
こんなの、今日で終わりと言っている様で、認めたくなかった。
里志「どうするんだい、ホータロー」
奉太郎「……どうするって、何がだ」
摩耶花「あんたね、これちーちゃんが折木に宛てた物よ」
摩耶花「あの場所ってのは私達には分からないけど、あんたには分かるんでしょ」
奉太郎「……宛名が書いていない以上、決められんだろ」
里志「はは、ホータロー」
里志「いくら君でもね、それは少し……ね」
里志「僕も、さすがに怒るよ。 それは」
そう言われても、俺は……俺は!
摩耶花「……本気で言ってるの、折木」
……くそ。
摩耶花「あんた……!」
里志「摩耶花、いいよ。 続きを聞こう」
奉太郎「……それは、俺が考える事だろ」
奉太郎「お前らには……関係無い」
本当にそんな事、思っている訳ではなかった。
……それは言い訳か、どこかで少しでも思っていたから……口に出てしまったのだろう。
里志はもう言う事が無いと思ったのか、視線を俺から外し、外を見ていた。
摩耶花「……折木」
摩耶花「これだけは言って置くわ」
摩耶花「……ちーちゃんは」
摩耶花「ちーちゃんは……私の友達だ!」
摩耶花「お前に……! お前に関係無いなんて言われる筋合いは無い!」
奉太郎「……」
こんな、こんな伊原を見るのは初めてだった。
ここまで感情を昂ぶらせ、激昂している伊原を見たのは……
摩耶花「悔しいけど、あんたしか居ないのよ」
摩耶花「ちーちゃんを幸せにできるのは、折木だけなんだよ」
奉太郎「……まだ、千反田が不幸になるとは決まった訳じゃない!」
摩耶花「……っ!」
里志「ホータロー」
ふいに里志が、視線を変えず俺に声を掛けてきた。
里志「君も分かっているだろう?」
里志「千反田さんが学校を休み」
里志「そして今日、部室にメモを置いて行った」
里志「……何かが、何か良くない事が起きている事くらいは」
里志「僕や摩耶花にも分かる事なんだよ」
奉太郎「……そうか」
里志「今日はもう、帰ってくれないか」
里志「これ以上、今は君の顔を見たく無い」
奉太郎「……すまなかったな」
里志は明らかに怒っていた。
……それも、無理は無いか。
俺は最後にそう言い、部室を去る。
今日の、夜22時か。
……どうするか、だな。
時刻は既に、20時を回っている。
だがどうにも俺は、行く決心が付いていなかった。
……会えば、そこで終わってしまう。
なら会わなければ?
それもまた、終わってしまうだろう。
なら……なら俺はどうするべきなのか。
そして果たして、俺が千反田に会いに行く事で……あいつは幸せになれるのだろうか。
その事が一番、俺を引き止めていた。
俺が最後の約束を破り、千反田に嫌われてしまえば……そっちの方が、あいつにとっては良い事なのかもしれない。
……ああ、そうか。
あの時の千反田は、こういう気持ちだったのか。
あいつは俺に嫌われたかったと言った事があった。
その気持ちは、今の俺には痛いほど良く分かる。
……理解するのが、遅すぎた感は拭えないが。
そんな事を自室のベッドの上で考えていたとき、急に扉が開いた。
供恵「電話よ、里志君から」
奉太郎「……せめてノックしてから開けろ」
供恵「それはそれは、申し訳ございませんでした」
そんな冗談を言っている姉貴から受話器を奪い取り、耳に当てた。
里志「……やっぱりね、まだ家に居ると思ったよ」
里志「ホータロー、少し話をしようか」
奉太郎「……ああ、分かった」
里志「君は、今日行かないつもりなのかい?」
奉太郎「……まだ、分からない」
里志「いつまで決めあぐねているんだい?」
里志「君を待ってくれる程、時間はゆっくり動きやしないよ」
奉太郎「分かってる!」
奉太郎「……俺にもそのくらいは、分かっている。 だが……」
里志「……はあ」
里志「ホータローはさ、こう考えているんじゃないかな」
里志「今行ったとして、それは千反田さんにとって幸せなのか? とね」
奉太郎「……」
里志「沈黙は肯定と受け取るよ」
里志「やっぱりホータローは、優しすぎる」
やっぱり、とはどういう意味だろうか。
前に里志が言っていたの確か。
奉太郎「前と言っている事が違うぞ」
奉太郎「お前は俺を優しく無い、と言っていた気がするが」
里志「ああ、沖縄の時に言った事かな?」
奉太郎「そうだ、お前は確かに俺の事を優しく無いと言っていた」
里志「それは違う、僕が言いたかったのはね」
里志「自分に関して、だよ」
奉太郎「……自分に、関して?」
里志「そうさ、君は自分に対して優しく無さ過ぎる」
里志「それはつまりね、周りの人に対して優しいって事だよ」
奉太郎「……そんな事は」
里志「今ホータローはさ、千反田さんにとって一番幸せになれる事は何か、って考えているね」
里志「そして今ホータローが取ろうとしている行動さえも間違いだけど……」
里志「それはね、ホータロー自身に厳しすぎる選択だよ」
里志「……少しはさ、優しくなった方が良いと思うよ」
奉太郎「……本当に、そう思うか」
里志「ああ、断言できる」
里志「君は今日、会いに行くべきだ」
里志「僕から言えるのはこれだけだね、後はホータロー自身が決める事」
里志「でも今日、もし行かなかったら……」
里志「その先は、やめておこうか」
奉太郎「……そうか」
奉太郎「伊原には、悪いことをしてしまったな……」
奉太郎「今度ちゃんと、謝るよ」
里志「それは今日、ホータローの行動によるね」
里志「君が片方の選択を取れば、謝る必要は無い」
里志「だがもう一つの選択を取れば、しっかり摩耶花には謝って、仲直りして欲しいかな」
奉太郎「……ああ、分かった」
奉太郎「里志」
里志「ん? まだ何かあるのかい」
奉太郎「その、ありがとな」
里志「はは、ホータローから素直にお礼を言われるとは、僕もまだまだ捨てた物では無いかもしれない」
里志「それじゃあ、そろそろ失礼するよ」
奉太郎「……またな」
……俺は、自分に甘えていいのだろうか。
今すぐ、会いたい。
千反田の顔が見たい、手を繋ぎたい。
声が聞きたい、笑顔が見たい。
そんな感情に、甘えていいのだろうか。
俺は一度、リビングへ行きコーヒーを飲む。
そして、ソファーに寝そべる姉貴に向け、一つの質問をした。
奉太郎「なあ」
奉太郎「例えばの話だが」
奉太郎「一人は会いたいと思っていて、もう一人にとっては……会わない方が幸せかもしれない事があったとする」
奉太郎「そんな時の事なんだが、会いたいと思っている人間が姉貴だった場合……どうする?」
供恵「何それ、何かの心理テスト?」
奉太郎「真面目に答えてくれ」
供恵「はいはい、可愛い弟の頼みだからね」
供恵「私だったら、会いに行くよ」
奉太郎「何故? もう片方はそれで不幸になるんだぞ」
供恵「それはさ、片方が勝手に思っている事じゃない?」
勝手に、思っている?
供恵「だったら会うまで分からないじゃない、それが良い方に出るか悪い方に出るかなんて」
供恵「それにね、片方にとっては会わない方が確実に不幸になるんでしょ?」
供恵「そしてその行動は、相手にとって不幸になる事かもしれない」
供恵「ならさ、会うしかないでしょ」
……はは、これはおかしい。
俺は勝手に、千反田が不幸になると思っていたのか。
全部、俺が勝手に思っていた事。
随分と俺は……俺と言う人間を過大評価していたのかもしれない。
……馬鹿なのは、俺だったか。
供恵「……なら良かった」
供恵「外は寒いからね、暖かくして行きなさい」
奉太郎「……全く、どこまで分かってるんだよ」
供恵「なあにー? 何か言った?」
奉太郎「いいや、なんでもない」
奉太郎「……行って来るよ、俺」
供恵「ふふ……良い選択よ、奉太郎」
時間は……21時。
まだ、間に合う。
約束の時間は22時……大分早いが、行こう。
それは多分、少なくとも俺にとっては幸せな選択だ。
……最後くらい、自分に甘えてもいいよな。
姉貴の言う通りにシャツを何枚か重ねて着る、上からコートを羽織り、俺は外に出た。
……うう、確かにこれは寒い。
雪でも、降るのでは無いだろうか。
時間はまだあるな、歩いて向かおう。
あの場所というのは……まあ、あそこだろうな。
俺は千反田との約束の場所に着き、缶コーヒーを一本買う。
そしてベンチに座り、それをゆっくりと口の中に入れた。
冬の空気と言うのは、少し好きだ。
どこか新鮮な感じがして、心が透き通る感じがするからだ。
コーヒーをもう一度口の中に入れ、ゆっくりと飲み込む。
缶コーヒーはあまり好きでは無いが……今日のは少し、美味しかった。
10分……程だろうか。
約束の時間まではまだ結構あったが、足音が一つ近づいてくるのが分かった。
それは俺が一番会いたかった人で、一番会いたくなかった人なのかもしれない。
……これもまた、千反田の気持ちと一緒か。
こんな、最後の最後になってようやくあいつの気持ちが分かるなんて、やはり俺は馬鹿だった。
だがまだ、まだ終わった訳じゃない。
俺の選択が良い方に出るか、悪い方に出るか、それはまだ決まった訳じゃないんだ。
だから、俺は足音の方へと顔を向ける。
……予想通りの人物が、そこに居た。
奉太郎「……久しぶりだな」
える「……そうですね、随分と長い間、会っていなかった気がします」
第29話
おわり
奉太郎「ああ」
千反田はそう言い、俺の隣に腰を掛けた。
奉太郎「……今日は、寒いな」
える「そうですね、今日はこの冬で一番の冷え込みらしいですよ」
奉太郎「なるほどな、それなら納得だ」
える「……あの」
える「もう少し、そちらに行ってもいいですか?」
奉太郎「……ああ」
すると、すぐ横に千反田を感じた。
本当に、すぐ近くに……
える「これで少しは、暖かいです」
奉太郎「……それは良い案だ」
える「……ふふ」
俺と千反田は本当に自然と、どちらからと言う事も無く、手を繋いでいた。
千反田の手はとても、暖かかった。
奉太郎「もうすぐで今年も終わりだな」
える「ええ、早い物です」
える「ついこの間、折木さんに会ったばかりの様な気がします」
奉太郎「……そうだな、俺もそう思う」
辺りは静かだった。
車や人通りはほとんど無く、時折……公園の周りに植えられている木が風に吹かれ、ざわざわと音を立てているだけだった。
える「あの時は本当に、びっくりしました」
奉太郎「……閉じ込められていた奴か?」
える「ええ、そうです」
える「思えばあれが、最初でしたね」
千反田の気になる事を解決した……最初の事件。
……事件と言うには少し大袈裟か。
奉太郎「半ば無理やりだったけどな」
える「そんな、酷いですよ……私、とても気になって仕方なかったんですから」
奉太郎「……まあ、それだけじゃ終わらなかったけどな」
える「ふふ、そうですね」
える「本当に色々ありましたからね、沢山……」
える「全部、折木さんが解決してくれました」
奉太郎「解決って程の事でも、無いだろ」
える「折木さんにとってそうでなくても、私にとってはそうなんですよ」
そういうもんか、解決という言葉の方こそ……大袈裟かもしれない。
える「いっぱい、お話しましたね」
奉太郎「そうだな、本当にいっぱい話した」
奉太郎「……これからも、だろ」
える「……」
俺のその言葉に、千反田は答えない。
える「……私の事、お話しましょうか」
奉太郎「……」
今度は俺が、答えられなかった。
その話を避けようと、俺はベンチを立つ。
奉太郎「何か、飲むか」
える「折木さんの奢りですか? それなら是非」
そう言い、千反田は笑った。
……ああ、こいつの笑顔を見るのは随分と久しぶりな気がする。
理由になっていない理由を述べると、俺は自販機で紅茶を二本買った。
コーヒーでも良かったが、何故か少し……紅茶を飲みたくなった。
奉太郎「熱いから、気を付けろよ」
える「はい、ありがとうございます」
千反田に紅茶を一本手渡し、再びベンチに腰を掛ける。
俺が座り直すことで、千反田との間に少しの距離が出来ていた。
える「では、頂きますね」
それをこいつは、構う事無く再び埋める。
奉太郎「……ああ」
横から缶を開ける音がして、俺もそれに合わせて缶を開けた。
ゆっくりと、紅茶を口に入れる。
……やはり、俺にはコーヒーの方が向いているかもな……と思わせる味だった。
える「おいしいです、寒いから尚更、ですね」
奉太郎「……俺にはやはり、紅茶は向いていないかもしれない」
える「……私にコーヒーが向いていないのと、同じですね」
奉太郎「ある意味では、そうかもな」
える「……ふふ」
そのままゆっくりと、時間は過ぎて行く。
俺はずっと、永遠にこのまま一緒に居たかった。
……だが、さすがにそうはいかない。
ああ、とか、分かった、とか……肯定をとにかくしたくなかった。
しかし、それでも……聞かなくては、ならないだろう。
……そうだ、聞いてから答えればいい。
答えを、出せばいいだけの話じゃないだろうか?
ならまずは、聞かなければ。
奉太郎「……話してくれ」
俺がそう言うと、千反田はゆっくりと口を開いた。
える「まず、どこからお話すればいいんでしょう……」
それを俺に聞くか、全く本当に、千反田はどこまでも千反田だ。
奉太郎「最初からでいい、時間はあるだろ?」
える「ええ、大丈夫です。 最初からお話します」
そして千反田は一つ咳払いをし、再び口を開く。
える「まず、春の事です」
える「皆で遊園地に行った時……その時の事は覚えていますか?」
奉太郎「ああ、覚えている」
奉太郎「確か……泊まりで行ったな」
える「ええ、そうです」
える「そして私は、途中で帰ったのを覚えていますか」
奉太郎「……ああ」
あの時はそう、千反田が家の事情とやらで……一足先に帰った筈だ。
……そうか、あの時が始まりだったのか。
える「そして私は、家に帰り……病院へと向かいました」
える「お医者さんが言うには……」
える「もう、目を覚ますことが無いかもしれない、との事でした」
……そんな、そんな事があったのか。
奉太郎「あの日の夜、確か俺はお前を呼び出したな」
奉太郎「……すまなかった」
える「いえ、折木さんが来てくれて、嬉しかったですよ」
奉太郎「そう言って貰えると助かる」
奉太郎「……それと最近、学校を休んでいたのは何があったんだ?」
える「……父の容態が急変したんです」
える「それで、病院にずっと居ました」
える「折木さんにはお伝えしようか、悩んでいたんです」
える「でも、やはり言えなくて……すいませんでした」
奉太郎「……そういう事だったのか」
奉太郎「お前が最近学校を休んでいた理由は分かった」
奉太郎「……それで、その後は」
える「……ええ」
える「何ヶ月経っても、父は目を覚ましませんでした」
える「その間、千反田の家には家を纏める者が居なかったのです」
える「そして、やがて親戚同士で話し合いが行われました」
える「……内容は、噛み砕いて説明しますね」
奉太郎「……少し、予想は付くかな」
える「次の千反田家の頭首は、という物でした」
える「ええ、私です」
える「……当然と言えば、当然だったのかもしれません」
奉太郎「……だが、その話は何故ここまで黙っていた?」
奉太郎「確かにお前の父親が倒れたのは……あまり、言いたくは無かったと思うが」
奉太郎「そこまで黙秘する理由が、あったのか」
千反田は再度、咳払いをした。
繋がっていた手が、少し……強く握られていた気がする。
える「……はい、ありました」
える「折木さんは、回りくどいのは好きでは無かったですよね」
える「ですので、簡単に伝えます」
える「私は、父の後継者として学ぶ事が沢山あるんです」
える「学校では習えない、事です」
奉太郎「……どういう事だ」
千反田は、少し間を置き……口を開く。
える「私は今年いっぱいで、神山高校を辞めます」
何を言っているのかが、理解できなかった。
単語の一つ一つさえ、組み立てられず……文にならない。
ゆっくり、ゆっくりと単語同士を繋ぎ合わせる。
そして、俺は全て理解した。
千反田が時間が無いと言っていたのも、意味深に花言葉の話を出したのも。
スイートピーの花言葉は、別離。
……なんだ、笑えるくらいそのままではないか。
しかしそれを、すぐに受け入れろと言うには……ちょっと今の俺には無理かもしれない。
奉太郎「……お前には、母親も居るだろう」
奉太郎「それでは、駄目なのか」
千反田は首を振り、答えた。
える「駄目なんです」
える「こう言ってはあれですが……母親は純粋な千反田家の者ではありません」
える「余所者に任せる訳には……いかないんです」
はは、やはり……住む世界が違うな。
俺には到底、理解が出来ない世界だろう。
奉太郎「……そういう事だったのか」
奉太郎「だが、何故それを今になって言ったのか……その答えにはなっていないぞ」
える「……それは」
える「私が、高校を辞めると言ったら……自惚れかもしれませんが、皆さんは悲しんでくれると思うんです」
える「そんな顔は、見たくありませんでした」
える「最後まで、最後までいっぱい遊ぼうと思っていました」
える「でも……気付いてしまったんです」
える「私は、折木さんの事を好きなんだな、と」
千反田は、ちょくちょく俺の方を向くと笑顔になっていた。
それがどうしようも無く辛く見え、しかし俺には声を掛ける事さえできなかった。
そんな俺の思いには気づかず、千反田は続ける。
える「そして、思ったんです」
える「……折木さんに嫌われれば、後を濁さずに去れるのでは無いかと」
奉太郎「……それで、あんな事をしたのか」
える「はい、そうです」
える「でもそれは、間違いでした」
える「……私は弱いですから、意志の強さが」
える「折木さんの顔を見たら、嫌われるのが嫌になっちゃったんです」
とても、とても悲しそうに笑っていた。
俺は……俺には。
何も、出来ないのだろうか。
奉太郎「俺は!」
奉太郎「お前の事を嫌いになんて、絶対にならない!」
奉太郎「だから、だから……もっと楽しそうに、笑ってくれ」
える「……ふふ、ありがとうございます」
千反田は一度、紅茶を口に含んだ。
それをゆっくりと飲み込むと、話を続ける。
える「この間の、お返事がまだでしたね」
える「折木さんの事が、好きです」
える「他の女性の方と遊んでいるのを見るだけで嫉妬しちゃうくらいに、好きです」
える「折木さんと夜に会ったり、電話でお話した次の日も気分が良い位に、好きです」
える「折木さんの全てが、好きなんです」
える「……でも」
える「ごめんなさい」
何もかも、元通りにならないだろうか。
全て、無かった事に。
俺はゆっくりと夜空を仰ぐ。
冬の風が、痛い。
空を見上げると、ゆっくりと……何かが舞い落ちてきた。
……雪、か。
今日は寒かったからな。
それが俺の顔に辺り、溶けて行った。
える「……ええ、そうですね」
奉太郎「……寒いな」
える「……はい」
奉太郎「……千反田と居る時は、暖かかった」
奉太郎「……でも今は、少し寒いな」
える「……泣いているんですか」
……どうやら俺も、大分涙脆くなってしまったのかもしれない。
俺は自分が泣いているなんて事は思わなかった、雪が溶け、そう見えるだけなのだろうと。
……でも、千反田が言うからには……俺は泣いているのだろうな。
える「……折木さん」
千反田の声は、今までに無いほど弱々しかった。
その声は確かに俺の耳に届き、ゆっくりと千反田の方に顔を向ける。
振り向くと、やはり千反田の顔は俺のすぐ傍にあり。
そのまま……千反田は俺の唇に、自分の唇を重ねていた。
実際にはとても短い間だったのかもしれないが、俺にはそれがとても長く感じた。
やがて、千反田は離れていく。
える「……お別れのキスは、少ししょっぱいんですね」
奉太郎「……そうか」
これで本当に、終わりか。
本当に、全部。
……いや、まだだろう。
まだ、まだだろう、俺。
お前には、言うべき事がまだあるだろう。
全部、全部を良い方向に向ける、一言が。
千反田の顔を見て、言えばいいんだ。
後、一年待ってくれるか、と。
千反田の人生に、俺を巻き込んではくれないか、と。
お前の人生を、俺に手伝わせてくれないか、と。
……一緒に、一緒にずっと歩こう、と。
そう言えば、全てが良い方向に行くだろ、俺。
何が最悪なのかと言うと……
俺はここ数年、自分でもいつからかは分からないが、モットーを掲げてきていた。
そのモットーとはつまり、やらなくてもいいことなら、やらない。 やらなければいけないことなら手短に。
そんな、そんなモットーが俺に一つの考えをよぎらせてしまった。
それはつまり。
これは、本当にやらなければいけない事なのだろうか?
その考えがもたらすのは、最悪だった。
口を開いて、言葉を言おうにも……口が開かない。
言おうとしても、邪魔されて言えない。
たった……たった一言、一緒に居ようと言うだけで、全部良くなると言うのに。
どうにも、どうにも俺は言えなかった。
そして……
える「……そろそろ、行きますね」
俺もそれにつられ、腰を上げた。
公園を出て、千反田は再び俺の方に振り向く。
える「本当に、今までありがとうございました」
える「私はとても、幸せでしたよ」
える「大好きです、折木さん」
える「それでは」
える「……さようなら、折木さん」
奉太郎「……ああ」
千反田は、また……とは言わなかった。
明確に、さようならと……別れの言葉を俺に告げた。
段々、段々と千反田の姿が小さくなっていく。
道路の脇に植えられた木の枝に雪が付き、その間を歩く千反田の後姿はとても、綺麗だった。
まるで桜道を歩いているような、そんな錯覚さえも覚えた。
千反田の姿はどんどんと小さくなり、もう少しで見えなくなってしまいそうな時に。
ふと、千反田が振り返った。
なんで、なんでそんな簡単な事も分からなかったのだろう。
俺は今まで、何をしてきたんだ。
自分を思いっきり、殴り倒してしまいたい。
千反田の顔は、はっきりと見えた。
その、今にも泣き出しそうな顔を見て、俺は全てに気付いたのだ。
……千反田は、待っていた。
俺が、さっき言おうとして言えなかった言葉を言ってくれるのを。
ずっと、待っていたんだ。
しかし、もう俺の声は千反田には届かない。
走って行くにしても、どうにも足が動かない。
やがて……千反田は再び歩き出し、俺の視界から……居なくなっていた。
……全部、終わったんだ。
泣くなよ、全部終わっただけではないか。
そうだ、これこそが省エネではないか。
俺が、折木奉太郎が望んでいた事ではないか。
……全部、最初に戻っただけだ。
千反田の笑顔も、泣き顔も、悲しんだ顔も、全部。
今まであいつと話した時間も、手を繋いだ時間も、一緒に遊んでいた時間も、全部。
俺があいつに好きだと言った事も、あいつが俺に好きだと言ってくれた事も、全部。
全部……
全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部
全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部
全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部
全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部
全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部
全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部
全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部
全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部
そう思い、瞼を一瞬強く下ろした。
再び目を開けた俺に見えたのは、どこまでも灰色で……地球の果てまで行っても灰色しかなさそうな、世界だった。
なんだ、こんな事か。
……なんだよ、たったこれだけの事、今までずっと見ていたじゃないか。
見慣れた、光景ではないか。
……駄目だ。
いくらそう考えようとしても、駄目なんだ。
……俺には、千反田が必要だ。
しかし、それはもう遅すぎる……手遅れだ。
省エネ主義なんてくだらない事さえしていなければ、こんな大きなツケが回って来る事も無かった。
……帰るか。
俺はそう思い、ベンチから腰を上げた。
公園を出て、家に向かう。
……これから一年、いや……死ぬまで。
随分と、長い時間となりそうだな。
……希望と言うには少し大袈裟かもしれないが、確かに希望があったのだ。
それは、公園の周りに植えられた木や、雑草の中で。
一輪だけ植えられた、ガーベラの花だった。
それはもしかすると、ただの夢だったかもしれない。
俺が物事を前向きに捕らえようとして、勝手に見た妄想だったのかもしれない。
だが、俺はそれでも確かに見たんだ。
しっかりと、綺麗に咲いているガーベラの花を。
第30話
おわり
最終章
おわり
俺はついに……全てを終わらせてしまったのだ。
冬休みが明け、今日は登校日。
歩く学生達は皆、新年を迎えたという事で爽やかな顔をしていた。
それに俺は何も感じない、ただ、元気な奴らだな……と思うだけだった。
教室に行き、先生の話を聞く。
里志と伊原には既に説明をしてあった。
伊原は泣きじゃくっていたし、里志にしても俺が今までほとんど見たことの無い、泣き顔を見せていた。
始業式が終わり、午前中の内に放課後となった。
……H組には一通り目を通したが、当然、千反田の姿は無かった。
俺は結局、する事も無く古典部へと足を向ける。
そして、古典部の扉に手を掛けると、ゆっくりと開く。
黒髪は背中まで伸びていて、体の線は細い。
そいつはゆっくりと振り返る。
イメージに反して、目は大きかった。
それは……そいつは。
奉太郎「……千反田?」
しかし、その言葉を発したのと同時に……全てが泡のように消えた。
窓際になんて誰も居ないし、俺に振り向く人も居ない。
奉太郎「……そうか、そうだよな」
俺はそのまま、ゆっくりといつもの席に着いた。
やがて……伊原と里志も部室に顔を出し、いつもの席に着く。
里志「……なんだか、少し広く感じるね」
奉太郎「……そうかもな」
摩耶花「……それに、なんか静かすぎ」
奉太郎「……そう、だよな」
奉太郎「……席、一つ空いちゃったな」
里志「……うん、そうだね」
摩耶花「……今年の古典部、何すればいいのか分からないよ」
……くそ、また俺は泣いてしまいそうになっている。
この涙脆さは、あいつから移ってしまったのだろうか。
……最悪の、プレゼントだな、全く。
そんな事を思っていた時だった。
……ふと、気配を感じる。
それは伊原や里志も一緒の様で、全員が扉に視線を釘付けにしていた。
薄っすらとだが……人影が見える。
俺はこの時、何故かこう思った。
あの時咲いていたガーベラは、俺の妄想ではなく……実際に咲いていたんだ。
力強く、咲いていたんだ。
何故そう思ったのかが分からない程急に浮かんできた考えだった。
そして、古典部の扉はゆっくりと、少しずつ、開かれて行った。
第30.5話
おわり
そして本日を持ちまして
奉太郎「古典部の日常」
は完結となります。
皆さんの乙や感想の一言がとても励みになりました。
長いような短い間でしたが、お付き合い頂きありがとうございます。
残りがまだ少しだけあるので……少し本編に関係あるお話を投下します。
最後の最後、える視点からの物となります。
本編終わってからの補足話で申し訳ありませんが、もう少しだけお付き合いください。
それでは5分ほど時間置きまして、投下致します。
折木さんの言葉を、優しい言葉を。
左右に植えられている木は、雪が積もり……まるで、桜の様でした。
……これからは、私は一人で歩かなければなりません。
どんなに気になる事があっても、自分でなんとかしなければならないのです。
最後に一度だけ、私は振り返りました。
折木さんは未だに、私の事を見ていて……
私もそれに気付き、できるだけ楽しそうに、折木さんに笑顔を向けます。
……そして、前に向き直り、私は一歩一歩進みます。
折木さんは最後まで、私の望んでいた言葉を言ってくれる事はありませんでした。
ですが、それもまた……折木さんらしくて、素敵です。
今日は、泣かないと決めたのに。
最後の別れくらいは、元気な千反田えるで居ようと思っていたのに。
でもそれも、ばれなければ問題ありません。
今振り返ってしまったら、全部、折木さんには分かってしまうでしょう。
なので私は振り返りません。
……やっぱり、しょっぱいですよ。 折木さん。
……そうでした、私は何故、言葉を待っていたのでしょうか。
自分から、私から言えば、それで良かったのでは……無いでしょうか。
でも、もう遅いです。
私はもう、歩いてしまっているから。
振り返る事も、立ち止まる事も、もうできないかもしれないです。
それでもやっぱり私は、折木さんの事が大好きです。
例え何年経っても、何十年経っても、私の心の中で生き続けます。
……それくらいなら、許されてもいいですよね。
その思い出は、足枷なんかではなく、私を強くしてくれる、立派な力なのですから。
ふと、風が後ろから強く吹いてきました。
私はそれに、自然と振り返ってしまいます。
そして、私の視界には既に……折木さんの姿はありませんでした。
私は再び前に向き直り、まだ雪が舞い落ちて来ている空を眺めます。
真っ暗な空から、白い雪がチラチラと散っていて、とても幻想的な光景でした。
私は独り、そう呟くと足を再び動かします。
ゆっくり、ゆっくりと。
……さあ、これからは忙しくなりそうです。
気持ちを、どうにか切り替えましょう!
……私、頑張りますよ。 折木さん。
なのでどうか、折木さんも頑張ってください。
いつか、いつかもう一度……会えると信じて。
今度こそ、奉太郎「古典部の日常」は完結となります。
本当に、本当にありがとうございました。
Entry ⇒ 2012.10.23 | Category ⇒ 氷菓SS | Comments (3) | Trackbacks (0)
はやり「歳の差っていけないこと?」
「オッケーでーす! お疲れ様でしたー」
はやり「お疲れ様でした☆」
D「はやりちゃん今日も良かったよー」
はやり「ありがとうございまぁす☆ はやり嬉しいっ」
みんなに笑顔を振りまいてお仕事終了。
元々こういった人前に出るお仕事は好きだし、この歳でアイドルだとか、そういう体裁を気にしたことはない。
幸い容姿的には-十歳でも通用するし――キツいと言われることがない訳ではないけど――何より自分が楽しんでいるから。
ほんの少しのキャラ付け、興味のあったロリータファッション。お砂糖スパイス素敵なモノ。
これら全てが私の一部。
アイドルモードと素の自分は正反対! なんて意外性はないにしたって、されど私は28。
経験だってそこそこあるし、いわゆる「大人の世界」も一通りは見てきたつもり。
中身までがクリームたっぷり夢見がちなメルヘン少女という訳ではないのだ。
はやり「……はぁ」
だから分からない。今更、初体験をしていることが。こんなにも心を掻き乱されていることが。
どうやら私は本当に、恋をしているみたいです。
それは今から二年前くらいの話。
夏、茹だるような暑さに参っていた私に与えられたお仕事は毎年恒例インターハイの解説。
トッププロ入りしてから早……何年くらいかなぁ。とにかく、私は決勝戦の解説を任されるくらいのベテランになっていた。
今年はどんな面白い子がいるのだろうと未来のホープに期待を込めながら打ち合わせを重ね、いよいよ本選が始まった。
自分の出番はまだだけれど、そのときのために各校のチェックは欠かさない。
はやり「うわわ、やっぱりこの子凄いなぁ。東三局で飛ばしちゃってる……親番で連荘かぁ」
その年特に騒がれていたのは宮永照さん。白糸台高校の先鋒で一年生。
インターミドルなどでの成績が一切ない上、打点が上昇していくという特異な打ち筋で、そのミステリアスな強さに日本中が注目していた。
無名校や初出場校が勝ち上がったり、先の宮永さんのようなスーパールーキーが入学して勝ち進んだりと、予想だにしないドラマがあるのもインターハイの醍醐味の一つ。
この大生院女子は、インターハイ自体には何度か出場しているけれどいつもパッとしない成績だった。
だから、この年はきっと凄い一年生が入ってきたんだと思った。ワクワクしながら選手を確認する。
――――予想外だった。
大生院女子の先鋒は、三年生。それも、何とインターハイ初出場の。
三年にして初のレギュラー入りということだろうか?と思うも、牌譜がその考えを否定する。
宮永さんのような派手さはないけれど――トッププロでなければ見抜けはしないだろう――オカルトじみた打ち筋は、さながら鷹が爪を隠しているようだった。
まだ、本気じゃない……きっとこの子が本気になるのは決勝なんだ。
私は高揚するままに、その名前をしっかりと目に焼き付けた。
戒能良子。大生院女子先鋒の、不思議な三年生。
泣いても笑っても、これが最後の試合。
決勝に勝ち進んだのは、白糸台、臨海女子、姫松。そして――大生院女子。
身体が震えた。もう何年も解説のお仕事はしているけれど、これほど楽しみな試合はなかった。
結果から言うと、その年の優勝校は臨海女子。
大生院女子も白糸台も、先鋒以降では打ち負けてしまった。
お互い先鋒で稼ぐというスタンスなんだろうけれど、宮永さんと戒能さんが削り合った結果、それほど大きなリードを取れずにその後失速してしまったのだ。
解説している間、私は自分がトッププロで牌のおねえさんであるがゆえの守るべきラインとかキャラだとかを、すっかりどこかに置き忘れてしまっていた。
ただ純粋に、あの空気に触れたいと思った。
そして、オーラス。戒能さんが宮永さんに跳満を直撃、大生院女子がトップに躍り出た。
やり切った表情をして会釈をし合う彼女たちを見ながら、私は頬が熱くなるのを感じた。
はやり(戒能……良子、ちゃん)
思えばこのとき、きっともう始まっていたんだろうな。
私の胸の高鳴りが、確かにそれを告げていた。
一言にまとめるのは簡単だけれど、その現実を直視するのは何というか、難しい。
はやり(ハタチって……若っ。プロ入りしてなきゃまだ学生やってる歳なんだよね……)
いつからこんなに年寄りじみた考えを抱くようになったんだろう。私だってまだまだイケると思うんだけどなぁ。
けれどそんなものは虚勢でしかなく、つまり私は怖いんだ。
こんなに年下で、一目惚れに近くて、ろくに話をしたこともない相手に恋をしているということが。
牌のおねえさんをやっていて、年齢を気にしたことなんてない。
いつもいつまでも自分らしく、自分のやりたいことをやるのが私のモットーだもん。
相手が自分と同じプロだから? 違う。とあるプロと付き合っていたときはこんな風に悩まなかった。
面識が浅いから? 違う。あの日知り合った子と一晩だけ関係を持ったこともあった。
はやり「やっぱり……歳の差、なのかなぁ」
声に出して、ため息をつく。何かがひっかかる。
年齢なんてものに囚われないで生きてきた私が、どうしてそんなものに悩むことがあるだろうか。
そんなことは、ない、と思う。けれど、自分がこうやって考え込んでいる原因なんて、それくらいしか見当たらない。
次から次へと溢れて止まらない至高の波を、着信音が遮る。
はやり「……咏ちゃん?」
意外な人物からの突然のお呼び出し。
モヤモヤした気持ちを晴らすためにも、ここはお誘いに乗りましょう。
はやり「今日はまた、どうしたのー? まぁオフだったしいいんだけど」
咏「最近働き詰めだったかんね、ちょっと飲みたくなっちゃってさー。お、来た来た」
健夜「あれ、私が最後か。待たせちゃったかな」
咏「いんやー、今来たばっかだよ」
はやり「健夜ちゃんも呼ばれてたんだぁ。久しぶりっ」
健夜「結構久々だね……はやりちゃんも、急に?」
はやり「うん。お家でゴロゴロしてたらいきなり電話がかかってきてびっくりしたぞ?」
咏「いまさらそんなん気にする仲じゃないっしょ! ってことで飲み行くぞー!」
はやり「おー☆」
健夜「わ、私明日仕事なんだけど……」
咏「んぐっ、んぐっ……ぶっはー! 疲れた身体にビールが沁みるー!」
はやり「咏ちゃんオヤジくさぁい☆」
咏「ほっとけー! なんならオヤジらしくセクハラしてやっても良いんだぜー?」
はやり「そーいうのは事務所通してくださーい☆」
健夜「ん……砂肝おいし」
はやり「えっ……そうかな?」
健夜「確かに……何か悩んでるっていうか、ため息も増えたよね」
はやり「うっそぉ……」
咏「私が飲みたかったってのもあるけどさ、何でこの面子かっていうとだ」
健夜「ああ、それ気になってたんだ。何で?」
咏「そりゃもちろん女関係の悩みを持つもの同士!」
健夜「ブッ」
健夜「ごめ……ゲホッ、咏ちゃん何言ってるの!?」
咏「ああゴメンゴメン、すこやんは円満だから悩みじゃねーわな」
はやり「羨ましいぞーこのこのぉ☆」
健夜「そうじゃなくて……えぇ……なにこの空気」
咏「まー私も? 別に喧嘩したとかじゃないけど? えりちゃんのモテモテっぷりには嫉妬もする訳よ」
健夜(絶対喧嘩してる……)
咏「でっしょ!? 私がいながらさー、無防備すぎんだよえりちゃんは!」
健夜「それはえりちゃんのせいじゃないんじゃ……」
咏「いーや! えりちゃんフェロモンのせい!」
健夜「フェロモンって……」
はやり「んん~……それはわかったけど、それで何で私なの?」
咏「え。だってはやりんが元気ないのって女絡みでしょ?」
健夜「あ、それは私も思ってた」
はやり「えー? なになに、そんな感じ出てた?」
健夜「何か珍しいタイプの悩み方だもんね。思春期の恋煩いみたいな」
はやり「ぐふぅっ」
咏「おー! すこやんの攻撃! はやりんのHPが500ダウン!」
健夜「えぇっ!? ご、ごめん?」
はやり「うぅ……聞いても、笑わない?」
健夜「それは聞いてからじゃないと……」
はやり「ぐはぁっ」
咏「さらに追撃ーっ! はやりん死亡!」
健夜「えぇぇえ!?」
咏「なーんか遠まわしじゃね?」
はやり「自分でもちょっと混乱してて……」
健夜「はやりちゃんがこういう風に悩んでるのって新鮮かも」
はやり「それは自分でも思ってるよぅ!」
咏「で? 誰が好きなん?」
健夜「?」
はやり「……戒能、良子ちゃん」
咏「うっひょ! マジかい!」
健夜「良子ちゃんってあの良子ちゃんだよね!?」
はやり「う、うん……プロの、新人賞取った……」
咏「こりゃまた……はやりんがあの子に……へぇぇぇ……」
健夜「何ていうか、ごめん、正直ビックリ……」
咏「いやいや、悪いって言ってる訳じゃねーよ? ただちょっと意外だっただけで」
健夜「そうそう。はやりちゃんって何となく年上とお付き合いしてるイメージあったし……」
はやり「そう!!」
健夜「は、はいっ!?」
はやり「そこなの! 私、もう28だよ!? それなのに、ハタチの子に恋なんて……はぁ……」
咏「んー? 別に歳とか関係なくねー? 知らんけど」
健夜「好きになったものはしょうがないんじゃないかな?」
はやり「そうなの……? でもほら、歳の差って変な風に取り上げられやすいし……」
咏「その歳でアイドルやってるはやりんが言えたことじゃないっしょ~」
健夜「はやりちゃん、歳の差に悩んでたの?」
はやり「え……?」
健夜「はやりちゃんって、年齢とか気にしてなさそうだったから」
はやり「……わかんない」
はやり「別の、とこ……」
健夜「うん……何ていうか、年齢を言い訳にしてるみたいな感じがするかなって」
咏「おっ、言うねーすこやん!」
健夜「あっ、その、悪い意味じゃなくてね!?」
はやり「……」
咏「さすがアラフォーは言葉に重みがあるわぁ~」
健夜「アラサーだよ! 咏ちゃんまでこーこちゃんみたいなこと言って!」
健夜「どこまでって……私とこーこちゃんはそういうのじゃ……」
はやり「……えぇ~? そんなことないでしょ☆」
健夜「はやりちゃんまでっ!」
咏「いつまでカマトトぶっこいてんだよー、やることやってるくせしてー」
はやり「健夜ちゃんってそういう関係は段階を踏んでからなるものだと思ってそうだしねぇ☆」
健夜「だ、だって……告白とか、大事でしょ?」
はやり「私もその場の勢いとか多いかも~」
健夜「そんなものなの……? いやでも、あれは事故っていうか……」
はやり「あれって何? おねーさん教えてほしいなぁ☆」
咏「もっしかして、この間ふくよんが泊まったとき?」
健夜「まぁ……そう、だけど」
咏「マジで! 何があったん?」
健夜「えっと……その、き、キス……しちゃったっていうか……」
はやり「えー! それホント!?」
咏「うっひょ! すこやんやるねぃ!」
健夜「し、してきたのはこーこちゃんの方だから! じゃなくて、あれは事故っていうか!」
はやり「まさか健夜ちゃんの口からそんな言葉が聞けるなんて……はやりん泣けちゃう……☆」
咏「これが大人になるってことなんだねぃ……はやりん、乾杯っ!」
はやり「かんぱぁいっ!」
健夜「ちょ、ちょっとぉ!」
飲みすぎ。
健夜ちゃんをいじったり、咏ちゃんのえりちゃん自慢を聞いたりと、楽しい時間が過ぎるのはあっという間だった。
健夜ちゃんは最後ヤケ酒してたけど、明日のお仕事大丈夫なのかな?
そして、私はというと。
はやり「もっと、別のところ……かぁ……」
ここ最近、ずっと胸に引っかかっていたのはそこだったのかもしれない。
確かに私は健夜ちゃんの言うように、歳の差という言葉を盾に、何かもっと大きな悩みに気づかないようにしていた気がする。
だからといってその悩みがわかった訳ではないし、根本的な解決には至っていないのだけれど。
それでも、早くそれに気づけなければ、きっとまた私は自分の弱さに蓋をしようとしてしまうだろう。
酔って重力に耐え切れなくなった身体と対照に、少しだけ心は軽くなった気がする。
瞳を閉じると、あのときの彼女の姿がすぐそこにあるようだった。
もう一日あった休みは有意義に使うことが出来たと思う。今日はレギュラー番組の収録だ。
多少気持ちが落ち着いたからか、笑顔がいつにも増して良いと褒められた。嬉しいな。
「お疲れ様でしたー」
はやり「お疲れ様でしたぁ、今日も楽しかったです☆」
収録も終わり、次のお仕事までは少し時間が空く。
いつもなら一人で洋服を見たりしているところだけど、今日は何故かしばらくスタジオから出る気にならない。
まぁ、こんな日もあるよね。控え室で次のお仕事の準備でもしてようかな?
なんてことを考えながら廊下を歩いていると、これはどういうことだろう。
意中の彼女の姿が見えた。
口から心臓が飛び出すくらい、なんてものじゃない。
ピンと伸びた背筋に、長い睫毛。すみれ色の綺麗な髪はコンパクトにまとめられていて、まだまだ着慣れていないはずのスーツはしっくりと似合っている。
そこにいるのは間違いなく、戒能良子その人だった。
良子「ん……?」
目と目が合う。それだけで通じ合う、なんて仲ではないけれど、彼女はこちらに歩を進める。
良子「瑞原プロじゃないですか。すっげーお久しぶりですね」
鈴の鳴るような透き通った声が、私の心をノックした。
私はしどろもどろに――なっていたのは心中だけだと思いたいけれど――なりながら、何とか食事の約束を取り付けた。
玄関ホールで待ち合わせをして、喫茶店にでも行かないかと誘った私の顔は不自然に赤くなかっただろうか。
彼女は表情を崩さないまま、「いいですね」と快諾してくれた。
小走りで控え室へ戻り、自分がどんな洋服を着てきたか改めて確認する。
今日は一日フルでお仕事が入っていたから、それなりにお洒落な格好をしてきていた。
心底ホッとしてから、気合を入れて化粧を整える。
こんなにも誰かに見てもらうための努力をするのも久しぶりかもしれないな、と思うと、チークがいらないくらいに頬が火照った。
本当はこの言葉をかける五分ほど前に玄関に着いていたのだけれど、緊張だの心配だのがピークに達して深呼吸を繰り返していた。
髪の毛とか変じゃないかな?今見ると服もちょっと派手かもしれない。
けれど一人で何を悩もうが結局はこのまま出て行くしかないのだから、と割り切るまでに、いっそ帰りたいと何度思ったことだろう。
彼女は気取った様子のないいつものスーツ姿で、芯が一本通ったようなブレのない姿で立っていた。
良子「ノープロブレムです。行きましょうか」
はやり「う、うんっ!」
一歩踏み出した脚が震えていたことは、気づかれていないと思いたい。
はやり「そうだね……良子ちゃんとお話したいなぁって思ってたんだけど、なかなか現場も一緒にならないし」
良子「私はテレビなんかの仕事は少ないですし、誘っていただけたらいつでもついていきますけどねー」
はやり「でもでも、新人王さんは引っ張りだこなんじゃないの?」
良子「ないないノーウェイノーウェイ、瑞原プロ程じゃないですよ」
はやり「あはは……良子ちゃんもやってみる? 牌のおねえさん」
良子「ノーサンキューです」
いざ向かい合って話をしてみると、なかなかに落ち着いて喋れている気がする。
ここは年の功、経験が役に立ったかな、とこれまでの自分を褒めてあげたりなんかして。
はやり「あ……そうだ、言いそびれちゃってたけど、この間の大会も優勝してたね。おめでとう☆」
良子「ああ、ありがとうございます。日本代表クラスが出場してないもんで、助かったですけど」
はやり「ううん、良子ちゃんは最近どんどん強くなってると思うよ? これは本当」
良子「トッププロに言われると嬉しいですねー」
はやり「あなたもトッププロでしょっ。伸びしろがあって羨ましいぞ☆」
はやり「ふぇ? み、見てくれてたの?」
良子「いえす。相変わらずすっげー速いわ強いわで、見てるほうも楽しかったですよ」
はやり「あ、ありがとう……」
まさか、試合を見てくれているなんて思わなかった。またもかぁっと頬が熱くなる。
ちなみに私は良子ちゃんの出場する大会は細かくチェックしている。彼女の変幻自在ともいえるプレイスタイルは、毎度私に感動を与えてくれるものだ。
良子「ところで、今日はこの後また仕事ですか?」
はやり「うん。あと……二時間後かな。ラジオの収録があるの」
良子「あー、そうでしたか。暇ならこのまま買い物でもどうかと思ったですけど、しょーがないですね」
はやり「えぇっ!?」
――あ、マズイ。
思ってもいない嬉しいお誘いに、つい大きな声を出してしまう。
変な人だと思われちゃったらどうしよう。
良子「気にしないでくださいー。今度オフの日にでも改めて誘いますよ」
はやり「ありがとう……そのときは絶対! 何が何でも! 行くから!」
良子「オーキードーキー。んじゃ、アドレスとか教えてもらっといていいですか?」
はやり「う、うん! ちょっと待ってね」
良子「いえす」
光陰矢のごとし。
そろそろ次のお仕事に行く時間だ。
後ろ髪を二トントラックに引っ張られているような思いはあるものの、それはそれ、これはこれ。
社会人として大人として、お仕事はしっかりこなさなければいけない。
良子「楽しかったです。誘ってくれてありがとうでした」
はやり「こちらこそ☆ 急だったのに付き合ってくれて嬉しかったよ~」
良子「こっちからメールしておきますんで、登録よろしくですー」
はやり「はぁい、待ってるね☆」
控えめに手を振る彼女がかわいくて、話が出来て嬉しくて、私は今にもスキップしそうなほど舞い上がっている。
彼女に対する恋心を自覚してからこんなにも長く彼女といたのは初めてのことで、つまり口角が上がるのも当然のことで、私は身体中が幸せに満ちるなんていう感覚を久しぶりに味わった。
sub:戒能です
―――――――――――――――
グッドモーニング。
今日はありがとうございました。
またご一緒させてください。
もう何度も見返した受信メール。保護はとっくにしている。
メール画面を閉じて電話帳を開いてみても、そこに彼女の名前があることが嬉しくて、私はここ一時間ほど枕に顔を埋めて脚をバタつかせている。
はやり(まずいなぁ……私、ほんとに好きなんだ)
これまで経験だけを積み重ねてきた私にとって、ここまで盲目的に恋をするというのは珍しいことだった。
何もかもが新鮮で、こんなにも胸が温かくて、そしてちょっとだけチクリと痛い。
幸せに浸りながらも、ひとりになって思い出すのは咏ちゃんのあの言葉。
何かがわかりそうな気がしている。けれど、それをわかりたくない気もしている。
出口まではあと少しなのに、ふわふわとした足取りでなかなか距離が詰まらない。
はやり「……良子、ちゃん」
もう何度も呟いた彼女の名前。
掴みどころがなくて、たまに見せるお茶目さがかわいくて、私よりずっと年下の、私の好きな人。
この気持ちの終着点って、どこだろう?
とりあえず、今日はこのまま幸せの海に漂っていたい気がする。
ゆっくり考えていけばいいなんて、都合のいい余裕かもしれないけれど。
着信を示すランプが紫色に点灯しているのを見て、慌てて携帯をチェックする。
from:良子ちゃん
sub:無題
―――――――――――――――
ハローですー
明日とかお暇ですか?
簡潔な文章に彼女らしさがよく出ていて、思わず笑みがこぼれる。
偶然にも明日はオフなので、手早く返信。
from:良子ちゃん
sub:Re:はろー☆
―――――――――――――――
それはラッキーでしたね。
楽しみにしてます。
彼女が楽しみにしてくれているというだけでこんなにも心が躍るのだから単純なものだ。
明日の準備を入念にするためにも、今日のお仕事は張り切ってささっと切り上げなくちゃ。
良子「グッドモーニングですー」
今日は暑くもなく寒くもなく丁度良い気温に、空は雲ひとつない快晴。絶好のお出かけ日和だ。
彼女の私服は色々と想像していたけれど、それに反していつものかっちりとしたスーツ姿だった。
はやり「良子ちゃんはいつもスーツだね~」
良子「あまり私服を着た経験がないもので、どういうのがいいとかわかんないんですよね」
はやり「へぇ、珍しいね……じゃあじゃあ、今日は私が良子ちゃんをコーディネートしてあげる!」
良子「サンキューです。じゃあ、行きますか」
はやり「レッツゴー☆」
彼女は私より十センチほど背が高いので歩幅が合わないかもしれないと一瞬だけ寂しさを感じるも、いざ並んで歩くと意外と控えめというか、足運びにお淑やかな印象を受ける。
最初は私に合わせてくれているのかな? と思ったけれど、ともすればそれは私よりも小さいようで、どうやら生まれつきのようだった。
はやり「そういえば、私服を着た経験がないっていうのは、どういう……?」
良子「ああ、私の家系が神職でして。高校までは巫女をしてたんですよ」
はやり「そうだったんだ……なんか意外かも。良子ちゃんってどこか外国風というか」
良子「高校2年間は親に付いて留学してましたから、そのせいじゃないですかね」
はやり「ほぁー……なんだかスゴいね」
良子「ノーウェイノーウェイ。家系といえば、うちの従姉妹が今年のインハイに出るみたいなんです」
良子「滝見春って子です」
はやり「春……ああ、永水女子の!」
良子「いえす。あの辺はみんな血縁でして」
はやり「確かにみんな巫女さんだったなぁ、あそこ……麻雀の強い家系なんだねぇ」
良子「まぁ色々と特殊ですけどねー」
なるほど、巫女服で生活をしていたから歩幅が小さいんだ。
お家の話や従姉妹さんの話も聞けて、彼女のことをどんどん知っていくのが嬉しい。
傍から見ているとクールな印象を受ける彼女だけれど、こうして一緒にいるとお喋り好きな一面も見える。
そして何より、そんな彼女を今だけは自分が独占しているのだという事実が私の心を浮き立たせた。
はやり「そうだよ☆ 私が着てるようなかわいい系だけじゃなくて大人っぽいのもあるから良子ちゃんにも似合うと思うな」
良子「私はよくわからないんで、お任せします」
はやり「おまかせあれー☆」
ところで、たった今気づいたことがある。
――――良子ちゃんは私のこと、名前で呼んでくれないのかな?
思い返せば誰に対してもきちんとした態度を崩さない彼女ではあったけれど、休日にお出かけするような仲になったからには高望みしてしまうのも致し方ないことだろう。
良子「あ、嫌でしたか? じゃあ瑞原さんとか……」
はやり「んもぉ、そうじゃなくて! はやり、って、呼んでほしい……な?」
話を切り出したときは冷静なそぶりを繕えたというのに、どうしても尻切れトンボになってしまう。
不自然に区切られた私の声を受け取った彼女の返事を待ちながら、激しく打つ胸を静めるためにこっそりと深呼吸をする。
良子「オーケーです。それじゃ、はやりさん……でいいですか?」
はやり「おっ、おっけー、です!」
失礼なことだとは思うけれど、返事を返してすぐ後ろを向いた。
髪の毛を伸ばしていて良かった。もし短かったとしたら、いくら顔を隠しても真っ赤になった耳が見えてしまうだろうから。
それに少しでも記念になればいいと思って、彼女にアクセサリーをプレゼントした。
あまり高いものは遠慮させてしまうし、お友達として付き合う上ではネックになるだろうから小さいものだけれど。
それでも彼女は喜んでくれて、つられて私も笑顔になる。
そしてふと、プレゼントをあげる立場になったのも初めてのことだな、と気づいた。
良子「今日はありがとうございます。アクセサリーまで頂いてしまって」
はやり「いいのいいのっ。年上なんだから、プレゼントくらいさせて?」
良子「今度お返ししますよ。それまでに勉強しときますー」
はやり「ホント? 期待してるぞ☆」
彼女とのお出かけは本当に楽しかった。
こんな時間がいつまでも続けばいいのに、そう思わずにはいられないほどに。
良子「そうですねー。近いところで大きいのだと秋の交流戦ですか」
はやり「あ、やっぱり出場するんだね☆ 私それの解説」
良子「解説なんですか? 残念ですー」
はやり「はぇ? どうして?」
良子「はやりさんは選手として出るのかと思ってたですから」
はやり「あぁ、なるほど……私も良子ちゃんとは打ってみたいけど、あれは未来ある新人さんのための大会だからねー」
そこまで言って、ハッとする。
アイスティーのシロップをかき混ぜていた手が止まる。
――――わかった。わかって、しまった。
これまで私が抱えていた悩みが、どうしても靄がかかって見えなかった本質が、見えてしまった。
良子「……? はやりさん?」
彼女の声で我に返る。
名前を呼ばれるたびに高鳴っていた胸の奥が、今は冷え切っている。
はやり「あっ、ご、ごめんね。えっと、そんなことないと思うよ? 良子ちゃんすっごく強いもん」
搾り出すような生返事に、彼女の眉が少し下がったような気がした。
また連絡する約束をして別れた。
最後まで私の心は揺れていて、彼女の言葉もなかなか耳に届かなかった。
心配そうな彼女の表情に気づかないフリをして、精一杯の笑顔で手を振ることが、果たして本当に出来ていただろうか。
気づいてしまった。違和感の正体。
歳の差なんて簡単な話じゃない、それよりもっと別のところ。
はやり「……本気だから」
強めのシャワーが全身を濡らす。
顔に垂れてくる水を鬱陶しいとも思わないのは、感覚が身体と乖離しているからか。
はやり「……本気だから、くるしいんだ」
顔出しのないお仕事で良かったと思う。きっと私は今、ひどい顔をしているだろうから。
本気だから、苦しい。
本気で好きになってしまったから、同じ歩幅で歩けないことが寂しい。
彼女の「これから」と私の「これから」は違うと知ってしまったから、こんなにも悲しいんだ。
きっと彼女はこれから、もっともっと強くなって、最高峰の力を持ったプロになるだろう。
――――でも、私は?
可能性に満ちた彼女の隣に、胸を張って立つことができるだろうか?
はやり「ああ、なるほど……それも含めて、歳の差、かぁ」
私がどんなに彼女を好きでいようと、彼女に相応しい人は他にいる、そしてこれからも増え続けるだろう。
どんなに想っても、彼女と私が過ごしてきた年月は離れすぎていた。
sub:無題
―――――――――――――――
今日はありがとうございました。
別れ際、体調が優れないよう
だったですけど、大丈夫ですか?
