スポンサーサイト
岡部「リア充になるぞ」 ダル「は?」
岡部「言葉通りの意味だ」
ダル「今日のお前にだけは言われたくないスレ立ててもよろし?」
岡部「貴様は後悔しないのか? 俺達はもう大学生……」
岡部「人生の夏休みとも言われる時期に研究やエロゲに精を出す……なんとも寂しい青春ではないか」
ドン!
岡部「お、おい……」
ダル「わりオカリン、ついカっとなって殴っちまったよ……壁」
ダル「つかおまいはすでに爆ぜてもいい状況にある件について」
岡部「俺が? 冗談を言うな」
ダル「それこそ冗談じゃねーよマジで」
ダル「おにゃのことチュッチュ」
岡部「お前はそれしか頭にないのかっ」
ダル「おにゃのことらんこ──」
岡部「却下だこのHENTAI!!」
ダル「じゃあどうしろってばよ」
岡部「ふむ……そうだな……リア充といえば……」
ダル「いえば?」
岡部「まずは身だしなみだな」
ダル「オカリン、やっとそこに気づいたか」
岡部「白衣こそが完璧な機能美であることには違いないのだがな」
ダル「あるあ……ねーよ」
岡部「という訳で服を買いに行く」
ダル「へいへい」
鈴羽「あたしも力になるよ!」
岡部「うむ、よろしく頼むぞ」
ダル「フェイリスたんに選んでもらうとか羨ましすぎだろ常考!!」
フェイリス「ちなみに予算はどれほどニャン?」
岡部「秘密兵器である諭吉を連れてきた!!」 ペラッ
鈴羽「おぉー!」
フェイリス「……い、一枚だけニャ?」
~しま○ら~
フェイリス「凶真は長身だから何を着てもそれなりに様になるのニャー」
岡部「そ、そうか?」
鈴羽「ほら橋田至。これなんか似合うんじゃない?」
ダル「ちょ、ゴテゴテしすぎじゃね? ポケットいくつ付いてんのこれ……」
ダル「僕に合うサイズの服がほとんどない件……」
シャー
岡部「ふん、デブにはまわしがよく似合う、とはよく言ったものだ」
ダル「ちょ、オカリンさすがにそれはひどくね──」
ダル「って驚いた、別人みたいだお」
鈴羽「おぉー、中々イカしてるじゃん岡部倫太郎!」
フェイリス「ニャッフフー、フェイリスのセンスを甘く見ないで欲しいのニャ」
岡部「シンプルなものでも組み合わせ次第では十分に見れるというわけか……礼を言うぞフェイリス」
フェイリス「お安い御用なのニャ」
ダル「……なんかガイアがもっと輝けと囁きそうな服装だお……」
岡部「気分がイイのでそのまま着て帰るぞフゥーハハハァ!!」 バサッ
フェイリス「ニャニャ!?」
ダル「だから白衣は着るなっつに」
ダル「なんよ」
岡部「車でワイワイ旅行計画だ!」
ダル「ちょ、マジ?」
岡部「燦然と輝く青い海、吹き抜ける風、仲間と歌い合う車の中、まさにリア充だ」
ダル「当然お泊りですよねわかります」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
~メイクイーン~
ダル「で? なんでこうなってるのか説明がほしい件」 ワシャワシャ
岡部「車、免許、金必要」
フェイリス「ほらほら、ダルニャンはキッチン、凶真はホール、キッチリ働くのニャ!」
ダル「なんで僕まで……」
客A「ちょ、なんで男?」
客B「フェイリスたんだせオラー!」
岡部「ぐぬぬっ……!!」
岡部「オムライスです、おまたせいたしました」 カタッ
客A「あら男の子?」
客B「ちょっとー、マユシィちゃんはー? 私マユシィちゃんに会いに来たのよー!?」
まゆり「オカリン、ごめんね~、後はまゆしぃたちがやるから……」
岡部「ぐぬぬぅぅう!!」
岡部「だぁっ! やってられるかあんなん! フェイリスの口車に乗せられた俺がバカだったわ!」
ダル「じゃあ旅行どうするん?」
岡部「金がかかる、却下だ」
ダル「えー、オカリンひでーよ!」
岡部「案ずるな、俺に考えがある」
岡部「たった3日間のバイトとはいえそれなりに時給が良かったのもあり金は溜まった」
ダル「バーベキュー……だと?」
岡部「開放的な川辺、鼻孔をくすぐる焼けた肉、笑い合う仲間たち、まさにリア充だ」
ダル「肉……悪くない、悪くないよオカリン」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
~どっかの川辺~
ザー
まゆり「わわー、見て見てオカリン! すっごく綺麗だよー、えっへへー」
萌郁「……綺麗」
ダル「おー、中々雰囲気出てんじゃん」
岡部「喜ぶがいい! この狂気のマッド・サイエンティストが野菜を提供してやるぞ!」
岡部「思えば今この瞬間のために俺は八百屋の息子として──」
ダル「よーし、パパ肉焼いちゃうぞー」
まゆり「おぉー、ダルくんかっこいいー」
萌郁「橋田君……さすが……」
岡部「生まれ……え?」
ダル「せっかくのバーベキューで肉食べないとかありえないだろ常考!」 ジュージュー
岡部「おい、お前ら……キャベツ……かぼちゃ……」
まゆり「……もぐもぐ」
萌郁「……もぐもぐ」
岡部「お、おのれこの肉食系女子どもめっ」
ダル「そう? 僕は楽しかったけど」
ダル「つかまゆ氏どんだけ食べても太らないとかすごすぎっしょマジで」
岡部「くっ……おのれ肉を焼いただけで調子に乗りおって……」
岡部「ええい! 次の作戦だ!」
ダル「へいへい」
岡部「次は紳士の社交場、バーに行く!」
ダル「いやいや、僕ら未成年っしょ」
岡部「心配するな、酒を頼むつもりはない、あくまで雰囲気を掴むだけ……」
岡部「流れるジャズ、薄暗い店内、まさにリア充だ!」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
岡部「なーぜ貴様までついてくる助手ぅ」
紅莉栖「あんたら未成年でバーなんて入っていいと思ってんの!?」
岡部「つべこべ言うなお子様セレセブ、酒を頼むつもりは無いと言っているだろう」
ダル「おぉ……暗いし……なんかそれっぽい雰囲気……」
紅莉栖「ちょ……ホントに入るの?」
岡部「ここまで来て後に引けるかっ、後裾を引っ張るな!」
岡部「これがバーというやつか……ん? あのモリモリは……」
天王寺「げっ、おめーら!」
岡部「なぜあなたがここにいるのだミスターブラウン!」
天王寺「そりゃこっちのセリフだ! つーかお前ここは……!」
バーのママ「あーらいらっしゃぁいお客さん、ゆうちゃんのお知り合い?」
ダル「ちょ!」
岡部「いいっ!?」
紅莉栖「ニュ、ニューハーフ……?」
バーのママ「あら、ここは”そういう店”よ、かわいい子たちねぇ……食べちゃおうかしら☆」
岡部「お……お……お断りしまーっす!」
紅莉栖「わわわわわ!」 ダル「ま、待ってよオカリーン!!」
ダル「ま、オカマバーはそっちの人だけが行くってワケじゃないし一概にも言えない希ガス」
岡部「……次の作戦だな」
ダル「もうバーは勘弁してくれお……」
岡部「次は飲み会をやるぞ!」
ダル「だから僕らは未成年だと小一時間」
岡部「こちらも雰囲気を試すだけだ、ノンアルコールのカクテルやビールを用意する!」
岡部「テーブルに乗り切らない程の料理、未知のドリンク、騒ぎ合う仲間たち、まさにリア充だ!」
ダル「ウェーイ! あ、ピザも頼んでおk?」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
~ラボ~
岡部「ではこれより、第159回円卓会議を始める!」
鈴羽「おぉー、豪華な料理!」
ダル「正直お酒なんかよりこっちがメインだろ常考」
萌郁「……私が買ってきた」
ダル「だからノンアルコールだろ常考!」
カンパーイ
岡部「いざ……オペレーションバッカス開始せりっ!」 グイッ
鈴羽「うぇー、まっずぅ……」
ダル「おぉ……桐生氏いい飲みっぷり」
萌郁「私は……いつも飲んでるから」 グイッ
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
岡部「なんか体が熱くなってきたぞフゥーハハハァ!」
ダル「ふひ、ふひひ……」
鈴羽「ちょっと、二人とも大丈夫ぅ?」
萌郁「……」 グイッ
ダル「オカリンなんで分裂しれるんすかマジうけるんれすけど!」
鈴羽「あはははは、これノンアルコールじゃ無いじゃん桐生萌郁!」
萌郁「……間違えた」 グイッ
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
岡部「萌郁、水くれ水! ってぶはぁっ! なんらよこれ!」
ダル「うへへ、オカリンそれ桐生氏が飲んでた焼酎じゃね!」
鈴羽「それあたしにもちょうだい!」
萌郁「……だめ……これは私の」 グイッ
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
岡部「うげぇぇぇっ……き゛も゛ち゛わ゛る゛い゛……」
ダル「んがっ……ぐごご……んががっ……」
鈴羽「あはははは、父さんってばだらしないお腹! あははははは!」 ポンポン
萌郁「……酔っちゃった///」
ダル「まだ二日酔いなん?」
岡部「……お前はなんともないのか」
ダル「いや? 全然?」
岡部「くっ……次の作戦は夏祭りだ!」
ダル「当然おにゃのこは来るんだよな」
岡部「抜かりはない!」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
ワッショイワッショイ
まゆり「ねーねーオカリーン、金魚すくいやろーよー」
岡部「フゥーハハハァ! 金魚ごときっ! この俺鳳凰院凶真がすくい尽くしてやるわっ」
るか「凶真さん……かっこいい……」
ダル「……すくい尽くしてどうするんだってばよ」
岡部「ぐぬぬっ!」
パシュ
岡部「おのれっ……魚類の分際でちょこまかとっ!」
ダル「オカリン無茶しやがって……」
岡部「……」
岡部「お前らも手を貸せ」
るか「は、はい……」
マイドー*3
まゆり「よーし、取るぞー」
岡部「まてーい!」
るか「えっ?」
ダル「おいおいオカリンまさか」
岡部「フゥーハハハ! 1つより2つ、2つより3つだ!」
岡部「そらそらーっ!!」
ヒョイヒョイッ
まゆり「わわー、金魚さんがどんどんお椀にー」
るか「重ねるのって、ルール的に大丈夫……なんでしょうか?」
ダル「汚いなさすがオカリンきたない」
岡部「ハハフゥー!!」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
まゆり「あ、見て見てー、ミス夏祭りだってー」
ダル「おぉ、可愛いおにゃの子の匂いがするお!」
るか「わー……皆綺麗……」
るか「えっ……ボクはそんな……」
ダル「るか氏なら十分グランプリ狙えるんじゃね」
岡部(だが男だ)
るか「で、でも……」
まゆり「ほらほらー、まゆしぃも一緒に出てあげるからー」 グイグイ
るか「あっ……ちょ、ちょっとまゆりちゃん……」
ダル「すごく…………百合です」
岡部(だが男だ)
──「漆原るかさんの手にぃぃぃ!!」
ワァァァァァァ
ダル「ちょ、オカリンオカリン、まじでるか氏優勝だって!」
岡部(だが……男だ)
ヒュー
ドォン
ダル「あ……花火」
岡部「そうだな」
ダル「……綺麗だなオカリン」
岡部「あぁ」
ダル「……」
岡部「……」
ダル「はぁ……これで隣にいるのがオカリンじゃなきゃな」
岡部「うむ……全力で同意してやるぞダルよ」
ダル「アッー」
岡部「くっ……次はカラオケにいくぞ!!」
ダル「カラオケとな? オフ会の締めはアニソンカラオケ三昧の僕をなめるなよ?」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
フェイリス「とまーらーないー未来をーめざっしてー」
ダル「フェイリスたんの美声はぁはぁ……」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
紅莉栖「あおいーとりー もし幸せー」
岡部「助手風情が中々やるではないか……」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
フェイリス「ニャフフ、皆中々やるのニャ」
フェイリス「ここらでゲームなんか……どうかニャ?」
岡部「ほぉう?」
紅莉栖「ふむん……」
ダル「おほー! なんでもありですかフェイリスたん!」
岡部・紅莉栖「「HENTAIは禁止だからな」」
ダル「えぇ……」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
フェイリス「傷つくことは怖くないー!」 95点
紅莉栖「うわ……いきなり高得点……やるわね」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
岡部「広がるぅー闇の中ァかぁわしあぁた革命の契りぃぃ!」 85点
フェイリス「ニャフフ、浸りすぎで音程がバラバラニャ」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
紅莉栖「消える飛行機雲~」 89点
岡部「ぐっ……助手め……」
岡部「な、なんだと!」
フェイリス「ニャフフ、それじゃあフェイリスは凶真になんて命令しようかニャ」
ダル「……全力で阻止するしかない。キリッ」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
ダル「ざーんこーくな天使のテーゼ! まーどべーからやがて飛び立つ!」
ドゥルルルルルルウルル
デン
97点
フェイリス「ニャニャ!?」
紅莉栖「や、やるわねあんた」
岡部「くっ……」
ダル「ふひひ、ざっとこんなもんよ」
フェイリス「じゃあダルニャンは凶真になんて命令するのかニャ?」
ダル「そうだなぁ……」
ダル「じゃあ牧瀬氏のことを今日一日名前で呼ぶでいいんじゃね」
岡部「な、なにぃ!?」
フェイリス「ニャニャ、そんなのでいいのかニャ」
紅莉栖「橋田、GJ」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
紅莉栖「ねえ岡部、私の名前を言ってみて」
岡部「な、なんだその露骨な問は!」
紅莉栖「命令だろ? 早くしなさいよ」
岡部「だぁっ! 貴様に命令される筋合いはないわこのっ……」
フェイリス「凶真ー?」
岡部「く……紅莉栖めがっ」
紅莉栖「……ま、まぁよしとするわ///」
ダル「なにこれ」
岡部「まぁいい、次の作戦だ」
ダル「はいはい、つーかもうオカリンは十分リア充だっつーの」
岡部「次はジムに行って体を鍛えるぞ!」
ダル「だが断る!!」
岡部「ええい! そろそろお前もメタボリック症候群を解消しようと思わんのか!」
ダル「これが僕の完全体なんだお!!」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
ダル「はぁっ……ひぃっ……け、結局……付き合わされてる件に……ついて!」
岡部「うるさいっ、貴様はもっと運動したほうがいいのだ」
岡部「ふんっ……! くそ! 10kgのダンベルですら持ち上らん……」
ダル「オカリン貧弱すぎっしょ」
ダル「にしても……」
グッグッ
ダル「まゆ氏……ベンチプレス60kgって……おにゃのこが持ち上げる重さじゃないお……」
岡部「全くだ……あの細身の体のどこにあのような力が……」
まゆり「トゥッ……トゥルー……!」
まゆり「まゆしぃは……オカリンの……重荷には……なりたく……ないので!!」 ググッ
ダル「まゆ氏すげえ……」
まゆり「えっへへー」 ググッ
ダル「オカリン諦めろって、僕たちは肉体労働には向いてないお」
岡部「うぐぐ、筋トレを趣味にしてるリア充恐るべし……」
岡部「だが俺はリア充の夢を諦めない!」
ダル「だからオカリンはすでにリア──」
岡部「もうすぐ俺の誕生日だからな! 誕生パーティやるぞ!」
ダル「」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
岡部「フゥーハハハ! 今日は御足労頂き感謝するぞラボメンたちよ!」
るか「おか……凶真さんのためなら……ボク……」
まゆり「誕生日おめでと~、オカリーン」
ダル「つか自分で自分の誕生パーティ主催するってなんよこれ……」
岡部「細かいことはいいのだダァルよ!」
岡部「フハハ、またつまらぬ物を重ねてしまった!」
ダル「オカリン、正直その物言いは渡すのをやめるレベルだお……」
まゆり「そうだよー、皆オカリンのために一生懸命選んできたのにー」
岡部「ぐ……わ、悪かった、皆感謝しているぞ」
るか「凶真さん……どうぞ」
ダル「ほらよ」
まゆり「はい、どうぞー」
岡部「フゥーハハハ……ハ?」
白衣*3
ダル「ちょ、皆かぶるとかマジアリエンティ」
るか「その……白衣が汚れていたので……そろそろ必要かと思って……ごめんなさい……」
まゆり「皆オカリンが欲しい物はわかってるってことなんだね~」
ダル「白衣はオカリンのトレードマークみたいなもんだしな」
岡部「くそっ、知性と恍惚のファッションが裏目に出たというわけか……」
ダル「白衣はファッションとはいわねーだろ常考」
岡部「まあいい、次はクリスマスパーティだ!」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
岡部「メリークリスマスラボメン諸君!」
ダル「うほっ、ケンタッキーまじうます!」
まゆり「クリスちゃーん、久しぶりー、元気だった?」
紅莉栖「ええ、もちろんよ。まゆりはどうだった?」
まゆり「まゆしぃもいつも通りだったのでーす」
岡部「フゥーハハハァ! さてプレゼント交換やるぞお前ら!」
紅莉栖「ったく、久々にラボに来たけどほんっと騒がしいわね」
ダル「まっ、通常運転ってことで」
まゆり「おぉー、マフラーだー、あったかそー」
ダル「お、ニット帽ktkr」
紅莉栖「穴あき手袋……いらねー……」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
~ブラウン管工房ベンチ前~
岡部「フゥ、今日も冷えるな……」
紅莉栖「ね、ねえ……」
岡部「ん? 助手か」
紅莉栖「その……」
岡部「なんだ?」
紅莉栖「な、なんでもない」
岡部「……」
岡部「うむ! よっぽどアメリカ暮らしは寂しかったと見える!」
紅莉栖「べっ、別に寂しくなんか──」
岡部「いつでも帰ってくるがいい、このラボこそ貴様の居場所なのだからなっ」
紅莉栖「あ……」
紅莉栖「ま、全く、ほんっとに衰えてないなこの厨二病!」
岡部「貴様のツンデレっぷりも同様だ」
紅莉栖「うっさい!///」 パッ
岡部「……これは?」
紅莉栖「……プレゼントよ」
紅莉栖「そ、それはそのっ……クリスマスじゃなくて……あんたのバースディっていうか……その……」
岡部「開けてもいいか?」
紅莉栖「す、好きにしなさいよ……」
ガサガサ
岡部「セーター……」
紅莉栖「感謝しなさいよ! この私が一生懸命編んでやったんだからなっ……!///」
岡部「フッ……ありがとう、紅莉栖」
紅莉栖「っ……! い、いきなり名前で呼ぶなんて……反則だぞこのバカ岡部……!///」
岡部「雪……か」
紅莉栖「あ、ホントだ……。予報では降らないはずだったのにね」
ダル「あ、まゆ氏まゆ氏、壁殴り代行お願いしても?」
まゆり「ダルくんダルくん、茶化しちゃだめだよー」
岡部「コミケだ!」
ダル「は? コミケ? リア充には程遠くね? つか言われなくても行くっつの」
ダル「つかもうオカリンは十分にリア充な件、クリスマスの夜牧瀬氏と──」
岡部「う、うるさい! いいから行くぞ!」
~コミケ会場~
紅莉栖「私はちょっと見て回りたい所があるから……」
岡部「フフゥッ! 早速BL物を買いに行くのだな? クリ腐ティーナよ」
紅莉栖「なっ──そ、そんなんじゃないわよ!」
まゆり「トゥットゥルー、オカリンもクリスちゃんもコスプレ会場いこーよー」 グイグイ
岡部「あ、おい、引っ張るなまゆり!」
紅莉栖「ちょ、ちょっと!」
まゆり「二人ともコス着てねー? まゆしぃはこの日のために準備してきたのです」 ズリズリ
ダル「さ、僕は僕できっちり仕事を果たさなきゃいかんね……待ってろよー、僕の嫁たち」
ダル「……むなしい」
ダル「あ……あれって阿万音氏? なんでこんなところに……」
ダル「おーーい、阿万音氏ー」
ダル「なんでこんなところに……ってあり?」
由季「えーっと……あなたは? なんで私の名前……」
ダル(よ、よく見ればすっげー似てるけど別人な件……やっべ、どうしよう)
由季「もしかしてさっきコスプレ会場にいた方ですか?」
ダル(あわわわ……どどどどうしたら……オカリン助けてー……!!)
岡部「ってあそこにいるのは……ダル! とあれは……」
岡部「固まってるな……くそ」
鈴羽「待って、大丈夫だから」
岡部「鈴羽!」
由季「私のコスを見てくれたのかな? どうだったかな……初めてだったんだけど」
ダル「き、き……」
由季「き?」
ダル「き……君に一生萌え萌えキュン!! 結婚してくれーっ!」
由季「え? あ、はい」
由季「って、ええええ!?」
鈴羽「あはは、父さんってば真っ赤になっちゃって」
岡部「全く……聞いてるこっちが恥ずかしくなる」
鈴羽「……ありがと、オカリンおじさん」
岡部「これでよかったのか?」
鈴羽「うん、父さんの願いは叶ったみたいだし」
岡部「”リア充を経験してみたかった”か……」
岡部「全く……こんな父親思いの娘と綺麗な嫁がいるのに、贅沢な悩みだ」
鈴羽「あはは、それって君が言えた口じゃないよー」
岡部「な、なんだと?」
鈴羽「それじゃあたしはそろそろ帰らないと」
鈴羽「父さんの一番の財産は君みたいな友達がいたってことかもね」
岡部「奴は俺の大切な右腕だからな」
鈴羽「じゃあオカリンおじさん、また未来で会おうね!」
岡部「……ああ、またな」
ダル「そんで男二人で花火とか見ちゃって、ふひ、ふひひ」
由季「あはは、君って面白いね」
岡部「これもシュタインズゲートの選択か、エル・プサイ・コング──」
紅莉栖「何カッコつけてんのよ!」 ガシッ
岡部「ぬわぁ!」
まゆり「トゥットゥルー、やっと見つけたよオカリーン」 ガシッ
岡部「お、おい!」
紅莉栖「あんたもコスプレしなさいっ!」
まゆり「ちゃんと用意してるんだからねー?」
岡部「よせ、何故この俺がコスプレなどっ──」
まゆり「オーカリン、これも」
紅莉栖「シュタインズゲートの選択」
まゆり・紅莉栖「なのです
なのだぜ」
おわれ
オレもオカリンみたいな友達がほしいお
Entry ⇒ 2012.06.26 | Category ⇒ シュタインズゲートSS | Comments (0) | Trackbacks (0)
ニャル子「なんでしょうか、この黒猫……?」
真尋(という冗談は置いといて、これは一体どういう状況だ?またニャル子がなんかやったのか?)
ニャル子「まっひろさーん!朝ですよー!……あれ?」
真尋(ニャル子が来た、とりあえず布団に潜っておくか)
ニャル子「あれ?真尋さん?隠れてるんですか?」
真尋(……ニャル子がなんかしたにしては様子がおかしいな)
ニャル子「あ、あれ?真尋さん、どこ行っちゃったんですか?まさか布団に潜ってるわけじゃ」バサッ
真尋「ふにゃん」
ニャル子「うわわっ!なんでしょう、この黒毛玉は」
クー子「……ニャル子、少年。朝ご飯がもうできてる、早くしないと私が……ニャル子?」
ニャル子「く、クー子!この黒い生き物は何なんですか!」
クー子「……ネコ。直接的な戦闘力は高くないものの、そのかわいらしい見た目とツンデレなしぐさで見る者の多くを骨抜きにする恐ろしい生き物」
クー子「……こちらから危害を加えない限り、基本的には無害だが、耐性の無い者が見ると悩殺される」
ニャル子「なんですか、その胡散臭い説明は」
クー子「『うちゅうどうぶつずかん 地球編』に書いてあった」
真尋(だから何でも宇宙付けりゃいいってもんじゃないって)
ニャル子「じゃ、じゃあとりあえずこの生き物は無害なんですね」
ニャル子「それにしても、真尋さんは一体どこに行ってしまったんでしょうか?」
クー子「……この家からはまだ誰も出ていないはず。少年はいったい」
真尋「んにゃー」
クー子「……可愛い」ダキッ
真尋(……普段は熱いだけなんだけど、なんだか温かくて気持ちいいな。猫ってこういう生き物なのか?」
ニャル子「なるほど、近くで見ると私ほどじゃないにしろ可愛いですね、ネコ」
クー子「……可愛い。ニャル子には敵わないけど」
クー子「……あっ」
ニャル子「わっ、こっちに飛んで来ちゃいましたよ」
クー子「そのまま抱っこしてあげて」
真尋(ここぞとばかりに全身の毛と尻尾をなすりつける)
ニャル子「ちょ、落ち着いてくださいよ、息できませんよこれじゃ」
クー子「可愛いものに飛びつかれてるさらに可愛いニャル子、これはいい絵になる」
真尋(もふもふ……あれ?僕ってこの場合もふもふされる側じゃないのか?)
真尋(くすぐったいな、尻尾とか触られると)
クー子「……猫が気持ちいいと思うのは耳の後ろと顎の下、らしい」
ニャル子「へえ、そうなんですか。どれ……」
真尋(あ、ほんとだ。肩もみとかに匹敵する気持ち良さがあるな)ゴロゴロ
クー子「……それは猫が気持ちいいと思ってる証拠。自信持っていい」
真尋「うにゃー……」ゴロゴロ
ニャル子「なんか癒されますね」
クー子「……この地球上において猫はもう一つの宗派であるとある生き物と人気を二分する」
真尋(宗派って大げさな。犬派と猫派がいるだけだろ)
ニャル子「もう一つのほうも見てみたいですね」
クー子「……あれはやめた方がいい。あれは恐ろしい生き物」
ニャル子「でも地球で人気なんでしょう?」
クー子「……ニャル子。大きな声で吠えかかられる覚悟、ある?」
真尋(犬は幽霊とかに敏感とかいう話もあるから、クー子は邪神だと気付いたのかもな)
真尋(それについては僕も同感だ。……なんだか撫でられてるうちに眠くなってきたぞ)
ニャル子「……あ、寝ちゃいました」
クー子「……そっとしておいてあげて。猫はよく眠る生き物。語源が寝子という説もあるくらい。うろ覚えだけど」
ニャル子「そーいうもんですか」
バタッ
ハス太「ニャル子ちゃん、クー子ちゃん、真尋くん?起きてる?」
ニャル子「それが……」
~説明中~
ハス太「そんな……真尋くん、どこ行っちゃんたんだろう?」
ニャル子「そーですよ、こんな事してる場合じゃありませんでした」
ハス太「ところで、ニャル子ちゃん。その猫、どうしたの?」
ニャル子「真尋さんのベッドで丸くなって寝ていました」
ハス太「可愛い黒猫だね。僕にも抱っこさせてよ」
ニャル子「いいですよ。はい……と行きたいところなのですが、現在この猫はお休み中で、起こすには忍びないんですよ」
ハス太(……猫って、知らない人には結構警戒心強い生き物だと思ってたんだけどな)
ニャル子「そうですねえ。早いとこ真尋さんを探さないと」
ニャル子(雰囲気がどことなく似てるんですよね、この猫と真尋さん)
真尋「zzz……」
クー子「……じゃあ、猫にはわるいけどこのクッションに移ってもらって」
ニャル子「そうですね、ちょっとごめんなさい」
真尋(……ん、寝ちゃってたな。この体だと、習性も猫っぽくなっちゃうんだろうな)
ニャル子「さ、朝ご飯食べに行きましょう」
ニャル子「ハス太君も、猫と戯れたいんですか?」
ハス太「まあ、そんなとこかな」
ニャル子「じゃあ、先に行ってますね」
バタン
ハス太「さて、猫ちゃん……ううん、真尋くん?真尋くんでしょ?」
真尋(ハス太に見抜かれた!?)
ハス太「もし本当にそうだったら、尻尾を立てて振ってみて?」
真尋(バレてちゃしょうがないな)フリフリ
ハス太「やっぱり。おかしいと思ったんだ」
真尋(まあ、確かにそういう面もあるな)
ハス太「でも知ってる人で、危害を加えないってわかってる人に対しては、猫は甘える」
真尋(だな)ニャーン
ハス太「僕が猫を真尋くんだと思ったのはそこなんだ」
真尋(知らない人の膝の上で寝たりする猫は居ない、ってことか)
ハス太「安心して。今すぐニャル子ちゃんたちに言ったりしないから」
真尋(いや、むしろ言ってくれた方が助かるんだけど)フニャン
ハス太「とりあえず、よく見たら机の上に『今日一日出かけます。探さないでください』って手紙があったことにしておくよ」
真尋(お、おい……ニャル子たちなら元に戻る方法知ってるかもしれないのに)
ニャル子「まあ、誰にでも一人になりたいときはありますよね。私は一人より真尋さんと居たいんですけどね」
クー子「……じゃあ今日は、黒猫をみんなで愛でる日に」
ハス太(それは実は真尋くんを愛でてることになるんだけどね)
ニャル子「いい加減猫じゃ呼びづらいですよ、名前を考えましょう」
クー子「……ミー」
ニャル子「却下です、なんかありきたりすぎる気がします」
ハス太「……ニャル子ちゃんなら、なんてつける?」
ニャル子「……どうしましょうね。真尋さんのベッドから出てきましたし真尋mk2とか」
ニャル子「我ながらセンスがないですね」
クー子「……じゃあ、省略してヒロくんで」
ニャル子「なんかお義母さまからの真尋さんの呼び方と被りますが、クー子としてはセンス良い方でしょう」
真尋(突拍子もない名前で呼ばれるよりましだな)
クー子「……ほら、猫も賛成してる」
ニャル子「ただ鳴いただけじゃないですか?」
クー子「……ロマンがない」
ニャル子「うっせーですよ。ほらヒロ、こっち来なさいな」
真尋(ニャル子の体温が心地いいんだよな、エロくない意味で)
ニャル子「可愛いですね、この子は」
クー子「……同意する」
ハス太「毛並みがきれいでもふもふだね」
ニャル子「あんたら触り過ぎですよ!最初に見つけたのは私ですよ!」
真尋(頼むから取り合いなんかしないでくれ……)
クー子「……にんじん、食べる?」
真尋(猫がそんなもの食べるわけないだろ)プイ
クー子「……しゅん」
真尋「……」
ハス太「猫って何食べるんだろう?」
ニャル子「こういう時は私の勘で」
真尋(マズイ、このままいくとなんか妙なもの食べさせられそうだ)
真尋(うまく誘導して、猫缶くらい買ってもらおう)スルッ
ニャル子「あっ、どこ行くんですかヒロちゃん!」
ニャル子「……捕まえましたよ」
真尋「……」カリカリ
ニャル子「……?ドア引っ掻いてどうしたんですかね」
クー子「……たぶん、外に出たい」
ニャル子「もしかして、ヒロちゃんは自分の食べたいものがある場所を知ってるんですかね?」
真尋「……にゃー」
ハス太「そうみたいだね」
ニャル子「じゃあここは道案内を任せて、ヒロちゃんについていきましょうか」
クー子「……それがいい」
真尋「にゃうん」
ハス太「ペットショップかあ……どんな生き物がいるんだろう」
クー子「……」ガクガクブルブル
ニャル子「クー子、どうかしたんですか?」
クー子「ここには奴がいる、猫と人気を二分する……」
ニャル子「それは楽しみですね、じゃあ私はそれを見ますからクー子とハスター君はヒロちゃんの食べ物を」
クー子「……了解した」
ハス太「分かったよニャル子ちゃん」
犬「ばうっ!がうがうっ!」
ニャル子「ひゃっ!な、なんなんですか一体」
犬「グルルルルルルル……」
ニャル子「なんで威嚇されてるんですか……まだ何もしてないじゃないですか」
客「あ、この犬可愛い……」
犬「わん♪」
ニャル子(私だけ咆えられてるんですか)ガーン
クー子「……たぶん、こんなの」
真尋(至って普通の猫缶だな)ニャーオ
クー子「……これを何個か買っておく」ドサドサッ
真尋「♪」
ハス太「なんか嬉しそう」
クー子「……空腹が満たされれば、幸せを感じる……全宇宙共通の法則」
ニャル子「クー子!なんか私だけ咆えられたんですけど!」
真尋(やっぱり、邪神部分に反応してるのか?)
ニャル子「ご飯食べて、寝ちゃいましたね」
クー子「……本能に忠実」
ハス太(真尋くん、可愛い……)
ニャル子「……なんか私も眠くなってきちゃいましたよ」
ハス太「僕も……」
クー子「……私も。猫の催眠能力、恐るべし」
真尋「zzz」
ニャル子「おやすみなさい……」
真尋「次目が覚めたら、元に戻っていた」
真尋「ところで、ニャル子たちは……」
銀猫「にゃー」
赤猫「にゃー」
金猫「にゃー」
真尋「酷いオチだ」
全部連れて帰ります
Entry ⇒ 2012.06.26 | Category ⇒ ニャル子さんSS | Comments (0) | Trackbacks (0)
雪歩「愛ちゃん、お誕生日おめでとう」
愛「そういえば雪歩先輩って、あたしにずっと敬語つかってますよね」
雪歩「え? そ、そうですかぁ?」
愛「そうですよ! 雪歩先輩のほうが年上なのに、そんなのおかしいって思います」
雪歩「うう、そんなにヘンでしょうか……」
愛「ホラ、また! ねえねえ雪歩先輩、一回、あたしのこと呼び捨てで呼んでみてください!」
雪歩「ええ!?」
愛「ほらほら~」
雪歩「わ、わわわかりましたぁ……今呼びますから、ま、待っててくださいね!」
愛「はいっ!」
雪歩「あ……、あ、あ……」
愛「……」ワクテカ
雪歩「愛!」
愛「! やったぁ!」ピョン
雪歩「……ちゃん」
愛「……えぇー……」
雪歩「うぅ、や、やっぱりもう癖になっちゃってるから、直すのは難しいですぅ」
愛「そんなぁ……」
雪歩「それに、ちゃん付けじゃなくて、呼び捨てで呼ぶのは、別に敬語とは関係ないんじゃあ……」
愛「え? ……それもそーかも! 涼さんや絵理さんも、あたしのこと呼び捨てしないもんね」
愛「さっすが雪歩先輩、頭イイっ!」
雪歩「えへへ……それほどでもないですよぉ」
愛「でもでも、それとこれとも関係ないです! 雪歩先輩は先輩なんだから、あたしに敬語つかっちゃダメですっ!」
雪歩「そんなこと言っても……わ、私、後輩とかあんまり出来たことないから」
愛「あれ、でも765プロには雪歩先輩より年下の人、けっこーいますよね?」
雪歩「年下の人? えーっと……」
愛「亜美ちゃんとか伊織さん、やよいさん、あとホシイミ……、美希センパイとかも」
雪歩「愛ちゃん、みんなのこと知ってるんですかぁ?」
雪歩「……あ、そ、そりゃそうですよね、私なんかと違って、みんな大人気だから……私なんかと違って……えへへ」
愛「わー! な、なんでいきなり落ち込んでるんですかーっ!?」
愛「美希センパイ以外のみなさんとは、レッスンスタジオで知り合って、たまにお稽古付けてもらったりしてるんです」
雪歩「そうだったんですかぁ」
愛「あれ、なんとなく見たことあるなぁって思ってたら、ちょー有名アイドルだったんですもん! あたしビックリしちゃって」
雪歩(ちょー有名なのに一目じゃわからなかったんだ)
愛「みんなあんなにスゴイ人たちなのに、事務所が違うあたしにもスゴイ優しくしてくれて」
愛「あたしの知らないことスゴイ色々教えてくれて、本当スゴイって思います」
雪歩「たしかに、みんなはスゴイですぅ」
愛「そーなんです、スゴイんですっ! 765プロのみなさんは、あたしの目標ですっ!」
雪歩「……私なんかじゃ、ちゃんと他の人に教えられるか不安……、むしろ教えてもらっちゃう方かも……えへ、えへへ」
愛「わー! ま、またなんで急に落ち込んでるんですかーっ!?」
愛「あれ? なんの話してたんだっけ……えーっと」
雪歩「亜美ちゃんとか伊織ちゃんが、私より年下って話ですかぁ?」
愛「そーです! 後輩できたことないって言ってたけど、年下なんだから、雪歩先輩より後輩ってことじゃないんですか?」
雪歩「えっと……、そういうわけじゃないんです。今のメンバーはみんな、ほとんど一緒の時期に入ってきた人ばかりだから」
愛「あれ、そーだったんですか?」
雪歩「うん。だから、センパイコウハイって言うより……、仲間って言ったほうがいいかも」
愛「仲間……」
雪歩「もちろん、年上のあずささんとか律子さん、四条さんには私も敬語をつかってますけど……」
雪歩「でもきっと、早く入ったからエライとか、年上だからエライってことはありません。そんなこと思ってたら怒られちゃいます」
愛(あたしにとっての、涼さんや絵理さんみたいなもんかな?)
雪歩(あれ? でも私……そういえば、年下の子たちに敬語つかわれたことないかも……。春香ちゃんにも……)
雪歩「そ、そんなことはどうでもいいんですぅ!!」
愛「!?」
雪歩「年上とか年下とか関係ないもん……だって、わ、私たちみんな……仲間だもんげ……うぅ」
愛「ゆ、雪歩先輩!? どーしたんですかっ!?」
雪歩「はっ! ……ご、ごめんね愛ちゃん、ちょっと衝撃の事実に気が付いちゃって」
愛「しょーげきの事実……」
雪歩「うん……私って年上の貫禄がないんだなぁって。きっとみんな、私のこと事務所の観葉植物くらいにしか思ってないんです」
愛「そ、そんなことありませんって!」
雪歩「うぅ……こ、こんな私なんて……穴掘って……収穫されるまでそのへんに埋まってますぅ!」
愛「ちょ、ちょっと雪歩先輩! ここ、あたしの部屋! 穴開いたらママに怒られちゃうよーっ!」
ガチャ
舞「うるっさーいっ!!!!!!!」
愛・雪歩「!?」キーン
舞「さっきから何ドタバタやってんのよ! 愛、あんたの声はただでさえ大きいんだから、ちょっとボリューム抑えなさいっ!」
愛「は、はい……ごめんなさい、ママ……」キーン
舞「ったく……あら、ゆっきー? どうしたの?」
雪歩「」
愛「雪歩先輩? ……し、死んでる!?」
雪歩「」
舞「なにバカなこと言ってんのよ。えーっと……うん、ただ失神してるだけね」
愛「あ、気絶してるだけかー、よかった……。それなら大したことないよね」
舞「よくあること」
愛「よくあることだもんね」
雪歩「」
舞「ま、いずれ気が付くでしょ。この子のことは置いといて……愛?」
愛「なーに?」
舞「休みの日にゆっきーが遊びに来るのは別に構わないけど、あんたたちどっか行かないわけ? ずっと部屋にこもっちゃって」
愛「うーん……、でもお仕事がない日曜日は、いつも家にいるから……どこに遊びに行けばいいのかわかんないよ」
舞「……」
愛「部屋でじっとしてテンション回復させて、夜プレゼントが届くのを待つのが普通じゃないの?」
舞「……ちょ、ちょっと前は、同じ事務所の子のライブを見に行ったりしてたじゃない」
愛「涼さんや絵理さん、あたしと違ってスゴ過ぎて、テンション下がっちゃうんだもん」
舞(ダメだこいつ……、早くなんとかしないと……。ゆっきーのネガティブ思考がうつっちゃったんじゃないかしら)
愛「だから、雪歩先輩が家で遊ぶのオッケーな人で良かったよーっ!」ピョン
舞「誰かと遊ぶのは構わないわけ?」
愛「うん! 大好きな雪歩先輩とお休みの日に会えて、とっても嬉しいくらいだもんっ!」
舞「……引きこもり、ってわけじゃないのね」ホッ
愛「引きこもり? そんなんじゃないってー。ただ、どこに行けばいいのかわかんないだけで」
舞「……」
舞(えーっと確か……、今日だって言ってたわよね)
愛「ママ? どーしたの?」
舞「よし、決めたわ。今からあんたちには、あるところに行ってもらいます」
愛「ええーっ!? あるところって……どこ?」
舞「遊園地よ」
―――
――
―
雪歩「……ほぁっ!」
愛「あ、雪歩先輩! 起きましたねっ! おはようございまーっす!」
雪歩「あ、おはようございますぅ……、じゃなくてぇ!」
雪歩「え、え? あ、愛ちゃん? どうしてここに? というかここはどこですかぁ? な、なんで私ここに連れてこられたんですかぁ!?」
愛「ここは、遊園地ですよっ、遊園地!」
雪歩「遊園地……?」
愛「そーですっ! えへへ、ママが珍しくお小遣いいーっぱいくれたから、今日は楽しんじゃいましょうっ!」
雪歩「な、なんで遊園地なんですかぁ?」
愛「えっと……あたしも実はよくわかってないんです! えへへ」
雪歩「そうなんですか……あ、そういえば」ガサゴソ
愛「カバンごそごそして、どーしたんですか?」
雪歩「……あ、あった……。よかったぁ……」
愛「雪歩先輩?」
雪歩「あ、ううん! なんでもないですぅ。ちゃ、ちゃんとカバンも持ってきてくれて、ありがとうございます」
愛「いえいえそれくらいお安いごよーですよ!」
雪歩「……えっと、じゃあ」
愛「はいっ! さっそくアトラクション乗りにいきましょーっ!」
雪歩「最初は、なにがいいかなぁ」
愛「やっぱり、ジェットコースターとか? 定番ですもんねっ!」
雪歩「じぇ、ジェットコースターっ!? む、むむむむムリですそんなの乗ったら死んじゃいますぅ!」
愛「あ、そーいえば雪歩先輩、絶叫系苦手でしたっけ。じゃあ……、お化け屋敷!」
雪歩「ひぃーん! な、なんでジェットコースターの次がお化け屋敷なんですかぁ……」
愛「あ、あれれー? お化け屋敷もダメですか?」
雪歩「きっと私、お化け屋敷なんて入ったら一生出て来れなくなりますよぉ……うぅ」
愛「そんな、おーげさな……」
雪歩「大げさなんかじゃありませぇん! 絶対ゼッタイ、ムリですぅ!」
雪歩「……取り残された私は、お化けの仲間となって、罪のない子どもたちを脅かし続けることになるんですぅ……」
愛「あは! そんなに可愛いお化けなら、あたし見てみたいかもーっ!」
雪歩「私はちっとも見たくありませぇん! もうっ……愛ちゃん、前も一緒に来たから知ってるはずなのにぃ……」
愛「あ、あはは……」
愛(あわわわ……間違っちゃった。これじゃあバッドメモリーだよー!)
愛「それで結局、これですねっ!」
雪歩「これが一番好きですぅ……、えへへ」
愛「メリーゴーラウンドっ! うわあ、雪歩先輩にぴったりのイメージかも」
雪歩「そうですか?」
愛「はいっ! だって雪歩先輩、なんというか、清掃でカレーで……、お嬢様って感じですから!」
雪歩(清掃? お掃除のこと? それにカレーって……?)
雪歩「か、カレーは甘口のほうが好きですぅ!」
愛「あは! あたしと一緒だー! ……あ、雪歩先輩! ほらほら、もうすぐあたしたちの番ですよっ!」
雪歩「あ、本当ですね……えへへ、楽しみかも……」
愛「あ、そーだ!」
雪歩「どうしたんですかぁ?」
愛「さぁ、雪歩先輩! お手を拝借!」スッ
雪歩「え?」
愛「ほらほらー。お嬢様でお姫様の雪歩先輩がいるなら、あたしがナイト様になるしかないじゃないですか」
雪歩「お、お姫様? ナイト?」
愛「そーです! ちょうど馬車に乗れそうですしね。ほら早く早くっ!」
雪歩「……じゃ、じゃあ……は、はは恥ずかしいけど」スッ
ギュッ
愛「えへへ、あたしちびだから、なんだかただ手繋いでるだけみたいですね」
雪歩「ふふ……、愛ちゃんはちっちゃくて、とっても可愛いですよぅ」
愛「そ、そんなこと……」モジモジ
愛「……さ、さあ、早く乗りましょうっ!」タタッ!
雪歩「あ、ま、待ってー」タタ
従業員「あぶないですから走って乗り込まないでくださーい」
ガチャ、バタン
雪歩「ふぅ、やっと座れましたぁー……」
愛「えへへ、係の人に怒られちゃった」
雪歩「そうですね、ふふっ」
愛「……」
雪歩「……?」
愛「あ、そ、そーいえばナイト様といえばあたし、前に涼さんのストーカーをやっつけたこともあるんですよ!」
雪歩「えぇっ!? ストーカー? そ、そんなのあぶないんじゃぁ……」
愛「全然ヘーキですっ! 涼さんに何かあったら大変ですもん」
雪歩「優しいんですね、愛ちゃん」
愛「そりゃあ、仲間ですから! 涼さんのガッコーの前で張り込みして、とうとう見つけたそのアヤシイ人物をですね……」
雪歩「へぇー……そんなことが……」
雪歩(愛ちゃんってちっちゃくてまだ中学生になったばかりなのに、私なんかと違ってすっごいパワフルですぅ。スゴイなぁ)
愛「えへへ、『ありがとう、小さな騎士様』って涼さんに褒められちゃいましたっ!」
愛「……雪歩先輩の手、冷たいですね」
雪歩「え? ……あ、そういえばまだ、手繋ぎっぱなしだったんだ」
愛「だいじょぶですか? も、もしかして風邪とか……!」
雪歩「大丈夫……ですよ。ただ平熱が低いだけだから……、それに風邪を引いてたら、逆に熱くなるだろうし」
愛「それならいーんですけど……」
雪歩「……気遣ってくれて、ありがとね、愛ちゃん」
愛「全然かまいません! あたしが付いていながら、雪歩先輩の具合を悪くさせるわけにはいきませんから!」
雪歩「えへへ……そんな風に言ってくれて、とっても嬉しいですぅ」ニコ
愛「そ、そんなこと……」
愛(雪歩先輩の笑顔って、不思議だなぁ……)
雪歩(……ちょっとずつ、敬語じゃなくして話してるんだけど……気付いてもらえてるかな?)
愛(見てるとなんか、こっちまで嬉しくなっちゃう。だ、ダメダメ、平常心平常心だよー!)
雪歩(今日で……今までよりちょっとだけでも、仲良くなれたらなぁ)
テクテク
愛「楽しかったですね、メリーゴーラウンド!」
雪歩「うん。……愛ちゃん、つまらなくなかった? 景色を見るだけだったし……」
愛「ぜんっぜんそんなことないですよ! 雪歩先輩と一緒なら、それだけであたしは楽しいですから」
雪歩「……そ、そうなの?」
愛「はいっ! さあ、次は何に乗りましょっか?」
雪歩「あ、え、えーっとじゃあ……、コーヒーカップとかはどうかな」
愛「いいですね! よーっし、思いっきりグルグル回すぞーっ!」
雪歩「ひーん! あ、あんまりまわしすぎないでくださいぃ……」
雪歩(……ちょ、ちょっとドキドキしちゃいましたぁ。あんな風に言ってもらえて、嬉しいなぁ……って、あれ?)
携帯『好きだよ♪ 心込めて♪ 好きだよ♪ 力込めて♪』
愛「電話ですかーっ?」
雪歩「そうみたいですぅ。えーっと……あ、春香ちゃんだ」
愛「春香さん?」
雪歩「うん。愛ちゃん、電話、出てもいいですか?」
愛「もちろん! どーぞどーぞ、遠慮しないでください」
雪歩「ごめんね、それじゃあ……」
ピッ
雪歩「もしもし、春香ちゃん? どうしたの? ……え? それって……」チラ
愛「……?」
雪歩「……うん、うん……わかりましたぁ、ちょ、ちょっと待ってて」
愛(どうしたんだろ、雪歩先輩。今あたしのこと、ちらって見たようなー?)
雪歩「愛ちゃん、ごめんなさいです……ちょっとだけ、あっち行って電話してくるね」
愛「え? ……は、はい、わかりました……」
雪歩「……お待たせ、春香ちゃん。うん、うん……それで……」テクテク
愛(え、え、あ、あたしに聞かれちゃマズイ話だったのー!?)
愛「……」チョコン
愛(雪歩先輩が、向こうで春香さんと話してる……)
雪歩「……? ……!」コクコク
愛(どんな話してるんだろー? うぅ、気になるよー!)
愛「だ、ダメダメ! あたしが聞いちゃいけないってことは、大事なお仕事の話かもしれないしっ!」
雪歩「……」ニコニコ
愛「でも……、むむむむ……」
愛(雪歩先輩、あんなに笑顔で……さっきのあたしに見せてくれたのと、またちょっと違って……)
愛「あー、もう!! あたしったらやな奴やな奴やな奴っ!!!」
通行人「!?」ビクッ
ザワ…… ザワ……
愛「あれ? 何人か、こっちを見てるような……」
??「あ、あの! 日高愛ちゃんですよね!?」ズイ
愛「はひ! え、えっと……、あたしのこと? そーですけど……」
ファン「やっぱり! わ、私、ずっと前から愛ちゃんのファンなんです!」
愛「あ、そーなんですか!? わぁ、ありがとうございますっ!」
愛(えへへ……こんなところでファンの人に会えるなんて! 今日はラッキーかも!)
ファン「何回かファンレター書いたり、ステージ映えするようなアクセサリー贈ったりしたんですけど……」※
愛「あ、あれ、あなたがプレゼントしてくれたんだ!」
愛「最初は神棚に飾っとこうかと思ったけど、大事に使わせてもらってるよーっ!」
ファン「キャー! 嬉しい!」
※アイマスDSではファンからアクセサリーやステージ衣装をもらって、アイドルたちは何の疑いもなくそれを身につけます
ファン「今日はひとりでここに?」
愛「あ、えーっと、他の事務所の先輩と一緒に……あそこにいる、雪歩先輩と」
ファン「……?」
愛「あれ? いない……?」
愛(さっきまであそこで電話してたはずだったのに、いつの間にいなくなっちゃったの!?)
愛(まさか……! 涼さんみたいに、ストーカーに連れ去られた、とか!? た、大変だよー!!)
愛「ちょ、ちょっとごめんなさい! あたし、探さなきゃ!」
ファン「は、はい。あの、応援してます! 頑張ってくださいっ!」
愛「ありがとねーっ!」タタタ
愛(雪歩先輩……、どこに……!?)
愛「はぁ、はぁ……雪歩せんぱーい……どこー……?」
愛(この辺りは一通り探したけど、全然見つからないよ……こ、こうなったら)
すぅー……
愛『雪歩せんぱーい!!!!!!!!!!』
通行人A「!!?」
―――…… ィィィイイイイン ……―――
愛『せんぱーい!!! どこですかー!!!!?』
通行人A「あれ? なにか……聞こえるような」
通行人B「み、耳がおかしい……? あれ、立ってられない……」
通行人A「あ、あ、あ……」ブクブク
―――…… ィィィイイイイン ……―――
愛『雪歩せんぱーい!!!!!』
雪歩「あ、愛ちゃん……!」プルプル
愛『あ、雪歩先輩っ! よかった、どこ行ってたんですか、もー』
雪歩「心配かけて、ご、ごめんなさいですぅ……だからちょっと、その声を止めてぇ……!」
愛『え? あ、ああ、ごめんなさいっ」
雪歩「ふぅ……、やっと収まりましたぁ」
愛「雪歩先輩、心配しましたよっ!」
雪歩「ご、ごめんね愛ちゃん。でも、それは普通の人じゃ聞き取れない周波数だから、あんまり使っちゃダメですぅ」
愛「はい……、ごめんなさい」
雪歩「そのおかげですぐ愛ちゃんを見つけられたから、結果オーライですけど……」
雪歩「相手がアイドルのとき、そしてココ一番の決闘(オーディション)のとき以外は、ゼッタイに禁じ手ですよ」
愛「……」シュン
愛(あたしったら、また雪歩先輩に迷惑かけちゃった……)
雪歩「でも、愛ちゃんに会えてよかったですぅ。もう一生会えないのかと思いました」
愛「え? そういえば、見つけられた、ってさっき言ってたけど……」
雪歩「ずっと探してたんですよ。ちょっと目を離したら、愛ちゃん、煙みたいに消えちゃってたから」
愛「ええっ!? 雪歩先輩こそ、急にどっか行っちゃって……、それであたし、いろんなところ探してたんですよっ!」
雪歩「そ、そうだったんですか? それじゃあ、入れ違いになっちゃったのかもしれないですぅ……」
愛「入れ違い……あの、雪歩先輩は、電話してるときにどこに?」
雪歩「え? えーっと……、あの、その……」
愛「?」
雪歩「そ、そうそう! 愛ちゃんがファンの人とお話してるみたいだったから、ちょっとお手洗いに……」
愛「トイレだったんですか! 雪歩先輩も、おしっことかするんですね!」
雪歩「あ、愛ちゃん! 声が大きいよ……そ、それに」
愛「あ、もしかして大きいほう……」
雪歩「違いますぅっ!! もう、アイドルがそんなこと言っちゃダメですよ……アイドルはおトイレなんかしませぇん!」
愛「雪歩先輩、自分でお手洗いに行ったって言ったのに……」
雪歩「そ、それとこれとは……、アイドルは幻想を守らなきゃ、って律子さんが言ってたから」
愛「幻想……ですか?」
雪歩「そうです。アイドルはおしっこもしなければ……、……もしません。そういう生き物なんですぅ」
愛「そーだったんだ……、あたし、アイドルじゃなかったのかも。だって毎日、朝とお昼休みに……」
雪歩「だ、だだだダメですぅ! あわわわわ……と、とにかくっ!」
愛「とにかく?」
雪歩「……コーヒーカップ、行きましょう? 今はまだまだ、ふたりで遊べる時間はいっぱいありますから」
愛「……はいっ!」
愛(あたしたちはそのあと、遊園地のいろんな場所を見てまわりました)
愛(あたしがコーヒーカップで頑張りすぎたせいで頭がぐるぐるになっちゃった雪歩先輩を、介護室で休ませて)
愛(一時間経ってようやく目が覚めた、まだ顔に青味の残った雪歩先輩を連れながら)
愛(自分の行いをいっぱいいっぱい反省していたあたしは、なるべくゆっくりとしたペースで雪歩先輩と歩いていたのでした)
愛(えへへ。そして今は……)
愛「……」ズーン
雪歩「あ、愛ちゃん? 元気出してください……私はもう、大丈夫だから」
愛「雪歩先輩がだいじょぶって言っても、だいじょばなくさせたのはあたしですから……」
雪歩「うぅ……、気分転換に、な、何か飲み物でも買ってきますね! 何がいいですか?」
愛「…………いちご牛乳、お願いします」
愛(実は今は、とってもとってもへこんでいるのです。理由は、コーヒーカップの件をいまだに引きずっているから)
愛(あたし、また雪歩先輩を困らせて……、うう、なんだか泣きたくなってきちゃったよ……)
愛「ちゅーちゅー……」ゴクゴク
雪歩「いちご牛乳、おいしいですか?」
愛「はい! えへへ、あたし、これ大好きですっ!」ニパー
雪歩「……よかったですぅ。愛ちゃん、元気になったみたいで」
愛「はっ! ……あ、あたしったら……、いちご牛乳飲んだだけで、雪歩先輩にしたことを忘れちゃうなんて……!」
雪歩「あ、ちょっと、そんなのもう、気にしてないのに……」
愛「雪歩先輩が気にしてなくても、あたしは忘れないつもりだったんです! なのに……」
愛「あ、あたしなんて……三歩歩いたらモノを忘れる、ニワトリのほうがまだお利口さんなんだぁ……」
雪歩「……あ、愛ちゃん……」
愛「うぇえええん……あたしのばがばがぁ!」グスグス
雪歩「……な、泣かないでぇ……。愛ちゃんが泣いてると、なんだか私まで……」ジワ
愛「う……」
雪歩「うぅ……!」
愛・雪歩「「うわぁあああああん……!」」
ポロポロ……
愛(あたしと雪歩先輩は、ベンチに隣り合って座りながら、泣いちゃいました)
愛(泣き虫のふたりを、いろんな人がヘンな目で見ていたけど……)
愛(そんなこと、もうあまり気にならずに……、ただただ、何が悲しいのかも忘れて、泣いていたのです)
愛(なんだかもう……、いろんなことがだめだめでした)
愛(今日は、久しぶりに雪歩先輩と会えて、とっても嬉しいはずだったのに……)
愛(せっかく、最高の気分で、明日を迎えられると思ってたのに)
愛(……でも、やっぱり、雪歩先輩だったんです)
愛(何がというと、あたしの涙を止めてくれたのが、です)
愛(初めて出会ったときとおんなじように、雪歩先輩は、いつだってあたしのことを助けてくれるんです)
カァ、カァ……
雪歩「……あ、愛ちゃん……」
愛「ばい゛……、なんですが……ぐす」
雪歩「あ、あのね゛……」
愛「……?」
雪歩「……ちょ、ちょっと待って」ゴシゴシ
愛「……」
雪歩「すぅ……ふぅ。もう、大丈夫」
愛(……雪歩先輩、自分で涙を……)
雪歩「愛ちゃん、ステージに行こう?」
愛「ステージ?」
雪歩「そうですぅ。もうそろそろ、始まるはずだから……」
愛「始まる、って、何が……」
雪歩「……」
スッ
雪歩「ほら、私の手を握って?」
愛「手……」
雪歩「愛ちゃんが、自分で立てないなら……、私が連れてってあげるね」
愛「……」
雪歩「きっと、楽しくて、嬉しいことが待ってるから。私、愛ちゃんにその景色を……、見せてあげたいんだ」
愛「雪歩先輩……」
愛(……気が付いたら、雪歩先輩は、あたしに対して敬語じゃなくて……)
愛(落ち込みがちな、いつもの雪歩先輩と違って……、ステージの上に立っているときみたいな、とっても強い目をしていました)
―――
――
―
ザワザワ…… ザワザワ……
愛「な、なにこれ!? こんなにいっぱいの人が……」
雪歩「えへへ、遊園地にいた人みーんな、このステージに来てるんだよ」
愛「すごい……、立ってる人も、こんなにたくさん。あたしがライブしても、こんなにたくさん集まらないかも」
雪歩「……そんなことないよ、愛ちゃん。だって、ここにいる人たちは、みんな……のために」
愛「え? なにか言いましたか、雪歩先輩?」
雪歩「……ううん、なんでもないですぅ!」
愛「? ……あれ、なんか、こっちに向かってくる人が……」
??「おぉ、いたいた! ようやく来たな、雪歩!」
雪歩「……! プロデューサー!」
P「遅かったな。もうみんな、準備出来てるぞ」
雪歩「ご、ごめんなさいですぅ。ちょっとトラぶっちゃって……」
P「……何があったかわからないが、ちゃんと来てくれたから問題ないな」
P「ほら、これが今日のセットリストだ」スッ
雪歩「はい……」ジー
P「……いけるな?」
雪歩「ばっちりですぅ! それじゃ、私は……」
愛「ゆ、雪歩先輩! ちょっと、何がなんやら、なにもわかんないんですけどーっ!」
雪歩「愛ちゃん……それはね、今日は……」
P「っと、雪歩、話してる暇はないぞ。この子には俺が話しておくから、メイクしてこい」
雪歩「……わかりました!」
愛(メイク? セットリスト? それって……)
タタタ……クルッ
雪歩「愛ちゃん……、最後に、これだけは、言っておくねっ!」
愛「は、はい!」
雪歩「あのとき愛ちゃんが私に言ってくれたこと、お返ししますぅ!」
愛「あのとき……?」
雪歩「……愛ちゃん! 今日は、めいっぱい! めいっぱい楽しもうねっ!」
タッタッタ……
愛「……」ポカーン
P「……ごほん! えー、君が、876プロの日高愛ちゃん、だね?」
愛「あ、はい。えっと、あなたは……」
P「俺は、765プロダクションのプロデューサーだよ。今日は来てくれてありがとう」
愛「プロデューサーさん? 雪歩先輩の?」
P「雪歩の、ってだけじゃないが……まあ、俺のことはどうでもいいんだよ」
P「今日は、君のお母さんのおかげで、こんなに素晴らしい舞台を用意することができた。ありがとうな」
愛「舞台って、ことは……今日はやっぱりここで……」
P「ああ、ライブをやる。でも……、ただのライブじゃないぞ」
愛「それって……
ピンポンパンポーン
小鳥『えー、マイクテスマイクテス……、本日はお日柄もよく……』
律子『ちょっと小鳥さん! そんなのどーでもいいですから、始めてください!』
小鳥『あら、そう? ……それじゃあ、春香ちゃん! ちゃちゃっとやっちゃってー♪』
春香『はーいっ!』
愛「春香さんっ!?」
P(音無さん、利益度外視だからって適当にやってるな……)
愛「あ、あの! これって、なんなんですかーっ!?」
P「ん、ああ……もう説明してる暇もないな。まぁ、あとでいろんな人から説明聞くと思うから、とりあえず今は楽しんでくれ」
愛「そんなこと言ってm
春香『会場のみなさーん!! こーんばーんわー!!!』
コンバンワー!!!
春香『今日は急だったのに、集まってくれてありがとねーっ!!!』
真『お待たせしちゃってごめーん! さあ、いよいよ始めるよーっ!』
春香・真『『765プロダクション……プラス!』』
涼・絵理『『876プロダクションオールスターズの、ゲリラライブっ!!』』
真『題して……!』
たったったった……
雪歩『ま、間に合いましたぁ! ……いぇええええーい!!』
キーン! イエェエエイ!!
真『ゆ、雪歩! それまだ違うって! ライブのタイトルコールして!』
雪歩『あ、あわわわ……ご、ごめんなさいですぅ!』
P「ははは……」
愛「雪歩先輩っ!?」
雪歩『え、えっと! 改めて、題しまして……、すぅー……』
『THE 愛!』
雪歩『……愛ちゃん! お誕生日、おめでとう!!!』
愛「……!」
真『へへーん! 今日は日曜日だから、本当の誕生日は明日。だからちょっとフライングだけど……ま、いいよねっ!』
春香『急だったからねー。舞さんが、なんでもかんでもどんどん進めていっちゃうんだもん』
絵理『本当は……わたしのライブ?』
涼『え、絵理ちゃん。それにみなさんも……、身内にしか通じないこと、言っちゃダメですよ』
真『涼、そんなこと言ったら、愛の誕生日ライブってことですでに身内ネタじゃない?』
春香『わ! 真、するどいね! あはは!』
涼『うぅ……、胃が痛くなってきた……』
雪歩『だ、大丈夫ですかぁ……?』
涼『はは……大丈夫です。それより雪歩さん、一曲目一曲目』
雪歩『はぅっ! そそそそうでした! えーっと確か最初の曲は……』
P(あいつら好き勝手やりすぎじゃないですかね)ビキビキ
愛「みなさん……! これ、あたしのために……!?」
雪歩『改めて……』
雪歩『愛ちゃん、お誕生日おめでとう』
パチパチパチ……!
ワーワー! オメデトーアイチャーン!
愛「雪歩先輩……、それに、会場にいるみんなも……」
P「みんな、君の誕生日を祝うために集まってくれたんだよ」
愛「でも、どうやって? これだけの人集めるなんて……あたし、全然気付かなかったし」
P「君の様子は逐一雪歩から連絡受けてたからな。765プロのスタッフ総出で、その隙を縫ったのさ」
P「……本当は雪歩とふたりで遊ぶはずだったんだろ? 無理言って、巻き込んだことはすまなかった」
愛「い、いえいえ! そんなこと……とっても、嬉しいでs
雪歩『いぇえええええい!!!』キーン
愛「!?」
雪歩『こ、今度はちゃんと出来ましたぁ! ……この会場のどこかにいる、あなたのために、歌いますぅ!』
雪歩『一曲目は……、“ALRIGHT*”!!』
~♪
READY SET GO!!
行きたいトコ 行ってみようよ
歩いたり 走ったり 休んだりして
READY BOY GIRL?
やりたいコトやってみようよ
目指して 追いかけて 自分信じて……
愛「雪歩先輩……、かっこいい……! やっぱり雪歩先輩、あたしの……!」
P(……雪歩は、良い後輩を持ったみたいだな……)
~♪
ALRIGHT*
今日が笑えたら
ALRIGHT*
明日はきっと幸せ
大丈夫!!
どこまでだって
さあ 出発オーライ
雪歩『どこまでだって さあ出発 オーライ♪』
パチパチパチ……
……~♪
ウォオオオ……!
愛「……! この曲って……」
~♪
今 目指してく 私だけのストーリー
BRAND NEW TOUCH 始めよう
SAY “HELLO!!”
絵理『涼さん……いい?』
涼『もっちろん! い、っせーの!』
涼・絵理『……ハッピーバースディ!! 愛ちゃん!!!』
愛「涼さん……、絵理さん……! うぅ、ありがとう……!」ジワァ
舞「愛、楽しんでるー?」
愛「もっちろん! こんなライブ初めて……って、ママっ!?」
舞「そう、私よ」
P「……お疲れ様です、舞さん」
舞「ほんとよもー。まなみなんて、私がやるはずだった雑務をちょっとやっただけで倒れちゃったんだから」
愛「ちょ、ちょっと! ママのおかげでライブできた、とか聞いたけど、どういうことっ!?」
舞「ああ、それはね……コレよ」スッ
愛「え? 人差し指と、親指で○を作って……って、それ」
舞「ハッハー! お金よ! 今回のライブ、スポンサーとプロデューサーはぜーんぶ私なわけ!」
愛「えぇえええ!!?」
舞「ビックリしたでしょう! どうだ、参ったか! あははは!!」
P(こ、これがあの伝説のアイドルなのか……)
舞「……涼さんや絵理さん、あたしと違ってスゴ過ぎて、テンション下がっちゃうんだもん!」キャピ
愛「…………なにそれ」
舞「昼間、あんたが言ってた台詞のマネだけど。きゃっぴぴぴ~ん!」
愛「やめてよっ! そんなの全っ然、似てないもん! オバサンが無理すんなーっ!」
舞「ああ?」ギロ
愛「ひぅっ! ……ま、負けないもん! ぐるるるる……」
舞「ったく、私はまだおねえさん、でしょうが。……そんなことより、愛?」
愛「……なーに?」
舞「アレを見ても、まだテンション下がる、って言えるわけ?」
愛「……」
~♪
今 咲き誇る芽生えた蕾
根を張って 胸張って
ねえいくつも実らせよう
涼『抱きしめる 私と言うヒストリ~♪』
絵理『BRAND NEW TOUCH 始めよう♪』
涼・絵理『『SAY “HELLO!!”』』
~♪
愛「……い、」
愛・涼・絵理「『『いっせーのっ!』』」
舞「……」
愛「……そんなわけ、ないじゃん……」
舞「何が、そんなわけないの?」
愛「あんなに輝いてる、涼さんや絵理さんを見て、テンションが下がるわけないもん! ……あ、あたしも……!」
愛「……あたしも……、あの場所へ……!」
愛「きらめく舞台(ステージ)に、私も立ちたい!」
P「その言葉が聞きたかった」
愛「え?」
舞「さあ、行ってらっしゃいっ!」
トンッ
愛「え、え?」
バンッ! ピカー……
愛「ま、眩しい……っ!」
涼『あ! 愛ちゃん、やっと来るみたいだよ!』
絵理『ふふ、ちょっと……遅刻?』
涼『ギリギリセーフ、じゃない? さあ愛ちゃん、早くっ!』
愛「……! は、はいっ! 涼さん、絵理さん!」
タッタッタッタ……
愛(スポットライトに照らされながら、あたしは走りました)
愛(涼さんや、絵理さん……春香さんに真さん、そして……)
愛(雪歩先輩の待つ、ステージへ……!)
小鳥「さ、こっちよ!」ガシッ
愛「え、え、ちょ! あなた誰ですかっ!? せっかく今良い感じで走ってたのにーっ!」
小鳥「私服のまんまステージに上がるわけにはいかないでしょ?」
律子「さー、行くわよ! 40秒で着替えさせてあげるからねっ!」
愛「あー…… れー……」
~♪
ポイッ トタタタ……
愛「はぁ、はぁ……お、お待たせしました」
涼「大丈夫?」
絵理「息……上がってる」
愛「ぜ、ぜんぜんヘッチャラですっ! それより、さっそく……」
涼「……そうだね! もうずっと間奏やってもらってるし」
絵理「じゃあ、改めて……!」
愛・涼・絵理『『『……いっせーのっ!!!』』』
~♪
“HELLO!!”
いってみよう みんな一緒にSTEP
転んでも 挫いても
OK信じれば大丈夫!!
どこまでも 続いてゆくストーリー
BRAND NEW TOUCH 始めよう
SAY “HELLO!!”
~♪
涼『BRAND NEW達♪』
絵理『始まりは そう♪』
愛『“HELLO!!”』
愛(そのあとも、何時間もライブは続き……)
愛(最後のアンコールに、みなさんで“THE 愛”を歌ってもらって……)
愛(あたしの、一生忘れられそうにない誕生日ライブは、終わりました)
―――
――
―
絵理「本当は今日、わたしがあそこでライブをするはずだったの」
愛「え!? そ、そーだったんですか?」
絵理「うん。でも、今日急に舞さんから事務所に連絡があって。それであれよあれよという間に……予定変更?」
涼「あはは、舞さんのバイタリティはすごいよね。僕も今日、実はさっきまで違うところで仕事をしてたんだ」
愛「そんな……じゃあおふたりは、今日のことを……」
涼「うん、知らなかった! というか、舞さんがこれ思いついたのが、今日だったらしいしね」
愛(あ、そういえばそんなこと言ってたかも……)
絵理「……愛ちゃん、お誕生日、おめでとう。これ……プレゼントだよ」スッ
涼「僕からは、これ。愛ちゃん、これからもよろしくね!」スッ
愛「涼さん、絵理さん……、うぅ……、ありがどうございまず……!」グスッ
愛「あれ、でも……知らなかったなら、なんでプレゼントを持ってこれたんですか?」
涼「ああ、それは……あの人が、わざわざここまで届けてくれて」
絵理「……」チラ
まなみ「」チーン
絵理「……完全燃焼?」
愛「な、なるほど……」
涼「まなみさんも、舞さんや765プロのプロデューサーさんにいろいろ頼まれたみたいで……すっごい頑張ってくれたみたいだね」
愛「ありがとうございます、まなみさん……なんまいだぶなんまいだぶ」パンッ
涼「あ、愛ちゃん! まだ死んでないよ!」
絵理「……たぶん?」
石川「……」
高木「どうしたのかね?」
石川「いえ……あの子も強くなったんだな、って思いまして」
高木「強く……、とは?」
石川「……まなみがうちを辞めたとき、愛は……、しばらく立ち直れてなかったんです」
石川「何日も泣きつづけて、仕事も休んで……。きっと、とても強くまなみに依存していたんでしょうね」
高木「ふむ……そんなことが」
石川「ええ。でも……貴方のところに所属する、あるアイドルが……愛を救ってくれたみたいなんです」
高木「私も、そのことは彼女から少しだけ聞いているよ。そのアイドルの名前は……」
石川「……ふふ、噂をすれば……」
涼「……あ」チラ
絵理「もうそろそろ、わたしたちは……退散しなきゃいけないみたいだね」
涼「そうだね。あとは、あの人に任せよっか」
愛「え? どうしたんですか、涼さん、絵理さん」
涼「それじゃあ愛ちゃん! また明日、月曜日に事務所でね!」
絵理「ばいばい」トコトコ
愛「え、えー!? そんな急に……」
涼「あ、最後に愛ちゃん! うしろを見て!」
愛「うしろ? えーっと……」
クルリ
雪歩「……愛ちゃん」
愛「雪歩先輩……!」
―――
――
―
ザァ…… サァ……
愛「……まっくらですね」
雪歩「うう……、ちょ、ちょっと怖いですぅ……。お化けが出るかも……」
愛「だいじょぶです! お化けなんか出たって、あたしがランクDちょっぷをお見舞いして追い払ってみせますっ!」
雪歩「ありがとうございます、愛ちゃん……でも、もうランクDじゃないですよね?」
愛「あ、そういえばそーでしたっ! えへへ……」
雪歩「……お化けに、ちょっぷは効くのかなぁ」
愛「どうなんでしょう……ポ○モンみたいに、格闘タイプの技は効かないかも」
愛(なーんて、他愛のない話をしながら、あたしと雪歩先輩は真っ暗な道を歩いていました)
愛(雪歩先輩が、あたしをお家まで送ってくれるって言ってくれたんです! もうカンゲキで!)
愛(……でも……)
愛(なんとなく……、カクシンをつかない、適当な話題しか、あたしは広げられないでいたのでした……)
雪歩「……」
愛「……」ムズムズ
愛(気まずいよーーーーー!!)
雪歩「……ありがとう、ありがとう……愛をありがとう♪」
愛「え? な、なにかお礼言われるようなことしましたかーっ?」
雪歩「ううん、これは“THE 愛”ですぅ。みんなで、最後に歌った曲……」
愛「……」カァァ
愛(恥ずかしいよーーーー!!)
愛「あたしったらまた勝手に勘違いしちゃって……もう、バカバカ」ブツブツ
雪歩「レッツゴー愛がある世界♪ レッツゴー愛らしい世界♪ ……ふふ、ふふふ♪」
愛「……」
愛(こんなときになっても、あたしは相変わらずバカだけど……でも)
愛(雪歩先輩が、笑ってくれるなら……もうなんでも、いいかな)
かち、かち……
雪歩「~♪」
愛「……」
愛(……雪歩先輩、さっきから歌ってばっかで、あたしのこと見えてないのかなーっ?)
雪歩「……~♪」チラ
愛(そうだよね、さっきのライブ、すっごい楽しかったもん)
愛(あたしの誕生日かどうかは関係なく、雪歩先輩はそのヨインに浸ってるんだ……うぅ)
愛「……」ジワァ
雪歩「……全員集合 手と手繋いで♪」
愛(……足と足揃えて 初めの一歩……)
愛(頭の中で、一緒に歌うことしか、あたしには出来ないよ……う、うぅ)
かち!
ボーン ボーン……
愛「え?」
愛(日付が変わって、あそこに立ってる時計が鳴ってるんだ)
愛「……ってことは、今この瞬間にあたしは……」
雪歩「……~♪」
~♪
おめでとう おめでとう
愛が生まれる
おめでとう おめでとう
HAPPY BIRTHDAY
愛「!」
雪歩「……愛ちゃん、お誕生日おめでとう」
愛「ゆ、雪歩先輩!」
雪歩「えへへ……タイミングぴったりですぅ!」
愛「た、タイミングって……」
雪歩「今日、この日に……、世界でいちばん最初に、愛ちゃんにおめでとう、って言うことができましたぁ」
愛「……」
雪歩「あ、あれ……愛ちゃん?」
愛「…………」
雪歩「ど、どうしよう、愛ちゃんの顔がひょっとこみたいですぅ! こ、これはひょっとして……」
愛「………………」
雪歩「ひぃーん! す、すすすすべっちゃいましたぁ……! あわわわわ……!」
愛「…………ぷ」
雪歩「うぅ……、せっかく、良いアイディアだと思って……、や、やっぱりこんな私なんて……」
雪歩「徹夜で考えたネタも受け入れてもらえない、こんなセンスのかけらもない私なんて……!」
愛「……ぷぷ。ゆ、雪歩先輩……べ、べつにすべったわけじゃ……」
雪歩「穴掘って、そのへんに埋まってきますぅーー!!!!!」タタタ
愛「ちょ、ちょっと、雪歩先輩っ!? 帰ってきてくださーいっ!!」
タッタッタッタ……
愛「ま、待ってください! このーっ!」ガシッ
雪歩「はぅっ!」
愛「……や、やっと捕まえた……ぜぇ、ぜぇ」
雪歩「捕獲されちゃいましたぁ……うぅ」
愛「……」
雪歩「愛ちゃん……、その、ごめんなさいですぅ。さっきのあんまり、良くなかったですか? そうですよね……」
愛「……そんなこと、ないです。とっても……とっても、嬉しかったもん」
雪歩「ほ、ほんとう?」
愛「ほんともほんとですっ! あんな風に、おめでとうって言われたのなんて……きっと初めてです」
ぎゅー
愛「雪歩先輩……、あたし、雪歩先輩のこと、だいすきです」
雪歩「!?」
愛「雪歩先輩は、頼りになるし、かっこいいし……あたしの憧れですっ! それで……」
雪歩「あ、あ、うん……そういう意味……、そ、そうですよね」
愛「?」
雪歩「なんでもないですぅ……えっと、それで……」
愛「それで……、あれ? な、なんて言おうとしてたんだっけ……」
雪歩「……?」
愛(忘れちゃったよーーーー!!! あたしのバカバカバカ!!!)プルプル
雪歩「あ、愛ちゃん?」
愛「うぅ……もっといろんな言葉をつかって、ありがとうって言おうとしたのにー! うわぁああーん!!!」
雪歩「……えへへ」
愛「うわああああああん!!! やっぱりあたし、バカなんだーー!!!」
雪歩「愛ちゃん……、泣かないで」
ぎゅーっ!
愛「んぎゅっ」
雪歩「……その気持ちだけで、十分だよ。言葉なんか、いらない」
愛「ゆ、雪歩先輩……」
ぎゅー……
雪歩「……私も、愛ちゃんのこと、だいすきだよ」
愛(雪歩先輩に優しく包まれながら、あたしは、こんなことを思っていました)
愛(……もう、泣き虫と弱気と……、お別れしちゃったはずなのに)
愛(雪歩先輩に、抱きしめられて、とっても嬉しいはずなのに……)
愛「うぇええ……! わかんない、わかんないよー……!」
雪歩「……なにがわかんないの?」
愛「おかしいんです……涙が、嬉しいのに、止まらないよ……!」
ポロポロ……
愛「雪歩先輩……、だいすきです……!」
雪歩「私もだよ。……何度も、何度だって、言えるよ」
雪歩「……愛ちゃん、だいすき」
雪歩「愛ちゃんと知り合ってから、これが最初の誕生日だったから……こうやって、一緒に過ごせたこと、とって嬉しいですぅ」
愛「あ、あだじもぉおおお……嬉しいでずぅ」
雪歩「こんな私と仲良くなってくれて、ありがとう。……一緒に頑張ったこと、一生忘れない……」
愛「ゆぎほぜんばーい゛ぃいい……!」ボロボロ
雪歩「だいすき……、愛ちゃん……!」
愛(こうして、涙でぼろぼろになりながら……)
愛(あたしの、十四回目の誕生日は、最高の思い出と一緒に、始まったのでした)
―――
――
―
愛「ごく、ごく……ぷはぁ! ってことがあってね! もーすっごいでしょ!?」
舞「あー……うん、良かったわねぇ」
愛「もう最高の誕生日って感じ! 今までにないし、これから先もないんだからーっ!」
舞「さっきから何度目よ、それ……で、次はこう言うんでしょ?」
愛・舞「「ママ、お茶淹れてーっ!」」
愛「はっ!? むむむ……ママ、もしかしてエスパー!?」
舞「フフフ、愛のことならなんでもわかるわよ? でももう、お茶はやめときなさい」
愛「えー、なんでー? せっかく雪歩先輩にプレゼントしてもらったのに……」
舞「いま何時だと思ってんのよ! 愛、あんた明日起きれなくなるわよっ!」
愛「ぶー……」ギンギン
―――
――
―
舞「ちゃんと休むのよ? 誕生日だからって、仕事は休めないんだから。むしろ忙しくなるのがアイドルよ」
愛「はーい」
舞「……それじゃ、おやすみ……」
ガチャ……バタン
愛「……」
愛(……えへへ。あんまり、眠れないかも)
愛(お茶のかふぇいんのせいとか、そういうんじゃなくて……)
愛(嬉しいことが、いっぱいで……ドキドキ、わくわくして、眠れない)
愛「明日は、どんな良いことがあるかなぁ……えへへ」
愛(……それでも、寝なきゃだよね。だって、私はアイドル、なんだから……)
愛「雪歩先輩……あたし、もっともっと頑張って、それで……いつか、きっと……」
愛「ゆきこせんぱい……みたい……に……」
ガチャリ
舞「……」ソー
愛「……zzz……」
舞「よしよし、ちゃんと寝た……、わね」
ガチャ……バタン
ソロリソロリ
舞「……雪歩先輩、雪歩先輩、か……」
舞(なんだかちょっと……、妬けちゃうかも)
舞「……」ナデナデ
愛「うーん……むにゃむにゃ」
舞「ふふっ、可愛い寝顔しちゃって。さすが、私の娘ね」
舞(……この子がアイドルになったら、きっと……私を目標にする、って思ってたんだけど……)
舞(いまはとっても良い時代ね、愛。私のときとは違って……目標も、ライバルも、たくさんいる)
舞「……あーあ。なんか、生まれる時代、間違ったかなぁ」
舞「つまんないつまんない、つまんないのー。愛も、近頃忙しいしー」プニプニ
愛「うぅーん……うるしゃい……zzz」
舞「おっと……」
愛「あたし、アイドルに……ママ……」
舞「……」
舞「そうだわ」ティン
舞「そうね、これだわ……。もう一度まなみに頼んで、それで……フフフ」
愛「……zzz……」
舞「ふふ、ふふふ♪ なんだか楽しくなってきちゃった! 愛、覚悟しときなさいよね!」
舞「今度は、ほんとのほんとに、本気でステージに立ってあげる」
舞「前みたいに、ちょこちょこ手を抜いたりしないわよ……ふふふ」
舞「それが……私からの、本当の誕生日プレゼント! まずはそうね……前みたいに、ゆっきーから倒す?」
舞「……ゆっきーなんかには、負けないんだから」
舞「最高の誕生日は、この子が生まれた、あの瞬間なのよ! それを教えてあげるわ……ふふふ!」
舞「……愛、お誕生日、おめでとう。明日プレゼントが届くのを、楽しみにしててね♪」
おわり
愛ちゃん、お誕生日おめでとう!
愛ちゃん誕生日おめでとう
Entry ⇒ 2012.06.26 | Category ⇒ アイマスSS | Comments (0) | Trackbacks (0)
学者「なんの問題もないよ!だって私はケモナーだよ!?」
学者「やれやれ。困ったね。すっかり暗くなってしまった。」
少年「プロフェスール、あなたが夢中になってこんな森の奥まで来るからですよ!」
学者「悪かったと謝ってるじゃないか。しかしこの種の薬草は、この森でしか採れないのさ。」
少年「わかってるんですか?この森には魔物が出るという噂が」
学者「魔物、ねえ。出てきたならきたで、是非とも生きたサンプルを持ち帰りたいものだ。」
少年「あのう、プロフェスール?そんな風にフラグを立てたら……!」
少年「どうしてそんなに楽観的なんですか!ほ、ほら!見てください!あそこ!茂みが何か動いているではありませんか!」
学者「まったく君というものは、臆病だね。それでもタマのついてる男の子かい?」
少年「プロフェスール!ぼくは慎重なだけなんです!それに、下品なことを言わないでください。綺麗な顔して。」
学者「ほら見たまえ。猫じゃないか。おいで仔猫ちゃん。にゃ、にゃー。」
少年「……プロフェスール。その流れは非常にまずいです。」
学者「なにがだい?おや?あれはなんだろう。ちょっと見てくるよ。私が戻るまで、ここを動かないでくれるかい?はい。猫。」
少年「いっ、いかないでくださいよ!それに、だめですよ!うら若い女性をこんなところでひとりにできません!猫どうするんですか!」
学者「解せぬ」
少年「え、えと、呪文、呪文は……」
学者「焦る必要はないさ。棒切れ振り回しているだけで勇者と呼ばれる者のいる昨今、魔物の一匹や二匹、恐るるに足らない。」
少年「いっぴきや!にひきじゃ!ない!じゃないですか!3ダースはいるじゃないですか!」
少年「なんですって?」
学者「私が囮になって君を逃がすだけのことさ。必ずあとで追いつく。ここは私にまかせて先に行きたまえ。」
少年「何を言い出すのですプロフェスール!どうしてあなたというひとはそうやって死亡フラグ立てまくるんですかー!」
学者「案ずることはない。棒ッキレ振り回して勇者と名乗るのに同行する魔法使いなんかよりずっと私のほうが優れているのだからね。」
少年「あなたが優秀なのは百も承知してますが!あと王家に任命された勇者をそんな風に言わないの!」
少年「むむむ……!」
学者「いいから行きたまえ!」
少年「ヤです!」
学者「言っただろう君など足手纏いだ。それに魔物どもも、男の子の筋っぽい肉よりも、女の私の肉のが良いだろう。」
少年「なんてこというんです。もとより、あなたに拾ってもらった命なんですから、あなたを置いて逃げられるわけはない!」
学者「勝手にしたまえ。怪我をしてもしらんからな。」
少年「勝手にします!」
学者「豚やら狼やら小鬼やら。普通の野生生物でもそれなりに脅威だが……」
少年「魔物ですもんね武装してますもんね」
学者「目標、正面一列に……『焔』」
少年「すごい!一気に3分の1くらい減った!」
学者「しかし他は……やはり、火を恐れぬか。群れが欠けてもなお向かい来るとは見上げた根性だ。」
学者「……魔物の魔物たる所以、か。」
少年「どうしましょうプロフェスール。」
少年「ちょっ」
学者「みゃっ!?飛び道具まで使ってきた!道具を使う知能もあるのか。面白い。」
少年「言ってる場合ですか!」
学者「にゃっ!足が!具体的にいうと左ふくらはぎが!」
少年「逃げても逃げても追ってくる……」
学者「参ったね」
少年「ッ!?崖……!」
学者「前門の崖、後門の魔物。おまけに雨まで降ってきたじゃないか。」
学者「あらやだ詰んだ。」
少年「全然危機感ない口調やめてくださいよ!」
学者「せめて思い残しがないように今仔猫ちゃんを思う存分もふっておこう……」
少年「いきなり絶望するのも勘弁してください!ちっ!奴ら撃ってきやがった!プロフェスール!」
学者「落ち……!君、この手を離したまえ。君まで落ちる。」
少年「絶対離しません!ってうわあああ!?」
学者「ほらみろいったじゃないかあああ」
学者「…………。」
学者「……!」
学者「おちた、のか。あの高さから。……私も君も存外丈夫だな。少年。猫ちゃんには怪我がなくて良かった。」
少年「う、うう……ィ痛ッ」
学者「どの位眠っていたのかはわからないが、魔物が諦めてくれたのは幸いだ。しかし。」
少年「プロフェスール!あなたその脚!」
学者「ああ。奴らの矢に毒がね。仕方なく患部をえぐり取ったのさ。道もわからんし崖を登ろうにも他の道を探すにも、あまり歩けそうに……ないな。」
少年「そんな!あんたまたぼくを庇って!」
学者「『かんちがいしないでよねあんたのためじゃないんだからこれはねこたんのためなんだからね』
学者「お誂え向きにいかにも……妖しげな城だなあ。」
少年「この辺りに、こんな城を立てられる財力を持ったものがありましたでしょうか。」
学者「紫の雲に緑の稲妻とは風流だねえ」
少年「おばけ……やしき……」
学者「背に腹はかえられまい。いこう。肩貸してくれ。」
少年「こんばんはー。だれか、いますかー!」
少年「雨が上がるまで、屋根を貸していただけませんかー!」
学者「……おお。ひとりでに扉が開いた。」
少年「このギィィ……、って音すっげーヤですね。」
少年「あっ。ちょっと待ってください!」
少年「しまった!扉が!」
学者「駄洒落かい?」
少年「ちっ、ちがいますっ!うーん、開かない。びくともしない。」
学者「ま、ここの人に言えば開けてくれるだろ。しかし真っ暗だな。」
メイド「いらっしゃいませお客様。」
少年「わっ!勝手に上がり込んでしまって申し訳ありません。崖から落ちて雨に……」
メイド「困った時はお互い様ですわ。さ、風邪をひかぬよう、このタオルをお使いくださいまし。」
学者「見たまえ少年。猫耳メイドだ。」
少年「猫耳っていうか全身猫じゃないですか!人の背丈もある大きな白猫が服をきて二足歩行して喋ってるんですよプロフェスール!」
メイド「……その辺は、その足の手当をしながらお話ししますわね。」
学者「助かるよ。ついでに雨が上がるまでで構わないから、屋根も貸してはくれまいか。」
少年「正気ですかプロフェスール!?」
学者「こらこら失礼だよ少年。相手は人語を解する知的生命体だ。我々も敬意を持って接するべきだ。」
メイド「話の通じる相手で安心しましたわ。人によっては、いきなり斬りかかってくる野蛮な方もいますもの。」
学者「それは良くないね。」
学者「この猫を知っているのかい?」
メイド「知っているも何も、この屋敷の猫ですわ。」
学者「お子さん?」
メイド「こんな姿ですけれど、わたくし、本当の猫というわけではありませんの。……お食事を用意しますが、召し上がります?」
学者「ありがたい。」
少年「大丈夫なんですか。とって食われたりしませんか。」
学者「ふふ。そうなったら、私を置いて逃げたまえ。」
少年「そんなことできますか!」
メイド「お食事の準備がととのいました。さあ、おあがりくださいな。」
学者「少年。待ちたまえ。私が先だ。」
少年「……?プロフェスール、お腹が空いていたのですか?」
学者「では、そういうことにしよう。……私が口をつけたあとならば食べてもいい。」
少年「??、は、はあ……。」
学者「すごい豪華な食事だね。味付けも王都の高級料理店並みだ。」
メイド「お褒めに預かり、料理長も感激することでしょう。」
学者「ところでちょっとした質問があるのだが。」
メイド「なんでしょう。」
学者「この食材はどうやって調達しているんだ?食材だけじゃない。日々生活する上で、モノはどうしても要りようだろう。それはどうやって?」
メイド「確かに、わたくしたちのような魔物の姿が、人の町に現れたら大騒ぎでしょうね。疑問に思うのも無理はありませんわ。」
少年「えっ!?」
メイド「なるほど。そうですね、森の外の道は商隊が行き来しますものね。襲いかかるのは容易いことでしょう。」
学者「うん……この魚なんかは、海のものだ。この近くで獲れるものではない。」
メイド「ご安心召されまし。お金というのは、時に、人間が恐怖に打ち克つ力を与えるものですよ。」
学者「ああ、要は金で使える人間がいるわけだね。」
メイド「ええまあ。わたくしたちの主人は、富だけは無駄に莫大ですもの。」
学者「ふうん。ああ、少年。もう少し待ちたまえ。ビーフジャーキーを目の前にぶら下げられた犬のような顔をするでないよ。」
少年「してません!」
学者「君たちがそのような姿であることにも、関わってくるのかな。」
メイド「まあ。するどい。」
学者「少年、さあ、スープとパンは食べても良い。魚料理と肉料理は私がいいというまでだめだ。」
少年「……?、はい。」
学者「さ、話してほしい。」
メイド「ええ。……こういう御伽噺をご存知でありません?」
メイド「そのみすぼらしさに、王子が冷たく断ると、老婆は美しい女神に早変わり。」
メイド「お前のような性根の腐った男には、醜い野獣の姿がお似合いだ。」
メイド「そう言って、王子の姿を変える呪いをかけます。また、王子を甘やかしてきた城の者にも。」
メイド「そして。こうも言うのです。」
メイド「もし、この薔薇が散る前に、お前が真実の愛を知ることができれば、お前は元の姿に戻ろうが……」
学者「その前に薔薇が散ってしまえば、永遠に、その姿のまま……か。」
学者「俄かには信じ難いが、世界は広いからね。どんな不可解も、まあ起き得るんだろうね。」
少年「しっ、信じるんですか?」
学者「……少年。待たせたね。さ、どの料理に手を付けても良い。」
少年「???いただきます?」
メイド「わたくしたちは、まあ、困っているんですわ。結構。この姿ではいろいろと不都合もありますの。」
メイド「あら。理解が早くて助かりますわ。」
少年「ぶふっ……!?」
学者「そのネタバラシは得策ではないのではないか?」
メイド「……雰囲気さえつくればなし崩し的に恋愛関係に移行するのは容易なものですわ!」
少年「いやあの。」
学者「まあ、何かの小さなきっかけで、思いも寄らないもの同士が惹かれ合うというのはありがちだね。」
メイド「頷いていただけるのであれば、あなたの怪我の治療もいたしますし、ここから無事に街まで帰るルートもお教えしますわ。」
学者「うーん」
少年「プロフェスール、あれ完全にウラがありますよ!」
学者「そうかもしれないね。」
メイド「はいはい裏なんてないですよー。」
学者「投げやりにありがとう。……お言葉に甘えるよ。」
少年「何言ってんですかプロフェスール!?」
少年「ちょっ……プロフェスール!?しっかりしてください!プロフェスール!」
メイド「あらいけない。さ、こちらの客室にお運びしましょう。」
少年「プロフェスールに妙なことをしてみろ!ただじゃおかないからな!?」
メイド「……お客様に『妙なこと』をするほど、わたくしは不躾ではありませんわ。お客様でなければ別ですが。どうなさいます?おとなしくこの方のようにお客様になるか、それとも」
少年「わ、わかった。でも、プロフェスールのことはぼくが運ぶ。」
メイド「……こちらへ。」
少年「本当に、手当してくれるんだ……」
メイド「さあ、これでもう大丈夫。」
少年「あ、ありがとう……」
メイド「いえ。あなたにとって、ずいぶんと大切な方なんですのね。」
少年「プロフェスールは、恩人だからな。」
メイド「恩人?」
少年「ドレイ、って言った方がいいのかな。暴力も、性的なことも含めていろいろされたし、食事だってマトモにもらえたことはない。」
少年「ある日さ、その金持ちの屋敷にプロフェスールが招かれて。プロフェスールの研究は、ある種の人間には完成したら喉から手が出るほど欲しいもので、たぶんその関係だと思う。」
少年「いつも通りいろいろあって動けなかったとこを、本当だったら客が入るようなところじゃない屋敷の裏だったけど、なんでかふらっと迷い込んだプロフェスールに拾われたんだ。」
少年「金で買い取られたんだし、最初はプロフェスールも同類だと思ってた。」
少年「けど、文字を教えこまれたり、剣術を習わさせられたり、正規の賃金を払われたり。なんだろ、ちゃんと助手として扱ってくれてるんだよな。」
メイド「…………。」
少年「この人への恩返しにはまだ足りないし、なんとなくほっとけないひとだし、それに……って、あんたには関係ないよな。変なこと聞かせて悪いな。」
メイド「いえ。なるほど。わかりました。ひとつ、肝心なことだけお聞きしても?」
少年「なに?」
メイド「この方に、恋愛感情はあるのですか?」
少年「な!何言ってんだ!べつに、そんなんじゃない……!ただの師弟……いや、ぼくにとってはそれも違うな。」
メイド「ほう」
少年「母さんとか、姉さんみたいな存在だよ。尤も、そんなものはいたことがないから、こういうものだって想像でしかないけど。」
メイド「それは良うございました。あなたがこの方をちょっとウザいくらいに守ろうとしたり、てっきり愛やら恋やら肉体的交渉やらで結ばれているものかと。」
少年「誤解されるけど、ぼくたちの間にそういうことは何もないからな!?」
メイド「それならば、わたくしも安心して主人とこの方を引き合わせることができますわ。そして、我らの悲願を達成するために、とっととくっついていただきます。」
少年「いやそれはちょっと」
少年「ごめん。疑ったりして。」
メイド「いえ。慣れております。」
少年「…………。」
メイド「?、お手洗いなら廊下の突き当たりですが。」
少年「違ッ……!」
メイド「異形のもの相手に、最初から無警戒で挑むのは間抜けのすることですわ。この方も、あなたのように怯えはしないものの、警戒はなさっていたようですし。」
メイド「悲鳴を上げて逃げ惑ったり、いきなり攻撃を仕掛けてくる方もいらっしゃいますもの。もちろん、そういった方は屋敷からご退出願いました。」
メイド「……魔物に喰われてしまいましたけれど。」
少年「まじで」
少年「プロフェスール!目が覚めたのですね!?……どこから聞いてました?」
学者「たった今だよ。……君たちが文化的な生活をしている上、言葉の通じる相手なら、折り合いをつけることもできよう。」
メイド「まあ。」
学者「で、受けたのがとても紳士的対応だ。いや、淑女的、と言った方がいいかな。無闇に怯える必要はないよ。」
メイド「悪い魔物が旅人に豪華な食事を与え、肥らせて食べてしまう、というのもよく聞く話ですわ。」
学者「うん……その場合は、むしろ脚が治らないほうが好都合だね?」
学者「しかし君の施した治療になんら不審な点はない。手際も完璧だ。少年にも危害が加えられていない。礼を言うよ。ありがとう。」
メイド「いいえ。人として当然のことですわ。あら?」
学者「ん?」
メイド「ちょっと外しますわね。ご主人様がお呼びのようですわ」
メイド「……参りましたわ、ご主人様。」
主人「なんだ、あの者共は。」
メイド「なに、ってご主人様。ご主人様の花嫁候補ですわ。それと、その小姓。」
主人「ふざけるな。また勝手なことを。」
メイド「勝手なこと?他に手がありますか?」
主人「もとより、呪いなど解けぬのだ。このような姿、誰が愛そうか。」
メイド「愛していただかねば困ります。我々を真の姿に戻すには、それしかありませんもの。」
主人「結局は自分のことだけではないか。」
メイド「当然でしょう?他者のことを思いやれるような性質でしたら、このような姿に変えられることもなかったのですから。」
主人「ふん。忌々しい。」
主人「余計なお世話だ。」
庭師「血のニオイ、若いオンナのニオイ、喰ウ、喰イタイ。」
メイド「お黙りなさい。そのようなことは許しません。精神まで獣と化すなど、恥を知りなさい。」
主人「ふん。まだ言葉を話せるだけ良いではないか。それこそ、知性のない魔物や、家具のようなモノに変えられた者に比べればな。」
メイド「ご主人様以外でこの城で唯一まともな精神を保っているのはわたくしと料理長と執事くらい。わたくしまでおかしくなりそうだわ。」
主人「いっそ、精神まで狂えればこれほどまでに苦しむこともなかった。ただ己が欲を満たすために生きれば良いのだから。」
メイド「例の期限がくればそれも叶いましょうが、わたくしは御免ですわ。」
主人「…………。」
主人「……それは、私とて同じだ……。」
学者「やあおはよう。良い天気だね。」
少年「まったく、呑気なんですから。」
学者「おや?眠れなかったのかい?そんな顔をしているね。」
少年「外から唸り声は聞こえるし、あなたの包帯は変えなきゃいけないし、眠れるものですか。」
学者「……そうか。繊細だな。」
少年「そういう問題じゃないです。」
学者「おはよう。早速で悪いが、頼みがあるんだ。」
メイド「なんでしょう?」
学者「彼だけ、村の宿に戻してほしい。」
少年「はあ!?」
メイド「わかりました。誰か手の空いた者に送らせましょう。」
少年「ちょっと待ってください!なんでぼくだけなんですか!」
学者「いや、前払いで助かったとは言え、宿屋には昨夜のうちに戻るつもりだったからね。荷物を王都の研究室に引き上げてほしい。」
少年「王都まで何日かかると思ってるんですか。プロフェスールも一緒に戻ればいいじゃないですか。」
少年「ぼくが背負います!」
メイド「それは……危険ですわ。安全な道をお教えするとは申しましたが、その、血の臭いに敏感な魔物も多いんですの。この屋敷内であればお守りすることも可能ですが……」
学者「ほらね。傷が完全に塞がるまでの滞在許可を先程いただいたのさ。」
少年「それならぼくも」
学者「いや、村で余所者がどういう視線を集めたか、君も経験しただろう。万が一、荷物に触れられて研究内容にあらぬ誤解を受けたくはない。頼むよ。私と、君の名誉のためだ。」
少年「そんな風に言われたら断れないじゃないですか……。行ってきますよ。」
学者「そう言ってくれると信じてたよ。」
少年「ちぇっ」
道化「こんにちは。僕が貴方を森の外までお連れしましょう。」
少年「あんたは呪いにかかってないんですか?ヒト、の形してる。クラウン、かな」
道化「おやまあ、そう見えますか。」
少年「派手な仮面をつけて、帽子を被ってるけど、メイドさんみたいに獣化しているようには……。」
道化「……ここのご主人様以下、この城の者には例外なく呪いはかかっておりますよ。」
道化「お望みならば外しましょうか?」
少年「いやいいよ。道化師の素顔を見ようとする程、礼を欠くなってプロフェスールに怒られる。」
学者「……少年をよろしく頼む。」
道化「心得て御座いますとも。」
少年「荷物を運んだらすぐ戻ってきますからねプロフェスール!」
学者「はいはい。待っているよ。」
少年「うー。」
道化「よほど彼女が心配のご様子ですね。」
少年「そりゃあ……プロフェスールは怪我をして動けないのに、あんな化け物屋敷にひとり置いて……あ、ごめん。」
道化「いいえ。あそこが化け物屋敷であることには間違い御座いませんからね。」
少年「一体何をしたら、こんな魔法?呪い?をかけられるんだ?」
道化「……力のある方のご機嫌を損ねるべきではない、と言ったところでしょうか。ま、もしかしたらご当人は、こういう術をかけたこと自体を忘れていらっしゃるやもしれませんがね。」
少年「忘れてる、って。」
道化「あの方はそうしたところがおありですから。……おっと、その木を左回りに、その次の木を右回りに進んでください。でないと、永遠にここを彷徨うことになりますよ。」
少年「え、あ、うん。やっぱり、この森自体にそーいう魔法がかかってるのか。」
道化「ええ。よくあるトラップですが」
道化「道を違えばああなります。」
少年「じゃあ、その、あの城にぼくたちが辿り着いたのは」
道化「貴方か彼女のどちらかが、余程、運が良いのでしょうね。」
少年「ひええ」
道化「ああ、それから」
少年「…………!」
道化「ここを抜けるまでは、どうかお静かに。気付かれると、あれらの餌食になりますから気をつけてくださいね。」
少年「うわ……昨日のやつらだ……」
道化「無闇に騒ぎ立てねば大丈夫ですよ。あれらは僕には近づきませんから。」
少年「う、うん」
道化「街道まであと少しです。そのように不安そうな顔をなさるるでありませんよ。」
少年「お、おー。」
メイド「荷物の心配、だなんて仰って。」
学者「ああでも言わないと、少年は素直に戻ってくれないからね。」
メイド「……良かったのですか?わたくしたちを信用して。」
学者「我々に君たちが危害を加えるつもりなら、昨夜のうちにされているだろう。例えば……料理に毒をいれたり、就寝中に襲ったり。」
メイド「…………。」
学者「それに、経験から、そういう気のある者は、なんとなく気配でわかるのさ。私も過去、いろいろあったからね。」
メイド「そう、ですか。」
メイド「安全な場所へ避難させた、というわけですか?そして自分は構わないから彼だけでも無事に逃がして欲しい、ですか。」
学者「………あー……」
メイド「まあ、その条件さえ飲めば、あなたがここに留まってくださるということですし、あなたと邪魔者を引き離す願ってもない展開ですし。」
学者「言うね。」
メイド「ずいぶんと大切にされてるんですのね。」
学者「……あの子は同郷の生き残りだからね。」
メイド「生き残り、とは、妙な言い回しを仰るのですね。」
学者「王国の西の端の町の噂を聞いたことは?」
メイド「ええ、十年ほど前、魔王に滅ぼされた、とか。」
学者「……ま、そういうわけさ。」
メイド「あなたがたも、魔王の被害者というわけですのね。」
学者「まあね。ま、あれがなければ、私は今のような立場にはなっていなかっただろうけどね。」
道化「さあ、つきましたよ。ここから南にまっすぐ進めば、村につきます。」
少年「う、うん。あ、ありがとう。本当にふつーに送ってくれたね……。」
道化「もっとアトラクション的な演出をお求めでしたか。」
少年「いやそういうんじゃないけどさ。プロフェスールが信用したなら、それも当然か。」
道化「さあ、用事を済ませて早くお戻りください。紳士はレディを待たせるべきではありませんよ。」
少年「すぐ戻る!プロフェスールにはそう伝えてくれ!」
道化「ええ。いってらっしゃい。」
少年「ああ!ありがとなー!」
道化「さあて、上手く事が運べば良いんですが。」
学者「……肖像画、かな。」
メイド「それは……ご主人様の在りし日のお姿ですわ。」
学者「顔部分が切り裂かれている。残念だな。これじゃ、イマジネーションにも頼りようがない。」
メイド「呪いをかけられた直後のご主人様は大荒れでございましたからね。」
学者「窓から見える庭の石膏像がみんな首がないのもその所為かい?」
メイド「お片付けが大変でしたわ。」
学者「苦労するね。」
メイド「仕事ですもの。」
宿屋「偉い学者先生だかなんだか知らないが、外泊するなら一言言っておくれヨ。」
少年「ごめんなさい女将さん。」
宿屋「ま、先に大金もらってるから良いけどサ。で?学者先生は?」
少年「えーっと……ちょっと、急用ができて。この宿もチェックアウトしておいてくれって。」
宿屋「はン、そーかいお忙しいこって。」
少年「荷馬車をお願いしたいんだ。ぼく、急いで先生の荷物を王都の研究室に運ばなきゃいけなくて。」
宿屋「ハイハイ、それにしても弟子に全部押し付けて、勝手なセンセイだネ。」
少年「そんなんじゃ……そんなんじゃ、ない……。とにかく急ぎたいんだ。」
宿屋「なんかあったのかイ?」
学者「それにしても、ここの蔵書数には目を見張るものがあるね。学園の図書館より多いんじゃないのかな。退屈せずに済みそうだ。」
メイド「執事がときどき手入れをしているものの、今ではだれも読む者もおりませんからね。そう言っていただけると良かったですわ。」
学者「そういえば、君以外にこの城のひととは会えないのかな。」
メイド「……城の者の姿は、少し刺激が強うございますから。」
学者「残念だ。最初の晩からずっと、部屋の外で私を何かから守ってくれている彼に礼を言いたかったんだが。」
メイド「?、そのようなものが?」
学者「扉の前で、寝ずの番をしてくれているようだ。」
メイド「心当たりはありますわ。」
学者「礼を言っていたと伝えておいてくれ。」
メイド「承知しましたわ。ま、その方には早めに本人をお目にかけましょう。主人が客人に挨拶もしないというのは失礼ですし。」
学者「そうしていただけると嬉しいよ。」
メイド「…………と、いうことですし、隠れていないで出ていらっしゃいませ。」
学者「ん?」
主人「…………。」
学者「もっふもふだ」
メイド「こちらが、わたくしたちのご主人様ですわ。」
学者「数日前から、お世話になっている、学者だ。ハグしても、いや、できればもふらせ……いや、肉きゅ、握手してもいいかな。」
主人「お前は、私が怖くはないのか。」
学者「え?」
主人「私は、熊だか獅子だかわからぬ、このような真っ黒な姿が?」
主人・メイド『は……?』
学者「君との恋愛について猫耳メイド君に頷きはしたものの、触手、とか虫、とかトロールとかだったらどうしようかと思ってたんだ!それが!もふもふの肉食獣!願ったり!叶ったり!だよ!」
メイド「ここにきて一番テンションお高いですわね。ご主人様のお姿を見て恐怖でおかしくなる方は今までたくさんいらっしゃいましたが、こういうパターンは初めてですわ。お顔を真っ赤にされて……」
主人「メイドよ。私はお前に言いたいことがある。」
メイド「思ったより、呪いの解けるのが早そうで良うございましたわ!あらわたくし、ちょっとお仕事を思い出しました!ではお二人でごゆっくりー!」
主人「待て!メイド!待て!くそっ……!」
学者「一目惚れしました!結婚してください!」
主人「落ち着け。執事!貴様何をニヤニヤと!」
学者「執事?一体どこに……」
学者「やあ、気付かずに挨拶もせずにごめん。……聞こえているのかな?」
執事「(゚∀゚)」
学者「わ、絨毯が毛羽立って表情に!」
主人「腹の立つことだ。」
執事「(´・ω・`)」
主人「あとで、お前たち全員私の部屋に来い。」
学者「知り合ったばかりで、だっ、大胆なんだね。」
主人「お前ではない。お前は部屋で大人しくしていることだな。」
執事「(・∀・)」
主人「勘違いするな!別に安全なところへ避難させておきたいわけではない!誰も連れずに勝手に城内をうろうろされたくないだけだ!」
学者「わかったよ。本は何冊か借りて、部屋で読むことにするよ。ありがとう。」
主人「ふん!」
少年「勇者ァ?」
勇者「うん。わたしたちは、ここの先生に用があって来たの。」
魔法使い「ここの学者は、禁じられた不死の研究をしているという噂がある。」
少年「!」
勇者「王様の命令でね。ちょっとでいいから話をさせてくれないかな。」
少年「せっかく来てくれたところ悪いんだけど、プロフェスールは留守だし、ぼくも明日早くに出かけるんです。それに、プロフェスールは」
勇者「旅先からキミだけ戻ってきたって聞いたけど、行くのはその先生のところ?だったらわたしたちも同行する。」
少年「え、えー。」
魔法使い「なぜ困っているの。潔白なら、何ら不都合はないはず。」
少年「プロフェスールは勇者という仕組みを信用してないから、君たちに不快な思いをさせるかもしれません。」
勇者「キミと話していてもラチがあかないみたいだね。わかった。じゃあ、キミの後をわたしたちが勝手についてくからヨロシクね」
魔法使い「冗談なんかじゃない。」
勇者「道中もしなにかキミの身になにかあればフォローするし、勝手について行くんだから報酬もいらないわ。」
少年「なんだよ、その勝手な言い分。」
勇者「先生は、魔王に対抗しうる魔法の開発にも着手していると聞いているわ。そっちを聞かせてくれたら」
魔法使い「我々は何の研究であろうと、王国に報告したりしない。……たぶんね。」
少年「きたないぞ!帰れ!」
勇者「明日の朝また来るわ。」
少年「……ぐ。」
学者「彼と夕食を一緒に取るようになって、何日経っただろう。」
学者「晴れた日は彼と中庭でお茶を飲んだり、雨の日は読書や古代詩の解釈について議論したり、彼のブラッシングしたり。」
学者「このままじゃいけない、な。」
学者「少年は、今、何をしているんだろう。」
学者「ちゃんと帰れただろうか。迎えに来る気はあるだろうか。」
学者「ちゃんと食事はとっただろうか。お小遣いをもう少し渡しておけば良かったな。」
学者「風邪などひいていないだろうか。」
学者「ああ、心配だな……。」
少年「奴ら、明日の朝来るって言ってた。夜中のうちに出発すれば、撒けるかな。」
少年「今夜は新月だっけ。夜目がきいて良かったって初めて思えるな。」
少年「武器よし、携帯食糧よし、水筒よし、スペルブックよし、と。」
少年「待っててくださいねプロフェスール!」
少年「わっ!?」
道化「やあ、驚かせてしまいましたね。」
少年「な、なんだあんたか。……こんなところ、うろついてて大丈夫なのか?っていうか、よく門番が通したな。」
道化「僕はちょっとしたマジシャンなんですよ。」
少年「ふーん。」
少年「実はかくかくしかじか」
道化「なるほど。それはまた、厄介なトラブルに巻き込まれていらっしゃいますね。」
少年「だから、今から出て、プロフェスールに伝えるんだ。」
道化「それなら早い方がよろしいですね。」
少年「ああ。急ぐよ。」
道化「とは言え……歩いて行ったのでは、引き離すといってもたかが知れています。……協力いたしましょう。」
少年「馬でも貸してくれるのか?」
道化「似たようなもの、でしょうかね。」
少年「なんだっ!?急にめまいが!せかいがぐるぐる……」
主人「潮時だ。あの娘を帰す。」
メイド「これ以上ないくらい、今回は上手くいっているではありませんか!今逃せば、今後二度とないのですよ!」
主人「見よ。」
メイド「……薔薇が、そんな。枯れ果てて……!?」
主人「時間切れだ。もう二度と、元には戻らぬ。永遠にな。」
メイド「そんな……そんなこと……だって!あなたがたは、あんなに四六時中いちゃいちゃいちゃいちゃしてたではありませんの!?」
主人「ああ、あんなに温かい気持ちになったのは初めてだった。だが、あの美しい娘が、私のようなものに真実に愛情を注いでくれるとは、どうしても思えなかったのだ。これは憐れみで、同情だ、そうとしか思えなかったのだ。」
メイド「……そう、ですか。ええ、なんとなく、このまま、戻らぬのではと察してはおりました……。わたくしたちの姿を受け入れた、あの方ならば、と思ったのですが……こうなった以上、あの方をこの城に留めておく理由はありませんね……」
主人「すまない。」
メイド「化け物、として……命が尽きるまで、このまま……」
主人「……すまない」
勇者「やられたわね。」
魔法使い「馬車の出た記録は無かった。子供の足。すぐ追いつける。」
勇者「行き先は例の村だってわかってるし、わたしたちには飛空艇があるでしょ。先回りしましょ。」
魔法使い「……素直に同行すれば、敵対しないのに、愚か。」
勇者「ま、あの子にとって、センセが大事なんでしょ。いきましょう。」
主人「おい。」
学者「……なんだい?」
主人「もう、その足は疾うに治っているだろう。街道まで送ってやるから早く帰れ。」
学者「え?」
主人「例の子供が心配なんだろう。」
学者「……まあ、うん。」
主人「準備しろ。明日の朝、出発する。」
学者「優しいな君は。」
主人「何がだ。」
学者「……いや。なんでもないよ。」
少年「うわあああ!?」
道化「はい、到着です。」
少年「なにがなんでどうなってんですか!?人間の空間転移は現在の魔道技術じゃ無理だってこの前の論文で立証されたばっかりじゃないんですか!?うえええきもちわるい。」
道化「人間の快適な輸送にはもう少し改良の余地がありますね。」
少年「……あんた何者なんですか。」
道化「ただの舞台回しですとも。ここから先は歩かねば城までいけません。森の魔法のせいで、転移はできませんからね。がんばってくださいね。」
少年「ちょっと、だけ、休ませて……うえっぷ。」
勇者「と、いうわけでわたしたち、この教授を捜しているの。この村に滞在してるって聞いてるんだけど。」
宿屋「勇者サマじゃないかイ。その先生なら何日も前に王都に帰ったヨ。連れてる生徒に荷物とか全部押し付けてねエ。ヒドい話サ。」
勇者「帰った?それからここには立ち寄ってない?」
宿屋「なんでもフィールドワークってんで、アタシらの止めるのも聞かないで、魔の森に入って行ったのサ。ヤレヤレ、偉い先生はアタシらのいうことなんか歯牙にもかけないンだから。」
勇者「魔の森?」
宿屋「ああ、あの森の奥には、化け物がいてね。大昔、このあたりを荒らしてたンだってサ。でもあるとき女神サマが封印してくれたおかげで、今こうしてすぐ近くの村のアタシたちも平和に暮らせるってモンなのサ。」
勇者「魔の森、ね。ありがとうおねえさん。行ってみるわ。」
宿屋「勇者サマなら大丈夫だと思うけど、気を付けるンだヨ。なんせ、ホントーに化け物が出るンだから。」
学者「……急に、どうして私を返してくれる気になったんだい?」
主人「……お前が溜息ばかりつくからだ。」
学者「え?」
主人「いや、もう我々はお前を必要としないからだ。」
学者「……そう、か。残念だ。君の凍てついた心を溶かしていると自負していたのに、自信を失ってしまうな。」
主人「…………。」
学者「良い関係を築けていた、と思っていたがとんだ独り善がりだったようだ。迷惑もかけただろう。ごめん。」
主人「いや……!そうではない!そうではないのだ。これは我々の勝手な都合であって、お前にはなんの落ち度も無い。」
学者「その都合、というのは聞かせてはもらえないのだろうね。」
学者「え?なんだい?」
主人「いや。なんでもない。足元には気をつけろ。」
学者「うん……最後に、ひとつだけわがまま、きいてくれないかな。」
主人「なんだ。」
学者「君は一度も許してくれなかったけど、一度でいいから君を抱きしめたいんだ。」
主人「な」
学者「私は今、君をもふもふとしてではなく、その、ひとりの男の人として頼んでいる。振られてしまったことには納得している。二度としない。だから。」
主人「……お前は……」
主人「わ、わかった。ゆ、ゆるす。」
学者「……とても温かいよ。どきどきする。」
道化「その割には、まじまじとご覧になっていらっしゃいますねえ。」
少年「プロフェスールのあんな顔、初めて見た……。」
道化「奥歯をそのように噛み締めますと、血が出ますよ。」
少年「ギリギリギリ」
道化「……おや。困りましたね。」
少年「何が?……あ!」
学者「勇者殿、か。お噂はかねがね。こんなところでお会いできるとは思わなかったけれど。」
魔法使い「あなたには、不死の研究の容疑がかかっている。それは、禁呪のひとつ。」
勇者「そして今、あなたは魔物と行動を共にしていた。そうね?」
主人「この娘は私が捉えていたのだ。気紛れに逃がしてやろうとしたところであって、この娘が好き好んで行動を共にしたわけではない。」
勇者「あら嘘が随分とお上手ね。たった今抱き合っていたのは見間違いかしら。」
学者「……見て、いたのか。覗きとはよい趣味だ。勇者を名乗るだけあって、ひとがやらないことをするんだな。」
魔法使い「勇者を愚弄するのは許さない」
勇者「落ち着いて、魔法使い。わたしたちは何も戦いにきたわけではないのだから。わたしたちの本当に知りたいのは、あなたもうひとつの研究の方。」
魔法使い「魔王に対抗する、術。」
学者「そういう態度の人間には、協力できないと言ったら?」
勇者「協力したくなるように仕向けるまで。」
学者「……そう。」
少年「もしかしてこのザワザワしてるのって。」
道化「ええ、魔物、魔王様の配下ですね。」
少年「プロフェスールたちが囲まれてる!」
道化「……彼らなら突破できましょうが」
勇者「あなたが呼んだんじゃないの?」
主人「まさか。あのような下賤なる輩、私は雇ったりせぬ。」
勇者「じゃ、あれを斬っちゃっても文句はないわね?」
主人「学者、お前は私の後ろに……学者?」
学者「ふふ……油断したよ。そういえば、あれらの使うのは毒矢だったね。しかも、先日よりも強力だ。」
魔法使い「今、解毒呪文を」
学者「いや、君は攻撃呪文を準備していただろう。それをキャンセルする必要はない。」
学者「いや。避けられなかった私のミスだ。大丈夫、私は大丈夫だから君は今、戦闘に集中してくれ。」
勇者「数が多すぎる……!」
主人「すぐに終わらせる。お前はここで休んでいろ。」
学者「いや、私も呪文ならば唱えられる。できる限りの援護を」
主人「いいから。」
学者「わかった……わかったよ。待っている。」
主人「良い子だ」
少年「プロフェスールが!手を離してくれ!」
道化「貴方が行ったところでどうにもなりません。犬死するおつもりですか?」
少年「でも!」
道化「僕は彼女に貴方を任されているので、行かせるわけにはいきません。」
少年「うっ……なに……を……」
道化「そういう契約なんです。大人しくしていてくださいね。」
魔法使い「満身創痍。」
主人「……学者!」
学者「…………」
魔法使い「『解毒呪」!」
学者「…………」
主人「学者?おい……嘘だろう?」
勇者「息をしてない……!?」
魔法使い「脈がない。」
主人「学者!目を、目を開けろ学者!そん、な」
勇者・主人『道化……ッ!』
道化「お久しゅうございます殿下。勇者殿。」
主人「貴様と話す暇などない。去ね。」
勇者「斬るわよ」
道化「そのように怖い顔しないでください、おふたりとも。おや?殿下の抱いているのは、誰です?ああ、かの有名な学者殿ですか。ぐったりと動かない。それでみなさんそのような辛気臭い顔をされているわけですね。」
魔法使い「『光よ』!」
道化「おっと。相変わらず血の気の多いことです。しかし、何をそんなに嘆くことがありましょう。哀しむことがありましょう。」
勇者「この状況を見て、なにもわからないの!?」
道化「ええ、わかりませんね。だってソレは、不死者ではありませんか。」
メイド「おかえりなさいましご主人様。あの方は無事にお帰りに……!?」
主人「ベッドの用意を頼む。この娘を寝かせる。それから、客人に茶を。」
メイド「一体何が……いえ、かしこまりましたわ。」
魔法使い「知っていることを全て話して。」
勇者「洗いざらい、ぜーんぶよ。」
道化「承知いたしました。この狂言回し、全てお話いたしましょう。」
道化「そもそもの発端は、魔王様が双子のご兄弟に嫉妬なさったところからはじまります。」
魔王「なぜなの。妾が即位し、この世の全ては妾のものだと言うに、なぜ弟ばかり慕われるの。」
側近「魔王様。魔王様はこの世の誰より美しく、この世の誰より気高く、この世の誰よりご聡明でいらっしゃいます。そして、魔王という地位に相応しい残酷さもお持ちでいらっしゃいます。」
魔王「そうでしょう。ならばなぜ、家臣どもは妾にはへりくだるばかりで、弟にするように親しみをこめて接しはしないの。あれはとても醜い獣の姿だというのに。」
側近「殿下は、魔王様がお持ちのものをお持ちでない代わりに、魔王様のお持ちでないものがおありですから。」
魔王「それはなあに。」
側近「先程申しましたように、魔王様はその魔力、その権力に相応しい決断力もお持ちです。もしも魔王様に逆らうものがいたら、いかがなさいます。」
魔王「首を刎ねるわ。そして見せしめに、その一族を城のホールに呼び出して、中心に首を放り投げるかしら。」
側近「もしも魔王様が欲しいものを誰かが持っていたらいかがなさいますか。」
魔王「もちろん、奪い取るわ。逆らうようなら灰すら残さず燃やし尽くすでしょうね。」
魔王「……弟の、あの優柔不断な『甘さ』の方を好ましいと思うものがいるということね?」
側近「その通りでございます。」
魔王「お前はどうなの側近。」
側近「僕は、殿下は魔王という地位には相応しいとは思えません。」
魔王「……そうでしょう。貴方ならそう言うと信じていたわ。」
魔王「ねえ王子。貴方、最近好きな女性がいるんですって?」
王子「姉上!……そ、それをどこで」
魔王「あら。妾は魔王よ。魔王に隠し事などできると思って?」
王子「はは……参ったな。」
魔王「ねえ、欲しいものは手に入れておしまいなさい。妾も協力してあげる。」
王子「いや、姉上。それは良いんだ。ここだけの話、あの女性は人間なんだから。私は魔族だし、寿命も違う。それに私の姿はこんなだし。」
王子「なに、って……。」
魔王「まさか、そんな些細なことで手に入らないとでも思っているの?相変わらず自信のないこと。いいわ。おねえちゃんに任せておきなさい。」
王子「いや姉上。この件についてはどうか何もしないで欲しい。」
魔王「どうして?」
王子「今は、人間の姿をとって彼女に会える。それで満足なんだ。」
魔王「変な子ね。」
娘「君か。よく飽きもせずにくるものだ。」
王子「……迷惑か?」
娘「いいや。君の話は知的で面白い。」
王子「それは良かった。」
娘「だが……もう会えなくなるかもしれないね。」
王子「なぜだ?この街を離れるのか?」
王子「お前の冗談には真実味があるな。そのように白く細い姿でそのようなことを言われれば、まるで本当に聞こえるよ。」
娘「ふふっ。冗談だったら良いな。」
王子「……うそ、だろう?」
娘「嘘なんかじゃないさ。でも、君と会えたここ数ヶ月間、それを忘れるくらい楽しかったし、これから3年もしも……君が会いに来てくれるなら、なんの思い残しもなさそうだ。」
王子「何とかならないのか?」
娘「両親も手は尽くしたよ。でも、人間の医学や魔術ではどうにもならないんだ。それどころか、エルフなんかの妖精や龍族にまで当たったらしい。でも駄目だった。どうにかできるとしたら、魔王くらいじゃないかな。」
王子「……そう、か。」
魔王「珍しいわね。あなたがこの部屋にくるなんて。」
王子「姉上に聞きたいことがある。」
魔王「なあに?」
王子「実は……」
王子「では……!」
魔王「ふうん。貴方の想い人、そんなに短命なの。ムシ共もトカゲ共も、なにをそんなに難しがることがあるのかしら。」
王子「良かった……」
魔王「要するに、死なないようにすれば良いんでしょう。簡単だわ。」
娘「あれから、彼が来ない。やはり言うべきでなかったか。引かれてしまったかな。」
娘「彼なら、言っても平気だと思ったんだが……だめ、だったなあ。」
娘「……はー。さびしいな。友人を失うというのは。慣れるものではないな。」
魔王「ごみごみしてちいさくて醜い街だこと。」
娘「!?」
娘「いつのまに……!」
魔王「ふーん。本当だ。今にも消えそうな魂の色ね。」
娘「……なんて冷たい手。まるで、この世のものではないみたいだ。」
娘「何を言っているんだ?どんな名医も治せないものだ、もう諦めているさ。」
魔王「貴女の意志は関係ないわ。」
娘「……ぐ、ぅ……うぁっ……」
魔王「苦しい?苦しいわよね。だって一度人間としての命が終わるんだもの。」
娘「なに、を……」
魔王「貴女には永遠をあげる。永遠に若い姿のまま、生きることができるの。素敵でしょう。」
娘「そんなこと!望んでいない!」
魔王「貴女の意志は関係ないと言ったでしょう。二度同じことを言わせないで。初めて弟が妾を頼ったのよ。あの子の望みを叶えてあげなくちゃ。」
王子「本当ですか姉上!?彼女は、本当に病で命を落とさずに済むのですか!?」
魔王「ええ本当よ。そんなものでは死なないわ。見せてあげましょうか。」
王子「見せる?」
魔王「鏡よ。あの街を映しなさい。……よく見ていて。」
王子「なぜ、あの街に軍のものが?」
魔王「あの娘が死なぬところを見せてあげる。」
王子「姉上、何を……まさか!?」
警備兵「なんだってこんなところに魔族共が!?」
町人「いやああああ!火が!坊やが!」
娘「なにが、何が起こっている……?」
娘「とう、さん?かあ、さん?」
娘「ねえ、目を覚まして。ねえ……血が、こんなに。うそでしょ?うそよね?」
娘「きっとこれは、悪い夢、だ。」
魔族「全部焼きつくせー魔王様のご命令だー」
娘「ッ!?」
魔族「おお、コレが例のおーじさまのお気に入りか。ま、これも仕事だ。燃えてくれや。」
娘「い、いやあああああ」
魔王「ほらね。言った通りでしょ。焼けたところから再生もするの。けして死なないわ。」
王子「やめろ、やめてくれ。」
魔王「どうして?貴方が望んだことよ。」
王子「あ……」
魔王「人間は脆いわねえ。でも大丈夫。あの娘だけは何があっても……あら?なぜ、妾に剣を向けるの?」
王子「何故!?何故だと!?巫山戯るな……!彼女に、彼女になんてことを」
王子「が……ッ」
魔王「静かになったわね。礼も言えずにこんなことをしでかす悪い子の首は」
側近「お待ちください魔王様。殿下は、魔王様の唯一のご血縁。どうかお許しいただけはしませんか。」
魔王「でも妾、妾に剣を向けたものを許したことはないのよ。そういう前例を作れば、他の者に示しがつかないわ。」
側近「ならば、このようにいたしましょう。魔王城からの追放、という形です。」
魔王「……うーん。そうね……。でも、ただの追放では面白くはないわね。こうしましょう。頭の中を少し弄るの。」
側近「頭の中を、ですか?」
魔王「ああ我ながら名案だわ。この前、謀反を起こそうとした者をたしか地下牢に繋いでいたわね。あれらも一緒にしましょう。」
魔王「ヒトの娘と恋に落ち、愛で魔法が解けるところも同じよ。違うのは、真の姿が人間なんかじゃなくて、醜い獣だということよ。」
魔王「そうしてずっと自分が呪いをかけられた王子だと思い込んでいたことに気付かされるの。ああ、そのときこの子はどんな顔をするかしら。」
魔王「ねえ、滑稽でしょう。最高の喜劇となるでしょう。」
側近「……魔王様のお気に召すままに」
道化「これが、僕の存じている全てです。」
勇者「じゃあ、なに?彼は魔王の弟だっていうの?」
道化「いかにもその通りです。」
メイド「そん、な……そんなこと。わたくしたちが、魔族……?見た目通りの、存在ですって……?」
道化「本当は薄々気付いていたのではありませんか?求めていたのは人間の姿ではなく、本来の力と記憶であると。」
メイド「ああ……それでは……それではわたくしたちは今まで……」
勇者「許せないわ。魔王……!」
道化「あの方は、しかしあれから笑わなくなりました。そしてなにをされても退屈だと仰せになりました」
勇者「それで、今度は世界を滅ぼすって言い出したのね。つまらない世ならない方がマシ、だなんて言って。」
道化「どうか、あの方を止めてはいただけませんか。僕は道化となりながら、あの方を笑わせることも、あの方の涙を拭うこともできない役立たずなのですから。」
少年「プロフェスールの手、冷たい……。」
主人「……。すべて、私の所為だ。」
少年「それは否定しません。でも、プロフェスールがいつも寝言で呼んでたのはあんたの名前だったんですね。」
主人「彼女が?」
少年「……いつだってぼくはヤキモチ灼いてましたよ。」
主人「……」
少年「は、はやくちゅーでもなんでもしてプロフェスールを起こしてくださいよ。オヒメサマを目覚めさせられるのは、オウジサマのキスだってプロフェスールはいつも言ってますし、ぼくがしても良いけどぼくはオウジサマじゃありませんからね!ちくしょう。ぼくは部屋から出たくなっちゃったな!あーちくしょう!」
主人「……………。」
主人「………………………。」
主人「…………………………。」
学者「ん、ちゅ、ふ…ぁ……君は……」
学者「……ああ、懐かしい顔だ。」
王子「全部思い出した。」
学者「そうか。奇遇だね。私もだ。」
王子「恨んでいるだろう。」
学者「こんなに長い年月放っておかれたことならね。」
王子「お前の故郷を滅ぼしたのも、お前をそのような身体にしたのもこの私の所為だ。」
王子「ああ、そのつもりだ。姉上を刺し違えてでも止め、もしそれでも生き残ってしまった場合は自ら……」
学者「君は本当に愚かだな。」
王子「……何がだ。」
学者「また私を独りにするつもりか?少年は、人間だ。普通の寿命を全うする。私はどうだ。君の姉の、君の所為で死ねぬ身体になった。この呪いを解く術が見つからなかったら、永遠に孤独でいろと言うのか。」
王子「しかし私は魔族だ。そして」
学者「もう一度言う。いいか。私はケモナーだ。勿論、君が人間の姿になっている方も好きだから一粒で二度オイシイ。それに、魔族なら寿命などないと聞く。なんの問題もない。それとも、君の方がこんな化け物じみた女は嫌か。」
主人「お前は本当に愚かだ。」
学者「愚か者同士、お似合いじゃないか。」
少年「ちくしょうちくしょうプロフェスール取られた」
メイド「……すべて、思い出した。思い出してしまった。わたくしは、わたくしは」
少年「メイドさん?あんたふらふらしてるけど大丈夫か?」
メイド「あなたは……」
少年「メイドさんも失恋ですか?実はぼくもたった今したばかりなんですよ。」
メイド「……わたくしは、」
メイド「……ふー……。なんだか馬鹿らしくなってきましたわ。わかりました。とことん付き合います。」
少年「そうこなくちゃ!で、後で魔王のところに八つ当たりに行きましょう。」
メイド「あら楽しそうですわね。その案、乗らせてくださいな。」
勇者「ちょっと。まさか素人だけで行こうって言うんじゃないでしょうね。」
魔法使い「魔王は、勇者が倒す。」
魔法使い「彼女が研究していたのは、自分にかけられた呪いを解く為のものだとわかった。噂は噂。王国に報告するようなことはなかった。」
勇者「そういうこと。それに、魔王に対抗し得る手段についても収穫があったし。」
少年「収穫?」
勇者「ええ。魔王の血縁者に元四天王、そしてこのわたし、勇者が手を組めば、立派な武器よね。」
少年「……考えてみるとすごいパーティーになるなそれ。」
勇者「そうと決まれば明日早く奇襲をかけましょう。だからこの部屋の中のひとたちも色ボケている暇はないと伝えて頂戴。」
少年「いや……それは自分で言ってくれないかな。ぼく的には中の様子見るだけで大ダメージなんだから。」
魔法使い「ぐだぐだ。」
勇者「臨機応変と言って欲しいわね。」
メイド「……それじゃあ、明日に向けて英気を養わねばなりませんわね。料理長に腕を振るわせますわ。」
少年「メイドさん、ぼくなにかできることあるかな?」
メイド「あら、それじゃあ、わたくしを手伝っていただこうかしら。」
少年「任せて」
魔法使い「さくやはおたのしみでしたね」
学者「な、なにを言っているんだ。まだ私が完全に回復していないから、なにもしていない!彼はそのような鬼畜ではない。」
勇者「……うわあ。」
メイド「お熱いこと。」
学者「えっ?あっ……。」
少年「ちくしょう……ぐすん」
王子「……………貴様らには危機感というものがないのか?くだらぬ話をするな。」
主人「うるさい黙れ」
勇者「おおこわいこわい。」
学者「どうか、気をつけて。」
主人「ああ。必ず戻る。」
学者「少年、君にもいろいろ迷惑かけたね。」
少年「これからも迷惑かけるつもりでしょう。これが最後みたいな顔したら許しませんよ。」
少年「ご自分のことを化け物呼ばわりしたらもっと許しません。唯一の同郷でしょう。それに、ぼくの初恋の相手を化け物呼ばわりされたくありません。」
学者「少年……。」
主人「……行ってくる。」
学者「いってらっしゃい。この戦いが終わったら……」
少年「わー!わー!それはナシですプロフェスール!こういう場面でそういう台詞は言っちゃだめなんです!」
主人「ああ。」
勇者・メイド『きーす、きーす、きーす!』
少年「それはぼくのモチベーションがだださがるんでやめてください。」
道化「そうして、後に勇者一行と呼ばれる彼らは魔王の城へ出発しました。」
道化「戦いの行方、ですって?」
道化「さあ、どうでしょう。」
道化「新たな魔王が立ったやら、勇者が王国に凱旋したやら。」
道化「……ただひとつだけ。」
道化「後に広まった伝説を書き留めた書物にはこう記述されています。『王様は聡明な后と共に、いつまでも幸せに暮らしましたとさ。』」
道化「めでたし、めでたし」
<完>
そしてご支援ありがとうございました。
***
学者「私のことは『プロフェスール』と呼びたまえ。理由はない。なんとなくだ!」
少年「ぷろふぇしゅー……」
学者「え?ちょっ、それ!」
少年「?」
学者「もーいっかい!もーいっかい言ってくれ!」
少年「えっと、ぷろふぇすーりゅ」
学者「ああ……!それ!だ!舌ったらず!すばらしい……!」
少年「……ちゃんと、言えないのに、あんたは殴らないんですか?っていうか鼻血吹いてますけど大丈夫ですか?」
学者「なんの問題もないよ!だって私はショタコンだからね!もーいっかい!いってくれないかな?」
少年「しょた……?ぷろへすーる?」
学者「ちょっとここの主人と交渉してくるよ!大丈夫だ。幾らでも出そう。金に糸目などつけるものか。イエスショタコンノータッチ。そのくらいの分別はある。大丈夫だ。なんの問題もない。」
***
少年「というのが、ぼくがプロフェスールの弟子になったきっかけです。」
メイド「……ケモナーでショタコンで不死者の三重苦って救いようのないあれですわね……。」
どっとはらい。
面白かった
URL:http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/internet/14562/1339946594/
Entry ⇒ 2012.06.25 | Category ⇒ その他 | Comments (0) | Trackbacks (0)
真尋「寝たふりしてクー子をやり過ごそうとしたらキスされた」 前半
コンコン
クー子「……少年?」
ガチャ
クー子「……少年、起きて、朝ごはん作って」
真尋(もうちょっと横になっときたいんだ、スルースルー)
クー子「……起きないなら仕方ない」
チュッ
真尋「」
コンコン
ニャル子「真尋さんおはようございます、ウェイクアップですよ、今日も一日キバっていきましょう」
ニャル子「はやく起きないと三日月を背にダイビングしますよ」
真尋「・・・起きてるよ、起きなかったら封印するつもりかよおまえ」
ニャル子「いえ、滅相もございません、お持ち帰りするだけです、それより顔ちょっと赤くないですか、風邪ですか」
真尋「え・・・ああ、違う違う、なんでもない、なんでもないから、さぁ僕は朝ごはんの準備をしないとだからさっさと行くぞ」
ニャル子「そうですか、なら気のせいですね、たぶん」
ニャル子「聞いてなかったんですか、旦那酸が足りないとかで補給に行くらしいですよ」
真尋「…まぁ夫婦仲がいいのは喜ばしいことだな」
ニャル子「そうですね、そうですよね、じゃあ真尋さん、お目覚めのキッスを」
真尋「しないし、させねえよ」
ニャル子「相変わらずいけずですね・・・」
ハス太「おはよう真尋君、ニャル子ちゃん」
クー子「……ニャル子、少年、おはよう」
真尋「ん、おはよう二人とも」
クー子「……少年の作ったものなら何でも」
真尋「ん・・・そうか」
ニャル子「私は真尋さんの愛情をたっぷりください」キリッ
真尋「あーはいはい」
ハス太「僕はなんでもいいよ」
真尋「わかった」
ニャル子「気持ち私だけぞんざいじゃありません?」
真尋「気のせいだろ」
ニャル子「夢か何かで見たんですか?」
真尋「いや、たぶん気のせいだと思いたい」
4人「いただきます」
クー子「……少年、今日の朝ごはんもグー」
ニャル子「いやーこれならいつ嫁に貰っても大丈夫ですね」
真尋「僕貰われるほうかよ」
ハス太「そうだよ、真尋君、僕が養うよ」
真尋「いや、その理屈はおかしい」
ニャル子「男の甲斐性って奴ですか?本当にいちいち真面目ですね、真尋さんはまったく、そこら辺がいいんですけど」
クー子「……家事全般私はできないし、少年がこのまま家事してくれると助かる」
真尋「クー子はそうかもしれないけど、うーん・・・まぁとりあえず全部食おう、な?」
クー子「……少年、私の顔、何かついてる?」
真尋「ああ、いやそういうわけじゃ・・・いやご飯粒ついてる」
クー子「……とって」
真尋「いや、自分で取れよ、まぁいいけど、ほれ」ヒョイ
