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春香「冬本番ですね。」 P「ああ。」
テレビから流れる天気予報を聞きながら、Pは窓の外に目をやる。
冬特有の澄んだ空を、下弦の月に照らされた雲が足速に流れて行く。
吹き抜ける風はとうに温かさを失い、肌寒く感じる季節になっていた。
P「いよいよ冬だな。」
今夜は冷え込みそうだ。
内心にそう思いながらも、疲労から来る眠気には打ち勝つことができず、5分と経たず寝息を立て始めた。
千早「お疲れ様でした。」
真「お疲れ様でしたー。」
二人がやや疲労の混じった声で挨拶を一つ残し、事務所を後にする。
春香「ふぅ。私も今日の仕事はこれでおしまいかな。」
いつも通りのハードなレッスンと明日のドラマ収録に向けた台本読みを終えた春香は、手に持った紅茶を一気に流し込んだ。
とうに温かみを失っていたその紅茶は、喉に焼け付くような感覚を残して胃の中に収まった。
P「お疲れさま、春香。」
春香は空になった紙コップをゴミ箱に放り投げ、とことことプロデューサーに駆け寄る。
春香「プロデューサーさんはまだお仕事ですか?」
春香「じゃあちょっと相談に乗ってもらってもいいですか?」
P「ああ、もちろん。なんだ?」
春香「ここの主人公の台詞なんですけど、感情の込め方が…」
P「なるほど。それならいっそ…」
一枚の紙を二人でのぞき込み、ああでもない、こうでもないと議論を重ねる。
一緒に仕事をこなしてきた年数はまだ浅い二人であったが、その様子にはさながら長年連れ添った夫婦のような阿吽の呼吸が見て取れた。
春香「なるほど…結構分かってきました。ありがとうございます。」
一通りの相談を終えた春香はにっこりと微笑んでお礼を述べる。
P「ああ。また相談があったらいつでもしてくれ。」
つられてPも口元に笑みを浮かべる。
8時を告げる時計の鐘が鳴った。
二人は示し合わせたように柱にかけられた時計を見やる。
P「もう8時か… そろそろ帰らないとな。」
春香「そうですね。」
先ほどまで事務所を目映いオレンジに染め抜いていた太陽はいつの間にか空から姿を消し、変わって小さな月が頼りなさげに輝いていた。
春香「もう冬ですけどね。」
話の片手間に帰宅準備を進めながら、くすくすと笑いあう。
P「よし、行こうか。」
春香「はい。」
軋む扉を開けると、室内のなけなしの暖と入れ替わりで寒風が吹き込んできた。
少し前まで沈丁花の香りを運んでいた夜風も、今は鼻腔を刺すような冷たい匂いをのせている。
P「なぁ、春香。」
春香「なんですか?」
P「今日は、歩いて帰らないか?」
春香「えっと 私はかまいませんけど。」
P「よし。じゃあちょっと道をいつもと変えようか。」
春香「お散歩ですか?」
P「まぁそんなところだ。」
今日もその例に漏れず、春香はPと共に帰宅する。
春香(どうして今日は歩きなんだろう?)
春香(よく分からないけど、たまには歩くのも悪くないよね。)
春香(でも夜に二人で…お散歩…)
それを包み隠してくれた夜の闇に春香は感謝をした。
P「どうした、春香。黙り込んで。」
春香「えっと なんでもないですよ、あはは…」
顔を合わせることすら気恥ずかしく感じられ、少しだけ俯く。
時折横を走り抜ける車のヘッドランプが二人を照らしだし、地面に揺れる影を描く。
真っ黒なキャンバスに描かれたその男女の影は、一つの芸術作品のような雰囲気を放っていた。
春香(夜って、綺麗なんだね…)
P「春香。」
春香「はい。」
P「たまには歩いてみるのもいいだろ。」
春香「そうですね。こんなに夜道が綺麗だなんて、知りませんでした。」
満足げな表情を浮かべる二人。
春香「もしかして、その為に今日歩こうって誘ってくれたんですか?」
P「まぁな。最近春香忙しそうだったし。それも理由の一つ。」
P「いや、気にしないでくれ。」
訝しげな表情の春香をよそに、Pは歩調を少し早める。
P「そういえば、この前言ってたケーキ屋ってここら辺だったよな?」
春香「あそこのモンブランは絶品なんですよ!」
何の変哲もない、他愛のない話を交わす。
日常にありふれたそんな光景すら、春香にとっては愛おしく感じられた。
春香(それもきっと、貴方が横に居るから、ですよ。)
再び頬をほんのりと赤らめる。
春香「今日は星が綺麗ですね。」
P「そうだな。空気が澄んでるんだろう。」
見上げた空には、白銀の輝きを放つ星々が無数にきらめいていた。
それをプロデューサーと二人で眺めている。
出来すぎた程にロマンティックな状況に、春香は頭がくらくらした。
春香「えっと、アンドロメダ座、でしたっけ。」
P「お。よく知ってるな。」
春香「その下のがペガサス、上のがペルセウスでしたよね。」
P「詳しいんだな。」
春香「次のドラマはテーマが天体観測ですからね。」
P「あの三つの星座はどれも神話が元になっていてな。」
P「アンドロメダはエチオピア王の娘で絶世の美女だったんだ。ところが、親がそれを自慢しすぎたせいで神様の怒りを買って、彼女は巨大な怪物の生け贄として差し出されてしまったんだ。」
春香「へぇー。」
P「そこを、ペガサスに乗ったペルセウスが偶然通りかかった。」
P「ペルセウスはあっと言う間に怪物を石にして倒して、アンドロメダを救った。」
春香「王子様みたいですね。」
春香「素敵なお話ですね。」
P「ああ。やっぱりハッピーエンドはいいもんだ。」
P「台本見たら、結構こういう知識も必要みたいだったからさ。春香も暇があったら調べてみるといいよ。」
春香「ええ。ありがとうございます。」
春香(私は絶世の美女でもないし、神話みたいに格好よく結ばれたいなんて思いませんけど。)
春香(ただ、あの星々みたいに、ずっと寄り添っていられたらいいなって。)
そして再び見上げた空は、地上からの光で霞んでいた。
春香「あれ・・・もう駅?」
P「ああ。もうすぐだ。」
春香「そっか…」
楽しいときほど早く時間は過ぎる。
それを身を持って感じた春香は、過ぎ行く今を愛おしむように目を細め、再び歩き始めた。
春香「いえいえ。ここまで送ってくださってありがとうございます。」
P「駅から家までは近かったっけ?」
春香「ええ。歩いていける距離です。」
P「そっか。」
駅の構内へと入った二人は、奥まった改札へと向かう。
P「それじゃ、また明日な。」
心なしか足速に離れていったプロデューサーに向けて手を振る。
春香「…」
春香(誘ってもらったからといって何を期待していたわけでもないけど。)
春香(ちょっぴり残念、かな。)
軽くため息をついて見上げた先には、無機質な白い天井が広がるばかりであった。
春香(あれ、私、久しぶりにちょっとリラックスしてる。)
春香(そっか…プロデューサーさん、休みが取れない私を気遣ってくれたんだ。)
春香(ほんとに、優しい人なんですね。貴方は。)
相反する二つの思いが頭の中を巡る。
そして不意に、その視界が遮られた。
春香「えっ?わっ!?」
何かが頭に乗せられたような感触。
手をやると、ふわりと柔らかいさわり心地。
それは、毛糸で編まれた帽子であった。
春香「えっ これって…」
P「いやぁうっかりしてた。」
春香「えっ えっ?」
事態が飲み込めずに手に持った帽子とプロデューサーとを繰り返し見つめる。
P「春香さ、いつも使ってる帽子無くしたって言ってただろ。」
P「これから寒くなるし、と思ってな。」
春香「もしかして、作ってくれたんですか?」
Pは黙ったまま頷く。
春香「あ…ありがとうございます。」
P「あとこれも一緒に作ったんだ。」
春香「こっちは…えっと。」
P「マフラーだよ。あんまり上手くできなかったけど、もしよかったら使ってくれ。」
春香「うわぁ…すごくうれしいです!」
事の次第を飲み込んだ春香の表情が見る見る明るくなっていく。
これ以上ない、太陽のような満面の笑みを浮かべる。
P「ああ。だけどうっかり渡すのを忘れてた。」
P「春香とはなすのがあんまり楽しくてさ。」
春香「えへへ。でも、プロデューサーさんってお裁縫得意だったんですか?」
P「まぁな。」
春香「ちょっと意外かも。」
春香「大事にしますね。ありがとうございます。」
ぎゅっと胸元にプレゼントを抱いた春香の頭を少しだけ乱暴な手つきで撫でたプロデューサーは、今度こそ、といって手を振った。
春香も、晴れやかな気分で手を振り返す。
小走りで去っていくプロデューサーの背中を見届けた春香は、軽い足取りで改札をくぐった。
プラットホームからわずかに見える星空には、仲睦まじく寄り添う二つの星座が輝いていた。
春香「雪だ…」
漆黒の空を背景に舞い落ちる粉雪。
空から星が降ってきたようにも見えるその景色。
春香はそれをゆっくりと目に焼き付け、電車に乗り込んだ。
~10月21日 深夜~
入浴を終えて体の芯まで暖まった春香は、パジャマ姿でベッドに寝転がった。
春香「ふぅ。」
枕元に置いた袋を取り、リボンをそっとあける。
取り出したヘリンボーン柄のマフラーは、店で売られているものと遜色無い程に上手く編まれていた。
何気なく袋を逆さまにすると、中から一枚の紙切れが落ちてきた。
春香「あれ。なんだろ?」
少し光沢のあるそれを手に取る。
図書館利用伝票
20xx年10月1日
0から始める編み物~小物編~
一日10分でできるマフラーの編み方
誰でも簡単!メリヤス編みの裏技
返却期限:10月15日
春香「得意だなんて、嘘じゃないですか。」
偶然挟まって入ったであろう伝票を見て、その瞳が不意に潤んだ。
春香「仕事で疲れているのに、勉強してまで編んでくれたんだ・・・」
優しげな笑みを浮かべ、マフラーと帽子をぎゅっと抱きしめる。
届くはずの無い人へと語りかける。
「こんな駄目駄目な私ですけど。」
「これからも、どうか。」
「よろしくお願いします。」
目を閉じ、二人で見たアンドロメダとペルセウスを思い浮かべる。
「来年は、初雪も一緒に見られたらいいですね。」
「そして、いつの日かきっと・・・」
それはまるで、少女のささやかな願いに声援を送るかのように。
そしてまた、純白の未来を象徴するかのように。
おわり
いい雰囲気でした
Entry ⇒ 2012.11.03 | Category ⇒ アイマスSS | Comments (0) | Trackbacks (0)
洋榎「絹に寝ている間にキスされた」
絹恵「あれ、寝とる?」
洋榎「…………」
絹恵「……ふふ、かわええなぁ」
絹恵(……な、なんか……じっと見てたら熱くなってきてもうた)
絹恵「誰も……まあ、おるわけないか」
絹恵(ほっぺた、触ってみよ)スッ
洋榎「……ん」
絹恵「……へへ、かわええ」
絹恵(あれ……あかん、顔、熱っ)
絹恵(手も……震えとる、なんやこれ……でも)
絹恵「……もっと触りたいな」
絹恵「お姉ちゃん、髪借りるで」スッ
洋榎「…………」
絹恵「はぁ、気持ちいいなぁ、手触りええし」
絹恵「……これもしかして、起きない?」
絹恵(なら、もう一回、顔触ろ)スッ
洋榎「……ん」
絹恵「あ……っ」
絹恵(どないしよ、心臓痛い……落ち着け……)
絹恵(私、今までで一番緊張しとるかも……)
洋榎「…………」
絹恵(く、唇……触ってみたけど、柔らかいなあ……)
絹恵「……はぁ、ふぅ」
絹恵(あかん、熱い熱い、息が熱い!)
絹恵(でも……ほんまに起きひんな)
絹恵「お姉ちゃーん?」
洋榎「…………」
絹恵(念のため、動かしてみようかな……それで起きたらどないしよ)
絹恵(……ちゃうやろ、なんで起きないほうがいいことになっとるん!)
洋榎「…………」
絹恵「おーい……はよせえ、キスしてまうで」
洋榎「…………」
絹恵(やっぱり、起きない……ほんまに、今くらいしか触れるチャンスないやろ)
絹恵(や、やるか……)ドキドキ
絹恵「……ちゅっ」
洋榎「……ぅ」
洋榎「…………」
絹恵「……ふ、はあっ、ふぅーっ」
絹恵(あかんあかんあかん! 熱い熱い、ぼーっとする……)
絹恵「……お姉ちゃん」
洋榎「ん……」
絹恵「! ……うなっただけ? よかった……」
絹恵「お姉ちゃーん、好きやでー」
洋榎「…………」
絹恵「まあ、聞こえてへんから言うんやけどな、こういうこと」
絹恵「……もう一回、キスしたいな」
絹恵(お姉ちゃんの唇が気持ちええから悪いんやな……うん、うん)
絹恵「……お姉ちゃーん? わざと声出してあげとるのに、起きひんってことは、してもええっちゅうことやろ」
洋榎「…………」
絹恵「…………」
絹恵(どえらいドキドキする……よし、一、二……)
絹恵「ん……」
「ただいまー」
絹恵「うぇっ!?」
絹恵「……ビビった、お母さんか」
……
風呂
絹恵(結局、夕食の時もほとんど俯いてもうた……)
絹恵(変な風に想われとらへんかなあ)
絹恵「はぁ……」
絹恵(柔らかかったなぁ……じゃないや)
絹恵「……熱くなってきた、もう出よ」
ガチャッ
絹恵「!」
洋榎「はろー」
絹恵「な、なんでやねん! 服着て!」
洋榎「あほ、風呂入るのに服着てはないやろ!」
絹恵「どないしたん?」
洋榎「風呂入ろう思うて服脱いだら、ちょうどその頃に絹が入っとることに気付いたんよ」
洋榎「で、もう脱いでもうたし、一緒に入ったるか、ってな」
絹恵「……まあ、なんでもええわ」
絹恵(良くないけど……)
洋榎「なんや冷たいなー」
洋榎「これから温まるんやから、そない冷たくしても意味あらへんで」
絹恵(全然冷たくないよ……むしろ熱いのに)
絹恵(こう見るとお姉ちゃん、私よりちっちゃいのがよくわかるなぁ)
絹恵(……可愛い)
絹恵「……ふー」
洋榎「よっしゃ、入るか」ザバッ
洋榎「……絹、ちと詰めたってや」
絹恵「うーん、限界あるやろ」
洋榎「じゃあ、身体借りるで」
絹恵「えっ」
洋榎「ふふふ、絹枕ー」
絹恵(し、心臓が……バレてへんかな?)
絹恵(良かった……)
洋榎「はー、あったかー、久しぶりに絹と風呂入った気するわ」
洋榎「髪当たっとらん?」
絹恵「平気、ちゅうか……髪綺麗やな」
洋榎「特別に触らせたるで」
絹恵「……ん」スッ
絹恵(……うわぁ、なんや品定めしとるみたい……)
絹恵(後で、このお姉ちゃんにキスするんか……)
絹恵(……わかっとると、余計緊張する)
……
洋榎「おやすみー」
絹恵「お姉ちゃん、お休み」
絹恵(言うても、後で部屋行くけど)
………
……
絹恵「……お姉ちゃーん?」ガチャ
絹恵「…………」
絹恵(起きとらんな、多分)
絹恵(あと、部屋の鍵閉めたほうがええやろ……私としては棚ボタやけど)
絹恵「ふぅー……」ドキドキ
絹恵「よし……ん、ちゅっ……」
洋榎「…………」
絹恵「……ぁ、っ……はぁ、ふー……」
絹恵(ま、まだ慣れん、あっつ……)
洋榎「……んー」
絹恵「ふふ、お姉ちゃんかわええなぁ」
絹恵「……も、もう一回」
絹恵「…………」ドキドキ
洋榎「ぁ……ん、絹?」
絹恵「な、うわあっ!? な、なんやねん!」
洋榎「それうちのセリフやわ」
絹恵(そ、それもそっか……)
洋榎「何しとるん?」
絹恵(……キスのことは、バレてへん?)
絹恵「ね、眠れなくて……」
洋榎「なら、一緒に寝ようか」
絹恵「えっ!?」
絹恵「……じゃ、じゃあ」
絹恵(平静、平静……)ドキドキ
洋榎「絹ー」ギュッ
絹恵「わっ!?」
洋榎「やっぱ暖かいなー」
絹恵(……お姉ちゃんも)
絹恵「お姉ちゃん」ギュッ
洋榎「お?」
絹恵(お姉ちゃん、好き、好き好き……)
絹恵(言えないのが、もどかしいな……)
絹恵「……おやすみ、お姉ちゃん」
洋榎「ん、おやすみー」
……
洋榎「はぁ、疲れた……久しぶりにあんな頭使ったなぁ」
洋榎「……寝よ」
洋榎「…………」
絹恵「……お姉ちゃん、いる?」ガチャ
洋榎(絹? ……あかん、眠すぎる)
洋榎(黙っとこ、堪忍な)
絹恵「……起きてる?」
洋榎(寝とるよー)
絹恵「……ふぅ」
洋榎(?)
洋榎「…………」
絹恵「……ちゅっ」
洋榎(なっ!?)
洋榎(えっ、え……あ、はっ……?)
洋榎(うち、キスされた? 絹に? なんで?)
洋榎(どないしよ、とにかく、冷静に……)
絹恵「……お姉ちゃん、好き」
洋榎(な……うわああああ……)
洋榎(無理無理、顔見せられへん……)
洋榎「う、んー……」ゴロッ
絹恵「あ……」
洋榎(か、間一髪……)
洋榎(絹……ほんまに? さっき言ってたのは、その……)
洋榎(じゃあ、キスの意味も……)
絹恵「お姉ちゃん、おやすみ」ガチャ
洋榎(行ったか……?)
洋榎「何がおやすみ、やねん……寝られるわけあらへんやろ……」
洋榎「……あー! なんやねんもう!」
洋榎「絹、マジでうちのこと好きなんか!? せやからキスしたっちゅうんか!」
洋榎「も、もしかして、今までも? ああああもう!」
洋榎「あ……あかん、顔熱すぎる……」
洋榎「……なんでこんなドキドキしとんねん」
洋榎(うちも、好きなんかなぁ……)
洋榎「いや、いやいやいや、なぁ? ただうちはキスされただけで、そのせいで……」
洋榎「……はぁ、寝るか」
……
絹恵「お姉ちゃーん……?」ガチャ
洋榎(ま、また……)
洋榎「…………」ドキドキ
洋榎(なんでうち、黙っとるんやろ……)
絹恵「……んっ」
洋榎「っ……」
洋榎(声出したらあかん!)
洋榎(このところ、毎日……やっぱり、前から……)
絹恵「ん……おねーちゃん」
洋榎(な、なんや)
絹恵「かわええなぁ……」
洋榎(絹、そう言うのやめて……頭揺れてまう……)
絹恵「あ、また……」
洋榎(しゃーないやろ、うちは寝返りするしか……)
絹恵(も、もうちょっと……)
絹恵「……お姉ちゃん、ごめん」
洋榎(え?)
絹恵「…………」グイッ
洋榎(なっ!)
絹恵「んむっ……」
洋榎「ん、っ……」
洋榎(あ、ああ……絹、強引すぎる……!)
洋榎(平常心、平常心……目開けたら、それだけはあかん……ああああ、もう!)
絹恵「……お姉ちゃん、好き、大好き」
絹恵「もっと、キスしたいなぁ」
洋榎「……ぁ」
絹恵「!」
絹恵(お、起こした!?)
洋榎(やばっ!)
絹恵「ご、ごめん!」ガチャ
洋榎(……ば、ばれた?)
洋榎(いやいや、別にうち、何も隠してへんし……それに、ただ声漏れただけ)
洋榎(そんなん、寝てても同じやろ……)
洋榎(……大丈夫、うん、そういうことにしよ)
洋榎「ふぅ……あっつ」
絹恵(……ば、ばれた?)
絹恵(こないなことしとるって知られて、お姉ちゃんに引かれるのは嫌や……)
絹恵(でも、キスはしたい……)
絹恵「……うーん」
絹恵(……ただの呻き声やし、寝てただけやろ……?)
絹恵(そういうことにしよう、うん……)
絹恵(でも、耐え切れずに無理矢理やるのは、ちょっと調子乗ってたかも)
絹恵(しばらく、これはやらんほうがええかなぁ)
絹恵「……はぁ」
絹恵「お姉ちゃーん……」
……
洋榎「…………」
洋榎「……寝られん」
洋榎(やっぱり今日も、キスされるんかなぁ)
洋榎(緊張するから、うちとしては早めの方が助かるんやけど)
洋榎「…………」
洋榎(まだ?)
洋榎「…………」
洋榎「……あーもう! キスしにきたらええやんけ! はよ来いや、絹!」
洋榎「い……今なら、来ても怒らへんで?」
洋榎「…………」
洋榎「……はぁ、寝たほうが利口やろなぁ」
洋榎(絶対眠れへんけど……)
……
洋榎「おやすみ、絹」
絹恵「おやすみー」
洋榎(おやすみってか、うちはそれどころじゃない……)
洋榎(結局三日間、絹はキスしにこないし)
洋榎(おかげで満足に眠れへんし、うちは生殺しやな)
洋榎(……生殺し? いやいやいや、ちゃうやろ!)
洋榎「なんやねん、もう、あほくさ……」
洋榎(……しっかし、あんながっついてきよった癖に、どうして急に、なぁ)
洋榎「絹、何しとるんやろ」
洋榎「……気になる」
洋榎「おーい?」コンコン
洋榎「……返ってこないな、もう寝とる?」
洋榎(でも引き返すのも……どうせこの鍵、外側から簡単に開くし……)
洋榎「……開けるか」
洋榎「……よし」ガチャ
絹恵「…………」
洋榎「やっぱり寝とったか、ふふ」
洋榎「久しぶりに見たかもなぁ、絹の寝顔」
洋榎「部屋別けてからは、いつもうちが起こされてばっかりやったしなあ」
洋榎「……しっかしよく見ると、やっぱりどえらい美人やな、絹」
洋榎(あ……うち、この子にずっとキスされとったんか……)
洋榎「…………」
洋榎「……絹?」
絹恵「…………」
洋榎「やっぱ、寝とるか」
洋榎(……あ、あれ?)
洋榎(これもしかして、うちからキスできるんとちゃうん?)
洋榎「……起きろー」ペチペチ
絹恵「ん……」
洋榎(ちょっと、呻いただけ……か)
洋榎(……ほんまに? ほんまにやるん?)
洋榎(ちゃう、これはただ、キスせえへんと眠れへんからやるだけで……)
洋榎「うん……しゃーない、しゃーない……」
洋榎「別に、うん、問題ない……」
絹恵「…………」
洋榎(なんやねん、これ、緊張する……)
洋榎「っ……んぅっ」
絹恵「……ん」
洋榎「……ぁ……はぁーっ、ふーっ……」ドキドキ
洋榎(あかん、あー……なんも考えられへん……)
洋榎(血登る、頭痛い……)
洋榎(絹、こんなこと毎日毎日、うちにしとったんか……)
洋榎(余計眠れん、あと、もったいない……ってなんやねん、それ)
洋榎(わけわからんなあ、もう! 自分がわからん……)
洋榎「い、今までのお返し……絹が悪いんやで?」
洋榎「……ちゅ」
絹恵「…………」
洋榎「……はぁ、っ……あー」
洋榎(やっぱり、ぼーっとする……けど、やめられへん……)
洋榎(別に、今までされてきた分、やり返すだけ……)
洋榎「……ちゅっ」
絹恵「ん……」
絹恵「……ぅ」
洋榎「……っ、んむっ」
絹恵「ん……」
洋榎(はぁ、絹、絹……)
洋榎(くそ、止まらん……なんで……)
洋榎「……絹、んうっ」
絹恵「…………」
洋榎「ぁ、ふぅ……好き、好き、絹……」
絹恵「んー……」
洋榎(だ、誰か、止めて……)
洋榎(絹、起きるかも……知らんわもう、どうせ止まらんし……)
洋榎「ちゅっ……」
絹恵「……ん」
……
洋榎「……あー」
洋榎(昨日、何回キスしたかなぁ……多分、十五は超えとると思うねんけど……)
洋榎(もし今日も来なかったら……)
洋榎(……また、行ってみよか)
………
……
絹恵(久しぶりに、お姉ちゃんとキスしたい)
絹恵(三日待ったし……もう、ええやろ、多分)
絹恵(これ以上はちょっと、耐えきれへんし……)
絹恵「お姉ちゃん……」
絹恵(……後で、行こ)
洋榎(ほ、ほんまに来た……)
絹恵(久しぶりやな……緊張する)
絹恵(あかん、抑えないと……)
洋榎「…………」
絹恵「…………」
洋榎(うち、今から、絹にキスされるんやな……)
絹恵(久しぶりに、お姉ちゃんに、キス……)
絹恵「……お姉ちゃん」スッ
洋榎「っ……」
洋榎(さ、騒ぐな……!)