無理しないでくださいね。
私のためを思って送ってくれただろうメールを見つめる。
せっかくのお誘いだったのに、勝手に悩んで勝手にへこんで、悪いことをしてしまった。
馬鹿だなぁ、私。こんなに若くて、未来があって、そんなあの子に不釣合いな恋をしてしまった。
諦められればいいけれど、胸にはっきりと残る熱さが頑なにそれを拒否している。
涙を流すことこそなかったものの、精神が疲弊しているのは間違いなさそうだった。
そんなとき、いつかのように着信音が鳴る。
はやり「……咏ちゃん」
電話に出るかどうか逡巡したけれど、結局通話ボタンを押してしまう。
相談に乗ってもらったのだから報告はするべきだと思うし、話して楽になりたい気持ちもある。
こんな身勝手な人間は尚更彼女には相応しくないと、自虐的な笑みを貼り付けた私がそこにいた。
咏「はっやりーん! よく来たねぃ!」
健夜「この間ぶり……っていうか、またこの面子なんだね」
咏「まーねー、飲みたい気分のときはこの三人が一番だわー」
はやり「咏ちゃん都合いいー☆」
咏「言ったなー? このわがままボディめ!」
健夜「……?」
咏「んぐんぐ……ぷはっ! うんめー!」
健夜「ん……おいし」
はやり「……」
咏「いやー急に呼び出して悪いねー二人とも」
健夜「ほんとだよ……今日はどうしたの?」
咏「この間えりちゃんフェロモンの話したじゃん? まぁあんとき実は喧嘩中だったんだけどー」
はやり「そうだったんだぁー☆」
健夜(やっぱり……)
咏「めでたく和解しましてー、愚痴に付き合わせたお詫びに奢ろうかなーと思ってさ!」
はやり「よっ、ふとっぱら~☆」
健夜「うーん、じゃあありがたくご馳走になろうかな……」
はやり「へっ? あっ、あぁ……」
健夜「……はやりちゃん、何かあったでしょ?」
咏「お?」
はやり「……」
健夜「今日のはやりちゃん、目に見えてカラ元気だから……私たちでよかったら、話くらいなら聞けるよ?」
咏「……すこやーん、そういうのはもっと温まってからじゃね? 知らんけどー」
健夜「えっ今タイミング良かったよね!? 駄目だった!?」
咏「早すぎだろ! せっかく私が楽しげな感じで始めたっつーのにさー!」
健夜「えぇ……そんなぁ」
はやり「……ぷっ」
咏「へ?」
健夜「ん?」
健夜「は、はやりちゃん?」
はやり「あのね……食事もしたし、アドレスも交換したし、この間なんて遊びに行っちゃった」
咏「お、おおっ、進んでるねぃ」
はやり「でもね、ほら、前に咏ちゃんたちが言ってたでしょ? 私の悩みはもっと別のところにあるんじゃないかって」
健夜「うん」
はやり「ずっと考えてたんだけど答えが出なくて……でも、気づいちゃったんだぁ」
はやり「私、怖かったみたい。ずいぶん年下なのにしっかりしてて、おまけにあの若さでトッププロで……すごいよね?」
咏「……」
はやり「そんな、まだまだすごい可能性を持ってる子の隣に、私がいていいのかなって」
はやり「私がいることで、あの子の芽を摘んじゃうんじゃないかなって……」
はやり「……私、馬鹿だよね」
健夜「はやりちゃん……」
はやり「あの子の負担になることも、自分が本気の恋してるってことも、全部、怖くて……っ」
咏「……はやりんさぁ」
はやり「ぐすっ、……?」
咏「ばっっっ……かじゃねーの?」
はやり「へ」
健夜「う、咏ちゃん!?」
咏「なに? 自分、そんなことで悩んでたん? 呆れた、ドン引きだわこりゃ」
はやり「……咏ちゃんはまだ若いから、そういうこと言えるんだよ」
健夜「ふ、ふたりとも、おちつ」
咏「関係ねーっての。なに急に年齢とか感じちゃってんの? しかも自爆してるし。バッカみてー」
はやり「だって! あの子はまだまだ強くなるんだよ!? こんなアラサーが一緒にいていいと思う!?」
はやり「……え?」
健夜「……!」
咏「相手に可能性があるように、自分にもまだまだ可能性があるって思わないわけ?」
咏「解説やらテレビやら、そういう仕事ばっかりやってぬるくなっちゃったってこと?」
咏「……ふざっけんな!」
はやり「咏、ちゃん……」
咏「私はさぁ、はやりんとかすこやんとは一世代違うじゃん。黄金世代の後なわけ」
咏「二人の試合見て、すげーって思ったよ。私もあんな風になりたいって思った」
咏「直接戦えないのがほんとに悔しくて、何でもっと早く生まれなかったんだって思った」
はやり「!」
咏「こんな風に思ってるやつがいるってのに、何自分のこと諦めようとしてんの?」
咏「戒能ちゃんがさ、あの歳でトッププロになれたのも、はやりんとか、そういう人らを見てきたからじゃねーの?」
健夜「咏ちゃん……」
咏「釣り合わないとか、怖いとかさぁ……そんなこと思ってる暇あったら、まだまだ一線張りますって、強くなろーよ」
咏「そんで、自分の生きたいように生きてきたはやりんならさ、出来るっしょ」
咏「もちろん、そこでいい子ちゃんしてるすこやんもね」
健夜「えっ!?」
はやり「う……」
咏「はー、らしくねぇー! キャラじゃねぇー! もう全部わっかんねー!」
はやり「うだぢゃあああああああん!!!」
咏「ぎゃー! 苦しい! 苦しいってはやりん! ギブギブ!」
健夜「咏ちゃん、その、大丈夫……?」
はやり「そうだよっ、私、臆病なだけだよっ、一番おねーさんなのにっ、情けないよぉっ」
咏「いや大丈夫じゃな……ぐるじ……」
はやり「色々理由付けてっ、言い訳してっ、結局自分がかわいかったのっ、怖いだけだったのっ」
健夜「あ、あはは……」
はやり「わだじっ、もうやめるからっ! うじうじするの、やめるからっ! ぢゃんと告白するからぁっ!」
咏「わら、え、ねー……」
はやり「うえええええん! ふえええええええええん!!」
はやり「えっと……あのぅ……取り乱して、迷惑かけて、ゴメンナサイ?」
咏「ゆるさーんっ! 死刑!」
はやり「や~ん!」
健夜「まぁまぁ、落ち着こうよ……ほらお水飲んで」
咏「んぐんぐ……」
はやり「こくっ、こくっ……ぷはっ」
健夜「それで、決心ついた?」
はやり「……うん。私、甘えてただけだった。だから、ちゃんと告白するね」
健夜「……そっか。良かった」
健夜「咏ちゃんがね、電話かけてきて。はやりちゃんが元気ないみたいだから励ましてあげようって」
咏「ちょっ、すこやん!?」
健夜「何日か前から気にかけてたみたいだよ? はやりちゃんのこと」
はやり「咏ちゃん……」
咏「う~……」
はやり「……ぐじゅっ」
咏「は」
はやり「だいすきいいいいいいいいい!!」
咏「うおおおおい!!!」
咏「私らにここまでさせたんだから、いい報告持ってきてねぃ?」
はやり「どうなるかはわかんないけど……自分の気持ち、ちゃんと伝えるよ。ありがと。咏ちゃん、健夜ちゃん」
咏ちゃんと健夜ちゃんと別れて、携帯を出す。
指先が震えているけれど、大丈夫。あんなにたくさんの勇気をもらったのだから、もうしり込みなんてしない。
送信ボタンを押して、ありがとう、と呟いた。
まだほのかに明るさを残す午後八時、一秒が永遠にも感じる緊張の中で、彼女が現れる。
良子「グッドモーニング、はやりさん」
はやり「……ふふっ、もう夜だよ?」
久しぶりに聞く彼女の声は、相変わらず私の心を包み込むようだった。
はやり「ごめんね? 急に呼び出しちゃって……どうしても、聞いてほしいことがあったから」
良子「ノープロブレムですよ。それで、どうしたんですか?」
はやり「え、っとね……」
いくら決心したとはいえ、人生初の本気の告白なのだ。いざとなって身体が竦むのは予想していた。
目をゆっくりと閉じて、大きく深呼吸。そして、彼女に向き直る。
はやり「戒能良子ちゃん。――好きです」
しっかりと彼女の目を見据えて、言葉を紡ぐ。
グッとくる台詞だってあれこれ考えたけれど、結局はシンプルなもの。
だって私はまだまだ成長中の、本気の恋愛初心者だから。等身大でいいんだと、今はそう思える。
長い沈黙。
そりゃ、そうだよね。何とも思ってないだろう年上の女に、急に告白なんてされてもどうしたらいいかわからないだろう。
けれど私は彼女がどんな返事をしたとしても、しっかりと受け止めるつもりだ。自分勝手な告白だけど、許してね。
彼女が口を開く。ぽつり、ぽつりと、思案しながら言葉を選んでいるようだ。
良子「あのときは、久しぶりにはやりさんとお会いできて、単純に嬉しかったです。プロ入りしてもほんの少ししか話す機会がなかったですから」
良子「それで……食事に誘ってもらえて、楽しそうなはやりさんの顔が見られて、それも嬉しくて」
良子「あぁ、この人と一緒にいると、落ち着くなぁって思ったんです」
これまでのことを振り返るように、静かに呟く彼女。
私も、情景をひとつひとつ思い浮かべながらうん、うんと頷く。
良子「隣を歩くはやりさんを見てると、そういう余計なことはなしにして、純粋に楽しめたんです」
良子「……プラス、別れ際の悲しそうな顔を見たとき、胸が詰まりまして。原因とか考えてみたんですけど」
さっきまではあの日の町並みが鮮明に浮かんでいたのに、今は目の前が滲んで見えない。
お化粧もばっちり決めていたのに、もうアイドルなんて名乗れないような顔をしているだろう。
良子「――私も、はやりさんが好きみたいです。ライクじゃなくて、ラブの方で」
――――おかしいなぁ、我慢できてたはずなのに。
ぼろぼろとこぼれる涙を拭うのも忘れて、彼女の胸に飛び込んだ。
はやり「そ、そう……だね。こ、恋人って……やつかな」
良子「はやりさんは経験豊富かと思ってたですけど」
はやり「経験だけだよ。こんなの初めて」
人通りのない場所を選んだとはいえ、私たちは一応有名人な訳で。
あのまま抱き合ってわんわん泣いている――もちろん私だけなのだけれど――訳にもいかず、今は少し歩いたところの公園にいる。
良子「ところで、あの日は何であんな顔してたんですか? 私が何かしたんじゃないかと思ってたんですが」
はやり「うわわっ、ち、違う違う! あのときは……えっとぉ」
歳の差のことも、相談にのってもらったことも、本気で好きになったんだと気づいて、どうしたらいいかわからなくなったことも。
それを聞き終えると、彼女はいつものケロリとした表情で「バカですね」と言った。
はやり「ひ、ひどいっ!?」
良子「だってそんな悩み、本来なら私の方が思うことですよ」
はやり「ふぇ?」
良子「私なんて、プロの世界にやっと一歩踏み込んだだけのひよっこですよ?」
良子「私よりもずっと前から一線を張り続けてるはやりさんの負担にはなりたくないですし」
はやり「で、でも、伸びしろは良子ちゃんの方が……」
良子「そんなもん、はやりさんだって私ぐらいのときはそうだったでしょう。今も伸び続けてる人が何を言うかと思えば」
はやり「伸び続けてる……? 私?」
はやり「親善試合だよね?」
良子「いえす。あのときのはやりさんの打ち筋、それ以前よりさらにパワーアップしてましたよ」
はやり「そ、そうだったんだ……」
良子「実際はあの試合を見てたから、スタジオではやりさんに話しかけられたのかもしれないですね」
はやり「そうそう、あのときまさか良子ちゃんから話しかけてくれると思わなくて……」
良子「私は人付き合いとか得意な方じゃないですけど、あのとき既にこの人のことをもっと知りたいって思ってたですから」
はやり「あ、ありがとうございます……☆」
――――なんだ、私も良子ちゃんも、同じ気持ちだったんだ。
こうなってくると、ズレた悩みで悶々としたり落ち着いた態度で諭されたりしている自分が恥ずかしくなってくる。
告白したとき以上に顔が熱いのは……たぶん気のせいじゃないんだろうなぁ。
はやり「うん。ずいぶんお世話になっちゃったなぁ」
良子「また報告会するんですよね? 私も行きますよ」
はやり「えっ! な、何で!?」
良子「間接的にお世話になったことですし、私の方からもお礼をと思って」
はやり「い、いいよぉそんなの! ていうか絶対からかわれちゃうよぉ!」
何だかこの子、この歳にして人間が出来すぎている気がする。
それに世間ズレしたところも加わって、こっちが恥ずかしくなることを平然と口にするのだ。
このままではいけない、と私の中の年上の威厳とか見栄とかプライドが思い出したかのように覗いてきたので、私は彼女よりリードを取ることにする。
良子「? はい」
はやり「ちゅっ」
キスしてしまった。もちろん私は違うけれど、彼女はきっと初めてだろう。現に唇に指を添えて俯いているし。
そんな彼女を横目に見ながらしたり顔を浮かべている私の耳に、小さいけれどはっきりとした声が聞こえて――
良子「ざっつらいと。キスはこうやってするんですね」
――きたと思った瞬間には、もう唇は塞がれていた。
先ほどまでの威厳云々はどこへやら。
どうあがいても一歩上手な彼女に、私は真っ赤な顔で抗議の視線を送ることしかできないのだった。
おわり
「かぁんっぱぁーい!」
咏「んぐんぐんぐっ! っぷぁー! はやりんかいのん結婚おめでとーっ!」
健夜「違うから! はやりちゃん、良子ちゃん、両思いおめでとう」
良子「サンキューですー」
はやり「……ぶくぶくぶく」
良子「はやりさん、コップでぶくぶくやるのは行儀悪いですよ」
はやり「知ってます! 大人だもん!」
咏「いや~熱いね~」
健夜「良子ちゃん、ほんとしっかりしてるね」
はやり「もーうっ! だからヤだったのにぃ! こういう感じになるじゃん!」
良子「ですけどテーブルマナーはちゃんとするもんですし」
はやり「そうじゃなくてぇ……うぅ……」
私はここ、まさか実現するとは思いもしなかった報告会という名の飲み会、ただし恋人同伴(!)に来ています。
先ほどから逃げ場がありません。へるぷ、みー。
咏「いや~しかしビッグカップルが出来ちゃったねぃ?」
健夜「片やベテラン、片やルーキーのトッププロカップルだもんね」
良子「その節はどうも。はやりさんがお世話になったみたいで」
はやり「や、やめてよそういうの!」
咏「いやいや、私はいいと思うぜ? どっちが年上かわっかんねーけど」
健夜「ほんと、お似合いだよね」
良子「サンキューベリーマッチ」
はやり「もー!」
穴があったら入りたいとは正にこのような状況を言うのでしょう。
良子「聞くところによると、三尋木プロも小鍛治プロも順調だとか」
咏「まぁね~! 私はえりちゃんと同棲始めたし、すこやんはついに告ったし!」
健夜「情報流れるの早いよ……おかしいよ……なんで私が話す前に知ってるの……」
はやり「……ぶくぶくぶく」
というか、馴染みすぎじゃありませんか?
あなたこの二人と飲むの初めてでしょ、良子ちゃん。
咏「そーいやそうだねぃ、かいのんてなんっか謎めいた感じだし」
良子「私もお話できて嬉しいですよ。なんたって日本のトップツーですし」
咏「いやーそんなすげーもんでもないよ? すこやんはすげー強いし怖いし得体知れないけど」
健夜「なんで私だけ!? ていうか何かひどくない!?」
良子「オーライ、わかってますってグランドマスター小鍛治。お気をお鎮めください」
健夜「良子ちゃんまで!? しかも何その呼び方に態度! 普通に恥ずかしいよ!」
咏「かいのん、わかってるねぃ」
良子「いえす。任せてください」
健夜「息ピッタリだね!?」
はやり「……ぶくぶくぶくぶく」
健夜ちゃんいじりはいつものこととして、何だかずっと前からの親友のような雰囲気なのはどういうことなのでしょう。
というか一方的に私が恥ずかしい。そして蚊帳の外。
健夜「うんうん、普段からは想像もできないよね」
良子「そうですか? 確かに、居心地が良いんで喋りすぎてる感じはありますけど」
咏「おっ嬉しいこと言ってくれるじゃーん! んじゃ私とすこやんとかいのんで遊びにでも行くかい?」
はやり「だっ、ダメーっ!!」
健夜「ふわっ」
咏「おぉ~? どしたんはやりん?」
はやり「良子ちゃんは私のなの! だから三人で遊びに行くとかそういうのはだめっ!」
咏「……へぇ?」
健夜「……ふふっ」
はやり「あ」
咏「いやいや、熱いわぁ~」
健夜「もう真夏になっちゃったのかなー?」
しまった。私の反応を見ていることくらいわかっていたはずなのに、ついムキになってしまいました。
テーブルに手を付いて身を乗り出したまま固まった私を、彼女が微笑んで見ています。
はやり「……なに?」
良子「ノープロブレム。はやりさんを置いてどこかに行ったりしませんから」
はやり「……もぉぉ~っ!」
私はきっと、この八歳も年下であるはずの彼女に一生敵わないのでしょう。
まだまだ始まったばかりの恋人生活ですが、そう思わずにはいられないのでした。
はやり「おわりっ!」
ベリーグッドでした
ところで俺のIDハートビーツっぽくない?
珍しいカプだったな
ブラボーです
Entry ⇒ 2012.10.23 | Category ⇒ 咲-Saki-SS | Comments (0) | Trackbacks (0)
エリー「私、怪盗になります!」
シャロ「エリーさん、どうしたんですかー?」
エリー「トイズが使えるように…なったかも…」
シャロ「ホントですか?!じゃあそこにあるかばんをとってくれますか?」
エリー「あ、うん…それじゃ…えいっ!」ドサァッ
シャロ「すごいです!ホントにトイズが復活してます!ネロとコーデリアさんにも報告しましょう!」
シャロ「二人とも聞いてくださーい!」
ネロ「どしたのシャロ?」
コーデリア「いったい何?」
シャロ「見て下さい!エリーさんがトイズを使えるようになったんですよ!」
ネロ「え~、ウソでしょ?」
コーデリア「じゃあエリー、そこの大きなカブを引き抜いてくれる?」
エリー「分かりました…」
エリー「えーい!」ズボォッ
ネロ「うわっ!ホントに復活してるよ…これは使えそう」
コーデリア「私たちの作業も俄然楽になるわね」
エリー「え…?」
エリー「いや、そうじゃなくて…私ができたのだから、みんなもトイズを復活できるんじゃないかって…」
ネロ「何それ?自分がトイズ使えるようになったからって僕たちにあてつけでもしてんの?」
エリー「ち、ちが…」
コーデリア「ネロ、言い過ぎよ。でもエリー、今の私たちは生活が大変だしそんな暇はないの」
ネロ「そーいうこと。ま、誰かさんのトイズがお金を作れる能力なら別だけどね」
エリー「…私…部屋に戻ってます…」
コーデリア「あ、エリー!」
エリー「シャロ、ごめんね…ちょっと一人にさせて…」
シャロ「どこ行くんですか?」
エリー「ちょっと校舎を回るだけ…すぐ戻るから」
エリー「なんで今、こんなことしてるんだろう…」ドンッ
エリー「痛っ…!」
アンリエット「あら、エルキュール・バートン。何故一人でこんなところに?」
エリー「か、会長…実は…私…」
エリー「はい…でも…」
アンリエット「三人のやる気は戻らない…そういうことですね」
エリー「…」
アンリエット「エルキュール・バートン。あなたはこれからわたくしの秘密を守れると誓えるかしら?」
エリー「秘密…?何を…ですか?」
アンリエット「誓えるかしら?」
エリー「…はい」
アンリエット「分かったわ。それじゃああなただけに明かしますわ。わたくしの正体を」バサッ
エリー「あなたは…!!」
アルセーヌ「そう。アンリエットは仮の姿、アルセーヌとはわたくしのこと」
エリー(憧れの会長が…アルセーヌ?!でも、どうして…)
アルセーヌ「あなたがミルキィホームズに失望しているならば」
エリー「…」
アルセーヌ「一緒に怪盗として新たな道を踏み出してみることを勧めますわ」
エリー「でも…わ、私は…」
アルセーヌ「ここで警察に通報するのもまた一興。あなたの好きにすればいい」
エリー(このままの生活を続けるくらいなら…会長、いえこの人と一緒に…)
エリー「いえ、会長…私、怪盗になります!」
アルセーヌ「良いお返事ですわね…ですが、これからは会長ではなく、アルセーヌ様とお呼びなさい」
エリー「はい、アルセーヌ様…」
ネロ「あ~疲れた…ただいま~」
シャロ「あ…ネロ、コーデリアさん…おかえりです~」
コーデリア「シャロ、ずっと机の上を見てどうしたの?」
シャロ「あ、トイズが使えるかどうか試してるんです!エリーさんみたいにいきなり使えるようになるかもしれないし」
ネロ「ふ~ん、ところでエリーは?」
シャロ「さっき校舎を回るって一人で出ていきましたよ」
コーデリア「それじゃあエリーが帰ってくるまでに私たちもトイズが復活するか試してみない?」
ネロ「さんせい!帰ってきたエリーをびっくりさせてやろう!」
シャロ「二人ともやる気になったんですね!」
ネロ「正直、さっきはちょっと言い過ぎちゃった気もしたしね」
コーデリア「考え直してみれば、トイズって探偵に不可欠なものだもの」
シャロ「それじゃ、誰が一番初めにトイズを使えるようになるか、競争です!」
ストーンリバー「先ほど、アルセーヌ様から新入りが入るとの連絡が入った」
トゥエンティ「なるほど。楽しみだね」
ラット「お、来たみたいだぜ」
エリー「あ、あの…よろしくお願いします…」トテトテ
ラット「おいおい…誰かと思えば探偵さんじゃん?来るとこ間違えたんじゃないの?」
トゥエンティ「まあそう言わずに…なかなか美味しそうじゃないか。僕と愛のハーモニーを奏でてみないかい?」バサッ
エリー「きゃああああ!」
ストーンリバー「やめろトゥエンティ。新入り、アルセーヌ様の許しでここに入ったのなら我々の仲間であることに変わりない」
エリー「はい…」
ストーンリバー「歓迎しよう…そして、ようこそ怪盗帝国へ」
エリー「あ、どうも…エルキュール・バートンです…いいいい以後、お見知りおきを…」
アルセーヌ「あら、思ったより早く打ち解けたみたいですわね」
4人「「「「アルセーヌ様!」」」」
アルセーヌ「ふふ…息もぴったりですわね。それじゃあ早速…今回の獲物は『ガリレオの秘宝』」
ストーンリバー「『ガリレオの秘宝』と言えば、あのヨコハマで最も厳重な金庫に保管されているという…」
ラット「聞いたことあるけどあらゆる爆発に耐えきる金属だったっけ?どうやってそん中から引っ張り出すんすか?」
アルセーヌ「ふふふ…エルキュールの力なら、造作もないことですわ」
エリー「わ、私?」
シャロ「エリーさん、遅いですね…」
コーデリア「どうしたのかしら…」
ネロ「探しに行ってこようか?」
シャロ「あ、電話ですー」
小衣「あ、シャロ?」
シャロ「ココロちゃん!」
小衣「ココロちゃん言うな!じゃなくて、そんな場合じゃない!こっちに『怪盗エルキュール』って書かれた予告状が来たんだけど…
まさかあんたらのとこのエロ女じゃないでしょうね!」
シャロ「そ、そんなエリーさんが?!そんな、そんなわけないですよ!」
小衣「落ち着け!今あいついるんでしょ?かわりなさいよ」
シャロ「エリーさんなら今、部屋を出たっきり見かけてないです…」
小衣「…!!」
シャロ「でもエリーさんはきっと、怪盗になんかならないです…」
小衣「…ともかく、三人とも現場に来てちょうだい。今から場所、教えるから」
シャロ「はい…」カキカキ
小衣「分かった?それじゃ、また後で」ガチャリ
ネロ「なんだって?」
シャロ「その…エリーさんが…」
咲「どーだって?」
小衣「音沙汰ないって」
咲「…ふ~ん」
小衣「何よ」
咲「いや、今の話でアリバイはバッチシなくなったけど、正直本人の性格的にそういうことできんのかなって感じ」
小衣「今回に関しては小衣もそう思う。でもだとしたら犯人は誰なわけよ?」
咲「さあね。ま、先に現場に着いてるお二人さんが頑張ってくれるっしょ。何事もなければ一番いいけど、
万が一なんか起こってもあの二人なら何とかなるんじゃないの?」
小衣「そうね」
咲「エラく素直だね、今日の小衣。なんか悪いもんでも食べたん?」
小衣「別に、ただ何となくやな予感するだけ」
咲「死フラっすか」
小衣「は?」
咲「なんでもない。忘れて」
エリー「えーい!」バカン
アルセーヌ「エルキュール、後は指示通りに」
エリー「はい…他の人はどこに?」
アルセーヌ「建物の外から監視に当たらせているわ。それじゃあ、後も抜かりなく」スッ
次子「今人がいたような…?」
平乃「ええ、私にも見えました」
エリー(G4の二人…!)
平乃「ミルキィホームズの方?どうされたのですか?」
エリー「いえ…怪盗が来るという情報を聞きまして…調査を…」
次子(平乃、小衣から聞いた通りだ。怪しいよ)ヒソヒソ
平乃(分かってます。何か変な行動をしたら合図します。その時には…)ヒソヒソ
エリー「あのぅ…」
次子「ん?ああ悪い悪い。何?」
エリー「えいっ!」ハラパン
次子「?!」ドサリ
平乃「次子さん、しっかり!やっぱりあなたは…!」
エリー「ごめんなさい…でも、手加減はしました…」
平乃「怪盗としての行為に飽き足らず公務執行妨害までも…!許しません!」ダッ
エリー(…!!)
平乃「遅いですよ!長谷川流奥義、兜割り!」
エリー「利きません!」バキィッ
平乃(木刀が折れた?!ミルキィホームズはトイズを失っているはずじゃ…!)
エリー「はっ!」ドコォ
平乃(私が…格闘術で…負けるなんて…)バタリ
エリー「はぁっ…はぁっ…ふぅ…ふぅ…」
小衣「遅かったわね、ミルキィホームズ…の三人」
シャロ「ごめんなさい、ココロちゃん。エリーさんをぎりぎりまで探したけど見つからなくて」
小衣「ココロちゃん言うな…」
咲「やっぱ小衣も二人が心配みたいだね」
小衣「そりゃそうよ。連絡、まだ取れない?」
咲「全然ダメ」
ネロ「どうしたの?」
咲「次子と平乃が中に入ったきり出てこないわけ」
小衣「あんたたち、行って確認してくれる?何かあったら連絡して」
コーデリア「ええ!行きましょう、三人とも」
ネロ「そうだね」
シャロ「もちろんです!」
ネロ「壁に穴が空いてる…これってやっぱりエリーが…」
シャロ「エリーさんは絶対犯人じゃありません!」
コーデリア「私もそう信じたいけど…」
エリー「みんな…来たんだね…」
ネロデリア「「エリー!」」
シャロ「エリーさん!エリーさんは怪盗なんかじゃないですよね!」
エリー「ごめんね、みんな…私、今日から怪盗になるって決めた。だから、今から『ガリレオの秘宝』を…」
ネロ「そうはさせないよ!」
コーデリア「ネロ?」
ネロ「勝手に怪盗になんかさせない。今ここでエリーを力づくで連れ戻す」
エリー「やめて…私を一人にさせて!私はもう、怪盗なんだよ?」
ネロ「怪盗だろうがなんだろうがエリーはエリーだ!」
エリー「防火装置が…動いた?きゃっ!」プシャァァァァ
ネロ「見たかエリー!トイズが復活したのはエリーだけじゃないんだ!」
シャロ「そうですよ!エリーさんがいない間にみんなで頑張ったんですから!」
エリー「あっ…ロープで…体がぐるぐる巻きに…」
ネロ「今だ!コーデリア!」
コーデリア「ええ!エリー、おとなしくおうちに帰りなさーい!」ダッ
エリー「まだまだ…」ブチン
シャロ「あっロープが!」
ネロ「コーデリア!危ない!」
コーデリア「大丈夫、見えているわ。エリー、これでおしまいよ」ガシッ
エリー「うぅ…」
コーデリア「あなたの動きは私のトイズで丸わかりよ。さあ、一緒に帰りましょう。エリー」
エリー「でも…」
次子「お疲れさん、三人とも。そこどきな」
平乃「おとなしくお縄についてください!」
ネロ「G4!」
平乃「分かりました。エルキュールさん、ちょっとおとなしくしててくださいね」
エリー「…」
次子「ほい、手錠かけたよ。最新式のトイズ無効化手錠。これで逃げも隠れもできないよ」ガチャリ
ネロ「おい、ちょっと待てよ!横から入ってきて何のつもりさ?」
シャロ「そうです!エリーさんはまだ犯罪者って決まったわけじゃありません!」
コーデリア「きっと何か理由があるはずよ!」
平乃「何にせよ、この場に居合わせたこと、そして私たちに暴行を加えたことは事実。
確かにここは金庫の強固さを信頼して監視カメラがありません。
ですが少なくともエルキュールさんが犯罪行為をしたことは私たちが証明できます」
次子「つーわけだ。こっちもあんましこういうことしたかないんだけど、今回ばかりは諦めな」
アルセーヌ「おーほっほっほ!」
一同「?!」
アルセーヌ「エルキュール・バートンに幻惑を見せて、ミルキィホームズと仲たがいをさせる作戦でしたが…。
見事に看破されてしまったようですわね」
次子「何だって?!」
アルセーヌ「ただ、こちらとしてもミルキィホームズ全員がトイズの力を取り戻すのは予想外でしたわ。
あなたたちの頑張りに敬意を表し、今回のところはこれで去るといたしましょう。それではごきげんよう…」バサッ
シャロ「あっ!」
ネロ「待て!…消えちゃった」
コーデリア「今の話、聞きました?エリーに罪はないわ」
平乃「まだ決まったわけでは…」
次子「平乃。今は離してやんな」
エリー「いいん…ですか?」
次子「今はね」
咲「平乃も次子もいるね」
シャロ「お~いココロちゃ~ん!」
小衣「ココロちゃん言うな!」コワン
シャロ「痛っ」
エリー「あの…G4の方々、やっぱり私を逮捕してください…」
コーデリア「エリー、いきなり何を?!」
エリー「幻を見せられてたとしても、裏切ったのは私の意志です…だから、私、犯罪者です…みんなと一緒になんかいちゃいけないんです…」グスッ
小衣「どういうことよ?」
平乃「それが…」
次子「かくかくしかじかでさ」
小衣「…どうする、咲?」
咲「ここは一応リーダーのあんたに任せるよ。エルキュールを逮捕してブタ箱にぶち込むか、
それとも今まで通りミルキィホームズとして生活させるか」
ネロ「そんなこと勝手に決めるな!僕たちがいなきゃ何にも出来なかったくせに!」
コーデリア「ネロ…!」
小衣「…分かったわ、このIQ1400の明智小衣が判断するわ」チラリ
エリー「…」
シャロ「エリーさん…」
小衣「エルキュールは無罪よ。ここであったことも全部なかったことにする」
平乃「そんなことできるはずが!」
小衣「今回のことは全部小衣が責任持つ。それで文句ないでしょ?」
次子「ま、リーダーがそう言うんなら従うしかないじゃん?」
咲「だね」
シャロ「うぅ…ありがとー!ゴゴロぢゃーん!」グズグズ
小衣「泣きながら引っ付くなー!服が汚れる!それと…ゴゴロぢゃん言うなー!」バカン
コーデリア「エリー…よかったわね」
エリー「コーデリアさん…!」
コーデリア「それじゃ一緒に…お花畑に行きましょー!」
エリー「あっ…そんないきなり…心の準備が…」
ネロ「ふぅ…今日のうんまい棒はしょっぱいや」
シャロ「みなさん!起きて!起きてくださーい!」
ネロ「なんだよ~」
コーデリア「むにゃ~…お花畑~」
エリー「どうしたの…?」
シャロ「アンリエットさんからお呼び出しが!」
ネロ「えぇっ?!もしかして、昨日の事件のことかな?」
エリー(会長…もしかして…)
シャロ「はい!」
コーデリア「もしかして会長、昨日のこともお聞きしているのですか?」
アンリエット「昨日のこと?いったいなんですの?」
ネロ「しっ!コーデリア、余計なこと言うなよな。知らないっぽいからそれでいいの」
アンリエット「まあいずれにしろ、あなたたちは努力を重ねて本来の力を取り戻しました。
その頑張りを認め、あなたたちの寮を一般生徒と同じ場所に戻しましょう」
エリー「本当ですか?!」
ネロ「やったー!極貧生活からもおさらばだよー!」
シャロ「ありがとうございますー!」
アンリエット「これで慢心せず以後も頑張るように。それでは行ってよいですよ」
四人「「「「はい!ありがとうございました!」」」」バタン
アンリエット「ふぅ…あら、エルキュール。何故一人残っておりますの?」
エリー「会長…会長って本当は怪盗アルセーヌ…なんですよね?」
アンリエット「何を言っているんですの?!失礼な!わたくしはアンリエット・ミステール。
それ以上でもそれ以下でもありませんわ!」
エリー「で、でも昨日…!」
アンリエット「昨日あなたと話した覚えなんてございませんわ!何かの勘違いではありませんか?」
エリー「す、すいません…」
アンリエット「まあ今日のところは大目に見ますわ。これからも頑張りなさいな」
エリー「はい、それじゃ失礼します!」バタン
シャロ「何話してたんですかー?」
エリー「みんな…待っててくれたんだ」
ネロ「そりゃまた置いてって一人で消えてもらっちゃあ困るからね」
コーデリア「もうネロったら素直じゃないんだから」
シャロ「へへへー、ネロは素直じゃないですー」
ネロ「おいこら、シャロまで何言ってんだよ!エリー助けてよ!」
エリー「えへへへ…」
エリー(やっぱり私、みんなと一緒が一番幸せ…!)
アンリエット「問題ありませんわ」
二十里「敵を強くするためにここまで回りくどい方法をとるとは…ですがそれもまた美しい作戦のひとつというもの」
アンリエット「余計なことを言ってないでさっさと持ち場に着きなさいな」
石流「わかりました、では。おい、いくぞ」
アンリエット(ライバルは強い方が張り合いがある…今の団結力とトイズを取り戻したミルキィホームズ…期待していますよ)
おしまい
初めてのSS速報でしたが読んでくれた方ありがとうございました。
凄い良かった
Entry ⇒ 2012.10.23 | Category ⇒ ミルキィホームズSS | Comments (0) | Trackbacks (0)
P「どっちだと思います?」 あずさ「あっちじゃないです?」
あずさ「はい~」
P「しかしカーナビって簡単に壊れるもんなんですね」
あずさ「すいません私の飲んでいたジュースのせいで」
P「いや、俺の方こそ急ブレーキかけちゃってすいませんでした」
あずさ「でも~」
P「大丈夫ですって、それに後は帰るだけなんでそこまで急いでないですし」
あずさ「そうですか?」
P「そうですよ。ゆっくりと帰りましょう」
P(携帯使えば簡単に帰れる……がここは携帯を使わない! それが俺のジャスティス!)
あずさ「はい~」
P「さすが、あずささんの演技力はすごいですよね」
あずさ「そんな事ないですよ」
P「そんな事、ありますよ。映画の主演だって決まったじゃないですか」
あずさ「そう言ってもらえると、私も頑張ったかいがありました」
あずさ「び、美人だなんて全然そんなありませんよ」
P「あずささんが美人じゃなかったら、美人なんてこの世にいませんよ」
あずさ「本当ですかプロデューサーさん?」
P「えぇ、本当です」
あずさ「ありがとうございます、ふふっ♪」
あずさ「はい」
P「どっちだと思います?」
あずさ「そうですね~」
P(って聞いたけど、右は森に繋がっているような道だし左、一択だろ)
あずさ「左ですかね~」
P「あぁ、そうですよ……えっ、左!?」
あずさ「多分、そっち側だと思います」
あずさ「あらあら」
P(方向音痴のあずささんが左だと思うって事は、正解は右なんじゃあ……)
――――――
――――
――
P「な、なんかちょっと民家が少なくなってきたような」
あずさ「そうですね~」
あずさ「どうしたんですか?」
P「いや、なんでもないですよ」
あずさ「そうですか?」
P「また分かれ道ですね、あずささんはどっちだと思いますか?」
あずさ「右側ですかね~」
P「はいはい」
P(今度は人気がなさそうな道か……)
P「た、多分」
あずさ「あれ?」
P「どうしたんですか?」
あずさ「あそこにマラソンの服を着た人が……」
P「えっ……」
あずさ「けど、夜なのにおかしいですよね?」
P「もう7時ですからね……」
あずさ「どうたんですか?」
P「い、いますねマラソンの服を着たような人が……」
あずさ「や、やっぱり……」
P「はは、まさかお化けじゃあ……」
あずさ「うぅ……」
ギュッ
P「なな、あ、あずささん!?」
あずさ「こ、怖いですプロデューサーさん……」
P「そん風な抱きつかれると運転が出来ないですよ」
キキっ
?「!」
ギュ―
P「あばばば」
(おっぱい♪ おっぱい♪)
あずさ「うぅ……」
ギュ―
ドンドン
ドンドン
P「うわっ!?」
P「いきなり車を叩いてくるなんて普通じゃない」
P「やはりお化け……」
あずさ「や、止めて下さい~」
ドンドン
響「プロデューサー!! 開けてほしいぞー!!」
P「くっ……やけに響みたいなお化けだ」
あずさ「響ちゃんみたいなお化け……」
ギュ―
ガチャガチャ
P「見れば見るほど響にしか見えない」
あずさ「うぅ……怖いです……悪霊退散悪霊退散……」
タプタプ
P「くっ、これはヤバい」
(胸が……胸が……)
あずさ「な、何がヤバいんですか!?」
ギュ―
P「!?」
響「あずさとイチャイチャしてないで、開けろ―」
あずさ「本物の響ちゃんだったのね~、私ってきりお化けかと思っちゃったわ」
P「で、なんで響はこんな所にいたんだ?」
響「……置いてかれたんだぞ」
P「えっ?」
響「響チャレンジの撮影のバスに置いてかれたんだぞ」
P「……」
響「自分、乗ってないのに、行っちゃったんだぞ……」
P「さすがに酷いな……これは抗議しないと」
響「いいんだプロデューサー」
P「えっ」
響「こうやってプロデューサーとあずさが助けに来てくれただろ?」
響「それだけで自分、すごくうれしいさー」
あずさ「響ちゃん」
P「響……」
(うれシーサーwwww)
響「うん」
あずさ「はい」
響「プロデューサー、ちょっと聞きたいんだけど」
P「なんだ?」
響「さっき、なんであずさと抱き合ってたんだ?」
P「あふぅ!?」
あずさ「!」
P「あれは、あずささんが響をお化けと間違えたからであって、全くもって偶然なんだ!! 全然やりたくてやった訳じゃなくて……」
響「ふーん」
あずさ「……」
響「けど、プロデューサーあずさに抱きつかれてニヤニヤしてたぞ」
P「なっ!? そ、そんな訳ないでしょーに!!」
あずさ「……」
響「ふーん……」
P「そ、それより腹減らないか?」
響「すいたぞ」
あずさ「……」
P「あずささんはどうですか?」
あずさ「……」
あずさ「あっ、はい?」
P「どうかしたんですか?」
あずさ「何でもないです~、で、なんですか?」
P「えっと、お腹すいてないですか?」
あずさ「は、はい少し」
P「じゃあ、飯食べましょう……おっ、あそこのラーメン屋でいいか」
イラッシャイマセー
P「俺の奢りなんでなんでも頼んで下さい」
響「じゃあ自分はチャーシューメン!!」
あずさ「それじゃあ、私は塩ラーメンで」
P「俺は天津飯かな」
P「すいませ……ん?」
ガヤガヤ
響「なにかあったのかな?」
店員「どうもすいません」
P「何かあったんですか?」
店員「実はお客さんが財布を忘れたようで」
あずさ「そうなんですか~」
店員「それがえらい大食いの美人さんでして」
P「美人……大食い……」
P「……」
あずさ「あらあら」
響「なんかその人あれだなー」
響「貴音みたいな人だな―」
P「……」スッ
あずさ「プロデューサーさん?」
P「……ちょっとすいません」
店員「えっ」
店長「だからお嬢さんお金がないと……な、なんだあんたは?」
P「こんな所で一人で食事か――貴音?」
貴音「あなた様!」
P「すいません、彼女の代金は俺が払うんで勘弁してもらえないですか?」
店長「あんたが? まぁ、払ってもらえるならいいが」
P「ありがとうございます」
クドクド
貴音「申し訳ありません……」
あずさ「まぁまぁプロデューサーさんも落ちつ下さい」
響「そうだぞプロデューサー貴音もこんなに謝ってるだろー」
P「うーん、けどな……」
あずさ「ほら、料理も冷めちゃいますし」
P「あずささんがそこまで言うならしょうがないですね」
あずさ「ありがとうございます」
響「いっただきまーす」
あずさ「いただきます」
貴音「プロデューサー申し訳ありません」
P「もう謝らなくっていいよ、さっきの話は―――」
貴音「私も注文してもよいですか?」
P「……」
貴音「らぁめん……」
響「おー太っ腹だなプロデューサー」
あずさ「あらあら」
貴音「私には?」
P「俺も餃子だー」
貴音「私には?」
P「貴音は水だ―」
貴音「」
P「美味いな」
響「自分、全部食べちゃったぞー」
あずさ「そうね、美味しいわね~」
貴音「」
あずさ「……」
あずさ「でも私、お腹一杯になっちゃったわ、よかったら貴音ちゃんこの餃子食べてもらえない?」
ガバァァァァ!
貴音「よいのですか!?」
あずさ「まぁまぁ、いいんですよプロデューサーさん」
貴音「ありがとうございます、あずさ」
パクパク
P「はぁ、しょうがない俺の餃子も一つだけだ」
貴音「あなた……プロデューサー! ありがとうございます!」
響「自分も……」
響「……」
響「自分は皆にお水入れちゃうぞー」
あずさ「ごちそうさまでしたプロデューサーさん」
貴音「お粗末さまでした」
響「プロデューサーごちそうさまー」
P「おう、じゃあ事務所に向かうぞ」
響「おー」
あずさ「お~」
貴音「はい」
響「左!」
貴音「私も左かと」
P(ちなみに俺も左の気がする)
あずさ「うーん、右ですかね~」
P「ほいさっ」
響「な、なん右方向に行くのさー」
P「あずささんが右って言ってるからな―」
あずさ「?」
響「うがー、だからー」
P「まぁ落ち着け響、ほらこのお菓子食べていいから」
ポイッ
響「うわわっと」
貴音「早速開けましょう、今すぐ」
あずさ「どうかしたんですか?」
P「いや……」
P(この道確か前来た事あるな……)
P「あっ」
あずさ「えっ?」
P「すいません何でもないです」
P(あのマンションは確か……)
貴音「」バリバリ
響「自分も食べたいぞ―貴音」
貴音「」バリバリ
あずさ「あっ」
P「どうかしましたか、あずささん?」
あずさ「あれ、千早ちゃんじゃないかしら?」
響「ん、本当だ千早だぞ」
貴音「コンビニの帰りの様ですね」
千早「プロデューサー!」
あずさ「こんばんわ千早ちゃん」
響「自分もいるぞー」 貴音「私も」
千早「あずささんに四条さんに我那覇さんも」
P「コンビニの帰りか?」
千早「はい、夕飯などを買いに」
千早「えっ、でも悪いですし」
P「大丈夫大丈夫、皆も大丈夫だよな?」
ハーイ ハイ エェ
千早「でも……」
P「ほら、袋にも弁当とかお菓子とかいっぱい入ってて重いだろ?」
貴音「!」
千早「悪いですし」
貴音「千早……人の好意は受け取る事も大事ですよ!」
バタン
響「車いっぱいになったなー」
P「よしじゃあ行くか、あずささんどっちだと思いますか?」
千早「えっ、私の家は……」
P「千早! ここはあずささんに任せてくれ!!」
千早「えっ……えっ?」
貴音「響! これはなんでしょう?」
響「あー、これはからあげくんだぞー」
P「……ゴクッ」
P「本当にあっちでいいんですか、あずささん?」
あずさ「は、はい」
P「……うっし、あずささん、響、貴音、千早、明日は何か用事はあるか?」
あずさ「いえ」
響「ないぞー」
貴音「同じく」
千早「私もないですど……えっ、なんですかこれ?」
P「よし、行くぞ」
貴音「……」ジー
千早「た、食べますか……」
貴音「いいのですか!?」
千早「はい」
響「なら、自分もからあげくん食べたいぞ―」
千早「えぇ、勝手に食べてちょうだい」
あずさ「ふふっ、少し楽しいですね」
P「はは……」
P「はは、そうですね……つか、くさっ! からあげくんくさっ!」
響「もぐもぐ」
貴音「もぐもぐ」
千早「ぱくぱく」
P「普通に食事してんじゃねーか!?」
P「知っている、からあげくんが美味いなんて事は日本国民なら皆知っている」
P「なんで車で飯をくってるか聞いているんだよ」
千早「私、そもそも夕飯を買いに来ていたので」もぐもぐ
貴音「食べるものがあったので」もぐもぐ
千早「それに、今日は帰るの遅くなりそうですし……」
響「なんでだ?」
千早「だって、ここ……高速道路ですよね?」
あずさ「あら~」
P「まぁまぁ、そこらへん気にするな」
響「うえっ!?」
P「ほらからあげくんでも食ってろって」
貴音「からあげさんは全て食べました」
P・響「……」
貴音「ほう、なにやら美味しそうな形ですね」
千早「美味しそう……?」
あずさ「あらあら~」
P「やれやれ」
こうして、京都まで5人で小旅行しました。
後にTV番組であずささん・貴音・響・千早で『三浦 あずさでどうでしょう?』という旅番組が始まり、伝説的な視聴率を叩きだしたのだった。
おわり
明日仕事なんでもう寝ます。よかったら誰か京都までの道を書いてくれ。
じゃノシ
Entry ⇒ 2012.10.22 | Category ⇒ アイマスSS | Comments (1) | Trackbacks (0)
P「響がメルニクス語しか喋れなくなった」
P 「参ったな」
小鳥「参りましたね」
オムドゥンディスティイイドゥ?」
P 「なぁ、いつもどおり日本語で喋ってくれよ」
響 「ウ エトゥ ティアン セトゥン エス オソエル」
小鳥「本当、これはなんて言葉なんでしょう」
P 「なんだ?お腹すいたのか?」
響 「ティアウス ウス エ ギイドゥ ワアエムワン!
ウ リヌン ヤイオ!」
小鳥「予想外にはしゃいでいますね…」
貴音「どうなされたのですか」
P 「おぉ、貴音か
実は響がな、日本語しゃべれ無くなって…
でもこれは貴音でもわからんよなぁ…」
響 「プディイドワンディ!
ウ リヌン ヤイオ!」
貴音「なるほど、メルニクス語ですか」
響 「バイバ!」
P 「おぉ、わかるのか!」
貴音「プロデューサーが好き、と響は申しております」
響 「イイプス…」
響 「アンワクー!」バタバタ
貴音「…ほんの、冗談でございます」
響 「タカネ…」
小鳥「名前は言えるんですね」
貴音「ですが、メルニクス語でしたら多少心得がございます」
P 「おぉ、これは助かったよ!」
響 「ギルルヤ エ タカネ ウス バイムドゥンディホル!」
貴音「ふふ、ありがとうございます」
今日のラジオ収録は他の子にお願いしましょうか」
P 「そうだな
しかし、それだけじゃないぞ
日常生活も困るだろ…」
響 「ウ エトゥ エルディウガティ」
貴音「自分は大丈夫、と申しております」
P 「大丈夫とは言ってもな
常に貴音が通訳しているわけにもいかないし…」
響 「ウティ ウス エグディンントゥンムティ」
貴音「はいさーい、自分もだぞ、と申しています」
P 「なんだこれは、ピアスか」
小鳥「わぁ、綺麗なアクセサリーですね!」
貴音「響も、これをつけるのです」
響 「ヤンス」
P 「ピアスはなぁ…穴開けてから6ヶ月の間
献血できなくなるだろう?
だからなぁ…」
貴音「響と献血!どちらが大切なのですか!」
P 「…響だよな」
響 「ウス ウティ ムンワンスセディヤ
ティイ バイディディヤ?」
貴音「そこで悩む必要はあるのか?
と申しております」
メルニクス語がわかるようになる装飾品でございます」
P 「つまり、ほんやくコンニャクみたいなもんか」
貴音「はて、それは何でしょうか」
小鳥「いいなー
貴音ちゃん、私の分はないの?」
貴音「申し訳ございません、在庫を切らしておりまして」
P 「うし、つけたぞ
響、どうだ!」
響 「ウティ ウス エルル ディウガティ!」
P 「変わらんな」
貴音「いい忘れておりましたが、
二人の間に信頼関係が無いと翻訳されないのです」
響 「イア…」
P 「お、落ち込むな、響!」
春香ちゃんにお願いしました」
P 「それは助かりました」
ガチャ
千早「プロデューサー、おはようございます」
P 「おぉ、おはよう」
千早「あの、本日はプロデューサーが
オーディション会場まで案内して下さる、
との事でしたが…
なんですか、そのピアスは」
P 「あぁ、すまん
そのことなんだがな、用事ができたんで、
同伴するのは難しそうだ」
千早「…どのような用事ですか」
響 「バアエティ ウス ティアウス?」
P 「つまり、こういうことだ」
千早「はぁ?」
にわかには信じられませんが」
響 「ウ エトゥ シディディヤ」
千早「いえ、いいのよ、我那覇さんが悪いわけじゃないわ」
響 「ティアエムクス ヤイオ!
ワイール!」
千早「わかりました、こういうことであれば、
本日は一人で行ってきます」
P 「すまんな、後で埋め合わせはする」
千早「それでは…
ふふ、埋め合わせの内容は、道すがら考えてみます」
P 「そうしてくれ」
小鳥「千早ちゃん、これ地図よ」
千早「ありがとうございます」
ラジオ出演は代役を頼みましたが、
この…グラビア撮影はどうしましょう」
P 「グラビア撮影か…
ラジオみたいに喋ったりしないしな…
響は、大丈夫そうか?」
響 「イフ ワイオディスン ウ エトゥ プンディフンワティ!」
小鳥「プロデューサーさん、わかりました?」
P 「いや、まだだ
だが、なんとなく言いたいことはわかるよ
大丈夫なんだな、響」
響 「ヤンス」
小鳥「あ、私もこれわかりますよ!」
P 「多分誰でもわかるよ」
P 「そうですね」
響 「プロデューサー!
ルンティ オス グンティ ギウムグ!」
P 「…おう」
小鳥「どうしました?」
P 「いえ、なんでもないです」
小鳥「困った事があったら、すぐに電話して下さいね!」
P 「ヤンス」
小鳥「もー!プロデューサーさんまで!」
P 「どうした、響」
響 「ミム…」
P 「…まぁそう気を落とすなよ?
俺だってショックだったんだ
俺と響は、信頼関係が築けてると思ってたんだがなぁ」
響 「プディイドワンディ…」
P 「でもな、さっきちょこっとだけ、
響の言葉が聞こえたんだ
だから、後ちょっとで全部わかるようになるさ」
響 「ウ アイプン シ」
P 「今は全く分からないがな!
あっはっは!」
響 「ヂムティ ティンエスン!」
響 「ヤンス」
P 「そうか、そろそろ撮影だぞ」
響 「バエウティ エ トゥウモティン」
P 「ん、どうした?」
響 「…ヂンス ウティ フウティ?」
P 「そうだな、似合ってるぞ」
響 「エディン トゥヤ バイディドゥス
オムドゥンディスティイイドゥ?
バン エディン スティディイムグ ビムドゥ
イフ エフフンワティウイム
ブンティバンンム ティアントゥ!
プロデューサー!
ウ リヌン ヤイオ!」
P 「おーまてまて、ドードー
何を言ってるかわからん」
響 「ヤイオ トスティ ブン クウドゥドゥウムグ!」
なんとなーく言いたいことが分かっただけなんだ」
響 「ウトゥ シディディヤ ヒディ
トゥウソムドゥンディスティエムドゥウムグ」
P 「…うん、本題に戻るが、
その水着、すごい似合ってるぞ」
響 「ティアエムク ヤイオ」
P 「そうだ、自信を持っていいぞ
おっと、ただ、あまり喋らないほうがいいかもな」
響 「なんで?」
P 「カメラマンに、いらぬ心配を掛けたくないからな」
響 「へウディ ンミオガ」
次は元気に谷間を強調してみようか!」
響 「~♪」
P 「うん、順調だな
言葉が通じない以外は普通の響なんだよなぁ…」
カメ「じゃあ次は寝っ転がってみようかー!」
響 「ヤンス!」
P 「あっ、バカ!」
響 「バアエティ ウス ウティ?
ウス ウティ トゥヤ へオルティ?」
カメ「おーいいねー!沖縄の言葉かなー?
響ちゃんらしいよー!」
P 「…まぁカメラマンに言葉は通じなくてもいいもんな」
響 「へへん!自分頑張ったぞ!」
P 「おおっ!響が何を言っているかわかる!」
響 「ディンエルルヤ?」
P 「…ちょっとだけだったが」
響 「バアエティ ドゥウドゥ ヤイオ セヤ?」
P 「まぁまぁ、そう怒るな」
響 「怒ってないぞ!」
P 「あはは…」
響 「ただいまだぞー!」
小鳥「あ、おかえりなさい!
響ちゃん、プロデューサーさん」
P 「音無さん!聞いてください!
響の言うことが、ちょっとだけ分かるようになったんですよ!」
響 「トゥン ティイイ!」
小鳥「あら、そうなんですか?
良かったじゃないですか
私もピアス欲しいなぁ」
P 「うーん、これもう一組無いんですかね」
P 「そうだな、今日はもう無いぞ」
小鳥「あらまっ!本当に普通に喋ってますね」
P 「全部がわかるわけじゃないですけどね」
小鳥「それじゃあ、今日は
響ちゃんを家に帰したらどうでしょう」
P 「そうですね
他の子に見つかって、千早みたいに揉めたら大変ですから」
響 「バンルル エルル トゥウスス ヤイオ…」
小鳥「今のはなんて言ってるんですか?」
P 「わからん」
響 「もう!」
一人で帰れるか?」
響 「ヤイオルル アエヌン ティイ ヂ ウティ
イヌンディ トゥヤ ドゥンエドゥ ビドゥヤ!」
小鳥「嫌がってますね」
P 「…よし、しょうがない!
音無さん、今日は響と一緒に帰ります」
響 「バイバ!」
小鳥「うーん、本来なら止めたほうが
プロデューサーとアイドルですし、止めるんですが
緊急事態ですしね…」
響 「本当に一緒に帰るのか?」
P 「響が嫌じゃなかったらな」
響 「嫌じゃないぞ!
めんそーれ!」
P 「こういうのって、トリリンガルっていうんでしょうか」
響 「ギイドゥ ブヤ!ピヨコ!」
P 「それでは今日は失礼します
小鳥「また明日ー」
小鳥「プロデューサーさんとお揃いかー
羨ましいなー」
貴音「真、憧れます」
小鳥「あら、貴音ちゃん帰ってきてたの?」
急に押しかけることになって」
響 「そんな事ないぞ!」
P 「そうか、ありがとな」
響 「ウ リヌン ヤイオ
ティアンディンヒディン ルンティ
ヤイオディ アエウディ ヂバム!」
P 「…いつになったら全部わかるんだろうなぁ」
響 「プロデューサー…」
自分の事どう思ってる?」
P 「どうって…信頼してるよ
俺から見て、響は最高のアイドルだ」
響 「そういうことじゃなくて!」
P 「なんでなんだろうな
こんなに響を信頼してるのに」
響 「ヂ ヤイオ リヌン トゥン?」
P 「なんで言葉が通じないんだ」
響 「むー…」
P 「響?」
ウフ ウ セウドゥ ウ バエス テドゥルヤ
ウム リヌン バウティア ヤイオ
ヤイオドゥ ティアウムク ウ バエス ルヤウムグ
だから…」
P 「だから?」
響 「…ウトゥ シディディヤ」チュッ
P 「おわぁっ?!
ひ、響?!いきなりどうしたんだ?!」
響 「自分の気持ち、だぞ」
P 「えっと…それはつまり…」
どうせ伝わらないだろうから言うけど、
自分は!プロデューサーが大好きなんだぞー!
アイドルとしてじゃなくて、女の子として!
…この気持ちが伝わらないなら、
言葉も伝わらなくて当然さー!」
P 「…ごめん」
響 「早く言葉を理解してほしいぞ」
P 「響の気持ちに気づいてやれなくて、ごめん」
響 「…へ?
もしかして、さっきの言葉…」
P 「あぁ、響のキスで、目が覚めたよ
俺も、響の事が…」
響 「う…うぎゃー!
は、恥ずかしいぞー!」バタバタバタ
P 「ま、待て響ー!
せめて、せめて止まって返事を聞いてくれー!」
響 「無理だー!止まったら死んじゃうー!」
ねぇ、貴音ちゃん
あのピアス、どこで買ったの?」
貴音「そこの109で」
小鳥「へー、109に、あんなの売ってるのね」
貴音「…プロデューサーと響の手前、黙っておりましたが
あのぴあすには、言葉が翻訳されるような効能はございません」
小鳥「あら、そうなの?
プロデューサーは、響ちゃんの言葉が分かった、って言ってたけど」
貴音「小鳥嬢…偽薬効果、というものをご存知ですか」
小鳥「言語の問題を偽薬効果で片付けるのはどうかと思うわ」
貴音「いけずです…」
響ちゃんがメルニクス語しか喋れないとなると
色々業務に支障が出るわ」
貴音「それならばご心配に及びません
一晩休めば、響はメルニクス語の事は忘れておりますゆえ」
小鳥「…貴音ちゃん、何かしたの?」
貴音「ふふ、とっぷしぃくれっとです」
お し まい
千早「プロデューサーと一緒にオーディション来たかったなぁ…」
ホモルーデンスの称号と25ジイニをやろう
Entry ⇒ 2012.10.22 | Category ⇒ アイマスSS | Comments (0) | Trackbacks (0)
奉太郎「古典部の日常」 5
奉太郎「古典部の日常」 2 (5,6,7,8話)
奉太郎「古典部の日常」 3 (9,10,11,12,13話)
奉太郎「古典部の日常」 4 (14,15,16,17,18,19,20話)
しかし、夏の名残と言えばいいのか、置き土産と言えばいいのか。 俺の体はちくちくと蚊によって攻撃されている。
山が近いせいで、生き残りが多いのかもしれない。
そんなある日、珍しく一人だけの古典部で俺は小説を読むことで時を過ごしていた。
一ページ、また一ページ捲っていき、やがて章の終わりが見える。
そこで一度本から視線を外し、外の景色を眺めた。
グラウンドでは運動系の部活が精を出し、校舎には音楽系の部活らしき音が響いている。
奉太郎(里志は今日も委員会か)
奉太郎(最近忙しそうだな)
原因はまあ、文化祭だろう。
伊原は漫研をやめたので時間は増えた筈だが……この時間まで来ないとなれば、今日は来ないかもしれない。
千反田は恐らく来ると思うが、来たとしても文集の話をされると思う。
俺としては内容には拘りなんて無いし、任せっきりにしたいのだが……一応は古典部に所属しているのである程度はやらなければならない。
確かもう大体の内容は決まっているとか、前に集まったとき言っていた気がする。
それも千反田が来たら聞けばいい事だ。 とりあえずはもう一度小説にでも目を落とすか。
しかし、タイミングを狙ったかの様に部室の扉が開いた。
える「お、折木さん!!」
いつもと少し様子が違う、何か厄介な事でも起きたのだろうか。
奉太郎「なんだ、何かあったのか?」
える「あ、あのですね……大変なんです!」
奉太郎「それだけ言われても、何がどう大変なのか分からない」
える「ご、ごめんなさい。 最初から説明しますね」
える「今日の事なんですが……放課後、今から少し前です……」
な、何をしに行ったかですか? ……あの、お恥ずかしながら少し、お腹が空いてしまって……
あ、あの! それよりですね。
そこで食べ物を買って、部室に行こうとしたんです。
……この私が持っているパンですか? これ、とてもおいしいんですよ。
……お話、続けてもいいですか?
それでですね、部室へ向かっている途中で見てしまったんです。
その……喧嘩している福部さんと、摩耶花さんを。
遠くだったので会話はしっかりとは聞こえなかったんですが、最初は普通にお話をしている物だと思いました。
それが突然……摩耶花さんが、福部さんの顔を……パチン、と。
私は急いで部室へ来ました、見てはいけない物を見てしまった気がして……
福部さんですか? とても、びっくりした様な顔をしていました。
……あ、そういえばですね。 最後の一言だけ、聞こえたんです。
摩耶花さんが「ごめん」と言っていました。
……折木さん、どう思います?
