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ウルフルン「見狼記…!?」

引用元:
1: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/10/06(土) 00:15:53.20 ID:OVwuf95S0

―――その日、ウルフルンは、何時ものように
プリキュア達に敗北を喫し、バッドエンド王国の
居城へと戻ってきていた。

「ちょっ…ノックもせずにいきなり入ってくるんじゃないだわさ!」

苛立ちの収まらない彼は、マジョリーナの部屋へと乱入し、
ウサ晴らしに彼女のテレビを占拠しようとする。

「ぅるせぇ!! 俺ぁ、今、最ッ高に虫の居所が悪いンだッ!
 張っ倒されたくなけりゃ、おとなしく そいつを寄越しやがれッ!」


2: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/10/06(土) 00:17:48.43 ID:OVwuf95S0

ウルフルンは彼女からリモコンを引ったくり、
テレビのチャンネルをザッピングをしていたが、
その時、彼の目は、とある番組に釘付けになった。

『今の時代のニッポンに、狼信仰が生きているというと―――信じるかね?』

画面には、そぼ降る雨に包まれた社殿の中で、
祝詞を奏上する老人の口元が映し出されていた。

ナレーションは尚も続ける。
 
『百年以上前に絶滅したというニホンオオカミ。
 この獣が、今もどこかに生きていて不思議な力を放っている―――。』

(なん…だと…!?)

思いもよらぬ内容に衝撃を受けるウルフルン。


3: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/10/06(土) 00:18:58.11 ID:OVwuf95S0

―――番組が進むにつれ、彼の表情は次第に熱を帯びていく―――。

(…童話の世界の中じゃ、俺ら狼は人間や家畜を襲う悪役…昔っから、ずっとそうだった…。
 …けどよ、何だ?この国じゃ、神の使いとして崇められてるなんて…こりゃ本当なのか!?
 ンなの初耳だぜ?…ヘッ、だとしたら随分と皮肉な話じゃねぇか…。
 いや…神そのものじゃ無くって「使い」ってのは、ちっとばかり癪だがな…)

(…まぁ、なんだ。プリキュアどもに負けて、ムシャクシャが納まらねぇから
 気分転換に…ってのも少々アレだが、折角だから実際のところはどうなのか…
 ここはひとつ、この俺様が直々に確かめてやろうじゃねぇか。)


4: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/10/06(土) 00:19:40.40 ID:OVwuf95S0

テレビの画面を食い入るようにして見ていたウルフルンが、やおら立ち上がる。

「…行って来ンぞ。」
「ちょっ…プリキュアに負けたばっかりだって言うのに、今度はどこへ行くんだわさ!?」

「…埼玉だ。」


5: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/10/06(土) 00:21:58.76 ID:OVwuf95S0

「…チッ、出たと思ったら…あんだァ!? ひっでぇ藪じゃねぇか!」

バッドエンド王国の居城から、埼玉のある山中へと転移してきた
ウルフルンだったが、その目の前に広がる一面の藪に閉口していた。

「テレビじゃ あんなに大きく出てたから、すぐ見つかるかと思ったのによ…。ケッ」

人間の背丈ほどもある薄暗い藪の中を、ひたすら かき分けて進む、
文句たらたらのウルフルンだったが、その内に、草木が切り払われた
ごくごく狭い平坦地へと行き当たった。


6: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/10/06(土) 00:23:40.43 ID:OVwuf95S0

「…ん?何だこりゃ…?」

その平坦地には、半ば朽ちかけた木の鳥居が立ち、
そして、そこから奥まった場所に石造りの祠が置かれていた。

祠の大きさは地面から腰の辺りまではあるだろうか。
それが角石を積み重ねた基壇の上に載せられている。

また、風化しかけてはいるが、各部分に彫刻が施されていた
名残がうっすらと見える。

「んー、見た限りはアレに映ってたヤツとは、どうも形が違うな…
 …ぁあ!?ひょっとして別の所に来ちまったみてぇだな…。くそッ…」

憮然とした表情で祠の周囲をジロジロと見回すウルフルン。
すると、彼はすぐに鳥居の前方に置かれていた一対の狼の石像に目を留めた。


7: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/10/06(土) 00:26:30.39 ID:OVwuf95S0