クー子「……パクってしないの?」
真尋「そう言われるとすごくやりにくいんだがこの米粒どうすればいいんだ」
クー子「……パクってすればいい」
ニャル子「……前々から思ってたんですけど何か真尋さん、クー子の扱い微妙に良くありませんか?」
ハス太「そうだよ、なんだかちょっとゆうぐうしすぎてるよ」
真尋「んーそうかなぁ、でもまぁニャル子よりはいいかもしれないけど、ハス太とは大差ないんじゃないか?」
ニャル子「どうしてそこで私だけ絞られるんですか」
真尋「いや、まぁなんかこう、ハス太は弟っぽいし、クー子は妹っぽいけどニャル子はなんかこう、近所の知り合いが一緒の家に住んでる感じが」
ニャル子「…真尋さんってたまに結構ひどいこといいますよね」
ハス太「えー弟なの?恋人じゃなくて」
クー子「……妹」
真尋「まぁいいから早く食え、学校あるんだから」
真尋「何がというわけなんだ」
ニャル子「こまけーこたぁいいんですよ、そんなことよりお母様がいないと火打石のようなものでカンカンする人がいませんね」
真尋「今までそんなことやったことあったか?」
ニャル子「いえ、ちょっとやってみたらテンションとか違うんじゃないかなと」
真尋(というか某極道の娘が先生するドラマのせいでそういうイメージが)
ニャル子「おーっとこんなところに火打ち石が・・・やりましょうよ真尋さん、なんで露骨にいやそうな顔してるんですか」
真尋「やるとして、4人のうち、誰がやるんだ」
ニャル子「そりゃあもちろん・・・」ガシ
真尋「・・・僕がやれってか、まぁいいけど、早く済ませて学校いくぞ、3人ともならべ」
クー子「……少年、意外とノリがいい、嫌いじゃない」
ハス太「」ワクワク
真尋「はぁ」カンカン
ニャル子「行って来ます、シュッ」シュッ
ニャル子「あ、私用事ありますので先に行きますね」
真尋「そうか、まぁがんばれよ」
ニャル子「はーい」
真尋「ふぅ、またよからぬこと考えてないだろうな、ところでハス太、やっぱり今日もシャンタッ君は入ってるのか?そのスポーツバッグ」
ハス太「もちろんだよ、一人だと寂しいもんね」
真尋(バッグがもごもご動いてるし、まぁ結界あるから大丈夫か)
真尋「それよりクー子」
クー子「……何、少年」
真尋「ニャル子についていかなくてよかったのか?」
クー子「……どうして?」
真尋「ああいや、別に」
真尋(前のクー子なら私もとか言って付いて行きそうなもんだったんだがなぁ)
クー子「……急にどうしたの少年」
真尋「いや、別に」
ハス太「…やっぱりクー子ちゃんだけ特別扱いしてない?」
真尋「またその話か、うーん、まぁ僕に四六時中がっついてこないしな、直接的な被害はでないし」
ハス太「僕ひがいだしてるの?!」ガーン
真尋「いや、ニャル子に比べれば随分とマシだぞハス太は、まぁ合体しようだとかはちょっとやめて欲しいけど」
ハス太「ダメだよ、真尋君、ちゃんと合体はするよ」
真尋「いや、しないから」
真尋「おはよう余市」
余市「おはよう、八坂君、今日は珍しくニャル子さんとは別なんだね」
真尋「ああ、道の途中で急に『用事があるから』って走っていったんだが・・・暮井と話てるのか」
余市「駆け込んでくると同時に暮井さんのところにいって『真尋さの私に対する扱いが3人の中でひどいんですー』って言ってたからてっきり別れたのかと心配したよ」
真尋「よしてくれよ、まだ付き合ってもいないのに」
余市「ははは、またまた」
…
ニャル子「というわけでお昼です」
真尋「また紅王症候群って奴か?」
真尋(ちゃんと授業受けれているのか心配になってきたけど周りみんな違和感なさそうだし大丈夫なんだろうきっと)
ニャル子「例のごとく私がクロックアップして料理しておきました」
真尋「前々から気になってたんだが、高速移動で料理って火の通りとかどうなってるんだ?」
ニャル子「大丈夫です、3倍早い時間なら3倍熱い熱を通せばいいんです」
真尋「何が大丈夫なんだよそれ」
真尋(どこかでカップ面に100℃のお湯3分なら300℃のお湯いれれば1分じゃね?って奴をみたが、そういう超理論なんだろうか)
ハス太「それより、早くいこ?」
真尋「ああ、そうだな」
ニャル子「どうしてさっきから食事シーンばっかりなんでしょう」
クー子「……おじいちゃんが言っていた、食事は一期一会。毎回毎回を大事にしろって」
ニャル子「あんたはただの大食漢でしょうが、食いすぎなんですよ」
クー子「……ぐすん」
真尋「まぁ仕方ないだろ、これだけ常時熱発してるんだから」
ニャル子「仕方なくありませんよ、何のための消炎ジェルですか、毎回くっ付かれる私の身にもなってくださいよ」
真尋「お前が言うなよ」
ニャル子「テヘッ」
真尋「いちいちあざといなおまえは本当に」
ニャル子「それより食べてくださいよ、早く早く」
真尋「ちゃんとそこらの近所のスーパーで市販の肉なんだろうな?」
ニャル子「大丈夫です、タジャドルコンボのから揚げなんかもう作りません、普通の鶏の肉です」
クー子「……とって」
真尋「結局こうなるのか」
クー子「……んー」
真尋「…いやそんな近寄ってこなくても届くからじっとしてろ」ヒョイ
真尋(そういや朝のあれは結局何だったんだ)
ニャル子「まったく、いつまでそんな風に餓鬼っぽくしてるんですか、あざといですね」
真尋「おまえも大概あざといだろうが」
ハス太「でもそういうのってかんせつきすみたいだよね」
真尋「」カァ
ニャル子「え?ちょっと、真尋さん?」
ニャル子「朝も少し顔赤かったですし、やっぱり風邪か何かじゃ」
真尋「なんでもない、なんでもないから、とりあえず飯食おう、な?」
ニャル子「クー子の熱に当てられたとかじゃないんですか」
クー子「……ニャル子のお弁当もおいしいけど、少年の作ったお弁当も食べてみたい」
真尋「あ、ああ、ああわかった、早く起きれたらな?弁当作るの時間かかるし」
ニャル子「弁当作るのに時間かかるんですから困ったもんですよね、これだから虚弱貧弱無知無能の地球人は」
真尋「ニャル子の分は作らなくていいのか?」
ニャル子「すいません、冗談です、すっげー食べたいですので作ってくださいお願いします」
真尋「本当にこれで試験とか通るんだろうか」
ニャル子「私は一応宇宙マーチを主席合格ですよ、いまどき高校生の授業くらいで・・・」
真尋「結局おまえら何歳なんだよ」
ニャル子「クロス」
クー子「……ボンバー」ドゴォ
真尋「ゲホッゲホ・・・おまえら殺す気か?!」
ニャル子「大丈夫です、今のはまだ本気の2%もだしておりません、というか本気だすとマスクどころか首が飛びます、わかりましたね?」
真尋「なんで僕が怒られてるんだ」
クー子「……言っていいことと悪いことがある」
真尋「別におまえら見た目が見た目だし、精神年齢もアレだから別にいいんじゃないのか、単純に興味もあるし」
ニャル子「真尋さん、好奇心は人を殺します、気をつけたほうがいいです」
クー子「……少年、おなかすいた」
真尋「こんだけ雨降ってるとルーヒーの屋台も出してないだろうしなぁ、前あげた飴あったろ?それで我慢しろ」
ハス太「ルーヒーさんのお店、やってないの?」
真尋「普通、雨降ってる中屋台はやらないんじゃないか?」
ハス太「そっかー・・・」
クー子「……少年、足りない」
真尋「わかった、家帰ったら何か軽く作ってやるから我慢しろ」
クー子「……わかった」
真尋「・・・・・・しかし傘なんか持ってないぞ」
ハス太「大丈夫だよ、僕に任せて」
ハス太「んーそれもできるけど手っ取り早く雲に切れ目をいれて僕らの周りだけ晴れに出来るよ」
真尋「本当便利だなおまえは、じゃあさっさと帰るか」
ニャル子「えー、寄り道しないんですかー?高校生の放課後ですよー?」
真尋「一応雨降ってるんだし、あんまり歩き回るのはな、それに晴れ間がスポットライトみたいになって余計目立つじゃないか、ただでさえおまえらカラフルなのに」
ニャル子「ちっ」
ニャル子「真尋さんもそういう便利なのとか好きなんですか」
真尋「そりゃあまぁ、好きと言えば好きだぞ」(僕だって一応男の子だし、そういうのに憧れる事はあったし)
クー子「……」ピク
真尋「まぁいいや、とりあえずクー子に何かだな」
ニャル子「私も食べたいです」
ハス太「僕も」
真尋「とりあえず、手洗って来い?」
ニャル子「大丈夫です、邪神ですから」
真尋「何が大丈夫だ、風邪引いたことあるくせに」
ニャル子「そう言われると反論できませんねぇ・・・」
真尋「あーもうすぐできるからそう急かすな」
クー子「……」チンチン
真尋「ほら、みたらし団子だ」
クー子「……串に刺さってない」
真尋「いや、丸く作るの難しいからな、粉から作ると」
クー子「……でもおいしい」
真尋「ん、そうか、よかったな」
クー子「……少年、あーん」
真尋「なんだ?」
クー子「……あーん」
真尋「いや、僕は晩飯作るし、そこまでお腹すいてないし」
クー子「……そう、残念」
真尋「いやいやそこまで僕ひどくないだろ、どんだけ卑下してるんだよ」
ニャル子「じゃー、はい、あーん」
真尋「だからいらないって言ってんだろ」
ニャル子「んもー照れちゃって」
真尋「僕もう晩御飯の準備するからとりあえず食い終わったら誰か風呂にお湯入れてきてくれ」
真尋「何だこの箱・・・素麺・・・いや流石に晩飯に素麺は」
真尋「魚介類中心か、1品か2品にサラダに素麺で吸い物でいいかな、うん」
真尋「なんか見たことない妙なもの入ってるけど気のせいだよな、うん、気のせいだ、気にしたら負けなんだ」
ハス太「うん、はこべばいいんだよね?」
真尋「ああ、それよりニャル子、何やってんだ」
ニャル子「いえ、別に、怪しい薬を盛ろうだなんて思ってません」
真尋「思ってんじゃねえかよ、それ、捨てとけよ」
ニャル子「おーっと手が滑って真尋さんの口の中に直せt」ザクッ
ニャル子「」
真尋「ったく、いちいちフォーク引っこ抜いて洗いなおすの大変なんだ、あんまりはしゃぐなよ」
ニャル子「段々人間離れしてませんか?真尋さん」
クー子「……若者の人間離れ」
真尋「別にうまくねえぞ」
4人「いただきます」
シャンタッ君「みー」
ニャル子「いやー真尋さんの料理は最高ですねぇ」
真尋「そうか」
クー子「……気に入った、一生私に料理を作ってくれる権利を上げる」
真尋「別にいらねえよ」
クー子「……そう・・・」
真尋「あ、おいクー子、素麺ごと髪食ってんぞ」
クー子「……ん、問題ない」
真尋「問題あるとかないとかいう問題なのか?」
クー子「……ないったらない」
真尋「……ひょっとして拗ねてる?」
クー子「……拗ねてないっすよ」
ニャル子「なんです、そのラブホテルで言われたい台詞5本に入りそうな」
真尋「いいからさっさと入って来い、後がつかえてんだ」
ニャル子「はーい」
ハス太「真尋君、なにかてつだえることない?」
真尋「んー、別にいいぞゆっくりしてて」
クー子「ハス太君、一緒にダゴモンしよう」
ハス太「うん」
真尋「クー子かハス太、どっちか入れ」
・・・・・・・・
真尋「ふう、じゃあ僕もう寝るからな、おまえらも早く寝ろよ」
ニャル子「おやすなさいませ」
ハス太「おやすみまひろくん」
クー子「……少年、おやすみ」
真尋「Zzz」
クー子「……」ゴソゴソ
真尋「ぁあああああああ、ああ!?なんだ夢か、てか本当に暑!?なんだこれ、布団が尋常じゃない熱さに」
真尋「まだ4時か・・・弁当作る約束してたっけな、あと1時間は寝ても大丈夫だな、よし寝なおそう」
真尋「……暑い」
コンコン
クー子「……少年、弁当作る時間、起きて…」
クー子「……起きないなら仕方ない」
クー子「……んー」
真尋「何やってんだクー子」パチッ
クー子「……おはよう少年、お弁当作ってくれる約束」
真尋「あーうんそうだな、いやそうじゃない、何をしようとしていたか、だ」
クー子「……別に、起きなかったから少年が起きる最善策を探してただけ、他意はない、少年が悪い」
真尋「なんでそうなる、普通に揺さぶれば起きるから」
クー子「……小一時間抱きついても起きなかった」
真尋「は?」
真尋「2回も繰り返さなくていい」
クー子「……大事なことなので」
真尋「てことは大体3時頃から起こそうとしてたのか」
クー子「……そうなる」
真尋「どうなってんだよ、そんな時間に起こされても困るぞ僕は、何時から起きてたんだよ」
クー子「……ずっと夜からスタンディンバイしてた」
真尋「いやおまえも眠れよ」
クー子「……ネトゲ廃人の朝は早い」
真尋「そういう問題じゃないと思うんだけどな」
クー子「……少年、1000倍速で動ける私やニャル子はその気になれば20秒で6時間眠れる」
真尋「いやその理屈は・・・ただしいのか?」
クー子「……そんなことより少年、夜更かししてたらお腹すいた」
真尋「やっぱりそうなるのか・・・弁当作るついでに何か作ってやるからそれまで待ってろ」
クー子「……おかわり」
真尋「残りは弁当だ」
クー子「……楽しみ」
真尋「ちょっと小さめのハンバーグだ、味見してくれ」
クー子「……美味」
真尋「もちろんおかわりはないけどな、というかまだ食い足りないのか?」
クー子「……大体満足、ネルベント」
真尋「アクセル弁当じゃなかったのか」
クー子「……少年はあんまり細かいこと気にしないほうがいい、宇宙ではこの先生きていけない」
クー子「じゃないと困る、少年のご飯食べられない」
真尋「あ、ああ、うんそうだな」
クー子「……照れなくていい、少年は誇っていい」
真尋「ん・・・というか寝なくていいのか」
クー子「……なでなでしてくれたらすぐ眠れる、暇ならして欲しい」
真尋「まぁ弁当もできたし別にいいか、ほらソファに横になれ」
クー子「……ん、zzz」
真尋「寝るの早いな、さて朝食の準備するか」
・・・・・
ニャル子「おっはよーございます真尋さん、今日はウェイクアップしてますね」
真尋「そりゃあ弁当作るって約束だからな」
ニャル子「そういえばそうでしたね」
ハス太「おはようまひろくん」
真尋「あーおはよう、そろそろクー子も起こすか」
ニャル子「ったく居間でねてんじゃねーですよ、まったく」
クー子「zzz」
真尋「いや、さっきまで起きてたんだ」
ニャル子「さっきまで?さっきまで何やってたんですか!?」
真尋「朝っぱらから大声だすなよ、何もしてねえよ」
クー子「……おはよう、少年」
真尋「ほら、朝ごはんの用意できたぞ、さっさとおきt」グイ
チュッ
クー子「……おはようのキス、ぽっ」
真尋「お、おい」
ニャル子「おいいいいいいいいい、何やってんですかこの邪神は!私の怒りが有頂天ですよ!この怒りはしばらく収まることを知りません」
ハス太「ふぉおおおおお」
真尋「お、おい?おまえら?」
ニャル子「大体真尋さんも何まんざらじゃない表情なんですか、なんでいつもクー子とばっかりフラグ立っちゃってるんですか!ちくしょおおおお」
ニャル子「はあああああ?」
真尋「まて、いつした?」
クー子「……一生食事作ってくれるって」
真尋「いったっけ」
クー子「……」
真尋「……」
クー子「……大丈夫、減るもんじゃない」
ハス太「え?何?ニャル子ちゃん」
ニャル子「今なら合体できる気がします、私がジョーカー」
ハス太「僕がサイクロンだね」
真尋「まてまてまて、ここ家のなかだぞ」
ニャル子「大丈夫です、ジョーカーエクストリームでクー子を『しゅんころ』してやります」
クー子「……少年、朝ごはんまだ?」
真尋「おまえも少しは止めてくれよ頼むから」
真尋「あーあ、根元まで刺さっちゃった」グイグイ
ニャル子「・・・ちょっと真尋さん、それ」
真尋「あー?これか、100均で大量買いしたフォークだ」
ニャル子「いや、あのその、ちょっと、いえ、そのですね、ちょっとどうすれば壁にそこまで深々と刺さるんですかね」
真尋「細かいことはいいじゃないか、ほら、朝食だぞ」
ニャル子「え、はい、いただきます」
真尋「そんな言うほどのものか?普通じゃないかこれくらい」
クー子「……少年、料理やっぱり教えて・・・いや、やっぱりいい」
真尋「ん、どうしてだ」
クー子「……少年のご飯を食べる口実がなくなる」
真尋「別に食べたいなら食べたいって言えばいいじゃないか」
クー子「……少年はやっぱり優しい」
真尋「だからってもう迂闊にキスするなよ、荒れるから」
真尋「まさかと思うけどニャル子にもそういうのやってないだろうな」
真尋(それはそれでニャル子怒りそうだし)
クー子「……ニャル子は不思議な結界で寝ている最中に接近すると勝手に防御行動を取る、隙がない、成功したためしがない」
ニャル子「……あんた、夜這いかけてたんですか」
クー子「……ここまでチュッチュしたのは少年が初めて」
真尋「お、おう・・・」
ニャル子「だからなんで微妙に照れてるんですかおかしいでしょうに!ハスター君もいつまで魂抜けてんですか!」
真尋「絶対おまえのおじいちゃん別の世界線でおでん屋やってるぞ」
クー子「……ニャル子は落とす、少年は手篭めにする、両方やらなきゃいけないのがクトゥグア星人のつらいところだな、覚悟はいいか、私は出来てる」
ニャル子「上等ですよ!真尋さんは私だけのもんです、渡しませんからね!今からでも決闘を申し込む」ベシ
ザクッ
真尋「いいから飯を食え」
ニャル子「ま、真尋さん、机にフォーク、机にフォークが、机に、机に」
真尋「返事は?」
ニャル子「はい、ほらハスター君も、食べないと遅刻しますよ」キリッ
ハス太「え、え、うん、いただきます」
ニャル子「今日も火打ち石にしますか、火打石にしますか、やっぱり火打石ですか?」
真尋「どんだけ気に入ってんだよ昨日の奴」
ニャル子「いいじゃありませんか、別に、めりはりがついて」
真尋「まぁそうかもしれんが」
クー子「……少年、いってらっしゃいのキス」
真尋「っておい」チュッ
ニャル子「待たんかぁぁぁぁっキエエエエエエエエ!!」
ハス太「真尋君、僕もやってもいいんだよね?ね?」
真尋「ハス太は、ほら、女の人と健全なお付き合いをするべきだ、うん」
ハス太「ちぇ」
クー子「……少年の手作り」
ニャル子「愛妻弁当ですね、いっただきっまーす」
真尋「いつ僕が妻になったんだよ」
ハス太「おいしいよ、これ」
ニャル子「真尋さんは最高です」クワッ
真尋「なんだよいきなり立ち上がって」
ニャル子「いえ、早く私ルートに戻さないと、と思いまして」
真尋「だからルートとかなんとか一体何の話なんだ」
ニャル子「なんですか真尋さん、エロゲやったことないんですか」
真尋「そういうおまえはどうなんだ」
ニャル子「そりゃあもちろんありますよ」
真尋「ん、そうか、とりあえずあれは18歳にならないと出来ないからな、結局何歳なんだよ」
真尋「おまえらこういうときだけ動き早いよな、どうなってんだ、とりあえず放してくれ、羽交い締めはちょっと」
クー子「……心配ない、死なない程度に折檻するだけ」
真尋「何をするつもりだ」
ニャル子「なーにちょっとくすぐるだけですよ、クー子、しっかり捕まえときなさいよ」
クー子「……OKスタンディンバイ」
ニャル子「じゃ、いきますよ真尋さん、とりあえず昼休み終わるまではわき腹を弄らせて頂きます」
真尋「やめろやめろおいやめ・・・アーッ!」
ニャル子「真尋さん、分りましたでしょう、私達は宇宙10代です、何の心配もありませんよ」
クー子「……少年、色々メチャメチャ」
真尋「……おかげさんでな」
ハス太「真尋君大丈夫?」
真尋「ちょっと腹痛い、笑いすぎて、大体クー子もがっちりホールドしすぎなんだよ、冗談抜きで逃げられないじゃないか」
クー子「……暴れる少年もなかなかかわいい」
ニャル子「……なんであんた微妙に絶好のポジションだったんでしょうかね」
真尋「ゲホッさぁ、昼休みも終わりだ、教室戻るぞ」
真尋「相変わらずだな」
ニャル子「授業なんてあってないようなもんです」
真尋「おまえら本当に試験とか大丈夫なんだろうな」
ニャル子「なーにいざというときは結界で」
真尋「カンニングした瞬間に刺すぞ」
ニャル子「……」
ニャル子「いやぁでも大丈夫ですよ、ええ、これでも勉学は達者ですし」
真尋「こっちの世界じゃ人肉屍食じゃなくて弱肉強食だぞ?わかってるのか?」
ニャル子「ピューピュー」
真尋「いい加減吹けるようになれよ口笛」
真尋「ん、そうだな」
ニャル子「真尋さんの上の上の弁当を頂けたんです、いまさらあんなたこ焼きなんてぶたのえsゲフッ」
ハス太「だめだよ、ニャル子ちゃん、そんなこといったら」
ニャル子「いえ、冗談です、言葉のあやです」
真尋「口は災いの元って言葉を知らないのか」
ハス太「ルーヒーさん、こんにちは」
ルーヒー「今日も食べるわよね」
真尋「ああ、1パックだけな、頼むよ」
ルーヒー「300円よ」
真尋「はい」
ルーヒー「八坂真尋は相変わらず食べないのかしら」
真尋「いや、まぁ食欲ないし、帰ったら夕飯だしな」
クー子「……作りたては流石にまだ食べれない」
ニャル子「あんたは後で食えばいいでしょう、ちょっとこっちゃよこしなさい」
ハス太「はい、あとは真尋君とクー子ちゃんの分だよ」
クー子「……相変わらず少年は私のフラグポイントを貯めに来る」
真尋「だからフラグってなんだよ」
クー子「……少年は相変わらず鈍感」
真尋「そうか?」
クー子「……じゃああーんって」
真尋「何故そうなる」
クー子「……いいからいいから、テリーを信じて」
真尋「ほら、口あけろ」
クー子「……あーん、モグモグ、うん、一粒で二度おいしい」
真尋「そりゃあよかったな」
ニャル子「言い分けありませんよ、しかしどうやっても止まらないのでどうしたものか」
真尋「何やってんだおまえら、さっさと帰るぞ」
ニャル子「はーい」
ハス太「はーい、ルーヒーさん、またね」
ルーヒー「またいらっしゃい」
ニャル子「珍しいですね、手紙だなんて」
真尋「いまさらなんだが惑星保護機構に許可貰ってるか職員以外は地球に入っちゃいけないんだよな」
ニャル子「え、ええ、そうですとも・・・なんですかその目は」
真尋「いや、それなら宇宙から手紙ってわけでもなさそうだし大丈夫かなと」
ニャル子「で、なんて書いてあるんです、読みなさいよほら」
真尋「ちょっと待て、何語だよ」
ニャル子「ここでは地球人の言葉で喋りなさいと言ったでしょうに」
真尋「いや、もうどっちでもいいから僕にもわかるように読んでくれ」
クー子「……『お元気ですか、私達は元気です、早速ですが本題です、クー音ちゃんに聞きました、婚約したそうですね、早く孫の顔がみたいです、式はいつですか、お元気で』」
真尋「……」
ニャル子「……」
ハス太「……」
クー子「……フリーズベント?」
真尋「両親も大概なんだな」
ニャル子「怒りを通り越してあきれるレベルですよ」
ハス太「……」
ニャル子「もしかすると溺愛されてたんじゃないですかね」
真尋「まぁこっちきてすぐお見合い写真送ってくるくらいだし…」
クー子「……一人っ子政策の弊害」
真尋「本当に宇宙規模で地球規模なことしてんな」
クー子「……じゃあニャル子、赤ちゃんつくろ?」
ニャル子「どーしてそうなるんですかあんたは!」
クー子「……じゃあ仕方ないから少年と」
ニャル子「どーーしてそうなるんですか!」
クー子「……じゃあどうすればいいの、ぐすん」
クー子「……残念だけど仕方ない、まだ我慢する」
真尋「まだってなんだよまだって・・・」
クー子「……いずれは少年とニャル子と3Pして2人の子供を」
ニャル子「いやに決まってんでしょうがお断りします」
真尋「まぁ、手紙はもういいだろ、ご飯作るからまってろ」
クー子「……ご飯がご飯が進む君」
ニャル子「あんたは何言ってんですか」
真尋「あー、誰でもいいけど風呂と洗濯物頼む」
ニャル子「じゃあ負けた2人がやるってことで」
クー子「……望むところ」
ハス太「ジャン拳だよね?」
真尋「ん?」
クー子「……無傷」
ハス太「グーにチョキで勝つってどうやってるの」
ニャル子「大体クー子がずるいんですよ、両手パーなんて」
クー子「……ルールでは禁止されてない」
ニャル子「暗黙の了解にきまってんでしょうが」
クー子「……勝ちに行っただけ」
真尋「おまえら何やってんだ」
真尋「あれはたぶん違うと思うぞ」
ニャル子「流行ってしまったから仕方ないんです」
真尋「まぁいいから行って来い、なんか知らないけどおまえ負けたろ」
ニャル子「…はーい」
クー子「……」ジー
真尋「クー子が勝ったのか」
クー子「……パーは防御面で最強、グー相手なら握りつぶせる握力があれば勝てる、チョキ相手なら先につかめば勝てる」
真尋「ジャンケンって普通RPGの戦闘みたいなもんだろうに、完全に格ゲーか何かじゃないか」
クー子「……そんなことより少年、晩御飯は?」
真尋「いや、今作ってるんだろうが」
真尋「んー、ほら食ってみろ」
クー子「……あづ」バタバタ
真尋「ああ、しまった、ほら水だ」
クー子「……ハムッハフハフハフッ、少年ひどい…」
真尋「ごめんごめん」
クー子「……味見できてない、少年ふーふーして」
真尋「はぁ・・・わかったよ」フーフー
真尋「ほら口あけろ」
クー子「……あーん、うんおいしい」
ニャル子「まーたイチャイチャして・・・その命、神に返しなさい」
クー子「……神は死んだ」
真尋「こっちもできたぞ、ほら飯だ、ニャル子もクー子も席座れ」
ニャル子「ったく覚えときなさいよ」
クー子「……ニャル子のことは卒業してから一日たりとも忘れたことはない」
ニャル子「一々癪に障りますねあんたは」
真尋「いいからとっとと食え」
真尋「ふぅ、やっとゆっくりできる」
コンコン
真尋「誰だ」
クー子「……少年、これやろう」
真尋「64の・・・爆ボン2だと」
クー子「……ラスボスの強さに定評がある」
真尋「小さい頃に買ったはいいけどモロクあたりで積んだ記憶しかないぞ」
クー子「……大丈夫、私がついてる」
クー子「……大丈夫、ファイルは3つもあるんだから、どっちが先か後かだけ」
真尋「じゃあジャンケンで勝ったほうが1Pで」
クー子「……最初はグー」
真尋「ジャンケンポン」
パー パー
真尋「っていたたたたたたた、指と指で指挟むんじゃねえ、いたたたたたやめろおお」
クー子「ジャン拳じゃないの」
真尋「宇宙のジャンケンなんぞ知るか!」
クー子「……さっき見てたのに」
真尋「いや、この流れでやるのはおかしいだろ」
クー子「……まぁいい、私が先にボンバーマンやる、少年は2P」
真尋「わかったよ」
④
クー子「……大体最初から即死攻撃使うボスってのが面白い」
真尋「うまいもんだな」
クー子「……それほどでも、雷までは余裕」
ニャル子「……楽しそうですね」
クー子「……ニャル子もやりたいの」
ニャル子「いえ、別に私は対戦派ですので」
クー子「……残念」
ニャル子「ってそうじゃありませんよ、何二人だけでいちゃいちゃしてんですか、私だって真尋さんといちゃいちゃしたいですよ」
真尋「ゲームくらいでそう言われても」
ニャル子「ゲームだけじゃないじゃないですか、まったくもう、正ヒロインは私ですよ、私!」
真尋「おまえにしては気が利くな」
ニャル子「そうでしょうそうでしょう」
真尋「妙なもんいれてないよな」
ニャル子「やだなぁ妙なものなんて入れてませんよ」
真尋「本当だな」
ニャル子「私嘘はつきませんから」キリッ
真尋「まぁいいか、とりあえずひとつだけ」モグモグ
ニャル子「効果テキメンみたいですね」
真尋「やっぱり何か入れたんだろ!」
ニャル子「私は何も入れてません、ただの黄金の蜂蜜酒の成分配合です」
真尋「なんて奴だ」
ニャル子「大人は嘘をつくわけではないのです、間違いをするだけなのです」
真尋「くそ、もう意識が、とりあえず刺しとこう」ザク
ニャル子「カタキリバッ」
真尋「もう・・・だめだ」バタッ
クー子「……少年、膝枕なんて大胆」
真尋「ごめんクー子・・・しばらく頼んだ・・・・Zzz」
ニャル子「」チーン(笑)
クー子「……どうしてこうなった」
真尋「zzz」
ニャル子「」
クー子「……もうラスボスのステージ選べるのに」
クー子「……私も眠る」
真尋「って朝かよ、あのまま寝ちゃったのかよ僕」
クー子「……ん、少年、おはよう」
真尋「おはよう、ってなんだこの体勢」
クー子「……少年が私を枕にしたから
私がニャル子を枕にする、
ニャル子がかわいそうだから
ニャル子の枕は少年に」
真尋「そこまでいうならフォークくらい抜いてやれよ」
クー子「……触ると聖なる力で蒸発するかもしれない、怖かった」
真尋「いやねーよそんなもん100均のフォークがそんなんあったら怖いわ逆に」
真尋「おいこらニャル子起きろ」ユサユサ
ニャル子「うぇえ、ええなんですかこれ、なんですかこれ!真尋さんの膝枕ひゃっほー」
真尋「いいからとっとと起きろ、おまえが起きないと僕ら動けないんだよ」
クー子「……やわらかくて最高」
ニャル子「どーきなーさい、どきなさい、どきなさいってんですよ」
クー子「……そんな態度も嫌いじゃないわ、嫌いじゃないわ」
ガチャ
ハス太「真尋くーん?何やってるのニャル子ちゃんずるいよ!」
クー子「……」ゴトン
真尋「やっと開放された、ごめんなクー子」
クー子「……痛い」グスン
真尋「ハス太がひっぱった勢いで頭打ったのか」
クー子「……」ムクリ
真尋「たんこぶできてるじゃないか」ナデナデ
クー子「……んん」
真尋「いいからほら、行くぞ学校、昼までだし」
ニャル子「なんで土曜日にまで学校あるんですかね、ゆとり教育とはなんだったのか」
真尋「いまどきの高校なんてこんなもんだぞ」
ニャル子「エロゲやギャルゲでみたのと違う、違うんです」
真尋「しらねえよそんなもん、遅刻するから早く食え」
クー子「……少年おかわり」
真尋「朝から良く食うなお前は」
真尋「まだ諦めてなかったのかその火打石」
ニャル子「シュッってやりたいんですよシュッって」
真尋「ほら」カンカン
ニャル子「やけにぞんざいですね」
真尋「満足したろ、いくぞ」
真尋「なんだ、どうした」
ニャル子「…ひだまり荘ってどこにあるんですかね?」
真尋「聞いたことないぞ」
ニャル子「ひだまり荘ですよひだまり荘、学校の目の前にあるらしいんですけど、どこの学校なのか分らなくてですね」
真尋「そんなこといわれてもなぁ」
ニャル子「……うわさでは住人に鎌をもったおじいさんがたくさんいるそうで、付いて行ったら私も住人になれますかね」
真尋「どう考えても危ないだろそれ、どうなってんだよ」
ニャル子「え、愉快そうじゃないですか」
真尋「でも一度見てみたいかも」
ニャル子「じゃあ帰ったら見ます?ちょうどBD-boxも発売されましたし」
真尋「は?」
ニャル子「いえ、ですからBDです」
真尋「なんだよアニメかよ、まじめに聞いて損したよ」
真尋「普通人間にあそこまでの機動力はねえよ」
ニャル子「おかしいですねぇ、普通に宇宙性ドラマならワイヤーすら使いませんのに」
真尋「いつも虚弱貧弱だの言ってるじゃないか、宇宙基準でいったら本当に弱いぞ地球人は」
ニャル子「え、でも真尋さんは忍者の末裔か何かじゃないんですか」
真尋「いやいやないだろ」
ニャル子「…じゃああのフォークその他の投擲術とか何ですか、明らかに忍者か何かでしょう」
真尋「そういわれてもなぁ、学校着いたか、もういいだろ、この話は」
ハス太「真尋君が忍者かー」
真尋「ハス太もぼけっとするな、さっさと教室いくぞ」
真尋「んー、そういや昼飯どうするか考えてなかったな」
ニャル子「ファミレス行きましょう、ファミレス」
真尋「別にいいけど、高いんだよなぁ」
ニャル子「大丈夫です、収入も蓄えもたっぷりです、だから結婚しましょう真尋さん」
真尋「いきなりどうした」
ニャル子「いえ、こうでもしてないと私がヒロインということを忘れそうなので」
クー子「……少年早く」グー
真尋「ああ、ファミレスでいいよな、クー子もハス太も」
クー子「……オールオッケー」
ハス太「大丈夫だよ」
ニャル子「ガイアが私にいけと囁く」
クー子「……ニャル子の属性は土/地面という高度なギャグ」
ニャル子「今誰か私の事笑いませんでしたか」
真尋「別に誰も笑ってないぞ」
ニャル子「今ならホッパーになれます」
真尋「誰に向かって話してるんだよ」
クー子「……すいませんパフェ追加」
ニャル子「あんたほんとどうなってんですか」
クー子「……私の胃袋は宇宙だ」
真尋「理由になってないだろそれ」
クー子「……もいっこパフェ」
ハス太「成長してるもん」
真尋「あと何年成長期なんだ」
クー子「……少年的には大きいほうが好きなの?」
真尋「ブフッ」
クー子「……少年、顔に噴出すなんて汚い」
真尋「いやごめん、けど変なこというお前も悪い」
クー子「……?ハス太君が大きくなったほうがいいのかなって思っただけ」
ニャル子「真尋さん・・・」
真尋「そんな目で僕を見るんじゃない」
クー子「……支払いは私に任せろー」バリバリ
ハス太「やめて!」
クー子「……どうして?」バリバリ
ニャル子「みっともないからやめなさいってんですよ」
クー子「……」バリバリ
ニャル子「そのバリバリするのをやめなさい!」
クー子「……現金で」バリバリ
ニャル子「あーーーもう」
ニャル子「まぁいいでしょう、ついでにやっぱりBD見ますか?」
クー子「……少年は私とボンバーマン」
真尋「そういや昨日のニャル子の介入で僕が寝てしまったのか」
ニャル子「なんだそういうことですか、だったら大丈夫です、真尋さんの部屋なら2つテレビあるじゃないですか」
真尋「いやまぁ別にいいけどさ」
ニャル子「そういえばハス太君は妹でしたね」
ハス太「え?」
ニャル子「いえ、なんでもないです」
クー子「……私の愛の巣」
ハス太「僕の愛の巣」
真尋「おまえら人の家をなんだと思ってるんだ」
ニャル子「じゃあ10分後真尋さんの部屋で」
クー子「……少年」クイクイ
真尋「どうした」
クー子「……おやつほしい」
真尋「さっき充分食ったろうが!」
クー子「……ぐすん」
クー子「……少年、光と闇のエレメンタルはもちろん取りにいく」
真尋「クー子の腕なら普通にクリアできるんじゃないのか」
クー子「……完全クリアするのが私の流儀」
ニャル子「じゃあ再生開始、ぽちっとな」
真尋「ん、光の惑星も終わりか」
グー
ニャル子「宮子ってこんなに効果音だしましたっけ」
ハス太「どうだったっけ」
クー子「……少年おなかすいた」
真尋「おまえかよ、だからなんでそんなに腹減るんだよ」
クー子「……最近熱量大サービスしすぎた、興奮しすぎた」
真尋「興奮って、そうか、3時のおやつくらい作ってやるから、とりあえず興奮しなくなることからはじめろ、な?」
クー子「……がんばる」
クー子「……」モシャモシャ
ニャル子「なーーんかいいきもっちーなーっれば、いいかんじー」
真尋「なんか声そっくりだな」
ニャル子「あすみんですから」
真尋「だからあすみんって誰なんだよ一体」
ニャル子「あすみんはあすみんです」
クー子「……補給完了、闇のほうにいく、少年準備して」
真尋「闇って地味にめんどくさいよな」
クー子「……エンディングのために倒さないといけない」
クー子「……テンション上がってきた」
ニャル子「さて、2期行きますかハスター君」
ハス太「うんそうだね」
ニャル子「2期からなら出番もありますよ」
真尋「やっぱ飛行できると便利だな、足場気にしなくていいし」
クー子「……とりあえず中ボス」
真尋「こいつはあれだろ、シャンタッ君小さい状態と僕みたいなもんだろ、戦えねーよ」
クー子「……でも少年この間秘密兵器倒してた」
真尋「なんで僕が倒した奴だけ死体消えなかったんだよ、ある意味生々しいぞ」
クー子「……少年も属性攻撃を覚えればいける」
真尋「いけるじゃねえよ、いけねえよ人間には無理だ」
クー子「……ハイパースピリットエヴォリューションすればなんとか」
真尋「できねえから」
クー子「……正直舐めてた」
ニャル子「まだやってたんですか、こっちはもう2期終わりましたよ」
ハス太「僕おなかすいちゃった」
真尋「もうこんな時間か」
ニャル子「今日くらい私も台所に入れてください、真尋さん、入れて!中に!」
真尋「だーうるせええ、わかったから少し静かにしろ!」
真尋「だから邪神を料理に混ぜようとするな!」
真尋「ったく普通に料理すればうまいのになんで変なことをしようとするんだ」
ニャル子「いやーんてれますねえ」
クー子「……少年とニャル子楽しそう、やっぱり私も料理覚えたいかも」
ニャル子「あんたどさくさにまぎれてつまみ食いしてんじゃねーですよ」
真尋「まぁ自分で食えば料理練習しても無駄にはならんだろうしな」
真尋「お前味噌汁しか作ってないだろうが」
ニャル子「……いいんですよ別に」
クー子「……少年、水、水」ハフハウ
真尋「おまえも一瞬で味噌汁飲んで猫舌設定忘れるんじゃない」
真尋「ほんと良く食うなお前は」
真尋「ところでニャル子、味噌汁の具、なんだこれ」
ニャル子「普通に豆腐にわかめに油揚げですよ」
真尋「なんか硬くないかこの豆腐」
ニャル子「江戸時代の豆腐です、角に頭をぶつけて死ねますよ」
真尋「なんでおまえがもってんだよこんなもの」
ニャル子「禁則事項です」テヘペロ
真尋「うるせえ、話して見ろ」
ニャル子「真尋さんとクー子の仲が良かったのであわよくば撲殺しようかと、証拠も食べればなくなりますし」
クー子「……宇宙のなまらすごい技術ならたぶん蘇生可能」
真尋「ここ地球だからな?救急車とかくるのか?こっちまで」
ニャル子&クー子「・・・・・・」
真尋「え、まさか来るのか?呼べば地球に来るのか?」
ニャル子「いやぁ、どうでしょうね、レスキューソルジャーがいるくらいですし、いけるんじゃいですか」
真尋「その前に風呂入れよおまえら」
ニャル子「時間もったいないですし、一緒に入りましょう真尋さん」
真尋「何しでかすかわからんからやだ」
クー子「……じゃあニャル子、私と」
ニャル子「何やらかすつもりですか、お断りですよ」
ハス太「じゃあ僕と入ろうよ真尋君」
真尋「身の危険を感じるからやだ」
クー子「……じゃあ私は?」
真尋「んー・・・いや、一応男と女だしダメだろ」
ハス太「僕一応男だよ真尋君」
ニャル子「なんなんですかね、この差は」
クー子「……じゃあ次は私が」
真尋「おう、入れ入れ」
ハス太「シャンタッ君おいで」
シャンタッ君「みー」
真尋「しかし本当、ニャル子意外になついてないか、シャンタッ君は」
シャンタッ君「みー!?」
真尋「まぁ見捨てられたりしたし、仕方ないのか、ところでシャンタッ君以外のカプセル怪獣ってどうなってるんだ」
シャンタッ君「みーみみみー」
クー子「……ここではリントの言葉で話せ」
真尋「それが言いたかっただけだろ」
クー子「……しょぼん、でも言ってることが分らないのは本当」
ハス太「ぼくもよくわからないんだけどね」
真尋「この中で一番なついてないニャル子しかわからないというジレンマだな」
真尋「なにやってんだ、ちゃんと拭いて来い、クー子、次お前だろ、一緒に行ってこい」
ニャル子「ちょ、ちょ、真尋さん!くそう、私が着替える前に入ってきたら1,2,3でライダーキックかましますよ!」ダッ
クー子「……ちょっと行って来る」
真尋「家は壊すなよ」
クー子「……覚えておく」
真尋「そんだけ元気なら大丈夫だろ」
ニャル子「そんなこといって婚期逃して誰か貰ってやれよって言われるのはいやです、絶対いやです」
ハス太「何の話なの?」
真尋「いや、僕もよくわからん」
クー子「……あがった」
真尋「早かったな」
クー子「……なんとなく早く上がらないといけない気がした、名誉のために」
シャンタッ君「みー」
ニャル子「カーッ風呂上りはこの一杯」
真尋「親父かよ、腰に手まで当てやがって」
ニャル子「何いってんですか、ギャップ萌えですよ」
真尋「自分でそういうこというなよ、あざといな」
クー子「……コーヒー牛乳こそ至高」
真尋「まぁいいや皿洗い皿洗い」
真尋「ハス太、髪ちゃんとふけてないぞ」
ハス太「あれ、そうかな」
真尋「ちょっと来い」
ハス太「んー」ワシャワシャ
真尋「よし、これでいい」
ハス太「じー」
真尋「どうした、僕もう風呂はいるんだけど」
ハス太「うん」ジー
真尋「だから、そのなんか脱ぎにくいんだけど」
ハス太「大丈夫だよ、男同士だもんね」
真尋「え、ああ、それはそうだけども、流石に凝視されると」
ハス太「えー」
ニャル子「あー真尋さーん」
真尋「どうした」
ニャル子「お湯加減どうですか」
真尋「ガス給湯の時代にその台詞はどうなんだ」
ニャル子「ダイナミックエントリー!」
真尋「うおおおおおい」
真尋「ん、なんだこの流れ」
クー子「……人力給湯器」ガラッ
ニャル子「……」
真尋「……」バッ
クー子「……」
ニャル子「ナズェミデルンディス」
真尋「前くらい隠せぇ!」
クー子「……別に見られても減らないし、困らないし」
真尋「そういう問題じゃないだろ、こんな浴室いられるか!僕は部屋に戻る!」
クー子「……まだだ、まだ終わらんよ」グイ
真尋「」
ニャル子「真尋さーんこっちみていいんですよ、クー子はどさくさにまぎれてどこ触ってんですか」
クー子「……すきあらば3P、なくても3P」
真尋「どうしてこうなった」
クー子「……ねーえしょーうねん、こっちむーいて」
真尋「歌ってもダメだ」
ニャル子「コッチヲミロオオ」
真尋「新手のスタンド使いかお前は」
ニャル子「なんです?」
クー子「……何」
真尋「こういうこともあろうかとフォークをな、風呂釜の蓋の内側に入れておいたんだ、そして今2本持ってる、この意味が分るな」
ニャル子「本当に忍者か何かじゃないんですか真尋さん」
クー子「……ニャル子、逃げよう」
ニャル子「分ってますよ、せーの!」
真尋「逃がすか、説教くれてやる」
※「以下は真尋がフォークで2人めがけて突き刺す動作を完了するまでの一瞬の出来事である」
ニャル子「流石0フレームですね、もうこんなところまで、クロックアップが無ければ死んでいたところです」
ニャル子「クー子が動いてません、奴はこの戦いにはついて来れそうもないので置いてきた」
クロックオーバー
クー子「……ニャル子、ひどい、ぐすん」
真尋「あ、あれ、クー子?おまえ一緒に逃げたんじゃ」ズボッ
クー子「……カードもしくは腕時計のような形をしたアレが必要、今の私にそれはない、痛い」
真尋「ああ、ごめんごめん、本気で刺さなくて良かった」
クー子「……本気じゃなくてこれなの?」
真尋「そういや変な声が聞こえたような」
クー子「……天の声」
真尋「天の声?」
クー子「……天の声」
真尋「ところですっごいお湯熱いんだけど」
クー子「……沸かしすぎた」
クー子「……少年がのぼせた」
クー子「……少年?少年?」ペチペチ
クー子「……仕方ない、私がプットオンする」
クー子「……少年はのぼせたのだ、残念ながら犯人は私」
真尋「あーこれきもちいいな」
クー子「……アフーム=ザーは夏場に重宝」
真尋「本当便利だよおまえ」
真尋「ところでこれ、服とか全部クー子が?」
クー子「……うん」
真尋「……」
クー子「……」
クー子「……怒ってないの?」
真尋「いや、なんというか、いつものことだし」
クー子「……そう」
ニャル子「真尋さーん、まだ怒りは有頂天ですか」
真尋「いや別に怒ってはいないけどさ、一人だけ逃げるのってどうなんだおまえ」
ニャル子「やだなぁ、足の遅いほうにそろえると高機動力は活かせませんよ」
真尋「そういう問題じゃないだろ」
クー子「……でもある意味おいしかった」
ニャル子「何がです」
クー子「……少年と二人でお着替え、気絶してたけど」
ニャル子「」チーン
ニャル子「ウンメイノー」
ニャル子「そうです、思い出しました、3期みましょう3期、ハスター君も首を長くして待ってますよ」
真尋「そういやそうだったな」
クー子「……少年、コーヒー牛乳」
真尋「ああ、ありがとう」ゴクゴク
ニャル子「って、あんたそれさっき飲んでませんでした?」
真尋「ブフッ」
クー子「……少年、せっかくお風呂入ったのに、汚い」ビチョビチョ
真尋「ああ、ごめん」
クー子「……どうかした?」
真尋「どうかしたって・・・・いやなんでもない」
クー子「……少年、行こう・・・どうしたの少年」
真尋「あ、いや、別になんでもない」
ニャル子「ほーらー、はやくしてください」
クー子「……少年」クイクイ
真尋「どうした」
クー子「……お腹すいた」
真尋「結局そうなんのかよ!」
真尋「え、いきなり何」
ニャル子「えーなんかあるでしょう、何かこう、こみ上げてくるものが」
真尋「そういわれてもなぁ」
ニャル子「面白くありませんねぇ、ぶーぶー」
クー子「……個人的には吉野屋先生押し」
ニャル子「何処がいいんですか」
クー子「……17歳なところ」
真尋「おいおい」
クー子「……どうしたの少年」
真尋「いや、ちょっと気になることが」
クー子「……何」
真尋「いや、ニャル子のアホ毛なんだけど、あれ、どうなってんだ?」
クー子「……わからない」
真尋「いや、まぁ動くのはアニメや漫画でたまにいるけどあそこまで動く奴はなかなか・・・しかも実際にいるとなると」
クー子「……そう言われると気になってくる」
ハス太「どうしたの2人とも」
真尋「ああ、ハス太、ちょっと耳貸せ」
真尋「ニャル子のあのアホ毛、どうなってるか知らないか?」
ハス太「んーわかんない、でもにゃるらとほてぷ星人の人は大体はえてるかなぁ」
真尋「ん、そうなのか、そういえばニャル夫も生えてたな」
ハス太「え?これ?」
真尋「触ってもいいか」
ハス太「いいけど」
真尋「別に普通の髪か」さわさわ
真尋「そういやクー子もその髪ほどいたところ見たことないんだけど、何かあるのか?」
クー子「……え」
真尋「え、じゃないだろ、いや普通ツインテールとかって寝るときとか風呂のときとか解くもんじゃないのか」
クー子「……そういうものなの?」
真尋「もしかして僕が細かいこと気にしすぎなのか?」
クー子「……少年はきっと疲れている、さっきものぼせたばっかりだし」
真尋「なんだ?」
クー子「……さっきのは私にも非がある、膝枕する権利を与える」
真尋「される権利じゃないのか」
クー子「……細かいところを気にしすぎている、やっぱり少年は疲れている」グイ
真尋「お、おい」トス
クー子「……よーしよしよしよしよし」
真尋「どこのムツゴロウさんだよ」
ニャル子「なーに後ろでいちゃついてんですか、ラジオ体操しますか?強制的に」
真尋「あーなんかねむ・・・zzz」
ハス太「真尋君寝ちゃったね」
クー子「……さっきまで気絶してたし仕方ない」
ニャル子「そんなもんですかねぇ」
ニャル子「はーいなんですか」
真尋「ちょっと、動くなよ、目瞑れ」
ニャル子「えっ、まさか・・・」
真尋「よし」ガシッ
ズボッ
プチニャル子「キィエエアアアアアアア」
真尋「」
真尋「アホ毛の根元にちっこいのついてるううう」
プチニャル子「知ったな!実はこの小さいのが本体だって、知ったな!」
真尋「」
④
ハス太「どんな夢みてるんだろう」
ニャル子「ちょっとクー子、そこ代わりなさいよ」
クー子「……だめ、少年起きちゃう」
ニャル子「これを引っこ抜くことでハイパークロックアップできます、いわゆるハイパーキャストオフ用のアホ毛です」
真尋「どうなるんだ」
ニャル子「こうなります」ブチッ
ニャル子「キイイイエエエアアアアアアアア」
真尋「」
ハス太「一体夢で何が」
ニャル子「ちょっと、誰も一緒に私とアニメみてくれないんですか、もう終わりますよこれ、トマトパーティ回ですよ」
クー子「……ちゃんと見てる、見てるけど少年と半々」
ニャル子「本当あんたそこかわんなさいよ」
ニャル子「えーなんですか」
真尋「そぉい」ブチッ
ニャル子「ありがとう、やっと私は解放されました、これは実は毒電波アンテナでこれのおかげで妙なことになってたんです、ありがとう少年」
真尋「なんだこのきれいなニャル子」
ニャル子「何かお礼しないといけませんね、何が良いやら・・・・あ、そうですちょっとこちらへ・・・」
チュッ
ニャル子「フフ・・・ありがとうございました」
クー子「……少年途中までうなされてた、けど途中からなんか微妙ににやけてた」
真尋「そうなのか・・・なんかひどい夢を見ていた気がするのは覚えてるけど」
ニャル子「お目覚めですか真尋さん、さあ一緒にアニメを!もう最終回ですし!さあ!さあ!」
真尋「ハァアア」
ニャル子「なんですかそのため息は」
真尋「いや、別になんでもないよ」
ニャル子「え、アホ毛ってこれですか、さあなんでしょうね、親戚一同みんな生えてましたし」
真尋「引っこ抜いたら綺麗になったりしないのか」
ニャル子「いやもしかしたら黒化するかもしれないですけど」
真尋「どこの腹ペコ王様だ」
クー子「……少年、夜食の準備を」
真尋「おまえはどこに食いついてるんだ」
クー子「……おもいっきり肉に食いつきたい」
クー子「……だってアニメでご飯とか食べてたらお腹すく」
真尋「言われてみれば、確かに食ってるな」
クー子「……日朝8時から料理番組としか思えないライダーもあった、あれは朝飯食べてなかったら死ねる」
ニャル子「いや確かにあれは料理番組ですけど」
クー子「……というわけで何か食べたい」
真尋「なんかキリが悪いからとりあえずアニメ終わってからな」
真尋「続編あるのかこれ」
ニャル子「サザエさん時空に突撃しないと終わっちゃいますけどね」
真尋「なんだその胡乱な時空は」
クー子「俗にいう無限ループ5回クリスマスをやっても1年も年を取ったことになってない」
真尋「なんだおまえらみたいなもんか」
ニャル子「HAHAHAこやつめ」
クー子「……HAHAHA」グリグリ
真尋「わかった悪かったから高速でコメカミにグリグリするのはやめろ」
クー子「……少年、話が分る」
ハス太「」うとうと
真尋「ほらハス太、部屋戻って寝たほうがいいぞ」
ハス太「んーつれてって」
真尋「仕方ないな、ついでにつれてくよ」
ハス太「だっこ・・・」
真尋「どこの幼稚園児だ」
真尋「ああ、おやすみ」
真尋「さて食料か、毎年母さんが缶詰を大量に旅行帰りに持って帰ってきていたけど、これも邪神ハンティングの物資なのか」
真尋「やけにスパム缶が多い…僕あんまり好きじゃないんだけど、あいつら食うかな、まぁ食わんだろうな」
真尋「まぁ桃缶でいいか」
クー子「……よくやった名誉勲章を与える」
真尋「いらんいらん」
クー子「……缶きりは?」
真尋「ほら」
ニャル子「まったくなんでこんだけ食ってこんなに細いんですかねこいつは」
真尋「おまえはおまえでどんだけ食っても見た目変わるんだし妬む必要あるのか」
ニャル子「ありませんねまったく」
クー子「……ニャル子くらいおっぱい欲しい」
ニャル子「ここまでくるとあんたの場合遺伝か何かで無理なんじゃないですか」
クー子「……そんなことない、一族郎党大体大きい」
ニャル子「じゃああんたは特異点です」
真尋「こういうガールズトーク始まったらどうすりゃいいんだろうな」
クー子「……女装に目覚めてたらもっといい」
真尋「目覚めたくないよ絶対に」
ニャル子「ウェイクアップフィーバーしましょうよ」
クー子「……ためしにこのリボンを」ファサァ
真尋「クー子のツインテールが解けた・・・?」
ニャル子「だと・・・?」
クー子「……2人ともそんなに見つめたら照れる」
真尋「ああ、いや、別に、うん、新鮮だなと思って、うん」
ニャル子「ここにきて本当にあざとい邪神ですねこいつは」
真尋「というかとれたんだなそれ」
クー子「……少年カモン、リボンを装着する」
真尋「大丈夫なんだよなそれ、僕の髪燃えないよな」
クー子「……熱量は抑えてある」
真尋「熱量ってなんだよおい」
ニャル子「んーまぁこれでもかわいいですけどねぇ」
真尋「もういいだろ?ほらリボンとってくれ」
クー子「……少年、つけて」
真尋「え?自分でつけるもんじゃないのか?」
クー子「……はずそうと思ったことすらなかった」
真尋「ニャル子できないか?」
ニャル子「いや私はツインテールなんてやったことないですし」
真尋「僕だってまれにハス太の三つ編み結わうくらいだし」
クー子「……早く結んで、何か知らないけどバランス取れない」
真尋「櫛は?」
ニャル子「はいこれ」
真尋「というかこれニャル子がやったほうがいいんじゃ」
ニャル子「いやですよ、突然燃え出したりしたら私の手がえらいことに」
真尋「そんなこと言われたら怖いわ」
クー子「……大丈夫大丈夫、クー子を信じてー」
真尋「逆に信じられないだろそれ、間違いなく前振りの類だ」
ニャル子「なんかコレジャナイですね」
クー子「……これはサイドテール」
真尋「んー意外と難しいなこれ」
・・・
真尋「こうか?」
クー子「……もうちょっと上」
……
真尋「こうか?
クー子「……下の髪もまとめてツインテールのほうに」
……
真尋「おおできた、これだこれ」
クー子「……コンプリート」
クー子「……そう」
真尋「予想外に時間かかったな、そろそろ寝るか」
ニャル子「ああ、終わったんですか」
真尋「ああ、おやすみ」
ニャル子「おやすみなさいませ」
クー子「……おやすみ」
真尋「なんでここでゲームやってんだよ!まだ朝の8時だろうが」
ニャル子「いえね、昨日64やってたのでちょっと無性にやりたくなったんですよ」
ハス太「それに特番でみるものないし」
真尋「あーそういう」
クー子「……戦え・・・戦え・・・」
ニャル子「4人揃いましたね、ククク闇のデュエルの始まりです」
真尋「は?何?」
ニャル子「いや、簡単なことです、ビリが朝飯作るんです」
真尋「いやちょっとまて」
ニャル子「なんです?」
真尋「こいつらがまけたらどうなるんだ」
ニャル子「そのときはそのときでしょう」
真尋(戦う前から破綻してやがる)
ニャル子「ここはやはりレインボーロードで、もちろんショートカットはなしで」
真尋「ん、ショートカットなしでいいのか、ニャル子のことだからつかいまくるんだと思ってたが」
ニャル子「いえ、大丈夫ですよ」
真尋「どうした、クー子とハス太、小刻みに震えて」
クー子「……少年は知らない、ニャル子の恐ろしさを」
ニャル子「じゃ、いっきますよー」
ニャル子「ひゃっふー、何人たりとも私の前は走らせねえ!」
真尋「おかしいだろ、絶対おかしいだろ、なんでニャル子1位の癖に取る?ボックス全部スターからのスーパーキノコなんだよ、どんだけ加速してんだこいつ」
クー子「……これがニャル子の恐ろしいところ、まず追いつけない、しかもショートカットを使用封じすることで完全なる独走」
真尋(ふむ・・・しかし、これはあくまで4位にならなければいいだけのこと)
クー子(ニャル子に視線を向けさせることで2位3位を蹴落とせばいいだけのこと)
ハス太(ラス回避が基本だよ)
クー子(……と、なるとこの際、最善の策は)
ハス太(真尋君がどべになること)
クー子&ハス太(何せ私(僕)は料理ができない!)
クー子&ハス太(朝飯のために!)
クー子「……」チラッ
ハス太「……」コクコク
真尋(非常にやばいオーラを感じる、いや、この際負けても普段と変わらないといえば変わらないが、負けるのはなんか癪だ)
ニャル子「3人仲良く横並びですね」
真尋「ああそうだな」
ゴゴゴゴゴゴゴゴ
クー子(……さて、少年はどうでるか)
ハス太(……とりあえず真尋君には消えてもらうよ)
真尋(純粋な速さはほぼ互角だ、おそらくバナナ一本の差で負ける世界だ、なら)
クー子「……なぜここでブレーキ、まさか」
真尋「4位なら大体スターがくるからな」
ハス太「無駄だよ、スターが切れると同時にこの赤こうら×3を2セット叩き込むだけだもん」
クー子「……こっちとしては朝ごはんを食べるためにきているようなもの、少年とは覚悟が違う」
真尋「くそう、やっぱり組んでやがったか、アイテムもないしぎりぎりおいつけねえ」
ハス太「残念だったね、真尋君、ジ・エンドだよ」
真尋「ちくしょう、あと3メートルの差があああ」
クー子「……!?なぜ、なぜこんなところにバナナが」
ニャル子「あ、そういやきまぐれでバナナひいてたんですよね、一応黄色い場所に巻いとくセオリーくらいは守りましたが」
1ニャル子 2ハス太 3真尋 4クー子
次→真尋「寝たふりしてクー子をやり過ごそうとしたらキスされた」 後半
Entry ⇒ 2012.06.25 | Category ⇒ ニャル子さんSS | Comments (0) | Trackbacks (0)
真尋「寝たふりしてクー子をやり過ごそうとしたらキスされた」 後半
前→真尋「寝たふりしてクー子をやり過ごそうとしたらキスされた」 前半
クー子「……無茶ぶり」
ニャル子「さっさと作ってきなさいよハッハー」
真尋「何キャラだよおまえは」
ハス太「ごめんね、クー子ちゃん、流石にあの状況でバナナは気づかなかったよ」
クー子「……勝利を確信した私が悪い、確信した瞬間負けていた、でもでも少年手伝って」
真尋「まぁそうなるだろうな、むしろ一人で好き勝手やられたほうが怖い」
クー子「……ありがとう少年」
ニャル子「ちっ・・・」
真尋「まぁそういうなら後ろから見とく程度にしとくか」
クー子「……少年、卵を握って卵焼きってできる?」
真尋「それどっちかというとゆで卵だろ」
クー子「……じゃあもう少年に任せる」
真尋「諦めるの早いな本当に」
クー子「……諦めが肝心だっておじいちゃんが」
真尋「あー僕がちゃんとサポートするからもうちょいがんばろう、な?」
クー子「……そこまでいうなら」
真尋「じゃあ簡単なところからベーコンエッグでも作るか」
クー子「……手順は?」
クー子「……卵を割って」グシャア
クー子「……」
真尋「……」
クー子「……料理べたの設定ではよくあること、ハイパーバトルビデオでもやってた」
真尋「ああもうわかった、僕が作るよ」
クー子「……しょぼん」
真尋「そうだな」
クー子「……ぐすん」
真尋「嫁にいけるのかこれ」
クー子「……元々嫁になる予定がなかった、ニャル子は昔から料理できたし」
真尋「開きなおってるな」
クー子「……でももう安心、少年もいるし」
真尋「寿命の長さに気づけよ、僕だっていつまでも生きてるわけじゃないんだし」
クー子「……不死の薬で強制的に私のコックに」
真尋「いやその理屈はおかしい」
真尋「・・・本音は」
ニャル子「私も得します、もっとやれ」
真尋「ハァ・・・」
ニャル子「さぁもう朝飯も終わったんですし、今度はディーディーコングレーシングです」
真尋「まだやんのかよ、本当どこからそんな元気がわいてくるんだ」
ニャル子「何か足りないものでも」
真尋「いや、流石に食料がもう底を付いてるからとりあえず今日の分と明日の朝昼分くらい買っておかないと」
ニャル子「では私も」
真尋「いやいいよ別に、すぐ済ませるし、何よりおまえらが付いてきたらそのほうが時間かかる気がする」
ニャル子「なんか含みのある言い方ですね」
真尋「ゲームしてろゲーム」
真尋「ただいま」
ニャル子「おかえりなさいませ、タオルもってきますね」
クー子「……少年ずぶ濡れ」
真尋「あーシャワー浴びたほうがいいかもしれない」
クー子「……それくらい問題ない、乾かせる」
真尋「といっても両手でアイロンがけされても時間かかるよ、やっぱりシャワーに」
クー子「……まどろっこしい」ギュッ
真尋「だー抱き付くな」
クー子「……これならすぐ乾く」
真尋「そうじゃない、そうじゃないんだ」
ニャル子「なーにやってんですか二人とも」
クー子「……まだ半乾き、ダメ」グイグイ
ニャル子「おのれクー子ォォォォォ!あんたのせいで私と真尋さんのラブラブ世界も破壊されてしまいましたよ!」
ニャル子「世界を破壊してその瞳は一体何を見ているんですか」
真尋「おまえも何言ってんだよ」
クー子「……終わり」
真尋「本当にパリッパリだよ」
クー子「……クリーニング屋のバイトなら出来る気がする」
ニャル子「いっそ住み込みでバイトやったらどうなんです、猫舌ですし、無愛想ですし」
真尋「黒いオーラ出しながら言うんじゃない」
真尋「クー子とか普通に好きだろ、おまえのこと」
ニャル子「……いつになったらこの家をでていくのかなぁ?」
クー子「……ニャル子、それ以上いけない、首を折られて死ぬことになる」
ニャル子「けっ、首を折られて死ぬのは人間くらいですよ」
真尋「いやいや動物とか普通に折れたら死ぬから」
クー子「……それより少年、お腹すいた、お昼、お昼」
真尋「そういやそうだったな、でもお昼分買うの忘れてた」
クー子「……じゃあ何、断食なの?」
真尋「いや、素麺がまだあったはず・・・」
クー子「……少年もそのうち麦茶量産しつつ昼には素麺を振舞うようになる」
真尋「田舎のおばあちゃんかよ」
ニャル子「まだ上じゃないんですか」
真尋「しょうがない、呼んで来る」
ニャル子「さきに食っちまっても構いませんよね」
真尋「別にいいけど・・・全部食うなよ?」
クー子「……保障は出来ない」
真尋「いや保障しろよ、ったく」
真尋「ハス太ーできたぞ」
ニャル子「真尋さんは行きましたね、素麺といえばやっぱり」
クー子「……あれをやるしか」
真尋「いや、素麺だけど」
ハス太「素麺かぁ、素麺といえばやっぱりあれやるんだよね」
真尋「あれ?あれってなんだ」
ハス太「えー、素麺といえばやっぱり」ガチャ
ニャル子「あ、真尋さん戻りましたか、でははじめましょう、流しソーメンを」
真尋「なんじゃこりゃああ、僕が出る前は竹すらなかったよな、なんでこんな大規模ウォータースライダーみたいに入り組んだ流しソーメンセット作れるんだよ」
ニャル子「言いましたでしょう、クロックアップしたニャルラトホテプ星人は人間を遥かに超えたスピードで活動する事ができると」
真尋「だからってやりすぎだろ、せめて常識的に1つで作れよ、なんだよこれ、本当になんだよこれ」
クー子「……少年、もっと褒めて」
真尋「褒めてねーよ!」
クー子「……少年はそうやって子供の自由な発想を潰していく」
真尋「おまえらは自由過ぎるんだよ」
真尋「う、うるさいよ・・・終わったらちゃんと片付けろよな」
ハス太「流し素麺一度やってみたかったんだ」
クー子「……ハス太君は話がわかる、やはり地球のアニメでやってるの見るとやりたくなる、うちではやったことなかった」
真尋「普通地球の一般家庭でもやらないからな」
ニャル子「・・・?今やってるじゃないですか」
真尋「不思議そうな顔するなよ、おまえの発想のほうが不思議だわ」
ニャル子「別にいいじゃないですか、普通に食べるより楽しいじゃないですか」
真尋「どうでもいいけど流し素麺に分岐路とか必要なのか?」
ニャル子「何いってるんですか、一本道だとただのタイミング勝負じゃないですか」
クー子「……少年には遊び心が足りない、張り詰めた糸はすぐ切れる」
真尋「ぐ、わかったよ」
真尋「どうした」
ニャル子「やっぱり素麺足りません、クー子の奴が大量に食いやがりますので」
真尋「あー、だろうな」
クー子「……私の半歩以内に全てのソーメンが集まる、クー子ゾーン」
ニャル子「交差点に居座ってんじゃねーですよ!」
真尋「まぁ僕とりあえず茹でるから、もうちょっと仲良くやれ、喧嘩して破壊とかするなよ、水浸しになったら困るからな」
ニャル子「真尋さん・・・フラグですか?前振りですか?」
真尋「やるなよ?絶対やるなよ?フォークで刺すからな」
ニャル子「わ、わかってますって、いやだなぁ、流石にそこまでやんちゃしてませんよ」
クー子「……私の半径1メートルは聖域、何人たりとも入らせない」
ニャル子「こうなったら実力行使です」
クー子「……どうするつもり」
ニャル子「なーにあんたが食えなくなるまで素麺流すだけです、真尋さーん、素麺追加ですお願いします」
真尋「おまえら一箱全部食うつもりかよ」
ニャル子「覚悟なさいクー子、あんたの胃袋の限界を突破してみせます、ほーれほれほれ」
クー子「……望むところ」
ハス太「結局こっちまでこないよ」
ニャル子「認めざるを得ませんね、若さゆえの過ちを」
真尋「ただの構造上の欠陥だろうが」
クー子「……おかわり」
真尋「ほらもう半分だ」
ニャル子「そぉい!」
真尋「あ、こら、全部流すな!」
ニャル子「かまいません、これだけ流せば取りきれません、胃袋に限界はなくても皿のほうに限界が・・・限界が・・・」
ミシミシ
ニャル子「げん・・・」
バキバキバキ
真尋「あーあ」
クー子「……ニャル子、鉄骨抜いたのはまずかった」
ニャル子「まさかこんな程度の衝撃で、あ、ちょっと、フォークは出さないで下さい掃除はしますから」
真尋「ったく、ほらハス太、こっち来い、残りの素麺食べるぞ」
ハス太「うん」
クー子「……私も」
真尋「お前はダメだ」
クー子「……ぐすん」
真尋「一口だけな」
ニャル子「ありがてえ!ありがてえ!」
真尋「じゃ、ほら掃除しろ」
ニャル子「畜生、畜生めぇ、真尋さんが振り向いてくれないのも、今こうして掃除してるのも全部クー子のせいです」
クー子「……人のせいにするのはよくない、でも責任取れって言うのなら責任はとる、結婚しよ?」
ニャル子「あんたって奴は・・・」
真尋「いいからほら、掃除しろ」
ニャル子「あーもう、決壊したせいでびしょびしょですよ」
クー子「……私が乾かしてあげる」
ニャル子「抱きつこうとしてんじゃねーですよ!私の半径1mに寄るんじゃねーです!このっこのっ」ゲシゲシ
クー子「……ニャル子痛い、でも気持ちいい」
真尋「近寄るなっていいつつなんで足蹴にしてるんだろうな」
ハス太「ごちそうさま」
ニャル子「さて掃除も終わりましたしびちゃびちゃですので私はお風呂に」
真尋「床ちゃんと拭いたか?」
ニャル子「もちろんです、もちろんですとも、ところで真尋さん」
真尋「なんだよ」
ニャル子「見に来たっていいんですよ、私の入浴シーン」
真尋「いかねーよ、入るならとっとと入れ」
ニャル子「……なーんでここでガッツリきてくれないんですかねぇ」ブツブツ
クー子「……じゃあ私が」
ニャル子「あんたは黙っときなさい」
クー子「……」
ハス太「うん、おやすみ」
クー子「……暇を持て余す」
ハス太「うーん、やることないね、でもたまにはゆっくりしてもいいんじゃない?」
シャンタッ君「みー」
ハス太「僕たちも昼寝しよっか」
シャンタッ君「みー」
クー子「……暇」
クー子「……もしもし、ドッピオです」
クー子「……」
クー子「……暇」
クー子「……ニャル子入浴中、レッツゴー」
ニャル子「何奴!?もしかして真尋さーん?」
クー子「……かわいい男の子だと思った?残念クー子ちゃんでした」
ニャル子「帰りなさい、ぶっとばされんうちにな」
クー子「……さきっぽだけ、さきっぽだけだから」
ニャル子「なんの先っぽですか、回れ右してさっさと帰りなさい」
クー子「……みーせーてーニャル子の体みーせーてー」
ニャル子「くにへかえるんだな おまえにもかぞくがいるだろう」
クー子「……ぐすん」
クー子「……また暇になった」
クー子「……この際少年で」
クー子「……少年」
真尋「Zzz」
クー子「……寝てる」
クー子「……暇を持て余す」
クー子「……」
クー子「……仕方ない、私もお昼寝」
クー子「……Zzz」
真尋「んん・・・」Zzz
クー子「……んー」Zzz
真尋「あつ・・・」Zzz
クー子「……」Zzz
真尋「・・・何やってんだこいつ」
クー子「……」
クー子「……ぐーぐー」
真尋「起きてんだろ」
クー子「……ぐ、ぐーぐー」
真尋「まぁいいや、めんどくさいし、寝なおそう、ほどほどにしとけよ?」
真尋「すりすりするな」
クー子「……知ってる?少年、実はさっき少年とお楽しみだった、麺つゆに含まれるアルコールで少年のタガが外れて」
真尋「アルコールなんか入ってないだろ」
クー子「……昔の少年なら少しくらい取り乱したのに」
真尋「馴れたくないけど慣れちゃったからな」
クー子「……暇」
真尋「だから寝させろよ、そしておまえも勝手に寝るかゲームするかお菓子でも食ってろ」
クー子「……お菓子作ってくれるの?」
真尋「いや、だから寝かせろよ」
クー子「……仕方ない、起きたらもう一度頼む」
真尋「あーはいはいそれでいいからもう」
クー子「……んんっ」スリスリ
真尋「ん・・・?」
クー子「……んん」スリスリ
真尋「……おいこら、何やってんだ」
クー子「……起きてしまった」スリスリ
真尋「暑苦しかったからな、ってそうじゃない、そうじゃないだろ、なにをして・・・いや言わなくていい、SAN値下がりそうだから言わなくていい」
クー子「……あと少しでクライマックスジャンプできたのに」スリスリ
真尋「聞きたくない聞きたくない!やめろ!お菓子作ってやるから言うな!」
クー子「……別に何もしていない」スリスリ
真尋「じゃあ今やってるこれはなんだ」
クー子「……少年肌すべすべ」
真尋「ごまかすな」
クー子「……お菓子をくれなきゃイタズラするぞ」
真尋「もうしてんじゃねえか」
クー子「……少年、なんだか女の子みたい」
真尋「文句あるなら僕が全部食べてもいいんだぞ」
クー子「……ない、ないからごめんなさい」
真尋「ほら食え」
クー子「……」ポリポリ
クー子「……美味」モシャモシャ
真尋「そうか」ポリポリ
クー子「……やっぱり嫁に」
真尋「もらわねーよ、というか女じゃねえよ」
クー子「……でも私が産む側だとニャル子の赤ちゃん産めない」
真尋「そんなこと言われても」
ニャル子「何故でしょう、妙な鳥肌が」
真尋「あーしかしさっき怒ったせいで寝付けそうにないや」
クー子「……じゃあお礼」ポンポン
真尋「なんだよ、また膝枕か」
クー子「……少年の落ち着きのなさが無くなる、じっとしてるしかわいい」
真尋「僕は猫か何かかよ」
クー子「……ウルタールの猫、相手は死ぬ」
真尋「素手で邪神が倒せるようになってしまうのか僕は」
クー子「……ならないの?」
真尋「ならないし、やりたくもない、あの妙な感触はできれば2度と味わいたくない」
真尋「そんなに膝枕したいのか?」
クー子「……来いよベネット、プライドなんか捨ててかかって来い」ポンポン
真尋「誰だよベネット、別にそんな無理しなくても」
クー子「……ぐすん、少年なでなでしたい」
真尋「何だよそれ」
クー子「……少年は受け、間違いなく受け、ハムスターとかそんな感じ」
真尋「動物じゃねえか」
クー子「……愛でたい」
真尋「どっちかというとクー子のほうが可愛がられそうだけどなぁ」
クー子「……どういうこと」
真尋「いやなんとなく」
クー子「……ニャル子もついでにいただく」
ハス太「何をいっているの、真尋君は僕のものだよ!」
真尋「いたのかハス太」
ハス太「うん、ずっと」
クー子「……全員揃った」
ハス太「勝負」
ニャル子「祭りの会場はここですね」
真尋「お、おい、何をするつもりだ」
ニャル子「そこは『僕のために争うのはやめろー!』とかじゃないんですかね」
真尋「なんで僕がそんなヒロインみたいなことを」
ニャル子「違うんですか?」
真尋「ちが・・・違うと言い切れそうに無いのは何故だろう」
ハス太「ヒロインだよ、僕の」
クー子「……少年を愛で倒す」
ニャル子「いっきますよーロボトルーファイト!」
クー子「……へんしん」
ハス太「ヘシン」
ニャル子「全員本気モードですか、面白い、今日は試作品としてスーパーゼクターがあります、過去や未来へは行けませんが超々高速移動はできますよ」
クー子「……フォーマルハウトを召喚すればまだ…」
ハス太「速いだけでは何も出来ん」
ニャル子「ハイパーゼクターさえ完成していれば過去にいってボコすだけなんですけどね、スーパーキャストオフ!」
ハス太「ふん、王の判決を言い渡す、私の勝利だ」
クー子「……さて1兆度の炎で・・・少年?」
ニャル子「何が黄衣の王ですか、王が怖くて邪神ができますかってんだ、スーパークロック・・・」
真尋「おまえら・・・」ブチッ
ニャル子「アップ!」
ニャル子「・・・・よ、避けらんねぇ」
スーパークロックオーバー
ザクザクザク
真尋「なんなんだよおまえらは、家を破壊するつもりか?」
ハス太「なんだこれは、何がどうなっている、痛いではないか真尋」
真尋「おまえは元に戻れ」
ハスタ「ぐすん、いたいよ真尋君」
ニャル子「どうなってんですか・・・普通の1000倍の更に1000倍ほど早い世界なのに避けられないフォークって」
真尋「おまえは反省しろ」
クー子「……少年、怒っちゃいや」
真尋「おまえも反省しなさい」
クー子「……先に喧嘩売って来たのはあっち」
真尋「関係ない一緒に正座」
ニャル子「えらく軽いですね」
真尋「なんだ、もっとしたいのか?」
ニャル子「いやです、もう放置プレイはいやです」
クー子「……少年、慈悲を」
真尋「おまえいつも正座でゲームしてなかったか」
クー子「……たぶん気のせい」
真尋「……」
ニャル子「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
真尋「怖いからやめろ」
クー子「……ごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
真尋「やめろって」
ハス太「もうしないから体を持っていくのはやめて」
真尋「何の話だ」
真尋「なんだ、言って見ろ」
ニャル子「急なバトル展開って原作的にもう終わりって感じですよね」
真尋「何の話だ」
クー子「……私が『少年』じゃなくて名前で呼ぶ」
ニャル子「やめなさい、それテコ入れしてバトル展開になってそのまま変身せずに終わる展開ですよ」
クー子「……でも私だけ名前呼びじゃない」
真尋「いや別に僕は気にしてないし」
クー子「……真尋」
クー子「……真尋君」
クー子「……真尋さん」
クー子「……だーりん」
真尋「いやそれはおかしい」
真尋「そうなのか」
クー子「……コレジャナイ感がする」
クー子「……少年、うん少年、少年少年、これが一番しっくりくる」
ニャル子「ダーリン」
ハス太「真尋君は僕のダーリンだよ」
真尋「なんだおまえら急に」
ニャル子「これ見よがしにクー子がダーリンって言っていたので」
真尋「おまえ普段から『マイダーリン』とか言ってるじゃないか」
ニャル子「気のせいです」
真尋「え?」
ニャル子「気のせいです」
ニャル子「ふぅ」
真尋「さてそろそろ晩飯作らないとな」
???「その必要はないわ!」
真尋「母さん?!」
頼子「ただいまヒロくーん」ニョキッ
ニャル子「お母様何故床から!」
頼子「帰ってきたけど驚かせようと思ったらなんだか妙なオーラがでてきたのよね、だから床下から入ってきたの」
真尋「いや、だからって普通床下とか入れるもんなの?」
頼子「とりあえずムスコニウム~、あの人が忍者屋敷に憧れてたから妙なところに変な機能ついてたりするわよ」
真尋「えっ17年も暮らしてきたのに」
頼子「うっそでーす」
頼子「んー?」スリスリ
真尋「晩御飯作らないの?」
頼子「もうちょっとだけねー」スリスリ
クー子「……愛でられてる少年かわいい」
真尋「それよりニャル子」
ニャル子「なんです」
真尋「>>229は伏線なんだろうか」
ニャル子「いや、どうなんですかね、私もよく覚えてなかったので」
頼子「何の話?あ、それとヒロ君、あんまり喧嘩とかしちゃだめよ」
真尋「いや、僕は止めたほうであって」
頼子「あら?そうなの?ニャル子さん」
ニャル子「喧嘩の原因が真尋さんです」キリッ
真尋「母さん、そんな年甲斐も無く」
頼子「何を言っているの、私はまだ17歳よ」
真尋「え、ええっと」
頼子「17歳よ」
真尋「あ、あの、母さん?」
頼子「17歳よ」
真尋「はい」
クー子「……お腹すいた」グー
頼子「じゃあ私がご飯作るわね、冷蔵庫にあるの使っちゃっていいんでしょう」
真尋「うん、お願い」
クー子「……でも少年のご飯食べられない」
真尋「そんなにうまいか?僕の作ったご飯、母さんに比べれば大分見劣りしてるけど」
クー子「……わからない、けどおいしい」
真尋「んー?」
ニャル子「何二人でまたイチャついてるんですか」
真尋「何がなんだかわからんぞ」
ニャル子「いちゃつくんなら、是非、私と」
真尋「いらんいらん」
ニャル子「くあーなんでですか!」
真尋「いや、そもそもイチャついてるつもりなんか」
クー子「……」
頼子「ヒロくーん?馬に蹴られて死ぬわよ?」
頼子「ほら出来たわよ、ちょっとヒロ君手伝って」
真尋「はいはい」
ニャル子「じゃ、いっただきまーす」
クー子「……いただきます」
ハス太「いただきまーす」
真尋「さてと、いただきます」
クー子「……やっぱりおいしい、味は」
頼子「んふふ」ニコニコ
頼子「ヒロくんは本当に罪作りな男ね」
真尋「え、何が」
頼子「本当に馬に蹴られて死んじゃうんじゃないかしら、心配だわ」
頼子「さて、明日は月曜日だし、もうねなさいね」
真尋「うん、おやすみ」
真尋「本当に疲れた、やっと眠れる」
真尋「なんだ、もう朝か、シャンタッ君、起こすときは小突くだけでいいって言ったろ」
クー子「……」
真尋「何やってんの」
クー子「……少年、おはよう」
真尋「お、おはy」チュー
真尋「んー!んー!」
クー子「……ぶは、ご馳走様」
真尋「お、おま、おまえ・・・」
クー子「……口通しは初めて」
ニャル子「(0M0)」
真尋「ニャ、ニャル子・・・?」
ニャル子「私の精神はボドボドだ」
クー子「……まだ目覚めてないの?目覚めよその魂、んー」
真尋「まてまてまてまて」
クー子「……いやなの?」
真尋「いやじゃな・・・じゃなくて、ダメだダメだ、論理的に」
クー子「……少年は真面目すぎる、もっと踏み外す若さが必要」
真尋「若さ、若さってなんだろうな」
クー子「……振り向かないこと、さぁレッツパーリィ」
真尋「やめろやめろ、キスはもうやめろ」
クー子「……じゃあ何ならいいの、ハグ?それとも子作り?」
真尋「一応女の子が朝っぱらから何言ってんだ、急にどうしたんだ一体」
クー子「……愛に目覚めた」
クー子「……ニャル子は初恋、初恋は叶わないもの、だから大丈夫」
真尋「何がだ、何が大丈夫なんだ」
ニャル子「って、こんなことでへこたれるニャルラトホテプ星人じゃありませんよー!」
ニャル子「と、いうわけでおはようございます真尋さん」
真尋「あ、ああ・・・」
ニャル子「で、どうしてこうなったんです」
真尋「クー子が何かに目覚めたらしい」
クー子「……これからは少年を愛で倒す」
ニャル子「…つまりどういうことだってばよ?」
真尋「いや、知らん」
真尋「あ、おいニャル子」
クー子「……それで、少年、何ならいいの」
真尋「さっき言ってたのは全部ダメだ」
クー子「……じゃあ手からはじめる」
真尋「手?手くらいならまぁ」
クー子「……なんだかんだで少年はデレてる」
真尋「う、うるさいよ、からかうならやらないぞ」
クー子「……冗談、じゃあそういうことで」
真尋「なんだったんだ一体」
頼子「ヒロ君おはよう」
クー子「……少年早くここここ」
真尋「あ?あ、ああ」
ハス太「何がどうなってるの?ニャル子ちゃん?」
ニャル子「逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ」
クー子「……少年あーん」
真尋「え、おいちょっと」
頼子「ふふふ、クー子さん、だめよ、あんまりイチャイチャするのは」ニコニコ
クー子「……少年のお母さん、目が怖い」
頼子「そんなことないわよー」
頼子「はい、お粗末様」
ニャル子「逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ」
ハス太「」
真尋「二人とも動け、動けってほら、遅刻するぞ」
クー子「……少年、ラブラブ登校タイム」
真尋「おまえも少しは手伝え」
クー子「……行って来ます」
ニャル子「逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ」
ハス太「」
クー子「……少年、手ならいいって言った」
真尋「いや、言ったけど、言ったけどもさ」
クー子「……答えは聞いてない」ギュッ
真尋「あ、おい、引っ張るな」
ニャル子「何やってんですかあああクー子!」
クー子「……愛を確かめてる」
ニャル子「だったら愛を取り戻すだけです、ショックなのは私だけじゃありませんよ、目覚めなさいよハス太君」ベシベシ
ハス太「はっ」
ニャル子「さあいきますよ!ってこら逃げるんじゃありません待ちなさい」
真尋「こらひっぱるな」
クー子「……鬼は外、少年だけうち」
ニャル子「絶対に許さない、絶対ニダ、まちなさいこらああああ」
ハス太「王の判決、真尋君をかえしてー」
クー子「……念願の少年は手に入れた」
ニャル子「殺してでも奪い取りますよ!」
真尋「とりあえずとまれえええ」
終わり
ひとまず乙
起きたらまた書いてね(にっこり
これからが楽しみだ
クー子「……到着」
真尋「ハァハァ・・・ゲホッゲホ」
珠緒「あら、お二人さん、どうしたのさ、そういえばニャル子ちゃんは?」
真尋「あ、ああ、あいつならそのうち来るんじゃないか」
ニャル子「だーれがよんだかニャル子ちゃんかめーん…ていうか足速すぎでしょうよ、お二人とも」
ハス太「ま、待ってよ・・・ハァハァ」
珠緒「で、遅刻してるわけでもないのになんで走ってるの」
ニャル子「それが真尋さんが私というものがありながら、ありながら、チクショオオオオ」
珠緒「何々、何があったの」
真尋「めんどくさそうだから逃げよう、おはよう余市」
余市「今日も朝から賑やかだね、ところでそれ」
真尋「どれ?」
真尋「え?」
クー子「……少年、なかなか大胆」
真尋「おわあああああ」
クー子「……ああん・・・ひどい」
余市「ニャル子さんと付き合ってたんじゃないのかい?浮気はよくないなぁ」
真尋「いやいや、そもそも付き合ってたわけじゃないし」
余市「ダメだよ八坂君、馬に蹴られて死んじゃうよ」
真尋「なぁ、それ流行ってるの?」
余市「何がかな」
真尋「いやなんでもない」
真尋「だーから、もう、説明がめんどくせえ、もうそれでいいよもう」
珠緒「へー、そんなこといっちゃうんだ・・・」
真尋「な、なんだよ」
珠緒「全校生徒通り越して町中に言いふらしちゃうよ」
真尋「カンベンシテクダサイ」
珠緒「じゃあ喋ってくれるよね」
真尋「ニャル子に大体聞いたんじゃないのか、あいつ何ていったんだ」
珠緒「『真尋さんが何を血迷ったかクー子とラブコメし始めました、絶対に許されざるよ』だって」
真尋「ん、まぁでも大体あってるかラブコメはしてないけど」
珠緒「浮気物!」
真尋「だからなんで浮気に」
珠緒「むしろアレで付き合ってなかったの?とんだ女ったらしだよ」
珠緒「べっつにー」
ニャル子「私とあっついキスしたくせに」
クー子「……今朝キスしたばっかり」
珠緒「おまわりさーんこの人です」
真尋「おまえらあることないこと・・・って全部事実じゃないか反論できねえ・・・」
真尋「いや、だからそれは」
先生「ほらー席につけー」
珠緒「ちぃ」
真尋「助かったか・・・ん?」
ニャル子「……」ゴゴゴゴゴゴゴゴ
ハス太「……」ゴゴゴゴゴゴゴ
真尋「ニャル子はともかくハス太まで妙なオーラを・・・」
ハス太「ヨミチニキヲツケヨウネマヒロクン」
ニャル子「ツキヨニハキヲツケマショウネマヒロサン」
真尋「どこのホラーゲームだよこええよ、やめろよ」
真尋「やめろっていってんだろその喋り方」
ニャル子「ベン・トーの時間です」
真尋「いつから僕の母さんお手製弁当が半額になったんだ」
クー子「……お腹すいた」グー
ニャル子「あんたはそこで野垂れ死になさい」
真尋「いいからほらいくぞ」
シャンタッ君「みー」
クー子「……ご飯、ご飯」
真尋「やっとゆっくりできる、暮井の奴もここまではこないし」
クー子「……少年、少年」
真尋「どうした」
クー子「……あーん、あーん」
ニャル子「アアアン?何やってんですかあんた、ぶちのめしますよ」
真尋「飯くらい静かに食えんのか」
クー子「……少年、食べて、あーんあーん」
真尋「いや自分で食うから」
クー子「……ぐすん」
ニャル子「んーどうすれば真尋さんは正気を取り戻すんですかね」
真尋「なんだそれ、僕のSAN値いつの間に0になってたんだ」
ニャル子「0どころかマイナスですよマイナス、何をどうすりゃそういう選択ができるんですか」
真尋「僕は何も選んでないぞ」
ニャル子「嘘おっしゃい、じゃあなんでクー子にはされるがままなんですか」
真尋「別にそんなことないだろ」
ニャル子「私が求婚したら拒否するくせに!」
真尋「年を考えろ僕はまだ17だ」
真尋「だからなんでお前は過程をすっ飛ばすんだよ、段階を踏めよ段階を」
ニャル子「クー子の奴とは婚約したじゃありませんか」
真尋「だからあれは演技だったろうが」
クー子「……えっあのキスの時点で婚約成立」
真尋「えっ」
ハス太「えっ」
クー子「……えっ」
真尋「何それ怖い」
真尋「返事しないとダメだったのか、急すぎて分らなかったし対処しようがなかった」
ニャル子「じゃあついでに私とも婚約を」
ハス太「僕も僕も」
真尋「おまえら考え直せ、3人と婚約なんて無理に決まってるだろう」
ニャル子「ならばやはり、戦うしかありませんか、戦うことでしか語り合えない」
クー子「……やめたほうがいい、ジョーカー」
真尋「あーもう、昼休み終わるから帰るぞ」
真尋「いや、いつもどおりだけど」
珠緒「それで、結局どうなの?今度こそ話を」
先生「はーい、席についてください」
珠緒「ちぃ」
クー子「……この先生吉野屋先生そっくり」
ニャル子「……いわれてみれば」
真尋「あれ?授業は?」
ニャル子「何言ってんですか、真尋さん」
クー子「……少年は疲れてる」
ハス太「早く終わったし、たこやき、たこ焼き食べたいな」
真尋「あーはいはい」
珠緒「ちょーっとまったー」
真尋「なんなんだよさっきから」
珠緒「放課後だからもう邪魔は入らないよ、さあ話を聞かせてもらいましょうか」
クー子「……少年たこ焼きたこ焼き」クイクイ
ハス太「僕も」
真尋「あー、暮井、外でいいか?」
真尋「こいつらすぐ腹すかせるからな」
ハス太「今日は早く終わったし、いつもより多くてもいいよね」
真尋「あーどっちにしろ人数多いし」
クー子「……多々買え・・・多々買え・・・」
真尋「わかったわかったから」
ルーヒー「それで?」
真尋「とりあえず2パック」
ルーヒー「600円」
真尋「はいよ」
ハス太「こんにちは、ルーヒーさん」
ルーヒー「こんにちは」
ニャル子「珠緒さんちょっとちょっと」
珠緒「ほいほい」
ニャル子「ちょっとこっちで一緒に作戦、もといたこ焼き食べましょう」
クー子「……まだ食べられない温度」
ルーヒー「あなたこそ食べないの、八坂真尋」
真尋「ああ、いや」チラッ
ルーヒー「別に何も入ってないわよ、地球のもの以外」
真尋「いや、それはわかってるんだけど」
クー子「……少年は我侭、私が食べさせる、はいあーん」
真尋「あ、おい」
クー子「……あーん」ガシッ
真尋「あ、熱、やめろ、食うから、食うから!ほっぺた摘むな!」
珠緒「ありゃー、本当にできちゃってるの、あれ」
ニャル子「まったく妙な横槍ですよ、本当に、たまったもんじゃありません、どうにかしてください」
珠緒「任せて・・・おーいちょっとお二人さん、お熱いですね」
真尋「ほんとだよ、唇火傷しかけたわ」
珠緒「いや、そうじゃなくて、そうじゃなくてね、お二人さんのお仲が多少よろしいから、何かあったのかなーって」
真尋「いやまぁ色々あって」
珠緒「色々って何さ、クー子ちゃんもニャル子ちゃんはどうしたの?」
珠緒「え、愛人?恋人とかならわかるけど、愛人?」
クー子「……少年は私に愛で倒される運命、だから愛人」
真尋「本気で言ってたのか、やめろよ本当に」
クー子「……少年は照れすぎ」
珠緒「そういえばさっきのたこ焼き食べさせられてる八坂君ちょっとかわいかったかも」
真尋「やめろよおまえまで変なこと言うの、ニャル子に毒されたか」
珠緒「え?あ、ごめんね、うふふ…ニャル子ちゃん、ごめんね、何も出来なかったよ」
ニャル子「くそう、どうすれば、どうすれば」
真尋「だから自分で食えるって」
クー子「……よーしよしよしよーしよしよし」
真尋「だーもう、やめろってば」
ニャル子「私の怒りが有頂天に」
ハス太「ニャル子ちゃん、そのネタはもうやったよ」
ニャル子「そうでしたっけ、うふふ」
ニャル子「私はこれでまた一人ぼっちですか」
真尋「そろそろ帰るぞ」
クー子「……少年最後の一個あーん」
真尋「クー子がくえ・・・いた、いたたたた、腕はそっちに曲がらん、間接極めるなぁ!」
ハス太「クー子ちゃんだめだよ、それ以上いけない」
真尋「んぐっ、ゴクン、ほら、もういいだろ放せ、帰るぞ」
クー子「……なんだかんだで食べる少年、満足」
ハス太「ルーヒーさんまた今度ね」
ニャル子「ぐぬぬぬぬ・・・」
頼子「あらあら、おかえり、早かったわね、それで何その状況」
クー子「……私が少年と手をつないだら」
真尋「ニャル子がおかしくなってもう片方の手をとって」
ニャル子「あまったハスター君が真尋さんにおんぶを」
ハス太「ごめんね、真尋君」
真尋「ほんとだよ、疲れた・・・」
クー子「……少年、水」
真尋「あ、ああ」
クー子「……少年、肩揉む」
真尋「え、ああ・・・」
クー子「……私は愛する乙女」モミモミ
真尋「ああでも結構気持ちいいかも・・・」
ニャル子「真尋さんも大概ですよね」
真尋「何が」
ニャル子「いえ、たぶん初期真尋さんなら私達がマッサージでもしようものなら『何が望みだ、いやな予感しかしねーぞ』って言いそうですし」
真尋「娘に物をねだられる親父か僕は、でもなんか言いそうな気はするな」
クー子「……単純に感謝の気持ち」
真尋「ほら、こう言ってるじゃないか」
ニャル子「真尋さんも案外ちょろいですね」
クー子「……少年がそういうのなら」ナデナデ
真尋「どうしてそうなる」
クー子「……愛で倒してるだけ」
真尋「そうか、まぁいいけど」
ニャル子「な、何故!?私が這い寄ったらいつも拒否するのに!」
真尋「だって襲われてるわけじゃないし、おまえみたいに下心丸見えなわけでもないし」
ニャル子「どうみても篭絡しにかかってるじゃないですか」
真尋「そうなのか?」
クー子「……そのような事実はない」ナデナデ
真尋「らしいぞ」
ニャル子「えぇー・・・」
真尋「最初のほう妙なもの食わせようとしてたのはお前のほうだろ」
ニャル子「ぐぬぬ・・・」
ニャル子「じゃ、じゃあ妙な薬を」
真尋「盛ろうとするのはいつもおまえだろ」
ニャル子「ぐぬぬぬぬぬ・・・」
クー子「……ニヤリ」ナデナデ
ニャル子「あー!今クー子がニヤッて!ニヤッてしましたよ!」
真尋「んー?全然いつもの無表情じゃないか」
クー子「……あまり突っかかられても困る」ニヤ
ニャル子「あー!なんでそんな勝ち誇った顔を!キィーッ」
真尋「ん、そうか、母さんご飯は?」
頼子「まだかかるわよ」
真尋「んー」
クー子「……少年、ゲーム」
真尋「爆ボンならもうやらんぞ」
ニャル子「はいはいはい!私も!私もやります!」
ハス太「僕もやるよ!」
真尋「とりあえずこっちに持ってくるか、ちょっとまってろ」
ニャル子「マリオパーティ!マリオパーティやりましょう!」
真尋「おまえが青マス踏むたびに隠しブロック拾いそうでいやだ、勝負にならん」
クー子「……全盛期のニャル子は20ターンで20スターは当たり前、20ターンで30スターもあり得る」
真尋「スターは9個でカンストしなかったか?」
クー子「……ニャル子だから、仕方ない」
真尋「そういわれたら仕方ないな」
クー子「……思い出補正、主に小学校帰りの友達との熱いバトル」
真尋「本当に高校生なんだろうな、というか友達いたのか」
ニャル子「やだなぁ真尋さん、友達くらい・・・」
真尋「友達くらい?」
ニャル子「いえ、何でもないんです、何もなかったんです」
真尋「まぁいいけど、で、何やるんだ」
クー子「……テニス、ゴルフ、ゴールデンアイ」
真尋「まぁメジャーだな」
ハス太「カスタムロボなんかも面白いよね」
真尋「意外と男の子してたんだな」
ハス太「??」
真尋「いやなんでもない」
ニャル子「私はわるかねえです、なんせ勝手にああなるんですもの」
真尋「わざとじゃなくても問題あるだろあれは」
ニャル子「別に私は乱数調整なんてしてませんし、クロックアップして目押ししてるわけでもないんですよ、ええ」
真尋「何かそう言われると途端に怪しくなるのはなんでだろうな」
ニャル子「なんでそうなるんですか、ちったー信用してくださいよ」
クー子「……無難なところでテニス」
真尋「まぁ時間もあんまりなさそうだしな」
ニャル子「チームはルーレットでいきますかね」
真尋「ん?ルーレット?」
クー子「……少年こっち見て」ゴキッ
ニャル子「あんた真尋さんを砂浜の一部にするつもりですか」
クー子「……少年ストップって」
真尋「あ、ああ・・・ストップ」
真尋&ニャル子 クー子&ハス太
真尋「んーニャル子か」
ニャル子「あんまり普通にやってもあれですし、勝ったほうは負けたほうを自由にってことで」
真尋「まぁあんまり行き過ぎたのはダメだけどな」
ニャル子(ん・・・?この組み合わせだと旨みが・・・ない!しまったあああ)
クー子「……」ニヤ
ニャル子「あー!またニヤッて!」
ハス太「」ニヤ
ニャル子「ハスター君まで!?」
ニャル子「んなもん基本でしょう」
ハス太「だよね」
真尋「えっ」
ニャル子「まさか持ってないんですか、真尋さんともあろうお方が、普通のキャラでやってもバイオレンス感たりないでしょう」
真尋「…ちょっと掘り起こしてくる」
ニャル子「そうですか」
真尋「あー、やっぱりというか、データ消えてるな」
ニャル子「…死にますよ、真尋さん」
ハス太「真尋君・・・」
クー子「……勝った」
真尋「まさかそんな決まるほど・・・」
ニャル子「保存データlv99は基本」
クー子「……さまざまな相手に対応できるよう複数ソフト持ってる人もいる、もちろん全部lv99」
真尋「宇宙人って何なんだろうな・・・どんだけ暇なんだよ」
真尋「ああ、すまんな」
クー子「……私のカセットは108個まであるぞ」
真尋(そんだけあって何か意味はあるんだろうか)
ハス太「じゃあはじめよっか」
真尋「あー母さん?あとどれくらいかかりそう?」
ニャル子「んじゃあ6ゲーム1セットでいいんじゃないんですかね」
真尋「まぁそんなもんだろうな」
クー子「……フォーマルハウト、READY?」
真尋「燃やそうとするな」
クー子「……少年、かもーん」
真尋「ほい」
クー子「……遅い」
ニャル子「抜かしません」
ハス太「甘いよ!」
ニャル子「そい」
・・・
真尋「いつまで前衛で打ち合ってんだお前ら」
ニャル子「流石ですハスター君」
ハス太「まだまだ甘いなニャル子」
真尋「なんでライジングハス太になってんだよ、ここ本気出すところかよ」
真尋「どうしたものか」
ニャル子「おっと、動いちゃダメですよ、いきなりロブ撃ったり流し打ちしたり急にスルーパスだしたりとハイレベルな読みあいなんですから」
真尋「夕飯前に終わるのかこれ・・・」
ニャル子「そう思うなら仕掛けますよ」
真尋「え、ちょ、あぶなっ」
ニャル子「こんな風にたまにスルーしますけど、ちゃんと取ってくださいね」
真尋「普通前衛がとれるなら取ったほうがいいんじゃねえのか」
ニャル子「普通にやってもこいつらには勝てませんよ」
ニャル子「真尋さんも意外とやりますね」
真尋「最初はサーブ返せなかったからな、なんだよ230キロって」
クー子「……でももう普通に返してくる」
真尋「自分でもびっくりだよ」
ハス太「なんだかんだでタイブレークまで持ち込んだしね」
クー子「……タイブレークだし少年も大分馴れてきたようだしそろそろ私も本気を出す」
ニャル子「私はその倍強い」
ハス太「実は実力を隠していた」
ニャル子「真尋さんもまだきっと本気ではないです」
ニャル子「ならば私はこのパワーリストをはずします」
ハス太「秘められた力が覚醒するよ」
ニャル子「真尋さんは特殊な一族の血を引いていて、ピンチになると覚醒します」
クー子「……覚悟によって過去を断ち切ることで無意識に押さえ込んでいた力が解放される」
ニャル子「愛する人の想いが私を立ち上がらせます」
真尋「なんだよおまえら、パワーリストとか間違いなく関係ないだろ、体に負担かかるゲーム技ってなんだよ」
ニャル子「真尋さんの進化は日々加速しています」
ハス太「進化が加速なんかしないよ!」
真尋「なんで僕を引き合いにだすんだよ」
クー子「……何が来ようと五感がなくなるまで打ち返す」
真尋「何をする気だお前は」
ニャル子「これもダメですか・・・」
ハス太「といってもこれで何回目のマッチポイントだろうね」
ニャル子「1,2、めんどくさいわ!来るなら来なさい!」
真尋「んーでも流石に負けるのもアレだからな」
クー子「……これで勝てばきっと飯がうまい」
真尋「何かそう言われると余計に・・・」
ハス太「ジエンドだよ」
ニャル子「あ、やべ、真尋さん」
真尋「……ああ、無理届かない」
クー子「……win」
頼子「ご飯出来たわよー」
真尋「とりあえず飯にするか」
クー子「……罰ゲームはCMの後」
頼子「やーねー褒めても何もでないわよ」
クー子「……食後に何か欲しいかも」
頼子「んーでもデザート何もないわね、確か」
クー子「……それは残念」
ニャル子「ほんと食い意地はってますね、あんたは」
真尋「よくわからない原理で太らないし」
ハス太「んー」
真尋「どうしたハス太」
ハス太「罰ゲームどうしようかなって」
真尋「そういやそうだったな」
真尋「おまえが考えてもどうしようもないだろ、取らぬ狸の皮算用だ」
ハス太「じゃあ、もっと僕を笑顔にしてよ」
真尋「漠然としすぎだろ」
ハス太「もっと僕を楽しませてよ」
真尋「だからもうちょっとわかりやすいのでな、もうちょっと考えろ」
クー子「……ごちそうさま、やっぱり食後に何か欲しい・・・」
クー子「……じゃあニャル子、私にプリンを」
真尋「そんなんでいいのか?」
クー子「……食後はやっぱりデザート」
真尋「本当にニャル子のこと吹っ切れてんだな」
ニャル子「喜ばしい限りです」
真尋「そんなんでいいのか」ナデナデ
ハス太「で、ニャル子ちゃんはこれ」
ニャル子「え、なんですかこれ」
ハス太「ハストゥール製薬で作られた乾汁完全再現版だよ、これ飲んでみて」
ニャル子「結構鬼ですよね、ハスター君」
真尋「ほら、プリン作ってるし飲ませてやるよ」
ニャル子「う、うれしいです!うれしいですけど、うれしくないです!」
真尋「ほれ」
ニャル子「ではいただきます」グビ
ニャル子「うぼぉぇぁああ」
真尋「きたなっ」
真尋「目を覚ませ」ペシ
ニャル子「はっ」
ハス太「結構危ないね、これ」
ニャル子「結構ですか、これ、相当ひどい味ですよ、形容しがたい味です」
ニャル子「ほら、プリンです」
クー子「……どうも」
真尋「で、僕の罰ゲームは」
クー子「……まだ決めてない」
ニャル子「薄汚れたので私はお風呂に」
ハス太「僕もちょっと食べていい?」
クー子「……どうぞ」
ハス太「ありがとう」
真尋(こうしてみてれば普通にかわいいもんだけどな)
クー子「……少年、そんなに見つめて、食べたいの?」
真尋「いや別に僕は」
クー子「……食べたいの?」
真尋「だから僕はお腹すいてない」
クー子「……食べたいの?」
真尋「何で無限ループ入った、わかったよ食べたいよ食べたいです」
真尋「なんで結局こうなるんだ」
クー子「……餌付けは基本」
真尋「むしろ餌付けされてるのはクー子のほうじゃ」
クー子「……気のせい」
真尋「え、でも」
クー子「……少年、胃袋に乾燥わかめぶち込むよ」
真尋「普通に殺害予告だろそれ」
クー子「……大丈夫、しなない程度」
真尋「パク・・・意外とうまいな」
クー子「……少年の照れがなくなってきた、死活問題」
真尋「何でだよ」
クー子「……んー」
真尋「なんだ」
クー子「……間接キス、ぽっ」
真尋「口でいってもあざといだけだ」
クー子「……もう倦怠期・・・?」
真尋「いや、そんなこといわれても」
クー子「……ぐぬぬ」
真尋「聞き間違いか?もう一回」
クー子「……一晩だ・き・ま・く・ら」
真尋「おかしいな、さっきやりすぎなのはダメだって言ったんだけどな」
クー子「……大丈夫手は出さない」
ハス太「普通その台詞って逆じゃないの」
真尋「まぁ普通ならな」
クー子「……出さないから一晩だけ、一晩だけギュッとしてたい、ムスコニウムも今なら作れる気がする」
真尋「余計怖いわ」
クー子「……大丈夫、怖くない、怖くない」
真尋「不審者かおまえは」
クー子「……じゃあ何ならいいの」
クー子「……うん」
真尋「あーじゃあ、フォーク完全装備でいいならいいぞ、これなら襲われる心配もない」
クー子「……妥協のラインがなんだかおかしい気がする」
真尋「何か言ったか、いやなら全然いいいんだぞ僕は」
クー子「……何でもない」
ニャル子「ナンノソウダンシテルンデスカ」
真尋「いたのかニャル子」
ニャル子「ええ、ずっと」
クー子「……人聞きの悪い、愛を確かめるだけ」
真尋「……充分卑猥じゃないか、その言い方」
ニャル子「絶対ダメです2人っきりだなんて」
真尋「本音は」
ニャル子「私も混ぜてください、2人っきりとはいいません、3Pでも構いませんから!」
頼子「ひろくーん、だめよ、その年で乱交パーティなんて」
真尋「母さんまで何言ってんの!」
クー子「……大丈夫、私は籍入れて式挙げるまで襲わないから」
真尋(日が浅い頃にソファで寝てたニャル子を本気で襲ってたきがする)
ニャル子「気が利くじゃないですか、んくっんくっ、プハー、たまりませんねぇ」
真尋「相変わらず親父くさいな」
ニャル子「良いんですよ、別に、気持ちよければそれで、ってあれ、足元がふらふらと・・・」
真尋「お前、何か入れたろ」
クー子「……ただの宇宙牛乳、黄金蜂蜜酒配合、寝る前の一杯に最適と好評」
ニャル子「おのれ、クー子・・・おまえもか」ガクッ
真尋「まったく同じようなことやってたから同情できねえ」
クー子「……さぁ少年、これでお尻かじり虫もいない、ラーントゥギャザー」
真尋「お邪魔虫でいいだろ、何歳の保健体育だよ、ツッコミがおいつかねえよ」
真尋「ってあれ、ハス太?母さん?」
クー子「……取り出したるは空き瓶2本、お風呂上りに必殺仕事人」
真尋「ほんとにやる気満々だな」
クー子「……じゃあ実行、誰も邪魔できない」
真尋「あのさぁクー子、もう一つだけいいか」
クー子「……何」
真尋「僕にもその牛乳くれないか」
真尋「いや、なんか抱き疲れてたら暑くて眠れないだろうし」
クー子「……おでこに貼るアフーム=ザーあるよ」
真尋「あ、えと、いや」
クー子「……わかった上げる」
真尋「ああ、ありがとう」
クー子「……少年顔真っ赤、緊張してるの?」
真尋「うぐっ」
クー子「……ドキドキして眠れないから下さいっていえない少年、上の上」
真尋「ち、違う、絶対そんなことない」
クー子「……じゃあこれいらない?」
真尋「か、からかうなよ」
クー子「……そう、まぁそれでいいってことにしとく」
真尋「で」
クー子「……で?」
真尋「いや、どっちの部屋で眠るのかと」
クー子「……じゃあ私の部屋で」
クー子「……」
真尋「部屋の様子大分変わったな、あれだけニャル子グッズまみれだったのに、ニャル子の部屋張りにすっきりしてる」
真尋(ハス太の部屋はまだ角にパテで90度にならないようにしてるんだろうか)
クー子「……少年のフィギュアだけ残ってる」
真尋「喜んでいいのか分らん情報だなそれは」
クー子「……喜べ少年、君の願いはもうじき叶う」
真尋「おまえの願いだろうが」
クー子「……聖杯戦争があったら少年に永遠の命を」
真尋「……ないからな?聖杯なんて」
クー子「……ないの?60年後あたりにあるんじゃないの?」
真尋「おまえらが存在ほのめかすとありそうで困るんだよやめろよ」
真尋「ゴクゴク、味は悪くないんだがな、おいしい部類だ」
クー子「……じゃあはい、横になって」
真尋「絶対超えちゃいけないライン超えるなよ」
クー子「……大丈夫」
真尋「信じてるからな」
クー子「……明かり消す」カチッ
真尋「ん・・・というか効き目遅いなこれ」
クー子「……個人差」ギュッ
真尋「あーでも眠くなってきたかも、というか相変わらずあったかいなおまえは」
クー子「……少年、しぶとい」スリスリ
真尋「意識消えないんだけど」
クー子「……深呼吸すればいい」
真尋「いやおかしいだろ、あれだけ即効性あったのに」
クー子「……間違えた可能性もなきにしもあらず」
真尋「なんだよそれ・・・まぁ眠ればいいんだ、眠れば、僕が手を出さなければ問題ないんだ」
クー子「……Zzz」
真尋「眠るのはや」
クー子「……Zzz」ギュウウ
真尋「肋骨が、肋骨が」ギシギシ
クー子「……逃げちゃダメ、戦えZzz」ギュウウ
真尋「いたたた、どんな寝言だよ、なんつう夢見てんだ」ナデナデ
クー子「……Zzz」
真尋「落ち着いたか・・・寝よう」
真尋「羊が一匹羊が二匹羊が三匹・・・黒山羊は来るんじゃねえ・・・」
クー子「……3匹逃げた・・・Zzz」
真尋「寝言で突っ込むんじゃねえよ、余計眠れないじゃないか」
クー子「……んう・・・Zzz」
真尋(遊んでる場合じゃない、寝よう、寝るんだ)
真尋「・・・Zzz」
真尋「・・・え、ああ、おはよう」
クー子「……少年、昨夜はお楽しみだった」
真尋「え?」
クー子「……私が寝ている隙を突いて寝ぼけた少年があんなことやこんなことを、気づいたときには遅かった」
真尋「え、まじで・・・いや、そういわれると自信が・・・」
クー子「 * *
* + うそです
n ∧_∧ n
+ (ヨ(* ´∀`)E)
Y Y * 」
真尋「よーし、おまえの罪を数えろ」
クー子「……焦る少年も可愛い、とりあえずまだゴールしたくないからフォークはやめて」
クー子「……仕方ない、やってみたかった」
真尋「腕痺れてるんだけど」
クー子「……抓っても?」
真尋「ダメだ許可しない」
クー子「……残念」
真尋「もう起きないか?」
クー子「……あと10分」
クー子「……大体満足」
真尋「ん?早くしろよ」
クー子「……しかし少年、これで一晩寝たという事実はできた、式はいつにする?」
真尋「いや確かに寝たけども、そういう意味じゃないだろ」
クー子「……確かに寝ただけ、しかし、皆がその意味をどう解釈するかはわからない」
真尋「それもそうだが、とりあえず言いふらすなよ、誰にも、特に暮井なんかにばれると社会的に殺される気がする」
クー子「……それもそう、しかしこの状況で他の女の名前を出すのはよくない」
真尋「そういうものなのか?」
クー子「……そういうもの、教育する」チュー
真尋「」
真尋「あああ、またおま、キス、キスしやがって」
クー子「……一緒に寝ても全然動じないから困った、やっと赤面した」
真尋「そりゃ誰だっていきなりキスされたら赤くもなるわ」
クー子「……じゃあ少年が倦怠期に入ったらキスする」
真尋「え、いや、いろいろ危ない気が」
クー子「……答えは聞いてない」
真尋「じゃあ僕に同意を求めるな」
クー子「……少年がでれた、嬉しい」
真尋「でも四六時中とかになってくると割と真面目にフォークで刺してでもとめるからな」
クー子「……わかってる」
真尋「あとむやみに言いふらすのもダメだ、確実に争いが起こる」
クー子「……何の?」
真尋「いや、たぶん何かしら起こる、間違いなく、学園炎舞録のときよりひどいことになる(主にニャル子とハス太あたり)」
クー子「……よくわからないけど分った」
真尋「まだ何かあるのか、そろそろ腕の感覚ないぞ」
クー子「……愛の言葉がまだ」
真尋「・・・言わなきゃダメか?そもそも僕がクー子のこと好きかどうかもわからないだろう」
クー子「……大丈夫、少年はもう落ちている」
真尋「なんだよその自信」
クー子「……それにこの前大好きって」
真尋「そういえば言ったな」
クー子「……ここで愛の言葉がないと締りがない、キバから名護さんいなくなるレベル」
真尋「なんだその例え」
クー子「……大好きからレベル下がった、ぐすん」
真尋「いや、そもそもあれは」
クー子「……あのときすごく嬉しかったのに」
真尋「うぐ・・・ああもう、好きだ、好き、大好きだ、愛してる」
クー子「……その言葉が聞きたかった」チュー
真尋「あ、おい・・・」
クー子「……少年おはよう」ニコニコ
真尋「笑顔・・・」
クー子「……起きないと遅刻する」
真尋「ああ、うん」
頼子「朝ごはんもう出来てるわよ」
真尋「ああ、うん、いただきます」
ニャル子「おはようございます、真尋さん、昨日の記憶ないんですけどなんなんですかね」
真尋「なんだろうな」
クー子「……少年に告白された、結婚する」
真尋「ぶふぅ」
ニャル子「」
ハス太「」
頼子「あらあら」
クー子「……少年、汚い」
クー子「……だって、ニャル子が聖闘士倒してくれたときより嬉しかった、ぽっ」
真尋「ああもう、朝っぱらから・・・ちょ、おいニャル子、ハス太、何をするつもりだ」
ニャル子「前置きは一切ありません、最初からクライマックスです、ファイナルアタックライド!」
ハス太「マキシマムハイパーサイクロン!」
ザクザク
頼子「居間で大技出しちゃダメじゃない」
ニャル子「そ、そうは言いますが大佐、いえお母様」
頼子「ダメなものはダーメ、ちゃんと勝ち取らないとね、もちろん武力行使以外で」
頼子「それで、いつのまにこんなことに」
真尋「ええっと・・・今朝?」
クー子「……1億年と2000年前から」
真尋「ちょっと口挟むんじゃないややこしくなる」
頼子「別に反対はしないけど、大人になるまでちゃんと節度をもってね?」
クー子「……大丈夫、私は大人の女性」
真尋「そうじゃないだろ、そういう問題じゃないだろ」
真尋「色々危ないからだめだ」
ニャル子「真尋さん考え直して下さい、こんなチンチクリンのどこがいいんですか!?」
真尋「いや、そんなこといわれても」
頼子「あら、これ火打石のようなものじゃない、やってみたかったのよね」
カンカン
頼子「はい、行ってらっしゃい、車に気をつけるのよー」
ニャル子「刻むしかないようですね、クー子、貴様の名を」
真尋「むしろ、今まで覚えてなかったのか」
ニャル子「絶対結婚するのは私なんですからね」
クー子「……この際重婚でもいいけど」
真尋「なんで微妙に上から目線なんだよ」
クー子「……少年、逃げよう」ギュッ
真尋「おい、だから腕組んだらあぶな」
クー子「……大丈夫」
ニャル子「待ちなさいコラアアアア」
ハス太「ま、まってよ3人ともー」
終わり
お疲れ様!
よくぞここまでやってくれた
本当にお疲れ様
またの機会も宜しく頼む
お疲れさん!
すげぇスレだったな、乙
乙
乙
Entry ⇒ 2012.06.25 | Category ⇒ ニャル子さんSS | Comments (0) | Trackbacks (0)
L「月くん……はっきり言いましょう」月「……」ドキッ
月「……ふ、なんだい、竜崎。楽しいお茶の時間に……」
L「月くんも分かっているはずです。偽りの友を演じるのはやめましょう」
月「……ふん。キラの話か。証拠もないのに僕をキラなんt」
L「私は月くんが好きです」
月(!?)
\ ! ハ!| ー─ ' i ! `' '' " ||ヽ l | /
| ̄ ̄ ̄\ | | /ヽ! | |ヽ i !/-、,,_,, _,,
| \ ヽ | _ ,、 ! ,/ ヽ、
/  ̄ ̄ ̄ ̄\\ ! '-゙ ‐ ゙ レ/ . \
/ やらないか \ ∧∧∧∧∧ / ,! | | ト, ゙、
/ /\ < ホ > / ,,イ ./|! .リ | リ ! .|! | ト|ト}
/ / / < 予 > // //ノノ //゙ ノ'////|.リ/
/ / < モ > ´彡'゙,∠-‐一彡〃 ト.、,,,,,,,,,,,レ゙
―――――――――――――< 感 > 二ニ-‐'''"´ /`二、゙゙7
,, - ―- 、 < ! 祭 > ,,ァ''7;伝 ` {.7ぎ゙`7゙
,. '" _,,. -…; ヽ < の > ゞ‐゙'' ,. ,. ,. l`'''゙" ,'
(i'"((´ __ 〈 } / ∨∨∨∨∨ \. 〃〃" ! |
|__ r=_ニニ`ヽfハ } /_,,._,,.....、、..、、、,,_ \ (....、 ,ノ !
ヾ|! ┴’ }|トi } /゙´ .}, \ `'゙´ ,'
|! ,,_ {' } / ,.ァぃぐ \ ー--===ァ / す
「´r__ァ ./ 彡ハ、 / ァ')'゙⌒´ 'リヽ, | \ _ _ ./ 大 ご
ヽ ‐' / "'ヽ/ ヾ、 ,.、=ニテ‐゙レ l \` ̄ ,/ き く
ヽ__,.. ' / / . 〉 '" /{! .\ 〉 | \ ./ い :
/⌒`  ̄ ` / ,r‐-、 /  ̄´ `i. /ミlii;y′ \/ で
腹ン中パンパンだぜ / .| !`ト,jィ .`、 - 人 ./;jl髭' \ す
月(お……落ち着け。Lのことだ、僕の動揺を誘っているんだろう)
L「月くん。月くんは、私の推理では、99%キラです」
月(そら来た。動揺を誘い、自分のペースに乗せ、口を割らせようとする……考えが見え見えだ)
L「しかし」
L「私のこの好意も99%本物だと思うんです」
L「月くん。私と付き合ってください」
月(!?)
月(なんだこの空気)
L「月くん。返事を」
月「えっ?……あ、ああ……」
月(……無難な返事を心がけるんだ。いつキラの話になるか分からない)
月「……か、考えておくよ」
L「……月くん。疑ってるんですか?」
月「え」
L「これは私自身の気持ちです。キラとは関係ない」
L「なので、月くんも月くん自身の答えを出してください」
月(……こいつ、本気か?)
L「キラを捕まえたいという自分の気持ち。それに反して……」
L「一目惚れした人のキラ容疑がどんどん高まっていく」
月「……それは僕のことか」
L「そうです。だから……私は」
L「人生で初めて、苦しいと思った。犯罪者を捕まえるだけの人生の中で、初めて、『苦しいと思えた』んです」
月「りゅ、竜崎……」
L「だから……気持ちを伝えようと思った。ただ、それだけの話です」
月(……嘘をついてるようには思えない)
月(しかし……嘘をついてる可能性を捨ててはいけない!)
月(こいつのペースに合わせたら何が起こるか分からない……!)
月「……すまないな、竜崎。信用できない」
L「……!」
月「僕はキラじゃない。だからこそ、僕をキラだと疑っているヤツを」
月「信用できると思うか?」
L「……そ、それは分かっているんです……その上で……」
月「……もういい。ふざけている暇があるなら、一刻も早く本物のキラを見つけるために捜査を進めてくれ」
月「僕はこれで失礼するよ」ガタッ
L「……月くん……」
・
・
・
・
・
夜神宅
ガチャ
月「ただいま」
総一郎「……月。遅いぞ。こんな時間までどこに行っていた」
月「……父さんも、知ってるんだろう? 例のごとく、竜崎に尋問されてたんだよ」
総一郎「尋問?……おかしいな」
月「……父さん?何か知ってるのか?」
総一郎「……月。おまえ、告白されただろう」
月「!……なんで父さんがそれを!」
月「父さん!竜崎とグルだったんだな!父さんも僕を疑ってるんだ!」
総一郎「……月!歯をくいしばれ!」バキッ
月「ぐはっ!?な、何を……!!」
総一郎「月!おまえは竜崎が……Lが……どんな気持ちで……っ!」
月(……なんの話だ?)
総一郎「何が尋問だ……。私は昨日」
総一郎「竜崎に恋の相談を受けたんだ!」
月(!?)
総一郎「竜崎がどんな気持ちだったか、お前には分かるか!?」
『それは分からん。だが……告白すると、決めたんだろう』
『はい……』
『なら、そうすればいい。人の好意に向き合えないほど、月は情けない息子じゃないはずだ』
『ありがとうございます……夜神さん』
『礼には及ばない。キラ事件のことは、今は忘れよう。頑張るんだぞ』
『はい』
総一郎「あの時の竜崎の目は本気だった」
月「……」
総一郎「お前はそれを踏みにじったんだ」
月「そ……そんなの知るか! 普段からキラだキラだと言われて、突然告白なんて……!」
月「と、父さん!僕は悪くない!」
総一郎「……。竜崎の目を、ちゃんと見てやったか!?ちゃんと、話を聞いてやったのか!?」
月「あ、ああ!もちろんさ!」
総一郎「その上でお前は!!」
総一郎「竜崎がふざけていると!!竜崎がお前を混乱させようとしてると!!」
総一郎「そう思ったんだな!?」
月「……っ」
月(ぼ、僕は……)
月(常に、疑っていた……)
月(薄々、本気だと気づいていながら……っ!)
総一郎「月!!どうなんだ!?」
総一郎「……」
月「でも……どうすればいいんだ。あいつと僕は……」
月「……敵なんだよ……」
総一郎「……月。お前の悪いクセだ」
月「!」
総一郎「頭が良い故に、状況を整理し、客観的に見て判断を下そうとする傾向にある」
総一郎「もちろん、それは悪いことではない。しかし……」
総一郎「時として、人は……立場や状況を無視する行動をするべきなんだ」
月「っ……」
総一郎「……あまり夜遅くまで起きるんじゃないぞ」ガタッ
ガチャ…バタン
月「……」
月(……僕はキラだ)
月(そして……告白してきたのはL)
月(……くそ……)
月(……そもそも、どうなんだ?僕はあいつのことを、どう思っているんだ?)
月(……)
月(……そうだ……)
月(……あの時……僕が感じたことを思い出せばいい……)
月(僕は何を考えた)
月(『気持ち悪い』?……普通は、こう考えるはずだ)
月(しかし、僕は……あくまで、『キラ』としての自分。『L』としてのあいつ……そこばかり考えていた)
月(……あいつの好意と、『キラ』と『L』の関係。そこの狭間で戸惑っていた)
月(でも……それは間違ってる! 僕が考えるべきなのは……!)
月(あいつの好意に対して、僕の気持ちがどうなったのか、だ!)
月(そして、僕は……)
月「……リューク」
リューク「うほっ……うほっ……」
月「リューク!」
クッソワロタ
月「気持ち悪い顔しやがって……お前は人間の恋に興味があるのか」
リューク「へへ……いいだろ、静かに眺めてる分にはよぉ」
月「……明日、竜崎と話をつけてくる」
リューク「うほっ、マジかよ。そりゃ楽しみ……」
月「お前は僕の見えない距離まで、そして、僕らの会話が聞こえない距離まで離れろ。いいな?」
リューク「ああ? それじゃ意味ねぇだろ」
月「リューク。これは僕たち二人の問題だ」
リューク「ちっ……報告だけ頼んだぜ? じゃねーと禁断症状が出ちまう」
月「どういう体してるんだお前は」
月「……気持ち悪い死神だ」
リューク「うほっ。そう言うな。俺もお前らの恋が実ることを祈ってるぜ」
月「死神に祈られたら、悪いことが起きそうだ」
リューク「くく……とりあえず約束は守ってやるよ。離れてりゃいいんだろ」
月「……ああ。明日で」
月「キラとLの戦いは終わりだ」
・
・
・
・
・
とあるカフェ
L「……話、ですか」
月「ああ……はっきりさせようじゃないか」
L「……昨日はすみません。私にはコミュニケーション能力がないもので」
月「ふっ……いや、竜崎の気持ちは伝わってきたよ」
L「……?」
月「竜崎。まず……ひとつ言っておく」
L「なんでしょう」
L「!……まさか」
月「僕はキラ(ホモ)だ」
L「!……認めるんですね?」
月「竜崎の推理通りだ。僕は大量殺人犯キラ(ホモ)」
L「……」
月「しかし……同時に」
月「夜神月という一人の人間だ」
月「僕は、キラという立場より、自分の気持ちを優先させようと思った」
月「だから……僕は、全てをさらけ出して竜崎と向き合う」
L「……うれしいです」
早くなんとかしないと...
月「自分の気持ちを伝えるだけだ。昨日の竜崎と同じように」
L「……」
月「僕は竜崎が好きだ」
L「……!」
月「掴みどころがなくて、マイペースで……でも、竜崎とたわいもない話をしている時を、僕は無意識に楽しんでいた」
L「月くん……私も……月くんとの会話を、楽しんでいました」
月「竜崎。今はLもキラも関係ない」
月「僕と付き合おう」
月「……ありがとう……竜崎……僕は一度、君の気持ちを無視したのに……」
L「いえ……私が悪いんです。それに、最終的には私と向き合ってくれた」
L「それだけで十分です」
月「……竜崎。もう殺人はやめるよ。そして……二人で歩もう」
月「二人の愛の新世界へ」
L「……」コクン
リューク「うほっ!!!!うほほっ!!!!!!」
・
・
・
L(ホモ)は無断で捜査を打ち切り、極秘裏に月(ホモ)を保護し、家に帰った。
もちろん納得できないキラ捜査本部のメンバー。しかし、総一郎は全てを察したような目でメンバーをなだめ、事なきを得た。
家族、優秀な学生の立場……全てを捨て、L(ホモ)に向き合った月(ホモ)を総一郎は誇りに思った。
そしてキラ事件はどんどん風化し……テレビで扱われなくなり……人々の注目を浴びることはなくなった。
しかし、総一郎は全てを察したような目で二人をなだめた。
こうして……月(ホモ)とL(ホモ)は
今までの戦いを忘れ、新世界へと歩みだした。
二人(ホモ)+死神一匹の暮らし。
リュークは当然退屈せず……
月(ホモ)とL(ホモ)は平和な暮らしを送った。
デスノートは埋めた。
これが、警察や世間を騒がせたキラ事件の真実である。
・
・
・
・
・
月(ホモ)「……L」
L(ホモ)「なんですか?」
月(ホモ)「僕たち……幸せだよな」
L(ホモ)「……99%幸せですね」
月(ホモ)「ん?あとの1%はなんだよ?」
L(ホモ)「それは……私が月くんにふさわしい人物なのか、という不安です」
L(ホモ)「本当に私で良かったんですか?こんな、社交性のない男……」
月(ホモ)「ふっ……そんなことか」
L(ホモ)「……ありがとう。うれしいです」
月(ホモ)「……散歩でも行くか」
L(ホモ)「そうですね」
リューク「うほっ」
おわり
二人が幸せならそれでいいじゃないか
ああ…そうだな
Entry ⇒ 2012.06.25 | Category ⇒ デスノートSS | Comments (0) | Trackbacks (0)
光太郎「悪の手先プリキュア! ゆ゛る゛さ゛ん゛!!」
ジョーカー「フフ……ようこそいらっしゃいましたぁ」
光太郎「誰だ!?」
ジョーカー「はじめまして~、南光太郎さん。いえ、仮面ライダーBLACKとお呼びした方がよろしいでしょうかねぇ」
光太郎「なんだって!? その名前を知っているとは……キミは何者なんだ!?」
ジョーカー「私、バッドエンド王国のジョーカーと申します。以後、お見知りおきを……ウフフ」
光太郎「バッドエンド王国のジョーカー!?」
ジョーカー(……いちいち暑苦しい男ですねぇ)
ジョーカー「いいえ、とんでもありませ~ん! 名前で誤解されがちですが、まごうことなき正義の味方ですよぉ~!」
光太郎「そうか、正義の味方なのか……誤解してすまなかった」
ジョーカー「いえいえ~」
ジョーカー(チョロい! チョロすぎますよぉ、この人!)
光太郎「それで、俺をここに呼び出したのはキミなのか?」
ジョーカー「はぁい。実は仮面ライダーのあなたにご協力いただきたいことがありまして」
光太郎「協力?」
ジョーカー「えぇ、悪の手先『プリキュア』を倒して欲しいのですよ。フフフ……」
――――
――――――
やよい「はぁぁ……どうしよう……」ズーン
みゆき「やよいちゃん、どうしたの? 学校終わってからずっと落ち込んでるみたいだけど」
やよい「……あのね。今日、数学のテスト返ってきたよね」
みゆき「うん」
やよい「みゆきちゃん、何点だった?」
みゆき「え……わ、私バカだから、その……よっ、45点……」
やよい「……それでも私より全然いいよ。私なんか……」
みゆき「やよいちゃん?」
みゆき「えぇっ!? あ、赤点!?」
やよい「うん……」ズーン
みゆき「赤点って、やよいちゃんのお母さん怒らないかなぁ?」
やよい「怒るに決まってるよー! いくら数学が苦手でも、今まで赤点だけはとらないようにしてたのに……」
みゆき「私でも赤点はさすがに無いもんね……ぜ、全部50点もいかないけど……」
やよい「はぁ~……もう、ママには内緒にしておこうかなぁ」
やよい「ひゃいっ!?」ビクッ
光太郎「俺は南光太郎。よろしく」
やよい「はっ? はぁ……」
光太郎「突然ですまないが、キミが重大な隠し事をしていることは既に知っている。正直に話してくれないか」
やよい「え!?」
光太郎(ジョーカーの話ではこの少女たちが『プリキュア』だということだが……)
光太郎(普段は人間に擬態しているらしい。まずはその事実を確かめなければ!)
やよい(私の赤点を知ってるってことは……きっとこの人、新しい先生なんだ!)
やよい(あっ……もしかしてテストのことをママに内緒にしようとしてるのがバレたの!?)
やよい「そ、そんなこと言えません!」
光太郎「なんだって!? かたくなに話すことを拒むなんて……まさか!」
やよい「さ、さようならっ!」ダッ
みゆき「あっ、待ってよやよいちゃん!」タッタッタッ...
光太郎「くそっ、逃がしたか……だがやましいことが無いなら逃げる必要もないはずだ。ヤツがプリキュアなのは間違いない!」
――――
――――――
ジョーカー「おやぁ、お早いお帰りですね光太郎さん。偵察の収穫はありましたぁ?」
光太郎「ああ。どうやらキミの言っていたことは本当みたいだ」
ジョーカー「でしょう? それでは……」
光太郎「俺もプリキュアを倒すのに協力しよう」
ジョーカー「ありがとうございまぁす! それでは、こちらへどうぞ~」
光太郎「何かあるのか?」
ジョーカー「ええ。正義の味方は私一人ではありませ~ん! 幹部の皆さんを紹介いたしますぅ」
光太郎「幹部か……幹部と言えば、三神官やビルゲニアのせいで悪いイメージが強いんだが……」
ジョーカー「いえいえ、皆さんれっきとした正義の戦士ですよぉ~!」
光太郎「君たちがバッドエンド王国の幹部か。俺は南光太郎、これからよろしく頼むよ」
ウルフルン「ケッ。新入りはよりによって人間かよ」
アカオーニ「なんでもいいけど足だけは引っ張らんで欲しいオニ」
マジョリーナ「あたしゃ研究の邪魔さえされなきゃ……ん? ま、待つだわさ!」
ウルフルン「あん?」
マジョリーナ「コイツ、ただの人間じゃないだわさ! このエネルギー……まさか、キングストーンを持ってるだわさ!?」
ジョーカー「キングストーン……ですかぁ?」
ウルフルン「体の中に石があんのか? ってかキングストーンって何だよ?」
マジョリーナ「簡単に言うと、キングストーンは奇跡を起こす石なんだわさ」
アカオーニ「奇跡オニ?」
マジョリーナ「『太陽の石』と『月の石』があって、二つのキングストーンが揃うと凄い奇跡が起こると言われているだわさ!」
光太郎「その通りだ。でも、月の石はもうこの世には存在しない。以前、ある戦いの最中で俺が破壊した」
マジョリーナ「こ、壊しただわさ!? 魔法使いやコレクターがこぞって欲しがってるアイテムなのに、なんてことするだわさ!」
光太郎「あの石のせいで、俺の兄弟は不幸な目にあった。あんな物、無い方が良いに決まってるんだ!」
ジョーカー(不幸が集まるのはむしろ望ましい、ということはさておき。ミラクルジュエルとは別のレアアイテムということですか)
ジョーカー(奇跡を起こす、と聞けば放置はできません。月の石はもう無いようですし、せめて太陽の石は手に入れておきたいですねぇ)
ジョーカー(……ですが、光太郎さんの体内にあるのではどうしようもありません。変身の秘密もそこにあるのでしょうか?)
――――
――――――
やよい「う~ん……」
ちはる「やよい、ご飯できたわよー!」
やよい「あっ、はーい!」
やよい「……はぁ。最近、ママに隠し事が増えてきちゃったな。テストの点数とか、プリキュアとか……」
やよい「プリキュアって結構大変だよね。相手はこっちの都合なんてお構いなしに襲ってくるし、必殺技を使うとすごく疲れるし」
やよい「そんな状態じゃ、テスト勉強もはかどるわけないよ~……悪い点数がさらに悪くなっちゃう」
やよい「たまには、誰か代わりのヒーローが戦ってくれたりしないかなぁ……」
なお「むぐむぐ……うん、やっぱり部活帰りのお好み焼きは最高! あかね、また腕上げたね!」
あかね「おおきに! ぎょうさん食べてーや!」
なお「もちろん! それにしてもなんであかねが店番やってるの? お父さんは?」
あかね「それがなぁ、お父ちゃんまたギックリ腰になってしもて」
なお「そうなんだ……あかねも大変だね。部活もあるのにさ」
ガララッ
光太郎「………………」
光太郎(ここがジョーカーの言っていた、プリキュアの潜伏場所の1つか。一見すると普通のお好み焼き屋だが)
あかね「いらっしゃーい! お好きな席へどうぞー!」
光太郎「ああ」
光太郎(赤髪と緑髪の少女たち……ジョーカーの話によると、この二人もプリキュアらしいが)
あかね「はいお水。ご注文は何にします?」
光太郎「……じゃあ、豚玉を1つ」
あかね「はいよっ、豚玉いっちょー!」
光太郎(やはり二人とも普通の女の子にしか見えないな……髪の色以外は)
なお(あの人、なんであんなに古臭い服着てるんだろう。昭和じゃないんだから……)
ウルフルン「チッ。なーんで俺様がこんな小間使いみたいな真似を……」
ウルフルン「ジョーカーの野郎もワケの分からねぇこと言いやがるしよ。『ペットショップのカメレオンに青っ鼻を付けろ』だぁ?」
ウルフルン「何がしてぇんだかサッパリだぜ……まあいい、とっとと終わらせちまうか」
ウルフルン「世界よ! 最悪の結末、バッドエンドに染まれぇぇ! 白紙の未来を黒く塗り潰すのだぁぁぁ!」
あかね「!?」
なお「この感覚は……!」
あかね「なお、外見てみい。いつん間にか夜になっとる」
なお「あいつら、性懲りもなくまた来たんだね! 行こう、あかね!」
あかね「おっしゃ!」
タッタッタッ...
光太郎「……急に夜になるなんて、普通じゃない! まさかこれもプリキュアの力なのか!?」
「「プリキュア、スマイルチャージ!」」
『ゴーゴー! レッツゴー!』
キュピィィィン!
サニー「太陽サンサン、熱血パワー! キュアサニー!」ドゴォォォン!
マーチ「勇気りんりん、直球勝負! キュアマーチ!」ドシュウゥゥゥ!
サニー「さーて、アカンベェはどこや?」
マーチ「この辺一帯が暗くなってるってことは、そう遠くないところにいるはずだよ!」
サニー「………………」
マーチ「…………あれ?」
サニー「……おらんで、どこにも」
マーチ「おかしいね。アカンベェってかなり大きいから、いつもはどこにいても目立つんだけど」
市民B「外に出たくない……ずっとPCの前に座っていたい……」ズーン
光太郎「大丈夫ですか!? くそっ、みんな生気を失っている!」
2人「「!?」」
光太郎「間違いない! プリキュアの仕業だ!」
サニー「ちょ、ちょっとお兄さん。あんたなんで動けるん?」
マーチ「しかも、プリキュアのことも知ってるみたいだよ……」
光太郎「……そうか。やはり君たちが犯人だったのか、プリキュア!」
サニー「へ!?」
マーチ「ちょっ……ご、誤解だよ!」
サニー「ま、待ってぇや! ウチらかて急に夜になって驚いてたやん! 自分も見てたやろ!?」
マーチ「そうだよ、言いがかりはやめて! 筋が通ってないよ、筋が!」
光太郎「その程度の演技、ゴルゴムならお手の物だ! 同じ悪党のプリキュアもそれくらいやるに決まっている!」
サニー「誰が悪党や! これはアカンベェっちゅうデカい怪物がやな……」
光太郎「アカンベェ? そんなヤツがどこにいる!」
サニー「それはやな……えっと、今はおらへんけども……」
マーチ「なんでこんな時に限ってアカンベェが見当たらないのさ……」
光太郎「言い訳など通用しない! 平和を脅かす悪の手先プリキュア! ゆ゛る゛さ゛ん゛!!」
ギリギリギリ...!
光太郎「変…………身!!」バッ!
サニー「うわっ、なんやねんこの光!」
マーチ「眩しい……!」
パキィィィィン!
BLACK「仮面ライダー、ブラァァック!!」バッ!
プシュウゥゥゥ....
サニー「う……うおおぉぉぉぉ!? なっ、なんなんあれ、なんなん!?」
マーチ「かっ、仮面ライダー……あれって都市伝説じゃなかったの!?」
BLACK「少女の姿に擬態して人間を狙う悪魔め……許さん!」
サニー「跳んだ!?」
マーチ「サニー、狙われてるよ! 避けて!」
サニー「アホなこと言わんとき! 返り討ちにしたる!」
マーチ「だ、ダメだって!」
サニー「誤解やって分かってくれへんねんからしゃーないやろ!」
BLACK「ライダァァァ、パァァァァァンチ!」
サニー「プリキュアパァァァンチ!」
マーチ「ダメってそういう意味じゃない! 仮面ライダーのパンチ力は……」
サニー「うわぁぁ!」ドシャァ
マーチ「サニー!」
サニー「い、いったぁ~! いたいぃぃ~!!」ジタバタ
マーチ「だから言ったじゃない! 誤解がどうこうって話じゃないんだよ!」
サニー「うぐっ……ど、どーゆーことなん……?」
マーチ「噂が本当だったら、仮面ライダーってコンクリートの壁も簡単に壊せるくらい強いんだよ!」
サニー「ま、マジでか。そらヤバいな……マトモにやったら殺されてまうやん」
マーチ「たぶん今、手加減されてたんだと思うよ。本気だったら今頃、動かない肉の塊に……」
サニー「や、やめぇや! 味方脅してどなんすんねん!」
マーチ「とにかく、近づくのは危ないね。とはいえ私たち、普段は接近戦ばかりだし……」
サニー「ほんならこれやな!」ゴォォッ!
マーチ「え!? も、もうサニーファイヤーを使う気!?」
サニー「接近戦で勝てへんなら飛び道具しかあらへん!」
マーチ「そ、それはそうだけど……」
サニー「他に手も無いんやし、迷う必要あらへんやろ!」
マーチ「……そうだね。私もマーチシュートで合わせるよ!」ドシュウゥゥゥゥ!
サニー「その意気や! 仮面ライダーがナンボのもんやっちゅうねん!」
マーチ「必殺技をダブルで叩き込めばかなりのダメージが与えられるはず!」
BLACK「来い、プリキュア!」
マーチ「プリキュア、マーチシュートォォォ!!」
ドギュゥゥゥゥ!
BLACK「これは…………!」
ドゴォォォォォン!!