奉太郎「そのパンを今度買ってみようと思った」
える「……」
奉太郎「……」
える「おれきさん、真面目にやってください」
奉太郎「う……分かったよ」
と言ったはいいが……ただの喧嘩をどう思う、と言われてもな……
奉太郎「ただの喧嘩じゃあないのか?」
える「私も、そう思いました」
える「でも摩耶花さんは、簡単に人を叩く人では無いと思うんです」
える「感情的にも、人を叩く人では無い筈です」
……確かに、一理あるな。
伊原は刺々しい所があるが、直接的に人を傷つけたりはしない。
そんな伊原が里志を叩いた……よっぽどの事情があったのだろうか?
える「それも……少し、考えづらいんです」
える「福部さんは摩耶花さんの事をよく知っていると思います」
える「そんな福部さんが、それをするでしょうか?」
……しそうだが、千反田はそれでは納得しないだろう。
何かこう、もっともらしい理由を付けなければならない。
奉太郎「……これだったらどうだ」
奉太郎「伊原が少し腕を振りたい気分になっていて、腕を振った」
奉太郎「そうしたら偶然にも里志が居て、里志の顔に当たった」
奉太郎「叩く気は無かったのに、叩いてしまって謝った」
奉太郎「……どうだ」
える「摩耶花さんが腕を振りたい気分になったのは何故ですか?」
奉太郎「伊原が腕を振りたくなった理由か……」
奉太郎「……そういう気分だったから」
ううむ、なんだか予想より面倒くさくなってきてしまったな。
える「第一に、ですね」
える「私が見たとき、福部さんと摩耶花さんは既にお話をしていたんです」
える「と言う事は……偶然当たったっていうのは少し、難しいと思います」
……そういえばそうだったか。
奉太郎「視点を変えるか」
奉太郎「伊原は何故、里志を叩かなくてはならなかったのか」
える「同じ視点じゃないですか? それだと」
奉太郎「いや、違う」
奉太郎「里志を叩かなければいけない理由があったと考えるんだ」
奉太郎「そして、伊原には叩いたことへの罪悪感があったんだ」
奉太郎「伊原は謝っていたんだろ? 叩いた後に」
える「ええ、そうです」
奉太郎「それなら罪悪感があったと思うのが普通だ」
える「でも、ついカッとなってしまってという可能性もあると思います」
える「それで、その後に謝った……って事ではないんですか?」
奉太郎「さっき自分が言った言葉を忘れたのか」
奉太郎「感情的に叩く事なんて無い、と」
える「あ、そういえば……そうでしたね」
える「では何故、叩いたのでしょうか?」
奉太郎「恐らく……さっきも言ったが、叩かなくてはいけない理由があった」
える「叩かなくてはいけない理由ですか……気になりますね」
伊原は何故謝ったのか。
そしてそれが起こる前まで、普通に話していた。
奉太郎「一つ、推測ができた」
える「え? なんでしょうか」
奉太郎「それだ」
俺はそう言い、千反田を指差す。
える「え、私ですか」
える「私……何かしたのでしょうか」
奉太郎「……違う、お前の腕に居るそいつだ」
える「腕……あ!」
える「……蚊、ですね」
千反田はそう言い、腕に止まっていた蚊を手で払う。
奉太郎「伊原と里志は放課後、二人で話していた」
奉太郎「そう、なんとも無い普通の会話だ」
奉太郎「そこで伊原はある物に気付く」
奉太郎「それは……里志の頬に止まっている、蚊」
奉太郎「ついつい伊原はその蚊を叩く」
奉太郎「里志の頬に止まっている蚊をな」
奉太郎「そして丁度、その場面をお前が見ていたんだ」
奉太郎「それを見たお前は俺にこう言った」
奉太郎「里志と伊原が喧嘩をしていた、と」
奉太郎「……どうだ?」
える「……なるほど、です」
える「確かにそれなら、納得がいきます」
える「摩耶花さんが謝っていた理由にも、繋がりますしね」
える「私、ちょっと確認してきますね!」
そう言い、千反田は部室を出ようとする。
奉太郎「お、おい! ちょっと待て」
える「はい? どうかしましたか?」
奉太郎「あくまで推測だと言っただろ、外れていたらどうするんだ」
える「大丈夫ですよ、折木さんの推理は外れません」
どこからそんな自信が出てくるのだろうか……
丁度、その時だった。
摩耶花「あれ、ちーちゃん帰る所だった?」
伊原が、部室へとやってきた。
える「摩耶花さん! 丁度いい所でした!」
千反田はそのまま伊原を席まで引っ張っていくと、隣同士で腰を掛ける。
奉太郎「……おい、違っても俺は知らんぞ」
える「摩耶花さんに、聞きたい事があったんです!」
俺の声は既に千反田には届いていない様子だった。
える「あの、実はですね……」
俺は千反田の説明を聞きながら、外に視線を移す。
少し、日が傾いてきただろうか?
まだ17時にもなっていないが……日が短くなっているのだろう。
所々、帰る生徒達が見える。
この一件が終わったら、俺も帰る事にしよう。
摩耶花「……なるほど、ね」
……どうやら、千反田の説明が終わったらしい。
える「それで、どうですか?」
摩耶花「折木あんた、どっかから見てたんじゃないの?」
奉太郎「……俺にそんなストーカー的な趣味は無い」
える「……本当ですか?」
千反田が小さく、伊原には聞こえないように俺に言ってきた。
チャットルームでの事を、まだ根に持たれているのかもしれない。
それに俺が反論をする前に、千反田は再び口を開く。
える「ふふ、やはり当たりましたね」
千反田がそう言い、俺の方を向く。
なんだかそんな視線が恥ずかしく、俺は視線を逸らした。
奉太郎「……そろそろ帰るか」
摩耶花「ええ、来たばっかりなのに」
える「あ、じゃあ少しお話しましょう。 摩耶花さん」
どうやら伊原と千反田は残って話でもするらしい。 俺はお先に失礼させてもらおう。
奉太郎「そうか、じゃあまた明日」
える「はい、また明日です」
摩耶花「うん、じゃあね」
しかし、あの推測が外れていたら千反田はどうしたのだろうか。
本当に喧嘩だった可能性も、あっただろうに。
だがその可能性より、俺の推測を信じてくれた事は少し嬉しかった。
別に、だからどうとか言う訳でもないが。
ただちょっと、嬉しかっただけの話。
辺りは少しだけ、薄暗くなっている。
もうすぐで文化祭が始まる、とりあえずはそちらに力を入れなければ。
後……二週間くらいだったか。
ああ、そういえば文集がどうなっているのか聞くのをすっかり忘れていたな。
ま、家に帰ったら里志にでも電話して聞いてみるか。
本を刷るのは伊原に任せる事になるだろう、去年は大変な思いをしてしまったが……
だが伊原も同じ失敗を二度繰り返すような奴では無い、今年は安心できると思う。
まあ、結局は俺が店番をする事になるのだろうが。
暇を潰すためにも、何か新しい小説でも今度買おう。 あれがあれば店番はとても楽だ。
そんな今後の予定を頭の中で組み立てていると、やがて家が見えてきた。
奉太郎「ただいま」
供恵「おかえりー」
奉太郎「最近家に居ることが多いな」
供恵「なによ、いちゃ悪いの?」
奉太郎「……別に、そういう訳じゃない」
奉太郎「風呂に入ってくる」
供恵「あー、まだダメかな」
奉太郎「ん? どういう意味だ」
供恵「お客さん、来てるの」
この家に客とは珍しい。
また姉貴の知り合いだろうか?
奉太郎「姉貴の客か?」
供恵「あんたの客よ」
奉太郎「……俺に?」
一体誰が、里志か?
いや、でも里志ならば姉貴は里志が来ていると言うだろう。
他に思い当たる奴なんて……居ないな。
供恵「え? あんたの部屋よ」
……客を勝手に俺の部屋に通すな、バカ姉貴が。
奉太郎「……はぁ」
小さく溜息をつき、自室へと向かう。
全く、誰だこんな時間に。
そして、自室の扉を開いた。
そこには俺の予想外の人物が居て、俺の顔は多分、だいぶおかしなことになっていただろう。
奉太郎「何か、俺に用ですか」
奉太郎「入須先輩」
入須「ふふ、そう露骨に嫌そうな顔をするな」
入須「今日はちょっと話があって来たんだ、折木君」
第21話
おわり
折木さんはいつも、自分の推理に自信を持っていない様に見えますが……もっと自信を持ってもいいと私は思います。
でも、そんな折木さんも……その、少し格好いいと思う自分もいます。
える「あ、もうこんな時間ですね」
摩耶花「ほんとだ! そろそろ帰らなきゃ」
える「そうですね、また明日お話しましょう」
える「では、帰りましょうか」
摩耶花さんとのお話を止め、帰り支度をしていきます。
そこでふと、ある物に気付きました。
える「あれ? これは……」
摩耶花「あー、あいつ忘れていったのかな」
折木さんの小説でしょうか? 机の上に一つだけ、置いてありました。
える「そうですか……」
える「いえ……やはり私、家に届けてきます」
私がそう言うと、摩耶花さんはにっこりと笑い
摩耶花「そか、うん。 分かった」
と言いました。
その後は学校を出て、摩耶花さんとは別々に帰ります。
折木さんの家は学校からそれほど離れていません、歩いていっても意外とすぐに着きます。
先ほどまではまだ、そこまで暗くないと思ったのですが……気付けば辺りは大分、暗くなっていました。
本当は、明日にでも渡せば良かったのです。 摩耶花さんが言った様に。
でも、折木さんの顔が見たかったんです。
さっきまで二人でお話をしていたのに、変ですよね。
少しでも多くの時間を一緒に過ごしたかったのかもしれません。 ちょっと恥ずかしいですが。
ですがまた、もう一度折木さんに会えると思ったら……足取りが軽くなりました。
折木さんの家には何度も行った事があったので、道はしっかりと覚えています。
もう学校から大分歩いた様で、そろそろ折木さんの家が見えてくる筈です。
この角を曲がれば……
そのまま向かっている途中で、違和感を感じます。
える(ドアが開いている? 誰か居るのでしょうか)
そしてそーっと、覗き込みます。
折木さんの家のドアには、入須さん?
……どういう事でしょう?
あくまでも私が感じた事ですが……折木さんと入須さんは、そこまで仲が良かった様に思えません。
盗み見るのは良い事とは言えませんが……少し、気になります。
奉太郎「ありがとうございます、入須先輩」
入須「構わないさ、それより明日、いいか?」
奉太郎「ええ、分かってます」
そしてそのまま、入須さんは私が居る方に向かってきます。
咄嗟に、隠れてしまいました。
外壁の角に隠れていた私の前を入須さんが通っていきます。
今こちら側を向かれたら見つかってしまいますが……偶然と言う事にすれば大丈夫でしょう。
でも、私は見てしまったんです。
入須さんが、とても幸せそうな顔をしていたのを。
昨日は結局、そのまま帰ってしまいました。
何故か、会う気分にはならなくなってしまって……結局本は渡せませんでした。
奉太郎「千反田だけか」
折木さんがそう言い、部室へと入ってきます。
える「こんにちは、折木さん」
える「あの、これ……」
私はそう言い、鞄から折木さんの小説を取り出します。
える「昨日、忘れていましたよ」
奉太郎「おお、ありがとう」
奉太郎「……でも、なんで千反田がこれを持っていたんだ?」
あ、これはうっかりしていました……
える「……今日、折木さんが来なかったら届けようかと思っていたので」
つい、口から嘘が出てしまいます。
折木さんはいつも、私を真面目な人だと言ってくれますが、そんな事は無いです。
……私は結構、卑怯なのかもしれません。
奉太郎「そうだったのか、わざわざそこまでしてくれなくてもいいのに」
える「……ふふ、そうですか」
昨日何があったのかと聞きたかったです、ですが……
それは折木さんのプライベートな事になるかもしれないです、ですので私は聞けませんでした。
奉太郎「ああ、そうだ」
折木さんが思い出したかの様に、口を開きます。
える「はい、なんでしょう」
奉太郎「明日からその、バイトをする事になった」
……昨日の事と、何か関係がありそうです。
でも、入須さんに頼まれたからといって……折木さんがバイトをするとは思えません。
何でしょうか……こんな時、折木さんに相談すればすぐに解決するのですが……
その気になる事が折木さん自身の事ですので、さすがに相談できません。
奉太郎「……おい、聞いてるか?」
える「え、は、はい」
つい、私は考え込んでしまってました。
える「……頑張ってください」
としか、私には言えませんでした。
奉太郎「まあ、そんな訳でちょっと部活に出れる時間が少なくなる」
える「……そうですよね、分かりました」
5分ほど経ったころ、折木さんが口を開きます。
奉太郎「今日もちょっと用事があるから……悪いな」
える「いえ、構いませんよ」
える「頑張ってくださいね、折木さん」
昨日聞こえた会話からすると、また入須さんと会うのでしょうか。
私に何か言えた事では無いですが……何でしょうか、この気持ちは。
奉太郎「ああ、またな」
最後にそう言うと、折木さんは帰っていきました。
やっぱり、ちょっと寂しいです。
私はその後、一人で本を読んでいました。
今日は多分、福部さんも摩耶花さんも部室に来ると思います。
折木さんがあまり来れなくなると言う事も伝えなくてはなりません。
摩耶花「あれ、ちーちゃんだけ?」
里志「こんにちは、千反田さん」
える「お二人とも、こんにちは」
挨拶をしながら福部さんと摩耶花さんは席に着きます。
える「折木さんは今日用事があるみたいで、帰りました」
摩耶花「……折木に用事って、そんな事あるんだ」
里志「珍しい事もあるね、まあ文集の内容はほとんど決まってるし、別にいいんじゃないかな」
える「それとですね」
える「折木さん、バイトを始めたみたいです」
私がそう言うと、福部さんと摩耶花さんは口をぽかんと開いて、次に驚きの声をあげました。
摩耶花「え、ち、ちーちゃん……今、なんて?」
里志「……ホータローがバイトを始めたとか、そんな風に聞こえたんだけど」
える「え、ええ。 バイトを始めたと言っていましたよ」
里志「そうだよ千反田さん! 何かの聞き間違いだよ!!」
二人とも物凄い剣幕で私に迫ってきます。 少し、怖いです……
える「あ、あの! 本当ですよ!」
摩耶花「お、折木がバイトをするなんて……」
える「お二人とも、折木さんに失礼ですよ……」
里志「……あはは、あまりにもびっくりしちゃって」
私は小さく咳払いをして、口を開きます。
える「それで少しの間部活に来る時間が少なくなると、言っていました」
摩耶花「なるほどねぇ……何か、ありそうね」
何か、とは何でしょうか……
里志「うん、僕もそう思うな」
どうやら摩耶花さんも福部さんも、何か訳があってバイトを始めたと思っているみたいです。
斯く言う私も、ですが。
里志「じゃあ皆、一緒の意見って言う訳だね」
摩耶花「気になるわね……少し」
里志「探りでも入れてみようか」
里志「今日の夜、ホータローに電話をしてみるよ」
摩耶花「それで、折木が理由を言うと思うの?」
里志「いいや? でもバイトの予定くらいは聞くことができると思うよ」
える「……ごめんなさい、話が見えないのですが……」
里志「つまり……ホータローを尾行するんだよ!」
そ、それは……褒められた事では無いですよ、福部さん。
摩耶花「ちょっと面白そうね、やってみたい」
える「わ、私は……」
ですが……気になるのも事実です。
……こうして悩んでいる時点で、答えは出ていたのかもしれません。
える「……気になります」
里志「決まりだね! じゃあ予定が分かったら連絡するよ」
摩耶花「うん、よろしくね」
える「は、はい」
そうして決まったのはいいですが……本当に、これで良かったのでしょうか?
える「もしもし、千反田です」
里志「あ、千反田さん? 予定が分かったよ」
える「福部さんですか、例の事ですね」
里志「そうそう、次の土曜日に入ってるらしい」
える「土曜日ですか……分かりました」
里志「13時からって言ってたから、昼前には一回集まろうか」
える「はい、場所は学校の前がいいですか?」
里志「うん、そうだね」
里志「じゃあ11時くらいに一度学校で集まろう。 摩耶花にも連絡しておくね」
える「分かりました、宜しくお願いします」
土曜日に、全部分かるのでしょうか……
入須さんはあの日、何をしていたのかという事も。
折木さんがバイトを何故、始めたのかという事も分かるのでしょうか。
なんだか慣れない事をしたせいで、少し今日は眠いです。
土曜日までまだ三日あります。 今日はゆっくりと休みましょう。
ベッドに横になり、目を閉じながらふと思います。
……もしかしたら、この選択は間違いだったのかもしれない、と。
あっという間に三日が過ぎ、今日は折木さんを尾行する日となっています。
……緊張します。
ですが、今日全部分かると思うと……少しだけ、楽しみなのかもしれません。
結局あれから、折木さんは部活には来ませんでした。
もう文集は完成していると言っても、やはり文化祭前は部活に顔を出して欲しかったです。
文化祭まで後一週間と少し……それまでにすっきりした気持ちになりたいという思いが、私の中にはありました。
この良く分からない気持ちを、何とかしたいと。
ふと時計を見ると、約束の時間が迫ってきています。
そろそろ、行きましょう。
里志「皆、おはよう」
摩耶花「おはよ、ふくちゃん」
える「おはようございます」
私と摩耶花さんが校門の前でお話をしていたら、最後に福部さんがやってきました。
皆さんには言っていませんが……実は、昨日の夜に折木さんと電話をしていました。
私は土曜日にバイトが入っているのを知っていて、明日遊べませんかと聞きました。
ですがやはり、13時からバイトが入っていると言われ、安心できたのを覚えています。
福部さんには冗談で嘘を付く可能性があったと思ったから聞いたのですが、どうやら私の思い違いの様でした。
……悪いことをしたとは、思っています。
える「あ、ごめんなさい。 行きましょうか」
歩きながら、今日の計画について話し合いをします。
摩耶花「まずは折木の家の前で出てくるのを待つのよね」
里志「その後はホータローがどこに行くのかを尾行しながら確認する」
える「あの、これってストーカーと言う物では……」
摩耶花「……違うと思いたい」
里志「まあ、大丈夫だよ」
福部さんが何に対して大丈夫と言ったのか分かりませんが……大丈夫なのでしょう。
里志「とりあえずはばれない様にしないとね、ばれたら全部終わりさ」
摩耶花「そうね。 でも折木が気付くとも思えないけどね」
里志「はは、確かに言えてるかもしれない。 多分横に並んでも気付かないんじゃないかな」
摩耶花「そう、かも。 もしかしたら目の前に出ても気付かないかもね」
里志「叩いてようやく気付く、みたいなね」
里志「ご、ごめんごめん」
摩耶花「ち、ちーちゃん怒ってる?」
あれ、私は……怒っているのでしょうか。
折木さんを悪く言われて? 分かりません。
える「かもしれないです」
摩耶花「そ、そんなつもりじゃなかったの。 ごめんねちーちゃん」
える「ふふ、大丈夫ですよ」
里志「あ、あそこだね。 ホータローの家は」
気付けば折木さんの家の前でした。
える「今は何時でしょう?」
里志「ええっと……12時だね」
摩耶花「え、それって……まずくない?」
える「え? 何故ですか?」
摩耶花「だって、バイトに行くまでの時間もあるでしょ」
摩耶花「そろそろ出てくるんじゃないかなって」
あ! ドアが開きました!
福部さんのその声に体を動かされ、物陰へと身を潜めます。
摩耶花「……本当に行くみたいね、折木」
里志「……みたいだね」
折木さんは幸い、歩いて向かう様でした。 自転車を使われてしまったら……その時点で尾行は終わりです。
える「……駅の方に向かっていますね、バイトがそっちなんでしょうか?」
里志「……だと思うよ。 あっちにはお店がいっぱいあるし」
摩耶花「……そろそろ動こう、見失う前に」
える「……ええ、そうですね」
私達は顔を見合わせると、ゆっくりと歩く折木さんと結構な距離を置き、付いて行きます。
そして10分程歩いたところで、折木さんは一度立ち止まりました。
喫茶店の前で腕を組み、空を見上げています。
喫茶店の名前は、一二三。
摩耶花「……誰か、人を待っているとか?」
える「……同じバイトのお友達、とかでしょうか?」
里志「……うーん、どうだろう」
それから更に10分程時間を置いて、人が一人やってきました。
里志「……あれは、はは」
摩耶花「……うっそ、なんで?」
える「……入須さん……」
折木さんが待っていた人は、入須さんでした。
何か、私の心の中でぐるぐると回る嫌な感じを必死に抑え、口を開きます。
える「……あの、どういう事なんでしょうか」
摩耶花「……あいつ、私達に嘘付いてたの?」
える「……ま、まだそうと決まった訳じゃないです」
える「……移動しますよ、付いて行きましょう」
摩耶花「……うん、そだね」
それからしばらくの間付いて行き、様子を見ていました。
最初に服屋へ入り、次にアクセサリーショップに入り、それはまるで。
デートの様に私には見えました。
里志「……もう、いいんじゃないかな」
里志「……ホータローは僕達に嘘を付いていた、入須先輩と遊ぶために」
里志「……それが事実だと思うよ」
摩耶花「……だって、あいつは」
里志「……摩耶花、その先は」
摩耶花「……ご、ごめん」
える「……まだ、です」
私も、分かっていました。
入須さんと遊ぶために、折木さんが私達に嘘を付いていた事を。
でも、それでも。
える「……まだ、13時まで10分あります」
摩耶花「……ちーちゃん……」
里志「……分かったよ、続けよう」
それからまた少し、後を付けます。
1分、また1分と時間が経って行き……やがて。
える「……」
摩耶花「……もう、やめよう」
里志「……もういいかな、千反田さん」
える「……はい」
本当は、分かっていたんです。
入須さんと会ったときから、分かっていたんです。
尾行を終え、歩いていく二人を私は見ていました。
折木さんと入須さんはやがて、遠くの人ごみへと消えていきます。
える「すいません、私……分かっていたんです」
える「昨日、折木さんの所へ電話したんです」
える「明日、遊べないかと」
摩耶花「それって、ちーちゃん……」
える「でも、バイトがあると言われて……」
里志「……そうかい」
える「入須さんと会った時から、分かっていたんです」
える「折木さんが私に、嘘を付いたんだって」
摩耶花「あいつ! なんでそんな事……」
える「……ごめんなさい、私、帰りますね」
そう言い残し、私は小走りで家へと帰ります。
後ろから摩耶花さんの声が聞こえましたが、振り返る事は出来ませんでした。
里志「摩耶花、放って置いてあげよう」
摩耶花「で、でも!」
里志「……いいから」
お二人の会話が後ろから聞こえて、少し福部さんに感謝します。
……泣いている顔は、あまり人に見られたくありません。
第22話
おわり
どうして、何故、と言った感情が私の心を埋め尽くしていました。
でも、私は聞いて居たから。
折木さんが前に、私の事が好きだと言っていたのを、聞いてしまったから。
あれは……私の勘違いだったのでしょうか。
それとも、折木さんは自分では気付いていませんが……意外と鋭い人です。
あの時、私が居るのを知っていてそう言ったのでしょうか。
そして、あの言葉も嘘だったのでしょうか。
私は見事に、今までずっと……騙されていたのでしょうか。
そんな事を思ってしまう自分は、最低なのかもしれません。
私は、もっと折木さんと一緒に居たかった。
残りの時間を少しでも、一緒に過ごしたかった。
それすらも、叶わぬ望みと言うのでしょうか。
今頃、お二人は何をしているのでしょう。
一緒に笑っているのでしょうか。
それとも、どこかのお店でお茶をしているのでしょうか。
気になります、気になりますが。
……私にはもう、解決してくれる人はいないのかもしれないです。
布団の中でうずくまっていると、全てを忘れられそうで……ちょっぴり、本当にちょっぴりですけど、心が安らぎました。
いつまでも泣いていてはいけません。
文化祭も……あるんです。
私は部長なんです、少しでもしっかりとしないと。
この気持ちを引き摺っていては……ダメです。
でも今日は、今日だけは……
少しだけ、泣かさせてください。
える「うっ……おれ……き、さぁん!……」
今まで、感じていた事が無いと言えば嘘になります。
私は、好きでした。 折木さんの事が。
でも……入須さんと仲良くしている折木さんを見て、ここまで胸が苦しくなるとは思いもしませんでした。
私の中で、折木さんという方がどれほどの存在だったのか、今になって良く分かります。
摩耶花さんを傷つけた私を、助けてくれました。
時間が遅くなると、家まで私を送ってくれました。
風邪が治った次の日に、我侭を言う私に付き合って水族館へ連れて行ってくれました。
お弁当を一緒に食べたりも、しました。
動物園にも行きました。
私が部室を荒らした時も、私を信じて私の計画を台無しにしてくれました。
映画を見に行きました。
沖縄にも、旅行に行きました。
そして私の持ってくる気になる事を、見事に全て解決してくれました。
他にも、いっぱい……思い出があります。
……全て、私が勝手に思っていた事なのでしょうか。
入須さんは、いい人です。
私にも、返せない程の恩があります。
でも……入須さんさえ、居なければ。
ふとそんな考えが浮かんできて、すぐに頭から振り払います。
……私って、最低です。
折木さんが入須さんと仲良くするのも、少し納得しました。
多分、嫌気が差したのかもしれません。
……なんだか泣き疲れてしまいました。
……少し、少しだけ……寝ましょう。
起きたらきっと……いつも通りに戻っている事を願って。
気付けばもう、金曜日……新たな一週間が終わりそうになっていました。
あの日から毎日、夢であればと思いましたが……そんな事はありませんでした。
折木さんとは一度も会っていません。
会えばまた……少しだけ落ち着いた気持ちが崩れてしまいそうで、会えませんでした。
それはつまり……
校門から出ようとした所で、私に声が掛かります。
里志「今日も部活に来ないのかい、千反田さん」
私が、あれから一度も部室に足を運んでいない事となります。
自分では、決めたつもりでした。
私がしっかりしないと、と。
ですが、私の決心という物は随分と脆い様で、部室に足が向かうことはありませんでした。
分かりやす過ぎる嘘だと、自分でも思います。
里志「……そうかい、なら仕方がないかな」
里志「でもね、千反田さん」
里志「待ってるよ、皆」
里志「勿論、ホータローもね」
える「……やめてください」
里志「今日が文化祭前、最後の部活だよ」
里志「それは千反田さんも分かっているだろう?」
里志「来るつもりはないのかい?」
里志「後、文化祭にも来ないつもりかな……千反田さんは」
里志「……分かったよ、それなら僕からはもう何も言わない」
里志「けどね……まあ、これは言わなくていいかな」
つい、声を荒げてしまいました。
福部さんには謝らなければなりません、ですが……私がそう思った頃には既に、福部さんの姿はありませんでした。
私はやはり、ダメな人なのでしょう。
心配してきてくれた人を退け、私の感情だけで怒鳴ってしまいました。
今日もやはり、部室へと足は向いてくれそうにありません。
今日は何も予定がありません、家から出る必要も……ないです。
パソコンを立ち上げ、神山高校のホームページを開きました。
そこには文化祭を目前にして、色々な工夫がこなされているのが良く分かるページとなっていました。
その華やかなホームページと違い、私の心は酷く沈んでいます。
以前、折木さんに文化祭の前には顔を出して欲しいなんて思いましたが、そんな言葉は見事に自分へと戻ってきています。
私は、どうすればいいのでしょうか。
そんな事を思っていた時、家の電話が鳴り響きました。
今日は家に私一人しかおらず、他に取る人は居ません。
私は電話機の前に立ち、電話を取ります。
摩耶花「あ、ちーちゃん?」
える「摩耶花さん、ですか?」
摩耶花「うん、そうそう」
このタイミングで掛けて来ると言う事は、恐らく部活の事でしょう。
摩耶花「昨日のさ、テレビ見た?」
える「え? 昨日の、テレビですか?」
摩耶花「うん、20時くらいにやってた奴かな?」
える「……いえ、見ていませんが」
摩耶花「ええ! そりゃあちょっと勿体無い事をしたね」
摩耶花「ちーちゃんが好きそうな内容だったんだけどなぁ」
える「……少し、気になります」
摩耶花「そう来ると思った! あはは」
える「ふふ、教えてくれます?」
摩耶花「勿論!」
私が思っていた事を摩耶花さんが切り出す事はとうとう無く、私は受話器を静かに置きました。
摩耶花さんは恐らく、私を気遣ってくれたのでしょう。
敢えて、私が部活に行っていない事を話さなかったのでしょう。
……私は本当に、いい友達を持ちました。
私には少し、勿体無いかもしれません。
福部さんや、摩耶花さんに言われた事によって、気分はかなり落ち着いていました。
……やはり、文化祭には行きましょう。
大丈夫、私は大丈夫です。
最近はほとんど家に篭っていたので、外の空気もたまには吸いたい気分です。
ちょっとだけ、お散歩でもしましょうか。
そう思い、身支度を済ませると家から外に出ます。
場所は……どこにしましょうか。
前の駅前には……ちょっと、行ける気分では無いです。
少し町外れでも、お散歩しましょう。
そう決めた私は、駅とは反対側に足を向けます。
所々で見える紅葉がとても綺麗で、思わず目を奪われてしまいました。
空気は新鮮で、気持ちがいいです。
そうやって30分程歩き回った所で、少し足が痛んでいる事に気付きました。
最近ほとんど家に篭っていた事が、悪い様に回って来たのかもしれません。
私は辺りを見回し、偶然にも近くにあった喫茶店へと向かいます。
看板には歩恋兎と書いてあり、私は春に入部してくれそうになった一人の子を思い出しました。
える「ここは……懐かしいですね」
意外と、家から近いところにあった様で……今度からちょっと通ってみようと思いました。
そして店の正面に着いたとき、窓際に座る二人の男女が見えました。
……私は本当に、つくづく運が悪いのかもしれません。
神様という者が居たら、私はさぞかし恨まれているのでしょう。
ああ、もう……嫌になってしまいます。
何もかも。
この一週間、必死で頭から消し去ろうとしました。
摩耶花さんと福部さんが、声を掛けてくれました。
そんな全ての事を無駄にする物が、私の目に入ってしまいました。
私が見たのは、
楽しそうに笑う入須さんと。
いつも通りの顔をしている、折木さんの姿でした。
える「……いや、です」
必死にそこから逃げました。
何回か転び、足はどんどん痛みます。
気付けば、雨が降ってきていました。
摩耶花さんも福部さんも、ごめんなさい。
える「……こんなの、もういやです」
私は再び転び、そこから立ち上がる気力も、無くなってしまいました。
える「……こんな世界、もういやです」
今までの全ての記憶を、消して欲しいと願いました。
高校で過ごした記憶を全て。
降り注ぐ雨が私を打ちつけ、雨音は私をあざ笑っている様に聞こえます。
える「……皆さん、ごめんなさい」
える「……私はそこまで、強くないんです」
本当に、何故こんな事になったのでしょうか。
私がもっとしっかりしていれば、折木さんは私のそばに居てくれたのでしょうか。
分かりません。
ああ……私はどうやら、随分と折木さんに依存していたのでしょう。
あの日、一番最初の日。
折木さんと会わなければ、こんな事にはならなかったんです。
時期が少し、早まっただけだと思えば……
……ダメです。 それでも、無理な様です。
胸が張り裂けそうになるというのは、こういう事でしょうか。
……入須さんさえ、現れなければ。
これが、嫉妬という物でしょうか。
今日は少し……良い勉強になった日だったのかもしれません。
授業料は、ちょっと高すぎる気がしますが。
える「ごめんなさい、皆さん」
える「私は、行けそうに無いです」
そんな思いを、聞いてはいないだろう空に向けて放ちました。
……帰りましょう。
走ったせいで、足はズキズキと痛みます。
ですが、家まで着けば……しばらくは、お休みです。
そう思うと、足取りは軽くなると思ったんです。
しかし、逆に何故か……私の足は鉛の様に重くなっていきます。
家に着く頃には流す涙も流しつくし、気分は不思議と落ち着いていました。
……格好は酷いですが。
そのままお風呂を浴び、縁側に座ります。
雨は止んだようで、雲から差し込む日差しがとても綺麗でした。
える「……私は本当に、弱いですね」
じゃないと……この先、どうすればいいのか分からなくなってしまいます。
える「もう、泣くのはやめましょう」
える「笑って、過ごすんです」
える「……ですがもうちょっとだけ、休ませてください」
私は最後に涙を一筋流し、泣くのを止めました。
いつまでも……泣いていられません。
文化祭には行けそうにないですが……それが終われば、後は心配事は無い筈です。
……折木さんには、あのお話をできそうには無いですね。
折木さんも望んではいないのかもしれないです。
……いけません、また泣きそうになってしまいました。
最近の私は、随分と涙脆くなった様で困ったものです。
……次に皆さんと会うときは、笑顔で会いましょう。
きっと、できる筈です。
そして、一つ……決めました。
あの人と……入須さんと一度、正面からお話をする事にしました。
そうすれば多分、私も踏ん切りが付けられるかもしれないです。
私も仏ではありません、なので思いっきりこの気持ちをぶつけないと、どうにもなりません。
私の勝手な我侭だという事は分かっています。
ですがそれでも、入須さんには悪いですが……付き合ってもらう事にします。
入須さん、ごめんなさい。
私はこれでも、言う時は言うんです。
ですのでどうか、宜しくお願いします。
文化祭が終わった後、お話をしましょう。
……どうぞお手柔らかに、お願いします。
第23話
おわり
もう空は暗くなっていて、縁側に座る私には夜風が少し冷たく感じられます。
庭からは鈴虫の声が聞こえて、月がとても綺麗な夜でした。
福部さんと摩耶花さん……それに折木さんからも、連絡はありませんでした。
それも、そうかもしれません。
私は差し伸べられていた手を振り払い、自分の気持ちを優先したのですから。
える「……今年の文集は、どうなっているのでしょうか」
それを古典部の方達に聞く権利は、私には無いでしょう。
そして、私はもう……古典部に顔を出すつもりも、ありませんでした。
行けばきっと、あの人に会ってしまうから。
会えばきっと、私は泣いてしまうから。
泣けばきっと、またあの人は優しい言葉を掛けてくれるから。
しかし、それは……私が学校にも行けなくなってしまいそうで。
……怖かったです。
……ふふ、前の雛祭りの時に自分でここはつまらなくは無いと言って置きながら、こう思ってしまうので可笑しな物です。
これが、私の本心でしょうか。
駄目です……前向きに考えましょう。
この約二年間、本当に楽しかったです。
……出来れば忘れてしまいたいけど、楽しかった物は楽しかったんです。
氷菓の時もそうです。
あれは折木さんが居なければ、解決は出来なかったでしょう。
たったあれだけの事から、見事な推理を組み立ててくれたのは本当に心の底からすごいと思います。
2年F組の映画の時も、折木さんが作ったお話は……本郷さんの意思ではありませんでした。
ですが、最後には本郷さんの意思に気付き、私にチャットで教えてくれました。
……あの時確か、私は本当の事を知っていたのでは無いかと言われました。
勿論、私は知りませんでしたが……人が死ぬお話は好きでは無いと言ったときに、お前らしいと言ってくれました。
去年の文化祭の時は、私は結局……十文字事件の真相を知る事は出来ませんでした。
ですが、折木さんの意外な一面を見れた気もします。
お料理対決の時に、私のミスを助け、摩耶花さんを助ける為に大声を出していたのは今でも心に残っています。
そして、生き雛祭り。
私はてっきり、断られるかと思っていました。
しかし、折木さんはすぐに、手伝うと言ってくれて……とても嬉しかったのは記憶に新しいです。
私の学校生活は、大分折木さんとの思い出しか無いみたいです。
……私が、忘れたいと思うのも無理はないかもしれませんね。
その時でした。
家のチャイムが鳴り、私は縁側からお客が誰か確かめます。
時刻は22時近く、普通のお客とは思えません。
こんな時間に来るなんて、誰でしょうか。
サンダルを履き、縁側から少し離れ、玄関の方を覗き込みます。
……そこに居たのは、私が一番、会いたく無かった人でした。
折木さんはこちらに気付いていない様で、私も敢えて気付かれる様な事はしません。
今は、話したくないからです。
……家に、戻りましょう。
折木さんが来たのには少し驚きましたが……こうして遠くから見ているだけでも、胸がチクチクと何かに突かれるような感じがします。
縁側に戻り、家の中に入ります。
折角来ていただいたのに、申し訳ありませんが……
縁側から部屋へと入り、障子に手を掛けます。
……? 何か、遠くから聞こえてきました。
外、でしょうか。
私は、半分ほど閉めた障子を再び開きます。
奉太郎「千……田……おい!」
それからは体が勝手に、縁側から外へと動いていました。
奉太郎「千反田! 居るんだろ!」
……こんな、夜遅くに、非常識です!
迷惑です、近所迷惑です!
もう少し、マナーという物を弁えた方が良いと私は思います!
でも、でもでもでも。
える「……夜遅くに、人の家の前で叫ばないでください」
私の気持ちが、こんなに高ぶっているのは何故でしょうか。
奉太郎「……インターホンという物がお前の家では機能していなかったみたいだからな」
そんな事、ある訳無いじゃないですか、折木さん。
える「……何か、私に用でしょうか」
奉太郎「明日、最終日だぞ」
奉太郎「お前が何故来なくなったのかは……俺には分からないが」
胸からズキリと、音が聞こえた気がします。
奉太郎「俺はお前程……繊細じゃないしな」
奉太郎「でも、やっぱりお前が居ないと……その」
奉太郎「退屈なんだよ、面倒な事が無くて」
える「……そうですか」
える「でも、それで折木さんは良かったのでは無いですか」
える「私が居なければ、折木さんは自分のモットーを貫けるのでは無いですか」
える「ふふ、違いますか?」
そうです、そうでなければ……何故あなたは入須さんと、あそこまで仲良くしているのですか。
える「……はい」
奉太郎「……そんな事、ある訳ないだろ」
える「……そうでしょうか?」
奉太郎「俺が、信じられないのか」
える「……」
折木さんのその言葉に、私は返事が出来ませんでした。
奉太郎「……分かった、俺はもう帰る」
奉太郎「だが」
奉太郎「明日は、来いよ」
奉太郎「来なかったら俺は、お前を許せなくなる」
奉太郎「今年は予定に変更があって午前で文化祭は終わり、午後からは通常授業だ」
奉太郎「だから、朝から必ず来い」
奉太郎「いいさ、それはお前が決める事だ」
奉太郎「だが、さっきも言ったが」
奉太郎「俺はお前を許さない、古典部の部長を」
奉太郎「……そんな事には、なりたくないんだ」
……折木さんのせいで、行けないのに。
でも、折木さんに許されなくなってしまうのは、少し……
奉太郎「時間取らせて悪かったな、じゃあまた明日」
える「……わざわざすいませんでした、また明日」
折木さんはそう言うと、ご自宅へと帰っていきました。
でも、折木さんと少しお話をしたら……今まで必死に落ち着かせようとしていた気持ちが、不思議と落ち着いていました。
……私には、やっぱり。
ですが、また前みたいな光景を見てしまったら?
また、私は苦しくなってしまうのかもしれません。
一度落ち着いた気持ちを、また崩されると言うのは……とても、辛いです。
それはもう、あの喫茶店で経験していた事でした。
でも!
また私の気持ちを崩されても、一度経験した事です……人間いつかは慣れるのではないでしょうか?
それが無理でも、あと……
あと、1回だけ。
これが最後です、これが駄目だったら……私は、もう。
……明日は、学校に行きましょう。
だって、つい私は言ってしまったのですから。
折木さんに、また明日と。
私は、翌日文化祭へと行きました。
久しぶりの部室はどこか懐かしい感じがして……つい、顔が綻んでしまいました。
迎えてくれたのは、福部さんに摩耶花さん……そして、折木さん。
三人とも、いつも通りに接してくれて、まるでこの一週間の事は無かったかの様でした。
文集の売れ行きも、去年の成果があったからでしょう。 今年も好調でした。
福部さんは委員会のお仕事で忙しそうに走り回り、摩耶花さんは折木さんと店番をしていました。
午前だけとの事は本当だった様で、ほんの二時間ほどの私の文化祭はすぐに終わってしまいます。
そして……
私は扉の前に立ち、深呼吸をします。
大丈夫、大丈夫です。
ゆっくりと扉を開きました。
丁度教室から出ようとしていたのか、目的の人物は目の前に居ました。
える「……こんにちは、入須さん」
入須「千反田か、どうした急に」
える「お話があります。 お時間は大丈夫でしょうか」
入須「構わんが、ここでは出来ないのか?」
える「……ええ、付いて来てください」
私はそう告げ、古典部の部室へと向かいました。
文化祭が終わり、午後の授業に移り変わる前の休憩時間……あそこなら、既に誰も居ません。
私は古典部の教室前の廊下で立ち止まり、後ろから付いて来ていた入須さんの方へと振り返りました。
入須「ここまで来なければいけなかったのか、話とは何だ?」
入須さんは私が振り向くと、目的の場所に着いたと理解したのか、話の内容を聞いてきます。
える「……折木さんの事です」
私の話の主旨を聞き、入須さんは口に指を当てると……口を開きました。
入須「彼の事か、悪いな……特にこれと言って話せる事は無い」
える「……そんな訳、無いじゃないですか」
入須「……ふむ、と言うと?」
える「私は、見ていたんです」
える「入須さんと、折木さんが一緒に遊んでいるのを」
入須「……それで?」
える「……何故、何故ですか」
える「何故、折木さんなんですか」
入須「……それは返答に困る」
そんな訳、無いじゃないですか。 だって……あんな楽しそうに、笑っていたじゃないですか。
える「そう、ですか」
える「では、質問を変えます」
える「……急に折木さんと仲良くした理由はなんですか」
入須「君は、面白いことを言うね」
入須「私が一人の人と仲良くするのに、理由がいるのか?」
える「あまり、仲が良い様には今まで見えなかったからです」
入須「……なるほどな」
入須「確かに、その通りだ」
える「なら、理由はなんですか」
入須「それに答える義務が、私にあると思うか?」
ある程度、予想は元からできていました。
私なんかではとても、入須さんと口論になったとして勝てる見込みなんて無い事を。
ですが、これだけは……この事だけは。
える「……私は」
える「……私は!」
える「折木さんの事が、好きなんです!」
私がそう言ったとき、入須さんは何故か笑った様に見えました。
私にはそれが嘲笑っているかの様に見えて……
える「もう、折木さんと一緒に居るのを……やめてください」
辛くて、ここに居るのが、辛くて。
える「……お願いです」
自分でも、とても変なお願いをしているのは分かっていました。
入須さんが、折木さんの事をもし好きだったら、私は入須さんの気持ちを踏み躙っている事となります。
それでも、私は。
入須「君は、折木君と恋仲なのか?」
その質問に、私は……答えられません。
える「……」
入須「違うようだな」
入須「だから私はこう返す」
入須「君に、それを言う権利があるのかな?」
入須さんは私にそう告げると、私の返事を待っている様でした。
私にその質問はあまりにも重く、この場に……足で立っているのも、無理なくらいに。
最後の悪あがきに、入須さんの事を睨み、私は走って自分の教室へと向かいました。
あまり、人が居るところには行きたくない気分でした。
人気が無い階段で、壁に寄りかかります。
える「……私では、無理でした」
入須さんは、私から話があると聞いた時点で……どんな内容か分かっていたのかもしれません。
とうとう入須さんは最後まで涼しげな表情を崩さず、私の前に立っていました。
対する私は……今にも泣き出しそうな顔をしていたのかもしれません。
なんて、惨めなんでしょうか。
それでも入須さんには言いたい事を伝えました。
そして、入須さんの言葉は……折木さんとの関係を認める物でした。
もしかしたら、折木さんは入須さんと付き合っているのかもしれません。
それを私に伝えなかったのは、入須さんの最後の情けでしょうか。
ああ……やっぱり、私は惨めです。
だって、もう泣かないと決めたのに。
何回も、何回も何回も!
泣くつもりなんて、無かったんですよ。
本当です。
……少しの希望なんて持って、学校に来るべきでは無かったです。
そんな事を思い、涙を拭いながら階段の途中にあった窓から外を眺めました。
丁度、窓の外には一輪の花が咲いており、確か名前は……ガーベラ。
その花言葉は、辛抱強さ。
……なんて、皮肉なんでしょう。
私がどれだけ、辛抱して居たと思っているのでしょうか。 この花は。
あの花は私を貶める為に、咲いていたのかもしれませんね。
ついに私は、花にすら……嫉妬していたのでしょうか。
もう、どうでもいいです。
そんな自分が……なんだかちょっと、おかしくて。
える「ふふ」
える「……ふふ」
える「……う、うう…」
える「……うっ…ううう……!」
可笑しくて、涙が、出てきてしまいました。
一回止まったのに、可笑しなものです。
……色々と、吹っ切れました。
とりあえずは午後の授業に出ましょう。
後の事は、それから考えれば良い事です。
……そうです、そうしましょう。
それが、今私の選べる最善の選択だと……思います。
第24話
おわり
俺は、古典部の部室で一つの事を考えていた。
ここへ来た理由はなんとも情けなく、三年の先輩による使いっぱしりである。
なんでも……シャーペンを忘れたらしい。
断ろうかと思ったが、古典部の部員である俺はその先輩よりは確かに部室には入りやすい。
その先輩とは面識が無かったとは言え……仮にも先輩だ。 断るのも若干気が引けてしまったのだ。
そうして部室に来たのはいいが、半ば強制的に俺は思考する事となってしまった。
……まあ、いいが。
そして、その俺が考えている事に結論を出すには……少し、俺の記憶を巻き戻さなければならない。
あれは……確か、千反田と部室で話した後の事だった。
話の内容は、なんだっけか。 伊原と里志が揉めていたとか、そんな感じだった気がする。
だが今大事なのはそれではない、その後、俺が家に帰った後に起こった事だ。
奉太郎「……そりゃ、そういう顔にもなりますよ」
奉太郎「先輩が何故ここに来たのか、俺には検討も付きませんからね」
入須「ふふ、それも無理はないだろう」
入須「今日はね、一つ君に協力をしてあげようと思って来たんだよ」
怪しいな、これは……露骨に怪しい。
奉太郎「協力? また俺に探偵役でもやらせるつもりですか?」
入須「……君は随分と根に持つタイプの様だな」
そりゃ、どうも。
入須「少し、噂話を聞いてな」
入須「君の相談に乗ろうと、わざわざ足を運んだんだよ」
奉太郎「相談、ですか」
入須「ああ」
苦手な先輩が来て、非常に迷惑しています。 とでも相談してみようか。
……いや、やめておこう。
入須「そうか、なら私の勘違いだったかな」
入須「……千反田」
入須「千反田えるの事なのだが」
……こいつは、どこまで知っているんだ?
一つ、鎌でもかけてみるか。
奉太郎「ああ、あいつの事ですか」
奉太郎「確かに、それなら相談する事がありますね」
入須「……ほう、言ってみてくれ」
奉太郎「……あいつの好奇心を、どうにかする方法を教えてください」
入須「……く、あっはっは」
こうまで笑われると、俺の発言が馬鹿みたいで少し居づらいではないか。
入須「そんな事では無いだろう、君の相談は」
奉太郎「……言って貰ってもいいですか、俺はこれでも自分の事には疎いもので」
入須「……まあ、いいか」
入須「君は、千反田の事が好きなんだろう?」
……誰から、聞いたんだ。 一体こいつはどこまで知っているんだ。
入須「誰から聞いた、と言いたそうな顔だな」
入須「だが私は口を割る気は無い」
入須「まあ、少しだけヒントをやるか……君の家に押し掛けた様な物だしな」
入須「私にそれを教えてくれたのは、総務委員会の奴だ」
入須「ま、最初そいつに問いただしたのは私だがね。 傍目から見て、もしかしたらと思ったら案の定って訳だ」
入須「そいつはいつも、巾着袋を持っていたな」
……口が軽いにも、程があるのではないか。
よりにもよって俺が苦手な入須に、その事を言うとは。
今度、喫茶店でコーヒーを俺が飽きるまで奢ってもらおう。
奉太郎「あなたがどこから情報を得たかは分かりました」
奉太郎「それで、何を協力するって言うんですか」
入須「ほお、たったあれだけの情報で分かったのか」
奉太郎「……茶化すのはやめてもらえますか」
やはりこいつは、苦手だな。
入須「そうだな、本題に入るとするか」
入須「私は、女だ」
俺がそう言うと、入須は少し困ったような顔をした。
入須「千反田と同じ女だ」
奉太郎「だから、見れば分かりますよ」
入須「……君には回りくどく言っても、無駄か」
入須「女の私が、君と一緒に出かけてやろう」
……頭をどこかに、ぶつけてきたのだろうか。
奉太郎「言っている意味がよく分かりませんが……俺とデートでもするつもりですか」
入須「……デートか、それとは少し違うな」
奉太郎「もっと、分かりやすく話してください」
入須「そうだな……女という物は、サプライズに弱いんだよ」
奉太郎「そうですか、それで?」
入須「君が千反田に何かサプライズをすれば、彼女は大いに喜ぶとは思わないか」
ああ……そういう事か。
奉太郎「話の内容が見えてきました」
奉太郎「つまり、あなたはこう言いたいんですね」
奉太郎「千反田に何かプレゼントをあげ、千反田を喜ばせろ」
奉太郎「そして、そのプレゼントを女である私が選ぶのを手伝ってやる」
奉太郎「そういう事でしょうか?」
入須「……ある程度の情報が出れば、飲み込みが良くて助かるよ」
入須「そう、つまりはそういう事だ」
だが、何故急に……?
奉太郎「それをしようと思った理由は、何ですか」
奉太郎「俺にはどこかの総務委員見たいな趣味は持ち合わせていません」
入須「ふふ、そうか」
入須「……君と、千反田には恩があるんだよ」
奉太郎「恩、ですか?」
入須「……ああ、去年の映画の事は、覚えているだろう?」
奉太郎「ええ、勿論」
入須「……私には、ああするしかなかったんだ」
入須「と言っても、信じてくれるとは思っていない」
入須「その事への、せめてもの恩返しだと思ってくれればいい」
何か少し引っかかるな……
いや、俺は入須という人物を……少し大きく見すぎていたのだろうか?
そして俺は、女帝の……入須の笑顔を見てしまった。
それはいつもの入須からはとても想像ができない表情で、そんな入須をきっぱりと拒否するのも、なんだかあれだ。
最終的に千反田が喜ぶなら、まあ……いいか。
奉太郎「……分かりました」
奉太郎「入須先輩の恩返し、受け取る事にします」
入須「そうか、なら早速……明日、一度喫茶店で打ち合わせをしよう」
奉太郎「……はい」
入須「長居してすまなかったな、私はこれで帰るよ」
奉太郎「玄関くらいまでなら、送っていきますよ」
そうだ、あの日俺は……入須に協力して貰う事にしたんだった。
そして次の日には喫茶店で打ち合わせをして……土曜日に駅前で何が良いか話しながら店を巡っていた。
……千反田達には、バイトを始めたと嘘を言ったんだっけか。
あの入須と二人で出かけるなんて……絶対に言える訳が無い。
ましてや里志の奴、簡単に口を割りやがって。
勿論、千反田本人には当然言えなかった。
あいつの事だ、変に気になりますを出されたらアウトだからな。
次に思い出すべき事は……なんだ。
時間が無いな、急がねば。
ああ、あれだ。 その土曜日だ。
あの日は確か……喫茶店の前で、待ち合わせをしていた。
遅いな、遅いと言ってもまだ時間まで少しあるが。
それにしても……指定してきた場所が一二三とは、嫌な奴だ。
……いつまで待たせるつもりだ、そろそろ帰ろうか。
そんな事を考えながら、空を見上げた時だった。
入須「やあ、ちゃんと来たんだな」
突然、後ろから声が掛かる。
奉太郎「そりゃ、先輩にお呼ばれしたのに断る事なんて出来ませんよ」
入須「どうだかな、さて行くか」
俺はそのまま入須に付いて行き、駅前へと向かった。
道中は特にこれと言って会話は無かった、話す内容もある訳ではないのでそっちの方が俺には心地がいい。
意外と駅前から近かった様で、すぐに目的地へと到着する。
奉太郎「今日は、プレゼント選びでしたね」
入須「そうだ、まずはあそこへ行こうか」
そう言い、入須が指を指したのは服屋だった。
俺は特に意見も無かったので、黙ってそれに付いて行く。
入須「早速だが、君はどれが良いと思う?」
奉太郎「……と言われましても」
入須「ふふ、そうだな」
入須「これなんか、どうだろうか」
入須が手に取ったのはボーイッシュな服だった、ジーパンとシャツとパーカージャケット。
悪くは無いが……千反田のイメージでは無いだろう。
入須「……そうか? 私は良いと思うんだが」
奉太郎「あの、自分の服を選んでいる訳じゃないですよね」
入須「ああ、そうか。 今日は千反田の服だったな」
……大丈夫か、こいつに任せて。
入須「それならやはり、こっちだろうな」
次に入須が手に取ったのはワンピース。
ううむ、やはり千反田にはこっちの方が似合いそうである。
奉太郎「……やはり、そっちですよね」
入須「イメージ的にな、良く似合うと思う」
だが、待てよ。
奉太郎「今更なんですが、ちょっといいですか」
入須「ん? どうした」
奉太郎「……俺、あいつの服のサイズとか知りませんよ」
入須「君は、時々どこか抜けている所がある様だな」
入須「……場所を変えよう、頼むからしっかりしてくれ」
へいへい、すいませんでした。
心の中でしっかりと入須に謝り、俺は再びその後を付いて行く。
入須「次は、アクセサリーでも見てみるか」
そう言うや入須は既に、店の中へと入っている。
少し小走りになりながら、俺はそれに付いて行った。
入須「ふむ、色々とある様だな」
奉太郎「そうですね、どういうのがいいんですかね」
入須「基本的にはどれも嬉しい物だが……あまり重過ぎる物は駄目だな」
奉太郎「気持ち的にって事ですか」
入須「ああ、そうだ」
入須「例えば……この指輪とか」
確かにそれをプレゼントしたら、重いな。
入須「そんな物をプレゼントして、相手が喜ぶと君は思っているのか」
奉太郎「……いえ」
入須「なら口に出すな」
伊原よ、招き猫はプレゼントには向いてないらしいぞ。
入須「まあ、ここにある物ならどれでも嬉しいかな……私としてはだが」
入須「しかし、何より大切なのは気持ちだよ。 折木君」
奉太郎「……あなたからそんな言葉が聞けるとは思いませんでした」
入須「君は随分と私の事を勘違いしてないだろうか」
奉太郎「無いと思いますが」
入須「ここは候補としては、中々良さそうだな」
奉太郎「ええ、そうですね」
入須「さて、次はどこに行こうかな」
入須「適当に、周ってみる事にしよう」
その後、俺は結局夕方まで一緒に店巡りをした。
なんだかんだでプレゼントはその日、決まらなかった。
そう、土曜日は千反田のプレゼントを探しに行ってたんだ。
入須の意見は中々俺の参考になった。 なんと言っても俺は人の気持ちを考えない事が多々ある気がするから。
そんな俺にとって、入須の手助けは結構有難かった気がする。
……さて、まだ思い出さなければならない事はある。
あまり、思い出したく無いが……あれは。
水曜日、くらいだっただろうか。
記憶としてはこちらの方が新しいし、思い出すのに苦労はしないかもしれない。
あの日は確か……千反田が部活に来なくなって、三日目の事だったか。
……そう、あの日も千反田は部活に来なかったんだ。
にしても、なんだか今週に入ってからあいつらの様子がおかしい。
あいつらというのは勿論、古典部の部員達。
里志に関してはいつも通りに見えたが……どこか余所余所しい感じがしていた。
伊原は一向に俺と口を聞こうとしない。 全く、意味が分からない。
そして千反田……あいつが一番異常だ。
ほとんど毎日部活に出ていたのに、今週は一回たりとも来ていない。
何があったのかは分からないが、廊下等で時々……後姿は見ていた。
学校まで休んでいないと言う事は、何か忙しいのだろう。
それに口を出して問いただすことは、俺にはできない。
……家の事となってしまっては、俺にはどうしようもないからだ。
結局俺は一人で、古典部の部室で本を読むことになる。
先週は随分と入須に呼び出され、中々部活に来れなかったが……来てみればこれだ。
奉太郎「それにしても、誰も来ないとはな……」
思わず独り言が漏れてしまう。
今はまだ16時、今日は入須と予定が入っていた。
土曜日振りだったが、なんだか段々と面倒になってきてしまった。
もう俺一人でも決められる様な気がするが……折角手伝ってくれた人に対して、もういいですとは中々言えない物だ。
……最初から、自分でやればよかったか。
それにしても、する事が本当に無い。
千反田が来さえすれば、またあいつの話に付き合って時間を潰せたと言うのに。
……少し早いが、行くか。 ああ、面倒だな。
入須に場所はどこにするか聞かれ、俺が指定したのはここだった。
ここの喫茶店には少し、思い入れがある。
……あいつとは色々あったが……今考える事でもないか。
それより今は、入須との話し合いをどうするか、だ。
俺は手短なテーブル席に着き、入須を待つ。
約束の時間まではまだ時間があったが、俺が席に着いて少し経った頃、入須がやってきた。
奉太郎「どうも」
入須「待たせてしまったかな」
奉太郎「いえ、俺も丁度来たところです」
入須「そうか、なら良かった」
入須「にしても、いい店だな」
入須「次の日曜日は、ここで会おう」
。
奉太郎「それで、今日はなんのお話ですか」
入須「特にこれと言って、内容は考えていない」
奉太郎「……帰ってもいいでしょうか」
入須「まあそう言うな、たまには少し他愛の無い会話をしたい物だ」
奉太郎「友達とでは駄目なんですか」
入須「私の心の内を話すのには、友達では少し嫌なんでな」
奉太郎「そう、ですか」
俺はそう言い、頼んでおいたブレンドに口を付ける。
結構久しぶりに飲んだが、やはりうまい。
入須「……私はね」
入須「あまり、人の心を覗くのが好きではない」
奉太郎「試写会の時だって、俺の事を良い様に使ったじゃないですか」
入須「前にも言っただろう、あれは仕方なかったんだ」
入須「私は自分の意思で動いたのかもしれないが」
入須「同時に周りの意思でもあったのだよ」
入須「好き好んで人の心を……見たくはないさ」
その時の入須の表情は初めて見る物で、とても嘘を付いている様には見えなかった。
奉太郎「……すいません、俺は少し」
奉太郎「入須先輩の事を、勘違いしていたのかもしれません」
奉太郎「……そうですか」
そして入須も、店に入ったときに頼んだのだろうブレンドに口を付けていた。
入須「これは、美味しいな」
奉太郎「ええ、ここのブレンドは美味しいですよ」
入須「中々に気に入ったよ」
俺からは特に話す事も無く、少しの間の沈黙。
そんな沈黙が居づらく、俺は適当に言葉を繋ぐ。
奉太郎「俺が今思っている事は、分かりますか」
入須「……そうだな、恐らく」
入須「なんでこんな面倒な事をしなければいけないのか」
入須「と言った所か?」
入須「……あくまで推論さ」
入須「君の今までの言動や行動から、導き出しただけの事」
入須「さっきの私の言葉は、本心だ」
奉太郎「……では、俺の本心が分かった所でどうします?」
入須「ふむ、そうだな」
入須「あまり長居する必要も無い、帰ろうか」
奉太郎「……それは、非常にいい案だと思いますよ。 先輩」
入須「つれない奴だ、全く」
あの時、話した喫茶店はあそこだったか。
この今考えている事が終わったら、あの喫茶店に行こう。
だがまずは、このやらなければいけないことを片付けなければ。
俺は今、この大量の記憶をひっくり返して見直す事を面倒だとは思っていなかった。
理由は……なんだろうか。
いや、それよりもまだ思い出さなければいけない事はある。
時間があまり無くなって来た様だ、次に思い出すべき事……それは。
文化祭の二日目、か。
これを思い出さない限り、俺は結論へと辿り着けないだろう。
よし、やるか。
昨日は結局、千反田は来なかった。
予想が出来ていなかったと言えば嘘になるが……
もう既に時刻は昼、今日もあいつは来ないだろう。
本当に、家の用事なのだろうか?
