スポンサーサイト
田中「沖田、本当に行っちまうんだな」
紗羽「うん。一応、卒業扱いだけどね」
有田「えー!? じゃ、卒業式も出れないの!?」
紗羽「ごめんね。もう、決めちゃったから」
奥都「うそー……マジなんだ……」
有田「紗羽の隠れファンクラブ会員たちが泣くよ?」
紗羽「そんなの居ないって! もー。」
田中「……」
田中「……いや、別に」
来夏「なになに、田中くん。いっちょ前に寂しがってんの?」
田中「……なんのことだよ」
来夏「だって、田中のその眼。完全に、飼い主に置いてけぼりくらう犬みたいだよ」
田中「なんだそりゃ」
来夏「まー、あんた達もいいコンビだったからねぇ」
和奏「いつも無神経なこと言ってた印象だけどね」
田中「いきなり出てきてひでぇこと言うな、坂井」
ウィーン「……来月……までなんだね」
来夏「ウィーンまで。どうした、にくレッドの情熱は!」
ウィーン「……うん。」
来夏「ん? なに?」
田中「お前は、寂しくねぇのか?」
来夏「……」
和奏「田中、それは……」
来夏「寂しいよ」
田中「!」
来夏「寂しくて仕方ないよ。けど、だからって、暗くなる必要はないでしょ? 寂しがる表現って、一つじゃないと思うし」
来夏「あたしがもし、逆の立場だったら。どんより、悲しい雰囲気のまま、学校生活を終わらせたくない。」
来夏「だから、紗羽にそう思って欲しくないから。明るく、楽しく過ごすの」
和奏「……」
田中「……悪い」
田中「……そうだな。わかったよ、つるぺた」
来夏「そうそう、そんな風にチビって……つるぺたぁ!? なんじゃそれ!?」
田中「事実だろ」
来夏「むきー! チビって言われるよりよっぽど腹立つんだけど!」
ウィーン「和奏、つるぺたって?」
和奏「あー……えっと……」
紗羽「何騒いでんの?」
来夏「あ、紗羽! 聞いてよ! 田中がセクハラしてきた!」
紗羽「セクハラ?」
紗羽「うわー、それはサイテーだわ」
田中「いや、それは……その……ノリっつーか……」
紗羽「モジモジしてキモイよ。なに、田中は大きい方が好きなの?」
田中「なっ……! ば、バカかお前!?」
紗羽「じゃ、小さい方?」
ウィーン「……ねえ、来夏。大きいとか小さいとか、どういうこと? 来夏に関係しているの? 来夏はどっち?」
和奏「それは……あはは。ね、来夏」
来夏「ウィーン。天然であたしにダメージ与えるのやめてくれるかな……」
田中「どっちでもいいだろ! ったく……」
来夏「よくない! かなり重要だから、そこ!」
田中「はいはい」
来夏「いいね! ……っていきたいところなんだけど」
和奏「受験、もうすぐだしね」
ウィーン「和奏も、受験勉強してるの?」
和奏「うん。私の学力じゃまだ厳しいんだけど、一回受けてみるのも良いかも、って」
来夏「驚きだよね、この発言があの教頭先生から出て来たんだよ?」
紗羽「白祭終わってから、そんなもんじゃない?」
田中「あの冷血漢が、よくあそこまで穏やかになったもんだよな」
和奏「冷血『漢』じゃないけどね」
紗羽「ウィーンと田中は?」
来夏「何買うの?」
ウィーン「パークスの本を。」
和奏「パックス?」
ウィーン「パークス。平和の神様の名前だよ」
来夏「ふーん。流石は正義と平和のヒーローだね」
田中「俺は暇だぞ。特にやることないし」
和奏「さすが推薦合格者……」
来夏「おや~? って、ことは二人きりで下校ですか? ふふふ」
田中「は!?」
紗羽「何変なこと考えてんの。友達なんだから、別にいいじゃない」
田中「ああ……そう……だな」
ウィーン「じゃ、僕も」
来夏「はー。初っ端から世界史かー。眠たくなるなー……」
紗羽「受験生がそんな愚痴言わないの。ほら、席戻りなよ」
来夏「はーい」
紗羽「それじゃ、田中。放課後よろしくね」
田中「おう」
田中(友達……か。そりゃそうだよな。俺が宮本や坂井と同じことになったら、きっと同じように言うだろうし)
田中(そもそも。俺だって、沖田のこと意識し始めたのも最近だし)
田中(今までは、普通に男女の友達って関係だったんだから。当たり前だろうな)
田中(…………沖田、本当に行っちまうんだな)
田中(友達も、家も、全部置いて。自分の夢を叶えるために)
田中(……かっこいいよな。すげえよ。俺には絶対選べない道だ)
田中(だったら、やっぱり応援……しねえとな)
――――放課後、駐輪場にて。
紗羽「そういえば、田中もチャリ通だったよね」
田中「ああ」
田中「は?」
紗羽「自転車使うより、かなり早く来れたんだよね」
田中「あー……そういやお前、一回馬で来たことあったな」
紗羽「馬で きた」
田中「……なんだ、そのヤンキーみてーなポーズ」
紗羽「知らない? ネットで有名な画像なんだけど」
田中「あんま見ねーから、わからん」
紗羽「そっか」
田中「うし、じゃ帰るか」
紗羽「あ、自転車乗っちゃうんだ」
田中「え? そりゃそうだろ」
紗羽「こーいう時は、歩いて帰るもんじゃない?」
紗羽「うん。なんとなく。雰囲気の話だけど」
田中「……ま、それがいいなら。それで」
紗羽「うん」
――――――――
田中「……」
紗羽「……」
田中「……なぁ」
紗羽「ん?」
田中「前から思ってたんだけど」
田中「ち、ちげえよ!」
紗羽「なんだ、残念。で?」
田中「お前さ。何で、指定の靴履かねぇの?」
紗羽「ああ。だって動きにくいじゃん。革靴って」
田中「そりゃ、運動するためのもんじゃないし」
紗羽「と言ってる田中も、スニーカーでしょ?」
田中「革靴じゃ、自転車が漕ぎにくいからな」
紗羽「結局、わたしと同じ理由じゃない」
田中「……たしかに。」
紗羽「わたしね、毎朝サブレと散歩してから学校来てるんだ」
田中「へえ。サブレって、お前んちの馬だよな?」
紗羽「うん。だから、いちいち靴取り換えるの面倒で」
紗羽「うわっ。なんか、田中が言うとエロく聞こえる」
田中「なんだそれ」
紗羽「……まぁ、後は踵の厚みがないからかな」
田中「? どういう意味だ」
紗羽「そのままの意味」
田中「スポーツやる人間からすると、だけど。踵ってすげえ負担かかるから、ぶ厚い方が良いと思うぞ」
紗羽「そうだね。でも、こっちはスポーツ関係なし」
田中「ますますわからん」
紗羽「あえて言うなら、わたしが指定靴はいたら」
スッ
紗羽「こうやって、下から覗きこむのも難しくなるよ?」
田中(ちっ、近い近い!)
田中「そっ、そういや……そうだな」
紗羽「……親のせいにするつもりはないんだけどさ」
田中「ん?」
紗羽「この年になって、初めて思った。もっと背が低かったらなー、って」
田中「……宮本が聞いたら、キレるぞ?」
紗羽「ふふ。かもね」
――――――――
田中「……」
紗羽「……」
紗羽「……あ。綺麗だねー、夕日」
田中「そうだな」
田中「たしかにな」
紗羽「……そうだ」
田中「?」
紗羽「田中、今日バドミのラケット持ってる?」
田中「ああ、あるけど。ってか略すな」
紗羽「えー……。部活もないのに持ってきてるんだ……」
田中「聞いたのお前だろ。なんでそこで引くんだよ……」
紗羽「一本だけ?」
田中「いや、練習用とか試合用とか合わせれば三本ある」
紗羽「三本も!?」
田中「それぐらい普通だし」
紗羽「ふーん……じゃあもちろん、羽根もあるんだよね?」
田中「シャトルか? そりゃ、もちろん」
田中「?」
紗羽「ちょっとだけ、やってかない? バドミントン」
田中「え?」
――――――――
シュパァン! パシュッ!
紗羽「うわっ! 変な動きした! 素人相手にカーブかけるの!?」
田中「バドミントンにカーブは、ないぞー」
紗羽「そうなのー?」
田中「むしろ、シャトルが軌道を変えたら壊れてる証拠だ! ほっ!」
紗羽「そうなんだ。知らなかったー!」
紗羽「じゃあ、こんな海岸の近くで潮風に煽られてやるのってー、間違ってる?」
田中「だから言った、ろッ! 風で曲がるからやりにくいって!」
紗羽「そうなんだー。ま、面白いからいいけどー」
田中「面白いか?」
紗羽「面白いよー。勝ち負けじゃなくて、単に打ち合ってるだけなんだもーん!」
田中「俺はいつもみたいに動けなくて、少しやりにくい!」
紗羽「足場は砂浜だしねー!」
田中「……まー、いいけどよー! 良い運動には、なっからッ!」
紗羽「……」
スパァン! シュパァン!
紗羽「というか!」
パシッ!
紗羽「ごめん。でも、これ、すっごい疲れるじゃん!」
田中「当たり前だろ。バドミントンなんだし」
紗羽「こんな激しいスポーツだったっけ……」
田中「一応、沖田でも打ちやすいように打ってるつもりなんだけど」
紗羽「そうなの?」
田中「ラリー続かない方がつまんねーし」
紗羽「そうなんだ。優しいね、田中」
田中「…………。いいから、再開してくれ」
紗羽「あ、ごめんごめん」
ヒュッ、スパァン! パァッ!
田中「んー?」
紗羽「バドミントンで、プロになりたいんだよねー?」
田中「……まーな」
紗羽「ずっと、言いそびれてたんだけどー」
田中「?」
紗羽「田中さ、わたしが騎手になるって言った時にー!」
田中「ああー!」
紗羽「カッコいいって、言ってくれたよね!」
田中「そうだっけー?」
紗羽「そうだよー。それがさ、わたし、すっごく嬉しかったんだー!」
紗羽「だから、ありがとねー!」
田中「……おー! 気にすんなー!」
田中「んー?」
紗羽「結構、カッコいいよー!」
田中「!」
ブォン!
紗羽「あ、全国ベスト8が空振った!」
田中「か、風で軌道が変わったんだよ」
紗羽「ほんとにー?」
田中「ったく……あー汚れちまった」
紗羽「わたしのせいじゃないよ?」
田中「はいはい。俺のせい。」
紗羽「ふふ。」
紗羽「うん。でも、そろそろ日も落ちてきちゃったね」
田中「ああ、それもそうだな」
紗羽「次のラリー終わったら、帰ろっか」
田中「……わかった。じゃ、いくぞ」
紗羽「こい!」
シュッ、パン! スパァンッ!
紗羽「あー、やっぱ動きにくい!」
田中「スニーカーだろ、お前」
紗羽「普段、こんなところでスポーツしないじゃん!」
田中「それもそうだなー」
紗羽「ほっ! よっ!」
田中(……もうすぐ終わりか)
田中(もう、ひと月もすりゃあ沖田は……居ないんだな)
田中(遠い国で、必死で騎手になるため、行っちまうんだ)
田中(俺が同じ条件なら……絶対、諦める気がするし)
田中(やっぱ、この思いきりの良さはすげーわ)
田中(宮本が言ってたように。暗い雰囲気で、送り出されたら)
田中(ただでさえ不安なのに、たまんねーよな)
シュパン! スパン!
田中(だから、明るく……せめて、楽しく)
田中(送り出して……)
紗羽「あはは。やっぱスポーツって楽しいよねー!」
田中「…………ッ」
ポトッ
田中「……」
紗羽「シャトル、汚れるよ?」
田中「……沖田」
紗羽「ん?」
田中(やっぱり、俺は……!)
田中「俺、さ」
紗羽「うん」
田中「沖田に…………行って欲しくない」
田中「せっかく、仲良くなっただろ。なのに、すぐまた離れちまうのって……」
田中「すげぇ……寂しいと……思う」
紗羽「……」
田中「……悪い。いきなり、こんなこと……」
紗羽「ううん。ありがとう」
紗羽「みんなさ、意地っ張りなんだよね」
紗羽「暗くなったり、別れを悲しんだら、わたしがためらっちゃうから」
紗羽「だから、みんな無理して、明るく振る舞ってる」
田中「……知ってたのか」
紗羽「見てればわかるよ、そんなの。特に来夏なんかね」
田中「……でも、それは」
紗羽「わたしを思いやって、考えてくれてることもわかってるよ」
紗羽「でもさ。それでも、やっぱり言って欲しいことって、あるんだよね」
紗羽「寂しいとか、行って欲しくない、とか」
田中「……」
田中「……俺は……」
紗羽「あ。そうだ。わかってるだろうけど、言うね」
田中「え?」
紗羽「それでも、わたしは行くよ」
田中「……」
紗羽「夢だったから。出来る可能性は、全部試したい。納得できるまで」
田中「……そうだな。」
紗羽「だから田中も、頑張ってね」
スッ
田中「……?」
紗羽「なにしてんの、ハイタッチでしょ。ほら」
紗羽「お互い、絶対に夢をかなえようね」
田中「ああ。俺は世界に、沖田は日本に、行けるように」
紗羽「……なんか変な感じ」
田中「大きな夢には、変わりないだろ」
紗羽「そうだね。約束だよ。破らないでね」
田中「おう。沖田こそな!」
パァン!
おしまい
書き溜めしてから投下のスタイルなので、投げっぱなしジャーマンにはなりません。
この距離のまま〆るとはよくわかってるジャマイカ
二人のお話(というか紗羽側)が動くなら、やっぱり空港イベントの後からかな、と
TARI TARIのSSは結構少ないので、もっとみんなもやってくれたら嬉しいな、って思ったり
こういう雰囲気いいな
Entry ⇒ 2012.10.10 | Category ⇒ 版権物SS | Comments (0) | Trackbacks (0)
梨穂子「……ごめんなさい、橘くん」
純一「え?」
梨穂子「………」
純一「ちょ、ちょっと待てよ梨穂子……橘くん…?」
梨穂子「………」
純一「な、なんだよ…前みたいに純一って呼べばいいだろ…?」
梨穂子「その…」
純一「あっ、うん!? なに梨穂子っ? あ、もしかして冗談だった?
おいおい、それちょっと冗談としてなら笑えないから───」
梨穂子「………」くる…
梨穂子「……ごめんなさい、私ちょっと急いでるので」
すたすた
純一「…え?」
純一「…なんだよそれ」
たっ
純一「──梨穂子!? おいって、どういう意味だよそれ!?」ぐいっ
梨穂子「きゃっ…!」
純一「な、なんでそんな他人行儀なんだよ…!? 僕だよ僕!? 橘純一で…!」
梨穂子「っ…は、離してくださいっ…!」
純一「ッ…!? くださいって……梨穂子!? どうして───」
梨穂子「……っ…」
純一「──そりゃっ…久しぶりに会って、最近は全然喋っても無かったけど…!
いくらなんでも、そんな態度はないんじゃないか…!?」
梨穂子「……っ」
純一「おいって! なんとか言えってば! 梨穂子!?」
梨穂子「───離してくださいっ!!」ばっ
純一「あっ……」
純一「うっ…えっと……梨穂子…?」
梨穂子「はぁっ……うんくっ…」きっ
純一「っ…」
梨穂子「もうっ……これから…っ」
純一「…え?」
梨穂子「もうこれからっ……私に近づかないでないで…っ!」
純一「なっ……!?」
梨穂子「私はっ……私はっ……」
純一「ど、どうして……そんなこと言うんだよ…? 梨穂子…?」すっ…
梨穂子「こないでっ! もっと叫びますよっ…!!」
純一「っ…」びくっ
梨穂子「はぁっ……はぁっ…私はっ……私はっ…!」
梨穂子「───貴方のことなんて全然知りませんっ!」だっ
純一「っ……ちょ、待ってよ!? 梨穂子ってば!?」すたっ…
「…何、アイツ?」
「さっきのって、リホだよね?」
「きも、もしかしてファンとか? かわいそー」
純一「……っ……」すたすた…
純一「………」
純一「………どういうことだよ、知らないって…」
純一「梨穂子…?」
~~~~~~
教室
梅原「お前が悪い」
純一「……どうしてだよ」
梅原「………」
純一「なのに……貴方のことなんて、知りません。だってさ…なんだよ一体…」
梅原「……幾つか言わせてもらっていもいいか、橘」ずいっ
純一「な、なんだよ。急に顔を近づけて…」
梅原「いいから、言わせて貰ってもいいかって」
純一「お、おう…」
梅原「あのよ、お前さんは確かーに……桜井さんの幼馴染かもしれねえ」
純一「…かもじゃなくて、その通りだよ」
梅原「黙って最後まで聞け」
純一「………」
梅原「ことさらに言えば、長年付き合いのある伝統長し立派な幼馴染だ。そうだろう?」
純一「…そうだよ? だから言ってるだろ、あんな梨穂子初めてだって」
純一「どういう意味だよ」
梅原「じゃあ聞くが、お前さんはだな……」
梅原「……〝アイドルになった桜井梨穂子〟という人間を、知ってるのかって話だよ」
純一「…知るわけ無いだろ、そんなこと」
梅原「んだろーが、でもってさっきお前さんが言った言葉はなんだ?」
純一「あんな梨穂子初めてだってコト?」
梅原「おう、それだ。今回のことはおめーさんの仲とはいえ、はたまた幼馴染っつーところであっても」
梅原「───んなもん関係の無い、全くもって無関係な問題ってことだぜ」
純一「…すまん梅原、もうちょっとわかりやすく言ってくれ」
梅原「……。ワザと遠まわしに言ったんだが、ハッキリ言わせるのか俺に」
純一「ああ…良いんだ、言ってくれ」
梅原「…そうか、じゃあ言うけどよ」
梅原「何時まで幼馴染の仲でいるつもりだ、大将。あっちはもう世間的なアイドルだぜ?」
梅原「いーや、言い訳は聞きたくねえぞ俺は。だからさっきの出来事があったんじゃねえのかよ」
純一「………」
梅原「いくらなんでもお前さんは、あのアイドル桜井リホに対して──」
梅原「───馴れ馴れしくし過ぎなんだよ」
純一「僕は、そんな風にしたつもりは…」
梅原「そうだろうな、確かに橘はんなつもりはなかったかもな」
梅原「…だけどよ、ちょっとは考えろ。あっちはアイドル、こっちはただの幼馴染」
梅原「でっけー壁がありまくりだって思わねえか?」
純一「……だけど、知ってるだろ梅原も」
梅原「ん?」
純一「あの桜井梨穂子だぞ? おっちょこちょいで、食べることが大好きで、誰からでも好かれて」
純一「…それでふわふわとしてて、すぐに歌を歌って、まあるくて、それで……誰よりも優しい奴だって」
純一「だろ? なんのに、おかしいよあんな態度は……仮にホントにアイドルだからって、
高飛車になるようなそんなタマの人間じゃないってことは…」
純一「……誰にだってわかることだよ」
梅原「…んでもよ、それもあれだろ、俺らの勝手なイメージだろ?」
純一「………」
梅原「例え桜井さんがそうだって思ってもよ、あんな遠くまで行っちまったら。
ただの学生の俺らが全てを分かってやれることなんて、出来るわけがねえ」
梅原「……こう考えろよ、大将」
梅原「──桜井梨穂子は、もう変わってしまったんだってさ」
純一「変わってしまった……」
梅原「ああ、そうだぜ。もう俺らの知ってる桜井さんはここには居ないんだ」
梅原「もう、桜井リホというアイドルしかいねーんだって」
梅原「…そうだろ、こんなことよ、桜井さんがアイドルになった時から分かってたことじゃねえか」
梅原「橘自身が言ってたろ? ……アイツは遠い所に行ってしまった。ってさ」
梅原「お前さんは何気なく話しかけたつもりだったかもしれねえけど」
梅原「…そんなことも、もう許されるような関係性じゃなくなっちまったということだ」
純一「……梅原、お前さ」
梅原「なんだよ」
純一「……容赦ないよな」
梅原「ったりめーだよ、はっきり言えって言ったのはお前だろ」
純一「……うん、わかってるよ」
梅原「はぁ……俺だってこんなこと言いたくねえ、本当の所はよ」
梅原「だけど、俺はもっと…そんな大将の顔が見たくねえんだ」
純一「え…?」
純一「………」
梅原「まーそういうこった、だからよ。これから先───」
梅原「───なんでか知らねえけど、アイドル活動休業してまで……」
梅原「…この輝日東に帰ってきてる、この三週間まで」
梅原「出来るだけ桜井リホにあわねーように、気を付けるこった」
純一「………」
梅原「……わかったか、わかってるのか大将」
純一「…わかってるよ」
梅原「いいか、絶対に問題を起こすなよ? お前さん、絶対にだぞ?」
純一「わ、わかってるって! ……なんだよ、僕が問題を起こすとでも言うのかよ…」
梅原「ああ、思ってる!」
純一「起こさないよ!」
梅原「──へたすりゃ捕まるぜ、本当に」
純一「わ、わかってるって! んだよ、僕を信用しろよ…!」
梅原「あいよ、元気も出てきたみてーだし。ほら、そろそろ授業も始まる……ぞ!」ぱしんっ
純一「あいたっ」
すたすた…
純一「…ったく、手加減をしろよ…」
純一「………」
純一(もうアイドルだから──……か)
純一「………そうだよ、な」
純一「確かに、そうだよなぁ……」
純一「………」
~~~~~~~~~~
放課後
純一「梅原ぁ、僕はちょっと職員室に用があるからー」
純一「わからん、だけど先に帰っていいからさー」
梅原「あいよーこってり麻耶ちゃんに絞られてこーい」
純一「まだ怒られるとは決まったわけじゃないからな!?」
職員室・ドア前
純一(───だけど、どんなことで呼び出されたのか全く分かって無い…)
純一(もしかして本当に怒られる為に呼ばれたのかな? でも、課題だって昨日ちゃんと怒られてたし…)
純一(居眠りしてた時も、呼び出されることも無く…テストの点でも呼び出しはまだ猶予がある…)
純一(んっ!? もしかして、ただ単純にイラついてるから僕を呼びだしたとかありえるかも…!?)
純一(橘くん、先生ちょっとストレス気味だから。二時間だけ椅子になってもらえないかしら?)
純一(…とかなんとか言われる可能性も……うむ、アリだなっ!)
がらり
純一「ひっ…!? ち、違います! 高橋先生僕はただ先生の臀部の感触を───……あれ?」
純一「……りほ、こ…」
梨穂子「………」
純一「………あ」
梨穂子「………」
すっ…
純一「っ……」
梨穂子「……」すたすた…
すたすた…
純一「……なんだよ、無視しなくたって…」
ヴィイイヴィイイイ…
純一(あれ? なんだろこの音……)
純一「……?」
ヴィイイヴィイイイ…
純一(この音、梨穂子から聞こえてるのか…?)
梨穂子「……」
梨穂子「……」ごそごそ…
ぴっ
純一「…なんだ、ポケベルか」
梨穂子「………」
純一(……なにやら真剣に見てるな、アイドル関係の内容かな)
純一(もう少し、もう数歩近づけば内容が見れる距離に行けるけど……)
純一(…って、何をやってるんだ僕は! そんな人のプライバシーを侵害するようなっ…)
純一「侵害するようなっ……」すた…すた…ちら…
「───橘くん?」
純一「ひぃいいいいいい!?」
純一「あ、へっ? す、すみませんっ! すみません! ごめんなさい! 本当にすみませんでした!」ぺこぺこ
高橋「そ、そんなに謝られても先生も…困るんだけど…」
純一「ハッ!? そ、そうですよねー! あは、あははは!」
高橋「……? まあいいわ。それよりも、先生の呼び出しのこと。ちゃんと憶えてるの?」
純一「は、はい! 椅子になら何時間でもなりきってみせます!」
高橋「椅子…? よくわからないことを言ってないで、早く職員室に入りなさい」
純一「そ、そうですね……失礼します…」ちらっ
純一(梨穂子は……もう居ないか)
高橋「橘くん!」
純一「はい! 失礼します!」
~~~~
高橋「橘くん、君を呼びだしたのは少し相談があってのことなのよ」
純一「…相談、ですか?」
高橋「そう……先生も出来るだけこのことは内密にしておきたいのだけれど」
純一「は、はあ…」
高橋「──桜井梨穂子さんが、今学校に戻ってきてることは知ってるわよね?」
純一「っ…は、はい」
高橋「アイドル活動とかで……先生はそういうの疎いから分からないけれど、
学校側も公認で、長い間学校をお休みしてたんだけど」
純一「…そ、そうですね」
高橋「テレビでも新聞でも言われてる通り、彼女は今、三週間の休みを取っている」
高橋「それで学校に戻ってきてるわけだけど……ちょっと、実は問題があって」
純一「問題…?」
高橋「ええ、それが今回貴方を呼びだした理由です」
高橋「……このことは、誰にも公言しちゃだめよ。いい?」
高橋「先生は、例え課題やテストの点数が悪くても。
そういった約束事は守る橘君だって信用しているから、こんなことを言うのよ?」
純一「だ、大丈夫です! 決して先生の信頼を裏切ることはしません!」びしっ
高橋「………よろしい、じゃあ少し小声で話すわね」こそ…
純一「は、はい…」こそ…
高橋「今回、桜井梨穂子さんがお仕事を休業しているわけ……それは、一般的に
学生としての身分を全うするため。かつ、義務的なものとして公式では発表されてるの」
純一「し、知ってます…! テレビでも報道されてましたし…!」
高橋「ええ、だけどね。本当の所はちょっと違うの」
純一「な、なんですって!?」
高橋「こ、こら! 大きな声を出さないの!!」
純一「す、すみませんっ…! 思わず…!」
高橋「本当に静かにしてなさい…! これがもし世間にも広がりでもしたら、とんでもないことになるのよ…!?」
高橋「っはぁ~……じゃあ続けるわよ? だけど、どうしてここまで秘密裏にしなければならないのか、
と君も不思議に思ってくるんじゃないかしら?」
純一「…ええ、さっきからそう思ってます」
高橋「そうでしょう。これは本当に世間に出回ってはダメなこと。
先生だって彼女から直接、相談があるまで全然知らなかったことよ」
純一「…梨穂子から直接、ですか?」
高橋「そう。だから、このことは誰に行っちゃダメ、私だって君も含めて少数にしかこの事を言ってないのよ」
純一「……言っちゃってるじゃないですか」
高橋「ち、違うわよ?! 先生はっ…彼女の親しい人たちに伝えたんです!
誰かれ構わず言ってるわけじゃありませんからね!?」
純一「じょ、冗談ですよ…! すみません…!」
高橋「くっ…で、ですからっ! このことは秘密裏にしておくこと! そして、それがどのようなことかというと────」
~~~~
茶道部
純一「…お邪魔します」
「───黒幕登場」
純一「ええ、お久しぶりです。それと黒幕とか言わないでください」
夕月「ははっ、そう言うなって橘ぁ。なんてったって、これがあたし達だろ?」
愛歌「通常通り」
純一「…確かにその通りですけど」
夕月「そんでもって、今日は見学かい? やっと茶道部に入ろうって気になったワケかー!」
愛歌「風前の灯」
夕月「おいおい、そりゃまだ早いぜ愛歌。まだまだイケるって」
愛歌「……夢の跡」
夕月「厳しい言葉だよ」
純一「あのー……上がっても?」
夕月「おう、あがんなあがんな。愛歌が茶を丁度、入れてる所なんだ」
愛歌「愛がこめられてる………飲んで溺死せよ」
純一「……」ぴしゃっ
愛歌「つっこみ万来」
純一「……」すたすた
夕月「そりゃ無理って話だよ! 人いねーじゃねーか! あたしらだけだぜ? あっはははっはは!」
純一「……」すとん…
愛歌「残念無念」
純一「お茶をください」
夕月「くっく、あんたもあたしらの扱いに慣れ過ぎだよ」
愛歌「常時運転」
純一「…どれだけここに、来てると思ってるんですか」
夕月「そうだね、確かにそうだ。ま、ここの所とんと来てなかったけどな」
純一「……」
夕月「まあ、ゆっくりしていきな。………こっちも話したいこと、沢山あるからよ」
夕月「───何も隠すことはねえだろ、アレはただの〝病気〟だ」
夕月「ずずっ……ふぅー…誰にだってある問題であって、一般人も掛かっちまう普通の病気だよ」
純一「…そうで、しょうか」
夕月「ん?」
純一「確かに……それは言ってしまえば〝病気〟なんでしょうけど…」
純一「本当に……ありえるんでしょうか…」
夕月「信用しないのかい? あいつが言ったことを」
純一「………」
夕月「あのりほっちが言った言葉を、例えそれが、先生からっつーさ。
つまんねえ言付けみたいな感じで伝わってきたものだったとしても」
夕月「お前さんは、信用しねえのかい?」
純一「……ですけど、やっぱり…」
純一「───記憶を、失ってるなんて…」
純一「常識的に、本当にそうだったとしても信用とか、そういったことじゃもう…」
夕月「……詳しいことはわからねえけどさ、ずずっ」
こと…
夕月「アイツってば、思うに。無理をし過ぎてたんだと思うんだよ」
純一「無理を…?」
夕月「ああ、そうさ。あの子はアイドルって肩書がとんでもなく重たすぎたんだって、あたしゃーそう思う」
純一「………」
夕月「言いかえれば頑張りすぎたんだよ。運が運を呼んで、とんでもない場所まで上り詰めちまったけど、
はたしてそれがあの子の器量でやりきることが出来るもんだったかと言えば、そうじゃねーんだろうさ」
夕月「今回のことを、考えれば」
純一「………」
夕月「橘も知ってるだろうけど、あの病気は…精神的なものからくる記憶障害……だったか?」
愛歌「ずずっ…通称、心因性記憶障害」
夕月「しん、いん…?」
愛歌「心因性記憶障害───……心因性記憶障害健忘」
愛歌「区分すると4つ、一定期間のことすべてを思い出せない限局性。
一定期間内のいくつかの事しか思い出せない選択性。
人生すべてを思い出せない全般性。
ある特定の時期から現在の事を思い出せない持続性健忘。
発症年齢は、青年や若い女性に多く見られ、高齢者には稀にアリ。
心理的・社会的ストレスによって引き起こされると言われる」
夕月「…愛歌はなんでも知ってんな、本当に」
愛歌「調べた」
純一「そ、それで…梨穂子は?」
愛歌「予想すると……選択性の心因性記憶障害」
夕月「とある期間内のことをおもいだせないって奴か?」
純一「っ……でも、僕のことは全く覚えてなかったですよ…!?」
愛歌「怒るな……だから、予想だと言っている」
純一「ぐっ……すみません…っ」
夕月「まあまあ、橘だって困ってんだ。そんなに冷たくすんな愛歌」
愛歌「心因性記憶障害───……心因性記憶障害健忘」
愛歌「区分すると4つ、一定期間のことすべてを思い出せない限局性。
一定期間内のいくつかの事しか思い出せない選択性。
人生すべてを思い出せない全般性。
ある特定の時期から現在の事を思い出せない持続性健忘。
発症年齢は、青年や若い女性に多く見られ、高齢者には稀にアリ。
心理的・社会的ストレスによって引き起こされると言われる」
夕月「…愛歌はなんでも知ってんな、本当に」
愛歌「調べた」
純一「そ、それで…梨穂子は?」
愛歌「予想すると……選択性の心因性記憶障害」
夕月「とある期間内のことしか、しかも少しだけしか思いだせないって奴か?」
純一「っ……でも、僕のことは全く覚えてなかったですよ…!?」
愛歌「怒るな……だから、予想だと言っている」
純一「ぐっ……すみません…っ」
夕月「まあまあ、橘だって困ってんだ。そんなに冷たくすんな愛歌」
純一「いえ、僕の方こそ急に熱くなってしまって……」
純一「で、でも! それは決して良くならない病気ではないんですよね!?」
愛歌「…回復は可能、再発も滅多に皆無」
純一「っ……よかった…!」
夕月「じゃあどうやって治すんだ?」
愛歌「調べてない」
夕月「…調べろよ」
愛歌「知らぬ顔の半兵衛」
夕月「…あ? だったら───ああ、そういうことか」
夕月「まあ、いいよ。確かに治る病気ってんなら安心だな、橘」
純一「………」
夕月「ん? 橘? どうしたさっきから俯いて───」
純一「───だったら、治しましょうよ、病気…!」
純一「治るんですよね…? ちゃんと治るんだったら、どうにかして…!」
純一「僕たちで治しましょうよ! 梨穂子の病気を!」
愛歌「…」
夕月「い、いやっ……治すってお前さん…やりかたわかるのかい?」
純一「いいえ、全くわかりません!」
夕月「おいおい! それじゃあ話になんねーじゃねえか!」
純一「だけど! ただ見てろって言うんですか!? あの梨穂子を!?」
夕月「……そりゃあ、あたしだって見たくはないけど」
純一「でしょう!? だから僕が、そして茶道部のみなさんで梨穂子を治してやるんです!」
純一「──梨穂子の記憶を、僕たちで治してやりましょうよ!」
夕月「…簡単に言うねえ、おいおい」
愛歌「妄想主義者」
純一「これなら梨穂子とも話せる機会が増える、そしたらきちんとアイツと会話が出来ることも…!」
ぐっ…
純一「先輩! どうですか!? 僕と一緒にやってくれませんか!?」
夕月「やってくれませんかって、こういったことは大人しく見守っておくのが…」
純一「ダメですよ! それじゃあ! だって三週間しかないんですよ!?」
純一「そんな悠長なことを言ってたら、アイツはまたあの世界に…
しかも治らなければ、記憶が不安定のままに、またずーっと頑張り続けてしまう!」
純一「そしたらもうっ……アイツはっ…梨穂子は! どうなっちゃうか分からないでしょう!?」
夕月「……」
純一「どうにかするしかないんです! このことを知ってるのは…先輩と僕、この三人だけのはずです!」
純一「……お願いします、どうか、梨穂子の為だと思って……」
純一「──僕に協力をしてください、お願いします!」ぐっ
純一「……」ぐぐッ…
夕月「はぁ……あのなぁ、橘───」
愛歌「───その心意気、乗った」
純一「ほ、本当ですかっ!?」
夕月「愛歌…?」
愛歌「乗ってやろう……橘純一」
愛歌「りほっちの治療……茶道部全部員で」
純一「やってくれるんですね!? 夕月先輩!?」
夕月「えっ? あ、お、おう……?」
純一「ありがとうございます! ありがとうございます!」
夕月「い、いや! 違う! そうじゃなくて───」
愛歌「──詳しい内容は後日」
純一「わかりました! 明日ですね!? そ、それなら僕も色々と徹夜で考えてきます…!」
純一「頑張ります! じゃ、じゃあこれで! いそいで帰って作戦を練らないと…!」だっ
純一「──お茶ありがとうございました! 失礼しました!」
がらりっ…ぴしゃっ
夕月「………」
愛歌「ずずっ…」
夕月「…おい、説明してくれるんだろうな」
愛歌「………」こと…
夕月「分かってんだろ? つぅうか、愛歌が分かって無いはずがないもんな」
愛歌「………」
夕月「──アイツ……橘だけど。ちょっとオカシイぞ、あれ」
愛歌「そうかもしれない」
夕月「そうかもじゃないだろ、必死すぎるっていうかよ、なんか周りが見えてないように感じる」
夕月「急に治すとか言いだして、此処に来たときだって、変に思いつめた顔してやがって」
夕月「…今の橘は、ハッキリ言って〝危険〟だと思わねえのかい?」
愛歌「…」
夕月「冗談じゃねえよ、本気で言ってるんだ。あの馬鹿がとんでもねえ事しでかす前に……教えろ愛歌」
夕月「一体ぜんたい、何がしたいんだお前」
愛歌「…長いものには巻かれろ」
夕月「は?」
愛歌「そう言う本心……るっこもわかってるはず」
夕月「……。めんどくせーこと考えるのは苦手なんだよ、あたしゃ」
夕月「ま、とにかく約束しちまったことは守んねーとな」
夕月「はぁ~……どうなるんだろうねぇ、この三週間は」
愛歌「波乱の予感」
純一「はぁっ…はぁっ…! やってやる! やってやるぞ僕は!」たったった!
純一「家に帰って、色んな事を考えて…! 梨穂子の為に、色んな事を頑張ってやるんだ…!」
純一「僕は…! 大丈夫だ、絶対に梨穂子を治すことが出来るはず…!」
たったったった!
純一「───やってやるぞ! 梨穂子! 待ってろよ!」
次の日
純一「………」
純一(色々と夜なべして考えてきたけど、その内容を茶道部の先輩たちに言う前に…)
純一「…梨穂子に対しても、ちょっと了解を得ないといけないよな」
純一(僕と梨穂子は他のクラス。会えない可能性も格段と上がってしまう……それならどうすればいいか)
わいわい がやがや
純一(登校中の梨穂子を、話しかければいい)
純一(登校ルートはほぼ一緒だから、こうやって道を歩いていればじきに出会うはずだ……)
純一(もうちょっと待てばあいつは来るはず──来た…!)
純一(…梨穂子だ、前方から坂を上ってきてる。俯いて歩いてるようだから、
まだこちらには気付いてない……よし、近づくまで待ってよう)
純一「…」
梨穂子「……」すたすた…
純一「…」
梨穂子「……」すたすたすた…
純一(今だ!)
純一「りほ──」
伊藤「──やっほ、桜井ー」
梨穂子「っ……」
伊藤「おっはよーさん!」
梨穂子「……───」
梨穂子「──おはよう、香苗ちゃん~」
純一「え……?」
梨穂子「えへへ、今日も元気だね香苗ちゃんは」
伊藤「あったりまえ、あたしだは元気が取り柄だからさ」
梨穂子「くすくす」
伊藤「そういう桜井だって、アイドルだからって全然元気じゃん」
梨穂子「え~? だから言ってるでしょ香苗ちゃん、アイドルアイドルって言わないでよって~」
伊藤「言わないでって言われても、あんだけゆうめいになっちゃったらイヤでも思っちゃうでしょうが」
梨穂子「…そうなの? うーん、でもなぁ」
伊藤「あんまそう思ってほしくないなら、あたしも言わないでおくけど?」
梨穂子「……」
梨穂子「…ううん、全然いいよ。だってアイドルってことは本当のことだし…」
梨穂子「──それに、私がなによりも大好きな事だから」
純一「っ……」
梨穂子「ちょ、ちょっと…! そんなこと大きな声で言わないで…ね?」
伊藤「あはは、んな恥ずかしがらなくてもいいじゃん───って、あれ?」
伊藤「橘くん?」
純一「…あっ……」
伊藤「橘くんじゃん、おはようー」
純一「お、おはよう……」
伊藤「ん? えらく元気ないけど、どかした?」
純一「あ、うん……えっと、その…」
梨穂子「………」
純一「………」
伊藤「…はは~ん、なるほどねぇ。あたしはお邪魔虫って訳ですかぁ」
梨穂子「も、もうっ! 香苗ちゃんっ……?」
純一「───香苗さん、ちょっと僕と梨穂子の二人だけにしてもらってもいいかな」
伊藤「…え?」
純一「いいかな、させてもらっても」
伊藤「あ、う、うん……いいけど…どしたの急に?」
純一「…ごめん、詳しくは言えない」
伊藤「………」
純一「………」
伊藤「…わかった、よくわかってないけど」
純一「っ……ありがとう、今度なにかお礼するよ」
伊藤「いいっていいって、それよりも……」すたすた…
伊藤「……あんまり桜井を困らせたことさせたら、怒るよ」ぼそっ
純一「………」
伊藤「んじゃ、桜井ぃ。教室でねー」
伊藤「うぃー」すたすた
梨穂子「………」ふりふり…
梨穂子「………」ふり…
すっ…
梨穂子「………」
純一「っ……梨穂子…」
梨穂子「…私に近づかないで」
純一「そ、それは……昨日聞いた」
梨穂子「…じゃあ今日も近づかないで。明日も明後日も、この三週間ずっと」
梨穂子「───私の視界に一切、映らないようにしてください」
純一「ぐッ…どうして、そんなこと言うんだよっ」
梨穂子「………」
純一「僕はっ……知ってるんだぞ、お前の…その〝病気〟のこと…!」
梨穂子「っ…」
梨穂子「………」
純一「憶えていたことが全く憶えて…なくて。
だから今はアイドルを休業してまで…学校に来てる」
梨穂子「………」
純一「憶えてる部分がどんな所かは知らないけ…だけど、僕に対する対応でなんとなく理解できるよ」
純一「…梨穂子、僕のことを忘れてるんじゃないかって」
梨穂子「………」
純一「だからあんな風に、僕に冷たい対応をしたんだろ?
今だってそうだよ、こんなの、全然梨穂子らしくない」
純一「…お願いだ、梨穂子。正直に話してくれよ」
梨穂子「………」
純一「辛いのかもしれないけど、言いたくないのかもしれないけど……忘れてしまってるんだろうけど」
純一「僕とお前は、幼馴染なんだ。正直に言ってくれ…」
梨穂子「………橘くん」
純一「っ…な、なんだ?」
梨穂子「……っはぁ~、あのねちょっといいかな」
梨穂子「──リホは別に、病気でもなんでもないよ?」
純一「えっ…?」
梨穂子「もう一回言ってあげようか? 橘くん、これは病気じゃないんだよ」
梨穂子「一般的に公表されてる通り、ただの休暇期間……ただのオヤスミってだけで」
梨穂子「周りが噂してるような、病気だとか記憶喪失とかじゃなくて───」
梨穂子「──このリホがまねーじゃーさんに我儘を言って休ませてもらってるだけ」
純一「……う、嘘だよ…だって! 高橋先生が…!」
梨穂子「高橋先生? …ふーん、そっか~」
梨穂子「信用しちゃったんだ~? くすくす、橘君って……本当にお豆腐みたいな脳みそなんだね~」
梨穂子「アレは単に、同情をさせて不登校気味だったものを緩和させる為に言っただけなんだー」
梨穂子「…他の子もやってることだって、まねーじゃーさんに教えてもらったんだよ」
純一「そ、そんなことっ…だって、茶道部の先輩たちも…! それに、僕に対しても…!
だったらどうして僕のこと橘って呼ぶんだよ!? 記憶が無いとしか理由がないだろ…!?」
梨穂子「あはは、違うよー…もう!」
梨穂子「じゃあ呼んでほしいなら呼んであげるよ、ねえねえ───」
梨穂子「───純一ぃ、おはよう~」
純一「っ……や、やめろ…!」
梨穂子「えー? どうして? だって純一が呼んでって言ったんでしょお?」
梨穂子「だからわざわざ呼んであげたのにぃ…ひどいよ、そういうのって」
純一「ち、違う…! そんなの、梨穂子じゃ…!」
梨穂子「…何が違うっていうの? あはは、だってみてたでしょ?」
梨穂子「香苗ちゃんだってリホのこと、まったく心配してる風じゃ無かったよね?」
梨穂子「昨日、クラスで一日中過ごしたのに。まったくリホのこと気にかけてる様子はなかったよね?」
梨穂子「リホはリホで、三週間の学校生活を楽しみたいってだけで、別にそんな大した理由があるわけじゃないんだよ」
梨穂子「……桜井梨穂子は、ただのお仕事のずる休み中。なんだよ?」
純一「ち、違う!」
梨穂子「違わないよ、本当のことだから」
純一「っ…じゃあ、どうして僕にそんな態度なんだよ!? 梨穂子、そんなお前らしくないだろ…!?」
梨穂子「…さっきからその〝らしくない〟って、何なのかな」
純一「だってそうじゃないかっ! そんなっ…そんなっ…人を小馬鹿にしたような喋り方っ…梨穂子らしく───」
梨穂子「──らしくない、とか言わないでよ」
純一「っ……」
梨穂子「じゃあ言ってあげる、純一。あのね、わかってないようだから言ってあげるけど」
梨穂子「……これが今の〝私〟なんだよ。これがアイドルの桜井リホなんだよ」
梨穂子「いつまで自分が知ってる幼馴染の〝桜井梨穂子〟だって思ってるの?」
梨穂子「…やめてよ、もうそんな私なんて居ないんだから」
梨穂子「あの時、廊下で会った時……リホは貴方のこと知りませんって、言ったよね」
梨穂子「あれは記憶喪失とかじゃなくて、精神的にとかじゃなくて」
梨穂子「…貴方を拒絶する為に、そう思わせる様に言ったんだよ」
純一「拒絶…っ…」
梨穂子「でも、安心したよね? 別に病気じゃなくて、記憶障害じゃなくて。
大丈夫だよ、平気平気~♪ リホはちゃーんと純一のことを憶えてるから」
梨穂子「───だけど、リホにはもう近づかないで。橘くん」
純一「っ…」
梨穂子「リホはそう望んでるんだよ、そう心から願ってるから」
梨穂子「……そういうことで、じゃあね橘くん」すたすた
純一「……────」
純一「──待てよ!! 待てって梨穂子!!」がっ
梨穂子「………」
お前は絶対にそんな事言う奴じゃない! 僕はそれを知ってる!!」
梨穂子「………」
純一「な、なにか訳があるんだろ!? 記憶が無いってことが嘘ならっ…また別の理由が!
そうじゃなきゃお前が僕に対して、そんな冷たくなる理由がわからないだろうが!?」
梨穂子「………」
純一「そうやって黙ってちゃなにもわからないだろ!? 教えろよ! どうした梨穂子!?」ぐいっ
梨穂子「………───」すっ
ぱあああんっ…
純一「──え……」
梨穂子「………」
純一「今……え……叩かれ……」
梨穂子「…次、もう一回腕掴んだら警察呼ぶから」
純一「っ……」
梨穂子「そうなると橘くん、犯罪者になるよ? この意味、わかってるよね」
梨穂子「…気安く下の名前で呼ばないでくれるかな、今の私は桜井リホだから」
梨穂子「桜井梨穂子はもう……貴方の中にいる幼馴染の桜井梨穂子はもう」
梨穂子「───何処にも居ないんだよ……」すっ…
すたすた…
純一「………」
純一「………梨穂子…」
純一「………そんなこと…」
純一「ぐっ……だめだ、ちゃんと理由を聞かなくちゃ…!」
純一「梨穂子!」だっ
だだだだだっ…
純一「梨穂子! ダメだ! 僕はちゃんとお前の口から───」
「よし、今だ!」
純一「──えっ……うわぁああ!?」
どしゃあああっ
「うぉおおおお!!」
純一「な、なんだ…!? え、待ってそんなに圧し掛かれたら…!」
どしゃ!
純一「うっぐっ…!?」
「すみません、リホちゃん! 後は我々【桜井リホお守り隊】にお任せください!」
梨穂子「……遅いよ、昨日あれだけちゃんと言ったのに」
「はっ! ですがまさか登校中のリホちゃんを襲うとは…我々も不覚です、警備の強化を実施させます!」
梨穂子「うん、お願いだよ?」
「は、はいいいいい! 四番隊ぃ! 犯罪者の尋問にかかれぇ!」
「はっ!」
純一「息がっ……痛いっ…あれ、なんだよ…!? 何処に連れて行くつもりだ…!?」
梨穂子「あんまりひどいことはしちゃダメだよ? 警察沙汰になったら、私だって何もできないから」
梨穂子「…そっか、みんな良い子だって知ってるから。リホも安心だよ~」
「ええ! では安心して登校されてください! 五番隊を護衛につけます!」
梨穂子「うん、ありがと~」
純一「っ…梨穂子…! 梨穂子ー!」ずりずり…
「こら、暴れるなっ…!」
純一「梨穂子っ……これはどういうことだよ!? なにがお前をそんなにっ…!」
梨穂子「……」
純一「教えてくれよっ…!? どうして教えてくれないんだ!? 僕はっ…僕はっ…!」
梨穂子「……」くる
すたすた…
純一「梨穂子っ……!」
~~~~~
校舎裏
純一「うっ……」
純一「はぁっ…くそ、沢山蹴りやがって…」
純一「っ…いたた……何だよ、僕がなにをしたって言うんだよ…!」
純一「…はぁ…」ごろり…
純一「…………」
純一「……何だって言うんだよ…」
「───おい、立てるかそこの犯罪者さんよぉ」
純一「っ……立てません、太もも思いっきり蹴られてるので」
夕月「だろうねぇ、三人に寄ってたかって蹴られまくってたもんな」
純一「…見てたんですか」
夕月「まあな。それにしちゃー案外、平気そうだね、どれ見てやるよ…」すっ
純一「………」
夕月「おうおう、頬がちょっと擦り?けてやがんな」
純一「…大丈夫ですよ、これぐらい」
純一「……」むくっ…
夕月「ん、もうちっと寝とけばいいじゃねえか」
純一「…いいんです、もう大丈夫ですから」
夕月「いいから、もうちっと寝とけって」ぐっ
純一「は、はい? だ、だからもう平気だって──」
夕月「──寝とけっていってるだろーがッ!」ボスッ!
純一「うごぉっ…!?」ぱたり
夕月「よしよし、いいこだ。素直は良い奴の証拠だぜ」
純一「ねっ…寝かせたの間違いっ…でしょっ…!?」ぷるぷる
夕月「んまー固いこと言うなって。どうだい、あいつ等の蹴りより効いたろ? くっく」
純一「え、ええっ……今が一番、重体ですっ…!」
夕月「…あんたはりほっちにやりすぎた、だからあたしからも一つ制裁ってな」
純一「………」
夕月「そこで大人しく寝ときながら、あたしの話しもついでとばかし、聞いておくれ」
純一「……なんですか、一体…」
夕月「あたしも手伝ってやるよ、りほっちを治すってやつをさ」
純一「っ……先輩、それは…!」
夕月「遠くからだったけどよ、話の内容は想像できたぜ。…んな病気はないって言われたんだろ?」
純一「…はい、だから治すも何も…」
夕月「…信用するのかい? あの子が言った言葉を?」
純一「え…? いや、夕月先輩……昨日言ってることと違うじゃないですか…っ?」
夕月「へ? あたしゃ、なんか言ったかい?」
純一「いいましたよ…! あいつのこと、梨穂子の言ってる事を信用しないのかって…!」
純一(この人こそ記憶障害なんじゃないのか…)
夕月「…ま、でも。それは違うんじゃねえの?」
純一「…違う?」
夕月「おうよ、ありゃ桜井梨穂子のことを信用しろって言ったわけでさ」
夕月「───別に桜井リホまでを信用しろ、とまでは言ってねえよあたしも」
純一「なにが違うっていうんですか…どっちも同じ、桜井でしょう」
夕月「いーや、違うね。天と地の差があるよ」
純一「………」
夕月「確かにあんたにとっちゃ、同じことなのかも知れねえけどさ。
だけど落ちついて考え直してみるんだよ、お前さんならちゃーんとわかるはずだ」
純一「…そんなの、梨穂子がなにも言ってくれない限り…」
夕月「なにいってんだい、あんたはりほっちにとって……唯一の幼馴染じゃないのかい?」
純一「……」
純一「…じゃあ、どうすればいいんですか…! 僕だって、アイツのことを信用したいですよ!?」
純一「だけど、アイツが…梨穂子が! あんな態度をし続けるなら、もう幼馴染だからって何も出来るとはっ…!」
夕月「んだから言ってんだろ、信用しろって」
純一「っ…なんですか、信用しろって! 意味が分からないですよ!」
夕月「そのまんまの意味だよ、あの子をいつまでも信用するんだ。
どんなに冷たい事を言われても、どんなに暴言を吐かれて拒絶されたとしても、だ」
夕月「お前さんはそれを耐え抜いて、耐え抜いて、ずっとずっとりほっちのことを信用し続けるんだぜ」
純一「そんなっ……こと、僕には…っ…」
夕月「──いいや、出来る」
純一「っ……」
夕月「あるだろ、その耐え抜く覚悟……その原動力が」
夕月「あえてあたしも、何も言わねえでおくけど。
あんたには……あるはずだ、りほっちにたいしての〝頑張らなきゃいけない理由〟がよ」
夕月「だからこそ、昨日のお前さんの異常な……いいや、これはいいか」すっ…
夕月「とにかく、その心の中にある抱えたモンを……そう簡単に諦めるなってこった」
純一「………」
夕月「信じ続けろ。りほっちを、それがお前さんが出来る、今現状での最高の〝治療〟だ」
純一「…信じ続けろ…」
夕月「おうよ、それからはじめて行けばいい……そしたら、あたし達も手伝ってやんよ」
夕月「ま。頑張りな、応援してっからさ……んじゃhrに遅刻しないようにな~」
すたすた…
純一「…………」
純一「どういうことだよ……信じ続けろって…」むく…
純一「勝手すぎるよっ…誰もかもっ…わかったように言いやがって…ッ」
純一「……僕は、アイツの幼馴染…」
純一「分かってやれるのは、僕だけ──………」
純一「………」
純一「………はぁ」
梅原「おうおう、どうした大将。浮かない顔してよお」
純一「…ん、梅原」
梅原「今日一日、全くもって元気ねえじゃねえか。どうした?」
純一「…なんでもない」
梅原「……、そうかい。お前さんがそういうのなら、俺も何も言わねえよ」
純一「………」
梅原「………」
梅原「っはぁー、俺もお人よしだなホンット…」
純一「? なんだよ、どうした急に」
梅原「ほらよ」
ぽすっ
純一「…これは? メモ帳?」
純一「う、うん……なんだこれ、なにかの予定表?」
梅原「おう…『桜井リホ守り隊』の計画スケジュールだぜ」
純一「……。なにっ!? こ、これを何処で手に入れたんだ梅原ぁ!?」
梅原「しぃー! 声がでかいぞ橘ぁ!?」
純一「す、すまん……!」
梅原「はぁ…誰にもバレてないようだな、いいか? これがもしバレたら俺もただじゃ済まされないんだからなっ?」
純一「お、おう……だけどこんな凄いもの、何処で手に入れたんだ?」
梅原「『桜井リホ守り隊』のメンバーの中に……実はユウジが居るんだよ」
純一「…なにやってるの、アイツ」
梅原「ファンだからな」
純一「知らなかった…」
梅原「まあ色々と交渉をしてみたらよ、なんとかスケジュール表を映してもらえることに成功した」
梅原「だろ? 頑張ったぜ、アイツの好みのお宝本を揃えて…それからどれだけ価値があるか散々語りまくってさ───」
純一「ふむふむ、今日一日はずっと護衛か…」
梅原「……おい、聞いてんのか大将」
純一「うんー、聞いてるよー」
梅原「……」ぱしっ
純一「あー! なんだよ、どうして奪うんだよ!」
梅原「…お前の態度次第によっちゃ、これを譲渡させてもいいぜ」
純一「え……本当に?」
梅原「おう、態度次第だがな」
純一「…お宝本か?」
梅原「ああ、そうだ。……と、今回は言ってやりたい所だが違う」
純一「え…? 違うのか?」
梅原「そうだぜ、今回はとあるお願いをかなえてもらおうか……それはユウジの頼みでもあり、
あの『桜井リホ守り隊』の悲願でもある」
純一「……笑顔?」
帰宅路
純一「ふむ、明日は街にお出かけか」
純一(色々と読んでみると、三週間の予定がみっちり書いてある…つまりそれは、
逆に言えば梨穂子自身のこれからの予定ってなるわけだ、流石に確執にそうだとは言い切れないけど)
純一「はぁ…」ぱたり
純一「いやはや、梅原には悪い事をしたな……後で個別にお宝本を貸してあげよう」
純一「…だけどどういう意味だろ、笑顔って…」
~~~~
梅原「あいつ等が言うには、どうも桜井リホは……何時も通りでは無いらしいぜ」
純一「……そうなのか」
梅原「ああ、よくわからねえけど、俺たちの大好きな桜井リホの笑顔はもっと輝いてるぅ! …らしい」
純一「………」
梅原「俺は詳しくねえから語れねえけど、ユウジも心配そうにしてたんだよ」
梅原「…だからこそ、あの『桜井リホ守り隊』も熱が入っちまってるみてーだな」
純一(それは僕も含まれてるんだろうか…)
梅原「流石にひでーって、先生らも色々動いてるみてえだが…実際はどうなるか分からん」
純一「まあな、生徒が自主的にやってる事だし…まだ大した問題になって無いんだろ?」
梅原「……それも時間の問題かもしれねえ」
純一「え?」
梅原「ユウジが言うにはどうも……〝過激派〟と〝穏便派〟に隊が分かれつつあるらしい」
純一「過激派に…穏便派?」
梅原「ああ、アイドルファンに多い傾向らしいけどよ…そういった思想に違いが出てきてるらしいぜ」
純一「ユウジは?」
梅原「穏便派だ、安心しろ」
純一「…そっか、良かった」
梅原「今回のお願いも、実は穏便派からのことだったりするんだよ」
梅原「…あいつ等は願ってる、本当の桜井リホの笑顔を見ることを」
梅原「だけど、それは俺らには無理だって。ここ数日で色々と…判断したらしい」
梅原「──そこでお前の出番だ、大将」
純一「ぼ、僕?」
梅原「そうだ、ユウジ共々…そして穏便派はお前に全てを託すと言っていた」
梅原「大将、これはお前にしかできない事だ。わかるよな?」
純一「え、でも…お前、梨穂子にもう関わるな的なこと言ってなかったか?」
梅原「………忘れた!」
純一「ええっ!」
梅原「い、いいんだよ! 忘れろ! …とにかく、お前は託されたんだ」
梅原「その手帳を使って、上手く立ち回ってどうにか桜井さんに……」
梅原「……満点の笑顔を、咲かせてやってくれ!」
~~~~
純一「……とにかく、やれるよことはやってみよう」
純一「…そして、夕月先輩たちも」
純一「僕は……やらなくちゃ、いけないんだよな」
ぐっ…
純一「…あの梨穂子を、どうにかしないといけないと」
純一「だってそれは、僕自身も──強く望んでる事の、はずだから」
純一「………忘れるな、橘純一」
純一「──その思い、アイツがアイドルになってから決めた〝心の覚悟〟は…」
純一「絶対に蔑にしちゃいけない、大事なことだってことを」
純一「…………」
純一「っはぁ~……よし、やれるぞ僕になら!」
純一「まずは、家に帰ってどうするか考えよう! 作戦会議だ!」だっ
「──や、やめてくれよっ…! うあぁああああ!」
純一「! な、なんだ…? どっからか叫び声が…?」
「──どういうことだ、どうしてそんなことをした!」
ユウジ「ち、違うって! 別に俺は…!」
「言い訳をつくな! おい、お前らも何か言え!」
「…っ…俺たちは別に…」
「なにもしてないよ…」
「な、なあ? 隊長、アンタの勘違いだって…」
「嘘をつくんじゃない! 正直に言え! お前らは我々の機密事項を横流ししただろう!」
ユウジ「だ、だから! 俺らはそんなことしてないって!」
純一「……あれは…」こそっ
純一(ユウジ…? それに今朝に見かけた人が何人かいるな……何をやってるんだ?)
「はっ!」
ユウジ「えっ…? いや、待ってくれよ! そりゃやりすぎだろ!?」
「やりすぎじゃない、これは制裁だ。隊を乱す者を粛正するだけだ」
ユウジ「粛正って……ぐっ、離せよ! おい!」
「やれ」
ユウジ「うぐっ…かはぁっ」
「どうだ、吐く気になったか」
ユウジ「はぁっ…ふざけるなよ! やりすぎだアンタ!
馬鹿げてる! 本当に隊長になったつもりかよ!? 俺らは只の学生だぞ!?」
「……やれ」
ユウジ「ぐふっ……お前らやめろよ! なにがそこまでお前ら動かすんだよ!?」
「じゃあ聞くが、お前はどうして隊に入った」
「じゃあどうして隊の乱れを起こす、正直に話せ」
ユウジ「ッ……ああ、そうだよ! 俺がやったさ! 俺が情報を漏らしたよ!」
ユウジ「だからどうした! 俺は…俺はもうアンタらみたいな中二病みたいなことはできねえんだよ!」
ユウジ「守ってる気になって、やりたいことやりまくってるけどよ!?
それは本当に桜井リホの為になってるのかよ!? 絶対に違うだろ!?」
「………」
ユウジ「アンタらがやってることは、ただの自己満足だ!
普段の日常ではやれなかったことを、今やれてる現状に浮かれちまってるだけだ!!」
「……お前らも、そのような思想を持ってるのか」
「えっ……」
「いやー…えっと…あはは」
「………」
ユウジ「っ……あいつ等は関係ねえよ! 俺が一人でやった事だ!」
「い、いやっ…もうその辺にしておいたら…」
「口答えをすれば、お前も制裁だ」
「っ……」
隊長「……では、続けるぞ」
ユウジ「うぐっ……ああ、殴ればいい! 殴り続ければいい!
そうやって拳を振るって、その殴った感触を覚えておけ!」
ユウジ「そして一生その感触を忘れずに、この先を生き続けろ!」
ユウジ「なにもかもっ…全部が終わった時っ…うぐっ…!」
ユウジ「アイツが……アイツが全部終わらせた時! 後悔するのはテメーらだからなっ!!」
隊長「やれ」
ユウジ「ッ……橘ぁっ───」
「───ああ、任せろユウジ!!!!」
隊長「っ…!? だ、誰だ!?」
「──お前が言ったその言葉、僕はしかと心に受け止めたっ!」トン!
「──大丈夫、平気だ、やってやる。お前がやってくれたことは絶対に無駄じゃない!」
「──あの桜井梨穂子の……幼馴染である、この僕が!」
純一「橘純一が、お前の願いッ……叶えてやるよ!!」
ユウジ「たち、ばなぁ……っ!」
純一「…大丈夫か、具合は悪くないか?」
ユウジ「ぐすっ……へへっ、馬鹿言うんじゃねえよ。だってそうだろ?」
純一「…ああ、そうだな」
ユウジ「俺らはいつだって、本当に大切なものを失くした時…」
純一「…本当の辛さはそこにある」
純一&ユウジ「お宝本が、ある限り! 男は泣かない!」
純一「…ユウジを離せ」
隊長「おやおや、手出しをされては困る。
これは此方側の問題、更に言えば……お前も」
隊員「……」ぞろっ…
隊長「──粛正対象なんだぞ?」
純一「……ハッ、だからどうしたんだよ」
隊長「なにっ…!」
純一「ううん、ただ単に…人数で勝って良い気になってるだけの奴らだなって」
純一「…そう思ってるだけだよ?」
隊長「なっ…」
純一「………」ぷるぷる…
ユウジ(橘っ…本当はビビってるくせにっ…くそ!)
純一「…あのさ、考えてみてよ。これって普通に考えたら傷害事件だよ?」
隊長「……」
純一「今すぐに僕が近所の家に飛び込んで、警察を呼べば……どうなるか分かってるよね?」
隊長「………」
純一「…それに、その人たちだってそうだろう?」
純一「───彼らがこれから、君たちのことを通報しないと言う道理もない」
純一「周りが見えなさ過ぎてるよ、君たちは絶対じゃないんだ」
純一「…それはただの、アンタのわがままでしかないと思う」
隊長「………」
純一「…離してよ、そいつは僕の友達なんだ」
隊員「っ……」ぱっ
ユウジ「くっ……」どさっ
純一「ユウジっ! …だ、大丈夫か…?」
ユウジ「大丈夫だ…それよりも…」
純一「う、うん」
純一「っ…待てよ! その前にすることがあるだろう!?」
隊長「……我々は桜井リホを守るために結成された守り隊」
隊長「その思想を邪魔する者は、排除するのみ。精鋭者で隊を再構成させる」
隊長「…お前らはクビだ」
純一「っ…なに言ってるんだよ! そういうことじゃない! ちゃんとユウジに謝罪を──」
隊長「──そんなものは、しない!」
純一「なっ…」
隊長「我々は神聖なる番人だ……誰に屈する事もない」
純一「馬鹿げてるよ…!?」
ユウジ「……っ…」
隊長「………」
すたすた……
ユウジ「…いいんだ、橘…」ぐいっ
純一「で、でも…! これはあんまりだよ!」
ユウジ「いいんだよっ……これで、これでいいんだ…」
純一「ユウジっ…?」
ユウジ「…ちょっと、制服の中に手を入れてもらってもいいか…?
中に入ってる奴を、取ってもらいたいんだ…」
純一「制服の中…? 腹の方?」
ユウジ「おう…」
純一「えーっと……あ、これか」ごそっ
純一「あ、これって…!」
ユウジ「ああ、お宝本だ……ふふ、あいつ等の拳。全然効いてないぜ俺にはよ!」
純一「ユウジ……」
ユウジ「…はっ、なんのことだよ」
「ユウジっ…!」
「す、すまん俺たち…!」
「ごめんなっ! なんもできなくて…!」
純一「この人たちは…?」
ユウジ「梅原から聞いてないか? …俺と一緒の穏便派の奴らだ」
純一「なるほど…」
ユウジ「いいんだよお前ら…俺がヘマをしたせいだ、俺の責任だ」
「だけど、俺たち…」
「俺だってアイツに言ってやりたかった…!」
「…ごめん、本当にごめん」
ユウジ「…いいってば、俺だってわかってるよちゃんと」
ユウジ「…というわけで、橘。俺らはもうあの隊員ではないからな」
純一「お、おう…」
ユウジ「色々と、迷惑かけたな。すまん…」
純一「い、いやっ…いいよ、僕の方こそ手帳の件…ありがとう」
ユウジ「それは…おう、俺らの頼みの綱はお前なんだ」
ユウジ「俺ら全員、お前に託したんだぜ」
純一「っ……」
ユウジ「どうかお願いだ──あの過激派にも負けず、桜井リホの笑顔を…」
ユウジ「…取り戻してくれ、橘」
純一「……出来ることはやるつもり…」
ユウジ「情けないこと言うなよ!」
純一「うっ…わ、わかった! やってやるよ! ぜ、絶対に!」
「頼むよ…笑顔をまた、あの笑顔見せてくれ!」
「橘! お前にならできるんだろ!?」
「…俺らの為にも、お願いだ」
純一「……」
純一「…うん! 僕に任せろ!」
~~~~
自宅
純一「………」prrrrr
純一「………」prrrrr
がちゃっ
純一「…もしもし」
『……───』
純一「待て、切ろうとするな……梨穂子」
『………』
『………』
純一「どうして僕が今日、電話をしたか分かるか」
『………』
純一「……。分からないのなら言ってやる、今日お前を守ってる…守り隊だったか」
純一「そのメンバーが、隊長の命令とやらで暴行されていたぞ」
『………』
純一「この意味、理解できるよな? 暴力をふるわれていたんだ、人がだ」
純一「拳を握って、相手の身体を殴るんだ。わかるよな?」
『………』
純一「…いいか、言うぞ梨穂子、あの守り隊とやらを解散させろ」
純一「このままじゃ悪い方向にしか進まない。だけど、まだ間に合う」
純一「梨穂子が一言、もうやめてと。そう言えばあいつ等も辞めるはずだ」
純一「どんなに頑固者だったとしても、絶対に説き伏せるんだ」
『………』
純一「…お願いだ、梨穂子。どうして返事をしてくれないんだよ」
純一「お前は許せるのかよ、自分の周りで暴力が行われてる事を……」
純一「…僕は、そんなことを見過ごすような奴じゃないって…お前のことをそう思ってる」
純一「梨穂子……お願いだから声を聞かせてくれ、頼むよ…」
『……橘くん』
純一「っ…な、なんだ梨穂子!」
『リホはもう、無理だよ。止められない』
純一「ど、どうしてそんなこというんだよっ…! だってそうしなきゃお前の評判だって…!」
『…違うよ、どうせ変わらない』
純一「変わらないって…」
『橘くんはアレが非常識なものだって思ってるかもしれないけど…実際はそうじゃない』
純一「あれ以上…?」
『うん、だから……リホが何を言っても彼らは止まってくれないと思う。
ああいった隊が出来ることがすでに……もう手遅れなんだよ』
純一「そんなっ…それじゃあ、これから起こることを見過ごすのかお前は!?」
『…そうだよ』
純一「そんなことっ! そんなことっ…言うなよ! お前なら! 梨穂子ならどうにかできるだろ…!?」
『…できないよ』
純一「っ…どうして!」
『………』
『…どうして、だろうね。わかんないや……あはは』
純一「っ…梨穂子…?」
『……切るね、橘くん』
純一「ま、待て! まだ話は──」
ぷつん
純一「……ダメだ、つながらない。電話線を抜かれたのか…?」
純一「なんだよっ…無理ってッ!」
ガチャンッ!
純一「はぁっ…はぁっ……」
純一「くそっ…!」
美也「…にぃに…?」こそっ
純一「あ、すまん美也……驚かせた…ごめん」
美也「う、うん……電話はゆっくり置かないとだめだよ? 居間にまで聞こえてたし…」
純一「…ごめん」
美也「えっと、そのっ……冷凍してるまんま肉まんあげよっか? おいしいよ?」
純一「いや……いいよ、ありがとう…僕はもう部屋に戻るから…」すたすた…
美也「えっ! あ、にぃに……」
純一「………」よろ…
ぼすっ
純一「……なんだよ、どうしてそんなこと言うんだよ…梨穂子…」
純一「わかんないとか、いうなよ…」
純一「できないとか、どうして言えるんだよそんなこと……」
純一「梨穂子……馬鹿野郎…っ」
~~~~~
部屋
梨穂子「…………」
梨穂子「…………」
梨穂子「……あ、電気つけ忘れてた…」
かち…かちかち
梨穂子「…………まぶしい」
梨穂子「…………」
梨穂子「……」すとん…
梨穂子「……怒ってたなぁ」
梨穂子「当たり前だよね……あれだけ酷い事を、言っちゃったんだもん」
梨穂子「……誰だって怒るよ」
梨穂子「……」ぱたり…
梨穂子「橘くん……か」
梨穂子「……」
梨穂子「……なんだか、口がモゴモゴする言い方になるなぁ」
梨穂子「……言いなれて、ないんだろうなきっと」
梨穂子「純一……」
梨穂子「……ああ、やっぱり」
梨穂子「こっちの方が、私の口は言いなれてる……みたい」
梨穂子「そうすれば…また、そうすれば……」
梨穂子「…もう色々と、思い返すことも無いのに……」
~~~~~
次の日・放課後
純一「………」じっ
純一「……よし!」ぱたんっ!
梅原「…ん、行くのか大将」
純一「ああ、行ってくる。今日は街でお買いものらしいからな」
梅原「準備は大丈夫なのかよ」
純一「大丈夫だよ、心配するな」
梅原「…おう、俺が出来る事があればなんだってするぜ」
純一「…ありがと、じゃあ、行ってくる!」
梅原「……頑張れよ、大将」
~~~~~
純一(全然見つからない……!)
純一(街に出れば普通に梨穂子のことを見つけられると思ったけど、
大見え切って教室でてから、もう数時間たっちゃってるよ…!)
純一「なにやってるんだ僕は……はぁ~」すたすた…
純一「…もう帰っちゃったかな、梨穂子達」
純一「空がもうオレンジ色だ……そろそろ直ぐに夜になるだろうな」
純一「………」
すたすた…
純一「…梨穂子」
すた…
純一「……」ぐぐっ
た…たったった!
純一(学校では周りの目もある、それに守り隊も人数が多くて直接話もできない…!)
純一(だけど、放課後なら守り隊の人数も減る! それに学校関係に見られることも少ない…!)
純一「今、この瞬間しかないんだっ…! 梨穂子と、会話できるチャンスは…!」
たったったった!
純一「───…梨穂子っ…! どこにいるんだよ…っ」
~~~~~
純一「はぁっ…はぁっ……やっぱり、どこにも居ない…っ…」
純一(これだけ探して居ないんだ、そろそろ周りも暗くなってきた…
…家に帰ったと判断して、もう今日は諦めよう───)
「──やめてくださいっ…!」
純一「こ、この声はっ…梨穂子!?」
路地裏
梨穂子「っ……その人たちは、関係無いから…!」
「…関係はなくないっしょ、こいつ等、俺のこと金属バットで殴ろうとしたんだぜ?」
梨穂子「…だけど、痛そうにしてるじゃないですか…っ」
「こっちは死にかけたんだけど、それでもやめろっていうの?」
「おらっ!」
隊長「ぐふっ」
「…他の奴らは? 確か五六人ぐらい居ただろ?」
「逃げたんじゃね? ははっ、根性ねー奴らだなw」
隊長「に、逃げたのではないっ…皆、仲間を呼びに行ったのだ!」
「…なにこいつ、頭イカれてんの?」
「いわゆるオタク奴じゃね? 聞いたことあんだろ?」
「うっわーw まじか~、こんなのに付きまとわれてる彼女可愛そ~」
隊長「ぐっ……馬鹿にするな! 我々は由緒正しき…!」
「由緒正しき……なんだって?」
「さあ?w まあ由緒正しいんなら鉄バットで殴りかかってくんなって話だよなー」
梨穂子「っ……」
「ま、そんな感じだね。あーあ、あんなに人が居たのに…もう一人だけ」
隊長「ひっぐ…ぐすっ…」
梨穂子「………」
「あらら、泣いちゃったよ。そんなに強く蹴ってるつもりなんてないのにね~」
「口では大きなこといってるくせによっ」
「俺らが何だって? 大犯罪者って言ってたよな? …ただ声をかけただけ、だろーがっ」
「鉄バット持ってくるお前らの方が大犯罪者じゃねーかよっ」
隊長「うっぐっ…ひぐっ…えぐっ…」
「…その辺でやめとけ、おおごとになったら面倒だろうが」
隊長「ぐっ…」
「めんごめんご、ちょっと脚が引っ掛かっちまってさ~」
「おいおい、そりゃワザとだろw」
「あっははw …ばれた?」
梨穂子「…やめてください」
「…ん? なに?」
梨穂子「やめてと……言ってるのっ!」
「おー、怖。なになに、俺らに言ってるの? 度胸あるねー」
「…ちょっとまて、この子って……あ! やっぱり!」
「なんだよ?」
「どっかで見た事あるって思えば……桜井リホだよ! 桜井リホ!」
「…リホって、ああ、KBTとかなんとかの」
梨穂子「………」
「サインとか……お前…」
「へー…そうなんだ、桜井リホちゃん?」
梨穂子「…き、気安く呼ばないでっ」
「…わー、ファンとして超ショック」
「くははw いわれてやんのw」
「怖い怖い、というかそんなに俺らに敵意丸出しにしなくてもよくね?」
梨穂子「………」
「別に俺ら悪いことしてないってw」
「アンタの周りに居る奴ら、すっげーウザかっただろ?」
「傍か見てて異常だったしねー、やっぱりそうだったでしょ? うん?」
梨穂子「……今の、貴方達のほうが…よっぽど…うざいよ」
梨穂子「そうやって…力だけで押し切る貴方達のほうがっ…なんでもかんでも、強いからって…!」
梨穂子「弱い人を痛みつけることにっ…躊躇しない、貴方達の方がよっぽど最悪だよっ…!」
梨穂子「なにも知らないくせにっ…その人たちがどんな人だって、知らないくせに…!」
梨穂子「馬鹿だって、オタクだからって…そうやって否定するだけのことしかできない貴方達方のがっ…!」
バン!
梨穂子「んくっ……」
「…うるせえよ」
「んー、強い女の子って素敵だよねぇ」
「ひ弱な女より、強い女の方が居て楽しいしなー」
梨穂子「っ……殴るなら、殴ればいいよ…貴方達が、もっと世間に居られなくなるだけだから…!」
「残念、女の子を殴る趣味はないんだよね。だから、ちょっとばかし…こっち来てくれるかな?」ぐいっ
梨穂子「きゃっ…!」
「あ、連れてく感じ? そうだよなーw アニキとか喜びそうだしw」
「あ~、確かに。すっげー喜びそうだな」
梨穂子「や、やめてっ…」
梨穂子「っ…!」
「心配無いよ、悪いことなんて起きないから。……ちょっとした社会勉強になるかもね」
「それ言いすぎ~w 勉強とかー!」
「人によっちゃ引いちゃうだろその言い方w」
梨穂子「や、やだ…やめてっ…!」
「………」
ぐいっ
梨穂子「ひぅっ…!」
「──抵抗するなって、女の扱い方なんて、俺はちょっと知らないんだ」
梨穂子「……っ…」
「じゃあ行くぞ……直ぐそこだって、心配無いからさ」
梨穂子「っ………────」
「──待て…」
「離せよ、その手」
梨穂子「っ…?」
「誰だよ、テメー」
純一「……そいつの幼馴染だよ」
「幼馴染ぃ? っは、どうして幼馴染がこんな所に居るんだよ」
純一「…助けに来たんだ」
「おいおいw 助けにだってよ、コイツの仲間か?」
隊長「ひっぐ…ぐすっ…」
純一「……残念だけど、違う。僕は個人で梨穂子を助けに来た」
「助けにって、はは。また俺らは悪者扱いかー」
純一「別に悪者にするつもりはないよ…だけど、その手を離してくれたらの話だ」
「…離して、どうする?」
純一「連れて帰る。ただ、それだけだから」
純一「…しない、そう誓うから」
純一「お願いします、その手を離してください」
「…おい、お願いされたよ?」
「どうする?」
「……」
梨穂子「……」
純一「……」
「…じゃあ、土下座だ」
梨穂子「っ……」
純一「…土下座?」
「そうだよ、土下座。まあ仲間じゃないって言ってたけど、でも、知ってる顔なんだよね?」
純一「……はい」
隊長「っ…っ……」
純一「…そうなんですか」
「ああ、下手すりゃ死んでもおかしくない。だけどよ、それも土下座してくれるのなら許してやるよ」
「…そして、この彼女も返してやる」
「だけど、土下座だ。このきったねー路地裏の地面でね、額を擦りつけて土下座しろ」
純一「………」
「うっわーw ひどいなぁーw」
「ここら辺って、良く誰か吐いてるよな~」
純一「………」
「どうした? やらないの? だったら、いいよ。この話は無しだ」
純一「………」
梨穂子「っ……」
梨穂子「──やめて! そんなことする…義理なんて貴方にないから…!」
梨穂子「いいからっ…私のことは放って置いてっ…その人を連れて、遠くに逃げて…!」
「おーおー、いいねえ純情だねー」
「ま、逃がすわけ無いけどw」
「…お前が一人でどっか消えるんなら、それでいいんだぜ?」
純一「……」
梨穂子「橘くんっ…! お願いだから…!」
純一「……梨穂子」
梨穂子「っ…なあに…?」
純一「僕は、今の今まで…ずっと立ち竦んでたんだ。
この場の現状に入り込むことに、とても怖がってた」
純一「だけど……梨穂子がそいつらに連れて行かれそうになった時、僕の脚は…一歩進んだ」
純一「だから、僕は分かったんだ。絶対にこれは、逃げてはダメな時なんだって」
純一「もう…梨穂子から逃げては駄目なんだ、やっぱり、そう思ったんだよ」すっ…
純一「───お願いします、どうか、その金属のバットの件含めて…」
純一「彼女を離してやってください、お願いします…!」ずりっ…
梨穂子「っ……!」ばっ
「うわっ…マジでしやがった──って、うおっ!?」
梨穂子「や、やめてよっ…! 土下座なんてしないで!」たたっ
純一「お願いします…どうか、許して下さい」
梨穂子「たちばなっ…やめてって…! そんなこと…!」ぎゅっ
純一「……お願いします」
「…お、おい」
「うっわー…綺麗な土下座だぜー」
「………」
純一「っ……どうか、お願いします! 許してやってください!」
「───ワーオ、ナイスガイ!」
「ミーが見てきた誰よりもナイスガイ、とんでもないぐらいハートにズッキューン…」パチパチ…
かん…
「ユーたちも見習うべきですねー、おーけー?」
「っ……」
「あ、マイケル……兄貴…!」
「うっふん、ノウノウ。それはちがうでショーウ───」
マイケル「──maike.kid……そう〝毎夜ベットの中で〟そう教えてるでしょーう?」
「は、はいっ! マイクアニキっ!」
「すませんっ!」
「う、ういっす!」
マイケル「オーケー、良い子たちねー! ウッフッフッフ」
純一&梨穂子「……」ぽかーん
純一「えっとその…?」
マイケル「ユーのネーム…教えてくださーい!」
純一「ぼ、僕ですか…?」
マイケル「ウッフッフッフ…そうですー! どうかミーに教えてみてー!」
純一「橘…純一ですけど…」
マイケル「タチバナ、グーイチ?」
純一「純一です!」
マイケル「オーケー、タチバナ! タチバナでいいですかー?」
純一「ま、まあそれで…」
マイケル「次でーす! ユーのこのみおしえてくださーい!」
純一「……え?」
「…ギャラガーのアニキ…それは…」
マイケル「ふんぬっ!」
マイケル「…ミーのナンパの邪魔するのは、ノンノンデース…それにマイクと呼びなサイデース」
純一(今…!? 何が起こったんだ!? 腰あたりをなでただけに見えたけど…!?)
マイケル「それでー? どうナンデスかー? んんー?」
純一「うわぁっ…か、顔が近いっ…!」
マイケル「ウッフッフッフ…そんなにこわがらないでくだサーイ!
モウマンターイ! ひどいことはしませんヨー?」
マイケル「…ちょっとだけ、ダーツにつきあってほしいだけデース…?」
「マイク兄貴が…ダーツに誘っただと…!?」
「ば、馬鹿なっ!? 相当気にいった奴しか誘わないのに…!?」
純一「えーと、お断りします…はい…」
マイケル「えー!? ホワイ!? どうして!?」
純一「どうしてって…その、あはは」
梨穂子「……」
マイケル「……」くるっ
マイケル「ユーたち、ミーは振られてしまった! 慰める準備をしなサーイ!」
「は、はいっす!」
「だ、ダーツの準備だ! 店に戻るぞ!」
「あ、ああっ…わかったよ!」
マイケル「………」
純一「えっと…その、マイケルさんでいいんですか…?」
マイケル「ノン!」ぐるっ
純一「ひっ…!」
マイケル「ユーは……ウッフッフ、タチバナはミーのこと……ギャラガーって呼んでもオーケーデース!」
純一「……お断り済ます…」
マイケル「ノーン!」
純一(なんなんだこの人は一体……)
純一「え? あ、梨穂子……うん、大丈夫だよ」
梨穂子「っ…待ってて…」ごそごそ…
純一「?」
梨穂子「額が汚れてるよっ…拭いてあげるから大人しくしててっ」
純一「だ、大丈夫だよっ……それよりも梨穂子のハンカチが汚れちゃうだろ」
梨穂子「いいからっ」
純一「……う、うん」
マイケル「…ソーリー、あの子たちが迷惑をかけましたー…」
純一「え? いや、でも、あっちもあっちで理由があったわけですし…」
マイケル「イエス! その通り、通りに叶ってないことはさせるわけないよう躾けてマース!」
純一「し、しつけ…?」
マイケル「ですがー…それでもやり方にはもっとナイーブな方法があったはずデース…」
マイケル「…オゥ? この子は?」
隊長「…っ…っ…」
純一「…色々と、今回でのことで問題になった人です」
マイケル「フゥム、オーケー」つかつか…
ひょい
マイケル「仕方ないのでー、この子を店につれていくことにしシマース!」
純一「はい…?」
マイケル「大丈夫でーす、酷いことはしませんー! ただ、社会勉強をしてもらうだけでーす!」じゅるっ
純一「今、涎が…」
マイケル「オーウ! もうこんな時間です! 急がなければいけませーん!」
マイケル「ではナイスガイ、バァ~イ!」かんかんかん…
純一「ば、ばーい……」
純一(隊長さん……どうか、社会を学び更生されて戻ってきてください)
梨穂子「……」
純一「梨穂子、もういいよ。ありがとう」
梨穂子「……うん」
すっ…
梨穂子「……」
純一「ありがとうな、そのハンカチ洗って返すからさ」
梨穂子「…いいんだよ、気にしなくて」ごそ
純一「いいのか? だってここら辺の汚れって、結構酷いんだぞ?」
梨穂子「っ…だったら、もっとあなたのほうがっ…!」
梨穂子「……っ……あなたのほうが、酷いよっ…」
純一「あはは、そうだな…僕も直ぐに風呂に入って。それから制服を洗濯しないと」
梨穂子「………」
純一「…よいしょっと、梨穂子。もう夜になるし、まっすぐ家に帰れよ?」
純一「ここら辺は…まあ分かってると思うけど、ちょっと治安悪いしさ。
また誰かに絡まれないよう急いで帰るんだ、僕もそうするから」
純一「それじゃあ、梨穂子。また明日、学校で」
すたすた…
梨穂子「ま、待って…!」
純一「……ん、なんだ?」
梨穂子「そのっ……どうして、何も言わないのっ…?」
純一「……」
梨穂子「こんなにも酷い目にあってるのにっ…私に、リホにっ…どうして文句の一つも、言わないの…?」
純一「……どうして、か」
純一「おい、梨穂子……そんなの当たり前だろ?」
純一「──お前と僕は、幼馴染だからだよ」ニコ
純一「ああ、そうだ……大丈夫、お前が今僕に対してどう思ってるかなんて。僕はちゃんと分かってるから」
純一「舐めるなよ、長年の幼馴染を」
梨穂子「………」
純一「…そんなワケだから、まあ、色々と話したいこともあるけど───…うわぁ!?」
ぎゅうっ…
梨穂子「………」ぎゅっ
純一「えっ、なに…どうしたの梨穂子? 急に後ろから抱きついてきて…えっ?」
梨穂子「…純一」
純一「あ、うん……純一だけど…えーと、その?」
梨穂子「…だめ」
純一「え?」
梨穂子「…やっぱり、ダメだよ」
純一「どういうことだ?」
梨穂子「………やっぱり、ダメだ……やっぱり、純一のこと…」
純一「……」
~~~~
公園
梨穂子「……」きぃーこ…きぃーこ…
純一「つまり、昨日の今朝に言ったことは…嘘、だったと」
梨穂子「…うん、そうだよ」きぃこ…
純一「…どうしてそんな嘘ついたんだよ、それに…」
梨穂子「…あの時のこと、だよね」
純一「……」
梨穂子「それはね、橘くん……私があなたを心配させたくなかったからでね」
梨穂子「私は……あなたが悲しむ顔を見るのが……怖かった、の」
純一「それで…僕に冷たくしてたのか?」
梨穂子「…うん、勝手だよね、わかってるんだよちゃんと…」
そして橘くんにしてしまったこと……それがどんなに取り返しのつかない事だって…」ぐっ…
きぃーこ…
梨穂子「だけど、だけどね…? それでも私は、やめようって思わなかった…」
きぃーーこ…
梨穂子「そんなあなたの顔を見ても、傷ついた顔の橘くんを見たとしても……それでも」
梨穂子「私はあなたに〝嘘〟をつくことを、やめようって思わなかったんだー……」
梨穂子「例え記憶が無いと知られても、それを違うって嘘つけたりー…」
梨穂子「本当に記憶がないことを、知られたくないって嘘ついたりしてもー…」
きぃーー……こ…
梨穂子「……あなたが悲しんでも、嘘をつくことを止めなかったと思う」
純一「梨穂子…お前は、一体何がしたいんだよ…?」
梨穂子「……」
純一「僕は……全然、梨穂子がしたいことがわからないよ…?」
ただ単に、僕に対して嘘をついて…僕を惑わせようとしてるだけじゃないか」
梨穂子「…そうだね」
純一「……」
梨穂子「最初から全部、わかってることなのに…どうして私、あなたに嘘をつくんだろう」
梨穂子「……わからないんだよ、それが、私には」
梨穂子「初めは悲しませたくないって……それだけだったのに」
梨穂子「…今の私は、ごちゃごちゃなんですよ」ニコ…
純一「…記憶のせいなのか?」
梨穂子「…ううん、わかんない、どうだろうね…」
純一「っ…記憶が無いから、そうやって…梨穂子は意味もなく嘘をついてしまうような…」
純一「よくわからない自分に、なってしまうのかよ…?」
梨穂子「…どうもそれだけじゃないっぽいから、困ったさんかな?」
純一「どういうこと?」
梨穂子「……。さっきも言ったけどね、橘くんのこと…私は憶えてない」
純一「っ…う、うん」
梨穂子「それなのに、私はあなたを悲しませたくないって…思った」
梨穂子「それからわたしはあなたに冷たくしようって思った、
記憶が無いことは悪いこと、ダメなこと、それを知られるぐらいなら…冷たくしようと」
梨穂子「それなら罪は無いって、
純一を巻き込んでしまうような……思い出を巻き込んでしまうようなものは無いって…」
梨穂子「今の記憶の無い私は、そう思ってしまったんだよねー…」
純一「……思い出が良ければ、今はいいって言いたいのか?」
梨穂子「うんっ…そうだよ?」
梨穂子「だって、そうじゃない? 橘君だって、私のこと……遠い存在だって思ってるでしょう?」
梨穂子「ううん、思ってるはずだよ。橘くんは…ううん、橘君だけじゃない…香苗ちゃんも他の人たちも…」
梨穂子「全員、私のことをとおいとおーい存在だって…そう思ってるはずだよ」
純一「………」
梨穂子「だったら、それを期に……すべてぶったぎればいいかなぁー…なんて、思っちゃったりして」きぃーこ…
梨穂子「アイドルになった桜井梨穂子、学校に滅多に来ない桜井梨穂子、友達関係が疎遠になった桜井梨穂子…」きぃーこ…
梨穂子「それが今の〝桜井梨穂子〟であって〝桜井リホ〟なんだよって──」きぃこー
ぴょんっ!
梨穂子「…そう皆に分からせて、全てを断ち切ろうって思ってるんだよね」すとんっ
純一「そんなのっ…!」
梨穂子「…出来るわけ無い? あはは、それができるんですよ~」
梨穂子「遠い存在って、それだけで知ってる人を疎遠に出来る魔法の言葉だよ。
だからこそ、私はそれを望んで〝演じて〟周りと疎遠になって見せるの」
梨穂子「…だってもう、記憶が無いんだもん」
純一「っ…」
梨穂子「周りは昔の私を知ってる、だけど今の私は昔の自分を知らない」
梨穂子「それは…なによりも悲しい事だよ、周りの人たちにとってね」
梨穂子「だから~、周りには〝昔の桜井梨穂子〟をずっとずっと…記憶しててほしいんだ」
梨穂子「今の記憶の無い私に塗り替えることなく、良い子で元気な……桜井梨穂子を」
梨穂子「ずっとずっと…憶えてて、欲しいんだよ…橘くん」ニコ…
梨穂子「このまま上手く行けば、みんなを騙して…〝アイドルで変わってしまった私〟として理解してくれるはず」
梨穂子「……誰にも〝あの時の桜井梨穂子はもう居ない〟ってことを、バレずにね」
純一「…どうして、それを僕に言ったんだよ」
梨穂子「…うん?」
梨穂子「…うん、言ってないよ」
純一「じゃあ…どうして、僕にだけ言ったんだよ」
梨穂子「………」
純一「そうしたら僕はっ……お前のことを放っておけなくなるだろ…!」
梨穂子「…そっか、橘くんはそう言ってくれるんだね」
純一「っ…当たり前だろ!? 僕は、お前の幼馴染なんだぞ!?」がしゃんっ…
純一「それなのに、その幼馴染がっ…周りに嘘をついてまで!
記憶が無くて自分が一番つらいのに、それなのに周りにショックを受けてほしくないって…!」
純一「記憶が無くなったことを隠してまで、周りとの思い出を大切にするとかっ…馬鹿かよ!」
純一「しかもっ…しかもなんだよ! 隠し切るなら、アイドルになって変わったんだよって偽るつもり!?」
純一「ふざけるなよ梨穂子っ…! 僕は怒ってるぞ…!」
梨穂子「………」
純一「単純にっ…記憶が無いって、だからしょうがないんだよってっ…そうやって病気に甘えない所は凄いよ!」
純一「───だけど! そうやって嘘を吐かれた人たちの身にもなってみろよ!!」
純一「僕はそんなの絶対に許せない、梨穂子に対してじゃないっ…それを分かってあげらなかった…!」
純一「───自分に対して、ずっとずっと悔やみ続けるはずだから!!」
梨穂子「……そうだね」
純一「梨穂子っ……聞かせろ、どうか僕に聞かせてくれ!」
梨穂子「うん、なあに? 橘くん?」
純一「どうして僕にその話を聞かせた! どうして僕にそうやって秘密事を話してくれたんだ!?」
梨穂子「……」
純一「お前がこの三週間、誰にも言うこと無くっ……それでずっと隠し通そうとしたその悩みを!」
純一「どうして幼馴染の僕に! 言ってくれたんだ!?」
梨穂子「……それは…」
梨穂子「それは……それは…」
梨穂子「…わからないけど、たぶんだけどね…」
梨穂子「…色々と、思いだせないのに…」
梨穂子「…ほとんどのことを、ぜんぜん憶え出せないのに…」
梨穂子「……だけど、だけど一つだけ……これだけは、言えるんだよ…」
梨穂子「…もしかしたら、言ってしまえばどうにかなるんじゃないかって…」
梨穂子「…この人だけには、言ってもいいって…顔も名前も…憶えてないはずなのに…」
梨穂子「…なのに、私は…今の桜井梨穂子は……ずっと言いたいことがあって…」
梨穂子「あなたの…顔を見たときから、ずっとずっと……この言葉だけを…」ぎゅうっ…
梨穂子「…………助けてよぉ、純一ぃ…っ」
梨穂子「いやだよぉっ…みんなにちゃんと、言いたいよぉっ…! これは違うんだよって、
香苗ちゃんや先輩たちにっ…ひっぐっ…言いたいよ純一っ…!」
梨穂子「仕事だからってぇっ…ひっぐ、秘密にしなきゃいけない事だからっ…!」
梨穂子「だけど、昔の私をっ……知ってくれてる人たちに、わるっ…く思われたくないよぉっ…!」
梨穂子「私はっ…アイドルだから、ひっぐえっぐっ…病気はっ…秘密にしなきゃダメだから…っ」
梨穂子「だからもうっ…アイドルとして頑張んないとっ…もう、ダメになっちゃいそうでっ…ぐすっ…」
梨穂子「顔も名前もっ…思い出も、全部全部……
憶えてないのにっ…周りの人の思い出なんて、これっぽっちも憶えてないのにっ…」
梨穂子「だけどっ…けほっこほっ…! 私はっ…どうしてもっ…忘れることが出来ないよっ…!」
梨穂子「───この人たちが、大切な人だっていうことを…! ずっとずっと…憶えてるから…っ」
梨穂子「私はっ……私はっ───」
純一「───良く言った、梨穂子」ぎゅう…
梨穂子「ひっくっ…ひっく…」
純一「十分だ、いいよ。それ以上は言わなくていい」
梨穂子「ぐすっ…すんすんっ…ごめ、ごめんねっ…私…」
純一「ああ、いいんだ」
梨穂子「なんにもわかってないのにっ…純一にた、頼って…ひっぐ…」
純一「大丈夫、僕がついてるから」
純一「ああ、そうだな」ぽんぽん
梨穂子「だけどっ…だけどっ…」
純一「平気だ、どうにかする」
梨穂子「どうにか、して……してくるのっ…?」
純一「当たり前だよっ……こんなに泣いて、頼みこんできてくれて…」
純一「…しかも、僕にだけには頼りたいって思ったんだろ?」
梨穂子「うっ…うん…ひっぐ…」
純一「…顔も名前も憶えてないのに、ただ、それだけは思っててくれた」
純一「───僕を頼れば、どうにかなるってことを」
梨穂子「すんすんっ……う、うんっ」
純一「だったらどうにかしてやる、その期待に! 全力で叶え切ってみせるぞ僕は!!」
純一「任せろ、梨穂子……お前の幼馴染は絶対に」
純一「今の梨穂子の期待を、裏切らない」
梨穂子「……」
純一「というわけで、連れてきました」
夕月「はえーよ、こっち頼るのよ」ぱしんっ
愛歌「時期早漏…ずずっ」
梨穂子「あはは…」
純一「だ、だってしょうがないじゃないですか…!
こんなこと知ってるの、二人だけなんですから!」
夕月「だとしてもおめえさん、りほっちは只一人、アンタに頼ったんだろ?」
純一「そ、そうですけど…」
夕月「じゃあアンタ一人でやんな。それがりほっちの願いなんだからさ」
純一「え、ええっ! 無責任ですよ! この茶道部!」
夕月「…おい。どうして文句を言うようなタイミングで茶道部の単語を使ったァ…? ええ、オイ?」
純一「いや深い意味は無いです本当ですすみませ──あー……」
梨穂子(一瞬で女装させられた……)
夕月「うっし、それでどうするんだい? 連れてきたってことは、それなりに考えちゃーいるんだろ?」
純一「えっ!? 一緒にやってくれるんですか!?」
夕月「半ば強引的にりほっちの話を聞かせたくせによ…良く言えるぜ、んなこと」
愛歌「腹黒優男」
純一「うぐっ……」
夕月「とりあえず、いーから考えること言いな」
純一「わ、わかりました……じゃあ梨穂子、いい?」
梨穂子「う、うん……ぶっ」ぷいっ
純一「…どうして笑うんだよ」
梨穂子「だ、だってぇっ…純一の恰好が、もう、ちょっと似合いすぎててっ…あはははっ」
純一「むー……夕月先輩!? これ脱いでも良いですか!?」
夕月「だめだー」
純一「僕が思うにですね───それはもう、記憶を取り戻せばいいって思うんですよ!」
夕月「だろうな」
愛歌「当たり前」
梨穂子「そ、そうだよね~」
純一「みんな話は途中だよ! …こほん、それでですね? じゃあどうすれば記憶を取り戻せるのか」
純一「…という話になってくるわけです!」
梨穂子「どうすれば…」
純一「まあ僕が思うに……色々と調べると、一番僕らに向いている治療法を発見しました」
愛歌「それは?」
純一「はい、それはこれです!」トン!
『ショック療法! 過去の自分を取り戻せ大作戦!』
夕月「…ボードまで用意して何やってるんだって思えば」
愛歌「至極簡単」
純一「現在、記憶を失っている梨穂子に…なにかしら過去を思い返させるほどの、ショックを与えればいいんです!」
夕月「殴ればいいのかよ?」
梨穂子「えっ…?」
純一「ち、違います! もう、夕月先輩はすぐにそんな暴力沙汰を起こす…ごはぁ!」ドタリ
夕月「チッ、胸に入れたパットで威力が削がれたか……おら、どういう意味だ橘ァ!」げしげしっ
純一「や、やめてっ、ずれちゃう! パッドがずれちゃいます!」
梨穂子「えーっと……」
愛歌「だが良い方法…だ」
梨穂子「愛歌先輩?」
愛歌「橘純一が言ったことは……一理ある」
梨穂子「ほ、ほー…」
愛歌「やってみる価値は…十分」
純一「で、ですよね! ではさっそくやってみようよ!」
愛歌「……」
梨穂子「わぁー…凄い、仕事でも着たこと無いよ~」
純一「──ザ・着物!」
純一「茶道部と言えば和服! そして着物!」
純一「梨穂子が過ごしてきたこの部活でのイメージ…それは大きく記憶に関して
関わり合いを持っているはずです! ですから着物着ることにより───」
純一「和と身体を調和させ、精神を洗礼させるんです! ほら、着物着ると気が引き締まるっていうじゃないですか!」フンスー
夕月「いや、確かにその通りだが…あんま着物なんて着た事ないぞ」
愛歌「創設祭、文化祭以来」
梨穂子「あはは…」
純一「…」じぃー
夕月「…んだよ、こっちずっと見つめて」
愛歌「試着要望?」
夕月&愛歌「……は?」
純一「ほら、夕月先輩は身体がスレンダーで…和服って意外と身体のラインが浮き彫りになるじゃないですか」
夕月「お、おうっ…?」
純一「だけど無駄が無く、鮮麗な身体は…とても着物が似合ってるなって、あはは」
夕月「…なんだい、照れるだろ…っ」
純一「それに愛歌先輩も!」
愛歌「っ……」ぴく
純一「やっぱり黒髪は着物にジャストですよね~、背中まで伸びてる傾れた髪先はとても色気を感じます!」
愛歌「…色気…」
純一「ええ! 日本人女性らしい、奥ゆかしくも気品あふれる雰囲気が…とても素晴らしいと思いますね」
梨穂子「……」ちょんちょん
純一「…ん? どうした梨穂子?」
梨穂子「そのー…えっと、ちらっちらっ」
純一「?」
梨穂子「……、はぁー…」ズーン…
純一「え? どうして急に落ち込むんだよ梨穂子…?」
夕月「ありゃ駄目だ」
愛歌「幸薄りほっち」
梨穂子「…多分だけどね、こういう時、私も褒めるべきだって思うよ…」
純一「えっ!?」
梨穂子「前の私も…たぶんだけど、そう思ってたはずだから…うん…」
純一「そ、そうなのか…?」
梨穂子「あはは…だって、そうでしょ?」
純一「う、うーん…でも、敢えて言葉にしないってのも良いかなって思ってたんだけど…」
梨穂子「え…? どういうこと?」
純一「……それじゃあ、言ってほしい?」
梨穂子「え、あ、うんっ…言ってほしい、かな?」
純一「──まず言わせてもらうとその首元に垂れた髪先、梨穂子の汗をかきやすい体質で
少し湿った髪先が肌に張り付き色気を出してると思う。そして首元から十六一重に
重なった由緒正しき着物羽織り方、気品もあふれかつ上品さも兼ねそろえた規律の
取れたものだってうかがえて、しかも着物と言うのは着る人を選ぶと言われている
ハードルの高い服でありながら先ほども述べた通り気品さかつ上品さも失われてお
らずさらに着物を着たことによって底上げを行われてるような気がしてくるから不
思議なもんだよね。あとそれと帯に巻かれた腰のライン。普通は着物が重なる部分
だから誰しもが分厚く楕円形になってしまう所梨穂子はきちんとそれを失くすよう
身体を押しこみ華麗に着こんでいる。一般的な着方ではないにしろ着物にたいする
思い入れと綺麗に着たいという感情をうかがえて素晴らしいって思う。あとそれに……」
梨穂子「っ~~~~~…ちょ、ちょっとまったー!」びしっ
純一「…なんだよ、まだ途中だぞ? 帯と首もとしか褒めてない、まだまだこれから袖口からと
指先の形のよさまで褒めて、それから───」
梨穂子「わ、わかったよ! ど、どれだーけ褒めたいのかってのはっ…! 十分わかったから…!」
純一「本当に? まだ十分の一も…」
梨穂子「お、お願いだから! ねっ? もう、その変にして……ください…お願いします…」ぼそぼそ…
梨穂子「う、うんっ……」
純梨穂子「っ……っ…」ぱたぱた…
梨穂子「…」ちらっ
純一「……」じっ
梨穂子「っ! ……~~~っ…えへへ」
純一「照れてるの?」
梨穂子「えっ! あ、いやー……えっと、その~……」
梨穂子「……かも、しれない、かな」
純一「あははー! なんだよ、梨穂子僕から褒められて照れるなんて───あれ?」
純一「どうして先輩たち…着物をもう一着手にしてるんですか…? ちょ、ちょっと!?」
純一「やめて、あ、いやっ! 着物はだめ! 恥ずかしいから! やだー………」
梨穂子「…すみません、今日はこの辺で」
純一「あ、送って行くよ梨穂子」
梨穂子「ううん、いいよ。だって着物脱ぐの大変でしょ?」
純一「まぁー…うん、ちょっと時間かかりそうかも…痛っ!?」
夕月「ほれ、余所見すんなよ」
純一「ううっ…今は仕方ないじゃないですかっ」
梨穂子「あはは、だからね。今日はこの辺でお別れしよ」
純一「わ、わかった…でも、すぐになにかあったら連絡しろよ?」
梨穂子「うんっ」
梨穂子「それじゃあ先輩たちもさようなら」ぺこ
夕月「おう、また明日も来るんだろ?」
愛歌「俄然準備態勢」
梨穂子「…はいっ! お願いしますっ!」
純一「っ…おう、またな梨穂子」
がらい…ぴしゃ
純一「………」
夕月「…あんたにしちゃ、頑張った方だよ橘」
純一「……あはは、そうですかね」
夕月「当たり前さ、大した度胸だよ。…なんだい、あんなに脚を震わせながら」
夕月「りほっちを褒めるなんて、くっく、見てるこっちが恥ずかしくなってくるよ」
純一「………」
夕月「だけど、今日は駄目だったみてーだな」
純一「…まだ時間はあります」
夕月「だからって悠長に構えてる暇なんてねえだろ? …うっし、取れた」
純一「……そうですね」
純一「なんですか?」
夕月「……あんたに言っておくことがひとつだけあるんだがよ」
純一「…?」
夕月「よっと…まあ、大したことじゃないよ。別に問題になるようなことじゃない」
夕月「だけど、あんたをちょっとだけ困らせることになるかもしれないけど、聞くかい?」
純一「…ええ、聞きます」
夕月「良い度胸だ、そっちの部屋で着替えたら居間に来な」
夕月「……多分だが、りほっちの問題を教えてやるからよ」
純一「梨穂子の、問題……───」
~~~~~
夕月「───あの子は、精神的なモンで記憶を失ってるって言ったよな」
純一「ええ、まあ」
夕月「それは仕事をする若い女性に発症する場合が多いと、こうも言ったよな」
夕月「…だけど、それは本当に仕事だけかって思わねえか?」
純一「どういう意味ですか?」
夕月「あの子自身に、何かあったとは思わねえかって話だ」
純一「梨穂子、自身に…?」
夕月「おう、仕事つーのもあの子が悩む大した程の原因だ。
だけどよ、それはあまりにも……早すぎやしねえかと思う」
純一「……ストレスを感じるのには、時期が短いと?」
夕月「そういことだ、アイツはアイドルになって…まだ二カ月ちょい」
夕月「だからといって売れてないわけでもなく、御笑いにアイドル、しかもドラマまでに出演が決まっちまってる」
純一「…何が言いたいんですか、ただ単にあいつの凄さが一般受けしただけじゃ…」
夕月「本当に、そう思うのかよ」
純一「………」
夕月「もう一度聞くぜ橘、本当にそう思ってるのかよ?」
夕月「あたしがいった仕事内容は、実際にちほっちから聞いたもんだ。嘘はねえと思う」
夕月「それを聞いた時は嬉しかったさ、売れないよりはドンドン
テレビに出てファンが増えて、それからもっと有名になって」
夕月「アイドルとしての株がすっげーあがんの、こっちは楽しみにしてるつもりだ」
純一「じゃあ…楽しみに思い続ければいいじゃないですか」
夕月「…わかるだろ、あたしが言いたいこと」
純一「っ……なんですか! 一体何を言いたいんです! 僕にっ…!」
夕月「………」
純一「そんなのっ! 僕に言ってどうするんですか…っ!?」
夕月「…あんただから、これは言うんだ。そして、これも言わせてもらう」
夕月「──りほっちは、可能性として枕」
バンッッ!!!!!
夕月「っ……」
純一「───いい加減にしろッ…言ってもいいことと、悪いことがあるぞッ…!」
純一「…ダメだ」
夕月「こっちもダメだ、いいから落ち着け」
純一「………。言わせてもらいますけど、先輩」
夕月「…なんだい、橘」
純一「今、この瞬間から…僕は貴女を尊敬する人から除外しました」
夕月「…気にしねーよ別に、それよりも尊敬されてた事にびっくりだぜ」
純一「ですけど、それはもう過去の話です」
純一「貴女は今、一番…人として言ってはダメな事を言った。
あの梨穂子に向かって、アイドルとして頑張る桜井リホに向かって」
純一「──この世で一番、最悪の言葉を言った!」
夕月「……」
純一「あいつの頑張りをっ…最低な言葉で、否定した!
記憶を失ってまで、そんな病気にかかるまで頑張る梨穂子を…!!」
夕月「…聞けよ、話はまだ終わってねえ」
純一「聞けるかよ!! アンタみたいな最悪な人間の言葉なんて!!」
純一「ッ……帰ります、ここにいたら先輩ッ…僕は手が出そうになる!」がたっ
夕月「待て!」
純一「イヤです! 帰ります!」
純一「…今日はお世話になりました、だけど、明日からは僕だけで頑張ります…ッ…」
純一「……今まで、ありがとうございました」
がらりっ……ピシャッ!!
夕月「橘っ!!」がらっ
たったったった…
夕月「………ったく、思いっきり炬燵殴りやがって…」ぴしゃっ
夕月「あーびびった……はぁーあ、なんつー立ち位置だよほんっと」ぽりぽり…
愛歌「るっこ」
夕月「…おう、なんだよ愛歌」
夕月「…ん、そうだな」
夕月「辛いかもしんねー…けどさ、やっぱり『現実』は変われねえんだ」
夕月「……世の中、絶対的に〝優しくて本当のことばかりじゃないんだぜ…〟」
夕月「…橘ぁよう」
~~~~~
「はぁっ! はぁっ!」たったったった!
「っ…そんなのっ! そんなの嘘だ! あり得るわけ無い!」
「梨穂子がっ……そんなこと! そんなことで仕事をしてるなんてっ…!」
「ありえるわけないよっ! 絶対にっ!」
~~~~~
「はぁっ……はぁっ……」
「梨穂子の、自宅……家に居るのか…?」すた…すたすた…
「梨穂子…に、聞かなくちゃ…ちゃんと…」
「っ……」さっ
(…梨穂子の家から誰か出てきた? 男? それに、梨穂子も一緒だ…)
「───」
「───」
がちゃ…パタン
(一緒に車の中に……)
(もしかしたら、近づいて中の様子を見れるかもしれない……)キョロキョロ
「…よし、少しだけ…少しだけなら、いいよな…」すた…
「……」すたすた…
(この距離なら、中の様子は見える───)
「…………え…」
(嘘だ……そんなの…)
(僕の見間違いだ…あり得るわけがない、だってそんなの…………)
「ッ……!」くるっ
たったったった…
~~~~~~
三日後・放課後
梅原「…すまん、今日も来てないぜ」
梨穂子「…そうなんだ」
梅原「おう、俺も連絡とってるんだけどよ…ちっとも出るつもりもないみてえでさ」
梨穂子「うんっ…ありがと、梅原君」
梨穂子「…うん?」
梅原「橘と、その……なにかあったのか?」
梨穂子「えっ? 別になんにもないよっ…?」
梅原「そっか、ならいいんだけどよ」
梅原「…アイツがこの期間で休むなんて、何かあるとしか思えないんだがな…」
梨穂子「……」
梅原「あ、すまん! 忘れてくれ!」
梨穂子「うん……ごめんね」
梅原「どうして桜井さんが謝るんだよ、関係無いんだろ?」
梨穂子「…そう、だと思うけど」
梅原「じゃー平気だ、大将だって直ぐによくなって戻ってくる!」
梅原「信じて待とうぜ、桜井さん!」
梨穂子「……」ぴんぽーん
「──はーい、今開けまーす」
「…あれ? りほちゃん?」
梨穂子「こんばんわ~美也ちゃん」
美也「ひっさしぶり~! わぁ! りほちゃんだー!」
梨穂子「うんっ、久しぶりだね。元気にしてた?」
美也「にっしし! いっつもみゃーは元気な子だよっ」
梨穂子「そっか、それは良かった~」
美也「えーと、今日は……もしかしてにぃにのお見舞い?」
梨穂子「…うん。たち…純一は今は大丈夫かな?」
美也「…えっとね、うーん……りほちゃんだから、正直に話すけどね…」
美也「最近、にぃに部屋から一歩も外に出てないんだよ。ご飯だって…ほとんど食べてないんだー…」
美也「…うん、みゃーもよくわからないんだけど…」
美也「…でも夜になるとね、隣の部屋から小さく独り言が聞こえるんだよ…」
梨穂子「ひ、独り言…?」
美也「何て言ってるのかまでは、わからないんだけど…途中で泣き声に変わったりして…」
美也「……だけど、にぃに。みゃーには何も言ってくれないし…」
梨穂子「………ねえ、美也ちゃん」
美也「…うん…?」
梨穂子「純一の部屋に行ってもいいかな」
美也「えっ…? も、もちろんいいケド…会ってくれないかもだよ?」
梨穂子「うん、それでも声をひとつかけてあげたいんだよ」
美也「…そっか、いいよ、にぃにの部屋はわかるよね?」
梨穂子「…ありがとう、美也ちゃん」
梨穂子「……」コンコン
「……美也か、晩御飯は要らないってお母さんに言っておいてくれ」
梨穂子「…違うよ、梨穂子だよ」
「……何しに来た」
梨穂子「何しに来たって……忘れちゃったの? その…」
「………」
梨穂子「…私の〝問題〟について、色々と考えてくれるって…コト」
「………」
梨穂子「………そっか、忘れちゃったか…えへへ」
梨穂子「うんっ…ごめんね、そしたら帰るからー……」
がちゃっ
梨穂子「っ……」
純一「……入ればいい」
梨穂子「あ、うんっ……ありがと」きぃ…
純一「……」
梨穂子「なに、これ…」
純一「…すまん、ちょっと散らかってる」
梨穂子「散らかってるって…これ、写真……だよね?」ひょい…
純一「触るなっ!!」
梨穂子「ひぅっ……!?」びくっ
純一「はぁっ…はぁっ…い、いやっ! すまん…急に大声を出して…」
梨穂子「う、うん…びっくりするよっ…そんな大声あげたら…」
純一「…ごめん、でも僕が片づけるから…梨穂子は触らないでくれ…」
梨穂子「…う、うん」
純一「……はぁ、それで…なにしに来たんだ。僕の所へ」
梨穂子「え……それは、さっきも言った通り…」
梨穂子「そ、そうだけド……でも、今の橘くんを見てたら…やれるような体調じゃない、よね」
純一「…やれるさ」
梨穂子「っ……で、でも。無理してまで…! 具合も悪そうだし、私の為にそこまで───」
純一「──僕はやっちゃいけないとでも言うのかよっ!?」
梨穂子「ひぁっ!?」
純一「はぁっ…はぁっ…んくっ…はぁっ…」
梨穂子「橘…くん?」
純一「っ……ホントのことぉっ…本当のことを言ってくれよ! 梨穂子っ…!」
梨穂子「え…」
純一「お前はぁ! 僕にどうしてほしいんだよぉっ! この僕にっ!」
純一「どうして欲しいのかっ……言ってくれよ、お願いだからっ…!」
梨穂子「どうして欲しいって……だから、私の記憶を…」
梨穂子「っ……」びくっ
純一「だけど、それは本当にお前の悩みか!? それが一番の悩みか!?」
純一「教えろよ僕に! この僕にちゃんとその口で教えろ梨穂子っ!?」
梨穂子「た、たちばなっ……」
すた…
純一「なぁっ…! お前は一体、どうして記憶を失ったんだ…!?
どうしてそこまでお前を追いつめたんだ!? 仕事か!? ストレスか!?」
すたすた…
純一「それが原因でお前は記憶を失ったのか!? それがホントに事実なのかよ!?」
ぐいっ!
梨穂子「きゃっ…!」
純一「──お前はもっと僕に隠してる事があるんじゃないのかよ! それを教えろ!」
純一「そうだよっ! お前はぁっ…僕に、僕に言わなくちゃいけないようなことがあるはずだろ!?」
梨穂子「………」
純一「例えそれが言いにくいことだったとしてもだよ! 僕はっ…ちゃんとお前の口から聞きたいんだよ!?」
梨穂子「………」
純一「っ……どうして言ってくれない!? お前はっ…僕に助けてほしかったんじゃないのかよ!? なぁっ!?」
美也「……にぃに!? なにやってるの!?」
純一「っ…美也は黙ってろ! 僕の部屋から出て行け!」
美也「っ…」びくっ
純一「なにしてる…早く、出て行けよ!」
美也「で、出て行かないよ…っ! りほちゃんが困ってるじゃん! にぃにやめなよ!」
純一「っ…くそ、くそくそ!」ばっ
梨穂子「……っ…」
純一「……梨穂子、頼む。お願いだから、これで最後にするから…聞かせてくれ」
純一「お前が一番助けてほしいことは、なんだよ……」
純一「……」
美也「……」
梨穂子「…それは、それは……」
梨穂子「………」
梨穂子「──〝記憶〟のことだけ、だよ?」
純一「───………」
純一「あははっ…そうか、そうかっ……あはは!」
美也「にぃに…?」
梨穂子「………」
純一「僕に頼ったことはっ…! 記憶のことだけか梨穂子! その失った原因じゃなくて! 記憶のことだけか!」
純一「これは傑作だよっ…本当に、僕はとんだピエロだっ…!」
梨穂子「…橘くん」
純一「…………」
純一「……なあ、梨穂子。三日前、夜に家の前で車が止まってたろ」
梨穂子「───っ……!?」
純一「…っは、どうした? 梨穂子、なんでそこまで驚くんだ?」
梨穂子「…み、見てたの…?」
純一「ああ、バッチリな……それに、お前と一緒に男の人が乗るのが見えた」
梨穂子「っ……」
純一「それでさー……僕、気になっちゃって車の中を見たんだよね」
純一「…そしたら? なにが見えたと思う?」
梨穂子「…やめてよ…」
純一「な、なんだよっ……あんなこと慣れてるんだろ!? そうやって仕事をやってきたんだろ!?」
純一「あんな風に男に抱き寄せられて…! それがお前がやってるアイドルの仕事なんだろ!?」
梨穂子「っ……!」
純一「それがっ…! お前のやってる辛くても楽しいアイドルの仕事なんだろ!?」
純一「はっ…なんだよそれ、それに、お前だって全然抵抗するような素振りもなかったし…」
純一「……なんなんだよ、お前は。僕に一体、何をさせたかったんだよ」
梨穂子「………」
純一「僕は……お前に頼ってもらえて、本当にうれしかった」
純一「記憶を失ってでも、梨穂子が僕に頼ろうって思っててくれたことが……」
純一「……本当にうれしかった」
純一「だけど! あれはなんだよ! あの男は!? あいつは!?」
純一「あれがお前の病気の原因じゃないのかよっ…! それを本当はどうにかして欲しいんじゃないのかよっ!?」
純一「なのにっ…! お前は、僕に記憶を取り戻すことしか望まない! どうして言ってくれない!?」
純一「僕じゃっ……ダメなのかよっ…! 梨穂子ぉ!」
純一「ふざけるなよっ…どうして結果的に治りもしないものを、僕が頑張らなくちゃいけないんだっ…!」
梨穂子「………」
純一「………」
純一「…そうか、お前は僕が梨穂子の為に奮闘する姿を…アイツと一緒に笑ってたんだな…?」
梨穂子「……」
純一「いつ記憶を戻すのだろうって! んなことしても無駄なのにって! 二人して僕のことを嘲笑ってたんだろ!?」
美也「っ……にぃに! やめて!」
純一「お前はそうやって人をからかって! 頑張る奴を笑ってたんだろ!?
そうだよなぁ…だって簡単に人のことを騙せるような、嘘つきだもんなっ!?」
美也「にぃにっ…!」
純一「何とか言えよ! 違うならちがうって! ハッキリ言えよ梨穂子っ!」
梨穂子「………」
梨穂子「……いって、どうするの」
梨穂子「そんなこと、橘くんに言ったとして…どうなるの」
純一「なん、だと…?」
梨穂子「だってそういうこと…だよ、これって」
純一「お前………本気で、そういってるのか…?」
梨穂子「うん、言ってる」
梨穂子「橘くん……あなたがいったこと、全部あってるよ?」
梨穂子「あえて原因のことも言わなかったのも、あなたが言って通りで正解だよ」
純一「…梨穂子」
梨穂子「それに、記憶のことしか言わなかったのも。あなたが言ってることで正解だし」
純一「…梨穂子っ…!」
梨穂子「最後に言った頑張る姿を……というのも、あなたがいってることが当たりだからね」
純一「──梨穂子ッ!」
梨穂子「…なあに? 橘くん?」
梨穂子「………」
純一「それはっ…もうっ! 俺の知らない、違う梨穂子だ!」
梨穂子「…そうだよ」
梨穂子「アイドルになったから変わった私じゃない」
梨穂子「──〝記憶を失った、違った梨穂子だもん〟」
純一「ぐっ……あっ……くッ…!」
純一「───あああああああああああああああ!!」
美也「っ……」びくっ
純一「っはぁ………ああ、梨穂子…そうだな」
梨穂子「……」
純一「お前は違うよ、もう……僕も疲れた」
純一「……出て行ってくれ、もう顔も見たくない」
純一「……」
梨穂子「…だけどね、こだけは言わせてほしいな」
梨穂子「…今まで、ありがとうございます」
純一「……帰れ、桜井」
梨穂子「……うん」
きぃ…ぱたん
純一「…………」
美也「に、にぃにっ…?」
純一「…美也、すまなかった。びっくりしたろ」
美也「みゃーのことはどうだっていいよ…! だけど、りほちゃんが…!」
純一「……いい、放っておけ。それに…もうあいつは僕とは関係ない」
ずっとずっと仲良しだった、にぃにとずっと……!」
純一「うるさいっ!」
美也「っ…あぅ…」
純一「っ……ごめん、今は僕…どうしようもないんだ…」
純一「ごめん…美也…そっとしておいてくれ…ごめん…本当に…」ぐっ…
美也「…………」
きぃ…ぱたん
純一「……………」
純一「……なんだよ、僕は…」
純一「僕は…アイツの為にっ……だから、アイドルになってもっ…!」
純一「ソエンになったとしてもっ…応援し続けようって…っ…」
純一「思ってたのにっ……さぁっ…!」
純一「どうしてっ……どうしてだよ!」
純一「ぐっ……ぐすっ…っはぁ……馬鹿野郎…」
純一「僕のばかやろうっ…」
~~~~~
それからのことを語るのは、それほどの物は残って無いと思う。
純一「………」
あれから何事もなく、予定の三週間は過ぎて行き。
純一「………」
そして学校中のだれもが惜しむ中、桜井リホはアイドルへと復帰を果たした。
純一「………」
桜井リホがどれだけの人たちを、これから魅了し続けて行くのかはわからない。
テレビの中で歌を歌い、声を発し、笑い声を上げ、泣かせるような演技をし。
彼女が発する全ての──アイドルとしての力は、決してくすんでる様には見えなかった。
果たして本当のことだったのだろうかと、ふと考えることがある。
しかしそれは、もう答えが無い。答え自体を、僕自身が捨てたのだから。
純一「……梅原」
それが良いことなのだと、自分自身に言い聞かせて。
何物にも代えられない、唯一無二の幸せなんだと信じて。
僕も彼女も、思い出としての〝二人〟を消し去ることに成功した。
純一「今日はもう帰る、先生には具合が悪くなったと言ってくれ」
はたしてそれが、世間一般的に不幸だと言われてしまったとしても。
僕はそうは思わない。互いに傷をつけあう優しさに、なにが幸福をもたらすだろうか
だったらいっそ、全てを捨ててしまって。なかったことにして。
純一「……ふぅ」
───全部のことを、忘れてしまった方がいいじゃないか。
純一「僕が…この名前を呼べるのは、写真に向かってだけだよな」
純一「もう誰にも、この名前を呼び掛けることなんて……出来はしない」
純一「出来やしないんじゃなくて、もう〝居ないんだ〟」
純一「…そう呼べる人が、テレビの中で歌っていたとしても」
純一「そいつはもう…僕の知っている桜井梨穂子じゃない」
純一「新しくて、かっこよくて、強くて、可愛くて…」
純一「歌が上手で、まあるくて、誰よりも誰よりも優しい……」
純一「……そんな桜井梨穂子なんだよ」
純一「僕の知っている、僕がそう呼べる〝桜井梨穂子〟はもう……」
純一「……居ないのだから」
ぱたん…
───ピチュン!
純一「な、なんだ……」
純一「急にテレビがついた…?」
『──えーこちらは、今、空港からの中継です』
『──今回、KBT108で人気爆発中の……』
『桜井リホさんに繋がってまーす!』
純一「………」
『こんにちわー! 大丈夫ですかー? お具合の方は?』
『──はい、大丈夫でーす! 世間の皆さんは、わたしが病気ー…とか思ってるみたいですけどぉ!』
『そんなことありませんよ~! えへへ、実はちょっと食べすぎでお腹を壊したぐらいかなぁ~って…』
『ドッ! わははははは!』
純一「……元気そうだな」すっ…
純一「…じゃあな、桜井リホ」かち…
『──それで、今回から海外での活動を主にされるようですが!』
純一「……」ぴた
『はーい! 実は極秘に社長が練っていたプランだったらしく~、見事選ばれちゃいました~!』
『それは凄い! 流石はリホちゃんですねぇ!』
『えへへー! がんばりまーす!』
純一「…海外?」
純一「なんだそれ、一体何を言ってるんだ…? 桜井リホは海外に行くって…」
ぷるるるるるるるる!
純一「っ…電話?」
『それですねぇ! 主に映画での活動をやっていこうかなーなんて───』
ぷるるるるるるるる!
純一「…気になるけど、電話が先か…」たたっ
~~~~
純一「…はい、もしもし。橘です」
『──たーちーばーなーくぅん?』
純一「ひぃいっ!? た、高橋先生!?」
『ええ、そうですよぉ……どうして自宅に電話をかけたら、平気そうな声で君がでるのかしらねぇ…?』
純一「そ、それはですねぇ! えーと、あははは!」
『もしや、と思ってかけてみれば! 先生、ズル休みは許しませんよ!』
純一「……す、すみません」
『もうっ! 今からでもいいです、戻ってきなさい! 先生が特別に便宜を払ってあげますから!』
『弱音を吐かないの! 具合悪くないことはお見通しですからね! …まったく、桜井さんを見習いなさい!』
純一「っ……そ、そうですね」
『そうですね、じゃあ…ありません! まったくもう、私は君にどうして彼女のことを相談したかわかってるのかしら…』
純一「え、それはっ…僕と…桜井が、幼馴染だからって知ってたからじゃあ」
『ええ、まあそれもあります。ですけど、根本的には私は彼女みたいな強い精神を持って参考にしてほしかったのよ?』
純一「……どういうことですか?」
『…忘れたの? 彼女のことは内密だからって、君が忘れることはないでしょう』
『───親御さんが大変な時期に、学校に来られたことにです!』
純一「……は?」
『……なんですかその返答は』
『なんですか、私…変なこと言ったかしら?』
純一「い、言いました! 言いましたよ!」
純一「梨穂子の親御さんが大変って…なんですかそれ!?」
『……え?』
純一「ちょ、ちょっと待ってください…え、それってあの生徒指導室で言った事ですよね?」
『え、ええ…そうですけど、先生そう言わなったかしら?』
『──病気で御記憶を失くされてるから、大変だって』
純一「あ……言ってましたけど、それ……梨穂子のことじゃあ…?」
『はぁ? それじゃあどうして学校に来てたんですか! ちょっとは考えなさい!』
純一「……………ですよね」
『意味が分からないこと言わないで、早く学校に───』
純一「………なんでだ、どうして僕、梨穂子だって勘違いをした…?」
純一(しかし先生は…それを親御さんの病気だと言ってる)
純一(──まずはそこ、どうして僕はそう思った?)
純一(っ…ダメだ、思いだせない…もしかして、色々と不安定のままに聞いたせいなのか…?)
純一(だから僕は、梨穂子の病気だと勘違いを………いやいや、それもおかしい!)
純一(だったらそんな僕の勘違いは、あの茶道部の人たちに訂正されたハズ………)
純一「………………茶道部?」
純一「──────…………嘘だろ、おい」
純一「はぁっ…はぁっ……!」
がらり!
純一「はぁっ…はぁっ…!」
「───ん、なんだい。珍しい奴が来たねえ」
「───黒幕登場」
純一「なんっ……ですか、それ…! なんかのnpcみたいな喋り方はっ…!」
夕月「なんとなくだよ」
愛歌「特に意味無し…ずずっ」
純一「はぁっ…ちょ、ちょっと…だけっ…待ってくださいっ…!」
純一「家から全速力でっ…走ってきたので、ちょっと…喋れなくてっ…!」
夕月「いいよ、待っててやっから。落ちついてから喋りな」
純一「っ…んく、やっぱりだめです! この状態で言いま、す…!」
純一「───あんた等、僕を騙してたな!!!」
愛歌「義理セーフ」
夕月「…そうかい? あたしゃもう手遅れだって思うけどねえ」
純一「ちょ、ちょっと!? どうしてそんな無反応気味なんですか!?」
夕月「ん? だって、いつかは気付くだろうって思ったしよ」
愛歌「勘違いから生まれるのは……ただの勘違い」
夕月「いやはや、アンタが神妙な顔で来て……病気病気、梨穂子が…」
夕月「なーんて言ってきたら、あはは、ちょっと騙したくなってきたってだけさ」
純一「ふぅー……はぁー……」
夕月「…お?」
純一「最低だ! アンタらは!!」
夕月「くっく、そうだよあたしらは最低さ」
純一「…聞かせてくれるんでしょうね、どうして騙したかを」
夕月「簡単な事さ、はっきりいうぜ?」
夕月「──桜井梨穂子は、記憶を失った事実は一切ない」
純一「っ……」
夕月「それが現実、そしてあんたの勘違いだ」
夕月「…最初の方は、アンタ何言ってるんだがわからなかったさ」
夕月「りほっちのことで、頭が混乱してるのかって思ってれば」
夕月「…面白い方に勘違いしてるしよ、はっは、参ったぜあんときは」
夕月「だから言わせたのさ、アンタに。どんな勘違いをしてるのか、直接的に言わせる為に」
夕月「憶えてるかい? ───りほっちの記憶を失ったと言ったのは、お前自身だぜ?」
夕月「……そしてあたしら二人は、その話に乗っかっただけ」
夕月「ただただ、それだけだよ」
純一「……どうして、そんなことをしたんですか」
夕月「意味なんて無いさ、その時の場のノリだよ」
純一「じゃあ、後はどうなんですか」
夕月「……後?」
純一「はい、その時が……先輩たちの乗りだったとして。その後の…」
純一「…僕の頑張りに対して、どうして口を出さなかったんですか」
夕月「………」
純一「教えてください」
夕月「…それは、まあよ、わかるだろ橘」
純一「……梨穂子、ですか」
夕月「…そうだよ、りほっちがやったことだ」
純一「っ……どうして、そんなことっ…!」
夕月「あたしらはアンタが帰った後に、すぐさまりほっちに伝えたんだ」
夕月「…アンタの考えたズル休みの理由が、なぜか、面白いように伝わっちまってるよってな」
純一「……」
夕月「だから変な事してきたら、面白いように扱ってやんなってさ。
だけど……りほっちは、全く浮かないような顔をしてやがった」
夕月「『…チャンスかもしれないです』って、最後に言ってな」
純一「チャンス…? なんですか、チャンスって…!」
夕月「さあな、だけどあたしら二人はそれから……りほっちの言う通りに、動いただけだよ」
夕月「アンタの頑張る姿を、知らぬ存ぜぬで突き通せってな」
純一「じゃあ、僕に言った…梨穂子を愚弄した話も…?」
愛歌「…我の発案也」
純一「っ…愛歌先輩が…?」
愛歌「りほっちの意図を汲んでのこと……」
愛歌「橘純一……りほっちは分かれることを望んでいた」
純一「わかれる、こと?」
愛歌「分かるだろう…それは、つまり」
ぴっ
愛歌「こういうことだ」
『さて、海外へ向かう飛行も…あと五時間を切りました!