その像は、いったい何時からこの場所に鎮座していたのだろうか。

日の光の差し込まない木々の中にあって、その体のところどころは苔に覆われ、
片方は固く口を閉じ、もう片方は反対にカッと口を開き、そのいずれもが猛々しい表情をしている。
―――まるで、この神域に侵入してきた魔性の者を―――そう、「彼」を威嚇するかのように。


8: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/10/06(土) 00:27:23.53 ID:OVwuf95S0

「ほォ~、これがテレビにも映ってた例の狼の像ってヤツか…」

狼像をしげしげと見つめるウルフルンだったが、
それも束の間、彼の表情は見る間に険しくなる。

「…オイ待てコラ。つーか、なんでコイツはこんなにアバラが浮いてんだよ。
 ガリッガリじゃねぇか!俺ら狼は、もっと逞しい体付きしてるだろうがッ!
 それに何だ!この不ッ細工な面(ツラ)はよォ!
 どうせ彫るんなら、この俺様みたいに凛々しい顔に彫れってんだ!」


10: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/10/06(土) 00:29:53.15 ID:OVwuf95S0

「…何か、見ててムカついてきやがったぜ…こんなモン―――」

そして、ウルフルンが怒りに任せて
狼の像を蹴り倒そうとしたその時、
祠の下に続いていた細い道の方から、
彼の居る場所に向かって、何かが
登ってくる音が、かすかに聞こえてきた。

獣か?―――いや違う、足音からすると、どうも人のようだ。

「…うおっと、誰か来やがった!?」

ウルフルンは、急いで祠の後ろの藪の中に身を潜める。


11: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/10/06(土) 00:30:56.68 ID:OVwuf95S0

足音の主は、坊主頭の老人だった。

歳は如何ばかりであろうか、彼の顔に刻まれた皺の深さは
彼が重ねてきたであろう長い年月(としつき)を感じさせ、
また、小柄ながら がっしりとした体付きや節くれ立った手は、
彼が長年携わってきたであろう生業を想起させるものであった。

老人は、着古した作業着に草履履きといった格好で、
杖も突かず、矍鑠(かくしゃく)たる様子で
少々急な坂道を、確実に、一歩ずつ登ってくる。

そして、彼は祠の前まで歩を進めると腰を落とし、
拍手を打つと頭を垂れて目を閉じ、無言のまま祈り続けた。


12: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/10/06(土) 00:32:22.27 ID:OVwuf95S0

「…おい、ジジイ!」

不意に頭上から声が響き渡った。
ハッと我に返った老人は何事かと顔を上げる。

―――そこには、祠の後ろから身を乗り出し、
獰猛な顔付きで彼を見下ろす黒い獣の姿があった。

「お…っ…ぉお…お…」

予想だにしなかった事態に、思わずその場に へたり込んだ老人は
大きく眼を見開き、しわがれた、しかし、はっきりとした口調で
こう叫んだ―――。

「お犬様ァ!!」


13: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/10/06(土) 00:34:36.21 ID:OVwuf95S0

咄嗟に老人が発した言葉に面食らうウルフルン。

「…ぁあッ!? 誰が犬だ!誰がッ!!俺様は―――」

―――その時、ウルフルンの脳裏に ある考えが閃いた。

(…ん!?いや、待てよ…確か、あの番組じゃ、狼の事を確か…「オイヌサマ」と
 敬った言い方をするって言ってやがったな…。ウルッフフフ…よォし、それなら…)

「…あー、ゴホンっ!…確かにテメェの言うとおり、俺様は『オイヌサマ』だ。
 テメェが長年、俺様の事を拝んでやがったのは、よぉーっく知ってるぜぇ?
 …で、だ。今日はそれに応えてテメェの前に姿を現してやった…ってワケだ。」


14: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/10/06(土) 00:37:07.68 ID:OVwuf95S0

その時、老人の目からは、涙が溢れた。

彼は目をしばたかせながら、
畏怖とも歓喜ともつかない面持ちで
両手を合わせウルフルンを伏し拝む。

「…なッ!?」

「ぉお…何とまぁ…有難い事で…。いや、有難い…有難やァ…
 え、ハァ…そ、それでしたらば、わ…ワシの家で是非とも
 おもてなしを…ええ、ハイ…ぁあ、有難ぇ、有難やァ…」