あいつはとても文化祭を楽しみにしていたし、文集にも一番力を入れていた。
そんなあいつが参加を諦めるほどの事、そんな事があったのだろうか?
一度、会う必要があるかもしれない。
まあそれは後回しにするとして、今はこの状況が気まずくて仕方が無い。
部室で一人店番、と言う訳に今年はいかず……横には伊原が居た。
奉太郎「……何か俺がしたか」
摩耶花「……」
奉太郎「……はあ」
入須よりこいつの方がよっぽど面倒かもしれないな……
奉太郎「ま、いいさ」
奉太郎「どうせ話してもろくな事にはならないからな」
つい、毒づいてしまった。
それにようやく伊原が反応を示したのは……少し良い事だったかもしれない。
摩耶花「……折木は」
摩耶花「折木は、何を考えているの」
俺が、何を考えているか?
奉太郎「質問の意図が分からないんだが」
摩耶花「……そう、ならいいわ」
摩耶花「もうあんたと話す事は無い」
なんなんだこいつは、意味が分からない。
だが話す事は無いと言われてしまった以上、俺も話しかける気にはならなかった。
今日も最後まで、千反田は来なかった。
俺は今ベッドに横たわっているが……もう少しすれば、動かなければならないだろう。
千反田の家に行き、状況を知らなければ。
……一度リビングに行き、水を飲もう。
俺はそう思い、リビングに行くと姉貴と鉢合わせになった。
供恵「あら、あんたまだ制服のままだったの?」
奉太郎「ちょっと出かけるからな」
供恵「そ」
供恵「それより、最近元気がないねー」
奉太郎「別に、普通だ」
供恵「そうかしら?」
奉太郎「……何が言いたい」
奉太郎「全く、どっから聞いたんだ……そんな話」
供恵「私にはお友達がいっぱい居るのよ、沢山」
また里志か、そういえばあいつには入須に口を割ったことを問い詰めていなかったな。
まあ、文化祭が終わってからでいいか。 何かと忙しそうだしな。
奉太郎「付き合ってる暇は無い、ちょっと出かけてくる」
供恵「はいはい、気をつけてねー」
そして俺は、千反田の家へと向かった。
結果的に、あいつが出てきたから良かったが……
しかし、どうにも様子がいつもと違っていた。
何か、あったのかもしれないが……
家から出てきたと言う事は、出れなかった訳では無い。
つまり、あいつは自分の意思で出てこなかったのだろう。
そんな事実にまた、イラついてしまい……千反田にきつい言葉を浴びせてしまった。
帰り道は酷く後悔していたのを覚えている。
繋がった、な。
そして今も刻まれているこの記憶、これを合わせれば答えは出る。
しかし……俺は随分と馬鹿をしてしまったみたいだ。
ああ、くそ。
悩んでいても仕方が無い。 決着をつけなければ。
外の会話も、どうやら終わったらしい。
一人の廊下を走る足音が、俺の耳へと入ってくる。
それを聞いた俺は扉に手を掛けた。
その扉を開けようとした所で、向こう側から扉が開かれる。
入須「……盗み聞きとは、関心しないな」
奉太郎「……それはどうも」
奉太郎「入須先輩、少し時間を貰います」
奉太郎「終わりにしましょう、話があります」
入須「ああ、予想は出来ていた」
入須「場所を、変えようか」
第25話
おわり
うわぁぁ
わたし気になります!!!
Entry ⇒ 2012.10.22 | Category ⇒ 氷菓SS | Comments (0) | Trackbacks (0)
咲「いったい何者なの…コマキちゃん」
前回
京太郎「な、なんだこの生き物は?」鬼巫女「……」ビクビク
http://ssweaver.com/blog-entry-1749.html
前回のあらすじ
・小蒔ちゃんが霞ちゃんとケンカ
・小蒔ちゃん鬼巫女化して家出
・なんやかんやで京太郎のうちに居候
前回「ネトマで能力は使えないだろ」と指摘がありました マジそのとおりです
所詮SSってことで勘弁してください 何でもしますから!
京太郎「おはよう母さん、コマキは?」
京ママ「おはよう、掃き掃除をしてもらってるわ」
コマキ「~~♪」サッサカサッサカ
京太郎「母さん、コマキに何やらせてんだよ…」
京ママ「自分からやりたがったのよ?箒をもってうろうろするからお願いしたの、いい子よね~ あんたよりよっぽどお利口さんだわ」
京太郎「ほっとけ!」
京ママ「コマキちゃ~ん お掃除はその辺でいいから、朝ごはんにしましょう」
コマキ「!」テテテテ
京ママ「だとしても、お菓子だけ食べさせるのは不摂生でしょ ちゃんとお野菜もあげないと それに…」
コマキ「!」wktk
京ママ「この子、とにかく食べるの大好きみたいじゃない」
京太郎「まあ、確かに」
コマキ「!」テテテテ
ピトッ
京太郎「こらコマキ、俺は学校に行くんだから お前は家でおとなしく…」
コマキ「…」ショボン
京太郎「う…学校には小動物を連れていっちゃいけなくてだな…」
コマキ「…」ジーーー
京太郎「…部活の時間になるまでは構ってやれないぞ?いいのか?」
コマキ「…!」コクン
コマキ「!」パア
京太郎「万一誰かに見つかったら…ぬいぐるみのフリでやり過ごすこと、いいな?」
コマキ「!」コクン
京太郎(どうにも俺はコマキに甘えられると弱いな…)
京太郎「うーん これだと角がはみ出るな… まあいいか」
京太郎「いってきまーす」
咲「おはよう京ちゃん」
京太郎「おう、咲」
コマキ「…!」ピョコ
咲「わっコマキちゃん!? 連れてきたんだ?」
京太郎「くっついて離れてくれなくってな、ちゃんと大人しくしてるならって約束で」
咲「大丈夫だよね、コマキちゃん」ナデナデ
コマキ「~♪」
咲「へえ、すごいね!」
京太郎「あの調子が続いてればお前だって負かせそうだぜ 放課後楽しみにしてろよ!」
咲「ふふ、もうすぐ県予選だしね 京ちゃんが強くなってくれたなら私も嬉しいよ」
京太郎「すっかり上から目線になりやがって、調子に乗っていられるのも今だけだぞこいつ~」グリグリ
咲「あうう~ い、痛いよ京ちゃん…」
コマキ「…!」サクッ
京太郎「いでっ!な、なんだぁ!?」
咲「どうしたの京ちゃん?」
京太郎「たぶん…コマキの角が脇腹に刺さったんだな コマキ、気をつけてくれよ けっこうお前の角鋭いんだから」
コマキ「…プイッ」モゾモゾ
京太郎「潜っちまった ほぼ潜れてないけど」
コマキ「……」
咲「きっと京ちゃんがいじわるするから怒ってくれたんだよ ね、コマキちゃん」
京太郎「そうなのか? あのなコマキ あれは幼馴染のスキンシップってやつで…」
コマキ「…!」サクッ
京太郎「いてぇっ!」
咲「コ、コマキちゃん その辺で…」
コマキ「…」
京太郎「ふわぁ~ 眠い…昨日調子に乗って遅くまでネトマしてたからかな…」
京太郎「…ぐ~」
コマキ「!」クイクイ
コマキ「……」スラスラ ヒラ
先生「え~じゃあ次の問を 須賀、やってみなさい」
京太郎「ファッ!?は、はい」
京太郎(やべえ!全然聞いてなかった!)
京太郎「あ、あれ?えっと、x=4です…?」
先生「うむ、正解だ 寝ているように見えたがちゃんと聞いていたようだな」
コマキ「…」クイクイ
京太郎「ん?どうしたコマキ?」(小声)
コマキ「…」チラッ
京太郎「…外に出たいのか? さすがにそれは危ないんじゃ…」(小声)
コマキ「…!」グッ
京太郎「見つからないように行くって?」(小声)
京太郎「…気をつけて行けよ? あと食いもの盗んだりしないこと、遅くても昼には帰ってくること」(小声)
コマキ「!」ピョン カサカサカサカサカサカサ
京太郎「て、天井に張り付いていきやがった…スパイダーマンかあいつは」
コマキ「…」カサカサカサ スタッ
コマキ「…」ピッ
PC「ウィーン」
コマキ「…」カタカタ
PC「○月×日 鹿児島県○○市永水女子高校で女子生徒一人が行方不明になるという事件が………
家族や友人は安否を…………警察は捜査を…………」
コマキ「…」
コマキ「…」グスッ
コマキ「……」カタカタ
「天鳳」
コマキ「…」カチッ…カチッ…
PC「ツモ、1000,2000」
コマキ「!!」ガーン
霞(今日もマイナス…かわいそうだけど…おやつは抜きね…抜きね…きね…)エコー
コマキ「…」グスグス
??「誰かいるの?」ガチャ
コマキ「!!」ドヒューン
??「誰もいない…? あら、一台つけっぱなしじゃない」
??「天鳳?誰か遊んでたのね~ あら、ひどい点数」
コマキ「…」トテテテテ
京太郎「お、帰ってきたか 誰かに見つかったりしなかったか?」(小声)
コマキ「…」コクン モゾモゾ
キーンコーンカーンコーン
京太郎「お、ちょうど昼だな 部のみんなと食うって約束してるんだ 売店でメシとお菓子買っていくぞ」
コマキ「…」
京太郎(元気がないな…?お菓子って聞くとテンションあがるのに)
京太郎(もっとコマキの考えてること分かってやれたら…こいつが何者なのか分かるのかな…)
巴「霞さん インハイの出場選手の登録 済ませてきました。」
霞「ありがとう、ごめんなさい巴ちゃん 本来なら私の仕事なのに…」
巴「気にしないで下さい、お話したとおり姫様は先鋒に入れておきました 一応補欠も…」
霞「ええ…」
初美「きっと姫様もすぐ帰ってきてくれますよー 私たちは私たちにできることをしましょう! さあ、練習ですよー!」
霞(皆が気を使ってくれてるのに 駄目ね…本当なら私がしっかりしないといけないのに)
霞(小蒔ちゃん…)
巴「はるる?」
ガチャ…
良子「グッドアフタヌーンですー」
霞「あ、あなたは…」
初美「戒能プロ!?」
良子「お久しぶりです皆さん、ハルも大きくなったね」ナデナデ
春「お姉ちゃん…」ギュッ
初美「シャーマンの王になるために修行中って聞きましたよー?」
良子「ないないノーウェイノーウェイ ハルから大まかな事情をきいてね
一大事だそうで 行方不明のお姫様を探す手伝いをして欲しいとか何とか」
初美「はるるが前に言ってたのって、戒能プロのことだったんですかー」
霞「お手伝いって…」
良子「捜索透視はイタコの十八番 とりあえず お姫様の私物や写真があると一層詳しく調べられますよー」
霞「す、すぐにお持ちします!」パタパタ
初美「い、イタコって…信用していいんですかー?」
春「的中率…10割…」
初美「す、すごいですねー」
春・良子「それが自慢」ニコ
優希「部長たちはまだ来てないようだじぇ」
和「今メールで連絡が、学生議会で少し遅れるそうです。
今日は大会の出場登録に行く予定だからすぐ出られるよう準備しておくように、だそうです」
京太郎「そうだったな でも準備といっても用意するものはあまりないし、部長たちがくるまでちょっと打たないか?」
優希「おーぅ、ノリノリだな京太郎!」
優希「ふん!調子こいた飼い犬に躾をするのは飼い主の義務だじぇ、身の程を教えてやるじょ!」
京太郎「上等だぜ!吠え面かかせてやるよ!」
和「それじゃあすぐ終われるよう東風戦にしましょうか」
優希(クックック 東風戦とは好都合だじぇ! 殲滅してくれるわ!)ギラーン
京太郎「ぐわー!また優希かよー!」
咲「やっぱり東場の優希ちゃんはすごい…」
和「くっ……」
優希「はっはっは、ちょろすぎるじょ犬!吠え面かかせる前にこの笑いを止めてほしいもんだじぇ!」
京太郎「くぅ~~っ!」
京太郎「そ、そうだよな…」
コマキ「……」クイクイ
京太郎「コマキ、まだ慰めるのは早いぜ 昨日だって大逆転できたんだ ここからまくってやるさ!」
コマキ「……グッ」ピョン
京太郎「おう、応援しててくれよコマキ!」
コマキ「…!」ペカー
咲「…!?うっ!!げほっげほっ!」ガタッ
和「み、宮永さん!?優希!?大丈夫ですか?」
京太郎「ど、どうしたんだ?いきなり立ち上がったりして」
咲「ご、ごめんね 大丈夫だよ、大丈夫…」スッ
和「それなら、いいんですが…」
京太郎「なんかよくわからんが…無理すんなよ?」
咲(い、今の…お姉ちゃんみたいな感じ…)ブルッ…
優希(今…京太郎の方から咲ちゃんみたいな感じがしたじぇ…)ドキドキ
コマキ「…」
優希「よ、四本場…」カチッ
京太郎「ダブルリーチだ!」
三人「!?」
優希「そ、そういうのは私のお株だじょ…」パシッ
咲(やっぱり、気のせいなんかじゃない…!)パシッ
和(……)ピシッ
京太郎「来た!ツモだ!」
三人「!?」
京太郎「えーっとダブリー一発メンタンピン…?あとドラ2!倍満!4000、8000か?」
和「須賀くん、4本場ですから4400,8400です」
京太郎「あ、そうか サンキュー和」
コマキ「…!」
京太郎「ありがとなコマキ、お前の応援のおかげだぜ!」ナデナデ
コマキ「♪」
京太郎「へへ、どうだろうな 昨日もいきなりでかいのが来てその後ずっとバカヅキ状態だったんだ ほんとに逆転しちまうぞー」
咲「わ、私が親だね…」カチッ
コマキ「…!」ペカペカー
咲(!!さ、さっきよりもずっとすごい…!?いや…!ここにいたくない…!!)カタカタ
優希「な、なんか体が震えるじぇ…」カタカタ
和「…ッ」ブルッ
久「はーい、皆おまたせー!連絡したとおり出場登録に行くわよー」
まこ「ほれ立った立った、議会で時間食っちまったからのう、急がんと!」
咲「ぶ、部長…」ハア…ハア…
コマキ「…!」ピョン テテテテ
久「あらコマキちゃん 須賀くんに連れてきてもらったの?」
京太郎「あー、時間切れかー!せっかくここから大逆転するつもりだったのに」
和「須賀くん、ダブリーなんて運要素しかない役ですよ
実力ははっきり言ってまだまだなんですから慢心しないようにしてください」
和「そんなオカルトありえません」
京太郎「えー?」
優希「そんな豪運は京太郎にあるはずがないじぇ とにかく行くじょ!」
久「なになに、何の話ー?」
京太郎「実はですねー、昨日からすごく調子がよくてー」
コマキ「…」テテテテテ
ガヤガヤ
咲「さっきの嫌な感じ…ほんとに京ちゃんが…?」
咲「ううん、今のはたぶん…」
咲「あ… 東二局の京ちゃんの配牌、伏せたままだ…」
咲「…」ドキドキ
チャッ
咲「こ、これ…!?」ゾクッ
咲「うっ…うぐっ…」ヨロ…
咲「ツモ牌は…」
咲「だめ…怖くて開けない…」
咲「…! う、うん 今行くよ!」アセアセ
咲(い、一体何者なの…)
咲(コマキちゃん…)
霞「…」
初美「戒能プロ…見つけてくれるでしょうかー?」
春「お姉ちゃんはすごい人…きっと大丈夫」
巴「奥の部屋にこもりっきりですけど なにをしてるんでしょう…」
初美「そりゃあイタコっていうくらいですから霊を降ろして対話して見つけ出すんですよー!」
巴「いやいや、もしかしたら地図の上にペンデュラムを垂らしてダウジングかもですよ!」
???「あら~、もしかして良子ちゃん?久しぶり、大きくなったわね~」
良子「久しぶりでもないですよ?三日くらい前に呼んだのお忘れですか?」
???「そうだったかしら?一年ぶりくらいだと思ってたわ~ 幽霊になるとどうも時間の感覚がおかしいのよね~」
良子「…早急に調べたいことがありまして、協力をお願いしたいのですが」
???「おまかせあれ! 娘を見守ってばかりってのも退屈だったしね~
あーそうそう聞いて~ うちの娘たちがね、麻雀のインハイ出るって今頑張ってるのよ~」
なるほどなるほど
なるほどー
???「千里眼ね~なるほどなるほど~ この子もなかなかのおもちをお持ちね~
うちの娘のチーム、いい子たちなんだけど~どの子もおもちが物足りないのよね~」
良子「塩かけますよ?」
???「きゃ~やめてやめて、真面目にやりますから~」
良子「…まったく」
良子「どうぞ 国内でいいですよね」
???「ええ、 ん~~~~~~~~…」
???「…ここ?」
ぷにょっ
???「ん~ただ大きいだけじゃない、はりのあるいいおもちね~ 若いっていいわね~」プニョプニョ
良子「……」バサーーーッ
???「キャーちょっとしたジョークよジョーク!熱い熱い!塩はやめてー!!」
良子「今度やったら問答無用で祓いますので」
???「うっ…うっ…冗談の通じない子になっちゃったわね良子ちゃん…」
良子「…長野…ですか?そんな遠くに?」
???「うん、長野の~この辺かなー」グリグリ
良子「ずいぶんピンポイントですね、根拠は?」
???「うん、その探してる子って、たしか永水の神様降ろす子よね~
この辺からね、神通力っていうの?すっごい力をビンビン感じるのよね~」
???「大丈夫だと思うわよ?ただ…」
良子「ただ…?」
???「さっぱりおもち力を感じないのよね~ なんでかしら この写真、フォトショで加工とかしたの?」
良子「ノーウェイノーウェイ、別人という可能性は?」
???「ノーウェイノーウェイ~ さっきも言ったけどこれほど強い力は間違えようがないもの~」
良子「…有力な情報を頂けました ありがとうございました 松実さん」
松実「どういたしまして~ それじゃあ報酬に良子ちゃんのおもちをもう少し揉ませて…」ワキワキ
良子「…」塩ファサー
松実「あぁ~~」ジュワァ~~
良子「と、いうわけで 探し人は長野にいるそうです」
初美「ず、ずいぶん遠くですねー」
霞「無事なんですか!?小蒔ちゃんに何かあったら私…!」
良子「…安心して、息災なようだよ」
霞「よかった…小蒔ちゃん…」ヘタッ
初美「よかったですねー霞」ナデナデ
巴「しかし、どうして長野になんて…」
良子(どんな状況に置かれているかは分からないけど、不安にさせてしまうことはわざわざ言うことはないでしょう)
春(よかった…)ポリポリ
巴「か、霞さん…?」
霞「長野に行きます…」
巴「言うと思いました、県予選は十日後なんですよ?」
霞「それまでに、必ず小蒔ちゃんを見つけてくるわ」
巴「警察に任せるというのは…」
霞「証拠もないのにいきなり長野なんて、警察が信じてくれるかしら?」
巴「ですが…」
霞「お願い、巴ちゃん…小蒔ちゃんに謝らないといけないの…私が行かないといけないのよ…」
巴「必ず、県予選の前に帰ってきてください 姫様もつれて」
初美「大丈夫ですよー もし霞まで予選に出られないとしても私が大将に回さず終わらせてやります!」ムンッ
春「…二人の留守は私たち三人が預かる」
霞「ありがとう、皆…」
春「…お姉ちゃん?」
良子「長野にいらっしゃるプロ雀士の先輩に連絡しておいたよ
長野までは私が送っていくから向こうにいる間はその人の世話になるといい」
霞「戒能プロ…何から何まで…ありがとうございます」
良子「本当は最後まで面倒みてあげたいんだけどね さて、出発は?」
霞「今すぐに」
霞(待っていてね、小蒔ちゃん…)
巴「戒能プロ、すごく頼りになるじゃない いいお姉さんね、はるる」
春「それが自慢…」ニコ
久「みんなお疲れ様、出場登録は無事終了ね」
久「明日の休みから合宿だから集合には遅れないように、それじゃあ解散!」
和「それじゃあ帰りましょうか」
京太郎「あーあ、それにしても残念だ」
優希「どうした?犬」
京太郎「団体戦さ、うちは男子部員が俺一人だから個人戦しか出られないんだぜ?」
和「確かに、団体と個人で全国へ行くチャンスが私たちには二回あるということですが…」
優希「ないものねだりは見苦しいじょ犬!自分に与えられたチャンスを最大限に生かすよう努力するのだ!」
咲「そうだよ京ちゃん 個人戦に自分の持てる力を全力でぶつけよう?京ちゃん毎日頑張ってるもん きっといい結果出せるよ」
京太郎「うーん まあ今の俺なら全国優勝だって夢じゃなさそうだしな!きっと大丈夫だ!」
咲「えっと…」
京太郎「コラ咲!そこはノるところだろうが!励ましてるんじゃないのかよ」グニグニ
咲「あうぅ…痛いよ京ちゃん…」
咲「あ、うん じゃあね原村さん」
コマキ「…!」フリフリ
和「コマキちゃんも、また明日」
優希「よし、犬!私たちも行くじょ!またな咲ちゃん!」
京太郎「おう、じゃあな咲 また明日」
咲「あ!あの!京ちゃん…!ちょっと…二人でお話いいかな…?」
優希「じょ?」
コマキ「?」
咲「優希ちゃんごめん、いいかな?」
優希「ふむ、それじゃあ私は先に帰ってるじょ!また明日な!」
咲「うん、じゃあね!」
京太郎「?」
京太郎「ん?」
咲「昨日京ちゃん、ネット麻雀ですごく調子がよかったって言ってたよね…?」
京太郎「おう、なんだ?俺の暴れっぷりをもっと聞きたいってか?」
咲「ううん、その時って…もしかしてコマキちゃんが膝に乗ってた?」
コマキ「…!」
京太郎「コマキが…?なんでそんなこと… ああ いたよ、確かに」
京太郎「?」
咲「今日、部室で少し打った時も、京ちゃんのダブリーが決まったのはコマキちゃんが膝に乗ってから…だったよね?」
京太郎「た…確かにそうだけど…咲、何が言いたいんだ?はっきり言ってくれよ」
咲「えっと……もしかしたら…京ちゃんが麻雀ですごく強かったのは…コマキちゃんの力のおかげなんじゃないかな…って…」
京太郎「そ、そんなまさか…」
咲「ダブリーの後の東二局、部長たちが来てお開きになったけど…
あの後伏せてあった京ちゃんの配牌を見てみたの…そしたら…清老頭一向聴だった…」
京太郎「チ、チンロウってたしか…」
咲「老頭牌、一と九だけで作る役満だよ」
咲「普通の打ち手だった京ちゃんにいきなりこんな豪運が宿るとは思えないの…個人戦の前に、確認しておきたくて…」
京太郎「…俺が昨日から好調だったのは、お前の力のおかげだったのか?コマキ」
コマキ「…」コクン
京太郎「………そっか…強くなれたと思ってたのは…俺の勘違いか…」
咲「京ちゃん…きっとコマキちゃんは…負けてる京ちゃんを元気づけたくて…」
咲「怒らないであげて、ね?」
コマキ「…」ビクビク
京太郎「…すごいんだなコマキは! 本当に何者なんだ?咲にカン材が集まるのと同じようなもんなのかな?」ナデナデ
コマキ「…」シュン
京太郎「そんな顔するなよコマキ、お前はただ負けてた俺を助けたくて力を分けてくれただけだ、悪気はなかったんだろ?」
コマキ「…」コクン
京太郎「ならいいさ、俺がコマキの力だって気付かずにうかれちまっただけの話だよ」ナデナデ
京太郎「自分の持てる力を出し切って戦ってこそ麻雀ってのは楽しいんだもんな そうだろ?咲?」
コマキ「…!」
咲「…そうだよ、頑張ろう!予選までまだ時間はあるんだから!京ちゃんも私もまだまだ強くなれるよ」
咲「?」
京太郎「部のみんなに偉そうに啖呵切っちまったよ!個人戦では勝利を手土産に帰ってきてやるとか何とか!」
咲「そ、それは…勘違いだったし仕方ないんじゃ…理由を話せば…」
京太郎「いや駄目だ!今更勘違いでしたって撤回するなんて男としてかっこ悪すぎる!
部長なんて『期待してるわね須賀くん(はぁと)』なんて言ってくれたんだぞ!」
咲「え、えっと…」
咲「えっ」
京太郎「ヒマだよな!どうせ帰っても本読むだけだもんな!」
咲「ひ、ひどいよ京ちゃん…人を本以外趣味のない女みたいに…」
京太郎「ん?なんかやることでもあるのか?」
咲「……ないけど」
京太郎「じゃあ俺ん家こい!麻雀指導してくれ!」
咲「えぇ!?今から!?」
京太郎「あぁ、いいよな?」
咲「で、でもこんな時間に男の子の家にあがるのはちょっと…なんていうか…」ゴニョゴニョ
咲「わっちょっ…!引っ張らないで」
コマキ「…!」テテテ
京太郎「お、コマキも教えてくれよ!すっげー力持ってるんだから当然強いんだろ?ただし力を貸してくれるのは無しな!」
コマキ「…!」コクコク
京太郎「目指すは個人戦全国だー!」
咲「分かったから引っ張らないで~」
咲「うん そう、河を見ればホンイツにしたくても2,3sがもう使えないのが分かるよね」
京太郎「おう、なんかだんだん相手が何を狙ってるかも分かってきたぜ お、字牌だ ポン!」
京太郎「よし、ロン!えっとホンイツ役牌ドラ1 7700だ!」
咲「やったね京ちゃん!」
京太郎「ん?どうしたコマキ?」
コマキ「…!」フンッ
咲「もしかして、やりたいんじゃない?」
コマキ「!」コクコク
京太郎「えっでもコマキ、謎パワーで勝ちあがっちまうんじゃ?」
コマキ「…!」フルフル
咲「京ちゃん、やらせてあげなよ」
コマキ「…!」フン゛ン゛ー
咲(あれ?部室で感じたような嫌な感じが全然しない?)
咲「あっ コマキちゃんそれ!」
PC「ロン、トイトイ、役牌2」
コマキ「…!!」ガーン
京太郎「あ、あれ?」
京太郎「な、なに、気にするなよ たまにはこういうことだってあるさ」
コマキ「…」クルッ
咲「もしかしてコマキちゃんって 不思議な力を使わないで打つのは得意じゃないのかも…」
コマキ「……」コクコク
京太郎「そ、そうなのか…意外だな」
コマキ「…」ジーッ
咲「な、なにかな…コマキちゃん?」
京太郎「はは、わかった コマキも咲に麻雀教えてほしいんだよ きっと」
咲「そ、そうなの?」
コマキ「…!」コクコク
京太郎「いいじゃないか 生徒が一人増えたところであんまり変わらないだろ?」
咲「う、うーん」
京太郎「頼むぜ咲先生!できの悪い俺たちを大会でも勝ち抜けるように鍛えてくれ!」ぺっこりん
コマキ「!」ペッコリン
咲「わ、わかったから 先生って呼ばないで!頭上げて!」
京太郎「悪かったな、夜中まで付き合ってもらって」
咲「ううん、そっちこそ わざわざ送ってくれなくてもよかったのに」
京太郎「まあ、これくらいはな な、コマキ」
コマキ「!」フリフリ
咲「うん、また明日ねコマキちゃん」
京太郎「それじゃあな 明日寝坊すんなよ!」
咲「だ、大丈夫だよ お父さんに起こしてもらうから! もうっおやすみ!」
京太郎「おやすみー!」
コマキ「…」トテテテ ポテッ
京太郎「あーまてコマキ 眠いだろうがベッドインはまだ我慢しろ、風呂に行くぞ」ガシッ
コマキ「~~っ!!」ジタバタ
京太郎「コラッ暴れるな、風呂はいらずに寝たら明日におうぞ!」
コマキ「~~~っ///」
京太郎「まったく、コマキはいい子なのに風呂だけは必死に抵抗するよなー」スタスタ
コマキ「~~~っっ!!」
コマキ「……」
京太郎「しかし、意外だったよ コマキが不思議な力を使わないと俺と同レベルだったとはなー」
京太郎「一緒に強くなろうなーコマキー そんで大会では応援してくれよー」
コマキ「…!」コクッ
京太郎「さて、十分あったまったな まず頭洗おうなー」ザバァッ
コマキ「~~~~っ!!!」サクッ
京太郎「アッーーーー!!!」
コマキ「…」プイッ
京太郎(うーん ちんちくりんなくせに一丁前に恥ずかしがってんのか?ちんちくりんのくせに)
京太郎「よし、乾いたぞ」
コマキ「…」トテテテ ポテン
コマキ「Zzz…」
京太郎「…寝付きのいい奴だ」
京太郎「おやすみ、コマ…」
小蒔「Zzz…」
京太郎「!?」ガタンッ
コマキ「Zzz…」
京太郎「い、今…コマキが超絶美少女に見えた…!?幻覚か…!?」
ひとまずカン!
ひとまず終わります
前回から長いこと待たせてしまってすみませんでした
しかしこれからどう話を着陸させればいいのか…
ちょー乙だよー!
コマキちゃんかわいい咲ちゃんかわいい京ちゃんいいやつ
乙乙
Entry ⇒ 2012.10.22 | Category ⇒ 咲-Saki-SS | Comments (1) | Trackbacks (0)
愛宕洋榎「はいらっしゃいらっしゃい、美味しいたこ焼きやでー」
由子「お好み焼きもありますよー」
絹恵「あ、そこの人どうですかー」
洋榎「おっようみたらそこにおるんは清澄の中堅やないか」
久「え?あら?あなた達……」
洋榎「どや?よかったらたこ焼きかお好み焼き買ってかへん?」
久「というかあなた達、どうして会場の近くでこんな事を?」
洋榎「いやーあんたらに姫松が負けてしもうたやん?」
久「え、えぇ……」
洋榎「そしたら代行……あ、監督の代行な?」
洋榎「代行が帰りの電車代は自分たちで稼げとか言い出しおって」
洋榎「屋台も突貫で作ったんやわーお陰で漫と恭子は今ぐったりしてるわ」
久「そ、そう……」
洋榎「そうか?まぁそれはええけど、私らを少しでも助けるつもりで買ってかへん?」
絹恵「今ならサービスしますよ」
洋榎「あーもうしゃあないなぁ、本当はたこ焼き8個のところをメンバーが1個ずつ食べられるように10個にしたるわ」
洋榎「どや?買わへん?」
久「え?あ、じゃあいただくわ」
洋榎「300万になるでー」
久「え、えっと300円ってことでいいのよね?」
洋榎「まいどおおきにーありがた山のとんびからすやでー」
洋榎「あ、そうそううちの学校倒したんやで優勝せな許さへんでー」
久「ふふっありがとう」
久「いやー実はうちの部員って6人なのよ、それに同室に他校が3人いたりして」
洋榎「こっちも帰りの費用がかかってるのにまだサービスせいってかー冗談きついでほんま」
久「あぁ、そうじゃなくて後3つたこ焼きを購入してもいいかしら?」
洋榎「おっほんまか?よっしゃ、じゃあサービスもしたらなあかんなぁ」
洋榎「たこ焼き3パックサービスつけて頼むわー」
由子「ちょっとまちいよー」
洋榎「爪楊枝は何本いるんや?」
久「そうねぇ、6本もあれば使いまわせるわ」
洋榎「6本やな?いれとくでー」
絹恵「美味しかったら他の方にも薦めたってください」
久「えぇ、ありがとう」
絹恵「ありがとうございましたー」
恭子「まだまだ目標金額は遠いですわ」グター
洋榎「ほんまか!結構売れてる思うんやけどなぁ」
漫「主将がサービスやサービスやいうてたこ焼き多く入れてるからやないですかー」グテー
洋榎「しゃあないやろ、サービスは大切やで!」
洋榎「それより恭子と漫もそろそろ働かんかい」
恭子「屋台作りで寸法とかわからへんってほとんどやったん私やってのに……」
漫「私も手伝いましたやん末原先輩……」
絹恵「じゃあ私がいくわ」
洋榎「じゃあタコとあの例の白い粉を頼むで絹」
絹恵「あの例の白い粉やね?わかったわ」
洋榎「とびっきりの頼むで?」
絹恵「まかしといてぇお姉ちゃん、私ほど白い粉に詳しい人おらへんで」
由子「そう言う危ない発言はやめんかい」
洋榎「おっこれはまた長野の面子やな」
衣「ん?衣達を知っているのか?」
洋榎「対戦校の県大会の相手ぐらい調べるのが当然やろ」
衣「おおっよく見ればお前は清澄と戦っていたやつだな」
洋榎「にしてもほんまちっこいな、子供やん」
衣「衣を子供扱いするな!」
洋榎「おおっと怒らんといてぇ可愛らしいって意味で言うたんや」
洋榎「せや、たこ焼きかお好み焼き買ってかへん?いまならサービスすんで?」
衣「本当か!」
洋榎「ほんまやほんま、そうやなぁ、お好み焼き4パック買ってくれたら1パックサービスしたるわ」
洋榎「そしたらお得な値段で他のメンバーと食べれるで」
純「って姫松!?」
洋榎「お、ちっこいのの仲間やん」
恭子「ひぃ!?」
純「え?何?なんかしちゃった?」
洋榎「あー気にせんといたって、ちょっと今背の高い女性と胸のでかい女性が怖いらしいんやわ」
恭子「……」カタカタ
洋榎「で、お好み焼きとたこ焼き買わへん?」
衣「とーか達と食べよう!」
純「っても今手持ちの金がそんなに……」
衣「ハギヨシ」
ハギヨシ「はっ」
洋榎「お、おぉ……びっくりしたわ……」
由子「ほんまか!」
洋榎「……由子、サイフの中に千円札とかあるか?」
由子「もうないよー」
洋榎「まずいで、絹恵にお金持たせて行ってもろたでお釣りがないで……」
漫「私もないですわ」
ハギヨシ「お釣りが出ないように払う準備はできておりますが、おいくらでしょうか?」
洋榎「おお、客なのになんて腰が低いんや……こういう客やったら神様って崇めたくなるで」
由子「ほんまやわー」
純「あ、すんません、衣は子供なんで辛くし過ぎないように頼める?」
洋榎「任せとき、この秘伝のソース調合でやな」
由子「市販ソース混ぜてるだけやん!」
衣「その前に衣を子供扱いするなー」
洋榎「こんなもんやな」
衣「おぉ、ソースたっぷりだ」
洋榎「子供は口周りにソースべったりが定番やでちょっと多めに塗ってもうたわ」
純「あー確かに子供な衣に似合いそうだわ」
衣「ジュンー何度いえばわかるんだー」
洋榎「後はいっぱい買ってくれたサービスでお好み焼きパック一つにつき1個たこ焼きもサービスやで」
衣「うわー」
洋榎「子供は笑顔が一番やで」
衣「だ、だから子供扱いするなー」
漫「美味しかったら周りにオススメしたってください」
由子「ありがとうなのよー」
恭子「……」カタカタ
洋榎「あかん、恭子のトラウマが完全に再発してもうた……」
由子「ほら、もうおらへんよ」
恭子「あ、す、すんません」
洋榎「負けたんは恭子のせいやないんやから気にせんでええって」
洋榎「それより今は帰りのために稼ぐでー」
洋榎「お、じゃあそこに材料置いといてぇ」
怜「たこ焼きのええ匂いがする……」
竜華「へー本場の味やて」
洋榎「あ、すんません、営業妨害しないでもらえますか?」
竜華「営業妨害してへんわ!」
洋榎「なんで千里山がくんねん」
竜華「怜は何食べたい?」
怜「たこ焼きやな、お好み焼きよりたこ焼きの方が美味しそうやわ」
洋榎「1個300万になりますわ」
竜華「高ない?もうちょいまけれへんの?」
洋榎「こっちももっと安く提供したいんやけど難しいんやわ」
竜華「250」
洋榎「300や」
竜華「260」
洋榎「……」
竜華「280」
洋榎「あーもうわかったわ!280でええわ!」
竜華「おおきに」
怜「さすが竜華やなぁ」
由子「主将が負けたのよー」
竜華「おおきに、怜と食べさせてもらうわ」
洋榎「もうこやんでええからな」
竜華「美味しかったらメンバー全員で買いに来るわー」
怜「ほな」
洋榎「300円予定のものを値切られて支払いで300円だされるなんてなんちゅう敗北感や……」
絹恵「お姉ちゃん気を落としたらアカンで」
恭子「清水谷竜華が園城寺怜とおる時は要注意やで」
洋榎「普段もっと天然ボケやったやろあいつ……」
洋榎「お、また清澄か、ええでーどんどん作るでー」
絹恵「あ、大会ではどうもでした」
和「あ、いえこちらこそ」
優希「へい親父、タコスはないのか?」
洋榎「親父ちゃうわ!あとタコスはないわ、たこ焼きならあるで」
優希「まぁタコがつくなら私のパワーになるから我慢してやるじぇ」
洋榎「生意気な事言うてくれるわ」
咲「でもとっても美味しくて部長も風越の人からも大好評でしたよ」
和「というか大好評でせっかくだしまた買ってこようって事になってきたんですけどね」
洋榎「おっリピーターは大歓迎やで、いつもよりサービスしたらなあかんなぁ」
恭子「あ、あぁ……」カタカタ
由子「トラウマの3人のうち一人+胸が大きい人なのよー」
漫「こ、これはほっといてぇ」
優希「きになるじぇ……」
恭子「めげるわ……」カタカタ
由子「ちょぉ、恭子も働いてもらわんとうちら帰れへんて」
洋榎「2つずつやったな、ちょいまっといて、お好み焼き係がちょっとトラウマ思い出して作れへんで」
洋榎「由子、頼むわ」
由子「わかったわ、じゃあ恭子は漫ちゃん頼むで」
漫「あ、わかりましたわ」
絹恵「ドタバタしてるもんで待たせてしまってすんません」
和「あ、いえ、出来立てのほうが美味しいですし、かまいませんよ」
洋榎「とびっきり旨いの作るでなー」
洋榎「せやろーさすがやろー」
優希「普通こんな事させるような監督いないじぇ」
絹恵「まぁ言われた時は驚いたけどやってみると楽しいもんやわ」
由子「帰りの心配がなければもっと楽しいと思うのよー」
洋榎「まぁ何にせよ負けは負けや、勝ったあんたら応援してるで優勝頼むで」
由子「優勝したら一番の強敵は姫松って答えといてぇな」
恭子「あかん……」
漫「そうやで末原先輩、めげたらあかんで」
恭子「やっぱめげるわ……」カタカタ
優希「それにしても元々サービスしてくれていたのをさらにサービスしてくれるなんてなかなかだじぇ」
洋榎「さすがやろー」
絹恵「熱いうちに食べえや」
咲「それじゃあ頑張ってください」
洋榎「ありがた山のとんびからすやでー」
由子「帰る途中で転んでも商品返品は不可やでー」
漫「末原先輩、もう行きましたから大丈夫ですて」
恭子「あ、うん、ありがとうな漫ちゃん……」
恭子「やっぱ主将がノリでサービスしすぎですわ」
恭子「一人帰る分じゃなくて全員帰る分なんやで主将」
洋榎「そ、そういうてもやっぱサービス精神は重要やろ」
絹恵「ま、まぁまぁこれでいろんな人が大阪きてくれたらええなってことでええですやん」
漫「この調子で帰れるんかなぁ」
洋榎「余計なことをいう漫はデコペンやな」
漫「あ、す、すんません主将」
洋榎「許さへんで、絹!ペン貸したって」
絹恵「ちょいまってぇな」
由子「これで末原まで書けたな」
洋榎「あとは恭子やけど漫ちゃん次第やな」
恭子「な、なに書いてるん!」
洋榎「いやだって……なぁ?」
由子「なぁ?」
洋榎 由子「恭子の名前書いてったら面白そうやん」
絹恵「息ぴったりや」
恭子「そんな事で息合わせやんといて!」
絹恵「うちが変わるわ」
洋榎「頼んだわ絹……」
由子「主将はずっとたこ焼き焼いてたから暑いに決まってるのよー」
洋榎「皆暑いやろうし飲み物買ってくるわ」
恭子「お願いしますわ」
洋榎「5本適当に……」
宥「温かい飲み物あったよー」ピッ
ガコン
洋榎「この暑さのなかでなんで温かい飲み物やねん!」
洋榎「っていうかなんでマフラーとかしてんねん」
宥「あ、あわわわわわ」
洋榎「あ、すんません思わず突っ込んでしもうたわ」
宥「で、でも暖かいのはいいんですよ」
洋榎「……もしかしてものすごい寒がりなん?」
宥「あ、はい」
洋榎「うーん、せや!」
洋榎「あっつい食べ物食べとうない?」
宥「え?え?」
洋榎「この先のところでうちと仲間でたこ焼きとお好み焼き売ってるんやわ」
宥「あ、でも他の皆が……」
洋榎「他に人がおるなら是非一緒にきたってぇ!」
宥「は、はい」
洋榎「って冷たい飲み物探さへんと……ほな後でなー」
由子「ひんやりしてるわ―」
絹恵「ありがとうお姉ちゃん」
漫「ありがとうございます主将」
恭子「熱中症対策は大切やってこの暑さやと実感するわ」
宥「あ、その……暖かいものって聞いたから……」
玄「お姉ちゃんが言ってたのはここなんだ」
穏乃「あ!清澄と戦ってた姫松の人!」
憧「え?あ、本当じゃん!」
灼「どうしてたこ焼き屋?」
洋榎「語るも涙な話があってなぁ……話すと長いんやけど……」
洋榎「負けたから帰る費用自分達で稼げっていわれてもうたんやわ」
絹恵「一言で説明してるやん」
洋榎「まぁそんな感じやわ」
玄「だねー」
洋榎「でたこ焼き1000個か?お好み焼き1000個か?」
憧「そんなに食べれませんって」
洋榎「もっと食べへんと胸も成長せえへんで」
洋榎「うちみたいに……」
恭子「自分で言って自分で落ち込むんやめんかい」
洋榎「なんで絹は成長したんやろ……」
絹恵「そう言われてもなぁ……」
由子「コントするならお客さんの注文聞いてからにしいよー」
洋榎「5個ずつか?5個ずつやんな?5個ずつなんやろ?」
絹恵「お客さんにプレッシャーを与えたらあかんて」
絹恵「ほんますんません、好きな個数言ってください」
憧「晴絵の分も考えると」
灼「6つずつお願いします」
玄「そんなに食べれるかな?」
宥「私はあんまり自信ないかな」
憧「まぁいざとなれば穏乃が食べますって」
洋榎「ほんまか!ほんまに6つでええんやな!よーしこれはまたサービスせなあかんなぁ」
洋榎「恭子、お好み焼きは頼んだで」
恭子「わかってますて」
恭子「……」ブツブツ
由子「恭子は何言うてるんやろ……」
恭子「あれぐらいの胸ならギリギリセーフあれぐらいの胸なら……」ブツブツ
由子「あのサイズが限界みたいやな」
漫「永水女子の大将の人大きかったですしね」
由子「絹恵ちゃんは大丈夫なのはなんでなんやろなー」
絹恵「さすがにあそこまで大きくないですよ」
洋榎「ふふん、サービスや」
灼「帰る費用のために儲けなくていいの?」
絹恵「地道に稼いでますから気にせんといたってぇ」
憧「お好み焼きも美味しそう」
恭子「お好み焼き6パック袋にいれとくでー」
宥「とっても暖かそう」
洋榎「暖かそうなんやない、暖かいんやで」
憧「さっそく晴絵のとこいって食べよっか」
漫「気ぃつけて帰ってぇな」
由子「ありがとうなー」
穏乃「こっちこそありがとうございましたー」
洋榎「美味しかったらクチコミ頼むでー」
漫「可愛い人や美人な人が店番すると人が増えるって言いますよね」
洋榎「それはなんや漫、私が可愛くないいいたいんか?」
漫「きゃ、客寄せの一般論を言うただけですて」
由子「これは恭の字を書かなあかんわー」
漫「そ、そや!他にも匂いを広げて食べたくさせるとか」
洋榎「なるほどな、確かにたこ焼きの匂い嗅いだら食べたくなるのが人ってもんやわ」
漫「……」ほっ
洋榎「まぁ案をだしてもデコに書くんやけどな」
漫「あんまりやわ……」
絹恵「後ろからうちわで仰いだらええんちゃう?」
洋榎「魚やあるまいし」
由子「やっぱ呼び込みが一番なのよー」
恭子「立ち食いスペースが作れれば美味しそうに食べる人を見て来る人増えるかもしれへん」
洋榎「あー確かにテレビでラーメンとか特集してるとラーメン食べたくなるもんなぁ」
照「……」ジィー
洋榎「うわ!インハイチャンプやないか!」
照「……」ジィー
洋榎「ん?もしかして買ってくれるんか?」
照「美味しそうな匂いがしていた」
洋榎「たこ焼き、お好み焼き、どっちも美味しそうやなくて美味しいで」
洋榎「どや、今ならサービスすんで?」
由子「清澄の子に似てるからまたトラウマ再発なのよー」
絹恵「あんな麻雀されたらしゃあないですて」
由子「じゃあ漫ちゃん頼むわ」
漫「あ、はい!」
照「あぁ」
洋榎「お、弘世菫やないか、たこやき買わへん?」
菫「愛宕洋榎か……何をしているんだ」
洋榎「見ての通りたこ焼きとお好み焼き屋や」
菫「いや……まぁいい」
菫「はぁ……照も食べたそうにしているしいいだろう2つずつ頼む」
洋榎「ホンマに2つでええんか?」
菫「どういうことだ」
洋榎「確か白糸台のインハイチャンプとお前以外のメンバーは後輩なんちゃうか?」
菫「そうだが……」
洋榎「先輩やったら後輩になんか買って行ったらな後輩もかわいそうやなぁ」
洋榎「なぁ漫ちゃん」
漫「え?あ、そうですね、やっぱ先輩から差し入れとかされるとめっちゃ嬉しいですわ」
菫「……はぁ、5つ買えと言いたいんだな」
洋榎「なんなら白糸台部員全員分でもええで」
洋榎「お、さすがインハイチャンプ、3年としてもできてるわ」
洋榎「それで、お好み焼きは買わんの?」
菫「はぁ……5つもらおう」
洋榎「まいどおおきに」
由子「5つやねー」
絹恵「美味しかったら白糸台の部員さんに教えてあげてください」
照「あぁ」
恭子「少しはねた髪型怖い……」カタカタ
照「あぁ、ありがとう」
洋榎「全国大会もほどほどに頑張りやー」
照「あぁ」
菫「なんだほどほどにって……」
洋榎「せやから負けてもええよって想いを込めた応援やで」
菫「応援になっていないな……」
洋榎「そらそうやろ、うちを負かした清澄応援してるでなぁ」
由子「負けたからには負かした場所の応援よー」
照「ふっ誰であろうと叩き潰す」
洋榎「おーこわ」
由子「そうやね、5人で何とか回してるのに一人抜けるときっついわ」
絹恵「そういうてもなんかいい方法あるん?」
洋榎「特にない」
漫「ないんですか……」
洋榎「せや、怪物やおもてた奴も話してみると案外普通やったよな」
由子「清澄の子は特にいい子そうだったのよー」
洋榎「本人がきたら恭子に対応させてショック療法でどうやろ」
漫「それ意味あるんですか?そもそも宮守と永水が通らんとどうしようもないですやん」
絹恵「あ、噂をすれば永水女子や」
絹恵「どうもです」
霞「あらあら、どうしてたこ焼き屋を?」
洋榎「悲しいドラマがあってな」
恭子「あ、あぁ……」カタカタ
霞「あ、あら?何かしてしまったかしら……」
由子「恭子、お客さんに対応せんでどうするん」
恭子「い、いらっしゃいませー」カタカタ
漫「声裏返ってますわ」
由子「まるでマクドの新人やで」
春「……」ポリポリ
洋榎「お、黒糖のもおったんか」
春「ん……」ポリポリ
洋榎「甘いもんばっか食べてると太るで、ここはたこ焼き買わへんか?」
春「太らない体質……」
洋榎「まさか、鹿児島は脂肪は胸にいくような奴ばっかりって言いたいんか!」
洋榎「おっぱいお化けばっかりやでほん……ま……」チラッ
初美「?」
洋榎「そうでもなさそうやな」
初美「今この人絶対失礼なこと考えたのですよー」
恭子「さ、3パックですね!しょ、少々お待ちください」カタカタ
由子「初めてのアルバイト、飲食店のレジって感じなのよー」
初美「お好み焼きの方も3つほどいいですかー」
恭子「お、お好み焼き3パック入りました―」
漫「末原先輩いっぱいいっぱいになってるで……」
絹恵「大丈夫やろか……」
洋榎「そういえば、神代放っておいて大丈夫なんか」
洋榎「ふわふわしてそうやし天然ボケ入ってそうやし放っておいたら危なくないんか?」
霞「小蒔ちゃんには巴ちゃんが付いているから心配無用よ」
初美「無用とはいいきれない気もしますですよー」
洋榎「まぁええわ、もうちょい待ってぇな、もうできるで」
初美「美味しそうですよー」
洋榎「美味しそうやなくて美味しいんや」
洋榎「そうそう、ソースが服についても責任は取らへんからな?」
洋榎「神代と分けて食べるんなら注意しいや」
霞「あら、じゃあ小蒔ちゃんには制服に着替えて食べてもらおうかしら」
絹恵「普通制服も汚したらあかんのとちゃうんですか……」
洋榎「ショック療法では厳しいんやろか」
由子「でも震えながらもちゃんと対応はしてるで」
漫「大丈夫なんやろか」
絹恵「あんなトラウマの治す方法なんてわからへんって……」
洋榎「まぁとにかくこの調子でリハビリと電車代稼ぐでー」
健夜(私みたいなアラサーをお姉さん!)ピク
洋榎「ってようみたら小鍛治プロやん!」
由子「ほんま!小鍛治プロ?」
絹恵「ほんまやー」
健夜「あれ?あなた達って姫松の……」
洋榎「南大阪代表姫松高校ですわ」
健夜「どうしてたこ焼き屋?」
洋榎「色々とありまして」
健夜「うーん、こーこちゃんと今はぐれちゃってて」
洋榎「ここを待ち合わせ場所にしてその待ち時間の間にたべてくとかどうですか」
健夜「うーん、ここで食べるのはいいんだけどこーこちゃんと約束してて……」
恒子「あ、すこやん発見」
健夜「あ、こーこちゃん」
恒子「むむっこんなところに屋台!?」
洋榎「どうも、南大阪代表姫松が送る本格たこ焼き、お好み焼きですわ」
恒子「代表選手がなんか営業してる!?」
恒子「これは取材してみる価値が!」
健夜「そうだね、時間を取るなら売上にぐらい貢献しないとね」
恒子「じゃあまずは作ってるところを映像にでも」
由子「確か福与アナって勝手にネットに動画あげたりせえへんかった?」ヒソヒソ
洋榎「下手なところ見せれへんってことやな」ヒソヒソ
健夜「じゃあ2パックずついいかな?」
絹恵「まいどおおきにー」
洋榎「こっちももう出来るわ」
恒子「ふむふむ」
健夜「てきぱきしててすごいね」
絹恵「私らがつこうてる椅子と机を一時的に利用してもらおか」
漫「じゃあ移動させやなあかんね」
健夜「えぇ!」
恒子「すこやんもアラフォーになるほど生きているのでそのリアクションはきっとその年令に見合った深みのある」
健夜「アラサーだよ!」
健夜「何言わせるの!?」
絹恵「というわけでってことは作ってるところはすでに配信されてたんですかね」ヒソヒソ
由子「あの人小鍛治プロの家に突撃取材生配信よくしてるしね」ヒソヒソ
漫「よく訴えられないですね」ヒソヒソ
恒子「……」
健夜「こーこちゃんどうしたの?」
恒子「もっとこうオーバーな感じでもう一回リアクションしてすこやん」
健夜「やらないよ」
恒子「えー今時高校生でももっとましなリアクションするって」
恒子「ねぇ?」
洋榎「そんなん突然過ぎて無茶ぶりですわ……」
恒子「まぁまぁそう言わずに一つ自分で食べてリアクションをどうぞ」
パク
洋榎「はっ!なんやこれ!うますぎるで!まず外はカリカリ中はふんわり、からまったソースによるべたつきもなくタコが~」
由子「さすが主将なのよー」
健夜「無理無理、無理だって」
恒子「そう言わずさぁさぁさぁさぁ」
洋榎「これはある意味宣伝になったで」
絹恵「ただ店やってる理由は答えにくいわ」
由子「そやね、帰りの費用稼ぎなんて言うたら問題になりかねへんし」
漫「面倒がごめんやわ」
恭子「そういうてもやってる理由聞かれたら答えれへんで?」
洋榎「はいはい、お待たせしてもうたわって今度は三尋木プロやん!」
咏「おーう」
洋榎「っとたこ焼きとお好み焼きどっちがええですか?」
咏「うーん、着物でも食べやすい方かなー」
洋榎「ならたこ焼きの方がええかなぁ」
絹恵「そこにいる小鍛治プロに会いに来たとかですか?」
咏「匂いにつられてきただけだから知らんけど」
洋榎「まいどー」
絹恵「三尋木プロは小鍛治プロみたいにアナウンサーの人と一緒やないんですね」
咏「おーう、えりちゃんには振られちったー」
由子「振られたって針生アナに用事があったんですか?それとも……」
咏「んー、両方の意味でかなー知らんけど」
由子「ほんまですか!?」
咏「いや知らんし」
咏「よーし、あそこの二人の仲でもおちょくって楽しみますかねー」
由子「あ、やっぱりあの二人ってそういう感じなんですか?」
咏「ふははーわかんねーでもそれっぽいんだよねー」
絹恵「怪しいからつついて楽しもうってことですか」
咏「そそ」
漫「なんや馬に蹴られそうやわ」
咏「おーう、気をつけるよー」
洋榎「ってさっそくあの小鍛治プロとアナウンサーのふたりきりの空気に乗り込んだで」
恭子「やっぱプロは違うなぁ」
睦月「うむ……え!?」
睦月「さ、サインもらわないと!」ササッ
智美「ワハハ、むっきーがプロ麻雀せんべいカードを片手に飛び込んでしまったぞ」
ゆみ「仕方がない、ちょうどそばにたこ焼き屋もあるみたいだし皆で買って食べよう」
佳織「そうですね」
ゆみ「あぁいや、あっちに1人とこっちに4人だから5人だ」
ゆみ「食べやすそうだしたこ焼きを5つ……って姫松高校!?」
洋榎「ん?そうやけど、そっちもどっかの代表校か?」
ゆみ「あぁいや、私は長野の清澄応援にきたんだ」
洋榎「ってことは長野の決勝の風越か鶴賀のどっちかあたりか?」
洋榎「悪いなぁ、牌譜は見たんやけど龍門渕みたいに以前見かけたわけやないだけにわからへんわ」
智美「ワハハ、そこまで清澄も研究していたんだと驚かされるなぁ」
洋榎「強豪校がただ強いやつを集めただけの集団や思うたら大きな間違いやで、相手のことは調べるわ」
洋榎「まぁそれはええとして、うちらと同じ清澄応援校ってことでサービスせなあかんな」
ゆみ「清澄を応援しているのか?」
洋榎「うちのチームを倒したチームに優勝して欲しい、その気持ちはそっちもわかってるんやろ?」
ゆみ「ふっ確かにな」
桃子「にしてもどうしてたこ焼き屋やってるんっすか?」
絹恵「う、うわ!お化け!?」
桃子「あ、どうもっす」
洋榎「や、やばいで……目をそらしたらこれ呪われるんちゃうん」
絹恵「じゃ、じゃあ私呪われたん!?」
智美「ワハハ、モモは影が薄いだけでちゃんと生きてるぞー」
洋榎「いや影が薄いてちょっと透けて見えるんやけど」
絹恵「なんか意識せな見失いそうやわ……」
恭子「主将、遊んでないで早く作らなお客さんに悪いて」
由子「そうやで主将」
洋榎「い、いやさすがにびっくりするやろこれ……」
洋榎「昨日突貫工事で作ったんやわ」
絹恵「鉄板とかも監督代行に借金して全部買って、その分のお金も稼がんとなぁ」
ゆみ「というか何故たこ焼き屋を開いて稼ごうとしているんだ?」
洋榎「いやな、監督代行が負けたから帰りの電車代とか自分で稼げ言われてもうてな」
佳織「た、大変ですね……」
智美「ワハハ、笑えない境遇だな」
洋榎「って笑ってるやないかい!」
智美「ワハハ」
絹恵「熱いんで気をつけてなー」
由子「でも熱いうちに食べるんやでー」
桃子「美味しそうっす」
ゆみ「あぁ、それに値段のわりに祭りの屋台よりはるかにサービスもいい」
恭子「主将がサービスばっかしてるから売れても全然儲からへんねん」
智美「ワハハ、本末転倒だなー」
洋榎「う、うっさいわ」
洋榎「……」
佳織「あ、あれ?変なことを言ってしまったでしょうか?」
洋榎「皆集合やで」
洋榎「えー今お客さんから新しい商品が飛び出たわ」
絹恵「焼きそばやったらお好み焼きの鉄板で作れそうやね」
由子「モダン焼きもいけるのよー」
洋榎「どうする、恭子」
恭子「……漫ちゃん、焼きそば材料追加や!キャベツは消費が早いから多めに買ってきて」
漫「は、はい!」
桃子「チームワークいいっすね……」
ゆみ「あぁ、そしていけると判断してすぐに実行に移せる行動力もなかなかのものだ」
ゆみ「サインはもらえたのか?」
睦月「はい!」
洋榎「お、行くんか」
ゆみ「あぁ、戻ってたこ焼きでも食べさせてもらうよ」
洋榎「あんま遠いなら今のうちに食べやなあかんで」
由子「そうよー美味しいうちに食べやな」
ゆみ「大丈夫だ、それじゃあ」
洋榎「美味しかったら周りにもすすめるんやでー」
絹恵「さっき行ったばっかやで、にしても……」チラッ
恭子「椅子返せとはいえへんし我慢しいや」
由子「小鍛治プロはたまに申し訳なさそうにこっちをうかがってるのよー」
恭子「まぁ三尋木プロと福与アナに絡まれてもう行こうと言い出せないみたいやね」
洋榎「逆に申し訳ないわ、気にしてない感じでおったらなあかんで絹」
絹恵「そやね」
恭子「ちょっと見に行ったほうがええかもしれませんね」
漫「今もどりましたわー」
由子「あ、漫ちゃん遅……」
絹恵「ナースがおる……」
憩「噂聞いて見に来たんやわー」
漫「なんか絡まれまして……」
洋榎「ふぅ……何言うてるんや絹、そんなアホおらへんて、仕事に戻るで」
憩「無視せんといてー」
洋榎「せや」
憩「そこ、中継されてるんやわ」
恒子「すこやん、アラフォーの意地を見せるしかないって」
咏「おーう楽しみー」
健夜「だからアラフォーじゃないよ!」
洋榎「あぁ、あそこか……」
恭子「やっぱ配信してたんですねあのアナウンサー」
由子「カメラ持ってるように見えへんけどどこに持ってるんやろ」
洋榎「宣伝されてるらしいし客入り良くなるかもしれへん、気合い入れていくでー」
恭子「そうですね、プロ見たさに来る人は増えると思いますわ」
由子「チャンスなのよー」
憩「だから無視せんといてー」
恭子「ナース服の女子高生をプロの中に突っ込んでさらに客寄せを狙うなんてさすが主将ですわ」
由子「しっかり三尋木プロに絡まれてるしこれはありがたいな」
洋榎「こうなると巫女服の永水も確保しとけばよかったんかもしれへんな」
絹恵「いや、それもどうなんやろ」
漫「あ、あれ宮守の人やわ」
洋榎「お、獲物やな」
エイスリン「シロ、タコヤキ」
シロ「んー……」
豊音「チョー美味しそうな匂いがするよー」
胡桃「あれって……」
塞「姫松だね……なんでたこ焼き屋?」
洋榎「一緒の卓で打った仲やないかーちっこいのー」
胡桃「うるさそうだし行こ」
洋榎「ってそれはないやろ!」
胡桃「……押し売り?」
洋榎「まぁまぁそう言わへんと、めっちゃうまいから」
シロ「いいんじゃないの?」
豊音「大阪の人が作るたこ焼きチョー食べてみたいよー」
エイスリン「ワタシモ、タベテミタイデス」
塞「別に食べていってもいいんじゃない?」
洋榎「いやーやっぱ他の人は話がわかるなぁ」
胡桃「はぁ……」
洋榎「あ、そういえばリハビリ中やったわ」
由子「案外大きな胸も問題なくなってたから大丈夫かと思ってたのよー」
絹恵「やっぱ本人となると違うんちゃうんですか」
豊音「あっ大将戦ではどうもー」
恭子「追っかけリーチされる……追っかけリーチ……追っかけ……」ブツブツ
由子「あ、あかんみたいやわ」
洋榎「しゃあない、漫ちゃん頼むわ」
漫「あ、はい」
塞「さすがに焼きそば、たこ焼き、お好み焼き全部は食べきれないね」
豊音「でも全部食べてみたいかなー」
絹恵「たこ焼きなら食べさせあったりできますし」
絹恵「たこ焼き数パックにお好み焼きと焼きそば好きな方選ぶとかどうですか」
塞「それがよさそうだね」
シロ「だるい……」
洋榎「よーし、同じ卓囲んだ仲やしサービスすんでー」
洋榎「ん?なんや?」
エイスリン「デキタ」トン
洋榎「え?なんか店で左腕に指さしてる人?ってあぁ腕時計やな」
洋榎「よくみるとお腹が鳴ってるみたいに……あぁ、はよ作れいいたいんやな」
洋榎「日本語もっと喋れたらけったいな人間なんかあんた」
エイスリン「?」
洋榎「ん?なんや?」
豊音「焼きあがったら上に打ち上げてパックにいれるんだよねー」
豊音「チョー楽しみだよー」
洋榎「どこの知識やねん!」
豊音「テレビでやってたよー」
洋榎「なんちゅう無茶ぶりや……」
由子「いや、失敗したらもったいないからやらんでええからな」
洋榎「確かお前の名前は姉帯やったな、ええか?」
洋榎「たこ焼きを打ち上げたりしたらその分冷めてしまってまずくなってまうやろ?」
洋榎「やからそんな事はパフォーマンスでもないとせえへんねん」
洋榎「例えばアニメとか漫画とかそういうのじゃないとやらへんねん」
由子「そうやで、本気にしたらあかんよー」
豊音「残念だよー」
洋榎「やから……1回だけやで?」
由子「ちょ!主将!」
洋榎「行くでー」
由子「本当に打ち上げたのよー」
漫「しかも空中でちゃんと青のりとソースかけれてるで!」
由子(主将、絶対練習してたわこれ……)
洋榎(アカン、パックからそれた!)