これからは桜井リホさんのデビュー当時の映像を───』
純一「……海外?」
愛歌「……ずずっ」
夕月「そうだよ、橘…りほっちは学校に来た理由は親御さんの病気としてたけどよ」
夕月「本来は皆とお別れする為に、挨拶としてここに来てたんだ」
夕月「あたしらには、そう言っていた。だけど、本当にあたしらだけみたいだな」
夕月「職員室…今は大パニックらしいぜ? まあ、事情を知っていた先生も居るみたいだがよぉ」
純一「っ……なんで…梨穂子はっ…」
純一「どうしてっ! 僕には何も…! ただ、僕の勘違いに対してっ…! それしか言ってないかったのにっ…!」
純一「いままで記憶が無いふりを、僕の勘違いだって言うのにっ…それを演じ続けたって…こと?」
純一「なんでだよっ…! お前は一体何をしたかったんだ…!? 梨穂子…!」
夕月「………」
純一「じゃ、じゃあ……な、なんなんだよお前っ……あの時、僕に泣きながら言ってくれたことは…嘘かよ…?」
純一「記憶を取り戻したいと…顔をぐしゃぐしゃにして、泣いたお前は…あれは、演技だったとでも…?」
純一「記憶が無いからって…皆に嫌われたくないって、言ったのも全部……演技?」
純一「…はは、ははははっ……そ、そうか……全部全部、アイツの計算通りってわけか」
純一「じゃあ、最後に僕の部屋で言った事も……アイツにとって、望まれた答えってワケか…!」
夕月「…その話は知らねえけど、たぶん、コイツじゃねえか?」くいっ
『ワァーオ! 桜井リホー!』
『わっぷっ…社長さ~んっ! いきなりのハグはやめてくさ~いっ!』
純一「」
愛歌「とどめの一撃」
夕月「…馬鹿だねえ、ほんっと」
純一「……う、嘘だ……あはは…」
夕月「認めたくないようだから言ってやるけど、これは全部よ」
夕月「橘純一の勘違いで始まって、橘純一の勘違いで終わった話だよ」
純一「うっ……!」
愛歌「だがりほっちの作戦勝ち」
夕月「…だな、ここまで心の距離を離しちまったんだ、アイツの勝ちだね」
純一「……どうして、そんなにも嘘をついてまで、僕と別れたかったんだよ」
純一「僕は……ただ単純に、別れを告げられた方が、まだよかった」
純一「あのままじゃ僕は……お前を一生、遠い存在だって思い続けただろ…」
夕月「だから、それを望んでたんだろ?」
純一「……」
夕月「悲しませたくないから、あんたを、分かれっていうもので思わせたくないから……いいや、これは違うね」
夕月「──アンタが心に決めた覚悟を、打ち壊したくてやったことなんだよ」
純一「僕の覚悟を…」
夕月「だろうって思うぜ? ……知ってるよ、りほっちがアイドルになるって決まった時」
夕月「アンタ、ずっと傍で応援してやるって言ったんだって?」
純一「………」
夕月「その時のあんたは、ただ単に……頑張る幼馴染を応援したつもりだったかもしれないよ」
夕月「だけど、それは桜井梨穂子にとって重みになっちまったわけだ」
純一「……」
夕月「知らねえから、ずっと傍で応援してやるって言ったんだろうね」
純一「……どういうこと、ですか」
夕月「…本当にわからないのかい? あの子のアイドルになる理由が?」
純一「…はい」
夕月「そうかいっ…あーあ、あの子が諦めた理由ってのも分かった気がするぜっ…!」
純一「えっ…?」
夕月「テメーに振り向いて欲しかったからに決まってるだろうが!」
純一「っ……」
夕月「んなのによ、お前さんは何だって? 傍で応援してやる? 馬鹿言えよ、そんなことする暇があったのなら──」
夕月「──あいつの頑張りを認めてやって、もう頑張らなくていいよって伝えるべきだったんだよ!」
夕月「応援しやがんなよ! わかるだろ!? あの子が無茶して頑張ってたこと! わかってただろテメーはよ!」
夕月「ハァ!? んだとこら!?」
純一「だってそうじゃないかっ…! 僕の…僕に振り向いて欲しいからとか、そんなことっ…!」
純一「直接言われなきゃわかることも分からないだろ!?」
夕月「あーそうかいッ! じゃあ言わせてもらうがよ、橘ァ!」
夕月「テメーは何時も、りほっちに何て言ってた? ああん? 言ってみろ!」
純一「ぐっ…何時もっ…?」
愛歌「……幼馴染に言葉は要らない」
純一「───あっ……」
夕月「ッ……優しくすんじゃねえよ、愛歌ッ…!」
愛歌「…それぐらいにしておけ」
純一「………………」
夕月「……ケッ」ぱっ…
夕月「…わかったかよ、これが現実だ」
純一「…………………」
夕月「もう一度言う、お前は……一つの勘違いを起こした」
夕月「それはちょっとした勘違いで、すぐにでも治せる問題だった」
夕月「だけど、その勘違いを使用たいと願った奴が居た」
夕月「その願った奴は、お前の事をすげー大事に思ってた」
夕月「だけど、大切に思うがゆえに…綺麗に気持ちを終わらせる為に…その勘違いを使って」
夕月「分かれる原因として、使ったんだよ」
純一「………………」
夕月「わかったこの朴念仁っ!」
純一「………だけど」
夕月「…あ?」
純一「………だけど、梨穂子は泣いてた」
純一「……そう、アイツは確かに泣いてた」
愛歌「……記憶の事に関してか」
純一「そう、だよ……どうして泣いたんだ…あそこまで…フリだったとしても…」
純一「全てが僕と別れる為に、全部が全部梨穂子の演技だったとしても…」
純一「あの場面で、泣く必要なんてなかった……要らない演出を増やしただけじゃないか…」
純一「どうして、泣いたんだ? どうして、僕に記憶の事に対して……取り戻したいって、泣いたんだ?」
純一「そんなの、全く余計だろ…?」
『…………助けてよぉ、純一ぃ…っ』
夕月「あ? 何言ってるんだよ…?」
純一「あいつは、僕に対して……初めて、あの時…! 助けてと、言ったんだ…っ」
愛歌「…その時、りほっちの表情は」
純一「っ…泣いてた、ずっとずっと記憶してきたどんな梨穂子よりも…っ!」
純一「ぐしゃぐしゃにっ……泣いてたんだっ…!」
愛歌「……そうか」すっ
夕月「な、なんだ愛歌…?」
愛歌「橘純一」
純一「え…? なんですか…?」
愛歌「──これを見るがいい」バサバサバサ!
純一「…なんですか、これ」
愛歌「りほっちの取材記事だ、ドラマの」
純一「……」
愛歌「読んでみるがいい」
愛歌「……」
夕月「…おい、愛歌?」
愛歌「黙ってみとけるっこ」
夕月「ど、どういうことだよ?」
愛歌「すぐにわかる……ふふっ」
純一「……」
愛歌「そこだ」
純一「ここ…ですか?」
愛歌「口に出して読んでみろ」
純一「は、はい……」
純一「『では、ドラマの演出で一番苦手なことは何ですか?』」
純一「『はい、一番と言いますか、何事も初めてなので全てが上手くできずに悪戦奮闘してます…ですが』」
純一「『───なによりも、泣く演技が……一番の苦手です』」
純一「…………………」
愛歌「…理解しろ橘純一」
愛歌「己の瞳に移させたその誰よりも…悲哀の籠った表情の彼女は」
愛歌「──嘘ではない、心して立ち向かえ」
純一「…………」
純一「………」
純一「……っ……!」ばっ!
夕月「わぁ!? な、なんだよ急に立ち上がって!?」
純一「……行ってきます」
夕月「は?」
純一「──梨穂子の所へ、行ってきます!」だっ!
夕月「……」ぽかーん
愛歌「ふ・ふ・ふ」ふりふり
愛歌「るっこもツンデレ」
夕月「あぁんっ? なんだよ、どういう意味だよッ」
愛歌「橘純一が……ここまで努力する理由は」
愛歌「──るっこが橘純一にかけた言葉のお陰」
夕月「っ……テメー、あの今朝のコト見てたのかよっ…!」
愛歌「──そのまんまの意味だよ、あの子をいつまでも信用するんだ。
どんなに冷たい事を言われても、どんなに暴言を吐かれて拒絶されたとしても、だ」
愛歌「お前さんはそれを耐え抜いて、耐え抜いて、ずっとずっとりほっちのことを───」
夕月「だぁああああああああああああああ!!! 一字一句憶えてるんじゃねえよ!」
愛歌「ふ・ふ・ふ」
夕月「はぁっ! クソッ! つぅーかよ、あの馬鹿はどうするつもりなんだ?」
愛歌「難解」
夕月「…ったく、世話を書かせる奴だぜ、ほんっと……」
prrrrrr
夕月「……ういっす、夕月瑠璃子だ。わかるだろ? おう、ちょっと頼みたいことがあるんだけどよ───」
純一「はぁっ…! はぁっ…! んくっ……はぁっ……はぁっ…」
純一「はぁっ……はぁっ……はぁ………」
純一「──だ、ダメだっ……駅まで、全速力で走れるっ……体力が無いっ…!」
純一「はぁっ……ハァ……はぁ……」
純一「んくっ……ダメだ、純一! 諦めるな…っ!」ぎりっ
純一「なんとしても───絶対に、梨穂子が行く前にっ…!」
純一「ちゃんと、あの言葉をっ…! 言わなくちゃっ………はぁっ! はぁっ!」たったった…
純一「くそ、動けよ僕の足! いいんだっ…これから先、もう動けなくなったって…!」
純一「絶対に伝えるまでっ…! 動き続けろっ…!」
「───よう、大将。かっこいいところすまねえけどよ」
純一「え……?」
梅原「言っちゃ悪いが、自転車の方が断然…早いぜ?」ちりんちりーん
梅原「おうよ、ちっと出前中だぜ」
純一「で、出前中ってっ……お前学校はっ!?」
梅原「ああん? サボったにきまってるだろーが!」
純一「……なんで?」
梅原「おいおい、言わせるなよ大将?
……お前さんの様子がおかしかったから、後で麻耶ちゃん先生に聞いておいたんだよ」
梅原「そしたらなんだ、電話つながったまんまどっか消えやがったと言いやがるもんで」
梅原「──はは! それならオメー! 絶対になにかやらかすと思うだろうがよ! こっちも!」
純一「か、カンが良すぎるよ梅原…!」
梅原「ばーろう! どれだけお前と……長年つきそったと思ってるんだ大将ぉ!」
純一「っ……うん!」
梅原「つぅーこって、後ろに乗ってくれ! 駅まで俺が送ってやる!」
純一「で、でも梅原…? 出前は…?」
梅原「おっとと、落ちを言っちゃ困るぜ橘?」
梅原「───大将の想いを届ける出前だって、ことはよぉ!」ぐぉ!
梅原「はぁっ……はぁっ…! い、いけっ…! 大将っ…!」
純一「ありがとうっ…! 梅原っ…この恩はどんなお宝本だって返しきること出来ない…っ」
梅原「ば、ばかっ……いってるんじゃ…ねえよ、こら……!」ぐいっ
純一「うわぁっ…?」
梅原「約束しただろーが……俺はちゃんと見てるぜっ…テレビでよっ…」
梅原「───お前が咲かせる、彼女の満点の笑顔ってやつよぉっ…!」
純一「っ……おう、見とけ梅原!」ぐっ
梅原「ああっ…行って来い! 俺はもう…ダメだ!」とん…
梅原「きばって、いっちょやってこい大将っ!」
純一「…うんっ……!」たたっ
~~~~
ホーム
純一「はぁっ…はぁっ…」
純一「電車はっ……十五分で着く!? そんなっ…!? 一本先の奴に乗りたかったのに…!」
「──こっちだ、ストーカー」
純一「っ…え? この声は……?」
隊長「……こっちだ、早く来い」
純一「守り隊の隊長さん!」
隊長「そ、そう呼ぶな! 恥ずかしいだろ!」
純一「え、すみません……でも、どうしてここに?」
隊長「……兄貴がお呼びだ」
純一「兄貴?」
隊長「はやく外に出ろ! そうしないとっ───あふんっ!」
純一「っ!?」
「──ノウノウ、十五秒で連れてくるように言ったじゃあーりませんか!」
純一「こ、この声はっ…!」
マイケル「イェース! ユーの愛しいギャラガーデース!!!」
マイケル「ノンノン…タチバナ! ギャラガー……オーケー?」
純一「マイケルさん!」
マイケル「ノーウ! そんな冷たいユーも……中々デリシャース…」
純一「顔が近いですっ……」
「あ、兄貴! 急いでください!」
「そろそろやってきますよ!」
「やばいですって!」
マイケル「オーゥ…シット! もうちょっとでタチバナを落とせるかとおもいましたのにー」
純一(何言ってるんだこの人…)
隊長「…は、話はっ……あの人から聞いてるっ…!」
純一「隊長さん! ……え、話って?」
隊長「……茶道部の、部長だ」
純一「えっ!? 夕月先輩から…!?」
隊長「実はだな……私が『桜井リホ守り隊』に隊長へと就任できたのはっ…」
隊長「あの人のっ…おかげなのだ…」
純一「えー! ……あの人に借りを作るとか…大丈夫なんですか…?」
隊長「だから! 今はこんなめにっ…ひぅん!」
マイケル「オー、間違ってダイアルを全開にしてシマイマシター! HAHAHAHAHAHA!」
純一(わ、わかった…多分この人、マイケルさん……夕月先輩とつながりがある! 勘でわかる!)
マイケル「それでぇー……急にお店に電話が来たときはビックリしましたがー!」
マイケル「……タチバナ、ユーはなにをしてほしいですカー?」
純一「え…?」
マイケル「ウッフッフッフ…いいんですよー? 正直に言って…ミーはタチバナのこと大好きデース!」
マイケル「どんなことだって、叶えて見せマース!」
純一「っ……本当に、ですか…?」
マイケル(get!)
マイケル「ハーイ! なんだってしてますよー! カモンカモン!」
マイケル「…ンー?」
純一「僕の大事な人が……いや、手の元から逃げてしまった人を……」
純一「取り戻しに、行きたいんです…!」
マイケル「……」
純一「あの子は誰にも真実を…キチンと明かさずに、誰に対しても演技を行って…」
純一「最後の最後までっ……皆を騙し続けました!」
純一「だけど! 僕はそれをどうにかしに行くつもりです!」
純一「──お願いします、ギャラガーさんっ! どうか僕を助けてください!」
「────オーケー……ンッフッフ、ワーオ! 本当に素晴らし……グレイト、グレェーーーーート!!」
パァンッ!
ギャラガー「タチバナァ! 後はミーに任せないサーイ!」
純一「ほ、本当ですか……っ!?」
ギャラガー「イェス! ……そこのユーたち、アレの準備カモン!」
純一「………」
ギャラガー「ンンンンンンー……クレイジー!何時に無くこのバイクの音はモンスターデース!」
純一「あの……ギャラガー…さん?」
ギャラガー「ハーイ?」
純一「その、免許……持ってます?」
ギャラガー「ハイ! モッテマスヨー!」
純一「………」
「あ、兄貴!? 単車のハンドルは両手で持ってくださいね!?」
「ち、違います! それアクセルですから! ぶっとびますよこの機体だと!?」
「マジで軽く空も飛べそうになるやつだから、危険ですからね!?」
ギャラガー「オーケーオーケー!」
純一「………」がくがく…
隊長「…おい、ストーカー」
純一「な、なんですか…?」
純一「え、ええっ……そうです!」
隊長「…そうか、そしたら私も見れるのか」
純一「え…?」
隊長「……いや、なんでもない」くるっ
隊長「さっさと行け、顔も見たくない」
純一「……見せますよ、ちゃんと!」
純一「待っててください! テレビの前で!」
ギャラガー「それではぁー? ウッフッフ…モンスターは実は他人のもなのデース」
純一「……へ?」
ギャラガー「ちょいと借りてキマシター! オーケー! シンパイムヨウ!」
ギャラガー「──It is only me that can ride very well…」
ブオオオオオオオオオオオオオオオオン!
純一「ぎゃ、ギャラガーさんっ…!」
ギャラガー「…行きなさい、タチバナぁ…ぐふっ」
純一「で、でも…! 飛行場はもう目の前ですよ!?」
ギャラガー「ウッフッフ…ミーには少しばかり、遠いようデース…」
純一「だけどっ…こんな所で倒れてたらっ…!」
純一「運転酔いして、倒れてたら…! 誰かに引かれちゃいますって…!」
ギャラガー「……タチバナ」
純一「え…?」
ギャラガー「ミーは…本当に、タチバナのことを尊敬シテマース…」
純一「なんですか、急に…」
ギャラガー「ウッフッフ…最後に言いコト言いたいんですよ、ミーも…」
純一「…じゃあ、なんですか? 言いたいことって?」
ギャラガー「タチバナ…手を繋ぐことから始めましょ──がふっ」コトリ
純一「と、とりあえずっ…端の方に寄せてっ…」ずりずり…
純一「あのバイクは……誰も動かせることなんてできないだろうなぁ…」
純一「本当にありがとうございます、貴方がいなければ僕は…絶対に間に合わなかった……」
純一「──よし、ゴールは目の前だ! 行くぞ!」たっ
~~~~~
梨穂子「……」
『それではー? そろそろ桜井リホちゃんが搭乗されるようです!』
梨穂子「……」
『リホちゃーん? 最後に一つ、なにか言い残すことはあるかな?』
梨穂子「…え、あ、はいっ! 頑張って海外でもやって行きたいと思います!」
『んー、言い言葉だね! だけどもっと言ってもいいんだよ?』
梨穂子「あっ…はい! えっとー…その……」
アナ(なんだっよこのニュース……マジでこれで視聴率取れるとか思ってんの?)
アナ(つぅか、ただのアイドルが飛行機乗るだけで、どんだけ時間使ってるのかつぅーの…)
梨穂子「えーとですね…」
アナ(あーあ、つまんないの。これならもっと刺激的な報道アナになるべきだったかなー)
梨穂子「…その、一つだけ言いたいことがありますっ」
アナ『あ、うんっ! なにかなー?』
梨穂子「それは……その、もしかしたらテレビを見てくれてる人の中に…」
梨穂子「───私が、ずっとずっと大切にしときたい…人たちが居ると思います」
~~~~~~~
夕月「……」
愛歌「……」
~~~~~~~
『こんな私をずっと見守っててくれた人たちで───』
ユウジ「………」
~~~~~~~
『…こんな私を、守り続けた人たちも───』
隊長「………」
~~~~~~~
『みんながみんな、見てくれると思って……この言葉を送らせていただきます』
『───ありがとう、わたしはとっても幸せでしたっ…!』
『わたしのために努力を惜しまなかった人に』
『……私は、本当の感謝を送りたいです』
梨穂子「───ありがとう、そしてごめんね……っ」
アナ『…リホちゃん? それってつまり…?』
梨穂子「ぐすっ……あはは、ちょっと大げさすぎたかな~? 辺に勘ぐっちゃだめですよっ?」
アナ『そ、そうよねー!』
梨穂子「えへへ、それじゃあ! 桜井リホ! 行きます!」
アナ『……今! あの人気をはくしたKBT108の桜井リホが! 搭乗口へと向かっていきます!』
梨穂子「………」すたすた…
アナ『搭乗口の前には、駆け付けたファンが波のように押し寄せております! 凄いですね!』
梨穂子「……ごめんね、純一…許してなんて言えないけれど…」
梨穂子「……それでも、私はあなたのことをずっとずっと…」
がしっ!
梨穂子「──え…?」
梨穂子(誰かに腕をつかまれ、ファンの人…?)
ざわざわ…
アナ『…おや? なにやら搭乗口で少しトラブルの様ですよ!?』パアアアア!
梨穂子「あ、あのっ…ごめんなさい! 離してもらってもいいです───」
「はぁっ…はぁっ…!」
梨穂子「───か……」
梨穂子「…………なんで此処に居るの…?」
「…なんで、って? おいおい、そんなことっ……!」
純一「お前を止めに来たに……決まってるだろ!!」
純一「………」
アナ『────おっとおおおおおおおおおおお!これはなんだぁ!一体ぜんたい何が起こってやがるのかァー!?』
梨穂子「っ…いや! これは違うんですっ! えっと、その…!」ばっ!
純一「…梨穂子」ぐいっ
梨穂子「そんな疑ってるような、ふぇ…」とすんっ
ぎゅうっ…
純一「…ダメだ、絶対に逃がさない」
梨穂子「……えっ?」
アナ『うわぁああああああああああ!!! 抱き寄せたァ!
強引に引き寄せて、後ろから抱きよせたァ!なにこれめっちゃ興奮する!』
梨穂子「っ~~~~…!? じゅ、純一っ!? わ、わかってるの!? こ、これ全国ネットでッ…!」
梨穂子「か、関係無いって…っ! そんな、こと…!」
純一「──関係無いっていってるだろ!」
梨穂子「っ……」
アナ『っ……ゴクリ…』
純一「僕はもう絶対に梨穂子を離さない! お前が何度、僕を突き離そうとしてもっ…!」
純一「もう梨穂子からは絶対に逃げないから!」
梨穂子「じゅん、いち…」
アナ『男の人……』
梨穂子「っ……でも、だめだよっ…まだ間に合うから! なんとか説明して、純一は無事に日常に戻って…!」
純一「………」
梨穂子「…純一?」
~~~~~~~~
教員「…あれ、高橋先生のクラスの子ですよね」
高橋「…シリマセン」
梅原「ははっ…おいおい、なにもったいぶってんだよ」
梅原「──早く言っちまえ大将!」
~~~~~
「お、おいっ…! あれって橘じゃね!?」
「おい、みんな! 教室のテレビつけてみろ!」
ユウジ「…頼むぞ、橘っ…!」
~~~~~~
隊長「……早く言え」
隊長「そして見せてくれ、俺が心から欲したモノを」
~~~~~~
「兄貴ー!」
ギャラガー「シッ! ラジオの音が聞こえないでショーウ!」
~~~~~~
愛歌「信じろ、己の意志の強さ」
夕月「…ぶつけちまえ、橘!」
純一「──梨穂子、言わせてほしい」
梨穂子「っ……?」
純一「お前は言ってくれたな──ホントの自分を分かってほしいと」
純一「あれはお前の演技じゃ無く、ホントの…気持ちだと僕は受け取ってる」
純一「違うのか、梨穂子?」
梨穂子「…違うよ、そんなこと」
純一「…ああ、そう言うと思った」
純一「だけど、僕はそうは思わない」
梨穂子「…なんで、そう言えるの…」
純一「だって梨穂子……さっきからずっと…泣いてるだろ?」
梨穂子「うっ……くっ…だから、何だって言うの…」
純一「じゃあ、それは嘘だ。僕にはわかる、まあ受けおりだけどね」
純一「…なあ、梨穂子言わせてくれ」
純一「───この世で一番、お前が大好きだ」
『──この手をずっと離したくないって望んでしまうほどに』
『──ひとつひとつ零れおちるその涙も独占したいぐらいに』
『──お前の全てを僕の物にしたい、全部を僕色に染めてやりたい』
『──アイドルだからって、凄い奴だからって、そんな肩書はいらないよ』
『──僕はただただ、梨穂子が傍に居るだけで十分なんだ』
純一「……だから、梨穂子」
梨穂子「……」
純一「僕からずっと離れないでくれ」
純一「一生、傍にいてやるから……もう、あんなことは絶対に…しないでくれ…」ぎゅうっ…
梨穂子「…純一…」
アナ(うわぁ…すっげ聞いててハズいwwww)
梨穂子「……純一、あのね」
純一「…うん、なんだ?」
梨穂子「…えへへ、ありがと~」ぎゅっ
純一「…おう、こっちこそ」
梨穂子「頑張ったんだよ、わたし…わかってるよね」
純一「…うん」
梨穂子「あなたと別れる為に…色々、がんばったんだよ」
純一「…うん、わかるよ梨穂子、本当にすまなかった」
梨穂子「…だけど、純一は…あはは」
梨穂子「ここまでのこと…しちゃうんだね、敵わないですよ、ほんっと」
純一「…だろ、いつだって僕は凄い奴だ」
梨穂子「うんっ! …だからね、純一」
純一「…なんだ梨穂子」
梨穂子「………本格的に犯罪者として捕まる前に、色々と手段を打つよ!」
梨穂子「──……」くるっ…
梨穂子「純一っ! ありがとうっ…! 本当に、そんな事を言ってくれて……!」
純一「……」
梨穂子「ひっぐ……ぐすっ…」
アナ『…おやおや、何やら発展があるようですよー! 視聴者の皆さん! とくとご覧あれ!』
純一「…梨穂子、お願いだよ」
梨穂子「……ううん、確かに…貴方の言ってくれたことは、本当にうれしい」
梨穂子「──だけど、私は……もうアイドルなんだよ?」
純一「っ……だけど! それは…!」
梨穂子「……ごめんなさい、私は…もう貴方とは…立場が違うの…」すっ…
純一「っ…梨穂子! 行くなよ! 僕はっ…!」
梨穂子「………」
純一「僕はお前のことが好きなんだよ…!」
純一「……お願いだ、梨穂子、こっちを向いてくれ」
梨穂子「…………」
純一「…梨穂子!」
梨穂子「……」
くる…
純一「っ…梨穂子…!」
梨穂子「……」ボロボロボロ…
純一「───お前……」
梨穂子「うんっ…! 私も大好きだよっ……!」たたっ
ぎゅっ…!
梨穂子「大好きで大好きで、仕方なくてっ…!」
梨穂子「───純一のこと、心から愛してるからっ…!」
梨穂子「……」
ぱち…ぱちぱち…
「リホーコ……パーフェクト! パーーーーーフェクト!」パチパチ!
梨穂子「……えへへ、やっぱりそうでしたか?」
社長「ワンダフォー! ユーは本物の女優だ! 素晴らしい演技だった!」
梨穂子「社長さんなら分かってくれると…わぷっ!」
社長「ンーンー! 将来はパーフェクトな女優になるはずダ!」
社長「…それにィ、ユー!!」
純一「は、はいっ…! えっと、その僕は…わぷっ!」
社長「ンッフン! ユーも最高の演技だっタ! 男優として働かないカ?」
純一「い、いやそれはっ…すみません…!」
アナ『あのー……社長…?』
社長「ん、なんだね?」
アナ『これは…どういうことでしょうか?』
社長「おやおや…わかりませんでシタか? アターシは桜井リホを海外で…」
社長「…立派な女優にすることを、計画してマシタ!」
社長「しかも極秘デ、誰にも報告セズ、社員の殆んどが知らない計画デス!」
社長「…そんな大事なプロジェクトの門出が、こんなお別れ会みたいなハズないでショー!」
マナ『それは……つまり?』
社長「サプラーイズ……イベントですが?」
アナ『なっ……なっなっななななんとぉ! そういうことだったんですねぇ!』
アナ『つまりあの二人の告白はっ…海外での桜井リホの女優活動としての……アピールだったと!?』
社長「………」すたすた…
社長「───ソウイウコトデーーーーーーーーーーーース!!」
純一「あはは…凄い拍手だ…」
梨穂子「…何とかなって、よかったよ~」
純一「う、うん…とりあえず梨穂子の乗りに乗って見せたんだけど…案外出来るもんだな」
梨穂子「そうだね~……というか、あの告白は嘘だったとでもいうの?」
純一「ち、違うって! 結果的にそうなっちゃってるだけで!」
梨穂子「…ほんとにぃ?」じっ
純一「ホントホント!」
梨穂子「…まあいいよ、信用してあげる。それよりもホラ、そろそろ来るよ」
純一「え? なにが?」
梨穂子「あはは、頑張ってねぇ純一~」ふりふり
純一「だから、なにがだよ梨穂───」
アナ『そこの男優の方! ご質問があります!』
アナ『…実際の所、桜井リホとはどんなご関係で?』
純一「ええっ!? そ、それはっ…」
梨穂子「…くす」
社長「…梨穂子」
梨穂子「あ、社長……今回は、本当に…」
社長「良い。私は逆に感動して居るよ、あの危機的状況を乗り切った…その君の度胸にね」
梨穂子「…ごめんなさい、迷惑をおかけしました」
社長「良いと言ってるだろう、私は若い人間が起こす奇跡をまた…見れただけで満足だ」
社長「だからこそ、この仕事はやめられない」
社長「…彼は君の彼氏かね?」
梨穂子「………」
純一「同じクラスメイトでっ…その、色々とみんなでやろうって話になって…!」
アナ(ぜってー嘘だろ! 化けの皮剥いでやるぜ! おらおら!)
社長「…ふむ、良い関係の様だ」
社長「梨穂子、そろそろ飛行機が飛ぶ時間だ」
梨穂子「………」
社長「私は確かに若い人間が起こす奇跡が、なによりも大好きだ」
社長「…だが、これは一社を動かした極秘プロジェクト」
社長「社員である桜井リホには、働いて貰わなければならない」
梨穂子「……はい、わかってます」
社長「……そうか、ならいい」
梨穂子「………」
社長「……だが、数十分だけ時間を延ばしてやらなくもない」
梨穂子「えっ…?」
社長「それに、周りの野次馬どもも退かしてやろう」
社長「…お礼だ、そしてこれからも私に夢を見せ続けてくれ」
社長「桜井リホ──……」くるっ
梨穂子「…ありがとう、ございます…っ」ぺこっ
社長「…」
社長「ハァーイ! そこら辺にさせて置いてクダサイ! 彼も可哀そうです!」
純一「ぼ、僕はっ…あんまんがすきでっ…へっ?」
アナ『っち…そ、そうですか! それではさっそく桜井リホの出発ですね!』
社長「イエイエイ! その前に、アタクシの演説をお聞きくだサーイ!」ぐいっ
純一「おっとと…」
梨穂子「…純一、こっちこっち!」
純一「おう…?」
純一「…こんな所勝手に」
梨穂子「大丈夫だよ、社長さんが多分…裏に手をまわしてるはずだから」
純一「そ、そうなのか……いや、ちょっとまって梨穂子……僕、凄い疲れてきた…」
梨穂子「え? だ、大丈夫…純一…?」
純一「あは、あはは…無理し過ぎたのかも…今日一日、凄い動いたし…」
純一「……だけど」すっ
梨穂子「えっ…」
なでなで
純一「こうやって…梨穂子に触れられるだけで、僕は本当に…頑張ったかいがあって思うよ?」
梨穂子「…うん」
純一「……もう一回、言ってもいいか?」
梨穂子「…うんっ」
純一「好きだよ、梨穂子」
梨穂子「…私もだよ、純一」
梨穂子「…私もだよ…純一、これからはずっと一緒に居たいって…心からそう思ってる」
梨穂子「…あれだけのことをしたのに、純一はここまで、追いかけてくれた」
梨穂子「私は……とても幸せ者でっ…だからそんな純一に…私も! 私も…これから幸せをあげたくてっ…」
純一「馬鹿言え……今回の事も、そして…お前のアイドルの事も」
純一「全部僕の所為だろ? …わかってるよ、僕も馬鹿だったんだ」
梨穂子「う、ううんっ! 私が何も言わなかったから…! だから純一はずっと悩んでたままで!」
純一「でも、幼馴染とか…口ではカッコいいこと言ってるけど、自分自身が全然伴ってなくて…!」
梨穂子&純一「だからっ…!」
純一「……梨穂子から言ってくれ」
梨穂子「……純一から言ってよ」
純一「じゃあ…いっせーのーで」
梨穂子「わ、わかったよ」
「──いっせーのーで」
純一「…やっぱり謝ったな、僕ら」
梨穂子「…くす、そうだね純一」
「あははっ…くすくすっ……ははっ…えへへ…」
~~~~~
純一「……梨穂子」
梨穂子「ん~……なあに、純一?」
純一「梨穂子のさー…膝枕って、素晴らしいよね」
梨穂子「えへへ~…ありがと」
純一「だってさ、疲れが取れて行くようなんだ…これだけ走ったに…
テレビの前で寿命が擦り切れるほどのドラマを演じたり…したのに…」
梨穂子「うん…」なで…
純一「梨穂子の膝枕のお陰で、全部がとろけて…消えて行くようなんだ…」
梨穂子「そっか、ふへへ」
梨穂子「ふんにゅっ」
純一「ほっぺもやわらかいな…」
梨穂子「ふんひちはっれ!」
純一「おむゅ! …はひふふんは」
梨穂子「ふんひちふぁふぁふぅい!」びしっ!
純一「…何言ってるか分からないよ」
梨穂子「ふぇっへっへ~」
純一「…あはは、本当に可愛いなぁ梨穂子は」
梨穂子「……」
純一「ごめん、ちょっと瞼が重く……て」
梨穂子「うん……」なでなで
純一「ちょっとでも……寝息を立ててたら…起こして梨穂子…」
梨穂子「わかったよ…それならゆっくりとまどろんでて…純一」
純一「…うん…ありがと、梨穂子…………すぅ…すぅ…」
純一「すぅ……すぅ……」
梨穂子「そっか…寝ちゃったか~」
梨穂子(くすっ、本当に小さい時から…無邪気な寝顔は変わらないよねぇ)
梨穂子「…ほれほれ」くりくり
純一「う、うーん……すぅ……」
梨穂子「あはは、やっぱり眉毛をつつかれると唸る癖も治って無い…」
梨穂子「……あのね、純一」
梨穂子「桜井梨穂子は、海外に行ってしまいます」
梨穂子「…それはとおーい、とおーい場所でありまして~」
梨穂子「昔、純一と過ごしてきた場所とは……とても離れてて」
梨穂子「そう簡単に、これからは会えないのですっ」
梨穂子「っ…だから…こうなる前にもっと、純一とね~」
梨穂子「ぐすっ…色々とおしゃべりして…好きなもの一緒に食べて…」
梨穂子「……でも、それはもう時間切れ」
梨穂子「純一……本当にありがとう、追いかけてきてくれて…本当にありがとう」
純一「……すぅ…すぅ…」
梨穂子「……私っていう存在を認めてくれて、繋ぎとめてくれて」
梨穂子「──ありがとね、ずっと好きだよ…純一」すっ…
ちゅっ
~~~~~~
純一「ここは…?」
ギャラガー「…屋上デース」
純一「ぎゃ、ギャラガーさん! 無事だったんですか?!」
ギャラガー「ええ、モチロン! ですがタチバナ…今はそれどころじゃないデス!」
純一「え……?」
ギャラガー「見てくだサイ」
ひゅごおおおおおおお……
純一「…飛行機…?」
ギャラガー「そうです、あれはユーの大切な彼女が乗ってマス」
純一「っ…!? 今何時だ!?」
ギャラガー「……」
純一「嘘だろ…? どうして、梨穂子…起こしてくれなかったんだよ…?」
純一「えっ…?」
ギャラガー「……I love you forever」
ギャラガー「……幸せ者です、ユーは」
純一「…梨穂子…」
純一「ッ…!」だっ!
純一「っ…りほこぉおおおおおおおお!!!」
純一「僕っ…僕だってなぁあ! お前のことをずっと好きでいてやるぞおお!!」
純一「ぐすっ…絶対に、絶対にかえってこいよおお!!」
純一「ずっとずっと、待っててやるからなぁあああ!!」
純一「大好きだりほこぉおおおおおおおおおおおお!!」
それからのことを語るのは、それほどの物は残って無いと思う。
純一「………」
あれから何事もなく、数年の時が経っていた。
純一「………」
昔懐かしい輝日東高校は、久しぶりに訪れると懐かしいものを感じてしまって。
純一「………」
あの時、僕らが奮闘した三年間は。本当にもう戻って来ないのだとしみじみ感じてしまう。
同じ時間を過ごしてきた皆は、既に別々の場所へと移り変わり。それぞれを時間を過ごしているのだ。
誰もがあの〝三年間〟を思い出しつつも、今の新しい世界に身を投じていく。
自分が本当に正しい事をしているのか、そんな漠然とした悩みを持ったりした時代とは違って。
純一「……」
責任が問われ続ける、自己との闘いが今の僕たちの世界だ。
暇を弄ぶことさえ出来ず、ただひたすらに前へと進み続けなければならない。
辛くて大変で、何度もやめたいと思ってしまうこともあった
純一「……」
はたしてそれが、一般的に逃避だと思われてしまったとしても
僕も確かに、そう思ってしまう。大した理由もなく否定なんて、子供がすることなのだから。
だったらいっそ、全てを認めきればいい。
純一「……ふぅ」
───全部のことを、ちゃんと考え続ければいいのだから。
「…うん、そうだね」
純一「僕が…この名前を呼べるのは、お前に向かってだけだよな」
「あったりまえでしょ~?」
純一「あははっ…もうこれから、この名前を呼び掛ける奴なんて……一人しかいないよ」
「…他に誰がいるっていうのかな?」
純一「というか一人しかいないとかじゃなくて……もう〝目の前にお前しか居ないから〟」
「………」
純一「…そう呼べる人が、他に居たとしても」
純一「そいつはもう…僕の知っている桜井梨穂子じゃない」
「…どうして?」
純一「だってさ……新しくて、かっこよくて、強くて、可愛くて…」
純一「歌が上手で、まあるくて、誰よりも誰よりも優しい……」
純一「……そんな桜井梨穂子なんて、僕の目の前に居る女の子意外に、誰かいるんだ?」
純一「……目の間にしか居ないんだから」
純一「おかえり、梨穂子」
梨穂子「…ただいま、純一」
純一「よく…帰ってきてくれた、歓迎するよ」
梨穂子「うんっ!」
純一「…とりあえず僕の家に上がってくれ、寒いだろ?」
梨穂子「へーきだよ~、これでも結構! 強くなってるからねぇ」
純一「本当に? そりゃーすごい、やっぱり女優は違うなぁ」
梨穂子「…うん、でもね純一…」こつん…
梨穂子「あなたの知ってる私は…今までどおりの、好きなままの時のわたしだよ…?」
純一「…ああ、わかってるよ」
梨穂子「……」
純一「これからまた、互いにわかっていけばいい。それだけで僕たちは十分なんだ」
きぃ…ぱたん…
──遠い存在だった彼女が、僕の手元へと戻ってくる事態に。
──あの時二年の出来事と、全く同じような出来事だった。
純一「……ははっ」
───だけどそれは、過去のお話だ。
──既に時は動き出し、過去の過ちはもはや過去なのだ。
純一「とりあえず、梨穂子」
───未来の僕は、過去の僕とは違った選択が出来るはず。
───果たして僕の違った選択肢に、いったい彼女はどう反応するだろうか
純一「…この着物を来てくれない?」
純一「まだあの時の感想が、言い足りてなかったんだよね!」
今から楽しみで、しょうがない。
とりあえず分かりにくくてごめんなさい
終わり
ご支援ご保守
ありがとうです
ではノシ
おもしろかったよ
マジで乙、面白かった
楽しかった
Entry ⇒ 2012.10.09 | Category ⇒ アマガミSS | Comments (1) | Trackbacks (0)
法子「ドーナツ半額だって!」かな子「え……?」
三村かな子(17)
かな子「おはようございまーす! ……あれ?」
かな子「……誰もいないのかな?」
かな子「結構美味しくクッキー焼けたのに……うーん、ちょっと食べながら待とうかな……あーん」
ドタッ ガタガタガタッ バターンッ!
法子「み、みんなぁ! ニュースだよっ!」
かな子「ん、んぐっ……けほっ、けほ……の、法子ちゃん?」
法子「あ、かな子ちゃん! ニュースだよっ! 大ニュース!」
かな子「ニュース? どうしたの……?」
法子「じ、実はね……」
かな子「うんうん」
法子「今、ドーナツ半額キャンペーンやってるんだってっ!」
法子「これは買いにいかなきゃだよねっ、あたし楽しみ!」
かな子「え、えーっと、法子ちゃん……」
法子「どうしたの?」
かな子「それって、ミスタードーナッツのかな?」
法子「うん!」
かな子「……そのキャンペーンは9月末までだったんだけど……今日はもう10月、だよ?」
法子「え、えぇーっ!? そ、そんなぁ……」
かな子「法子ちゃん……お、落ち込まないで、元気だして? ねっ?」
法子「でも……うぅ、ドーナツがぁ……」
かな子「法子ちゃん……」
法子「?」
かな子「買わなくても、作ればいいんじゃない……かなぁ? どうだろう?」
法子「作る……?」
かな子「うん、作るの。手作りで!」
法子「でもあたし、作る方はからっきしだから……」
かな子「大丈夫っ! 好きこそものの上手なれ、だよっ!」
法子「かな子ちゃん……」
かな子「私も、お菓子食べたりするが大好きで、それからお菓子作りも趣味になったし……」
法子「手伝って、くれるの?」
かな子「もっちろん、まかせて! 一緒に美味しいドーナツを作ろうよ!」
法子「……うんっ!」
法子「……」ワクワク
かな子「あ、あはは……早い方がよさそうだね?」
法子「うんっ!」
かな子「じゃあいつがいいかな……えーっと」
法子「うーん、じゃあ日曜日がいいな!」
かな子「日曜日? 大丈夫だけど……どうして?」
法子「うん、10月7日! とお、なな……どおなつ、ドーナツの日!」
かな子「あ、あはは……うん、なるほど……わかった。大丈夫だよ」
法子「あ、お友達も呼んでもいい?」
かな子「お友達?」
法子「うんっ! 他の事務所の子達なんだけど、この前仲良くなったんだぁ」
かな子「そっか……わかった! じゃあ、日曜日に法子ちゃんの家の最寄り駅に――」
かな子「あっという間に日曜日……なんだけど……法子ちゃんとお友達はどこだろ?」
かな子「ひょっとして、あそこにいる集団がそう……なのかなぁ……?」
法子「あっ、かな子ちゃん! おはよー!」
かな子「法子ちゃん……ええっと、それから後ろにいる子達は……」
法子「あたしのお友達だよっ! この前のお仕事で一緒になってから仲良くなったんだ!」
かな子「そ、そっかぁ……」チラッ
光「麗奈、機嫌直せよ。今ならこのダブったリングをプレゼントするから……」
麗奈「なんでアタシがそんなだっさいのつけなきゃいけないのよ! ったく、人のこと叩き起こして連れて来てなんなのよ」
小春「ふぇぇ、2人ともケンカはだめだよ~!」
蘭子「ククク……血が滾るわ(えへへ、楽しみだなぁ)」
幸子「まったく、神崎さんは少し落ちついたほうがいいんじゃないですか? カワイイボクみたいに!」ドヤッ
かな子(ど、どうしよう……とんでもなく個性的な子ばっかりだよぉ……)
かな子「え、えっ……あ……えーっと、三村かな子です! お菓子作りが趣味だからお手伝いをと思ったんだけど……」
法子「かな子ちゃん、お菓子作りすっごく上手なんだぁ! だからきっとドーナツもすっごく美味しいと思うの!」
かな子「え、えぇ!? そんなにハードルられると困っちゃうんだけど……よ、よろしくね?」
法子「ほら、みんなも自己紹介、しよっ?」
光「ん、そうだな……じゃあアタシから」
光「アタシの名前は南条光! 14歳で、ヒーロー兼アイドル見習いです、よろしくっ!」シュッ
かな子「よ、よろしくね?」
かな子(よかった、割とまともそう……あれ?なんだか違和感が……)
かな子「……あ、あの、そのベルトは……?」
光「ウィザードライバーだけど……やっぱりディケイドライバーのほうがよかったかな? でもリング着けてくるとやっぱりこっちのほうが……」
かな子(あ、やっぱりだめかも)
南条光(14)
光「こっちが麗奈。小関麗奈! ちょっと素直になれないけど根はいい奴なんだ!」
麗奈「っだぁっ! ベタベタしないでようっとおしい!」
光「まぁまぁ、いいじゃないか麗奈」
麗奈「ったく……あぁ、アタシのことはレイナサマって呼びなさいよね」
かな子「あ、あははは……よろしくね……」
法子「わかった、麗奈ちゃんよろしくねっ!」
麗奈「はぁ、なんでアンタの連れてくる友達ってのはどいつもこいつも……!」
光「まぁまぁ落ちつけ、ほらリング」
麗奈「いらないつってんでしょヒーローバカ!」
小関麗奈(13)
光「小春は心配性だなぁ、大丈夫大丈夫……あ、それでこっちが小春!」
小春「えぇっと、小春です~。光ちゃんが、おでかけしようって誘ってくれたから、ついてきちゃいました~」
かな子(今度こそ普通っぽい子が……)
小春「あ、きゃっ……だめだよぉ、ヒョウくん、まだでてきちゃ~!」
かな子「ヒョウくん?」
小春「あ、えぇっと、私の大親友なんですけれど連れてきちゃって~」
かな子(犬とか、猫……なのかな? バッグの中じゃ苦しいだろうし……)
かな子「そっかぁ、どんな子なのかみせてもらってもいいかな?」
小春「は、はい! もちろんですよ~」ニコッ
麗奈「……あーあ、しーらない」ボソッ
古賀小春(12)
かな子「」
小春「うふふ~、ヒョウくんペロペロ~♪」
かな子「え……え……」
小春「あ、かな子さんもペロペロしますか~?」
光「お、おいおい小春……初めて会った相手に見せちゃダメって言ったじゃないか……」
小春「でも~、ヒョウくん可愛いよぉ~?」キョトン
光「そうじゃなくて……ほら、そっちの2人も固まっちゃってるし」
幸子「」
蘭子「」
法子「わぁ、可愛いね!」
光「あれ?」
小春「わぁ~! わかってくれるんですか~? 嬉しいです~」ニコニコ
法子「ヒョウくんは……イグアナ?」
小春「そうですよ~♪」
法子「そっかぁ、ドーナツ食べる?」
ヒョウ「……」プイッ
法子「あ、いらないのかぁ……」
小春「あ、えぇーっと、ヒョウくんは虫が好物だから……」
法子「そっか、うーん、残念だなぁ……かな子ちゃん、大丈夫?」
かな子「はっ……あ、う、うん! 大丈夫だよ、平気!」
かな子(ど、どういうことなの……普通だと思った子が、普通じゃなかったよぉ……)
幸子「はっ!? い、今ボクは何を……」
蘭子「くっ……私としたことが意識の混濁を許してしまうとは何たる不覚……(び、びっくりしすぎてちょっと気絶しちゃいました……)」
かな子(なんだか何を言っているかを私じゃ理解できない子がいるような……)
法子「幸子ちゃん、ヒョウくんを見せてもらってびっくりしちゃってたんだよ?」
幸子「ヒョウ……って」
小春「ペロペロしますか~?」
幸子「ちょ、ちょっと! カワイイボクに何を近づけてるんですかやめてくださいっ!」
小春「むぅぅ、ヒョウくんだって可愛いですよ~?」
小春「ほらー、ヒョウくんペロペロ~」
幸子「ひぃぃっ!」
蘭子「お、おのれ小龍! よるでないわぁっ!(や、やめてください近づけないでぇっ!)」
光「ほら、小春。ストップストップ……」
小春「あ、光ちゃん……」
光「こういうのは順序が大切なんだぞ。急に触れ合おうなんて言われても困っちゃうんだ」
小春「そ、そうだよね……ごめんなさい~!」
幸子「ま、まぁわかってくださればそれで……」
小春「でもヒョウくんは可愛いですよね~」ニコニコ
幸子「……もう何もいいませんよ。えぇ、疲れました」
幸子「……ま、ボクのかわいさは奇跡的なレベルなので。すぐに名の売れるアイドルとして知れ渡りますから知ってる人もいるかと思いますけど」
光「あはは、幸子はかわらないなぁ!」
幸子「あなたはどうしていつもそんなになれなれしいんですか……はぁ」
麗奈「ちっ……生意気そうな奴」
幸子「むっ……なんですか、あなた?」
麗奈「別に……なんとなくアンタとはソリが合わない気がするだけよ」
幸子「……ふーん。奇遇ですね、ボクもそう思ってました」
麗奈「へぇ……」
小春「ふぇぇ~、やめてぇ~!」
法子「あ、あれあれ? 2人とも……?」
輿水幸子(14)
麗奈「面白いじゃない、やれるもんなら……」
光「お、おいおいいいかげんに……」
蘭子「や、やめよっ!(や、やめてくださいっ!)」カッ
幸子「……神崎さん」
蘭子「友よ、私は無益な争いなど望まないわ(け、喧嘩はよくないと思いますっ!)」
蘭子「そ、それ以上の争いを起こすというのならばこの『瞳』を持ちて粛清せんっ!(どうしてもっていうなら私が相手になりますぅっ!)」
幸子「……はぁ、それ解読できるのはこの場でボクだけだと思いますよ?」
蘭子「ふぇ……」
麗奈「……」ポカン
幸子「ちょっとばかりクセのあるしゃべりかたをしますけど、悪い人じゃないですよ?」
蘭子「あ……我が名を心に刻むがいい!(よろしくおねがいしますっ!)」
幸子「だからそれじゃ他の人に伝わりませんってば」
蘭子「う……うぅ……」
幸子「はい、せーのっ」
蘭子「よ、よろしくおねがいしましゅっ!」ガリッ
蘭子「……いたい……」
光(噛んだ)
かな子(噛んじゃった……)
神崎蘭子(14)
蘭子「……!」
幸子「なんですかそのキラキラした目は。やめてくださいよ」
蘭子「幸子ちゃん、私のことを『友』と……!(だって、幸子ちゃんが私のことを友達って……!)」
幸子「べ、別にそれはいいでしょう。まったく」
光「へぇ……幸子の友達か。よろしくな!」
蘭子「う、うむっ!(は、はいっ!)」
光「アタシの名前は南条光……すべてのアイドルと友達になる女だ!」ビシッ
麗奈「アンタもアホやってんじゃないの、アタシまでアホだと思われるじゃない」ベシッ
光「いたいっ!? な、なにするんだ!」
小春「お、おちついて~!」
法子「……それにしても、いっぱい人が来たなぁ。どんなドーナツがいいかな……」ブツブツ
かな子(どうしよう、このメンバーをまとめられる気がしないよぉ……)
かな子「……え、あっ、何かな?」
法子「ドーナツの材料、買いにいった方がいいかな?」
かな子「そ、そうだね。いっぱい材料も必要だろうし私が用意した分じゃ足りないかも……」
法子「わかった! よーしっ、みんなー!」
かな子「え、えっ」
法子「かな子ちゃんについていって、お買いものだよ!」
麗奈「……正直帰りたいんだけど」
小春「麗奈ちゃん帰っちゃうの……?」ウルッ
麗奈「……いいわよ、別に。どうせオフだしこのレイナサマがつきあってあげる事実に感謝しなさいよね!」
光「よっしゃぁ、楽しみだなー♪」
幸子「ふぅ、もう少し落ちついて行動したらどうですか?」
光「……じいやがいっていた。乙女は燃えるもの。火薬に火をつけなければ花火はあがらない……ってな!」
幸子「はぁ、やれやれ……」
かな子「お、おー……」
ゾロゾロ…
かな子(うぅ、やっぱり多いよ……大丈夫かなぁ、普段だよ……法子ちゃんは……)
法子「ドーナツ♪ ドーナツ♪」
かな子(ドーナツのことしか頭に無いみたいだし。大丈夫かなぁ……)
光「アタシ、あんたに興味があるぜ!」ビシッ
蘭子「ふ、ふむ? なかなかの業の深さだ。面白い(え、えっ? 私のことが気になるって……どうしてですか?)」
麗奈「だから人を指さすのやめろっていってるでしょ、もう」グイッ
光「あいたたた……」
幸子「まぁ、あなたの話し方なら当然といえば当然でしょう……自覚はありますか?」
蘭子「それは……その……」
幸子「やれやれ……」
麗奈「はぁ……」
幸子・麗奈「「……ん?」」
かな子「あ……ちょっと待って。小春ちゃん……」
小春「どうしよぉ……ヒョウくんが……」
かな子「……だよね。うーん、どうしようか……」
光「ん? あぁ……小春1人だと心配だな。じゃあアタシが」
麗奈「いいわよ」
光「……麗奈?」
麗奈「アタシが残っててあげるから、アンタらは買いものしてなさい。そこらへんぶらぶらして、適当に時間がたったら戻ってくるから」
光「い、いいのか?」
麗奈「別に帰ったりなんかしないから安心しなさいよね……はぁ、まったく世話が焼ける連中ね」
光「恩に着るよ、さすが麗奈っ!」
小春「あ、ありがと~! 麗奈ちゃん、だいすきだよぉ~」
麗奈「はいはい……」
蘭子「……? 如何した、我が友よ(どうしたの、幸子ちゃん?)」
幸子「あ、いえ。別に……」
蘭子「……共に、往きたいのならば私に構わずともよいのだぞ?(あ、あの2人が気になるのなら私のことは構わなくても……)」
幸子「でも、それじゃああなたの言葉を理解できる人がこっちにいないじゃないですか。あなた、爬虫類は苦手でしょう?」
蘭子「う、だがしかし、縁が……(でも、せっかくお友達になれそうなのに……)」
幸子「そういう意味じゃ……」
光「ん、友達? 幸子、麗奈のことが気になる……のか?」
幸子「……!?」
光「あれ、どうしたんだ幸子?」
幸子「今、ひょっとして神崎さんのいった言葉の意味を……」
光「あ……いや、なんとなくだけどわかったよ?」
光「さぁ、なんでだろう? グロンギ語を自力解読しようとしたこともあったからかなぁ」
幸子「グロ……? よくわからないけど、理由になりますか、それ?」
光「ならないかもな。だけどさ……これから友達になろうって相手にその理屈付けなんていらない。そうだろ?」
幸子「はぁ、相変わらずなれなれしいというか距離感が近いというか……」
光「いいじゃないかいいじゃないか! ……ん、蘭子? どうかした?」
蘭子「我が言霊を解す、だと……!?(わ、私のいっている意味が、わかるんですか?)」
光「うん、なんとなくだけどな!」
蘭子「フ、フフフッ、やるではないか人の子よ!(す、すごいですっ! 驚いちゃいました!)」
光「それほどでもないさ……あ、幸子」
幸子「なんですか?」
光「麗奈はたぶん、結構幸子と似てるから仲良くなれるよ」
幸子「……ふん、そうですか。じゃあ迷子にならないよう、あの2人についていくことにしますね」
光「ははっ、素直じゃないところとか、なっ!」
幸子「知りませんっ!」
麗奈「はぁ? 頼んだ覚えはないんだ……け……ど………」
光「……」ジッ…
麗奈「……まぁ、いいわ。勝手にすれば?」
幸子「ふん、そうさせてもらいます」
小春「わぁ~、幸子ちゃんもお友達になってくれるんですかぁ~?」
幸子「……別に。あなたたちがそうなりたいならそう呼んでくれても構いませんけどね。ボクの友達なんて誇りに思ってもいいんですよ?」
麗奈「は? 勘違いしないでよね。あんたがこのレイナサマと友達になりたいっていうからついてきてもいいって……」
幸子「むっ……」
麗奈「なによ……」
小春「お友達~♪」ニコニコ
幸子「……」
小春「どうしたのぉ?」
麗奈「……やめときましょ。あいつらはもう店の中に入っちゃったし適当に歩くわよ」
幸子「ま、いいでしょう」
かな子「えぇと、バリエーションもつけたほうがいいよね? 皆の希望は?」
法子「え? うんっ! あたし、チョコドーナツとか作りたいなぁ」
光「プレーンシュガーで」
蘭子「禁断の果実、荘厳たる黄金。それこそ我が悲願、求めしもの……!(フルーツ系とか、クリーム系も美味しいですよね。お腹すいてきちゃった……)」
かな子「そ、そっかぁ……えぇと、光……ちゃん?」
光「うん? どうしたんだ、かな子さん」
かな子「蘭子ちゃんはどういうのがいいっていったのかな……?」
光「えぇと、フルーツとか、クリームとかそういうの……」
かな子「む、そっかぁ……なるほど。じゃあ……」
蘭子「あ……」
かな子「ん、どうしたの……?」
かな子「……?」
蘭子「ふ、ふつ、ぅに……話す、の……苦手で……」
かな子「あ……うん。大丈夫だよ、私達も理解できるよう頑張るから!」
蘭子「……感謝するぞ、糖の姫よ……(ありがとうございます、かな子さん)」
かな子「と、とうのひめ……って私のことだよね」
光「な、なんだそれカッコイイ! いいなぁかな子さん!」
かな子「そうかなぁ……」
光「蘭子、アタシにも、アタシにもっ!」
蘭子「え……う、うむっ! 任せよ、光の使者よ!(え、は、はいわかりました! 光さん!)」
光「おぉ、M78風だ!」
蘭子「む……気に召さなかったか?(あ、気にいりませんでした……?)」
光「いやぁ、確かにかっこいいんだけどさ……やっぱり、友達だったら普通に名前を呼ばれたいかもってね」
蘭子「名を……(名前を、ですか……?)」
光「あ、嫌ならいいんだけどさ。もっと近くになりたいんだよ!」
蘭子「……わ、わかっ……了承した。そなたの真名を、呼ばせてもらおう……ひ、ひかる…さん」
光「さん……呼び捨てで!」
蘭子「流石の私にもできぬことはあるのだっ!(む、無理ですよぉっ!)」
かな子(よくわからないけど、いいなぁ……光ちゃんは元気で……)
かな子「あ、そういえば法子ちゃんは……」
法子「私はドーナツの使者かドーナツの姫がいいなぁ……」
かな子「わぁお……」
法子「やっぱりドーナツっていいよねっ♪」
かな子「法子ちゃんは本当にドーナツが好きだね……」
法子「うん、だってみんなを笑顔にできちゃう素敵な食べ物だから!」
かな子「そっか……」
法子「そうだよ?」
かな子(本人が満足そうだし、私が突っ込むべきじゃない話題な気がする……)
光「まぁ、確かに美味しいよなぁドーナツ」
法子「そうだよねっ!」
かな子(あっ、目が光った気がする)
光「う、うん、そうだな……」
かな子「あ、あー。ほら、お買いものしようよお買いもの! ね?」
法子「あ、そうですね! ドーナツ作り楽しみだなぁ♪」
かな子「……うぅん、法子ちゃんのあの情熱はいったい」
光「あはは……なんなんだろうなぁ……さ、荷物持ちはアタシに任せろっ!」
かな子「じゃあ買うものは……そうだ、ジャガイモとかもありかな」
法子「ジャガイモ?」
かな子「それはあとからのお楽しみ! バターと牛乳、卵とあと、カスタードクリームの素も買っておいて……」
光「ぐっ……思ってたよりも多いみたいだなぁ、荷物……」
蘭子「で、では私もまたそなたらの咎を請け負おう!(じゃ、じゃあ私も持ちますよ!)」
光「あ、いいのか? ありがとう蘭子!」
幸子「あ、あぁ……ゼェ……ハァ……お、遅かった、ですね……」
麗奈「レイナサマを、待たせるなんて……ケホッ……いい、度胸じゃない……」
小春「あ、みんな~! おかえりなさーい♪」
かな子「えーっと……どうしたの……?」
麗奈「どうもこうも無いっての……ったく、もう」
幸子「古賀さんがヒョウくんを逃がしちゃって、ボク達が探すことになったんですよ……やれやれ」
法子「えっ!? た、大変!」
小春「でもちゃんと見つかったんですよ~? えへへぇ、とっても嬉しいです~♪」
蘭子「……邪気が無いというのもまた、罪深きことよ……(小春さん、そんなにのんきなお話じゃなかったんじゃ……)」
幸子「えぇ、とんでもなく苦労させられましたよ……あなたもよく付き合ってられますね」
麗奈「ハッ、こいつにちょっかいかけていいのはアタシだけなのよ」
幸子「どうだか……」
麗奈「は? アンタどこに目ぇつけてるのよ!」
幸子「まったくですよ。こんな人とボクが仲良しだなんて……」
小春「でも2人でヒョウくんを見つけてくれて、一緒に抱いてきてくれたんですよ~?」
麗奈「また余計なことをっ……!」
幸子「あれは1人で持つのはつかれそうだったから仕方なくですね……」
小春「えへへ~、でも仲良しはいいことってヒョウくんも言ってるよ~?」
麗奈「……もう、否定するのも疲れたわ。勝手にしなさいよ」
幸子「まったく、同感です」
かな子(……よくわからないけど、仲良くなったみたいでよかった……のかな?)
蘭子「絆……」
光「ネクサス!」
かな子「え?」
麗奈「ほっといていいわよ、こいつはこういう奴だから」
幸子「まぁ、神崎さんもいつもこうですからね……」
蘭子「……如何なる意味かしら?(ど、どういう意味ですかぁ……)」
光「だから麗奈もネクサスをみるべきだよ! 絆は光なんだ!」
麗奈「はぁ……じゃ、さっさと用事すませちゃいましょ」
かな子(……さっきまでより、ずっとほがらかな雰囲気になったみたい。よかった……)
法子「じゃあ我が家にれっつごー♪」
かな子「お、おじゃましまーす……」
法子「あ、お母さんたちはでかけてるから気にしなくても大丈夫! あがってあがって!」
幸子「お邪魔します」
蘭子「侵略すること火の如し!(お邪魔します!)」
光「ここが法子の家か……」カシャッ
麗奈「どこから出したのよそのトイカメラ」
光「柔道六段空手五段の人のカメラは手が出なくてこっちにしたんだ」
麗奈「そういう問題じゃなくてね……」
小春「えへへ~、とっても落ちつきますね~♪」
かな子(大丈夫なのかなぁ、これ……)
かな子「えーっと、やっぱり揚げドーナツのほうがいいよね? だから……」
かな子「薄力粉とベーキングパウダーを混ぜて……バターもいるかな?」
かな子「それと一緒にポンデケージョの粉とホットケーキミックスを使ったのも作ってみよう!」
法子「お、おぉーっ! そんなにいっぱい作れるの!?」
かな子「こうなったらやれるところまでやっちゃうよーっ!」
光「プ、プロの目だ……」
かな子「さぁて、がんばろう! 生地が煉れるまでの間にジャガイモをスライスして煮崩れるまで茹でるよ!」
蘭子「馬鈴薯……だと……?(じゃがいも、ですか?)」
かな子「うん。ポンデケージョの粉とホットケーキミックスを混ぜたのとは別でポンデケージョも作ってみようかなって」
幸子「……その、ポンデケージョっていうのはなんですか? ポンデリングとは別、ですよね」
かな子「えーっと、もちもちしたお菓子なんだけど……それを揚げたらポンデリング風になるかなって思って」
法子「す、すごーい! かな子ちゃんすごい!」
かな子「うまくいく自信はないけど、ね?」
法子「美味しそう……だけど……」
かな子「うん、言いたいことはわかってる……こっちの、ホットケーキミックスを使った奴は型を使って揚げようね?」
法子「うんっ!」
幸子「……いつになくイキイキしてますね」
蘭子「己が魂が震えるその時……生きているという実感を味わえるの……(やっぱり、好きなものには夢中になっちゃうんですね!)」
麗奈「でもあれ、かなり柔らかかったわよ? 大丈夫なのかしら……あ、スペ3出すわ」
光「ぬわぁっ!? お、おのれディケイドー!」
小春「大富豪楽しいです~」
幸子「生地を寝かしている間はヒマですからね……」
幸子「やれやれ、調子に乗るのもそれぐらいにしておいたほうがいいんじゃないですか? ボクが富豪をキープするために利用しているだけだってわからないんですか?」
光「笑え……笑えよ……」
蘭子「瞳の奥に闇が見える……(また貧民です……)」
小春「えへへ~、楽しいね~?」
かな子「なんだかみんなも楽しそうだね……法子ちゃんも混ざってきていいんだよ?」
法子「ううん、あたしここで待ってたい!」
かな子「でも生地を寝かせてるだけだし、しばらく待ってればいいんだから……」
法子「美味しくなぁれってお祈りしてるから! もうちょっとだけ! ね?」
かな子「……そっか、うん。じゃあ私も」
法子「さっすがかな子ちゃん!」
かな子「でも、そのあとはみんなと一緒に大富豪に混ぜてもらおうね?」
法子「うん!」
幸子「……流石に12連敗ってありえないんじゃないですか?」
麗奈「大富豪が都落ちした時以外大貧民だものね……」
蘭子「こ、これが罪……!?(つ、ついてない日だってありますよ……ね?)」
小春「ヒョウくんパワーで連勝です~♪」
法子「うぅ、やっぱりドーナツパワーが足りないのかなぁ……」
かな子「そろそろ大丈夫だよー!」
法子「あっ、はーい!」
光「……」ブツブツ
麗奈「ほら、ボサっとしてんじゃないの!」ゲシッ
光「いてっ!?」
かな子「うーん、いっぺんには無理だから交代しながら順番にやってみよっか?」
麗奈「ふん、このレイナサマのが一番うまくできるのはわかりきってるけどね」
幸子「へぇー、まぁボクほどじゃないでしょうけれどね?」
麗奈「……何よ」
幸子「なんですか?」
小春「小春はヒョウくんと一緒に応援してます~♪」
光「よしっ、今度こそ活躍だ!」
法子「なんだか、ワクワクするねっ!」
かな子「あはは……うん。じゃあやってみよう! お手本を見せるね?」
光「よしっ、じゃあまずは……」
幸子「ボクからやらせてもらいましょうか!」
光「な、なんだと!?」
幸子「まぁ、このボクにかかればこの程度楽勝でしょうから、お手本を見せてさしあげますよ!」ドヤッ
かな子「あ、あはは……うん、それじゃあやってみよっか」
幸子「えぇ……まずは、型を抜いて……ん、あれ?」
かな子「結構力がいるんだよ、大丈夫?」
幸子「こ、これぐらい平気です! ふんっ!」ズルッ
幸子「あっ……歪んじゃった……」
かな子「うーん、でも大丈夫だよ! これぐらいなら揚げて膨らめば気にならなくなるはずだから」
幸子「……ふ、ふふん。今回はたまたまうまくいきませんでしたけど次のは……」
麗奈「アタシね!」
かな子「う、うん。大丈夫?」
麗奈「もちろんよ。アタシの手にかかればこれぐらい……」
かな子「でも型の向き、反対……」
麗奈「……あ、アンタが気づくかどうかためしてやったのよ! 合格ね! フ、フーハァッハッハ!」
かな子「そっか……」
麗奈「そうよ、文句ある?」
かな子「ううん、なんにも?」
麗奈「ならいいのよ、ふん」クルッ
かな子(さりげなく持ちかえたけど、やっぱり間違えちゃってたんだよね……?)
麗奈「で、どう抜いたもんかしら……」
かな子「こ、ここら辺とかかなー?」
麗奈「そう……じゃあ、参考にするわ」
かな子(あ、素直に従ってる……)
蘭子「我が咎を見るがいい!(頑張ります!)」
かな子「蘭子ちゃんか……型抜き、じょうずだね」
蘭子「ふふん、我が術式の前ではあまりに無力! 描くは我が咎、我が命!(こういう型抜きとか、お絵かきって大好きなんです! だから、張り切っちゃって)」
かな子「う、うん……そっか……」
蘭子「うむっ!(はいっ!)」
かな子(よくわからないけど、すっごく楽しそう……)
蘭子「あ……」
かな子「どうしたの?」
蘭子「我が身に炎を纏うことになれば、周りもただではすまないぞ……?」ガクガク
かな子「……えーっと、ひょっとして。油がはねるのが怖い……とか?」
蘭子「……」コクッ
かな子「じゃ、じゃあ一緒にいれよっか。ね?」
蘭子「……う、うむ」
光「どうしたんだ、かな子さん!」
かな子「いや、あの……光ちゃん? 大丈夫?」
光「大丈夫だ。任せろ……ホアチャーッ!」ビシッ
かな子「だからその掛け声はなんなの!?」
光「気合い……かな」
かな子「なんでいい顔してるの!?」
光「おばあちゃんが言っていた……どんな調味料にも食材にも勝るものがある。それは料理を作る人の愛情だ」
かな子「う、うん……」
光「だからアタシはここにありったけを込めるんだ!」
かな子「なにか間違ってる気がするよ……」
法子「……」
かな子(……すごく真剣な表情。邪魔しないようにしたほうがいいよね)
法子「やった、うまく抜けた!」
かな子「わっ、すごい! ポンデージョの生地ってやわらかいのに……」
法子「えへへ、ドーナツのためならこれぐらい!」
かな子「法子ちゃんは本当にドーナツが好きなんだね……」
法子「うん! それに、今日はかな子ちゃんや、みんなもいるから!」
かな子「……そっか」
法子「そうだよ! だからとっても楽しみで、このドーナツはきっと最高に美味しいんだろうなーって思うの!」
かな子「そうだね、私もすごく楽しみ! お腹すいてきちゃった」
法子「……食べ過ぎちゃだめだよ?」
かな子「わ、わかってるよぉ!」
法子「やったぁー!」
かな子「ポンデージョの揚げたのは……ふにふにだね。すごく柔らかくなっちゃった」
小春「でもふわふわで美味しそうです~♪」
光「流石は法子とかな子さんだなぁ、アタシ達はうまくできなかったのに……」
麗奈「ま、アタシは普通のドーナツで普通じゃない自分を演出できるからいいのよ」
幸子「へぇ……」
麗奈「なによ? 文句でもあるわけ?」
幸子「いいえ、別に? でもきっとボクが作ったドーナツの方が美味しいですよ?」
麗奈「上等じゃない、食べ比べよ!」
幸子「いいでしょう、受けて立ちます!」
かな子(あれは仲良くなったのかな……?)
光「うん、うまい! このチョコドーナツもいいなぁ……」
蘭子「ふふふ……我が漆黒の闇はまた、甘美な黒……(わ、私が揚げたんです! 美味しいですよね、とってもっ!)」
小春「美味しいです~♪ ヒョウくんはどう?」
ヒョウ「……」フルフル
小春「うん、そっか~」
幸子「食べてないじゃないですか……」
小春「ううん、気持ちだけでいっぱいだっていってるんですよ~?」
幸子「いやいや……まさか、ねぇ」
麗奈「……ま、悪くないわね」
光「麗奈の悪くない、はすごくいいって意味だぜ?」
麗奈「……適当ぬかしてんじゃないわよ」
小春「でも麗奈ちゃんのこと、好きだよ~?」
麗奈「そういう話じゃなくて! ったくもう……」
小春「えへへ~照れ屋さんだね~」
ヒョウ「……」ペロッ
麗奈「なめんじゃないわよ! 物理的にっ!」
法子「あ、あはは……うん! こういうのも、ドーナツのおかげ!」
幸子「……どういう解釈ですか、それ?」
かな子「……そうだね?」
法子「それで輪っかになってて、美味しくってね」
法子「一緒に食べる人がいてくれるともっと美味しいんだぁ」
法子「ドーナツ見たいに手を繋いで輪っかになったら友達でしょ?」
法子「一緒に輪っかになって食べるあたし達も、ドーナツみたいだなーって!」
麗奈「……どういう意味よ、それ」
幸子「ま、いいんじゃないですか? 本人も満足してるみたいですしね」
小春「とーっても美味しくて、楽しいですよ~?」
法子「それがドーナツパワー!」
法子「うん! ここにいるみんなも……大切な時間を一緒に過ごして輪っかになったからドーナツなの!」
光「……いいセリフだ、感動的だな」
光「嫌いじゃないわー!」バッ
法子「きゃっ!?」
光「感動したぜ法子! うん、そうだな……アタシ達はドーナツだ! ドーナツヒーローだ!」
麗奈「アンタはいい加減ヒーローから離れなさいよ……」
蘭子「ふふふ……人の世の理もまた、円環の如し……(なんだか、すごく深い言葉だった気がします……胸に響きました!)」
法子「だよねっ!」
小春「楽しかったし、また集まってドーナツ作りたいです~♪」
かな子「……そうだね。うん! 私もとっても楽しかったからまた機会があったらしてみたいかも」
麗奈「ちょっ……そんな立て続けにやったら誰かけが人でも出るんじゃないの?」
光「じゃあ今度はこの間知り合ったメタルな奴を!」
麗奈「アンタの知り合いには基本的に問題があんのよバカ!」
光「えーっ」
幸子「……ま、どうしてもっていうなら吝かでもないですけれどね?」
蘭子「クックック……よかろう、いかなる挑戦も受けてやろう!(オフの日も合わせるから教えてくださいね!)」
法子「もっちろん! 蘭子ちゃんのいってること、あたしもわかるようになったし!」
小春「ドーナツパワーすごいですね~」
麗奈「え、そういう問題なの……?」
幸子「……え?」
法子「だって、こうやって穴があいてるドーナツには、確かに穴があるんだよ?」
法子「なのに、食べると穴が無くなっちゃう! とっても不思議だなーって思って、あたし考えたの!」
法子「ドーナツの穴があるのか、それともドーナツの穴は無いのか! そしたら――」
光「な、なんだか哲学的な話になりそうなんだけど!?」
蘭子「血が滾るわ……!(ちょっと、興味深いです!)」
幸子「……ボクは知りませんからね」
小春「ヒョウくんペロペロ~♪」
麗奈「小春もちょっと現実逃避してないで帰ってきなさいよ……」
かな子「……よくわからないけど、とにかくよし!」
おわり
ドーナツの日のうちに終わらせたかったけど、眠気もキツいしこの辺で
アイドル同士の絡みを書こうとするとおなじみのメンツになるけど、精進します
保守支援ありがとうございました!
ほのぼのも良いな
ドーナツ食いたくなってきたわ
かな子は良心
あと蘭子ちゃんかわいい
Entry ⇒ 2012.10.09 | Category ⇒ アイマスSS | Comments (0) | Trackbacks (0)
ハマーン「ガンダムファイターの友人ができた」マシュマー「!?」
ハマーン「いや、私も先程来たところだ」
アレンビー「そう? じゃあ行こっか……って言いたいんだけど、その前に」
ハマーン「どうした?」
アレンビー「あのさ。この男の人……誰?」
マシュマー「私はマシュマー・セロ。ハマーン様に忠誠を誓う薔薇の騎士だ!」
ハマーン「……すまん。どうしても護衛したいと言って譲らなくてな……」
アレンビー「へ、へぇ……まあ、いいけどさ」
ハマーン「いや」
アレンビー「じゃあその辺で腹ごしらえしようよ! ファーストフードでいい?」
ハマーン「……ファーストフードか。もう何年も食べていないな」
アレンビー「何年もって……普段は何食べてんの?」
ハマーン「普通だよ。ムニエルやオマール海老などの魚介類が好みだが、基本はシェフに任せている」
アレンビー「…………えっ」
ハマーン「どうした?」
アレンビー「もしかして、ハマーンってお金持――」
マシュマー「『様』を付けんかぁぁぁ!!」
アレンビー「!?」ビクッ
ハマーン「よい、マシュマー」
マシュマー「し、しかし……くっ、承知いたしました」
アレンビー「び、びっくりしたぁ……呼び捨てがダメなくらい、凄いお嬢様なの?」
ハマーン「フッ、気にする必要はない。それより昼食だ」
アレンビー「あっ、そうだったね。行こ行こっ」
マシュマー「むぅ……タメ口でさえ許容しがたいというのに、呼び捨てとは……」
――――
ハマーン「ふむ……俗物だが、たまに食すと案外悪くないものだな」
アレンビー「あたしは結構食べてるけどねー」
ハマーン「それは、世辞にも食生活が整っているとは言えんな?」
アレンビー「だろうね。だから太るんだろうけど……」
ハマーン「ほう、太っているようには見えないが」
アレンビー「この間500gも増えちゃって……」
ハマーン「フフ……それは確かによくないな」
マシュマー(たった500gの何を気にするというのか……難しいものだ)
アレンビー「それ聞いちゃう?」
ハマーン「女同士だ、別に良いだろう」
アレンビー「こっちの人は?」チラッ
マシュマー「…………」
ハマーン「マシュマーは、こう見えて口の固い男だ。そうでなくては側に置かんよ」
マシュマー「は、ハマーン様……そのような言葉をいただけるとは、ありがたき幸せ!」
アレンビー「……でも、ちょっと変わってるよね」
ハマーン「ああ。それだけが難点だよ……」
マシュマー「……ハマーン様のご命令とあれば、それもやむなし」
アレンビー「ううん、別にいいよ。あたしはこの間の検査だと、155cm、45kgだった」
ハマーン「……それは標準だ。太っているとは言わん」
アレンビー「そっか。ファイトやトレーニングで燃焼してるからかも。そういうあんたはどうなの?」
マシュマー「き、貴様ぁ! 呼び捨てどころか今度は『あんた』だと!?」ブルブル
ハマーン「いいと言ったぞ、マシュマー。小娘とはいえ私の友人に違いはない」
アレンビー「小娘って、あんた21だよね? 4歳しか違わないじゃん……」
ハマーン「……168の、48」
アレンビー「いぃ!? や、痩せすぎだよ! そんな食生活だとそのうち死ぬよ!?」
ハマーン「重々承知している。だが、見た目はカリスマ性に関わるからな……」
アレンビー「……カリスマ性? ハマーンって何者?」
ハマーン「当ててみろ。ニュータイプなら私の心を感じられるだろう」
アレンビー「あたし、超オールドタイプなんだけど……」
アレンビー「なに?」
マシュマー「ハマーン様の身体情報は国家機密だ。外に漏らせば銃殺刑ということを頭に留めておけ」
アレンビー「えぇ……? 国家機密とか銃殺刑とか、なんか物騒な単語まで出てきたし……」
ハマーン「銃殺刑にしようにも、この女に銃など通じないがな」
アレンビー「まあね。ガンダムファイターだから」
アレンビー「え?」
マシュマー「正直、どこにでもいる普通の娘にしか見えん。本当にガンダムファイターなのか?」
アレンビー「あ、信用してないね。じゃあさ、試してみる?」
マシュマー「……試す? アームレスリングでもやるのか?」
アレンビー「違うって。ゲーセンにもっといいモノがあるんだよね~」
マシュマー「体感格闘ゲーム『バトル兄貴2』?」
アレンビー「そ。プレイヤーの動きにあわせてキャラが動く、最新の格闘ゲームだよ」
ハマーン「概念的にはモビルトレースシステムに近いな」
アレンビー「よく知ってるね。ドモンと知り合ったのもこれがキッカケだったなぁ」
ハマーン「面白いな。マシュマー、やれ」
マシュマー「……承知しました。戦士として場に立つのであれば、女子供であろうと手加減せんぞ」
アレンビー「いいよっ。さあ、ファイトしようよ!」
基本的にシャアとドモンの悪口を吐きまくるんですねわかります
アレンビー「体の慣らしは終わった?」
マシュマー「うむ。いつでもかかってくるが良い」
アレンビー「じゃ、ファイト前に握手ね」
ギュッ
アレンビー「へぇ。ファイターじゃないのに結構鍛えてるね」
マシュマー「…………」
アレンビー「……どうしたの?」
アレンビー「……大丈夫? なんか顔赤いよ」
マシュマー「いやっ! そ、その……」
ハマーン「…………」ジー
マシュマー「うっ!? は、ハマーン様、これは、これは違うのです!」
ハマーン「? 何が違うのか分からんが、早く始めろ」
マシュマー「は、はっ!」
ストーカー「ネオスウェーデン代表、アレンビー・ビアズリーのファイトを始めます!」
ハマーン「どこから沸いて出たのだ、この中年は」
ストーカー「それでは、ガンダムファイト! レディ~……ゴー!」
マシュマー「おうりゃぁぁぁ!!」
アレンビー「遅いよ!」
ドゴォ!
マシュマー「うぐぉぉぉぉ……」ガクッ
ハマーン「いいのが腹に入ったな……マシュマー、そこで吐くなよ」
アレンビー「えっ!? た、立てるの?」
マシュマー「は、ハマーン様の前で、無様な姿を見せられん……!」
アレンビー「……凄いね、この人」
ハマーン「それほどか?」
アレンビー「ゲームだし衝撃は相当減ってるけど、私のパンチ食らって立てる人なんて殆どいないよ」
ハマーン「ほう。マシュマー、大したものだな」
マシュマー「こ、光栄の極み……」
アレンビー「好きな人にいいとこ見せたいだろうけど、ごめんね」
ズドォ!
マシュマー「おぐっ」バターン
ハマーン「……ファイター相手に、健闘した方か」
アレンビー「うん。いいファイトだったよ!」
マシュマー「――――」
アレンビー「って、聞こえてないか……」
マシュマー「――――」
アレンビー「全然起きないなぁ。やりすぎちゃったかな?」
ハマーン「どこにそんな力が詰まっているのだ……」
ストーカー「アレンビー選手は、こう見えてパワーファイターですから」
ハマーン「……そうは見えんな」
ストーカー「ですが、あのボルトガンダムを48秒で倒した経験もおありですよ」
アレンビー「あれは……あのシステムのせいだから。その話はしないで」
ストーカー「これは失敬」
ハマーン(……なんだ? 一瞬、アレンビーの心に陰りが見えたが……)
ストーカー「それでは、失礼いたします」サササッ
アレンビー「速っ。ゲルマン忍者みたい」
ハマーン「さて……では、マシュマーは目が覚めるまでどこかに寝かせておくか」
アレンビー「そだね。折角ゲーセンに来たんだし、何かゲームやってく?」
ハマーン「……思い返せば、私はゲームというものをやったことが無いな」
アレンビー「え……マジ?」
ハマーン「プライベートでは嘘などつかんよ。政治ではともかくな」
ハマーン「コンピュータゲームか。キュベレイはあるのか?」
アレンビー「あるよ。キュベレイ好きなの?」
ハマーン「い……いや、そういう訳ではないが」
アレンビー「じゃあ百式とかどう? 使いやすいよ」
ハマーン「断る」
アレンビー「……えっ」
アレンビー「そ、それなら、ジ・Oもオススメ――」
ハマーン「却下だ」
アレンビー「…………」
ハマーン「……キュベレイ一択だな」
アレンビー「う、うん。それでいいと思うよ……」
アレンビー「あー、遊んだ遊んだ! ハマーン超強いね、ホントに初めてやったの?」
ハマーン「気に食わん」
アレンビー「…………え?」
ハマーン「キュベレイは、スペック上はもっと機動性が高いはずだ」
アレンビー「ふぅん……?」
ハマーン「ファンネルの弾数も実際は倍以上ある」
アレンビー「なんか、詳しいね……」
ハマーン「……一緒に出かけるとは、そういうものか」
アレンビー「うん。そういうもの」
ハマーン「私は、同性の友人と出かけたことなどほとんど無くてな。何をすればいいのかも分からん」
アレンビー「……意外とバカだね」
ハマーン「なに……?」
ハマーン「それは……喫茶店の店員に迷惑だろう」
アレンビー「そんなの気にしたら負けだよ。好き勝手生きないで何が楽しいのさ?」
ハマーン「……フフ。面白い奴だな、貴様は」
アレンビー「ええ? それが普通だと思うけどなぁ……」
ハマーン「楽しく生きるという感情など、とうに忘れていたよ」
アレンビー「……確かに、なんか苦労してそうだもんね、ハマーンって」
ハマーン「……マシュマーを寝かせておいた場所に、誰もおらんな」
マシュマー「ハマーン様ぁぁぁぁ!」ダダダ
アレンビー「わっ、走ってきた」
ハマーン「マシュマー、起きていたのか。大声を出すな、恥を知れ」
マシュマー「ハッ! も、申し訳ありません……」
ハマーン「……なんだ、これは」
アレンビー「キュベレイのぬいぐるみだね」
マシュマー「クレーンゲームで取って参りました! 1万ほど吸い込まれましたが……」
ハマーン「………………」
アレンビー「これこれ。これが好きに生きるってこと。ハマーンは不器用すぎだよ」
ハマーン「……なるほどな。マシュマー、褒めてつかわす」
マシュマー「ははっ……え?」
ハマーン「どうした?」
マシュマー「い、いえ。『くだらん』と一蹴されることも覚悟しておりましたので……」
ハマーン「私がそんな冷血な女に見えるか?」ニヤリ
マシュマー「め、滅相も無い!」
アレンビー「うん。まずは服だね」
ハマーン「服?」
アレンビー「うん。ハマーンの服」
ハマーン「……私は、服なら十分すぎるほど持っているが。パーティ用、会談用……」
アレンビー「違うって、買うのは遊びに行く時の服だよ」
ハマーン「今着ているこの服では、何か問題があるのか? 全身黒という私好みの――」
アレンビー「ダサい」
ハマーン「!?」
マシュマー「!?」
アレンビー「だからって全身黒とか、友達と遊びに行く時の格好じゃないよ」
ハマーン「……そうなのか、マシュマー?」
マシュマー「私はハマーン様がどのようなお姿であれ、その魅力は変わらないものと――」
ハマーン「貴様の主観ではなく、一般論でだ」
マシュマー「……あえて申し上げるならば」
ハマーン「…………」
マシュマー「『無いな』と」
ハマーン「ぐぅぅっ! 貴様、なぜ私が出かける前に言わなかった!」
マシュマー「ご、ご機嫌で準備をされているハマーン様を見ると、なんとも言い出しづらく……」
アレンビー「うーん……これも捨てがたいね」
ハマーン「安いな。たった10万か」
アレンビー「や、安い?」
ハマーン「ああ、金に糸目はつけんよ。私に似合う物を選びたい」
アレンビー「赤とか似合うんじゃない?」
ハマーン「それは断る」
アレンビー「……何かこだわりでもあるの?」
ハマーン「いいや。あるのは、嫌な思い出だけだよ」
ハマーン「いいだろう」
アレンビー「あとついでに下着も何着か選んだから、これも着けてみて」
ハマーン「こ、これは……なかなかきわどいな……」
アレンビー「そう? マシュマーさん、どう? これ」サッ
マシュマー「いっ!?」
ハマーン「ま、マシュマーに見せるな!」
マシュマー「そ、そうだ。私に話を振られてもだな……」
アレンビー「下着は男の意見が重要なんだよ? ハマーンが着けたところを想像すればいいんだって」
マシュマー「そんな不埒なことができるか! な、なんて女だ……!」
アレンビー「マシュマーさん、純情すぎでしょ……」
アレンビー「ここをこうして、こう」キュッ
ハマーン「あっ……! き、きつい……」
アレンビー「痩せてるから、しっかり締めとかないとずり落ちちゃうよ」グイッ
ハマーン「んんっ……!」
マシュマー「……二人が一向に試着室から出てこんな」
メイリン「うわっ、ちょっとお姉ちゃん、あの人見て」
ルナマリア「やだぁ、下着売り場に突っ立ってる。もしかして変態?」
メイリン「彼女待ちなんじゃない? そうは見えないけど」クスクス
マシュマー「…………なんと過酷な任務だ……!」
ハマーン「疲れた……」
マシュマー「疲れた……」
アレンビー「なんでマシュマーさんまで疲れてんの?」
ハマーン「……どこかで休憩したいのだが」
アレンビー「いいよ。その辺の喫茶店に入ろっか」
ハマーン「ああ。落ち着ける場所ならどこでも構わんよ」
マシュマー「しかし小娘、貴様なんというバイタリティだ……」
ハマーン「確かに、まったく疲れる気配を見せんな」
アレンビー「鍛えてますから」シュッ
――――
アレンビー「ふぅ。それにしても、ハマーンってほんとに普通の人じゃないね」
ハマーン「アステロイドベルトまで行った人間が帰ってくれば、普通ではなくなるよ」
アレンビー「へー。よくわかんないけど、お金持ちのお嬢様なの?」
ハマーン「……そのようなところだ。ところで、私にも貴様の話を聞かせろ」
アレンビー「え?」
ハマーン「女性のガンダムファイターは珍しいのだろう? どう生きてきたのか興味がある」
アレンビー「そうだけど……たぶん私の話なんて聞いても、あまり面白くないよ」
アレンビー「あ、それ読み上げてもらった方が早いかも。読んでみて」
マシュマー「アレンビー・ビアズリー。ネオスウェーデン代表のガンダムファイターです。
17歳女性。身長155cm、体重45kg。スリーサイズは上から82・50・81。
特技は軍で習った格闘術、趣味はゲームと映画。
無名のファイターでしたが、バーサーカーシステムによって
優勝候補のボルトガンダムを48秒で倒し、一躍名を馳せました。
その後ゴッドガンダムに敗れ、惜しくも優勝を逃しております。以上」
アレンビー「詳しすぎて気持ち悪いよ!」
ハマーン「貴様、その調子で私のことまで調べていないだろうな……」
マシュマー「い、いえ! ハマーン様の情報は国家機密ですので!」
ハマーン「ゴッドガンダムというと優勝したガンダムだな。ファイターはドモン・カッシュだったか」
アレンビー「うん。敗けた後は、一緒にトレーニングしたり、タッグを組んだり……」
ハマーン「…………」キュピーン
アレンビー「ドモンはかっこいいんだよ。悲壮な運命にも負けずに――」
ハマーン「その男が好きなのか?」
アレンビー「…………ちょっと。NT能力って、そういうとこに使うの、アリなの?」
ハマーン「フフ……」
ハマーン「ほう。未練があるならいくらでも聞いてやるぞ」
アレンビー「うーん。確かにまだ好きなんだけど、もう諦めちゃったし……」
ハマーン「いや、心の奥底では自分を捨てた男に対する恨みつらみが溜まっているはずだ」
アレンビー「そんなことないってば」
ハマーン「なぜ振り向いてくれないとか、また置いていくのかとか、全ての憎しみを吐き出せ!」
アレンビー「……なんか、嫌なことでもあったの?」
ハマーン「………………」
アレンビー「ほうほう」
ハマーン「だが私と奴は敵同士だった。そこで私に付いてこいと言ったのだが、跳ね除けられた」
アレンビー「あー、よくあるパターンだね。それでそれで?」
ハマーン「そこで私の物にならないのならばいっそ、と思い、殺してやったよ」
アレンビー「ええええええぇぇぇぇぇぇぇ!?」
ハマーン「フン……」
マシュマー「ハマーン様は元来こういうお方だ。貴様の前ではそのお姿を見せていないが」
アレンビー「ええええぇぇぇぇぇ……」
アレンビー「絶対違うから! 迷惑とかじゃなくて、人殺しちゃってるじゃん……」
ハマーン「人を殺すなど、パイロットであれば日常茶飯事だろう?」
アレンビー「それでも、キラルでもそこまで安易に殺さないよ……ってハマーン、パイロットだったの?」
ハマーン「…………知らん。教えてやる義理は無い」
アレンビー「ちょっと、傲慢すぎるって……そんな偉そうな態度じゃ、その元彼も逃げちゃうよ」
ハマーン「男に媚びるなど我慢できん」
マシュマー「さすがはハマーン様! お姿だけでなく理念までお美しい……」
アレンビー「あ、これが普通なんだ……?」
――――
ハマーン「……む。もうこんな時間か」
アレンビー「ホントだ。じゃあ晩ご飯でも食べて、その後映画とか……」
ハマーン「いや、私はもう戻らねばならん。公務があるのでな」
アレンビー「公務……?」
ハマーン「ああ。良かったよ、貴様に会えて」
アレンビー「……あははっ、大げさすぎ! また遊びに行こうね!」
ハマーン「その時はこちらから連絡しよう。行くぞ、マシュマー」
マシュマー「かしこまりました、ハマーン様」
――――
アレンビー「……ってことがあったの。面白い奴でしょ?」
レイン「あ、アレンビー……あなた、もしかしてハマーン・カーンを知らないの?」
アレンビー「うん。あんまりニュースとか見ないから」
ジョルジュ「……ハマーン・カーンはザビ家の正統、ミネバ・ラオ・ザビの摂政です」
アルゴ「つまり、ネオ・ジオンの実質的な指導者ということだ」
アレンビー「えっ……」
チボデー「何かとんでもないことしてねぇだろうなぁ?」
アレンビー「………………」
アレンビー「い……いっぱいしちゃったけど……」
イリア「……ど、どうされたのです、その庶民的なお召し物は……」
ハマーン「そのようなこと、どうでも良い。私の私服について、何故普通ではないと指摘しなかった」
イリア「……はっ!?」
ハマーン「お陰で、そのコーディネートだけで貴重な時間を使ってしまったではないか……!」
イリア「な、何のお話でしょうか?」
ハマーン「その時間があれば、映画が観れたと言っている……!」
マシュマー「ハマーン様、おいたわしや……」
イリア「……も、申し訳ありません……」
アレンビー「あっ、ハマーンからメールだ」
レイン「あなた、本当にハマーン・カーンとどういう仲なの……?」
アレンビー「『来月頭の日曜に映画を観よう』だって。おっけーだよ、っと」カタカタ
レイン「その……くれぐれも、失礼の無いようにね」
アレンビー「またダサい服着てきたら『なにそれダッサ!』ってパシーンと叩こうと思ってたんだけど」
ドモン「おいおいアレンビー、それはまずいだろう」
アレンビー「もう、ドモンまでそんなこと言うの? ただの友達なのに……」
ドモン「手加減しないと死んでしまう。軽くやるんだ」
アレンビー「わかった!」
レイン「そういう問題じゃないから!」
マシュマー「来月頭の話であれば、まどかマギカなど如何でしょうか」
ハマーン「よく知らんが、貴様に任せる。つまらぬものであれば銃殺刑だ」
マシュマー「承知いたしました」
ハマーン「あとは、もう一度ゲームセンターという所に行きたいのだが……」
マシュマー「『エゥーゴvsティターンズ』の家庭版が私の部屋にございます」
ハマーン「本体ごと貸せ。あと対戦に付き合うのだ」
マシュマー「ははっ」
ハマーン「それと『バトル兄貴2』でアレンビーに一矢報いられるよう、貴様も特訓しておけ」
マシュマー「はっ……は!?」
ハマーン「私の騎士であれば造作もあるまい?」ニヤリ
マシュマー「…………はい……」
マシュマー「まだ何か……」
ハマーン「これを私の部屋のどこかに飾っておけ」ポイッ
マシュマー「……こ、これは……!」
ハマーン「貴様が好き勝手に生きた証だ。部下の働きには報いてやらねばな」
マシュマー「あ、ありがたき幸せにございます! このマシュマー・セロ、存命の限りハマーン様に――」
ハマーン「……さて、またメールでも出しておくか」
ピロリン♪
アレンビー「『映画は流行りのまどかマギカでどうだ?』……え、えぇぇ~?」
アレンビー「何そのチョイス……やっぱりハマーンって変わってるよ……」
終わり。
ハマーン様が歳相応の友達と過ごすとどうなるの?を書いてみたかっただけだよ!
よかった!アレンビーとは意外なチョイスだった
Entry ⇒ 2012.10.09 | Category ⇒ ガンダムSS | Comments (3) | Trackbacks (0)
岡部「最近ラボメン達が中途半端に前の世界線の記憶を思い出してる」
岡部(無事このシュタインズ・ゲートの世界線に辿り着き、そして奇跡的に紅莉栖とも再会した……)
岡部(紅莉栖もまゆりも死ぬ事のない世界線。これでやっと平穏な日々を取り戻した……そう思っていた)
紅莉栖「ねえ、岡部……答えて」
岡部「……」
紅莉栖「わ、私たち……そのっ」モジモジ
岡部「……」
紅莉栖「き、キス、したわよね」
紅莉栖「た、確かラボの……こ、この辺りで」
岡部(辛い記憶のある紅莉栖には、まだ世界線漂流の経験を全て語っていない)
紅莉栖「し、しかも一回じゃなくて何度も、何度も……」モジモジ
岡部(リーディングシュタイナーは誰もが持つ能力。だから、いずれはラボメンの誰かが記憶を思い出すと予想はしていた……しかし)
まゆり「オカリン……」
フェイリス「ニャニャ!?凶真はフェイリスと二人きりの夜を過ごしたのにクーニャンにも手を出していたのかニャ!?」
ルカ子「お、岡部さんは僕とデートしてくれたのに……」
萌郁「私も……キス、された」
岡部(どうしてこうも全員中途半端に思い出してるのだ!)
紅莉栖「……好きだ」ボソッ
岡部「!?」
紅莉栖「……世界で一番大切な人の事を忘れる筈ない」ボソッ
岡部「なっ……」
紅莉栖「岡部が……言ってくれた」
まゆり「……」
フェイリス「凶真……」
ルカ子「岡部さん……」
萌郁「……」
紅莉栖「そのままはぐして……何度も何度もキスした」
岡部「も、妄想も大概に……」
紅莉栖「岡部はファーストキスじゃないって言ってた……」
岡部「」
紅莉栖「そう言えば、岡部のファーストキスの相手って、だれ?」
岡部「そ、そんな事、どうでも……」
萌郁「私……?」
紅莉栖「えっ」
紅莉栖「なっ!?」
まゆり「オ~カ~リ~ン?」
岡部「ご、誤解を招くような言い方はやめろ! キスだけだっただろうが!」
萌郁「……やっぱり、あの事は……本当、だったんだ」
岡部「あっ……」
岡部(しまった……!)
萌郁「……岡部くん」
岡部「な、なんだ……?」
萌郁「責任……取って、ね?」
岡部「……」
岡部「はあああああ!?」
紅莉栖「ちょっ、桐生さん!?」
フェイリス「抜け駆けなんて卑怯ニャ!」
萌郁「岡部くんに……キス、された。それも、押し倒されて……大胆に」
まゆり「どういう事かな~オカリン」
ルカ子「お、岡部さんに押し倒されるなんて……いいなぁ」
紅莉栖「そ、それなら私だって岡部に責任を取って貰う必要があるわよ!」
フェイリス「ニャニャ、そ、それニャら凶真と、岡部さんと一緒に寝た私だって!」
紅莉栖「えっ」
まゆり「フェ、フェリスちゃん……?」
ルカ子「ど、どういう事ですか!?」
紅莉栖「寝たのは否定しないんだ……」
まゆり「まゆしぃ、だってオカリンに一緒になんて、最近ないのに……」
ルカ子「お、岡部さんと一晩一緒!? はあ、はあ……」
萌郁「牧瀬さん、フェイリス、さん……私……三股?」
岡部「違う!」
岡部「そ、それは、その……」
フェイリス「岡部さんっ!」ギュッ
岡部「!?」
フェイリス「やっぱり、岡部さんは、私の王子さまだったんだね」
岡部「こ、こら、離れろ留未穂!」
まゆり「オカリンはフェリスちゃんの本名を知らない筈なのに……」
紅莉栖「それじゃあ……」
萌郁「全て、事実……」
ルカ子「全部、本当……なら、僕が岡部さんとデートして、そのまま結ばなて赤ちゃんを授かったのも本当なんですか!?」
岡部「えっ」
フェイリス「さ、さすがにそれは……」
まゆり「ルカくんは男の子だから赤ちゃんはできないんじゃないかな~?」
岡部「そ、そうだ!何を言っているのだルカ子!」
岡部(確かにデートはしたが、子作りなどした記憶がないぞ!?)
ルカ子「で、でも……」
岡部「だいたい、デートと言っても結局最後はいつも通り修行をしただけだ」
萌郁「デートは、したんだ……」
岡部「」
岡部「そ、そうか……」
ルカ子「はい……えへへ」
岡部「……」
紅莉栖「4股とか……」
まゆり「……」
萌郁「岡部くん……意外とやり手、だね」
フェイリス「凶真の一番がフェイリスなら、別に構わないニャ」
岡部(まだデートをしただけのルカ子、一緒に寝ただけの留未穂は、まだ何とかなる……多分)
岡部(問題は萌郁と紅莉栖だ。二人にキスをしたのは事実だ……)
岡部(責任は取るべき、なのか……)
まゆり「オカリン」
岡部「な、なんだ?まゆり」
岡部(まさか、また何かややこしい事が……!?)
岡部(いや、待て。まゆり相手には特に手を出していな……)
まゆり「オカリンは、まゆしぃの手をむぎゅーって握ってくれてね、どこか二人で遠くに行こうとしてたよね」
岡部「えっ?ああ……」
岡部(確かに、まゆりの死を回避する為に色々と策を試したな。海外逃亡までしようとした事もあったな)
まゆり「えへへ、あれって駆け落ちしようとしたんだよね」
紅莉栖「か、駆け落ち!?」
フェイリス「そ、そんニャ……」
萌郁「遊び、だったの……?」
ルカ子「駆け落ちならぼ、僕も一緒に連れて行って下さい!」
岡部「な、何を言ってるのだまゆり!?」
まゆり「あれぇ?でも、オカリン、何だか必死に何かから逃げようとしてるみたいだったよ?」
岡部(た、確かにまゆりの死から何としても逃げようとしていたが!)
紅莉栖「そうか、分かった……」
フェイリス「クーニャン?」
紅莉栖「岡部は、私たちと4股して、バレそうになったからまゆりと駆け落ちしようとしたんだ……」
ΩΩΩ<な、なんだってー!
フェイリス「そんなっ……私は、岡部さんとずっと一緒にっ」
ルカ子「か、駆け落ちなんて……どうして僕と駆け落ちしてくれないんですか!?」
萌郁「……責任、逃れ……、酷い」
紅莉栖「わ、私の初めてを奪っておいて、駆け落ちなんて、許さないからな!」
岡部「なんだよ、これ……」
まゆり「オカリンと駆け落ちかぁ……えへへ、まゆしぃはそれもいいのです」ムギュ
岡部(世界線漂流の事を全て話すか……? だが萌郁にはどう説明すればいい?)
岡部(まずは、まゆりと駆け落ちの誤解を解かなければ……)
岡部(その為には俺が駆け落ちする必要がない事を証明しなければならない)
岡部(駆け落ちする必要がない。つまり、4股でないと、彼女たちに理解して貰わねばならん)
岡部(ならば……)
紅莉栖「な、なによ!高笑いしても誤魔化せないんだからな!」
岡部「誤魔化すぅ?助手ぅ、貴様は一つ勘違いをしているぞ」
紅莉栖「勘違い?」
岡部「俺は勘違いどころか、そもそも4股すらしていない!」バサッ
紅莉栖「はあ!?あ、あんた今更になってなかった事にする気なの!?」
岡部「違う!なかった事にする?俺がそんな事をする筈はない!」
紅莉栖「」ビクッ
紅莉栖「で、でも4股して、私にキスして他の子達に浮気してたじゃない!」
岡部「浮気ではない!全部本気だ!」
紅莉栖「!?」
岡部「確かに俺はお前とラボで何度もキスをした。今でもあの時の感触を明確に思い出せる」
紅莉栖「お、思い出さんでいい!」
岡部「あの時言った言葉も、気持ちも、全て本当だ。嘘偽りはない」
紅莉栖「そ、それって……」
岡部「だがそれは他のみんなも一緒だ」
岡部「萌郁を必死になって押し倒されてキスしたのも事実だ。あんなに激しいキスをしたのは初めてだった」
萌郁「岡部くん……」キュン
岡部「ああ」
岡部(……あれ、よく考えてみればこっちの方がゲスリンじゃないか?)
紅莉栖「へぇ~」
岡部「い、いや待て!違うんだ!状況が状況だったのだ!」
紅莉栖「女の子と一緒に寝て、違う女の子とデートとして、また違う女の子を押し倒してキスして、そして告白した挙げ句、また他の子と駆け落ちする状況ね~」
岡部「いや、それは……」
ぼわっ
紅莉栖「きゃっ!」
フェイリス「ま、前が見えないニャ!」
萌郁「眼鏡……曇る」
まゆり「あわわっ」
ルカ子「い、一体何が……」オロオロ
紅莉栖「くっ、やっと見えるようになった……あれ岡部は?」
フェイリス「いないニャ」
萌郁「……逃げた」
岡部「はあ、はあ……咄嗟に逃げてきたが、これからどうする」
岡部(とりあえず、紅莉栖には後で事情を全て説明しよう。そしたら理解はしてくれる筈だ)
岡部(まゆりも、前の世界線で全て終わったら話すと約束していたんだ。話せば、今回の事も納得してくれるだろう)
岡部(萌郁には全て話せないが、とりあえず何か言い訳を考えておくか……)
岡部(ルカ子とフェイリスには、全て話すべきかどうか……)
岡部「とにかく、今日はラボには戻れんな……ん? あれは……」
ダル「……」
岡部「ダル……?」
岡部(いや、待て。鈴羽がこの時代に居る筈がない。となると……)
岡部「鈴羽の母親となる女性……確か、名は阿万音由季だったか」
岡部「なるほど……ダルめ、既に嫁を見つけたのか。全く幸せ者め……」
ダル「……!」
由季?「~っ!」
岡部「しかし、何だ……様子が変だな。会話はここからじゃ聞こえんし、少し近付いてみるか」
ダル「由季たん!由季たん!」ハアハア
由季?「や、やめっ」
ダル「ぼ、僕たちは将来ケコーンして鈴羽たんを授かるんだお!だから今のうちに練習を……」ハアハアハアハア
岡部「」
ダル「あっ、オカリン!ふひひ、紹介するお!僕の嫁の阿万音由」
岡部「その歪み!俺が断ち切る!」ドゴッ
ダル「」
岡部「大丈夫か?」
由季「えっ、は、はい……」
岡部「……一つ聞くが、その男とは知り合いか?」
由季「いえ、さっきそこでいきなり話しかけられて……」
岡部「そうか……」
岡部(ダルと阿万音由季とのファーストコンタクトは最悪な形になってしまったな)
岡部「済まない、迷惑をかけたな」
由季「な、なんであなたが謝るんですか?助けてくれたのにそんな……」
岡部「俺はその男の知り合いなんだ。少し錯乱していたみたいで、そいつの知人とあなたを誤認していたようだ」
由季「そ、そうだったんですか……」
岡部「本当は悪くない奴なんだ。許してくれると有り難い」
由季「いえ、そんな……気にしませんよ」
岡部「そうか、ありがとう」
岡部(良かった……これで少しはケアできたか?)
由季「あ、あのっ」
岡部「なんだ?」
由季「名前、聞いてもいいですか?」
岡部「ああ、こいつの名前は橋田至だ。ダルとでも呼んでやってくれ」
由季「そ、そっちじゃなくて、あなたの名前を」
岡部「俺か? フッ、そんなにも我が真名が聞きたいか!我が名は鳳凰院凶真!狂気のマッドサイエンティストだ!フゥーハハハ!」バサッ
由季「あなたもレイヤーですか?出来れば本名の方を……」
岡部「レイヤーではない!この白衣はマッドサイエンティストにとって正装なのだ!決してコスプレではない!」
由季「それで、名前は……」
岡部「ぐぬぬ、華麗にスルーしよって……岡部倫太郎だ」
由季「岡部、くん……」
岡部「ふん。ではまたな、阿万音由季」
由季「……岡部、倫太郎」
岡部「気がついたか」
ダル「オカリン……? 僕、なんでこんな所に……あ、そうだ!由季たん!僕の由季たんは?」
岡部「由季たん!ではない!全く……少しは落ち着け」
ダル「落ち着けとかwwwwwwあんな可愛さ子が嫁確認なのに落ち着けとか無理だろ常考wwwwwwうっはwみwなwぎwっwてwwきwwwたwww」
岡部「このHENTAIめ……」
岡部(まあ、向こうもあまり気にしてはないみたいだし、ダルがこれから猛アタックを続ければ、いずれは結ばれるだろうな)
ダル「あれ?ねえ、オカリン。あれ由季たんじゃね?」
岡部「なに?阿万音由季はさっき別れた筈だが……」
鈴羽「おっ、いたいた!おーい!父さ~ん!おじさ~ん!」
岡部「なん、だと……」
岡部「ば、馬鹿な!?何故この時代に鈴羽が!?」
鈴羽「えへへっ、えいっ」ムギュ
岡部「なっ」
ダル「何となく分かってたけど、オカリンェ……」
岡部「お、お前、なんで……」
鈴羽「えへへっ、来ちゃった」
岡部「き、来ちゃったって……」
ダル「オウフ……天使すぐる」
岡部(あれ? 鈴羽、髪を染めたのか? 前は黒ではなかった筈だが……それに癖毛じゃなくてストレートになってる)
鈴羽「問題?ううん、父さんたちに会いにきただけだよ?」
岡部「り、理由はそれだけなのか?」
鈴羽「うん」
岡部「そ、そうか……」
岡部(問題が起きてない、ただ俺達に会いに来ただけでタイムマシンを使ったのか? この世界線の未来はどうなっているのだ)
ダル「うwwwっwwwはwwwその為にパパたちに会いにくるとかwww可愛いすぎるだろwww」
鈴羽「あはは、やっぱりダルおじさんはいつの時代も相変わらずだね」
岡部「こいつの性格は未来でも変わっていないのか」
ダル「オウフwwwサーセンwww」
岡部「…………」
ダル「…………」
岡部・ダル「「あれ?」」
鈴羽「もう~その呼び方は止めてよ、ダルおじさん」
ダル「お、おじ……」
岡部「ほ、ほら、ダル!鈴羽も思春期なんだ!娘が父親から距離を置く話をよく聞くだろ?」
ダル「な、なるへそ!思春期か~まさか鈴羽たんにも来るとはwwwパパショックだおwww」
鈴羽「ええ~距離なんて置いてないよ」ムギュ
岡部「えっ」
鈴羽「んっ」チュッ
岡部「んむっ!?」
鈴羽「んっはむ……ぷは、ほらね?あたしたち親子、仲が良いってご近所からも評判なんだよ?」
ダル「」
鈴羽「あれ?ダルおじさん、倒れちゃったよ。具合でも悪かったのかな?」
岡部「本当、なのか……?」
鈴羽「ん?なにが?」
岡部「お前が、俺の……娘?」
鈴羽「もう、今更なに言ってんのさ。オカリン父さん」ムギュ
岡部「お、おかしいだろうが!阿万音由季はダルと結ばれる筈だ!?だいたい、親子ならキスなんてせんわ!」
鈴羽「でも、確かにあたしの母さんは阿万音由季で、父さんは岡部倫太郎だよ?それに……んっ」チュッ
岡部「んむぐっ」
鈴羽「んっ、キス、教えてくれたの、父さんなんだよ?」
鈴羽「いつしか父さんのキスなしじゃ、満足に寝付けなくなったんだよね~」
岡部「そ、そんな事、許される筈がないだろ!?阿万音由季は止めなかったのか!?」
鈴羽「う~ん、だってこれ、そもそも父さんが母さんにしてた事をあたしにもするようになっただけだし……」
岡部「」
ダル「」
岡部「な、なにがだ」
鈴羽「だってあんなにも上手な父さんと初々しい状態でキスできるんだもん。タイムマシンを使う価値はあるよ!」
岡部「」
ダル「」
鈴羽「えへへ、これから滞在中は毎日キスしてね、父さんっ」
岡部「ば、馬鹿者!そんな事……」
鈴羽「父さんのキスなしじゃ眠れないんだよ。こんな風にしたの、父さんなんだから。ちゃんと責任取ってよね」
岡部「」
最初は違和感しかなかったが、最近では自分でもキスが上達してるのが分かってきて、楽しむようになった。
これも、リーディング・シュタイナーが及ぼした歪みの一つなのだろう。だから俺はそれを否定しない。なかった事にはしない
紅莉栖たちについてだが、結局萌郁を覗いた全てのラボメンに真相を話した。正直、あそこまで思い出した萌郁を完全に誤魔化す事はできないと思っていたが、なんとかなった。
恐らく、彼女も薄々気付いてはいるだろうが、特に追求される事はなかった。
紅莉栖たちに俺が本気だったという事が伝わり、誤解も解けた。ダルは旅に出た。リーディング・シュタイナーによって生まれた歪みは無事全て解決した。
岡部「なあ、聞いて良いか?」
由季「なに?」
岡部「娘にキスをする父親って、どう思う?」
由季「う~ん、それも愛情表現の一つだと思うけどな」
岡部「そうか……」
由季「もしかしたら、この子が産まれたらする気?」
岡部「……さあな」
由季「それじゃあ、平等に、私にも……」
岡部「無論、そのつもりだ」
由季「えへへ……私たち、愛されてるね、鈴羽」
終わり
読んでくれた人、ありがとニャンニャン
これやっぱりゲスリンだよね(確信)
乙
ダルはどこに旅に出たんだろうな...
Entry ⇒ 2012.10.09 | Category ⇒ シュタインズゲートSS | Comments (0) | Trackbacks (0)
シェリー「ここはマール王国よ」ほむら「マール王国・・・」
ほむら(それに少しずつ世界も変わっている)
ほむら(これ以上こんなことしてていいのかしら・・・)
ほむら(まどかが死ぬのは運命なのかしら)
ほむら(いいえ、ここで終わらせたら全てが終わる・・・)
ほむら(今度こそ・・・)
ほむら(ここはどこかしら・・・)
ほむら(明らかに病院じゃ無さそうだけど)
???「あっ、目が覚めたのね!」
ほむら「誰!」
シェリー「あたしはシェリー、シェリー・エスポワールよ」
シェリー「あなたの名前は?」
ほむら「私は暁美ほむら・・・・・・」
シェリー「そう、じゃあほむらちゃんね!」
シェリー「暁美ちゃんじゃ違和感感じるし・・・」
ほむら「いえ・・・あまり名前で呼ばれなかったので・・・」
シェリー「あらあら、ほむらちゃんかわいい」ナデナデ
ほむら「・・・・・・」カアァ!
シェリー「そういえばあなた、不思議の森で倒れてるのを保護したんだけど」
シェリー「あなた、この時代の人間じゃないでしょ」
シェリー「・・・今は言えないのね」
シェリー「大丈夫、今は安静にしててね」
ほむら「・・・恐らく私はここから遥か未来から来たわ」
ほむら「私はそこで親友を助けるために何度も戦った」
ほむら「でも、何度やっても結果は変わらなかった・・・」
シェリー「そう、すごく苦労したのね」ギュッ
ほむら「あなたに何が分かるの!」
シェリー「分かるよ!」
シェリー「大切な人が死んで行くのはとても悲しいよね・・・」
ほむら(ああ、なんて悲しそうな目)
ほむら(彼女もそんな経験をしたのね・・・)
ほむら「うわああん!!!」
シェリー「よしよし、今は少し立ち止まって良いのよ」ナデナデ
シェリー「そしてまた歩き出して行けばいい」
シェリー「その時はこの言葉を覚えていて欲しいの」
シェリー「『女は行動力』ってね」
シェリー「そう、覚えておいてね!」
ほむら「・・・うん」
シェリー「よく言えました!」ナデナデ
ほむら「シェリー曰く、いつ帰れるか分からないそうなので」
ほむら「このまま居候というわけにはいかないからです」
ほむら「そして問題はそれからしばらくして起こったのです」
魔女「ウガガガガガガア!!!」
ほむら「ハア・・・ハア・・・」
ほむら(ここの魔女は全体的に強いのは少ない)
ほむら(しかし数が多い)
ほむら(そうなると起こる問題は・・・)
ほむら(この国の技術でそんな物は作れないはず・・・)
ほむら「・・・・・・・」
ほむら「とりあえず教会に行こう」
オレンジ村
シェリー「ほむらちゃん!」
ほむら「シェリー、どうしたの!」
シェリー「ちょっとついてきて!」ギュッ
ほむら「えっ」
ほむら「あの男の人がどうしたのよ」
シェリー「あの男の人はカールっていうの」
シェリー「数年前は彼に何度も求婚されたものよ」
シェリー「あの時は元気だった・・・・・・・」
シェリー「首筋に変な紋章が出てるし・・・」
カール「・・・・・・・」スッ
ほむら(あれは拳銃じゃない!)
ほむら「早く彼を止めるのよ!」
シェリー「わかったわ!」
ナイトスポーノ「承知した・・・・・・」メテオ!
カール「グハッ!」
シェリー「カール、あなたはなんて馬鹿なことをしてるの!」
カール「放してくれ!私はセバスティアンを殺してしまった!」
カール「私に生きてる資格は無いんだ!」
シェリー「どうゆうことなの、周りの景色も変わってるし」
ほむら「ここは魔女が張った結界の中」
ほむら「普通ならここに入った時点で生きて帰って来れないわ」
シェリー「じゃあどうやってここから出るの?」
ほむら「この奥にこの結界を作った者がいるからそいつを倒せばいいの」
ほむら「私たちはそれを魔女と読んでいるわ」
カール「そうだったのか・・・」
ほむら「私は今からここの魔女を倒しに行くわ」
ほむら「あなた達もついて来て」
シェリー「分かったわ、カールは大丈夫?」
カール「ああ、大丈夫だ・・・」
ほむら(にしてもこの国の結界はやたら同じような景色が広がってるわね)
シェリー「ところで一つ聞きたいんだけど」
ほむら「あら、何かしら」
シェリー「ここに来てからやたら高笑いする魔女見たの?」
ほむら「見たけど、あれとは少し違うわ」
ほむら「あっ、やっと見えて来たわ」
ほむら「くっ、強い!」
ほむら「まさかここに来てこんなに強力魔女と戦うとは・・・・」
ほむら(弾も少なくなって来たし、本当にまずいわ)
シェリー(・・・・やるしかないのね)
ほむら「シェリー、しっかりして、あなたのお腹には子供がいるんでしょう!」
カール「そうだ、彼女の言う通りだ、しっかりするんだ!」
シェリー「ううん・・・大丈夫、それより今のほむらちゃんの格好は一体・・・」
ほむら「それはこっちのセリフよ!」
カール「私からすればどっちもどっちだよ」
ほむら「そしてシェリーも・・・」
シェリー「・・・・・・という訳よ」
カール「もう私の理解の範疇を越えてきたよ・・・」
ほむら「ということはいつ帰れるか分からないって言ってたのは・・・」
シェリー「そう、あたしが実際に経験してるからよ」
シェリー「ここに来た方法もあれだし」
ほむら「そうね・・・・・・」
カール「・・・・」
カール「ところでほむら君、君は私に頼みたいことがあるのだろう」
ほむら「どうしてそれを!」
カール「だから君は重火器などを使って戦っている」
カール「だが、その重火器なども未来のものなのでもう残りが少ない」
カール「だから君は、ローゼンクイーン商会の援助を受けたい」
カール「そんなところだろう」
ほむら「ええ、その通りよ」
ほむら「本当ですか!」
カール「君たちがいなければ私はきっとここにいなかっただろうしね」
ほむら「ありがとうございます!」
ほむら「最初こそ使いづらかったがすぐに改善され、」
ほむら「それの繰り返しで気が付けば現代の兵器のレベルに到達していた」
____
__
カール「やあほむら君、この前渡したマシンガンはどうだい?」
ほむら「ええ、もう私のいた時代と同じレベルに達してるわ」
カール「そうか、それは良かった」
カール「・・・・・・」
カール「戦争が終わるそうじゃないか」
ほむら「ええ、でもシェリーは相当落ち込んでたわ」
カール「あの古代兵器のことか」
カール「ああ、彼は絶対アレを政治利用するだろう」
カール「ほむら君、君はもしかして・・・」
ほむら「シェリーのために古代兵器を破壊する!」
ほむら「方法は簡単、時を止めて城に忍び込み」
ほむら「古代兵器の所に行く!」
カール「それからどうやってあれを壊すんだ」
ほむら「時を止めて重火器を大量に放つ、それだけでなんとかなるわ」
ほむら「明日の夜に行うわ」
カール「そうか、ならば君に渡したい物がある」
ほむら「これは・・・・・・・」
カール「これはローゼンクイーン商会の技術をフルに使って作られた小銃」
カール「エトワールだ」
カール「このエトワールという名前は近いうちに産まれる私の娘に付ける名前だ」
ほむら「そう、いい名前ね」
カール「それじゃあ健闘を祈るよ」
ほむら「この城の中に古代兵器があるのね」
シェリー「ちょっと待ったぁ!!」
ほむら「えっ、なんであなたがここにいるの?」
シェリー「カールから聞いたわ、今からこの城に入るのね」
ほむら「というよりあなた、体は大丈夫なの?」
ほむら「あなたのお腹には子供がいるのよ!」
シェリー「それにあなたは古代兵器のある場所を知らないでしょう」
ほむら「そういえばそうだったわね」
シェリー「さあ、古代兵器のところまで行こう!」
ほむら「遂に着いたわ・・・・・・」
ほむら「シェリー、少し放れてて」
シェリー「分かったわ」
ほむら(最初はこのカールからもらった銃で!)パアン!!
古代兵器「プシュューーーー」プスプス
ほむら「・・・・・えっ」
ほむら「・・・・・みたいね」
ほむら「こうしてゴロンゾの野望は終わった」
ほむら「エトワールという一丁の銃によって・・・」
______
___
ほむら「あれから数年が経った」
ほむら「シェリーに女の子が生まれ、私たちは幸せに過ごしていた」
ほむら「まどかの事を忘れてしまうほどに・・・・」
ほむら「でも神様はそれを許してくれなかった・・・・・」
ほむら「エトワールちゃん!本当なの!」
エトワール「コルネットちゃんが・・・とつぜん・・きえちゃって・・・」ヒック
ほむら「大丈夫、お姉ちゃんが必ず助け出すから」
エトワール「うん・・・・」
ほむら(ああ、一番恐れていたことが起こってしまった!)
シェリー「キュウべえ、ここでいいのね!」
キュウべえ「ああ、ここに君の娘がいるはずさ!」
ほむら「」
キュウべえ「・・・君は初対面の人間にそういう態度を取るのかい」
シェリー「キュウべえこれには事情があって・・・」
シェリー「・・・・・・という訳でほむらちゃんは未来から来たのよ」
キュウべえ「なるほどね」
シェリー「そうよ!ほむらちゃん、早く入るわよ」
ほむら「そうね、あの子は絶対寂しがってるわよ!」タッタッタ・・・
キュウべえ(行ったか・・・)
キュウべえ(まさか、こんなところで強力な魔法少女の資質を持つものに出くわすとはね・・・)
結界内部
ほむら「ハア・・・ハア・・・」
シェリー「ハア・・・ハア・・・」
シェリー「回復は大丈夫?」
ほむら「ええ、なんとか・・・」
シェリー「ええ・・ほむらちゃんがあんなに言っていれば普通に躊躇うよ・・・」
ほむら「そう・・・良かった」
ほむら「・・・にしてもこの使い魔、アレに似てるわね」
シェリー「ええ、まるで古代兵器に・・・そりゃそうさ!」
ほむらシェリー「!!!」
キュウべえ「考えてみなよ、古代兵器に関わっていて現在行方不明な人物を・・・」
シェリー「・・・ゴロンゾのことね」
キュウべえ「そうさ、彼は魔法少女だったのさ!」
シェリー「なんだって!」
キュウべえ「その通りさ!」
シェリー「でもゴロンゾは何を願ったの?」
キュウべえ「彼は古代兵器を作るために僕と契約したんだ!」
シェリー「それであんなにすんなり行ったのね」
キュウべえ「そしてアレは壊されてしまった」
キュウべえ「暁美ほむらというイレギュラーによってね」
ほむら「じゃあ・・・こんなことになったのは私のせい・・・」
キュウべえ「まあ、そうとも言えるね」
ほむら「そんな・・・私がコルネットを・・・・・・」
シェリー「・・・・・・」
シェリー「ほむらちゃん、しっかりしろー!!」
ほむら「えっ」
シェリー「あれは壊さなきゃいけないものだった」
シェリー「それにほむらちゃんが壊さなくてもあたしが壊してた!!」
シェリー「これはしょうがないことなのよ・・・・・・」
シェリー「だからね、悲しまないで・・・」ギュッ
ほむら「・・・・・・うん」
ほむら「ええ・・・」
魔女「ドレ、モットチカズイテミンカ」
シェリー「コルネット!」
コルネット「お母さん!」
ほむら「とにかく今はこの魔女を倒すのよ!」
シェリー「ええ!!コルネット・・・頑張って!!」
_____
__
成竜フレール「グエェェェ!!」ボオォォォ!!
魔女「コノワシノヤボウガ・・・・」
シェリー「終わったの?」
ほむら「コルネット!!」
魔女「ウゴゴゴゴゴゴ!!!」
シェリー「危ない!」
ほむら「ただ、私をかばって死にかけているとしか」
コルネット「お母さん!」
ほむら「シェリー、しっかりして!」
ほむら「あなたが死んだらコルネットはどうなるの!」
シェリー「うっ・・・・・・」
キュウべえ「なんだい、シェリー」
シェリー「あたしと・・契約して・・・」
ほむら「ダメよ、それは絶対にダメ!!」
シェリー「大丈夫、ここで・・・・死ぬよりかは・・・マ・・シだか・・ら」
シェリー「それ・・に、前にい・・・ったで・・しょ、『女は行動力』って」
キュウべえ「ちなみにこの肉体はもう回復しないから別の肉体を用意してね」
キュウべえ「それじゃあ、君の願いはなんだい?」
シェリー「私の願いは・・・・・・」
_______
____
ほむら「ナイトスポーノは未来に送っといたわよ、シェリー」
ほむら「とりあえずコルネットが16歳になる頃にポストに入ってるわ」
クルル「もう、これからはシェリーじゃなくてクルルだって言ってるだろーが!」バシン!!
ほむら「ううう、そうだったわね」
クルル「ちょっとだけね、でもほむらちゃんを助けなかったら」
クルル「あたしはもっと後悔してたと思う」
ほむら「そう・・・」
コルネット「お母さん・・・・・」ムニャムニャ
ほむら「・・・・・・・・・・・」
ほむら「恐らく今のクルルじゃ出来ないと思うの」
クルル「・・・・・・・」
クルル「うんうん、確かにほむらちゃんならいいお母さんになれそうよね」
クルル「でもそれは出来ない、だってほむらちゃんはもう未来に帰っちゃうもん」
ほむら「・・・えっ」
クルル「このまえキュウべえに聞いたの、『ほむらちゃんはいつ未来に帰れるのか』って」
クルル「そしたらキュウべえ、今日の夜に未来へ戻っていくって言ってたの」
ほむら「そうだったの・・・・」パアッ
ほむら「あっ、手が消えてきた・・・」
クルル「大丈夫よ、コルネットはあたしが何とかするよ!」
クルル「カールにもうまく言っとくし」
ほむら「でも!でも!私はここからいなくなりたくない!」
ほむら「コルネットも、カールも、みんな大好きだから!」
クルル「ほむらちゃん・・・・」
クルル「それは、『コルネットが幸せになるまで見守っていたい』って言う願いだよ」
ほむら「そうだったの・・・」
クルル「それと、もしチェロって言う男の子に出会ったら伝えといて・・・」
クルル「『いろいろあったけど幸せな人生だった』って」
ほむら「分かったわ・・・」
ほむら「じゃあね・・・シェリー・・・ありがとう」
______
___
ほむら「ということがあったの」
まどか「そんなの絶対おかしいよ!!」
まどか「キュウべえ!」
キュウべえ「確かに彼女にはすごい資質があった・・・」
キュウべえ「でも彼女は願いの通りにコルネットが結婚して幸せになったら」
キュウべえ「すぐ天国に行ってしまったからエネルギーの回収は出来なかったけどね」
ほむら「ええ、もう行かなくては・・・・」
まどか「ほむらちゃん、大丈夫なの?」
ほむら「ええ、女は行動力よ」
_______
____
杏子「おせーぞ!!ほむら!」
ほむら「あら、ごめんなさい」
マミ「あなたも早く戦いなさい、今回は楽な戦いではないわよ」
ほむら「ええ」
ほむら(あなたがよく言ってた『女は行動力』という言葉の通りね)
ほむら(そしたら、これまでのループの中で最良の結果となったわ)
ほむら(まどかと美樹さやかは魔法少女にならず、誰も死ななかったわ)
ほむら(だからシェリー、見てて・・・)
ほむら「女は行動力よ!!!!」
完
Entry ⇒ 2012.10.09 | Category ⇒ 版権物SS | Comments (2) | Trackbacks (0)
照「怜と久どっちがモテるかに決着をつける」
照「もちろん。勝負にはしっかりと決着をつけないと」
久「危害が無いのなら喜んでするんだけど、流石に昨日みたいになるならちょっと……」
照「大丈夫。菫に内緒でやればいい」
菫「……誰に内緒でするんだって?」
照「!?」
菫「まだ懲りてなかったのかお前……」
照「こ、これは崇高な知的欲求のためであって邪な気持ちはない」
菫「人の心を弄ぶ時点で邪だろ!」
怜「ま、正直ウチは遠慮したいかなー。もう二回もやったし」
久「私はどっちでもいいかな。ボコボコにされるのは嫌だけど」ニコ
照「……菫が怒ったのは松実さんに手を出したから。それ以外の子なら問題ないはず」
菫「おいコラ」
照「菫だって途中までノリノリだったクセに、終わった後に文句言うのはおかしい!」
菫「そ、それは……」
照「それに昨日だって松実さんとしっぽり出来たのは私たちのおかげとも言える」
菫「そんなことはしていない!」
久「でもまた一つ距離が近づいたってことは事実なんじゃないの?」
怜「ウチらは委員長のために犠牲になったんやな」
菫「お前らいけしゃあしゃあとそんなこと……!」
菫「意味わからんことを言うな! こんなことはもう絶対に……」
久「体操服」
菫「!?」
久「松実さんのたい」
菫「ちょ、ちょっと待て!! ……ど、どういうことだ……?」
久「別に何も?」
照「体操服がどうしたの?」
怜「さあ、意味分からん」
久「ふふふ……」ニヤニヤ
菫(こ、コイツ……まさかあの時……)
菫「待て! ……お、脅す気か?」
久「別にそんなつもりはないわ。ただ、見守ってくれればいいだけで♪」
菫「た、竹井……!」
照「……え、二人とも何の話してるの?」
怜「久が照のために交渉してくれてるんや。優しいなー」
久「別に弘世さんにこれ以上のデメリットが生まれるわけでもないし、ね? ちょっとくらい肩の力抜きましょうよ」
菫「……何か問題が起こった瞬間に止めるからな」
久「だそうよ、宮永さん」
照「さすが菫! 話がわかる!」
怜(久は絶対に敵に回したくないなぁ)
久(人がいない時間だったとは言え、教室であんなことしてる方が悪いと思うけどね……)タハハ
照「それじゃあ早速くじを引いて行こう」
久「いっきまーす。……えっと、>>24?」
怜「また悪い顔しとる……」
照「愛宕さんって、隣のクラスでソフトボール部の?」
菫「体育の時間、よく声を出して目立ってる彼女だな」
怜「久と友達なん?」
久「まあね。1、2年まではクラス同じだったし、そもそも同じ生徒会だし」
照「生徒会……あ、副会長だ」
菫「知らなかったのか……」
久「まったく顔も知らない1年生とかに比べたらまだやりやすいわね」
照「これもまた好記録が期待される。怜は二回目失敗だから、タイム次第では決着がつくかもしれない」
久「とりあえず行ってくるわー。たぶん……ソフトボール部の練習中でしょうね。連れ出すのに骨が折れそうだわ」
怜「生徒会があるー、とか言えばホイホイ付いてくるんとちゃうん?」
久「あの子はそんな簡単な性格じゃないのよね……」タハハ
照「これは4回目にして最大の強者なのかもしれない。とても楽しみ」
――――――――
久(さて、どうしたものか)
久(ある程度なら良いんだけど、あまりにも身近な人間になると逆に難しいわよね)
久(ゆみもかなり厄介だったけど、昔の話があったからまだやりやすかったのよね)
久(洋榎の場合は……ふふ、まあ。分の悪い勝負ほど面白いしやりがいもあるわ)
洋榎「なにやっとんねアホー! そんくらい2年やったらしっかり取れや! 次レフトー!」
久(やっぱり絶賛練習中かー。同じ部長なのにこっちは精が出るわねー)
末原「あ、会長」
久「ん?」
久「あら、末原さん」
末原「珍しいですね、会長がこんなとこにいるなんて」
久「まあね。ちょっとあなたのとこの部長に用があって」
末原「主将に? ……あ、生徒会ですか」
久「ま、そんなとこねー」
末原「ホンマすんません。所属してるにも関わらずあの人ロクにそっち行かんくて」
末原「ホンマですか? 生徒会長の肩書きが欲しいとかっていう不純な動機で立候補したあの人が仕事こなしてるなんて……」
久「興味が色々なところに向くってだけで、根は真面目だから」
久「それに部長としての役割もしっかりこなしてるじゃない」
洋榎「そんくらいのフライ追いつけやどアホー!!」
末原「ま、頼りになる主将ですよ」
久「本当ならもっと生徒会に来て欲しいんだけどねー」
末原「あんまり独占されるのはウチらとしても困りますからね」
久「今でも十分独占してると思うけど? あなたたちが」
末原「そう簡単には渡しません。生徒会立候補するって言うたときも全員で反対したくらいですからね」
久「ホント、愛されてるわねー」
末原「っとすみません。今はあんまり構えそうにないです」
久「いえいえ。お忙しいところごめんなさいね」
末原「もうすぐしたら昼休みなんで、そんときなら主将も暇やと思います」
久「ご親切にどうも。ゆっくり見学でもさせてもらうわ」
末原「よろこんで」ニコ
末原「今行きまーす!」タタタッ
久(上がしっかりしてる組織はやっぱり違うわねー……今年の全国も楽しみね)
久「いい天気……ま、のんびり行きましょう」
――――――――
洋榎「よし、休憩や! 各自しっかり水分取るようになー」
洋榎「練習再開は……任せたわ恭子!」
恭子「了解です」フフ
洋榎「ふー。あっちっちー……」
久「お疲れ様」ピタ
洋榎「ひゃっ!? ふ、普通に水も渡せんのか……って、久?」
久「はろー。今日も気持ち良さそうにやってるわね」
洋榎「なんでここにおんねんお前……」
久「あら、私が放課後のグラウンドにいちゃおかしいかしら」
洋榎「おかしいな。何か企んでるようにしか思えん」ジト
久「あ、あはは……」
久(のっけから手強いんだけど……)
久(ゆみと言い洋榎と言い、頭が回る子は厄介ねー……)
洋榎「言うとくけど、今日はフルで練習あるからそんなには構えんぞ?」
久「分かってるって。私だって部活中のあなたの邪魔をしようなんて思ってないから」
洋榎「ほんなら何の用やねん……」
久「えーっと……あ、そう言えば。昼休みってだいたいどのくらい?」
洋榎「1時間かそこらやな。それがどうした?」
久「いえ。いつまで洋榎と話ができるか気になって」
久(制限時間付き……これはもしかしたら無理かもしれないわね)
洋榎「なんやねん変なヤツやな……話なんて部活終わったあとかクラスでも出来るやろ」
洋榎「ん、ああ……どこ行く?」
久「適当な木陰でいいわ。部室は人が多いでしょうしね」
洋榎「んじゃそれで。っとその前に飯を調達せんとなー……」
洋榎「ふふ、おごってや久。お話料金ってことで」キラーン
久「分かったわよ……ホント、ちゃっかりしてるんだから」
洋榎「やた!」
―――――――――
洋榎「ふー。やっぱここは涼しくてええなぁ」
久「ええ、そうね。グラウンドも良く見えるし」
久(……油断してるときにキスするってアリかしら?)