あまりに唐突な老人の挙動に少々戸惑いつつも、
ウルフルンは、スマイルならぬ悪巧みフェイスで
尊大な態度をとりつつ老人に語りかける。

「…ほっ…ほォ、そうか。それはイイ心掛けだなァ、ジジイ。
 それじゃあ、その言葉に甘えさせてもらうとするか(ニヤリ)」

「へ…、へぇ…っ!」


15: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/10/06(土) 00:39:22.66 ID:OVwuf95S0

ウルフルンの目には、老人が、目の前の自分に目を白黒させつつ、
どうにか平静さを取り戻そうと必死になろうとする様が見て取れた。

(…さぁーて、この後のコイツの反応が見ものだぜ…ウルッフフフ…)

老人が狼狽する様を見て、内心ほくそえみつつ、
彼に気付かれないように舌なめずりをしながら
ウルフルンは、踵を返した老人の後ろを付いて行った。


16: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/10/06(土) 00:42:11.51 ID:OVwuf95S0

祠の前から続く木々の間を抜けると、彼等の目の前には、
瑞々しい新緑に覆われた向かいの山の急斜面が迫っていた。 

そこから目を転じ、谷間の奥も、そして その反対側の
遥か遠くに見えるのも、ただ、山、山、山ばかりだった。

「…おい、ジジイ。まだ着かねぇのか?
 一体どんだけ俺様を歩かせるつもりだァ!?」

周囲に見えるものといっても、視界に入るのは
木と山ばかりの山道をひたすら歩かされて
苛立つウルフルンは、語気を荒くする。

「へっ…は、はァ…、いま少しでございますので…へェ…」

祠のあった場所を出て小半時も歩いただろうか。
二人が道を下って来た先に、ようやく集落が現れた。


17: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/10/06(土) 00:43:39.92 ID:OVwuf95S0

―――その集落は、高所恐怖症の者ならば思わず
足がすくみそうな程の深い谷を目の前に望み、僅かに開けた
山腹の急斜面に沿って、へばり付くように数軒の民家が点在していた。

しかし、そのいずれもが固く雨戸を閉じ、
昼下がりとは言え、人の気配は一向に感じられなかった。

「…おい、テメェの所の村は、この俺様がせっかく来てやったってぇのに
 歓迎もしねぇのか?誰一人出てきやしねぇじゃねぇか。」

「あ、ハァ、いえ…決して左様な訳では、ヘェ、ございません。
 …いや、村の者達は、もう何年も前に ここから出て行きまして、
 今では、ここに住んでおりますのはワシ一人でございます、ヘェ…」


18: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/10/06(土) 00:45:33.44 ID:OVwuf95S0

集落の中を通る道から、既に耕す者も居ない
雑草が伸び放題となった畑の脇の細い道を通り抜け、
高台にある老人の家へと辿り着く。

昔ながらの木造の民家にトタン屋根といった風情の
老人の家の前には、猫の額ほどの畑。

そして畑の脇から坂を上がると、よく手入れされた庭に
季節の花々が目に鮮やかであった。


19: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/10/06(土) 00:49:51.53 ID:OVwuf95S0

老人に促されて玄関を潜ろうとしたウルフルンは、
鴨居(かもい)に貼られた一枚の札に目を留めた。

札には長方形の和紙の上下に、
版木で摺ったであろうと思しき字と
岩の上に座った獣の絵が摺られている。

長い間風雨に晒されたからであろうか、
文字は、既に擦れて消えかかっていたが、
その下の、真っ黒い姿をした獣の絵は
未だにしっかりと残っており、それが為に、
その存在感を いよいよ増しているかのようにさえ感じられた。

「おい、ジジィこりゃ何だ?」

「…ああ、それは『お犬様』の姿を刷った
 御神札(ごしんさつ)でございます。へぇ。」


20: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/10/06(土) 00:51:57.94 ID:OVwuf95S0