絹恵「キーパー舐めたらアカンでえええええええええ」
塞「あ、キャッチした」
絹恵「あっつあっつ!」
洋榎「き、絹!持ってないで食べ!はよ!」
絹恵「あ、あむ……はっ!なんやこれ!うますぎるで!まず外はカリカリ中はふんわり、からまったソースによるべたつきもなくタコが~」
由子「さすが姉妹なんよー」
豊音「チョー感激だよー」
胡桃「馬鹿みたい……」
由子「主将、ソースはうまくいったんかしらんけど、青のりが髪にかかってるよー」
漫「これウエットティッシュ」
絹恵「ありがとうな」
豊音「大阪の人チョー面白かったよー」
洋榎「そう言ってもらえたらみせたかいもあるってもんやわ」
由子「というかあれだとパックに入ってもべちゃってなるのよー」
漫「売り物としてはアウトですわ」
洋榎「……漫、後でデコに子書いたるわ、これで恭子の名前が完成やな」
漫「冗談ですって主将!」
絹恵「熱いんで気ぃつけてください」
塞「ありがとう、あとその前にそっちこそ手大丈夫?」
絹恵「こんなん慣れっこですわ」
塞「ならいいけど……あ、あとそこで食べていっても大丈夫?」
洋榎「ええけど椅子とかはあっちのプロが独占してるから貸し出せやんわ」
塞「あぁそれはいいんだけどシロがそこに座っちゃっててねー……」
豊音「多分しばらく動かないねー」
シロ(だるい……)
洋榎「うちらの土地やなし好きにしたらええんちゃう?」
塞「その解答もどうなのかな……」
シロ「あー」
豊音「美味しいよー」
塞「これは確かに美味しい」
洋榎「せやろーさすがやろー」
胡桃「……あ、美味しい」ボソ
洋榎「んーなんやー聞こえやんだなーもっかい大きな声で言ってみ?」
胡桃「う、うるさいそこ!」
洋榎「おっと、怒らんと素直にもう一回言うてみ?」
胡桃「しょ、食事中に騒がない!」
洋榎「騒いでるんはそっちやないかい」
由子「子供の喧嘩なのよー」
絹恵「今日で結構稼げたんかな?」
由子「恭子、もうおっきい人おらへんて」
恭子「追っかけリーチ……え?あ、あれ?なんか暗いな」
漫「意識飛んでたんですか末原先輩」
恭子「なんで漫ちゃん私の名前デコに完成してるん?」
由子「それより恭子、今日の売上計算頼むわ」
恭子「ん?あ、ちょいまってぇな」
洋榎「ほんまか!」
恭子「ただ、初期費用のマイナス分を考えるともうちょいですわ」
恭子「代行が利子つけてとか言うてたから明日も屋台出せば問題無いと思いますわ」
洋榎「明日も朝から頑張るでー」
絹恵「今日はつかれたし汗だくやわ」
由子「ずっとあっつい鉄板の近くやでなぁ」
漫「私もお風呂はいりたいわ」
由子「あ、漫ちゃんはそのデコ消したらアカンよー」
洋榎「そうやで漫」
漫「そんなぁ」
洋榎「なんやこれ……」
絹恵「なんかどんどん人が増えてってるで」
由子「これ捌ききれるん?」
恭子「さすがに無理やわ」
漫「やっぱ配信されてたせいですかね」
洋榎「お、おお、ちょい忙しすぎてまともに相手できそうにないわ、すまんな」
まこ「ネットであんたら噂になってるけぇしょうがないじゃろうて」
洋榎「ほんまか!」
久「まぁもうこの状況ってだけでどういうことになってるかわかってると思うけど」
久「頑張ってね」
まこ「がんばりんさい」
胡桃「別にいいでしょ、美味しかったし」
洋榎「素直が一番やな」
胡桃「う、うるさいそこ!」
洋榎「まぁあんま相手する暇はないんやわ、すまんなぁ」
由子「お肉もすくなくなってきたのよー」
竜華「大変そうやなぁ」
洋榎「うっさいわ、営業妨害すんなら帰ってくれへん?」
竜華「せっかく差し入れもってきたったのに」
浩子「キャベツこんなもんでええです?」
セーラ「竜華ー肉買ってきたでー」
泉「タコ確保しましたよー」
洋榎「うっ……」
由子「主将ここは素直に謝って助けてもらったほうがいいのよー」
洋榎「わ、わかっとるわ」
洋榎「うわ、なんや白糸台のやつか」
淡「あ、たこ焼きもらえますか?」
洋榎「どんだけいるんや?」
淡「えーっと……80ぐらい?」
洋榎「え?」
淡「菫先輩が絶賛してて皆食べてみたいって白糸台の部員ほとんどがいまこっちに向かってるんですよ」
恭子「す、漫ちゃん急いでさらに材料買ってきて!」
漫「は、はい!」
淡「やっぱり無理ですよねー」
洋榎「や、やったろうやないかい!」
初美「やきそばが欲しいのですよー」
洋榎「って永水の薄墨!?」
初美「昨日来たときなかったやきそばも食べてみたいと皆がいったので買いに来たのですよー」
初美「お願いしますですよー」
洋榎「嬉しいこというてくれるわほんま」
絹恵「喋っとらんとどんどん作ってかな間に合わへんでお姉ちゃん」
恭子「このペースでお客さんがくるなら作り続けても出来立てでなくなってくはずやで」
由子「とにかく作るしかないのよー」
健夜「こーこちゃん、順番待ちしてるなら待たないと」
洋榎「あ、小鍛治プロまたきたんや」
恒子「突如現れた大人気のたこ焼き屋の謎に迫ります」
恒子「えー店員さん、なにか一言」
洋榎「そうですね、やっぱ美味しい言われると嬉しいわ」
恒子「さすが、プロは違いますね、美味しいと言われると幸せを感じる、まさにプロ!」
健夜「え?えっと、この子達はプロじゃ……というか代表校……」
恒子「次の質問いってみよー店員さんが今目指しているものはなんですか」
洋榎「そんなん団体戦では果たせへんかったから代わりに全国個人戦優勝にきまってるで」
恒子「なんと!店員さんの目指すものはたこ焼きチャンプ!」
洋榎「ちゃうて!たこ焼きチャンプやなくて個人戦チャンプや!」
恒子「たこ焼きで個人戦?たこやき部?」
健夜「恒子ちゃん、少しは代表校の事覚えようよ……」
洋榎「うちらは麻雀部なんやって!たこやき部ちゃうんやああああああああ!」
胡桃「馬鹿みたい」
終われ
本編側もキャラをわかってないの多いけど、それ以上に阿知賀側のキャラ全然わからない
麻雀描写が薄いせいなのかわからない
あと関西弁ムズイ、チョームズイ、わかんねー全てがわかんねー
洋榎ちゃんと胡桃ちゃんもっと絡んでください!あと部キャプも絡んでください!
面白かった。ありがとう
色んな絡みがあって面白かった
Entry ⇒ 2012.10.22 | Category ⇒ 咲-Saki-SS | Comments (1) | Trackbacks (0)
しんのすけ「ねぇねぇおねいさぁんピーマン食べれる~?」長門「……」
「おらのとうちゃん足くさい~♪」
「お?」
・・・・・・・
「おぉ?何か見えるゾ?」
「女の人の絵…もしかしてエッチなほん!?」
「ほっほほぉ~い!」
「んん~何だこれ?」
「ハ、ル、ヒ、の、…漢字読めないゾ」
ペラッ
「うへぇ、字ばっかり…」
「ん~このおねいさんちょっと子供っぽさが残っていますなぁ」
「でもなかなか可愛いゾ、これからの成長に期待ですなぁえへぁ~」
「……」
「このほん、絵の部分だけ破って持って帰ったらダメかな…」
「……」
「でもぉ~落し物は交番に届けないといけないんだよね~」クルクル
「オラ、そんなに悪い子じゃないゾー?」
「…でも、少し気になるゾ」
「うーん…」
「……」
「そうだ!見終わったら元の場所に置いておけばいいんだ!」
「わーいオラあったまいい~!」
「そうと決まったら早速公園に行こうっと」
「出発おしんこー!きゅうりのぬかづけー!」
・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・
―――――――――――――
キョン「季節は春。地球温暖化により昨年より早く開花してしまった桜の花が舞い散る中、生徒は春独特の陽気に感化され妙なテンションに陥っている」
キョン「来月を過ぎると一つ学年が上がり、自分達がいつまでも下級生ではないという事を自覚しなければならないのだが…どうも俺にはその実感が湧かない」
キョン「それもその筈。毎日のように文芸部部室に通い人生の糧にもならないような不可解な行動をしてる内は、俺の人間的向上なんて微塵にも望めないのだろう」
キョン「まぁこんなくだらない愚痴を吐いた所で我がSOS団団長様の馬耳には届きもしないのだがな」
ハルヒ「その愚痴を私の方に向きながら言うなんていい度胸ね。そんなに死にたいの?」
キョン「いかん、冒頭の語りに集中しすぎて今自分が置かれている状況を見失っていた」
ハルヒ「アンタみたいな馬鹿の事を何て言うと思う?『馬鹿』っていうのよ。この馬鹿」
キョン「馬鹿って言葉を三回も使いやがったな。そんな事言う奴の方が真性の馬鹿なんだよ」
ハルヒ「何ですって!?そうやって馬鹿って言ったのを馬鹿って返す方がもっと馬鹿なのよ!」
キョン「また馬鹿っていいやがったな!?そうやって馬鹿馬鹿言ってる奴に限って超ど級の馬鹿なんだよ!このバーカ!」
ハルヒ「馬鹿じゃないの!?そうやってまた馬鹿って返す人間が一番馬鹿だって何度言ったら!」
谷口「(コイツ等マジで殺してぇ…)」
キョン「…ん?そういえばお前が持ってるその本、一体何だ?」
ハルヒ「えっ?あぁコレね、昨日阪中さんに借りたのよ」
キョン「ほう、お前と阪中は貸し借りをする程の仲になっているのか、意外だな」
ハルヒ「あの事件以来結構話す機会が多くなったのよ。別にいいじゃない」
キョン「いや、お前がSOS団意外の人間とコミュニケーションを取っている事に少し驚いただけだ」
ハルヒ「何よそれ…」
キョン「で、その本は何だ?どこかで見た事あるような気もするが…」
ハルヒ「ほら、アンタも小さい頃によくテレビで見てたんじゃない?」
キョン「どれどれ…ほぅ。懐かしい物を持ってきたな」
ハルヒ「私も懐かしくなってちょっと読んでたのよ。今見ても中々面白いわ」
キョン「誰もが認める国民的漫画だからな。俺も幼稚園の時に影響されてケツ振ってたもんだ」
ハルヒ「…えっ、アンタそんな事してたの?」
キョン「えっ?お前しなかったの?」
ハルヒ「する訳ないでしょ!!」
キョン「嘘だろ…数々の意味不明な行動で世間を轟かせたお前があのアニメに影響されてなかったなんて考えられん」
ハルヒ「アンタ私の事一体何だと思ってるのよ!?小さい頃は普通の生活してたって前に話したじゃない!」
キョン「そうか…お前なら幼稚園の机の上に登ってゾウさん音頭ぐらいやってると思ったんだけどな」
ハルヒ「ちょっと待ってキョン。アンタ私を女とすら思ってないの?」
キョン「何言ってやがる。どう見たってお前は女だろ。変な質問をするな」
ハルヒ「だったら少しは考えなさいよっ!女の私にぞ…ゾウさんなんて付いてるワケないでしょ!?」
キョン「……」
ハルヒ「……」
キョン「…おぉ」
ハルヒ「何よ今の間は!?」
キョン「しかし当たり障りのない日常をだらだらと描写した漫画をお前が好むなんて珍しいな」
ハルヒ「これはれっきとした非日常ストーリーじゃない。映画なんてもう別世界の物語よ」
キョン「ん…確かに」
ハルヒ「望んでもないのにこんな楽しい事に巡り合えるなんて羨ましいわ…私にもこんな奇想天外な事起こらないかしら?」
キョン「無理に決まってるだろ。大体世界観が違うじゃねぇか」
ハルヒ「そうよねぇ…平気で変身ヒーローがビーム出しちゃうんだもの」
キョン「まぁ逆に俺達の世界にコイツが招かれたら面白い事になりそうだけどな」
ハルヒ「そうね。アンタにしては中々いい事言うじゃない」
キョン「それほどでもぉ」
ハルヒ「気持悪いからやめて」
キーンコーンカーンコーン…
キョン「む、もう昼休み終わりか」
ハルヒ「何かアンタと話してたら疲れたわ…」
キョン「今日はSOS団ミーティングの日だろ?団長のお前がしっかりしないでどうする」
ハルヒ「誰のせいよ誰のっ!!」
キョン「さて次の授業は体育か。じゃあなハルヒ、フォーエヴァー」
ハルヒ「もう、アンタいつからそんなキャラになったのよ…」
―――――――――――――
むかしむかしあるところに、木こりの親子が住んでいました。
木こりの夫婦には2人の息子がいました。兄の方は今の生活に満足していましたが、弟の方は
「いつか都に出て何かどでかいことをしてやろー」
という野望を持っていました。そんなある日・・・
長門「……」ペラッ
バ チ ィ!!
???「うおわっち!!」
ドシンッ!!
???「イテテテ…んもぅコレ母ちゃんの運転より荒いゾ~」
長門「……」
???「…お?」
長門「……」
???「……」
???「よっ!」
コンコンッ
キョン「ノックしてもしもーし」
ガチャ
キョン「よう、長…門?」
長門「……」
???「いやぁまいっちゃうよね~変なごほん読んでたら急に空がくらくなっちゃって~」
???「そうしたらオラの体がビューンって飛んでっちゃったんだゾ」
???「もうおまたヒューってなっちゃった…えへぁ」
長門「…そう」
キョン「…何の冗談だこれは?」
???「お?」
長門「……」
???「アンタだれ?」
キョン「人に名を尋ねる時はまず自分からって母ちゃんから教わらなかったのか坊主」
しんのすけ「オラ坊主じゃないぞ!野原しんのすけだゾ!」
しんのすけ「よく覚えとけぃ!」キリッ
長門「……」
キョン「…マジかよ」
キョン「…おい、長門」
長門「何」
キョン「ハルヒか?またハルヒの仕業なのか?」
長門「……」
長門「おそらく涼宮ハルヒが現在所持している漫画と呼ばれる書物の登場人物が具現化した存在だと思われる」
キョン「…はぁ」
長門「その発端は貴方と涼宮ハルヒの会話による彼女の想像力の肥大化だと推測され、これは主に貴方の発言が涼宮ハルヒの想像を増幅させる内容であったt」
キョン「あーもういい、みなまで言うな」
キョン「要するに俺の何気ない一言がこの事態を招いたって事だろ?」
長門「そう」
キョン「…やれやれ、また古泉に叱られそうだ」
しんのすけ「おじさん、オラはちゃんと名乗ったゾ」
キョン「誰がおじさんだ、俺はピチピチの高校生だ」
しんのすけ「ほうほう、『ぴちぴちのこうこうせい』…」
しんのすけ「プッ、ヘンなおなまえ~」
キョン「それは名前じゃねぇ!俺の名前は
ガチャ
みくる「すみません遅れました~」
キョン「あ、こんにちは朝比奈さん。今日も一段とお美しいですね」
みくる「もうキョン君ったら…おだてても何もありませんよ?」
しんのすけ「おぉ!きれいなおねいさん!」
みくる「えっ…えぇ?」
キョン「あっコラ!いきなり大声出すんじゃ…」
しんのすけ「ねぇねぇおねいさ~んカレーには何入れるタイプ~?オラは醤油をちょびっとかけて食べるほうが~」
みくる「えっ…この子って…えぇ!?」
キョン「落ち着いてください。今説明しますから…」
・・・・・・・・・・・・・
みくる「そうだったんですか。だからこの子…」
しんのすけ「んもうキョコン君ったら水虫臭いゾ~。こんな綺麗なおねいさんがいるなんてオラ知らなかったんだよ~?」
キョン「知らないも何もついさっき顔会わせたばかりだろ。それに俺の名前は巨根じゃねぇしキョンでもねぇ」
しんのすけ「まーまー細かい事は気にしない気にしない」
キョン「俺の名前を細かい事に分類するな!」
長門「……」
みくる「あ、あの~私そろそろ着替えたいのですけど…」
キョン「おっとそうでしたね。じゃあ俺は外で待ってます」
ガチャ
みくる「じゃあ、少し待っててくださいね?」
キョン「はい、了解です」
みくるのすけ「でわ~」
ガチャン
ガチャン
キョン「お前はこっちだ」
しんのすけ「軽いジョークなのに」
ガチャ
古泉「こんにちは。…おや?見かけない殿方がいらっしゃいますね」
しんのすけ「おぉ、ひまが見たら飛びつきそうな美少年だゾ」
みくる「あっ古泉君こんにちは~」
長門「……」
キョン「あ~古泉…コレには深い訳があってだな…」
古泉「…ふぅ、大体の原因は予想できます」
キョン「…スマン」
古泉「いいですか?貴方の何気ない言葉一つが涼宮さんの思考を左右するのです」
古泉「たとえそれが微弱な改変であったとしても、いつ何処で何が起こるか予測できないのが涼宮さんという人物である事を貴方も充分おわかりになっている筈です」
古泉「貴方はもっと後先の事を想定してから自分の意見を涼宮さんにおっしゃってですね…」クドクド
キョン「…チッ、ウッセーナ」
古泉「何か言いましたか?」
キョン「別に」
古泉「ところで彼の事ですが…あのビジュアルはやはり」
キョン「あぁ、お前が5歳ぐらいによくテレビに出演していたアレだ」
古泉「やはりそうでしたか…いやぁ懐かしいですね」
古泉「僕もあのアニメを見て母親によく生意気な口を利いて怒られてましたよ」
キョン「何?お前もアレに影響された時期があったのか」
古泉「えぇ、親が見せたくないゴールデンタイムアニメNO,1ですからね」
キョン「見るなって言われたら余計見たくなっちまうのが人間の性だよな」
古泉「まぁ流石に彼の行動をマネするという愚行はしませんでしたけどね」
キョン「…えっ、マジ?」
古泉「…もしや貴方」
キョン「い、いやそんな事ないぞ!?ケツ振ったり股間に象の落書きなんてしてないぞ絶対!」
古泉「ですよねー」
キョン「は…ははは…」
しんのすけ「んでね、オラがかーちゃんにお肩スーッってするやつ塗ってあげようとしたら…」
しんのすけ「母ちゃん、避けて鼻にお薬が当たっちゃってぇ~」
しんのすけ「『ひいいいいいいいいいいいっ!!』ガンッ!『だおおおおおおおおおおおおおっ!!』」
しんのすけ「って一人で踊り始めたんだゾ~」
みくる「あはは…それはお母さん大変でしたねぇ」
長門「……」
キョン「さて、この状況を一体どう処理すればいい?」
古泉「そうですね…取り敢えず涼宮さんにだけは彼との接触を避ける必要があるでしょうね」
古泉「彼は立場上異世界人という事になりますから、涼宮さんに影響が無いとは思えません」
キョン「そうだな、昼休であれだけこの漫画の話題で盛り上がってたんだ。実物なんて見てしまった際にゃあ」
ハルヒ「凄いじゃない!まるでテレビから飛び出てきたみたいに本物そっくりだわ!!」
キョン「てな具合に満天の笑みを浮かべて興味心身に」
キョン「えっ?」
キョン「うおおおおおおおおおおおっハルヒいいいいいいいい!!?」ガタタッ!!
古泉「す…涼宮さん…何時からそこに?」
ハルヒ「えっ?たった今来たばっかりだけど…何二人揃って驚いた顔してるのよ?」
キョン「……(アウト?)」
古泉「……(…セーフだと)」
ハルヒ「それよりもあの子しんのすけそっくりじゃない!何処から連れてきたのよ!?」
キョン「落ち着けハルヒ、これは色々な事情が重なってだn」
ハルヒ「もしかして本物!?私が望んだからひょっこり出てきたんじゃないかしら!?」
古泉「」
キョン「(世 界 が ヤ バ イ)」
キョン「い、いや違うんだハルヒ!」
キョン「あの坊主は長門の生き別れの弟だ!今日からしばらく長門が面倒見ることになってんだよ!!」
ハルヒ「えっ?有希の弟?」
キョン「おう、確か名前は~…焼け野原すんのけし君だった…と思う」
古泉「(ちょっと何ですかその露骨すぎる設定と偽名は!?)」
キョン「(うるさい!咄嗟の判断がきかなかったテメェよりマシだろうがっ!)」
キョン「と、とにかくだな…あの漫画の主人公とは似て非なる存在であって実際の団体人物とは一切関係ない事もないというか…」
ハルヒ「ふぅん…まぁいいわ、実際にアニメのキャラが現実に出てくる訳ないものね」
キョン・古泉「…ふぅ」
しんのすけ「おお、また人が増えたゾ!しかもびじんさんだ~」
ハルヒ「こんにちはしんのすけ君!SOS団長として有希の弟である君を歓迎するわっ!」
キョン「(コイツ俺が考えた偽名をナチュラルに無視しやがった…)」
しんのすけ「えすおーえすだん…おぉ!何だかカッコイイ名前ですなぁ~」
ハルヒ「!!」
ハルヒ「よく分かってるじゃない!流石は有希の弟ね!アンタ中々素質あるわよ!」
しんのすけ「えへぇ~それほどでもぉ~」
ハルヒ「良かったら私達の準団員にならない?歓迎するわよ!」
しんのすけ「いえいえ、せっかくですがオラには大事な使命があるのでお断りさせていたたきますです」
ハルヒ「使命?何かしらそれ?」
しんのすけ「オラはかすかべの平和を守るかすかべぼーえいたいなんだゾ!」
しんのすけ「ワッハッハッハッハッハ~!」
ハルヒ「春日部防衛隊?どこかで聞いた事あるような…」
キョン「パオーンパオーンッ!!!」
古泉「か、彼はですね、バルブ経済崩壊後の日本の経済的衰退を防ぐために政府特別機関工作員として任命された見た目は五歳頭も五歳の」
ハルヒ「バブル経済?古泉君いつの時代の話してるのよ?」
古泉「」
キョン「お前が自爆とは珍しいな」
古泉「放っておいてください…」
キョン「と、こんな風に色々あったのだが…特に目立った閉鎖空間も発生せず、この破天荒な一日は杞憂に終わりを告げる事になったのである」
キョン「あの坊主は長門の弟という設定にしてしまったため、しばらくは長門の家に居座らせるという事に決まり…」
キョン「それと同時にアイツを元の世界に戻す方法を長門が見つけてくれるとの事だ」
キョン「幸い今回は原因がはっきりしているため、方法を見つけるのは容易な事らしいが…」
キョン「この異世界人騒動はそんな簡単に鞘に収める事はできないのだろうと、俺は密かに思うのである」
長門「貴方が何故説明口調なのか理解できない」
キョン「気にするな。いつもの事だ」
長門「……」
―長門宅―
ガチャ
しんのすけ「おっかえり~」
長門「今の発言には不適切なキーワードが含まれている」
しんのすけ「お?」
長門「私達は今帰宅をした」
長門「この場合、私達は迎えうける立場にあるため、ただいま、が適切である」
しんのすけ「ほうほう、そうともゆぅ~」
長門「貴方の発言には理解できない。この場合にはこの単語以外に当て余るケースが一つも…」
しんのすけ「まぁまぁ細かい事は気にしない気にしない」
しんのすけ「そんなにきっちりしてるとかあちゃんみたいにたんさいぼーになっちゃうんだゾー」
長門「……」
しんのすけ「ほっほぉ~い」ダダダダ
長門「貴方は手洗いをするべき」
しんのすけ「ほーい」
・・・・・
しんのすけ「かあちゃんはらへったー」
長門「私は貴方の母親ではない」
長門「食事の準備が出来ているので運ぶのを手伝って欲しい」
しんのすけ「ブッラッジャー!」
長門「…?」
しんのすけ「お?」
長門「…貴方は早く手伝うべき」
しんのすけ「ほーい」
長門「……」
しんのすけ「あーむ」
しんのすけ「んぐんぐ…」
長門「美味しい?」
しんのすけ「っんまぁぁい!」
長門「…そう」
しんのすけ「まったりぃ~でまろやかぁ~」クルクル
長門「食事中に片足で回転するべきではない」
しんのすけ「オラ、こんなに美味いカレー食べた事ないゾ~」
長門「貴方に気に入ってもらい、私という個体も嬉しいと思う」
しんのすけ「おぉ?ゆきちゃんは今喜んでるの?」
長門「そう」
しんのすけ「うーむなかなかお顔の変化が分からない喜び方ですな~」
長門「……」
しんのすけ「むむ、もしかして今流行りのアバズレというやつですかい!?」
長門「貴方の発言から推測すると、それはツンデレが適切だと思われる」
しんのすけ「ほうほう~そうともゆう~」
長門「しかし彼は私の事をクーデレに属すると言う。違いが分からないため理解不能」
しんのすけ「ほぅほぅ、何だか大人の香りがぷんぷんしますぜ親分」
長門「私は貴方を傘下に置いていない」
しんのすけ「おぉ!そろそろアクション仮面が始まる時間だぞ」
長門「…この時間帯にそのような番組は存在しない」
しんのすけ「な、なにいぃぃぃぃぃぃ!?」ガーン!
しんのすけ「そんな…アクション仮面が見られないなんて…」
しんのすけ「オラは…オラは何のために生きてるんだあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
長門「……vncdfvnvlgfdvbidfvb」
長門「今のは私の勘違い。その番組は今この時間に放映している」
しんのすけ「な、なぁ~んだそっか~。アハハハハハ」
しんのすけ「んもう、ゆきちゃんはちゃっかり屋さんなんだから~」
長門「今の発言はうっかりが適切」
しんのすけ「わっはっはっはっはっ!」
長門「……」ペラッ
しんのすけ「あー面白かった」
しんのすけ「お?」
長門「……」
しんのすけ「ねーねーゆきちゃん」
長門「何?」
しんのすけ「それ、今日のお昼にも読んでた本だよね?」
長門「…そう」
しんのすけ「おもしろい?」
長門「…ユニーク」
しんのすけ「ほうほう」
長門「でも、少し…分からない」
しんのすけ「どして?」
長門「……」スッ
しんのすけ「お?」
長門「ここ」
しんのすけ「おぉ!この絵本幼稚園でよんだことあるゾ!」
長門「…そう」
しんのすけ「んで、これのどこがわからないの?」
長門「……」
長門「……」スッ
しんのすけ「んん?」
長門「この絵は人間と動物が繋がっている」
長門「彼女は一度も笑った事がない」
長門「しかしこの姿を見た彼女は、笑っている」
長門「彼女は何故、笑っている?」
しんのすけ「ほうほう、なるへそなるへその尾はちょん切るもの」
しんのすけ「んん~むづかしいもんだいですなぁ」
長門「…ごめんなさい」
しんのすけ「いやぁそれほどでもぉ~」
長門「褒めてはいない」
しんのすけ「んん~オラ的には子供だましだけど…」
長門「?」
しんのすけ「きっとこのお姫様はこのへんてこりんな格好をみて笑ったんだと思うゾ?」
長門「それは理解している」
しんのすけ「ほうほう、じゃあ何がわからないの?」
長門「……」スッ
しんのすけ「お?」
長門「…これは、笑える?」
―――――――――――――――
pipipipipipi
ピッ
長門「…何?」
キョン「長門、俺だ」
長門「……」
キョン「今アイツはどうしてる?騒ぎとか起こしてなければいいんだが…」
長門「問題ない。全ては想定内の範囲で収まってる」
キョン「そうか、ならいいんだ」
キョン「こうなったのも少なからず俺の所為だからな。少し心配してたんだ」
長門「…そう」
キョン「それでどうだ?元の世界に戻す方法は見つかったか?」
長門「…まだ見つけていない」
キョン「そ、そうか。…結構難しいのか?」
長門「そうではない。貴方が望むならすぐにでも見つけ出す事ができる」
長門「ただ、今まであの有機生命体の観察を優先していたため、行動に移す事ができなかった」
キョン「観察?あの坊主に何かあるのか?」
長門「分からない。しかし貴方達とは違う個体である事はたしか」
キョン「そうか…」
長門「情報統合思念体は彼という個体にとても興味を抱いている」
長門「そのため、しばらくの間彼を涼宮ハルヒと同レベルの観察対象とする事が命じられた」
長門「期限は野原しんのすけと涼宮ハルヒの共通性を発見できるまで」
キョン「…大丈夫か?」
長門「安心して、彼は私が責任を持って保護する」
キョン「そうか、それを聞いて安心した」
長門「…私という個体もそれを望んでいる」
キョン「…ほう」
長門「何?」
キョン「いや、何だかお前が満更でもなさそうだからさ」
キョン「珍しいと思ってな」
長門「……」
キョン「…ふむ」
長門「…何?」
キョン「いや、何でもないさ」
キョン「じゃあすまないが…しばらくの間アイツの事、頼んだ」
長門「…了解した」
しんのすけ「ふぃ~いい湯であった」プラプラ
長門「タオルは肩にかけず股間を隠すべき」
しんのすけ「おお、そうでした」
しんのすけ「嫁入り前の娘もいることですからなぁ」
長門「…?」
しんのすけ「オラのかあちゃんはいつもそう言うゾ」
長門「…そう」
しんのすけ「有希ちゃんは大きくなったらお嫁さんになるの?」
長門「…分からない」
しんのすけ「オラは大きくなったらななこおねいさんを迎えにいくんだ~」
しんのすけ「んでね、オラはおねいさんの膝枕で耳掃除してもらうんだゾ」
しんのすけ『しんちゃん、痛くない?』
しんのすけ「ふっ、ななこのこと思うと胸がズキズキ痛むんだぜ」
しんのすけ『まぁ大変、じゃあ私のおむねでいいこいいこしてあ・げ・る(はぁと)』
しんのすけ「うひょおおおおおおおおおおおお!!!!」シュポポポー
長門「……」
しんのすけ「あぁななこおねいさん…そこは駄目だゾ…そんなに伸びない」
長門「…貴方は」
しんのすけ「お?」
長門「今、楽しい?」
しんのすけ「んん?」
長門「私は貴方に対して何も干渉していない」
長門「しかし貴方はとても楽しそうにしている」
長門「何故、表情の変化がこの短時間で多様なのかも理解不能」
長門「…貴方は、とても興味深い」
しんのすけ「ん~有希ちゃんの言ってる事全然分かんないけど」
しんのすけ「オラは今、とっても楽しいゾ?」
長門「……」
しんのすけ「オラの家じゃないところでお泊りなんておひさしぶりぶりだから~」
しんのすけ「かあちゃんにも怒られる事ないし~」
しんのすけ「オラはまんぞくであるっ!」
しんのすけ「ワッハッハッハッハッハーッ!」
長門「…そう」
しんのすけ「ゆきちゃん」
長門「何?」
しんのすけ「ゆきちゃんはオラといて…楽しくないの?」
長門「……」
しんのすけ「はっ!もしかしてオラにほれちゃったからおむねが痛くて泣いちゃいそうだとか!?」
しんのすけ「いやぁ~まいったなぁ~オラもつみきづくりな男だゾ~」クネクネ
長門「その心配は必要ない」
しんのすけ「あ…そなの」
長門「…貴方はとても興味深い」
しんのすけ「お?」
長門「私は貴方以上の喜怒哀楽の感情が激しい有機生命体を見た事がない」
しんのすけ「きどあいらく?」
長門「そう」
しんのすけ「それってカニがいっぱい食べれるお店のこと?」
長門「それはか○道楽」
しんのすけ「緑のもじゃもじゃ人形が二匹でCMで出てた…」
長門「愛・○球博」
しんのすけ「おぉ!最近カザマくんが見てたらくごのアニメの…」
長門「じょ○らく」
長門「……」
しんのすけ「お、おぉ…ゆきちゃんのお顔がかあちゃんみたいな鬼ババに…」
長門「…そろそろ寝る時間」
しんのすけ「ふわぁ~あ…」
長門「布団は敷いてある。好きにしていい」
しんのすけ「ほっほーい…」
ボフッ
しんのすけ「ん~このおふとんいいにおいだゾ~」
長門「それは私の寝具。貴方はこっちの…」
しんのすけ「zzz.......」
長門「……」
ファサ…
長門「…おやすみなさい」
-翌日-
ガチャ
キョン「うぃーっす」
長門「……」
キョン「ん?また長門だけ…ではないな」
長門「……」
しんのすけ「えへへ~じょしこうせいでもはったつが良い子はそそられますなぁ~」
キョン「…はぁ」
キョン「おい、あまり窓から顔出すな。誰かに見つかったらどうすんだ」
しんのすけ「ああんおねいさあん~」
キョン「長門もあまりこいつを甘やかすなよ。…まぁお前がいれば心配はないのだろうが」
長門「了解した」
しんのすけ「お?オラおじさんのおなまえ憶えてるゾ。うんとねー」
キョン「誰がおじさんだ。それにまだ本名は名乗ってない。俺の名は」
しんのすけ「ギョンくん!」
キョン「そうっ!俺は黒い球体に体を蘇えさせれらた漆黒のハンター!今日も転送され世界中の怪人を」ギョーンギョーン
キョン「ちがうっ!!」
バタンッ!!
ハルヒ「やっほー!みんないる!?…って、有希とキョンだけ?」
キョン「古泉はバイトだ」
みくる「おそくなりましたぁ」
ハルヒ「遅いじゃないみくるちゃん!団員たるもの団長の入室三十分前には部室にいる義務があるのよ!」
みくる「ふぇ!?」
キョン「三十分前は授業中だこの馬鹿」ゴツンッ
ハルヒ「いたい!よくもぶったわね!あと馬鹿ってまた言った!」
キョン「馬鹿に馬鹿と言って何が悪い」
ハルヒ「…ふ、ふふふ。キョン…アンタとは一度白黒つける必要があるみたいね…」ゴゴゴゴゴ…
キョン「奇遇だな、俺も常々同じ事を思っていたんだ…」ゴゴゴゴゴゴ…
ハルヒ「この際だから平団員から超平団員に降格してあげるわ。覚悟しなさい!」
キョン「そっちこそそのカチューシャ引っこ抜いて無理やりポニテにしてやる。覚悟しろ」
みくる「ひ、ひえぇ~何だか二人から禍々しいオーラが見えますぅ~」
しんのすけ「おぉ!オラこれ知ってるゾ!」
しんのすけ「とーちゃんとかーちゃんがいつもやってる『どたんば』ってやつだ!」
みくる「え、えぇ~....」
長門「この状況から把握すると、それは土壇場ではなく修羅場だと思われる」
しんのすけ「おぉ、そうともゆー」
長門「これ以上の闘争は悪影響を及ぼす。早急に止めるべき」
みくる「で、でもどうすればいいんですかぁ~?」
長門「今私達が介入することは許されない。第三者が横槍を入れる事は、世界の崩壊を意味している」
みくる「そ、そんなぁ~」オロオロ
しんのすけ「ねーねー」
キョン「何だ?俺達は今から食物連鎖の頂点を競い合う戦いを始めようと…」
しんのすけ「二人ともどたんばがおわったらプロレスごっこするの?」
ハルヒ・キョン「プロレスごっこ?」
しんのすけ「おらのかーちゃんととーちゃんは」
しんのすけ『あなたごめんなさい…私が悪かったわ』
しんのすけ『いいんだみさえ…お前の気持ちを分かってやれなかった俺が悪いんだ…』
しんのすけ『もう三段腹が悪いなんて言わないさ!その身体全部まとめて愛してこそが夫の務めだ!』
しんのすけ『私もあなたの足の匂いを愛してみせるわ!それこそが妻の努めだもの!』
しんのすけ『みさえ…』
しんのすけ『あなた…』
しんのすけ『んー』『んー』
ハルヒ「……」
しんのすけ「ってこんなふうにしてちゅーしてんだゾ?まったく二人ともまだまだ子供なんだから~」
みくる「で、で、その後お父さん達はどうなっちゃったのですか!?」
しんのすけ「それがさぁ~二人でお布団敷く部屋に行っちゃったんだゾ」
しんのすけ「とーちゃんが『今からママとプロレスごっこするからお外いってなさい』っていってた」
しんのすけ「オラは入っちゃだめっていわれたから公園に遊びに行ったんだゾ~」
みくる「ふ、ふえぇ~」プシュー
しんのすけ「だから二人だけでプロレスごっこで遊ぶなんてズルいゾ!オラもまぜろ~!」
キョン「するかっ!」
ハルヒ「そそそそそそうよ何でこんな奴とっ!プ…プロレスごっこなんか!」アタフタ
しんのすけ「おぉ!忘れてた!」
しんのすけ「とーちゃんたちがプロレスごっこしてるとティッシュがすぐなくなるんだった!」
ハルヒ「ひぇっ!?」
みくる「」プスプス…
しんのすけ「オラとしたことがぐったりしてたぞ。ゆきちゃんの家でもらったポケットティッシュがあるからこれ使ってね」
キョン「余計な気ぃ遣わんでいい!」
長門「……」
-その後-
ハルヒ「全くキョンのやつ…どうしてあんなに反抗的なのかしら」ブツブツ
みくる「ま、まぁまぁ、涼宮さん落ち着いて、ね?」
ハルヒ「しんのすけ君にもかなり振り回されちゃったわ…。これは団長である私の唯一の失態ね」
みくる「あ、あのぉ~涼宮さんあの子はすんのけし君で」
ハルヒ「でもあの子はかなりの潜在能力を秘めてるわ!これは時期団長として育成のしがいがあるわね!」
みくる「え、えぇ~...」
ハルヒ「有希もそう思わない?あの子の姉としてこれは誇らしい事だと思うわ」
長門「……」
ハルヒ「…有希?」
長門「何?」
ハルヒ「あ、いやね?有希はしんのすけ君の事凄いと思わない?」
ハルヒ「あんな面白い子は世界中探しても中々いないわよ!」
長門「…そう」
ハルヒ「…うーん」
みくる「どうかしました?」
ハルヒ「えっと、有希としんのすけ君って本当に姉弟なのよね?」
ハルヒ「その割りにはあまりに似てないなぁーって…」
みくる「あ、それはその…」
ハルヒ「あんなに表情豊かなの子なのに有希はいっつも無表情だから…」
ハルヒ「あ、別にそれが悪いって言ってる訳じゃないのよ?」
ハルヒ「ただちょっと気になっちゃったから…」
みくる「す、涼宮さんっ!あまり長門さんの家庭の事には…」
ハルヒ「あっ…そうね!これはあんまり首突っ込む事じゃないわ!」
ハルヒ「ごめんね有希…気を悪くしちゃったなら謝るわ。許してくれる?」
長門「…いい、気にしていない」
ハルヒ「…ふぅ、何か今日はダメね。もう帰ったほうがよさそうだわ」
ハルヒ「みくるちゃん、着替えて帰る準備して頂戴」
みくる「あ、はぁい分かりました~」
長門「……」
――――――――――――――――
しんのすけ「ふんふふんふふーん」カキカキ
キョン「しんのすけ、お前何作ってるんだ?」
しんのすけ「この前幼稚園で作ったやつー」
キョン「どれどれ…ほう」
しんのすけ「キョン君にはあげないゾ」
キョン「もしかして、長門にか?」
しんのすけ「ぴんぽーん!」
キョン「ハハッ。それはあいつも喜ぶだろうな」
しんのすけ「でしょー?組長がごほん好きな人にあげたら喜ぶって言ってた」
キョン「組…あぁ、なるほどな」
しんのすけ「キョン君にはオラとくせいのなまこのもけいあげるね」
キョン「いらん」
しんのすけ「えんりょなんてしなくていいゾ~」
キョン「…はぁ、やれやれだ」
しんのすけ「はぁ、やれやれだぜ」
キョン「真似するな」
しんのすけ「あ、ゆきちゃんだ」
長門「……」
キョン「ん?もう部活はお開きになったのか?」
長門「……」コクリ
キョン「そうか、じゃあコイツの事よろしくな」
しんのすけ「ねぇねぇゆきちゃんオラはらへったー。今日のばんごはんなにー?」
長門「…カレー」
しんのすけ「なんと!二日続けてカレーですと!?」
しんのすけ「ゆきちゃんはお金持ちですなぁ~えへぇ」
キョン「おいおい、あんまりカレーばかり食べてると身体壊すぞ」
長門「…そう」
キョン「…長門?」
長門「何?」
キョン「いや…」
キョン「何かあったか?」
長門「……」
長門「何も」
キョン「そ、そうか」
キョン「じゃあ、帰るか」
しんのすけ「アークションかめーん。せいぎのかーめーんー」
キョン「ゴゴッゴー・・・」
しんのすけ「れっつごー!」
しんのすけ「おぉ!チョンくんアクション仮面しってるの!?」
キョン「まぁな、だが俺はチョンじゃねぇ」
しんのすけ「アクショーンビーム!ビビビビビビビビ!」
キョン「ふははははは!そんなものかアクション仮面!ミミコはいただいた!」
しんのすけ「ぬおおっ!ひきょうだぞかいじんジュンくん!」
キョン「そんな引き篭もりみたいな名前じゃない!さらばだアクション仮面!はっはっはー!」
ダッダッダッダッダ…
しんのすけ「やれやれ…おとなと遊ぶのも疲れますなぁ」
長門「……」
しんのすけ「ゆきちゃーんはやくかえろー」
長門「……」テクテク
-長門宅-
長門「いただきます」
しんのすけ「いっただっきまーす」
しんのすけ「あぬうんうんうん…」
長門「……」モグモグ
しんのすけ「おぉ?今日のカレーはひとあじちがいますなぁ」
長門「…どうして分かる?」
しんのすけ「きのうはまったりまろやかぁ~だったけどぉ」
しんのすけ「きょうのはきりっとしてておとなの味だゾ」
長門「…今日は醤油を混ぜてみた」
しんのすけ「おぉ!ゆきちゃん分かってるぅ~」
しんのすけ「やっぱりカレーにはしょうゆだよねー」
長門「…私は」
しんのすけ「お?」
長門「ウスターソースが至高」
しんのすけ「おぉ!とーちゃんがいっつもソースかけてたゾ!」
しんのすけ「かーちゃんにかけすぎてよく怒られるんだ~」
長門「…そう」
しんのすけ「ゆきちゃんのカレーはソースいれてるの?」
長門「食べてみる?」
しんのすけ「いただきまーすぅ」
しんのすけ「んぐんぐ…」
長門「…どう?」
しんのすけ「んんまいっ!」
しんのすけ「こってりとしててしつこくないおあじ~」
しんのすけ「オラ、これきにいったゾ!」
長門「…そう」
しんのすけ「ん~」
長門「…何?」
しんのすけ「オラ、ゆきちゃんと一緒にいて思ったんだけどー」
長門「……」
しんのすけ「ゆきちゃん、もっとわらってたらすごくかわいくなるとおもうゾ?」
長門「……」
しんのすけ「そしたらみくるちゃんにもだんちょーさんにも負けないきれいなおねいさんになるんじゃない?」
長門「…」
しんのすけ「んでもってしょうらいはきっとないすばでいなおねいさんに…」
しんのすけ「…はっ!?オラはだめだぞ!オラにはななこというこいびとが」
長門「」
しんのすけ「…ゆきちゃん?」
長門「」ポロポロ…
しんのすけ「!?」
―――
しんのすけ「ゆ、ゆきちゃん…?」
長門「」ポロポロ
しんのすけ「どうしたの?お腹いたいの?」
長門「…分から、ない」ポロポロ
長門「理解…不能」ポロポロ
しんのすけ「ああ泣かないで!オラがなんとかするから!」
長門「……」
長門「……」ポロポロ
しんのすけ「えぇーっとええーっと…」
しんのすけ「そうだっ!」
しんのすけ「踊るケツだけ星人!あっぶーりぶーり♪」ブリブリ
長門「……」
しんのすけ「ほーらゆきちゃん、たらこのなみのりだぞ~」ウニュー
長門「……」ポロポロ
しんのすけ「ううっ…こうなったらー!」
しんのすけ「ひっさつ!」
しんのすけ「チンコプタアアアアアアアアアッ!!!!」ブルンブルンブルン!!!
長門「」
しんのすけ「うおおおおおおおおいつもよりおおくまわっておりまああああああすうううううっ!」プルンプルン
長門「……」
長門「……」ガシッ
しんのすけ「(∵)」
しんのすけ「あっちょ」
グイグイグイ
しんのすけ「そ、そんなに伸ばしちゃ…」
バチンッ!!!
しんのすけ「いやあああああああああん!」クルクル
しんのすけ「はぁ…はぁ…」
長門「……」
しんのすけ「もうおよめにいけない…」
しんのすけ「ゆきちゃんのいけずぅ…」
…クスッ
しんのすけ「おっ?」
長門「……」
しんのすけ「…ゆきちゃん、いま」
しんのすけ「わらった?」
長門「…分からない」
しんのすけ「ぜったいわらったゾ!」
しんのすけ「うわーいわーい!ゆきちゃんがわらったゾー!わーいわーい!」
長門「…これが、笑う?」
しんのすけ「やったーやったー!ぶりぶりぃ~ぶりぶりぃ~」
しんのすけ「ゆきちゃんをわらわせたゾー!ひゅーひゅー!」
長門「これが」
長門「笑う」
-翌日-
キョン「…んで、こんな朝から呼び出したのは何だ?」
しんのすけ「ん~オラまだ眠いぞ~」
長門「……」
長門「野原しんのすけを現在の次元から切り離す準備が完了した」
キョン「…そうか」
キョン「原因は何だったんだ?」
長門「おそらく野原しんのすけの世界に存在する媒体がこちらの媒体にリンクした事による情報伝達が原因」
キョン「媒体?」
長門「別世界の媒体は不明。しかしこちらの媒体は明らか」
長門「媒体は涼宮ハルヒが所有していた書物だと思われる」
キョン「…ほう」
長門「彼女は野原しんのすけをイメージし具現化をさせた」
長門「それと同時に野原しんのすけは別世界の媒体に触れ何らかのショックを与えたため、こちら側の世界にコンタクトを取る形になった」
長門「それは涼宮ハルヒ…又は私達をイメージさせる事のできる媒体であったのだと推測している」
キョン「…ん?ちょっと待て」
長門「何?」
キョン「いや…ちょっと確認したい事がある」
キョン「おいしんのすけ」
しんのすけ「なに~」
キョン「お前は俺達sos団の中で会った事のある奴がいるんじゃないか?」
しんのすけ「んもうやだなぁチュンくんったら~そんなナンパのほーほーは古臭いゾー」
キョン「…質問を変えてみよう」
キョン「お前、こっちに来るとき何か持ってなかったか?」
キョン「例えば…本、そうだ本だ」
しんのすけ「んんー持ってたような持ってないような…」
キョン「思い出してみろ。一昨日の出来事だろう」
しんのすけ「むむむ~」
しんのすけ「おぉおもいだしたゾ!」
キョン「何だ?」
しんのすけ「オラ、公園でごほん拾ったんだゾ」
しんのすけ「それにだんちょーの顔がかいてあったゾ」
キョン「…そうか」
長門「おそらくは」
キョン「あぁ、分かってる」
キョン(…ハルヒ)
キョン(お前は別世界でも有名らしいぞ)
しんのすけ「んで、そのごほんもって公園に行こうとしたら~」
しんのすけ「ゆきちゃんと会ったんだゾ?」
キョン「……」
長門「……」
しんのすけ「いやぁでもあのごほんをひろったかいがありますな~」
しんのすけ「だんちょーにもあえたしーみくるちゃんといっぱいお話したしー」
しんのすけ「あ、ゆきちゃんの笑った顔がみられたことがいちばんだったゾ!」
長門「……」
キョン「そう、か。そりゃよかったな」
しんのすけ「ねーねーゆきちゃん。今日は何して遊ぶー?」
しんのすけ「オラこの前のごほんもういっかい一緒に読みたいゾ!」
キョン「なぁ、しんのすけ」
しんのすけ「お?」
キョン「お前、そろそろ帰らなきゃいけないんじゃないか?」
しんのすけ「なんで?」
キョン「お前のかーちゃん、門限は何時だって言ってた?」
しんのすけ「うーん」
しんのすけ「はっ!五時だ!」
キョン「かーちゃん。怒ったら怖いだろ?」
しんのすけ「うっ…でも今朝の七時だゾ」
キョン「あぁ、朝の七時だ」
キョン「今日は平日だ。幼稚園には行かなくていいのか?」
しんのすけ「あ」
キョン「問題だ」
キョン「門限は午後の五時。今は朝の七時」
キョン「幼稚園バスに乗らないとかーちゃんが送り迎えをしなきゃいけない」
キョン「…かーちゃんはどのくらい怒る?」
しんのすけ「お、おおおおおおっ!!!妖怪ケツでかおばばのグリグリ攻撃だぁ~!」
しんのすけ「オラまだしにたくないぞおおおおお!」
キョン「大袈裟だな」
しんのすけ「キョン君はあの痛みを知らないからそんなのーてんきなこと言ってられるんだゾ!」
しんのすけ「あ、もしかしたらおつやのチョコビ抜きかも」
しんのすけ「ひいいいいいいいいっ!」
キョン「で、どうするんだ?」
しんのすけ「オラ、かえるっ!」
長門「……」
キョン「…だ、そうだぞ。長門」
長門「…了解した」
しんのすけ「ゆきちゃん!早くしないと妖怪ケツでかおばばが!」
長門「分かっている」
キョン「元の世界に戻る方法は?」
長門「私個人の媒体から向こうに直接コンタクトを行い、空間移動を行う」
キョン「…よく分からんが、よろしくな」
長門「…了解した」
キョン「っと、その前に」
キョン「おいしんのすけ。長門がお前に言いたいことがあるらしいぞ」
しんのすけ「お、ゆきちゃんが?」
長門「…私は何も」
キョン「そんな顔しても誤魔化せないぞ」
キョン「顔に書いてあるからな」
長門「……」ペタペタ
しんのすけ「ゆきちゃんなーにー?」
長門「……」
長門「…この二日間、あなたと行動を共にした事によって、有機生命体の観測を十分に行うことができた」
長門「特に貴方の奇怪な行動には興味深く、人間の新たな可能性を見出すことができた」
長門「情報統合思念体は貴方という異世界人を手放すには惜しいと考えている。しかし涼宮ハルヒへの過度な接触によって起こりうるとされる情報爆発は未知数なt」
キョン「……」ポカッ
長門「…何故、叩くの?」
キョン「ただの五歳児になに電波的な話をしてんだ」
キョン「もっと他に言う事があるだろ?」
長門「……」
キョン「恥ずかしがらないで言ってみなさい」
長門「……」コクリ
長門「野原しんのすけ」
しんのすけ「ほいっ!」
長門「この二日間。私という個体はとても充実していたと思われる」
長門「…ありがとう」
しんのすけ「ふむふむ」
長門「…何?」
しんのすけ「やっぱりゆきちゃんは笑ってる時の顔が一番おにあいだゾ」
しんのすけ「これからずっと笑ったらきっとしわよせになれるとおもうゾ!」
長門「…それを言うなら、幸せ」
しんのすけ「そうともいう~」
しんのすけ「ワッハッハッハッハーッ!」
長門「……」
キョン「もういいのか?」
長門「……」コクリ
しんのすけ「お、こってり忘れてた」
しんのすけ「ほいっ」
長門「…これは」
しんのすけ「オラが作ったんだゾ」
長門「…私に?」
しんのすけ「お礼は一億万円!ローンも可!」
キョン「長門、最後は気にしなくてもいい」
長門「…ありがとう。大事にする」
しんのすけ「大事にするだけじゃなくて、ちゃんと使ってよね~」
長門「…了解した」
長門「私は、これ」
しんのすけ「お?」
長門「…こんなものしか、思いつかなかった」
長門「ごめんなさい」
しんのすけ「おぉ!これオラが使ってたやつ!?」
長門「そう」
しんのすけ「ほっほほーい!ありがとござまーす!」
長門「……」
しんのすけ「さっそくかあちゃんに言ってカレー作ってもらおーっと」
しんのすけ「ゆきちゃん!大事に使わせもらうゾ!」
長門「…そう」
――――――――――――
長門「…ここを通り抜けると、元の世界に戻ることができる」
しんのすけ「……」
キョン「…ふぅ、お別れだ。しんのすけ」
しんのすけ「ねぇねぇ」
キョン「何だ?」
しんのすけ「また会える?」
キョン「……」
キョン「きっと、また会えるさ」
しんのすけ「ほんとに?」
キョン「ああ、約束でもするか?」
しんのすけ「おう!」
キョン「男同士の!」クイッ
しんのすけ「おやくそくっ!」クイッ
しんのすけ「ゆきちゃんもいっしょに!」
長門「私は女性に分類される」
しんのすけ「こまかいことはきにしないきにしない!はいっ」
しんのすけ「おとことおんなのぉーっ」
長門「…約束」
しんのすけ「これでよしっ!」
キョン「ほら、早く帰らないとかーちゃん怒るぞ」
しんのすけ「ほーい」タッタッタッ
長門「……」
しんのすけ「キョンくん、ちゃんとはーみがけよー」
キョン「お前こそ、ピーマン残すなよー」
しんのすけ「ゆきちゃーん!」
長門「……」
しんのすけ「今度来たときはカレーの玉ねぎ抜いといてねー!」
長門「…好き嫌いは、ダメ」
しんのすけ「ほーい」
「じゃ、そーゆーことでー」
―後日―
ハルヒ「うーん」
みくる「涼宮さーんできましたかー?」
ハルヒ「ちょっともみあげが気に入らないけど…まぁいいわ!完成!」
みくる「わー私これ知ってますー。トーテムポールの上の部分の顔ですよね」
ハルヒ「…これ、キョンの顔なんだけど」
みくる「えっ」
ハルヒ「……」
みくる「わ、わーホントそっくりですねー!特にこのもみあげの広がり具合とか特に…」
ハルヒ「いいのよみくるちゃん。私も薄々…」
長門「再現率99%。しかしこの彫刻を理解できる人類はこの時間帯には存在していない」
長門「貴女は隠れた芸術家、数十年後この作品は必ず世界遺産として評価されると私は」
ハルヒ「やめて有希!これ以上フォローしないで!すごく胸が痛い!」
キョン「…何やってんだアイツは?」パチッ
古泉「どうやら昔を懐かしんで粘土彫刻をしているようですね」パチッ
キョン「ふーん」パチッ
古泉「貴方は参加しなくてもよろしいのですか?」パチッ
キョン「別に」パッ
古泉「おっと、これは参りました」
キョン「弱いなお前、まぁ今知ったことじゃないが」
古泉「貴方が強すぎるのだと思いますよ?」
キョン「ぬかせ」
古泉「んっふ」
古泉「話は変わるのですが…」
キョン「何だ?」
古泉「長門さん、あれから随分と明るくなられたような気がします」
キョン「あぁ」
古泉「何か僕の知らない所で人頓着あったよですね。んふっ」
キョン「そうだな」
キョン「…確かに、長門は変わった」
キョン「いや、変わろうと努力しているのかもしれん」
古泉「努力、ですか?」
キョン「なぁ、お前金のがちょうって話知ってるか?」
古泉「えぇ、知っています」
キョン「アホな木こりがお姫様を笑わせて、なんやかんやで二人は結婚するって話だが…」
キョン「長門にとってのアホな木こりは、おそらくアイツの事だったんだろう」
古泉「長門さんをあそこまで変えてみせたのが彼の功績だと?」
キョン「あぁ。そこまで立派なことをした訳じゃあないと思うが…」
キョン「長門にとってアイツは、自分を変えようと決心するほど刺激を貰ったんだろう」
キョン「ま、恋のキューピットならぬ、笑顔のキューピットって所だな」
古泉「」
キョン「…おい古泉」
古泉「なんでしょう?」
キョン「何で後ろ向いてんだお前」
古泉「いえいえ別に、ブッ。何でも、ないです…」プルプル
古泉「笑顔の…笑顔…の、キュ、ピッ、ト」
古泉「ぶほぉww」
キョン「おいこら、古泉お前どういうことだ」
古泉「だってwwwwwだってっwwwwwwブフッwwwwwww」プルプル
古泉「すいませんwwwwww僕www少しwwwwトイレにwwwww」ダッ
キョン「逃がすか!待ちやがれっ!」ガタッ!