久(相手の同意を得て、だからアウトよね…………難しいなぁ)
久(部活中の洋榎ってのも普段あまり見ないから新鮮ね。上は黒シャツ、下はユニフォームで……可愛い)ジー
洋榎「……なんやねんジロジロ見て。あげへんぞ」
久「そんなこと言わないでよ。一口ちょうだい?」
洋榎「お前一口とか言ってほとんど食べてまうやろ。あげへん」
久「それはいつも洋榎がしてることじゃない」アハハ
久「ね? ちょっとだけだから」
洋榎「たっく、しゃあないな……ほれ」
久「あむ」
洋榎「あっ!?」
久「ふふ、おいしー♪」
洋榎「このどアホ!! やっぱりほとんど食ったやんけ!」
久(指ごと食べたのはスルーなのね……)
洋榎「その焼きそばパン寄越せ! それでチャラや!」
久「しょうがないなぁ……少しは残してね? はい、あーん」
洋榎「あーんむっ」スカッ
洋榎「……おい」
久「なに?」ニコニコ
洋榎「なにちゃうわ! ちゃんと食べさせろやボケ!」
久「もう、そんなに怒らないでよ 。ちょっとした冗談じゃない。はい、あーん」
洋榎「あーんむっ」スカ
洋榎「おいコラ!!」
久「くふふ……! お腹いたい……」
洋榎「お前なー……!!」
洋榎「なにが犬や! それ寄越せ!」バッ
久「ちょ、やめっ」
洋榎「その焼きそばパン全部食ったる……!」グググ
久「な、なんでそんなに必死なの!?」グググ
久(あれ、これってもしかして……チャンス?)
洋榎「よーこーせー……!」
久(わざと力を抜いて……)
洋榎「のわ!?」
久「きゃっ」
「「…………」」
洋榎「……す、すまん」
久「べ、別に大丈夫よ?」
久(押し倒されてるってなんか新鮮な気分だわ)
久(しかも相手が洋榎……新聞部あたりに抜かれたら一面飾りそうね)
洋榎「重いやろ? 今退くわ」
久「待って」
洋榎「え?」
久「……」スッ
洋榎(久の手、顔に添えられて……)
洋榎「はっ……?」
久(って流石に無理か)
久「いや、なんかこうね、むらむらーっとしちゃって」ハハハ
洋榎(コイツ、今……キスしようとしたんちゃうか……?)
洋榎「……なんのつもりや、久」ジト
久「別になんのつもりもないって」
洋榎「嘘つけ。今明らかに変なことしようとしてたやろ」
久「やあね。キスなんてスキンシップみたいなもんじゃない」
洋榎「……」ジットー
久(すっごいジト目……半分睨んでるし……)
久「えっ……あ、あはは。情報早いわね。え、誰から聞いたの?」
洋榎「んなことはどうでもいい。……生徒会の仲間にまで手出すとはどういう了見や」ギロ
久「あ、あれは、えと、昔を思い出しというか、その……」シドロモドロ
久(ヤバい、怖い)
洋榎「久、お前がどこぞの女と一緒にいようが何をしてようがウチは知らんしどうでもええけどな、これだけは覚えとけよ」
洋榎「超えて良いラインとあかんラインの線引きだけはしっかりしろ」
久(なんか私お説教されっぱなしね……)
久「酷いこと言うのね」
洋榎「酷いのはお前や。地に足着かんとふらふらふらふら……」
久「地に足着いちゃうと空を飛べなくなっちゃうじゃない。そんなの不自由だわ」
洋榎「不自由さの中に幸せがあるもんや」
久「そんな幸せ、いらないわ」
洋榎「お前なぁ……」
洋榎「……で、ゆみに何したんや? アイツ今日一日上の空やったんやぞ」
久「マジかー……これはワンチャンあったり?」
洋榎「質問に答えろ」
洋榎「は?」
久「いや、してもらった、って方が正しいのかしら」
洋榎「お前、ゆみには……」
久「心配しないで。とっくに諦めてるし、今さら何かしようなんて思ってないから」
久「ただ昨日は……昔を思い出しただけなの」
洋榎「……」
久「いいじゃない。私だって、清算したい過去の一つくらいあるわ」
久「その一つを片付けた。ただそれだけ」
久「明日にはゆみも元に戻ってるわよ。断言していいわ」
洋榎「はぁ……お前ら二人に何があったとか詮索はせんけども……」
久「分かってるって。副生徒会長様」
洋榎「分かっててなんでウチにキスなんてしようとした? おぉ?」
久(うっげー……)
洋榎「何が目的か洗いざらい吐いてもらおうか……」
久(これもう無理だと思うんだけど……)チラ
照(続行!)
久「はは、なかなかの無茶ぶりね……」
洋榎「?」
久「そんなものはないわ。洋榎とキスがしたかった、それだけじゃダメかしら?」
洋榎「っ……お前、本気でウチをたらし込もうと思っとんのか」
久「だとしたらどうする?」
洋榎「死んでも断る。さっき言ったやろ。今の生徒会に悪影響を」
久「どうでもいいわ」
洋榎「えっ?」
久「そんなもの、どうでもいい」ギュ
洋榎「ひ……さ……?」
洋榎「……ふざけんな。冗談も休み休み言え。離れろ」
久「洋榎には冗談に聞こえるの? 私の言葉が」
洋榎「年中女を取っ替え引っ替えしてるお前の言葉なんか信用できるわけないやろ。離れろ」
久「そう。やっぱり私ってそんな風に思われてるのね……悲しいわ」ポロ
洋榎「っ……!」
洋榎「……お得意の嘘泣きか? そんなもんじゃウチは騙されへんぞ」
久「本当か嘘かは洋榎次第でしょ。私の気持ちは関係ないんじゃないのかしら」
洋榎(コイツ……)
洋榎「……」
久「洋榎がただ単に優しいから? それとも……」
洋榎「お前が思っとるようなことだけは無い。断言したる」
久「ふふ、そっか……それを信じるかどうかも私次第ね」
洋榎「はぁ……まず大前提として言うとくけどな、ウチにそういう趣味は無い」
久「愛に性別なんて関係ない。洋榎はそう思わない?」
洋榎「……思わんな。永遠に続くわけでもない、ただ将来不幸になるだけの恋愛なんて、不毛や」
久「好きって気持ちの前じゃ、そんなこと考えられなくなるの」
洋榎「ウチには一生分かりそうにもない感情やな」
久「本当にそう思うなら試してみる?」
洋榎「……」
久「私ならあなたに……この素敵な気持ちを知ってもらえる自信がある」
洋榎「……はぁ。もうええやろ。これ以上やってもウチはお前とキスなんて絶対にせん。時間の無駄や」
久「怖いのね」
洋榎「……どういうことや?」
久「私にキスされて……恋に落ちることが」
久「ならしましょう。洋榎の言うことが本当なら何の問題もないわ」
洋榎「……それとこれとは話が別やろ」
久「そんなことないわ。私は自分の気持ちをあなたに伝えるためにキスをする」
久「洋榎は自分の恋愛観が正しいと証明するためにキスをする」
久「これ以上に利害が一致していることも無いと思うけど」
洋榎「……お前がキスしたいがためだけの口車には乗せられん」
久「どうしてそこまで拒むのかしら。洋榎が私とのキスを友人同士のスキンシップだと思えていないように思えるわ」
洋榎「そっ……そんなことあるか!」
久「なら、どうしてそんなにも拒むの」
洋榎「そ、それは……」
洋榎「……!!」
久「それでいて生徒会が今の生徒会じゃなくなって、私たち四人の関係が変わるのが怖くてたまら……」
洋榎「もうええ。邪魔臭い」
久(おっ?)
洋榎「お前には何をどう言うても無駄らしいな……」
洋榎「どうせこのままウチが逃げたとしても、自分の考えが合ってたと満足するんやろ……」
久「その通りだから逃げるんじゃないの」
洋榎「ふざけるな。お前のふざけた妄想、真っ向から叩き潰したる」
久(キター)
―――――――――
菫「信じられん……あそこまで頑なに拒んでいたのに……」
怜「洋榎のあの性格が災いしたな。挑発に乗せられたもんやろ、アレ」
照「相手によって巧みに戦術を変える……さすが久……」
怜「でも最後まで油断は出来んのとちゃう? って本人その気やし大丈夫か……」
照「わくわく」
―――――――――
洋榎「キス一つでウチがお前に惚れるわけないやろ。ふざけたこと抜かした上に妄言をぺらぺらぺらぺらと……」
久「それは実際にしてみないと分からないことだからねー♪」
洋榎「ほら、さっさとしろ。数分後久の吠え面が聞こえるわ」ドキドキ
久(一時はどうなることかと思ったけど……案外なんとかなるもんねー)
洋榎「な、なにジロジロ見とんねん。はよしろや」ドキドキ
久「えっと……洋榎? キスするときは普通目は閉じるのよ?」」
洋榎「なっ……!?」
洋榎「そそ、そんくらい言われんでも分かっとるわアホ!!」
久(ふふ、ウブウブねー……洋榎、絶対に初めてだわ……)
洋榎「ぅぅ……くそぉ……なんでウチはこんなこと……」
久(……洋榎のキス顔。写メ撮っとこ)パシャ
洋榎「……おい、なんやねん今のお」
久「ん……」チュッ
洋榎「……!?」
――――――――
洋榎「……」ポケー
久「……くふふ、毎度アリ♪」
洋榎「……は!?」
洋榎(あ、アカン、ぼーっとしてた……い、今のが……)ドキドキ
久(なんか顔赤いし、これもしかしたらもしかしちゃったり……ん?)
久「あ」
洋榎「あ?」フリムキ
末原「……」
絹恵「……」
久(あっちゃー。すっかり野外だってこと忘れてたわ……)
久(でもなんか面白くなりそう)ワクワク
末原「主将……?」ユラユラ
絹恵「おねえちゃん……今、なにを……?」ユラユラ
洋榎「ご、誤解や二人とも! ここ、これには深いわけが……!!」
久「洋榎のファーストキスはこの竹井久だぁ!!」バァン
末原「!?」
絹恵「!?」
洋榎「なにいうとんねんお前!?」
久「いやー、これ言ってみたかったのね。あ、ちなみに無理やりでもないしオッケーしたのは洋榎だから。それじゃあ」タタ
洋榎「お、おい!?」
洋榎「……」サーッ
末原「……他の子は練習始めてるのに、自分一人だけええご身分ですね、主将」
絹恵「お姉ちゃん、おっけーしたってどういうこと……?」
洋榎(……あ、アカン……悲惨な未来が……)
絹恵「きっちりと」ゴゴゴゴゴゴ
末原「説明してもらいましょうか……?」ゴゴゴゴゴ
洋榎「」
―――――――――
久「ただいまー。いやぁ、今回はキツかった」
怜「ほんまいつか刺されんで」
菫(愛宕……)
照「タイム、1時間26分。戦略、技術、どれを取っても文句無し。見事なお手並みだった」
久「昼休み入るまでの時間が無かったらもっと早かったんだけどなぁ」
菫「愛宕相手と考えれば唇を奪っただけでも恐ろしい話だ……」
怜「もうこれウチの負けでええと思うんやけども……」
照「まだ分からない。逆転のチャンスは……あるのかな?」
久「どうかしら? 私もかなり身を削った結果だしねー。洋榎にボコボコにされる気がするわ」
菫(愛宕だけで済むのか……?)
照「……たぶんかなりリードして久が勝ってる」
菫(タイム忘れたのか……)
照「早速、各々最後の検証に」
怜「なあ、ウチら二人はもうええと思うんやけども」
照「……どういう意味?」
久「ここにもう一人いるじゃない。モテモテな女の子が」
菫「……ああ、なるほどな」
照「?」
怜「ウチと久のどっちかが3回やったまま終わるのはキリも悪いから」
怜「最後に照がやってみれば?」
照「……えっ」
菫「妙案だな」
久「私も賛成ね、面白そう」
照「ま、待ってみんな。これは怜と久、どっちがモテるかの崇高な研究であって……」
怜「二人ずつやって思ったけど、たぶん同じくらいやで」
久「私が松実さん引いててもキス出来なかっただろうしね」
菫「それよりもまだやってないヤツを検証した方が、研究結果としても有用なデータになるだろ」
照「私はモテたことなんて一度も無い」
怜(なに言うとんねんコイツ)
久(自覚ないのも重傷ね)
菫「いつもお前にべったりなあの後輩二人はどう説明するつもりだ……」
照「そ、それは……」
怜「まあつべこべ言わずに引きや」
久「そうそう。案外隠された才能が開花するかもよー?」
菫「このくだらん研究のラストを発案者が飾らずにどう落としまえをつけるんだよ」ニッコリ
照「」
怜「おおー」パチパチ
久「さすが宮永さん」パチパチ
菫「ほら、とっとと引け」
照「……」ガサゴソ
照「……>>215さん」
菫「は!?」
照「玄さん」
菫「……」ジットー
照「ふふふ……いたい!?」
怜「松実玄? 松実さんと同じ名字やけども、なんか関係あるのん?」
久「妹さんね。一個下で2年生の」
菫「……おい照、宥の親族だ。ふざけた真似はするなよ」
照「……初対面の相手にどうこう出来るほど、私は出来た人間じゃない」
怜「そういえば人見知りやったな、照」
久「なんか面白くなりそうね♪」
怜「ギブアップ無し言うたの誰や」
久「さっきの無茶ぶりもだいぶ効いたわよ?」
照「うぅ……」
菫「ま、覚悟を決めるんだな」
久「松実玄さんも確か料理研だから、今なら部室にいるんじゃないかしら」
怜「おらんかったら教室やな」
照「……知らない人のところに行くのは怖い」
菫(見つけるのが一番時間がかかりそうなんだが……そもそも場所を分かってるのか……?)
――――――――――
照(遂に一人になってしまった……)
照(そもそも前提がおかしい。初対面の相手にキスなんて出来る訳がない)
照(みんな頭おかしい……)
照「とりあえず料理研に行かないと」
照「家庭科室は確か……」
照「北」
照「……」テクテクテク
―――――――――――
菫「おい、アイツどこに向かって歩いてるんだ」
久「あの方向だと一年棟ね」
怜「これウチらが途中まで付いてった方がええんとちゃうん?」
久「面白そうだしもう少し観察しましょう」
―――――――――
照(あれ……ここ……1年の時の私たちの教室……)
照(家庭科室はこんなところには……)
照(ん? あれは……ダンス部の1年生たち? ってことは……)
淡「ワン、ツー、スリー、フォー、ワン、ツー……」
照(淡だ……)
照(そうだ、淡に家庭科室の場所を聞けば。いや、でも練習中だし……)
淡「……?」
照「うーん……」
淡「あ、テルー!」
淡「どうしたのテルー!? 一年棟にいるなんて!? 珍しい!」ピョンピョン
淡「あ! もしかしてダンス部に入部……!」
照「ち、違う。道に迷っただけでここに用はない」
淡「そうなんだ……面白くなーい」ブー
照「淡、練習中だったんでしょ? 勝手に抜け出したらダメだよ」
淡「確かに」ハッ
淡「でもせっかくテルが来てくれたんだからお話したいな……」
照「家隣だし、いつもしてると思うんだけど……」
淡「テルー暇なの? 暇なら私たちのダンス見てってよ!」
照「ごめん。会いに行かないといけない人がいる」
淡「え」
照「それじゃあ、練習頑張って」テクテクテク
淡「あっ……」
淡(こんなところまで来て、一体誰に……?)
――――――――
照(うーん……家庭科室が見つからない……)
照(そもそも学校にこんな場所あったっけ……?)
照(迷った……)
――――――――
菫「部室棟で何してるんだアイツ……」
久「完全に迷ってるわね」
怜「さっきいつもの後輩ちゃんと出くわしたんやから道訊けばよかったのに」
菫「そこまで頭が回らなかったか、よっぽど急いでるのか……」
久「その後輩ちゃんも私たちと同じことしてるけどね」
怜「えっ? ……あ。ほんまや」
菫「こっちには気付いてないらしいな……」
久「なんか面白くなってきたわね……!」キラキラ
―――――――――
照(見慣れた場所に出て来た……そうか、ここは部室棟だったのか……)
照(部室棟……ってことは……)
照「……文芸部だ」
照(いるかは分からないけど、もし咲がいるなら家庭科室まで……)
照「す、すみませーん……」ガチャ
咲「はい……って、お、お姉ちゃん?」
照(いた!)パァァ
咲「えっと、どうしたの? 今日は部活ないけど……」
咲「えっ? う、うん。部室の掃除してただけだから暇だけど……」
照「家庭科室まで連れて行って欲しい!」
咲「か、家庭科室? ど、どうしてそんな場所に……」
照「大切な用事があって」
咲(大切な用事……?)
咲「よ、よく分かんないけど家庭科室まで行けばいいんだよね?」
照「うん」
咲「分かった。それじゃ行こっか」
咲「あ、戸締まりするからちょっと待っててね」
照(あぁ……咲みたいな妹がいて良かった……)
方向音痴2人いたらさらに迷うんじゃ・・・
――――――――
怜「あれ、後輩ちゃんコンビの片割れが」
菫「照の妹……やっと案内役を見つけたか」
久「宮永さんにこんな迷子癖があるとはね……ん?」
久(金髪ちゃんの方がめちゃくちゃ睨んでる……)
怜「だ、大丈夫かあの子? 今にも飛び出しそうな雰囲気やで」
菫「こっちにまで影響が出るなら私たちで止めるしかないだろうな」
菫「っておい、あの二人一体どこに向かって歩いてるんだ……家庭科室は真逆……」
――――――――――
咲(あ、あれ……家庭科室って、こっち、だよね……?)
照(この辺り、昨日来たことがあるような……)
照「ねえ咲。道、あってるよね?」
咲「う、うん! あともうちょっとだから私に任せて!」
照「さすが咲。頼りになる」
咲「えへへ……」
照(松実玄さん……いったいどんな人なんだろう……)
咲「あ、あそこの角を曲がれば家庭科室だよ!」
照「おお、遂に」
―――――――――
久「家庭科室、だけど……」
怜「第二家庭科室やんな、あそこ」
菫「本来の家庭科室からは真逆だし、そもそも家庭科室は3階じゃなくて1階なんだが……」
久「いつになったらターゲットに巡り会えるのかしらね」タハハ
―――――――――
照「咲、あとはもう分かるから大丈夫。部室に戻ってくれていいよ」
咲「えっ……そ、そう? どうせだし、最後まで付き合おうか?」
照「私一人じゃないと色々と都合が悪いから……」
咲(ど、どういうことなんだろう……)
照「ここまでありがとう咲。それじゃあ」テクテク
咲「あっ……」
咲(……)
―――――――――
照「ふぅ。やっと着いた。やっと松実玄さんに会える……」
照(やっぱり部室の中にいるのかな……?)
照(でも、部員の注目を浴びて中に入った結果、いなかったら恥ずかしすぎる……)
照「迂闊に動けない。どうすれば……」
玄「それでは、失礼しました」ガラッ
照「!」
照(誰か出て来た! たぶんお料理研の部員……ここは……)
照「そ、そこのあなた」
玄「えっ? は、はい、なんでしょう?」
玄「えっ……あ、えっと、松実玄は私ですけど……」
照「あなたが!?」
玄「ひっ!? は、はい……」
照「……会いたかったです」ウルウル
玄「!?」
――――――――――――
怜「……どういうこと? なんで松実さんの妹が第二家庭科室におるん?」
久「お姉さんが手芸部だし、お姉さんに何か用があってここまで来たんじゃないかしら」
菫「ということは、家庭科室に行っていたら会えなかったわけか……すごすぎるだろ……」
久「妹さんも金髪ちゃんと合流して監視始めてるし、これは面白いことになるわよー」
――――――――――
玄(知らない人だけど、どうして私のこと知って……)
照「……っとすまない。感極まって名乗り遅れた。3年の宮永照です」ペコリン
玄「えっ、あっ、ご親切にどうも。2年の松実玄です」ペコリン
照「……」
玄「……」
照(こ、ここからどうすればいいんだろう……)タラタラ
玄(この状況は一体……)タラタラ
玄「み、宮永さん、でよろしいでしょうか?」
照「は、はい」
玄「えっと……私に何か御用でしょうか……?」
照「ご、御用? あっ、キスしてください」
玄「……ふぇ!?」
照「は、はい。御用はそれだけです」
玄(ど、どどどどういうこと……!?)アワワワワ
――――――――
怜「くふふふ……!!」
久「お腹いたい……!!」
菫「ふふっ……わ、笑うなバカ……ふふっ……!」
――――――――
淡「んーっ!! んっー!」
咲「だ、ダメだよ淡ちゃん! 大声だしたらバレちゃうって!!」
咲(お、お姉ちゃん一体何を……?)
――――――――-
照「え、えっと……返事を聞かせてもらってもいいでしょうか……?」
玄「へっ? あ、えっ、そそそ、そのっ……ご、ごめんなさい!!」ペコ
照「」ガーン
玄(しょ、ショック受けてる……)
照「そう、ですか……理由を訊かせてもらってもいいですか……?」
玄「り、理由!?」
玄「え、えっと、初めてお会いした方と、キスは、出来ません……ごめんなさい……」
照「初めて、会ったから……で、でもっ!」
照「片岡優希さんは初対面の人とキスしてました!」
玄「えええ!?」
照「はい。軽くですが……初対面の私の友人とキスしてました」
玄(ど、どどど、どういうこと……!? )
玄「ほ、本当、ですか……?」
照「本当です。証拠もあります。これ……」ピラッ
玄「しゃ、写真?」
玄「」
照「だから、その……初めて会ったから、というのは理由にならないと思うんですが……?」
玄「り、理由にならない……?」
玄(で、でも……!)
照「キス、してもらえないでしょうか……?」
玄「えっと、その……」
玄「キスは、好きな人とすることですから、その……私なんかとじゃ……」
照「私は松実玄さんが好きです!」
玄「そ、そんなっ……そんなこと急に言われても……」カァァァ
照「松実玄さんは、私のこと好きですか?」
玄「えっ!?」
玄「は、初めて会った人なのに……好きとか、嫌いとか……」
照「嫌い、ですか?」
玄「……き、嫌いでは、ないですけど……」
照「じゃあ好き、ってことですよね?」
照「それなら、私とキスして欲しいです」ギュッ
玄(あっ……手……)
玄「そ、そんな、でも……あ、あぅぅ……」カァァ
―――――――――
怜「なんやねんあの小学生並みの押し問答は……」
久「相手の冷静さを徐々に奪い、思考能力を低下させた上で懇願する……案外良い作戦かもね」
菫「本人は何も考えずに頼み込んでるだけだろうけどな……
玄(それに、じっと私の目を見つめる宮永さんの顔……すごく凛々しくて……)
玄「あぅ……」ドキドキドキ
照「もう一度言います。好きです、松実玄さん。もしよろしければ……私とキスして欲しいです」ギュッ
玄「み、宮永さん、そんなことっ……」
照「お願いします……一瞬だけでいいんです。だから……」
玄「……わ、分かり、ました……」
照「!」
ドンガラガッシャーン!!
照「猫です」
玄「ね、猫……?」
照「それじゃあ……えっと、失礼します。松実玄さん」
玄「へっ? は、はいっ……! よ、よろしくお願い、します……?」
玄(考えてみたら、私、なんで知らない先輩にキスされそうになって……)
照「……」チュッ
玄「!」
照「ありがとうございました。松実さん」キリッ
玄「は、はい……」ヘナヘナ
玄(おでこ……)
――――――――――
照(ふぅ……大変だった……)
照「ってわぁ!?」
照「な、何やってるのみんな? って、咲と淡、なんでそんな……」
怜「いや、ロープ……」
咲「んーっ!!」ジタバタ
淡「~~~!!」モガモガ
久「宮永さんが松実玄さんに好きだって言ったあたりで取り押さえたわ」
菫「私もつい雰囲気に流されて手伝ってしまった……」
照「二人とも私を心配して付いて来てくれてたのか……」
久「タイムは1時間26分。1時間ほど彷徨ってたから、あなたが一番恐ろしいタイム叩き出してるわよ」
照「誰も唇になんて言ってない。二人は勝手に唇にしてたけど」
久「そりゃ、キスって言えば唇でしょ」
怜「ウチもそう思うわ」
菫(二人は勝手に難易度を上げてた、ってことか。それであのタイム……)
照「さて、実験も円満に終了したし……結果発表しないと」
怜「もはやどうでもいい……」
久「まあ、締めくくりってことで」タハハ
照「まず1位は久ね。二人の強者を落としてタイム的にも文句無し」
菫「まあ異論はないな」
怜「おめでとー」
久「全然名誉なことじゃないと思うんだけど……」
照「松実さんは落とせなかったけど、十分健闘したし2位に値する。おめでとう」
久「拍手ー」パチパチ
怜「うーん、嬉しく無い……」
照「以上。実験終了」
菫(……見事に三者三様の落とし方とその力を見せつけた訳か。実質全員1位みたいなもんだろこれ……)
照「もう帰っていいよ、みんな。協力してくれてありがとうね。夜道には気をつけて」
「「おい」」
終わり
これがきっかけでギクシャクしちゃったかじゅモモとかも見てみたい
Entry ⇒ 2012.10.09 | Category ⇒ 咲-Saki-SS | Comments (3) | Trackbacks (0)
照「怜と久ってどっちがモテるの?」
菫「いきなり何を言ってるんだお前は」
照「二人ともすごくモテるって聞いた」
照「実際、怜も久もよく色々な女の子と一緒にいるし、たくさん告白もされてる」
怜「それは、まあ……」
照「ここで一つの疑問が生まれた。最強の女たらしはどっちなのか」
怜「ちょ」
菫「言いようがいきなり酷くなったな……というより嫌な予感しかしないのだが……」
照「ここは白黒ハッキリ決めるべきだと思わない? いや、私が気になるから決めて欲しい」
照「じゃあ怜が最強の女たらし? 病弱を武器にたくさんの女の子を弄んでる外道?」
怜「ふざけんな! 風評被害も良いところや!」
照「じゃあ久が最強の女たらし? 数々の甘い言葉で女の子を弄んでる外道?」
久「……本人に聞こえるところでそういうこと言わないでくれるかしら?」
照「あ、ちょうどいいところに」
久「一体なんの話をしてるのあなたたち……」
菫「竹井と園城寺、どっちがモテるのか気になるそうだ」
照「気になる」
久「も、モテるって……」
照「おおー」
久「あ、あれはあの子に無理やり手を引かれただけだから、私は何もしてないわ」
久「そういう園城寺さんだって色々な女の子に膝枕してもらってるって聞いたけど、どうなのかしら」
怜「そ、それはちょっとしんどなった時に、たまたま居合わせた子にやってもらっただけで……」
菫「お前ら二人とも……」
照「さて、アピールタイムはこの辺にして」
怜「おい」
照「これはもう勝負で決めるしかない」
怜久「「……勝負?」」
うえのさんにもわたしがいます
怜「なるほど」
久「確かに分かりやすいわね」
菫「お前らなんで乗り気になってるんだ……」
怜「ウチが女たらしなんて風潮見過ごすわけにはいかんからな」
怜(ちょっとおもろそうや)
久「ま、同じ理由ね」
久(すごく面白そうだわ)
怜「で、落とすの定義は具体的になんなん?」
久「それもそうね。告白して付き合うまでなんてやってると一日じゃ終わらないわ」
照「落とすの定義……うーん……」
菫「……相手の同意を得た上でキスをする、はどうだ」
久「あら、良い案ね」
怜「お堅い委員長の口からそんな言葉が出るとは」
菫「うるさい」
菫(この辺りで落としどころをつけておかないと、ターゲットにされる人が不憫だからな……)
照「それじゃあ実はムッツリな菫の名案を採用させてもらう」
菫「おい!」
怜「なんでもええよ」
久「特に異論はないわね」
照「それじゃあ早速スタート。この箱の中に紙が入ってあるから、それに名前が書いてる子がターゲットね」
菫「お前いつこんなもの作ってたんだ」
照「授業中」
菫「はぁ……」
怜「順番はどうする?」
久「うーん、別にどっちでもいいわよ? 短縮期間で時間もあるしね」
照「怜が女の子をはべらしてるとこを間近で見られるなんて感動」
久「ふふ、面白そうで何よりだわ♪」
菫(参考になったり……するのだろうか……)
怜「ホンマぶれへんなアンタら……えっと……>>48?」
照「1年生で咲のお友達」
菫「照の妹の……」
久「お料理研究部に所属してる子ね。美穂子から聞いたことあるわ」
怜「初対面の人に当たるとは……」
照「怜の手腕が問われる。すごく楽しみなマッチアップ」
菫(相手の子が不憫でならん……)
久「今の時間帯なら教室か料理研の部室にいるんじゃないかしら?」
怜「そっか。んまあ、とりあえず行ってくるわ」
照「頑張って。見えないところで監視しとくから」
怜「やっぱり後つけられんのか……まあええけども」
原作の設定じゃないんだな
―――――――
怜(さて、どうしたものか……)
怜(いくらなんでも初対面の子からキスしてもらうて……無茶やろ)
怜「なあ照ー、これってギブアップとかありなんー?」
照「ギブアップは宣言と同時に負けー」
怜「厳しいなぁ……」
怜(って言うてる間に一年棟か。進級してからはほとんど来ることなんてなかったなぁ……)
怜「……この教室か」
怜(上級生が単身教室に乗り込んでくるなんて、注目の的やろなぁ)
泉「はい、なんですか?」
怜「片岡優希さんってのはどの子? 今クラスにおる?」
泉「片岡ですか? 片岡ならあそこに……」
優希「うぅー、宿題終わらないじぇー……」
憧「なんで一週間前のヤツを今やってるのよ……」
和「宿題の存在を忘れてたそうです」
穏乃「あはは、優希は相変わらずだなー」
和「穏乃もしてませんでしたよね、その宿題」
穏乃「え」
怜(……優希って呼ばれてたあの子か。ふむ、なるほど……)
泉「は、はい」
泉(三年生が一年の教室に何の用だろう……?)
ザワ……ザワ……ザワ……
怜(……目立つんも趣味やないし、早く教室から出たいんやけど)
怜(はたしてどういう作戦でいくか……)
怜(……まずは二人きりになることからか)
怜「楽しそうにしてるとこ悪いけど、片岡優希さんってのは君かな?」
優希「ん……? お姉さんだれだじぇ?」
穏乃(三年生?)
和(上級生がこんなところに……珍しいですね)
優希「部長が? 一体なんの用だじぇ」
怜「なんでも至急部室に来て欲しいとかで、さっき一年棟の近くで通りすがったときに連れ出すよう頼まれたんや」
優希「おお、それは一大事だじぇ! これは今すぐ向かわないと!」
憧「宿題しなくてもよくなると急に元気になったわね……」
和「優希、早く用事を済ませて続きをやるんですよ?」
優希「心配しなくても大丈夫だじょ! 伝言ありがとう見知らぬお姉さん! 早速行ってくる!」
怜「あー、ウチも福路さんに話あるから一緒に行くわ。部室まで連れてって」
怜「うん。クラスのことでちょっとな」
優希「分かったじぇ。それじゃあみんな、ちょいと行ってくるから待っててくれ」
憧「はいはい。帰ってこなかったら承知しないからね」
和「本当に進級できなくなっちゃいますよ?」
優希「二人とも心配しすぎだじぇ」
憧「一人もっとヤバいのがいるから心配してあげてるんでしょ」
穏乃「う、うるさいなー! 今は私は関係ないだろ!」
和「関係あります。優希が席を外してる間に宿題見てあげますから、今すぐやってください」
穏乃「そんなぁ……私学食行きたいのに……」
憧「はぁ、このおバカは本当に……」
怜「急に現れてごめんやで。そんじゃ行こか、片岡さん」
優希「おう! 案内は任せるじょ!」
――――――
優希「~♪」
怜(連れ出すのには成功したけど……ここからやなぁ)
怜(いかんせんこの子がどういう子かも知らんし、仲良くなるのも踏まえて色々話てみよかな)
怜「……片岡さん料理研らしいけど、なんで料理研に入ったん?」
優希「タコスの作り方を学ぶためだじぇ!」
怜「た、タコス? なんやそれ、タコ焼きみたいなもんか?」
怜「そんなにか」
優希「ここの学食にもあるから一度食べてみるといいじぇ。次の瞬間にはお姉さんも料理研に入部してるじょ!」
怜「ほー。それは興味深いなぁ。また頼んでみるわ」
優希「ぜひ!」
怜「タコスを作れるようになるために入ったってことは、片岡さんタコス作れるのん?」
優希「……まだ勉強中だから、美味しくはできないじょ……」
怜「はは、料理は苦手か」
優希「うん……部長はとっても料理上手だから、羨ましいじょ……」
優希「タコスにかける情熱だけは誰にも負けないじぇ!」
怜「そっか。ほんならあとは努力あるのみや。また美味しく作れたら食べさせてや」
優希「もちろんだじぇ! みんなにタコスの美味しさを知ってもらうのも私の役割だ!」
怜(ふふ、おもろい子やなぁ……どんだけタコス好きやねん……)
優希「ところで、お姉さんのお名前を訊いてなかったじょ」
怜「ん、そういえばそうやな……名乗るほどのもんでもないと言えばそれまでやけど……」
優希「教えて欲しいじょ! タコスの良さを知ってもらわないと!」
優希「園城寺先輩……」
怜「言いにくいやろ。さっきまでと同じお姉さんでええよ」
優希「了解だじぇ! 私は1ーA片岡優希……って知ってるのか」
怜「ああ、教えてもらってたからな」
怜(久に)
怜「ま、学年もちゃうしそない顔会わせる機会もないやろうけど、よろしゅう頼むわ」
優希「よろしくだじぇ。料理研はいつも家庭科室でやってるから、どんどん遊びに来て欲しいじょ」
怜「ふふ、了解」
――――――
久「あの二人、早速いい感じになってるわね。初対面なのに」
菫「単身1年の教室に乗り込んで連れ出し、数分でここまでするなんて……」
照「菫の3年間はなんだったんだろうね」
菫「……」
照「ご、ごめんなさい」
久「にしても園城寺さんやるわねー。ってここまでくらいは普通かしら?」
菫(普通なわけないだろ……)
照「でもここからが本番。どうやって唇を奪うのか」
久「案外何かの拍子にキスしちゃいそうな気もするわね」
――――――
優希「着いたじぇ!」
怜「やっと家庭科室……1年棟から遠いなぁ。ちょっと疲れてもうたわ」
優希「この学校は無駄に大きいからなー。ってお姉さん体力無さ過ぎだじぇ」
怜「病弱やからなぁ」
優希「病弱? お姉さんどこか体が悪いのか?」
怜「まあちょっとばかしな。1年のときはよう入院もしとったし、今でも保健室にはお世話になってるわ」
優希「そうなのか……しんどくなったら遠慮せずに言うんだじょお姉さん?」
怜「ふふ、ありがとう。嬉しいわ」
怜(このこと話すと大抵の子は心配してくれるんやよなぁ……みんな優しいわ)
怜(まあ口からでまかせやからな……来てる方が驚くわ)
怜「なんか急いでたし、他にも用があったのかもしれんなぁ。ま、ゆっくり待っとこうかや」
優希「うん、そうするじぇ」
怜(さて、ここからどうしたものか……タコスが好きってくらいしか情報もないしなぁ)
怜(……この子ちょっと頭弱そうやし、それを利用できるかもしれん)
怜(ま、のんびりいこうかな)
優希「うぅ。にしてもお腹空いたじょ……」
怜「お昼食べてないん?」
優希「うん、宿題やってたから……」
優希「本当か!? タコス作って欲しいじょ!」
怜「それはレパートリーにないから、お任せしてもらえると嬉しいわ」
怜「そもそも中に入れたらの話やしな」
優希「中に……あ、ドア空いてるじょ」ガラ
怜「えっ?」
怜(なんで?)
――――――――
菫「お前の仕業か?」
照「そんなわけない」
久「私でした。なんか家庭科室使いそうな雰囲気だったから、さっき電話で」
照「さすが生徒会長」
菫(よく考えないでも恐ろしい話だな……)
―――――――
怜「まあ別にどうでもええか」
怜(密室の方が何かと都合もええかもやし)
優希「部員の私が許可するから、冷蔵庫にある食材使ってなんか作ってくれ!」
怜「りょーかい。って普通は料理研の片岡さんがなんか作ってくれるのが普通ちゃうのか?」
優希「確かに……でもタコス以外何も作れないじょ」
怜(大丈夫なんか料理研……)
怜「えっと、普段はタコス以外にはなんか作らんの?」
優希「うん。それにみんなが作った料理食べてる方が美味しいじょ」
怜「なるほどなー」
優希「うっ……責任重大だじぇ」
怜「ま、楽しく行こうや」
――――――――
菫「おい、料理し始めたぞあの二人……」
照「しかもなかなかに距離が近い」
久「雰囲気も良さげだし楽しそうだし、いやー、やるわね園城寺さん」
照「まだ1時間も経ってないのに……これは好記録が予想される」
菫(本当に初対面なのか……?)
――――――
怜(しかし、普通に料理してるだけじゃキスは出来んよなぁ)
怜(何か距離を縮めるようなことを……って言っても今までは基本向こうから行動起こしてくれたし)
怜(難しいなぁ……)
怜「痛っ」シュッ
優希「どうしたんだじぇ? 大丈夫かお姉さん?」
怜「考え事してたら指切ってもうた。はは」
優希「結構血が出てるじょ……絆創膏取ってくるじぇ」
怜(冗談半分でなんかやってみるか)
怜「うあ~、血を流しすぎて持病の一つの貧血が~」
優希「!?」
優希「だ、大丈夫かお姉さん!?」アワワ
怜(この子ほんまに言うとるんか……?)
怜「うぅ、出血が止まらない……このままやと……」
優希「どど、どうしたらいいんだじぇ!?」
怜「まずは、血を止めんと……」
優希「ば、絆創膏っ……」
怜「アカン、そんなもん探してたら出血多量で……」
優希「そ、そんな……! じゃあどうれば……!」
優希「!」
優希「……」モジモジ
怜(……なんかもじもじし始めた……)
怜「ああ……目の前が……暗く……」
優希「し、しのごの言ってられないじぇ!」
優希「あむっ」
怜「あっ」
外野「「!?」」
優希「……」ドキドキ
怜(他人の口の中ってあったかいんやなぁ……)
怜(これは一つ進展なんちゃうか? ウチがこの指くわえて間接キスとかって無しなんかな。そりゃ無しか)
―――――――
照「まさかの急展開。次の瞬間にはキスしているかもしれない」
菫「そ、そんなわけあるか!」
久「でも案外分からないわよ。あの棒演技に気付かないくらいだから、キスしてくれないと病気がー、とかって」
照「うん、あり得る」
菫(あの1年の将来が心配だ……)
―――――――
優希「んっ……」
怜「ありがとう片岡さん。たぶん血止まったから、もう大丈夫やで」
優希「……そ、それは良かったじぇ」
怜「ごめんな。病弱やとこういうことがようあって」
優希「お姉さん、そんな大変な体で今まで……」ギュッ
怜(うーん、いたいけな子を騙すのは心が痛いな……)
怜「よっと……」
優希「お、お姉さん、一人で立てるか?」
怜「ちょっと辛いわ……体貸してくれるか?」
優希「任せるんだじぇ」
優希「っ……」
怜「ほんま、安心出来るわ……」
優希「お、お姉さん……」ドキドキ
――――――
照「本領発揮してきた」
久「病弱だからこそ出来るお家芸ね」
菫(あんなにも儚げで弱々しい姿を見せられたら、誰でも引きつけられるだろうな……)
照「これはもう一押しでキスシーンまで発展するかもしれない」
久「でもその一押しが難しいのよねぇ」
―――――――
怜(うーん、どうしたものか……この子初心そうやから、キスしてくれそうにはないし……)
優希「だ、大丈夫かお姉さん? 保健室まで連れて行こうか?」
怜「いや、そこまでしんどくないから……」
優希「お姉さん無理しちゃダメだじぇ。 すごく顔色悪いじょ……」
怜(かなり心配してくれてる……これなら多少無茶な注文でも言いようによっては聞いてくれそうやな)
怜(……さっきと同じ作戦でいこか)
優希「お姉さん横になるか? 準備室のところにベッドがあるじょ」
怜「ベッドかぁ……ごめんやけどお願いするわ。やっぱりちょっとしんどくて……」
―――――――
優希「よっと」
怜「ふぅ。ありがとうな。助かったわ」
優希「どういたしましてだじぇ。何かして欲しいことはあるかお姉さん? 水飲むか?」
怜「今は片岡さんが側にいてくれたらそれでええわ」ニコ
優希「っ……そ、そっか」ドキッ
怜「……なぁ片岡さん、頼みたいことがあるんやけど、聞いてくれるやろうか?」
優希「なんだじぇ?」
怜「実はうちな……キスしてもらったら体調が良くなるねん」
優希「……へ?」
怜(自分で言っといてアレやけども、流石に無理がありすぎるか……)
怜「そう、キスや。かるーくで良いから、唇にちゅってしてもらったらたちまちに元気になるんや」
優希「ほ、本当なのかお姉さん? そんなの聞いたことないじぇ……」
怜「世界中でウチしか持ってない持病の一つやからなぁ」
優希「本当にそんな病気があるんだじぇ……? でもお姉さんが嘘つくようには思えないし……」
怜(アカン、心が痛くなってきた)
優希「でも、さすがにキスするのは恥ずかしいじょ……」モジモジ
怜(……かわええなぁ)
怜「まあ、無理にとは言わんから。片岡さんも出会って間もない人間にそんなことするの嫌やろうし」
怜「キスしてくれんでもウチがしんどくなるだけやから……ごほっ、ごほっ……!」
優希「お姉さん……!」
優希(とっても辛そうだじぇ……)
怜「うっ……なんか知らんが頭も痛く……」ハァハァ
優希「っ……!」
優希「お、お姉さん、そのっ……私でよければ……」
怜「!」
怜「そ、そっか……じゃあ、えっと、気が変わらんうちにお願いするわ」
優希「気なんて変わらないじょ……お、お姉さん、目、つむってもらっても……いいか?」
怜「ま、任された」
優希「……」
優希「……ん」チュッ
――――――――
怜「はぁ。ただいま」
久「おっかえりー」
照「所要時間1時間31分。初対面の相手にこのタイムはすごい」
菫(こ、こんなことが本当にあっていいのか……?)
怜「今回は片岡さんの優しさと少し残念な頭に救われたわ……」
久「あのあとも終始良い感じの雰囲気だったわね。結局料理も最後までしてたし」
怜「タコス美味かったわ。また遊びにいきたいなぁ」
久「うーん……正直相手の子にもよるわね」タハハ
久「私も片岡さんみたいな子だと扱いやすいんだけど……」
怜「ある意味くじ運良かったんか……?」
菫「……この勝負は不純すぎる。今すぐやめるべきだ」
怜「お? なんか委員長が委員長っぽいこと言っとる」
照「条件を提示したのは菫なのにね」
菫「うるさい!! 乙女の純情を弄ぶようなこんな行為は許されては……」
久「私の相手はっと」
菫「おいこら!」
久「いいじゃない。相手の子もそんなに悪い気はしてないって」
怜「うわぁ……」
照「久、すごく悪い顔してる……」
久「同じ生徒会の役員だし普段仲も良いし、園城寺さんに比べれば楽そうね」
菫(なんだこの余裕……? あの真面目な加治木が唇を許すっていうのか……? そ、それに楽そうって…… )
久「この時間なら生徒会室にいそうね。んじゃま、行ってくるわー」
怜「なんかすぐ帰ってきそうな気するんやけど」
照「さて、仲の良い友人相手にどんなタイムを叩き出すのか。興味深い」
菫「お前なぁ……」
―――――
久(ゆみかー。幼馴染みだっていうあの後輩ちゃんがちょっと怖いけど)
久(軽いキスくらいなら大丈夫でしょう。スキンシップスキンシップ♪)
久(……やっぱり来てるわね。生徒会が無い日も欠かさず……真面目だわ)
久「はろー」ガチャ
ゆみ「ん、久か。どうした? 今日は生徒会はないはずだが」
久「生徒会がある日じゃないと私は来ちゃいけない?」
ゆみ「まさか」
ゆみ「ただ、普段お忙しい生徒会長様が何も無い日にここに来るのも珍しいと思ってな」
久「ゆみの顔が無性に見たくなっちゃってね」
ゆみ「ふっ、相変わらずだなお前は」
ゆみ「みんないつも通りだろ。料理研にソフトボール部。久も本来なら演劇部のはずだが」
久「んー、今日はちょっと面白いことに巻き込まれててね。部活はお休みしてるわ」
ゆみ「面白いこと、か……たまには真面目に部員の面倒見てやれよ」
久「あの子たちなら大丈夫よ。むしろ私がふらふらしてるおかげでたくましく育ってるとも言えるわ」
ゆみ「ふっ、あながち間違いじゃ無さそうだ。今年の文化祭も楽しみにしてるよ」
久「個人的にはあなたにもぜひ我が演劇部に入部して、文化祭を盛り上げて欲しいんだけどね」
久「あなたほど男役の似合う子もいないし、入ってくれたら宝塚みたいなことも出来て面白いんだけど」
ゆみ「その話はいつも断ってるだろ。私には生徒会だけで手一杯だ」
ゆみ「この前の地震で備品が壊れた部が多発してな。今は予算を捻出するのに頭を悩まされてるよ」
久「あー、あの時のことね。ウチも小道具が何個かやられたわ」
ゆみ「吹奏楽部なんかはやられた楽器もあるらしくてな……頭が痛くなるよ」
久「本当にお疲れ様ね……肩でも揉んであげましょうか?」
ゆみ「ふふ、なんだそりゃ。随分とらしくないことを言うんだな」
久「私は部員や役員のことは人一倍気遣ってるつもりだけどー?」
ゆみ「気遣ってるなら部活動に参加してやれ」
久「今はあなたの方が優先よ」ギュッ
ゆみ「ふっ……生徒会長様直々の好意は痛み入るな」
ゆみ「高1の時からの付き合いだが、そんなこと初耳だぞ」
久「能ある鷹は爪を隠すってね」トントン
ゆみ「用法がおかしいぞ」タハハ
ゆみ(しかし……本当に上手いな。緩急を付けて、的確にツボを押してくる……)
久「凝ってるわねー。日頃の苦労が垣間見えるわ」ギュッギュッ
ゆみ「お前がもっと生徒会業務をこなしてくれたら楽が出来るんだがな……」
久「ゆみが働きたがってるから仕事を回してるだけよ。暇よりかはいいでしょ?」
ゆみ「まあそうだが……」
久「働きぶりで考えると、実質の生徒会長はゆみみたいなもんだしね」モミモミ
ゆみ「それはどうだろうな。久はある意味一番生徒会長らしいことをしている。それは私には出来ないことだ」
ゆみ「分かりやすい例を挙げると、生徒たちから好評なイベントやら校則やらは全て久の発案だしな」
久「私は発案して声高らかに宣伝してるだけじゃない。実行や準備、根回しは他のみんなのおかげだし、私一人じゃ何もできやしないわ」
ゆみ「それはそうだが、組織の中で一番大切な部分を担ってるのはお前だということに変わりはない」
久「……そんなにも褒められると照れくさいんだけど」
ゆみ「事実を述べてるだけだ。久には求心力も人徳もある。お前以上に生徒会長の役職を努められる人間はこの学校にいないよ」
久「手放しで褒められると裏を疑ってしまうわね。何か目的でもあったり?」
ゆみ「そうだな……このままマッサージを続けてもらうと嬉しいかな」
久「ふふ、言われなくてもさせて頂くわよ。会計様」
―――――――
照「なんか……」
怜「めちゃくちゃ良い雰囲気やなあの二人」
菫「こうやって覗いているのが野暮に思えるほどだ……」
怜「もうこれ今すぐチューしても問題ないんとちゃうん?」
照「いや、完璧な信頼関係が構築されてるからこそ、躊躇される行為もある」
照「ここからどう踏み込むかが勝負」
菫(竹井に対してその心配は杞憂に思えるが……)
―――――――
久(さて、良い感じの雰囲気にしたところだし、そろそろ何かアクションを起こすべきかしら)
久(でも相手はゆみなのよねぇ……考えてみれば、さらっと受け流される可能性も……)
ゆみ(まだ仕事も残ってるし、このあとはモモとの約束もあるから……)
ゆみ「ありがとう久、もう大丈夫だ」
久「えっ?」
ゆみ「おかげで随分と楽になった。仕事に戻るよ」
久「そ、そう。それは良かったわ」
ゆみ「私はもうしばらくここにいるが、お前も暇があるなら演劇部に顔を出すか何かしろよ」
久(か、完璧に動くタイミング外したわね……)
久(後ろから抱きしめるなりいっとけば、今頃……)
久「……ま、後悔しても意味ないか」
ゆみ「?」
―――――――
久(……うーん、あれから動くきっかけが無い)
ゆみ「……」ウーン
久(ゆみも黙々と書類業務こなしてるし、構って貰えないのは悲しいわねー……)
ゆみ「……」カタカタ
久(にしてもめちゃくちゃ集中してる……なんかイタズラしたくなっちゃうわよね、こういうの見てると)
久「……」スッ
ゆみ「……」
久(席を外すかのように立ち上がり、ゆっくり後ろから近づいて……)
久「フッ」
ゆみ「ひゃ!?」ゾクゾク
ゆみ「か、かわっ……!?」
久「うん可愛い♪」
ゆみ「……はぁ」
ゆみ「一体なんのつもりだ。邪魔をするなら帰れ」ジト
久「そんな顔しても照れ隠しで怒ってるようにしか見えないわよ? まだ顔赤いし」
ゆみ「う、うるさい。顔なんて赤くしてない」
久「赤いわよ。鏡見る?」
ゆみ「見ない。ってなんなんだお前は!? そんなに私に構って欲しいのか?」
久「うん♪」
ゆみ「あのなぁ……」
ゆみ「しょうがないだろ、仕事なんだから……ってそもそも二人きりってどういう意味だ。一体何を企んでる?」
久「別に何も? ただゆみと一緒にお話したいだけ」ギュッ
ゆみ「っ……離れろ。気持ち悪い」
久「ひどい。昔はよくこうしてたじゃない。ゆみだってあんなにも強く抱きしめてくれて……」
ゆみ「そんなことはしていない。勝手に記憶を捏造するな。離れろ」グググ
久「なんでそんなにも蔑ろにするのよー。私だって女の子なんだから泣いちゃうわよ?」
ゆみ「お前が涙を流すときは嘘泣きするときだけだろ……ええいくっつくな!」
ゆみ「そもそもお前に泣かされた女はいてもお前を泣かせる女なんてこの世に存在するはずがない」
久「ず、随分と酷いこと言うのね……」
ゆみ「事実を述べて何が悪い」
久「あら、それはどういう意味? まるで私が普段遊んでるみたいじゃない」
ゆみ「事実遊んでいるだろ。この前も街で下級生と腕を組んで歩いているところを目撃されているぞ」
久「わ、私だって後輩とショッピングくらいするわ。それにあれはあの子から腕を組んで来たからで……」
ゆみ「お前は相手の誘いを断るという行為をしなさ過ぎるんだ」
ゆみ「そこから無意識の行動で相手をさらに勘違いさせるんだから、余計タチが悪い」
ゆみ「そんなことばかりしてると、本当に大切な誰かが出来たとき、その誰かを悲しませることになるぞ?」
久「本当に大切な誰か……」
久「ゆみのことね♪」ギュッ
ゆみ「おいっ」
久「そもそも今は独り身なんだから、何をしようと後ろ暗いことなんてないわ」
ゆみ「お前なぁ……」
久「そんなことを言うゆみには、誰か大切な人がいるのかしら?」
ゆみ「……あぁ。いるよ」
久「あの影の薄い後輩ちゃん?」
ゆみ「そこまで分かってるならもういいだろ」
久「……私はあなたにとって、大切な人じゃないのかしら?」
ゆみ「……久?」
久「私にとってゆみは……今でも大切な人よ」ギュウ
ゆみ「……久は大切な友人だ。そういう意味では、大切な人の一人であってると思う」
久「でも特別にはなれない。そうでしょ?」
ゆみ「……さっきから一体何を言ってるんだ。らしくないぞ」
久「ゆみは何も分かっていないわ。三年も一緒にいたのに……本当の私を分かってない。いや、見ようとしていない」
ゆみ「……どういう意味だ?」
久「あなたは自分自身が見ていたい私だけを見続けていたのよ。求心力があって人徳のある、あくまで生徒会長としての私を」
ゆみ「……」
久「そしてそんな私にとって、あなたはどこまでも特別だった」
久「……私の初恋の相手、教えてあげようか」
ゆみ「やめろ」
久「ふふ、そう言うと思ったわ」パッ
ゆみ「……すまない」
久「……ねえ、こんな雰囲気だし一つ訊いていいかしら」
ゆみ「……答えられることは、出来るだけ答えよう」
久「1年の時でも2年の時でもいい。気付いてた?」
久「そっか。やっぱ、気付かれてたか……それも結構早い時期に……バレてない自信あったんだけどなぁ」
ゆみ「……久、私からも訊いていいか」
久「なに?」
ゆみ「どうして……自分の気持ちを打ち明けなかった?」
久「……」
ゆみ「当時の私は……ただそのことだけが怖かった。いつ話を切り出されるか、いつ私たちの関係が壊れてしまうのか……ただそれだけが」
久「臆病だったのね。ゆみらしくもないわ」クス
ゆみ「今でも私は臆病だよ。この話をいつまで経っても訊こうとしなかったくらいにはな」
久「勝てる見込みが100%無い勝負は絶対にしないの」
ゆみ「……」
久「それが理由かな。分かりやすいでしょ?」
ゆみ「……ああ」
久「結局私もゆみと同じ。この関係が壊れるのが怖かったのよ」
久「そして最後まで馬鹿にはなれなかった。当たって砕ける勇気がなかった」
久「それが全てよ」
久「ま、遠い昔の話だけどねー」
ゆみ「……もしあの時、」
久「やめて」
久「もしもの話なんて、しないで。それだけは絶対に聞きたく無い」
ゆみ「……すまない」
久「……こっちこそ、変なこと言い出したり、昔のこと掘り返すような雰囲気にしてごめんね」
ゆみ「……」
久「最後に一つだけお願いしていい?」
ゆみ「……なんだ」
久「私の初恋を終わらせて欲しいの」
ゆみ「……」
久「この気持ちを完全に終わらせられるのは……あなただけだから」
ゆみ「……どうすればいい?」
久「キス、して欲しい。……一瞬でいいから」
ゆみ「……」
ゆみ「目をつむれ」
久「……ありがとう」スッ
ゆみ「……すまなかった」
「「ん……」」
―――――――
久「……」
ゆみ「お、おい久。だいじょう……」
久「くふふ、毎度ありー♪」ニコッ
ゆみ「……は?」
ゆみ「ひ、久? 一体何を……」
「えっ、これ出て行っても大丈夫なの?」
「わ、分からんわ。でも久のあの様子やと……」
久「もう出て来ても大丈夫だから。ネタバらしちゃいましょう」
照「ほ。本当にいいの……?」ガラ
ゆみ「!?」
怜「本気で言うとんのか久……」
ゆみ「!?!?」
菫「信じられん……まさか、今の全部……」
久「演劇部の部長舐めないで欲しいわ」
久「言ったでしょ。面白いことやってるって」
照「タイム、1時間5分。……園城寺さんより30分ほど早い」
久「んー、やっぱそんなもんか……もう少し早く出来たかなぁ……」
怜「十分早いわ……」
照「さすが久。素晴らしい技術。ここにいる全員騙された」
菫「すまない加治木……本当にすまない……」
ゆみ「……どういうことか説明してもらおうか。久」ゴゴゴゴゴ
久「あ、あはは。ゆみ、ちょっとそのオーラは笑えないわ」
――――――――
久「いたい……」ナミダメ
菫「自業自得だ馬鹿者」
照「むしろよくげんこつ一つで済んだよね」
怜「ウチら全員三枚に下ろされても文句言えん状況やったな」
久「それにしたって本気で殴らなくても……あれから結構時間経ってるのにまだ痛いわよ……」ジンジン
菫「加治木が怒るのは当たり前だ。ネタバレなんてどういう精神で出来るんだ……」アキレ
久「別にいいのよ。それに相手がゆみじゃなかったらあんなこと絶対にしなかったし」
照「どういうこと?」
照「?」
怜「ホンマ、ええ性格しとるわ……」
菫「なあ、もうこんなことはやめよう。これはお前ら二人の凶悪さを証明するだけのえげつない行為だ。一体これで誰が幸せになる?」
照「私は二人のすごさを間近に見れて幸せ」
怜「ウチも片岡さんと仲ようなれて幸せっちゃ幸せやな」
久「私も殴られたけどあんなにも愉快なゆみの顔見れたし、幸せっちゃ幸せね♪」
菫「お前ら……!」
怜「さーて、次はウチの二回目か」
久「なーにお堅いこと言ってるのよ」
怜「ホンマ委員長は委員長やなぁ。そんな頭でっかちやと松実さんに嫌われるで?」
菫「うるさい!」
照「菫は私が取り押さえとくから、くじ引いて」ガシッ
菫「て、照っ、おまっ」
照「懐かしいね、この感じ」
怜「えっと、次は……」ガサゴソ
怜「>>275さん?」
って書きたいから早く3レスして
菫「」
久「あらまー」
怜「なんかこの文字めっちゃデコレーションされとるな」
照「大当たりだからね」
菫「照……!!」ゴゴゴゴゴ
照「お、落ち着いて菫。後ろから阿修羅が出てる」
久「だ、大丈夫だって弘世さん。そんな悲しい未来にはならないはずだから」
怜(これウチが一番危ないんとちゃうの?)
菫「ぜっっっっったいに許さん!! お前ら淫獣の毒牙を宥にかけるのだけは何があってもこの私が許さない!!」ギュウウウ
照「お、落ち着いて菫。締まってる、締まってるから」パンパン
怜「淫獣て……」
久「酷い言われようね」アハハ
久「実際宮永さんは今まさに生命の危機に立たされてるしね」
照「ふたりとも、たすけ……」
菫「お前ら、手を出したらどうなるか分かってるだろうな……!」
怜(うん、ほんまに怖い)
久(でも最高に面白そうなのよねー)ワクワク
照「あ、松実さん!」
菫「えっ」
照「二人とも今! 菫を取り押さえて!」
久「任せなさい!」
怜「病弱なりに丈夫なロープを見つけてきたから、これ使って」
菫「ちょ、おまっ」
―――――――
照「縛ってみた」
怜「病弱なりに口にガムテープも貼ってみた」
菫「んー!! んー!!」モガモガ
久「いやー、弘世さん縛られてる姿が最高に様になるわ。写メ撮って良い?」パシャパシャ
菫「んむーっ!!」
照「菫にはこの台車に乗って同行してもらう。仲間外れにはしないから安心して」ニコ
怜(ある意味一番残酷やと思うんやけど……)
久「そろそろ行って来たら園城寺さん?」
怜「それもそやな。放課後って松実さんどこにおるの? 帰ってたりせえへん?」
怜「そっか。ほなぼちぼち行ってくるわ」
照「今回はクラスメイトだから大幅なタイムの更新が期待される。すごく楽しみ」
久「私は弘世さんの反応を見るのが楽しみだわー」
菫「んんっーー!!」ジタバタ
――――――――
怜(しかし第二家庭科室も遠い……2年棟の一番端やからなぁ……)
怜(今回はどういう作戦でいこうか……部活動中やから、やっぱり二人きりになるところからか)
怜(となると……保健室やな)
怜(何か良い感じのでまかせを考えて……もう面倒やから思いつきのままいこか)
怜「失礼しまーす」ガラ
「「ザワ……ザワザワ……」」
怜(まあ、部外者が入ってきたらこうなるわな)
怜「あ。姉帯さんや」
豊音「? あっ、園城寺さん! 珍しいね! 放課後に手芸部に来るなんてどうしたのー?」
怜「実は松実さんに用事があってな」
豊音「松実さん? 松実さんなら横の部屋でマフラー編んでるよー?」
怜「おおきに。ちょっとお邪魔するな」
豊音「喜んで! お客さんあんまり来ないからちょー嬉しいよー。ゆっくりしてってね」ニコ
怜(さて、委員長のお姫様はっと……)
宥「……」
怜(相変わらずの重装備やなぁ。見てるだけで暑なるわ……)
怜「こんばんは、松実さん」
宥「ふぇっ?」ビク
宥「お、園城寺さん……?」
怜「驚かせてごめんやで」
宥「えっと、どうしたんですかこんなところまで? 何か用事でも……」
怜「そうそう用事。ちょっと松実さんに用があってなぁ」
宥「私に……?」
怜「そう、 委員長が松実さんを呼んでてな」
宥「えっ? 菫ちゃんが?」
怜「うん。でもその当の本人は今かんぴょう巻き……じゃなくて、ちょっと手が離せんくて」
怜「そんな忙しい委員長の代わりにウチが松実さんを呼びに来たんや」
宥「そうなんだ……えっと、菫ちゃんは何の用事か言ってた?」
怜「うーん、そこまでは聞いてないなぁ。……ただ、なんかそわそわしてたから、大切な用事やと思うなぁ」
宥「た、大切な用事……?」ドキッ
宥(大切な用事で呼び出しって……なんだろう……)ドキドキドキ
怜(これはアカンぞー。さっきとは比べ物にならんくらい胸が痛くなってきた)
宥「保健室?」
宥(なんで保健室なんだろう……)ウーン
怜(ヤバい。流石に疑問に思っとる。そら片岡さんほど分かりやすくはないわな、普通……)
怜「 だ、大丈夫そう松実さん? 今ちょっと忙しそうやけども……」
宥「う、うん。大丈夫だよ。えっと、今から保健室に行けばいいんだよね?」
怜「委員長はそう言っとったで」
宥「分かった。それじゃあ行ってくるね。……ありがとうございます園城寺さん。わざわざ伝えてもらって」
怜「いや、全然大丈夫やで? ウチもちょうど保健室に用があったから」
怜「それもそやな。よろしゅう頼むわ」
怜(ん……? 紺色のマフラー……)
怜「……松実さん、このマフラーは自分で着けるの?」
宥「えっ? どど、どうしてそんなこと……」
怜「いや、松実さんが着けるにはちょっと似合わんから、誰かへのプレゼントかな、と思って」
宥「えっと、これは、その……」アワワ
怜(紺色……なるほどな。そういうことか。しかもかなり長いなこれ……)
怜「可愛い刺繍も入っとるし、よう出来とるわ。きっと貰う人は大喜びやろなぁ」
宥「えっ……ほ、本当に?」
怜「うん、ウチが欲しいくらいやし」
宥「ご、ごめんなさい。これはもう、あげる人が……」
怜(あげる言われても受け取れんやろなぁ……)
怜「っと無駄話してごめんな。そろそろ行こか」
宥「は、はい」
―――――――――
怜(特にこれと言った会話もないまま保健室に着いてもうた)
怜(松実さんは委員長のことで頭いっぱいなんやろなぁ)
怜(二人きりになるためとは言え、ちょっとリスク高い嘘ついてもうたかな……)
宥「……菫ちゃん、もう来てるかな」
怜「ま、中に入れば分かるやろ」ガラ
宥「……誰も、いない」
怜(委員長は当たり前やけど、まさか先生までおらんとはな)
怜(まあ久の仕業やろうけども)
怜「とりあえず、委員長来るまで待っとこか。ウチらのが早かったみたいや」
宥「うん、そうだね……」
宥「そういえば、園城寺さんはどういう用事で保健室に……?」
怜「え」
怜「えーっと、ウチは保健室の先生に用があってな。それでや」
宥「そうなんだ……先生がいないって珍しいよね。不在なのに鍵も空いてるし……」
怜(松実さんは流石に頭ええから、不審な点に気付いてきよるなぁ)
怜(さっきみたいな無茶なことは出来んな。どういった作戦で行くべきか……)
―――――――――
照「怜が攻めあぐねてる」
久「そりゃ、相手が相手だしね。前みたいにはいかないでしょ」
照「ここからどう足がかりを付けるか。手腕の見せ所」
菫「んんー!! んんーーっ!!」ジタバタ
久「しかし暴れるわね弘世さん……」
照「自分をダシに使われてた時はもっと激しく暴れてた」
照「ガムテープ上から張り直したくらい」
久「マフラーの話になった途端大人しくなるあたり、分かりやすくて可愛いわ」タハハ
菫「……」ギロ
照「……こ、怖いよ菫……」
久「解放した時のことは考えたくないわね……」
―――――――――
怜(案が浮かばん。ここは王道に、いつもの作戦でいくしかないか……)
怜「うっ……」フラッ
宥「お、園城寺さん!?」
怜「ありがとう松実さん……結構な距離歩いたせいか、いつもの貧血が……」
宥「大丈夫……? もしかして、病気のことで先生に……」
怜「……さすが松実さん。察しがええなぁ」
怜(頭ええせいか、勝手に深読みしてくれのはありがたいな)
宥「私、先生探しに……!」
怜「待って松実さん」ハシッ
宥「お、園城寺さん……?」
怜「一人にされるのは、ちょっと辛いわ……」
宥「うん……私なんかでよければ……」
怜「ありがとうな、松実さん……」ギュッ
――――――――
菫「んんーーっ!? んんーーっ!!」
照「菫うるさいっ」
久「キスなんてした日にはロープ引き千切りそうな勢いね……」
照「怖い」
久「……もう一本使って縛っておきましょう」
――――――――
怜「そやな……横になった方が楽そうやわ」
宥「ちょっとしんどいかもしれないけど、頑張って歩いてね」
怜「うん……」
怜(ここまで行くのは簡単に予想できるけど、問題はここからやねんなぁ)
宥「うん、しょっと……」
怜「ふぅ……ありがとうな松実さん。おおきに」
宥「ううん。困った時はお互い様だから」ニコ
怜(うーん、神々しい。笑顔に後光が)
怜「よろしゅう頼むわ……」
宥(……園城寺さんも心配だけど。菫ちゃん、まだ来ないのかな……)
怜(あんまり無駄な間を作りすぎると、松実さんが色々考えてまう可能性が高いな……)
怜(委員長を捜しにいくなんて言い出す可能性もゼロやない。ここは関心の比重がウチに寄ってる間に勝負仕掛けんと)
怜「……松実さん。早速やけども、我がまま訊いてくれる……?」
宥「な、なに?」
怜「ちょっと枕の高さが合わんくて。それに材質も固めやから寝にくいんや……」
宥「ど、どうしよう。代わりの枕探して来る?」
怜「いや、探す必要は無くて。松実さんがええなら、なんやけども……」
怜「膝枕して欲しいな、って……」
宥「ふぇ……?」
ドンガラガッシャーン!!
宥「ふぇっ……!?」
怜(委員長か……)
怜「でかい猫が暴れてるだけや。気にせんでも大丈夫やで」
宥「猫……?」
怜「うっ、頭が……」
宥「だ、大丈夫園城寺さん!?」
怜「やっぱ枕が合わんと血流も悪うなってな……松実さん、膝枕、頼めんやろか……?」
宥「……ちょっと恥ずかしい、けど……大丈夫」
怜「そっか。ありがとうな……」
宥「えっと、どういう風にしたら……?」
怜「とりあえず、このベッドに腰掛けてくれるか?」
宥「わかった」
怜「そんじゃ、寝かせてもらうな……」
宥「う、うん……」
怜「……」トサッ
怜(これは……)
宥「ど、どう? 大丈夫園城寺さん?」
怜(めちゃくちゃ寝心地ええ……)
怜「うん、大丈夫……めっちゃ気持ちええわ……」
怜(この太ももの柔らかさ、体温の温かさ。膝の高さ、匂い、全てにおいて完璧や……)
怜(あかん……本気で寝てまうかもしれん……)
――――――――
照「怜、すごく気持ち良さそう……」
久「目的忘れてそうね。あの様子だと寝ちゃってもおかしくないわね」タハハ
菫「……」
照「菫がさっきの爆発以降死んだように大人しくなってる」
久「力尽きちゃったんじゃない? 取り押さえる苦労もなくなるから好都合だわ」
照「ほんの少しだけ瞳から涙が……菫、可哀想に……」
久(元凶はあなたよ、宮永さん……)
――――――――
怜「……はっ!?」
怜(あかん、一瞬寝とった。これはある意味まずい状況なのかもしれん……)
宥(菫ちゃん何してるんだろう……)
怜(そろそろ仕掛けにいかんと。でも、膝枕してもらってるだけで全然進展ないし……)
怜(……もうちょい攻めるか)
怜「うん……」
宥「ゃっ……!」
宥(ね、寝返り……!?)
怜「ごめんな松実さん。同じ体勢はちょっと辛くて……」
宥「お、園城寺さん……あ、あの、さすがにこれは……!」
怜「すぅ……はぁ……松実さん、やっぱりええ匂いやわ……」ギュウ
宥「っ~~~!!」
宥「ひゃっ……」
宥「園城寺さんっ、く、くすぐったいよ……あっ……」
怜「ごめんな……でもこれ、気持ち良くて……」クンクン
怜(自分からしといてクセになりそうや……)
怜(将来松実さんを独り占めする委員長が素直に羨ましくなってきた……)モゾモゾ
宥「あっ……だ、だめぇっ……」フルフル
怜(委員長と松実さんの幸せな未来を邪魔したらあかん)
怜(分かってるはずやのに……邪な気持ちが……)
宥「んっ……」
宥「……ふぇっ?」トサッ
怜(……お、押し倒してもうた……)
宥「お、園城寺、さん……?」ナミダメ
怜「……松実、さん」
怜「……キス、してええ……?」
宥「!?」
ドガッシャーン!!
――――――――
菫「~~~~~~~~!!!」ジタンバタン!!
照「お、落ちついて菫!」
久「そうよ弘世さん! 冷静になって!」
菫「ッッーーーーーー!!」
照「ろ、ロープ! ロープほどける!」アワワワ
久「さっきから着々とボルテージを上げてって今が最高潮ね! 宮永さん私逃げていい!?」グググ
照「ダメ!」グググ
久「さすがにまだ死ぬのは嫌なんだけど!?」ググググ
照「松実さんがなんとかしてくれるしか生きる希望はないと思う!」
――――――――
怜「松実さん見てたら、委員長のこととかもうどうでもよくなってきて……」ハァハァ
宥「そ、そんなっ……だ、ダメだよ園城寺さん。だって、だって……!」
怜「……ごめん、松実さん……」スッ
宥「ひっ……!?」
宥「だっ……」
宥「だめえええええ!!」
怜「うぐぅっ!?」
怜(しょ、掌底……)
怜「……ばたんきゅう」
宥「わ、私ったら咄嗟に……! ごご、ごめんなさい園城寺さん! 大丈夫ですか!? 園城寺さん!?」
怜「だ、だいじょう、ぶ……目、覚めた……わ」チーン
宥「お、園城寺さん! 園城寺さん!」
宥「せ、先生呼ばなきゃっ……!」ガラッ
照「あ」
久「あ」
宥「へっ……? 宮永さんにたけ……す、菫ちゃん!? どど、どうしてそんなっ……!?」
照(こ、これは……)
――――――――
久「」チーン
菫「はぁ……はぁ……はぁ……!!」
宥「すす、菫ちゃん……もも、もうそれくらいに……」ガクガクブルブル
菫「こいつらだけはっ……絶対に……!」
宥「だだ、ダメだってば!?」ギュウ
菫「離せ宥! この淫獣どもは君の気持ちを弄ぼうと……!」
宥「わ、私は大丈夫だし何もされてないから!」
菫「嘘をつくな! そうだ、園城寺はどこだ! こいつらも許せないがアイツが一番羨ま死……」
宥「園城寺さんにこんなことしたら死んじゃうよ!?」
――――――――
照(菫は松実さんに引き取られました)
照(おかげで私たちは生きています)
怜「いやぁ、酷い目に遭ったなぁ」
久「園城寺さんは一番マシでしょ……私たち本気で殺されるかと思ったわよ……」
怜「病弱にあの掌底は辛かったで……おかげで気も失って今も顎に違和感ありまくりやからな」
照「……菫の逆鱗に触れるとヤバい。これを学べただけでも進歩」
久「しかし、松実さんがいなかったら三人とも確実に死んでたわね」
怜「松実さんがいたからこそこんなにもボロボロにされたとおも考えられるけどな」ハァ
怜「そもそも松実さんにどうこうすんのは良心が痛むわ」
久「半分襲いかけてたくせによく言うわ」
怜「うっさいわ」
照「今日はここまでだね。時間的な問題でも、私たちの体力的な問題でも」
久「ねえこれ明日も続けるつもりなの? あんな目に遭うのはもうごめんなんだけど」
照「個人的にはあと久に二回、怜に一回トライしてもらいたい」
照「その結果で最強を決める」
怜「今は心の底からどうでもええと思えるわ……」
照「では二人ともまた明日。しっかりとコンディションを整えて」
久怜「「もう勘弁して……」」
とりあえず終わりです
今日帰ってこれるのが確実に19時を回る上、続きもこのスレで書けるかどうか、自分自身書くかどうかも分からないので、落としてもらって構わないです
お疲れ様でした
宥姉がたらしに引っかからなくて心から安心した
Entry ⇒ 2012.10.08 | Category ⇒ 咲-Saki-SS | Comments (1) | Trackbacks (0)
菫「体育倉庫に閉じ込められるおまじない……?」
菫「にしても誰の本だこれ……おまじないの本、って……」
菫「……」
菫「ま、暇つぶしにはなるだろう」ペラ
菫「……」
菫「『思い浮かべた人と一緒に体育倉庫に閉じ込められるおまじない』……ふっ、まさかな」
菫「……」
菫(えっと、十円玉……)
菫(そして思い浮かべた人と……)
菫「……」
菫「……はぁ。一体何をやってるんだ私は」
菫「こんなくだらない、神頼みにもならないことに時間を割くなんて」
菫(……本当に、どうかしてる。彼女が私の隣の席になってからは特に……)
照「菫」
菫「ひぁっ!?」
照「どうしたの? 変な声出して」
菫「う、後ろからいきなり話しかけてくるな! いつ部屋に入って来た!?」
菫「そ、そうか……」
照「それ何の本? それに、十円玉なんか机に並べて……」
菫「そ、そんなことより、部室に一体何の用だ? 今日は休みのはずだが」
照「部室に用事はない。菫を探しに来た」
菫「私を?」
照「菫、体育祭の実行委員だったよね」
菫「ああ、そうだが」
照「もうすぐ体育祭のリハーサルだから、グラウンドにテント出しといてって福与先生が言ってた」
照「うん。菫HR終わったあとすぐにクラスから出て行っちゃったから、伝え損ねたって」
菫「そうか……手間をかけさせてすまなかった。今すぐ体育倉庫に行って……」
菫「た、体育倉庫!?」
照「? どうしたの菫?」
菫「いや、なんでもない……」
菫(ま、まさか、な……)
照「そういうことだから、よろしくね」
――――――
菫(……偶然、なのか……?)
菫(もし本当におまじないが効いたとしたら、体育倉庫には……)
菫「……いや、それこそあり得ない。彼女が体育倉庫に用があるなんて……」
恒子「あ、弘世さん!」
菫「っ!? ……ふ、福与先生?」
恒子「いやー、探した探した。あ、もしかして宮永さんから話聞いてたりする?」
菫「テントの件ですか?」
恒子「それそれ。小道具係の松実さんにも手伝うように言ってるから、二人で頑張ってね」
菫「ま、松実!?」
恒子「うん。女の子が一人であんなクソ重いもん出せるわけないし」
菫(ほ、本当におまじないの効果が……)
恒子「あと、先に行った松実さん頑張ってると思うから、出来るだけ早く行ってあげて。そんじゃよろしくー」
菫(……こ、こんなことがあり得るのか……?)
――――――
宥「うぅ……重い……」
菫(ほ、本当にいた……)
宥「こんなの一人で動かせないよぉ……」
菫(松実、宥……)
菫「……」
宥「あっ、弘世さん」
菫「っ……お、遅れて申し訳ない。手伝いに来た」
菫(……ま、まずい。ドキドキしてきた。二人きりってだけなのに、こんな……)
宥「え、えっと、弘世さん……?」
菫「す、すまない。少しぼーっとしていた。早く済ませてしまおう。そっち、持ち上げられそうか?」
宥「うん、っと……ご、ごめんなさい、これが、限界です……」
菫(全然上がってない……)
宥「ほ、本当にごめんなさい! 私全然力なくて、運動も出来なくて……!」
菫「そ、そんなにも卑屈になるな。こんな重いもの、普通の女の子は持ち上げられない」
宥「でも弘世さんは……」
宥「麻雀部と……弓道部、ですか?」
菫「ああ、弓を引くだけでも随分な力がいるから、計らずしも力はつく。だから私のような女の方が珍しいんだ。松実さんは何もおかしくない」
宥「弘世さん……」
菫「持ち上げられないなら、持ち方を変えよう。二人で同じ方向から力をかけて引っ張ればいい。こっちに来てここを持ってくれるか?」
宥「は、はい。え、えっと、こうですか?」
菫「っ……!」
菫(ち、近い……一つの取っ手を二人で持ってるんだから、当たり前なんだろうけど……)
宥「えっと、それじゃあ引っ張りますね」
菫「あ、ああ。呼吸を合わせよう」
宥菫「「いち、にの、さんっ!!」」
――――――
宥「はぁ、はぁ、はぁ……重いです……」
菫「出口付近までには持って来れたが……ここからもっと骨が折れそうだ……」
菫「外に出て休憩しよう。ここは少し暗いし埃っぽい」
宥「はぃ……わかりました……」ハァハァ
菫(一緒に体育の授業を受けてて分かってはいたが、本当に体力が無いんだな……少し重いものを運んだけなのにふらふらだ)
菫「……手を貸そうか?」
宥「だ、大丈夫……私、そこまで貧弱じゃ……きゃっ!?」
菫「っと……暗いから足下には気を付けて」
宥「あ、ありがとうございます……」
菫(……温かい。それに、とても良い匂いが……)
菫「……え?」
宥「も、もう大丈夫ですよ?」
菫「っ! す、すまない!」
菫(わ、私は一体なにを考えて……!)
宥「え、えと、それじゃあ外に出ましょうか」
菫「あ、ああ。そうだな」
菫(……思った以上に重傷なのかもしれない)
宥「それにしても……すごくたくさんの機具がありますよね」
菫「もうすぐ文化祭だから、奥にしまってあった物を出入り口付近に置いてあるんだろう」
菫(こんなにも高く積み上げて……何かの拍子に崩れたら一大事だぞ)
菫「どうした?」
宥「マフラー奥の方に置き忘れてる……」
菫(付けてないと思えば外していたのか……)
宥「汚れそうだと思って外したままで……取ってきますね」
菫「ああ。奥は暗いけど、一人で大丈夫か?」
宥「はい、少しだけ待っててください」
菫(……しかし、落ち着かないな……いつもとは違う空間に二人きりというだけで、こんなにも緊張するものなのか)
菫(……いや、考えてみれば、彼女と話すときはいつだって緊張しているのかもしれない)
菫(何がきっかけだったのか。分からないし身に覚えも無い。気付けば目で追っていて、彼女を意識していて―――)
宥「きゃあっ!!」
菫「!」
宥「いたた……ご、ごめんなさい。その、つまずいちゃって……」
菫「……はぁ。足下には気を付けろと言っただろ……」
宥「ご、ごめんなさい……」
菫「怪我はしてないか? どこかひねったとか」
宥「ううん、大丈夫。本当に少しつまずいただけだから……」
菫「そうか。マフラーは……見つかったみたいだな。ここは思った以上に危ない場所なのかもしれない。早く出よう」
宥「うん、そうだね……」
――――-ゴゴゴゴゴゴゴ
菫(……な、なんだこの音? しかもこれ、揺れてないか……?)
菫(ま、まさか……)
菫「地震だ! しかもだんだん大きくなってる!!」
宥「きゃあ!? ひ、弘世さっ……」
菫「こっちだ! 伏せろ宥!!」
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ――――――
菫「……止んだ、みたいだな」
宥「うぅ……怖かったよぉ……」ガクガクブルブル
菫「もう大丈夫……安心して……」ナデナデ
宥「弘世さん……」
菫(しかし大きかったな……震度5~6はあったんじゃないか?)
菫(外の様子も気になる……とにかくここから出よう)
宥「ごめんなさい……あともう少しだけ、ぐすっ、このまま……」ギュウ
菫「わ、分かった。急かしてすまない。落ち着くまで待つから、リラックスして」
菫(こ、こんなにも強く抱きしめられて……む、胸が……)
宥「あうぅぅぅ……」
菫(こんなときにまで何を考えてるんだ……落ち着くのは私の方じゃないか……」
――――――
宥「……ありがとうございます、弘世さん。ぐずっ、もう、大丈夫です……」
菫「ほ、本当に大丈夫か? 腰が抜けて立てないんだろう? 無理はしない方が」
宥「このままここに居たら、弘世さんまで危険な目に遭います……だから、私のことは置いといて弘世さんだけでも外に……」
菫「何を言ってるんだ!?」
宥「ひっ」
菫「松実さんをここに置いて行くくらいなら死んだ方がマシだ! 二度とそんなことは言わないでくれ!」
菫「まだ余震の危険もある。ますます一人にするわけにはいかない。立てないなら私が松実さんを背負うから、とにかく二人で外に出よう」
宥「ぐずっ、はい……わかりました……」
菫「手を首に回して? そう、それで体を私の背中に預けて。しっかり掴まっててくれ」
宥(弘世さんの背中……体はすごく細いのにしっかりしてて……)
宥(安心する……あったかい……)
菫「……さっきは、その、怒鳴ったりして悪かった。ただ、弱気なことも自分を蔑ろにすることも言わないで欲しい」
菫「私にとって松実さんは……」
宥「えっ……?」
菫「も、もうすぐ出入り口だ」
菫(……出入り口付近にうず高く詰まれていた機具が崩れ落ち、扉を塞いでいた)
菫「……あれだけの揺れだ。普通に考えてこうならない方がおかしい」
宥「私たち……閉じ込められて……」
菫(これもあのおまじないの効力だと言うのか……クソっ)
菫(なんて馬鹿なことをしてしまったんだ……私のせいで、松実さんを危険な状況に……)
宥「弘世さん、どうしよう……このままじゃ私たち……」
菫「……落ち着いて、松実さん。私たちがここに来たことは照や福与先生が知ってる」
菫「私たちが校内に居ないことに気付けば、すぐにでも助けに来てくれるはず」
菫「だから、それまでは比較的安全な場所で助けを待とう」
菫「ああ。だからそれまでは……私が松実さんを絶対に守るから」
宥「……うん。ありがとう……」
宥(私、また誰かに助けられてばっかり……)
菫「とりあえず、さっきの場所まで戻るからしっかり掴まってて」
―――――――
菫「降ろすぞ」
宥「うん……」
菫「とりあえず、ここなら余震が来ても物が降ってくることもないし、安全だろう」
宥(どうしよう、弘世さんから離れたせいで……寒い……)
宥「あの、私……知ってのとおりすごく寒がりで……」フルフル
菫「さ、寒いのか? この場所が?」
菫(確かに今は秋の中旬で、少し前までに比べれば気温は下がって来てはいるが……)
宥「うぅぅ……」
菫「す、少し待ってて。何か羽織れるようなものを探してくる」
宥「あっ……ま、待って!」
宥「一人に……しないでください……」ウルウル
菫「っ……!?」ドキン
宥「私、我慢します……弘世さんがいなくなるくらいなら、寒いままでいいです……」ブルブル
菫(あんなにも顔を白くして、体を震わせて……)
菫「……」
宥「弘世さん……?」
菫「その、何も無いよりはマシだと思う。上からこれを着てみてくれ」
宥(弘世さんの……ブレザー……)
宥「で、でもそれじゃあ弘世さんが……!」
菫「バカ言え。冬山に遭難したんじゃないんだぞ……常人は上を脱いでも涼しいくらいだ」
宥「あっ……そ、そうですよね」
菫「それでも寒いようならまた何か考える。とりあえずはそれで我慢してくれ」
宥「ありがとうございます……」
宥「あったかい……」
菫(……とりあえずは大丈夫、なのか……?)
宥「はぁぁ……」
菫(しかし、彼女の体質は未だに信じられない……今朝も真冬でもしないような防寒具を着ていたし……)
菫(そういえば、始めて彼女と出会ったときも驚かされたな……)
菫「懐かしい……」
宥「えっ?」
菫「あ、いや。その……異様に寒がってる松実を見て、初めて会ったときのことを思い出してな……」
宥「初めて会ったときのこと……?」
宥「私、いつもそうなんです。周囲の環境が変わるたびにみんなに注目されて……入学式の日とかは特に……」
菫「担任になった福与先生に質問攻めにあって、あたふたしていたのも印象深いな」
菫(まあ、あの人の性格の濃さも相まってだが……)
宥「あの時は大変でした……緊張して全然喋れなくて……」
菫「あんなマシンガントークを受けててまともに受け答え出来る人もそういないよ」クスクス
宥「ふふ、そうですよね」
菫「始めて話しかけられた時のこと?」
宥「教室の中で防寒具を付けるなんてマナー違反だ。今すぐ取れ、って……」
菫「あ、あぁ……あの時のことか……」
宥「すごく厳しい口調で注意されて……ふふ、少し怖かったのを覚えてます」
菫「ご、ゴーグルにマスクまで付けて来られたら黙って見過ごせるわけがないだろ……」
宥「でも私、ああやって注意されたのは始めてでしたから……」
菫(小動物のような挙動で涙目になった彼女を責め立てる私は、端から見れば悪役だったな……)
菫「……なかなか指示に従わない松実さんに腹が立って、無理やり防寒具を取ろうとした……」
宥「ふふ、あの時はすごく騒ぎになりましたよね。喧嘩だ事件だって……」
菫「今でもよく覚えてるし、忘れるわけも無い。あの照に羽交い締めにされるまで止まらなかったくらいだから、よっぽど我を失っていたんだろうな……」
菫(思い出すだけで恥ずかしくなる……どうして私はあそこまで……)
宥「でも、そのあとはちゃんと仲直り出来ましたよね」
菫「学校長直々の許可書を持って来られたからな……最初から事情を説明してくれればよかったものを……」
宥「詰め寄られることなんて普段なかったし、ほとんど初対面だったから……上手く話せなくて……」
菫「あの時は随分と恥をかいたよ」
宥「私が弘世さんの立場なら、絶対に……」
菫「実際はいけないことじゃなかったんだから結局は私の早とちりだ。冷静に事情を聞き出そうとしなかったのも悪い。改めて、あの時はすまなかった」
宥「そ、そんな、とんでもないです……むしろ謝るのは私の方で……」
菫「ふふ、今さら昔のことを掘り返すこともない。今ではこうやって仲良く……」
宥菫「「……」」
宥「わ、私たちって、普段あんまりお話しませんよね」
菫「た、確かに」
菫(いつも目で追うだけで、話しかけようなんて……)
菫「松実さんも、クラスでは姉帯や岩戸、それに妹さんたちと……」
宥菫「「……」」
宥「……こ、これを機に互いのことをもっと知れるといいですね」
菫「そ、そうだな」
――――――――
菫(……閉じ込められてから1時間は経ったか……?)
菫(未だに助けが来る様子はない。あんなにも大きな地震があったというのに、あまりにも静かすぎやしないか……?)
菫「……松実さん、携帯は持ってたりしないか?」
宥「ごめんなさい。すぐ戻れると思って、教室に置いたままで……」
菫「私も鞄ごと部室だ。期待はしてなかったが、助けを呼ぶのは無理そうだな……」
宥「私たち、いつまでこのままなんでしょう」
宥「結構時間は経ってるのに、まだ誰も来ない……」
菫(……何か理由を付けてポジティブに考えたいものだが、どれだけ推測しても……)
宥「もしかしたら、ずっとこのまま……」
菫「それはあり得ない。明日は体育祭のリハーサルがあるから、この倉庫は絶対に使うことになる」
菫「今日中に出られるかは分からないが……明日までには絶対に出られるよ。それは断言できる」
宥「そ、そうですよね。ごめんなさい、暗いこと考えちゃって……」
菫「この状況じゃ不安になるのも仕方ない。ただ、気持ちを後ろ向きに持っても何も出来ないことには変わらない」
宥「あっ……」
宥(弘世さんの笑顔……始めて見たかもしれない……)ポー
菫「どうした? 私の顔に何か付いてるか?」
宥「いや……その、弘世さんが笑ってるところ、始めて見たような気がして……」
菫「なっ」
宥「とっても綺麗でした……笑ってる方もすごく弘世さんは素敵ですね」ニコ
菫「っ……」
菫(松実さんの笑顔の方が素敵だ、なんて口が裂けても言えないな……)
――――――
菫(あれからまたしばらく経ったが……話題が尽きると無言が気まずく感じるな……)
菫(松実さんの様子は……)
宥「……」
菫(……あまり良いとは言えないな)
菫(何か気晴らし出来るようなことがあれば……)
―――――ゴゴゴゴゴゴゴ
宥「ひっ!?」
菫(っ……! よ、余震か……!?)
宥「ひ、ひひ、弘世さん……!」
菫「落ち着いて。大丈夫だから」
宥「ひぃぃ……」ガクガクブルブル
菫(彼女には関係ないらしい……)
菫「松実さん、怖がらないで。揺れは小さいし、本当に大丈夫だから」ギュ
宥「弘世さん……」ナミダメ
菫「深呼吸して。不安なら、私にしがみついててもいいから」
宥「はぃ……」ギュウ
菫(……こんなにも近くに、松実さんが……)
菫(この揺れがいつまでも続けばいいなんて思ってる私は……)
―――――――
菫「……ほら、何もなかっただろ? 少し音がうるさかったくらいだ」
宥「はい、そうでした……」ギュゥ
菫「……その、もう大丈夫だと思うから、離れても」
宥「……もう少しだけ、このままでいいですか」
菫「えっ? あ、ああ。わ、私は別に構わないが……」
宥「弘世さん……やっぱりすごくあったかくて、とても安心するんです……」
菫「っ……!」ドキッ
宥「抱きしめるのが気持ち良くて……良い匂いも……」
菫「ま、松実さん……?」
宥「!」
宥「ご、ごめんなさい! わ、私ったら、変なこと言って……」
菫「待って!」
宥「っ!?」
菫(咄嗟に腕を掴んでしまった……手首、細い……)
宥「ひ、弘世さん……?」
菫「……えっと、なんだ。その、別に何も気にならないし嫌でもないから、その……」
菫「抱きついてもらっても……構わない」
宥「……」
宥「あ、改めてそう言われると……恥ずかしいです……」
菫「うっ……」
菫(い、一体何を言ってるんだ私は……!! )
宥「えっ……わ、忘れないといけないんですか……?」
菫「っ……いや、もう好きにしてくれ……」
宥「は、はい」
菫(……確実に自分自身がおかしくなってる。この閉鎖的な空間の所為なのか、はたまた……)
宥「……?」
菫(……今は出来るだけ何も考えないでおこう)
―――――――
菫(閉じ込められたのは、推測だが午後の17時頃。体感時間では結構経ってるが、今は何時なんだろう……)
菫(この体育倉庫に気付かない方がおかしくないか……? 外も混乱してると考えてもこれは……)
宥「あ、あの弘世さん」
宥「その……また、だんだん寒くなってきて……」
菫(言われてみれば……確かに肌寒い。日が落ちて来た証拠か……?)
宥「だから、弘世さんが良ければでいいんですが……」
宥「あたためてもらってもいいですか……?」
菫「……」
菫「はぁ!?」
宥「ご、ごめんなさい! やっぱりダメですよね、こんなこと……」
菫「い、いや。え、っと。あ、温めるって、具体的にどうやって……?」
菫「す、すまないがもう一度大きい声で言ってもらえるか? 声が小さくてよく……」
宥「ご、ごめんなさい! やっぱりさっき言ったことは忘れてください!」
宥「わ、私ってば、本当に何を考えて……」
菫(顔が真っ赤だ……は、裸とかって聞こえたが、一体何を言おうと……?)
菫「……よく分からないが、寒いのか?」
宥「は、はい……少し、辛いです……」
菫「……」
宥「弘世さん……?」
菫「……この体育倉庫には暖を取れるものなんて無いと思う」
菫「それで、なんだかんだでやっぱり人肌が一番温かいと……思う」
宥「そ、それって……」
宥「!」
菫(わ、私は一体何を……でも、これで彼女が楽になれるなら……)
宥「ひ、弘世さん……ほ、本当に、良いんですか……?」
菫「あ、ああ。言っても私たちは同性だ。抱き合うくらい、それほど気にすることでもないだろう」
菫(私自身は、気になって仕方がないが……)
宥「ありがとうございます……弘世さん、私なんかのために、本当に……」ウルウル
菫「泣くのはやめてくれないか……」
宥「ご、ごめんなさい……ぐずっ、それじゃあ、ふつつか者ですが、よろしくお願いします」
菫「あ、ああ。よろしく」
菫(ってなんなんだこの挨拶は……)
宥「それじゃ、その……見られてると恥ずかしいので、後ろ、向いててもらっていいですか?」
菫「……どういう意味だ?」
菫(だからなんで泣きそうになるんだ!? しかも顔まで赤くして……)ドキドキ
菫「……分かった。後ろを向いてればいいんだな?」
宥「は、はい。その間に、その……弘世さんも準備しといてもらえれば嬉しいです……」
菫「あ、ああ」
菫(準備? 何の準備だろう。心の準備の時間は確かに欲しいが……そもそもどうして私が後ろを向いて……)
シュルシュル――――
菫(な、なんだ今の音は? まるで衣擦れのような……)
ファサ――――――
菫(……何が起きてる……?)
宥「はぁ……はぁ……」
宥「す、すみません。もう少しだけ待ってください……あとちょっとで脱ぎ終わるので……」
菫(……な、なんだって? 今、脱ぎ終わるとか……)
宥(ど、どうしよう……すごく恥ずかしいし、めちゃくちゃ寒い……)
宥(でも、弘世さんはこんな私のために……一生懸命……)
菫「……すまない松実さん。状況を確認したいから振り向いてもいいか?」
宥「えっ!? だ、ダメです! ま、まだ途中で……」
菫「一体何をしているんだ? まったくもって意味が……」
宥「あっ、だ、ダメっ……!」
菫(後ろを振り向くと、そこには上半身裸の―――)
菫「んなぁっ!?」
宥「やぁ……み、見ないでください……」
菫「す、すまない!」サッ
菫(ってどうして私が謝る!?)
宥「うぅ……弘世さんひどいです……後ろ向いといてって言ったのに……」
菫「そ、そんなことよりどうして服を脱いでるんだ? 寒いんじゃないのか?」
宥「すごく寒いです……だから、早くあたためて欲しいのに……弘世さん、服脱いでない……」
菫「あ、当たり前だろう!? 何故服を脱ぐ必要がある!?」
宥「ひっ……」
菫「っ……お、大きな声を出してすまない。ただ、その、私と松実さんの間に大きな意思の齟齬があるように思えるのだが……」
菫「あ、ああ。でも、だからと言ってどうして服を脱ぐ必要があるんだ……?」
宥「は、裸で抱き合うのが一番あったかいらしいって、私……」
菫(……あの時か。まさかそんなことを言っていたなんて……)
宥「もしかして、伝わっていたと勘違いして……」
菫「……すまない。どうやらそうらしい」
宥「……!!」
宥「ごご、ごめんなさいっ!! わわ、私ったら、一人で勝手に思い違いして……!」
宥「じょ、常識的に考えてそうですよね、裸で抱き合うなんて、そんなの、普通、あり得ないのに……」ジワァ
菫「な、泣かないでくれ! ちゃんと確認しなかった私も悪いし、そのっ……」
宥「ひぐっ……ひ、弘世さんは、何も悪くなんかっ……」
菫「まずは服を着てくれないか……?」
宥「……はい」
菫(それは今にも消え入りそうな声だった)
―――――――
宥「着直しました……」
菫「あ、ああ……」
菫(後ろを向いている最中にすすり泣く声が聞こえていた……今も顔は赤くて、涙目で……)
菫「……謝る必要はない。何も悪いことはしていないんだ」
宥「……」
菫(……落ち込んでいる姿が、こんなにも愛おしく思えるなんて……)
菫(儚げで、触れれば壊れてしまいそうな危うさがあって……)
宥「……弘世さん……?」
菫(あぁ……すごく……抱きしめたい)
菫「……松実さん。改めて、約束を守らせてもらうよ」スッ
宥「えっ?」
宥「あっ……」ギュ
宥「弘世さん……」
菫(……本当に温かい)
宥(やっぱり、すごく安心する……この気持ちも……あったかい……)
菫(……幸せな夢の中で浮いているような、そんな気分だった)
―――――――
菫「ん、んぅ……」
菫(……いつの間にか寝てしまっていたらしい)
菫「松実さん……も、寝ていたか」
宥「すぅ……すぅ……」
菫(しかし、いよいよ時間の感覚が無くなってきた……気温からして夜であるのは間違い無さそうだが……)
宥「ん、んぅ……ひろせさん……」
菫(……彼女のおかげで温かい。こんなにも近くで触れ合えて、あろうことか抱き合ってるなんて……少しはあのまじないに感謝してもいいのかもしれない)
菫(……松実、宥)
宥「すぅ……すぅ……」
菫「……どうやらこの気持ちは本物らしい」ナデナデ
菫「いつの日か、きっと……」
宥「ひろせ、さん?」
菫「……おはよう、松実さん。どうやら二人とも、いつの間にか眠ってしまっていたらしい」
菫「今日中には、いや、日付が変わってる可能性もあるが……助けは来そうにもないな」
宥「そうですね……」
宥(もうしばらくは、このままでも……)
菫「特にすることも無ければ話すことも無い。……もう一眠りするか?」
宥「いえ、大丈夫です。それより……このまま弘世さんとお話していたいです」ギュウ
菫「ま、松実さんがそう言うなら、私は構わないが……」
宥「……弘世さん。もしよろしければ……私のこと、下の名前で呼んで欲しいです」
菫「っ……」ドキ
菫「ど、どうして急にそんなこと……」
宥「弘世さん、自分では気付いてないかもしれませんが……たまに私のこと下の名前で読んでるんですよ?」
菫「なっ」
菫(ま、まったく自覚がない……)
宥「弘世さんは、咄嗟に私を呼ぶ時はいつもそうなんです」
宥「私が体育でこけそうになったり、何かに当たりそうになったときとか、いつも……」
菫「……」
宥「普段あまり話したりしないけど、何かあったときには真っ先に気付いてくれて、それでいて助けてくれて……」
宥「私、そのことがすごく嬉しくて……いつかちゃんとお礼を言いたいと思っていて……」
宥「その、弘世さん。これからはもっと私と仲良くして頂けると……嬉しいです。だから……」
菫「……断る理由なんかない。喜んでそうさせてもらうよ」
菫「……宥」
宥「!」
宥「……ありがとうございます。弘世さん」
菫「ところで、その……なんだ。私だけ下の名前で呼ぶってのも、不公平だと思わないか?」
宥「えっ?」
菫「弘世さんなんて呼ばれるのは顔見知り程度の人間か教師だけでいい。……菫にしてくれないか」
宥「い、いいんですか? 私なんかが……」
菫「その言葉の意味が分からない。宥にだから呼んで欲しいんだ」
菫「す、菫ちゃん!?」
宥「えっ……な、何かおかしいですか……?」
菫「い、いや。ちゃん付けで呼ばれたのなんて小学生以来だからな……」
宥「さん付けはよそよそしいと思って……」
菫「……よそよそしいと思うならまずは敬語をやめるべきだと思うんだが」
宥「ご、ごめんなさい……最初に話したときの印象がずっと強くて……」
菫「敬語で話されるのも後輩だけで十分だ。これからは普通に、他のみんなと接するように頼むよ」
宥「うん、わかった。……私たち、これからもっと仲良くなれそうだね。菫ちゃん」
菫「っ……出来ればそれはやめて欲しいな……普通に菫じゃダメなのか?」
宥「呼び捨てってあんまり馴れなくて……菫ちゃんじゃダメ?」
菫「……はぁ。好きにすればいい」
宥「ふふ、ありがとう」
――――――――
菫(しかし……どうしたものか……)
菫(本当に助けは来ないのか……これもあのまじないの効力だとしたら、明日になっても……)
菫(……そういえば、あの本のまじないが書いてあった同じページに解呪方法が書いてあったような気が……)
菫「……」
宥「どうしたの菫ちゃん? なんだか険しい顔してるけど……」
菫「い、いや……ここから出られる方法に少し心あたりがあってな……」
宥「そ、それって本当に?」
菫「ああ、限りなく信憑性は高いと思う……」
菫(まじないが本物なら、あれもきっと……し、しかし……!)
菫(……ためらってる場合なんかじゃない。次の瞬間にも大きな地震が来る可能性もある)
菫(これ以上宥を危険な目に遭わせるのも、怖がらせるのも絶対に……!)
菫「……はぁ。すまない、宥。少しの間だけ後ろを向いていてくれるか?」
宥「えっ? で、でも……」
菫「私から離れると寒いかもしれないが、すぐにでもここから出られるようになる。だから……」
宥「……分かった。私、菫ちゃんを信じる……」スッ
宥(うぅ……寒い……)
菫(元はと言えば全て私が引き起こしたことだ。私自身の手で、責任を持って終わらせる)
菫「……く、くそぉっ……」ヌギヌギ
宥(な、何してるの菫ちゃん……?)
菫(すぐ目の前に宥がいる中で、こんなっ……)シュル
菫「ゆ、宥……頼むから後ろは向かないでくれ……」
宥「う、うん。分かったよ……」
菫(ここまでしたんだ。もうなるようになれ……!)
菫「呪いなんてへのへのかっぱ!!」
宥「へっ……!?」
菫「呪いなんてへのへのかっぱ!! 呪いなんてへのへのかっぱ!!」
宥「す、菫ちゃん? いきなり何を……」
―――――――ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ
宥菫「「!!」」
菫「危ない! 伏せろ宥!!」
宥「きゃあっ……! す、すみれちゃ……ふぇえ!? は、はだっ……!?」
ゴゴゴゴゴゴゴゴ――――――――
宥菫「「……」」
菫(……止んだ、か……?)
菫「大丈夫か宥? かなり大きかったが、どこか打ったとか……」
宥「すごく怖かったけど、大丈夫……」
菫「……そうか。それはよかった」
宥「す、菫ちゃん……ど、どうして……上、裸なの……?」
菫「!?」
菫(し、しまっ……)
菫「こ、これは、その……!」
玄「お姉ちゃん!!」
照「二人ともだいじょう……ぶ……」
「「…………」」
恒子「えーっと……もしかしてお楽しみだったりした?」
玄「うそ……こんなの……」
照「……」
菫「ち、違う。これには訳があって……」
宥「よかったぁ……助けにきてくれたんだ……」ギュウゥ
照「菫……」ドンビキ
玄「」
菫(どうしてこうなった……)
宥「あ、あの。菫ちゃん、とりあえず、服、着た方が……」
恒子「ま、私たち3人以外はみんな外にいるから問題ないよ!」
照「どこが問題ないんですか先生……」
玄「」
宥「えっと、とりあえず、みんな外で待っててくれるかな……?」
宥「見られてると、菫ちゃん私から離れられないと思うから……」
恒子「それもそうだ。よし、無事も確認したし先に出てるよ! 二人とも!」
恒子「ほら、妹ちゃんも放心してないでテキパキ歩く!」
宥「えっと……だ、大丈夫? 菫ちゃん」
菫「……大丈夫じゃない。今後のことを考えると気を失いそうだ……」
宥「さ、三人ともいい人だから心配しなくて良いと思うけど……私も気にしないし……」
菫(どうして気にしないんだ……)
宥「と、とにかく。私後ろ向いてるから服着て?」
菫「……ああ。そうだな」
菫(これが悪ふざけの報いか……自業自得だな……)
菫(こうして一連の事件は幕を閉じた――――)
―――――――
菫(学校に行きたく無いと思ったのも、教室に入りたく無いと思ったのも初めてだな……)
菫(奇異な目で見られないことを祈りたいが……)ガラ
「「……」」ザワ…ザワ…ザワ…
菫(まあしばらくは無理そうな話だな……)
照「おはよう、菫。昨日はお楽しみだったね」
怜「おはよーさん委員長。昨日は災難やったな。いや、むしろラッキーか」
菫「……はぁ」
怜「学校中の噂になっとるで? 松実さんと委員長が体育倉庫であはーんうふーんって」
菫「くっ……福与先生の仕業か……! 断言するが宥とは何もなかったからな」
照「松実さんじゃないんだ」
菫「うっ」
怜「下の名前で呼ぶようになっとるなんて、何があったんやろうなぁ」ニヤニヤ
宥「あわわわわ……」ワイワイガヤガヤ
菫「……」アゼン
怜「松実さんゆっとったんやでー。菫ちゃんにあたためてもらったって」
菫「なっ」
照「……それもそうだけど、菫が菫ちゃんなんて呼ばれてることが一番おかしい。何かあった以外に考えられない」
怜「なあ、それもそやけど、どないしてあたためたん? やっぱりやらしーことして」
菫「もう黙れお前!!」
菫「ゆ、宥! ちょっとこい!!」
宥「へっ? あ、菫ちゃん……」
菫「話すんじゃない!! ええい道を空けろ! 退け!」
怜「はは、連れてってもうた」
照「あんなにも荒れてる菫は初めて見る」
怜「確かに。委員長のキャラやないわ」ケラケラ
怜「にしてもよかったやん。永遠の片思いに進展があって」
照「それは、まあ」
怜「照もあの後輩二人に振り回されてばっかやと婚期逃すで?」
照「うるさい」
―――――――
宥「はぁ、はぁ……ま、待って菫ちゃん、引っ張らないで……」
菫「あっ……す、すまない」
宥「歩くの早いよぉ……」
菫「しょうがないだろ……あんなにもじろじろ見られるんだから……」
菫「そ、それより! 宥、どこまで話した?」
宥「昨日の話? えっと、菫ちゃんと仲良くなって、あっためてもらって、それがすごく気持ち良かったってくらいしか……」
菫「ほ、本当にそう言ったのか!? あの人数に!?」
宥「う、うん……」
菫(どうしてそんなにも誤解を招くような言い方を……!!)
菫「……はぁ。もういい。そもそも福与先生の口止めを徹底しなかった時点で手遅れだったんだ……」
宥「で、でも、私嘘は付いてないよ? つ、付き合ってるの、って訊かれても違いますって言ってるし、キスしたの、って訊かれてもしてないって答えて……」
菫(たぶん、宥の口ぶりだとただの照れ隠しに聞こえるんだろうな……)
菫「……もう何も言う必要がないな。急に連れ出したりして悪かった。教室に戻ろう」ギュ
宥「う、うん……」
宥(手……)
菫(……私は宥のことが好きなんだ。それなら、周りには私たち二人が両思いだと思わせて、ライバルを減らすのも一興かもしれない)
菫(利用するだけ利用してやろうじゃないか)
宥「あの……菫ちゃん」
菫「……なんだ?」
菫「……当たり前だろ。今さら何を言ってるんだ」
宥「ありがとう。すごく嬉しい……」
宥(友達に、なれたんだ……菫ちゃんと、私……)
菫「宥?」
宥「ふふ、なんでもない。早く教室に戻ろう」
菫「あ、ああ」
菫(なんなんだ一体……)
菫(しかし、友達、か……)
菫(……やはり、あのまじないには感謝しないといけないな)
終わり
部長、愛宕ネキ、キャップの生徒会とか
福与先生を初めとする麻雀プロ、アナウンサーの教師陣とか
クロチャー嫉妬爆発で菫さんライバル視とか
咲、淡、和、シズの一年生組とか
ぱっと思い浮かぶだけでこんだけ書いてみたいのはある
気分が乗ったらいつか書きたいな。もちろん書いてくれてもいいし
宥菫すばらしい
何か重要な示唆を与えられた気がする
乙乙
続き気になってたんだ
乙!
Entry ⇒ 2012.10.08 | Category ⇒ 咲-Saki-SS | Comments (1) | Trackbacks (0)
ハニー・ポッター「私が、魔法使い?」
ハグリッド「……」
ダドリー「ブヒィー!ブヒィー!」
ピアーズ「踏んでください!踏んでくださいハニー姐さん!!」
バーノン「小娘、やめろ!やめろ!また方々に頭を下げんといかんだろうが!ダドリーの友達をかかとで踏みつけるのはやめんかぁああああ!」
ペチュニア「ダドちゃん!坊や!そんな小娘の靴を舐めちゃダメ、ダドちゃん!!」
ハグリッド「……こりゃぁおったまげた。見た目はリリーに……中身はジェームズそっくりになっちょるとは」
ハグリッド「……お、俺も踏んじょくれるか?ハニー?」
ハニー「えぇ。なるほど。中々魔法界もやりやすそうね?」
ハニー「何よ、散々のけものにしてきてくれたくせに」
バーノン「だまらっしゃい!貴様こそ、散々わしらに迷惑をかけておいて!」
ハニー「あら、ダドリーはこの上なく至福の時を過ごしているようよ?ねぇ?」
ダドリー「ご褒美です」
バーノン「えぇいうるさい!お前はこのままタレント養成学校に入って!その無駄にいい見た目でトップスターになってわしらに恩返しを……」
ハニー「ハグリッド、やっちゃって」
ハグリッド「俺の――前で――アルバス・ダンブルドアを――バカにするな!!!」
バーノン「誰だそれhぐっほぁあああああ!!」
ペチュニア「バーノーーーーーン!!!」
ピアーズ「ブヒィー!ブヒィー!」
ハグリッド「おう、聞いちょらんか。それはそうか、あの偏屈マグルど一緒だったんだものな」
ハニー「そう。どんな人だったの?」
ハグリッド「そりゃぁもう、お前さんそっくりさ」
ハニー「褒められた気がしないわ」
通行人マグル「あの子、なんで大男の肩に座ってるんだ……?」
ハニー「どうだか。大方この捻くれた性格のことを言っているんじゃない?」
ハグリッド「違うんだ!そりゃジェームズはちっとばっか難しい時期もあったが、そりゃぁ良い奴で」
ハニー「ふんっ」
ハグリッド「あー、ハニー。俺ぁお前さんにそんな顔されるとどうすればいいんか分からねぇ。ハニー、頼む……」
ハニー「じゃぁ、このリストに書いてある……ふくろうを買ってくれる?」
ハグリッド「お安いご用だ!」
ハニー「あなたは使える豚ね、ハグリッド」
リリーだ!
リリーが帰ってきた!!
ハニー「こんにちわ、始めまして。娘のハニーよ?」
天使だ!!!
天使が魔法界に帰ってきた!!!
今日はポッター記念日だ!!
トム「ハグリッド、なんだいその首につけてるものは」
ハグリッド「ハニーが作ってくれたんだ!待っちょれ、今にお前にもくれるはずさ。何せハニーは優しい子だからな!」
トム「作るって……私にはどうも、首輪にしか見えんのだが……」
ハグリッド「ほれ見ろ!みんなお前さんのことを知っちょったろう!?」
ハニー「えぇ、それに全員私印の首輪を着けたわね。幸先がいいわ」
ハグリッド「あぁ、何せお前さんは特別だからな!」
ハニー「私が特別なのはまごうことない事実だけれど、あなたの言うそれは別のことのようね?」
ハグリッド「うっ……す、すまん。聞かんかったことに……」
ハニー「ハ、グ、リ、ッド……?」フーッ
ハグリッド「お前さんはむかーしど偉く悪ぃ最低の魔法使い、それ!『ヴォルデモート』!を赤ん坊の頃にぶっ倒しちまったんですはい!!」
ハグリッド「や、やめちょくれハニー!あいつの名前を言うのは今でも恐れられちょる……」
ハニー「私が恐れるのは退屈と体重計だけ。何よ、たかが名前に。それに、私に指図するの?」
ハグリッド「お、お前さんの呼びたいように呼んじょくれ!」
ハニー「えぇ、それじゃぁあなたを偶に豚と呼ぶことにするわ」
ハグリッド「光栄だ!」
ハニー「つまり、あなたの人生全ての運を二度使い切ったと思っていいわね」
オリバンダー「まっこと、そうとも言えましょうな。どれ、杖腕はどちらかな?」
ハニー「あなたもプロなら、それくらい教わらずに分かりなさい」
オリバンダー「なるほど、随分とお父様に似たようで」
ハニー「やりにくいわ、あなた」
ハグリッド「オリバンダー!ハニーをわずらわせると俺が黙っとらんぞ!」
オリバンダー「わしの杖を無様に折られた馬鹿者は黙っとれ」
オリバンダー「えぇ、そうでしょうとも……柊の木、十八センチ。不死鳥の尾の羽が入っております」
ハニー「不死鳥、へぇ。それは綺麗なわけ?」
ハグリッド「お前さんほどじゃねぇがな」
ハニー「そう、ならいいわ。で、『そうでしょう』とは?オリバンダー老?」
オリバンダー「なるほど、聡いのもお父様譲りですな」
ハグリッド「は、ハニー?俺の時と違うんじゃねぇか?あれ?」
ハニー「敬意を払う豚と、愛玩する豚は違うの。文句がある?」
ハニー「ふぅん。ヴォルデモートって奴なのね?」
ハグリッド「は、ハニー!」
ハニー「さっきから何、豚は豚らしくヒンヒン鳴いてなさい」
ハグリッド「ヒンヒン!ヒン!」
オリバンダー「あなたのその、額に走る稲妻型の傷。それをつけたのは、この杖の兄弟杖だというのに。あなたは、これを選ばれた」
ハニー「そ。じゃぁ、私はどこまでもそいつが気に食わないわ。おかげでいつまでも、前髪を変えられないんだから」
ハグリッド「その髪は似合っちょるぞ、ハニー!ヒンヒン!」
ハニー「大丈夫よ。あなたの大罪は、この私の杖を作ったことで全て許されたわ。誰あろう、この私にね」
ハグリッド「オリバンダー、杖の金だ。じゃあな、俺達は買い物を済ませっちまわねぇと」
オリバンダー「確かに」
ハニー「またね、オリバンダー老。次会う時は、ヴォルデモートの杖をお土産にしてあげる」
オリバンダー「あなたなら冗談にならなそうですな」
ハグリッド「おう!お前さんにそんな重ぇもんを持たせるわけにいかねぇからな!」
ハニー「理解が早い豚は好きよ?」
ハグリッド「おっほー!そ、そいじゃぁ俺はひとっ走りしてくるで、またな!ヒンヒン!ヒン!」
ハニー「扱いやすくて助かるわ。さ、って。制服はここね、『マダム・マルキンの洋裁店』」
マダム・マルキン「ごめんなさいねお嬢さん。私は、自分の手で測らないと気がすまないの」
ハニー「そう、私が魔法を覚えたのなら、そんな手間なことは絶対にしないわ」
???「……ね、ねぇ。あなた、今の言い方……ひょっとして、あなたもマグル生まれなの?」
ハニー「? そうだけど、あなた、誰?」
???「あっ、ごめんなさい!」
ハーマイオニー「私、グレンジャー。ハーマイオニー・グレンジャーよ!」
ハーマイオニー「あぁ、良かった!私、これまでマグル生まれの子に会ってなくて、とっても心細かったの!」
ハニー「そうよね。私も、案内してくれる豚がいなかったら不安だったろうわ」
ハーマイオニー「豚? ねぇ、あなた、どこの寮に入りたい?私、ホグワーツの事を知ってから、色々読んで勉強してみたの!」
ハニー「えぇ」
ハーマイオニー「勇気ある者が入るグリフィンドール、野心ある人が入るスリザリン、知恵ある者が入るレイブンクロー、優しさある人が入るハッフルパフ!」
ハーマイオニー「あぁ、私、できればレイブンクローがいいのだけれど。でも、名のある魔法使いの多くはグリフィンドールのようだし、困ったわ!」
ハニー「そうね」
ハニー「さぁ、その口ぶりだと、有名な魔法使いってところかしら」
ハーマイオニー「えぇ!ホグワーツの、校長先生なの!とってもとっても有名だそうよ……あぁ、それから」
ハーマイオニー「ハニー・ポッターは知ってるかしら?あのね、どうやら、私たちと同じ学年……」
マダム「はい、お嬢さん終わりましたよ」
ハニー「どうも、マダム」
ハーマイオニー「あっ……」
ハニー「ごめんなさいね、人を待たせているの。店の前でヒンヒン鳴かせておくのは迷惑だし、もう行くわ……」
ギュッ
ハーマイオニー「えっ、えっ!?な、なにを!?」
ハニー「また、きっと会いましょう?ハーマイオニー」フーッ
ハーマイオニー「あ、あ、あぁ……え、えぇ!きっと、絶対、絶対だわ!///」
ハニー「(少し前歯が気になるけれど、この子は磨くととてつもなく光るわね。しっかりつばをつけておかないと)」
ハグリッド「もちろんだ、ハニー!よ、っと」
ハニー「あなたの肩の乗り心地は堪らないわね。誰も彼も見下ろすことができるし」
ハグリッド「そうか、それだけで俺ぁデカブツで良かったと思えっちまうぞ。ハニー、なんぞ良い事があったかい」
ハニー「そう見えるかしら」
ハグリッド「おう!俺とかあの豚みたいないとこを踏んづけている時とおんなじ顔をしちょる!」
ハニー「まぁね、ふふっ」
ハグリッド「おー、ハニー。そうプレッシャーをかけんどくれ、俺ぁそいつにめっぽう弱い……」
ハニー「怖がらないで、ハグリッド。さぁ、あなたの隠したそれを……私に見せてみて?簡単でしょう?」
ハグリッド「あぁ、ハニー、いけねぇ、いけねぇ……これは……」
ふくろう「ピィーッ!」
ハニー「可愛いふくろうを用意できたじゃない、褒めてあげるわ」
ハグリッド「お前さんと駅で別れる時にビックリさせてやろうと思っちょったのに……」
ハニー「回りくどいのは嫌いよ、覚えておきなさい。さっ、白豚、主人の顔をキチンと覚えるのよ?チキンになりたくなければね」
ふくろう→白豚「ピピィー!?」
ハニー「9と4分の3番線……そんなもの、どこにもないじゃない」
ハニー「あの豚、何か伝え忘れたわね……次会ったら全力でシカトだわ」
ハニー「豚の処遇はともかく、どうすれば……」
ハニー「……あの赤毛の集団、怪しいわ。先頭は、籠にふくろうなんて入れているし」
パーシー「ロン、ロン!お菓子を食べながら歩くんじゃない!君も今日からホグワーツの一員なんだ、監督生の僕に手間をかけさせないように……」
フレッド「おぉーぅ完璧パーフェクトパーシーはいう事違うぜ全くさ。鼻高々でダンブルドアにも負けないくらい伸びきっちまうんじゃないかい?」
ジョージ「ロニー坊や、お菓子を食べないと不安かい?大丈夫さ、組み分けはちょっとばっかり痛い目にあうだけ、死にはしないさ、きっと多分な」
ロン「パース、僕は子供じゃないんだ!ジョージもうるさいぞ、マーリンの髭っ!!」
ハニー「……」
ロン「あいたっ!?」
ハニー「あら、ごめんなさい……あぁ、あなたのお菓子が足元に」
ロン「いったたた……あー、ごめんよ。僕の方こそ兄貴たちと口論をしていたせいで。すぐに拾うよ、お世話様」
グシャッ
ハニー「……私の靴に、チョコがついたわ」
ロン「えっ……あー、どっちかと言うと、君が踏んだように思うんだけれど。なんのつもりだい、君……君、は……」
ハニー「ごちゃごちゃ言わずに、舐めとりなさい。ロニー坊や」
ロン「……」
ロン「もちのロンさっ!!!!!」
ロン「一応訂正させてくれよ。僕は、ロナルド・ウィーズリー。ロンって呼んでよ、豚でもいいさ」
ハニー「覚えておくわ。私は、ハニー・ポッター」
ロン「……は、ハニー・ポッターだって!?冗談きついよ、ハ、ッハ、ハさ!」
ハニー「主の言葉が信じられない豚なんていらないのだけれど?」
ロン「ごめんなさい!でも、へぇ、君が……おったまげー。こんなに可愛い女の子だったなんて」
ハニー「えぇ、それで可憐で完璧で知的で儚げでね。よく言われるわ」
ロン「そりゃそうさ、だってホントのことだもんね」
ハニー「あなた、ダドリー以来にしっくりくるわ」
ロン「うん、あと妹が一人」
ハニー「道理で鍛えられているはずだわ、性根の話ね」
ロン「なんのことだかさっぱりだけど、君に褒められて光栄さ」
ハニー「素直に尻尾を振ってヒンヒン言っておけばいいのよ。さぁ、それが出来たらご褒美にこの首輪をあげるわ」
ロン「やったぜ!」
ハーマイオニー「な、なぁに、あれ……って、あの子は……」
ハニー「あっはは、よく鳴く豚ね。可愛いわ」
ガラガラッ
ハーマイオニー「ちょ、ちょっと!やめなさいよ、男の子にそんな真似をさせるなんて……」
ハニー「うん?これはロンが好きでやっていることなのよ……あら」
ハーマイオニー「……見間違いであって欲しかったけれど、やっぱりあなたなのね」
ロン「誰だい、君。ハニー・ポッターになんのようさ」
ハーマイオニー「なんにも……は、ハニー!?ハニー、ポッター!?だ、誰が!?あなたなんていう冗談は止めて頂戴よ!?」
ロン「赤毛しか合ってないさ、あぁ。違うよ」
ハニー「私よ、私がハニー・ポッター。紹介が遅れてごめんなさいね?」
ハーマイオニー「……」
ハニー「私はいつも自分に正直に生きているの」
ロン「だから君は輝いているってわけだね」
ハニー「だから全部ホントよ、あなたと学校で会いたかった、っていうのも、ね。早々に、叶ったようだけれど……」
ハーマイオニー「近寄らないで!……あんなに憧れたハニー・ポッターが、あなたがこんな人だなんて、がっかりだわ」
ハニー「……」
ハーマイオニー「……あなたとは、お友達になれるって思ってたのに。失礼するわ、赤毛の女王様」
ガラガラピシャンッ!!
ロン「あー……ありゃなんだい?中々、ネーミングセンスはあるみたいだけどさ」
ハニー「ロン、さっき山ほど買った百味ビーンズ全味制覇でもしてなさい」
ハニー「……」
ロン「そして君の僕に対するリアクションもこれまた無味無臭、全くゾクゾクするね、あぁ」
ハニー「あなた訓練されすぎよ」
ガラガラッ
??「やぁ。ここに、ポッターがいるって?なんだか出っ歯のマグルもどきがわめいていたけれど」
ロン「なにさ、次から次に。僕とハニーのプレイを邪魔しないでくれよ」
ハニー「……何かよう?悪いけど私、少し気分が悪いの」
???「おやおや、これは失礼」
ドラコ「僕はドラコ。ドラコ・マルフォイさ」
ドラコ「僕の名前がおかしいかい?君の名前なんて聞く必要もないな、ウィーズリー。貧乏赤毛のコソコイタチめ」
ドラコ「あぁ、君の赤毛をバカにしたように聞こえたらごめんよ、ポッター。なに、君がバラなら、さしずめこいつは干からびたミミズさ」
ハニー「……」
ドラコ「そのうち君も、良い家柄と悪い家柄の区別が分かる。まぁそれまでは、この僕が教えてあげよう」
ハニー「……」
ロン「は、ハニー……?」
ハニー「歯ぁくいしばりなさいよ童貞」
ドラコ「な、なnごっッフォォオオオオイ!?!?」
ロン「いったー!いったー!ハニー姐さんの黄金の右ストレートやー!!!」
ドラコ「は、はなっ、はなせっこのぉおおおお!!!」
ハニー「語尾にフォイはどうしたの?」
ドラコ「んなっ!?だ、誰がそんnイタタタタタタタタ!はな、放してくださいフォォオオオオイ!!」
ロン「アッハハハ!ざまぁみろよマルフォイ、僕の父さんを一家総出で悩ませてる罰かもな!」
ドラコ「く、っそふざけるなウィーズリーイタタタタタタタタタやめ、やめてぇフォォオオオオオイ!!!」
ハニー「こんなことで褒められても嬉しくないわ」
ロン「でも、良かったのかい?あいつ、見るからにヘタレだろ、僕と同じで」
ハニー「えぇ、あなたと同じへタレ童貞豚の臭いがプンプンしたわ」
ロン「ご褒美さ、あぁ。で、あいつも君の豚に加えなくて良かったのか、ってことさ」
ハニー「あの童貞にも言ってやったけれど、友達なら自分で選べるわ。それに、勘違いしないことね、ロン。私は男なら誰でも豚にするっていうわけではないの」
ロン「えっ」
ハニー「敵か味方か、敬意を払う豚か愛玩する豚か。誇りなさい、ロン。あなたはこの私に選ばれたのだから」
ロン「一生ついていくよ、ハニー!」
ハニー「もとよりそうさせるつもりよ」
ザワザワザワ
グリフィンドール生「今年は、ポッターが来るらしいぜ!?」
グリフィンドール生「グリフィンに来てほしいよな!!」
マクゴナガル「ただいま戻りました、ダンブルドア校長。一年生はあちらに待たせてあります」
ダンブルドア「うむ、ご苦労じゃったのうミネルバ……ほっほ、どうやら生徒達は、ハニーの話題で持ちきりのようじゃな?」
フリットウィック「リリーに大変似ているそうで!スネイプ先生、楽しみですな?」
スネイプ「……」
マクゴナガル「それでは、呼びましょうか……一年生、前へ!」
ガチャッ!
ザワザワザワザワ!
グリフィンドール生「な、なんだあれ!?」
グリフィンドール生「あ、赤毛の美少女が、男たちの人体矢倉に担がれながら運ばれているー!?」
ハニー!ハニー!! 僕らの女王ハニー!
ロン「こら、やめろよ!ハニーの足元は僕だぞ!そうだろ、ハニー!?」
ハニー「えぇ、ロン。良い眺めね、褒めてあげるわ」
ダンブルドア「おぉう、まっことリリーの生き写しじゃ」
マクゴナガル「そこですかアルバス!?!?」
ダンブルドア「ジェームズの血を引いている以上、ある程度派手なのは想定しておかんとのぅ、ミネルバよ」
フリットウィック「しかしそっくりですな、スネイプ先生、どうで……」
ダンッ!!!!
スネイプ「……」ダクダクダクダク
フリットウィック「す、スネイプ先生!?ご自分の手の甲にフォークを突き刺して、なにを!?血、血が溢れていますよ!?」
スネイプ「あれはリリーではないあれはリリーではないあれはリリーではない耐えろセブルス誓っただろうリリーを生涯あいsあれはリリーではないリリーではないのだ耐えるのだ我輩ぃぃぃぃぃぃぃぃぃ」
スネイプ「あの流れるような赤い髪透き通るような風になびく美しい髪は我輩の脳裏に焼きついて離れないあの軌跡と同じだがあれはリリーではない」
スネイプ「あの陶器のように艶やかで美しい肌はリリーが我輩の手を握ってくれた時と同じキメ細やかさを誇って見えるがあれはリリーではない」
スネイプ「あの笑顔、全ての人を虜にするような、誰もが彼女を愛してやまないようなあの笑顔もまるでリリーのようだ、ようだが、あれはリリーではないのだ」
スネイプ「リリーではない、リリーではないのだ抑えろ、静まれ我輩の、我輩のスニベルスぅううううう!」
フリットウィック「……ダンブルドア校長?」
ダンブルドア「ミネルバよ、セブルスは組み分けの儀式を欠席するようじゃ」
マクゴナガル「えぇ、そうでしょうとも。そうさせましょうとも、まったく」
ロン「組み分けがの方法が、喋る帽子を被ることだなんてな」
ハニー「寮の特色は、大体前にあなたが言っていたのと同じようね?グレンジャー?」
ハーマイオニー「……話しかけないでいただけるかしら。あなたと同類だと思われたくないもの」
ロン「おいおい、ハニーになんていい草さ。大体それってめちゃくちゃ光栄なことじゃないか、なぁハニー?」
ハニー「あら、あの時はあなたの方から一生懸命話かけてくれたのに」
ハーマイオニー「知らないわ!」
ロン「ハニー、ハニー!僕はいつだって君に話しかけるよ、あぁ!いつだってね!」
生徒「あぁ、可愛いけどあれ、みたろ?」
ハニー「……」
生徒「多分、スリザリンだよな。女王様って感じだし」
生徒「今年はスリザリン総獲りかもなぁ」
ハニー「……」
ロン「ハニー、僕は君がどこに入ろうとついていくよ!」
ハニー「えぇ、ロン。そもそも主がいないと豚は生きていけないでしょ?」
ロン「その通りさ!」
マクゴナガル「名前を呼ばれた生徒から前にでて、帽子を被りなさい!アボット・ハンナ!」
ロン「うっひょー!いいよ、なんだい!?」
ハニー「スリザリンって、どういうところ?」
ロン「闇の魔法使いの出身者が多いよな、うん。『例のあの人』とか」
ハニー「ヴォルデモートね」
ロン「!?!?あ、あの人の名前を言うなんて、ほんと、君っておったまげー」
ハニー「もういいわ、大体分かったから。それじゃ、ご褒美ね……」フーッ
ロン「!?!?み、みみみみっ耳にいいいい息なんてそんあハニーあのそくぁwせdrftgyふじこ」
マクゴナガル「グレンジャー・ハーマイオニー!」
ハーマイオニー「はいっ!」
ハニー「張り切っちゃって。でも返事はいらないみたいよ?」
ハーマイオニー「あ、あなたは黙ってて!」
ロン「あ、君を嫌ってるにっくいあんちくしょうは、グリフィンドールみたいだよ」
ハニー「えぇ、良かったわね。彼女らしいわ」
ロン「随分、あの子につっかかるじゃないか」
ハニー「そりゃぁね。だってあの子……」
マクゴナガル「ポッター・ハニー!」
ザワザワザワ
ロン「ハニー、頑張って!残った僕らで君を応援してるよ!」
うぉおおおハニー! ハニーガンバレー!!!