絹恵「……ん」
洋榎「ん……ぅ」
洋榎(き、絹……っ)
絹恵(お姉ちゃん……お姉ちゃん、好きだよ……)
洋榎「ぅ……」
洋榎(長っ……さすがに、限界……)
絹恵「……ふぅ」
洋榎(ぁ……長かった、でも、もうちょっと……)
洋榎(絹……)
絹恵(やっぱりこれ、ぼーっとする……ブレーキ利かん)
絹恵(好き、大好き、お姉ちゃん……だから、許して……)
洋榎(絹、はようして……)
絹恵「……っちゅ」
洋榎「ん、っ」
洋榎(あかん、無理……絹、絹……)
絹恵(お姉ちゃん、お姉ちゃん……)
洋榎「……う、ぁっ」
絹恵「え……?」
洋榎(あ、声……しまった……)
絹恵(ぜ、絶対起きた……いや……)
絹恵(でも、くらくらして、動けへん……)
絹恵「…………」
洋榎「…………」
絹恵「……お、お姉ちゃん」
洋榎「……なに」
絹恵「え、えっと……っ!」
洋榎(……絹)
洋榎「んむっ……っ」グイッ
絹恵「ぅ、んっ……」
絹恵(なんで、急に……お姉ちゃんからなんて、気絶しそ……)
洋榎「……ん、ふぅ……はあっ……」
絹恵「……っ、あっ、お姉ちゃん、なんで……」
洋榎「やかましい……っ、んむっ」
絹恵「……ん」
絹恵(あ……舌、入ってきた……)
洋榎(あったか……)
洋榎「ちゅ、っ、んっ」
絹恵(キスの音しか、聞こえない……お姉ちゃんの音だけ……)
絹恵(お姉ちゃん……幸せ……)
絹恵「……ぅ、あっ」ギュッ
洋榎「っ……んぅ」ギュッ
洋榎(絹……)
洋榎「……ふぅ、っ」
絹恵「お、お姉ちゃーん……」
洋榎「……絹」
絹恵「好き……お姉ちゃん、好きだよぉ……」
絹恵「ずっと、ずっと、キスしたいくらい……」
洋榎「うちも、絹が好き……ずっと、こうしてたい……」
絹恵「……証拠」
洋榎「い、いまさら?」
絹恵「だって……」
洋榎「……じゃあ、普通にキス、してみよか」
洋榎「こう、恋人っぽい、感じ……ちゅうんかな、とにかく、えっと……」
絹恵「……うん」
菫「わかったから帰るぞ」ズルズル
絹恵「……手、ほっぺにつけながら、キスしてほしいな」
洋榎「こ、こう……?」スッ
絹恵「うん、そう……へへ」
洋榎(絹もやっぱり、あっつい……)
洋榎(絹、やっぱり可愛い……うちの、妹……)
絹恵「それで、あんなぁ、キスする前に……その……」
洋榎「……"好き"」
絹恵「あ……っ」
洋榎「ちゅっ……」
絹恵「ぅ……んっ」
絹恵(私も、お姉ちゃん、好き……大好きだよ……)
絹恵「ぁ……」
洋榎「……絹は」
絹恵「え……?」
洋榎「絹、からは?」
絹恵「……いいの?」
洋榎「さっきまで、しとった癖に」
絹恵「へへ、やった……じゃあ……」スッ
洋榎(ぁ、顎……? 顔、近っ……)
洋榎「……なぁ、絹も」
絹恵「お姉ちゃん……"好き"」
洋榎「っ……」
絹恵「っちゅ……」
洋榎「ぁ……んうっ」
洋榎「…………」
絹恵「あ、あのさ、お姉ちゃん……一緒に、寝てもええ?」
洋榎「え? うん、まあ……」
絹恵「……お姉ちゃーん」ギュッ
洋榎「ぁ……へへ、絹ー」ギュッ
絹恵「お姉ちゃん、ほんまにかわええ……ちっこくて」
洋榎「嬉しいけど、一言余計やろ……」
絹恵「ううん、全部、好きや」
洋榎「うちも、そういう熱心なところ好きやで……ああでも、寝込み襲うのに頑張ってもらってもなぁ」
絹恵「ご、ごめん……」
洋榎「いや、まあ、うちも……ちょっと、途中から期待してたけど」
絹恵「……やっぱり、お姉ちゃんは優しいなぁ」
洋榎「当たり前やろ、好きな人に優しくしないで、誰に優しくせえっちゅうねん」
絹恵「……えへへ」
洋榎「なんや?」
絹恵「寝る前の、キス」
洋榎「……ちゅっ」
絹恵「へへ……ちゅ」
洋榎「ん、うーん……」
絹恵「……手、繋いで寝よっか」
洋榎「……せやな」ギュッ
絹恵「はぁー、暖かい……ねえ、もう一回、キス」
洋榎「ちゅ、んっ……」
絹恵「へへ……おやすみ、お姉ちゃん……また、明日も……」
洋榎「当たり前やろ、また明日な……おやすみ、絹」
絹恵「うん!」
おわれ
乙乙
Entry ⇒ 2012.11.03 | Category ⇒ 咲-Saki-SS | Comments (1) | Trackbacks (0)
菫「宥と楽しい同棲生活の始まり」
菫「……ああ」
菫「ここが、これから私たちが住むアパートだ」
菫「コンビニやスーパーまで徒歩数分、ファミレスや大型デパートまで徒歩10分」
菫「駅までは徒歩20分ぐらいかかるが、まぁ歩いて行ける距離だ」
菫「治安も良く、住んでいる住民も若夫婦が殆どだ」
菫「立地条件としてはなかなか良い場所を確保出来た」
宥「ごめんね……何もかも菫ちゃんに任せちゃって」
菫「構わんさ、宥は宥で忙しかったんだろう?」
菫「それに私は一人暮らし慣れしてるから、このぐらい大した事ないさ」
宥「菫ちゃん……///」
咲「エ○ゲーって楽しいよね!」
http://ssweaver.com/blog-entry-1880.html
のスピンオフです。
菫「エ○ゲしてる所を宥に見られた……」の続きであり、
時系列的にはチャットのオフ会が終了後、菫さんと宥姉が大学に進学して二人の同棲生活が始まるお話。
菫「ああ……さすがにワンルームで2人暮らすのは厳しいだろうと思ってね」
菫「同棲生活をするなら、やはり2DKはあった方が良いらしい」
菫「一応家具や家電とかは、私が使っていた物をそのまま持ってきてるが」
菫「それでも足りない物とかは後で買いに行こう」
宥「うん」
菫「それじゃあ、まずは……」グゥー
菫「……」
宥「……お昼ご飯にしよっか」
菫「そ、そうだな……///」
菫「ガスとか水はもう使えるが、何分食材が何も無い」
宥「じゃあ……」
菫「……今日の昼は外食するか」
宥「うん」
………
……
…
菫「宥はまだこの辺りに詳しくないだろう?」
宥「うん、駅と大学の場所は覚えたけど……」
菫「じゃあ食事を終えたら、軽く街の案内もしよう」
宥「うんっ」
「いらっしゃいませー」
菫「2名、禁煙席で」
「かしこまりました、こちらへどうぞー」
宥「……」オロオロ
菫「……宥?」
宥「えっ……なに?」
菫「いや……そんなにソワソワしてどうしたんだ?」
宥「え、えっと……」
菫「そうなのか?インハイでも東京へは来てるし、奈良でだって外食ぐらいはするだろう?」
宥「う、うん……そうなんだけど……」
宥「私の住んでる所……近くに飲食店がひとつもなくて……」
菫「え、そうなのか?」
宥「う、うん……」
宥「だからこういう所はあんまり慣れてなくて……」
菫(奈良県は飲食店が少ないとよく聞くが……まさかそこまでとはな)
「それでは、ご注文決まりましたらこちらのボタンからお呼び出しください」
菫「……」
菫「宥は何にする?」
宥「え、えっとっ……えと……」パラパラッ
菫「ははは、慌てなくていいさ。ゆっくり決めてくれ」
宥「ご、ごめんねっ」
宥「……菫ちゃんはもう決まったの?」
菫「ん?ああ、私はもう決まってるが」
宥「じゃ、じゃあ……菫ちゃんと同じので」
菫「いいのか?好きなの選んでもいいんだぞ?」
宥「ううん、大丈夫……」
菫「そうか?なら呼ぶぞ」ピンポーン
菫「この、エビピラフを二つ」
「AセットとBセットのメニューがありますが、如何なさいましょう?」
菫「ふむ」
菫(Aセットが野菜サラダセット、Bセットがコーンスープか……)
菫(宥ならきっと温かい物の方が好きだしな……)
菫「じゃあ両方Bセットのコーンスープで」
「かしこまりました」
宥「うん」
菫「……別に時間をゆっくりかけて決めても良かったんだぞ?」
宥「う、うん……でも沢山種類がありすぎて迷っちゃうし……」
宥「それに菫ちゃんと同じ物を食べて、美味しさを共有したいから……///」
菫「なっ……///」
宥「……///」
菫「……///」
菫「こっ!この後は!小物でも買いに行こうか!」
宥「う、うんっ、そうだねっ」
………
……
…
菫「宥は大丈夫か?」
宥「うん、美味しかったね」
菫「ああ、そうだな」
菫「さて、お会計を済ませるとするか」
宥「……え、えっと」
菫「……どうした?」
宥「お、お金は……」
菫「ああ……そうだな……」
菫「とりあえず今日の所は私が払っておくよ」
宥「えっ、で、でも……」
菫「お金の管理とかそういう所も、後々ちゃんと決めないとな」
菫「私達は今日から二人で暮らすんだからな……」
宥「……うん……///」
菫「さて、次は……ここだな」
宥「わあ……おっきい」
菫「近辺では一番大きなデパートだ、ここで小物を揃えよう」
宥「小物で足りない物って……」
菫「歯ブラシとかタオルとか……あと食器とかだな」
宥「あ……そういえば私、歯ブラシとかは持ってきてない……」
菫「ははは、これから新生活が始まるんだ。新しく新調すればいい」
菫「それに……その、あれだ。お揃いの物にできるし……///」
宥「あっ……///」
宥「うんっ……!」
宥「ん……と……あまりそういうのは気にしないけど……」
宥「出来れば……菫ちゃんとお揃いのがいいな……っ///」
菫「そ、そうか……///」
菫「じゃ、じゃあ、こういうのはどうだ?」
宥「わあ、可愛い……」
菫「同じ模様の青と赤だ」
宥「……あったかい色」
菫「どうだ?」
宥「うん……これがいい」
菫「じゃあ、これにしよう」
宥「うんっ」
菫「宥は他に欲しい物はあるか?」
宥「え、えっと……な、何が必要なのかな?」
菫「そうだな……とりあえず暮らす分に必要な物は買い揃えたが……」
菫「あとは……夕食の食材だな」
菫「このまま買い出しに行ければよかったんだが、荷物は結構多くなってしまったな……」
菫「一度戻って荷物を置いてから、食材の買い出しに行こう」
宥「うんっ」
菫「ここが近所のスーパーだ」
菫「規模はそこそこだが、品ぞろえも悪くはなく値段も安い」
菫「これが徒歩数分圏内にあるんだから贅沢だな」
宥「便利だね……」
宥「私の住んでた所は、スーパーに行くのにも車を出さないと行けなかったから……」
菫「そうだな……私はずっと東京に住んでいるが、やはり東京は便利な街だと思うよ」
宥「うん……それに今は菫ちゃんも一緒だし、すごく楽しいよ……っ」
菫「宥……///」
宥「菫ちゃん……///」
アラアラ マァマァ ワカイッテイイワネー
菫「……///」
宥「……///」
宥「う、うんっ」
菫「まずは……野菜類だな」
菫「冷凍食品も余分に買っておいて……小麦粉……牛乳……卵……米……」
菫「調味料は私が使っていた奴がまだあるから……あとは」
宥「菫ちゃんすごい……主婦さんみたい」
菫「しゅ、主婦!?」
菫「さ、さすがにそれは……なんというか複雑な気分だな……」
宥「え、ええっ、だめだった?」
菫「いや……こう、年増に見られるというか……」
宥「ご、ごめんね……そういう意味じゃなくてっ……!」
菫「……」
菫「っくははは!わかってるよ、宥」
宥「むうーっ!菫ちゃん酷いよう」
………
……
菫「さて、買い出ししてたらすっかり遅くなったな」
菫「帰宅したばかりだが、早く夕飯の支度をするとしよう」
菫「あんまり時間もないし、今日はパスタでいいか?」
宥「うん」
菫「じゃあ、すぐに取り掛かるから、宥は適当に時間でも潰しててくれ」
宥「うんっ…………あれ?」
菫「~♪」
宥「……」ソワソワ
菫「~……ん?どうした宥?」
宥「何か手伝える事はない……?」
菫「そうだな……しかしパスタは茹でるだけだし」
菫「ミートソースも買ってきた奴を加熱するだけだしな……」
宥「で、でもでもっ……」
宥「せ、せっかく一緒に生活するのに、菫ちゃんだけにお料理させるのは……」
菫「ふむ……」
菫「そうだな……じゃあサラダでも作るか、宥頼めるか?」
宥「うん!」
菫「……」
菫「……ふむ、こんなものか」
宥「……」
宥「……私ね」
菫「ん?」
宥「こうして菫ちゃんと、一緒にお料理が出来て嬉しいなって」
宥「私、すごい幸せだよ」
菫「宥……」
菫「ああ……私も今、すごい幸せだ」
宥「菫ちゃん……///」
宥「っ痛っ!」
菫「宥!?」
宥「う、うう、ごめんね……」
菫「……ほら、指貸して」
宥「えっ?」
ちゅー
宥「す、菫ちゃんっ!?///」
菫「……んっ……ちゅ、あとは綺麗に洗って絆創膏を貼っておけば大丈夫だろう」
菫「宥はパスタの方を頼む、私がサラダの方をやろう」
宥「ご、ごめんねっ……」
菫「ふふ、気にするな。私は宥の恋人……だろ?」
宥「…‥~~~///」
……
…
菫「……ふぅ、ごちそうさま」
宥「ごちそうさまっ」
宥「美味しかったね」
菫「ああ、味もそうだが……」
菫「何より一人で食べる食事より、宥と一緒に食べる食事の方が断然美味しい」
宥「もう……菫ちゃんったら///」
菫「……///」
菫「さ、さて!今度は風呂の準備だなっ……食器任せてもいいか?」
宥「うん、おまかせあれっ、だよ」
……
…
菫「……」キュッキュ
菫「よし、こんなもんか」
菫「宥、お風呂沸いたぞ。先に入ってくれ」
宥「菫ちゃんが先でいいよ……?」
菫「いや、私はこういう暮らしに慣れてるから大して疲れちゃいないが」
菫「宥はこういう生活初めてだろう、結構疲れたんじゃないか?」
宥「う、うん……そうだけど……でも」
菫「私の事を気にかけてくれるのは嬉しいが、私の事は構わなくていいさ」
宥「……」
宥「じゃ、じゃあ……一緒に入ろ?」
菫「ふぁっ!?」
菫「……///」
宥「……///」
菫「……うっ……///」
菫(ゆ、宥の裸が……ハダカがっ……)
菫(髪は綺麗だし……肌はすごい手入れしてあるし……な、なによりっ……)ゴクリ
宥「……す、菫ちゃん?恥ずかしいよっ///」ポヨヨン
菫(む、胸が……すごい……///)
菫(私もそこまで小さくは無いと思うんだが……)ペタペタ
菫(あれと比較すると泣きたくなるな……)
菫「に、にしても、さすがに2人だと狭いな……」
宥「う、うん……そうだね……」
菫「……さすがに2人湯船に入るのは厳しかったか」
宥「……」
宥「で、でもっ……」
宥「菫ちゃんと一緒に入るお風呂、楽しいよっ」
宥「なんだか、わくわくするよねっ」
菫「ははは……わくわくか」
菫(すまん宥、私はわくわくどころではない……!)
宥「あっ……」
菫「す、すまない!」
宥「う、ううん……平気だよ……///」
菫「……///」
菫(まずい……このままではおかしくなりそうだ……)
菫(宥が……宥が可愛すぎる……!!)
菫(……だ、だがこの狭さなら、多少身体が触れても大丈夫なはず……)ゴクリ
菫(この狭さなら仕方ない、うん、仕方ないな)
菫(足を少し動かして……)
宥「……っあっ……///」
菫「す、すまん……///」
宥「きゃっ……ちょ、ちょっと菫ちゃん……?」
菫「ご、ごめん宥、身体をちょっとでも動かすと当たってしまうようだなっ……」ハハハ...
宥「……むっ」
宥「菫ちゃん……わざとやってるよね……?」
菫「な、そ、そんな事……っ」
宥「……じゃあ仕返しするねっ」
菫「えっ?……わああっ!」ザパァッ
菫「……このぉ、やったな!」
宥「ちょっ……やだっ、あはははっ」
菫「このこのこのっ、はははっ!」
ずるんっ
菫「なっ……宥危ないっ」
宥「っ……す、菫ちゃん」
菫「……ふぅ、大丈夫か」
宥「う、うん……滑っちゃったみたい……ごめんね」
菫「いや、こちらこそすまなかった」
菫「どこか痛い所とか……――っ!?」
宥「っ……!///」
菫(か、顔が……ち、近い///)
宥(ど、どうしよう……顔が近いよう……///)
宥「……///」ドックンドクン
菫「ゆ……宥……///」
宥「菫ちゃん……///」
菫「……―――ッ」
んちゅ...
宥「んっ……」
菫「……っ……んはっ」
宥「す、菫ちゃん……///」
宥「どうして謝るの?」
菫「えっ……いや、その――――んっ!?」
宥「んっ……ぁっ……ちゅ……」
菫「はぁっ……んんっ……ぁっ……」
宥「っちゅ……くちゅ……はぁっ……」
菫「ぷはぁっ……ゆ、宥……?///」
宥「……嫌だった?」
菫「……そんなことない」
菫「もっと……したいぐらいだ」
宥「っちゅ……んはっ、す、菫ちゃ……んっはっぁ」
菫「んはあっ……宥、好きだ……」
菫「好きという言葉では伝えきれないくらい、宥の事が好きだ」
宥「菫ちゃん……///」
宥「……私も……菫ちゃんの事が大好き……///」
菫「……ああ、私も宥の事が大大大好きだ……」
宥「わ、私の方がっ、菫ちゃんの事が大大大大大大大だーーい好きだもんっ」
菫「なっ……私の方が、大大大大大大大大大大大大大大だーーーーーーい好きだ!」
宥「……」
宥「ふふっ」
菫「はは……あはははは!」
………
……
…
宥「うん」
パチン
菫「……
菫「しかし、せっかく部屋を分けてるのに……わざわざこっちで寝なくてもいいんじゃないか?」
宥「ま……まだ私のベッド届いてないから……」
宥「そ、それに、一緒に寝るのって楽しいんだよっ」
菫「いや、確かにそうかもしれないが……まぁいい」
菫「とにかく寝るとするか、明日も色々やらなきゃ行けない事もあるしな」
宥「うん」
菫「じゃあ、おやすみ」
宥「うん、おやすみ」
宥「……」
宥「ねぇ、菫ちゃん」
菫「……ん?」
宥「これからもずっとずっと一緒だよ」
菫「……ああ、ずっと一緒だ」
菫「宥と結婚して、宥とおばあちゃんになって、最期の時が来るまで」
菫「――ずっと一緒だ」
宥「……うんっ」」
菫「宥……好きだ」
――ここから本当のはじまり――
――いずれ私達が結婚して――
――旅館を継ぐ事になるのはまた別のお話――
カン
やっぱり百合は難しいっす
次回からエロゲシリーズ同様、コメディ路線でやっていくので
次回も宜しくっすよ~
ネトゲでコメディって今やってるDTみたいな予感がする
Entry ⇒ 2012.11.03 | Category ⇒ 咲-Saki-SS | Comments (0) | Trackbacks (0)
宥「恋人に射ち堕とされた日」
玄「おまかせあれっ!」
宥「それじゃあ……行ってくるね」
玄「うん、いってらっしゃい、お姉ちゃん」
玄「……」
玄(お姉ちゃんは恋人さんとお出かけかぁ~)
玄(いいなぁ……私もお姉ちゃんとお出かけしたいよ~)
玄(……でもお姉ちゃんの恋人ってどんな人なんだろう?)
玄(……まあいっか!)
玄(さて、私は旅館のお手伝いをしなきゃ!)
菫「宥、こっちだ!」
宥「ご、ごめんね……待たせちゃった?」
菫「いや、こっちもさっき来た所さ」
宥「わざわざ東京から来て貰って……ごめんね」
菫「いいさ、私も宥の住んでいる所を自分の目で見たかったんだ」
菫「……それに、宥の親御さんにも挨拶しておきたいしな」
宥「んもう……菫ちゃん///」
菫「……///」
菫「さ、さて!街を案内してくれるんだよな?」
菫「早速行こうか!」
宥「うん」
………
……
…
宥「うん……同じ部員の子がここでお手伝いしてるの」ウィーン
灼「いらっしゃ……あれ、宥さん?」
宥「こんにちは、灼ちゃん」
灼「珍しい、今日はどうして……って、白糸台の!」
菫「……」ペコ
宥「うん、ちょっと街を案内してたんだぁ」
灼「え、じゃあもしかして……宥さんの恋人って」
宥「う、うん……///」
灼「へえ、そうなんだ……おめでとう」
宥「え、あ、ありがとう……?」
宥「え、でも私ボウリングは苦手だし……」
灼「デートでのボウリングは定番中の定番だし、やっておいても損は無いと思う」
宥「そ、そうかな……?」
灼「そう」
宥「……じゃ、じゃあ1回だけやろうかな……」
宥「菫ちゃんもいい?」
菫「あ、ああ……私もあまり得意ではないが」
灼「じゃあ決まりだね、じゃあこれ。3番レーンね」
菫「……ふぅ」
菫「スコアは……108か」
菫(私自身、ボウリングは数えるくらいしかやった事はないが……)
菫(まぁこんなもんか)
菫(それに対して……)
宥「……」
宥「……ボウリングって難しい」
菫(宥のスコアは……34か)
菫「宥は本当に苦手なんだな」
宥「わ、私……あんまりこういうのやった事ないから……」
菫「そ、そうか?私もあんまりボウリングはやった事がないんだが……」
宥「……なんかずるい」
菫「い、いや……そう言われてもな……」
菫「こればっかりは慣れなんじゃないか?」
宥「むー……」
菫「……そろそろ出ようか、まだ案内してくれるんだろう?」
宥「……」
宥「……うん」
………
……
…
菫「……?」
菫「宥、顔が少し赤いけど大丈夫か?」
宥「えっ?そうかな?」
菫「あ、ああ……」
宥「うーん……きっとボウリングで疲れちゃったのかも」
菫「少し休むか?」
宥「ううん、大丈夫。それにもうすぐ目的地だから」
菫「この先が目的地……?」
菫「ここは……神社か?」
宥「うん、ここにも部員の子がいてね……」
『あれー?宥姉?それと……白糸台の!?』
『えっ、宥さん!?』
宥「こんにちは、憧ちゃん、穏乃ちゃん」
憧「どうしたのこんなところで……というかその人、白糸台の人だよね?」
宥「うん」
憧「へえー、じゃああの話本当だったんだ!」
穏乃「なんの話?」
憧「宥姉に恋人が出来たって話だよ!」
憧「じゃあ、もしかしてその人が?」
宥「うん……菫ちゃんだよ」
菫「……」ペコ
穏乃「わあー……!」
穏乃(間近で見るとかっこいい人だなぁ……)
憧(むっ……)
憧「ゆっ!宥姉はどうしてここに?」
宥「えっとね、菫ちゃんに街を案内してるの」
憧「街を案内?」
宥「うん、それで憧ちゃん家の神社も寄ってみたの」
宥「え、えっと……本当に寄っただけだから」
憧「でもせっかく来て貰ってなんだし……そうだ」
憧「おみくじでも引いて行ってみる?」
穏乃「おみくじ!?」
憧「あんたが反応してどうすんのよ」
宥「おみくじ……面白そう」
憧「やる?お代はちゃんと頂くけど」
宥「うん、菫ちゃんもやるよね?」
菫「あ、ああ……」
………
……
…
「はい、じゃあこれね」
菫「私は……37番」
「37番……はい、これね」
宥「ありがとうございます」
宥「えっと……わわ、大凶……」
菫「……大凶」
憧「うわ……二人して大凶って」
菫「……おい、この神社……凶ばっかり置いてあるんじゃないだろうな?」
憧「そんなわけないでしょ、おみくじの大凶って相当少ない方よ」
憧「ふたりとも同じの引いたんだから、むしろレアよ」
宥「そうなのかな?」
菫「いや、さすがにそれはどうなんだ……」
宥「えっと……恋愛、別れの気配……病気、危機迫る……注意されたし」
菫「……恋愛、別れの気配……失物、二度と戻らず」
菫「……おい」
憧「あ、あたしは知らないわよ!」
憧「よっぽど運が悪かったんじゃないの!」
宥「た、たまたまだよっ菫ちゃん」
菫「はぁ……まぁおみくじなんてこんなものだろうさ」
菫「さっさと結んでしまおう」
宥「うん」
穏乃「憧ー!私もおみくじ引きたーい!」
憧「あーはいはい」
菫「宥の方も終わったか?」
宥「……」
菫「……宥?」
宥「えっ?」
菫「いや……ボーッとしてどうしたんだ?」
宥「う、ううん、なんでもないよ」
菫「……?」
宥「……それじゃあ、次の場所行こう?」
菫「あ、ああ……」
……
…
菫「……」
宥「……はぁっ……はぁっ」
菫「……宥?」
宥「っ……えっ?な、なに?」
菫「い、いや……本当に大丈夫か?さっきよりも顔が赤くなってるし……」
宥「……う、うん……大丈……夫…………」フラッ
菫「宥っ!」
菫(熱とか風邪とかそういうレベルじゃないぞ!?)
菫(どうする、とにかくまずは119…………なッ!?)
菫(アンテナが1本も立たないだと!?)
菫(くそっ!こんな時に限って電波が……!)
菫(一旦神社の方に戻って……いや、距離がありすぎる!)
菫(近くの民家まで……無理だ、宥をここには置いていけない)
菫(どうすればいいんだ……!!)
望「ごめんねー付き合わせちゃって」
晴絵「別にいいわよ、私も暇だったし」
望「そう言ってもらえると助かるよ」
望「……ん?誰か倒れてる」キィイ
晴絵「え?……あれは、宥!?」ガチャ
晴絵「宥!!ちょっと、どうしたの!!」
菫「すみません!この子、すごい熱みたいで倒れちゃって!」
晴絵「あなた白糸台の……いや、今はそれどころじゃないわ」
晴絵「とにかく車に乗せて!病院に行くわよ!」
菫「っ……はい!」
晴絵「望!」
望「わかってるわ、急いで病院に向かうよ!」
晴絵「すみません、急患です!」
「はい!?……松実さん!?」
「これはっ……まずいわね!すぐに運んで頂戴!」
「はい!」
菫「ゆ、宥……!」
晴絵「あなたはここにいなさい」
晴絵「私は玄の家に電話するから、望は急いで迎えに行ってきて!」
望「わかったわ」
……
…
憧「……はぁっ……はぁっ!ハルエ!宥姉は!?」
晴絵「憧!?みんなまで!」
玄「それで……お姉ちゃんは」
晴絵「……今は集中治療室よ」
晴絵「それより玄、お父さんはどうしたの」
玄「お父さんは……今出張で出かけてて、他のみんなも手が放せないほど忙しくて……」
晴絵「娘が倒れたのよ!?あなたのお父さんはなにやってるの!!」
望「晴絵、落ち着きなさい」
晴絵「……っ!くそっ」
穏乃「灼さんの所にも行ったんですか?」
晴絵「どういうこと?」
灼「さっき宥さんが恋人とボウリングしに来てた」
穏乃「私は憧の家にいて……そこに宥さんとその人が……」
菫「……」
玄(っ……この人……!)