ハルヒ「あれ?男共は一体どこに消えたの?」
みくる「さぁ…さっき古泉くんとキョンが急いで外に行ってるのを見ました」
ハルヒ「全く、今は団活中だってのにふざけてるわね!帰ってきたら私が直々に説教をしてやるわ!」
みくる「アハハ…あれ?」
ハルヒ「どうしたの?」
みくる「長門さぁん。これ、一体何ですかぁ?」
長門「海鼠」
みくる「ふぇ?」
長門「主に棘皮動物門に属する動物の一群であり、体が前後に細長く、腹面と背面の区別がある。見かけ上は左右相称であるが、体の基本構造は棘皮動物に共通した五放射相称となっている。体表が刺や硬い殻ではなく、比較的柔軟な体壁に覆われ」
みくる「ひええぇ!わ、分かりました!もう大丈夫です!」
長門「そう」
ハルヒ「…にしても、何で海鼠なの?もっとこう普通の魚とかいろいろあったでしょうに」
長門「…気に入ったから」
ハルヒ「そ、そう…」
長門「……」ペラッ
ハルヒ「有希、栞変えたの?」
みくる「あ、ホントだ。いつもの真っ白な栞じゃないですね」
長門「…貰った」
ハルヒ「ふぅん。あっ、ちょっと待って!」
ハルヒ「この豚の絵って…アレよね!」
長門「…そう」
ハルヒ「へぇーよく出来てるわねぇ。作者が書いたみたいにそっくりだわ」
みくる「長門さーん、私にも見せてくださーい」
長門「…これは、私の」
―――――――――――――――――――
「かーちゃん!はらへったー!」
「はいはい分かってるっての!ちょっとぐらい待ちなさいよみっともない!」
「グズグズしてるとせっかくのカレーが逃げちゃうゾ!」
「心配しなくてもカレーは逃げません。はい、しんちゃんの分」
「ほっほほーいい。いっただきまーす」
「たい!たたいのお、たいやっ!」
「はいはいひまちゃんもお腹がすきましたねー」
「ん?しんのすけ。お前のスプーンってそんなにでかかったか?」
「それが聞いてよー。しんのすけったらせっかく買ったアクション仮面のスプーン使わないでこればっかりなのよ」
「アクション仮面のは幼稚園で使うやつの!カレーはこのスプーンで食べるんだゾ!」
「ほほう、しんのすけもこだわりのわかる男になったってことか!」
「こだわりってなに?カレーとウンチのちがいみたいなやつ?」
「うんこ食ってる時にカレーの話すんじゃねーよ!」
「逆よ逆!きったないわねー」
「とにかく!カレーは絶対このスプーンで食べるの!」
「はぁ、別にいいけど、何でそのスプーンじゃないとダメなのよ?」
しんのすけ「だって、これはオラの…」
『私(オラ)の、大切な宝物だから』
しんのすけ「だゾ!」
―終わり―
乙
ほんわかしてて素敵だったわ
久しぶりにしんちゃんの原作とアニメ見たくなってきた……
Entry ⇒ 2012.10.21 | Category ⇒ 版権物SS | Comments (0) | Trackbacks (0)
P 「律子と二人」
律子「おはようございます。なんですか?私じゃ不満とでも?」
P 「いや、よく考えたらわざわざ早く出てきたんだから当たり前だなって思ってさ」
律子「そうですね、いつもより一時間くらい早いですか」
P 「ああ。ちょっと仕事がな」
律子「ちゃんと終わらせて帰らないから早くから出てくる羽目になるんですよ?」
P 「手厳しいな。まぁ、律子と二人で朝の時間を過ごすのも悪くないよ」
律子「……何も出ませんよ?」
P 「コーヒーくらいだしてくれてもいいぞ」
律子「はいはい。砂糖は三つですよね?」
P 「おう。ミルクもな」
律子「わかってますよ。子供みたいな舌してるんだから」
P 「いいだろ別に」
P 「……よし、しゅーりょー」
律子「あら、早いですね」
P 「大した量じゃなかったからな」
律子(……いや、結構な量残ってたはずだけど。本気でやるとすごいのよね、この人)
P 「律子はまだか」
律子「ええ。何なら代わってくれてもいいですけど?」
P 「同じ事務所でもライバルだって、見せてもくれないだろ」
律子「あら、よくわかってますね」
P 「付き合い長いんだし、当たり前だろ」
律子「……ですか」
P 「君もさっさと終わらせたまえ。そんで俺の話し相手になりたまえ」
律子「あーはいはい。待っててくださいねー」
P 「そう言っていっつもほったらかしのくせにー」
律子「はいはい」
律子「肩ですか?まぁ、勉強と仕事とでずっと机に向かってますから、バッキバキですよ」
P 「揉もうか?」
律子「ええ?いいですよ、別に」
P 「いや、揉ませてくれよ。揉みたいんだよ」
律子「すごい下心を感じるんですけど」
P 「真心しかないよ、安心してくれ」
律子「……あれだけアイドルに迫られても平気な人ですから。そういう感情ってないのかもしれませんけど」
P 「アイドルに迫られた?そんな嬉しい境遇ならなってみたいね」
律子「呆れた。揉みたいならご自由にどうぞー。肩なり腰なり脚なり」
P 「じゃあ脚で」ワキワキ
律子「ひっ!なんですかその手!」
P 「え?オクトパスハンドだよオクトパスハンド、知らないのか?」
律子「しっ、知りません!肩!肩でお願いします!」
律子「……ただの暇つぶしでしょうに。やれやれ」
P 「ほっ、そりゃ、どうだ?」モミモミ
律子「あ゛~……上手いもんですね~……」
P 「修業したからな。しかし本当にこってるな」グリグリ
律子「事務仕事ばかりで運動も出来てませんからねぇ。ストレスも溜まるし肩もこりますよ」
P 「竜宮小町の三人もそれなりに手がかかるし、大変だな」グニグニ
律子「残り全員抱えてる人に言われてもって感じですけどね」
P 「名目だけだろ。みんな自分で出来ることはやってくれるし、そこまでじゃないよ」トントン
律子「いやいや、十分すごい、っていうか凄まじいですよ。どんな超人ですか」
P 「こんなヤツです」グッグッ
律子「はいはい敏腕敏腕」
律子「はぁ、ありがとうございます。だいぶ楽に……」
P 「次、ソファーにでも寝転んで。うつ伏せに」
律子「はぁ?なんでですか?」
P 「肩こりってのは背中の筋肉も解さないと取れないんだぞ?」
律子「あら、そうなんですか?確かに背中も張ってる感じはあったんですけど……恥ずかしいですし、いいですよ」
P 「どうせみんなまだ来ないし、大丈夫だって。ほれほれ」グイグイ
律子「わかった、わかりましたから押さないでくださいよ。もう、変なとこ凝り性なんだから……」
P 「スーツ脱いどけよ、シワになるぞ」
律子「ええ?……仕方ないですね」ヌギッ
P 「ほい、そんじゃ行くぞー」グッグッ
律子「あっ!やっ、強っ……ちょ、待って、待ってよ!」
P 「大丈夫、力抜いとけ。解れてきたら気持よくなるから」グイグイ
律子「っくぅ……んっ、はぁっ!あっ……そこっ、イっ……ああっ!」
春香(ドアの向こうから声聞こえるだけだからどうなってるかわからないけど、これって……ですよね。うん)
春香(まだ時間あるし、ちょっと時間潰してこよう。そうしましょう!)
やよい「おはようございまーす!」
春香「ハッ!」ガッ
やよい「むぐっ!うっうー!」
春香「やよい、ごめんね。今事務所の中は大人空間なのよ。私とファミレスでも行きましょう」ズルズル
やよい「う゛ー!」ズルズル
春香(純粋なやよいの心を守る、天海春香で……あれ、変だな目から汗が)
P 「ん?」ゴリゴリ
律子「どうか……あっ!したんですっ……かっ?」
P 「いや、なんかやよいの声が……気のせいか」
律子「私は何も聞こえませんでしたけど?」
律子「結局腰も揉むんじゃないですか!駄目ですって!」
P 「えー」
律子「えーじゃないです」
P 「背中はいいのにか?」
律子「……さっきも言いましたけど、私最近運動不足なんですよ」
P 「そうだな」
律子「でも、摂取カロリーは変わってないわけで」
P 「普通に食べてるもんな」
律子「だから、その……わかるでしょう?」
P 「?」
律子(腰回りにちょっとお肉がついてきたから触らせたくないんだっつーの!)
P 「……ああ!もしかして律子、ふとっ」
律子「言うなー!」バキッ
P 「おぶっ!」
P 「……」
律子「その、動転しちゃったんです。でも、プロデューサーも悪いんですよ?気にしてることをあんなはっきり……」
P 「……」
律子「あの、だから……」
P 「……」
律子「だから、部屋の隅っこで体育座りするのやめてください……」
P 「……いいんだ、俺デリカシー無いから。殴られても仕方ないんだ」
律子「ああ、もう!わかりました!何がお望みですか!?」
P 「えっ、いやーなんか悪いなー。そんなつもり全然なかったんだけど、いやー律子は献身的だなー」
律子「はぁ……」
律子「あの、邪魔なんですけど」
P 「まあ今日一日だけだって。うん、やっぱいいな」
律子「何を言われるかと思ったら、髪を下ろして仕事してくれって……はぁ」
P 「なんだよ、見たかったんだもん」
律子「いい大人が見たかったんだもんーじゃありません。ていうか、このくらいなら普通に頼んでくれれば」
P 「やんないだろ?」
律子「……まぁ、承諾する理由がありませんね」
P 「だろ。はー眼福眼福」
律子「別に大して変わらないと思いますけど?」
律子「なっ、何をいきなり言うんですか!」
P 「褒めてるんだぞ?」
律子「褒めたってなにも……」
P スッ
律子「……コーヒーのおかわりくらいは出してあげますけど」
P 「うん。そしてその後姿を見る!」
律子「はぁ……」
P 「そろそろみんな来る時間だな」
律子「そうですね」
P 「今日は一日その髪型だぞ」
律子「わかってますって」
律子「はぁ?髪型変えたくらいで仕事に支障でませんけど?」
P 「や、多分律子のことばっかり見ちゃうからさ。俺の仕事がってこと」
律子「……好きにしてください。けど、仕事はちゃんとこなしてもらいますからね!」
P 「わかってるって。本気だせばちょちょいのちょいだ」
律子「もう。いつも本気出してくださいよ」
P 「えー、疲れちゃうじゃーん?」
律子「疲れたら今度は私がマッサージしてあげますから」
P 「本当か!?よっしゃ明日以降の予定もねじ込むか!」
律子(冗談のつもりだったんだけどなー)
律子「私はいつも全力です。ああ、それから……」
P 「ん?何だ?」
律子「マッサージ。良かったら今度またやってくださいよ」
P 「おお、お安いご用だぞ。何なら肩や背中と言わず全身揉んだっていいぞ」
律子「調子に乗らない。……事務所でじゃなくて、プライベートでならいいですけど、ね」ボソッ
P 「今なんて……」
律子「なんでもありません!今日もしっかりお願いしますよ、プロデューサー殿!」
P 「お、おう!」
P 「……って言ってたのが3日前だ」
春香「へーそうなんですかーあの日はたまたま会ったやよいちゃんとお茶してから事務所に来たから全然気付かなかったー(迫真)」
P 「そういえば遅かったな」
春香(わずかな疑念ももたれない迫真の演技。演技も出来るアイドルは私!天海春香です!)
春香「そうですね。月曜日ですから」
P 「その週末にあったのがこちら」写メ
春香「どれどれ……!?どうして律子さんがちょっと頬染めてくったりしてるんですか!?しかもプロデューサーさんのベッドで!」
P 「それを今から……いや待て。なんでお前俺のベッドだって知って」
春香「そんな事どうでもいいから!説明してください!」
P 「あ、ああ。ええと、次の日はみんなオフだっただろ……」
どようび。
P 「今週は奇跡的にみんなオフだから週末が週末らしく過ごせるな」
律子「そうですね。……で?」
P 「え?」
律子「どうして私ここにいるんですか?」
P 「ここって?」
律子「プロデューサーの部屋ですよ!ついてこいって言うからついてきたら……」
P 「え、だって昨日……」
P 「って言ってたじゃないか」
律子「きっ、聞こえてたんですか!?うわ、ちょ、恥ずかしい……」
P 「だから全身マッサージしてやろうと思って」
律子「げ、本気ですか」
P 「げっとはなんだげっとは。気持ちよかっただろ」
律子「それは……認めますけど。すごく楽にはなりました」
P 「だろ?だからさぁ、身を任せて!」
律子「……何か特別な話があるのかと思って黙ってついてきたのに、こんなことか」ボソボソ
P 「どうした?」
律子「いーえ!何でもないです!ほら、やるならやってくださいよ!」ヌギヌギ
P 「お、おう。じゃあいくぞー」
律子「変な事したらまた叩きますからね」
P 「叩くって、お前あれは殴るって言うんだぞ」
律子「知りません。さーどうぞ。煮るなり焼くなりしてください」
律子「はい。……んっ」ピクッ
P 「……」
律子「……あれ?どうしたんですか?続きは?」
P 「あ、ああ。よっ、と……」グイッ
律子「ふっ……んんっ……」
P 「……」
律子「あの、やらないなら帰ってもいいですか?仕事は無くても勉強したいんで」
P 「あっ、ああ。悪い悪い」グリグリ
律子「あんっ……ふぅ、っは……あぁ……ん。やっぱり、上手い……ですね」
P 「はっはっは、お褒めに預かり光栄だよ」
P (事務所の時はなんとも思わなかったけど)
律子「はぁっ……ちょっと、痛っ……くふっ……」
P (色っぺええええええええ)
P 「律子が色っぽくてドギマギしてるなんて言えるわけないだろ」(いや、別になんでもないぞ)
律子「色っ!?」
P 「あっ!いや、本音と建前が逆転して……」
律子「ってことは、本音なんですか」
P 「そうじゃなくて、いやそうだけど!」
律子「……変なこと、しません?」
P 「流石にそれは大丈夫だ!心配するな!」
律子「じゃあ別にいいですよ。続けてください」
P 「……いいの?」
律子「ええ。気持ちいいですし」
P 「う、うん。なら続けるけど……本当にいいのか?」
律子「……いいですよ」
P 「ん?」
春香「部屋に入れたんですか?」
P 「うん」
春香「……律子さんも、黙ってついてきた?」
P 「そうだな。いつもより口数少ないくらいだった」
春香「それで、体中揉ませてもらったんですか?」
P 「揉ませてもらったっていうか、揉んでやったというか。とにかくマッサージはしたよ」
春香「……へぇー」
P 「まぁ、とにかくそれでな……」
律子「……っは」
P 「……」グリグリ
律子「……っふぁ」
P 「……」グイグイ
律子「はぁっ……」
P 「よ、よし!終わり!終わり終わり!」
律子「もう終わりですか?」
P 「うん、終わりだ終わり。さあ上着着て」
律子「……脚も、張ってるんですけど」
P 「脚?」
律子「ええ。ずっと座ってるからか、血が溜まってるのかもしれません」
P 「そうかぁ?すらっとしてるし、むくんでるようには……」
律子「揉んでくれないんですか?」
律子「……」じっ
P 「えー……」
律子「……」じとっ
P 「……わかった。やるよ」
律子「ありがとうございます」
P 「……」モミモミ
律子「……」
P 「……」モミモミ
律子「……ねぇ、プロデューサー殿?」
P 「んー?」モミモミ
律子「色っぽい、なんて、初めて言われたかもしれません」
P 「そ、そうか……」モミモミ
P 「律子で?」モミモミ
律子「変な気分になったり、するって事ですか?」
P 「……は?」ピタッ
律子「あ、やめないで」
P 「あ、はい」モミモミ
律子「だって、あずささんが言われてるのはよく見ますし、マーケティングに……そういう部分もあるのは理解してますし」
P 「男性ファンの事考えたら、そういう話も出てくるよな」モミモミ
律子「ええ。それで、その……色気、ですか。そういうのって、つまり、性的な……その……」
P 「……顔真っ赤だぞ」モミモミ
律子「みっ、見ないでください!」
P 「あ、ああ、すまんすまん。集中する」モミモミ
律子「で、どうなんですか!私もそういう対象として見れるって事でいいんですか!」
P 「怒るなよ……えーと、正直に言っていいのか?」モミモミ
律子「お願いします。あ、勘違いしないでくださいよ。ちょっとしたアンケートみたいなものですから。これからの売り出し方の参考になれば……」
律子「……はい」
P 「そういう対象として見れるっていうか、むしろそうとしか見れない」
律子「ッ~~~~!」ゲシゲシ
P 「いてっ、痛い!蹴るな、やめろって!」
律子「はぁ、はぁ……す、すみません。取り乱しました」
P 「いや、ノリで痛いって言ったけどむしろ良かった」
律子「バカなんですか?」
P 「そうかも」
律子「はぁ……ほら、マッサージ再開してください。まだ右足残ってますよ」
P 「そうだな。よっと」モミモミ
律子「あ、ふくらはぎじゃなくて、もっと上……」
P 「ん?ふとももか?」
律子「ええ、まぁ……」
律子「……もっと、上です」
P 「上って、だってこれ以上……」
律子「いいから、お願いします」
P 「……また顔真っ赤だぞ」
律子「見ないでくださいってば」
P 「いや、それは無理」
律子「なんでですか。脚だけ見ておけば……」
P 「可愛くて」
律子「なっ……」
P 「見ざるを得ない」
律子「もう……」
P 「この手が、お前の望みどおりに動いたとして」
律子「……はい」
P 「そこから先、止まるかどうかわからないぞ」
春香「待った!待ってください!」
P 「なんだよ。次の写真に至るまでの重要な部分だぞここは」
春香「というか土曜日のプロデューサーが待ってください!」
P 「それは無理だろ」
春香「えっ、ちょっと待ってくださいよホント。ちょっと整理させてください」
P 「ああ。好きにしてくれ」
春香「……あ!次の写真に至るまでのって言いましたよね。写真!先に写真見せてください!」
P 「これが日曜日の朝の写真です」
春香「」
P 「春香?どうした?白目剥いてるぞ。おーい」
春香「」
P 「……俺のワイシャツ着てベッドの中で微笑んでる律子を撮った写真の何にそんなに驚いたんだ?」
春香「事後じゃないですか!」バンッ
P 「まぁそうとも言うな」
P 「いや嘘じゃないぞ」
春香「いいや!嘘です!だってあの律子さんですよ!?鉄の女って言ったらサッチャーか律子さんか迷うくらいの律子さんですよ!?」
律子「何を失礼な事言ってるの」パコン
春香「あだっ!り、律子さん!嘘ですよね!?」
律子「は?何が嘘なワケ?」
春香「これですよ!合成か何かですよね!フォトショップですよね!」
律子「プロデューサーの携帯?何か悪質なメールとか……」
律子「……」プルプル
P 「お、おい。律子?」
律子「あなたって人は……どーしてこういう……」ワナワナ
P 「違うんだ、春香に相談したい事があって……」
春香「嘘ですよね!?嘘ですよね!?」
律子「……はぁ。プロデューサーは後で話があります。春香、落ち着いて聞いて。何を聞いたかしらないけど……」
春香「律子さんとプロデューサーさんがセック」
春香「……で、どうなんですか」
律子「……誤魔化してもしょうがないから言うけど。その……し、したわ」カァーッ
春香「」
P 「あ、また白目」
律子「ああ、もう。なんでこんな目にあわなきゃいけないのかしら!プロデューサー!」
P 「ひっ!はい!」
律子「春香に相談ってなんですか!?」
P 「い、いや、その……」
律子「春香には言えて私には言えないってワケですか?それとも本当は相談なんて無くて、ただ私との事が自慢したかっただけ!?」
P 「自慢なんて、そんな……」
律子「ええそうよね、私なんかと寝たって自慢になんかなりませんよ!そのくらいわきまえてます!」
P 「いやいやそういう意味じゃないんだ。その、なんというか律子には言い難いというか……」
律子「なんですか?私の悪口?ちょっと褒めたら勘違いした馬鹿女とでも?」
P 「ちょ、落ち着けって」
律子「アイドルやってた時だって鳴かず飛ばずで、私って魅力無いのかなーとか思ってましたよ!実際無いんでしょうけど!」
律子「だから、嬉しかったんです!可愛いって言われて、色っぽいって言われて浮かれちゃったんです!悪いですか!?」
P 「律子」
律子「なんですか!」
P 「落ち着け」
律子「……はい。すみませんでした」
P 「いいよ、別に。なぁ、聞いていいか?」
律子「何ですか?」
P 「律子は、褒められて嬉しくなったからって、一晩一緒にいるようなヤツなのか?」
律子「……」
P 「一晩一緒にいて、何回も何回も求めて、それ以上にキスを求めて」
律子「く、詳しく言わないでください……」
P 「それは、俺が律子のことを褒めたからか?それだけなのか?」
律子「……そう、ですよ。バカな女です、私は」
律子「ッ……」
P 「これは、俺の希望もかなりはいってるんだが。お前は好きでもない相手に体も心も許したりしない……よな?」
律子「……」
P 「春香に相談したかった事ってのはな、律子の事なんだ」
律子「私の?」
P 「ああ。その……俺も、好きでもない相手の体も心も求めたりしない」
律子「え、それって……」
P 「春香じゃなくても良かったんだけど、たまたまいたのが春香だっただけなんだ。ええと、上手く言えないな……」
P 「俺の中で答えは出てるんだけど、第三者の意見が欲しいというか。そういう時ってあるだろ?」
律子「それは、わかります」
P 「うん、で、何の相談だったかって言うとだな……」
P 「律子に、告白しようと思うって話だったんだ」
P 「言い難い話だって言ったろ。その、随分前からなんだけど、俺、律子の事が好きで……」
律子「」ポロポロ
P 「おわっ!どうした律子!どっか痛いのか!?それとも俺が泣くほど嫌いか!?」
律子「ちがっ……何か、勝手に……ぐすっ、続けてください……」
P 「そ、そうか。けど、なんとなく言い出せなくて、ずっとなぁなぁにしてきた。今回の事は、正直良いきっかけになったと思う」
P 「順番があべこべになっちゃったけど、俺は、君が好きだ。結婚を前提に付き合ってください」
律子「私、嘘をつきました……ぐすっ」
P 「嘘?」
律子「ええ。私は、褒められたから……あんな事したわけじゃありません」
律子「随分前からなんですけど、私、あなたの事が好きで……」
P 「……うん」
律子「だけど、なんとなく言い出せなくて。あの日、久しぶりにプロデューサーと二人になった時、はっきり自覚しました」
律子「今回の事は、正直良いきっかけになったと思います。順序がバラバラですけど……」
律子「私は、あなたが好きです。結婚を前提に、お付き合いしてください」
律子「私こそ、素直じゃなくて、不器用で、仕事と勉強ばっかりな女ですけど……」
P 律子「「よろしくお願いします」」
P 「ぷっ……はは」
律子「ふふっ……」
P 「ほら、顔。ぐちゃぐちゃだぞ」
律子「もう、見ないでくださいってば……」
P 「無理だな。可愛いから」
律子「……もう」
P 「ああ、そうだ。今なら誰も見てないよな」
律子「え?んむっ……」
P 「誓いのキスを、ってな」
律子「あーあ、キザったらしいんですから」
P 「嫌だったか?」
P 「さ、顔拭いたら仕事仕事。やるぞー」
律子「あら珍しい。やる気ですね」
P 「ああ。だってオフに仕事持ち込みたくないからな。オフは……二人で、な」
律子「……そんな風に言われたら、私も頑張らないといけなくなるじゃないですか」
P 「いつも通りじゃないか」
律子「あなたと違ってね。オフが合うように調整しないと、ですね」
P 「ああ。あ、式いつにする?」
律子「……気が早くないですか?」
P 「え?でもいつかはするだろ。結婚式っていや、女の子が一番輝く瞬間だからな。気合い入れないと」
律子「まぁ、そうですねぇ。その時は、しっかりプロデュースしてくださいね?私の……プロデューサー殿?」
春香(私の体が足元に見えますね!これが憧れのアストラルトリップ?このままお空の彼方へ行けてしまいそう!天に舞う正統派アイドル、天海春香でした!)
おわり
もっとりっちゃんの可愛い所を一杯出せたら良かったのにと反省しています。
お付き合いいただきありがとうございました寝ます。
春香ェ……
ちなみに小鳥さんは七時に来て事務所を開けてるとか何とか
小鳥さんはきっとどこかに“いた”んだよ・・・
Entry ⇒ 2012.10.21 | Category ⇒ アイマスSS | Comments (0) | Trackbacks (0)
菫「で、何の真似だ」京太郎「えっと…その…」
京太郎「えっと…その…」
菫「お前が私をつけていたのは申し訳ないくらいにバレバレだ、理由によっては赦してやる。話せ」
京太郎「すいません、でも話しても許して貰えそうにないですし…」
菫「それは私が判断するから早くするんだ、このまま通報されたいなら話は別だが」
京太郎「そ、それは勘弁してください!お話しますから!」
京太郎「えーっと、こんな感じです…」
-全国大会ちょっと前-
久「須賀くん、君には全国大会では偵察をしてもらうわ!」
京太郎「はぁ…でも一体どうやって?もしかしてそこの練習風景を覗き見て牌譜でもとれと?」
久「まあそんな感じね」
京太郎「ほとんど無理なこと前提じゃないですか…」
久「冗談よ、冗談!ただ私たちと別のブロックの試合に注目してもらって要対策なところの対策をあらかじめ練って欲しいの、私は自分達のほうのブロックの対策に注力するから」
京太郎「それならなんとかできそうですが…」
久「じゃあよろしく頼むわね、須賀くん。わからないことがあれば何でも聞きに来ていいから」
京太郎「了解です、力になれるように頑張ります」
京太郎「まだ続きがあってですね…」
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まこ「それはちょっと無茶すぎんかの?」
久「それくらいしておかないと彼を腐らせることになるでしょう?」
まこ「だったら他の方法もあったじゃろに…」
久「きっと別ブロックの有力校はシード校になると思うの、つまりね」
まこ「つまり?」
久「須賀くんが多少しょっぱい対策を練ったとしても、全国に行く以上シード校の対策は既にある程度あるわ」
まこ「あまりにも京太郎が不憫じゃろ…」
久「そうじゃなくて、須賀くんが何か報告さえしてくれれば、彼のおかげで対策も取れるって形になるの、むしろ彼の面子を立ているわ」
まこ「なんつーか、怖い女じゃ。わしですら寒気がする」
久「褒め言葉として受け取っておくわね」ニッコリ
京太郎「うわぁ~ショック、なんてことはないですね!その分みんなを見返してやれるんだから!」
-回想終了-
菫「まぁ…なんだ…ご苦労なことで」
京太郎「だから白糸台部長の弘世菫さんをつけて来たんです!」
菫「確かに動機もわからんでもないし、気持ちはわかる。だからといって他校の偵察を受け入れるほど甘くはない」
菫「今日の出来事はなかったことにするから、素直に帰るんだ」
菫「あのなぁ…赦してやるから素直に引き下がれって言ってるんだぞ?」
京太郎「弘世さんの言うことは確かに尤もですが、清澄麻雀部員としてこの機を逃すつもりは毛頭ありません!」
菫「清澄…というと、君は長野の高校の子か」
京太郎「はい、今年初出場なんですよ」
菫「つまり大会本部に清澄の部員が云々と言えば解決できると」
京太郎「えっと…それは…」
菫「世辞じゃなく君の気持ちはわかる、だから何もなかったことにしたい。それじゃ駄目なのか?」
京太郎「ただ俺一人のプライドのためにあなたたちの弱点をリサーチします!」
菫「えっと…須賀君でいいか、そこまで正直だと逆に好感が持てる、だが私も白糸台の部長としてのプライド…」
照「菫、何やってるの?」
菫「あ、照かちょっと面倒なことに巻き込まれてな」セツメイセツメイ
照「じゃあ二人から意見を聞いて、私が判断する。それでいい?」
菫「ああ」
京太郎「大丈夫です」
照「なるほど、判断をする前に京ty…須賀くんに少しの質問と要望、大丈夫?」
京太郎「はい」
照「本当にどうしても私達のリサーチがしたい?」
京太郎「はい!」
照「そのために何でもしてくれる?」
京太郎「何でもしますから!」
照「じゃあ、一局打って、ちょうどここにカード麻雀があるから」
菫「?」
菫「あぁ…」
照「せっかくの出会いを祝して半荘で、よろしく」
京太郎「よろしくお願いします!」
菫(意図がわからないが…まあ考えあっての事だろう)
京太郎「うぅ…断トツ最下位…」
菫「言うまでもなく照の独壇場だったな、で、照の判断とやらは?」
京太郎(どう見てもダメだよなぁ…今の対局から何かわかることは…)
照「他レギュラー達に紹介してあげる、今から時間ある?」
菫(…え?)
京太郎「…」ポカーン
京太郎「あ、あります!」
京太郎「はい、では一旦失礼します」タタタッ
菫「…どういうことだ?」
照「ただの気分のせい…」
菫「そんな訳あるか、正直に言え」
照「京ちゃんは菫に一回も振り込んでなかったこと気付いてた?菫が狙い打とうとしてたのに」
菫「言われなくても…そんなことわかっている」
照「正直狙い撃ちをする菫への対処法は私にもわからない、きっと京ちゃんは何か菫への対策はとれていたと思う」
照「その対策を研究して、それを対策して私は菫に全国で活躍して欲しい、それじゃダメ?」
菫「…ダメじゃない、わかったよ。ありがとう、照」
照「どういたしまして」
京太郎「ちょっと早く来すぎたかな、自販機でアイスコーヒーでも…っと」ガシコーン
菫「なんだ、早いな」
京太郎「弘世さん、こんばんは」ニコッ
菫「あぁ…こんばんは」
京太郎「弘世さんが案内をして頂けるのですか?」
菫「いや、照…じゃない、宮永がここに来ると言っていた。さっき照と言っていたカード麻雀を一緒にやった奴だ」
京太郎「流石に偵察する相手のフルネームくらい把握してますから、自分の前で照って呼んでも通じますよ、菫さん?」
菫「ま、まだ知り合って間もない女性に対して下の名前でだな…」
照「あれ、菫もいたの」
菫「照が迷子になったらアレだから先に着ておいた」
照「…」ムーッ
菫「すまなかったな、じゃあ行こうか」
京太郎「今日はよろしくお願いします」ペッコリン
菫「で、どこでみんなと顔を合わせるんだ?」
照「え?ホテルでしょ」
京太郎「!?」
菫「だ、男女がホテルの同室など…は、破廉恥にもほどが……//」
照「ただ私達の麻雀の練習風景の見学でしょ、他に破廉恥な要素はない、むしろ破廉恥な要素はあった?」
京太郎「確かにそうですが…人目が…」
照「さっき何でもするって言ったでしょ、京ちゃん」
京太郎「確かに…って、まさか照さんって…」
照「やっと気付いた?積もる話は後で」
亦野「君が須賀くんか!亦野だ!よろしく頼む!」ガシッ
京太郎「はは…よろしくお願いします」
淡「私は大星淡、同い年だし私は京太郎って呼んじゃうね、京太郎も淡って呼んじゃっていいから!」
京太郎「えーと、よろしくな、淡」
照「自己紹介は済んだ?じゃあ…」
菫「その前に一つ質問いいか、照」
照「構わない」
菫「なんで私の部屋が集合場所なんだ!」
照「多数決…」ボソッ
亦野(私の部屋の軍備を見られる危険に晒すなんて言語道断!)
淡(別に部屋は綺麗だったけど、面白そうだったから片付いてないことにしちゃったし)
菫「お前ら…部屋はある程度整理しておけと…」
照「京ちゃん、さっそくだけど、私達の中に入って打つ?それとも外野で見学する?」
京太郎「えっと…」
菫「せっかくだ、入って行け、もし牌譜が欲しいなら後で寄越すから」
京太郎「ありがとうございます、ではよろしくお願いします」
淡「じゃあ私も入るねー!」
京太郎(そんな見られるとやりにくいな…)
京太郎「ではよろしくお願いします」
菫(私の弱点…今ここで見極めなければ…!)
照「事情は言ってあるけど、みんな偵察だからってわざわざ打ち方を変えないで」
照「偵察されて得たデータ如きに負けるような白糸台とは私は思ってない、安心して」
照「悪いけど少しの間、一人の人間のプライドのために付き合ってあげて」
京太郎「すみません、照さん…」
京太郎(どんな惨めでも俺は勝ってみせる…!)
淡「じゃ、やるよー!」
菫(また…狙えなかった…!)
淡「京太郎ちょっと弱いよ、もっと頑張ってくれないとつまんない!」
京太郎「悪い、きっと弱いから偵察なんて負かされてるんだな…ハハッ」
淡「もう少し京太郎が強くならないと偵察としての意味もないよ?もっと上達してからにしたら?」
京太郎「正論だけど…今日一日だけだし…」
照「いや、二日目以降も構わない」
京太郎「えっ?」
照「さっき言ったとおり白糸台は偵察された程度で負けないし、京ちゃんが来てくれるのはこちらにもメリットがある」
京太郎「では…またお邪魔しても…?」
照「大丈夫、気にしないで」
京太郎「じゃあ淡に頼もうかn」
菫「もしよければ私にその役目を譲って貰えるか、淡?」
淡「んーいいよ!菫がどうしてもって言うなら!」
菫「そんなこと言ってないだろ!」
淡「あー照れてる菫可愛い」
菫「馬鹿言え!」
渋谷「…」ズズー
亦野「はい!これが牌譜だ!今日はご苦労だった!」
渋谷「…また」
淡「まったねー!」
菫「え、えーっとだな君に麻雀を教えるにあたって連絡先が欲しい」
京太郎「ええ、いいですよ」ポチポチ
菫「じゃあ、明日の朝頃連絡するけど、返事できるか?」
京太郎「はい!わざわざありがとうございます!今日は失礼します!皆さんおやすみなさい!」
照「道がわからないだろうから、私が送ろうか」
京太郎「正直道がわからないんで助かります」
淡「京太郎ー!テルーに手を出すなよー!」
京太郎「出さないって、では」ガチャッ
照「昔話代なら120円でいい…」
京太郎「相変わらずちゃっかりしてますね…アイスティーでいいですか?」
照「ありがとう。それと敬語やめて、他人行儀は嫌」
京太郎「だって、最初は照さんって気付かなかったし」
照「そんな変わったつもりはない…」
京太郎「いや、やっぱり変わったよ、より可愛くなってる」
照「あ、ありがとう…」カア…
京太郎「で、照さん…」
照「いいよ、本題に入っても。真剣な時の京ちゃんの表情はすぐわかる」
照「咲のこと…でしょ?」
京太郎「…」
照「そういうときの沈黙は肯定を表す。言いたいことはある程度わかるけど無理だから、ゴメンね」
京太郎「でも咲は照さんに会いたいって麻雀を再開して!」
照「やっぱり今傍にいる分、京ちゃんは咲派なんだ」
京太郎「そういうわけじゃ…」
照「言い方が酷かった。ゴメンね」
照「きっと京ちゃんのことだから、二人を中立的な立場から和解させたいのはわかる」
京太郎「なら…」
照「そのことは咲が私に勝たないと、お互い納得できない。道理が通ってないけど、姉妹喧嘩なんてこんなもの」
照「道理がないからこそ、解決策は単純。力を示せばいい、そこに綺麗な合理性はいらない」
京太郎「…それが団体戦での勝利でも?」
照「当然、白糸台を舐めないで。まあ、勝てたらの話だけど。だから京ちゃん、私達の仲直りの為に偵察頑張ってね」
京太郎「そういうことか…なら完膚なきまでに俺の偵察力をもって叩き潰すから待ってろ!」
照「うん、待ってる」ニコ…
淡「スミレー♪」ニヤニヤ
菫「な、何だ気持ち悪い」
淡「いやいやー、京太郎に惚れでもしたの?先生に立候補なんて柄にもないじゃん」
菫「いや、彼は私の狙い撃ちを完全に回避してきた、彼の先生役をやる内にその理由を見つけたい」
淡「ふぅ~む、なるほどなるほど~」
渋谷「…」ズズー
亦野「ああ、菫先輩にも今日の牌譜です、どうぞ」
菫「牌譜を見ても全くわからん…淡、何かこれを見て心当たりはないか?」
淡「まったくもって!」
菫「はぁ…答えは明日以降か…」
京太郎「朝かー、今日はAブロックの試合だったっけ…注目校はどこだっけ…」ユゥガッタメイル
京太郎「メール…って弘世さんか、えっと」
From 弘世 菫さん『昨日の夜の待ち合わせ場所に11時頃で大丈夫か?』
京太郎「『おはようございます、その時間で大丈夫です。本日はよろしくお願いします』送信っと」prrr
京太郎「もしもし?」
咲「おはよう、京ちゃん?朝からゴメンね?もし暇ならAブロックの試合見に行かないかな?」
京太郎「悪い、部長から野暮用頼まれてて行けそうにない、和達とでも行ってくれ」
咲「じゃあ和ちゃん達と見に行くね、京ちゃん。いつもご苦労様、ありがとう」ピッ
京太郎(いかなる理由であれ嘘は気が引けるな…まあ支度しないと)
菫「遅いぞ、どれだけ待たせる気だ、もう10時50分だろ」
京太郎「すみませんでした…」
菫「先に言っておくが私は基本的に15分前行動を心がけている、留意しておけ」
京太郎「はい…ところで」
菫「なんだ?」
京太郎「その服お似合いですね、大人って感じがして美人オーラが出て」
菫「そ、そういうのはやめてくれ…!自分が設定しておいて悪いが中途半端な時間だし指導は昼食を済ませてからでいいか?」
京太郎「大丈夫ですよ、何にしましょう?パスタにします?それとも…」
京太郎「えーと、何か不満でした?」
菫「正直に言うと、店を選ぶセンスがいい。こんなに落ち着けるカフェで不満になる訳がない」
京太郎「ありがとうございます、正直ホッとしました。弘世さんの好みに合うかどうか不安で…」
菫「割と合ってるから安心しろ…で」
京太郎「はい?」
菫「注文は決まったか?」
京太郎「じゃあ、ハムサンドと食後にホットで」
菫「っと、私はBLTサンドにしたいのだが後で一切れ交換しないか?どんなものか気になる」
京太郎「こちらこそ、喜んで。…店員さーん!」
店員「召し上がりましたら食後のコーヒーお持ちしますので、お知らせください。ごゆっくりどうぞ」
京太郎「じゃあ、頂きます」
菫「頂きます」
菫「ん、おいしい…」
京太郎「えっと、一切れ頂いていいですか?あまりに美味しそうなんで」
菫「あぁ、大丈夫だ。ほら、あーん」
京太郎「あーん…って、弘世さん!?」
菫「こ、これはだな照とか淡とかにあげる時の癖で、カ、カップルがやるようなあーんの意図はなくてだな…その…ちが…」
菫「…!ちょっと席を外す…」
京太郎「両方とも美味しかったですね、おいしいコーヒーもありますし、何か甘いものでも頼みません?」
菫「私は須賀くんと同じ奴でいい、さ、さっきの反省を生かしてだな」
京太郎「じゃあブラウニーでいいですか?」
菫「構わない」
店員「ではこちらブラウニーです、ごゆっくりどうぞ」
京太郎「ブラウニーも美味しかったですね」
ブブブブ
菫「ん?すまない電話みたいだ、ちょっと席を外す」
京太郎「はい、お構いなく」
菫『もしもし?』
淡『やっほー!スミレー!上手くやってるー?』
菫『淡か…』
菫『何の話をしているんだ』
淡『誤魔化さなくていいよ、通話時間もったいないし』
菫『わかった、須賀くんと一緒にいるのはお見通しと言う訳か、で、何の用だ?』
淡『さっきも言ったじゃん、へーじょうしんが大事だって』
菫『それだけか?』
淡『それだけだけと、へーじょうしんだよ!』
菫『…切るぞ』プッ
菫(むしろ平常心ってなんだ、普段意識しないから全くわからんぞ…)
菫(それでもさっき、恥をかいたのは平常心を失っていたというのも大いにありうる)
菫(平常心平常心平常心…ああゲシュタルト崩壊してきた)
菫「す、すまない、待たせた」ギクシャク
京太郎「大丈夫ですよ」
菫「そろそろ出ようか、指導する時間がなくなるしな」
京太郎「そうですね、じゃあ出ましょう」
菫「えっと会計は…」
京太郎「ああ、もう会計は済ませておきましたよ」
京太郎「今日の授業料ということで受け取ってください、むしろこうでもしないと俺が申し訳ないですよ」
菫「なんだ…その…ありがとう…」
京太郎「すごく今更ですがどこで指導をして貰えるんですか?」
菫「えっと…だな…その…ネットカフェでネトマを打ちながら添削しようとは思ってたんだが…」
菫「公共の空間ゆえ声を出しにくい…から…」
菫「わ、私の部屋でやるぞ!」
菫(平常心…平常心…)
京太郎「お邪魔します」
菫「パソコンの用意するから少し待っててくれ、とりあえずネトマを打ってもらって添削する、さっき言った形でいいか?」
京太郎「はい!よろしくお願いします!」
菫「そこでだ、私が隣からすぐ口出しできるように牌を切る時に理由などを可能な限り話しながら打ってくれ」
菫「集中が途切れるだろうが、時間も限られているしな…よし立ち上がった、ほれ」
京太郎「はい…その…マウスカーソル可愛いですね」カタカタ
菫「こ、こう見えて、ネコが好きだからいいだろ!…それはさておき指導を始めようか」
京太郎「テンパイ即リーワーイワーイ」
菫「トップだしリーチのみの手より手代わりでタンピン期待のダマでいくべきだろ…」
京太郎「そうですかね?」ロン!
京太郎「あー捲くられてる」
菫「あのなぁ…」
菫(どう見ても素人の中でも酷いレベルじゃないか…これは)
菫「一旦やめにして、牌譜を検討しよう、あと基礎的な理論も今叩き込む」
京太郎「はあ…」
菫「飲み物買ってくるからその間にそのサイトを…えーっとここだ、ここを全部読んでおく事」
京太郎「わかりました」
菫「須賀くんの分も適当に買ってくるけど何でもいい?」
京太郎「大丈夫です、ありがとうございます」
菫「じゃあ、少し行って来る」ガチャ
亦野「菫先輩、お疲れ様です。例の子はどうですか?」
菫「悪い意味で想像以上だったよ…」
亦野「それはご愁傷様です」ハハ
菫「他人事みたいに言うな、巻き込むぞ」
亦野「謝りますから冗談はやめて下さいよ、そうするとより不思議ですね」
菫「何が?」
亦野「彼が菫先輩に絶対に振り込まないことですよ、きっと彼がわかりやすいアナログの癖でも捉えたのですかね」
菫「私にそんな癖あったか?」
亦野「いえ、私にはわかりません。これはただの仮説ですし冗談程度に聞き流してください。では!」
菫(確かに須賀くんの昨日の牌譜と今日の打ち筋と大差はないし…誠子の仮説が正しいのか?)
菫(もしアナログ的な癖があるとしたら矯正しなければ…マズいだろうな)
菫(かといってそんなもの自分でわかる訳ないだろ、本人に直接聞くか…?)
菫(はぁ…こんな状態で大会に出て大丈夫か…)
菫「って、考えてたらかなり時間が経ってるじゃないか、お詫びになんか甘いものも買って…」
菫「急ぐか」
京太郎「…zzz」
菫「なんだ寝てるのか…ちゃんと最終章まで目は通したようだな」
菫「淡が昼寝していたときより幸せそうに寝てて、起こしにくい…」
菫「自分でもキャラじゃないと思うのだがな…冷房つけっぱなしだし風邪引かれても後味が悪いし、一般道徳としてだな…」ファサ
菫「って、私は誰に言い訳しているんだ…」
菫「やれやれ…」
菫「っと、本当に私の柄じゃないんだが…」カタカタ
京太郎「…zzz」
菫「アメを与えるのも大事だしな…」カタカタ
菫「かと言って、ムチを寄越すってほど厳しくするつもりはないがな…」ハッ
菫「独り言が過ぎたな、作業に集中しよう」カタカタ
菫「おはよう須賀くん、よく眠れたか?」
京太郎「えっ、俺まさか…」
菫「寝てたぞ、全力で」
京太郎「あ、あの…すみません」
菫「構わない、きっと疲れが溜まっていたのだろう、疲労した身体に指導は無意味、無理はせずちゃんと休め」
京太郎「はい…」
菫「だから気にするなと言っただろ、これ牌譜に対しての私のコメントだから参考程度に…」
京太郎「ありがとうございます!」ガシッ
菫「ひゃっ!てっ、手をいきなり握らないで!」
京太郎「ご、ごめんなさい、つい…」
菫「わ、わざとじゃないなら構わないから…さっきのネトマの牌譜を見ながら解説する、いい?」
京太郎「はい!」
京太郎「ありがとうございます…ってえぇっ!」
菫「ど、どうしたんだ?」アセアセ
京太郎「オランジーナは最近一番好きな飲み物なんですよ!」
菫「な、ならよかった、じゃあ始めるぞ」
京太郎「よろしくお願いします」
菫「じゃあ東二局のこの場面から…」
京太郎「あっ、なるほどなるほどなるほど~」
菫「解説は不慣れだけどわかって貰えた?」
京太郎「十二分ですよ!そこらへんのサイトより何倍もわかりやすかったですよ!」
菫「あ、ありがとう…」
京太郎「今までの事を踏まえてネトマでもう一局打ってみたいんですが、大丈夫ですか?」
菫「ああ、構わん、成長した証を少しくらい見せてくれよ、そうじゃないと、私が報われんからな」ニヤッ
京太郎「プレッシャーかけられると困りますよ…」
菫「お、マッチングしたか、今回は何も喋らずに君の自由に打ってくれ」
京太郎「はい、…この初手ならこう動くべきかなー」
菫(いや…これは…もしかして…)
菫「いや今回はトップのツモが良過ぎた、君の打ち方自体は悪くなかった」
京太郎「世辞でも嬉しいです、これも菫さんのご指導のおかげです!」
菫「少しでも上達してくれて私も嬉しいよ、指導した甲斐がある」
京太郎「そうでしょうか?」
菫「少しくらいは自信を持て、自信がない打ち筋はジリ貧になりやすいからな…」
菫「君に基本的な指導をすることで、私も初心に帰れた、例を言う」
京太郎「こ、こちらこそお礼をイワナ…」
菫「例なら実践で打った後に言ってくれ、じゃあ、行くぞ」
菫(わざわざ気にすることでもないし、むしろ…)
菫「流石に焼き鳥は勘弁してくれよ、教師役の私が何をしていたか疑われる」
京太郎「はい…!」
……
淡「やっほー!」
照「どうも…」
京太郎「俺の成長、見せ付けてやりますよ!」
淡「あんな大口叩いた割にトばれるとかえって反応に困るよー」
京太郎「…」
照「まあ…残念だけど予想通り」
菫(結局須賀くんからまたロンあがりできなかった…)ズーン
京太郎「今日はありがとうございます、勉強になりました」
淡「まあ、勉強されるべきな私達だしね」ドヤッ
菫「アホかお前は…」
京太郎「では失礼します、今日はありがとうございました!」
照「帰り道の案内いる?」
京太郎「二回目なんで、大丈夫です、お気遣いありがとうございます。では、失礼します!」
菫「ああ、またな」
淡「じゃーねー!おやすみー!」
照「気をつけて…」
京太郎「みなさんおやすみなさい!」ガチャッ
照「どうぞ」
淡「今更だけど照と京太郎ってどんな関係なの?元恋人だったり?」ワクワク
照「そんなことはない、ただの長野にいた時の旧友だ」
菫「ただの旧友にしてはやけに仲良くないか?」
照「私は友人が少ないから、数少ない友人を大事にするのは当然…」ドヤァ
菫「そのなんだ…すまないことを…」
淡「テルー、可哀想!私はいつまでもテルーと仲良しだよー!」ガシッ
照「あ、ありがとう淡…ちょっと…苦しいから…離して、あ、菫はその哀れむ目を止めて」
京太郎(菫さんのおかげで何か掴めた気がする)
京太郎(ああ、ここでこう打った理由が自分でもわかるな)
京太郎「少しは成果が出た…のかな」
咲「京ちゃん、ボーっとしてどうしたの、会場に行くよ」
京太郎「ああ、悪いな」
咲「私、一回戦から活躍するから見ててね!」
京太郎「おう、頑張ってこい」
京太郎(早く何か、Aブロック側の対策を立てないとな…)
京太郎(実際、対策する時間はかなり限られてる、時間を無駄にできない)
咲「出番がなかった…」
京太郎「ま、まあ落ち込むなよ。とりあえず一回戦突破おめでとう」
咲「ありがとう、でも早いうちに全国の舞台で打ってみたかったよ」
京太郎「まあ咲なら強ければ強い相手のほうが緊張せずに楽しんで打てるだろ?」
咲「もう、少年漫画の主人公みたいに言わないでよ…」
京太郎「二回戦の活躍楽しみにしてるから、頑張れよ」
咲「うん頑張る!」
…プルルル
菫「もしもし?」
京太郎「もしもし、弘世さん?どうかしましたか?」
菫「いや、清澄の一回戦突破のお祝いだ、おめでとう」
京太郎「はは…自分は全く力になってませんがね…」
菫「まあこれで私達Aブロックの対策がより必要になったわけだ、頑張れよ」
京太郎「はい」
菫「明日は白糸台の試合がある、試合を見て対策があるなら練ってみせろよ?」
京太郎「ど、努力します」
菫「せいぜい頑張れよ、じゃあな」
菫「どうかしたか?」
京太郎「ちゃんと明日は勝って下さいよ?俺が編み出した弘世さん対策が無駄になるので」
菫「え、私対策って具体的になんなん…」
京太郎「明日はお互い早いですし失礼しますーおやすみなさい」
菫「…切られたな。私対策がどうとうとか言ってたけど本当に具体的な策でもあるのか?」
菫「もういい、今度須賀くん本人に直接聞こう、明日さえどうにかすればいいんだ」
菫「で、今度っていつだ?…まぁいい、寝るか」
京太郎「今日は二回戦突破おめでとう、今までの礼をこめて差し入れもって来た!是非みなさんで」
照「ありがとう、甘いものは本当に助かる」
京太郎「そういえば今日は他のみなさんは?」
照「疲れたみたいで部屋で個別に休んでる、体調管理もレギュラーの仕事のうちだもの」
京太郎「じゃあ照さんも休まなくて大丈夫なの?」
照「大丈夫、私は先鋒だから。体力的には大丈夫」
京太郎「ならいいんだけど…」
照「じゃあせっかくだし120円で昔話、いいかな?」ニコッ
京太郎「それ普通は男が言うセリフじゃないかな…」
照「普通は、ね」
京太郎「あー悪かったよ、帰り道には気をつけさせて頂きますよー」
照「じゃあ、バイバイ」
京太郎「照さんも気をつけてー」
…
京太郎「弘世さんにはさっき直接祝おうと思ったけど、いなかったら仕方がない、メールでっと…」
京太郎「流石にこの時間はまずいか、明日の朝にでも送るか」
菫「…」
菫(…どう考えても祝辞の一つ寄越さないのは失礼だろ!世話になっておきながら!)ソワソワ
淡「すみれー、ほら、落ち着いてー。どーどーどー」
菫「おい、動物扱いするな」イラッ
淡「人間だって立派な動物だよ!つまり菫も動物!よーしよしよしよし」ワシャワシャ
菫「ちょっ…やめ…」
淡「イライラしても何も解決しないよ、もっと大雑把に行こうよ」
菫「なにを言って…」
淡「菫は真面目だから可愛がりようがあっていいよねーってこと」ワシャワシャ
菫「やめろって…あぁもう!」
菫「はぁ?今何時だと」
淡「菫は真面目だなぁ、もっと大雑把に行こうって言ったばっかりなのに」
prrr
京太郎『もしもし、弘世さん?』
淡『残念、淡ちゃんでした!』
京太郎『おう、淡か。とりあえず二回戦突破おめでとう、格好良かったぞ』
淡『でしょー、カッコいいでしょー。京太郎は見る目あるよ!』
京太郎『どーいたしまして、つーかなんで淡が弘世さんの携帯から?』
淡『やっぱり菫と話したいのー?しょうがないなー青春しちゃって!今電話代わるよー』
淡「はい、菫。どうぞ」
菫「えっ」
菫「わ、私が電話に出る必要もないだろ」
淡「京太郎を待たせたままにするほど菫は礼儀がないなんて、ガッカリだよ」
菫「いや…そうじゃなくて」
淡「いやいや、そうだよ。普段人に礼節を説く人間がすることとは思えないよ」
菫「あー、もう電話に出るから黙ってろよ!」
淡(菫は扱いやすくて可愛いなぁ!)