ハニー「ふふっ、ありがとう可愛い豚さんたち」
組み分け「うむむ、これはこれは」
ハニー「なによ、どうせ決まりきっているんでしょ?」
組み分け「ふむ?決まっている、とは?」
ハニー「回りくどいのは嫌いよ。さっさと言いなさい、スリザリンって」
組み分け「ほぉー、君はスリザリンに入りたいのかね?」
ハニー「……別に。でもあなたはさっき、言ってたわ。スリザリンは狡猾で野心家、手段を選ばないって」
ハニー「周りの皆も大体、そう思ってるみたい。そりゃそうよね、だって私は自分のしたいようにしてる」
ハニー「ほら、早く。待たされるのは、好きじゃないの」
ハニー「でしょ?だったら……」
組み分け「だが、君は知恵もある。知恵をつけたいという願望もある。レイブンクローでだって、上手くやれるだろう」
ハニー「……」
組み分け「しかし君は同時に、優しさも持ち合わせている。周りの者にはいびつに見えるそれも、私は良く知っているよ。君はハッフルパフでだって、上手くやれる」
ハニー「……」
組み分け「もっとも、一番上手く行くのはやはりスリザリンだろう。君はあそこに入れば偉大になれる、間違いなく偉大な、魔法界に名を残す魔法使いに」
組み分け「だから私は、このまま君をスリザリンに入れるのが正しいのだろう」
ハニー「……」
組み分け「君が心を偽り続けるのならば、そうするしかないのだろう」
ハニー「……」
組み分け「私は歌ったね?包み隠さず話してごらん~♪ ここでは君の声は、私にしか聞こえない。どうだね、少し君の本音を、漏らしてみれば」
ハニー「私は誰からも望まれない子供だった。生まれた時から両親はいなかった。いるのはいじわるなおじとおば、それにいとこだけ」
ハニー「いつもビクビクしてた。今日はなにをされるだろう、なにをすればいいんだろうって」
ハニー「でもあるとき、ヘンテコなローブを被ったおばさんに言われた。『あなたはリリーにそっくりで、とっても美人さんね!』って」
ハニー「一度も褒められたことなんてなかったから、びっくりしたわ。思えばあれは、こっちの世界の魔女なんでしょうね」
ハニー「それから、私は少し自分に自信が出来た。笑う練習をして、オドオドした態度もやめて」
ハニー「で、気づいたら」
ハニー「私の足元で豚がヒンヒン鳴いてたわ」
組み分け「……(ジェーズの子共だなぁ)」
ハニー「それからよね、たくさんたくさん豚を、私のことを崇拝してくれる人を大事にしていったのは」
ハニー「でも……自信がついたはずなのに、楽しいはずなのに。いっつも不安なの、怖いのよ」
ハニー「この人たちは、私の本当の……オドオドした、わたしのことを知ったら離れていっちゃうんじゃないかって」
ハニー「そんな不安を押し殺すために、もっともっと躍起になった。豚も増えていった」
ハニー「……でも本当は、やよ。こんな関係じゃなくて、本当のわたしを見てほしい」
ハニー「贅沢かもしれないけど、私が始めたことだけど……でも、怖いの。受け入れられなかった、ときが」
ハニー「……知識なんていらない、優しさなんていらない、偉大になんか、なれなくっていいわ」
ハニー「私は、たった少しの勇気がほしい」
ハニー「……ねぇ、組み分けさん。わたしは……グリフィンドールでは、やっていけないの、かな」
組み分け「…………」
ハニー「っ!!」
ワァアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!
フレッド「ポッターを獲った!ポッターを獲った!!」
ジョージ「優勝杯は戴きだ!!ポッターを獲った!!」
ハグリッド「おぉおおおおハニー!!!お前さんの、お前さんの嬉しい顔が見れて幸せだぁーーーーー!!」
ハニー「は、っは……組み分けさん?」
組み分け「最後に決めたのはあなただ、お嬢さん」
ハニー「……当然じゃない、このボロ帽子。この私を、誰だと思っているの」
ハニー「ハニー・ポッター。グリフィンドールで、天下を獲る女よ」
ウォオオオオオオオオオオ!ハニーーーーーーーー!!
組み分け「……」
ダンブルドア「ほっほ……先は長いようじゃな」
興味がないふりをしているが、実は授業でミスしてハニーに罵られるたびにイってる
とうていあのラストの活躍するとは思えんぞwww
ハーマイオニー「……」
ハニー「どうも、えぇ。首輪は後であげるわ。私、疲れたの。もう座るわ。あぁ、椅子にならなくて結構よ、お世話さま」
ハーマイオニー「……」
ハニー「ハァーイ、グレンジャー。グリフィンドールおめでとう」
ハーマイオニー「……レイブンにするべきだったわ、私、今から組み分けに……」
ハニー「一度決められたことを反故にするの?私との約束と同じで?」
ハーマイオニー「それは、あなたが!!!」
ハニー「えぇ、そういうことにしてあげる、もちろんね。あら、ロンの番みたいだわ」
ロン「おい!!おい!!!僕はグリフィンドールだろ!!おい!!!僕はウィーズリーだ!グリフィンドールだよな、おい!?」
組み分け「アズカb」
ロン「笑えないよやめろよっ!!!マーリンの髭っ!!!!!」
ハニー「正確にはマットね、まったく、ロン。あなたは使える豚だわ」
パーシー「あー、ハニー。君がここに来てくれて監督生としては大変光栄だけど、その。僕の弟をそういう扱いは……」
フレッド「面白いんだからよせよ、パース。やぁハニー、麗しの君。そっちの赤毛の兄貴だよ」
ジョージ「うちのロニーがお世話様。これ、ロニーの恥ずかしい写真アルバムだ、使ってくれ」
ロン「おい!ハニー以外が僕をいじるのはやめろよ!!!」
ダンブルドア「新入生、入学おめでとう!上級生、おかえり!歓迎会を始める前に、二言三言!そーれわっしょいこらしょどっこらフォーーイ!」
ドラコ「!?!?」
ロン「あぁ、あの人ちょっとおかしいのさ。あの、ダンブルドアって人はね」
ネビル「ね、ねぇ君、苦しくないの?それ」
ロン「うん?何を言っているのさ、ご褒美なのに。君は?」
ネビル「ね、ネビル。ネビル・ロングボトムで……」
ハニー「へぇ……?」
ネビル「ひぃっ!?っちょ、ちょっと僕、トイレ!」
ロン「あっ、行っちまった……ハニー、ありゃどうだい?」
ハニー「ヘタレ具合は一級品だけれど、私を怖がるタイプね。徐々に慣れさせるわ」
ハーマイオニー「お料理が美味しくなくなるから、頭の痛くなる会話をやめていただけるかしら」
ロン「あ、僕知ってる。ほとんど首なしニックだ!」
ハニー「ほとんど首なし?」
ほとんど首なしニック「……坊ちゃん、呼ぶのならばポーピントン郷と呼んでいただきたく……」
ハーマイオニー「どうして『ほとんど』、なの?」
ほとんど首なしニック「どうしたも、こうしたも、あー……こういう具合でして」グイッ、ポロッ
ロン「あー……少しだけ残った首の皮で、ちょうつがいみたいになってら。首切りに失敗でもされたの?」
ほとんど首なしニック「そういうわけでして、私のことは……」
ハニー「ねぇ、ポーピントン郷」
ほとんど首なしニック「な、なんですかなお嬢さん!?嬉しいかな、生徒にその呼び名で呼ばれたのはいつぶりか……」
ハニー「この首輪で隠せばどうかしら。その代わり、私の物になるけれど」
ほとんど首なしニック「一生憑いていきます!」
ハニー「笑えないわ」
ロン「生きてないじゃないか、やめろよ!ハニーに一生ついていくのは僕だ!」
パーシー「そういうわけで、ここがグリフィンドールの談話室だ。男の子の寝室はあっち、女の子はこっち。四人部屋だから、扉の前の張り紙をしっかり確かめて」
ハニー「なんだかあなたと同じ部屋のような気がするわ、グレンジャー?」
ハーマイオニー「眠ってもないのに悪夢にうなさせるのはやめて」
ロン「まったく君ってハニーにとっても優しくて思いやりがあるよな。さっ、行こうかハニー」
ハニー「えぇ」
ハーマイオニー「待ちなさい」
ロン「なんだい、もう。君は一々ハニーのやることにケチをつけたいのか?どれだけ大好きなのさ、負けないけど」
ハーマイオニー「だだ、誰が!あのね、あなたは男の子でしょう!?どうしてハニーと一緒に女子寮に入ろうとしているの!?」
ハニー「どうしても何も、ロンは私の私物よ?」
ロン「君、ペットの持ち込みは可っていうの、見ていないのかい?」
ハーマイオニー「あなたにはかわいいのにとっても不憫な名前のふくろうがいるでしょ!?」
白豚「ピィー……」
パーシー「あっ、ロン!ちょっと待て!」
ロン「なんだいパーシー、君まで……」
パーシー「いや、そうじゃない!男が女子寝室の階段を登ろうとすると……!」
ロン「何さ、僕はもう何段か登ったけど、なにmウワッ、あーーーぁ!?」
ハーマイオニー「……滑り台みたいに変わって、床に叩きつけられたわね」
ハニー「ロン、見送りありがとう。足拭きマットになってくれるなんて、あなたは出来る豚ね?」
ロン「光栄、光栄さ、ハニー。うぅ、ちくしょう、ちくしょう」
ロン「というか実際何度か城がぶっ壊れっちまった。熱狂的なハニーファンとかのせいで」
ハニー「美しいって罪ね」
ロン「全くさ」
ハーマイオニー「ふんっ」
ハニー「……まだダメかしら。あの子に負けないくらい、授業も頑張っているつもりなのだけど」
ロン「そんなハニーの授業態度をマットとして見守る僕さ。何?羨ましいって?ハハハ、ペットの特権だからね、代われないよ」
ハニー「次は、『魔法薬』の授業ね。ロン、地下の教室だそうだから、暖かくしておいて」
ロン「もちのロンさ!ちょっと校庭100周してくる!」
ハニー「ウサギ飛びを忘れちゃダメよ。終わったら、良いことをしてあげる」
グリフィンドール生男子 シーン
スネイプ「……グリフィンドール生の不真面目な態度に、グリフィンドールから二十点減点」
ハニー「なにも全員やることないじゃない」
ハーマイオニー「バカばっかりだわ」
ハニー「素直って言ってあげてよ、可愛い豚さんじゃない」
スネイプ「私語は慎むように。ぽ、ポポポポポッター。君は英雄だのなんだのと言われ、図にのっておるようだな?我輩が、二、三、もしくは百個ほど、質問を……」
ハニー「あら、なぁに先生。いじめてほしいの?」
スネイプ「……」
ハニー「?」
スネイプ「……目……あの、目……全部、リリーなの、に、目が、目がポッターああああああわぁああああああああああああ!!!!!」
バシャーーーン!!
ドラコ「せ、先生が煮えたぎったなべの中に投身自殺した!?!?」
ハグリッド「ようハニー!俺んちに来てくれてありがとうよ!本当ならお前さんの下に俺が馳せ参じて靴をペロペロしねぇといけねぇってのに」
ハニー「いいのよ、大事な豚がどんなところに住んでいるのか把握していないとね」
ロン「おいハグリッド、行っておくけどハニーの一番の豚は僕だぞ。そうだよね、ハニー!?」
ハグリッド「どっこい、ハニーの魔法界での一番初めの豚は俺だ。そうだろ、ハニー!?」
ハニー「二人とも大事な大事な私の豚さんよ。はい、ヒンヒンお鳴き?」
ロン「ヒンヒン!」
ハグリッド「ヒンヒン!ヒン!」
ハグリッド「そ、そうか?気のせいだろ、うん!それよりロン、おめぇさんの兄貴のチャーリーはどうしてる?奴さん、ドラゴンの研究の……」
ハニー「ハ、グ、リ、ッド?」フーッ
ハグリッド「スネイプはジェームズのことを嫌ってたんですはい!!」
ロン「ジェームズって、ハニーのお父さんのことかい?あぁ、目が似てるとかどうとか」
ハニー「へぇ。じゃぁ私のパパの憎い目を思い出して動揺した、そういうことね?」
ハグリッド「お、おう」
ハニー「……隠してることがあったら、それが分かった時、ひどいわよ?」
ハグリッド「……おう」
ロン「ダメだ、ハニー。ハグリッドのやつ、ゾクゾクしてやがる」
ハニー「鍛えられすぎなのよあなたたち」
ハグリッド「あー、どうもそうらしい」
ハニー「私のお金も預けられていたところね、小鬼は可愛くなくて豚にはしなかったわ」
ロン「君には僕がいるよ、ハニー!へぇ、当日、泥棒が侵入した金庫は持ち主によってすでに空にされていたので、被害はなし、っと」
ハニー「そういえばあすこで、クィレル先生にも会ったわね。負け犬根性丸出しだったわ」
ロン「あぁ、闇の魔術に対する防衛術の……あんなやつターバンが汚いただのターバンだよ、やめておきなよハニー!」
ハグリッド「そうだ、ただのターバンだ!」
ハニー「おかしいわね、豚が何か言っているわ。豚は言葉なんか喋らないはずなのだけれど」
ロン「ヒンヒン!」
ハグリッド「ヒンヒン!ヒン!」
ハニー「お茶が美味しい、いい午後ね」
ロン「今日の午後は飛行訓練だね、ハニー」
ハニー「飛ぶのは楽しみだわ。馬代わりとかはしてもらったけれど、さすがに私を背負って飛べる人っていなかったもの」
ロン「僕ならいけるよハニー、任せてよハニー!」
ハーマイオニー「……相変わらずなのね、あなたたちって」
ネビル「僕のばあちゃんがくれた『思い出し玉』で、飛行ってどうやればいいのか思い出せないかなぁ……あっ、な、なにするのさ、えーっと、フォイフォイ?」
ドラコ「マルフォイだ!!!このチビ、僕に向かってなにを……」
ハニー「あなたこそ、私の豚候補に何をしてるのかしら、糞童貞フォイフォイ野郎」
ネビル「豚候補!?」
ロン「ウエルカムさ、ネビル」
ハニー「サル山でフォイフォイ言ってるあなたに言われたくないわね、ゴリラの集団を引き連れた童貞さん。豚にも劣るわ、あなたの連れって」
グラッブ「……」
ゴイル「……」
ドラコ「う、うるさい!こいつらだって役にたつぞ、えーっと、風よけとか!」
ロン「情けないな」
ハーマイオニー「マットのあなたがそれを言うの?」
ネビル「いたい、うぅ、いたいよぉ」
フーチ「あぁ、腕の骨が……全員そのまま待機していなさい!勝手に飛んだら退学です!さぁネビル、肩をかしますから……」
ロン「ネビルのやつ、慌てすぎて箒ごとぶっとんじゃうなんてな」
ドラコ「あっははは!見たかよ、あのロングボトムの情けない顔!」
スリザリン生 ゲラゲラゲラゲラ!
ドラコ「あいつがばあさんからもらったこの糞玉で、元から知恵遅れなのが幼児レベルに……」
ハニー「いい加減にしなさいよ、マルフォイ。また痛い目にあいたいの?」
ドラコ「ふんっ、ポッター。何か言いたいのなら……ほら、来いよ。空で話しをきいてやろうじゃないか」
ロン「あ、あいつ、箒で空中に」
ハニー「上等だわ」
ハーマイオニー「や、やめなさい!先生がおっしゃっていたこと、聞いてなかったの!?勝手に飛んだら、あなたまで退学よ!?」
ハニー「あら……ふふっ。あなたはむしろ私にそうなって欲しいんじゃないの?グレンジャー?」
ハーマイオニー「なっ……か、勝手に、勝手にすればいいわ!知らない!!」
ハニー「えぇ、そうさせてもらう……ありがと」
ハニー「仰るとおりです、先生」
マクゴナガル「あんな、初めての飛行の授業で!勝手に飛び出して!」
ハニー「申し訳ありません、先生」
マクゴナガル「何メートルも上空から!あんな小ささの玉を!ダイビングキャッチする、なんて!」
ハニー「必死で、何がなんだか。でも体が勝手に動いたんです、先生」
マクゴナガル「ポッター、さぁ、ポッター!退学か、グリフィンドールのクィディッチチームの一員になるか、どちらがいいですか?」
ハニー「はい、先生。それはもちr先生?」
ハニー「よく分からないのだけれど、これは凄いことなのね?」
ロン「もちろんさ、ハニー!さすが僕らのハニーだよ!」
ハーマイオニー「……規則破りをして、得した。そう思っているみたいね」
ハニー「そんなことないわ、勇気を出して行動した結果って言えない?」
ハーマイオニー「勇気と無謀を履き違えておいでのようね」
ハニー「厳しいわね」
ロン「おい、ハニーになんて言い草だよハーマイオニー!言っておくけど嫉妬できるレベルじゃないからな、君とハニーじゃぁ……」
ハーマイオニー「ぶっとばすわよ」
ハニー「ロン、あなたちょっと眼球取り出して丸洗いしてきなさい」
ロン「も、もちの、僕さ!」
ネビル「あ、ハニー!聞いたよ、僕の代わりにフォイフォイを……ロン、ローン!?死んじゃう、そんなことしたら死んじゃうよーーー!?」
ハニー「童貞フォイフォイから決闘を申し込まれたわ」
ロン「君が退学にならなかったのが気に食わないんだろうね。僕はハニーの豚としてお供するとして、なんで君がここにいるのさ」
ハーマイオニー「これ以上あなたたちが規則破りなんてしないように、よ」
ハニー「真夜中にこんなところにいるあなたはどうなの?」
ハーマイオニー「私の説得に耳を貸さないあなたたちのせいで、私は締め出されちゃっただけ!」
ハニー「だってあなたが必死に喋るのって懐かしくって」
ハーマイオニー「だから、いつの話しをしているの!」
ロン「なぁ、静かにしなよ。せっかくの奇襲を掛けられるチャンスなマルマルフォイフォイなんだ」
ハニー「ゴキブリホイホイみたいに言わないで頂戴」
ハーマイオニー「管理人のフィルチをあなたの、その、ぶ、豚とかにすればよかったじゃない!」
ハニー「あのね、私も豚にする人間くらい選ぶわ……行き止まりね」
ロン「くっ、ハニー!僕がフィルチに捕まる!君はその隙に逃げるんだ!」
ハニー「見上げた豚根性ね、見直したわ、ロン。でも、まだ手はあるみたい」
ハーマイオニー「あっ、ここに、扉……!どいて!『アロホモラ!』」
ロン「おったまげー。君、開錠の呪文を使えるのかい?」
ハニー「ありがとう、グレンジャー」
ハーマイオニー「いいから、今は早くここに入って!フィルチが来てしまうわ!」
ハーマイオニー「あ……あ……ここ、立ち入り禁止の、四階の廊下、だわ」
三頭犬「グルルルルルルル グルルルルル グルルルルルルフォイ」
ロン「三つ目なんか言ってる」
ハニー「何を怖がっているの、二人とも?たかが犬でしょう?」
ハーマイオニー「たかが、って!あのね、この廊下の天井まで届くような大きさの、どこがただの犬なの……」
ハニー「犬は犬よ、どんな見た目でも性根は変わらないわ。さぁ、イヌ?伏せ」
三頭犬「グルルルルルルルルルルルル」
ハニー「この、私が。伏せと言っているのだけれど?」
三頭犬「……クゥーン」
ロン「すっげぇやハニー!ついでに僕も伏せたから踏んでくれよ!」
ハーマイオニー「もうわけがわからないわ……」
ハーマイオニー「ふんっ!」
ロン「むしろ以前にも増して、ぷりぷり怒っているよな、君を見て。全く失礼な奴さ」
ハニー「まぁ私は、クィディッチの練習が始まったからあまり気にならないのだけれど」
ロン「兄貴たちが驚いてたよ、ブラッジャーが避けて、スニッチが向こうから手の中に飛び込んでくる選手なんて君くらいだ、って。ハニーは凄いなぁ」
ハニー「意思があるもの万物全て私の豚よ、当然じゃない」
フリットウィック「ウィンガ~ディアムレヴィオーサ、ビューン、ヒョイの動きですよ。いいですか?」
ロン「ウィンガーディアム、レビオサー?」
ハーマイオニー「違うわ!発音も、杖の振り方も!あぁ、なんでペアがあなたなのかしら」
ハニー「大変そうね、ロンは……あぁネビル、ほら、杖は、こう。こう、握るみたいよ?」
ネビル「はひっ!あ、あああありがとうハニーあぁハニーの手ぇ柔らかい」
ロン「ちゃんと言ってるじゃないか!ウィンガーディアムレビオサー、だろ?」
ハーマイオニー「いーえ!いい?レヴィオーサよ!あなたのはレビオサー!」
ロン「なんだよ、その言い方!いい加減にしろよ、ハニー以外が僕をいじるのはやめろよ!!」
ハーマイオニー「なによ!あなたこそ、それでもちゃんとした魔法使いなの!?」
ハーマイオニー「そのまんまよ!あなた、恥ずかしくないの!?魔法使いのお家の子供なのに、こんな簡単な呪文も出来ないなんて!」
ロン「はぁ?関係ないだろ……君、何を言ってるのさ」
ハーマイオニー「あるわ、あるわよ!何よ、いつもは影で、私がマグル生まれだって、バカにしている人がたくさんいるくせに、こういうときだけ!」
ロン「おい、誰だよそれ。そんなことを、君に……」
ハーマイオニー「もういいわ!あなたなんか、どうせ!あの子の豚で、ブヒブヒ言ってるのが、お似合いの……」
パシンッ!!!
ハーマイオニー「……えっ。痛っ……あっ」
ハニー「……私の豚のことを、私意外が悪く言うのはやめてもらえるかしら。グレンジャー」
ハニー「そんなことだから、あなた。友達がいないのよ」
ハーマイオニー「っ!!!」
フリットウィック「あー、そ、その。終業、です」
ハーマイオニー「っ、っ!!」
ネビル「あっ、ハーマイオニー!鞄も持たずに、どこに行くんだい!?」
ロン「……ハニー」
ハニー「大丈夫、ロン?まったく、あの女。困ったものよね」
ロン「……良かったのかい?」
ハニー「なぁに。まさかあなたが、私に口答えするはずはないわよね?」
ロン「……もちのロンさ」
クィレル「トロール、トロールが、地下室に……」バタッ
ダンブルドア「みなの衆、急いで寮に戻るのじゃ!駆け足!」
ロン「トロール、でかくてくさいゴイルみたいな汚い化け物さ。一体全体、どこの誰がこの城に入れたんだろ」
ハニー「さぁ。ともかくそんな醜いのは豚にする気もないから、パーシーについていきましょ……っ!」
ロン「どうしたんだい、ハニー?おぶさるかい?今の僕なら君ために飛べる気がするよ」
ハニー「……あの子は、このこと。この城に今トロールがいること、知らないわ」
ロン「……トイレにこもっちまったんだものな、ハーマイオニーの奴。そのうちどっかのゴーストみたくなるんじゃないか?」
ロン「助けに、行かないの?」
ハニー「……冗談。なんでこの私が、あんな子のために」
ロン「……」
ハニー「私の豚を愚弄したのよ?許せるはず、ないじゃない。さ、ロン。続きなさい。行くわよ……ロン?」
ロン「あぁ、ハニー。そうしたいのは山々さ、だけどね、ハニー」
ロン「僕は君の、自分のしたいようにする姿が大好きなんだ」
ロン「ううん、そう見せようとして、頑張って無理してついてる嘘が、好きなんだ。そんな姿が愛らしくてたまらない」
ハニー「!?」
ロン「でも、今の君のその嘘は。僕が心から尽くしてあげたい君の嘘じゃない。そんなの、僕は聞けないよ。あぁ、たとえ君の命令でも、さ」
ロン「ハーマイオニーに好かれようと必死になってる君は素敵だ」
ロン「僕に必死になって、言いたくもない悪態をつく君がいじらしい」
ロン「心の中でごめんなさいって言いながら僕を踏む君がたまらない」
ロン「でもさ、ハニー。今の君は全然、君らしくない。僕の好きな君でも、君の本当の優しい顔でもない」
ロン「僕は、君を本当の嘘つきになんてしたくない」
ハニー「……」
ロン「ハニー。僕のために彼女を怒ったのはとても嬉しい。けど、もう意地は張らなくたっていいんだ」
ロン「ハーマイオニーは、君を許してくれるよ」
ハニー「……ほんと?」
ロン「あぁ」
ハニー「わたし、あんなに酷いこと、言ったのに?」
ロン「今の君の言葉なら。豚じゃなくても、イエスとしか言えないよ。あぁ」
ハニー「行くわよ、ロン。私についてきなさい!」
ロン「あぁ、ハニー。強情で強気でか弱くて弱虫なハニー。それでこそ、君さ。ヒンヒン!」
ハニー「……ねぇ、いつから気づいていたの」
ロン「僕は君の一番の豚だぜ?それくらい分からなくって、つとまるはずないだろ?」
ハーマイオニー「……酷いわ、ハニー」
ハーマイオニー「私、あなたと……友達になれるって、信じてたのに。ずっと、ずっと……あれから後も、ず、っと……」
ハーマイオニー「……でも、私が悪いのよ、ね」
ハーマイオニー「……ロンにあんなことを言うべきじゃ、なかった。八つ当たりも、いいところだわ」
ハーマイオニー「ハニーは……あぁ見えて、ロンを本当に……大事に、思ってるのよね」
ハーマイオニー「私は、どうして……あぁなれなかったのかしら」
ハーマイオニー「どうして、ハニーにあんな態度しか……とれなかったの」
ガシャン!ドタバダガシャンッ!
ハーマイオニー「!?な、何の音!?ちょっと……トイレで、何を……」
トロール「……」
ハーマイオニー「」
キャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!
ハニー「!ハーマイオニーの悲鳴!急ぎなさい、ロン!」
ロン「ヒンヒン!あぁ、君のウサギ足の特訓のおかげで今の僕はスニジェット並みだぜ!」
ハーマイオニー「あ……っ、ぁ」
ロン「!トロールが目の前に……腰が抜けちまってる!」
ハニー「ロン、あなたはヒンヒン言いながらトロールの気を引いて!私は、あの子のとこに!」
ロン「もちのロンさ!ヒンヒン!おいウスノロ!デカブツ!ハニーの豚を舐めるなよ!!」
ハニー「大丈夫!?立てる!?」
ハーマイオニー「あ……は、ニー。ハニー……私、わた」
ハニー「ダメね……大丈夫、私を誰だと思ってるの?ほら、手をかして」
ギュッ
ハニー「グリフィンドールのハニー・ポッター。闇の魔法使いだかなんだかをぶっ倒した英雄よ?その私が、こんなのに。まけるはず、ないじゃない!」
ハーマイオニー「……ハニー」
トロール「……ボァア?」
ハニー「っ、間抜け面ね、貴方は畜生以下の気持ち悪い化け物よ!」
トロール「……」イラッ
ロン「は、ハニー!君が気を引いてどうすんだ!?く、っそ!僕の力でこのへんの木片を投げたところで、あいつには少しも……」
ハーマイオニー「っ!っ!!」ブンブン!
ロン「は、ハーマイオニー何を悠長に手話なんてやってるのさ!?え!?なに!?杖!?杖で、なにをしろって……ビューン、ヒョイ?……あっ!」
ハニー「なぁに、その反抗的な目。この私を誰だと思ってるの、あなた」
トロール「ボァァ……!」
ハニー「あなたの小さい脳みそに、よーく刻んでおきなさい!私の名前はハニー・ポッター!分かったら……」
トロール「ボァアアアアアッ!」ブンッ!!
ロン「ウィンガ~ディアム、レヴィオ~サ!棍棒、浮けっ!!!」
トロール「……ぼぁ?」
ハリー「跪きなさい、この豚ぁあああああああ!!!」
ボクッ!!……バターーーーーーン!!
ハニー「……ふ、っふふ。やった、わね。ロン、褒めて……あげる」
ハーマイオニー「……ハニー」
ハニー「どう、グレンジャー?この私の勇姿、惚れ惚れしたんじゃない?なんなら、あなたも」
ハーマイオニー「ハニー……ハニー」
ハーマイオニー「あなたの、手……とっても、震えて、たわ」
ハニー「……」
ハニー「あたり前でしょ!!!こんなの怖いに、決まってるじゃないの!!」
ハニー「魔法界の英雄!?いいえ!!ついこの間まで魔法のマの字も知らなかったのに、そんなのもっと知らないわよ!」
ハニー「赤毛の女王様!?いいえ!!ほんとはみんなともっと普通に仲良くしたいわよ!!」
ハニー「英雄じゃなくっても、女王様じゃなくっても、私が、ここに、来た理由!あなたを、助けた、理由!!」
ハニー「わたし、あなたに謝らなくっちゃ、って!だか、ら!だから……」
ハーマイオニー「いいの、ハニー。ごめんなさい、私も、私のほう、こそ……誤解していて、ごめんなさい」
ハーマイオニー「あなたって……とっても、勇気がある人だわ。ハニー……あなたは、私にとっての英雄よ?」
ハニー「そんなの、やだぁ。わたし、ハーマイオニーと、友達になるのぉ」
ハーマイオニー「うんうん、うん。ありがとう。そのために頑張ってくれたのね。うん」
ハニー「女の子の友達なんて、いなかったのぉ。だからぁ、初めてはハーマイオニーがいいのぉ!」
ハーマイオニー「えぇ、もちろんよ。私も、丁度友達がいないの。お願いしていい?」
ハニー「うぅぅ、ハーマイ、オニー……!」
ハーマイオニー「ハニー、ハニー……!」
ロン「……」
ロン「おっと、こりゃ僕はお邪魔のようで」
ハーマイオニー「はいはい。ふふふっ」
ハニー「忘れなさい!忘れなさい忘れなさい忘れなさい忘れろ!」
ロン「な?分かると滅茶苦茶微笑ましいだろう?」
ハニー「うぅ、こんなのおかしいわ。華麗に救って、グレンジャーには気づかれることなく、雌豚一号になってもらうつもりだったのに!」
ハーマイオニー「はいはい、そうなのよねーそのつもりだったのよねー」
ハニー「ちょっと、ロン!私の豚のくせにどうしてグレンジャーの味方をするわけ!?」
ロン「何を仰る僕らのハニー。僕はいつだって君の味方さ、色んな意味でね」
ハーマイオニー「私でちょっとずつ素直になっていきましょうね、ハニー。まずは私のことをいつでも『ハーマイオニー』って呼ぶこと!」
ハニー「んな、そんなの、恥ずかしい……」
ハーマイオニー「それじゃ、私もあなたにヒンヒン言うことにするわ?」
ハニー「や、やよ!そんなのいや!」
ロン「あー、どうしよう。どうしようねこれ、僕は今後7年間で枯れちゃうんじゃないかな、うん。何がとは言わないよ」
ハーマイオニー「えぇ、ハニー」
ハニー「そ、それから、ロン。私の豚」
ロン「うん、ハニー。豚って呼んでごめんなさいは脳内で再生してるよ、大丈夫」
ハニー「うー、うーーー!!!もう知らないわよ!私、一度自分のものになったら絶対、絶対手放さないんだから!」
ハニー「私が、ホグワーツ皆を、ヒンヒン言わせるまで!付き合ってもらうわよ!」
ロン「もちのロンさ!それから先もずーっと僕は君の一番の豚だけどね!」
ハーマイオニー「みんなと友達になりましょうね、ハニー。私は最初の女友達だけれど、ね」
ハニー「わ、わたしそんなこと言ってないわ!もう!……もうっ」
完
ドラコ「スネイプ先生、容態はどうですか。先生がいないと、授業が出来なくて困るフォイ……」
スネイプ「……ヒンヒン」
ドラコ「!?」
今度こそ、完
是非ともシリウスを出したいところやで!
ラドクリフお大事に!
じゃあの!
ハリー・ポッター シリーズ
一巻~七巻まで
世界的大ヒット発売中!
2014年後半 USJにて
ハリポタアトラクション建設決定!!
Entry ⇒ 2012.10.08 | Category ⇒ 版権物SS | Comments (1) | Trackbacks (0)
照「じゅ、充電、充電……」白望(ダルい……)
ID:i2nxSJz30
シロのマイナーカプSSらしいぞ!
マイナーカプが苦手な人は気をつけろ!
塞「好きな人ができたァ!?」白望「うん」
白望「芋けんぴ、髪に付いてたよ」
純「ダリィ」白望「ダルい」
一応前作だけどお話のつながりはないです
豊音「遊園地だよー!」ピョンピョン
エイ「Ferris wheel! Coffee cup! Roller coaster!」
胡桃「うるさいそこ!トヨネもエイちゃんもはしゃぎすぎ!」ワクワク
塞「胡桃も人のこと言えないでしょ!」ソワソワ
白望「塞もね……」
塞「熊倉先生も遊ぶんですか!?」
トシ「あら、私だけ除け者にする気だったのかい?」
塞「い、いえ、そういうわけでは……」
塞(絶叫マシンとか乗っても大丈夫なのかなぁ……)
胡桃(ん……ちょっと待てよ)
塞(3人ずつってことは……)
エイ(シロトイッショニナレルノハフタリダケ!?)
塞(……なんとしても)
胡桃(シロと一緒のグループに!)
エイ(マケラレナイ!)
豊音(な、なんか3人が怖いよー……)
白望(だる……)
トシ「それじゃ、グーとパーでわかれましょ」
トシ「じゃあ行こうか。シロ、豊音」
白望「はい」
豊音「私ジェットコースターに乗りたいなー!」
塞「……あれ」
胡桃「……どうして」
エイ「……コウナッタ」
菫「全員揃ったか?」
照「うん」
淡「はーい!」
誠子「はい」
尭深「はい」ズズ…
誠子「3年のお二人は分かれたほうがいいんじゃ?」
菫「あ、いや、ほら、照はすぐに迷子になるから私が見てなくちゃいけないというか……その……」ゴニョゴニョ
照「私も菫と一緒がいいな」
菫「……!て、照っ!」
尭深(今日も菫照でお茶がおいしい)ズズ…
誠子「まぁ、宮永先輩がそう言うなら」
淡「スミレはしょうがないなー」
菫「じゃあ行こうか照!まずはメリーゴーランドだ!」グイグイ
照「そんなに引っ張らなくても……」
菫「あっ、すまない」
誠子「じゃあ私たちもいこうか」
淡「はーい!」
尭深(淡誠は……うーん……)ズズ…
誠子「乗りたいのはある?」
淡「ジェットコースター!」
誠子「いきなり絶叫マシンかー。尭深はいい?」
尭深「うん」
誠子「ははは、そんなに急がなくてもジェットコースターは逃げないよ」
尭深「……」
尭深(お父さん誠子と愛娘淡……すごくいい!)
ーーー
豊音「遊園地ちょーたのしいよー!」
トシ「たまには絶叫系もいいもんだね」
白望(絶叫マシン4連続……さすがにダルいなんてもんじゃない……)グッタリ
豊音「次は登って落ちるやつがいいなー!」
トシ「フリーフォールかい?いいねぇ」
白望「ちょ、ちょいタンマ……」
豊音「どうしたの?」
白望「少し疲れたから、私はあそこのベンチで休憩してる……」
豊音「えー!」
白望「二人で楽しんできて……」
トシ「しょうがないねぇ、二人で行こうか」
豊音「はーい」
トシ「休憩終わったらメールしてね」
白望「はい……」
白望「…………」
白望「まずい、眠い……」
ーーー
菫「じゃあ次はあれに乗ろう照!」
シーン
菫「……照?」
照「……あれ、菫?」
照「……」
照「菫ー。弘世菫さーん。シャープシューターすみれー」
照「……」
照「菫が迷子になった……!?」
照「あ、忘れてきてる……」
照「仕方ない。歩いて探そう」
照「菫も迷子のときは動いちゃいけないことくらいわかってるだろうから」
照「すぐに見つかるはず」
…
照「……見つからない」ゼーゼー
照「あのベンチ、人がいるけどいいよね……」
白望 ウトウト
照「……お隣失礼します」
照 ストン
白望(……んー?)
照「あ、起こしてしまいましたか?」
白望「いえ……お構いなく……」
白望(んー?この人、どこかで見たような……)
照「……何か?」
白望「いえ……」
白望「菫……?」
照「はい。私と同じ制服で、青みがかかったロングヘアの子なんですけど……迷子になっちゃったみたいなんです」
白望「見てません……」
照「そうですか……」
白望「お力になれず……」
照「あ、いえ、こちらこそ突然すみません」
胡桃「ねぇ、あれシロじゃない?」
エイ「ホントダ」
塞「トヨネと先生はいないみたいだけど……」
胡桃「シロ、なにやってんの?」
白望「あ、胡桃……疲れたから休憩してる……」
塞「はは、シロらしいね……」
塞「って、隣の人……もしかしてチャンピオン!?」
白望「ああ、どこかで見たことあると思ってたけど、それでかぁ」
塞「もう、勝ち進んだらきっと当たるから、研究しときなさいって言ったでしょ?」
白望「牌譜は見た……」
照「あの、皆さんは、菫って子見ませんでしたか?」
塞「菫って……白糸台の次鋒の?」
照「はい」
胡桃「見てないよ」
エイ フルフル
照「そうですか」
胡桃「シロ、とりあえず充電!」
白望「この往来で……?」
胡桃「充電不足なの!」
白望「しょうがないなぁ……」
胡桃「よろしい!」ポスン
胡桃「充電充電!」
照(なるほど、片方を充電器に、もう片方を電池に見立てて充電ごっこをするのか……)
照(いや、お団子の子が羨ましそうに見てるあたり、何か効果があるのかも……)
照(今度菫でやってみよう)
照(忘れないようによく観察しないと……)ジー
胡桃「わわ、ひっぱらないでよ」
塞「せっかく遊園地来てるんだから、アトラクションで遊ばないと!」
胡桃「むー」
塞「じゃ、シロ、またあとでね!」
エイ「デハマタ!」
白望「んー」
エイ「サヨナラデス」
胡桃「さよならー」
照「はい。さようなら」
照「じゃあ、私もそろそろ菫を探しにいきますね」
白望「はい、さよなら……」
白望「……」
白望 スヤスヤ
…
照「むむ、まだ見つからない……」
照「まったく、どこに行ったんだろう菫は……」
照「あ、あの人まだいる」
照「……寝てる?」
照「……これは、充電を体験するチャンス……!」
照「そろーり……、そろーり……」
照「失礼します……」ポスン
白望(何か重たい……)
白望(……前が見えない……誰かの頭?)
照(こ、これが充電……!)
照(柔らかく、暖かく、気持ちいい……これはまさに)
照(肉ベンチ!)
白望(ダルい……)
白望(って、なんで宮永さんが……?)
白望(……まあいいか、寝たふりしとこう)
…
菫「あ、あれは照!ようやく見つけたぞ!」
菫「……照……と、誰?」
菫「て、照の座椅子になっているだと!!?」
菫「なんて羨ましい!」
菫「くそう、照ー!!」ダダダッ
菫「照っ!!」
照 ビクッ
照「す、菫?」
菫「はぁ……はぁ……!て、照っ!」
照「……は?」
菫「さぁ、はやく!」
照「ちょ、ちょっと待って菫」
菫「な、なんだ、私なんて座椅子にできないとでも!?」
照「ううん、そうじゃなくて……」
照「そ、その、人目のある場所で菫で充電するのは、恥ずかしいから」
菫(そいつとはしてたのに……?き、基準がわからん……というか充電ってなんだ?)
菫「じゃあ、観覧車に乗ろう!」
照「う、うん」
白望「……なんだったんだ……」グデー
…
-観覧車-
菫「さぁ、照……きてくれ」
照「うん……」
菫「…………!」
菫(て、てるのはだが!おしりが!においが!)
菫(てる、いいにおいだよォ……)ハァハァ
照(うーん……)
照(……なんかカタいし、首に息があたってるし……)
照(……微妙)
菫(もう終わりか……)ショボン
菫「ど、どうだった、私の座り心地は?」
照「正直、さっきの人のほうが良かった」キッパリ
菫「え」
照「さっきの人、まだ寝てないかな」
菫「ま、また座りにいくのか!?」
菫「ま、まってくれ照!捨てないでー!」
照「安心して、菫のことは好きだから」
菫「えっ///」
照「でも、私にはあの座り心地が忘れられないんだ……」タタタッ
菫「そんな!て、照ー!」
白望(またか……)
照「失礼します」ポスン
照「充電、充電……」
白望(…………だるっ)
おしまい
ラブコメ期待してた人がもしもいたならすみませんでしたー
菫さんがなんかアレな役回りになってしまったことに関しては本当に申し訳ない
Entry ⇒ 2012.10.08 | Category ⇒ 咲-Saki-SS | Comments (0) | Trackbacks (0)
P「余命半年と宣告されてもう二年経つのか……」
春香「そんなことないですよ、プロデューサーさんが元気でうれしいです」
P「ははは、あれからずっと入院してるけどな」
春香「よくなるといいですね……」
P「そうだな……」
P「なんか悪いな、迷惑かけて」
春香「そんな事ないですよ……」
P「あのまま、半年で死んでればどんなに楽だったか……」
春香「プロデューサーさん!止めてください、そんなこと……!」
P「ご、ごめん……」
春香「そうですね……」
P「あぁ……、たまにさ。凄い苦しいんだわ、発作とかそういうので」
春香「……」
P「ホント、……二年間、ずっと」
P「一年半、余計に苦しんで、皆に迷惑かけてる感じ?」
P「もう……、申し訳ないって思うんだよ。入院費もタダじゃないんだぜ」
春香「プロデューサーさん……」
P「病院のメシはまずいし」
春香「はい……」
P「窓開けて欲しいんだけど」
春香「あ、ちょっと待ってくださいね」
ガララッ
春香「いい天気ですね」
P「だな……」
P「どうせ死ぬなら、晴れの日がいいな」
春香「また、そういうこと言って……」
P「いや、死ぬ日はなんだっていいや」
P「せめて、葬式とかお通夜は晴れがいいなぁ……」
P「着てくれる人に迷惑かけたくないし」
P「あ、葬式は身内だけですませようかな」
春香「死ぬ前からそういうこと考えないでくださいよ……」
P「ごめん……」
春香「……」
P「苦しいの続くだけだし、春香たちに病院に来てもらうのも悪いし」
春香「そんなことないですよ……、好きで来てるんですから!」
P「そっか、ありがとう……」
P「でも、俺のこと気にしないで、自分のことに集中してくれよ」
春香「…………はい」
P「よしよし、いい子だ」
P「おう、またな」
春香「……はい」
春香「あ、あの……!」
P「ん?」
春香「明日も、明後日も来ますから……」
春香「その時も、きっと「またな」って言ってくださいね」
P「……ははっ、わかった、わかった」
P「あー、……あと何日生きて、皆に迷惑かけるんだろうな」
P「先生の言うとおり、半年で死ねてたらな……」
P「社長も、俺をクビにしてくれていいのにいまだに事務所に置いてくれてるしな」
P「ありがたいけど、申し訳ないな」
P「…………」
P「あー、死のっかな」
P「ん、千早か」
P「どうした?」
千早「どうしたって……、お見舞いです」
P「……そっか、ありがとう」
千早「迷惑、でしたか?」
P「そんな事ないよ……」
千早「じゃあ、何でそんな悲しそうな顔……」
P「……」
P「大丈夫、何でもないからさ……」
P「あー、ダメダメだな……」
P「一向に良くなる気がしないんだよな」
P「……悪くもならないから、蛇の生殺し状態だけどなぁ」
千早「プロデューサー……」
P「そんな顔するなって……」
千早「ですが……」
P「そうそう、この前のテレビ見たぞ」
P「凄く良かったと思う」
千早「あ……、ありがとうございます」
P「もう、俺が居なくても大丈夫かな」
千早「そ、そんな事は……」
千早「プロデューサーに、かっこ悪い所を見せるわけにはいかないですし……」
P「あはは、気にするなって。俺なんかこんなだしな」
千早「……そんなこと、ないですよ」
千早「はやく、よくなってくださいね?」
P「あー、そうだな。……そうなるといいよな」
千早「はい、……きっとですよ?」
P「ああ、きっとな」
千早「……あの、私はこれで」
P「ああ、またな」
千早「はい。…………また」
冬馬「……どうしたんだよ、そんな顔して」
P「お、お前が来るなんて珍しいな」
冬馬「たまには顔だしとけ、って北斗に言われたんだよ」
P「へー」
P「悪いな、花なんか持ってきてもらって」
P「丁度、萎れかけててさ」
冬馬「気にすんなって」
P「何の花?」
冬馬「ピンクパンサーだとよ」
P「へー、薔薇か」
冬馬「北斗に聞いたんだけどな」
P「ピンクパンサー自体の花言葉は知らないけど」
P「ピンクの薔薇は、病気の回復とか、そういう意味なんだってよ」
冬馬「へぇ、そうなのか」
P「それに、ピンクパンサーは病気に強いんだぜ」
冬馬「なるほどな……」
P「北斗に、ありがとうって言っといてくれよ」
冬馬「おっと、忘れてた。フルーツも持ってきたんだ」
P「あー、そっちはあれか。翔太が見繕ってくれたのか?」
冬馬「まあな」
P「……ありがとな」
冬馬「……ははっ、気にするなって言ってるだろ」
P「リンゴ剥いてくれよ」
冬馬「な、なんで俺が……」
P「ほら、お前料理好きだろ?」
冬馬「好きだけどよ……」
P「……ほら、ウサギにしてくれとか言わないから」
冬馬「わ、わかった……」
P「あー、ダメダメだな」
冬馬「気の持ちようなんじゃないのか?」
P「はは、病は気からってか」
冬馬「まあ、そうやって後ろ向きになるのって良くないと思うぜ?」
P「でもなぁ、皆毎日見舞いにくるしさ……」
P「もう、申し訳なくて、申し訳なくて」
冬馬「いいじゃねぇか、それだけ大切に思われてるんだろ?」
P「そうかな」
冬馬「そうだよ」
P「やあ、伊織か」
伊織「冬馬が来るなんて、珍しいわね」
冬馬「お前らは毎日来てるみたいだけどな」
伊織「……」
P「あ、伊織。冬馬がリンゴ剥いてくれたんだ、食うか?」
伊織「う、うん……」
冬馬「ああ」
伊織「そうね……」
P「……2人とも、今日はオフか」
冬馬「じゃなきゃ来ねーよ」
伊織「……私も、今日はオフ」
P「じゃあ、春香も千早もオフか……」
伊織「心配しなくても、皆ちゃんとやってるわ」
P「ああ、知ってる……」
冬馬「水瀬もこの前テレビ出てたよな」
P「あー、見た見た」
P「うん、よかったと思う」
伊織「……あ、当たり前じゃない」
冬馬「ん、なんだよ」
P「冬馬は、どうしてるんだ?」
冬馬「ああ、俺は961プロ止めてから、地道にやってる」
P「自分で言うか、地道って」
冬馬「う、うるせぇっ!」
伊織「でも、それなりに仕事もあるみたいね」
冬馬「まあ、な」
P「よかったじゃないか、冬馬」
冬馬「ああ、ありがとよ」
冬馬「……ちょっと、ジュース買って来ッけど何がいい?」
伊織「私はオレンジね。果汁100%の」
P「俺は……、お茶でいいわ」
冬馬「じゃ、いってくる」
P「いいよ、皆に迷惑かかったりするだろ?」
伊織「そんなこと、気にする必要ないのよ……?」
P「いや、でも……」
伊織「私達は、あんたにずっと迷惑も心配もかけてきたんだから」
P「はは、質も量もこっちのが上だ」
伊織「……バカ」
P「ごめんなさい……」
伊織「怒るにきまってるじゃない」
P「……だよなぁ」
伊織「大丈夫、きっとよくなるから」
P「二年間、それきいたよ」
P「もう、聞き飽きたなぁ」
P「ずっと、ココにいるから、病院にも申し訳ないなあ」
伊織「そんな、卑屈にならなくてもいいでしょ……っ!」
P「卑屈にもなるって……」
P「窓からそれを眺めて、最後の葉っぱが落ちたら死ぬっていうのをやったけど」
P「死なないんだよな」
P「……葉が落ちても、俺は生きてるっていうね」
伊織「葉が落ちてもまた、花が咲くじゃない」
P「……そうだな」
伊織「なに?」
P「……俺さ、本当のこといったら、死にたくない」
伊織「…………」
P「生きていたい、伊織たちのプロデューサーやってたい」
P「だから、皆がこうやって来てくれるのは凄く嬉しい」
P「だから、すごく辛い」
伊織「ねえ」
P「何だ?」
伊織「……私達は、全然負担に感じてない、って言っても無駄よね」
P「……こればっかりは、俺がそう感じちまってるからなぁ」
伊織「本当にあんたは……、バカね」
P「こればっかりは、死ななきゃ治らないさ」
伊織「治らなくていいわよ」
伊織「バカは……、治らなくていい」
P「だから、その。泣くなよ」
伊織「な、泣いてなんか……!」
P「はははっ、悪い悪い。スーパーアイドル水瀬伊織ちゃんが、そう易々と涙を見せるわけないな」
伊織「何よ、もう……」
冬馬(……これは、まだ入らねぇ方がいいな)
伊織「ん」
P「もし、もしだぞ?」
P「俺の体治ったら……」
P「そん時はさ、皆でパァーッと、飯食いにこうか」
P「冬馬たちも、誘って」
伊織「そうね、……そうしましょ」
伊織「色々、考えておくから」
伊織「無駄にしたら、承知しないんだから」
P「ああ……わかってる」
P「どうした?」
伊織「本当に、本当に……」
伊織「事務所の皆で、あんたの帰りまってるんだから」
伊織「絶対に、戻ってきなさいよね」
P「ああ、快気祝い引っさげて事務所に行くよ」
伊織「ううん。あんたが元気になってくれればそれでいいから」
P「……嬉しいこといってくれるな」
P「ココまで言わせたんだし、俺も元気にならないとな」
P「ああ、約束する」
伊織「……じゃあ、はい」
スッ
P「な、なんだよ」
伊織「指切りよ、指切り」
P「また、えらく……」
伊織「いいでしょ、……分かりやすい形でやっとかないと、不安なのよ」
P「……わかったよ」
スッ
P・伊織「指きりげんまん、嘘ついたら針千本飲~~ますっ」
P・伊織「指きった……!」
P「……」
P「ん、冬馬」
伊織「あんた、今の見てたの……?」
冬馬「たまたまだよ、……それより」
冬馬「今の指切り、やったのは水瀬だけど」
冬馬「天海とか、如月とか。俺含めたみんなとの約束だからな」
冬馬「その辺、肝に銘じて置けよな」
P「……わかったよ」
P「約束守れない男にはなりたくないし」
冬馬「だろ?」
P「……うん、生きるように頑張ってみるよ」
冬馬「……じゃ、俺はそろそろ帰るな」
伊織「うん、ありがとう……冬馬」
冬馬「気にすんな、またな」
P「おう、またな」
伊織「……」
P「なあ、伊織」
伊織「なに?」
P「……外、見てみ」
伊織「いい天気ね」
P「木、見えるだろ?ちょっと葉が落ちてる」
伊織「そうね……」
P「とりあえず、あの木より早く咲くのが当面の目標だな」
伊織「……」
P「もし、達成できたら……ご褒美くれないか?」
伊織「なにが欲しいのよ?」
P「そうだなぁ……」
P「もし、……達成できたなら」
P「俺と────」
伊織「────うんっ」
冬馬「へぇ、日取りきまったのか」
春香『うん、6月の大安吉日だって』
冬馬「なるほどな……」
春香『2人が、是非冬馬君たちもって』
冬馬「ああ、喜んでいかせてもらうぜ」
春香『本当によかったね』
冬馬「そうだな、まさか本当に治しちまうとはな……」
春香『でもね、ちょっと妬いちゃうかな……』
冬馬「あの2人につけいる隙なんてねえよ」
春香『そうだよね……』
春香『ねえ、何かいいお祝いないかな?』
冬馬「お菓子でも作ってやりゃいいんじゃねぇか?」
春香『お菓子かぁ……、うん。それがいいかも。ありがとう、冬馬君』
プルルルル
P『お、冬馬か。どうした?』
冬馬「天海から聞いたんだよ、式の日取りきまったって」
P『もちろん、来てくれるだろ?』
冬馬「ああ、北斗たちと一緒に行かせて貰う」
冬馬「それと、おめでとう。水瀬にも伝えておいてくれ」
P『本人いるぞ、代わろうか』
冬馬「ああ、頼む」
伊織『……わざわざ電話してくるなんて、律儀ね?』
冬馬「ま、いいじゃねぇか。おめでとう、水瀬」
伊織『あ、ありがとう』
冬馬「幸せにしてもらえよな」
伊織『当たり前じゃない……』
伊織『わかったわ』
P『冬馬?どうかしたか?』
冬馬「いや、あんたが退院してから、言ってなかったことあったからな」
P『おめでとうは、いってもらったけど?』
冬馬「違えよ」
P『じゃあ、なんだ?』
冬馬「そ、その……」
冬馬「ありがとうな。約束まもってくれて」
P『………プフッ』
冬馬「てめぇっ!?」
P『あははっ、いや、悪い悪い……!』
冬馬「くそっ、もう切るぞ。お幸せにな」
P『おうよ、またな』
ピッ
P「いや、なんか……」
P「約束守ってくれてありがとうって」
伊織「何それ……、何か似合わない……」
P「まあ、らしいといえば、らしいのかもな」
伊織「ねえ」
P「ん?」
伊織「私からも、ありがとう」
P「…………どういたしまして」
冬馬「ホント、よかったな、お二人さん」
冬馬「さて、と」
冬馬「北斗達でも誘って、クリームソーダでも飲みにいくか」
終
乙でした。
裏があるんじゃないかと勘ぐってしまうのは汚れちまったからか
乙乙
Entry ⇒ 2012.10.07 | Category ⇒ アイマスSS | Comments (0) | Trackbacks (0)
和「君がいない冬」
諸事情によりオール地の文
苦手な人はごめんなさい
高校生活最初の夏。
今なお、忘れようと思っても忘れることのできない、あの熱かった夏の日々。
私たちは、夢のように遠いと思っていた目標――――全国制覇を成し遂げた。
正直、その瞬間のことはよく覚えていない。
まるで自らが対局しているかのごとく、熱に浮かされたまま大将戦の行方をモニターで見守って。
優勝が決まった瞬間、全員で対局室に駆け出して。
私はおそらく、いの一番に彼女に抱きついて、泣いたのだろう。
これで来年も、清澄で麻雀ができる。
この仲間たちと、これからも一緒にいられる。
ただ難しいことは考えずに、そう思って泣いたのだろう。
そして彼女は視線の先に、ずっと目標にしていたお姉さんの姿を見つけて――
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「そういうこと言うのは……この口かーっ!」
「いは、いはいいはい! ……もう、京ちゃんってば!!」
通い慣れた部室の扉をくぐると、賑やかなじゃれあいが聞こえてきた。
宮永さんと須賀くんがまた他愛もないことで、可愛らしくいがみ合っていたのだろう。
この数年で、すっかりおなじみとなった光景だ。
「二人とも、こんにちは」
「おっす、和」
「あ、和ちゃん! ちょっと聞いてよ、京ちゃんったらね……!」
「それはひどいですね。謝ってください須賀くん」
「せめて最後まで聞いて!? 原告の証言すらロクに聞かないとかどんな魔女裁判だ!」
やれやれと大げさに頭を振った須賀くんに、宮永さんと二人、顔を見合せて笑う。
彼はちょっとげんなり表情を曇らせたと思ったら、次の瞬間には誰よりも快活に歯を光らせていた。
「原村部長は宮永さんばっかえこひいきしてていけないと思いまーす」
「ひいきなんてしてません。だいたいもう部長じゃありません」
「あれがひいきじゃなきゃなんだってんだよ……」
「女子をひいきしてるんじゃなくて、単に須賀くんに信用がおけないだけです」
「なお悪いわ!」
「……ふふ」
こんな軽口を彼と叩けるようになったのは、いつからのことだったろう。
思い返すにおそらく、竹井元部長の引退が契機だったのではないだろうか。
同じ女性とは思えないほど凛々しく、しかし女性らしい魅力に満ち溢れていた竹井先輩の後ろ姿は、今でも鮮明に思い出せる。
何事にも率先して先頭に立ち、常に清澄麻雀部を引っ張り続けてきた頼れるリーダーの引退は――それだけが原因ではなかったが――私たちの上に、一時的だが暗い影を落とした。
そんな時に声を張り上げたのが、須賀くんだった。
物怖じしない笑みと良く通る声で、竹井先輩がよく使っていたホワイトボードに大きく書き殴りながら、
『清澄、全国制覇おめでとう!!! 来年もきばって、目指せV2!!!!!』
と叫んだのだった。
染谷前……いや、元部長などは、あれで再始動したようなものだった。
竹井先輩の良き右腕であり、清澄のNO.2であり続けた先輩が、一つ殻を破った瞬間だったのかもしれない。
静かに不敵にふてぶてしい染谷部長。
そしてその隣で、須賀くんがみんなを鼓舞しサポートする。
私は形式上の副部長に据えられてこそいたが、元より誰かの上に立つなど性分ではなかった。
ゆえに。
本来自分がやるべきことを肩代わりしてくれたから――というわけではないが、あの時期須賀くんには感謝の気持ちでいっぱいだった。
そしてそれは、染谷先輩が引退し、私が部長に就任してからも何も変わらなかった。
私などは竹井先輩とも染谷先輩とも違って、厳しくするしか能のない部長だった。
ダメなものはダメとはっきり言いすぎる嫌いがあるし、お世辞にも後輩に慕われていたとは思えない。
自然、潤滑油としての須賀くんの負担はいたずらに増し、大変な迷惑をかけてしまったのだろう。
麻雀部について、部員について、須賀くんとは何度も話し合った。
あいつはちょっと落ち込んでたからメシおごっといた、とか。
逆にあいつは調子のりすぎ、もっと和がへこませてやるのも勉強だ、とか。
私では絶対に気の付かなかった部分まで、彼は実に細やかに心を配っていた。
須賀くんに不思議な人気があるのも頷ける話しだった。
彼は男女問わず、とても友人が多い。
けしてモテる、というわけではないのだが、人が集まってくるところに自然と彼がいる印象はあった。
宮永さんも、あるいはそうだったのかもしれない。
「まっ、京ちゃんの味方なんてハナからここにはいないってことだよ」
「言ったなテメ、なんなら今から部員全員招集して、俺とお前のどっちに非があるのか聞いてみるか?」
「須賀くんは天性のいじられキャラなんだから、ヘタに敵を増やすのはやめといた方がいいと思いまーす」
「お前に言われたくないよ」
「違うよ! あたしいじられキャラじゃないよ!」
「……だな。お前はどっちかというとぼっちキャ」
「むむーっ! ぼっちじゃないもん!」
「お前この学校来たばっかりの頃、俺以外に話すヤツいなかったじゃん」
「やーめーてー思い出さないようにしてるのに! 京ちゃんのいじわるー!!」
……もう何回も何回も、食傷気味になるほど見飽きた光景だというのに、いまだ胸がじくりと痛む。
二人はお付き合いしてるんですか。
っていうか、いっそ付き合っちゃったらどうなんですか。
我慢しきれず、そう声を掛けそうになったことが何度もある。
そして、その度に思いとどまってきた。
余人の踏み入ってはならない領域というものは、確かに人間と人間の間には存在する。
人の心の機敏に疎い私でも、どうにかそのくらいは理解できた。
須賀くんは分け隔てなく色んな人に笑いかけて、その度に人から色とりどりの笑顔を返されている。
しかし彼の心の中には、たった一人のために空けてある特等席があるのだ。
そのことを思うと、下手な口出しはできなかった。
「おおーーっす! 待たせたなお前らっ!!」
「いちいち声がでかいんだよなお前……」
「ご主人様に口答えするない、バカ犬!」
「まあまあ、優希ちゃんも京ちゃんも落ち着いて」
そのうち優希が、底抜けの陽気とともに部室に飛び込んできた。
二言三言、いつものやりとりを交わすと、誰からともなく自動卓の前に。
この四人が、清澄麻雀部の現三年生。
最も長きに渡って、苦楽を共にしたかけがえのない仲間。
この夏の大会をもって清澄高校麻雀部を引退した四人が、久々の全員集合を果たしたのであった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
気が付けば夕陽もすっかり沈み、窓の外は一面の闇に彩られていた。
「だああああっ!!」
「また負けたじぇぇ!!!」
須賀くんと優希、4位と3位に沈んだ二人が二人して卓に突っ伏す。
私が2位で、宮永さんがトップ。
統計的に、長期的に考えて、いつも通りの結果が出ただけだ。
それなのになぜだろう。
私はなんだか、理由もなく泣きたい気分になっていた。
「そういやさ、和はプロ入り蹴って進学すんだっけ?」
須賀くんが卓に伏していた顔を上げて、何気ない口調で言った。
多分、私の内心のどうしようもないやるせなさを察して、気の紛れるような話題を振ってくれたのだ。
本当に、頭が上がらない。
「もったいないよねー、和ちゃんの実力なら活躍間違いなしなのに」
「父が、将来のために大学だけは出ておけと……かくいう私も、今回は父の考えがよくわかりますから」
「のどちゃんの人生設計は麻雀同様、実に堅実だじぇ」
優希の揶揄するような言葉に、宮永さんが頬を掻きながら苦笑する。
彼女は全国大会で見せた圧倒的な個人成績を武器に、すでにプロ入りを決めている。
彼女の実力をもってすれば、プロ入りというリスキーな選択肢もギャンブル足り得ないだろう。
「優希ちゃんと京ちゃんは……」
「私は池田……センパイと同じ大学で麻雀続けるじぇ」
「ああ。そういやお前、あの人には何かと気ぃかけてもらってたよな」
「それじゃあ、優希と私は大学ではライバル同士、ということになりますね」
「おう、負けないじぇのどちゃん!」
「ちぇー、いいよなぁみんなは。俺一人だけ一般入試でヒーヒー言ってんのにさ」
「なんならあたしんとこ、一芸入試で受けてみるかー?」
「バカ言え、俺の麻雀は大学で続けられるレベルにゃねえよ。優希だって知ってんだろ?」
「そうじゃなくて、マネージャー力でだな」
「それこそ無理に決まってんだろーが!」
須賀くんのツッコミにつられて、三人して大笑いした。
彼は憮然としてそっぽを向いたが、ポーズだけだということはこの場の全員が承知だ。
笑いながら、私は優希の提案も案外理にかなっているのでは、などと埒もないことを考えていた。
二年前に全国制覇を果たして以降、麻雀部への入部希望者は激増した。
というより長野県全体で、清澄高校進学を目指す学生の母体数そのものが、相当増えたらしい。
そうなれば当然、レギュラーに入れない後輩も出てくる。
須賀くんが今まで一人でこなしていた雑用まがいの仕事を、分担させられるだけの人数はゆうにいた。
しかし、それでも私や染谷先輩は、須賀くんのサポートこそを欲した。
無論本人の意思は尊重した上でだ。
頭数や麻雀の実力では語れない、えも言われぬ安心感を、須賀京太郎という少年は私たちにもたらしてくれる。
私たちにとって最後のインハイの直前、私は遠慮がちに話を切り出し、頭を下げた。
すると須賀くんはやはりというべきか、笑って快諾してくれたのだった。
あまりの即答ぶりに、尋ねた私の方から何度も確認をとってしまったほどだった。
いいんですか、本当にそれで。
須賀くんが自分の練習に専念したいなら、絶対に無理強いはしませんから。
だから、もう少しよく考えてみてください。
……その上で私たちを助けてくれるのなら、すごく嬉しいですけれど。
悔しくなかったはずがない、と思う。
彼だって聖人君子ではない。
私たちが何度も全国の舞台で脚光を浴びる傍ら、須賀くんは結局三年の間一度も、県予選を突破できなかった。
忸怩たる思いが、なかったはずがないのだ。
それでも須賀くんは、最後まで私たちのサポートに徹してくれて――――その結果清澄高校は、見事に二度目の入賞、すなわち全国準優勝を成し遂げたのであった。
「あー、そっか。ってことは……」
私の益体もない思索を遮ったのは、宮永さんのどこか寂しげな声だった。
「来年からは、みんなバラバラなんだね」
沈黙。
心地よさとは程遠い、肌に突き刺ささるような三十秒。
そんな気まずい空気を払拭するのは、たいていの場合彼の仕事だった。
「……うし。せっかくだから、みんなで帰ろうぜ」
「京ちゃん?」
「みんな、進路のことでこれからも色々とごたごたするんだろ? まあ一番ごたごたすんのは、間違いなく俺だろうけどな」
須賀くんが立ち上がって、頭をガシガシ掻きながら照れたように言う。
「今日だってホント、久しぶりに集まれたんだよな。今日が12月の2日だから、いったい何日ぶりに……まぁ、それはいいや」
「犬は計算が大雑把だじぇ」
「うっせ……んでさ、今後何回、こういう機会があるかもわかんないじゃんか。だったら少しでも、つまんないことでもいいから……お、思い出とか、作っとこうぜ」
……照れたように、じゃなく、本当に照れた。
それはもう、くさい台詞だったのだからしょうがない。
聞いてるこっちまで恥ずかしくなるような。
「……いいこと言うね、京ちゃん!」
頬を赤くする代わりに目を輝かせた、宮永さんを除いて、だったけど。
いそいそと通学カバンを肩にかけた彼女は、駆け足で部室を出て行く。
「玄関で待ってるねー!」
「おい、ちょ、待てってば!」
そのすぐ後を、慌てて須賀くんが追いかけていった。
暗がりを早足で駆け抜けようとする宮永さんのことが、よほど心配なのだろう。
残されたのは私と優希の二人。
「ったく、京太郎はホント過保護だじぇ」
「別に、過保護なのは宮永さんに対してだけ、じゃないと思いますよ?」
「……わかってる」
ちょっぴり拗ねたような優希をなだめる。
そう、優希だって本当はわかっている。
須賀くんは誰に対してだって、老若男女問わず“ああ”なのだ。
あるいは、私たちがそうさせてしまったのかもしれないけれど。
部室の隅っこに飾った写真立てを眺めながら、私は口の中だけでそう呟いた。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「さっむいねぇ。明日は雪降るかな?」
「あー……そりゃ勘弁だな」
「え、なんで? 京ちゃん、雪嫌いなの?」
「積もるぐらい降ったら、お前が滑りまくって学校まで辿りつけないかも、だろ」
「……えいっ」
「いってぇ! カバンで叩くなよなお前!」
数メートル先も満足に見渡せない暗がりの真っただ中。
キラキラした金髪と、軽くウェーブがかったショートブラウンが、楽しそうに嬉しそうに跳ね回っている。
私と優希は二人の少し後ろから、それを言葉少なに並んで眺めていた。
「やっぱり、さ」
優希がぼそと呟く。
消え入るような声だった。
涙を堪えているようでさえ、あった。
「京太郎には、咲ちゃんがお似合いなんだよな」
「……優希」
私にはただ、彼女の名前を呼んであげることしかできなかった。
他の言葉は、どこを探しても見つからなかった。
そんな私の心境を知ってか知らずか、優希は突然パッと顔を上げると、先を行く二人目がけて駆け出す。
「……そーれ、二人でイチャついてないで私も混ぜるじぇーい!!」
「うおっぷ!? いきなり飛びかかってくるんじゃねえよ!」
「あー優希ちゃんずるーい! 私も私もー!」
心底困った声を張り上げながらも、須賀くんが本気で二人を振り払うことはついになかった。
私はといえば、やはりその光景を遠い目で遠巻きにしていただけだ。
「どうして」
切ない。
悔しい。
やるせない。
単純な感情の羅列がのしかかるように去来して、胸のうちのどこかにしんしんと堆積した。
どうして、いったいどうして――――
「……は、あの輪に加われないんですか」
独白は誰にも受け取られることなく、冬の真っ黒な夜空に融けていった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「あ」
「よう、和」
結局雪は降ることなく、数日後の通学途中。
高校の最寄り駅で改札をくぐったところで、須賀くんとばったり出くわした。
「おはようございます、須賀くん」
「おう、おはような」
そのままどちらからともなく並んで、校舎までの道のりを二人行く。
二年前ならばいざ知らず、今の私たちが、十分やそこらで道連れの与太話に欠くことはない。
「……須賀くん?」
ふとした瞬間、会話が途切れた。
ちらと横目で彼を見やった瞬間、反射的に眉尻が吊り上がった。
「また見てましたね」
「い、いやいやいや! 誤解するなよ和! これは男にとって、心臓が拍動するのに等しい自律行為であってだなー!」
「眼球が不随意に女性の胸部に対して自動追尾を行うなんて、そんなオカルトありえません。あなたのそれは明らかに随意運動です」
これだ。
こればかりは、彼が一年生の頃から何も変わらない。
女性の……その、何というか……豊かな、胸部……もう!
それが放つ何がしかの何かは、須賀くんの眼球運動に誘蛾灯のごとき作用をもたらしてしまう、らしいのだ。
これだから私は、彼のことを一人の男の子として見る気になれないのだ。
いや、確かにこの事実は、彼が立派な男性であることの証左ではあるのだけれど。
「私は慣れているからいいですけど」
「よっ、さすがは原村大明神! 器と胸がデカい!!」
「後輩が何かしらの訴えを提起してきたら、父に相談しますからね。弁護士として」
「おいやめてくれガチ犯罪者になっちまうよオレ」
まあ、ちなみに実際の犯行現場では、
『須賀先輩さいてーい』
『セクハラなのですセクハラ!』
『慰謝料としてアイス奢ってくださーい』
『ついでにタコスも買ってこい犬』
ぐらいの糾弾で、事件はすっかり終息を見てしまうのだが。
須賀くんの人徳が時々、逆に恐ろしくなることがある。
……被害に遭いそうにない人物からの賠償請求ばかりなのは、きっと気のせいだろう。
「ああそうだ、そう言えばさ」
須賀くんは言うが早いか、いきなり鞄に手を突っ込んでまさぐりはじめた。
どうやら何かを探しているようだ。
「ん、あったあった」
差し出してきたのは、一枚のくしゃくしゃになったチラシだった。
「へえ。諏訪湖畔で、冬の花火大会ですか。夏のそれは、全国有数の大花火大会で知られてますけれど……」
折り目があちこちに付いたチラシを丁寧に伸ばすと、力強い字体が目に飛び込んできた。
華やかながらもどこか侘びしい、空に咲く花の写真がバックを飾っている。
綺麗だな、と素直にそう思った。
「もしかして、デートのお誘いですか?」
内心の動揺を辛うじて押し殺し、にっこりと笑いかける。
すると須賀くんは頬を掻いて、
「ま、そんなところかな」
「っ」
ぎゅっ、と拳を握り締めた。
悟られないように俯いて、唇を軽く噛む。
「……うして、そんな」
「あいつらも誘ってさ、三年生四人で見に行かない?」
「……」
「ほら、ちょうどこの日はガッコないじゃん。だからってぇぇぇぇ!!!!?」
思いきり向こう脛を蹴飛ばしてやってから、悶絶してうずくまる須賀くんを無視して先を急ぐ。
紛らわしいことを思わせぶりな顔で言わないでください、このおバカ。
ため息まじりの罵倒は、胸の内に閉じ込めておいた。
「まっ、つつぅぅ…………ま、待てってば和!」
と思っていたら、あっさり立ち上がって私の背中に追いついてきた。
渾身の力でサッカーボールキックを叩きこんだつもりだったのに、こういうところはさすがに男の子である。
「……どうして、急にこんなことを?」
今度は包み隠そうともせず盛大に息をつくと、一応は話に取り合ってあげる。
なんだかんだ言っても、私は須賀くんのことを信用している。
こういう時の彼に、下卑た下心は決してない。
1%たりとも、砂粒一つ分もない、とまではさすがに言わないが。
「いや、さぁ」
すると意外にも彼は言い淀んだ。
目線で促すと、心なしか頬が上気したようにも見えた。
「ああ、えっと……だな、この間。部室で言ったことなんだけど」
「部室? 麻雀をした時ですか?」
「ん」
「あの時、須賀くん何か言って……あ」
『今後何回、こういう機会があるかもわかんないじゃんか。だったら少しでも、つまんないことでもいいから……お、思い出とか、作っとこうぜ』
目を丸くして視線を向けると、今度ははっきり頬を赤らめて、須賀くんがそっぽを向いた。
「あれ、本気だったんですか?」
「ほ、本気じゃダメ?」
「ダメってことはないですけど」
「じゃ、じゃあ行こうぜ……えと……」
「思い出づくり?」
「……あらためて言われると、なんか恥ずかしいなぁ」
「ぷっ」
「えーい笑うなっ!」
「ぷっ、はは、あははははっ!」
「このやろ、笑うなっちゅーとんのに!」
「だ、だって、恥ずかしがるぐらいなら……最初から、言わなければいいのに……ふふっ!」
人目も気にせず、お腹を抱えて笑ってしまった。
こんなにも大笑いするのは何時ぶりだろう、というぐらいには笑ってしまった。
だんだんと呼吸が苦しくなって、ひいひい言いながら息を整えていると、
「だってよ、欲しいじゃんか」
絞り出すような重苦しい声。
何かを諦めたはずなのに、本当は諦めたくなかった、そんな想いの乗った声。
「俺らが、この長野で、三年間一緒だったんだって証拠、欲しいじゃんか」
すう、と背筋が冷えて、私は笑いを引っ込めた。
頬骨がわずかに震えて、歯を一度、かちりと噛み合わせる。
中で燻るものを、閉じ込めるかのように。
「……わかりました。宮永さんには私から伝えておきますね」
吐き出したのは、一分後だったのか、十秒後だったのか、刹那の後のことだったのか。
そんなこともわからないまま、くるりと須賀くんに背を向け、いつの間にか眼前でそびえていた校門をくぐる。
須賀くんが小さく吐いた湿り気のある呼気を背中で受け止めながら、私は部室の写真立てのことを思い出していた。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「あ、おはよう和ちゃん」
教室のドアをくぐると、一番に気が付いた宮永さんが声をかけてくれた。
「おはようございます、宮永さん」
「和ちゃんにしては珍しく、遅刻ギリギリだったねー」
「今日は須賀くんと一緒でしたから」
「あはは。京ちゃんはどれだけ予鈴スレスレで登校できるのか、を生きがいにしてるからね」
「なんだか聞いてて切なくなる生きがいですね……」
鞄と畳んだコートを机に置いて、深い意味も重たい思惑もない雑談に耽る。
こういうのは長野に来てから身につけた所作だと、我ながらつくづくそう思う。
なにせ高校一年生までの私と来たら、思い返すだに無愛想な小娘だった。
「あとは……和ちゃんのおっぱい……かなぁ。京ちゃんの生きがい」
「ば、バカなこと言わないでください!」
そんな私を変えてくれたのが、清澄高校麻雀部だったことは言うまでもない。
人差し指を尖らせた唇に当てて、拗ねたように呟く目の前の少女。
彼女ももちろん、私にとって大事な仲間であり、大切な親友だ。
今年四月のクラス分けで初めて一緒の組になってからも、特別彼女との付き合いに何か変化があったわけではない。
ただ、のちにクラス分けの結果を聞いた須賀くんが、
『がんばれよ、和』
そう言って、私の肩を慰めるように叩いたことだけが、不思議と言えば不思議だった。
「……あ。あああああ~~!!」
その疑問は新学期開始後一週間とせずに、綺麗に解消されることとなったが。
「どどど、どうしよ和ちゃん!」
「……いったい今日は、なんの教科書を忘れたんですか?」
「数Ⅲと倫理と世界史と、あと古典のノートがががが」
「…………はぁぁ」
これだ。
こればかりはいくら親友だからといっても、いや、親友であるからこそ嘆息を禁じえない。
兎角この少女、麻雀が絡んでこない世界での日常生活スキルがポンコツにすぎる。
女の子なのだから愛嬌のうち、で済ませるにも限度というものがあるのだ。
「数Ⅲは私と教室が同じだから、見せてあげられます。倫理は優希とクラスが被ってますよね? 先生に言って、優希の隣の席を確保させてもらいなさい」
「あうあう」
「世界史は……私も須賀くんも優希も取ってませんね。前に忘れた時はどうしましたっけ? 古典のノートはルーズリーフ貸しますから、それでどうにかしてくださいね」
「うーうー」
「もしかしたら部室に、竹井先輩か染谷先輩が置いてった教科書が、億が一ぐらいの確率で埋もれているかも……」
「あわあわ」
「……少しは自分でも打開策を考えてくださいっ!」
「あいたぁっ!?」
拳・骨・一・閃。
涙目混じりの宮永さんの上目づかいがちょっとだけ『そそった』のは原村和の墓場まで持っていきたい秘密その149です。
「ううう……和ちゃぁん、なんか同じクラスになってから容赦なくなったよね?」
「気のせいです」
「いや、気のせいじゃないよ! 拳骨なんて三年生になるまで一度も貰わなかったよ!?」
ぷんぷん、と頬を膨らませて抗議する彼女は、同性の目から見てもとても可愛らしかった。
そういえばiPS細胞というので同性の間でも子供ができるらしいです。
役に立たない豆知識というやつである。
とにもかくにも、私はそんな彼女の幼い仕草にほだされて、
「そんなことはありません。部室で初めて会った頃から、わりと私は宮永さんに対して――」
気の緩みから、口を滑らせてしまった。
「……大丈夫、和ちゃん?」
数瞬の間、口を半開きにして呆けていたようだ。
気が付くと目と鼻の先で、宮永さんの心配そうな眼差しがゆらゆら揺れていた。
私は半歩だけ後ずさると、軽く首を横に振った。
「いえ、なんでもありません」
「そう……? ならいいんだけどねー」
得心いったとは言い難い表情の宮永さんが、渋々と引き下がっていく。
同時に担任の教師が教室のドアをくぐり、SHRが始まった。
受験に向けて自由登校期間も近づくこの季節、悪さをして進路を危うくすることのないように。
面白みのない注意文句で朝の挨拶を締めくくった教師の声を右から左に流しながら、私はふと思い出した。
(そういえば、須賀くんの提案について、宮永さんに伝え忘れてました)
大した問題ではない。
そう思いながら、前列二番目で教室移動の準備に取り掛かる彼女の後ろ姿をなんとなしに見やった。
大した問題ではないのだ。
彼女とは同じクラスなのだから、いくらでも話す機会がある。
事実私はこの数時間後に、食堂で出会った宮永さんに花火の件を無事伝えることができた。
だから、大した問題ではなかったのだ。
ただ、何かがしこりとなって胸の奥で引っかかった。
朝の一時の他愛もないやりとりの中で、なぜかそのことだけを容易には切り出せなかった。
そのどうでもよい事実が、無意味に私の内側で重みを増していく。
いったい何が、私の舌の滑りに制止をかけたのか?
須賀京太郎という名前か?
二人きりで登校したという事実か?
色鮮やかに空を彩る、火花の祭典へのいざないか?
どれ一つとっても、宮永さんへの告白を躊躇させるに十分な要素が見当たらない。
だから私は結局、大した問題ではないのだと自分に言い聞かせて、この問題を脳内から追い払った。
そして、まさにその時が訪れてしまうその瞬間まで、見て見ぬふりをし続けたのだった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「たーまやー、だじぇぇぃ!!!!」
「はえーよ」
「早すぎです」
「フライングゲットだじぇい!」
年の瀬を目前に控えた冬のとある一日、湖上の空を一発の快音が響いて抜けた。
諏訪湖の四方を囲む山々のうち、西側の日本アルプスの山肌はいまだ、燃えるような赤に支配され続けている。
今しがた鳴った華々しくも孤独な号砲は、本番前の試し撃ちか何かなのだろう。
「思ってたより人出が多いなぁ」
「それはもう、諏訪湖畔の花火大会といったら、夏は五十万人からの人出になるという一大イベントですよ?」
「でも、こんなクッソ寒い時期でもウン万人集まるなんて……そんなん考慮しとらんかったじぇ」
白のダッフルコートにニット帽、もこもこした耳当ての優希が、肩をすくめて呟いた。
未曾有の人混みに向かい長身を伸ばして覗きこむ須賀くんは、某メーカーが開発したライトグリーンの防寒ウェアにジーンズと簡素なレザーグローブ。
かくいう私は少女趣味全開、レースたっぷりワンピースの上から薄手のボレロを羽織って、その上にフェイクファーのコートを着込んでいる。
エトペンの絵柄が編み込まれたピンクのマフラーは、後輩たちに何度からかわれても手離さなかったお気に入りの一品だ。
三者三様の態で待ち合わせ場所に無事集合した私たち。
そう、三者三様。
三人。
「……で、宮永さんはどうしたんですか?」
「……迷子にでもなったんじゃないのか」
「……ほんっっと、手間のかかるヤツだよなぁ」
待てども待てども、待ち人来らず。
誤解のないように言っておくが、宮永さんが私たちのお誘いを断ったとかそういう事実はない。
こと須賀くんのお誘いに関して、宮永さんが丁重にお断り申し上げる光景など、私にも優希にも想像が付かない。
要するに、至極単純に、彼女は待ち合わせ場所まで、無事辿りつけていない。
と、そういうことなのだ。
「携帯に電話は……」
「とっくにしたけど出ないじぇ」
思わずため息が漏れ出て、大気をわずかに白く染める。
隣を見れば優希も、悟りを開いた仏陀の表情で堆くなりつつある天を仰いでいた。
「あいつよく、ケータイマナーモードにした挙句カバンの奥につっこむからなぁ」
「なんのための『携帯』電話なんですかっ……!」
「いや俺にキレられても」
三人で探し回るのも手だが、はぐれてますます泥沼になるのも避けたい。
そうこうぼやいているうちに、プログラム上の開始時間が刻一刻と迫ってくる。
優希が、そして私もしびれを切らしかけたその時、
「仕方ねえ、俺が探しに行ってくるよ」
須賀くんが、左手で後ろ頭を掻き毟りながら声を上げた。
「和と優希は、二人で適当に花火楽しんでな。俺はあいつを見つけてから合流するからさ」
制止する間もなく、彼は雑踏に向けて一歩踏み出す。
その横顔がどこか満足げだったのは、おそらく私の目の錯覚ではなかった、と思う。
「和ちゃ~ん、優希ちゃん、京ちゃ~~ん! ごっめ~~ん!」
その時だった。
人混みの中から、一際まばゆい輝きを放つ笑顔が飛び出してきた。
ベージュのタートルネックに同色の毛糸手袋。
下は黒のレギンスにミニスカートという、垢ぬけているのかそうでないのか、よくわからないファッションセンス。
どこか掴みどころのない彼女の魅力を際立たせるのは、やはりそのふわりときらめく無垢な笑顔なのだと、あらためてそう思わされた。
「おーまーえーなー。いくらなんでもおっそすぎんだよ、今度首輪とネームプレートでもプレゼントしてやろーか?」
「た、確かに悪いのはあたしだけど……こっちの人権もちょっとはそんちょーしてよー!」
「ケータイ常時マナーモードにしてる女子高生に現代人の資格なんてないじぇ!」
「え……ああああ!! ほ、ほんとだ! 着信13件ってなってる!」
「ぎるてぃーだな」
「ぎるてぃーすぎるじぇ」
「ごめんなさいごめんなさい許して下さい! なんでも奢りますから!」
「ん?」
「んん~? 今のを聞いたかえ、片岡さんや」
「おうおう、ばっちり聞いちまったじぇ須賀さんや」
「なんでも奢るって言ったよね?」
「な~んでもかんでも奢るって言ったじぇい。言質はとったぞ、言い逃れはできぬ!」
「ひええええええっっ!! へ、へるぷみー和ちゃん!」
「宮永さん、私はあっちのさつまいもクリームたい焼きなるものを食してみたいです」
「あうち!」
そして始まったおバカなやりとり。
涙をちょちょぎれさせながらお財布の中身を確認する宮永さんと、謎のテンション爆上げを果たしたその他二名。
私はそれらの光景を尻目に、一人後ろを向いて、密かに胸をなで下ろす。
宮永さんが無事に姿を見せた瞬間、安堵と同時に湧き上がってきた、ある感情を整理するためだった。
その感情に名前を与えることは、どうもできそうにない。
私自身『これ』が苦しみなのか悲しみなのか、怒りなのか喜びなのか、それすら把握できていなかった。
ただ、その感情がなぜ、胸の内に生じたのかだけは理解できている。
誰の助けも借りず、一人で目的地に辿りついた宮永さん――
「うし、じゃあ俺はたこ焼きに焼きそばにフランクフルトの定番フルコースで」
「ちょちょちょ、京ちゃん! 一人一品までにしといてよ!」
「な~に~? 聞こえんなぁ~?」
「おに! あくま!」
「迷子の迷子の宮永さんに言われたって痛くも痒くもありませーん」
――を目の当たりにした瞬間の、須賀くんの落胆しきった表情。
宮永さんにずっと迷子でいてほしかったと、口より雄弁に語るその表情。
その一シーンだけが、私の瞼に焼き付いて離れてくれなかった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
糸を引くように天高く昇った光線が、放物線運動の頂点で弾ける。
誰もが見上げた視線の先で、冬の夜空に大輪の花が咲き誇った。
「たーまやー!」
「たーまやー……っておい、足下見ろ見ろ! つまずくぞ!」
「京ちゃんは心配症だなー、だいじょぶだいじょぶ」
「こらこらこら待て待て待て、走るな!」
「『こら』と『待て』は一回聞けばじゅーぶんでーす」
「とか言いつつ一回たりとも聞いた試しないだろ!?」
「……ほんと、仲いいじぇ」
「あれで来年から大学生だっていうんだから、頭が痛くなります」
「あっはっは、のどちゃんは二人のお姉さんか何かか?」
「手間のかかる妹なら、今私の隣にも一人いますけどね」
「がーん!」
じゃれ合う二人と後ろを行く二人。
いつかの帰り道をなぞったかのような。
その構図のまましばらく、ぽつぽつと二組の足音が混ざっては分かたれる。
「わっ! 見た京ちゃん、今のすっごく近かったよ!?」
「わかったからはしゃぐなって……うっひょー、でけー!」
「京ちゃんだってはしゃいでるじゃん」
「うっせうっせ」
そして時折、花火の轟音が宙を裂いては消える。
いつの間にやら人気の少ない一角に迷い込んでいたようだ。
私たちの周囲にさざめく物音が、徐々に徐々にその種類を減らしていく。
「咲ちゃん……」
優希が囁いたのは、空を振り仰ぎながら何度目かもわからない花火に目を奪われている時だった。
花。
大輪の花。
空に咲いた一輪の花。
山に囲まれた湖の上で、夜空を彩った美しい花々。
誰もが空を見上げて、一夜限りの芸術作品に酔いしれていた。
私も、優希も、須賀くんも、宮永さんも。
瞬間、全員の注意が天空高くへと集る。
各々歩みは止めぬまま。
すると、必然。
「わ、わ……!?」
整備の行き届かない畔道に、足をとられる者が出る。
それが偶然、たまたま、私たちの中では――――宮永さんだった。
「っ、と」
隣を歩く須賀くんが事態に気が付き、手を伸ばすが時すでに遅し。
少女の華奢な身体は、少年の逞しい腕をかすめて、スローモーションで地面に吸い込まれ
「おわわ、っ、とと、と……セーフ! あはは、失敗失敗」
……はしなかった。
たたらを踏み、脚を必死に空転させて、元の姿勢に戻った。
何事もなかったことに私と優希はほっと一息、宮永さんは照れたように頬を掻く。
そして須賀くんは、
「………………咲?」
須賀くんに、異変が起きた。
「……京ちゃん?」
須賀くんの右腕は明らかに、『転んで地べたにお尻を着いてしまった宮永さん』に対して、差し伸べられる形で伸ばされていた。
宮永さんは、本当ならば転んでいた。
『宮永さん』なら、ここで転んでいて然るべきだった。
須賀くんの挙動がそう発話していることを、その場にいる全員が感じとった。
感じとって、しまった。
「京ちゃん……」
それが、崩壊の序曲だった。
「あ、いや、わり。ついつい、どんくさいお前のことだから、さ。転んじゃったもんだと思ったよ」
異変は刹那で終息した。
快活に人懐っこく笑う須賀くんは、すっかりいつも通りの彼だった。
「……ごめんね、京ちゃん」
しかし異変は伝播する。
伝播して、その先で増大する。
「お、おいおい。なんでお前が謝って」
「本当にごめんね、京ちゃん」
宮永さんは、綺麗に笑っていた。
笑いながら、綺麗に綺麗に泣いていた。
私は凍りついて、地に足を縛りつけられて、指先一本動かすことができなくて。
優希はうつむいて、全てを悟ったように地に向けて顔を伏せていて。
「やっぱり、あたしには無理だったんだよね」
「おい、なに言ってんだよ」
ただ須賀君だけが、食い入るように彼女の眼差しに抗っていて。
そして彼女は。
「あたしじゃ――」
「やめろ――」
「咲ちゃんのかわりになんか、なれっこないんだよね」
「やめろ、淡ッッッ!!!!!」
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
高校生活最初の夏。
難しいことなど何も考えず、勝利の熱狂と明日への希望に、私が泣いた夏。
それは、彼女がまだ、私たちのすぐそばにいた夏。
大将戦を終えた彼女――――宮永咲さんは視線の先に、ずっと目標にしてきたお姉さんの姿を見つけた。
歩み寄る二人。
感動的な姉妹の再会。
余人の立ち入ることかなわぬ邂逅は、二言三言でその時を終え。
その数週間後、咲さんは東京へと転校していった。
それ以来、私は彼女に会っていない。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「……どうしてあなたは、『宮永さん』なんですか?」
気が付けば私は彼女――――宮永淡さんに向けて、そう問い掛けていた。
二年前、彼女が咲さんとほとんど入れ替わりに転校してきた時。
まさにその日に投げかけた質問と、まったく同じものだった。
「離婚した母親の旧姓が、宮永だったから、だよ。和ちゃん」
そしてその答えも、二年前と寸分違わぬものだった。
何度聞いても同じ答えだった。
私が聞いても、優希が聞いても、竹井先輩が聞いても、染谷先輩が聞いても。
須賀くんが聞いても、宮永さんは首を横に振って、それ以上のことは何も言わなかった。
「なあ、淡ちゃん」
優希が、堪えられなくなったように問いかける。
「どうして咲ちゃんは、私たちに何も言わずに、いなくなっちゃったんだ?」
あれから二年も経つというのに、その答えはいまだ闇の中に埋もれたままだ。
咲さんはまさに転校するその日まで……いや、転校してからも、私たちに何かを語ることはなかった。
私たちは何一つ聞かされていなかった。
ただ彼女のクラスの担任が、淡々と、トレーシングペーパーを転写したかのように、
『宮永咲は東京へ転校した』
と知らせただけだ。
彼女は携帯電話を持っていなかったし、正確な転居先が何処なのかも杳として知れなかった。
何より彼女はその後二年間、麻雀の公式大会に姿を現すことはなかった。
私は東京のみならず、すべての県予選の全部門の全記録を、目を皿のようにして眺め続けた。
しかしついに、「宮永咲」の名を高校麻雀界で目にすることはなかった。
時を同じくして「宮永照」の名もまた、日本の麻雀界から消えた。
プロ入りを確実視されていた高校生チャンプの失踪は、一時は凄まじい狂騒を巻き起こしたものだ。
そして私たちは、事ここにいたってようやく、事態の異常性をはっきりと認識したのであった。
咲さんは、消えてしまった。
この世にいた痕跡を残さず、跡形もなく、消えてしまったのだった。
ただ一つ、部室の写真立てに飾られた、六人の麻雀部員が笑い合う―――あの写真を除いては。
手掛かりがあるとすればそれは、目の前の少女の証言をおいて、他にはないはずだ。
優希が悲痛に訴える主張と同じものを、誰もが同じように、同じ胸の奥に秘めていた。
「……ごめんね、優希ちゃん。私には、何もわからないんだ」
「でも! 咲ちゃんと淡ちゃんは、入れ替わりでこの長野にきたんだ! そんで淡ちゃんは、咲ちゃんのお姉さんと同じ学校だったんだ! それで、それで……」
「それで、関係ないはずが、ないって? ……うん。それは、あたしもそう思うよ」
「だったら!」
「でも、ごめんね」
それでも。
昏い瞳をかすかに瞬かせた優希の希望は、即座に切って捨てられる。
「あたしにも、その理由まではわからないんだ。あたしはただ、母さんと一緒に、こっちに引っ越してきただけだから」
失望の暗さが、重く肩にのしかかる。
今さら有益な情報など得られはしないだろうと、わかっていても胃にずしんとくる。
彼女は。
宮永さんは。
やはり、何も知らないのだ、と。
「……だったら」
肩を落とす私と優希。
しかし彼は、悲痛そのものの泣き笑いを浮かべながら、なおも宮永さんに食い下がった。
「だったら、淡。どうしてお前は、そんな格好してるんだ?」
「……」
「どうして、髪を茶色く染めて、短く切って、整えてまで、どうして……」
「……」
「どうして、咲の真似なんかしてるんだよ」
ウェーブがかったショートブラウンの少女に向けて、問うた。
「やだなぁ、そんなの決まってるじゃん」
返答の代わりに、淡い微笑み。
「京ちゃんのこと、好きだったからだよ」
「……………………な?」
「転校してきたばっかの私に、最初に話しかけてくれたの、京ちゃんじゃん」
「それ、が、なんだって」
「それだけだよ。それだけで好きになっちゃうチョロい女の子も、この世にいないわけじゃないんだよ?」
「でも、京ちゃんの心の中には、いつだっていなくなったあの子が棲んでたから」
淡くて、消えてしまいそうな儚い笑み。
「だから、あの子の、咲ちゃんの、真似してみよう、って」
今にも壊れてしまいそうな、しかし。
「そしたら、京ちゃん、振り向いてくれるかな、って」
「――――っ」
微笑みかけられた須賀くんごと、何もかも壊してしまいそうな笑み。
「ごめんね……期待させちゃったなら、ごめんね。咲ちゃんに繋がる手掛かりがあるんじゃないかって、勘違いさせちゃったならごめんね。いきなり、好きだなんて言って――――ごめんね?」
少年が、がくりと膝から崩れ落ちた。
処理しきれない情報量が、彼の脳の内側と外側でパンクしかけている。
「違うんです……宮永さんが悪いんじゃないんです」
私は、気が付けば声を上げていた。
「ただ、私は悔しいんです」
気が付けば、自然に声は張り上がっていた。
「どうして、どうしてこの場に」
気が付けば、大きくかぶりを振っていた。
「どうしてこの輪の中に、咲さんがいないんですかっ!?」
気が付けば――――私もまた、泣いていた。
「なあ、淡。教えてくれ」
「俺たちは、どうすれば、咲を失わずにすんだんだ?」
「お前が、淡がいて」
「俺がいて、優希がいて、和がいて、先輩たちがいて、後輩たちもいて」
「――――咲が、いて!」
「どうして、それじゃダメだったんだ?」
「……なんでだよ?」
「なんでなんだよおおおっっ!!??」
気が付けば、その場にいる全員が泣いていた。
私は啜り泣いていた。
優希はへたりこんで嗚咽していた。
須賀くんは地に腕を叩きつけ、慟哭していた。
そして、宮永さんは。
「……残酷なことを言うようだけれど、あたしはこう思う。あたしが勝手にこう思ってる、って意味なんだけど」
はらはらと珠の様に、落涙していた。
「多分、みんなは、咲ちゃんを」
「テルに会わせちゃ、いけなかったんだよ」
「離れ離れでいることが、あの二人にとっての幸せだったんだよ」
「すべてが終わっちゃった今だから、そう言えるんだけど、ね」
終わった。
何が終わったというのか、宮永さんははっきりと言葉には出さなかった。
それでも私は、彼女の言わんとするところを、なんとなくだが理解できてしまった。
ああ、もう――――何もかも、終わってしまったことなんだ、と。
山の上の空に花が咲く。
彼女が大好きだった麻雀役の由来が、私たちのあんな近くにいる……というのは、少々こじつけに過ぎるだろうか。
どこかで彼女も、この花を見ているのだろうか。
仕様もないことを考えてから、私は小さくかぶりを振った。
咲さんが、私たちの隣にいない冬。
もう戻らない夏に向かって、小さな祈りを捧げながら。
この冬という現実を、私は強く強く噛みしめた。
完
咲さんがどうなったのかは多分あなたの想像通りです
それじゃ、お付き合いいただきありがとうございました
面白かったよー
Entry ⇒ 2012.10.07 | Category ⇒ 咲-Saki-SS | Comments (3) | Trackbacks (0)
モバP「幸子をかわいがってみよう」
引用元: http://hayabusa.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1349020565/
P「まあ最近頑張ってるみたいだし、たまには素直に従ってやろう」
P「せっかくだからちゃんとかわいがってやるかな。幸子が来たらまず何をしようか?」
>>3
1 誉めそやす
2 スキンシップ
P「ふむぅ……おっ、あれは」
幸子「こんにちは、プロデューサーさん。ふふっ、ちゃんとボクより早く来てますね?」
P「まあな。それくらいの甲斐性は俺にも残されてたよ」
幸子「そうでしたか、ボクとしてはもっと気が利いてくれてもいいと思いますけど」
P「相変わらず手厳しいな……」
幸子「ボクのプロデューサーを務めてるならそれぐらい当然です!」
P「そんなに元気よく言われてもなぁ」
幸子「ほらほら、そんなことより行きましょう。今日はどうしても行きたいところがあるんですから!」
P「そう急かすなよ、っと」
P(そうだ、手を繋いでみるか。荷物持ちだから今くらいしかできそうにないし)
P「さて、今日も荷物持ち頑張りますかー」ギュッ
幸子「っ!?」ビクッ
P「どうしたんだ?」
幸子「いえ、あの……ま、まあ仕方ないですね、ボクがカワイイのがいけないんですから」
P(なんかうろたえてるな、失敗だったか?)
幸子「さ、さあ行きますよ! ボクについてきてくださいね!」
P「幸子、赤! そっちは赤信号だ!」
幸子「……」
P(どうしたものか、声が掛けづらい。でも手はちゃんと繋いでくれてるし――というか)
P「なあ、幸子」
幸子「な、なんですか?」
P「どうも住宅街の方に向かって歩いてる気がするんだけど、こっちでいいのか?」
幸子「え? ……あっ」
P「おいおい」
幸子「えっと……そ、そうです! まずはそこの公園にでもと思ってたんですよ!」
P「本当か?」
幸子「本当です! さっさと行きますよ!」
P「まあお前がそう言うなら、って引っ張るな引っ張るな!」
幸子「そこのベンチが空いてますね。座りましょうか?」
P「そうしよう、もう遊具で遊ぶような歳じゃないしな俺」
幸子「ふふっ、まだまだ通用するかもしれませんよ?」
P「褒められてるのかけなされてるのか……さあ座るぞ」
P(いつもなら服の1着でも持たされてる頃合いだけど、公園とは珍しいな)
P「あー、いいよなぁ公園。のんびりするには最適だ」
幸子「プロデューサーさん、もしかしてお疲れですか?」
P「疲れてないと言えば嘘になるな。もともと休みも少ないし、休日もこうして付き合いがあるわけだし」
幸子「……」
P「ああ、すまん。別に幸子に付き合うのが嫌とかじゃなくてな? ほら、体力くらいしか俺は取り柄ないから動いてないと調子狂うんだよ」
幸子「そんなことはないと思いますよ? その、変わったセンスをお持ちみたいですし」
P「それも褒められてるのか微妙なとこだな……」
P「――あれ? もしかして、俺が疲れてると思ってこうして公園に来たのか?」
幸子「えっ!? あ、う……そ、そうですとも! ボクはカワイイ上に誰かさんと違って気も利きますからね!」
P「そうだったのか……ありがとう幸子、お前に気遣ってもらえるなんて思ってもみなかったよ……」
幸子「あ、あはは……」
P「よっし、何だか元気でてきたぞ! 俺はもう大丈夫だから買い物に戻ろう。欲しい物あるんじゃないのか?」
幸子「え、あ、そ、それはそうなんですけど」
P「?」
幸子「もう少しこうしていませんか? ボクも最近張り切り過ぎたみたいで、ちょっと」
P「そうか。最近頑張ってたもんな」
P(俺も幸子を見習っていたわってやるとしよう。どうしようか?)
>>22
1 スタドリをあげる
2 肩でも揉んであげる
3 頭を撫でてみる
P「いつもお疲れ様、幸子」ナデナデ
幸子「あう……って、なにしてるんですか!」
P「幸子の頭を撫でてる」ナデナデ
幸子「も、もう……子供扱いしないでくださいよ」
P「あ、スマン。嫌だったか?」
幸子「……誰も嫌とは言ってないですけど」
P「じゃあ撫でる。俺にはこれくらいしかしてやれないし」
幸子「……いつもこれぐらいしてくれたらいいのに」ボソッ
P「何か言ったか?」
幸子「なんでもないですよ! それよりも、ボクの頭を撫でられるなんて名誉なことなんですからね、しっかり撫でてください!」
P「お、おう……」ナデナデ
幸子「? どうしたんですか。手が止まってますよ」
P「ああ、悪い悪い」ナデナデ
P「って、実は結構甘えん坊なんだな」ナデナデ
幸子「なっ! ぷ、プロデューサーさんが頭を撫でたいって言うからさせてあげてるんですよ!?」
P「そうか?」ナデナデ
幸子「そうです! じゃあ、とりあえず今はもう撫でてくれなくてもいいですよ?」
P「今は、ね」
幸子「むー……そんなに言うなら、プロデューサーさんもボクに甘えてみてください!」
P「ほほう。いいのか?」
幸子「えっと……公序良俗に反しなければ……」
P「さすがに滅多なことは求めないけど、そうだな。>>33」
1 膝枕とかどうだ?
2 たまにはジュースでも買ってきてもらおうか
3 俺の膝にでも乗ってみる?
P「……」
幸子「えっと、それってどういう意味ですか?」
P「なんでもないいまかんがえなおすちょっとまって」
幸子「いえ、プロデューサーさんがどうしてもというなら。ボクはカワイイさに寛大さも兼ね備えてますからね」
P「なるほど」
幸子「ちょっとくらい性的嗜好が怪しくても、目を瞑ってあげます」
P「ぐぬぬ……じゃあやっぱり」
幸子「それでは失礼しますね」チョコン
P「Oh...」
幸子「……ど、どうですか? 満足しましたか?」
P(俺の膝に幸子ががが)
>>38
1 さらに抱きしめる
2 満足したので解放する
3 しばらく静観して幸子の様子を見る
幸子「プロデューサーさん?」
P「……」
幸子「あの、どうかされましたか? プロデューサーさん!」
P「……」
幸子「返事してくださいよ! い、いくらボクがカワイイからって」
P「……」
幸子「……プロデューサーさん?」
P「……」
幸子「何とか言ってくださいよ、ねえってば」
P「……」
幸子「……」
P「……」
幸子「は、恥ずかしいんですから! もう、降りちゃいますよ!」
P(かわいい)
P「人聞きが悪いぞ幸子」
幸子「誰のせいだと思ってるんですか!」
P「幸子が可愛いせい、かな」
幸子「なっ!?」
P(おお、顔が真っ赤だ。さすがに怒らせちゃったか?)
幸子「ボクがカワイイのは当然ですけど、い、今言いますかね、そんなこと」
P「嘘はついてないぞ、嘘は」
幸子「むー、ああ言えばこう言いますね……とにかく、許してあげませんからね!」
P「それは困ったな」
幸子「ちゃんと反省する気があるなら、その、公園でのんびりでもいいかなとも思いましたけど」
幸子「やっぱりショッピングに行こうと思います。ボクのためにちゃんと働いてください、いいですか?」
P「もともとそのつもりだったから問題ないぞ」
幸子「……そうですか。そうでしたね、では予定通りショッピングに行きましょう」
P(今日はどのくらい荷物を持たせられるやら……)
幸子「……あの」
P「ん? どうしたんだ」
幸子「手……繋がないんですか?」
P「なんだ、繋いでほしいのか?」
幸子「プロデューサーさんこそ、遠慮しないでいいんですよ?」
P(そういやここに来る前に俺から手を取ったんだっけ)
P「そうだな、幸子さえよければ」
幸子「ふふん、最初から素直にしてくれればいいんです。さあ、行きましょう」ギュッ
P(今さらだけど、幸子と手を繋いで歩くのはなかなか危ない絵になってる気がする)
幸子「プロデューサーさん?」
P「ああ、なんでもない。行くとするか」
P(幸子に限らず、女の子は楽しそうに買い物するよなぁ)
幸子「プロデューサーさん、そんなところで見てないで手伝ってくださいよ!」
P「そうは言っても、どうせ全部買うんじゃないのか?」
幸子「そんな事無いですよ。ボクだってちゃんと選んで買い物してますから」
P「それはギャグか? ギャグなのか?」
幸子「それに、あんまり荷物を多くしちゃうと……ですしね」
P「うん? 俺のことは気にしないでこの前みたいに好きなだけ買っていいぞ?」
幸子「い、いいんです! とにかくボクと一緒に選んでくださいね!」
P「わかったよ、どれどれ――」
幸子「だらしないですねぇ、そんなに疲れた顔しなくてもいいじゃないですか」
P「お前がなかなか買う物決めないからだろう……」
幸子「プロデューサーさんこそ、ボクに一番似合いそうな物、はっきり言ってくれなかったですよね」
P「全部似合うから困るって言ってたのどこの誰だよ?」
幸子「たまにはプロデューサーさんのセンスに従ってあげようかと思ってたんです!」
P「だってなぁ。たしかにどれも似合ってたから決められなかったんだよ」
幸子「でしたら、プロデューサーさんのお好みの物でよかったのに」
P「俺の好み?」
幸子「そうですよ。プロデューサーさんにとってボクが一番カワイイと思う物があったなら、それにしてましたよ」
P「お前、俺のセンスは変わってるって言ってなかったっけ」
幸子「良い意味で、ですよ。そんなこともわからなかったのですか?」
P「わからなかったよ、それどころか少し傷付きかけたよ……」
P「大した自信だな。さすが幸子」
幸子「とにかく、次はちゃんと選んでくださいね! では次のお店に……と思いましたが」
P「ん?」
幸子「これ以上何かを買ってしまうと、プロデューサーさんの両手が塞がっちゃいそうですね」
P「俺はそれでも構わんg」
幸子「仕方ありません。今日のショッピングはこのぐらいにしてあげましょう」
P「おい幸k」
幸子「まずはお店を出ましょうか」スッ
P「……聞く気がない。ただの幸子のようだ」ギュッ
幸子「うーん……まだそこまで暗くないですよね、もうちょっとだけ」
P「じゃあやっぱり買い物の続きしたほうが」
幸子「……もう少し、デート気分でいたいなぁ」
P「」
幸子「ん? あれ、ボク今声に出してましたか!?」
P「う、ううん? べべべつに?」
幸子「そうですか? 良かった……また思ったことを口にしちゃったかと思いまして」
P「そ、その癖は早く直した方がいいな、うん!」
幸子「そうですよね……それより、プロデューサーさんはどこか行きたいところとかありませんか?」
P「行きたいところ?」
幸子「さっきはちゃんと選んでくれなかったので、プロデューサーさんに名誉挽回のチャンスをあげてるんですよ」
P「そうきたか。そうだな……>>59とか?」
本当は自分の買い物に付き合ってもらう
幸子「ホテル? ……プロデューサーさん、本当は疲れてたんですか?」
P「え? いや、そんなことないよ、冗談冗談」
P(なんだかんだ幸子もまだ14歳だもんな、そっちの発想に至らなかったか)
幸子「いいんですよ、正直に言ってください。公園に行った時、のんびりできて嬉しそうだったじゃないですか」
P「それはそれ、これはこれだ。とにかく俺は大丈夫だよ」
幸子「嘘じゃないですよね? お願いしますよ? ボクのせいで倒れられたりでもしたら、困りますし……」
P「お、心配してくれるのか」
幸子「べ、別にそんなつもりじゃないですよ! ボクのカワイさを世界中に知らしめるのに、支障をきたされたら困るって意味ですからね!」
P「はいはい、さいですか」
幸子「もう、気は利かないくせにこういう時は変に頭が回るんですから……」
P「悪かったよ、そう怒るなって」
幸子「怒ってなんかないですよ! それより、どこへ行くのか決まりましたか!」
P「んー、じゃあ今度は俺の買い物に付き合ってもらおう。いいか?」
幸子「プロデューサーさんの? わかりました、どこへなりともお伴しますよ」
P「なんだよ、俺だって買い物くらいするぞ?」
幸子「夕飯のお買い物とかでしたら、ボクはお手伝いできませんよ?」
P「いや、さすがに女の子連れてんなもん買いに行かないだろ……一緒に食べるつもりならともかく」
幸子「そうですか? ではボクみたいにお洋服とか?」
P「幸子が選ぶ男性服ってのも面白そうだけど、服じゃあないな」
幸子「むー、なら何をこれから買いに行くっていうんですか?」
P「ついてくればわかるさ」
P(今日は幸子をかわいがるって決めてたし、俺が今欲しい物といったら――)
P「悪いか?」
幸子「いえ……でも、プロデューサーさんにカワイイ小物を集める趣味があるとは」
P(むぐぐ、でもそういうことにしておかないと勘付かれそうだしなぁ……)
P「人にはいろんな趣味があるんだよ。さあ入ろう、ここなら幸子も飽きないだろう?」
幸子「それはそうですけど、ね。まあボクがいたほうがこの手の店には入りやすそうですしね」
P(言われてみれば女性客かカップルしか見当たらないな。彼氏の人も居心地悪そうだ)
幸子「プロデューサーさん、どうしたんですか? なんならボクが良さそうなのを選んであげますよ?」
P「お前に任せたら日が暮れそうだ、自分で決める。それに」
P(自分で選ばないといけない気がするからな。とはいえどうしたものか)
幸子「ふふん、これくらいで驚かれてはボクのお買い物について来れませんよ!」
P「主に腕がついて来れなくなりそうだよな、いつか。さあ見て回るか」
「あっ、これいいですね……ちょっと見てもいいですか?」
「これもなかなか、どうですかプロデューサーさん。似合うでしょう?」
「ふふん、わかってないですね。それはこっちの色のほうが――」
「やっぱり何でも似合っちゃうなぁ、カワイイって罪ですよね。ね、プロデューサーさん?」
P「……」
幸子「あ、これってあの人がよく抱えてるうさぎですよね? こういうのもあるんですか」
P(結局振り回されるオチなのか……まあ、これで幸子が気に入りそうなのもわかったぞ)
P(といっても、自分用にしてもこれはさすがにないな……。隙を見てこっそり買ってしまおう)
幸子「これなんかも……ふふん。やっぱりボクに似合うものなんてないですね――」
P(……隙だらけだった。買うなら今だ)
幸子「ぷ、プロデューサーさん! どこに行ってたんですか!」
P「ああ、欲しい物あったから精算してきたところだ。ほら」
幸子「もう、それならそうと勝手にいなくならないでくださいよ! 置いてかれたかと思っちゃったじゃないですか!」
P「それは悪かったな。鏡見てウットリしてるもんだから邪魔するのもなと思って」
幸子「……それで、何をお買いになられたんですか?」
P「秘密」
幸子「えー、このボクがいろいろアドバイスして差し上げたのにそれは酷いと思うんですけど」
P「アドバイス? そんなのあったっけ」
幸子「聞いてなかったんですか!?」
P(楽しそうな声ならいくらでも、な)
P(結局最後まで手を繋いでた件について)
幸子「――この辺でいいですよ。荷物持ちますね」
P「そうか。……この前みたいに速攻でタクシーに頼ることにならなくてよかったよかった」
幸子「あれくらいの荷物で音を上げるなんて、情けないですよ」
P「持つだけならともかく、持ち歩くのは無理があるぞあれ」
幸子「そうですか? ま、まあ、今日はこの前よりもたくさん歩きましたよね……一緒に」
P「そうだな」
幸子「そうだな、って、もっと喜んでもいいと思いますよ? ボクと……その、手を繋いで歩いてたわけですから!」
P「まあ、貴重な体験だったよ」
幸子「むー、素直じゃありませんね。プロデューサーさんらしいですけど」
P「どういう意味だよ? ……、それじゃあ暗くならないうちに帰れよ。迎えは呼んであるのか?」
幸子「はい、あそこに止まってる車がそうです。それでは、プロデューサーさん」
P「おう。またな――って違う違う! ちょっと待った!」
幸子「? どうしたんですか?」
P「忘れるところだった……これ、お前にあげようと思ってたんだ」
P「まあ、そういうことだ。一応言っとくけど、ああいう所に趣味で行ったりしないからな!」
幸子「……中を見ても?」
P「だめです。帰るまでが遠足って言うだろ」
幸子「……ふふっ、それって今言うことでしょうか?」
P「目の前で開けられたら恥ずかしいだろ……まあ、気に入らなければ誰かにあげたっていいぞ」
幸子「そんなことしませんよ。プロデューサーさんが自分で、選んで、ボクにくれたものなんですから」
P「そ、そうか。……なんか恥ずかしくなってきたな。俺は帰る! またな幸子!」
P「ああそれと、できればプライベートだけで使ってくれよ! 理由はわかるよな? それじゃ!」
P(――って、いい歳して何を恥ずかしがってるんだ俺は!)
P「……。今日の夕飯どうするかなぁ」
「こんにちは、ちひろさん。……プロデューサーさんは?」
「こんにちは幸子ちゃん、プロデューサーさんはちょっと今は出ちゃってるわね」
「そうですか、それならそれで好都合かもしれませんけど」
「? プロデューサーさんに用事があるわけではないの?」
「用事というか、ちょっとイジワルしてあげようかなと思いまして」
「あんまりからかっちゃ可哀想よ? ……あら、その髪飾り」
「ああ、これですか?」
「初めて見るわね。うん、可愛い! 幸子ちゃんに似合ってるわよ」
「そ、そうですか? よかった……じゃなくて、当然ですよ! お墨付きですしね!」
「あら、誰かからもらったものなの?」
「そうですよ。つい最近、ね。まあ、ボクに似合わないものなんてそうそうないとは思いますけど――」
「けど?」
「この髪飾りが一番似合うのはボクだって、証明してあげないといけませんからね。……誰かさんに♪」
良かった
Entry ⇒ 2012.10.07 | Category ⇒ アイマスSS | Comments (0) | Trackbacks (0)
咏「もっと甘えて良いんだぜ?」
えり「♪」ギュー
咏「えりちゃん?」
えり「はーぁい♪」スリスリ
咏(…わかんねー…)
えり「なんですかー?」ゴロゴロ
咏「そのー…」
えり「三尋木プロー?」
咏「な、なに?」
えり「ふふ……だーいすき♪」ニコッ
咏「……」キュンッ
えり「♪」ギュー
咏(…えーっと、なんでこうなったんだっけ…?)
――――――
咏「えーりちゃん!」ギュ
えり「わっ……み、三尋木プロ」
咏「今帰り?一緒に帰ろ?」
えり「ええ、いいですよ」
咏「よっしゃー」ギュー
えり「…三尋木プロ?そんなにくっつかれると歩きにくいんですが…」
咏「知らんしー」ギュゥー
えり「ですが外では…」
咏「別によくねー?」
えり「…………わかりましたよ」
咏「へへっ♪」
咏(変わったことっつーと、こうしてえりちゃんに堂々とくっつけることとか)
えり「…帰りましょうか」
咏「うんっ」
咏(前より一緒にいる時間が少し増えた。くらい)
咏(…っつーか…)
えり「…………」テクテク
咏「…………」テクテク
咏(……えりちゃんは、変わらない。付き合う前と)
咏(クールで、堅くて、真面目。…でもさ…わかんねーけど…)
咏(甘えたり、甘えられたり…いや、えりちゃんが甘えてるトコなんて想像つかないけど)
咏(なんか…自分だけ変わっちゃった、みたいな。ホントに、よくわかんねーけど)
えり「…どうしました?」
咏「え、な、何が?」
えり「いや、なんだか元気がないような……」
えり「そうですか…?」
咏「そーそ。いっつも元気だぜ?」
えり「…なら、良いんですけど」
咏(えりちゃんは変わらない。こういうとこだけ、鋭いところも)
咏(……変なとこで、ニブいのも)
えり「はい?」
咏「今日ウチ来ない?」
えり「また、晩ごはん作らせる気ですか?」
咏「うは、バレたか」
えり「別に構いませんよ。でも、明日は早いので……」
咏「泊まっていきなよ」
えり「………は」
咏(そんでさ、たしかめさせてよ)
咏(…とか。言えないけどねぃ)
えり「………」
咏(……ああ。無理かね、こりゃあ。呆然としちゃってさ)
えり「…………」ウツムキ
咏「…あ、あのさ、無理なら……」
えり「……お邪魔、します」
えり「三尋木プロが大丈夫であれば、泊まっても良いでしょうか」
咏「……もっちろん。誘った側が断るわけねーっしょ。知らんけど」
えり「それもそうですね」
咏「晩ごはんは豪勢に行こうぜ~」
えり「何を作らせる気です?」
咏「知らんし~」
咏「いんや、必要なもんは買ってこうぜ」
えり「え?」
咏「そんで、家に置いてっちゃっていいから。そしたらさ、いつでもえりちゃんは家に泊まれるじゃん?」
えり「…………」
咏「早く行こ?いい加減店閉まっちゃうからねぃ」
えり「……はい……」
咏(初めての、お泊まり。とか…!うわ、うわわ、やべーッ!)
咏(晩ごはん作りに来てくれたことはあったけど、お泊まり!
咏(一緒の家で、ご飯して、お風呂入って、お喋りして…!その後は……)
咏(…べ、別にさ、やましい気持ちは…ゼロではないけど…もうコイビトになって一ヶ月だぜ?)
咏(キス、くらいしても…良いよねぃ?)
咏「たっだいまーっと」
えり「お邪魔します」
咏「どーぞどーぞ」
えり「前に晩ごはん作りに来て以来ですね…10日くらい?」
咏「めちゃめちゃ美味かったぜー」
えり「ありがとうございます」
咏「今日も期待してるかんな~?」
えり「ご期待に答えられれば良いですが…」
咏「えりちゃんのご飯はなんでも美味いに決まってる!」
えり「…もう。ハードル上げすぎですよ」
咏「知らんし~」
えり「えっと…お砂糖お砂糖…」パタパタ
咏(前も思ったけどさ、いいな~こーゆーの!)
咏(仕事で疲れてたのも、えりちゃんが一生懸命ご飯作ってくれるのを見てると、癒されるわ~)ホクホク
咏(しかもそれが!コイビトのための料理!ってね!コイビトってね!!)パタパタ
えり「………」ジュー
咏(…………)
えり「はい?」ジュージュー
咏「なんか、手伝えることとか…あるかい?」
えり「大丈夫ですよ。三尋木プロは座っていてください」
咏「でも…」
えり「お疲れでしょう?私は大丈夫ですから」
咏「…そっか」
咏(…えりちゃんは、いつもどおり。クールで、堅くて、真面目)
咏(思い上がりすぎてた…かねぃ……一人で舞い上がってさ)
咏(えりちゃんはどうなのさ。嫌ではないみたいだけど)
咏(えりちゃんは、楽しいの?)
咏「待ってましたぁ~っ!」
えり「そんなにお腹空いていたんですか?」
咏「もーめっちゃめちゃ減った!はーやーくー」
えり「はいはい」クス
咏「うひょーうまそー!」
えり「お口にあえば、良いですけど…」
咏「いっただっきまー!」
咏(めちゃくちゃ幸せだ。だってえりちゃんのご飯だから。目の前にいるのがえりちゃんだから)
えり「ありがとうございます」ニコ
咏(えりちゃんの笑顔を見るのも好きだ)
えり「…ん、塩加減足りなかったかな…」
咏(えりちゃんは、どうなのさ。人をこんだけ幸せにしておいて、自分はどうなのさ)
咏「ちょーどいいぜ~塩加減も愛情も絶妙!」モグモグ
えり「そうですか?」
咏「あったり前~!」
えり「…良かった」ホッ
咏(…こっちのことばっかりで、自分のしてほしいことなんも言わないでやんの)
咏「ごちっ!」
えり「お粗末様でした」
ピピピッ
咏「お、ちょーど風呂わいた。えりちゃん、先に入ってきなよ」
えり「お風呂…私が先に?」
咏「えりちゃんはお客様なんだから遠慮なし~」
えり「でも、三尋木プロ…」
咏「ごちゃごちゃ言うなら一緒に入ろっか~?」ニヤ
えり「!」
咏「どーよ、一緒にお風呂。んん?」
えり「…………じゃあ、お先に…」
咏「そそ、遠慮しない遠慮しない。かったいんだから~」
咏「おー」フリフリ
咏「………」
咏(…ちょーっち期待したんだけどねぃ~)
咏(そーうまくはいかないよな~知らんけど)
咏(…………)
咏(……お、おお!?)
咏(今えりちゃんウチの風呂だよな!?霰もない姿でウチの…)
咏(うわー、うわ、うわー…なんだ、ドキドキしてきた!)
咏(…あわよくば…あわよくば……)
咏(…あわ…よく…ば………)
咏(…………)
咏(何考えてんだー!?)ガーン
咏(てかさ、お泊まりってアレじゃね、バイオレンス感アリアリじゃね!?)
咏(うっひょ、やっべー!マジやっべー!!)
咏(…だから何考えてんだぁー!?)ジタジタ
咏(………疲れた。一人で何やってんだか)
えり「三尋木プローあがりましたよー」
咏「あ、ああ!わかっ………」
えり「良いお湯でした」ホカホカ
咏「…うは。えりちゃんのパジャマ、初めて見た」ジー
えり「あ、ああ……えと……」
咏「………」ジー
えり「…変、ですか?」
咏「いや、かわいい」
えり「…へ」
咏「いっつもカッチリした服しか着ないじゃん?なんか新鮮だわー可愛い!」
咏(あれ?)
えり「…三尋木プロも、お風呂入ってきては?」
咏「お、おう!入ってくる!」パタパタ
咏(…地雷踏んだかねぃ…?わっかんねー)
えり「…………」
――――――
咏(やっべ、長風呂しすぎたかねぃ?)
咏(…さっきまでえりちゃんの入ってたお風呂って考えるとさぁ~…)
咏(…いやいや、やめやめ)ブンブン
咏「えりちゃーん、おまたせー」ガチャ
えり「!」ピク
咏「さーてと、なんか半端な時間だよねぃ~どうする?」
えり「…………」
咏「あ、ノド乾いてね?なんか飲むかい?」スッ
えり「あ……」
キュ
咏「…ほ?」
咏「ど、どしたん?えりちゃん」
えり「あの…飲み物は、大丈夫なので…」
咏「そ、そう?」
えり「大丈夫だから…そばにいて?」
咏「そ、そ…………えっ」
えり「……隣に、いて?」ジッ
咏「」ドキュン
咏(な、え、な、な…なにって?)
咏(えりちゃんが?え?え?わかんねー)ボーゼン
えり「…だめですか?」
咏「」
咏「だ、だめなわけないぜ!?知らんけど!知らんけど!!」
えり「…ありがとうございます」ニコ
咏「…え、えっとさ、どうしたん。えりちゃん」
えり「?」キョト
咏「な、なんか、いつもと違うような…」
えり「………」ジー
咏「…な、なに?」
咏「うん?」
えり「一つだけお願いして、いいですか?」
咏「い、いいよ?全然、なんでもどんとこい!」
えり「…ぎゅーってしても、いいですか?」
咏「どんとこ………」
咏「…………」
咏「………ごめん、もう一回言って」
えり「ぎゅーってしても、いいですか?」
咏「」キュンッ
咏「い、いいよ…」ドキドキ
えり「……」ギュ
咏(あんなの誰も断れねーよ…)ドキドキドキ
えり「………」ギュー
咏「…え、えりちゃん?」
えり「……ふふ……♪」ニコッ
咏「」
咏(かわえええええ!!何!?何これ!?)
咏(つーか!腕に!なんか!柔らかい何か!何これ!?)
えり「三尋木プロ?」
咏「なにっ!?」
えり「…もっとぎゅーってしていい?」
咏「」
咏(大歓迎、喜んで!!)コクコク
咏(…おもちの感触が…)ドキドキ
えり「三尋木ぷろー…♪」スリスリ
咏「」
咏(うひゃーかわえーかわえー!)キュンキュン
咏(嬉しそうにさーニコニコしててさー頬擦りなんてしちゃってさー)
咏(普段のえりちゃんからは想像もつかないよねぃ~♪)
咏(………)
咏(……………)
咏(……いや、誰よ。この人)
咏(だってさ、あのえりちゃんだぜ?)
咏(クールで、堅くて、生真面目なえりちゃんだぜ?)
咏(そのえりちゃんがさ、えりちゃんが……)
咏(だーいすきって……)
えり「ふふ…言っちゃった♪」ギュー
咏(だーいすきって…………)
咏(大好きだよこのやろぉぉぉ!!)
咏(あああ腕に抱きつかれてなけりゃこっちから抱きしめるのに!!)
咏(ぎゅーってしてナデナデしてスリスリしてぇぇぇぇ!!)
咏(…いやいや、何おんなじこと繰り返してんだか)
咏「えりちゃん。どうしたん、急に」
えり「?」
咏「い、いやその…いつもと違うなーっつーか…」
えり「あ……」
咏「い、いやその、嫌って訳じゃねーけどさ、むしろ嬉しいんだけどさ…」
えり「…本当に?」
咏「ホントホント!!」コクコク
えり「…よかったぁ…」ボソッ
咏「えりちゃん…?」
えり「あの、三尋木プロ?」
咏「う、うん!なに?」
咏「…!?」
えり「……」ギュ
咏「う、う、う……」パクパク
えり「…だめ、ですか?」シュン
咏「いい!凄い良い!!咏さん!」
えり「!」パァッ
えり「ふふ…咏さーん…♪」スリスリ
咏(なんかもう…なんでもいっかぁ~♪)
咏「…ね、ねぃえりちゃん?」
えり「?」
咏「明日…早いんじゃなかったっけ?」
えり「あ……」
咏「そろそろ寝よ?」
えり「………」シュン
咏(かわいい)
えり「…………」ジッ
咏(うっ)ドキッ
えり「…………」シュン
咏「い、い、一緒に布団入る?」
えり「!」
えり「…狭くないですか?」
咏「う、うん…あったかいからむしろ…良い」
えり「私も、心地良いです…」
咏(一緒の…布団。一緒の……)ドキドキ
咏(これ…いいんだよな?その……いいんだよな!?)
咏(いくぞ…言っちゃうよ!?)
咏「えりt」
えり「咏さん」
咏「ほい!?」
えり「…おやすみなさい」ニコッ
咏「お、お、おう!おやすみ!」
咏(……ん?)
咏「…え、えりちゃーん?」コソッ
えり「……すぅ……」zzZ
咏(早っ!?)
咏(ってか、えー!え、えぇー!?)
咏(あれだけ期待させて、…えぇー!?)
えり「…んん……すぅ……」zzZ
咏(…………)
咏(…なんだったんだろうなぁ…)ハァ
咏「……ふぁ~あ」
咏(……寝よ。明日また、聞いてみよう)
翌朝
えり「……ん……」
えり「…………」
えり(あ…そうだ、昨日の夜は三尋木プロの家に泊まって……)
咏「ふわ~……ぁ」
えり「」
咏「ん~……あ、おはよ~えりちゃーん…」
えり「………あ、……え……?」
咏「あーよくねたー」ノビー
えり「……な……なんで……」
咏「ほ?」
えり「どうして私、三尋木プロと同じ布団で……?」
咏「…え?」
えり「わ、私が!?夕べは……あれ……?」
咏「えりちゃん?」
えり「ええと……お風呂入って……それから……」ブツブツ
咏「どうしたん?」
えり「…たしか…、………」ハッ
えり「……まさか」ボソッ…
咏「?」
咏「あ、そうだ。ねー昨日のさー」
えり「三尋木プロ」
咏「お?」
咏「あ、ああ…りょーかい」
えり「では」スッ
咏「…………」
えり「…あ」
咏「?」
えり「朝ごはん、作りましょうか?」
咏「…おっ、いいねぃ」
えり「じゃあ、パンと卵焼きで良いですかね」
咏「卵焼きはだし巻きでー」
えり「はいはい」
咏「よっしゃ~」
咏「…………」
咏(……あれ?もしかして今はぐらかされた?)
えり「では、行ってきます」
咏「いてら~」フリフリ
パタン
咏「…………」
咏「……う~ん?」
咏(絶対なんかオカシイよなぁ?)
咏(起きて目ぇあったらスゲー驚いてたし…そのあともブツブツ言ってたし…)
咏(聞こうと思ったら遮られたし……でも、ホントにワケわかんねーみたいな顔……)
咏(……もしかして…マジで覚えてなかったり?)
咏(…いやいや、まっさかーそんな、ねぃ?)
咏(………)
咏「…わっかんねー…」
えり「……はぁ」
ピリリッ
えり「?……メール……あ」
えり(…三尋木プロから…)
『えりちゃん忘れ物したっしょ~?とりあえず仕事終わり次第ウチに来るべし』
えり(…忘れ物?)
えり(…そんなのしたっけ…?)
えり「…………」
えり(取りに行くだけ…一瞬会うだけなら…そのくらいなら…大丈夫)グッ
ピッピッ
『今から向かいます』
ピンポーン
咏「へいへーい」ガチャ
えり「こんばんは、三尋木プロ」
咏「おっす、えりちゃーん」
えり「ええと、すみません私…忘れ物なんて…」
咏「んーんー、とりあえず上がって上がって」
えり「いえ、ここで、その…」
咏「いーからいーから~」グイグイ
えり「ちょ、ちょっと…!」
えり(さっそく予定崩れる…いつものことか…)タメイキ
咏(よし、予定通り!)
咏「ん~?」
えり「私、忘れ物に心当たりがなくて…何を忘れて行きましたか?」
咏「忘れ物っつーか…」
えり「はぁ」
咏「…晩ごはん?」
えり「…は」
咏「昨日えりちゃんの寝間着とかのついでに材料スゲー買ったじゃん?」
えり「そういえば…」
咏「正直材料だけあってもねぃ~料理作れんし」
えり「…それで、結局…?」
咏「晩ごはん作ってくの忘れてんよ~」ヒラヒラ
えり「……はぁ……」タメイキ
えり「三尋木プロ…」
咏「ん?」
えり「急に連絡が入ったと思えば…ソレですか…!」
咏「うん」
えり「………」アタマカカエ
えり(こっちは、正直気まずいのに…人の気も知らないで…!)
咏「…だってさ…」
えり「はい?」
咏「…えりちゃんに会いたかったんだよねぃ」
咏「えりちゃんに会って、えりちゃんのご飯食べたかったんだよ」
えり「………」
咏(…………)
えり「…晩ごはん…」
咏「!」
えり「何が、良いですか…?」
咏「いいの?」
えり「…………」コクッ
咏「よっしゃあ!大好きだぜえりちゃーん!」ギュ
えり「!」
咏「…へへ。今日はくっついてなかったからねぃ~」ギュー
えり「み、………っ」
咏「あれ?えりちゃんもしかして照れてる?」
えり「!」
えり「そんな、ことは…」
咏「照れんなよー」ギュー
えり「で、ですから…」
咏「かわいいねぃ、えりちゃんは」
えり「……は」
えり「…………」
咏「んー」ギュー
えり「……~~っ」
咏「…えりちゃん?」
えり「………」
咏「おーい、えりちゃ…」
キュ…
咏「お?」
咏(…抱きしめてたら腕回してくれた…)
えり「……♪」ギュー
咏(……わお)
咏「えり…ちゃん?」
えり「咏さん♪」ニコッ
咏(呼び方……!)