「…オイ、ちょっと待て。この伏せ耳をした、
 犬だか何だか分かんねぇのが、俺様の姿だって言いやがるのか?」

「…えっ、ハぁ…左様でございますねぇ…
 いや、何分 お札の『お姿』の絵の方にしましても、
 お犬様の『お姿』を確かに見たという者が
 本当におりましたかどうかも、今となりましては
 定かじゃあ ございませんし…
 ただ、この御神札を貼って以来、今の今まで、
 火事を出す事も無く、泥棒にも入られたことはございません。
 これも、お犬様のお力のお陰でございます。へェ…」

「しかも、こんなにボロッボロになったのを、
 いつまでも後生大事に貼っておくってェのか?
 …ハッ、随分と みみっちぃヤツだなテメェは。」


21: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/10/06(土) 00:54:20.50 ID:OVwuf95S0

「…あ、ぃや、本当でしたらば新しい札を
 年毎に貼り替えねばならぬのは
 重々承知してはございますので、
 お叱りは ごもっともでございます、えェ…」

老人は、何とも申し訳ないといった面持ちで続けて答える。

「…とは申しましても、なんせ今まで
 その札を摺っておりました、お犬様の『講』の者たちは、
 ワシを除いては、皆がとうに亡くなりましてのぉ…。
 …左様なモンで、このように、最後に残った1枚を
 貼り続けておるのでございます。」


22: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/10/06(土) 00:57:26.75 ID:OVwuf95S0

「さぁさ…どうぞ、こちらから お上がり下せぇ」

「いいや、わざわざ靴を脱ぐのも面倒だ。
 俺は そこに座ってるから、後はテメェの好きにしろ」

ウルフルンは そう言い放つと玄関から外へと出て庭に回り込むと、
開け放たれていた縁側へ、腕を組んで ドカッと腰を下ろした。

「…チッ、シケた場所だぜ…」

手持ち無沙汰なウルフルンは、周囲を見回すが
彼の興味を惹くようなものは目に入らなかった。


23: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/10/06(土) 00:58:54.99 ID:OVwuf95S0

「どうぞ、粗茶でごぜぇます。」

しばらくの後、縁側に隣り合う座敷の奥から、
茶の用意を終えた老人が、ゆらりと姿を現した。

「おゥ、ご苦労だぜ。それじゃあ、頂くとするか。」

ウルフルンは盆の上に置かれた湯飲みに手を伸ばし、
淹れ立ての茶を一気に飲み干そうとする。

「ぅ熱ちィっ!! …ってか、渋いじゃねーか!! ナニ飲ませやがるッ!!」

ウルフルンは顔をしかめて
湯呑を口から放すと、力任せに地面に叩き付けた。

湯呑は、硬く踏みしめられた地面に激突するやいなや、
鋭い音を立てて砕け散った。


24: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/10/06(土) 01:02:54.40 ID:OVwuf95S0

すると、ゆるゆると庭へと下りた老人は、
穏やかな微笑をたたえつつ、地面に散らばった
湯飲みの欠片を片付けはじめた。

「…オイ、どうしたジジイ。嫌そうどころか、
 何だ、その まんざらでもねぇツラはよォ。」

「…いや、何と申しましても お犬様は お山の神様のお使い。
 ワシらの畑を荒らす猪や鹿…害獣どもを喰ろうて下さる。
 ゆえに お気性が荒うございますのは当然の事でございやしょう…。
 なれば、例え茶の味がお気に召さぬとあらば、このようになされますのも、
 また当たり前の事ですからのぅ。はっは…」

「…ったく、マゾかテメェは…」


25: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/10/06(土) 01:03:40.84 ID:OVwuf95S0

「…では、畏れながら、お口直しに こちらを召し上がって下さいませェ。」

片付けを終えた老人は、そう言うと、盆の上の皿に盛った
「十万石」という焼印の捺された白い饅頭を差し出した。

ウルフルンは、その饅頭を鷲掴みにして自慢の大きな口に放り込む。

「おう、こっちはイケるな。うん、うめぇうめぇ。(もぐもぐもぐ)」

(…っつーか、何だ?この饅頭は!? …うまい、うますぎる…!)