晴絵「……あなた、弘世菫ね」
菫「……そうだが」
晴絵「ずっと宥と一緒にいたみたいだけど」
菫「……ああ、ずっと一緒にいた」
晴絵「宥が倒れてた時も一緒にいたのよね?」
菫「……」
菫「……」コクッ
菫「……」
菫「……わからないんだ、最初はあんなに元気だったのに」
菫「神社から移動中、急に倒れたんだ……」
晴絵「急に倒れた?」
菫「ああ……」
晴絵「……他に変わった事はなかった?」
菫「……」
菫「そういえば……顔が赤かったような」
玄「……!」
晴絵「顔?」
菫「あ、ああ……ボウリング終わった後、少し顔が赤かったんだ」
菫「本人はボウリングで疲れたと言っていたが……」
菫「神社から移動する時には、ボーッとしていて……顔も更に赤かった」
晴絵「それであの子、あんなに熱かったのね……」
「「!?」」
菫「ゆ、宥!?」
憧「宥姉!?」
晴絵「先生!宥の状態は!?」
「……率直に申し上げますと、我々の手には負えません」
「覚悟を……しておいてください」
穏乃「覚悟って……」
灼「つまり……もう長くないってこと」
憧「嘘……そんな……」
菫「っ……!!」ガシッ
菫「おい貴様!医者だろう!!なんとかならないのか!」
晴絵「お、おい!」
菫「なんとかするのがあんたらの仕事だろうが……!!」
憧「ちょっと!やめなってば!」
「……失礼します」
菫「そんな……嘘だろ……」
穏乃「宥さんは……このまま助からないの?」
灼「……」
晴絵「くそっ……!私達にはどうする事もできないのか!」
――無理だよ――
菫「……っ!?」
灼「どういうこと?」
玄「お姉ちゃんはもう助からないよ」
晴絵「……おい玄、どういうことだ」
玄「そのまんまの意味だよ」
玄「お姉ちゃんは助からない、もうすぐ死ぬ」
菫「……っ!!」
晴絵「……玄!!」
穏乃「のろ……い?」
憧「玄……何言ってるの?」
晴絵「”呪い”だと?そんなオカルト誰が信じるって言うんだ?」
玄「みんな不思議に思わなかったのかな、お姉ちゃんって異様に寒がりだよね」
玄「おかしいよね、普通夏場に長袖着てマフラーまでしないもん」
灼「それは……そういう体質の人も中にはいると思う」
玄「ありえない、ううん、ありえないよ」
玄「いくらそういう体質の人がいたとしても、限度があるよ」
玄「でもお姉ちゃんは特別、”呪い”を背負った人だから」
菫「お前……宥の何を知っている?」
菫「何?」
玄「弘世さん……だったよね、小さい頃に山で遭難した事ない?」(※当SSでの設定です)
菫「な……何故それを知っている」
菫「確かに私は、小さい頃に山で遭難し助けられた事がある」
菫「しかし、それが今回の件と何か関係があるのか?」
玄「……その時一緒に遭難したのは、弘世さん一人じゃないよね」
菫「……ッ……まさか、おまえ……」
玄「ううん、私じゃないよ」
――その時遭難したのは、弘世さんともう一人……私のお姉ちゃん――
菫「冗談はよしてくれ……だとしたらある意味すごい再会だな」
玄「冗談じゃないよ、と言っても私もつい最近知ったんだけどね」
玄「遭難した時、お姉ちゃんは弘世さんを助けるために”呪い”を負ったの」
菫「”呪い”を負った……?馬鹿な、何を言っている」
菫「大体、”呪い”なんて……―――」
――『早く逃げて』――
菫「……ッ」
玄「……思い出した?」
玄「そう……弘世さんとお姉ちゃんが遭難した時、お姉ちゃんは”傷”を負った」
玄「野犬から弘世さんを守る為に……」
菫「あ、あれは……でも野犬に噛まれただけだろう……」
菫「私達もすぐに発見されて、その子はすぐに病院へ連れていかれたはずだ」
玄「うん、治療も成功し命に別状はなかったよ」
玄「……ある病気を残して」
晴絵「病気……まさか」
菫「……それが、あの異様な寒がりなのか?」
玄「……」
玄「誰もが目を疑うくらいの厚着をして、男の子たちには虐められて」
玄「時には今回のように発作を起こして、病院に運ばれて……」
菫「……”呪い”」
玄「……」
ガチャ
「松実さんが目を覚ましました!!」
「「!?」」
菫「ゆ、宥!!」
菫「宥……!」
晴絵「宥!私が分かるか!?」
宥「……?赤土さん?それにみんな……」
憧「宥姉……よかったぁ」
灼「うん……」
玄「お姉ちゃん……」
宥「玄ちゃん……」
「失礼、親族の方は………」
玄「私です」
「親御さんは?」
玄「すぐには来られない状態なので……まだ」
晴絵「あの、私はこの子の部活の顧問です、私では」
「……わかりました、ではこちらに」
菫「わ、私も……!」
晴絵「駄目よ弘世さん、いくら貴方が宥の恋人と言っても」
玄「いいの、赤土さん」
晴絵「玄?」
玄「……弘世さんも知っておかなくちゃいけない事だから」
晴絵「……はぁ……わかった」
…
晴絵「見たこともないウイルス?」
「はい……このような事は初めてで……我々では対処できません」
晴絵「それなら……急いで専門の病院に見せた方が」
「……おそらく、その頃にはもう」
菫「そんな……」
「彼女がこうして目を覚ましたこと自体が奇跡なんです」
「彼女は精々持って……あと数日。いえ、明日かもしれない」
菫「……どうしようも出来ないのか!」
「……残念ながら」
菫「……っ――」
……
…
灼「……あ、ハルちゃん!」
憧「晴絵!玄!」
穏乃「宥さんは……!」
晴絵「……」フルフル
晴絵「精々持って数日……ヘタすりゃ明日かもしれないとさ……」
灼「そんな……」
憧「嘘……」
穏乃「……どうにか出来ないんですか?」
晴絵「……悔しい気持ちは私も一緒だ」
灼「……玄はそれでいいの?」
玄「……私達にはどうする事もできないよ」
玄(だからせめて……最期はお姉ちゃんの好きにさせてあげたい)
……
…
菫「……」
宥「……そう」
宥「私……もうすぐ死んじゃうんだね」
菫「……っ、まだ決まったわけじゃない」
菫「医者の言う事が全て正しいと決まったわけじゃない!」
菫「きっと、また奇跡だって!」
宥「……ありがとう、菫ちゃん」
菫「……ゆ……う……?」
宥「……いつか、こんな日が来るんじゃないかって思ってた」
菫「私のせいなのか……?」
菫「私があの時、宥に助けられたから……」
宥「……ううん、違うよ」
宥「菫ちゃんを助けたのは、私の意思だから」
宥「菫ちゃんのせいじゃないよ」
菫「でも!!」
菫「宥はそれでいいのか!?」
菫「もうすぐ死ぬかもしれないんだぞ!?」
宥「……」
宥「ねえ菫ちゃん、夜にまたここへ来てくれる?」
菫「えっ……」
菫「夜遅く……どうして?」
宥「それから…………」ヒソヒソ
菫「……」
菫「宥、一体何を」
宥「おねがい」
菫「……っ」
菫「……わかった」
宥「……それじゃあ私、少し眠るから」
菫「ああ、また後で……な、必ずだぞ」
宥「……うん」
………
……
…
……
………
『きゃあっ!な、なに!』
『犬……!っ……!あぶない!』
『き、きみ!!何してるの!!』
『早く逃げて!―――あああっ!!』
『……う……うああああああ!!』
『な……!?こ、この犬っ!!!』
『アア…‥ああああっ!!痛いっ……痛いよ!!』
『このっ!!あっちいけ!!』
『はぁっ……はぁっ……はぁっ……』
『やっと行った…………っ!?きみ!大丈夫!?』
『は……はっ……だ、大丈夫だよ……っ?った……』
『血がこんなに……!誰か!!早くたすけて!!!』
『助けて――――』
宥「……夢……」
宥「……懐かしい夢」
宥「思えば……あの時に菫ちゃんと会ってたんだね」
宥「なんだか……運命みたい」
カラカラ...
宥「……菫ちゃん?」
菫「……ああ」
宥「来てくれたんだね」
菫「……当たり前だろ」
宥「うん、じゃあ……行こうか……」ヨッ
菫「宥!?立っちゃ駄目だ、寝てないと!」
宥「いいの、行かせて」
菫「行くって……どこに……」
宥「……着いてきて」
菫「……ここは、川?」
宥「うん……最期に菫ちゃんと二人で見たかったから」
菫「……最期なんて言わないでくれ」
菫「私はこれからもずっと宥と一緒にいるつもりだ」
菫「だから……」
宥「……」
宥「ごめんね」
菫「宥……っ!」
宥「……」
宥「……ねえ菫ちゃん……私の最期のお願い聞いてくれる?」
――私を殺して……?――
菫「そんなこと……っ、そんなことできる訳ないだろう!!」
宥「……おねがい」
菫「……まさかその為に、私に”コレ”を持ってこさせたのか?」
宥「……」
宥「どうせ死ぬのなら……せめて菫ちゃんの手で……」
菫「……」
菫「……どうして、どうしてなんだ!」
菫「どうして愛する人を、殺さねばならんのだ!!」
菫「こんなにも好きで好きで堪らない恋人を、私に殺せだと?おかしいだろう!!」
宥「……」
宥「ごめんね」
菫「……っ……」
菫「……私が聞きたいのは、そんな言葉じゃない……」
宥「……」
宥「私、菫ちゃんと出会えて良かったよ」
菫「……」
宥「短い間だったけど、菫ちゃんと色んな事が出来て楽しかったよ」
菫「やめてくれ……」
宥「ううん、菫ちゃんだけじゃない。皆とも出会えて、とても楽しかった」
菫「やめてくれ」
宥「私、最高に楽しい人生だったよ」
菫「やめてくれ!!!」
宥「……」
菫「どうして……どうしてなんだ!!」
宥「……」
宥「……私はもう、明日まで生きられない」
宥「だから、最期は菫ちゃんの手で……私を」
菫「……そんなこと……っ」
宥「菫ちゃんは、私に深い”呪い”を負わせた」
宥「だから……今度は私が菫ちゃんに”呪い”を負わせる番」
菫「……卑怯だよ、宥」
宥「……ごめんね」
宥「だから、おねがい……」
菫「……」
宥「……菫ちゃん」
菫「……っ」
カチャ... ギギギ...
宥「菫ちゃん……」
菫「……っ!!」
――愛してる――
宥「っ……グァはぁっ!」ドサッ
菫「ゆ、宥!!」
宥「す……すみれちゃ……」
菫「宥!宥!!」
宥「あり……がと……う」
菫「っ!!」
宥「すみ……れちゃ……ん」
宥「きす……して……っ……?」
菫「っ宥……!」
―――んッ
菫「宥っ……?」
宥「……」
菫「……お、おい……宥?」
宥「……」
菫「……」
菫「……っ……――――!!!」
『うっあああああ……――――っ!!!』
……
…
菫「……」
菫「……これが……私の”呪い”なのか……宥」
菫「この”呪い”はあまりにも辛すぎるよ……」
菫「……宥を失った私に、生きる理由はもう無い」
菫「……宥……」
菫「私も今……そっちへ行くよ」
カチャ... ギギギ...
――殺し合う事もなかったけれど――
――こんなにも深く誰かを愛することを――
――知らずに生きたでしょう――
菫「宥……」
菫「大好き……だよ――」
――――タァン……
――愛する人を失った世界には どんな色の花が咲くのだろう――
カン
――幾度と無く開かれる 楽園への扉――
――第四の地平線――
作中での”呪い”や”傷”は、
宥の傷=野犬に噛まれた時、傷は癒える。
宥の呪い=傷によって出来た寒がり症、それによって長く生きられないこと。
菫の呪い=恋人を失い、殺めた罪という呪い。
という解釈をして頂ければ……
まさかこんな結末になるとは……。
Entry ⇒ 2012.11.02 | Category ⇒ 咲-Saki-SS | Comments (5) | Trackbacks (0)
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あかり「敵はほんのりしお味だよ!」
京子「へ?あかり、何言ってんだ?」
京子「それ、うすしお味じゃなくて」
京子「ほんのりしお味だよ?」
あかり「ほ、ほんのりしお味って何ぃ!?」
結衣「最近発売された新商品みたいだよ」
結衣「ちょっと食べてみな、すっごい微妙だから」
あかり「…」モグモグ
あかり「うっ…て、敵はほんのりしお味だよぉ!」
京子「そうだよね、さっすがちなつちゃん。あかりと結衣もちゃんと味わってみればおいしいって」
結衣「こんかいばかりはさすがに同意できん」
あかり「うんうん、やっぱりうすしおが一番だよぉ」
ちなつ「ま、しょせんお菓子ですから好きなもの食べればいいじゃない」
結衣「そうそう、ちなつちゃんのいう通りだよ」
ちなつ「キャー、結衣先輩も同じなんですねー! やっぱりわたしたち以心伝心なんですね!」
結衣「あはは、そうだね……」
その人気に反比例するようにうすしお味は売上を減らし、生産が縮小されていった。
そしてその日。うすしお味の生産が終了されることが発表された。
当然、この事実はあかりの耳にも届いていた。
あかり「……そんな」
あかり「嘘、でしょ……」
京子「……結衣、ニュース見たよね」
結衣「あぁ、見たよ」
京子「あかり、大丈夫かな?」
結衣「ただでさえ、うすしおの売り場がどんどん減っていって落ち込んでいたからな」
結衣「ここにきてさらに追い打ち、もうあかりの心はボロボロだろう」
京子「わたしたちが支えてあげないと」
結衣「うん、そうだな……っと、そろそろ来るころだよ」
ちなつ「こんにちはー」
あかり「……」トボトボ
あかり「……うん」
結衣(これは……)
京子(重傷だな……)
京子「あかり、そんな暗い顔あかりには似合わないよ」
結衣「わたしたちはいつもニコニコしてるあかりが好きだからさ」
あかり「……あはは、うん」
京子「あかり……」
結衣(やっぱり、根本的な問題が解決しない限り無理か)
ちなつ「ほ、ほら京子先輩。今日はなにして遊ぶんですか!」
京子(そうか、楽しいことをしてればあかりの気も紛れるかまおしれない)
京子「じゃーん。話題BOX。今日は久しぶりにこれであそぼー」
結衣「じゅ、順番はどうする」
京子「とりあえず、あかりから時計回りでいいよね」
ちなつ「はい。いいですね。早くやりましょう!」
京子「ささ、あかり引いてみて」
あかり「うーんと」ガサゴソ
あかり「えーとぉ」
好きなお菓子について
あかり「……」
京子「げ……!」
結衣「おい、京子!」
ちなつ「なにやってるんですか、このバカ!」
京子「ご、ごめんよぉ」
あかり「ふざけないでよぉ!!」ガタ
ちなつ「あ、あかりちゃん!」
あかり「京子ちゃん、そんなにまでしてあかりを馬鹿にしたいの」
あかり「そうだよね、京子ちゃんはほんのりしお味が好きだったもんね」
あかり「ずっと心の中であかりのこと笑ってたんでしょう!」
あかり「もう、帰る……!」
京子「ちがうよぉ、あかりぃ……!」
結衣「おちついて、あかり!」
ちなつ「あぁ、どうしてこうなるのぉ!」
あかり「離れて!」ブン
京子「……あぁ!」
ダダダダダダダダダ
京子「……あかりぃ」
あかね「おかえりなさい、あかり」
あかり「……ごめん、今日はもう疲れたから寝るね」
あかね「え、えぇ……」
ガチャ
あかり「……これから、どうしよう」
あかり「京子ちゃんにあんな態度とっちゃって……もう顔合わせられない」
あかり「せっかく、あかりを励まそうとしてくれてただけなのに」
あかり「……もうなにも考えたくない、寝よう」
結衣「昨日はメールも電話も返事がこなかったよ」
ちなつ「やっぱり、アレはまずかったですね。傷口に塩を塗ったようなものですから」
京子「……わたしのせいだ」
ちなつ「ほら、京子先輩が落ち込んでてても解決しませんよ」
ちなつ「昨日は馬鹿っていたの謝りますから、元気だしてください」
京子「あはは、ありがとね」
ちなつ「そうときまれば、善は急げです。さっそく出発しましょう」
京子「……そうだ!」
京子「二人とも、ちょっと協力してくれる」
ちなつ・結衣「え?」
あかりの部屋
あかり(……あかりだめだなぁ、ずる休みまでしちゃった)
あかり(どうせ仮病なんて急場凌ぎでしかない、いつまでもこんな方法つづけてられない)
あかり(明日、どうしよう?)
コンコン
あかね「あかり、起きてる?」
あかり「起きてるけど」
あかね「京子ちゃんたちがお見舞いにきてくれたの」
あかね「ごめんね、せっかく来てくれたのに」
結衣「いいんです、こっちだってそう簡単に会えるとは思ってませんでしたし」
ちなつ「……あかりちゃん、どんな様子ですか?」
あかね「そうね……昨日からずっと沈み込んでるままだわ。ご飯も食べないままなの」
あかね「ねぇ、話してくれないかしら。あかりになにがあったか」
京子「はい、えっと……」
あかね「なるほど、だいたい事情はのみこめたわ」
結衣「……でも、わざとじゃないんですよ。京子はただあかりを励ましてあげようとしただけなんです」
ちなつ「わたしたちにも責任はあるんです、悪いのは京子先輩だけじゃありません」
あかね「……安心して、怒ってないから」
あかね「みんながあかりを大切に思ってくれてるってことはよく伝わったわ」
京子「あかねさん……」
ちなつ「ありがとうございます」
あかね「ふふ、感謝されるほどじゃないのよ」
結衣「今日はこれで失礼しますね」
あかね「そう、明日もきてくれるの?」
ちなつ「はい、そのつもりです」
京子「……あかねさん、最後にお願いがあります」
京子「これをあかりに渡しておいてください」
あかね「これは……」
あかね「わかった、必ず渡しておく」
京子「よろしくお願いしますね」
あかり「……帰ったみたい」
あかり「はぁ、またやっちゃった。こうやってるとどんどん謝りにくくなっちゃうのに」
あかり「うぅ……どうしよぉ」
トントントン
あかり「お姉ちゃん……?」
あかね「あかり、京子ちゃんから預かったものがあるの」
あかね「部屋の前に置いておくから、受け取ってちょうだい」
あかね「できるだけ早くしてね、おいしくなくなっちゃうから」
あかり「……?」
あかね「お姉ちゃん、下にいくから。用があったらまた呼んね」
トントントントン
あかり「預かったもの、なにかな?」
ガチャ
あかり「これって……!」
あかり「でも、あかりがいつも食べてたのとちがう」
あかり「あれ、これは……カード?」
あかりへ。
昨日はごめんね。話題BOXのことはわざとじゃないんだ。
言っても信じてもらえないかもしれないと思って、お詫びの印にあかりの大好きなうすしおを手作りしてみました。
こんなのでは、満足してくれないかもしれません。でも、少しでもあかりがおいしいと感じてくれたら幸いです。
本当にごめんね
by京子
あかり「京子ちゃん……」
あかり「一枚、食べてみよう」
あかり「……ん」パリ
あかり「……ふふ、グス」
あかり「もう、一枚」
あかり「……」パリ
あかり「うぅ……」
あかり(それは、あかりの知ってるうすしおとは違うけど、なぜだかとってもおいしくて)
あかり(少しでも長く味わっていたくて、かみしめるように一枚一枚をゆっくり食べていく)
あかり「よし……いくよぉ!」
あかり「ふふ、おいしいよぉ」グス
あかり「ごちそう、さまでした」
あかり「……謝らないと、みんなと仲直りしないと」
あかり「電話しよう、京子ちゃんに」
プルルルルルルルル
あかり「そうだよぉ」
あかり「食べたよ、京子ちゃんの手作りのうすしお」
あかり「伝わったから、京子ちゃんの気持ち」
京子「よかった……ごめんねあかり」
あかり「ううん、あかりの方こそ八つ当たりだったよぉ」
あかり「だから、お互いさまだよ」
京子「……ありがとう」
京子「明日から、学校これるよね」
あかり「もちろんだよぉ」
京子「待ってるから、絶対だよ!」
あかり「うん……!」
京子「ほら、あかり今日も作ってきたよ」
あかり「いただきまーす」
京子「ふふ、いっぱい食べてね」
結衣「はぁ、一時はどうなると思ったけど。なんとかなって良かったよ」
ちなつ「そうですね、やっぱりあかりちゃんは笑ってるほうがいいです」
あかり「わぁいうすしお!あかり、うすしお大好きぃ!」
おわり
乙乙
Entry ⇒ 2012.11.02 | Category ⇒ ゆるゆりSS | Comments (0) | Trackbacks (0)
P「音無さんをプロデュースします!」
高木「ウォッホン! それではさっそく、君がプロデュースするアイドルを」
P「音無さんで」
高木「えっ」
P「音無小鳥さんでお願いします」
高木「し、しかし……彼女は我が765プロの事務員であり、アイドルでは」
P「いいえ、もう決めました。俺は音無さんをプロデュースします!」タタッ
高木「ま、待ちたまえ!」
P「音無さん!」
小鳥「あら、おはようございます、プロデューサーさん」
P「お、おお、おはようございます!」
小鳥「ふふっ、どうしたんですか? そんなに汗かいちゃって……」
P「……すー、はー……」
小鳥「……? プロデューサーさん?」
P「……単刀直入に言います」
小鳥「は、はい……」
P「俺に、あなたの人生をプロデュースさせてください!」
小鳥「え? ……えぇええ!?」
小鳥(ななな、何!? これ何!? ぷぷ、プロポーズってやつ!?)
小鳥(そんな……ま、まだ、知り合って間もないというのに……)
小鳥(で、でも、愛に時間は関係ないものね。漫画で言ってたし……)
小鳥(……どど、どうしよう、ふへ、こ、困っちゃうな。いきなりこんなこと言われても私……ふへ)
P「おぅわっ、すす、すみません! えっと、人生というのはたとえ話でありまして……」
小鳥「……あ、はい……」
P「初めて見たときから、ティンときたんです」
P「ああ、この人は俺の運命の人なんだって……」
小鳥「!?」
小鳥(やや、やっぱりそうじゃない!)
小鳥(……きた……?)
小鳥(苦節2X年……これまで色々とあったけど……あ、いや、特にはなかったけど)
小鳥(特になかったからこそ今の私がいるんだけど……とにかく、きた……?)
小鳥(我が世の春が来たぴよ!!)
P(……社長にティンと来られて、765プロに初めて顔を出したあの日)
P(正直、この目を疑った。あの幻の歌手、音無小鳥さんが事務員として働いていたんだから)
P(そうだ……俺は、以前から、この人のことを知っていたのだ)
P(俺は、この人の大ファンだったのである!)
P(音無さんなら、絶対にトップアイドルになれるぞ!)
小鳥「あ、あの……」
P「……はい」
小鳥「突然(のプロポーズ)すぎて、わ、私、少し混乱してしまっています」
P「無理もないですね……」
小鳥「……本気ですか?」
P「本気です。本気で(プロデューサーとして)音無さんの人生を変えていきたいと思っています」
小鳥「!!!」
P「……どうでしょうか」
小鳥「え、え、え……」カァァ
P(顔が赤くなっている……あがり症だったりするのかな)
小鳥(あうう……! こ、こんな熱烈にアッピルされるなんて……これなんて乙女ゲー!?)
小鳥「……あの、でもですね」
P「はい……」
小鳥「わ、私だって、出会って間もない人に、そんなすぐ心を開くような簡単な女じゃありません!」
P「!」
小鳥「だから、その……」ゴニョゴニョ
P「……」
P(やはりそう簡単にはいかないか。なんといっても一度引退してしまっているんだからな)
小鳥「……お、お友達からというか……」
小鳥(ああもう! 何を言っているのよ小鳥! なんでこの年になってガードの固い女アピールしてるの!)
P「友達? ……なるほど、わかりました!」
小鳥「え?」
P「少しずつ(アイドルとプロデューサーとして)親睦を深めていくということですね」
P「それは俺だってのぞむところです。やはり信頼関係は大事だと思いますから」
小鳥「あ、……はい……」
小鳥(こ、これ、ほんとにほんとの出来事なの……?)
小鳥「そ、それじゃあ……ふ、ふつつか者ですが……これから、よろしくお願いします」
P「はい!」
小鳥「……えへ、えへへ……」
P「可愛いなぁ……」
小鳥「え!?」
P「本当に、素敵な笑顔です。俺、改めてあなたのファンになってしまいましたよ」
小鳥「……――~~!」
P「これからずっと、いっしょにがんばりましょうね!」
小鳥「……あ、は、はい……」
【その夜、小鳥さん家】
小鳥「……ただいまぁ~……」
小鳥「……」
ぽふん
小鳥「……! ……!」
小鳥「うわ、うわうわわ……!」ジタバタ
小鳥「じ、人生で初めて、告白されちゃった……!」
小鳥「うへ、うへへへへ……♪」ゴロゴロ
ぴた
小鳥「……ま、まだ……付き合う、ってなったわけじゃないけど……」
小鳥「プロデューサーさん……」
小鳥「……」
ピピピ
小鳥「め、メール?」
ピッ
小鳥「! ……あの人からだ……!」
……………………………………………………………
FROM:プロデューサーさん
SUBJECT:嬉しいです
Pです。こんばんわ。
俺、さっきは言えなかったけど、
実は以前からあなたのことを知っていたんです。
音無さんは一目惚れされた、と思ったかもしれませんが、
俺はずっと前からこの気持ちを持っていたんですよ。
だからこの前、事務所で再会できたとき、運命を感じました。
本当に嬉しいです。
これからよろしくお願いします!
……………………………………………………………
小鳥「ま、前から知っていた? ……駅とかですれ違いでもしたのかしら」
小鳥「……」
小鳥「……嬉しい、かぁ……」
小鳥「ふふ……♪」
【翌日、765プロ事務所】
小鳥「……」
小鳥「……えへへ」
小鳥「男性とあんなにたくさんメールのやり取りしたの、もしかしたら初めてかもしれないわね」
小鳥「……えーっと……」
ピッ
小鳥「……♪」
小鳥「ほ、保護とかしたら気持ち悪いかしら? ……そうよね、だってまだ、あくまで私達はお友達同士……」
小鳥「でも……嬉しいこと、いっぱい書いて送ってくれたし……ううん……」
ガチャ
P「おはようございまーす!」
小鳥「!」
P「あっ、音無さん! おはようご……」
小鳥「あわわ……」
ガチャガチャ
P「あれ? 何をやってるんですか?」
小鳥「お、おはようございましゅ」
P「おはようございます。えーっと……」
小鳥「あ、いえ、ちょっと机の上の小物とかついでに領収書の整理をしていただけで……」
小鳥「決して、あなたとの昨日のメールを読み返してニヤニヤしてたわけじゃありませんから!」
P「そうですか! いやぁ、仕事が出来る女って感じがしますね!」
小鳥「あはは……」チラ
小鳥(か、顔が見れない! ああ、あんなにメールでは饒舌なあたしだったのに!)
P「事務仕事、手伝いますよ」
小鳥「え? でも……昨日も思ったんですけど、プロデューサーさん、お仕事は?」
P「え? これが仕事ですよ?」
小鳥「……? プロデューサーさんは、プロデューサーさんですよね?」
P「もちろん、俺は俺です。音無さんの人生のプロデューサー……」
小鳥「も、もう! またそんな言い方して……!」カァァ
P「あはは……すいません」
小鳥「……とにかく、えーっと……あなたは事務員じゃなくて、プロデューサーですよね」
P「はい!」
小鳥「だったら、アイドルの子達をプロデュースしないといけないんじゃ……」
P「でも、あなたの仕事が残ってたら(集中してレッスンが出来ないから)俺の仕事に集中できません」
P(俺の担当アイドルは音無さんだからな)
小鳥「……プロデューサーさん……そんな、気を遣わなくてもいいのに」
P「気を遣ってるわけじゃありません。俺は、全力でやりたいんです。全力で、あなたの人生を……」
小鳥「そ、それはやめてください! ……照れちゃいますから……」
カタカタ……
P「……そういえば」
小鳥「はい、どうしたんですか?」
P「社長にこの件について報告したら、心よく応援してくれると言ってくれましたよ」
小鳥「ブゥーーー!!!」
P「ど、どうしたんですか!? 急に吹き出して」
小鳥「い、いえ……すみません」
小鳥(え? ええ!? な、なんてこと!? もう社長公認の仲になっちゃってたの!?)
P「音無さんが(レッスンや営業で)外に出ている間は、社長と律子で事務仕事を請け負ってくれるそうです」
小鳥「で、でも……」
小鳥(外に出るって……それってあれ? ゆくゆくはあたしとプロデューサーさんが一緒になって)
小鳥(家庭を持って、育児休暇とか取る時ってこと? え? もうそんなところまで話が進んでいるの!?)
P「……みんな、俺達のことを応援してくれているんです。……頑張りましょうね!」
小鳥「は……はい……」
小鳥「……ふぅ」
P「一段落着きましたね。さ、それじゃあそろそろ行きましょうか!」
小鳥「どこへ行くんですか?」
P「そりゃあ、レッスンスタジオですよ」
小鳥「ああ、レッスンスタジオ。そうですね、それじゃあ……」
小鳥「……ええ!?」
P「?」
小鳥「『?』じゃないです! わ、私がレッスンスタジオに行くんですか?」
P「ええ……だって、そういうことも必要でしょう?」
小鳥「うぅ……」
小鳥(プロデューサーさん、見抜いているんだわ……)
小鳥(……あたしのおなかが、最近ちょっと油断し始めているということに……)
小鳥「……わかりました。エクササイズも必要ですよね……」
P「エクササイズというか……まぁ、そういう気持ちでやったほうが、楽しめるかもしれませんね! はは!」
【レッスンスタジオ】
小鳥「……うぅ……」
小鳥(これしかなかったから、ヨガウェアを着てみたけど……これ、露出度高すぎじゃない……?)
P「音無さん……綺麗だ」
小鳥「も、もう! からかわないでください……」
P「からかってなんかいませんよ、本心です。俺は、音無さんの一番のファンなんですから」
小鳥「!」
小鳥(どうしてこんなこと、スラっと言えちゃうのかしら)
小鳥(……やっぱり、この人はあたしのこと本気で……?)