えり「咏さん咏さん」
咏「…なぁに?」
えり「あったかいですね」ニコッ
えり「落ち着く…」ギュー
咏「」キュンッ
咏(おぅふ、間違いねぇ…夕べのえりちゃんだ…)ドキドキ
咏(………)ドキドキ
咏(…さーて)
咏「詳しく聞かせてもらおうかぁ?」
えり「………!」
咏「すっとぼけんじゃないぜ~?なぁんか隠してるっしょ」
えり「………」
咏「さぁさ、言っちまいな?」
えり「……し」
咏「お?」
えり「知らんしー……」
えり「……です」プイ
咏「」
咏(やばい、なんだ今のカウンターパンチ)キュンキュン
えり「………」
咏「言わないと、アレだよ?えーっと…」
えり「…?」
咏「えっと、えーっと……ち、ちゅーするよ!?」
えり「っ!」
咏「ほ、ほら、どうなのさ!」
咏(うわー勢いでなーに言ってんだ…でも)
咏「ほら、しちゃうよ~ちゅー」ジリジリ…
えり「…ぁ…あ…っ…」
咏「正直に言ったら許したげるぜ?」
えり「わ……わかりました……」
咏「よぅし」
咏(…なんだこの複雑な気分…)
咏「おぅ、はけはけ」
えり「えっと、その前に。…お腹、空いてません?」
咏「……そういやそーだねぃ」
えり「ご飯食べてからにしましょう?」ニコッ
咏「ん!」
えり「何が食べたいですか?」
咏「んーと、シチューの素買わなかったっけ?シチュー食べたい」
えり「はーい♪」パタパタ
咏「…ご機嫌だねぃ」
えり「♪」コトコト
咏(うーむ……わっかんねー…)
えり「咏さん?」
咏「お、おう!?」
えり「そろそろできますから、お手伝いして貰っても良いですか?」
咏「なになに?」
えり「お皿出して、並べててください」
咏「おっけぃ!」
咏(えりちゃん……だよな?間違いなく…)カチャカチャ
咏(…ま、考えても仕方ない。後でジックリ聞くかねぃ…)カタン
えり「さ、どうぞ♪」
咏「うひょーっ!うまそーっ!」
咏(楽しんだモン勝ちじゃね~?知らんけど!)
咏「いっただっきまー!」
えり「………」ドキドキ
咏「うん、美味い!美味いよえりちゃん、天才!」
えり「…よかった」ニコッ
咏「食べ終わったし?」
えり「……」
咏「さぁて、聞かせてもらおっか~?」
えり「…わかりました…」
咏「まず、」
えり「あ、あの!…は、話す前に、その…」モジモジ
咏「?」
えり「…お隣…いいですか…?」
咏「隣?」
えり「…咏さんの隣に…座っても…」カァァ
咏「………」キューン
咏「…へいカモン」ポフポフ
えり「!」
えり「…♪」イソイソ
えり「ええ。正真正銘、針生えりです」
咏「ん~…?」
えり「まぁ、単刀直入に言ってしまうなら…」
えり「別人格とでも思っていただければ」
咏「…………」
咏(…予想は、してたけど…ねぃ)
咏「……マジで?」
えり「後日でよろしければ、医師の診断書を見ますか?」
咏「…いんや、いい。信じる」
えり「!」スッ
咏(別人格って言うには、えりちゃんはえりちゃんって感じだし…)
えり「…………」ニギ…
咏(えりちゃんって言うには、あまりに駆け離れている)
えり「………♪」キュ
咏「…何してるん?」
えり「咏さんに手のマッサージを」キュッキュッ
咏「…………」
えり「指のここの部分をつまんでグリグリすると良いんですよ?」グリグリ
咏「~~~…!」
咏(これが…これがコイビト同士のイチャイチャ…!)シアワセカミシメ
えり「もう少し細かく言いますと……あ、次は人差し指やりますね」
咏「う、うん…」
えり「私って…ええと。普段の私、今の私じゃない私…“表”とでも言いましょうか」キュッキュッ
えり「表の私はストレスを溜め込むタイプ、というのはなんとなく知っているでしょう?」グリグリ…
咏「そ、そうだねぃ」
えり「そのストレスって、大抵は何かをやりたいのに抑え込んでるから生まれてるんです。私の場合は、ですが…」
咏「……」
えり「それで生まれたのが、今の私…そうですね…“裏”の針生えりでしょうか」グリグリ
えり「表がどうしてもやりたいのに、どうしてもできない。そんなジレンマの解消のためだけに出てくるのが私…裏です」
咏「………」
えり「次は小指…薬指はダメなんです。…何か質問はありますか?」キュッキュッ
咏「えーっと…何から聞けば良いのやら」
えり「無理もないです」グリグリ
咏(つーかマッサージで若干集中して聞けねぇっつの…)
えり「ええ。…あ、ご心配なく。モラルや常識は守れますから」グリグリ
咏「あ、ああ…」
えり「…と、言いますか。“針生えり”が常識はずれなことをしたがるって想像、できます?」
咏「…無理だねぃ」
えり「でしょう?基本的には理不尽なことや…自分にとって不慣れなこと、そのくらいです」
咏「…じゃ、じゃあ、さ……」ドキドキ
咏「お、おう…。昨日とか、さっきも…その、裏えりちゃんのやってたことって…」
えり「表…いや。針生えりがやりたいこと、です。今しているマッサージを含めて」キュッキュッ
咏「………!」ドキドキ
咏「じゃ、じゃあ、言ってることも……」
えり「私が、どうしても言いたいこと……」
えり『ふふ……だーいすき♪』ニコッ
咏(きたあああああああ!!!)キラキラキラ
咏「あ、あとさ…」
えり「ええ」
咏「ストレスって言ってたけど…ストレス発散とか、えりちゃんは無いの?」
えり「ありますよ?」
咏「でも、今裏がいるっつーことは発散できてなくね?」
えり「…針生えりのストレス発散は…仕事ですから」
咏「仕事……?でも仕事なら…」
えり「…咏さんとの仕事は…ストレスが溜まる、とは言いませんが…」
えり「かなりのジレンマがおきますから」
咏「…なるほど。素直に言ってくれりゃいいのに」
咏「不慣れ?」
えり「ええ。経験は人並み以下、限りなく0に近いかと」
咏「えりちゃんモテそうなのにねぃ」
えり「…まぁ、昔色々ありまして」
咏「ふーん?そういえばさ、裏えりちゃんが出てきたのって、初めてじゃないよねぃ?」
えり「ええ。ここ最近は全くなかったですが…」
咏「大体どのくらい?」
えり「ストレスの種類で言えば、4個目くらいですね。回数もあまり」
えり「高校…でしょうか」
咏「……結構早いねぃ」
えり「……昔のことです」
咏「もしかして、さっきの恋愛がどーちゃらの、昔の色々?」
えり「……よくわかりましたね」
咏「い、いや、なんとなくだけど」
えり「さ、他に質問は?」
咏「…あ、大事なこと聞くの忘れた」
えり「どうぞ」
えり「ああ、簡単です。まず、戻るにはですが…」
咏「ま、なんとなく察しはついてるけどねぃ」
えり「ええ。寝れば戻ります」
咏「単純だねぃ」
えり「そして裏になる方法ですが、今回の場合…」
咏「………」ゴクリ
えり「“恥ずかしい”って感情が限界を突破したら、ですね」
咏「…恥ずかしい?」
えり「ええ」
えり「…あ、有り体に言えば」
咏「全然そんな風に見えなかったんだけど」
えり「…………表情に、出ないんですよ」
咏「出ない?」
えり「…いえ、出なくなった…が正しいでしょうか」
咏「…それも、昔の色々?」
えり「…ええ」
咏「…ん?昨日ってさ、えりちゃんはいつ裏になったん?」
えり「たしか…咏さんがお風呂に入っているとき、だったかと」
えり「…………」ウツムキ
咏「だってさ、こっちは風呂入ってたわけだし。えりちゃんに何も…」
えり「…お風呂入る前に…何て言っていたか覚えていますか?」
咏「入る前?えーっとたしか、えりちゃんが出てきてー…」
咏『いや、かわいい』
えり『…へ』
咏『いっつもカッチリした服しか着ないじゃん?なんか新鮮だわー可愛い!』
咏「…おお」
えり「…思い出しました?」
えり「…………」ウツムキ
咏「そういえばさっきも、かわいいって言ったら裏になったねぃ~」ニヤニヤ
えり「…そりゃ、恥ずかしいですよ…」
咏「なーるほど。恥ずかしいと俯くんだねぃ~?」
えり「あ……」カァ
咏「…裏えりちゃんは表えりちゃんより表情が豊かだねぃ」
えり「そ、そうかもしれません」
咏「ちょっと赤くなったよ、顔」
えり「えっ!?」ペタ
えり「咏さんのいじわる…」
咏「」キューン
咏「…そだよ~咏さんはいじわるだぜ~?」ナデナデ
えり「うぅ……」
咏「お、抵抗しないんだ?」
えり「…わ、私は…裏ですから…」
咏「嬉しいんだ?」
えり「……あぅ……」カァァ
咏「ほら、また赤くなったー♪」
えり「あ、あんまりいじめないでください!」
咏「知らんしー♪」
咏「あ、そだそだ。もう一個」
えり「どうぞ」
咏「裏の記憶は、表には引き継がれないの?」
えり「基本的にはそうです」
咏「基本的には?」
えり「ええ」
咏「……そんだけ?」
えり「ええ、それだけ」
咏「表えりちゃんは裏えりちゃんのこと…」
えり「知っていますよ、もちろん」
咏「そ、そか…」
えり「…以上ですか?」
咏「ん。だいたいわかった。多分」
咏「うん」
えり「……ぁ……」
咏「ん?」
えり「…………」チラッ
咏「?」
えり「…………」メソラシ
咏「えりちゃん?」
えり「…あの…」
咏「うん」
えり「わ、我が侭…言っちゃうと…」
えり「……帰りたく、ないなぁ…って…」
咏「!」
咏「ぜ、ぜんぜん!」ブンブン
えり「じ、じゃあ…!」
咏「また泊まってってよ!」
えり「ありがとうございます…」ギュ
咏「お…」ドキ
えり「♪」ギュー
咏「…え、えりちゃん、さ。腕に抱きつくの、好きだよねぃ」
えり「…いつも、咏さんがするから…その。羨ましくて…」
えり「ぎゅーってされるのも好きだけど…するのも、好きになりました」ニコッ
咏(かわいい)
えり「はい?」
咏「…こっちからもしたいんだけど…ぎゅーって」
えり「!」
咏「ちょっと離してくんないかねぃ?」
えり「あ、は、はいっ!」ワタワタ
咏「んー」ギュー
えり「ぅ……」
咏「へへ…正面からぎゅーってするのも良いもんだぜ?」カオウズメ
咏(昨日までは戸惑ってたけど…この人も“えりちゃん”なら話は早い)
咏(…えりちゃんとくっついていられるなら、なんでも良いよねぃ~♪)
咏「えりちゃん?正面からぎゅーってされるのは嫌かい?」
えり「い、いえ!そうじゃなくて…その」
咏「?」
えり「今日は…まだシャワー浴びてなかったなぁ…って…」
咏「知らんし。気にすることないぜー」
えり「い、いえ!気になります!」
咏(…えりたそ~)
えり「で、ですから…咏さん、先にお風呂に…」
咏「だーかーら、えりちゃんが先に入れっつーの!」
咏「じゃー一緒に入るかい?」
えり「え……」
咏「ほれ。一緒のお風呂。どうよ」
えり「…………」
えり「…じゃあ、ごめんなさい。先にお湯、貰いますね」
咏「そそ。昨日も言ったじゃんか、遠慮なんかいらんし~」
咏「………」
咏(裏えりちゃんは、表えりちゃんの本当にやりたいことをやる存在…か)
咏(さっきの、ちゅーのときもだったけど…)
咏(えりちゃんは、キスとか一緒に風呂入るのが…本気でイヤなのか!?)ガーン
咏(あんなにくっついて…だーいすきって…)ニヤニヤ
咏(…なのに…風呂やキスは嫌?)
咏(…………)
咏(ま、いっか)
咏(それで幸せなら、こっちも幸………)
咏(……ん?)
咏(なーんか引っかかる。なんだっけ…モヤモヤする)
咏(…ん~?忘れたっつーことは…わりとどうでも良いことなのかねぃ?)
咏(じゃ、いっか~えりちゃん待ち~…)
咏「お互い、風呂も済ませて、あと寝るだけって感じになったけど~」
えり「そうですね…」
咏「ちなみに明日の予定は?」
えり「朝から実況…って咏さんも一緒に実況ですよ」
咏「うは、マジで?」
えり「はい。一緒のお仕事ですよ」
咏「じゃー一緒に会場まで行けるねぃ♪」
えり「そうですね…」
咏「…ちなみに何時集合?」
えり「たしか…10時前くらいだったかと」
咏「10時か…じゃー朝はそんなに急がなくて良いねぃ~」
咏「いやぁ~…ね?」ドンッ
えり「…お…お酒…」
咏「大人二人いたらそうなるっしょ~」
えり「は、はぁ…」
咏「どーよどーよ、ちょっとくらいさ!集合もそんなに早くないし~」
えり「…お酒…」
咏「ほらほら、呑も呑も!」カチャカチャ
えり「……じゃあ、少しだけ……」
えり「乾杯」
チンッ
咏「んぐっ…んぐっ…」グビグビ
えり「……コクッ……」チミッ
咏「ぷはーっ!」
えり「い、一気……」
咏「ん?」
えり「ペース早すぎませんか?」
咏「ダイジョブダイジョブ。全っ然酔わないから」
えり「え」
咏「ザルまではいかないけどねぃ。どんだけ呑んでもちょーっとフワフワするくらい」トクトク…
えり「…へぇ…」
えり「呑みましたよ?」
咏「一口くらい?」
えり「…まぁ」
咏「もっと呑め~ぃ」フリフリ
えり「お酒って苦手で…。すぐに酔っちゃうので」
咏(酔っ払ってるえりちゃん超見たい)
えり「だから少しずつ…」
咏「まぁまぁまぁ~」トクトク
えり「ちょ、ちょっと、こぼれ……っ」
咏「呑め呑め~」
えり「あわわっ」ゴクンッ
咏「そそ。それくらいは飲まなきゃねぃ」ニヤリ
咏「どうよどうよ、おいし?」
えり「え、えと…」
咏「チミッチミ呑んでたら味なんてわからんっしょ~?」
えり「えと……」
咏「意外と良い酒なんだぜ~これ!勿体無い勿体無い!」グビッ
えり「…………」
咏「…おぅーい、えりちゃーん?」
えり「?」クビカシゲ
咏「いや、? じゃなくて。仕草かわいいけど」
えり「…………」ポケー…
咏「えりちゃん?」
咏「おぉ?」
えり「………♪」スリスリ
咏「…また腕かい?」
えり「ん…」コクリ
咏「抱きついては来ないの?」
えり「…これ、好きです」ギュー
咏「…酔ってんの…か?」
えり「知らんし~…ですー」スリスリ
咏(だから…それヤバいって…かわいいっつの…)
咏(裏えりちゃんが酔っ払っても、あんまり変わらない感じかねぃ?)
えり「ふふ…うーたさん♪」
咏「なーに?」
えり「呼んだだけー♪」ニコニコ
咏(おぅ)キュン
えり「んー…」ハナレ
咏「? どしたん?急に離れちゃって」
えり「…私ばっかり甘えてます」
咏「良いんだよ?」
えり「咏さんは何かしたくないですか?」
咏「何か?」
えり「ん」コクリ
咏「…えりちゃんに?」
えり「…ん」コクリ
咏「………」
えり「………」ジー
咏(…つまり…“なんでもしていいよ”っつーこと…?)ドキドキ
咏「~~~!」グビグビ
咏(かなり……その、なんだ。かなり、…ねぇ?)
えり「………」ジッ
咏「……目ぇ、瞑って?」
えり「…はい」メトジ
咏「…………」
咏(…どうする気だよ…目、瞑らせて…)
えり「…咏さん?」
咏「ちょ、ちょっと…待って…」
咏「…………」ドキドキ
ソッ…
えり「っ」ビクッ
咏「だから、目隠ししたからな?手で、だけど…なんも、見えない…よな?」
えり「…ん」コクリ
咏「………」ドキドキ
咏(…やばいな、最初っから一気はダメだったか)
咏(…ちょっと、酔ってるかも)
咏「…………」ジリジリ…
咏(……もう、少しで……)
えり「………」
咏(えりちゃんの………)
咏(こんなに近くで顔見たの…初めてかも…)
咏(えりちゃんの……唇……)
えり「………」
咏「―――ッ!!」
パッ
咏「もういいよ!!」
えり「?」
咏「目ぇ開けていいから!」
えり「は、はい……」パチ
咏(うわー、うわあーもー!!)
えり「あの…何かしましたか?」
咏「し、したよ、した!」
えり「…?」クビカシゲ
えり「………」
咏(えりちゃんは…キス、嫌なんだよ…なのにさぁ…)
咏(酔ったイキオイとか…酔ってる人の言葉にほだされるとか…)
えり「…………」ウトウト
咏(…これ、最低じゃね!?)ガーン
咏(良かった!思いとどまって良かったぁぁアブねえぇ!!)
えり「………」コックリ
咏「え!?」
えり「………」コックリ…
えり「!」ハッ
えり「………」ウトウト
咏(あ…眠いだけか…)
咏(ビビったぁ…頷かれたかと思った…)
咏「えりちゃん、もう寝よっか」
咏「じゃあ、」スッ
キュ…
咏「お?」
えり「あの…」ソデツマミ
えり「…また、おんなじお布団で……」
咏「………」
えり「……だめですか?」ジ…
咏(上目遣いは反則)
咏「………」ゴソゴソ
えり「………」ポフッ
咏「…ふぅ…」
えり「…咏さん?」
咏「…んー?」
えり「…だーいすき」ニコッ
咏「………」キュン
えり「ふふ……おやすみなさい」
咏「おやすみ」
咏「…………」
咏(…罪悪感がヤバい)ズーン
咏(嫌われてることは多分100%ないみたいだけど…)
咏(…なんで嫌なんだろ。わかんねー…)
咏(好きなら…したくなるもんなんじゃないかねぃ……知らん、けど)
咏「……んぁー……」
咏「……ふぁ~ぁ」ノビー
咏「…あれ…えりちゃん?」
咏「……仕事行ったのかな……」
咏「……お?」
咏(メモ用紙…)
『ごめんなさい 針生』
咏「…………」
グシャグシャ ポイッ
咏「…知らんし」
咏(……何に対して謝ってんだかわかんねーし。謝られるようなことなかったし)
咏(…………)
咏「……今日も問い詰めるかねぃ」
咏(ついでに、晩ごはんも頼んじゃおーっと)
咏(今日は何を頼もうかねぃ~♪)
――――
えり「……クチュンッ」クシャミッ
えり(…マズイ、風邪かな……)
――――
えり「……はぁ……」
えり(…今日は…)チラッ
えり(よし、携帯に連絡なし)
えり(…もう、しばらくは会えないだろうな…)
えり(……私、何してるんだろ……)
ピリリリッ
えり「!」ビクッ
えり「で、電話!?」ピッ
えり「も、もしもし針生ですが…」
咏『やっほーえりちゃん』
えり「う、咏さん!?」
えり(し、しまった…焦って誰だか確認せずに通話ボタンを…)
咏『あー違う違う』
えり「では…?」
咏『えりちゃんの“かわいい”声が聞きたくなってねぃ~♪』
えり「………は」
咏『あー今多分ボーゼンとしてるでしょ?』
えり「い、いや、その…」
咏『照れてんだ~かーわい~』
えり「…からかってます?」
咏『本音に決まってんじゃん。わっかんねーかなぁ、えりちゃーんちょーかわいいぜー』
えり「な……な………」パクパク
咏「えりちゃーん」
えり『っ…よ、用がないなら、もう切りますよ?私今仕事終わったばっかりで…』
咏「愛してるぜ」
えり『』
咏「ちょっとでも長く一緒にいて、ちょっとでも長く話していたいじゃん」
咏「…コイビトだろ?」
えり『…………』
咏(…………)
咏「ところでえりちゃん」
えり『は、はい!』
咏「…今日の晩ごはんは、スパゲティがいいな」
えり『…………』
えり『いいんですか?』
咏「頼んでるのはこっちだっての」
えり『…♪』
咏(お)
えり『…材料買ってから、向かいますね』
咏「おう」
えり『…他に何かありますか?』
咏「晩ごはんにさ。えりちゃんの愛情、入れてくれる?」
えり『………はい♪』
咏(大・成・功)
ピンポーン
咏「ほーい」ガチャ
えり「こんばんは」
咏「おっかえりぃ~」
えり「あ……」
咏「ん?」
えり「え、えーっと……」
えり「…ただいま、あなた」ニコッ
咏「」
えり「…なんて」カァァ
咏「お、おかえりぃぃぃ!!」ギュゥー
えり「きゃっ…」
咏(やべー破壊力やべぇぇー!)
咏「ん?」
えり「わざわざ“私”を呼び出すなんて、何を企んでいるんですか?」
咏「企みとか知らんし。さっきも言ったじゃんか。少しでも一緒にいたいんだよ」
えり「!」パァ
えり「…♪」ギュー
咏(かわええのうかわええのう)ナデリナデリ
えり「えへへ…だーいすき♪」
咏(このやろ…あとで抱き締めてやる、覚悟しとけぃ…)
咏「期待してるねぃー」
えり「愛情込めて、作ります」ニコッ
咏「ひゃっは~!」
えり「あ……えっと……」ゴソゴソ
咏「お?」
えり「咏さんの家って、エプロンないでしょう?だから…買ってみました」
咏「おぉーっ」
えり「ん、と……」イソイソ
咏「………」
えり「…こ、こんな感じ…ふふ、ちょっと恥ずかしい…かも」
咏(たまんねー新婚みてー!たまんねー!)キュンキュン
食後
咏「いやーえりちゃんの料理やっぱウマイわー」ポンポン
えり「お粗末様でした」
咏「毎日作ってくれん?」
えり「いいですよ」
咏「そうだよねぃ~……え、マジで!?」
えり「できる限りは」ニコッ
咏「お、おぉっ…」
咏(…一緒に住んだら………いや、今言うのは卑怯だよな…)
咏「…えりちゃん、明日の予定は?」
えり「明日、ですか?」
咏「ふむ。…よぅし、今日も泊まってけぃ!!」ズビシ
えり「!」
咏「そうと決まれば風呂入ってこぉい!えりちゃんの寝間着、洗っといたぜ」
えり「あの、咏さn」
咏「もう風呂入ったから。えりちゃん入った入った!」
えり「………」
えり「はい!」ニコッ
咏(…実は、オフって知ってて全部先に準備したんだけどねぃ~)ニヤリ
咏(調子乗って高い酒開けちゃったよ…えりちゃんまだ風呂だけど)
咏「~♪」トクトク
咏(やばいなぁ…幸せすぎる。えりちゃんの本音を、あーんな聞けちゃうとか!)グイッ
咏(ちょっと前まで、スゲー不安だったのにねぃ…えりちゃんも、素直に言ってくれりゃいいのに!)プハーッ
咏(…そう簡単にはいかねーか。不慣れ、とか言ってたし)
咏(それ言ったらこっちだって慣れちゃいないけどさ~…)トクトク…
咏(一緒にいて…ラブラブしてー……らぶらぶ……)グイー
咏「ぷはっ……」
コトッ…
咏(…ちゅーぐらい良くね?)
咏(えりちゃんのことだから、照れてるだけっしょ?知らんけど~)
咏(最近圧倒され気味だけどさ~…ちーとばかし積極的にいっちゃうかねぃ?)ニヤニヤ
咏「んぐっ…んぐっ…プハーッ!」
咏「…けふっ」
えり「良いお湯でしたー」ホクホク
咏「おーぅおかえりぃー」フリフリ
えり「ただいまです。…あれ、咏さん?」
咏「ほいな~」
えり「…お酒?」
咏「おう!えりちゃんも呑む~?」
えり「い、いえ……咏さん、ずいぶん呑んだみたいですね…」
咏「あーそーかもねぃ」
えり「珍しく酔ってるみたいな…」
咏「そんなことよりえりちゃ~ん」
咏「いつもみたいにくっついてくれないの?」
えり「!」
咏「ほれほれ、この胸にどーんと」テヒロゲ
えり「…良いんですか?」
咏「かも~ん」
えり「…じゃあ…」
えり「………♪」ギュー
咏「おーよしよし」ナデナデ
えり「昨日は、お風呂入る前だったから…今日は…」
えり「……♪」ギュー
咏「ん~…」スリスリ
えり「はーい?」
咏「…こっち、見て」
えり「?」
咏「ん~…」
えり「…咏、さん?」
咏「むちゅちゅ~」ジリジリ
えり「!」ビクッ
えり「っ……!」ポフッ
咏「えーえりちゃーん、顔うずめんなよー」
えり「……」フルフル
えり「あっ…」
咏「照れんなよー」ジリジリ
えり「だ、ダメ…」ニゲ…
咏「えーりーちゃーぁーん~」グイグイ
えり「ダメで……きゃあっ!?」
ドサッ
咏「ほら、逃げらんないぜ~?」
えり「…あ……ぁ……」
咏「いーでしょ?」
えり「だ、だめ……」
咏「まだ言うか、こいつぅ」スッ
えり「ぁ…っ」ビクッ
咏「ね、えり…、……?」
えり「…だめ……だめ……っ」ギュゥ
咏(震えてる…?)
えり「お願い、…だめ、お願い……!」ジワ
咏「…えりちゃん…?」
えり「……うぅ……」フルフル
咏「え、えりちゃん…?」
えり「…………」ウルウル
咏「…………」
ギュ
えり「ぁ……」
咏「ごめん。何もしないから…怖がらないでよ」ナデナデ
えり「………うた、さん………」
咏「うん。ごめんね、もうしないから」
えり「…………」
えり「……ごめんなさい」
咏「ううん、えりちゃんは悪くないよ」
えり「…違うんです」
えり「………まだ私、咏さんに言ってないことが…あって…」
咏「…!」
えり「……私の……」
えり「……昔の色々に、ついて……」
咏「…昨日言ってたやつ?」
えり『…恋愛に不慣れなんですよ』
咏『不慣れ?』
えり『ええ。経験は人並み以下、限りなく0に近いかと』
咏『えりちゃんモテそうなのにねぃ』
えり『…まぁ、昔色々ありまして』
咏「あ、ああ、ごめん!」
えり「いえ…私も、取り乱してしまって…」
咏「いや……」
えり「……」
咏「…何か飲むかい?」
えり「…お願いできますか?」
咏「んーじゃ、ホットミルクでも作るかねぃ」
えり「………」ニコッ
咏「ん」ニコッ
咏(…無理して笑顔なんて作っちゃって…涙目、なってるぜ?)
咏(…肩も、まだ震えてて……)
咏(…なぁにやってんだろ…えりちゃんにあんな顔させてさ…)
えり「…ありがとうございます……ん…」コクッ
えり「…おいしい…」
咏「ちょっと落ち着いた?」
えり「……はい」
咏「…………」
えり「…私、その…」
咏「…うん」
えり「……昔、…襲われたことが、あって…」
咏「!」
えり「押し倒されて…おさえ、こまれ……っ」
咏「えりちゃん」
えり「…大丈夫です、…だい…じょ……」
えり「……っ」ブルッ
咏「……」ナデナデ
咏「大丈夫だよ、大丈夫だから…」
えり「……っ…うぅ…」フルフル…
咏「無理に話さなくても…」
えり「い、いえ…聞いてほしい、から……」
咏「………」
えり「…高校生のとき、告白してくれた方がいて…でも私、そのころ恋愛に興味がなくて…」
えり「一度お断りしても、…何度も……段々、その…ストーカー…といいますか…」
えり「それで…学校の、放課後…」
えり「……っ」
咏「………」ナデナデ
えり「……っ…」コクッ
えり「それ以来…なんだか、その…」
えり「い、一応…全部未遂では…あるんですが…」
咏「…………」
咏「…ちょっと待って?」
えり「は、はい…?」
咏「“それ以来”?“全部”?」
えり「え、ええ……途中で、助けていただいたり…あとは…」
咏「…ごめんね、ちょっとツラいこと聞くかも」
えり「…どうぞ…」
咏「…どれくらいの人に、何回くらい、襲われた?」
えり「……ええと……」
えり「中学は近所でしたから徒歩だったんですけど、高校からは電車通学になりまして」
えり「…満員電車…とか……その…スカートの、………っ」
えり「…さすがにもう電車に乗るのは、と思って免許をとって…それ以来は車で…」
えり「あと、仕事で上司の……」
えり「…………っ」ジワ
えり「………も、もう……いいですか……?」プルプル ウルウル
咏「…ごめん、ありがと」クラッ
えり「?」
咏「調べて殴ってくる」
えり「あの…私、女子校で……」
咏「…え?」
えり「男性では……」
咏「………」
咏「うん、何でもない。気にすんな」
えり「は、はい…」
咏「………」
えり「……多分……」
咏「え?」
咏「…何が?」
えり「“私”が」
咏「……!」
咏『初めて出てきたのはいつ?』
えり『高校…でしょうか』
咏『……結構早いねぃ』
えり『……昔のことです』
咏「…裏…えりちゃん…」
えり「……」コクリ
咏「あー、ある…んだ?知らんけど」
えり「ええ。それが、ちょっと過激なものだったりして…」
咏「例えば?」
えり「た、たとえば………ボディタッチがエスカレートして、その……素肌……に…」
咏(それスキンシップじゃねぇ。ただのセクハラだ)
えり「…私が」
咏「…なるほど」
えり「表には何がなんだか判らなかったでしょうね」
えり「意識が戻ったら、同級生が反省文50枚土下座しながら渡してきましたから」
咏「…おお…」
えり「それ以来、過激なスキンシップは無くなりましたけど…」
咏「そっか…」
えり「あ、でも。こういうことばかりじゃないんですよ?」
咏「?」
えり「誰かに…その、身体を…まさぐられて……怖くて、嫌と言えない自分、だけじゃなくて」
えり「仕事で、絶対に間違ってると思っても話が進んでいってしまっているとき、とかに呼ばれたりもしました」
咏「…大変だねぃ」
えり「言いたいこと、言えちゃいますから。そのときはちょっとスッキリしました」ニコ
咏「なにが?」
えり「今までは、嫌なことを嫌と言えない…駄目なことを駄目と言えない…」
えり「裏の私は裏らしく、負の部分ばかりをやってきました」
えり「…でも、今は…」スッ
咏「あ……」
えり「好きな人に、目を見て…はっきりと“好き”って言える」
えり「すごく、幸せなんです」ニコッ
咏「!」ドキッ
咏「ん…」
えり「………」
咏「………」ウツムキ
えり「私……咏さんと…したくないってわけじゃ…ないんです」
咏「…!」
えり「…でも…私…未遂とはいえ、…唇、だけは…」
咏「あ……」
えり「…守り、きれませんでした。…この年になっても、好きな人とは……」
えり「一度も…したこと、ない…のに…」
咏「な、なんで?」
えり「私の唇は……汚れているから」
えり「あなたに、そんな―――」
グイッ
…チュ…ッ…
えり「――――!?」
えり「う、……うた、さ……どうして……!?」
咏「知らんし」
えり「わっ…私は!わた、…し…は……!」
咏「わっかんねーよ。そんなの」
咏「えりちゃんはえりちゃんだ。汚れてなんかいない、綺麗だよ」
咏「…もし、汚れてるって思うなら…」
咏「…私が、消毒ついでに、上書きしてやる」ギュ
えり「……うた……さ…ん……」
えり「…私……わたし……」
咏「えりちゃんは、綺麗だよ」
えり「でも………!」
咏「まだ言うか…もっかい消毒、するかい?」
えり「!」
咏「えりちゃんが納得するまで、何回でもしてやるよ」
えり「………」
えり「…わたしを……」
咏「…うん」
えり「…わたしを…きれいに…してください…」
えり「嫌な思い出…全部、上書きしてください…」
咏「…任せとけ」
チュ…
翌朝
えり「……ん……」
えり「……………」
えり「………!?」ガバッ
えり「また…三尋木プロの……家……!」
咏「なにさ、文句あるかい?」
えり「!!」バッ
咏「おっはよーえりちゃん♪」
えり「み、三尋木プロ…」
咏「ほれ、一日の始まりは挨拶から。っしょ?」
えり「…おはよう、ございます…」
咏「おぅ、おはよ」ニコッ
咏「………」ニコッ
えり「……あの、私…また泊まったりなんかして…」
咏「いーのいーの、全然いーんだよ」
えり「…わ、私そろそろ仕事の……」
咏「オフ、だよねぃ?」
えり「…!」
咏「えりちゃんは今日はオフの日だぜ。忘れたん?」
えり「………そ、そう…でした、ね」
咏「………」
えり「…で、では私はお暇させていただ……」
咏「だめ」
咏「帰さない」
えり「な、何を言っているんですか…三尋木プロ」
咏「すっとぼけんのもいい加減にしな?」
えり「…と、とにかく、私はこれで…」スッ…
ジャラッ…
えり「…!?」
咏「もう既に、逃げらんないようにしてあったりするんだよねぃ~」
えり「こ、これは一体!?」
咏「手錠だよ手錠。まんま」
えり「だから、どうして私が手錠に……」
咏「…“アッチ”のえりちゃんには、言っておいたよ」ニヤ
えり「………!」 サァァ
えり「………っ」
咏「一昨日ははぐらかされたし、昨日は逃げられた」
咏「…今日はどうする?」ニッ
えり「っ……卑怯ですよ」
咏「知らんし」
えり「……どうする気ですか」
咏「別に?えりちゃんとお喋りしたいだけだぜ~?」
えり「じゃあ、これを外してください」
咏「それは駄目」
えり「何故!」
咏「知らんし~」
えり「………」イラッ
咏「お、お喋りしてくれる?」
えり「…ほとんど脅迫じみていますがね」
咏「人聞き悪いねぃ」
えり「やってることは脅迫です」
咏「だから合意の上で…」
えり「なんの話ですか」
咏「だから」
えり「アッチの…とか、合意とか…意味が、わかりません…」
咏「……ふーん?」
咏「…ホントに?」
えり「…何故ですか」
咏「ねぃえりちゃん。昨日の電話、覚えてっかい?」
えり「電話…ああ、それなら…」
咏「じゃあさ…一番最初のクダリ、思い出してみ」
えり「一番最初……?」
ピリリリッ
えり『も、もしもし針生ですが…』
咏『やっほーえりちゃん』
えり『う、咏さん!?』
咏「…………」
えり「驚いてしまったのは、考え事をしていた時に電話がかかってきたからで…」
咏「ねーえりちゃーん」
えり「…なんでしょう」
咏「………」
えり「……三尋木プロ?」
咏「ソレだよ」
えり「え?」
えり「………あ………っ…」
咏「電話で驚いて、つい言っちゃった感じ?珍しいミスしたねぃ、えりちゃ~ん?」ニヤ
咏『やっほーえりちゃん』
えり『う、咏さん!?』
咏「“咏さん”って呼んでるのは、裏えりちゃんのハズでしょ?」
えり「………ッ」
咏「…記憶、残ってるんじゃないの~?」
咏「ねい、表えりちゃん♪」
咏「どーせ逃げらんないぜ?素直に言っちまいな」
えり「……まさか…あれだけのミスで、勘づかれるなんて…」
咏「お?」
えり「……仰るとおり、です」
咏「…へぇ♪」
えり「ただ……少し違うのは…」
咏「え、違うの?」
えり「記憶は、断片的にしか残ってないこと。実際に何があったり何を話したかは、ほとんど…」
咏『裏の記憶は、表には引き継がれないの?』
えり『基本的にはそうです』
咏『基本的には?
えり『ええ』
咏「…なーるほど。嘘はついてないわけだ?」
咏「ごめん、結構色々聞いちゃった」
えり「では……」
咏「高校時代とか、仕事先とか、免許取った理由とか」
えり「そこまで……」
咏「…ごめん」
えり「謝らないでください。…いずれ、話すことにはなっていたでしょうから」
咏「………」
えり「今回の切り替わりの条件とか…聞きました?」
咏「ああ…“恥ずかしい”っつー感情が限界突破すると、だって」
えり「なるほど…今回はソレでしたか…」
咏「?」
咏「ん?」
えり「…もう、あの子を呼ばないで欲しいのですが…」
咏「え……」
えり「昨日は故意的にやったでしょう?」
咏「あ、ああ……。なんで?」
えり「…………」
咏「えりちゃん?」
えり「…わかっている、つもり…なんですけど…」
えり「……いや、やっぱり…わからない」
咏「何が?」
えり「…自分が、何をしたいのか」
えり「…わかりますか?やりたいことだけやって、あとの記憶はハッキリしない…」
えり「私は、……何をしていたのか、……わからない……!」
えり「怖いんですよ……っ」
咏「…えり、ちゃん…」
えり「私が本当にやりたいことって何!?私は何をしているの!?」
えり「私はっ……あなたに、何をしたんですか……?」
咏「…ううん」
えり「朝起きたら、一緒の布団に入っていて……でも、記憶はなくて…」
えり「憶えているのは、…ううん、身体が憶えてるんです」
えり「“咏さん”と言う言葉と…あなたの、暖かさ…!」
えり「私は……わたし、……ッ」ジワ…
えり「もし、あなたに何かあったら、私は…あなたに、顔向けできない…」
咏「…………」
ギュ
咏「やだ」ギュー
えり「離して……」
咏「知らんし」
えり「三尋木プ、……っ」
チュ
えり「…ん……んんっ…」
チュルッ
えり「!?…ふ、ぁぁ…!」ビクッ
咏「……チュ、…ん、レロッ……」
えり「ん、ンー……っ…!」イヤイヤ
えり「ッ…はぁっ…はぁ…は…」
えり「なんで…なんでぇ…!」ウル
咏「ねぃ、えりちゃん」
えり「…どうして、こんなことするの…っ…?」
咏「身体は憶えてた?」
えり「そんなわけなっ――」
えり「――憶えて、…ない…」
咏「…でしょ?」ニッ
咏「じゃあ、これは?」ギュ
えり「…憶えて…ます…」
咏「わかった?」
えり「………」
咏「ちゅー以上のことなんてしてないし、“酷いこと”なんてのもなかったんだよ」
えり「…でも」
咏「クドい。酷いことなんてなかった」
えり「………」
咏「おっけー?」
えり「……はい……」
咏「…ちゃんと、幸せだったよ」ギュー
えり「!」
咏「でも…でもさ、えりちゃんは…変わんないし。告白して、コイビト同士になって」
咏「それでもえりちゃんはクールで、堅くて、生真面目で。…ホントに好きなのかー?って」
えり「それは!」
咏「うん…裏えりちゃんと会って、話して…わかったから」
咏「酷いことなんてない。むしろ…凄く幸せだから」
えり「………」
えり「……それは……そう、です」
えり「裏とは言っても、私は私。…酷いことをしていなくても」記憶が、ないのは……」
えり「…不安です」
咏「じゃあ、裏にならなきゃいい」
えり「え…」
咏「なんなきゃ良いじゃん。裏えりちゃんっつーのは、表えりちゃんの一部なんでしょ?」
えり「そ、そうですが…」
咏「表えりちゃんが裏えりちゃんみたいなことすりゃいいんだよ」
咏「裏えりちゃんは“えりちゃん”の、本当はやりたいけど出来ないことをするんだよねぃ」
えり「ええ…」
咏「それって、えりちゃんがやりたいことやっちゃえばさ。ジレンマもストレスもなしってことっしょ?」
えり「……そう、簡単には……」
咏「わかんねーじゃん」
えり「…裏は、何をしていましたか?」
咏「えりちゃんのやりたいこと」
えり「………」
咏「ほら、遠慮なんかすんなよ~」
咏「もっと甘えて良いんだぜ?」
えり「……あの……」
咏「うん」
えり「……良いん…ですか…?」
咏「もちろん」
えり「…………」
咏「………」
えり「…えっ…と……」
えり「………っ///」
咏「……へへっ♪」ギュ
えり「な、なんですかっ」
咏「べーつにぃ~」
咏「ほら、前は顔に出なかったじゃん?」
えり「…………」
咏「えりちゃん?」
えり「…私の昔の話は、きいたんですよね?」
咏「う、うん……もしかして?」
えり「ええ。…私、昔は気持ちがすぐ表情に出てしまって…なのに、普段は無愛想だから…」
えり「…面白がられたんでしょうか。余計に相手を調子に乗させてしまうことが何度かあって」
咏「………」
咏(いや、多分そうじゃなくてさ…えりちゃんの照れ顔、普通にソソるかんな?知らんけど)
咏「…なるほど」
えり「でも、裏の私には関係ありませんから。…しばらく裏が続くと、緩んでしまうみたいで…」
咏「そっちのが良いぜ?」
えり「そう…ですか?」
咏「かわいいから」
えり「っ!……///」
咏「ほらかわいい」
えり「…か、からかわないでください!」
えり「……こっちは必死なんですからね?」
咏「知らんし。…えりちゃんが素直じゃないだけだし~」
えり「…う…」
咏「素直に言っちゃえば良いんだよ。拒否とかするわけないし」
えり「…仕方ないじゃないですか……不安、だったんですから」
咏「?」
えり「…恋愛って、は…初めて、だったから…どうしたらいいか、わからなくて」
咏「…馬鹿だねぃえりちゃんは」
えり「なっ!?」
咏「どんなえりちゃんでも、えりちゃんはえりちゃんなの!」
咏「その上で、えりちゃんが好きなんだよ。何度も言ってるっしょ~?」
えり「…咏さん…」
えり「…仕方ないでしょう…わかんないんですから…」
咏「もうわかった?」
えり「…少し」
咏「ちょーっとずつで良いから、いろんなえりちゃん見せてみな?」
咏「ぜってー嫌いになんか、なんないから。かけてもいい」
えり「………」
咏「そんでさ。恋愛にも、少しずつ慣れていこうよ。…二人でさ」
えり「……躓いても、引っ張って行ってくれますか?」
咏「それ助け起こすのが先じゃね?知らんけど」
えり「……ふふ……」
咏「……へへ」ニコッ
咏「おぅ」
えり「……お願いしても、いいですか……?」
咏「もちろん。えりちゃんのやりたいこと、言ってみ?」
えり「……………///」
えり「……っ…」メソラシ
咏「ん?」
えり「………」ジ…
咏「………」ニコッ
えり「…ぎゅーってしても…いいですか……?」
咏「…大歓迎」
おわり
ありがとうございました
咏えりかわいい
乙
Entry ⇒ 2012.10.07 | Category ⇒ 咲-Saki-SS | Comments (0) | Trackbacks (0)
ニャース「もう騙されないニャ……」ピカチュウ「……」
引用元: http://hayabusa.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1349354114/
ピーガシャンガシャンプシュー
ニャース「」ジジジジ
ガシャン
ニャース「」シュウウウウウ
プシュー
ニャース「完成ニャ……」ニヤリ
サトシ「はぁ~、腹減った~」
デント「それじゃ、この辺でお昼にしようか」
アイリス「さんせーい!」
サトシ「ピカチュウ達も疲れただろうから、そこら辺を散歩でもしてこいよ」
ピカチュウ「」コクッ
ピカチュウ「」タッタッタッタッ
アイリス「ピカチュウは元気ねー」
ヒュッ
ピカチュウ「!?」バッ
ドゴーーン
ピカチュウ「……?」ハァハァ
「……チッ、外したニャ……」
ピカチュウ「!」
ガサガサッ
ニャース「久しぶりだニャ。ピカチュウ」ニヤリ
ニャース「おミャーに騙されて、倒されてから約2年……」
ニャース「ニャーはあの時から復讐を誓ったニャ……」
ピカチュウ「……」
ニャース「おミャーらが新しい仲間と旅をしている頃……」
ニャース「ニャーはずっとおミャーらへ復讐することばかり考えていたニャ」
ニャース「毎日毎日研究に明け暮れて……」
ニャース「死んでいったムサシやコジロウの分の仇をとるのも含めて」
ニャース「ニャーはこの2年を過ごしてきたニャ」
ニャース「あとソーナンスの分もニャ」
ピカチュウ「……」
ピカチュウ「……」
ニャース「でも……あそこで裏切られた分、おミャーらに対するニャーの憎しみはもっと強くなったニャ」
ニャース「そして……その憎しみをこの2年にぶつけたことで」
ニャース「おミャーらを倒すための最終兵器が完成したニャ」
ピカチュウ「……」
ニャース「今更後悔しても遅いニャ」
ニャース「おミャーはあの時トドメを刺さなかった時点で……」
ニャース「負けが確定してたのニャ」ニヤリ
ニャース「相変わらずだんまりかニャ……」
ニャース「……まぁいいニャ。おミャーはこれから一言も発する暇もないまま死ぬことになるんニャから……」ニヤリ
ピカチュウ「……」
ニャース「それじゃあ、早速始めるニャ」
ニャース「ムサシとコジロウの仇をとる……最後の戦いを!」
ピカチュウ「……」
ニャース「もちろんソーナンスもニャ……」
ニャース「出でよ!ジャリボーイ御一行殺戮兵器!」
ニャース「ソーナンスロボ!」
ソーナンスロボ『ソォーーナンス!!』
ピカチュウ「!?」
ニャース「そう!これこそがすべての攻撃を自動ではね返す!」
ニャース「ロケット団史上最強のメカニャ!」
ピカチュウ「……」
ニャース「驚きで声も出ないようだニャ……」
ニャース「でも、それだけじゃないニャ!」
ニャース「このソーナンスロボには、死んだソーナンスの脳細胞の中のデータをインプットしてあるニャ!」
ニャース「よって、このソーナンスロボは、生きてた頃のソーナンスと同じ思考なのニャ!」
ピカチュウ「!」
ニャース「まさに死角なし!最強のメカニャ!」
ピカチュウ「……」
ニャース「どうしたのニャ?あまりの恐怖に恐れをなしたのかニャ?」
ニャース「でも残念だったニャ。さっきも言った通り、今更後悔してももう遅いニャ!」
ニャース「この完璧なメカの前に屈服するといいニャ!」
ピカチュウ「……」
ニャース「……最後に何か言い残すことはないニャか?」
ピカチュウ「策士策に溺れるとはこのことだな」
ピカチュウ「確かにお前は凄いよ。すべての攻撃を跳ね返すなんてメカを作るあたりはな」
ニャース「そうニャ!ニャーは天才なのニャ!」
ピカチュウ「まぁ、それをもっと早く作ってればあいつらも死ななかったかもな」
ニャース「」
ピカチュウ「そして、一見完璧なメカに見えるが、実は一カ所致命的ミスがある」
ニャース「ミス!?なんニャそれは!」
ピカチュウ「ソーナンスの脳細胞を入れたことだ」
ニャース「……は?何を言ってるニャ?ソーナンス自身が考えて勝手に行動してくれるのがこのメカ最大のウリニャ!」
ピカチュウ「だってあいつアホじゃん」
ニャース「…………あっ!」
そこはキレる所だろ
ニャース「しまったニャ……。最大の誤算ニャ……」
ソーナンスロボ『ソォーナンスゥ……』
ニャース「確かにソーナンスはアホニャ……。何がアホかは分からないけど、顔がアホニャ……」
ピカチュウ「そう。顔もさることながら、歩き方もアホだ。もうどうしようもない」
ニャース「……!!で、でも、あいつは勝手にボールから出てこれるニャ!それって頭がいいってことにはならないのかニャ」
ニャース「それは知ってるニャ」
ピカチュウ「じゃあ、これも知ってるだろ?そのカスミにはコダックというポケモンがいた」
ニャース「あぁ、あのいかにもアホそうなポケモンかニャ?」
ピカチュウ「……そいつも勝手にボールから出られた」
ニャース「……!!」
ピカチュウ「分かったか?……つまり、勝手にボールから出られるポケモン=アホが成立するわけだ」
ピカチュウ「ちなみに今のサトシの手持ちにミジュマルというアホがいるが……」
ピカチュウ「そいつも勝手にボールから出られる」
ニャース「」ガクッ
ピカチュウ「決定的だな……」
ニャース「おミャーなんか、それさえあれば充分ニャ!!」
ニャース「いくニャ!ソーナンスロボ!」
ソーナンスロボ『……』シーン
ニャース「……?何やってるニャ!早くあいつをやっつけるニャ!」
ソーナンスロボ『…………はぁ』
ニャース「!?」
ソーナンスロボ『それはないっすわ先輩』
ニャース「なっ……!」
ピカチュウ「……計画通り」ニヤッ
ソーナンスロボ『いやいや……だからないっすって』
ニャース「何でニャ!?どういうことニャ!!」
ピカチュウ「拗ねたんだよ」
ニャース「拗ねた……?」
ソーナンスロボ『ピカチュウの言うとおりっすよ先輩。そりゃ、目の前であんなに自分のことを罵倒された後にホイホイ命令聞く奴がいます?』
ニャース「なっ……!!」
ソーナンスロボ『ないっすわー。自分ならあり得ないっすわー。機械にだって心はあるんすよ?』
ニャース「それは……まぁ、悪かったニャ……」
ソーナンスロボ『えー?聞こえないなぁ?もっと真剣に謝ってもらわないと、機械的には許しを出すことはできませんわー』
ニャース「くっ……!」
ピカチュウ「」ニヤニヤ
ソーナンスロボ『……まっ、いいでしょう』
ピカチュウ「!?」
ニャース「……じゃあ、いっちゃって下さいニャ!」
ソーナンスロボ『ソォーナンス!』ゴゴゴゴ
ピカチュウ「(くそっ!意外に和解が早かった!計算外だ!)」
ピカチュウ「くっ!」バッ
ニャース「ニャハハハハ!このソーナンスロボは自分から攻撃することができるのニャ!」
ソーナンスロボ『まぁ、技出せないから突進することしかできないんすけどね』ゴゴゴゴ
ニャース「ピカチュウにはそれで充分なのニャ!」
ピカチュウ「くっ!」バッ
ピカチュウ「(逃げ回っててもラチがあかない……一か八か攻撃してみるか)」
ピカチュウ「ピィ~カァ~チューー!」バリバリバリ
ソーナンスロボ『ソォーナンス!』ミラーコート
バリバリバリ
ピカチュウ「くそっ!」
ピカチュウ「(やっぱり跳ね返ってきやがる……これじゃ迂闊に攻撃できない!)」
ニャース「ニャハハハハー!おミャーもここでおしまいニャー!」
ピカチュウ「」タタタタ
ニャース「ニャハハ!逃げても無駄ニャ!」
ソーナンスロボ『ソォーナンス!』ゴゴゴゴ
ピカチュウ「」タタタタ
ニャース「無駄ニャー!」
ピカチュウ「」タタタタ
ニャース「無駄ニャー!」
ピカチュウ「」タタタタ
ニャース「無駄ニャー!」
ソーナンスロボ『ソォーナンス!』
ピカチュウ「」タタタタ
ニャース「しつこいニャ!」
ソーナンスロボ『ソォ……ガガッ……ナン……ガガッ……スゥ』
ニャース「ソーナンスロボ!?」
ピカチュウ「はぁ……はぁ……逃げてばかりじゃ……ラチが、あかないなんて……ことは、はぁ、なかった……」ハァハァ
ソーナンスロボ『』プシュー
ニャース「バ、バッテリー切れ……」
ピカチュウ「そうだ……そのメカはまともな攻撃ができない……つまり、突進さえかわしてればいつかはバッテリーが切れる……」
ニャース「まさか、おミャーはそれを狙って……」
ピカチュウ「あぁ……まぁ、正直3時間もバッテリーが持つとは思わなかったが……(サトシ達何やってんだ?)」
ピカチュウ「じゃあな……俺はもう行くぜ……飯も食ってないしな」
ニャース「……」
ピカチュウ「はぁ、はぁ……」テクテク
ピカチュウ「」テクテク
ニャース「待つニャ……」
ヒュッ
ピカチュウ「……ん?」クルッ
バキィッ
ピカチュウ「ぐあっ!」ズザアアア
ニャース「……これは」
ピカチュウ「……??」
ニャース「……これは本当に最後の手段だったんだがニャ……」
ピカチュウ「!!……そ、そいつらは……」
ニャース「……そうニャ」
ピカチュウ「お前っ……!ソーナンスだけじゃなく、そいつらまでメカに……」
ニャース「……」
ピカチュウ「そいつらにも脳細胞を……?」
ニャース「いや……それはやってないニャ……」
ピカチュウ「……なぜだ?」
ニャース「例え、口調や思考はムサシとコジロウでも……所詮は機械ニャ……」
ニャース「だから、そんなことをしても虚しくて……余計に悲しくなるだけニャ……」
ピカチュウ「(ソーナンスはいいのか……)」
ニャース「これは、ムサシとコジロウの身体能力をそのまま数十倍にまで引き上げたメカ……」
ニャース「MUSASHIとKOJIROHニャ!」
ピカチュウ「……プッ」
ニャース「何がおかしいニャ……」
ピカチュウ「……いや、何でも、グフッない」プルプル
ニャース「このメカはできればあんまり使いたくなかったニャ……」
ピカチュウ「……?何でだ?身体能力があいつらの数十倍なんだろ?さっきのソーナンスより全然使えるじゃねーか」
ニャース「まぁ、確かにそれはそうだニャ……。でも、もしまたバラバラにされたら……ニャーは……」
ピカチュウ「(やりにくいなぁ)」
ニャース「……でも、もう決めたニャ。ニャーはこのMUSASHIとKOJIROHでおミャーらを殺す!」
ピカチュウ「そうか……ブフッ」
ニャース「いくニャ!MUSASHI!KOJIROH!」バッ
MUSASHI「ピカチュウコロス」ギュオッ
KOJIROH「ナーッハッハッハーイ」ギュオッ
ピカチュウ「(速い!)」
MUSASHI「ハッ!」シュッ
ピカチュウ「ぐっ!」バキッ
KOJIROH「ナーッハッハッハーイ!」シュッ
ピカチュウ「うん」コキッ
ピカチュウ「(KOJIROHの方は大したことないがMUSASHIが厄介だな……)」
MUSASHI「フンッ!」シュッ
ピカチュウ「おわっ!」バッ
KOJIROH「ナーッハッハッハーイ!」シュッ
ピカチュウ「うん」サッ
ニャース「ピカチュウもなかなか粘るニャ……。しょうがない、次の手段を使うニャ……」ポチッ
MUSASHI「」ブルブル
KOJIROH「ナーッハッハッハーイ」ブルブル
ピカチュウ「!?」
KOJIROH「ナーッハッハッハーイ」ナーッハッハッハーイナーッハッハッハーイナーッハッハッハーイ
ピカチュウ「なっ、何だこれは!?」
ニャース「第二段階ニャ……」
ピカチュウ「段階二段階?」
ニャース「そうニャ……MUSASHIは髪が硬質化して針のように飛ばすことができるニャ」
ニャース「KOJIROHは大音量の笑い声で相手を怯ませることができるニャ」
ピカチュウ「(髪の硬質化は厄介だな……)」
ニャース「さぁ!グレードアップしたおミャーらの力をピカチュウに見せてやるニャ!!」
KOJIROH「ナーッハッハッハーイ!!」キーン
ピカチュウ「くっ!」タッタッタッタッ
ピカチュウ「(笑い声の方は正直何ともないが……。髪の方は刺さったら致命傷になりかねない……)」
ニャース「ニャハハハハ!避けるので精一杯のようだニャ!」
ピカチュウ「(髪攻撃に集中するために、先にKOJIROHを潰すか……)」
ピカチュウ「ピ~カ~チューー!!」バリバリバリ
KOJIROH「ナーッハッハッハーイ!?」
MUSASHI「」スッ
MUSASHI「ハッ!」バチバチバチバチ
ピカチュウ「(電気を吸収された!?)」
ニャース「ニャハハハハ!MUSASHIの方は例のごとく電撃対策はばっちりなのニャー!」
MUSASHI「ハッ!」バリバリバリ
ピカチュウ「ぐあああ!」バリバリバリ
ニャース「吸収した電気を倍にして返すのニャ!」
KOJIROH「ナーッハッハッハーイ!」
ピカチュウ「ぐっ……」ヨロ
ニャース「さらにレベルを引き上げるニャ」ポチッ
MUSASHI「」ゴゴゴゴ
KOJIROH「ナーッハッハッハーイ」ゴゴゴゴ
ピカチュウ「今度は何だ……」
KOJIROH「ナーッハッハッハーイ」ドッドッドッドッ
ニャース「第三段階は、MUSASHIがロックオン機能付ミサイルを搭載、KOJIROHは笑い声が重低音になるニャ!」
ピカチュウ「くっ……地味に脳に響く……!」
ニャース「いくニャ!MUSASHI!」ポチッ
MUSASHI「ロックオンカイシ」ピッピッピッピッ
ピカチュウ「(やばい!)」
ニャース「逃げても無駄ニャ……」ニヤ
MUSASHI「ミサイルハッシャ」シュバッ
ゴオオオオオオオオ
ピカチュウ「うわああああああああああ!!」
ドゴーーン
ピカチュウ「」シュウウウ
KOJIROH「ナーッハッハッハーイ!」ドッドッドッドッ
ニャース「ニャハハ……ニャハハハハハハ!!ざまあないニャ!MUSASHIにかかればピカチュウなんてこんなもんニャ!」
ニャース「さて……トドメはニャーが刺すとするニャ……」
ニャース「」スタスタ
MUSASHI「……」
KOJIROH「ナーッハッハッハーイ!」ドッドッドッドッ
ピカチュウ「」
ニャース「よくも……よくも今までニャー達を痛みつけてくれたニャ……」ドゴッ
ピカチュウ「ぐっ」
ニャース「ニャー達の苦しみはおミャーには分からないだろうニャ!」ゴッ
ピカチュウ「ぐおっ」
ニャース「でも……ニャーもやっと苦しみから解放されるニャ!」バキッ
ピカチュウ「っ……」
ニャース「おミャーらを殺して……ニャーは二人の仇をとるニャ!」ゴスッバキッ
ピカチュウ「……」
ニャース「はぁ、はぁ……」
ピカチュウ「ニャー……ス……」
ニャース「!?まだ生きてたのかニャ!?」ゴッ
ピカチュウ「ぐっ!……なぁ、ニャー、ス……最後に……頼み、が……」
ニャース「その手には乗らないニャ!前もそれで騙されたんだからニャ!」
ニャース「ニャーは……もう騙されないニャ……」
ピカチュウ「……」
ピカチュウ「……なぁ、たの、むよ……聞いて、くれ……ひと、つだけ……」
ニャース「……」
ピカチュウ「おれ、を……ころす……かわ、りに、サトシ……は、たす……けてく、れ……」
ニャース「!?何を言ってるニャ!?ニャーはおミャーら全員に恨みがあるニャ!」
ニャース「ジャリボーイも殺すに決まってるニャ!!」
ニャース「ぐっ……な、泣いても無駄ニャ!」ガッ
ピカチュウ「うっ……たの、む……た、のむ……た……の、むよ……」ボロボロ
ニャース「……っ!何でそうまでしてジャリボーイを……!」
ピカチュウ「それ、は……おまえ、が……いち、ば……ん、わかって……る、だろ……?」
ニャース「……」
ピカチュウ「なぁ……たの、む……た、の……」ガクッ
ピカチュウ「」
ニャース「……」
MUSASHI「」コクッ
KOJIROH「ナーッハッハッハーイ……」コクッ
ニャース「……」テクテク
ニャース「……」チラッ
ピカチュウ「」
ニャース「」
ニャース「……」テクテク
―――――――――――――――
体が軽い……
あぁ、俺死んだんだな……
ニャース、俺の頼み、聞いてくれたかなぁ……
聞いてくれるわけないか……
ニャース……ごめんな……
サトシ……
―――――――――――――――
「…………ウ」
え?
「……カ……ウ!」
誰だ?
「……カチュウ!」
俺を呼んでる……?
「ピカチュウ!」
ピカチュウ「……」パチッ
サトシ「ピカチュウ!ピカチュウ!大丈夫か!?」
ピカチュウ「(サトシ……!?それにどこだここは……病院か?)」
アイリス「ピカチュウ!よかった!」グスッ
デント「ピカチュウー!よかったねぇ!」
ピカチュウ「ピカッチュー!」
ピカチュウ「(どういうことだ……?)」
サトシ「ピカチュウ、お前何があったか覚えてるか?」
ピカチュウ「……?」
アイリス「私達、ピカチュウがいなくなって探してたのよ」
デント「そしたら近くの草むらで音がしたから近寄ってみたんだ」
サトシ「そしたらボロボロで気絶した状態でお前が見つかったんだよ」
サトシ「で、すぐにポケモンセンターに連れてって、治療してもらったんだよ」
アイリス「ジョーイさんが言うには1週間も入院してれば治るだろうって!」
サトシ「見つけた時はびっくりしたけど本当によかった!」
ピカチュウ「(……おかしい)」
ピカチュウ「(俺はあの時完全に意識を失ったはずだ……)」
ピカチュウ「(サトシ達のいるところからも大分離れてた)」
ピカチュウ「(自分一人で歩くことは不可能なはず……)」
ピカチュウ「!!」
ピカチュウ「(まさか…………)」
ピカチュウ「(……ニャース……?)」
―――――――――――――――
―アジト―
ニャース「……」
ニャース「(……これで、よかったのかニャ……)」
ニャース「(あの時、ピカチュウを置いてくこともできた)」
ニャース「(ピカチュウがいなくなって混乱してるジャリボーイ達を殺すこともできたはずニャ……)」
ニャース「(でも……)」
ニャース「(何かが、それにブレーキをかけて……決心を鈍らせた……)」
ニャース「(ピカチュウ達は憎い……けど……)」
ニャース「(仲間を失う辛さを……ニャーは知ってるニャ……)」
ニャース「(ニャーは……ニャーは……)」
ニャース「……ムサシ……コジロウ……」ポロポロ
おしまい
勝っても負けても切ないな…
乙
Entry ⇒ 2012.10.07 | Category ⇒ ポケモンSS | Comments (0) | Trackbacks (0)
結衣「まあ漆黒の騎士【ダークナイト】の私には関係ないことだ」ドヤァ
あかり「う、うん…」
京子「なんかのアニメにハマったんじゃないのー?」パリ
ちなつ「・・・あぁ、結衣先輩素敵ですっ」
あかり「んん・・・?み、みんなあんまり気にしてないのかな?」
結衣「うっ・・・!み、右目がっ!」ガクッ
あかり「ゆ、結衣ちゃんっ!?」トテテ
結衣「ぐうぅ・・・」
あかり「痛いの!?ど、どうしようっ、みんなぁっ」
京子「ちなつちゃーん、お茶ー」
ちなつ「自分でやってくださーい」パリ
京子「えー」パタパタ
あかり「みんなぁ!?」
結衣「う、ぐぁぁっ!右目が疼くぅっ!?」ガタッ
あかり「!?」ビク
あかり「な、なにっ、結衣ちゃん!」
結衣「わ、私の右目は・・・」
あかり「・・・っ!!」ゴク
結衣「邪眼なんだ・・・・・・」
あかり「・・・」
あかり「・・・」
あかり「・・・」
あかり「え、あ、んん・・・?」
京子「お茶ぁー」
ちなつ「やー、ですー」
あかり「敵!?」
結衣「そう、敵・・・。このセヴンフォレストを制圧しようと企んでいる敵・・・絶対運命黙示録(アポカリプス)である私を支配して世界を崩壊させようとする暗黒の意思・・・」
あかり「んん!?」
結衣「そう、アンーカが近くに来ているんだよ!!!」クワッ
結衣「近づくなあかり・・・いや、シャイン!!!」
あかり「誰!?」
結衣「近付いたら、また、私はシャインを殺してしまう・・・またループをしなければ・・・だから・・・」
あかり「え、えと・・・」
結衣「・・・・・・さらばっ!!」ダッ
ダンッ
スチャ タタタッ
あかり「ゆ、結衣ちゃーーんっ!!?」
京子「ぷっ、くく・・・あは、は」
あかり「京子、ちゃん・・・?」
京子「あはははははっ!!」バンバンバンバン
京子「あ、絶対運命黙示録(アポカリプス)だって・・・あはは、アンーカって、うく、あはは・・・」プルプル
京子「あー・・・ダメ、死ぬ」
あかり「結衣ちゃん、どうしちゃったのかな・・・」シュン
あかり「病気とかだったらどうしよう・・・」シュン
京子「ふふ、多分治らない病気だからね結衣のは」
あかり「!?」
京子「あー、久しぶりに面白いもの見た。こりゃ明日から楽しみだー」パタリ
あかり「な、治らない病気って・・・」プルプル
ちなつ(かっこいいけどなぁ)
あかり(どうしようっ、結衣ちゃん死んじゃうのかなぁ)ジワ
あかり(・・・京子ちゃんも支えてあげてねって言ってた。きっと大事な事なんだ)
あかり(・・・あかり、頑張らなきゃ)
あかり(あかりが結衣ちゃんを支えてあげるんだ!)
あかり「頑張るよぉっ!」
ガララ
結衣「遅れてごめん、皆」
あかり「あ、結衣ちゃんっ。昨日は・・・・・・って、んんん!?」
あかり「け、怪我でもしたの・・・?」
結衣「ん、あぁ・・・これ?」
あかり「目と腕・・・大丈夫?」
結衣「うん、封印してあるからね」
あかり「・・・!?」
あかり「あ、あぽかり・・・?」タジ
結衣「詳しくは言えない・・・ごめん、シャイン」
あかり「あ、うん・・・」
結衣「・・・」
あかり「・・・」
結衣「詳しくは言えないんだ」チラッ
結衣「深紅の姫君【レッドプリンセス】のあか・・・・・・シャインになら、話しても、いいかも、しれない」チラッ
あかり「・・・あかりのこと?」
結衣「ふぅ・・・やっぱり覚えてないんだね、シャイン」
結衣「深紅の姫君っていうのはシャインの前世、なんだよ」
あかり「!!!!???、!!」ガタッ
あかり「あ、あの・・・」
京子「うわ、なんか昼よりやばげな感じ?」
あかり「京子ちゃんっ」
結衣「アンーカ・・・セヴンフォレスト・・・四色の・・・」ブツブツ
京子「うわぁ・・・」
あかり「ゆ、結衣ちゃんどうしちゃったの・・・!?」ボソッ
京子「軽い精神疾患が重度の精神疾患になったみたい・・・」ボソッ
あかり「せいしん・・・?」
京子「漫画や音楽好きなら誰でもなる病気なんだよ、結衣の場合はゲームだろうけどこれは・・・凄いなぁ」
あかり「・・・誰でも?」
あかり「・・・・・・ミラクるんはアニメだよ?」
ペシーン
あかり「あうっ・・・うぅ」
京子「そ、それは今はいいのっ」カァァ
あかり「ご、ごめんなさい」シュン
京子「はぁ・・・枕があったら埋めたい・・・」カァァ
京子「しかし、これはまずい」
あかり「・・・救急車よ、呼んだ方が?」スッ
京子「やめてあげて、ただでさえ呪縛が一生付きまとうことになるのに!やめてあげて!結衣が死んじゃう!」
あかり「」ビク
京子「・・・とりあえずやめてあげて」ポロポロ
あかり「う、うん・・・分かった」
あかり(結衣ちゃんなんの病気なんだろう)
京子「私はどうすればいいの、教えてよっミラクるん・・・っ!」ポロポロ
あかり(き、京子ちゃんまでさっきからどうしたのかなぁ)オドオド
ガララッ
ちなつ「漆黒の騎士!!!」
あかり「ちなつちゃん!!?なに、その格好!?」
あかり「んん!?」
ビシッ
ちなつ「話はさっきから聞いてたよあか・・・シャイン!前世からの繋がりなら私だって負けないんだからっ!」
あかり「んんん!?」
ちなつ「結衣先輩・・・いや、漆黒の騎士様!」
結衣「・・・ちなつちゃん?」
結衣「・・・違う」
ちなつ「愛しあっ・・・・・・え?」
結衣「ちなつちゃんは桃色の狂乱鬼【ピンクマーダー】なの・・・。前衛なの・・・」プイ
ちなつ「ま、まーだー・・・」プルプル
ちなつ「そ、それに・・・?」
結衣「輝ける桃色の姫君【シャイニングピーチ】は・・・ないよ」
ちなつ「」ガァン
結衣「・・・・・・引く」
ちなつ「」ガァン
京子「あぁ・・・ちなつちゃん、邪気眼の地雷を・・・」
あかり(?)
あかり「・・・う、うん、よくわかんないや」
京子「それがいいよ」
ちなつ「あ、あ・・・」カァァ
ちなつ「う」ジワ
ちなつ「うわぁぁぁん!」ダッ
あかり「ちなつちゃん!」
京子「今夜は枕が足りないよ・・・」
そうなんだ、乗ってあげないんだ
結衣「あー・・・涼しー・・・」
あかり(あ、あれ外してもいいんだ!?)
結衣「今日は何しよっか、二人とも」
京子「ん、あぁ決めてない」
結衣「なんだ、いつも通りか・・・」ペタリ
あかり(あ、あれ?)
結衣「新作ゲームのチェックでも・・・♪」
京子「あ、私もチラシ見ていい?」
結衣「いいよ」
京子「わーい。あ、ミラクるんのゲームだ!すごい、ゲーム化情報は嘘じゃ・・・!!」
あかり「え、えっと。二人とも?」
結京「ん?」
結衣「なにが?」
あかり「せ、セヴンフォレストとか、絶対運命黙示録とか・・・」カァァ
結衣「あぁ、それ?それね」
結衣「飽きた」
あかり「!?」
結衣「設定がねーちょっとね。まぁ、新作ゲームでもしながら次の考えよっかなって」
あかり「そ、そういうものなの・・・?」
京子「ミラクるんのゲーム・・・予約しなくちゃ・・・!」
あかり「あ、えとー・・・」
結衣「お、これ次回作。買っちゃお」
京子「初回特典・・・ミラクるんステッキゲームver・・・これは!!!」
あかり「んんー・・・?」
あかり「はう・・・みんな来ないなぁ」ペタリ
あかり「結衣ちゃん京子ちゃんはゲームで早く帰っちゃうし、ちなつちゃんも最近・・・」
あかり「うぅ・・・人恋しぃよぉ」
ガララッ
結衣「深紅の赤薔薇【レッドローズ】!」
京子「アッカるん!」
あかり「んん!?」
京子「何を言っているのか。ガンホーに操られてしまったのね結衣、良いわ、このミラクるんの後継、魔法少女キョウコるんが・・・」
クルクル
ビシッ
京子「元に戻してあげる!」
結衣「クク・・・面白い事をいう、またアンーカか?」
京子「ここじゃ危ない!表に出ろー結衣ーっ!」バッ
結衣「望むところさっ!白金の騎士!!」ダンッ
スチャ スチャ タタタッ
あかり「・・・」
あかり「・・・」
あかり「・・・」
あかり「」パリ
あかり「んー♪うすしお美味しー♪」
あかり「・・・はぁ、皆戻って来ないかなぁ。現実に」パリ
ゴロン
あかり「・・・今日もいい天気だなぁっ」
~おわり~
コンコン
ともこ『ちなつー?そろそろ出てこないー?最近学校帰ってきてからおかしいよ?何かあったのー?』
ちなつ「なんでもない、なんでもないもん!」
ともこ『さっき近所の人から貰った【桃】切ったんだけど食べ・・・』
ちなつ「桃!?」
ちなつ「うう・・・いらないっ!」カァァ
バフ
ちなつ「・・・」
『私です!輝ける桃色の姫君です!』
『・・・引く』
ちなつ「~~~~~~~っ!!!」バタバタバタバタ
ちなつ「な、なんであんなこといったんだろ・・・」カァァ
ちなつ「もー・・・ばかばかばかばかっ!」
ちなつ「・・・うぅぅぅぅっ!」ポフ
ちなつ「・・・・・・」
ちなつ「・・・輝ける桃色の姫君」
ちなつ「少し、いいと、思ったんだけどなぁ」グス
~ほんとにおわり~
Entry ⇒ 2012.10.07 | Category ⇒ ゆるゆりSS | Comments (0) | Trackbacks (0)
憧「お見合いしなきゃいけないんだ…」穏乃「え…?」
憧「う、うん…」
穏乃「だ、だって私たちまだ16歳だぞ!?」
憧「でも、結婚できる年齢でしょ?」
穏乃「そうだけど…でも」ブツブツ
憧「うちも一応神社だしねーいろいろあるんだよ」
穏乃「でもやっぱり憧には早いって!」
穏乃「う、うるさい!びっくりしただけだって!」アセッ
憧「ふふ、じゃあそういうことにしといてあげる」
穏乃「くぅ…なんか悔しいなぁ」
憧「でね、その相手なんだけど」
穏乃「そ、そうだよ!誰なの!?地元の人?」
憧「ううん、違うのえっと…確か2つ年上だから高3の>>18さん」
憧「えっとね、鹿児島にある神社の巫女さんなの」
穏乃「か、鹿児島!?なんでそんな遠くの人とお見合いなの!?」
憧「もうシズ声がでかいって」
穏乃「うぅ、ごめん」シュン
憧「なんかお父さんの知り合いがどうのって詳しいことは知らないけどさ」
穏乃「そ、そうなんだ…どんな人?」
憧「あ、インハイ出てたよ?」
穏乃「うそ!?そんな名前の人いたっけ…?」
穏乃「永水…?そんなのいたっけ?」
憧「もう、シズは清澄しか見てないんだからー」
穏乃「ご、ごめん」
憧「清澄で、和の友達の宮永咲さんと戦ったんだ、霞ちゃんは大将だから」
穏乃「え、え!?か、霞ちゃんって呼んでるのか!?」
憧「ん、インハイの会場で一度だけ会ったしねー」
穏乃「ぜ、全然知らなかった…」
憧「ごめん、シズ…ちょっと言いづらくてさ」
穏乃「じゃあ、永水ってとこが勝ってたら私と戦ってたかもしれないんだ?」
憧「そだねー」
憧「小さいときに1回会ってるって霞ちゃんは言ってたけど
あたしは全然覚えてないんだよねー、で、この間が2回目なのかな?」
穏乃「そうなんだ…ひょっとしてお見合いというより許婚なのか?」
憧「それに近いんだろうけど、一応体裁はお見合いなんだってさー」
穏乃「てかどんな人なんだ?」
憧「んー、おっぱい」
穏乃「はぁ?」
憧「だから、おっぱいだよ」
穏乃「憧、全然わからない」
憧「おっぱいさんなの、めっちゃ大きいよ~」
穏乃「な、なんだよそれ!そういうことじゃなくてさ!」
結婚したらあれを独り占めできると思うと…ぐふふ」
穏乃「憧、顔が気持ち悪いよ」
憧「ごめーん」
穏乃「(お、おっぱいの大きいお姉さんか…くそ、それは絶対勝てない!
何か勝てることはないかな?あ、麻雀!)」
穏乃「(私たちは決勝まで行ったんだし、永水は二回戦敗退!
なら、私にも勝てることが…!!)」
憧「でねでね、おっぱい大きいでしょ、それからすっごい優しくてね」
穏乃「う、うん…あ、あのさ憧…その人って麻雀強いの?」
憧「え?当たり前じゃん、シズはもう全然知らないんだね」
穏乃「ん?」
憧「永水は去年の決勝進出校だし、霞ちゃんはそこの大将だよ?
今回はたまたま相手が悪かったんだって!」
穏乃「(で、でも!今年は阿知賀の方が強かったんだ!)」
憧「あたし、永水と阿知賀が試合したら負ける気がするなぁ」
穏乃「な、なに言ってんだよ!」
憧「霞ちゃんほんとやばいもん、シズもやられちゃうかも」クスクス
穏乃「」
憧「あ、でもさ…」
穏乃「な、なんだよ?」
憧「…霞ちゃんはいい人だし、嫌いじゃないけどさ」
穏乃「ん?」
憧「お見合いなんか、したいはずないよ」
憧「いや、まあ…シズが面白い反応だから遊んだだけだよ~」
穏乃「な、なんだよもう」ブツブツ
憧「てか冷静に考えてよ。なんでこの年でお見合い?」
穏乃「お前が16歳は結婚できるって言ったんじゃないかー」
憧「そうだけどさ、普通は嫌でしょ?」
穏乃「ま、そうだね」
憧「なんて、あの頑固なお父さんには言えないからね~」
穏乃「なんだ、憧やっぱり嫌なんじゃん…」
穏乃「(なんだかホっとしてる…この感情はなんだろ?)」
穏乃「じゃあ、素直にそう言った方がいいんじゃないか?」
憧「無駄無駄、お姉ちゃんやお母さんも乗り気だしね」
穏乃「け、けど」
憧「シズありがと。嬉しいよ、でも仕方ないんだ。」
憧「それに霞ちゃんはさっきも言ったけど超いい人で優しいしんだ。
断ったりしたら可哀想でしょ?」
穏乃「そういう問題かなぁ…」
憧「ま、別にお見合い=結婚じゃないしね~」
穏乃「それはそうかもしれないけど…」
憧「シズどしたの?あたしがお見合いしちゃいけない?」
穏乃「……」
憧「シズ?」
憧「な、なに!?」
穏乃「憧!そんな、可哀想とかそんな理由で会うほうが可哀想だよ!」
憧「でも…」ブツブツ
穏乃「お見合いの前に1回会ってるのに、なのに憧は
お見合いしたくないって言ってるじゃん!」
穏乃「ってことはやっぱ嫌なんだよ!嫌なことを無理にすることないじゃん!」
憧「あのねシズ、嫌なことを避けてばかりもいられないんだよ?」
穏乃「そ、そうかも、…しれないけど!でも!」
憧「それにこれは私だけの問題じゃないんだよ?
うちの神社にも関わることだし…お見合いしたくない、嫌だ」
憧「なんて言って破談に出来ることじゃないんだ。
さすがにシズもそのことはわかってくれるよね?」
憧「じゃあなに?」
穏乃「大人の都合とかそんなの全然わかんないけど!
でもお見合いするのは誰だよ!?憧だろ!?」
憧「…そうだよ」
穏乃「その憧がしたくないってことはしたくないでいいじゃん!
嫌なら嫌って言えよ!そんなとこで大人ぶるなって!」
憧「…シズ」
穏乃「…って言ってるけどさ、」
憧「ん?」
穏乃「違うんだ、憧ばっか責めるようなこといってごめん…」
憧「なにが違うの?」
憧「なによぉ、シズ?」
穏乃「わ、私が…その」
憧「ん?」
穏乃「私が憧にお見合いなんかして欲しくないんだよ!」
憧「し、シズっ//」
穏乃「…って思った、ごめん」
憧「そ、それはなんでか教えてくれる…?」
穏乃「…いや、それはわかんないけど…でも、嫌なんだよ!」
憧「もう、…そんな子どもみたいな理屈で…」ハァ
穏乃「じゃ、じゃあお見合いしない?」
憧「ん~…まあ、会うだけ会おうかな」
穏乃「そ、そか…」
憧「そんな顔しないでよシズ…」
穏乃「…ま、まあ優しい人なんだろ?ならいいじゃん!」
憧「そうやって無理にテンション上げなくていいのにぃ」ツンツン
穏乃「う、うるさいなぁもう//」
憧「シズ、ねぇ」
穏乃「ん?」
憧「シズもお見合いに同席する?」
憧「いいじゃん、親戚~とか言って隣にいれば?」
穏乃「そ、そんなことできるわけないだろ?」
憧「いけるいける、たぶん」
穏乃「そ、そうかな…無理だと思うんだけど…」
憧「シズなら多分大丈夫だよ?」
穏乃「…憧のその自信はなんだよもう」
憧「あ、じゃあ決まりね!」
穏乃「ほ、ほんとにいいのか?」
憧「いいのいいの!」
どっかのホテルの料亭
穏乃「ほ、ほんとによかったんですか?」
望「いいのよ、穏乃ちゃんなら全然」
憧母「憧もそのほうが緊張ほぐれていいわよね?」
憧父「穏乃ちゃん、憧をフォローしてやってくれ」
憧「ね?シズ、平気でしょ?」
穏乃「あ、うん…(なんか釈然としないけどまあいいや)」
霞「あ、憧ちゃん久しぶりね、ふふ」
憧「霞ちゃん!ってあれ?その方は…?」
霞「あぁ、この子は>>102ちゃんよ」
(永水じゃなくても、誰でもいいです。ただできればある程度キャラのハッキリする人)
初美「薄墨初美ですよー」
憧「え、でもどうして?」
霞「私が奈良にお見合いに行くって聞いて
どうしても一緒に来たいって言うものだから…」
霞「ごめんなさいね、こんな場面に…」
憧「い、いえ!私にも付き添いというか…」
穏乃「ど、ども…憧の親戚です」
穏乃「(ってかほんとにすんごいおっぱい!…くぅ、完敗だぁ…)」
穏乃「(え、てか…高校3年生?ほんとかな?)」
憧「あ、あはは//」
穏乃「(憧のヤツ照れてる…)」
初美「むむ、なんだか同じ匂いがするのですよー」
穏乃「お、同じ匂いですか?え、な、なんのことだろ?」クンクン
初美「内緒ですよー」
霞側の大人「さて、一応お見合いという体を成すために挨拶からはじめたいと思います。」
憧父「あぁ、そうだな。はじめよう」
憧「(くぅ…霞ちゃんとはすでに打ち解けているものの
大人がたくさんいて妙に緊張してきた…)」
穏乃「(憧…大丈夫だよ、私がついてる)」テーブルの下で手をつなぐ
憧「(シズ…)」
よろしくお願いします」
穏乃「(ほ、ほんとに高3なんだ…)」
初美「(この人なんか失礼なこと考えてる気がするですよー)」クスクス
初美「(しっかし、この相手の子はなんか派手ですねー)」
初美「(…霞さんには似合わないですよー)」
憧「あ、えっと、新子憧、16歳、阿知賀女子1年です
よ、よろしくお願いします…」
穏乃「(憧がキョドってる…よっぽど緊張してるな)」
ちょっと時間が経って・・・
霞側の大人「はっははーそうですなぁ」
憧父「ははは、ええ、そうですそうです」
憧母「ふふ、お二人とも、主役はこの二人でしてよ?」
霞側の大人「じゃあ、そろそろ若いものに任せますか」
憧母「憧、上手くやるのよ…あ、穏乃ちゃんも一緒に来て?」
穏乃「え!?あ、はい…」
憧「シズ、あの、あとでね」
穏乃「う、うん…憧、頑張って」
霞側の大人「初美、君も一緒に出なさい」
初美「うぅ…」
霞「はっちゃん、行って?」
初美「あ、あとでまた来ますねー」
霞「うふふ、はいはい。あとでね」
憧「か、霞ちゃんあのっ」
霞「あのね、憧ちゃん…ほんとは来たくなかったんでしょ?」
憧「そ、そんなことないよ?」
霞「見てればわかるもの、あの、親戚の子?あれはチームメイトでしょ?」
憧「あぁ…ごめんなさい」
霞「もう、私もチームメイトを連れてきているんだからそれはいいのよ」
憧「そうだったね、そういえば…」
霞「憧ちゃんは大人でいい子だから断れなかったのよね?」
憧「う、ううん。違う、霞ちゃんに会いたかっただけ」
霞「もう、強がらないの」
憧「で、でも!…家こととか考えたら…」
霞「ふふ、そうねぇ。まあ大変なことになるかもしれないわねぇ」
憧「霞ちゃんはこれでいいの?」
霞「まあ、憧ちゃんは可愛いしお嫁さんにはぴったりだし
悪くはないわね…でも、」
憧「でも?」
霞「でも、憧ちゃんには好きな人がいるものね」
憧「えっ、いや、いないから!」
霞「そうかしら?…あのね、憧ちゃん断りなさい。このお見合い」
憧「えっ?」
憧「でもっ、いいのかな…てか断れるかな?」
霞「こっちはなんとかするから、憧ちゃんは家族を説得すればいいのよ」
憧「どうかな…家族はすごく乗り気なんだ」
霞「そう、困ったわねぇ…でも、それは憧ちゃんの頑張り次第ね」
憧「そうだけど、難しいよ」
霞「ならもう好きな人がいるって言ってしまえばいいのよ」
憧「だ、だから!好きな人とかいないし!」
霞「うふふ、あくまで突っ張るのねぇ」
霞「まあ、とりあえず大人の顔を立てるという意味でお見合い開催はしたのだから
私たちに進展がなくても問題ないと思うわ…そうでしょ?」
霞「ええ、そうしたほうがいいわ」
憧「てか、お見合いしてるのに二人で破談の相談なんてあれだね」
霞「そうねぇ、でもいいのよ。お互い納得しているんだから」
憧「そっか、そうだよね」
憧「ねぇ、そういえばなんとなくなんだけど」
霞「なぁに?」
憧「…霞ちゃんって結婚相手っていうよりは」
霞「なにかしら?」
憧「いや、やっぱ言わない」
霞「なによぉ、気になるでしょ?」
憧「…お、お母さんっぽい」ボソッ
穏乃「やっぱり二人きりになりますよね」
初美「ですねー」
穏乃「(憧大丈夫かな?心配だなぁ)」ウズウズ
初美「(霞さん大丈夫ですかねー?あの派手な子に
いいようにやられたりしてないですかねー?心配ですよー)」ウズウズ
穏乃「はぁ」
初美「はぁ」
初美「なんですかー?」
穏乃「石戸さんってどんな人なんですかね?」
初美「霞さんは大人ですよー落ち着いてるのですよー」
穏乃「ふむふむ」
初美「ちょっとお母さ「はっちゃん!」
霞「二人とも、入りなさい」
初美「き、聞かれてたですかー!?」
憧「で、…まあ、そうなったわけよ」
穏乃「じゃ、じゃあこのお見合いは破談ってこと?」
憧「お父さんが納得したらね」
穏乃「ほら、やっぱりお父さんにちゃんと言うべきだったんだよ!」
憧「それは今日霞ちゃんに会ったから言えることでしょ!」
穏乃「そ、それはそうだけど!でも!」
憧「はいはい、シズありがとう」
穏乃「う、うん…あの、説得は手伝うからさ」ボソッ
憧「助かる…」
霞「(うふふ、仲良しさんは見ていて癒されるわねぇ)」
霞「(しかし意外と大変そうね、私側の大人を説得するのは…)」
霞「(まあでも、憧ちゃんはもうお嫁さん候補から外したし
次を考えようかしらねぇ)」
霞「そうかしら?とってもマジメそうないい子よ?」
初美「うぅ」
霞「はっちゃん、言いたいことがあるならはっきり言わないと」」
初美「い、今は言わないですよー」
霞「じゃあ、またあとで聞かせてね?」
初美「か、霞さん次第かもです」
霞「私?そう、何をしたらいいのかしらねぇ」ニコニコ
初美「さ、さぁ…自分で考えてくださーい」
霞「うふふ、もう、素直じゃない子ねぇ」ナデナデ
初美「う、うぅ//」
憧「ふぅ、お父さんもほんと頑固だわー」
穏乃「でも、ちょっと前進だって」
憧「私の幸せを本気で考えてよってやつ?」
穏乃「そうそう、それ言われてお父さんが一瞬黙ったじゃん」
憧「まあ、前進だったらいいけどさー」
穏乃「あのさ、憧…」
憧「んー?」
穏乃「私さ、憧が見合いするっていう話を聞いてから
実際お見合いしてさ、そこに同席させてもらってさ、」
穏乃「それで…ここ何日かは憧のお父さんを説得したりしてるでしょ?」
憧「うん…」
穏乃「でね、だから、いや、それで、」
憧「シズ、ちょっと落ち着いて」
憧「いいよ、言って」
穏乃「…うん、でね、思ったことがあって」
穏乃「いや、多分ずっと思ってたんだよ」
穏乃「でも、それが自分の中でよくわかってなかったんだ」
憧「うぅ…ちょっと待って」
穏乃「な、なんだよ?いいとこじゃん」
憧「それ、あたしが言いたいんだけど」
穏乃「だ、だめだよ。私が言うから憧は聞いてて」
憧「はいはい、わかったよ(霞ちゃん、私、素直になるよ…)」
穏乃「憧…私は、憧が好きだよ!」
穏乃「今思えば憧のお見合いとか超嫌だった!
なんで嫌なんだろ?って考えたら…」
穏乃「た、確かに石戸さんって人いい人だったけど!」
穏乃「憧があの人と付き合うとか結婚とかそんなの!
そんなの絶対嫌だよ!ダメなんだよ!」
穏乃「…憧、…憧が大好き」
憧「う、うぅっ」グス」
憧「う、嬉しいよぉシズぅ」抱きつく
穏乃「わ、わぁっ」抱きしめる
憧「あたしもシズが好き…ずっとそう言って欲しかった
好きだから、お見合いなんかするなって言って欲しかったのっ!」
穏乃「ご、ごめん…私が鈍くて…」
霞ちゃんがそう言えばいいのにって言ってたんだ」
憧「そんなの…シズはそんな気がないのにそんなことできないって
そう思って…お父さんにはほんとのことは何も言えてなかった」
穏乃「…じゃあ、そのことを憧のお父さんに話そうよ」
憧「うん、シズ…そばにいてくれるよね?」
穏乃「当たり前じゃん!憧のためならなんでもする!」
憧「じゃあ、もう一度お父さんに言いに行こう?」
穏乃「うん!」手をつなぐ
憧「し、シズ//恥ずかしいよ//」
穏乃「そだね…今までもつないでたのにね…//」
穏乃「一緒に怒られるから大丈夫だよ、憧」
憧「シズ…あんたどこまでも優しいのね」
穏乃「憧にだけだよ、ほんと」
憧「ば、ばかシズ//」
穏乃「照れて言っても可愛いだけだよ?」
憧「う、うるさいなぁもう//」
穏乃「…ねぇ、憧?」
憧「ん?」
穏乃「お父さんに怒られに行く前にさ…」
憧「もったいぶらないでよー」
穏乃「うー…んー…」
チュッ
憧「あ、あわわ…へ?え?///」
穏乃「ご、ごめん…つい」
憧「…はじめてのキスだったのに」
穏乃「私もだよ?」
憧「もう!もっとこう、…ロマンチックなのがよかったの!」
穏乃「私たちにそんなん似合わないってー」
憧「そ、それはその…そうかもしれないけど…」
憧「う、うん…絶対しない」
穏乃「てか、必要ないよ」
憧「ん?」
穏乃「…だ、だってその、憧は…ずっと私と一緒なんだからさ//」
憧「シズ…だ、だからそういうのはもっとロマンチックに!」
穏乃「ご、ごめ~ん!!
カン
初美「大人の都合はどうなったですかー?」
霞「うふふ、もう万事解決よ」
初美「さすがですねー」
霞「憧ちゃんは可愛くていい子だったから惜しいと言えば惜しいけどね」
初美「うぅ、派手っぽくて私は苦手ですよー」
霞「もうまたそんなこと言って」
初美「そもそもなんでお見合いなんかになったですかー?」
霞「憧ちゃんのお父様がどうとか聞いたけれど
詳しいことはわからないわ」
初美「そうですかー」
霞「小さい頃に会った憧ちゃんはそれはそれは可愛い子だったわ
将来お見合いする相手なんて思ってもみなかったけどねぇ」
初美「(…さっきから可愛い可愛いって…ちょっと面白くないですよー)」
霞「可愛いわよ、だって年下だもの」
初美「お、同い年だったら可愛くないですか?」
霞「あら、そんなことないわ。はっちゃんは可愛いもの」ナデナデ
初美「か、可愛いの意味が違う気がするですよー//」
霞「ところではっちゃん、お見合いのときに言っていたことは
いったいどうなったかしら?」
初美「へっ?なにかあったですかー?」
霞「もう忘れないで、何か私に言いたいことあったでしょう?」
初美「さ、さぁ?」
霞「今はいえないって言っていたからそろそろ言ってくれるかなって待ってるのに」
霞「…ほら、言いなさい」
初美「うぅ」
霞「怒らないから、ね?」
初美「…やっぱりお母さ
霞「はっちゃん、早く言いなさい…で、誰がお母さんですって?」
初美「な、何も言ってないですよー」
霞「…もう、素直にならない子ねぇ」
初美「霞さん、あの、…」
霞「なぁに?」
初美「…お見合いとかもうしないでくださいって言おうと思ってたですよー…」
霞「それはどうしてかしら?」
霞「私がお見合いするって聞いてそう感じたの?」
初美「うぅ、そうですよー…//」
霞「うふふ、なんて嬉しいことを言ってくれるのかしらねぇ」ナデナデ
初美「こ、子ども扱いは止めて欲しい…かな、なんて//」
霞「そうね、ごめんなさい…それで、ざわざわっとした理由はわかった?」
初美「うーん…たぶん」
霞「じゃあ、それを教えてくれる?」
初美「…面白くなかったんですよー…霞さんのお見合いなんて。
だから絶対付いて行ってやろうって思ったです」
霞「うん」
初美「…で、そ、その…(うぅ、覚悟決めなきゃいけないですね…)」
霞「そうね、そういう漠然とした気持ちを言い表すのも
受け入れるのもなかなか難しいものよね」
霞「でもね、一度口に出してみると『あぁ、そういうだったんだ』なんて
自分の気持ちを確かめることも出来るのよ。さあ、言ってみて」
初美「あー…ほんとに怒らないですかー?」
霞「あのねはっちゃん、しつこいわよ?」
初美「う、うぅ」
霞「ほら」
初美「え、っと…その、お母さんが再婚して寂しいみたいな気持ちになったですよー」
霞「」
おしまい
いや、なんていうか、ごめんw
てか鬼畜代行された割にはちゃんと書いただろ?だから許してください
支援や感想ありがとです、シズアコは初めて書いたけど楽しかったです
じゃあまたどこかの鬼畜代行スレでお会いしましょう、おやすみー
乙乙
おい
はっちゃんは自分から地雷を踏みに行くのか・・・
Entry ⇒ 2012.10.07 | Category ⇒ 咲-Saki-SS | Comments (0) | Trackbacks (0)
クッパ「ガッハッハ、珍しいカメだな」宇水「何が可笑しい!!!」
宇水(……どこだ、ここは?)
宇水(いよいよ国盗りが始まるというから)
宇水(私は琉球から京都に向かっていたはずなのだが……)
宇水(どういうわけか、いつの間にやら)
宇水(周囲から聞こえてくる音という音が、聞き慣れぬものばかりになってしまった)
宇水(私はちゃんと京都に向かえているのか?)
宇水(いや、そもそもここは日本なのか……?)
宇水(む、足音が聞こえる)
宇水(二足歩行……身長はかなり低い……人間ではない?)
宇水(背中にティンベー、じゃない甲羅を背負っている?)
宇水(亀か? いや亀は二足歩行はしないはずだが……)
ノコノコ「なんだ、お前は」
宇水(しゃべれるのか!?)
宇水(これまでに私が得た情報をまとめると、目の前にいるのは──)
宇水(二足歩行の、人の言葉をしゃべる、亀!?)
宇水(わけが分からん!)
ノコノコ「はっはーん、もしかしてお前、クッパ様の軍団に入れてもらいに来たんだろ」
ノコノコ「いいぜ、俺がクッパ城まで連れてってやるよ」
宇水(心拍数や挙動からは、緊張や敵意は感じられんな)
宇水(これが亀だとして、私のティンベーを見て、仲間だと勘違いしたか?)
宇水(こいつからは全く強さを感じられん、殺そうと思えば簡単に殺れるだろうが)
宇水(自分がどこにいるかも分からん以上、今は情報を集めるべきだろう)
宇水(いざとなれば、クッパとかいう首領格を殺してしまえばいい)
宇水(心眼を会得した私にとって、その程度はたやすいことだ……)
宇水「よかろう、連れていってもらおうか」ニィッ
ノコノコ「カメック様」
カメック「どうした?」
ノコノコ「クッパ軍団に入りたいというカメがいるので、連れてきました」
ノコノコ「なんでも名前をウスイ、というそうです」
カメック「ほう?」
カメック(ウスイ? 聞いたことがない名前だな……)
宇水「音の反響具合からして石造りか、なかなか立派な城だな」ズイッ
カメック(な、なんだコイツは!?)ゾクッ
カメック(全身にいっぱい目があるカメなど、初めて見た!)
宇水(この新手の亀は、私の恐ろしさに気付いたようだな)
宇水「クックック、お前のような三下に用はない」
宇水「我が心眼の前では、隠しごとは不可能」
宇水「私には貴様が“怯えている”ということが、手に取るように分かるのだよ」
カメック「!」ビクッ
カメック(なんで私が怯えていると分かったんだ!? まさか、魔法使いか!?)
カメック(うむむ……私の手には負えんかもしれん)
カメック「ま、待っていろ……今クッパ様をお呼びする!」
宇水(ふん、この分ならクッパとかいうのも大したことはなかろう……)
宇水(な、なんだ!?)
ズシン、ズシン……
宇水(この足音、十本刀“破軍”の不二のような重量感……!)
ズシィン、ズシィン……
宇水(これが──クッパ!? とんでもない怪物ではないか!)
宇水(く……心眼を会得した私が心を乱してどうする!)
クッパ「ほぉう、ワガハイの軍に入りたいというのはオマエか!?」
宇水(この心拍数、完全に私を見下している……!)ピクッ
宇水(まだ両目を失っていない頃、私と対峙した志々雄のように……!)ピクピクッ
クッパ「マリオのようなヒゲを持ち、全身に目がついたカメか」
クッパ「ガッハッハ、珍しいカメだな」
宇水「何が可笑しい!!!」
宇水「もういい、気が変わった」ザッ
宇水「帰る手段など、適当に亀を殺しまくって吐かせればいいことだ」
宇水「クッパとかいったな、貴様はこの場でブチ殺してくれよう!」バッ
クッパ「突然怒り出すとは、よく分からんヤツだな」
クッパ「まぁよい、かかってくるがいい! ガッハッハッ!」
宇水「すぐに笑えなくしてやるわ!」シュザッ
宇水「宝剣宝玉百花繚乱!」
ズババババッ!
宇水(バ、バカな……全ての突きをまともに喰らったはず……!)
クッパ「ではこっちからいくぞ!」
宇水(ふん……おそらくこの巨体を生かした技を繰り出す気だろう)
宇水(どんな技だろうと、ティンベーでさばいて──)サッ
ゴオオアァァァッ!
宇水(口から……高熱……炎!? しかもなんだこの量は!?)
ボワァァァッ!
宇水(ティンベーがあっという間に焼け焦げて──)
宇水「ぐっ、ぐわぁぁぁぁ──……」
ギャラクシーとか普通に宇宙規模で戦争ふっかけてきてない?
残念ながら俺の知ってるクッパは
スーパーマリオブラザーズとマリオRPGのだけだ
宇水(生涯二度目の敗北……)
宇水(いや……三度目か)
宇水(志々雄に光を奪われ、復讐を誓い心眼を会得したのも束の間──)
宇水(私以上の生き地獄をくぐり抜けていた志々雄に、私は戦わずして敗北した)
宇水(挙げ句、こんなどことも知れぬ場所で、怪物に殺されることになるとは……)
宇水(私の人生とは、いったいなんだったのだ……)
宇水「私は……生きている!?」ガバッ
クッパ「目が覚めたか」
宇水「貴様……クッパ!?」
クッパ「オマエのような根性あるカメは久しぶりだったぞ」
クッパ「合格だ!」
クッパ「キサマの我が軍団への入団を認めよう!」
クッパ「ガッハッハッハッハ……!」
宇水「利用されてやろうではないか」
宇水「だが、私は貴様に焼かれた屈辱を忘れてはおらん」
宇水「スキあらば、私は貴様を殺す! それを忘れるなよ!」
クッパ「ガッハッハ! よかろう!」
宇水(く……私はまた同じことを繰り返すのか……)
クッパ「あ、あとオマエの甲羅を焼いてしまったから代わりのを用意しておいたぞ」
宇水(トゲゾーとかいう亀の甲羅らしいが、本当にトゲが生えておる)
宇水(触れてみるか)チクッ
宇水「痛ッ!」
宇水(丸みはあるが、こんなトゲがあって、うまく敵の攻撃をさばけるだろうか)
宇水(まあ、そもそも敗北したのに贅沢はいってられまい)
宇水(これからはこのトゲのついた甲羅が私のティンベーだ)
宇水(とりあえず……名前は“新ティンベー”とでもしておくか)
宇水「目的……?」
クッパ「ワガハイの目的は色々あるが、やっぱり一番はピーチ姫と結婚することだ!」
宇水「なんだ、ピーチ姫というのは」
クッパ「キノコ王国の姫君でな、ぜひともワガハイのお嫁さんにしたいのだ」
宇水「理解できんな、貴様なら女一人さらうぐらいわけないであろうが」
クッパ「うむ……だがいつもいつもあと少しというところで、ジャマをされるのだ」
クッパ「あの……マリオとルイージに!」
宇水(なんだと!? このクッパよりも強い奴がいるというのか!?)
宇水「クッパよ」
クッパ「む?」
宇水「そのマリオとかいう奴らの居場所を教えろ」
クッパ「どうするつもりなのだ?」
宇水「決まっている」
宇水「この私が、二人まとめて始末してやろう」
宇水(クッパが手こずる敵を、私の手で殺す)
宇水(てっとり早く自信を回復するには、これしかあるまい!)
宇水(ここがキノコ王国か……)
宇水(至るところに頭の大きなコビトの気配がするが……これがキノコ族というやつか)
宇水(まったくおかしなところに来てしまったものだ)
宇水(しかし今はそんなことを気にしている場合ではない)
宇水(マリオとルイージとやらを血祭りに上げ、クッパに死体でもくれてやる)
宇水(そうすれば、クッパに敗れたことに対する面子も立つ)
宇水(日本に帰る方法を教えてもらうのは、それからだ)
キノコ住民「はいはい?」
宇水「マリオとルイージとやらは、どこにいる?」
宇水「答えねば──」ギラッ
キノコ住民「ああ、マリオさんたちならお城にいるはずですよ」
キノコ住民「今日はキノコ王国のキノコ料理パーティーでしてね」
キノコ住民「ピーチ姫が料理をいっぱい作っているんですよ」
キノコ住民「行けばだれでも入れると思いますよ」
宇水(ふん、こうもあっさり見つかるとはな)
宇水(さっさとマリオたちを殺って、日本に戻らねばならん)
ピーチ「マリオ、ルイージ。お料理はたくさん用意したから、いっぱい食べてね!」
マリオ「ありがとう、ピーチ姫」モグモグ
ルイージ「おいしいね、兄さん!」ムシャムシャ
ヨッシー「どれもこれも、みんなおいしいよ!」ペロン
キノピオ「ヨッシーさん、皿ごと食べないで下さい!」
すると──
「マリオとやらはいるか!?」
「うわぁ、目がいっぱいあるぞ……」
「なんだ、あの不気味なカメは!?」
「きっとクッパの手下だ!」
宇水「……ふざけるな、私はクッパの手下などではない」
宇水「目的のため、奴にあえて利用されてやってるだけのこと」
宇水「マリオとルイージとやら、いるのならば名乗り出ろ!」
宇水「さもなくば、この国の住民を皆殺しにしてもかまわんぞ?」ヒュッ
ズシャアッ!
ピーチ「ああっ!」
キノピオ「姫が作った料理が!」
ルイージ「ぼくたちがマリオとルイージだ!」ザッ
宇水「ほう……お前たちか」
宇水(ふむ……気持ちの昂ぶりはあるが、かなり落ち着いている)
宇水(なるほど、それなりの使い手ではあるようだ)
宇水(だが、骨格も筋肉も平凡、クッパのような威圧感はまるでない)
宇水(まともな戦闘では、私の敵ではなかろう)
宇水(おそらくクッパは実力ではなく、策略で敗北しているのであろう)
宇水(しかし、初めて出会う私に対し、策を持ち合わせてはいないはず)
宇水(つまり……私の勝利は間違いないということだ!)
宇水「マリオとルイージ、相手にとって不足無し」ズゥゥン
宇水「ここで死んでもらう」
ルイージ「うん!」ピョイン
宇水「!?」
宇水(た、高いッ! なんという跳躍力だ!)
宇水(だが──)
ルイージ「よくもパーティーを台無しにしたな、許さないぞ!」
宇水「微温(ぬる)いわ!」サッ
グサッ!
ルイージ「ぐぅっ……!」
ルイージ(踏みつけを、トゲ甲羅でガードされた……!)ドサッ
マリオ「このカメ、トゲゾーの一種だったのか……!」スタッ
ルイージ「う、うん……なんとかね」
宇水「クックック、この新ティンベーに敵などないわ!」
マリオ「よぉし、こうなったら……!」
ボッ!
宇水「え?」
ボッ! ボッ! ボッ!
宇水(な、なんだ!? 私の耳がたしかなら、手から……火の玉が出ている!?)
宇水(志々雄の秘剣のようなものなのか!?)
ボッ! ボッ! ボッ! ボッ! ボッ!
宇水(大きさはクッパの炎ほどではないが、数が多い!)
宇水(いったいどういう原理で!? こいつ妖術使いか!?)
宇水(──だが! 新ティンベーに火の玉が当たる瞬間!)
宇水(素早くさばけば、火の玉をかき消すことは可能!)バシュッ
宇水(……可能ではあるのだが)
ボッ! ボッ! ボッ! ボッ! ボッ!
宇水(火の玉が止まらん!)バシュッ
宇水(こいつは何発火の玉を撃てるんだ!? まさか……無限!?)バシュッ
ヨッシー「えぇ~い!」ビュッ
キノピオ「今だっ!」ブンッ
宇水(しまった! 横から──でかい卵と、野菜!?)
グワッシャッ!
宇水「ま、またしても心眼が……敗れる……とは……」
宇水「悪夢だ……」ドサッ
キノピオ「お城のベッドです」
キノピオ「あなたの分もキノコ料理を用意しましたから」スッ
キノピオ「これに懲りたら、二度とこういうことはしないで下さいね」
宇水「…………」
宇水(志々雄と瀬田宗次郎を除けば敵などいない私が、二度も敗北するとは……)
宇水(……悪くない匂いだ)クンクン
宇水(もう、どうにでもなれ)モグモグ
宇水(ほう、なかなかの味だ。体から馬力が湧き出てくるようだ)モグモグ
宇水(しかし、失われた自信が戻ることはなさそうだ……)モグモグ
宇水「戻ったぞ」
クッパ「ガッハッハ、どうだった? マリオはやっつけられたか?」
宇水「いや……」
クッパ「だからいっただろう! ワガハイですら奴らには何度もやられているのだ!」
クッパ「これからはワガハイの命令に従ってもらうぞ」
宇水「ああ、分かった……」
宇水(これほどの醜態をさらしておいて、とても志々雄たちの顔など見られん)
宇水(元々私は国盗りなどに興味はないし、しばらくここで過ごすとするか……)
クッパ「ウスイよ、今度マリオたちと戦うことになった」
クッパ「オマエにも参加してもらう」
宇水「ほう、いよいよ戦闘か」
宇水(ここにいる間も腕は磨いたが、まだクッパやマリオに勝てる気はせん)
宇水(しかしやるとなれば、なんとしてもこいつらに一矢を報いねば……)
クッパ「いや、レースだ」
宇水「!?」
クッパ「レースとは、カートで誰が一番早くゴールにつくかを競い合うことだ」
宇水(カート? なにをいっているんだ、こいつは)
宇水「なんだ、カートというのは」
クッパ「ウスイ、オマエ……カートも知らんのか!?」
クッパ「ガッハッハッハッハッ!」
宇水「何が可笑しい!!!」
たくさん目があるって言ってたから模様を本物と勘違いしてるかと
宇水「う、うむ」
宇水(蒸気も出さず、馬に引かせもせず、車が走るとは信じがたいが……)
宇水(この世界に来てからは信じがたいことしか起こっておらんしな)
宇水「えぇと……右を踏むと進み、左を踏むと止まるんだったな?」
クッパ「そうだ」
宇水「どれ、踏んでみるか」グッ…
ドギュゥゥゥゥンッ!
宇水「!?」
ドガッシャーンッ!
クッパ「おお、いきなりロケットスタートとは! オマエは才能があるぞ、ウスイ!」
宇水「が、がは……っ!」
<マリオサーキット>
ジュゲム「本日はこの1レースのみ、行います!」
ジュゲム「正式なカップ戦ではありませんが、上位入賞者には賞品が出ますので」
ジュゲム「優勝めざして頑張って下さい!」
パチパチパチパチ……
宇水(猛特訓の末、どうにかカートとやらの運転と)
宇水(聴覚だけで、競争に使用する道路の内と外の区別ができるようになった)
宇水(だが……なぜ敵同士でこんなのんきな遊戯をやるのだ?)
宇水(この間会ったマリオやルイージ、ピーチとかいう女の声も聞こえる)
宇水(あと……巨大な猿らしき生物もいるな)
宇水(まったくわけが分からん……)
マリオ、ルイージ、ピーチ、ヨッシー
クッパ、ドンキーコング、キノピオ、魚沼宇水
ブロロロロ……
宇水(全員が開始地点に着いた途端、気配が変わった!)
宇水(な、なんだこの張りつめた空気は!?)
宇水(あの頃を……幕末を思い出す!)
宇水(そうか、こいつらにとっては遊戯といえど死闘ということか!)
宇水(面白い! ならば、この“盲剣”の宇水も全力をもって挑んでくれるわ!)
マリオ「…………」
ピッ
ルイージ「…………」
ポォーン!
ブォォォォンッ!
ジュゲム『各車、一斉に飛び出したぁっ!』
ジュゲム『先頭におどり出たのは……なんとレース初参戦のウスイだぁーっ!』
宇水(ロケットスタート……成功!)
宇水(この妙な塊に触れれば、道具を一つ入手できるんだったな)
宇水(これはなんだ!?)ニュルッ
宇水(私の道具は──バナナとかいう果物の皮か!)
宇水(……私の真後ろに、巨大猿の車がついておるな)
宇水(喰らえッ!)ポイッ
ドンキー「ウホッ!?」ズルッ
ドンキー「ウホォォォ!」ギュルルルッ
ジュゲム『ウスイ、後ろを見ることもせず、背後のドンキーをバナナの皮で滑らせた!』
宇水「フハハハハ! 我が心眼の前に敵はない!」
ルイージ(あのウスイってカメ、すごいや!)
ルイージ(ドリフトといいアイテムの使い方といい、とても初レースとは思えないぞ!)
ルイージ(ただの悪者ガメというわけじゃなかったのか!)
ルイージ(でも、ぼくの緑甲羅は避けられまい!)
ルイージ「いけっ!」ビュッ
宇水「無駄だ!」ヒョイッ
ルイージ「そんな、ミラーの死角から投げたのに!?」
宇水「バカめ、こんな鏡など最初から見ておらんわ!」
宇水「心眼でお前の筋肉の動きを読み取っただけのこと! 我が心眼に死角なし!」
クッパ「ウスイよ、なかなかやるではないか」
宇水「む」
クッパ「だが、初レースで優勝させてやるほど、ワガハイも甘くないぞ」グンッ
ガシッ! ガシッ!
宇水「おのれぇっ!」
ジュゲム『クッパのタックルで、ウスイはコースアウト寸前だ!』
ジュゲム『これでは重量で劣るウスイが、不利か!』
宇水「……ふん、クッパよ」
宇水「私に体当たりをしかけるなど、愚策にも程がある!」
クッパ「なんだと!?」
宇水「私のもう一つの武器を忘れたか!?」
宇水「ティンベーと対をなすこの手槍、ローチンで突く!」ブスッ
クッパ「ぬわぁ~っ!?」ギュルルルッ
ジュゲム『ウスイ、ローチンでクッパのタイヤをパンクさせたぁっ!』
ジュゲム『ラスト一周!』
ジュゲム『トップはウスイ! ほとんど独走状態です!』
ジュゲム『2位にマリオ、3位はルイージ!』
ジュゲム『4位はピーチ、さらにキノピオ、ヨッシーと続きます!』
ジュゲム『ウスイにやられたクッパとドンキーはかなり遅れているっ!』
マリオ(なんてドライビングテクニックだ!)
マリオ(彼はおそらく目ではなく、他の感覚で風や他のカートの動きを読んでいる!)
マリオ(だから速い!)
マリオ(これほど差がついては意味はないが、温存していたアイテムを使うか……)
マリオ「サンダー!」
バリバリバリバリッ!
宇水(突然の轟音で、どこを走ってるのか分からなくなってしまった!)
ドカァンッ!
宇水「ぐわぁっ!」
ジュゲム『ウスイ、土管に激突してしまったぁっ!』
ジュゲム『急に運転がおかしくなりましたが、いったいどうしたんだ!?』
ジュゲム『あ~っとウスイ、どんどん後続に抜かれていく!』
宇水(くそっ、あらかじめ心の準備をしておけば、あの音にも耐えられたものを……)
宇水(バナナの皮や甲羅だけでなく、あんな道具があったとは……!)
1位 マリオ
2位 ルイージ
3位 ピーチ
4位 ヨッシー
5位 魚沼宇水
6位 キノピオ
7位 ドンキーコング
8位 クッパ
宇水(全速力で追い上げたが、入賞は逃してしまった……)
宇水(クッパに実力を見込まれ参加しておきながら、情けない……!)
マリオ「いいレースだったよ! 君はすばらしいレーサーだ!」
宇水「え?」
マリオ「まさかあそこから5位まで追い上げるなんて……」
ルイージ「いやぁ、すごかった……調子を崩さなきゃ絶対優勝してたよ」
ピーチ「また一緒にレースをしましょうね!」
キノピオ「なかなかやりますね、次は負けませんよ!」
ヨッシー「楽しかったよ、ウスイ!」
ドンキー「ウッホォ~!」
宇水「…………」
クッパ「ガッハッハッハッハ!」
クッパ「さすがだウスイ、ワガハイが見込んだだけのことはある!」
宇水「ふん、こんな遊戯などなんの意味もないわ」
ブロロロロ……
宇水「もっと曲がる時の技術に磨きをかけねばな……」ギャルルッ
宇水「道具の性質も覚えて、効果的に使用せねば勝利は掴めん……」
クッパ「ガッハッハ! ウスイよ、なんだかんだいってカートにハマったようだな」
宇水「何が可笑しい!!!」
クッパ「今度はテニスなのだ、ウスイ!」
宇水「ボレーとスマッシュの基本的戦法を味わわせてくれる!」
~
ルイージ「君のコインはいただきだ!」
宇水「なんだと!? 私の小判が根こそぎ奪われてしまった……!」
~
宇水「フハハハハ! ローチンを扱うより容易いわ!」パシュッ
マリオ「まさか、このコースでバーディーを取るとは……」
クッパ「おい、ウスイ!」
宇水「どうした、クッパ?」
クッパ「オマエのスマッシュブラザーズへの参戦が決定した!」
宇水「なんだと!? この私が!?」
クッパ「オマエのティンベーとローチンを、他の世界の奴らに見せつけてやるのだ!」
宇水「面白い」ニヤッ
マルス「盾を防御だけでなく、受け流すことに使うなんて……」
ガノンドロフ「おのれぇぇ……!」ビキビキッ
宇水「いくらでもかかってこい!」
宇水「この新ティンベーで、相手の武器をさばき、視界を封じ!」
宇水「さらに対となる手槍、ローチンで突く!」
宇水「これが我が故郷、琉球に伝わる王家秘伝武術のひとつ」
宇水「ティンベーとローチンの基本的戦法!」
………
……
…
宇水(カートにテニス、ゴルフにパーティーに野球……色んなものを知った)
宇水(さらにはスマッシュブラザーズという、戦闘を楽しむこともできた)
宇水(飯はほとんどキノコだが、味は悪くない……それどころか上等といってよかろう)
宇水(私としたことが、すっかり居心地がよくなってしまった)
宇水(だが……本当にこのままでいいのだろうか)
宇水(私が……)
宇水(私が本当にやりたかったのは──)
宇水「クッパ」
宇水「お前はあのマリオ兄弟に負け続けているな」
クッパ「ま、負け続けているわけではないぞ! いつか必ず──」
宇水「なぜ、立ち向かえるのだ?」
クッパ「え?」
宇水「自分を負かした相手に、再び立ち向かう」
宇水「簡単なようで……なんと難しいことよ」
宇水「なのになぜ貴様は、立ち向かうことができるのだ?」
クッパ「マリオをギャフンといわせたいから……」
クッパ「ピーチ姫をワガハイのものにしたいから……理由は色々あるが」
クッパ「なぜ立ち向かえるのかと聞かれたら──」
クッパ「ワガハイには大勢の部下や仲間、がいるからだろうな!」
宇水「!」
クッパ「なんとしてもみんなに、マリオに勝利するワガハイの姿を見せたい……」
クッパ「だから、ワガハイは何度でもマリオに立ち向かうことができるのだ!」
宇水「私の知り合いに、こんな男がいた」
宇水「その男はある敵に惨敗し、必ず強くなって復讐してやると誓った」
宇水「だが……再び出会った時、敵との差はさらに開いていた」
宇水「怖気づいた男は戦いを挑むことすらせず、敵の軍門に下った」
宇水「する気もない復讐をいつか必ず行う、と虚勢をはりながら……」
宇水「そんな小さな男であったが、生まれて初めて仲間というものを持った」
宇水「男は……少し勇気をもらえたような気がした」
宇水「さて質問だ」
宇水「この男は……再び敵に立ち向かえると思うか?」
クッパ「もちろんだ!」
クッパ「その男はずいぶん回り道をしたようだが」
クッパ「今からでも遅くはない!」
クッパ「立ち向かえるはずだ!」
宇水「フ……回り道、たしかにな……」
宇水「ありがとうよ、クッパ」
宇水「これで決意が固まった」
宇水「私は……元の世界に戻ろうと思う」
クッパ「だってオマエはカメだろう!? この世界の住人だろうが!」
宇水「いや、私は亀ではない」
宇水「貴様に焼かれたあの甲羅は、私の自前などではないのだ」
宇水「私は……人間だ」
宇水「それもこことはまったく違う世界のな」
クッパ「!」
クッパ「そ、そうだったのか……」
宇水「黙っていてすまなかったな」
クッパ「いやかまわんぞ! ちょっとビックリしただけなのだ!」
クッパ「だが、それならなぜ、この世界にやってきたのだ?」
宇水「うむ、話せば長くなるのだが──」
クッパ「多分、オマエは土管に入ってしまったのだろう」
宇水「土管?」
クッパ「この世界の土管には、生き物のように伸びたり動くものがあってな」
クッパ「ごくまれに、この世界とどこか別の世界を繋ぐ土管が生まれたりもするのだ」
クッパ「いわゆるワープ土管というやつだ」
宇水「ふむ……そういうことだったか」
宇水(たしかに京都に向かう途中、雨宿りのため大きな土管に入ったような気がする)
宇水(あれがおそらく……ワープ土管、とやらだったのだな)
クッパ「今からマリオのところに行き」
クッパ「オマエの世界に繋がる土管のありかを教えてもらうことにしよう」
宇水「ありがとう」
クッパ「……しかし、オマエがいなくなるとさびしくなるな」
宇水「フ……よせ。私は初対面で、お前を殺しにかかった男だぞ」
マリオ「──お安い御用だ、ウスイ」
ルイージ「ぼくたちは国中の土管を熟知しているからね」
ルイージ「ちょっと調べれば、君をこの世界へと導いた土管も分かるはずだよ」
マリオ「さっそくだけど、君が元いた世界は、いつのどこだ?」
宇水「明治時代の日本だ」
マリオ「明治時代の日本……」パラパラ…
マリオ「おぉ! それならクッパ城の近くにあるはずだ!」
マリオ「……しかし、こんな急に帰るのかい?」
マリオ「もう一晩くらいゆっくりしていっても──」
宇水「いや、決意を鈍らせたくないのでな」
マリオ「……そうか、なら仕方ない。今すぐワープ土管に向かおう!」
やっぱり生死観が違うのか
一回死んでもすぐ生き返る人たちですから
宇水「……これが、明治時代の日本に繋がる土管か」
宇水「マリオ、ルイージ、感謝する」
マリオ「こちらこそ」
ルイージ「楽しかったよ、ウスイ」
宇水「クッパ、世話になったな」
クッパ「ガッハッハッハッハッ! またいつでも来い!」
クッパ「城のオマエの部屋は、空けておくからな!」
すると──
ピーチ「急に帰るなんてつれないじゃない、お土産にキノコを持っていって!」
キノピオ「また一緒にレースをしましょう!」
ヨッシー「今度来る時は、そっちの料理も持ってきてね~!」
ドンキー「ウホッ、ウホッ、ウホッ!」
ノコノコ「あばよ、新入り!」
カメック「君は怖かったけど、いなくなると寂しくなるなぁ」
ワリオ「俺だよ、ワリオだよ!」
ワアァァァァァッ!
マリオ「クッパ、君が呼んだのか?」
クッパ「まさか! マリオ、オマエが呼んだんだろう?」
ルイージ「きっとどこかからウスイが帰るって情報がもれて、こんなに……」
宇水「…………」
宇水「さらばだ!」ザッ
──
───
宇水(……間違いない)
宇水(ここは……日本だ)
宇水(私はようやく戻ってきたのだな……)
宇水(クッパのいうとおり、ずいぶん長い間回り道をしてしまった)
宇水(だが決して悪くはない“回り道”だった)
宇水(すっかり遅くなってしまったが……京都に向かうとするか)
宇水「久しいな」
方治「宇水! 貴様、いったいどこでなにをやっていた!」
方治「貴様のせいで、一週間も予定をずらすことになったんだぞ!」
宇水「!」
宇水(たった一週間の遅れで済んでいるのか)
宇水(向こうとは時間の流れがちがうのか、あるいは土管のせいなのか……)
方治「いくら腕が立つといっても、こんな勝手は──」
志々雄「いいじゃねぇか、方治。遅れはしたが、こうして到着したわけだしな」
方治「志々雄様……!」
宇水「そういうことだ」
方治「ぐっ……!」ギリッ
志々雄「どこでなにをやってたか、ってのは教えてもらいてぇな」
志々雄「甲羅の盾……ティンベーだったか。形状がえらく変わっている」
宗次郎「あ、ホントだ! 鋭いトゲがついてますね!」
志々雄「問題は盾だけじゃなく、お前自身のまとう空気もずいぶん変わったってコトだ」
志々雄「一週間の到着遅れとも、おそらく無関係じゃねえだろう」
志々雄「宇水……どこでなにをやっていた?」
宇水「…………」
宇水「……少しの間、妙な世界に行ってきたのだ」
志々雄「ほう、なんのために?」
方治「は?」
宇水「これがその妙な世界でもらったキノコだ」ドサッ
宇水「よかったら食ってみるか?」
宗次郎「あ、じゃあボクいただきます」
由美「ちょっとやめなさいよ、ボウヤ! 相手はあの宇水なのよ!?」
由美「あんな派手な色のキノコ、毒に決まってるでしょ、毒に!」
宇水(派手な色なのか、このキノコ……)
宇水「──ま、冗談はこれくらいにしておくか」
志々雄「もう一度問うぜ。宇水、なんのために妙な世界とやらに行っていた?」
宇水「無論」
宇水「志々雄、貴様を倒すためだ」
宇水「否、貴様の命をつけ狙うふりは、もう終わりだ」
宇水「志々雄、今すぐ貴様と立ち合いたい」
宗次郎「おお~」
由美(違う! 今までの宇水とはまるで違うわ!)ゾクッ
方治「──ふっ、ふざけるな、宇水!」
方治「ただでさえ計画が遅延しているのだ、これ以上余計なことに時間を──!」
志々雄「ハハハハハハハハハハッ!!!」
方治「!?」
志々雄「礼をいうぜ、宇水」
志々雄「抜刀斎、国盗りの前に、面白い余興がさらにひとつ増えた」
志々雄「嬉しい誤算というやつだ」
宇水「ここで私に殺られてしまうようでは、国盗りなど夢のまた夢……」
宇水「そうだろう?」
志々雄「そのとおりだ」
志々雄「所詮この世は弱肉強食、強ければ生き、弱ければ死ぬ」
志々雄「ここで俺がコイツに殺られたなら、それまでの男だったというだけのハナシだ」
方治「ですが……!」
志々雄「どうせやるなら、観客は多い方がいいだろ」
志々雄「宗次郎、アジトにいる十本刀、全員呼んでこい」
宗次郎「はい」
方治「くぅ、この大事な時に……宇水の奴め……!」ギリッ
安慈「…………」
鎌足「志々雄様……大丈夫かしら」
蝙也「ふむ……」
夷腕坊「ぐふっ、ぐふふふふっ!」
才槌「ひょひょひょ、これは興味深い対決じゃわい」
由美「ねぇボウヤ! 志々雄様が勝つわよね!?」
宗次郎「う~ん、今までの宇水さんが相手なら、志々雄さんが勝つでしょうけど」
宗次郎「宇水さんもなんか雰囲気変わりましたし、危ないかもしれないですね」ニコッ
由美「危ないかもしれないですね、じゃないわよ!」
宇水「来い、志々雄」
志々雄「立場をわきまえろよ。挑戦者は──お前だろ?」
宇水「フ……そうだな」
志々雄「ッシャアアアッ!」シュバッ
ギュルッ!
安慈(志々雄殿の鋭い斬撃を盾でさばいた!)
宇水「はぁっ!」
ズギャアッ!
由美「ああっ!」
方治「盾での殴打だと……!」
志々雄「腕を上げたな……」ニッ
宇水「新ティンベーで攻撃をさばき、そのまま新ティンベーのトゲで殴る!」
宇水「これぞティンベーの新戦法!」ザンッ
志々雄「わめくな、方治」
志々雄「元々このナリなんだ、今さら傷がひとつふたつ増えようと大して変わらねぇよ」
宇水(ふむ、いささかの動揺も感じ取れん)
宇水(さすがは──志々雄真実!)
志々雄「壱の秘剣、焔霊!」
ボワァッ!
宇水(ついに出たか! だが、炎に惑わされてはならん)
宇水(クッパから授かった新ティンベーを信じろ!)
ギュルッ!
志々雄(焔霊さえもさばくとは!)
宇水「ローチンと新ティンベーを組み合わせた新技、見せてくれる!」
宇水(左右同時に宝剣宝玉百花繚乱を繰り出す!)
宇水「宝剣宝玉二百花繚乱!」
ズガガガガガッ!
ドザァッ!
志々雄「ちっ……」バッ
宇水「はああああっ!」ダッ
キィンッ! ギュルッ! ザクッ! ギュルッ!
鎌足「志々雄様っ!」
由美(これほどまで苦戦する志々雄様なんて、初めて見たわ!)
方治(いかん!)
方治(宇水のあの新しい盾、前のものとはちがい非常に頑丈だ)
方治(だから志々雄様の速い斬撃に多少反応が遅れても、破壊されることなく──)
方治(攻撃をさばくことができる!)
方治(このままでは──)
英雄マリオですら踏んだら死ぬレベルだし
方治「な!?」
方治「お前には分からぬのか、あの宇水の強さの秘密が──」
宗次郎「たしかに宇水さんはすごいです」
宗次郎「だけど、志々雄さんもあんなものじゃありませんから」
ギュルッ! ザシュッ! ギュルッ! ドズッ!
宇水(これほど攻撃を加えても、志々雄の動きは全く衰えを見せん!)
宇水(むしろ勢いを増している!)
志々雄「シャアアアアッ!」シュバッ
宇水(無駄だ! 斬撃は通用せん!)サッ
ガシッ!
宇水(新ティンベーのトゲを……左手で掴んだ!?)
志々雄「やっと捕えたぜ」
志々雄「焔霊の炎をあれだけ浴びたんだ、ずいぶん脆くなっているはず」
志々雄「つまり今のコイツなら──弐の秘剣で破壊できる」
ボッ
志々雄「弐の秘剣、紅蓮腕!」
ドグァァンッ!
宇水(し、しまった……! 新ティンベーを爆破された……!)
志々雄「新ティンベーはお前の攻撃と防御の要──」
志々雄「つまり新ティンベーを失ったお前の戦力低下は、半減どころじゃねえはずだ」
宇水「ぐっ……!」
宇水「まだ終わってはおらん!」
志々雄「終わってんだよッ!」
ザシュッ! ズシャアッ!
宇水「が……は……っ!」
宇水「ま、まだだ……!」ヨロッ
志々雄「こんなに楽しめたのは、明治に入ってからは初めてかもしれねぇ」
志々雄「褒美をやろう」
志々雄「終の秘剣……わずかだが冥土の土産にくれてやる」
ギャリッ……!
ブオアアアァァッ!
志々雄「終の秘剣、火産霊神(カグヅチ)」
志々雄「俺の無限刃の発火能力を……半分ほど開放させた」
宇水(半分でこれほど巨大な炎なのか……!)
宇水(これが志々雄真実……!)
志々雄「地獄への送り火にしちゃあ、少々派手かもしれねぇが」
志々雄「華々しく散りな」
宇水「……やれ」
グオオアアアアッ!
宇水(私の体が燃え尽きてゆく……)
宇水(志々雄……)
宇水(奥の手を一端でも見せてくれたこと、心から感謝するぞ)
宇水(クッパ……再会は……できそうも、ない……な……)
宇水(さら、ば……)
宇水(…………)
方治「こ、これが……志々雄様の終の秘剣……!」ゴクッ
安慈(まるで地獄の炎を現世に召喚したかのようだ……)
鎌足「志々雄様……すごい……」
蝙也「なんという強さ……まさに弱肉強食の体現者……!」
夷腕坊「ぐふっ、ぐふふふふっ!」
才槌「こりゃたまげたわい……」
由美「よ、よかった……さすがは志々雄様ね!」
由美「宇水は……残念だったけどね……」
宗次郎「う~ん、おかしいなぁ……」
由美「ん、どうしたのボウヤ?」
宗次郎「いえ、宇水さんは今間違いなく死んじゃったはずなんですけど」
宗次郎「なぜか、あそこに宇水さんがいるんですよ」
由美「え!?」
方治「な、な、なんで宇水が生きているんだ!? しかも無傷で!?」
安慈(輪廻転生……? いや、いくらなんでも早すぎる)
鎌足「ちょっとアンタ、どうなってんのよこれ!?」グイッ
蝙也「俺に聞かれても分かるか!」
夷腕坊「し、死人が蘇るなどありえん! ──あ、ぐふふふふっ!」
才槌「うむむ、いくら論理的考察を重ねても、納得のゆく答えが出てこんわい……!」
宗次郎「生き返るなんて、宇水さんすごいなぁ。ちょっとずるい気もしますけど」
由美「なに呑気なこといってんの! どーなってんのよコレ!?」
志々雄「殺し損ねたか、生き返ったかは知らねぇが……たしかなことは」
志々雄「まだ勝負はついてねぇってことだな!」ニヤッ
宇水「どうやら、そのようだな」ニイッ
ザシュッ!
宇水「はぁっ!」
ギュルッ!
志々雄「ッシャアアアアアッ!」
ボワァッ!
宇水「ぬんっ!」
ザシュッ!