サニー「……やったか!?」
サニー「い゛!?」
マーチ「あ、あれを食らって無傷なの!?」
BLACK「いや、流石に無傷とはいかない……だが俺は仮面ライダーだ! この程度の攻撃で倒れるわけにはいかない!」
マーチ「せ、精神論で立ってる!? やっぱり筋が通ってないよ!」
サニー「あかん、アイツを倒してから誤解を解くんは無理や。こうなったら先にアカンベェを見つけんと」
ガクンッ
マーチ「……うっ!」
サニー「マーチ!?」
マーチ「だ、ダメだ。マーチシュートを撃ったから、もう力が……」ペタン
ガクン
サニー「あっ、う、ウチもや……ふざけんなぁ、なんでアカンベェおらへんねん……」ヘタッ
BLACK「もう君たちに戦う力は残っていないはずだが、この窮地においてもまだ『アカンベェ』にこだわるなんて」
BLACK「まさかこの事態はプリキュアではなく、本当にアカンベェという者が引き起こしたものなのか?」
サニー「やから……そう、ゆうてる、やん……」
BLACK「………………」
BLACK「君たちは、アカンベェが近くにいると言っていた。ならば!」
BLACK「キングストーン、フラァァッシュ!」
キュイイイイイイイン!
アカンベェ「ア、アカンベェ!?」
BLACK「お前がアカンベェか!」
――その時、不思議なことが起こった。
BLACKのキングストーンから照射された光が、姿を消していたアカンベェの正体を露にしたのである。
マーチ「あれ見て! カメレオンに青っ鼻が付いてる。見つからないのも当然だよ、ずっと姿を消してたんだ!」
BLACK「ヤツの仕業だったのか! どうやら俺が誤解していたらしい。すまなかった!」
サニー「いや、もうええねん……ええねんけど、どないしよ……」
マーチ「青っ鼻は、レインボーヒーリングじゃないと倒せないのに……って何してんの!?」
BLACK「はぁぁぁぁぁ……」ギリギリギリギリ
BLACK「トウッ! ライダァァァァァキィィィィィィック!!」
ゴッシャァァァァァァ!!
アカンベェ「アカンベェ~……!」ブシュゥゥゥゥゥ...
マーチ「………………」
サニー「…………レインボーヒーリング、いらんやん……」
あかね「ちょっと腕痛いけど、それほどでもあらへん。気にしんとってや」
光太郎「なんだって!? ダメだ、病院に行こう!」
あかね「え、ええって!」
なお「行ってきなよ。サニーファイヤーが撃てたんだから折れてはいないと思うけど」
光太郎「俺の責任だし、病院までちゃんと送らせてもらうよ」
あかね「ええってゆうてんのに……ほな、お言葉に甘えさせてもらいますわ」
光太郎「ああ!」
光太郎(それにしてもジョーカーめ。プリキュアが悪だと偽り、俺を騙したのか……許さん!)
やよい「ええっ!? 仮面ライダー!?」
あかね「仮面ライダーBLACKとかゆうてはったわ。バッドエンド王国に騙されとったみたいで」
やよい「ずーーーーるーーーーいーーーーー!!」
あかね「……は?」
やよい「仮面ライダーってほとんど伝説なんだよ! 写真にも映像にも残ってないし……私も見たいよー!」
あかね「そういえばなおが都市伝説やとか何とか……でも、その割にはフィギュアとか売られてるやん」
やよい「それも、本当にその姿だったかは分かってないの。当時本物を見た人が記憶を頼りに作ったのかな……」
あかね「つまり、世界を救った変身ヒーローっちゅう噂だけが流れとるわけや。ウチは実物と話までしてもうたけどな~」
やよい「ずるいずるい、ずーるーいー!! 私も呼んでよー!」
あかね「あの状況で呼べるかいな……危うくそのヒーローに殺されるとこやったのに」
あかね「なんか『バッドエンド王国め、許さん!』とか言って帰ってったわ」
やよい「そうなんだ……また来るかなぁ」
タタタッ
みゆき「あかねちゃん、やよいちゃん!」
れいか「お二人とも楽しそうですね。何のお話ですか?」
なお「もしかして昨日の話?」
あかね「そうそう。みゆきとれいかもちょうどええとこに来たやん。実は昨日な……」
なお「ごめんあかね。二人には私が先に話しちゃった」
あかね「そうなん? なんや、つまらん」
れいか「仮面ライダー、ですか。今までは眉唾ものでしたが、二人が言うのであれば事実なのでしょうね」
みゆき「私たちと一緒に戦ってくれないかなあ」
――――――
――――
――
光太郎「ジョーカーはどこだ!」
マジョリーナ「い、いきなりなんだわさ!?」
ウルフルン「ジョーカー? 知らねーよ、またどっかほっつき歩いてんじゃねーのか?」
アカオーニ「いったいどうしたオニ?」
光太郎「俺はヤツに騙されていた! プリキュアが悪の手先だなんていうのはデタラメだ!」
ウルフルン「………………」
マジョリーナ「………………」
光太郎「君たちも騙されているに違いない! 今すぐジョーカーに加担するのはやめるんだ!」
ウルフルン「……いまさら何言ってんだ、お前。悪の手先は俺らの方だろーが」
光太郎「なに!?」
ウルフルン「おいおい、ジョーカーに騙されてたのか知らねーが俺らは関係――」
光太郎「ゆ゛る゛さ゛ん゛!!」
光太郎「変…………身!!」ババッ
キュピィィィィィン!
BLACK「仮面ライダー、ブラァァック!!」
プシュゥゥゥゥ...
アカオーニ「うおおぉぉ!? なんじゃこりゃオニ!?」
マジョリーナ「きっとキングストーンの力だわさー!」
ウルフルン「チッ、俺らが関係ねーっつっても説得力ねーか」
BLACK「悪の組織に属している以上、貴様らも許すことはできん!」
ウルフルン「ウルッフフフ! 許されようなんて思ってねーよ、バーカ!」
BLACK「やはり貴様らもゴルゴムと同じか!」
ウルフルン「ゴルゴムでもゴムゴムでも知ったこっちゃねーよ。つーか、幹部と三対一で勝てると思ってんのか?」
BLACK「ロードセクター!」
ブォォォォォォン!!
ウルフルン「うわっ!? な、なんだこりゃ!」
BLACK「行くぞ、ロードセクター! このアジトを破壊するんだ!」
ドゴォォォォォォ!!
アカオーニ「ぎゃあああああ! 俺様の部屋を突っ切っていったオニー!!」
ギュイィィィィン...
ウルフルン「なんだ? 乗り物にシールドみたいなのをはりやがったぞ」
BLACK「スパークリングアタックであの幹部達に突っ込むぞ!」
ドドドド......ドギュゥゥゥゥゥゥゥン!!
ウルフルン「!? チッ、逃げるぞ!」
マジョリーナ「あああ、大事な研究道具が燃えてるだわさぁぁぁ!」
ウルフルン「そんなのほっとけババア! アレはかなりやべーぞ!」
アカオーニ「どれくらいヤバいオニ!?」
ウルフルン「このアジトが全部吹っ飛ぶぐらいだよバカ! 木っ端微塵になりてぇのか!?」
アカオーニ「えっ」
BLACK「逃がさん!!」
ドゴォォォォォォ......
ジョーカー「ふぅむ。いったい何があったのでしょう?」
シュタッ
ウルフルン「おい、ジョーカー」
ジョーカー「おやウルフルンさぁん! ご無事で何よりです~」
ウルフルン「俺だけじゃねぇ、アカオーニとマジョリーナも無事だ……てめぇ、やっちまったな」
ジョーカー「はい?」
ウルフルン「あのヘンテコ人間を招き入れたことだよ。これをやったのはアイツだぜ」
ジョーカー「ヘンテコ人間というと~……光太郎さんですかぁ?」
ウルフルン「他に誰がいるんだよ。てめぇに騙されてたのに感づいて、俺達に攻撃してきやがった」
ジョーカー(おやおや。それではプリキュアを倒させる作戦は失敗したようですねぇ)
ジョーカー(次の作戦を考えないといけませ~ん……それもアジトを直した後の話ですが)
――――
――――――
光太郎「……というわけで、敵のアジトは潰してきた。すぐには活動を再開できないだろう」
あかね「さっすが光太郎はんやで!」
なお「もうあなた一人でいいんじゃないかな?」
やよい「…………」プルプル
みゆき「やよいちゃん? なんで震えてるの?」
やよい「……ずるい!!」
みゆき「ひゃっ」
やよい「あかねちゃんとなおちゃんばっかり……私も仮面ライダーとお話したいよ!」
あかね「えっ……まあ、別に話したらええんとちゃう? なあ?」
光太郎「俺はそんな大した人間じゃないけどね」
あかね(噛んだで)
れいか(噛みましたね……)
やよい「この間はいきなり逃げ出してごめんなさい!」
光太郎「いや、全然気にしてないさ。急にあんな質問をされたら驚いて当然だからね」
やよい「そ、そうですか……ところであの、聞きたいことがあるんですけど」
光太郎「なんだい?」
やよい(……とは言っても、いい話題なんか思いつかないよ~)
やよい(憧れの仮面ライダーとお話できるチャンスだと思って、勢いだけで話し始めちゃったし……)
やよい(……あっ、そうだ! ライダーといえば、やっぱりバイクが有名だよね!)
やよい「あの……BLACKって自己再生能力を持ったかっこいいバイクを持ってるって聞いたんですけど……」
やよい「あっ、そうなんですか……ご、ごめんなさい」
光太郎「いや。どの道、ゴルゴムが滅びればマシン達もいずれはその役目を終える運命にあったんだ……」
光太郎「それが少し早まっただけの話さ。ロードセクターもそろそろ本来の持ち主に返す。くよくよしてはいられないさ」
みゆき(今、『いなくなった』って言ったよね。『壊れた』とかじゃなくて)
なお(それだけ思い入れが激しかったか、それともバイクに意志があったとか……)
みゆき(え、ええ~? バイクが自分で考えたりできるってこと? そんなまさか~)
なお(だよね……)
やよい「えっ?」
光太郎「バッドエンド王国とは違う、また何か大きな敵が現れるような気がするんだ」
光太郎「……ゴルゴムとの戦いでも、俺の嫌な予感は奇妙なくらい当たってきた……」
あかね「縁起でもないこと言わんとってくださいよ~」
光太郎「……そうだね。バッドエンド王国を壊滅させれば、きっともう変身しなくてもいい世の中が来ると信じよう」
れいか「『壊滅』とは、ずいぶん徹底しておられますね……」
光太郎「ああ。俺は、悪の組織だけは絶対に許さん!」
みゆき「お……オオカミさんだけ助け……」ボソッ
あかね「ん? みゆき、何かゆうたか?」
みゆき「なっ、なんでもないなんでもない!」
なお「一生ものの怪我を負う可能性だってあるしね。早くこの戦いを終わらせたいよ」
れいか「ですが、彼らは一度アジトを潰されています。復讐の怨嗟と共に強くなり、再度我々の前に立ちはだかるでしょう」
光太郎「ああ。その時は、俺も君たちに協力するよ」
やよい「ホント!? かっ、仮面ライダーと一緒に戦えるなんて……」ジーン
あかね「やよい、感極まっとる……」
みゆき「仮面ライダーBLACKだから……キュアブラックだね!」
あかね「プリキュアにすんな! ちゅーかキュアブラックはもうおるやろ!」
光太郎「ははは……」
光太郎(ジョーカーの卑劣な罠にも負けず、俺達はこうして手を取り合うことができた)
光太郎(バッドエンド王国……そしてジョーカーは、俺とプリキュアが倒してみせる!)
終わり。
仮面ライダーとプリキュアが組めば百人力だな
王国オワタ
逃げろバッドエンド王国民
Entry ⇒ 2012.06.25 | Category ⇒ プリキュアSS | Comments (2) | Trackbacks (0)
あずさ「運命の人、み~つけた」
春香「プロデューサーさん! クッキー作ってきたんですけど、食べませんか?」スッ
真「最近ちょっと仕事頑張り過ぎじゃないですか? 肩でも揉んであげますよ」サッ
P「お、お前ら最近、おかしくないか……?」
春香「な、何がですか……?」アセアセ
真「そ、そんな事ないですよっ!?」テレテレ
P「そ、そうかあ?」
伊織「何よ春香たち、ゾッコンじゃない」
やよい「ぞっこん……? どういう意味ですかあ?」キョトン
亜美「んっふっふ~。やよいっちにはまだ分かんないか→」
真美「よーするに、はるるんとまこちんは、兄(C)にラブって事だYO!」
やよい「へ……? そうだったんですかあ」
雪歩「ま、真ちゃあん……」シクシク
あずさ「春香ちゃんたち、何だか楽しそうね~」
千早「はい。でも、いいんでしょうか?」
あずさ「……?」キョトン
千早「仮にも、アイドルがプロデューサーに恋心を抱くなんて……」
あずさ「あら。でも、プロデューサーさんは充分魅力的だと思うわよ~?」
千早「そ、そういう事ではなくてですね……」
あずさ「春香ちゃんも、真ちゃんも年頃の女の子なのよ~?」
千早「それは……そうですけど」
あずさ「恋のひとつやふたつ、経験しておいた方がいいんじゃないかしら?」
千早「あずささんは、恋愛した事はあるんですか?」
あずさ「無くはないけれど……。あまり良い想い出はないわね~」ハア
千早「そうですか。何にせよ、変に関係が拗れなければ良いのですけど」
あずさ「プロデューサーさんなら、心配ないと思うわよ~?」
千早「そうでしょうか。確かに、頼りにはなりますけど」
あずさ「ねえ、千早ちゃんは、プロデューサーさんの事、好き?」
千早「へっ? ま、まあどちらかと言えば」
あずさ「そう……。わたしも好きなのよね~」
千早「…………」
千早(飽くまでも、プロデューサーとして、って事よね……?)
あずさ「恋、したいわね~」ポー
千早「…………」
――――
――
あずさ「あら、ライアンちゃん、おはよう」ナデナデ
犬「わんっ!」ペロペロ
綾子「あずさちゃん。最近よく会うわね~」
あずさ「少し、早起きを心がけようと思いまして~」
綾子「そうなんだ。ね、リード持ってみる?」
あずさ「いいんですか~? それじゃあ」クイッ
犬「わんっわんっ!」タタタ
あずさ「あらあら。本当に元気ねえ~」ニコニコ
P「あ、あれ? あずささんじゃないですか」タッタッタ
あずさ「プロデューサーさん! 奇遇ですね~」ペコリ
P「ちょっと運動不足で……この辺を走っていたんです」ハアハア
綾子「あずさちゃん。この方は……?」
あずさ「わたしの、プロデューサーさんです♪」
P「いや、あずささんの他にも問題児は沢山居ますけどね」
綾子「あなたが……。私、上野綾子と申します」ペコリ
P「ど、どうもご丁寧に……。えーと、上野さんは、あずささんとはどういったご関係なんですか?」
綾子「この子のお散歩をしているときに、よく会うんです。時々こうして、お話をしているんですよ」
犬「わんわんっ!」
あずさ「挨拶しているのね~。偉いわライアンちゃん」ナデナデ
P「そうなんですか。あずささん、迷子になったりしませんでした?」
あずさ「プロデューサーさん。私、そんなにドジじゃありません」プクーッ
綾子「と、時々ふら~っと居なくなるコトがありますね……」
P「やっぱり。あずささん、あまり迷惑をかけちゃダメですよ?」
あずさ「そうそう! この子お手とおかわり、同時に出来るんですよ~」ホワーン
P「聞いてないし……。それじゃ、俺はもう行きますね」
綾子「お気をつけて下さい」
あずさ「プロデューサーさんも、迷子にならないように、注意してくださいね~」
P「自宅に戻るだけなのに迷うわけないでしょー!」タッタッタ
綾子「……優しそうな人ね」
あずさ「ええ……。とっても親切で、良い人ですよ~」
綾子「あずさちゃん、結婚したいんでしょう? あの人なんか、いいんじゃない?」パアア
あずさ「わ、私なんかじゃムリですよ~。他に可愛い子、いっぱい居ますから」
綾子「でも、最近よく会うって言ってたじゃない?」
あずさ「それは……ただの偶然だと思います~」
綾子「もしかしたら、運命かもしれないわよ?」ニヤッ
あずさ「運命……ですか?」
綾子「だってこの前も……」
あずさ「……」
綾子「こんな都会で、あんな偶然有り得ないわよ~」
――――
――
先日/10:00/街
P「あれ? あずささん?」
あずさ「プロデューサーさん。奇遇ですねえ~」トコトコ
P「こんな所で会うなんて、すごい偶然ですね」
あずさ「それはそうと、今日は良い天気ですね~」キラキラ
P「そ、そうですね……。それじゃあ、また」テクテク
あずさ「は~い」ノシ
13:00/CDショップ
あずさ「あら、プロデューサーさん」トコトコ
P「わっ、あずささん。今日はよく会いますね~」ハハ
あずさ「本当ですね~。あら、それは……」
P「なんか久々に聴きたくなっちゃって」ハハハ
あずさ「いい曲ですよね~」ウンウン
P「あずささん、お一人なんですか?」
あずさ「ええ。たまには、ゆっくり出掛けたいなあと」
P「迷子にならなかったのは奇跡ですね……」
あずさ「えー? 私だって、もう大人なんですよ~?」プンッ
P「…………」
P「それじゃ、俺はもう行きます」クルリ
あずさ「はい。行ってらっしゃい」ニコッ
17:00/公園
P「……!? あ、あずささん?」
あずさ「あらあら、プロデューサーさん。三度目ですね~」トコトコ
P「いや……この遭遇率は異常ですよ」
あずさ「それはそうと、噴水、キレイですね~」
P「ま、またマイペースな……」
あずさ「…………」テクテク
P「…………」
あずさ「プロデューサーさん?」
P「はい?」
あずさ「プロデューサーさんって、恋人は居ないんですか~?」クルリ
P「ええっ!? 今は仕事が忙しいですし……。それに、居たら休日に一人で出掛けたりしませんよ」ハハ
あずさ「それもそうですね~」テクテク
P「あずささんは、どうなんですか?」
あずさ「私も、同じです」ニコッ
P「そうですか……」
あずさ「……~~♪」
P「あの、あずささん」
あずさ「何ですか~?」
P「一緒に夕食でも、どうですか?」
あずさ「あらあら、いいんですかあ?」クルリ
P「…………?」
あずさ「迷わないように、ちゃーんと連れて行って下さいね?」ニコッ
――
――――
綾子「ほらあ。やっぱり運命じゃない?」
あずさ「そんな……。私じゃプロデューサーさんに相応しくないですよ~」
綾子「あずさちゃん。とっても美人なのに。っていうか」
あずさ「…………?」キョトン
綾子「もしかしたら、彼、あずさちゃんに気があるのかもしれないわよ?」パアア
あずさ「え、ええ~?」
綾子「たび重なる遭遇も、すべて図られていたのかも!」キラキラ
あずさ「そ、そんなこと……」
あずさ「……!!」ハッ
綾子「ん? どーしたのあずさちゃん」キョトン
あずさ(そういえば……あの日の占い、恋愛運だけやけに良かった気がするわ……)
あずさ(ま、まさかプロデューサーさんが……?)カアア
綾子「あずさちゃん、結婚っていいものよ~」ウンウン
あずさ「け、結婚?」
綾子「それに、私もうすぐ赤ちゃん生まれるの……楽しみだなあ」
あずさ「あ、赤ちゃん……?」
あずさ「…………」
あずさ「…………///」ポワン
綾子「……あらら。あずさちゃんったら、可愛いわね」クスクス
――――
――
翌週・休日/7:30/あずさ邸
あずさ「~~~~♪」チーン
あずさ「~~♪」コポコポ
あずさ「でーきた♪」
あずさ「やっぱり、朝はコーヒーとトーストに限るわね~」パクッ
あずさ「久しぶりに、早起きして良かったわ~」パクパク
あずさ「あ、占いが始まる時間」ポチッ
テレビ「は~い! 今日も元気に、亜美と真美がお兄ちゃんとお姉ちゃんの一日を占ってあげるコーナーいっくよ→」
テレビ「まずは~、おひつじ座から占っちゃお→」
テレビ「続いて、かに座の兄ちゃんと姉ちゃん!」
あずさ「……じーっ」パクパク
テレビ「今日は、最っ高の一日になるかもねっ! 特に……んっふっふ~♪ 恋愛運に恵まれてるようですなあ~」パチパチ
あずさ「やったあ♪」
テレビ「外でお買い物とかしてみたら、運命の相手と出会っちゃうかもよ→」
あずさ「……運命の相手ねえ~」パクパク
テレビ「それじゃ、しし座の……」
あずさ「……天気も良いし、出掛けてみようかしら~」ンーッ
――――
――
9:30/街
あずさ(とりあえず家を出てみたけれど……)
あずさ(何処に行こうかしら~?)ウーン
あずさ(ショッピングは友美に付き合ってもらったばかりだし……)
あずさ(食べ歩きもいいけれど……)キョロキョロ
あずさ「……どうしようかしら?」
P「あれ? もしかして、あずささん?」トコトコ
あずさ「……あら! ぷ、プロデューサーさん?」
P「はは。どうしたんですか? そんなに慌てて」ニコッ
あずさ(……え、どうしてプロデューサーさんが?)
あずさ(もしかして……占いの『運命の相手』って……)ドキドキ
P「あずささんは、今日はお一人で買い物ですか?」
あずさ「そ、そうですね~。プロデューサーさんもですか~?」
P「ええ、まあ。今朝、テレビで占い観ていたら、めちゃめちゃ運勢が良かったもんで」ハハハ
あずさ「実は、私もなんです~。もしかして、かに座ですか?」
P「はい。7月生まれで。ひょっとして、あずささんも?」
あずさ「はい。占いの『運命の相手』が気になってしまって~」
P「ははは。あずささんらしいですね……」
あずさ「…………」
P「…………」
あずさ(ほんとに……、プロデューサーさんが……?)
P(最近よく会うなあと思っていたら……まさか……)
あずさ&P(目の前に居るこの人が……運命の相手?)
あずさ「あの~……ぷ、プロデューサーさん?」
P「は、はい……。どうしました? あずささん」カチコチ
あずさ「今日は……お一人なんですか?」
P「え、ええ。考えなしにとりあえず出掛けただけなので……」
あずさ「実は……私もなんです~」
P「…………」
あずさ「…………」
P「よければ一緒に……」
あずさ「デート、しませんか?」
――――
――
10:00/古着屋「Beside」
あずさ「これなんか、どうかしら~?」トテテ
P「へえ……これからの季節には、良さそうですね」
あずさ「プロデューサーさんは、どんな服が好みなんですか~?」
P「そうですね……。割とタイトめで、派手過ぎない感じですかね」
P「あずささんは、どんな服が好きですか?」
あずさ「今日みたいなぽかぽか陽気の日は、ゆったり着れるものがいいですね~」
P「確かに、今日の服は自然な感じですね。まるで妖精みたいな……って」
P(うわ~、何恥ずかしいこと言ってるんだ俺……)
あずさ「あらあら。褒めていただいて、嬉しいです~」ニコニコ
P「そのファッション、最近流行ってましたよね? えーと、『林ガール』でしたっけ?」
あずさ「プロデューサーさん。それを言うなら、『森ガール』ですよ~」クスクス
P「ああそれだ。すみません疎くって。似合ってますよ、とっても」
あずさ「ファッションの勉強も、アイドルには必要なんです」エッヘン
P「俺も頑張らなきゃですね」
あずさ「ふふっ。じゃあ、私がカッコイイお洋服、選んであげますね~」ウキウキ
P「いいんですか? あずささんお洒落ですし、是非願いします」
あずさ「じゃあ、さっそく寸法を……」スッ
P「ちょ、ちょっとあずささん?」
あずさ「はい。何ですか? プロデューサーさん」ペタペタ
P「その……あまり近づかれるとですね……」
あずさ「はい……?」スッスッ
P(その果実のような、豊満なOPPAIが……)
P「…………」ドギマギ
あずさ「……はい。おしまい。それじゃ、ちょっと待っていて下さいね~」トテテ
P「は、はい……」
あずさ「…………♪」ルンルン
P「……」
P(……まあ、あずささんが楽しいならいいか)
――――
――
11:10/レコード店「9:02pm」
P「へえ、あずささんってレコードとか聴くんですか?」
あずさ「いえ……。何だか、こういうお店って、覗いているだけで楽しくなりませんか~?」
P「ああ、わかります。ある種の赴きがありますよね~」
あずさ「はい。記念に、一枚買っていこうかしら~」テクテク
P「あ、あずささん。前見て歩いてくださいよ」
あずさ「大丈夫ですよ~……きゃっ」ドン
店員の女の子「わわっ!?」
バサバサ……、バラバラ……。
P「あーあ。大丈夫ですか?」タタタ
あずさ「はい~。あの……お怪我はありませんか?」ペコリ
店員の女の子「すみません……こっちこそボーッとしてしまって」ペコリ
あずさ「あらら、レコードが散らばっちゃった」サッサッ
P「すみません……。売り物なのに……」ッス
店員の女の子「いえ……私の不注意ですので……」
あずさ「本当に、ごめんなさいね」
P「あずささん。気を付けてくださいね? 怪我でもしたら大変です。アイドルなんですから」
あずさ「はい。心配してくれて、ありがとうございます~」
店員の女の子「……あの、アイドルをされているんですかあ?」
あずさ「ええ。でも、まだ駆け出しなんですよ~」
店員の女の子「す、すごいですねっ! 良かったら、お名前をお聞きしてもいいですか? 私は、林田凛子っていいます」キラキラ
あずさ「凛子ちゃんね? 私は、三浦あずさと申します~」ペコ
店員の女の子「あずささん、ですか。私、応援しますね」パアア
あずさ「ふふっ。ありがとう。本当に、ごめんなさいね~」
店員の女の子「こちらこそスミマセンでした。お仕事、頑張って下さいねっ」ペコ
――――
――
12:30/カフェ「Sweet Doughnuts」
あずさ「ここのお店、トレンドなんです~」ニコッ
P「うわあ……なんていうか、ファンシーですね」
あずさ「とっても可愛いんですよ~? 絵本を飾っていたり、内装も……」
P「基本的に木目調だし、アットホームで落ち着きますね」
あずさ「はい。それにメニューも、可愛くて美味しいものばかりなんです」
P「はは。あずささんは素敵な所、たくさん知ってますね」
あずさ「楽しむことくらいしか、取り柄がありませんからね~」クスクス
P「それじゃあ、何食べましょうか」ペラ
あずさ「私のオススメは、このトマトのグラタンですね~」
P「へえ……、スイーツも充実してますね」
あずさ「ここのカフェラテも、ほんわか美味しいですよ~」
P「じゃあ、それに決めます」
あずさ「ふふっ。それじゃあ、私も」ニコッ
P(はあ……。何か、幸せだなあ)
13:10/カフェ「Sweet Doughnuts」
P「そういえば、この間の……、上野さんでしたっけ? もともと知り合いというわけでは、無かったんですよね?」
あずさ「そうですね~。ワンちゃんが可愛くって、撫でさせてもらっているうちに仲良く」ニコッ
P「あずささんって、実は結構、顔が広いですよね~」
あずさ「そうですか~? あ、そうそう、綾子さんの旦那さんって、ブリーダーさんなんですよ?」
P「ブリーダー? って、何のですか?」
あずさ「ワンちゃんのです。コンテストなんかも、あるらしくって」
P「へえ~。世の中、いろんな人が居るもんですねえ」
あずさ「最近、子犬が生まれたそうなので、今度抱っこさせてもらいに行く約束もしているんですよ~」ニコニコ
P「……なんか、あずささんって、本当に楽しそうに話をしますよね」
あずさ「そうですか~? あまり意識した事はないですよ~?」キョトン
P「いえ、何か……あずささんと居ると、こっちまで楽しくなってきます」ハハ
あずさ「そ、そうですか~?」テレテレ
P「はい。あ、俺会計してきますね」
あずさ「それじゃ、お金を……」ゴソゴソ
P「いや、俺が出しますよ」
あずさ「そんな、悪いです……」
P「今日は楽しませてもらってますから。ほんの気持ちですよ」
あずさ「それは私も同じですよ~」アセアセ
P「まあ、男ですから。これくらいは、させて下さいよ」ニコッ
あずさ「じゃあ、今回だけ……ですよ?」
P「はい。行ってきます」タタタ
あずさ「…………」
あずさ「優しいなあ、プロデューサーさん」
――――
――
14:00/街
P「こうして、少し人混みから離れた道を歩くのも、良いもんですね」
あずさ「そうですね~。ぽかぽか暖かくて、気持ちいいです~」
P「よくよく見れば、いろんなお店があるんですね」
P「帽子屋、古着屋、靴屋、楽器屋……。個人で経営している店も、案外多いみたいだなあ」
あずさ「…………」ジーッ
P「……? どうしました、あずささん」
あずさ「プロデューサーさん。あのお店、入りませんか?」スッ
P「……占い?」
あずさ「私、占いには目がないんです~」
P「いいですよ。面白そうだし、行ってみましょうか」
――――
――
14:00/占い屋「KING」
カランコロン……。
占い師「いらっしゃい。あらあら、素敵なカップルさんですね……」ニコニコ
あずさ「こんにちは~」
P「わ、綺麗ですね。これ」
あずさ「ほんとだわ~。この水晶玉を使って、占いをするんですか~?」
占い師「いろいろなやり方がありますよ。とりあえず、座ってください」
P「は、はい……座りましょう。あずささん」
あずさ「……」チョコン
お姉さん「さて、今日は何を占いましょう?」
P「あずささん、どうします? やっぱり仕事についてですかね?」
あずさ「う~ん……せっかくのデートだし……」
P「…………?」
あずさ「プロデューサーさんと私の、相性を占ってもらいましょう!」ポンッ
P「え、ええ!? 何か恥ずかしくないですか? それ」アセアセ
あずさ「嫌、なんですかあ?」シュン
P「そ、そんな事ないですよ!」
あずさ「それじゃあ、カップリング占いを……」
占い師「かしこまりました。それでは、まず手を繋いでください」
P「えええ!?」
あずさ「ぷ、プロデューサーさん」
P「わ、わかりました……」
ギュ……。
あずさ「……///」
P「…………」ドキドキ
占い師「続いて……そのまま向き合ってください」
あずさ「……」クルリ
P「……」
占い師「お互いの目を、よく見て下さい……」
あずさ「…………」ウルウル
P(や、やばい。あずささん可愛すぎる……)
占い師「うぬぬぬ……はああ……ふう……」
占い師「ジューシー……ポーリー……」ブツブツ
あずさ(……イェイ)
P(これホントに当たるのかあ~?)
占い師「見えました……」
P「ふう……」
あずさ「そ、それで……どうだったんですかあ?」ドキドキ
占い師「…………」
P「……」ゴクッ
あずさ「……」ゴクッ
占い師「あなた方の相性は……」
――――
――
15:30/公園・ベンチ
あずさ「陽射しが気持ちいいですね~」
P「そうですねえ。何だか眠くなります」
あずさ「プロデューサーさん。女の子と一緒にいるのに、お昼寝しちゃダメですよ~」メッ
P「す、すみません……。それより、さっきの占いですが……」
あずさ「……カップリング相性、91%……」カアア
P「あんなに高いとは、思いませんでした」ハハハ
あずさ(やっぱり……プロデューサーさんが、私の……?)ドキドキ
P「でも、良い結果が出てよかったですよね」ニコッ
あずさ「……そう、ですね……///」
P「…………」
あずさ「…………」
あずさ&P「「あ、あの……」」
P「あ、あずささんからどうぞ……」
あずさ「そ、その……」
P「…………?」
あずさ「て、手を……」モジモジ
女子高生「あ! あずささん!」トテテ
あずさ「きゃあっ!?」
P「うわあっ!?」
女子高生「ど、どうしたんですかあ?」
あずさ「り、凛子ちゃん……」
P「レコード店で会った……」
子「……もしかして、お邪魔でした?」ニヤッ
あずさ「そ、そんなことないわよ~。ね、プロデューサーさん?」ドギマギ
P「え、ええ。ただ休んでいただけですし……」アセアセ
凛子「そうですか。あの、ちょっとだけお話しませんか?」チョコン
あずさ「あらあら。良いですか?」
P「構いませんよ」
凛子「ありがとうございます。あずささんっ!」
――――
――
凛子「実は……、ちょっと進路の事で悩んでいるんです」シュン
あずさ「凛子ちゃんって、高校生だったのね~」
凛子「はい。何か、イマイチ受験勉強に打ち込めなくって……。バイトばかりしちゃって」
あずさ「そうだったの。プロデューサーさんは、高校生の頃は何をしていたんですかあ?」
P「う~ん。俺はバンドやってましたね。まあ、三年になってからは、予備校に通い詰めでしたけど」
凛子「へえ~、あずささんの彼氏さん、楽器が出来るんですかあ~」キラキラ
P「か、彼氏!?」
あずさ「そ、そう見えるかしら~?」テレテレ
凛子「へ? 違うんですかあ? 私てっきり……」
P「ち、違いますよ。俺はあずささんのプロデューサーなんです」
凛子「なーんだ。傍から見れば完璧にカップルでしたよ~?」
あずさ「ええ~? もう、困っちゃいますね、プロデューサーさん」テレテレテレ
P「あ、あずささん?」
凛子「あずささん可愛いですね~」ダキッ
あずさ「ちょ、ちょっと凛子ちゃん?」
凛子「……あずささんが、お姉ちゃんだったらいいのになあ」
あずさ「……どうしたの?」
凛子「私……、一人っ子なんですよ。パパもママも共働きで、遅くまで帰らないんです。だから、ちょっとだけ寂しくって」
あずさ「そうだったの……」
凛子「何も無いんですよ、わたし」
P「……どういうこと?」
凛子「やりたい事が、見つからないんです」
凛子「友達とかは、それぞれ将来の目標とか、夢とか持ってて」
凛子「それが……羨ましいんです……」
凛子「先が……見えないんです」
あずさ「凛子ちゃん……」
P「…………」
凛子「あーあ、世の中って、幸せなことばかりじゃないんですよね~」
凛子「魔法みたいに、楽しいことだけなら、いいのになあ」ハア
あずさ「……ねえ、私がどうしてアイドルになったか、教えてあげよっか?」ニコ
凛子「わあ、聞かせてください!」
あずさ「私を見つけてくれる、運命の人を探すため……」
凛子「へ……? 何だか間接的な理由ですね……」
あずさ「お仕事を頑張って、テレビとかに出ていれば、いつか出逢えるかなあって、始めたのよね~」
凛子「何だか、純粋なんですね。あずささんって」
あずさ「そんなことないわよ~。ねえ、プロデューサーさん?」
P「いや……何故そこで俺に振るんですか」
凛子「あはは。本当に、幸せそうですね」
あずさ「そうかしら~? でも、今日は特に楽しいことが多かったわね~」ニコニコ
凛子「この人と一緒だったからですかあ?」ニヤニヤ
あずさ「そ、そういうわけじゃ……///」
凛子「あ、赤くなった~」
あずさ「もうっ! からかわないで~」プンプン
凛子「ご、ごめんなさ~い」テヘペロ
あずさ「……ね、凛子ちゃん」
凛子「はい?」
あずさ「私は、近道をしても、良いと思うわ」
凛子「近道、ですか?」キョトン
あずさ「ええ。私ね、アイドルを始めてから、いろいろ学んだ事があってね?」
凛子「…………」
あずさ「人には、それぞれに合った生き方があると思うの」
あずさ「辛い時や、悲しい時にね? 少しくらい立ち止まって、他の道を歩いてみても良いんじゃないかしら? 見つけたいモノを探すの」
凛子「見つけたいモノ?」
あずさ「そうやって、幸せを掴めたらいいなって。自分で考えて、やってみる事で、結果的にそれが、近道になるかもしれないでしょう?」ニコニコ
凛子「あずささん……」
凛子「……そう、ですね。何だか、少しだけスッキリした気がします」ニパッ
あずさ「自分のペースで、歩いていけば大丈夫」ブイッ
P「まあ、あずささんは少々マイペース過ぎですけどね」
あずさ「ぷ、プロデューサーさん?」ムーッ
P「ははは。冗談ですよ」
携帯『ぷるるる、ぷるるるる』
あずさ「あら? 誰からかしら?」パカッ
電話『もしもし? 綾子でーす』
あずさ『あらあら、綾子さん。どうしたんですか~?』
綾子『今から少し、時間ないかしら? 子犬、抱っこさせてあげようかと思って』
あずさ『いいんですか~? ちょ、ちょっと待って下さいね』
P「どうしました?」
あずさ「綾子さんが、今から子犬を触りに来ないかって」
P「良かったじゃないですか」ニコ
あずさ「もちろん、プロデューサーさんも、来てくれますよね?」
P「え、いいんですか?」
あずさ「一緒がいいです。それと……」
あずさ「凛子ちゃんも、子犬、抱っこしたくない?」ニコッ
凛子「わ、わたしも行っていいんですか?」
あずさ「きっと大丈夫だと思うわ」
凛子「ありがとうございます。私、ワンコ大好きなんですっ!」キラキラ
あずさ「あらあら。それじゃ、住所聞くわね~」
P「ま、待ってください。住所聞くなら、俺が替わります」アセアセ
凛子「へ? どうしてですか?」
P「あずささんは、人類一の方向音痴なんですよ……」
あずさ「た、確かによく迷子になるけれど……。プロデューサーさん?」プクー
P「はいはい。文句を言うなら、これからは真っ直ぐ事務所に着けるようにしてくださいね?」
あずさ「……ごめんなさい」シュン
P「わかればよろしい」
P『あ、もしもし……僕、前にお会いしたあずささんの……』
凛子「ほんとに、可愛いひとですね。あずささんって」クスクス
――――
――
18:00/上野邸
P「どうも、お邪魔しました」ペコリ
あずさ「綾子さん。またいつかの朝に」
綾子「あずさちゃんも、お仕事ガンバってね」
あずさ「ふふっ。プロデューサーさんが居るから、大丈夫です~」
P「ま、任せてくださいっ!」グッ
凛子「綾子さん、私まで押しかけてしまって、ありがとうございました」ペコ
綾子「いいえ。あの子たちも楽しかったみたい。勿論、私もよ? またいつでも来てね?」ニコッ
凛子「はいっ!」
凛子「それじゃあ、私は本屋に寄ってから帰りますので、あずささんも、いろいろと頑張ってくださいね」パチン
あずさ「……いろいろ? ふふっ、凛子ちゃんもね」ニコッ
凛子「はいっ! 今日は、本当にお世話になりました~!」タッタッタ
P「元気になったみたいで良かったですね」
あずさ「はい。それじゃあ、私たちも、帰りましょうか?」
P「ええ。帰りましょう」
――――
――
18:20/土手・並木道
昼間、私たちをぽかぽかと照らしていた太陽も、そろそろ眠りにつくようだった。
プロデューサーさんと、爽やかな風を受けながら、並木道を歩く。
時折、私のほうをちらりと見て、歩調を合わせようとしてくれる気遣いとその距離感が、暖かくて嬉しかった。
P「なんだか、今日は色々ありましたね~」
あずさ「はい。とっても幸せな一日になりました」ニコ
P「ホント、あずささんって、すごいですよね」
あずさ「ええ~? 何がですか?」
P「なんて言うか、自然と人が集まるんですよね。周りに」
あずさ「そうですかあ?」
P「そうですよ。こうやって、人の輪をつくれる人って、素敵だと思いますよ」
あずさ「あ、ありがとうございます……///」
プロデューサーさんに素敵だと褒められて、少しだけ頬が上気するのを感じた。
今は夕日のおかげで隠せるけれど、何だか気恥ずかしく思う。
P「不思議な一日でしたね。示し合わせたわけじゃないのに……」
あずさ「ですね……。でも、少しだけ、予感はしてました」
P「へ……?」
今朝に観た、テレビの占い番組。数分眺めるだけで、幸せになれる魔法のおかげ。
もしかしたら、先日のように出会うのではないかと、私はひそかに思っていた。
あずさ「……お昼の占い、どう……思いますか?」カアア
P「え、ええと……まあ、素直に嬉しいですよ」
あずさ「……私もです」
探していた、運命の人。
特別な出会いや、容姿や、財産などには、興味はなかった。
ただ、自分が一緒に過ごしていて、心から好きと思える人。
そして、愛して欲しい人は、今、隣を歩いているこの人なのかもしれない。
あずさ「プロデューサーさん?」
P「はい。何ですか? あずささん」
あずさ「私……、アイドルを辞めちゃうかもしれません」
P「え、えええ!?!? どうしてですか?」アセアセ
あずさ「……だって」
あずさ「もう、運命の人、見つけちゃったんですもの」
P「へ……? そ、それはどういう……」
あずさ「ふふっ。冗談ですよ、プロデューサーさん」
P「あ、あずささん! 驚かせないで下さいよ!」
あずさ「ごめんなさい」
P「まったく……寿命が縮みましたよ……」ハアア
あずさ「ねえ、プロデューサーさん」
P「……はい?」
あずさ「少しだけ、近道しちゃダメかしら?」ググッ
P「……!?」チュッ
私より背が高いプロデューサーさん。
その唇に届かせるために、ちょっとだけ背伸びをする。
この人はプロデューサーなのに……という理性と、言いようのない充足感が心の中で葛藤する。
それでも、自然と、体が動いてしまった。
彼を求めてしまっていた。
あずさ「プロデューサーさんのこと、好きです」
P「……また、冗談ですか?」
あずさ「いいえ。私、運命の人、見つけちゃいました」
P「すみません」
あずさ「…………」
P「プロデューサーだってのに、すみません」
あずさ「…………?」
P「俺も、大好きですよ、あずささんのこと」
まるで、テレビドラマのラストシーンみたいに、私は抱きしめられていた。
ただひたすらに心地よくて、泣けるほどに暖かくて。
私がアイスクリームだったら、トロトロに溶けてしまいそうだった。
あずさ「一緒に、幸せを掴めたら……良いですね」
P「はい……。これからも、あずささんの隣、歩きたいです」
この人と一緒なら、どんな事があっても、楽しく過ごせると思った。
もし、毎日がつまらなくなって、何かに負けそうになったとしても。
目を開いていれば、幸せはきっと訪れる。
だから、これからもずっと、二人で歩きましょう。
たくさん、たくさん、近道をしながら。
――――
――
翌日/午後/765プロ事務所
春香「プロデューサーさん! 今日はドーナツを作ってきたんですよ♪ 是非、食べてくださいっ」キャイキャイ
真「ボク、耳かき得意なんです! プロデューサー、横になってください」キャピキャピ
P「お、お前らなあ……」
あずさ「春香ちゃん、真ちゃん」
春香「へっ? 何ですか? あずささん」キョトン
真「なんだか、怒ってるような……?」
あずさ「プロデューサーさんは、私の運命の人なんだから、ちょっかい出しちゃだめよ~」プクー
P「ちょ、ちょっとあずささん! その事は……」アセアセ
春香「ど、どいうことですか? 詳しく聞かせてください!」
真「あっ! 逃がしませんよ~! プロデューサー!」タタタ
P「あずささーん! 助けてくださいよ~」ドタドタ
あずさ「あらあら……」
千早「……更に拗れてますね……」ハア
あずさ「あ、そうだわ!」トコトコ
亜美「んー、どしたのあずさお姉ちゃん」キョトン
真美「真美たちに何か用事?」キョトン
あずさ「2人とも、ありがとう」ニコッ
亜美&真美「「な、なんのこと→?」」
あずさ『運命の人、み~つけた』 ―take a shorter route―
FIN
相変わらずアイマス愛を感じさせるSSだ
次も楽しみにしてる
Entry ⇒ 2012.06.25 | Category ⇒ アイマスSS | Comments (0) | Trackbacks (0)
春香「半額弁当……?」
千早「そうね……スーパーで、半額弁当を食べることが多いっていったのだけれど」
春香「えぇっ!? そんなのアイドルのすることじゃないよ! 半額弁当だなんて!」
千早「……春香」ガシッ
春香「えっ?」
千早「さすがに春香といえども今の発言は見過ごせないわ」
春香「えぇっ?」
千早「……私と春香の仲だから許すけれど。スーパーの前でいったりは絶対にしないこと」
春香「え、う……うん」
千早「わかってくれればいいの……あっ、それじゃあそろそろレッスンの時間だから」
タッタッタッタ……ガチャッ
春香「……? そんなにまずいこといったかなぁ」
春香「あー、今日はハードだったなぁ……」
テクテクテクテクテクテクテク
春香「……お腹、減ったなぁ」
テクテクテクテクテク
春香「……家に帰ってからだとお腹減りすぎて死んじゃいそうだし」
テクテクテクテク
春香「そういえば、ここら辺にスーパーがあったはずだよね」
テクテク……
春香「お弁当とか……売ってるよね。買って食べようっと」
テクテク
春香「ついた!」
春香「っ……!? なに今の……寒気みたいな」
春香「冷房……じゃないよね。気のせい……?」
春香「まぁいいや、それよりご飯食べなきゃ。お惣菜コーナーは……あっちかな?」
春香「コロッケ、てんぷら……おいしそうだなぁ。うぅ、ガマンガマン」
春香「お弁当コーナーはこの先……」
春香「……えーっと、なにがあるかな?」
春香「おろし竜田揚げ弁当、焼きそば弁当、あとは……豆腐ハンバーグ弁当?」
春香「どれもおいしそうだなぁ……どれにしよう?」
春香「えーっと……」ウロウロ
ギュッ グイッ
春香「きゃっ!? だ、だれ!?」
千早「……」グイッ
春香「……千早、ちゃん?」
千早「……」グイグイ
春香「ま、待ってってば!」バッ
千早「……春香」
春香「いったいなんなの? そりゃあ今日の今日アイドルが食べるのはっていったけど私お腹減ってて」
千早「知ってて、やったわけではないのね?」
春香「知ってて……?」
千早「それならいいの。私が出るのが遅れていたら……ヘタをすれば骨ぐらいは折れていた」
春香「骨って……またまたおおげさな」
千早「まじめな話よ。……お弁当が食べたい?」
春香「うっ……うん、食べたいけど」
ベン・トーで茶髪を演じています
春香「う、うん」
千早「あなたは今、狼の狩り場に迷い込んだの」
春香「おおかみ……?」
千早「えぇ、半額弁当という獲物を狙う……獣たちの狩り場へ」
春香「どういう、意味?」
千早「そのままの意味よ。春香」
春香「だ、だって今の言い方だと半額弁当がすごいものみたいだよ?」
千早「……そうね、ただの半額になった弁当ならその価値はないかもしれない」
千早「少なくともこのスーパーは、値段が半分になっただけの弁当に価値を見出すものはいないわ」
春香「じゃ、じゃあなんで……」
千早「それは自分で考えたほうがいいわ……そろそろ、≪半値印証時刻≫だし」
春香「は、はーふ?」
千早「≪半値印証時刻≫よ。ハーフプライスラベリングタイム」
春香「……? 半額シールを貼る時間ってこと?」
千早「そういうことね。あと気をつけるのは……」
スッ
坊主「……ずいぶんと今日はおしゃべりしてるな、≪チョッピング・ボード≫」
春香「誰!?」
坊主「そうか……お前、混ざる気か?」チラッ
春香「えっ? あー……お腹は減ってるので……」
坊主「……そうか。いいのか? 友人としては」ジー
千早「えぇ、求めるものには平等なのがここだもの……私に止める権利はない」ヒョイッ
坊主「そうかよ……ま、気を付けなお嬢ちゃん」スッ
春香「は、はぁ……」
春香(なんでこの二人目を合わせないで商品見ながら話してるんだろう?)
くっ
千早「ええ、正々堂々やりあいましょう」スッ
春香「……」チラッ
春香(真似して商品見てみたけど……なにがわかるんだろう?)
千早「……春香」
春香「あっ、なに?」
千早「今のも狼よ。 半額弁当を求めている者」
春香「う、うん」
千早「……春香。本当にお弁当が食べたい?」
春香「た、食べたいよ? お腹は本当にぺっこぺこだし」
千早「それなら……私もできる限りのサポートはするわ」
春香「サポートって……なにするの? 普通に買うんじゃないの?」
春香「覚悟……」
千早「そう、ただ今ご飯が食べたいだけなら……ギリギリ間に合うわ。好きな弁当をひとつだけ手にとって帰りなさい」
春香「……そこまでいわれると、なんだか半額弁当に興味がでてきちゃうなぁ」
千早「それなら―――」
キィ……バタン
春香「……? ドアの音?」
千早「そんな……早すぎる! いい、春香」ガシッ
春香「えっ、なに?」
千早「食べたいのなら……遠慮はしないこと。いい?」
春香「わ……わかった?」
千早「それに、既に弁当を持っている者へは手を出さないこと。そして何より」
千早「―――誇りを、もつのよ」
春香「……う、うん」
千早「……私は、豆腐ハンバーグ弁当を狙うわ。春香は」
春香「え、えっ? じゃあ……おろし竜田揚げで」
千早「わかった……気をつけて」
春香(すごい、ヒリヒリとした空気が伝わってくる……!)
春香(これだったんだ……スーパーに入った時の寒気……!)
千早「……」グッ
春香(千早ちゃんの顔……歌を歌う前ぐらい真剣だ)
春香「ダッシュで……とれば、いいんだよね?」
春香「すぅ……はぁ。よっし……」グッ
春香(私も……お腹は減ってるもん。ダンスもしてるから運動だって)
春香(……あ。でもこれいつスタートなのかな? あのおじさんが半額シール貼ったら?)
千早「……」
―――まだ、おじさんはお弁当の整列をしてる。半額シールは出していない
千早ちゃんにいつスタートか聞こうと思ったけれど、その横顔があまりにも真剣で声をかけられない
千早「……っ」
春香「あっ……」
おじさんが腰のポシェットから半額と書かれたシールを取り出した時、千早ちゃんが息をのんだのがわかる
普段はただのシールとしか思えないはずのそれが、今はやたらと神々しいものに見えた
この空気のせいだろうか、さっきの説明のせいだろうか
出遅れたらご飯が食べられない……いや、普通にどんべえなんかを食べればいいのかもしれないけれど
その緊張感で、肌がヒリつく
千早「……」
千早ちゃんは、まだ動かない
いつスタートなのか私なりに推測をはじめてみる
既に豆腐ハンバーグ弁当には半額シールが貼られているけど、千早ちゃんは動かない
たぶんそれは、フェアじゃないからだ。誇りをもてっていうのはそういうことなんだろう
なら、あのおじさんがシールを貼りきったら?
たぶんそれも違う。あのおじさんの邪魔になってしまうから
春香「……それなら」
離れた瞬間も、まだ危ない
それなら、動くタイミングは……
おじさんが、すべてのお弁当にシールを貼り終えた
満足げに背を向ける。まだ千早ちゃんは動かない
春香「……」
おじさんが、出てきたところであろうドアのほうへと歩いていく
こちらを振り返り、大きくお辞儀をするとドアを開け―――
その向こうへ、消えた
地面を蹴った音だというのは想像がついた
私も走り出したけれど、弁当コーナーへ辿り着くころにはたくさんの人が群がっていた
春香「……っくぅ!」
みんな、速い
こんなにたくさんの人が息をひそめていたなんて
もうお弁当は取られちゃったかな?
諦めて背を向けようとした時
坊主「ぐおぉっ!?」
さっきの坊主頭の男の人が私の横を吹っ飛んでいった
春香「え?」
ひょっとして誰か危ない人でも混ざってたんじゃ!?
春香「あっ、千早ちゃん!」
そう、私より早く速く駆けだした千早ちゃんが危ない!
ケガでもしてたら……いや、それより警察に連絡とかしたほうがいいのかな!?
心配になって携帯を取り出した時、また一人吹っ飛んだ
よく見れば、その人がいた場所に立っているのは……
春香「千早……ちゃん?」
コンサートの時ですら、ここまで激しいダンスはしないのに
華麗に舞うように人を蹴り飛ばした千早ちゃんが、そこいる
よくよく見れば、千早ちゃん以外の人達も殴りあったり蹴りあったりしているのもわかった
女の人も、男の人もいる。異常な空気があたりを包んでいる
春香「ど……どういうこと?」
警察に連絡しようとした手を止めて観察してみる
……なるほど、これは弁当の取り合いに間違いないみたいだ
半額弁当を取る、って話を聞いててっきりスピード勝負なんだと思ってたけれど……
これはもっと物理的な奪い合いなんだ
弁当に手を伸ばす人がいれば、別の人がそれを払って自分のものにしようとする
それをまた邪魔する人が現れて……弁当に遠い人や、弾かれた人へ追い打ちの類はかけられていない
その争いの中、長い茶髪の女の人が一瞬の隙をついて焼きそば弁当を手にとった
今にも殴りかかろうとしていた人たちも別の方へと向きを変えその人の道を開ける
悠然とこちらに向かって歩いてくる茶髪の人は私に向かってそっとささやくとそのままレジへと向かった
茶髪「……新人さん? あなたの友達はがんばっているみたいだけどいかなくていいの?」
春香「……えっ? あっ」
そうか、なにか違和感があると思ったら……千早ちゃんはお弁当に手を伸ばしてない!
誰かが伸ばす手を弾くことに集中しているんだ
これじゃ、とれるはずもない! 私のために……?
次々と弁当に伸びる手を弾いていくけれど、やっぱり厳しいみたいで少しずつおされているのがわかる
さっきまであった焼きそば弁当が無くなって人が集中してきてるんだ
そのうえで私が欲しいっていった竜田揚げ弁当と自分の食べる豆腐ハンバーグ弁当を守るだなんて
千早「くっ!」
春香「……いかなきゃ!」
いつまでもぼーっとみていられない!
いまさらながらあわてて人ごみに突っ込む
後ろからいくぶんには、抵抗は少ないみたいだ
だけどだんだんと周りの圧力が強くなってきているのもわかる
だけど、まだ進める! 千早ちゃんががんばってくれてるんだから私だって
私だって、お弁当が食べたい!
ギリギリで持ちこたえている千早ちゃんと目があう
千早「春香……!」
春香「千早ちゃん、ごめん! ありがとう!」
遅れてしまったことへの謝罪と、守ってくれていたことへのお礼
それを簡単に伝えると、千早ちゃんは少しだけほほ笑んでくれた
前へ前へと進んできた道はもう既にうまってしまっている
あと数歩、それでお弁当に手が届く!
春香「んーっ!」
そのままの勢いで竜田揚げ弁当へと手を伸ばす……あと、ちょっと
ビニールに指が触れそうになる、あと、ちょっとだけ
その時、お腹に強い衝撃を受けて届きかけたお弁当からひきはがされてしまった
坊主「すまねぇな、嬢ちゃん……同じ弁当を狙う以上遠慮は無しだ」
どうにか体制を整えてそちらを睨む
最初に吹っ飛んだ坊主の人だ
本当に遠慮なく叩いてくれたみたいでズキズキする
春香「……私、お腹が減ってます」
坊主「奇遇だな、俺もだよ」
坊主の人はニヤリと、不敵に笑った
男だからとか、女だからとかじゃない……この人は強い!
春香「……遠慮しませんよ」
坊主「お互い様だろ」
少し体勢を低くする
さっきまで騒がしかった周りは、ほとんどの人が立ち上がれない状態みたいだ
この人を倒せれば、お弁当が食べられる……!
ここから先は、私とこの人の戦いってことなんだろう
人の手を借りて、とるんじゃなく……自らの手で、勝ち取る!
春香「あぁっ!」
坊主「おぉぉっ!」
気合を込めた私のパンチが、坊主の人の拳をはじいた
自分でもどこからこの力が沸いてくるのかわからない
でも―――楽しい!
春香「まだまだぁ!」
坊主「うおおおぉぉ!」
パンチの応酬が続くけど、ちょっとずつ私の方がおしてるみたいだ
あと少し……あと少しで……
その時だった
声をかけられて、振り向く
春香「え?」
坊主「あ?」
そこには、顎鬚の男の人がたっていた
―――手に、竜田揚げ弁当を持った状態で
春香「あ……」
坊主「……おい」
坊主の人が、怒気をはらんだ声ですごんだ
顎鬚「いやな、だってお前らだんだん弁当コーナーから外れるんだもんよ……つい」
坊主「ついじゃねぇ! 勝利の一味はどうした!」
春香「……はは」
ショックで食欲が……なくなるかと思ったけれど身体は正直だ
春香「……お腹すいたぁ」
坊主「あー、今日は災難だったな……まぁ惣菜を選べるだけマシだと思おうぜ」
さっきまで殴りあっていた坊主の男の人と、軽い会話をする
なんだか不思議な気分だ。すがすがしさすら感じてしまう
春香「もー、卑怯ですね顎鬚さん!」
顎鬚「うっ……腹が減ってて……」
坊主「まったく、だらしねぇな?」
顎鬚「だがなぁ、周りの確認を怠ったのはお前だろ? そっちのお嬢ちゃんはともかく……」
坊主「それはそうだけどよ」
冗談も言えるぐらいだ。すごい……半額弁当って、すごい!
……そんなことを思いながら、お惣菜でおにぎりとナスのてんぷらを
さらにカップ麺コーナーでどんべえを買った
春香「千早ちゃん……」
レジの向こう側で、千早ちゃんは待っていてくれた
どうやら何があったかはわかるらしい
千早「初めからうまくいくことなんてないわ……すごかった」
春香「うん……私、おちこんでるんじゃないよ?」
千早「え?」
千早ちゃんは私がへこんでいるんだと思って励ましてくれたけれど落ち込んでなんかいない
次回への燃えあがる思いが、胸の中にあるだけだ
春香「……すごいんだね、半額弁当って」
千早「……えぇ」
私は認識を改めた
半額弁当は、少なくともくだらないものじゃないって
きっと、次回こそ私は勝って、買ってみせると
そう決意した時、千早ちゃんのお弁当を温めていたレンジが高い音を鳴らして温め完了を知らせた
春香「うん」
外のスペースに腰かけて空を見上げる
満天の星……なんてものは見えないけれど、なんだか輝いている気がした
千早「春香は……いいセンスをしてると思う。初めてなのに腹の虫の加護まで受けてた」
春香「腹の虫……?」
千早「えぇ、腹の虫」
聞き覚えのない単語について質問してみたけれど、オウム返しにまた戻されてしまった
私の聞き方が悪かったのかと思って、もう一度聞こうと思った時、さっきの坊主の人がそばに来た
坊主「……よう、いいか?」
千早「春香がいいのなら」
春香「あ……どうぞ?」
坊主「ありがとよ」
坊主「流石は≪チョッピング・ボード≫の知り合いってところか」
千早「いいえ、これは私がどうこういったからじゃないわ……来たの自体偶然だったのだし」
坊主「……だから最初あんなに不審な行動を? 豚かと思ったぜ」
春香「ぶ……ぶたって、ひどくないですか?」
私だって乙女だ
ブタ呼ばわりされていい気分にはならない
抗議しようと思った時、千早ちゃんに静かに止められた
千早「春香……最初に言ったことは覚えてる?」
春香「最初って……えーっと」
千早「知らなかったのよね……なにも」
あぁ、最初ってあの急に手をひかれた件のことか
私は納得して、肯定の意味を込めてうなづいた
千早「……話してもいいんだけれど。それよりも」
坊主「腹減ったんじゃなかったのか? 伸びるぞ、どんべえ」
春香「あっ!?」
まずい、すっかり忘れかけてた
千早ちゃんが温め終わってからだから……若干伸びてる?
不安に思いつつもぺりぺりとどんべえの蓋をはがすと、おいしそうな出汁の香りと湯気がたちのぼってくる
さすがどんべえだ。多少長くおいておいてしまった程度では風味もつゆも失われていない
春香「だいじょうぶそう……かな?」
千早「そう……よかった。私も食べようかしら」
そういって千早ちゃんがお弁当のふたをあける
温められふたの裏に溜まっていた水分が塊となってふたの裏を伝って千早ちゃんの服にしたたった
普段ではなんでもないその程度のことが、やたら艶やかにみえる
これも、お腹が減っているからなんだろうか?
春香「あっ、ごめん! なんでもないよ?」
そう、なんでもない。ちょっとお腹が減ってるだけだ
割り箸を割って、おあげが汁を吸うように軽く押し込む
さらにそこへさっき買ったてんぷらを放り込んだ
どんべえの上に置いておいたおにぎりも、外側だけがほのかに温かい
十分に豪華……とはいえないまでも、ちゃんと晩ご飯の体はなしていた
春香「……うん、いただきます!」
千早「じゃあ私も……いただきます」
坊主「いただきます」
ずいぶんとひさしぶりに食べた気がするけれど、どんべえのその味は変わってなかった
優しいお出汁に甘めのおあげ。つゆをたっぷり吸ったそれはかじれば期待通りの味を返してくれる
むしろ、以前に食べた時よりおいしいような気もする
これもお腹が減っているからだろうか?
―――いや、違う
春香「これも、絶え間ない研究の結果か……私ももっと頑張らなきゃ」
そう、うどんの麺のコシが増しているんだ
ちょっと長くおいてしまったのにそのコシは失われていない
これも、よりおいしいものを届けようというメーカーの人達のおかげでもたらされたんだ
よりいいパフォーマンスを届けようと努力する私達アイドルに通じるものを感じる
春香「どうしたの、千早ちゃん?」
千早ちゃんが若干いぶかしげな目でこちらを見ている
さては千早ちゃんはどんべえをあまり食べ慣れていないんじゃないだろうか?
それで、私の感動が伝わっていないんじゃないだろうか?
それはいけない。もったいない
千早「……いえ、なんでもないわ」
春香「遠慮しなくてもいいよ? ひとくちわけてあげましょー!」
千早「そういうことじゃ……んっ」
なにかいいかけた口へと汁に浸して柔らかさを持ちつつまだ表面のサクサク感は残した
最高の状態のちくわのてんぷらを突っ込んだ
千早ちゃんはまだ何か言いたげな表情はしていたけれど、静かに噛み切るとそのまま咀嚼しだす
うんうん、素直が一番だよね!
春香「でしょ?」
ある程度噛んだあと、千早ちゃんはちくわを飲み込んだ
不満げな表情も和らいだようでなによりだ
おいしいものはいいものだ。生きるってすばらしい!
……千早ちゃんのお弁当もおいしそうだなぁ
千早「……春香」
春香「あっ、なぁに千早ちゃ……んっ」
千早「おかえしよ」
春香「……んん」
私の口の中へ千早ちゃんが箸を入れた
もちろん、箸だけを突っ込むなんていういやがらせじゃなく……これは
春香「おいひい……」
千早ちゃんがいたずらっぽく笑う
豆腐ハンバーグをひとくちサイズに切って口の中へ入れてくれたみたいだ
最初は、上にかかっているとろみをおびたあんの風味だけを感じたけれどそれだけじゃない
優しいあんの中にほのかに香るこのさわやかさは……たぶん、シソだ
それに豆腐ハンバーグというからにはもっとヘルシーさを感じるものだと思ったけれどなかなかにボリューミーでもある
お肉が混ぜ込んであるのか、それとも……
千早「春香?」
春香「へっ?」
千早「いや……何か悩んでるの?」
千早ちゃんにもらったハンバーグがおいしすぎて
というのもなんだか照れくさい気がしたので適当にごまかしてしまった
しかし、あの味……すごい。半額弁当あなどりがたし
美味しかったのだけど、いまさらカロリーが気になってくる
千早ちゃんはすっごく細いからいいかもしれないけれど……私は
春香「……いや、セーフだよね、セーフ!」
千早「春香?」
春香「な、なんでもないよ! うん!」
そう、セーフ……のはずだ
私だってアイドルだもん、同年代の子より細いし! ちょっとぐらいならだいじょーブイ!
千早「……さっきから春香、変よ?」
春香「そ、そんなことないよー? あははー」
千早「もう……相談なら、いつでも乗るから」
春香「う……うん。大丈夫だから、本当に」
真剣なまなざしで見つめられるとちょっと弱い
千早ちゃんはクールなようで熱くなるものにはすごく打ち込むタイプだ
私のことにも、熱くなってくれる……とっても素敵な友達だ
春香「ご、ごめんね?」
悲しそうにうつむいてしまう千早ちゃん
なんだか罪悪感すらわいてくる
すっごくくだらないことで悩んでただけなんだけど……
だからっていまさら『お腹周りのぽっこりが気になる!』とか言いだせる空気じゃないし
私が元気もらってる側なんだから……なにか、なにか手はないかな
そこで最高の手に気がつく
そう、私には手があるのだ……千早ちゃんの頭を撫でてあげれば元気が出るはず!
春香「……千早ちゃん」
そっと手を伸ばし――――
坊主「ゴホン! エーッホン! ゲフンゲフン!」
春香「あっ」
逆側に座っている人のことをすっかり忘れていたことに気がついた
坊主「いやな、俺はいいと思うんだ。でも流石に見せつけられるのはちょっとなぁ」
春香「そ、そういうんじゃないですから! ねぇ千早ちゃん!」
千早「そういうのって……どんなのかしら」
春香「千早ちゃん……」
坊主「……自覚無しか。すごいな」
千早「……?」
春香「ううん、なんでもないよ……なんでもない」
千早「そう、それよりさっきの話の続きなんだけれど」
春香「あっ……そうだったね。ブタとか、その……ちょっぱーもーど? とかってなんなの?」
坊主「順に説明してやるよ。補足はまかせとけ……って、俺はいてもいいのか?」ボソッ
春香「あ、全然お気になさらず……」ボソボソ
坊主「いや……まぁいいならいいんだけどよ」ボソボソ
千早「……?」
春香「あっ、お願いします! 先生!」
千早「誰が先生よ……もう」
春香「じゃあ、最初の質問……ブタってなんですか?」
千早「豚は……浅ましい生き物よ。誇りも、なにもないただ食うだけの生き物」
春香「う、うん……?」
坊主「あー、補足だ」
春香「はい」
坊主「簡単にいえば……無知であること以上に恥知らずである生き物のこと、だな」
春香「えーっと……」
坊主「たとえば、3割引きのシールの貼ってある弁当を確保したままうろついて半額シールを貼るように半額神に頼んだり」
春香「は、半額神?」
坊主「ん? あぁ……半額シールを、俺たちに恵んでくれる彼らのことを俺たちは感謝をこめてそう呼んでるんだ」
春香「なるほど……」
春香「あ、千早ちゃんごめんね? それで」
千早「……あのままだと春香が豚として扱われかねなかったから」
春香「あー……あの辺でうろうろしてるのも邪魔だから?」
千早「一度手に取ったものを戻すのもマナー違反ね」
春香「……やってたかもしれない。もししてたら?」
坊主「狼たちは豚を許さない。それこそ徹底的な排除をされる」
春香「排除って……」
千早「だから言ったの……骨ぐらい折られてたかもって」
春香「……」ブルッ
坊主「まぁ、基本的に誇りをもった狼同士はフェアな存在さ……たとえそれがアイドルでもな?」
春香「えっ!?」
春香「ちょ、ちょっと待ってください! その、ケガとか暴行とかそういうのは……」
千早「大丈夫よ、春香……此処では普段の名前なんて関係ないの」
春香「えっ、えぇっ?」
坊主「そう。俺が知ってるのは新入りのお嬢ちゃんと≪チョッピング・ボード≫だけさ」
春香「あっ……またそれ! なんなんですか? それ」
千早「……私の、二つ名よ」
春香「二つ名?」
坊主「……あぁ、強い狼にのみその振る舞いや姿からつけられる此処での名前だ」
春香「へぇ……かっこいいよ、千早ちゃん!」
千早「ありがとう……」
春香「?」
千早「……いろいろあったのよ、いろいろ」
春香「いろいろって……だってすごい人にしかつかないんでしょ? 千早ちゃんはすごいってことだよね?」
坊主「あー……話してもいいのか?」
千早「……好きにしていいわ」
坊主「そうか……じゃあ、話させてもらうかな」
春香「はい!」
坊主「昔、このスーパーに来たてのころは≪チョッピング・ボード≫も決して強くはなかったんだ」
春香「千早ちゃんが……?」
坊主「誰だって初心者のころはあるもんさ。あんたみたいに最初から戦えるのは珍しい」
千早「調子に乗ると痛い目を見ることになるから……気を付けたほうがいいわ」
春香「う、うん……それで? 坊主さん、話の続きをお願いします」
坊主「まぁ、そんなある日……流れの二つ名持ちがこのスーパーに現れた」
春香「流れの……?」
坊主「通常、二つ名持ちはどこか1つか2つぐらいのスーパーを拠点にするものなんだ」
春香「なるほど……でも流れのって?」
坊主「理由は様々だけどな。強すぎるだとか、誰かを探しているだとか……だが」
春香「……?」
坊主「そいつは、≪名斬り包丁≫はもう少しゲスなやつだったんだよ」
坊主「まぁ、二つ名持ちのいないスーパーに現れてはその場にいる全員を倒してから弁当をかっさらう奴だったんだ」
春香「えぇっ、なんでですか?」
坊主「二つ名がつきそうな実力者を育ち切る前に斬りにくるから≪名斬り包丁≫ってことさ。名無しには強かった」
春香「それじゃあ……」
坊主「俺たちもやられてな……まだまだ青かったそいつと、一騎打ちになった」
春香「それで、倒したんですか!?」
坊主「……最初は一方的だったよ、なぶられるぐらいの勢いでな」
春香「……」
坊主「だが、ある瞬間からその包丁の刃は通らなくなった」
春香「……?」
坊主「すべての攻撃を受け、そしていなすその姿は……まさに二つ名持ちにふさわしかったんだ」
千早「……くっ」
坊主「まぁ、その瞬間っていうのはおいといて……包丁の刃が通らない。受け止めるその姿」
春香「ふむふむ」
坊主「まさにまな板……≪チョッピング・ボード≫だって名付けられたわけさ」
春香「えっ」
坊主「ん?」
千早「くっ」ギリッ
坊主「ん? どうした」
春香「えーっと……≪チョッピング・ボード≫って」
坊主「まな板のことだな」
千早「……くっ」
春香「ちょ、ちょっと悪意を感じるんですけれど!」
坊主「いや、あの見事な受けっぷりを見れば誰だって納得すると思うんだが」
春香「そ、それでも!」
千早「……いいのよ、春香」
春香「千早ちゃん……」
千早「私はこの名に誇りを持ってるわ……」ギリギリギリ
春香(千早ちゃん……すっごいこわい顔してる)
春香「えーっと……うーん」
千早「あっ……春香」
春香「うん? どうしたの、千早ちゃん」
千早「時間……大丈夫なの? 結構話しこんでしまったけれど」
春香「えー、そんな……ってうわぁっ!? もう終電ギリギリかも!」
坊主「おいおいまだそこまで遅い時間じゃないんだがな」
春香「電車で2時間かかるんです! 地元のほうで止まるとお母さん呼ばないといけなくなるので……すいません!」
坊主「そうか……気を付けて帰れよ!」
千早「春香、じゃあまた明日ってことでいいかしら?」
春香「うん、明日までに質問は考えておくから! ごめんね、ありがとう!」
千早「いいえ……こちらこそ。巻き込んでごめんなさい」
春香「そんなことないって……あぁっ、ごめん! それじゃ、また明日!」
千早「うん、また明日……って春香、そんなに走ったら」
千早「……転んだわね」
P「あぁ、おはよう春香」
春香「……? あれ、千早ちゃんは」
P「今日は……午後からだな。予定は被らないみたいだが」
春香「そうですか……わかりました、じゃあ今日もはりきっていきましょー!」
P「ん? あぁ、いくぞー!」
春香「おー!」
春香(んー、『腹の虫』がなんなのか聞きそびれちゃったなぁ……夜にスーパーに行けば会えるかな?)
春香「……はぁ、今日もハードですねプロデューサーさん」
P「ははは……売れてきたってことさ。これ」
春香「あ、ありがとうございます……これって、ソイジョイ?」
P「うん。腹も減っただろうしそれ食べてひと頑張りしてくれ」
春香「はーい……んん、結構おいしいですね」
P「栄養も入ってるからな。元気もでるだろ」
春香「……」モグモグ
P「カロリーも控えめでありがたいことだよなー」
春香「……」モグモグ
春香「おつかれさまでしたぁ……」
P「おつかれ、春香……大丈夫か?」
春香「大丈夫です、一息いれれば復活しますから」
P「そうか?」
春香「えぇ……ありがとうございます。それじゃあ帰りますね」
P「ん、あぁ……お疲れ様」
ガチャッ バタン
春香「……よし、昨日のスーパーへいってみよう」
春香「時間は……まだ大丈夫そうだし」
ウィーン……
春香「……!」ブルッ
春香「これ、昨日はわからなかったけど……たぶん半額弁当を取ろうとしている人の気配みたいなのかな」
春香「……えーっと、青果コーナーからおちついてまわって行こうかな?」
春香「りんごかぁ、アップルパイとか今度焼こうかな?」
春香「じゃなくて……お弁当コーナーまでいって……立ち止まるのはマナー違反だっけ?」
春香「お惣菜コーナー……あっ、あの煮つけ美味しそうだな」
春香「立ち止まっちゃだめってことは……さりげなーく確認してみればいいのかな?」
春香「……お弁当、コーナー」
春香「置いてあるお弁当は……」
横目でちらりと確認しながら通り過ぎる
置いてあった弁当は4つ
1つ目、焼きそば弁当
昨日も見かけたが、焼きそばにごはんがついてくるっていうのはどうなんだろう?
炭水化物に炭水化物……それってあんまりあわない気もするんだけれど
2つ目、幕の内弁当
色とりどりのおかずが目に嬉しい
いろいろと入っていてお得だとは思うけれど……少し値段が高かったような?
半額になるものにケチケチするのもアレだと思うんだけど
3つ目、からあげ弁当
昨日の竜田揚げ弁当とは違って、シンプルにからあげメインで仕上げられたお弁当だ
……そういえば、竜田揚げとからあげって調理法的にはどう違うんだろう?
気になってきたけど……今はそれどころじゃないか
4つ目、豆腐グラタン弁当
……正直これが一番気になる
二段構えになっているお弁当の上の段に入っているのは確かにグラタンに見えた
じゃあ下の中身は? 豆腐なのか、それともおかずの類なのか……わからない
わからなくて、気になる……ちょっと、食べてみたい
春香「……よし。えーっと千早ちゃんどこにいるのかな?」
千早ちゃんかと思って振り向くとそこにいたのは―――
坊主「……そんな露骨にがっかりすんなよ。今日は≪チョッピング・ボード≫は来てないぞ」
春香「えぇっ……?」
坊主「まぁ元々毎日来るわけじゃないしな。それに時間もまだある」
坊主さんが陳列棚のふりかけを熱心に眺めている
私もそれにならって、隣でご飯のおかずシリーズを見つめていた
春香「……千早ちゃん、来ないんですかね?」
坊主「さぁな。同じ事務所なんだから嬢ちゃんのほうが知ってるんじゃないか?」
春香「うーん……」
スケジュール表を思いだす
今日の千早ちゃんは午後からがメインだったはずだけど―――
収録がおしているんだろうか? 始まる前に聞きたかったことがあるんだけれど
そんなことを考えながら、しゃけ茶漬けの元を手にとって軽くうなづいてみた
普段の≪半額印証時刻≫ならそろそろ半額神が現れてもおかしくないらしい
坊主「……来たな」
春香「えっ?」
坊主さんが何かを察知したように呟いた次の瞬間、自動ドアの向こうから千早ちゃんが現れた
だいぶ急いでいたらしい。そのまま一直線に弁当コーナーへと向かっていく
千早ちゃんがせめてみつけやすいように近づこうとしたけれど、止められてしまった
このギリギリの時刻で弁当へ近づくことはリスクを背負ってしまうことでもあるらしい
千早ちゃんは総菜コーナーまでいっていたのにこちら側へと戻ってきてしまった
なにかに気がついたような様子だけど……いったい?
いったい何故だろうと思った時……あの、キィという音が聞こえた
半額神が現れたんだ
千早「……春香、遅れてごめんなさい」
春香「いやいや、千早ちゃんこそ……大丈夫?」
千早「えぇ……なんとか」
春香「え? うん……あのね」
千早ちゃんに聞かれたのでできる限り詳細に伝える
ボリュームたっぷり炭水化物な焼きそば弁当
色とりどりたっぷりのおかずを備えた幕の内弁当
竜田揚げよりも肉がぷりぷりとしていそうでおいしそうなからあげ弁当
なんだかよくわからないけれど、おいしそうな気がした豆腐グラタン弁当
持てる限りの語彙で伝えきると、千早ちゃんは小さくうなづいて狙う弁当を教えてくれた
千早「……私は今日はからあげ弁当にするわ」
春香「わかった……今日はかばわなくても、守らなくても大丈夫だからね?」
千早「期待してるわね?」
少し含みのある笑いをすると、千早ちゃんはまた鋭い目になった
目をやると、半額神は半額シールはほとんど貼り終えている……あとはドアが閉まるのを待つばかりだ
ドアを開け……その向こうへと消え
そしてドアが――――閉まった
春香「っ……!」
昨日とは違う、スタートで遅れたりはしない
思いっきり蹴り出すと速度に―――
春香「あ、あれっ……!?」
速度に―――乗れない!?
自分よりあとに駆けだした人が弁当コーナーへと到着する
おかしい、周りの人ってこんなに速かったっけ?
しかたない、昨日みたいに突っ込むしかない!
思いっきりぶつかれば、昨日みたいに道が開けるはず
そう思っての体当たりだったんだけど……開かない
おかしい、どうも調子が変だ
混乱していると千早ちゃんが少し遅れて到着した
二度ほど突撃しようとしたみたいだが、どうも攻めあぐねているみたい
千早ちゃんは……二つ名も持ってる強い狼なんじゃないの? なんで?
千早「……くっ、一度確認しないとダメね」
私が混乱する頭を落ちつけようとしている時だった
千早ちゃんは前の人を思いっきり踏みつけて跳んだ……いや、飛んだんだ
高い――そう、その姿はまるで幸せを呼ぶ青い鳥のように
と、思っていたらそのまま人ごみを飛び越えてしまっていた
真ん中に降りて一気に一網打尽にでもすると思ったのに……なんで?
でも。千早ちゃんは着地直前にニヤリと笑ったように見えた
その人ごみの向こう側から、轟音が響く
そして開けた場所に立っているのは昨日と同じように……千早ちゃんだった
春香「な、なんで……?」
ほんの今の今までの千早ちゃんとは別人みたいな強さだ
弁当を手に入れた千早ちゃんは悠々とこちらへと歩いてくる
その手にあったのは……からあげ弁当じゃなくて幕の内弁当だった
春香「……なんで?」
千早「春香、あなたが狙ってたのかしら。だとしたらごめんなさい」
春香「あっ、違うんだけど……なんで急に強くなったりしたの?」
素直に疑問をぶつけてみる
千早「……腹の虫の加護を受けたからよ。ごめんなさい、しっかり見れた中だとこれが一番魅力的だったの」
腹の虫の加護。そういえばそれは昨日も聞いた言葉だ
説明を聞こうとして、機会を逃してしまっていた
春香「腹の虫って……?」
千早「春香、あなたの食べたいものはなに?」
春香「食べたい、もの……豆腐グラタンが気になるんだけど」
千早「じゃあ、それを食べる自分を強くイメージして……あまり長居はできないわ。がんばって」
それだけいうと、そのままレジの方へと歩いて行ってしまった
でも、言われたからにはきっと意味があるはず! 豆腐グラタンをとった自分をイメージしてみる
春香「……豆腐グラタン、豆腐グラタン」
豆腐のやわらかさ、グラタンのクリーミーさ
その中に……香るのは……ダメだ、わからない
春香「でも、食べたい……!」
もう一度決意を新たにして突っ込む
さっきよりは手ごたえがある……! これなら
そう思った時、勝鬨が上がった
坊主さんが豆腐グラタンを高く掲げている
春香「あっ……」
また、身体から力が抜けていく
さっきまでみたいに動けなくなる
冷静に残っているお弁当を思い出そうとして、横からの衝撃に吹っ飛んでしまう
昨日は耐えれたはずのそれは、今日の私にはあまりにも激しく
弁当コーナーどころか鮮魚コーナーのあたりまで吹っ飛ばされてしまった
春香「あっ……」
足にも力が入らない
立ち上がるのもままならない
昨日は平気だったはずの衝撃に
昨日は立ち上がれたはずの身体に
戸惑いを覚えながら、私の意識は宙に消えた
春香「……」
誰かが呼んでいる声がする
身体が揺さぶられている感覚がする
この声は……
春香「ちはや、ちゃん……?」
千早「春香……大丈夫……?」
春香「だいじょう……っつぅ」
身体をおこそうとして痛みに身をよじる
痛い、昨日は気にならなかったのに……
千早「ごめんなさい……昨日は大丈夫だったからって油断しすぎたわ」
春香「なんで……昨日みたいにいかなかったんだろう……?」
素直な疑問を口に出す
千早ちゃんはすごく申し訳なさそうな表情で、俯きながら答えた
千早「……腹の虫の加護が、十分でなかったからよ」
さっきも聞いた言葉だ
私の知っているそれの意味でいうと、つまり―――
春香「私が、お腹ぺこぺこじゃなかったから……?」
千早「……そうよ。何か夕食、もしくはおやつを食べなかった?」
食べたもの……お昼ご飯以降で?
春香「えーっと……あ、ソイジョイを1本……」
千早「なんですって……!?」
千早ちゃんがえらくショックを受けている気がする
そんなにダメなんだろうか、ソイジョイ
春香「え、ダメ……だったかな?」
千早「えぇ、考えうる限り最上級よ……」
ダメだったらしい
春香「なんでダメなの?」
千早「……いい、春香。ソイジョイは低カロリーでありながらも満腹感の持続する低GI食品なの」
春香「う、うん」
千早「腹の虫は、本能の力……食べたいと強く願うことで私でも大男と力比べをすることができるの」
春香「そういうもの……なの?」
千早「えぇ、人をふっ飛ばしたりなんて今の私にはとてもじゃないけど無理よ」
春香「……うん、やっぱり千早ちゃんは細いよね」
千早「だから、腹の虫の加護は必須なのよ」
春香「なるほど……?」
千早「加護を受けていない人が加護を受けた人とまともにぶつかりあえば、格闘技経験があろうが負けるわ」
春香「そんなに変わるものなの?」
千早「……えぇ。ごめんなさい」
千早「本来最初に、一番強く教えないといけないことだったのに。昨日の春香をみて大丈夫だと思いこんでしまったの」
春香「なーんだ、それぐらい……これだっていい経験だよ? あざとかにはなってないみたいだし」
千早「でも……」
春香「でももストもございませんっ」ピシッ
千早「いたっ」
春香「大丈夫だよ、千早ちゃん……これもいい経験になったもん」
千早「……春香、ごめんなさい」
春香「大丈夫だってばもういいよ? ……あ、それと。さっき急に強くなったのは?」
千早「あれは、弁当へのイメージをきちんとしたものにしたくて……春香に説明してもらって何があるかは分かったんだけど」
春香「具体的な強いイメージ、ってやつ?」
千早「そういうことね」
千早「……本当にごめんなさい」
春香「だから謝らなくていいってば、もうっ」
千早「……」
春香「あっ……じゃあお弁当ちょっとわけて?」
千早「も、もちろんよ? あと、お惣菜はなかったけれど……これ」
春香「あっ、どんべえ……ありがとう」
千早「なにがいいのかよくわからなくて……それであってるのよね?」
春香「うん、私どんべえ大好きだから大丈夫だよ」
春香(……これが、蕎麦だってこと以外は、だけど。千早ちゃんをこれ以上不安がらせたくないし)
春香「あっ……そういえば今何時なの?」
千早「……10時ね」
春香「え、えぇぇっ!?」
千早「ごめんなさい。無理に起こすのもよくないと思って」
春香「うん……ありがとう、千早ちゃん」
千早「あの……春香」
春香「でもどうやって……あっ、どうしたの?」
千早「春香が迷惑じゃなければ……その、うちに来てくれないかしら?」
春香「千早ちゃんの家……?」
千早「私の家までの電車ならまだ出ているから……他に手もないだろうし」
春香「千早ちゃんがいやじゃないなら、こっちから頼みたいぐらいだよ!」
千早「本当? ありがとう……精一杯おもてなしするわ」
春香「うん……あ、お母さんに電話するね」
千早「春香……大丈夫だった?」
春香「うん、迷惑はかけないようにって言われちゃった」
千早「迷惑だなんてそんな」
春香「えへへ……ふつつか者ですがー、なんちゃって?」
千早「もう。春香ってば」
春香「でも、本当にいいの?」
千早「何が?」
春香「急に泊まるなんて……その、いろいろと」
千早「大丈夫よ、うちには余分なものはないから……レンジとポットはあるけど」
春香「そ、それならいいんだけど」
千早「それじゃあ、行きましょうか」
春香「うん、お願いします」
どんべえにお湯を注いで待つ
千早ちゃんがまだ申し訳なさそうにしているのでおでこに軽くチョップをしてみた
……抵抗しない。これはこれでどうなんだろう
気にしないでほしんだけどなぁ……もう
普段食べ慣れたうどんと違ってそばのどんべえはかきあげ付きだ
お湯を注ぐ時に一緒に並べてふやかしてしまう人も多いが……それはまだまだ甘っちょろい
春香「ふっふっふ……そう、あとのせサクサクこそ正義よ!」
千早「春香……大丈夫なの?」
何故だか千早ちゃんの優しい声が痛い
気のせいだと思うことにして、そのままちゃんと食べられるようになるまで待つ
そういえばそばを食べたのはいつ以来だろう?
どんべえのそば、食べたことはある気がするのにいつだったかはピンとこない
千早ちゃんもレンジの中で周るお弁当を無言で見つめている
おつゆの中に浮かべて、カリカリサクサク音をたてながらもほんのりと風味は移っているかきあげ
それがふやけきってしまう前に食べ終えられなかった苦い思い出
きっと、ずいぶん昔のことなんだろうと思う
春香「……だからうどん派なんだっけ?」
千早ちゃんに聞こえないぐらい小さくつぶやいたつもりだったのだけど
千早ちゃんの肩がわずかに震えた気がした……まずいかも?
春香「あ、でもやっぱりそばもいいものだよねー♪ ね、千早ちゃん?」
千早「あっ……そ、そうね。私もそう思うわ」
明らかに動揺しているけれど、指摘はしない
別に、そばが嫌いなんじゃなくて普段食べないだけなんだし
千早「えぇっ……ご、ごめんなさい春香……私」
春香「ひさしぶりに食べるおそばが、千早ちゃんと一緒だからこれからはおそばの方も好きになっちゃいそうかも」
千早「えっ!?」
本心からの言葉だったりするんだけれど、千早ちゃんはえらく動揺している
……そんなに嫌だったのかな?
千早「あ、あの……春香、その」
千早ちゃんが何か言いかけた時に、レンジが温め完了をお知らせした
まったくもって間の悪い……ある意味いいタイミング? だと思うけれど
千早ちゃんは素早くお弁当を取り出すとリビングの方へと歩いていってしまった
きっといいかけたことを聞き返されるのが嫌だったんだろう
春香「……もう、千早ちゃんてば」
意外と照れやさんなんだなぁ。そんなところもらしいんだけど
私のご飯はどんべえだけだから実はポット近くで待機していたことに深い意味はない
どうにか逃れたと思った千早ちゃんが、私の追撃に動揺しているのは目に見えて明らかだ
千早「う……あ、お茶出さなきゃ」
春香「さっき出してたでしょ、ほらこれ」
どうにか席を立とうとする千早ちゃんをひきとめる
亜美や真美じゃないけれど
……こういう時の千早ちゃんはいじりがいがあるのだ
春香「ねぇ千早ちゃん?」
千早「な、なにかしら」
春香「……やっぱりなんでもないっ♪」
千早「もう……」
膨れている千早ちゃんもかわいい
実に楽しい待ち時間を過ごすことができた
何度もしてきた行為なのに、この瞬間は少し緊張する
ペリペリと、ふたをはがして中から香ってくる芳醇な湯気を吸い込む
春香「んー、いいにおい……千早ちゃんのは?」
千早「あっ、そういえば……あけるわね」
千早ちゃんの買ったお弁当は幕の内弁当
正直なところ、これといってピンと来るものがないイメージだったんだけれど……
春香「うわぁ……」
とんでもない誤解だったのかもしれない
色とりどりの飾りやおかずたちはそれぞれが自己主張をしながらも決してくどくない
まさに和風のお弁当のお手本のような気品をまとっていた
春香「……あっためてみるのと、ちょっと通り過ぎるのだと全然違うんだね」
千早「そこをきちんと見抜けると、腹の虫の加護は一層強くなるのよ」
千早ちゃんが少し得意そうにしながら割り箸をペキンと二つに割った
お茶はさっき注いだし準備万端だ
春香「それじゃあ…・・・」
千早「えぇ」
「「いただきます」」
おそらく最後に食べたのは小学生のころだったんだと思う
とってもおいしいと思ったかきあげが、どんどんとつゆを吸い込みサクサク感を失っていく
あれに子供心ながら無情さを感じた覚えがあるからだ
春香「でも……もうそうは問屋がおろさないんだから」
別でとっておいたかきあげを、そばのつゆの上に浮かべる
まるで大海の中にぽつんとある無人島のように、その存在はどこか危うい
春香「……まだ、まだ、まだ。今!」
ほんの一口だけ齧る
まだまだかきあげ本来の味のほうを強く感じる
そのまま汁を少しだけすすってやると、口の中でかきあげが溶ける感触がした
やっぱりどんべえは出汁がおいしい
こくん、とかきあげの溶けたつゆを飲み込むと、今度は麺へ手を伸ばす
そば自体の味も……そういえば年越しそばぐらいしか普段食べてない気がしてきた
春香「ふぅ、ふぅーっ……あむっ」
思いっきり音を立ててすすっちゃう
やっぱりおそばはこれが正しい食べ方なんだと思う
人前ではできないことだけど……千早ちゃんにならいいよね?
なるほど、どんべえのそばってこんな味だったんだ
うどんみたいなコシのある麺や甘いおあげもおいしいけれどこれはこれで
少しずつつゆが染みていってしまうかきあげを助けるようにかじる
だんだんとサクサクとした食感が、かじった瞬間に溶けていくような優しさを帯び始めていた
うどん派だったけど、ばかにできない感じがする
さすがどんべえ、どんべえに貴賎なしっ!
春香「……ん?」
ちらりと、千早ちゃんの方を見る
千早ちゃんは自分の幕の内弁当の中の西京焼きを箸でつまんだままこちらを見てフリーズしていた
……ずっと見つめられてたんだとすると、すごく恥ずかしいんだけど
千早「あの……春香」
ちょっとお下品だったのかな……
反省しなきゃいけないかな? と思っていたけど、続く言葉に私は少し驚いた
千早「ひとくち……わけてもらえないかしら?」
願ってもない提案だ
正直、私のどんべえはどこにでもあるどんべえだ
その気になれば、今すぐ近くのコンビニまで歩けば買えてしまう
春香「でも―――」
でも、千早ちゃんの幕の内弁当はきちんとした『お弁当』だ
そりゃあコンビニにだって普通のお弁当は売っているけれど
これはあのスーパーでひとつひとつ手作りされたものなのだ
春香「千早ちゃんのも、わけて欲しいな?」
千早「えぇ、もちろん……あ、これおいしいわよ」
春香「本当? じゃあ遠慮なく……んむっ」
千早ちゃんは優しいなぁ
オススメされた西京焼きは、かじってみればほくほくと身がほどけていく
単純な焼き魚とも一味違うコレは、お米が欲しくなる味でもあった
春香「……んっ!?」
そういえば、お米持ってなかった!
昨日はおにぎりを一緒に買ったけど今日は売り切れてたらしいし……くぅ
千早「……春香」
春香「んぅ?」
ご飯を求める衝動をどう抑えようかと考えていると千早ちゃんに声をかけられる
涙目になりながらも顔をあげると……そこには
千早「……ご飯もすすむ味よね。はい」
ご飯をひとかたまり、千早ちゃんが箸で差し出してくれていた
遠慮なくそのままかぶりつくと、西京焼きの塩気がご飯に中和されていく
やっぱり、おいしい
春香「ん……おいしい。おいしいよ千早ちゃん!」
千早「それはよかった……あの、いいかしら?」
春香「あ、うんもちろん! はい口開けて」
千早ちゃんは優しいなぁ、お返しに一番いい状態につゆを吸ったかきあげを差し出す
好きなようにかじってくれて構わない……のだけど
千早「あ、その……口を開けなきゃだめ?」
なにをいまさら言ってるんだろう。私に食べさせる時は普通にあーんしてくれたくせに
千早「わ、わかった……それじゃあ」
髪がかかってしまわないようにかきあげる
そしてかきあげにかじりつく……うん、別にうまいことはいってない
千早ちゃんがゆっくりと、かきあげに噛みついた
歯が沈んでいくと、それに反応するようにかきあげにしみ込んだつゆがあふれだす
千早ちゃんのくちびるは、かきあげの油としみこんでいたつゆによって潤いを増した
千早「……ん、おいしい」
春香「えへへ、おそばもおいしいって気づけたのは千早ちゃんのおかげだね?」
千早「そうかしら?」
春香「そうだよ、絶対!」
うん、少なくとも自分で選ぶ分にはこれまでもこれからもどんべえはうどん一択のつもりだったはずだ
でも千早ちゃんが選んでくれたおかげでおそばのよさも再認識できたんだ
春香「あっ、麺もすすらないと! 豪快に! さぁ!」
千早「え、えぇ……」
千早ちゃんは少し困ったような表情を浮かべながらもおいしそうにそばをすすってくれた
私もいくつかのおかずをわけてもらったりお米をわけてもらったりしながら
楽しい晩ご飯の時間はあっという間に終わってしまったのだった
春香「はふー、おいしかったぁ……」
千早「私も……楽しかったわ」
春香「楽しいって……」
千早「だって、春香のリアクションが結構面白くてつい」
春香「いやいや、だっておいしかったよ? 幕の内弁当のこともあなどってたかも……」
千早「あそこのお弁当は小物への情熱もすばらしいから、こういういろんなものが入ったのは何粒もおいしいの」
春香「なるほど……流石だね千早ちゃん!」
千早「それほどのことでもないと思うのだけど……あぁ、そうだ」
春香「うん、なに?」
千早「そういえば、お風呂はどうするの?」
春香「あ……確かに結構汗かいてるしベタベタかも」
千早「着替えは……私の服しかないのだけれど」
春香「貸してくれるの?」
千早「えぇ……大丈夫、なら」
千早「そうじゃなくて……その、サイズが」
春香「……あっ」
千早「一応、余裕のあるスウェットを出すけれど……無理はしないでね?」
春香「やだなぁ、大丈夫だよ……じゃあシャワー借りようかな。千早ちゃんからどうぞ」
千早「私はあとで入るから大丈夫、先に入って?」
春香「うん? ……わかった、それじゃあお先に失礼するね」
千早「それじゃあ……そっちよ」
春香「はーい」
千早「さーい」
春香「えっ?」
千早「……なんでもないから気にしないで」
千早「……着替え、おいておくわ」
春香「はーい! ありがとう、千早ちゃん」シャワァァァ…
千早「いいの、気にしなくても……その」
春香「うん……? どうしたの?」キュッ
千早「今日のことなんだけれど……」
春香「それなら別に気にしなくてもいいってば……お腹減ってなかった私も悪いんだし」
千早「でも、ヘタをしたらひどい怪我をしてたわけで……なら昨日はっきりと止めるべきだったんじゃないかって」
春香「……千早ちゃん」ガラッ
千早「……春香」
春香「そんなことない……まだ、お弁当は取れてないけど」
春香「私……半額弁当のこと、狼のこと……なにより、千早ちゃんのことが知れて、嬉しいよ!」
千早「春香……!」
千早「春香……その……」
春香「大丈夫だよ、千早ちゃん……私は平気だから一緒にがんばろう!」
千早「そうね……じゃあ、寝る前にいろいろと話させて?」
春香「うん、私もいろいろ聞きたいし……夜更かししちゃおうか?」
千早「明日の仕事には響かないようにね?」
春香「おまかせください、プロですから!」
千早「ふふっ、春香ってば……あと」
春香「どうしたの?」
千早「女同士でも、せめて多少は隠した方がいい……と思うわ」
春香「あっ……」
千早「着替えはこれだから……じゃあまたあとで」
春香「う、うん……ありがとう千早ちゃん」
春香(すっぽんぽんのまま熱く語ってたと思ったらとたんに恥ずかしくなってきた……もう、大事なところで決められないんだから)
千早「へぇ……あぁ、そういえばこの前の収録の時の話なんだけど―――」
春香(結局、夜遅くまでいろいろと話し合った)
春香(狼のこと、スーパーのこと、弁当のこと)
春香(事務所のこと、プロデューサーさんのこと、他のアイドルの皆のこと)
春香(私のこと、千早ちゃんのこと)
春香(それから、それから―――)
春香「ん……朝……?」
千早「……んっ……」
春香「えーっと……あれ?」
千早「…………んぁ」
春香「……そうそう、千早ちゃんの家にお泊りしたんだっけ」
千早「む…………ん」
春香「うわぁ……千早ちゃん思ったよりすごい寝相してる」
千早「……ぁ……」
春香「これは……お宝写メゲットのチャーンス? なんてね」
千早「…………くぅ」
春香「ふふっ、さてと……今日もがんばろう!」
千早「んんっ……はる、か……?」
春香「おはよう、千早ちゃん」
千早「おはよう……あれ? 私……」
春香「ゆうべは おたのしみ でしたね」
千早「……そう、そういえば春香が泊まったんだったわね」
春香「ちょっとのってくれてもいいんじゃないかなぁ?」
千早「……? だって昨日の晩はとても楽しかったもの」
春香「あぁ……うん。まぁそうなんだけど」
千早「変な春香ね」クスクス
春香「あはは……そうだね。じゃあ支度して事務所いこうか」
千早「えぇ……今晩は?」
春香「いってみたい……今度こそ。ソイジョイも食べない」
千早「わかった……お互いベストを尽くしましょう」
春香「もちろん!」
春香「おっはようございます! 天海春香、全開バリバリでいきますよー!」
P「お、おはよう……春香、今日はやたら元気だな」
春香「目標ができると乙女は強いんですよ」
P「そういうものなのか……っていうか目標って何だ? 千早は何か知ってるのか?」
千早「さて……どうでしょう」
P「どうでしょうって……はぁ、聞いても教えてくれないんだろ?」
千早「乙女の秘密を探るのはヤボ、らしいですよ?」
P「はいはい……それじゃあ本日の予定はだな―――」
春香「んー、終わりましたね!」
P「あぁ、おつかれ……栄養ドリンクでも飲むか?」
春香「大丈夫です、今の私はベストコンディションですから」
P「……? わかった、大丈夫ならいいんだが」
春香「それじゃあプロデューサー、お疲れさまでした!」
P「あぁ……おつかれ。いいのか?」
春香「えぇ、駅で待ち合わせしてるんですよ!」
P「えっ? いったい誰と……」
春香「えへへー、秘密ですよーっだ」
P「……おいおい」カシュッ
P「んぐっんぐっ……ぷはぁ。まぁ春香に限って間違いは起こさないよな」
P「それに……恋人ならそもそも言わないだろうし。友達か?」
P「ま、プライベートに必要以上に干渉してもしょうがない……かな」カコン
P「俺も帰るか……」
春香「……ちーはーやーちゃん♪」
千早「きゃっ!? は、春香……驚かせないで」
春香「ごめんごめん、待った?」
千早「いいえ、今来たところよ」
春香「そっかぁ……よかった、じゃあいこっか」
千早「今日は割と早めに片付いたし……電車で移動するとちょうどいい時間につきそうね」
春香「うん、結構いい計画でしょ?」
千早「……いったん事務所まで帰してもらった方が早かった気もするけれどね」
春香「まぁまぁ……ね?」
千早「まぁ、なんでもいいのだけれど……」
春香「うん、ばっちし……もうペコペコだよ」
千早「そう、よかった……一緒においしいご飯を。また食べましょう?」
春香「今日こそはやれる気がするんだ……がんばるよ」
千早「えぇ、春香ならきっとできるわ……私も負けられないもの」
春香「千早ちゃんは二つ名もあってすごいんだから、負けるだなんてそんなぁ」
千早「あれは……まぁ、偶然ついたようなものだからね」
春香「でも、元々の実力がなきゃダメなんじゃないのかな?」
千早「そう……かしら」
春香「うん、ランクだけが上がっても知名度は上がってくれないんだから……元々力があってこそ人気がでるんだよ」
千早「アイドルと一緒、って?」
春香「そういうこと!」フンス
千早「……春香らしいわね」
春香「えぇー? 今のってどういう意味?」
千早「そのままの意味よ?」
いつもの最寄り駅で電車から降りる
でも、これはいつもの朝の通勤とは違う
時間は既に夜。岐路につく人のほうがはるかに多い
その中を逆流するように私と千早ちゃんは歩いた
誰に見せつけるわけでもない誇りを胸に
ただ、その≪戦場≫へと
春香「……ついたね、千早ちゃん」
千早「えぇ……ベストを尽くしましょう」
不思議だ、最初に見た時はただのよくあるお店だと思っていたのに
今は光量以上に明るくまぶしく見えた
一歩踏み出せば自動ドアが、開く
そして中に入ると肌が粟立つような感覚に襲われる
いろんな人が警戒しているんだ
私、じゃない……隣にいる千早ちゃんを
冷静に考えてみれば、それはあたりまえなんだけれど……
千早「……? どうしたの? 春香」
春香「ううん、なんにも」
私にとっては千早ちゃんは二つ名持ちの狼の前に大切な友達だ
そりゃあ、最初に此処であった時はちょっと怖かったけど
青果コーナーへと向かう
ほのかに香る甘い果実のにおいが、リラックスさせてくれた
余分な力が抜ける、これもこの配置の狙いだったりするんだろうか?
そのまま、総菜コーナーへ
食欲をそそるようなものがいくつもある
てんぷら、コロッケ……やっぱりお腹が減ってると揚げ物が恋しい
ほうれんそうのおひたしやかぼちゃの煮つけもおいしそうだ
腹の虫の主張がひときわ激しくなった
そして―――向かう先は、弁当コーナー
今回のメイン。私達のお腹を満たしてくれる獲物だ
そこに並んでいた弁当は昨日と同じく4つだった
千早ちゃんは一瞥しただけでそのまま通り過ぎた
さて、残っていたお弁当について整理しよう
ひとつめ、焼き鮭弁当
割とシンプルな盛り付けと名前。平平凡凡……かと思わせてそうじゃない
大きな鮭の切り身がひときわ目立っていたけどそれだけじゃなかった
何故かフィッシュフライやちくわの磯辺揚げまで添えてあったのが思いだせる
それに、さりげなくサラダ部分と箸休めの充実具合もすばらしかった
ひじきや筑前煮、ポテトサラダとなんでもありのそれは『焼き鮭』の一言だけで済ますには惜しいくらいだ
ふたつめ、豆腐グラタン弁当
昨日食べ損ねたお弁当だ
少しでも理解できるように考えてみたところ……下の段には豆腐が入っている可能性が高そうだ
上の段に入っているグラタンだと思われる物体は、思っていたよりも流動性がある感じだった
つまり……豆腐に、ホワイトソースをかけてあっためてグラタン風にして食べる……? お弁当なんだ
うん、やっぱりよくわからない。でも結構興味をそそられる
みっつめ、ミックスフライ弁当
名前の通り、いろんなフライが盛られたお弁当だ
少し問題があるとするなら……そのサイズだと思う
ジャンボ海老フライにカツ、そしてコロッケにフィッシュフライ
……お腹ぺこぺことはいえ、アイドルが食べるのはどうかと思ってしまった
そして、最後が―――
名前だけだと、ちょっとカッコつけたハンバーグ弁当との違いが伝わらないかもしれない
でも、見るからにスペシャルなハンバーグ弁当だった
第一にその大きさ。普通のハンバーグならひらべったく伸ばしてあるものだと思う
それは正しいし、火だって均一にちゃんと全体へと通すことができる
でもあのハンバーグは丸かった。円じゃなくて球の形をしていた
専用の容器の中心に、すっぽりと収まってる姿は
まるで小学校のころの工作で作った光る泥団子みたいで綺麗だった
第二にその容器の異質さ
ひとつめの要素の続きになるけれど、他のお弁当と違って規格が違う
……一応、豆腐グラタン弁当もそうなんだけれど
お米とおかずっていう一般的なお弁当のスタイルなのに容器が違っていた
どんぶりの器みたいな容器の底にはご飯、そこへ半透明の敷居が入って野菜と付け合わせが少々
そして中央に……専用のカプセルのようにほりが深いへこみへ球状のハンバーグは設置されていた
遠目でみると完全にどんぶりものの蓋部分が盛り上がってそこに黒い玉が浮いているように見える
だけどその黒い玉は肉汁を大量にはらんでいることがわかるハンバーグで……
そして、よく見れば付け合わせだってどんぶりものにしては多すぎるぐらい
直観的に思ったんだ
これは―――絶対……おいしいだろうなって
千早ちゃんが小さくつぶやく
≪月桂冠≫については昨日教えてもらった
その日の残った中で、一番の力作
何故残ったのか不可解なぐらいのもの
それを、半額神自らが自信を持って推薦する意味を持って貼る特別なシール
そしてそれを貼られた弁当そのもののことを
≪月桂冠≫と呼ぶのだと
春香「……あの、スペシャルハンバーグ弁当?」
千早「えぇ……あれをとったものが、今日の覇者」
ご飯ですよの瓶を手にとった千早ちゃんが、くるくるとラベルを眺めながらいう
私が食べたいと思っているのが伝わったのか、軽く息を吐いてこう続けた
千早「本来……≪月桂冠≫が出たら全員がプライドをかけて狙うの」
春香「……千早ちゃん」
千早「でも私……今日は魚が食べたい気分なのよね」
千早「でも、二つ名持ちとしては放置していくのも逃げるようで癪なの……春香」
ここまで聞けば、さすがに察する
つまり千早ちゃんはこう言ってるんだ
「私は月桂冠を狙わない。でも月桂冠は『私達』がとらなければいけない」
―――と。私が、月桂冠を取れと
春香「……信じてくれるの?」
千早「春香を信じられないのなら、誰も信じられなくなっちゃうわ」
すごく、嬉しい
千早ちゃんは私を信じて任せてくれた
なら私はこの期待に応えてみせる!
春香「……よしっ! まかせて!」
千早「えぇ……お願い」
お腹が今にも鳴ってしまいそうな緊張感の中
ただ、ひたすら時を――――
キィ、とあの独特のドアの音が鳴る
あのおじさんが……半額神が姿を現した
思わず息をのむ
半額神はお惣菜の配置を正しはじめた
そして……貼る
整え終わったお惣菜のパッケージ達へ黄色い祝福が降り注ぐ
あのお惣菜はもう半額なんだ
すべてのお惣菜に貼り終えたところで、次は弁当コーナーへ
綺麗に並べ直すとまた半額シールを取り出し次々と貼っていく
そしてすべての弁当に……いや、まだあのスペシャルハンバーグ弁当には貼ってない
だけどこれまでの半額シールをしまってしまった
春香「……千早ちゃん」
千早「……ええ」
これは、いよいよもって間違いない
あれが……≪月桂冠≫!
ぺたり、と静かにスペシャルハンバーグ弁当へと貼り付け終わると値段に二重線を引いて訂正した
―――『半額』と
そしていつものようにドアのほうへもどっていき
いつものようにこちらへ一礼をして
いつものようにドアが――――
春香「はああぁっ!」
千早「……!」
――――閉まった
昨日とはまるで身体の軽さが違う
お腹が減っていると力が出ないとばかり思っていたけど違うんだ
今、この場に限って言えば……空腹を、腹の虫を制御しないと勝てない!
一直線に弁当コーナーへ飛びこむ
一気にかっさらえるかとも思ったけれど、横から妨害が入ってそううまくはいってくれなかった
坊主「っち……おいおい嬢ちゃん、初心者の目じゃないぞ?」
昨日一昨日とお世話になった坊主さんだ
でも、今は遠慮しない……遠慮できない
お腹が減っている
とっても、はらぺこなんだ
あのハンバーグに……齧りつきたい!
春香「ああぁぁぁッ!」
腕にありったけの力を込めて叩きつけると坊主さんはガードごと吹っ飛んだ
振りぬいた腕の慣性に引っ張られるようにその場で回転
ハンバーグ弁当に手を伸ばそうとして、また防がれる
茶髪「……やるじゃない、新入りさん!」
初めてここに来た時、動けなくなった私に渇を入れてくれた人だ
千早ちゃんが無理をし続ける結果にならなかったのはこの人のおかげだ
でも、今私はお腹が減っているんだ
茶髪の女の人の豊満な胸が揺れる
千早ちゃんの声が近くで聞こえた気がした
千早「……悪いけれど、邪魔させないわ!」
茶髪「へぇ……入れ込んでる、じゃんっ!」
気のせいじゃなかったみたいだ。後ろから飛びこんだ千早ちゃんがそのまま茶髪さんと打撃戦へもちこんだ
一瞬だけど目があった時に千早ちゃんが『任せろ』といってくれた気がする
今度こそ。既に周りには人垣ができ始めている
これで取れなきゃ、乱戦での振る舞いなんて私にはわからない
そこへ滑り込むように現れたのは……初日にお弁当をさらっていった顎鬚の男の人
顎鬚「待ちな……悪い、がっ!?」
春香「えいっ! ごぉ、めんな……さいッ!」
手を弾こうと動いているのがわかったので、どこか別の場所で攻撃できないかと考える
考えながらもちっともいい案が浮かびそうにないのでその思考中の頭を顎鬚さんにぶつけた
顎鬚さんがひるんだ隙に後ろへと投げ、近付いていた他の人達へのけん制にする
完全にフリーになった私はそのまま――――
春香「ああああああっ!」
≪月桂冠≫を手に入れることに成功した
月桂冠は手の中にある
春香「……あっ」
さっきまで後ろから殴りかかろうとしていた人が、既に別の人にターゲットを変えている
そうか、弁当をとった人は攻撃されないんだった
私はそのままゆっくりとレジへと歩いて行く
春香「……お弁当、取れたんだ」
いまさらながら実感が沸いてくる
手の中にあるのは、おいしそうなお弁当
春香「嬉しいなぁ……あれ? 涙が……」
それを見ているだけで、涙があふれてきそうになった
最高の半額弁当の証、月桂冠を
私が初めてとった半額弁当を
千早「すごいわ、春香……まさか初撃で決まるなんて」
春香「あはは……お腹減ってたから」
そう、すっごくお腹が減ってたんだった
思い出すとお腹がギューギューと食事を要求する
春香「……お弁当、食べようか」
千早「えぇ。あっためて……最初と同じように、そこのスペースで」
千早ちゃんが優しく微笑む
なんだかとってもあったかい気分になってきた
春香「うん……」
千早「……泣いてるの?」
春香「なんでだろうね……わかんないけど、涙が出るんだ」
しばらくそうしてもらって、ようやく涙は止まった
春香「……うん、ありがとう千早ちゃん。落ち着いた」
千早「よかった……春香、せっかくの月桂冠よ。鼻が詰まったままじゃもったいないわ」
春香「ふふっ……うん!」
千早ちゃんなりの励ましなのか、冗談なのか
それとも本気でいってるのかわからないけど
……とにかく元気はでた
せっかくのはじめてとれたお弁当なんだからちゃんとおいしく食べなきゃね!
レンジへとお弁当を入れて温める
少し長めの加熱時間を要求するそれに、期待感が増していく
千早ちゃんも少し落ち着かない様子だ
レンジの回転テーブルが止まる
ドアをあけてお弁当を取り出した
春香「……おいしそう」
千早「そうね……なにがスペシャルなのかも気になるところだわ」
なにが、ってこの形がだと思うんだけど……
千早ちゃんは形だけじゃないさらなる何かを予感しているみたいだ
なにはともあれ、晩ご飯の準備はできた
千早ちゃんの焼き鮭弁当もあたため終わり、残っている過程はおいしくいただくだけだ
春香「……いただきます!」
千早「いただきます」
割り箸を2つに割っていう
さぁ、いったいどんなところがスペシャルなんだろう?
蓋を外せば、すごい湯気があがった
千早「……ええ」
汁物のそれに近いほどの湯気に面食らう
ドーム型の器は熱と水分を逃がさない仕組みになっていたみたいだ
そしてその水分は……ハンバーグから肉汁として染み出しているみたいだった
ハンバーグがすっぽり収まっていた中央部は、肉汁がたまっているのがわかる
でもハンバーグの下の部分が自分から出た肉汁に浸っているわけでもない
ほんの少し浮くように、底部分に近づくにつれて細くなっている容器のおかげみたいだ
春香「……じゃあ、主役はちょっと待ってみようかな」
もったいぶって別に盛られたおかずに手をだしてみる
卵焼きや、温野菜……細かい敷居で仕切られたそれは色も鮮やかだ
ハンバーグはおいしそうだけど、やっぱり茶色一色だけっていうのはものたりないもんね?
とりあえず温野菜らしきものに箸を伸ばす
レンジで温める前提のお弁当は、サラダみたいな生野菜は入れられない
だから温めてなおおいしいものにしてある……って千早ちゃんが教えてくれた
箸はすんなりとおって、ニンジンは小さく切れた
口に運ぶと、独特の甘味を含んだ味わいがひろがる
でも、自分の知ってるニンジンとはちょっと違うような……?
私が思っていた青臭さがない
むしろ優しい香りが……香り?
春香「これ……ただの温野菜じゃないみたい」
千早「えっ?」
じっとこちらを見つめていた千早ちゃんが少し驚いたような声をだす
ハンバーグがスペシャルなのはわかっていたけどつけあわせもスペシャルなんて本当にスペシャルなお弁当だ
ひとくちサイズに切って千早ちゃんの口元へ運ぶ
千早ちゃんは少しためらうような表情を浮かべたあと、意を決したみたいに口を開けた
千早「……なるほど、あく抜きを丁寧にやったうえで香りをつけれるように出汁で蒸した……のかしら」
簡単に言えばひと手間かけてあるってことだ
すごいやスペシャル弁当。つけあわせにも手はぬかない
その後も周りのおかずに手をつけては小さな工夫に驚くのを繰り返した
月桂冠は伊達じゃないってことか……プロ意識を感じる
千早「その……春香」
千早ちゃんがもじもじしている
自分のお弁当にもあまり手をつけてないようだ
……んっふっふー、わかってますとも!
まだ手をつけてないこのハンバーグが気になっているってことぐらいね
そうなっちゃったら本末転倒もいいところだ
……正直、結構ガマンの限界だし
春香「……よし、じゃあメインといきましょう!」
少し大げさに箸をつける
一口大ぐらいに切るのも考えたけど……
これだけ大きくておいしそうなんだから切るのはもったいない
そう思いなおして、全体を持ち上げるように持ちなおす
そして一気にかじりついた
春香「あー……んっ! あふっ!?」
口に入れた最初の感想は
『おいしい』でも『工夫がすごい』でもなく―――
純粋にただ、熱かった
春香「ん~~~っ!」
春香「んっ……んくっ……はぁ。あひゅいよ……千早ちゃん……」
千早ちゃんからお茶を受け取ると一気に流しこんだ
舌がヒリヒリする……ちょっとやけどしちゃったかもしれない
千早「うかつだったわね……大丈夫?」
春香「うん……」
結構な時間おいてあったんだからもう少しは冷めていると思った
でもかじったところからは熱々の肉汁が飛び出してきたんだ
ハンバーグも、かじったあたりからまた新鮮な湯気があがってる
……肉汁だけだと説明がつかない量の水分
それに、タレの類はついてなかった
なのに濃厚な風味を感じた気がする
これは、たぶん……
千早「出汁……ソース? が中に閉じこめられていたのかしら」
春香「うん、そういうことだと思う……びっくりした」
大きなかきあげ全体に、タレをいきわたらせるにはどうするのか?
その漫画では、かきあげのタネにタレのキューブを混ぜ込んでその問題を解決していた
熱で溶けて、噛めばひろがる風味……食べてみたくておねだりしたっけ
つまり、このハンバーグはそれと同じことをしているんだ
球状のこれにタレをかけてもいきわたりはしない
でも中からなら? ……熱くなればタレが溶けだしてくる
ただそれだけならチンしたときにタレは流れでてしまうかもしれない
でもこのハンバーグ……たぶん一度軽く揚げてある!
中の旨味がでてしまわないように、ハンバーグらしさを失わないように
細心の注意を払ってしあげられたんだろう
春香「……んっ」
今度はやけどしないように慎重にかじった
お肉らしさの中に、あとをひくような微かな甘味
タレの味かな? 甘ったるくもなくてなかなか……
もくもくとかじっていると、ガリッと違和感を感じた
なにか変なものでも混じってたんじゃ、と思った時にそれは否定される
春香「~~~~~っ! か、からひっ!?」
ガツンと辛さが抜ける
たぶん今かじったのは粒胡椒だ
いきなりでまた驚かされたけれど辛さはすぐにひいた
さっぱりした口は、またあの甘味のあるお肉を求める
……すごい、スペシャルハンバーグは本当にスペシャルだ
千早ちゃんがこっちをみている
……んっふっふ、素直になりなよちーちゃん?
千早「春香……その」
春香「はい、どうぞ?」
遠慮がちに話しかけてきたのへカウンターをあわせるようにハンバーグをさしだす
千早ちゃんは少し驚いたような顔をしたあと歌う時のように大きく口をあけた
今、時代は蒼い鳥より茶色い牛だ
千早「……おいしい」
千早ちゃんの表情がほころぶ
別に私が作ったわけでもないのになんだか誇らしい
春香「おいしいよね!……じゃあ私にも何かちょうだい?」
餌を待つ小鳥のように、大きく口をあけてみる
目をつむっていると、小さく溜め息が聞こえたあと口の中に何かが入ってきた
口の中でほどけるような食感
お米を求めさせるほどよい塩気
……間違いない、千早ちゃんのお弁当のメインの焼き鮭だ!
かなりのボリュームもあったはずのお弁当はあっという間に空になってしまった
本当に、おいしかった
春香「……ふぅ、お腹いっぱいだよ」
千早「えぇ、私も……」
千早ちゃんと顔をみあわせて笑う
本当に不思議だ
スーパーで売っているお弁当がこんなにおいしいものだなんて
それを口に出して聞いてみると千早ちゃんは小さく笑って
千早「春香が自力でとったんだもの……最高の、勝利の一味が入っているのよ」
―――そう、応えた
あれは私はとってないのに千早ちゃんがわけてくれたんだけど……
春香「……あぁ」
ちょっと考えてから、ひとつの結論にたどり着いた
私のイメージするスーパーのお弁当は孤独なものだけど―――
春香「大切な人と一緒に食べるご飯がおいしくないわけがないんだ」
千早「え?」
春香「ううん、なんでもない! ねぇ千早ちゃん―――」
今度私の手料理も食べてみて欲しいな?
半額弁当もおいしいけど、アクセントがあってもいいよね
そんなことを私は思ったのだった
おわり
ベン・トーとアイマスのクロスでした
ご飯の描写むつかしいね
少しでも旨そうって思われたら嬉しい
じゃあまたいつか
また今度書く時の参考にしたい
一応ベン・トー知らなくてもわかるようにしたつもりなんだけれど……
旨そうだった
面白かった
違和感ってほどじゃないけど、戦闘描写があっさり目でちょっと物足りない感じがしたかも
うまそうだった
Entry ⇒ 2012.06.25 | Category ⇒ ベン・トーSS | Comments (2) | Trackbacks (0)
奉太郎「因縁ある古典部員の関係」摩耶花「あるいは謎のない日常」
そういってえるが帰宅してから30分程度経過した。
奉太郎は一人で読書していたが、家にいても同じことだと気付いて帰る支度をする。
奉太郎「さて、帰るか……」
たいして広くもない部室を横切って奉太郎が扉を開けようとすると、
摩耶花「あら折木じゃない。居てほしくなかったわ」
先にがらりと扉を開けたのは摩耶花だった。
奉太郎は眉ひとつ動かさずに切り返す。
奉太郎「おまえが来るのを待ってたんだ。来てくれて嬉しいよ」
奉太郎を押しのけて部屋に入った摩耶花。
摩耶花「あれ? ちーちゃんは?」
奉太郎「千反田なら帰った。家の用事とかで」
摩耶花「ふくちゃんは?」
奉太郎「あいつは総務委員で会議とか言っていたな」
摩耶花「む……」
難しい顔をしながら摩耶花がいつもの席に着席する。
奉太郎は立ったままため息をついた。
奉太郎「安心しろ伊原、俺は今から帰るところだから」
摩耶花「あっそ。それは安心したわ」
奉太郎のほうも見ずにつんとした調子の摩耶花。
奉太郎「そうか。じゃあな」
躊躇無く廊下に出た奉太郎は後ろ手に扉を閉めた。
かばんを揺らして階段を目指す。
奉太郎(今日はエネルギー消費の少ない、実に良い日だ)
がしっとかばんを掴まれた。
奉太郎「ぐえ」
バランスを崩しそうになるのをなんとか抑えて振り返る。
摩耶花「はぁっ、はぁっ……待ち、なさいよっ……!」
伊原摩耶花が彼を睨んでいた。
地学準備室に戻って再びいすに腰を下ろした奉太郎は頬杖をついて窓の外を眺めた。
山々は緑の色を濃くし、その上にはひとつ、まるい雲が浮いていた。
摩耶花「~♪」
奉太郎を文字通りひきずって部室へと連行した本人は、今は斜向かいに座して折り紙を折っている。
足を机の下でぱたぱたさせている。
奉太郎「……なあ伊原」
呼びかけると、摩耶花は鼻唄をやめてまた睨んでくる。
摩耶花「なによ」
奉太郎「帰っていいか?」
奉太郎「……睨むのを辞めろ」
ぷいっと摩耶花はそっぽを向いた。
摩耶花「だって、あたし一人で部室に居るとか、なんかむなしいじゃん」
奉太郎「だったら漫研の部室に戻ればいいだろう」
摩耶花「……古典部行ってくるって言っちゃったし……戻りにくい」
奉太郎は額に手を当てて顔をしかめた。
奉太郎「じゃあもう帰ろう。それで問題ないだろ」
摩耶花「ふくちゃんを待ってるの! わかりなさいよ!」
奉太郎(わからん)
摩耶花「なに読んでるの、折木」
奉太郎は黙って背表紙を摩耶花に向ける。
著者名を見て反応した彼女だったが、その著作は読んだことが無いようだった。
摩耶花「どういう話なの?」
奉太郎「文房具と鼬の戦争」
摩耶花「なにそれ? ファンタジー?」
奉太郎「さあ」
奉太郎は本を開いてさきほどの続きを読み始めた。
摩耶花「できたっ」
嬉しそうにそう宣言すると、鶴を奉太郎の前に置いた。
奉太郎はちらっとそれを見ると、手を伸ばして鶴のしっぽを折り曲げた。
奉太郎「……ダブルヘッド・ツル」
摩耶花「ちょっとォ! ツルも英訳しなさいよ!」
奉太郎(そこなのか)
奉太郎「伊原」
摩耶花「ツインテール・ツル……ぶふっ」
摩耶花「っるさいわね。あんただって古典部だから本読んでるわけじゃないでしょ」
奉太郎「それは、そうだが」
摩耶花「あたしに文句つけるのやめてよね。折木のくせに」
奉太郎(理不尽すぎる)
奉太郎「……だいたいおまえはどうして古典部に入ったんだ」
摩耶花「それは……ふくちゃんがいたし、ちーちゃんも誘ってくれたから……」
奉太郎「主体性の無いやつだ」
摩耶花「あんたにだけは言われたくないわよ!」
ぱたぱたぱたっと折った紙飛行機を奉太郎に投げつける摩耶花。
摩耶花「そうね。供恵さんのマンガにはお世話になったもの」
最低限の動きで奉太郎に回避された紙飛行機が床に落ちる。
摩耶花「そうだ! 今度また読ませてよ!」
身を乗り出した摩耶花に奉太郎は冷ややかな目を向けた。
奉太郎「学校にもってこいって言うのか? いやだね」
彼の頭の中で『省エネ』というワードが点滅した。
摩耶花「なによ。あんたんちに読みに行けばいいんでしょ」
しばらく奉太郎は考えていたが、自分のコストはすこぶる低い、と結論付けた。
奉太郎「――好きにすればいい」
摩耶花「やたっ♪」
がたんっと音を立てて座りなおした摩耶花は、口笛を吹きながらにこにこした。
奉太郎(喜びすぎだろ……)
奉太郎の視線に気付くと摩耶花はむっとしたような表情でじっとりと見返した。
摩耶花「なに見てんの」
奉太郎「なんでもない」
かち、かち、かち、という時計の音と、奉太郎が頁をめくる音、そして摩耶花のシャーペンが走る音だけがしていた。
摩耶花はなにかノートにメモを書き付けているようだった。
奉太郎「………」
摩耶花「………」
ぽふんと摩耶花がノートに突っ伏した。
呻く。
奉太郎「………」
反応しない奉太郎はじいっと見つめる摩耶花。
摩耶花「………」
本から視線をはずさない奉太郎。
奉太郎「なんだ」
摩耶花「たいくつー」
奉太郎「じゃあ帰るか」
摩耶花「それはいやー」
突っ伏したまま摩耶花は手足をばたばた動かした。
奉太郎「………」
摩耶花「……むう」
奉太郎「なんだ」
摩耶花「たいくつー」
奉太郎「………」
摩耶花「おれきー」
奉太郎「………」
摩耶花「……すぅ……すぅ……」
奉太郎(退屈すぎて寝たのか。子供だな)
摩耶花「……すぅ……ん、ほーちゃん……」
ふむ、と奉太郎は摩耶花に目をやった。
ノートに頬をつけて、寝ている。
背中が規則正しく上下している。
奉太郎(寝ているとほんとうに小学生のままだな、伊原は)
奉太郎(いや起きていてもか。あの苛烈な性格は幼少の時分からだった)
奉太郎「………」
摩耶花が起きる気配は無い。
摩耶花「……ほーちゃん……あそぼ……」
奉太郎「ああ、いいよ。摩耶花ちゃん」
古典部室を夕日が赤く染めていく。
摩耶花「むにゃ……?」
ゆっくりと摩耶花が目を開いた。
寝ぼけたまま上体を起こすと、ぱさりと布が床に落ちた。
摩耶花にかけられていたらしい。
前を向くと奉太郎は腕を組んで眠っていた。
眉根が寄っている。
摩耶花「………」
奉太郎「……やめろ姉貴……やめてくれ……」
うなされている彼を見て摩耶花は少し笑った。
摩耶花「わっ、なにこれ古……」
どうやら部室のどこかにあったタオルケットらしい。
目立った汚れは無いが、古い。
奉太郎へと目を移す。
摩耶花「……しかたないわね」
起こさないように、摩耶花は奉太郎の肩にタオルケットをかけた。
摩耶花「……ん?」
視線を感じて扉のほうを振り返ると、すこし開いた隙間からにこにこした顔が覗いていた。
里志「やっぱりベストカップルじゃないか」
摩耶花「ふくちゃあんっ!?」
奉太郎は自室のベッドで二度寝していた。
したしたと階段を上る音がする。
半分以上眠ったままの頭で奉太郎は姉が帰ってきたと思った。
摩耶花「折木ー! 起きなさーい!」
勢いよく扉を開けて入ってきたのは伊原摩耶花である。
ずかずかとベッドに近づくと、腰に手を当てて彼女はのたまう。
摩耶花「せっかくの休日にいつまで寝てんのよ!」
奉太郎「せっかくの休日だから好きなだけ寝させてくれ……」
摩耶花「ほらもう9時よ! 早く起きなさいって」
奉太郎「すまん姉貴……」
摩耶花「あたしは供恵さんじゃない!」
奉太郎「……おはよう、伊原」
摩耶花「おはよ、折木。いい目覚めね」
奉太郎「ねむたい」
摩耶花「しゃっきりしなさいよね、まったく」
奉太郎「それで……なんで伊原がうちに……」
摩耶花「このまえマンガ貸してっていったでしょっ」
奉太郎「……そうだったか」
摩耶花「そうなの!」
奉太郎「好きにしろ、俺は朝飯食べてくるから……」
摩耶花はまったくもう、というふうにそれを見送ったが、すぐに立ち上がった。
部屋を見回す。
摩耶花「折木の部屋も久々ね……」
ずいぶん物が少ないなという印象を受けた。
子供のころにはもっと雑然としていた記憶があるのだが。
摩耶花「これも古典部のおかげかな……」
ひとりごちる。
ぱっと勢いよく回転すると、今度は部屋を出て供恵の部屋へと向かった。
摩耶花「あ、おかえりー」
奉太郎「どうしてここにいるんだ……」
摩耶花「マンガ読みに来たって言ったでしょ」
奉太郎「だったら姉貴の部屋でいいだろ」
摩耶花「なによ、邪魔だって言うの? まだ寝るつもりなの?」
奉太郎「そうじゃない。そうじゃないが……」
奉太郎は力無くいすに腰を下ろした。
摩耶花「だったらいいじゃない。あたしのことは気にしないで」
雑誌を読んでいた奉太郎は静寂に耐え切れなくなり、TVをつけた。
にぎやかな音が部屋に流れ出る。
奉太郎「……はあ」
うつぶせになって足をぱたぱたさせていた摩耶花が顔を上げた。
摩耶花「折木」
奉太郎「……なんだよ」
摩耶花「うるさい。TV消して」
奉太郎「………。はいはい」
奉太郎「今度はなんだ」
摩耶花「……折木ってちーちゃんが好きなの?」
マンガに目を落としたままの摩耶花の言葉に奉太郎は一瞬動きを止めた。
奉太郎「……どうしてそうなる」
摩耶花「だって……、」
奉太郎「………」
摩耶花「だって、中学生のときとか、あたしがいくら誘っても遊びに行かなかったのに……」
摩耶花「古典部に入ったのだってちーちゃんがいたからなんでしょ?」
摩耶花は起き上がって奉太郎に顔を向けた。
摩耶花「そうなの?」
奉太郎「そうだ。千反田は断じて関係ない」
摩耶花「そうなんだ」
奉太郎「ああ」
摩耶花「でも温泉旅行とか……」
奉太郎「ぐ……、あれは……」
摩耶花「あれは?」
摩耶花「は?」
奉太郎「千反田の目を見ると、どうしても断れなくなる。承諾しなければいけない気になる」
摩耶花「………」
奉太郎「俺だって喜んで温泉いったり文集を作ったりしているわけじゃない」
摩耶花「……ふうん」
ぽて、と摩耶花は今度は横に倒れた。
摩耶花(でも……、それって、ちーちゃんが好きだからってことじゃないの)
階下に呼ばれた折木が階段を上ってくる。
奉太郎「伊原ーあけてくれ」
摩耶花「なによもう……」
マンガを置いて摩耶花が扉を開けると、奉太郎がお盆を持って入ってきた。
冷やし中華が二つ。
奉太郎「昼飯」
摩耶花「あっえっ、い、いいの?」
奉太郎「いいんじゃないか。それとも嫌いだったか?」
摩耶花「ううん! じゃあ、いただきます」
すこし居心地の悪さを感じる奉太郎。
奉太郎「……伊原は、里志のどこが好きなんだ」
奉太郎(しまった、どうしてこんなめんどくさい話題を俺は……)
じろっと摩耶花は奉太郎を一瞥した。
摩耶花「……優しいし、楽しいし」
奉太郎「ふうん……」
摩耶花「でもよくわかんないのよねふくちゃんって」
摩耶花は早口にそう言った。
奉太郎「……そうか」
どんな相槌を打てばいいかわからなくて奉太郎は困った。
摩耶花「『君の気持ちはわかったけど、君自身が本当の気持ちに気付かないと僕は付き合えない』とかなんとか」
奉太郎(おい里志おまえのせいで今俺がめんどくさいことになってるじゃないか)
摩耶花「本当の気持ちって何なんだろ。ホントよくわかんないよ」
奉太郎「……ああ」
冷やし中華が無くなって奉太郎は間が保たなくなった。
摩耶花のそれはまだ半分も残っている。
奉太郎「ん」
麦茶に口をつける奉太郎。
摩耶花「あたしってそんなに魅力ないかな」
奉太郎「!? ごほっ、げほっ」
摩耶花「だ、大丈夫!?」
奉太郎「あ、ああ。だいじょうぶだ」
奉太郎(なんだこれは。俺はどうしたらいいんだ)
―――女の子には優しくしなさい。けっして逆らっちゃダメよ。
―――落ち込んでいたら褒める。落ち込んで無くても褒める。
―――わかった? 女の子には優しく。
―――それじゃ、まずわたしのいうことを聞きなさい。いいわね?
奉太郎(トラウマが……!)
摩耶花「折木?」
奉太郎「俺は、」
奉太郎(褒める、褒める――)
奉太郎「俺は、伊原が可愛いと思うぞ」
摩耶花「………」
奉太郎「………」
奉太郎(なんだこれ異常に恥ずかしいんだが。なんか言えよ伊原)
摩耶花「……ぷっ」
奉太郎「?」
摩耶花「あははははっ!」
腹を抱えてげらげら笑う摩耶花に奉太郎は赤面した。
奉太郎「おまっ、笑うこと無いだろう!」
摩耶花「あはははっお腹いたい! 苦しい!」
奉太郎「……言うんじゃなかった……」
摩耶花「く、くふっ、冷やし中華美味しい……ぶふぅっ」
奉太郎「吹くな!」
摩耶花「ごめ、ふふっ、あはは!」
奉太郎(恨むぞ姉貴……)
奉太郎「……落ち着いたか?」
げんなりした顔の奉太郎。
摩耶花「うん。ごちそうさま」
対して摩耶花は笑顔である。
摩耶花「じゃあそろそろ帰るわね」
立ち上がった摩耶花に奉太郎も続く。
奉太郎「そうか。マンガはどうするんだ」
摩耶花「また読みにくるから! あと半分くらい残ってるし」
奉太郎「それじゃあな」
摩耶花「うん。………」
外に出て、摩耶花が振り返る。
摩耶花「あ、ありがと!」
扉が閉まった。
奉太郎「………」
奉太郎(……まぁ元気出たみたいだし、いいか)
摩耶花「……ふふっ♪」
思わずスキップなんで踏んでしまう。
にやけるのを止められない摩耶花。
摩耶花「折木に可愛いって言われちゃったっ」
その笑顔は太陽よりなお明るい。
終
たまにはこういうのもいいよね
Entry ⇒ 2012.06.24 | Category ⇒ 氷菓SS | Comments (4) | Trackbacks (0)
真尋「クー子、ちょっと変身してみてくれ」クー子「…?」
クー子「…別に構わない」
真尋「よし、じゃあ早速」
クー子「…わかった」
ボワアアァァァ
クー子「…変身した」
真尋「じゃ、ちょっとそのまま楽にしててくれ」
クー子「…?」
真尋「…」カチャカチャジィィィ
クー子「」
クー子「…少年」
真尋「…」シコシコシコ
クー子「…少年」
真尋「ッ…」シコシコシコ
クー子「…少年」
真尋「フーッ…フーッ…」シコシコシコシコシコシコ
クー子「…少年、待って」
クー子「…少年」
真尋「なんだよ…」
クー子「…おかずにして良いとは言っていない」
真尋「いいだろ別に…減るもんじゃないし」
クー子「…そういう問題じゃない」
真尋「いつも僕の夕飯のおかず掠め取ってるくせに」
クー子「…うまいこと言っても駄目」
真尋「…」シコシコシコ
クー子「…少年、少年」
ちょっと参考画像ください
真尋「なんだよ今忙しいんだ。後にしろ後に」シコシコシコ
クー子「…事を終えてからじゃ遅い」
真尋「わかったよ…で?」
クー子「…今の私は原作張りに少年にデレ始めているのは確か」
真尋「うん」
クー子「…でも目の前で勝手におかずにされるのは不愉快」
真尋「でもお前ニャル子の前で結構オナってるよな」
クー子「…」
真尋「…」
クー子「…」
真尋「………」シコシコシコ
クー子「…少年、少年」
真尋「わかってくれたか」シコシコシコシコシコ
クー子「…私が性的すぎて少年が我慢できないのも分かる」
真尋「あぁ、そうだなセクシーセクシー」シコシコシコ
クー子「…でも条件がある」
真尋「条件?また無理な事じゃないだろうな…」シコ
クー子「…ニャル子のパンツと引き換え」
真尋「…」
クー子「…それが無理なら私をおかずにするのは諦めて」
真尋「うーん…」
クー子「…どう?」
真尋「僕が今履いているので良いんならあるけど」スルスル
クー子「…少年、少年」
クー子「…待って」
真尋「なんだよ。持ち逃げは駄目だぞ」
クー子「…なんで少年がニャル子のパンツ履いてるの?」
真尋「あいつが僕のパンツ全部盗みやがったんだよ」
クー子「そう…」
真尋「あぁ」
クー子「…」
真尋「じゃちょっと四つん這いになってくれ」
クー子「…少年」
クー子「…説明が足りない」
真尋「何が?」
クー子「…少年のパンツが盗まれることと、少年がニャル子のパンツを履いている事がうまく繋がらない」
真尋「だから、僕のパンツが手元に一枚もないんだよ」
クー子「…うん」
真尋「じゃあ手近にあるものを履くしかないだろ?」
クー子「…うん?」
真尋「それじゃもうちょっと足広げて」
クー子「…少年」
クー子「…手直にあるパンツなら他にもあるはず」
真尋「他って…例えば?」
クー子「…ハス太君のとか」
真尋「…ハス太のパンツはいっつもガビガビなんだよな」
クー子「…じゃあ私のとか」
真尋「お前のはいっつも湿ってるじゃないか」
クー子「…少年」
真尋「なんだよその通りだろ」
クー子「…なんで知ってるの?」
真尋「…」
クー子「…」
真尋「…」シコシコシコ
クー子「…少年」
真尋「いいだろ、どうせすぐ洗濯するんだから…」
クー子「…それでも不愉快」
真尋「わかったよ、悪かった。次からはちゃんと許可取るから」
クー子「…そういう問題じゃない」
真尋「さっそく僕の渡したパンツ被ってるお前に言われたくないよ」
クー子「…」
真尋「…」
クー子「…これは変態仮面のコスプレ」
真尋「そっか」シコシコシコ
クー子「…少年」
真尋「しつこいなぁ…」
クー子「…このパンツは既に少年の匂いしかしない」
真尋「まぁ、そりゃそうだよな」
クー子「…価値は半減」
真尋「ニャル子のパンツに僕の匂い付きだぞ?レアものだろ?」
クー子「…」
真尋「…」
クー子「…っ…私には難しい領域」
真尋「じゃちょっとここ顔近づけて、顔」シコシコシコ
クー子「…少年」
クー子「…そう」
真尋「じゃあ今から回収してくるから」
クー子「…本当に?」
真尋「あぁ、僕に任せておけ」
クー子「…少年、信じてる」
ニャル子「はーい!どうぞっ!私の脱ぎたてパンツィーです!」スルスル
真尋「おっ…お前っ!なっ何を!///」
ニャル子「えっへっへぇ真っ尋さぁん!シコってもいいんですよ!ここで!!」
真尋「ば、馬鹿言うな!誰がシコるか!///」
ニャル子「んも~う、素直じゃないんだからぁ!!なんなら私が直接…」
真尋「フン!」グサッ
ニャル子「エンッ!」
・
・
・
真尋「ほらよ、クー子」ファサ
クー子「…少年、いつになく輝いてる」
クー子「…わかった」
・
・
・
クー子「…はい、これ」
真尋「そこに置いといてくれ」
クー子「…うん」
真尋「よいしょっと…」ガサガサ
クー子「…ニャル子、ニャル子……」クンカクンカ
真尋「あ、クー子。パンツ借りるぞ」
クー子「…」
真尋「…」モグモグ
クー子「…少年」
真尋「…じゃちょっとこっちにお尻むけてくれ」シコシコシコ
クー子「…少年、少年」
クー子「…何食べてるの?」
真尋「…」
クー子「…」
真尋「いや、何も?」
クー子「…そういえば最近パンツの消費が早い」
真尋「食べてないって」
クー子「…」
真尋「…」モグモグ
クー子「…少年、口を開けて」
真尋「…」ゴクン
クー子「…少年、少年」
クー子「…少年、飲んだ」
真尋「…何の事だよ」
クー子「…お気に入りだったのに」
真尋「…」
クー子「…くすん」
真尋「…」シコシコシコシコシコ
クー子「…少年」ポロポロ
真尋「…?」シコシコ
クー子「…思春期真っ盛りの少年を誘惑してしまっていた私にも責任はある」
真尋「そうか。それじゃあそこに手をついて…」シコシコ
クー子「…今回に限り手伝ってあげても良い」
真尋「わかった。それじゃあ上体をテーブルに預ける形で」シコシコ
クー子「…少年」
真尋「なんだよ。片足を椅子に乗せる感じで」シコシコ
クー子「…口でしてあげてもいい」
真尋「…」
クー子「…」
ニャル子「さーてと…ちょっと小腹がすきましたねぇ」
ニャル子「あ、そういえば真尋さんのパンツがまだ残ってましたっけ…」
ニャル子「えーっと…」ガサガサ
ニャル子「ありましたありました…」
ニャル子「さて、さっそく頂きますか!」
<熱ッ!!!?