京太郎『もしもし、弘世さん。遅れましたが二回戦突破おめでとうございます』
菫『まあ当然の結果だが、ありがとう』
京太郎『…』
菫『…』
京太郎『今日は弘世さんもお疲れみたいですし、お祝いだけさせてもらって早めに失礼させていただきます。お休みなさい』
菫『ああ、お休み。そちらも頑張ってくれ』
京太郎『ありがとうございます、では』
ツーツーツー
淡「何この糖分が全くない会話は!やる気あるの!」
菫「会話にやる気ってなぁ、淡…」
菫「いや、ここ私の部屋だし」
淡「そうやってツッコミできるならなんで京太郎と会話のキャッチボールをしないのさ!」
菫「その…してだな」ボソボソ
淡「え?」
菫「緊張してたんだよ悪いか!私だって人間だぞ!」
淡「じゃあもう一回電話しようよ、諦めたらそこで試合終了って偉い人も言ってたしねー」prrr
菫「ちょっ、待て少しは猶予期間をだな…」
淡「はい」
菫「は?」
淡「もう繋がってるよ」
京太郎『構いませんよ、迷惑と思っていませんし』
菫『その…なんだ、迷惑じゃないならまた電話しても大丈夫か?大会中は心労が積もって仕方がない、愚痴でも聞いてくれ』
京太郎『今までのお礼もありますし、清澄の試合中じゃなければいつでも大丈夫ですよ。』
菫『ありがとう…またの機会に電話する、じゃあ本当にお休み』
京太郎『お休みなさい』
ツーツーツー
菫「ふぅ…これで満足したか、淡?」
菫「って、なんでこういうときだけ無駄に空気読んで席を外す…」
菫「お疲れ様。決勝進出、やったな」
照「当然のこと、むしろ決勝以外眼中にない…」
淡「というか私がいれば宇宙単位で敵なしだしね!」
…
菫「はいはい、そうだな。じゃあ帰るぞ」
淡「うー、ノリが悪いよー」
照「流石に凹む…」
照「やっほ」
菫「何しにきたんだ」
照「数少ない友人との交友を深めに」
菫「…そうか」
照「…流石の菫でも決勝の前は緊張してる?」
菫「そりゃするさ、私だって普通の女子高生だぞ」
照「面白いジョーク…」
菫「照の好みに合って良かったよ」イラッ
照「私は菫を信頼してる、だから緊張する必要はない。菫のミスくらい簡単に取り返せる」
照「だからそんな表情しないで」
照「…心外」
菫「悪かった、じゃあ明日は優勝しよう!」
照「もちろん」
--
prrr
照『やっほ、京ちゃん。私達に勝てそう?』
京太郎『正直余裕だよ、相性で8:2くらいかも』
照『それは楽しみ、ところで一つ質問いい?』
京太郎『?』
照『京ちゃんがやってた、菫対策、ヒントだけでも教えてくれる?純粋に興味がある、もちろん菫達には黙っておく』
京太郎『んー、恥ずかしいから、秘密で』
照『何それ…まあ大会終わったらちゃんと聞かせて。最後に一つ』
照『勝ってね』
京太郎『頼まれなくても』プツッ
久「正直驚いたわ、阿智賀一校だけでもこんなに綺麗な対策を示してくれるなんて」
京太郎「いえそれほどでも…」
久「やっぱり白糸台のはないの?あれば期待したいけれど」
京太郎「さすがに去年の優勝校は部長がきっとすでに対策立ててるかなーて、阿智賀に研究時間を注ぎました」ハハハ
久「そう…残念ね。でもこの濃度のデータなら一校でも十二分よ、ありがとう」
京太郎「白糸台に手をつけてなくてすいません…」
久「想像通り白糸台は対策を練ってあるから安心しなさい!」
久「…じゃあ、みんな!勝つよ!」
菫「…ゴホン」
菫「私達は勝って当たり前だ、今更何も言う必要はない」
菫「だが敢えて宣言する、皆の者、勝つぞ!!」
シーン
菫「えっ」
照「菫が昨日一時間くらいかけて考えたセリフなんだからみんな乗ってあげて…」
菫「そんな長く考えてもないし、お前も乗ってなかったじゃないか!」
照「まあ、場も和んだところで、頑張っていこう」
照「負けちゃったね…」
淡「み、みんなゴメンね…私が…私が…」
照「いいのいいの淡は悪くない…」ヨシヨシ
菫「それでも準優勝だから、恥じることはっ…」
照「菫も泣かないの、決勝で一番頑張ってたでしょ」
照(本当に負けるとは思ってなかったから驚嘆の感情のほうが強いなぁ…)
prrr
照『もしもし。ん、約束通り顔を出す。時間はまた連絡して』
照『あとさ』
照『ゲスト呼んでいい?』
京太郎「こんばんわ、照さん」
照「…」
京太郎「変な話だけど、ここで仲直りして欲しい、約束したよね?」
照「構わない」
咲「お姉ちゃん…」
照「咲…久しぶり、優勝おめでとう」
咲「お姉ちゃん!」ダキッ
京太郎「あれ?想像してたのよりスムーズすぎ…」
照「喧嘩こそしてたけど、仲自体は悪くないから…」ナデナデ
咲「…そうだよ、京ちゃんはどんなのを想像してたの?」
京太郎「まぁ…いいか」
照「ところで」
京太郎「いや、俺は白糸台についてはノータッチだよ、卑怯なことしたくないし」
咲「…?」
照「ゴメン、咲しばらく静かにしてて後で事情は話すから」
京太郎「というか、本当に俺じゃ対策は取れなかったってのが実情かな」
照「あれでも、菫は完全に京ちゃんが対策取れてたよね?」
京太郎「それは…えーっと」
京太郎「いや…菫さんって美人じゃないか…その」
京太郎「あんな可愛い人と対局したらさ、視線とかより敏感に感じるっしょ…」ゴニャゴニャ
照「本当にゴメンね、咲」ギュッ
照「京ちゃん、悪いけどグダグダ言わず簡潔に纏めて。私の意図を察して」
京太郎「…なら一目惚れして対局中も全神経が菫さんに向いてたからと言えば満足か」
照「うん、満足した」
照「だから咲、諦めようね?私も諦めるから」
咲「お、お姉ちゃん…!」
照「ゲストはお約束通り後ろにいるから、後は頑張ってね」ニッコリ
京太郎「…ごめんなさい」
菫「どれだけ塞ぎ込んでたかも語ると一日を越えるんだぞ…睡眠時間も減ったし…」
京太郎「…本当にすみませんでした…!」
菫「あーもう!だ、だからだな、怒ってはないから!」
菫「君から私になしかしら直接的な言葉とか、行動が欲しいんだ」
京太郎「じゃあお言葉に甘えて…」ダキッ
菫「ふぇっ?」
菫「で、な、何の真似だ」
京太郎「えっと…その…」
「付き合ってください」
カン
支援と保守をしてくれた人、今まで本当にありがとうございました。
菫さんは可愛い(確信)
Entry ⇒ 2012.10.21 | Category ⇒ 咲-Saki-SS | Comments (3) | Trackbacks (0)
奉太郎「古典部の日常」 4
折木さんの推理は間違っていますよ、と。
しかし。
える「さすがです、折木さん」
千反田が発した言葉は、自分のした事……千反田がした事を認める物だった。
奉太郎「……どうして、こんな事をしたんだ」
える「動機、ですか」
える「それを言う前に、ちょっと気になる事があるんです」
える「どうして折木さんは、私が犯人だと思ったんですか?」
奉太郎「どうでもいいだろ……そんな事」
これ以上、言いたく無かった。
理由は確かにある。
だがそれを言えば千反田が犯人だと言うような物で……言えなかった。
える「私、気になるんです」
いつもより弱々しく、千反田はそう言った。
える「正直に言います、ここまで早く見抜かれるとは思っていませんでした」
える「理由を、教えてください」
言うしか、ないのだろうか。
奉太郎「……分かった、だが」
奉太郎「説明が終わったら動機を話してもらうぞ」
える「ええ、分かりました」
……仕方ない、やるか。
える「時間? 10分のですか?」
奉太郎「ああ、まずはそこが間違いだった」
奉太郎「古典部の部室から男子トイレまで行くのに掛かる時間は、古典部の部員ならまず知っている」
奉太郎「ゆっくり行けば15分……【急いでいけば10分】ってな」
える「ええ、そうですね」
奉太郎「犯人側の視点に立ってみろ、わざわざ時間を多く見積もって犯行をする奴がいるか?」
奉太郎「そんな事をするのは余程呑気な奴くらいだろう」
奉太郎「つまり、犯人が実際に犯行を行えた時間は【5分】だ」
える「……5分、ですか」
奉太郎「とても短すぎる、見つかるリスクも高すぎるんだ」
奉太郎「そんな中、犯行を行う奴は居ない」
奉太郎「時間が5分、余分にあったお前以外にはな」
える「でも私は福部さんの証言によってアリバイがあるんです」
える「それはどうお考えで?」
奉太郎「里志の事か、あれはお前にとって予想外だったんじゃないか?」
奉太郎「10分の時間があったお前にも、里志が来るという予期せぬ事態によって犯行時間は5分となってしまった」
奉太郎「そして、里志は見てしまったんだよ。 お前が部室を荒らす姿を」
える「……」
奉太郎「これはお前にとって不運な出来事だった、しかし同時にアリバイを作る事ができるチャンスでもあった」
奉太郎「里志を共犯にする事によって、な」
える「……福部さんはそれを認めないと思いますよ、証拠がありません」
奉太郎「あいつはこう言った」
【それでホータローがトイレに行っている間に千反田さんを連れて行ったって訳だね】
奉太郎「ってな、俺が特別棟の1Fに行ってお前らに状況を知らせた時だ」
奉太郎「何故、里志は俺がトイレに行っていた事を知っていたんだ?」
奉太郎「ただ部室から千反田を連れて行っただけなのに、お前はわざわざそんな会話をしたのか?」
える「……」
奉太郎「恐らく、こんな会話があったんだろう」
える「ふく……べさん……?」
里志「ち、千反田さん? 何をしているんだい!? ……何か、あったの?」
える「……すいません、理由は言えないんです」
える「本当に申し訳ありません、少し……協力して頂けませんか」
える「折木さんは今お手洗いに行っています、今ならまだ、大丈夫です」
~~~
奉太郎「大雑把にだが、この様な会話があったと俺は推測している」
奉太郎「……何故、里志が協力したのかは分からないがな」
える「……分かりました、それは認めます」
当らない方が、よかった。
える「でも、ですよ」
える「それだけで私が犯人、というのは少し難しいと思うんです」
える「今のは全て折木さんの推測、あくまでも確実な証拠とは言えません」
える「他に、理由はあったんですか?」
これ以上、お前が犯人だなんて真似……くそ。
奉太郎「……分かった、話を続ける」
奉太郎「次に不審な点は、部室を片付け終わった後だ」
奉太郎「具体的には、お前から貰ったペンダントを俺が見つけた時だな」
える「あの時、ですか」
奉太郎「千反田は記憶力が良かったな、会話を思い出してみろ」
える「……」
千反田は首を傾げ、回想をしている様子に見えた。
える「特に変な所は無いと思いますが……」
奉太郎「あるんだよ、少し待ってろ」
そう言うと、俺は覚えている限りの会話をメモに取り、机の上に置いた。
奉太郎「……くそ」
里志「……ホータロー」
える「人の物をここまでするなんて……酷すぎます」
える「折木さん、見つけましょう」
える「ペンダントを割った犯人を……部室をこんな事にした犯人を!」
~~~
奉太郎「ああ、そうかもしれない」
える「……真面目にやってます?」
奉太郎「ふざけてこんな真似……俺はしない」
える「……そうですか、ではどの様な不審な点が?」
奉太郎「確かに会話だけでは不審ではない」
える「会話だけでは? どういう意味でしょうか」
奉太郎「状況によって、変わるんだよ」
える「状況……ですか」
奉太郎「つまり、俺とお前の位置関係だ」
奉太郎「あの時俺は【千反田の正面に座っていた】そして【ペンダントは胸の辺りで開いた】んだ」
奉太郎「千反田の視点からでは、見える訳が無いんだよ」
奉太郎「ペンダントがどういう状態になっていた、なんてな」
える「……!」
奉太郎「それが分かるのは、お前がペンダントを割ったからだ」
奉太郎「……間違いないな?」
える「ですが、ですがですね」
える「……ペンダントに被害を受けたんですよね?」
える「それがどのような状態かは、ある程度予想はできる筈です」
える「その証拠も、決定的とは言えませんよ」
奉太郎「……もう、やめにしないか」
なんで……
俺は友達を。
好きな奴を犯人にしなければいけないのか。
……
える「まだ、ダメです」
える「納得させてください、折木さん」
える「気になるんです、私」
奉太郎「……」
奉太郎「推理に、感情は入れてはいけない」
奉太郎「けど、俺にはどうしても引っ掛かる事があったんだ」
奉太郎「……無事だった氷菓と、伊原の絵だ」
える「……氷菓と、絵」
奉太郎「氷菓は窓際に飾ってある、とても大切な物のようにな」
奉太郎「ただ荒らすのが目的の犯人だったとしたら、氷菓が無事というのはあり得ない事なんだ」
奉太郎「仮に俺が【自分とは全く無関係の場所】で部屋を荒らすとしよう」
奉太郎「そこにはとても大切そうに飾ってある文集が置いてあった」
奉太郎「……当然、その文集は破り捨てるなり……する筈だ」
奉太郎「犯人には手を出せない理由があった、それは自分にとっても大切な物だったからなんだ」
奉太郎「伊原の絵も同様、大切な物だったんだよ」
奉太郎「……お前にとってな、千反田」
奉太郎「俺は、それに気付いたとき少しだけ安心した」
奉太郎「千反田はやっぱり、千反田なんだなってな」
奉太郎「お前自信の優しさは、隠せなかった」
える「……お見事です、折木さん」
える「もう一度、認めます」
える「今回の部室荒らし、犯人は私です」
える「大正解……ですね」
なんで、こんな事になってしまったんだ。
どうして千反田を責めなければ、いけないんだ。
奉太郎「答えてくれるんだろうな、部室を荒らした理由」
える「ええ、約束ですからね」
える「……お話します、理由は一つです」
える「私は、折木さんに嫌われたかったんです」
奉太郎「……俺に、嫌われたかった?」
える「ええ、折木さんならきっと……私が犯人だと気付いてくれると思っていました」
える「福部さんを巻き込んでしまったのは申し訳ありません、福部さんは責めないでください」
つまり、ここまで千反田の予想通り……という訳なのか。
奉太郎「……俺に嫌われたかった理由は、なんだ」
える「……それは、お答えできません」
える「でもいつか、話せる時が来るかもしれないです」
お前の言葉を聞いて、俺は確信した。
お前は俺に嫌われたくなんて、無かったんだなって。
だって、そうじゃなければ【いつか話せる時が】なんて言う訳ないじゃないか。
俺に嫌われてしまえば、その機会さえ無くなるのだから。
奉太郎「……そうか、一つ聞きたい事がある」
える「はい? なんでしょうか」
奉太郎「お前は本当に、心の底から俺に嫌われたいと思っていたのか?」
える「っ!……」
明らかに、千反田がうろたえた。
それは既に、俺の質問に対する答えであったのだろう。
奉太郎「……俺がお前の事を嫌うなんて事は、絶対に無い」
奉太郎「例えその嫌われたくなった理由を教えてもらってもな」
える「それは、残念です」
える「……私の作戦は最初から失敗だったって事ですね」
千反田は笑いながら、俺に言ってきた。
える「……折木さん」
える「まだ、ありますね……何か」
……こいつは、どこまで鋭いんだ?
奉太郎「お前は、やっぱり千反田なんだな」
こいつの観察力は、俺もよく知っている。
それが……千反田えるという奴だ。
奉太郎「……もう一つだけ、理由がある」
える「教えてください、全部」
奉太郎「これが本当に最後だ、お前が俺に嫌われたいと思っていなかった理由、だな」
奉太郎「俺の割られたペンダント、濡れていたんだよ」
える「……濡れていた?」
える「違うんですか?」
奉太郎「違う、一度拭いたらもう濡れたりはしなかった」
奉太郎「俺は、人の変化に気付きづらい」
奉太郎「だから特別棟の1Fでお前に会ったときも、気付かなかった」
奉太郎「こうして正面から話し合って、ようやく気付いたよ」
奉太郎「……お前の眼が、赤くなってることにな」
奉太郎「ペンダントが濡れた原因は、千反田が泣いていたからだ」
える「……やっぱり、私には完全犯罪は無理みたいです」
える「折木さんに探られては、どうしてもばれてしまいます」
える「……すごいですよ、本当に」
える「なんでも分かっちゃうんですね、折木さんには」
奉太郎「今回は、今回ばかりは」
奉太郎「知りたくなかった、けどな」
える「そうです……か。 本当に、私の心の中まで推理されるとは思っていませんでしたよ」
奉太郎「……一年も一緒に居たんだ、そのくらい分かって当然だ」
下唇を噛み、何かを堪えていた。
える「わたし……やっぱり、だめですね」
える「決めたのに、自分で決めたのに」
える「やっぱり……おれきさんには……」
える「さっきまで、おれきさんと……話す前まで、決めていたのに……」
える「おれきさんと、話していたら、……揺らいでしまいます」
える「……わたし、きらわれたく、ない……です」
3度目、くらいだろうか。
千反田の泣き顔を見たのは。
俺は、千反田に近づき、肩を掴み。
奉太郎「前にも言っただろ、俺はお前の味方だ……嫌いになんて、ならない」
千反田を、抱きしめた。
える「おれきさんに……ううっ……嫌われたほうが……よかったかもしれません……っ」
える「……ごめんなさい……ごめんなさい……」
奉太郎「すまんな、お前の気持ちに気付けなくて」
奉太郎「今回の事は伊原には黙っておく、それがあいつの為にもいいだろ」
奉太郎「もし、さっき言ってた理由を俺に話せるときが来たら、絶対に話してくれ」
奉太郎「俺は、千反田の味方だから」
小さく、千反田が頷いた。
……里志の方にも、聞きたい事がある。
奉太郎(まあ、とりあえずは後回しだ)
どうなるかと思ったが……千反田の優しさが行動に出ていた事もあり、俺はそこまで危惧していなかったのかもしれない。
、、、それから1時間程、千反田を抱きしめていたのだが……
える「あの、折木さん……ちょっと恥ずかしいです」
奉太郎「う……あ、す、すまん」
急いで千反田から俺は離れた。
える「ふふ……冗談です、ありがとうございます」
奉太郎「あ、ああ」
千反田は元気が戻った様だ。
奉太郎「……そうだな、家まで送って行く」
える「い、いえ。 大丈夫ですよ」
奉太郎「いや、送って行くよ……心配だからな」
える「……では、お願いします」
本音を言うと、もう少し……千反田と一緒に居たかった。
勿論口には出せないが。
える「……やはり、今回の事は私が馬鹿でした」
える「もっと他に、方法があったと思います……」
奉太郎「その話はもう終わりだ。 それとな」
奉太郎「他の方法は絶対にやめてくれ、疲れる」
える「……そうですね、ふふ」
える「折木さんの頼みなら、もうしません」
える「折木さんには、どう頑張っても嫌われないと……分かっちゃいましたから」
奉太郎「……ああ」
える「あ、後ですね」
える「その……一つだけ、いいでしょうか?」
奉太郎「ん、どうした」
える「折木さんは……私の事、どう思っていますか?」
それはつまり、そういう事なのか。
なんて答えればいい? というか答えていいのか、これ。
というか急だな、どうすればいいんだ。
まずいな、焦ってるぞ俺。
奉太郎「ち、千反田の、事か」
落ち着けよ、落ち着け。
奉太郎「凄く、真面目な奴だと思う」
別に変な事を言う訳じゃない。
奉太郎「優しい奴だし、純粋でもある」
ただ思っている事を、言えばいいだけ。
奉太郎「それに、その……可愛い」
奉太郎「じゃなくて、綺麗」
奉太郎「……いや、すまん」
これが、穴でもあったら入りたいという状況か。
……あまり嬉しくは無い、学習の仕方だったな。
える「え、え、あの……それって、折木さん……」
奉太郎「いや、いやなんでもない。 忘れてくれると……助かる」
俺がそう伝えると千反田はニコッと笑い、答えた。
える「だ、だめです。 忘れられません」
える「私も、折木さんの事は……その」
える「……すいません、まだ、ダメみたいです」
奉太郎「べ、別に……いいさ」
内心ちょっと、悲しかったが……まあ、仕方ないのか。 でもなぁ……。
える「あの、今度……今度はちゃんと、言ってくれると嬉しい……かもです」
える「今は、まだダメなんです。 でもいつか、お願いします」
奉太郎「……却下だな」
奉太郎「……冗談だ」
える「酷いです! 折木さん!」
千反田が膨れ顔で数歩先に進んで行く。
奉太郎「すまんすまん、分かった。 その時まで……待ってる」
その時というのは、千反田が俺に嫌われたかった理由を話してくれる時、だろう。
える「……はい、お願いします」
振り返り、そう言う千反田の笑顔は……とても綺麗だった。
そしてまた、千反田の家に向かい歩き出す。
奉太郎(しかし、意識し出すと妙に恥ずかしいな……それは千反田も一緒か)
える「お、折木さん。 何か喋ってくださいよ」
奉太郎「……喋ることが特に無い、無駄な事はしたくないんだ」
える「それと、私を家まで送ってくれたのも、ですね」
奉太郎「そ、それは」
やはり、駄目だ。
千反田と居るとどうにも調子が狂ってしまう。
奉太郎「まあ……そうなるな」
える「ふふ、ありがとうございます」
奉太郎「千反田と居ると、省エネが捗らん……」
える「もう、折木さんそればっかりじゃないですか」
奉太郎「ううむ……たまには、そう思う事もある」
える「なら良かったです」
える「ではまた、気になる事があったら折木さんに相談させてもらいますね!」
奉太郎「……ああ、引き受けてやる」
える「え、あ、ありがとうございます」
俺が素直に言ったのが、そんなに意外だったのだろうか……
奉太郎(ま、いいか。 やらなければいけないことなら手短に、だ)
奉太郎(今日はもう一つ、やらなくてはいけないことがあるけどな……面倒だ)
第14話
おわり
里志「……もしもし、ホータローかい?」
奉太郎「ああ、用事は……言わなくても分かるか」
里志「うん、今日の部室荒らしの事だよね」
奉太郎「そうだ、単刀直入に聞くぞ」
奉太郎「何故、千反田に協力した?」
そう、里志は千反田の部室荒らしに協力をしていた。
里志とは長い間付き合いがあるが……今回、何故千反田に協力をしたのか? それは俺にも分からなかった。
こいつは適当にやっている様に見えて、根は真面目でもある。
そんな里志が部室の物を散乱させている千反田を見て、何を言ったのか? 何を思ったのか? それを聞かずには今回の事を終わらせたく無かった。
里志「今日、僕がどんな風に動いたか……初めから説明した方がよさそうだね」
里志「言いたい事はあると思うけど、最後まで聞いてくれると助かるよ」
里志「僕は……委員会の事で千反田さんに用があったんだ。 そこはホータローも知っているね」
里志「今日、僕は……」
さて、厄介な事になってしまったよ……なんでわざわざ部長達に呼びかけをしにいかなければならないのか。
初めから書類を回しておけばこんな事にはならなかったのに、まあ……他の人を責める訳にもいかないかな。 この件は他人任せにしていた僕の責任でもあるしね。
里志「と言っても、部活の数が半端じゃないからなぁ……」
里志「とりあえずは、古典部から行こうかな」
今日は確か、文集の事で集まる予定になっていた。
昼休みに委員会の仕事があった事をホータロー達に伝えておきたかったんだけど……急な事だったせいで伝える暇が無かった。
過ぎたことは仕方ない、部室に行けば二人は居るだろうし……その時にでも説明しよう。
特別棟に入り、僕は古典部の部室へと向かった。
丁度、4Fの廊下に着いたところで何やら危なげな音が聞こえてくる。
里志「古典部の方から聞こえてくる? 何の音だろう?」
古典部の前に着き、音がやはりこの中から聞こえてきているのをしっかりと確認した。
ドアをゆっくりと開ける、何をしているんだろう?
僕がその時見たのは、確かホータローがいつの間にか着ける様になっていたペンダントを……
床に叩き付けている、千反田さんの姿だった。
える「ふ、福部さん? どうしてここに……」
どうして、という事は……千反田さんは今日、僕が委員会で遅れるのを知っていたのだろう。
つまり、千反田さんにとってこれは見られてはいけない事だ。
里志「なんでそんな事をしているんだ! 何か……ホータローとあったのかい?」
える「……いえ、そういう訳では無いです」
里志「じゃあ、なんで……」
える「……折木さんに、嫌われなければ……ならないんです」
里志「……全く言ってる意味が分からないよ、千反田さん」
える「すいません、でも……どうしてもなんです」
ホータローに嫌われたかった……?
僕から見たら、千反田さんとホータローはとても仲が良い様に見えていた。
ひょっとしたら付き合ってるんじゃないか? とも思った程に。
そんな千反田さんが、どうして? 分からない、僕はホータローほど頭の回転は良くは無い。
それでも……ホータローが何かした。 という事では無いらしい。 千反田さんの言葉からそれは分かった。
える「……福部さん、これを皆さんに言うのは……福部さんの自由です」
える「でも私は、私にはこの方法しかなかったんです」
える「これが……一番良い方法だったんです」
里志「さっぱり分からないね、これが良い方法だなんて……とても思えないよ」
える「そう……ですよね。 すいません」
とても悲しそうに見えた、千反田さんは自分でも……こんな方法は取りたく無かったのかもしれない。
これでは駄目だ、なんとか……うまく終わらせたい。
千反田さんは何か考えがあり、こんな事をしたのだろう。 つまり……今のままホータローにばれるよりかはマシかもしれない。
それに僕はホータローを信じている、きっと千反田さんを助けてくれる。 僕には考え付かないけど……ホータローならもしかすると。
里志「……分かったよ、千反田さん」
里志「委員会の仕事でね、各部長達に用事があって来たんだ」
里志「悪いけど、付いて来て貰えるかな? 総務委員会の仕事なんだ」
える「……すいません、福部さん。 ありがとうございます」
僕が協力するのを、千反田さんは理解したのだろう。 礼儀正しく頭を下げると真っ直ぐと僕の方を見ていた。
やっぱり、とても普通の理由ではこんな事をする人ではない。 何か……あったのかな。
える「行きましょう、福部さん」
える「あまり、時間もありません」
~~~
要するに……里志は今、この状況を分かっていたのか。
俺が千反田をなんとかして、里志に連絡を取るまでの事を。
千反田といい、里志といい、予測されるのはあまり良い気分では無いぞ……
奉太郎「……そうか」
里志「何か言いたい事があったら、好きなだけ言ってくれると助かるよ」
里志「言うだけで満足できないなら、好きなだけ殴るといい」
奉太郎「……いや、やめておく」
奉太郎「面倒なのは嫌いだ、特に言う事はない」
里志「……そうかい、悪かったね。 ホータロー」
奉太郎「終わり良ければ全て良しって事だ。 まだ終わりが良かったのかは分からんがな……」
里志「うん、そうだね。 ああ、それとホータロー」
里志「一つ千反田さんは、嘘を付いていたよ」
里志「千反田さんは、僕が来たのをホータローがトイレに行ってから5分と言っていたよね」
里志「それが嘘なんだよ、本当に僕が来た時間は」
里志「ホータローがトイレに行ってから【1分後】だったんだ」
奉太郎「1分後? その嘘に意味があるようには思えないんだが……」
里志「僕もそう思ったさ、まあ自分の感情を必死に抑えて部室を荒らしていたのだろうし……時間感覚が狂っていたのかもね」
そう、だろうか? あの千反田がそんなミスをするとは思えない。
千反田が部室を荒らしている最中に俺が戻ってきてしまったら全て終わってしまうのだから、時間を気にしていなかった筈が無い。
千反田の目的は……今日の放課後、俺と二人で話す事だった筈だ。 もっとも最初の予定では俺がどこかに呼び出すというのを予想していただろう。
それは千反田の「ここまで早く気付かれるとは思わなかった」という言葉に繋がる。
つまり……どういう事だ。 どうも引っかかる、何故そこで嘘を付く必要があった?
里志と千反田の会話を思い出せ、そこに何かある筈だ……
不自然な点が……
そういう事か、だとすると……あの言葉の真意は何だったのか。
それはつまり……俺に嫌われたかった理由と直結する物だろう。 という事はだな、もしかすると。
……可能性の一つではあるな。
里志「ホータロー? どうかしたのかい?」
里志の呼び掛けによって、我に帰る。 少し、考え込みすぎていた。
奉太郎「ああ、いや。 なんでもない」
奉太郎「すまなかったな、長々と」
里志「気にしないでくれよ、僕が面倒な事にしたのは間違いないんだからさ」
奉太郎「……まあ、そうだな。 今度何か奢って貰う事にする」
里志「はは、お安い御用さ。 じゃあ、そろそろいいかな?」
奉太郎「ああ。 また明日」
里志との会話は、俺にとって得るものがあった。
一つの可能性が……できれば外れて欲しい物ではあるが。
悩んでいても仕方ない、俺にこれは……解決できるのだろうか? 答えは、出そうに無かった。
しかしだ、可能性がゼロでは無い限り……やってみる価値はあるかもしれない。
それは省エネとは程遠い、成功する訳でも無いし、俺の予想が当たっているとも言えない。 だけどこれは、やらなくてはいけないことの様な気がした。
季節は夏、時刻は19時、場所は家のリビング……俺は、折木奉太郎は、決意を固めた。
ドアをいつも通り開けると、全員が揃っていた。
里志「相変わらず来るのが遅いね、ホータローは」
える「こんにちは、折木さん」
ここまでは普通、悪く言えば予想通り。 しかし一つ誤算があった。
摩耶花「……話してよね、昨日の事」
しまった、伊原の事を忘れていた。 非常にまずいぞ……
どうする? 諦めて話すか?
論外だ、他に方法は……
摩耶花「ちょっと、折木聞いてる?」
千反田と里志がいかにも気まずそうな顔をしている、一番気まずいのは俺だというのに。
あまり人に罪を被せるのは好きではないが……仕方ないか。
奉太郎「……犯人は、C組の奴だった」
あれだけの事を少し前にしたんだ、多少は目を瞑ってもらうしかない。
摩耶花「……また、あいつか」
摩耶花「私ちょっと行って来る!!」
える「ま、待ってください! 摩耶花さん」
俺や里志が止めていたら、間違いなく振り切られていただろう。 その点、千反田が声を掛け静止させたのは正解だったかもしれない。
しかし、ここからどう切り返すか。 当の千反田もその後の言葉が続いていない。 伊原が痺れを切らすのも時間の問題だ。
奉太郎「……あいつには、昨日きつく言っておいた」
奉太郎「……千反田がな」
すまん、千反田。 許してくれ。
伊原が疑うのも無理はない、千反田は人を厳しく罵る等の事を全くしない。 少なくとも俺は一度も見たことが無い。
奉太郎「ああ、とても口には出来ない言葉を使っていた」
える「……」
千反田の視線がちょっと怖い、後で呪われないか少し心配になる。
摩耶花「……そう、ちーちゃんが……」
奉太郎「そうだ、C組の奴もかなりショックを受けていた。 もう関わっては来ないだろう」
奉太郎「俺ももし言われたとしたら、立ち直れそうに無い……そのくらい酷かった」
える「……」
やめてくれ、そんな視線を向けないでくれ。 悪いのはそう、伊原だ。 伊原が気にしなければこんな事にはならなかったんだ。 だから俺は悪くない。
と必死で心の中で言い訳をするが、千反田には通じていない様子だった。
摩耶花「……うん、分かった。 でも、ちーちゃんがそこまで言うなんて……想像できないな」
そりゃそうだ、俺も想像できない。
里志「まあ、さ。 皆無事だったし、結果オーライだよ」
里志「って事で文集について話し合おうよ! 当初の目的はそれだった訳だしね」
える「え、ええ。 そうですね」
里志のナイスフォローもあり、この場はどうやら収まった。 しかし千反田から放たれている正体不明の圧力は俺に圧し掛かっていた。
……とりあえず、後で謝ろう。
摩耶花「おっけー、気持ち切り替えていこ!」
伊原もどうやら納得した様子だ。 それならばそれに乗るしかない。
伊原の発言で、文集についての会議が始まる。 あれをこうしたらいいとか、内容の順番はこうしたらいいとか。
俺は合間合間で「ああ」とか「それがいいな」とか適当に口を挟むだけだったが。
そして、珍しくこの会議をいつまでも続けていたいと願っていた。 これが終われば勿論帰る事になるだろう。
伊原と里志は付き合っている、それは周知の事実である。 つまりは一緒に帰るのが普通……いつも通りだ。
となると、残るのは俺と千反田。 俺は今更になって先ほど伊原にした言い訳を後悔し始めている。
……手遅れだが。
嫌な事を待つ時間という物は、とても早く過ぎ去ってしまう。
以前里志と会話をした時は楽しい事はすぐに終わる……みたいな事を言っていた気がしたが、それに一つ付け加えたい。
回避したい事を待つ時間は、すぐに来る。 という事を。
そんな訳で今は千反田と二人で歩いている。 無言で。
奉太郎(気まずいな……)
何か話そう、とりあえずは。
奉太郎「その、悪かった」
える「……酷いです、折木さん」
奉太郎「すまん、あれしか思いつかなくて」
える「でも、あそこまで言う必要も無かったと思います!」
それは確かに、その通り。 現に俺は少しだけあの状況を楽しんでいたのだから。
える「折木さん、少しだけ楽しんでいましたよね」
奉太郎「い、いや……そんな事はない」
傍目から見たら俺はさぞかし怪しかった事だろう。 苦笑いをしながら顔を千反田とは反対側に動かしていたから更に怪しい。
える「……やっぱり、楽しんでいたんですね」
奉太郎「……少し、少しだけ」
える「折木さん、私はこれでも知り合いが多くいます」
突然何を言っているんだ? と思った。 会話の繋がりが俺には全く分からなかった。
える「……折木さんは人の悪口を言うのが大好きな人です」
える「……折木さんは人使いがとても荒い人です」
える「……折木さんは人の事を貶めるのが楽しくてたまらない人です」
える「私も少し……楽しめるかもしれません」
まさか千反田も本気で言ってる訳ではないだろうが……そうだよな? 本気ではないよな?
でもとりあえずは、なんとかせねば。 俺はゆったりと暮らして行きたい。
奉太郎「……すいませんでした」
える「……嘘ですよ、冗談です」
える「折木さんには感謝しています、そんな事はとても出来ません」
良かった、やはり本気では無かった。
える「ですが、私も恥ずかしいので……あまり、言わないでくださいね」
奉太郎「あ、ああ。 分かった」
こうして普通に話していると、千反田が何に悩んでいるのかなんて全く分からなくなってくる。 とても悩みがありそうには見えない。
少しだけ……聞いてみるか。
奉太郎「その、昨日言っていた理由なんだが」
千反田は動じることも無く、俺の話しに耳を傾けていた。
奉太郎「……いつ頃になりそうだ?」
える「話せる時、の事ですね」
える「遅くても……3年生になる前に、早くても今年の終わりくらいには」
予想以上に、時間はある様だ。
奉太郎「……そうか、分かった」
俺は一つ、里志との会話から抱いていた疑問に答えを得た。
千反田はあの時一つ嘘を付いていた。 単純に考えてしまえば別にどうでもない嘘である。
しかし、俺には引っかかる事がある……それは。
里志と千反田の会話、最後に千反田が言った言葉だ。
里志の記憶が正しければ千反田は最後にこう言った。
「あまり、時間もありません」と。 それはどういう事か?
最初は俺が戻るまで時間が無いと言っているのだと思った。 しかしそれは違う。
里志が来る時間を入れても4分、この時点で最低でも俺が戻るまで6分の時間があった。
その状況で、あまり時間が無いと言うであろうか? 答えは否。
つまり千反田が言った言葉は、その状況から出た言葉では無い。
それはもっと大きな、いわばタイムリミット……
先ほど千反田が言った話せる時までの時間、それまでの時間があまり無い、と言う事なのだろう。
そしてその話せる時が来る時に、千反田の身に何かが起こる。 それが俺の出した答えだった。
だが、今の俺にはどうしようもない。 千反田の悩みが何かなんて皆目検討も付かない。
けど俺にとって有利な事はある。 予想以上にあった時間だ。
その時までに、俺は答えを見つければいい。 千反田に対する答えを。
今はまだ夏、冬とは程遠い。 セミの鳴き声がやかましい程だ。
しかし、懸念しなければいけない事もある。
時間が流れるのは俺の予想以上に、早いという事だ。
第15話
おわり
日にちは7月30日、丁度夏休みに入ってちょっと経ったくらいだ。
そして俺は今、神山市の郊外にある神社に来ている。
月は頭上からは少し外れており、神社の奥からこちらを照らしている。
その神社というのもただの神社では無い、倒産してしまった神社である。
これは里志に聞いた話なのだが、最初は神社が倒産? そんな馬鹿な事がある物か。 と思っていた。
しかしどうやら、神社は倒産する物らしい。 現に俺が今いるこの神社は倒産しているのだから。
勿論入るのには許可が必要だと思う。 だが里志に言わせれば「問題ないよ、ばれなければね」だそうだ。 間違ってはいないかもしれない。
そして何故、ここに俺が居るのか? ちなみに一人では無い、横にはもう一人居る。
正確に言えば、神社の入り口にはもう二人程居る。
この状況を説明するには少し、記憶を掘り返さなければならない。
一週間ほど前だっただろうか? 夏休み前の最終登校日だったのは覚えている。
~古典部~
普通、一学期の終業式が終わってしまえばそのまま家に帰る者や、友達と遊びに行く者が大多数だろう。
だが、この部活動が活発な神山高校では家に帰れば夏休みだというのに未だに残って部活動に励む者の方が多い。
それに対し俺は「頑張れ」とか「お疲れ様」等とは思わない、なんせ俺もその励む者の中の一人なのである。
そんな事を考えながら小説のページを捲る、やはり頑張れくらいは思った方がいいかもしれない。
奉太郎「……」
周りが静かなら、それは心地よい物なのだろうが……生憎先ほどから3人ばかし、何やら盛り上がっている様子だ。
「静かにしてくれ」と言いたいが、俺もそこまで傲慢ではない。
里志「それでさ、丁度夏休みに入ることだし……行ってみない?」
摩耶花「ええ……ちょっと嫌だな……」
える「でも……ちょっと、気になるかもしれないです」
その言葉のせいで小説に集中するのもできず、顔を里志達の方に向ける。
奉太郎「……何の話だ?」
里志「お、ホータローが食いついてくるとは思わなかったかな」
摩耶花「と言うか……話聞いてなかったの?」
奉太郎「いや、聞いてはいた。 覚えていないだけで」
軽い冗談のつもりだったが、伊原の目つきを悪くさせるには十分だった様だ。
里志「30日辺りにね、やろうと思っているんだ」
奉太郎「何を?」
里志「肝試し」
自分で言って、あそこは中々肝試しに向いているかもしれないと思う。 夜は真っ暗になるし、何より広い。
える「酷いですよ折木さん、私の家にはお化けなんて出ません!」
奉太郎「じゃあ伊原の家か」
摩耶花「折木の家でいいんじゃない? 怠け者のお化けとか出そう」
これは失敗、伊原を突くとどうにも手痛いしっぺ返しを食らってしまう。
里志「冗談も程々にさ、うってつけの場所があるんだよ」
里志「随分前に倒産した神社があるんだけど、最近では誰も寄らなくなってるんだ」
里志「そこなら丁度いいと思うんだけど、どうかな」
それはまた……つまりは廃墟、という事か。
しかしそれは千反田が納得するのか? そういうのは厳しそうなイメージがあるのだが。
える「そうですね、本当にお化けが出るのか気になります」
奉太郎「いいのか? 千反田はそういうのはしないと思ったんだが」
える「ええ、倒産してしまった神社なら問題は無いです」
さいで。
摩耶花「み、皆で行くならいいかな……」
える「私も、30日ならば大丈夫です」
奉太郎「……今回は断っていいのか」
里志「いや、駄目だね」
奉太郎(なら何故確認するんだ……)
里志「じゃ、全員参加って事で」
里志「ああ、それと」
里志はそう言うと、巾着袋から割り箸を4本取り出した。
里志「二人一組で一周しよう。 そっちの方が盛り上がる」
その為の割り箸か、準備がいい奴だな。 この状況にならなかった時、里志はどんな顔をして割り箸を取り出すのか少し興味があるが。
いや、もしかすると取り出さずに持ち帰って一人でくじ引きをするかもしれない。 寂しい奴だ。
える「楽しそうですね、やりましょう!」
伊原はやはり、こういうのが苦手なのかもしれない。
それにしてもくじ引きか……
心の中でしか言えないが、順位をつけるとしたら1位が千反田。 次に里志。 はずれは伊原。 心の中では遠慮は必要無い筈だ。
奉太郎「よし、引くか」
とても口にしたらただでは済まない事を思いながら、俺はくじ引きに挑む。
里志「皆掴んだね。 せーの!」
全員が割り箸を引き抜く、俺の割り箸には……
奉太郎「赤い印が付いているな」
里志「僕のは無印だね、という事はホータローとは一緒に周れない」
今更思うが、男二人で肝試しはちょっと嫌だ。 なのでこれはこれで良かったのかもしれない。
える「私は無印です、福部さんと一緒ですね」
つまり?
摩耶花「……」
奉太郎「良かったな、一緒に周れるぞ」
俺がそう言うと、伊原は持っていた割り箸を真っ二つに折った。
~~~
奉太郎「……はぁ」
摩耶花「悪かったわね、私で」
奉太郎「いやこっちこそ、俺で悪かった」
摩耶花「……ふん」
全く、もう1/3程は周っているのに会話は今のが最初だ。
特に何事も無く周る。 そして丁度裏手に周った時、道が無い事に気付いた。 裏には山がそびえ立っており、木で埋め尽くされている。
奉太郎「ん、通れないぞ……これ」
摩耶花「ええ? ふくちゃんはちゃんと下調べはしたって言ってたんだけどな……」
奉太郎「ふむ、ってことは」
奉太郎「この神社の中を通れって事か」
摩耶花「確かに廊下はあるけど……屋根は無いし、大丈夫なのかな」
奉太郎「下調べは済んでいるんだろう? なら大丈夫だろ」
摩耶花「そ、そうね。 行こう」
と言いつつ、伊原は先に行こうとはしない。 目で俺に「行け」と合図はしている。
それに逆らっても良い事なんてのは無い、仕方なく伊原の指示に従うことにした。
床はとても弱そうで、ギシギシと木が軋んでいるのが伝わってくる。
それに加え、所々穴が開いている。 本当に里志は下調べをしたのだろうか?
最初の一歩を踏み出したときは少し穴に足を取られてしまった。 しっかりチェックはしてもらいたい物だ。
摩耶花「ちょ、ちょっと折木」
奉太郎「ん、なんだ」
摩耶花「……手、繋いで」
俺は一瞬自分の耳はついにおかしくなってしまったのかと思った。 それを確認する為に再度聞く。
奉太郎「え? なんて言った今」
やはり俺の耳はおかしくなってしまったのか。 お化けが出るより余程怖い。
そんな事を考え、ぼーっとしている俺の手を伊原が掴む。
摩耶花「……歩き、にくいから」
奉太郎「……そうか、まあいいが」
良かった、俺の耳はおかしくなんてなってなかった。
伊原と手を繋ぎ、ゆっくりと廊下を進む。 しかし暗くて下がよく見えない。
足を先に出し、ここは大丈夫か確認しながら進む。
そんな事をしばらくしている間に廊下の終わりが見えてきた。
砂利の地面に足を付けると、伊原はすぐに手を離す。
摩耶花「……行こ、もうすぐでしょ」
奉太郎「ああ、そうだな」
なんとも……何も無い肝試しであった。 強いて言えば伊原と手を繋いだ事くらいか。 確かにこれは貴重な体験である。
そして神社の階段を降り、下で待つ里志と千反田の元に到着した。
える「どうでした? 何か出ました?」
奉太郎「いや、なんにも出なかったぞ」
奉太郎「それより里志、ここは下調べしたのか?」
里志「勿論さ、裏に廊下があっただろう?」
奉太郎「あるにはあったが、穴は開いているし暗くて床は見えないしで危なかったんだが……」
里志「あれ? おかしいなぁ……穴は開いてなかったと思ったんだけど」
里志「まあ、僕達は灯りを持っていくよ。 念のためにね」
……俺たちにも灯りくらい寄越せ。
里志「じゃ、行って来るね」
える「行ってきます! また後ほど」
そう言い、里志と千反田は出発して行った。
摩耶花「……さっきはありがとね」
奉太郎「ん? 何の事だ」
摩耶花「手、繋いでくれたこと」
奉太郎「ああ、別に構わんさ」
摩耶花「……そっか」
しばらくの沈黙、そして再び伊原が口を開く。
摩耶花「折木ってさ」
摩耶花「ちーちゃんと私に対する態度、違うよね」
奉太郎「……一緒だと思うが」
摩耶花「それ……本気で言ってるの?」
摩耶花「仮にさ、ちーちゃんが手を繋いでくれって言ったらどう思う?」
奉太郎(千反田が手を繋いでと言ったら、か)
奉太郎「いや、まあ……繋ぐ、かな」
摩耶花「……やっぱり違う」
そうなのだろうか? 確かに、千反田に言われたら少し恥ずかしいかもしれない。
ああ、そういう事か。
摩耶花「それでさ」
摩耶花「何か進展はあった? ちーちゃんと」
あると言えばある、無いと言えば無い。 どちらにでも当てはまる物だと思う。
奉太郎「さあな、俺にもわからん」
摩耶花「……ふうん」
奉太郎「……どうして急に?」
摩耶花「……最近、折木とちーちゃん前より仲が良さそうに見えたから」
摩耶花「何か進展あったのかな、って思っただけ」
奉太郎「……そうか」
俺としては、前とは何も変わらず千反田との距離はあるつもりだった。
しかし伊原が言うからには、そうなっているのかもしれない。
摩耶花「応援、してるから」
奉太郎「応援? 何を?」
摩耶花「……折木の事」
奉太郎「てっきり逆かと思っていた」
摩耶花「そんな訳ないでしょ、正直に言うと」
摩耶花「ちーちゃんと折木、お似合いだと思ってるんだ」
奉太郎「……」
第三者から言われると、ちょっと恥ずかしい。
奉太郎「それは、どうも」
奉太郎「……ありがとな」
摩耶花「……くっ……あはは」
何を急に笑っているんだ、こいつは。
摩耶花「ご、ごめんごめん」
摩耶花「折木が素直にお礼を言うのが面白くって」
俺はそこまで礼儀を軽んじていただろうか? やはり伊原は何か悪霊に……
摩耶花「……あんた、なんか失礼な事考えてない?」
いや、取り憑かれていなかった。 いつもの伊原だ。
奉太郎「い、いや」
これから伊原になんと言われるか、どうしようかと思っていた所に里志達が戻ってくる。
里志「たっだいまー」
える「戻りました……」
意外と早かったな、月は丁度頭上まで動いてきている。 そこまで時間は経っていないだろう。
そして千反田が何故か元気が無い、何かあったのだろうか?
奉太郎「元気が無いな、何かあったのか?」
える「いえ、何もありませんでした……」
それで元気が無かったのか、分かり辛い。
奉太郎「ん? どうした」
里志「嘘は良くないな、ジョークならまだしも嘘は良くない」
奉太郎「……言っている意味がわからんのだが」
える「確かに廊下はあったんですが、穴なんて開いてなかったですよ?」
摩耶花「え? 嘘だ、開いてたよ?」
奉太郎「俺も確かに見たぞ、だから慎重に進んだんだ」
里志「……それは妙だね、違うルートでも通ったのかな?」
奉太郎「ま、そうだろうな」
える「……確認しに行きましょう!」
摩耶花「うん、気になる」
おいおい、またこの階段を上れと言うのか。 冗談じゃないぞ。
里志「……そうだね、確認すれば終わる事だよ」
奉太郎「……分かった、行くか」
毎度毎度このパターンだ。 結局は強制されてしまう、断るのもできるが省エネにはならないだろう。 千反田がいる限り。
そして俺達4人は再び階段を上る。
里志「僕達が通ったのはこの廊下だけど……ホータロー達は?」
奉太郎「俺達が通ったのもこの廊下だ、なあ伊原?」
摩耶花「うん、この廊下だよ」
里志がその廊下を灯りで照らす。
える「ほら、穴なんてありませんよ?」
千反田がそう言い、俺と伊原で廊下を覗き込む。 そこには確かに穴は……開いていなかった。
摩耶花「……うそ、なんで……?」
奉太郎「……本当だ、確かに穴なんて開いていないな」
里志「ってことは……考えられるのは一つだね」
える「な、なんでしょうか!? 気になります!!」
いつになく千反田のテンションが高い。 夜中と言うものは人のテンションを上げるらしい。
里志「つまり……ホータロー達はどこか異次元に行っていたんだよ!!」
摩耶花「い、いやあああああああ!!」
伊原はそう叫ぶと、しゃがみ込んでしまう。 俺には異次元へ行った事よりその叫び声が怖かった。
里志「あはは、ジョークだよ」
里志「でもさ、可能性も無くはないよね?」
奉太郎「まあ、少し妙ではあるな」
える「折木さん、私……気になります!」
まあ、ここまで来たんだ。 別にいいか。
奉太郎「……分かったよ、考えよう」
と言う訳で考える事となったのだが、大体の見当は既に付いている。
奉太郎「里志、一度灯りを消してくれないか」
里志「灯りを? 分かった」
里志が灯りを消すと、辺りは真っ暗となる。
かろうじで……月の光によって俺達の影は見える。
奉太郎「原因はこれだな。 温泉に行ったときに見た首吊りと似たような物だ」
える「でも、ですね」
える「この廊下には天井なんてありません。 一体どんな影が穴を見せたのですか?」
千反田の言葉を聞き、俺は近くに落ちている葉っぱを一枚拾った。
それを廊下の方に手を伸ばし、かざす。
奉太郎「これだ、この神社の裏は山となっている」
奉太郎「俺と伊原が通ったときは丁度山から月が見えていた」
奉太郎「そして、その木の葉っぱが穴を見せていたって所だな」
える「……なるほど、それで私達が行ったときは穴が無かったんですね」
里志「僕達の時は光源もあったしね、それが余計に影を消したのかも」
奉太郎「ま、実際はこんなもんさ……異次元とか馬鹿な事を行ってないでそろそろ帰るぞ」
里志「ま、摩耶花ー。 帰るよ?」
摩耶花「……ふくちゃんの、ばか」
これはどうやら、里志は埋め合わせをしなくてはいけなくなりそうだ。 穴だけに。
そんなつまらない事を考えながら、前を行く里志と伊原の後に続く。
える「やはり、なんでも分かっちゃうんですね。 折木さんには」
奉太郎「何でもって訳でもないさ、分からない事だってある」
える「……そうですか。 あの」
える「手、繋ぎましょうか」
奉太郎「あ、ああ。 ほら」
俺と千反田は、里志達には見えないように……そっと手を繋いだ。
奉太郎(確かに、伊原とだった場合……接し方は変わるな)
奉太郎(どうにもこれは……心臓に悪い)
そして俺は一つの事を思い出す。
廊下を歩いたときに、最初は確かに穴につまづいた。
あれは……何だったのだろうか?
第16話
おわり
姉貴に顔をぺちぺちと叩かれ、目が覚める。
奉太郎「……どこ、って……」
頭の回転はまだ良くない、姉貴の言葉をゆっくりと飲み込む。
昨日は確か、里志の発案で肝試しに行った。
その後に千反田を家まで送って行った、歩きながら寝そうなくらい眠そうな千反田を。
そして俺が家に着いたときには1時を回っていた気がする。
そのまま俺はソファーに横になって……そうか。
奉太郎「……あのまま寝ていたか」
供恵「昨日は夜遅かったみたいね、何をしていたの?」
奉太郎「別に、里志と遊んでいただけだ」
供恵「奉太郎が不良になっちゃうなんて……お姉さん悲しいなー」
供恵「もうあんたに構ってあげられないなんて……」
供恵「あら、ごめんなさい」
そう言うとようやく姉貴は俺の顔を叩く手の動きを止めた。
奉太郎「……ふぁぁ」
でかいあくびをしながら起き上がる、ソファーにしてはよく寝れた方だろう。
供恵「そんなあんたに朗報ー」
奉太郎「なんだ」
姉貴がこう言う時は、大していい事でもない……むしろその逆の方が多いと思う。
供恵「これ、映画のチケットなんだけどね」
供恵「2枚あるからあげる」
そう言い、チケットを渡される。
奉太郎「ほう、中々気が利くな」
供恵「照れるなぁ。 有効期限明日までだけどね」
奉太郎「おい」
それに加え、生憎外は雨模様。 今日は外に出る気がしない。 ……いや、いつもか。
奉太郎(里志でも誘って明日、行くか)
そう思い、電話機を取る。 俺のモットーは思い立ったらすぐ行動なのだ。 嘘だが。
たまたま近くにあった電話機に感謝をしつつ、里志の携帯の番号を押す。
家でも良かったが、外出している可能性も考えると携帯に掛けた方が手短に済むという物だ。
珍しく30秒ほどかかっても里志には繋がらず、諦めかけた所で電話は繋がった。
奉太郎「ああ、忙しかったか?」
里志「いや、そういう訳じゃないんだけど」
摩耶花「……、………」
電話の奥から伊原の声が聞こえた、恐らく「折木って本当に空気が読めない」とか「タイミングが悪い奴」とか言ってるのだろう。
いや……決め付けは良くないな。
里志「ご、ごめんね。 摩耶花がホータローに怒ってる」
そうでもないか。
奉太郎「あー、そうか。 明日は空いているか?」
里志「明日もちょっと……ごめん」
奉太郎「分かった、それなら仕方ない」
奉太郎「頑張れよ」
里志「まあ、うん。 そうだね」
奉太郎「じゃ、また今度」
と言い、電話を切る。
その様子を見ていた姉貴が口を出してくる。
供恵「かわいそーに、お姉さんと一緒に行く?」
奉太郎「遠慮しておく」
供恵「それは残念、でもあんたの友達は里志君だけじゃないでしょ」
供恵「前に家に来た子、あの子でも誘ってみたら?」
奉太郎「……千反田か、ううむ」
別に気が進まないって訳ではない。 だが……あいつはどうにも休みの日は忙しそうだ。
奉太郎「ま、するだけしてみるか」
姉貴が後ろで嫌な笑い方をしているのが分かった。 何だというのだ、全く。
再び電話機を取り、千反田の家の番号を押す。 できれば携帯に掛けた方が無駄が無くていいのだが……あいつは携帯を持っていない。
2回ほどコール音が鳴ったところで、電話は繋がった。
奉太郎「千反田か、折木だ」
える「あ、折木さんですか。 どうされました?」
奉太郎「姉貴から映画のチケットを貰ったんだが、明日どうだ?」
それをどこで入手したか。 そして目的は何か。 それをする日はいつか。 これを完璧に一文で伝えた、省エネとはこういうことだ。
える「え、あ……明日、ですか」
奉太郎「あー、何か予定があるならいい。 すまなかったな」
える「い、いえ。 そういう訳ではないんです」
奉太郎「ん、じゃあどういう訳で?」
える「……折木さんから遊びの誘いがある事が、とても意外だったもので」
さいで。
奉太郎「……まあ、じゃあ明日行くか」
える「分かりました! 朝からにします?」
奉太郎「そうだな、夕方からは雨らしいからそうしよう」
える「では、明日の朝……一度、折木さんの家に伺いますね」
奉太郎「分かった、じゃあまた明日」
奉太郎「……なんだ、どうした」
える「え? 何もないですが……」
奉太郎「……そうか」
える「はい、ではまた明日」
……またしても。
奉太郎「何か用でもあるのか」
える「そういう訳では無いですが、折木さんが電話を切ると思ったので」
奉太郎「……俺はそっちから切ると思っていた」
える「……すいません、では切りますね」
奉太郎「ああ、またな」
奉太郎「あ、そうだ」
切れた。
何時に来るのか聞くのを忘れていた。 わざとでは無いが長引いて、結局は聞けなかったとはなんとも情けない話である。
後ろを振り向くと、姉貴は未だに嫌な笑いを俺に向けている。 余程、暇なのだろう。
とにかく、明日の予定は決まった。 それにしても俺から遊びに誘うのが意外だと言っていたが、そうだろうか?
里志はたまに遊びに誘う事もあるし、俺が今日は何処に行こう。 と決める事だって無かった訳では無い。
だが言われてみれば……千反田を誘った事は無かったかもしれない。 当たり前と言えば当たり前だが……
千反田がそう思ったのも、仕方ない事だ。
奉太郎「……さて、今日はゆっくりするか」
ま、特にする事も無い。 ましてや里志や伊原、千反田によって俺の休日の一日が消費される事も無い。
供恵「あー私ちょっと出るから、留守番よろしくね」
奉太郎「そうか、気をつけてな」
そう言いながらも姉貴は、既に家から出ていた。 その行動の早さだけは俺には真似できそうにない。
奉太郎「……ニュースでもチェックしよう」
特に他にする事もない。 小説を読む気分でも無かった俺は、情報収集という画期的な事を思いつく。
ゆっくりとパソコンの前まで移動し、電源を付けた。
起動までには少し掛かることを俺は知っている、その間にコーヒーでも淹れよう。
台所へ行き、コーヒーを淹れる。
パソコンの前に戻ると、既にデスクトップが映し出されていた。
しばらくの間、ニュースに目を通す。
やがてそれにも飽き、パソコンを落とそうとするが……落としたとして、何をしようか。
奉太郎「……そういえば、前に千反田がチャットをやっているとか言っていたな」
俺もそれは一度使ったことがある。 あの時はただ単に、千反田に事情を説明する為だった。
……少し、暇つぶしでもしよう。
チャットルームまで行くのにそこまで苦労はしない。 なんと言っても指を動かすだけだから。
やがてチャットルームの入り口が目に入る。
そのままチャットルームのロビーに入ると、何個か部屋があり、少し目を引く名前の部屋があった。
2013/7/31 11:04【気になります】
おい、なんだこれは。 千反田が作ったのだろうか? それにしても……もっとこう、入る人が目的は何なのか分かるように立てろ。
この部屋の名前が俺には気になって仕方ない。 しかし閲覧者として入るのも……気が引ける。
奉太郎「……入室してみるか」
名前を打つ。 前回は打ち間違えた結果、ハンドルネームが「ほうたる」となってしまった。 俺は同じ過ちを二度は繰り返さない。
丁寧に「ほうたろう」と打ち、それを変換。
「法田労」
どこかのお坊さんみたいな名前になってしまった。 しかし確定してしまったのを消すのは面倒だ。 同じ過ちでは無いし別にいいか。
そして入室をクリックする。
L:こんにちは
L:代わったお名前ですね
L:変わった、です
法田労:千反田か?
L:え?なんで解ったんですか?
L:分かった、です
法田労:いつも見ているからな、お前の事は
奉太郎(少し、暇つぶしにからかってみるか)
法田労:言葉通りだ。 たまに朝、昼はあまり見ていないが……放課後なんかはほとんど毎日見ている。
法田労:休みの日なんかも、たまに見ている
L:あの、すいません
L:まちがっていたら、ごめんなさい
L:ストーカーさんですか?
法田労:千反田がそう思えば、そうかもな
L:ふしぎな人ですね、それよりわたしの話、きいてくれますか?
法田労:構わないが、この部屋名だと人は余り寄ってこないと思う
L:それはすこし、思っていました
L:法田労さんが、初めてでしたから
法田労:まあ、そうだろうな
法田労:それで、気になるってのは何だ?
L:気になると言っても、ちょっとちがうかもしれません
L:じつは、ですね
L:明日、その
L:友達と映画にいくのですが、時間を決めるのを忘れてしまったんです
法田労:それで?
L:どうすればいいのか、おしえてください
奉太郎「……単純に電話をすればいいだけだろう」
奉太郎「しかしなんか、悪いことをしている気分だな」
奉太郎「言い出すタイミングも……失ってしまった」
奉太郎「……ま、いいか」
L:ええっとですね、そのお友達は、とても面倒くさがりな人でして
悪かったな……
L:いちど終わった話をまたしても、迷惑かとおもうんです
法田労:なるほど、面倒な友達だな、それは
L:ええ、そうなんです
こいつ、俺が聞いていないのを良い事に。
法田労:大体の時間も決めていないのか?