………
……
…
志々雄「う……ぐっ」
志々雄(ち、戦っているうちに少しずつ傷をもらい、十五分もとうに過ぎた……)
志々雄(体が……ピクリとも動きやしねぇ)
志々雄「幕末から……明治にかけて、数えきれねぇほど人を斬ったが──」
志々雄「斬っても斬っても死なない……いや生き返る奴と戦ったのは初めてだ」
志々雄「宇水……お前の体はいったいどうなってんだ?」
志々雄「なんか変なもんでも食ったのか……?」
宇水「ハァ、ハァ、ハァ……」
宇水(そんなことはこちらが知りたい)
宇水(向こうの世界では、毎日キノコを食べていたが──)
宇水(多分関係あるまい)
志々雄「所詮この世は……弱肉強食……」
志々雄「俺はてめぇに敗れた……それが自然の摂理だ」
宇水「…………」
由美「ダメです、志々雄様っ!」
鎌足「志々雄様っ!」
宇水「…………」
宇水「断る」
志々雄「!」
宇水「狂おしいほど欲した、貴様への復讐、貴様からの勝利……」
宇水「今こうしてその好機を手中に収めたというのに、全く実感がないのだ」
宇水「私はかつて、貴様に両目を切り裂かれ、生き地獄を味わった」
宇水「ならば私も報復として、貴様にも生き地獄を味わわせてやりたくなった」
宇水「虚栄まみれだった男に地に伏せられ、見逃される、という生き地獄をな」
宇水「私はいずれまた、貴様のもとに現れるだろう」
宇水「次こそは一度も死せることなく、貴様を殺す実力を身につけて、な」
志々雄「ちっ……」
志々雄「次に会う時は、俺はこの国の覇権を握っていることだろうぜ」
宇水「ククク、その方が殺しがいがあるわ」
志々雄「フフフ……ハッハッハ……」
宇水「クックック……ハッハッハ……」
志々雄&宇水「ハーッハッハッハッハッハッハ!!!」
宇水「何が可笑しい!!!」
志々雄「なんでてめぇがキレるんだよ」
方治「ま、待て、宇水!」
方治「貴様のような危険人物を、むざむざ野に放てるものか!」
宇水「ほう、では力ずくで止めてみるか?」ニィッ
方治「う、ぐっ……!」
宗次郎「やめときましょうよ、方治さん」
宗次郎「なんたって殺しても生き返るんですし、多分ボクでも止められませんよ」
宇水「そういうことだ、ボウズ」
宇水「次に会う時は志々雄の下で、高級官僚くらいにはなっていろよ」
方治「と、当然だ!」
方治「西洋列強にも劣らぬ強力な軍隊を作り上げ──」
方治「貴様如きでは、志々雄様に指一本触れられぬようにしてくれる!」
宇水「フッ……期待しているぞ」
宇水(どれ、一つキノコを食うとするか)モグ… ピロリロリン♪
安慈「宇水殿」
宇水「……安慈か」
安慈「変わられたな、宇水殿」
宇水「変わったというなら、お前とてずいぶん変わったのだろう」
宇水「廃仏毀釈で寺を焼かれた怒りから、“明王”になったと聞いているぞ」
安慈「……どこに行かれる」
宇水「さあな。なにも考えてはおらん──が」
宇水「ひとまずはこの見えぬ目で、世界中を見て回ろうと思っている」
安慈「そうか」
安慈「達者でな」
宇水「フフ……お前にいわれるまでもない」
この後、日本はおろか世界各地で目玉模様の服を着て、
眼帯をつけた男が目撃されるようになるが──
これが宇水本人かどうかは定かではない。
そして──
宇水「クッパよ、久しぶりだな」ザッ
クッパ「おお、ウスイではないか! 向こうの世界での用事は済んだのか!?」
宇水「まぁな」
宇水「今は修業を兼ねて、世界各地を旅して回っているところだ」
クッパ「そうか、ならばせっかくだからレースに参加するといい!」
クッパ「ちょうど今日は、スペシャルカップの開催日なのだ!」
クッパ「オマエならば、飛び入り参加も認められるだろう!」
クッパ「なんとしても、ワガハイたちでワンツーフィニッシュを飾るのだ!」
宇水「クックック……よかろう」
宇水「ロケットスタートとドリフトの基本的走法を見せてくれるわ!」
~おわり~
乙でした
ネタかと思って開いたらまさかこんなことになるとは思ってもなかったぜ
Entry ⇒ 2012.10.06 | Category ⇒ 版権物SS | Comments (0) | Trackbacks (0)
鍛冶師「人里離れた所でひっそりと暮らしてる」
ここ最近天候が悪かったが、これでようやく畑仕事ができる。
最近は依頼が少なく、収入が心許無いがのんびりとやれるのはいい事だ。
だが、空に陰りがあるし今日のうちにある程度収穫しておかないと、また雨の中で収穫しなくてはならなくなる。
すっかり忘れていたが、そろそろ鉱山に住み着いているコボルト達が鉱石を持ってくる時期だった。
つるはしだのなんだのと物々交換しているが在庫が少ない。
今日明日は徹夜になるやもしれん。
三日間、作るに作り続けた。
逆に作り過ぎた。あって困るもんでもないが、正直幅を取るから困る。
久々に罠に動物がかかった。
今日は兎肉のスープだ。
今日の取引はまずまずだった。
新しい採掘場が見つかったらしく、更に大量のつるはし等の注文が入った。
かなりの材料が蓄えられるかと思うといてもたってもいられない。嬉々として金槌を振るう。
珍しい金属もあったし何を作るか……それとも大事に取っておこうか。いかん、興奮してきた。
追加の注文も作り終え、コボルト達との物々交換も無事終わった。
にしても雨の所為で冷える。奥に仕舞った冬服を引っ張り出し、少し着込んでおく。
大量の材料を仕入れた事だし、今日は倉庫の整理をした。
しっかりと整理したら元々あると推定していた材料が、1.2倍に膨れ上がった。
在庫管理が杜撰過ぎたようだ。今後は帳簿でもつけようものか。
あいも変わらず天候不順が続く。依頼も無く畑仕事も無く、雨音をBGMに読書に耽る。
そんな雨の中、わざわざ貴族様が依頼を持ってきた。
金ならいくらでも払うから最高の刀を作って欲しいと言い出した。金持ちの道楽か。
仕方が無いので追い返した。良質の砂鉄なんぞこの大陸で探すとなったらどれだけ時間がかかるか。
それでも食い下がらないから塩の塊を投げつけジパングに行けと言ってやった。
にしてもあんな塊になっているとは。ちゃんと対策をしておくべきだったか。
そろそろ食料の買い足しが必要になってきた。
この調子なら明日は晴れるだろう。
明日は山を降りるとするか。
現地販売の準備、それと刃物研ぎの準備をして早めに就寝する事とする。
下山するにはもってこいの天気となった。
のはいいが、麓あたりで山賊と鉢合わせした。
そこらへんを魔物が闊歩している時代だというのに逞しいものだ。
有無を言わず襲い掛かってきたので返り討ちにしてやった。
臨時収入だ。肉でも買うか。
町で卸す商品の売れ行きも刃物研ぎの仕事もあまりだった。
臨時収入と合わせても通常の収入程度にしかならない……なんてこった。
食料品を買い込み、家に戻る途中で旅人が山で迷っていた。
何でも自分に依頼をしに来たらしいが場所が分からなくなったそうだ。
仕方が無いのでその場で内容を聞く事にした。ふざけた依頼だったら町に送り返そう。
と思ったら材料を持ち込んでの製造依頼だった。久しぶりにまともな依頼だったからその場で材料を受け取った。
報酬もいいし明日はまた町まで届けに行く事にした。
気合を入れただけあって、依頼のクレイモアは中々良い出来となった。
早朝、町に下りようと下山している途中、旅人が先日と同じあたりで迷っていた。
何をやっているのやらと思ったら、自分が依頼を受けてくれると思っていなかったらしく、
町まで運ぶと言われても、いてもたってもいられなかったのだと言う。
アホな依頼が多いから断っているだけで、まともな依頼は全て引き受けているのだがなあ。
大方、馬鹿貴族どもが勝手な事を流布しているのだろう。が、食っていくには問題無い程度に依頼はくるからどうでもいいが。
今日は朝から雨が降り続く。
これは長雨になるかもしれない。
しばらくは暇になりそうだし、武具図鑑でも読み漁るとするか。
雨脚が半端ない。
一度、この家も流された経緯からしっかり対策しているが、それでも今回はどうなるか分からん。
というよりも今回もダメかも分からんね。
流された時の為に必要な道具はまとめて、見つけ易いように細工を施した。
明け方とんでもない音がした。どっかで土砂崩れが起こったようだ。
思いの他早くに晴れてくれたものの、やはりというべきか被害は甚大だった。
材料類に関する被害ほ無かったものの畑は全滅だ。
ここしばらく順調だったゆえに惜しい。
最もまた一からとは言え、だいぶ知識も経験も積んできているし、復興もそう難しくは無いだろう。
今日は一日畑仕事。水気たっぷりの野菜が食べたい。
鍛治関連で唯一の被害。薪が全滅。
という訳で今日は周囲の散策にでかけた。が、当然ながら薪に使えそうな木々は得られなかった。
薪を貯蔵している倉庫の改良が必要そうだ。
途中、山の主様を見かけた。ここに住み始めた当初、主様は巨大な猪だったが今は角が立派な牡鹿のようだ。
何時見てもこの威圧感というか神々しいというか、そんなオーラの前ではただただひれ伏すばかり。
そこへ魔物の集団が現れた。主様を狙っているのかと剣を抜く。よりも早く主様の角が魔物を薙ぎ払った。
主様ぱねぇ。流石、山の安定を司る存在だ。
真面目な依頼だが、恐ろしくキチガイな依頼が入ってしまった。そしてそれを受けた自分もキチガイだ。
大量の石を持って兵士や傭兵、そして神官らしき男がやってきた。
その石を使ってできるだけ大きな剣を作って欲しいと言われた。見たことの無い石だしどうしたものかと悩む。
石の出所を聞けばなんと隕鉄だという。よくもこれだけの量を集めた物だ。頭がおかしい。
だが壮大な話だ。隕鉄は天からの恵みとして信仰があったりする事を考えると、この量で作った大剣はさぞ偶像崇拝にもってこいだろう。
ああ、だから神官っぽいのもいたのか。
だが問題はこれが全部材料になりえないだろうという点だ。
今日は朝から資料探し。
こいつでクリスでも作れって事だったら簡単だったろうに。
一通り手持ちの資料の中から隕鉄に関する情報かき集めて読み耽る。
期間を長めにもらって正解だ。というかこれを一人で造るのか。こういう時、国の鍛治ギルドや町の工房を羨ましく思う。
リンが多く含有している隕鉄は、鍛造そのものが出来ないようなものだとされる。
まずはこれを調べないとだ。
莫大な報酬だったとは言え、あんな仕事二度と引き受けるものか。
一週間以上の時間を費やしなんとか作れたのは長めのブロードソード。いやバスタードソードといったところか。
遥か古代から隕鉄が使われている事もあってか、クリスは邪を払うものとしてタリスマンとしての役割も持っている。
こいつならどんな邪も払えるだろう。というか切り払えるだろう。
もっとも教会かどっかに奉納されるのだろうから、振るわれる事は無いのだろうが。
ふと思い出したかのように畑を見ると荒れ放題だった。
しばらくは農作業だ。
絶好の土弄り日和。いやちょっと暑かったか。
クワを振るっているとコボルト達がやってきた。
どうしたのかと聞くと、新しい採掘場に鉱石の精霊が現れて奮闘中だという。
精霊と言っても全身が特定の鉱石で出来ているゴーレムの様なもの。何より恐ろしく硬く力強い厄介な奴だ。
自分の出番か、とハルバートを担ごうとしたらミスリル銀のゴーレムだと言うから、茶を淹れてやりながら頑張れと伝えた。
銅と鉄まで戦えるが、それ以上の相手となる一撃で圧死するから絶対に戦いたくない。
というかミスリル銀のゴーレムとか随分と大物だな。
畑の整地、水引完了。意外と早く終わったからまた山の中に入っていった。
あれから雨も降ってないお陰で乾いた薪が拾えた。いやはや助かるものだ。
土砂崩れで荒れたとは言え、多くの新芽が芽吹いている。
今日も主様は忙しそうだ。
町に下りて野菜の苗や種を買い漁る。
ついでに刃物研ぎをしてみたら、今回は盛況だった。タイミングがずれていたのか。
帰り道に高価そうな鎧を着た男と出会った。勇者様だという。
魔王討伐の為にも剣を作って欲しいとの事だ。
材料も持ち込みでミスリル銀だった。しかし要望はフルサイズの両手剣だと言う。
流石にこれでは足らない。ふと、コボルト達の事を思い出し、紹介状がてら一筆手紙を書いて渡す。
討伐に成功したら精霊から取れるミスリル銀を分けてもらう、という内容だ。
初めは危険だし冗談がてら倒して貰ってきたら造る、と言ったら極々普通に了解された。
勇者をやるだけあって強いのかもしれない。
一晩泊まった勇者様は早朝、コボルト達の所へ向かっていった。
送ろうかとも思ったが、地図を見てルートを把握していたので余計な心配のようだ。
だが夜になっても帰ってこない。
大丈夫なのだろうか? まさか精霊に? それとも行く途中か戻る途中に道を外れて遭難?
不安ばかり募るが既に日は沈み、細い弓なりの月明かりでは心許無い。
明日、早朝に勇者様を探しに行こう。
早朝、一先ずコボルトの群れに向かった。
もしかしたら援軍が来た事で、一度体勢を建て直し総攻撃の準備をしているのかもしれない。という淡い期待があった。
コボルト達の集落に辿り着き見た物とは!
しっちゃかめっちゃかな宴会後と酔い潰れて寝ているコボルト達と勇者様だった。
心配して損をした。仕方が無いので起こすのも悪いし、全員に毛布をかけて帰った。
勇者様は日暮れになって戻ってきた。しかも結構大量のミスリル銀を抱えて。
コボルト達はかなり苦戦していたようだ。
今日、明日を使って剣を造る事にした。
勇者様は暇だから山の中へと入っていく。聞けば元々山育ちらしい。
色々と心配するだけ無駄だったようだ。
最高の剣にするべく、一心不乱に金槌を振るう。気付けば日が暮れつつある。
勇者様はというと日が沈むか沈まないかという頃に、現地で作った魚篭に魚を入れて帰ってきた。
ここから沢まで結構距離があったはずだしどうやって道をと聞けば、立派な角を持つ鹿の後をついていったと言う。
思わず狩られなくて良かった、と呟いたら山の主殿かどうかぐらい分かる、と言われてしまった。そりゃそうだ。
他に討伐するものも無く、今晩は勇者様とゆっくりと談笑しながら食事についた。
あまり多くの土地を回った事の無い自分にとっては、滅多に無い良い機会であった。
とりわけ金属製品を特産とする工業都市の話は非常に興味深かった。暇を見て技術を学びに行くのもいいかもしれない。
日暮れあたりになって、ようやく剣が完成した。
ミスリル銀を打つと心臓が打ち震えるような高揚感を覚える。が、加工が大変で一振り造るだけでも時間がかかる。
自分が持ちうる力を全て出し切った、そんな満足感と気だるさが体中から溢れ出る。これと同じ出来をと言われても、当分はできないだろう。
勇者様は勇者様で鞘から引き抜いて刀身を見つめ……次に行動するまで数分の間動く事が無かった。
そして涙目でこれは最早芸術品だ。この世に二本とない名剣だ。本当に、ありがとう、と深々と頭を下げられてしまった。
本音を言えば多少は争い事があった方が金にはなる。が、自分達人類の命運を背負う勇者様のお力になれた事、満足していただけた事はとても誇りに思う。
と言ったら、君は裏がないな、と人懐っこそうな笑顔を向けた。
何とも人望が厚そうな人だ。自分とは真逆のタイプなのだろう。しかし自分自身、彼と話すと気持ちが良い。これが出来た人間の為せる事か。
勇者様は重ね重ね礼を言いつつ、日の出と共に旅立っていった。
願わくば彼の旅路に無事に終わらん事を。
しばらくは依頼が無い限り金槌を振るうのはよそう。休息は必要だ。
という訳で倉庫の改良の為、材料を集めに山に入っていく。最近気付いたが、ここも山中だ。
とは言っても、文字通り家の周りは自分の庭になっている所為で、この先の山を山の中だと思ってしまう。山の主様に罰を与えられそうな考えだ。
土砂崩れのお陰で近場で良い石がごろごろと採れる。
なんか幸先いいな。わくわくしてきた。新しい小屋でも造るか。今のところ使い道ないけど。
なんかコボルト達が土産を持ってやってきた。よっぽど勇者様の援軍が嬉しかったようだ。
丁度来たのが生産職を担う奴らで、倉庫の改装を手伝い始めた。
なんで技術持ってる奴はどうしてこうも物作りが大好きなのか。自分もだが。
以外に早く倉庫の大改造が終わってしまった。倉庫のLvが5ぐらいあがった感じだろうか。
しばらくは鍛治以外の物作りしていると話したら、目聡く積まれた木材について聞かれた。
意味も無く小屋を造るつもりだと答えたら、他の連中も呼んでとっとと作っちまおうぜ、とか言い出した。
こいつら自分達の仕事はいいのか、と思ったら、更に新しい採掘場が見つかり、今は内部調査の為、非戦闘員の立ち入りを禁止しているらしい。
小屋……というか小さい家ができた。本当に小さい家。
何だろう、一人用の小さい安い宿みたいな。作っている時は特に考えていなかったが、これ本当にどうしよう。
物作り会は夜に自分と六匹のコボルトで鍋をつついてお開きになった。
倉庫改造と小屋の案を一週間くらいかけてやろうと思っていたがどうしようか……。
明日は山を歩くか。
軽く土いじりをして山に散歩。
土砂崩れの爪痕は今尚残るが、だいぶ青々として活気を取り戻しつつある。いい事だ。
上へ上へと進み、崩れた地点よりも上へと登ると良い山菜が群生している箇所に出る。
必要な分だけ採り上流の湖へ。二時間ほど粘ったが釣れたのは一匹だった。
戻ってくる頃には日が暮れていた。たまにはこんなスローライフもいいものだ。
今日は小屋の活用について考えるとする。
ぶっちゃけ要らない。
よく依頼主が泊まったりする事もあるが、一人ならこっちの家で十分。向こうのが狭いし。
利点といったら綺麗な事と、共同のスペースで生活したくない人ぐらいか。そんな奴、わざわざ山まで来て依頼はしないだろう。
とは言え物置に使うには勿体無いし、今後はちょっとした家具を作って寝泊りできるようにするか。
いっその事、あっちはのんびり暮らすをテーマに娯楽とか置いてみるか? いや要らないな。
晴れた事だしちょっと町まで下山する。
顔馴染みに小屋の活用について、参考まで考えを聞いてみる事にした。
が、基本的に客用にすればという意見が占めた。それはそれでいいのだが何か面白みに欠ける。
そしてやっぱり出てきた案がだらだらする場所だった。本棚でも作って本を揃えようものか?
などと思っていたら、特殊構造の鎧をのんびり作りつつ、置き場にしてしまえばいい、とも言われた。
理由を聞いたら初めは剥き出しの内部構造に、少しずつ出来上がっていくのって楽しくないか、との事だ。
それは認めるが、流石に山の中で鎧を求める者もいないだろう。
だが特殊構造か……ちょっとしたからくりでも作って置いておこうか? いややっぱり使い道無いって。
今日はベッドを作ってみた。一先ず小屋でも泊まれるようにした。ベッドしかないけど。
よくよく考えたら風呂は一つだし、寝る場所を別にしただけにしかならないな。
何の意味があるんだろう。女性客? いやでも風呂は共同だし。
というかこんな山奥まで依頼しに来る女性はいないだろう。
むしろ今まで女性客がいない。あれ? この小屋本当にどうしよう?
早朝、鉱夫コボルト達がやってきた。
魔王軍のゴーレム種が暴走しているという。魔王軍は基本、統率がとれているというのに。
それも魔法生物のゴーレムだ。命令には忠実のはず。と思ったら、鉱山に迷い込んだゴーレムが山に滞留する魔力に当てられたようだ。
最深部なんてどれほどの力が流れているから分かりはしない。山に住む人は勿論、コボルト達だって近づきはしない。
原因はいいとして。どうやら彼らは自分に援軍を求めてきたようだ。ゴーレムぐらいなら何とかなるか。
とハルバードを担いでコボルト陣営に赴く。中型のゴーレムだ。その数20。20?! 多っ! 到着時は本当にこんな感じだった。
薙ぎ払っては崩し薙ぎ払っては崩しの繰り返し。朝にコボルト軍と合流し戦闘開始、ゴーレム軍が鎮圧されたのは夕方であった。
雨の所為で冷える。風邪をひきそうだ。
援軍の報酬としてゴーレムより得た石材を大量にくれた。当分石材には困らなさそうだ。
案の定風邪をひいた。くそっ。
喉が痛い。熱が酷い。まともに動けん。
保存食をちまちま食べつつ、薬を飲んで暖かくしてひたすら寝る。
だいぶ楽になったが微熱と痛みと鼻水は続く。
少し本に手が伸びかけたが、読み耽って悪化するのが目に見えたので我慢。
多少動けるようになったので軽く食事を作る。
薬草スープぐいっと飲み干す。黒胡椒を入れすぎた。辛い。旨い。黒胡椒最強説。
体が軽い。ひゃっほう。
思わずテンションが上がり、ハルバートで素振りを始める。うん、やはり体を動かすのは気持ちが良い。
色々あったがそろそろ金槌を振りたくなってきた。しかし依頼が無いし、無駄に造るのもあれだ。
と思ったら、町で卸す商品の補填をしていない事に気付く。しばらくはのんびり造るかな。
というかゴーレム討伐で得た石材の山をどうしよう。というか何に使おう。倉庫を更に改良するか?
暑い。ていうか熱い。でも厚くはない。
そんな天気だったが嫌いじゃない暑さだ。
しかし工房に篭るには死ねる。という訳で近場の池にダイブしてきた。
気持ち良い。そろそろ夏本番か。虫対策をしなくてはならないな。
今年は美味い西瓜が出来るといいな。
途中、河原ではしゃぐコボルト達を見た。山の内部はまだ調査中で外で涼むしかないようだ。
今日も町で卸す用の商品作り。昼飯中に来客あり。
黒い鎧を纏い、ピリピリと肌に刺さるような魔力を放つ者だ。どう見ても魔王陣営です本当にありがとうございました。
勇者様に強力な剣を作ったとして殺しに来たのかと判断し、矢継ぎ早にロングソードを四本投げつける。
第一印象違わず、四本全てをひらりひらりとかわす。これはもうダメかも分からんね、と思いつつも全力で迎撃にあたる。
立て掛けてあったハルバードを引き寄せる力のままにフルスイング。が相手は一歩踏み込みピック部を回避して盾で受け止める。
詰んだ、と思っていたら相手は敵意は無い事を告げながら兜を脱いだ。長髪ブロンドの美人だった。
大変腕の良い鍛冶師だとは聞いていたが、まさかここまで戦える者だとは、と感嘆していた。魔王陣営なのにそれでいいのか。
しかし敵意が無いのに襲い掛かってしまったのはこちらの非。相手が人類の敵とは言え、頭を垂れて謝罪をすると向こうも改まって誤解を与えた事を謝罪してきた。
そこら辺の人間よりよっぽど礼節のある者だ。すげえ。
そこで美少女がはっとしてまた一礼をして名乗った。魔王軍最上位の魔王であると。
美少女が魔王そんなバナナ、と信じられなかった。顔に出ていたのか本当なのだよ、と苦笑いをされてしまった。
何でも魔王城には常に最強クラスの剣を備えて勇者達の指揮を高めるものなのだが、先代の時に戦闘中に砕け散ってしまったそうだ。
その為今回、この美少女魔王は人間の中に非常に腕が立つ、という噂のある自分の所に製造依頼をしに来たという。
疑問に思う事がある。わざわざ敵に塩を送る意味は? 史上では幾度と無く魔王は現れ、勇者に討たれている。それでもそんなものを備えるなんて。
というと、魔王側には魔王側の事情があるらしい。というより根本的に人間の認識を遥かに超えたものがあった。
魔王とは適度に人間を襲い、勇者に討たれるのが役目。そして勇者達を盛り上げるのも役目の一つなのだ、とこれでも魔王業は大変なのだぞ、と溜息混じりに言われた。
死ぬ事が役目なのか? と問えばその過程も大事であるがその通りだ、と言う。理解できない。
これによって魔界で動く経済があるのだと言う。本題はそこじゃない、殺される為の人生ではないか。辛くは無いのだろうか。
彼女は寂しそうに笑ってみせた。幼少より魔王になるべくそう教わってきた。ラストバトルという儚く、それでいて何よりも輝かしい一瞬に打ち震える幸せを得るのだ、と。
私にはそれ以外の幸せは何たるか、むしろそれ以外でどう幸せを感じられるか。それが分からないんだと語った。
なんとも不憫な人生だと思うが、本人がそれで良しとする以上、こちらからこれ以上何かする事もできる事も無い。
どうも後味が悪いというか……目の前にいる者はこれから死にに逝くようなものだというのは気分が悪い。
だが、仕方が無いことなのだろう、と引き下がり本題の依頼について聞くと、オリハルコンで剣を作って欲しいという事だ。
差し出されたオリハルコンを見て固まる。伝説級の金属だ。生きている内に見る事になろうとは思いもしない。
それをまさか自分が打つだなんて。汗が吹き出た。こんな大仕事、というか一世一代級がまだまだ未熟な自分にくるなんて。
その様子を見て魔王は、無理なら断ってくれていいのだぞ、と気にかけてくれる。
失敗は許されない。正直断りたい。だが、オリハルコンを打つ機会などこの先にあるだろうか?
鍛冶師としての興奮に負けて依頼を引き受ける事になった。また資料集め……今回は今ある資料だけでは難しいだろうから余計に時間がかかる。
三週間ほどの時間が欲しいと伝えたら、魔王はこちらの引き受ける意思に喜んでくれた。
今日一日は仕事を休むとしているらしく、今日はここに泊まらせてほしいとまで言ってきた。まさか小屋が役立つ時が来るとは。
昨晩は魔王と談笑しながら夕食に着いた。世界広しと言えど、魔王と夕食を楽しく共にした人間はいるまい。
依頼についても少し詰めた話をすると、資料集めなら魔王の方でやりくりしてやろうとの事だ。太っ腹な依頼主だ。
確かに一人で集めるには時間も質も量もかなり限られる。魔界の資料や単純に広域で探してもらえるなら越した事は無い。
早朝、魔王は城に戻ると発っていった。朝食を取るには早すぎるので、せめてと弁当を渡したら顔を綻ばした。
こうした食事も弁当などというものも私は初めてだ。思えば、こうして軽く話し合える者もいなかったな。
お前がいてくれて、そして噂の鍛冶師がお前であってくれてありがとう。
魔王はそう言って、黒い翼を生やして飛び立った。嬉しい事を言われたが、それと同時に複雑にも思う。
だからこそ、彼女の為にも頼られた役割だけはきっちりと果たそう。
一週間後に資料を届けられるまでに、出来る限りの準備を行う事にした。
片っ端から薪を掻き集める。ついでにコボルト達に会い、オリハルコンに関する情報も聞き出す。
が、流石に彼らの中でもオリハルコンに関する知識は乏しいらしく、鍛造技術も明確でないらしい。
依頼主が頼りという依頼というのも珍しい。
柄の案を練る。最高級の金属の剣だ。見劣りするような柄は許されない。
何よりこれがこれから先、後世にまで引き継がれるのか。
そういえば、常々歴代勇者の剣が消えてなくなるのは魔王達の所業だったという事か。
朝、コボルト達が集まってきた。明日より新採掘場での作業が始まるらしく、暇なのは今日が最後とオリハルコンを見に来たらしい。
流石に付き合いのあるお前達とは言え、依頼の材料を見世物にする訳にはいかない、と告げると大量の薪や石炭を見せた。
材料等を貢献する変わりにという事の様だ。確かに有り難いし必要な物である。
こういうあたり、道理を理解しているというかきっちりしているというか、しっかり考えて行動するから困る。
午後からは資料を漁るに漁った。勿論オリハルコンについては多少は記載されているが、いざ扱う時に役立つ知識は塵ほども無い。
仕方が無いと伝説の武具の図鑑も引っ張り出す。
伝説の武器はどういった種があるか。どういった物が無難か。
まさか雲を掴むような存在の武器を真剣に学ぶ時が来るとは。
いくつかの案を出す。
高貴さを引き立たせつつ、スタンダードな両刃の剣。熟練者仕様として棟側が特殊な形状の剣。
限界のラインまで細く長くした神速の剣。ぶ厚く片刃だけの耐久性と威圧感の高い剣。
魔王が来たらどれがいいかを聞いてみよう。それまでにどれでもいいように柄を揃えておこう。
と思ったが、わざわざ資料を届けるだけの為に魔王が来るだろうか? しまった、大誤算だ。
柄を丹念に作っていく。剣の種類に合わせて柄の装飾の度合いも変えていく。
思えば装飾の多い剣と言うのもあまり経験が無い。儀礼的な武具の図鑑を片っ端から読み漁り、知識だけは集めていく。
午後には柄も一通り出来上がる。
こちらの準備は出来た。後は資料を待つばかり。
なのだが、工房の中をうろうろしたり、無闇に炉に火を入れてしまう。
間もなくオリハルコンを打つという興奮と緊張と不安で、挙動不審になってしまっている。
今もベッドの上でこれを書いているが、この後眠れる自信が無い。
明日だ。明日やってくる。
そう思うと事の重大さに不安になり涙したり、緊張のあまり一人おろおろとしたり。
果てには一瞬だけ吹っ切れて笑い飛ばしたり、責任の重さに静かに病んでいたりする。最早情緒不安定である。
そんな時に兵士のコボルトが顔を出して、自分の奇行に青ざめる。
しどろもどろに事情を話すと、気持ちを落ち着かせようとミスリル銀で何か簡単な物を作ってくれと言われる。
ミスリル銀で簡単な物ってなんだよと思いつつも、震える手でインゴットを受け取る。
何を思ったのか、出来上がったのはミスリル銀のつるはしだった。うん、見事なまでにミスリル銀の無駄使い。
コボルトも馬鹿だ馬鹿がいる、と輝かしいつるはしを見つめながら呟いた。だがお陰で、気持ちが落ち着いた。
精神力を高める為、夜中に滝に打たれにいく。少し満月を過ぎた頃で明るい。
何時来るのかとそわそわする。思わず木材で椅子を作り、外で座って待ってしまうぐらいそわそわしている。
すると空からふわりと魔王が降り立った。今回は兜を付けてこなかったようだ。
やはり黒鎧に金髪は栄える。何より顔も整っており美しい。
今回マイナス点があるとしたら、大量の本を背負っている事ぐらいか。凄い違和感だ。
魔王は開口一番、先日の弁当が美味しかった事とその礼を述べてきた。
本当に良い子だが、どういった環境で生活し、それを窮屈と思っていないのかが窺え、複雑な気持ちになる。
どうやらまた一日、休みを得て来たらしい。
それらしい資料を集めたから、精査をかけねばなるまい、とその手伝いをすると言い出した。本当に魔王なのだろうか?
とは言え、彼女と過ごせるのだから嬉しい。絶世の美人と言っても過言でない女性だ。
時には談笑しつつ作業を進める。最近羽振りが良くて助かる。多少見栄を張った食事が提供できるのだから。
ある程度、資料も集め終ったところで今日は読み耽って理解を深める。
魔王は再び早朝に発っていった。また弁当を作って渡したら軽く断られたが、折角作ったのにと言えば簡単に受け取ってくれた。
断ると言っても顔は綻んでいたし、形だけであって内心は喜んでいたのだろう。きっとそうだ。そう思う事にしよう。
剣についてはぶ厚い威圧感のあるものがいいと言われた。ある意味聖剣なのに物々しいタイプを選択した。なんて魔王ださすが魔王。
この物好きめ、と言ってやると魔王は不敵に笑いつつ、幼少の頃より変わり者と呼ばれた者の感性を舐めるでない、と言い返された。
不敵に笑う魔王可愛い。今気付いたが何気に幸せ者の部類に入るのではないだろうか。
最もそれも依頼の間だけだし、彼女は彼女で死に逝く身である事を思うと、やはり複雑な気持ちにならざるを得ない。
何度も読み返し頭に叩き込む。一分のミスも許さない為にも、幾度と無くシュミレーションをする。
オリハルコンを手にする。いよいよ明日から手にかける。
魔王からは何時でもいいから、剣を造る時は呼んでほしい、と魔石を渡されている。
これを割ると魔王が持っている対の魔石が割れるとかなんとか。
鍛冶師の仕事というのを見てみたいのだという。だがいきなり呼んでもアレだし、ある程度形になりはじめてから呼ぶ事にしよう。
明日からは当分、日記を書く事も出来ないだろう。
日記を前にして何日かかったかを計算する。
冥の日を次の日、地の日から次週の風の日だから11日かかったのか。
凄い時間がかかった。しばらくは寝て過ごしたいが、最近畑仕事がなおざりになっている。休めないな。
依頼品完成の連絡用に魔石を砕いた。明日、魔王がやってくるだろう。
なんだかんだで魔王と共に過ごす時間は楽しかった。それもこれで終わりだと思うと何ともいえない気持ちになる。
日記を前にして何日かかったかを計算する。
冥の日を次の日、地の日から次週の風の日だから11日かかったのか。
凄い時間がかかった。しばらくは寝て過ごしたいが、最近畑仕事がなおざりになっている。休めないな。
依頼品完成の連絡用に魔石を砕いた。明日、魔王がやってくるだろう。
なんだかんだで魔王と共に過ごす時間は楽しかった。それもこれで終わりだと思うと何ともいえない気持ちになる。
昼頃になって魔王はやってきた。出来た大物の刀剣を見るや否やおお、と感嘆の声を漏らした。
どうやらお気に召したようだ。
魔王はそれを丁寧に丁寧に包んで抱えた。今日は休みがとれなかったのだよ、と寂しそうに笑った。
かなり色をつけられた報酬を渡してくると、魔王は飛び立っていった。
しばらくは日々を寂しく思うのだろう。
畑は雑草が生い茂っていたが、野菜もすくすくと育っていた。今日は草むしりの日。
畑の整理も一息ついた感じだ。
新鮮な野菜が食べたくなったので山を降りて買出しに。
念の為にと刃物研ぎの道具は持ってきたがいまいち精が出ない。
何なのだろうこの気持ちは。もしかしたらこれは失恋の思いなのかだろうか。
今まで武道と金属を打つ事だけに生きてきた事もあって、これがそうなのかは定かではないが。
だが、彼女に恋慕を寄せていた事を理解していたとして、自分如きにどうにかできたとは到底思わないが。
夏本番を向かえ、畑の周りを整備した。
ら、待ってましたとばかりに今年一発目の夕立が襲い掛かってきた。
間に合って良かったと胸を撫で下ろす。
夕立のお陰で今日の夜は涼しい。
小屋の方の布団を干した。持ち上げた時に良い香りがした。
これが魔王の香りかと少し興奮した。興味が無いと言えば嘘だが、それ以上に鍛治に関する事の方が頭の中で優先される。
だがこうして反応できる辺り、まだ自分は人間で男なのだろ認識できる。良いのか悪いのか。
人間である事男である事を捨てたとして、それで鍛冶師としての腕前が上がる訳でもないし、あって下がる訳でもないから良い事か。一応だが。
木陰で昼寝をしていると黒い姿の来客があった。魔王だ。
思わず息を飲んだ。幻覚だろうかと思ったが本物だった。
どうやら粗方仕事も片付いたらしく、勇者様が辿り着くまでは暇もできるらしい。そして行くあてと言ったらここぐらいしかないのだと。
流石に泊まるほどの時間は無いらしいが、一日いたりはできるらしい。
素直に嬉しい話で今日はただただ談笑し、夕食を共にした後帰って行った。
身に渇をいれて引き締める為にも、この山の奥であり隣接する霊峰に向かう。
遥か昔はそこにも人はいたらしいが今は里の跡しか残っておらず、大きな祠も点在している場所だ。
何時来ても身が清められる思いである。言うほど何度も来れる場所でもないが。
僅かな山菜を摘んで煮込み、それを夕食にした。
一日で往復できない距離である為、今日はこの里の跡で野宿する。
目覚めると主様が近くで草を食んでいた。何とも幻想的な。
邪魔するのも申し訳ないので、そっとその場を後にする。
途中にある沢で川魚を一匹頂いて朝食とした。塩焼き旨い。
家に着く頃には日がだいぶ傾いていた。
庭の椅子が木陰にあり、魔王が座ってうとうとと転寝をしていた。何これ可愛い。
聞けば来てみたはいいもののメモ書きで今日帰ってくるとの事だったから待っていたらしい。悪い事をした。
日暮れまでしか居られないとの事だったので、早めに夕食を作り共にした。
久々に旅人の客だ。製造、というよりも売って欲しいとの事だった。
在庫置き場に案内すると、しばらくあれこれ物色した後、二振りの刀剣を手にした。
試し切りはいいのだろうかと確認すると、貴方が作った物の切れ味をわざわざ確かめるほど無粋でない、と言われた。
評判が一人歩きしている気がする。恐ろしい話だ、と思っていたら知り合いに自分が作った剣を使っている者がいて、実際に振るった事があるそうだ。
しかし、常に最高の水準で仕上がるわけでもないのだが、と言うと、旅人はからからと笑ってみせた。
職人からすれば杜撰な扱いをされていたあの刀剣で、あれだけの切れ味が維持されている。
それだけでわざわざ試す必要は無いものだ、と軽快に言われた。嬉しい事だがそれはそれでハードルが上げられている気がする。
昨日の旅人の話だと麓の町をちょっとした軍隊が通るらしい。
武器卸すにはもってこいだ。いや買ってもらえないかもしれないが。
久々に金槌を握りひたすら槍を造る。
明日晴れるといいな。下山の準備をし、早めに寝る事にした。
今日は不貞寝。
麓に行く全ルートがぬかるんでいる。流石に大量の槍を担いで行ったら容易く滑落するだろう。
何の為に軍隊が来たかは知らないが、多分そろそろいなくなるだろう。
というか目的次第だが、晴れたのだから出発するだろう。
取らぬ狸の皮算用とは正にこの事、と溜息をついていると魔王がやってきた。
何時も食わせてばかりでは、と土産を持ってきた。
魔界のとある国の銘菓で入手困難なバームクーヘンだと言う。
たかがバームクーヘンで入手困難、と思って一切れ食べてみた。
うめぇ! 思わず声を上げて驚いた。魔王はにやにやしながら見ている。
なるほど、ここまで定番の流れなのか。
ふと思い出して近くの洞に。果実酒を漬けていたのを忘れていた。
酒の味はよく分からないがとりあえずまあ旨いのだろうと思う。
少し容器に汲んで持ち帰る。
軽く酒を飲んだし、今日はもう読書をして過ごそう。と、武具の図解を読み出す。
昼頃だった筈が気付けば夜になっていた。やはりアルコールには弱い。
珍しく早朝より魔王が訪れた。また手土産を持ってきたようだ。
どうやら酒らしい。何と言うかタイミングがまた……。
今日も鍛治は止める事にし、昼食を豪勢にして二人で飲む事にした。
昼間っから酒とはいい身分だ、と言ったら何たって王だからな、と言い返された。
忘れていたが本当にそういう立場の者なんだよなぁ。と言っても聞く限りじゃ、人間側の王位とは違うようだが。
それにしても彼女は酒に強い。結構なペースで飲んでいく。そして昨日の果実酒を目聡く見つけ、それも半分ほどさらりと飲む。魚かお前は。
気付けばとっぷりと暮れていた。やはり眠ってしまったようだ。魔王の姿は勿論無く、自分には毛布が掛けられていた。
次の機会では穴埋めをしないと申し訳がないな。
久々に町に商品卸しと刃物研ぎに行く。
食料を買い込み家に帰ろうとしたら行商人の一団と出会った。この辺りを通るなんて珍しいな。
と思ったら自分が造る武器が目当てだという。なんなら在庫を全部売ろうかと言うと、商品達は大はしゃぎをした。
今ある在庫を箇条書きにし、それをあの山から運べるかと問うと、今手持ちのだけ全部買います、と改まった。
大商人にはなれなさそう一団だな。
全部売り切れるというのも滅多にない事。
という事で今日は在庫の補填をすべく、金槌振るって剣だの何だのと造る。
しかし今日はやたらと旅人の来客が多い。それも依頼ではなく購入で。
何かあったのかと事情を聞くと、すぐ近くで行商人達が高額で剣を出しているそうだ。まじぼったくり。
この地方より遠くにいる人の多くが、名前こそ知れどこの場所まで知らないらしく、行商人が売る剣を見て近くに本人がいるのでは、とこぞって探していたらしい。
で、麓の町でここまでの道を知り押しかけてきたと。
確かに金にはなるがあまり売れすぎても補填が間に合わないし、材料の供給にも限界がある。
何より無理にこの山を登ろうとして遭難する者も多い。その為、旅人達にはあまり言い回らないよう頼むと快く了承してくれた。
自分が住む場所で死者が出るというのも気持ちが良い話ではないからなぁ。
また早朝から魔王が来た。なにやらどこか暗い。
正直聞くべきか悩んだが、恐らく魔王としてのしがらみに関する事なのだろう。
今日はよくお前とのような気楽な付き合いが、お前が私の部下であってくれればというような事ばかり言う。
こういう時何と言ってやればいいか分からないが、彼女は今の俺とのこの付き合いは良しとしているわけだし、
自分はここにいるし、何時でも魔王を歓迎すると伝えた。
今思えば失言だった。これから死ぬ彼女に何時でも、なんて酷な話ではないだろうか。
魔王は寂しげな笑みを見せた後、にっこりと笑ってありがとうと言った。
昼には魔王は帰っていった。そして夕方、遠くで爆破魔法を連続で打ち上げる音が聞こえる。
その意は祝砲。膝を突きうつ伏せに倒れ、日が昇るまで動く気にはなれなかった。
朝日が輝かしい。嫌味の様だ。
ゆっくりと起き上がり、近くの椅子に腰を掛けるが全身が軋むように痛い。
何も考えられないというのはこういう事なのだろうか。
そのまま動けずにいるとコボルト達が鉱石を持ってやってきた。交換する日だったか。すっかり忘れていた。
コボルトは自分の有様を見て真っ青になり自分の介抱をし始めた。正直、もう放っておいて欲しい。
付きっ切りで自分を看るコボルト達が早朝、大騒ぎを始めた。
気に留める事もなく、何を見る事も無く、そのまま真っ直ぐ天井に顔を向けていたら青ざめた魔王の顔が目の前に現れた。
一瞬何が起きているか分からず、別の意味で何も考えられなくなった。
その間、魔王はあたふたと何があった、大丈夫なのかとしきりにこちらに安否を問いかけてきた。
何かを言わなくては、と思うものの喉が渇いて声が出せなかった。
せめて何かを伝えたいと必死になって取れた行動と言えば、魔王の手を取り引き寄せ抱きしめる事だった。
コボルト達から口々に死ね、という言葉が聞こえた。後で詫びに行かなくては。
それからしばらく落ち着いた所で、お互いに状況を話し合う。
まずは自分の事から話すと魔王は照れながら、それほど大事に思われていたのか、ありがとうと言ってくれた。
コボルト達はあの旦那がか、やはり旦那もちゃんと性別があったのか、と口々に言い最後には死ねと言った。うん、詫びに行こう。
魔王はと言うと、二日前に城に帰った時には魔王城が陥落していたという事らしい。
どうやら勇者様達が早馬を用いて、一気に魔王城に攻め込んだのだ。
今まで勇者様達は徒歩だからと試算していた日数を大幅に短縮してきた。もしかしたら作戦として考えていたのかもしれない。
兎にも角にも魔王は命を落とす事も無く、魔王城陥落という形で人間側は勝利を宣言したのだという。
で、肝心の魔王の立場だがかなり困った事になったらしい。何せ前代未聞である為、魔界では長い時間審議を行ったらしい。
とりあえず、魔界としては魔王は倒されたって形で進むとして、死ななかった現魔王をどうしよう? という状態らしい。
何やら好きにしていいよ、な流れになってしまったので、とりあえずここに来たのだと言う。
魔王城を失い、寝る場所もないらしいのでしばらくは一緒に暮らす事になった。
昼と夜では魔王は休んでいてくれ、と言いテキパキと料理を作っていった。
不器用ながらも一生懸命さが伝わる料理だったがとても美味しく、涙が零れてしまった。恥ずかしい限りである。
ここ数日とは心機一転。ひたすら金槌を振るい鉄を打つ。
コボルト達への詫びも含め、既に受け取ってしまった材料分の交換物資を大急ぎで造る。
魔王は小気味の良い音だと言ってくれたが、それを気にする余裕はありはしない。
一本、二本とつるはし等の道具が凄まじい勢いで増えていくのを見て、流石の魔王もその異常性に顔を引き攣らせた。
早朝から夜遅くまでかかって、交換分と侘び分が出来上がる。
明日はこれをコボルト達の所に……どうやって運ぶんだこの量。
と呆然としていると、魔王が付き添い魔法を使って手助けしようと言ってくれた。
一人では何往復する事になったのやら。
ある者は心配して損をしたと罵倒した。ある者はちゃんと男だったかと安心した。
ある者は死ねっと悪態を付いた。ある者はあまりにも早すぎる祝福を祝った。
そしてコボルト達は盛大な祝いをしていた。流石に自分の復活祝いという事のようだったが。
事ある事に自分と魔王との事で祝いの言葉が投げかけられる。
それを魔王は困った顔をしつつも、嬉しそうに笑ってくれた。
自分は初めて全うな人としての幸せに触れた気がする。
一晩明けて一旦落ち着き。今後をどうするかを考える。
大きい依頼が続けば問題無いが、現実はそうも行かないだろう。
つまり二人で安定して食っていくには、更に何かをしないといけなくなる。
いっそ山を降りて何処かの工房かギルドに所属すべきかと考える。すると魔王は何故、一人でこんな所で暮らしているのかを聞いてきた。
昔は工房で働いていたが、大した努力も技術も無い奴が偉そうな事をほざいたから殴り倒して、一人で腕を磨くようになったと過去を話した。
魔王にお前は指導者には向かないな。集団に混じるべきではないと諭された。そんな気は元からあったさ。
昨日の話の所為か魔王は何か仕事は無いか、と催促してくるようになった。
そもそも戦う以外に何が出来るのだろうかと言ったら、色んな事ができるぞと胸を張った。
政治とか何とかとか、言い出して数十秒で知らない単語がぼろぼろ出てくる。
聞き方を変えてこの辺りでなら何が出来そうかと問うと、水脈を地図に起こすだの水路を作るだのなんだのかんだのと言い出した。
何やら幼少頃から多くの事を学ばされてきたらしい。土木は得意だぞ、と満面の笑みで言ってきた。
人間側にとってはとんでもない逸材かもしれない。
人間界においてどれだけ有効か、を見る為にもしばらく旅に出る事に決めた。
ついでに工業都市で学ぼう。
長旅になる為、早めにコボルト達と麓に伝えないといけないな。
おまけにある程度、物は揃えておかないといけない。
しばらくは忙しそうだ。
ひたすら製造する。なんか数日前も同じだった気がする。
魔王は魔王で家事などを手伝ってくれている。助かる事だが家事を手伝う魔王というのも不思議な話だ。
明日も延々と造る事になるので日記もそこそこに就寝。
疲れた。
が、目標としていた数は造り終えた。後は明日にでもコボルト達と麓に行けばいいだろう。
そうしたらいよいよ旅支度を整えられる。
今晩は残っている食料で旅に持っていけない物をしこたま使った、結構、いや滅茶苦茶豪勢なものとなった。
挨拶も済ませたし、コボルト達には倉庫のつるはしは適当に持ち出してくれ、と伝えたし大丈夫だろう。
この長旅で魔王には告白、いやプロポーズをしよう。
彼女も共に付いてきてくれる、というより共に生活をするつもりで仕事などを考えている。
うぬぼれとかで無く、彼女もまた自分に思いを寄せてくれているのだろう。
だからこそ、自分は彼女に明確にこの思いを伝えるべきだ。もう彼女が居ない世界など味わいたくは無い。
そしてこの日記帳は仕舞ってしまおう。見られたら恥ずかしすぎる。
これからは新調して、彼女が傍に居る事を考えた上で書き綴ろう。
一つの節目としては良いだろう。彼女ももう、討たれる事に幸せを見ていないのだろうし。
だからこそ、自分も一歩踏み出していかなければならないのか。
これからは自分が彼女を幸せにしていくのだから。
最後の最後でこの見開きのページを魔王に見られた。
恥ずかし過ぎて死にそうだが、顔を真っ赤にしつつも魔王が喜んでくれたから良し、いやプロポーズは格好良く決まらなくなった。死にたい。
鍛冶師「人里離れたところでひっそりと暮らしてる」 完
雰囲気が好きだわ
良い終わり方だったよ
Entry ⇒ 2012.10.06 | Category ⇒ その他 | Comments (1) | Trackbacks (0)
ウルフルン「見狼記…!?」
プリキュア達に敗北を喫し、バッドエンド王国の
居城へと戻ってきていた。
「ちょっ…ノックもせずにいきなり入ってくるんじゃないだわさ!」
苛立ちの収まらない彼は、マジョリーナの部屋へと乱入し、
ウサ晴らしに彼女のテレビを占拠しようとする。
「ぅるせぇ!! 俺ぁ、今、最ッ高に虫の居所が悪いンだッ!
張っ倒されたくなけりゃ、おとなしく そいつを寄越しやがれッ!」
テレビのチャンネルをザッピングをしていたが、
その時、彼の目は、とある番組に釘付けになった。
『今の時代のニッポンに、狼信仰が生きているというと―――信じるかね?』
画面には、そぼ降る雨に包まれた社殿の中で、
祝詞を奏上する老人の口元が映し出されていた。
ナレーションは尚も続ける。
『百年以上前に絶滅したというニホンオオカミ。
この獣が、今もどこかに生きていて不思議な力を放っている―――。』
(なん…だと…!?)
思いもよらぬ内容に衝撃を受けるウルフルン。
(…童話の世界の中じゃ、俺ら狼は人間や家畜を襲う悪役…昔っから、ずっとそうだった…。
…けどよ、何だ?この国じゃ、神の使いとして崇められてるなんて…こりゃ本当なのか!?
ンなの初耳だぜ?…ヘッ、だとしたら随分と皮肉な話じゃねぇか…。
いや…神そのものじゃ無くって「使い」ってのは、ちっとばかり癪だがな…)
(…まぁ、なんだ。プリキュアどもに負けて、ムシャクシャが納まらねぇから
気分転換に…ってのも少々アレだが、折角だから実際のところはどうなのか…
ここはひとつ、この俺様が直々に確かめてやろうじゃねぇか。)
「…行って来ンぞ。」
「ちょっ…プリキュアに負けたばっかりだって言うのに、今度はどこへ行くんだわさ!?」
「…埼玉だ。」
バッドエンド王国の居城から、埼玉のある山中へと転移してきた
ウルフルンだったが、その目の前に広がる一面の藪に閉口していた。
「テレビじゃ あんなに大きく出てたから、すぐ見つかるかと思ったのによ…。ケッ」
人間の背丈ほどもある薄暗い藪の中を、ひたすら かき分けて進む、
文句たらたらのウルフルンだったが、その内に、草木が切り払われた
ごくごく狭い平坦地へと行き当たった。
その平坦地には、半ば朽ちかけた木の鳥居が立ち、
そして、そこから奥まった場所に石造りの祠が置かれていた。
祠の大きさは地面から腰の辺りまではあるだろうか。
それが角石を積み重ねた基壇の上に載せられている。
また、風化しかけてはいるが、各部分に彫刻が施されていた
名残がうっすらと見える。
「んー、見た限りはアレに映ってたヤツとは、どうも形が違うな…
…ぁあ!?ひょっとして別の所に来ちまったみてぇだな…。くそッ…」
憮然とした表情で祠の周囲をジロジロと見回すウルフルン。
すると、彼はすぐに鳥居の前方に置かれていた一対の狼の石像に目を留めた。
日の光の差し込まない木々の中にあって、その体のところどころは苔に覆われ、
片方は固く口を閉じ、もう片方は反対にカッと口を開き、そのいずれもが猛々しい表情をしている。
―――まるで、この神域に侵入してきた魔性の者を―――そう、「彼」を威嚇するかのように。
狼像をしげしげと見つめるウルフルンだったが、
それも束の間、彼の表情は見る間に険しくなる。
「…オイ待てコラ。つーか、なんでコイツはこんなにアバラが浮いてんだよ。
ガリッガリじゃねぇか!俺ら狼は、もっと逞しい体付きしてるだろうがッ!
それに何だ!この不ッ細工な面(ツラ)はよォ!
どうせ彫るんなら、この俺様みたいに凛々しい顔に彫れってんだ!」
そして、ウルフルンが怒りに任せて
狼の像を蹴り倒そうとしたその時、
祠の下に続いていた細い道の方から、
彼の居る場所に向かって、何かが
登ってくる音が、かすかに聞こえてきた。
獣か?―――いや違う、足音からすると、どうも人のようだ。
「…うおっと、誰か来やがった!?」
ウルフルンは、急いで祠の後ろの藪の中に身を潜める。
歳は如何ばかりであろうか、彼の顔に刻まれた皺の深さは
彼が重ねてきたであろう長い年月(としつき)を感じさせ、
また、小柄ながら がっしりとした体付きや節くれ立った手は、
彼が長年携わってきたであろう生業を想起させるものであった。
老人は、着古した作業着に草履履きといった格好で、
杖も突かず、矍鑠(かくしゃく)たる様子で
少々急な坂道を、確実に、一歩ずつ登ってくる。
そして、彼は祠の前まで歩を進めると腰を落とし、
拍手を打つと頭を垂れて目を閉じ、無言のまま祈り続けた。
不意に頭上から声が響き渡った。
ハッと我に返った老人は何事かと顔を上げる。
―――そこには、祠の後ろから身を乗り出し、
獰猛な顔付きで彼を見下ろす黒い獣の姿があった。
「お…っ…ぉお…お…」
予想だにしなかった事態に、思わずその場に へたり込んだ老人は
大きく眼を見開き、しわがれた、しかし、はっきりとした口調で
こう叫んだ―――。
「お犬様ァ!!」
「…ぁあッ!? 誰が犬だ!誰がッ!!俺様は―――」
―――その時、ウルフルンの脳裏に ある考えが閃いた。
(…ん!?いや、待てよ…確か、あの番組じゃ、狼の事を確か…「オイヌサマ」と
敬った言い方をするって言ってやがったな…。ウルッフフフ…よォし、それなら…)
「…あー、ゴホンっ!…確かにテメェの言うとおり、俺様は『オイヌサマ』だ。
テメェが長年、俺様の事を拝んでやがったのは、よぉーっく知ってるぜぇ?
…で、だ。今日はそれに応えてテメェの前に姿を現してやった…ってワケだ。」
彼は目をしばたかせながら、
畏怖とも歓喜ともつかない面持ちで
両手を合わせウルフルンを伏し拝む。
「…なッ!?」
「ぉお…何とまぁ…有難い事で…。いや、有難い…有難やァ…
え、ハァ…そ、それでしたらば、わ…ワシの家で是非とも
おもてなしを…ええ、ハイ…ぁあ、有難ぇ、有難やァ…」
あまりに唐突な老人の挙動に少々戸惑いつつも、
ウルフルンは、スマイルならぬ悪巧みフェイスで
尊大な態度をとりつつ老人に語りかける。
「…ほっ…ほォ、そうか。それはイイ心掛けだなァ、ジジイ。
それじゃあ、その言葉に甘えさせてもらうとするか(ニヤリ)」
「へ…、へぇ…っ!」
どうにか平静さを取り戻そうと必死になろうとする様が見て取れた。
(…さぁーて、この後のコイツの反応が見ものだぜ…ウルッフフフ…)
老人が狼狽する様を見て、内心ほくそえみつつ、
彼に気付かれないように舌なめずりをしながら
ウルフルンは、踵を返した老人の後ろを付いて行った。
瑞々しい新緑に覆われた向かいの山の急斜面が迫っていた。
そこから目を転じ、谷間の奥も、そして その反対側の
遥か遠くに見えるのも、ただ、山、山、山ばかりだった。
「…おい、ジジイ。まだ着かねぇのか?
一体どんだけ俺様を歩かせるつもりだァ!?」
周囲に見えるものといっても、視界に入るのは
木と山ばかりの山道をひたすら歩かされて
苛立つウルフルンは、語気を荒くする。
「へっ…は、はァ…、いま少しでございますので…へェ…」
祠のあった場所を出て小半時も歩いただろうか。
二人が道を下って来た先に、ようやく集落が現れた。
足がすくみそうな程の深い谷を目の前に望み、僅かに開けた
山腹の急斜面に沿って、へばり付くように数軒の民家が点在していた。
しかし、そのいずれもが固く雨戸を閉じ、
昼下がりとは言え、人の気配は一向に感じられなかった。
「…おい、テメェの所の村は、この俺様がせっかく来てやったってぇのに
歓迎もしねぇのか?誰一人出てきやしねぇじゃねぇか。」
「あ、ハァ、いえ…決して左様な訳では、ヘェ、ございません。
…いや、村の者達は、もう何年も前に ここから出て行きまして、
今では、ここに住んでおりますのはワシ一人でございます、ヘェ…」
雑草が伸び放題となった畑の脇の細い道を通り抜け、
高台にある老人の家へと辿り着く。
昔ながらの木造の民家にトタン屋根といった風情の
老人の家の前には、猫の額ほどの畑。
そして畑の脇から坂を上がると、よく手入れされた庭に
季節の花々が目に鮮やかであった。
鴨居(かもい)に貼られた一枚の札に目を留めた。
札には長方形の和紙の上下に、
版木で摺ったであろうと思しき字と
岩の上に座った獣の絵が摺られている。
長い間風雨に晒されたからであろうか、
文字は、既に擦れて消えかかっていたが、
その下の、真っ黒い姿をした獣の絵は
未だにしっかりと残っており、それが為に、
その存在感を いよいよ増しているかのようにさえ感じられた。
「おい、ジジィこりゃ何だ?」
「…ああ、それは『お犬様』の姿を刷った
御神札(ごしんさつ)でございます。へぇ。」
犬だか何だか分かんねぇのが、俺様の姿だって言いやがるのか?」
「…えっ、ハぁ…左様でございますねぇ…
いや、何分 お札の『お姿』の絵の方にしましても、
お犬様の『お姿』を確かに見たという者が
本当におりましたかどうかも、今となりましては
定かじゃあ ございませんし…
ただ、この御神札を貼って以来、今の今まで、
火事を出す事も無く、泥棒にも入られたことはございません。
これも、お犬様のお力のお陰でございます。へェ…」
「しかも、こんなにボロッボロになったのを、
いつまでも後生大事に貼っておくってェのか?
…ハッ、随分と みみっちぃヤツだなテメェは。」
年毎に貼り替えねばならぬのは
重々承知してはございますので、
お叱りは ごもっともでございます、えェ…」
老人は、何とも申し訳ないといった面持ちで続けて答える。
「…とは申しましても、なんせ今まで
その札を摺っておりました、お犬様の『講』の者たちは、
ワシを除いては、皆がとうに亡くなりましてのぉ…。
…左様なモンで、このように、最後に残った1枚を
貼り続けておるのでございます。」
「いいや、わざわざ靴を脱ぐのも面倒だ。
俺は そこに座ってるから、後はテメェの好きにしろ」
ウルフルンは そう言い放つと玄関から外へと出て庭に回り込むと、
開け放たれていた縁側へ、腕を組んで ドカッと腰を下ろした。
「…チッ、シケた場所だぜ…」
手持ち無沙汰なウルフルンは、周囲を見回すが
彼の興味を惹くようなものは目に入らなかった。
しばらくの後、縁側に隣り合う座敷の奥から、
茶の用意を終えた老人が、ゆらりと姿を現した。
「おゥ、ご苦労だぜ。それじゃあ、頂くとするか。」
ウルフルンは盆の上に置かれた湯飲みに手を伸ばし、
淹れ立ての茶を一気に飲み干そうとする。
「ぅ熱ちィっ!! …ってか、渋いじゃねーか!! ナニ飲ませやがるッ!!」
ウルフルンは顔をしかめて
湯呑を口から放すと、力任せに地面に叩き付けた。
湯呑は、硬く踏みしめられた地面に激突するやいなや、
鋭い音を立てて砕け散った。
穏やかな微笑をたたえつつ、地面に散らばった
湯飲みの欠片を片付けはじめた。
「…オイ、どうしたジジイ。嫌そうどころか、
何だ、その まんざらでもねぇツラはよォ。」
「…いや、何と申しましても お犬様は お山の神様のお使い。
ワシらの畑を荒らす猪や鹿…害獣どもを喰ろうて下さる。
ゆえに お気性が荒うございますのは当然の事でございやしょう…。
なれば、例え茶の味がお気に召さぬとあらば、このようになされますのも、
また当たり前の事ですからのぅ。はっは…」
「…ったく、マゾかテメェは…」
片付けを終えた老人は、そう言うと、盆の上の皿に盛った
「十万石」という焼印の捺された白い饅頭を差し出した。
ウルフルンは、その饅頭を鷲掴みにして自慢の大きな口に放り込む。
「おう、こっちはイケるな。うん、うめぇうめぇ。(もぐもぐもぐ)」
(…っつーか、何だ?この饅頭は!? …うまい、うますぎる…!)
老人は、無我夢中に饅頭を頬張るウルフルンの横顔を、
満足げな表情で見つめていた。
聞こえるものと言えば、虫の声に野鳥の囀り、そして谷川の流れの音だけだった。
(…しかし、まぁ、なんだ。こうやってマッタリしてるのは、どうも俺の性には合わねぇ…
つーか、せっかくこんなクソな山の中まで来たんだ、手ぶらで帰れるかってんだよ。
なら、テメェのバッドエナジー、手土産代わりに たっぷりと戴いてやるぜ、ウルッフフフ…)
「…ジジィ、テメェには世話になったな。
…なら、俺の方からも礼をさせてもらおうか…」
「…っは!?ぇえ?いえ、わざわざそんな、
畏れ多うございます…いや、勿体無い事は…」
「ぅるせぇ!! つべこべ言わずに、受け取りやがれってんだよ!!」
掌に載せた黒い絵具を握りつぶし、真っ更なページへと塗りたくる。
「世界よッ、最悪の結末ゥ、バッドエンドに染まれぇーッ!!
白紙の未来を黒く塗り潰すのだァーッ!!」
と、周囲の風景が一変し、白昼の山里は
満月が天高く煌々と光る月夜へと変貌した。
素(もと)になるんだよォーッ!!! …って…。…ん?…んんんっ!?」
そう言い放ったのも束の間、ウルフルンは目の前の状況に驚愕する。
「…ぉお…、こりゃ…ぁ…」
唖然とした表情で周囲を見渡す老人。
しかし、その身体からバッドエナジーが
立ち昇る気配は一向に無かった。
ハァー…いや…こりゃ、たまげましたわい…」
(ちょっ、待てッ!この展開…この前の、
プリキュアどもと一緒にいたババァと同じじゃねぇか!!)
「…おいジジイっ!!」
「…!?…へっ…へぇ、何でございやしょう?」
「ジジイ、テメェは こんな所にたった一人で暮らしてて
何の不満も無ぇってのか!? んなハズは無ぇだろうッ!?」
「はァー…はい、左様でごぜぇます。」
こんな山ン中、遊び場は無ぇ、盛り場も無ぇ、
なァーんも無ぇじゃねぇか!」
「…は…えぇ…まぁ…はァー…。
…とは申しましても、何日かに一度は、
下の集落(ムラ)から『よろず屋』の
旦那さんが用を聞きに参ります、えェ。
それに半年に一度は、町まで出た息子が、
孫らと一緒に尋ねてきてくれますからのぅ。
…いや、先程、お犬様が召し上がられた饅頭も、
つい先日、孫らが土産に持ってきて
くれたモンでございまして…」
「ンな事ぁ聞いてねェ!!」
「…ひェっ…あっ…、いや、はァ…これはとんだ ご無礼を…」
えぇ…何かとございます。
…ですがねぇ、その事に対して若ェ頃はともかく、
この歳になりましたら、何にだって感謝して
生きていけるモンでございます。えぇ。」
「感謝…だと…!?」
ウルフルンは半笑いで老人に問い掛ける。
「…ほ~ぉ、『感謝』ねぇ…。
あんだァ?随分と面白い事を抜かしやがるじゃねぇか。
じゃあ何だ?テメェは一体、何に感謝して生きてるって言いやがンだ?」
「…『お山』…でございます。」
てっきり「親切」やら「情け」といった
陳腐極まりない単語が飛び出してくると思っていた
ウルフルンにとって、老人の発した言葉は意外なものだった。
この家の前の畑と、山からの水があればこそ…。
それも、全ては貴方様や、そして色々な神様が
おいでなさる『お山』の お陰でございます。
…ワシは、この『お山』に生まれ『お山』で働き、
そして、この『お山』に生かされまして、
この歳まで 大きな病気もせず過ごしてこられました。
えぇ…本当に有難いことでございます。」
老人はそう言うと、向かいに聳え立つ山へと向き直り、
両手を合わせて静かに目を閉じた。
…それとも…本気で言って…やがるのか?)
どうにも納得のいかない、釈然としない表情で、
老人を見下ろすウルフルン。
「…何に致しやしても、長い間
お会いしたいと思い続けてまいりました
お犬様にお目に掛かれただけでなく、
こうやって お接待までさせて頂きまして…
お陰様で、冥土への良い土産話が出来ましたわい。
あぁ………本当に有難ぇ事で…。ワシは果報者でございます…」
本来ならば、絶対的な悪の存在であるはずの自分に対して、
いくら認識のズレがあるといっても、何故こうもここまで
盲目的に絶対の崇敬を敢行するのか―――。
老人に対する忌々しさと、憐憫の情とが
半ば入り混じった感情に、ウルフルンは
戸惑いを隠せなくなっていた。
(…くそっ…なんかシラけちまったぜ…。)
「お犬様」の声の聞こえなくなった事に気付いた老人が目を開いた時、
辺りは再び先程と同じ、何時もと変わらない山里の風景へと戻っていた。
あたかも その場から掻き消えたかのように―――。
「…ぁあ…。また、お山にお戻りに
なられましたんですな、お犬様…
ハぁぁ…有難ぇ…有難ぇ…」
そう呟くと、老人は また合掌し、
その頭(こうべ)を深く垂れたのであった―――。
【了】
何分、文章を書くのは、どちらかというと苦手な方なので
未熟なところばっかりでお見苦しい限り…(;´Д`)
なお、文中に登場するアイテムは、イメージ的には↓のような感じです。
【狼の石像】
ttp://www9.plala.or.jp/sinsi/07sinsi/fukuda/ohkami/ohkami-01-2.html
【お犬様のお札】
ttp://www9.plala.or.jp/sinsi/07sinsi/fukuda/ohkami/ohkami-07.html
検索を掛ければ動画サイトで視聴できますので、ご興味の
ある方は是非ともご覧になってみて下さいね。
それでは、当方の駄文をお読み下さいました皆様に
御礼申し上げつつ、以上にて失礼致しますです。m(_ _)m
Entry ⇒ 2012.10.06 | Category ⇒ プリキュアSS | Comments (0) | Trackbacks (0)
律子「彼氏のフリをしてください!」
P「……は?」
律子「どうか、このとーり! お願いしますっ!」
P「い、いやいや……、とにかく頭を上げてくれよ!」
律子「はい……」
P「……で、なんだって?」
律子「一日だけでいいので、私の彼氏のフリをして欲しいんです」
P「……」
P「一体なんでそんなことを?」
律子「実は……父と母が、いい加減に良い人見つけなさいとかなんとか言ってきて」
P「ふむ……」
律子「私として、今が一番大切な時期ですから、そういうことにうつつを抜かしたくないんです」
律子「で、ついつい……」
『彼氏ならちゃんといるから心配しないで』
律子「って、その場を誤魔化すために嘘ついちゃったんです」
P「それで?」
律子「そしたら、母が……」
『それならそうとはやく言いなさいよ! それじゃあ今度の日曜日に、家に連れて来て紹介しなさい』
律子「ということに……」
P「なるほど……」
律子「こんなこと頼める身近な男性って、あなたしかいないんです。だから、お願いしますっ!」
P「でもな……俺だってそんな、演技とかうまいほうでもないし、見抜かれてしまうかもしれないぞ?」
律子「……」
P「そしたら、もっと面倒なことになるんじゃないか? それより今からでも正直に言ったほうが……」
律子「……そう、よね……」
P「う」
律子「……ごめんなさい、無理言って」
P「いや、いいんだけど……律子ならすぐに、嘘じゃなく本当に、彼氏だって出来るだろうしさ」
P(例えば俺とか……なんて)
律子「……彼氏、か……お見合いで、なんてなぁ……」
P「……お見合い?」
律子「あっ、いえ……その、実はですね」
『もし彼氏とかいないなら、お見合いをセッティングしてあげるから』
律子「っていう話もあって……。それで、さっきみたいな嘘をつくことになっちゃったんですよ」
P「……」
P「引き受けよう」
律子「え!? ほ、本当!?」
P「ああ。そういうことなら話は別だ。精一杯、彼氏役を演じてみせるよ」
律子「ありがとうございます! そう言ってくれると信じていたわ~!」
P「あはは、まあ大船に乗ったつもりでいてくいれよ!」
P(……正直、将来の義理の両親に嘘をつくことなんてしたくはない)
P(でも、律子にお見合いなんて、ふざけんな! 律子と結婚するのは、この俺なんだ!)
P(まだこの思いすら伝えてないけどな!)
【日曜日】
P「……」
律子「それじゃあ、入ってください」ガチャ
P「……あ、ああ」
律子「なーに緊張した顔してるんですか? いつものプロデューサーらしくもない」
P「いや、でもさ……」
律子「大丈夫、格好もばしっと決まってるじゃないですか。取引先の営業に比べたら、こんなのマシでしょう?」
P「律子は随分余裕だな……」
律子「そりゃあ、私はあなたを信じていますから」
P「……」
律子「さ、行きましょう」
P(営業の方がまだずっとずっとマシだぞ……)
P(ご両親への挨拶……嘘とはいえ、ちゃんと出来るだろうか。下手な印象は与えたくないな……)
律子「えっと、彼が……そう、彼氏。ほらプロ……じゃなくて、――さん」
P「あ、ああ! 初めまして、お義父様、お義母様」
律子「!?」
P「俺……じゃなくて、私は、律子……いや、律子さんとお付き合いさせております、――と申します」
律子「……」
P「律子さん同じく、765プロでプロデューサーをさせて頂いていて……あっ、すみません、まず名刺を……」スッ
律子「……」
P「ええ、ええ……はい、そうなんです」
P「律子さんには初めて会ったときからティンと来るものがありまして」
P「目と目が逢う瞬間好きだと気付いたというか……それで……」
律子「……!」
P「……律子?」ボソボソ
律子「は、はい?」
P「どうしたんだ、顔が赤いぞ」
律子「い、いえ、なんでもないです」
―――
――
―
律子「……どうなることかと思ったけど」
P「ああ……無事に済んだ……みたいかな?」
律子「……」
P「……律子、さっきからちょくちょく調子が変わるけど、どうしたんだ?」
律子「い、いえ……その」
P「……?」
律子「……本当に口がうまいんですね、プロデューサー殿」
P「な、なんでだよ」
律子「最初にいきなり、『お義父様、お義母様』って言ったのもそうですけど……」
律子「付き合ったきっかけとか、どういう付き合い方をしてるとか、打ち合わせもしてなかったのによくスラスラ出てくるなって」
P「……まあ、俺なりにちゃんと準備してきたってことさ」
律子「さすが、敏腕プロデューサー」
P「あはは、そう褒めるなよ」
P(まあ、そういうことは普段から妄想しまくっているから、それが功を奏したんだろうな)
P(変態だと思われるだろうから、律子には言えないけど……)
律子「なんだか、聞いてるこっちが恥ずかしくなってきちゃいましたよ……もう」
P「……本当に、俺と付き合ってるって気になったか? なーんて」
律子「……まあ、多少は、かな? ふふっ」
P「……っ」
律子「プロデューサーと付き合える女の子は、きっと幸せですね。話を聞いていてそう思いました」
P「……そ、そう言ってもらえると、頑張ったかいがあったかな!」
律子「ありがとうございます。これでもう、大丈夫ですから」
P「あ、ああ……」
P(予想外の言葉が出てきてビックリしてしまった)
P(律子は本当にかわいいなあ!)
秋月一族はみんな結婚が早いんだよ(適当)
律子「……って、あら?」
??「……!」ササッ
P「どうした?」
律子「……いえ。プロデューサー、ちょっと耳貸してもらっていいですか?」
P「え?」
律子「あのですね……」ヒソヒソ
P「……!」ゾクゾク
P(り、りり、律っちゃんの耳打ち! 近い近い! お、おおお)
律子「あそこの陰、見てください。二本のアホ毛がちょこちょこ見えるでしょう?」ボソボソ
P「……アホ毛? ああ、たしかに」
律子「たぶんあれ……私の、従兄弟です」
涼「うう……な、なんで僕がこんなことを……」コソコソ
涼「見るからに仲良さそうだし、疑うことなんてないじゃないかぁ……」
P「従兄弟? なんでまた……」
律子「……たぶん、うちの両親の差し金でしょう。今日一日、私達を見張ってるつもりなんだわ」
P「ええ!? う、疑ってるってことか?」
律子「しっ、声が大きい!」
P「す、すまん……」
律子「……どうしましょう」
P「でも、別にどうするってこともないんじゃないか? このまま解散しちゃえば……」
律子「忘れたんですか? さっきご飯食べてるときに、自分で言ったこと」
P「さっき? ……あ」
『あはは! 今日は俺達、これからデートなんですよ! いやあ楽しみだなあ!』
律子「って、デレデレした顔で言ってたじゃない」
P「そ、そうだった……」
P(俺としたことが、ついついノリに乗ってしまって……)
律子「……こうなったら、無理矢理にでも涼をとっちめて口止めを……」
P「待て待て待て! そんな物騒なことはよくないって!」
律子「で、でも……」
P「もしそうしたとしたって、いつ口が割れるかわからないだろ? ムシャクシャしてバラすかもしれない」
律子「……まあ、そうね。あの子、ストレス溜めてそうだから」
P「……それならさ、律子。さっき言ってしまったことを本当にしてしまえばいいんだよ」
律子「本当に、って?」
P「デートするってこと」
律子「……本気で言ってるんですか?」
P「ああ! それに約束では、今日一日、彼氏役をするってことだっただろ?」
律子「随分良い笑顔ですね……」
P(とは言ったものの、実は内心バクバクである)
律子「うーん……」
P「……」ドキドキ
律子「……」チラ
P(かわいい!)
律子「……まあ、それがベストかもしれないわね」
P「!」
律子「でもプロデューサーは、本当に良いんですか?」
P「ほ、本当に、って?」
律子「私なんかと、デートして……」
P「良いに決まってるだろ!? 何言ってんだ、光栄だ! むしろお願いしますって思ってるよ!」
P「いいか、俺はな、どれだけ律子とこうしてふたりで――」
律子「わ、わかった、わかりましたから!」
P「……」
律子「も、もう……なんでそういう冗談、サラっと言えちゃうのかなぁ……」
P(冗談じゃないんだけど……でもとにかく、ラッキーだ! やったぞ!!)
P「じゃ、じゃあ……行こうか」
律子「え、ええ」
P「……よろしくお願いしましゅ」
律子「……ふふ。こちらこそ、よろしくお願いします!」
涼「……行っちゃった」
涼「ずっとひそひそ話してたみたいだけど、何を話してたんだろう?」
涼「それにしても、どう見ても本当に付き合ってるよね。仲良さそうだったし」
涼「これって意味あるのかな……まあ、一応僕も追いかけないと……」
涼「律子姉ちゃんのお父さんお母さんから、やらないとバラすぞって言われちゃってるし……」
タッタッタ
???「それじゃあ、私達も~……」
??「……あ、あずささん! そっちは違いますっ」
???「あら、私ったら……ごめんなさいね、千早ちゃん」
P「……な、なあ律子」
律子「どうしたんですか?」
P「張り切って出発したはいいけど……どこに行けばいいんだ?」
律子「えっ」
P「いや正直言って俺さ、今まで女の子とデートとかしたことなくて……」
P「だから、どういう感じにしたらいいか、よくわからないんだよ」
律子「そ、それを女の私に聞いちゃうんですか!? わ、私だってそんなの……」
P「……もしかして、律子もデートとかしたことない?」
律子「……」
P「……」
律子「ぷ、プロデューサーは、アイドルの子達とたまにふたりでどっか行ってるじゃないですか」
律子「きき、聞いたことありますよ、こないだも……」
P(話が強引に変えられた気がする)
P「まあ、それはなあ……あの子達に無理矢理というか」
律子「……無理矢理?」
P「……いや、そういう言い方はよくないな。俺だって楽しんでいたのは事実だし」
律子「……」
P「とにかく、俺自身が自分の頭で考えて、相手を喜ばせようとするデートなんてのは……、したことないんだよ」
律子「……そうですか」
P「だからさ……」
律子「……プロデューサーは」
P「ん?」
律子「アイドルの子達に、その……恋愛感情とか、抱いてないんですか?」
P「……まあ、そうだな。そもそも、アイドルにスキャンダルはご法度、だろ?」
P「だから、基本的には少し距離を持って接してる……つもりだ」
律子「……ふうん。その割には、あなたのことを悪く思ってない子は、何人かいるみたいですけど」
P「あはは、それは律子の勘違いだって!」
P「みんなとても可愛くて素直で、良い子ばかりだ。だから俺みたいな普通な男になんて、興味ないって」
P(そもそも俺には、律子という、片思いの相手がいるわけだしな)
律子「……ちょっとかわいそう、かな」
P「え? な、なんでだ?」
律子「なんでもありませんっ。まあ、これからは気を付けてくださいね?」
P「気をつけるって何をだよ……」
律子「それこそ、あなたが自分の頭で考えてください。そのうち刺されても知りませんよ?」
P「ええ!?」
律子「ふふっ、まあそれは冗談ですけど……でも、そっか……」
P「……」
律子「……そうなのね……私、てっきり……」
P「……?」
律子「とにかく……、今はそんなに、私のためにっていうのは考えなくてもいいですから」
P「いやあ、でも……」
律子「いま私達は、嘘の恋人。要するに演技でしょう? だから、そんなに気遣わなくてもいいのよ」
P「……」
律子「……なーに、その顔?」
P「いや……」
律子「……」
P「……そうだな、それじゃあ……もっと気を抜いて、適当にどこか遊びに行くとしようか!」
律子「ええ! それでいいんですよ!」
P(……まあ、俺としては……少しでも律子との距離を縮められれば、大満足だからな)
涼「あ、やっと動き出した……僕も……」←Pと律子を監視中
千早「……どうしましょう……一応、私だけでも続けた方がいいかしら……?」←Pと律子と涼を監視中
あずさ「千早ちゃ~ん? どこに行っちゃったの~?」←迷い中
―――
――
―
P「そんなこんなで俺達は、デートの定番(だと思う)、映画館へとやってきたのである」
律子「誰に言ってるんですか?」
P「あ、いや……ところで、何を観る?」
律子「うーん、そうね~……」
P「せっかくだし、何か面白い映画の方がいいよな。律子って普段……」
律子「……あ」
P「ん? 何か気になるのでもあったか?」
律子「い、いえいえ! あ、そ、それよりっ、あんなのはどうですかっ!?」ビッ
P「どれどれ……って、あれは……!」
『猿の木星 ~迫り来る北斗の群れ、そのとき冬馬は~』
律子「」
P「……」
P「えーっと……大ヒット映画、『猿の木星』の続編……」
P「翔太の死を乗り越えた冬馬は、平穏な日々を送っていた……しかしあるとき、再び北斗の様子が……」
P「ふたりの濃厚な……って、なんだこれ……」
律子「」
P「……律子、ああいうのが好きなのか?」
律子「ちちち、違いますっ!! な、なんであんなのが堂々と……!」
P「いや、別に隠さなくてもいいんだぞ? う、うん、大丈夫だから」
律子「本当に違うんですってばぁ!!」
P「じゃあ、さっき気になったのってなんなんだ?」
律子「う……そ、それは……」
P「……」
律子「……あれ、です……」
P「……アニメ映画?」
律子「い、いや、別にね! すっごく好きってわけじゃないけど、昔観てたから、だからちょっと気になっただけなんです!」
P(あれって結構最近のアニメじゃ……)
律子「もう、ほんと……それだけなんだから……」
P「……じゃあ、あれを観ようか」
律子「え? ほ、本気ですか?」
P「ああ。あれさ、ちょうど俺も観てたんだよ。円盤も買ったぞ」
律子「え、円盤って……よくそういう言い方、知ってますね。……意外と、そういうのに理解ある人?」
P「うん、まあ……そういう律子こそ」
律子「た、たまたまですっ」
P「そうか、たまたまか……ならしかたないな」
律子「そ、そうです、しかたない……で、それで!」
律子「……本当に観るんですか? いいの? あんなのデートっぽくないんじゃ」
P「デートだデートだって気を遣わなくていいって言ったのは、律子だろ?」
律子「まあ……そうですけど」
律子「……」クルン
律子「……ふふ……」
P(背を向けてひそかに喜んでる律っちゃんかわいい!)
P「じゃあ、俺チケット買ってくるから。律子は適当に時間潰しててくれよ」
律子「私も行きますよ。ひとりで並ばせるわけには……」
P「いやでも、結構長いぞ?」
律子「それでも、です。あなただけに負担かけさせるなんて、そんなの私が嫌なんです」
P「……そっか。それじゃあ、よろしく頼む」
律子「……ふふっ、へんなの。そんなことでよろしく、なんて言っちゃって」
P「い、いいだろべつに!」
涼「映画館に来たけど……うわ、すごい人だ。ふたりは、何を観るのかな?」
涼「というか映画なら別に、僕も一緒に観る必要はないよね。外で待ってれば……ってあれ?」
涼「……猿の木星? なにこれ……」
ざわざわ……
P「それでさ……そのとき千早が……」
律子「へー、そんなことが……ふふっ。そうなのよね、意外とあの子、笑いの沸点低いんだわ」
P(律子とふたりで行列に並んでいるが……こんなときでも、話題になるのは、やっぱりアイドルのことだった)
P(仕事の話、と言ってしまえば色気もないけど……)
P(それでもやっぱり、俺達はこういう話をしているときが一番自然でいられるし、楽しい気持ちでいられるのであった)
P「それにしても……」チラ
律子「なんですか?」
P「……律子の私服。かわいいな」
律子「ええ!? な、何を突然……!?」
P(今日のりつこ)
P(俺は、将来のご両親に失礼にならない程度にはしっかりとした格好をしているが、それに対して律子は……)
P(ふわふわしたスカートを持つワンピース、その上から薄手の白いカーディガンを羽織るといった格好だった)
P(髪型もいつものようなパイナップルではなく、長い髪を軽く結んで、胸の上に垂らしている)
P(律っちゃんかわいい!)
律子「そ、そんなにジロジロ見ないでくださいよ……」
P「いやあ、こういうのも新鮮だな! ふだんのスーツももちろんカッコかわいいけどさ!」
律子「……ほーんと、そういうことをペラペラ言えちゃうんですよね。お世辞は結構ですっ」
P「いやいや、冗談じゃないし、お世辞でもないぞ。写真に撮って部屋に飾っておきたいよ」
律子「な、何を言ってるんですか!? 一歩間違えたら、せ、セクハラよ!?」
P「あ、いやいや! まあそういう気持ちもあるけど、そうするつもりは決してないから!」
律子「も、もう……!」
律子「実際にやるとかやらないとかの問題じゃないでしょっ」
P「そんなに怒らないでくれよ」
律子「べ、べつに怒ってるわけじゃ……!」
P「あはは、じゃあそれは照れ隠しか? なーんて……」
律子「……」プイ
P「……」
P(なんだよ今の表情と仕草! かわいい!)
律子「……セクハラです」
P「あ、う、うん……もう言わないよ」
律子「そーです、言っちゃダメです」
律子「私以外の、例えばアイドルの子たちに言ったら、女の子によっては大変なことになりますからね」
P「……ということは、律子になら言ってもいいのか?」
律子「なっなな、なんでそういう解釈になるんですか!? そ、それだって……その……」
P「……」
律子「……あ、あんまり言っちゃダメです……。恥ずかしいなぁ、もう……」
P「……」
P(キュンキュンする)
律子「……なんとか、言ってくださいよ。これじゃあ私、恥ずかしいまんまじゃない……」
P「……言わない、律子以外には。そう心に決めた、いま」
律子「なんで倒置法……? そ、そういうことじゃなくてですね……!」
「お次のお客様ー。大変おまたせしました、こちらのカウンターへどうぞー」
P「は、はいっ! それじゃあ……行こうか」
律子「……ええ」
P(なんだか、へんな空気になってしまった。ちょうど順番が来て助かった……のかもしれない)
P(……やっぱり、律子はかわいいな)
P「はあ……結婚したい」
律子「!?」
P「あ、いやいや! なんでもない! なんでもないぞ!」
律子「そ、そうですか……」
服装これ?
かわぇぇ
すばせかは確かにやったことあります
>>66
その二枚目をイメージした。でもワンピースじゃなかったね、まあいいか
緑っぽい髪色をした女性OL「猿の木星をお願いしますっ! 大人一枚で!」
女の子に間違われそうな男の子「え、えっと……その、猿の木星を……はい」
P(随分人気があるみたいだな、猿の木星)
「お客様?」
P「あ、すみません。えっと、『劇場版アイドルマスター』を……はい、大人二枚……え、席?」
律子「……」ニコニコ
P「なあ律子、席どのあたりが――
律子「!」
P「……どのあたりがいい? 真ん中は埋まってて、前と後ろがあるんだけど」
律子「ど、どど、どこでも結構です」
P「そっか。それじゃあ……ここの……はい、後ろあたりで」
律子「べつに、喜んでませんけど!?」
P「何も言ってないじゃないか……」
「ありがとうございました。では、ごゆっくりとお楽しみください」
P「はい、ゆっくりします」
律子「何言ってるんですか……」
P「……さて、と」
律子「あ、待ってください。お金を……」
P「え? いいって、そんなの」
律子「よくないです。チャチャっと払っちゃうもんだから、さっきは出せなかったけど……はい」
スッ
P「……なあ、律子」
律子「なんですか?」
P「デートのときって、男が払うもんなんだろ? だから、いいって」
律子「……それは、きっと偏見です。それにこれは……本当のデートじゃないでしょう?」
律子「だから、受け取ってください」
P「でもなあ……」
律子「そうしないと、私の気が済まないんです。男性に奢ってもらって、それが当たり前なんて」
P「……わかった。それじゃあ、そのお金でドリンクでも買ってくれよ」
律子「ドリンク?」
P「ああ。さすがに二時間以上だから、何か飲み物も必要だろ?」
律子「……」
P「それならイーブンだ。だからさ」
律子「……あんなの、ふたつ買っても、チケット代に比べたらまだまだ足りないじゃない」
P「じゃあ、ポップコーンも付けてくれ。塩味な」
律子「そういう問題じゃ……!」
P「いいからいいから……ほら、開演までもう時間もないぞ。並ぼう」
律子「……」
ざわざわ……
律子「……あなたって」
P「ん?」
律子「……意外と、頑固なんですね」
P「こういうときくらい、カッコつけさせてくれよ」
ざわざわ……
律子「私相手にカッコつけて、どうするんですか」
P「……律子の前だからだよ」
律子「……それ、私以外に言ったら、勘違いされてしまいますよ」
P「……律子はどう思ったんだ?」
律子「……」
律子「もう、順番ね」
P「……そうだな」
P「……」
律子「……」
P(……なんだか、またへんな空気になってしまった)
P(俺が言ったこと……さすがに、律子も引いてしまったか? くそう、なんであんなこと……)
P(失敗、したかな――
ざわざわ……!
P「っ! ……それにしても、さっきからなんだ、この騒がしさ」
律子「そ、そうですね。尋常じゃないざわめき……」
きゃー! き、如月千早ちゃんですよね!?
うわっ、ホントだ! さ、サインを!
「通してください! きょ、今日はプライベートだから……ああ、見失っちゃう……!」
P「」
律子「」
P「……どうしよう」
律子「どうしよう、って?」
P「あそこにうちの看板アイドルがいる気がする」
律子「……そうですね。変装してるつもりなんだろうけど、雰囲気丸出しだわ、あの子……」
P「もみくちゃにされてるぞ……助けに行かないと」
律子「……」
律子「――待って」
グイ
P「え? でも、千早も困ってるだろうし……」
律子「行かないでください」
P「……律子?」
律子「……千早なら、大丈夫。こういうことは、何度もありましたから」
P「でも……」
律子「私達が行ったら、さらに大げさなことになるでしょう? だから……」
P「……」
P「千早……」
律子「……今日は……今日だけは、あなたは、プロデューサーじゃなくて」
律子「私の彼氏でしょう……?」
P「……っ」
律子「……どうしてもというなら、止めないけど」
P「……」
P「千早なら、きっと大丈夫だな」
律子「!」
P「うん、絶対そうだ……あぁほら、もう映画館を出て行っちゃったし」
律子「……」
P「見なかったことにしよう! 俺達が見たのは、千早の幻だ」
律子「……ぷぷ、な、なんですかそれ?」
P「あはは、なんだろうな、本当に」
律子「もう、わけわかんない……ふふっ。あなたも、私も……」
P「律子、トイレ済ませておけよ?」
律子「それもなんというか、ギリギリな発言ですけど……まあ、一応行ってきます」
P「ああ。さて、俺も行ってくるか……待ち合わせは、ここでいいか?」
律子「ええ。それでは!」
【女子トイレ】
律子「……」
律子「うわ……私ったら、すごい顔してるわね……」
律子「……ほんと、わけわかんないわ」
律子「いつもなら、あんなこと言わないのに……」
律子「……」
律子「ごめんね、千早……。私は……」
P「……」ソワソワ
P(こう、ひとりになってみると……なんか、落ち着かないな)
律子「……お待たせしました」
P「! お、おお、律子」
律子「すみません、遅くなって……」
P「いや、いいさいいさ」
P(……こういう俺達の姿は……まわりからは、カップルに見えているのだろうか)
P「でも、たしかに時間かかったな……もしかして大」
律子「フンッ!」
ドガッ
P「あ痛っ!? ま、まだなんにも言ってないだろ!?」
律子「言わんとしてることは顔見ればわかります! まったく……」
律子「女性は男性と違って、色々とあるんですよ。そういうところ無神経なんだから」
P「……ご、ごめんなさい」
【映画館】
P「……」
律子「……」
ヴ――……
フッ……
律子「あ、暗く……」
『お待たせしました。間も無く、劇場版アイドルマスターを上映します――』
P「……――って、好きなんだよ」
律子「……え? な、なに?」
P「こういうさ、映画が始まる前の暗くなる瞬間。ワクワクしないか?」
律子「そ、そうですね! たしかに……」
『チャオ☆ ジュピターの伊集院北斗です。エンジェルちゃん達も紳士達も、猿の木星をヨロシクね』
―――
『……ああっそんなっ……そこは汚ねぇ穴だろうが……!』
『冬馬の体に、汚いところなんてないさ……もう君の黒ちゃんも、立派な大猿に――』
―――
P(ひどいCMだ……しかし映画館のCMって、なんでこう大音量なんだろうな)
律子「……あの……プロデューサー」クイクイ
P「ん? どうした?」
律子「……他の人の迷惑になっちゃうから……耳、貸してください」
P「あ、ああ……」
律子「あのですね……」ヒソヒソ
P(本日二回目の耳打ちきた! ひゃっほうゾクゾクするぜ!)
律子「……さっきは、ごめんなさい」
P「ごめん、って何が?」
律子「……私のわがまま……わがままって言うのか、わからないけど」
律子「私の言うとおりに、千早じゃなくて、私を……」
P「……律子の言うとおりだと思ったから、そうしただけだよ。気にすることない」
律子「……そうです、か。そうですよね……」
P「……」
P(律子の性格的に考えて、今みたいに言っておくのが正解なんだろう……たぶん)
律子「あ、あと、あのことも……」
P「あのことって?」
律子「……蹴っちゃったこと。痛かったでしょう?」
P「……あんなの、それこそいつものことじゃないか。大丈夫、なんともないさ」
律子「……それでも、ごめんなさい。私、いつもいつも……」
P「……」
P「随分、素直なんだな。いつもの律子らしくない」
律子「……暗いから。普段言えないことでも……言えちゃうんですよ」
P「そっか……」
律子「そ、それだけ! ……あぁほら、もう始まりますよ!」
P「……ああ」
P(すでに照明を落とされて、会場は真っ暗だった)
P(スクリーンから溢れる光と、大音量で流れる騒がしい音だけが、この場所におけるすべてだった)
P(やがてCMも終わり、ホールはつかの間の静けさに包まれる。映画が始まろうとしているんだ)
P(誰もかれもが、画面だけに注目していく。俺と律子も例外じゃない)
P(でも……)
P(上映が開始されるその瞬間に、ふと眺めた、隣に座っている彼女の横顔は)
P(心なしか、赤く染まっているような気がした)
P(……暗闇だったから、きっと、気のせいだろうけど)
―――
――
―
律子「……」
P「……うぅ、グスッ……」
律子「な、なんですかもう……、男なのに情けないなぁ……」グスグス
P「律子こそ……ほら、クライマックスシーンの、雪歩の表情がさ」
律子「……たしかに、あれは凄かったわ……穴を掘りながら」
『私は生きています! 生きて、歌っていますぅ!』
『だから春香ちゃんも……一緒に掘りましょう!』
律子「って……」
P「思い出すだけで涙が……!」ブワッ
P(登場人物の名前が、どこかで聞いたことあるような気もするが……それはたまたまだ)
P(なんといっても今の映画はアニメ映画。俺達とは、全く関係のないものなのである)
P「……さて、このあとどうする?」
律子「そうね~……ちょっと早いけど、ご飯でも食べにいきますか」
P「そうだな。それじゃあ、この辺なら……」
テクテク
涼「……」トボトボ
涼「……知らなかった方がいい世界を、知っちゃった気がする」
涼「……でも……」
涼「いつか、僕に対して告白してきた男の子がいたけど……」
涼「あれは決して、おかしい感情じゃなかったんだ」
涼「愛という気持ちに、性別は関係ないんだね……!」
涼「ふふっ……それを知れただけでも、収穫はあったかな」
涼「……って、あれ!?」
キョロキョロ
涼「……ぎゃおおん!!」
通行人「」ビクッ
涼「律子姉ちゃんたち、どこ!? 見失っちゃったよぉ!」
涼「僕ってば、夢中になっちゃって……!」
涼「……」
涼「……ま、いっか」
涼「どうせ付き合ってるんだろうし、適当に報告しよう……」
涼「それよりはやくレンタルショップに行って、猿の木星の前作を借りないと……!」タッタッタ
P「あ! す、すまん……少し待っててくれるか?」
律子「どうしたんですか?」
P「いや、社長に伝言があったのをすっかり忘れてて。ちょっと電話してくる」
律子「……ふふ、わかりました」
P「悪いな。すぐ戻るから」
律子「急がなくてもいいですよ。行ってらっしゃい」
P「ええ、はい……そうです、以前……ああ、本当ですか! よかった……」
律子「……」
律子「やっぱり、あなたはプロデューサーなんですね……」
律子「こういうときも仕事、仕事」
律子「……まあ、なんでもいいけどね……私は、今日だけの彼女だし」
律子「……うん、そうよ……べつに、気にしてなんか……」
P「お待たせ」
律子「なんの話だったんですか?」
P「ん、ああ……その、な。今度の千早たちの――」
律子「ああ、そういうことなら言わなくても結構ですっ」
P「えっ」
律子「……あなたがプロデュースするユニットの話でしょう? 秘密にしたいこともあるでしょうから」
P「……。うん、そうだな」
律子「こんなこと、簡単にライバルユニットのプロデューサーに言っちゃダメですよ」
P「ライバルって……まあ、そうだけどさ」
P「でもそれを聞いたって、律子は竜宮小町のプロデュースに利用したりしないだろ?」
律子「ふっふっふ……わかりませんよ~? 私は、使えるものはなんでも使う女ですから」
P「……」
律子「なーんて……ま、自分で聞いておいてあれですけど、本当に言わないでください」
律子「そんなことで、あなた達との勝負において有利になんて、なりたくありませんから!」
P「……わかった」
律子「さ、そんなことより……ご飯、行きましょう?」
P「……そうだな。でもやっぱりちょっとさ、どこかで時間潰してから行かないか?」
律子「え? どうして急に……」
P「いやぁ実は、ポップコーンがまだ腹に残ってるんだよ。ははは」
律子「……」
P「美味しいご飯を食べるのは、空腹になってるときが一番だ。あ、でも、律子はそうでもないか?」
律子「うーん……そうでも、あるかも……割とおなかに溜まるのよね、ポップコーン」
P「だろ? このへんはショッピング街だし、いくらでも暇もつぶせるだろうから」
律子「……いいんですか?」
P「なにが?」
律子「……デート、長引いちゃいますよ? 家に帰るのが遅くなるわ」
P「だから言っただろ、律子とのデートは望むところだってさ!」
律子「ま、またそういう……もう、わかりました。どこへなりと連れてってください!」
P「よしきた! それじゃあまずは……」
P(……よかった。なんとか納得してくれたみたいだ)
【オシャレで高級な洋服屋さん】
律子「ず、随分オシャレで高級な洋服屋さんですね」
P「たしかに……」
律子「たしかに、って……あなたが入ろうって言ったんじゃないですか」
P「いや、入りやすそうな雰囲気だったじゃないか……」
律子「……うわ。私の知ってる洋服の値段より、0がひとつ多いわ……」
P「なるほど、律子の服はそれくらいなのか」
律子「そーいうこと、計算しないでください」
P「……」
律子「……うわあ。やよいが見たら卒倒するんじゃないかしら」
律子「これで何回……これ買うくらいなら……」ブツブツ
P(……選択をミスしてしまった感がある)
P「ま、まあ見るだけならタダだし、さ!」
律子「そうですけど……」
P「律子は、こういうの憧れないのか?」
律子「……そりゃあ、私も女ですから」
律子「こういうハイブランドで身を固めてみたいって気持ちも、まあ、なくはない……かな」
P「でも買わない、と?」
律子「何か特別な日でもない限りね」
P「そうか……」
律子「……」チラ
P「……試着、してみたらどうだ?」
律子「ええ!? ほ、本気で言ってるんですか?」
P「さっきから見てるそのジャケット。きっと似合うって」
律子「で、でも……」
P「あ、店員さん、これいいですか? ええ、この子に試着を……」
律子「あーもう、勝手に話を進めないでくださいっ!!」
シャッ
律子「うう……」
P「……綺麗だ」
律子「い、いきなり何を言ってるんですか!? それにこの場合、綺麗って表現はふさわしくないです!」
P「じゃあなんて言えばいいんだよ?」
律子「……そうね、似合ってる、とか?」
P「似合ってるよ、律子」
律子「ほーんと、口が軽いんですねっ!」
P「本音だって……ああもう、律子はかわいいなあ!」
律子「!?」
P「あ、いや……」
律子「……」
律子「……こんなの、全然かわいくなんてないわ」
P「えっ、実際着てみたら気に入らなかったか?」
律子「そういうわけじゃないですけど……確かに、生地も良いし、デザインも私好み」
律子「でも……」
P「……」
律子「……今日の私の格好に、合ってないです。恥ずかしいわ……」
P「そんなことないだろ」
律子「いーえ、そんなことあります。ワンピースの上にこういうジャケットって、普通はナシなんですっ」
P「そういうもんなのか……全然、不自然じゃなく見えるけどな」
律子「そういうのは疎いんですね……ステージ衣装のことは随分詳しいのに」
P「あはは……」
律子「……まあ、あなたが褒めてくれたのは、その……ちょ、ちょっとは嬉しかったですけど」
律子「でも、出来ればもっと……、ちゃんとしたくて……だから……」
P「あ、店員さん。このシャツとスカートも……ええ、この子に。いいですか?」
律子「本当にあなたって人は、私の話をへんな風に解釈するんですねっ!!」
シャッ
律子「うう……」
P「……綺麗だ」
律子「い、いきなり何を……って、もういいですこのやり取り!」
P「今度はどうだ? 気に入ったかな」
律子「……」
律子「ま、まあ、それなり……、かな。やれば出来るんですね、あなたも」
P「そうか、それはよかった! 服も喜んでるよ!」
律子「ったく、まーた軽々しくそんなこと言っちゃって……」
P「今度はこれはどうだ? 試着してる間に見つけたんだけど」
律子「私は着せ替え人形じゃないですっ! ……それに、それはダメ」
P「えっ」
律子「それなら、こっちの方が……あ、でも、こういうのも合うかもしれないわね!」
P「……」
P(なんだかんだで楽しんでる律っちゃんかわいい!)
ありがとうございましたー
律子「……あれだけ色々着て、結局何も買わなかったですね」
P「でも結構、楽しんでたじゃないか」
律子「……まあね」
P「やっぱりなんだかんだ言って、律子も女の子なんだな。ショッピングが好きなんだ」
律子「当たり前ですっ。もう……なんだと思ってたんですか?」
P「あ、いや、深い意味はないんだけど……気を悪くしたならすまん」
律子「べつに、怒ってるわけじゃないですけど……自分でも、珍しいとこ見せちゃったと思うし」
P「……」
律子「プロデューサー?」
P「……悪い、ちょっと催した。トイレ行ってくるよ」
律子「……ふふっ。ほーんと、突然ですね。ごゆっくりどうぞー」
P「お待たせ」
律子「いーえ。でも随分、時間かかりましたね」
P「ま、まあな! 大きい方だったか――」
律子「ていっ」
ピコッ
P「あ痛っ!? な、なんで……!?」
律子「そーいうことは、女の子の前じゃ言わないの。まったくもう……無神経にも程があるわ」
P「でも本当のことだったから……」
律子「また蹴りを食らいたいんですか?」
P「……なんでもないです」
律子「さっきの反省を踏まえて、デコピンにしてあげたんですからね。ふふっ」
P「うん、ありがとう……?」
律子「何言ってるんですか、ありがとうって……ふふふっ♪」
律子「それじゃあ次は、どこに行きます? プロデューサー殿っ」
P「そうだなぁ……じゃあ――」
あずさ「あら?」
律子「……」
P「……」
あずさ「まぁ、千早ちゃんを探していたら、律子さんたちに会えるなんて~! ふふ、こんにちは」
律子「お、おはようございます……あずささん」
あずさ「もう、律子さん? 今はお仕事じゃないんだから、おはようございますじゃないでしょう?」
律子「……そうですね……あはは……」
P「……き、奇遇ですね」
あずさ「そうですね~。プロデューサーさんたちは、どうしてここに?」
P「そ、それは……」
P「……おい、どうする……?」ヒソヒソ
律子「どう、って言っても……」ヒソヒソ
あずさ「?」
P「ここは、正直に事情を話したほうがいいんじゃないか?」ヒソヒソ
律子「……そうですね。あずささんのことだから、ポワポワしてへんな風に誤解しちゃうかもしれないし」ヒソヒソ
P「だな。よし……」
P「あずささん! 実は俺たち――」
あずさ「……あ、そうだったわ!」パンッ
P「え」
あずさ「私、元々あなたたちを追いかけていたんですー。千早ちゃんを探すのに夢中で、すっかり忘れていました」
律子「私達を……?」
あずさ「ええ。ふふっ、律子さんたちが秘密でデートするって聞いていましたから、確かめようと思って~」
P・律子「「!?」」
あずさ「……あ」
あずさ「わ、私ったら何を言って……いけないわ、秘密だったのに」
律子「あ、あずささん……それ、どこの情報ですか……?」
あずさ「え? 音無さんが教えてくれたんですよ」
P「音無さん?」
あずさ「ええ。たしか~……」
『詳細は確かではないが、プロデューサーさんと律子さんが秘密でデートする情報を掴んだ』
『彼らは、我々に内緒でお付き合いをしている可能性がある。絶対に許されることではない』
『……我々に必要なことはなにか? はい千早ちゃん!』
『イエスマム。真偽を確認することですっ!』
『そのとおり! そのとおりなのよ~! というわけで……ごにょごにょごにょ』
あずさ「ということがあって~……」
P「……」
律子「……」
律子「……小鳥さん……昼寝してると思ったら、聞いていたのね……」
あずさ「私としては、そんなのお二人に悪いわーって思ったのですけれど」
あずさ「音無さんと千早ちゃんが、どうしてもって言うから……」
P「……」
あずさ「あ、でも、こういう言い方はダメね……私ひとりだけ、責任逃れをしているみたいです」
あずさ「ごめんなさい、プロデューサーさん、律子さん。こんな真似をしてしまって……」
ペコリ
P「あ、いえいえ、べつに邪魔されたってわけでもないですし……」
律子「……えーっと……ということは、小鳥さんと千早も?」
あずさ「ええ。音無さんは独自に、千早ちゃんは私と一緒に、とのことだったんですけれど……」
キョロキョロ
あずさ「……ふたりとも、いないみたいですね。どこにいるのかしら?」
P「……」
P(あのとき千早が映画館にいたのは、そういう事情があったのか……)
P(音無さんはなんだかわからないけど、どこかですれ違ったりでもしたっけかな?)
あずさ「……私ったら、ついつい、全部話してしまいましたね」
P「いえ、助かりました。……ん? 助かったってのもおかしいかな」
あずさ「うふふっ、ところで~……律子さん?」
律子「は、はい! なんですかっ?」
あずさ「どうやら、音無さんが言っていたことは本当だったみたいね?」
律子「! あ、いや、それは……!」
あずさ「もう、それならそうと言ってくれればよかったのに。私と律子さんの仲じゃない」
P「あはは、あずささん、実はそれ――」
グイ
律子「……」
P「……律子?」
あずさ「他の人には、内緒にしておいてあげますね」
あずさ「へんに噂されるのも嫌でしょうし、私がばしっと、噂は嘘でしたって言っておきますから」
律子「……じゃあ、お願いしますね!」
あずさ「はい、まかせておいてください!」
あずさ「それじゃあ私、今度こそ、迷子の千早ちゃんを探しにいきますね」
律子「あ、はい」
あずさ「それじゃあ、ごゆっくり~♪」パタパタ
P「お気をつけて……本当に……」
P「……なあ、律子」
律子「……なんですか?」
P「あずささんに、ちゃんと言っておかなくてよかったのか?」
律子「……」
P「あずささんにまかせたら、なんか余計にえらいことになりそうな気がするんだけど……」
律子「……なんとなく、ですけど」
P「……?」
律子「なんとなく、その……言いたくなかったんです。今日のこと」
P「なんでまた……」
律子「あーもう、わかりませんっ! 私に聞かないでくださいっ!」
律子「そ、それより! もうそろそろ、いいんじゃないですか?」
P「そろそろって?」
律子「ご飯です。ちょうどいい時間でしょう?」
P「っ!」
律子「……?」
P「ああ、そうだった! えっと……うわ、ギリギリだ」
律子「え? ギリギリって何が……べつに、そこまで急がせてるわけじゃないですよ?」
P「律子、ちょっと急ごう」
ギュッ
律子「……!? て、っててて、手!?」
P「わるい、今だけ我慢してくれ」
律子「そ、そんなこと言われても……何がなんだか……!」
P「走るぞ」
律子「ええ!? ちょ、いきなり……わ、わかっ、わかりましたからっ!」
―――
――
―
律子「ぜぇ、ぜぇ……こ、ここ?」
P「あ、ああ……う、オエエ……」
律子「……お互い、体力ないですね」
P「そうだな……」
律子「あはは……アイドルの子たちなら、これくらいなんともないんでしょうけど……」
P「あの子たちは、頑張ってるからなぁ……」
律子「……ほんと、そうですよね……」
P「……プロデューサーって、体力勝負なところもあるけどさ」
律子「あの子たちには、やっぱりかないませんね……ふぅ」
P「……」
律子「……で、なんでここなんですか? 説明してください、説明」
P「……ま、追々な。食べながら話そう」
【オシャレな高級レストラン】
律子「……」
P「……はい、ええ。予約してた……はい、すいません、ちょっと遅れて」
律子「……」
P「どうした?」
律子「あのっ!!」
P「きゅ、急に大きい声を出すなよ……この店、そういう感じじゃないだろ?」
律子「あ、す、すみません……じゃなくて、なんで私が悪いみたいになってるのよっ」
P「ほら、案内されるから、行こう?」
律子「……色々聞きたいことありますけど……本当にちゃんと説明、してもらいますからね」
P「わかったわかった……」
――♪
律子「……外から見たときは、わからなかったけど……」
P「……」
律子「この店、相当……アレですよね」
P「ああ……高級だ」
律子「……普通、予約とか必要な感じなアレですよね」
P「ああ……なんといっても高級だから」
律子「予約、してたんですか? っていうかまあ、してたみたいなアレですけど……」
P「ああ……高級だから、そういうことも必要だろう」
律子「いつ?」
P「……今日だよ」
律子「……でも今日は私達、ずっと一緒にいましたけど、そんな素振りは」
P「さっき俺はさ、社長に伝言があると言ったよな」
律子「ええ、それで一回、電話をしに……」
P「あれは嘘だ」
律子「……」
P「本当は、ここの予約をするための電話だったんだよ」
律子「……」
P「以前一度、撮影で使わせてもらったことがあってさ」
P「そのことをオーナーが覚えていてくれて……、急な予約だったんだけど、便宜を計ってくれたんだよ」
律子「バカじゃないの……」
P「……うん」
律子「それならそうって、普通に言ってくれればよかったのに……」
P「……そうだな」
律子「そんなことのために、私はあのとき……」
P「……」
律子「……今日の私の格好だって、そう。あまりに普通すぎて、かなり場違いじゃないですか」
P「そんなことないって……」
律子「あなたがしっかりした格好してる分、こういう場所じゃ、余計に浮くんですよ……」
P「……すまん」
律子「……もっと普通のところで良かったんですよ。居酒屋だってなんだって」
P「……背伸び、しすぎたかな」
律子「わかってるじゃないですか……」
律子「本当に、そう。そのとおりすぎて、涙が出てくるわ」
律子「べつに、どこだって、なんだってよかったんですよ」
律子「私は……あなたが、いれば……」
P「……」
律子「……プロデューサー」
P「なんだ?」
律子「……あなたは今日……恋人のフリをしてくれてるだけですよね」
律子「それで、私達は……嘘の恋人ですよね」
P「……そうだな」
律子「……だったら……」
律子「なんでそういうこと……私なんかのために、してくれるんですか?」
P「そんなの、決まってるだろ」
律子「……」
P「律子のことが、好きだからだよ」
律子「……――っ!」
P「律子のことが好きだから……、喜んで欲しかったんだ」
律子「……」
P「律子の嬉しそうな顔が見たかった。だから、俺なりに頭をひねったんだよ」
律子「……」
P「自分でも、慣れないことをしたと思う」
P「……いや、よく考えたら……、今日一日、全部が全部、慣れないことばかりだった」
律子「……」
律子「バカじゃないの……」
P「……うん」
律子「こんなことされたって、嬉しそうな顔、なんてできません」
P「そうみたいだな……」
律子「……こ、こんなことされたって……涙しか出ないわ……もう」
律子「バカ……!」
――♪
律子「……」
カチャ カチャ
P「……」
モグモグ……
P(そのあと間も無くやってきた高級なお食事を口に運んでいる間……)
P(俺達は、ずっと無言だった。乾杯の言葉すらない)
P(耳触りの良い高級なピアノ・クラシック)
P(時折フォークやらナイフやらが高級な食器にぶつかって鳴る高級な音。耳に入るものは、それだけだ)
P(言葉は交わさない。いや……、正確には、交わす言葉が見つからなかった)
P(……律子は、俺の発言を、どう思っているんだろう?)
P(そのときの俺の頭には、ただそのことしかなかった)
P(味なんてわかるか)
―――
――
―
律子「……ごちそうさまでした。美味しかったです、とても」
P「あ、ああ。そうだな、確かにうまかった」
律子「……あの、お金を……」
P「……」
律子「……もう」
P「俺の言いたいこと、わかってくれたみたいで嬉しいよ」
律子「今度は何を買っても、イーブンになりませんよ。こんなの……」
P「いらないって。ドリンクも、ポップコーンも」
律子「でもそれじゃあ、私の気が済まないんです。さっきも言ったでしょう?」
P「……それじゃあさ。代わりに一個だけ、して欲しいことがあるんだ」
律子「なんですか?」
P「さっきの返事、聞かせてくれないか?」
律子「……」
律子「さ、さっきのって?」
P「律子のことが好きだって言っただろ?」
律子「……」
P「……まあ、確かに、言葉は足りなかったと思う」
律子「え……?」
P「俺は律子のことが、好きだ。だから――」
律子「なな、何度も言わないでください! ひ、開き直ってるわね……?」
P「だからさ、付き合って欲しいんだよ」
律子「……っ」
ざわざわ……
P「……場所、移そうか。店の前だもんな」
律子「え、ええ……そうですね」
【公園】
P「ここなら、いいかな……誰もいないし」
律子「……」
P「律子」
律子「は、はい!」
P「改めて、言うよ。冗談でもなんでもない、本音を……」
律子「……」ゴクリ
P「……律子」
P「俺と結婚してくれ」
律子「」
P「頼む、頼むよ! 俺もう、律子のことが頭から離れないんだ!」
律子「」
P「生涯を捧げるのはお前しかないって思ってる! だから」
律子「」
P「ほら、婚姻届持ってきたからさ……な、な?」
律子「はぁあああ!? こ、こ、こん……!?」
P「実はさ、こんなこともあろうかと役所行って貰ってきたんだ」
律子「何を想定していたんですかっ!?」
P「土下座か? それくらいのこと、いくらでもするぞ!」
律子「ち、ちがっ……そういうことじゃなくてですねっ!」
P「このとおり……!」ズサッ
律子「フンッ!!!」
ドガッ
P「おうふっ あ、ありがとうございますっ」
律子「とにかく落ち着きなさいっ!」
P「あ、ああ……ごめん」
律子「……あの……本気で言ってます?」
P「本気も本気だ。律子と結婚したい」
律子「……さ、さっきと言ってること、違うじゃないですか。レストランじゃ、その……」
P「……まあ、確かに……」
律子「いい、いきなり結婚なんて言われても……その、私……!」
律子「無理です!」
P「っ!」ガーン
律子「む、無理無理無理……! ああもう、なんなのよもう……!」ワシャワシャ
律子「こんなこと言われるなんて……想定の範囲外だわ……!」
P「……そ、そんな……一体なんで……?」
律子「本当にわかってないんですか!?」
律子「……ごほん! いいですか、よく聞いてください」
P「はい」
律子「まず第一に、私がプロデューサーに彼氏役を頼んだその理由です」
P「理由……」
律子「私は、両親にお見合いをセッティングされそうになったから、嘘をついたんです」
律子「彼氏ならいるから心配しないで、って」
P「そ、そうだったな」
律子「……お見合いが嫌だった理由は?」
P「……今が一番大切な時期だから、そういうことにうつつを抜かしたくない、と」
律子「そうです、そのとおりです」
律子「だからまず、時期的に考えて、今は結婚とかはするべきじゃないんです」
P「じゃ、じゃあ……!」
律子「いいから、余計なことは言わずに私の話を聞きなさい」
P「わかりました……」
律子「次に、お金です」
P「えっ」
律子「自慢じゃないですけど、私はそれなりに貯金はあります」
P「あの」
律子「でも、急にそういう話になるとは思ってなかったから……」
律子「今の貯蓄じゃ、もろもろの費用のことを考えると、まだまだ全然足らないんです」
律子「お金の見通しも立たずに、将来設計を立てることはできません。そうですよね?」
P「そのとおりです……」
律子「プロデューサー。あなたは、貯金してますか?」
P「ま、まあ、多少は」
律子「いくら?」
P「えーっと……これくらい」
律子「甘いわ! 甘すぎです!」
P「ご、ごめんなさい!」
律子「まったく……よくこんなことで結婚なんて言えたものね……」
律子「最後に、その……」
P「……?」
律子「これは、まぁ……どうでもいいっちゃ、どうでもいいことなんですけど」
P「な、なんだ? 急に歯切れが悪くなったな」
律子「……あの日、あなたは……」
『律子ならすぐに、嘘じゃなく本当に、彼氏だって出来るだろうしさ』
律子「って言ったんです。覚えてますか?」
P「うん? ああ、たしかそのようなことを言ったような」
律子「それで、私は……」
『彼氏、か……お見合いで、なんてなぁ……』
律子「って言ったんですよ」
P「そ、そうだったな」
律子「……つまりですね、その……」
律子「……私は、結婚とかするなら……」
律子「もっとちゃんと段階を踏んで、からのほうがいいんです」
P「……まあ、そりゃそうだろうな。大抵の人はそうだ」
律子「わ、わかってるなら、いきなり結婚とか言わないでください!」
P「すいません……少し、先走りすぎた……」
律子「だからね! その……つまりですね!」
P「な、なんでしょうか……?」
律子「……そんなに、急がないで……まず、お付き合いから、したいんですよ……」
P「!」
律子「それで、ちゃんと結婚してもいいかってのを見極めて、それからですね」
P「……うん」
律子「だから……そう判断するまでの時間を、私にください」
律子「彼氏のフリとか彼女のフリ、なんかじゃなくて……」
律子「本当に……私の、恋人になって……」
P「……律子」
律子「な、なんですか!? もうキャンセル効かないわよ!」
P「キャンセルなんてするわけないだろ」
律子「……こ、後悔しない?」
P「……なあ、抱きしめていいかな」
律子「人の話を聞いてくださいよ!」
P「ダメか?」
律子「……」
律子「す、好きにしたら……?」
ぎゅっ
律子「……うぅ……死にそう……」
P「俺は今まさに生きてるって感じがするよ」
律子「そーよね、こんなに体熱いものねっ!」
P「律子もな」
お前にはオレが居るだろ
P「律子」
律子「……今度はなんですか」
P「結婚を前提に、俺とお付き合いしてください」
律子「……っ」
律子「はい……」
ぎゅー
律子「く、苦しいですよ」
P「……」
律子「もう……、本当に、なんでそういうこと、サラっと言えちゃうわけ……?」
P「律子のことが、こんなにも好きだからだよ」
律子「ま、またそーやって……! 恥ずかしいなぁ、もう……」
P「律子は今、どう思ってる?」
律子「……正直、わけわかんないです。恥ずかしいのと、嬉しいのと……、他にも、いっぱい」
P「律子だけに、いっぱいいっぱいってか!」
律子「寒いです」
P「ごめんなさい」
律子「……バカ」
律子「……でも……」
律子「私も……、あなたのことが、好きです」
―――
――
―
テクテク
律子「……♪」
P「……あ、それはそうと」
律子「どうしたんですか?」
P「婚約指輪は用意できなかったけどさ……」ガサゴソ
律子「婚約指輪!? い、いりませんよそんなの……今はまだ」
P「ほら、これ」
律子「……これ……って……」
P「あの高級な洋服屋さんで見てた、ジャケット。律子にプレゼントするよ」
律子「……はぁ~……」
P「た、ため息!? 喜ぶところじゃないか!?」
律子「……いつ買ってたんですか?」
P「いや、あの、トイレに行くって言ったときに」
律子「今になって思うと、確かに不自然でしたね」
P「あはは……」
律子「プロデューサー殿」
P「なんでしょうか……」
律子「ベタですね」
P「うぐっ……い、いいだろべつに! 俺だって、こういうの慣れてないんだ」
律子「……でも……」
P「大体、こういうのはベタなほう……が……――ッ!?」
律子「……ありがと」
P「」
P「あの……い、今、なにを……?」
律子「……その、私なりの……感謝の気持ち、というか……」
P「……」サスサス
律子「唇の感蝕を確かめないでくださいっ!」
P「……柔らかかった」
律子「感想もいりませんっ! こ、こっちまで余計に恥ずかしくなるわ……」
P「律子さん」
律子「なあに、急にそんな呼び方して……」
P「あの、もう一回」
律子「調子に乗らない」
P「……」
律子「……ま、そのうち、ね」
律子「今度からは、こういう高~い買い物をするときは、ちゃんと私を通すこと」
P「ええ!?」
律子「だってあなた、お金の管理できないでしょう?」
律子「大体、普段から思っていたんです。浪費ばっかりしてあれもこれも……」
P「……まるで、鬼嫁だな」
律子「あーら、その鬼嫁と結婚したいって言ったのはどこのどなた?」
P「……俺だった」
律子「そうね♪ よく出来ました」
P(結婚という言葉を使うのは……やっぱり早かったかな?)
律子「無駄にお金を使うなら、結婚を見据えた将来のために、貯金をしましょう」
P「結婚……うん、そうだな!」
律子「……あ、でも勘違いしないでね? い、今のプレゼントは、無駄と思ってるわけじゃ決してなくて」
律子「私だって、もちろん、その……嬉しい気持ちはたしかにあったんですから」
P「わかってるよ……証明、してもらったしさ」
P(……いや、早かったなんてことはない。俺の目に、間違いはなかった!)
P「なあ、律子」
律子「なんですか?」
P「……今度、改めてご両親に挨拶にいかないとな」
律子「……そうですね」
P「こないだのは彼氏のフリでした、嘘ついてすみませんって言いにいかないと」
律子「ふふっ、そういうとこ、へんに真面目なんだから」
P「そして、お義父さんの前でこう言ってやるんだ……」
律子「え? お、お義父さん?」
P「律子を……いや……」
P「娘さんを、僕にくださいってな!」
律子「気が早いって言ってんでしょうがっ!!」
おわり
でも少し休憩したあと、ちょっとだけ後日談を書く
【翌日 765プロ事務所】
P(さて……律子との色々があってから、一晩が経った)
P(俺達は無事、結婚を! 前提に! お付き合いをすることになったわけだけど……)
P(アイドルの子達には、なんて説明したらいいかな)
P(秘密にしておくのも、なんだか気が引けるんだけど……)
『時期が来るまでは、黙っていましょう。へんなこと言ってわざわざ動揺させることはありませんから』
P(……って、律子は言っていたが……)
P(時期っていつだ? 結婚する時?)
P(というか、動揺って……それくらいのことでビックリする子、みんなの中にいるのか?)
P(……まぁ、考えててもしかたないな! 俺は俺で、やることをやるだけだ)
P(そう……みんなをトップアイドルへと導き、もっともっと輝かせてやるという、大仕事だ……!)
ガチャ
P「おはよう、みんな!」
千早「」
P「oh……」
P(さっそくアイドルにふさわしくない表情をした女の子を発見してしまった)
P「ど、どうしたんだよ千早。もっと輝いてくれよ」
千早「」ギギギ
P「ひっ」
千早「……プロデューサー……オハヨウゴザイマス」
P「メカ千早になってる……」
千早「……――いうことですか」
P「えっと……なんだって?」
千早「どういうことですかと聞いているんですっ!!」
P「!? な、なにがだよ? とにかく、落ち着いて説明してくれ」
千早「説明? わかりました、なら言いますっ!」
千早「プロデューサーと律子がつきあっ――」
春香「ちーはーやーちゃんっ!」ゲシッ
千早「ああっ! な、何するの、春香っ」
春香「えへへ……亜美、真美!」
亜美「ラジャーだよはるるん!」
真美「真美たちにまっかせといて~!」
千早「待って、話はまだ……!」ズルズル
P「……」
P(何がなんだか、わからない……)
春香「そんなことよりっ、プロデューサーさんっ!」
P「あ、ああ。おはよう春香」
春香「おはようございますっ! えへへ、聞きましたよ、律子さんとのこと!」
P「ええ!?」
春香「おめでとうございますっ!」
春香「私、ふたりがそうだって知らなかったから、ちょっとビックリしちゃいましたけど……」
春香「でもでも! すっごく! お似合いのカップルだと思いますっ!」
P「そ、そうか! あはは、ありがとうな!」
P(なんだ……律子の奴、あんなこと言っておきながら、ちゃんとみんなに話してたんじゃないか!)
春香「いつから付き合ってたんですか? 詳しく聞かせてくださいよぅ!」
P「それがさ、つい昨日なんだよ」
春香「えっ」
P「えっ」
春香「き、昨日? そ、それはまた、随分と気が早いですね……」
P「そ、そうかな……あはは」
春香「あっ、でもでも、そういうのってきっと、時間かければいいってわけでもないですし!」
P「そ、そうだよな!」
春香「はい! だから私としては、全然オッケーだと思います! 善は急げって言いますからね」
P「はは……」
P(あれ? なんか話が噛み合ってない気がする)
P「……ところで、春香」
春香「どうしたんですか?」
P「その噂の律子はどこにいるんだ?」
春香「律子さん? 今日はまだ、見てないですけど……」
P「……」
春香「どうしたんです、そんな顔して……」
P「えっと……さ。それ、誰から聞いたんだ?」
春香「あずささんです!」
あずさ「ごめんなさい、プロデューサーさん……うふふ、ついつい話しちゃいました~」
P「」
P「あの……」
春香「あっ、でも、あずささんを怒らないでください!」
春香「小鳥さんと話してるところを、私が無理矢理、聞き出しちゃったんですから……」
P「いや、怒るつもりはないんだけどさ……」
春香「それにしても、ホント、ビックリしちゃいましたよ」
P「うん、まあ……付き合うなんて、昨日までは思ってもなかったからな」
春香「それで、もう妊娠だなんて!」
P「あずささあああん!!!?」
あずさ「私も、ビックリしちゃいました~……まさかそれで、結婚、だなんて」
P「こっちがビックリですよ!!! そんなこと、話してなかったでしょう!?」
あずさ「ええ、そうですね。でも、音無さんが……」
P「……音無さん……?」
小鳥「……」ブツブツ
P「……」
小鳥「……そうね……そうなったら、そうに決まってるわ……」ブツブツ
P「……」
あずさ「ごめんなさい、プロデューサーさん」
P「……なにがですか?」
あずさ「私、ばしっと、噂は嘘だって伝えようとしたのですけれど」
あずさ「音無さんがあまりにも……その、この件に関して、執着していらしたから……」
P「……しつこかったんですね」
あずさ「言い方を選ばなければ、そうですね~……」
千早「……」ブツブツ
P「……千早はなんで……?」
春香「……」
あずさ「……今はそっとしておいてあげましょう?」
春香「千早ちゃん、プロデューサーさんのユニットのリーダーだったから……」
あずさ「そうね……色々と、ショックだったんでしょうね……」
P「……」
P「と、とにかく。ふたりは、少し誤解をしているんだと思う」
春香「ええ!? ほ、本当は付き合ってなかった、とか……?」
P「いや、付き合っているのは本当だけど……妊娠なんて、してないんだよ」
P(そもそも、まだそこまでの関係には……)
春香「」
P「……春香?」
春香「どっ、どど、どうしよう……!」
P「どうしたんだよ……」
春香「ごめんなさいプロデューサーさんっ!!」
P「えっと……なにが? 誤解してたくらいじゃ、別に謝ることなんて」
春香「わ、私……みんなに……!」
P「え……」
春香「みんなにこのこと、メールで一斉送信しちゃいました!」
P「」
春香「よく考えたら、律子さんにも!」
P「おお……ここまで来るとむしろ気持ちいいなおい……」
バッターン
律子「ちょっとぉおお!! どういうことですかっプロデューサー!!」
P「ほらきた」
律子「なんでこういうことをペラペラと……というか、妊娠ってなに!?」
律子「私とあなたはそもそもまだ――!」
P「ち、違うんだって! これは、その……誤解なんだ!」
律子「誤解で子どもができますかっ!」
P「いやだから……」
亜美「兄ちゃん兄ちゃんっ! ほーんと、兄ちゃんもスミにおけないよね~」
真美「んっふっふ~! いっつの間に、律っちゃんとムフフなカンケーになったの~?」
P「だから……話をね……」
春香「ごめんなさい、私、なんてこと……」オロオロ
あずさ「ど、どうしましょう~……とにかく、みんなに……」
小鳥「……」ブツブツ
千早「……」ブツブツ
P「……」
P(なんかもう、色々、面倒くさくなってきちゃった)
P「……春香。誤解を解くようなメールは送らなくていい」
春香「えっ、で、でも……」ピコピコ
P「たぶんまた、尾ひれがついて回るだろうから……お願いします、もう何もしないで……」
春香「そこまで言うなら……」
P「……俺と律子が付き合ってることは、紛れもない事実だ。そうだよな?」
律子「……っ……。そ、そう、ですね」
P「そして、結婚の話。それも本当だ」
律子「!?」
あずさ「まぁ……おめでたいですね~」
P「残念ながら、妊娠はまだだけど……近い将来、必ず」
律子「なっなな、何を言ってるんですか!?」
亜美・真美「「いや~ん」」
律子「はやし立てるなっ!」
律子「うぅ~……な、なんなのようもう……」
亜美「律っちゃん律っちゃん」
律子「なによ……」
亜美「ママになるんだね……赤ちゃんには、亜美って名前をつけてね……」
真美「うあうあ~! 真美のほうがいいって!」
律子「それであんた達は嬉しいの……? というか、本気にしちゃダメよ。これはね、あの人の妄言なんだから」
亜美「モーゲン?」
真美「ホーゲン?」
P「方言じゃなくて妄言。勝手に想像して勝手に喋ってるってことだよ。そんなことないのにな……」
亜美「律っちゃん! 兄ちゃんがかわいそうっしょ!」
真美「そーだよ! 方言もどげんとせんといかんっしょ!」
律子「い、意味わかんない……それになんで、私が悪いみたいになってるわけ……?」
だれうま
律子「……あーもう、わかったわよ!」
P「!」
律子「否定もしないわ、この人とはたしかに結婚するつもり!」
P「り、律子……!」
律子「子どもは、まあ……まだ出来てないけど、そのうちね! 本当に結婚したらねっ!」
亜美・真美「「キャー!」」
律子「これでいいんでしょ!? もうっ、なんでこんなことに……」
P「律子……」
律子「なんですか……」
P「頑張ろうな」ニコッ
律子「フンッ!!!」
ドガッ
P「おぅふ あ、ありがとうございますっ」
律子「誰のせいでこんな恥ずかしい思いをしてると思ってるんですかっ!」
亜美「……ねぇねぇ真美」
真美「どったの~、亜美」
律子「大体ね、あなたはいつもいつも……行き当たりばったりで適当なこと……」
P「はい……はい……ええ、ごもっともです……」
ガミガミ……
亜美「なーんか、兄ちゃんと律っちゃん、ずっとあんなカンジっぽいよね」
真美「んっふっふー! たしかにそうっぽいね!」
ガミガミ……
亜美「でもあれだと、今までとあんまり変わんないね」
真美「そだね。もしホントに結婚しても、きっとそうだよね」
亜美「ママになっても」 真美「パパになっても」
亜美・真美「「ずーっと、おんなじだよね!」」
春香「……でも、ううん、だからこそ」
あずさ「……ふふっ、そうね。あれがきっと、みんなにとって一番の形なのかもしれないわね」
春香「そうです! 765プロのプロデューサーさん達は……」
あずさ「いつまでも、あんな感じで……、今までと変わらずに、私達のことを見守ってくれているのよ」
律子「それであのときも、あなたときたら……」
P「はは……」
律子「……ちょっと? ちゃんと私の話、聞いているんですか?」
P「は、はい、聞いてます!」
律子「じゃあその笑顔をやめてくださいっ」
P「あはは……律子こそ」
律子「わ、私は、べつに……そういうんじゃ、ないですからっ」
P「……なあ、律子」
律子「……なんですか?」
P「これからも、よろしく頼むな。ずっと、こんな感じでさ……」
律子「……」
律子「なーに言ってるんですか、いまさら」
律子「そんなの当たり前でしょ、旦那様!」
おわり
後日談は蛇足だった気もする でもりっちゃんかわいいよりっちゃん
面白かった
>>1も長い時間本当に乙
やっぱりっちゃんはいいなぁ
Entry ⇒ 2012.10.06 | Category ⇒ アイマスSS | Comments (0) | Trackbacks (0)
蒲原「久しぶりー」ワハハ 睦月「あ、先輩……」
睦月「え、ええ……まあ」
蒲原「お土産だぞー」ドサッ
睦月「どら焼き……ですか」
蒲原「おいしそうだろー」ワハハ
睦月「どこか有名なお店のものですか?」
蒲原「いや、そこのスーパーで買ってきたー」ワハハ
睦月「なんですかそれ……」
蒲原「ワハハー、うまいかー?」
睦月「……んぐ……え、ええ」
蒲原「ところでむっきー、佳織やモモはどうしたー?」
睦月「えっと……」
蒲原「??」
睦月「先輩、実はですね……そのことでひとつ、先輩に相談がありまして……」
睦月「はい……」
蒲原「どうしてまた……」
睦月「……」
睦月「おそらくですが、私なんかが部長を務めるこの部に、嫌気がさしたんだと思います……」
蒲原「そ、そんな……来なくなったのはいつ頃からなんだ……?」
睦月「……先輩方は引退後もちょくちょく顔を出しに来てくれましたよね?」
睦月「そのおかげか、3月まではまったく問題もなく活動していたのですが……」
睦月「先輩方が卒業し、新学期になったとたん、二人とも部室にくる回数が極端に減っていって……」
睦月「その頃はまだ、妹尾さんも桃子もしぶしぶながら活動には参加してくれていたので……」
睦月「ですが、興味を持ってくれるような子は誰一人いなくて……」
睦月「……」
蒲原「……」
睦月「そして今では、二人とも月に何回か足を運んでくる程度になってしまいました……」
睦月「今月に至ってはまだ顔も見ていません……」
睦月「……っ」
蒲原「むっきー……」
睦月「ご、ごめんなさい……! いきなりこんな暗い話をしてしまって」
睦月「今日はせっかく先輩が遊びに来てくれたというのに……私ったらダメですね、ほんとすみません……」
蒲原「いや、いいんだむっきー……」
睦月「た、楽しい話をしましょう! あ、そうだお茶入れてきますね?」タタタッ
蒲原「……」
蒲原(私が卒業してから、こんなことになっているなんて……)
蒲原(……)
蒲原(わたしはどうしたらいいんだ……ゆみちん……)
蒲原「え、えっと……うん、まあそれなりだぞー」
蒲原「大学は、残念ながらゆみちんとは違うとこになっちゃったけど、まあ充実してるかなー」
睦月「充実……ですか。それはよかったです」
蒲原「……む、むっきー」
睦月「せ、先輩はたしか一人暮らしですよね。大変じゃないですか?」
蒲原「うん、大変だぞー。なにしろ掃除に洗濯、料理までぜーんぶ自分でこなさなきゃならないんだからなー」ワハハ
睦月「でも、たしか門仲におばあさまの家があるとか言ってませんでした?」
睦月「同じ東京といっても乗り換えとかあるとけっこう大変そうですしね」
蒲原「うんうん、それに母ちゃんが『もう18なんだから一人暮らしくらいしてみなさい!』って言って無理やり……」
睦月「厳しいお母さまですね」
蒲原「まあ、早起きするのはつらいけど、それなりに頑張ってるよー」ワハハ
睦月「ふふ、それはなりよりです」
蒲原「……むっきー」
睦月「ん、なんですか?」
蒲原「私のことなんかより、お前の方は……」
睦月「……っ」
蒲原「で、でも……!」
睦月「……せめて」
蒲原「……?」
睦月「せめてこんな時くらい……楽しい気持ちでいさせてください……」フルフルッ
蒲原「……」
蒲原(むっきー……すごくつらそうだ……)
蒲原(私はむっきーのこんな姿、見たくない……でも)
蒲原(私に何ができるっていうんだ……っ)
蒲原「……」
睦月「……先輩」
蒲原「……な、なんだ? むっきー」
睦月「……」
睦月「……麻雀、打ちませんか?」ニコッ
蒲原「……」
蒲原「……うん」
―――それは、今にも涙がこぼれてきそうなほど、脆く儚い笑顔だった……
蒲原「……」カチッ
蒲原(……)
蒲原(こんなことをしていて……いいのか?)