ニャル子「…?」モグモグ
~おわり~
クー子「…わはひのはんふをはえたふぉはえひ」
真尋「く、クー子っ!おまっ…!!」
クー子「…はんへいふぃは?」
真尋「…!!」ガシ
クー子「…っ!」
真尋「………!!」ガグガグガグ
クー子「…!?んぐっ…んっ!…んおっ!」ツァトグァ
真尋「…っ!!イグ!」
クー子「…んぶっ!?ぐっ…!!」シュブニグラス
クー子「…げほっ!げほっ…ぐっ…んえっ…!!」
真尋「あちち…流石はクトゥグアだな」
クー子「…少年、ひどい」
真尋「人のちんこ火傷させといてよくも…でも、まぁ…ありがとうな」ナデナデ
クー子「…」
クー子「…召喚」
真尋「!?」
フィーン
真尋「…おっ?」ヒンヤリ
クー子「…」
クー子「…少年のちんちんが使えないと、困る」
真尋「…え?」
クー子「…少年の赤ちゃんを産めなくなる」
真尋「そっ…そうか…」ナデナデ
クー子「…うん」
クー子「…でも反省は必要」
真尋「えっ」
クー子「…」
真尋「冷っ!!?あ、痛い!!痛ッ!!!!」
クー子「…」
~おわり~
Entry ⇒ 2012.06.24 | Category ⇒ ニャル子さんSS | Comments (0) | Trackbacks (0)
萌郁「私は、岡部くん依存症だから」
萌郁は自らの命が消えようとしているにもかかわらず、俺にそう言った。
まゆりを殺したのは別の世界線の出来事だ。
それでも、萌郁は俺に謝ってきた。
こんな悲しいことがあっていいのか、死ぬ間際に自分のことを大切にできないなんて。
もし、ラウンダーなんかにならなければ、FBのメールなんかに返信しなければ――。
いや、そんなことを考えてもなにも変わらない。
俺にはどうしようもない。
それでも、今だけは考えられずにはいられなかった。
「もし……岡部くんに……会っていたら」
「もっと……違う生き方……が……でき……たのかも……」
その言葉に俺はなにも返せない。
確かめようのない仮想の世界、それを考えても何も意味はない。
「D……メール……」
「……何?」
そう言うと萌郁はパープル色のケータイを手に取り、少しずつ指を動かす。
「これ……を……」
萌郁が最後に打ったメールの内容、それは――。
『おかべくんがたすけてくれる』
「萌郁……お前」
「おね……が……」
最後まで言い切れないまま、萌郁は息絶えてしまった。
「……岡部」
紅莉栖が、おずおずと呼びかけてくる。
「Dメールを、送るべきだと思う。もう、準備はできてる」
「ああ……」
Dメールを送れば、この世界線は無かったことになる。
だが、このまま見過ごしてもいいのか。
萌郁のケータイに残された最後の願いを、無視してもいいのか。
「……少し、待ってくれないか」
「えっ……?」
「少しだけでいいんだ、一人にさせてくれ」
「……分かった、外に出てる」
紅莉栖の言うことは正しい、今すぐにDメールを送る以外は無い。
分かっている、分かってはいる。
だが、萌郁のケータイに残された最後のメールは、俺に助けを求めるものだった。
目の前には二つのケータイがある。
一つはFBのもの、これを送ればIBN5100が手に入る。
もう一つは萌郁のもの、これを送れば……何が変わる?
おそらく何も変わらない、萌郁もまゆりも助かることは無いだろう。
そう思いながらも俺は――パープル色のケータイを選んだ。
俺は萌郁の残したメールを書き換えた。
『池袋の岡部倫太郎を頼れ○○中学』
「ダル、俺だ。電話レンジの設定を変えてくれ」
「設定を変える? 何かあったん?」
「何も聞くな、今から五年前に送れるように変更してくれ」
「ご、五年前……? とりあえず設定はするけど……」
俺はいったい何をしている? 何を変えようとしている?
このメールを送れば、萌郁が俺ともっと前に出会うかもしれない。
過去の俺は何かしてやれるのか、何が変わるのか、それとも何も変わらないのか。
そう思いながら俺は、送信ボタンを押した。
岡部(萌郁の部屋に居たはずだが……ん? ここは……どこだ?)
岡部(さっき居た場所よりも広い。……移動した?)
岡部(いや、それよりも何か変わったのか? ともかく外へ……)
萌郁「岡部くん、どこに行くの?」
岡部(……萌郁! ……この世界線では生きているのか)
萌郁「岡部くん? どうかした?」
岡部「……いや、何でもない。なあ、指圧師」
萌郁「……指圧師? 何のこと?」
萌郁「私が、指圧師? ……マッサージ、して欲しいの?」
岡部「いや、そういう意味ではなくて……何をとぼけているんだ」
萌郁「ごめん……岡部くんの言ってること、よく分からない」
岡部「……分からない?」
萌郁「指圧師になった覚えは、無い」
岡部「そうではない、お前の異名だ。メールを打つ速さが驚異的だから閃光の指圧師と」
萌郁「私、そこまでメールを打つの速くないけど」
岡部「……何?」
萌郁「ケータイ依存症……そんなこと、無いと思う」
岡部「何……? 違うと言いたいのか?」
萌郁「うん。それに、ケータイじゃなくて」
岡部「ケータイでは無くて?」
萌郁「私は、岡部くん依存症だから」
岡部「へっ……?」
萌郁「岡部くんの方こそ、何を言っているの?」
岡部「いや、いやいや、おかしいだろ。どうして俺に依存ってことに」
萌郁「岡部くんから、離れられない」
岡部「離れられないって……」
萌郁「だから、いつもこうして――」
岡部「……っ!? い、いきなり抱き着いてきてな、何を!?」
萌郁「……? いつも通りだけど」
岡部「い、いつも通り?」
岡部「か、嗅ぐな! どうなってる……どうして俺と萌郁が」
萌郁「それは、恋人だから」
岡部「…………恋人?」
萌郁「うん。付き合って、もう四年位」
岡部「よ、四年!?」
萌郁「……日付は間違ってないはず。六月六日、忘れる訳が無い」
岡部「六月六日……」
萌郁「私の誕生日に、岡部くんから……告白してくれた」
岡部「俺が……告白!?」
岡部「……指圧師、色々と聞いてもいいか?」
萌郁「その呼び方、嫌。いつも通り、萌郁って呼んで欲しい」
岡部「あ、ああ。萌郁、質問してもいいか?」
萌郁「岡部くんになら、何でも答える」
岡部「そ、そうか。……一つ目、俺とお前が会ったのはいつだ?」
萌郁「今から、五年前。八月の終わりに出会った……覚えてないの?」
岡部(八月の終わり……俺がDメールを送ったのはちょうど五年前)
萌郁「うん。岡部くんに頼れってメールを見たから、頑張って探した」
岡部(本当にあのメールを信じたのか……。まあ、
得体の知れないメールに返信するようなヤツだからな……)
岡部「……萌郁、FBという言葉に聞き覚えはあるか?」
萌郁「FB……? ごめん、分からない」
岡部(FBを知らない……ということはラウンダーでは無いのか?
いや、嘘をついているという可能性もある……)
岡部(……待て、もっと先に確認すべきことがあるだろうが)
岡部(まゆりは無事なのか……? 電話に出てくれれば良いのだが……)
岡部(頼む……出てくれ、まゆり)
まゆり『トゥットルゥー♪ オカリン、どうしたの?』
岡部「まゆり! 無事なのか? 今どこに居るんだ?」
まゆり『まゆしぃは元気だよー。今はお家でのんびりしてたんだ』
岡部「そ、そうか。ラボには居ないのだな」
まゆり『らぼ? それ、何のこと?』
岡部「ラボはラボだ。我が未来ガジェット研究所のことだろうが」
まゆり『うーん……まゆしぃはさっぱり分からないのです』
岡部「分からない……?」
岡部「ま、まゆり? おい、まゆり! ……切れてる」
萌郁「まゆりちゃんに、何か用だったの?」
岡部「あ、ああ、……ん? まゆり、ちゃん? 何だその呼び方は」
萌郁「何って、五年前からずっと変わってないけど」
岡部「まゆりとも、長い付き合いなのか?」
萌郁「私を岡部くんに会わせてくれたのは、まゆりちゃんだから」
岡部「俺とお前を……? いや、それよりもラボのことだ……」
萌郁「ラボ?」
萌郁「……岡部くんが何の話をしてるのか、分からない。嫌、嫌……嫌」
岡部「も、萌郁?」
萌郁「岡部くんのことを知らないなんて、嫌……不安になる」
岡部(様子がおかしい……まさか、さっき言っていた依存症というのは本当なのか?)
萌郁「何かあったのなら、教えて。お願い」
岡部「……俺が今から言うことは全て真実だ、お前は信じないだろうが」
萌郁「岡部くんのことなら何でも信じる。だから、話して」
岡部「俺は、別の世界線から来た」
萌郁「別の、世界線?」
Dメール、ラボ、そして今の俺は記憶が上書きされたような状態だということを説明した。
岡部「――そして俺はDメールを送り、今に至る」
萌郁「…………」
岡部「信用してもらおうとは思わん。だが事実だ、今の俺にはお前との記憶が……無い」
萌郁「私との記憶が……無い」
岡部(ルカ子の時もお前は女だと言っても信じなかったんだ。……そう簡単には信じないだろう)
萌郁「……分かった、信じる」
岡部「信じるって……そんなにあっさり信じられるとは思えないが」
萌郁「五年間、岡部くんの言うことは全て信じてきた。それは今も、変わらない」
岡部(……ここまで信用されているとは。俺と早く出会っただけでこうも変わるものなのか?)
萌郁「分かってる。……悲しいけど、信じる」
岡部(……俺は萌郁と恋人、らしい。まゆりは生きている。では、他のラボメンは……?)
岡部「調べてみるしか……無いな」
萌郁「岡部くん、どこに行くの……?」
岡部「ラボだ。済まないが俺は出かけてくる」
萌郁「待って……置いて……いかないで」
岡部「な、なぜ泣きそうになるのだ?」
萌郁「……岡部くん。一人に……しないで」
岡部「わ、分かった! ……来るなら来い、好きにしろ」
岡部「おい、指圧師」
萌郁「その呼び方、嫌」
岡部「くっ……萌郁、一つ聞いても良いか」
萌郁「うん、何?」
岡部「……なぜ俺達は腕を組んで歩いているんだ」
萌郁「なぜって言われても、いつも通りだから」
岡部「いつも通りだと……? この世界線の俺は何をしているのだ……」
萌郁「嫌、だった?」
岡部「正直に言えば……恥ずかしいから止めてくれ」
萌郁「分かった……」
萌郁「岡部くん、どうかしたの?」
岡部「……なぜ手を繋ごうとする」
萌郁「いつも通り、だから」
岡部「恥ずかしいから止めろ」
萌郁「……分かった。じゃあ、これで」
岡部「ぬわっ!? う、後ろから抱き着くのも無しだ! というかこれでは歩けないだろうが!?」
萌郁「でも……いつも通りだから」
岡部「こ、これもなのか?」
萌郁「私は、これが一番好き」
萌郁「……っ!」
岡部「済まないとは思うが……その記憶は俺には無い。だから、その」
萌郁「……嫌」
岡部「えっ?」
萌郁「岡部くんと離れるなんて嫌……別れるなんて……絶対嫌、嫌、嫌嫌嫌!」
岡部「も、萌郁? いや、とりあえず落ち着いて」
萌郁「岡部くんと離れるくらいなら……死んだ方が良い」
萌郁「それでも、岡部くんの恋人じゃなくなるのは嫌……お願い、捨てないで……」
岡部「わ、分かった……捨てるとかそういうのは今は考えるな」
萌郁「……離れない?」
岡部「とりあえず……今は離れなくても良い」
萌郁「それなら、こうしても良い?」
岡部「……手を繋ぐのは無しだ、腕も駄目だからな」
萌郁「……寂しい」
岡部「近くに居るのに寂しいとか言うな……ほら、行くぞ」
岡部(俺はいったい何をしている……ついさっきまで、深刻な場面だったはずだ)
岡部(……ともかく、今は確認するのが先だ)
岡部(ブラウン管工房は……あった! 店内にもブラウン管が並んでいる、ということは)
天王寺「よっこらせ……ったく、歳っつうもんは嫌なモンだ」
岡部(ミスターブラウン……生きている? この世界線では死んでいないのか……)
萌郁「岡部くん、あの人がどうかしたの?」
岡部「萌郁、お前はあの男に見覚えは無いか?」
萌郁「……ごめん、知らない」
岡部「そうか……いや、知らなくていいんだ」
岡部(それよりもラボだ、ラボがどうなっているか確認しなければ……)
岡部「ど、どうも。相変わらずのようですね、ミスターブラウン」
天王寺「はあ? ミスターブラウン? 誰だそれ?」
岡部「……それは、冗談ですか? 俺のことを忘れたんですか?」
天王寺「冗談も何も……初対面の相手に忘れたのか、なんて言われてもな」
岡部「初対面……?」
天王寺「ああ、こっちが忘れちまってるってのなら謝るけどよ。悪いが覚えがねえな」
岡部(ミスターブラウンとは面識が無い……? ということは……)
岡部「すいません、この上の部屋はどうなっていますか!?」
天王寺「この上? どうなってるのも何も……空き部屋だよ」
岡部「空き部屋……何も、無い?」
岡部「……あの、本当に空き部屋なんですか? 何も無いんですか?」
天王寺「おう、ちゃんと掃除はしてあるから心配すんな。どうだ、見てくか?」
岡部「い、いえ……また今度、良かったらお願いします」
天王寺「そうか、気が向いたら来てくれよ。そこまで高い家賃は取らねえから」
岡部「ありがとうございます……それでは、また」
岡部(ラボが……無い。そして電話レンジも存在しない……?)
岡部「……いや、今のところ大丈夫では無いな」
萌郁「あの人と、何かあったの? それとも、あの部屋を借りたいの?」
岡部「そういうことでは無いんだ……」
岡部(何も変わらない、そう思って俺はDメールを送った。……それなのに、どういうことだ)
岡部(ラボも無い、これではDメールが送れない……そして、萌郁が恋人)
岡部(この世界線はどうなっている……い、いや、まだ他のラボメンが何か知っている可能性がある!)
岡部「……メイド喫茶だ。そこに行けば、あいつが居るはずだ」
萌郁「岡部くん……メイドさん、好きなの?」
岡部「……はい?」
萌郁「それなら……言ってくれれば、着るのに」
岡部「ち、違う! メイドが好きなのではない、そこに会いたい人物がいるというだけだ!」
萌郁「それ……女の子? メイドさん?」
岡部「女では無い、男だ……何でそんなことを気にする」
萌郁「……私より、他の女の人の方が良いのかなって不安になったから」
岡部「なっ……! と、ともかく女目当てでは無い!」
フェイリス「お帰りニャさいませ。ご主人様♪」
岡部「フェ、フェイリス! 良かった……お前はここに居てくれたんだな」
フェイリス「ニャニャ? 申し訳ないけど、ご主人様は初めて見るニャ」
岡部「何……? 俺のことが分からないのか?」
フェイリス「ニャー……ごめんニャさい、初めましてだと思うニャン」
岡部「そ、そんな……本当に、知らないのか?」
フェイリス「うーん、フェイリスと知り合いってのは間違いないのかニャ?」
岡部「……間違い無い、俺の目を見れば分かるだろう?」
フェイリス「どれどれ……ニャニャ! 言ってることは本当みたいだニャ……」
岡部「……ラボ、という言葉に聞き覚えは無いか? それかDメールという言葉は」
フェイリス「うーん、分かんないニャ♪ ご期待に応えられなくてごめんニャン」
岡部(くっ……フェイリスは駄目だったか。それでも、あいつならきっと……ん?)
岡部(何だ? 後ろから冷たい視線を感じ――ッ!?)
萌郁「…………」
岡部「も、萌郁? どうした……?」
萌郁「……やっぱり、女の子目当てだった」
岡部「ち、違う! 誤解だ! 俺が会いたかったのは……」
「おーい、オカリーン!」
岡部「この声は……! ダァル! どこだ、どこに居る!?」
岡部「ダル……お前に会えることがこんなにも嬉しいなんて思わなかったぞ!」
ダル「うへっ……そんなアッー!な展開はお断りします」
岡部「ええい、そういうことでは無い! ……ダル、お前に聞きたいことがある」
ダル「聞きたいこと? まあ、立ち話もアレだし座れば?」
岡部「ああ、そうさせてもらおう。フェイリス、アイスコーヒーを頼む」
フェイリス「お任せニャンニャーン♪」
ダル「……オカリン、フェイリスたんを呼び捨てとか許されることじゃないお!」
岡部「お、落ち着け! ともかく座って話そう、な?」
萌郁「これも、いつも通りだから」
ダル「相変わらずのバカップルっぷり。何それ自慢なの? 死ぬの?」
岡部「自慢では無い! その、色々あってだな」
ダル「まっ、高校の頃から有名なバカップルだったし今更感はあるけど」
岡部「こ、高校の頃から?」
ダル「それはもう、四六時中くっついてるから見ていられなかったお」
岡部「……萌郁、本当なのか」
萌郁「うん。でも、学校では我慢してたつもり」
ダル「あれで我慢とか……これは妄想が捗りますな」
岡部(……おそらく、聞いたら死にたくなるんだろうな)
岡部「ダル、お前はラボという言葉に聞き覚えはあるか?」
ダル「ラボ? 研究所のことなら、僕たちまだ一年だし」
岡部「そうではない、秋葉原にある俺達の未来ガジェット研究所だ」
ダル「未来ガジェット研究所? うーん……何もヒットしないお」
岡部「そ、そんな……Dメールはどうだ!? 鈴羽も覚えてないのか!?」
ダル「お、落ち着けってオカリン。……悪いけど、何も分からないのぜ」
岡部「……そうか」
萌郁「岡部くん……」
フェイリス「お待たせしましたニャ、アイスコーヒーになりますニャン♪」
岡部(……落ち着け、今はブラックコーヒーで頭を切り替えて)
フェイリス「ガムシロップとミルク、入れちゃうニャン♪」
岡部「……忘れてた。ああ……全部入れやがって、もう手遅れか」
ダル「出たー! フェイリスたんの奥義、目を見てまぜまぜー!」
岡部(世界線が移動したからといって、この辺は変わらないのか……)
萌郁「……む」
フェイリス「できましたニャ。ご主人様、ゆっくりしていってね♪」
ダル「はあ……フェイリスたん、マジ天使だお」
岡部「まったく……ん? どうした、萌郁」
萌郁「さっきの、今度やってあげるから……メイド喫茶には行かないで欲しい」
岡部「またどうでもいいことを……」
ダル「夏なのに心が寒い」
岡部「ああ……時間を取って済まなかった」
ダル「別に良いけど。でも、メイド喫茶にオカリンが来るなんて意外ですた」
岡部「ダルのことだ、ここに居るだろうと思ってな」
ダル「なるほど。まっ、彼女と来る場所では無いと思われ」
萌郁「メイド服……買った方が良いかな」
岡部「そんな心配せんでいい!」
ダル「それならドンキの上に行けばたくさん見つかるかと。あっ、是非とも写真を一枚」
フェイリス「それならメイクイーンのメイド服を着るのもアリだと思うニャン」
岡部「お前達も余計なことを言うな! まったく……」
岡部(世界線が変わり、ラボやその他の記憶も無い。……それなのに、性格は変わっていない)
岡部(いや、もしかすると……変わったのは、俺だけなのか?)
萌郁「岡部くん、今度はどこに行くの?」
岡部「柳林神社だ。そこには……あいつが居る」
萌郁「それ、あの子のこと?」
岡部「あの子って、ルカ子のことか? 知っているのか?」
萌郁「うん。何度か、岡部くんと一緒に会ってるから」
岡部「そうか、それなら話は早い。……だが、ダルの感じから言って、期待はできないがな」
ルカ子「あっ、岡部さんに桐生さん。こんにちは」
岡部「ルカ子、岡部でないと何度言えば分かるんだ。俺は鳳凰院凶真だ」
ルカ子「えっ? 鳳凰院凶真、ですか?」
岡部「何だその反応は。それより、妖刀・五月雨はどうした?」
ルカ子「妖刀……ごめんなさい、ボクには何のことだか」
岡部(まさか……鳳凰院凶真という名も、刀のことも知らないのか?)
萌郁「岡部くん、大丈夫?」
岡部「あ、ああ……大丈夫だ。ルカ子、俺とお前が知り合いなのは間違い無いな?」
ルカ子「えっ? は、はい、ボクが街中で男の方に絡まれていたのをお二人に助けていただいて」
岡部(二人……これは微妙に違っているのか。萌郁が一緒という位で他はあっている……)
ルカ子「ラボ、ですか? ……ごめんなさい、それも何か分からないです」
岡部「そうか……忙しいところ済まなかった。用件は以上だ」
ルカ子「分かりました。それで、今日も買っていかれますか?」
岡部「今日も、って何を買うというのだ?」
ルカ子「縁結びのお守りですよ。……でも、お二人には必要ないと思いますけど」
岡部「え、縁結び!?」
萌郁「今日は大丈夫。また今度、来る時に」
ルカ子「ええ、分かりました。ちゃんと用意しておきますからね」
岡部(ルカ子もラボに関しての記憶が無い……他のラボメンは)
岡部(紅莉栖、鈴羽……いや、ダルがあの調子ではおそらく)
萌郁「岡部くん、暗くなってきたから、そろそろ帰らないと」
岡部「……そうだな。今日は一度家に帰って、それから考えるしかなさそうだ」
萌郁「美味しいご飯、作ってあげるから……元気出して」
岡部「……ご飯? 何を言ってるんだ、俺の家まで来るつもりか?」
萌郁「何って、いつもみたいに私がご飯を作るつもり」
岡部「いつもみたい? お前……池袋の俺の家に通ってるのか?」
萌郁「違う。岡部くんは今――私と同棲してるから」
岡部「どう……せい?」
岡部「つまり……最初に居たのは萌郁の部屋でもあり、俺の部屋でもあったということか」
萌郁「一緒に住み始めて、五か月くらい」
岡部「五か月、大学に入る前か……」
萌郁「私と岡部くんは、一緒の大学に行ってる」
岡部「何……? お前は大学生なのか?」
萌郁「岡部くんと一緒に勉強して、一緒に入学した」
岡部「……お前はいったい、どこまで一緒に居るつもりなんだ」
萌郁「ずっと。岡部くんの近くに居たいから」
岡部「なっ……この世界線のお前は、ずいぶん物事をはっきり言うのだな」
萌郁「岡部くんが、そうするように言ってくれた」
岡部「俺が言ったのか。……厄介なことを言ってくれたものだ」
萌郁「岡部くん。ご飯、食べる?」
岡部「あ、ああ。料理はできるのか」
萌郁「お母さんに、教えてもらった」
岡部「母親? ……萌郁、お前には母親は居なかったはずでは」
萌郁「私のじゃなくて、岡部くんのお母さん」
岡部「お、俺の母親?」
萌郁「居候させてもらってた時に、教えてもらった。その時に、お母さんって呼んでって言われたから」
岡部「ま、待ってくれ……そうだな、まずはそこも確認した方が良いよな」
萌郁「確認?」
岡部「萌郁、俺とお前の今までの話、聞かせてくれないか」
萌郁「……分かった」
岡部「そこにメールが届いた。そうだな?」
萌郁「うん。最初は気にも留めなかった。……でも、段々気になってきたから」
岡部「死ぬ前にそのメールに従ってみよう、そう思ったのか」
萌郁「そして私は、岡部くんを探し始めた。学校はすぐに分かった」
岡部「……当然だ、俺が分かりやすい文章に変えてやったのだからな」
萌郁「あのメール、岡部くんが送ってくれたの?」
岡部「送ったのは俺だ。だが……送ろうとしたのはお前自身だ」
萌郁「私が、決めた?」
岡部「それはまたいつか話す。今は過去のことを教えてくれ」
萌郁「あれは、八月の終わり。池袋の街を歩いていて――」
萌郁「岡部……岡部倫太郎……頼る……」
萌郁(暑い……でも、今倒れたら……もう、会えない)
萌郁「池袋、岡部……どこ、どこなの?」
萌郁「……っ! お、岡部……りん……」
「お、オカリーン! 女の人が倒れてる!」
「何!? 本当だ……熱中症かもしれないな。とりあえず、救急車を呼ぶぞ」
「う、うん。オカリン、この人……大丈夫かなぁ」
「……まだ息はある。日陰まで運んで救急車を待とう」
萌郁(誰……? 誰かの……声が……)
「あっ、気が付いた! 大丈夫ですか?」
萌郁「あなたは……誰?」
まゆり「はじめまして、椎名まゆりです。ここは病室ですよ。オカリン、目を覚ましたよー」
岡部「本当だ。どうなるかと思ったが……無事で良かった」
萌郁「あなた達が……助けてくれたの?」
岡部「その通り……この、鳳凰院凶真が直々に救ってやったのだ! 感謝するが良い! フゥーハハハ!」
萌郁「ほうおういん、きょうま?」
まゆり「もうー、オカリン。ちゃんと自己紹介しなよー」
岡部「むう……仕方ない、特別に教えてやろう。……岡部倫太郎だ」
萌郁「岡部、倫太郎……? 岡部……倫太郎……っ!」
岡部「ど、どうした?」
萌郁「本当に、岡部倫太郎……なの?」
岡部「な、何だ……俺は岡部倫太郎で間違いないぞ」
まゆり「オカリン、そんな言い方しちゃダメだよー」
萌郁「……本当に、会えるなんて……思わなかった」
岡部「その言い方だと、俺のことを知ってい……な、なぜ泣いているんだ!?」
萌郁「ごめん、なさい……でも、不思議と……嬉しくて」
岡部「そ、そうか。まあ、この鳳凰院凶真に会えて感涙にむせぶのも無理はないがな、フゥーハハハ!」
岡部「ああ、それ以外にも栄養不足、寝不足、疲労、様々な要因で倒れたらしい」
まゆり「ごはん、食べてなかったんですか……? まだ暑いからちゃんと食べないと……」
萌郁「食べる気……しなかったから」
岡部「何も食べずに、いったい何をしていたのだ?」
萌郁「……メール」
岡部「メール? いったい何が――ッ!?」
『池袋の岡部倫』
『太郎を頼れ○』
『○中学』
萌郁「……私は、このメールを信じてここまで来た」
まゆり「信じて? えっと……何かあったんですか?」
萌郁「……私、死のうかどうか迷っていたの」
岡部「なっ……! じ、自殺するつもりだったのか?」
萌郁「生きてるのが、イヤになってきたから……多分、後少しで自殺するところだった」
まゆり「そ、そんなのダメだとまゆしぃは思います……」
岡部「じ、自殺など馬鹿げたことをするな! ま、まだ若いではないか!」
萌郁「……私の方が、年上だと思う」
岡部「そ、そういう問題では無い! 死んでも何にもならないぞ!?」
萌郁「……どうすれば、良いの?」
岡部「えっ……?」
まゆり「……そんなこと無いとまゆしぃは思うのです。きっと家族の人だって……」
萌郁「家族、居ないから……」
岡部「そ、そうなのか……」
萌郁「……何の希望も持てない。こんな性格だから……何もできない」
岡部「…………」
萌郁「だから、死んでも何も変わらな」
岡部「……黙れ! 黙れえ!!」
まゆり「オカリン……?」
萌郁「……桐生、萌郁」
岡部「桐生、萌郁。お前は誰にも必要とされないと言った、それに間違いは無いな?」
萌郁「……うん」
岡部「フッ……だが、それも今日で終わりだ。その存在、
この狂気のマッドサイエンティスト、鳳凰院凶真が最大限生かしてやろうではないか!」
萌郁「どういう……こと?」
岡部「つ、つまり……俺やまゆりがお前を必要としてやるから、その、死のうなんて考えるな!」
まゆり「あっ……そうだよ! 萌郁さん、まゆしぃ達が居るから、もう一人じゃないのです」
萌郁「一人じゃ、無い?」
椎名まゆりが預かった。……今後、勝手に命を絶とうとすることは許さん!」
萌郁「…………」
岡部「な、何だ。急に黙られると……恥ずかしいというか」
萌郁「……私の命、岡部くんが預かってくれる?」
岡部「お、岡部では無い。鳳凰院凶」
まゆり「オカリーン?」
岡部「むっ……わ、分かった。お前の命、俺が預かる。だから、その……死んじゃダメだ」
萌郁「……分かった。私……岡部くんに従うよ」
岡部「い、いや、従うとかまではいかなくても……まあ、それでいい」
まゆり「萌郁さん、今日からよろしくね?」
萌郁「……よろしく」
岡部「あのメール一つが……ここまでお前を変えたのか」
萌郁「私は、岡部くんとまゆりちゃんに感謝している。……私を、世界と繋ぎとめてくれたから」
岡部(前の世界線では萌郁は世界との断絶を恐れていた。
だが、この世界戦では……俺とまゆりが居た)
萌郁「だから、私は岡部くんに従う。岡部くんの言うことなら何でも信じる」
岡部「……俺に、依存しているのか」
萌郁「そう。私は、岡部くんの居ない世界なんていらない」
岡部「そ、そこまで言うか」
萌郁「この数年間ずっと、こう思って生きてきたから」
萌郁「私が、岡部くんと離れたくないから……ずっと一緒に居ようとした」
岡部「ずっと一緒に?」
萌郁「食事の時も、お風呂も、寝る時も、全部一緒じゃないと落ち着かなくなってきた」
岡部「なっ……! そ、その辺は我慢するべきだろうが!?」
萌郁「我慢、できなかった。そうしたら、岡部くんも……我慢できなくなって」
岡部「……はあ?」
萌郁「押し倒されて、キス……されて」
岡部「ま、待て! その、それは……つまり」
萌郁「……うん」
岡部「この世界線の俺、何ということをしてくれたんだ……」
岡部「さっき言っていたな……六月六日だから、九か月近くは我慢したのか、俺」
萌郁「……もう少し、前から」
岡部「つ、つまり……押し倒す勇気はあったが、告白はできなかったと」
萌郁「……うん」
岡部「自分のこととはいえ……認めたくないものだな……」
萌郁「うん。この部屋は、二人でアルバイトをして借りてる」
岡部「アルバイト? 何のアルバイトを俺はしているんだ?」
萌郁「岡部くんは、レストランのホール。私はキッチン」
岡部「信じられん……だが、それが真実なのか」
萌郁「……何か、思い出した?」
岡部「……済まない。今、話を聞いても実感はわかない」
萌郁「……分かった。お腹減ってない? ご飯、用意するから」
岡部「ああ……頼む」
(だが、Dメール一つでここまで変わるものなのか?)
(まゆりも萌郁もミスターブラウンも死なない……それは確かに理想だ、しかし)
(本当に……誰も死なないのか。いつか、まゆりの様に倒れて……)
(……っ! そうなった時、誰が助けるんだ? 誰がそれを防ぐんだ?)
(そんなの、俺しかいない……タイムリープして解決の道を探すしかない)
(でも、今の俺には……何も無い。仲間も、ラボも、頼れる紅莉栖やダルも居ない……)
(……この世界線は、もしかしたら――後戻りができないのでは)
(まゆりが死んだら、もう戻らない。萌郁が死んでももう戻らない……そして)
(俺が死ぬ可能性も……ある)
岡部「あ、ああ……済まない」
萌郁「好きなだけ、食べていいよ」
岡部「おおっ……美味そうではないか」
萌郁「家事は、お母さんに教えてもらったから」
岡部「では、このハンバーグを……あむ、……うん、美味い!」
萌郁「……良かった」
岡部「やるな指圧師、これならいくらでも」
萌郁「指圧師じゃなくて、萌郁」
岡部「す、済まない……」
萌郁「満足してくれたみたいで、嬉しい」
岡部(不安な要素はいくつもある。だが、今は休んで明日に備えるしかない……)
岡部(電話レンジさえあればまだ何とかなる。ブラウン管は確認した、可能性はゼロでは無い)
萌郁「お風呂わいてるけど、入る?」
岡部「……思ったより汗をかいたから、入らない訳にはいかないな」
萌郁「それなら、先に入っていて」
岡部「ああ、そうさせてもらおう」
岡部(はぁ……ずいぶん広い浴槽だな。一人では大きすぎるくらいだ。……しかし)
(……冷静に考えると、俺はどうしてここまで萌郁を受け入れているんだ?)
(あいつはまゆりを……たとえ世界に決められていたとしても、何度も、あいつは)
(だが、この世界線の萌郁が俺に向ける感情は……全く違う。敵対とは程遠い……)
(……あれが、愛情とかいうものなのか? わ、分からん……ええい、どうすれば)
(考えても仕方ないか……。そういえば、何か忘れているような)
(萌郁は俺から離れない、と言っていた。それはどんな場合でも変わらない……)
(……! まさか!?)
萌郁「岡部くん。湯加減、どう?」
岡部「や、やっぱりこうなるのか!?」
萌郁「いつも、こうしてるから」
岡部「それは前の俺であって、今の俺は……」
萌郁「ダメ」
岡部「い、いや、ダメと言われても……」
萌郁「少し詰めてくれないと、入れない」
岡部「詰めなければお前は入れない? それならば、このまま――って、おい!? 結局入ってくるのか!?」
萌郁「んっ……狭いけど、密着できるから私はこれでも良い」
岡部(お、俺が良くない……というか何だこの柔らかさは!? この感じ、場所を考えると……)
岡部(……臀部、まさかこんな時に直に触れることになるなんて)
萌郁「……岡部くんにこうされてると、落ち着く」
岡部(俺は落ち着かん……そうだ、もう上がってしまえば良いではないか!)
岡部「す、済まないが俺はもうあがる。後はゆっくり入っていてくれ!」
萌郁「それなら、私も出る」
岡部「なっ!? ば、馬鹿、急に立ち上がったら……その、大事なところが……」
萌郁「……岡部くんには、いくら見られても良い。それに……もう何度も見られてるから」
岡部「だ、だが俺はまだ……って何を言わせるんだ!? ともかく……先にあがる」
岡部(はっ……!? お、落ち着け……こんなことをしている場合では)
岡部(もういい……寝よう。……うん?)
萌郁「……岡部くん? どうかしたの?」
岡部「萌郁、一応確認しておくが……ベッドはいくつあるんだ?」
萌郁「一つだけ」
岡部「そこで俺達は……どうやって寝ていたんだ?」
萌郁「くっついて、一緒に寝てた」
岡部「予想通り過ぎる……」
萌郁「岡部くん、一緒に寝るのは……嫌なの?」
岡部「嫌、というか……流石にそれは」
萌郁「大丈夫。岡部くん、私を抱いてるとよく眠れるって言ってくれたから」
岡部「それは前の俺だ! 今の俺はそれだと逆に眠れないんだ!」
萌郁「どうして?」
岡部「それは……ともかく、駄目なものは駄目だ」
萌郁「……私、岡部くんと一緒じゃないと眠れない」
岡部「そ、そう言われてもだな……」
萌郁「岡部くん……お願い」
岡部「…………」
萌郁「……こっちを向いて欲しい」
岡部「駄目だ、それでは寝られん」
萌郁「……じゃあ、こうする」
岡部「だ、だから後ろから抱きしめるのは止めろと……」
萌郁「こうしないと、不安で……眠れないから」
岡部「し、しかし……」
萌郁「……お願い」
岡部「……分かった、今晩だけだ。明日からは考えさせてもらうぞ」
萌郁「ありがとう……んっ」
岡部(萌郁の胸が、背中に……)
萌郁「まだ、起きてるの?」
岡部「……お前のせいで眠れん。なあ、離れても問題ないだろう?」
萌郁「……イヤ」
岡部「強情なヤツだ……仕方ない、そのままで良いから質問に答えろ」
萌郁「分かった」
岡部「数年間、一緒に居ると言っていたが……いつもこうだったのか?」
萌郁「うん。私は岡部くんの側にずっと居た」
岡部「それを俺は、受け入れていたということか?」
萌郁「俺の側に居ろ、って言ってくれた。いつまでも一緒だ、って言ってくれた」
岡部(……狂気のマッドサイエンティストが聞いて呆れるな)
萌郁「岡部くんは、岡部くんだから」
岡部「……答えになってないぞ。まあいい、その内お前も気づく」
岡部(いくら姿が同じだからと言って、中身はまるで違う。……いつか愛想が尽きるだろう)
岡部「しかし、その呼び方は何だ? 四年間も付き合って『岡部くん』のままなのか?」
萌郁「岡部くんって呼ぶと、安心する。……だから、このまま」
岡部「……お前が良ければそれでも良いが、名前や愛称で呼ばないのか?
いや、流石にまゆりみたいにオカリンとかは勘弁してもらいたいが……」
岡部「どんな時に呼ぶんだ?」
萌郁「……恥ずかしいから、言えない」
岡部「そ、そうか……まあ、そのままの方がこちらも楽だから良い」
岡部(恥ずかしいと言われても……この状況が既に十分恥ずかしいのだが)
岡部「……なあ、萌郁」
萌郁「…………すー」
岡部(寝てる……人の気も知らずにいい気なものだ)
岡部(……明日は別の場所も調べてみるか。ラボが無いとはいえ、まだ戻れないと決まった訳では無い)
萌郁「……おかべ、くん……んん」
岡部(寝言でも俺の名前か。……よし、俺も眠ろう)
岡部(……結局、一睡もできなかった)
萌郁「んっ……岡部くん? もう起きてたの?」
岡部「……お前のせいで早起きさせられたんだ」
萌郁「……? とりあえず、朝ご飯用意するから」
岡部(鈴羽と紅莉栖以外のラボメンが全員生きているというのは、昨日確認できた)
岡部(今日は何を調べれば良いのだろうか……。ラボが無い、つまりは電話レンジも無い訳だ)
岡部(それに、まだまゆりが死なないと決まった訳でもない……後で連絡してみるか)
岡部「トーストにウィンナーに目玉焼き……よし、冷めない内に食べてしまおう」
萌郁「お箸、どうぞ」
岡部「済まない。どれ……んっ! 美味いな……パリッとしたウィンナーなど久しぶりだ」
萌郁「岡部くん、それが好きだって言ってたから」
岡部「萌郁、この辺で古い家電が売っているところは無いか?」
萌郁「古い、家電? リサイクルショップとかなら」
岡部「そこで良い。今日は俺をそこまで案内してくれ」
萌郁「今日は……アルバイトだから」
岡部「そうか、それなら仕方ないな……俺一人で行くか」
萌郁「でも、一緒に行かないと」
岡部「俺が? ……ん? アルバイトって確か……」
萌郁「岡部くんも、今日はシフトに入ってる」
岡部「な、何? ということは――」
岡部(なぜだ……なぜ狂気のマッドサイエンティストがファミレスでバイトなどしなければ)
萌郁「…………」
岡部(厨房からの視線……? 萌郁……常に俺を見ていないと気が済まないのかあいつは)
岡部(しかし、ファミレスのバイトなどどうすれば)
「注文お願いしまーす」
「これ三番テーブルに」
「コーヒーお替りくださーい」
「早くしてくれますかー?」
岡部「は、はい! 今行きます!」
岡部(なぜだ……なぜこんなことになった……)
岡部「……疲れた」
岡部(こんなことをしている場合では無い……俺にはやるべきことが)
萌郁「岡部くん、大丈夫?」
岡部「萌郁……なぜ俺がファミレスでバイトしなければいけないんだ」
萌郁「働かないと、家賃とか払えないから」
岡部「そういうことではない。俺には大事な用がある、それを差し置いてバイトなど……」
萌郁「……明日は暇だから、大丈夫だと思う」
岡部「それならば明日はレンジを探す。……リサイクルショップに無かったとしても、秋葉原に行けば」
萌郁「レンジ? お家のはまだ壊れてないけど……」
岡部「……そうではない。だが、どうしても電子レンジが必要なのだ」
萌郁「分かった。岡部くんのために、私も協力する」
岡部(あの電子レンジ、X68000、それにブラウンがあればおそらく再現は可能だ)
岡部(それが揃えば……まだ十分、可能性はある)
岡部(夜飯を済ませ、疲れを癒すためにも風呂に入りたいところだ。
……しかし、昨日の様なことは避けねばならん)
萌郁「お風呂の準備、できたから」
岡部「……先に言っておくが、今日は一緒に入らんぞ」
萌郁「……じゃあ、先に入って良いよ」
岡部「その手には乗らん、昨日みたいにまた後から入ってくるつもりだろう」
萌郁「だって……一人で、入りたくないから」
岡部「こ、子供みたいなことを言うな! 一日位一人で入っても良いではないか……」
萌郁「……明日もそう言って、断られる気がする」
岡部「ぐっ……鋭いな」
萌郁「嫌って言われても、絶対一緒に入るから」
岡部(確固たる意志とはこういうことか……だが、このままでは――っ! そうだ!)
岡部「……分かった、一緒に入ってやろう。ただし、条件がある」
萌郁「条件?」
萌郁「……岡部くん、入るね」
岡部「ああ、いつ入ってきても良いぞ」
萌郁「……やっぱり、ちょっと恥ずかしい」
岡部「裸より恥ずかしいとは変なヤツだな。早く入って来い、俺はいつ出ても良いんだぞ」
萌郁「……いじわる」
岡部(そう、俺が出した条件とは……水着を着用しての入浴、これならば直視しても問題は無い!)
萌郁「…………」
岡部「やっと来たか、そこまで恥ずかしがる必要など……なっ!?」
岡部(い、いや、水着なら大丈夫とか思ったけど……これはこれでマズイのではないか?)
萌郁「湯船に入りたいから……少し、詰めてくれる?」
岡部「あ、ああ……」
萌郁「……これ、岡部くんが選んでくれた水着」
岡部(余計なことを……まあ、確かに似合ってはいるのだが)
萌郁「一緒に海に行ったことも……覚えてない?」
岡部「ああ……まったく記憶に無い。というか、俺達は海なんかに行ったのか」
萌郁「……私の水着姿が見たいって……言ったから」
岡部「そ、そうなのか……」
萌郁「今の岡部くんは……どう、思う?」
岡部「どうって……何がだ」
萌郁「私の……水着」
岡部「そ、それは……まあ、何だ、似合ってるとは……思う」
萌郁「……ありがとう」
岡部(何だこの雰囲気は……やり辛い)
岡部(いっそのこと実家に戻った方が……いや、萌郁も着いてくるだろうし無駄か……)
萌郁「そろそろ、寝る?」
岡部「……そうだな、今日は色々と疲れた。さっさと寝て明日に備えねば」
萌郁「あの……」
岡部「ん? 言いたいことがあるなら言えば良いだろう?」
萌郁「……岡部くん、今の岡部くんは……私と、その」
岡部「急にもじもじしてどうした、最後まで言え」
萌郁「私と……したくない?」
岡部「……へっ?」
萌郁「……これ」
萌郁が恥ずかしそうに取り出したのは、岡本さんの近藤さんだった。
岡部「なあっ!? お、お前は、いったい、な、何を考えている!?」
萌郁「……岡部くん、毎日……してくれたから」
岡部「ま、毎日……その、それを消費というか装備というか……」
萌郁「……したくないの?」
岡部「し、しない! それは前の俺との関係であって、今の俺とはその……と、ともかく無しだ!」
萌郁「……分かった」
岡部(……前の俺、どんだけ若かったんだ)
岡部「ああ……」
岡部(い、いかん……あんなことを言われたから意識してしまうではないか……)
岡部(確かにそういうのが盛んな歳ではあるが……いくら何でも毎日はどうかと思うぞ、俺)
萌郁「……岡部くん」
岡部「な、何だ?」
萌郁「電子レンジって、何に使うの?」
岡部「それは秘密だ。だが、それが無ければ何も始まらないんだ」
萌郁「……ねえ、岡部くん」
岡部「今度は何だ……」
萌郁「どこにも、行かない?」
岡部「……行くあてなど無い。とりあえずはここに居る」
萌郁「……分かった」
岡部(電話レンジができるまでの話だが……言わないでおいた方が良いだろう)
萌郁「……すぅ……おか、べ……くん」
岡部(お前のせいで寝られなくなったというのに……)
岡部(いや、ここで眠らなければ明日に響く……何としてでも睡眠をとらないと)
岡部(……精神を研ぎ澄ませ。感覚を集中させろ……そして――)
岡部(うーぱが一匹、うーぱが二匹……うーぱが三匹……)
『……私と、したくない?』
岡部(……くっ! 立ち去れ煩悩……! うーぱが四匹、うーぱが五匹……うーぱが……)
萌郁「んっ……えっ? 岡部くん……?」
岡部「IBN5100が5098台……IBN5099が5100台……いや、違うな……。
というかこれだけあれば5000億か……ふぅーははは……」
萌郁「お、岡部くん……大丈夫?」
岡部(また一睡も……できなかった……)
萌郁「デートって考えても、いい?」
岡部「で、デートなどでは無い!」
岡部(……浮かれている暇は無い、戻れなければ何も解決してないのと同じだ)
岡部(多くの想いを犠牲にしてここまで来たのに……俺はそれを台無しにしてしまった)
岡部(……萌郁がどうなるか、そんなことを考えてはいけなかった)
岡部(大丈夫だ、必ず戻れる。……今までもそうしてきたんだ)
萌郁「……岡部くん」
岡部「どうした、何かあったか?」
萌郁「本当に、どこにも行かない?」
岡部「あ、ああ、昨日もそう言っただろうが」
萌郁「……うん。それなら、良いの」
萌郁「ごめん……役に立てなくて」
岡部「いや、気にするな。秋葉原にならきっとある、すぐに見つかるはずだ」
萌郁「……うん」
岡部「そういえば、休日は何をしていたんだ? 俺と行動するというのはなんとなく分かるが」
萌郁「海に行ったり、お買い物したり、勉強とか、色々」
岡部「……ただのリア充では無いか。狂気のマッドサイエンティストが情けない……」
萌郁「今の岡部くんは、それをまだ言ってるの? あと、鳳凰院とか」
岡部「まだ……? 前の俺は鳳凰院凶真の名を捨てたと言うのか?」
萌郁「高校に入る位には……あまり言わなくなったと思う。だから、少し懐かしい」
岡部「な、懐かしいなどと言うな、鳳凰院凶真は死なん」
岡部「電子レンジ、X68000(ペケロッパ)、ともかくこの二つを探さなければな……」
萌郁「どこを探すつもり?」
岡部「ペケロッパなら、古いパソコンを置いてあるところを巡れば見つかるだろう」
萌郁「新しいパソコンじゃ、ダメなの?」
岡部「限りなく近い状態を再現したい。偶然をもう一度起こすにはそれが一番望ましい」
萌郁「……何を作るつもり?」
岡部「それは……遠隔操作ができる電子レンジだ」
萌郁「遠隔操作?」
岡部「ああ、携帯電話でレンジが作動するという最高の発明品である!」
萌郁「温めるものは、どうすれば良いの?」
岡部「それは……自分で中に入れてもらう」
萌郁「……それ、あまり意味ないと思うよ」
岡部「なっ……う、うるさい! ……ともかく、行くぞ」
岡部「ふ、フゥーフフ……フゥーハハハ! これも運命石の扉の選択か! 俺はやはり……望まれた存在なのだ!」
萌郁「二つとも、すぐに見つかって良かった」
岡部「ああ、まさか全く同じ電子レンジが手に入るとは……これで希望が見えてきた!」
萌郁「でも、岡部くん」
岡部「うん? どうした?」
萌郁「電子レンジとパソコン、どっちもは運べないと思う」
岡部「あっ……。ま、まあいい。ペケロッパはまだ必要無いだろう……ともかく電子レンジを持って帰る」
萌郁「……レンジならもっと良いのがあるのに」
岡部「そういう問題では無いのだ。……さあ、ここからが俺の力を発揮するところだ!」
岡部「はぁ……はぁ……重かった」
萌郁「……手伝うって言ったのに」
岡部「お前に持たせる訳にもいかないだろうが……いや、休んでる場合では無い」
岡部(電話レンジをもう一度作り、ブラウン管工房の上で実験を行う。そうすれば、きっと……)
萌郁「岡部くん……?」
岡部「済まないが、今から作業に入る。あまり相手はできないが悪く思うなよ」
萌郁「分かった。ご飯は、食べる?」
岡部「ああ、用意してくれれば助かる。必要な物は秋葉原で揃えた……よし、始めるぞ」
萌郁「ご飯、食べる?」
岡部「もうできたのか? いや、それだけ時間が経ったということか……」
萌郁「帰ってからずっとそうしてる」
岡部「少し休むか……。今日の夕飯は何だ? この匂いだと……」
萌郁「カレー、たくさん作ったから」
岡部「よし……すぐに用意してくれ。腹が減って仕方が無い」
萌郁「分かった、少し待ってて」
岡部(萌郁の料理は今まで感じからいって期待はできる。あの二人の様なことには……)
岡部(……そういえば、もう三日も経っているのか。たった一通のメールが、こんなことになるとは)
岡部(俺は、あの世界線に戻らなければならない。……萌郁には悪いが、その時はきっと前の俺が)
岡部(萌郁に悪い? ……そんなこと、少し前の俺なら絶対に思わなかっただろうな)
萌郁「五年間、岡部くんと一緒に居るから」
岡部「味覚も完全に把握している、ということか。まあ、前の俺とは少し違うだろうが」
萌郁「……そんなことは、無いと思う」
岡部「いや、流石に差異はあるはずだ。お前の料理が美味いというのに変わりは無いがな」
萌郁「ありがとう。岡部くん、……今日も水着、着た方が良い?」
岡部「そ、それは……なあ、もっと地味な水着は無いのか?」
萌郁「地味な水着……あるよ」
岡部「よ、よし、それにしろ。……もっとも、一緒に入らないのがベストなのだが」
萌郁「イヤ」
岡部「ぐっ……まあいい、食ったらさっさと風呂を済ませるぞ」
岡部「……おい、萌郁」
萌郁「どうしたの?」
岡部「地味な水着、俺はそう言ったよな」
萌郁「だから、これにした」
岡部「……スクール水着は、避けてほしかった」
萌郁「こういうの、好き?」
岡部「嫌いでは……ってそういう問題では無い!」
画像はよ
萌郁「まだ作業、するの?」
岡部「いや、俺一人ではただ時間がかかるだけだと分かった。……そこで、切り札を呼ぶ」
萌郁「切り札?」
岡部「そう、我が右腕(マイフェイバリットライトアーム)にしてスーパーハカー、橋田至に参戦してもらうのだ!」
萌郁「橋田くんを、この部屋に呼ぶの?」
岡部「ああ、済まないが許してくれ」
萌郁「別に良いけど……色々、隠さないと」
岡部「色々?」
萌郁「……下着、とか」
岡部「そ、そうか……」
岡部「ああ。しかし疲れた……今日は、ぐっすり眠れそうだ」
萌郁「今まで眠れてなかったの?」
岡部「……お前のせいでな。そんなに密着されては寝ることもできん」
萌郁「……ごめんなさい」
岡部「どうせ言っても変わらないのは分かっている。それに……少しは慣れた」
萌郁「それなら、向き合って寝ても良い?」
岡部「そ、それは流石に無理だ……ともかく、もう寝るぞ」
萌郁「……うん」
しばらくここには戻っていなかったな。ずっと俺は、萌郁の部屋に――萌郁?
「萌郁さん……?」
まゆりだ、どうしてここにまゆりが。 いや、ラボにいるのだから何も不思議では無い。
では、今目の前に居るのは。……萌郁? その黒い服は、何だ。
「椎名まゆりは、必要ない」
萌郁、お前は何をしようとしている。それは玩具か、いや、あれは。
誰か、止めろ。萌郁を、止めろ。
「……SERNのために……FBのために……SERNのために……FBの」
やめろ、やめろ……やめてくれ……。まゆりは何も関係ない……まゆりは――。
『……べくん、おか……ん、岡部くん……』
岡部「ぐっ……こ、ここは……?」
萌郁「私の部屋……岡部くん、うなされてたから……」
岡部「す、済まない……夢を見ていた」
萌郁「夢……? 怖い夢? 大丈夫……?」
岡部「……っ! さ、触るな! 近寄るな!!」
萌郁「えっ……? 岡部、くん……?」
岡部「あっ……ち、違うんだ……何でも無い」
萌郁「……夢、怖かったの?」
岡部「何でも無いんだ……だから、気にしないでくれ」
萌郁「……分かった」
岡部「……ダル、俺だ」
ダル『あれ? オカリンから電話とか珍しい件について』
岡部「ダル、今日は暇か? 時間はあるか?」
ダル『メイクイーンに行く位だけど、何か用?』
岡部「手伝って欲しいことがある、俺の家に来てくれないか?」
ダル『オカリンの部屋ということは……桐生氏の部屋ということでもある訳で』
岡部「……ダル?」
ダル『みなぎってきたお! オカリン、さっさと家まで案内してもらおうか』
岡部「一つ言っておくが、そういうのは隠してあるからな」
ダル『……ですよねー。とりあえず、外出たらまた連絡するから』
岡部「ああ、よろしく頼む」
岡部「メイクイーンに行くだけだと言っていたからな。要は暇ということだ」
萌郁「……多分、見られても大丈夫だと思う」
岡部「まあ、ダルのことだ。ああ言いながらも実際には、人の嫌がることはしないだろう」
萌郁「岡部くん……聞いても良い?」
岡部「……何だ?」
萌郁「……昨日の、夜のこと」
岡部「あれは……気にするな。何でも無い、悪夢を見てうなされて気が動転していただけだ」
萌郁「でも、私を見る目……怖かった」
岡部「……気のせいだ。そうだ、ダルが来るから菓子の一つでも用意しないとな」
萌郁「……岡部くん」
岡部「大丈夫だ、お前は何も関係ない。……お前はな」
岡部「そうか、今から外に出る。そこで待っていろ」
ダル『把握した。ハァ……暑いから早く来てほしいのぜ』
岡部「日陰で涼んでいろ、じゃあな」
岡部「迎えに行ってくる。お前はどうする?」
萌郁「一緒に、行きたい」
岡部「……よし、着いて来い。ダルが痩せない内に迎えに行かないとな」
萌郁「岡部くん……手、繋いでも良い?」
岡部「急にどうした……それ位は我慢できていただろうが」
萌郁「何となく……不安だから」
岡部「……分かった、今日だけは特別だ」
岡部「ダル、ここが俺達の部屋だ」
ダル「おお、ここが……拙者、女性の部屋に入るのは初めてでござる。ふひひ」
萌郁「……岡部くん」
岡部「ダル、自重しろ」
ダル「まっ、僕は変態という名の紳士だから、無粋なことはしないお」
岡部「その言葉、信じるぞ」
ダル「しっかし、こんな暑い中手を繋いで登場とか……オカリンマジぱねえっす」
岡部「う、うるさい! ……まあいい。期待しているぞ、ダル」
ダル「へいへい、何をするのかはよく分からんけど」
ダル「……レンジを遠隔操作? オカリン、何考えてんの?」
岡部「……色々事情があるのだ。頼む、ダル……お前の力だけが頼りなんだ」
ダル「そう言われると嫌な気分はしないけど……じゃあ、とりあえずやってみるお」
岡部「お前なら必ずできる、思う存分やってくれ」
ダル「オーキードーキー!」
岡部「ダルが好きなのはコーラだ。ダイエットコーラが冷蔵庫にあるから出してくれ」
萌郁「うん。橋田くん、ああいうのが得意なの?」
岡部「ダルは万能だ。……あいつと、もう一人居れば何も怖くは無いのだがな」
萌郁「もう一人……?」
岡部「……ああ」
岡部(紅莉栖が生きているのは確認できている。……ググってすぐに分かったからな)
岡部(……その能力は、記事を見た感じはまったく変わり無いようだ)
岡部(だが、今は連絡を取る手段が無い……いずれ時が来たら頼らねばならないだろう)
岡部(……その時に、すぐに協力してくれれば良いのだがな)
ダル「……オカリン」
岡部「どうしたダル。……ま、まさか」
ダル「……ミッション、コンプリート」
岡部「もうできたのか!? でかしたぞダル! 流石はマイフェイバリットライトアーム!」
ダル「そういえば、その呼び方何なん? つーか夏休み入ってから性格変わってね?」
岡部「何を言っているんだ? 俺は前からこうだろうが」
ダル「うーん……まあ、ともかくできたから試してみ」
岡部「ああ、これで……やっと……」
萌郁「…………」
ダル「そういえば、音声ガイダンスも付けろって言ってたから設定したけど、誰の声入れる?」
岡部「……よし、萌郁。お前の声を採用する」
萌郁「私……?」
岡部「ああ、合図を出したらここに向かって話してくれ。……ちょっと待ってろ、今紙に書く」
ダル「桐生氏、桐生氏」
萌郁「何?」
ダル「……なんか、最近のオカリン変じゃね? 何かあったん?」
萌郁「……そんなこと、無い。岡部くんは、岡部くんだから」
ダル「うーん、桐生氏がそう言うなら……」
萌郁「……うん」
ダル「じゃあ、録音開始するのぜ。……三、二、一、スタート」
萌郁「R・E・N・G。こちらは、電話レンジ……えっと、岡部くん」
岡部「どうした、そのまま読めば良いだけではないか」
萌郁「この……『(仮)』って、何?」
岡部「それはそのまま『かっこかり』と読め」
ダル「(仮)? 別にそのまま電話レンジでも良いと思われ」
岡部「……いや、そこは譲れん。ほら、再開するぞ」
萌郁「分かった」
萌郁「R・E・N・G。こちらは、電話レンジ(仮)です」
萌郁「こちらから、タイマー操作ができます」
萌郁「#ボタンを押した後、温めたい秒数をプッシュしてください」
萌郁「例えば、1分なら『#60』」
萌郁「2分なら『#120』……です」
ダル「オカリン……桐生氏の声、目覚ましにしたいんだけどおk?」
岡部「HENTAI発言は自重しろ」
ダル「ちえっ……」
ダル「もう僕が確認したから大丈夫だとは思うけど」
岡部「そう言うな、……電話レンジの番号を入力し、音声ガイダンスを呼び出す」
萌郁『R・E・N・G。こちらは、電話レンジ(仮)です』
萌郁「……私の、声」
岡部「そして音声ガイダンスに従い『#120』と入力。そうすると」
ダル「うんうん、問題なく動いてる」
岡部「よ、よーし! 後は……ブラウン管工房に行くだけだ!」
ダル「ブラウン管工房? 何ぞそれ?」
岡部「ダル、明日も俺に付き合ってもらうぞ。世紀の大実験にな」
ダル「……よく分かんないけど、面白そうだし行ってみるお」
ダル「べっ、別にオカリンに礼を言われても嬉しくなんかないんだからね!」
岡部「相変わらずだな……まあいい、明日も頼む」
ダル「じゃ、また明日ってことで」
岡部「……これでやっと、前に進める」
萌郁「岡部くん、何をするつもりなの?」
岡部「それは……まあ、明日になれば分かる」
萌郁「……少し、不安なの」
岡部「不安?」
萌郁「本当に、どこにも行かない? 約束……してくれる?」
岡部「……余計な心配はしなくても良い、何も起きん」
萌郁「……うん」
萌郁「ご飯、用意できたから」
岡部「あ、ああ、済まない……今日は何だ?」
萌郁「餃子、作ってみた」
岡部「ごま油の香りはそのせいか。……腹が減ってきた」
萌郁「今出すから、待っててね」
岡部「分かった、期待しているぞ」
岡部(……こうやって萌郁の料理を食べるのも、これが最後か)
萌郁「どう、美味しい?」
岡部「ああ、香りが良いな。夏バテも解消できそうだ」
萌郁「明日も、橋田くんと一緒に実験をするの?」
岡部「その通りだ。……お前も、来るのか?」
萌郁「岡部くんの行くところには、どこにでも行くから」
岡部「そ、そうやってお前はまた恥ずかしいを……」
萌郁「恥ずかしい?」
岡部「……気にするな」
岡部(このやり取りも、後少しか。……萌郁も前の俺の方が良いに決まっている)
岡部(……明日で、元に戻る。あの世界線に戻り……この萌郁とは、お別れだ)
萌郁「今日は、もう寝る?」
岡部「ああ、お前も寝るのか?」
萌郁「一緒に、寝たいから」
岡部「そ、そうか……」
萌郁「……岡部くん、お願いがあるの」
岡部「お願い?」
萌郁「今日は……向かい合って、寝てほしい」
岡部「む、向かい合って!? いや、それは流石に……」
萌郁「……お願い、今日だけで良いから」
岡部(今日だけ……最後くらいなら)
岡部「分かった、望みどおりにしてやる。……電気、消すぞ」
萌郁「……うん」
萌郁「…………」
岡部「……寝ないのか」
萌郁「岡部くん、正直に言って」
岡部「……何だ」
萌郁「明日……居なくなっちゃうの?」
岡部「いつ誰がそんなことを言った? どこにも行かん、俺はここに居る」
萌郁「嘘、つかなくても良いから」
岡部「……なぜ、嘘だと分かる?」
萌郁「岡部くん、最近……遠くを見るような顔してた。だから」
岡部「それで勘付いた、ということか」
萌郁「あの電話レンジが、関係あるの?」
岡部「ああ、あれは……Dメールを送るための装置だ」
萌郁「D、メール……」
……お前が五年前に受け取ったものも、その一つという話しはしたな」
萌郁「……明日、過去にメールを送るの?」
岡部「ああ、そのためにダルに協力してもらった。まさか、一日で完成させるとは思わなかったけどな」
萌郁「誰に、どんなメールを」
岡部「それは……」
岡部(……萌郁に送ったメールで世界線変動率は変わった。それを元に戻すには)
岡部(萌郁に……FBからのメールに返信しろ、と送らなければならない)
岡部(そして、岡部倫太郎とは会うな……そう送らなくてはいけない)
『岡部は詐欺師一年後FBが救ってくれる』
岡部(一度に送れる容量を考えれば、これで十分だ。だが、それはつまり)
岡部(萌郁と岡部倫太郎の関係は……なかったことになる)
岡部(だから、何も心配することは無い。……そうしなければ、元には戻らないのだから)
萌郁「……岡部くん?」
岡部「何も気にしなくて良い。……何も変わりはしない」
萌郁「今の岡部くんは……どこに行くの?」
岡部「元の世界線に戻る。お前が愛した男も戻ってくるはずだ」
萌郁「…………」
岡部「お前もその方が良いだろう? 愛情を向けても無駄な男なんかに気を遣う必要は無い」
萌郁「……嫌」
岡部「嫌……? 萌郁、お前はいったい何を……」
萌郁「岡部くんは、岡部くんだから……どこにも行かないで」
萌郁「……本当に戻ってくるかなんて分からない。岡部くんが、消えてしまうかもしれない」
岡部「安心しろ、元に戻るだけなんだ。今の俺も、前の俺も、必ず戻る」
萌郁「…………」
岡部「……そんな顔をするな」
萌郁「……ごめんなさい」
岡部「お前には世話になった。萌郁のおかげで助かった、感謝している」
萌郁「本当に、行くの?」
岡部「……ああ。止めるな、俺は戻らなければならないんだ」
萌郁「岡部くんの言うことには、従う。だから……もう何も言わない」
岡部「……済まない」
萌郁「……大丈夫、だから」
岡部(済まない……戻るなんて軽く言ったが、俺にも分からない)
岡部(だが……そう言わないと、お前は俺を止めるだろうからな)
岡部(俺の軽はずみな行動が全ての原因だ。……赦してくれ、桐生萌郁)
岡部「電話レンジは何とか運べそうだな……行くぞ、萌郁」
萌郁「……分かった」
岡部「ん? そのカバンは何だ?」
萌郁「お昼に食べられるものを、用意した」
岡部「準備が良いではないか。で、中身は何なんだ?」
萌郁「後で教えるから、今は秘密」
岡部「……そう言われると気になるな。まあいい……ブラウン管工房へ、出発だ」
ダル「おっ、来た来た。オカリーン」
岡部「はぁ……はぁ……ま、待たせたな」
ダル「いや、別に良いけど……何もしてないのにヘトヘトになってどうするん」
岡部「な、何もしてないとは……し、失礼な……はぁー……重かった」
ダル「桐生氏、こんなんで本当に大丈夫な訳?」
萌郁「……多分」
岡部「よ、よし……ミスターブラウンに話をしてくる」
ダル「いってらー。僕たちはここで待ってるお」
萌郁「……待ってるから」
天王寺「ん? ああ、おめえは確かこの前の……。今度は初対面じゃねえな」
岡部「ええ、それでお願いがあるのですが」
天王寺「お願い? ブラウン管の購入ならいつでも受け付けるけどよ」
岡部「いや、そんな物誰も欲しがら……あっ」
天王寺「……今、何つった?」
岡部「い、いえ! ブラウン管は本当に素晴らしく、残していくべき物だと言おうと」
天王寺「おっ、分かってんじゃねえか。どうだ、安くしとくぞ?」
岡部「それはまた今度で……今日来たのは、上の部屋に用があるからです」
天王寺「上の部屋?」
天王寺「上の部屋? いや、でもなあ……」
岡部「す、少しの間だけで良いんです! お願いします!」
天王寺「別に良いけどよ。ほら、鍵だ」
岡部「ありがとうございます。……では、お邪魔します。それと」
岡部「その奥のテレビ、点けておいてもらえますか?」
天王寺「あ、ああ、言われなくても点けるけどよ」
岡部(……準備は、整った。後は実行するだけだ)
岡部「ああ、鍵も借りてきた。……いよいよだな」
萌郁「……岡部くん」
岡部「どうした、何か用か?」
萌郁「……ごめん、何でも無い」
ダル「…………」
岡部「よし、上に行くぞ。……この重みもこれが最後だ、ふんっ……!」
岡部「……本当に何も無いんだな」
ダル「空き部屋なんだから当たり前だろ常考」
岡部「違う、本当はこの部屋には……いや、言っても分からないんだよな」
萌郁「ここで、何をするの?」
岡部「まずは、電話レンジを……この辺だな、ふんっ……」
ダル「えっと、電源は……あったあった。後は配線をちゃんとしてっと」
萌郁「コンセント、ここに刺す?」
ダル「桐生氏、今の台詞……もう一度言ってくんない? できれば誘うような感じで」
岡部「今は控えろ、ダル。……電源は確保した、動かすぞ」
岡部(電話レンジに電話をかけ……『#120』と打つ、そして)
ダル「おっ、動いた動いた。で、こっから世紀の大実験って何するん?」
ダル「それは?」
岡部「――過去にメールを送る実験だ!」
ダル「……はあ?」
岡部「信じられないのも無理はない。だが、事実だ……今からそれを見せてやろう」
ダル「ん? バナナなんか出してどうすんの?」
岡部「このバナナを、電話レンジの中に入れる」
ダル「バナナを中に入れる……桐生氏桐生氏」
岡部「控えろと言っているだろうが。そして電話レンジを使用するのだが……少し操作を変える」
ダル「操作を変える?」
岡部「普通なら『#120』と入力するのを、逆に『120#』とする」
ダル「ふんふん、それでそれで?」
岡部「見ていれば分かる。……電話レンジ、起動せよ!」
岡部「……今は待つのだ」
萌郁「…………」
ダル「……終わった」
岡部「さあ、見るが良い。これが……電話レンジの力だ!」
ダル「どれどれ……うん?」
萌郁「……?」
岡部「フゥーハハハ! どうだ、驚いたか!? バナナが見事に」
ダル「ほっかほかに温まってるけど」
岡部「……はあ? 何を言っている、こうすればちゃんとゲル状のバナナができて…………ない?」
ダル「オカリン、結局このバナナがどうなって欲しかった訳?」
岡部「そのバナナがゲル状になるはずなんだ……」
ダル「ゲル状? あるあ……ねーよ」
岡部「ほ、本当になるはずなんだ! いや、もう一度やれば必ず……」
ダル「そもそも、電子レンジで温めてゲル状になるなんて有り得ないだろ常考」
岡部「そんなことは無い……何かの間違いだ、そうだ、やり方が違ったのかもしれない……」
萌郁「……岡部くん」
ダル「桐生氏も彼氏に何か言ってあげた方が良いんじゃね?」
萌郁「私は……邪魔しないようにって言われたから」
ダル「…………」
ダル「……オカリン、もう諦めた方が良いと思われ」
岡部「いや、俺は諦めん……何が違う、どうすれば」
萌郁「岡部くん……一度、休んだ方が」
岡部「……うるさい! 俺に指図するな!」
萌郁「……っ! ご、ごめんなさい……」
岡部「あっ……す、済まん」
ダル「……オカリン、もう諦めろって。桐生氏のためにも」
岡部「萌郁のため……どういう意味だ」
ダル「オカリン本当にどうしたん? 高校の頃からずっと、桐生氏のことばっか考えてたじゃんか」
萌郁「……橋田くん、私は良いから」
ダル「いや、最近のオカリンはやっぱり何か変だお。……少し、冷静になった方が良いんじゃね」
岡部「……それは、俺では」
ダル「オカリンが彼女いて羨ましいとかリア充爆ぜろとか言ってたけど、
ちゃんと桐生氏を大切にしてたオカリンを僕はカッコいいと思ってますた」
萌郁「…………」
ダル「オカリン、何があったのかは知らんけど……少し頭、冷やそうぜ」
岡部「……違うんだ、俺は……実は」
ダル「今日はもう帰るから。また元に戻ったら協力でも何でもするお」
岡部「……ダル」
岡部「……元に戻ったら、か。……それができれば、こんな思いはしない」
萌郁「今日は……帰ろう?」
岡部「……分かった」
岡部(ダルは何も悪くない……あいつが言っていたことはすべて正しい)
岡部(だが、ダルの中の俺は……俺じゃない。萌郁を大切にしていたのは俺じゃない……)
岡部(……一人では、何も上手くいかない。それなのに……一人になってしまった)
天王寺「ん? どうした、さっきと違ってずいぶん元気がねえじゃねえか」
岡部「いえ、何でもありません……あの、また上の部屋を使わせて頂いても良いですか」
天王寺「いや、それなんだけどよ……実は、無理なんだ」
岡部「無理……? ど、どういうことですか!?」
天王寺「このビルも結構古くてよ、地震が来たら一発で潰れちまうかもって言われてな」
岡部「ま、まさか……取り潰す!?」
天王寺「そこまではいかねえけど、近い内にこのビルはしばらく閉鎖するんだよ。
俺も愛しのブラウン管ちゃん達を連れて、ちょっとの間お引越しって訳だ」
岡部「ブラウン管が……無くなる……」
天王寺「そういうことだ。残念だったら一台持ってくか? 大負けに負けてやるぞ?」
岡部「……失礼、します」
天王寺「おお、また会ったら買ってけよ」
岡部「……何も言わないでくれ。……帰ろう」
萌郁「……分かった」
岡部(ブラウン管工房が無くなる……それは42型ブラウン管が消えることを意味する)
岡部(数日の間にダルと関係を修復して……だが、それも数日間の間にだ)
岡部(もっとも、見たことのない現象を起こせと言ってできるのか……)
岡部(……甘かった。……失敗することなど、全く考えていなかった)
岡部(紅莉栖に頼るか? ……ただの学生が天才科学者と話ができると思うのか?)
岡部(いずれにせよ、俺一人では何もできない……元には、戻れない)
岡部「…………」
萌郁「……何か、食べない?」
岡部「……そんな気にもなれん、放っておいてくれ」
萌郁「でも……」
岡部「……このまま何もしないのも、楽かもしれないな」
萌郁「岡部くん……」
岡部「……済まない」
動かそうにも身体が動かない、そして動く気も起きない。
萌郁はただ俺を見守り続け、時折水と食事を口に入れてくれる。
しかし、その行為すら今の俺には邪魔で、無意識に手で振り払っていた。
どうしてこうなったのかは分からない。色々原因はあるだろう。
前の世界線の数々の出来事、止まる余裕など無かった。
心も身体もボロボロのまま、俺はこの世界線にたどり着いた。
それは、萌郁がもし俺と会っていたらどうなるか、というあってはいけない考えが生み出した結果だ。
ダルに俺が知らない岡部倫太郎の話をされたのも辛かった。
そのことで俺は、この世界で「俺」のことを分かってくれる者は居ないと知ってしまった。
……いや、もう認めよう。俺は、疲れてしまった。
もう、何も考えず、このまま消えてしまいたい。
そう考え始めた時――萌郁の顔がアップで俺の視界に入ってきた。
そして、
萌郁「んっ……。お水、飲まないと……脱水症状になるから」
岡部「……だからと言って、口で飲ませようとするヤツがあるか」
萌郁「岡部くん、やっとこっちを向いてくれた」
岡部「……何?」
萌郁「ずっと何もしないで、そのまま……消えてしまいそうだった」
岡部「……消えてしまえば良かったのにな」
萌郁「そんなこと、無い。……岡部くんが消えたら、私は生きてる意味なんて無いから」
岡部「それは以前の俺との記憶があるからだ……俺にはそこまでする様な価値は無い」
萌郁「岡部くんは、岡部くん。他の誰でも無い」
岡部「……またそれか。ああ、そういえば……お前は、俺としたかったんだよな」
萌郁「……岡部くん? ――っ!? な、何を……」
岡部「お前の望み通り……好きなだけしてやるって言ってんだよ」
あの時と同じように、完全に主導権を握る体勢だ。
「何を……するつもり?」
「もう、どうでもいい……このまま何も考えず、馬鹿なことをしてやろうと思ってな」
「……そんなことしても、何も変わらない」
「だが、お前は言ったではないか。性欲に従うまま、俺を誘っただろうが」
「……ごめんなさい」
「謝っても何も変わらない……大人しくしろ」
「……分かった。好きにして」
無抵抗になった萌郁に俺は少しずつ顔を近づけていった。
その距離は縮まり続け、目の前に萌郁の豊満な胸が現れた。
着ているブラウスを?ぎ取り、肌を露出させ――そんなことはしなかった。
萌郁の胸に顔を預け、そのまま俺は涙を流し始めた。
「岡部……くん?」
「……萌郁、俺は……どうすれば……っ……何も、このままでは……」
「……それなのにダルやまゆり、他の仲間のことを覚えている」
「だが、相手の記憶の中に居るのは俺ではない……別の岡部倫太郎だ」
「誰も俺が俺じゃないことなんて知らない……誰にも存在が認識されていない」
「この世界に一人……俺だけが急に取り残されたようだ。そして元の場所にも戻れない……」
「萌郁、俺はこのままなのか? このまま……世界から離れて生きていかなければならないのか?」
「……岡部くん」
「答えろ! 答えてくれ……俺は、一人で生きていくしか……」
崩れていく俺を、何かが優しく包み込んでくれた。
それは、萌郁の腕と体温だった。
「萌郁……」
「岡部くんは、一人じゃない……この世界から、断絶なんてさせない」
「……五年前、岡部くんがしてくれたのと同じことを、私もしてあげたい」
「そして、私なんかのためにDメールを送ってくれたことを……無駄にしたくない」
萌郁はそう言うと俺をさらに強く抱きしめた。
どこかへ行ってしまいそうな自分が、強く引き戻されたようだった。
「まゆりちゃんを何度も酷い目に遭わせて……それなのに、最後には赦してもらおうとして」
「……萌郁? お前……その記憶は」
「岡部くんと一緒に寝ている時に……夢を見た」
「その夢は、まさか……」
「……銃を持っていたり、車に乗っていた。そしていつも……まゆりちゃんを」
「それともう一つ……血だらけになった私の最後の願いを、岡部くんが叶えてくれる夢……」
「……あの時の記憶もあるのか」
「岡部くんはあんなことをしなくても良かった。それなのに……私のせいで、岡部くんをここに連れてきてしまった」
「……ごめんなさい、私は岡部くんを犠牲にして……幸せな時間を手に入れてしまった」
「私は幸せだった……でも、岡部くんは違ったかもしれない……」
「この世界線の俺はお前と居たことを後悔していた……そう言いたいのか?」
「……五年間も依存し続けて、岡部くんの自由を奪ってしまったから」
「萌郁、これだけは言える。……俺は、お前を幸せにしたいと本気で考えていたはずだ」
「どうして……そんなことが分かるの?」
「ダルが言っていたんだ。俺はお前のことばかりを考え、大切にしていたと」
「……でも、本当は一人の方が」
「ダルは……俺の右腕だ。あいつが言ったことは、間違いない……俺はダルの言葉を信じる」
間違いなく、以前の俺は萌郁を幸せにしようと考えていた。そして今、俺自身も萌郁の幸せを考えていた。
この世界線で数年間も側に居続け、そしてこの「俺」を迎え入れ、「俺」として扱ってくれた女性、桐生萌郁。
桐生萌郁、その大切な時間を、犠牲にはできない。だから俺は――。
「俺は――この世界線を、桐生萌郁との時間を選ぶ」
「……岡部くん」
「私に、岡部くんが……依存」
「ああ、お前はそれでも良いか? 俺が側に居ても良いのか?」
「……お願い。ずっと、私の側から離れないで……どこにも、行かないで」
「……分かった。どこへ行こうとも、お前からは離れない……何があっても」
俺は萌郁に依存することで存在を保ち、萌郁は俺に依存することで世界と繋がりを持つ。
互いに依存しあう関係、それがこの世界線での俺達の出した答えだった。
萌郁が今までしてきたことは、確かに赦されるものではないかもしれない。
だが、それ以上に俺がしたことは悪質で、誰にも赦されるものではない。
萌郁に託されたからといって、自らの好奇心で誰かの幸せを生み出したのは事実だ。
それをまた、自らの手でなかったことにしようとは思えなかった。
赦されず、依存しあう二人、それが岡部倫太郎と桐生萌郁だった。
まゆりやダルとは定期的に連絡を取っている。
また、ミスターブラウンとも縁が切れないように注意している。
誰も死なず、鈴羽も現れない。この世界線の未来は、まだ分からないままだ。
今も家にはこの世界線のダルが作った電話レンジが、改装されたブラウン管工房には42型ブラウン管がある。
そして、ある学者とのメールアドレスも用意してある。
全ては何かがあった時のための準備だ。
それでも、何も無いことを祈っているのは間違いない。
互いが依存しあい、自分を保つという弱々しい人間のままだった。
「萌郁。今、時間あるか?」
「うん。どうしたの、岡部くん?」
「……萌郁、その呼び方はいい加減に直せと言っただろうが」
「でも……呼びやすいから」
「自分も同じ苗字なのに、そんな呼び方をするヤツがどこに居るんだ……」
「……ごめん。それで、用は何?」
「俺は外に出るつもりだが、萌郁も出られるか?」
「すぐに準備する、ちょっと待ってて」
「ああ、早くしてくれよ」
俺の選んだ世界線が正しかったのかは分からない。
だが、目の前の女性を幸せにしたいという思いは、何があっても変わらない。
それは、世界が変わっても「俺」がそうしたのと同じように。
終わり
ありがとう
面白かったです
助手が出てこなかったのはちとさびしかったがまあ楽しめたぜ
Entry ⇒ 2012.06.24 | Category ⇒ シュタインズゲートSS | Comments (0) | Trackbacks (0)
穏乃「んん~憧の靴下の匂い・・・たまんない、これ・・・」
・http://hayabusa.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1340353105/
穏「そろそろ戻って来ちゃう・・・でももう少しだけ・・・」 スンスン
穏「変な気分になってきた・・・はぁ、はぁ」
穏「憧ぉ・・・憧あこの足の匂い・・・」
ガチャッ!
穏「っ!!」 びくんっ
玄「あっ・・・」
穏乃「・・・」
玄「・・・」
穏乃「・・・///」クンカクンカ
玄「な、なにしてるの・・・?」
穏乃(く、玄さんに見られてる・・・でも・・・)
穏乃「・・・///」フガフガ
玄「シズちゃん・・・」
穏乃「・・・///」フンガフンガ
灼「ん、どうしたの玄」
玄「あ、灼ちゃん・・・!」
穏乃「・・・っ!?」
灼「? どうかした・・・って」
灼「・・・」
灼「なにしてんのあんた・・・」
灼「・・・」
玄「さっきからずっとこの調子なの・・・」
穏乃(やばい・・・灼先輩からも見られてる・・・)
穏乃(しかもちょっと見下された感じで・・・興奮する・・・)
穏乃「・・・///」フンガフンガフンガフン
灼(こいつ・・・やばい・・・ッ)
玄「お、お姉ちゃん・・・っ!?」
穏乃「・・・!?」
宥「? みんななに見てるの・・・?」
玄「み、見ちゃダメ!」バッ
穏乃「・・・」
宥「な、なんで私だけ除け者~・・・」
穏乃「・・・?」フンガ
灼「それ誰の靴下・・・?」
穏乃「・・・憧///」スンスン
宥(靴下・・・?)
灼「・・・」
玄(憧ちゃんのだったんだ・・・)
灼「き、汚いからやめなよ・・・っ」
穏乃「・・・? 汚くないよ?」フンガフン
灼「嫌だよ汚い・・・」
穏乃「・・・うそ。憧の靴下は私だけのものだもんね」スンスン
灼「・・・」
玄(ち、ちょっと嗅いでみたい)
宥「あ、あの・・・嗅ぐってなに・・・?」
玄「・・・っ!?」
玄「お、お姉ちゃんにはまだ早いことだよ!」
宥「玄ちゃんの方が年下じゃない~・・・」
玄「そ、それでもダメなの!」
灼「シズ、あんた・・・憧がきても知らないよ?」
穏乃「・・・!?」
穏乃(憧が・・・くる・・・?)
穏乃「・・・」
穏乃「・・・っ///」ゾクゾク
穏乃(な、なんだろう・・・この感じ・・・)
穏乃(わ・・・私、興奮してる・・・?)
灼(・・・こいつやばい)
玄「ダメったらダメ!」
憧「あんたらほんと仲いいわねー」
玄「な、仲はいいけど今はそれどころじゃ・・・!」
宥(チャンス! スキあり!)ヒョコ
穏乃「・・・///」フンガフンガ
宥「」
灼「あ」
玄「お、お姉ちゃんいつの間に・・・!?」
灼「宥が失神した・・・」
玄「お、お姉ちゃん・・・っ!」
憧「ちょ、どうしたの!?」ヒョコ
灼(あ、まずい・・・)
穏乃「・・・///」フンガフンガ
憧「え・・・」
穏乃「・・・あ///」
灼(・・・もう私はどうなっても知らない)
穏乃「あっ・・・あっ・・・///」
憧「え・・・ちょっと・・・」
穏乃「あっあっあっあっあっ・・・///」フンフンフンフンフンッ
灼(ちょ・・・w)
憧「」
玄「お、お姉ちゃんってば・・・」ユサユサ
宥「・・・ひゅ~ん」
灼(・・・い、イったのかな?)
憧「・・・あ、あんた・・・///」
穏乃「ごめん憧・・・でも憧の靴下いいにおいで・・・」スンスン
憧「や、やめてってばこの変態!」バシッ
穏乃「あっ・・・」
憧「・・・はぁ・・・はぁ・・・」
憧「あ、あんた頭おかしいよ・・・ッ!!」
穏乃「・・・」
憧「ひ、ひ、人の靴下のにおい嗅ぐとか・・・あ、ありえない・・・ッ!!」
灼(ですよね)
穏乃「・・・」
憧「・・・あ、あんた聞いてんの!?」グイッ
穏乃「・・・あっ///」
憧(ちょ・・・な、なに顔赤らめてんのよ・・・)
憧(ほ、ほんとこいつやばいんじゃないの・・・!?)
穏乃「ううっ・・・///」
憧(で・・・でも・・・)
憧(・・・ち、ちょっとかわいい・・・///)
憧「・・・ってあたしなに考えてんだ・・・ッ!!」
灼(の、ノリツッコミ・・・)
憧「な、なによ・・・」
穏乃「あの・・・ご、ごめん・・・」ショボン
憧「あ、謝ったって許すわけ・・・ッ!」
穏乃「・・・///」
憧(な、なに・・・っ!? なんでこの子こんなかわいいの・・・!?)
憧「・・・」ゴクリ
憧「し、シズ・・・あ、あんたあたしの靴下さ・・・」
憧「そ、その・・・い、いいいいいいい臭いとか言ったわよね・・・?」
穏乃「・・・だってほんとにいい臭いなんだもん・・・///」
憧「・・・」ゴクリ
憧「・・・」スンスン
憧「ううっ! おげぇ・・・!」
穏乃「・・・だ、大丈夫? 憧・・・」
憧「ぉえ・・・だ、だいじょぶよ・・・」
憧(3年使い古した雑巾をアンモニア漬けにしたみたいな強烈な悪臭・・・)
憧(こんなのをシズはいい臭いとか思っちゃってるの・・・?)
憧(き、気が狂ってるとしか思えないわ・・・それか極度の嗅覚障害ね・・・)
憧(ていうか、あたしの足がここまで臭かったって事実に今すごくショックを受けてる・・・)
憧「し、シズ・・・あんたにこれあげるわ・・・」ヒラヒラ
穏乃「ほ、ほんと・・・っ!?」
穏乃「あ、ありがとう憧・・・!」パァア
憧(よくそんな汚染廃棄物に歓喜できるわね・・・)
憧「べ・・・別にあんたが嗅ぎたいっていうなら臭いも嗅いで構わないから・・・」
穏乃「や、やった・・・っ!!」パァア
憧(おえっ・・・ちょっと気分悪くなってきたわ・・・)
憧「あたし先上がるから・・・後のことよろしくね」ポンッ
灼「え・・・」
憧「あとシズ・・・あんたそれちゃんと家に持ち帰んなさいよ」
穏乃「ティヒヒ! わかったよ憧!」クンカクンカ
憧「じゃお疲れ様・・・」バタンッ
宥「・・・ん、ここは・・・」
玄「お、お姉ちゃん・・・!」
玄「お姉ちゃん大丈夫?」
宥「あれ・・・なんで私倒れてたんだっけ~・・・」ポワンポワン
灼「・・・」
灼(もう私帰っていいですか・・・)
玄「? あれ、憧ちゃんは?」キョロキョロ
灼「先帰ったよ・・・」
宥「憧ちゃんきてたの~・・・? 私一度も会ってない・・・」
玄「シズちゃんは・・・」
穏乃「・・・ん~~~~~~っ///」ガフンガフン
玄「あ、まだやってたんだ・・・」
灼「あ・・・」
玄「・・・!? え、えっとお姉ちゃん・・・っ!! あれはね、その・・・っ!!」
穏乃「・・・宥さんも嗅いでみますか? 憧の靴下の匂い」
宥「憧ちゃんの・・・靴下・・・?」
玄「ちょっとシズちゃん、お姉ちゃんを変なことに誘わないでっ!」
灼(私はダメで、宥ならいいのか・・・)
穏乃「ほら、貸しますよ」スッ
宥「・・・うん、ありがと~」
玄「お、お姉ちゃん・・・っ!!」
宥「あ・・・玄ちゃん返して~」
玄「か、返しませんっ!」
穏乃「いやそれ私のだから!」
玄「な、なにいってるのシズちゃん・・・! これは憧ちゃんのでしょう・・・!?」
穏乃「私のだよ! 憧からもらったんだもん!」
玄「灼ちゃん・・・ほんとなの?」
灼「・・・」コクリ
玄「・・・」
穏乃「・・・んっ・・・か、返してっ・・・」ピョンピョン
宥「玄ちゃん、返して~・・・」
穏乃「そ、そんなぁ! それ私のなのに!」
宥「玄ちゃんのいじわる~・・・」
玄「いじわるじゃありませんっ! これは二人のためを思ってのことですっ!」
穏乃「・・・」
宥「・・・残念だね、シズちゃん・・・」
穏乃「いいもん・・・また憧からもらうもん・・・」グスン
宥「・・・そしたら私にも嗅がせてね?」
灼「・・・」
玄「・・・」ドキドキ
玄「ほら行くよお姉ちゃんっ」
宥「じゃあね二人とも~」
穏乃「・・・」ショボン
灼「・・・帰ろ」
穏乃「・・・はい」
---------------------
灼(なんか二人になると気まずいな・・・)
穏乃「・・・灼先輩」
灼「・・・っ!? な、なに・・・?」
穏乃「玄先輩はいつになったら返してくれますかね・・・?」
灼「・・・」
灼「しらないよそんなの・・・」
灼「・・・」
穏乃「・・・はぁ・・・憧の靴下・・・」
灼(・・・どんだけ執着してんのよ・・・)
穏乃「灼先輩」
灼「・・・今度はなに?」
穏乃「灼先輩の靴下っていい匂いしそうですよね・・・」
灼「・・・なっ!? し、シズお前・・・っ」
穏乃「・・・」ズイッ
灼「や、やめろ・・・っ」
穏乃「・・・てぃひひ」
灼「た、助けて・・・晴ちゃん・・・」ガクガク
灼(・・・へ、へ?)
穏乃「じ、冗談ですよ・・・ティヒ、なに本気でビビってんですか・・・」プルプル
灼「・・・」
穏乃「私は憧の靴下一筋ですから、他の人の靴下に浮気なんてしません」
灼「・・・」
穏乃「じゃ灼先輩、ここでお別れです。また明日」スタスタ
灼「・・・」
灼「・・・」ガクリ
灼「・・・」ブルブル
灼(も・・・漏れちゃったよぉ・・・)
ザリッ
灼(・・・っ!? だ、誰か近づいてくる・・・!?)
灼(あ・・・あぁ・・・も、もうおしまいだ・・・)
灼「・・・っ」
「おや灼じゃないか」
灼「・・・は、晴ちゃん・・・?」
伝説「よ。どうしたんだ、こんなところに座り込んで」
灼「・・・っぐ・・・えっぐ・・・」
伝説「ど、どうした灼・・・!?」
灼「晴ちゃんっ・・・晴ちゃん・・・っ」ポロポロ
灼「は、晴ちゃぁん・・・えっぐ・・・わ、私・・・」
伝説(・・・ん? あぁ、そういうことか・・・)
伝説「・・・大丈夫だ。私の家に行って着替えよう。すぐそこだから」
灼「うっ・・・えっく・・・」
伝説「ほら立てるか? 今ならだれも見てないから大丈夫だぞ」
灼「・・・っ・・・うん・・・」
伝説「よし、いい子だ・・・ほれ、私の背中に乗れ・・・な?」
灼「・・・ひっぐ・・・それはイヤ・・・」
伝説「・・・」
伝説「じゃほら、手貸すから」スッ
灼「・・・うん」
伝説「シャワールームはすぐそこな。後で着替えおいとくから」
灼「でも・・・晴ちゃんの服じゃ大きすぎるし・・・」
伝説「・・・ごっほん、私にだってお前くらいの年齢の時期があったんだぞ?」
伝説「その頃の服がまだ何着かあるだろうから、それ貸すよ」
灼「あ、そっか・・・わかった」
伝説「いいって。ほら、風邪引かないうちに入ってこい。着てる服は洗濯機に放り込んどいて」
灼「うん・・・ありがと、晴ちゃん」
伝説「いいってことよ」
灼「・・・んしょ」ヌギヌギ
灼「・・・というか、脱衣所散らかりすぎ晴ちゃん・・・」
灼「脱いだ服くらいちゃんと一か所にまとめてよ・・・」ヨイショ
灼「って、あれ・・・これってもしかして・・・」
灼「・・・」
灼(・・・晴ちゃんの脱いだ靴下・・・)
灼「・・・」ゴクリ
灼「・・・」ガラッ
灼(・・・晴ちゃんがくる気配はなし・・・)
灼「・・・」サササッ
灼「・・・」ドキドキ
灼「こ、これが・・・晴ちゃんが一日中はいてた靴下なんだ・・・」
灼「・・・///」
灼「・・・って何やってんだ私!!」
灼「・・・」
灼「ち、ちょっとくらいなら・・・」
スンスン
灼「・・・あっ・・・///」
灼(一瞬鼻をつくスパイシーな香り・・・その後に続く濃厚な香りは・・・)
灼(まるで・・・焼きたてのトーストのような甘く香しい・・・)
灼「これが本当に・・・靴下の匂いなの・・・?」
灼「・・・」スンスン
灼「・・・ぁ///」
灼「・・・」フガフガ
灼「・・・ぁあ///」
灼「・・・やばい・・・頭がくらくらする・・・」
灼「でも・・・やめられない・・・っ!」フゴフゴッ
灼「んぁ・・・///」
灼「・・・」スンスン
灼「・・・あぁ・・・いい匂い・・・」
---------------------
灼「っと、長湯しちゃった・・・」
灼「・・・」フキフキ
灼「・・・」
灼(こんな散らかってれば、靴下一足なくなったって気づきやしないはず・・・)
灼「・・・」ササッ
灼「・・・///」
灼「晴ちゃんあがったy」
灼「・・・」
伝説「・・・あらたあらたあらた~~~~~っ!!」バフンゴフンゴッ
灼「」
伝説「やっばいいい香りっ灼の指の間にたまった汗の香りが染み渡ってるっあぁんもう我慢できない~~~~~~~って、あれ?」
灼「」
伝説「・・・あ、あはっ・・・おかえり灼・・・」
灼「・・・」
伝説「・・・」
伝説「・・・」
灼「晴ちゃんもだったんだ・・・」
伝説「ま、まさか灼も・・・?」
灼「うん・・・ついさっき脱衣所で晴ちゃんの靴下見つけて・・・」
伝説「そっか・・・私の・・・」
灼「だからその・・・今のも、う、嬉しかったよ///」
伝説「灼・・・」
伝説「うん・・・私も嬉しいっ」
灼「晴ちゃん・・・私晴ちゃんが好きっ」
伝説「私もよ灼っ」
こうして二人は靴下を通じてアツく結ばれたのだった―――
第一部・完
ガチャ
玄「ただいまです」
宥「ただいま~」
玄「お姉ちゃん、お風呂沸かしておいて。私洗濯ものとってくるから」
宥「わかったよ~玄ちゃん」タタッ
玄「・・・」
玄(と、とりあえず憧ちゃんの靴下のことは後だ)
玄(早く洗濯ものとりこまないと)
玄「これは・・・」
玄(お、お姉ちゃんのストッキング・・・)
玄「・・・」ゴクリ
玄「ちょ、ちょっとだけなら・・・」
玄「だ、大丈夫・・・嗅ぐだけ・・・嗅ぐだけだから・・・」スンスン
玄「・・・」
玄(れ、レノアの香りしかしない・・・期待外れだ・・・)
宥「玄ちゃ~ん、手伝おうか~」
玄「えっ、あっ、大丈夫だよお姉ちゃ~ん!!」アセアセ
玄「・・・」
玄(やっぱり洗った後のものじゃ意味ないよね・・・)
玄「・・・」
玄「・・・い、今ならお姉ちゃんもお風呂入ってるし・・・」
玄「よしっ、憧ちゃんの靴下・・・嗅いでみるぞっ」
玄「・・・」スンスン
玄「・・・っ!!」
玄(なにこの強烈な臭い・・・下水臭いっていうか・・・)
玄「・・・」
玄「・・・」スンスン
玄「・・・っっ!!!」
玄(や、やっぱり臭いっ!!)
玄(憧ちゃんの足ってこんなに臭かったんだ・・・)
玄(・・・で、でも・・・)
玄「・・・」フンフン
玄「・・・っっっ!!!!」
玄「く、癖になる・・・///」
玄「・・・」フンガフンガ
玄「・・・~~~~~~っ!!!」
玄(やばい・・・やばいよシズちゃん・・・)
玄(私もわかっちゃったよ・・・憧ちゃんの靴下の香り・・・)
玄「・・・」バフンバフンッ
玄「っ!! ごほっ、ごほっ!!」
玄「・・・ハァ、ハァ・・・」
玄(嗅ぎすぎはダメか・・・一種の麻薬みたいなものね・・・)
玄「よ、よし・・・」
玄「あっ・・・お姉ちゃんもうすぐあがってきちゃう」
玄「脱衣所に着替え用意しておかなくっちゃ」タタッ
ガラッ
玄「・・・よいしょっと」
玄「お姉ちゃ~ん、着替えここに置いておくよ~」
「あっ、玄ちゃんありがと~」
玄「よし、戻ってお夕食の準備しなくっちゃ・・・っと」
玄「・・・」
玄(お、お姉ちゃんの脱ぎ立ての黒ストッキング・・・)
玄(す、すっごい蒸れてそう・・・)
玄(だ、ダメだよ私!! い、いくら何でも身内であるお姉ちゃんのものを・・・っ)
玄「・・・」
玄「・・・ち、ちょっとだけなら・・・」ガサゴソ
玄「あっ、あった・・・これだ・・・」
玄(すっごい湿ってる・・・まぁ今夏だし、人間の足は一日にコップ一杯分の汗をかくっていうしね・・・)
玄(ど、どんな匂いがするんだろう・・・か、嗅ぎたい・・・)
玄(で、でもでもっ、ここだといずれお姉ちゃんがあがってきちゃうよ・・・)
玄「で、でもっ・・・もう我慢できない・・・っ」
玄「・・・ちょっと嗅ぐだけだし・・・」
玄「・・・」スンスン
玄「・・・ッ!!!!!」ビリビリッ
玄(憧ちゃんのとは比較にならないほどの強烈な激臭・・・ッ)
玄(こんな臭いがお姉ちゃんの体から出てるとは到底思えない・・・)
玄「・・・」
玄(でも、なんだろう・・・)
玄「・・・」スンスン
玄(この匂いは・・・嗅いでいても辛くない・・・)
玄(むしろいつまででも嗅いでいたい・・・ッ)フンガフンガ
玄(こんな・・・こんな匂いが本当に存在するの・・・?)
ガラッ
玄「・・・っ!?」ビクッ
宥「ってあれ・・・玄ちゃん、どうしてここn」
玄「・・・」
宥「・・・」
玄「・・・お、お姉ちゃん・・・こ、こ、これはね・・・その・・・」
宥「・・・」
玄「・・・」
宥「・・・ひどいよ・・・」
玄「・・・お、お姉ちゃん・・・私・・・」
宥「ひどいよ玄ちゃん!! 私よりも先に靴下の臭いを嗅いじゃうなんてっ!!」
玄「・・・えっ」
宥「お風呂あがったらじっくり嗅ごうと思ってたのに・・・」
玄「えっ・・・でもこれお姉ちゃんのじゃ・・・?」
宥「そうだよ・・・だって玄ちゃん、憧ちゃんの靴下嗅がせてくれなかったから・・・」
玄「あ・・・」
宥「だからまずは自分のものの臭いを嗅いでみようと思ってたのに・・・ううっ・・・」
玄「お、お姉ちゃん・・・っ!」
宥「玄ちゃんに私の初めて奪われちゃったぁ・・・うわぁぁああああん・・・」ポロポロ
玄「あわあわ・・・ど、どうしよう・・・」
宥「・・・っ・・・ひっく・・・」
玄「お、お姉ちゃん・・・その・・・」
玄「えっ・・・責任・・・?」
宥「そ、そうだよ・・・私の初めて奪ったんだから、その責任・・・」
玄「せ、責任って・・・どういう・・・」
宥「玄ちゃんのムレムレニーソストッキングの臭い・・・嗅がせてよ・・・」
玄「・・・っ!? お、お姉ちゃん!?」
宥「・・・」ズイッ
玄「お、お、お姉ちゃん、ここじゃまずいよっ!!」
宥「場所なんて関係ないよ・・・」
玄「で、でもっ・・・お父さんたちもうすぐ帰ってくるし・・・っ」
玄「そ、それに、お姉ちゃんそのままの格好じゃ・・・その、風邪引いちゃう・・・」
宥「あっ・・・」
玄「・・・お、お姉ちゃん・・・?」
宥「いいよ・・・わかったよ・・・」
玄(お、お姉ちゃん・・・ホッ・・・)
宥「じゃあそのかわり・・・今日の夜、玄ちゃんの部屋行くから」
玄「・・・えっ」
宥「・・・だからそれまでお風呂入らないようにしてね・・・」
玄「えっ・・・お、お姉ちゃん」
宥「ふふっ・・・楽しみにしてるよ、玄ちゃん・・・ふふふっ・・・」
玄(・・・お、お姉ちゃんが怖いよ~~~~~っ!!)
玄「・・・ううっ・・・」ドキドキ
玄(お、お姉ちゃんもうすぐ来るはずだよね・・・)
玄(わ、私・・・なんでこんな緊張してるんだろう・・・)
玄(ただお姉ちゃんに私の靴下の臭い・・・嗅いでもらうだけなのに・・・)
玄「・・・」
玄(でも・・・もしお姉ちゃんに拒絶されちゃったらどうしよう・・・)
宥『おえ・・・く、玄ちゃんのニーソくっさぁ!!!』
玄(・・・な、なんて言われたりしたら私・・・っ)
ガチャ
宥「玄ちゃ~ん・・・おまたせ」ニコリ
宥「こないわけないよ・・・玄ちゃんのニーソが嗅げる絶好の機会なのに」
玄「・・・///」
宥「? どうしたの玄ちゃん」
玄「そ、そのっ・・・やっぱり嗅ぐの・・・? お姉ちゃん・・・」
宥「あったりまえだよ~。そのためにお母さんたちが寝るまでずっと我慢してたんだから~」
玄「・・・ううっ・・・」
宥「どうしたの玄ちゃん・・・?」
玄「わ、私・・・お姉ちゃんに嫌われないかどうか・・・不安で・・・」
宥「・・・」
宥「大丈夫だよ~。玄ちゃんみたいなかわいい子のニーソが、臭いわけないじゃない」
玄「・・・お、お姉ちゃん・・・」
宥「ほら・・・大丈夫だから、ね? ・・・早くお姉ちゃんに玄ちゃんのムレムレ変態ニーソの臭い嗅がせて?」
玄「・・・はい、お姉ちゃん・・・これ」スッ
宥「・・・え、なにこれ玄ちゃん」
玄「えっ・・・だから私のニーソだよ・・・?」
宥「・・・玄ちゃん・・・わかってないなぁ・・・」
玄「・・・え、えっ?」
宥「せっかく本人がいるのに、わざわざ脱いだものを嗅ぐ人がどこにいるっていうの~」
玄「お、お姉ちゃん・・・それって・・・」
宥「ほら・・・早くもう一度履いて? 玄ちゃん」
宥「玄ちゃんのムレムレ変態びしょびしょ純情ビッチニーソの臭い・・・直に嗅いであげるから・・・」
宥「・・・」
玄「・・・お、お姉ちゃん?」
宥「早くベットに腰掛けなさい・・・お姉ちゃんの命令よ」キリッ
玄(い、いつもの温厚なお姉ちゃんじゃない・・・)
玄「・・・は、はい・・・」
ギギッ
宥「足こっちに寄こして・・・」
玄「・・・はい・・・」
宥「・・・」
宥「ふふっ・・・ほんとにびしょびしょに濡れちゃってるね・・・玄ちゃんのここ」クニクニ
玄「・・・んっ・・・///」
宥「待ってて・・・今お姉ちゃんが玄ちゃんの初めて・・・奪ってあげるから・・・」
玄「・・・う、うん・・・///」
宥「・・・」スン
玄「・・・ど、どう・・・お姉ちゃん・・・?」
宥(こっ・・・これは・・・!!)
宥「・・・」スンスン
宥「・・・っ///」
玄「お、お姉ちゃん・・・?」
宥「ふふっ・・・玄ちゃんのえっちでムンムンな臭いがプンプンする・・・」
玄「・・・え、えっち・・・?」
宥「そうだよ・・・玄ちゃんはお姉ちゃんに足の臭いをかがれて興奮する変態さんだよ」
玄「そっ・・・そんなこと・・・」
玄「あっ・・・///」
宥「やっぱり・・・玄ちゃんはエロエロだね・・・」
玄「ちっ・・・違うってば・・・お姉ちゃんが・・・あんっ・・・///」
宥「くすくす・・・安心して玄ちゃん・・・」
宥「玄ちゃんの足の臭い・・・お姉ちゃんの大好物になっちゃったから・・・///」
玄「・・・っ///」
宥「・・・じゃあ、次は指の間をくぱぁって開いてごらん・・・」
玄「・・・こ、こう・・・?」
宥「そうそう・・・玄ちゃんのここはどんな匂いがするのかなァ・・・」
宥「・・・ほら、玄ちゃん・・・お姉ちゃんにお願いしないと」
宥「そうだよ・・・お姉ちゃんに『私のえっちな足指の隙間を犯してください』って」
玄「そ、そんな恥ずかしいこと言えないよぉ・・・」
宥「言わなきゃお姉ちゃん、もう帰っちゃうよ・・・?」
玄「うっ・・・ううっ・・・」
宥「ほら、ほんとはもっと嗅いでほしいんだよね? ド変態さんだもんね? 玄ちゃんは」
玄「お、お姉ちゃぁん・・・い、いじめないでよぉ・・・」
宥「いじめてなんかないよォ・・・これは教育だよ玄ちゃん」
玄「・・・き、教育・・・?」
宥「お姉ちゃんがかわいい妹のために色々なことを優しく教えてあげるのは当然だけど―――」
宥「それでも言うこと聞かないイケない子には、ときにはこうやって厳しくすることも必要なんだよ・・・玄ちゃん」
玄「・・・うっ・・・」
玄「・・・ううっ・・・わ、私の・・・」
宥「うん、玄ちゃんの・・・なに?」
玄「わ、私のえっちで変態な・・・」
宥「ふふっ・・・そうだよ、玄ちゃんはえっちでド変態な淫乱ビッチだよ」
玄「・・・ううっ・・・わ、私のえっちで淫乱でド変態なこの足指の隙間を・・・」
宥「そうそう・・・いい感じだよ・・・玄ちゃん」
玄「―――お、お姉ちゃんに無理やり犯されたいです・・・っ!!」
宥「・・・ふふふ、よくできました玄ちゃん」パチパチ
玄「・・・ううっ・・・お、お姉ちゃん早く・・・」
宥「玄ちゃんはほんとに我慢できない子だね・・・いいよ、玄ちゃんが嫌っていうまで嗅ぎ犯してあげる・・・///」
玄「・・・ぁ///」
宥「・・・」フゴフゴフゴ
玄「んぁ・・・そんな・・・鼻押しつけて嗅がないで・・・っ///」
宥「・・・んっ・・・嫌だよっ、やめないよっ!!」フンガフンガフンガ
玄「いやぁ・・・あんっ・・・お、お姉ちゃんっ・・・///」
宥「・・ふふっ、かわいい・・・ペロペロしちゃお・・・」ジュルリ ペロペロ
玄「あっ・・・そ、そんなに舐めたら汚いよぉ・・・」
宥「・・・ぁあ・・・玄ちゃんっ・・・!」ハムハム
玄「・・・んぁ・・・やだ・・・やめっ・・・て・・・
宥「・・・玄ちゃん・・・玄ちゃんっ・・・!!!」ハムハムッ
玄「らめぇ・・・ハムハムしちゃらめぇえええええええええッ!!!」
宥「ハァ・・・ハァ・・・」
玄「・・・っ!」ピクッ
玄「あ、あれぇ・・・私、どうして・・・」
宥「ハァ・・・あはっ・・・玄ちゃんおはよう・・・」
玄「お、お姉ちゃん・・・」
宥「ふふっ・・・玄ちゃんのニーソ、しゃぶりつくしちゃった・・・///」
玄「・・・あっ・・・///」
宥「今度また嗅がせてね・・・玄ちゃんの変態ニーソの匂い・・・///」
玄「うん・・・いつでもいいよ、お姉ちゃんなら・・・///」
こうして松実姉妹の長い長い夜は続いていく―――
第二部・完
憧「はぁ・・・ただいま」
望「あらおかえり憧」
憧「・・・ん・・・あぁ、お姉ちゃん帰ってたんだ」
望「うん、今日はほとんど何もすることがなくてね。早帰りできたの」
憧「ふーん」
望「なんか元気ないわね」
憧「・・・ちょっと具合悪くてさ、部活も早退してきた」
望「あら、大丈夫なの?」
憧「うん・・・風邪じゃないし、横になってればたぶん治ると思う」
憧「うん、さんきゅ・・・」
憧「・・・」
憧「あ、あのさ・・・お姉ちゃん・・・っ」
望「ん、なに?」
憧「わ、私って・・・さ・・・」
憧「小さい頃とか、その・・・足臭かったりした・・・?」
望「え、なに突然・・・」
憧「う、ううん! や、やっぱ何でもない! 寝てくる!」ダダッ
望「? 変な子ね」
憧「はぁ・・・私ったらなにわけわかんないこと聞いてるんだろ・・・」
憧「・・・」
憧「でも、女の子としてはさ・・・やっぱり足が臭うとか絶対許せないもん・・・」
憧「・・・すぅ・・・はぁ・・・えいっ」クンカクンカ
憧「うごぇ! げほっ、げほっ!!」
憧「・・・」
憧「あぁ・・・もうなんか泣きたい・・・」
憧「先にお風呂入ってきた方がいいかも・・・気になっちゃうし」
憧「特に足は念入りに洗わないとね・・・」ガチャ
望「あぁ、あんたお風呂入ってたのね」
憧「え・・・あ、うん・・・なんか気分さっぱりしたくてさ」
望「・・・」
憧「ど、どうしたの、お姉ちゃん?」
望「憧、あんたもしかして・・・足の臭い気にしてんでしょ?」
憧「・・・っ!?」ギクッ
憧「な、なななななななんで・・・っ」
望「あぁその反応で確信したわ。やっぱり気にしてたんだ」
憧「そ、そそそそっそそそそそんなことないわよっ!!」
望「まぁ今更隠し事なんてしなさんな。姉妹でしょうが」
憧「うっ・・・うぅ・・・」ショボン
憧(とりあえず穏乃変態行為に関しては伏せて、大まかに事の経緯を説明したわ・・・)
望「んじゃ、とりあえずその臭いってやつを嗅がせてよ」
憧「イヤに決まってんでしょ」
望「うそよ、じょーだん冗談。あたしだって嗅ぎたくないわよ」
憧「・・・」
望「まぁ女の子ってどうしても足蒸れやすいからねぇ・・・」
望「あんたはまだいい方よ。社会人になってパンストとかブーツ履きだしたらもっと悲惨」
憧「まさかお姉ちゃんも悩んでたりするの・・・?」
望「そりゃ仕事上足袋は必須だからね・・・あれもけっこう蒸れんのよ」
憧「・・・そっか」
望「でも何も対策してないわけじゃないのよ?」
憧「た、対策なんてあるのっ!?」
憧「・・・う、うん」
望「・・・えっと・・・おお、あったあった」ガサゴソ
望「これが今日一日私が履いてた足袋。ちょっと嗅いでみなさい」
憧「・・・」スンスン
憧「・・・うーん」
望「・・・なによその微妙な反応は」
憧「まぁ私のよりは全然マシだってことだけは言えるわ」
望「あんたどんだけ臭いのよ・・・」
憧「い、いいでしょ!? さ、さっさと教えてよその対策ってやつ!」
憧「別に不潔にしてるつもりはないけど・・・」
望「普通じゃだめなのよ。たぶんあんたは遺伝だか何だか知らないけど、他の人よりも臭いやすい体質だと思うの」
憧「それってけっこうひどい言い草よね・・・」
望「拗ねないの。私だってあんたと姉妹なのにこんだけしか臭わないのよ?」
望「ってことは対策次第ではここまで抑えられるってことよ」
憧「・・・うん」
望「まぁまずはお風呂でちゃんと足の指の隙間まで念入りに洗うことね」
望「今あんたお風呂入ってきたんでしょ? ちゃんと洗った?」
憧「うん、さっきはね・・・でも今まではそこまで気にしてなかったから、かなり適当だったかも・・・」
望「そう。じゃまずそこを改善」
憧「・・・うん」
憧「え、じゃあなんなの?」
望「汗は基本無臭なの。けど、そこに雑菌が繁殖して汗と混じり合うと異臭を発するようになるわけ」
憧「へぇ・・・」
望「それで、この時期は特に足が蒸れやすいじゃない?」
望「だからこそ、家の中だけじゃなく外でもちゃんとしたケアが必要なのよ」
憧「外って・・・どこでやればいいの?」
望「トイレの個室でもどこでもいいわよ」
望「市販品で足拭きシートみたいなの売ってるから、まずそれ買ってきなさい」
望「あとはそうねぇ・・・あんたは制服だし無理かもしれないけど、ソックスを絹製にすると通気性がよくなって臭いにくくなるわ」
望「まぁとりあえず、足を常に清潔にして、なるべく蒸らしたままの状態を維持させないことが重要ね」
望「消臭スプレーとかあるにはあるけど、根本的な解決にはならないからおすすめはしないわ」
望「まぁまずは今さっき私が言った通りのこと、実践してみなさい」
憧「・・・うん、お姉ちゃんありがとう」
望「いいのよ。まさかあんたが足の臭いで相談もちかけてくるとは思いもしなかったけどw」
憧「う、うるさいなぁ・・・」
望「ま、がんばんなさい」
憧「・・・」
憧(よ、よしっ・・・がんばるぞ)
憧「・・・」
憧(あの後、急いでウ○ルシアとし○むら行ってきて、足拭きシートと、絹製の靴下買ってきた―――)
憧(んで今日の昼休みは、ちゃんと足全体をシートで拭きとって清潔にしといた―――)
憧「そして今、私は再びトイレの個室にいる―――」
憧(あれだけやったんだから、大丈夫なはず・・・)
憧「・・・」
憧「いくぞ、私・・・っ」スンスン
憧「あれ・・・臭い・・・とれてる・・・?」
憧「うそ・・・やった・・・ついにやったぞ・・・」
憧「やっほおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
「っ!?」「ちょ、なに今の!?」「変人!?」
憧(あ、いけね・・・感激のあまりうっかり声あげちゃった・・・///)
憧(でも、これでやっと足の臭いの悩みから解放されるぞ・・・っ)
憧(早くシズに報告しないとなぁ!!)ワクワク
憧「おーっすみんなぁ! 麻雀打ってるー!?」
憧「ってあれ、今日は私が一番のりか。ちぇ、つまんないの」
憧「てかシズはたしか私よりも先に教室を出て行ったわよね・・・?」
憧「てっきり先に部室行ったものだと思ってたけど・・・」
憧「―――うーん、みんな早く来ないかな・・・」
---------------------
カァーカァー
憧「・・・」
憧(結局誰ひとりこなかった・・・)
憧(みんな用事でもあったのかな・・・)
憧(・・・帰ろう)トボトボ
憧(シズもあんな臭い靴下なんかよりも、今の方がきっと喜んでくれると思うし)
憧(あのシズの無邪気な笑顔・・・また見たいな・・・なーんて///)
憧(・・・うーん、考えれば考えるほどシズに会いたくなってきたわ・・・っ)
憧(よしっ、今からシズん家に乗り込もう! シズのやつきっと驚くぞ~・・・ふふっ)
---------------------
ピーンポーン
憧「ごめんくださーい」
憧「・・・」
ドタバタッ
憧「・・・?」
憧(シズのやつまたドジしてんのかな・・・)
ガチャ
穏乃「あっ、すみません・・・お待たせしましたっ」
憧「よっ、シズ」
穏乃「あ、憧・・・!? ど、どうしたのさ急に・・・?」
憧「いや、シズ今日部活来なかったでしょ? だから心配になってさ、様子見に来たの」
穏乃「へぇ・・・そっか、あははっ・・・憧には悪いことしたね」
憧「別にいいのよ。それよりもさ、シズ聞いてっ! 私、足の臭いなくなったのよ!?」
穏乃「へ? あ、足の臭い・・・?」
憧「うん、昨日自分の足の臭さにあまりにもショックを受けちゃってさぁ・・・w」
憧「あれからお姉ちゃんにアドバイスしてもらって色々試したら、今全っ然臭わなくてさぁ! すごくない!?」
穏乃「へ、へぇ・・・それはすごいね」
憧「・・・? シズ、さっきからどうしたの?」
憧「いやなんか挙動不審だし・・・」
穏乃「そ、そんなことないよ・・・っ」
憧「ほんと・・・?」
穏乃「ほ、ほんとほんと・・・」
憧「・・・」
穏乃「・・・あはは」
憧「じゃあ、その背中に隠してるのはなに?」
穏乃「・・・っ!?」
憧「ちょっと見して」
穏乃「い、いやこれは・・・っ!!」
憧「別にいいじゃない・・・貸しなさいよっ!」ガシッ
穏乃「あっ・・・」
穏乃「え・・・あ、うん・・・」
憧「・・・私のじゃないわよね・・・誰の?」
穏乃「え・・・えっと、お、お母さんのだよ・・・」
憧「・・・嘘でしょ」
穏乃「・・・っ!」
憧「まさかシズ・・・浮気してたの?」
穏乃「う、浮気って・・・べ、別に私と憧、付き合ってるとかそんなんじゃ・・・」
憧「でも、昨日はあんなに私の靴下の臭い好きだって言ったじゃない・・・っ!!」
穏乃「・・・」
憧「ねぇ、なんでよシズ!? 私の靴下じゃやっぱり物足りなかった!?」
穏乃「・・・」
憧「なんで黙ってるのよシズ・・・」
憧「・・・あっ、そうだ! 私の新しい靴下の臭い嗅いでみてよっ!」
穏乃「え・・・」
憧「これ嗅げばきっとそんな誰のとも知れない靴下なんか気にならなくなるはず・・・っ!!」ヌギヌギ
憧「ほら、嗅いでみて・・・!!?」
穏乃「・・・」
憧「ほら早くっ!!」
穏乃「・・・」スンスン
憧「・・・ど、どう?」
穏乃「うぉえ・・・」
憧「・・・え?」
穏乃「あ、憧・・・これほんとに憧の靴下なの・・・?」
憧「ええそうよ、だって今さっき目の前で脱いで見せたじゃないっ」
憧「え・・・」
穏乃「これじゃまるで腐ったドブネズミの腐乱臭だよ・・・っ!!」
憧「・・・ッ!?」
穏乃「憧には幻滅したよ・・・やっぱり見切りをつけといて正解だったかもね・・・」
憧「・・・そ、そんな・・・シズ・・・」
穏乃「もういいでしょ・・・帰ってよ」
憧「シズ・・・っ!!」
穏乃「帰ってって言ってんでしょ・・・っ!!」
バタンッ
憧「・・・そ、そんな・・・」
「ふふっ・・・」
憧「だ、誰・・・っ!?」
「・・・」
憧「あ、あんたは・・・」
---------------------
穏乃「いやァ・・・さっきの灼先輩の顔おもしろかったー」
穏乃「ん? あれこれって・・・白いソックス?」
穏乃「なんで一足だけ・・・」
穏乃「・・・」
穏乃(そ、そういえば今日は玄先輩に取り上げられちゃって憧の靴下がないんだよね・・・)
穏乃「・・・」ゴクリ
穏乃「こ、これは浮気じゃないんだからね・・・」スンスン
穏乃「・・・ッ!!?」ビビバビブベボッ
「あの~すみませ~ん!」
穏乃「・・・ッ!?」ビクッ
「・・・ハァ、ハァ・・・あの、こちらで私の靴下を見かけませんでしたか?」
穏乃「えっと・・・これ・・・ですか?」
「あ、それです! ありがとうございますっ・・・って、あれ・・・」
穏乃「あ・・・」
和「し・・・穏乃・・・?」
穏乃「な、なんでここに・・・」
和「や、やっと会えた・・・っ!! 穏乃っ!!」ダキッ
穏乃「あっ・・・ちょ、和っ・・・///」
和「よかった、ほんとによかった・・・」
穏乃(・・・む、胸が・・・当たってる・・・///)
和「ふぅ・・・元気でしたか? 穏乃」
穏乃「う、うん・・・まぁね。和は?」
和「私は・・・ちょっと元気じゃなかったです」
穏乃「そうなの・・・?」
和「だって・・・穏乃に会えなかったから・・・///」
穏乃「え・・・」
和「・・・長野に行ってからも、私ずっと穏乃のこと考えていました」
和「周りはオカルトチックな雀士ばかりで・・・ちっとも馴染めなかったんです」
和「だから我慢できずに、ついに今日新幹線で来ちゃいました・・・///」
穏乃「和・・・そんなに私のこと思って・・・」
和「穏乃・・・覚えてますか? 私たちがまだ小学生だった時にこの河原で何してたか・・・」
穏乃「ま、まさか和も覚えてた・・・の・・・?」
和「はいっ・・・もちろんですよ///」
穏乃「靴下の嗅ぎ合い・・・だよね」
和「ええ・・・懐かしいです」
和「ほ、本当ですか・・・? そ、それで感想は・・・」
穏乃「すっごい・・・すっごいよかったよっ!! この世のものとは思えないほどの、なんていうか神聖な香りだった!!」
和「穏乃・・・私、嬉しいです///」
穏乃「わ、私もだよ・・・和///」
和「じゃあまた昔みたいに・・・」
穏乃「あ・・・の、和・・・」
和「・・・?」
穏乃「わ、悪いんだけど・・・それはできない・・・」
和「え・・・」
穏乃「もう私、この人しかいないってパートナー・・・見つけちゃってるんだ・・・」
和「え、だ、誰ですか!? それは・・・」
穏乃「・・・憧だよ」
和「・・・っ!?」
和「・・・」ギリッ
穏乃「・・・だから、ごめんね・・・」
和「・・・」
穏乃「和と会えたのは本当にうれしいよ・・・でも私、憧を裏切れない・・・」
和「穏乃・・・」
穏乃「それじゃ・・・またね・・・」スタスタ
和「・・・穏乃っ!!」ダキッ
穏乃「・・・っ!? の、和!?」
和「穏乃・・・私じゃ・・・不服ですか・・・?」
穏乃(の、和・・・背中に胸当たってるよ胸っ!!)
穏乃「そ、それは・・・そういう問題じゃなくて・・・」
和「じゃあどういう問題なんですか!?」
穏乃「・・・私は・・・私は憧を、裏切れないよ」
和「・・・」
和「穏乃は薄情ですね・・・一時でも距離が離れただけで、私のことは全て忘れてさようならですか・・・」
和「転校した後も、私が穏乃のことをどれだけ思っていたか・・・」
穏乃「・・・っ」
和「・・・穏乃・・・わかりました。あなたがその気なら・・・」
穏乃「・・・の、和?」
和「実力行使で奪い去るだけです・・・っ!!」バッ
穏乃「・・・もがっ!! もっ、ももヴぁ!!」
和「さぁ味わってください・・・私のソックスの香りを・・・とくとっ!!」
穏乃「の、ど・・・か・・・っ」
穏乃(やばい・・・和の香りに脳みそが犯される・・・っ!!)
和「ほんとは私の方がいいんでしょう・・・? 穏乃・・・」グイグイッ
穏乃「そ、んな・・・私は・・・憧が・・・」
和「ふふっ・・・いくら強がったって無駄ですよ・・・」
和「・・・穏乃は昔も今も変わらず、私のソックスしか愛せないんですっ!!」
穏乃「・・・っ!」
和「ほらほらほらっ!! 私を愛してっ!! 私だけを・・・っ!!」
穏乃(やばい・・・も、もう限界だ・・・)
穏乃(ご、ごめん・・・憧・・・私・・・)
穏乃「」ガクリッ
和「・・・ふふっ・・・」
---------------------
和「そして一晩中私の臭いをかがされた穏乃は・・・もうすでに私の虜となってしまいました・・・」
憧「あんた・・・外道がっ!!」
和「ははっ・・・なんとでも言ってください。負け犬さん♪」
憧「穏乃の体も心も穢して・・・あんただけは絶対許せないっ!!」
和「・・・は? 穢した? 逆でしょうが・・・」
和「―――あなたに穢されていた穏乃を、私が清めてあげたんですよっ!!」
憧「う、うるさい!!」
和「ふふっ・・・まぁあなたがなんと吠えたてようと、穏乃の心はもう元には戻りませんよ」
和「さぁ・・・さっさと帰ってくださいこの腐れビッチがっ!!」
憧「くそっ・・・くそっ・・・!!」ダンッ
憧「和のやつ・・・許せないっ・・・」
憧「でも・・・シズはさっき・・・」
穏乃『憧には幻滅したよ・・・やっぱり見切りをつけといて正解だったかもね・・・』
憧「あれはシズの本心だったのかな・・・だとしたら私は・・・」ポロポロ
「なにを弱気になっているんだ、憧」
憧「・・・え? あ・・・晴絵・・・」
伝説(どやっ
灼「そうだよ・・・シズの心を取り戻せるのは、憧しかいない」
玄「憧ちゃんならきっとできるよっ」
宥「私たち信じてるよ~」
憧「み、みんな・・・」
憧(それに・・・シズを想う私の気持ちって、こんなことで崩れちゃうほど弱かったのか・・・?)
憧(いいや違う・・・この想いだけは誰にも負けない・・・負けたくなんかないっ!!)
伝説「いい目だ・・・」
灼「憧、あんたは自分がどうするべきなのか・・・もう知ってるはずだよ」
憧「・・・うんっ」
玄「行けっ、憧ちゃん!!」
宥「ファイトだよ~」
憧「みんな、ありがとう・・・っ!!」ダダッ
憧(私は・・・私はこの足の臭さが嫌いだった・・・っ!!)
憧(けどっ、シズを失うのはもっと嫌だっ・・・!! それに・・・)
憧(・・・シズが好きになってくれた私は・・・あの足の臭かったころの私じゃないか・・・っ!!)
憧(いくぞ・・・私っ!!)
憧(決戦は・・・明日だっ!!)
翌日・教室
憧「・・・シズ」
穏乃「・・・なに・・・もう話しかけてこないで」
憧「・・・っ」
憧「・・・シズ、今日の放課後・・・和を連れて部室に来て」
穏乃「・・・なんで」
憧「大事な話があるから・・・絶対だよ?」
穏乃「・・・」
憧「・・・」
---------------------
和「ねぇ穏乃・・・なんで私がこんなところに・・・」
穏乃「ごめん和・・・でも、これもけじめなんだ」
和「・・・」
穏乃「たぶん憧は・・・今日和に決闘を申し込んでくる」
和「・・・」
穏乃「でもそこで、憧が和に打ちのめされれば・・・」
穏乃「・・・っ」
穏乃「も、もう二度と私たちの前に現れてくることもない、はず―――」
和「・・・なるほど、さすが穏乃ですね。そうとわかったら―――」
和「私も、本気で相手をしなければなりません」ヌギヌギ
ガチャ
憧「・・・シズ」
和「・・・ふふっ・・・来ましたね、負け犬ビッチ」
和「さぁ・・・始めるんでしょう? 私はもう準備できてますよ」
憧「・・・シズ」
穏乃「・・・」
憧「私、あんたを絶対に連れ戻すから―――」
穏乃「・・・っ」
和「戯言ですね・・・ほら、シズ。まずは私のソックスの臭いを嗅いでください」スッ
穏乃「・・・」スンスン
穏乃「・・・っ!!」ビビビビビッ!!!
憧「・・・っ!?」
穏乃「・・・くっ・・・うぅ・・・///」
憧(あ、あんな恍惚としたシズの表情・・・初めて見た・・・)
和「ふふっ、どうですか穏乃・・・? 私のソックスの香りは・・・」
穏乃「す、すごい・・・っ!! さすが和だ・・・///」
憧「・・・っ」
和「ふふっ・・・そうでしょう?」
和「ほら、穏乃もこう言っていることですし・・・もう諦めたらどうですか? 憧ビッチさん」
穏乃「・・・」
穏乃(・・・そうだよ、憧・・・もう諦めて・・・)
穏乃(私なんて・・・和の誘惑に屈して、君を見捨てたひどい奴でしょ・・・?)
穏乃(そんな奴のために、こんな頑張ることないって・・・)
穏乃(もうやめてよ・・・憧・・・)
憧「・・・」ヌギヌギ
和「・・・あら、続けるんですね。ほんと愚かな人です・・・」
憧「・・・」
憧「・・・シズ、さぁ嗅いで・・・これが私の全力投球よ・・・っ!!」
穏乃「」
和「・・・」ゴクリ
憧「シズ・・・どう?」
穏乃「・・・」プルプル
憧「・・・シズ・・・?」
和「し、穏乃・・・? まさか・・・」
憧「・・・泣いてる?」
穏乃「・・・っく・・・えっぐ・・・」ポロポロ
和「・・・し、穏乃!? ど、どうしたんですか・・・!?」
穏乃「・・・っ、和・・・ごめん・・・」
和「え・・・? それってどういう・・・」
穏乃「でも今、二人の靴下を同時に嗅いでわかったんだ・・・」
穏乃「靴下って・・・結局は、好きな人の香りが一番鼻に“くる”んだなって・・」
穏乃「匂いが良いか悪いかじゃない・・・人と人との相性の問題だったんだ・・・」
穏乃「二人の靴下は客観的に嗅いだら五分五分で、どっちも素晴らしい匂いだったと思う・・・」
穏乃「でも・・・やっぱり心の底から私が本気で“好き”って言えるのは―――憧のしかないって、そう思った」
憧「・・・し、シズっ」ポロッ
穏乃「私・・・ぶれまくってるよね・・・最低だよね・・・こんなに二人の心をもてあそんで・・・」
穏乃「でも、私・・・やっぱり憧の靴下が好きなんだ・・・っ」
穏乃「だから、和・・・ごめん・・・こんな最低な私を許してほしい・・・」
和「・・・」
穏乃「・・・の、和・・・」
憧「・・・」
和「ごめんなさい、憧・・・今までひどいこと言って」
和「私、羨ましかった・・・あなたとシズ、傍目から見ても明らかに相性のよさそうな二人が・・・」
和「だから奪い取ってやりたいと思った・・・私も穏乃ことが本当に好きだったから―――」
和「でも・・・やっぱり両想いのパワーには敵わないってことですね・・・はは」
憧「・・・和・・・」
和「憧、シズをよろしくお願いします」
憧「・・・うん、任せて。私、ぜったいシズを幸せにするっ! 悲しませたりしないっ!」
和「・・・ありがとう。それからシズ―――」
和「今までのこと・・・ほんとにごめんなさい」ぺこり
和「最後にお願い・・・聞いてもらってもいいですか?」
穏乃「・・・なに?」
和「穏乃の靴下の臭い・・・嗅がせてほしいんです」
穏乃「・・・憧・・・?」
憧「・・・もちろんよっ、ほら、嗅がせてあげてっ」
穏乃「・・・う、うん・・・」ヌギヌギ
穏乃「・・・はい、和」スッ
和「・・・」
和「・・・」スンスン
穏乃「の、和・・・大丈夫!?」
和「・・・えっぐ・・・だ、大丈夫です・・・っ」
憧「・・・ほ、ほんとに?」
和「え、ええ・・・ただ・・・き、気づいてしまったんです・・・わたし・・・」
穏乃「・・・」
和「し、穏乃のこと・・・本当に好きだったんだなって・・・っ」ニコッ
穏乃「の・・・和・・・」
和「今までご迷惑おかけしました。私、長野に帰ります」
穏乃「・・・」
和「お見送りはけっこうです。私、向こうでもがんばります。願わくば、自分のパートナーも見つけて見せますっ」
和「・・・二人とも、お元気で―――」
憧「うん・・・」
穏乃「和・・・さようなら・・・元気で・・・」
ガチャリ
向こうの麻雀部にもだいぶ慣れてきたようで、ちょっと気になる人も見つけたそうだ―――
そして私たちは―――
憧「・・・シズ・・・どう?」
穏乃「やっぱり憧の靴下は最高だよっ!!」パァアア
憧「そう、よかったっ!」
穏乃「~~~~♪」クンカクンカ
憧「・・・ふふっ」
穏乃「・・・? なに?」
憧「あの・・・えーっと・・・その、さ・・・///」
穏乃「・・・?」
憧「あ、ああああんたの靴下の匂い・・・私にも嗅がせてよ・・・///」
穏乃「・・・」
憧「・・・ダメ?」
穏乃「・・・っ」パァアア
穏乃「もっちろん!! おっけーだよ!!」
おわり
乙でした
おつおつ
Entry ⇒ 2012.06.24 | Category ⇒ 咲-Saki-SS | Comments (0) | Trackbacks (0)
P「結婚してくれ、律子」 律子「ふぇっ?!」
P「冗談でこんなのこと言うと思うか?」
律子「っ……」
律子「でも……そんな急に言われても……ぷ、プロデュースはどうするつもりですか!」
P「正直続けたい。だがアイドルたちもいい顔はしないだろうしやめる覚悟もできているんだ」
律子「プロデューサー……」
律子「ドッキリならこの辺でばらしておいてもらわないと流石に怒りますよ?」
P「なっ!だ、だから本気だって言ってるじゃないか!」
律子「あーはいはい。どうせみんな陰に隠れてドッキリ大成功~とか言う準備してるんでしょ。もう出てきてもいいわよ」
P「……」
ってことで6+2+3=>>11今後の展開
1.結婚エンド
2.ドッキリエンド
3.保留エンド
その他律っちゃんが不幸にならない程度になら要望も可
即興だから保守ヨロ
P「いや、俺もまだまだ甘いし、比べるわけじゃないけどそれでもこんな子がってな」
律子「……はぁ」
P「で、いざ仕事が始まったらこれだよ。目を疑ったさ」
P「事務員みたいな仕事してるならまだしも、しっかりいっぱしのプロデューサーとして動いてるんだもんな」
P「その姿があまりにも輝いて見えたから、その頃は嫉妬してた」
P「でもなんていうんだろうなぁ、やっぱり才能って言うのか?がむしゃらに努力しても俺のプロデュースするアイドルは変わらず、竜宮だけが上り詰めた」
P「そこで気が付いたんだ、ただプロデュースするんじゃなくて、アイドルの目線でプロデュースすることの大切さを」
P「おかげで今ではうちのアイドルは全員名が知れた。もちろん俺のプロデュースなのは結果だが、きっかけは紛れもなく律子、お前だった」
P「だから……好きになってたっていうのかな」
律子「ちょ、ちょっと待ってくださいよ。ドッキリ……じゃないんですか?」
P「……だから違うっていってるじゃないか。こんなに真剣に話というかプロポーズをしてるってのに」
律子「プロッ…!あーもうとにかく今はそういう気分じゃないんです!別の機会にしてください!」バタン
P「あ、律子っ………もっとうまくいくと思ったんだけどな……」
律子「…………結婚…?そんな…私なんかが……」
律子「……はぁ……」
(P「結婚してくれ、律子」)
律子「(結婚ってまだ付き合ってもいないじゃない……でも私だってプロデューサーのこと……?)」
律子「(いやダメ!私だけの問題じゃないもの。あの子たちだってプロデューサーのこと想ってる、それにまだ竜宮小町から手を放すわけにはいかない)」
律子「よし、まだまだ先は長いんだから焦らなくたっていいじゃない!」
プルルルル……
律子「あ、はい、秋月です。…………えぇっ!も、申し訳ございません!はい!すぐ向かいますので!」パタン
律子「う、嘘でしょ……。とにかく急いで行かなきゃ…!」
―――
――
―
P「えぇ!?亜美が倒れた!?」
小鳥「はい……今スタジオの控室で休んでいるみたいで…律子さんもすぐ駆けつけて向かったみたいですが…」
P「今日は……生放送の歌番組か!?」
小鳥「そうなんです……まさか歌ってる最中に倒れちゃうって…スタッフさんもてんてこまいですけど竜宮の3人が…」
P「マズイな……このままだと3人もそうだが律子も心配だ………小鳥さん、ちょっと俺行ってきます!」
バタバタバタ……ガチャン
律子「亜美っ!それに二人も!大丈夫!?」
亜美「あ……りっちゃんおはおは→……」
あずさ「おはようございます律子さん…亜美ちゃんしゃべらなくていいのよ……」
伊織「遅いじゃないのよ!……ごめんなさい……生放送だったのに…」グッ
律子「一体どうしたって言うの……」
あずさ「亜美ちゃん朝来た時から熱っぽくって、でも大丈夫大丈夫って言いながら無理しちゃったもんだから…」
亜美「ごめんねりっちゃん、あずさお姉ちゃん、いおりん……あの時亜美が自分で具合悪いって言ってたら……」
伊織「いいのよ……生放送の前に出られないなんて言ってたら私も何て言ったかわからないわ。それよりも気が付かなかった私もリーダー失格ね…」
律子「亜美……、あずささん……、伊織……」
律子「(今日はいつもの番組だから大丈夫と思って3人に任せたけど……これじゃあプロデューサー失格じゃない…!)」
スタッフ「あ、プロデューサーの方ですか?ちょっとすみません」
律子「は、はい……」
律子「申し訳ありませんでした…私が個々の体調管理に気を配れていなかったせいで…」
ディレクター「いやいや、別に終わったことだからいいんだけどね、今まで765さんにはよくやってもらってたけど来週からはもういいからさ」
律子「!!そ、そんな!来週からはこんなこともうおこしませんのでどうか!」
ディレクター「そんなこといわれてもねーうちの局がおたくのアイドルを酷使してるみたいに言われちゃったしもう厳しいのよ」
律子「それは………」ジワッ
律子「(せっかくここまで積み上げてきた竜宮小町が、私のミスで……嘘……)」
P「ま、待ってください!!」
律子「!? ぷ、プロデューサー…」
P「今回の件、本当に申し訳ありませんでした!先ほどこちらの公式の方でアイドルの不調を掲載してきましたのでどうか、切り捨てないでください!!」
ディレクター「き、切り捨てるってキミ……はぁ、そこまで言うなら私の方からも掛け合ってみるよ。765さんにはお世話になってるから」
P「!! ほ、本当ですか!ありがとうございます!ありがとうございます!」
律子「あ、ありがとうございます!」
―――
――
―
律子「…………あの…プロデューサー?」
P「ん?あぁ、気にすることはないよ、何も律子だけのせいじゃ…」
律子「私のせいです!!」
P「!!」
律子「あ、いや…すみません……。……私が今日に限ってそれぞれで行ってくれなんて言ったから…」
P「そ、そんなのは偶然が重なっただけで…」
律子「よく考えたら昨日の夜、真美が亜美と話しているときに、『亜美顔赤くない?』って言ってたんです……その段階で私が気が付いていたら…」
P「いくらなんでも思い込みすぎだって……」
律子「これじゃあプロデューサー失格ですよね……」
P「そんなことはないって、たまたまが重なるとこういうことも起きるさ。次に活かしていけばいいじゃないか」
律子「………プロデューサーが見てきた輝いた私ってこういう感じでしたか?」
P「えっ?あ、いや、それは……」
P「あ、いやそういう意味じゃないんだ……」
律子「グスッ……ちょ、ちょっと風に当たってきますね」
P「あっ律子…………くっ、なんて声をかければいいんだ…」
P「…とりあえず竜宮小町に声をかけていくか…」ガチャリ
亜美「あ、兄ちゃん!やっほ→!」
P「亜美……もう起きて平気なのか?」
亜美「うん、ちょっと熱があるだけで休んだらもう元気100倍!…っとっと…」
あずさ「ほら亜美ちゃん無理しちゃダメよ?プロデューサーさんおはようございます。それで…こんなところにいていいんですか?」
P「え?」
伊織「あんたホント鈍いわねぇ。さっきから丸聞こえなのよ!それに、あんたの思ってることに気が付いてないとでも思ったわけ?さっさと律子のところに行きなさい!」
P「伊織………すまん!行ってくる!!」ガチャ…ダダダ
伊織「全く……手間のかかる二人だこと……」
P「律子~!律子いるか~!」
律子「なんですか……大声で叫ばないでくださいよ、近所迷惑じゃないですか…」
P「おぉ、いたか、すまんすまん。…………」
律子「…………」
P「……俺の中の輝いてる律子っていうのはさ…別に失敗してる律子でもそうなんだよ」
律子「……え?」
P「失敗しても次に活かせばいい、それは律子に教えてもらったことだ」
律子「…………」
P「今日はなんか心ここに非ずって感じでいつもの律子の貫録がなかった気がするぞ?」
律子「貫録ってなんですか……」
律子「(確かに私、今日は落ち着きが無かった…。……まさか今朝の?)」
P「………」ダキッ
律子「わっ!」グラッ
ああ、ギュってしたな!!