P「……おや? あれは……」
どんがらがっしゃーん
春香「あいたた……」
P「どうやら先客がいたみたいですね。あれは、天海さんか……」
春香「うう~……なんでうまくいかないのかなぁ……」
小鳥「春香ちゃーん」
春香「え? あぁっ、小鳥さん! えへへ、おはようございます!」
P「こんにちは、天海さん」
春香「プロデューサーさんも……あ、ていうか、春香でいいですよ」
P「ん、そうか?」
春香「はい! 同じ765プロの仲間ですから!」ニコッ
P「そうだな! それじゃあこれから君のことは、春香って呼ばせてもらうよ!」
P(音無さん以外のアイドルの子達とも、昨日一通り挨拶は済ませてある)
P(まぁ、俺の担当は音無さんだから、あまりアイドル活動に協力は出来ないとは思うけど)
春香「小鳥さんも、レッスンですか?」
小鳥「う~ん、レッスンというか……ダイエットを……」
春香「ダイエットだなんてそんな……まだ全然、体のラインも綺麗じゃないですか」
小鳥「そ、そう? えへへ……そうかしら」
春香「……私、嬉しいです」
小鳥「え?」
春香「社長から聞きました。小鳥さん、プロデューサーさんという運命の人を見つけたんですね……!」
小鳥「うぇぇ!? は、春香ちゃんまでそんなこと……」
春香「でも、私だって(アイドルとして)負けませんよ! 小鳥さんは素敵な人だけど、私だって頑張っちゃいますから!」
小鳥「……!」
春香「(同じアイドルとして)これから切磋琢磨していきましょうね!」
小鳥「そ、そうね……」
小鳥(……も、もしかして……春香ちゃん、プロデューサーさんのこと……?)
小鳥(……そう考えてみると、確かに……)
小鳥「……」
P「春香。ほら、ポラリスウェット」スッ
春香「ありがとうございますっ! いただきまーす♪」
小鳥「……」
小鳥(春香ちゃんもまだ出会って間もないというのに、もうかなり仲が良くなってる気がする……)
春香「んぐ、んぐ……ぷは」
P「音無さんのこと、指導してもらえるか?」
春香「ええ!? し、指導だなんてそんな……私、まだまだヘタクソですし」
P「でもさ、やっぱり同じ仲間同士でやった方が色々と気が楽だと思うんだよ」
春香「……そうかもですね。えへへっ、わかりました! この天海春香、ばっちり小鳥さんを見てみせます!」
春香「さあ、行きましょう、小鳥さん!」グイグイ
小鳥「え、ええ……」
小鳥(……なんだろう、この胸のもやもやは……)
【レッスン終了後】
春香「おつかれさまでしたっ!」
小鳥「……ぜぇ、ぜぇ……」
P「大丈夫ですか、音無さん」
小鳥「うっぷ……こ、こんな……まるでアイドルの子達がやってるみたいなハードなレッスンだなんて、聞いてません……」
P「まぁ、運動は久しぶりだったでしょうからね。でも、これからは毎日ですよ」
小鳥「えぇ!? スパルタすぎるぅ~……!」
P「こうでもしないと、他のアイドルの子達に追いつけませんよ! 頑張りましょう!」
小鳥「うぅ……」
小鳥(プロデューサーさん、やっぱり引き締まった体の方が好きなのかしら)
小鳥(……でも、こんなの……)
小鳥(こんなの、まだ付き合ってもないのにやらされるだなんて……俺様もいいところよ……)
P「……音無さん?」
小鳥「……」プイ
P「えーっと……」
小鳥「……痩せてないと、ダメなんですか?」
P「う~ん……痩せているかはともかく、鍛えておかないとうまくダンスが出来ませんから」
小鳥「だ、ダンスなんて……私、する機会もありませんよ」
P「え? ……なるほど、そうでしたか」
小鳥「え」
P「……すみません。確かに俺達、まだ(どんな方向のアイドルにするか)話しあっていませんでしたね」
小鳥「そうです、話し合うことは(お互いをよく知るために)必要なことです」
P「ダンサブルな曲に合わせて踊るより、もっとこう、歌を重視したいと思いますか?」
小鳥「? ……ま、まぁ、どっちかといえば、踊るよりは歌う方が好き……かな?」
P「なるほど……」
P「わかりました。それじゃあ、明日からはボーカルレッスンを重視することにしましょう!」
小鳥「あ、はい……えっと、でもそれ、エクササイズになるのかしら」
P「エクササイズ?」
小鳥「だって……プロデューサーさんは、私に痩せてほしくて今日みたいなダンスレッスンをさせたんでしょう?」
P「いやぁ、別に痩せて欲しいというわけじゃあ」
小鳥「えぇ!? じゃあ、なんで……?」
P「……正直に言って、音無さんが踊る姿を見てみたかったんですよ」
小鳥「え……」
P「俺は、もっと音無さんのことを深く深く知りたいと思っています」
小鳥「!」
P「そうすることで、あなたのプロデューサーとして」
小鳥「も、もういいですっ! また人生のプロデュースとかなんとか言うんでしょうっ」カァ
小鳥(……もう……困ったときは、すぐそう言えばなんとかなると思っているのかしら)
小鳥(……そんなことで喜んじゃうあたしも、あたしだけど……)
小鳥「……プロデューサーさん、ずるいです」
P「え」
小鳥「そうやって……すぐ……」モジモジ
P「お、音無さん?」
春香「……」
春香(さっきからふたりで話してたから口を挟めなかったけど……)
春香(小鳥さんのこの表情……)
春香(これは恋の香りがする!)
小鳥「……も、もう、シャワー浴びに行きましょう、春香ちゃん!」
春香「はい♪ えへへ、詳しく聞かせてくださいね!」
【シャワールーム】
ザザァー……
小鳥「あいたた……筋肉痛が……」
小鳥「あ、でも、こんな早く筋肉痛が来るなんて……私まだ、体は若いのかしら? ウフフ」
春香「小鳥さ~ん♪」ヒョコ
小鳥「うひゃあ!?」
春香「さっきも言いましたよね! 詳しく聞かせてくださいよう」
小鳥「く、詳しくって……?」
春香「ふっふっふ……白を切ろうったって、私の目は誤魔化せませんよ!」
春香「ズバリ! 小鳥さんはプロデューサーさんのことが好きなんでしょう!」
小鳥「え? ……えぇええ!?」
小鳥「なな、何を言っているの!? っていうか、それは春香ちゃんじゃないの!?」
春香「へ? 私ですか?」
小鳥「そうよ……私、春香ちゃんはプロデューサーさんのこと好きなんじゃないかって思ってたんだけど」
春香「ええ!? なな、なんでそうなるんですか!?」
小鳥「だってさっき、負けませんからね、って……」
春香「確かに(アイドルとして)負けません、とは言いましたけど……」
春香「でも、小鳥さんの想い人……キャー!」
小鳥「……えーっと」
春香「あっ、す、すみません……ついテンション上がっちゃって」
春香「おっほん! とにかく、小鳥さんが好きな人を私が好きになるなんて、そんなことしませんよ!」
小鳥「ちょ、ちょっと待って。なんか……色々話が噛みあってない気がするんだけど……」
小鳥(なんだか頭が混乱してきたわ……)
小鳥(えーっと……春香ちゃんが負けないって言ったのはどういうこと? ううんと……)
春香「とにかく、小鳥さんはプロデューサーさんのこと好きなんでしょう!」
小鳥「ぴよっ!」
春香「ぴよ? それって肯定ですか?」
小鳥「あ、ううん! ちょっとビックリしただけだから!」
春香「えっへへ……♪ それで、どうなんですか?」
小鳥「……私がプロデューサーさんのこと……」
春香「はい!」
小鳥「……正直言って、まだわからないわ」
春香「……」
小鳥「プロポーズはされたけど……えへへ、きゅ、急な話だったし……」
春香「え……プロポーズ……?」
春香「ええええええええ!!!!!!?」
小鳥「ちょ、ちょっと、声が大きいわよ」
春香「……プロデューサーさん、やりますね……!」
小鳥「そ、そうよね、もう困っちゃうわウフフ」
春香「……」
小鳥「私ね、情けない話だけど、こういうの初めてなのよ……だからもう、どうしたらいいかわからなくて」
春香「……ふふ」
小鳥「ま、まだお付き合いしてるわけじゃないんだけど……少しずつメールとかで親睦を深めようってことになって」
小鳥「それで、昨日なんか……春香ちゃん?」
春香「えへへっ♪ やっぱり小鳥さん、恋する女の子の顔してます!」
小鳥「そ、そんなことわかるの?」
春香「そりゃあもう! 私もいつも、同じ学校の友子の恋の話をたっくさん聞いてますから!」
小鳥「……」
小鳥(高校生と同じレベルの表情をしていたのね、あたし……)
春香「プロポーズされたってことは、皆には黙っておきますね」
小鳥「そ、そうしてくれると嬉しいわ」
春香「……小鳥さん、ガンバ!」グッ
小鳥「うぅ……だ、だからそんな、私はまだ好きだって認めたわけじゃ……」
春香「またまたそんなこと言って~♪」
小鳥「……」
春香「とにかく、ひとつ私からもアドバイスをしておきますね!」
小鳥「アドバイス?」
春香「はい! あ、わ、私なんかの助言じゃあんまり頼りにならないかもしれないけど……」
小鳥「……ううん、聞かせて」
春香「それじゃあ……」
ヒソヒソ……
小鳥「……なるほど……なるほどなるほど」
P「……お、ようやくふたりが出てきたな。おーい」
春香「ほら、小鳥さん♪」ポンッ
小鳥「え、ええ……!」
テクテク
P「随分長かったですね」
小鳥「お、女の子は色々とあるんですっ」
P「あはは、それはすみません。それじゃあ、そろそろ事務所に――」
小鳥「あのっ、プロデューサーさん!」
P「どうしたんですか?」
小鳥「……」
ドックンドックン
P「……音無さん?」
小鳥「……――れから」
P「え?」
小鳥「……!」
小鳥(勇気を出すのよ、小鳥! 春香ちゃんも協力してくれるって言ってくれたし……!)
小鳥(こんなチャンス……逃がさないんだから!)
小鳥「……これから、私と……」
P「はい……」
小鳥「デート、してくれますか?」
【ショッピングモール】
P・小鳥「……」テクテク
P「……あ、あの店なんかいいんじゃないですかっ!?」
小鳥「そそ、そうですね! とっても素敵なお店……」
P(な、なんだなんだ? どうなっているんだ?)
P(きゅ、急にデートだなんて……こ、これはあれか)
P(プロデューサーとして、アイドルとして……親睦を深める的な意味だよな。うん……)
P(くそう……デートなんて言葉を使われたから、どうしたらいいかわからないぞ……)
P(これだから元インディーズアイドルオタクの童貞は困る……!)
小鳥(あうう……!)
小鳥(デートって言っても、何をしたらいいのよ!)
小鳥(プロデューサーさん、あたしなんかと違って、なんだか余裕そうね……)
小鳥(一方小鳥ちゃんはもうさっきからガッチガチよ……)
小鳥(これだから青春時代を暗いまま過ごした処女は困る……!)
カチャ、カチャ……
モグモグ……
P「……」
小鳥「……」
P・小鳥(何を話したらいいかわかりません!)
P(……しかし音無さん、やっぱり綺麗だな)
P(黙って食事をしているだけなのに、なんて絵になる人なんだ)
小鳥(プロデューサーさん……時折こっちを見て、意味ありげに微笑んでいる)
小鳥(そんなことされたら……緊張しちゃうじゃない……うへへへ……)
P・小鳥「……」ニヤニヤ
小鳥「……ごちそうさまでした」
P「お、お気に召しましたか?」
小鳥「そりゃあもう……」
小鳥(本当は料理の味なんてわからなかったけど……)
P「あはは、それは良かった……俺なんて、緊張で味がわかりませんでしたよ」
小鳥「え? き、緊張?」
P「そりゃそうです。あなたみたいな素敵な女性と食事をしたの、初めてでしたから」
小鳥「……!」
P「さて、それじゃあ……」
グイ
P「……音無さん? どうかしたんですか?」
小鳥「あっ、あの……!」
小鳥「あ、あたし、嘘をつきましたっ」
P「嘘? ……というか、あたしって」
小鳥「ぅわあ、す、すみませんっ!」
小鳥(プロデューサーさんの前なのに、思わず『わたし』じゃなくて『あたし』、なんて……)
P「……ふふ。それで、どんな嘘を?」
小鳥「……私も、本当は……料理の味なんてわからなかったんです」
P「……」
小鳥「緊張、してました。ドキドキしました」
小鳥「今だってほんとは、ガッチガチに震えてます」
小鳥「あんな風に言ってくれたあなたに嫌われたらどうしよう、って……」
P「……音無さん」
小鳥「だからっ……ごめんなさい」
P「……いいんですよ。俺も嬉しいです」
小鳥「え? 嬉しいって、それってどういう……」
P「あ、い、いや、なんでもありません! すみません……」
P(……相手は、アイドル。……いや、まだ曲も出していないし、デビューすらしていないけど)
P(ただ、俺は昔からこの人のファンで……憧れていただけなのに……)
P(なのに、俺は……)
小鳥(……嬉しいって、どういう意味だったのかな)
小鳥(プロデューサーさんとあたしが、同じ気持ちだったから嬉しい、ってことなのかな)
小鳥(……いきなりプロポーズしてくるようなあなたのことだから、それくらいキザなことも言えちゃうかもしれないわね)
小鳥(でも……もしそうなら、あたしも……)
小鳥(あたしも、嬉しい)
P「……」
小鳥「……」
P「暗く、なってきましたね」
小鳥「そう……ですね」
P「夕飯には少し早すぎたでしょうか」
小鳥「……プロデューサーさんも、今日はお昼取ってなかったでしょう? だからいいんです」
P「……」
小鳥「……あ」
P「どうしたんですか?」
小鳥「……星が」
P「……綺麗だ」
小鳥「……」
――…… いま 輝く 一番星 ……――
P「……!」
小鳥「……なんて。ふふっ、なんだかちょっと、昔のことを思い出しちゃいます」
P「歌手だった頃ですか?」
小鳥「え!? し、知ってたんですか……?」
P「あれ、言っていませんでしたっけ……俺、音無さんのファンだったんですよ」
小鳥「……そうだったんですか……」
小鳥(昨日メールで言ってたのは、そういうことだったのね……なんだか、恥ずかしい)
P「『光』。俺が一番好きな、あなたの歌です」
小鳥「……」
P「『空』も、『花』も、もちろん素敵な曲だけど……この曲からは、あなた自身の優しさが感じられる」
P「これを聴いて、俺はあなたに夢中になり始めたんですよ」
小鳥「……すぐそのあと、引退しちゃったけど」
P「残念でしかたありませんでした。でも俺は、数こそ少なかったけれど、毎日あなたのCDを聴いています」
小鳥「……ありがとう、ございます」
P「……」
小鳥「……」
P「……音無さん」
P「泣かないでください」
小鳥「な、泣いてなんか……いません」
P「……悲しいことが、あったんですか?」
小鳥「……ありません。あったとしても、もう忘れちゃいました」
P「……」
小鳥「……いま、もし、私が泣いているように見えるなら」
小鳥「それは、嬉しいからです……」
P「嬉しい?」
小鳥「……はい」
小鳥「あの頃の私のことを見ていてくれる人がいた」
小鳥「高木さん……じゃなくて、高木社長が言っていたことは本当だった……」
小鳥「そして……今でもちゃんと覚えてくれる人が……こんなにも、近くにいる」
小鳥「そのことが、とっても……嬉しかったんです……!」
小鳥「……すみません、なんだか変な空気にしちゃいましたね!」
P「いえ……」
小鳥「帰りましょう、私達の765プロへ」
P「……私達の?」
小鳥「そうですよ。プロデューサーさんはまだ、ここに来て日が浅いけど……」
小鳥「あの場所は、私にとって……ううん、私達にとっての家ですから」
小鳥「私と同じように……あなたにもそう思ってもらえたら……それもまた、とても嬉しいことです」
P「……そうですね!」
【その夜、小鳥さん家】
小鳥「……ただいまぁ」
ぽふん
小鳥「……今日はなんだか、いろんなことがあった気がするわ」
小鳥「もう寝ちゃいましょう……ああでも、メイク落とさなきゃ……」
のそのそ
小鳥「……いたた。うぅ、足が……」
小鳥「……」
小鳥(カッコ悪いとこ、見せちゃったな……)
フキフキ
小鳥「……ふぅ」
小鳥「……」
ジー
小鳥(うぅ……やっぱり、何度見ても春香ちゃんみたいなプルプルのお肌じゃないわ)
小鳥(765プロには、あたしより若くて綺麗な女の子がいっぱいいる……)
小鳥(……きっと、そのうちプロデューサーさんだって……)
『プロポーズ? 何を言っているんですか?』
小鳥(みたいなこと言ってくるに違いないわ)
小鳥(そうよ。だから調子に乗っちゃダメよ……)
小鳥(ダメ……なんだから)
小鳥(……でも、もし、本当にそうなったら。そんなことを言われたら)
小鳥(やだな……)
小鳥「……」ジワァ
小鳥「……!」
ブンブン
小鳥(やだ、もう……今日はとことん涙もろい日ね)
小鳥(……寝る前にちょっとだけ、ちょっとだけ)
ピッ
ウィーン……
小鳥「……えーっと……お肌、スキンケア、アンチエイジング……検索、っと」
―――
――
―
カタカタ
小鳥「ほー……へー……」
小鳥「なるほどなるほど……え、それじゃあ……」
カタカタ……
小鳥「って、三時!? うわわ……夜更かしこそがお肌の大敵だっていうのに……!」
小鳥「ね、寝ないと……」
小鳥(……あーあ)
小鳥(なんで……こんなに、頑張ろうって思ってるのかしら)
小鳥(まるで、思春期の女の子みたいじゃない。いい年して……)
小鳥(……プロデューサーさん)
小鳥(まだ、ちゃんと話すようになって二日くらいしか経ってないのに)
小鳥(人の心の中にズカズカズカズカ……)
小鳥(勝手すぎるわよ、もう)
小鳥(……やめてよ、もう。こんなあたし、情けなさすぎる……)
小鳥(……もう、本当に……本気で、――に、なっちゃうじゃない)
小鳥「……本気で……」
小鳥「……す、き……に」
小鳥「……――~~!!」ジタバタ
小鳥「お、おやすみなさいっ!」
ボフン
【翌日、765プロ事務所】
P「……」
ガチャ
P「!」
春香「おっはようございまーっす!」
P「な、なんだ……春香か」
春香「ひどい!」
P「ああ、いや、ごめん! むしろ春香で良かったよ」
春香「えっへへ♪ 冗談ですよぅ」
春香「プロデューサーさんプロデューサーさん! それで、あのあとどうなったんですか!?」
P「えーっと……あのあとって?」
春香「やだなぁもう、小鳥さんとのデートに決まってるじゃないですか!」
P「う……」
春香「なにか、進展ありました!?」キラキラ
P「し、進展ってお前なぁ……いいか、俺はプロデューサーであり、音無さんはアイドルであり」
春香「もう、そんなお決まりな台詞はいいんですよ!」
P「……春香の言い方だと、その……俺が音無さんに気があるみたいに聞こえるんだけど」
春香「え? ああ、それは逆で」
P「逆?」
春香「うわぁあ! い、いいえ! な、なんでもないですっ!」
春香「お、女の子はそういう話が大好きだから、だから気になってるだけです!」
P「……」
春香「あはは……」チラ
P「顔が『のヮの』←こんな感じになってるぞ」
春香「おおっと……」グシグシ
P「……なぁ、春香」
春香「なんでふか?」グシグシ
P「……現役女子高生アイドルであり、恋に恋する女の子であるところの春香に、ひとつ聞いてみたいんだけど」
春香「はい! なんでも聞いてください!」
P「プロデューサーとして、アイドルのことを好きになるのは……ダメだよな」
春香「……えへへ、何を言っているんですか」
P「え……」
春香「いいですか、プロデューサーさん」
春香「女の子は、誰かに愛されることで綺麗になるんです」
P「そ、そうなのか?」
春香「そうです。私はまだ経験ありませんけど……同じ学校の友子がいつも言っていますから」
P「そうか……友子さんは経験豊富なんだな」
春香「そうですよ、友子はすごいんです」
春香「昨日もついつい、例の件について長電話しちゃ……ああ、えっと、話がそれちゃいましたね」
P「……」
春香「とにかく! プロデューサーさんが誰のことを好きになりそうなのかは、わからないふりをしておきますけど」
春香「立場なんて気にしないで、どんどん、好きになっていいと思います!」
P「……そっか」
春香「はい! あ、でも、もちろんこんなこと、律子さんに知られたら怒られちゃうかもしれませんけど……えへへ」
春香「……それはそうと、小鳥さん、まだ来てないんですか?」
P「ん、そうだな。今日は俺が一番乗りだった」
春香「珍しいですね、遅刻だなんて」
P「珍しい? というか、まだ遅刻だなんて時間じゃあ……」
春香「あ、プロデューサーさんはまだ知らなかったかもしれないですけど……」
春香「小鳥さんって、毎日誰よりも早く事務所に来るんですよ」
P「へぇ。それならたしかに……」
ガチャ……
小鳥「……おはよう、ございます」
P「っと、噂をすれば……おはようございます、音無さ――」
P・春香「!?」
小鳥「……ご、ごめんなさい……遅刻……」
春香「どど、どうしたんですか!? ひどい顔……!」
小鳥「あはは……ちょっと、ね」
小鳥(結局あのあと、一睡も出来ずに朝を迎えて)
小鳥(これはイカンと、30分だけ仮眠するつもりが予定より大幅にオーバーしてしまって)
小鳥(大慌てで支度して、メイクもいつもよりだいぶ適当になってしまったからこんな顔をしているなんて言えない)
P「音無さん……」
小鳥「……事務所の鍵、開けてもらっちゃってごめんなさい」
P「いえ……それより、見るからに体調不良ですね」
小鳥「えぇ!? そ、そんなことないですよ! 元気げん……」
ふらっ
P「だ、大丈夫ですか!?」
ガシッ
小鳥「ああう……す、すみません……」
小鳥(徹夜明けで走ってきたから、貧血が……!)
小鳥(……何がなんだかわかんないけど、これはラッキー?)
ギュッ
春香「おお……!」
小鳥(え、えへ、えへへ)
P「音無さん……」
P(小さく震えながら、俺の体を掴んで……顔もこんなに真っ赤になって緩んでいる)
P(間違いない、これは風邪だ! 寒気と熱のせいでこんなになっちゃってるんだ)
P「……今日は休みましょう。家に帰って、安静にしていてください」
小鳥「え!? そ、そんなことできません! 大体、私がいないと誰が事務仕事を――」
P「俺がやります。あなたの仕事は、俺の仕事でもあるんですから」
小鳥「いや、でも……というか、本当に体調不良なんかじゃ……!」
P「……強がりはやめてください。俺には、あなたのこと、全てお見通しですから」
小鳥「……!」
P「ほら、また顔が赤くなって……熱が上がってるんです。お願いですから、休んでください」
【小鳥さん家】
小鳥「……」
小鳥(音無小鳥、2X歳です)
小鳥(なんだかよくわからないうちに、お仕事をサボってしまいました……)
小鳥(あのあとプロデューサーさんが、社長や律子さんにズババっと説明していって)
小鳥(なぜかみんな、すんなり納得して、帰ったほうがいいってことになって……)
小鳥(有給を取ることに……)
小鳥「……ま、いっか……」
小鳥「せっかくだし、休みを満喫しましょう!」
小鳥「買ったまま溜まってた漫画やゲームもあることだし……ウフフ」
【765プロ事務所】
P「……はぁ」
春香「元気ないですね、プロデューサーさん」
P「……」
春香「やっぱり、小鳥さんのこと心配してるんですか?」
P「当たり前だろ……」
春香「……」
春香(……たぶん、小鳥さんは風邪なんか引いてなかったんだろうけど)
春香(それを知ってるのは、私だけだよね)
春香(言わないでおこう……)
P「ああ、大丈夫かな……倒れてなんかいないといいけど」
春香「!」ティン
春香「ふっふっふ……」
P「……ん、どうした春香。悪い顔をしているぞ」
春香「プロデューサーさん! 私、閃きました!」
P「閃いたってなにを?」
春香「そんなに心配なら、お見舞いにいけばいいんですよ!」
P「……へ?」
春香「お見舞いですよ、お見舞い! きっと小鳥さんも喜びますから♪」
P「えええ!? いや、そんな……」
プルルル
P「!」
ガチャ
P「は、はい、765プロです……ああ、お世話になっております! ええっと……」
春香「それじゃあ私、そろそろレッスンに行ってきますね~♪」トテトテ
P「あ、はる……い、いえ、すみません……ええ、その件につきましては……」
P(……お、お見舞いって……)
【夕方、小鳥さん家】
カァ……
カァ……
小鳥「……」
小鳥「…………」
小鳥「つまんない、な……」
小鳥(あれだけ消化するのを楽しみにしてた、ゲームや漫画も……)
小鳥(全然、集中して読めなかった)
小鳥(……もう、こんな時間かぁ)
小鳥(プロデューサーさんは、今日、どんなお仕事をしたのかな)
小鳥「……うぅ……」
ゴロゴロ
小鳥「こんなの、ダメ人間すぎるわぁ~~……!」
ゴロゴロ
ぴんぽーん
小鳥「うあ! な、なに?」
小鳥(……もしかして、amamizonからようやくあれが届いたのかしら! 新作のあの音ゲー!)
トテトテ
小鳥「は~い!」ガチャ
P「……こ、こんにちは」
小鳥「……」
P「えーっと、具合はどうで」
バタン
P「え!? ちょ、ちょっと、音無さん!?」
小鳥「……」
小鳥(ついに幻を見るようになってしまったのかしら)
P「おーい……」コンコン
小鳥(ああ、幻聴まで聞こえる。あたしったら、もしかして本当に調子悪いんじゃ……?)
P「……」
ピピピ
小鳥「」ビクッ
小鳥「け、ケータイ? 電話の着信が……」
ピッ
小鳥「もしもし……」
P『あの……音無さん』
小鳥「は、はい。音無さんです。あなたはどなた?」
P『プロデューサーです。わかっていたでしょう』
小鳥「……はい、わかっていました……」
P『急に押しかけちゃってすみません。一目様子が見たくて……』
小鳥「……」
P『具合、どうですか?』
小鳥「あ、その……もう、だいぶ良くなりました……おかげさまで」
小鳥(嘘をつきました。最初から風邪なんて引いていないんですから)
P『……』
小鳥「……」
P『あの、色々と買ってきたんです。ゼリーとか、消化に良い物を』
小鳥「……」
ドックン ドックン
P『……すみません、こんなことをして。非常識すぎました。ここに置いておくから、あとで食べてください』
小鳥「……あ……」
P『それじゃあ……』
小鳥「……!」
小鳥(や――)
小鳥「やだ……!」
P『……え?』
小鳥「行かないでください……!」
P『でも……』
小鳥「いま……あ、いや、五分、五分だけ待ってください!」
小鳥「そしたら、このドアを開けます……だからっ……!」
P『……わかりました。五分でも十分でも、俺はここで待っています』
小鳥「……すみません、それじゃあ、またあとで」
ピッ
小鳥「……」
ゴシゴシ
小鳥「……サイアク……」
小鳥「サイアクの顔、してるわ……」
小鳥「顔、はやく洗わないと……バレちゃう、きっと」
小鳥「もう、泣き顔は見せてあげないんだから……」
小鳥「……お待たせしました」ガチャ
P「あ、はい」
小鳥「あの……散らかってますけど、入ってください」
P「お邪魔します……」
小鳥「……」
P「散らかってるとか言っていたわりには、綺麗な部屋じゃないですか」
小鳥「え、そ、そうですか? ……えっへえへ」
P「音無さんらしい、可愛らしい部屋だと思います」
小鳥「……あ、ありがとう……ございます」
小鳥(ふわああああああああああああ)
小鳥(なにこれ!? なにこれ!? よく考えたらなにこの状況!!)
小鳥(と、突然……ちょっと気になってるかも? って人が、部屋に来るなんて……)
小鳥(これなんて乙女ゲー!?)