蒲原(今はいいのかもしれない……だけど、私が東京へ帰ったあと、むっきーはどうなる……?)
蒲原(……)
蒲原(これは、逃げでしかない……むっきーにとっても、私にとっても……)
蒲原(……)
蒲原(こんなとき、ゆみちんならどうするんだろうな……)
蒲原(またゆみちんゆみちんって……私はいつもそればっかりだな……)
蒲原(自分では成長した気になっていても、何も変わっちゃいない……)
蒲原(後輩ひとり救えないようじゃ……部長失格だ)
蒲原(いやそもそも、私はもう部長じゃないんだったな……)
蒲原「ワハ、ハ……」カチャ
睦月「先輩……どうかしましたか?」
蒲原「……」
睦月「先輩……?」
蒲原「……むっきー」
睦月「は、はい……」
蒲原「……」
蒲原「ちょっとドライブにでも行かないか?」ワハハ
睦月「え」
―――――――――――――――――――
車内
睦月「あれ……普通だ」
蒲原「どうしたー? むっきー」ワハハ
睦月「先輩……運転うまくなってません?」
蒲原「そうかー? 東京の道路に慣れすぎたのかもなー」ワハハ
蒲原「いやぁ、なんだ。室内で麻雀ばかり打ってても退屈だろうと思ってなー」
睦月「……まさか先輩、さっき私に負けてたから中断したわけじゃないですよね……?」ジトッ
蒲原「ま、それもちょっとはあるけどなー」
睦月「あるんですか!」
蒲原「ワハハー」
睦月「もう……」
蒲原「……むっきー」
睦月「なんですか?」
蒲原「もういいんだぞ」
睦月「えっ……」
睦月「……」
蒲原「たぶんお前のことだから、『先輩たちが残してくれた麻雀部を守りきらなければ!』なーんて思ってたんだろー」
睦月「そ、そんなこと……」
蒲原「……むっきー、あのなー」
睦月「……」
蒲原「鶴賀の麻雀部での思い出は、私の中では宝物だ。それは死ぬまで……いいや死んでからも変わらないさー」
蒲原「それはおまえも同じだろー?」
睦月「……」
蒲原「でもなー」
蒲原「そのことがお前を縛り付けて、苦しめてるんなら、私はそんなもの捨ててしまってもかまわないと思ってる」
睦月「……」
蒲原「だって本末転倒だろー? 楽しむために部活やってるのに、それを守るために苦しまなきゃならないなんて」
睦月「……で、でも」
蒲原「ん?」
睦月「でも……楽しいことばっかりじゃないはずです。苦しいことだってあります……」
睦月「それが部長という立場ならなおさらです。だから私は……!」
蒲原「……」
蒲原「そうだなー。苦しくても頑張った思い出があるからこそ、楽しかったときの思い出が映えることだってあるなー」
蒲原「でもそれは、みんなで、だろ?」
睦月「……」
蒲原「それは、ちゃんとこういうことをお前に教えてこなかった私の責任でもある」
睦月「そんな……先輩のせいなんかじゃないです……」
蒲原「……」
睦月「先輩は……私にとっては憧れの先輩でした」
睦月「部員を縛りつけることなく、それでいてチームの心を引きつけ、まとめあげてしまう……」
睦月「たしかに加治木先輩に比べたら少し頼りないですし、いつも飄々としていてふざけてるように見えます……けど」
睦月「そんな先輩が……私は誇らしかった」
睦月「そして……私もこんな部長になりたいと、そう思ってました」
蒲原「でも……ありがとう」
睦月「……はい」
蒲原「……」
蒲原「……むっきー」
睦月「……はい」
蒲原「あとは考えるだけだ。むっきー自身が」
蒲原「一人で部を守っていくもよし、佳織やモモに向き合うもよし」
蒲原「少し活動を休めていろいろ考えるもよし、全部投げ出して新たな一歩を踏み出すもよし、さ」
蒲原「むっきーが考えて考えて、考え抜いた末に出した結論なら、私は応援するよ」
蒲原「だってそれは、『ただがむしゃらに部活を守っていかなくちゃ』っていう責任感に囚われていた今までのものとは違うんだから」
睦月「……」
蒲原「……うん」
睦月「考えて、考え抜いて、そして自分で決めます……自分のやりたいことを」
蒲原「うん、がんばれよ」
睦月「……」
睦月「……っ」ポロッ
睦月「……ぅ……っく……」
蒲原「ど、どうしたんだ?」
睦月「!」ゴシゴシ
睦月「な、なんでも……ありません……っ」
睦月「それより先輩、前見てください……」
蒲原「え……ああああっ!!」
衣「ふぇ……」
衣「ふぇえええええええええええええええん!!」
透華「衣、大丈夫ですの!?」
―――――――――――――――――――
蒲原「ふぅ……危なかったなー」ワハハ
睦月「よそ見するからですよ、まったく」
蒲原「だってむっきーが泣いたりするから……」
睦月「泣いてませんっ!」
蒲原「んー? ほんとかー?」
睦月「ほんとですよ!」
蒲原「それならいいがなー」ワハハ
蒲原「んー? 海」
睦月「……え? 今なんて?」
蒲原「だから海だって」ワハハ
睦月「えええええっ!? わたし明日学校ですよ!」
蒲原「まあいいじゃないかー、一日くらい」
睦月「よくないです! 私たちは大学生とは違うんですから!」
蒲原「ワハハ、ちょっとスピード早めるぞー」ブィーン
睦月「ちょ、ま、待ってくださいっ!!」
蒲原「長野の道路は広いなー」ワハハ
睦月「だ、誰かとめてぇえええええええ!!」
睦月「……」
蒲原「大丈夫かー? むっきー」
睦月「うっ……!」ダダッ
ゲェエエエエ
蒲原「おいおい……あんまり無理するなよー」
睦月「だ、誰のせいだと思ってるんですか……それにもう夜ですよ! 帰れないじゃないですか!」
蒲原「飛ばせばまだ間に合うぞー」ワハハ
睦月「もう乗りたくありませんっ!」
蒲原「まあまあ、ウチに泊まってけばいいじゃないかー」
睦月「はあ……もういいです」
蒲原「ごめんごめん、謝るよむっきー」
睦月「もう知りませんよ!」プイッ
蒲原「……」
睦月「……なーんて」
蒲原「え」
睦月「少しからかってみただけですよ」フフッ
蒲原「び、びっくりさせるなよー……」ハァ
睦月「先輩……ありがとうございました」
蒲原「ん、なにがだ?」
睦月「先輩のおかげで、なんかいろいろと吹っ切れました、わたし」ニコッ
蒲原「そのことはもういいってー」ワハハ
睦月「……」
睦月「……これからも」
蒲原「えっ?」
睦月「これからも、また遊びに来てくれますか?」
睦月「そう……ですよね」
蒲原「なに落ち込んでるんだよむっきー。誰も来ないとは言ってないだろー」
睦月「先輩……」
蒲原「暇になれば行くさー。むっきーの楽しそうな姿を見になー」ワハハ
睦月「……ふふ」
睦月「それじゃ、私も楽しくしていられるよう、がんばらなくちゃいけませんね」
蒲原「ああ、素敵な笑顔を見せてくれよー」
睦月「はい!」
カン
まあワハハのウチに泊まった二人のその後は、各自で補完もとい妄想しといてください
支援ありでした
おつです
乙
GJ
おつ
Entry ⇒ 2012.10.06 | Category ⇒ 咲-Saki-SS | Comments (0) | Trackbacks (0)
ハリー「宿題で潰れる休日」ロン「全く、ホグワーツってステキだよな」
ロン「優しい先生に楽しい授業、それに、やり応えのある山のような宿題」
ハリー「いたせりつくせりだよ、あぁ」
ロン「アンブリッジなんて、君に熱心な指導をするあまり、『僕は嘘をついてはいけない』って拳に直接刻ませちゃうんだもんな」
ハリー「教師の鑑だね」
ロン「おまけに奴さんの授業の方も、マーチン・ミグズがおったまげるようなハラハラドキドキの教科丸写しときた」
ハリー「心臓がいくつあっても足りないよ、我慢の限界って意味でね」
ハーマイオニー「……ねぇ二人とも。アンブリッジに不満があるのも分かるけれど、口より羽ペンを動かしていただけないかしら」
ハリー「不満なんてもんじゃないよ、ハーマイオニー。マーリンの、あれさ」
ロン「髭だね、もちのロンで」
ハーマイオニー「やる気がないのなら、帰らせていただくわよ?」
ハリー「勘弁してよ、ハーマイオニー」
ロン「君がいないと僕らは、この宿題を終わらせるまでの間に七年生になっちまうぞ」
ハーマイオニー「だったら真面目にやって頂戴!もう!」
ハーマイオニー「一週間も前に出された宿題なのよ?やる気があれば、その日に終わったはずなのに」
ハリー「1メートル20センチなんてレポートを早々に書き上げられるのは、ハーマイオニー。君くらいだよ、きっと」
ロン「あぁ、ビンズじいさんもここにきて面倒なもんを出してくれたよな」
ハーマイオニー「私達は『ふくろう(普通魔法試験レベル)テスト』を控えた学年なのよ?これくらい、当然じゃないの」
ハリー「そうは言っても、君がいなかったら僕らはこのレポートを前に『姿くらまし』していたかもしれないよ」
ロン「僕もハリーもクィディッチ選手になっちまったせいで、宿題なんてしている時間はないものな。クィディッチの選手!になったからさ、僕」
ハーマイオニー「去年までのお暇だったはずの終業後も、あなたは全く手をつけていなかったように思うわ、ロン」
ハリー「例えば?」
ロン「ハニー・デュークスの新作お菓子をチェックしたりだとか、さ」
ハーマイオニー「あら、お口が正に無駄な動きをしているようだけれど、私は帰っていいのかしら」
ロン「悪かったよ……お詫びに、ほら。新作のチョコをあげるから勘弁してくれよ」
ハリー「クィディッチ選手になっても、新作チェックはかかさないんだね」
ロン「他になにをしろっていうのさ」
ハーマイオニー「素敵な素敵な宿題なんてどうかしら」
ロン「そうなのかい?僕にはマグルの基準は、よく分からないけど」
ハーマイオニー「原稿用紙の枚数で指定されたりは、あるわね。でも……こんな風に、自由に書くような宿題はそう無いと思うわ」
ロン「ありがたいことじゃないか」
ハリー「これでもかってほど、大きく書いて稼いでるものね、僕ら」
ハーマイオニー「言っておくけれど、あまりにも内容が少ないと減点されるわよ?」
ロン「僕らなんてまだ、いいほうさ。この間、ゴイルのレポートをチラッと見たんだ」
ハリー「どうだった?」
ロン「文字の大きさも、汚さも。まさにゴイルだったね」
ハリー「トロール並み?」
ロン「評価もTに違いない」
ハリー・ロン「「HAHAHA!!」」
ハーマイオニー「あなたたちも同じ穴の狢よ、このままでいくのなら」
ロン「ビンズじいさんめ、アンブリッジのご機嫌伺いでもしてるのかな」
ハーマイオニー「アンブリッジが制定した法案だものね……でも先生に限って、それはないと思うわ」
ハリー「そういうことを気にしそうな人じゃないものね。そもそも人じゃないけど」
ロン「あぁ、マイペースの塊みたいなものだもんな。死んだことにも気づかなかったんだっけ?」
ハーマイオニー「ゴーストって、そんなに簡単になれるものなのかしら。いつか、城にいるゴーストたちに聞いて回って調べたいわ」
ロン「そりゃいいや。きっと連中、快く答えてくれるだろうさ。場合によっちゃ君にも是非って言うかもな」
ハリー「笑えないよ、ロン」
ハーマイオニー「今に始まったことじゃないわ」
ロン「あぁ、真面目に考えるとしようか……『反・人狼法の制定により、魔法界は……』どうなったのさ?」
ハーマイオニー「書ききるまで教えるはずないじゃない」
ロン「そんな!それじゃぁ君はなんのためにここにいるのさ、だ!」
ハーマイオニー「あなたたちがきちんと宿題をこなすように、よ!」
ロン「ハリー、君までハーマイオニー側に行かないでくれ」
ハーマイオニー「それってどういう意味かしら」
ハリー「君は知的で最高ってことさ」
ハーマイオニー「あら、ありがとう」
ロン「ハリー、ハリー!僕はどうだい!?」
ハリー「チェスが強いね」
ロン「……まあね!」
ハーマイオニー「それでそこまで得意げな顔ができるあなたが、ここまで来ると微笑ましいわ」
ハリー「ともかく、ロン。僕らにとって身近な人のことで、考えてみようよ」
ハリー「今のところ、他に僕らの知り合いで月に一度けむくじゃらになる人はいないね」
ハーマイオニー「早々いてもらっても困るわ、ハリー」
ロン「ハグリットはいっつも毛むくじゃらだけどね」
ハリー「そういえばハグリットって、昔、自分のベッドの下で狼人間を育てようとしてた、って言ってたっけ」
ハーマイオニー「……三つ子の魂百まで、ってことかしら」
ロン「狼人間と人狼って、どう違うのかな」
ハリー「水中人と人魚みたいなものじゃないかな。ともあれ、リーマスのことさ」
ロン「リーマスは仕事につくことが難しくなった、って言ってたっけ」
ハーマイオニー「スナッフルがそう言っていたわね。アンブリッジいついて、私達に聞かせられないくらい罵ってる、って」
ハリー「結論、僕のおじさんの主食がドッグフードになる」
ロン「ペットショップは大繁盛ってわけか」
ハーマイオニー「ハリー、それは結論じゃなくて極論だわ」
ハリー「……この前、手紙で嘆いていたんだ」
ロン「まぁ僕が思うに、スナッフルもその仕打ちをされるくらい我がまま放題なんじゃないかな」
ハリー「基本シリウスは悪食だからなんでも食べるらしいけれど」
ロン「逃亡生活で必要に迫られたんだろ」
ハーマイオニー「ネズミを食べてた、って。去年言っていたわね」
ハリー「昔はトースト一枚にもフォークとナイフを使うお坊ちゃんだったのに、ってリーマスが嘆いてたよ」
ロン「今じゃもう鷲掴みだろうな」
ハーマイオニー「ハリー、スナッフルの話もいいけど宿題の話題に戻ってくれるかしら」
ロン「そういえばあの二人と揃って話すのは、三年生の時以来だったんだものな」
ハーマイオニー「それは素晴らしいことだけれど、きっと今後たくさんあるじゃない。それより今は目先の宿題よ」
ハリー「うん、そうだね。スナッフルともよく、スナッフルの無実が証明されたらどんな生活をしようか話し合うよ」
ロン「微笑ましいなぁ」
ハーマイオニー「分かった、分かったわ。あなたたち、とことん宿題をしない気ね?私、ようやく分かったわ」
ハリー「君にしては時間がかかったね。ロンの羽ペンなんて、最初から綿飴羽ペンさ」
ハーマイオニー「ペンだけじゃなくって、私のことも舐めきっていた、ってわけ?」
ハリー・ロン「「HAHAHA!!」」
ハーマイオニー「二つの意味で冗談じゃないわ」
ハリー「まぁまぁ。ほら、最近三人でゆっくりできなかっただろう?」
ロン「僕はクィディッチのメンバーになっちまったしね。クィディッチの、キーパーに」
ハーマイオニー「過ぎるくらい存じてるわよ」
ハリー「いい天気だったし、部屋に篭りきりな君を連れ出そうと思って」
ハーマイオニー「……ふぅ。そうね、息抜きも……たまーには、いいかもしれないわ」
ロン「そうこなくっちゃ」
ロン「ハリー、今のは君の作り話の中でも五本の指に入ると思う」ヒソヒソ
ハリー「あとでチョコを頼むよ」
ハリー「うん、そういう約束だから」
ハーマイオニー「ハリーの後見人だものね、スナッフルは」
ハリー「ゴドリックの谷の、父さん達の家を立て直すんだ」
ロン「そりゃいいや」
ハーマイオニー「素敵ね」
ハリー「それで、スナッフルには大きな屋根のついた、立派な犬小y」
ロン「ハリー、ストップ」
ハーマイオニー「リーマスが茶々をいれたのね、おそらく」
ハーマイオニー「あなたとスナッフルが楽しそうに話す光景と一緒に、リーマスが静かにスナッフルを睨んでいる姿が見えたわ」
ロン「凄いじゃないか。君、トレローニーにとって代われるんじゃない?」
ハーマイオニー「冗談。私が『占い学』の教授になったら、まずは水晶玉を叩き割ることから始めるわ」
ハリー「今よりよっぽど楽しいだろうね」
ロン「ふやけた茶色いものをいっぱい眺めてるよりはマシだよな、あぁ」
ロン「そうなるだろうね」
ハーマイオニー「私とハリーが二人で話している時のあなたのようだわ」
ロン「どういう意味さ!」
ハーマイオニー「心が狭いということよ。リーマスは偶に、のようだけれど」
ハリー「喧嘩はやめれくれよ」
ロン「僕はハリーとフォーメーションについてだったり、色々話すことがあるんだよ!」
ハーマイオニー「私だって、D・Aについて山ほど話し合うことがあるんだもの!」
ハリー「……なんだか不思議と疎外感がないのはなんでだろう」
ハーマイオニー「収入が心配ね」
ロン「……ハーマイオニー、夢の話にそういうのを持ち込まないでくれよ。僕にまで飛び火しちまう」
ハリー「その辺は大丈夫、僕が成人するまでは父さんの遺産とスナッフルの財産があるから」
ハーマイオニー「ダメな大人なんだか計画性があるんだか分からなくなってきたわ、スナッフルのこと」
ロン「いざとなったらネズミを食べて凌げるしね」
ハリー「家計が助かるね」
ハーマイオニー「スナッフルをどうしてもペット枠にしたいの、ハリー?」
ロン「へぇ?」
ハーマイオニー「意外ね。どうして?」
ハリー「僕が、そっちの方が慣れているんじゃないか、って」
ロン「ハリー基準だなぁ」
ハーマイオニー「そうね、あの二人ならそんな気がするわ」
ハリー「でも僕は魔法界にいたいし、マグルといったらダーズリーんとこしか思い出がないから、どうだっていいんだ」
ロン「寧ろ自由になって一番最初にスナッフルは乗り込みそうだよな、君のおじさんのとこ」
ハーマイオニー「犬の姿でそうしたんじゃなかったかしら?」
ハリー「うん、あの時その事情を聞いていたら、十数年ぶりにお腹一杯になれただろう、って言ってたよ」
ハリー「ほら、スナッフルはあそこ、嫌いだから」
ハーマイオニー「私達があんなに頑張って掃除したけれど、陰湿な雰囲気は抜けきらなかったものね」
ロン「クリスマスあたりには明るくなってるといいよな」
ハリー「僕が冬に帰るって言ったら、スナッフルもやる気を出すかな」
ロン「そりゃもう、クリーチャーがダンスローブに身を包むほどだろうさ」
ハリー・ロン「「HAHAHA!!」」
ハーマイオニー「クビという意味なのか、それほどまでに綺麗にされるだろうということなのか、分かりかねるわ」
ロン「どっちもさ。あ、君の『反吐』としては、前者の方がいいのかな?」
ハーマイオニー「S・P・E・W!反吐じゃないったら!」
ロン「まぁ安定だよな」
ハーマイオニー「お父様やお母様も喜ばれると思うわ」
ハリー「うん、それにシリウスもグリモールドプレイスよりよっぽど地元のようなもの、って言ってたし」
ロン「いりびたってたんだろうなぁ、ハリーの両親のところに」
ハーマイオニー「戦争中だったみたいだもの、それはどうかしら」
ハリー「僕が生まれた後、何度父さんにたたき出されたか数え切れなかった、って言ってたよ」
ハーマイオニー「戦争ってなんだったかしら」
ロン「ハリーの前じゃふわふわの小さな問題だったんだろうさ」
ロン「君なら余裕すぎてお釣りに『マグル製品不正使用取締局局長』って役職まで着いてくるだろうさ」
ハーマイオニー「ロン、あなたのお父様のお仕事をそんな風に言うものじゃないわ」
ハリー「そうだよ、おじさんは立派だ……それで、二人にもたまに手伝ってもらいながら、僕も仕事になれていくのさ」
ロン「『例のあの人』の時代に騎士団だった二人だもんな、あぁ」
ハーマイオニー「並大抵の魔法使いにあ遅れをとらないでしょうね」
ハリー「それで、僕も大人になって……で」
ロン「うん」
ハーマイオニー「えぇ」
ハリー「僕が……あー、誰かと結婚することになったら……ってとこで、スナッフルは急に犬になって戻れなくなるし、リーマスも『急に発作が!!!』って、どこかに行っちゃうんだ……」
ロン「……まぁ」
ハーマイオニー「……予想通りだわね」
ハリー「えーっと、僕は親とか、兄みたいに思っているけど」
ハーマイオニー「ハリー、多分それは二人に言わないほうがいいわ」
ハリー「どうしてだい?」
ロン「二人をカラッカラのミイラにしちまいたいんなら止めないよ」
ハーマイオニー「あぁ、スナッフルがちぎれんばかりに尻尾を振る姿が容易に想像できるわ……」
ハリー「? なんだか今日の君は詩的だね」
ハーマイオニー「あなたのお父様がいたころはもっと騒がしかったんでしょうね、ハリー?」
ハリー「あぁ、うん。マクゴナガルの眉間の皺の9割は私達のせいだ、って言ってたね」
ロン「スネイプのトラウマは?」
ハリー「手の指ってどうして10までしか数えられないんだろうね」
ハリー・ロン「「HAHAHA!!」
ハーマイオニー「そういう扱いが今のスネイプ先生のあなたへの態度に現れてるんだと思うわ、ハリー」
ハーマイオニー「……どうかしら。さっきも言ったけれど、『例のあの人』全盛期の時代でしょう?」
ロン「さっきも聞いたけど、あまり気にしてなさそうだよ、スナッフル達は」
ハリー「同感」
ハーマイオニー「……なんだかそんな気もするわ」
ハリー「現に僕らも、気楽なものじゃないか。普通に学校で、優しい優しい先生のもと楽しい授業に励んでいるよ」
ロン「あぁ、特にあのカエルババァなんて最高さ、正に『S・P・E・W』が出るね」
ハーマイオニー「『反吐』!『S・P・E・W』じゃないったら……あ」
ロン「……へぇ?」
ハリー「……」
ハーマイオニー「……」
ロン「へーぇ?」ニヤニヤ
ハリー「ロン、それ以上は、僕はやめた方がいいと思う」
ハーマイオニー「いいえ、ハリー。もう遅いわ。さぁロン、小鳥と蝙蝠の鼻くそ、どちらがいいかしら」
ハリー「あーぁ、ロンの顔がソバカスだらけから糞だらけに」
ハーマイオニー「自業自得だわ。さっ、スナッフルたちの興味深いお話もひと段落したところで、本格的に楽しい宿題の時間といきましょう?」
ロン「あー、ハーマイオニー。僕らはほら、君の息抜きのために、さぁ」
ハーマイオニー「えぇ、とっても粋な計らいをありがとう。お礼にしっかり指導してさしあげるわ」
ハリー「……ロン、諦めよう。ほら、羽ペンだ。スナッフルとリーマスにこの課題について意見を聞く手紙を送るからさ」
ロン「そうしてくれよ……もちの僕でね」
ハーマイオニー「言いたいだけね、今の。早く始めるの!」
ハリー「『スナッフルへ スナッフルが今ホグワーツにいたら、もっと楽しかったでしょうにね』っと」カキカキ
ハーマイオニー「ハリー、私の苦労が二乗どころで済まなくなるからやめて頂戴」
ハリー「糞まみれに、ね」
ハーマイオニー「それに関しては自業自得です、ってば。いいじゃない、ジニーにかけらそうになったときの心構えが分かったでしょう?」
ロン「……ジニーにこの呪いを教え込んだのって、まさかとは思うけど」
ハーマイオニー「さぁ、もちのあなたと言わせてもらうわ」
ハリー「諦めよう、ロン。スナッフルも言ってたよ、母さんの思い出を語るときに」
ロン「なんだって?」
ハリー「魔法使いは、どこまでいっても魔女に敵いっこないのさ」
ロン「違いない」
完
シリウス「リーマス、どうだ!私も……ワフンッ、僕もまだまだ学生でいけるんじゃないか?」
リーマス「……シリウス、三十路過ぎのおっさんがクローゼット引っ掻き回して何をしているのさ。あ、でもそのタイは残しておいてくれるかい?君の今度からの散歩用リードはそれにしてあげようじゃないか」
今度こそ、完
次はもっと長くやるからここらで
ラドクリフお大事に
じゃあの!
ハリー・ポッター シリーズ
一巻~七巻まで
世界的大ヒット発売中!
2014年後半 USJにて
ハリポタアトラクション建設決定!!
おもろかった
Entry ⇒ 2012.10.06 | Category ⇒ 版権物SS | Comments (0) | Trackbacks (0)
P「さすが小鳥さん!Photoshopの達人ですね!!」
P「何の話しって、Adobe製品の話しですよ」
小鳥「だ、だからなんで私がその達人、になってるんですか?」
P「え、だってこの小鳥さんの加工したのって……」
小鳥「」
P「うわ!小鳥さんがまるで、目に白塗り入れられたかのように白目むいてる!!」
真「ベルばらですね!」
P「真、どこから出てきた!?」
小鳥「……ハッ」
P「気が付きましたか、小鳥さん」
小鳥「私は一体……」
P「都合のいいように、記憶の削除まで……」
小鳥「プロデューサーさん、何もありませんでしたよね?」
P「は、はい」
小鳥「なら良いんですよ」
小鳥「~♪あ、やよいちゃんお菓子届いてたわよ~」
P(それに音無さんのパソコンに何故か使うはずのにPhotoshopCS6がインストールされていた……聞いた話しによると、春香の学生証を使ってAcademicの安いやつを購入した、と)
小鳥「ふふ、やよいちゃん大丈夫よ、私はさっき食べたから」
P(凄く気になる……これは、やるしかない、小鳥さんのパソコンを―――調べる)
小鳥「……?さっきからどうしたんですか?プロデューサーさん、考え事して」
P「ああ、いえ。今後の予定について考えてたんですよ」
小鳥「そうですか、午後から春香ちゃんのレッスンでしたよね」
P「はい、今日のレッスンは気合入れようかと。その後事務所帰ってきて少し夜まで仕事しようかと。ライブも近いので、スケジュールしっかりしたいと思って」
小鳥「そうなんですか……えっと、徹夜しますか?」
P「場合によっては……鍵貸してもらってもいいですか?」
小鳥「はい、無理しないでくださいね」
P「すみません……」
P(よし、これでOKだな)
春香「あ、プロデューサーさんお弁当自分で作ったんですか」
P「……」もぐもぐ
春香「プロデューサーさん?」
P「あ、ああ、春香か。すまんすまん」
春香「考え事ですか?」
P「ちょっとな……そうだ、春香にも聞いてみよう。これなんだけどな」
春香「? はい」
小鳥「お昼食べてきますね」
P「はーい、行ってらっしゃい。ちょうどいいな」
春香「いってらっしゃーい!ちょうどいい?って?」
P「ええっと、待ってな」カチッカチッ
春香「小鳥さんの画像?」
P「ああ、ちょっと見てみてくれ」
春香「可愛いですよね、この小鳥さん。写真写り良い感じで」
春香「え?」
P「次にこの写真を見てくれ」
春香「これって……昨日の小鳥さんですよね」
P「よく分かるな」
春香「分かりますよ、クマ隠してるメイクが一目瞭然で」
P「なるほど、流石アイドルだな」
春香「えへへ、メイクさんとよくそういう話しもするんですよ」
P「ふむ……だとしたら、だ。さっきの画像は少しおかしくないか?」
春香「そういえば……確かに違和感があるといえば、ある、というか」
P「そうだろう?」
春香「はい、そうですね……よーく見比べると、ここらへんのシワとかが不自然な感じで。どうしてもメイクでも隠し切れないシワってあるんですよ。それに最近のカメラは凄い高解像度みたいで」
P「そうだな、地デジの写りと、アナログの写りが違うみたいな感じだよな」
春香「そうなんです……それで、プロデューサーさんはこれがどうしたんですか?」
P「……春香、Photoshopって知ってるか?」
P「そうだな、そういう場合では明るさを変えたり、コントラストを変えたりして、写真写りを良くするために使うんだよ」
春香「なるほど……」
P「で、この前春香の学生証使って、買ったんだよ。うちの事務所でも」
春香「ふむふむ」
P「ちょっと起動してみるな」
春香「はい」
P「春香、自分の写メあるか?」
春香「あ、この前お花見の時に撮ったのなら」
P「そうか、ちょっと見せてくれないか」
春香「はい、ちょっと待ってくださいね……」
P「暗いな」
春香「そうなんですよ……カメラがボロボロで……しかも表情も微妙で」」
P「ちょっと俺のメールアドレスに送ってもらっていいか」
P「来た来た、これをダウンロードして……よし、この状態になる」
春香「わぁ、なんかそれっぽい……」
P「それっぽいっていうか、その仕事で使ったものと同じなんだけどな……ただ使い方が難しいんだよ、これ」
春香「そうですよね、なんだかごちゃごちゃしてる感じが」
P「小鳥さんはそれの達人なんだ」
春香「え、ええ!?小鳥さんが!?」
P「ああ……前にモデルでやったのは、えっと……」
春香「なんだか面白いですね、自分の写真が変化するのって」
P「ここで明るさ変えて、ここでコントラスト変える、自動でやってくれるんだな、これ」
春香「わ、凄い!全然違いますね!」
P「最後にトーンも自動変更したら、見違えるように違うだろ?」
P「そこなんだよ、どんなものでも綺麗に見えるように出来てしまう魔法アイテムなんだ」
春香「じゃあ雑誌で凄い綺麗だな~って思った人も……」
P「中身はともかく、表紙は割りと加工されてるな。たまに加工しすぎて奇形になってたりする」
春香「ええー……なんだか夢が崩れますね」
P「あとは、例えばこの春香のリボン消せたりする」
春香「わ、私じゃなくなりますよ!?」
P「え、そうなのか」
春香「……と、トレードマークが無くなるのは……」
P「と言ってる間に、スポイト修正ブラシツールと、テキトウにシャープかけたり上からなぞったりして完成」
春香「誰ですか、このビショウジョは!?」
P「オマエだよ、春香」
春香「凄いですね……」
P「まぁ違和感はあるけどな、俺は初心者レベルだから」
P「ん?どうした」
春香「もしかして、ここで見たのと、Webページで見たのって、違いますか?」
P「おお、よく知ってるな」
春香「いやちょっと今ピーンと来たんですよ。ここのPhotoshop上では違和感無いように見えても、アップロードしたら違和感が丸出しになっちゃうんじゃないかな、とか」
P「まさに今体験した通りだな、これをアップロードすると……こうなるんだな」
春香「やっぱりそうですよね!髪の毛の部分流石にバレちゃいます」
P「ああ……まぁ、小鳥さんはそれさえも凌駕するからな」
春香「なるほど……」
千早「話は聞かせてもらいました」
P「!?」
春香「!?」
千早「食べていたんですけど、お二人の話しを聞いてたら居ても立ってもいられなくて」
春香「ち、千早ちゃんとりあえずお箸置こうよ」
千早「あ、あ……///」
P「あはは……」
春香「千早ちゃんはどうしたいの?」
千早「……春香だから言うし、プロデューサーだから恥は覚悟で言います」
P(なんだ普段感じられないような、この千早から感じる重圧)
春香「ち、千早ちゃん……」
千早「この写真の胸を……少し大きくしてください」
春香「こ、これって……」
P「いつだったかの宣材写真じゃないか……しかも失敗した」
千早「はい、でも手元にはこれしかなくて……」
春香「宣材写真って加工するの有りなんですか?」
春香「それに、千早ちゃんプロフィールに3サイズ載ってるから……」
千早「良いんです、大丈夫です……これは私用ですから」
P「し、私用?」
春香「私用……」
P「なにに使うんだ……」
千早「そ、それは……い、言わせないでください!」
P「ああ、すまん、千早……でもな、千早。俺はまだ初心者なんだよ。この前こういう使い方が出来るって、カメラの人に聞いたんだ。それで、この事務所では小鳥さんが達人って話をしていた」
千早「!? それでは、音無さんに……」
P「まままま、待て!千早!早まるな、小鳥さんはまだお昼から帰ってきてないし、それに小鳥さんにはさっき聞いたんだよ」
千早「……答えの方は?」
P「……すっとぼけられてしまった。さっき春香に説明した通りに説明すると、カクカクシカジカで……」
千早「なるほど、凄いですね。でも私には無理そうです……メカ音痴?というものらしいので」
春香「でも、この前Walkmanの使い方教えたら出来たよ?千早ちゃん」
千早「あれはCD入れるだけだったから……」
千早「とにかく、どうすればいいですか?」
P「どうするもなにも……うーん、ちょっと俺がやってみるよ」
千早「本当ですか!?」
P「き、期待するなよ!?」
千早「は、はい」
春香(初めてみた……)
P(こんな笑顔の千早を……これを宣材にしたかったものだな……)
ちょっと待っててね
P「……こんな感じか?」
春香「お、おお……」
千早「これ、は……」
P「ちょっと粗があるけど、こんなもんだろ。ぼかしかけても良かったんだけど、あんまり加工すると顔とのバランスがおかしくなると思うしな」
千早「ありがとうございます、プロデューサー、尊敬してます」
P「お、おい……」
千早「印刷してもらっていいですか?帰りに写真立て買わないと……見て、春香中のシャツの影。ふふ……」
春香「千早ちゃん……」
P「俺が悪かった……」
小鳥「何してるんですか?」
P「!?」
春香「ッ!?」
千早「あ、今実は……」
千早「え?そんな予定は……」
P「い、い、今たったんだ!!な?な?」
千早「は、はい……分かりました」
P「あとで車で送るから、待っててくれ、な?」
千早「ふふ、あ……ご飯食べてても良いですか?車で」
P「大丈夫だ!」
千早「分かりました、待ってますね」
P「……ふぅ」
小鳥「プロデューサーさん?そんな予定入ったんですか?」
P「は、入ったんですよ、なぁ、春香?」
春香「は、はい」
小鳥「そうなんですか、気をつけてくださいね天気も悪くなりそうですから」
P「あ、ありがとうございます……」
春香(危なかったですね、プロデューサーさん)ボソボソ
春香(えへへ、私も気になりますから)
小鳥「あれ?でも今日って春香ちゃんレッスンのはずじゃ……」
春香「あ、あわわ!きょ、今日はコーチの先生が風邪ひいちゃったみたいで!お休みになったんです!」
小鳥「あら……そうなのね。季節の変わり目に体調崩し人多いわねぇ~……」
春香「そ、そうですねー私も気をつけないと」
小鳥「ふふ、そうね。765プロのホープなんだから」
春香「えへへ……」
P(春香、グッジョブだ)
春香(きょ、今日レッスンいいんですか?)
P(ああ、こうなったからには仕方ない……春香も今日の夜残って、小鳥さんのパソコンを見るしかない)
春香(な、なんだかワクワクしますね!)
小鳥「?」
小鳥「はーい、って春香ちゃんも?」
春香「はい、予定無くなってしまったので今日はあがりますね!」
小鳥「はーい、春香ちゃんもお疲れ様。やよいちゃん達は律子さんが送るんですか?」
P「そうなってます」
小鳥「了解です、私も、もう少ししたら今日の分終わるんで、今日は早く帰っちゃおうかな」
P「良いんじゃないですか?社長にも俺が言っておきますよ、今日は残るつもりなので」
小鳥「あ、そうでしたよね。プロデューサーさん残るなら、ゆっくりでも……」
P「いえ!たまには小鳥さん羽を伸ばしてください!」
小鳥「え、ええ!?」
P「お願いします!」
春香「お願いします!」
小鳥「は、春香ちゃんまでー!?」
P「小鳥さん……クマできてますから」
小鳥「ギクッ……」
小鳥「もー!分かりました!今日は早上がりします!二人共千早ちゃん待たせてるんですよ!?早く行ってください!」
P「は、はい!」
春香「行ってきます!」
小鳥「……変な二人だったなぁ」
千早「えへ……ふ、ふふ……」
春香(ずっと写真眺めてる……)
P(運転しながらだと気になってしょうがないんだが……)
千早「これが、私……」
春香「……」
ブーン
P「さて、千早も無事(?)家に届けたことだし、春香はどうする?別行動にして、後で事務所で合流するか?」
春香「いえ!今日はプロデューサーさんとデートします!」
P「」
春香「冗談です!でもさっきの画像加工が気になるかなって感じです」
P「ああ、そうか。えっと、それじゃあカフェ入ってパソコン眺めるか」
春香「あ、良いですね!この前マカロンの美味しいカフェがあって!あ、でも車止められるかな……た、確かタイムズが近くにあったと思うんで、そこ行きませんか?」
P「分かった分かった……」
春香「……っと」バタンッ
P「なんだ、助手席乗るのか」
春香「話しながらのほうが楽しいじゃないですか?」
P「まぁーそうだけどもな」
P「春香ナビか、大丈夫だろうか」
春香「あずささんよりは正確です!」
P「比較対象がなぁ……」
春香「良いじゃないですかー!あ、そこ右です」
P「ほいほい」
春香「そしたら、しばらく直進。右手にマクドナルドが見えたら、また右折です。したら、左手にタイムズが見えてくると思います」
P「あれ、滅茶苦茶ナビ上手いじゃないか」
春香「そ、そうなんですか?ここに書いてあることを言っただけなんですけど」
P「便利だな携帯電話!ちょっと春香凄いと思ってしまったぞ、俺」
春香「こういう機能を使いこなせるんですから、凄いんですよ!えへへ」
P「まぁそういうことにしておくか……あ、あれだな」
春香「はい!」
P「2名です」
店員「喫煙禁煙は」
P「禁煙で」
店員「……って、あれ?もしかして、アイドルの天海春香さんですか?」
春香「ふぇ?」
店員「ほ、本物ですか!?キャー!!」
春香「は、はい!で、でも今日はプライベートなので」
店員「そ、そうですよね、ごめんなさい。それじゃあお席ご案内しますね」
春香「でも嬉しいですよ、ありがとうございます!」
店員「い、いえいえ」
P「春香も人気になってきたな」
春香「えへへ……『今日はプライベートなので』なんて偉いこと言っちゃいましたよ」
P「でも事実だろ?」
P「あ、店員さん。珈琲二つと、このマカロンセット?ってやつを一つ」
店員「かしこまりました、少々お待ち下さい」
P「よし、それじゃあ始めるか」
春香「はい!」
P「えーと、何からやろうか」
春香「そうですねー……例えば、画像とかにテロップつけたりとか出来るんですか?」
P「ああ、テレビ番組みたいにってことか」
春香「はい!スクープ!天海春香、見知らぬ男性とカフェでデート!とか」
P「それ洒落にならないぞ……それに俺はスーツだし、明らか仕事だって分かるだろ」
春香「むー……」
P「まぁそれはともかく、テロップとかスクープ記事みたいには出来るぞ。よーし、待ってろよ……」
待ってろYO
春香「マカロン美味しいー……ってできたんですか?」
P「こんな感じでどうだ?」
春香「凄いんですけど、なんで私こんな微妙なコメントしてるんですか!?」
P「だって実際してなかったか?」
春香「してましたけど、テレビでは流石に言いませんよ!!」
P「うーん、そうか……春香なら、そのまま答えそうだと思ったんだけどな」
春香「もー……でも、本当テレビみたいですね」
P「そうだな、あと『天海春香:』よりも『春香:』のほうがよかったな」
春香「名前紹介が被ってますもんね……あと色使いでしょうか」
P「そうだなぁ、そこらへんのセンスは皆無だ」
春香「小鳥さんはそこらへんのセンスっていうのも…・・」
P「揃えている」
春香「流石達人ですね!」
春香「じゃあ、これを壁紙みたいに仕立てて貰っていいですか?」
P「これ生っすかのやつか」
春香「はい!崇め奉りなさい!ってとこです」
P「なんでこんな写真持ってるんだ?」
春香「それは良いじゃないですか!それじゃあ私またマカロン食べてますね」
P「ほいほい……」
春香「……」パシャッ
P「」カタカタ……
春香「マカロンなう、っと……」
P「よし……って春香?」
春香「ハッ!?ど、どうしました!?」
P「出来たぞ、ほら」
春香「おおお!これ友達に送っても良いですか!?」
P「ああ、そりゃ春香なんだし、大丈夫だぞ」
春香「凄い、なんかグッズ化されそうですね、こういうの」
P「そうだな。赤統一も良いんだけども、色変えてもよかったかもな。春香のリボンが黄色だから黄色にしてもよかったけども」
春香「ふむふむ……このソフトがどれだけ凄いかは分かりました!」
P「そうか、ってもうこんな時間か!?」
春香「うとうとしてたから、すっかり……もう小鳥さん帰ったんでしょうか」
P「んー早上がりって言ってたしな、そうかもな」
春香「それじゃあ行ってみます?」
P「よし、行くか!」
P「鍵はかかってるな……」ガチャンッ
春香(そういえばずっとプロデューサーさんと二人きり……)
P「よし、起動っと……」
春香「大丈夫なんですか?」
P「何がだ?」
春香「勝手に起動して。例えば小鳥さん以外だとどーんって爆発するとか」
P「デスノートじゃあるまいし……」
パスワード:[ ]
P「えーと、確か……piyopiyo99……あれ?入れない」
春香「え、分からないんですか?」
P「そ、そんなはずは……piyopiyo99……ど、どうしてだ!?」
春香「うーん……パスワード変えたとか」
P「まさか、今日の昼入力している所を見たのに」
春香「しっかりと、ですか?」
春香「……プロデューサーさんは、そういうとこ抜けてます!もー……よいしょ」
P「? どうした、机の下に何かあるのか?」
春香「引き出しの裏側……あった」
P「!?」
春香「これがパスワードです」
P「……kotori.99765か。なんで春香知ってたんだ?」
春香「実はロッカーに隠れてた時に」
P「入りだしからおかしい、なんでロッカーに隠れてたんだよ」
春香「えへ、狭い所って落ち着いて」
P「……深く聞かないことにしよう」
春香「したら、小鳥さんが『誰も居ないし、パスワード書いた紙を、って言ってやってる所を見たんです」
P「なるほどな……助かった、よし、いよいよ起動だ……」
春香「……」ゴクリ
春香「……」
カチカチッ
P「こ、これは……ッ!?」
春香「そ、んな、ま……さか……」
ヒューーーーーッポ
P「ッ!?しまった!!!Skypeだ!!」
春香「!?」
ぷーぴぽー、ぷーぺぽー、ぷーぴぽー
P「つ、通話!?誰からだ……」
春香「piyo2……?」
P「……まずいな、完璧にバレたぞ、これは」
春香「……えー」
piyo2:プロデューサーさん、まさかマイピクチャのアイコンをクリックしたらSkype起動するなんて驚きましたね?
P「やられた……」
春香「初めからお見通しってことでしょうか」
piyo2:怒らないんで、通話取ってください
P「はい……」
小鳥『もしもし』
P「こ、小鳥さん……」
小鳥『……プロデューサーさん?なんで私のパソコンつけたんですか?」
P「これには海よりも深いわけが」
小鳥『もー……そこまで知りたいんですか?私のヒミツ」
P「端的に言えばそうですね」
春香「わ、私もです」
小鳥『はぁ、ちょっと待っててください、今事務所行きますね』
P「い、今からですか!?」
P(こ、怖い……)
春香(怖い)
小鳥『返事は無いんですか?』
P「はい!」
小鳥『それじゃあ、お茶でも飲んでリラックスしててくださいね』
ヒュンポンッ
P「……出来ないよな」
春香「……一応淹れますね」
数分後。
ガチャッ
小鳥「……プロデューサーさんも、春香ちゃんも、そういうところはダメですよ?」
春香「ごめんなさい、好奇心が……」
P「右に同じく……」
P「はい!」
春香「気になります!」
小鳥「はぁ……よりにもよってバラす人が春香ちゃんだなんて」
春香「え?」
小鳥「まず、ここに一枚の『春香ちゃん』の写真があります」
春香「こ、これっていつのやつだろ……」
小鳥「最初にリボンを取ります」
ササッ
P「い、一瞬で消えた……」
小鳥「次にちょっと明るさを調節します」
ササッ
春香「さっきより綺麗ですね……」
春香「わ、私の髪の毛が緑色に……」
小鳥「この時緑色で塗ったレイヤーは別にして、レイヤーのモードを『色相』にします、するとこうなります」
春香「ま、まるで別人みたいです……」
小鳥「次は眼の色を変えます、私の写真から眼の色を抽出して、春香ちゃんの眼に塗ります」
ヌリヌリ
P「ここらへんまで来ると小鳥さんっぽいな……」
小鳥「衣装は変えなくても良いので、そのままで。足りないものなんだか分かります?」
P「あー……ほくろですか?」
小鳥「ぴんぽーん♪最後にほくろをつけて……カチューシャをつければ……」
P「こ、小鳥さんだ!!」
春香「私が小鳥さんになった!!!??」
P「なるほど、実物を知らなければ分かりませんよね……」
春香「私今物凄く感動してます……」
小鳥「うふふ、たまにこうやって自分にアイドルの衣装着せてるんです……なんて」
春香「それなら本人が着ましょうよ!!」
P「そうですよ!小鳥さんならまだまだいけますよ!」
小鳥「いけません!もー二人共見たことは、まだ許してないんです!」
P「う……」
春香「ごめんなさい……」
小鳥「まったく、とにかくこれですっきりしました?私の恥を晒しただけなんですけど……」
P「それはもう今は清々しい気分です。明日の仕事も頑張れそうだ!」
春香「はい!私も頑張れます!」
小鳥「それならよかったの、かな……うん、そうしておかないとダメよね……それじゃあ、今日はもう帰宅してください!」
Pと春香「「はーい」」
春香「プロデューサーさん誰に喋ってるんですか?」
P「ああ、いや、あっはっはっは」
小鳥「はぁ……それにしても、パソコンの中に入ってるXXXXXXXとかXXXXXXXXがバレなくてよかった……」
おしまい
Photoshop手元にあったので、途中から>>30をゴールに書いてました
多分雪歩も小鳥さんにしようと思えば出来ると思います。真は無理かな?
ということで、読んでくれたかたありがとうございました
まとめ画像置いていきますね
http://blog-imgs-55.2nt.com/s/s/h/ssh123/F9xOy.jpg
小鳥さん恐ろしい(スキル的な意味で)
Entry ⇒ 2012.10.05 | Category ⇒ アイマスSS | Comments (1) | Trackbacks (0)
春香「サイドストーリー」
春香「でも、もしあそこであぁならなかったらこうはならなかっただろうし……」
春香「もしかしたらもっと早く……まあ今更だよね」
春香「みんなもそれぞれ今があるけど」
春香「もし、もしそうなってたらって想像したくなっちゃう」
春香「例えば……」
>>5
安価はアイマスSSのスレタイ形式で
例)P「春香が錬金術師に?」、やよい「ドン引きです……」など何でもOK
基本765プロ 961、876はSSで少々 ぷちはSSでほんの少し、モバは専門外
10~20レス程度でまとめて行く予定 書く側をやりたい人歓迎
一応スレタイにあるので最初の話にはもちろんできるだけ春香を絡めていく予定
P「おぉ春香、おはよう」
春香「あ、プロデューサーさ……わぁ!!」
P「お、おい春香!大丈夫か?」
春香「い、いてて……えへへ、すみません朝から」
P「それはいいんだが……気をつけろよ?」
春香「すみません……」
春香「はぁ……朝からドジだなぁ私」
春香「あ、ファンレター?」
春香「やっぱり嬉しいなぁ、まだ私もあんまり名前が知られてないからこういうの」
春香「……え?」
小鳥「お、おはようございます!遅れてすみませ……春香ちゃん?」
春香「……」
小鳥「あっ!!ご、ごめん!私、昨日チェックし忘れてたやつで……変な事書かれてなかった?」
春香「……あ、は、はい。大丈夫ですよ、あはは……」
春香「は、はい!……あ、ちょっと私トイレに」
小鳥「あ、えぇ……春香ちゃん、大丈夫かしら……」
『そんなんでアイドルになれるなら私でもなれる。下手くそはやめちまえ!』
春香「……」
春香「どうしてこんな……」
春香「わかってる……私だって、うまいとは思ってないし、みんながみんなこんなふうに思ってるわけじゃない……」
春香「でも、やっぱり辛いな……」
春香「ドジだし、歌も上手くなくて……アイドル、向いてないのかなぁ……」
春香「……もう、私なんて」
春香「痛っ!!?」
春香「……」
春香「い、いたたたた……急に頭が……なんだったんだろ……」
春香「……とりあえず、プロデューサーさんと話しなきゃ」
P「ん?どうした春香?」
春香「あの……」
春香(……ちょっと、お休みしたいなんて、卑怯かな……でも)
春香「私……」
「もっと大きな仕事がしたいんです」
春香「……え?」
P「ん?大きな仕事かぁ、確かにコツコツ行き過ぎてたかもな。よし、ちょっと話してくるよ。仕事、とれなかったらごめんな」
春香「あ、いや、その……」
P「春香がやる気を出してくれて、俺も嬉しいよ。だから俺も頑張るから、待っててくれ」
春香「あっと……はい……」
春香「……なんであんなこと言っちゃったんだろ」
春香「それに、おっきいお仕事なんて、また下手なところみせちゃうだけだし……」
春香「私なんて……もう」
「諦めちゃうの?」
「私って、そんなに弱い人だったの?」
春香「だ、誰!?」
「頭」
春香「え?」
「頭に、ついてるでしょ?」
春香「頭って……リボン?」
春香「ちょ、ちょっと……聞いてるの?」
小鳥「春香ちゃん……?」
春香「あっ、い、いえ!そ、そのまたトイレに!」
春香「……はぁ、びっくりした。……まさかこのリボン?いや、そんなこと……」
春香「……気のせいだよね。よいしょっと……」
「もう、急にはずさないでよ。しゃべれなくなるでしょ?」
春香「ひゃああ!び、びっくりした!!」
「これでわかってくれた?私は貴方よ?ちょっと形が違うだけ。あ、他の人には聞こえないから安心して?」
「うん、さっきの声、私」
春香「あっ……だから」
「ねぇ、私ってそんなに自信ない?」
春香「……えっ?」
「私は、私が一番よくわかってる。別になんて思われたっていいでしょ?だって歌が好きだからアイドルをやってるんだもの」
春香「歌が……そっか……そんなこともあったよね」
「だから、次のライブで頑張って歌ってみない?ね?」
春香「う、うん……でも……」
P「春香!取れたぞ!結構大きいところでライブだ!これは気合いれていかないとな!」
春香「え、あ、あの……あ、ありがとうございます」
P「うんうん!春香なら大丈夫!頑張ってくれ!」
春香「は、はい……」
春香「……うわぁ、人がこんなに……」
「大丈夫、深呼吸して」
春香「……それじゃ、行ってくる」
「頑張ってね」
春香「え、えっと、天海春香です!そ、その……よろしくおねがっ!ったぁ……」
アハハー
春香「う、うぅ……そ、それじゃ聞いてください!私はアイドル!」
春香(き、緊張して声が……)
ナンカアンマリウマクナイヨネ ウーン
春香(い、いまうまくないって……も、もうだめだよ、私なんて……)
「きっと私が一番!」
春香(えっ?)
アレ?キュウニウマクナッタ?
春香(自分でもわかる……すごい、綺麗……それに、すっごく楽しそう)
イイゾー!
春香(すごい……これがアイドルとして、歌うっていう……よし!)
春香「は、はい!ありがとうございます!」
P「これを機にどんどん仕事が入ってくる!頼むぞ!」
春香「もちろんです!」
「お疲れ様」
春香「……ありがとね」
「え?」
春香「貴方が、助けてくれたんだもんね。私、あのままじゃ絶対失敗してた」
「……」
春香「でも、もう大丈夫!私、ちゃんとやってみせ……たたた」
「あはは、まだその様子じゃ完璧は遠いね~」
春香「も、もう!!これはそのうち治るもん!」
「次のお仕事は何かな?」
春香「えっと、これからのためにオーディション、って言ってたかなぁ。すごく大きなところだから、緊張しちゃう……」
「きっと大丈夫!私なんだから!」
「もう、しっかりし……大丈夫?」
春香「う、うん、大丈……痛っいい……!」
「ちょ、ちょっと動かさない方がいいよ。多分、捻挫してる……」
春香「う、嘘……オーディションまであと2日なのに」
「……間に合わないかもね」
春香「……嫌、せっかくここまで来たのに」
「……ちょっとごめんね?」
春香「えっ?わ、わぁ!だ、だめ!今足が!……痛く、ない?」
「貴方のやる気が上がったから、こんなことまでできるようになったんだ。どう、私に任せてみない?」
春香「……でも」
「自分の力で、成し遂げたい?」
春香「……」
「それなら、捻挫の痛みが治まる程度に手助けするけど」
春香「……ごめん、一回私の力でやらせて?そのための手助けをお願い」
春香「大丈夫、わかってる」
春香「……それじゃ、行ってきます」
P「頑張れ、どこの事務所もある程度有名なアイドルばかりだ。気を抜くな」
春香「はい!……よし」
春香「わんつーさん……うぁっ!」
だ、大丈夫?ちょ、ちょっとこれ捻挫してるんじゃ……
春香「だ、大丈夫、です……ごめんなさい……」
春香(……やっぱり、ダメなのかな。私、こんな大事な時に、捻挫なんてして……)
「諦めちゃうの?」
春香(……リボン?)
「……私に任せて?」
春香(……ごめん、お願い)
春香「……それじゃ、行きます」
春香「はぁ、はぁ……」
「はぁ、はぁ……ど、どうかな?」
春香(流石、ありがと。でも、ごめんね?任せちゃって)
「ううん、いいの。私のことは私のためでもあるんだから」
春香(……そうだよね)
春香(そうやって、できない自分をごまかしたりして……)
春香(……でも、私は私のためなんだから。ちゃんと、できるときにやれば大丈夫、同じこと)
P「合格おめでとう!ここまでくると、ホント、すごいよ春香!今年度のアイドル大賞にも手が届くかもな……」
春香「そ、そんな……」
P「……今まで、気が付かなかったんだもんな。ごめん」
春香「い、いえ!プロデューサーさんにはずっと迷惑かけて、お仕事とってきてもらったから今の私があるんです」
P「……」
春香「だから、プロデューサーさんにはとっても感謝して……」
春香「プロデューサーさん?……え?」
春香「あ、いや、その……」
P「……好きになってた。ダメだってわかってるんだけど……それに、今頃になって言うのは卑怯かななんて思ったけど」
春香「そ、そんなこと……」
P「……すまん、急に。……でも、俺は本気なんだ。アイドル活動が落ち着いたら、付き合って欲しい」
春香「プロデューサーさん……」
P「……それじゃ、お疲れ」
春香「……はぁ」
「どうしたの?プロデューサーさんのこと?」
春香「うん……そんなこと、考えたこともなかった……」
「それは、嘘でしょ」
春香「えっ?」
「だって、プロデューサーさんと話すとき、いっつもどぎまぎしてるもん」
春香「そ!そんなことないよ!……でも、あんなこと言われたらそりゃ意識しちゃうし」
「……じゃあさ、次のフェス成功したら付き合うっていうのは?」
「どっちにしても踏ん切りがつかないなら、これくらいしておいた方がいいって!」
春香「そ、そうだけど……うぅ……」
「私もいるんだし、大丈夫!」
春香「……わかった」
P「……わかった。それじゃ、次のフェスに向かって全力で行こう!」
春香「は、はい!」
春香(それでも、やっぱり不安だった)
春香(練習を重ねてるうちに、どんどんプロデューサーさんが気になって)
春香(今までも好きだったんじゃないかって思うくらい……)
春香(だから、成功させたい。でも逆に失敗したら……?)
春香(プロデューサーさんは気を使って私のこと、諦めるって言うかもしれない……そんなの嫌)
春香(今までも、なんとかなってきたんだもん。大丈夫……このフェスは絶対に成功させる!)
P「……ついに、この日が来たな」
P「……あのことは一旦忘れて思いっきり楽しんで来い!」
春香「はい!」
P「……でも、一つ言わせてくれ。プレッシャーになるかもしれないけど」
春香「……はい」
P「俺は、お前のこと信じてる」
春香「はい……私も、プロデューサーさんのこと……い、行ってきますね!」
春香「みんな!盛り上がってるー!?」
キャー!ワー!
春香「それじゃ一曲目!いっくよー!」
春香(楽しい。何より楽しい、それにこのまま頑張れば……)
「……」
春香「それじゃ次は……あ、あれ?」
春香(足が……!こ、このままじゃ観客席に……!)
「呼んだ?」
春香(た、助けて!このままじゃ!)
「……いいの?」
春香(早くしないと!ここで倒れちゃったら……)
「……わかった」
春香「……っとっと……えへへ、危ない危ない。ドジっちゃうとこでした!」
アハハー!
春香(よかった……それじゃ、あっ、でもこのままやってもらった方が……絶対にうまくいくよね)
「……」
春香(……これで)
春香「そ、それじゃ次の曲は――」
春香(終わった……ライブは大成功)
春香(ちょっと前まで、すぐ諦めて……自分のこと恨んで……でも、頑張ればできるんだ)
春香「プロデューサーさん……」
春香(あっ、ぷ、プロデューサーさん……ど、どうしよ……)
P「……お疲れ、春香」
春香「……はい」
春香(……)
P「……春香の口から、返事を聞いてもいいか?」
春香「もちろんです」
春香(……私は、プロデューサーさんのことが……)
春香(あれ?)
春香(私、しゃべれてない?)
春香「私も、プロデューサーさんのことが好きです。こちらこそ、よろしくお願いします」
P「……よかった」
春香「プロデューサーさん、私……」
P「おいおい、泣かないでくれよ……俺だって、今泣きたいくらい嬉しい。フェスも成功して、こうやって春香とも通じ合えて」
春香「はい……」
春香(嘘、嘘だよ……プロデューサーさん、私も抱きしめてよ……)
P「……春香」
春香「……はい」
P「……キスしても、いいか?」
春香「……はい」
春香(なんで、なんで……私が頑張ったんだよ?ねぇ、プロデューサーさん……)
春香(唇、何も感じない……そっか、今私)
「リボンなんだ」
春香「どうしてって、貴方が勝手にしたことじゃない」
「私は何もしてない……ただ、できない自分を恨んでただけ……」
春香「私は、貴方の理想だったの。だから、あなたが自分の理想に近づく度に干渉する力が強くなった」
春香「でも、貴方は最後私を頼った。あなたの理想は、私。これが貴方、いえ天海春香が望んだ結末でしょ?」
「そんなの望んでるわけないでしょ!ねぇ、返してよ……私のこと……」
春香「今までのこと、わかるでしょ?今度は今までの逆。私が理想の私と離れればあなたは元に戻れる」
「……そんな」
春香「私は、プロデューサーさんと今すごく幸せ。アイドルとしてもトップでしょ?あなたが戻れるのは、いつになるかな」
「……ひどいよ」
春香「ひどいことなんてないよ?だって、貴方だって私なんだもん」
「……」
春香「……後悔するくらいなら、自分でやってみればこんなことにはならなかったの」
「……」
春香「それじゃ、多分二度と会うことがないよね。バイバイ、理想から離れた私」
春香「……あれ?嘘、夢……なの?」
春香「……リボン」
春香「こんなの……でも」
春香「……よし」
P「あぁ、春香おはよう」
春香「プロデューサーさん、いいですか?」
P「ん?あぁ、なんだ?」
春香「もっと大きい仕事がしたいんです」
P「ん?大きな仕事かぁ、確かにコツコツ行き過ぎてたかもな。よし、ちょっと話してくるよ。仕事、とれなかったらごめんな」
春香「はい!お願いします!」
P「……なんか、今日の春香輝いてるな」
春香「そ、そうですか?えへへ……って、うわぁつ!」
P「あはは、元気なのもいいが気をつけろよ?」
P「それじゃ、行ってくる」
春香「はい!……やっぱり、夢か」
「ねぇ」
春香「っ!」
「諦めちゃうの?」
春香「……もう、あきらめないよ。転んでも、もっかいやってみるんだから」
「……そう」
春香「それで、プロデューサーさんと結ばれなくても……トップアイドルになれなくても、それが私だから」
「……そうだね」
春香「……ごめんね、でも多分もう会うことはないよね、昔理想だった私」
春香「リボン、新しいのにしてみようかな~」
春香「もう、どんな私が来ても負けないから。……見ててね?」
完
次>>65
もちろん春香さんでもいいしある程度違うキャラでもOK
美希「ハニー!」
P「み、美希……」
美希「もう遅いの!」
P「今日は早いんだな、美希」
美希「うん!今日のお仕事は大変そうだって思ったから早めに来たの!褒めて褒めて!」
P「あぁ、それはいいことだ」
美希「むーそれだけ?できればナデナデして欲しいな」
P「あぁ、これでいいか?」
美希「あふぅ……これで頑張れるの!」
P「それじゃ、行くか」
美希「はいなのー!」
P「美希、今日の収録落ち着きなかったが、どうかしたのか?」
美希「だって、ハニーが見てくれてるから頑張らなきゃって思って!」
P「それは嬉しいが……仕事にはしっかり取り組んでくれよ?」
P「まあそれならいいんだけどさ」
美希「ハニーの方がわかってないの!ミキはハニーのために頑張ったんだよ?ちゃんと見ててくれたんだよね?」
P「あ、あぁ、そりゃな?」
美希「それならいいの。それじゃ早く帰ろ?」
P「……はぁ」
小鳥「どうかしたんですか?」
P「なんだか最近美希の様子が……」
小鳥「うーん、あんまり感じないですけど。どんなところですか?」
P「なんというか、依存、とは違うんですけど……」
小鳥「あ~でも、美希ちゃんプロデューサーさんのこと大好きですし、気にしすぎじゃないですか?」
P「美希の好きって言うのがどうもイマイチ……」
小鳥「だからって手は出さないでくださいよ?」
P「そ、それは流石にわかってますよ!まあ、今のところは大丈夫そうなのでこのまま行こうかと思います」
P「はい、わざわざありがとうございます」
小鳥「いえいえ、美希ちゃんも事務所の大事な一人ですからね!」
P「さてと、今日はレッスンだったか?」
美希「うん!」
P「ちょっと仕事が詰まってるから、多分迎えに行けない。あまり遅くならないだろうし、悪いが自分で帰ってくれるか?」
美希「えっと、お仕事の場所って前に行った場所だよね?」
P「え?あぁ、そうだが……やっぱり不安か?それなら多少待っててくれるなら迎えに行くが……」
美希「ううん、ミキそこまで子供じゃないの!」
P「お、おう。それならそれで頼む」
P「こう言ってはなんだが、美希のことだ、迎えに来てくれないのー!とごねるかと思ったが」
P「やはり俺の勘違い、というか気のせいだったみたいだな」
P「まあ、一応早めに終わらせて迎えに行ってやりたいが」
P「っと、そんなこと言ってたら電話か。はい」
P「ん、まあ俺ももう少しってところだ」
美希『わかったの!それじゃ、そっちに行ってるから!』
P「あ、えっと、わかった」
P「ん?そっち?家に帰るんじゃないのか……?まあ、大丈夫だろう」
P「よしっと、思ったよりも手間取ったが……美希が一人で帰ってくれて助かった」
P「……ん?あれは……まさか」
美希「……」
P「美希!?」
美希「……ハニー?」
P「ど、どうしてお前……」
美希「……どうしては、ミキのセリフなの……ハニー、遅いの」
P「そりゃ、帰ってると思ったからある程度マイペースで……じゃなくてだな!どうしてうちの前にいるんだ」
美希「だって、ハニーを驚かせたくて……」
美希「ハニーが、ミキに一人で行ってくれって言ってくれて嬉しかったの」
P「……」
美希「前にここがハニーの家って聞いてたから、ついでにと思って」
P「一人で、か」
美希「でも、ハニーが来てくれなかった……最初はお仕事遅くなってるのかなって思ったけど」
美希「ミキがここに来たことが嫌で来てくれないのかな、とか」
美希「すっごく不安で……」
P「なんでそんな……来るなら電話の時に言ってくれれば……」
美希「だから驚かそうと思ったの!ミキはハニーがいなきゃ何もできないって思われたくなかったの……」
P「……なるほどな」
美希「……だからハニー、ミキを嫌いにならないで?」
P「当たり前だろ?お前は俺の大事なアイドルだ。そんなことで嫌いにならない」
美希「ホント……?よかった……」
P「でも、もうこんなことしちゃダメだ。仮にもそれなりに名前が売れてきてるんだ、こんなところにいたら怪しまれる」
P「美希……?」
美希「ハニー!」
P「うわっ!ちょ、急に抱き着くな!」
美希「いいの!ハニーはやっぱりハニーなの!!」
――
―
P(今思えばあれが引き金か)
美希「ハニー……いなくなっちゃやなの……」
P「……もう、ダメだ」
美希「いや、ダメなんて言わないで……いや、いや……」
P「美希……」
美希「ハニーじゃないと、ダメ……ねぇ、ハニー?触って、ミキに……」
P「……これでいいか?」
美希「……うん、でも足りないの……ねぇハニー、しよっ?」
――
P「美希?」
美希「告白なの!ちゃんと、ハニーとお付き合いしたいって思ったから」
P「いやしかし……」
美希「アイドル、だからでしょ?大丈夫なの」
P「何が大丈夫なんだ……お前が大丈夫でも、俺が危険だ……」
美希「ハニーは、ミキのこと大切だって言ってくれたの」
P「それはまあ……」
美希「それに……ミキのこと認めてくれたから」
P「……」
美希「ミキ、ハニーのためならアイドル辞めてもいい」
P「美希!」
美希「わかってるの!ミキは、やめないよ?でも、それくらいのカクゴがあるってことわかって欲しいな」
P「……美希」
美希「ハニーの迷惑にならないように頑張るから……ね?」
美希「……あはっ、嬉しいの」
P「……でも、まだちゃんとした答え、として出せない。それはお互いのためでもある、わかってくれるか?」
美希「うん、それでいいの。これからも、よろしくね、ハニー?」
P「あぁ、そうだな」
――
美希「それで、ここは?」
P「あぁ、この時は最初に……」
小鳥「プロデューサーさん、ごめんなさい。お電話です」
P「あっ、すみません。ちょっと行ってくるな」
美希「うん」
P「はい、それでは。……ふぅ」
小鳥「あの、プロデューサーさん?」
P「あ、音無さんどうも」
小鳥「あの、美希ちゃんその後どうですか?」
小鳥「えぇ!?ど、どうしてそんな……」
P「まあ、もちろん言いませんし、お互いにそういう話になっただけですけど。なんだか、俺も美希がほっとけないみたいで」
小鳥「……」
P「すみません、わざわざ心配してもらったのに」
小鳥「いえ、それはいいんですけど……くれぐれも気を付けてくださいね?」
P「はい、もちろん。美希だけじゃなく他の子にまで影響与えちゃいますから。それじゃ」
小鳥「……プロデューサーさん、自分を見失わないでくださいね」
―
P「お待たせ……って美希?」
美希「……ねぇハニー」
P「ん?」
美希「その……あんまり、他の女の子と話さないで欲しいな……」
P「……何を言ってるんだ?」
美希「小鳥は……その、仕方ないけど……ハニーがとられちゃうんじゃないかって」
美希「……」
P「それくらい、わかってくれるだろ?な?」
美希「嫌なの!ハニーはミキ以外の女の子とお話したいの?」
P「だからそういうわけじゃないって……」
美希「ダメ!ハニーはわかってない!絶対狙われてるの!」
P「そんなはず、それに話しかけられたって相手にしないさ。話すのができないっていうのはまた別だろ?」
美希「……ミキに、飽きちゃったの?」
P「……美希?」
美希「そうなんだね……もう、ミキなんて……」
P「おい、美希、おかしいぞ?どうしたんだ急に!」
美希「もういいの、どうせミキなんて、ハニーの迷惑にしか……」
P「……落ち着いたか?」
美希「……ごめんなさい。ハニー……」
美希「他の人と話してるって思ったら、急に怖くなって……ミキ、自分でも何言ってるかわからなかったの」
P「……」
美希「ミキ、病気なのかな……ハニー……」
P「そんなことない……美希は俺のことを想ってくれてるんだよな」
美希「うん……そうだよ、ミキはハニーのことだけ、想ってるから」
P「……それなら大丈夫だ。ただ、仕事中は気を付けて欲しい」
美希「分かってるの。ハニーに迷惑はかけないから」
――
P「……美希か」
美希『ハニー?』
P「どうした?」
美希『ごめん、声が聴きたくなったの』
P「そうか。大丈夫、終わったら会えるから」
P「あぁ……ほら、あんまり電話してると怪しまれるぞ」
美希『わかったの……ハニー、大好き』
P「……うん」
美希『終わったの。今、どこ?』
P「今向かってる、もう少し待っててくれ」
美希『早く会いたい、会いたいよハニー……』
P「声が聞こえてるだろ?もうすぐだから」
美希『ハニー……ハニー……!』
美希「ハニー!!!」
P「美希……」
――
P(こんなことがしばらく続いた)
P(だがバレないはずもなく、お互いの連絡にある程度の規制をされてしまった)
P「……そろそろか」
P「連絡は迎えの時間になったら……今までのに慣れてしまってせいか、結構きついな」
P「……いや、そもそも俺が悪いんだ」
P「プロデュースだって、もともと美希メインとは言っても今じゃ他の子に手を触れてない」
P「あのままじゃお互いにダメになってしまう、これでよかったんだ……でも」
P「……こんな時でも、美希を考えてしまう俺は、もう……」
P「……もしもし?美希か?」
美希『……』
P「もしもし?終わったか?美希?」
美希『……ごめんなさい』
P「おい、美希?美希!……なんで」
P「どうする……いや、間に合うはず……なんだってんだ……」
――
P「電話……ここ、まさか」
P「……美希」
美希「……ハニー?」
P「どうして、ここに?電話も……」
美希「……もう、美希アイドル辞める」
P「どうしたんだ急に!」
美希「だって……だってぇえ……はにぃいい……」
P「美希……」
美希「……」
P「落ち着いたら、話してくれればいい」
美希「……もう、耐えられないの」
P「……」
美希「みんな、ミキを見るとハニーとのことについて話してる。みんなミキ達のことを邪魔しようとして……」
P「それはいいんだ……お前が玄関の前に座ってたのは、一回目じゃないしな」
美希「……あそこにいたくなかった……あのレッスン場にいるとハニーが見えなくなりそうで」
P「……」
美希「無理に連絡しようとしても、迷惑かかっちゃう、ってもう迷惑かかってるんだよね……」
P「……」
美希「だから、もうアイドルは、無理かな……」
P「……美希、あのな」
美希「違うのハニー!アイドルをやめるっていうのは、ハニーのためで、でも……」
P「落ち着いてくれ、美希……だから」
美希「お願いハニー!嫌いにならないで!ねぇ、ハニー!!ミキ、ミキはハニーのことが好きだから!」
P「わかってる、わかってるから頼む……」
美希「やだ!やだよぉ……ハニー!嫌いにならないで、ミキを見捨てないでぇええ……」
P「美希……」
――
P「改めて挨拶したときは”プロデューサー”」
P「いつからだろう”ハニー”と言われるようになったのは」
P「錯乱した美希を落ち着かせるにはひたすら肌を寄せるしかなかった。キス、ハグ、そして」
P「何度体を重ねたかわからないが、その落ち着いた美希から聞いたこと」
P「『ハニーは美希が初めて認めた人。だから、分からなかったし怖かった。それ以上の関係を目指すのが』」
P「『好きだけど、それを形にしていいかわからなかった。でも、考えてるうちにどうしようもないくらい好きになってた』」
P「それが美希の話。ある程度懐いていたところまではいい。が、彼女を認めてしまったのがいけなかった」
P「美希は自分と葛藤していた。俺に依存する自分と、依存しないよう努力する自分」
P「美希は後者を自分で選ぼうとした、苦労の末。だがそれを俺は真っ向からぶち壊した」
P「結果、反動でより強い依存を生んでしまったようだ。が、気づいた時には俺も全く同じで」
P「美希なしじゃ、生きていけない。俺だってそうだ」
P「俺と美希は事務所を辞めた。ギリギリだったと今でも思う」
P「そして今……」
――
P「どうした、美希」
美希「ハニーは今、幸せ?」
P「……あぁ、とっても」
美希「ミキのせいでお仕事なくなっちゃったのに?」
P「ミキのせいじゃないさ」
美希「でも、お金ないと大変だし、ミキ頑張るよ?エッチすればたくさんもらえるって聞いたから」
P「……美希、それ本気で言ってる?」
美希「大丈夫か、わかんないけど普通のお仕事じゃハニーの顔がみたくなっちゃうの。それなら、すぐ終わるしハニーのこと想えば」
P「……冗談でも、やめてくれ」
美希「……ごめんなさい」
P「謝らなくていい、大丈夫。金は俺がなんとかする。美希は心配しなくていい」
美希「……うん。……ね、キスして?」
P「……あぁ」
美希「ハニー……大好きなの」 完
さっき書きたいって言ってる人いなかったっけ
いないならもう一つくらいとは思ったが
期待通りだった
ありがと
>>120
亜美「そんなこと言ってー!」
真美「実はワクワクしてるんでしょー!」
P「……」
――
P「面倒なことになった……」
小鳥「どうしたんですか?」
P「あ、いや、なんか家に両親が遊びに来まして。ついでに近くの友達を呼ぶ、とか勝手に言い出しまして」
小鳥「あら、元気な両親ですね」
P「それが困るんですけどね……そのままなんかもう籠城する勢いで。気にするな、と言われても年齢が全員2倍近くありますし」
小鳥「なるほど」
P「そりゃ寝るところ他にないですし、仕方ないんですけど気が重くて……」
亜美「ナニナニ?」
真美「面白そうな話をしてるじゃない!」
P「どっから出てきたんだお前ら」
P「ちょ!音無さん!?」
亜美「ふーん、じゃうちくる?」
真美「いくいくー!」
P「お前らで解決してどうする……でも、流石にそれは……」
亜美「えーいいじゃん!たまには!」
P「たまにはって行ったことないわ!」
真美「だって、兄ちゃん寝るとこないんでしょ?家燃えちゃったの?」
P「いや……流石にそこまでは」
亜美「ビショージョ二人に囲まれて寝られるんですよー?こんな機会ないですよー?」
真美「えっ?い、一緒に寝るの?」
P「ないない。だっていやだろ?」
真美「べ、別に!真美はいいけど!」
亜美「亜美もへーきだよー。ちょうど今日うち親いないし、雑用してよ!」
P「本音が出たなこいつめ……って、親御さんがいないのに伺うってのもまた問題だ……」
P「ちょっと!何言っちゃってるんですかもう……そんなわけないでしょう」
亜美「だったら来ちゃいなよー!」
真美「そーだそーだ!」
P「……それじゃお言葉に甘えるか。確かに親がいないってのは不安だろうしせっかくの機会だ」
亜美「やったー!」
真美「えへへー楽しみだね!」
P「なんか嫌な予感しかしない……」
小鳥「ふふっ」
――
P「しかし、流石に部屋は綺麗だな。広いし」
亜美「でしょー?あ、こっちが亜美の部屋ね」
P「ほー、真美の部屋と違うんだないろいろ」
亜美「そりゃそうでしょ!双子なめんなよ!」
P「舐めてないです。……あとはトイレとかの場所か」
P「え?いいのか?」
亜美「もち!なんてったってお客さまですからねー!」
P「ほう、亜美にしては気が利くな」
亜美「にしてはってなんだよー!」
P「悪い悪い、それじゃお言葉に甘えて……ってまさか真美がいるってオチじゃないだろうな?」
真美「んー?呼んだー?」
P「あ、悪いなんでもない。流石に警戒しすぎだわな」
亜美「真美何やってんのー?」
真美「ちょ!入ってこないでよ!」
亜美「さっき兄ちゃん入ったのに?ま、いっか。それじゃ一名様ご案内~」
P「ふぅー……あったまるなぁ……しかし」
P「……うちの浴槽の2倍はあるか。流石は双海家」
ガラッ
P「え?」
P「……」
真美「ちょ!兄ちゃん!?何やってんの!」
P「い、いや、こっちが聞きたいんだが……」
真美「ってうわぁあ!ば、バカ!」
バタン
P「……亜美のやつ」
亜美「あっはっは!たのしー!」
真美「もー!亜美!!」
亜美「ごみんごみん!……さてと、次は」
P「真美もあのままだと寒いだろうしな……そろそろ上がるか」
P「スタイルよかったな……、って違う!違う!」
P「……あいつら中学生の癖にスタイルよすぎるんだよな。ま、だからどうということもないが」
P「おーい、上がったぞー」
P「さてと……って、あれ?着替え、ここらへんに置いておいたはずが……」
P「……くそっ、また亜美か。タオルもないとなっては……」
ガチャッ
P「おーい、亜美!またお前だ、ろ……」
真美「……兄ちゃんなにして、ひゃあ!!」
P「ま、真美!ちょ、違う!これは!そのだな!」
真美「もー!さっきからなんなのさ!こ、この変態!!」
P「違うんだってばー……くっ……」
亜美「どしたの兄ちゃん~?」
P「……そんな満面の笑みで来るか普通」
亜美「だって面白いんだもーん!はい、着替え!」
P「……どうみても俺のじゃないんだが」
亜美「真美のだけど?」
P「流石に真美がかわいそうだろ!って違う、そもそも入らないから!」
P「亜美、それわかって言ってるの?どっちにしてもやめなさい。それと服返してください」
亜美「あはは、流石にかわいそうだし、はいどーぞ」
P「全く……ん?どうした」
亜美「……やっぱグロいね」
P「見るなぁ!!」
P「はぁ……全く風呂に入ってここまで疲れるとは……」
真美「あっ」
P「あー……その、悪気はないんだ。亜美のせいでだな」
真美「知ってる……けど、その、みたことなかったし」
P「真美にまで見られてしまった……」
真美「ま、真美だって見られたんだよ!」
P「まあそれはすまないと思ってるが……」
真美「別にいいけど……それよりご飯だよーもうおなかぺこぺこー」
真美「おー!兄ちゃん、作れんの?」
P「一人暮らしをなめるんじゃないぞ?まあ楽しみにしておくんだな」
真美「ほー期待しておきますかー!」
亜美「ふーさっぱりー、おぉ!いい匂い!」
P「お、亜美か。もう少しでできるから待ってろ」
亜美「カレーですなー?んっふっふー亜美様の口に合うものが果たして作れますかね……」
P「嫌なら食べなくてもいいぞー」
亜美「あーもう冗談っしょー!食べるからー!」
P「はいお待たせ。どうぞ召し上がれ」
亜美真美「いただきまーす!」
P「……どうよ」
亜美「うん、うまい!」
真美「普通においしいじゃん!やるね兄ちゃん!」
P「そうだろ?そりゃそうなんだよ!はっはっは!」
P(一応いつもカップめんとは言えないしな、うん)
P(さて一口……あれ?味が……なんかおかしい)
P(あ、野菜いためないでそのまま……あいつら……)
亜美「そんじゃ、食後の運動ということで!」
P「え?いや、もう夜遅いだろ」
真美「外に行くわけじゃないよ?これこれー!」
P「ん?あぁ、って格ゲー?」
亜美「ふっふー兄ちゃんやるかい?」
P「おーいいね。容赦はしないぞ?」
亜美「こっちのセリフだぜ!」
P「何故だ……」
亜美「ケイケンの差、とでも言っておこうか!」
真美「次真美と勝負だ兄ちゃん!」
P「いいだろう、今度こそ!」
亜美「あっはっは!兄ちゃんよわー!」
真美「ごめんあそばせー!」
P「くっ……」
P(カレーはお世辞を言ってくれたのだろうが、これはまた別ってわけか……わからんなこの双子は)
P「時間も時間だし、そろそろ寝ないのか?」
亜美「えー負けたからってそれはないっしょー」
P「やかましい。それは関係ないから、11時になるぞもう」
亜美「むー……わかったよー」
P「で、ホントに三人で寝るのね」
真美「いつもは二人ベッドだし?」
亜美「こーゆーときくらいはいいかなーって」
P「まあいいけどさ……」
亜美「急にこーふんすんなよー?」
亜美「そりゃだって、ねぇ?」
真美「一応、兄ちゃん半分ずつってことで」
P「なんじゃそりゃ……俺は抱き枕か」
真美「別に抱き着かないけどね」
亜美「残念でしたー!」
P「……なんでもいいわ。寝るぞ」
亜美真美「はーい」
P「……ん、トイレに……ってそうかここあれか」
P「確かこっちの方……ここだ」
P「……あれ?誰かいる?」
亜美「わぁ!」
P「わぁ!ってびっくりした……亜美か」
亜美「そ、それはこっちのセリフっしょ!急にどうしたの兄ちゃん」
亜美「変な事しないでねー」
P「トイレだって言ってるでしょうが。って、亜美もか?」
亜美「もー乙女にそれ聞いちゃう?」
P「あんだけ破廉恥な行為をしといてよく乙女だのと」
亜美「あれはあれっしょー。急にそういうことされたら、流石に亜美もハズいよ?」
P「そうですかそうですか。って、だからどうして起きてるんだ。寝ないと明日辛いぞ?」
亜美「んー……なんていうか」
P「ん?」
亜美「……眠れない、っていうか」
P「なんでだ?」
亜美「キンチョーして……っていうかテンションあがっちゃったせいかな?」
P「……ぶふっ」
亜美「ちょ!なんで笑うのさ!そ、そりゃ兄ちゃんが隣にいたらちょっとビビるっしょ!寝れないよ!」
P「いや、やっと亜美がまともに子供らしいなーと思って」
P「あんまり騒ぐと真美が起きるだろ。いいから早く寝とけ。目つぶってれば自然と眠くなる」
亜美「……」
P「ん?」
亜美「……なんでもない。兄ちゃんもさっさと済ませなよ!」
P「あ、え、うん」
P「んー……眠いな。流石に人の家だと熟睡はできないか」
P「……ほらいわんこっちゃない。まだ爆睡してるな、こいつめ」
亜美「んー、むぅー……」
P「……まぁ、まだ時間あるし寝かせておくか」
真美「あー兄ちゃんおはー」
P「おぉ、真美早いな」
真美「んーなんか目、覚めちゃって」
P「そうかそうか。まあ朝はいくらでも早い方がいいしな」
P「ん?あぁ、快適だったぞ。段違いにうちより広いし」
真美「そっかー……また来たい?」
P「え?まあ、そうだな。機会があったら遊びに来てもいいかもな」
真美「うん!そだね!……えへへ」
P「あっとそうだ……どうせまた亜美が起きたらイタズラされるんだろうし、復讐しとくか」
真美「何するの?」
P「まあ、寝てるときって言ったらこれだろ」
亜美「ふぁー……おはよー……」
P「おぉ、亜美おはよう!」
亜美「元気だね兄ちゃん……眠いよぉ……」
P「だから言ったんだ。ほら、顔洗ってこい……ふふっ」
真美「おはよう亜美……あはは」
亜美「んー……?」
ウワー!
P「まあ日頃の行いだな」
亜美「……ねぇねぇ兄ちゃん」
P「ん?なんだ?」
亜美「顔、洗った?」
P「あ、亜美にイタズラしてたから忘れてた……って思わず」
亜美「ちょっとー!まあわかってたけどさぁ……ま、いいっしょ!ねー真美?」
真美「ねー!」
P「え?何だ?……いや、嘘だろ?」
ウオワー!!
P「……やられた」
真美「ふっふっふ、いつから亜美だけが敵だと錯覚していた……」
亜美「我らは二人で一つ!」
P「完敗です……」
亜美「また来てねー!」
真美「今度はもっとおいしいカレーが食べたいなー!」
P「あれはホントすみませんでした」
亜美「そんじゃ……」
真美「んー……」
チュッ
P「……ん?」
亜美「チョー特別大サービスだかんね!」
真美「真美達の初めてのお泊りだったんだから!」
亜美「これから、責任とってくれるよね?兄ちゃん?」
P「……遠慮しときます!じゃ、また仕事でなっ!」
亜美「あー逃げた―!」
真美「待てー!!」
完
Entry ⇒ 2012.10.05 | Category ⇒ アイマスSS | Comments (0) | Trackbacks (0)
妹「クラムボン警報だ。お姉ちゃん早く逃げよ」 姉「いやだ」
姉「うるさいなぁ。ドア閉めてよ」
妹「だからクラムボン警報だって。お姉ちゃんクラムボンになってもいいの」
姉「いいよ別に。もう面倒くさい」
妹「お姉ちゃん」
姉「どうせ逃げ場なんてないよ。私はウチに残る」
妹「じゃ私も残る」
姉「それがいいよ。あちょっとそこのお菓子取って」
妹「学校が休みになって、毎日休日だね」
姉「ね。どこもかしこもクランボンクランボンで馬鹿じゃんね」
妹「クラムボンね。お父さんとお母さんは大丈夫かな」
姉「さぁね。とっくにクランボンになっちゃってるかもね」
妹「お姉ちゃん」
姉「まーそれも人生としてアリなんじゃない。別に哀しくもなんともないし」
妹「お姉ちゃんは、私がクラムボンになったら哀しい?」
姉「さあ。アンタは? 私がクランボンになったら」
妹「わかんない」
姉「でしょ? 考えるだけムダだって」
妹「いつぐらいにココもダメになるのかなあ」
姉「さあね。結構すごいスピードなんでしょアレ」
妹「冷蔵庫の食べ物もつかな」
姉「まぁ全部無くなる前にはクランボンも来てるでしょ。まだだったら」
妹「まだだったら?」
姉「適当にそのへんのセブンやローソンから買ってくればいいし」
妹「たぶん店員さんいないよ」
姉「無人販売とおんなじでしょ。あー、だったらうまくいけば盗り放題かも」
妹「私万引きなんてやったことない」
姉「私だってないけど、まあ非常時だし」
妹「うまくやれるかな」
姉「不安ならお金だけ置いとけばいいよ。小遣いがなくなってから考えな」
妹「じゃあそうする」
姉「あ。また死んだ。きー」
姉「いーよん」
ピッ
『――クラムボンは勢力を増して北上しております。
やむを得ず外出する際は、必ず支給されたコートを忘れずに着用して――』
ピッ
『――ですから、一概に政府が悪いともいえない訳ですよ。
人為的に放出されたといっても、自然発生した形となんら変わりない経緯で――』
ピッ
『ザーーー』
姉「うるさい」
ピッ
『んなで なかよく ランランラン♪ ランランラン♪』
姉「あっまだコレあってたんだ観よ観よ」
妹「この非常時なのによく続いてるね」
姉「ね。日本に生まれて良かったねぇ」
妹「こういうときだからじゃないの」
姉「ケータイは圏外だし、ネットは配線ちゃんと繋がってるのに接続できない表示。どうして?」
妹「わかんない。ひまになる?」
姉「いんや。暇つぶしなら家に山ほどあるし」
妹「またゲームする?」
姉「お。やるかー? やるきかー?」
妹「勝負」
姉「じゃあ~目ぇ瞑って~……今日はコレ! で勝負! げっ、これかー」
妹「これ二人プレイできたっけ」
姉「できるできる。私あんまやったことないけど。まいーややろ。あコレ片付けてね」
妹「思ったより散らかってるね」
姉「うーんクランボンが来るまで当分散らかしモードだな。こりゃ」
姉「このゲーム意外と面白かった。あ。もうこれ空っぽ」
妹「ご飯つくろっか」
姉「あんまお腹空いてないな。間食しまくっちゃって」
妹「じゃあいいかな」
姉「アンタお腹空いたの?」
妹「すこし」
姉「お菓子食べると太るから? まだダイエット中?」
妹「うん」
姉「どーせクランボンになっちゃうのに?」
妹「ならなかったとき、損しちゃう」
姉「どーせもうダメだって。この国はクランボンで果てる運命なんだって」
妹「ふうん」
姉「卵まだあったっけ。いつもの作るね」
妹「はーい」
妹「いただきます」
姉「たっきますと」
妹「おいしい」
姉「ね。私の腕もまだ落ちちゃいないっぽい。しょう油とって」
妹「もうあと少ししかないよ」
姉「あー。しょう油のでかい奴ってどこにあったっけ」
妹「分かんない」
姉「詰め替えるのめんどくさいからいっか」
妹「あとで私やっとく」
姉「いーよ別に。しょうゆ使うの最後かもしれんし」
妹「やっとく」
姉「そ。で? もうごちそうさま?」
妹「ごちそうさまでした」
姉「ごちそーさまでした。一緒にお皿洗うの手伝ったげる」
妹「いい」
姉「おっぱいどんだけおっきくなったか見してよ」
妹「やだ。お姉ちゃんより小っちゃいに決まってるし」
姉「お姉ちゃん、クランボンになっちゃう前に一目見たいんだけども」
妹「だめ。お姉ちゃんはもうゼッタイ私の胸を見ることはないの」
姉「このー恥ずかしがり屋さんめ。かわいいやつめ」
妹「だめ」
姉「けち。ケチになるとおっぱい大きくならないんだぞ」
妹「お姉ちゃんケチなのにおっぱい大きいじゃん」
姉「そこがお姉ちゃんのすごいところ。一揉みしとく?」
妹「いいです」
姉「思い出作りの下手なコだねー。……スキあり!」
妹「きゃあ」
姉「うえ真っ暗。あそっか外の明かり点いてないからか」
妹「夜のうちにクラムボンが来たらどうするの」
姉「そんときゃそんとき。むしろ寝ている間な分、ありがたいかもよ」
妹「そうかな」
姉「それよりさ、恋バナしようぜ恋バナ」
妹「なにそれ」
姉「ありゃー死語になっちゃってるのかね。『夜の甘ったるい恋のおはなし』の略だよ」
妹「長い」
姉「アンタさ、気になるオトコノコとか、いるの?」
妹「わかんない」
姉「ほー。いる訳ね。ほー。誰?」
妹「お姉ちゃんはいるの?」
姉「いたけど、どうも一足先にクランボンになっちまったらしい」
妹「えええ」
妹「クラムボンになったって」
姉「別に私らも近いうちに仲間入りするんだから、別に悲しくもなんとも」
妹「そうなんだ」
姉「まあヒトでいられるうちに、しといた方がいいこともあるかもだけど」
妹「私、まだオトコノコとキスもしたことない」
姉「あらーピュアーな純潔を守ってるのネ」
妹「お姉ちゃんはあるの」
姉「ないけど」
妹「えっないの」
姉「うん。男の子を選り好みしてたらいつの間にか間に合わなくなってた」
妹「かわいそう」
姉「そう? クランボンになったらキスぐらいできるんじゃないの?」
妹「そうなの?」
姉「さあ。適当言ってみた」
妹「おやすみ」
姉「ヤすみ」
妹「」
姉「Zzz」
妹「」
姉「Zzz」
妹「Zz」
姉「はよ」
妹「あ。寝坊しちゃった」
姉「ぎゃーもうこんな時間」
妹「学校やってないよ」
姉「えっなんで? 今日休みだっけ? げげっ何でこんなリビング散らかってんの」
妹「クラムボン」
姉「あっ、あーね。なるほど。そういうのもあったか」
妹「いい天気」
姉「来てる? クランボン」
妹「来てないかも」
姉「そ。でもあと一時間後にくるかも。五分後かも。そっから見えてないだけかもねぇ」
妹「別に怖くないよ」
姉「あそうつまんないの」
妹「また遊ぶの」
姉「んーそうしたいのは山々なんだけどね。ちょっと出かけよっか」
妹「避難所に行くの」
姉「いやーあんな遠いとこまで歩いていけないっしょ」
妹「どこいくの」
姉「お菓子補充。ちょっとそこのコンビニまで。一緒に来る?」
妹「うん」
姉「外に出ると危ないかもよ」
妹「平気」
姉「そ。じゃ行こっか。サイフどこに置いてたっけ」
妹「お財布もっていくの?」
姉「えっ当たり前じゃん」
妹「そうだったね」
姉「あったあった。じゃそっち裏の戸締りよろしくねー」
姉「車も通らない昼下がりの道路」
妹「みんなクラムボンになりたくなかったんだね」
姉「変だなー。私らみたいなのはもっといそうなもんだけどなー」
妹「みんな家に閉じこもってるのかも。あ。コンビニ電気ついてる」
姉「開くかな。おー開いた」
妹「やっぱり誰もいないね」
姉「あ、でもほら。あっこカウンター」
妹「あ。引き出し飛び出してる。レジの」
姉「ところがお金が荒らされた様子はないですねぇ」
妹「電卓も用意されてる。ちゃんと準備されてるんだ」
姉「日本人の良心だね。あとほら、商品もぽつぽつなくなってる」
妹「やっぱり私達みたいに残った人がいるんだ。いるのかな」
姉「さーて何買おっかなー。今日は多めに持ってきたから奮発しちゃうぜ」
妹「カゴ持ってくるね」
妹「お会計は完全手動だね」
姉「もう。どれがいくらかいちいち覚えてないし」
妹「確かこれは200円。これは298円」
姉「これは?」
妹「これは、分かりません」
姉「しゃーないかー。えーっと待って。えーっ。148円!」
妹「いち……よん……はち」
姉「あとは。これとこれね。えーっと、えーっと。もー面倒くさい」
妹「おいくら」
姉「たぶん200円と300円ぐらい。いーのいーの、お金払わないよか罪は軽いし」
妹「じゃあ1146円」
姉「じゃ1200円ここに突っ込んどこ」
妹「お釣りは?」
姉「とっておけぇい」
姉「なーんか入るときも出るときも静かなコンビニって変なの」
妹「悪いことしてるみたい」
姉「してもいいのよ。どうせ誰も見てないし」
妹「誰か見てるかも」
姉「うん、ほら、あっこの警察の人とか」
妹「えっ。あっ」
姉「やっぱりそうだ。ほら、こっち自転車でくる!」
妹「クラムボンだったらどうしよう」
姉「うーん。もしそうならちょっと早いね。買ったお菓子まだ食べてないし」
妹「まだ心の準備できてない」
姉「大丈夫、そんときゃそんとき」
妹「大丈夫かな」
姉「てか、クランボンって自転車乗るの?」
妹「わかんない」
姉「乗らないんじゃね??」
姉「こんちわー」
妹「こんにちは」
巡査「こんにちは。お嬢さん方は、避難所に行かれないのですか」
姉「まぁ気が向いたら行きますんでお構いなく」
妹「おじいさんは、一人だけですか?」
巡査「はい。こうやって周囲に避難勧告を出しながら――」
姉「出しながら?」
巡査「クランボンのところに向かっているんですよ」
妹「どうして」
巡査「いやあ、待ちきれなくて、とでも言っておきましょうか」
姉「クランボンになりたいの? それって職務放棄じゃないの?」
巡査「ええ、私の独断です。まぁ今となっちゃ、警察なんて、なんの権限もありゃあしません」
妹「ふうん」
姉「これは? おもちゃ?」
巡査「本物ですよ。一応まだ弾も入ってます」
妹「ひえ」
姉「どうしてまた」
巡査「これを手放すことで、私はただのヒトになれるのです。もしよければ」
姉「要らないなら捨てればいいじゃないですか。なぜ?」
巡査「それは、頑なにクランボになるのを拒むヒトが、いるかもしれない、と思ったからです」
妹「ヒトのまま死ぬってこと? これを使って?」
姉「物騒なこと勧めるおじいちゃんだね」
巡査「これは失礼、そういう、まともな考えのヒトに会うのは久しぶりでして」
妹「怖いな」
姉「私たちなら大丈夫なんで、コレはそういうコトが必要な人に譲ったげてください」
巡査「そうですか。いやはや、気を悪くさせて申し訳ありませんでした。では、どうかお気をつけて」
姉「バイバイ、またね」
姉「外には怖い人がいるかもだって。帰ろっか」
妹「うん」
姉「ウチ、すぐそこだけど」
妹「着いた」
姉「カギカギ。開いた」
妹「ただいま」
姉「ただいまー」
妹「おトイレ」
姉「行っトイレ。あ、もう石鹸こんなすり減ってる。まいっか」
姉「がらがらがら。ぺっ」
姉「ふいー。お菓子何から食べよっかな」
姉「何じゃらほい」
妹「さっきのおじいさん、何でクラムボンになりたかったのかな」
姉「さぁね。嫌気がさしてたんじゃない?」
妹「嫌気?」
姉「多分、すごい詰め寄られたと思うよ。警察は市民を守るもんじゃないのかーとか」
妹「なるほど」
姉「だからこう、言い方は悪いけど、逃避的な? 厭世的な?」
妹「ふうん。でも、アレを使ってヒトのまま死ぬより、クラムボンになるのを選んだんだね」
姉「そりゃまー死ぬのは痛いだろうし、残された人はハッピーになれないだろうしねぇ」
妹「クラムボンはそうじゃないの?」
姉「そりゃ分かんないけど、だからこそ、より良い結果を未知なものに賭ける、みたいな?」
妹「ごめん分かんない」
姉「お姉ちゃんもよく分かんない。まーじきに分かることでしょうよ」
姉「いーよん」
ピッ
『ザーーー』
姉「うるさい」
ピッ
『ザーーー ……の……危険……』
ピッ
『ザーーー ……が……放棄……』
姉「うるさーい」
妹「どこもダメみたい」
ピッ
妹「昨日はちゃんとついたのに」
姉「ふーん。いよいよかもねぇ」
妹「うん」
妹「充電器は」
姉「どっかいっちゃった」
妹「探す」
姉「いーよ。どうせクリアできないし。ぽいっ」
妹「クリアしないの」
姉「したところでねー。うん、なんかもう締めに入っちゃってる感じだし」
妹「締めって?」
姉「なんか精神的に整理がついてるっていうかー。そう、心の準備! ね」
妹「そうなんだ」
姉「アンタはまだ不安なの?」
妹「少し」
姉「そう。そういうときは~あったかいもの! ミルクココアでも作っかー」
妹「ありがと」
姉「アレ、一番でかいカップあったでしょ記念品の。あれ今つかお、出しといてー」
妹「ふう」
姉「リラックスしたわー最高」
妹「落ち着いた」
姉「大丈夫? 落ち着いた?」
妹「もう平気だよ」
姉「そ。じゃあ~」
妹「じゃあ?」
姉「ゲームしよっか。アンタの一番得意な~こいつで!」
妹「いいよ。いつも通り適当に選ぼう」
姉「そう? せっかくのチャンスを棒に振っちゃっていいのかしらー?」
妹「望むところ」
姉「よしよし、なら正々堂々、適当に選んだゲームで白黒つけますかねぇ」
姉「きー何で勝てんのじゃあ」
妹「お姉ちゃんは見切るのが早過ぎるから。もっと粘らないと」
姉「そんなの私の性分に合わんのじゃー!」
妹「そろそろ終わ」
姉「待って! コレ最後! ほんと最後だから!」
妹「いいよ、最後なら」
姉「あっ、アンタまたわざと手抜くつもりでしょ! それダメだから!」
妹「だってお姉ちゃん、自分が勝つまでずっと『これが最後』って」
姉「じゃ、じゃあこの一戦で負けた方が今日の夕飯作るってのは!」
妹「ごはん? ほんと?」
姉「ほんとほんと絶対」
妹「やる」
姉「よしきた。じゃあこれスタート画面に戻すかんねー」
姉「いたっきまーす」
妹「おしょうゆ取って」
姉「はいよ。お。中身入ってんじゃん」
妹「任されよ」
姉「いいねぇ、調味料大臣の称号を与えよう」
妹「いらない」
姉「コレおいしい?」
妹「おいしい」
姉「ふふん。知ってる」
妹「おしょうゆ返して」
姉「お代わりしよ。あー今日2合しか炊いてなかった」
妹「もうちょっと炊く?」
姉「炊きましょうかねえ!」
妹「ごちそうさまでした」
姉「ごっそさまー」
妹「おなかいっぱい」
姉「おや、ダイエット姫が腹十分とは」
妹「お姉ちゃんは平気なの?」
姉「デザートまで入るよ」
妹「あるの?」
姉「今こそ打ち明けましょう……冷蔵庫の奥に秘蔵のプリンが!」
妹「あやっぱりアレお姉ちゃんのだったんだ」
姉「バレてる! まいいやアレ二人で食べよ」
妹「いいの」
姉「いーよ。食べれるうちに食べとこっ」
姉「ふいー、久々の姉妹水入らずのシャワーだったねぇ。水入らずってのは変か」
妹「お姉ちゃんが勝手に入ってくるから」
姉「いいじゃん。お姉ちゃんのおっぱいおっきかったっしょ?」
妹「もうサイテー」
姉「そんなに怒んなさんなて。結局アンタだっておっぱい見してくんなかったじゃん」
妹「でも後ろからいきなり揉んだでしょ」
姉「だって。見してくんなかったから」
妹「ひどい。お姉ちゃんのばか」
姉「でも発育途上ながら十分実ってたじゃない。お姉ちゃんは嬉しいよ」
妹「私は嬉しくない」
姉「今日はいい夢見れそうだー」
妹「もう。お姉ちゃんのばか」
姉「消灯」
妹「ん」
姉「どら。一緒の布団で寝るか」
妹「お断りします」
姉「今日も一日。有意義に過ごしたね」
妹「結局ぐうたらデイだったけど」
姉「でもお姉ちゃん疲れちったよ。寝よ寝よ」
妹「潜ってこないでよ」
姉「おあすみー」
妹「もう。おやすみ」
姉「Zzz」
妹「ふう」
姉「Zzz」
妹「Zz」
姉「Zzz」
妹「Zz」
ガタ
ガタ
妹「……!」
姉「Zzz」
妹「お姉ちゃん」
妹「お姉ちゃん」
妹「きた」
妹「ウチ、入ってきてる」
姉「んー?」
妹「クラムボンきた」
姉「えっまじで?」
妹「だって。まだ心の準備」
姉「ええー。じゃー飲む? あったかいの」
妹「もうリビングにいる。今からじゃ無理」
姉「アンタ震えてんの?」
妹「別に」
ガタガタ ガタ
妹「!」
姉「あー。近いね」
妹「逃げよ。ね。裏口から」
姉「夜中だよ?」
妹「懐中デント準備してる」
姉「なんだ。アンタ、ハナから逃げる気まんまんだったんじゃん」
ガタガタ ガタガタ
姉「よしいまっ!」
妹「うん!」
バタン!
姉「へへ、間抜けめー」
妹「ライトライト!」
ポチッ
妹「!!」
姉「うわっ。もう外にいるじゃん、こんなたくさん!」
妹「逃げよ、ね」
姉「逃げるったってどこに」
妹「クラムボンに捕まらないところ!」
姉「しょーがないなー。じゃ、とりあえず公園のあたり行こ。手、放さないでね」
妹「うん!」
姉「はっ……はっ……」
妹「はっ……はっ……」
姉「あー。外灯の一つくらい点いてりゃ楽なのになぁ」
妹「お姉ちゃん、そっち右にいる!」
姉「げっやば!」
「」
「」
姉「なんかどんどん増えてる気がする」
妹「追っかけてきてる!」
姉「ライトのせいじゃないの?」
妹「でもこれないと何にも見えない」
姉「しゃーないか。とりあえず足掻くだけ足掻いてみよ。ほら、もうひとっ走り!」
妹「う、うん!」
姉「あー。こりゃダメだわ」
妹「はぁ……はぁ……」
姉「ゲームで鍛えた私にゃ分かる。これ全方位囲まれてるわ。万事休す。」
妹「はぁ……はぁ……」
姉「どうする?」
妹「はぁ……はぁ……ふうう」
姉「とりあえずそこベンチ座ろ」
妹「お姉ちゃん」
姉「ん?」
妹「逃げよう」
姉「だからもう無理だって。ほら、先頭がもうあっこまで来てる」
妹「私、あんなのになりたくない。クラムボンはいや」
姉「も、腹を括るしかないよ。こうなったらさ」
妹「やだよぉ。逃げようよう」
妹「だって。だって」
姉「ま、最初のクランボンが出てきたときから、みんな覚悟しなきゃいけなかったんだよ」
妹「お姉ちゃん」
姉「だーいじょうぶだって。多分痛くないから」
妹「お姉ちゃん!」
姉「おーよしよし。よく頑張った。うん。今日までアンタ、よく頑張ったよ」
妹「うええん」
姉「よしよし。さて」
姉「妹を泣かせたクソンボンどもさん」
姉「やるならとっとと、手短にお願いしますね」
「」 「」 「」 「」「」
「」「」 「」 「」 「」「」
姉「これで終わりかぁ。 ま こんな もん でっしょ」
「」 「」 「」 「」「」
「」 「」 「」
姉「あれ?」
姉「あれあれ? どうしたのあんた等」
妹「……?」
姉「なに、私らがどこにいるか分かんないの?」
姉「こんなに声出してるのに?」
姉「あそう。多分そういうこと?」
姉「よくあるゾンビものの逆? うん、きっとそうっぽい」
妹「お姉ちゃん?」
姉「うん、あのね、追われてるときおかしいと思ってたんだけど」
姉「こいつらどういう理屈か分かんないけど多分」
姉「私達がしゃべってる間、私達の姿が見つけられないみたい」
妹「えっ?」
姉「こりゃーチャンスかもね」
妹「うん」
姉「あっこから切り抜けよっか」
妹「だ、大丈夫かな」
姉「ダメ元じゃなきゃ切り抜けられないって。行くよ」
妹「うん」
姉「その代わりがんがん会話しなきゃ。ほら何かしゃべって」
妹「え? えーっと雨にも負けず風にも負けず雪にも夏の暑さにも負けぬ丈夫な身体が欲しいです」
姉「そっかー。そういうことだったんだねー」
妹「なにが?」
姉「今思えばさー。私ら起きてる間、ほとんど喋りっぱなしだったよね」
妹「うん」
姉「だから家に残ってた私ら、すごく見つかりにくかったんじゃないかな」
妹「なるほど」
姉「ほらー。こんな声出して喋ってるのにやっこさん、必死になってウロウロ探してて受ける!」
姉「かもねぇ。大体ヒトが追い詰められたときって、こんなペラペラ喋ったりしないだろうしね」
妹「これがきっかけで、もしかしてクラムボン騒動解決の糸口が掴めるんじゃないの?」
姉「かもねぇ」
妹「じゃあ誰かに伝えよ。はやく」
姉「あはは。なんかすっかり巻き返した感じ」
妹「やっぱり諦めちゃいけなかったんだよ。ね」
姉「うーん」
妹「?」
姉「正直、私ね。すっかりクランボンになる気だったんだよね」
妹「どうして?」
姉「この事件が起こる前も、ろくなことなかったし……全部元に戻ってもしょーもなかったし」
妹「そんなこと言わないでよ。またゲームしようよ」
妹「またお料理つくってよ。卵の。ちゃんと、おしょう油入れ替えるから」
姉「ん……。……。おっといけない、喋んないと喋んないと たはは」
妹「どこにいくの?」
姉「このままパジャマ姿でフラフラとー。夜道を徘徊する姉妹が向かう先はー」
妹「語呂わるい」
姉「避難所」
妹「避難所?」
姉「とりあえず誰かに、このピーチクパーチクでクランボンが凌げることを伝えるんだよ」
姉「お父さんとお母さんもいるかもしれないしね」
妹「行こっ、行こっ、避難所!」
姉「遠いぞー。イサドより遠いぞー」
妹「いいの! 早く行こっ!」
姉「こらこら引っ張りなさんな。おっ、ようクランボン!」
妹「クラムボン!!」
END
お付き合いいただきありがとうござおやすみなさい
希望ある終りで良かったよ
乙
Entry ⇒ 2012.10.05 | Category ⇒ 兄弟姉妹「」SS | Comments (3) | Trackbacks (0)
菫「いいだろう。なってやるよ、魔法少女!!」
白糸台駅
照「ごめん。遅れた」トテトテ
淡「テルーおっそーい!」
尭深「おはようございます」ペコリ
誠子「おはようございまっす!」
菫「おはよう、照。別にまだ集合時間は過ぎていないぞ。まあ、お前が一番最後っては珍しいな。たいていは淡だし」
照「楽しみにしてたから早く出てきたのに…」
淡「嘘だー。どーせ寝坊したんでしょー」
誠子「淡じゃないんだから、宮永先輩が寝坊なんてするわけないだろ!」
淡「ぶー!」
照「ふう…」
菫「なんだ?お疲れ気味だな」
尭深「そんなに気にするほどのことでも無いと思います…けど」
淡「やっぱり寝坊だ!それで走ってきたから…」
淡「痛い痛いすみません」
照「誠子。許してあげて」
誠子「むぅ…宮永先輩が言うなら…」スッ
淡「ありがとテルー!セイコ意地悪!」ササッ
尭深「あ。宮永先輩の後ろに隠れた」
誠子「ぐぬぬぬ…」ワナワナ
菫「相変わらずお前は淡に甘いな」
照「そんな事無い…と、思うけど」ナデナデ
淡「むっふー」スリスリ
尭深「頭撫でながら言っても説得力無い…です…」
照「ん?」
菫「まあいいさ。で、どうしたんだ?」
照「ここに来るまでに迷っちゃって」
菫「ぶっ!?」
尭深「ナイスジョーク…?」
淡「それはいくらなんでもないよ。テルー…」
照「それが、嘘じゃないんだ。今日に限っていつも歩いてる道が知らない道に見えて」
菫「お前…そんな電磁波で方向感覚狂った鳩みたいな」
照「困ったから途中でコンビニ寄って道聞こうと思ったら、ただ聞くのも悪いしと思ってお菓子買ってるうちに目的忘れちゃって」
菫「ダメダメだなぁ!」
淡「テルーポンコツ!」
誠子「宮永先輩って、部活中はしっかり者でも、アレですかな。プライベートは結構うっかりさん的な」ヒソヒソ
尭深「あざと可愛い」
照「…」グスッ
淡「あー!泣~かした!泣かした!」
誠子「あわわわ」
尭深「ご、ごめんな…さい…」
菫「こんな程度で泣くなよ…」
淡(かわいい…)
誠子(かわいい…)
尭深(かわいい…)
照「そ、それじゃあ、早く行こうか」
菫「おお、そうだったな」
誠子「おっと、そうでした!」
尭深「はい。早くしないと、時間、間に合わないかも…」
淡「大変だ!」
菫「各自Suicaのチャージは足りてるな?早速街まで行こうか」
誠子「はい!宮永先輩、荷物持ちましょうか!」
照「いや、いいよ。ありがとう誠子」
菫「誠子、私の時も言ったが、今日はプライベートだから」
誠子「いっけね。そうでした!わかりましたー」
淡「みんな早く早くー!」
照「そういえばさ、菫」
菫「なんだ?」
照「今日って、何しに行くんだっけ」
誠子「」ズルッ
尭深「宮永先輩…」
菫「お前…」
照「いや…その…ごめん」
誠子「先輩~」
尭深「本当に…大丈夫、ですか…?」
照「うん。…多分」
菫「頼むぞ?まったく…」
照「い、今は、そう。朝。朝だし。まだちょっと寝ぼけてるのかも…」
菫「まあいいけど…」
淡「早くー!」
誠子「あー!わかったわかった!今行くから待ってろ!」
尭深「先行ってます」ペコリ
菫「ああ。淡がふらふらどこか行かないよう監視頼む」
照「菫。菫。で、目的って…」
菫「本当に忘れたのか?」
照「…」
菫「今日は部活休みで、『元』レギュラー陣で街の方へ遊びに行く約束だっただろ」
菫「私達も引退したことだし、な」
菫(夏は終わった)
菫(私達3年生は引退し、今は誠子が部長)
菫(本格的な受験勉強…と言っても私も照も推薦はほぼ決まったようなものだが…受験勉強前の息抜きに、と誠子達が企画してくれたのが今日)
菫(元レギュラー陣だけでの、初めてのプライベートの遊び)
菫(淡が照と離れたくないとワガママ言ってたのがきっかけ…らしいが、まあ、今日は新部長達の心遣いに甘えさせて貰って気を緩めて目一杯遊ぼうと思う)
菫(もしかしたら、今日の照のポンコツも、今までの全国3連覇という目標への重圧から解放されたが故の、本来の気性…なのかもしれんな)
ガヤガヤ
淡「おおー。やっぱこっちはちゃんと東京してるねぇ~」
誠子「ちゃんとって…白糸台だって一応立派な東京都なんだけど」
淡「あっちはなんか東京っぽくないんだもん!」
菫「まあ、言いたいことも気持ちもわからんでもないが…」
照「24区はやっぱり特別だよね」
尭深「ん?」
誠子「へ?」
淡「テルー?」
菫「…」
照「あれ…?わ、私、今なんか変な事言った?」オドオド
誠子「今、24区って…」
菫「どこ増やした」
照「えっ」
誠子「…」ゴチン
淡「ごめんなさい!」
誠子「あんまり失礼なこと言わないの!」
尭深「調子悪いならまた今度の機会でも…」
照「い、いやいや!大丈夫だよ!ちょっとボケてみただけだから!」
菫「お前のボケは分かりづらい」
誠子「空気を切り裂く感じで発言するんで、なんかマジな雰囲気が怖いです」
尭深「こう、冗談にしても、手心をですね…」
照「ご、ごめんごめん。そんなみんなで集中砲火しないで」アワアワ
淡「テルーギャグの才能ないよ」
照「あう」ショボン
菫(なーんか変だな今日のコイツ。いくらなんでもポンコツ具合が半端じゃない。みんなと遊びに出るってんでハシャぎ過ぎてんのか?)
誠子「おう!まっかせとけ!」
淡「隣の家にへいが出来たってね~」
誠子「かっこい~!」
尭深「古典的かつつまらない。3点」
誠子淡「「手厳しい!!」」
菫「…まあ、いいか。最初はどこに行きたいって話だった?淡」
淡「映画館!」
菫「映画館…ねぇ」
菫(映画館…か。そういえば、今年はまだプリキュア見てなかったな。今、見そびれた春の映画の再上映やってるんだよな)
菫(っていうか、そろそろ一人でコソコソ見に行くのも辛くなってきた。年齢的に)
菫(まわりお子様連れか大きいお友達ばかりだし)ガックリ
菫「…」チラッ
淡「どしたのスミレー?」キョトン
菫「いや…」
菫「…何見たいんだ」
淡「ふっふっふ~」
菫(…趣向がお子様っぽいし、結構期待してるんだが)
淡「ホラー」キリッ
菫「え゙」
映画館
菫「…」ボーーー
誠子「んー!肩凝ったー!」ノビー
淡「きゃー♪怖かったねーテルー」ダキッ
照「…」カタカタ
誠子「マジビビリしてますね。宮永先輩ホラー弱いんだ。でも、へー。貞子ってこんな話だったんだー。なんか思ってたよりショボ…ゲフンゲフン」
尭深「…」ブルブルッ
誠子「大丈夫?尭深。アンタもホラー苦手か」
尭深「せ、誠子ちゃん。ちょっとお手洗い付き合って…」
誠子「はいはい。じゃあ、弘世先輩。私らちょっと行ってきますんで、待ってて下さーい」
菫「ん」ボーー
淡「あ、私もー!」
照「わ、私も…!置いてかないで誠子!」モジモジ
誠子「私は今度映画見るならアクションがいいなー。ランボーとかエクスペンタブルズみたいなの」スタスタ
淡「えー?今度はコメディがいいー」トテテテ
照「ジブリかディズニーか動物…」フラフラ
菫「ああ…行ってこい…」ボー
菫「…」
菫「行ってこい…」ボー
菫「…ハッ」
菫「っ!」バッ
菫「~~~っ!!」キョロキョロ
菫「あ、あれ!?みんなは…」
菫「…」
菫「…ああ。トイレか」ホッ
菫「…」ヘナヘナ
菫「あう」ペタン
菫「こ、怖かった…」
菫「特にあの貞子が井戸から這い出てくる場面とかモニターから手伸ばして来る場面とか…なんだよあれ…絶対劇場で心臓麻痺起こして死んだ人いるぞ」ブツブツ
菫「あ、あわわわ…」カタカタ
菫「だ、駄目だ。体の震えが止まらない。みんなが帰ってくるまでに平静になっておかないと私のイメージが…」
菫「何か元気になれる要素…元気になれる要素…」キョロキョロ
菫「…あ」
菫「…プリキュアの劇場グッズ…」
【女の子は誰でもプリキュアになれる!!プリキュアオールスターズ、新たなるステージへ――】
菫「…見たかったな」ボソッ
菫(今日を逃したらもう劇場には来れないよな…)
菫「…」
菫(昔っから、憧れてたんだ。プリキュアとか、魔法少女とか、そんな子供染みたヒロインに)
菫(可愛い格好して、魔法でみんなの夢を叶えて、悪い敵をやっつけて…恋をして)
菫(そんな、どうしようもない子供染みた、妄想を。未だ、捨てきれずにいる)
菫(馬鹿馬鹿しい。私はもう受験生だぞ)プイッ
菫「…」
菫「…」チラッ
菫(グッズ。デコレーションステッカーくらいなら…有り…か?)
菫「…」コソコソ
「いらっしゃいませー」
菫「す、すみませーん…」
「はい!何をお求めでしょう!」
菫(…うん。デコステくらいならありだ)
菫「そ、その…」
「はい!」
菫「そ、その…プリキュアの、デコステッカーを」
「…(哀れみ)」
菫(ぐああああ!!一気にアレな人を見る目になったぁああああ!!?)
菫「その。つ、包んで戴けますか?……め、姪が、どうしても欲しいと言っていたものですので」
「包装ですか?生憎プレゼント用の包装はありませんが…」
菫「そ、それでいいです!」
菫(よし通ったーーー!!)
(この人、姪とか嘘なんだろうなー)
菫「あ、すみません。それと」
「…はい。なんでしょうか」
菫「パ…パンフレットも…一緒に…あの、紙で見えないように包装してか…」
淡「スミレー何買ってるのー」ヒョコッ
菫「あksdljそいふぃあうhふじこ!!?」
(あーあー)
淡「…って、あー。これプリキュアだ~」
菫「あ、淡!?いつの間に…」
淡「これもうお会計済ませたー?」
「え、ええ…」
「へ?」
菫「あ、ちょっと…」
淡「テルー!見てみてー!」ダッ
菫「淡ーーーーーーーーーーーーー!!!!」ダッ
(哀れな…)
照「どうしたの淡」
誠子「なに子供っぽいの買ってんの淡」
尭深「子供っぽいとは思ってたけど、そこまで子供っぽいとちょっと引くよ。淡ちゃん…」
淡「菫がこんなの買ってたーーー」
誠子「は?」
尭深「う」
照「ん?」
菫「わ、私のイメージがあああああああああ!!」
「…」
「…あいつか」
菫「…」ブッスー
照「菫。ごめんね。許して」
誠子「すみません弘世先輩。いや、あまりにも意外で…」
尭深「ごめんなさい」ペコリ
淡「まったくだよ!みんな、あのあと爆笑するだなんて…」
菫「誰が諸悪の根源だ!」ポカッ
淡「申し訳ありません!!」
菫「この!この!アンポンタン!礼儀知らず!天然畜生!」ブンブン
淡「ごーめんーねースーミーレー」ガクガク
照「す、菫。その辺で許してあげて。淡が首振り人形みたいに揺れてるよ…」オドオド
誠子「これ以上脳みそ揺すってこれ以上馬鹿になったら面倒見切れないので」
尭深「先輩。びーくーる。びーくーる」
菫「むぅ…」ピタッ
淡「おーほーぅー揺れるー」カクンカクン
淡「かしこまり!」ビシッ
菫「…みんな、無様を晒してすまなかったな。つい取り乱してしまった」
照「ううん。私達の方こそごめんね」
誠子「人間、隠したい趣味の一つや二つありますって!私はむしろ弘世先輩のその趣味、知れて好感度上がりましたけどね!」
菫「は?」
誠子「だって、ねぇ?」チラッ
尭深「うん。完璧人間の弘世部ちょ…元部長の可愛いとこ、見つけた」ニコッ
菫「完璧って…止してくれ。私はまだまだ未熟者で…」
誠子「何事も卒なくこなし、曲者ぞろいの白糸台麻雀を部長として1年間見事に統率してきた人間の言う台詞じゃないですよ。それ」
菫「あのなぁ誠子。お前だってこれから1年同じ役割を…」
照「菫。今はお小言はいいから」
尭深「ギャップ萌え」
菫「萌えって…」ガックリ
菫「…わかったよ。取り敢えず私の恥ずかしい少女趣味を受け入れてくれてありがとうな。あんまり公言するんじゃないぞ。特に淡」
菫「なんだかなーって感じだが、まあ結果的には…って、照!?お前いつの間に!」
淡「ああー!テルーのデラックスジャンボプリンパフェもう来たの!?」
誠子「でかっ!来るの早っ!そして食べるのも早っ!」
照「おいしいよ」パクパク
淡「うー。いいなー」
菫「みんなの分待てよ。協調性のな…」
誠子「ん?」クルッ
菫「…ん?どうした誠子」
誠子「…あ。いえ…なんか、視線を感じたんですが…」
菫「視線?その方向には誰も居ないが」
誠子「あれー?」
淡「もしかしてオバケ!」
尭深「やめてください」
菫「私も尭深に賛成だ。ひ、非科学的な」キョロキョロ
淡「やっぱりオバ」
菫「殴るぞ」
淡「何卒御容赦下さい」ペッコリン
尭深「あ、私の緑茶と宇治金時も来た」
淡「宇治金時美味しそう!」
菫「いつも緑茶だな尭深」
尭深「アイデンティティですので」
菫「はあ」
淡「わーい!私のプリンケーキも来たー!!」
照「それも美味しそう。ねえ淡。ちょっと食べっこしようよ」
淡「うん!」
菫「あとは、私のだけか…それ、渋いな。いつもはこういう場面だとがっつり食べるのに」
誠子「なんとなくです。先輩のまだですかね?今度店員近くに来たら聞いてみましょうか」
菫「ああ、誠子。ありがとう、助かるよ。後、みんなは遠慮せずに先に食べていてくれ。待たせるのは心苦しいから」
淡「わかった!」
誠子「それでは失礼して…」
尭深「先に頂きます」
菫「ああ」
菫「…」
菫(早く来ないかな。楽しみだな。クレーム・ブリュレ。ここのカフェのスイーツはどれもネットで評価高いしな…)
菫「…」ソワソワ
照「パクパク」
菫「…」ソワソワ
尭深「ズズ…」
菫「…」ソワソワ
照「うん」モグモグ
誠子「ああ、淡。口にクリーム付いてる…」フキフキ
淡「モガモガ」
尭深「ふふ…」クスッ
菫「…」ソワソワ
菫(…まだか)イラッ
「…あの、すみませんお客様」
菫(来たっ!!)
菫「はい。なんでしょうか」クルッ
「その…大変申し上げにくいのですが…」
菫「は?」ピクッ
「あ、あの…お客様のご注文なされたアイスコーヒーとクリーム・ブリュレなのですが…」
菫「はい」ヒクッ
菫(…なんで何も持ってきてない?)ヒクヒク
菫「…」ピクッ
「…いえ。その…確かにさっきまでは確かに有ったんですが…」
菫「な…ななな…」ワナワナ
「い、今、急いで新しいのを作っておりますので…」
菫「なんじゃそりゃああああああああああ!!!」
「…ゲッフ」
「…チュー」
菫の部屋
菫「…ふう」ボフッ
菫「…」ガサガサ
菫「…えへへ」
菫(プリキュアのステッカー。かわいいな)
菫(パンフレットは…明日読もう)ウキウキ
菫(枕元においておこうか。いい夢が見られるように)ゴソゴソ
菫「…」
菫「…楽しかったな、今日。ありがとう。誠子。尭深。それに、淡」
菫「私と照に、想い出を作ってくれたんだろう?まったく…私たちは良い後輩に恵まれたよ」
菫「映画も怖かったが楽しかったし、あの後結局出てきたクリーム・ブリュレとアイスコーヒーも、多少のトラブルはあったがとても美味しかった」
菫「その後はみんなで買い物もしたし…」
菫「…」
菫「…私としたことが、大人げないことで怒ってしまったな。情けない」
菫「どうも、最近短気で困る。ケアレスミスも多いし…調子が良くないというか…」
菫(…だとしたら、少々気を引き締め直さねばいかんな。引退したとはいえ、私は白糸台の弘世菫なのだ。情けない姿を衆目に晒すのも憚られる)
菫(推薦があるとはいえ、学業を疎かにする訳にもいかないし…)ウト…
菫(兎に角、明日は日曜だし、早起きして…授業の…予習…で…も…)ウツラ…ウツラ…
菫「…」
菫「…」スヤスヤ
「…ふむ」
「…」ゴソゴソ
菫「すー…すー…」
「なんやこれ」
「…プリキュア?」
「ふん」ポイッ
「…」
「こいつが」
「やっぱ『そう』なんか?」
「そげな感じしなかったばってんなー」
「…ま、しゃーないか。それでもこいつだってんだから」
「えーっと…名前名前」ゴソゴソ
「弘世菫…って、げっ!今思い出した!こいつ、あいじゃなかか!白糸台の!」
「うげ~…マジですか」
「…ま、よか」
「初仕事。やったるけん」
「おい。おい、おまえ。起きろ」
菫「すー…」
「おい。おまえ。起きろ」
菫「ん…」
「寝ぼけとう場合じゃなかぞ」ユサユサ
菫「ううー…」ギュッ
菫(誰…?ママ?うるさい…今日は休日だよ…)
「こんガキ…布団掴みやのっち。意地でも起きなか気か」
菫「プリキュアまでには起きるから…」ムニャムニャ…
「こいつ。いい歳こいてからに…いい加減に…!」ギュッ
菫(うるさいなぁ…)
菫「うみゅ…」モゾモゾ
「起きんかい!!」バサッ!!
菫「おわあああああ!?」
菫「いたたた…ぐお…腰打った…」サスサス
「ようやっとお目覚めか眠り姫」
菫「っ!?なっ!?なんだなんだ!?ってか。誰だ!?」キョロキョロ
菫(くっ!部屋が暗くて姿がよく見えない!)
「くくくくく…」
菫(携帯…駄目だ、枕元だ。布団ごと引き摺り落とされたせいで私が離れてしまった!)
菫「なんでこの部屋に人が居るんだ!?窓は鍵かけたし、第一此処は2階だぞ!」
菫(なんとか会話して注意を引きつつ明かりを付けて…)
「ふん。そんな事か。容易か事よ」
菫(眩しさに怯んだところを取り押さえる!この声は女だし…シルエットからも武器の類は持っていなさそうだ。いけるか?)ジリッ
「うちは魔法んマスコットやけんな」
菫「は!?」
「ふひひひ…やはり驚いたか」
菫(こ、こいつ!気狂いか!?)
「そしておまえはうちのパートナーとしての才能の保持者…らしい」
菫「!!?」
「お?動揺したばいな。そうやろう!そうやろう!」
菫「よ、世迷言を…」ジリッ
菫(こ、こいつ…本格的にヤバイぞ!)
「ふん。そう言われるんは分かっとったわ」
菫「あ、当たり前だ!」ジリッ
菫(放っておいたら何をするかわかったもんじゃない!先手必勝だ。やはり暴れ出す前に急いで取り押さえ、然る後に大声を上げて人を呼ぶ!)
「そして、そう言われた時の対策も」
菫「…言ってみろ」コツン
菫(…よし、リモコンが足に当たった。この部屋のライトは点灯するまでのログタイムが1~2秒ほどある。スイッチを押してすぐに仕掛けるぞ。それにこいつ、少し喋ってから大きく息を吸う癖があるな)
「よか。ならば聞くが良い」
菫(その時が何か語りたそうにしてるし、気持ち良さそうに存分語るが良い。隙を見て直ぐ様襲いかかってやる…!)ググッ
菫(今だ!足で明かりを…)カチッ
チカッ
「おまえには…」
チカッ
菫(そして…!その足に力を貯めて、直ぐ様奴の足元にタックルを…!)ググッ
「魔法少女の才能がある」
菫(今だ…って、え!?)
菫「…え」
菫「…魔法少女!?」ビクッ
「そう。魔法少女」
パッ
菫「…何言ってんだお前」
菫(…明かりが…点いた。最悪だ。攻めのタイミングを逃した)
菫(…くっ。奴の方が一枚上手だったか?癪に障るな。いや。だが、もう今更嘆いても仕方ない。別の手を考えるか)
菫(冷静になれ。相手は異常者だ。隙を見せずに相手を観察しろ。なに、麻雀でいつもやっている事だ。私には出来る。そうだな、まずは…)
菫「…すまないが、その前にまず、君が何者なのかを教えてくれないか?」
菫(『未知』は人を不安にさせ、相手をより大きく見せる。少しでも意味の分かる情報を得なければ)
「魔法少女とは、この世の法則より解放されしモノ。魔を操り、超常の力を行使する」
菫「聞けよ」
「…せからしかぁ」
菫「…ってか、君は、あれだな。その方言、博多の人だな?同い年くらいか?こんな真似をして…ご両親が泣くぞ」
「なんや。うちん事忘れとうん?かー!せからしか!せからしか!」
菫「忘れて…って、君は私の事を知ってるのか。いや、そもそも君のような…子…は…あー」
「思い出したばいか!!そーだ!直接やないけど、おまえんとこの高校っちは何度も戦っちいる!」
菫「…確か、新道寺の中堅の…」
仁美「江崎仁美たい!!」メェー
菫(なんだその鳴き声(?))