律子「…………」
P「今日みたいにさ、いつもの調子がでないときだってある。そんな日はリラックスしなきゃ体がもたないだろ?」
律子「……誰のせいだと思ってるんですか…」ボソッ
P「ん?なんか言ったか?」
律子「なんでもないですよ……、それよりもう離してください、暑いです…」
P「あ、あぁ、すまんすまん」
律子「……私は、こんなだから常に走ってないとダメなんです」
P「……うん」
律子「走って走って…それで今までうまくいってたからよかったです。でも今日みたいなことが起こって転んじゃうこともあるって知りました」
P「……そうだな」
律子「…正直プロデューサーが来てくれてなかったら竜宮の3人に合わせる顔がありませんでした。ありがとうございます」
P「いや…それは別にいいんだが…」
律子「プロデューサー。今朝の話は本当なんですよね?」
P「え?……あ、あぁ確かに本気でそう思ってる」
P「え?……それって?」
律子「か、勘違いしないでくださいよ!まだ付き合うって段階ならわかりますけどけ、結婚なんて……もしあるとしても竜宮小町が落ち着いたらです」
P「そうか……うん、もちろん止めてやるさ。そんでもって走ってる時は一緒に走ってやる。それで文句なしに結婚してやるさ!」
律子「も、もう……どうなってもしりませんからね……」
P「あ、そうだ。結婚指輪も用意してあったんだけど………これ、誕生日プレゼントだ」
律子「誕生日…プレゼント……?」
P「ま、まああわよくばプロポーズがうまくいけば記念日になるわけだし!狙ったっていいだろ!」
律子「あ、ありがとうございます……でも多分……」
P「え?な、なんかまずかったか?誕生日今日だよな!?」
律子「きょ、今日といいますか……時計みてくださいよ…」
P「時計……?……あ~!日付過ぎてる!…でも誕生日は昨日だからセーフだよなセーフ!」
律子「はぁ…それでいいですよ全く……ふふっ」
P「…ははっ……これからよろしくな?律子」
律子「いいえ、これから"も"、ですよ?プロデューサー?」 End
ちゅーして照れるりっちゃんとか誕生日のこと言ったら感動で泣いちゃうりっちゃんとか考えたけどこれが一番王道かなって
保守&駄文お付き合いあいサンクス
日付変わったけどおめでとうりっちゃん
あとはみなさんでお祝いしてあげてくださいな
結婚式を書いてもいいのよ
・・・エピローグ書いてもええんやで?
確かにいちゃいちゃさせ足りないからちょっと考えてみるわ
その前に風呂
今はウェディングドレスもレンタルの時代でしたっけ?まあ確かに家にあっても困るか…
今日は同じ職場の人の結婚式なんです。それも年下だし相手は私も狙ってたんだけど…
い、いや!さすがに寝取るなんてことはしないですよ!そんな魅力もないだろうしなぁ…
亜美「ピヨちゃーん、早くしてよ→!」
小鳥「あ、ちょっと待って!今いくから!」
おっとついつい妄想が広がってしまった…
今日は竜宮小町と一緒に行くことになってます
伊織「遅いわよ小鳥。この私を待たせるとはいい度胸ね?まあ、今日に限ってはアンタに同情して許してあげるわ」
伊織ちゃん流石にそれは辛口すぎるわ…
この服で汗かきたくないのに…
あずさ「ちょ、ちょっと伊織ちゃん?すごく間接的だけど私にも刺さってくるんだけど……」
あずささんはまだいいですよ……
いやそんなことはない!私だってまだ!……まだ…
小鳥「あ、あはは~…それじゃあ行きましょうか!」
何はともあれ今日は私たちの事務所の元プロデューサーさんと律子さんの結婚式なんです!
P「や、やめろひっぱるな亜美!」
あずさ「ホントにかっこいいですよ、プロデューサーさん~ 私も結婚したくなっちゃったわ~」
伊織「それならいつも言ってるじゃなむぐぐ……」
P「伊織やめるんだ、それは言っちゃいけない言葉だきっと。」
伊織「…ぷはっ!な、何すんのよ急に!このロリコン!年下の律子と結婚だなんていつから狙ってたのよ全く!」
P「お、おいおい人聞きの悪いことを言うなって…、お前この前は気が付いてるとか言ってたじゃないか」
伊織「……それはまあなんとなくよ、なんで律子なのかとかは聞いてないじゃない」
P「なんだ?伊織もしかしてやきもち焼いてるのか?結婚式はまだ早いぞ~」
伊織「なっ、なっ!!ば、バカバカバカ!そんなわけあるわけないじゃないこの変態!あんたなんか律子と幸せに爆発してればいいのよ!」
P「ちょ伊織……はぁ…疲れる……あ、小鳥さんもありがとうございます」
小鳥「…………はっ!」
お、思わず見とれてしまった……このままでは修羅場が…ってプロデューサーさんに限ってそんなことはないか
いやしかしホントにかっこいいなぁプロデューサーさん……
小鳥「私も結婚したいです……」
P「はい?」
P「あ、ありがとうございます。小鳥さんも素敵ですよ!」
小鳥「えっ!そ、そんな…結婚式の日に……ダメですよ……」
P「えっ?」
小鳥「い、いや!なんでもないですははは~…あ、律子さんはどうです?」
P「そうですねぇ~やっぱり時間かかるみたいですけどそろそろじゃないですかね?」
小鳥「楽しみですねェ律子さんのウェディングドレス姿~」
P「えぇそりゃもう!……って、本人が言っちゃ変ですかね」
小鳥「い、いやそんなことはないと思いますよ~!」
さらっとのろけないでください
それ結構ダメージ大きいんですよ?
――花嫁の準備が整いました
小鳥「おぉ!ついにご対面ですね!」
律子「………ど、どうも」
P「」
P「き、き、綺麗だよ……律子……」
律子「あ、ありがとう…ございます」
……なんですかこれ?目に毒じゃないですか!でも不思議と祝福したくなる!
いやぁでもホント律子さん綺麗だなぁ……ホントにアイドル続けていればよかったんじゃないかって思います
小鳥「綺麗です律子さん!!」
律子「あ、小鳥さん。ありがとうございます。」
小鳥「淡々と返されるとなんか悲しいものがありますね……邪魔者は消えますんでお二人でごゆっくり…」
律子「いやいやそういう意味じゃ、というか別に私変なこといってないじゃないですか!」
小鳥「あはは冗談ですよ~、まあどっちにしても私も他のみんなのとこ行かなきゃいけませんから!」
律子「そ、そうですか。それじゃあまた後で」
ここは空気が薄いので長居はできません
……ほらすぐさま後ろから幸せオーラが……脱出!
P「ついに結婚か……」
律子「早かったですねェ」
P「でも意外だったよな~律子から結婚しましょうって切り出すなんて」
律子「(竜宮の3人からやたら冷やかされるから勢いで言ってしまったなんて言えない…)」
P「でも確かにそうだよな~竜宮ももうトップアイドルの仲間だろ?やっぱりすごいよ律子は」
律子「そ、そんなことはないですよ……でもよかったと思います。ちゃんと自分の目標は果たせましたから」
P「ははは、やっぱり真面目なんだよな律子は。そうやって今より好きになるところ増やされてもこまるんだけど」
律子「さ、さらっと何言っちゃってるんですかあなたは!もう…そういうことばっかり言ってると他の子にも声かけられちゃいますよ…?」
P「まあそりゃ声はかけられるだろうけど……あれ?もしかして律子もやきもち焼いちゃってる感じ?」ニヤニヤ
律子「ばっ!そんなわけないじゃないですかこの変態プロデューサー!!」
P「うぉぉ、冗談冗談。それよりその”プロデューサーっての久々に聞いたな。家じゃいつも……」
律子「だあああ~!今言わなくていいでしょ今!」
P「あはは悪い悪い。ウェディングドレスなのにそれだけ元気があるんだ、いじりたくもなる」
律子「全くもう……」
P「さてと、そろそろかな。じゃまた後でな」
律子「あ、そうですね。じゃ」
―――
――
―
伊織「そろそろ来るでしょ。ねぇ小鳥?」
小鳥「え?え、えぇ!」
なんで私に振るの伊織ちゃん!?そんなにも私結婚通に見えるの!?
よくわかってないってのがなおさら悲しい…まあそろそろ来るでしょう……
――花嫁の入場~
亜美「うっわ~!りっちゃん超綺麗じゃん!」
あずさ「ホントねぇ~…うわやましいわぁ~」
伊織「わ、私の次くらいに綺麗じゃない!……お似合いだし…」
小鳥「そうねぇ……」
伊織ちゃんの言うとおり、悔しいけどお似合いの二人なんです
ゆっくりとプロデューサーさんの元に歩いていく律子さんはまるでアイドルのようで…
――そなたたちは永遠の愛を誓いますか?
P&律子「はい、誓います」
――それでは…誓いのキスを
――
―
あずさ「うふふ、これで結婚できるかしら~」
伊織「さすがに安直すぎるんじゃないの?」
小鳥「あ、あはは、伊織ちゃん…」
取る気満々のブーケは予想外の方向に飛んでいき、なぜかそこにいたあずささんが見事キャッチ
そんな私においうちをかけるかのような伊織ちゃんの攻撃でそろそろ限界も近いかも…
小鳥「…プロデューサーさんと律子さん、幸せになるといいなぁ」
ううん、そんなこと私が言わなくてもきっとあの二人なら間違いないんです
―――
P「お疲れ律子」
律子「あ、はいお疲れ様です」
P「ははっ、なんか仕事終わりみたいだな」
律子「また昔の話ですか、昔話ばっかりしてるとおじさんっぽいですよ?」
P「おじさんはともかくもうしばらくしたら…パパにはなるだろうな」
律子「ちょ、ま、またそういうことを唐突に言う……」
P「え?そりゃ律子は欲しいだろ?子供」
P「いや、別に夫婦だったら自然なことだろ。そんな思春期みたいな反応せんでも」
律子「はぁ…もう驚くのが馬鹿らしくなってきましたよ…」
P「でも、これでしっかり夫婦なわけだ」
律子「そうですね。プロデュースできなくなるってのもさみしいですけど…」
P「やっぱりそうだよな。別にあれだったら共働きでそういう就職先みつけてもいいんだぞ?」
律子「いえ、いいんです。プロデュースに終わりはないと思いますし、どうせやるならあそこがいいんです」
P「そっ…か。やっぱりもうただの女の子じゃないってことだな」
律子「女の子ってそんな年じゃないですよ!」
P「そうだな、もう女の子じゃない……」グイッ
律子「わっ……んっ……ぷはぁ……だから急に…」
P「もうプロデューサーの女の子じゃなく、俺にプロデュースされる女だ」
律子「……かっこいい事言ったと思ってます?なんか古いです」
P「な!マジか…」
律子「ふふっ、冗談ですよ。これからのプロデュースお願いしますよ?あなた!」 End
蛇足だったらすまんね
保守再びサンクス
その後は脳内で好きなだけイチャイチャさせるがいいさ!
律っちゃんかわいいのう
律っちゃんかわいいよ律っちゃん
Entry ⇒ 2012.06.24 | Category ⇒ アイマスSS | Comments (0) | Trackbacks (0)
恒一「お風呂沸いたよ」鳴「うん」
恒一「凄い雨だね」
鳴「台風だからね。榊原君びしょ濡れだけど大丈夫?」
恒一「少し寒いかも…見崎は?」
鳴「ちょっと濡れたけど平気。榊原君の傘なんだから、自分が入らなきゃ駄目だよ」
恒一「入ってたじゃない」
鳴「肩のとこだけね」
恒一「あれ以上入ったら見崎が濡れちゃうだろ」
恒一「そういう気分じゃなかったの。タオル借りるよ」
鳴「…勝手にすればいい」ブスッ
恒一「何むくれてるのさ」
鳴「別にむくれてません。ついでにお風呂沸かして来て」
恒一「はいはい」スタスタ
鳴「…ばか」ボソッ
鳴「久しぶりに行ったな…学校。最近は榊原君と遊んでばっかりだったから」
鳴「榊原君のお弁当食べれるなら、また行ってもいいかも」
鳴「まぁ家で毎日食べてるけど」
鳴「…雨止まないな」
鳴「…榊原君まだかな」
鳴「…」ボー
恒一「見崎ー? お風呂先に入る?」
鳴「おそい」ギュッ
鳴「どうせお風呂入るじゃない」
恒一「そうだけど…」
鳴「一緒に入る?」
恒一「勘弁してよ…」
鳴「…」ギュー
恒一「痛いって」
恒一「いいの?」
鳴「一人でゆっくり入ってきたらいい」
恒一「…手、離して?」
鳴「…」ジトー
恒一「はぁ…お風呂上がったら何でもしてあげるから」
鳴「なんでも?」
恒一「ある程度のね」
鳴「…特別に認めます」スッ
恒一「何をだよ…。すぐに上がるから、見崎も用意しててね」
鳴「うん」
恒一「学校行ったの久々だったな…少し疲れた…」
恒一「見崎と登校して、見崎と喋って、見崎とご飯食べて、見崎とお昼寝して…まぁ普段と変わらないんだけど」
恒一「…さっきのは少し冷たかったかな。でも甘やかすのは…駄目だよね」
恒一「…何言われるんだろ」
鳴「! じゃ、じゃあ早速…」
恒一「その前にお風呂。見崎も少しとはいえ濡れてるんだから」
鳴「大丈夫」
恒一「大丈夫じゃない。入ってる間にご飯作っとくから」
鳴「…はーい」シブシブ
鳴「ただいま」トコトコ
恒一「お帰――って、何その格好!?」
鳴「変?」
恒一「変ではないけど、Yシャツ一枚って…」
鳴「下着は付けてるよ?」
恒一「そう言う報告はいいから! ふ、服持って来るから、じっとしてて」
鳴「無駄だよ。全部濡れてるから、これ以外」
恒一「…マジ?」
鳴「マジです」
鳴「ご飯出来てる? 食べよ」スタスタ
恒一「聞いてよ!」
鳴「榊原君」ビシッ
恒一「な、何?」
鳴「榊原君言ったよね? なんでも言うこと聞くって」
恒一「…はい」
鳴「じゃあ一つ目。私の服装に文句を言わないこと」
恒一「…はい」
鳴「じゃ、行きましょ」クイクイ
恒一(多分ここからが本当の地獄だなコレ…)
鳴「親子丼うめぇ」モグモグ
恒一「み、見崎? これ食べにくくない?」
鳴「全然。はい榊原君、あーん」
恒一「あ、あーん」モグモグ
鳴「美味しい?」
恒一「美味しいけど…作ったの僕だよ?」
鳴「でも食べさせたのは私だから」
恒一「はいはい…」
鳴「次は榊原君ね」アーン
恒一「もう…」
鳴「霧果は工房へお仕事に、天根は畑の様子を見に行きました」
恒一「桃太郎かよ…」モミモミ
鳴「んっ…榊原君、そこ、もっと強く…」
恒一「ここ?」グリグリ
鳴「あっ…い、いよ…榊原君」ビクッ
恒一(三つ目はマッサージ…これはマッサージ)モミモミ
鳴「あぅ…んっ、ふぁ…」ピクピク
恒一「み、見崎。こんな時間だし、僕もう帰らないと」
鳴「…帰るの?」
恒一「怜子さんも心配してるだろうし…」
鳴「…」
恒一「…」
鳴「…いいよ。またね」
鳴「榊原君」スッ
チュッ
鳴「…」
恒一「…」
鳴「またね」ニコッ
恒一「…うん。また明日」
恒一(明日のお弁当は見崎の好きな物沢山入れてあげよう)
恒一「お邪魔しましたー」ガチャ
大雨「ようwwwwwwwww」ザー
恒一「…ただいま」ビチョビチョ
鳴「お帰り。思ったより早かったね」
鳴「あの大雨の中帰ろうとする方がどうかしてる」
恒一「忘れてたんだよ…ていうか見崎知ってたなら言ってよ」
鳴「榊原君が先に意地悪したんじゃない」
恒一「…もういいや。今日泊めて」
鳴「今日は特別に――」
恒一「認めます?」
鳴「…もう」
怜子『恒一君? まだ帰ってこないと思ったら…』
恒一「すいません」
鳴「…」ジー
怜子『まあいいわ。今はどこ?』
恒一「今は見崎の家です」
怜子『また? 変な事とかしてないわよね?』
恒一「し、してませんよ?」
鳴「!」ピーン
恒一「帰ろうとしたんですけど、雨が酷くて帰れそうにないんです。だから――っ!?」
鳴「…ふふ」サワサワ
怜子『恒一君?』
恒一「い、いえ。何でもないです」
「ちょ、ちょっと見崎?」コソコソ
鳴「ん?」ムギュー
恒一「ん? じゃなくて…」
鳴「四つ目。私に気にせず電話を続けて?」ゴソゴソ
恒一「ふ、服の中に潜り込まないで!」
恒一「は、はい?」
怜子『どうかしたの? 服の中にどうとかって…』
鳴「…」クンカクンカ
恒一「いえ、その…虫が服の中に入って…」
鳴「む」
怜子『そう』
恒一「そ、それで今日は――」
鳴「んっ」チュー
恒一「うひゃっ!?」
恒一「わ、脇腹を刺されて…」
鳴「んちゅー」
怜子『だ、大丈夫?』
恒一「は、はい。これぐらい――」
鳴「…あー」ペロ
恒一「だ、いじょうぶ…です」
怜子『?』
恒一「そ、それで今日は見崎の家に…っ」
鳴「榊原君…」ボソッ
恒一「み、耳元で喋らないで」ボソボソ
怜子『見崎さんの家に?』
鳴「はむっ」
恒一「うわっ!?」
鳴「(弱点みっけ)榊原君、榊原君…」ボソボソ
怜子『おーい?』
恒一「――きょ、今日泊まります! じゃ!」プチッ
恒一「…みーさーきー」
鳴「…」スタタッ
恒一「逃がさない」ガシッ
鳴「っ! は、離して?」ボソッ
恒一「無駄無駄。さて、やっぱり甘やかすと駄目だね」
鳴「榊原君?」ビクビク
恒一「…」スパーン
鳴「ひゃうっ!?」
恒一「…」スパーン
鳴「ひぅっ」ビクッ
恒一「…」スパーンスパーン
鳴「んっ! ぁうっ!」
恒一「反省した?」
鳴「…し、してない」
恒一「…」スッパーン
鳴(…アリかも///)ビクッ
鳴「う、んっ!」ピクッ
恒一「ああいう事したら」ペシーン
鳴「あ…っ」
恒一「お仕置きだからね?」ペッシーン
鳴「はぃ、っ!」
恒一「…手痛い」ヒリヒリ
鳴「んっ…あ…」ピクピク
鳴「もう眠くなった?」
恒一「うん…」
鳴「(ま、いいか)じゃあ布団いこ」クイ
恒一「うん」
恒一「はいはい」
鳴「腕枕」
恒一「ほら」
鳴「ん。ぎゅってして」
恒一「…」ギュー
鳴「ね。明日はどうしよ」
恒一「いつも通り…かな」
鳴「そっか」ギュ
恒一「僕より先に寝ちゃった…」ナデナデ
鳴「ふにゅ…」スリスリ
恒一「…かわいいなぁ」
鳴「さかきばら、くん…むにゃ…」
恒一「おやすみ、見崎」
happy☆end
乙
Entry ⇒ 2012.06.24 | Category ⇒ AnotherSS | Comments (0) | Trackbacks (0)
マコト「最近胸が膨らんできたんだけど…」
マコちゃん「これはマズイ気がする・・・気がするけど・・・ここでは女ってなってるし・・・」
マコちゃん「きっといつか治る・・・よね?そうさ、治るに決まってる!今は少しだけ考えるのはよそう・・・」テクテク
カナ「おかえりマコト、どうだったー?」
マコちゃん「カナ!今はそういう話題はしない方がオレはいいと思う!」
カナ「なかったの?」
マコちゃん「・・・・・」
カナ「そっか・・・いやあれだね、まあ、お茶でも・・・」
マコちゃん「いただきます・・・」
マコちゃん「・・・・・」
カナ「まあ、そのよかったじゃないの?これで女装がバレるなんてことなくなったわけだしね」
マコちゃん「この煎餅おいしい!お茶とよく合うよ!」
カナ「聞きなさいよ!私がガラにもなく慰めてあげてるのにッ!」
マコちゃん「ほんとにどうしよ・・・ある意味解決だけどぜんぜん解決してないって・・・むしろより困難に?」
カナ「でしょうね、学校とかもあるからね」
マコちゃん「はぁ、オレから溢れでていた男気とか無くなっちゃったな・・・」
カナ「いやいや」
ピンポーン
カナ「お前とおしゃべりしていたらお客さんが来たよ、出てくる」テクテク
マコちゃん「ひどい!オレがこれからの対策について話してたのに!」
吉野「おじゃましまーす」ニコッ
カナ「おー、予想に反して早いな吉野。お前はいい子だな」
吉野「えへ、ありがとうカナちゃん」
マコちゃん「な・・・なぜ・・・」
吉野「マコちゃんこんにちわ」
マコちゃん「おう・・・ちょっとタイムな吉野・・・ちょっとカナ、カナ!」
カナ「なんだよマコちゃん?」
マコちゃん「なんで吉野がいるんだよ!千秋もいないのに・・・」
カナ「え、私がよんだからだけど?」
マコちゃん「おいッ!」
マコちゃん「内田とか冬馬がいただろう!」
吉野「ひどいなあ・・・私もお話にいれて欲しいんだけどなあ」ニコニコ
マコちゃん「あ!もう終わったから!それより吉野もお茶飲む?」アセアセ
吉野「うん、ありがとうマコちゃん」
カナ「どころで吉野ってけっこういい所のお嬢さんって感じがするよね」
マコちゃん「すごい話題の振り方だな・・・」
吉野「そんなことないよー?」
マコちゃん「はい、お茶」
吉野「ありがとう」
カナ「やっぱ下着とかもいいものだったりするのかとね・・・?」
マコちゃん「お、おい!カナいきなりなにをッ!?」アセアセ
マコちゃん「だって・・・」アセアセ
吉野「男の子みたい・・・」クスクス
マコちゃん「」ビクッ
カナ「」ビクッ
吉野「どうしたの2人とも?」ニコニコ
マコちゃん「い、いやなんでも・・・」ドキドキ
カナ「ビックリした・・・あ、驚く必要なかったんだ!」
マコちゃん「カナ、いくらなんでも今のは口を滑らせ過ぎじゃないか!?」
吉野「よくわからないけど仲良くしようよ?」
カナ「ようし、これはあれだな。デパートに行こう」
マコちゃん「いきなりだな・・・なんで?」
カナ「まあまあ、今日でお前の悩みを解決しに行くのさ」ニヤニヤ
マコちゃん「?」
カナ「ようし、お前たち。今日は下着売り場で大人の女性とはなにか考えようじゃないか!」
吉野「はーい」
マコちゃん「まってよ!これはさすがにマズイって!」
カナ「なに言ってるんだい、お前も立派な女の子だろう?下着のことを知らないでどうする」
マコちゃん「いやまあ・・・けどなったばかりだし・・・」
吉野「マコちゃんとはこういうことしたことなかったら楽しみだね?」ニコニコ
マコちゃん「え?あー・・・」
カナ「お前は吉野のこの純水な笑顔を壊そうっていうのかい?」
マコちゃん「わかったよもう・・・」
マコちゃん(まあ確かに今は女だからこういうのは大切なんだと思う・・・けどやっぱ恥ずかしいよ・・・)
カナ「いきなりだね吉野?どうなのマコちゃん」ニヤニヤ
マコちゃん「そ、その・・・着けてない・・・」カァァッ
吉野「着けてないってブラジャーしてないの?それはダメだよ」
マコちゃん「いやだって・・・」アセアセ
カナ「よし、吉野・・・お前はマコちゃんに最適なやつを選んできなさい、今日は私が出すから!」
吉野「よかったねマコちゃん、行こう?」ニコッ
マコちゃん「え?ちょっと・・・」テクテク
カナ(いやあ・・・これは心憎い演出だな。これでマコトが吉野に女であることを証明すればアイツの吉野に対する苦手意識はなくなるはず・・・私って心憎いなぁ)
マコちゃん「うん・・・そうだけどダメだったか・・・?」
吉野「あのね、女の子の胸はデリケートなんだよ?もしブラジャーしなかったら形が悪くなったり、痛くなったりするんだから」
マコちゃん「そうなんだ?どうりでちょっとヒリヒリするとは思ってたんだ」
吉野「・・・え?」
マコちゃん「どうした?」
吉野「ううん、なんでもない・・・マコちゃんは初めてなんだよね?じゃあまずサイズ計らないと」
マコちゃん「へぇ、服みたいに適当じゃないんだ?」
吉野「うん、でも・・・マコちゃんは初めてみたいだからスポーツブラでいいかも。慣れたら好きな物を選んでいけばいいかも」
マコちゃん「吉野は物知りだな!ありがとう」
吉野「もう、女の子なら当然だよ」ニコッ
マコちゃん「ああ・・・わ、わかった」
吉野「あはっ、もしかして緊張してる?」ニコニコ
マコちゃん「初めてだから・・・」
吉野「私も最初は緊張したよ?でも大丈夫だから・・・ね?」クスクス
──試着室──
マコちゃん(ついにこの日が来てしまった・・・これだけは着ないと決めてたのに・・・これでオレから溢れ出るワイルドさもさよならだなあ)
吉野「難しい顔してるけど大丈夫?」
マコちゃん「大丈夫!さあ吉野、思う存分やってくれッ!」
吉野「うん、わかった。けど上着脱ごうね?」ニコニコ
マコちゃん「わかったあ!」ヌギヌギ
マコちゃん「よろしくおねがいしますッ!」ドキドキ
吉野「んしょっと・・・」
マコちゃん(うひゃあ・・・!なんかペタペタするやつが先端にあたってるぅ・・・)
吉野「・・・・・・!?」ビクッ
マコちゃん「ど、どうした吉野ぉ・・・?」ドキドキ
吉野「な、なんでもないよ」アセアセ
マコちゃん「あのぅ・・・できたらもう少し緩くしてくれないかな?ちょっとだけ痛い・・・」
吉野「あ!ごめんねマコちゃん・・・えっとサイズはこれだから忘れちゃダメだよ?あとスポーツブラはこれでいいと思うよ?」
マコちゃん「いやあ、何から何までほんと助かったよ!ありがとう吉野!」ニコニコ
吉野「・・・うん」
マコちゃん「さっそくこれをカナに渡して買って貰ってくるよ!」テクテク
吉野「・・・・・」
マコちゃん「カナだって女だろ!遅くなったのは謝るけど・・・ほんとは1人にさせられたから怒ってるのか?」
カナ「知った風な口を叩くんじゃないよこの子はッ!」
マコちゃん「あ、でもほんとにありがとなこれ・・・」
カナ「あー・・・うん、わかったから。それ大切にしたらいいよ」
マコちゃん「なんだか不名誉なもの貰っちゃったけどさ・・・」ズーン
カナ「なに言ってんのさ、お前は立派な女の子なんだから下着の1セットや2セット持ってないでどうする?」
マコちゃん「それは・・・そうだけど・・・」ウジウジ
カナ「しかしなんだ。さっきから吉野は静かだけど、どうかしたか?」ニヤニヤ
吉野「え、あ・・・聞いてなかった。ごめんねカナちゃん・・・」
カナ「いやいや、別に構わないよ」
マコちゃん「吉野・・・」
マコちゃん「いや、今日はもう帰るよ」
吉野「私も。ごめんねカナちゃん?」
カナ「いや、気にするな。じゃあ2人とも仲良く帰るんだよ?じゃあな」
マコちゃん「じゃあなー!」
吉野「・・・・・」
マコちゃん「吉野・・・さっきからなんか元気ないけど大丈夫か?」
吉野「・・・そう見える?」
マコちゃん「うーん・・・いつもの吉野に比べたらちょっとだけ?」
吉野「マコちゃんはいつもと比べたら私といっぱい話してくれるね・・・」
マコちゃん「ええ!?いつもどおりじゃないか?吉野の勘違いじゃないかなぁ・・・?ははは・・・」アセアセ
吉野「まるで何かから解放されたみたい・・・」
マコちゃん「えっとう・・・あのう・・・」アセアセ
マコちゃん「か・・・隠してるってなにが・・・?」アセアセ
吉野「さあ?」ニコニコ
マコちゃん「やましいことなんてなにもないよッ!」
吉野「ほんとに・・・?」
マコちゃん「うん・・・」
吉野「私ね・・・マコちゃんに似てる人を知ってるの・・・」
マコちゃん「・・・!?」ビクッ
吉野「その子は男の子。マコちゃんはちゃんと胸もあったから女の子だったよ・・・」
マコちゃん「それが・・・どうしたの・・・?」ビクビク
吉野「なんなんだろーね?けど私思うんだ・・・これからもっと楽しくなるもしれないって」ニコニコ
マコちゃん「ちょっとまってよ・・・」ビクビク
吉野「あはっ、じゃあね。また明日・・・」クスクス
マコちゃん「・・・・・」
マコト「朝かぁ・・・あー・・・起きたぞッ!」
マコト(昨日の吉野ってやっぱりマコちゃんのこと知ってたのかな・・・じゃないとおかしいもんな・・・)
マコト(挙動不審って言葉は昨日の吉野ために作られたんだなたぶん)
マコト(けど今や女であるオレには問題なんてあるはずないよな?そうと決まればすぐに制服に着替えなきゃ・・・)
マコト「よしっ、乱れがないか鏡で確認っと・・・あぁ!?」
マコト「そうだ・・・オレ女だったんだ・・・どうしよう・・・男の制服なのに胸が膨らんでたら絶対おかしいって!怪しまれるって!!」
マコト(考えるんだ・・・!時間はまだ少しだけあるな・・・考えろ・・・考えるんだマコト・・・!)
内田「もお!朝からどうしたのマコト君。授業の準備とかあるんだからね?」
マコト「いや、今はそんな真面目なのいらないぞ!それよりこれを見てくれ内田!」ヌギヌギ
内田「きゃっ・・・ちょっとマコト君!なんでいきなり服脱ぐの!?」
マコト「いいから見てろって!」ヌギヌギ
内田「・・・うん」ドキドキ
マコト「よし、どうだ!」
内田「・・・!!ぷぷっ・・・あははは!」
マコト「内田、オレはこれでも必死に考えた中でもっともベストだったのがこれだったのに笑うなよ!」
内田「だって、胸のところガムテープ巻かれてるんだもん!ぷぷっ・・・」
マコト「いいか、ガムテープじゃなくてこれは布テープだから。ガムテープは剥がれてダメだった!」
内田「そうなんだ・・・」
内田(なにがしたいんだろう・・・)
内田(男の子って変な遊びするなあ・・・)
マコト「よし、終わった・・・見ろ内田!」
内田「え!?なんでッ!!マコト君男の子なのに・・・胸がある・・・?」
マコト「その・・・昨日から女になっちゃったんだよ・・・」ズーン
内田「・・・・・」カァァッ
マコト「ちょっ!どこ見てるんだよ!いちおう言っとくけどこっちは無い・・・ここは見せないからなッ!」ドキドキ
内田「触っていいですかッ!」
マコト「触るぐらいならまぁ・・・」
内田「では・・・失礼します・・・」ふにょん
マコト「んっ・・・・!」ドキドキ
内田(これは・・・私よりある・・・!?)
内田「うん・・・ありがとうってマコト君!女の子は無闇に服脱いじゃダメだよ!」
マコト「だって・・・じゃないと内田にオレが女ってこと信じさせられないだろ!?」
内田「そうだけど・・・そうだけど!とりあえず服を着ようよマコト君」
マコト「わかった、また布テープ巻くから内田も手伝ってよ?」
内田「いいけど・・・あんまりやり過ぎたら胸の形悪くなっちゃうよ?せっかくキレイなのに・・・」
マコト「そうなの?ハルカさんが見たら褒めてくれるかなぁ・・・」ドキドキ
内田「うーん・・・わかんないけどとりあえずそれは女の子がする態度じゃないよ?」
マコト「え?なんで?」
内田「だってそれは・・・それは・・・」カァァッ
マコト「?」
マコト「まあ女装するからこれはありがたいよ」
内田「待って、マコト君は男の子なんだよ!」
マコト「そっか!困るよ内田!?」アセアセ
内田「カナちゃんの家ならいいけど・・・マコト君は元々は男の子なんだからもっと真剣に考えた方が・・・」
マコト「そうだよな・・・マコちゃんの事もなんだかんだで隠せてたからなんか上手くいけると思ってたけど・・・マコちゃんは短時間だもんな」
内田「そうだよ?気を抜いたらバレちゃうよ」
マコト「それより戻って欲しいなあ・・・でも戻って欲しくないなあ・・・」ズーン
内田「事情もわかったし、とりあえず教室戻ろうよ?」
マコト「そうだな、ありがと内田」
内田「おはよー吉野ちゃん!」
マコト「吉野・・・」
吉野「2人とも朝からなにしてたのかな?」ニコニコ
内田「え、それは・・・えっと・・・」
吉野「一緒に教室から居なくなるからなにかあったのか気になっちゃったんだよ」ニコニコ
マコト「べつに・・・たいしたことないよ?」アセアセ
吉野「そう・・・ならよかった・・・」
チアキ「おはよう吉野、内田と・・・おお!」
内田「おはよーチアキ。どうしたの?」
チアキ「いや、ちょっとマコト見てたら知り合いに似てるなあと・・・いくらなんでもマコトを見てそう思うなんて失礼な話しだな」
マコト「あはは・・・」ドキドキ
吉野「・・・・・」
内田「き、気のせいだよ!チアキは寝ぼけてるんだよきっと!!」アセアセ
マコト「あはは!そんなに似てたのかあ!じゃあ次の授業の準備もあるしオレ机に戻るよ!」アセアセ
チアキ「いつになく今日はやる気あるなアイツ」
内田「チアキは相変わらずマコト君には厳しいんだね?」
チアキ「あいつが軟弱過ぎるから私は少しでも男らしくなって欲しいと思う親切心がそうさせるのさ」
内田「たまには優しくしてあげてね?」
チアキ「おい吉野、あまり元気がないように見えるけどどうした?悩みがあるなら聞くぞ?」
吉野「ううん、大丈夫だよ?すこしだけ眠いからそれでそう見えるだけだよきっと」ニコニコ
チアキ「ならいいけど・・・吉野には日頃から世話になってるからなにかあったらすぐ言えよ?」
吉野「うん・・・」
シュウイチ「めずらしく考えごと?」
マコト「ん?シュウイチか・・・なんだ、オレが考えごとしてたらダメなのか!」
シュウイチ「そんなことはないんだけど・・・マコト、なんか雰囲気変わった?」
マコト「なんか最近よく言われたりはするな・・・シュウイチ、お前はオレのどこが変わったかわかるか?」
シュウイチ「どこが変わったかって言われてもなぁ・・・」ジー
マコト「うぅ・・・あまり見られても恥ずかしいよシュウイチ・・・」
シュウイチ「わかんないよ、でもなんだか女の子っぽい感じがするよ?」
マコト「シュウイチ、いくらなんでもあんまりだ!オレから溢れる大和魂が見えないのか!?」
シュウイチ「見えないよ?」
シュウイチ「前から大和魂なんてなかった気もするけどね」
マコト「シュウイチは以外とストレートに言葉を言うけどもう少し優しくしてもいいよ?」
シュウイチ「雰囲気変わったって言ってもそんなに変わったわけじゃないから気にしないで大丈夫だよ」
マコト(実は劇的に変わってるなんて言えるわけないけどね)
マコト「そっか、それじゃオレもあまり気にしないでいつもどおりにいくよ!」
シュウイチ「うん、いつものマコトらしくね」ニコッ
マコト(次の時間の休み時間は冬馬のとこに行ってみよう。あいつならなんかアドバイスしてくれると思うし)
マコト(体の変化以外にやっぱりなにか変わってるのかなぁ・・・)
冬馬(あれマコトか?)
マコト「・・・・・」ジー
冬馬(あれは来いってことなのか?めんどくさそうだな・・・)
マコト「・・・・・・」ジー
冬馬「なんだ、用があるなら来いよ」
マコト「だって男が違うクラスの女子と話してたら変なかなって」
冬馬「気にしすぎじゃないか?言うほど人はそんなに見てないだろうし」
マコト「そうか・・・じゃあ俺と一緒に空き教室に来てくれ」
冬馬「どうしたら空き教室なんだよ」
マコト「いいから!わかるから!」
冬馬「ならいいけど・・・」
冬馬「マコトが女になってる・・・!」
マコト「・・・うん」ドキドキ
マコト(なんか胸を触らせる度にドキドキするけどなんなのかなこれ・・・)
冬馬「なんでお前女になっちゃったんだよ?」
マコト「さぁ?昨日気づいたらなってたからオレにもさっぱりで・・・」
冬馬「お前、ほんとは今まで女だったってことはないか?」
マコト「そんなわけないだろ!オレは今まで男だった・・・あれ?」
冬馬「どうした?」
マコト「なんか昔のオレがあやふやというか・・・思い出せない・・・」
冬馬「はぁ?」
マコト「ねぇ冬馬!オレ、前はちゃんと男だったよね?」アセアセ
冬馬「そうだと思うけど・・・オレもお前と知り合ったのは最近だからな・・・」
マコト「どうしよ・・・」
マコト「シュウイチに直接聞けってこと?」
冬馬「そう、そのシュウイチって奴に聞けばいいじゃないか」
マコト「なんて聞けばいいんだよ!『オレって前から男だったよね?』とでも聞けばいいの?そんなのシュウイチに変に思われるだろ!」
冬馬「じゃあもうオレは知らない」
マコト「もう少し一緒に考えてよ冬馬!」
冬馬「めんどくさい奴だな・・・オレはちゃんとアイディア出しただろ。これがダメならあとはお前が考えろよ」
マコト「・・・ごめん」シュン
冬馬「あー・・・言い過ぎた。ともかくオレもなにか考えておくから、お前はなにかあったら言え。内田も知ってるんだろ?」
マコト「うん・・・」
冬馬「オレはもう行く。あんまり考えすぎるなよマコト」テクテク
マコト(考えすぎるなってそんなのできるわけないだろ・・・)
マコト(なんで記憶も・・・全然はっきりしない・・・)
マコト「教室戻らなきゃ・・・」テクテク
吉野「こんどは冬馬となにしてたのかな?」ニコニコ
マコト「吉野か・・・ごめん、今はちょっと相手にできないから・・・」
吉野「朝はユカちゃん・・・今度は冬馬、次はチアキ?それとも私かな?」ニコニコ
マコト「・・・・・」ギロッ
吉野「怖いよマコト・・・?」クスクス
マコト「全然そんなふうに見えないけど」
吉野「私はただみんなでなにしてるのか気になって聞いてるだけなのになぁ」
マコト「だからなにもしてないって・・・」
吉野「じゃあコソコソ空き教室に行かなくてもいいんじゃないかな?」ニコッ
マコト「ごめん・・・行くよ」テクテク
吉野「・・・・・」ギリッ・・・
カナ「女の子で過ごす学校生活はやっぱり大変だったか?」
マコちゃん「まぁ・・・でもそんなに苦ではなかったかな・・・胸を隠すのがちょっとだけ・・・」カァァッ
カナ「まあ男子生徒の胸が膨らんでたらそりゃ大変だからね。どれ」ピラッ
マコちゃん「わわっ!なんでいきなり服捲るんだよッ!」ドキドキ
カナ「いや、どんな感じか気になるじゃん胸とか」
マコちゃん「もう!」
カナ(小学生組では一番成長しているか?まあ設定は中学生だけど・・・)
マコちゃん「なあカナ、オレって男だったのかな・・・」
カナ「はあ?おかしなこと聞く子だね・・・そうだったんじゃないの」
マコちゃん「違うんだって!オレ、なんか前の・・・男だった頃の記憶が曖昧でさ」
カナ「おう・・・それはほんとのこと・・・?」
マコちゃん「うん・・・」
マコちゃん「なんかカナが頭良さそうに見える!」
カナ「おまえいくらなんでも失礼じゃないか?まぁこれはあくまで推測だからね、体が女になっただけでもだいぶスゴいから」
カナ「でもあれだ、私はおまえをちゃんと男って確認してないからほんとは今まで女の子だったって可能性もあるわけだ」
マコちゃん「だったら記憶が曖昧になるのはおかしくならない?」
カナ「今のところ断定できる情報もないし憶測でしか話せないよ。第一それらを手っ取り早く証明できるお前の記憶はないからね、それも信じてくらたらの話しだし」
マコちゃん「なんか難しいよカナ・・・」
カナ「簡単に言えばお前をよく知ってる人に聞けばいいのさ。例えば親や兄弟、友達とかね?」
カナ「記憶が曖昧っていうのは怖いんだろうな・・・自分のことがわからないんだもんね。でも大丈夫だ、私がいつでも相談に乗る!だから大丈夫だ」ニコッ
マコちゃん「うん、ありがとう。今日のカナすごく頼りになるよ!本物のお姉さんって感じだ」
カナ「お前は早くよくなって貰わないとな。イジって面白いやつは多いほどいいからね」ニコニコ
マコちゃん「感動していたオレがバカだった・・・」
カナ「まあまあ粗茶ですが・・・」
マコちゃん「明日・・・シュウイチに聞いてみようかな・・・」
カナ「シュウイチっていつかチアキが連れてきた頭の良さそうな子?」
マコちゃん「まぁあっちサイドの奴だけど・・・あいつなら昔のオレわかると思うし」
カナ「聞くのは構わないけど気を付けろよ?お前は今はただの女の子だってこと。秘密にしたいことが多くの人間にバレると大変になるかも・・・」
マコちゃん「シュウイチはそんな奴じゃないぞッ!あやまれッ!!」
カナ「そうだといいがな・・・」
マコト(まったく・・・カナはシュウイチのことよく知らないからあんな酷いこと言えるんだ)
マコト(シュウイチはそんな奴じゃないし、いい奴だ!だからきっと大丈夫・・・)
マコト「よっ!シュウイチ、元気?」
シュウイチ「うん、元気だよマコト。どうしたの急に?」
マコト「えっと・・・聞きたいことがあってきたんだけど・・・」アセアセ
シュウイチ「聞きたいこと?僕に答えられることならいいよ」
マコト「えっと・・・そのう・・・」
シュウイチ「言いにくいことなの?」
マコト「そんなことないけど・・・でもどう説明していいか難しくて・・・」
シュウイチ「なら後ででもいいんじゃない?聞きたいことが纏まってからでも聞くから、大丈夫だよマコト」ニコッ
マコト「そっか・・・そうだな!ありがとうシュウイチ、後でまた聞きに来るよ!」
シュウイチ「うん、ゆっくりでいいからね」
内田「・・・・・・」ボー
マコト(日向ぼっこ?まぁいいや、内田に聞いてみよう)
マコト「内田!ちょっといいか?」
内田「あっ!マコト・・・ちゃん?ぷぷっ・・・」
マコト「なんだよマコトちゃんって・・・いつも通りでいいから。あといきなり人の顔見て笑うなよな?」
内田「ごめんね?だけど今は女の子だからちゃん付けした方がいいのかなあって」
マコト「いや、いつも通りで。ちゃん付けは女装してる時だけでいいから」
内田「今は女の子だから女装っておかしくない?」
マコト「私服の時だけでいいから」
内田「それならわかったあ!それで聞きたいことことって?」
マコト「えっと内田、オレ・・・前は男だったよな?」
内田「前はって・・・違ったの?」
マコト「いや・・・確認で聞いているんだ。内田はわからないか?」
内田「男の子だと思ったけど・・・女装できるぐらいだからほんとに男の子だったかちょっと怪しいかも・・・ぷぷっ・・・」
マコト「確かに俺も似合うと言われるまで気づかなかったよ」
内田「でも変なこと聞くんだね?」
マコト「ちょっとな・・・女になる前の記憶があやふやなんだ」
内田「あ・・・ごめんねマコト君!私そういうの知らないでふざけて・・・」ズーン
マコト「いいよ、気にしてないから。まあこれはあまり期待してなかったし、もう1つは相談なんだけどこれは協力して貰えると助かるよ」
内田「うん、ほんとにごめんね?」
マコト「もしかしたら実は元々女だった・・・って可能性もちょっとだけあるかもしれない・・・」
マコト「そこでオレはシュウイチにその確認をしようと思ったんだ!」
内田「1つ質問!なんで家族に聞かないのかなあ?それが簡単だと思いますッ!」
マコト「だって・・・なんか恥ずかしいじゃん!」
内田「シュウイチ君に聞く方が恥ずかしいんじゃない?」
マコト「大丈夫!シュウイチとは男と男の熱い友情があるからッ!」
内田「なんだかすごい自信だね・・・」
マコト「絆ってやつだ!」
内田「マコト君、恥ずかしくない?」
マコト「なにが?」
内田「つづけてください!」
内田「シュウイチ君に変な奴って思われるのいやなの?」
マコト「・・・うん」モジモジ
内田(なんか女の子っぽい仕草!でもシュウイチ君はマコト君のこと十分変な子だって思ってそうだけどなあ・・・)
マコト「なんとかならないか内田・・・?」チラッ
内田「うーん・・・そうだ!マコト君、マコト君とシュウイチ君の友情ってその程度で揺らぐものなの?」
マコト「なっ!?そんなわけないだろっ!オレとシュウイチを舐めるよッ!付き合いが長いぶん、いろいろわかるんだぞ!」
内田「だったら大丈夫、シュウイチ君を信じてあげようよ!」
マコト「ありがと内田、なんだか目が覚めた気分だよ!」
内田「それは良かったです」
マコト「今からシュウイチのとこに行ってくる!じゃあな」
内田(マコト君って単純だなあ)
シュウイチ「おかえりマコト。どうしたの」
マコト「今から変なこと聞くかもしれないけで・・・オレはいたって真面目に聞いてるってことを知ってほしい、わかったか?」
シュウイチ「よくわからないけどわかった。聞きたいことって?」
マコト「あの・・・オレって前はちゃんと男だったか!」
シュウイチ「え?」
マコト「だから・・・オレは前は男だったのかって聞いてるんだッ!」
シュウイチ「変なこと聞くね?まるで今は男の子じゃないみたいな・・・」
マコト「えっ!違くて・・・そのな!なんか前の方がオレって男気があった気がしたからシュウイチに聞いてるんだよ」アセアセ
シュウイチ「ふーん・・・マコトの男気ねぇ・・・」
マコト「は!?ちょっと・・・シュウイチがなに言ってるかわかんないなあ・・・」アセアセ
シュウイチ「わかんないってそのままの意味だよ?」
マコト「イヤだなあ・・・オレには隠しきれないワイルドさがあるだろう!」アセアセ
シュウイチ「マコト、あのさ・・・僕はマコトによく似ている女の子を知っているんだ」
マコト「」
シュウイチ「前まではマコトに似ているなあ程度に思ってたけと・・・今は核心もって言える。あれってマコトだったんじゃないかって」
マコト「いや・・・そのシュウイチあのね・・・」アセアセ
シュウイチ「マコト・・・僕には話せないことなの?」
マコト「・・・・えっと」
シュウイチ「そっか・・・マコトにだって隠したいことあるもんね・・・ごめん、無理に聞き出そうとして・・・ははは・・・」
マコト「違うんだって!もう・・・どうしよう・・・」
シュウイチ「どうしたのマコト?」
マコト「ついてきてシュウイチ、お前に見せたいものがあるんだ」
──飽き教室──
シュウイチ「こんなとこに来てなにかあるの?」
マコト「えっと・・・な?人に見られるとちょっと困るから・・・」
シュウイチ「それはさっきのことと関係あるの?」
マコト「うん・・・たぶん」
シュウイチ「じゃあ・・・お願いマコト」ニコッ
マコト「ちょっと待って!その・・・心の準備が・・・」
シュウイチ「わかった、マコトのタイミングでね?」
マコト(大丈夫・・・シュウイチならきっとオレの力になってくれるはず。シュウイチはいつもオレに優しくしてくれたから・・・)
マコト(きっと今回も助けてくれるはず・・・)
シュウイチ「なんで上着脱いでるの?」
マコト「いいから!これでも緊張してるんだぞ!!」ヌギヌギ
シュウイチ「あの・・・なんでガムテープ巻いてるの・・・?」
マコト「それはそうせざる理由があったんだよ!あとこれ布テープだから!」ヌギヌギ
マコト「シュウイチ・・・ここからお前に見せたいものなんだ・・・驚かないでくれよな・・・?」ドキドキ
シュウイチ「うん、わかった・・・」
マコト「い・・・痛いよう!・・・でもこれじゃないと隠せないから・・・痛っ!・・・ふぅ、できた。シュウイチ見てる・・・?」ドキドキ
シュウイチ「マコト、その膨らみ・・・本物なの・・・?」
マコト「うん・・・そのな、最近膨らんできちゃってさ。あはは・・・」
シュウイチ「えっ!?でも・・・」
マコト「じゃないと信じられないだろ・・・だったら確認してほしい。シュウイチにはちゃんと知ってもらいたいから」ニコッ
シュウイチ「わかった・・・じゃあ触るよマコト?」ドキドキ
マコト「うん・・・きて・・・?」ドキドキ
シュウイチ「うわわ!やわらかい・・・」ドキドキ
マコト「んっ!ばっ、ばか!もう少し優しく・・・んぅ・・・はぁ・・・」
シュウイチ「だ、だって・・・」カァァッ
マコト「んはぁ・・・なんで先を触ってるんだよぉ・・・お、終わり!もうわかっただろッ!」ドキドキ
シュウイチ「あ・・・」
マコト(なんだ今の・・・いままでと違う、内田や冬馬に触らせた時とも全然違う・・・シュウイチに触られると今までと違う感覚が・・・気持ちいいのか苦しいのか・・・なんなんだよまったく・・・)
マコト「これでわかったと思うけど・・・オレ、女になっちゃったんだよ」
シュウイチ「・・・・・」ボー
マコト「だからシュウイチにその・・・前のオレはちゃんと男だったか確認したかったんだ・・・オレ、ほんとに男だったのか女だったのか自信が今はないから・・・」
シュウイチ「・・・・・」
マコト「シュウイチ・・・?おい、オレがこんなに一生懸命話してるのになにも言わないって親友としてどうなんだッ!なあ、前のオレはちゃんと男だったかシュウイチ?」
シュウイチ「マコト・・・ぼく思うんだ・・・前が男とか女とかって関係ないんじゃないかって・・・」
マコト「はぁ!?なに言って・・・大事なことに決まってるだろッ!!」
シュウイチ「マコト!!」ギュッ
マコト「ひゃわ!?な、なんで抱き締めてんだよう・・・」ドキドキ
シュウイチ「・・・・・」ギュッ
マコト「シュウイチ・・・?」
シュウイチ「マコトはこんな時でも優しいんだ・・・ガムテープ巻いてないから胸の感触わかるよ・・・」ギュッ
マコト「ばか・・・そんなこと言うなよな。まあシュウイチだし、オレお前のこと信頼してるからな!えへへ・・・」テレテレ
シュウイチ「・・・・・ちゅ」ギュッ
マコト「・・・・え、ちょ・・・え?」
シュウイチ「・・・・・」ギュッ
マコト「シュウイチ!お前なにしてるんだよッ!お、オレ初めてだったんだぞッ!?」
シュウイチ「いいんじゃない?マコト、女の子なんだから・・・・ん・・・あむ・・・・・・ちゅ・・・」ギュッ
マコト「まっ・・・・ん・・・んぅ!・・・ちゅ・・・・ひゃわ・・・・・シュウ・・・・イチ・・・・あっ・・・」ドキドキ
シュウイチ「マコト・・・ぼく・・・」ギュッ
シュウイチ「僕はこれでも男だからね?今のマコトはぼくから出れないよ・・・?」
マコト「くっ・・・」
シュウイチ「マコトだけに話させるのはフェアじゃないね?僕も話してあげる・・・」
マコト「・・・・・」
シュウイチ「マコトにも言ったね?マコトに似ている女の子を僕は知ってるって・・・僕・・・その子に一目惚れしてたんだ・・・」
マコト「そ、そうなの!?あ・・・なんでもない・・・」
シュウイチ「ふふ・・・マコトとよく似ていてさ?元気で素直で・・・とても可愛かったんだ」
マコト(たぶんそれマコちゃんのことだよねやっぱ・・・でも可愛いって言ってくれた・・・なんでこんなに嬉しいんだろう・・・)
シュウイチ「僕には話しかける勇気がなくて・・・だからマコト、いつもマコトを見ていて僕はいつもその子を思い浮かべてたよ」
マコト「そう・・・なんだ・・・」
シュウイチ「その子とマコトは同一人物なんじゃないかって思った時もあったよ?・・・けどマコトは男の子だったから・・・」
シュウイチ「でもこれで安心したよ、マコトは女の子なんだもんね?」
マコト「待ってよシュウイチ!確かに前のオレは女装を楽しんでたよ・・・きっとシュウイチが見てた女の子もオレだよきっと・・・けどオレは本物の女になりたいわけじゃなくて・・・これでも自分のことが怖いんだ・・・」
シュウイチ「やっぱり・・・あの子はマコトだったんだね」
マコト「ごめん・・・やっぱりきもちわるいか・・・?」
シュウイチ「全然、むしろマコトは酷いよ?」
マコト「なにがだ?」
シュウイチ「こんなに僕は悩んでいたのに・・・自分だけ楽になろうとしていたんだからね?僕がどんだけ今まで我慢してきたかマコトは知らないよね」
マコト「それは・・・知らなかったから・・・いや、言い訳だな。ごめんシュウイチ・・・」
シュウイチ「ううん、そんな・・・今のマコトは女の子だからね。もう気にすることなんてないから・・・」
シュウイチ「なにって・・・気持ちいいこと。マコト、さっき胸触られて気持ちよさそうだったし」
マコト「ばかッ!」カァァッ
シュウイチ「マコトはもう体も女の子なんだよ・・・だからここ・・・女の子のいちばん敏感なとこ触ればよくわかるかも知れないね?」クスクス
マコト(やばいっ!なんかこれ以上シュウイチの近くにいたらオレがオレでなくなっちゃう気がする!)
シュウイチ「暴れちゃだめだよマコト?ほら、触ってあげるから・・・ねぇ気持ちいい?」
マコト「あっ・・・・!?ひゃあ・・・」ビクビク
シュウイチ「うん、気持ちいいみたいだね?もっと触ってあげる・・・」
マコト「まっ・・・痛・・・・・・いヒッ・・・!ふぁ・・・だめ・・・だって・・・あん・・・・んぅ・・・」ビクッ
マコト(なんで・・・いやなのに変な声出ちゃう・・・気持ちいいよう・・・)
シュウイチ「よかった・・・マコトも喜んでくれて。こんなに濡れてて・・・」
マコト「あっ・・・・はぁ、はぁ・・・」ビクビク
マコト(ダメだって!あぁ・・・体に力が入らない・・・どうしよう、恥ずかしいよう・・・)
シュウイチ「マコト、女の子の下着を掃いてるんだ?もう女の子だからいいけど・・・なんだすごくいやらしいね」
マコト「シュウイチ・・・もうやめよう?今ならオレも無かったことにするから・・・ねぇ、お願い・・・」
シュウイチ「それわざとやってる?そんなの喜ばれるだけだよ・・・今度は直接触ってあげる・・・きっとさっきより気持ちよくなれると思うよ・・・」クスクス
マコト「さっき・・・より?」ドキドキ
シュウイチ「そうだよ、だからぼくに任せてよ」ニコッ
マコト「・・・・・・」カァァッ
マコト(どうしよう・・・期待しちゃってる・・・もう完全にシュウイチにオレが女の子だって認めさせられちゃった・・・こんなの逆らえない・・・)
マコト(これ以上ってあるの?シュウイチならきっと・・・)
シュウイチ「吉野・・・」
マコト「ん・・・あ!吉野・・・」
吉野「マコト君、とりあえず服は着ようね?」ニコニコ
シュウイチ「あんまり邪魔しないでほしいんだけどな」
吉野「2人が好きあっていたならしないよ?けど女の子の体を利用するなら私は見過ごせないかなあ?」
シュウイチ「利用するって・・・なんだか人聞きが悪いよ?」
マコト「あのう・・・喧嘩しないでほしいなあって・・・?」
吉野「あはっ、マコト君は優しいね?服も着たみたいだし行こっか?」ニコニコ
マコト「で、でも・・・」
吉野「いいの、シュウイチ君は少し頭を冷やした方がいいよ」クスクス
マコト「シュウイチ・・・ごめん・・・」
シュウイチ「・・・・・・・」
シュウイチ(なにやってるんだぼくは・・・)
吉野「はい、替えの下着」ニコッ
マコト「えっ!?えっと・・・オレ男なんだけどなあって・・・あはは」
吉野「いくらなんでもさすがにもう知らないふりできないよ?マコト君、ウソとかすぐわかっちゃうもん」
マコト「そうだったんだ・・・」ズーン
吉野「それなのに一生懸命だから私も何も言えなくなっちゃうよ」
マコト「あぅ・・・なんだか」恥ずかしいよ・・・
吉野「それより聞きたいことがあるの、シュウイチ君のこと、その体のこと・・・今回は話してくれるよねマコト君?」
マコト「うん、わかった・・・完璧に見られたしね・・・」
吉野「そういう理由で話してくれるってなんだか寂しいね・・・」
マコト「吉野?」
吉野「なんでもないよ」ニコッ
マコト「うん、これなら誰にでもオレが女になったってわかってもらえるだろ?」
吉野「そうだけど・・・マコト君、自分の体は大切にしようよ?私たちまだ小学生なんだよ」
マコト「だってシュウイチがまさかあんなになるなんて思わなかったし・・・」ドキドキ
吉野「相手が自分と同じ考えって思い込み、友達だからってダメだよ?シュウイチ君だってちゃんと男の子なんだから」
マコト「うん・・・今回ので見に染みたよ・・・」
吉野「マコト君は女の子といることが多かったもん、だから仕方ないこともあったかもしれない」
マコト「それは・・・ちょっとだけあるかも・・・」
吉野「ねぇ、私もマコト君の胸触っていい?」
マコト「別にいいけど・・・」
吉野「この前の試着室ではびっくりしてそれどころじゃなかったから」ニコッ
マコト「こ、この前の試着室ってなにかなあ・・・わからないなあ・・・」アセアセ
マコト「いえ、もういです・・・」ズーン
吉野「えいっ!」もみもみ
マコト「ひゃあっ!?よ、吉野っ!急に触ったらダメだろ!びっくりしたなもう・・・」プンプン
吉野「これは今まで私に隠し事していた仕返しなんだよ?」ニコッ
マコト「それは・・・ごめん」シュン
吉野「ほんとだよ?いつ話してくれるのかなって思ってたのに全然話してくれないんだもの」
マコト「あまりマコちゃんのこと知ってる人が増えてたら大変になるかなって・・・」
吉野「これでも傷ついたんだよ?私ってマコト君から信用されてないんだなあって・・・」
マコト「ごめん・・・」
吉野「だから気づいてないフリしてマコちゃんが焦っちゃうようなこと言って楽しんじゃった。えへへ」
マコト「おい」
吉野「マコト君だって私のこと全然わかってないよ・・・」
マコト「人って全て解りあえるはずなんてないから仕方ないよ?」
吉野「でも努力はできるんじゃないかな?マコト君はその努力が・・・」
マコト「あの・・・吉野?」
吉野「ごめんねマコト君、今の気にしないで」
マコト「え・・・わかった・・・」
吉野「それよりマコト君が女の子になったことについてだよ。いつなったの?」
マコト「えと・・・吉野にデパートで胸のサイズ計られた時だけど・・・」
吉野「そうなんだ・・・カナちゃんがニヤニヤしてたからなにかするかと思ったけど・・・ほんとにビックリしたよ?」
マコト「いや、俺だって怖かったよ?その時はまだ吉野にマコちゃんのことバレてないと思ってたし・・・」
吉野「胸も大きいもんね」ニコニコ
マコト「吉野、なんか怖いよ・・・」ビクビク
マコト「少し・・・男だった時の記憶が曖昧になってるんだ」
吉野「そうなんだ・・・」
マコト「もしかしたらオレは元々女だった可能性もあるから・・・だからいろんなやつに聞いてるんだ・・・シュウイチもそれで・・・」
吉野「マコト君はちゃんと男の子だったよ、私・・・マコト君のこと見てた」
マコト「シュウイチも言ってたからな、もうわかってるけどな?」
吉野「違うの!そうじゃなくて・・・」
マコト「ごめん、吉野はなにを伝えたいのかわからないよ・・・」アセアセ
吉野「私が・・・私が言ってるんだよ?私じゃやっぱり信用できないんだ・・・」
マコト「違うって!そんなんじゃ・・・」
吉野「だってそうだよ!マコちゃんのことは話してくれない、私のことは信じない・・・私ってマコト君のなんなのかな・・・」
マコト「・・・・・」
吉野「ごめんね、私いくから・・・」テクテク
マコト「・・・・!もう!!なんなんだよもうッ!?みんな勝手ばかり・・・オレだって・・・」
マコちゃん「・・・・・」ボケー
カナ「おまえは来るなりそんな態度するんだ?少しは私をもてなそうとは思わないの?」
マコちゃん「そんな気分じゃない・・・」
カナ「どんな気分ならそんなふてぶてしい態度のお客さんでいられるのか解説の内田さん、よろしくおねがいします」
内田「わかりません、実況のカナさんに返します!」
冬馬「なにやってるんだか・・・」
カナ「冬馬!お前も少しは私を楽しませろよ!」
冬馬「オヤツくれたら外でサッカー教えてやるよ」
カナ「いいよ、そんなのこっちがお断りだよ!」
内田「えー?楽しいかもしれないよ?」
チアキ「もう私は我慢できない、部屋に行く」
カナ「逃げるのかッ!?」
チアキ「内田、今日私たちのクラスは大量の宿題を出された。明日、お前は今のように笑っていられるかな?」
内田「カナちゃん、チアキは明日笑うための戦いに行くの、止めないで!あとチアキはあとで宿題見せてね?」
マコちゃん「別に悩んでるわけじゃ・・・」
内田「確かにいまのマコちゃん?マコトちゃん?マコト君?は悩みの塊だね!」ニコッ
冬馬「わざとだろ?」
内田「えへへ」
カナ「幸いここにはお前の事情を知ってる奴しかいない、話したら楽になれるかもしれないぞう?」
マコちゃん「大丈夫だって・・・」
内田「はいはーい、今日の学校のマコト君変だった!吉野ちゃんとシュウイチ君によそよそしい態度してました!」
カナ「はい、内田はよくよそよそしいって難しい言葉わかったね?偉いぞう?」ナデナデ
内田「えへへー」ニコニコ
冬馬(お腹空いたなあ・・・)
カナ「ではお前には学校でなにがあったか話してもらおうじゃないか」ニヤニヤ
マコちゃん「・・・・・・」
マコちゃん「・・・・・」
内田「どうしよう・・・吉野ちゃんに隠し事してるのバレたら嫌われちゃうかも・・・」ビクビク
冬馬「いや、謝ればいいだろ?」
内田「女の子の問題はデリケートなんだからねッ!」
冬馬「オレも女なんだけど・・・」
カナ「シュウイチとはどうして喧嘩になっちゃったんだ?」
マコちゃん「前オレが男の記憶が曖昧だって言ったらカナが元々オレは女だった可能性もあるなって言っただろ?」
内田「なんかカナちゃんらしくない発言!」
マコちゃん「それでシュウイチに確認したら・・・まあ喧嘩って感じになっちゃったのかな・・・はぁ・・・」
カナ「なんだこいつから漂う女の子臭・・・」
マコちゃん「うん・・・親友だと思ってたから・・・」
カナ「なんだか歯切れ悪い言い方だねえ?」
冬馬「どうやって教えたんだ?オレたちは見たり触ったりしたから信じられたけど・・・」
マコちゃん「・・・・あっ!えっと・・・」アセアセ
冬馬「お前まさか・・・」
マコちゃん「仕方ないだろッ!オレもその時はシュウイチのこと親友だと思って信じてたんだから!」
カナ「いやあ、目の前にとんだハレンチ娘がいるよ・・・困ったなあ・・・内田はマネしちゃだめだよ?」
内田「マコト君とシュウイチ君・・・?えー!?でもでも・・・いいかもしれないけど・・・けど友達だから・・・あ!今は問題ないんだった!」
マコちゃん「オレだって恥ずかしかったけど信じて貰えるようにがんばったんだ!」
カナ「で、そのシュウイチくんとその後なにがあったか話してもらおうかい?」
カナ「」
冬馬「うわあ・・・」
内田「キス!マコト君とシュウイチくんがキス!?」
カナ「いやちょっと待ちなさい、いくら女になったからってなにもそこまで急いで大人の階段登るなよ!私だってまだ・・・」アセアセ
冬馬「まだ?」
カナ「うるさいよ!しかし・・・まさかマコトにここまでのポテンシャルがあったとは・・・もしかたらわが家に集まる奴の中でいちばん経験あるんじゃないか・・・?」
マコちゃん「経験・・・ねぇ・・・」
マコちゃん「・・・・・・」カァァッ
内田「あ、顔赤くなった!」
カナ「おまえ、まだなにか隠してるだろッ!すべてこのカナお姉さんに話してしまうがいいよッ!!」
マコちゃん「べつになにもなかったよ!」アセアセ
冬馬「マコト、正直なことはいいかもしれないけど・・・それは自分も苦しくなっちゃうぞ?」
マコちゃん「助けてよ冬馬!」
カナ「なにを言ってるんだい冬馬。私はマコちゃんという作品がどこまで対応できるか知る権利があるんだよ?」
冬馬「違うね、カナは飢えてるんだ!だから知りたがるんだ」
カナ「な!?私が飢えてる・・・ラブに飢えてるって言うの・・・?」
冬馬「いつかカナにも今のマコトの気持ちがわかる日が来るよ、だから今は引こう」
カナ「わかったよう・・・じゃあ吉野とシュウイチとの仲直り会議始めるよ・・・」
内田「すごい!あのカナちゃんを止めた!」
マコちゃん「すごいよ冬馬!ありがとうな」
冬馬「いいよ、これぐらい」
カナ「はいそこ、ちゃんと会議は聞けよな?なんか私だけ張り切ってて恥ずかしくなっちゃうでしょうか!」
内田「マコト君とシュウイチ君が・・・」ドキドキ
マコちゃん「はぁ・・・」
マコト(昨日は結局、オレをネタにして面白おかしく話しててなんにも思い浮かばなかったなあ・・・)
マコト(なるようになるのかな・・・逃げ出したいな・・・)
シュウイチ「おはようマコト」ニコッ
マコト「ひゃ!・・・あ、えと・・・・おはよう」オズオズ
シュウイチ「よかった、もう話してくれないのかなって思ったりしてたから・・・」
マコト「今も少しは怒ってる・・・けどそんなことしないよ・・・」
シュウイチ「そう、やっぱり優しいねマコトは・・・机にいくよ、じゃ」
マコト「はぁ・・・」
マコト(あいつ・・・昨日あんなことしたのに何事もなかったように・・・うぅ・・・思い出したらなんかドキドキしてきたかも)
内田「マコト君・・・?」コソコソ
マコト「なんだ内田、普通にしろよ」
内田「男の子同士はだめだと思うけど、今のマコト君は女の子だからシュウイチ君でも大丈夫だと思うの。それだけ、じゃあね」コソコソ
マコト(内田はよくわからないなあ)
マコト「吉野・・・もう怒ってないの?」ビクビク
吉野「昨日はそうだね、少しだけ不機嫌だったから・・・ごめんねマコト君」
マコト「そんな!吉野にはいつもよくしてもらってるのに気づかなくて・・・俺の方こそ・・・」
吉野「ほんとに悪いと思ってる?」
マコト「そりゃ思ってるよ・・・信じてもらえないよねやっぱ・・・」
吉野「そうだね、態度で示してもらわないとわかんないかも」ニコッ
マコト「態度?」
吉野「そう、放課後は予定ある?」
マコト「いや、ないけど・・・」
吉野「待ち合わせして一緒に遊ぼうよ?」ニコニコ
マコト「いいけど・・・それだけでいいの?」
吉野「うん、それじゃ時間とか後で決めようね?」ニコッ
マコト「わかった!」
マコちゃん「ごめん!遅くなった!」
吉野「だめだよマコト君?男の子が女の子を待たせちゃ・・・マコト君はいちおうは男の子なんだから」
マコちゃん「ごめん・・・布テープ剥がしたり準備してたら遅くなって・・・」
吉野「今日は・・・男の子の格好じゃないんだね?」
マコちゃん「オレもそっちの方が楽なんだけどそしたら布テープで胸隠さないといけないだろ?あれ痛いし苦しいんだよ・・・」
吉野「そっか・・・マコト君も大変なんだね」
マコちゃん「今までみんなを騙してきた罰なのかもなあ・・・」ズーン
吉野「ほら、そんな顔したらだめだよマコト君?今は女の子の格好してるんだから可愛くしないと」ニコニコ
マコちゃん「可愛くって・・・オレは女装してもいつものようにやってただけだし」
吉野「それでも可愛かもしれないけど、ちゃんと意識しなきゃね?」
マコちゃん「なんか・・・喜んでいいかわかんないや・・・」
マコちゃん「うん、しかし吉野とこうやって遊ぶのって始めてだよな?」
吉野「前までマコト君、私のこと避けてたんだもん、仕方ないよ」
マコちゃん「それは・・・ごめんなさい!」アセアセ
吉野「いいよもう、マコちゃんの正体を隠すためだったし。この話しは昨日もしたからおしまい、それよりこっちに集中してよマコト君?」ニコッ
マコちゃん(吉野はやっぱりかわいいな・・・男から見たらこういう女の子はグっとくるもんなあ・・・オレもこうなっちゃうのか?)
マコちゃん「ごめん、そうだな!えっと・・・どこ行こっか?」
吉野「えっと・・・洋服とか見たいなあ」ニコニコ
マコちゃん「オレも・・・少し見たいな。前より着れる服のバリエーション増えたし」
吉野「うん、それじゃ決まり。行こうよ」
外でクレープを食べ、アクセサリショップに入り、それは普通の女の子がする遊びかただった
けどオレは吉野が見せる色んな表情に少しドキドキしていた
それはたぶん、今まで知らなかった吉野を知って少し浮かれてたからだと思うことにした
マコト「うへぇ・・・疲れた・・・そこのベンチで休もうよ」
吉野「ふふ・・・お疲れさまマコト君」クスッ
マコト「女の子の買い物は過酷だ・・・軽く見る程度だと思ったのに・・・」
吉野「酷いよマコト君?女の子の前だよ。あと、マコト君だってちゃんと女の子なんだよ」
マコト「ごめん・・・」
吉野「こうやって女の子に今のうち慣れていかないとマコト君が後から辛くなると思ったの。やっぱり元に戻るのがいちばんいいと思うけど・・・」
マコちゃん「そうだよな・・・やっぱ男の方がいいよな・・・」
マコちゃん「早くにマコちゃんのこと吉野に教えておけばよかったな・・・」
吉野「私も意地になっちゃってたもん、だからもういいの」
マコちゃん「なんだかすごい後悔してるよ・・・きっとこうやってみんな大人になってくのかなあ・・・」
吉野「だったらマコト君も後悔しないようにしていったらいいんじゃないかな」
マコちゃん「言うほど簡単じゃないよ?」
吉野「シュウイチ君もきっと・・・だから焦ってあんな行動しちゃったんじゃないかなって思うの」
マコちゃん「わからないでもないけどオレにはいい迷惑だよな!まったく・・・」
吉野「人に想われるのってマコト君には迷惑なのかな?やっぱり重いのかな・・・」
吉野「シュウイチ君は少しだけ間違えただけなんだよ・・・」
吉野「わかってないよ・・・マコト君は人を本気で好きになってないからシュウイチ君の気持ちもわからない・・・」
マコちゃん「オレにだって好きな人ぐらいいるよッ!だけど・・・だけどそんな一方的な気持ちの伝えかたってオレは卑怯だと思う!」
吉野「へぇ・・・卑怯だと思うんだ?」
マコちゃん「相手の気持ちを無視してそんなの・・・んむ!?」
吉野「・・・・ん・・・ちゅ」
マコちゃん「吉野・・・」ドキドキ
吉野「こうしてキスとかしたら相手は自分のことを一生懸命考えてくれるよね・・・こういうやりかたは卑怯だと思う?」
マコちゃん「・・・・・・」
吉野「相手に自分の意思が伝わらないとすべて意味なんてないよマコト君・・・?」
マコちゃん「吉野もシュウイチと一緒だ・・・そこにオレの意思なんてなくて・・・ただただ勝手でさッ!?」
吉野「私だってしたくなかったよ・・・」
マコちゃん「それって・・・オレのことなの?」
吉野「私は今さら・・・ううん、ずっと前からマコト君の中に居場所なんてなかったのに・・・だからこんな気持ちは封印しちゃおって思ってたのに・・・」
吉野「でもやっぱりマコト君に対する気持ちは大きくなってて・・・今ではこんなに近くで・・・マコト君に触れるほど近くに居るの・・・」
マコちゃん「でも・・・オレは女になっちゃったんだよ・・・」
吉野「私にはそんなの関係ないよ・・・私はあなたが好きだから」
吉野「あなたの全部が好きなの・・・性別や嘘も本当も全部・・・こんなふうに想われるのは・・・マコト君はイヤなの?」
マコちゃん「オレは・・・」
吉野「私・・・先に帰るね?今日は楽しかった。ありがとうマコト君」ニコッ
マコちゃん「・・・・・・」
マコちゃん(また吉野悲しませちゃったなあ)
マコちゃん「はぁ・・・」
カナ「いや、来るのは構わないけどそんな不幸垂れ流しながらうちにくるなよ」
マコちゃん「・・・・・・」ジー
カナ「なんだ?」
マコちゃん「はぁ・・・」
カナ「ようし、もう容赦しないから、表に出なさい!」
ハルカ「もうカナったら・・・ごめんなさいねマコちゃん、カナなりに励ましてるのよ?」
カナ「いや、私は純粋にこいつの根性を叩き直すつもりだよ」
ハルカ「ところでマコちゃん、どうして今日はそんなに元気がないのかな?」
マコちゃん「その・・・ですね・・・」
カナ「ハルカなら話しちゃうんだ?ハルカは人気者で羨ましいね、怠け者なのにね」
ハルカ「静かにしてよ?聞いてるからマコちゃんは続けて?」ニコッ
カナ「おっとまさかマコちゃんの口からかなりの難題を出された!これは解説が必要みたいだからチアキを呼ぼう、チアキー?」
チアキ「悩んでる人を茶化して遊ぶなよ、でもハルカ姉さまなら答えてくれるはずだ」
ハルカ「え!?」
カナ「さあ、さらにハードルが上がったがどうするハルカ?マコちゃんは期待してるぞ?」
マコちゃん「・・・・・・」ドキドキ
ハルカ「ちょっと待ってね・・・そうね、素敵なことだと思うよ?」ニコッ
カナ「いや、いやいや・・・そんな単純なことじゃないと私は思うんだけど?」
チアキ「お前にはわからないのかバカ野郎?ハルカ姉さまがそう言ってるんだよ」
ハルカ「でもマコちゃんはまだ中学生なんだから焦らないでいいと思うの。まだマコちゃんたちの年頃の子は可能性があるの、だからゆっくりでいいんだよ?」
カナ「ハルカが達観してるだと!?」
チアキ「おい、お前ハルカ姉さまが優しいからって私は許さないぞコノ野郎!」
ハルカ「カナ!マコちゃんは私を頼ってくれたのよ?そんなマコちゃんの期待を裏切るわけにはいかないじゃない?」
カナ「だからってウチに恋愛経験ある奴なんていないよ?むしろ私たちよりマコちゃんの方が・・・」
ハルカ「なによ?知識はちゃんとあるんだからね」
チアキ「ふふん」ドヤァ
カナ「なんでお前が誇ってるのさ」
マコちゃん「ハルカさん・・・あの、なんだかすごく参考になった気がします。オレなんかやれそうな気がします!」
ハルカ「ふん・・・」ドヤァ
カナ「ハルカ、あいつはお前の言葉ならたとえどんな状態でも復活してみせると思うよ」
チアキ「ハルカ姉さまってすごい、あらためてそう思いました!」
カナ「ちっ・・・ここにはハルカ教徒しかないのか・・・」
マコト「よし、今日でこの問題をちょっとだけ解決してイヤな空気を無くすぞッ!」
内田「なになに?ついにシュウイチ君となの!?やぁん」テレテレ
マコト「内田ってそういう話し好きなの?藤岡とチアキの話ししてもそうだよな」
内田「女の子は恋愛話が好きなんだよ!そしていつか私のとこに王子様が・・・」
マコト「来たらいいな、じゃあな!」
マコト(さて、放課後にあの2人を読んで話し合いをしよう。たぶん来てくれると思うし・・・)
マコト(こうやって誰かに想われるのはすごく嬉しいけど同時に罪悪感もある・・・)
マコト(相手のことも考えて、自分のことも考えられることが今のオレにできるのかな・・・)
マコト(違う、それでは正面からオレに気持ちを伝えてくれたあの2人に失礼だ・・・)
マコト(オレは・・・オレの正直な気持ちをあいつらに伝えないと・・・)
シュウイチ「マコト、誘ってくれたのは嬉しいけどあんまりこれはよくないかもね」
吉野「私は気にしてないよ」ニコッ
シュウイチ「ならいいけど」
マコト「ほら喧嘩しないでよ・・・ね?」
吉野「マコト君、昨日の今日なのに・・・なにするつもりなの?」
マコト「えっとね・・・」
シュウイチ「昨日の今日?」
吉野「そうだよ、私たち昨日遊んでたから」ニコニコ
シュウイチ「へぇ・・・今までそんなことなかったのに・・・」
吉野「今まではね・・・」クスクス
マコト「もう!喧嘩しないでって言ってるだろ!お、お前たちオレのこと好きなら少しは言うこと聞いてよ・・・」カァァッ
シュウイチ「ごめん、そうするよマコト」
吉野「・・・・・・」ニコニコ
シュウイチ「どうして!思うようにしたらだめなの?」
マコト「だめだよ・・・シュウイチとオレは今は男と女だからいいかもしれない・・・でも女になったってことはもしかしたら男に戻るかもしれない・・・」
シュウイチ「ぼくはそんなの気にしないよ!」
マコト「シュウイチのその気持ちは嬉しいよ・・・けどオレはそういうの無理なんだ・・・ごめん」
シュウイチ「・・・・・・」
マコト「もちろん、今のオレの状態がずっと続くならいいよ?シュウイチと一緒に過ごすのもきっといいと思うから・・・」
マコト「これは吉野にも言えることだと思うんだけどな・・・」
吉野「私はシュウイチ君とは違う、もともとマコト君は男の子だったんだよ?女の子の私はそのまま受け入れられるはずだよ?」
マコト「だめだよ吉野、お前が好きだったのは男だったオレだったんだよ・・・今のオレじゃない。吉野は昔からオレを見てくれたんだろ?」
マコト「その時の吉野、すごく思ってくれてるんだなってオレ思ったんだ・・・」
マコト「うん、聞いたよ・・・昨日は吉野のいろんな表情が見れて・・・いろんな吉野を知って、嬉しくて・・・すごくドキドキして・・・」
吉野「きっとこれからも楽しく遊べるよ・・・だからマコト君・・・」
マコト「だからだよ。これからも笑えるようにオレはオレの思いを伝えないといけないんだよ」
シュウイチ「今の話しを聞いてたら相手を傷つけないでいい話しのようにしてるけど・・・結局ぼくたちはマコトにフラれたようなものじゃないか・・・」
吉野「マコト君はいったい何を伝えたいの?」
マコト「えっとオレ・・・今の自分に自信を持てないんだ・・・今までと全然違う今の自分・・・」
マコト「それはシュウイチに教えられたようなもんなんだけどな?あはは・・・」
シュウイチ「結局あれからちゃんと謝れてなかったね・・・ごめんねマコト・・・あの時のぼくは・・・」
マコト「いいって、そうして欲しくて出した話題じゃないよ。イヤだと思うけど・・・まあ仕返しってことで」
マコト「見た目の違い、物事の考え方や感じ方・・・それが日に日に変わってきてるのがわかるんだ・・・」
マコト「常に変化してて、自分に自信がない奴がシュウイチや吉野の気持ちに答えるなんて今はできないんだよ・・・」
シュウイチ「そんなのズルいよ・・・」
吉野「だったら・・・いつまで待てばいいの?」
マコト「オレにもわからない・・・でもこれがオレのお前たちにたいする正直な気持ちなんだ・・・オレばかだから」
マコト「もっと上手く言葉で伝える方法はあると思うけど・・・これでシュウイチや吉野と仲が悪くなるのはイヤなんだ・・・もちろんシュウイチと吉野が喧嘩してるのもイヤだよ?」
マコト「吉野が言ってた本気で人を好きになったことがないから相手の気持ちがわからないってやつだけど・・・」
マコト「オレにはやっぱりそういうのわからないんだ。だからシュウイチと吉野がオレに教えてよ!」
シュウイチ「結局・・・今まで通りの関係でいようってことでしょ?」
マコト「違うよ!オレがはっきりするまでかな・・・もちろんずっと仲良くしていたいけど・・・」
マコト「だって・・・シュウイチとか吉野に比べたら・・・」
シュウイチ「え・・・?マコト好きな人いるの!?」
マコト「うぅ・・・その人のこともあるからこの件は少しだけ休戦して欲しいってオレは言ってたり・・・」
シュウイチ「結局はマコト次第でぜんぶ決まっちゃうなんてなんだかなあ・・・」
マコト「ごめん・・・」
吉野「ほんと、わがままだよマコト君?」
マコト「わかってる・・・だから筋は通す。吉野、今日はチアキの家に一緒に行こう?」
吉野「いいけど・・・マコト君なにするの?」
マコト「お説教と男気を見せるよ!」
チアキ「マコト、私はあまりお前にはこの家に上がってほしくないよ?」
マコト「チアキ、今日は話したいことがあって来たんだ・・・」
カナ「なんだい、ついに話す時が来たの?吉野と一緒だからそんな気はしてたけど」
吉野「男気を見せるみたいだよ?」
マコト「チアキ!実はオレがマコちゃんだったんだッ!」
カナ「あ、ついに言ったよあいつ。もうここには来れないね」
チアキ「このバカ野郎!」
バシッ!
マコト「痛いッ!」
チアキ「マコちゃんがお前みたいな軟弱な奴なわけないだろ?お前の目は節穴か」
カナ「ぷぷっ・・・」
吉野「笑っちゃ失礼だよカナちゃん?」
チアキ「あいつなにか悪いものでも食べたのか?」
カナ「そうかもしれないね、よし。次あいつが来たらもっと説教してやるといいよチアキ」
チアキ「ああ、あいつはマコちゃんから少しは男気を見習うべきだ。私から頼んでみよう」
カナ「チアキもなかなか可愛いところがあるだろう?」ニヤニヤ
吉野「カナちゃん失礼だよ?」ニコニコ
ガチャ!
カナ「来たみたいだよ?」
マコちゃん「・・・・・」
チアキ「あれ?マコちゃんいらっしゃい。そこに軟弱でバカな小学生はいなかった?」
マコちゃん「チアキ・・・オレだよ。マコト!」
チアキ「・・・・?」
マコちゃん「チアキ?」
カナ「チアキが必死に否定しようと粗がないか探ってるな?」
マコちゃん「・・・あの」
チアキ「・・・・・」
カナ「ついにチアキの半分閉じられていた瞼が全快になったよ!?」
チアキ「なんでよりによってマコちゃんがお前なんだよ・・・・」
マコちゃん「ごめん・・・」
チアキ「私を騙して笑ってたのか・・・?」
マコちゃん「そんな!違うよチアキ!これは・・・確かにこのマコちゃんのせいで悲しませた人はいた・・・チアキもその一人だよ」
チアキ「なんでこんなことしたんだ・・・」
マコちゃん「チアキの家に入るためだよ・・・オレ、出入り禁止みたいなものだろ?」
チアキ「そこまでして遊びたかったのかよ・・・」
チアキ「わかった、もういいよ」
マコちゃん「チアキ!あの、オレ・・・」
チアキ「出入り禁止1週間だ」
マコちゃん「へっ?」
チアキ「さすがに女装させてまでこの家で遊びたいと言うお前の心意気を買ってやった」
マコちゃん「ありがとう?」
チアキ「もうこんなことはするな、すこしマコちゃんに会えなくなるのは悲しいけど・・・」
マコちゃん「ごめんねチアキ・・・チアキ怒ってるよね・・・・」
チアキ「気にするな、私の心はこんなに広い!」
カナ「なんかあれだな、マコトの奴、女の子になったことチアキに言ってないよな?」
吉野「なんか解決してるみたいだし今さらだから後でも伝えられるからいいんじゃないかな?」
チアキ「ハルカ姉さま、お帰りなさい」
カナ「おう、お帰り」
マコちゃん「吉野、オレの男気を見てろ・・・」
吉野「え?いいけど・・・」
マコちゃん「こんにちはハルカさん、実はオレ・・・チアキの同級生のマコトです!今まで騙しててすいませんッ!そしてずっと好きでしたっ!!ハルカさんのこと、とても好きです!!」
ハルカ「」
カナ「うおおおおおお!ハルカが止まってしまった!っていうかマコトお前やるな?今日はカッコいいじゃないか!」
チアキ「おまおまおまえー!おまえなんか出入り禁止だーバカ野郎!?」
──後日、高校──
マキ「そういえばマコちゃんいるじゃない?あいつ今まで胸ぺったんこだったくせにいきなり膨らんでるのよね・・・こどもは怖いね?」
アツコ「そうなんだ、成長期だもの」ニコッ
アツコ(じゃあマコちゃんが女の子だったんだ・・・冬馬くん・・・元気にしてるのかな・・・やだ私ったら・・・)
完
保守してくれた人ありがと誤字脱字とかごめんなさい
きっと続きは誰かが書いてくれるはず
これは元に戻らなかったって事でいいのか?
Entry ⇒ 2012.06.24 | Category ⇒ 版権物SS | Comments (1) | Trackbacks (0)
P「そういえば律子も二十歳になるんだよな」黒井「ほう」
北斗「冬馬とふたつ違いとは……」チラッ
冬馬「なんだよ?」
P「意外だろ」
北斗「ですね」
翔太「僕もっと大人かと思ってたよ」
冬馬「眼鏡でスーツだからな」
P「関係ない……とは言い切れない気がする」
黒井「なぜそんなことを私達に?」
P「えぇ。せっかく酒飲めるようになるんだし」
P「成人祝いに飲みに連れていきませんか?」
北斗「そういった感情を水に流すためにもいいんじゃないか?」
P「どうです?黒井社長」
黒井「問題ないとは思うが、秋月律子が了承するかだな」
P「その辺りは任せてください」
冬馬「妙に自信満々だな」
P「765プロの絆を甘くみないことだな」
北斗「期待してますよプロデューサーさん」
P「仕事あがりで直行って形になりますけど大丈夫ですか?」
黒井「ノンノン。961プロはどこかの矮小事務所違って、その程度問題ではないのだよ」
P「なんて口の悪さだ……」
翔太「僕は美味しいご飯があれば何でもいいよっ!」
黒井「ではセッティングのほうは貴様に任せるからな」
P「了解です。じゃあ続きやるか……ドベは冬馬だったよな?」
冬馬「なんで毎回俺が負けるんだよ……」
北斗「顔に出るからなお前は」
冬馬「つーか2枚交換ってきつすぎるぜ」
黒井「強者はより強者に。世の常だなはーっははは!」
翔太「世知辛い世の中だね……」
北斗「律子ちゃんってお酒飲めるんですかね」
P「どうだろうなぁ。イメージ的には強そうだが」
黒井「あんな女ほど飲めないものだ」
翔太「べろんべろんに酔った律子さんは想像できないなー」
北斗「小鳥さんもあずさちゃんも飲むから、律子ちゃんも飲めないと大変でしょうね」
P「俺や社長もそこそこ飲めるしな」
冬馬「誕生日なら無礼講だよな?俺も四捨五入したら20だし飲んでもいいだろ?」
P「ダメに決まってるだろ……ほれ翔太1枚くれ」
翔太「せっかくジョーカー引いたのに……」
P「あんまり大人数になるのもなぁ」
北斗「でも俺達と律子ちゃん入れても6人でしょう?」
P「飲み会と聞けば音無さんが黙ってないからな……」
北斗「あぁ……そうでしたね……」
P「一応手は打つが、7人想定もしておいたほうがいいぞ」
黒井「冬馬よ……本当にこれが最強のカードなのか……」
冬馬「文句あんのかよ」
P「なんだったんですか?」
黒井「2枚の数字を足して23だ」
翔太「嘘っ……冬馬君の手札弱すぎ……?」
冬馬「うるせーな!これくらいの手札なら楽勝、だぜ!」
北斗「お前1位抜けしてないんじゃないか?」
冬馬「だ、大富豪は俺のもっとも苦手なゲームだからな。ハンデやったんだよ」
冬馬「次はポーカーで勝負しようぜ!」
P「俺もう帰らないとまずいし、今日はここまでにしよう」
冬馬「おい勝ち逃げは卑怯だろ」
翔太「続きはまた今度でもいいんじゃない?」
P「最近マークが厳しくなってるんだよな……外回りに行くときの視線が刺々しいんだよ」
黒井「ほぼ毎日通っているからな。高木もこんな使えない男を引いてしまうとは」
P「きっちりと仕事はこなしてるんですけどね……」
P「そんな境遇だと俺も嬉しいんだけどな」
北斗「そんな境遇だと思いますがね……」
P「はは、まさか」
冬馬「どんだけフラグ立ててんだよ」
黒井「また旗の話か。ビーチフラッグにはまだ早いぞ」
冬馬「誰がするか!そんなことしても喜ぶのは一人だけだろ!」
P「最近は雪歩も喜びそうなんだよな」
北斗「そんな……冗談でしょう?」
P「音無さんに洗脳されて……」
冬馬「あの人百合専じゃなかったのかよ」
P「百合?男同士も美味しいみたいなことは言ってたけど」
冬馬「うおぉ……」
黒井「ウィ。こちらのスケジュールは以前渡した資料のままだ」
冬馬「資料?なんだそれ」
黒井「私とジュピターの今月の日程だ」
翔太「それってすごく大事なものなんじゃないの?」
北斗「というか犯罪な気がしますが」
黒井「見えないファウルはテクニックだ。961プロならそれくらい常識だぞ」
冬馬「それなら納得できるぜ」
北斗「冬馬はサッカー好きだもんな」
P「へぇ、初耳だな。フィギュア集めだけが趣味かと思ってたよ」
冬馬「一言多いんだよあんた!」
冬馬「男の手料理、だぜ!今度何か作りに行ってやろうか?」
P「そんなの週刊誌にすっぱ抜かれたら俺も冬馬も終わるぞ」
北斗「ちなみに俺の趣味はなんだと思います?デート以外で」
P「ナンパと自分磨きか?」
北斗「俺はどういう目で見られてるんですか……」
冬馬「チャラ男だよな」
黒井「違いない」
北斗「俺の趣味はヴァイオリンとピアノです」
P「ダウト」
北斗「本当ですって!」
冬馬「驚くのも無理ねーがマジなんだぜ」
P「そんなスキルは伊織あたりでいいんだ。お前のピアノなんて誰も得しないんだよ」
P「カトレア?」
冬馬「忘れてくれ……」
翔太「遠い目になって固まっちゃったね」
P「もしかして聞いちゃまずいことだったのか……?」
北斗「いつもの発作ですよ。気にしないでください」
黒井「外国の友人でもいるのか。さすがジュピターだな」
冬馬「いや、ハーフだし日本語しか話せないんだ」
P「いつもに増して目がイってるな」
翔太「ねぇプロデューサーさん」
P「ん、どうした?」
翔太「帰るって言ってから結構経つけど、まだ大丈夫なの?」
P「あっ」
北斗「社長が余計なこと言うからですよ」
黒井「元は私の行動に文句をつけたからだろう!」
P「これ以上遅くなると本格的に雷が落ちるんで帰ります!お疲れ様でした!」
翔太「律子さんによろしくねー!」
冬馬「おっさんが悪い!」
黒井「お前達の責任だ!」
冬馬「ならポーカーで勝ったほうが正しいってことにしようぜ」
黒井「いいだろう。くだらん妄言ごと叩き伏せてやる」
北斗「チャオ☆……もういないとは。本当に切迫してるんだな」
冬馬「北斗と翔太も混ざれよ。ジェットストリームアタック仕掛けるぜ」
翔太「そんな技初めて聞いたよ!?」
P「久々にあれ使うか……スーハースーハー」
ガチャ
P「た、ただいま戻りましたぁ……疲れた……」フラフラ
小鳥「あ、お帰りなさいプロデューサーさん」
律子「プロデューサー!あなたまた遊びに……」
P「ぜぇ……ぜぇ……すみませんちょっと、ソファ使わせて、ください……」
小鳥「ど、どうぞ」
律子「お疲れみたいですね……」
P「い、色々……営業してきたんで……ふぅ……はぁ」ドサッ
P「い、いや……少し休めば大丈夫だ……はぁ……はぁ……」
小鳥(これは……)チラッ
P(音無さん!)チラッ
小鳥「」グッ
P「」グッ
小鳥「毎日お仕事頑張ってますもんねぇ。疲れが一気にきたのかもしれません」
律子「……私ったら変な勘違いしちゃって……」
P「ゲホッ……プ、プロデューサーは……影で活躍する職業だからな……」
小鳥「プロデューサーさんは私が介抱しときますから、律子さんはもうあがってもいいですよ」
律子「でも……」
P「はぁ……はぁ……」チラッチラッ
小鳥「ほ、ほら!律子さん明日も早いんですし!」
P「な、なんだ?」
律子「無理しないでくださいね。仕事なら私に回してくれても構いませんから」
律子「それではお先です。お疲れ様でした」
パタン
P「……行きましたかね」
小鳥「みたいですね……」
P「っはぁー!久々に使いましたけど、これやっぱ効果ありますね!」
小鳥「私もよく使ってましたよ。怒られるのが確定してる時の切り札ですよね」
P「多用できないのが欠点ですが、初回だとほぼ間違いなく効きますから」
小鳥「どれどれ……心配してますねぇ」
P「帰りながらこの長文打ったのか……ちょっと罪悪感が……」
小鳥「真面目な律子さんですから、少し効きすぎたんでしょうね」
小鳥「で、本当は何してたんですか?」
P「敵情視察ということでひとつ……」
小鳥「……程ほどにしてくださいよ」
P「あ、誘うの忘れてた」
小鳥「誘う?夕食なら付き合いますよ?」
P「いや結構です」
小鳥「ぐぬぬ」
小鳥「少し前までプロデューサーさんを待ってたんですけど」
小鳥「もうっ!あの変態どこほっつき歩いてるのかしら!明日覚えてなさいよ!」プリプリ
小鳥「って言いながら帰っちゃいましたよ」
P「明日が怖いな……」
小鳥「さっきの手はもう使えませんからね」
P「なら他の手を使うまでです」
小鳥「ちなみにぷりぷり怒ってる伊織ちゃんの画像がここに……」
P「3千円」
小鳥「5千」
P「……」
小鳥「……」
P「……4千円で」
小鳥「毎度!」
P「今日はとっておきの新鮮なネタを提供しましょう」
小鳥「はよ!」
P「961プロの天ヶ瀬冬馬は料理が趣味らしいです」
P「毎日コンビニ弁当の俺を心配して手料理を振舞うことに」
小鳥「スーツ姿のプロデューサーさんが帰宅するとエプロンをつけた冬馬君がいて……!」
小鳥「風呂にする?飯にする?それとも?」
P「もちろんお前だよ!」キリッ
小鳥「」ゴソゴソ
小鳥「まぁまぁでしたね」
P「マスクしても目が笑ってますからね」
P「さて、それじゃ帰りますか」
小鳥「飲みに……」
P「行きませんよ」
小鳥「ピヨヨ」
P「仕込みはできた……頼みますよ」
ガチャ
P「おはようございまーす」
高木「おはよう。昨日も頑張ってたみたいだね」
P「今はアイドル達にとって大事な時期なので!」キリリ
高木「うんうん。若いのにやるじゃないか君ぃ」
春香「プロデューサーさん来たよ伊織」
真 「今日こそ真相を聞きださないと」
伊織「ねぇ」
P「ん?あぁおはよう伊織」
伊織「あんた最近帰り遅いけど何やってるのよ」
P「何って仕事だよ」
P「それは……」
コイヲーハジメヨーヨー
P「おっと電話だ。失礼」
P「もしもし……何!?音無さんの親戚が八尺様に魅入られた!?わかったすぐ行く!」
伊織「ちょ、ちょっと」
P「すまん伊織急用が入ったからまた後にしてくれ!」
P「貴音!美希!響!お前達も手伝ってくれ!」
貴音「は、八尺様……私少々頭痛が痛いので本日は……」
美希「そこお腹だよ」
貴音「嫌です!八尺様は嫌です!助けてください響!」
響 「楽器くらいなんくるないさー自分完璧だからリコーダーも吹けるんさー」
美希「それは尺八って思うな」
響 「ほらほらー行くぞー」グイグイ
貴音「い、嫌だと言って……!ちょ、ほんと無理」
ギャーギャー
雪歩「プロデューサーってお寺生まれだったのかな……」
真 「ハッシャクサマってなんだろ?」
春香「貴音さんが怖がってるし、お化けとか?」
小鳥「八尺様は怖いわよ~」
伊織「どこから沸いてきたのよ」
真美「ピヨちゃんどこ行ってたんだYO!」
小鳥「ちょっと外にね」
P「なんとか撒いたか……」
響 「それでどこまで行くの?」
P「今日は吹き替えの仕事入ってただろ。このまま現場まで行くぞ」
貴音「え、あ、あの……八尺様は……」
P「飽きたから帰ったらしい。もう大丈夫だよ」
響 「よくわかんないけど解決なら安心だな!」
貴音「まこと、良きことです……本当に……」ポロポロ
P「お、おい泣くなよ……」
美希「あふぅ」
P「仕掛けるなら今だな……よし」
P「携帯取り出しぽぱぴぷぺー」
prrrrr……
律子《プロデューサー?どうしたんですか?》
P「でぇとちてくれま・す・か?」
プツッ
P「……」ピピピ
律子《何ですか》
P「いきなり切るなんて酷いじゃないか」
律子《いきなり意味不明なこと言われたら切りたくもなりますよ……》
P「律子の誕生日って6月の23日だったよな」
律子《はい。それが何か?》
P「その日の夜空いてないか?」
律子《特に予定入ったりはありませんけど》
律子《ってええ!?そ、それってまさか……!》
P「二十歳記念に飲みに行こうと思ってさ」
律子《ふ、二人きりでですか!?》
P「いや、俺の連れもいるけど」
律子《……ですよねー。あはは、はは……》
P「なんだ?都合悪かったか?」
律子《いーえ!どうせ誕生日に予定入ってない寂しい女ですよ!》
P「何怒ってるんだよ……」
律子《別に怒ってませんけど!?》
律子《行ってもいいですけど……次の日休みですし》
P「よし!仕事終わったらそのまま行くから頼んだぞ!それじゃ」ピッ
P「これで面子は揃ったな。あとは余計な邪魔が入らなければ勝利条件達成だ」
響 「勝利条件?」
P「うわっ!?あ、いや、もう収録終わったのか?」
美希「その気になればNGなんて出さないの!」
響 「毎回そうならいいんだけどな……」
貴音「先ほど収録を終えましたので」
P「順調に済んで良かったよ。じゃあ帰るか」
響 「勝利条件ってなんだ?」
P「ゲームの話だよ」
響 「なんだゲームか」
冬馬「何だって?」
黒井「23日……秋月律子の誕生日当日の夜に決まった」
北斗「次の日がオフで良かったですね」
冬馬「酒の話してたし社長達は飲むんだよな?」
黒井「まぁ程々にな」
北斗「どうせなら酔った律子ちゃんを見てみたいからな」
冬馬「宅飲みにしねぇ?それなら見えないファウルで……」
黒井「法律は守れ冬馬よ」
冬馬「頭の固いおっさんめ……」
翔太「そういえば誕生日プレゼントとかは用意するの?」
冬馬「そんなもん食パンでも渡せばいいだろ」
黒井「そうだな」
トロケルーホドーワタシノーネムリニー
小鳥「私のものになってくれないと困る……あら?」
小鳥「もしもし?どうしたんですか律子さん?」
律子《あ、夜分にすみません。少し相談がありまして……》
小鳥「私にわかることならなんくるないですけど、何でしょう?」
律子《今度プロデューサーと飲みに行くんですけど、私お酒初めてで》
小鳥「詳しく」
律子《え、はい》
ガチャ
律子「おはようございます」
春香「律子さん!お誕生日おめでとうございます!」
律子「きゃっ!」
亜美「貴重なりっちゃんの驚くシーンです!」
真美「本邦初公開となります!」
亜美「ホンポウってなに?」
真美「ロシア連邦のことっしょー」
亜美「やるねぇ真美君!」
真美「んっふっふー」
律子「な、なんだかグダグダだけどありがと……」
あずさ「それ~」パーン
千早「今頃クラッカー……」
律子「今日は仕事詰まってますからね」
高木「うん。でもせっかくだから、仕事前に祝おうと皆で決めたんだよ」
伊織「竜宮小町でケーキ作ったのよ。帰ったら食べなさいよね」
美希「はいこれ」
律子「これは?」
美希「プレゼント買ってきたの。律子にはお世話に」
律子「……」
美希「律子さんにはお世話になってるし奮発したんだよ」
律子「あ、ありがとう……嬉しいわ」
亜美「ケーキ見た目はアレだけど味は美味しいと思うから安心してNE!」
伊織「アレって何よ!この伊織ちゃんがデコレーションしてあげたのに!」
亜美「別にアレって言っただけだもんね~。んっふっふー」
伊織「ムキー!」
真 「あぁ……」チラッ
小鳥「私も連れてってくださいよ!」
P「ダメですって!今日は律子だけって決めてるんですから!」
小鳥「あれだけ協力してあげたのに!」
P「それとこれとは話が別です!」
伊織「律子今夜プロデューサーと出かけるらしいじゃない」
真 「それでゴネてるんだよ」
律子「話したら不味かったのかしら……」
小鳥「嫌です嫌です!ぜぇっっっっ」
小鳥「っっっったいに!一緒に行きますから!」
P「何でそんなについて来たがるんですか!?」
小鳥「最近友達付き合いが減ってきて寂しいんです……」
千早「急に重くなってきたわよ」
春香「というかそろそろ出ないとダメなんじゃ……」
P「そんな泣きそうな顔したって……あ、律子誕生日おめでとう」
小鳥「おめです」
真 「軽い!?軽すぎだよ二人とも!」
響 「おはようと同じノリだったぞ!」
律子「そろそろ仕事行かないと時間的にまずいですよ」
P「ほら!仕事ですよ、仕事!さっさと諦めて仕事してください!」
小鳥「律子さん!」
律子「は、はい?」
小鳥「どうやって現地まで行くんですか!?」
律子「どうやってって、プロデューサーと事務所から一緒に……」
P「ば、馬鹿!」
小鳥「ピヨッシャア!ワンチャンありますね!」
律子「はぁ……私もう行きますからね。ほら皆も集まって!今日のスケジュール組むわよ!」
P「あの人と飲むと毎回えらい目にあうからな……」
やよい「プロデューサー。お仕事行かなくていいんですか?」
P「ん?あ、もうこんな時間か」
P「今日はCMの撮影だったな。よし、やよいと真美亜美は俺と来てくれ」
真美「真美達3人の水着でCMとか変態すぎるっしょー」
亜美「大きい兄ちゃん達はエッチだなぁ」
P「どうせならあずささんや貴音の水着姿のほうが見たいんだけどな」
真美「今の本人に言っちゃおっかなー」
P「お、おい」
やよい「あの、お仕事……」
P「そ、そうだったな!はいこの話はヤメヤメ!TV局まで車で行くから準備したら降りてきてくれ」
亜美「ちぇっ」
真美「お悩みのようですな兄ちゃん」
P「もし真美が友達と遊びにいく約束しててさ」
真美「うんうん」
P「音無さんがついてくるって言ったらどうやって止める?」
真美「一緒に行くに決まってんじゃん!」
P「断るのを前提としたら?」
真美「うーん……考えたことないや」
P「亜美は何かないか?」
亜美「気絶させれば?ドラマみたいにハンカチ使ってやっちゃいなYO!」
P「いいなそれ。それでいくか」
例え話が酷すぎだろww
P「真美には清く生きてほしいんだ……汚れ仕事は俺がやる」
真美「兄ちゃん……」
P「真美……」
亜美「なんか始まっちった」
やよい「それって危ないんじゃ……」
P「大丈夫だよ。音無さんは強い人だから」
やよい「で、でもぉ」
P「じゃあ峰打ちにするからさ」
やよい「それなら大丈夫なのかな……?」
小鳥「仕事あがりにプロデューサーさんと律子さんと一杯行きますから!」
高木「えっ」
小鳥「律子さんお酒飲めるようになりましたからね!」
高木「私は誘われてないんだが……」
小鳥「あ、ちょっと今忙しいんで後で聞きます!」
小鳥「それそれー!喉が鳴るわよー!」
高木「社長なのに……」
北斗「いつでもOKですよ」
冬馬「確かに食パンでも渡せばって言ったけどよ……」
翔太「あ、エプロン忘れちゃった」
黒井「予備を用意してあるからそれを着けろ」
冬馬「まさか作ることになるとは……」
翔太「こんな広いキッチンまであるなんて961プロすごいね!」
黒井「ウィ。私はパン作りなどよく知らんからな。お前が指示しろ」
冬馬「仕方ねぇな……家まで材料取ってくるよ」
北斗「全部社長が用意してくれてるじゃないか」
冬馬「こんな市販のドライイーストじゃダメだ。臭いパンが食いたいなら別だがよ」
冬馬「俺がネットで買った外国製のやつが余ってたはずだから持ってきてやる」
黒井「本格的だな」
冬馬「より完璧を目指すのがジュピターだろ?」
冬馬「生きてるパンをぅ作ろぉう」
北斗「テレレレン・テレレレン・テレンレレンレンテンレレン」
翔太「テレレレン・テレレレン・テンテンテテンテン」
黒井「赤ちゃんは裸で生まれてくる♪」
冬馬「ドジョウも裸でカエルも」
職員「社長!!こんな所にいらしたんですか!」
黒井「なんだ騒々しい。今まさにパンに命を吹き込んでいるところなのだ」
職員「パ、パン?何やら音楽権利団体の方が来て黒井社長をと……」
黒井「……」
北斗「黙ってろ冬馬。喋れば喋るほど不利になる」
職員「社長?」
黒井「居ないと伝えろ」
職員「えっ」
黒井「伝えろ」
職員「しかし……」
黒井「私とジュピターが焼いたパンを食べたくはないのか」
職員「社長は海外出張中でした。私としたことが失念していたとは……いやいや」
黒井「……行ったか」
北斗「色々と危険すぎましたね」
黒井「ウィ。我々も用心する必要があるな」
翔太「ねぇこのパンちょっと臭くない?」
冬馬「手作りだとこんなもんだ。ほら続けるぜ」
真美「兄ちゃん!見なさいこのセクシーな水着姿!」
亜美「間違い犯しちゃってもいいのよん?」
P「あと5年くらい成長してたら危なかったかもな」
真美「5年ってことは19?」
亜美「高校生でもないじゃん!うあうあー!」
P「あぁもう早く着替えてこいって。俺も挨拶してから行くから」
やよい「はい!」
P「さぁ最後の詰めだ。音無さんを突破しないとな」
真美「たっだいまー!」
亜美「あり?皆もう帰っちゃったの?」
伊織「私以外はもうあがったわよ」
やよい「伊織ちゃんごめんね、待っててもらって」
真美「奥さんしてますなー」
伊織「それじゃ私達は帰るから」
真美「あ、途中まで一緒に行こうYO!真美達も帰る!」
亜美「べろちょろ!」
小鳥「おかえりなさいプロデューサーさん」
P「きましたね……」
小鳥「残業はありませんよ!全部終わらせましたから!」
P「そうですか……なら仕方ない」
P「音無さん。いや、小鳥」
小鳥「こ、こと、小鳥!?」
P「話があるんだ。二人だけになりたい」
小鳥「はははははい!で、ではそこの別室で……」
高木「あ、君!今日は律子君達と」
P「すみません後にしてください」
高木「君ぃ……」
P「その前に目を瞑ってもらえますか?」
小鳥(キ、キ、キター!我が世の春がついにキター!)
小鳥「は、はい!いつでもどうぞ」
P「では……すみません!」
小鳥「むぐ!?むぐぐ!」
P「あれ?気絶しないな」
小鳥(プロデューサーさん!タップですよ、タップ!)ジタバタ
小鳥(あ、ちょっと気持ちよくなって……)ジタ…バタ…
小鳥「」
P「やっと効いたか……ハンカチは洗って返してくださいね」
律子「もう帰っちゃいましたよ」
P「なら都合がいいな。律子のほうは準備いいのか?」
律子「いいですけど、小鳥さんはどうしたんです?」
P「見たいアニメがあるからって帰ったよ」
律子「あの人社会人の意識あるんですかね……」
P「まぁまぁいいじゃないか。それじゃ戸締りして行こう」
律子「ところでプロデューサーの友達ってどんな人なんですか?」
P「音楽関係の仕事してる人だよ」
律子「い、いつの間にそんな人脈が……やりますね」
P「律子も知ってる人だから、きっと驚くぞ」
律子「……それって男性ですか?」
P「まぁそうだな」
律子「嫌な予感しかしないわ……」
P「えぇと……いたいた。お待たせしましたー!」
律子「やっぱり……」
北斗「チャオ☆律子ちゃん!」
翔太「こんばんは!」
冬馬「よう」
律子「961プロと食事する時が来るとは思ってなかったわ」
黒井「普段は敵同士だが、今日くらいは遺恨を忘れようではないか」
律子「よく言いますね」
P「せっかくの律子の誕生日なんだし、そうカリカリするなって」
律子「別にカリカリなんかしてませんけど……」
黒井「まずはビールだな」
P「律子ももちろんビールだよな」
律子「え、私はウーロン茶でいいですよ」
P「何言ってるんだ。飲める歳になったのに飲まないのは罪だぞ」
北斗「翔太はコーラで冬馬はメロンソーダでいいな」
冬馬「なぁ今日くらいいいだろ?」
北斗「あと3年経ったら好きなだけ飲めばいいさ」
冬馬「そんな機会一生ねーよ……」
律子「当たり前ですけど、私お酒飲んだことないんですよ?」
P「付き合いで飲むこともあるかもしれないだろ?丁度いい練習じゃないか」
北斗「じゃあ注文しますね」
P「それじゃいきますよ。律子!誕生日おめでとう!乾杯!」
北斗「おめでとう律子ちゃん!」
翔太「おめでとーう!」
冬馬「ん」
律子「これは?」
黒井「私とジュピターが作った食パンだ。ありがたく食うがいい」
律子「しょ、食パンですか?」
P「手作り食パンをプレゼントって何考えてるんだ……」
黒井「冬馬たっての希望でな」
冬馬「え、俺が作ろうって言ったんじゃ……」
P「そういえば料理が趣味って言ってたもんな」
律子「とりあえずありがとうございます……」
北斗「ほら、律子ちゃんも飲みなよ」
律子「じゃあ……うわ、苦い……」
P「ま、こんなもんか」
北斗「やっぱりリキュール系のほうが無難でしたかね?」
律子「これならコーラのほうがマシですよ……」
冬馬「じゃあそれ俺が貰って」
P「冬馬」
冬馬「わ、わかったよ……」
翔太「クロちゃん食べ物頼んでもいい?」
黒井「好きに頼め」
翔太「やった!」
北斗「今までも十分大人びてましたけどね」
律子「あずささんとひとつ違いになっちゃいましたね」
P「1ヶ月くらいでまた元に戻るけどな」
冬馬「三浦って21だったのかよ」
翔太「そう考えると小鳥さんって若く見えるよね」
P「今の本人の前では言うなよ」
黒井「誰だ!焼き鳥を串から外したのは!」
律子「食べやすいから取りましたけど何か?」
P「焼き鳥は串で食べるからいいんだろ」
律子「そんなの胃に入れば同じですよ」
P「ぐぬぬ」
P「見た見た。良かったよ」
黒井「私だけオファーがなかった……」
冬馬「だって俺達961プロ辞めてる設定だしな」
北斗「むしろ黒井さんがいたほうがおかしかったですよ」
黒井「黒井さんなどと呼ぶな!」
翔太「あはは!クロちゃん顔真っ赤!」
黒井「やかましい!」
P「ドラマの黒井社長は外道でしたからね」
律子「実際も酷かったじゃないですか」
翔太「ジュースみたいだね」
P「北斗もなんか頼むか?」
北斗「そうですね、生中お願いします」
冬馬「俺」
P「……」
冬馬「俺はメロンソーダで……」
律子「私どうもビールは好きになれません」
P「ならチューハイ頼んでみるか?ライチとかどうだ」
律子「ライチは嫌いじゃないですけど」
P「よし。店員さーん!」
律子「か、可愛いって」
冬馬「そうだ知ってるか?」
冬馬「しゃっくりって100回続いたら死ぬんだぜ」
律子「そんなの迷信だわ」
冬馬「マジだって!友達の爺ちゃんは100回目と同時に心臓発作で逝っちまったらしい」
律子「そもそも続く条件が曖昧よね」
翔太「条件?」
律子「100回続けるにしても、前のしゃっくりから何秒以内にとかは決まってないでしょ?」
P「夢のないこと言うなよ……」
黒井「これだから頭の固い765プロは困る」
律子「な、なんですか私が悪いって言うんですか!?」
P「なんだ?」
翔太「春香さん冬馬君が誘ったライブに来てないよね」
冬馬「……」
北斗「……」
翔太「あれ?」
P「翔太……需要と供給って知ってるか」
翔太「知らないけど」
律子「中学生で習わなかったかしら……あ、これ美味しい」
P「あそこで残り少ない尺を割いてまでジュピターのライブを見に行く価値があると思うか?」
翔太「それはあるでしょー!だって僕達最後の見せ場なんだよ?」
P「……聞き方を変えるが、お前達の見せ場に視聴者は」
黒井「そこまでだ。もうやめてやれ」
北斗「黒井さん……」
黒井「黒井さんはやめろ!本当に解雇されたいか!」
冬馬「男の顔より女の顔眺めてたほうが楽しいだろ?」
北斗「当然だな」
黒井「むしろ出演できただけ良かったと思え」
P「下手したらライバル枠は新幹少女に食われてましたからね」
律子「……」ゴクゴク
冬馬「あと特別編であのご尊顔がってあったけどよ」
P「あぁあったな」
冬馬「絶対社長が出ると思ってたのに、居酒屋の店員と765の社長だったな」
北斗「小川さんでしたっけ?快活そうな女性でしたね」
P「声が伊織そっくりでたまに驚くんだよ」
翔太「765プロの社長さんは普通のおじさんだったねー」
黒井「なぜだ?」
律子「ふぅ……とことん妨害工作したゲス社長ですよ?」
律子「きっと特殊メイクでその悪人面が更に強化されますよ」
黒井「あ、悪人面だと……」
P「服装がまずチンピラだったしなぁ」
冬馬「紫のスーツはねーよな」
黒井「貴様も初期は色々言われていたが最終的に認められたな」
P「真面目が信条ですから」
冬馬「俺達は最初から悪評しかなかったぜ」
翔太「冬馬君が春香さんにぶつかって悪態ついたりするからでしょ!」
P「その辺りは実際とそんな変わらないよな」
冬馬「うるせーな」
黒井「続編に向けて何かアクションを起こすべきか……」
P「アクション?」
冬馬「いきなり765のパクリじゃねーか!」
黒井「そうすれば961プロの日常のようなタイトルで出せるだろう」
P「そんなの放送したら視聴率だだ下がりですよ……」
北斗「それに俺達961プロ辞めた設定ですから」
律子「あ、なくなっちゃった」
P「おぉ意外といけそうだな。次何する?カクテルいってみるか?」
律子「えっと、お任せします」
P「ファジーネーブルあたりで慣らすか」
黒井「そうだな」ジー
北斗「あ、もう撮るんですね」
北斗「週刊誌に売り込んだら凄い値がつきそうですね」
律子「これも中々……」ゴクゴク
翔太「あの、律子さんそんなハイペースで飲んでも大丈夫なの?」
律子「結構お酒強いみたいだから平気よ」
P「カクテルに合うつまみってなんだろ」
北斗「さっぱり系ですかね」
黒井「野菜スティックあたりでも頼めばいいだろう」ジー
P「こんなシーン撮っても面白みないと思いますけど……」
黒井「そこは編集すれば問題ない。少しは頭を使えよ」
P「ぐぬぬ」
翔太「僕焼き鳥もう1回頼もうかな」
冬馬「俺も食いたいから盛り合わせ頼んでくれ」
P「そんなことあったか?」
律子「あ、すみません。このライムチューハイを……」
冬馬「マジでよく飲むなこいつ……」
北斗「今回は逆に好みの男性について語りません?」
翔太「うわっ」
P「俺急用思いついたから帰るよ」
黒井「私もセレブな急用ができた」
北斗「ちょ、ちょっと!違いますって!律子ちゃんに聞くんですよ!」
冬馬「北斗……」
北斗「冬馬!」
冬馬「友達としてやっていこうぜ?」
北斗「おい!!」
北斗「や、やめろよ翔太……それは洒落にならない」
翔太「もうメールしちゃった!」
P「というか音無さんのアドレス知ってるんだな」
律子「すみませーん!このいいちこっていうのください!」
冬馬「この前携帯取られて登録させられたんだよ」
P「へぇ……って律子?いいちこって焼酎だぞ?お前飲めるのか」
律子「イチゴみたいな名前ですし、なんとかなりますよ!」
冬馬「そういえば今日よく事務員から逃げ切ったな」
P「あぁ気絶させて事務所に寝かせてきたんだ」
黒井「暴力とは765プロは相変わらず野蛮だな」
P「峰打ちなんで大丈夫ですよ」
冬馬「峰打ちならセーフだな」
黒井「程々にしておかないと次の日が辛いぞ」
律子「961プロのじょげんなんて受けません!」
P「まぁせっかく北斗が提案したんだし聞いてみるか?」
北斗「え、あぁ、どうぞ……」
冬馬「そんな気にすんなよホモクト」
翔太「そうだよっ!僕達ずっと友達だよホモクト君!」
北斗「二人ともここぞとばかりに言ってくれるな……」
黒井「ビデオカメラを持ち続けるのは意外とこたえるな。翔太よ代われ」
翔太「えぇー?仕方ないなぁ」
翔太「よっと。もしもーし律子さん今どんな感じー?」
律子「……」ゴクゴク
律子「あ、あの」
律子「プロデューサー殿!」
P「な、なんだ?」
律子「芋って美味しいんですかね」
P「芋?」
律子「芋焼酎です」
P「あぁ酒か。麦よりは癖があって飲みにくいと思うぞ」
律子「じゃあそれ頼んでみますね」
P「じゃあって……どう見る北斗」
北斗「まわってきてるとは思いますが」
冬馬「なんだマジで酔い潰すのかよ」
P「堅物の律子が酔った姿なんて貴重だからな」
P「ち、近いって」
律子「うんうん。ところで皆さんあまり飲んでないですね」
P「俺達は自分のペースで飲むから気にするな」
北斗「律子ちゃんは好きに飲んでいいからさ」
律子「納得いかないわ」
冬馬「は?」
律子「黒井社長達の分も頼みますね」
黒井「ウィ?」
律子「私だけ飲んでたらなんだか申し訳ないじゃないですか」
北斗「そんなことは……」
律子「ほら、あんたも頼みなさい!」
北斗「は、はい」
北斗「」ガタッ
P「」ガタッ
黒井「翔太ァ!!」
冬馬「カメラ回せ!」
翔太「う、うん」
律子「ほら、プロデューサー達も飲んでくださいよ」
P「の、飲んだら律子ももっと飲むのか?」
律子「かもしれませんねぇ。お三方の努力次第?」
北斗「プロデューサーさん!」
P「あぁ!飲もう!店員さーん!」
冬馬「お前らだけにいい格好させられるかよ!」
黒井「ここは私の出番だな!」
翔太「冬馬君は僕と観戦してようね」
冬馬「くそっどさくさに紛れようとしたのに……」
小鳥「や、優しくしてください!」ガバッ
小鳥「ってあら?ここは事務所……?なんでこんなとこで寝てるの?」
小鳥「うぅ背中が痛い……今何時かしら」
小鳥「あ、メール」
sub:【速報】北斗君はホモだった!
本文:急に好みの男の話したいって言い出して怖いよ(i|!゜Д゚i|!)写真も貼っておくね!
小鳥「……ふふ、ふふふ。思い出したわ」
小鳥「神は見捨てなかった!ぬかったわね翔太君!」
小鳥「背景からどこの店か割り出しは可能ッ!」
小鳥「30分もあればいけるわよぉ!」
小鳥「あっという間だったように見えるけどタクシーフル活用して急いだのよ!」
小鳥「あ、すみません友人と夫が先に入ってまして」
小鳥「さぁどこかし……」
P「ウェイェイ!」
律子「ダ・ザラッタッタ!ザラッタタォ!」
北斗「ベイベベイベ☆」
P「ダ・ザラッタッタ、ザラッタッターウゥ!」
黒井「ウゥイェ!ダ・ザラッタッタ!ザラッタッタオゥ!」
北斗「ベイベベイベ☆」
律子「ダ・ザラッタッタッタートゥ!」
小鳥「な、何これ」
「「「「ベイベベイベベイベベイベベイベベイベ♪」」」」
りっちゃん誕生日おめでとう
BGMについて詳しく。
翔太「小鳥さん!」
小鳥「あ、二人とも」
冬馬「こいつら酒飲んでおかしくなっちまったんだ!どうにかしてくれ!」
小鳥「そ、そうね……!ここは大人の女性である私が一発ビシッと」
P「ズッタン!ズッズタン!」
律子「ピヨちゃーん!」ガバッ
小鳥「ピ、ピヨちゃん!?あの、律子さん?」
北斗「ズッタン!ズッズタン!」
黒井「音無君も来たのか!さぁさ飲むがいい!」
小鳥「え、あ、あの!?」
P「小鳥ァ!俺についてこい!」
小鳥「は、はい!」
冬馬「速攻で落とされてんじゃねーか!」
P「このままずっとー!ずっとー!死ぬまでハッピー!」
北斗「気分はdo-dai律子ちゃん!」
律子「なんだかフラフラしてきたわ!」
北斗「じゃあ脱ごう!」ヌギヌギ
冬馬「おい!こんな場所で脱ぐなよ!」
黒井「ウィーーーーー!!」
翔太「プロレスラーじゃないんだから……」
店員「こ、この人達です!」
警察「警察ですが店の通報で……」
P「んだオラァ!やろうってのか!」
翔太「ちょっ何言ってるの!?」
黒井「必要ないのだ!世界に貴様達は!」
律子「やれ!」ゴクゴク
P「ヒャア我慢できねぇ!」
北斗「ホォォォォォアァァァァ!」
警察「う、うわっ!やめろ!」
冬馬「逃げるぞ翔太!」
翔太「でも北斗君達が……」
冬馬「そんなもん切り捨てろ!行くぞ!」
翔太「う、うん!」ポイッ
高木「彼の携帯からだ!ついにきたか!私を呼ばないなんて酷いじゃないか!」
高木「もしもし?やっと誘ってくれたね!」
警察「○○交番ですが、高木順二郎さんですか?」
高木「え?」
警察「高木順二朗さんの携帯電話でしょうか?」
高木「は、はいそうですが……」
警察「そちらの職員を酔っ払いとして保護していますので交番まで来ていただけますか?」
高木「よ、酔っ払い!?」
警察「印鑑持参でよろしくお願いします」ガチャッ
高木「」
警察「もっと社会人ということを自覚させてくださいね」
高木「申し訳ないです……」
P「ウェーイ!あ、社長!こいつらなんとかしてくださいよ!」
黒井「高木ィイイイイ!!貴様こんな場所で何をしている!!」
高木「黒井まで……」
律子「むにゃむにゃ」
小鳥「ぐーぐー」
北斗「ん……あ、あれ?何で俺はジャージなんか履いてるんだ?ここは?え?」
警察「じゃあここに印鑑押して……はいこれで終わりです。早く連れて帰ってください」
高木「お手数おかけしました……伊集院君は一人で大丈夫だね?」
北斗「え、は、はい……あの、これは一体……?」
P「え?今から続きするんですか!?やったー!」
黒井「高木ィイイイ!」
北斗「お、お酒ですか……?うっ頭が……」
警察「君も帰りなさい。もう他の人に迷惑なんかかけるなよ」
北斗「……そういえばプロデューサーさん達と飲んで……」
北斗「あっ」
北斗「」ゴソゴソ
北斗「は、履いてない……!」
警察「はよ帰れ」
P「オロロロロ」
高木「ちょっ君!吐くなら先に言ってくれ!」
黒井「うっ」
高木「待て!待て黒井!今停めるからな!」
黒井「ウゥィ」
黒井「オロロロロロ」
高木「あぁ!」
律子「んん……臭い……あ」
P「げぇ……うぅ……」
律子「プロデューサー殿ぉ」ギュッ
P「きもちわる……」
高木「すまないが時間もないし、ここからは一人で帰ってくれ」
P「ぁい……」フラフラ
高木「明日がオフで良かったよ本当に。ではね」
P「うぅ……」ヨロヨロ
高木「次は律子君の家か……親御さんに怒られるんだろうな……私が」
高木「律子君そろそろ起きて……律子君?」
高木「い、いない!?」
高木「彼と一緒に降りてしまったのか……」
高木「……」
黒井「すやすや」
小鳥「ぐー……ぐー……」
高木「間違いは起こすなよ……」
P「翔太、じゃないトイレ……」ガチャ
律子「おじゃましまーす」
律子「ねむい……」キョロキョロ
律子「ふとんはっけん~」
律子「ぐぅ」
ジャー
P「おぇ……」
P「」ヌギヌギ
P「おやすみぃ」バタ
P「んあ?」パチリ
P「……何で俺は裸で寝てるんだ」
P「あぁそうか律子達と飲みに行ってそれで……それで帰ってそのまま寝ちゃったのか」
P「記憶が飛んでるけど楽しかった気がするしなんくる……」
律子「ぐぅ」
P「なんくる……ある……」ダラダラ
P(え?いや、え?なに?なんで律子がここにいるんだ?え?)
P(落ち着け……冷静になれ。そうだ!確かめればいいんだ!)
P「失礼」
律子「んぅ」コロン
P「ベ、ベージュ……!」
P(酒+朝+はだけた衣服=LMG!)
P「一度の火遊びをしてしまったのか……?鉄の心を貫いてきたこの俺が」
律子「んん……」モゾモゾ
P「ま、まずい……起きそうだ……」
律子「ん……?」パチ
P「や、やぁ律子」
律子「プロデューサー……?なんでここ……あれ?ここは?」
P「昨日は、なんだ、その……」
P「お、俺のマッチで燃え尽きてしまったんだな!」
律子「……」
P「なんちゃって……はは……は……」
律子「ぎやぁあああああああああああ!!」
P「うわぁああああああああああああ!?」
P「伊織の台詞をとるな!ってそんなことはいいから落ち着け!俺だって混乱してるんだ!」
律子「初めてのお酒の席で、そのまま襲われるとは思わなかったわ……!」
律子「責任とってくださいよ!」
P「仕方ないな……」
律子「え!?」
P「いくらだ」
バチーン!
P「じょ、冗談だよ……」ガクガクガク
律子「全っ然笑えません!」
P「と、とにかく!事実確認をはっきりさせるまでこの件は保留だ!」
律子「確認ってどうするんですか」
P「困ったときは961プロだろ」
律子「961……?そういえば一緒に飲んでましたね」
P「あぁ。行こう!」
P「え、なんでだ?」
冬馬「今日オフだし、俺はたまたまトレーニングしにきただけだからな」
P「電話も繋がらないし困ったな……」
律子「天ヶ瀬君。昨日のこと覚えてるかしら」
冬馬「まぁ大体は……つーか何?あんたら昨日のスーツのままじゃん」
P「それについて確認したいんだが、昨日ってどんな感じだった?」
冬馬「酒飲んで騒いで警察の世話になってた」
律子「は?」
P「逃げたのはともかくそんなに飲んでたのか……」
冬馬「あんたんとこの事務員なら何か知ってるんじゃないか?一緒に補導されてたし」
P「音無さんのことか?あの人はいなかっただろ」
冬馬「途中参加して一緒に騒いでたぜ」
P「ますます混乱してきた……」
律子「頭痛くなってきたわ……」
冬馬「じゃ、俺行くから」
P「あ、あぁ……」
P「……出ないな……」
小鳥《もしもし……》
P「あ、音無さんですか?こんにちは。ちょっと確認したいことがあるんですが」
小鳥《手短にお願いします……頭割れそうなので……》
P「その様子じゃ本当に俺達と合流したんですね……」
小鳥《はい……もういいですか?脳みそ爆発しそうなんですよ……》
P「俺の人生がかかってるんでもう少しだけ。帰りってどうしました?」
小鳥《社長に送ってもらいましたよ……それでは……》プツッ
P「切られてしまった……」
律子「どうでした?」
P「社長が送ってくれたらしいが、社長って高木社長だよな」
律子「黒井社長も確か飲んでましたしね」
P「行くか……多分事務所にいるだろ」
律子「どう転んでも嫌な予感しかしないですね……」
高木「あ、君。もう大丈夫なのかい?随分飲んでいたようだが」
P「やっぱりご存知なんですね……あの、俺って昨日社長の世話になったんでしょうか」
高木「う、うむ……」チラッ
律子「?」
高木「ひとつ確認したいんだが、君達今日どこから一緒に来たのかな?」
P「お……」
高木「お……?」
P「俺の家からです……」
高木「……そうか」
律子「な、なんですかその慈愛の眼差しは!」
高木「私が知る限りのことを話すよ」
冬馬の話に嘘偽りはなかった。
そして社長が身元引受人として呼び出され、ゲロを浴びながら俺達を車で送り届けてくれた。
律子は俺が降ろされたと同時に車内から姿を消していた……。
P「も、もうだめだ……完全に詰んでる……」
高木「そういえばビデオはもう確認したのかい?」
律子「ビデオ、ですか?」
高木「黒井が撮影していたらしい。それなら当時の状況もわかりそうだが」
高木「奴が持っていなかったから、てっきり君が預かっているのかと思ったんだけどね」
P「そんなのあったかな……」
律子「961プロも小鳥さんも持ってないのならプロデューサーでしょうね」
P「一度戻るか……失礼します社長」
律子「でもビデオなんてあったかしら……」
P「律子は記憶にないのか?」
律子「いえ全く……」
P「うーん……ビデオビデオ……ん、これか?」
律子「鞄の中に入ってたんですね」
P「警察の人がいれてくれたのかな……バッテリーはあるな」
P「じゃあ再生するぞ」
律子「は、はい!」
P(これでいい雰囲気になってたりしたら終わりだ……頼むぞ俺!)
…………
……………………
P「死んだ魚のような目をしてそのまま解散になったよ……」
黒井「そもそも貴様プレゼントを渡してないのか?」
P「何も考えてませんでした……」
翔太「食パンの僕達以下だよプロデューサーさん……」
北斗「まぁ疑いが晴れただけ十分と思いましょうよ」
P「ゲロまみれの状態で事に及ぶなんてありえないしな……」
P「でもどうしよう……これじゃ俺明日から律子に合わせる顔がないよ」
冬馬「……」
冬馬「……やるか」
北斗「そうだな」
P「な、何かいい案があるのか?」
黒井「ウィ。最初からこうすれば良かったのだ」
翔太「プレゼントはモノだけじゃないんだよプロデューサーさん!」
P「!! まさか……!」
冬馬「あぁ。俺達なりの方法で伝えようぜ!」
P「ついにこの時がきたのか……」
黒井「P.Kジュピターの復活だ!」
おいおい、フラグ立てるなよ…
1stシングルの『七彩ボタンEX』は、ライバルでもある765プロを感動の渦に巻き込んだ。
デビュー戦以降活動を休止していたP.Kジュピターだが、再び彼等は動き出す。
新たな伝説が今、生まれようとしている……。
P「でも俺達には時間がない。明日は仕事なんだぞ」
黒井「策は既に考えてある」
冬馬「マジかよ。どうするつもりなんだ?」
黒井「765プロ全員参加の番組があっただろう。なんと言ったか」
北斗「生っすかレボリューションですか?番組再編でリニューアルしたという」
黒井「ウィ。あれをジャックする」
黒井「961プロの力を使えばその程度容易いことだ」
P「確かに生っすかなら律子も見るでしょうけど……」
P「いや、むしろ全社員で現場まで行けば全員に見せることもできるのか」
冬馬「考えたな社長」
北斗「なるほど……」
翔太「踊る場所はどうするの?スタジオも乗っ取るの?」
黒井「うちの簡易スタジオを使う。証明でごまかせば雰囲気は出るだろう」
P「中継先をジャックするわけですか……」
P「あぁ。猶予は1日もない」
黒井「とりあえず貴様は交通事故だな」
P「え!?」
北斗「入院したことにして、休みの大義名分を得るんですよ」
黒井「私が懇意にしている病院なら1日の入院などすぐにねじ込める」
冬馬「で、治療という名の徹夜レッスンをするわけだな」
黒井「ウィ。お前もわかってきたではないか」
翔太「曲はどうするの?また七彩ボタン踊るの?」
黒井「貴様が決めろ。何かないか」
P「そうですね……今回はジェントルよりワイルドにいくか」
冬馬「ワイルドよりデンジャラスか?」
P「あぁ」
黒井「オーバーマスターだな。それなら準備も楽だろう」
高木「黒井からか……」
高木「嫌な予感がする。かつてない嫌な予感が」
高木「不幸……迫ってきてる着実に確実に私のほうに」ピッ
高木「……こんな遅くに何の用だ?」
黒井《高木!大変だ!貴様のところのプロデューサーが事故にあった!》
高木「な、なんだって!?それで彼の容態は……」
黒井《ということで検査入院することになった。なに、週明けには復帰できる》
高木「え?」
黒井《それまで奴の仕事は全て秋月律子に任せるんだなアデュー!》プツッ
ツーツー
高木「お、おい!……電源が切られてる……」
P「衣装はまた961プロにお任せしていいんですか?」
黒井「アレは元々私が考案した衣装だからな。任せるがいい」
翔太「じゃあ、やろっか!」
P「あぁ!」
冬馬「振り付け考えてる暇はねーし、フェアリーのやつ真似するんだよな」
P「最近クインテットに対応させたからな。七彩の時より5人で踊るのは楽なはずだ」
黒井「時間が惜しい。ダンススタジオまで行くぞ」
P「はい!」
北斗「また鬼プロデューサーさんを見ることになるとはね」
冬馬「あれはあれでいいもんだぜ」
春香「えぇ!?プロデューサーさんが入院!?」
千早「どこの病院なんですか?」
美希「ハニー……ハニー……」ポロポロ
高木「黒井記念病院で1日の検査入院らしいから、命に別状はなさそうだよ」
貴音「……それは安心しましたが……また961プロですか」
真 「ところで律子は?」
高木「昨日精神的なショックを受けたらしくて、少し遅れて来るそうだ」
伊織「あいつに襲われたとかだったりして」
高木「……」
伊織「ちょ、ちょっと!なんとか言いなさいよ!」
響 「じゃぁ今日の予定はどうするんだ?」
高木「今日は午後の生っすか収録だけだから、そこは安心しなさい」
あずさ「あ、律子さ……だ、大丈夫ですか?顔色よくないですけど……」
律子「だから961プロは嫌いなのよ……ぶつぶつ……」
亜美「さすがの亜美もスルーしちゃうこのテンションの低さ……」
千早「誕生日に何かあったのは間違いないみたいね」
真「あ、律子。プロデューサー今日休みなんだって」
律子「ぶつぶつ……え?そうなの?」
伊織「病院で検査受けてるそうよ。ついに頭のネジが飛んでいったのかしら」
律子「助かったわ……さすがに昨日の今日で合わせる顔がないもの……」
響 「何かあったの?」
律子「なかったわ」
春香「え?」
律子「何もなかった。何もなかったのよ」
伊織「ちょ、ちょっと律子?」
小鳥「え、えっと今日は午後から生っすかの収録だけです!」
律子「じゃあ時間になったら下で集合!いいわね!?」
真美「は、はひ」
春香「落ち込んだり怒ったり本当にどうしちゃったんだろ……」
あずさ「961プロが嫌いみたいなこと言ってたけど……」
雪歩「と、とりあえずお茶用意しますね」
律子「お願いするわ……どうにも頭が回らないみたいで」
やよい「プロデューサー心配だね……」
伊織「まぁ1日だけの入院なら、そんなに心配しなくてもいいんじゃないかしら」
スタッフA「5!4!3!……!」
春香「日曜午後の新発見!神出鬼没の生中継!生っすかサンデーレボリューション!」
千早「この番組は、BBS赤坂スタジオから全国のお茶の間の皆様へ毎週生放送でお届けしています」
貴音「さぁ今週もやってまいりました」
響 「テレビの前の皆ー!今日もよろしくねー!」
春香「ではでは、最初のコーナーはこちら!モニターをご覧ください!じゃじゃん!」
黒井《ウィ。私が今回最初のコーナーを務めさせて頂く黒井です。皆さん以後お見知りおきを》
春香「???」
千早「くっ黒井社長?」
黒井《さて……視聴者の皆さんには真の王者とはどういった存在か既におわかりでしょう》
律子「ちょ、ちょっと!スタッフさん!カメラ止めてください!」
スタッフA「身体が痺れて動けねぇ……」
スタッフB「俺達は……見ていることしかできないのか……!」
律子「はぁ!?」
黒井《ですが今回は彼等を更に上回るアイドルをお見せしましょう》
真美「こ、この感じは!」
あずさ「どうしましょう……」
黒井《皆さんは今日この瞬間!歴史の立会人となるのです!》
黒井《ただのアイドルではなく、本当のヒーロー!英雄を目撃するのですから!》
真「勝手なことべらべら喋って!早く姿を見せろ!」
黒井《それでは紹介いたしましょう!1726プロ所属!P.Kジュピター!!》
亜美「で、でたー!やっぱり兄ちゃんだYO!」
美希「ハニー!ハニーがいるの!」
雪歩「み、美希ちゃん!呼び方!」
千早「春香、カンペきてるわよ」
春香「え?あ!えぇっとそれではP.Kジュピターの皆さんに歌っていただきましょう!」
春香「オーバーマイスター!どうぞ~!」
春香「って何これ!?」
P(鈍感と呼ばれる俺には、律子が何を欲しがってるかなんてわからない)
P(だから今俺にできる全てをお前にぶつける!)