老人は、無我夢中に饅頭を頬張るウルフルンの横顔を、
満足げな表情で見つめていた。


26: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/10/06(土) 01:05:10.45 ID:OVwuf95S0

ウルフルンが饅頭をすべて平らげると、二人の間には沈黙が流れる。
聞こえるものと言えば、虫の声に野鳥の囀り、そして谷川の流れの音だけだった。

(…しかし、まぁ、なんだ。こうやってマッタリしてるのは、どうも俺の性には合わねぇ…
 つーか、せっかくこんなクソな山の中まで来たんだ、手ぶらで帰れるかってんだよ。
 なら、テメェのバッドエナジー、手土産代わりに たっぷりと戴いてやるぜ、ウルッフフフ…)


27: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/10/06(土) 01:05:55.57 ID:OVwuf95S0

ウルフルンは老人の方に向き直ると、邪悪な笑みを浮かべる。

「…ジジィ、テメェには世話になったな。
 …なら、俺の方からも礼をさせてもらおうか…」

「…っは!?ぇえ?いえ、わざわざそんな、
 畏れ多うございます…いや、勿体無い事は…」

「ぅるせぇ!! つべこべ言わずに、受け取りやがれってんだよ!!」


28: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/10/06(土) 01:06:45.57 ID:OVwuf95S0

ウルフルンは、どこからともなく闇の絵本を取り出すと、
掌に載せた黒い絵具を握りつぶし、真っ更なページへと塗りたくる。

「世界よッ、最悪の結末ゥ、バッドエンドに染まれぇーッ!!
 白紙の未来を黒く塗り潰すのだァーッ!!」

と、周囲の風景が一変し、白昼の山里は
満月が天高く煌々と光る月夜へと変貌した。


29: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/10/06(土) 01:07:46.83 ID:OVwuf95S0

「テメェの発したバッドエナジーが、悪の皇帝ピエーロ様を蘇らせる
 素(もと)になるんだよォーッ!!! …って…。…ん?…んんんっ!?」

そう言い放ったのも束の間、ウルフルンは目の前の状況に驚愕する。

「…ぉお…、こりゃ…ぁ…」

唖然とした表情で周囲を見渡す老人。
しかし、その身体からバッドエナジーが
立ち昇る気配は一向に無かった。


30: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/10/06(土) 01:09:48.12 ID:OVwuf95S0

「…ぃんや、さすがは お犬様…このような事まで…
 ハァー…いや…こりゃ、たまげましたわい…」

(ちょっ、待てッ!この展開…この前の、
 プリキュアどもと一緒にいたババァと同じじゃねぇか!!)

「…おいジジイっ!!」

「…!?…へっ…へぇ、何でございやしょう?」

「ジジイ、テメェは こんな所にたった一人で暮らしてて
 何の不満も無ぇってのか!? んなハズは無ぇだろうッ!?」

「はァー…はい、左様でごぜぇます。」


31: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/10/06(土) 01:12:15.62 ID:OVwuf95S0

「…おいおい、テメェ本気で言ってやがンのか?
 こんな山ン中、遊び場は無ぇ、盛り場も無ぇ、
 なァーんも無ぇじゃねぇか!」

「…は…えぇ…まぁ…はァー…。
 …とは申しましても、何日かに一度は、
 下の集落(ムラ)から『よろず屋』の
 旦那さんが用を聞きに参ります、えェ。
 
 それに半年に一度は、町まで出た息子が、
 孫らと一緒に尋ねてきてくれますからのぅ。
 …いや、先程、お犬様が召し上がられた饅頭も、
 つい先日、孫らが土産に持ってきて
 くれたモンでございまして…」

「ンな事ぁ聞いてねェ!!」

「…ひェっ…あっ…、いや、はァ…これはとんだ ご無礼を…」


32: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/10/06(土) 01:13:33.77 ID:OVwuf95S0

「そりゃあ、…えぇ…まぁ、確かに不自由な事は、
 えぇ…何かとございます。
 
 …ですがねぇ、その事に対して若ェ頃はともかく、
 この歳になりましたら、何にだって感謝して
 生きていけるモンでございます。えぇ。」

「感謝…だと…!?」


33: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/10/06(土) 01:15:25.09 ID:OVwuf95S0