小鳥「……て、適当に座っていてください」
P「わ、わかりました……」
小鳥「私、お茶を淹れてきますから」
P「あ、ああいえ、お構いなく」
小鳥「そそそういうわけにはいきませんよ。れでぃーの嗜みですから」
P「そそそうですか……嗜みなら仕方ないですね。お願いしましゅ」
小鳥「……」コポコポ
小鳥(さっきまで淀んだダメ人間が住まうドンヨリだった部屋に、一陣の爽やかな風が吹き抜けました)
小鳥(ああ、あう……ど、どうしよう。ファブリーズしたから、変なにおいとかしないわよね?)
P「……」
P(小鳥さんの部屋、良い匂いがする)
P(なんていうか、女の子の匂いっていうか……安心するなぁ)
小鳥・P「……」ニヤニヤ
小鳥「どうぞ……粗茶ですが」コトリ
P「ああこれはこれは……いただきます」
ズズッ
P「……美味しいです」
小鳥「……そ、それは何より」
P「……」
小鳥「……」
小鳥・P(何を話したらいいかわかりません!)
小鳥(……いつも通りに、ただ笑っていたいのに)
P(ただ、ありのままの自分でいたいのに……やっぱり、俺は……)
小鳥(……あたしは……)
小鳥・P(この人のことを……)
小鳥「……プロデューサーさん」
P「は、はい……」
小鳥「あの……ずっと、返事をしないままでここまで来ちゃって、ごめんなさい」
P「……え?」
小鳥「……すぐに、その……お返事するのは、軽い女だと思われたくなかったからで」
P「……」
小鳥「でも、やっぱり……まだ私には、そういうの……一緒になる、ってことがよくわからなくて」
P「えーっと……」
P(な、なんのことを言っているんだ?)
小鳥「それでもですね! やっぱり、あなたに言ってもらえたことは、私としてもとっても嬉しかったんです!」
P「……」
P(いまは、余計なことを言わないで黙って話を聞いているほうが良い気がする)
小鳥「だから、その……!」
小鳥「私と――」
ぐぅ~
P「……」
小鳥「……あ、あ、あう……」カァァ
P「えーっと……」
小鳥「私と、ごはんを食べませんか!」
P「えっ!?」
小鳥「せせ、せっかくここまでいらっしゃってくれたんですから、手料理を振舞っちゃいますよ!」
P「あの……返事、というのは……?」
小鳥「え? えへへ、そんなこと言いました? やだもう、まだ頭ふらふらしてるのかしら」
小鳥(死にたい!)
小鳥「ちょーっと待っててくださいね~うふふ~」
テクテク
P「あ、はい……」
小鳥「えーっと、冷蔵庫冷蔵庫……何が残ってたかしら~」ガチャ
P「……」
P(告白されるのかと思った! 告白されるのかと思った! うわあああ!!)
小鳥(うわあああ! あたしのいくじなし!!)
P(だってそういう空気だったから! 勘違いするだろ!!)
小鳥(せっかくそういう空気になったのに!)
小鳥(プロデューサーさんの気持ちはもうわかってるんだから、ただ、お付き合いしましょうって言えばいいだけだったのに!)
小鳥(……し、しかも……! その上、こんなことまで起きるなんて……!)
小鳥(食材がなんにもない!)
小鳥「……うう……」
ペタリ
P「お、音無さん!?」
小鳥「もうやだぁ……! グスッ、グス……」
P「大丈夫ですか……? やっぱりまだ、具合が悪いんじゃ」
小鳥「具合はもう平気でずっ! 最初っから元気だったんだから!」
P「……えーっと……」
小鳥「来ないでくだざい……な、泣き顔を見られたくありまぜん……」
P「……」
小鳥「……う、うぅ……!」ポロポロ
小鳥(――あたしは、昔からこうね)
小鳥(いざというときに、なんにも出来ないで……すぐ諦めて、グズって……)
小鳥(……本当に、情けない……!)
小鳥(……それなのに……)
小鳥(それなのに、どうしてあなたは――)
P「……音無さん」
小鳥「……」
P「泣く止むまで、俺、ここにいてもいいですか」
小鳥「……ダメです」
P「それじゃあ、いますね」
小鳥「ダメって言ってるのに……」
P「うそでしょう」
小鳥「……なんで?」
P「……音無さんの大ファンだからこそ、わかるんです。何年間、あなたのことを考えてきたと思ってるんですか」
小鳥「……どうして、あなたは……」
P「え?」
小鳥「どうしてあなたは、こんな情けないあたしのために、優しくしてくれるんですか……?」
P「……そんなの、決まっています」
P「音無さんのことが、好きだからですよ」
小鳥「……!」
P「……アイドルとプロデューサーとか、関係なく……」
P「ただひとりの女性として、音無さんに惚れてしまったからです」
小鳥「……」
小鳥(――また、言ってくれた)
小鳥(あぁ、でも……ちゃんと好き、と言ってくれたのはこれが初めてだったかしら)
小鳥(……そうね。あのときは、いきなりプロポーズだったから……)
小鳥(……あれ? でも……)
小鳥(なんかいま、プロデューサーさん、へんなこと言わなかった?)
P「……あの」
小鳥「ちょ、ちょちょ、待ってください」
P「え?」
小鳥「……アイドルと、プロデューサー?」
P「え、ええ……」
小鳥「……?」
P「……やっぱり、俺の立場からあなたにアプローチするのは、ダメでしょうか」
小鳥「ど、どうしてですか?」
P「だって、あなたはこれから、アイドルとしてデビューするんだから……」
小鳥「えっ」
P「えっ」
小鳥「……落ち着きましょう」
P「そ、そうですね」
小鳥「……あなたは、プロデューサーさん」
P「はい。俺はプロデューサーです」
小鳥「そうですね、ここまでは大丈夫です。それで……私は?」
P「アイドル」 小鳥「事務員」
小鳥「おっと?」
P「これはこれは……」
小鳥「……」
P「……」
ポクポクポク……
ティーン
小鳥・P「「えぇええ!!!?」」
小鳥「あっ、あの! わ、私がアイドル!? 何を言っているんですか!?」
P「え、いや、だって、最初に言ったでしょう!?」
小鳥「聞いていませんっ! そんなこと……いつ、どんな風に言ったの!?」
P「だから、この間事務所で、あなたをプロデュースさせてください、って……」
小鳥「い、言われてませ……ん? えーっと……」
小鳥(もしかして)
小鳥(もしかして)
小鳥(もしかして!?)
小鳥「……あ、あ、あ……」カァァ
P「あの……音無さん?」
小鳥「……誰が悪いと思います?」
P「え……」
小鳥「そりゃそうです、あんなこと言われたら、そりゃ、20代後半じゃなくても勘違いするってもんです」
P「何を言っているんでしょうか……」
小鳥「だからっ……! あなたは、この間!!」
『俺に、あなたの人生をプロデュースさせてください!』
小鳥「って言ったでしょう!?」
P「ええ、まぁ……そうですね」
小鳥「そ、そそ、それが……!」
P「えっと……それが、俺なりの、プロデュースの申し込みのつもりだったんですけど」
小鳥「うわああああん!!!」
P「!?」
P(……音無さんが、布団にくるまって団子虫になってしまった)
小鳥「……サイテーです」モゾモゾ
P「……すみません」
小鳥「……私は、どれだけそのあと……」
P「えっと……あの言葉で、俺の意図が伝わってなかったなら……音無さんはあれをどう解釈したんですか?」
小鳥「……」
P「……」
小鳥「……そ、そんなの……決まってるじゃないですか……」
P「聞かせてください」
小鳥「うぅううぅう~……!」
P(……さすがの俺も、ここまできたら……)
P(春香や音無さんの今までの言動から考えて、色々と理解してしまっている)
P(……しかし。それでも……たとえ最低だと罵られてもいい)
P(もっと可愛い音無さんを見たいからこそ、俺はわからないふりをするのであった)
小鳥「……けっこん、してくれ、って……言われたように……」
P「え?」
小鳥「……プロデューサーさん。聞こえているでしょう?」
P「……バレました?」
小鳥「……」
モゾモゾ
小鳥「……」ジッ
P「ようやく顔を見せてくれましたね」
小鳥「本当に、あなたはサイテーな人です」
P「……」
小鳥「……それなら、あたしだってサイテーになります。いいんですか?」
P「……いいですよ。どんな罰だって――」
ぎゅっ
P「……えーっと……」
小鳥「……」
P「お、音無さん……?」
小鳥「……まだ、付き合ってもないのに、こうやって抱きつくんです」
小鳥「軽い女でしょう、サイテーでしょう」
P「……」
小鳥「……」
P「……それでも、俺はあなたのことが好きです」
小鳥「!」
P「さっきみたいな……勘違いしたままの告白じゃない」
P「音無さんのことが、本当に好きなんです」
P「自分でも、信じられないくらいに……、こんなにもはやく、恋に落ちてしまいました」
小鳥「……アイドルなんて、しませんからね」
P「……フラれてしまいましたか」
小鳥「そうですね、その件については諦めてください。だって、アイドルに恋は厳禁なんですから」
P「あはは……春香とはまた別の意見だ」
小鳥「春香ちゃん?」ピク
P「春香にも、実は今日……相談、しちゃってたりして」
小鳥「……今度、どんな顔して春香ちゃんに会えばいいのかしら」
P「……」
小鳥「……でも、あたしは……もうひとつ、返事をしなきゃいけませんね」
小鳥「……あたしも、好きです」
P「!」
小鳥「勘違いから始まったこの気持ちだけど、今、この胸にあるものは……」
小鳥「はっきりと、自分でも信じられないくらいに大きくなってしまっている、この気持ちは……」
小鳥「あなたへの、恋心です」
【一週間後、765プロ事務所】
小鳥「……それでね、私、言ってやったのよ!」
春香「なんて言ったんですか!?」キラキラ
小鳥「……あなただけのアイドルになら……ってねっ!」キリッ
春香「うわぁ! すっごいです小鳥さん! 憧れちゃいます!」
小鳥「うふふふ♪ まぁ、春香ちゃんもそのうち……ね♪」
春香「えへへ……そ、そうですか? えへへ……」
ピンッ
春香「あ痛っ! えぇ~……、で、デコピン……?」
律子「ほ~ら。いつまでもくっちゃべってないの。小鳥さんも、鼻伸ばしてないで仕事してください、し・ご・と!」
春香・小鳥「「すみませ~ん……」」
律子「ったく……春香にもようやくプロデューサーが付いたっていうのに、これなんだから」
春香「えへへ……」
律子「ほらほら。今日はあなた、初めてのオーディションでしょ? 色々と準備しなくていいの?」
春香「え? ……うわぁあ! そ、そうでしたっ! ハンカチに、ティッシュに……っと、とっと」
春香「わあああっ!」
どんがらがっしゃーん
律子「……」
小鳥「ふふ、相変わらずねぇ、春香ちゃん」
律子「相変わらずすぎて、逆に安心するってところですかね」
小鳥「――そんなごく普通の女の子が、竜宮小町のライバルとなり、ゆくゆくは765プロを代表するトップアイドルとなるということは……」
小鳥「このときはまだ、誰ひとり予想していないのであった――続く!」
律子「はいはい……小鳥さんも、彼氏が出来たっていうのに、変わりませんね」
律子「……それで、どうなんですか?」
小鳥「へ?」
律子「あの……最近、あの人とは」
小鳥「……プロデューサーさん?」
律子「えぇ、まあ……」
小鳥「……ふふっ♪ 律子さんも、やっぱり女の子なのね。こういう話が好きなんだわ」
律子「い、いい、いけませんか!? だって、まさか小鳥さんが一番に恋人が出来るとは夢にも」
小鳥「むむ」
律子「あっはは……失礼しました」
小鳥「いーえ♪ ……順調、だと思いますよ」
律子「……思う?」
小鳥「ううんと……ま、まだ、特に、何もしていないし……」
律子「な、何もって……」
小鳥「あ、でも、手は繋いだ……かな。えへへ」
律子「……なるほど」
律子「……これは、先が思いやられますね」
小鳥「ええ?」
律子「小鳥さん、散々言ってたじゃないですか。プロポーズとかなんとか」
小鳥「あ、いや、だから……あれは勘違いであって!」
律子「でも、あの人と結婚したいんでしょう? そんな顔してましたよ」
小鳥「……やっぱり、まだそういうこと考えるのは気が早いかしら。焦りすぎ?」
律子「んー……私にも、そういった経験がないからなんとも言えませんけど……いいんじゃないですか?」
律子「恋に時間は関係ない! って、あなた自身があれだけ叫んでたんですし」
小鳥「……」
律子「……ま、頑張ってください! 私達はみんな、あなた達のこと応援していますから!」
小鳥「……えへへ。ありがとうございます!」
律子「……それで。肝心のあの人は……」
小鳥「あはは……たぶん、もうそろそろ」
ガチャ
P「おっ、遅れてすみませんっ!!」
小鳥「!」
トコトコ
小鳥「おはようございまーす♪」
P「ああ、おはようございます、音無さ」
小鳥「むむ」
P「……小鳥さん」
小鳥「正解!」
小鳥「プロデューサーさん? 初めてのオーディションだから眠れないなんて、子どもじゃないんですから」
P「ははは……面目ない」
小鳥「はい、今日の書類です」スッ
P「すみません、助かります……おーい、春香!」
春香「は、はーい!」
P「遅れてごめん! あとで埋め合わせはするから……と、とにかく今は、急ぐぞ」
春香「わかりました……って、うわわっ」
どんが
ガシッ
P「っとと……危ない危ない」
春香「えへへ……す、すみません」
P「そ、それじゃあ……行ってきます!」
小鳥「はい♪ ……春香ちゃん、プロデューサーさん!」
春香「え? な、なんですか?」
小鳥「ガンバ!」グッ
P・春香「……」
P・春香「はいっ!」グッ
タッタッタ
律子「……」
小鳥「……律子さん?」
律子「……なんというか、今となってみても意外です」
小鳥「え? なんのこと?」
律子「小鳥さんのことだから、事務所でもところ構わずベタベタするものかと」
小鳥「し、失礼ね。そんなに分別が付かないほど、子どもじゃありません!」
小鳥「それに……ベタベタなら、家で……」ゴニョゴニョ
律子「あーはいはい。ごちそうさまでした」
小鳥「まだ何も言ってないのに!? うぅ……律子さん、最近冷たい」
律子「そ、そんなつもりはないんですけど」
小鳥「……えへへ、幸せの代償ってやつですかね♪」
律子「……ったく」
律子「って、あら?」
小鳥「どうしたんですか? ……って、これは」
律子「……」
小鳥「……」
律子「……小鳥さん、お願いします」
小鳥「わっかりました! まかせておいてください♪」
【オーディション会場】
P「……」
小鳥「はい、どうぞ♪」ポン
P「すみません……本当に」
春香「なんと言ってお詫びしたらいいか……」
P・春香「「まさか、衣装を忘れるなんて……」」
小鳥「いいんですよ。ふふっ、間に合ってよかったです」
P「……とにかく、春香は着替えておいで」
春香「は、はいっ!」タタッ
P「……俺、本当にダメダメですね」
小鳥「大丈夫ですよ。こんなときのために、頼れる事務員さんがいるんですから!」
P「……」
小鳥「……こんなこと、言っちゃいけないかもですけど」
P「え?」
小鳥「あなたがこうやってミスをすると、私は……少し嬉しいです」
P「な、なんでですか?」
小鳥「だって、こういうときでもないと……主導権を握れませんから」
P「……えーっと」
小鳥「うぅ……な、なんでもないですっ!」
P「……」
ギュッ
小鳥「……――! えへへ……♪」
春香「おまたせしまし――」
春香「……って」
P「……あの、小鳥さん」
小鳥「なんですか?」
P「良かったら今日……あの、どこかに出かけませんか」
小鳥「! ほ、ほんとですか……?」
P「はい。春香のオーディションが終わってからだから、夜になるかもしれませんけど」
小鳥「……それでも、いいです。あなたから誘ってくれるなんて……嬉しい」
春香(天海春香です)
春香(いま、手を繋いでデートの約束をしているふたりを、物陰から見守っています)
春香(……ここ、オーディション会場なんだけどな。他にもたくさん、人がいるんだけどな)
P「それじゃあ、前に言ってたあの店とか」
小鳥「いいですね♪ 楽しみにしていま」
春香「……」ジー
P「……」
小鳥「……」
バッ
P「や、やあ春香。準備は出来たか?」
春香「ばっちりでーす」ムスッ
小鳥「が、頑張ってね」
春香「はーい。行ってきまーす」トテテ
P「……」
小鳥「……ふふっ」
P「あはは……はぁ」
小鳥「恥ずかしいところ、見られちゃいましたね♪」
P「まったくです。公私混同もいいところだ」
小鳥「しっかり頼むよ、君ィ!」
P「はい……」
小鳥「でも、まぁ……こういうのも、私達らしい、かも」
P「……なんだか、小鳥さん、前より余裕が出てきた気がします」
小鳥「え、そうですか?」
P「ええ……付き合う前はあんなに」
小鳥「も、もう! あのときのことは、もう言わないでください……」
小鳥「……でも、もしそれが本当なら」
小鳥「それは、あなたのおかげですよ」
P「え?」
小鳥「女の子は、恋することで、いくらでも進化できるんです」
P「……!」
小鳥「だから、あなたのおかげ。……私、もっともっと、良い女になります」
小鳥「私のことを好きだといってくれるなら、いくらでも頑張れちゃいますから!」
P「……」
P(そう言って微笑んでくれた、小鳥さんの表情は……)
P(俺のこれまでのオタク人生で見てきた、すべてのアイドル達の笑顔が霞んでしまうほどに)
P(可愛らしく、美しかった)
P「……俺、もっと頑張ります」
小鳥「どうしたんですか、急に……」
P「……今はダメダメなプロデューサーだけど」
P「努力して、いつか、トップアイドルを幾人も育て上げるような、立派なプロデューサーになって……」
P「きっと……いや、絶対に、あなたにふさわしい男になってみせます」
小鳥「……ふふ、そんなの、もう実現してるのに」
P「いいえ、まだダメです。そして……」
小鳥「そして?」
P「……ここから先は、まだ内緒です」
小鳥「えぇ!? ず、ずるいですっ! ここまで言ったのに!」
P(――そして)
P(いつか、こう言ってやるんだ)
『俺に、あなたの人生をプロデュースさせてください!』
P(今度は嘘でも、勘違いでもなく……)
P(本当の、気持ちで)
おわり
オチがうまく思いつかなかった でもそんなことよりピヨコ可愛いよねふとももスリスリしたい
ぴよちゃんがかわいすぎた
案外こういう真面目なピヨスレないから貴重
Entry ⇒ 2012.11.02 | Category ⇒ アイマスSS | Comments (0) | Trackbacks (0)
竜「なにをしに、ココにきた?」村娘「食べられに」
村娘「あの……なにかお手伝いできることは──」
村人A「ふん、魔女の娘に手伝ってもらうようなことはねぇよ!」
村人B「けがらわしい……」
村娘「は、はい……」
村人A「図々しい女だ!」
村人B「あっち行けよ」シッシッ
村娘「……すみません」スタスタ
村人A「バアさん」
婆「あの女の母親は魔女だったんだからね」
婆「絶対に気を許しちゃいけないよ」
村人A「もちろんだ!」
村人B「もっとも……例外はいるけどね」
婆「あの青年と、浮浪児かい」
婆「まったく、困ったもんだよ」
村娘「ふぅ……」
少年「お姉ちゃん、またいじめられたのかい」
少年「もう出てった方がいいんじゃないの、この村から」
少年「ここにいても、ろくなことないじゃん」
村娘「うん……ありがとねボウヤ」
村娘「でも、ここを出ても行くアテはないし……」
村娘「あ、青年さん!」
青年「……さっきも村の人たちに、なにかいわれてたみたいだね」
村娘「うん……でも、仕方ないわ」
村娘「お母さん、魔女だったんだし……」
青年「ちがう!」
青年「君のお母さんは魔女なんかじゃないよ!」
青年「そして、この国では禁じられている“一般人の魔法使用”を犯してしまった……」
青年「だけどそれは世を惑わすためではなく、病気の君を助けるためだ!」
青年「もし君のお母さんが法に触れることを恐れていたら、今頃君はここにはいない」
青年「君のお母さんは……命を賭けて君を助けたんだ」
青年「断じて魔女なんかじゃない!」
村娘「うん、ありがとう……」グスッ
少年「へへへ、なかなかいいこというじゃん」
青年「村人たちの君への態度は、日に日に厳しくなっている」
青年「俺がずっとついていればいいんだが……時々かばいきれなくなって、ごめん」
村娘「ううん、いいの……ありがとう」
少年「お兄ちゃんは優しいなぁ」
青年「……それと、心配事がもう一つ」
青年「君も知っているだろう? 近くの山に住む、竜のことを……」
村娘(竜……!)
青年「この村からも3人犠牲者が出てる」
青年「しかも、みんな若い女性だ」
青年「それを考えると、君なんかはうってつけの獲物だ」
青年「ヤツが山を下りてきたという記録はないが、もし下りてきたら──」
村娘「…………」ゴクッ
村娘(私が狙われる可能性が、高い……)
青年「ん?」
少年「なんなのさ、竜って」
少年「ボクにも教えてよ」
青年「君もこの村に住むのなら、知っていた方がいいね」
青年「竜ってのは、数ある魔物の中でも鬼や悪魔と並び称される存在だ」
青年「屈強な牙や鱗を持ち、吐く息は岩をも溶かす」
青年「知能は人間と同等、悪知恵が働き、人に化けることすらあるという」
青年「さらに力は強いわ、空は飛ぶわ、寿命は長いわで、非の打ちどころがない」
青年「優れた戦士なら竜も倒せるとはいうけどね」
青年「あの竜がいつからあの山にいるかは知らないけど」
青年「竜が人を襲うようになったのは、ここ数年のことなんだ」
青年「それに……さっきの村娘ちゃんじゃないけど、ここを出ても行く場所がなきゃね」
青年「決して陽気な場所ではないけど、慣れ親しんだところでもあるしさ」
青年「人はなかなか住む場所を変えられないものなのさ」
少年「ふうん」
村娘「私は大丈夫」
青年「村娘ちゃん」ガシッ
村娘「えっ」ドキッ
青年「俺はいつだって君をみ──!」
青年「い、いや……なんでもない……」
少年「君を見守っているから、かな? いやいや、魅力に感じている、かも!」クスッ
青年「コ、コラ、茶化すなよ」カァ…
村娘&青年&少年「アッハッハッハッハ……!」
婆「けがらわしいから、近寄るんじゃないよ! あたしにも呪いをかける気かい!?」
村娘「す、すみません……」
村人A「失せろ、ジャマだ!」ドンッ
村娘「ごめんなさい! すぐにどきます!」
村人B「魔女の娘が……!」ボソッ
村娘「向こうに行きます……」
青年「村娘ちゃん、大丈夫だ!」
青年「そうだ、俺と一緒にダンスでも踊ろうよ!」
少年「あっ、ボクとも踊ってよ!」
村娘「ありがとう……二人とも」
青年「君に涙は似合わないよ。さ、踊ろう!」スッ
村娘「うん……!」
婆(ちぃっ、また余計なことを……!)
婆「ちょっとアンタ」
青年「なんでしょう……?」
婆「アンタは村一番優秀で、将来はこの村を背負って立つ人材なんだ」
婆「なのに、なんであんな魔女の娘に関わってるんだい」
婆「あんなのと関わったら、アンタまでおかしくなっちまうよ」
村人A「そうだそうだ!」
村人B「悪いことはいわない……関わるのはやめとけ」
青年「…………」
婆「!」ビクッ
青年「彼女の母親はただの子供想いの母親でっ!」
青年「彼女は普通の人間なんだっ!」
青年「俺はいつだって彼女のことをみ──……」ハッ
村人A「彼女のことを、なんだぁ!?」
青年「…………」
村人A「いってみろよ、オイ!」
青年「…………」
村人A「……ちっ!」
村人B「あ~あ……やれやれ、そういうことか……」フゥ…
青年「とにかく、俺は彼女を見捨てることはしないよ! 絶対に!」ダッ
婆「ちょっと、お待ち!」
婆「……行っちまったか」
婆「ちっ、バカな奴だよ、まったく」
村人A「やれやれ困ったことになったなぁ、バアさん」
村人B「まさか彼をたぶらかすなんてね、やはり魔女の血を引いているよ」
婆「まったくどうしてくれようか、あの魔女の娘……!」
村娘「青年さん、もう私に関わらない方が……」
青年「なにをいってるんだ!」
青年「俺のことなら気にしなくていい!」
青年「君は自分が幸せになることだけを考えればいいんだ!」
村娘「うん……ごめんなさい……ありがとう……」グスッ
青年「さて今日は俺も暇だし、ボウヤと三人で何かして遊ぼうか」
少年「賛成!」
村娘「うん……!」
婆「今日の議題は、あの魔女の娘についてだよ」
婆「奴の母親のせいで、この村は王からの助成金を打ち切られちまった」
婆「そろそろなんとかしないといけないねえ」
青年「…………」
村人A「こっちから誠意を見せないといけねえな」
村人B「そうだね。この村全体としての総意としてね」
婆「だから……いっそ始末するってえのはどうかねえ?」
青年「!?」
村人A「そりゃあ名案だ」
村人B「娘の死体を差し出せば、王もきっと許して下さるよ」
青年「ちょっと待ってくれ!」
青年「そんなこと、許せるものか! 彼女をなんだと思ってるんだ!」
青年「いくら村のためとはいえ──!」
婆「あの娘の母親のせいで、この村がさびれたのは事実なんだよ!」
婆「それにアンタの目を覚まさせるいい機会さ」
婆「アンタにゃ、あんな女にたぶらかされず、しっかり勉学に励んでもらって」
婆「村を出て──この村に巨万の富をもたらしてもらわなきゃならんのだからねぇ」
青年「ふ、ふざけるな!」
村人A「ま、お前がいくら反対しようと俺らはやるぜ」
村人B「多数決多数決、これも村のためさ」
青年「…………!」
婆「ん、ガキ! どっから入ってきたんだい!?」
村人A「てめぇみたいな子供が来るところじゃねえ、とっとと出てけ!」
少年「どうせならさぁ……」
少年「山に住んでる竜に殺させればいいんじゃない?」
少年「直接手を下すのは後味悪いし、わざわざ手を汚すこともないでしょ?」
青年「君はなんてことをいうんだ!」
婆「ほぉう、悪くないね」ニヤッ
婆「クソガキのくせになかなかいいこというじゃないか」
婆「もちろん人間だよ」
婆「れっきとした、ね」
村人B「自分たちの生活のため、必要な犠牲を出す」
村人B「実に人間らしい行為じゃないか」
青年「そんな……!」
婆「そうさ、それが人間ってもんさ」
婆「そして人間じゃない魔女はどうされても文句はいえないのさ」
婆「決まりだね」
婆「竜のいる山にあの娘を送るのは、一週間後にしよう」
青年「見損なったぞ!」
少年「え、どうして?」
青年「君は村娘ちゃんの世話になってるのに、なんであんなこと──!」
少年「世話になってるからこそ、さ」
少年「ボクだって、あれ以上お姉ちゃんの不幸なところを見たくないんだよ……」
少年「ましてや村の人たちに袋叩きにされてるところなんか……」
青年「くっ……!」
バンッ!
青年「逃げよう!」
村娘「え?」
青年「たった今、集会で君を竜の餌食にすることが決定した!」
青年「このままでは、君は竜に殺されてしまう!」
青年「あいつらのいない、安全なところまで俺が送ろう」
青年「さ、早く!」
村娘「…………」
青年「!?」
村娘「私のお母さんが魔法を使って私の病気を治したおかげで」
村娘「この村が王様から罰を受け、助成金を得られなくなったのは事実です」
村娘「ですから今度は私が一人で……その罰を受け入れます」
青年「だけど……!」
村娘「もういいんです……ありがとう……」ニコッ
青年(村娘ちゃんは自分の過酷な運命に疲れきってしまっている!)
青年(なんとか説得しないと……!)