キンキンキンデーレレーデレレーデレレレレレー
デーレレーデレレーデレレレレレレレ
P「カッコ悪いわよぉー!」
北斗「アタシを落とすのー☆」
冬馬「バーレてるのぉ!」
響 「今度は自分達のパクリじゃないか!」
「「「「「カッコつけたところでぇ!」」」」」
「「「「「次に出る台詞プランPね!」」」」」
美希「ハニー!かっこいいのー!」
あずさ「プランPってなんなのかしら~」
北斗「やっぱアンタにはたっかねの!花ね☆」
冬馬「心に響ぃー!渡らな・く・ちゃ!」
「「「「「意味がなーいのよぉう!!」」」」」
千早「すごい……以前よりさらに歌唱力が上がってるわ」
伊織「あ、頭のネジどころか脳みそが飛んでいってたのね……」
「「「「「Thrillのない愛なんて!興味あるわけないじゃ・な・い!」
P「わっかんなーいかぁなぁーん!」クネクネ
美希「ハニー!」
黒井「かまげぇぇいいん!」
高木「」
小鳥「社長!しっかりしてください!」
千早「春香」
春香「あ、P.Kジュピターの皆さんでした!なんとジュピターも参加してるんですね!」
春香「ってだからなんでカンペなんて用意されてるの!?」
北斗《チャオ☆社長がこれ以上ないメンバーを呼んでくれたんですよ!》
翔太《さっきも歌ってたけど、僕達961プロの社長さんでもあるクロちゃんと……》
黒井《765プロのプロデューサーなのです!さぁ挨拶をしたまえ!》
P《初めまして皆さん!765プロのプロデューサー兼P.Kジュピターのメインボーカルを担当してます!》
春香「プロデューサーさん……」
美希「キャアアアなのおお!」
P《今日この場をお借りしたのは、俺の個人的事情が含まれていたんですが……》
小鳥「社長!社長!プロデューサーさんが何か言ってますよ!」
高木「も、もう帰らせてくれ……」
P《もう十分ハートは伝わったと思う!だから改めてこれだけ言わせてくれ!》
P《律子!誕生日おめでとう!これが俺にできる最高のプレゼントだ!》
春香「い、以上中継でした~!」
千早「続いてのコーナーは……」
律子「」
冬馬「また作っちまったな……『レジェンド』をよ?」
北斗「この達成感はジュピターの頃には無かったものですね!」
翔太「僕なんだかすっごくドキドキしてるよっ!」
黒井「いい団結だった。掛け値なしに」
北斗「真面目な律子ちゃんだし、このプレゼントはきっと喜んでくれますよ」
冬馬「双子の時は繊細な時期に急展開なことしちまったからな」
黒井「ウィ。大人になった秋月律子なら伝わったはずだ」
黒井「私達の熱い魂(ソウル)をな……!」
P「うん、うん……それじゃ俺行ってくるよ!」
冬馬「へっまた美味しいトコ取りかよ」
北斗「ハメ外しすぎないでくださいね!」
黒井「報告楽しみにしているぞ」
翔太「ファイト!プロデューサーさん!」
P「あぁ!」
千早「……」フリフリ
美希「またなのー!」
春香「……」ニコニコ
スタッフA「お疲れ様でしたー!」
春香「はぁ……つ、疲れた……精神的に……」
P「皆!お疲れ!」
真 「プロデューサー……」
P「今日もばっちりだったな!もうトップアイドルの貫禄あるじゃないか!」
あずさ「あ、あはは……」
P「ところで律子は?」
小鳥「体調が悪くなったそうで、先に事務所に戻ってますよ」
P「じゃあ俺も行ってきます!音無さん後は頼みます!」
小鳥「は、はい……」
P「律子!」
律子「……」
P「律子!聞いてくれたか?俺達の歌!」
律子「プロデューサー……」
P「あぁ皆まで言うな!わかってる、伝わったよ!お前の気持ち!」
P「俺の考えられる最高のプレゼントをしたつもりだ。もちろん他に何かあれば言ってくれ!」
律子「じゃあひとつだけ……」
P「どんとこい!真美達みたいに合鍵でもいいぞ!」
律子「今すぐユニット解散してください」
P「は?」
律子「今すぐにです」
P「ユニットってフェアリーか?」
律子「P.Kジュピターとかいうふざけたユニットです」
P「」
リーダーの天ヶ瀬冬馬はインタビューで解散理由を音楽性の違いと主張していたが
裏で某芸能プロによる工作があったのではないかと囁かれている。
なお、765プロの高木順二朗社長は関与を否定している。
黒井「日本のロックは既に死んでいたようだ……」
冬馬「俺、間違ってたのかな」
北斗「冬馬……」
翔太「プロデューサーさんは961プロへの出入り禁止にされちゃったしね……」
「「「「……」」」」
バンッ!
P「諦めるな!皆!」
北斗「出入り禁止になってる筈じゃ……」
P「諦めるにはまだ早い!」
P「無理を通して道理を蹴っ飛ばすのが俺達P.Kジュピターだろ!」
冬馬「……」
P「日本は確かに俺達を受け入れてはくれなかった」
P「なら別の場所で活動しよう!」
翔太「別の場所って?」
黒井「……世界か」ニヤリ
りっちゃん誕生日SSを見ていたはずなのにどうしてこうなった
P「まずはネットの動画サイトで俺達の歌を投稿するんだ」
翔太「それならきっと僕達の良さを理解してくれる人がいるよね!」
冬馬「でも俺達はもう……」
P「冬馬!たった一度や二度の挫折がなんだ?お前の情熱はその程度のものだったのか?」
黒井「やるぞ!冬馬!」
北斗「冬馬!」
冬馬「皆……」
冬馬「へっ……ここまで期待されちゃ羅刹の名が泣くよな」
翔太「冬馬君!」
冬馬「やってやる!世界だろうが宇宙だろうが俺達が正しいってことを認めさせてやろうぜ!」
P「行こう!俺達の新しいステージへ!」
翌日秋月律子に計画を知られ、三度目の解散に追い込まれるP.Kジュピターの姿があった。
がんばれP.Kジュピター負けるなP.Kジュピター。明日はどっちだ。
おわり
明日はライブ楽しもう。俺は映画館組だけど……お疲れ様でした
とりあえずPは大人として後日ちゃんとしたプレゼント渡せよ!
次も期待してる
次はあずささんか…期待してるよ
Entry ⇒ 2012.06.23 | Category ⇒ アイマスSS | Comments (0) | Trackbacks (0)
女武術家「たのもうっ!」格闘家「道場破りか!?」
「先生さようなら~!」 「さよなら~!」 「じゃあね~!」
格闘家「気をつけてな!」
友人「……しっかし、未来ある若き格闘家が日々子守とは哀しいねぇ」
格闘家「アイツらも俺の立派な弟子だ。バカにすると怒るぞ」
友人「おっと、悪かったよ」
友人「でもさ、本当はお前だって刺激を求めてるんだろ?
例えば……道場破りとかさ」
格闘家「バカいえ、平和が一番だ」
格闘家「かつて偉大な武道家はいっていた。
敵を倒すのではなく、敵と仲良くなる技こそが最強だと──」
友人「あ~分かった分かった、悪かったよ!
まあ今時道場破りをやってるヤツなんていやしないしな」
格闘家「道場破りか!?」ガバッ
友人(──っていたよオイ)
友人(しかもあの反応の速さ……やっぱり刺激を求めてるんじゃないか)
格闘家「────!」ギクッ
女武術家「ああ、道場破りさ。アンタと試合させてもらえる?」
格闘家「お、女……!?」
女武術家「ん、女だと問題あるの?」
友人(これは……マズイかもしれない……!)
女友人「はい」
女武術家「さ、始めよっか!」ザッ
格闘家「ちょ、ちょっと待ってくれ……。
君のような女性がなんで道場破りなんてマネをするんだ?」
女武術家「ハァ? そんなの自分の腕試しのために決まってんじゃん」
女武術家「アタシはこれまで九つの道場で道場破りを成功させてきたよ。
つまり、ここで十回目ってワケ」
女武術家「ま、安心しなよ。仮にアタシが勝っても、
看板なんていらないし、勝利を吹聴する趣味もないからさ」
女武術家「アタシがやりたいのは……純粋なアンタとの強さ比べってワケ」ザッ
女武術家「へぇ?」
女武術家「さっきこの道場から出てきた子供たちに聞いたら、
お姉ちゃんなんか先生にやっつけられちゃえ~っていわれたけど」
女武術家「てゆうか、来てるし。ホラ」
道場の外には、先ほどの子供たちが応援に来ていた。
「先生がんばって!」 「お姉ちゃんをやっつけろ!」 「ファイトー!」
格闘家(ア、アイツら……!)
女武術家「さすがにこの状況で、戦わないって選択はナシだろ?」
格闘家「いや、でも──!」
女武術家「問答無用!」ダッ
女友人「ここ、よろしいですか?」
友人「あ、どうぞどうぞ」
女友人「失礼します」スッ
友人「君の友人、すごい苛烈な攻撃だねぇ。ところで君も武術をやってるの?」
女友人「……私はただの付き添いです。
あの方の戦績の証人となるべく、ついてきているだけです」
ドゴッ! パシッ! シュッ! ドガッ! ガッ!
友人「ふうん。ずいぶん付き合いがいいんだなあ」
女友人「あなたはどうなのですか?」
友人「俺はケンカはからっきしさ。痛いのはゴメンなんでね。
この道場を貸している縁で、ちょくちょくアイツを冷やかしてるだけさ」
女友人「お暇なのですね」
友人(大人しそうな顔で、けっこう毒吐くな。この人……)
ビシッ! ガッ! ベシィッ! ドゴッ! ゴッ!
かといってアタシが有利ってワケでもない)
女武術家(これだけ攻めてるのに、有効打はほとんどない)
女武術家(いったいなにを考えてんだ? なにか企んでるのか?)
女武術家(なにか企みがあるんだったら──)
女武術家(それをさせる前にツブすっ!)
女武術家が凄まじいハイキックを繰り出す。
ブオンッ!
女武術家(……かわされた!)
女武術家(ヤバイ!)
女武術家(そうか……コイツ防御に徹して、アタシが勝負に出るよう誘ったんだ!
──やられるっ!)
女武術家の脇腹に、拳がヒットした。
女武術家「え?」
格闘家「…………」
女友人「あら?」
友人(やっぱりな……)
女武術家「…………!」ギリッ
女武術家「オイ」
格闘家「…………」
女武術家「どうして、打ち抜かなかった?」
女武術家「絶好のチャンスだった……。
本気で突いてたら、アタシのアバラを何本かへし折れたハズだ」
女武術家「まさか、このアタシに情をかけたってのか?」
女武術家「アタシだって道場破りなんて無礼なマネしてる以上、
半殺し、いや殺される覚悟だってして来てるんだっ!」
格闘家「い、いや……情っていうか……」
女武術家「情じゃなかったら、なんなんだよ!」
友人「……許してやってくれ」
女武術家「え?」
友人「そいつ、ガキの頃からずっと格闘技ばっかやってたから、
女ってのをほとんど知らないんだよ」
友人「ようするに──ウブなんだ」
女友人「どことなく童貞っぽいですものね」
ただちょっと普通の男より慣れてないだけであって……」アセアセ
友人(取り繕うなよ……余計ミジメになる)
女武術家「…………」
女武術家「……っはぁ~……しょうがないな」
女武術家「女殴れないヤツと戦っても、弱い者イジメになっちゃうね」
女武術家「──よし決めた!」
格闘家「な、なにをだ?」
女武術家「アタシ、この道場に入門してやるよ。
アンタがアタシを殴れるようになったら、再戦しよう!」
格闘家「えぇっ!?」
女武術家「ワケあって週に一、二回くらいしか来れないだろうけどさ。
ま、よろしく頼むよ!」
友人「なんだか面白いことになってきたな」
女友人「面白くありません」
少年「あ、あの……」
女武術家「ん?」
少年「先生……お姉ちゃんに負けちゃったの?」
女武術家「…………」
女武術家「ううん、今日のところはアタシの負けってとこかな。
安心しな、アンタらの先生はものすごく強いから」
女武術家「アタシが保証するよ」ナデナデ
少年「うんっ!」
「そうだったんだ……」 「よかった……」 「先生が勝ったんだ!」
女武術家「これからはたまにアタシも稽古に参加させてもらうから、よろしく頼むね」
少年「よろしくね、お姉ちゃん!」
友人「へぇ……ガラは悪いけど、けっこう優しいところもあるんだな」
女友人「ガラが悪いとは失敬な!」
友人「えっ!? ──ご、ごめんなさい!」
友人「変なヤツらだったな」
格闘家「ああ、だが実力はホンモノだった……」
格闘家「攻撃できなかったとはいえ、俺は本気でやってた」
友人「マジか」
格闘家「彼女の打撃を全て完璧にサバいて戦意喪失させようとしたが──
できなかった」
格闘家「女性の身であれほどの体術……よほどの鍛錬をこなしてきたのだろう」
友人「ふうん……でもよかったじゃんか。
ああいう子が入ってくれれば、けっこう張り合いが出るんじゃないか?」
格闘家「そうだな……」
<格闘道場>
「えいっ!」 「やぁっ!」 「せやあっ!」
格闘家「よぉーし、休憩に入ろう!」
友人「おうおうやってるねえ」ザッ
少年「あ、また冷やかしに来たな! 町長さんにいいつけてやる!」
友人「オイオイこれでも町長の息子ってのは忙しいんだぜ?
忙しい合間をぬって、冷やかしに来てやってんだよ」
友人「ところで、あれからあの女は来たか?」
格闘家「いや、一度も──」
ザンッ!
女武術家「たのもうっ!」
女友人「こんにちは」
友人「……来やがった」
「あっ、こないだのお姉ちゃん!」 「ホントだ」 「また来てくれたんだ!」
女武術家「うわっと」
子供たちに囲まれる女武術家。
ワイワイ…… ガヤガヤ……
格闘家「オイ、この人は──」
女武術家「いいっていいって」
女武術家「よぉし、アンタらみんなまとめてかかってきな!」
ワーワー…… キャーキャー……
次々と飛びかかってくる子供たちを、女武術家が上手にいなす。
格闘家(こんなに楽しそうな子供たちを見るのは、初めてかもしれない……)
格闘家(俺は格闘技の楽しさを、これまで教えることができていただろうか……?)
格闘家「──今日は悪かった」
女武術家「え?」
格闘家「君と稽古をする約束をしていたのに、
結局子供たちの相手ばかりさせてしまって……」
女武術家「なんだそんなことか。気にしなくていいって、
アタシもけっこう楽しんでやってたしさ」
格闘家「それに──」
格闘家「今までは俺が指導して、
みんなは黙々とそれに従うっていう稽古しかできてなかった」
格闘家「俺のやってることは、いわば俺のコピー作りにすぎなかった。
もっと子供たちの独創性を生かす稽古も取り入れるべきだった」
女武術家「独創性とやらを重視して、事故が起こったってマズイしさ。
こっちこそ、余計なマネしちゃったね。軽率だった」
格闘家「今度は……ちゃんと二人で稽古しよう」
女武術家「オッケー。じゃあアタシはそろそろ帰るよ」
格闘家「……ところで、君はどこに住んでるんだ?」
女武術家「う~ん、ナイショ。ま、そんな遠くじゃないよ」
一方、友人も女友人を口説いていた。
友人「ちなみに君はどこに住んでるワケ?」
女友人「お暇な方に教えるとろくなことになりそうもないので、黙秘します」
友人「つれないなぁ……」
友人「まったくワケが分からない二人組だったな。
おまえと戦いに来たのに、結局戦わずに帰りやがった」
格闘家「……おまえもありがとうな」
友人「え?」
格闘家「おまえが町長さんに口添えしてくれなかったら
この道場のスペースは借りられなかったし」
格闘家「俺と子供たちだけじゃ堅苦しい雰囲気になるってのが分かってるから、
忙しい中、いつもああやって茶化しに来てくれてるんだろう?」
友人「よせやい、俺はただの暇人だっての」
友人「オヤジは町の活性化のためだとかいって、
隣のでかい都市に色々働きかけてるが、どうもああいうのは性にあわねえ」
友人「この町にはこの町の良さってもんがあるんだからな」
格闘家「頑張れよ、未来の町長」
友人「おまえもな」
女武術家「さてと、今日はアンタがアタシを殴れるように特訓だね」
格闘家「よ、よろしく頼む」
女武術家「っつっても、どうすりゃいいかはよく分からないから──」
女武術家「とりあえず、拳でアタシに触れる練習でもしてみるか」
格闘家「分かった……」
女友人「あら? あなた、稽古に参加しないくせに、また道場にいるのですか。
本当にお暇なんですね」
友人「君こそ暇なんじゃないのか?(よしっ、うまく反撃できた)」
女友人「私はこれが仕事でもありますので暇ではありません。残念でしたね」
友人「くっ……(仕事……?)」
格闘家「こうか」ポスッ
女武術家「肩」
格闘家「こうだな」ポスッ
女武術家「胸」
格闘家「分かった……ってちょっと待ってくれ。胸はちょっと──」
女武術家「ん?」
女武術家「なに恥ずかしがってんだよ。
本気の戦いになったら、打つ場所を選んでられないだろ」
格闘家「いや……そうかもしれないけど……」
女武術家「アンタの中に妙なスケベ心があるから、照れ臭いんだよ。
これも修業のうちだと思ってやれば大丈夫だって」
女武術家「命がかかってたら、さすがに恥ずかしいとかいってらんないだろ?」
格闘家「た、たしかに……」
格闘家「よ、よし……」ゴクッ
ソロ~……
格闘家の拳が、ゆっくりと女武術家の胸に近づく。
ポニュッ
女武術家「ふふん、できたじゃん」
格闘家「これで俺も、格闘家として一歩前進できたのかな……」
女武術家「多分ね」
友人「…………」
友人「ハタから見てるとイチャついてるようにしか見えねーな」
女友人「ですね」
友人(珍しく意見が合ったな……)
友人「今日は大変だったな。うらやましくもあったけどさ」
格闘家「彼女の胸……とても柔らかかった」
友人「え?」
格闘家「あの弾力性と柔軟性、十分クッションにもなりえる。
生半可な突きでは、衝撃を殺されてしまうかもしれない……」
格闘家「脅威だ……胸囲だけに」
友人(ここは笑うところなのか……?
コイツ……ギャグでいってるのかマジなのか、分からないんだよな……)
格闘家「俺ももっと胸筋を鍛え上げないと……!」
友人(ただひとつ分かることは……コイツが根っからの格闘バカってことだけだ)
格闘家の基本からみっちり叩き込む教え方と──
格闘家「みんな、今日は回し蹴りを教える。
フォームが悪いと威力が落ちる上に、スキだらけになるからな!」
「はいっ!」 「はいっ!」 「はいっ!」
女武術家の子供にある程度自由にさせる教え方がうまく融合し──
女武術家「さっき格闘家に教わった技でアタシに向かってきてごらん。
どういう場面で使うといいか、よく考えるんだよ」
「よぉーし!」 「考えてみよう……」 「う~ん……」
道場の評判は徐々にではあるが高まっていった。
バシィッ! ベシッ! ガガッ!
友人「5分経った、そこまで!」
格闘家「ありがとうございました」
女武術家「ありがとうございました」
女武術家「ふぅ~……タオルと水ちょうだい」
女友人「どうぞ」サッ
格闘家「あ、俺にもタオルくれ」
友人「ほらよっ」ヒュッ
あれだけ動いても息切れ一つしてないし」
女武術家「いっとくけど、お互い全然本気じゃないよ」
友人(マジかよ……)
格闘家「本気じゃないとはいえ、真剣ではあるんだけどな」
女武術家「ふふん、そろそろ本気でやってみる?」
格闘家「いや……もうちょっと先にしておこう」
──こんな日々が、およそ二ヶ月ほど続いた。
「さようなら~!」 「先生、さようなら!」 「お姉ちゃんもさよなら~!」
格闘家「気をつけて帰るんだぞ」
女武術家「んじゃ、アタシらも帰るよ」
女友人「さようなら」
格闘家「ああ、今日も来てくれてありがとう。助かったよ」
格闘家「……あの」
女武術家「ん?」
格闘家「いや……なんでもない」
女武術家「?」
女友人「きっとなんでもあるにちがいありませんが、
あえて聞かないでおきましょう」
友人「お、今日の稽古はもう終わったのか。
例の二人組も来てたみたいだし、お疲れだったな」
格闘家「…………」
友人「どうした?」
格闘家「……俺はおかしいのかな」
友人「なにが?」
格闘家「女武術家はついさっき帰ったばかりなのに、
もう来て欲しいと思ってしまっている」
友人「別に……おかしくはないんじゃないか?
あの女武術家のおかげで、道場が賑わいだってのは事実だし、
実力もあるからおまえにとってもいい練習相手だろ」
友人「え?」
格闘家「なんていうのかな……道場とか稽古とかそういうのを抜きにして
純粋に彼女に会いたいと感じてしまっている」
格闘家「邪念……だよな、どう考えても。
こうやって道場を手伝ってもらってるだけでも感謝すべきなのに、
さらに会いたいだなんてワガママすぎる……」
友人「……たしかにおまえはおかしいな」
格闘家「や、やっぱり!」
友人「いや、おかしいってのはな、そんなことでいちいち自分がワガママとか
悩むことがおかしいって意味だよ」
格闘家「へ?」
友人「自分を手伝ってくれる女を好きになる、いいことじゃんか!
おまえはどこもおかしくなんかないんだよ!」
格闘家「で、結局俺はおかしいのか? おかしくないのか?」
友人「え? え、えぇっと──」
友人「やっぱり、さっさと気持ちを伝えるのがベストなんじゃないか?」
格闘家「でも……この邪念ヤロウ! とか思われたら……」
友人(なんだよ邪念ヤロウって……)
「そりゃあ、向こうもおまえを好きとは限らんけど、
あの子は下手な小細工より、ストレートなのを好むだろうしな」
格闘家「そうだな……」
格闘家「俺、今度女武術家が来たらやってみる! ストレートに!」
友人(おおっ……コイツ、もしかしてこれが初恋なんじゃないか?)
「あ、お姉ちゃんたちだ!」 「こんにちは~!」 「いらっしゃい!」
女武術家「よ」
女友人「こんにちは」
格闘家「あ、ああ……よく来てくれたな」
女武術家「ん、どうした? 体調でも悪いの?」
格闘家「いや……緊張してるだけだ」
女武術家「緊張? 変なの」
友人(今から緊張してどうする……)
「先生さよなら~!」 「お姉ちゃんたちもさよなら~!」 「さようなら~!」
女武術家「んじゃ、アタシらも──」
格闘家「あ、ちょっと待ってくれ」
女武術家「どしたの?」
格闘家「ちょっと……道場の裏に来てくれないか」
女武術家「……なんでさ?」
格闘家「大事な用なんだ。君と二人だけで話をしたい」
女武術家「ふうん……ま、いいけど」
女武術家「さてと……大事な用って?」
格闘家「じ、実は……」
二人を物陰から見つめる友人。
友人「頑張れ……」ボソッ
女友人「いったいなにが始まるのでしょうか?」
友人(うわっ、いつの間に後ろに!?)
格闘家「はあっ!!!」
ビュボォッ!
女武術家「!」
──ピタッ
格闘家が全力の右ストレートを放った。──が、寸止めであった。
女武術家「すごい突きだね、止めるってのは分かってたけどさ。
──で、もしかしてこれはアタシへの挑戦状ってことかい?」
格闘家「いや……これが俺の本気のストレートなんだ。
つまり、俺は……君が好きなんだ」
友人(い、意味が分からん……!)
友人(あのバカ……!)
友人(俺がいったストレートってのは、そういう意味じゃねえよ!
いやある意味合ってるのか……?)
女友人「バカですね」
女武術家「いいストレートだったよ……でぇやっ!!!」
シュバァッ!
格闘家「!」
──ピタッ
女武術家の右ハイキック。同じく寸止めだった。
格闘家「そういえば君は蹴りの方が得意だものな」
女武術家「これがアタシの答えさ……アタシもアンタが好きだよ」
格闘家「えっ……」
友人(両方とも、バカだった……!)
友人(いやしかし、めでたしめでたしでいいんだよな……?)
女友人(おめでとうございます……お嬢様)
女武術家「バカだね、別にアンタの突きだけに惚れたんじゃないって」
女武術家「アンタの格闘技に対する愚直なまでの真剣さや
子供らにも手を抜かず接する心根に惚れたんだよ」
女武術家「それに、あんなこと初めてだったしね」
格闘家「あんなこと?」
女武術家「アタシは今までにも九つの道場で道場破りをしたっていったろ?
どこの道場も、アタシに勝ったらアタシをどうにかしてやろうって
ヤツらばっかだった。ま、もちろん覚悟の上だったけどさ」
女武術家「そんなところに、まさか女は殴れません、というか慣れてません
なんてのが出てきたからなんか微笑ましくってね」
女武術家「思えば、あの時からアタシはアンタに惚れてたのかもしれない」
格闘家「い、いやぁ……どうも」
友人「──ところでさ、俺たちも付き合わない?」
女友人「ご友人のアタックが成功したとみるや、
どさくさに紛れてこの私に求愛ですか」
女友人「格闘家さんとちがって、あなたは本当にいつもお暇そうで姑息な方ですね」
友人「ご、ごめんなさい……」
女友人「かまいませんけど」
友人「え?」
女友人「二度もいわせないで下さい。
あなたとお付き合いするのはかまわない、といったのです」
友人「…………!」
女武術家「こっちにも事情があってね、ゴメン」
格闘家「いや、構わない。そちらの事情が解決するまでいくらでも待つよ」
女武術家「ああ、必ず解決するから」
格闘家(いったいどんな事情なんだろうか……?)
こうしてこの日、二組のカップルが誕生した。
とはいえ、大きく生活が変わることもなく、今まで通りの日々が続いた。
そんなある日のこと──
友人「オイ格闘家、頼みがあるんだけど聞いてくれねえかな」
格闘家「珍しいな、どうした?」
友人「実はさ俺、今度見合いすることになったんだ」
格闘家「見合い!? おまえには女友人さんがいるだろうに……」
友人「もちろんイヤだっていったんだぜ!?
でも、オヤジが俺にナイショで見合いをセッティングしやがってさ」
友人「相手は隣の都市の市長だかの娘だとか……」
格闘家「市長の娘か……スゴイ相手だな」
友人「会ってくれなきゃワシの顔がツブれるとかいって泣き出すしよぉ……。
だから会うだけ会って嫌われようと思うんだ」
友人「隣の都市は自治都市で、近年貧困層やはみ出し者への取り締まりを
ぐっと強化して治安はよくなったんだが──」
友人「そのせいか、市長に恨みを持つヤツがけっこういるみたいなんだ」
友人「見合いの場に乗り込んでくるバカがいるかもしれないし、
ボディガードを頼みたいんだ」
格闘家「そんなことなら、お安い御用だ」
友人「ありがとよ。持つべきものは強い親友だな」
(本当はオヤジと二人で行くのがイヤだからなんだけどな。
いちいち町のため町のためってうっとうしいから……)
<町長宅>
町長「おお、これはこれは格闘家君。
ワシの息子のためにわざわざありがとう」
格闘家「いえ、いつも彼には助けてもらっていますから」
友人「はぁ~……めんどくせぇ」
町長「しっかりしろ、バカ息子!
この縁談が成立すれば、この町はさらに発展するんだぞ!」
町長「仮に破談となっても、おまえが好青年ぶりをアピールすれば
市長の目がこの町に向いてくれるハズだ!」
友人(もっとまともな方法考えろよな、バカオヤジ……。
あ~あ、なんとか上手に嫌われるようにしないとな)
町長「さぁ、出発だ!」
友人「──いつ来てもここは立派だな。
来るたびに建物はでかくなってるし、景色もキレイになってる」
格闘家「おまえはよく来るのか? 俺はほとんど来たことがないんだ」
友人「せいぜい買い物に来るぐらいだけどな。
ただし市長とかに関してはほとんど知らない。興味もねぇし」
友人「ったく、顔も知らない女と見合いとかありえねえよ……」
町長「ええい、文句ばかりいうな! これも全てワシらの町のためなんだぞ!」
友人「はいはい」
格闘家(たしかに治安はいいが……あちらこちらに危険なニオイがする。
市長が恨みを買ってしまってるってハナシもウソじゃなさそうだな)
ゴロツキ「──ウワサによれば、今日市長の娘と隣町の町長の息子が
見合いをするらしい」
手下A「見合いですか」
ゴロツキ「こういう時を待ってたんだ」
ゴロツキ「あのクソ市長に、借りを返すチャンスだ!」
手下A「そうですね」
手下B「やってやりましょう!」
ゴロツキ「せっかく頼もしい用心棒も雇ったことだし、一泡吹かせてやる!」
メイド「ようこそいらっしゃいました」
町長「おお、これはこれは……ありがとうございます」
友人(さすがは市長のお屋敷、メイドまでいるのかよ……。
ハッキリいって、俺やオヤジが釣り合う相手じゃねえぞ……)
友人(……ところでこのメイドの声、どこかで聞いたような声だな)
格闘家(あのメイドさん……なにか見覚えがあるような……)
メイド「!」ハッ
格闘家「!」ハッ
友人「!」ハッ
友人(このメイド、女友人だよな!?)
メイド(な、なんでこの二人がここに……!?
もしや今日お嬢様とお見合いをする隣町の有力者のご子息というのは──)
町長「どうしたんだね、君たち?」
格闘家「実は──モゴッ」
友人「いや、なんでもない、なんでもない。ねえ、メイドさん?」
メイド「ええ、なんでもありませんわ」
町長「そうか。頼むから見合い前に、メイドさんに惚れるなんてことはやめろよ。
ハッハッハ……」
友人(すみません、惚れてます)
あなたには私がいるのに見合いとは──」ボソッ
友人「いや、ちがうんだって!
この都市と友好関係を築きたいオヤジにムリヤリ……」ボソッ
メイド「分かっております。私とてそこまで察しは悪くありません」ボソッ
友人「おどかすなよ」ボソッ
メイド「ところでこの私がここにいるということは、
今日のあなたのお相手はもうお分かりですよね?」ボソッ
友人「ああ、すぐに分かったよ。
まったくとんでもないことになっちまったな」ボソッ
格闘家(ここに女友人さんがいるということは……
女武術家もこの都市のどこかに住んでいるということなのか?)
格闘家(もし時間ができたら探してみるか……)
市長「おおっ、美しいぞ!」
令嬢「ありがとうございます、お父様」
市長「今日の相手は隣町の町長の息子で、なかなか優秀な人物だと聞く。
しかし、実際に見てみなければなんともいえん」
市長「おまえに相応しい相手は、私が必ず選び出してやるからな!」
令嬢「えぇ……」
令嬢(アタシは格闘家が好きだってのに……とてもいえないよ、お父様には)
令嬢(絶対反対されるだろうしなぁ……)
令嬢(町長の息子か……どんなヤツなんだろ)
メイド「では主人たちを呼んで参りますので」
パタン
町長「すごいお屋敷だな……オイなんとしてもこの縁談、成功させろ!」
友人「まあ、こういうのは向こうの気持ちもあるからな。
例えば向こうにすでに好きな人がいたら、もうどうしようもないだろ?」
町長「まあそれはそうだが……そんなことはありえんだろう。
それだったら見合いなんかしないハズだからな」
友人(ありえるんだよ)
格闘家「じゃあ俺は外に行ってるよ」スッ
友人「オイ待てよ。いいじゃんか、おまえも見合いに参加しろよ。
ボディガードなんだからさ」
格闘家「えっ!?」
友人(コイツ、まだ俺の相手がだれか察しがついてないっぽいからな……
驚くところを拝ませてもらうぜ)
市長「やあお待たせしてしまいました。おやこれは、利発そうなご子息ですな」
町長「おお、これは市長! 本日はこのような場を設けていただき、
まことにありがとうございます」バッ
町長「しかし、この都市は来るたびに大きく、美麗になっておりますな」
市長「うむ、都市の一角に存在した貧民街への締め上げを強化し、
治安もだいぶよくなった。
彼らは都市の美観を損ねる存在でもあったからな」
町長「いやぁ、まったくもっておっしゃる通り! すばらしい!」
令嬢「!」ドキッ
格闘家「!」ドキッ
令嬢(な、なんで格闘家と友人がここにいるの!?)
格闘家(着飾ってはいるが、あれはまちがいなく女武術家! な、なぜ!?)
友人「…………」プッ
友人(向こうもかなり驚いているみたいだ。さて対するこっちは──)チラッ
格闘家「…………」ウルッ
友人「え……?」
格闘家は涙をこぼしていた。
思っちまったんじゃ……)
格闘家「友人……」
友人「な、なんだ?」
格闘家「彼女を……幸せにしてやってくれっ!」グスッ
友人「えぇっ!?」
町長「格闘家君、急にどうしたんだ?」
市長「な、なぜ泣いてるんだ?」
友人「いや、なんでもないんです! このボディガード、ジョークが好きなもんで!
よく人にウケるために突然泣き出したりするんですよ~」
令嬢「お、お父様たち! 町長さんのご子息とはゆっくり話したいので、
席を外していただけるかしら……?」
町長(おお、脈アリか!? これはイケる!)
市長「まあ、おまえがそういうのなら……」
市長と町長は半ば追い出されるように、部屋から出て行った。
友人「格闘家、大丈夫か!?」
令嬢「まったくもう……」
メイド「どうぞ、ハンカチを」スッ
格闘家「あ、どうも」
格闘家「しかし……まさか友人の見合い相手が女武術家だとは思わなくて……」フキフキ
友人「いやそこは女友人がメイドだった時点で気づこうぜ」
格闘家「えぇと……全然状況が分かってないんだが、
つまりどういうことなんだ?」
友人「分かった……一から説明してやる。ちゃんと聞けよ?」
色々あって、俺たちはけっこう仲良くなった」
友人「その後、なんとしても町を盛り上げたいオヤジに
市長の娘と見合いをさせられることになった俺は、
おまえにもついてきてもらってこの都市にやってきた」
友人「──で、なんと女友人は市長宅に勤めるメイド、
女武術家は市長の娘だった! ここまでは分かるよな?」
格闘家「ああ、なんとか……」
友人「しかし俺は女友人が好きだから、女武術家こと令嬢とくっつくつもりはない。
女武術家だっておまえが好きなんだから同じハズだ」
友人「つまり、おまえが泣く理由はなにひとつない」
格闘家「なるほど……」
友人「しかし、この見合いは仮にも一つの町と市の思惑が絡んだ見合いだ。
互いに“他に好きな人いるんで”で終わらせるワケにもいかない」
友人「だから穏便に破談にする必要があるワケだ、分かったか?」
格闘家「うん、分かった」
なんか、バラしたら敬遠されるかもって思っていえなかった……ゴメン」
格闘家「いや、そんなことはかまわない」
格闘家「しかし……市長さんは君が格闘技をやってることや、
俺とのことは……?」
令嬢「知らないよ」
令嬢「アタシは強くなりたくてお父様にはナイショでトレーニングしててね。
週に一、二度メイドと外出してるのも、お父様は花嫁修業かなんかだと
思ってるハズさ」
友人(ある意味花嫁修業ともいえるかもしれないけどな)
格闘家(ちゃんとした道場に通わずあそこまで強くなるとは……スゴイな)
アタシが格闘家のことを好きってことをいえてないんだ」
令嬢「もしいったら、格闘技やってることも当然バレちゃうから……
そうなったら外出禁止にされかねないしね」
格闘家「あの時いってた“事情”ってのはそういうことだったのか……」
令嬢「ホントゴメン……アタシは弱いね。
アンタはアタシにストレートにぶつかってきてくれたのに、
アタシは自分の父親にすら真実を話せないなんて……」
格闘家「そんなことはない! 君の強さは俺が保証する!
あれほどの蹴りの使い手はざらにいるもんじゃない!」
友人(ここでいう強さは、格闘技の強さじゃないっての……)
辛気臭いハナシってのもよくない」
友人「俺と女友人、おまえと女武術家で分かれてデートでもしようぜ」
格闘家「デートって……見合いはどうするんだよ」
友人「大丈夫大丈夫、どうせ今頃俺のオヤジが
市長さんにウチの町を宣伝しまくってるだろうし」
友人「さあ行こうぜ!」
メイド「参りましょうか」
令嬢「い、いいのかな……」
手下A「ん、令嬢たちが出てきたぞ!」
手下B「四人か……どこかで令嬢と町長の息子が二人きりになるのを
待つしかないか……」
すると──
友人「じゃあ二手に分かれて小一時間デートしようぜ。
またここに集合な」
格闘家「おいおい……俺はおまえのボディガードとして来てるんだぞ?
もしなにかあったら……」
友人「大丈夫だって、こんなデカイ都市でデートの一つもしないなんて損だぞ?
それに、市長さんに恨みを持ってるヤツらが俺と女友人を狙うワケないだろ?」
格闘家「そりゃそうだが……」
友人「決まりだな。もし変なのが来たら、ちゃんと守ってやれよ」
令嬢と強そうなヤツと、メイドと町長の息子っぽいヤツの二組だ」
手下B「なんで見合いをしてる二人が分かれるんだ?」
手下A「知るか!」
手下B「どうする? 親分には令嬢と町長の息子をさらってこい
っていわれてるぜ?」
手下A「あの令嬢の隣にいるヤツに、おまえ勝てるか?」
手下B「いや……アレは強そうだ」
手下A「だろ? ってことで、あのメイドと町長の息子をさらおうぜ」
手下B「いいのかな、こんなんで……」
友人「──なんだ、おまえら!?」
手下A「おまえたち、町長の息子と市長のメイドだろ?」
手下B「大人しくついてくれば、悪いようにはしねえよ」
友人(なんで俺らが狙われるんだ……クソッ)
「ふざけんな! だれがついていくか!」
メイド「この二人はこの都市でも悪名高いゴロツキの一味ですわ。
あなたが勝てる相手ではありません……大人しくついていきましょう」
メイド「きっとあの二人が助け出してくれましょう」
友人「イヤだね」
メイド「!」
バキッ!
友人は手下たちに殴りかかるが、あっけなく殴り倒されてしまう。
友人「うぐぅ……」ピクピク
手下A「ふん、弱っちいヤロウだ。よし、アジトに連れていこう」
手下B「おう」
友人「ご、ごめん……君を守れなくて……」
メイド(ごめんなさい……)
ゴロツキ「ばっきゃろう!」
手下A&B「ひぃっ!?」
ゴロツキ「市長に一泡吹かせようってのに、
メイドと町長の息子さらってきてどうすんだよ!」
手下A&B(そりゃそうだけど……)
ゴロツキ「──ちっ、まあいい。
せっかくだ、コイツらを使って身代金でも巻き上げてやろう」
手下A「払いますかね……?」
ゴロツキ「てめぇんとこのメイドと、娘の見合い相手になにかあったらコトだ。
払うに決まってる」
ゴロツキ「もし奪回に来ても、あの用心棒二人がいれば怖くねえ」
手下A「分かりました、すぐ手紙を送ってきます」
ゴロツキ一味から脅迫状が届いた。
友人とメイドの身柄と引き換えに、身代金を要求するという内容だ。
市長「むむむ……なんということだ」
町長「な、なぜワシの息子がさらわれるんだ……!?
なにをやっておったんだ、あのバカ息子は……!」
格闘家「いえ、全て俺が悪いんです。
ボディガードとしてこの都市にやってきたというのに……」
令嬢「お父様……ごめんなさい」
市長「あのゴロツキどもめ……我が都市の品位を汚すことばかりしおって。
どうせこの手紙もつまらん脅しだろう、まともに取り合う必要はない」クシャクシャ
市長「さらわれたのが娘でなく、メイドだったのが不幸中の幸いか……」
格闘家「…………」カチン
格闘家「今のお言葉、あまりにも市長としての品位に欠けていると思いますが」
市長「なにっ!?」
格闘家「この家に仕えていたメイドさんがさらわれたというのに、
彼女の心配をする前に、娘でなくてよかったとはあんまりでしょう!」
市長「う、うぐぅ……」
町長「おいおい、格闘家君……!」
格闘家「こういう事件が起きるのも、あなたに少しも原因がないといえますか!?」
市長「ぐぐ……!」
町長「あわわ……」
格闘家「グズグズしてはいられません。
今すぐ俺はゴロツキたちのアジトに乗り込みます」
格闘家「では失礼します」ザッ
令嬢「…………」
市長「くぅぅ……」
町長「し、市長……」
女武術家「よ」
格闘家「!」
格闘家「いつの間に着替えたんだ!?」
女武術家「ふふん、水臭いじゃんか。一人で行くなんてさ。
それにアンタ、アイツらのアジトの場所知らないでしょ?」
格闘家「あ、そういえば……(バカか、俺は……)」
格闘家「でもこんな時に市長さんの家からいなくなったら余計心配する。
すぐ戻った方がいい」
女武術家「イヤだね」
格闘家「しかし……」
女武術家「アタシにとっても、あの二人は大切な友人だしね」
格闘家「……そうだな。分かった、二人で助けに行こう」
格闘家「え?」
女武術家「近頃のお父様は都市開発に熱中するあまり、
情ってものをどこかに置いてきぼりにしてた」
女武術家「こんな風に恨みを買ってるのも、多分そういうところにも
原因があるんだと思う」
女武術家「かといって、あの人に意見をいえる人間なんてこの都市にはいないしさ」
女武術家「だからさっき、アンタがお父様にいった言葉……スカッとしたよ」
格闘家「いや……あれは失言だった。この都市の事情なんてなにも知らないのに……。
そもそもあの二人がさらわれたのは俺のせいだし……。
あとできちんと謝るよ」
格闘家「でも、今はとにかく急ごう、友人たちが心配だ」
女武術家「はいよ!」
手下A「親分、アジトに変な二人組が近づいてきてます!」
ゴロツキ「変な二人組?」
手下A「男女のコンビです。男の方は市長の屋敷にいた護衛かなんかです。
女の方は……どことなく市長の娘に似てるんですが」
ゴロツキ「バカヤロウ、市長の娘がなんでアジトに来るんだよ。他人の空似だ。
まあいい、丁重に歓迎してやりな」
手下A「えぇっ!? 強そうなんですけど……」
ゴロツキ「ここで俺に殴られるのとどっちがいい?」
手下A「わ、分かりました」
手下A「何の用だ!?」
格闘家「俺の友人とメイドさんを返してもらおう」
女武術家「大人しく二人を返せば、痛い目見ないで済むよ」
手下A「ふざけんな!」
手下A「あのクソ市長は、都市の見栄えが悪くなるからと
俺たちみたいな貧困層をどんどん日陰に追いやりやがって!」
手下A「こうやって嫌がらせの一つでもしねえと気が収まらねえんだよ!」
女武術家「…………!」
格闘家「だからといって、他人を誘拐していい理由にはまったくならないな。
身勝手にも程があるぞ」
格闘家「返してもらえないのなら、力ずくで奪い返す!」
手下A「おもしれぇ……やっちまえ!」
バキィッ! ドガァッ! ドゴォッ!
「うぎゃあっ!」 「ほげぇっ!」 「ひぃぃっ!」
次々に蹴散らされていく手下たち。
手下A「くっそ、こうなりゃヤケだ!」
手下B「やってやるっ!」
バゴッ! ベキッ!
格闘家の右ストレートが手下Aを、女武術家の前蹴りが手下Bを吹っ飛ばした。
手下A「やっぱりつえぇ……」ドサッ
手下B「い、痛い……」ドサッ
格闘家「よし、アジトに乗り込むぞ!」
女武術家「うん!」
ゴロツキ「もう全員やられやがった……最短記録更新だな。
まぁいい人質はこっちにあるし、アンタらもいる」
ゴロツキ「頼んだぜ」
用心棒兄「ふん、任せておけ」
用心棒弟「兄さんとぼくのタッグは無敵さ」
友人(あの二人が負けるとは思えないが……コイツらも相当強そうだ……!)
メイド(さて、この兄弟に勝てるかどうか……観戦させてもらいましょうか)
女武術家「ゴロツキ、アンタに万に一つも勝ち目はないよ!」
ゴロツキ「ちっ、クソ市長の飼い犬どもが……さすがに腕が立つようだな」
ゴロツキ「だがよ、こっちにも強い用心棒がいるんだ!」
用心棒兄「どうやらキサマらも多少武術をかじっているようだ」
用心棒弟「どうだい、ぼくらとタッグマッチでも」
格闘家「タッグマッチ……二対二か。いいだろう」
女武術家「受けて立ってやるよ」
格闘家「はああっ!」ダッ
格闘家が用心棒兄に突っかける。
ところが、用心棒弟が横から格闘家に足払いをかけ──
格闘家「うっ!?」ガクッ
用心棒兄「もらった!」
体勢が崩れた格闘家に、強烈なヒジ打ち。
バキィッ!
格闘家「ぐはっ!」ドサッ
女武術家「でやぁっ!」
女武術家が蹴りで用心棒兄を狙うが──
ベキッ!
用心棒兄の体を利用して死角に入り込んでいた用心棒弟から、
逆に蹴りをもらってしまう。
女武術家「──ぐっ!」
二対二の攻防は、用心棒兄弟のペースで進む。
ゴロツキ「がはははっ! いいぞいいぞ、やっちまえっ!」
友人「ちっくしょう、あの二人が全然歯が立たないなんて……!
アイツら、とんでもない使い手だな!」
メイド「いえ」
メイド「お嬢様と格闘家さんの技量と、彼ら兄弟の技量にそう隔たりはありません。
ですが──」
メイド「コンビネーションの差が出ています」
友人「コンビネーション?」
メイド「互いの死角を補い合い、絶妙な連係を行っている兄弟に対し、
お嬢様と格闘家さんは個々に戦っているだけ……」
メイド「この差は大きいですわ」
友人「そういうことか……」
格闘家(分かってる!)
女武術家(分かってるんだけど──)
ブオッ!
格闘家の拳が女武術家をかすめる。
シュバァッ!
女武術家の蹴りが格闘家に当たりそうになる。
格闘家(うまく──)
女武術家(連係できない!)
用心棒兄「無駄だ、付け焼刃のコンビネーションで破れるほど」
用心棒弟「ぼくら兄弟は甘くないよ」
用心棒兄のアッパーで、格闘家が膝をつく。
格闘家「ぐぅぅ……っ!」ガクン
ビシッ!
用心棒弟のチョップで、女武術家がダウンする。
女武術家「うあっ……!」ドサッ
用心棒兄「まだ意識があるのか。かなり鍛え込んではいるようだ」
用心棒弟「でも、ぼくらの敵ではなかったということだね、兄さん」
用心棒兄「そういうことだ」
ゴロツキ「おおかた市長に雇われた格闘家コンビかなんかなんだろうが、
用心棒兄弟の方が上だったな! ざまあみやがれ!」
ゴロツキ「市長が悔しがるツラが目に浮かぶぜ!」
メイド(ここまで、でしょうか……)
友人(くっそぉ~……!)
友人(俺はとてもじゃないが戦力になれない……せめて、なにかアドバイスを……!)
友人「愛だ!!!」
用心棒兄「!」
用心棒弟「?」
ゴロツキ「!?」
メイド「…………?」
格闘家&女武術家(愛……!?)
友人「たしかにコンビネーションじゃ、おまえらはあの兄弟に敵わない……。
だってそんな稽古してないもんな」
友人「だが、おまえたち二人にはそれを補って余りある愛がある!
あの道場で培ってきた愛ってヤツが!」
用心棒兄弟(アイツ、なにいってんだ……?)
格闘家「そ、そうか……」ムクッ
女武術家「そうだったね……」ムクッ
>女武術家「そうだったね……」ムクッ
おっきしたのかと
おきたことには違いない
普段の組み手のように自然体でやれば……)ザッ
女武術家(互いがどういう時にどう動くか、この体が覚えていてくれるハズ!)ザッ
用心棒兄「ふん……ワケが分からないことを。
真のコンビネーションとは、練習量と経験によって作られる!」
用心棒兄「弟よ、一気に決めるぞ!」
用心棒弟「はい!」
格闘家「うおおおおっ!」
(女武術家なら、きっと何とかしてくれるはず!)
用心棒兄(こんな大振りパンチが当たるか!)サッ
ブオンッ!
格闘家のパンチはかわされたが──
女武術家(格闘家のパンチを何度も見たアタシなら、相手がどうよけるか
なんとなく分かるっ!)
──それを読んでいた女武術家の飛び蹴りが、用心棒兄に炸裂した。
ベキィッ!
用心棒兄「ぐわっ!」
用心棒弟「兄さん!」
ズガァッ!
用心棒弟「ぐおっ……!」
格闘家と女武術家が、徐々にペースを掴んでゆく。
メイド「あなたのアドバイスで二人の動きが見違えるように……お見事ですわ」
友人「適当なことをいっただけなのに、まさかなんとかなるとは……」
メイド「相手の兄弟のコンビネーションは機械のように正確ですが、
一定以上の効果は出ません」
メイド「逆にあの二人の自然なコンビネーションは時にミスもあるでしょうが、
その分ものすごい爆発力を生み出すでしょう」
友人「君、けっこう詳しいんだね」
女武術家のハイキックが、誤って格闘家の顔面に入ってしまった。
女武術家「あっ……ゴメン!」
格闘家「いや、いい蹴りだった。いつもの稽古の成果が出てるな」ニッ
女武術家「ありがとう……」ポッ
用心棒兄(くそう、なんなんだコイツらは!?)
用心棒兄(味方に蹴りを入れられたというのに男は笑ってるし、
蹴りを入れた女はなぜか赤面している!)
用心棒弟(メチャクチャなのに……メチャクチャなのに強い!)
ドゴォッ!
用心棒兄「うごぉっ!」ドサッ
女武術家「でぇやあっ!」
ベキィッ!
用心棒弟「おぶっ……!」ガクッ
格闘家「おまえたちも強かったが、愛が足りなかったな!」
女武術家「そういうことだね。愛を知ってから出直してきな!」
友人(俺のせいとはいえ、なんという恥ずかしいセリフ……)
用心棒兄「くっそぉ~! なぜだ!?」ハァハァ
用心棒弟「愛なんかに、ぼくたち兄弟が負けるハズがない!」ゼェゼェ
格闘家「さぁ、決めるぞ!」
女武術家「はいよ!」
用心棒兄「ぐはぁっ!」
格闘家に殴り飛ばされる用心棒兄。
バキィッ!
用心棒弟「うぐぁっ!」
女武術家に蹴り飛ばされる用心棒弟。
用心棒兄弟(ぶ、ぶつかるっ!)
吹き飛ばされた兄と弟の顔面、すなわち唇と唇がぶつかり合い──
ガツンッ!
用心棒兄(こ、これが……!)
用心棒弟(愛……!)
ドザァッ……!
用心棒兄弟は仲良く気絶した。
友人(男同士でキスしながら気絶とは……最悪のやられ方だな……。
でも本人たちは幸せそうな顔してるから、まあいいか……)
ゴロツキ「ちっくしょう!」ガシッ
メイド「!」
ゴロツキがメイドを捕える。
友人「あっ!」
ゴロツキ「用心棒兄弟を倒すたぁ、大したもんだ。
だがな、こっちには人質がいることを忘れてもらっちゃ困る!」
友人「往生際が悪いぞ、テメェ!」
格闘家「これ以上罪を重ねるな!」
ゴロツキ「う、うるせぇ!」
女武術家「…………」
あの手強い兄弟に打ち勝ったお嬢様と格闘家さん……」
メイド「私だけが戦わない、というわけにはまいりませんわね」
ゴロツキ「あぁ?」
ドズゥッ!
メイドのヒジが、ゴロツキの脇腹をえぐる。
ゴロツキ「ぐっ!?」
バギィッ!
さらに振り返りざまの後ろ回し蹴りが、一撃でゴロツキの意識を奪い取った。
ゴロツキ「ぐはぁ……」ドサッ
(まさか、あの女友人さんまでここまで強いとは……!)
女武術家「ふふふ……」
格闘家「ん?」
女武術家「アタシがお父様にバレないようにしながらの修業で、
ここまで強くなったのを不思議に思わなかった?」
格闘家「ああ、たしかに……。
よほど腕のいい師匠がついてないと──まさか!?」ハッ
女武術家「そう……年は同じだけど、
あの子はアタシの友人でありメイドであり師匠なんだよ」
女武術家「もちろんこれも、アタシと彼女だけの秘密だったけどね」
格闘家「そういうことだったのか……」
友人「…………」
メイド「私は幼少の頃より武術をたしなんでおりました。
しかし、あまり戦うことが好きではなかったもので、
道場から逃げ出し、あのお屋敷で雇っていただきました」
メイド「おてんばなお嬢様に、武術の手ほどきをしたのも私です」
メイド「本当はあのゴロツキの手下に囲まれた時……彼らを倒すのは簡単でした」
メイド「しかし……彼らはお嬢様のいい実戦相手になると思ったのです」
メイド「そしてなにより、あなたの前では戦えない女のままでいたかったのです」
メイド「私が戦っていれば、あなたをあんな目にあわせることは──」
友人「なにいってんだよ」
友人「俺、君に惚れ直した! 君は最高の女性だ!」
友人「君にはいつか……町長夫人になってもらう!」
メイド「まぁ……」ポッ
女武術家「ねぇ……格闘家」
格闘家「なんだ?」
女武術家「アタシもお父様に全て話すよ」
格闘家「!」
女武術家「アタシも……もう堂々とアナタと付き合いたい」
格闘家「そうか……だったら俺も一緒に行って話すよ」
格闘家「たとえどんな困難が待ち受けていようと、俺たちならやれる!
だってそれが格闘家なんだから!」
女武術家「そうだね!」
市長「おお……みんなよく無事に戻ってきてくれた!」
町長「格闘家君、息子を助けてくれてありがとう!」
市長「しかし娘よ……その格好はなんだ?
まるで格闘技かなにかをするような格好ではないか」
女武術家「うん、私はこれからは堂々と格闘技をやらせてもらうわ」
市長「なんだと!? それはどういう──」
格闘家「市長さん、実は彼女は時折俺の道場に来ていました。
そしていつしか、俺たちは互いに愛し合うようになっていました」
格闘家「お願いです」
格闘家「どうか、俺と彼女の交際を認めて下さい!」
市長「…………!」
格闘家「……条件?」
市長「うむ……」
格闘家「…………」ゴクリ
市長「私も君の道場に入門させてくれ!」
格闘家「え!?」
市長「君はメイドと町長のご子息を助けに行く前、私に一喝しただろう。
あんなことは市長になって以来、初めてのことだった」
格闘家「あれは本当に申し訳なく……」
市長「いや謝ることなどない」
市長「私はね、感動したのだよ! 君という一人の男に対してね!
私は……都市開発に熱中するあまり、大事なことを忘れていた……!」
市長「当然市長としての職務があるので、めったに行けないだろうが、
私の名も道場の一員として加えて欲しい!」
格闘家「そ、それはかまいませんが……」
女武術家(これは予想外だったよ……)
町長(あれ? これもしかして、ワシの息子と市長の娘の見合いは破談?
ま、息子は助かったわけだし、いいか……)
格闘家「じゃあ俺は友人と町長さんと一緒に帰るよ」
女武術家「うん……」
格闘家「また道場に稽古に来てくれよ。俺も必ずこの都市にやってくるから」
女武術家「もちろん!」
格闘家「今日は色々あったが、結果としてはいい日だった。
あんな強敵と戦うことができたし、君との交際を認められることもできた」
女武術家「いずれアタシらも決着をつけないとね」
格闘家「いずれ、な」
ガッ
二人は互いの拳をぶつけ合い、別れた。
<格闘道場>
「えいっ!」 「とぉっ!」 「えいやっ!」
格闘家「よぉし、そこまでっ!」
友人「よう、けっこう繁盛してるじゃないか。
あの事件でけっこうおまえも有名になったからな」
格闘家「ありがとう。おまえこそかなり忙しいみたいだな」
友人「まあな」
友人「俺はオヤジとちがってデカイ街や都市におもねって
町を発展させるより、自力で発展させるやり方が好きだからな」
友人「忙しいが、やりがいはあるよ」
友人「町の北にある荒れ地の開墾をやってる。
都市にいたゴロツキたちも雇ってるが、一生懸命働いてくれているよ」
~
ゴロツキ「おい、昼飯を食ったら今日はあそこまで耕すぞ!」
手下A&B「はいっ!」
用心棒兄「ほら弟よ、あ~んしろ」
用心棒弟「兄さんの作った卵焼きは美味しいや!」モグモグ
~
友人「最初は不安だったが、アイツらも元々マジメに暮らしたかったんだろうな。
用心棒のヤツらは、ちょっと変な方向に目覚めちまったようだが……」
格闘家「そ、そうか……」
(あの兄弟がおかしくなったのって、やっぱり俺たちのせいなのかな……。
早く元に戻ってくれればいいが……)
女武術家「たのもうっ!」
女友人「こんにちは」
市長「よろしく頼む!」
「こんにちは~!」 「お姉ちゃんいらっしゃい!」 「わ~い!」
市長「いやぁ、ここでたまに稽古するようになってから
体と心の調子がすこぶるいいよ!」クネッ クネッ
格闘家「ど、どうも……」
(なんだこの独特な腰の動きは……)
女友人「あら、また道場にいるのですか。本当にお暇なのですね」
友人「暇なんじゃなく、君を待ってたのさ」
女友人「もう、からかわないで!」バシッ!
友人「いでぇっ!」
女武術家「じゃ、今日も稽古を始めよっか!」
格闘家「ああ!」
女武術家「こうやって逃げ続けてれば、うやむやになるとか思ってない?」
格闘家「!」ギクッ
女武術家「ふふん、まあいいか」
女武術家「でも、いつか必ず勝負してもらうからね!」
格闘家「分かってるよ」
格闘家「どちらが勝っても負けても……俺たちはずっと一緒だ!」
女武術家「……もちろん!」
こうしてある小さな町と大きな都市は、不思議な絆で結ばれた。
この後、この町と都市はこれまでにない発展を遂げたという──
~おわり~
Entry ⇒ 2012.06.23 | Category ⇒ その他 | Comments (0) | Trackbacks (0)
京太郎「意外に可愛いとこありますよね」蒲原「ワハハ...えっ?///」
京太郎「しかしせっかくの休日に男1人とは情けない...」
蒲原「ワハハー。お、あの後ろ姿は?」
蒲原「お、やっぱり清澄のやつだなー」ヒョコッ
京太郎「うわ!って蒲原さんじゃないですか!お久しぶりです」
わかる
京太郎「いや。今日は休みなんですけどね」
京太郎「オレ彼女いないんで時間をモテ余してる寂しい奴なんですよ」
蒲原「そうなのかー清澄は可愛い女子が一杯なのになぁ」
京太郎「そうですねぇ。でもそちらもそうじゃないですか」
蒲原「あぁ。加治木とかカリスマもあって可愛いぞ。部長顔負けだー」
京太郎「いやいや蒲原さんだって可愛いです。何時も明るくて素敵ですよ」
蒲原「ワハハ…へっ?///」
京太郎「いや、本心ですって!ところで蒲原さんも散歩ですか?」
蒲原「うー。あぁ、たまには足動かさないとな」
京太郎「なるほど。確かに麻雀ばかりではバランス悪いですしね」
京太郎「あ、御一緒していいですか?」
蒲原「さ、寂しいやつめー。お姉さんが相手してやろー」
蒲原(デートって奴じゃないのか?///)
蒲原(ダメだろくに経験無いから緊張してきた...)
京太郎「ん...蒲原さん?」
蒲原「ひゃっひゃい!///な、なんだ!?」
京太郎「大丈夫ですか?顔赤いですよ?」
京太郎「?ならいんですけど。しかし散歩気持ちいいですね」
蒲原「そうだなぁ。やっぱ自分の足で動くのいいぞー」
京太郎「蒲原さん免許持ってますもんね。俺も取ろうかなぁ」
蒲原「ウチは足がないと辛いからなぁ。取ればいいじゃないかー」
京太郎「でもなぁ、免許取ってしまうとなぁ」
京太郎「いや、便利だからこそ部活でコキ使わされそうで…」
京太郎「部長が蒲原みたいな人だったらなぁー」
蒲原「ワハハ。君は尻に敷かれるタイプなんだなー」
京太郎「否定できない自分が辛いですよ…」
京太郎「そうですねぇ。助手席に彼女を載せてドライブとか。」
京太郎「彼女いないですけど…」
蒲原「そんなに落ち込むなよー彼女じゃ無くても適当に誘えばいいだろー?」
京太郎「そうですけど…誰が乗ってくれるのか…」
京太郎「!」ハッ
蒲原「へっ?わ、私?///」
京太郎「はい。どうせ俺が誘ってもついてきてくれる子なんていませんし」
京太郎「蒲原さんなら免許持ってるから心強いですから」
蒲原「そうか…そうだな、責任なら仕方ないなー///」
蒲原「おねーさんに任せとけー」
蒲原「ワハハ。まぁがんばれよー」
京太郎「はい!あ、そうだせっかくだしアドレス交換しませんか?」
京太郎「せっかくこうして話せましたし約束もありますし」
蒲原「おーいいぞーちょっと待ってろー」
そういや無いんですかねでも合宿とか可能性は0では無い…はず
蒲原「ん。こっちもOKだぞー」
蒲原(家族以外の男の人の番号初めてだな///)
京太郎「ありがとうございます。けっこう長く歩いちゃいましたね」
蒲原「いやいや。良い運動になったよ。また機会があれば頼む」
京太郎「そうですね。俺も蒲原さんと話せて楽しかったです。」
京太郎「へ?何か変なこと言いました?」
蒲原「い、いやなんでもないぞー」
蒲原(自覚無いのか。さすが清澄唯一の男子だなー)
蒲原(少し意識してしまう///)
京太郎「もうすぐお昼か。蒲原さんこの後何かあります?」
京太郎「それは良かった。この近くにタコスが美味しい店があるんですけど」
京太郎「良かったらどうですか?」
蒲原「おおー良いじゃないか。是非お願いするよ」
京太郎「決まりですね。んじゃ行きましょうか」
蒲原の左に立つ
京太郎「さて行きましょうか。ほんと近いので」
蒲原「お?おう。なぁなんで左側に?」
京太郎「ん?あーあれですよ。車道側、危ないですから」
京太郎「女の子を歩かせるわけには行きませんよ」
蒲原(お、おお女の子って!不味い顔が熱い…)
京太郎「いやいやこれくらい普通ですよ」
蒲原「さ、さすが清澄のマネージャーだー」
京太郎「マネージャーじゃ無いですって!ひどいなぁ」
蒲原「ワハハ。ごめんごめんー」
蒲原(コイツは天然でやってるんだろうか、しかし女の子扱いは嬉しいものだなー)
蒲原「しかしタコスの店なんて珍しいとこ知ってるんだな」
京太郎「あー。うちに片岡優希っているんですけどね」
京太郎「そいつと良く来るんですよ。タコスジャンキーなんでアイツ」
蒲原「ワハハ。そうなのかー」
蒲原(なんだろう。なんか胸がチクチクするぞー)
蒲原「本当に近いんだな。中々雰囲気の良い店じゃないか」
京太郎「味も評判なんですよ。若い子からアラフォーまで人気があるとか」
蒲原「ほー。期待して良いんだなー?」
京太郎「はい!それに今日は俺が誘ったんで奢りますよ」
蒲原「良いのか?何だか悪いぞー」
京太郎「ウチの女子も蒲原さんくらい可愛げが欲しいですよ…」
京太郎「あはは。すいません」
京太郎「あ。メニューありますよ、何にします?」
蒲原「うーっ。そうだなぁタコスなんて意識して食べたこと無いし…オススメは?」
京太郎「そうですねぇ。テクス・メクス風かベタにハードタコスか」
京太郎「辛いのが苦手ならウェハースにアイスを包んだ本場風のチョコタコもオススメです」
蒲原「や、やけに詳しいんだなー」
京太郎「それに一応自分でも作れるんですよ?」
蒲原「すごいんだなー清澄の麻雀部は…」
京太郎「たぶんこれは麻雀関係ないですけどね」
蒲原「いやぁでも気がきいて料理ができるなんて良いじゃないかー」
京太郎「そんなに褒めないでくださいよ!照れるじゃ無いですか」
蒲原「んーじゃあ私はそのチョコタコってのにしようかな」
京太郎「ならオレはノパルタコスのアボカドサルサソースで」
蒲原「の、のぱる?」
京太郎「あーわかんないですよね。」
京太郎「ノパルってのはウチワサボテンっていうサボテンの若茎ですよ」
京太郎「歯応えが良くて美味しいんですよ」
京太郎「まぁ地域によって材料は変わるらしいですけどね」
京太郎「魚とか肉とか色々あるみたいですよ」
蒲原「さすがだなー。そこまで詳しいんだ作るタコスも美味いんだろうなー」
京太郎「まぁそこそこ人気ですよ。なんだったら今度ご馳走しましょうか?」
蒲原「!」
蒲原「い、いいのか?」
京太郎「なら次に会うとき作って持ってきますよ」
蒲原「ワハハ。約束だぞー?期待してるからなー」
蒲原(これで、次に会う口実が…)
京太郎「あ、でも」
蒲原「ん?どーしたんだー?」
蒲原「ワハハ。たしかにそーだなー」
京太郎「そこでです。蒲原さんも何か作って来てくれませんか?」
蒲原「えっ?私も?」
京太郎「はい。当日交換して食べるってことで!」
蒲原「うーっ。私料理の腕も普通だぞー?」
京太郎「いやいや、女の子の手料理に勝るものなんかないですよ」
京太郎「やった!約束ですからね!絶対ですよ!」
蒲原「ワハハ。わかったわかった。そうがっつくなよー」
蒲原「お、料理来たみたいだよ」
京太郎「おー美味そう!んじゃ食べますか」
蒲原「うん。美味しそう。頂きます!」
蒲原「なんだろ?クレープみたいな感じだね」ハムハム
京太郎「こっちも美味い。チョコタコはアメリカのチェーン店発祥ですからね」
京太郎「中々外れを引かないし良いですよ。辛いの苦手な人でも食べれますし」
蒲原「なるほどなー」ハムハム
蒲原「ん?どーした?」ハムハム
京太郎「意外に可愛いとこありますよね」
蒲原「ワハハ…えっ?///」
京太郎「いやなんかタコス両手で持って食べてるとことか」
京太郎「ギャップって言うんですかね?普段は部長として頑張ってるイメージなので」
蒲原「うー」///
京太郎「えっこれ辛いですよ?」
蒲原「う、うるさい///」ハムッ
蒲原「うっ!、か、かりゃい!」
京太郎「だから言ったのに…あぁもうほらとりあえずお茶飲んでください」
蒲原「」ゴクゴク
蒲原「ぷはっ」
蒲原「う、うん。ごめん///」
京太郎「オレのお茶全部飲むとか相当辛かったんでですね」
蒲原「うー。舌がぴりぴりする」
京太郎「とりあえずオレは飲み物また買ってきますね」
蒲原「いってらっひゃいー」
蒲原「お茶買いに行かせたし悪いことしたかなぁー」
蒲原「ん?お茶?」
蒲原(「オレのお茶全部飲むとか相当辛かったんですね」)
蒲原(オレのお茶…?)
蒲原「・・・」
蒲原「///」ボンッ!
蒲原(か、かかか関節キスってやつじゃないかこれは!)
蒲原(ファーストだってまだなのに!ど、どうすれば…)
蒲原(落ち着け…落ち着くんだ智美。点棒を数えて落ち着くんだ…)
蒲原(そうだ私は鶴賀学園麻雀部の部長だぞ。こんなとこでうろたえてどうする!)
蒲原(ましてや年下の男の子だ。ここは年上の女の余裕を…)
京太郎「ただいまでーす。ん?蒲原さん?」
蒲原「ひゃっ。ひゃい!///」
京太郎「あ、あとはいこれ」コトッ
蒲原「なにこれ?」
京太郎「ヨーグルトスムージーです。舌冷やすのにいいかなと」
蒲原「あ、ありがと///」
蒲原「美味しい…」チュー
京太郎(また両手で持ってる。可愛いな。)
蒲原「美味しかったなー」
京太郎「お、気に入ってもらえました?」
蒲原「そうだなー。まぁ納得はしたぞ」
蒲原「だが君のはもっと美味いと期待させてもらうぞー」
京太郎「げっ」
蒲原「ワハハー楽しみだぞー」
蒲原「ワハハ。ま、精々精進しろよー?」
京太郎「はいはい。んじゃそろそろ帰りますか」
蒲原「おー。んじゃ帰ろっかー」
蒲原「今日はご馳走さまだぞー」
京太郎「いえいえ。それではまた」
京太郎「んーチョコタコかー」
京太郎「バニラアイスも良いけどチーズクリームとかで…」ブツブツ
優希「なぁなぁ。犬は何をブツブツ言ってるんだじぇ?」ヒソヒソ
咲「京ちゃん部室に来てからずっとあんな感じなの」ヒソヒソ
咲「タコスのレシピ本見ながらずっと独り言」ヒソヒソ
和「料理人にでもなるんでしょうか?」ヒソヒソ
京太郎「いや、あえてベリーソースとかで…?」
蒲原「うー」
蒲原「卵焼き?いやウインナー…でも普通すぎるかなー」
加治木「どうした?先程から飯の話ばかりだぞ。腹でも減っているのか」
蒲原「あ、ユミちん。いやぁ色々あってねー」
加治木「悩み事か?相談ならいつでも乗るが…」
蒲原「へっ!?いやいやいや、別にそんなんじゃないよー」
蒲原「そうそう。お気になさらずー」
モモ「嘘はよくないッスよ。先輩」
蒲原「うわっ。モモいたのか…」
モモ「笑顔浮かべながらお弁当の献立を考える…それすなわち」
加治木「それすなわち?」
モモ「恋する乙女ッス!」
加治木「お前が恋か」
モモ「わかるッス…わかるッスよ先輩…」
モモ「恋をすることは苦しいッス…でも…」
モモ「誰かに自分を認めてもらうことはすごく嬉しいことッスから…」
加治木「モモ…」
モモ「先輩…」
蒲原(ワハハ。あれー?)
加治木「とにかくだ、蒲原私たちはお前の味方だ。なにより」
加治木「射程に入った獲物を逃すな。だ」
モモ「私も応援するッス!」
蒲原「モモ、ユミちん…」
蒲原「ワハハーそうだね!」
蒲原「ちょっと頑張ってみるよ。なんたって私は鶴賀学園麻雀部の部長だからねー」
蒲原「よし。けっこうレシピ決まってきたなあ」pipipi
蒲原「お、メールだ。どれどれ」
お久しぶりです、京太郎です。
前約束してた件ですか、今週末はどうでしょうか?
時間が良ければお願いします。
蒲原「おー。今週末は大丈夫だぞー。っと送信!」
蒲原「ふふふ。首を洗ってまっとけよー」
蒲原「えへへ///」
京太郎「お、大丈夫なのか良かった。」
京太郎「そういやどこ行くか決めてないなぁ。」
京太郎「どこか行きたいとこはありますか?っと送信!」
京太郎「うし、もっかいレシピ確認すっかな」
蒲原「うむ。場所かぁーそーだなー」
蒲原「一応男女なわけだしムードも大切だよなー」
蒲原「この「アラフォーでも分かる恋人になる100の方法」によれば…」
蒲原「ふむふむ…海か!」
蒲原「海にしよーよ。車出すし。っと送信!」
京太郎「良いですね。安全運転でお願いしますよっと送信!」
京太郎「さてさて、これは気合入れないとなぁ」
京太郎「それにしても楽しみだ」
京太郎「良く考えたら他校女の子と二人切りとかあんま経験無いし」
京太郎「んー。意識しちまうのは、仕方ないよなぁ」
蒲原「ワハハ。まかせとけーっと送信!」
蒲原「よしよし。射程内だなーなんつって」
蒲原(と言いつつ緊張するなぁ)
蒲原「でもここまで来たんだ頑張るぞー」
蒲原(楽しみ…だな-///)
蒲原「よし、仕込みはこんなもんかなぁ」
蒲原「けっこう量作ったけど大丈夫だよなー男の子だし」
蒲原「さて、次は服だな…どうしよ」
蒲原「私はユミちんみたいに身長も無いし」
蒲原「モモみたいに…その…胸とかもないし///」
蒲原「うー。こんな時こそ参考書「アラフォーでも分かる恋人になる100の方法」!」
蒲原「夏らしさ…生足…ほうほう」
蒲原「なるほど。」パタン
蒲原「服は大体決まったな。化粧は…苦手だしパス」
蒲原(せっかくの二人きりだもんね!か、可愛いとか言われたいし…///)
蒲原「えへへ///」
蒲原「うー。早かったかなー」ソワソワ
蒲原「服変じゃ無いかなぁ…」
京太郎「あれ、早いですね?15分前に着くつもりだったんですけど」
蒲原「ひゃあ!びっくりしたー!」
蒲原「脅かさないでよもー」
京太郎「なんかそこまで驚かれると傷つきますよ!」
蒲原「ワハハ。ごめんごめん!それじゃ行こうかー」
京太郎「はい!安全運転でお願いしますね」
蒲原「ワハハ。夏だからね。クーラー効くまでもう少し待ってなー」
蒲原「あ、ラジオでもつけるかー」ポチッ
<コイノリンシャカイホー♪
<お届けしたのはラジオネーム、アラサーだよっ!さんからのリクエスト
<「恋の嶺上開花」でした。
京太郎「すごい曲ですねぇ」
蒲原「まぁ良いBGMさー」
蒲原「お、海が見えてきたぞー!」
京太郎「おおー景色良いですねぇ、人も少ないし穴場だ」
蒲原「ふふふ。ここは前に鶴賀学園の皆で来たんだー」
京太郎「思い出の場所ってやつですか。良かったんです?」
蒲原「特別さ。光栄に思いなよー?」
蒲原(君だからこそ連れてきた…とか言えたらなぁ…)
京太郎(オレは女の子のどの部分が好きかと言われれば)
京太郎(おっぱいと全力で答えるだろう。これはオレの中の真理だ)
京太郎(しかし、しかしだ諸君)
京太郎(オレの目は完全に蒲原さんにいっている)
京太郎(これはおっぱいが原因なのか、いや違う)
蒲原(なんか真剣な顔してるなーちょっと格好良い///)
京太郎(蒲原さんはプロポーションが特筆しているとは言えない)
京太郎(しかしどどうだろう)
京太郎(夏の日差しの当てられた絹の様な柔肌が見せる幼さ)
京太郎(ミニスカートからちらりと見える太ももの色気)
京太郎(まさしく夏の魔物である・・・)
蒲原(うわわ。見られてる少し恥ずかしいなー///)
蒲原「は、はい!」
京太郎「服とても可愛いですね。似合ってますよ。」ニコッ
蒲原「ワハハ。そうかそうかー」
蒲原「素直に嬉しいぞー」
蒲原(可愛いって!可愛いって!///)
蒲原「おーそうだな。ん、潮風が気持ちいいなー」
京太郎「ですねぇ。あぁそれにしてもお腹空きました」
京太郎「今日のためにオレ朝から何も食べてないですからね!」
蒲原「ワハハ。気合充分だなー」
蒲原「んじゃ準備するからちょっとまってろー」
蒲原「いやぁ男の子にお弁当作るの初めてだから上手くできたかどうかー」
京太郎「いや、充分美味そうですよ!頂きます!」
蒲原「ワハハ。はいどうぞ召し上がれー」
京太郎「んじゃこの鳥の唐揚げから」ハムッ
蒲原「ど、どうかなー?」ドキドキ
蒲原「ワハハー」
京太郎「このだし巻きもソテーされたカマボコも」
京太郎「薄口の肉じゃがもほうれん草のソテーも」
京太郎「全部美味いです!」
蒲原「そうかそうかーどんどん食えよー」
蒲原(よかったぁ…頑張って作ったかいがあったぞー)
蒲原「ワハハ。良く食うなー」
京太郎「だって美味いですもん!いやぁ蒲原さんは良いお嫁さんになれますよ」
蒲原「へっ!?よ、嫁?///」
蒲原(やっぱ嬉しいもんだなー。今ならモモの気持ちがわかるぞー)
京太郎「美味い美味い」ムシャコラムシャコラ
蒲原「はい、お粗末さまだぞー」
蒲原(全部食べてくれたなー///)
京太郎「いやぁしかしハードルさらに上がりましたなー」
蒲原「ワハハ。そうだろそうだろー」
京太郎「しっかしオレも負けるわけには行かないですよ」
京太郎「まぁ誘ったのはオレですからね」ゴソゴソ
京太郎「よっし!はい、どうぞ!」ゴソゴソ
蒲原「これは…この前のチョコタコ!」
京太郎「はい。蒲原さん辛いのダメだろうと思いまして」
京太郎「こっちのほうが美味しく食べてくれるかなぁって」
京太郎「クーラーボックスで持ってくるの大変でしたけどね」
蒲原「お、美味しい!美味しいよこれ!」
京太郎「本当ですか?やった!」
蒲原「バニラとベリーソースもさることながら」
蒲原「この一緒にかかってるこれが…」
京太郎「お、気が付きましたか?さすがですね」
京太郎「ご名答!よくわかりましたね。」
蒲原「でも、この味…どこかで…」
京太郎「そりゃそうですよ。この前行ったあのお店のヨーグルトスムージーですから」
蒲原「えええ?でもなんで…」
京太郎「いやぁ前飲んでる時すごい美味しそうに飲んでたので」
京太郎「あの日からお店に通ってデータ集めて作ってみました!」
蒲原(嬉しいなぁー///)
蒲原「ありがとう。とっても美味しいぞー」ニコッ
京太郎(なんだこれ可愛ぇ)
京太郎「い、いや。喜んで貰えたなら光栄です!」
京太郎(不味いな…意識しすぎて味がわからん)
京太郎「い、いやなんでもないです!」
京太郎(やべぇ顔みれねぇや)
蒲原(おー照れとる照れとる可愛いやつめー)
蒲原(まぁ意識してるのはこっちもなんだけどな///)
京太郎「し、しかし本当に人いませんねぇ」
蒲原「そうだなー」
蒲原「…」
蒲原「あ、あのさ!」
京太郎「はい?どうしました?」
蒲原「あのね、君が嫌じゃなかったらでいいんだけどさ」
蒲原「もう少し……もう少し近くに行っていいかな?///」
蒲原「おー///隣失礼するぞー」
蒲原「よいしょっと」チョコン
京太郎(何だこれは白昼夢か…)
京太郎(隣には可愛い女の子、目の前は海)
京太郎(ここが天国か…)
蒲原「私はなーこうやって男の子と出かけたことはなくてなー」
蒲原「お弁当だとか服とかいっぱいっぱい悩んだんだぞー?///」
蒲原「でも、自分にもこういう気持ちがあるんだなって知れてさ」
蒲原「大変なこともあったし友達から応援も貰って頑張れて、そんな初めてを君とできて」
蒲原「すごい嬉しかったんだ。ありがとうなー?」ニコッ
蒲原「まぁバカな女の戯言だと思って聞き逃してくれー」
京太郎「蒲原さん」ガバッ
蒲原「ふぇ?」ギュッ
蒲原「わ、ワハハ。いきなり抱きしめるとかおねーさん勘違いしちゃうぞー?」
京太郎「…ですよ」
蒲原「えっ…?」
京太郎「勘違いしてくれて…いいですから。」
京太郎「料理だって大変だったけど」
京太郎「蒲原さんが笑ってる顔思い出したら全然辛くなかったです。」
京太郎「それなのに、急にこんなこと言われて嬉しくないわけ…ないじゃないですか…・!」
京太郎「オレからもお願いします。」
京太郎「隣でずっとアナタの笑顔を見させてください」
京太郎「はい、オレで良ければお願いします」
蒲原「そっか……グスッ…ヒック」
京太郎「蒲原!?」
蒲原「ゴメン…グスッ…すごく怖くて…でも嬉しくてさー…ヒック…」
蒲原「なんでだろうな…涙止まんないやぁ…」
京太郎「蒲原さん…こっち向いて、目閉じてもらえますか?」
蒲原「えっ…」チュッ
京太郎「これが…オレなりの精一杯です。」
京太郎「少しは落ち着きましたか?」
蒲原「お、落ち着くわけないだろ!初めてだったんだぞ!」
京太郎「奇遇ですねオレもですよ。」
蒲原「そうなのかー?えへへ///じゃなくって!大体泣いてる彼女にだな!」
京太郎「嫌、でしたか?」
蒲原「うーっ。い、嫌なわけないだろっ///」
京太郎「ならいいじゃないですか。」
蒲原「何か手玉に取られてる気がするぞー?」
京太郎「っともうこんな時間ですか」
蒲原「ふふふ。それもそうかもなー」
蒲原「さて、帰ろうか!運転頑張るぞー」
京太郎「オレも早く免許取らないとですね」
蒲原「ワハハ。そうだなー早く助手席に座らせてもらわないとだー」
京太郎「そうですね。彼氏が助手席は少しみっともないです」
京太郎「OKです!」
蒲原「よっし。んじゃ出発するぞー」ブーン
京太郎「しかし行きは友達で帰りは彼女ってすごいですよね」
蒲原「うーっ!君はすぐ恥ずかしいこと言うなー///」
京太郎「あははっ。ごめんなさい。でもやっぱり…」
蒲原「でもなんだよー?」
京太郎「意外に可愛いとこありますよね」
蒲原「ワハハー///」
おわり
ワハハ可愛いんであんまりいじめてあげないでくださいね!
またSS書いてくださいましー
帰りに事故ってワハハだけ生き残るっていう鬱展開じゃなくてよかった
やめろォ!
良かった・……
Entry ⇒ 2012.06.23 | Category ⇒ 咲-Saki-SS | Comments (0) | Trackbacks (0)
伊織「スキスキ、だーい好き!」
亜美・真美「あっづ~い……」ヘター
春香「ほんとに、夏はつらいよね~」パタパタ
亜美「壊れたエアコン!」
真美「オンボロのエアコン!」
亜美&真美「役立たずのエアコン!」
あずさ「そうねえ~……。ちょっと、胸元が蒸れちゃうわ~」ヒラヒラ
ハム蔵「ktkr」ガタッ
響「こらハム蔵~。見ちゃダメだぞ~」ヘタリ
あずさ「あらあら。ハム蔵ちゃんはエッチなのね~」
千早「くっ……」ググッ
伊織「ふか~い崖の、向こうだったの」
雪歩「ひぃっ」
真「……」ゴクッ
伊織「その時……耳元で……」
伊織「落ちればよかったのに……」ボソッ
雪歩&真「いやああああ!」ビクビクッ
伊織「にひひっ! どう? 涼しくなったでしょ?」
真「こ、怖すぎるよ伊織ぃ!」ガタガタ
伊織「まったく、感謝しなさいよね? それよりも……」
伊織「…………」
伊織(本当に暑いわね……)
伊織(スケジュールも真っ白。こんなんで良いのかしら……)
雪歩「……伊織ちゃん? どうしたの?」キョトン
伊織「へっ? な、なんでもないわよ」
P「みんなー、アイス買ってきたぞ~!」
亜美「やったー! 兄(C)愛してる~!」パアア
真美「さっすが真美の見込んだオトコだねっ!」タタタ
春香「プロデューサーさん、お疲れ様です~」
響「真~! アイス食べるぞー!」
真「わかった! 行こ、雪歩」ガシッ
雪歩「うん! 伊織ちゃんも」
伊織「…………」
雪歩「伊織ちゃん?」ハテナ
伊織「そ、そうね。行きましょ」ガタッ
P「ん? 伊織、食べないのか?」
伊織「しょ、食欲ないのよっ」
P「そっか。しかし、こう暑いと……捗らないよなあ」
伊織「はかどるも何も、仕事全然ないじゃない」ハア
P「うう、耳が痛い」
伊織「ね、ねえ……あんた」
P「なんだー?」ペロペロ
伊織「……ちょっと、話があるんだけど」
P「悩み事か? それじゃ、ちょっと場所移そう」
…………
……
P「何もわざわざこんな場所に来なくても……」
伊織「い、いいのよ。ほら、ちゃんと日陰もあるでしょ?」
P「まあ、そうだな。座ろう、伊織」
伊織「ええ……」チョコン
P「…………」
伊織「…………」
P「……って、何か話せよっ!」バシッ
伊織「…………」
伊織「ねえ、私たち……もっと出来る事があるんじゃないかしら」
P「……仕事が少ないことを言ってるのか?」
伊織「何ていうか、その……」
P「不安なのか? この先」
伊織「ま、まあ……そんなところよ」シュン
P「確かに、今の状況を見れば、焦る気持ちも分かるよ」
伊織「どうすれば、いいんだろ……」
P「でもさ。ちょっとずつ頑張っていくしか無いと俺は思うよ。皆と一緒にさ」
伊織「そんなの……わかってるわよ」プイ
P「…………」
伊織「…………」
伊織「なによ」
P「どっか、行きたいところ無いか?」クルリ
伊織「!? な、なんでそんな事……」アセアセ
P「どこか連れてってやろうと思って。あ、流石に海外とかは無理だぞ?」ニコッ
伊織「……ふ、2人で?」
P「伊織が嫌じゃなければ、それでも良いよ」
伊織「…………あんた、へ、ヘンな事考えてるんじゃないでしょうね」ジトッ
P「はは。そんなわけないだろ」
伊織「…………」
伊織「……そうね」
P「……ん?」
P「よし。それじゃ、今度の休みに行こうか」
伊織「ねえ、これって……その」
伊織「で、デート……ってやつ?」カアア
P「2人で行くんなら、そうなるんじゃないか?」
伊織「……ま、まあ? 本来なら伊織ちゃんがアンタなんかと、で、デートするはずないんだけど? どうしてもって言うのなら付き合ってあげるわ」フンッ
P「おっ! 何だかいつもの調子に戻ってきたみたいだな」
伊織「う、うるさいわね。それより……」クルリ
伊織「いいこと? この事は、ゼッタイに秘密よ?」ビシッ
P「何でだ? 別にプライベートで海に行くことくらい……」
伊織「そ、そうじゃなくって! その……」
伊織(は、恥ずかしいなんて、言えない。それに、喋ったら春香たちも着いてくるかも……)
P「……わかった。この事は、二人だけの秘密な」
伊織「わ、わかればいいのよっ」フイッ
P「はいはい。それじゃ、そろそろ戻ろう」
…………
……
電話『ぷるるる』
執事『はい……水瀬でございます』
執事『これはこれは……。少々、お待ちくださいませ』
扉「トントン」
執事「お嬢様。菊池真様からお電話です」
伊織「ちょっと今手が離せないの。そう伝えてくれるかしら?」
執事「……明日は、海水浴へ行くのでしたね」
伊織「え、ええ。だから、お願いね」
執事「はい。お身体に気を付けて、楽しんで下さいませ」
執事『お待たせいたしました。生憎、お嬢様はお忙しいようで……』
執事『ええ。その件でしたら、既にお嬢様は……はい。とても楽しみにしておられる様です……』
伊織「…………」ウロウロ
伊織「…………」ウロウロウロウロ
伊織「ど、ど、どうしよ……」
伊織「何となく海に行きたいなんて言っちゃったけど……」
伊織「…………」
伊織「ていうかそもそも、どうしてプロデューサーなんかとこの伊織ちゃんがデートすることに……?」カアア
伊織「ま、まずは落ち着きましょ。そう、ただの慰安旅行みたいなものよ。リフレッシュ目的なんだから」
伊織「あ、明日の水着選ばなきゃ。プロデューサーはどんなのが好みなのかしら……?」
伊織「…………って」
ベッド「ばふん」
伊織「…………」
伊織「どうしちゃったんだろ……私」
伊織「ねえ、うさちゃん。分かる?」
うさちゃん「…………」
伊織「わかるわけ……ないよね」ハア
伊織「…………」
伊織「……準備済ませて、早く寝なきゃ」
…………
……
伊織「…………」
春香「あっ! 伊織おはよー」ノシ
美希「もう、でこちゃん遅いよ~」
真「はは。美希もさっき来たばかりじゃないか」
伊織「な、何でアンタたちが居るのよ!?」
亜美「いやあ、絶好の海水浴びよりですなあ」
真美「いよ→っし! 今日は遊びまくるよ~!」
あずさ「やよいちゃんは、海が好きなの~?」
やよい「はいっ! しっかり体操しなきゃですねっ!」
雪歩「響ちゃん。ハム蔵って泳げるの?」ハテナ
響「もちろん泳げるぞ! なっ! ハム蔵♪」
ハム蔵「おう」
貴音「潮の香りが待ち遠しいですね……」
千早「プロデューサー。荷物、全員載せ終わりました」
P「ああ。ありがとな。千早」
伊織「…………」ジトーッ
伊織「……」ツカツカ
伊織「ちょっと……こっち来なさいよっ」
P「わわっ! 引っ張るなよ伊織」
伊織「アンタ、皆に話したの?」コソコソ
P「誤解しないでくれよ。俺は何も……」コソコソ
伊織「じゃあ、何でこうなってるのよっ!」
P「いやあ、実は昨日の夜……」
…………
……
P「ふう……やっと終わった」
P「もう遅くなっちゃったし。さっさと帰ろう」
携帯「ブルルル……。ブルルル」
P「誰からだ? ……わっ! 社長からだ!」
P『お疲れ様です。社長」
社長『いやあ、突然済まない。今どこに居るのかね?』
P『事務所ですが……、これから帰るところですよ』
社長『遅くまで悪いね。それより君、明日の予定はどうなっているんだね?』
P『明日ですか? 実は……海に行く予定がありまして……』
社長『もしや……〇×△浜かね?』
社長『いやね、私の古い友人が旅館を経営していてね。事務所のアイドルも連れて遊びに来ないかと、誘われてしまったんだよ』
P『ええ!? って言っても……、もう21時ですよ?』
社長『今日になって、突然部屋が空いたらしくてねえ。既に、アイドル諸君には連絡網で伝えてもらっているんだが……』
P『そ、そうだったんですか……急な話ですね』
社長『そこで、君にアイドル諸君の引率を任せたいんだよ。いや、安心してくれたまえ。律子君も、音無君も来てくれるそうだ』
P『は、はあ……了解しました』
社長『すまないね。それでは、明日は楽しもうじゃないか。はっはっは』
携帯『ブチッ。ツー、ツー』
P『伊織……。すまん』
…………
……
亜美「兄ちゃ~ん、早く出発しようよ~」ヤンヤ
真美「海が真美達を呼んでるよ~」ヤンヤ
伊織「……それなら、昨日のうちに電話くらい寄越しなさいよね」プイッ
P「すまん! 俺に連絡が来たのが遅かったから、迷惑かなと思ったし、準備とかで忙しくって」
伊織「……浮かれてた私がバカみたいじゃない……」ボソッ
P「ほんとにすまん!」
春香「プロデューサーさん! 準備おっけーですよ~」
P「わ、わかったー! 伊織。機嫌直してくれよ。せっかくの海なんだしさ」
伊織「……仕方ないわね。もう」
…………
……
春香「わあー! ウェミダー!」キラキラ
美希「ミキがいっちばんなのー!」タタタ
真「あっ! ずるいよ美希! ボクも!」タタタ
亜美「浮き輪よしっ!」
真美「水鉄砲よしっ!」
亜美&真美「いざ、突撃ぃ~!」タタタ
P「おーい! ちゃんと体操しろ~、怪我するぞ~」
律子「みんな、楽しそうですね」
P「そうだな。急な話だったのに、まさか全員で来れるなんて」
小鳥「みんな、どれだけ暇なんですかね~」
小鳥「放っといてください」ズウーン
P「そ、それじゃ、ちょっと社長に会って来ます」タッタッタ
律子「お疲れ様です。それじゃ小鳥さん、私たちも泳ぎましょう」
小鳥「そ、そうですね~。あ、律子さんは先にどうぞ~」
律子「そうですか? じゃあお先に」テクテク
小鳥「…………」
小鳥(水着になんてなれないわよ。常識的に考えて)ハア
小鳥「…………ぐすん」
…………
……
春香「ちーはーやーちゃん」テクテク
千早「春香。どうしたの?」
春香「千早ちゃんこそ。泳がないの?」
千早「わ、私は……」
春香「ほらTシャツ脱いで! 皆で遊ぼうよ!」
千早「ちょ、春香ぁ、自分で脱げるから……」バタバタ
春香「千早ちゃんの水着、とっても可愛いよ?」
あずさ「ええ。千早ちゃんらしくて良いと思うわよ~」
貴音「このような日陰でくすぶっているのは、勿体ないと思いますよ、千早」
春香「あずささんに貴音さん……い、いつの間に」
千早「…………」ジーッ
あずさ「……? どおしたの?」キョトン
貴音「なにやら胸に視線を感じるのですが……」
千早「な、なんでもありません……」
千早「…………」
千早「くっ」
…………
……
P(やっぱり伊織には悪いことしたな)
P(お詫びにはならないだろうけど、昼飯でもご馳走してあげよう)
P(えーと、伊織はどこだ?)キョロキョロ
伊織「…………」
P「よ。みんなと遊ばないのか?」
伊織「別にアンタには関係ないでしょ。それに、今はこうして海を眺めていたいの」ツーン
P「そっか。なあ、伊織」
伊織「……何よ」
伊織「……う、うそよ//」
P「いや、本当に」
伊織「……ほんとにホント?」
P「ああ。可愛いと思うよ」
伊織「……そ、そう! まあ、このスーパーアイドル伊織ちゃんの水着姿なんだから、見蕩れて当然よねっ!」パアア
P「自分で言うなよ。それと、ごめんな。こんな事になっちゃって」
伊織「……べ、別に気にしてないわよ」フンッ
P「本当か?」
伊織「いいのよ。社長の頼みだし、アンタは断れる立場じゃないのもわかってる」
伊織「もういいわ。それより、伊織ちゃんお腹空いちゃった」
P「ああ。何が食べたい?」
伊織「なんでもいいわよ。アンタが決めなさいっ」ビシッ
P「ええ? 俺伊織の好みなんてわからないぞ?」
伊織「プロデューサーなんだから、アイドルの好き嫌いくらい把握しときなさいよねっ?」
P「はあ……わかったよ。とりあえず、行こう」
伊織「…………」
伊織(水着……か、かわいいって……///)
P「伊織~。早く来~い」
伊織「わ、わかってるわよ~」タタタ
…………
……
P「結構混んでるなー」
伊織「まったく、なんで伊織ちゃんが、こんな人混みの中で食事しなきゃいけないのよ」
P「はは。仕方ないだろ。むしろ、そういう騒がしさを楽しまないと」
伊織「そういうものかしら?」
P「そういうもんさ。それじゃ、何頼もうかな」ペラ
伊織「とりあえず、オレンジジュースね♪」
P「え? オレンジジュース?」キョトン
伊織「な、何よその顔。なんか文句あるわけ!?」
P「いや、子供っぽいなと……痛っ!」ゲシッ
伊織「悪かったわね……子供で」
P「あ、足を蹴るなよ……。でも」
伊織「でも……なによ?」ジト
伊織「か、かわいい?」
P「まあ、なんとなくだけど」
伊織「……そっか。可愛い、ね。ふ~ん」
P「伊織? どうしたー?」
伊織「な、なんでもないわよっ! それより、オレンジジュースは身体に良いんだから。アンタも飲みなさいよね?」ビシッ
P「はいはい。わかったよ。他には何頼もうか?」
伊織「やっぱり海に来たんだから、普段とは違う料理が食べたいわね」
P「そうは言っても、伊織は一般人の俺とは違って、舌が肥えてるだろうしなあ。眼鏡に適うものがあるか……」
伊織「……あんた、間違ってるわよ」
P「え?」
P「誰かと一緒に食べることが重要ってことか?」
伊織「以前、やよいの家の夕食に招かれた時に、そう思ったの」
P「へえ……そんな事があったのか。それで、どうだった?」
伊織「それがね、やよいったらスーパーで、もやしばかり大量に買うから何を作るのかなって思ったら」
P「思ったら?」
伊織「炒めたもやしをそのまま」
P「やよい……。慎ましく、頑張っているんだなあ」ホロリ
伊織「でもね? とっても美味しかったのよ。やよいの兄妹と、テーブルを囲んで、『もやし祭り』開催だーっ! ってね」
P「そっか。俺も一度参加してみたいな」
伊織「きっと快く招待してくれるわよ」ニヒッ
P「そうだといいな。それじゃあ、シーフードカレーでも食べるか?」
伊織「いいわね。あまり長居するのもお店に悪いし、さっさと注文しちゃいましょ」
…………
……
伊織「あれ? 雪歩じゃない?」
P「ほんとだ。……あ、あいつ何をしてるんだ?」
雪歩「トンネルを~抜けたらそこは~♪」
伊織「雪歩……。アンタ余程暇なのね……」
雪歩「わっ! い、伊織ちゃん? それに、プロデューサーも……」
P「すごいなこれ。砂の城?」
雪歩「は、はい! もう少しで完成なんですよ~」キラキラ
伊織「もうこれは遊びというより芸術レベルね」ハア
P「雪歩は器用なんだなあ」
雪歩「そ、そんなに褒めないで下さい~///」
伊織「はいはい。せいぜい頑張って掘りなさい」
P「完成したら、呼んでくれよー」
雪歩「はいっ! 頑張ります~」グッ
春香「プロデューサーさん! ビーチバレー、やりませんか?」トテテ
美希「ちょうど、でこちゃんも居るから2対2で勝負なの!」
P「春香と美希か。どうだろ? 伊織」
伊織「アンタが良いなら、参加してあげてもいいわよ」フンッ
P「それじゃ決まりな。よし、やろう!」グッ
春香「乗り気ですね~。じゃあ、負けた方は、勝った方の言うことを何でも聞くってコトで!」
美希「それじゃあ、美希たちが勝ったら……」
P「勝ったら?」
伊織「なっ!」
春香「ええ~? そ、それはずるいよ~」アセアセ
P「って、おい。俺は誰かの所有物になる気はないぞ……」
美希「いいでしょ~? だって、負けなきゃイイんだよ?」
P「ま、まあそうだけどさ」
伊織「そ、そんなのこの伊織ちゃんが許さないわ!」ムムッ
P「い、伊織?」
春香「いきなりどうしたのよ伊織~」
美希「へえ……なら、ミキも本気だすの!」ムムムッ
P「ただの遊びに大袈裟な……」
伊織&美希「アンタ(ハニー)は黙ってて!」
P「」
P「ま、まだ続けるのか~?」ヘタリ
春香「美希ぃ……もう私動けないよ~」ペタリ
伊織「まだまだ!」バシッ
美希「全然っ、余裕、なのっ!」ドシッ
P「ほんとに、元気だなあ……」
伊織「そろそろ……本気出していいかしら……?」
美希「望むところなの……。じゃあミキも、全力出すねっ!」
バン、バシッ、ドシッ、ピシッ……。
『グシャ』
伊織「あ……」
美希「へ……?」
P「ぐしゃ? 何の音だ?」
雪歩「…………」ウルウル
P「ゆ、雪歩? 大丈夫か?」
雪歩「あ、後もう少しで完成だったのに……」ウルウル
伊織「つ、つい夢中になっちゃって……ごめんなさい」
美希「あわわ。ご、ごめんなさい……なの」ペコリ
雪歩「いえ……いいんです……」ズウーン
春香「ゆ、雪歩? 元気だして? 私も手伝うから」トテテ
美希「み、ミキも手伝おっかな!」
伊織「わ、私も!」
P「じゃあ俺も……」スッ
雪歩「が、頑張りましょう……!」ペタペタ
…………
……
P「結構時間たったなあ」
伊織「涼しくなってきたわね」
風がそよそよ、そよそよと流れてゆく。
穏やかに打ち寄せる波のそばを、わたしはプロデューサーと並んで歩いていた。
P「偶には、こういうのも良いもんだな」
伊織「そうね……。気分がよくなるわ」
P「はは。もう許してくれたか?」
伊織「そ、それとこれとは話が別……と言いたいところだけど。もう気にしてないわよっ」
水着の上から羽織った、半袖の薄いパーカーが暖かい。
海で泳いだせいで髪が生乾きだったけれど、今はそれさえも心地よく思える。
伊織「ねえ、もう少し向こう側まで行ってみない?」クルリ
P「いいけど、あまり皆と離れちゃまずくないかな?」
伊織「一応、集合まで1時間はあるし……いいでしょ?」
P「……ま、今日は伊織に従うよ」ハア
伊織「トクベツに、あんたを伊織ちゃんのしもべにしたげるわ」クスクス
P「はいはい。お姫様」
…………
……
P「うーん、洞穴? 洞窟?」
浜辺の端まで歩いたところで、少し入り組んだところに洞穴の様なものを見つけた。
大きな石を重ねて造られているようで、神秘的だなあという印象を受ける。
伊織「ちょっとだけ入ってみない?」
P「危なくないかな?」
伊織「少し中を見てみるだけよ」トテテ
P「わ、わかったから走るなよ」
伊織「はやく来なさいよね~」
十メートルほど歩くと、開けた場所に出る。
と、同時に頭上を見て思わず感嘆の声が漏れてしまった。
伊織「すごい……ここ、中から空が見えるんだ」
P「へえ……。なんか秘密基地みたいだな」
伊織「なによそれ、子供っぽい感想ね」
P「う、うるさいな。男はそういうの好きなんだよ」
伊織「でも……分からなくはないわ」クルリ
徐々に空が赤みがかってゆく。
普段、なにげなく目にしている光景が、この場所からは不思議と特別な様に感じられた。
P「お、伊織、法螺貝だ」ヒョイ
伊織「わっ。大きいわね」
P「貝を耳に当てると、波の音が聞こえるって言わないか?」スッ
伊織「それって、耳を塞ぐと聞こえる血流の音っていうオチじゃなかったかしら?」
P「伊織……ロマンがないなあ」ハア
伊織「うるさいわねっ。それに、波の音ならここからでも聴こえるじゃない」
P「……まあ、そうだな」
伊織「……ねえ」
P「んー?」
伊織「わたし、トップアイドルになんてなれるのかしら」
P「どうしたんだよ。自信満々な伊織はどこ行ったんだ」
伊織「わたしだって……。不安になる事くらいあるわよ」シュン
P「……何か、あったのか?」
伊織「そうじゃないの」
伊織「何もないから、怖いのよ」
P「…………」
P「聞いたよ。自分の手で何かやってみたい、ってヤツだろ?」
伊織「そう……。ずっと、与えられてばかり居た」
伊織「それはそれで、幸せなのかもしれない。もしかしたら、贅沢を言っているだけかもしれない」
伊織「それでも、私でも何か成し遂げられるんじゃないかって」
伊織「お兄様たちと比較されても、誇れる私になりたかったの」
P「それは……大した志だと思うよ」
伊織「……そうかしら?」
P「……なあ伊織」
伊織「なーに?」
P「俺には、見える気がするんだよ」
P「伊織が、たくさんのファンの前で、歌って踊って、笑顔を届ける姿がさ」
伊織「…………」
P「伊織なら、前に進めると思うんだよ。お前は強いよ。自信持っていいんだ」
伊織「…………」
伊織「…………ぷっ」
P「……い、伊織?」
伊織「な、なに真顔で恥ずかしいこと言ってるのよっ!」バシッ
P「お、俺なりに励まそうとだな……」アセアセ
伊織「笑っちゃったじゃない。もう、柄にも無い事、言わないでよねっ?」クスクス
P「悪かったな……。もう言ってやらないぞ」
伊織「でも……、その……」モジモジ
P「ん……?」
伊織「あ、ありがと」カアア
P「…………うん」
…………
……
P「それじゃ、そろそろ戻るか?」クルッ
伊織「わたしはもう少し、ここに残るわ」
P「そっか。集合までには間に合うようにな」タタタ
伊織「いちいち言われなくても、わかってるわよっ」
伊織「…………」
伊織「…………」グスン
伊織「……やだ。どうして?」
頬をつたう涙に気づくまで、数秒はかかった。
自分はこんなにも涙脆かったのかと思い、少し乱暴に目をこする。
伊織「何で、止まらないのよ」
悲しいわけじゃない。むしろ、嬉しかったはずなのに。
まるで今まで我慢していたものが、心の底から溢れ出るように、とめどなく涙が流れた。
伊織「アイツが……、あんなこと言うから……」
伊織なら前に進めると思う。
そう言われて、やっと気付いた。
私は、ただ安堵したかったのだろう。変に思い詰めていただけなのだ。
トップアイドルに成らなければ、という目標の大きさに、ひたすら近道を探していたのかもしれない。
伊織「何で……私に優しくしてくれるのよ……」
先程まで話をしていた、プロデューサーの顔を思い浮かべる。
少し頼りないけど、柔和で優しげな瞳。
別に、私だけが特別、というわけではない。
事務所の抱えたアイドルだから。きっと、それだけ。
伊織「そんなこと、分かりきってるのに」
この気持ちは、何だろう。
そもそも、どうして私は二人で出かけたかった?
どうして、美希に対抗心を燃やした?
散々、水着を選ぶのに時間をかけたのは何故?
そして、それを褒められた時に感じた幸福感は、何から生まれたの?
ああ。悟ってしまった。私は、プロデューサーに……
伊織「恋してるんだ……」
洞穴の地面の砂浜にしゃがみこみ、人差し指を立てると、曲線を描くように滑らせる。
自分の名前と、プロデューサーの名前を書いて、その周りをハートマークで囲んでみた。
えらく字が不格好になってしまい、思わず苦笑してしまう。
伊織「何やってるんだろ? 私」
急に恥ずかしくなってきて、慌てて手のひらで砂を均す。
これは、許されない恋なのだ。決して成就することのない、儚い感情だ。
伊織「もう……戻らなきゃ」
ぱん、ぱんと手を叩き、砂埃を落とすと、わたしは立ち上がり出口へと歩きだした。
外に出て、夕日に照らされた海を眺める。
いっその事、気持ちごとあの波に攫われてしまえば良いのに。
そう思ったけれど。
居場所を見つけた恋心は、ただただ深く、募るばかりだった。
17:40/旅館「ナツノハナ」
春香「うわー! すごい部屋だね、千早ちゃん!」キラキラ
千早「そうね……。海が綺麗だわ」
美希「ふかふかベッドが気持ち良いの~」スリスリ
伊織「…………」
春香「伊織? どしたの? ボーッとしちゃって」
伊織「へっ? な、なんでもないわよ」アセアセ
春香「そう? あ、見てよ千早ちゃん。有線があるよ」
千早「ジャズとか聴けるのかしら?」
春香「ちょっといじってみよっか」
美希「…………」スヤスヤ
扉「ガチャ」
真「春香ー! 夕食は6時半だって」スタスタ
春香「ありがと~。ね、真たちの部屋はどんな感じなの?」
真「う~ん、この部屋とほとんど変わらないと思うよ。まあ、あっちはハム蔵もいるから4人と1匹だけどね」
春香「そっかあ。プロデューサーさんは、どこの部屋だっけ?」ハテナ
真「プロデューサーは二人部屋だから……。一つ上の階かな。何か用事?」
春香「一応、部屋割りの紙作っておいたから、プロデューサーさんに渡しておこうと思って」
千早「春香は気が利くわね」
真「まあ、よく転ぶけどね」ハハハ
春香「ちょ、ちょっと真~。それは関係ないでしょー!」プンプン
伊織「…………」
伊織(プロデューサー……)ポーッ
…………
……
18:30/食堂
P「みんな、揃ったかー」
春香「大丈夫でーす!」ビシッ
美希「ハニー、早く食べたいの~」バタバタ
P「はいはい。それじゃ、いただきまーす」
『いただきまーす!』
P「あれ? 伊織、隣だったのか」
伊織「そ、そうよ? わたしが隣にいちゃいけないわけ?」ドギマギ
P「また捻くれた捉え方をする」
伊織「ふ、ふんっ」プイッ
P「…………美味い!」パクッ
伊織「……確かに……美味しいわね」
P「いやあ、本当に来れて良かったな。伊織」ニコッ
伊織「…………そう、ね」ドキドキ
伊織(もう、どうして話しかけて来るのよ……! 緊張して箸が進まないじゃない……///)
P「ホント、社長には感謝しないとな」
伊織「そ、そういえば、社長は何処に居るのよ?」
P「ああ。さっき古い友人と飲みに出掛けて行ったよ。多分帰るのは夜中じゃないか?」
伊織「ふ、ふ~ん」
伊織「じゃあ、アンタは部屋に一人なわけね」
P「まあな。俺以外女の子ばかりだから、しゃーないよ」
伊織「…………」
P「……どした? 伊織。顔赤いぞ?」
伊織「な、なんでもないわよっ!」カアア
P「そうか……。それより、食べ終わったら風呂だぞ。楽しみだよな」
伊織「そうかしら? 人と一緒に入るのは落ち着かないわね」
P「何でだよ。そんなの気にする必要ないだろ」
伊織「お、女の子にはいろんな事情があるのよっ!」プイッ
伊織(例えば……む、胸とか……)
P「よくわからないな……」パクパク
伊織「放っといてよ……って……」ジーッ
伊織(Pのほっぺたにご飯粒がついてる……)
P「ん? どうしたんだよ伊織。人の顔じろじろ見て」
伊織「ちょ、ちょっと……じっとしてなさいよねっ?」ソーッ
伊織「…………」パクッ
伊織(わ、私ってばなんてことを……///)
亜美「あ~! いおりんが兄(C)とらぶらぶしてる~!」
真美「ひゅーひゅー、お熱いねえお二人さんっ!」パフパフ
美希「で、でこちゃん! ハニーはミキのハニーなの!」
真「い、伊織って意外と可愛いところ……あるんだね」
伊織「……ちょ、ちょっと亜美、真美!」カアア
亜美「い、いおりんが怒った~!」
真美「怖いから逃げろ~! ごちそうさま!」タタタ
伊織「あ、ちょっと……なんなのよ。もうっ」
P「……い、伊織……」
伊織「み、みっともなかったから、取ってあげただけよ! 感謝しなさいよねっ?」ツン
P「あ、ああ。ありがとう……」
伊織(わ、わたしどうしちゃったのよ~~~///)バタバタ
…………
……
19:00/大浴場
春香「ああ~。生き返るね~」ホワーン
真「あはは。お婆ちゃんみたいだね、春香」
春香「そ、それはひどいよ~」><
千早「……っ、……」プククク←爆笑
春香「ちょ、ちょっと千早ちゃんも笑い過ぎ!」
あずさ「でも、本当に良いお湯ね~」
貴音「ええ……。身体の芯から暖まるようです」
響「ハム蔵も、喜んでるみたいだぞ~」
ハム蔵「パイオツデカイデー」
雪歩「ほわ~んとしますね~」
やよい「こんなに広いお風呂、初めてです~」キラキラ
亜美「やはり日本の伝統ですなあ~」
真美「よきかな、よきかな」
伊織「…………///」ブクブク
美希「あっ。そういえばミキね? 皆に聞きたいことあったの」
春香「え? 何なに?」
美希「みんな、ハニーの事どう思ってるの?」ハテナ
伊織「!?」ビクッ
春香「へっ……?」キョトン
真「ど、どうって言われても……」
美希「ミキみたいに、好きなのかなーって」
真「は、春香はどうなの?」
春香「わ、私? うーん……好きは好きだけど、信頼してるって言ったほうが良いかな。千早ちゃんは?」
千早「親切だし、面倒見の良い人ね」
真「ボクも……。良い人って印象が強いかな。雪歩は?」
雪歩「へっ!? わ、わたしはそもそも男の人が苦手なので……」アセアセ
真「そうだよね。それじゃ、響は?」
響「自分は、友達って感覚が近いぞー」ウンウン
真「それじゃ貴音は?」
貴音「聡明な殿方と記憶しています」
あずさ「わたしも好きと言えば、好きだと思うわ~。少し抜けたところも、可愛いじゃない?」
やよい「わたしも、皆のために頑張ってくれるプロデューサーのこと好きです~!」ニパッ
亜美「ほんとに、お兄ちゃんってカンジだよねっ! 真美」ポンッ
真美「そだねっ! あんな兄ちゃんが居たら楽しいよねっ!」
伊織「…………」
真「あれ……? 伊織は?」ハテナ
伊織「わ、わたしは……その……///」
春香「伊織? のぼせちゃった?」
亜美「んっふっふ~。さては……いおりん、兄(C)に恋してますな?」キラーン
伊織「……!? そ、そんなわけないじゃない! 何言ってるのよ亜美!」バシャッ
真美「んっふっふ~。この慌てっぷり……クロですな」ギラリ
伊織「いーい!? ゼッタイにわ、わたしが……プロデューサーのこと、すき、とか……、ないんだからね!」ザバッ
伊織「…………」スタスタ
扉「パシン」
亜美「あ、行っちゃった」
真美「ちょっとからかっただけなのに~」
春香「ていうか、あの反応……」
真「ま、まさか。伊織に限ってそれは無いんじゃない?」
……………………
全員(ない……よねえ?)
…………
……
21:30/Pの部屋
P「ていうか……お前たちいつまでここに居るつもりなんだ」
亜美「だあって~。皆一緒の方が楽しいっしょ~?」ピコピコ
真美「そうだよ~! いっけ~7連鎖!」
春香「パネポン懐かしいな~」
真「うわっ。またやよいが大富豪!? 強いなあ~」
響「ま、まったく勝てないぞ……」ヘタリ
雪歩「あ、新しいお茶淹れてきますね~」タタ
やよい「わあい! トランプではお金持ちになれました~」エヘヘ
真「やよいいい……」ホロリ
P「それよりも、あずささん、飲みすぎですよ」
あずさ「そうですか~? ほら、プロデューサーさんももっと飲んで飲んで♪」
P「いやあのですね……。もうチューハイ何本目ですか」
あずさ「う~ん……わたし、わかりませぇ~ん」ポワーン
P「…………」
あずさ「ほらほらっ乾杯しましょ? せーの」
あずさ「じゅーしーぽーりいえぇ~~い」カンッ
P「……い、いえ~い」カン
あずさ「そ~れ~よ~り、プロデューサーさん、伊織ちゃんと、何かあったんですかあ~?」トローン
P「え……? どうしてですか?」キョトン
あずさ「何だかあ~、伊織ちゃん、プロデューサーさんのことが、す、すうき~みたいですよ~?」
P「スキー? 今夏ですよ?」
あずさ「だあからあ……す、き……むにゃむにゃ」
P「あ~あ。春香、千早、ちょっと頼まれてくれるか?」
春香「はいっ! あずささんを、小鳥さんのトコに連れていけば良いんですね?」ビシッ
千早「だ、大丈夫ですか? あずささん……」
あずさ「わ、わたしだって……恋のひとつやふたつ~……」
春香「ささ、行きましょ」ズルズル
扉「ガチャ」
P(そういえば、伊織の姿が見えないな)
P「なあ、伊織がどこに居るか知ってるか?」
真「伊織なら、さっき出ていきましたよ」ハイッ
雪歩「確か……浜辺に行くって言ってたような……」
P「そうか。ありがと。もう遅いし、ちょっと呼んでくるよ」
亜美「いってらっしゃ~い」ピコピコ
真美「しゃ~い」ピコピコ
P「お前たちも、そろそろゲームやめて、部屋にもどるんだぞ~」
…………
……
22:00/浜辺
伊織「どうすればいいのよ……」
プロデューサーの事が、頭から離れない。
穏やかに揺れる海を眺めていても、ふとした拍子に思い浮かべてしまう。
伊織「こんな気持ち……わかんないわよ」
この歳になって、ようやく異性を好きになることを知った。
思い描いていたよりも、辛くて、とても苦しい。
こんな思いをするなら、恋なんてしなければ良かった。
伊織「好き……って、言っちゃ、ダメよね」
気持ちを伝えてしまえば、今の関係は確実に崩れてしまう。
それが何よりも怖かった。いつも強がってばかりいたはずなのに、わたしはとんだ臆病者だ。
P「伊織。なに、してるんだ?」
突然、背後から声をかけられて、びくりと肩が震えてしまう。
鼓動が速くなって、時計が刻む音とは程遠い不安定な心音が、直接頭の中で響くようだった。
伊織「……見てわからない? 海を眺めてるの」ツン
P「いや、そうじゃなくてだな。そろそろ戻ろう? 風邪でも引いたら大変だ」
伊織「……心配、してくれてるわけ?」チラッ
P「そんなの当然だろ? 俺はプロデューサーなんだから」
伊織「……そう」
プロデューサーだから。
その言葉を聞いて、チクリと胸が痛む。
理解していたつもりだったのに、いざ言葉にされると辛くて、私は自嘲気味に小さく笑った。
P「何か……まだ悩んでるのか?」
伊織「べ、別に悩んでなんか……」
P「嘘つけ。それぐらい俺にだってわかるよ」
伊織「…………バカ」
もう、いっその事すべて打ち明けてしまおうか。
そうすれば、この胸に抱えたモノは消えるのだろうか?
わからないけれど……。
伊織「ねえ……ちょっと話があるの。着いてきて?」
P「え……? いいけど、あまり遅くはなれないぞ?」
伊織「大丈夫……。すぐ済むから」
月の浮かぶ夜空を見上げる。
月には兎が住んでいると言うが、月の兎には、願いを叶える力があるのだろうか……?
無くてもいい。それでも、わたしは洞穴へと向かう道中、ひたすら月に祈っていた。
どうか、私に勇気を下さい。
…………
……
22:10/洞穴
洞穴の内部は明るかった。
夜空から注ぐ星と月の光に照らされて、さながら異世界に迷い込んだかのようだ。
P「夜じゃ暗いかと思ったが……すごいな」
伊織「私も驚いたわ。どうしてこんなに明るいのかしら? それに……」
とても、綺麗と思いつつ、まばたきする間も惜しいほど美しい月光に、私は身を委ねた。
中心に立つと、スポットライトに照らされたような気がして、何だか気恥ずかしい。
それでも、私は意を決して、プロデューサーへと向き直った。
伊織「こうしていると、自分が特別な存在になれた気がするわね」
P「…………」
伊織「私ね、ずっと誰かのトクベツになりたかったんだと思う」
伊織「出来の良い兄たちに囲まれて、辛くて」
伊織「社長に無理を言って事務所に入れてもらって。皆に出会って。そして、アンタにも会えた」
P「……うん」
伊織「わたしね、すっごく感謝してるのよ。目標を持って生きるのって、楽しいからね」
伊織「でもね、今日の夕方、ここであんたに励まされた時に気づいちゃったの」
P「伊織?」
伊織「わたしね? 恋、してた」
伊織「皆のために頑張るあんたも、優しいあんたも、ドジなあんたも、ちょっと頑固なあんたも」
伊織「そして、私の背中を押してくれるあんたも、全部、好きになってたの」
P「…………」
これで、こんな気持ちともお別れだ。
こんなに苦しい思いは、これっきりにしたい。今にも泣き出しそうなくらいに、胸が痛くて仕方なかった。
伊織「…………っ」グスン
P「伊織? 泣いてるのか?」
伊織「…………」タタタ
P「……伊織」
気づけば、私はプロデューサーの胸に飛び込んでいた。
好きだと伝えた瞬間、消えると思っていた気持ちは、何倍にも膨れて弾けてしまった。
私は間違っていた。忘れることなんて、出来やしなかった。
伊織「ごめん……なさいっ! 迷惑だってわかってる!」
伊織「でも……でもっ! 辛いの、苦しいの。ねえ、助けてよ……」
P「…………」
伊織「ちょっとだけでいいから……甘えさせてよ」
柄にもない事を、口走っていたような気がする。
でも仕方がなかった。だって好きなのだから。
離れたくなくて、プロデューサーの体温を確かめるように、幼子みたいに頬ずりをする。
P「伊織……嬉しいよ。俺の事、そんな風に思ってくれていたなんて」
伊織「……私だって……、さっき気付いたばかりだもん」
P「そっか。でもさ、今は……駄目だよ」
伊織「…………」
P「これから、どんどん仕事も増えると思うんだ。俺も律子も社長も、皆のために走り回ってる」
P「それに、伊織たちだって努力してる。ダンスや歌のレッスンをしたり、オーディションをいくつも受けたり」
P「そういう姿を見てるとさ、こっちまで楽しくなるんだ。俺も頑張らなきゃって、元気が湧いてくる」
P「だからさ、今はプロデューサーの仕事に力を尽くしたいんだよ」
伊織「…………」
伊織「……それじゃ、いつか私と、その……」モジモジ
P「俺も、伊織の事は好きだし、可愛いと思ってるよ」
伊織「な、なな!? う、嘘よっ!」ドキマギ
P「いやホントに。何ていうか、放っておけない感じ?」
伊織「……それって、馬鹿にしてる?」
P「いや、褒めてるよ」
伊織「よくわからないけど……。うれしい」スリスリ
P「お、おい……。でも、その付き合うとか……そういうのは……」アセアセ
伊織「わかってるわよ。でも、今だけは許して欲しいの」
P「……伊織」ナデナデ
伊織「こ、子供扱いしないでよねっ?」プクー
P「……はいはい」
伊織「ね、ねえ……」
P「ん?」
伊織「わたしがトップアイドルになったら……恋人にしてくれる?」
P「なれたらな」
伊織「い、言ったわね? 約束。ずうっと、忘れちゃダメだからね?」パアア
P「わかった」
伊織「……わたし、頑張るから」
P「ああ。俺も応援するよ」
伊織「ね、もう一度言って?」
P「……何を?」
伊織「好きって、言って?」
P「……好き」
伊織「でも、残念! 私の方が、もーっと好きだもんっ///」
…………
……
翌日/10:00/旅館「ナツノハナ」前
春香「プロデューサーさーん! 皆準備おっけーです!」
P「わかったー。そろそろ出発しよう」
伊織「…………」
P「おい伊織。置いてくぞー」
伊織「よ、よく考えれば……。昨日の私、すっごく恥ずかしいコト言ってたような……」カアア
P「ああ。そうだなあ」
P「『もっと甘えさせて~』『好きで好きでしょうがないの~』『私の方が好きだもん~』だっけ?」
伊織「ば、バカあああ~~~///」ポカポカ
P「い、痛いって! 冗談だから……」
伊織「つ、次は許さないんだからね?」ツーン
P「わかった。ほら伊織、行こう?」
伊織「ね、約束。お、覚えてるわよね……?」モジモジ
P「ああ、勿論覚えてるよ。伊織がトップアイドルになったら……」
伊織「い、言わないでよもうっ! 皆にバレちゃったらどうするのよ!」
P「も、もうバレているような……」
亜美「真美隊員! いおりんが乙女の顔をしているでありますっ!」ビシッ
真美「こ、これは……間違いなくラヴの香りがするでありますっ!」
美希「も~、でこちゃん! ハニーは美希のなんだよ~?|」プンプン
伊織「亜美! 真美! ヘンなコト言わないでよね!?」カアア
P「ほら、さっさと乗るぞ。みんなが待ってる」
伊織「わかったわよ……」
伊織「ねえ……?」
P「んー?」
伊織『スキスキ、だーい好き!』
FIN
いおりん可愛かった
よかでした
乙乙
Entry ⇒ 2012.06.23 | Category ⇒ アイマスSS | Comments (2) | Trackbacks (0)
やよい「うっうー!新聞配達を始めることにしましたー!!」
やよい「あれー?みんなどうかしたの?」
P「や、やよい……たしかにウチの給料はそんなに多くないけど、そんなに苦しいのか?生活」
やよい「いえー、ただ近所の新聞屋さんが募集していたので行ってみたんです」
やよい「それで、家のことを話したら明日から来てくれって言われちゃいましたー!」
伊織「や、やよい……それ大丈夫なの……?」
やよい「ん?なにが大丈夫なの?伊織ちゃん」
伊織「やよいの体がよ!」
やよい「だ、大丈夫だよっ!わたし健康には自信あるから!」
伊織「絶対に無理しちゃだめよ、わかった?」
やよい「うんっ!ありがとう、伊織ちゃん!」
お父さんもお母さんも一生懸命働いていて、私もほんの少しだけお手伝いをしていますがまだ足りません。
でも貧乏でも、私は毎日が楽しいのでそんなに気になりません。
伊織ちゃんはお金持ちだけど、そんなこと気にもせずに私に親切にしてくれます。
時々申し訳なくなって、お返しをしたくなりますが
伊織「そんなこと気にしなくていいの!」
と、言われてしまいます。
そんな伊織ちゃんの為に私は何かお礼をしたいと思いました。
新聞配達を始めたのは実はそのためなのです。
私はお店に入ると元気よく挨拶をしました。
挨拶はとても大事で、『したほうもされたほうも良い気持ちになる魔法の言葉なんだよ』って、
お父さんが教えてくれました。
アイドルでも、学校でも、家でも、私はいつも大きな声で挨拶をします。
だけど
店長「お……おはよう、やよいちゃん……」
やよい「はい!よろしくお願いしまーっす!!」
店長「う、うん……。元気なのはいいけどもう少しだけ静かにお願いできるかな。ほらお隣さんは普段から迷惑かけてるし……」
怒られてしまいました。
やよい「ご、ごめんなさ……わわわわむぐっ……」
飛び出しそうになった声を両手で押さえます。
やよい「ご、ごめんなさい~っ……。わたしつい声が大きくなっちゃって……」
店長「はははは……いいよいいよ。やよいちゃんは元気なところが可愛いからね」
やよい「あり……がとうございます」
また大きな声を出しそうになってしまいました。あぶないあぶない。
朝刊に広告を入れたり
一度に乗せられない新聞を車で運んだり
雨が降ったら機械で新聞をビニールに入れたり
余った新聞を縛ったり……。
まだまだいーっぱいあります。
その中で私のお仕事は新聞を配ることです。
広告を入れられて綺麗に揃えられた新聞は、平たく詰まれた本のようにキチンと並んでいました。
わたしは力がそんなに有るほうではないので、手押し車を使います。
新聞配達用だそうで、昔おばあさんの配達員さんが使っていたそうです。
頑張って手押し車に乗せました
新聞は見た目よりもずっと重くて、中身がしっかりと詰まっています。
落とさないように気をつけないといけません。
店長「じゃあ、やよいちゃん。初日は俺が配るからしっかり覚えてね」
やよい「はいっ」
このくらいの声なら大丈夫なようです。
暗くても大丈夫。
貸してもらった懐中電灯があります。
普段は寝ている時間に、こうして歩いているのはとても変な感じがします。
一軒一軒、名前と、地図と、家の形と、ポストの場所を見て歩きました。
店長さんはすごいです。
地図を見ていないのに、全然間違えずに新聞を入れていきます。
手押し車はドンドン軽くなっていきました。
店長さんは急に立ち止まって振り返りました。
やよい「?」
次のお家を忘れてしまったのでしょうか?
店長「やよいちゃん……、次の家には注意してね」
店長さんがヒソヒソ声で話します
やよい「なんでですかー?」
私も出来るだけ小さな声で聞きます。
店長「次の家にはお爺さんが一人で住んでるんだけど、ちょっと変わってるって言うか……」
やよい「…………?」
よく分かりませんでした。
店長「まぁなんだ、普通にしてれば良いと思うよ。その家だけは絶対に間違えないようにしてくれれば」
やよい「はいっ、わかりましたー」
こんな時間だというのにお部屋の電気がついています。
私と店長さんは黙ったまま歩きます。
手押し車がキィキィと鳴りました。
玄関の前に着きましたが、ポストが見つかりません。
店長さんは新聞を一部取ると、庭に通じている門ををそっと開きました。
やよい「あわわっ……!」
びっくりしました。
門を開けるとおじいさんが一人、腕を組みながら立っていたのです。
店長「おはようございます、坂崎さん」
やよい「お……おはようございますっ」
坂崎さんと呼ばれたおじいさんは、黙ったまま頷くと新聞を受け取り、お家の中に入っていきました。
店長さんは溜息をつきます。
やよい「あの……」
店長「ん?」
やよい「あのおじいさんはどうして外で待ってたんですか?」
ポストは玄関の周りを見てもありません。
店長「さぁ……年寄りは朝が早いから、暇なんじゃないかなあ」
店長さんにもわからないようでした。
他の配達さんもパラパラと帰って来ます。
やよい「おつかれさまでしたーっ」
私は大きく頭を下げて家に帰ります。
家に着くと6時になっていました。
私は朝ごはんを作って、長介とかすみと浩太郎を起こしました。
最近は長介も自分で起きるようになりましたが、まだまだ子供なのでこうして起こすことがよくあります。
高槻家「「「「いただきまーっす!」」」」
家族で食べる朝ごはんはとても美味しいです。
やよい「んー?みんな良い人だったよ?」
長介「そうじゃなくてさ……、やっぱり辞めた方がいいんじゃないかな……。姉ちゃん倒れちゃうよ」
やよい「長介……」
長介「なんだったら俺が代わりに行くからさ、姉ちゃんはもっと……」
私は嬉しくなりました。
長介もいつの間にか少し大人になっていたようです。
でも
やよい「そういうのは自分で起きられるようになってから言おうね」
長介「うぐ……」
やよい「大丈夫!お姉ちゃんに任せなさい!」
弟達に心配はかけられません。
お父さんもお母さんもお仕事が忙しく中々帰ってこられないので、この家は私がしっかりしないといけません。
やよい「でもありがとうねっ!長介」
長介「……うん」
長介は照れてそっぽを向いてしまいました。
少しプロデューサーに似ていると思いました。
学校はアイドルの仕事が忙しいと中々行けませんが、仲のよい友達もいてみんなとても親切です。
教室に入って教科書とノートを机に入れていると、伊藤さんが机の横に立ちました。
伊藤「おはよう高槻さん」
やよい「「伊藤さんおはようございますっ!」
伊藤さんはとても良い人で、私が学校を休んでいる間はノートを取ってくれたりします。
学校では一番のお友達なのです。
伊藤「お仕事どうなの?大変じゃない?」
やよい「あははっ、大丈夫だよーっ」
どうも私は危なっかしく見えるようで、たくさんの人に心配されてしまいます。
だから私は元気良くしないといけません。
伊藤「そう……、頑張ってね。応援してるから」
やよい「ありがとうございまーすっ!」
机に頭がぶつかりそうなくらいお辞儀をしました。
応援してくれる人の為に、家族の為に、私はもっともっと頑張らないといけません。
今日はお母さんのお仕事がお休みなので、たくさん活動が出来るのです。
やよい「おはよーございまーすっ!」
P「お、やよい。おはよう。今日も元気だな」
やよい「はいっ!私は元気なのが取り柄ですから!」
P「うん、いい事だ。今日も頑張ろうな!」
やよい「はいっ!」
プロデューサーはいつも私たちのために、たくさんお仕事をしています。
だから早くトップアイドルになって恩返しがしたいです。
やよい「今日も頑張りまーすっ!」
コーチ「高槻さん、そこはもう少し溜めて」
やよい「は、はいっ!」
コーチ「それとブレスが大きすぎますよ。ここはもっと流れるように」
やよい「はいっ!」
コーチは厳しいけれど、とても良い人です。
根気良く丁寧に教えてくれるので、私はドンドン歌が上手くなっている……気がします。
コーチ「声量は問題ないですね。じゃあ最初から通してもう一度」
やよい「はいっ!よろしくお願いしますっ!」
頑張ります!
やよい「お疲れ様でした!お先に失礼しまーすっ!」
P「おう、気をつけてな」
プロデューサーに挨拶をして私は急いで家に帰りました。
お母さんは体があまり良くないので、出来るだけお手伝いをしたいからです。
いつもは歩くこの道を、私は思いっきり走って帰りました。
やよい「ただいまーっ!」
最初にすることはやっぱり挨拶です。
家族が相手でも挨拶は大事なのです。
だって
高槻家「「「「おかえりなさーいっ!」」」
こんなにも嬉しいのですから。
まだまだ敵わないなぁと、思いました。
座敷を見ると綺麗に畳まれた洗濯物があります。
更によく見れば部屋はピカピカで丁寧に掃除がしてありました。
…………心配です。
お仕事で疲れているのに、こんなに動いて大丈夫なのでしょうか?
やよい「お母さん……」
お母さんは私と入れ違いでお仕事に行ってしまいました。
いつも「平気なの?」と聞いても、「平気だよ」と笑ってくれるお母さんは私の自慢で、
私はもっともっと「頑張ろう!」って思います。
無理はして欲しくありません。
食器を洗って、みんなでお風呂に入り、寝かしつけたら宿題をします。
私はあまり頭が良くないのでウンウンうなりながら宿題と戦いました。
最後に学校の用意をしてからお布団に入ります。
目覚ましを3時にセットしたところまでは覚えていました。
初めて一人で配ったときは真っ暗な道が怖くて、泣きそうになってしまいましたが……。
歌を歌いながら歩けば大丈夫です。
今はもう地図を頻繁に見なくてもコースくらいならわかるようになりました。
やよい「おはようございまーす……」
でも坂崎のおじいさんだけはまだ慣れることが出来ません。
なぜかいつも怒ったような顔をしていて、ちょっとだけ苦手です。
今日もムスっとした顔のまま新聞を受け取ると、黙ってお家に入ってしまいました。
気を取り直して配り始めます。
まだ太陽も寝ているこの時間は、時折遠くを走る車の音だけが聞こえてきます。
少し湿った空気がひんやりとして、まだ眠気の残る頭をはっきりさせてくれました。
店長「やよいちゃん、ちょっといいかな?」
やよい「あ、店長。はいっ、どうかしましたか?」
店長「昨日さ、一軒苦情があってさ」
やよい「え……」
やってしまいました。
店長「誤配が合ったよ、三丁目の角のトコ。あそこはスポーツだけだから」
やよい「ご、ごめんなさいっ!」
大きな声が出てしまいました。
店長さんはそれについては何も言わずに
店長「はは……いいよいいよ。今度から気をつけてね」
やよい「はいっ……ごめんなさい」
配達のミスはたいてい次の二種類になります。
入れることを忘れる不配と、違う新聞を入れてしまう誤配です。
ミスをしない人はいませんが、それを言い訳にしてはいけません。
私は悪い意味で慣れてしまわないように、気を引き締めて出発しました。
失敗してもそれを引きずっていてはいけません。
元気に行きましょう。
やよい「ご、ごめんなさいっ……!」
またやってしまいました。
今度は間違えないように一軒一軒地図を見ながら入れてきたので、時間がかかってしまったのです。
おじいさんは門の外まで出て、私を待っていました。
頭を下げながら新聞を賞状のように渡しました。
おじいさんは何も言わないまま新聞を受け取って家に入ってしまいました。
やよい「やっちゃった……」
私は少し悲しくなって、また歌いながら配り始めました。
やよい「な~やんでも、し~かたな~い♪」
小さな声でしたが、元気が湧いてきます。
歌は凄いのです。
横を見ると伊織ちゃんがいつものウサギさんを抱いています。
やよい「あ、おかえり……」
伊織「…………」
どうしたのでしょうか。
伊織「やよい……本当に大丈夫なの?」
え?
やよい「大丈夫って何が?」
伊織「鏡見た?……顔色が悪いわよ……」
そうなのでしょうか。
やよい「えへへ……、ちょっと寝不足かも……」
伊織ちゃんは黙ってしまいました。
やよい「だ、大丈夫だよ!ほら、全然元気だもん!」
立ち上がってアピールをします。
やよい「えっ……、ど、どうして!?」
伊織「どうしてじゃないでしょ!このままじゃアンタ壊れちゃうわよ!」
やよい「し、心配しすぎじゃないかなーって……」
伊織「そんな訳ないでしょ!アンタいま自分がどんな顔してるかわかってるの!?」
伊織「真っ青で今にも倒れそうじゃない!なんでそこまでするのよ!」
それは……言えません。
言えばきっと伊織ちゃんは無理にでも止めてくるから
やよい「……………………」
伊織「どうして何も言わないのよ!」
やよい「ごめんね、伊織ちゃん……」
伊織「…………ぐっ…………」
悔しそうな顔で歯を食いしばる伊織ちゃんを見ていると申し訳なくてしょうがありません。
伊織「…………もういい……」
やよい「え……」
心臓がドクンと動いたのがわかりました。
伊織「私はっ、やよいのこと、親友……だと、思ってたけど」
伊織「でも、やよいにとって私はそうじゃなかったみたい。ごめんなさい、しつこく聞いて」
やよい「違うっ!!!!」
声が大きすぎて小鳥さんが慌ててのぞきに来ました。
やよい「わ、私だって伊織ちゃんは大事な、本当に本当に大事なお友達だよ!」
ウソじゃありません。
昔、私が生まれる前にお母さんが病気になったのです。
癌でした。
お父さんは一番いい病院で、一番いい先生に、一番いい治療をしてもらうために借金をしました。
お父さんはあちこちを走り回り、頭を下げて回りましたが、
まだ若く、信用もなかったお父さんに大金を貸してくれる人はいません。
お父さんもお母さんもほとんど親戚がいなくて、そうなったら借りられるところは一つしかありませんでした。
……とても怖い人たちから借りてしまいました。
お父さんもお母さんも一生懸命働いていますが、中々借金は減ってくれません。
私にはよく分かりませんが難しい法律があって、絶対に返さなければいけないそうです。
まだ小さいころ、どうしてこんなに貧乏なのかと聞いた私にお母さんが泣きながら話してくれました。
私はそれからワガママを言わないようにしました。
お手伝いをするようにしました。
苦手な勉強も頑張るようにしました。
いつも元気であろうとしました。
お父さんもお母さんも大好きだからです。
やよい「本当だから……信じてよぉ……」
伊織ちゃんも同じくらい大好きな人なのです。
ボロボロ涙が出て止まりません。
伊織ちゃんは呆然としていました。
伊織「うん……うん……、わかったから……泣かないで?やよい」
コクコクと頷いて返事をしました。
とてもじゃないですが大きな声は出せそうになかったからです。
だからプレゼントを買おうと思いました。
伊織ちゃんによく似合いそうなお洋服を見つけたのです。
お小遣いでは全然足りなくて、どうしようか困っていたときに配達員募集のチラシを見たのです。
だからまだ辞めるわけにはいきません。
なのに
店長「あのさ……やよいちゃん……悪いんだけど、今週いっぱいで辞めてもらえないかな……?」
やよい「…………え?」
一瞬なにを言っているのかわかりませんでした。
やよい「ど、どうして……」
店長「いや、やよいちゃんが悪いわけじゃないんだけどね?誰かが本部に通達したらしくてさ」
ホンブ?
上手く頭が動かなくて、意味がつかめません。
店長「治安の問題らしいんだ。本当にゴメンね、俺も一応説明はしたんだけど……」
店長さんはちょっと早口で説明してくれました。
きっと一生懸命わたしをかばってくれたのでしょう。
やよい「え、えへへ……。じゃ、じゃあしょうがないですよ!店長さんは悪くないです!」
落ち込んだところを見せたくないので元気に言いました。
店長「うん……ゴメンね……もっと長くいて欲しかったんだけど……」
やよい「ありがとうございますっ。最後まであとちょっとだけどよろしくおねがいしまーすっ!」
得意のお辞儀をしました。
『声が大き過ぎたかな?』と思いましたが、店長さんはニコニコして何も言いませんでした。
私の知り合いはいい人ばかりで、本当に幸せだと思いました。
この道をこの時間に歩くのもあと少しだと思うと、自然と足がゆっくりになりました。
新聞も一つずつ丁寧に取り出しやすいように気をつけて入れていきます。
お世話になりました。
声は出しませんでしたが、そういう気持ちをこめて。
坂崎さんのお家に着いたのは、普段より少し遅い時間でした。
怒られたらどうしよう……。
少し不安になりました。
でもこれは仕方がないことなのです。
遅れた私が悪いのですから。
私は坂崎さんとほとんどお話をしたことがありません。
最後だからキチンと挨拶をして、お別れをしたいと思いました。
前に春香さんたちが出ていた、寝起きのドッキリみたいな声で門を開けます。
坂崎さんはいませんでした。
やよい「あれ?」
珍しいこともあります。
毎日必ず坂崎さんは新聞を受け取りに門の前で立っているのに
今日は寝過ごしてしまったのでしょうか?
坂崎さんのお家にはポストがありません。
玄関の前に置くわけにもいかないので困ってしまいました。
私はちょっと失礼かな、と思いながらドアをそっと開けました。
坂崎さんが倒れていました。
坂崎さんはうつぶせに倒れていて、微かに痙攣していました。
苦しそうにおなかを押さえて小さなうめき声を上げています。
やよい「坂崎さん!!!」
私は新聞を放り投げて駆け寄りました。
坂崎「うぅ…………ぐぅ……」
坂崎さんは返事をしてくれません。
額にはいっぱい汗が浮かんでいます。
やよい「ど、どうしよう……」
わかりませんでした。
こんなとき伊織ちゃんならきっとテキパキとこなしていくのでしょう。
そう考えたとき、一瞬だけ
伊織ちゃんのプレゼントと、お世話になった店長さんたちの顔が浮かびました。
配達を半分も残して抜けてしまえば、間違いなく今日限りでクビでしょう。
新聞が来なくて困る人もいるでしょう。
それに伊織ちゃんにプレゼントをすることも出来ません。
そこまで考えて、私は恥ずかしくなりました。
心の中で、たくさんの人に謝りました。
坂崎さんと伊織ちゃんと店長さんとたくさんのお客さんにです。
……壊れているのか、何も聞こえません。
ドアを開け放したまま外に飛び出しました。
一番近い家まで力の限り走ります。
ドンドンドンドンドンドンッ!!!!!