自分の嫌悪する言葉に顔を歪め、
ウルフルンは半笑いで老人に問い掛ける。

「…ほ~ぉ、『感謝』ねぇ…。
 あんだァ?随分と面白い事を抜かしやがるじゃねぇか。
 じゃあ何だ?テメェは一体、何に感謝して生きてるって言いやがンだ?」

「…『お山』…でございます。」


34: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/10/06(土) 01:16:09.58 ID:OVwuf95S0

「…『お山』…だと!?」

てっきり「親切」やら「情け」といった
陳腐極まりない単語が飛び出してくると思っていた
ウルフルンにとって、老人の発した言葉は意外なものだった。


35: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/10/06(土) 01:18:56.92 ID:OVwuf95S0

「このような場所でワシ一人が生きていけますのも、
 この家の前の畑と、山からの水があればこそ…。
 
 それも、全ては貴方様や、そして色々な神様が
 おいでなさる『お山』の お陰でございます。
 
 …ワシは、この『お山』に生まれ『お山』で働き、
 そして、この『お山』に生かされまして、
 この歳まで 大きな病気もせず過ごしてこられました。
 
 えぇ…本当に有難いことでございます。」

老人はそう言うと、向かいに聳え立つ山へと向き直り、
両手を合わせて静かに目を閉じた。


36: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/10/06(土) 01:20:54.48 ID:OVwuf95S0

(…チッ、このジジィ、ボケてんのか?
 …それとも…本気で言って…やがるのか?)

どうにも納得のいかない、釈然としない表情で、
老人を見下ろすウルフルン。


38: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/10/06(土) 01:23:42.97 ID:OVwuf95S0

老人は、尚も目を閉じたまま、言葉を続ける。

「…何に致しやしても、長い間
 お会いしたいと思い続けてまいりました
 お犬様にお目に掛かれただけでなく、
 こうやって お接待までさせて頂きまして…
 
 お陰様で、冥土への良い土産話が出来ましたわい。
 あぁ………本当に有難ぇ事で…。ワシは果報者でございます…」


40: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/10/06(土) 01:25:59.58 ID:OVwuf95S0

(…ジジィ…)

本来ならば、絶対的な悪の存在であるはずの自分に対して、
いくら認識のズレがあるといっても、何故こうもここまで
盲目的に絶対の崇敬を敢行するのか―――。

老人に対する忌々しさと、憐憫の情とが
半ば入り混じった感情に、ウルフルンは
戸惑いを隠せなくなっていた。

(…くそっ…なんかシラけちまったぜ…。)


41: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/10/06(土) 01:27:20.16 ID:OVwuf95S0

「…?お犬様…?」

「お犬様」の声の聞こえなくなった事に気付いた老人が目を開いた時、
辺りは再び先程と同じ、何時もと変わらない山里の風景へと戻っていた。


42: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/10/06(土) 01:30:27.96 ID:OVwuf95S0

そして、彼の隣に居た「お犬様」の姿は既に無かった。
あたかも その場から掻き消えたかのように―――。

「…ぁあ…。また、お山にお戻りに
 なられましたんですな、お犬様…
 ハぁぁ…有難ぇ…有難ぇ…」

そう呟くと、老人は また合掌し、
その頭(こうべ)を深く垂れたのであった―――。

【了】


44: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/10/06(土) 01:36:42.62 ID:OVwuf95S0

…という訳で、勢いに任せて 初めてSS投稿しましたが
何分、文章を書くのは、どちらかというと苦手な方なので
未熟なところばっかりでお見苦しい限り…(;´Д`)

なお、文中に登場するアイテムは、イメージ的には↓のような感じです。

【狼の石像】
ttp://www9.plala.or.jp/sinsi/07sinsi/fukuda/ohkami/ohkami-01-2.html

【お犬様のお札】
ttp://www9.plala.or.jp/sinsi/07sinsi/fukuda/ohkami/ohkami-07.html


45: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/10/06(土) 01:41:56.94 ID:OVwuf95S0

あと、発端のネタとして引っ張ってきた「見狼記」ですが
検索を掛ければ動画サイトで視聴できますので、ご興味の
ある方は是非ともご覧になってみて下さいね。

それでは、当方の駄文をお読み下さいました皆様に
御礼申し上げつつ、以上にて失礼致しますです。m(_ _)m


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