青年「!」
婆「あの竜は若い女を食う」
婆「ただし食うといっても、全部食うわけじゃない」
婆「一部だけ食って、あとはほとんど残してる。でかい図体して贅沢なもんさ」
婆「もっとも残った部分は弄んだのか、グッチャグッチャになってるがね」
青年「おバアさん……!」
婆「グッチャグッチャのお前の死体を王に見せれば」
婆「きっとまた村は潤うはずさ」
婆「ひぃっひっひっひっひ!!!」
村娘「分かりました……私の命、この村のために捧げます」
婆「一応逃げられないよう見張りは立てるが、逃げようとしたら承知しないよ」ジロ…
村娘「……もちろんです!」
青年(あの竜に村娘ちゃんを殺させるなど! 絶対許せない!)
青年(そんなことさせるもんか!)
青年(かといって俺じゃ、竜にはとてもかなわない……)
青年(村娘ちゃんと一緒に殺されるのがオチだ)
青年(優れた戦士でなきゃ、竜は倒せない……!)
青年「そういえば、“竜殺し”の剣士が今この国にいるというウワサを聞いたな」
青年「もし連絡が取れれば──……」
婆「じゃあアンタたち、頼んだよ」
村人A「竜の巣の近くに、こいつを置いてくりゃいいんだよな?」
村人B「夕方になったら死体を取りに来よう」
村人A「もしその時生きてたら、俺たちがぶっ殺してやるからな!」
村人A「手をわずらわせるんじゃねえぞ!」
村娘「は、はい……」
少年「行ってらっしゃい……お姉ちゃん」
青年「…………」
村人A「これでようやく村の疫病神を始末できるな」
村人B「ホントだよ、もっと早くこうしとけばよかったんだ」
村人A「しっかし俺たちまで山に入って大丈夫か?」
村人B「竜が若い男を殺した、という事例はない。大丈夫さ」
村娘「…………」
村人A「オラ、ちゃっちゃと歩け!」ドンッ
村娘「は、はいっ!」ヨロッ
村人A「よし、じゃあこっからはお前一人で行け」
村人A「せいぜいむごたらしく殺されることを期待しとくぜ」
村人A「あばよ」ザッ
村人B「もう会うこともないだろうさ」ザッ
ハッハッハッハッハ……!
村娘「…………」
村娘「……さてと、あとは竜に会うだけね」
村娘「!?」ビクッ
村娘(これが竜の声……? なんて大きい唸り声なの……!?)
村娘(怖い……)
村娘(でも……もっと近づかなくちゃ!)
村娘(あれ以上村にいたら、青年さんに迷惑をかけてしまうし)
村娘(村を出て、生きていくアテもない……)
村娘(やっと……楽になれるんだわ)
村娘(お母さん……助けてくれたのに、本当にごめんなさい……)
村娘「どんどん声が大きくなってきた」
村娘「こっちの方にいるのね」
村娘「!」
グルルルル……
村娘「これが……竜!」
竜「ホウ、こんなトコロにニンゲンがくるとはな」
村娘(鋭い牙、硬そうなウロコ……青年さんのいったとおりだわ!)
村娘「食べられに」
竜「たべられに、だと……?」
竜「ハッハッハッハッハ……!」
竜「かわったニンゲンがいたもんだ。イノチがいらないのか?」
村娘「私にはもう……こうするしかないんです」
村娘「もうこの国に、私が生きられる場所なんてない」
村娘「できれば……一瞬で楽にして下さい」
村娘「私にはもう、こうするしかないんです!」ポロポロ…
村娘「え?」
竜「だって、アレだけ優しくしてもらったんだしナ」
村娘「優しく……?」
竜「まだわからないかい。ってわかるワケがないか、ハハ」
竜「ボクだよ、ボク」
村娘「…………」ハッ
村娘「まさか、あなた──」
青年「お待ちしておりました」
剣士「うむ」
青年(なんて巨大な剣だ……!)
青年(人間なんか一振りで胴体ごとちぎれ飛んでしまいそうだ)
青年(もっともこのくらいの剣でなきゃ、竜には通じないんだろう)
青年「その剣で、数々の戦乱を生き延び、“竜殺し”の異名を勝ち取られたのですね?」
剣士「うむ、これは私にしか扱えまい」
青年「その腕を見込んで、ぜひドラゴン退治をお願いします!」
剣士「任せておけ」
青年(村娘ちゃん、必ず助けるからね……!)
竜「今まで、ダマっててごめんね」
村娘「あなた……あのボウヤなの!?」
村娘「でも、どうして……!?」
竜「村のヒトたちはオネエちゃんをコロそうとしてた」
竜「だから竜にくわせてやれってアドバイスしたのはボクなんだよ」
竜「ボク、どうしてもオネエちゃんを助けたかったから」
村娘「そうだったの……」
竜「竜はヒトに化けることもできるんだって」
村娘「でも、どうしてあんな子供に……?」
竜「いや好き好んでコドモに化けたワケじゃない」
竜「好きな姿に化けられるワケじゃなく、ボク自身の年齢や性別がハンエイされるから」
竜「ボクはこれでも100年は生きてるケド」
竜「竜としてはまだまだコドモだってことさ」
竜「な、なにがおかしいんだよ!」
村娘「だって、こんな大きい竜が、人間になるとあんなに可愛い子供だなんて……」
竜「ウウウ……」
竜「ホントウにたべちゃうぞ!」
村娘「いいわよ、元々そのつもりだったし」
竜「……たべるワケないだろ」
竜「もしたべるつもりなら、ニンゲンの姿でユダンさせてとっくにたべてるよ」
村娘「ふふっ、ありがとね」
村娘「いったいどうして、アナタは人間に化けていたの?」
村娘「それに……どうして女の人を何人も殺したりしたの?」
村娘「私をこうして助けてくれたのに、どうして……!」
竜「…………」
竜「それは──」
青年「どことなく足取りが慣れた感じですが……」
青年「もしかして……この山は初めてではないんですか?」
剣士「まぁな」
剣士「だからこの山の竜のことも知らぬわけではない」
青年「なるほど……」
青年「とにかく急ぎましょう。村娘ちゃんが食べられてしまいます!」
剣士「……うむ」
竜「そうさ、竜ってのはコレでもあまりたべなくてイイからね」
竜「草や木、土を食べるだけでジュウブン生きていけるんだよ」
竜「ヒトをコロすどころか、この山でケガした子を助けたこともあるくらいさ」
竜「へへへ、ボクやさしいだろ?」
村娘「そうだったの……ごめんなさい!」
竜「でもここ数年、村の女のヒトが次々山でコロされて」
竜「しかもそれが全部ボクのせいになってるっていうじゃないか」
竜「だから……真犯人を見つけるために、ヒトに化けたんだよ」
村娘「……犯人は分かったの?」
竜「ううん、結局ワカらなかった」
青年「そこまでだ! 殺人ドラゴンめ!」
剣士「……よし、お前さんはあの娘を連れて逃げろ」
剣士「あとは俺が引き受ける」
青年「分かりました!」ダッ
青年「村娘ちゃん、こっちへ!」グイッ
村娘「あっ、でも!」
竜「アンタは、ダレだ!?」
剣士「ふん……この剣のサビになる輩に、名乗る意味はないな」チャキッ
村娘「ねぇ、待って!」
青年「大丈夫、もう大丈夫だよ!」
村娘「あの竜は──」
青年「大丈夫、あの剣士がすぐに退治してくれるさ」
青年「彼は“竜殺し”と恐れられる剣の使い手なんだ」
青年「彼がいうには、唸り声からしてここの竜はまだ子供だっていってたし」
青年「絶対倒せるよ!」
村娘「そ、そんな……ダメよ!」
村娘「あの竜の正体は──ボウヤなのよ!」
青年「なんだって!?」
村娘「だけど、ボウヤは人を殺してなんかいないの!」
村娘「真犯人を見つけるために、人に化けてたの!」
青年「なっ……」
青年「そんなのウソに決まってるだろう!」
青年「品定めのために、人に化けていたに決まってる!」
村娘「違う! だってもしそうなら、私はとっくに殺されていたわ!」
村娘「だから一緒に戻って、あの剣士さんを止めて!」
青年「…………」
青年「分かったよ」ザッ
青年「君を説得できないってことが、よく分かった」
村娘「え?」
青年「もうちょっと君とは親しくなりたかったけど、仕方ない」
青年「今が一番のチャンスかもしれないし」
村娘「チャンス……?」
青年「俺はずっと君を──み」
青年「み……み……み」
青年「み、み……み、み、み……み……み、み……」
村娘「!?」
青年「み……ミ、み、ミミ、ミ……ミミミミ……」
青年「ミンチにしたかったんだァァァァァッ!!!」
村娘「今までこの辺りの若い女性が殺された事件は……みんなあなたが……」ガタガタ
青年「そうさ」ニコッ
青年「ある時、俺はちょっとしたイザコザで、ある女性を殺してしまった」
青年「いくら俺が村の期待を背負う秀才といっても、さすがに殺しはヤバイ」
青年「だから女の死体をグッチャグッチャにして、村人に発見させた」
青年「俺が“きっと竜の仕業だ”とつぶやいたら、奴らは簡単に信じたよ」
青年「そして事件を間接的にしか知らない君のような人間の間でも」
青年「竜が若い女を殺した、というのは周知の事実になった」
青年「──と同時に、俺も新しい快感に目覚めてしまった」ニィ…
青年「ちょうど君くらいの年齢の女を、グチャグチャのミンチにするという快感にね」
青年「よその村の女をターゲットにした時も同じ手を使ったら」
青年「奴ら簡単に誘導に引っかかって、竜の仕業だと疑わなかった」
青年「ま、同じ人間があんな殺し方をするなんて思いたくもなかったんだろうね」
青年「だから……魔女の娘といわれる君とも仲良くやっていたんだよ」
青年「仲間外れになってる奴ほど、優しくすれば簡単に心を開くからね」
青年「だけど村の連中が、君を殺すなんていい始めた時は焦ったよ」
青年「しかも竜に襲わせるなんて……もったいないにも程がある」
青年「もっともあの竜は、君を助けたかったようだけどね」
青年「でもまあ、竜は剣士に退治されるだろうし、君もこれから俺の餌食になる」
青年「めでたしめでたし、ってわけさ」ズイッ
村娘「ひっ……!」
タッタッタ……
青年「無駄だよ、君はこの山に入ったことなんてほとんどないだろう?」
青年「だけど俺にとっちゃ、この山は庭みたいなもんさ」
青年「なんたって今までの殺しは、全てこの山で実行してきたんだからね」
青年「逃げられやしないよ」
村娘(なんとかしてあのボウヤのところに戻らなきゃ……)
村娘(私も……あのボウヤも……! 助かってみせる!)
村娘(でも、だいぶ離れてしまったから場所が……!)
竜「ウ……グ……ッ!」ドズゥン…
剣士「あっけない……いかに竜といえど、子供では相手にならんな」
剣士「終わりだ」
竜(強い……! とてもボクじゃ太刀打ちできない……!)
剣士「眠れ」チャキッ
竜(もう……戦えナイ……)
竜(せめて……)
竜(せめて、ヒトに化けたボクに優しかったオネエちゃんたちに最期のアイサツを……!)
竜(サヨウナラ……)
グオオォォォォォォン……!
青年「!?」
村娘「あっちね!」
青年「ちぃっ! あのガキ、余計なマネしやがって!」
村娘「──お願い、無事でいて!」ダッ
青年「逃がすかよぉっ!」ガシッ
村娘「ああっ!」
青年「細い首だねぇ~、実にキュートだ」ギュウッ
青年「絞め殺してから、ゆっくりミンチにしてやるからね……!」ギュゥゥ…
村娘「あ……あ、あ……!」
村娘(お、お母さん……)
母『最後に、一番簡単な呪文だけ教えといてあげる』
母『だけど、この国では国が認めた人以外が魔法を使うのは厳禁だから』
母『どうしてもという時以外、使っちゃいけないよ』
母『本当はこんなことより、教えたいことが山ほどあったんだけどね……』
村娘「う、ぐぐ、ぐ……!」ジタバタ
青年「ハハハ……暴れたって無駄だよ。もう大声は出せない。終わりだ!」
村娘(呪文は……必ずしも大声を出す必要はない!)
村娘「…………」ボソッ
青年「ん?」
ドンッ!
青年「ぐ、は……!」
青年(なんだ今のは……衝撃波!? なにかボソッとささやいたのは、呪文か!)
村娘(お母さん、ありがとう……!)ダッ
青年「げほっ、げほっ……くっ!」
青年「ふん、やっぱり魔女の娘は魔女だったってわけだ」
青年「…………」ブチッ
青年「逃がすかっ!」
青年「二度と呪文なんか唱えられないよう、今度はそのノドを潰してやるっ!」ダッ
村娘(──いた! まだ、ボウヤも生きてる!)ハァハァ
村娘(あとはなんとか話し合──)
青年「おっとぉっ!」ガシッ
ドザァッ!
村娘(口を、塞がれた……!)
竜「オネエ、ちゃん……?」
剣士「む!?」
剣士「お前さんたちは逃げたはずだが、どうして戻って来たのだ?」
青年「私は食べられるために竜のところに戻る、と──」
青年「竜は賢い生き物です」
青年「おそらく村娘ちゃんは、竜に暗示でもかけられているのでしょう」
青年「さあ早く、竜にトドメを!」
竜(ボクはそんなことしていナイ……)
竜(だったらオニイちゃんは、なんでこんなウソをつくんだ……?)ハッ
竜(──そうか、今まで女のヒトをコロしてきたのはこのヒトか!)
竜「チガウ! ボクはやってない!」
竜「今までに女のヒトをコロしたのも、みんなオマエだな!」
青年「人を濡れ衣を着せようとは、やはり悪知恵が回るもんだな」
青年「さあ早くトドメを!」
青年「この人食い竜め!」
竜「ボクじゃない!」
剣士「…………」
剣士「竜は鬼や悪魔と並ぶ、最上位の魔物……狩れば俺の名も上がる」
青年「そのとおり!」
剣士「さてと最上位の魔物を一匹……狩らせてもらおうか」ザッ
竜「ウゥッ……!」
ドゴッ!
青年「ゲボォッ! ──え、なんで……!?」グラッ…
ドサァッ……
剣士「土壇場になると、目というのは口以上に真実を語る」
剣士「目を見れば、ウソかどうかすぐに分かるということだ」
剣士「……この殺人鬼が」
剣士「もう大丈夫だ、ゆっくり呼吸しろ」
少年「お姉ちゃん!」
村娘「あ、ありがとうございました……」
村娘「でもお願いがあります……ボウヤを、竜を殺さないで……!」
剣士「安心しろ。ハナから殺すつもりはない」
少年「え!?」
剣士「もちろん、本当に殺人竜だったら狩らなきゃならんところだが──」
剣士「俺にはこの竜が人を殺すとはどうしても思えなかった」
剣士「だから元々気絶くらいにとどめ、お茶を濁すつもりでいた」
剣士「ああ、お前さんは覚えてないだろうが──」
剣士「ガキの頃、山に迷い込んで……足をくじいた俺を助けてくれただろ」
少年「…………」
少年「あっ、あの時の!?」
少年(どことなく面影がある……!)
剣士「そうだ」
剣士「だから、今回の件もなにかの間違いじゃないかって思ってた」
剣士「そして、さっきのやり取りで全てを確信したってわけだ」
剣士「大丈夫だ」
剣士「ああいう奴は、絶対に殺しのたびに“コレクション”をしてるもんだ」
剣士「奴の家をちょいと調べれば、証拠の一つや二つあっさり出てくるだろう」
村娘「なるほど……」
剣士「ところでお前さん、魔法を使ったな?」
村娘「!」ギクッ
剣士「弱々しいが魔力の波動を感じる」
剣士「この国では一般人は魔力を持ってるだけで、差別の対象になる」
剣士「まして、魔法の研究や使用は厳禁のはずだ」
村娘「そ、それは──」
剣士「だが王宮の魔術師は、国内のどんな小さな魔力の波動でも嗅ぎつけると聞く」
剣士「もうこの村……いやこの国を出た方がいい」
剣士「その竜ともどもな」
剣士「一匹だけで暮らしてる子供の竜なんぞ」
剣士「名を上げたい戦士にとっては絶好の標的だからな」
剣士「次俺のような奴がやって来たら、まず命はないだろう」
村娘「でも……他に行くところなんて……」
少年「そうだよ、どうしようもないよ」
剣士「安心しろ」
剣士「俺は世界中を旅して──」
剣士「魔法を使う人間に偏見がなく、人と竜が共存してる国を知ってる」
剣士「連れていってやろう」
剣士「こう見えて金はあるし、お前たちが自立するまで世話してやることもできる」
村娘「そんな国があるなんて……!」
少年&村娘「やった、やったぁ!」
剣士「…………」
剣士「ところでお前の母は、父親について何かいっていたか?」
村娘「父、ですか?」
村娘「父といっても正式に結婚はしてなかったそうですが」
村娘「母がお腹に私を宿していると知る前──」
村娘「魔力を持つ母でも平和に暮らせる新天地を探しに行ったそうです」
村娘「ですが、旅先で大きな戦いに巻き込まれ、戦死したと聞いています……」
村娘「武骨だけど、とても優しい人だったと……」
村娘「これが……なにか?」
剣士「……いや、単なる好奇心だ。無粋な質問をしてすまなかったな」
村娘「はい」
少年「ボクは荷物なんかいらないしね」
剣士「あの青年の家から、若い娘たちの“一部(コレクション)”が見つかり……」
剣士「青年は兵隊に連行された」
剣士「村の希望が殺人鬼と判明し、村人もだいぶ混乱しているようだ」
剣士「最後に、恨みごとの一つでもいってやるか?」
村娘「……いえ、このまま黙って去らせてもらいます」
剣士「そうか」
剣士「ずっと昔から、こうやってきたわけなんだからな」
剣士「だが、お前さんたちはここから抜け出すチャンスができた」
剣士「だったら、思いきり幸せになってやれ! 俺も出来る限り協力してやる!」
村娘「はいっ!」
少年「うんっ!」
剣士「ふっ……いい返事だ、二人とも」
<おわり>
よかったよかった
Entry ⇒ 2012.11.02 | Category ⇒ その他 | Comments (0) | Trackbacks (0)
みゆき「も、モテモテすぎて……ウルトラハッピー?」
狼「ウールルルー、俺様ウルフル~ン♪……あぁん?なんだこりゃ、飲み物かぁ?」
鬼「オニ。ウルフルン、触らないほうが良いと思うオニ。さっきマジョリーナが『大発明完成だわさー!』って言ってたオニー」
狼「おうアカオーニ……はぁ?んなもんを、何度もあのババァの発明品を捨てちまってるお前の真ん前においてどっかいったのかよあいつ。いよいよもってボケてきたか?」
鬼「お前さんの方こそ何度か投げ捨ててるオニ!俺様のせいだけにするなオニー!」
狼「うるっせ赤ら面。んで、これはなんてんだ?またどーせ、しょーもない名前なんだろ」
鬼「うーん、確か……モテモテニナール、とか言ってたオニ」
狼「……モテモテだぁ?」
狼「あぁ……ババァが熱をあげてる人間な。それに使うわけか……」
鬼「オニ」
狼「……おうアカオーニ。むかーし、あのババァが若かった頃のこたぁ覚えてるよなぁ?」
鬼「忘れようとも忘れられんオニ。雄どもは跪いて文句も言えん散々な有様だったオニー……」
狼「未だに俺様ともあろうものがあの姿になられるとブルッちまうしな……もしもだ、こんなもんをあのババァがその、人間に使えば」
鬼「……バッドエナジーの手軽な供給源が得られて、あの姿を維持できちまうかもしれない、オニ?」
狼「……」
鬼「……」
狼「おーっとしまったぁー!俺様のフッサフサでモッフモフの尻尾がアカオーニの鼻をくすぐっちまったぜぇー!」
鬼「お、おにーこれはいかんオニーぶえっくしょおおおおおい!!!!」
ヒューーーッ
狼「……やったな」
鬼「バッドエンド王国の秩序は守られたオニ」
魔女「なーーーーにやってんだわさぁーーーーーーーーーー!!!!」
キャンディ「クルっクルぅ。みゆき、ご機嫌さんクルぅ!」
みゆき「えっへへ、だってだってぇ!ニコちゃんっていう新しいお友達もできたんだもーん!」
キャンディ「クルぅ、キャンディよくわかんないクルぅ」
みゆき「詳しくは劇場で……あれ?」
キラッ
キャンディ「どうしたクル?……ありなぁに?クルぅ」
みゆき「なんだろ、茂みの中に何か落ちてるね。えっと……あ、これ、お母さんが使うの見たことある!香水だよ、キャンディ!」
キャンディ「こうすい、クルー?」
キャンディ「?それで、何をするクル?そんな目立つ匂いなんて立ち上らせても捕食者から身を守る術にはならないとおmキャンディよくわかんないクルー」
みゆき「きゃ、キャンディ?あれ?今何か言った?えーっとね、楽しんだりとかー、ファッション?の一部で着けるんだー、って言ってたよ」
キャンディ「ふぁっしょん……お洒落クル!?キャンディもお洒落したいクルー!そりかしてクルー!」
みゆき「わ、わわっ、キャンディわかった、分かったから暴れないで、って……!」
プシュッ!!プシュゥゥッ!
みゆき「あわわっ!?は、はっぷっぷーー!!」
みゆき「あっ、も、もーぉキャンディ。私のお顔にこんなに……あれ?でもあんまり匂いしないね」
キャンディ「……クンクン」
みゆき「うーん?あ、キャンディの人より良い鼻なら何か匂う?」
キャンディ「……とーっても、良い匂い、クルぅ」
みゆき「ほんとー?うーん、自分じゃちょっとわっかんないかな……それじゃ、キャンディにも……れ?」
キャンディ「みゆきーぃ、だーいすきクルぅ」ギューーーッ
みゆき「えっへへ、キャンディいきなりどうしたの?私の胸に飛びついてあまえんぼさんだね!」
キャンディ「クルぅ……」
キャンディ「やークルー。みゆきにずーっとギューッってしてるクルー」
みゆき「あ、あっはは。嬉しいけどね?ほら、後で、後でしてあげるからっ!」
キャンディ「クルぅ……」ギューッ
みゆき「……うーん、なんでこうなっちゃったのか、分からない、けど」
みゆき「キャンディも、まだまだ子供なんだもんね。よっし!いいよ、そのままで行っちゃおう!でもなるべく、喋らないでね?」
キャンディ「クル、みゆきぃ。いいクル?」
みゆき「うん!きっと今更私が、ぬいぐるみを抱いてたところでみんなそんなに驚かないから、うん」
みゆき「うーん、なんで今日はれいかちゃん、朝の挨拶運動してなかったんだろー」
みゆき「倉田くんと寺田さんはいたけど……な、なんだか目があったのに二人とも固まっちゃったんだよね」
みゆき「……や、やっぱりぬいぐるみを抱いて登校は、ウルトラハッピー過ぎたかなぁ」
キャンディ「クルーぅ」
みゆき「キャンディは甘えたまんまだし……ま、まぁあんまり恥ずかしがらずに、行こうっと!」
ガラガラッ
みゆき「みんな、おはよー!」
みゆき「あっ、岡田さんおはよー!うん?私の顔に何かついてる?」
岡田「あっ、あ、あぁ……いいえ、そうじゃないわ。その、ほ、ほほ星空さんってあの、か、可愛い髪形ねっ!!すっごく、ステキよ!」
みゆき「えへへ、そうかな。お嬢様みたいな岡田さんに言われると嬉しい!」
岡田「さ、触ってもいい、かしら?」
みゆき「?いいよ!あ、でもコロネは崩さないでね」
岡田「え、えぇ……あぁ、揺れる髪から、星空さんの、良い匂い……」クラッ
みゆき「!?お、岡田さん!?岡田さん大丈夫!?」
「星空さん可愛い……」クラッ
「星空ってあんなに美人だったのか……」フラッ
「みゆきちゃんマジ天s……ふぅ」フゥ
みゆき「あ、あれ!?なんだか教室のそこかしこで同じ様子が!?」
金本ひろこ「私!には!!なお!!!なお!!!が!!!いる!!!で!!!しょうが!!!!」ガンッガンッガンッガンッ!!
みゆき「ひ、ひろこちゃーーーん!?!?何があったの!?机に頭を叩きつけて何をしてるのーーーぉ!?!?」
佐々木先生「えー、きょ、今日は日野さん、黄瀬さん、緑川さん、青木さんの四人が風邪でお休みで……」
みゆき「なんだかみんな、ソワソワしてるし……私のほう、チラチラ見てくるよぉ……そ、そんなにキャンディが気になるのかなぁ」
キャンディ「クルぅ」
佐々木「ほ、ほほ、ほ星空さん!?」
みゆき「ふわっ!?あ、は、はい先生!あ、あのこのお人形はその!」
佐々木「仲良しのみんながいなくって寂しいでしょうけど、人肌恋しかったら先生に!先生に言ってね!!」
みゆき「え……?」
井上「先生ずるいぞ!!」ガタッ
岡島「そうだそうだ!俺達だって星空さんと仲良くなりたいっ!」
佐々木「あなたたちは若さがあるじゃない!三十路前のギリギリ女に少しくらいハンデをくれなさい!」
みゆき「あ、あっはは……」
みゆき「な、なんだったんだろう先生。というか、みんな……」
豊島「星空、次、移動教室だぞ」
みゆき「あっ、豊島くーん!よかった、なんだか豊島くんは……」
豊島「ったく、他の四人がいねーから気がぬけてんじゃねーの、おまえ」
みゆき「あ、あっはは、面目ない……」
豊島「そんなんじゃ移動教室まで行けるかわっかんねーし……しかたねーな、ほら」
みゆき「……うん?」
豊島「手、繋いでやるよ。ほら、はy」
井上「いけっ!宗本!!!」
宗本「リア充は潰れろぉおおおおお!!!!」
みゆき「あ。あの、えっと……」
木角「さっ、星空さん。いいえみゆきさん」
岡田「バカな男どもは放っておいて、私たちだけで行きましょ?」
みゆき「あっ、う、うん。いいの、かなぁ」
音楽教師「星空さぁん?さぁ、一曲プリーズ?」
みゆき「あっ、は、はい……」 プピー♪
音楽教師「……ハァイ!みっなさぁーん!?星空さんのすっばらしぃ演奏に拍手ぅー!」
ワーーーーーワーーーー!
パチパチパチパチ!!!
みゆき「あ、あっはは。あり、がとう。音外しちゃったし、その、まだ一息しか吹いてない、けど」
キャンディ「みゆきぃ、上手ぅクルぅ」
みゆき「あ、ありがと。なんだかみんな、私にすっごく……甘い?の、かな」
みゆき「っふぅー、午前中の授業、おーわr」
豊島「星空!一人じゃ退屈だろうから俺がメシ、一緒n」
井上「宗本たのむ!!」
宗本「とぉぉよぉぉぉじぃぃぃまぁあああああ!!」
みゆき「ひぃ!?あ、あの、わ、わたし、えーっと!」
岡田「男子は黙ってなさいよ!」
木角「そうよそうよ!星空さんは私たちとご飯を食べるのよ!」
金本「むしろ食べさせあうのよ!食べあうのよ!!!!」
みゆき「えっ、えぇ!?あの、あのね、私その、一人d」
佐々木「ダメよ!星空さんは私と!」
みゆき「きゃ、キャンディのご飯があるので一人で、一人で食べますごめんなさーーーーい!!」
佐々木「あっ待って星空さん!星空さん!キャンディ!?水彩キャンディならすぐに、まってー!!」
待ってーーー! 待てーー!
星空さーーーん! 星空ーーーーーー!