やよい「お願いします!!助けてください!!!!!!」
私は唯一の取り柄である大きな声で助けを呼びました。
すぐに電気がつきました。
ドアを叩いた家だけではありません。
何軒もの家が一斉に明るくなりました。
ゴソゴソとしたかと思うと、「は、はい……どうかしましたか?」とパジャマ姿の女の人が出てきました。
やよい「きゅっ!救急車を!そこのお家の坂崎さんが倒れたんです!!!」
女の人はポカンとした顔をしていましたがすぐに「わかったわ」と言って家の中に入ってくれました。
坂崎さんはさっきと同じ姿勢のまま苦しそうにしています。
私はお母さんのことを思い出して泣きそうになりました。
やよい「しっかりしてください!もうすぐ救急車が来ますから!」
坂崎さんは苦しそうな顔をしながらも、ウンウンと頷いてくれました。
額の汗を袖でぬぐいながら、たくさん話しかけました。
救急車が来たときは本当にホッとして力が抜けました。
手際よく坂崎さんを担架に乗せて、運ばれていくのを見ながら壁にもたれかかります。
やよい「ごめんなさい……」
もう一度だけみんなに謝って
私は意識を失いました。
目が覚めるとそこは病院で、起きると伊織ちゃんが真っ赤な目をしていました。
伊織「だから……だから言ったのに……!」
言葉もありません。
やよい「う、うん……ごめんね、伊織ちゃん」
伊織ちゃんは私に抱きついたまま泣いてしまいました。
伊織「バカ……バカ……本当に……大したことがなくてよかった……」
看護婦さんが優しい目をして私たちを見ていました。
幸いにも経過は順調で、すぐにでも退院できるみたいです。
「こんな辛気臭いところにいつまでもいられるか!」と元気に言ってました。
なんでそんなことまで知ってるかというと
坂崎「………………」
やよい「だ、大丈夫ですか?」
坂崎「…………なにが」
やよい「だって……ずっと黙ってますし……どこか痛いんですか!?」
坂崎「……俺は若い女と話すのが苦手なんだ」
同じ病室だったからです。
昔、息子さんと喧嘩別れしたこと。
人づてに大きな街へ行ったと聞いたこと。
新聞で偶然名前を見かけたこと。
記者になっていたこと。
坂崎「だから……元気でいるんだな、と。……それだけだ。爺のつまらん繰言だよ」
やよい「ど、どうして会いに行かないんですか?」
ジロリと睨まれました。
でも以前ほど怖くありません。
軽く舌打ちをすると
坂崎「今更会いにいけるか……恥ずかしい……」
と、いいました。
私は伊織ちゃんと同じタイプなんだな、と思いました。
やよい「大丈夫ですよ!きっと息子さんも坂崎さんのこと気にしてると思います!」
坂崎「だといいんだけどな……」
呟きながらも坂崎さんは少し嬉しそうでした。
そんなに長い間休んでいるわけには行きません。
家に帰り溜まった家事を片付けようと、袖まくりをしていると
長介「あ、姉ちゃん。買い物ならもう行ってきたから」
かすみ「お洗濯はやっておいたよ。ゴハン作るときは呼んでね」
浩太郎「浩三は俺が見てるよーっ」
びっくりしました。
長介「とっくにやってあるよ」
かすみ「お姉ちゃん、他にすることある?お風呂はお兄ちゃんが洗ってくれたけど」
もう一回びっくりしました。
長介「父ちゃんも母ちゃんもすごく心配してたよ……俺たちもだけど……」
やよい「う……ごめん……」
かすみ「お姉ちゃんはもっとゆっくりしなくちゃ。私たちも頑張るからさ」
やよい「うん……ありがとう……」
長介たちが色々と手伝いをしてくれるのは、
きっと私がお父さんとお母さんを手伝いたい気持ちと、同じなのだと思います。
だから私は、もっと、もーっと頑張りたくなりました。
……無理をしない程度に。
もう心配はさせません、絶対に。
店長に謝ろうと思い、いつもの時間に新聞屋さんに行くとたくさんの人に囲まれました。
私は知りませんでしたが、坂崎さんを助けた件が地方版に載り、今度表彰されるそうです。
とても驚きました。
店長は「夕刊でよければいつでも空いてるからさ」と言ってくれました。
元気な声でお礼を言うと、私は最後のお仕事に行きます。
いつもより新聞は一つだけ減らしていきました。
坂崎さんの分です。
空っぽになった手押し車は、少しだけ寂しそうに鳴っていました。
お給料は思ってたよりもずっと多くて、私は何度も頭を下げました。
店長さんたちはお店の前で、ずっと手を振ってくれていました。
私も何度も後ろを見ながら、手を振り返しました。
お洋服はきっと伊織ちゃんにぴったりだと思いますが、やっぱり緊張してしまいました。
やよい「気に入ってくれるといいな……」
片手に紙袋を持ってドアを開けます。
やよい「おはよーございまーすっ!!」
元気に挨拶、とても大事です。
小鳥「おはよう、やよいちゃん。あら?その袋は何かしら?」
やよい「え、えと……。伊織ちゃんは?」
小鳥さんはそれ以上何も聞かずに、そっと給湯室を指差しました。
やよい「ありがとうございますっ!」
小鳥さんのクスクス笑いが背中越しに聞こえました。
やよい「伊織ちゃん、おはよーっ」
驚かさないように声を抑えました。
それでも伊織ちゃんは少しだけビクっとして、こっちを見ました。
伊織「お、おはよう。やよい……もう大丈夫なの?」
やよい「うん!一日休んだらすごく元気になったよ!」
伊織「そう……それなら良かったけど……」
伊織ちゃんは病室で泣いてしまったのが恥ずかしいみたいです。
私はプレゼントをあまりしたことがないので、どう切り出せばいいのかよく分からないまま
やよい「あ、あの。伊織ちゃん。これ……」
紙袋を渡しました。
伊織ちゃんはびっくりした顔をして受け取ります。
やよい「えへへ……プレゼントだよ!いつもお世話になってるから!」
伊織ちゃんは服を見つめたまま震えていました。
伊織「やよい……まさか新聞配達って……これのために……?」
やよい「う、うん。ごめんね、心配かけちゃって……」
着てもらえるといいのですが。
私は自分の服を買ったことがほとんどないので、正直気に入ってもらえるかどうか不安です。
伊織ちゃんは黙ったままです。
やよい「ご、ごめんね……私、服とかよく分かんなくて……気に入らなかったら……」
伊織「気に入らないわけ……ないじゃない……!」
伊織ちゃんはそういうと私に抱きついてきました。
やよい「あうう……ごめんね、伊織ちゃん……」
泣いている伊織ちゃんを見て、何がいけなかったのかわからないまま謝ってしまいました。
伊織「バカ……本当にバカ……」
やよい「うん……ごめんね……私バカだから……」
伊織ちゃんがどうして泣いているのかもわからないのです。
伊織「ウソよ……ごめんねやよい……大好きだから……」
不思議です。
悲しくなくても涙は出てしまうのです。
伊織ちゃんが、どうして泣いているのか、わかりました。
やよい「うん……ありがとう、伊織ちゃん……私も大好きだよ……」
二人で抱き合って泣いてしまいました。
なぜか小鳥さんもそれを見ながら泣いていました。
お家は貧乏ですが、家族はみんな仲がよく、私の周りには優しい人がたくさんいます。
色々と大変なことはありますが、毎日を楽しく過ごしています。
今日もまた、私は大好きな人たちと一緒に素晴らしい一日を過ごすのでした。
高槻やよいは今日も元気です。
やよい「おはよーございまーすっ!!!」
おしまい
やよいは本当にいいこですね
どこかで見たような話の寄せ集めですが、最後まで読んでいただき本当にありがとうございました
ゃょぃ,、ヵヮィィ
乙でした
Entry ⇒ 2012.06.23 | Category ⇒ アイマスSS | Comments (0) | Trackbacks (0)
紅莉栖「まゆりいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!!」 後半
前→紅莉栖「まゆりいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!!」 前編
~秋葉原・某ビル屋上~
岡部(…やはりここなら誰も来ないな。きょう偶然見付けた、俺を含めラボメンの誰にも縁もゆかりもない場所だ)
岡部(立ち入り禁止の立札があった気がするが知ったことじゃない。俺は一人になりたいのだ)
岡部(ラボを出て何日くらい経ったっけ? 携帯電話の電源を切りっ放しにしているせいで時間も分からん)
岡部(…まぁ時間なんて今はどうでもいい。まゆりが死ぬまでにはまだ時間があるはずだ…)
岡部「はぁー…」ゴロゴロ
岡部「……」
岡部(紅莉栖が死なない世界線では、まゆりが死ぬ)
岡部(まゆりが死なない世界線では、紅莉栖が死んでいる)
岡部(…ふざけてやがる。本当にふざけてやがる)
岡部(二者択一。紅莉栖かまゆり、俺は必ずどちらかを見捨てなければならない。…今時三流の糞漫画の中ですら滅多に見かけないようなシチュエーション)
岡部(…頭の隅では分かっている。『紅莉栖の命』か、『まゆりの命とディストピアの構築されない未来』か)
岡部(そんなもの天秤に掛けるまでも無い。俺は後者を取るべきだ。俺は後者を取らなければならない)
岡部(ここまで踏みにじってきた想いを無駄にしてはいけないんだ。そんなこと分かっている)
岡部(分かっているのに…)
岡部「…ッ!?」クラッ
岡部(…リ、リーディングシュタイナーが発動した!?)
ガチャッ
紅莉栖「そんなとこで寝転んでると白衣が汚れるわよ」スタスタ
岡部「紅莉栖!? なんでここが…」
岡部「…ああ。そういうことか」
紅莉栖〈106601回目〉「そういうこと。探した、本当に…」
紅莉栖「岡部とゆっくり話がしたかったから。…隣座っていい?」
岡部「…ああ」
紅莉栖「……」トスッ
紅莉栖「…ねぇ岡部、もう分かってるでしょ?」
岡部「……何をだ」
紅莉栖「とぼけたって無意味。私とあんたの付き合いがどれだけ長いと思ってるのよ」
岡部「…だよな…」
紅莉栖「…起き上がりなさい岡部。ちゃんとこっちを見て」
岡部「……」ムクッ
岡部「……」
紅莉栖「どちらを取るかなんて問題じゃない。あんたと私は、絶対に世界を改変しなければならない」
岡部「…そしてそのためにお前は死ななければならない、か」
紅莉栖「…ええ。そうよ」
岡部「そんなこと…できるかよ…!!」スック
紅莉栖「…岡部?」
岡部「…俺は…諦めない…!!」
紅莉栖「…ねぇ岡部」
岡部「黙れ!! 俺は諦めない!! この世界線でもまゆりを救う方法はあるはずだ!! あるはずなんだよ!! 無くちゃいけないんだ!!」タタタタタ…
紅莉栖「おかっ…待てこのバカ!!」
ガチャッ
岡部「はあッ…!! はあッ…!!」バタンッ
岡部「…げッほ!! …はあッ…!!」ゼェゼェ
岡部(…俺は…繰り返す…!!)
岡部「パソコンは…付きっ放しか。丁度いい…!」
岡部(…そうさ! 俺は繰り返すんだ!)カチッ
岡部(まゆりも紅莉栖も死なない未来を選び取るために、何度でも俺は繰り返すんだ!)カタカタカタカタ
岡部(まだ試みてない方法を! まだ見付けてない可能性を! まだ足りていない鍛錬を! 俺は繰り返――)
紅莉栖「――こ、の……!!」グイッ…
岡部(…あれ? 浮い…)フワッ…
紅莉栖「ゴミ虫があああああああああああああああああああああああッッッッッ!!!!!!」ズドオオオオオオン!!!! ミシッ!!
岡部「…ごッ…あああああああああああああああああ!!!??」(一本背負い!?)ズキズキ ジタバタ
紅莉栖「…初めて岡部から一本取った」
岡部「…なにをするのだ紅莉栖…」ズキズキ
紅莉栖「路上で柔道はマジヤバい。覚えときなさい」
岡部「いやここフローリング…いだだッ!?」ムクッ ズキンッ
紅莉栖「…大丈夫?」
岡部「…肩甲骨にヒビが入ったかも知れん」
紅莉栖「じゃあそのまま横になってなさい」
岡部「……」ゴロン
紅莉栖「この世界線ではまゆりが死なない可能性は万に一つも無いの。ゼロなのよ」
岡部「……」
紅莉栖「…ありがとう。私のためにここまで苦しんでくれて。だけど、もう充分」
紅莉栖「…岡部、あんたが世界を変えて。あんたが私を殺して」
岡部「……」
紅莉栖「せめて、岡部にやって欲しい」
岡部「…お前は納得しているのか?」
紅莉栖「まさか。だけど何度も言ってるでしょ? これは二者択一なんかじゃないって」
岡部「…そう、か…。……」
紅莉栖「……」
岡部「結局俺は、お前に『殺してもいい』と言って欲しかっただかなのかも知れないな」
紅莉栖「…そうかもね。それでいい。その方がいい」
岡部「…紅莉栖、俺がやる。俺がDメールを消す」
紅莉栖「…ありがとう。お願い」
紅莉栖「――これでよし。あとはエンターキーを叩くだけよ」
岡部「分かった」
岡部「……」
岡部「…なぁ紅莉栖」
紅莉栖「何?」
岡部「俺は、お前が好きだ」
紅莉栖「知ってる」
岡部「お前は?」
紅莉栖「知ってるでしょ?」
岡部「ああ。知ってる」
岡部「ああ」スッ
紅莉栖「…うん。ありがとう」ギュッ
岡部「……」ギュッ
紅莉栖「…ほら、早くエンターキーを押して」
岡部「ああ」スッ…
カチッ
紅莉栖「さよなら。…私も、岡部のことが――」
グ二ョォォォオォォォォォオォォオォォォオォン
岡部「…ッ」フラッ
岡部(……)
岡部(…紅莉栖の手の柔らかい感触が、消えた)
岡部(…最後の世界改変が、終わった)
まゆり「オカリン? そんなとこに突っ立ってどうかしたの?」
岡部「…いや? 何でもない。そうだまゆり、ラボメンナンバー004は誰なのか知ってるか?」
まゆり「え? うーん…004なんて居なかったと思うけどなぁ…」
岡部「そうだよな。004なんて居るわけないよな」
まゆり「?」
岡部「……」
ダル「…ん? オカリンどっか行くん?」
岡部「…ああ。少し泣く」
ダル「はあ?」
結局電話レンジ(仮)は分解して捨てた。あれは愚かだった俺たちが造り上げた偶然の産物。本来あってはならないもの。
時を支配する狂気のマッドサイエンティスト鳳凰院凶真が死んだように、電話レンジにもまた死んで貰わねばならないのだ。
永遠に思えた、ひどく長かったこの8月もそろそろ終わりを告げようとしている。
…なぁ、これで良かったんだろ紅莉栖?
世界は再構成された。世界はきっと救われて、まゆりは何事も無かったかのように今日も唐揚げを頬張っている。
少しだけ時間の流れが緩やかになったこのラボで、今日も俺は紅莉
プルルルル… プルルルル…
ダル「はいもしもし。…え? 父さん? 僕が? 君の? …何言ってんの?」
ダル「…は? 岡部倫太郎に代われ? …なぁオカリン、謎の女がオカリンに代われってさ」スッ
パシッ
岡部「…誰だ」
謎の女『お願い! 今すぐラジ館の屋上に来て!』
岡部「だから誰だよ?」
謎の女『あたしは2036年から来た、そこにいる橋田至の娘。名前は、阿万音鈴羽』
岡部「…ちょっと待て…! …鈴羽が何でここにいるんだ!?」
~ラジオ会館・屋上~
ガチャンッ!!
岡部「はあッ…! はあッ…!」ゼェゼェ
岡部(…嘘…だろ…?)
岡部「…タイムマシンだと!?」
まゆり「わー! すごーい!」
ダル「うお!? 何これ!?」
ヌッ
鈴羽「……」
岡部(鈴羽…!!)
岡部「…そうだが…」
岡部(…そうか、この鈴羽は鈴羽でも俺の知っている鈴羽では無いのだな)
岡部「…それより鈴羽、その迷彩服はなんだ? そもそも何故この時代に…」
鈴羽「それについては今から説明するよオカリンおじさん」
岡部(…お、オカリンおじさん!?)
まゆり「おじさんなのー!?」
鈴羽「あたしが2036年からここに来たのは、おじさんに未来を変えてもらうため」
岡部「…未来を、変える? …どういうことだ!?」
鈴羽「…この世界線では、未来に第三次世界大戦が起きるんだ」
岡部「だ、第三次世界大戦だと!? そんな…!!」
岡部「…未知の…世界線?」
鈴羽「そう。良くも悪くも何が起こるかまったく未知の世界線。通称『シュタインズゲート』」
岡部「『シュタインズゲート』…!!」
ダル「しゅ、シュタインズゲート!? オカリンの妄想じゃなかったん!? つーかまず2036年から来たってマジ? 釣りじゃなくて?」
鈴羽「父さんは黙ってて!!」
ダル「父さん…だと…!?」ホホウ…
鈴羽「あたしも父さんから聞いた話だから詳しくは分からないんだけど…とにかく『シュタインズゲート』に到達するにはオカリンおじさんの協力が不可欠なの」
岡部「SERNはどうなっているんだ?」
鈴羽「SERN? 何それ?」
岡部(…なるほど。やはりDメールの存在に気付かなかったことでSERNはタイムマシンの開発に失敗したのか)
岡部「何でもない。…それで? その未来を変えることで俺にはどんなメリットがあるというのだ?」
鈴羽「…第三次世界大戦勃発の原因を辿っていくと、2010年に発表されたとある文書に行き着く」
岡部「…?」
鈴羽「この年に学会に発表されたその文書、『中鉢論文』によってタイムトラベルの可能性が示唆されたことが第三次世界大戦のきっかけなんだ」
岡部「中鉢、って…」
岡部「牧瀬!? まさか…!!」
鈴羽「そう。牧瀬紅莉栖の実父」
岡部「…!!」
鈴羽「この『中鉢論文』がきっかけで各先進国でタイムマシン開発は過熱し、やがてそれは50億人を死に至らしめる大戦争にまで発展した」
鈴羽「…そして、この大戦が勃発するか否かは、牧瀬紅莉栖の命に掛かっている」
岡部「…それって、もしかして」
鈴羽「そう。言い換えれば牧瀬紅莉栖の死を回避すれば第三次世界大戦は起こらなくなる」
岡部「…救えるのか、紅莉栖を」
鈴羽「…可能性は限りなく低い」
岡部「…そうか。そうかそうか。そうかそうかそうか…!!」
鈴羽「…おじさん?」
鈴羽「!?」ビクッ
岡部「『可能性は限りなく低い』だと!? 上出来だ!! ゼロでないならば問題無い!!」
岡部「世界がどうなろうがどうでもいい!! だが鈴羽、俺はひょっとすると紅莉栖を救えるかも知れないんだろう!?」
鈴羽「…うん。そうだよ」
岡部「いいさ、例え僅かでも紅莉栖を救える可能性があるというのなら…ゴミ虫のように抗ってやるよ!!」
鈴羽「…もしあたしと一緒に過去に行ってくれるのなら、この手を取ってオカリンおじさん」スッ
岡部「はははははッッッ!!! いいだろう!! 過去へ行くぞ鈴羽ッ!!」スッ
ガシイッ!!
岡部「うおっとと…?」スカッ
鈴羽「…?」スカッ
まゆり「……」
岡部「何をするのだまゆり? 急に引っ張ると危ないだろう」
まゆり「…まゆしいは馬鹿だから今の話はちんぷんかんぷんだったけど…オカリンは今から危ないことをしようとしてるんだよね?」
岡部「…ああ。だが心配は…」
まゆり「まゆしいは、オカリンに行って欲しくないのです…」
岡部「…まゆり?」
まゆり「このまま行かせたら、そのままオカリンが帰ってこないような気がするから。だから…」
鈴羽「…椎名まゆり、オカリンおじさんは世界を救うために必要な」
まゆり「だからオカリンが行こうとするのを止めないのなら、まゆしいは全力で止めるよ」
岡部「ッ!?」ゾワッ
鈴羽「!?」(おじさんが臨戦態勢に入った!? …とにかくあたしも離れよう…!!)ザッ ザザッ
まゆり「……」
岡部「…まゆり、マシンの前からどいてくれ」
まゆり「……」
鈴羽(…マシンのすぐ前に椎名まゆり。そして椎名まゆりから見て12時方向におじさん、3時方向にあたし。距離はそれぞれ10メートル弱、か。…この構図はマズい)
鈴羽(椎名まゆりをかわして二人ともがマシンに乗り込むのは実質不可能。…つまり、椎名まゆりを無力化するしかない…)
鈴羽(…無力化? できるのか? 2010年とはいえ…『あの』椎名まゆりを相手に…!?)
鈴羽(…いや、やるしか…!!)
岡部(銃!?)「おい止せ!!」
まゆり「…撃つの?」
鈴羽「…君がそこからどかないならね」スッ…
まゆり「……」ニッコリ
岡部「止せ鈴羽ッ…!!」
鈴羽「……!」グッ…
鈴羽「ッ!!」ダァン!!
チッ
まゆり「…服に掠って左袖が少し破けちゃったよー♪ えへへー♪」
鈴羽(…違う…!! これは威嚇射撃、当たるはずなんて無かった…!! 今のは掠ったんじゃない…!!)カタカタ
鈴羽(…椎名まゆりは…わざと弾を掠らせに行った…!!)カタカタ
まゆり「やられたからにはお仕置きなのです♪」ダッ!!
鈴羽(来、る――!!)「…うあああああああああああああああああああああああ!!!!!」ダンダンダンダンダン!!!!!
まゆり「……」タンッ タタッ
鈴羽「そんな…!!」(当たらない!! 距離が詰められる!! 懐に入られ――)ダンダンダンダン!!!!!!
まゆり「銃口の向きさえ見てれば結構簡単だよ?」バシィンッ!!
鈴羽「づッ!!」(銃を真上に弾かれ…!!)
まゆり「ごめんね?」スウッ…
鈴羽(大振りのテレフォンパンチ――!! 避けなきゃ――!!)
まゆり「トゥットゥルー♪」ヒュッ…
鈴羽「ッ!!!」バッ
ヂッ! ビュオオオオオオオオオ…!!!!
ゴロゴロゴロゴロ…
鈴羽「……はあーッ!! はあーッ!!」ズザザザザー
鈴羽(死ぬかと思った…死ぬかと思った!! もし後ろに避けていたらアウトだった…!!)ガクガクガクガク
まゆり「外れちゃったよー♪ いいアドバイスだったねオカリン♪」ヒュゥゥン パシッ
鈴羽(!! 銃を取られた…!!)
鈴羽「お、おじさんっ!!」タタタッ
岡部「大丈夫か!?」ガシッ
鈴羽「…うん。拳が掠って肩口が破けたくらい…だけど、椎名まゆりに銃を…」ガクガク
まゆり「大丈夫だよ♪ まゆしいは銃は使えないのです」メキッ…バキ…
岡部「…素手で分解(バラ)してやがる」
鈴羽「…流石だね…」(まるで、星屑を握り潰すかのような…!!)
岡部「…鈴羽、いま『流石』と言ったか? まゆりは未来ではどうなっているんだ?」
岡部「…何だと?」
鈴羽「まるで焼き菓子を割るように全てをその手で砕き潰す蒼き怪物」
まゆり「……」メギ…パギィッ…
鈴羽「“クッキーモンスター”椎名まゆり」
岡部「…何だよそれ…!!」
まゆり「……」ポイッ ガラガラガラ…
鈴羽「彼女は銃器に頼ることなく異常なまでの戦果を挙げた人間として全世界から恐れられてるんだ。いくらおじさんでも敵わない。何か戦わずにここを切り抜ける方法を…」
岡部「…いや、俺が倒す」
鈴羽「…え?」
まゆり「…闘る気なのかなオカリン?」
岡部「……」
鈴羽「おじさん!? 無茶だよ!!」
まゆり「……」パキポキ
鈴羽「駄目だよ!! 勝てっこない!!」
岡部(集中しろ…!! 神経を研ぎ澄ませ…!!)フゥー…
まゆり「Too true―― Mad, your seed is death――(全く嘆かわしい事だ――狂科学者よ、君の希望は此処で潰える――)」
鈴羽(…二人とも本気だ…! …もうあたしの出る幕は無い。下がろう…!)ザザザッ…
岡部「……」スッ…
まゆり「……」
まゆり「……」ザカッ
鈴羽(…!? 何なのあの構え…!? 両手足を地面に付けてまるで蜘蛛…いや、むしろゴキブリのような…)
まゆり「……」ググッ…
まゆり「……トゥットゥルー!!!!」ヒュオオンッ!!!!
鈴羽(なッ!? 速――!?)
岡部(低空タックル――!! 受け流すッ!!!)
岡部「…らああああああああッッッ!!!」ズパァン!!
まゆり「!! ……」ダンッ ズザザザー
鈴羽(何だ今の――速過ぎて見えなかった――!!)ゾワッ…
岡部「…伊達に400回も殺されかけていないのでな」ニヤッ
まゆり「下手をするとまゆしいも軽くヒネられてしまいそうなのです。久々に本気を出せそうだよーえへへー」ユラァ…
タタンッ!!
岡部(来る!)バッ
まゆり「…ッふ!!」タタンッ ドウッ!!
岡部「うおおッ!?」(突きが鋭い!!)ヂッ!
まゆり「らッ!!」ビュオンッ!!
岡部「ッと!!」(一旦離れて体勢を整え直そう…!!)ザザザッ
まゆり「……」
鈴羽(おじさん凄い…! 回避が速い!!)
岡部(…それにしても相変わらず化け物染みた強さだな。その体躯からは想像できない脅威的な身体能力もさることながら、まゆりの真に恐ろしいのは『見抜く力』を持っているところだ)
岡部(いとも簡単に銃を分解したり、かつての俺を400回に渡って一撃で沈めたり…まゆりは人やモノの『弱い点』を本能的に理解している)
岡部(あらゆる事物にどうしても生まれてしまう脆い繋ぎ目。意識の死角。力の集中点。そういった部分をあいつは瞬時に察知してしまうのだ)
岡部(驚異的な身体能力を、脅威的な戦闘センスによって余すことなく使いこなせる天性の壊し屋。それがあの能天気な幼馴染み、椎名まゆりという人間だ…!!)
岡部「……」ジリッ
まゆり「…来ないのかなオカリン?」
岡部「…はッ! いいだろう…!!」タンッ! タタタッ…
まゆり(ミドルキックした右脚を軸に左踵蹴り…)「いい蹴りだけど…決定力に欠けるね」サッ パシイッ
岡部(打撃が…入らんな…!! 避けられるかガードされるかのどちらかだ…!!)ザッ ドウンッ!!
まゆり「降参したほうがいいと思うな。諦めも肝心だよオカリン」タタッ バシィンッ!!
岡部(…まゆりが『回避行動を取っている』ということはつまり『攻撃に当たりたくない』ということ。言い換えればまともに攻撃が入れば倒しようはあるということだ)
岡部(…だがその肝心の攻撃がまともに入らない。そもそもまともに貰えばヤバいというのは俺も同じ。むしろ向こうの攻撃力が馬鹿げている分俺の方がずっとキツいくらいだ)
岡部(頭部に貰えば戦闘不能。体に貰えば戦闘不能。手足に貰えば機動力が落ち次の一撃で戦闘不能…)
まゆり「後ろ回し蹴りなんて当たらないよ」タンッ タタンッ
岡部(しまった焦り過ぎた!! 早く下が――)
まゆり「大振りな攻撃は命取りだよオカリン!!」ヒュゴッ…
岡部「ッ!!」(来る!!)バッ!!
ズァンッ!!!
岡部(…ッぐ…早く体勢を立て直せ…!!)グラッ
まゆり「これで終わりにしよっかオカリン」タタタタッ
岡部(決めに来やがった!? 急げ!! 回避を――)カクンッ
岡部(…嘘だろ…? 膝が…ッ!!)ヨロッ…
まゆり「我慢してね」ヒュオッ…
岡部(終わっ――)
岡部「――ッ!!」ガシイッ!!
まゆり「…え?」
岡部「ッら゛ああああッッッ!!」グイィッ!!
ズダァァァン!!!
まゆり「ッぶァ!!」(鼻…がッ…!!)ミシッ…
タンッ タタタンッ!!
岡部「…はあーーッ!! はあーーッ!!」(き、距離を取れたッ…!!)ゼェーゼェー
まゆり「……!!」ドクドク…
岡部(何故一度しか見ていない技を使えるのだ俺は!? いやそ、れより初めて攻撃に成功し…)
まゆり「…く…はは……おああああああッッッ!!!!」タタタタッ!!
岡部(…やはり速い!! どうすれば…!!)
まゆり「オカリンッッ!!!!!」ビュオッ!!
鈴羽《じゃあこんなのはどう!?》
岡部「…らあッ!!」ヒュオンッ!! バキイッ!!
まゆり「…っか…!!」(可変蹴りッ…!? …離れなきゃ…!!)ザザッ
岡部(…まただ…!! また使ったことが無いはずの技を使えた…!!)
岡部(奥の手? …いや、これはそういうものではなく…)
岡部「…そうか。そうかそうかそうか…!! ふは…ふははははッッ!!!」
まゆり「…?」
岡部(…思ってはいた。以前から武術の習得だけはいやに早いなと思ってはいたんだ)
岡部(違和感。その正体は)
岡部(『イメージを直結する』力)
岡部(目で見たもの、体で感じたことを直接フィードバックする力)
岡部(理屈として噛み砕いて反復練習によって体に覚え込ませる作業を必要としない、曖昧なイメージをそのままに体が勝手に正解を選択してくれる力)
岡部(リーディングシュタイナーによって本来は未修得の技をいきなり獲得したかのようにさえ見える、そんな力)
岡部(それは、フィジカルには恵まれなかったこの俺に秘められていた…)
岡部(この俺に秘められていた、唯一絶対の武才ッッッ!!!!!)
まゆり「…分かってるよオカリン!!」ダダダッ
岡部「来い――!!」
まゆり「おおおおお……ッッッ!!!!」ヒュウッ…
フブキ《円の動きはすべてを受け流す――!!》
岡部「…るあ゛あッ!!」パシィン!!
まゆり「ッ!!」
ルカパパ《鳳凰院くん、カポエイラって知ってるかな?》
岡部「ふんッ!!」メキイッ!!
まゆり「ッぐ!!」(なんてトリッキーな蹴り…ッ!!)ヨロッ
岡部「るあ゛ッ!!」ドゴッ!!
まゆり「ッぶ!?」
カエデ《困った時のバックブロー、だよ》
岡部「はッ!!」メギッ!!
まゆり「づッ…!!」(この流れはマズい…!!)
フェイリスパパ《ははは、私の浴びせ蹴りは効いたかい?》
岡部「どらあああッ!!!!」ゴギイッ!!
まゆり「ごあッ…!!」(さっきから的確に急所をッ…!!)
岡部「お゛ッ…ご…!!」(…ヤバい…ッ!! 腹部にモロに蹴りを…!! 血が…!!)ドザザザザー ゲボッ
岡部(…いや違う!! これは…吐瀉物(ゲロ)だ!!)ビシャッ ビチャビチャッ ググ…
まゆり(…っと。一気に大技を貰い過ぎたかな。血がなかなか止まらないよ)フラッ… ダンッ
岡部(まゆりの蹴りは確かに入った!! それでこの程度の威力…まゆりはかなり消耗している!!)ペッ
まゆり(…お互いに、限界が近い…!!)フゥー…
岡部(今度まともな一撃を貰えば、今度こそ血を吐くことになるだろう…!!)
まゆり(だから…次で決める!!!)ググ…
岡部(叩き込む!!! 総てを!!!)ググ…
まゆり「うあああああああああああああああああああッッッッッ!!!!!」タタタタタッ!!
岡部「…ッどうだまゆりッ!! 今の気分はッ!!!」タタタッ
まゆり「最ッ高!!!」タタタッ
岡部「奇遇だなッ!!!」タタッ
まゆり「…づッあああああああああああああああああああッッッッッ!!!!!」メッギイイイイ!!!!!
岡部「ぐッ…!!」ゴブッ
まゆり(…入った!! お腹に重いアッパー!! これで止ま――)
まゆり(耐えた!? くそ、掴まれ――)
紅莉栖《路上で柔道はマジヤバい。覚えときなさい》
岡部「……これで……終わりだ……!!」ビチャビチャ グオッ…
まゆり(…え? 浮い――)フワッ…
岡部「まゆりいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!!」ズドオオオオオオオオオオン!!!!!!!!
まゆり「…ッ…!! ……」
まゆり「……」ガクンッ…
まゆり「……」
岡部「……」
岡部「……勝った」
岡部「……はは。ははは…」
岡部「まゆりを……気絶(お)とした……俺が勝ったんだ……」
岡部「……うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!」
おい目的忘れるなよ?ww
『ひっく…ひっく…おばあちゃん…』
『何だい? 泣かずに言ってご覧?』
『…あのね? さっきね? まゆしいがすなばであそんでたらね?』
『うん、うん』
『…しょ…ぐすっ…しょうがくせいのひとたちがね? まゆしいのすなやまをこわしてね?』
『うん、うん』
『それでないてたらね? おかりんがたすけにきてくれてね?』
『うん』
『しょうがくせいをやっつけようとして、やっつけられちゃった…』
『いっしょににげてね? どろだんごなげてまたにげてね? いっしょにかえってきた』
『おかりん君は泣いた?』
『ううん。でもまゆしいはおかりんがいたかったからまたないた…』
『それで、まゆりはおかりん君を見てどう思った?』
『かっこいいなっておもって、おかりんがいたかったらやだなっておもった』
『そうかそうか。おかりん君に危険な目に遭って欲しくないって思ったんだね』
『きけん? まゆしいはおかりんをまもれたらいいなっておもったよ』
『なるほど。護りたい、か。…強くなりたいのかいまゆり?』
『…うん』
『辛い道のりかも知れないよ。それでもいいのかい?』
『いい』
『そうか。…分かった、いいだろう――』
まゆり「…オカリン」
岡部「良かった。なかなか起きないから心配した」
まゆり「…夢を、見てたよ」
岡部「体は、痛くないか?」
まゆり「肩甲骨が割れたかも知れないよー♪ えへへー♪」
岡部「えへへーって…」
鈴羽「…うん。これで二人とも応急処置は終わったよ。救急箱を持ってきておいて良かった」
岡部「…まゆり、救急車を呼んだ方がいいか? 鼻の負傷も軽くは無さそうだ」
まゆり「…大丈夫だよオカリン。足へのダメージはそんなに無いからね、いざとなったら歩いて病院まで行けば大丈夫なのです♪」
岡部「…そうか。じゃあここで寝てるか?」
まゆり「そうしようかなー♪」
鈴羽「うん。…それよりさっきおじさんに頼まれたものは買ってきたけど…本当にあれだけでいいの?」
岡部「ああ。十分だ。…ではまゆり、行ってくる。少しだけ待っててくれ」
まゆり「…ねぇオカリン」
岡部「…何だ?」
まゆり「…頑張ってね。まゆしいはここで応援してるから」
岡部「…ああ!」
ダル「……」
ダル「…え? 何これ」
~タイムマシン内部~
鈴羽「――それにしても凄い戦いだったね。おじさん怪我は大丈夫なの?」
岡部「ああ。外傷はそこまで無いからな。内臓にはダメージが溜まっているだろうが寝れば治る」
鈴羽「そんな原始人みたいな…まあとにかく作動させるよ。ハッチ閉めるね」カチッ ウィーン…
鈴羽「…あ、そうだおじさん! 携帯出して!」
岡部「携帯か? ほら」スッ
鈴羽「混線を防ぐためにこれは置いて行かなきゃ…って壊れてるじゃん。やっぱり返すよ」スッ
岡部「ああ、さっきの戦いの時に壊れたのか。まあこれが終われば新しいのに買い替えるさ」パシ
鈴羽「さて、じゃあシートベルトを締めて」
岡部「分かった。…ところで鈴羽、このマシンの性能について聞いておきたいのだが」
鈴羽「えっと、まずこれはおじさんと父さんが造り上げたマシンだよ。過去へも未来へも行けるマシン」
岡部「なるほど、未来の俺たちが…」
岡部「…2回失敗すれば終わり、か。構わん、1回で成功させてやる」
鈴羽「お、自信有りって感じだね。ところでCDは何がいい?」スチャッ
岡部「ブルーハーツにしてくれ」
鈴羽「分かった。っとその前にクーラー付けなきゃ」カチッ ブオオオオー
岡部「お、冷蔵庫があるではないか。ドクぺ貰うぞ」プシッ
鈴羽「そうそう、向こうに着くまでの時間は数分だよ。遠心力を相殺する装置が積まれてるからGに苦しめられることも無いはず」パカッ カチッ ウィーン… キュルルルルルー
岡部「分かった。ただ座っていればいいんだな。…では鈴羽、そろそろ出してくれ」ゴキュゴキュ
鈴羽「オーキードーキー!! じゃあそろそろ行くよ!!」ピピピピピピッ ピッ
キュイイイイイイイン… プンッ
ウィーン… プシュー…
岡部「…着いたか」ノソッ
鈴羽「だね」ノソッ
岡部「しかしこんなギリギリの時刻に着いて大丈夫なのか? 講演会が始まる直前ではないか」
鈴羽「直前じゃないと騒ぎになってマズいんだよ。おじさんこそスタンガンとハンマーだけで大丈夫なの?」
岡部「ああ。大丈夫だ」
鈴羽「ふーん…? とにかく何か考えがあるんならいいや。改めてこのミッションについて説明するね。目的は牧瀬紅莉栖の死の回避」
岡部「ああ」
鈴羽「おじさんは牧瀬紅莉栖をマーク、殺されるのを阻止して。あたしはおじさんのサポートに回る。終わったらタイムマシン前に集合ね」
鈴羽「なるほどね。そのためのハンマーか」
ガンッゴンッゴンッバキイッ!!
岡部(…たったの4回か。俺にも『壊れるやり方』と『壊れないやり方』がなんとなく分かってきたな…)
鈴羽「…そろそろ人が来るね。おじさんは隠れてて。あたしが囮になる」
岡部「分かった!」ギイィ…
鈴羽「あ、ハンマーは置いていったほうがいい! それだけで警戒されるよ!」
岡部「ああ! 任せたぞ!」ゴトッ タタタタタ…
鈴羽「自分との接触だけは絶対に避けてねー!! 深刻なタイムパラドックスが発生するかもしれないからー!!」
~ラジオ会館・7階~
ナンダ…コレ…? ハーイキケンデース! タチイラナイデクダサーイ!!
岡部「…はぁ…! はぁ…!」
岡部(…間一髪だったな。真っ先に階段を上ってきたのはたぶん『俺』だ)
岡部(さて、ここからどうする。動き過ぎるのもマズいと思って7階で止まっては見たが――)
岡部(…ん? あれは…雷ネットのガチャポンか)
岡部(そういえばまゆりの奴、あの時ここで当てたレアアイテムの『メタルうーぱ』を無くした、とか言ってしょげてたな)
岡部(…ちょうど財布は持ってる。どれ、ぶちのめした詫びににひとつくらい買っていってやるか)チャリッ ガションッ
コロンッ
岡部「お、メタルうーぱ。…なんだ、全然珍しくなどないではないか」
まゆり「あー! 雷ネットだー!」
岡部「ッ!!」(まゆりだ!! ということは俺も居る!! とりあえずここは離れよう!!)タタタタタ…
岡部(…危なかった…!! …ったく馬鹿か俺は!! 今は無駄なことをしている時間などないと言うのに!!)ゼェゼェ
岡部(…さて、これからどうする――)
紅莉栖「あの、お聞きしたいことがあるんですけど」
岡部「ッ!?」
紅莉栖「あなた、さっきこのビルの屋上から降りてきましたよね?」
岡部「…紅莉…栖…ッ!!」
岡部(…もう会えないと…思っていたのに…)ウルッ
紅莉栖「…私あなたと面識ありました?」
岡部「…いや」
紅莉栖〈0回目〉「…とにかく! さっき屋上で妙な音がしたし、ビルも揺れたように感じたんですけど一体何が――」
岡部「…紅莉栖」ガシッ
紅莉栖「ひっ!? 」ビクッ
岡部「俺はお前を絶対に助ける。じゃあな」タタタタタ…
紅莉栖「…え? ……あ、待って!」
岡部(…ここだ。ここで紅莉栖は殺されていた)
岡部(いつ誰が来るかは分からないが…とにかく段ボールの陰にでも隠れておこう)
岡部(……)
岡部(……)ブルッ
岡部(…恐れるな。すべては俺の思惑通りに行くに決まっているさ)
岡部(…俺を、俺自身を、信じろ――!!)
パチパチパチ…
岡部(――発表会が終わったか。ということはそろそろ…)
カツン カツン カツン カツン
岡部(…来た!! 誰だ!?)
紅莉栖「……」カツン カツン…
岡部(…紅莉栖!? まさか先に紅莉栖が来るとは…)
紅莉栖「……」ガサガサ
紅莉栖「……」ニコッ
岡部(…何だあの封筒? そういえば初めて会った時にも持っていたな…)
岡部(…とにかく、作戦の再確認だ。紅莉栖を殺す犯人は恐らく刃物を持っている。そこでこのスタンガンの出番だ)
岡部(犯人が確定したところで、正確には刃物を持っている人物が現れたところでここから飛び出し、犯人にスタンガンを当て気絶させる…!! 単純だが完璧だ!!)
岡部(…来た。二人目だ!)
ピタ…
岡部(…誰だ?)チラリ
紅莉栖「…話がある」
中鉢「……」
岡部(…ドクター中鉢。紅莉栖の実の父親。やはりこの男なのか…?)
中鉢「…それはなんだ?」
紅莉栖「パパがタイムマシンの発表会をするって聞いて、それで私も論文を書いてきたの。よかったら見て」
岡部(…論文? タイムマシンの発表会をすると聞いて? まさか…!)
中鉢「……」ペラペラペラペラ…
紅莉栖「…え? ど、どういう…」
中鉢「お前はアメリカに帰れ。二度と顔を見せるな」
紅莉栖「…!! …論文を、盗むの?」
岡部(…間違いない!! 『中鉢論文』の正体は…紅莉栖のタイムマシン理論だ!! そしてあの論文がドクター中鉢のものとして発表されたということはつまり…)
中鉢「何だと…?」
バチィンッ!!
紅莉栖「っ…!」ジンジン
中鉢「この…!」ガシッ ギリギリギリギリ
紅莉栖「!? …ぅ…!!」ジタバタ
岡部(首絞め!? …もう間違いない! 紅莉栖を殺したのは中鉢だ!)
紅莉栖「ぁ……!!」ジタバタ…
岡部(…いや待て!! まだ奴は刃物を出していない!! ここで飛び出すのは早計――)
中鉢「私はお前が憎い…存在そのものが疎ましいのだ!!」ギリギリギリギリ
紅莉栖「……っ!!」ガクガク…
岡部(――くそ、これ以上見てられるか!!)
岡部「止めろッ!!!!」バッ
中鉢「ん? …お前、さっきの…!!」パッ
紅莉栖「…ごッほ!! げほっげほごほげほっ!!」ゲホゲホ
岡部「さっき? …ああ、あの下らん発表会のことか」
中鉢「く…下らんだとッ!? …許さん…許さんぞガキ共ッ!!」パチンッ
岡部(折り畳みナイフ…!! 確定だ!! あとはスタンガンでこいつを気絶させれば…!!)
中鉢「ス…スタンガン!?」ビクッ
岡部「俺がこいつで…お前をブチ殺してやるッ!!」カチッ!!
シーン
中鉢「……」
紅莉栖「……」
岡部「……」
岡部「…あれ…」カチッ カチカチッ
岡部(…ででで電池が入ってないだと!? 鈴羽の奴肝心なものを忘れやがって!! それともわざわざ電池も買ってこいとは言わなかったからか!?)ブンッ ガシャンッ
岡部(…来るか…!!)ジリッ…
紅莉栖「!! パパ止めてッ!!」
中鉢「うるさいッ!! …そうだ!! まずはお前から殺してやろう紅莉栖!!」
紅莉栖「!? ひっ…!! こ、来ないで…!!」ガクガク
岡部(…考えろ俺ッ!! まだ何かあるはずだ最後の一手がッ!! とにかく何でもいいから奴を止めろッ!!)タタタタタッ
中鉢「死ねぇぇぇッ!!!」ダダダダダ
紅莉栖「嫌あああああああああああああ!!!!!!」
中鉢「ん?」ピタッ
岡部(…ッ!! そうか見つけたッ!! 最後の一手ッ!!)タタタタタタ… ザカッ!!
中鉢(…何だあの虫のような構え!? 一体何を――!?)ギョッ
岡部(最後の一手ってのは――俺自身がスタンガンになる事だ――!!)ググッ ヒュオオオンッ!!!!
中鉢「な――」(速――)
紅莉栖「パパ危ないッッ!!!」バッ
なん…だと…?!
紅莉栖「ゲッボアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!??」ボギボギバギィィィッ!!
ドヒュウウウウウ!! ゴガンッ!! ゴギンッ ドゴンッ ズザザザザー…
紅莉栖「」ゲボッ ゴボゴボボッ ピクピク
中鉢「」
岡部「紅莉栖ッ!? なぜ中鉢を庇うような真似を…!!」ズザザザー
紅莉栖「」ピチャッ コポコポ ピクピク
岡部「…待て。…吐血?」
岡部(…そうか!! これだ!! よく考えれば『血の海の中に倒れている紅莉栖』はこの日の俺が既に観測しているんだ!!)
岡部(…『俺と俺が出会ってはいけない』ように…『紅莉栖は血の海の中で倒れていなければならない』!!)
紅莉栖「」ガボッ ゴポポポッ
中鉢「…ッ!! …ッ!!」ガクガク パクパク
岡部「紅莉栖!! もっと!! もっとだ!!」ブンブン
紅莉栖「」ゴボッ ビシャッ
岡部「ほら! もう少し!!」ブンブン
紅莉栖「」コヒュー コヒュー ピクピク
岡部「くそっ…!! 血が足りない…!!」
殺す気だろオカリンwww
岡部「ん? …そうか、まだお前が居るじゃないか…!!」
中鉢「!? ひ…ひっ…!!」ガクガクガクガク
岡部「血を…寄越せ…!!」ユラァ…
中鉢「ひぎゃあああああああああああああああああああああああ!!!!!」パシッ ダダダダダ…
岡部「…ふん。それでもしっかり論文を盗んでいくとはな。本当に救えん奴だ」
岡部「鈴羽!! よく来てくれた!!」
鈴羽「うわ!? 大丈夫なのこれ!? 一応救急箱は持ってきたけど…」
岡部「大丈夫だ。ちゃんと『壊れないやり方』を使った」
鈴羽「え? これおじさんの仕業?」
岡部「そんなことより鈴羽、救急箱の中に輸血用の血か何か入ってないか?」
鈴羽「いや、無いけど…どうして?」
岡部「俺が観測した『血の海』はこの血の海よりももっと大きかったのだ。もう少し血を増やさないと…」
鈴羽「あそこに赤いペンキならあるよ。あれじゃだめなの?」
岡部「駄目だ。俺はあの時の血の匂いを『今でもはっきりと覚えている』。ペンキや血糊ではなく本物の血でないと…」
鈴羽「なるほど…」
岡部「何だ?」
鈴羽「これ使おうよ! 注射器!」スチャッ
岡部「…えっ?」
鈴羽「さぁおじさん! 腕出して!」
岡部「ば…止せ鈴羽ッ!!!! 俺は注射は死ぬほど苦手で」
鈴羽「ふん」プス
岡部「あああああああああああああああああああああああああああ――――!!!!!!」
鈴羽「…おじさん大丈夫?」
岡部「ああ…なんとか…」フラフラ
鈴羽「じゃあ早く座って。オカリンおじさんが元居た日に帰ろう」カチッ ウィーン…
岡部「…なぁ鈴羽…俺は確かに紅莉栖は救えたと思うが…第三次世界大戦を防ぐことは出来たのか…?」ストンッ フラフラ
鈴羽「…どうだろうね」
岡部「紅莉栖が書いた『中鉢論文』は中鉢が持って行ってしまった…。もしかすると失敗したのかも…」フラフラ
鈴羽「…分からないけどきっと大丈夫。あたしは牧瀬紅莉栖の生存がカギになる事しか知らないからね。このあとで牧瀬紅莉栖がドクター中鉢を糾弾したりするんじゃないかな」
岡部「ああ…なるほど…」フラッフラッ
鈴羽「…あんまり喋らない方がいいよおじさん。横になってて」
岡部「そうする…」ゴロン
岡部「…消える?」
鈴羽「ああ、死ぬわけじゃないよ? きっとあたしは2036年の『シュタインズゲート』で、父さんと母さんの子として幸せに過ごしてる」
岡部「…そうか…」
鈴羽「…『シュタインズゲート』では何があるか分からない。数日後におじさんは死ぬかも知れない。牧瀬紅莉栖も死ぬかも知れない」
岡部「……」
鈴羽「それに第三次世界大戦が起きるかも知れないし、SERNってとこに世界が支配されるかも知れない。両方起きたりするかも知れないし」
岡部「…それでも、構わん」
鈴羽「…うん。じゃあ行こう」
岡部「ああ…」
岡部「…ああ…」
鈴羽「さてと…」ピピピピピピッ
岡部「鈴…羽…」
鈴羽「何?」ピッ
岡部「エル・プサイ・コングルゥ」
鈴羽「エル・プサイ・コングルゥ」
キュイイイイイイイン… プンッ
戦闘におけるダメージや肉体的・精神的な疲労は思っていたよりも大きなものだったらしく、俺はラジ館の屋上に帰り着くとすぐに高熱を出して倒れ、そのまま5日間寝込んだ。
療養中、家まで見舞いに来てくれたたまゆりとダルが持ってきた週刊誌の記事によって、俺は中鉢がロシアに亡命したことを知った。
その記事によれば例の論文は事故によって綺麗に燃えてしまったそうだ。ラッキーというか滅茶苦茶というか…。とにかく中鉢が学会に相手にされることはもう無いだろう。
またダルとまゆりに「最近ラジ館で殺人事件は起きていないか」と聞いたが、二人とも首を横に振った。秋葉原周辺では殺人どころか死亡事故すら起きていないらしい。
そうして、8月が終わって、9月になって、退院して――
――そして今日は、9月13日。俺の体感ではまったくそんな事は無いのだけれど、最初にまゆりが死んだ8月13日からちょうど1ヶ月後でもある。
つまりは俺がエンターキーを押した、この世界線においては彼女のリーディングシュタイナーが発動したはずのあの日はとうに過ぎていて。
それでも、牧瀬紅莉栖がこのラボを訪れてくれることは無かった。
ダル「――リン。オカリン? 聞いてる?」
岡部「…ん? 何だ?」
ダル「聞いてねーのかお。さっきからメイクイーンの2号店ができるってフェイリスたんから聞いたんだって言ってんじゃん?」
岡部「済まんな。少し考え事をしていた」
ダル「ロダン乙」
岡部「もう少しマシな突っ込みは無かったのか? しかしまさかメイクイーンが2号店を出すとはな。場所はどこなのだ?」
ダル「中央通り沿いだってお」
岡部「フェイリスの奴…また権力を乱用したに違いないな…」ハァ…
ダル「またアキバに萌え系ショップ増えたしね。流石僕のフェイリスたん!」
ダル「お、マジで?」
岡部「ああ。まゆりが今日ラボに持ってくるそうだ」
ダル「るか氏のコスプレかぁ。僕あの日用事で行けなかったんだよね」
岡部「いやあ、なかなかのものだったぞ。老若男女が寄ってたかっての大騒ぎだった」
ダル「まさかのリアル男の娘だもんなぁ。そりゃ人気出て当然だお」
岡部「ファンクラブまで出来ているくらいだからな。一度ルカ子の名前でググってみるといい」
ダル「マジ!? ファンクラブまであんの!? そのうちテレビにでも出るんじゃね?」
岡部「冗談抜きで本当にそうなるかもな」
岡部「だが断る! あんな重いもの運んでたまるか! お前が運べ」
ダル「デブはみんな力持ちだなんて思うなよ? つーかオカリン最近筋トレしてるから丁度いいじゃん」
岡部「それとこれとは別だ! お前がブラウン管工房に行ってこい! 小動物も居るんだ、ロリコンのお前大歓喜だろう?」
ダル「YESロリコン、NOタッチだお! ロリ専門じゃないし。そういやブラウン管工房って最近バイトのお姉さん入ったよね。桐生氏だっけ」
岡部「ああ、萌郁か。あいつもラボメンだ」
ダル「オカリンマジ何なん? 厨二病のくせに女の子の知り合い多過ぎだろ常考!」
岡部「厨二病は余計だ! そもそもあいつとはレトロパソコン探しを手伝ってやった程度の仲でしかないぞ」
ダル「オカリンマジ紳士。結局見つかったん?」
岡部「いや? それにもう二度と手伝わん」
ダル「ちっちぇーっす! 狂気のマッドサイエンティストちっちぇーっす!」
岡部「やかましい! 探しても無いものは無いのだ! そもそもあいつはもう編プロのバイトを辞めてるからな。万が一見つけても教える必要は無いぞ」
岡部「小動物が怪我していたのを介抱して家まで付いていってやったらしい。それで無職だと言うので店長が雇ってやることになったそうだ」
ダル「ふーん。あの店はバイト居ても意味ない気もするけどね」
岡部「本人たちがいいならいいんじゃないか? 俺たちには関係のないことだ」
ダル「だね。とにかくこれでフェイリスたんにルカ氏に桐生氏の3人が加入。もうラボメンが6人か」
岡部「夏休みのころの2倍だな」
ダル「メイクイーン2号店ができたらラボメン全員で完成記念パーティーとかしたいけど…」
岡部「残念ながらそれは無理だろうな」
ダル「ですよねー。来月からだっけオカリンのアメリカ留学」
岡部「ああ」
岡部「コンドリア大の名誉教授が東京に講演に来ている、という情報をネットで調べてな。自ら売り込みに行ったのだ」
ダル「え? それマジ?」
岡部「マジだ。講演の質疑応答の時に教授を徹底論破してみせたらいたく気に入られた」
ダル「で、その後で声掛けられたん?」
岡部「ああ。控え室に呼ばれて軽く世間話をしていたらそのままトントン拍子に留学の話が進んだ」
ダル「そ、そんな簡単に行くもんなん? 世間話とやらの内容が恐ろしくて聞けないお」
岡部「行ったのだから仕方が無い。まだ本決まりではないが、俺はアメリカに渡るつもりでいる」
ダル「お、おう…! 割とマジでパネェっすオカリン」スゲェ
岡部「ふはは!! 褒めても何も出んぞ!!」フハハハ
ダル「でもやっぱりちょっと寂しくなる罠。なんだかんだでここオカリンのラボだし」
岡部「…お前がそういうことを言うとは思わなかった」
岡部「ラボについてはこれからお前がリーダー(仮)だ」
ダル「オーキードーキー」
岡部「まゆりについても心配は要らないさ。あいつはあれでとても強い子だ。…むしろ、俺の方が重荷になっていたのかもな」
ダル「重荷って。…にしてもこれからどうなるんだろうね。オカリンもまゆ氏も、それから僕もこのラボも他のこともさ」
岡部「さぁな。だが案外何とかなるもんだと思うぞ?」
ダル「そんなもんなんかなぁ」
岡部「そんなもんだ」
そう、きっとそんなもんなのだ。
その理由は分からない。単純にここに来たくないだけなのか、或いは何らかの理由でリーディングシュタイナーを失ったのか。
後者だとすれば『リーディングシュタイナーを持つ紅莉栖』の意識が『紅莉栖が死んでいる世界線』へと移動したことで行き場を無くして消えてしまった、などといったところか?
あえて探すことはしなかった。とにかく、彼女が今も生きていることに変わりはないのだ。
そして俺は紅莉栖が好きで、今更この気持ちを封印することなど到底できないと分かっていて、おまけにすぐにでも彼女に会いたくて仕方がないと来ている。
昔の俺なら、あれこれと理由を見付け出して彼女を諦めようとしていたのかも知れない。
だが生憎今の俺は、掛け違えたボタンだけ外しても何も変わらないことを知っている。俺はずっとここで夢だけを見て何もしないほどドジでは無いのだ。
生きているのなら、ゼロでないならば問題無い。彼女とはせいぜい離れて2万キロ。手が届かないのならば追い付けばいいだけの話なのだ。
と、ラボの入口の扉越しにまゆりの声が聞こえた。
なぜわざわざ了解を取るのだろう、と少し考えてすぐに思い付く。ダルの言っているように、まゆりは俺に対してなんとなく遠慮をしてしまっているのかも知れない。
あいつはあれで時々変に鋭いことがあるからな。俺の微妙な変化だとか、そういうものを感じ取っているのかも。そして、それの邪魔をしないように変に気を使っているのかも。
空気を読もうとするなんておおよそまゆりらしくないな。苦笑しながらゆらりとソファから立ち上がる。ここはこの俺が直々に扉を開けてやろう。
それでも俺は進まなければならないし、進むべきだし、進みたい。だから進む。
そんなことを考えている俺を、果たして君は受け入れてくれるのだろうか。
今まで無くしたものとこれから君が見るもの、それらをすべて取り換えた今ならば俺たちは変わっていけるのだろうか…
俺は玄関の扉を決然と見据えると、強く地面を踏み締めながらゆっくりと歩き出した――
おわり
~病院~
紅莉栖「…ここ…は…?」
看護師「…え?」
紅莉栖「ここ…どこ…?」
看護師「ま、牧瀬さん!? 意識が戻って…!?」アタフタ
紅莉栖「岡…いづッ!?」ズキッ
看護師「あ! 動いちゃダメです!」ワタワタ
看護師「あ、あのですね! ここは病院で、それで、お母様がさっきまでいらっしゃって、えっと…と、とにかく先生呼んできます! 寝ててくださいね!」タタタタタ…
紅莉栖(…生きてる。何でだろう? 確かにエンターキーは押されたはずなのに)ポスッ
紅莉栖(……)
紅莉栖(汚い天井だなぁ)
ママは私が意識不明のまま入院しているという知らせを受けてアメリカから飛んできたらしい。近くのホテルに宿を取って私の看病をしてくれていたそうだ。
状況がほとんど掴めなかった私は呆れるほどたくさんの質問をしたが、彼らは嫌な顔一つせずそれらに答えてくれた。
私がこの病院に運ばれたのは7月28日。目を覚ましたのは8月末日だったので、丸々1ヶ月も目を覚まさなかったことになる。
28日、私は内臓に大きなダメージを受けた状態で血の海の中に倒れているところを発見され、ここに緊急搬送された。
犯人は不明。ただ警察がその血の海を調べたところ、私のものとは別にもう一種類、私とは血縁関係にない何者かの血液が混じっていたそうだ。
また現場にはパパの指紋が付着したナイフが落ちていた。そしてそのパパは最近ロシアに亡命をしたらしい。
この世界線――発表会が中止にならない世界線では、私はパパにタイムトラベルについて書き上げた論文を見せに行っているはずなので、つまりはそういうことなのだろう。
これ以上パパの暴走を黙って見過ごす訳にはいかない。もし彼がまた何かとんでもないことをしようとするならば、私が全力で止める。
とにかく、こうしてなんとか私は生きているらしい。
そして、あの日ラジ館に居て、私と血縁関係に無く、死ぬはずだった私を何らかの方法で救うことのできそうな人なんて、私にはたった一人しか思い付かない。
……あの言葉、最後まで届かなかっただろうなぁ。
早く動けるようにになって、彼に会いたい。そして、そして――
――そして今日は、9月13日。
紅莉栖「――じゃあ柳林神社までお願いします」
タクシーの運転手「柳林神社ね」ブロロロロー…
紅莉栖「……」
タクシーの運転手「…お姉ちゃん、今日退院だったの?」
紅莉栖「え? …ああ、今日は外出許可が取れたんです。松葉杖さえあればあちこち動き回れる程度には良くなってきてるんですけどね」
タクシーの運転手「ふーん。じゃあこれから何かいい事でもあるの?」
紅莉栖「…もしかして顔に出てたりします?」
タクシーの運転手「出てる出てる。俺くらいのベテランになるとね、お客さんが何考えてるかがなんとなーく分かったりするんだよ。凄いでしょ」
タクシーの運転手「そりゃあ好きじゃないとこんなに長くやってらんないよー」
紅莉栖「お仕事が嫌になったりすることなんか、無いんですか?」
タクシーの運転手「そりゃあるよ。お客さんが困った人だったり、逆にちっともお客さんが捕まらなかったり。あと嫌な夢を見た時とかね」
紅莉栖「嫌な夢、ですか」
タクシーの運転手「人を轢いちゃったり後ろに乗せたお客さんが銃で撃たれたりする夢。馬鹿げてるけどすごいリアルでさ、そういう夢を見た日はやる気無くなっちゃうんだよ」
紅莉栖「……」
タクシーの運転手「ま、それでも結局俺は人を乗せるけどね。何が起こるか分からないからこそ楽しいんだと思うよ? 何事もさ」
紅莉栖「…そういうの、いいですね」ニコッ
~柳林神社~
ブロロロロ…
紅莉栖(…よいしょ、っと)カツンッ カツンッ
紅莉栖(…階段の上り下りも一苦労だな。早く松葉杖無しで歩けるようにならないと…)カツンッ カツンッ
紅莉栖(…あ、居た。掃除してる)
カツンッ カツンッ
紅莉栖「こんにちは」カツンッ カツンッ
ルカ子「え? あ、こんにちは」
紅莉栖「初めまして」ニコッ
ルカ子「? 初めまして」
紅莉栖(やはり確かに世界線は移動し、なおかつ私は命を救われたんだ)
ルカ子「…あの、お怪我されてるんですか?」
紅莉栖「ええ。内臓が少し傷付いてるのよ」
ルカ子「ええっ!? だ、大丈夫なんですか!?」アタフタ
紅莉栖「大丈夫よ。だってほら、今だって自由に歩き回れてるでしょ?」
ルカ子「で、でも…! …ち、父を呼んできます! 父に祈祷をしてもらいますからっ!」タタタタタ…
紅莉栖「え? いやだから大丈…行っちゃった」
~メイクイーンニャンニャン~
カランカラーン
紅莉栖(…つ、疲れた…。あのタクシーに待って貰ってればよかった)
フェイリス「お帰りニャさいませご主人様~!」
紅莉栖「こんにちは」
フェイリス「…ニャニャ? もしかしてご主人様お怪我してるのかニャ?」
紅莉栖「ええ。内臓をちょっとだけね」
フェイリス「ニャ、ニャンだってー!? そんなご主人様にはフェイリス特製猫まんま(無添加)をサービスしちゃうのニャー!! ささ、こちらの席にどうぞなのニャ」
紅莉栖(相変わらずだなぁ。…なんか安心しちゃった)
~ブラウン管工房前~
紅莉栖(…ついに、来た)
紅莉栖(ついに、ラボの前まで来た)
紅莉栖(…か、帰ろうかな。…いやいや! 何ビビってんだ私!)ブンブン
紅莉栖(…あれ? 工房の中に居るのって…)
紅莉栖(…桐生さん!? 何で!?)
紅莉栖(……まぁいいか。私が口を出す事じゃない。3人ともあんなに楽しそうなんだからいいじゃない)
紅莉栖(それより…)
紅莉栖(…そろそろ、行きますか)
コロンッ
紅莉栖「…ん?」(何か足に…)
まゆり「あー! まゆしいのメタルうーぱ落ちちゃった…」タタタタ ヒョイッ
紅莉栖「…まゆり!」
まゆり「え? …えっと、どこかで会ったことあるのかな?」キョトン
紅莉栖「あ、いや…はじめまして。私の名前は牧瀬紅莉栖。よろしくね」
まゆり「椎名まゆりだよーえへへー♪ 紅莉栖ちゃんって呼んでいいかな?」
紅莉栖「もちろんよ、まゆりさん」
まゆり達とは、また一から始める。
かつん。かつん。何度通ったか分からないこの階段を、本当に少しずつ上っていく。
不意に、思い出す。
ひどく遠回りをした思い出を。あなたと私が紡いだ想い出を。
本当に、いろいろなことがあった。
途端に、驚くほどさまざまな悪い想像が頭の中を駆け巡り始める。悪趣味なシミュレーションが幾度も繰り返されていく…
大きく、深呼吸をする。
…心配するのはもう止めよう。心配したって今更どうにもなりはしない。だから、そもそも心配する必要なんて無いんだ。きっと大丈夫。
そう、私たちはきっと大丈夫。
笑顔でドアノブを指差すまゆりに、無言で頷き返した。
…ねぇ岡部。過去を紐解けばいろんな事柄が、私たちの前にあったと思う。
けれどこの先は素晴らしい日々だけが残っているような、そんな気がする。
それでも、本当の事は分からない。
それでも、あなたの事だけは近くに感じていたい。
そして、最後まで言えなかったこの言葉を今度こそ伝えよう。
……私も、岡部のことが大好き!!
心臓がピンポン球のように跳ね始める。世界が色鮮やかに再構成されていく。
見慣れたそのドアノブに、今、まゆりが手を伸ばす――
完
おわったああああああああああああああああああああああああああああああ
ここまで見てくださった方、本当にありがとうございました。
好きなものや好きな要素を可能な限り詰め込んでやりたい放題できたのでもう満足。
さるさん6回も食らったときはもう駄目かと思ったけど私は元気です。
ありがとう
Entry ⇒ 2012.06.23 | Category ⇒ シュタインズゲートSS | Comments (3) | Trackbacks (0)
紅莉栖「まゆりいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!!」 前編
岡部「まゆりいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!!」
の続編です。
このSSに興味を持たれた中でまだ前作をご覧になられてない方は先にそちらからご覧になることをおすすめします。
大した時間も掛からずに読み終わられることかと思いますです。
岡部〈18457回目〉「……」ズーン…
紅莉栖〈5050回目〉「……」ズーン…
鈴羽「店長、お疲れー」ガラッ ピシャッ
鈴羽「…ってあれ? 君たちこんなところで何してるのさ?」
岡部「……今日のパーティーの買い出しだ…」
鈴羽「買い出しって…もうそろそろパーティーが始まる時間じゃあ…」
紅莉栖「……ああ…もうそんな時間か…宅配のピザがあるからダイジョーブイ☆」ビシッ…
鈴羽「…二人ともホントに大丈夫? なんだか目がヘン…」ジー
鈴羽「…………」
鈴羽「……そうか。そういうことか…」
岡部「……鈴羽? どうかしたのか?」
鈴羽「…いや、何でもないよ」ニコッ
岡部「…ならいいが」
鈴羽「ところで岡部倫太郎、ちょっと携帯を貸して貰えないかな? あたしの携帯さっき充電が切れちゃってさ」
鈴羽「ありがとう」パシ
岡部「構わん」
鈴羽「…ありがとう二人とも。ごめんね」ニッコリ
岡部・紅莉栖「?」
鈴羽「じゃ、あたしは一足先にラボに行くよ」タタタタタ カンカンカンカン…
紅莉栖「…なんで私まで礼を言われたんだろう」
岡部「…さぁ」
カンカンカンカン タタタタタ…
岡部「ん? ああ、まゆりか。一体どうし…」
まゆり「オカリーン!!! 紅莉栖ちゃーん!!! 喧嘩なんてしちゃダメなのです!!!」タタタタタ
ダル「ポカリ派とアクエリ派で喧嘩だなんて大人気ないおー」ドタドタ
岡部「はあ? 一体何の話だ?」キョトン
まゆり「え? だってスズさんがね、オカリンと紅莉栖ちゃんが殴り合いの喧嘩してるから止めるの手伝って、って…」
ダル「まぁ僕はダカラ派な訳だが?」
まゆり「えー? そうなの?」
岡部「…なぁ、鈴羽はどこだ?」
ダル「どこって…あれ? 付いてきてたと思ったのに」キョロキョロ
紅莉栖「…まさか…」
岡部「…気付いたのか!!」ガタン!! タタタタタ…
紅莉栖「あ、待って!!」ガタン!! タタタタタ…
岡部「おい鈴羽!! 開けろッ!!」ガチャガチャ
岡部「…駄目だ…!! 施錠されてる…!!」ガチャガチャ
紅莉栖「カギは無いの!?」
岡部「机の上だ…!!」
紅莉栖「…阿万音さん!! 開けて!!」ドンドンドンドン
岡部「開けろよ鈴羽ああああああああああああ!!!!!」ドンドンドンドン
岡部「…それしか考えられん…! 俺の携帯を持って行ったのも多分それだ…!」ドンドンドンドン
紅莉栖「…岡部のDメールを打ち消すため…?」
岡部「正確にはあの日の俺の尾行を阻止するため、だ…! 俺にDメールを送ってタイムトラベルを成功させる気なんだよ…!」
紅莉栖「!? 放電現象…!!」
岡部「…なぁ、開けてくれよ鈴羽…。他にも方法はあるはずなんだ…」
ピロリロリン♪ ピロリロリン♪
紅莉栖「メール!? こんなときに誰が…!!」パカッ
紅莉栖「…知らないアドレス…?」
岡部「!! 鈴羽のアドレスだ! 貸してくれ!」ピッ
[From:****** さよなら]
紅莉栖「……!!」
岡部「……止めろ…止めてくれよ…」
岡部「鈴羽ああああああああああああああああああああああ!!!!!」
グ二ョォォォオォォォォォオォォオォォォオォン
岡部「……ッ」フラッ…
紅莉栖「……ッ」フラッ…
岡部(…リーディングシュタイナーが発動した…。ということはつまり、鈴羽のタイムトラベルが成功して世界線が変わったんだ)
岡部(…世界線が変わったということは世界が再構成されたということ)
岡部(つまり、ここは鈴羽とラボメンのみんなの思い出も紅莉栖の何度ものタイムリープもすべて無かったことにされた世界線なんだ)
岡部(…鈴羽、紅莉栖。すまない。ありがとう。俺はお前たちの意志を継ぐ)
岡部(無かったことにされた全ての想いも、俺だけは決して忘れない…!)グスッ
紅莉栖「平気…とは言えないけど大丈夫よ。岡部は?」
岡部「俺も同じようなものだ。リーディングシュタイナーが発動したのは久し振…」
岡部「……んっ?」
岡部(…待て待て待て待て。 ついつい今までのタイムリープ時と同じように接してしまったが…)
紅莉栖「ん? どうしたの岡…」
紅莉栖「……あれっ? …マシンを使ってないのにタイムリープした…?」
岡部「……」
紅莉栖「…いや違う、時間は巻き戻ってない…ということは…えーと…えー…」コンラン
岡部「……まさか…リーディングシュタイナー?」
紅莉栖「…え?」
岡部・紅莉栖「……何イイイイイィィィィッッッッ!!!??」ガーン!!
紅莉栖「それは分からないけど…少なくとも今まで繰り返してきたタイムリープが原因なのは間違いないと思う」
岡部「…それはそうだろうな。時間遡行やごく僅かな世界線移動を『主体的に』何度も経験したため、とでもいったところか?」
紅莉栖「そんな感じでしょうね…。タイムリープが私の体――恐らく脳でしょうけど、に何らかの変化…あるいは順応? をもたらしたとでも考えるのが妥当じゃないかしら」
岡部「リーディングシュタイナーに関わる何らかの部位に、か…。もしそうだとするとこの力は誰でも持ち得るということになるな」
紅莉栖「理論上はそうなんだと思う。リーディングシュタイナーが超能力の類ではない以上、何らかの物理的な観測は可能のはずよ」
紅莉栖「そうなるわね。ただリーディングシュタイナーを持たせるのはとても難しい事だろうし、そうじゃなくても絶対にしない方がいいと思う」
岡部「分かっている。危険が伴うかも知れないし、そもそも記憶の引き継ぎがあると変化後の世界線で何かと不自由するからな。この場合は記憶の上書きと言うべきか」
紅莉栖「ええ。…それより、今考えるべきなのは…」ゴクリ
岡部「…この世界線でまゆりがどうなるか、だな…」ゴクリ
~ラボ~
チクタクチクタク…
岡部「……」
チクタクチクタク…
紅莉栖「……」
チクタクチクタク…カチッ
岡部「…午前0時…8月14日だ…」
紅莉栖「…まゆりが…生きてる…」
岡部「…はぁー…」ズルズルー
紅莉栖「……」グスッ
岡部「…やっと、か…」
紅莉栖「……」グスグス
岡部「……」フゥー…
岡部「…永かったな…」
ドンチャンドンチャン
岡部「ハッハッハ!! いやぁーハッハッハ!! 良かったな助手よ!! いやぁ良かった!!」ギャハハハ
紅莉栖「いやぁホントホント!! 何日振りの志村どうぶつ園かしらゲハハハハ!!」ブハハハ
まゆり「二人ともテンション高いねー♪ ケーキ買ってきて良かったのです♪」
ダル「テンション高すぎんだろ常考…ってこいつら酒飲んでんじゃねーか!!」
紅莉栖「何よー? いいじゃない酒くらい! ほら、そのロウソクふーってしていいから! ふーって!」グハハハ
ダル「いやだってこれスピリタス…」
岡部「ハッハー!! 細かいことを気にするなダル!! 何せ今日はめでた
ラウンダーA「t
岡部「エルボー!!」ドゴッ!
ラウンダーA「ぐっ!?」ドサッ
岡部「袈裟蹴り!!」バキ!
ラウンダーB「ぶっ!?」ドサッ
岡部「アンクルホールドォォォ!!」ギリギリギリギリ
萌郁「いだだだだだだだだ!!!!」ジタバタ
紅莉栖「Five‐seveN!? いい銃じゃない!!」タタタタ パシッ
ダル「え? 何これ」
岡部「次来るぞッ!!」ギリギリギリギリ
紅莉栖「分かってるッ!!」チャキッ
紅莉栖「右足!!」ダァン!!
ラウンダーC「ぐあっ!?」ドサッ
紅莉栖「右腕!!」ダァン!!
ラウンダーD「ぎあっ!?」ドサッ
紅莉栖「左腕ッッッ!!」ダァン!!
ラウンダーE「ごあっ!?」ドサッ
萌郁「…ッ!! …ッ!!」ピクピク
紅莉栖「次が来る!! まゆり!! 橋田!! シャワールームに逃げなさい!!」
ダル「え? …あ、分かったお!!」タタタタ コンッ
ガシャーン!
ダル(あ、酒の瓶が…ってそんなの気にしてる場合じゃねぇ!!)タタタタ
まゆり「ケーキ持って行かなきゃ…」ヒョイッ
岡部「まゆり!! 早くしろッ!!」ギリギリギリギリ
まゆり「あ、うん! 分かっt」タタタタ
ズルッ ステーン
紅莉栖「あ、ロウソクの火が酒に…」
ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオ
岡部・紅莉栖「まゆりいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!!」
紅莉栖〈5928回目〉「岡部!! まゆりが階段から落ちた!!」
岡部〈19335回目〉「まゆりいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!!」
………
岡部〈20319回目〉「ああっ!? まゆりが酒を一気飲みした!!」
紅莉栖〈6912回目〉「まゆりいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!!」
………
紅莉栖〈7669回目〉「おぎゃああああ人工衛星が落ちてきたああああ!!!!」ドゴーン!!
岡部〈21076回目〉「まゆりいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!!」
カエデ「ひいいいいいいい危ないいいいいいいい!!!!」キキイイイイイー ドガァン!!
紅莉栖〈8622回目〉「まゆりいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!!」
………
まゆり「わぁー!! 万里の長城ってこんなに長いんだねーえへh」ツルッ ヒュウウウウウン
岡部〈23809回目〉「まゆりいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!!」
………
まゆり「わぁー!! スフィンクスってこんなに迫力があr」ガラガラー プチッ
紅莉栖〈11253回目〉「まゆりいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!!」
ドゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥン
岡部〈25092回目〉「……ッ」ズキンズキン
紅莉栖〈11685回目〉「……ッ」ズキンズキン
岡部「…クソッ!! 駄目だ!! 何も変わっていない!!」バンッ!
紅莉栖「……」
岡部「もう駅でまゆりを倒すしか…!!」
紅莉栖「落ち着きなさい岡部!! 勇気と無謀を混同しないで!! まゆりの死が1日伸びただけでもかなりの収穫なのよ!?」
岡部「…だが結局まゆりは助からなかった!!」
紅莉栖「…待って! そうだ、よく考えて岡部! 確かに今まゆりが助かる可能性はゼロに近いかも知れない。だけど阿万音さんの言葉を思い出して」
岡部「…鈴羽の言葉?」
紅莉栖「そう。阿万音さんは『IBN5100が手に入る世界線へ行けばまゆりと未来の世界が助かる』と言ってたわよね?」
岡部「ああ…」
岡部「…まさか…」
紅莉栖「ええ。これはあくまで今思い付いた仮説だけど…もしあのDメールの打ち消しが『まゆりが13日の午後8時に死ぬ可能性』まで打ち消していたのだとしたら」
紅莉栖「そして阿万音さんの言葉が、『IBN5100を手に入れる事』ではなく『IBN5100のある世界線へ近付く事』がカギなのだという意味だったのだとしたら」
岡部「…!! そうか!! だとしたらこれまでに送ったDメールを一つ一つ打ち消していけば…!!」
岡部「なるほど、つまりIBN5100それ自体には意味は無いということか! さすがだな紅莉栖!!」
紅莉栖「この仮説が間違っていなければ、だけどね。それよりもしその線で行くならまずどのDメールを打ち消すべきか、それを考えないと」
岡部「確実なのは新しいDメールから順番に消していくパターンだな」
紅莉栖「まぁそれが無難ね。となると一番新しいDメールを送ったのは…」
岡部「…フェイリス! フェイリス・ニャンニャンだ!」
~UPX前~
紅莉栖『――そういうわけで私はラボで24時間待機してるから』
岡部「分かった。じゃあ切るぞ」ピッ
岡部(…ダルによれば、フェイリスは今日UPXで雷ネットの大会の決勝戦に出場するらしい)
岡部(またいつでも電話レンジの操作ができるように紅莉栖にはラボに待機してもらっている)
岡部(あとはフェイリスを見つけてDメールの内容を知り、それを打ち消すだけなのだが…)
岡部(…人が多過ぎてフェイリスがどこに居るのか分からんぞ。フェイリスの執事に聞いても要領を得なかったし…)ウーム
岡部(…誰かに聞こう。あの黒い二人組でいいか)スタスタ
岡部「すみません。お聞きしたいことがあるのですが」
4℃「あん?」
岡部「雷ネットチャンピオンのフェイリスさんが今どちらにいらっしゃるかご存知ですか?」
4℃「……」スック
岡部(ん?)
スカッ
4℃「…あれ? 外れた?」
岡部「やれやれ、随分なご挨拶だな」ザッ…
4℃「へ?」
手下「…はああああッ!!? 4℃さんの頭突きを避けやがったッ!?」
岡部「お前は要らん。少し寝てろ」ヒュオンッ!! メッギイイイイッ!!!
4℃「ごっあああああああああああああ!!!??」ドサッ
手下「4℃さああああああああああああん!!!??」(踵落とし!?)ガーン!!
岡部「やり過ぎたか? …まぁいいか。おいそこの貴様」
手下「ひいっ!?」ビクッ
岡部「俺は別に喧嘩をしに来た訳では無い。ただフェイリスの居場所が知りたいだけなのだ」
手下「は、はひぃ…」ガクガク
手下「し、しりりりりりりり」ガクガクガクガク
フェイリス「あ、凶真ー!!」タタタタタ
岡部「フェイリス! 探したぞ!」
フェイリス「こんなところで何して…ってこいつらヴァイラルアタッカーズ!! 決勝戦でフェイリスに卑怯な手を使って勝ったとんでもない奴らなのニャ!!」ムスー
岡部「卑怯な手? そうなのか?」
手下「はひっ!? え、あの…はい…やりました…」シュン…
岡部「まったく情けない奴らだな…。今からでも遅くない、運営に謝罪しに行くぞ。俺も一緒に謝ってやるから」
手下「う…はい…ごめんなさい…」シューン…
4℃「」ピクピク
フェイリス「――すごいニャ凶真!! フェイリスは繰り上げ優勝だしヴァイラルは改心したしでもう最高ニャーン!!」ダキッ!!
岡部「んなっ!? ままま待つのだフェイリス!! 一旦離れろ!!」グイッ
フェイリス「えー? 凶真のいじわるー」ブスー
岡部「そ、そうだ。そもそも今日はお前に訊きたいことがあってここに来たのだった」
フェイリス「聞きたいこと? 一体何なのニャ?」
岡部「…お前は自分が送ったDメールの内容を覚えているか?」
フェイリス「ニャニャ? Dメールって何かニャ?」
岡部(…やはり覚えていない、か)
岡部「詳しい説明は後でする。腹が減っただろう? とりあえず飯でも食いに行こう」
~ラーメン屋前~
フェイリス「凶真! 凶真! ここで食べたいニャ!」
岡部「ここか? …懐かしいな。昔はここにメイクイーンニャンニャンがあったのだが…」シミジミ
フェイリス「ニャニャ? 何で凶真がメイクイーンの事知ってるのニャ?」キョトン
岡部「な!? お前メイクイーンを知っているのか!?」
フェイリス「知ってるも何も、メイクイーンはフェイリスがここに作ろうとしてたメイドカフェの名前なのニャ。結局パパに反対されて…無かった…ことに…」フラッ…
岡部「!? 大丈夫かフェイリス!!」タタタタ
フェイリス「だ…大丈夫…」ガクンッ
フェイリス(あ…膝が…)
キュイイイイイイイイイイイイイイ
『フェリスちゃんトゥットルー♪』
『凶真、時間を川の流れに例えるのはおかしいのニャ』
『G・B・A・C・K!! G-BACK!!』
『みんなに幸せを届けるネコ耳メイドの使命ニャ!』
『過去にメールを送れるマシンを作ったお。主に僕が』
『凶真、できればDメールの中身は秘密にしときたいのニャ――』
イイイイイイイイイイイイイイ…
岡部「…フェイリス?」
フェイリス「…思い出した…。全部、全部思い出した…!」
~フェイリス宅~
紅莉栖『――準備完了。いつでも送れるわよ』バチバチバチバチ
岡部「…本当にいいんだな、留未穂」
フェイリス「…うん。マユシィだって大事な友達だもん、助けたいよ」
岡部「……」
フェイリス「ホントはね、パパが居ない世界なんて嫌だよ。だけど私ももう夢から醒めなきゃ。パパが生きてるこの世界は仮初めに過ぎないんだ」グスッ
岡部「フェイリス…」
フェイリス「…そのメールを送って。そしてマユシィを、世界を救って」ポロポロ
岡部「…ああ」ピッ
フェイリス「…ねぇ。世界線が変わっても、私は凶真のこと覚えていられるのかな」ポロポロ
岡部「…ああ。きっと覚えてるさ」ウルッ
フェイリス「…嘘付き。ありがとう、さよなら。私の王子様――」ニコッ
グ二ョォォォオォォォォォオォォオォォォオォン
~ラボ~
岡部「……ッ」フラッ
岡部(…リーディングシュタイナーが発動した…)
岡部「……」フゥー…
紅莉栖「岡部、お疲れ様」スタスタ
岡部「紅莉栖か。フェイリスは?」
紅莉栖「隣でまゆりと話してるわよ。さっき確認してみたけど…やっぱり前の世界線の記憶は無くなってるみたいね」
岡部「そうか…」
紅莉栖「…さて、気を取り直しましょう」
岡部「…ああ、だな。分かった」
岡部「とりあえずしばらくまゆりの様子を見てみるか?」
紅莉栖「確かにデッドラインの見極めはするべきだけど…その前に、さらに生存率を押し上げる方法も考えておきたい」
岡部「生存率を上げる方法、か。一度試して失敗したものはやはり駄目なんだろうな…」
紅莉栖「確かに信頼はできないわね。とはいえ他に方法はあるのかしら? たいていの場所には逃げてみたし…」ウーン…
岡部「この際誰かに相談でもするか? ダルなんか適任だろう」
紅莉栖「確かにあの妄想力は目を見張るものがあるけど…『二次元の世界に逃げれば万事解決だお!』とか言い出しそうね」フフ
紅莉栖「…岡部?」
岡部「…なぜ今まで考え付かなかったんだ…!!」
紅莉栖「…どうしたの岡部? まさか『絵の中に入るガジェットを作るのだーフゥーハハハー!!』とか言い出す気じゃないでしょうね?」ヤレヤレ
岡部「そうではない! いいか紅莉栖、よく考えてみろ。今まで俺たちが行った逃亡先はすべて東西南北右左に縛られた二次元方向にあるものだけだったんだ」
紅莉栖「…まさか…!!」
紅莉栖「…正気?」
岡部「正気だ!! さぁ、宇宙に逃げるぞ紅莉栖ッ!!」
紅莉栖「……ちょ、待ちなさいよ!! さすがにそれは突飛過ぎるというか…まずお金が足りない!!」
岡部「金は株でいくらでも作れる」
紅莉栖「…! でも、宇宙へ行く技術も知識も…」
岡部「タイムリープして勉強と研究を繰り返せばいい。現に俺はそうしてきた。…ま、お前の研究者魂が既に枯れ果ててしまったというのなら話は別だがな」
紅莉栖「」ピクッ
岡部「お前が反対なら仕方無い。考え直すとしよう」
紅莉栖「…は。はは。ははははははッ!!! 言ってくれるじゃない岡部ッ!!」ダンッ!!
岡部「おや? お前は地球外逃亡に反対なのだろう?」ニヤニヤ
紅莉栖「大賛成に決まってる!! 私は研究大好き女!! それは死んでも変わらないッ!!!」
岡部「うむ!! それでこそ紅莉栖だ!!」
紅莉栖〈14028回目〉「これ見て岡部! 太陽電池が完成した! エネルギー変換効率が70%を超してる…って何それ?」
岡部〈27435回目〉「ラジコンヘリだ」
………
紅莉栖〈15714回目〉「ちょっと見て岡部! 新型エンジンが完成した! ガソリン1ℓで軽自動車が300km走る…って何それ?」
岡部〈29121回目〉「小型飛行機だ」
………
紅莉栖〈18357回目〉「ねぇ見て岡部! 熱防護システムが完成した! 耐熱温度は2500℃オーバー…って何それ?」
岡部〈31764回目〉「人工衛星だ」
紅莉栖〈19625回目〉「ほら見て岡部! 宇宙服が完成した! 重量を65kgに抑えることに成功…って何それ?」
岡部〈33032回目〉「宇宙船だ」
………
紅莉栖〈22003回目〉「あれ見て岡部! 地中船が完成した! 地上からメソスフェアまで自由に移動可能…って何それ?」
岡部〈35410回目〉「潜水艦だ」
………
紅莉栖〈24566回目〉「見て見て岡部! 転送装置(ワープマシン)が完成した! 玄関開けたら2分でSERN…って何それ?」
岡部〈37973回目〉「反物質だ」
ドゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥン
岡部〈40407回目〉「……ッ」ズキンズキン
紅莉栖〈27000回目〉「……ッ」ズキンズキン
岡部「…ふは。ふはは。フゥーハハハ!! 今度こそ完璧だ!! ついに未来ガジェット1349号『ぐんぐんワープくん』の設計が完成したぞ!!!」フハハハ
紅莉栖「何かとトラブルに見舞われそうな名前だな。とにかくあとは材料を集めて組み立てをするだけね! 設計は図に書き起こしたほうがいいかしら?」
岡部「必要無い!! すべて頭に入っている!!」
紅莉栖「それなら大丈夫ね!! 宇宙空間だけでなく深海や地中への進行をも可能にした脅威の未来ガジェット!! 燃費も異様に良いし完成が楽しみだわ!!」フハハハ
岡部「その機能もさることながら、最も恐ろしいのは材料さえあれば2日足らずで完成してしまう所だな」ウンウン
紅莉栖「飛行機能がある上にワープ機能で移動時間の短縮もできるしね。まぁ今はまだ一度に4万km弱の距離しかワープできないけど」
岡部「二重扉なので安全面でも問題無し! 真空や高温、高水圧にも難無く耐えられる宇宙服も搭載! さぁ紅莉栖!! さっさとマシンを完成させてまゆりを乗せるぞ!!」
まゆり「あー! 三葉虫の化石だー! ちょっと拾ってくるねオカリン!」パカッ パカッ
ガシッ グイグイー ガラガラー プチッ
岡部〈43221回目〉「まゆりいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!!」
………
まゆり「マリアナ海溝って深いんだねー♪ ちょっと水着でひと泳ぎしてくるよーえへへー♪」パカッ パカッ
クシャリ
紅莉栖〈32685回目〉「まゆりいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!!」
………
まゆり「わー見て見て! でっかいサメがいるよー! ちょっと触ってくr」パカッ パカッ
ガブリ
岡部〈49228回目〉「まゆりいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!!」
まゆり「宇宙遊泳って楽しいねー♪ あ! 見て紅莉栖ちゃん! おっきなデブリがこっちに飛んd」フヨフヨ
ドゴーン
紅莉栖〈39147回目〉「まゆりいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!!」
………
まゆり「わー! この宇宙服って小型ジェットが付いてるんだー♪ じゃあ太陽捕まえてくるねオカリン!」ゴオオオオオー…
ジュウウウウウウウウウウ
岡部〈55714回目〉「まゆりいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!!」
………
まゆり「わぁー!! 見て見て!! 宇宙ひもがあるよ紅莉栖ちゃん! ヘルメットが邪魔ではっきりと見えないy」ヌギヌギ
ウックルシッ
紅莉栖〈45319回目〉「まゆりいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!!」
ドゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥン
岡部〈61399回目〉「はぁッ…はぁッ…」
紅莉栖〈47992回目〉「はぁッ…はぁッ…」
岡部「くっそ!! 何故だ!! 何故助からない!!」
紅莉栖「『ぐんぐんワープくん』に欠陥は無いはず。…もう次のDメールを消すしかないみたいね」
~メイクイーンニャンニャン~
フェイリス「こちらアイスコーヒーですニャご主人様!」コトン
岡部「……まさかこんな展開になるとはな。助けてくれ紅莉栖…」グデー
紅莉栖「漆原さんのDメールの内容は分かってるからあとはポケベルの番号を調べるだけの簡単なお仕事だと思ったんだけど…」チューチュー
岡部「まさかルカ子とデートをすることになるとは思わなかった…」
紅莉栖「たったの数日間でしょ? 楽しませてあげなさいよ」チューチュー
岡部「とは言っても紅莉栖、俺にはそういう経験が全くないのだ。一体何をすればいいのか…」ウーン…
紅莉栖「自信付けたいなら今からおフロ屋さんに行って童貞卒業してきたら?」チューチュー ジュルルー…
岡部「そんな怖いことできるか!! コーヒーはブラックでも発想はヴァージンだな紅莉栖!!」
紅莉栖「ぶッ!? …何よ処女で悪い!? だからわざわざこんなデートマニュアル本まで買ってきたんでしょ!!」バサッ!
岡部「…なんだか悲しくなってきたな。醜い争いはやめよう紅莉栖…」ドヨーン…
紅莉栖「…ええ…」ドヨーン…
紅莉栖「さぁ…とりあえず平積みしてあったのを買ってきたんだけど」ペラペラペラペラ
岡部・紅莉栖「……」ペラペラペラペラ ヨミヨミ
岡部・紅莉栖「…これは無いな…」パタン…
紅莉栖「もう行き当たりばったりでいいじゃない。今のあんたに怖いものなんて無いでしょ?」
岡部「注射は死ぬほど怖いぞ」
紅莉栖「そういうこと言ってるんじゃないっつーの! ったく、こうなったら私が遠くからずっと見ておきましょうか? 何かあったら随時サポートするから」
岡部「そうしてくれると助かるが…さすがにバレないか?」
紅莉栖「その点は心配しないで! この未来ガジェット1350号『ピーピング・シタイナー』を使えば3km離れた地点までなら手に取るように分かるのよ!」ババーン
岡部「いつの間にそんなガラクタ双眼鏡を作ったのだ? しかし俺もお前も『ぐんぐんワープくん』の経験のおかげでやたら製作速度が上がったな」
紅莉栖「ガラクタ言うな! ま、こんな物があってもまずは岡部が頑張らなきゃ意味無いんですけどねー」
岡部「…結局俺はどうすればいいんだ…」ハァー…
岡部「え? ああ、一応な」
フェイリス「ニャーン!? 相手は誰なのニャ!? もしかしてマユシィ!? それともこの子だったりするのかニャ!?」ワクワク
紅莉栖「い、いや私じゃないわよ!? まゆりの友達!」
フェイリス「ほほう…女子高生に手を出すとはさすが凶真ニャ…!! それで何をそんなに悩んでるのかニャン?」
岡部「何をすれば楽しませてやれるのかが全く分からないのだ…」
フェイリス「そんなの簡単ニャ! 凶真はただ凶真らしくしていればいいのニャ!」
岡部「俺らしく、か?」
紅莉栖「…そうね。変に考えてもドツボに嵌まるだけかも知れない。あの子が惚れたのは普段の岡部なんだもの。デートでも普段の岡部のままでいればいいのよ」
フェイリス「その通り! とっとと未成年淫行でとっ捕まってくるのニャ凶真ー!」
岡部「なるほど! 普段の俺のままでいいのだな! 助言感謝するぞフェイリス!」
岡部「ふははは立ち去れチンピラ共めが!!」シュババババ
チンピラ共「ぐあああああああああああああ!!!!」ドサドサドサッ
ルカ子「すごいです岡部さん!」キラキラ
………
女「彼氏が車に轢かれた!! 誰か助けてください!!」ビエーン!!
岡部「不用意に動かすな! 俺が応急処置をするからお前は救急車を呼べ! ルカ子は今すぐハサミとライターを買ってくるんだ!」
ルカ子「すごいです岡部さん!!」キラキラ
岡部「ふははは立ち去れヤー公共めが!!」シュババババ
ヤー公共「ぐああああああああああああ!!!!」ドサドサドサッ
ルカ子「すごいです岡部さん!!!」キラキラキラキラキラ
………
フランス人「Parce que j'ai faim, veuillez l'aider.」ペラペラ
岡部「Mangez une pizza; un adipeux.」ペラペラ
ルカ子「すごいです岡部さん!!!!」キラキラキラキラキラ
岡部「ふははは立ち去れポリ公共めが!!」シュババババ
ポリ公共「ぐあああああああああああああ!!!!」ドサドサドサッ
ルカ子「すごいです岡部さん!!!!!」キラキラキラキラキラキラ
………
岡部「――以上の証拠から奥さん、犯人はあなたしか考えられないんですよ!!」ビシィッ!
奥さん「……ふふ。やっぱり悪いことはできないわね…」ガクリ…
ルカ子「すごいです岡部さん!!!!!!」キラキラキラキラキラキラ
~柳林神社~
ルカ子「ボク…本当は男の子に戻りたくなんか無いです…男の子に戻ったら…この気持ちを封印しないといけなくなるから…」ポロポロ
岡部「……」
ルカ子「…ねぇ岡部さん。ボクが男の子になっても覚えていてくれますか?」ポロポロ
岡部「…ああ」
ルカ子「女の子だったボクのこと、覚えていてくれますか?」ポロポロ
岡部「…ああ」ウルッ
ルカ子「ありがとうございます。…さよなら、ボクの好きな人――」ピッ
グ二ョォォォオォォォォォオォォオォォォオォン
~ラボ~
紅莉栖「――お疲れ様。結局私がサポートするまでも無かったわね」
岡部「…ああ、だな」
紅莉栖「今度こそまゆりが助かるといいんだけど…」
岡部「…念には念を入れよう。まだ生存率を上げる方法はあるはずだ」
紅莉栖「…2次元方向への逃亡は失敗で、3次元方向への逃亡もやはり失敗だった。となると残されたのは…」
岡部「4次元方向への逃亡」
紅莉栖「……『タイムリープマシン(改)』と『ぐんぐんワープくん』の技術を応用・改良すれば不可能ではなさそうね」
岡部「だな! 時間を移動するマシンを作るぞ紅莉栖!!」
………
岡部〈80647回目〉「…ふは。ふははははは。フゥーハハハハ!! 遂に完成したぞ!! 未来ガジェット1777号『轢き逃げ霊柩車(イビルデロリアン)』!!」
紅莉栖〈67240回目〉「もう少し名前は何とかならんかったのか? まぁとにかく完成ね!」
岡部「過去方向へはもちろん未来方向への跳躍も可能となった究極の未来ガジェット!! 」
紅莉栖「さらにワープくんの全機能を改良して付け加えたことで跳躍後の世界でも自由な移動が可能になっている!! …恐ろしい出来ね」
岡部「これにまゆりを乗せて逃げれば…ミッションコンプリートだ!!」
まゆり「わぁー! プテラノドンだよー♪ あ、こっちに来r」
ガシッ バッサバッサ アレー?
岡部〈84375回目〉「まゆりいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!!」
………
まゆり「見て見て紅莉栖ちゃん! カルタゴ軍もローマ軍もかっこいいね! さっきからすごい数の矢だよーえへh」
ヒューン サクッ
紅莉栖〈74797回目〉「まゆりいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!!」
………
まゆり「ねぇねぇオカリン! あそこで戦ってるおじさんって張飛さんじゃないかな? あ、こっちに来t」
ウオオオオオオ!! スパーン
岡部〈92921回目〉「まゆりいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!!」
まゆり「あー見て見て! 十字軍がいっぱいいるよ! すごいねーえへh」
ドドドドドドド ブスリ
紅莉栖〈82928回目〉「まゆりいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!!」
………
まゆり「ほら見てオカリン! 五稜郭で戦争してるよ! 土方さんどこにいるのかなー!?」キョロキョロ
パァン ドサッ
岡部〈100629回目〉「まゆりいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!!」
………
まゆり「わー見て紅莉栖ちゃん! ライト兄弟が飛行機を飛ばしてるよ! あ、こっちに来t」
ヒューン… ドガァァァン プチッ
紅莉栖〈91430回目〉「まゆりいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!!」
まゆり「レジスタンス? よく分からないけど秘密基地みたいでカッコいいね! それにしてもあのおじさんダルくんにちょっと似てr」
ラウンダーニココガバレタゾー!! ミサイルガクルゾニゲロー!! チュドオオオオオオオン!!
岡部〈108026回目〉「まゆりいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!!」
………
まゆり「あーすごーい!! 青い宇宙人がテレビで歌ってるよ!! 車も空を飛んでてびっくりなのでs」
キキイイイイイイー!! ドガアアアアン!!
紅莉栖〈99078回目〉「まゆりいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!!」
………
まゆり「わぁー!! 地球が大爆発したよ!! 星にも寿命ってあるんだねー♪ 暑さでだんだん宇宙服が蒸れてきたよーえへh」ヌギヌギ
ウックルシッ
岡部〈116703回目〉「まゆりいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!!」
ドゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥン
岡部〈119999回目〉「はぁーッ…はぁーッ…」
紅莉栖〈106592回目〉「はぁーッ…はぁーッ…」
岡部「…クッソ!! 何でだよ!! 何で何度繰り返しても助からないんだ!!」ダンッ!!
紅莉栖「気持ちは分かるけど落ち着いて岡部。これからどうするかを考えないと」
岡部「…少なくとも時間を超えるのは無駄なようだな」
紅莉栖「そうね。たとえマシンでデッドラインの時間を越えても、結局しばらくするとまゆりは死んでしまった」
岡部「…何故だ? デッドラインの時刻さえ回避すればいいのではなかったのか…?」
紅莉栖「…それは『所属』の問題なんじゃないかしら」
岡部「『所属』?」
岡部「ああ。当然だろう」
紅莉栖「これを『この世界線の時間に所属している状態』と捉えたとしたら。例えまゆりが過去や未来へ行っても、まゆりの中に『今この時間』が生き続けているとしたら」
岡部「…なるほど。『まゆりの中の時間』が一定の時刻に達した時、『その時居る時間』に関わらずまゆりは死んでしまうということか」
紅莉栖「そういうこと。イメージ的には体内時計…いや、いっそのこと時限爆弾のようなものをイメージした方が分かり易いかも知れない」
岡部「過去や未来への逃亡はまゆりの生存率を上げる上では何の意味も為さない、ということか。…生存率を上昇させるためには」
紅莉栖「最後のDメールを打ち消すしかない」
岡部「…桐生萌郁。かつて俺が閃光の指圧師(シャイニングフィンガー)と呼んだ女のDメール…!」
~萌郁のアパート前~
岡部「――じ、自殺?」
警官「そう自殺。アパートの自室で首吊ってたんだ。ちなみに事件性は皆無だよ」
岡部「…そう、ですか」
警官「遺体は総合病院の方にあるから、良かったら会いに行ってあげてね」
岡部「……」
~ラボ~
岡部〈120000回目〉「――と言う訳だ」カタカタカタカタ
紅莉栖〈106593回目〉「帰ってくるなり『タイムリープするぞ!』なんて言い出すから何事かと思ったら…なるほどね。そういうことはタイムリープする前に言いなさいよ」
岡部「先にある程度前準備をしておこうと思ったのでな」カタカタカタカタ
紅莉栖「前準備? さっきからやってるネットサーフィンのこと?」
岡部「ネットサーフィンでは無い…っとやっと見つけたぞ。紅莉栖、お前これ扱えるか?」
紅莉栖「どれどれ……ってはぁあ!? 一体何するつもりなのよ岡部!? よく見たらここ思いっきり違法サイトじゃない!!」
岡部「ただの通販サイトだ。そんなことより俺はこれを扱えるかと聞いているのだ紅莉栖よ」
紅莉栖「まぁ扱えないことは無いけど…ホントに何する気なの?」
岡部「扱えるのなら問題無い!! では只今よりッ!! 『地這う世界蛇』作戦(オペレーション・ヨルムンガンド)の開始を宣言するッ!!」ババーン
紅莉栖「いやちょっ待っ…ちゃんと説明しろ!!」
紅莉栖「なるほどね。…別に岡部だけでもなんとかなるんじゃない?」
岡部「念には念を入れておきたいのでな。下衆な考えかも知れないが、最後の手段として脅迫という方法も用意しておくべきだ」
紅莉栖「…それで? 私はどうすればいいの?」
岡部「明日の朝3時過ぎ、渋谷のとある雑居ビルに行って売人からこれを受け取ってもらう。金は既に振り込んであるから大丈夫だ」
紅莉栖「でもこれを一人で運ぶのはちょっと…」
岡部「そう言うと思ってダルとフェイリスの協力を取り付けておいた」
紅莉栖「なっ…橋田とフェイリスさんまで巻き込むの!? 冗談でしょ!?」
紅莉栖「……」
岡部「とにかくその後はただこれを持ってラボへ帰ってくればいい。そして、完全に日が落ちてから本格的な行動を開始する」
紅莉栖「日が落ちたらどこに行けばいいんだ?」
岡部「その辺りはお前に任せる」
紅莉栖「…随分とクレイジーな保険ね。構わないけど」
岡部「…出来ればお前がこれを使うことなく終わって欲しいんだがな」
~萌郁のアパート前~
岡部「――日が落ちたか。…ではこれより作戦行動を開始する!! 聞こえるかダル!!」
ダル『携帯だから聞こえて当然だお。んで、結局僕はここでエロゲしてればいいの?』
岡部「そうだ。ただし携帯は繋ぎっぱなしにしておいてくれ。俺が指示を出したらすぐにDメールを送る準備をするんだぞ」
ダル『え? そしたらエロゲのボイス聞けないじゃん。@ちゃんしながら待っとくお』
岡部「何でもいい。とにかく頼んだぞ」
萌郁「FB…FB…なんで返信してくれないの…?」
ガチャッ!!
岡部「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッッッ!!!!!」ダダダダダ…
萌郁「Fび
岡部「男女平等ドロップキック!!!!」ゴッギイイイイイィィィィ!!!
萌郁「めっごああああああああああああああああ!!!??」メギョッ ドサッ
岡部(…あった!! 萌郁の携帯!!)
岡部「ダル!! 今からDメールを送る!! 準備しろ!!」
ダル『早っ! まぁ了解』
岡部(携帯電話は買い替えるな…っと。文面はこんな感じでいいか)カチカチカチカチ
ダル『放電現象始まったおー』バチバチバチバチ
岡部「これで…終わりだ!!」ピッ
萌郁「」ピクピク
岡部「……」
岡部「…あれ? なぁダル、本当にマシンを起動したのか?」
ダル『してたって。電話越しにバチバチ聞こえたっしょ?』
岡部「…何故だ!? 何故リーディングシュタイナーが発動しない!?」
ダル『リーディングシュタイナーってあれ? なんかオカリンだけ世界の変化が分かるみたいなやつだっけ?』
岡部「そうだ!! 萌郁の携帯の機種変を止めるメールを送ったから世界線が変わるはずなんだ!! それなのに…」ハッ
岡部「…いや待て違うッ!! そうか、この携帯は…!! こいつ機種変なんかしてないんだ!!」
ダル『え? どゆこと?』
岡部「ふざけやがって!! こいつ俺たちの目を盗んでメールの内容を変えてやがったんだ!!」
ダル『ちょ、なんか知らんけど落ち着けってオカリン。携帯見てホントのメールの内容を調べれば済む話っしょ?』
岡部「…そうだな。少し取り乱した」
岡部「分かった。…それにしてもホントのDメール、か…。どこにあるんだ…」カチッ カチカチカチカチ
岡部「…あった!! これか!! …なるほどな。こいつDメールで先回りしてIBN5100を盗んでいたのか…」
岡部「…ダル!! マシンを起動しろ!!」
ダル『…オッケー。もう送れるぜオカリン』バチバチバチバチ
岡部「神社には行くな、それは罠だ…っと。送信!」ピッ
岡部「……」
ダル『……』
岡部「……」
ダル『…どう?』
岡部「…駄目だ」
岡部(…いや違う。それなら初めのDメールを送っても過去は変わらなかったはずだ。…何かあるはずなんだ、何か…)
岡部(…携帯からこれ以上の情報を引き出すのは無理そうだな。どこを見ても『FB』とのどうでもいいメールしか…)ピッピッピッピッ…
岡部(…いや、待てよ…?)
萌郁「う…」
岡部「……起きたか萌郁。空気が悪いな、窓を開けるぞ」ガラッ
萌郁「…携帯!! 携帯返して!!」
岡部「ほら」ブンッ
萌郁「ッ!!」バッ パシッ
萌郁「…え? え…? …メールが…消えてる…!!」カチカチカチカチ
岡部「ああ。メールデータならこのマイクロSDの中だ」スッ
萌郁「!! 返してッ!!」
岡部「構わん。ただし条件がある」
萌郁「条件…?」
萌郁「…!?」
岡部「言わなければこのデータは破壊する」
萌郁「!? 止めてッ!!」
岡部(…やはり、か。こいつが真に依存しているのは携帯電話ではなく、FB)
岡部(つまりFBの居場所を突き止めて携帯を奪い、その携帯からこいつにDメールを送れば…)
萌郁「…言、えない…!」
岡部「…ではカードはどうするのだ?」
萌郁「…返して貰う…!」
岡部「どうやって?」
岡部(…ブローニングハイパワー。部屋に銃を隠していたか。まぁ想定済みだ)
萌郁「返してくれないなら、撃つ…!!」グッ…
岡部「萌郁、銃を構えるときは両腕を真っ直ぐ伸ばせ。反動で顔の骨が砕けるぞ」
萌郁「…返せッ…!!」
岡部「…やれやれだな。まるで聞いていない」
萌郁「おかべえええええええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!」グッ
ガァァァン!!
萌郁「…づあッ!?」(な――!? 銃が砕け――)
萌郁(…!! 窓が開いて…まさか…!!)バッ
ガァァァン!!
萌郁「ッ゛!? …あ゛ッ…」ガクンッ…
岡部「ハートショット。相変わらず見事な腕前だな紅莉栖」
フェイリス「ニャオーン! よく見える双眼鏡だニャ!」
紅莉栖「寝転がると砂が付いて嫌ね。フェイリスさんチェック」
フェイリス「ハートショット、ヒット。膝から崩れ落ち一時止まる」
紅莉栖「オーケー」
フェイリス「見事な狙撃テク…待って。左手に持っていた携帯が緩衝に。軽度の負傷、貫通せず」
紅莉栖「オーケー」チャキッ
フェイリス「ヘッドショット、エイム」
紅莉栖「ファイア」カキンッ
ダーン!!
キンッ コンッ コロロロー…
萌郁「……!!」ガクガク
ガギィン!! パリンッ
萌郁「ッ!! 眼鏡が…!!」ガクガクガクガク
岡部「今のは最終警告だ。情報を寄越さないなら次は当てる。…言え」
萌郁「…ッ…!!」ガクガクガクガク
岡部「言えッッ!!!」
萌郁「…わ、私にも、分からない…!」ガクガクガクガク
岡部「…どういうことだ。分かるように話せ。まずFBとは何者だ?」
萌郁「…え、FBは…私のお母さん…」ガクガクガクガク
岡部「――なるほどな。つまりお前はFBに会った事はおろか、電話で話した事すら無いという訳か」
萌郁「……」コクン
岡部「…なぜメール以外のコンタクトを取ろうとしないんだ?」
萌郁「…会ったら、幻滅されちゃう…」
岡部「……分かった。もういいぞ。これは返す」ポイッ
萌郁「!」バッ パシッ
萌郁「…こんなに、要らない」
岡部「いいから取っておけ。さっきも話したことだが…お前はあと数日も経たないうちに死ぬ。これは誰にも止められないこの世界線での決定事項だ」
萌郁「……」
岡部「その金で最後に好きなことをするといい」
萌郁「…岡部君は、これから何をするの…?」
岡部「FBを探す。時間はいくらでもあるからな。ゼロから手掛かりを見つけ出す」
萌郁「……」
ダル『おうオカリン。次は何?』
岡部「これで『地這う世界蛇』作戦は終了だ。もう休んでいいぞ」
ダル『分かったお。…つーか結局あのフルメタルジャケット撃ったん?』
岡部「三発だけな。もちろん人死にや重傷者は出してない」
ダル『出してたらドン引きじゃ済まないだろ常考!!』
岡部「そうだ、紅莉栖たちにも作戦終了を伝えておいてくれ微笑みダル」
ダル『あ? とにかくオーキードーキー』
岡部「今日はお前のおかげで助かった。では切るぞ」プツッ
~ラボ~
岡部「――という訳だ」
紅莉栖「なるほどね。それで見張りはいつ始めるの?」
岡部「もちろん今からだ」
紅莉栖「…『シタイナー』使う?」
岡部「いや、必要無い。ロッカーのすぐそばで張り込みをする」
紅莉栖「オーケー。私は何をすればいい?」
岡部「とりあえずはラボに待機だ。もしFBの携帯を手に入れたらDメールの送信を、携帯の入手に失敗したらタイムリープをするからそのつもりでいてくれ」
岡部(…もう朝か)
岡部(昨日の夜からずっと張り込みをしていたが一向に現れる気配が無い)
岡部(ロッカーにIBN5100が入っているのは確かなようなのだが…)
ガサッ
岡部「ッ!!」バッ
萌郁「!?」ビクッ
岡部「…なんだ萌郁か。何をしている?」
岡部「ん? …牛乳とあんパンか。差し入れか?」
萌郁「……」コクン
岡部「…そうか。有り難く貰っておこう」ガサッ
萌郁「…あの、岡部君」
岡部「何だ」
萌郁「…私も、手伝う。最期にFBに会いたい」
岡部「…邪魔だけはするなよ」
岡部「……来ないな」
萌郁「……」コクン
岡部「なぁ萌郁、もう取りに来ないなんてことは…」
ガラガラガラガラー
岡部(!! 誰か来た!!)
ガチャガチャ ガタン ガラガラー
岡部(IBNを持って行った…! あれがFBか!? …いや、萌郁はFBは女だと言っていたな)
萌郁「岡部君…!」
岡部「ああ! とにかくあの男を尾行するぞ!」ダッ
~電車の中~
岡部(あいつ、電車に乗ってどこまで行く気だ?)
ガコー
萌郁「…あ、降りる」
岡部「ああ、俺たちも降り…」
岡部(…いや待て。歩き方が微妙に変わった? まるで体が軽くなったような…)
岡部「…! …降りるな萌郁。IBNはまた電車の中だ」
萌郁「え?」
岡部「恐らく尾行を警戒して誰かに受け渡しを…」
萌郁「…あ、あの人」
岡部「…あった。次の運び手はあの女だな…!」
~秋葉原駅前~
岡部(…どういうことだ? 結局この駅に戻ってきたぞ…)
萌郁「…見て。あの人、白い車に近付いてる」
岡部(…ん? あの車どこかで…)
萌郁「…誰か車から出てくる」
ガチャッ
岡部「な――」
萌郁「?」
岡部(ミスターブラウン!? どういうことだ!? まさかSERNと繋がっているとでも言うのか!?)
プルルルルル… ガチャッ
紅莉栖『はろー』
岡部「紅莉栖!! 『轢き逃げ霊柩車』で今すぐ駅前に来てくれ!!」
紅莉栖『猶予は?』
岡部「30秒!」
紅莉栖『待ってなさい』
キキイイイィィィィー バタン
紅莉栖「お待たせ」
岡部「乗るぞ萌郁」
萌郁「……」ギッ
岡部「あの白い車を少し距離を開けて追ってくれ」ギッ バタン
紅莉栖「了解。ところで岡部、あれ店長の車でしょ? 一体何が起きてるのか説明してくれる?」
岡部「ああ…」
ブロロロロー…
~天王寺家前~
岡部「――結局IBN5100はこの家の前でラウンダーに引き渡され、そのまま飛行機でフランスに送られた」
紅莉栖「…そしてFBの正体は分からず仕舞い、か。困ったわね」
萌郁「……」
紅莉栖「IBNが着くころに『轢き逃げ霊柩車』でフランスに跳ぶ?」
岡部「…それは後からだ。とりあえずミスターブラウンの所へ行こう。少しでもいい、情報を引き出すんだ」
岡部「――今日俺たちがここへ来たのはお聞きしたいことがあったからです」
天王寺「なんだ? 聞きたいことって」
岡部「…先刻あなたはこの家の前で、ラウンダーの連中にIBN5100の引き渡しをしましたよね?」
天王寺「!! ……」
岡部「…まぁいい、単刀直入に聞きましょう。あなたは、FBという人物について何かご存知ですか?」
天王寺「……」
萌郁「……」
紅莉栖「……」
天王寺「……」フゥー…
岡部「…!!」
萌郁「…な…んで…!? そのコードネームは、私とFBしか…」
天王寺「…フェルディナントブラウン、って知ってるか?」
岡部「…カール・フェルディナント・ブラウン。ブラウン管の発明者。…そういうことか…!」
萌郁(銃!?)
紅莉栖「蹴って!!」
岡部「らあッ!!」バシィン!! ゴトンッ
天王寺「!? ってえな…」ザッ
紅莉栖「っの…!」ダッ
岡部「バカ待て――!!」
天王寺「遅ぇよ!」ガッ!
紅莉栖「く――」(襟首を掴まれ――)
紅莉栖「ッぶ!?」(叩き付け…!! 鼻が…ッ!!)メギッ…
岡部(襟首を下に引っ張って顔を床に叩き付ける、か。初めて見たぞ!)タタタタッ
天王寺「寝とけ」ヒュッ…
岡部(踏み付け!!)「させるかッ!!!」ビュオンッ!!
天王寺「うお!?」バッ
ズパァァァン!!
天王寺「……!!」ビリビリ…
岡部「……」(…良し。紅莉栖から離れさせた)
天王寺「…細いくせに意外といい蹴り持ってんじゃねぇか。力の乗せ方が異様に上手ぇ。基盤はコマンドサンボか?」
岡部「ほとんど原型は残っていませんがね。あなたは?」
天王寺「よく言えば自己流だな。よく言って自己流か?」
岡部「要は勘ですね。喧嘩慣れしているのか」
天王寺「まぁそうだ。馬鹿正直に突っ込んでくる軽い奴はただ襟首を引っ張って叩き付ければいいだろ、だとかそういうのが何となく浮かんでくる」
岡部「なるほど。野生型というやつですね」
岡部「下がって血を止めてろ。もうじき終わる」
紅莉栖「…任せたわよ…」タタッ…
萌郁「…あの、ハンカチ」スッ
紅莉栖「…ありがとう…」ピトッ
天王寺「…もうじき終わる、か。随分余裕だな?」スッ
岡部「はい。なにせあなたは既に攻略済みですからね」スッ
天王寺「既に? 何を…」
岡部「……」ヒュッ!
天王寺(避ける…までもない遠い前蹴り。このタイミングで牽制か?)
天王寺(来ないならこっちから…)
岡部「……」ストン…
天王寺(…あ? 岡部が沈ん――)
岡部「ふッ!!」ダッ!!
バシィン!!
天王寺「なあッ!?」(この距離から足を捕りに!?)グラッ…
ズダァン!!
天王寺「ぐッ…!!」(…そうか! さっきの前蹴りは距離を測って…)
天王寺(マウント!? 速――)
岡部「終わりだッ!!」ゴギィン!!
天王寺「がッ……ッ!!!」(掌底で…顎を…!!)
岡部「ははははははははははははッッッッッ!!!!!」ゴギンゴギンゴギンゴギンゴギィィィン!!
天王寺(……ん…)
天王寺「…ッづ!!」ズギン
岡部「気が付きましたか」
天王寺(…縛られてる。そりゃそうか)ギシギシ
天王寺「…岡部、俺は何分寝てた?」
岡部「2分ほどです」
天王寺「そうか。…しかしまさかお前にここまで一方的にやられるとは情けねぇ。師は誰だ?」
岡部「…橋田鈴さんです」
岡部「はい。俺は『バイト戦士』というあだ名で呼んでいました」
天王寺「…バイト戦士って…まさか――!! …岡部…お前…デタラメ…言ってんじゃ…」
岡部「…鈴羽の、MTB」
天王寺「……ああ、ああ。そうか、なるほどな…。全く、何で今まで気付かなかったんだか…」
岡部「……」
天王寺「…なぁ岡部。俺は鈴さんの恩を仇で返したのか?」
岡部「…それはこれから決まる事です」
天王寺「……」
岡部「ただ俺たちがこうしてここに来たのは鈴羽の意志もあってのことです。だから、もしあなたが俺たちに協力してくださるならとても嬉しい」
岡部「俺と紅莉栖の望みはあなたの携帯を借りる事だけです」
天王寺「携帯なら右ポケットに入ってる。好きに使え」
岡部「ありがとうございます」ゴソゴソ
天王寺「それだけか?」
岡部「…あとは、萌郁に本当のことを話してやってください」
萌郁「……!」
天王寺「分かったよ。…おいM4」
萌郁「……」
天王寺「…今まで悪かったな。俺がFBだ」
岡部「――萌郁、もういいのか?」
萌郁「…うん。…ごめんなさい」
岡部「何がだ?」
萌郁「私は、別の世界線で、あなたの大切な仲間を殺したんでしょ? それなのに、ここまでしてもらって…」
岡部「…気にするな。もう赦すさ」
萌郁「…岡部君と、天王寺さんに会えて、よかった」
天王寺「…そうか」
岡部「分かった。…ところでミスターブラウン、娘さんは今どこに?」
天王寺「綯か? あいつは今お仕置きで納屋に閉じ込めてある。昨日部屋でナイフ遊びしてやがったのを見つけてな」
岡部「…てっきりあなたは娘を溺愛しているのかと思っていましたが」
天王寺「だからこそだよ。知ってるか岡部? 可愛いからってガキ甘やかす奴はな、本当はそいつのことを喋るペット程度にしか思って無ぇんだよ」
岡部「…なるほど。勉強になります――」ピッ
グ二ョォォォオォォォォォオォォオォォォオォン
岡部「……ッ」ズキンズキン
紅莉栖「……ッ」ズキンズキン
岡部「…ふは。ふはは。フゥーハハハ!! ついに、ついにすべてのDメールを打ち消した!!」フハハハ
紅莉栖「私の仮説が正しければこれでまゆりは助かるはず…!!」フハハハ
岡部「これで…これで本当に終わりなのだな…」ニコッ
紅莉栖「ええ。きっとね」ニコッ
~ラボ~
ドゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥン
岡部〈〉「はぁーッ…!! はぁーッ…!!」ズキンズキン
紅莉栖〈〉「はぁーッ…!! はぁーッ…!!」ズキンズキン
岡部「…何でだ!? 何でだよ!! ここはIBN5100がある世界線のはずだろッ!?」
紅莉栖「…きっとまだ何かあるのよ。考えてみるしかない…!」
岡部「…そうか、そうだよな…! いい加減取り乱すのはやめよう…! まだ何かある、か…!」
紅莉栖「初めから考え直してみましょう。まず阿万音さんは何と言っていたかしら…」
岡部「えーと…確か『IBN5100が手に入る世界線へ行けばまゆりと未来の世界が助かる』だったか…?」
岡部「…何か分かったのか!?」
紅莉栖「……私たちはこれまで『IBN5100が手に入る世界線へ近付くこと』を目的としてきた訳だけど…もしそれが間違いだったとしたら?」
岡部「…つまり、もしお前の仮説が間違っていたとしたら、か?」
紅莉栖「ええ。もし阿万音さんの言葉が『IBN5100に近付くこと』ではなく…」
紅莉栖「…『IBN5100を使うこと』によって目的が達成されるのだ、ということを意味していたのだとしたら…」
岡部「そうか…! …いや待て、だとしてもIBN5100を使う場面なんて存在するのか? …というかそもそも俺は何のためにIBN5100を手に入れたんだったっけ?」
紅莉栖「…えーと、それは確か…」
岡部「……あ」
紅莉栖「……そうか」
岡部・紅莉栖「…SERNのデータベース内の解読不能エリア!!」
ダル「ん? なんぞ?」
岡部「今からSERNのデータベースにハッキングしたらどれくらい時間がかかる?」
ダル「それなら3時間もあれb」
紅莉栖「1時間あれば十分よ」
岡部「30分でやってくれ!」
紅莉栖「任せて」カタカタカタカタ
ダル「(´・ω・`)……」
紅莉栖(これが以前見ることのできなかったデータか…)カチッ
ダル(た、たった25分で…)ズーン…
紅莉栖(えーと…中身は…)
紅莉栖「…あ!? …おかっ、岡部ッ!! これ見て!!」
岡部「…これは…!!」
紅莉栖「これって…あんたが偶然送ったっていうDメールよね?」
岡部「ああ、間違いない。…しかし何故ここに?」
紅莉栖「…恐らく俗に言うエシュロンかそれに近いものがあるんじゃないかしら」
岡部「そしてエシュロンに傍受されたこのメールをSERNの関係者が見て、この送信時刻と受信時刻のおかしさに気付いた、か。なるほどな」
紅莉栖「さらにそこからDメール、さらにはDメールを送る何らかの装置がラボに存在することに気付かれ、ここは襲撃されることになる…とでもいったところでしょうね」
紅莉栖「それはもちろん、このデータを消すためよ。それしか考えられない」
岡部「いや、今更消しても何の意味も…」ハッ
紅莉栖「気付いた?」
岡部「…そういうことか…! SERNの連中がこのメールに気が付くのはもっと先のことなのだな!」
紅莉栖「恐らくそうなんでしょうね。未来のSERNが、最初に電話レンジを手に入れた世界線から過去へDメールを送りラウンダーにここを襲撃させた」
岡部「そこまでして電話レンジ(仮)を手に入れようとしたということは、つまりあれこそがSERNのタイムマシン完成の鍵だったということか」
紅莉栖「ええ。つまり逆を返せば、このメールデータさえ消せばSERNがDメールの存在に気付くことは無くなり、結果タイムマシン研究は頓挫することになる」
岡部「そうすると結果ラボへの襲撃は行われず、よって電話レンジは奪われずディストピアが構築されることも無くなり…」
紅莉栖「…まゆりが死ぬことも、無くなる…!!」
ダル「(´;ω;`)オイテケボリダオ」
紅莉栖「…やっと、ここまで来たのね…」
岡部「…さぁ、とっととメールデータを消そう。その時こそが俺たちの真の勝利の瞬間だ!!」
紅莉栖「ディストピアの構築されない世界かぁ。どんな世界線なのかしら? 何か大幅に変わってたりするのかな」
岡部「ははは! お前はアホの子だな紅莉栖! このメールを消しても一番初めの世界線に戻るだけだぞ!」
紅莉栖「一番初めっていうとあれよね? 確かあんたが偶然このメール…を…送って…」
岡部「ああ。その通り…」
岡部「…あれ?」
岡部(…待て。ちょっと待て――!! 最初の世界線というのはつまり俺が偶然このメールをDメールとして送った世界線で…)
岡部(…それで、俺がこのメールを送った理由は…ラジ館で…)
岡部「…紅、莉栖」
紅莉栖「…な、何? 早くメールを削除しないと…」
岡部「…いや…ハッキングは一旦中止にしよう…」
紅莉栖「…そ、そうね。それもいいかも」プツンッ
岡部「…すまん。少し出掛けてくる」
ダル「(´;ω;`)カエッテネヨウ」
続きます
紅莉栖「まゆりいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!!」 後半
Entry ⇒ 2012.06.23 | Category ⇒ シュタインズゲートSS | Comments (1) | Trackbacks (0)
凛「私今日もギルガメッシュお兄様と遊ぶの!」 葵「あら」
ギル「さぁリンよ、今日は何をして我と戯れるのだ?」
凛「私、お姫様ごっこしたい!」
ギル「良かろう、許す……では我が宝物庫から、至高の衣服を持ってこよう」ゴソゴソ
桜「あ、あの……私、派手な服は……」
ギル「サクラ、お前はこのドレスを着ろ……これは王である我の決定だ」
桜「…あ、ありがとう……可愛い///」ポッ
葵「仲良いわね」
時臣「ぐぬぬ……」
ギル「―――さて、我が宝物庫から出した衣服を着たか?」
凛「わぁー…可愛いわね!桜!」
桜「うん……」
ギル「……ふむ、やはり王である我の目に狂いは無かったな」
ギル「中々に美しいではないか……サクラよ」ナデナデ
桜「あっ……///」
凛「あーっ!私は美しくないの!?」
ギル「くくッ、あっはっはっは!!そう案ずるな、リンも十分花を咲かしている」ナデナデ
凛「ほんと!?」
時臣「……英雄王よ、そろそろ聖杯戦争の準備を…」
ギル「たわけ!!」
時臣「―――ッ!」
ギル「王であるこの我に……時臣、意を述べるか?」
時臣「いえ……」
凛「ギルガメッシュお兄様!私、駄菓子屋行きたい!!」
桜「わ、私も行きたいです……」
ギル「なんだ、もうお姫様ごっこは飽きたのか?小腹が空いたのなら我が宝物庫から…」
凛「それじゃダメなの!桜と私とギルガメッシュお兄様で一緒に行くのー!」
ギル「……ふむ、まぁそれもいいだろう…さぁ、出掛ける準備をしてこい」
葵「……ごめんなさい、あの子達の我が儘を聞いてくれて」
ギル「なに…子供というのはあれくらいでないとな、張り合いが無いというものだ」
葵「……ふふっ、本当に王様なのね」
ギル「当然だ、天上天下にただ一人……人類最古の英雄王とは我の事だ」
葵「そうだったわね…それじゃ、いってらっしゃい」
凛「ギルガメッシュお兄様ー!早くー!」
ギル「ク、フハハハハッ!!そう急かすなリンよ、時間はまだまだある!!」
桜「お菓子……」
凛「桜!駄菓子屋まで競争よ!!」
桜「え?待っ……」
凛「よーい、ドン!!」
ギル「……まったく、子供というのは何時の時代も横溢よ」
凛「はぁ…はぁ……あともうちょっ―――!」タッタッタッ
ドテッ
DQN「ッ…おい!!てめえ誰に当たってんだよ!!」
DQN2「先輩wwwwwwww相手子供っスよwwwwwwwww」
DQN「ああん?女だろうが子供だろうが関係ねえだろ!詫び入れろや!!」
凛「なによ!!アンタなんてちっとも怖くないんだから!!」
桜「はぁっ……はぁっ……あ、お姉ちゃん……」
DQN「あぁ?今なら謝るだけで許してやるぞ?」
凛「だ、誰がアンタなんかに謝るのよ!!スゥー…遠坂家は如何なる時も余裕をもって優雅たれ、よ?」
凛「ふんっ」
DQN「こんの…糞ガキ……!」
桜「ど、どうしよう……悪い人達とお話してる……」オロオロ
桜「ギルガメッシュお兄様に知らせないと……!」タッタッタッ
DQN「あ……おい見ろよ、こいつ足が震えてやがるぞ」
凛「な、なに?早くどっか行きなさいよ」
DQN「うっせえっ!!」パチン!
凛「痛っ!!」
DQN2「ちょwwwwwwww子供に手を出すのはまずいっスよwwwwwwwwwww」
凛「う、うぅ……遠坂家は如何なる時も余裕をもって優雅たれ……グズッ」
DQN「こいつ、泣いてるぞwwwwwwwwwwwwww」
ギル「サクラが慌てて駆けつけてきたと思ったら……なるほど、こういう事か」
ギル「おい、そこの雑種」
DQN「……は?なんだよお前」
凛「あっ、ギルガメッシュお兄様!!」
ギル「まったく……大方、走っていたリンが貴様にぶつかったのであろう?」
凛「お兄様、やっちゃって!!」
ギル「―――凛、雑種らに謝罪をしろ」
凛「……え?」
ギル「リン……お前もぶつかった時に何か一言云うべきでは無かったか?」
凛「そ、それは……」
ギル「……」ギロッ
凛「あっ……その、ごめん…なさい」
DQN「あぁ!?土下座に決まってんだろ!!」
DQN2「wwwwwwwwwwwwwwwwwwww」
ギル「……良く出来たな、その志を忘れるな」ナデナデ
凛「あっ…」
ギル「さて――――雑種共ッ!!リンの頬が赤く腫れあがっている…まさかとは思うが…」
バビローン
ギル「子供に手を出したわけじゃないだろうな……?」
ギル「貴様らのような雑種共がリンの顔に触れた事」
ギル「そして、このような無駄な時間を王であるこの我に使った罰……万死に値するぞ!雑種ッ!!」
凛「桜!どれ買う?」
桜「えっと……私は……」
ギル「まったく、道化師から薦められた練り飴という物は……なかなかどうして」
凛「お母様!ただいま!!」
桜「た、ただいまもどりました……」
葵「あら、おかえりなさい……ちゃんと良い子にしてた?」
凛「あっ…それは……」
ギル「なにを躊躇している?リン、お前はとても良い子だったぞ―――王である我が保障しよう」
葵「あら、偉いわね」ナデナデ
桜「わ、私も……」
凛「それでね、お父様!ギルガメッシュお兄様が剣とか槍とかをびゅーんって―――」
時臣「……そうか、凛、ちゃんと王に謝礼はできたか?」
凛「はいっ!」
時臣(……魔力の消費があったと思ったら……英雄王め)
桜「……」ネリネリ
桜「あ……」ボトッ
ギル「……ほら、そう涙目になるでない…我が練った練り飴を舐めて良いぞ」
桜「……いいの?」
ギル「王であるこの我の慈悲だ、心して練り飴を舐めるが良い」ナデナデ
桜「ありがと……///」
まさか金ピカ鎧でいってないよな・・・?
ギル「さて、そろそろ我は部屋に戻るとしよう」
時臣「―――英雄王、明日こそは聖杯戦争の準備を…」
ギル「たわけ!!」
時臣「ですが!!英雄王!!!」
ギル「口答えをするかァ!!時臣ィ!!!」
時臣「あぁ!!!英雄王!!!」
葵「あら、またやってるわね……ほんと、仲が良いわね」フフッ
完
とても面白かった
Entry ⇒ 2012.06.22 | Category ⇒ FateSS | Comments (2) | Trackbacks (0)
まどか「さやかちゃんってバカだから何でも信じそう」
マミ「確かに」
杏子「だな」
まどか「というわけでさやかちゃんに『>>10』を信じさせよう!
安価SSじゃないんで>>10が決まったら後は勝手に書いてくからその辺は期待しないでね!」
マミ「わー」パチパチ
ほむら「普通にいけそうね」
杏子「そうかぁ?」
まどか「敵を知り己を知れば百戦危うからずと」
まどか「まずは敵、さやかちゃんがサンタクロースについてどんな認識を持っているか調べようと思います」
杏子「誰が行くんだ?」
マミ「鹿目さんが適任だと思うわ。一番そういう話しても不自然じゃないもの」
まどか「ですね。じゃ、行って参ります!」
さやか「お、まどかー。どうしたの?」
まどか「ティヒヒ、そこ通ったの見かけたから」
さやか「そっかそっか」
まどか「ね、さやかちゃん」
さやか「ん?」
まどか「サンタさんっていつまで信じてた?」
さやか「……うーん」
まどか「なるほど。そのときどんな気持ちだったのかな?」
さやか「結構ショックだったよ。ほら、あたしって夢見る乙女だったから?」
まどか「あ、冗談は言わなくていいよ。えっと、今クリスマスプレゼントはどうしてる?」
さやか「親から普通に手渡し。ま、それでもありがたいけどねー」
まどか「ふーん。あ、いけない! お使い頼まれてたんだった。さやかちゃん、またねー!」タタタッ
さやか「……」
さやか「何だったんだ?」
まどか「報告いたします!」
ほむら「早かったわね」
まどか「さやかちゃんがサンタを信じてたのは小4まで。知った時は割とショック。
現在は親御さんから手渡しでプレゼントを貰ってるとのことです」
マミ「普通ね」
杏子「普通だな」
ほむら「魔法少女に正義の味方なんて幻想を求めてたくらいだから、資質はあると思うわけよ」
杏子「魔女になっても人魚姫だしな」
マミ「ということは美樹さんはヒーロー/ヒロインに憧れがちで、自分もそうなりたいと思う傾向にあるようね」
まどか「あぁー、確かに。その辺りを上手く使えばいけそうですね」
杏子「でも親はどーすんだよ。親自身がサンタの正体は自分だって明かしてんだよ?」
マミ「そこさえクリア出来ればいい設定なんだけどね……」
まどか「……こういうのはどうかな」
ほむらもまどかに限定してるけどヒーロー願望みたいなのあるし
マミ「ちょ、ちょっと壮大すぎない?」
杏子「さすが宇宙再編した奴は言うことが違うね」
まどか「……」シュン
ほむら「……こういうのはどうかしら」
ほむら「さっきも触れたけど、美樹さやかは正義の味方に対する憧れを抱いていた。
わたしも『あんたたちとは違う魔法少女になる』とか言われたわ。美樹さやかには、
周りがそうでも自分だけは違うっていう反骨心がある。自分に酔ってるだけとも言うけど」
杏子「随分手厳しいな、おい」
そう思わせればいい」
杏子「つってもよ、やっぱサンタは親なわけで……」
ほむら「悪役がいなければ正義の味方はいらないわよね」
マミ「? どういう意味?」
ほむら「魔法少女にとっての魔女……サンタクロースとは相反する存在をでっちあげればいいのよ」
サンタを信じなくさせる何かがいるってことにすればいいんだね」
マミ「『悪夢』よ」
まどか「はい?」
マミ「サンタクロースを信じなくさせる存在の名称」
まどか「そ、そうですね……。じゃあ『悪夢』……ブフッ……がサンタを信じる心を奪ってるってことで」
杏子「シナリオはこんなとこでいいだろ。あとはどうやって信じさせるかだ」
まどか「ほむらちゃんは『やな奴!』」
マミ「鹿目さんは『気の置けない友だち』」
杏子「マミは『頼れる先輩』」
ほむら「杏子は『喧嘩仲間』といったところでしょうね」
QB「やあ。四人が揃いも揃って何の話しだい?」
まどか「QB!」
杏子「……『魔法の使者』」
ほむら「確かに、コイツに喋らせれば反則級に説得力が増しそうね」
QB「何のことだい?」
マミ「かくかくしかじか」
まどか「じゃあそれぞれ自分の役目を確認したところで、明日から作戦実行だよ!」
まどか「ふぁ~、おはよーさやかちゃん」
さやか「お、まどか! 昨日はお使いちゃんとできた?」
まどか「馬鹿にしないでよ……。小麦粉買い忘れただけだったよ」
さやか「ぷっ」
まどか「……さやかちゃん」
さやか「んー?」
まどか「サンタって……本当にパパやママなのかな……」
まどか「うん……昨日さやかちゃんと話した後、家に帰ってママとサンタの話をしたんだよ」
さやか「ああ~。実はあの時家計が苦しかったーとか、色々裏話出てくるよね」
まどか「それでなんだけど、わたしの記憶とママの言ってることが違ったんだよ」
さやか「と、言いますと?」
まどか「わたしの小5の時のプレゼントは『くまさんぬいぐるみ』だったの。だけどママは『小顔ローラー』を買ったって」
さやか「記憶違いじゃないのー?」
まどか「あの『くまさんぬいぐるみ』は今でも大好きで、貰った時のこと忘れるはずないよ!」
さやか「じゃあママさんの方が勘違いしてるんだよ」
まどか「そうかな……。うん、そうだよね!」
まどか「そ、そんなことないよ! わたしはただ……」
さやか「ごめんごめん。からかっただけだって」
まどか「もー!」
さやか「はは……」
さやか「(……)」
さやか「(しっかし小学生の娘のプレゼントに『小顔ローラー』? まどかのお母さん、酔ってたのかな?)」
まどか「仁美ちゃんがまたラブレター貰ったらしいよ」
さやか「なぬっ! おのれ仁美め……この美少女さやかちゃんを差し置いてどこまで先へ……」
ほむら「先も何も、あなたにはもともとこの先なんてないじゃない」
さやか「転校生! それは聞き捨てならんぞ!」
ほむら「哀れね……きっと今年のクリスマスも一人でCDを聴きながら過ごすのよ」
さやか「ちょっと屋上行こうか」
まどか「まーまー」
ほむら「……わたし?」
さやか「いつもまどかまどか言ってばかりで、浮いた話なんて一つも出てこないじゃん」
ほむら「それは……」
さやか「あんたこそ寂しいクリスマスを過ごすんじゃないのー?」
ほむら「……クリスマスはどっちにしろ」
さやか「え?」
ほむら「わたしのところにはサンタさんが来るから、恋人となんて過ごさないわ」
さやか「は~あ?」
さやか「どういう意味さ」
ほむら「どうせあなたもサンタを信じないでサンタが来なくなったクチでしょう?