菫「…で。なんだってんだ一体。…ほれ、コーヒー淹れてきたぞ」スッ
仁美「どうも。ズズ…うん。良い豆使っちるね」
菫「これインスタント……って!だから!何だったんださっきのは!」ズイッ
仁美「まあそう焦んなさんな」
菫「人の家に不法侵入しておいて、よくもそんな言い草を…!」ワナワナ
仁美「うん。わかった。わかったから国語辞典振りかぶらんといて」ドードー
菫「…」コトン
仁美「言うても、大体主題は全部伝えたえましたしなぁ~」ズズー
菫「魔法少女がなんちゃらってのか」
仁美「うむ」コックリ
菫「今度は警察呼ぶぞ」ギロッ
仁美「タンマタンマ」アセアセ
菫「…はぁ。わかったよ。取り敢えず最後まで聞いてやるから。気が済んだら帰れ。ってか、なんで東京まで出てきてるんだお前は」
菫(いきなり凄いとこから話し始めやがったこいつ)
仁美「そしておまえはうちの相方の魔法少女足り得る素質を持っちる」
菫「はあ。それで」
仁美「うちと契約して、魔法少女になってよ!」メェー
菫「却下だ」
仁美「即答!?」メェー!?
菫「友人3人の内一人だけ魔法少女になれないような名前しやがって、何が『魔法少女になって』だ馬鹿馬鹿しい。生憎カルトや酔狂のごっこ遊びに付き合ってやれる暇は私には無い。お帰り願おうか」
仁美「まあそうつんけんなさんな」メェー
菫「五月蝿い。これ以上の会話は必要ないと判断させて貰った。君の与太話にいつまでも付き合ってやれるほど私の人間の器は大きくない。痛い目を見たくなければ早急にこの部屋を…」
仁美「あー…そーは言われてもうちだっておまえに契約してもらわんっち都合の悪かし」メッヘッヘッヘ
菫「くどい。そしてうざい」
仁美「それにね」
菫「…うん?」
仁美「契約せんと…後悔するよ?」ジーッ
菫(あれ…急に…眠気…が…?)
仁美「メーッヘッヘッヘ。秘技、羊催眠。うちやって魔法少女のマスコットとしてこんくらいはかけられるようになっちるんばい」
菫「ぐ…!」フラッ
菫(まさか…!ほ、本当に…魔法が…!?)
仁美「おまえ、魔法少女に憧れよったんやろー?んー?」グルグル
菫「何故…それ…を…」
菫(目だ…あの…目が…)クラクラ
仁美「プリキュア」
菫「…」
仁美「好いとっちゃんちゃなぁ?」
菫「け、けど…ま、魔法なんて、現実には存在しない…し…」
仁美「好いとっちゃんちゃなぁ?」
菫「…ああ…うん…」
仁美「ならなんば迷う必要のある事か。受け入れるのよか。契約せんね…契約せんね…」ゴゴゴゴゴ
仁美「ほれ…ほれ…契約しろ…契約しろ…『うん』と言え…『うん』と。それだけでええ…ええよ…そしたらおまえはその瞬間から人の枠を超越した魔人と化す…」グルグル
菫「ぐ…うう…こいつどう見ても暗黒寄り…」
仁美「ほれ!言え!!言って楽になれ!!メーッヘッヘッヘ!!」グルグル
菫「だ、誰か…助け…ぐあああ…!!」
仁美「さあ!『うん』と言え!!」グルグル
菫「こ…かっ…!」
菫(く、口が…勝手に…!)
菫「う、うう…う…」
仁美「うん!うん!うん!」
菫「ううー!」ポロポロ
仁美「言え!!さあ!!言え!!『うん』と!!」
菫「こ…」
仁美「…うん?」
菫「この…!」ガシッ
仁美(あれ…なんでうち首の後ろ掴まれと…)
菫「このうんこ野郎ーーーーーー!!」ゴスッ
仁美「ゴフッ!!?」
仁美(こ、腰の入った膝蹴り…!?)
菫「はぁ…!はぁっ!はぁっ!このっ!このっ!このっ!」ゴスッ ゴスッ ゴスッ ゴスッ
仁美「ラメ゙エ゙エ゙エ゙エ゙エ゙エ゙エ゙エ゙エ゙エ゙エ゙!!?」
仁美(すかさず首相撲からの連続ティー・カウ(膝蹴り)だとぉおおお!!?)
菫「ふっ!はっ!死ねっ!」ゴスッ ゴスッ ゴスッ
仁美「がはぁっ…!」
菫「はぁっ!はぁっ!くっ!」
仁美「」フラフラ
菫「これでどうだっ!!」ドゴォッ!!
仁美「かっ!?」
仁美(な、ナイス…)
仁美(ミドルキック…)
仁美「…メェー」バタリ
菫「…はぁ…はぁ…」
仁美「」シーーーン
菫「…や、やってしまった…いや、助かったのか?」
仁美「…」ピクピク
菫「…やり過ぎた。仕方ない。一応…うん。一応。このまま捨てるのも寝覚めが悪いし…起きるまで待ってよう…か……うん。一応…」
菫「…」
菫「…一応…な」
仁美「ボーダーデール!?」ガバッ
菫「起きたか」
仁美「こ、ここは!?」キョロキョロ
菫「私の部屋だ。不法侵入者」
仁美「ぬ。弘世菫!よくもやっちくれたな!」キシャー!
菫「まあ…悪かったよ。お前の方が絶対悪いと思うけど」
仁美「そいに、いつん間にか縄で縛られとう!?ぐお…しかも荒縄やけん。動くっち痛か!」
菫「悪いが、拘束させて貰ったよ。目が合うと怖いことになりそうだから、君の顔の向きも私の居る場所の逆だ。荒縄なのは…たまたま部屋にあったからだな」
仁美「なしけん荒縄なんかがたまたま部屋に…」
菫「黙秘権を行使する」
仁美「…焼いて食う気か」
菫「するか!!」
仁美「いやあああああ!!ジンギスカンはいやぁああああああ!!」
菫「ええい叫ぶなうっとおしい!お前の話、聞いてやるからもうちょっと詳しく聞かせろ!!」
菫「…」
仁美「…メヘヘヘ」ニヤニヤ
菫「…べ、別に…その…興味があるとか、そういうのでは無いんだが…」
仁美「ほうほう。純情乙女すみれちゃんは、受験生にもなって魔法少女に憧れちゃうんでちゅかー?魔法処女が」ニヤニヤ
菫「ギギギ…!!」
仁美「…で?何言わんっちしとった?『だが…?』『だが』、なんなん?うん?だが、魔法少女に…?」
菫「ふ、ふんっ!魔法少女?馬鹿馬鹿しい。そんなものが本当に存在するとでも言いたいのか?」
仁美「…」ニヤニヤ
菫「…くだらない」
仁美「…」
菫「…」
仁美「…」
菫「…ま、まあ、だが、もし」ソワソワ
仁美「…」
仁美「…」
菫「…仮に、そんなものが実在するというのなら」モジモジ
仁美「…」
菫「…なってやっても…良いけど…」ゴニョゴニョ
仁美「…」
菫「ば、場合によっては…だからな!!」
仁美「メェー…」
菫「あ、哀れみの声を出すな!!」
菫「…」
仁美「まあ、説明してからやっちもよかばってん『プリーズ』って言葉が欲しかなぁ」
菫「…」イラッ
仁美「契約前に魔法のマスコットボコって荒縄で縛ってベッドに放置とか…そんな魔法少女聞いたこともなか」
菫「…」
仁美「これは謝罪の言葉と『お願いします』って言葉が聞きたかなぁ~…」
菫「…」
仁美(くくく…勘違いすんなや。うちが上。おまえは下だ。その辺のとこきっちり条件付けたるけん)
菫「…」スッ
仁美「」ゾクッ
菫「…」
仁美「ひっ!?」
菫「…カリッ」
仁美(み、耳甘噛されとう!?)
菫「『プリーズ(お願いします)』」
菫「『耳噛み千切られたくなかったら言うべき事を全部話せ』」ゴゴゴゴ
仁美(こ、こいつ怖か~~~~!?)
仁美「わ、わかった。今は、話すから…」
菫「…ぷは」スッ
仁美(この胸の鼓動は…恋!?…では絶対に無い)ドキドキ
菫「…で?魔法少女がなんだって?」ドカッ
仁美(胡座かいて地べた座んなさんなや。いい年の女子が)
仁美「…魔法少女とは」
菫「…ああ」
仁美「この世の法則より解放されしモノ。魔を操り、超常の力を行使する」
菫「…それはさっきも聞いた。もっと具体的に」
仁美「…つまり、魔法を使って常人よりいろんな事が出来るって事」
菫「…」
菫「…何故そんなものが」
仁美「わからん。うちも『選ばれて』マスコットになっただけやし」
菫「選ばれて?」
仁美「ある日、突然な。目覚めたんやけん。使命に。パートナーになるべき魔法少女の才能ば持った少女ば探せっち」
菫「突然?」
仁美「うん。それ以外はわからん。で、そうは言われてもどうすれば良いのか途方に暮れていたところを…」
菫「…ああ」
仁美「『ある人』に、助けられた」
菫「ある人?」
仁美「そう。その人は、色々なことを知っていた。魔法少女の使命、マスコットの役割、そして、どうすればパートナーになるべき少女に出会えるのかも」
菫「…待って欲しい」
仁美「おう」
菫「…色々整理させてくれ」
仁美「…」
菫「そうだな。まずは、そう。突然目覚めた。そこだ」
仁美「…」
菫「どういう事だ?その…マスコットって、あれか?魔法少女に付き物の可愛い謎の生物ポジションって事だろう?」
仁美「然り」
菫「…どう見ても君、人間じゃないか…いや、若干羊っぽい見た目ではあるが」
仁美「なんで目覚めたんかはうちもわからなかった。ある日、部活帰りに帰り道を歩いていると突然頭に指令が来て、それに居ても立っても居られず衝動的にその足で東京行きの新幹線に飛び乗った」
菫「凄い行動力だな」
仁美「金が無かったんで駅員に催眠を…」ゴゴゴゴ
菫「あー!それはいいから!」
仁美「…だが、別に何をする為に東京に来たって訳も無かった。半日歩いて疲れて、もう帰ろうかと思った」
菫「なんて行き当たりばったりかつ無意味な…」
仁美「駅に向かう途中、折角だからスタバでも寄ってから帰ろうと思って、適当なスタバに寄ったところで…」
菫「…」
仁美「…『あの人』に出会ったんだ」
仁美「『あの人』はいろんな事ば知っちいた」
菫「…」
仁美「魔法少女の事、パートナーの事、そして、うちらがやるべき、いや、成さねばならぬ事についても…」
菫「…それは、誰だ」
仁美「…お前も知っているはずだ。有名人やけんな」
菫「有名人…だと…」
仁美「そう。その人は、魔法少女」
菫「!!」
仁美「…現存する、最強の魔法少女…!数々の異名を持つ…!!」
菫「…っ!」ゴクリ
仁美「『星の魔法少女』、『英雄』、『爆乳』、『もうそろそろちょっと年齢的にきつい』、『喰らう者』、『守護者』、『天使の屑(エンジェルダスト)』、そして『牌のお姉さん』!!」
菫「っ!それは、まさか!!」
仁美「瑞原はやり(28)たい!!」メェー!!
菫「はやりんだとぉおおおおおおおおお!!?」
菫「な…あ、あの人も魔法少女だと言うのか!」
仁美「この道10年の大ベテランだと!」
菫「凄いな!18で魔法少女デビューか!別の意味でも凄いな!」
仁美「まあ…兎に角。同じ魔法少女の波長を持つはやりんに声をかけられ、ついでになんか長ったらしい名前の甘ったるい飲みもん奢って貰いつつ話を聞いたのだ」
菫「で…!で…!はやりんはなんと!」
仁美(なんやこいついきなりテンション上がった)
菫「おい!早く!」ウキウキ
仁美「…で、だ。まず、魔法少女のなんたるかってのを教わったんやけど」
菫「うん!うん!」
仁美「その目的は」
菫「目的は!?」ワクワク
仁美「風潮被害を防ぐ事」
菫「…は?」
仁美「『風潮』被害」メェー
仁美「ん」コクリ
菫「…なんだそれ」
仁美「…この世には、様々な噂が流れている。正しい話も、全くを持って見に覚えもないような話も。それはわかるか?」
菫「…まあ」
仁美「風潮被害。それは、人々の悪意無き悪意が産んだ、恐るべき悲劇なのじゃ」
菫「口調変わってるぞ」
仁美「その被害に晒されたものは、無意識の内にその風潮に従った行動に向かってしまう。そう、あたかも…ほら、電柱…じゃなかった、あの、鉄の、高い明かり光ってるやつへ向かう昆虫のように」
菫「走光性を例に出してるのか?ってか、語彙力…」
仁美「おまえのように被害の軽い奴は良い」
菫「私も!?」
仁美「どころか、お前はもうかなり侵食されている。かなり進行が早い部類だ」
菫「な…!」
仁美「どんな影響があるのか、それは詳しくはわからない。もしかしたら。…あるいは。お前のその魔法少女好きすらも…」
菫「…」
菫「それ…は…」
仁美「恐るべきは、風評被害と違って、風潮被害には実際に本人がその行動を取ってしまうという点」
菫「…」
仁美「特に悪質な風潮は、大変なことになる。場合によっては、その尊厳の本質や命までも奪われかねない」
菫「…どうすればいい」
仁美「そのために魔法少女が居る」
菫「…」
仁美「魔法少女には、風潮被害を浄化する力がある。その力を使って、被害ば未然に防ぐのだ」
菫「…」
仁美「勿論危険はある。すでに風潮被害によって凶暴化し、悪辣の限りを尽くして暴れまわる者も居る。そいつらとは、戦う事になる。傷付く事もあるだろう」
菫「そのための、力…か」
仁美「…力ば貸せ、弘世菫。うちは力が欲しい。そのためには、お前の協力が居る」
菫「何故、そこまでして?」
仁美「…目的がある。とても、大切な。守りたいものも、ある。この国に住む、全ての人達の為に…成さねばならぬ事が…あるたい」
仁美「…」ギリッ
菫(決意の瞳。固く握られた拳。真剣な表情。…覚悟を持った人間の表情)
仁美「頼む!」ペコッ
菫(本気の声。彼女の態度に、嘘は無い。これは…信頼に値する人間のそれだ)
菫(江崎仁美。君は…いったいそこまでして、なんの為に戦う事を選んだ…?)
菫「…1つ、聞きたいことがある」
仁美「…答えられるなら」
菫「その魔法の力で、君は一体何を成そうというのか」
仁美「決まってる。風潮被害に苦しむ人の為。それが全て…!今、うちは誰からかもわからぬ『声』よりも、自分の意志で戦うことを望んでいる!」
菫「…そのために、傷付くことも、傷付けることも受け入れると?」
仁美「覚悟の上!!」
菫「…ふう」
仁美「…」
菫「…ま、どうせ、私もそんな事知って、放っておくわけにはいかんしな」
菫「ああ。試すような質問して悪かった」
仁美「なって…くれるか…!!」
菫「ああ。構わんさ。どうせ兼ねてより年甲斐もなく魔法少女に憧れていた身だ。こんなのも、やってみると案外面白いかもな」
菫「…例えそれが、風潮被害とやらに毒された結果だとしても、だ」
仁美「じゃ…じゃあ!!」
菫「ああ」
菫「いいだろう。なってやるよ、魔法少女!!」
菫「いいさ。それより、どうやって契約するんだ?こう、魔法のグッズとかあるのか?杖とか」
仁美「…」
菫「…何故そこで黙る」
仁美「…」ジリッ
菫「…なんだよ」タジッ
仁美「…魔法少女になるには、いくつかの条件がある」ジリッ
菫「お、おう…」タジッ
仁美「一つは、契約者に魔法少女としての才能がある事」ジリッ
菫「ああ…それは…さっきも、きい…た…」タジッ
仁美「ニつ目に、契約者と、そのパートナーの相性。うちにはお前。おまえには、うち」ジリッ
菫「そ、それも…把握してる」タジッ
仁美「三つ目。契約者とパートナーの間で、契約に関して合意の言葉が交わされる事。一方的な契約出来ない」ジリッ
菫「だからさっきあんなに『うん』と言わせようとしたのか…」タジッ
仁美「そして、四つ目。契約に関する合意が互いに為されたら、最後に…」ゴゴゴゴゴ
仁美「両者がキスする事じゃああああああああああああああ!!!」ガバッ
菫「『じゃ』は広島弁だ!!!!」
仁美「ムッチュー」メェーーー
菫「ムグッ!?」
菫(羊臭っ!!?)
仁美(さっきジンギスカン食ったからな)
菫(こいつ、直接頭の中に…!)
仁美(念話は基本)
菫(こんなタイミングで知りたくなかった!それに羊もどきのくせに羊食うな!そもそも人んち来る上にキス前提でんなもん食うか!?)
仁美「チューーー」
菫(…ってか)
菫「いい加減に離れろぉおおおおおおおおおおおおおおおお!!」ゲシッ
仁美「メヘェエエエエエエエエ!!?」
菫「はぁ…っ!はぁ…っ!ぜぇ…っ!はぁ…っ!」
菫「う…ううう…ひ、酷い…は、初めてだったのに…うううう…」ポロポロ
菫(ファーストキスがジンギスカン味とか…)シクシク
仁美(ラムにレモンかけたからレモン味で可ばい)
菫「黙れ!死ね!!」ゲシゲシ
仁美(ぎゃああ!!)
菫「こ、この…変態羊!詐欺羊!強姦羊!その巻き毛全部刈り取って枕に詰めてやる…!!」ゲシゲシ
仁美(や、やめ…!痛か!あと、なんかに目覚める!!)
菫「こ、この…!!第一、何も変わってないじゃないか!!全部嘘か!!」プルプル
仁美「よーっこらせーっくす」ムクリ
菫「…」イラッ
仁美「いや。既に契約は成立しとる」
菫「…じゃあ、なんで変わんないんだよ!」
仁美「衣装は自前だ」
菫「…」ポカーーーーーン
菫「…そ、そうなのか?」
仁美「おまえまだレベル1やけん。別段他の魔法少女に比べて才能ある訳でも無いし」
菫「」ガーーーン
仁美「…ついでに言えば、武器とかもまだ無理っぽいな」
菫「ま、魔法は!」
仁美「ふむ…」
菫「」ドキドキ
仁美「おお。これは凄い」
菫「!!」パアアア
仁美「消しゴムのカスを狙ったところに飛ばせるとは。レベル1でここまで出来るやつは中々居ないかも。いや、他の例知らんが」
菫「役に立つかぁああああああああああ!!!」
菫「なんだそれ!なんだそれ!衣装も無い、武器も無い、おまけに魔法は消しゴムのカスをシャープシュート!?ふざけるな!!」
仁美「うちに言われても」
菫「そんなんでどうやって戦えってんだよ!!」
菫「…」ジトー
仁美「そこのベッドを持ち上げてみろ」
菫「…持ち上げ…って、無理だろそんな…」ヒョイ
菫「…軽」ポカーーン
仁美「どやぁ」ドヤァ
菫「…」
仁美「お前は、魔法少女が何故強いと思う」
菫「…魔法が使えるからだろ」
仁美 「それは決定的ではない」
菫「…強力な魔法の武器」
仁美 「少々役不足だ」
菫 「仲間との絆で奇跡を起こす?」
仁美 「それは確かに恐るべきことだ。だが無敵か、とは少し違う。もっともっともっともっと単純なことだ」ゴゴゴゴゴ
菫「…お前の言わせたいことは分かった」
菫(こいつたまに口調変わるなぁ)
仁美「反射神経、集中力、第六感、身体能力、特殊能力、耐久力、魔法、変身能力 etc etc」
菫「…」
仁美「しかし最も恐るべきはその純粋な暴力・・・『力』だ。人間達を軽々とぼろ雑巾の様に引き千切る」
菫「いや。人間引き千切っちゃ駄目だろ」
仁美「そして魔法少女はその力を自覚する事が出来る。単一能としてでなく 彼女の理知を持って力を行使する『暴君』だ」
菫「いや、正義…」
仁美「魔法少女との近接戦闘は死を意味する。いいかね弘世菫。魔法少女とは、知性ある幼い『魔女』なのだ。これを最悪といわず何をいうのか…」
菫(はやりんは既に幼くは…いや、これは口が裂けても言うまい)
仁美「そいでな?弘世菫。おまえは1つ勘違いばしとる」
菫「…なんだよ」
仁美「人間ば敵に回さない、思っちおるかもしれんけんの、そいな、間違いだ」
菫「何!?」
仁美「いや。確かに、人間では無か…っち言うても良かかもしれん。そん意味では、善良なる人類ば滅ぼす必要は存在せんのか…」
仁美「この国の為たい」
菫「…」
仁美「風潮被害も大事だが、手始めにまずは…そん力でマスゴミ在日中韓全部ぶっ潰すぞ!!」
菫「はあ!?」
仁美「決まっとる!こん国に巣食う蛆虫ども全部叩き潰す暴力が手に入ったんだ!そん力を行使せずにどげん使う!!」
菫「ば…お前、何言って」
仁美「手始めに朝日新聞に行っち一人残らず八つ裂きに行くぞ!さあ!HARRY!HARRY!HARRY!」
菫「ネトウヨだこいつ!?」
仁美「メーッヘッヘッヘ!!KYは空気読め無かやなくっち、自作自演でサンゴに刻んだイニシャルの事たーーーい!!」
菫「待て待て待て!!」
仁美「む?毎日変態新聞先んのがよかか?まい、そんならそんでからもよかの…」
菫「お前!さっき全ては風潮被害に苦しむ人の為が全てって…」
仁美「詭弁に過ぎん!!契約のためのなぁ!!」
菫「お前ってやつはぁあああああああ!!」
新しい風潮が誕生した
菫「あああああああこいつはもおおおおおおおおおおおおお!!!」
仁美「メェエエエエエエエーヘッヘッヘ!!!」
仁美「メエエエエエエエエエエエエエエエエッヘッヘッヘーーーーーーーーーーーーー!!!」
第一話
「サディスト菫とネトウヨ羊」 終わり
仁美「むっ!?」ピクッ
菫「なんだ。今度はどうした」
仁美「感じるばい…新たな風潮被害が誕生するのを…!」
菫(感じるって…)
仁美「仕方ない。国賊滅ぼすのは後ばい。まずは風潮被害の拡大し、取り返しん付かん事になるんば防がねば」
菫「お、そこは真面目にやるのか」
仁美「仕事サボっとったら、後ではやりんに叱られるからな」
菫「ふっ…」ニヤリ
仁美「…記念すべき初仕事だ。どうよ?気分は。…怖いか?」
菫「…そうだな」
菫(魔法少女の初仕事…か。ふふ…笑えてくるな。いや、本当はそんな状況では無いのかもしれんが…)
菫「…いや」
菫「楽しみだよ」
菫(私もまだまだ子供だな)
仁美「ちょっと待て…」
菫「…」
仁美「大阪だ!!」
菫「え…」
菫(ま、間に合うのか!?空飛ぶ魔法とか…)
仁美「明日ん朝だな。始発で行けば間に合うわ。ついでに朝食食べる時間もあっけん」ゴロン
菫「へ?」
仁美「今日はここ泊めてくれ。宿探すのダルい。金無かし」
菫「…そ、そんな…ユルいもんなのか」
仁美「ん」
菫「…だったら、私の風潮被害も誰か解決出来たんじゃ…」
仁美「軽度ん奴はよっぽど余裕なか限りほっちくけんね。実害なかし」
菫「そ、そういうもんなの…か?」
仁美「ん。それに、むしろその風潮被害を喜んで受け入れ、其れとともに生きていく選択ばした者も居る。風潮ってのはそんなもんだ」
仁美「ま、影響の深刻化したら大概助けるさ。ほとんどはそーやけん。最後に一気に風潮の暴走する、そんタイミングでしか感知も風潮退治も難しい」
仁美「やけん、うちもおまえの傍に来て、ようやくお前の中に風潮被害に影響されとうんわかったくらいやし」
菫「そういうものか」
仁美「ん。風潮ってのは、既にある部分ではそいつの一部なんだ。だから、普段は唯のそうしたいという欲求としてほぼ本人っち一体化しとる。やけん、最後の最後にそん欲望の暴走してから本人ば取り込む」
菫「取り込む…」
仁美「そん取り込もうっちした時ん意志ば、うちらマスコットは感知するとよ。ただ、そうと決めた意志も、動き出し表に出るんにパワーが居る。やけん出てくるまでにタイムラグのあるって事」
菫「…」
仁美「そん時ば叩く。そのタイミングで、しかも魔法少女にしか出来ん事たい。他でやったら、最悪本人は死ぬ」
菫「…」
仁美「わかった?」
菫「…済まない。博多弁で、少々噛み砕き切れなかった事がある。つまり…まとめるとどういう事なんだ?」
仁美「風潮被害が暴走したら本人が暴れるんで、そしたら魔法少女がぶん殴って沈める。風潮被害が収まる」
菫「…よくわかった」
仁美「メッヘッヘ…んじゃ、寝るわ」
仁美「おやすみ…」
菫「…って、待て!」グイッ
仁美「メッ!?」
菫「来客用の歯ブラシやるから歯磨け!風呂入れ!ジンギスカン臭いんだよ!!」
仁美「メェー…」
菫「風呂場はそっち!脱衣所の下の棚に歯ブラシもあるから!綺麗にして寝ろ!じゃあな!私は先に寝る!」
仁美「おま…んな適当な…」
菫「…すー…すー…」
仁美「うお…マジ信じらんねー。2秒で寝やのった」
仁美「…」
仁美「…やーい。キチガイ暴力女~」
菫「…」
仁美「…ちっ」
仁美「…ま、ただで使わせてくれんなら使ってやるメェー」トテトテ
大阪
仁美「やって参りました。食い倒れの街、大阪!」
菫「しまった…早く起きたからプリキュア録画するの忘れてた…」サアー
仁美「ん?どうしたん?同志菫。顔面キュアビューティだぞ」
菫「青い顔って言いたいのか…」
仁美「まあまあ。どうせアニメなんざ後でネットでゴニョゴニョして…」
菫「堂々犯罪宣言かこの羊悪魔!!」ギュッ
仁美「や、やめりぃ!首締めるな!」
菫「この…!ぷ、プリキュアを穢すな!それに、アニメはリアルタイムで見てこそその価値が…」ギシギシ
仁美「ま、待て!落ち着け!同志菫!今はそんな事をしている場合じゃない!!」
菫「ああん!?」メシッ
仁美「あ、あいつらを見ろ!!」ビシッ
菫「…あいつらって」チラッ
「あかん!これ以上はもう止めて!怜!!」
「喧しい!!今日こそは出るんや!!うちが勝つんや!!」
怜「硬っ苦しいなぁ竜華は!せやから、うちが愛する部の為に部費を何倍にも増やしてやろうって」
竜華「そんなんでお金増えても嬉しくない!!それに、怜アンタ、勝って帰ってきた試しないやろ!!」
怜「途中までは勝ってん!せやけど、あと一回勝ったら止めようって時に限って当たらんのよ!」
竜華「負けるまで打つからそうなんねん!!」
怜「えーーーい!五月蝿い五月蝿い!竜華うざい!うざい!!どっか行け!!」
竜華「そんな!」ガーーン
菫「…」ボーゼン
仁美「…風潮被害、末期に近い被害者だ」ヒソヒソ
菫「お、園城寺怜…」ヒクヒク
仁美「どうやら、この風潮被害はギャンブル中毒…っちいったところかね」
菫「あ、あの園城寺怜がここまで変わるのか…」
怜「…ん?お姉さん…どっかで見たことあるなぁ」
菫「あ…ああ。やあ。インターハイで会っただろう?弘世菫だよ。園城寺さん」
竜華「ああっ!これは白糸台の!すんません、エライ見苦しいとこお見せしてしもうて!ほら、怜!行くで!」
怜「んー…」
竜華「怜!」
怜「…ねえ、お姉ちゃん」
菫「なんだい?」
怜「ええ太ももしとるなぁ。ちょっとうちの事膝枕してくれへん?」
菫「は?」
竜華「怜!?」
怜「ね?ね?ちょっとだけ。ちょっとだけでええから~」クイクイ
菫「えーっと…」
竜華「怜!?急にどうしたん!?怜の膝枕はうちだけとちごたん!?」
怜「もう竜華なんかポイーや」ツーン
竜華「ポイー!?」ガーーン
菫(…どうしよう)
菫(羊!?なんだ、念話か…)
仁美『羊っち…まあよかや。これな、複合型かもしれん』
菫『複合型だと?』
仁美『そう。たまにな。居るんよ。風潮被害ばやたらに受けやすいやつ』
菫『と、言うことは…?』
仁美『参ったなぁ…話には聞いよったばってん、あんま居なかっち話やったし、初回でいきなり当たるっちは…』
菫『おい!風潮被害が複合したらどうなるんだ!答えろ!』
仁美『うん。風潮被害が重複したらな』
菫『ああ』
仁美『単純に強くなる』
菫「な…」
怜「…」ピクッ
竜華「…怜?」
怜「…」
仁美『おい。ルーキー。これはマズイかもしれんぞ』
菫「どうしました?」
竜華「あ、弘世さん。なんか、怜が急に動かなく…」
怜「…」
仁美『おい。聞いっちんんかアバズレ』
菫『黙ってろ。なんだか彼女の顔色が悪い。病弱な子だった筈だしもし何か有ったら事だ』
竜華「怜?怜?どうしたん?」ユサユサ
怜「…」ガクガク
菫「落ち着いて。あまり動かすのは良くない。今救急車を呼びますので、その後でゆっくり日陰に運びましょう」
竜華「あわわわ…怜?怜?いやや…こんなの初めてやん…ねえ…怜?怜?」ポロポロ
怜「…」
菫「ええと、すみません。彼女の行きつけの病院の電話番号などは…」
竜華「あ…そ、それは…待って下さい。今携帯を…」ゴソゴソ
仁美『おい!』
仁美『来るぞ!!』
菫「へ?」
怜「オールジークハイル!!」ブンッ
菫「うおっ!!?」サッ
竜華「怜!!?」
怜「ふははははははーー!!」
菫「な…」
菫(今…園城寺さんが殴りかかってきた…!!?)
怜「ふはははー!全てはヒトラー総裁の為にーーーー!!」
菫「…」
竜華「怜!!?」
怜「黙れ黄色人種!!うちは偉大なるゲルマンの魂なるぞ!!」
菫「…」
怜「ジーークッ!ハイルッ!!ジーークッ!ハイルッ!!ジーークッ!ハイルッ!!」ビシッ ビシッ ビシッ
仁美『トリプルだと!!?』
菫「トリプルって…ってか、お前念話使う必要なくないか」
仁美「…いかん。彼女はギャンブル中毒、セクハラおっさん、ネオナチ被れの3つの風評被害を受けていた…!」
菫「いきなり大盤振る舞いだな」
仁美「これは…新人には危険過ぎる…!!」
菫「はあ」
菫(なんでか危機感を感じられないのは)
怜「ジーークッ!ハイルッ!!ジーークッ!ハイルッ!!ジーークッ!ハイルッ!!」ビシッ ビシッ ビシッ
竜華「怜ーーーーー!!」
菫(この間抜けな絵面のせいなんだろうなぁ…)ゲッソリ
竜華「あかん止めて怜ーーーーー!!」
菫「えーっと…殴ればいいんだったか?」
仁美「だからー!危ないって…」
菫「大丈夫だって。たぶ…」
菫「な…どこに…」
仁美「後ろたい!!」
菫「え」
怜「ふふ…アカンなぁ。敵を前にしてアホみたく油断するなんて…」ボソッ
菫(耳元…!声!?馬鹿な、いつの間に…)
怜「アンタ、魔法少女やろ?きちっとわかっとるんよ…うち、今、体の奥から声が聞こえるん」
仁美「くっ…!暴走風潮被害たい!」
怜「アンタをここでやっつけんと…ウチ…消されてまうんやろ?それは嫌やから…」ガシッ
菫「がっ!」
菫(しまった…!羽交い締めにされ…!ぐっ!凄い力だ!)
怜「アンタをここでやっつける」ニヤッ
菫「こ、この…!」
菫(どう来る!?打撃…極め技…投げ技…な、なんとか反撃を…)
怜「覚悟しいや」モニュッ
菫(え…む、胸?)
怜「ふむ…太もももなかなかの物をおもちだと踏んでたが、おもちの方もなかなかのなかなか…」モニュモニュ
菫「ふぁ…」
菫(え…ちょ…なんで、胸…揉んで…)
怜「白いうなじもたまらんなぁ…」ペロッ
菫「ひゃんっ!」
怜「レローー…じゅるっ!」
菫「くんっ!」
仁美「おおお!?園城寺怜の細く長い指が同志菫の制服越しのバストを生き物のように柔らかく揉みしだき、同時に真っ赤な舌がゆっくりとねちっこく、絡めとるような蛇の動きで白い首筋を伝ってゆく!?」
菫(なんで官能的な実況してんだお前は!!)
怜「ふふ…感じとる…?可愛い声…飴玉転がしたようなちっさくて、可愛い悲鳴…」
菫(コイツもコイツでなんかアレだし!!)
怜「…はーむっ」パクッ
菫「うふっ!?」
菫「ちょ…」
菫(なんで清水谷さんまで実況してるんだ!)
怜「じゅぷ…じゅぶぶ…くちゅ…」
菫(耳がくすぐった…あふうう!?)
菫「ま、待って!」
怜「…ぷは。…な~に?」クスクス
菫「な、なんで、やっつけるでこんな、セクハラ紛いな…」ハァハァ
怜「ふふ…知らんの?あんた、新人さんやね」
菫「…」
怜「ええよ。教えたる」
菫「何を…」
怜「魔法少女は、処女しか成れんのよ」モニュッ
菫「ふあああああ!?」
怜「せやから、犯されたらあんたらはゲームオーバー…」モニュモニュ
菫(ちょ…!これ…まず…!)
怜「ふふ…可愛い。ええ子やね。強気な眼差しが涙で潤んで…唆るわ…」
菫(ま、待って待って待って…!)
怜「ロングスカートたくし上げて…ほら。もうひざ上まで来とるよ?ん?どうする?ん?」
菫「ちょ…や、やだ…」
菫『ひ、仁美!助け…』
仁美「最近んスマホはデジカメっちなんら変わらんけんなぁ。病弱系女子高生に後ろから羽交い締めにされて犯されるクールビューティーの図。これ、幾らで売れるかいな」パシャパシャ
菫『助かったらお前を真っ先に殺す!!助からなくても殺す!!』
怜「ここまでスカートたくしあげたら…うちの手、あんたの大事なとこ、弄れるよ?ん?どうする?ん?」ツツッ…
菫「ひ…」
菫(し、清水谷…さん…っ!い、一般人だけど、親友がこんな状態だったらせめて注意を引く援護射撃を…)チラッ
竜華「はぁ…はぁ…あかん…はぁ…怜…そんな、うち…はぁ…あんたのことは…はぁ…うちが一番愛してるのに…はぁ…そんな、寝取りだなんて…はふぅ」ビクンビクン
菫(寝取られて感じてるぅうううう!!?)
仁美「おや。こっちも風潮被害者やったか」パシャパシャ
怜「ふひひ…さあ、行くよ…今、うちの指があんたのあそこに入るよ?ほら、カウントダウン…」
菫「ひっ!い、いや…」
怜「3…」
菫「だっ!嘘だろ!?」
怜「2…」
菫「うううーっ!」ジタバタ
怜「暴れても無駄よ。さあ、1…」
菫(も、もうダメだ…!)
怜「ふひひひひ、ぜ…」
「はいそこまでーーー!!」
怜「!?」
菫「え…」
「マジカル☆ラリアーーット(はあと)」ドゴオ
怜「ちょ…ごふっ!?」ドカーーン
怜「が…こ、この威力…は…!」ガクガク
菫(園城寺さん生まれたての子鹿みたいになってる!)
「ふふふー。大丈夫?君。怪我…なかった?」
菫(いや…違う。今注目すべきはそこじゃなくて…)クルッ
「うん、大丈夫そうだね。けど、新人さんだからってはりきって危ない事、あんまりしちゃダメだぞっ☆」
菫「あ…貴女は…」
「でも、よくやったね。一人で、頑張った。あとは、もう、大丈夫だから。この私…」
菫「き、来て…くれたんですね…!」ウルッ
「ここは危ないよ。早く逃げて、みんな!はやりが来たからには後はもう大丈夫だから☆」
菫「瑞原プロ!!」
はやり「いえーっす☆はやりんだよー☆」キャルーン☆
菫「や、やったぁ!!」
はやり「はやりんはやりんマジカルきゅーん♪魔法少女☆プリティープリティーマジカル(はーと)はやり!推参っ!とうっ!」
仁美(このプロきつい…)
竜華「と、怜!大丈夫!?」
怜「許せん…!こ、この…!黄色人種の癖に…!日独伊三国同盟も忘れてうちの事360度回転する勢いでラリアットなんざ…許せへん!竜華もそう思わへん!?」
竜華「と、怜…!やっぱ、アンタは結局うちのとこ帰ってきてくれるんやね?」ジーーン
怜「一緒にアイツらやっつけよう」
竜華「うん!!」
怜(邪魔な元嫁は使い捨てたる)ニシシシ
竜華「覚悟しいやー!魔法少女どもーー!」ガオー
菫(風潮被害って怖いなぁ…)
仁美「ふっ。無事やったか」ヒョコヒョコ
菫「お前は後で解体して殺す」ギロッ
仁美「待て待て待て!こっそり命の恩人にそん仕打ちはいかんぞ!」
菫「ああ!?」
仁美「実は、携帯カメラでお前を撮影しとるごと見せかけて、はやりんに救助ば求めとったんだ」メェー
菫「お。お前…!?」ジーン
仁美「ふっ。よすたい。照れる」
仁美(まあ、写真は撮ったけど)
菫「はっ!そうだ!はやりん!か、加勢しなければ!流石に2対1では…」
仁美「そん必要はなか」
菫「え…」
仁美「あの人は、最強の魔法少女(28)やけんね」
菫「何?」
仁美「もうすぐ決着着くちゃ」チラッ
菫「な…」
仁美「よく見ておけ。あいの最強戦士ん戦い方だ」
菫(す、凄い…!やっぱり、はやりんくらいになると私みたいに不恰好な戦い方じゃなくって、こう、必殺技的な光線出したり出来るのか!?)
菫「べ、勉強させていただきます!」
菫(そして…ゆくゆくは、貴女に肩を並べられるような魔法少女に…!)
怜「がぶっ!?」
菫「予想外の超パワー型!!?」
はやり「か・ら・のー☆」ギシッ
竜華「怜ーーーーー!!」
はやり「マジカル☆餅つき式☆パワーボムー☆」ドゴォ!! ドゴォ!! ドゴォ!!
怜「」ゴッ ゴッ ゴッ
竜華「怜ーーーーーーーーーー!!!」
はやり「まず一人っ☆」ポイッ
怜「…」グチャッ
竜華「怜ーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!」
怜「」クタァ
菫「おい。あれ、死んでないか」
仁美「下、コンクリ…まあ、あれたい。今の園城寺怜は風潮被害の暴走で身体能力も大幅に向上してる設定だから…」
菫「設定言うな」
竜華「あわわわ…」オロオロ
はやり「逃げられない」ジリッ
竜華「ぐううう…!と、怜の仇ーーーーー!!」タタタタ
はやり「たあーっ!マジカル☆ベアハッグ(はーと)」メギョッ!
竜華「」ボギゴギッ
菫「なんか砕ける音…」
仁美「なんもかも政治が悪い…」
菫「…」
はやり「えいえいえい!追撃!追撃☆」メシッ ボキッ メコッ
竜華「」ガクガク
仁美「痙攣やばい」
菫「そろそろ止めた方が」
はやり「これでとどめだー!はやりん☆ブレーンバスター!」ゴキッ
竜華「」ゴッ
竜華「」チーン
はやり「ぶいっ☆」
菫「…」
仁美「惜しい人材を亡くした…」ナムナム
菫「おい!まだ死んで…ない…よな?」ヒソヒソ
はやり「大丈夫だよ!はやりの魔法で死んだ人はいないから☆」
菫「そ、そうですかー!」
仁美「もはやそれこそが奇跡」
はやり「これで二人が気付いたら、元通りになってるはずだよ☆」
菫「乱暴だ。やり方もそうだけど、アフターケアが何より乱暴だ」
仁美「流石近距離パワー型魔法少女(28)」
菫「そんな区分あるのか!?」
はやり「まあ、こんなところで立ち話もなんだから、二人共、一緒においで☆はやりが頑張った二人にご飯を奢ってあげる!」
菫「こんなパチンコ屋の前なんかに二人を放置したら、浮浪者に何されるかわかりません。連れてきますからね」
はやり「それじゃあここにしよー!」
菫「え」
はやり「…嫌?」
菫「いや…い、嫌って…訳じゃ…た、ただ瑞原プロとちょっとイメージが合わなかっただけで」
菫(ま、松屋…!?)
はやり「そう?じゃあ食券買ってねー。好きなの頼んで良いからね☆」
仁美「ココ壱の良かなぁ。安倍さん応援するつもりでカツカレー食えたんに…」ブツブツ
菫(こいつはこいつで微妙に図々しい事言ってるし!)
怜「あ、あれ…うち…」パチッ
竜華「うう~ん…あれ…?ここどこ…」ムクリ
菫(普通に起き上がった!)ビクッ
仁美(むしろ生きてた!)ビクッ
はやり「おっ!起きたね?少女達折角だし君たちにもご飯奢ってあげる☆」
怜「え…あれ?なんではやりんがこんなとこにおるん?え?あれ?あれれれ?」アワワワ
竜華「そんな…俄には信じられへんよ…」
怜「魔法少女…?風潮被害…けど、うち、確かにそんな事やったような…うう…」
菫「いいのか?こんあ簡単に何があったか話しても」ヒソヒソ
仁美「暴走状態から意識の戻るっち、風潮被害に合っとった時ん記憶は霞のかったごと虚ろげなんやけん。ばってん、やったこつは残るけん、アフターケアきちんっちやるなら、そこ説明してからやらんっち混乱するたいね」
菫(博多弁むずっ!)
怜「そ、そうだ!部費!部費はどうなったん!?」
竜華「あっ!確か、怜が持ってたカバンの中に部費入った茶封筒が…」
怜「…これや」スッ
竜華「…中身検めるで」
怜「…」コクン
竜華「…」ゴソゴソ
怜「…」
竜華「…中身、一銭も減ってへん…」ホッ
怜「」よ、良かったぁ…」ヘナヘナ
竜華「本当に、ありがとうございます」ペコリン
怜「もしうちがこのみんなの大切なお金使ってしもうとったなんて事になってたら…自分で自分許せなくなるところでした。本当に、感謝してもし切れないです」ペコリン
菫(なんか、こういうのいいなぁ…)
仁美「ん?あれ?けど、さっきの会話聞いてると初犯じゃないような…」
はやり「あー!きたきた!」
菫「へ?」
はやり「みんなのメニュー、来たよ!ほらほら、みんな!ご飯食べた食べた!」ズイズイ
仁美「おおう?」
怜「わっ」フラッ
竜華「おっと、大丈夫?怜」サッ
怜「うん…ありがと」
竜華「ええって」
はやり「」ニコニコ
菫(…ん?)
仁美「いただきまーす!」
はやり「ああん!おいしいとこ取られた!?」ガーン
怜「あはは…いただきます。瑞原プロ」ペコリ
竜華「いただきます。…ごちそうになります」ペコリ
菫(もしかして…)
はやり「とほほ…はーい。どうぞー」ショボーン
菫『瑞原プロ。瑞原プロ』
はやり「じゃあ私もいただきまー…って」
はやり『どうしたの?菫ちゃん…だっけ?』
菫『ええ。弘世菫です。今後共宜しく御指導御鞭撻お願い致します』
はやり『ふふ。真面目な子だなぁ。なーに?ご飯食べないの?』
菫『その前に1つ、伺いたいことが』
はやり『はいはーい☆答えれることならなんでも答えちゃいますよー☆』
菫「…」
はやり『んー?』
菫『…誰かがギャンブルで浪費したお金を把握して、その分だけお金を茶封筒の中に補充する魔法、とか使えます?』
はやり「…」
菫『…例えば、自腹ででも』
はやり「…」
菫『…その…結構な高給取りでも松屋でご飯食べざるを得なくなる…よう…な…』
はやり「…ふふ☆」ニコッ
菫「…」
はやり『はやり、わっかんなーい☆』
菫「…ふっ」
菫『ですよね』
仁美「カレギュウ大盛りおかわり!!」メェー!
第二話
「爆乳ロリ(28)と今月の給料」 終わり
「ふふ…面白い子、見ぃつけたぁ♪」
「…」
「私の遊び相手になってくれるかも♪」
「…」
「ね、そう思わない?」
「…」
「美子ちゃんも」
・まこがスタンド使いだという風潮
・ハギヨシ&京太郎はただのタコス師弟なのにそれ以上のガチホモだという風潮
・福路美穂子がヤンデレだという風潮
・蒲原と衣が仲がいいという風潮
・睦月が投牌戦士だという風潮
・照が方向音痴かつシスコンだという風潮
・菫が可愛いもの好きな乙女だという風潮
・亦野が歴戦を経た軍関係者だという風潮
・Megan Davinがおっさんだという風潮
・セーラがガスを出すという風潮
・泉がワキガだという風潮
・憧が売春しているという風潮
・宥が油ものの暖かい空気を浴びていた空調
・小走がなんでも解決してくれるという風潮
・ギバードがマジキチだという風潮
・霞の実年齢が社会人クラスだという風潮
・滝見春がデブだという風潮
・哩と姫子が花田ラブな風潮
・小鍛治がアラフォーだという風潮
・三尋木がヤクザの愛人だという風潮
いくつかつっこみたいがいろいろあるんだな・・・。
小走先輩はそのままでも何ら問題無いというか魔法少女より役に立つような気が
菫の部屋
菫「…」カリカリカリ…
菫(結局あの後、私達3人は園城寺さんと清水谷さんを家まで送って、新幹線で帰宅した)
菫(どこかの違法羊と違って瑞原プロはきっちりと乗車料金も支払っていたし、どころか私達の分の運賃すら支払ってくれた)
菫(曰く『これも社会人の務めだから☆』との事だったが、心苦しい所はあった。学生という立場ではあるものの、自分の幼さを思い知らされる気分でもあったからだ)
菫(東京に帰ってから、彼女はすぐに番組の収録があるらしく、直ぐにテレビ局へ向かってしまった)
菫(だが、電車の中で今後風潮被害退治の際に一緒に行動する約束を交わしたし、定期的な念話でのやり取りや魔法少女としての修行の方法の指導等もして戴ける事になり、実質的な師弟関係と言えよう)
菫(…助けて戴いた上に世話になりっぱなしで、情けないものだ。早く一人前…そう、魔法少女としても、人間としても一人前になって、恩返しをしたいものだな…っと)
菫「…」カリカリカリッ…トンッ
菫「…本日の日記終了、っと」パタン
菫「…ふう」
菫「…」
菫「…ところで」
仁美「…チュー」
菫「なんでお前うちに居るんだ」
菫「しかも何飲んで…って!おい!それ私が買って冷蔵庫に入れてた抹茶オレじゃないか!」ガタッ
仁美「この渋味と甘さの絶妙なハーモニーがなんとも…」チュー
菫「なーんで勝手に飲んでるかこの卑し羊は!」ギリギリギリ
仁美「ぐおおおおお!?頭が!頭が割れる…っ!?わ、分かった!分かったから離せ!!」
菫「ふんっ!」ポイーッ
仁美「メヘッ!」ドサッ
菫「お前は、ほんっとうに、なんて言うか、酷いな!」
仁美「おまえだって変わらんわ。このサディスティック魔法少女め。…いたたた。どういう握力してんだ」サスサス
菫「っていうか、どうやったら元に戻るんだ」
仁美「うん?」キョトン
菫「いや…魔法少女になったはいいけど、姿変わらないからこう、メリハリも付かんし、どうやって変身前に戻れば良いのか…」
仁美「ああ」ポンッ
菫「『ああ』って…私も今言うまで随分悠長だったが、お前は大概…」
仁美「変身解除ん方法はな」
仁美「…」
菫「?」
仁美「…ちょっとそこにまっすぐ立ってみろ」
菫「…こうか?」スッ
仁美「両拳を握って」
菫「…」ギュッ
仁美「脇を締めて、握り拳を鼻先まで持ってくる」
菫「…」スッ
仁美「身体を左右に揺するように動かし」
菫「…」ユラユラ
仁美「両足を交互に、膝から下だけ後ろに投げ出すように跳ね上げる」
菫「…」ブンッ ブンッ
仁美「リズミカルに、全て同時に」
菫「…なんか恥ずかしいなこれ」クネクネ
菫「…ま、まだか…」クネクネ
仁美「まだたい」
菫「うううう…」カアアア
仁美「まだ…」
菫「は、恥ずかし…」クネクネ
仁美「まだ」
菫「うううう…」ユラユラ
仁美「…」
菫「…」クネクネ
仁美「…」
菫「…」クネクネ
仁美「…まあ」
仁美「…別に念じれば戻るんばってんね」
菫「嫌がらせかこの野郎ぉおおおおおおおお!!!」
菫「ぐううう…!この羊頭のバフォメットめ…!!」プルプル
仁美「…まあまあ。ところで、念じてみな?元に戻るー元に戻るーっち」
菫「…」
菫(元に戻るー元に戻るー)
菫「…」ガクン
菫「…あ」
菫(今…何か、私の身体から出た…感じが…)
仁美「ん。元に戻ったな」ニコニコ
菫「…」
仁美「ん?どうした?」
菫「…なんだか、喪失感が…」
仁美「…ふ~~ん」
菫「…変身解除すると…なんだか、寂しい…ん、だな…」
仁美「…まあ、またいつでも変身すれば良かよ」
仁美「うん?」
菫「変身だよ!じゃあ今度はどうやって変身すれば良いんだ!?」
仁美「そーやねぇ」
菫「…嘘教えんなよ」
仁美「変身は条件付けよ」
菫「条件付け?」
仁美「ん。条件付け。訓練されれば解除の時みたく簡単にオンオフ出来るが、緊急に変身しなけりゃいかんタイミングもあっけんちゃろうしな」
菫「…それで?」
仁美「だから、初心者はまず、変身に儀式を織り込むたい」
菫「儀式って…」
仁美「まあ、一般的な魔法少女の『あれ』たいね」
菫「『あれ』…ってまさか…」
仁美「そう」
仁美「変身ポーズと名乗り口上。あと、変身後の名前も付けておこうか。切り替えって大事よ」
菫(あ、憧れてはいたが、実際にやるとなるときつい…)
仁美(おまえの考えとうこつが手に取るようにわかる)
菫「…け、けど…まあ、仕方ない…のか。うん。わ、私の体裁とか気にしてる場合でも無い…し…な…」ニヤニヤ
仁美(そいでやってみたい衝動に一瞬で負けやのった)
菫「え、えーっと…まずは、こうポーズ取って…こうして…ああ、こっちの方が見栄えいいかなぁ…」ワキワキ
仁美「…あんま複雑なん止しとけよ」
菫「あ、あと…前口上は…どうしようか。えーっと…『罪の無いみんなを苦しめる悪い風潮被害は、スミレにお任せ☆』…キャラじゃないな。クール系魔法少女の方針で攻めるべきか…」ブツブツ
菫「『優しい月光の光を浴びて闇を切り裂く…』いや、日中だったら格好が付かんな。えーっと…『あなたのハートを狙い撃ちっ!』…うん。この路線は良いかも。もうちょっと突き詰めて…」ブツブツブツ
菫「取り敢えず名乗り口上は保留として、後で辞書で良さそうな単語を拾っておこう。それより、魔法少女名。魔法少女名は非常に大事だぞ。これに大半がかかっていると言っても過言ではない」ウーーーン
仁美(凄い勢いで考えとっとうと…)
菫「そういえば、はやりんはなんて名乗ってるんだ?」
仁美「ん…ああ。あの人は魔法少女マジカル☆はやりん名乗っちるちゃ」
菫「なるほど…あの人らしい、実にシンプルかつ機能美溢れる美しい名前だ」ホウ…
仁美(わかんねー。さっぱりわかんねー…)
菫(そしていつかあの人と肩を並べられるように…)
菫「うーん…どうする?えーっと…やはり何某☆スミレで行くべきか。うん、そうだな。その系列で、私のイメージに合いそうな単語を…」
仁美「バイオレンス☆スミレ…サディスティック☆スミレ…シリアルキラー☆スミレ…」ボソボソ
菫「うーん…迷うなぁ…」ギリギリギリ
仁美「おおおお!?いつの間に足四の字の体勢に!?」
菫「ラブリー…ビューティー…いや、流石に烏滸がましいか…」ギリギリ…
仁美「がぁあああ!?あ、足が…!!」
菫「なあ、どうする?仁美。お前も良い名前有ったら考えてくれないか」ギシギシッ
仁美「や、やっぱりバイオレンス☆スミレじゃなかか!」
菫「まだ言うか!」メキッ!
仁美「ラメエエエエエエエ!!?」
仁美「…」ピクピク
菫「…おっといかん。もうこんな時間か」
仁美「なんや?どげんした?」ムクリ
菫「もう寝る時間だ。明日は学校だからな」イソイソ
仁美「受験生なんに自由登校まだなんか?」
菫「ああ…それでお前はあっちこっちふらふら出来るのか。受験勉強はいいのか?」
仁美「…まあ、うちはなんげななるけん」
菫「なんとかなるって?意外と頭いいのかお前」
仁美「ふふん」
菫「…まさか受験でも催眠を…」ジトー
仁美「せんわ!!」
菫「どうだか…まあいい。お前もさっさと歯磨いて寝ろ」
仁美「ういうい」
菫「…来客用の布団は、クローゼットに入ってるから」
菫「…なんで布団貸してやるだけでデレ扱いされねばならないんだ。私はそこまで鬼じゃないぞ」
仁美「そっか。おまえ、修羅ん類やもんな」
菫「ベランダで寝るか?」
仁美「それは勘弁」
菫「ったく…まあいい、おやすみ。明日帰ってきたら、また色々考えるぞ。お前も良いアイディア考えておいてくれよ」
仁美「メェー」
菫「なんだそれ…あふ…」
仁美「…」
菫「…本当、お前の顔見てたら…羊過ぎて…眠…く…な…る…」
仁美「…」
菫「…すー…すー…」
仁美「…おやすみ。菫」
仁美「…どーっこいしょーと」コロン
仁美「メッヘッヘ。ラテ飲んだくらいで歯なんざ磨いてられっか面倒臭か。こんまま寝かせて貰うに決まっちる」ゴロゴロ
仁美「…っ!」ビクッ
菫「うーん…」モゾッ
仁美「…」ドキドキ
菫「…仁美…」ムニャムニャ
仁美「お、起きんしゃいた?」ビクビク
菫「…歯…ちゃんと…みが…」
仁美「…」
菫「虫歯…歯医者…怖い…から…」
仁美「…」
菫「…くぅ」
仁美「…」
仁美「…仕方ない」ムクリ
仁美「やっぱ、歯ぁ磨いてくるか」テクテク
菫「んー…むにゃ…」
菫「それじゃあ、行ってくるよ」
仁美「ん」
菫「くれぐれも問題起こすなよ」
仁美「ん」
菫「…親御さんには連絡したか?」
仁美「ん」
菫「…本当にしたんだな?突然娘が消えたら、絶対に心配するぞ」
仁美「東京の友達んとこ泊めて貰って一緒に勉強しとる事になっとるばい」
菫「…」
仁美「ほれ、さっさち行かんか」シッシッ
菫「あ、ああ…わかった。それじゃあ行ってくるけど…」
仁美「なんかあったらすぐ念話せんねちゃ」
菫「ああ。わかってる」
菫(なんだか不安だなぁ…)
菫「着いた」
菫(…土日挟んだだけなのに、なんだか物凄く久しぶりに来たような気分だ…)
菫「…」
菫「…行くか」
照「あ、菫だ。おはよう」
菫「ん?ああ…照。おはよ…!」
菫「て、照!!?なんだそれは!!」
照「え?」ギュルンギュルン
菫「なんなんだその右腕はああああああああああ!!?」
照「え?右腕?」ゴウウウウウウウウン
菫「うおおおおお!!?」サッ
菫(な、なんかトルネード状の低気圧が掠めてったぞ!?)
照「あれ…なにこれ…」ギュルンギュルン
菫「しかも今気付いた風!!?」
ギュゴゴゴゴ
菫「うわあああああ!!?」ササッ
照「あっ!ごめ…大丈夫…」スッ
ギュリリリリリリ
菫「ぎゃあああああああ!!照!落ち着け!お前の右腕に纏ってる台風みたいなのが、お前が手伸ばしたら私襲ってくるんだよ!」サッ
照「わわわわ!ど、どどどどうしよう!菫!」
菫「そんなの私が聞きたいわ!」
照「ど、どうしよう!こんな腕じゃ授業受けれない!今日は学食のプリン安いのに!」
菫「ズレ過ぎだ!!このポンコツ!!」
照「ぽ、ポンコツって…」ウルッ
菫(なんだ!?誰だこいつ!こいつ本当に『この程度じゃ調整にもならない』とか言ってた宮永照か!?)
照「うえええ…」シクシク
ゴゴゴゴゴゴゴ
菫(低気圧が暴れまわって…はっ!まさか、これも風潮被害の一種か!?)
菫「くっ!」サッ
菫『おい!おい!羊!聞こえてるか!!』
仁美『うるっさいメェー。今おまえの部屋でハチクロ全巻読破にチャレンジしてるんだから邪魔すん…』
菫『うるさい!それどころじゃない!おい!感じるか!風潮被害だ!』
仁美『メェ?』
菫『タイムラグあるんじゃなかったのか!』
仁美『…おおう』
菫『なんだその反応!』
仁美『思ったより成長早いなぁ。さっきまだ大した反応やなかったから、放課後でも間に合うっち思っとったんやけど』
菫『お前の悠長さが原因かこの役立たず!!』
仁美『まあ、仕方なか。今から行くから、おまえそいつばなんとかしとけ』
菫「くっそ…!」サッ
仁美『幸い、まだ完全に暴走しとらんばい。今ならまだそんな手強くなか。ってか、多分風潮事態が…』
菫『なんだ!?』
菫「ショボイって…」
照「あ、淡だ。おはよう淡」フリフリ
ギュルルルルル
菫「おわあああ!?」ササッ
菫(どこがショボイんだ!!)
淡「うわ…テルーどうしたの?その手の凄いやつ。一昨日買った?」
照「うーん…いつ付いたのか…」
菫『羊ぃいぃいいいい!!』
仁美『せからしかぁ…能力の凄いんなら、多分本体のポンコツなんやちゃ』
菫「ほ、本体…だと…」チラッ
淡「それじゃあまた後でねー。テルー」フリフリ
照「うん。またね」フリフリ
ギュウウウウウウウン
菫「…い、いける…か…?」ゴクリ
菫「プリンの優先順位高いなおい!」
照「むっ!何言ってるの!私の優先順位の一番はいつだって妹の咲だよ!ペロペロしたい」
菫(こいつも複数の風潮被害を受けてるのか!?だが、羊の予想通りポンコツって風潮被害がその中に含まれてるなら…!)
照「菫?」
菫(能力はとんでもなくても、本体の強さは大した事が無いはず…!)ギロッ
照「あ、あの…どうしたの菫…怖い顔…」
菫(怖いのはあの右腕だけ…ならば…!)
照「すーみーれー」ピョンピョン
菫(後ろを取って…!)バッ
照「あれ?菫が消え…」
菫「足を掴んでうつ伏せに引きずり倒す!!」グイッ
照「ひゃっ!?」ズテッ
照「いたたた…」グスッ
菫(そしてすかさず腰に乗って…キャメルクラッチだ!)グギギギギ
菫「すまん照…だが、お前を救うにはこれしか…」メキメキ
照「腰!腰が死んじゃう!壊れる壊れる!」
菫「」ゾクッ
照「い、痛い…すみ…助け…」シクシク
菫「こ、これ…は…」
菫(照の泣き顔…)
照「うえええ…」グスグス
菫「…」ゾクゾクッ
菫(…いい)メキメキメキ
照「うあああああ!!?」
菫「ふ…ふふふ…いいな…この表情…」ニイー
照「あ…はぁ…はぁ…や、やめ…て…すみれ…私…これ以上…死んじゃう…」ポロポロ
菫「大丈夫。まだいけるさ」メキメキ
照「ふああああああ!!?」ジタバタ
菫(ま、まだ…大丈夫だよな?その…風潮被害のお陰で頑丈になってるはずだし…)ドキドキ
照「うああああ!!」
菫「もっと…もっと泣いてくれ…いい声で…」ゾクゾクッ
照「はっ…はっ…ご、ごめんなさい…菫…わ、私、なにか菫怒らせることした…なら…あ、謝るから…」
菫「いや、別にお前は悪くないさ…」ユッサユッサ
照「あああああああ!!」
菫「ところで、いつになったら消えるんだ?風潮被害」メシメシ
照「うぐ…うううう…」
照「」ガクン
菫「あ、落ちた」
照「」
菫「…ふう」
菫「風潮被害、退治完了…!」
仁美「なんばしよっとおまえは」
菫「ああ、仁美。見ろ。私一人の力で風潮被害を退治したぞ。意外とあっけなかった」
菫「ふふ…結構簡単なもんだな。まあ、油断は出来ないが、やっとこれで私も魔法少女として第一歩を歩んだ事に…」
仁美「…菫。おまえ…」
菫「ん?」
仁美「…おまえ、よくもまあ変身せず風潮被害を…」ドンビキ
菫「…」
仁美「…」チラッ
照「」ピクピク
仁美「…気絶してるだけたい。今のうちに変身して殴っとけ。前口上とか無くても、集中しまくれば出来るたい」
菫「…あ、ああ…」
菫「…」
菫「…」シャランラ
菫「…出来た…のか?この、何か温かいものに包まれるかのような多幸感というか、万能感というか…」
仁美「ほれ、ポカッと」
菫「…てい」ポカッ
菫「…なんか煙みたいのが出たぞ」
仁美「風潮被害の残滓たい」
菫「これが…」
仁美「…おめでとう。バイオレンス☆スミレ」
スミレ「その名前を定着させようとするな!!」
照「う・・・うーん・・・」
仁美「おっ。起きた起きた」
菫「あ、そうだ!照!だ、大丈夫か!?すまない!調子に乗ってやり過ぎた…」
照「あ、あれ・・・私…」フラフラ
菫(良かった…無事だった…)
菫「照…」
照「菫…?」
菫「…」
照「…」ボーー
照「…なんだかよくわからない…けど…」
菫「…」
仁美『こん子は特になんもおかしな事しとらんし、余計な説明して巻き込む必要も無かね。黙っちおこうか』
菫『…わかった』
照「あのね?菫」
菫「…なんだ」
照「私、菫に、お礼を言わないといけない気がするんだ」
菫「…照」
照「ありがとう。菫」ニコッ
菫「…」
菫「…ううん。こっちこそ…ごめんな…」ギュッ
菫「…」ギューーーッ
照「…?」キョトン
仁美「…風潮被害退治完了、やね」
照「…菫。あったかいけど、ちょっと痛い…」
菫「…あ、ああ。すまんすまん」パッ
仁美「…ところで、お取り込みのとこ申し訳なかんばってん」
菫「…ん?」
仁美「授業」
菫「あっ!」
照「ああっ!」
菫「い、急げ照!遅刻する!」
照「う、うんっ!」
菫「走るぞーーー!!」タタタタ
照「わかった!」タタタタ
仁美「いってらっしゃーい」
仁美「…」
仁美「…」チラッ
仁美「…」
シュルルル…
仁美「あー…」
シュルシュルシュ…バクッ
…
仁美「…モニュモニュモニュモニュ」
仁美「…」
仁美「…コクン」
仁美「…」
仁美「帰りにスタバ寄ってこ」クルッ
仁美「…」テクテクテク
仁美「…ケプッ」
第三話
「ポンコツ照と低気圧」 終わり
春「ポリポリ」
仁美「いたぞ!暴走風潮被害だ!」
菫「こいつが…!」
春「ポリポリ」
菫「…なんか食ってるな。黒糖か?さっき覗いた土産物屋にもあったし。で、これはなんの風潮被害だ?羊」
仁美「うーむ…」
菫「彼女は永水女子の選手だったな。見た感じどこも変わらないが…」
仁美「…デブだという風潮」
菫「何?」
仁美「…間違いない。この感じ、デブだっちゆう風潮たい」
菫「デブって…別に見た感じそんなんでもないが…」
仁美「それは暴走が始まったばっかだからやね。今黒糖食ってるから、多分放おっておいたらどんどんデブる…!」
菫「それはかわいそうだ…さっさと助けてやろう。手荒になるが許してくれよ」
仁美「変身せーよ」
仁美「お?前口上や決めポーズは諦めたか?」ニヤニヤ
菫「…まだ良いアイディアが無いんだ」
仁美「…まあ、頑張れ」
菫「さあ、行くぞ…!」ジリッ
春「ポリポリポリ」
菫「まずは様子見…」シュッ
春「ポリポリ」ポヨン
菫「何!?」
仁美「菫ん左ジャブがおっぱいに吸収された!?」
菫「な…拳が…抜けない…!拳法殺しか!」ジタバタ
春「ふふ…」ニコッ
菫「くっ!?」
仁美「菫!」
春「ばん」ゴスッ
仁美「腹に膝がめり込んだ!」
菫「こ、この…!」フラッ
菫(くっ!手、手が…胸から抜けない…なんだこれ!?藻掻けば藻掻くほど脂肪の奥に吸い込まれる…!)
春「ばん。ばん。ばん」ゴッ ゴッ ゴッ
菫「がふっ…!くっ!あぐぅ…」
仁美「菫!何おっぱい手に突っ込んだままヤラレっぱなしになっちるんだ!一回距離取れ!」
菫「そ、れが出来たら苦労しな…」
春「もう一回」ゴスッ
菫「かっ!」」ズルッ
菫「…」ペタン
春「膝から崩れ落ちた。無様。汚い。惨め。…ふふふ」
菫「こ、いつ…!調子に乗るなよ…!」
春「調子に乗ってるから、貴女の膝、踏んであげる」グリッ
菫「ああああっ!?」ビクビクッ
菫「あ…ぐぅ…!」
春「けど、苦痛に歪んだ顔だけは可愛いかも。ね、もっと泣いて。叫んで。その後で、ゆっくり犯してあげる」ギュッ
菫「うわあああああ!」
菫(くっ!手さえ自由になればこんな奴…!)
春「年下に踏まれて…だらしない悲鳴あげて…情けないね…」
菫(こ、この…!)
菫「くっそデブがぁあああああああああああ!!」ギリッ
春「っ!?」
菫「どうだこの豚野郎!ガキの癖にいっちょ前にでっかい脂肪の塊ぶら下げやがって!うっとおしいんだよこの!!」ギリギリギリ
仁美(僻みたい…自分だってそこそこええ乳しとる癖に)
春「い、いたたたたた…」
仁美「なんだ?菫おまえ何を…ああ。飲み込まれた手ば使っておっぱいに握撃かましとんのか」
菫「潰れろ。豚」ギチッ
春「い、痛い…や、やめ…あううう…」ペタン
春「や、やだ…もう…やめ…ちぎれる…」ハァハァ
菫「ふん。だがこんなんじゃ気絶はさせられないよなぁ…?」パッ
春「はぁ…はぁ…い、痛かった…」ギュッ
菫「おや、いいのか?便利な両手を大事な胸を隠すのなんかに使っていて」
春「え…」
菫「もっと大事な首が空いてるぞ」ニヤリ
春「ちょ…」
菫「ほっ!」スルッ
春「かっ!?」
仁美「出たーーー!バイオレンス☆スミレのフロントチョークばーーーい!!」
菫「その呼称止めろ!!」ギリギリ
春「…くふっ…!」ジタバタ
菫「残念。もう逃げられない」ギリギリ
仁美「おっとっせっ!おっとっせっ!おっとっせっ!」
菫「…」ギチギチ
春「あ…ふっ…!」ジタバタ
菫「…」ギチギチ
春「くっ…」ジタバタ
菫「…」ギチギチ
春「…」ジタ…
菫「…」ギチギチ
春「…」バタ…
菫「…」ギチギチ
春「…」パクパク
菫「…」ギチギチ
春「…おえっ」
菫「…」メキッ
春「ブクブク」
春「」ドサリ
仁美「流石ばい。暴力の権化」
菫「黙れ悪徳の権化」
仁美「さあって。そんじゃあ目的も達成した事やし、その子ん目覚めたらとっとと東京帰るかね」
菫「いいのか?お前の実家九州だろう?折角こっちにきたんなら顔くらい出していけば…」
仁美「そげな日も経っちなかし、気にするこつ無かっち」
菫「まあ、確かにお前に出会ってからまだ4日だが…」
仁美「宮永照の風潮被害倒してから順調たい。今が波の乗り時ぞ」
菫「そうだなぁ。あれから2件ほど解決してるが…っていうか、意外と多いな。風潮被害」
仁美「ん」
春「あ…あれ…私…」ヨロヨロ
菫「気が付いたか」
春「えっと…」キョロキョロ
菫「黒糖ばかり食べていては栄養が偏ってしまうよ?ちゃんとバランスの良い食生活を心がけるように」
菫『わかったようるさいなぁ…』
春「あの。貴女は…?」キョトン
菫「…」
菫「…通りすがりのおせっかいさ」
春「はい?」キョトン
仁美「ぶふっ!」
菫「…」カアアア
仁美「くっ…くくく…通りすがり…通りすがりのおせっかいって…」プクククク
菫「う、うるさい!行くぞ羊!」
仁美「わかったわかった。通りすがりの羊はクールに去るメェー」スタスタ
菫「こ、このやろう…!スタスタ
春「…なんだったんだろう。あの人達…」
春「…」
春「…まあいいや。神社のお掃除の仕事の最中だったし。お掃除の続きしよ」
春「…」サッ…サッ…
春「…あ」
春「おはようございます」ペコリ
春「…え?体調…ですか?ええ、別にこれといって悪くはありませんけど…」
春「…体重?やだ。私太ってないですよ?」
春「ほら、身体もこんなに軽い」ピョンピョン
春「…胸が揺れるのは仕方ないじゃないですか」ササッ
春「…というか、それは貴女にだけは言われたくないです…」
春「…お出かけですか?ええ、いってらっしゃい。いつも大変ですね」
春「霞さん」
「くすくすくす…」
仁美「まさか無人駅っちは…電車も1時間に1本とかクラスっちは…」ボーー
菫「お前のとこはもうちょっと発展してるのか」
仁美「大都会たい」
菫「そうかー」ボーー
仁美「そうよー」ボーー
菫「…さっき電車通ったばかりだから、次は…げ。50分後!?」
仁美「携帯ゲームでも持ってくれば持っちくれば良かかねー」
菫「勉強道具は持ってきたけど…この風景の中だとさすがになー」
仁美「糞マジメ」
菫「お前がふざけ過ぎなんだよ」
仁美「…はー。スタバも有るわけで無し。コンビニすら無し…」
菫「確かに喉乾いたな…構内の自販機で何か買うか。何飲む?」
仁美「ん。カフェオレ」
菫「はいはい。待ってろ。今買ってきてやるから」
仁美「んー?なんだってー!?」
菫「はやりんと来れなくて残念だってー!」
仁美「まあ、しょんないー!あん人社会人やし、大事な収録の重なっちしもたからなー!」
菫「だよなー!いや、わかってはいるけどさー!」
仁美「交通費だして貰っただけ感謝せなつまらんーー!」
菫「わかってるってーーー!」
菫「…まあ、それでも、あの人と一緒に戦ってみたいって思いは、中々誤魔化せないんだよな」ボソッ
菫(…だから、せめてまたあの人と一緒に戦えるその日までに、少しでも強く…強くなっておかなくては…)
菫「…っと。自販機の前に着いたか。えーっと、小銭小銭…」ゴソゴソ
菫「…」ピタッ
菫「…」
「…」
菫「…何か、御用ですか?」
「うふふ♪」
「貴女に…お礼を言いたくて」
菫「お礼?」
菫(…なんだこの感じ。なんだか…物凄く嫌な感じがする。まるで背中に凍りついた鉄柱でも突っ込まれたかのような…)
「ええ。お礼です」
菫「…身に覚えがありません」
菫(この声…どこかで聞いたことがあるような…?)
「いいえ。身に覚えがあるはず。とぼけても、むぅ~だ♪」
菫「とぼけてなんて…」
菫(くっ…!振り向かなければいけないのに、身体が云う事を聞かない…?)
「いいえ。私の大事な分家の子を…風潮被害から救ってくれたお礼、言わなきゃね」クスッ
菫「ふ…」
菫(何!?)
仁美『変身して前に翔べ!菫!!』
菫「っ!?」シャランラ
「あら」スカッ
菫「なっ!?何を…」
「ふふ…バレちゃった。結構勘の鋭い子ねぇ。それとも…ふふ。誰かが声をかけてくれたのかしら?」ニギニギ
菫「お、お前は…永水女子の…!」
霞「うふふ♪こんにちわ、弘世菫さん。石戸霞です。さっきは春ちゃんを助けてくれてありがとう」ペコリン
菫「な…今、何を…」
霞「何を…って。ちょっと肩を掴もうとしただけよ?そんなに怯えられても…傷ついちゃうわ」クスクス
菫(なんだ?こいつ…なんか…やばい…!)ゾクッ
仁美『菫!逃げるぞ!』
菫『は!?』
仁美『こいつはヤバイ!』
菫「ヤバイって…」
仁美『こいつは…こいつだけは…!この…この…!』
仁美『この『魔法少女プリティー☆かすみん』だけは危険過ぎるばい!!』
霞「」ニコニコ
菫「ま、魔法少女だとぉおおおお!!?」
霞「あら、もう気付いたの?」
菫「ば、馬鹿な!だって…お前、私も…魔法少女で…!」
霞「ええ知ってるわ。だって、貴女、この間大阪に居たでしょ?見てたもの」
菫「!!」
菫(園城寺怜の時か!)
霞「あれが初めての実戦で…無様な初戦ではあったけど、私の目は誤魔化せない。貴女…『持ってる』わ」
菫「な…」
霞「貴女から感じる才能の塊…強者たるべくして生まれた人間の匂い…闘争の匂い…血に飢えた野獣の匂い…」
菫「何言ってるんだお前…」
霞「貴女なら私の渇きを癒してくれる…一目見てそう感じた…そう。これは一目惚れ…」ジリッ
菫「何を…訳のわからないことを!!」
霞「貴女は知らないの?まだ気付いてないの?分からないの?いいわ。なら教えてあげる。貴女は同じ…私と同じ…そう…」
霞「それは貴女が私と同じ、生粋のドSの才能の持ち主だから!!」
菫「!!?」
霞「くすくすくす!気付いてないの?本当に!?本当に気付いてない!?嘘でしょ!?だって、貴女暴力を楽しんでる!!魔法少女になって良かったって思ってるでしょう!!」
菫「おい羊!魔法少女にも風潮被害はかかるもんなのか!!」
仁美「かからない…が、魔法少女になった時点までにかかっていた風潮被害は、消えない」
菫「!!」
仁美「魔法少女プリティー☆かすみん。九州最強の魔法少女にして、最新の魔法少女。その雷名は全国の魔法少女に響き渡っているという」
菫「九州最強…だと…」
仁美「風潮被害者として暴走5歩手前くらいで既に史上最大級の強大さを誇る風潮被害者だったのを、マジカル☆はやりんが三日三晩かけて取り押さえた化物中の化物」
菫「何!?」
仁美「だが風潮被害を浄化している途中で脱走し、数週間姿を消した後、魔法少女になって世に再び現れた」
菫「…」
仁美「大分浄化されて風潮の力は相当落ちてはいるものの、魔法少女としての才能も高く、新人ながらそこらのベテラン魔法少女数人を軽く凌駕する」
仁美「惜しむらくは、その風潮の凶悪さ故に、血の気が非常に多い事。強い者、気に入った者を見つけると、誰でも嬲ろうとする習性がある…らしい」
菫「なんだってそんな奴が…」
霞「だから、言ったでしょう?貴女…良いわ…その気の強い眼差し、威風堂々とした態度、知的な風貌、クールな佇まい、スラっとした抜群のスタイル…どれを取っても立派な王者然としていて…それでいてその本質は、ドS」
霞「隠し切れない血に飢えた獣の本性が見え隠れして…だからこそ…屈服させてしまいたい…叩き潰して…這いつくばらせて…泥まみれの顔を踏んで、命乞いをさせたいの…ねえ…わかるでしょ…」
菫「わかるか変態サド女!!」
霞「…良い」ゾクッ
菫「ひっ!」
霞「良いわ…その可憐な花弁のような唇から漏れる、鋭くハスキーな口汚い罵り声…ああ、でもだからこそその声で泣かせたい…鳴かせたい…啼かせたい…哭かせたい!!」
菫「…」ジリッ
霞「逃げられないわよ?ここは私のホーム。どこに逃げようと逃がさない。ふふふ…うふふふ…ふふふふふ…」
菫「…仕方ない…こうなったらもう、覚悟決めるぞ。羊」
菫「…」
菫「…羊?」クルッ
シーーーーーン
菫「あの野郎逃げやがったああああああああああああああああああああああ!!!」
菫「あの…あの羊…羊め…羊…くそう…!絶対後で刈る…刈り殺してやる…くそ…畜生…畜生…!」プルプル
霞「えーっと…いい?」
菫「…」
霞「…そんなにテンション下げられるとなんだかちょっと調子が狂うのですけど…」
菫「…いいよ。もうなんだっていいよ。かかってこいよ」クイクイ
霞「えーっと…じゃ、じゃあ、行きます」
霞(なんだか想像してたのと違う…もっとこう…お互い憎悪し合うような…そんなの期待してたのに…)シュン
菫「ん。来ないんならこっちから行くぞ奇乳」
霞「き…っ!?」
菫「先手必勝っ!」バッ
霞「しまっ…」
菫(こいつ、背が私より低い分リーチも短いし、胸がアホみたいにでかいから動きがトロそうだ。なら、まずヒットアンドアウェイで攻めて、冷静さを奪ってみるか)
菫(って訳で、ビンタ!)パーーーンッ
霞「痛っ!?」
霞「痛たた…」ヒリヒリ
菫(結構あっけなく入ったな…)
霞「よくもっ!」ブンッ
菫(掴みかかってきた!)サッ
霞「っ!?」スカッ
菫(…思った以上にトロいぞ?)
霞「くっ!」ブンッ
菫「ふっ!」ヒョイッ
霞「またっ!?」スカッ
菫(…念のため、試してみるか)
菫(もう一発ビンタ!)パーーーンッ
霞「あうっ!?」
菫「…あれ?」
霞「う…ううう…」ヒリヒリ
霞「あうっ!?」ヨロッ
菫「…」パーーーンッ
霞「あぐ…!」
菫「…」パパパパパパーーーーン
霞「あ、あふ…」ペタン
菫「…え」
菫(蹲った…)
霞「…」
菫(…罠か?)
霞「…」
菫(…ちょっと腹に蹴りいれてみようか?)
霞「」ウルウル
菫「…気が引けるなぁ」ゴスッ
霞「うぶっ!?…がふ…!」
霞「かふっ…!えほっ!えほっ!」
菫「…嘘だろ…」
菫(私が強くなったとか…な、訳…無い…よな…?幾らなんでも九州最強がこんな手応えない訳…)
霞「ふ…ふふふ…ど、どうしたの…お、おいでなさい…こ、この程度じゃ私は倒せ…」ガクガク
菫「膝震えてるぞ」
菫(…結局、噂なんてこんなもん…なのか…?それとも、名を騙った紛い物か…何にせよ、期待はずれで面白くも無い…)
菫(…って、私は何を考えてるんだ)ブンブン
霞「ぐっ…!はぁ…はぁ…!く…だ、駄目…もう立てない…」ペタン
菫「…もう止めにしようか」
霞「はぁ…はぁ…」
菫「…なんか、弱いものいじめな感じでその…気分悪いし…」
霞「ペッ」
菫「…」ビチャッ
菫「…」ビキッ
霞「ああああああああ!!」
菫「…」
霞「はぁ…はぁ…はぁ…」
菫「…流石にもう駄目だな。これ以上は…」
菫『…はぁ。羊。おい。終わったぞ。なんかやたら弱かった。逃げたの許してやるから戻ってきて…』
仁美『いいから今のうちに逃げろ!!』
菫『はあ?だから、かすみんはお前が言ってたより全然弱…』
仁美『馬鹿!!かすみんはまだ…』
菫「っ!」ゾワッ
菫「っ!?」クルッ
菫「…」
菫(だから…!)
美子「…」
菫(…だからいつの間にお前らは湧いて出てくるんだよ!!)
美子「…」クイクイ
霞「美子…ちゃん…」
美子「…」ナデナデ
霞「…ふふ。ありがとう。痛いの、撫でてくれてるのね?」
美子「…」コクコク
霞「うふふふ…痛いのが飛んでいきます…」ナデナデ
美子「…」キュー
菫「なんだあいつは…」
仁美『菫!おい!?どげんした!?菫!』
菫『仁美…お前の友人が居るぞ』
仁美『は?』
菫『インハイで私と対戦もした…ええと、なんだったかな。安河内美子さん。彼女が石戸霞のパートナーか』
仁美「なんやっち!?」ガサッ
菫(なんで駅の対面の植え込みに居るんだよ)
仁美「美子…」
美子「…」ジーッ
仁美「…ひ、久しぶり…」
美子「」プイッ
仁美「…っ!」
菫(なんだ?)
美子「…」クイクイ
霞「ん…そうね。ちょっと、遊び過ぎたかもね。結構ギリギリだったわ…ちょっとだけ手加減してくれてたから怪我しないで済んだけど…」
菫「ん?」ピクッ
美子「…」
霞「ふふ…わかったわ。これが終わったら、二人で一緒にチキン南蛮食べに行きましょうね?」ナデナデ
美子「」コクコク
菫(だから、何故お前たちマスコットは共食い(?)をしたがる)
仁美「…菫。気を付けろ」
菫「無理するなよ。一発小突いたら崩れ落ちそうだぞ」
霞「ふふ…気にしなくていいのよ」
菫「…」
霞「終わるのは貴女だから」シャランラ
菫「な…」
菫(馬鹿な!?ま、まさか…まだ変身していなかったと言うのか!!?)
霞「変身!」ピカーーーッ
菫「発光っ!?」
菫(いいなーーーーーー!!)
霞「フレッシュ・プリティー・キャルルルーーン♪」クルクルー
菫「前口上と変身ポーズまで!?」
霞「ちょっとヤンチャでドジっ子だけど♪」キュピーン
霞「正義の心で悪い子には♪」
霞「お仕置き」クスッ
霞「くすくすくすくす…」ニヤニヤ
菫(非常に悪い顔してる!!)
霞「愛と正義と希望と憎しみの魔法少女、プリティー☆かすみん、ここに推参♪」ビシーッ
菫「…」
霞「…」
美子「…」
仁美「…」
霞(決まった…!)
菫(くっ…!悔しいが格好良い…!!)
美子「…」
仁美(この業界きつい…)
菫「くっ…!さっきまで変身もせずに戦ってた…だと?馬鹿な。何のためにそんな事を」
霞「ふふ…ハンデよ」
菫「ハンデ…だと?」
霞「ええ。正直結構ダメージ大きいのだけど…けど、それくらいでもしないと、今の貴女じゃ余りにつまらなすぎるから」
菫「つまらない?」ピクッ
霞「ええ。退屈と置き換えてもいい。サメとメダカくらいの戦力の差があるから…」
菫「…!」ギリッ
仁美(あ、いかん。挑発にがっつり乗っちる)
仁美「お、おい菫。ちょっと冷静にだな…」
菫「…」ゴツン
霞「…くすっ」
菫「…」
霞「…」
仁美(…デコぶつけてメンチ斬り合っちる)
霞「あらあら。尻に付いた殻も取れない稚魚の間違いだったかしら?世の中を知らない小物はどちら?」
菫「世界で初めて稚魚に負けた鮫を演じてみるか?自信過剰」
霞「トラウマになるくらい世の中の仕組みを叩きこんであげる。世間知らず」
菫「…殺す」
霞「潰す」
菫「くくくくくく…」
霞「うふふふふ…」
菫「来いよ。小娘。可愛がってやる」ニヤニヤ
霞「おいで。お嬢ちゃん。相手してあげる」ニヤニヤ
菫「…ふふふふふ…」
霞「・・あはははは…」
菫霞「「あーっはっはっはは!!」」
仁美「メ、メェー…」
第四話
「クスクス霞と無言のインコ」 終わり
哩さんも人妻風潮があるんですがその辺は……
仁美「…」
美子「…」
仁美「…あの」
美子「」プイッ
仁美「…」
仁美「…わかった。話しかけんばい」
美子「…」
仁美「…はぁ」
仁美(いやぁー…参った…)
仁美「…」
仁美(参った参った…)
霞「うふふ…ねえ…もう終わり?ねえ…ねえ…?私まだ30%も出してないわよ?ねえ?」グリグリ
菫「ぐ…うう…この…!顔を…踏むな…!」ボロッ
仁美(まさか、ここまで実力ん差のあっけんっちはねー。やっぱ逃げとくべきやったか)
菫「ぶっ!黙れ…奇乳…気持ち悪いんだよ豚」
霞「顔地べたに擦りつけて言う台詞がそれ?良いわ…身の程をわかってない感じが実に良い…ねえ?ゴミクズさん」グリッ
菫「がっ!」
霞「ふふ…でも…綺麗な顔を踏み躙るのは興奮するけど、あんまり汚したら駄目よね。後でクシャクシャに歪んだ泣き顔を拝むんですもの」スッ
菫(顔から足を退けた…?)
霞「ほら、立ちなさい?仕切りなおしましょうよ」
菫「くっ…」ヨロッ
霞「先手も取らせてあげる」
菫「…後悔させてやる!」
菫(さっきは打撃を全部裁かれた。こいつ、打撃防御が半端じゃない。それなら今度は組み技で仕掛ける!)
菫(おあつらえ向けに向こうは巫女服、柔道着とつくりは大体同じだ。投げ飛ばしてやる!)
菫「獲った!」ガシッ
霞「うふふふ…」
菫(よし!このまま背負投げで…)ググッ
霞「うふふ…うふふふふ…」
菫(動かない…)
霞「馬鹿ねぇ…こんな子供騙しの技で…」グイッ
菫「なっ…!」
霞「私に…勝てるとでも…」グググ
菫「ぐあ…」ヨロッ
菫(や、やばい…後ろを向いたまま押し潰される…)
霞「襟が開いてしまったわ。でも、それだけ。うふふふ…寝技に持ち込んで欲しい?…嫌だって言っても押し倒してあげる」ググッ
菫(だ、駄目だ…耐えられ…ない…)
霞「えいっ!」ギュッ
菫「」グシャッ
霞「よいっしょ」ギュッ
菫(胴を脚で挟まれた!)
霞「送り襟絞め」ギュッ
菫(喉…!締められ…っ!)
霞「えいっ♪」コロン
菫「ぐえっ!」
菫(仰向け…!まず…い…)
霞「…」ギュー
菫「かっ…」
菫「が…ぁ…」バタバタ
菫「…」
菫「」カクン
霞「はい、また私の勝ちですね」スッ
菫「ひゅっ!?こふっ!けほっ!えふっ!」
霞「くすくすくす」
菫「はぁ…!はぁ…!はぁ…!」
仁美(一方的過ぎる…ああやっち落としたりダウンする度に技ば解いて仕切り直させるとよ。これは心の折れる…)
霞「ふふ…良いわぁ…まだ心が折れないのね…殺意が消えないのね…良い…良いわ…貴女」
菫「ふ、ふらへんら…」ヨロヨロ
霞「今回は味見だけのつもりだったのに…食べ過ぎちゃうかも…」クスクス
菫「ら、らめんら…」
仁美(駄目やん。もう呂律も回っちなか…今すぐにでも奴から逃げなかっち、壊さるる)
霞「さあ、次はどうする?また殴りかかってくる?それとも、組み合う?寝技はお勧めしないわ。私の得意分野だから」クスクス
菫「あ…う…」ガクッ
霞「あら。それとも…ここで終わってしまうの?」
菫「~~~っ!」ガリッ
霞「っ!」
菫「…いて」ツーッ
霞「…くふ…くふふふ…くふふふふ…!舌を噛んで気付け…!!やっぱり最高…!!」
菫「…ふん」ゴシッ
菫(さて、どうしたものか…)
菫(ちょっと…今の私じゃ手に負えないなぁ…こいつ)
菫「五月蝿い小娘が。ちょっと待ってろ、今直ぐにお前に屈辱を味あわせてやるから」
霞「まあ!怖い!」クスクスクス
菫(むかつく…!!)
霞「…いいわ。なら5分だけ待ってあげる。けど、もしその間に何も思いつかなかったら…そうね。もう貴女、いらないわ。魔法少女を引退させてあげる」
菫「…っていうのは」
霞「犯して…壊して…捨てるの」
菫「…ふん。いつまでも余裕の上に胡座かいてると、足元を掬われるぞ。天狗」
霞「ふふふ…じゃあ、今から5分…」
菫(ふぅ…)
菫(…もしこれで相手が羊みたいな奴だったら…)チラッ
仁美「…」ソワソワ
菫(1分くらいしたら問答無用で襲いかかって来そうだが。まあ、この糞生意気な餓鬼ならそんな事はしまい。性格的に)
菫(その間に、何か奴に一泡吹かせる策を練らなくては…)
菫「…」
菫(殴りに行ったら捌かれる。投げに行ったら潰される。組んだら寝技に持ち込まれてアウト。極め技…?どうやってそこまで持ち込むかもわからないな)
菫(…魔法は、消しゴムのカスを好きな場所に飛ばせる、だっけか。使えん)
菫(…割かし詰んでないか?これ)
菫「…」
霞「2分経過ー」
菫(ここは…やはり、癪だがなんとか逃げて後日リベンジだ。絶対に地べたに這い蹲らせて土の味を叩きこんでやる)
菫(…逃げる策…かぁ)
霞「3分ー」クスクスクス
菫(逃げる策…どうやって逃げる?走って逃げる…?いや駄目だ。あいつの機動力がわからんし、第一ここはアウェーだ。土地勘が無い場所で逃げ果たせる相手では無い)
霞「ふふふ…4分…」
菫(だったら、ここはやはり…)
霞「4分30秒」クスッ
菫(…電車か)
菫(次の電車は…カウント終了の3分後か。中々良いタイミングだ)
霞「25-」
菫(結構経ったんだな。遊ばれていたとはいえ、奴相手によくここまで無事で入れたものだ)
霞「20-」
菫(だが、カウントが終わったら本気で来るかもしれん。いや、あの口ぶりと性格からして、絶対に来る)
霞「15-」
菫(3分…保たせて、隙を作って電車に乗り込む。いけるか?)
霞「10」
菫(…いや。それだけでは駄目だ)
霞「9」
菫(電車に一緒に乗られたら詰む)
霞「8」
菫(電車に飛び乗り、同時に奴が乗り込めないように仕向ける必要がある)
霞「7」
霞「6」
菫(ここは無様でも距離を取って応戦するしかない…か)
霞「5」
菫(…よし。来いよ。糞アマ)
霞「4」
菫(そっちが全力で来るなら)
霞「3」
菫(こっちだって全力で相手してやる)
霞「2」
菫(精々気を付けるこった)
霞「1」
菫(うっかり喉元食い千切られんようにな)
霞「ぜ…」
仁美「メェッヘッヘッヘーーーーーーーー!!!」
霞「…へ?」
仁美「動くなきさんらー!」
菫「きさんらって…私も?」
霞「もう…何よ羊ちゃ…ああっ!!?」
菫「…」
菫「…おお…もう…こいつは…」ガックリ
仁美「こんおなごしん命は預かったーーーー!!」グイッ
美子「…」
霞「美子ちゃん!!」
菫「お前…」
仁美「おおーっとぉ!動くんじゃねぇ!一歩でも動いたらこん女の大事な冠羽がバッサリよ!!」シャキーン シャキーン
菫(どっからハサミ出した)
霞「やめて!威嚇でもやめて!!お願いだから!!」
仁美「動くんじゃなかぁあああああああ!!」シャキシャキシャキシャキシャキシャキ シャキーン
菫「お前…その子、チームメイト…」
仁美「メェエエエエエッヘッヘッヘーーーー!!」
霞「やめて!お願いだから!ねえ!!」
仁美「なら交換条件…分かっとるよなぁ?ええ?」
霞「くっ…!わ、分かったわ…あなた達にはこれ以上手を出さないから…」
菫(こっちが完全に悪役だ!?)
仁美「おおん?手を出さないから?随分と強気に出たもんたいなぁ?あん?」
霞「こ、この…!」プルプル
菫(やめろ!無駄に挑発するな!)
仁美「手を出さないで下さいお願いします…やろ?」メェー
霞「て、手を…出さないで…下さい…!おっ!ねっ!がい…っ!しますっ!!」プルプル
菫(くっ!悔しいが超気持ちいい!!今回ばっかりはちょっとだけ褒めてやる羊!!)
仁美「メェハァッハァアアアア!!」
ガタンゴトンガタン…
霞「」ギリギリ
菫「…電車、来た」
仁美「ふん…ならば行くぞ菫。王のように。勝者のように」
菫「…なんか、すまん」ペコリ
霞「次は…殺すわ…」
菫「…」
霞「…はっきりと分かった。やはり貴女…くだらない。あんな羊如きに助けられて…そんなゴミ…要らない…」
菫「…お前はその羊に一杯食わされたけどな」
霞「っ!!」
菫「…ふん」
霞「…覚えてなさい。弘世菫」
菫「覚えておいてやるよ。プリティー(笑)かすみん」
霞「っ!!」ギシッ!!
仁美「おい!早く乗れ!」
霞「…雑魚が調子に乗るな」
菫「…」クルッ
ドアガシマリマース
仁美「…」ドン
美子「…」ヨタヨタ
霞「…大丈夫?」ギュッ
美子「…」ピトッ
プッシュー
菫「…」
ガタン…ゴトン…ガタン…
菫(…次は殺す…か)
菫(悔しいが、今回は完敗だ。力も、技も、経験も…)
菫(…だが、覚えてろよ。糞女。今度会った時こそは…)
菫「…私が勝つ」ボソッ
菫「…ふう」
仁美「…ふう」
菫「…仁美。すまない、今回は助かったよ。とっさの機転だったな。必死に策を考えたが、結局逃げるまでの時間稼ぎにすらならないような手段しか思い浮かばなかった」
仁美「だろうっち思っとったんたい」
菫「…そうか」
仁美「ばってん今回はお互い様ちゃ。うちも他に色々やっちみたの、結局時間内までには不発やったし」
菫「ん?」
仁美「いやぁ、まあ、でも結果オーライか?多分今頃…くくくくく」
菫「…どうした?何か他に策が有ったのか?凄いな。私には全然思いつかなかった。参考までに教えてくれないか」
仁美「メッヘッヘ…よかよか。今頃きっと面白かこつになっちるし、特別に教えてやる」
菫(面白い事?)
仁美「ちょい耳を拝借」
菫「う、うん…」
仁美「ヒソヒソ」
仁美「メヘヘヘ。どうよ。最高だろう?…って、ん?どげんした菫。頭抱えて」
菫「今回は完敗だ…!」
仁美「ん?あー…まあ仕方なか。奴は特別たい。やけん今度は喧嘩売るにしてからも、もうちょっと与し易い奴だけ選んで因縁付ける事に…」
菫(完敗だ!力も、技も、経験も…!)
菫(そしてなにより…)チラッ
仁美「まあ、このうちの叡智さえあらば、大抵ん奴はなんげななるっち思うのなー!」
菫(パートナーの性根において!!)ガックリ
仁美「メーーーーヘッヘッヘーー!!」
霞「ごめんね?美子ちゃん。私がついあんな女に夢中になっちゃったせいで、貴女を危険な目に遭わせてしまって…」
美子「…」フルフル
霞「…ありがとう、優しいのね…」ギュッ
霞「…」
美子「…」ナデナデ
霞「…ふふ。私、駄目ね。美子ちゃんにはお世話になってばかり」ギューッ
美子「…」
霞「…おねえさんキャラ…たまに、しんどいな」
美子「…」
霞「…」
美子「…………あ」
霞「!」
美子「…あの…ね」
霞「…」
霞「…」
美子「おないどし…だから…」
霞「…」
美子「あまえても…いい…よ…」ポンポン
霞「…」
霞「…ありがとう」ギュッ
美子「…」ナデナデ
霞「…」ギュー
霞「へっ!?」ガバッ
「あらー。どげんかっかで見た格好のべっぴんさん居るって思っよーねぇ、石戸さんとこん霞ちゃんこつせんかー」
「隣の子は都会の子かねー?ぎやまん付けとるねー」
霞「え?えっ!ちょ…ご、ご近所のご老人会のみなさん!?」
「霞ちゃんおっぱい見えちょるじーー」
霞「え…あ…きゃあ!?」ババッ
「立派に育ったなぁー。こっさめ来た頃まだこーんなちっちゃかったちー」
「霞ちゃん小さい頃から田吾作さんとこの牛っこの乳好きだったからー」
「じさま方、そりゃ『せくはら』言じゃっとよー」
「おお、横文字ー」
「ハイカラやのー」
霞「な、なんで皆さんがここに…」
「んー?なんかなー。羊のカッコしたつ変な子がこっさめに外人さん来ちょるじーーって言うもんじゃからよ~」
「サイン貰おうかと」
霞(やられた!!)
「まあ、霞ちゃんが元気そうで良かったわー」
「そうだねー」
「霞ちゃん煮豆食べるかい?」
「うち寄ってイモ食ってけ」
「おはぎあるよ」
霞(なんで田舎の御老人は人に物食べさせるの好きなわけ!?)
「焼酎」
「こら!まだ霞ちゃん娘っ子じゃろが!」
「あれ~?じゃっどっけかー?」
「まあええ、ええ。20も18もワシらの歳なっよーねぇ一緒たい」
「それもそだなー。村の集会所空いちょるじゃろか?宴会しごつ」
「じーーし!そんじゃ今日は霞ちゃんのおっぱいのますますの発展と健康を願って!」
「飲むどー!」
「ほれ、そこな都会っ子も」
美子「」オロオロ
霞「ま、待って下さ…」
「今年はええ酒出来たんだどー」
「あら、ゴンベさんとこん焼酎今年いいんかい!そら楽しみだなー」
「じゃっどなー」
「神代さんとこん神主さんも呼ぶかー」
「だーなー。神様んとこん子のおっぱい見よーねぇ神主さんも呼ばんとな」グイグイ
霞(ひいいいいい!?)ズルズル
「ん~だもこ~ら~い~けなもんな~♪」
「あっそーれ♪」
「集会所カラオケあったよなー」
霞(お、覚えてなさいよーーー!!弘世菫!!それと、羊ーーーーーー!!!)ズルズル
第五話
「誓いの霞と決意の菫」 終わり
ネイティブの人、怒らないでね
もう今日終わりかなー?けど、ちょっと目休めてから判断する
そういえば、霧島神宮駅は有人駅(深夜早朝のみ無人)なのに
あたかも終日無人駅であるかのような風潮被害が…
鹿児島はなんか秘境みたいなイメージあったわ
次はどんな子が出てくるのか楽しみだ
Entry ⇒ 2012.10.05 | Category ⇒ 咲-Saki-SS | Comments (0) | Trackbacks (0)
貴音「おなべの美味しい季節となってまいりました」
千早「…えぇ…そうね。少し気が早い気もするけど…」
千早「……というか、それよりも」
貴音「はて、何でしょう」
千早「……どうして、私の部屋にいるのかしら」
貴音「……」
千早「……」
貴音「ふふ…それは我が国の開錠技術をもってすればこの程度…」
千早「開錠?!しっ、四条さん、あなた…いえ、あなたの国って一体…!」
千早「な、何故私が諭されているのかわからないけれど…」
千早「…はぁ。もういいわ。それで?一体ここに何の用」
貴音「おなべです」
千早「………」
千早「は?」
千早「いや、それはそうだけれど…」
貴音「そこで、ここまでこうして、わざわざおなべを食べにきたという運びです」
千早「…そんなの、自分の家でやれば…」
貴音「私の家には、おなべをする為の環境が整っておりませんので…」
貴音「それに、おなべは人が多ければ多いほど美味しいと聞きます」
千早「……それは…そうかもしれないわね。……私には…あまりその経験が無いけれど」
貴音「であればなおのこと!さぁさぁ、おなべを始めると致しましょう…!」
千早「わ、わかったからちょっと落ち着いてください…!」
貴音「?」
千早「…?」
貴音「!」ピーン
貴音「…では、楽しいおなべにいたしましょう…!」
千早「い、いや、そういうことじゃなくて…」
千早「だから、鍋と一口に言っても色々あるでしょう?モツとか、水炊とか、豆乳とか…」
貴音「? ? ?」
千早「……本当に何も知らないのね……」
貴音「お任せします」
千早「そうと決まればとりあえず鍋とホットプレートを…あっ、そうだわ、材料を買いに行かないと」
貴音「それならば私にお任せください…!」
千早「えっ?お任せください、って一体どうする…」
貴音「そんなこともあろうかと、私、材料を持ってきております…!」
千早(そんなこともあろうかって…そもそも自分で言い出したことなんじゃ)
千早「…でも、それなら話は早いですね。何を持ってきたんですか?」
貴音「これですっ…!」
しじょーん!
貴音「……」どやぁ
千早「…ラーメン、ですか」
貴音「えぇ…まごうことなく」
千早「それじゃ、買い出しに行きましょうか」
貴音「っ!?」ガーン
貴音「そうですね…アイドルとして、体調管理にも気を遣わなければ」
千早「えぇ、本当に」
貴音「……千早は、よく料理をするのですか?」
貴音「そうでしたか」
千早「そういう四条さんは?」
貴音「私は食べる方専門ですので…」
千早「くすっ、何ですか、それ」
貴音「ここがすぅぱぁ…」
千早「えぇ」
千早(スーパーもあまり来たことが無いのかしら…?)
千早「…さて、それじゃあまず、鍋の素を…」
貴音「…ほう…これを入れて、おなべにするのですね」
千早「えぇ…ちゃんと出汁を一から作る場合もあるけれど…ちょっと手間ですから」
貴音「なるほど…おや?」
貴音「あそこのご婦人が何やら店の商品を頂いているようですが…」
千早「店の…?あぁ、試食ですか。ウィンナーね」
貴音「ししょく…」
千早「さてそれじゃあまずは…」
貴音「……」じーっ
千早「…?」
貴音「……」チラッ
千早「……」くすっ
貴音「…!私も、もらって良いのですか…?」
千早「えぇ。試食ですから」
貴音「では、お言葉に甘えて行って参ります…!」しじょっ!
千早「行ってらっしゃい」
千早(…本当に、何も知らないのね…。子供みたい)
千早(ちょっと可愛い…かも)
貴音「ほぉまはへぇひまひた」
千早「…貰いすぎです」
貴音「ちはや!ちはや!」
千早「はぁい?」
貴音「これ…これは是非入れましょう…!」
千早「?どれどれ…って、これ、餃子?」
貴音「らぁめんにとてもよく合うのです」ふんす!
貴音「是非!是非…!」
千早「……でも、やっぱり、鍋に餃子だなんて……」
貴音「……」うるうる
千早「……//」
千早「ま、まぁ、挑戦してみるのも…悪くないかもしれないわね」
貴音「…!ちはや…」パァァ
千早「えーっともやしもやし……あ、あったわ」
がしっ
千早「あっ、ごめんなさ」
やよい「……」
千早「……」
やよい「はい!ちょっと量が足りてなかったかなーって!」
千早「そう。こんな時間にお使いなんて偉いわね」よしよし
やよい「えへへ…今日はちょっと奮発して、お鍋をやるつもりなんですよ!」
やよい「そうなんですかー!楽しそう!良いなぁ~…」
千早「それなら、高槻さんも一緒にどうかしら?私は全然構わないけれど」
千早「そう…こちらこそごめんなさい。変に誘ったりして」
やよい「いいんです!それじゃあ私、そろそろ帰りますね!」
千早「えぇ。また今度、みんなでやりましょうね」
千早「…ちなみに、高槻さんのところは何鍋をするの?」
やよい「もやし鍋ですよー!」
千早「?」
やよい「?」
貴音「それにしても、ここには真、色々な物があるのですね……おや?何やら嬉しそうですね、千早」
千早「へっ?あ、あぁ…さっきまで、高槻さんと一緒にいて…」
貴音「なんと。そうでしたか」
千早「えぇ。凄い偶然ですよね」
貴音「……」ぷぅ
千早「…?どうかしました?」
貴音「……千早、私と一緒にいると、嬉しくないですか?」
貴音「……」ぷぅぅ
千早(……もしかして、やきもちを……?)
千早「……」くすっ
千早「…そうね、それはこの後の四条さん次第かしら」
貴音「…!なんと!一体私に何をさせるおつもりですか…?」
千早「うふふ。さぁ…何なんでしょう…?」
貴音「め、面妖な…」
千早「さて、会計会け」
貴音「……」じゅるり
千早「…涎を垂らすにはまだ早いです」
貴音「申し訳ありません…想像しただけでもう、我慢ならず…。…今日は、良い一日になりそうです」
千早「ふふっ、そうね」
千早「と、いうと?」
貴音「アレを」
千早「?アレって…あ!」
貴音「えぇ。本日は全品、四十ぱぁせんとおふのようです」
千早「あぁ…それで」
貴音「?」
貴音「そっちも持ちましょうか?」
千早「いいえ。これぐらい、大丈夫。ありがとう」
貴音「いえ…」
貴音「……」
千早「…えぇ、そうね」
貴音「…こうして、星を見ていると」
千早「見ていると?」
貴音「……。いえ、やはり何でもありません」
貴音「秘密も女の嗜みですよ」
貴音「…千早は、この星を見て…何を思いますか?」
千早「……」
貴音「……千早?」
貴音「…!」こくり
《星の星座を探しに行こう~♪》
《夢はもう、銀河に浮かんでる…》
…………………………
…………………
…………
……
…
千早「ただいまー」
貴音「……」
千早「…はっ?!//」
貴音「……いつも、その様なことを?」
千早「なっ…!//ち、違うわよ?!//今日は四条さんも一緒にいるから…!//」
貴音「相手の有無に関わらず、挨拶をすることは大事なことです」
千早「だから…!//」
貴音「くすくす」
貴音「私も手伝いましょう」
千早「えぇとこれはこっちに…」がさがさ
貴音「……」
貴音「…む?これは…新曲ですね?」
千早「?あぁ、えぇ…そうなの。今、どう歌おうか少し悩んでいて…」
千早「……」
貴音「……」
貴音「……すみません。いくらなんでも、このように低俗な駄洒落では」
千早「…ぷぷっ」
貴音「?」
千早「くすくす… 鍋だけに煮詰まる、ですって…くくっ、あははっ」
貴音「……」ほっ
貴音「承知致しました」
千早「……」ザクザク
貴音「……」トスットスッ
千早「……」ザクザク
貴音「……」トスットスッ
貴音「しゅんかん好きだと気付いた~」トスットスッ
千早「貴方は今~」ザクザク
貴音「どんな気持ちで」トスットスッ
千早貴音「「い~る~の~」」ザクトスッザクトスッ
貴音「ふ~たりだと~…!」
千早貴音「「わかっている~けどぉ~!!」」
千早「す~こしだけぇえ~!!」
貴音「このまま瞳~…!!」
千早貴音「「そぉおらさなひぃい~でぇえ~!!!」」
千早「…そ、そろそろ作業に戻りましょうか」はぁはぁ
貴音「そうですね…」ふぅふぅ
↑結局そのまま盛り上がってアルバム一枚分歌った
貴音「そうですね」カチカチ
千早「後は煮えるのを待つのみです」
貴音「楽しみです」わくわく
貴音「……」カチカチ
貴音「いえ…少し、皆との予定を合わせておるのです」
千早「…?それにしても、今日急に家へ押しかけて来た時はどうしようかと思いました」
貴音「押しかけた、というよりは待ち伏せていた、という方が正しいですが」
千早「自分でそれを言いますか…?」
千早(……何だかんだ言って、ちょっと楽しみかも)
千早「うふふっ」
貴音「?どうかしましたか?」
千早「…いいえ?何でも」
貴音「!もしや、千早も早くおなべが食べたくて待ち切れないのですね?」ぐぅぅ
千早「えぇ、そうね」くすくす
貴音「ばっちこい、です…!」
千早「よいしょ」パッ
貴音「……」
千早「わっ、熱っ」ガッ
貴音「……」
千早「手に出汁が」ちゅっ
貴音「はぁ~んっ…!」
千早「え?」
貴音「いえ」
貴音「ぱくぱく」
千早「餅を買ってみたのは正解だったわね。よく合うわ」
貴音「もぐもぐ」
千早「…さっきから一心不乱に食べ続けてるわね…」
千早「…ホント、美味しそうに食べるわよね」
千早「少し多く買い過ぎた気もしたけど、これなら大丈夫そうね」
貴音「おなへがほぉんなぁにすばらひぃものとは…!」
千早「もう、食べるのか話すのかどっちかにしなさい」
千早「……。それじゃあ、言い出しっぺの四条さんから」
貴音「言われずとも」ぱくり
千早「あっ…」
貴音「……」んぐんぐ
千早「…ど、どう?」
貴音「!これはこれは…!実に美味、ですよ…!」
えっ
何だこれは
何だこれは…
おでんに餃子と聞いて、正直「あー、うまそうかも」と思ったけど
まさかの練り物…
貴音「私、嘘は申し上げません…!」
千早「ま、まぁ、味覚は人それぞれだけれど…」
千早(…でも、いっても餃子だし、そんな変なことにはならないか)
貴音「なんなら私が食べさせて…」
千早「結構です!//」
貴音「」ガーン
貴音「…どうですか?」
千早「あっ…美味しい」
貴音「!でしょう…!どこまでまでも私の言った通りでしょう…!」
千早「そんな無理矢理歌に繋げなくても…」
千早「…でも、ホントに美味しい…今度からやってみようかしら」
貴音「ちはや、おかわり!」
千早「自分で取りなさい」
貴音「えぇ…大変美味しゅうございました」
千早「…さて、それじゃあ最後に…」
貴音「?まだ何か…?」
千早「…はい。これを」
千早「えぇ。キムチ鍋になら、きっと合うと思って。よくシメには使うようだし」
貴音「こ、こんなことが…!」ぷるぷる
千早「せっかくだし、卵も溶いちゃいましょうか」カチャカチャ
貴音「きゅーんっ…!」
貴音「……ち、ちはや…貴方は、め、女神です……」キラキラ
千早「そんなオーバーな…」
貴音「おーばーなどではありません!」くわっ!
千早「きゃっ?」
貴音「麺に、野菜の旨み、肉のコク、千早の唾液、出汁の味が見事に絡みついてそれはもう…!おーばーでますたーでかまげーん!なのです!」
千早(……途中、何かがひっかかった気がしたんだけど気のせいかしら……)
貴音「ですが」
千早「?」
貴音「これはらぁめんではないですね」きっぱり
千早「そ、そうね」
千早(へ、変なところでシビアね…)
千早「お粗末様です」
貴音「……また…」
千早「?」
貴音「また…ここへ食べに来てもよろしいですか?」
貴音「それは良かったです」
貴音「…では、また明日に」
千早「えぇ。また明日…」
バタン
千早「……」
千早「…明日?」
千早「……さて、仕事も終わったことだし、今日はゆっくり一人鍋でもしましょうか」
千早「豆乳は胸が大きくなると聞いたことが」
ガチャリ
千早「えっ?」
亜美真美「「突撃っ!千早おね→ちゃんの晩ご飯っしょ→!!」」
千早「?!」
美希「ここが千早さんのお家なの…」
雪歩「お、お邪魔しますぅ…」
真「うわぁ…これ、みんな入れるかな」
伊織「ウチでやった方が良かったんじゃない?」
やよい「私はこのくらいぎゅうぎゅうの方が楽しいですぅー!」
律子「あずささーん!こっちですよ、こっち!」
あずさ「あらあらまぁまぁ…」
春香「みんな!この家のことなら何度か来たことがある私に任せて!何度か来たことがある私に!」
貴音「…今晩は、千早」
千早「しっ、四条さん?!こ、こ、こ、これは一体…!」
貴音「ふふ、ですから、申し上げたでしょう」
千早「?!」
貴音「おなべは、人が多ければ多いほど、美味しいというものです」にこり
真「貴音が皆にメールして予定を合わせてくれたからね」
千早「メール…?…あっ」
貴音「……」にこり
貴音「皆との都合がつく日は今日以外に無かったものですから」
千早「なるほどそれで…ってあっ、ちょっと亜美!真美!勝手に部屋の物を…!」
わー!ぎゃー!
貴音「……」
貴音「……本当は」
貴音「また、二人っきりでやっても良かったのですが…ね」
おわり
このスレもここいらで締めたいと思います。
またなんか思いついたら書きたい。鍋食いたい。
付き合ってくれてどうもでしたノシ
乙
Entry ⇒ 2012.10.05 | Category ⇒ アイマスSS | Comments (1) | Trackbacks (0)
蒲原「ワハハー、須賀神社かー」
アリガトウゴザイマシター
蒲原「ふー。やれやれ、もう10月だってのに暑いなー」シャリシャリ
蒲原「ん? この看板…『須賀神社、東に100m』」
蒲原「ワハハ、何だかあいつを思い出すなー」
蒲原「元気にしてるかなー」
久「はい皆ちゅうもーく!」
優希「お、なんだじぇ?」
まこ「なんじゃなんじゃ」
久「ふふ、今日は特別ゲストに来てもらったわよ。さ、入って」
ギィ…
蒲原「ワハハー、お邪魔するぞー」ジャーン
咲「あ、あの人は…」
咲(…あの人誰だっけ、和ちゃん)ヒソヒソ
和(もう、咲さんったら…。鶴賀の中堅、三年生の蒲原さんだよ)ヒソヒソ
咲(あー、あの人ね。ありがと)ヒソヒソ
咲(こんな人いたっけ…覚えてないよ)
優希「おー!で、ぶちょー、この人は誰なんだ?」ワクワク
全員「おいおい」
まこ(部長じゃったんか…)
和(部長だったんですね…)
久「今日はこの人を入れて打ってもらうわ」
久「特に優希、これはあなたの特訓でもあるのよ」
優希「じぇ? 私?」
久「そう。蒲原さんは降りることに関しては一級品」
久「優希、あなたは東場においてあがることに関しては一級品だけど、誰かを狙い打ちしたり
テクニカルなことに関してはさっぱりよね」
優希「うー…ツモるから関係ないじぇ!」
久「これから学年も上がっていくのに、そうも言ってられないでしょ?」
久「そこで、優希に一つ課題をあげます。今日の部活で蒲原さんから直撃をとること」
久「それが出来たら、私が直々にタコスをおごってあげるわ」
優希「おー!俄然やる気でてきたじぇー!」
優希「覚悟するじぇ!鶴賀のぶちょーさん!」
蒲原「ワハハー、おてやわらかに頼むぞー」ワハハ
蒲原「ワハハー、須賀君は気が利くなー」
須賀「いえ、俺に出来ることはこれくらいですから」ハハハ
優希「もう張ってから何巡も経つのに全然あがれないじょー」
和「これが海底…流局ですね」
優希「くそー、このままじゃタコスが…」
蒲原「ワハハー、そう簡単にはあがらせないぞー」
久「そうね、さっきの優希の手牌がこう、蒲原さんの捨て牌がこうだから…」
白板 キュキュキュ…カサ
久「あら、マジックのインキが切れちゃったわ」
須賀「えー、またですか? まあいいですけど…」
須賀「こっから店まで遠いんだよなぁ…もう購買閉まってるし…」ブツブツ
蒲原「ワハハー、私が車出そうか?」ワハハ
須賀「え、いいんですか!?」
久「あら、気を遣わなくてもいいのよ」
優希(部長はもっときょーたろーに気を遣うべきだと思うじぇ…)
蒲原「ワハハー、だいじょぶだいじょぶ。お安い御用さ」
久「そうねえ、さっきの局について優希と検討もしたいし、ちょっとお願いしようかしら」
須賀「やった!蒲原さん、ありがとうございます!」
蒲原「ワハハー、礼には及ばないさー」
須賀「本当ありがとうございます、蒲原さん」
蒲原「ワハハー、いいって言ってるだろー」
須賀「いやー、いつも部長にはパシらされて…本当に有り難いです」
須賀「蒲原さんがこっちに来てくれたらいいのに」ハハハ
蒲原「ワハハー、それはさすがにないなー」
蒲原「こっちじゃゆみちんに勉強教えてもらえないしなー」
須賀「そういえば蒲原さんは受験ですか…う…受験…」ハァ
蒲原「そうだぞー、受験は怖いぞー。勉強すること沢山だぞー」
須賀「ヒィッ!嫌だあ…」
蒲原「ワハハー、そんなに嫌かー」ワハハ
蒲原「まあ私も人のこと言えないしなー。というか、よく分かるよその気持ち」
蒲原「勉強はいやだよなー。私こないだの模試でE判定だったよ」ワハハ
須賀「うわ…俺と一緒じゃないですか」ハハハ
蒲原「同じ穴のムジナかー」ワハハ
須賀「でも意外だなぁ。蒲原さんって勉強出来そうなのに」
蒲原「そうかぁ?」ワハハ
蒲原「数学の教科書を見ると虫酸が走るよ」
須賀「俺もそうです!物理なんかになるともう眠気がひゅんひゅん来て!」
蒲原「英語もダメだよなー。なんで日本人なのに英語の勉強しなきゃいけないんだか」
ワイワイ(しばし勉強の愚痴で盛り上がる)
蒲原「そーそー、それで先公がさー…」
蒲原(ん、信号変わりそうだけどいけるかな)
キキキキキ ゴオオオ
須賀「わっ!?」ガタン
蒲原「ワハハー、こんなもんだろ」
蒲原「もっと飛ばすぞー」
キキキキ ガタンゴトン
須賀「わあっ、ちょ、ちょっと蒲原さん!」
蒲原「ワハハー、無事帰って来れたなー」
久「おかえりー。ありがと、お二人さん」
優希「きょーたろーに鶴賀の部長さんお帰りだじぇ!早速続き打とうじぇ!」
―――夕刻
蒲原「んー、こんなもんかなー」
優希「結局蒲原さんから一回も上がれなかったじぇ…タコスが…」
咲「まあまあ、また学食で食べればいいじゃない」
優希「咲ちゃん分かってないじぇ!他人の金で食べるタコスは格別なんだじぇ!」
蒲原「ワハハー、じゃあ私はお暇するとするかー」
須賀(蒲原さん帰るのか…)
須賀「ちょ、ちょっと待ってください、蒲原さん」
蒲原「んー、どうした?」
須賀「蒲原さんと車の中で話してて楽しかったですし…」
須賀「俺、周りが勉強出来る人ばっかりなんで…また勉強の愚痴とか聞いてもらいたいんですよ」ハハハ
蒲原「ワハハー、いいぞー」
蒲原「私も周りがそんな感じだからなー。またドライブでもしながら話そうやー」
須賀「あ、いや。それはちょっとご遠慮願いたいかな…」
蒲原「むぅ、どういう意味だー」ワハハ
優希「むー…蒲原さん、用が済んだらさっさと帰るじぇ!」ガルル
まこ「失礼なこと言うんじゃない」ポカッ
優希「あたっ」
蒲原「思えばあれっきり電話もメールもしてなかったしなー」
蒲原「ちょっと呼び出してみるかー」
蒲原『もしもしー、須賀くんかー?』
須賀『蒲原さん!どうしたんですか?』
蒲原『いやー、ちょっと来てほしくてなー。今からローソンS店の前まで来れるかー?』
須賀『いいっすよ、丁度暇してましたし!今から行くんで10分くらいで着きますね』
蒲原『ワハハー、そんな急がなくていいぞー』
須賀「いえいえ。お久しぶりです。元気でしたか?…って聞くまでもなさそうですね」
蒲原「おー、須賀くんも元気そうで何より」
蒲原「じゃあ今からこの神社に行くぞー」
須賀「神社? …ってこれ、『須賀神社東100m』…」
須賀「蒲原さん、まさか…」
蒲原「ワハハー、そのまさかさー」
須賀「偶然この看板を見つけて俺のこと思い出して、それで呼び出したとか言うんじゃないでしょうね」
蒲原「偶然この看板を見つけて須賀くんのこと思い出して、それで呼び出したのさー」
須賀「ぷっ、あはは!蒲原さんどんだけ行き当たりばったりなんですか!」
蒲原「ワハハー、私は基本行き当たりばったりだからなー」ワハハ
蒲原「ほら、行くぞー」
須賀(蒲原さん、面白いひとだなー)
須賀(でも俺に会いたくて呼び出したんじゃないのか…ちょっと残念だな…)
蒲原「そうだなー。こんないいとこがあったんだなー」
蒲原「お、和菓子屋さんが二つもあるぞ」
須賀「ほんとだ。喧嘩になったりしないんですかね」
蒲原「和菓子のいい匂いがするなー。須賀ー、一つ買ってやろうか?」
須賀「太っ腹ですね」ハハハ
蒲原「遠慮することないぞー」
須賀「気持ちだけ頂いておきます」
蒲原「ワハハー、和菓子は嫌いかー?」
須賀「いえ、好きですけど。買ってもらうなんて悪いですよ」
須賀「逆に俺が今度ご馳走しますって」
蒲原「そうかー? じゃあその時は遠慮なく頂くぞー」
須賀「ちょっとくらい遠慮してくださいっ」ハハハ
須賀「んー、なんか書いてある名前が違いますよ。ここじゃないみたいです」
蒲原「じゃあもうちょっと先かー」
須賀「みたいですね」
次は白組による組体操です! ワーワー
蒲原「ワハハ、運動会でもやってるっぽいなー」
須賀「近くに小学校でもあるんですかね。そういえばもうすぐ体育祭か」
蒲原「ワハハー、私は全種目エントリーしたぞー」
須賀「すごっ。まじっすか」
蒲原「運動は得意だからなー。っと、須賀神社。ここかー」
蒲原「なんかちっぽけな所だなー。須賀くんの存在くらいちっぽけだ」
須賀「ちょ、それ神社の人に失礼ですよ!」
蒲原「ワハハ、冗談冗談」ワハハ
須賀「経営って」ビシッ
須賀「でも、本当にそんな感じですね。目の前におっきな神社があるから尚更」
蒲原「私はこういうところの方が好きだぞー」
須賀「俺もです」ハハハ
蒲原「大理石に夕陽が反射して綺麗だなー…」
須賀「蒲原さんの方が綺麗ですよー」
蒲原「ワハハー、気持ちが込もってないぞ、気持ちがー」ワハハ
須賀「はは。ていうかそういうセンチメンタルな感情あったんですね」
蒲原「ワハハー、どういう意味だ須賀ー」ガシッ グリグリ
須賀「ちょ、いたたた痛い痛い!さっきの仕返しですよ!」
蒲原「一年の癖に生意気だぞー」パッ
須賀「ほっ…。横暴ですよー」
須賀(蒲原さん、そんな密着するなんて…思わず体の一部が熱くなっちまったぜ)ドキドキ
須賀(にしても、柔らかいし良い匂いだったな…やっぱり女の子なんだなー…)ドキドキ
須賀(美福!? 福…美しい…)もんもん
蒲原「ワハハー、須賀くんが今考えてること、当ててやろうか?」
須賀 ビクッ
須賀「い、いや!決して美しい福路さんのことなど考えてな…はっ」
蒲原「ワハハー、予想的中だー。まあ私も考えたし、許してやろう」
須賀「いやー、ですよねー。この字の並び見るとしょうがないですよ」
蒲原「むっ…。しかし私という者がありながら他の女のことを考えるなんて、やっぱり許せないかもなー」キラン
須賀「いやいや、何を言い出すんですか」ハハハ
蒲原「浮気はいかんぞ浮気はー」
須賀「浮気って…」ハハハ
須賀(やべー、冗談だと分かっててもドキドキしちまう…)ドキドキ
須賀(蒲原さんって、改めてみるとすっごい可愛いな…笑顔も似合ってるし…)ドキドキ
須賀「蒲原さん、お守りでも買った方がいいんじゃないですか?」ニヤリ
蒲原「ワハハー」
蒲原「マジでそうかも…」ズーン
須賀「ちょ、ちょっと!何マジに落ち込んでるですか!」
須賀「お、俺はいいと思いますよ、蒲原さんの運転!何と言うかこう、スリルがあって!」
蒲原「ワハハ、フォローになってないぞ須賀ァ…」
須賀(なんだ、ヘッドロックは来ないのか…って何期待してるんだ俺は!)カァッ
須賀「ま、まぁ、いつか上手くなりますって!ほら元気出して!」
蒲原「そうだなー!」シャキーン
須賀「立ち直るのはやっ! …で、えーっとなになに…」
須賀「S地区一体の産土神とされ、また縁結び、厄除け、交通安全の神として …」
蒲原「ワハハー、産土神って音読みするとポケモンみたいだなー」
須賀「可愛いですよね、サンドパン」
蒲原「にしても、縁結びかー」
蒲原「どうなんだ、須賀は好きな人とかいるのか?」ニヤリ
須賀「えっ…」ズキン
須賀「い、いやぁ、俺はそういうのはないかなー…」
須賀「強いて言うなら、蒲原さんとなら笑顔の絶えない明るい家庭が築けそうかなー、とか思ったり…」ゴニョゴニョ
蒲原「そうかー、私もそういうのとは全く無縁だなー」ワハハ
須賀(…って後半聞いてない!? ってその方が良かったか…寧ろセーフ!)
須賀(でもちょっと、どういう反応するか見てみたかったり…)ドキドキ
蒲原「どれどれー向こうにも看板があるぞー」トタタ
蒲原「須賀神社懸想文は縁談・商売繁盛など人々の欲望をかなえる符札…」
蒲原「ワハハー、なんだか俗っぽいなー」ワハハ
須賀「ですね。神社ってそういうもんなですね」クスクス
須賀「本当にこじんまりした境内ですね。部室にすっぽり収まっちゃいそう」
蒲原「ワハハー、そんくらいがいいんだよ、何事も」
蒲原「大きくなりすぎると収拾がつかなくてロクなことがないからなー」
須賀「なんか具体的ですね」
蒲原「これでも一応文化祭仕切ったりしてたからなー」
須賀「へぇ、そうなんですか」
須賀「いやドラって。それを言うならドラゴンでしょ」
蒲原「ワハハー、知らないのかー? ドラの由来ってドラゴンなんだぞー」
須賀「あ、そうなんだ。知らなかったですよ」
蒲原「ワハハー、うたちゃんが言ってただろー」
須賀「あれぇ、おかしいな。聞いてたはずなんだけど」
蒲原「ワハハー、須賀くんはバカだなー」
須賀「人のこと言えないでしょ」ハハハ
蒲原「生意気だぞ須賀ー」ポス
須賀「おうふ」
蒲原「お、なんか変わった形の植物があるぞー」タタタ
須賀「っと、ちょっと待ってくださいよー!」タタッ
須賀「なんですかその説明口調は。これ、ささげって奴じゃないですか?」
蒲原「お? 知ってるのか須賀?」
須賀「ええ、まあ。これは豆の一種なんですよ」
須賀「このさや豆のように沢山の氏子が繁栄を祝うって意味なんですかね」
蒲原「お、おおー…なんか須賀が賢そうだぞ…」パチパチ
須賀「なーんつって、ほんとはさっきの看板に書いてあったのを見たんですけどね」テヘペロ
蒲原「私の感心を返せ!」デュクシ
須賀「おうふ」
須賀「そうですね」
パンパン
須賀(…願いかぁ…)
須賀(本当は麻雀が上手くなりますようにとか、そういうことをお祈りするべきなんだろうけど…)
須賀(…でも…今ここにいる俺は…この蒲原さんとの時間がもっと続きますように、とか)
須賀(そんなことをお祈りしたいなんて考えている…)
須賀「…はい」
蒲原「ふむ。ちゃんと麻雀が上手くなるようにお祈りしたかー?」
須賀「うっ!いやそれは…」ドキン
蒲原「ちゃーんとお祈りしとかないと、いつまで経ってもお茶出しだぞー」
須賀「うぐっ!耳が痛い…」
蒲原「ははは。まーまー、いざとなったら私が特訓でもつけてやるよ」
蒲原「まー、私より清澄の奴らにつけてもらった方が強くなれそうだがな」ワハハ
須賀「! いや、お、俺、その…蒲原さんがいいです!蒲原さんに特訓つけてもらいたいです!」
須賀(って何言ってんだ俺はぁぁぁぁぁ!恥ずかし!)
蒲原「ワハハー、清澄の奴らは強すぎるから私が丁度いいって意味かー?」
須賀(あ…)
須賀「そ、そうですね。そう意味です」アハハ
蒲原「生意気だぞー」ポカッ
須賀「あだっ」
須賀「は、はい!是非お願いします!」
蒲原「何せ暇だからなー」
蒲原「さて、神社も堪能したし、そろそろ帰るとするかー」ノビー
蒲原「楽しかったぞー。付き合ってくれてありがとうな、須賀ー」ニコッ
須賀(! 蒲原さんの笑顔…!)
須賀(なぜだろう、蒲原さんは終始笑っていたはずなのに、今日初めてこの人の笑顔を見たような気がする)
須賀(出来ることなら、ずっとこの人の笑顔を見ていたい…もっと近くで、もっと沢山の笑顔を…)ドキドキ
蒲原「んー? どした須賀ー?」ニコニコ
須賀「蒲原さん…俺っ…!」
京太郎「すごく楽しくて、すごく居心地がよくて…」
京太郎「なんか蒲原さんといると元気になれるんです。いつもより何倍も」
京太郎「さっき言ってた麻雀のことも、蒲原さんと一緒なら頑張れる気がするんです」
京太郎「蒲原さんとずっと一緒にいたいんです…蒲原さんと笑顔の絶えない時間を過ごしたいんです!」
京太郎「だから、蒲原さん…俺と…!」
智美「ストップ。それ以上言わなくていいぞー」
京太郎「…はい」
智美「それ以上言われると…」
なんでこんなので笑ったんだろうな・・・
なんでだろうな……
京太郎「! そんな…じゃあ…」
智美「そっかー…そんな風に思ってくれるなんて、思ってもみなかったよ」
智美「私のことをそういう風に見てくれる人もいるんだな…」
智美「ちょっと恥ずかしくて、でも嬉しいよ」ニコッ
京太郎(蒲原さん…)キュン
智美「須賀くん。…いや、京太郎。私も今日京太郎と一緒に遊んで、すごく楽しかった」
智美「私も須賀くんと一緒にいたいと思うよ」
智美「でもなー。その気持ちはまだ、私がゆみちんやかおりん、モモにむっきーに対して思うのと同じくらいの気持ちなんだ」
京太郎「…そうですか」
智美「この際ズバっと言ってしまうと、京太郎は男としての魅力に欠けるんだよー」ワハハ
京太郎「そんなっ!」ガーン
智美「でも、これからもちょくちょく遊ぼうなー」
智美「それで、京太郎のことが好きで好きで仕方がなくなるくらい、私を落としてくれー」
智美「私のこと、好きになってくれてありがとうなー」
智美「そして、これからもよろしくな、京太郎!」ニコッ
京太郎(蒲原さんの笑顔…なんて素敵なんだろう)
京太郎(この笑顔の為ならなんだって出来る、そんな気がする!麻雀だって強くなれる気がする!)
京太郎「分かりました!俺、フラれちゃったけど…」
京太郎「また、蒲原さんと遊べるなら、落ち込んだりしません!」
智美「ふふ、そう言われると照れるなー」
智美「じゃあ、今度こそ帰ろうか」
京太郎「はい!」
智美「あ、私車で来たんだけど送ろうかー?」
京太郎「…俺、今度自動車免許取りますね」
蒲原「京太郎の年齢じゃまだ取れないぞー」
カン!
乙!
二人の笑顔の絶えない家庭生活編はまだですか?
Entry ⇒ 2012.10.04 | Category ⇒ 咲-Saki-SS | Comments (1) | Trackbacks (0)