みゆき「み、みんな怖いよぉはっぷっぷーーーーー!!」
みゆき「うぅ、どうしてこうなっちゃったんだろ……キャンディも放してくれないし」
キャンディ「みーゆきぃ、だーいすきクルぅ」
みゆき「うん、それは嬉しいよ?嬉しいけどね、キャンディ?はぁ……」
キャンディ「みゆきはやさしくてぇ、あったかくってぇ……そりで、そりで……あまーいにおいがするクルぅ」
みゆき「えへへ、そうかな……うん?匂い……匂い……あ、あぁ!まさか、今朝の!?」
みゆき「だとすると……また、あの魔女さんの発明なのかも……うわぁ、またやっちゃったよぉ……あかねちゃんにグリグリされるよぉ」
みゆき「でも今、みんなお休みだし……どうしようかなぁ。誰にも相談、出来ない……」
みゆき「……あっ、そうだ!」
みゆき「ぽpp……は、なんだか面倒なことになりそう。ニコちゃん!ニコちゃんを呼ぼう!」
みゆき「絵本の世界の人たちなら、きっとこのなんだかおかしなことになっているのにも、対処できるよね!」
みゆき「……ニコちゃーーーん!」
絵本 ピカッ!
ニコ「みゆき!私を呼んだの、みゆき!?どうしたの?笑顔が無くなるようなことになってるなら、私が絵本の世界総力を上げて現実世界を……!」
みゆき「ち、ちがうのニコちゃん!あのね、笑顔はあるんだけど、ちょっと困ったことが……」
ニコ「……」
みゆき「……ニコちゃん?あれ?」
ニコ「……みーゆきぃ♪」ギューッ
みゆき「はぷっ!?に、ニコちゃん!?なんでいきなり抱きしめ、え、えぇー!?絵本の世界の人にもこれ効いちゃうのー!?」
キャンディ「クルぅー」
みゆき「……あ、そっか。キャンディだってメルヘンランド……は、はっぷっぷー」
みゆき「な、なに?ニコちゃん」
ニコ「あのねー、わたし、みゆきが……大す――」ボソッ
みゆき「み、耳元で言わないでよぉー!嬉しいけど!嬉しいけどぉー!」
キャンディ「クルっ……みゆきぃ!キャンディもみゆきのこと大好きクルぅ!」ギューッ
みゆき「わ、わかった、分かってるよキャンディ!だから、えっと」
ニコ「むっ、なによこの子豚さん!みゆきは私のだよ!ずっとずっと前から私とみゆきは私と両想いなんだから!」
キャンディ「クルっ!年月なんて関係ないクル!キャンディとみゆきは出会った頃から今までの時間ちみよりも濃密な関係を築いてきたクル!」
みゆき「ふ、ふたりとも落ち着いてぇーーー!わぁーん、どうすればいいのぉーーー!!」
牛魔王「……ニコが突然いなくなったと思ったら。何をしてるんだお前、プリキュア」
みゆき「! 牛魔王さぁーーーん!」
牛魔王「あぁ?……なんだ、お前小娘のくせにその匂いは。似合わねぇし十年早ぇぞ、やめとけやめとけ」
みゆき「わ、わたしだってつけたくてつけたわけじゃないんだよぉ……うーん?ニコちゃんはこんなになっちゃったのに、牛魔王さんはどうして?」
牛魔王「俺を『西遊記』ってぇ話の中の中ボスAくらいにしか思ってんじゃねぇだろうな 、お前」
みゆき「あっ、そっか……牛魔王さんってれっきとした妖仙の類なんだよね!」
牛魔王「意外と話が通じて関心した。そういうことだ、俺様にそんな程度のあやかしの術は効かねぇさ。んで、何がどうなって……」
「ウーーールッフフフフフフ!!そいつぁ俺様たちの仕業ってぇわけよ」
牛魔王「あぁ?なんだ……建物の上に影がありやがる」
狼「ウルーーーッハハハハァ!ババァの言いつけで人間界に回収にきたら、とんだことになってやがるぜぇ!」
狼「これを放っておく手はねぇよなぁ!」
狼「世界よ!最悪の結末!バッドエンドに染まれ!」
狼「白紙の未来を黒く塗りつぶすのだ!!」
ニコ「そうだよね、みゆきがいればいつでも笑顔、笑顔が一番だってわたしはいつでもニコニコのニコだもん」ニコッ
みゆき「ふ、二人とも投げやりにならないで!」
牛魔王「こりゃぁ……瘴気?人間どもから漂ってやがる」
「星空さんが可愛すぎて辛い……」「仲良くなれない……」
「ヒロイン候補のはずがいつの間にか親友Aに……」
狼「ウルヒャーーーッハハハハァ!人間どもの発したバッドエナジーが、悪の皇帝ピエーロ様を……よみがえらせていくのだ!」
牛魔王「……なんだかよぉ、テメェからも随分とその、バッドエナジー?ってのが、溢れてるように見えるんだが、気のせいか」
狼「あぁ!?あったりまえだろうがこの牛野郎が!テメェ、そこの小娘は……」
みゆき「う、ウルフルン、あなたの好きには……」
狼「俺様の獲物なんだよぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」
みゆき「……」
牛魔王「……狼の嗅覚はすげぇらしいな、あぁ」
狼「プリキュアマジ天使!!!!!!」
牛魔王「いや、俺だって頼まれて来ただけなんだようるせぇな」
狼「大体なぁ!テメェ俺様と被りすぎだろうが!あぁーん!?ウルフルンヘアーを真似するたぁいい度胸だなコラァ!」
牛魔王「……ほざけよ狼風情が!!!こちとら16世紀から親玉張ってんだやんのかてめぇ犬っころぉおおお!」
狼「うるっせぇ牛がぁああああああ!!」
牛魔王「魔王がボケがああああああ!!」
みゆき「あ、あぁ、牛魔王さんまでヒートアップしちゃった……どうしよう、どうしよう」
佐々木「星空……さん」
みゆき「えっ……えっ!?せ、先生!?それに、クラスのみんな!どうしてこの空間で動けて……」
みゆき「そこまで詳しく解説したのに!?」
ニコ「みゆき……みゆき。大好きだよ、みゆき……私と、私たちと、一緒にいようよ」
みゆき「に、ニコちゃん!ダメだよ、バッドエナジーなんかに囚われたら、ダメ!」
岡田「星空さん……」木角「みゆきさん……」
豊島「nobody beats me in Hoshizora……」
みゆき「豊島くんは何事!?」
キャンディ「みゆきぃ……キャンディたちじゃ、ダメくるぅ……?」
みゆき「あっ、ち、ちがうの!そういうことじゃ、なくって!あっ、み、みんな、は、放して!みんなに乱暴したくないの!掴まないで!や、やめ……」
佐々木「大丈夫よ、星空さん……ふふっ」
金本「やさしく、してあげるから……」
みゆき「みんな、みんな、目を覚ましてぇえーーーーー!!」
「うちのみゆきに、手ぇださんといてんか」
ニコ「きゃぁ!?」キャンディ「クルっ!?」
みゆき「わ、わぁっ!?ほ、炎が飛んできて、みんなを……あれ、でも熱くない……みんなは驚いて飛びのいただけ?わわっ!」
「こっちや、みーゆき。遅なったな、すまんすまん」
みゆき「あ……あかねちゃん!」
サニー「太陽サンサン、熱血パワゥァ!キュアサニェー!」
サニー「……んで、ポップに叩き起こされてなんやメルヘンランド製の解熱剤飲まされた後ここに駆けつけたんやけど、これどういう状況なん?」
みゆき「やよいちゃん……!」
ピース「ぴかぴかぴかりん☆じゃん、けん、ぽん!キュアピース!」
ピース「プリキュア! ふわぁっ! ピース・サンダーーーーー!!!」
牛魔王「おっと」
狼「あぁん!?なんで他の邪魔キュアどもがいやgあばばばばbbbbbbbb」
「さってと。予告は筋が通ってないし、ね。合体技といこうか」
「そうね。幼馴染の息の合った動き、見せてあげましょ?」
みゆき「なおちゃん……れいかちゃん!」
マーチ「勇気凛々、直球勝負!キュアマーチッッ!」
ビューティ「深々と降り積もる、清き心。キュアビューティ!」
ビューティ「ビューティ・ブリザーーーード!」
狼「はらほろりれ……んなっ、ぐわぁあああああああ!!」
ピース「ま、マーチの打ち出した空気の塊に、ビューティの冷気が上乗せされてまるで雪崩のような勢いで狼さんを吹き飛ばしただってぇー!」
サニー「ごっつ目ぇキラキラさせて解説どうもや。みゆき、平気か?」
みゆき「う、うん。あの、サニー?助かったけど、お姫様抱っこはその……」
マーチ「あっはは、みゆきちゃんほんとにお姫様みたいだ」
ビューティ「ふふっ。よくお似合いですよ、お二人とも」
サニー「あ、ほんまー?なんやうれしーわー、なーみーゆきっ」
みゆき「はぷっ!?も、もーみんなー!」
ニコ「イチャイチャしないでっ!!」キャンディ「クルぅぅぅ!!!」
佐々木「そうよそうよ!!」金本「混ぜなさいy……あの緑の人、なおにそっくり……ハッ!私は何を!」
ピース「うーん?なんだかみんな、みゆきちゃんが好きで好きでたまらなくなってるみたい?」
みゆき「そ、そうなの!みんな、どうしよ!狼さんはどっかいっちゃったし、これ、どうすれば……」
マーチ「ははっ、簡単じゃない、みゆきちゃん」
みゆき「えっ……?」
ビューティ「みゆきさんの、愛を。みなさんに、分けてさしあげましょう?」
みゆき「……あっ!そ、っか!うん!それじゃ、私も!」
プリキュア!スマイルチャージ!
ゴー・ゴー!レッツゴー・ハッピー!
井上「うぉおおおおおおおお!!」
犬塚「天使だ!ほんまもんの天使だああああ!」宗本「ヒンヒン!ヒンヒン!」
サニー「盛り上がっとんな……でも、まだや。まぁだ、こんなもんちゃうやろ」
ピース「そうだね。まだ、みんなどうやってでもみゆきちゃんを手に入れよう、って。そんな欲望が目に映るよ!」
マーチ「なんか生き生きしてるねピース……さぁ、ハッピー」
ビューティ「先日手に入れた、あのデコルで!」
ハッピー「うん!……ニコちゃん、キャンディ」
ニコ「みゆきぃ、みゆきぃー!」キャンディ「クル、クルぅ!!」
ハッピー「すぐに、助けるから!みんながくれたあのときの、この力で!」
ハッピー「ウルトラハッピーに!!!」
カチッ パァァァァァアアアアアアア!!
キャンディ「く、クルっ……みゆきに、光がややく、翼……クル?」
「笑顔で包む、愛の光」
ハッピー「ウルトラキュアハッピー」
カッ!
プリンセスサニー・ピース・マーチ・ビューティ「「「「笑顔があふれる、世界へ!」」」」
バサァアアアアアアア!
キャンディ「クル……ぅ」
ハッピー「みんな……もうやめよう?」フワッ
佐々木「あ、あぁ……地面に降り立っただけで、辺りに花が……!」
岡田「天使……本物の、天使、だわ」木角「触れるなんて、恐れおおい……」
ハッピー「大丈夫。みんながそんなに、怒らなくったて。こわがらなくったって」
ハッピー「私はずっとずっと、みんなといるよ」
ハッピー「私、みんなが――大好きだもん」
ハッピー「だから、行こう――キラキラ輝く、未来に!」
ニコ「みゆ、みゆ、きぃ!」
キャンディ「大好き、クルぅーーーー!!!」
パキィン!サァァアアアアアアア……
ハッピー「……ウルトラハッピー!」
やよい「うんっ。バッドエンド空間での記憶は、ポップが持ってきたなんだかよくわからないもので編集済みだもんね」
なお「すごいねー、ポップ。頼りになるー」
ポップ「そ、それほどでも……あるでござるっ!ふぅ、みゆき殿。怪しげな物の洗浄は終わったでござるよ。これで拙者もようやくマスクが取れるでござる」
れいか「みゆきさんが被られた香水の効果を受けないためにはそうしないといけないのですものね」
みゆき「ありがと、ポップ!……ニコちゃん?キャンディ?」
ニコ「……ごめんなさい!ごめんなさいごめんなさいごめんなさいっ!」
キャンディ「ごめんなさいクルぅ……!」
みゆき「そ、そんなに謝らないでよぉ。もう近寄っても大丈夫だよ?ね?」
ニコ「だ、だって私!せっかく、せっかくみゆきに頼られたのに!迷惑ばっかり!!」
みゆき「うーん、えっとね。私、ニコちゃんに『大好き』って言われるのは嬉しいから、迷惑ではなかったんだけどー」
ニコ「ふぇ!?あ、わ、わわ、私そんな、そんなみゆきにそん、わ、わぁーーー!牛魔王!帰る!帰るよ!うわーんまおー!」バッ
牛魔王「へぇへぇ、ったく俺ぁ出てきて損ばっかりだったぜ。おいプリキュア、あの狼にあったらいつかぶっとばすっつっとけ。じゃあな」シュバッ
みゆき「ばいばーい!今度は魔王も一緒にねー!」
あかね「けったいな台詞やでそれ」
キャンディ「クルぅ……みゆきぃ」
みゆき「……キャーンディ。もう、気にしないで、って言ってるのにー。キャンディにたくさん甘えられて、私、嬉しかったよー?」
キャンディ「クル、ぅ……ほんとクルー?」
みゆき「うん!えへへ、だから気にしなーい、気にしない!」
キャンディ「……クルぅ!みゆき大好きクルぅ!」
みゆき「えへへー!」
キャンディ「クルぅ!!」
あかね「……またまた不用意に拾ったもんで大惨事一歩手前になってもーたんわ、しーーーーーっかり反省せんかいこらぁぁぁあああ」グリグリグリグリ
みゆき「いだっ!いだだだだいたいいたいよぉあかねちゃーーーん!」
キャンディ「クルぅクルぅくるうクルぅうううう!!」
なお「いや、うん。こればっかりはね、すこぶる気にしてくれないと」
れいか「毎度毎度、マジョリーナの術にはまってばかりだものね」
やよい「そのうち幼児化もありえるよね、お約束的に!」
なお「ごめん、それはすこぶるどうでもいい」
あかね「なーんや。あ、風邪のことなら平気やで、ポップ印の薬やし」
ポップ「奇天烈な出来でござろう、キテレツな」
あかね「よーわからんけど的確にうっさい」
みゆき「うん、あのね。みんなは、あの時。駆けつけてきてくれたとき、ね?」
やよい「ヒーローみたいにねっ!」
みゆき「あ、うん。その時は、ほら。みんな……変身はしてたけど。普通だったよね?」
なお「普通、って?」
れいか「確かに、プリンセスフォームではありませんでしたが……?」
みゆき「あっ、そう、そうじゃなくって……」
みゆき「うーん?みんなは、どうして……あの香水の影響、受けなかったのかなー、って」
やよい「……」
なお「……」
れいか「……」
みゆき「?」
あかね「……あー、っはは。それ、聞いてまう……?」
みゆき「え?うん、だって、気になるもん!他の人はみーんな、あんな風になってたのに……」
やよい「……それは、ね」
なお「……私たち四人が、みんな」
れいか「他の方には、誰にも。誰にも負けないくらいに」
みゆき「……えっ? わぷっ!?あ、あかねちゃん!?なんでまた、押し倒して……!」
あかね「これ以上ない、っちゅーくらい、あんたのことが大好きだからやで!みーゆきっ♪」
やよい「えへへっ。ニコちゃんには悪いけど、みゆきちゃんは譲れないよね!」
なお「うんうん。私たちの愛情は直球勝負だもん、負けられないよ」
れいか「みゆきさん?今更みゆきさんの魅力がどれだけ上がろうと、私たちは取り乱したりしないんです。それほどまでに、みゆきさんが大好きなんですから」
あかね「……って、ことや。ふっふぅーん、星空くん?こんな可愛い子をものにして、羨ましいですなー?」
みゆき「……えへへ、うん!」
みゆき「モテモテすぎて、ウルトラハッピー!」
完
鬼「ウルフルーン!やめるオニー!もう朝夜寒いオニー!凍えちまうオニよーーー!」
狼「うううううっるせええええええ!!おおおお俺様は俺様は俺様はなにをををを消えろ煩悩ぉおおおおおお滝に打たれて消え失せろおおおおおおおおお!!!」
今度こそ、完
みゆきちゃんマジ天使!
じゃあの!
ABC朝日放送 日曜朝八時半
スマイルプリキュア!
大好評放送中!
劇場版『スマイルプリキュア!絵本の中身はみんなチグハグ!』
大ヒット上映中!!
乙
Entry ⇒ 2012.11.02 | Category ⇒ プリキュアSS | Comments (0) | Trackbacks (0)
半兵衛「よ、良晴さん……! も、もうっ!」
半兵衛「いつ戦が起こるか分からないのに……」
良晴「でも少なくとも今は戦争だって起こって無いんだ、ちょっとくらいいいだろ?」
半兵衛「ちょ、ちょっとくらいって……ここ数日そう言って毎日いきなり背後から抱き付いて」
良晴「嫌か?」
半兵衛「い、嫌じゃありませんけど、くすん」
良晴「最近は信奈の奴とも十兵衛ちゃんとも会えないし、人肌恋しいんだよ」
半兵衛「わたしはお二人の代わりですか……」ムスッ
良晴「そんなわけないだろ! 半兵衛ちゃんが一番可愛いし大事だよ!」
半兵衛「ま、またそんな調子の良い事言って――ひゃぅっ」
半兵衛「み、耳をはむはむしないでくださいっ!」
良晴「半兵衛ちゃんが可愛くて、つい……」
半兵衛「んっ、"つい"ってそんな理由で……ひぁっ」
良晴「ん、五右衛門か。どうした」ハムハム
半兵衛「ぁっ……んぁ」
五右衛門「拙者、僭越ながら申し上げまちゅとちゃちゅがにちゃいきんにょちゃがりゃうじは……」
五右衛門「…………」
良晴「…………」ハムハム
半兵衛「あぅ……やぁっ……」
五右衛門「流石に最近の相良氏は気が緩みすぎかと」
良晴「……ふむ」ハムハム
半兵衛「ひゃぅ……よ、よしはるさん」
良晴「ん? なんだい半兵衛ちゃん」
良晴「…………」ハムハム
半兵衛「よし……はる、さん」
五右衛門「相良氏、度が過ぎるようなら拙者も容赦しないで御座るよ」
良晴「…………」
良晴「そうか、お前らがそういう気ならこっちにも考えがある」
半兵衛「えっ……」
五右衛門(噛まずに言えた……っ!)パァァア
半兵衛(あ……良晴さん)
半兵衛「良晴さんっ、おはようございます!」
良晴「…………」スタスタ
半兵衛(あれ……聞こえなかったのでしょうか)
半兵衛「良晴さんっ! おはようございます!!」
良晴「…………」スタスタ
半兵衛「殿っ!」
良晴「…………」スタスタ
半兵衛「とーのーっ!」
良晴「…………」スタスタ
半兵衛(……無視、されてる?)
半兵衛「くすんくすん、わたしはいぢめられてるようです」
良晴「…………」スタスタ
半兵衛「…………うぅ、くすん、くすん」
半兵衛「あ、五右衛門さん」
五右衛門「今の相良氏に何を言っても無駄でごじゃるよ」
半兵衛「無駄、とは……?」
五右衛門「相良氏は昨晩からだんまりを決め込んでいるようちゅでごじゃる」
五右衛門「拙者が何を話しかけてもうんともすんとも答えないでごじゃるよ」
半兵衛「そ、そんな……」
半兵衛「私は良晴さんの軍師ですっ」
半兵衛「絶対に良晴さんと会話してみせます!」
五右衛門「御武運をお祈りいたちゅでごじゃるよ、たけにゃかうぢ」
五右衛門「…………ぁう」
半兵衛(五右衛門さん、可愛いです……)
半兵衛(良晴さん……いた)
良晴「…………」スタスタ
半兵衛「…………よし」
半兵衛「良晴さんっ。今日は天気がいいのでお散歩にでも行きませんか?」
良晴「…………」スタスタ
半兵衛(やはり無視されてる……ぅぅ、早くも心が折れそうです……)
良晴「お、官兵衛」
官兵衛「ん、きみか相良良晴」
良晴「今日は天気も良いし、散歩にでも行かないか?」
官兵衛「ふむ……たまには町の様子を見てみるのもいいものか」
官兵衛「最近は戦も無く運動する機会も少ないからな……いいだろう、きみと散歩してやる」
良晴「はは、じゃあ行こうぜ官兵衛」
官兵衛「シム。エスコートしてもらうからな、相良良晴」
半兵衛「…………っ」
官兵衛「ふん……やはりここまでくると中々騒々しいな」
良晴「でも、そう悪いもんでもないだろう? ……おっ」
官兵衛「どうした、相良良晴」
良晴「団子屋だ。行こうぜ、官兵衛!」
官兵衛「!? い、いきなり手を握るな、びっくりするだろう!」
官兵衛「そそそれに最近身体を動かして無いからと外に来てるのに団子なんて食べたら意味が……」
良晴「なーに言ってんだよ官兵衛! 折角外に来たのに団子の一つも食べなかったらそれこそ意味が無いだろ」
良晴「こう見えても今は俺も一国一城の主、女の子に団子を奢るくらいの甲斐性はあるんだぜ」
官兵衛「き、きみがそれほど言うなら……食べてやらんこともない……っ」
良晴「じゃ、決まりだな! 団子食おうぜ官兵衛!」
官兵衛「だ、だからいきなり手を握るなと…………もう」
半兵衛(…………)コソコソ
半兵衛(良晴さんと官兵衛さん、あんなに楽しそうにして……)
半兵衛(良晴さんの軍師は私だというのに……)
半兵衛「…………はぁ、なんでこんな事になったんでしょう」
良晴「おばちゃん、団子二人分ください。はい、お代」
官兵衛「……本当に、奢ってもらっても良かったのかい、相良良晴」
良晴「何今更言ってんだよ! さっきから良いって言ってるだろ?」
官兵衛「む、だが……」
良晴「それに官兵衛は女の子だしさ、男の俺が官兵衛に奢るのは当然だろ?」
官兵衛「き、きみがそう言うなら……そうなのだろうな」テレテレ
良晴「おう、そうなんだよ」ニコ
半兵衛(ぅぅ……しかもなんか良い雰囲気になってます)
半兵衛「くすん、くすん」
半兵衛(良晴さんの隣にぴったりくっついて……席は結構広さがあるのに)
半兵衛(ま、まさか、官兵衛さんも良晴さんのことを……?)
良晴「お、きたきた」
官兵衛「ふん、中々美味しそうではないか」
良晴「そうだな。……官兵衛、あーん」
官兵衛「!?」
半兵衛「!?」
官兵衛「ちょ、ちょっと待て相良良晴!」
良晴「?」
官兵衛「そ、それはまさかこのシメオンに食べろと言う意味なのか!?」
良晴「それ以外にどんな意味があるんだよ」
官兵衛「と、とにかく! わたしはそんなの――むぐっ!?」
良晴「……どうだ? 美味いだろ?」
官兵衛「もぐもぐ……ごくん」
官兵衛「ま、まあ、悪くはないが……」テレテレ
官兵衛「それにしてもいきなり人の口に団子を突っ込むのは感心しないぞ」
良晴「ん、それは悪かった。ごめんな」
官兵衛「わ、分かればいいのだ……」
半兵衛「ぐぬぬ……」
半兵衛(それどころか手だって繋いでくれなかったし……)
半兵衛(あんなに幼い官兵衛さんにでれでれしてしまって……はっ)
半兵衛(もしや良晴さん、こんどこそついに未来の不治の病"露璃魂"に掛かってしまったのでは――?)
半兵衛(で、でも、だとしたら良晴さんが官兵衛さんにでれでれしてわたしにでれでれしない理由は?)
半兵衛(まさか、わたしなんかでは良晴さんにとっては歳が行き過ぎているというのでしょうか?)
半兵衛(良晴さん……いつの間にかそんなところまで"露璃魂"を進行させてしまって……)
半兵衛「わ、わたしが良晴さんをなんとかしなくちゃ……!」
半兵衛(むー……、中々良い策が思いつきません……)
良晴「おし、官兵衛、あっちの方に行ってみようぜ」
官兵衛「シム。……シメオンもあっちの方には行った事が無くてな。何があるのだ?」
良晴「んー、確か大きめの川が通ってたはずだ。天気も良い事だしそこでのんびりしよう」
官兵衛「のんびり、か。天下布武を為そうとする織田に仕えるきみがそんなんでいいのかい?」
良晴「大切なのはメリハリを付けることだ。遊べるときに遊び、のんびり出来るときにのんびりすることも大切なんだ」
官兵衛「ふむ、一理あるな」
良晴「よし、行くぞ官兵衛」
官兵衛「だ、だからいきなり手を握るなと言ってるだろうっ」デレデレ
半兵衛(あぁっ、お二人があちらに行ってしまいます……)
半兵衛(……しかも良晴さんはまたもや官兵衛さんの手を握り締めて)
半兵衛「前途多難です、くすんくすん」
官兵衛「シム。それにここらはあまり騒がしくなくてとても……良い」
良晴「やっぱり人込みは苦手だったか?」
官兵衛「別に苦手と言うわけではないよ。ただ、静かな方が好きだと言うだけの事だ」
良晴「…………」
官兵衛「…………良い、風だ」
良晴「……ああ」
官兵衛「…………」
官兵衛「…………相良良晴、もう少しあちらの方へ行って見ないか」
良晴「おう」
半兵衛(……あっちは見晴らしが良すぎてこれ以上近づく事が出来ませんね)
良晴「……何の事だ?」
官兵衛「ふん、とぼけても無駄だ。忘れたのか? シメオンは天才軍師なんだぞ」
良晴「…………」
官兵衛「きみは普段シメオンを散歩になんて誘ったりしない」
官兵衛「手を繋いだり、"あーん"をしたり、きみの普段の行動からは考えられない行為ばっかりだ」
良晴「それが、どうした」
官兵衛「それだけじゃない。きみも気付いていたかもしれないが、さっきから竹中半兵衛がシメオンたちの後をこっそり追って来ている」
官兵衛「……相良良晴、きみは竹中半兵衛と何かあったのか?」
良晴「……ふふ、天才軍師様は全部お見通しって訳か」
良晴「それで見晴らしが良く、半兵衛が近寄れないここに行こうと言ったのか」
官兵衛「……まあ、そんなところだ」
半兵衛「くすん、遠すぎて何を喋っているのか全く聞こえません」
官兵衛「…………」
良晴「喧嘩というか……いや、悪いのは一方的にこっちなんだけれどさ」
良晴「ちょっとからかってやろうと思ただけなんだけれど予想以上に良い反応が帰ってきたもんで」
良晴「本当はすぐに謝ろうと思ってたんだけれど、ついそのまま続けちまってさ……」
官兵衛「……それで、謝るタイミングを逃した、というわけか」
良晴「あ、ああ……」
官兵衛(この……馬鹿者が……!)
官兵衛(竹中半兵衛が相良良晴に抱いている感情も知らずに……!)
官兵衛(そしてこのシメオンを一瞬でも期待させておいて……!)
官兵衛(…………くそっ!)
官兵衛「…………に行け」ボソッ
良晴「え? 何だって?」
官兵衛「竹中半兵衛に謝りに行け! 今すぐにだっ!」
良晴「ひっ!? わ、分かりました!」
半兵衛(……ん? 官兵衛さん、怒ってる? 良晴さんに何か怒鳴りつけて――)
半兵衛「って、良晴さんがこっちに来る!?」
半兵衛「か、隠れなくちゃ」アワアワ
半兵衛「木、木の裏にでも隠れて――」
良晴「半兵衛!」
半兵衛「!」ビクッ
良晴「半兵衛……」
半兵衛「よ、良晴……さん?」
半兵衛(……良晴さんがわたしに話しかけてくれた?)
半兵衛「きゃぅっ!?」
半兵衛(よ、良晴さんがわたしを抱きしめてる――!?)