わたしのところにはまだ来るのよ」
さやか「……」プルプル
さやか「(ま、まどか……聞いた? 転校生、あのキャラでまだサンタ信じてるのかよ!)」クスクス
まどか「(えー、夢があっていいと思うなー)」
さやか「(いやー、結局のところサイコなデンパさんだったわけですねー)」
さやか「あ、マミさーん!」
マミ「あら、美樹さん」
さやか「一緒に帰りましょうよ」
マミ「いいわよ」
さやか「マミさん、聞いて下さいよ。転校生ってまだサンタ信じてるんだって!」
マミ「……暁美さんが?」
さやか「はい。まどかならともかく、転校生のキャラで……笑っちゃいますよね」
マミ「……そう、暁美さんが」
さやか「……マミさん?」
さやか「(……? はっ! そ、そうだ……マミさんは交通事故で両親を亡くしてるんだった……。
それなのにあたしサンタの話なんて……無神経だったかな)」
さやか「マ、マミさん! 欲しいものとかない?」
マミ「どうして?」
さやか「あたしがマミさんにクリスマスプレゼントあげようと思って! ……まだ早いけど」
マミ「まぁ、ありがとう」
さやか「へへっ」
マミ「……でもいいの」
さやか「え?」
さやか「……何ですって?」
マミ「美樹さん、わたしの家にはまだサンタさんが来る……なんて言ったら笑うかしら」
さやか「マミさんの家に……サンタ……!?」
マミ「そう。信じてとは言わないけどね」
さやか「(マミさんは独り暮らしだから、誰かがサンタのフリをしているなんてことはあり得ない。
じゃあどうして……。からかってるだけかな?)」
マミ「――それより、この前うちの近くに新しいケーキ屋が」
さやか「マミさん!」
マミ「!」
さやか「あたし……信じるよ」
さやか「(マミさんすっごく笑ってる……。あたしに信じてもらえたことがそんなに嬉しかったのかな?)」
さやか「だから……サンタの話、聞かせてほしいな」
マミ「本当に、そのまんまな話よ。毎年12月25日の朝、わたしの欲しかったものが枕元に置いてあるの。
去年はティーセットだったわ」
さやか「……でも、うちには来なくなった。というか、親が渡すようになった」
マミ「それは……多分、美樹さんがサンタさんの存在を信じなくなったからじゃないかな」
さやか「あたしが……信じなくなった……?」
マミ「サンタさんは信じない人のところには来ない……そんな気がするの」
さやか「(信じる……確か、転校生もそんなことを言っていたような……)」
マミ「じゃ、わたしはここで」
さやか「うん。さよなら、マミさん」
さやか「……」テクテク
さやか「……サンタさん、かぁ」
さやか「(マミさんがあんまり悲しそうな目をしてるから思わず信じるなんて言っちゃったけど……)」
さやか「(……)」
さやか「(本当にいるのかな?)」
杏子「お、さやかじゃん」
さやか「……杏子」
杏子「食うかい?」ポイッ
さやか「……いただくよ」
杏子「どうしたー? 何か思いつめてるみてーな顔してたじゃんか」
さやか「いや、下らないことなんだけどさ」
杏子「何だよ」
さやか「サンタクロースって、信じてる?」
杏子「ああー、ウチには来たことないからな」
さやか「え?」
杏子「ウチって教会だろ? 何かサンタは主の教えに対する冒涜とか考えてる宗派でさ、
もともとサンタクロースっていう行事をやってねーのさ」
さやか「おお……逆にそうなのか……」
さやか「どういうこと?」
杏子「信じるものは救われるってね。神様もサンタも、信じないよりかは信じた方が面白いよ」
さやか「そういうもんかねー」
杏子「ま、あたしみたいな宿なしのところにはサンタもプレゼントの寄越しようがないだろうけどな」
さやか「……」
杏子「そりゃ何かくれるつったら貰うだろ」
さやか「そうだけど……」
杏子「……周りの子が貰ったクリスマスプレゼントの話で盛り上がってる輪に入れなかった。
ちょっとは羨ましかったよ。もっとも今となっては、プレゼントくれる親もいないってか」
さやか「杏子……」
杏子「だからあんたはサンタのいるいないに関わらず、クリスマスは楽しみゃいいんだよ。
そこんとこ、何一つ不自由なく暮らしていけてるんだったらさ」
さやか「そう……だね……」
さやか「(……マミさんも)」
さやか「(杏子も)」
さやか「(ちゃんとクリスマスを迎えられてない)」
さやか「(それなのにサンタを信じて……)」
さやか「(あたしは……家族に囲まれて、毎年クリスマスを祝ってるっていうのに)」
さやか「(周りに合わせて、サンタを信じなくなった)」
さやか「(あたし……嫌な子だ)」
さやか「(……)」
まどか「お疲れさまでした~」
マミ「お疲れ」
ほむら「今日一番最後に接触したのは?」
杏子「あたしだよ」
QB「僕はさやかの前に姿を現さなかったけど、これでいいんだね?」
まどか「初めからQB出ちゃうとつまらないからね。さ、報告&反省だ!」
まどか「わたしが『サンタっているのかな?』って思っていることにして会話したよ」
ほむら「確かにまどかなら、そういう疑念を抱いても不自然じゃないわね」
まどか「またまた。まあ流されちゃったけど、ママが小顔ローラーをプレゼントにしたっていうことについ
ては、 さやかちゃんもちょっとは引っかかったんじゃないかな?」
マミ「鹿目さんの役目は伏線張りみたいなものだから、それで十分だったわね」
ほむら「次はわたしね」
杏子「そんなキャラじゃねーだろ(笑)」
ほむら「まあ二番目だし、笑い話程度に受け取ってもらえればいいと思ったわ。
のちのちサンタを信じかけてきた美樹さやかが『そういえば転校生があの時……』とか思ってくれ
ればいいのだけど」
マミ「で、次がわたしね。自分のところにはサンタが来るんだけど、誰にも理解してもらえないってことで
頑張って悲しそうな表情を作ってたんだけど」
杏子「あたしのときにはあいつ半ば信じてたじゃねーか」
、
マミ「美樹さんが信じるって言った時には吹きそうになったわ。半信半疑とはいえ、騙されやすすぎよね」
ほむら「性格悪いわね」
杏子「あたし自身、一応サンタを信じてるってことにしたし、大分効いてたみたいだよ」
マミ「美樹さん、思いつめてないかしら……」
まどか「サンタでですかwww」
QB「で、僕の出番は明日なんだよね?」
まどか「うん、QBは最後のまとめをお願い。今日のところは順調ですね。
明日あとひと押し! 頑張って行きましょう!」
さやか「ふぁ~」
まどか「さやかちゃん、眠そうだね」
さやか「昨日は一晩中窓の外見てて……」
まどか「え、どうしたの?」
さやか「な、何となくだよ。あはは……」
さやか「(サンタが空飛んでないかなと探してたとは言えない……)」
まどか「(さやかちゃんバカすぎだろ)」
さやか「……ん?」
さやか「ちょっと転校生、あんた鞄替えた?」
ほむら「ああ、これのこと?」ヒョイ
さやか「それ、めっちゃ人気のやつじゃん! どこで買ったの?」
ほむら「……サンタさんに貰ったのよ」クス
さやか「まーたそんなこと言って~!」
さやか「別に親から貰えるからいいですよーだ!」
ほむら「何言ってるの? 親から貰うプレゼントは家計を圧迫するけど、サンタさんからのプレゼントは無
料なのよ?」
さやか「分からんこと言うなー」
さやか「(……やっぱり本気で言ってるのか?)」
ほむら「ま、信じないのなら強制はしないけど。せいぜい損してなさい」
まどか「ほむらちゃんったら、すっかりさやかちゃんをからかうのが楽しくなっっちゃったみたいだね」
さやか「(本当にからかってるだけなのか……?)」
さやか「――ってことなんですけど」
マミ「……」
さやか「確かに転校生、いちいちいいもの持ってるからなー」
マミ「……ねえ、美樹さん」
さやか「はい?」
マミ「ひょっとしたら、暁美さんのところにもサンタさんが来ているのかも……」
さやか「えっ」
QB「呼んだかい?」
マミ「人々の『信じる心』に支えられて存在する『サンタクロース』なるものがいる……これは正しい?」
QB「『信じる心』は希望のエネルギーだ。どんな奇跡を起こしても不思議じゃない」
マミ「そういう点では魔法少女とサンタクロースって似ているわね」
QB「そういう見方も出来るね。でも希望を求めた分、同量の絶望が撒き散らされるのは当然の摂理だ」
マミ「絶望……。! QB、こうは考えられないかしら」
QB「何だい?」
さやか「(即興で名前付けちゃうんだ……)」
マミ「『悪夢』は人々からサンタクロースを信じる心を奪っている……」
QB「希望と絶望は互いに打ち消し合う性質を持っている。そのような仮説は妥当だと言えるだろう」
マミ「つまり『悪夢』によって、成長した子どもはサンタを信じなくなり、その両親は自分たちがサンタの正体だと思い込む」
QB「興味深い考察だね。論理的に破綻はしていないよ」
さやか「……」
さやか「は、はい!」
マミ「サンタさんを信じる子っていうのにも色々いると思うの」
さやか「色々?」
マミ「わたしは……まあ普通にサンタさんを信じているわ。だけど中にはその力を利用する者もいる」
さやか「利用って……まさか……」
マミ「サンタさんを信じることによって自分に利益<<プレゼント>>が与えられることを知って……サンタさんを敢えて信じている」
さやか「そんな! サンタさんは子どもたちの夢なのに!」
マミ「悲しいけど、そういう子もいるでしょうね」
さやか「じゃあ転校生は……」
マミ「ええ。彼女も恐らくその一人」
マミ「何?」
さやか「あたし、謝らなくちゃいけない。昨日は信じるなんて言ったけど、正直半信半疑だった……」
マミ「美樹さん……」
さやか「でもあたし、信じるよ! あたしが信じることで『悪夢』を減らせるなら!」
マミ「大変だよ? クラスのサンタさんを信じてない子と話が合わなくなっちゃうよ?」
さやか「それでもサンタを信じるマミさんに、あたし、憧れてるんです」
マミ「ブフォッ」
さやか「? 大丈夫ですか?」
マミ「ごめんなさい、少し咳込んでしまったみたい。でもありがとう。他にもサンタさんを信じてくれる子がいて心強いわ」
さやか「ええ、一緒にサンタを守っていきましょう!」
マミさん本気でこういうこと言いだしそうなんだもの
ほむら「……サンタを信じるって決めたのね」
さやか「……」
ほむら「歓迎するわ。このネックレスは挨拶よ。これもサンタから貰ったの。受け取って」
さやか「……いらない」
ほむら「っ!?」
さやか「あんたたちとは違うサンタ信者になる……あたしはそう決めたんだ。
あたしだけは、自分の為にサンタを信じたりはしない」
ほむら「あなた……死ぬわよ」
さやか「? 何で?」
ほむら「いえ、雰囲気的に口走ってしまっただけよ。ま、勝手になさい」クルッ
さやか「……」
さやか「……杏子」
杏子「よ、今日も会うなんて偶然だな」
さやか「あたし、サンタを信じることにしたよ」
杏子「……」
さやか「恵まれた家庭で育ちながらサンタを信じてこなかったあたしが今更……都合がいいかな?」
杏子「なーに難しく考えてんだよ」
さやか「え?」
杏子「信じるって決めたんだろ? 逃げないって決めたんだろ? なら後は突っ走るしかないじゃん」
さやか「……ありがと、杏子」ヘヘッ
さやか「(あたし、忘れてた。サンタを信じてた頃の純粋な心を……)」
さやか「(これから取り返せるかな?)」
さやか「(とにかくサンタはあたしたちが守っていくしかないんだ)」
さやか「(……プレゼント、くれるのかな)」
さやか「(いやいや! あたしはプレゼントの為に信じるんじゃなくて……!)」
杏子「wwwwwwwwww」バタバタ
ほむら「杏子、笑いすぎよ」
杏子「だってwwwwww何でシリアスムードになってんだよwwwwww
あたしほとんどやることなかったし、マミ頑張りすぎだろwwwwwww」
マミ「ああいう設定考えるのって結構楽しいわね。もちろん魔法少女のシステムを参考にさせてもらったけど」
杏子「ある程度素でやってるとこあるよなwwwwwww」
マミ「?」
まどか「ほむらちゃんはすっかり悪役だね」
ほむら「美樹さやかに対しての悪役ならいくらでもなってやるわよ」
QB「で、もうこれは作戦成功なんじゃないかい?」
QB「半分?」
まどか「ネタばらしまでがドッキリです」キリッ
マミ「もうここまでくるとあのまま信じさせて上げた方が優しい気もするわね」
杏子「あいつどんな顔すんだろwwwwww」
突然ですが、今は11月です。
まどか「ま、今度のクリスマスでいいんじゃないかな」
ほむら「今から楽しみね」
さやか「……」ギンギン
さやか「(……眠れない)」
さやか「(寝てないとサンタ来ないんじゃないかな……)」
さやか「(羊が一匹……羊が二匹……)」
さやか「(五十六匹……六十……ん?)」
さやか「(どこまで数えたっけ)」
さやか「(あー、やばいぞコレは)」
シャンシャン……
さやか「!」
さやか「(何であたし寝たふりしてんだ……?)」
ゴソゴソ
「起きているんだろう?」
さやか「!」
「はは、別に怒ったりはしないよ。わたしのことを信じてくれて嬉しく思う」
さやか「(――サンタ!)」
「キミが喜びそうなプレゼントを持ってきた。目を開けて見てみるといい」
さやか「サンタさん!」ガバッ
さやか「……」
さやか「……CDラジカセ?」
ラジカセ「喜んでもらえたかな? CV:中沢でした~」
さやか「は?」
パチッ
さやか「(電気がついた……?)」
杏子「メリークリスマス」
さやか「……おい」
杏子「よっと、プレゼントだったな」
さやか「何やってんのアンタ」
杏子「心配すんな。この袋の中にちゃんとあるからさ」
さやか「いや、人の部屋勝手に入って、サンタのコスプレして……色々とツッコミが」
杏子「ほいよ」
さやか「……看板?」
さやか「」
杏子「……というわけで」
まどマミほむ「ごめんなさーい!!」
QB「僕の首に鈴をつけられるとは思わなかったよ」
さやか「」
杏子「つーわけで、一ヶ月ほど前のサンタの話は全部ドッキリで……」
さやか「いや、説明しなくていいよ。余計惨めになるから」
杏子「あ、そう?」
さやか「誰かの幸せを祈った分、他の誰かを呪わずにはいられない……わたしたち魔法少女ってそういう仕組みだったんだね」
杏子「お、おい……。何もそんなに絶望すること……」
さやか「あたしって、ほんとバカ」
さやか「っていうのは冗談だけど」
さやか「あああああああああ~~」ガンガン
まどか「さ、さやかちゃん! ベッドの柱に頭打ち付けるのやめなよ!」
さやか「あたしって、ほんとバカ! ほんとバカ! ほんとバカ!」ガンガンガンガンガン
ほむら「そうよ。ただでさえバカなのにもっとバカになったらどうするの」
さやか「なにをー!!」
マミ「まあまあ」
さやか「マミさんまで……」
マミ「美樹さん、ドッキリはごめんなさいだけど……プレゼントはあの看板じゃないの」
さやか「え?」
まどか「じゃ、出かけましょうか」
さやか「……ってここ、アンタの教会じゃない。ここでイエス様の誕生を祝えっての?」
杏子「まあそれもそうなんだけどさ」
QB「いーち!」
さやか「!?」
ほむら「に!」
マミ「さん!」
まどか「はい!」
♪~
さやか「! これは……」
♪~
さやか「(そういえば、恭介が退院してから一度も聴いてなかったっけ)」
さやか「(何だか話しかけるのが億劫で……)」
♪~
恭介「メリークリスマス、さやか」
さやか「恭介……」
恭介「鹿目さんたちがね、さやかが僕のヴァイオリンを聴きたがってるって言ってね。
クリスマスプレゼントに弾いてくれと言うものだから、喜んで引き受けたよ」
まどか「ティヒヒ、ちゃんとプレゼントになったかな」
ほむら「男で喜ぶんだから単純よね」
さやか「あんたら……」
さやか「……」
さやか「ありがと」
恭介「いえ、さやかには昔からヴァイオリンを聴かせてきましたから」
杏子「こいつのヴァイオリンがあればさやかに何しても許されるな!」
さやか「調子に乗るな!」ポコッ
杏子「あいた」
さやか「……まあ正直ドッキリかけられたのはショックだったし」
さやか「恥ずかしさで魔女化しかけたけど……」
さやか「音楽の力は偉大だね! 今はとてもいい気分」
ほむら「上条君の力は、じゃなくて?」
さやか「うっさい」
さやか「……まあ、これでいいよ」
まどか「じゃ、さやかちゃん。メリークリスマース!」
さやか「……」ニコ
さやか「メリークリスマス」
おわり
良かった、不幸なさやかちゃんはいないんだ
乙乙乙
Entry ⇒ 2012.06.22 | Category ⇒ まどかマギカSS | Comments (0) | Trackbacks (0)
P「アイドル候補生の採用面接、ですか?」
P「今までの候補生は社長がスカウトされてましたからね……いやぁ、光栄ですね」
高木「それで、だ。この会議室を面接に使おうと思うのだが……」
高木「すまないが、今回は君一人で応対してもらいたい」
P「お、俺だけでですか?」
高木「その日、どうしても外せない用事が出来てしまってね」
高木「君に押しつけてしまう形になってしまって、本当に申し訳ないのだが……」
P「……分かりました。俺に全部任せてください」ドン
高木「会議室までの案内は既に音無君に任せてある。君はここで待機しておいてくれ」
P「内容はどうしましょう?」
高木「一人ずつ入室しての個人面接になるが、その内容は君に一任する」
P「……俺の自由にしちゃっていいんですか?」
高木「まぁ、私はその場にいないからな。君のやる事にとやかくは言えんよ」
高木「だが、君に任せる仕事の本当の目的は……彼女達の、本質を見抜く事だ」
高木「それだけは、くれぐれも忘れないでくれたまえ」ニヤッ
P「はい!」
P「(765プロのプロデューサーになって、はや数ヶ月……)」
P「(社長にこういう仕事を任されるってのは、それだけ信頼されてるって事だよな)」
P「(個人面接か……そういや、入社以来だったな。今回は立場が逆だが)」
P「(……俺に上手く出来るだろうか……)」ソワソワ
P「(良く考えたら、その人の人生を左右する訳だからな……)」
P「(……考えるのはよそう。もう一度、履歴書を確認しておくか)」ペラッ
P「どうぞー」
ガチャッ
「失礼します」
P「はい」
「高森藍子、16歳です。今日はよろしくお願いします」ペコリ
P「はい、よろしくね。俺はこの765プロのプロデューサーです。どうぞ、座って」
藍子「失礼します」ストン
藍子「電車を何度か乗り換えて、徒歩でこちらに来ました」
P「ふーん……見つけるの大変だったでしょ、ここ」
藍子「はい、少し迷ってしまいましたけど……二階の文字を見て、ここかなって」
P「お、良く分かったね。あれに気づかない人、意外と多いんだよね」
藍子「そうなんですか」
P「……君、落ち着いてるね。緊張はしてない?」
藍子「あ、私普段からこんな感じなんです。周りからも良く言われます」
P「(結構大人びてるんだな……うちの16歳共にも見習ってほしいよ)」カキカキ
藍子「私、夢があるんです」
P「へぇ。どんな夢だい?」
藍子「皆が優しい気持ちになれるような、微笑んでくれるようなアイドルになる事です」
P「なるほどねぇ。その夢は立派だけど……うちの業界って、正直厳しいよ?」
藍子「………」
P「君と同じ夢を持ってる子は、たくさんいる。それに……」
P「一人だけが座れる席を巡って、その子達が互いに争う弱肉強食の世界なんだよ。簡単に言っちゃうとね」
P「そんな中で挫折しちゃう子も、珍しくないんだ……俺は、できれば君にそうなって欲しくは」
藍子「望むところですよ」
P「(ふむ……自信も十分。今のところ、文句のつけようはないな)」カキカキ
藍子「ありがとうございました」ペコリ
P「気をつけて帰ってね」
藍子「では、失礼します」
P「(……最近の16歳って、皆ああなのかな。礼儀から何まで完璧だったが)」
P「(一人目がこれだと、ハードル上げちまうかもしれんなー……いかんいかん)」キュポッ
ゴクゴク
P「麦茶うめぇー」プハー
P「はいどうぞー」
ガチャッ
「あら……そちらにおわすのは、お兄様でしょうか?」
P「……はい?」
「わたくし、榊原里美と申します」ペコリ
P「榊原さん、ね……(この子の履歴書は……あるな)」ペラッ
P「俺はこの765プロのプロデューサーです。今日はよろしくね」
里美「……それでは、お兄様ではない、と?」
P「いや、君とは初対面、のはずなんだけど」
里美「そうでしたか……わたくしは、なぜここに?」
P「えっ……いや、ここ、アイドル候補生の採用面接会場なんだけど」
里美「?……それではわたくし、あいどるになるのですか?」
P「(……何なんだこの子は……いや、うちじゃ珍しくないけども)」
里美「どなたに似ていらっしゃるのでしょうか」
P「いや、うちに四条貴音ってアイドルがいるんだけどね。その子にそっくりでさ」
里美「……他人の空似ではないでしょうか」
P「(……喋りとかそっくりなんだがな……)」
P「えーっと……それじゃ、好きな食べ物とか、教えてくれないかな」
里美「らぁめん」
P「えっ」
里美「ではなく、甘い紅茶や菓子などを嗜んでおります」
P「そ、そうか……」
里美「わたくし、あいどるになれるのでしょうか」
P「それは後日、こちらから通達させていただくので……」
里美「分かりました」スタスタ
クルッ
里美「ほぇぇ……」
ガチャッ バタン
P「……えっ」
P「何?ほぇぇって何?……帰りの挨拶なの?」
P「(やっぱ実際に会ってみないと、分からない事ばかりだな。面接って大事だ)」ウンウン
コンコン
P「どうぞー」
ガチャッ
「こ、こんにちはー!」
P「はい、こんにちは」
「は、はじめまして!小日向美穂、永遠の十七歳でぇーっす☆」キャピッ
美穂「身長155cm、体重42kg!趣味はひなたぼっこ!」
美穂「誕生日は12月16日で星座はいて座、血液型はO型で出身は熊本です!」ドヤァ
P「あ、あぁ、うん……そう、履歴書に書いてあるね」
美穂「はっ!?……す、すみませんプロデューサーさん、ちょっと緊張しちゃって!」テヘッ
P「?……確かに、俺はこの765プロのプロデューサーだけど。良く知ってたね」
P「ホントかい?仕事はしてくれないのに余計な事はするんだな、あの人……」
美穂「……悪かったですね」ボソッ
P「?……何か言ったかい?」
美穂「な、何でもないですよ?」アセッ
美穂「はい!」
P「アイドルになりたいと思ったきっかk」
美穂「モテカワスリムな恋愛体質の愛されガールになりたかったからです!」
P「………」
美穂「……どうかしました?」
P「す、すまない、もう一度お願いできるかな。良く聞こえなかったもんだから」
美穂「モテカワスリムな恋愛体質の愛されガールになりたいんですっ!!」クワッ
P「わ、わわ分かった!ち、ちゃんと聞こえました、はい!」
P「(……すごい気迫だ……)」
美穂「プロデューサーさんとお仕事できる日を、楽しみにしてますね☆」キャルルンッ
P「は、はぁ……気をつけて帰ってね」
ガチャッ バタン
P「………本当に17歳か、あの子?」
P「……いや、アイドルに憧れ過ぎたアイドルマニアなのかもしれんな……うーん」
P「どうぞー」
ガチャッ
「にゃっほーい!きらりだよー☆」
P「!?」
きらり「そうだよー☆」
P「お、俺は、この765プロのプロデューサーだ。今日は、よろしく……」
きらり「おっすおっす、ばっちし!」グッ
P「早速だけど……君、何歳?」
きらり「えっとぉ……17歳だよー☆」
P「(顔写真は、ウェーブのかかったセミロング?だっけ……本人、だと思うが……)」
P「……ちょっと聞いていいかな」
きらり「にゃは☆いいよー?」
P「履歴書には182cmって書いてあるんだけど……」
P「どう見ても君、150cm以下だよね」
P「いやいやいやダメでしょ、履歴書間違えちゃ」
P「つーかスリーサイズもこれ全部デタラメでしょ?何で君こういう事を……」
きらり「……きらりん☆」
P「いや、きらりんじゃなくてね……」
きらり「きらりん☆」ウルウル
P「………」
きらり「ありますよー☆」
きらり「きらりんのきゅんきゅんぱわーで、心も体もスッキリさせちゃいます!」
P「きゅんきゅんぱわーっすか……」
きらり「せーのっ、きらりん☆」ギュッ
P「………」
きらり「どうですかー?」ギュッ
P「……いいね」ホッコリ
きらり「ありがとうございましたー!」ペコリ
ガチャッ バタン
P「…………おかしい。何故かデジャヴを感じる」
P「……俺は、アイドル候補生の採用面接をやってる、はずだよな……」
P「大分こなした感じだが……社長も大変だったんだなー」
コンコン
P「どうぞー」キュポッ
P「(お茶飲んで仕切り直すか……)」ゴクゴク
ガチャッ
「ふぁぁ……おはようございます~」
P「ブーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!」
「やなせみゆき、14才です~」ニコッ
P「」
P「………あずささん?何やってんです?」
美由紀?「……やなせみゆき、14才です~」
P「………」ジー
美由紀?「と、都会は、まだよくわからなくて~……」
美由紀?「あたし、道覚えるの、にがてなんですよ~」
P「(言い表すならば、子供服を着たあずささん……!)」
P「(つーか合ってるのが顔写真しかねぇ……何これ?どういうことなの?)」
P「(……俺の目がおかしいの?俺がおかしくなっただけなのか?)」ゴシゴシ
美由紀?「……あの~」
P「……何でしょう」
美由紀?「……お兄ちゃんって、呼んでも……いいですか?」
P「」
P「(“お兄ちゃん”?え?……えっ?何で?)」
P「(……これは、試されているのか……?)」
P「え、えっと……柳瀬美由紀、ちゃん?」
P「今さっき会ったばかりの人に“お兄ちゃん”はちょっと……」
美由紀?「……だめ、ですか?」
P「だめじゃないよ」キリッ
美由紀?「やったぁ~!」ギュッ
P「」ティン
P「我が765プロは、いつでも君を待っているぞ」キリッ
ガチャッ バタン
P「………」ニヘラ
P「つってもな。履歴書はもう信じられ………ん?」ピラッ
P「スリーサイズ……105-64-92だと!?」ガタッ
P「………」
P「……も、もう一度だけ、信じてみるか……」ゴクリ
コンコン
P「どうぞー」
ガチャッ
「失礼します」
「及川雫、16歳です……よろしくお願いします」ユッサユッサ
P「………」
雫?「何でしょう」ユッサユッサ
P「少しは似せる努力をしろ」
雫?「……な、何のことです?」ギクッ
P「……人前で腕組みはやめてくれないか?礼儀だろ?」
雫?「………」
ボトッ ボトッ
テイン テイン テイン ……コロコロコロ
P「………」
雫?「……う、うわー大変だー。む、胸がもげてしまったー」
P「………千早」
雫?「………」グスッ
P「……キャスティング考えたのは誰だ」
雫?「……音無さんです」
ガチャッ
美穂「だ、駄目よ千早ちゃん!それは言わない約束……」
P「………」
高木「ドッキリ大☆成☆功!はっはっは」
高木「アイドル候補生に扮した、現役アイドル達の採用面接はどうだったかね?」
P「………」
小鳥「………」
千早「………」
高木「いやぁ、最後まで気づかず面接をやり抜くとは、思いもよらなかったよ」
高木「君はまさにプロデューサーの鑑だ!素晴らしい!!」パチパチパチ
P「なぁーんだドッキリだったんですかー、うわー、騙されちゃったなー」ポリポリ
P「……あ、そうだ。“小日向美穂”さん」
小鳥「…」ビクッ
P「“小日向美穂”さん」
小鳥「……も、もうやだなぁ~プロデューサーさん、あれはドッキr」
P「“小日向美穂”さん」
小鳥「………は、はひ」
P「明日からレッスン、一緒に頑張りましょう」ニコッ
小鳥「え゙っ」
小鳥「……15……16……も、もうらめぇ……」ヘナヘナ
P「永遠の17歳がこの程度の腹筋でへこたれてどうするんですか」
P「体力作りは基礎中の基礎ですよ、“小日向美穂”さん」
小鳥「わ、私が悪かったです……だ、だから、もぉ………」
P「俺と一緒に仕事できる日を楽しみにしてたんでしょう?」
P「俺より“若い”んだからもっとシャキッとしないと、シャキッと」
小鳥「……ひぎぎぎ……」
響「ぴよ子も大変だなー」
真「自業自得だと思うけど」
春香「ドッキリやるなら最後まで手を抜かないのは鉄則ですよ、鉄則!」
P「途中まで完っ全に騙されてたなぁ。最初の子とか、採用する気満々だったんだけど……」
P「……そういや誰だったんだ、この子……?」
律子「どうしました?プロデューサー殿。浮かない顔しちゃって」
P「ん?あぁ、いや……何でもないよ」
P「……最初っから理想のアイドルなんて、いないもんだなぁ」
律子「ふふっ……そうですね」
おわり
探すの面倒だったじゃねえか…次はねえからな
高森藍子(秋月律子)
榊原里美(四条貴音)
小日向美穂(音無小鳥)
やなせみゆき(三浦あずさ)
<
諸星きらり(高槻やよい)
及川雫(如月千早)
Entry ⇒ 2012.06.22 | Category ⇒ アイマスSS | Comments (0) | Trackbacks (0)
男「幼馴染が幼女化した」 おさななじみ「おとこー」トコトコ
男「……幼?」
おさな「そうだよー」ニパッ
男「え……あれ?」
おさな「どーしたの?」
男「いや……うん。俺疲れてるのかな」
おさな「わっ、たいへんだよ! ちゃんとやすまなきゃ!」
男「あぁ、そうだよな……まさか幼がちっちゃかったころの姿に見えるとかな」
おさな「えー?」
男「そもそも最近はまともに口も聞いてないのに……欲求不満かな」
おさな「それならだいじょーぶ!」
男「なにが?」
おさな「わたし、ちっちゃくなっちゃったの!」
男「……はぁ?」
おさな「だいじょーぶ?」
男「うん……現在進行形でだいじょばないかな」
おさな「たいへんだ!」
男「うん、大変だ」
おさな「あたまいたいの?」
男「いや……うん。結構ストレスとかたまってるのかなって」
おさな「じゃあマッサージをしてあげましょー!」
男「あぁ、うん……ありがとう」
おさな「どいたまんして!」
男「それをいうならどういたしまして、だろ?」
おさな「そうだった、たいへん!」
男「……そうだなぁ」
おさな「わたしげんかくじゃないよ?」
男「幻覚はみんなそういうんだ」
おさな「そうなの?」
男「いや、知らないけど」
おさな「もー、うそつきはダメなんだよ?」
男「あぁ、ごめんごめん」ポンポン
おさな「えへへー、ゆるしたげる!」
男「うん、ありがとう……しかし」
おさな「?」
男「最近の幻覚すごいな。手触りまであるのか」ナデナデ
おさな「もー、ほんものだってばー」
男「はいはい」
おさな「どーしたの?」
男「いや、なんでもない……結婚の約束とかしちゃってさ」
おさな「あっ、それならわた、し……」
男「ん? どうした」
おさな「うっ……ああああっ! なんでもない! 忘れなさいよ!」
男「!?」
おさな「何よ、文句あるの? 男のくせに生意気よ!」
男「えっ……あれ? 幼?」
おさな「なによ」
男「……え?」
男「えっ、ああ。あの妙なものばっか作ってた?」
おさな「昨日ふらっと来たと思ったらよくわかんない薬とか飲まされたのよ」
男「おいおい……あの人まだそんなこと」
おさな「まぁ、それで気づいたらこのざまよ」
男「……つまり、幼に間違いないんだな?」
おさな「ほんっと、最悪ね。私が私じゃないみたい」
男「まぁ、ちっちゃくてかわいらしいしな」
おさな「からかってるんじゃないわよ」
男「失礼しましたお嬢様」
おさな「あー、とにかく! 私は私に間違いないんだけど」
男「ん?」
男「あぁ……昔みたいでかわいかったけどな」
おさな「か、からかわないでよバカ……だからね」
男「このままじゃいろいろ大変だから面倒みろって?」
おさな「……アンタに頼むのは気が乗らないんだけどね」
男「昔は一緒に風呂だって入ったんだしロリコンじゃないからだいじょう、ブッ!?」バキッ
おさな「……私が私らしくない時の言動は気にしなくていいから」
男「あ、あぁ……子供のいうことだからな。大丈夫だわきまえてる」
おさな「うん、ありがとう……ごめん限界」ガクッ
男「ちょっと待て、戻る方法とか……」
おさな「どーしたの?」ケロッ
男「……次にでてきた時に聞くか」
男「はいはいなんですか?」
おさな「むぅ……はいはいっかいなんだよ!」
男「はい、失礼しました」
おさな「よろしい!」
男「お褒めに与り光悦至極にございます」
おさな「こーえ……?」
男「とっても嬉しいってこと」
おさな「なんだぁ、それほどでもないよ! だってわたしおとこのことだいすきだもん!」
男「あはは、ありがとう」ナデナデ
おさな「えへへ」
男「ん……飯作ろうか。なにがいい?」
おさな「オムライス!」
男「了解。まかせなさーい」
おさな「あっ、あとね」
男「仕上げのケチャップは任せるからな」
おさな「うん! さすがおとこはわかってるねー!」
男「まぁ、つきあいも長いからなぁ」
おさな「さぁ、がんばれおとこー!」
男「あいあいさー」
男「もうちょいだな……後は卵でライスを包むだけ!」
おさな「ごーごーおとこー♪」
男「お姫様にもいいところ見せたいから……なっ」ヒョイッ
おさな「おー」
男「一丁あがり!」
おさな「かっこいいー!」ギュッ
男「はっはっは、軽い軽い」
おさな「……」ジー
男「……作ってみるか?」
おさな「えっ、でも……」
男「大丈夫、危なくないように手伝うからさ」
おさな「そうなの……? いいの?」
男「あぁ、なんだか幼の料理が食べたくて仕方ないんだ!」
おさな「えへへ……そこまでいうなら、わたしがつくってあげましょー!」
男「よっ、日本一!」
男「力入りすぎ、もっとゆったり持って」
おさな「バッ! ってやりたい、バッ!って」
男「その体じゃちょっと無理じゃないかな」
おさな「できるもん! だいじょうぶだもん!」
男「あのな……」
おさな「やだやだ、わたしやるの!」
男「……はぁ。そういえば一度いいだすと聞かなかったよな」
おさな「わたしひとりだってできるんだから! もうおとこなんて」
男「はいはい、どうかお手伝いするのを許してくださいませ」
おさな「……むぅ、はいはいっかいだよ」
男「はい、お姫様」
おさな「そこまでいうなら、しかたないなぁ」
男「ありがたきお言葉」
男「泣くな、漢だろ!」
おさな「おんなのこだもんっ!」
男「そうだった」
おさな「……ごめんね、おとこ」
男「ん?」
おさな「だって、わたし……しっぱいしちゃったもん」
男「どこがだ?」
おさな「ぐ、ぐちゃぐちゃで……おいしそうじゃないもん……」
男「なにをおっしゃるうさぎさん。こんなにうまそうなオムライスは初めてだぞ?」
おさな「で、でも」
男「俺の分はこっちだからな! わけてやんなーい! はっはー、ざまぁ!」
おさな「……おとこぉ」ウルッ
男「ちょ、なんで泣くの!?」
男「あー……大丈夫だから。おいしそうだから」
おさな「ほん、とに? いいの……?」
男「うん。あんまり泣いてると……ケチャップを俺がかけちゃおうかなー?」
おさな「あっ、それはだめぇ!」
男「じゃあ、任せた」
おさな「うん……こんどこそ、しっぱいしないんだからね!」
男「うん。大丈夫だぞ」
おさな「ケチャップケチャップらんらんらー♪」
男「……珍妙な歌だな」
男「いえい!」
おさな「どうぞ、めしあがれ」
男「おう、ありがとう……ん?」
おさな「どーしたの?」
男「これ、文字が書いてあるよな」
おさな「そうだよー」
男「見間違えじゃなければ『男LOVE』って読めるんだけど」
おさな「じょうずでしょー」
男「……あぁ、うん。ありがとう」ナデナデ
おさな「えへへ」
男「どうした?」
おさな「おなかいっぱいになったから、おふろはいりたい」
男「あぁ、うん……沸かすか」
おさな「まかせたぞー、おとこたいいん!」
男「かしこまりました、隊長殿!」
おさな「さー、をつけなさい!」
男「サー、イエスサー!」
おさな「よろしい!」
男「……で、意味はわかってる?」
おさな「わかんない!」
男「だろうね」
男「あの頃はよかったなぁ……」
おさな「ねーおとこー」
男「んあっ!?
おさな「おふろわいたよー?」
男「あ、あぁ。先にはいれよ」
おさな「えー?」
男「……ん? 俺が先の方がいいのか?」
おさな「いっしょがいいのにー」
男「いっ……」
おさな「いやなの……?」
男「いや、別に俺は……構わないけど」
男(そもそも俺ロリコンじゃねぇし。ノーマルだし。ボンキュッボンのおねぇさん大好きだし)
おさな「ねぇ、おとこー。まだー?」
男「あっ、うん。脱ぐから、わかってるから!」
おさな「んー?」
男「ほら、幼も服脱いで」
おさな「ぬげなーい」
男「えっ?」
おさな「ねぇねぇ、ぬがせてー」
男「あのなぁ……」
おさな「ぬがせてぬがせてー!」
男「あー、わかったから。あんまり大きな声出すなよ」
おさな「きゃー、けだものー♪」
男「意味わかっていってるのかそれ」
男「すっぽんぽんで異性のズボンを脱がせようとするんじゃありません、はしたない」
おさな「えー? でもわたしのことはぬがせたくせにー」
男「なんか誤解を招く言い方だな」
おさな「いやーん」
男「はいはい色っぽい色っぽい」
おさな「むぅ、つれないぞー」
男「まったく……幼女に反応するほど変態じゃねぇよ」
おさな「むー」
男(……なんだ、昔の幼そのものじゃないか)
男(これで反応なんてするわけないよなぁ……純粋な子供なんだから)
おさな「できなーい」
男「……まぁ、予想はついてた。洗えって?」
おさな「うん! おねがいしまーす」
男「ん。はいはい」
おさな「はいはいっかーい」
男「はい。じゃあ泡だてて……と」
幼「まだー?」
男「先に泡だてたほうが髪にはいいらしいぞ? 女の子なんだからそういうのにも気をつけろよ」
おさな「はーい」
男「わかればよろしい。それじゃ……」ワシャッ
おさな「んっ」
おさな「んー?」
男「いや、髪に指を通してるだけで気持ちいい」ワシャワシャ
おさな「えへへー、じまんのかみなんだよー」
男「……昔は伸ばしてたのにな」スゥ…
おさな「えー?」
男「いや、なんでもない。かゆいところはございませんかー?」スルッ
おさな「んー、くるしゅうないぞー」
男「それはそれはよろしいことで」ワシャワシャ
男「そうか……じゃ、流すかな」
おさな「はーい」
男「目はちゃんとつむれよー」
おさな「んー!」
男「じゃあ、ジャバジャバーっとね」ザバーッ
おさな「んー」
男「ちゃんと流さなきゃ髪が傷んじゃうか」ジャーッ
おさな「んんー」
男「ん?」
おさな「わたしねー、おとこのことだいすきだよ」
男「あぁ、俺も好きだぞ?」
おさな「ほんと?」
男「あぁ。もちろん」
おさな「わぁい! やったぁ!」
男(……あぁ、かわいいなぁ)
男(子供とかできたらこんな気分になるのかな……悪くないな)
おさな「じゃあおとこー」
男「ん?」
おさな「わたしがおせなかながしてあげる!」
おさな「うん、よいしょ」
男「……大丈夫か?」
おさな「だいじょうぶだよー」
男「ならいいけどな……」
おさな「えいっ」ゴシゴシ
男「ん……うん」
おさな「おかゆーいとこーろはごーざいませーんかー♪」
男「快適ですよー」
おさな「それーはーすてきーですねー♪」
男「……ふふっ」
おさな「どうしたのー?」
男「いや、いい創作ソングだと思ってね」
おさな「そっかー」
男「ちょ、それは流石にいいから!」
おさな「えんりょしなくていいのよー」
男「いやいや、待てって……」
おさな「ほー……ら……って」
男「おい、だか、ら……?」
おさな「きゃ、きゃああああああ!? ちょっと、なに見せてるのよ、隠しなさいよ!」バキッ
男「へぶっ!?」
おさな「し、信じられない! 最低よ!」
男「いや、ちょっとまて……いつもの幼か?」
おさな「そ、そうよ……なによ、こっち見ないでよ!」
男「お、おう。すまん」
おさな「う、それでも乙女の髪に勝手に触れたりするのはセクハラなのよ?」
男「あー、ごめんごめん」
おさな「適当すぎる! なによ、本気にしないでよね!?」
男「本気にって……なにを?」
おさな「わ、わからないならいいから! アンタはさっさと……うっ」
男「ちょ、ちょっと待て。だからなんのことか……そもそもお前、戻る方法とか」
おさな「もど、るのは……」
男「わかるのか? 方法が分かればなにか」
おさな「……だめ、やっぱり。わた……し……」ガクッ
男「おい、幼……」
おさな「……んー?」
男「……またか。早すぎるんだよ」
おさな「だいじょうぶ?」
男「あぁ……」
男(意識だけなら時々戻るみたいだが、そもそも身体が……)
おさな「どうしたのー?」ペターン
男「いや、なんでもない」
男(……見事に子供ボディだもんなぁ。どうしたもんか)
おさな「へんなのー」
男「変で悪かったなぁ」
おさな「でもそんなとこもすきー」
男「はは、光栄だなぁ」
おさな「もー、ほんとうだよ?」
男「いや、どうせだから肩まで浸かって10まで数えようか」
おさな「うん、わかったー!」
男「よし、いーち、にーぃ」
おさな「さーん、しーぃ」
男「ごーぉ、ろーく」
おさな「しーち、はーち」
男「きゅーう、じゅー!」
おさな「もーいいかーい?」
男「もーいーよー、ってそれはかくれんぼだろ」
おさな「あれれー?」
男「……はぁ」
男「それはよろしゅうございました」
おさな「ほめてつかわす」
男「ははーっ、ありがたきお言葉」
おさな「うん、じゃあジュースのみたい!」
男「待て」
おさな「なぁに?」
男「身体、拭かないとベッタベタだろ?」
おさな「だいじょうぶ、きにしないよ?」
男「俺が気にするんだよ、俺が!」
おさな「もー、わがままだなー」
男「……本当に子供に戻ってるなぁ、まったく」
おさな「きゃー」
男「ほれほれほれー」
おさな「きゃーきゃー」
男「ほれほれほれほれー」
おさな「やー、そろそろやめてー」
男「ほれほれほれほれほれー」
おさな「やめてー!」
男「ほれほれほれほれほれほれほれ」
おさな「いたいっ! もう!」
男「あっ、ごめん」
おさな「もっとおとめのはだをだいじにしなきゃモテないよ!」
男「本当にごめん」
おさな「そんなおとこのことはわたしがだいじにしてあげましょー」
男「……え?」
男「そうかなぁ……」
おさな「うん、だからわたしをだいじーにしてくれなきゃダメ」
男「うん……?」
おさな「あしたはデートしよ?」
男「明日って……お前、学校」
おさな「だいじょーぶ!」
男「いやいや、でも……」
おさな「だって……わたし、いまのままだとがっこうにいけないもん」
男「あっ……」
おさな「……ねぇ、おねがい」
男「……わかった」
男「遊園地?」
おさな「うん!」
男「……あそこか。わかった」
おさな「えへへー、たのしみだなぁ……」
男「……幼?」
おさな「んむ……なぁに?」
男「お前、眠いだろ」
おさな「そんなこと……ふわぁ、ないよ?」
男「思いっきりあくびしてるじゃねぇか」
おさな「これは、その……めにゴミがはいったの」
男「それは涙が出た時のいいわけだ」
男「……なんだ?」
おさな「なんで、いっしょのおふとんじゃないの?」
男「一人はさびしいだろうと思ってわざわざベッドのそばに布団敷いたんだ。いいだろ?」
おさな「えー、やだぁ」
男「じゃあこっちの布団にするか? 俺がベッドで」
おさな「そうじゃないのー」
男「じゃあどうなんだよ」
おさな「いっしょのおふとんがいいの……」
男「あのなぁ……もし朝起きて幼がいつもの状態になってたりしたら」
おさな「だいじょうぶだよ、わたしはおとこがだいすきだもん!」
男「いや……だから」
おさな「?」
男「はぁ……どうせゆずらないんだろ?わかった」
おさな「わぁい!」
男「……どうした?」
おさな「えへへー、よんだだけー」
男「あのなぁ……」
おさな「おとこ、だぁいすきだよ?」
男「ん、ありがとよ」
おさな「ん……」
男「ん?」
おさな「ぎゅーってして?」
男「……あいよ」ギュッ
おさな「んんっ……あったかぁい」
男「……」
おさな「おやすみ、おとこ」
男「……あぁ、おやすみ」
男(……まだ、朝じゃないよな)
おさな「……この、身体」
男(幼……? 起きてるのか?)
おさな「やっぱり……でも、だからって……」
男「幼……?」
おさな「あっ……な、なぁに、おとこ?」
男「いや……どうした、眠れないのか?」
おさな「え、えっと……だいじょうぶ、だよ?」
男「そうか……トイレとかじゃないよな?」
おさな「れ、レディにそんなこというのはデリカシーがないんだよ?」
男「おっと、すまん」
おさな「な、なんでもないってばー、へいきだよ?」
男「……? そうか、ちゃんと寝なきゃだめだぞ?」
おさな「……うん」
男「それじゃあ、おやすみ」
おさな「……おやすみ。男」
―――――
おさな「おっきろー!」ドスン!
男「げふっ!?」
おさな「おとこのこだろ、しゃんとしなさーい!」
男「はいはい……元気だなぁ」
おさな「だって、おとことおでかけだもん!」
男「それで寝不足になってもしらないぞ?」
おさな「えーっ、ちゃんとねてたもん!」
男「いやいや……ん、ていうか」
おさな「うんうん」
男「そろそろ……どいてくれない?」
おさな「や!」
男「そしたらお出かけできないんだけどなぁ」
おさな「あっ……じゃあどいたげる!」
男「はい、ありがとう」
おさな「えーっとね……うーん」
男「……目玉焼きのせトースト?」
おさな「それ!」
男「あいよ、ベーコンつきな」
おさな「うんうん!」
男「ちょっと待ってろよー」
おさな「はーい!」
男(……ま、たまには学校休んだってバチはあたらないだろ)
男(幼がこんなんじゃいってもしかたないだろうしな)
おさな「わぁい! ありがとー」
男「どういたしまして。じゃあ……いただきます」
おさな「いっただっきまーす! あむっ」モグモグ
男「あんまりがっつくなよ?」
おさな「ん、んぐっ、……おいしいよ!」
男「だから……」
おさな「あーん、あむっ」
男「……幸せならいいんだけどさ」」
おさな「……♪」モグモグ
おさな「うん!」
男「……えーっと、バスを乗り継いでいく感じだから」
おさな「ねぇねぇはやくー!」
男「あぁ、最後の確認してたんだってば。いくか!」
おさな「うん! いこー!」
ガチャッ
おさな「だーっしゅ!」
男「おい、遊園地は逃げないぞー」
おさな「じかんはゆうげんなのだよ、わとそんくん!」
男「はいはい、わかりましたよホームズ先生」
男「ほらほら、焦るなって……」
おさな「えー……じゃあ」
男「ん?」
おさな「て、つないで?」スッ
男「はいはい」ギュ
おさな「はいはいっかいでしょー」
男「はい、失礼しました」
おさな「わかればよろしーのです」
男「……くくっ」
おさな「もー、なんでわらうの?」
男「いや、幼はかわいいなぁってね」
男「いやいや、本当に……ん、あれって」
タッタッタッタッタ……
女「ちっこくちこくー! ……え、あれ?」
男「よ、女じゃん」
女「あっれー、男くんじゃん! ……そちらは、妹さん?」
男「いや、こいつは」
おさな「……うー、がるるるる」
男「……こいつは、うん。親戚にあずかってる子なんだ」
女「へー、かわいい子だね。 お名前は?」
おさな「きさまになのるななどないっ!」
女「Oh……勇ましいのね……」
男「おいおい、お……さみ。そこらへんにしとけよ」
女「おさみちゃん?」
男「そ、そうそう。そういう名前」
男「いや、ここはあわせてくれよ。頼むから」
おさな「むぅ……」
女「お、おさみちゃん? あの」
おさな「……なんですか」
女「いやぁ、今日って一応は平日じゃない? 男くんつれてるなんてどうしてかなーって」
おさな「わたしはいいのです。とくべつなので」
女「そっかー、特別かぁ……すごいね」
おさな「ふっふーん、そんけーしてもいいよ?」
女「うん、とっても尊敬しちゃうかも!」
おさな「えへへー」
男(チョロいな)
男「ん……いや、ちょっと体調がね」
女「へぇー、つまりサボりなんだぁ」
男「そういうわけでも……」
女「あるよね?」
男「あるけどさ」
女「ほーらやっぱり。まったくもう」
男「……はぁ」
女「男くんをそんな悪い子に育てた覚えはありませんよ!」
男「育てられた覚えもないけどな」
女「それはどうかな?」
男「なんでちょっとドヤ顔してるの?」
男「別に、たまにはいいだろ? 遅刻しそうなんじゃなかったのかよ」
女「ん、まぁいいかなーって」
男「おいおい……」
おさな「かえれ!」
女「ひどいっ!?」
男「おいおい、我慢してやってくれよ。女もヒマなんだよ」
女「もっとひどい!?」
おさな「そうか、かわいそうなこだったのかー」
女「ちょ、ちょっとぉ!?」
男「別にそういうんじゃないけどさ」
おさな「デートだよ!」
男「ちょ、おいっ!?」
女「スミにおけないねぇ……ヒューヒュー」
男「ちょ、女……これには深いわけが」
女「おっと、言い訳はご無用さ。……幼ちゃんに黙っておいてほしいんでしょ?」
男「あ……うん、まぁ」
おさな「わたし?」
女「いや、おさみちゃんじゃなくてね……そう、お兄ちゃんは……」
男「おいばかやめろ」
女「ちぇー、ケチ」
女「あのね、おさみちゃん。お兄ちゃんには実は好きな人がいるんだよ?」
おさな「えっ……」
男「おい、だから」
女「……もー、別にこの子に話したからってどうこうなるわけじゃないし結構有名だよ?」
男「そうかもしれないけど、でもな」
おさな「おとこ……すきな、ひと……いるんだ」
男「いやいや、確かにいるっちゃいるけど」
女「振り向いてもらえないって嘆いてるもんねぇ。私は応援してるけど」
男「……あのな」
おさな「……そっかぁ」
男「あ、あぁ」
女「まぁ、適当にごまかしといてあげる。私は遅刻確定だけど!」
男「俺が車に轢かれたのを見て病院に連れてったとか言えば?」
女「その手があったか!」
男「たぶんすっげぇめんどうなことになるけどな」
女「ちくしょう! なかった!」
男「じゃ、また今度な?」
女「うん、またねー! おさみちゃんも!」
おさな「うん、ばいばーい」
男「ん、あぁ」
おさな「すきなひと、いるの?」
男「……一応な」
おさな「へぇ……じゃあ」
男「ん?」
おさな「よこーれんしゅーしよ!」
男「はぁ?」
おさな「おんなのこに、はずかしいところはみせちゃだめなんだよ?」
男「あー……はいはい」
おさな「はいはいっかい!」
男「はいよ」
男「ん、遊園地だなぁ」
おさな「あんまりひとがいないよ! のりほーだいだよ!」
男「そうだな」
おさな「もー、そんなんじゃすきなこといっしょにきたときもたのしんでもらえないんだよ?」
男「……そうかな」
おさな「そうだよー。きょうはわたしがかわりをしてあげる!」
男「それはそれは」
おさな「エスコートしなさい、おとこ!」
男「おまかせあれ、お嬢様……」
おさな「えー?」
男「嫌だったか?」
おさな「わたしはいいけど、だっておんなのこだよ? たいくつしちゃわないかなぁ」
男「そういうものなのか?」
おさな「もっと、ジェットコースターとかできゃーきゃーいうのがすきなひとがおおいよ?」
男「ふぅん……でも幼は苦手だろ?」
おさな「う……そんなことないもん! だいじょうぶだもん!」
男「まぁどっちにしろ身長的に乗れないけどな」
おさな「あっ」
男「気付いてなかったのかよ……」
おさな「わ、わたしこどもじゃないもん……」
男「はいはい」ポンポン
男「よし、じゃあ……って、なんだ?」
おさな「あのね、おとこ……」
男「お、おう」
おさな「わたし、おうまさんにのりたいけど……でもね」
男「馬か……今の幼の身体だとちょっと乗りづらそうだな」
おさな「うん、だから……だからね?」
男「ん?」
おさな「わ、わたしを……ぎゅーってしながら……のってほしいなって」
男「……はい?」
男「いや、2人でとか……大丈夫なのか?」チラッ
係員「あぁ、お兄さんが支えてあげながら乗ってあげるんですか? 問題ありませんよ」
おさな「……だって?」
男「そうか……まぁ、それなら」
おさな「えへへ……」
男「ん、しょ。大丈夫か?」
おさな「う、うん」
男「別にふり落とされたりはしないだろうけどしっかりつかまって」
おさな「し、しっかりつかまえててくれる?」
男「……あぁ、もちろん」
男(心も、多分あの頃のまま。俺と一緒にいてくれたころのまま)
男(いつからだろうなぁ……話さなくなったの)
男(いつだっけなぁ……幼が、ショートカットにしたの)
おさな「わわわっ、おちちゃうかも! ねぇおとこ」
男「……あ、うん?」
おさな「……?」
男「ど、どうしたんだよ幼」
おさな「……なんで、ないてるの?」
男「えっ……」
おさな「……うそ」
男「いや、本当に」
おさな「たいくつだったの?」
男「違うって。ちょっとした思い出し泣きだよ」
おさな「なにをおもいだしたの?」
男「あー、ほら……子供のころ飼ってたピーちゃん」
おさな「あっ……ねこに、たべられちゃった?」
男「そうそう、あの時は二人してわんわん泣いたよなぁって」
おさな「だってかなしかったもん……でも、デートちゅうにおもいだすことじゃありません! げんてんです」
男「あぁ、ごめんよ」
おさな「うーん……」
男「……お化け屋敷」ボソッ
おさな「!?」ビクッ
男「は、苦手だろ?」
おさな「そ、そんなことない!」
男「いやいや、無理はするなよ」
おさな「だ、だいじょうぶだから! ぜったい!」
男「……いいのか?」
おさな「だ、だって……よ、よこーれんしゅーだから……」
男「あのなぁ……」
おさな「き、きになるあのこともスキンシップできちゃうかもしれない、よ?」
男「……そこまでいうならいこうか」
おさな「う、うん」
男「おいおい、そんなにくっついたらなにも見えないだろ」
おさな「い、いいの! わ、わたしはれんしゅーだから!」
男「あのなぁ……」
ウォァァァ……
おさな「ひぃっ」ビクッ
男「おいおい、だから……」
おさな「だ、だいじょうぶだもん……おとこがいるから……」
男「……はいはい」
男「おい、幼……」
おさな「ひぅっ!?」
男「いや、もうすぐ出口だぞ?」
おさな「でぐ、ち?」
男「ほら……あっちからちょっと明かりが見えるし」
おさな「で、でぐち……おそと……!」ダッ
男「おい待て、走ったりとかしたらラストで」
ガシャーン! ウヴォオオオオオオォォ!
おさな「きゃああああああぁぁぁぁぁっ!?」
男「……いわんこっちゃない、って」
おさな「あ、あっ……ぅぁあ……」ショワァァァ
男「幼……」
おさな「あ、ち、ちがう、のっ……うぅ、やぁ……」ピチョン
男「……あぁ、大丈夫だから、な?」
おさな「……」グスッ
男「大丈夫だって、誰にも言わないし……苦手なのは知ってたのにいこうっていったのは俺だから」
おさな「でも、おとこが……みたもん」
男「それは……仕方ないだろ。それに昨日一緒に風呂に入ったんだしこれぐらい」
おさな「は、はだかよりはずかしかったもん!」
男「大丈夫だって。子供のすることなんだし」
おさな「……うん」
男「ん?」
おさな「そう、だよね……いまのわたしはこどもだもんね……」
おさな「……ぱんつもかえたし、じかんもけっこうたったよね」
男「もうそんな時間か?」
おさな「ごはんだってたべたし。いろいろのったよ」
男「んー、同じのばかりだったような気もするんだが」
おさな「いっしょにやったシューティング、たのしかった! おとこはへたくそだねー」
男「うるせーやい。幼が先に俺のターゲットを撃っちゃうからだろ?」
おさな「だからね、つぎでさいごだよ」
男「……?」
おさな「……観覧車。乗ろう?」
男「あぁ、そうだな……ラストだからな」
おさな「……ねぇ、男」
男「どうした?」
おさな「わたし……私ね。好きな人がいるんだ」
男「……そう、なのか」
おさな「あれ? どうしたの?」
男「いや……幼、今お前どっちだ?」
おさな「どっちって、なんのことかな?」
男「子供の幼じゃないよな」
おさな「……ん、わかんない」
男「……?」
男「……うん、すごくうれしい」
おさな「でも、男がすきなのはわたしじゃない」
男「あぁ、そうだな」
おさな「だから、私はもういいかなって」
男「……」
おさな「デートの練習、楽しかった?」
男「……あのさ」
おさな「なぁに?」
男「俺、好きなやつがいるっていったよな?」
おさな「……うん」
おさな「……」
男「最近は……話さなくなっちゃったんだけどさ」
おさな「……?」
男「それでも好きだって、思ってたんだ」
おさな「それって……」
男「俺が好きなのは、幼だよ。子供のころのじゃなく、今のお前が一番好きだ」
おさな「……私、で……いいの?」
おさな「バカだなぁ……なんで?」
男「……なんでだろうな。子供のころからずっとなんだろうけど」
おさな「……私も、なんだけどさ」
男「隣にいてほしいっていうか……隣にいたいっていうか」
おさな「アンタの隣は退屈はしなさそうよね」
男「まぁ、幼みたいにかっこいい毎日じゃないけどな」
おさな「私の?」
男「うん、部活も勉強もキラキラ輝いててさ。俺なんて中途半端で」
おさな「……それで、話かけてこなくなったの?」
男「……そうかもな」
おさな「ホント、バカだね」
おさな「はーぁ、子供のころのかっこよかった男はどこにいっちゃったのかしら」
男「……今はずる賢くなっちゃったんだよ」
おさな「中学生にケンカうってまでかばってくれたのになぁ」
男「あれは……かっこつけたかっただけでさ」
おさな「だったらなんで自分がケガしてるのよ、もう……」
男「子供だったからなぁ」
おさな「今だって子供じゃない」
男「子供の身体になってるやつに言われたくないね」
おさな「むっ……言ってくれるわね。なら」
男「なんだよ」
おさな「……登ってみる? 大人のステップ」
男「……はぁ?」
男「……?」
おさな「さ、察しなさいよぉ! キ、キキ……キス、とか……してみない?」
男「あ、あぁ……なるほどな」
おさな「子供相手じゃ、いや?」
男「身体の問題じゃなくて……っていうかさ、いいのか?」
おさな「な、なにがよ?」
男「いや、俺でいいのかなって」
おさな「……あのね、男?」
男「ん?」
おさな「私、身体もしゃべる言葉も子供になっちゃってたけど……でも」
おさな「心は、ずっと私のままだったよ? 好きだって言ったのも本気なの」
おさな「こんな、恥ずかしいこと……言う気なかったわよ。でも本当に好きなの」
男「俺も、好きだ」
おさな「さっき聞いた」
男「……幼」
おさな「……ん」
男「好きだ」
おさな「私も」
男「……キスしてもいいかな?」
おさな「……そこで聞いちゃうから、アンタはモテないのよ」チュッ
男「んっ……!」
男「お前、いきなり……そんな」
おさな「別に、いい……で、しょっ……うぅっ!?」
男「え、幼!?」
おさな「くる、しっ……い……!」
男「お、おい! しっかりしろよ、どうしたんだよ!?」
おさな「え、えへへ……好きって、言えたのに……」
男「ちょ、ちょっと待てよ……」
おさな「ごめんね、だいすきだ……よ……?」ガクッ
男「幼……幼あああぁぁぁ!」
シュゥウウウウウ…… ゴウンゴウンゴウンゴウンゴウン…・・
女「……それで?」
男「うん、俺は……生まれ変わろうって」
女「ふーん、幼ちゃんのため?」
男「それと、俺自身のため。ちゃんとやってけなきゃいけないって思ってさ」
女「……お熱いんだね」
男「からかうなよ」
女「いやぁ、私にも1ミリぐらいはチャンスがないかなぁって思ってたんだけど……付け入る隙すらありゃしない」
男「俺は昔も今も幼一筋だからな」
女「はいはい……ところで」
男「ん?」
女「その愛しの幼ちゃんが呼んでるよ?」
幼「遅いわよ、男! お昼一緒に食べるっていったじゃない!」
男「あっ、ごめん! 今日の弁当だけどさ……」
女「はぁ……妬けちゃうねぇ、まったく」
男(そしたら、急に観覧車の中が白い煙に包まれて……目を開けたら半裸の、元通りのサイズの幼が)
男(おじさんが開発した薬はキスで効果が切れた……らしい。その時の痛みで気を失ったとか)
男(幼自身も知らなかったそうだ。まったくもってはた迷惑なおじさんだ)
男(でも)
幼「ねぇ、男?」
男「ん?」
幼「好きだよ」
男「知ってる」
幼「……そうじゃなくてさ」
男「……好きだよ」
幼「うん、知ってる」
男「……おいおい」
幼「いいじゃない……私と、男の仲なんだから?」
男(今は割と、幸せだから……もういいかななんて、思ってしまうのだ)
ここまで伸ばすつもりはなかった
寝落ちとかぐだぐだ展開とかすまんかったー。改めておやすみ
良かったよ
良かった
男「幼馴染が巨大化した」
男「幼……!」
幼「おーとーこー」
男「待て、どういうことなんだこれは……」
幼「わーかーんーなーいー」ぐおおおぉ
男「ちょっ、あぶねぇ!」
幼「ごーめーんーねー」
男「いや、いいから! 心当たりは!?」
幼「わーかーんーなーいー」ぐおおおぉぉぉ
男「だからあぶねぇっつってんだろうが!」
幼「ふーえーぇーぇー」
男「音波攻撃だと!?」
こういう路線?
まさにそんなのイメージして開いたら寧ろ逆でワロタ
そんなことをしている場合じゃないだろ
Entry ⇒ 2012.06.22 | Category ⇒ 幼馴染「」SS | Comments (0) | Trackbacks (0)
蒲原「ワハハ……部室に居場所がない」久「あの、あの子はたしか」
久「県予選の中堅で戦ったわよね。清澄の竹井久よ」
蒲原「ああ・・・ワハハ、その節はどうも」
久「いいえ、こちらこそ。覚えててくれた?」
蒲原「ワハハ、もちろん。あんたに頭が弱いって馬鹿にされたのは今でも根に持ってるよ」
久「あーそういえばそんなことも言ったかしら。まぁ軽いジョークよ」
蒲原「ワハハー、うそつけー」
蒲原「え・・・いいの?」
久「? いいのってなによ?」
蒲原「ワハハ・・・いやさ、私なんかと・・・」
久「・・・? 何か嫌なことでもあったの?」
蒲原「い、いや別に・・・ワハハ・・・」
久「・・・」
久「まぁいいわ。話は追々聞くとして、どこか希望はある?」
蒲原「どこでもいいよ」
久「じゃあ私の行きつけの喫茶店にしましょ。ついてきて」
蒲原「わ、ワハハ・・・相変わらずだよ」
蒲原「といっても私とゆみちん・・・って言ってわかるかな?」
久「えーっと・・・ああ、鶴賀の部長の?」
蒲原「いや部長は私なんだけど・・・」
久「え、うそ!?」
蒲原「ワハハ、ほんとだよ。いっつも勘違いされるけどねー」
久「そりゃあねえ・・・だって似合わないもの」
蒲原「あんた容赦ないね・・・まぁそういうとこ嫌いじゃないけどさー」
久「まぁ県予選も終わったしね」
蒲原「そうなんだよー。で、部長を二年に引き継がせたわけだけど・・・」
蒲原「・・・」
久「・・・どうしたの?」
蒲原「あ・・・わ、ワハハー、いやなんでもないよー」
蒲原「それで元々部員も団体戦に参加できるギリギリの人数だったから、まーた部員が足んなくなっちゃってさー」
久「まぁ清澄も似たようなものね」
蒲原「そっか。あんた三年だもんね」
久「ええ、だからインハイが終わったら私ともう一人は引退。部員は一気に三人になっちゃうわ」
蒲原「ワハハ、大変だねー」
久「ふふ、お互い様じゃない」
あ、そうか。やべえ完全に忘れてた
久「ええ、おしゃれなとこでしょ?」
蒲原「わ、ワハハ・・・なんか私には似合わないなー」
久「・・・あなた、見かけによらず案外ネガティブなのね」
蒲原「え・・・?」
久「いい? そういうこと頭で考えちゃうから、そう見えちゃうのよ」カランカラン
蒲原「・・・」
いらっしゃいませー
久「何事もポジティブに考えなきゃ人生損よ?」
蒲原「・・・」
久「・・・」
久「・・・ええ、ありがとう」
久「なに暗い顔してるのよ。ほら、笑顔笑顔」
蒲原「・・・え、がお・・・?」
久「そうよ。あなたの一番の取り柄じゃないの?」
蒲原「取り柄だなんて・・・そんな大それたもんじゃ・・・」
久「でも、前に会ったときのあなたはもっと楽しそうに笑ってたわよ?」
蒲原「・・・」
久「・・・なんかあったんでしょ? よければ話を聞かせて?」
久「あらそんなことないわよ」
蒲原「いやいい奴だよ・・・」
久「・・・」
蒲原「じゃあ、ちょっと話聞いてくれる・・・?」
久「焦らなくていいわよ。まずは注文を決めちゃいましょう。あのすみませーん」
「はい、ご注文お決まりでしょうか?」
蒲原「えっと、じゃあ私は・・・このレモンティーで」
久「私はアイスコーヒーで」
「ご注文ありがとうございます。ごゆっくりどうぞ」
久「ありがとう」
蒲原「ワハハ、どうも」
久「・・・」カランコロン
蒲原「・・・」チュー
久「それじゃ、話してくれる・・・?」
蒲原「ぷはっ・・・うん・・・」
蒲原「えっとどっから話そうかな・・・」
――――――――――――
――――――――
---------
ガチャリ
蒲原「ワハハー、今日もあっついなー」
睦月「あ、先輩・・・」
蒲原「よーっす、ってあれ・・・むっきーだけか?」
睦月「・・・ええ」
蒲原「ん? どうしたんだー、そんな暗い顔してー」
睦月「・・・」
蒲原「ワハハー、ほれほれー」グリグリ
睦月「・・・や、やめてください・・・っ」
蒲原「・・・あ、ごめん」
蒲原「・・・わ、ワハハー・・・」
蒲原(むっきー機嫌悪いのかな・・・って)
蒲原「あ、もしかしてあの日かー? ワハハ、それじゃ機嫌が悪いのもしょうがn」
睦月「ちょっと黙ってください・・・っ!!」
蒲原「・・・!?」ビクッ
睦月「・・・先輩は気楽でいいですよね・・・」
蒲原「え・・・」
蒲原「む、むっきー・・・何があったのさ」
蒲原「え・・・何を?」
睦月「佳織さん、もう麻雀部辞めたんですよ」
蒲原「え・・・な、なんで・・・」
睦月「蒲原先輩が引退して、もう部にいる理由がなくなったから、だそうです」
蒲原「え・・・い、意味わかんないよ・・・え・・・?」
睦月「元々あの人は先輩に無理やり部に加入させられたようなものでしたからね・・・」
蒲原「む、無理やりだなんて・・・一応かおりんの許可はとったよ・・・っ!?」
睦月「・・・先輩もわからない人ですね。年上の幼馴染からの頼みを、そう簡単に断ることができると思いますか・・・?」
睦月「まぁ佳織さんも内心辛かったと思いますよ。やりたくもない活動に半強制的に参加させられて」
蒲原「・・・か、佳織はそんな子じゃ・・・」
睦月「退部の旨をあなたに知らせなかったことが何よりの証拠です」
睦月「まぁ先輩はもうすでに麻雀部の部員ではないのですから、その義理もないのでしょうが」
蒲原「・・・か、佳織・・・」
睦月「それとですね・・・」
ガチャ
加治木「お、睦月に・・・蒲原じゃないか! 久しぶりだな!」
蒲原「あ・・・ゆみちん」
睦月「・・・」
蒲原「ゆ、ゆみちんはさ・・・知ってたの? 佳織が部を辞めたこと・・・」
加治木「えっと・・・まぁ、そりゃあな・・・」
蒲原「・・・」
加治木「まぁでも仕方ないじゃないか! 妹尾にだって色々と都合はあるんだ」
加治木「むしろ彼女のおかげで県予選に参加できたことだけでも幸運だったと思うべきだ! うん!」
睦月「・・・よくもそんなことを抜け抜けと・・・」
加治木「・・・? 睦月?」
睦月「あなた、仮にも先日までこの部をまとめてきた責任者でしょう!? なのによくもそんな軽々しいこと言えますねッ!?」
蒲原「む、睦月・・・?」
加治木「い、いや・・・私も残念だとは思っているさ。だが仕方のないことじゃないか・・・? なぁ蒲原?」
蒲原「えっと・・・その・・・」
睦月「それが無責任だって言ってるんですよ!! やることだけやって満足したら、あとは部のことは私に全部押し付けてポイですか!?」
睦月「いい加減にしろってんですよ・・・ッ!!」
蒲原「む、むっきー・・・」
蒲原(このことが、むっきーを悩ませてたのか・・・)
蒲原(そして、その原因は私たち・・・?)
「・・・そこまでにしてくれないっすかね? むっちゃん先輩・・・」
睦月「その声は・・・東横さんですか」
桃子「はいっす。話はさっきから聞かせてもらってたっすよ」
桃子「・・・よくも加治木先輩にあられもない暴言を吐きたててくれたっすね」
睦月「だって本当のことでしょうが・・・」
桃子「むっちゃん先輩・・・あなたのやってることは子供の駄々と一緒っすよ」
睦月「・・・ッ!!」ダンッ
睦月「それをあんたに言われたくない・・・っ!!」
睦月「何でもかんでも部長に頼ってればいいと思ってるの・・・?」フルフル
睦月「甘えんなッ!! そもそもあんた、先輩方が引退した後は部の活動にまったく参加してないじゃない!!」
睦月「たまに部室に来たと思ったら、そこの無責任女とイチャイチャしてるばっかで!!」
桃子「・・・」
桃子「むっちゃん先輩・・・加治木先輩のこと、これ以上侮辱したらモモが許さないっすよ」
睦月「なに? やろうっての?」
蒲原「お、おい・・・二人とも・・・」
加治木「・・・」
蒲原(な、なんでゆみちんも見てるだけなんだよ・・・!?)
睦月「こっちはあんたらのせいで毎日毎日ストレス溜めこんでんだよ・・・ッ!!」
桃子「自分の器量のなさを、他人のせいにしないで欲しいっすね」
睦月「うるさい黙れ・・・それもこれも全部・・・」
睦月「お前と・・・ッ、その、クソ女のせいだって言ってんでしょ・・・ッ!!?」
桃子「・・・ッ!!」
ボカッ
睦月「ぐっ・・・ッ!!」
桃子「はぁ・・・はぁ・・・てめえ、先輩を侮辱すんなっす!!」
桃子「は、離せっす!!」ジタバタ
睦月「・・・はぁ・・・はぁ・・・お前、」
睦月「前々から気に食わなかったんだよ・・・ッ!!」
バスッ
桃子「うっ・・・ッ!!」
加治木「も、モモ・・・っ!!」
蒲原「も、モモ・・・ッ!!」
桃子「・・・ッ!!」バシンッ
蒲原「痛っ・・・!」
桃子「あんたもあの女の味方なんすか、蒲原先輩!!?」
蒲原(・・・二人にこんなことして欲しくないだけなんだ・・・ッ)
蒲原(なんて・・・言えるのか? 言う資格があるのか? 私に・・・私なんかに・・・)
桃子「もう我慢ならないっす。こんなクソみたいな部活、辞めてやるっすッ!!」
睦月「勝手にしろ!! 二度と部室に足を踏み入れるな!!」
睦月「あんたらもですよ・・・先輩たち・・・ッ」
加治木「・・・」
蒲原「そ、そんな・・・」
桃子「・・・先輩、行きましょうっす」
加治木「・・・ああ」
バタンッ!!
蒲原「・・・」
睦月「・・・はぁ・・・はぁ・・・」
睦月「・・・」
蒲原「ご、ごめんな・・・私が不甲斐ないばかりに・・・っ」
睦月「・・・」
蒲原「私が・・・っ、部長として、み・・・みんなを統率してやれなかった・・・っ」ポロポロ
睦月「・・・」
蒲原「そのことが原因で・・・っ・・・むっきーにすごく迷惑かけて・・・っ」ポロポロ
蒲原「ほんとに・・・ごめん・・・っ、ご、ごめんなさい・・・ううっ・・・」ポロポロ
睦月「・・・ってください」
蒲原「・・・え?」
睦月「出てってください。もう二度とその顔見たくありません」
蒲原「・・・ぁ」ポロポロ
蒲原『みんなは実際の距離も、心も離れ離れになってしまった』
蒲原『それもこれも、すべて私のせい』
蒲原『私が・・・』
蒲原『・・・』
蒲原『』
――――――――
―――――――――――――
久「・・・」
蒲原「とまぁ、そういうわけなんだ。笑えちゃうだろー」ワハハ
久「・・・あなた、泣いてるわよ」
蒲原「え・・・う、嘘だよ・・・な、泣いてなんか・・・」
久「・・・心がね、泣いてるのよ」
蒲原「・・・っ」
蒲原「・・・ワハハ・・・私は自業自得だよ・・・」
蒲原「むっきーたちの方が・・・よっぽど辛い思いをしているはずなんだ・・・」
蒲原「・・・」
久「・・・もう、自分を責めるのはやめなさい」ギュ
久「あなただって十分辛い思いをしてきたわ・・・もう我慢しなくていいの」
蒲原「・・・ぁ」
蒲原「・・・うぐっ・・・えっぐ・・・うわぁああああああああああん!!!」ポロポロ
久「あ、ごめんなさい。もう出るわ」
「あ、恐れ入ります・・・」ペコペコ
久「蒲原さん、とりあえずここを出ましょう。立てる?」
蒲原「・・・ひっく・・・っ」コクッ
久「いい子ね・・・はい、お代ここに置いとくわね」
「あ、ありがとうございます」
カランコロン
久「もう、日も沈むわね・・・」
蒲原「・・・」グスン
久「もう泣かないの」ヨシヨシ
蒲原「や・・・やめてっ・・・」
久「・・・」
蒲原「や、優しくされちゃうと・・・余計涙が出ちゃう・・・っ」グスン
久「・・・ごめんなさい」
蒲原「・・・っく・・・うぅ・・・」
久「とりあえず、あのベンチに座りましょう」
蒲原「うん・・・ありがとう」
久「私は何もしてないわよ」
蒲原「・・・っ・・・ふふ・・・」
久「? 何がおかしいの?」
蒲原「それ・・・口癖なのか? 『なにもしてない』っての」
久「そうみたいね。けど本当に何もしてないんだもの」
蒲原「ふふ・・・なんだそれ・・・」
久「・・・やっと笑ってくれたわね」
蒲原「・・・え?」
久「今日初めての、あなたのほんとの笑顔。とってもかわいいわよ」ニコッ
久「久でいいわよ」
蒲原「・・・うん、久」
蒲原「・・・こんなこと話せるの、誰もいなかったから・・・」
蒲原「なんか胸の奥が・・・ちょっとすっきりした気がする・・・」
蒲原「ありがとう」
久「・・・」
蒲原「・・・それじゃわたしもう帰るよ」
久「・・・待って、智美」
蒲原「・・・さ、智美?」
蒲原「え・・・うん、そりゃいいけど・・・」
蒲原「まだ私に何か・・・」
久「あなた・・・これからどうするつもりなの?」
蒲原「・・・」
久「鶴賀の麻雀部のことは、諦めるつもり・・・?」
蒲原「だって・・・どうしようもないよ・・・」
久「・・・私は二度同じことは言わないわ」
蒲原「え・・・?」
蒲原「・・・」
蒲原(あ・・・)
久『いい? そういうこと頭で考えちゃうから、そう見えちゃうのよ』
蒲原(そうだ・・・)
久『何事もポジティブに考えなきゃ人生損よ?』
蒲原(私は何をしてたんだ・・・私は、私は・・・)
久「ふふ・・・ようやく気付いたみたいね」
久「さて、聞きましょうか・・・智美、あなたの望みは?」
蒲原「わ、私は・・・」
蒲原「・・・」グッ
蒲原「私は、また鶴賀のみんなで麻雀がしたい・・・っ!!」
蒲原「・・・」
蒲原(そうだ、なにを諦めてんだよ私・・・ッ)
蒲原(私にとっての麻雀部ってなんだ? こんな簡単に諦めてしまえるほどのもんだったのか?)
蒲原(違うだろう・・・ッ、鶴賀の麻雀部は私の居場所だ・・・! そしてその部員は、私の大切な仲間だ・・・!!)
蒲原(壊れかけてしまった麻雀部の絆・・・それに僅かでも責任を感じているのなら)
蒲原「私は・・・鶴賀麻雀部部長として、みんなのバラバラになった心を繋ぎあわせなくちゃいけない・・・っ」
久「いい顔見せるようになったじゃない」ニコリ
蒲原「・・・ありがと、久。久には助けてもらってばっかりだ」
久「別に私は何もしてないわよ」パチッ
蒲原「・・・」ニコッ
蒲原「・・・明日、みんなを部室に集めるよ」
久「私も協力するわ」
蒲原「え、いいの・・・?」
久「乗りかかった船よ」
蒲原「ありがと」
久「・・・それから?」
蒲原「うん・・・それから、集めたみんなで麻雀を打つ・・・ッ!」
久「・・・いいじゃない」
蒲原「ワハハ・・・私に思いつく手段と言ったら、やっぱりこれしかないみたいだ」
久「そういうの、嫌いじゃないわ」
久「ええ。遅れちゃダメよ?」
蒲原「・・・うん」
久「・・・智美!」
蒲原「・・・?」
久「あなたなら、きっとできるわ」
蒲原(・・・ありがとう)
――――――――――――
――――――――
---------
翌日放課後・鶴賀学園前
久「―――まずは、あなたの幼馴染の妹尾佳織さんからね」
蒲原「・・・うん」
蒲原「あっ・・・佳織だ」
久「あの子ね・・・」
蒲原「・・・」
久「私はいかない方がいいわね。二対一ってなんかフェアじゃないし」
蒲原「・・・うん」
蒲原(それに、佳織は私の幼馴染だから・・・っ)
蒲原「佳織・・・!」
蒲原「ひ、久しぶり・・・だね」
佳織「・・・」
佳織「な・・・何か用・・・?」
蒲原(明らかに怯えた態度・・・これも私が・・・)
蒲原(いや・・・今はそんなことどうだっていい!!)
蒲原「佳織・・・ほんとのこと、話してほしい」
蒲原「麻雀部には・・・やっぱり嫌々参加してたのか・・・?」
佳織「・・・」
蒲原「・・・うん」
佳織「・・・正直、いまだに麻雀のおもしろさってわかんない」
蒲原「・・・そう・・・か」
佳織「でもね? 決して嫌々やってたわけじゃないよ」
蒲原「・・・!? ほ、ほんとに・・・?」
佳織「麻雀部の人たちはみんな良い人だったし、なにより智美ちゃんは私を楽しませようと精一杯頑張ってくれてた」
蒲原「・・・じ、じゃあなんで?」
佳織「理由はさっき言ったよ。麻雀のおもしろさがわかんなかったから」
蒲原「・・・」
蒲原「そうだな・・・嫌いなものを無理やり好きになることなんてできない」
佳織「うん・・・だから、こんな中途半端な気持ちでいるんなら辞めた方がいいと思ったの」
佳織「でも智美ちゃんに言わなかったことだけは謝るわ・・・これは単なる私の逃げでしかなかったから」
蒲原「いいんだ・・・佳織は悪くない」
佳織「・・・ほんとに、いいの?」
蒲原「え・・・」
佳織「何か、私にお願いがあってきたんでしょ? それ言わなくていいの?」
佳織「・・・智美ちゃん、変わっちゃったね」
蒲原「え・・・」
佳織「前は、こっちが頼んでもいないのにずかずか私の中に入り込んできたのに」
蒲原「・・・」
佳織「・・・何かあったんでしょ?」
蒲原「・・・ワハハ、佳織には敵わないなー」
佳織「・・・話してくれる?」
蒲原「・・・わかった。話すよ」
佳織「そんな・・・ことが・・・」
蒲原「うん・・・これは、私の責任でもあるんだ。だから―――」
佳織「・・・一人で解決しようって?」
蒲原「・・・」
佳織「智美ちゃん、昔っからそうだったよね。水臭いっていうか、何でも一人で頑張ろうとして」
蒲原「・・・」
佳織「私、部に戻るかどうかは今ここでは決められない」
佳織「けど、あんなにお世話になった麻雀部をこのまま放っておくなんてできない」
蒲原「か、おり・・・」
佳織「私も一緒に行くよ。智美ちゃん」
佳織「? この方は・・・?」
蒲原「ワハハ、私の友人だ」
久「昨日なったばかりだけどね」
佳織「もしかして、あなたが・・・智美ちゃんを手助けしてくれたの?」
久「手助けっていうほどのことはしてないわ。ただちょっと背中を押してあげただけ」
久「あなたに自分ひとりで声をかけるって決めたのも、智美自身よ」
佳織「そっか・・・ありがとうございます、えっと・・・」
久「竹井久よ」
佳織「久さん」
久「気にしないで。ほら次いっちゃいましょ」
蒲原「・・・うんっ」
蒲原「・・・うん」
佳織「居場所の目星はついてるの?」
久「それなら私に心当たりがあるわ」
蒲原「え?」
----------------
佳織「この先って・・・」
蒲原「お、屋上・・・!?」
久「ええ、その二人って部室でイチャつくほど仲良しさんなんでしょ?」
佳織「ええ、まあ・・・」
久「高校生の百合カップルが放課後をどこで過ごすかなんて、私にかかれば朝飯前よ」
蒲原「わ、ワハハ・・・それはどういう・・・」
久「ほら、さっさと行ってらっしゃい。次はあんたたち二人で何とかするんでしょ?」
蒲原「本当にこんなところに・・・」
「―――先輩・・・おいしいっすか?」
「ああ・・・よくできてるよ、モモ」
佳織「この声って・・・」
蒲原「・・・うん、ゆみちんたちだ」
トコトコ
蒲原「この上みたいだ・・・」コソコソ
佳織「・・・下から呼びかけてみる?」コソコソ
蒲原「・・・そうだね」コソコソ
蒲原「・・・」ゴクリ
蒲原「わ、ワハハ・・・あのー」
「・・・ひゃっ!?」
「ど、どうしたモモ!?」
「ひ、人の声が・・・ッ!」
「な、なに・・・!?」
加治木「お、お前らは・・・」
蒲原「・・・久しぶり、ゆみちん」
佳織「・・・どうも。ご無沙汰してました、先輩」ペコリ
加治木「・・・」
桃子「せ、先輩・・・?」ピョコ
桃子「・・・」
蒲原「モモ・・・」
桃子「何しにきたんすか・・・この裏切り者!」
桃子「先輩、もうここは危険っす。どっか別の場所行きましょう・・・!」
蒲原「ま、待ってくれモモ・・・っ!!」
桃子「うっさい黙れ!! 私と先輩の時間を邪魔するなっす!!」
蒲原「は、話だけでも聞い・・・」
桃子「かえれええええええええええええええええ!!!」
佳織「東横さん・・・っ!!!!」
桃子「・・・っ!?」
蒲原「・・・佳織」
佳織「・・・」
桃子「なにしてるんすか。真っ先に麻雀部を捨てた裏切り者が」
佳織「・・・」
佳織「そのことについては否定しません。だけど、それとこれとは話が別よ」
桃子「なにが別なもんか!! 私は誑かされないぞクソメガネ!!」
加治木「モモ・・・ッ!!!」バシッ
桃子「・・・ぁ」
蒲原「ゆ・・・ゆみちん・・・」
加治木「さぁ・・・蒲原、話してくれ」
蒲原「・・・うん」
蒲原「―――だから、一緒にもう一度麻雀を打ってほしい」
加治木「・・・」
桃子「・・・話はそれだけっすか」
蒲原「・・・うん」
桃子「・・・ハァ」
桃子「・・・まったく時間の無駄だったっすね。悪いっすけど私は帰らせてもらいます・・・」
加治木「待てモモ・・・っ!」
桃子「・・・ッ!! 先輩!!」
加治木「・・・」
桃子「先輩まで私を裏切るんすか!? ずっと一緒にいてくれるって約束したじゃないっすか!!」
桃子「もういやっす・・・どうにでもなれっす・・・」
桃子「先輩も、お前らも・・・みんな死んじまえっす・・・っ!!」ダダッ
加治木「も、モモっ・・・どこに行くんだ・・・!!」
蒲原「・・・っ」
ガチャ バターン!
加治木「待て、モモ・・・っ!」タタタッ
加治木「・・・っ!? モモか!?」
久「・・・残念ながら私よ」
加治木「久・・・」
久「・・・」
加治木「モモがここを通って行っただろう・・・っ!?」
久「・・・ええ」
加治木「・・・ッ、ならなぜ引き止めてくれなかった!?」
久「・・・」
加治木「おい聞いているn」
バシンッ
加治木「・・・」
久「・・・」
加治木「・・・っ」
久「あの子に責任を負ってるのはあなたでしょ? ならあなたが引き留めにいかなければ根本的解決にはならないわ」
久「でもま、そこまで遠くには行かないと思うわ。私の勘ではね」
加治木「ほ、ほんとか・・・っ!?」
久「あくまで勘よ。けど自信はあるわ」
加治木「そうか・・・」
久「だからまずは、あなたと東横さんのことについて、あの子たちにきっちりと説明してあげて頂戴」
加治木「・・・」
蒲原「ゆみちん・・・」
蒲原「・・・私はもう気にしてないよ、ゆみちん」
加治木「佳織にも迷惑をかけたな・・・」
佳織「いいえ。それよりも、お二方・・・特に東横さんの方はなぜ、部活に参加しなくなったんですか?」
加治木「・・・すべて、私のせいだ」
蒲原「・・・え」
加治木「モモを私に依存させてしまった。責任はすべて私にある」
久「・・・」
加治木「だが、県予選は図らずも敗退・・・更に私が引退する話が後押しになったんだろう・・・」
加治木「モモは部活よりも私と過ごす時間の方を優先したがるようになった―――」
久「なるほど・・・それであの態度か」
加治木「私の方はモモに少なからず負い目を感じていた・・・」
加治木「そしてなにより、私がいなくなったらあいつはどうなってしまうのか・・・その不安だけがどうにも拭いきれなかった」
蒲原「ゆみちん・・・」
加治木「みんな、本当にすまない。あいつも悪気があるわけじゃないんだ」
加治木「あいつだって本当は寂しいんだ。部のみんなでまた楽しく麻雀をやりたいはず。もちろん私だって・・・!」
加治木「私は今からあいつを探しに行く・・・みんな、付いてきてくれるか?」
蒲原「ワハハ・・・もちろんだよ、ゆみちん」
佳織「私たちはそのために来たんですから・・・」ニコッ
桃子(―――先輩のバカっす! もう知らないっす!!)タッタッタ
桃子「はぁ・・・はぁ・・・」
桃子「つ、疲れたっす・・・ぜぇ・・・」
桃子「ってここは・・・」
桃子(麻雀部・・・部室)
桃子「わ、私ってば、なんでこんなところにきちゃったんすか・・・」
桃子「・・・未練なんてあるわけないっす・・・だって私には加治木先輩が・・・」
「・・・っ・・・えっぐ・・・」
桃子(・・・中から誰かが泣いてる声が・・・)
桃子(・・・あれはむっちゃ・・・睦月の野郎っす・・・)
桃子(まさか、泣いてるんすか・・・?)
睦月「・・・うっぐ・・・わ、私だって好きであんなことしたわけじゃ・・・」ポロポロ
睦月「でも・・・ッ、部員も集まらないし・・・だ、誰も助けてくれないし・・・」
睦月「わ、私・・・どうしたらいいのか・・・ッ・・・ひっ・・・わからなくって・・・」
睦月「・・・ひっぐ・・・でもっ・・・一番バカなのは私だ・・・ッ」ポロポロ
睦月「口では強がって何も言わないくせに・・・ッ、いざとなったらヒステリックに喚き散らして・・・ッ」
睦月「と、東横さんの言うとおりだ・・・ッ」
睦月「・・・っ・・・えっぐ・・・」ポロポロ
睦月「なんで・・・ッ・・・なんでこんなことになっちゃうんだろ・・・っ」
睦月「うぅ・・・うわぁあああああああああああああん!!!」
桃子「・・・」
桃子(なんで胸がこんなに痛むんすか・・・)
桃子(むっちゃん先輩なんて・・・生真面目で、理屈っぽくて・・・)
桃子(話つまんないし、私と同じくらい存在感ないし、投牌するし・・・)
桃子「・・・でも」
桃子「私が一人でいるとき話しかけてくれるし、なんだかんだで頼りになるし・・・」
桃子「ぶきっちょだけど優しいし、誰よりも部のことを思ってくれて・・・」
桃子「そんなむっちゃん先輩が大好きだったのに・・・っ・・・私・・・」ポロポロ
桃子「か・・・加治木先輩のことしか目に見えてなくて・・・っ」
桃子「・・・っ・・・だ、大事なものを見失ってたっす・・・」
睦月「・・・と、東横さん・・・?」
桃子「わ、私が見えるっすか・・・? むっちゃん先輩・・・」ポロポロ
睦月「・・・っ・・・うん、見えるよ・・・モモの顔・・・」ポロポロ
桃子・睦月「うっ・・・うわぁぁあああああああああああああああああああああああん!!!」ダキッ
加治木「なぜ部室にいると・・・?」
久「頭では忘れようとしてても、体は覚えてるものなのよ」
久(自分の一番安心できる場所ってのはね・・・)フフ
ガチャ
加治木「モモ・・・っ!?」
桃子「・・・ひっく・・・か、加治木先輩・・・?」
睦月「み・・・みんな・・・」
久「智美・・・どうやら、すべてうまくいったみたいよ」コソッ
蒲原「・・・っ」
佳織「智美ちゃん・・・よく頑張ったね・・・偉いよ・・・」ダキッ
蒲原「・・・えっく・・・」
蒲原「んっ・・・うぐぅ・・・」ポロポロ
久「ほら智美、なに泣いてんの」
久「・・・笑わなきゃ。笑ってみんなに言うことがあるんでしょ?」
蒲原「・・・ん」ゴシゴシ
佳織(智美ちゃん、ファイトだよ・・・!)
蒲原「・・・」
蒲原「わ、ワハハ! みんな、麻雀でも打たないかー!?」
「「「「「「「・・・うんっ!!」」」」」」」
久(ふふっ・・・)
fin
即興にしてはかなりまとまりよく書けた方かな
度々休憩はさんですまんね。体力不足だわ
とりあえず最近の風潮から脱却させる意味でもワハハを幸せにしたかった
お前らワハハいじめはほどほどにな!
おつおつ
Entry ⇒ 2012.06.22 | Category ⇒ 咲-Saki-SS | Comments (0) | Trackbacks (0)
小椋「彩が男子になった…?」赤沢「ええ」
引用元: ・http://hayabusa.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1338804217/
恒一「う、嘘だ…」
鳴(私に話しかけてくれるクラスで唯一の女子だったのに……)
ザワザワ ガヤガヤ オレノアヤチャンガ マカセロー ユカリジャナクテヨカッタ フェアジャナイ
赤沢「今日学校休んでるでしょ? 彩……ショックで部屋に閉じこもってるらしいのよ」
勅使河原「し、しつもーん! それって、3組の性別が逆転するとか何とかーーって呪いのせいか?」
赤沢(本当は女性に男性器がはえる現象だけど、オブラートに包んだ表現になってるのはさすが先代の対策係ね)
赤沢(きっと私と同じで有能だったんだわ)ニヤニヤ
赤沢「とにかく彩を見てみないと何とも言えないから……放課後、私と由美で彩の家に行ってみるわ。小椋さん、いいわね?」
小椋「うん、分かった」
久保寺「同じ教室で共に学んだ綾野さんのうんたらかんたらーー」
小椋(彩……大丈夫かな……?)
綾野母「由美ちゃん達が来てくれて助かるわ。私じゃどうにもならなくって……」
小椋「彩はどんな様子ですか?」
綾野母「部屋にずっと……。けどここだけの話し、私は男の子が欲しかったんです。主人は女の子がーー」
赤沢「そ、それより…! 彩の部屋はどこですか?」
小椋「階段上がった正面だよ。早く行こ」
綾野母「彩を頼みますね……」シクシク
赤沢「お任せ下さい」キリッ
赤沢「あなた、来たことあるの?」
小椋「うん。そりゃ幼稚園からの付き合いだから」
赤沢「へえ……(私呼ばれた事ない……)」コンコン
綾野『……誰?』
赤沢「私と由美よ。入っていい?」
小椋(声そのまんまじゃない。ホントに男になったのかな?)
綾野『泉美と由美だけ……?』
赤沢「ええ私たちだけよ」
綾野『じゃあいいよ……』
赤沢「入るわね」
小椋「……!!」
赤沢「彩……なのよね?」
綾野「そうだよ。ははっ、笑っちゃうよね。こんな姿……」
赤沢(まあ確かに一回り大きくなったけど、あれがあれになったからってそんなに変わる訳じゃないのね。下の確認の必要は……なさそうね)
小椋(こ、これは……)
小椋(や、ヤバい……ちょーカッコいいじゃん…)
小椋「あ、ごめん。見とれちゃって……」
綾野「何それー。やっぱり変だよね……」
小椋「そ、そんなことないよ!?」ガシッ
綾野「えっ?」
小椋「あれ? あたし何してんだろ?」アハハ
小椋(な…なんで彩でドキドキしてんのよ~)
綾野「……」
赤沢「私も元に戻る方法を全力で探すから……辛いでしょうけど学校にはーー」
綾野「いやだよ! こんな姿、クラスのみんなに見せたくない!」
赤沢「……」
小椋「大丈夫だよ! むしろ今の彩も十分イケてるよ?」
綾野「そういう問題じゃないよ……」
赤沢「由美……なんかあなた変よ」
小椋「ご、ごめんなさい……」
綾野「……」
綾野「そうだよね。私が元気じゃないと、3組は盛り上がらないもんね!」
赤沢「その意気よ……ん?」チラッ
赤沢「あっ、この私達の写真、春休みに行った演劇部の合宿の時のやつね」
小椋「あっ……その写真、あたしなくしちゃった。部屋に置いてたんだけどなぁ」
綾野「どうせ卒業までの辛抱だし、男を満喫しちゃおっかな~」ニシシ
赤沢「ちょっと聞いてるの? それで制服だけど、何か適当な物を着てきてくれる? 学校にはーー」
綾野「ナンパとかしてみようかな~。どう? 私結構イケメンだよね~?」
小椋「ナンパなんてダメ! 明日はあたしが迎えに行くから一緒に行こうね!」
綾野「由美、頼むぜ(キリッ。なんちてー」
小椋「あ……う、うん……」ドキッドキッ
赤沢「聞いてない……けど、この調子なら大丈夫そうね」
小椋「ごめんごめん、遅くなっちゃったー」
綾野「遅いよー……って、あれ?」ジー
小椋「な、なに?」
綾野「うーん、いつもと雰囲気違うような……」
小椋「いつもと違うのは彩でしょ? 早く行かないと遅刻するよ!?」
綾野「そうかなー……」ダキ
小椋「きゃっ」
綾野「ほらー、いつもよりいい匂いもするし……」クンクン
小椋「な、何だっていいでしょ? それに急に抱きつかないでよ!」ガバッ
小椋「今の彩は一応男なのよ? いつも通りには出来ないよ!」
綾野「……やっぱり男になるなんて気持ち悪いよね」ショボン
小椋「あっ……違うの。そういう意味で言ったんじゃなくて……」
綾野「……」
小椋「彩は彩だよね! ごめんね! 今まで通りでいいから……ね?」
綾野「う、うわ~ん。由美大好き~」スリスリ
小椋(彩は彩なのよ! 落ち着けあたし!)ドキッドキッ
小椋(あたしは自分の席にいるけど……)ジー
小椋(彩の席の周りには人だかりが出来てる……まあみんな気になるよね)
勅使河原「へえー、確かに少し男っぽくなった……か?」
望月「変わったのかな? ちょっとおっきくなってるけど……」
中尾「元々無い胸が小さくなって、その分背がおっきくなっただけじゃねえか」
綾野「ひ、酷いよ……」
ザワザワ スライスサレロ ゴミ ザッソウ ゴミ ザッソウ
中尾「す、すまんかった……」
綾野「……」
勅使河原「まあでもそのなんだ……! 綾野、その容姿はズリぃわ。男女関係なくイケてるぜ?」
杉浦「確かにこのクラスの女も男も相手にならないわね」
綾野「えっ! えへへ、そうかなー」パァッ
高林(フェアじゃない……フェアじゃないよ)プルプル
赤沢「男子も彩が何か困ってたら、助けてあげてね」
勅使河原「綾野! 色々教えてやるよ!」
恒一「綾野さん、何でも相談してね……」
綾野「うん……」
小椋(彩……榊原くんには見られたくなかっただろうな……)ジー
有田「ねえ由美」
小椋「なに?」
有田「彩って……ち○こもついたのかな?」
小椋「ななな何でそんな事あたしに聞くのよ!」ガタッ
有田「普通気にならない? 後で触らしてもらーーってあれ?」
小椋「彩が……彩にあれが……あやのん……?」ブツブツ
鳴(榊原くんは眼帯や店の人形が物珍しいから私が気になるとか言ってたけど、綾野さんは物珍しい私を普通の人間として接してくれている……)
鳴(綾野さんが男になったなら……逆に都合がいいかも)ウットリ
桜木(風見くんは狂気じみてるし……元気な彩ちゃんなら……)ポワーン
川堀(……ん、待てよ? 綾野は女だ。けど身体は男! これって合法ホモじゃねえか!)ウホッウホッ
勅使河原(やべぇ、やべぇよ。見た目も声もそのまんまの綾野が、俺みたいに毎日……これはやべぇ、やばすぎんだろ)ゲスガオ
江藤「」キュンキュン
佐藤&渡辺(赤面しながらヒソヒソ……)
柿沼「」ギラギラ
有田(これも現象のせいなのかな? でも、凄い事になりそうだね!)
綾野「由美と松子~一緒に食べようよ~」
小椋「うん……」
有田「そーだね♪」
綾野「いや~男にもなってみるもんだねー。色々ちやほやされるし、体はなんか軽いしさぁ」
小椋「へーそうなんだ……」
有田「話しぶった切るけど彩、ち○こ触らしてよ」
小椋「ぶぅっー!!」
綾野「ダメに決まってるでしょ! 私だってまだよく見てないのにさ~」
綾野「て、照れるなぁ~。背も少しおっきくなったし、由美が余計にちっちゃく見えるよー」
小椋「ちっちゃいって言うな!」
綾野「お胸も余計に小さくーー」モミモミ
小椋「ちょっと……いつも通りとは言ったけど人前では……」
綾野「気にする事ないってばー。私と由美の仲じゃん」モミモミ
有田「止めて欲しそうには見えないけどな~」ニヤニヤ
オイオイ オグラガヤバイ マカセロー フェアダネ ユミチャンカオマッカ コウフンスルゾナ
小椋「だめだっあっ…てばぁ」
鳴「綾野さん」
桜木「小椋さんが困ってるじゃないですか!」ガシッ
有田(おお。さっそく修羅場来たぁ♪)
鳴「ねえ綾野さん、屋上に行って2人で食べようよ」ニコッ
桜木「学食に新しいスイーツがあるんです! 彩ちゃん一緒に行きませんか?」
綾野「いやー私は由美たちと食べてるからさ。ごめんね。一緒に食べる?」
スタスタ
綾野「あれ? メイちゃんよかったのかな?」
桜木「食事はいいですから今日一緒に帰りませんか? 私の家は綾野さんの家のさらに向こうだから」
綾野「今日はせっかく男になったから演劇部で何か男役を演じてみようと思ってるんだー。だから、ごめんね。一緒には帰れないや」
桜木「そうですか……残念です」
スタスタ
有田「しらばっくれちゃって。彩と由美はいつもモテモテじゃない」
綾野「そうだったかなぁ? そういう松子だって……まあいいや。由美、今日は部活付き合ってね」
小椋「いいけど……。やりたい役ってなに?」
綾野「ロミオとジュリエットのロミオやってみたいなぁーって。由美にはジュリエットをお願いしたいな」
小椋「彩がロミオであたしがジュリエット……?」
ーーー
ー
小椋『たとえ……祈りにほだされても、聖者の心は動きませんわ』
綾野『では動かないで下さい。祈りの効しをいただく間だけ』接吻
オーロミオアナタハナゼー
ー
ーーー
ーーーーー
赤沢「ーー彩が男役やってくれるなら幅が広がるわ」
綾野「でしょー? 泉美も来てくれるよね?」
赤沢「もちろんよ。これで千曳先生を裏方に引き戻せるわ」
綾野「楽しみだね~由美ぃ?」
小椋「」ニター
綾野「おぐりーん?」フリフリ
赤沢「まあ焦る事もないわ。昨日の今日ですし、彩も由美も疲れたでしょ」
綾野「そうだねー。また今度でいっかー」
有田(榊原くん以上の無自覚女たらし、綾野くんの誕生か。それにしても……)チラッ
赤沢(ふふっ恒一くんを巡るの最大のライバルの見崎さんが……彩には悪いけど対策探しは多佳子に任せて、恒一くんを対策しちゃうんだから)
風見(そんな……ゆかりが……ゆかりがァアあるあ!!ぶるあああ!!)プルプル
鳴「榊原くんごめんなさい。ストーカーの質問厨は私……嫌いなの」
恒一「そんな……見崎ぃいいいい!!!!」
江藤「水泳部に興味あるって彩言ってたよね?」
渡辺「私と一緒にスティーブハリスについて語らない?」
川堀「綾野、これも運命だ。やらないか?」
柿沼「図書室に行きましょう。秘密の第3図書室に」
綾野「遠慮しとくよー」
有田(ふふっ、どうなることやら♪)
綾野「毎朝迎えにこなくてもいいのに~。もう大丈夫だよ?」
小椋「でも……彩が心配だから……」チラッ
小椋(どんどんカッコよくなってく……気がする。最近は言動も男らしくなってきたし……)
綾野「由美~私の顔に何かついてる?」
小椋「ううん! 何でもない……」
小椋(けど彩は彩だよね。早く元に戻らないかなぁ。今ならまだ……)
綾野「うわっ、アイツがこっちに来るよ?」
小椋「げっ!」
高校生DQN「由美ちゃん、ちぃーす! ん?」ジー
綾野「……」
高校生DQN「まあいいや。今日は俺たちのジャマするあの女はいないんだね」ガムクチャクチャ
小椋「今日は何ですか……?」
高校生DQN「どう? 俺と付き合ってみる気になってくれたぁ?」クチャクチャ
小椋「な、何度も言いますけど、あたしDQNさんとは付き合えません!」
小椋(何回目だよこいつ……エロい目で見やがってマジでキモい、死ね!)
綾野「先輩、由美が嫌がってるじゃないですか」
高校生DQN「んだテメェ! あの糞アマみたいな見た目で糞アマみたいな事言いやがって! テメェにそんな事言われる筋合いはねぇんだよ!」
綾野「俺の彼女に手を出すなと言ってるんです」
小椋「!!」
高校生DQN「ちっ! 彼氏出来たのかよ。まあいいわ。正直貧乳は嫌だったしな!」ペッ
スタスタ
小椋「うん、その……ありがと」
綾野「よかった。DQNの言うことなんて真に受けたら……って、あれ?」
小椋「どうしたの?」
綾野(由美ってこんな可愛かったっけ……? それに胸や足も……ドキドキする……)ジロー
綾野(うう、おち○ちんがなんか変……これがてっしーが言ってたボッキてやつなのかな?)
綾野(えっ? こういっちゃんでは全然起きなかったのに、由美で? 私、由美でコーフンしちゃってるの?)
小椋「彩……それ以上見つめないで……」バックンバックン
綾野「え? あ、ああ。あはは~。そうだよね! 早く学校行こ♪」
小椋「……?」
綾野(親友に変な気を起こしたらダメ! 私はこういっちゃん一筋なんだから!)
小椋(歩き方変だけど、どっか悪いのかな? けど、さっきの彩……カッコよかったなぁ。それに彼女だなんて……どうしようあたしもう……)
有田(いつも由美といた彩が、勅使河原くん達といる事が増えたね~。今日も屋上にいるのかな)
小椋「……」
有田(朝も別々に来てるし……ケンカでもしたのかな?)
有田「ねえ、彩が気になるなら屋上行ってくれば?」
小椋「だって……男ばっかだし、なんかいつも下ネタ話してるし……」
有田「彩は女でしょ?」
小椋「だから! 勅使河原達に変な事教えられてないか心配なの……。松子、聞いてきて。それで変な話ししてる様なら連れ戻して来てよ」
小椋「そうだけどさぁー……」ジー
有田(出ました! 全ての男をたぶらかすような上目使い! さすが女優ね! けど残念、私は女の子なのよ……)
有田「……ハァ~。はいはい分かりました。今度ジュースおごってね!」
小椋「ありがとう! ありたん大好き!」
有田(はあ~、最初は楽しかったけど、最近はめんどくさいな~)スタスタ
有田(おっ、いた。勅使河原、風見、望月、中尾、高林、川堀、榊原くんに彩か……。早く引き離さないと榊原くんみたいになっちゃうね……)
有田「やあやあ皆さん。いつもここでなんの話ししてるの?」
勅使河原「うわっ! 有田か!」
有田「何よ、うわっ…て!」
高林「女子にはフェアじゃない話題だったからね。屋上でしてるんだよ」
有田「女子にはっ……て、彩もいるじゃない」
望月「綾野くんは僕たちが色々と教えて、今はもうほとんど男になったんだよね!」
綾野「……」
勅使河原「何って……せっかく男になったんだから、男の楽しみを教えただけだぜ?」ゲスガオ
有田「うわぁ……彩、教室に戻ろうよ。由美も心配してるよ?」
綾野「由美が……?」
中尾「おいおい有田。綾野は楽しいからこっちにいるんだよ。そうだよな?」
綾野「え? それは……」
ーーーーー
ーーー
ー
綾野(てっしーが教えてくれた男の慰め方……どうしてこういっちゃんで出来ないの……?)
綾野(あんなに好きだったのに……。女の時はちゃんと出来てたのに……。あれ? 何で好きだったんだっけ?)
綾野(違うよ……。私は女……。違う。私は由美が好き? 違う……。けど由美だとこんなに……親友なのに……私は男?)
綾野(由美は親友…? 泉美……この写真のもう1人の親友の泉美なら。いや。泉美は絶対いや。由美じゃなきゃいや)
綾野(うっぅ……うっ…あっ、はぁ…はぁ。また由美で……助けた日から毎日由美で……。女の時は数えるほどしかしたことないのに…)
綾野(私どうしちゃったの? …こんなにえっちに…。最低だよ…。由美にあわせる顔がない……)
綾野(明日も由美で? 違う。明日こそ止めよう…。けど終わった後は毎回そう思うけど結局…)
綾野(しちゃだめなのに。やりたくないのに止められないよぉ。助けて……誰か助けてよ……)
ーーー
ーーーーー
綾野「ダメ……ダメなの……」
有田「何がダメなの? 困ってるなら私でいいなら相談にのるよ? 私も由美もすごく心配してるんだから」
綾野「無理に決まってるじゃん!」
有田「!! ……私がいやならその……由美や赤沢さんに……」
綾野「由美にはもっと無理だよ……。泉美は私なんてどうでもいいみたいだし……」
有田「……」
川堀「そうだそうだ。女はすっこんでろ!」
高林「男子の事に口を出すのはフェ○だけにしてほしいね」
風見「僕は……君の知らない君の事を知っているよ」マジキチスマイル
有田(なんだコイツら……やっぱりこんな奴らといるから彩がおかしくなっちゃうんじゃない!)
望月「これだから10代の女は(笑)」
中尾「それは違うな望月。10代でも赤沢さんはーー」
有田「私は彩に聞いてるの! あんたらは黙ってて! 教室に戻ろ? 前みたいに3人でガールズトークしよ?」
綾野「ダメ…ダメなんだよ。私は……男なんだよ。ごめんね松子……いや有田さん」
有田「!! そんな……」
綾野「けど安心して。由美は男になっても大切な親友だから」
勅使河原「そういうこった。綾野はもう男なの。あっち行った」シッシッ
小椋「どうだった?」
有田「ああ、うん。今は彩は男子といるのが楽しいんだって」
小椋「そうなんだ……」
有田「けど由美の事は気にしてたから、またすぐに元に戻るよ!」
小椋「そうだといいけど……」
有田(ハァ~。どうなるんだろな~それにしても)チラッ
鳴「霧果に作ってもらった綾野くんの人形……かっこいい」ヨシヨシ
桜木「綾野くんが嫌がってるじゃないですか!」ガシッ
鳴「返して……」ウルウル
杉浦「泉美元気だしてよ」
赤沢「」ポカーン
有田(赤沢さんはどうしたんだろ?)
有田「ねえ? 赤沢さんどうしたのかな?」
小椋「……泉美、親友が男になって困ってるのに……対策係なのに、何もせず榊原くんに猛アタックしてたんだよ?」
小椋「彩の気持ちも知ってたくせに……けど榊原くんにストーカー呼ばわりされて……自業自得よ」
有田「……ねえ由美、卒業したら彩は元に戻るんだからもう少し落ち着こうよ。ね?」
小椋「そうだけど……」
有田「もしかして、由美もあの2人みたいに彩の事好きになっちゃった……とかだったりして~」
小椋「……」
有田「……否定しないんだ」
小椋「分からない……分からないよ」
有田(何が分からないのかな……。けど私もどうしたらいいかわかりませーん)オテアゲ
綾野「どうしたの? こんなとこに呼び出して」
小椋「うん……彩、最近部活にもこないし、あたしともあんまし喋ってくれなくなったし……あたし何かしたかな?」
綾野「いや、何もしてないよ?」
小椋「そう……なの?」
綾野(人気のないとこで、そんな目で見ないでよー……。こっちはこれ以上好きにならないように必死なんだから……)
綾野「……そうだよ。もう戻っていいかな?」
小椋「ま、待ってよ……。彩、ここんところずっと勅使河原や中尾達といるけど……仲いいの?」
綾野「仲はいいよ。まあ男同士にしか分からない事もあるし」
綾野「うっ……それは……やっぱり普通恋人同士がやる事だよ。男の私がやるなんて、今考えたらセクハラだよね。ごめん……」
小椋「ち、違うよ……彩は彩って言ったじゃない!」
綾野「この際だから言うけど、もう私……体だけじゃなく、心も男になりかけてるみたいなんだ」
小椋「そんな……」
綾野「だから……いくら親友でも前みたいに一緒に登下校したり、ベタベタしたりは無理だよ」
綾野「少し前まではそう思ってたよ」
綾野「不思議だよね。あんだけ大好きだったこういっちゃん事を、ただの同性の友達としてしか見れなくなっちゃうんだから」
小椋「…………」
ガチャ
勅使河原「こんな所にいたのか綾野、早く行こうぜ。みんなが待ってるからさ」
小椋「彩、行かないで……」
綾野「……っ!」
綾野「…………まさか。ただの幼なじみだよ」
小椋「……!」
勅使河原「ふーん。まあ女の時から仲良かったもんな。じゃあ、話しが終わったら例の場所に来いよ」スタスタ
綾野「待って、行く行く。ごめんね由美。これからは彩じゃなく、綾野くんとしてよろしく……」スタスタ
小椋「あ……」
綾野「あっ、てっしーが変な事言うから別々の方向に飛んでちゃったじゃん!」
勅使河原「へいへい、俺が悪かっーー」
ガチャン
小椋「……」
有田(ほほう……)
そして日増しに男になっていく彩と同じように、由美の気持ちも大きくなっていきました!
けど、彩は何故か自分から離れようとしている! あやのんが無意識にやっちゃってる恋愛の常套テクニックにおぐりんメロメロ~
親友と想い人が自分を避けるなんてつらい、つらいよね~
えっ? 何で屋上にいて、1人でこんな話してるかって?
鳥と語り、戯れる為ですよ! 雀には逃げられたけど、今はカラスと九官鳥のレーちゃんと鳥沢さんに話しをしているんです!!
そして、この様に激しく悩んでるのは由美だけじゃありません! 榊原くん、赤沢さん、そして勿論、彩もです!
ところがどっこい見崎さんと彩だったんだな、コレが! 赤沢さんも第3勢力だったみたいだけどね!
気になる彩が男になって、さらに見崎さんがその彩に惚れてしまいました!
その日以降、榊原くんは自我を失ってしまいーー
勅使川原・中尾・風見・望月・高林・川堀からなる【七人の変態】の一員として夜見北で猛威を奮ってます!
あっ、風見くんもゆかりが彩に惚れたんで、狂ったみたいです! けど彼は元から狂ってたか! テヘ☆
風見くんはどうでもいいとして、榊原くんはつらい、つらいよね~
大嫌いな勅使河原くん達にみたいになったのがショックだったみたいです!
無能だよね~接し方を間違えなければ榊原くんをゲット出来たかもしれないのに!
そして何より彼女を苦しめたのは自分の色恋沙汰にかまけて、現象に対する対策を放置してしまいーー
彼女にとって大切な演劇部3人娘の絆が崩れてしまった事でした!
今の彼女の表情と心は真っ黒です! 夜の闇? 漆黒のゴキブリ?
いやいや、ハワイコナのエクストラファンシーよりどす黒く、表情も心も珈琲の奥底にふさぎ込んでしまっています!
赤沢さん! 恋と友情のにらめっこ。つらい、つらいよね~
あ~勿体ない! こんな現象がなかったら、お似合いのカップルになれていたかもしれないのにね!
そして、日をおおう事に変わったのは榊原くんに対する気持ちだけではありません!
親友の由美に対する気持ちも変化していきました! そう、日増しに男になっていく彩は恋に落ちてしまいました! なななななんと親友、小椋由美に!
どんな気持ちだったんでしょうか? 男と女。惚れてしまった榊原くんと由美。そして親友の由美。
日々刻々と変化するそれらの気持ちの中で、彩がどれだけ悩んでいるかは心中察するに余りあります!
大切な人の取捨選択、つらい、つらいよね~
えっ? 私が変態? ご冗談を! 普通なだけが取り柄な松子ちゃんですから! 年頃の乙女なら誰でもち○こに興味があるんです!
さあ、2人はどういう決断をするのでしょうか! どっちかが倫理観の壁をピョーンと越えれば、生物学敵には愛し合えるんです!
以上、みんなのアイドル有田松子が現場からまとめさせて貰いました!
勅使河原「はあー、やっと学校終わった。今日はナンパに行こうぜ」
中尾「前にやった時はボロボロだったじゃん」
勅使河原「俺と中尾だけだったからな。けど今日はサカキと綾野を連れて行く」
中尾「2人が来てくれれば百人力だな!」
恒一「僕はいいよ。最近、女より男か人形の方がいいような気がしてきたんだ」
恒一「とにかく、疲れたんだ……行くなら3人で行ってくれよ」スタスタ
中尾「つれねーな」
勅使河原「まあ、あいつも色々あんだろ。綾野はくんだろ?」
綾野「どっちでもいいよ……」
勅使河原「うし決まり! じゃあ行こうぜ!」
中尾「ーーそりゃ赤沢さんよりいい人なんていない。けどナンパでもしないと、一生彼女なんて出来ないかもしれないからな」
勅使河原「赤沢はモテると見せかけてそうでもないぜ。チャンスはあると思うけどな」
中尾「そんな訳ないだろ、赤沢さんが1番に決まってる! 俺が3組の雑草なら、赤沢さんは俺の……3組の太陽だ! 毎日赤沢さんで光合成してるぜ!」キリッ
勅使河原「あいつが太陽ね~。分からんでもない。で? コーゴーセーって何だ?」
中尾「これだから馬鹿は困る。もうすぐ受験だろ? 俺は赤沢さんと一緒の高校に行く為に毎日勉強してるのさ」
勅使河原「女子校か東京の進学校だろ? どっちにしろムリムリ~」ヒラヒラ
勅使河原「けど残念ながら赤沢の事いいと思ってるのクラスで俺と中尾くらいだぜ?」
中尾「じゃあ聞くが赤沢さんを差し置いて誰が人気なんだよ?」
勅使河原「それはだな……」チラッ
綾野「……」
勅使河原「後は小椋と多々良だな」
綾野「えっ? 由美が?」
勅使河原「どうした急に会話に入ってきて。やっぱり小椋の事が気になるか?」
綾野「そりゃ……」
綾野「……」
中尾「けど多々良さんは初耳だな? まあ赤沢さん程ではないが美人だしな。王子や猿田か?」
勅使河原「こういうのは言いふら……っておい、あそこ見てみろよ」
綾野(ん? あいつら……)
高校生DQN「……」
無職DQN「……」
ビッチ「……」
オタクDQN「……」
勅使河原「おっかねえ集団だな」
勅使河原「あんな奴らとつるんでる女だぜ? ヤバいに決まってんだろ」
綾野「……」
勅使河原「何だ綾野? あんなのがタイプなのか?」
中尾「早く行こうぜ。絡まれたくねえ」
綾野「ごめん。用事思い出したから、ナンパは2人で行ってきてよ」スタスタ
勅使河原「おい、綾野! なんだよ……。中尾、2人で行くか?」
中尾「無理無理、連敗記録伸ばしたいのかよ」
勅使河原「……サカキの家にでも行くか」
中尾「だな」
小椋「こんなとこで毎日なにしてんの?」
赤沢「あ……由美……」
小椋「いいよ……もう。探して見つかるくらいなら、こんな現象とっくになくなってるし」
赤沢「でも私……」
小椋「いいってば。だからそんな顔しないで」
赤沢「ごめんなさい……。あなた達がーー」
小椋「だからいいってば。それにあたしも……えっと……」
小椋(やっぱり彩がいないと泉美には言いたい事も言えないわ……)
小椋「手伝おっか?」
赤沢「いいの。これは私の問題だから。……それより、私はともかくあなたも彩と何かあったの?」
小椋「彩とは……何もないよ。けど毎日男子たちといて楽しそうだよ」
赤沢「そう……」
小椋「演劇部にも顔だしてね。最近、3年で来てるのあたしだけだから」
赤沢「そうね……わかったわ」
赤沢「いいえ。部室にオキッパだけど……どうしたの?」
小椋「どっかいっちゃったのみたいなの。まあ、探しとくよ。じゃあね。泉美も早く帰りなよ」
赤沢「待って」
小椋「なに?」
赤沢「う……いや……な、何でもないわ。明日は部活に顔だすからよろしくね」
小椋「うん、わかった。じゃあね」ガラガラ
赤沢(なくしたって言ってた写真、現像したんだけどなぁ。彩がいないと渡し辛いわね……。まあいいや、多佳子に頼んで渡してもらおっと)
小椋「多佳子? 盗み聴きしてたの?」
杉浦「人聞きが悪い。泉美と帰ろうと思ったから、ここに来ただけ。まあ、ほとんど聴いちゃったけどね」
小椋「ふーん。あたしと泉美はいつもあんな感じだけど」
杉浦「……まあいいわ。それより玄関に彩がいたわよ。多分あなたを待ってるんじゃないかな」
小椋「待ってるのは望月とかじゃないの? あたしじゃないと思うけどな」
杉浦「どうだろうね。あなた最近ずっと1人で帰ってるでしょ? 一緒に帰ったら?」
小椋「……いいよ。1人で帰るから」
小椋「……ふん。分かったわよ。しゃーなしだから。その代わり、あたしからも1つお願いいいかしら?」
杉浦「なに?」
小椋「泉美に謝っといて。彩の事できつく言っちゃったから……」
杉浦「そんな事言わなくても……まあいいわ。伝えとく」
小椋「ありがと……。それじゃあ泉美の事よろしくね。また明日」スタスタ
杉浦「演劇部の3人は扱いやすいね」ヤレヤレ
杉浦(……泉美の衣装返しとかないと)
小椋(ホントにいた……1人でなにしてるんだろ)
綾野「おっ、由美~。一緒に帰ろうよ」
小椋「! いいけど……」
綾野「最近ごめんね。てっしー達といるのが楽しくってさぁ」
小椋「……そう」
綾野「あれ? 焼き餅やいちゃってる? 可愛いなぁ」
小椋(私を見る目が……もう前の彩じゃないんだね……)
小椋「……!! 嫌ぁ!!」
パチン
綾野「い、痛い……何すんのさ?」ヒリヒリ
小椋「セクハラで訴えるわよ! 何がしたいの?」
綾野「スキンシップして欲しかったんだよね? だからーー」
小椋「あなた自分でこれからは綾野くんとして頼むって言ったじゃない!」
綾野「な、泣かないでよ……謝るから。しばらく話してなかったから距離の計り方が分かんなくって。ごめんね……」
綾野「あはは。確かにもう男になっちゃったよ。けど私は元は女の綾野彩なんだけどなぁ」ポリポリ
小椋「……」
小椋「それより何よ? あたしの事避けてたクセに急に一緒に帰ろうだなんて……」
綾野「DQNが帰り道にいたからさ。心配になったの」
小椋「えっDQNが?」
綾野「だから一緒に帰ろ? 守ってあげるから」
小椋(げっ! ホントにいた。しかも仲間みたいなのも連れてきてるし……)
高校生DQN「あっ! 由美ちゃんやっときた。なになに? 彼氏と一緒に下校?」ヒューヒュー
綾野「無視して突っ切るよ」
小椋「うん……」
スタスタ
ガシッ
無職DQN「逃げられると思っんの? 殺すぞ」腹殴り
綾野「っう……」
小椋「彩……雄くん、大丈夫? 何すんのよ!?」
高校生DQN「暴力はダメだよ暴力は。落ち着け無職DQN」
無職DQN「ふんっ……」
綾野「大丈夫だ……。高校生DQNさん、もう由美に近寄らないでもらえますか。迷惑なんです……」
オタクDQN「だせえだせえwwwふられたうえにストーカー扱いwww」
高校生DQN「まだふられてねえよ。今日はお前らが本当に付き合ってるのか確かめに来たの」
綾野「何言ってるんです? 僕達はちゃんと付き合ってますよ。なあ由美?」
小椋「うん」
高校生DQN「なら証拠を見せて貰おうか。熱い熱いキスでもしてみろよ」
小椋(何なのよコイツ。貧乳は嫌いとか言ってたくせに未練タラタラでオマケにキスしろだぁ~……してみたいけど……)
無職DQN「おい。次、口答えしてみろ。今度は手加減しないから」
高校生DQN「まあまあ。ここではあれだから場所を変えるか」
オタクDQN「ぶひひwww近くで見るとかわいいwww」ガシッ
小椋「離して!!」
綾野「おい由美には手をーー」
小椋「い、いやああ……んーんー!」
オタクDQN「ハァハァwwwお口チャックチャックwww」口塞ぎ
ビッチ「ふふっ坊やかわいいわね。私が彼女さんよりも凄い事してあげよっか。多分気持ちよすぎて泣いちゃうよ」
綾野「ふざけないでよ! 由美を離せ!」
高校生DQN「早く行くぞ。それとも路チューしたいの? 気を使ってやってるんだから騒がず歩け!」
小椋(このままじゃ……お願い誰か助けて!)
川堀「待てよ」
小椋(川堀と望月と高林と風見! 助かった……のかな? 川堀以外モヤシだけど……)
オタクDQN「なんだコイツらwww」
高林「2vs4なんてフェアじゃない」
風見「ひゃはああっはぁっああ! ナイフ持ち歩いててよかったああああ!」
望月「まあまあ風見くん落ち着いて。こんなオムツ履いてるようなガキにナイフなんて必要ないよ(笑)」
高校生DQN「んだお前らああ! 口の聞き方も知らねーのか? ああ!?」
無職DQN「僕ちゃん達、俺の事知らないの? 今まで何人病院送りにしたかーー」
風見「このナイフでええ!! 自分の腕を刺すとおお! 気持ちいぃいいい!!!」ブシュー
ビッチ「い、いやあああ!!!」
無職DQN「な、なんだよコイツ……」
高林「風見くんはナイフで人を刺したい衝動を自分の腕を犠牲に抑えてるんだ。フェアだろ?」
望月「あーあDQNさん達が先に風見くんを刺しちゃった。この場合、ナイフで刺しても正当防衛になるんじゃないかなぁ」スットボケ
川堀「そうだな。なあ、風見はどう思う?」
風見「僕はね……これでコイツらを刺そうと思うんだ」
無職DQN「ひぃっ……逃げるぞ!」
オタクDQN「ママ~」
ビッチ「いや~」
スタコラサッサッ
川堀「待てよ」ガシッ
高校生DQN「うわぁ! 待てお前ら。俺を置いて逃げるな!」
高校生DQN「わわわかりました……アイツらにも言っときますから許して下さい……」
川堀「お前にはもうちょっと突き合ってもらう。行くぞ」ズズズ
高校生DQN「由美ちゃん……助けて……」ズズズ
小椋(助かったの……? こ、怖かった……)
綾野「うん……助かったよ。由美、大丈夫……?」
小椋「ぅ……ぅ……」グスン
綾野「由美……ごめんね。私がしっかりしていたら……」
小椋「いいの……もう大丈夫だから……。彩もみんなもありがとう」
風見「何で絡まれてたの? ナンパ? カツアゲ?」
小椋「ごめん……これ以上聞かないで……」
望月高林風見「……」
綾野「由美……」
小椋「そ…それより風見! それ演劇部のでしょ? あなたが犯人だったのね?」
風見「何言ってるんだい? この血もナイフも本物だけど」
小椋「え……」
風見「演劇部を騙せるくらいのレベルにはなかったか。言っとくけど衣装を盗んだのは僕じゃないから」
小椋「助けてくれたのは感謝してるけど……窃盗だよ?」
風見「もうやらないから見逃してくれよ」
綾野「違うんだよ。私が持ち出したのを風見くんが持ってたんだよね?」
風見「……そうかもね」
小椋「衣装もちゃんと返してくれたら……許してあげてもいいけど……」
小椋「また中尾かよ! だから泉美が使ってた奴だけ……。あたしの大切な人ばっかり……! 今度こそぶっ飛ばしてーー」
望月「まあまあ元々返すつもりだったんだから許してあげてよ。さあ帰ろう。綾野くん、小椋さんを頼むね」スタスタ
高林「じゃあね気をつけてね」スタスタ
風見「備品盗ったりして悪かったよ。これはお詫びの気持ちとして受け取ってよ」
小椋「なによこれ?」
小椋「あ、ありがと…」
風見「じゃあね」スタスタ
小椋「……何で風見はこんな物騒な物ばっか持ち歩いてんの?」
綾野「さあ? ゆかりを守るとか何とか言ってたけど、風見くんは変なことに使ったりしないから大丈夫だよ」
綾野「私達も帰ろっか」
綾野「ごめんね。カッコつけて守るとか言ったのになんにも出来なくて……。別の道から帰った方が良かったね……」
小椋「ううん。あたし1人だったら、今頃アイツらに……」
綾野「……」
小椋「ねえ? DQN達が待ち伏せしてなかったら、もうあたしと喋ったり、一緒に帰ったりしないつもりだったの?」
綾野「そんな訳ないじゃん! ただ……」
小椋「……なに?」
綾野「女の子だった時みたいに親友として由美を見れなくなったから……」
綾野「けど……私は由美の事、その……女として見ちゃってるんだよ?」
小椋「何年一緒にいると思ってんの? そんな事……それに屋上に呼び出した時言ってたじゃない」
綾野「ああ、そっか。女の私が……」
小椋「女の私ってなによ……。あと、あんな目で見られたら、鈍感な泉美でも分かるよ……」
綾野「……引いちゃうよね。けど親友をそんな目で見たくないから距離を置いてたの。分かってよ……」
綾野「どうしたの?」
小椋「……いいの。彩ならいいの。親友として見られようと、異性として見られようとも」
小椋「だってあたしはーー」
綾野「あっ、家ついたよ?」
小椋「え……もう?」
小椋「よかった……か。そうだね、今まで通りでよかったんだよね」
綾野「……」
小椋「じゃあまたね! これからは時々でいいからかまってね! あたし友達少ないから!」
綾野「……う、痛い……」グッ
小椋「えっ? お腹痛いの? もしかしてさっき……、見せーー」
ダキッギュッ
小椋「あっ…」
小椋(えっ? なになに? 何であたし抱きしめられてんの?)
小椋「え……あや……なんで…」
綾野「あはは♪ ごめん私、由美の事が好きみたいなんだ」
小椋「え……それは親友としてって……」
綾野「違うよ。異性として、だよ」
小椋「あ……え……」
綾野「混乱しすぎたよ。まあ仕方ないよね。私は元は女なんだし」
小椋「……おなかは?」
綾野「あっ、ごめん。全然平気だよ」
小椋「よかった……の……」
小椋「……」
綾野「1%くらい残ってる女の私が止めようとしたけど……そんな顔されたら女の私も……」
スッ
小椋「あっ…」
綾野「けど今抱きしめたので満足したから!」
小椋「……」
小椋「えっ……」
綾野「はあー、お腹すいた。今日はカレーだったかな? じゃあ帰るね!」
小椋「ま、待って!」
綾野「」ビクッ
小椋「あたしはーー」
敦志(ほほう……)
こいつ俺の妹に何ぉおお! と思ったがこの子よく見たらあの彩ちゃんだ。
引きこもり風情が彩ちゃんなんて馴れ馴れしく呼ぶなって?
HAHAHA! 彩ちゃんとは昔ビニールプールで一緒に泳いだり、
ままごととかしたりしてよく遊んだ仲なんだよ!
敦志お兄ちゃんのお嫁さんになる(ハァト なんて言ってくれてたからな!
クソ兄貴とか抜かす由美も見習って欲しいもんだ。
窓をそおっーと開けて聞き耳してみると、ななななんと彩ちゃんが由美に告白してやんの!
待て待て! 由美から聞いた話しでは彩ちゃんが男でいる期間は来年の3月までだ。
それ以前にいろいろと問題ありすぎんだろ! と考えてたのは彩ちゃんもらしい。
気持ちだけ伝えて、明日からは親友としてよろしくね、と言ってる。
ぶっちゃけ男でもかわいい。余裕で抱ける。嫁にしたい。
今度は由美が彩ちゃんに抱きつきやがった!
この時の由美の顔! こんな嬉しそうで幸せそうな顔は初めて見た!
2人が抱き合う姿を見て、俺は思ったよ。たとえ禁断の恋でも、妹を応援しようーーってな。
時間にして約3分。今の2人には一瞬だろうが、俺にはただの3分だ。
言葉をなくした2人……いや、言葉なんていらない2人は名残惜しそうに身体を離し、見つめ合っている。
これは一気に口づけか!? なら俺がこのロミオとジュリエットに最高のBGMをーーと思い、
キス!キス!キス! と口ずさんで手拍子してたら2人に気付かれちまった。俺とした事がorz
ドンッドンッドンッ
わざとらしい階段を登る音が聞こえて来る。マズい! エロ動画流しっぱなしだった! ポチッとな。
「おいクソ兄貴! 覗いてたのかよ!」
その後、スタンガンを持った妹に俺は罵られ続けた。
時間にして約10分。由美にはただのストレス発散タイムだろうが、俺にはご褒美だ。
家族で本音をぶつけてくれるのは由美だけだからな。
てかスタンガン持ってたのかよ。
何だよ男に付きまとわれてるって言ってたから、ネットで調べて買ってきてやったのに。
けどまあこれで安心か。
「パンツはバレッタと同じ色か。あと恋も受験も頑張れよ」
さて……由美が出ていったら、こいつの部屋からくすねた彩ちゃん(女)の写真で一発抜くとするか!
ビリリッ
俺は気絶した。
赤沢「ごめんね、呼び出して」
綾野「もしかして、元に戻る方法が……?」
赤沢「(多佳子が)色々調べてるんだけど、まだ見つかりそうにないの。ごめんなさい」
綾野「別にいいよー。それよりさー……」
赤沢「なに? 困った事があったら言ってみて。何たって私はなくなった演劇部の備品をあっという間に見つけちゃうくらい有能なんだから」キリッ
綾野「うん……ずっとこのままでいる事って……出来ないのかな?」
赤沢「……何で?」
綾野「いやぁ……男の方が毎日楽しいからさ~……」
綾野「別に謝らなくてもいいよ。泉美がもし男になってたら、私も同じふうに行動してただろうし」
赤沢「彩……」
綾野「それにもう何で好きだったか忘れちゃったよ。女に戻ったら……どうなるんだろね?」
赤沢「……」
綾野「けどその時こういっちゃんは東京かー。泉美頑張りなよ? 応援してるから!」
赤沢「そう……。ありがとう」
赤沢「それで、戻る戻らないだけど……。今までに元に戻らなかった人はいないわ。ずっと男でいるなんて無理ね」
綾野「そっか……」
赤沢「まあ男が楽しいのなら、元に戻る時の事も踏まえて楽しむ事ね」
綾野「そだね……」
綾野「あ、心配してくれてたんだー」
赤沢「当たり前でしょ? けど今のあなた達……金木さんと松井さんみたいだわね」
綾野「そそんな風に見えるの!! もう泉美ったらやだなぁー」グイッグイッ
赤沢「ちょっと髪の毛引っ張らないでよ!」
綾野「……泉美、もう戻る方法は探さなくっていいよ。私は卒業まで男でいたいから」グイグイ
赤沢「分かった! 分かったから! 髪の毛離してよ!」
ポイッ
赤沢「ハァ、全く……」
赤沢(確かに多佳子は今も学校内で解決方法を探しているけど……。私は私で現象を体験してきた人から色々な話しを聞いてきたんだから……)
赤沢(解決法が見つからないのは単純に見つからないって事には違いないんだけど……)
赤沢(それ以上に対象者が戻りたがらなくなるケースが多く、それで対策探しがおざなりになってしまうーーこれも大きな理由の1つみたいね……)
赤沢(そして、この現像が終わった後も悩んでる人がいる。その人はその現象の対象者ではなく……)
赤沢(伝えた方が良かったのかしら……。うーん)
赤沢(どうしたものかしらね。彩が元に戻って1番辛いのは、元の心境に戻れるか分からない由美でしょうに……)
有田「あっ戻ってきたよ」
綾野「ただいまー」
小椋「泉美と2人で何の話しだったの?」
有田(妬いてる妬いてる♪ 2人は親友以上の関係を隠してるみたいだけど、松子ちゃんの目はごまかせませんよ~)
綾野「それがね……元に戻れる方法が……」
小椋「えっ、まさか……」
有田「……」
綾野「見つからなかったんだって!」
小椋「お、驚かさないでよ!」
小椋「それは……」
綾野「まあいいじゃん。私も今楽しいしさ」
有田「へ~。話しぶったぎるけど、彩、ち○こ触らしてよ」
綾野「えっ」
小椋「ダメに決まってるでしょ? 調子に乗んなよこの貧乳!」
小椋「ふふふっ、残念ね。あたしは彩のおかげで少しおっきくなったのよ!」
綾野「ちょっと由美……」
有田「彩のお・か・げってどういう意味なのかな~?」
小椋「……彩が調べてくてたのよ。おっきくなる方法を」
有田「じゃあ私にも教えてよ」
小椋「忘れた」
有田「なんで忘れる訳~?」
小椋「う、うっさいわね! 別に揉んでもらうくらい前からやって貰ってたでしょ?」
有田「へー。同性にやって貰っても効果あるんだ。私が聞いた話しでは女性ホルモンがーー」
綾野「まあまあ2人とも。こういうのって団栗の背比べって言うんだよ」
有田(由美直伝の上目使い……どうだ!)
綾野「あ、進路希望書だすの忘れてたんだった。2人ついてきてよ」
有田(む…無視……)
小椋「なんでそんな大事な物を出し忘れんのよ! 早く行きましょ」
有田「……私はいいや。2人で行ってきてよ」
綾野「そっかー。じゃあ由美行こっか」
小椋「うん!」
スタスタ
鳴「榊原くん……前は酷い事言ってごめんなさい」
恒一「み、見崎いい…。もう質問なんてしないから……ストーカーなんてしないから……」
鳴「これからは特別に認めます」
赤沢「ちょっと見崎さん。今まで酷い扱いしてたのにそれはないんじゃない?」
恒一「いいんだ……もう、いいんだよ。赤沢さんもごめんね。ストーカー呼ばわりして」
赤沢「えっ、そんなっ…恒一くんがそういうんだったら……」
赤沢「恒一くんったら、2人きりっでコーヒーデートだなんて……」ブツブツ
恒一「見崎も来るよね?」
鳴「ええ。けど榊原くんは紅茶を飲むでしょ? コーヒーなんてだめだよ」
恒一「あはは、どっち飲もっかな。けどコーヒーと紅茶なんて、男と女で悩むのに比べたら……」
勅使河原「俺と望月も行っていいか?」
小椋にボコボコにされた中尾「赤沢さんが行くなら俺も!」
杉浦「私も」
恒一「そうだね。みんなで行こう。けどおごるのは赤沢さんだけだよ」
風見「ゆかり! ああ……XX日と6時間21分30秒ぶりにゆかりが僕にしゃべりかけてくれた……」
桜木「あっ多々良さん。待って下さい」スタスタ
風見「僕……今から勉強頑張るよ。だから西高に受かったら僕とーーってあれ?」キョロキョロ
高林「なんだい?」
川堀「前に綾野と小椋に絡んでたDQN3人いたろ?」
高林「アイツらがどうしたの?」
川堀「3人とも喰っちまったんだけどよ? 笑えるぜ、今のアイツら俺をめぐって大喧嘩してるんだからな!」
高林「フェアじゃないね。僕はビッチだけで我慢してるというのに」
有田(見崎さんもゆかりも諦めがついたみたいだね。まあ彩と由美をみてたらつけいる隙がないもんね)
有田(やっと彩のち○こ以外は元の3組に戻ってめでたしめでたし! 鳥たちに報告報告っと!)
綾野「私は前から夜見山高校に決めてたからねー」
小椋「あたしも志望校、夜見高に変えたんだ。一緒に勉強頑張んないとね」
綾野「え? なんで志望校変えたの?」
小椋「勉強したくなっただけ。(それに3組の人も多いし、彩や松子もいるし……)」
綾野「由美が勉強ね~。けど由美の偏差値じゃ頑張らないと厳しいんじゃないの? 多分内申もボロボロだよ?」
小椋「分かってるわよ! だからクソ兄貴に頭下げて勉強教えてもらってるんだから」
小椋「ねえ……兄貴に邪魔された事、ここでしてよ……」
綾野「ええ~? 学校ではダメだよ~」
小椋「……! やっぱりいいわ。松子が見てる」
綾野「あははー。けど松子やみんなと一緒の高校行けるといいね。泉美と一緒のとこに行けないのは残念だけど」
綾野「どうなるのかな~? けど、どうなってもいいじゃん。どっちにしろ一緒にいるのは変わりないんだからさ」
小椋「……そうだね!」
綾野「教室戻ろ! 3組のみんなといれるのも、夏休みとか除いたらあと半年くらいしかないよ!」
小椋「うん!」
小椋(そもそも男になったのが彩じゃなくて、泉美や松子とかだったら……)
小椋(やっぱり彩だからだよね……。ホントにどうなっちゃうんだろ……)
小椋(彩は多分榊原くんみたいにあたしの事を忘れて行くだろうし……。迷惑だけはかけないようにしないと)
小椋(ううん。まだどうなるか分からないじゃない! それにどうなったとしても、彩の言うとおりこれからもずっと一緒なんだから!)
綾野「何してるの由美~早く戻るよ~」
小椋「彩、待っててばぁ」
ガチャン
有田(お)
雀A(わ)
雀Y(り)
この2人のエロの下記タメもあるんだけど、正直めっちゃ蛇足な気がするので…
2人は卒業後、元の関係に戻りましたとさ。めでたしめでたし。
おぐあや含めアナザーのキャラみんな可愛いお
有田(お)
雀A(わ)
雀Y(り)
これどういう意味か説明しろください
あとこのつがいと赤沢さんが太陽云々と演劇部3人の写真はエロの時の描写に使ってるので本編では意味不明になってゴメンゴ
乙でした
Entry ⇒ 2012.06.22 | Category ⇒ AnotherSS | Comments (0) | Trackbacks (0)