L:あ、それはきめています
L:朝に、そのお友達の家にうかがうことになっているんです
法田労:そうか、なら適当な時間に行けばいいんじゃないか?
法田労:あくまでも、迷惑ではない時間に
法田労:大体、そうだな……10時くらいなら迷惑ではないと思う
L:ありがとうございます、たすかりました
法田労:いいさ、暇だったしな
L:変わったストーカーさんですね、ふしぎなひとです
法田労:まあ、そうだな
L:あ、そうです
L:もうひとつ、聞いてもいいですか?
法田労:ああ、いいぞ
L:えっと、ですね
L:あした、お洒落して行こうとおもっているんです
L:あまり派手なのも、どうかとおもうんです
L:どのくらいが、いいんでしょうか?
チャットを打つ手が止まる、続ける言葉が思いつかない。
「別にしてこなくていいさ」と打ちそうになり、ある程度消した所で誤ってエンターを押してしまった。
L:別に、なんですか?
L:あれ、います?
法田労:ああ、すまない
法田労:別に、普通でいいんじゃないか?
法田労:いつも通りで、いいと思う
L:そうですか、ではそうする事にします
法田労:ああ、それがいい
L:やはり、ふしぎな人ですね
L:わたしは、法田労さんの正体が、少し気になります
L:そうなんですか、それなら仕方ないですね
法田労:ああ
そこで一度、チャットが止まる。
千反田もこれ以上聞きたい事は無いだろう。
とうとう最後まで言い出すことができなかったが……まあ、いいか。
法田労:それじゃ、俺は出る
L:はい、ありがとうございました
L:明日、楽しみにしていますね、おれきさん
L:あ
《Lさんが退室しました》
奉太郎(あいつ、分かっていたのか……)
まあ、良くは無いが……明日の時間を決められたのは悪く無い事だ。
しかし、千反田にまんまと騙された。 俺が騙していたと思ったが、騙されていたのは俺の方だった。
電話をしてやろうかと思ったが、そこまでしなくていいだろう。 どうせ明日会う事になる。
パソコンの前からソファーに移動する。
俺は倒れこむように、ソファーに横になった。
奉太郎「……あいつは将来、入須みたいになるのではないだろうか」
奉太郎「……やっぱり、納得いかん」
もっと早く、気付くべきだった。
そうすれば俺は今日失敗をせずに済んだだろう。
俺が確か「面倒な友達だな」 と言った時。
あいつは「ええ、そうなんです」 と言った。
俺の正体に気付いていないからあんな事を言ったのかと思ったが、その逆だろう。
千反田は俺に気付いていたから、敢えてそう言ったのだ。
いつもの千反田なら、あそこで同意は絶対にしない。 そう……絶対に。
違和感は今思い出すと他にもあった。
千反田は人を疑うことはあまりしない。 だがそれにも限度と言うものはあるだろう。
例えば見ず知らずの人間に「今日は学校、お昼からだよ」と言われても、確認くらいはするだろう。
それを今日の千反田はしなかった。 俺という見ず知らずの人間に言われているのにも関わらず。
今日初めて会った人間をそこまで信用するのも、千反田は絶対にしないだろう。
その点C組の奴は案外うまい事、千反田をはめる事ができたのかもしれない。
それらを思い出すと、やはり気付ける要素はあったのだ。 俺が千反田は気付いていないと思い込みさえしなければ。
まあそんな失敗に頭を悩ませても仕方がない。
明日は映画を見に行く事になっている、昼寝でもして体力を温存しておかなければ。
そう理由をこじ付け、俺はソファーに横になりながら瞼を閉じる。
外から聞こえてくる雨音は、俺に眠りをもたらすには十分だった。
第17話
おわり
窓から差し込んできた日差しによって、目が覚める。
時計に目をやると、今は9時を少し回った所だった。
奉太郎(……なんだか、目覚めがいいな)
多分、昨日は早く寝ていた事もあり俺にしては随分とすっきりした気分で起きれたのかもしれない。
俺は今日、映画を見に行くことになっていた。 千反田が家に来るのは確か11時……それまである程度は時間がある様だ。
そのまま起き上がると、俺はリビングへ向かう。
姉貴はまだ……起きていない様だった。
早々に、着替えを済ませてしまおう。 その後にゆっくりしていればいい。
一度リビングから離れ、身支度を済ませる。
再びリビングに戻り、パンを一枚食べた後にコーヒーを淹れる。
そのまま新聞を手に取り、内容を頭に適当に流し込む。
奉太郎(こうして俺は年を取って行くのか)
等と、少々悲しい現実を思いながら約束の時間まで過ごした。
そう思ったのを狙ったかの様に、インターホンが鳴った。
奉太郎(10分前行動とは、俺も見習いたい物だ)
インターホンに出る必要は……ないか。 千反田以外に、この時間来客は無い。
そのまま玄関に行き、靴を履く。
ゆっくりとドアを開けると、やはりそこには千反田が居た。
奉太郎「……おはよう」
える「折木さん、おはようございます」
夏の日差しが丁度良く千反田を照らしていて、ワンピースがとても似合っている。
俺に笑顔を向ける千反田に……少し、見とれてしまった。
える「あの、折木さん?」
気付くと千反田は俺のすぐ目の前まで来ていて、いつもの顔の近さにハッとする。
奉太郎「あ、ああ」
奉太郎「……すまん、まだ寝ぼけているかもしれない」
そう言い訳をすると、千反田は俺の顔を覗き込みながら言った。
える「もう、駄目ですよ。 昨日決めたじゃないですか」
……ああ、チャットの事か。
奉太郎「悪いな、面倒くさい奴で」
える「ふふ、折木さんが自分の事を話さないので、ちょっと嘘ついちゃいました」
その事をすぐに嘘という辺り、やはり千反田はそんな事を本気で思っている訳ではないだろう。
奉太郎「じゃ、行くか」
える「はい、歩いて行きますよね?」
奉太郎「ああ、そんな遠くないしな」
そして俺と千反田は映画館に向かい、歩き始める。
奉太郎「そういえば」
える「なんでしょう?」
奉太郎「……服、似合ってるな」
える「あ、は、はい。 ……ありがとうございます」
千反田は顔を少しだけ赤くし、そう言った。
俺も少し、顔が熱いのに気付いていたが。
そこまで混雑はしていない様子だった。 むしろ映画館にしては人が少ない方だと思う。
受付に行く前に、俺は持ってきていたチケットを2枚取り出す。
奉太郎「千反田、チケットだ」
える「はい、ありがとうございます」
チケットを渡し、受付を済ませようとする俺の肩を千反田に掴まれる。
奉太郎「ん? どうした」
える「あ、あの……折木さん」
える「このチケットって、その、しっかり読みました?」
しっかり読んだ? 軽く目を流して読んだには読んだが、しっかりとは呼べないか。
奉太郎「軽く目を通しただけだが……何かあったか」
える「い、いえ。 あの、ちょっと……ですね」
える「……チケット、読んでみてください」
仕方ない、見れば何か分かるか。
そして俺は、チケットに目を落とす。
【カップル様限定、映画ご招待】
やはり、やはりやはりやはり。 姉貴が持ってきたものにはろくな物が無い。 くそ姉貴め!
しかしいくら悪態をついてもこの状況は変わらない。 ……もう映画館に来てしまっているのだから。
未だに顔を背けている千反田に向け、言う。
奉太郎「……俺のミスだ、謝る」
える「あ、い、いえ」
千反田は俺の方に向き直り、右手で左腕を掴みながら続ける。
える「……別に、カップルだと思われるのは嫌では無い、です」
える「その、でも……ちょっと恥ずかしくて」
そんな事を言われてしまい、なんだか逆に恥ずかしくなってきてしまった。
奉太郎「……ま、まあ。 行くか」
える「は、はい。 そうですね、行きましょう」
ぎこちない会話をしながら受付へと向かう。
受付に居た人にチケットを2枚渡し、代わりに入場券を貰った。
受付の人が俺たちに向けニコッと笑いを向けたが、悪いのはこの人じゃない、姉貴だ。 恨むのなら姉貴を恨むべき。 そんな事を思いつつ、一応は愛想笑いを返す。
その後は上映まで少し時間があったので、近くにあった椅子に千反田と共に腰を掛けた。
える「そういえば、ちょっと気になったんですが」
奉太郎「ん、なんだ」
える「どうして折木さんは映画に行こうと思ったんですか?」
奉太郎「どうしてって言われてもな……他にする事も無かったから」
奉太郎「……その笑いが若干気になるな」
える「なんでもないですよ、気にしないでください」
奉太郎「いつも自分だけ気になると言って置いて、俺には気にするなと言うのか」
える「じゃあ、聞いてもいいですよ。 気になりますって」
奉太郎「……言わないからな」
える「……そうですか、少し残念です」
奉太郎「……はあ」
奉太郎「分かったよ、言えばいいんだろ」
える「ほんとですか。 是非お願いします!」
奉太郎「……私、気になります」
自分で言うのもなんだが、かなりやる気の無い気になりますだったと思う。 それに加え棒読み。
千反田はそう言うと、右手で前髪を触る。
奉太郎「……何をしている?」
える「……折木さんの真似です」
える「折木さんが考えるときって、いつもこうしているので」
そうなのだろうか? 自分では記憶にはあまり無い。
奉太郎「そうなのか、知らなかった」
える「いつもやっていますよ? ですので私も」
奉太郎「……それで、何か分かったか」
える「ええ、分かりました!」
奉太郎「その心は」
える「なんだかこうしていたら、面倒くさくなってきてしまいました」
える「え、だめですよ。 ちゃんと気になってください」
奉太郎「……なんでそこまで気にしなければいけないんだ」
える「今は私が折木さんの真似をしているので、折木さんは私の真似をしなきゃだめなんです」
奉太郎「千反田の真似……か」
奉太郎「ええっと、そうだな」
奉太郎「ちたんださん、かんがえてください、いっしょにかんがえましょう」
える「あの、私はもっと元気が良いと思いますけど……」
奉太郎「そうか? 周りから見たらこんな感じだぞ」
える「え? そうなんですか?」
奉太郎「ああ」
える「……もうちょっと、愛想を良くしないといけませんね」
奉太郎「……」
える「……」
える「え、じゃあ私は元気良いですか?」
奉太郎「ああ、さっきの10倍程には」
える「それは良かったです……どうしようかと思いました」
奉太郎「それも冗談だと言ったら?」
える「おーれーきーさーん! もう冗談はやめてください!」
奉太郎「分かったよ、それで話の続きをしよう」
奉太郎「ええっと、なんだっけか」
える「私が笑った事についてですね」
奉太郎「そうだった……ってまだ俺の真似をするのか」
える「はい、こうして折木さんが考える時の真似をしていると何か浮かんで来そうなんです」
奉太郎「ふむ、そうか」
える「あ、そういえばそうでしたね」
える「では、お話しましょう」
える「つまりですね、私が笑ったのは」
える「折木さんが自主的に動くと言うのが、面白かったんです」
……さいで。
奉太郎「……言っとくがな、そこまで俺は動かない訳ではないぞ」
える「……そうなんですか?」
奉太郎「そうだ。 俺だって動くときはある」
える「例えば、どんな時でしょうか」
奉太郎「……そうだな、例えば」
奉太郎「今この時だ。 俺が自主的に映画館に行こうと言った」
える「無かったんじゃないですか」
える「私の、勝ちですね」
何を持って勝ちとするのかは不明だが、そういう事にしておこう。
奉太郎「ああ、千反田の勝ちだ。 すまなかった」
える「えへへ」
俺に勝ったのがそんな嬉しいのかと思うほど、千反田は気分が良さそうにしている。
奉太郎「そこまで嬉しいのか、俺に勝てて」
える「勿論です! いつも折木さん頼みでしたので」
奉太郎「ま、千反田がそれでいいならいいか」
える「その言い方ですと、折木さんに勝ちを譲ってもらったみたいで納得できません」
奉太郎「……どういう言い方ならいいんだ」
える「さすがは折木さんです! ありがとうございます」
える「こんな感じでお願いします」
奉太郎「そうか」
える「では、どうぞ」
奉太郎「……ん、それ言わないと駄目なのか?」
える「駄目ですよ」
奉太郎「……さすがはちたんださんです、ありがとうございます」
える「やっぱり折木さんの言い方だと納得できません……」
奉太郎「じゃあやらせるな、それより」
奉太郎「そろそろ時間じゃないか?」
える「あ、そうですね。 行きましょうか」
そして、俺達は向かう。 何が上映するのか未だに知らない映画を見に。
そう、知らなかったのだ。 映画の内容が何かを。
しかし……姉貴がそんなロマンチックな物を用意している訳が無かった。
映画のタイトルは
「農家よ、今こそ立ち上がれ」
千反田はそのタイトルを見ると、とても嬉しそうにしていた。
何かの参考になるのだろう。 なんの参考になるのか知らないが。
俺は映画が始まってから5分ほどで、眠くなってきた。
……それにしてもこの映画、観客が驚くほど少ない。
俺と千反田は真ん中くらいに座っていたのだが、その列には他に客は居なかった。
少し顔を上げると前の方に人影が見えることから、数人は客が居るのだろう。
恐らく多分……居ても10人ほど。 勿論俺達を含めて。
映画の内容は田を耕す人々や、現在の農家の在り方。 誰が楽しくて見るのだろうか?
える「……折木さん、すごいですね」
少なくとも一人は居た。 良かったな監督。
俺は非常に寝たかった、しかしそれを隣に座っているこいつは許してくれない。
見る人が見れば盛り上がるのかもしれない場面で、小声で俺に話しかけてくるからだ。
俺はそれに「ああ」とか「うん」とか「ほう」とか適当に返しているのだが、当の千反田は全く気にしていない。
そして2時間程その苦行をこなし、ようやく映画が終わる。
千反田は終始楽しんでいた様子で、良かった良かった……
える「面白かったですね、折木さん」
奉太郎「ん、ああ……そうだな」
える「……本当ですか? とても眠そうにしていましたが」
気付いていたのか、ならなぜ話しかけた。
奉太郎「正直な、眠かった」
奉太郎「……気付いていたなら寝かせてくれ」
える「確かに、何も知らない人が見たら退屈な映画だったかもしれませんね」
える「でも少し……折木さんにも興味を持って欲しかったです」
興味、ねえ。 まあ人生何があるか分からないしな。 万が一にでも興味が向いてしまう可能性が無きにしも非ず。
奉太郎「……興味が向けば楽しくはなるのかもしれないな」
える「ええ、そうですね」
奉太郎「丁度昼くらいか」
える「丁度お昼くらいですね」
千反田と同時に言い、つい顔を見合わせる。
奉太郎「……何か飯でも食っていくか」
える「あ、それなんですけど」
える「私のと折木さんのお弁当、作ってきちゃいました」
奉太郎「おお、本当か」
千反田の料理の腕は前に食べたことがあったので知っている。 これはとても嬉しい。
える「はい、どこか公園で食べましょう」
奉太郎「分かった」
タイミング良く、近くにあった公園に俺と千反田は入る。
ベンチに腰掛けると、千反田はカバンから弁当箱を二つ取り出した。
奉太郎「そうか、ありがとう」
そう言い、千反田が両手に持っている弁当箱を右手と左手に分けて掴んだ。
える「……あの」
奉太郎「……冗談だ」
千反田から右手に持っていた弁当箱を貰う。
える「少し、驚きました」
奉太郎「俺が大食いだったことか?」
える「……折木さんがそんな冗談をした事に、です」
奉太郎「ああ、俺には人を笑わせる事は向いていないかもな」
える「あ、そんな事はないですよ。 とても面白かったです」
やめてくれ、そんな目だけ笑っていない笑顔を向けられては惨めな気分になってしまう。
奉太郎「あ、ああ……そうか」
俺にはとても名前が分からない食べ物が、野菜を中心に入っていた。
奉太郎「うまそうだな」
える「ふふ、そう言って貰えると嬉しいです」
える「新鮮な野菜等を使っているので、とてもおいしいと思いますよ」
える「お肉とかも入れたかったのですが、時間があまりなくて……すいません」
奉太郎「いやいや、作ってきてくれただけでありがたい。 文句なんて一つもない」
奉太郎「……では、千反田先生の料理解説を聞きながら食べるとするか」
える「あ、任せてください!」
まずは一つ目……これは何かの野菜、だろうか。
える「それは菜の花のお浸しです、結構有名ですよ」
奉太郎「確かに結構見ている気がするが……これって菜の花だったのか」
ふむ、確かに。 春の香りがする。 夏だが。
奉太郎「おいしい、なんかもっと気の利いた事が言えればいいのだが……おいしいな」
える「ふふふ、それだけで十分ですよ。 ありがとうございます」
それはそうと、この隅のほうに可愛く飾られているのは何だろうか。
える「あ、それはペチュニアです。 一応食べられますね」
奉太郎「そうなのか? 生のままに見えるが」
える「あくまでも飾りだったので、そのまま置いといてもいいですよ」
ふむ、最後にちょっと食べてみるか。
える「それはですね、中に桜えびが入っています」
奉太郎「ほう、どれどれ」
うまい、これは何個でもいけそうだ。
える「どうですか?」
奉太郎「これは是非、また作って欲しい」
える「えへへ」
える「折木さんさえよければ、いつでも!」
それからいくつかの解説をしてもらい、弁当を食べ終わる。
千反田も食べ終わったところで、千反田がカバンからタッパーを取り出した。
える「これ、デザートにどうぞ」
奉太郎「イチゴか、ありがとうな」
千反田が持ってきたイチゴはとても甘く、疲れた体に染み渡った。
それもすぐに食べ終わり、さてどうしようかと話していた時だった。
奉太郎「予報より、早かったみたいだな」
まだ弱いが、雨が降ってきた。 ここまで早く降るとは思っていなかったので傘は持ってきていない。
える「強くなりそうですね、その前に帰りましょうか」
奉太郎「ああ、そうだな」
そして俺と千反田は公園から出る、雨はまだ……降ったり止んだりでそこまで気にする必要はないだろう。
ここから家までは歩いて20分程くらいかかる、それまで持ち堪えてくれればいいのだが。
える「あの、今日はありがとうございました」
奉太郎「俺は暇だったからな、別にいいさ」
える「また今度、遊びましょうね」
奉太郎「……ああ、そうだな」
それから5分程歩いたところで、千反田がふと何かに気づいた様子で立ち止まった。
える「これ、スイートピーですね」
そう言い、千反田が指を指したのは人の家に飾ってあった花だった。
奉太郎「ん? ああ、花か」
える「夏咲きのスイートピー、素敵です」
奉太郎「人の物だからな、持って帰るなよ?」
える「……私がそんな事をすると思います?」
奉太郎「さあな、もしかしたらするかもしれない」
える「酷いですよ。 ただ……好きなんです、このお花」
奉太郎「……そうか」
える「ごめんなさい、行きましょう」
花、か。 俺には全く持って分からない感情だ。
える「今度は私が誘いますね?」
千反田が少しだけ俺の前に出て、振り返りながらそう言った。
奉太郎「……楽しみにしておく」
奉太郎「それより、前を見ないと危ないぞ」
その言葉を最後まで言ったか言わないかくらいの時だった。
える「きゃあ!」
予想通りと言ったらあれだが……千反田が転んだ。
奉太郎「……言わんこっちゃない」
奉太郎「大丈夫か?」
える「ご、ごめんなさい。 大丈夫です」
奉太郎「とてもそうは見えないんだが」
える「このくらいなら、大丈夫ですよ」
しかし膝の辺りを擦りむいており、転んだにしては結構な血が出ていた。
……仕方ない、とりあえずは血を止めよう。
俺はそう言い、近くにあったコンビニで水を買ってくる。
奉太郎「これで洗い流せ、見てるだけでも痛々しいぞ」
える「わざわざすいません、ありがとうございます」
そして千反田の傷口を綺麗にし、ついでに買っておいた絆創膏を貼り付ける。
奉太郎「大丈夫か?」
える「は、はい。 大丈夫です」
える「あの……折木さんって、意外と優しいんですね」
意外は余計だろ、気にしないが。
奉太郎「意外にな、そんな事より」
奉太郎「雨が少し強くなってきたな」
空を見上げると、大分薄暗い雲が敷き詰めていた。
える「みたいですね、段々と」
気付けばポツポツからサーと言った感じになっている。 ……分かりづらいか。
奉太郎「ああ、いや。 今から段々強くなってくるだろうし。 帰った方がよさそうだ」
える「あ、は、はい」
そして俺と千反田は再び歩き出したのだが、どうにも千反田は足を痛めてるらしい。
足を庇う歩き方をして、無理をして俺に付いて来ている様子だった。
奉太郎「……足が痛かったなら、そう言ってくれ」
奉太郎「さっきのコンビニで休んでもいけただろ」
える「ご、ごめんなさい。 あまり迷惑を掛けたくなかったので……」
全く、今まで1年と半年程も俺に迷惑を掛け続けよく言えた物だ。
奉太郎「今更一個増えた所で何も思わない」
える「……はい」
奉太郎「……はぁ」
俺は千反田の前に行くと、しゃがみ込む。
奉太郎「乗れ」
える「え、え、でも」
奉太郎「いいから、そっちの方が手短に済む」
える「……迷惑ですし」
奉太郎「今更一個増えても何も思わないってさっき言っただろ、逆にそっちの方が俺は助かる」
える「で、では……失礼します」
人に負ぶさるのに、その挨拶はどうかと思うが……別にいいか。
奉太郎「じゃ、いくか」
える「は、はい……ありがとうございます」
千反田はそう言い、どこか恥ずかしそうにしていた。 確かに俺も少し、恥ずかしい。
会話は自然と無くなり、道をゆっくりと進む。
奉太郎「足はまだ痛むか」
える「……」
返答が無かった。 俺はそのまま頭だけを後ろに向ける。
千反田は小さく寝息を立てながら、俺の背中で寝ていた。
別段、会話をしたい訳ではなかったし、構わないのだが……少し重い。
だが重いから起きてくれとは俺でも口にはできない、仕方あるまいと無言で歩くことにした。
30分程だろうか、ようやく千反田の家が視界に入ってくる。
奉太郎「……おい、起きろ」
える「……あ」
える「……お、おれきさん」
える「……すいません、寝てしまってました」
奉太郎「いいさ、それよりそろそろ着くぞ」
える「……ありがとうございます」
千反田はそう言い、俺の背中から降りる。
える「ええ、おかげさまで……もう大丈夫です」
その言葉は嘘ではなかったらしく、見た限り普通に歩いている。
える「今日は本当にありがとうございました」
奉太郎「……えらくエネルギー消費が激しかった一日だ」
える「次は、私が負ぶりますね」
いや、それはなんか違うだろう。
奉太郎「遠慮しておく、ここら辺でいいか?」
える「あ、はい! また遊びましょうね」
奉太郎「……そうだな」
俺は千反田に軽く手を挙げると、振り返り自分の家へと向かう。
える「……折木さん!」
一度千反田の方に振り向く、声を掛けずとも千反田は口を開き言葉を続けた。
奉太郎「花言葉? 知らないが」
単語自体は聞いた事がある、しかし内容まで知っている訳ではない。
える「そうですか、それではまた」
何だったのだろう? 深い意味があったのだろうか。
……考えるのはちょっと面倒だな。 いくら普段エネルギーを使っていないからといっても今日は疲れた。
奉太郎「ああ、またな」
雨は既に上がっていた、神山連峰から差し込む夕日に夏の一日を感じながら、俺は帰路につく事にした。
第18話
おわり
外で喚いてるセミ達も、この暑さでは焼かれるのでは無いだろうかと俺が心配するほど……今日は暑い。
しかし俺は出かけなければいけない。 昨日の夜、悪魔の電話があったせいで。
あれは確か、俺が風呂を出た後だった。 姉貴が「千反田さんから電話きてたわよ」と言うので渋々掛けたまでは良かった。
……あいつはこんな事を言っていた。
「明日古典部で集まる事になりました」
「折木さんも勿論来ますよね」
「福部さんが何やら話したい事があるらしいです」
との事らしい。
姉貴から電話が来たと聞いたときは、またどうせくだらない事だろうとは思ったが……里志が俺たちを集めるとは少し珍しい。
それに興味もあったせいか、俺は特に考えもせず行く旨を伝えてしまった。
……今日のこの気温を知っていれば、快諾は絶対にしなかっただろう。
だが、快諾をしなかったと行っても結局は行くことになっていたのかもしれない。
ああ……この思考をする時間……それこそ無駄かもしれない。 それに行かなければあいつは……千反田えるは家まで迎えに来てしまう可能性もある。
奉太郎「……面倒だ」
夏の気温と言う物に少しの悪態を着きながら俺は外へと繋がる扉を開けた。
ようこそ夏へ! と言わんばかりの湿気と温度。 学校へ着く前に行き倒れしてしまうかもしれない。
倒れればそのまま病院へと運ばれるだろう。 そして涼しい病室で俺は夏を過ごす。 案外良い物かもしれない。
奉太郎「……暑い」
だが意外と人間は丈夫にできている、案外倒れない物だ。
自転車で来ればある程度は快適に学校まで行けたかもしれないが、自転車は姉貴が使用中なのでそれも叶わなかった。
今決めた、里志に何かアイスでも奢って貰おう。 そのくらいの権利は俺にあるだろう。
奉太郎「……暑いな」
摩耶花「分かってるわよ、一々言わないで」
奉太郎「……寒いな」
摩耶花「気休めにもならないから、やめてくれない?」
奉太郎「……」
摩耶花「気まずいから何か喋ってよ」
理不尽だろ、これは。
奉太郎「……それで、後の二人はどうした」
摩耶花「さあ、まだ時間まで少しあるし……そろそろ来るんじゃない?」
千反田は百歩譲って許すとして、里志は集めた側……俺に言わせれば加害者だ。 何故あいつが居ない。
奉太郎「帰ってもいいか」
摩耶花「良いわけないでしょ」
奉太郎「……はぁ」
約束の時間まではもう少しある、もし5分過ぎても来なかったら帰ろう。 家でアイスでも食べたい。
摩耶花「……」
奉太郎「来ないな」
摩耶花「見れば分かるわよ」
奉太郎「じゃ、またな」
摩耶花「ちょっと、あんた本当に帰るの?」
奉太郎「俺はそこまで気が長くないからな、時間は無駄にしたくない」
摩耶花「よく言うわ……ほんと」
伊原を無視し、ドアに手を掛け開く。
える「おはようござい-----ひゃ!」
奉太郎「うわっ!」
丁度ドアを開けたところで、千反田が飛び込んできて俺とぶつかる。 千反田は見事に後ろへと倒れていた。
奉太郎「……大丈夫か」
える「あ、はい。 なんとか」
そのまま千反田に挨拶をして帰るわけにもいかず、仕方なく俺は再び席に着いた。
伊原は少し声を大きくし、俺に向け言ってくる。
える「え、駄目ですよ。 福部さんが来るまで待ちましょう」
狙って言ったな、伊原め。
奉太郎「……分かったよ、だがあまりにも来なかったら帰るからな」
すると伊原が俺の耳に顔を近づけ、小さく言葉を発した。
摩耶花「……ちーちゃんには甘いんだね」
奉太郎「……俺は酷く後悔している」
摩耶花「……何を?」
奉太郎「……お前に話したことを」
摩耶花「……誰にも話さないわよ」
奉太郎「……そうか、あまり期待はしないでおく」
える「あれ? 何を話しているんですか?」
摩耶花「え、ああっと……」
奉太郎「な、何でもない」
える「なんでしょう……気になります」
さあて、どう回避しようか。 伊原のせいで全く持って面倒な事になってきたぞ。
える「あ、福部さん。 お待ちしてました」
たまにはタイミングがいい事もあるな、里志は。 アイスを奢って貰うのは簡便してあげよう。
奉太郎「遅いぞ、何をしていた」
里志「色々あってね、僕も大変なんだよ」
摩耶花「何かあったの?」
里志「いや……ちょっと、ね」
える「なんでしょう……もし私達に相談できることでしたら……」
奉太郎「どうせくだらない事だろ」
える「酷いです! 折木さん!」
える「もし、福部さんが思い悩んでいたら助けてあげるのが仲間という物ですよ!」
これが友情と言う物なのか、なるほど。
摩耶花「それで、ふくちゃんどうしたの?」
里志「え? 寝坊した」
奉太郎「……里志、今日俺たちを集めた用事はなんだったんだ」
里志「あ、そうそう。 実はね」
里志「皆で旅行にいかないかな?」
奉太郎「行かない」
里志「……千反田さんはどうかな?」
える「旅行、ですか?」
里志「そそ、折角の夏休みだしね」
摩耶花「いいとは思うけど、どこに行くの?」
里志「夏と言ったら海! 沖縄に行こう!」
える「沖縄ですね! 行ってみたいです!」
摩耶花「沖縄って言っても……そんなお金無いわよ」
奉太郎「そうだそうだ、お金なんて無いぞ」
やはり、里志にはあげるべきではなかった。 回りまわって結局は俺が被害を受けることになるとは想像もできなかった。
える「え、そうなんですか?」
奉太郎「さあな、検討もつかん」
里志「おっかしいなぁ、ホータローが居なければ行けなかった筈なんだけど……」
摩耶花「ちょっとふくちゃん、早く説明してよ」
里志「チケットさ」
里志「もう大分前だけどね、ホータローに貰ったんだ」
里志「それもぴったし4枚! 僕はこれをメッセージだと思ったよ」
奉太郎「……どんなメッセージだと思ったんだ」
里志「皆で旅行に行きたいっていう、ホータローのメッセージさ」
奉太郎「やっぱりそれ返せ」
里志「人に一度あげたものを返せって言うのはどうかと思うよ? ホータロー」
摩耶花「折木もたまにはいい所あるじゃん。 行こう、皆で」
奉太郎「俺はこの為に渡した訳では無い、返せ」
える「福部さんの言うとおりです! 一度あげた物を返せというのはあまり良くないと思いますよ。 折木さん」
える「そ、そんな事はないですよ!」
える「別に沖縄に行きたいとは……思っていないです」
奉太郎「そうか、残念だったな」
奉太郎「里志、千反田は沖縄に行きたくないそうだ」
奉太郎「とても心苦しいが、3人で行こう」
俺がそう言い、里志の方に顔を向けると里志は何故か全てを悟った様な顔を俺に向ける。
里志「そうなの? 千反田さん」
える「い、いえ! 私は……」
える「……行きたいです」
里志「らしいよ、ホータロー」
里志「……良かった、これで全員参加だね」
ああ、俺は嵌められたのか。
この古典部には俺の味方など最初から居なかったのだ。
里志「え? なんの話しだい?」
奉太郎「気にするな、その内分かるから」
里志「なんか、嫌な感じだね。 とても嫌な感じがする」
摩耶花「そ、れ、で!」
摩耶花「いつ行くの?」
里志「うん、それも決めないとね」
里志「三泊四日あるから、満喫できそうだよ」
里志「じゃあ、予定を決めていこうか」
結局は、こうなる。
里志「着いたね! 沖縄!」
奉太郎「まずは旅館に行こう、荷物を置きたい」
沖縄までは飛行機で来たのだが、あの乗り物は俺を苦しめる為に存在しているのかもしれない。
あれに年がら年中乗っている姉貴を少し、尊敬する。
摩耶花「それにしても、旅館もちゃんと付いてるチケットなんてすごいね」
摩耶花「ほんのちょっとだけ、折木に感謝しておくわね」
奉太郎「形のある物をくれ」
里志「まあまあ、とりあえずは旅館に行こうか」
里志「それから観光でもゆっくりすればいいしさ」
奉太郎「ああ、そうだな……それより」
奉太郎「あいつは何をしているんだ」
俺はそう言い、首で千反田を指す。
里志「千反田さんは、多分……興味を惹かれる物があるのかもね」
確かに、さっきから静かに周りをくるくると見回している。 目を輝かせながら。
奉太郎「おい、千反田」
える「え? あ、はい」
奉太郎「行くぞ、観光なら後でゆっくりすればいい」
える「あ、そうですね。 分かりました」
俺達が泊まる事となっている旅館は、高校生が旅行で泊まるにはとても豪華すぎる程だった。
える「わあ、素敵な旅館ですね」
千反田がそう言い、俺に笑顔を向けてくる。
奉太郎「そ、そうだな」
不意打ちの笑顔に、少し動揺してしまった。
里志「僕達の部屋は……ここだね」
里志「二部屋あるから、僕とホータローは左の部屋で、千反田さんと摩耶花は右の部屋でいいかな?」
摩耶花「うん、じゃあ一回荷物置いてくるね」
える「また後で」
伊原と千反田はそう言うと、自分達の部屋へと入って行った。
俺と里志はそれを見て、同じく自分達の部屋へと入る。
里志「それにしても、随分と立派な所だね」
奉太郎「そうだな、一応姉貴にも何かお土産買って行ってやるか」
里志「うん、それがいい」
俺と里志は荷物を置くと、その場に座り込む。
里志が思い出したかの様に、口を開いた。
里志「この旅行が終われば、すぐに秋が来そうな気がするよ」
奉太郎「そうか? まだ結構時間があるだろ」
里志「あっという間さ、ついこないだまで中学生だったんだ」
里志「それが今は高校生、この分だと大人になるのもすぐかもね」
奉太郎「……そう、かもな」
少しの沈黙、窓から吹き込んでくる風が俺の髪を揺らしている。
里志「そうそう、それよりさ」
里志「ホータロー、千反田さんと何かあった?」
奉太郎「……お前もか」
里志「お前も? って事は摩耶花に何か言われたね」
奉太郎「ああ、最近仲が良くなった様に見えるとかなんとか」
里志「はは、それじゃあ僕と摩耶花は一緒の意見だ」
奉太郎「……時間が経てば、自然とそうなるだろ」
奉太郎「俺とお前だって最初から仲が良かった訳ではないしな」
里志「でも、ちょっと違うと言うか……うーん、なんて言えばいいのかな」
そして、次に里志が口を開こうとした時に扉越しから声が掛かる。
摩耶花「ちょっと、いつまで休んでいるのよ」
摩耶花「まだ夜まで時間あるしどっか行かない?」
里志「……この話は、また今度にしようか」
奉太郎「……分かった」
里志「ごめんごめん! 一回中に入って計画立てようか?」
里志はそう言うと、扉を開け中に伊原と千反田を入れる。
二人が中に入り座ると、そこを中心として里志が持ってきた地図を開いた。
里志「やっぱりさ、沖縄と言ったら首里城じゃない?」
摩耶花「あ、ちょっと行って見たいかも」
える「私は水族館に行ってみたいです! 色々と周る所が多そうですね」
三人がそんな事を話しながら、盛り上がっていた。
こんな感じは前にもあった、いつだったっけか。
……図書室で話した時か、あの時は確か……本の謎で盛り上がる三人を眺めていたんだった。
俺がこいつらの様に他愛の無い事で楽しめる様には多分、ならないだろう。
特に行きたい場所等があった訳でも無く、今回の旅行もただの成り行きだったのだ。
少しだけ自分は薔薇色なのだろうか? と前に思った事があった。
けどやはり、本質的な部分は変わらない。
俺には、灰色の方が似合っているという物だ。
摩耶花「ちょっと、折木?」
奉太郎「……ん、すまない」
その思考を、伊原によって遮られた。
摩耶花「またあんた、くだらない事考えてたんじゃないの?」
奉太郎「……ああ、そうだな」
摩耶花「……? ま、いいわ」
摩耶花「とりあえず行く場所は決まったから、準備したら外でいいかな?」
里志「うん、了解」
える「分かりました、では一度戻りますね」
奉太郎「ああ、また後でな」
……そんな事を考えていても仕方ないか。
折角の旅行だ。 少しは楽しもう。
夏の日差しは神山よりも随分と乾いていて、大分爽やかだったと思う。
沖縄特産の物を食べたり、所々にある観光名所を回っていたらあっという間に辺りは暗くなっていた。
里志「早いなぁ、もう暗くなってるよ」
摩耶花「明日もあるんだし、まだ時間はたっぷりあるでしょ」
える「そうですね。 明日は是非、水族館へ行きたいです」
奉太郎「よっぽど気に入ったのか、水族館が」
える「はい!」
里志「はは、じゃあ明日は水族館でいいかな?」
摩耶花「うん、異論無し!」
そんなこんなで早くも明日の予定は決まった様だ。
奉太郎「分かった、じゃあそろそろ戻るか」
俺の言葉を聞き、三人は旅館に向かって歩き始める。
前を歩く三人はどうやら、今日の事で話をしている様だった。
奉太郎(……疲れたな)
少し、歩きすぎた。 旅館に着いたらすぐにでも寝たい気分だ。
そんな風が一際強く吹いたとき、俺の少し前を歩く千反田が振り返る。
にこりと笑い、歩みを止め、俺の横に並んで歩き始めた。
奉太郎「……どうした」
える「いえ、折木さんが少し疲れている様子だったので」
奉太郎「そうか? いつも通りだが」
える「それならいいんですが」
える「どうですか? 沖縄は」
奉太郎「……いい所だとは、思うかな」
える「何か意味がありそうな言い方ですね」
奉太郎「まあな」
える「それはどういう意味でしょうか?」
奉太郎「敢えて言うなら、地元の人が何を言っているのか分からないって事だ」
える「……ふふ、確かにそうですね」
える「暮らすのは少し、苦労しそうです」
奉太郎「千反田は沖縄に住みたいのか?」
ああ、そうだった。 これは、しまったな。
奉太郎「……すまん」
える「何故、謝るんですか?」
える「前にも言いましたが、私は自分の場所をつまらない所だとは思っていませんよ」
える「楽しい場所、という訳でもないですが……」
だったら、だったらなんで。
何でそんな悲しそうに言うんだ。 お前は外を見たいんじゃないのか? と言おうとする。
だがそれは、言葉には出せなかった。
俺はとても、千反田の人生に口を出せるほどの人間ではない。
人から尊敬される程の人間でもない。 だから言葉に出せなかった。
奉太郎「……旅館、見えてきたぞ」
える「あ、ほんとですね。 明日は水族館、楽しみです!」
伊原と千反田と別れ、俺と里志は自分達の部屋へと戻ってきた。
奉太郎「……ふう」
里志「よっぽど疲れたみたいだね、まあ……それもそうか」
俺は窓際に置かれていた椅子に腰を掛ける。
吹き込んでくる夜風が俺の心を安らがせる。
里志「それで」
もう片方の椅子に里志が座り、話しかけてきた。
里志「ホータローはさ」
里志「自分が優しいと思った事はあるかい?」
さっきの話の続きではないらしい、また別の話だろう。
それより……俺が、優しいと思った事?
奉太郎「無いな」
里志「確かにそうだね、ホータローは優しくない」
無いと言ったが、改めてはっきり言われると少しムッとするな……
奉太郎「そう言うお前は自分が優しいと思うのか?」
里志「勿論! 甘すぎるくらいに優しいさ」
言葉からしてふざけている物と思っていたが、里志の真剣な顔を見て少し驚かされた。
奉太郎「随分と自信があるな、今度伊原に聞いてみよう」
里志「はは、摩耶花に聞いたら絶対に優しくないって返って来ると思うよ」
奉太郎「……それなら優しくはないんじゃないか」
里志「うーん、どうだろうね」
奉太郎「今日のお前は、話していると疲れるな……」
里志「それは悪いことをしてしまった、じゃあ僕はお風呂に入ってくるよ」
奉太郎「ああ、俺は後で入ることにする」
里志が居なくなった後、窓から外を眺めた。
海の匂いが少しだけして、新鮮な気分になる。
奉太郎「俺が優しいか……」
奉太郎「やはり、ないな」
まだまだ先は長い、明日は水族館か。
朝が、早そうだな……
第19話
おわり
頭を掻きながら起き上がる。
奉太郎(こいつは……寝相が悪すぎるな)
蹴った犯人はすぐに分かる、この部屋には俺と里志しか居ないのだから。
奉太郎(まだ4時か、少し距離を置いて寝よう)
里志と距離を置き、再び寝ようとしたのだが……
寝言がどうにもうるさい。 どんな夢を見ているのだろうか。
奉太郎(……少し、外の空気でも吸ってくるか)
眠いが、仕方ない。
戻ってもまだ里志がうるさいようだったら押入れに突っ込んでおこう。
そう思いながら扉を開け、廊下に出る。
ふと左から物音がし、そちらに視線を向けた
奉太郎「おはよう、伊原の寝相は悪いのか」
える「え?」
奉太郎「……いや、なんでもない」
お互いどこに行くかを言う訳でも無く、外に出た。
旅館の裏手に回ると、海が見渡せるベンチが何台か設置されており、そこに俺と千反田は腰を掛けた。
える「折木さんって、意外と朝が早いんですね」
奉太郎「本当にそう思うか?」
える「……違うんですか?」
奉太郎「俺が起きたのは、顔を蹴られたからだ」
える「顔を? ええっと……」
奉太郎「……里志は寝相が悪すぎる」
える「あ、そういう事でしたか」
える「少し、想像できますね」
奉太郎「俺はてっきりお前も同じ様に起きたと思ったんだが」
える「私はいつも朝が早いので、自然と目が覚めました」
奉太郎「ふむ、伊原も随分と寝相が悪そうだけどな」
える「その……可愛く寝ていました」
俺は寝相が悪そうだな、と言った。
対する千反田は可愛く寝ていたと言った。
千反田はうまく否定する言葉が出なかったのだろう。 千反田も中々に苦労している様だな。
奉太郎「……少し、つまらない話をしてもいいか」
える「はい、いいですよ」
奉太郎「あの話は、まだ話せそうに無いか」
これは確認だった。 後どのくらいの時間があるのか、と。
だが、話の内容を聞きたいという気持ちも少しあったのかもしれない。
える「……すいません、まだ……できません」
える「もう少し、もう少しなんです」
千反田はそう言いながら、俺の顔を見ながら話している。
そう言う千反田の顔は、とても申し訳無さそうにしていた。
そして最後の言葉を言うときには、俺から顔を逸らしていた。
そこまで申し訳無さそうにされてしまうと、なんだか悪いことをした気分になってしまう。
奉太郎「……変な事を聞いてすまなかった」
える「い、いえ」
奉太郎「少し眠いな、俺はもうちょっと寝る事にする」
える「そうですか、私もそろそろ戻ります」
それから会話は無かった。
終始申し訳無さそうにしている千反田を見ていると、やはりこの会話はするべきでは無かったのかもしれない。
える「では、また後で」
奉太郎「ああ」
最後に挨拶を軽くすると、俺は再び部屋へと入る。
奉太郎(……押入れに押し込むか、こいつ)
俺の布団を巻き込み、とても幸せそうに里志は寝ていた。
……その後、何度か里志を押入れに入れようとするが中々うまく行かない。
仕方がないので俺が押入れで寝る事にした。
気分はどこかの青い狸である。
意外にも寝心地が良く、すぐに夢の中へと俺は入って行った。
朝は少し面倒くさい事になってしまった。
起きたら押入れの扉は開いていて、里志と伊原が俺の事を携帯のカメラで撮っているのが最初に見た光景だ。
……携帯ではなく、スマホか。
まあそんな事はどうでもいい。 その写真を消すのに大変な労力を使ってしまったのだ。
しかし……中途半端に寝て起きたせいで、若干頭が痛い。
だが折角来ているんだ、少しくらいは我慢しよう。
あまりこいつらに、迷惑は掛けたくはない。
そして今は水族館へと来ている。
里志「この水族館は結構有名だね」
里志「大きく分けて、3つのエリアがあるみたいだよ」
摩耶花「へぇー。 どんなのがあるの?」
里志「まずは一つ目、サンゴ礁」
奉太郎「サンゴ礁? それって見ていて楽しいのか」
里志「ただサンゴを見るだけじゃないさ、そこに住んでいる魚達も一緒に見れるみたいだね」
える「は、早く行きましょう!」
里志「あはは、落ち着いて千反田さん」
里志「ここが多分、一番迫力があるんじゃないかな?」
摩耶花「黒潮って言うと……サメとかかな?」
里志「そう、その通り!」
奉太郎「ほお、それはちょっと見てみたいな」
える「そうですよね! あの、早く行きましょう」
奉太郎「少しは里志の説明に耳を傾けろ……時間はあるんだし」
える「あ、す、すいません……」
里志「じゃあそんな千反田さんの為に、手っ取り早く説明を終わらせちゃうね」
里志「もう一つは深海」
える「深海……ですか」
里志「深海は面白いよ、普段見れない魚がいっぱいいる」
奉太郎「ま、暇はしそうにないな」
摩耶花「そうね、じゃあ行こうか?」
摩耶花「ちーちゃんも早く行きたそうだし」
える「ご、ごめんなさい。 私、楽しみで」
里志「良い事さ、ホータローにもこのくらい興味を持って欲しい物だね」
奉太郎「ふん、いいから行くぞ」
奉太郎「まずはどこから周るんだ?」
里志「そうだね……どうしようか?」
摩耶花「あ、じゃあサンゴから見たいかな」
える「はい! 行きましょう」
奉太郎「特に決まっていないなら、そこから周るか」
それにしても、随分と広いな。
前に千反田と行った所よりも2、3回り大きいのではないだろうか?
俺は少し、楽しんでいるのかもしれない。
水族館に行きたいと言った千反田には感謝しておこう。
奉太郎(千反田よ、ありがとう)
摩耶花「折木何やってるの? 置いて行くわよ」
奉太郎「ちょっとくだらない事を考えていた、行くか」
摩耶花「ここは、ヒトデとかが居るのかな?」
里志「うん、そうみたいだね」
える「あ、あの。 これって触ってもいいんでしょうか?」
奉太郎「いいんじゃないか? 他の人も触っているし」
える「で、ではちょっと失礼して……」
そう言い、千反田は水槽の中に手を入れた。
える「か、可愛いですね。 」
てっきりヒトデを触るのかと思ったが、千反田はナマコを触りながらそう言っていた。
奉太郎「それが……可愛いのか?」
える「え? 可愛いと思いますが……」
里志「僕はこっちの方が好みかな」
そう言う里志が手に持つのはウニ。
摩耶花「な、なに」
奉太郎「お前はあいつらが持っている物が可愛いと思うか?」
摩耶花「なんか嫌だけど、折木と思っている事は一緒だと思う」
奉太郎「そうか、少し安心した」
しかし放って置いたらいつまでも里志と千反田は夢中になって、他の所に回れなくなってしまう。
奉太郎「おい、そろそろ行くぞ」
二名とも、渋々と言った感じで水槽から離れて行った。
でも確かに、あのウニやナマコの水の中で優雅に暮らしている生き方は学べる所が大いにあるだろう。
省エネに終わりはないのだ。
奉太郎「みたいだな」
少し大きめの水槽には、色々な種類の熱帯魚達が居た。
摩耶花「……かわいいなぁ」
そう呟く伊原の顔は、とても子供っぽく見えた。
伊原は元々童顔であるが……この時は本当に中学生……ひょっとしたら小学生にも見えた。
える「本当ですね、可愛いです」
える「で、でも。 この大きなお魚は小さなお魚を食べてしまわないのでしょうか?」
奉太郎「……」
想像してみた。
客がたくさん見ている中で、食べられていく小さな魚達。
奉太郎「いや、ないだろ」
摩耶花「わぁ……」
……今度は伊原か。
奉太郎「いつまで見ている、次に行くぞ」
俺がそう言うと、伊原は俺の方を睨み付ける。
なんというか、この態度こそが里志と千反田とは違うのだろう。
そして俺はふと思う。
何故、憎まれ役が俺なのだろうか。
里志「まだ他にも小さなエリアがあるみたいだけど、違う所に移ろうか?」
える「ええ、そうですね。 他のエリアも気になります!」
摩耶花「うん、どうせ来たならざっとでも全部見たいもんね」
奉太郎「んじゃ、最初の場所に一回戻るか」
摩耶花「次はどこに行こうか?」
奉太郎「旅館に行こう」
摩耶花「……ちょっと黙っててね」
奉太郎「……ああ」
これが多分、気のいい奴だったら「そうだ! 旅館に行こう!」となるのだろうが、伊原相手では絶対にならない。
里志「あ、じゃあ次は黒潮の所に行かない?」
える「大きなお魚がいる所ですね! 行きましょう!」
ま、否定する理由も無い。 流れに乗って行くか。
摩耶花「おっけー!」
奉太郎「……すごいな」
とても巨大な水槽の中に、サメやマンタが居る。
迫力は物凄い物がある、これは……
える「……すごいですね」
千反田も思わず声を漏らしていた。
摩耶花「うう……ちょっと怖いね」
える「……可愛いです」
え? これも可愛いに入るのか?
里志「やっぱりこうでなくちゃね! 水族館に来たからには!」
里志「このでっかい水槽を見ていると、自分達が水槽の中にいるんじゃないかって錯覚しちゃうよ」
える「……来て良かったです、本当に」
奉太郎「そうだな、これは来て良かったと思う」
摩耶花「折木がそんな事言うのって、珍しいね」
奉太郎「……俺も普通に感動とかするからな、言っておくが」
里志「え、そうだったの?」
奉太郎「それは冗談なのか? 本気で言っているのか?」
里志「いや……割と本気だったけど……」
さいで。
える「このガラスが割れたら……すごい事になりそうですね」
突然割れるガラス、逃げ惑う人々。
そしてサメは人々を食らい尽くすのだ。
いや、確かこのサメは人にあまり危害を加えないとか言っていた気がする。
奉太郎「まあ、割れないだろ」
える「……そうですか、それなら良かったです」
摩耶花「ちーちゃん、折木ー! 次行くわよ」
俺は渋々、巨大な水槽から離れる。
あ、伊原や千反田や里志はこういう気持ちだったのか。
さっきは悪いことをしてしまったな……
奉太郎「次はどうする?」
里志「うーん、僕と摩耶花は行きたい所に行っちゃったしね」
摩耶花「ちーちゃんに決めてもらおうか? 折木に聞いてもろくな事無いし」
悪かったな、ろくな事しか言えないで。
奉太郎「でも行ってない所はあと一つだろ? なら別に決めなくてもいいんじゃないか」
里志「あ、確かにそうだね。 じゃあ行こうか?」
える「あ、あの」
千反田が何かを言いたそうに、既に次に向かい歩いている俺達に声を掛ける。
摩耶花「どうしたの? ちーちゃん」
える「……すいません、少しはしゃぎすぎたみたいで……疲れてしまいました」
える「旅館に、戻りませんか?」
里志「意外だな、千反田さんがそんな事を言うなんて」
摩耶花「でも確かにちーちゃん、すごく楽しんでたもんね」
奉太郎「……」
里志「ま、じゃあ戻ろうか?」
摩耶花「うん、大分時間も経っていたみたいだしね」
俺が言った時と変わった事は……無い。
ここまで来ると自分自身が少し、かわいそうに思えて仕方ない。
だが、旅館に戻れるならまあ……いいか。
そして俺たちは、旅館へと戻って行った。
伊原と里志は少し買い物をすると言って、二人で出て行った。
一度は俺と里志の部屋に集まった四人だったが、今は俺と千反田しか居ない。
奉太郎「それにしても、珍しいな」
える「何がです?」
奉太郎「お前が疲れたって言った事だ」
える「あ」
える「あれはですね、少しだけ……嘘だったんです」
奉太郎「ん? どういう意味か教えてくれ」
える「疲れたというのは本当です。 ほんの少しだけでしたけど」
える「本当はですね、少し、その」
える「折木さんが辛そうに見えた物で」
える「どこか、具合が悪かったんですか?」
奉太郎「いや……少し頭が痛かっただけだ」
奉太郎「別にそこまでしてくれなくても……良かったんだがな」
素直にお礼を言えない自分に少し、腹が立ってしまった。
える「そうでしたか、では余計なお世話でしたね……すいません」
奉太郎「なんでだ」
える「え?」
奉太郎「悪いのは俺だ、何で俺を責めない?」
える「何故、ですか……自分でもちょっと、分かりません」
える「でも、折木さんは悪くないですよ」
奉太郎「少し、一人にしてくれるか」
俺が変な事を言ってしまうのは、頭が痛むからだろう。
そう思わないと、どうしようもなかった。
える「はい、分かりました」
える「それでは折木さん、お大事に」
千反田はそう言うと、俺の部屋の扉を閉めようとする。
奉太郎「……千反田」
聞こえるか聞こえないかくらいの声だったが、しっかりと聞こえていた様だった。
える「はい? どうかされましたか?」
奉太郎「その、ありがとな」
える「……はい!」
俺は千反田のその声を聞くと、ゆっくりと瞼を下ろす。
ああ、やはり頭が痛む。
旅館まで戻ってきたのは、正解だった。
少し、寝よう……
その日が確か二日目だったから、今日が終わればもう帰らなければならない。
飛行機は朝の予約となっている、実質的には今日が最終日か。
今日は朝から沖縄市内を全員で周り、お土産やら特産品等を食べ歩いたりした。
そして夕方になって日が傾き始めたところで里志が思い出した様に言った。
里志「そういえば……海に行って無くない?」
俺達はその言葉でようやく、気付けたというのがあれだが……
だがもう夜になる、諦めるしかないだろうと俺が言ったのだが千反田が納得しなかった。
える「では、海辺で花火はどうでしょうか?」
との提案を出してきたのだ。
勿論これには里志と伊原は大賛成。
俺も否定する必要も無いので賛成し、今は海へと来ている。
買いすぎた。
何を買いすぎたかと言うと……無論、花火をだ。
これがいい、これもいい、とやっている内に、とても四人で使うには多すぎる量の花火となっていた。
かれこれ一時間もやっているのに終わりがまだ見えない。
俺はそれに飽き、少し離れた所で座り込む。
10分ほどそうやって眺めていたら、里志も花火に飽きたのかこちらにやってきた。
里志「隣、いいかい?」
奉太郎「ああ」
そう返事をすると、里志は俺の隣に腰を掛ける。
里志「この前の話の続きでもしようか」
この前の話……ああ。
奉太郎「俺と千反田が仲良くなったとか、そんな話だったか」
里志「それで、どうなんだい?」
奉太郎「どう、と言われてもな」
奉太郎「まあ、お前達から見ればそう見えるのかもな」
里志「ホータロー自身はそれを感じているんだろ?」
奉太郎「どうだろうな、自分の変化は良く分からんからな」
里志「……僕は回りくどいのは嫌いだからね、単刀直入に聞くよ」
里志「ホータローは、千反田さんの事をどう思っているんだい?」
伊原はどうやら、本当に誰にも言っていない様だった。
里志が知らないという事はそうなのだろう。
奉太郎「前に、伊原にも同じ様な事を聞かれたな」
里志「はは、摩耶花は結構勘が鋭いからね。 僕は常日頃から用心しているよ」
里志「……それで、ホータローは摩耶花の質問になんて答えたのかな?」
奉太郎「千反田の事が、好きだと」
里志「……やっぱりそうか」
里志「僕はさ、意外性がある人間が好きなんだ」
奉太郎「つまり、普通に人を好きになった俺は好きになれないって事か」
里志「……まさか、逆だよ」
奉太郎「……逆?」
里志「僕にとってはね、何事にも興味を示さないホータローこそが普通なんだ」
里志「だからそんなホータローが、人を好きになったって事が意外な事なんだよ」
里志「違うかい?」
奉太郎「灰色の俺が普通だって言うなら、そうかもな」
奉太郎「そんなつもりは無いが」
里志「……いや、そうだね」
里志「確かに今のホータローは灰色だよ、間違い無い」
奉太郎「なら、少し安心した」
里志「少なくとも今は、だけどね」
里志「それを決めるのはホータロー自身さ、周りから見たらどうこうって話じゃない」
奉太郎「なら俺が自分は薔薇色だと思えば、そうなるのか?」
里志「それも少し違うね、その内分かると思うよ」
奉太郎「今のままで十分だ、変化なんて……いらない」
里志「……それは、千反田さんに関しても?」
奉太郎「分からん、まだ答えが出ていないんだ」
里志「そうか……まあゆっくりと決めなよ、時間は沢山あるんだからさ」
そうだろうか。
奉太郎「いや……あまり、無いかもしれない」
里志「どういう事だい?」
里志「前にした話だね、それは」
里志「確かにそれなら、少し焦らないといけないかもしれない」
奉太郎「ああ、そうだな」
奉太郎「……少なくとも、今年が終わる前に……答えを出さないといけない気がするんだ」
里志「はは、応援しているよ。 ホータロー」
奉太郎「ああ、そうだ。 一つ聞きたい事があるんだった」
その時、波が強く打ち付けられた。
奉太郎「-------、-------、---?」
里志「-------、---、----------」
俺と里志の声は、波の音に掻き消された。
だが里志の返答はしっかりと聞こえていた、少し、少しだけだが。
……夜も遅い時間になってきたな、風は大分冷たい。
そうか、もう……夏も終わりか。
若干の肌寒さを覚え、一つの夏が終わるのを俺は感じていた。
第20話
二章
おわり
乙ありがとうございます。
しかし、そこには彼等を待ち受ける4人の刺客が!!
遠垣内「俺が司るのは統率……この部屋に来たのが運の尽きだったな」
目的の文集を無事、奪えるか!?
沢木口「ちゃお! それじゃあ早速、死んでもらうね」
無事に姉の供恵を救うことができるのか!?
羽場「ここまで来たのは認めてやろう、だがここを簡単に突破できると思うなよ?」
彼等は、えるが掛けられてしまった呪いを解くことができるのか!?
中城「わはは、久しぶりだな! お前らとは一度戦って見たかった!!」
そして最後に待ち受ける人物とは!?
入須「ご苦労、よくここまできたな」
入須「早速ですまないが……」
入須「入須の名の元に命ずる」
入須「------------地に這え!!」
える「っ! ……この、能力は!?
里志「まさか、重力を!?」
入須「違うな、私の能力は……」
入須「絶対命令--------それが私の力だ」
奉太郎「そ、そんな無茶苦茶な……!」
入須「くくく……私は女帝だぞ? 貴様らに勝ち目等無い」
その先に……ある物とは!?
夏が終わり、季節は秋へと移り変わる。
奉太郎は、答えを出すことができるのだろうか?
入須「君に、それを言う権利があるのかな?」
日常は日々消費されて行く。
摩耶花「ちーちゃんは……私の友達だ!!」
行き着く先には、何があるのか。
里志「それは違う、僕が言いたかったのはね」
それは幸せか、或いは……
奉太郎「考えろ、思い出せ……一字一句、繋がる筈だ」
時間は無い、結末は……
える「……さようなら、折木さん」
古典部の物語は、最終章へと……
ちーちゃん…
Entry ⇒ 2012.10.21 | Category ⇒ 氷菓SS | Comments (0) | Trackbacks (0)