良晴「本当はすぐに謝るつもりだったのに、タイミングを逃してしまって……」
半兵衛「くすん、わたしは良晴さんがわたしに話しかけてくれたのでそれでいいです」
半兵衛「無視されるのはとても辛いです、くすんくすん」
良晴「本当に、ごめん」
半兵衛「……後で五右衛門さんにも謝っておいてくださいね?」
半兵衛「……五右衛門さんも傷ついてましたから」
良晴「ああ、分かった」
半兵衛(わたしは良晴さんに冷たくした事を謝って)
半兵衛(良晴さんはわたしたちを無視した事を謝って)
半兵衛(…………)
半兵衛(……良晴さんはこれからはわたしと出かけるときは手を繋ぐと約束してくれた)
半兵衛("あーん"をしてくれるとも)
半兵衛(……そして、それから一ヶ月)
半兵衛「ひゃっ!? よ、良晴さん……! も、もうっ!」
半兵衛「最近戦がないからって良晴さん、気が緩んでますよ!」
半兵衛「いつ戦が起こるか分からないのに……」
良晴「でも少なくとも今は戦争だって起こって無いんだ、ちょっとくらいいいだろ?」
半兵衛「ちょ、ちょっとくらいって……ここ数日そう言って毎日いきなり背後から抱き付いて」
良晴「嫌か?」
半兵衛「…………嫌じゃないです」
良晴「そっか」ニコ
そんな、のどかな昼下がりの日常。
わたしと良晴さんは"まだ"特別な関係ではないけれども。
わたしはなによりもこの日常を幸せに感じているのだ。
良晴「…………」ハムハム
半兵衛「で、でも耳をはむはむするのは止めてくださいっ!」
【終わり】
今度やるときは書き溜めて来るんでよかったら読んでください
ノシ
乙
Entry ⇒ 2012.11.02 | Category ⇒ その他 | Comments (0) | Trackbacks (0)
菫「照……?それに……宥……?!」
どうしてあの2人が、玄関先で抱き合っていたのか。
全てが分からない。私への天罰というのか。
胸が苦しい。冷たい空気が肺へと突き刺さる。
巻いてきたマフラーがないことに気付いた。
季節は、冬。
プリンケーキという看板に惹かれて洋菓子店に入るべきではなかった。
買わなければよかった。持って行こうと思わなければよかった。
そんな結果ばかりが浮かんでくる。
しかし、悪いのは自分だとわかっている。
でも、どうして宥なのか。それが、分からない。
まさか菫が来るなんて。でもいいんだ、先に裏切ったのはあっち。
その相手が宥だっただけ。私は何も悪くない。
悪く、ないんだ……。
菫ちゃん……だったよね。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。
でも、ドアは閉めていってね。あったかくないよ。
戸を閉めようとして気付く。
「あっ」
「どうしたの?」
背を向けた照ちゃんが振り返って尋ねた。
「あのね……菫ちゃんがマフラー、忘れたみたいなの。だから私……あっ」
ぱっと手のマフラーを引き、
「私が行ってくる」
照ちゃんは家を出ていった。この家は私一人だけ。
宮永姓でない私だけ。
やはり肩が冷える。そもそも受験勉強で肩が凝り気味だったことを思い出す。
考えてみれば、こうして勉強をしているのも照と同じ大学へ行くためだったはず。
後悔しか浮かんでこない。溜息がまたひとつ。
時計に目をやると塾の時間が過ぎていることに気付いた。
サボることにしていたとはいえ、目的も果たせなかったのだから、帰らずに塾でも行けばいいのかもしれない。
そんなことを考えていたら笑えてきた。なんて私は滑稽なんだ。
自分勝手で自業自得。いいざまだ。
気付いたら宥カラマフラーを奪って、菫の家へと駆け出していた。
寒い。上着くらい羽織ってくればよかった。
でもどうせすぐに追いつく。とぼとぼ歩いているに決まっている。
手に持ったマフラーは暖かかった。
後ろから駆けてくる足音がした。側溝側に避ける。勝手にあっちも避けていくだろう。
「菫!」
振り向くと声の通り照がいた。
息を切らし、上着も着ずに、私のマフラーだけを持って。
白い息と赤い頬のコントラストがとても綺麗だった。
「……照」
「忘れたから」
そう言ってマフラーを差し出す。
「ありがとう」
それしか言えなかった。言いたいことが、言うべきことがあったはずなのに。
渡されたマフラーから目を離すと、もう照は背を向けていた。
それ以上言葉が出てこない。
「なに?」
足を止め、振り向かずに答えた。
私はもう顔を見られなかった。うつむいたまま言葉を継ぐ。
「その、ごめん……」
「なんで菫が謝るの?マフラーを届けに来ただけで」
「私が悪かった。ごめん」
「謝らないで」
そうして照は近づいて私の顎に触れた。
ビクッとして顔を上げると、そこには照の顔があった。
シチューの香りがした。
菫の目からは何の意志も感じられなかった。
とてもつまらない目をしていた。
やっぱりそういう謝罪なのだ。
とてもイライラした。キスをした。
「これで宥と間接キスだね」
嘘を吐いた。
キスをされた。何を言っているのか分からなかった。
『これで間接キスだね』
~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~
何を言っている?
照は何を言っているんだ?
照の言葉が頭をぐるぐる回る。
顎から手を離し、照は歩いて行った。
私はまだ混乱している。
「ただいま」
と、声がしたので玄関に出る。
「お帰りなさい。大丈夫だった?」
しかし、何も答えない。表情まで凍っているかのよう。
「シチューできてるよ」
照ちゃんがかけっぱなしだった鍋について訊く。
「ありがとう。夕飯にしよう」
少し柔らかく言ってくれた。あったかい。
私はあったかい照ちゃんが好き。
あったかい菫ちゃんも、好き。
「よくわかんない」
「きっと宥なら受かってるよ」
「だったらいいなぁ」
受験生らしい会話。
受ける前からほぼ受かっている照ちゃんと、AOをたまたま受けた私。
そして、照ちゃんと一緒にいようとする菫ちゃん。
私が悪かったのかな。
やっぱり飛び出したのはよくなかった。
帰り道で強く思った。宥1人にすべきでなかったと。
こうして夕飯を食べながらでも分かる。おかしい。
でも悪いのは彼女ではない。
悪いのは、菫と、嫉妬深い私だ。
「ただいま」
自宅の扉を開いて呟く。
すると、母がやってきて塾はどうしたなどと聞いてきたが、体調不良と応えておいた。
風邪に気をつけろという話を聞きながら、自室に戻る。
ベッドに寝転がる。制服の皺なんてどうでもよかった。
焦点の合わない目を天井に向けながら、唇に触れた。
感傷で温度が変わったりはしない。
いつも通りの私の唇だ。
初めては照だった唇だ。
きっと母が入れてくれたのだろう。靴下も脱がされていた。
時計を見ると、10時。4時間程寝ていたらしい。
携帯を見るとメールが入っていた。
『あったかい菫ちゃんが好きだよ』
彼女にまで心配をかけてしまった。
最低だ。
1時になって寝ることになった。
お客さんはベッドだからと照ちゃんは言ったけど、
寒そうだから一緒に寝よって言ったら認めてくれた。
照ちゃんも寒がりなのかな?
照ちゃんの体温を感じながら切り出す。
「菫ちゃんと私が出かけたこと知ってたの?」
照ちゃんは答えない。でもそれは肯定と一緒だ。
「あれは遊びに行っただけだよ」
それでも何も言ってくれない。
「菫ちゃんはね、照ちゃんが大好きなんだよ」
「……うん」
きっと諭されている。分かっている。宥はお姉ちゃんなのだ。
私と同じ。だから私だってそう言うと思う。
それでもやっぱり宥に嫉妬はある。宥が悪くないとわかっていても。
「私は、あったかい菫ちゃんとあったかい照ちゃんが好き」
宥はそういう人間なのだ。ずるい。だから嫉妬する。
「私と菫、どっちが好きなの?」
いじめたくて言ってしまった。
「今は……よくわかんない。でも、2人とも」
「いいよ、ごめん」
私は何と言って欲しかったんだろう。
私も、菫とこのままでいたいわけじゃない。
待つくらいの気持ちはある。
待っていた。朝の数時間なんて短いものだ。
それに照なら宥を送ってから来るだろう。
待つのは嫌いじゃない。
10分も待たずにやってきた。
「照、ちょっといいか」
「何か用?」
「後で時間をくれないか」
「わかった」
すぐに照は通りすぎていった。
隣には誰も居ない。
『もっと素直になった方がいいよ』
駅まで送って行ったら宥が言った。
それは菫にも言って欲しかった。
そんな風に思ったけど、菫が声をかけてきたのは宥から何かがあったのかもしれない。
しかし、訊いても否定するだろう。
菫が決めたことだと。
ここまでくると菫が羨ましく思えてくる。
来るとわかっていると待つのは楽しい。
いや、照の顔が見られると思うと嬉しいだけかもしれない。
「待った?」
照が足早にやってきた。
「私の勝手に付き合ってもらったから」
来てくれただけで十分だと思う。
約束を破るとは思っていなかったが、正直ほっとした所はある。
「言っておきたいことがあって」
「また謝るつもり?」
混乱していたとはいえ、ただ謝るだけだった昨日の私が悔しい。
「照、好きだ」
先に行っておくべき言葉はこれだった。
照はそう応えるだけだった。
認めてはくれた。否定することはなかった。
もう一方通行になってしまっていたとしても。
それでも、心のどこかで期待していた。
照にも同じだと言って欲しかった。
「キスして」
そう言ってみた。
「今日は菫からキスして。それいいよ」
いつもキスするのは私からだった。
初めての時も、2回目の時も、そして昨日も。
キスがしたかったわけじゃない。
でも、菫からして欲しくなった。
紅潮する頬。少し歪んでしまった口。閉じられた瞼。
どこにキスするつもりなんだろう。
そのまま行ったら鼻だ。
そうして唇が触れる。
あっ、と菫から息が漏れる。
目を開け、鼻にキスをしていたことに気付く。
飛び退いて、ごめんと謝る。
何だかおかしくなってキスをした。
困り顔の菫はいつも通り可愛かった。
新幹線はもう東京を過ぎた。
菫ちゃんと照ちゃんはどうしているだろう。
春にはまたあったかい2人と会いたい。
それが私の幸せ。きっと、そう。
しばらくして、照と過ごす時間が少し増えた。
コミュニケーション不足なんて陳腐な言葉を使う気にはなれないが、足りない部分は確かにあった。
元々私も口が上手な方じゃない。誤解を受けたのもそのせいだ。
また、ただ漫然と受験勉強をするより、時間を作っててると過ごす方がメリハリが付いていい。
後は私が合格するだけだ。
「おめでとう」
「おめでとう」
発表会場には照と宥がいた。
菫は驚きつつも礼を言う。
「これで一緒だな」
そういって、彼女は照を引き寄せるとキスをした。
「おめでとう」
宥がまた呟いた。
Entry ⇒ 2012.11.02 | Category ⇒ 咲-Saki-SS | Comments (0) | Trackbacks (0)
える「古典部の日常」 5
俺は今、神山市から少し離れた所に来ていた。
話せば長くなるが……
面倒だな、話すのは今度にでもしよう。
入須「どうだ、中々に良い場所だろう」
奉太郎「そうですね」
俺と入須が居たのは、高台であった。
町並みを一望でき、キラキラと光る町の奥には海が見える。
奉太郎「入須先輩がこんな場所を知っているなんて、少し驚きです」
俺がそう言うと、入須はムッとした顔を俺に向けながら言った。
奉太郎「……先輩でしたね」
入須「そうとも」
入須「なら穴場の一つや二つ、押さえてあるさ」
奉太郎「それはそれは、失礼な事を言ってすいません」
入須「分かればいいんだが……」
入須はそう言い、手すりから町並みを眺める。
その時だった。
空がまばゆく光る。
遅れて……ドン、と言う音が耳に届いた。
入須「ああ、そうみたいだな」
ここに来ていたのには理由があった。
年に一度の花火大会、それを見るためにわざわざ神山市を離れ、こんな所まで来ているのだ。
最初は間隔をゆっくりと、花火達が上がっていく。
それを見ながら、入須は口を開いた。
入須「私ももう、大学生か」
入須「思えば随分と年を取ったものだ」
奉太郎「まだ、18か19でしょう」
奉太郎「年寄りみたいな台詞は、似合いませんよ」
入須「あっと言う間さ」
入須「青春なんてすぐに終わる」
入須「ああ」
思えば、俺も既に三年生か。
後一年も経たない内に、神山高校を去ることになるのか。
その後は……俺は一応、大学へと行く予定になっている。
里志や伊原もそうだろう。
だが、千反田は前に聞いた時、少しだけ悩んでいる様子だったのを覚えている。
また父親に何かあった時、何も知らなくていいのかと……千反田は言っていた。
もしかすると、千反田は大学には行かず、家の仕事に就くのかもしれない。
そして、それを俺に決める権利は無い。
恐らくそうなれば、段々と疎遠になって行くのだろう。
中学の時も一応、俺にも友達くらいは居た。
そいつらとは高校へ行っても遊ぼうな、等と言っていた物だが……
いざ高校生になってからは、ほとんど連絡なんて取っていなかった。
……そんな、物だろう。
入須「そうか、君の誕生日は確か……」
奉太郎「四月です」
入須「なるほど、君が一番早く年を取っているのか」
奉太郎「そう言う言い方は、出来ればやめて欲しいですね」
入須「ふふ、すまんすまん」
そこで俺は一度、空を見上げた。
花火が一つ……散っていく。
そんな光景を見ながら、一つの事を思い出す。
あれは確か……俺の誕生日の日だったか。
~折木家~
休みなだけあって、俺は随分と遅く、目を覚ました。
供恵「あんた、やっと起きたの?」
奉太郎「いいだろう、別に」
供恵「だらしないわねぇ」
奉太郎「休みくらいゆっくりさせてくれ」
供恵「あんたがそれを言うか」
朝から……いや、昼から姉貴との言い合いは、どうにも気が進まない。
最後の姉貴の言葉を無視すると、俺はとてもゆったりとした動作でコーヒーを淹れた。
供恵「私の分もよろしくねー」
奉太郎「……ああ」
それは少し違うか、おまけで作るのだし。
まあ……どの道、気が進まない事には代わり無いのだが。
供恵「あーそういえば」
供恵「誕生日お・め・で・と・う!」
奉太郎「……どうも」
姉貴の精一杯の笑顔に俺は精一杯無愛想に返す。
供恵「確か、去年はお友達が来てたけど」
供恵「今年はどうなんだろうねぇ」
奉太郎「さあな、分からん」
去年は確かに、俺の家で誕生日を祝われた。
しかし、あれは大日向が居たからだ。
あいつが居なければ、俺の誕生日を祝おうなんて、他に誰も思わないかもしれない。
別に俺も、祝って欲しいなんて事は無いし、構わないが。
供恵「ありがと」
姉貴のその言葉を流し、俺もソファーに座る。
腰を下ろし、背もたれに背中を預けようとした時だった。
俺に反抗するように、家の電話が鳴り響いた。
俺はなんとも中途半端な姿勢で止まる事となり、そこで止まったが最後……電話に出る役目は俺に回ってくる。
供恵「ほらほら、友達かもしれないでしょ」
奉太郎「……くそ」
コーヒーをテーブルに置くと、俺は電話機の前に移動し、受話器を取った。
奉太郎「もしもし、折木です」
える「折木さんですか? 千反田です!」
える「えっとですね、今日は何の日かご存知ですか!?」
なんだ、やけにテンションが高いな……
奉太郎「一週間に二度ある休みの内の、一日だな」
える「そうではないです!」
える「い、いえ……確かにそうかもしれませんが」
える「違います!」
千反田が言っている事は大体分かる、俺の誕生日の事だろう。
だが自分から言うのも、少しあれなので敢えてそうは言わない。
奉太郎「じゃあ、なんの日なんだ」
える「もしかして、忘れてしまったんですか?」
える「今日は、折木さんのお誕生日ですよ!」
奉太郎「それで、それがどうかしたのか」
える「お祝いをしようと思って、お電話しました」
奉太郎「ああ、そうか」
える「はい! お誕生日おめでとうございます」
奉太郎「ありがとう」
奉太郎「それで、用事は終わりか?」
える「ち、違いますよ……それだけではないです」
まだ何かあるのだろうか?
える「実はですね、誕生日会を開こうと計画していまして」
奉太郎「また、急だな」
える「そうでもないですよ、予め決めていましたので」
える「当たり前じゃないですか、福部さんと摩耶花さんと、秘密に計画していたんです」
奉太郎「……まあいい」
奉太郎「また俺の家でやるのか?」
える「いいえ、何度もお邪魔しては迷惑だと思いますので……」
える「今年は、私の家で開くことにしているんです」
待て待て、俺の家で開くのなんて全然迷惑じゃない。
わざわざ主役の俺を、遠い千反田の家まで足を運ばせると言うのか!
奉太郎「お前の家まで行けって事か」
える「はい!」
奉太郎「俺の誕生日を、お前の家で開く為に」
える「はい!」
奉太郎「わざわざお前の家まで、休みを堪能している俺が」
える「勿論です!」
奉太郎「……分かった、行けばいいんだろ」
える「ふふ、お待ちしてますね」
える「福部さんも伊原さんも今から来るそうなので、楽しみにしておきます」
奉太郎「そうか、じゃあ準備が終わったらそのまま行く」
える「ええ、宜しくお願いします」
そして話が終わり、俺は受話器を置く。
供恵「行ってらっしゃーい」
奉太郎「……はあ」
姉貴の満面の笑みを見て、溜息を吐くと俺は準備に取り掛かった。
と言っても、大した準備等は無いが。
ともかく、俺はこうして千反田の家での誕生日会をする為、わざわざ休日に出かける事となったのだ。
インターホンを鳴らすと、扉の前で待っていたのか、すぐに千反田は出てきた。
える「わざわざありがとうございます」
える「上がってください」
そう言われ、千反田の家へと上がっていく。
いつもの居間に通され、変わらぬ千反田の家でゆっくりとくつろいでいた。
奉太郎「そう言えば、里志と伊原はまだなのか?」
える「もう少しで来ると思うのですが……」
その時、インターホンが鳴り響く。
える「来た様ですね、私行ってきますね」
奉太郎「ああ」
何回来ても、まずその広さに驚かされる。
俺の家の何個分に当たるのだろうか……
とても比べ物には、ならないか。
多分、この家の広さが……千反田という名家を表しているのかもしれない。
そんな事を考えながら、里志達がやってくるのを待っていた。
出されたお茶を飲みながら、俺は考える。
……去年、俺はあいつの事を追い掛けていたのかもしれない。
社会的にも、俺の前を行く千反田の事を。
最終的に、それは不釣合いだったのだろう。
片や、神山市には知らぬ者等居ないほどの名家のお嬢様。
片や、ただの一般人。
それは多分、いくら追いかけても追いつけないのかもしれない。
あの日に起きた事は、起こるべくして起きたのかもしれない。
だが、だがもう少しだけ。
俺が高校を卒業するまで、追いかけてみよう。
それでも駄目なら、そこまでだったと言う事だ。
里志「お、ホータローはもう来ていたんだね」
奉太郎「……里志か」
里志「なんだい、随分と暗い顔をして」
奉太郎「いや、何でも無い」
奉太郎「それより、伊原と千反田は?」
奉太郎「手伝いに行かなくていいのか」
里志「何言ってるんだい、僕達が行っても足手まといになるだけさ」
奉太郎「まあ、間違ってはいないが」
里志「それより、何か考え事でも?」
奉太郎「……ちょっとな」
里志「僕には何を考えている何て事は、分からないけど」
里志「あまり、思い詰めないで今を楽しもうよ」
今を楽しむ、か。
それも……悪くないかもしれない。
里志「それに今日はホータローが主役だよ」
里志「さあさあ、笑って笑って」
いや、いきなり笑えと言われてもだな……
奉太郎「……それは難しい」
里志「釣れないなぁ」
奉太郎「いつも笑顔のお前が羨ましいな」
里志「何事も、楽しまなくちゃね」
里志「じゃないと時間が勿体無い」
奉太郎「ああ……それもそうだ」
そこまで話し、俺と里志は互いに外を眺める。
そのまま数分経ち、やがて伊原と千反田が部屋へと来た。
摩耶花「私も作ろうと思ったんだけど……ほとんどもう作ってあった」
里志「はは、さすが千反田さん、準備がいいね」
える「い、いえ……それほどでもないです」
そして並べられる料理、それらは実に美味しそうであった。
結構な量の料理を、全員で食べ、気付けばあっと言う間に無くなってしまっている。
奉太郎「悪いな、わざわざ」
える「いいえ、いいんですよ」
える「一年に一回なのですから、このくらいはいつでもしますよ」
里志「うーん、千反田さんは間違いなく良いお嫁さんになれるよ」
える「そ、そうでしょうか」
里志「僕が言うんだ、間違い無い!」
摩耶花「私はどうなの?」
里志「ま、摩耶花は……もうちょっと、優しくなった方が」
摩耶花「それ、どういう意味よ」
里志「いやいや、今でも十分に優しいけどね」
里志「もうちょっと、なんて言うのかな」
える「つまりは、今の摩耶花さんは優しく無いと言う事でしょうか……」
里志「ち、千反田さん?」
千反田も始めの頃から比べると、随分とこう言う流れが分かってきている。
それを見るのも、また楽しい。
奉太郎「そうだな、里志の言葉からすると……千反田が言っている事で間違いは無さそうだ」
里志「ホ、ホータローまで」
摩耶花「ふくちゃん、ちょっとお話しようか」
そう言い、引き摺られながら里志は部屋の外へと出て行った。
哀れ里志、また会おう。
千反田はそう俺に言い、部屋から駆け足で出て行った。
何かを思い出した様だが……何だろうか。
5分ほど待っていると、千反田は部屋へと戻ってくる。
その後ろから里志と伊原も入ってきた、どうやら話し合いは終わったらしい。
里志「……口は災いの元だ、ホータロー」
俺の隣に腰を掛けながら、里志はそう言った。
里志「ホータローも気をつけたほうがいいよ」
奉太郎「俺は災いになるような事は言わんからな」
里志「……羨ましいよ、それ」
奉太郎「お前が思った事を喋りすぎなだけだろ」
里志「ううん……今後気をつける」
ま、絶対に直らないだろうけどな。
奉太郎「どうしたんだ」
える「ふふ、これです!」
そう言いながら、千反田が出したのは、ぬいぐるみだった。
摩耶花「ちーちゃん、そのぬいぐるみがどうかしたの?」
える「私の宝物なんです!」
里志「へえ、随分と可愛いぬいぐるみだね」
える「そうですよね、私もそう思います」
……ここまで、千反田が考え無しに動くのは想定外だった。
つまり、千反田が持ってきたぬいぐるみと言うのは、以前俺がプレゼントした物。
それを里志や伊原には、絶対に知られたく無かったのだ。
奉太郎「ほ、ほう。 千反田らしいな」
冷や汗を掻きながら、俺は続ける。
摩耶花「ええ、いいと思うけどなぁ」
える「で、でもですよ」
える「このぬいぐるみをくれたのは……」
俺は多分、今日一番素早い動きをしたと思う。
千反田の首に腕を回し、そのまま引っ張る。
里志や伊原は不審がっていたが、このままではどうせばれてしまう。
ならこれしかないだろう。
える「あ、あの、どうしたんですか」
奉太郎「言うなって言ったのを覚えて無いのか」
える「お、覚えていますが」
奉太郎「なら何で言おうとした……!」
える「それは、その」
える「……自慢したくて」
える「は、はい……」
そこまで話、千反田を解放する。
摩耶花「ちょっと、二人で何話してたの?」
里志「気になるねぇ」
奉太郎「……何でも無い」
俺はそう言い、二人の視線を正面から受け止める。
俺から聞き出すのは無理と悟ったのか、里志達は千反田の方に視線を向けていた。
える「あ、えっと……」
える「その……」
える「言わなくては、駄目ですか」
摩耶花「駄目って訳じゃないけど、気になるかな」
える「わ、分かりました」
つい、30秒ほど前に言うなと言ったばかりなのだから、流石に言わない筈だ。
える「あのですね」
える「……折木さんが、ぬいぐるみを貸して欲しいと」
……帰りたい。
千反田は確かに、本当の所は言わなかった。
言わなかったのだが……もっと他に言い訳はあるだろうが!
摩耶花「お、折木が?」
里志「あ、あははは、本当かい、ホータロー」
くそ、こうなってしまっては千反田の言い訳に乗るしかないではないか。
全く持って納得行かないが、仕方あるまい。
奉太郎「別に、いいだろ」
里志「まさか、あはは」
里志「ホータローにそんな趣味があったなんてね」
摩耶花「……気持ちわる」
伊原の言葉がいつにも増して、辛い。
だが、それでもやはり……本当の事を言う気にはなれなかった。
俺があの日……わざわざ帰るのを放棄し、千反田のプレゼントを買いに行ったのを知られたく無かったのは勿論の事。
……千反田が宝物と言っていたそれを、俺がプレゼントした物だと言う事は、何故か人に知られたくは無かったのだ。
える「も、もうこの話は終わりにしましょう!」
里志「そ、そうだね」
里志「どんな趣味を持とうと、僕はホータローの友達だよ」
里志の何とも言えない表情が、やはり辛い。
千反田が一度、話題を切ってくれたお陰で、話の方向を変える事が出来た。
奉太郎「今日は俺の誕生日だろ、何か言う事とか無いのか」
里志「お、ホータローにしては随分と急かすね」
奉太郎「……まだしっかりと言われていないからな」
摩耶花「うーん、まあいっか」
える「そうですね、では」
里志「僕はもうちょっと、タイミングを見たかったんだけどなぁ」
そして。
里志・える・摩耶花「誕生日おめでとう!」
その言葉と共に、クラッカーの音が鳴り響いた。
ああ……また片付けが面倒な事になりそうだ。
まあ、それでも……今日くらい、別にいいか。
何と言っても一年に一度の、日なのだから。
第12話
おわり
一際大きな花火が上がり、その音で俺は意識を過去から引き戻した。
入須「そういえば」
入須はまだ、手すりから夜景を眺めていた。
俺は視線をそちらに移しながら、入須の次の言葉を待つ。
入須「答えは、出たか」
奉太郎「答え……ですか?」
入須「まさか、もう忘れたのか」
入須「先程、私が提示した問いに対する……答えだ」
奉太郎「……まだ、出そうに無いですね」
入須「……そうか」
入須「だが、あまり時間は無いぞ」
奉太郎「そうなんですか」
入須「今、決めた」
入須「この花火大会が終わる前に、答えを出してもらう」
……また急な。
そんなすぐに答えが出る問題でも無いだろうに。
入須「まあな」
入須「どの道、いつかは答えなければいけないんだ」
入須「それなら今でも、構わないだろう」
奉太郎「……分からない、というのは答えになりますか」
入須「それは、無理だな」
入須「もし……千反田に聞かれたら、君はどうするんだ」
入須「その時もまた、分からないと言うのか?」
奉太郎「それは……」
入須「答えを出すのは、この花火大会が終わるまで」
入須「それでいいな」
奉太郎「……分かりました」
俺はそれを、断れなかった。
……まあ、時間はまだある。
時刻は21時30分、か。
ゆっくりと、思い出して行けば十分に間に合うだろう。
何しろ花火大会は、まだ始まったばかりだ。
~古典部~
俺は、部室で勉強をしていた。
と言っても、一人で静かに……とは行かない。
える「折木さん、分からない所があれば言ってくださいね」
奉太郎「……ああ」
一人の方が集中出来るのだが、別に千反田が居る事に特別不快感などは無かった。
それにしても、何故放課後の部室で勉強をしなければならないかと言うと……
五月の中間テスト、それの対策の為である。
俺はまあ……熱心にと言う程でも無いが、ある程度は勉強をしなければならない程の成績だ。
対する千反田は、成績優秀者。
そいつに教えて貰うと言うのは、一般的に考えればそれはそれは良い事なのだろう。
例えば、俺が式の組み立て方……答えが出る経緯を忘れ、悩んでいた時。
俺の目の前に座るこいつは、答えをざっくりと言い、途中の経過は全く教えてくれない。
多分、千反田にも悪気がある訳では無いだろう。
だが、答えを言った後も悩んでいる俺を見る目は、何故答えが出たのに悩んでいるんですか? とでも言いだけで、なんだか虚しくなってくる。
そして今も、俺は目の前の問題に悩まされていた。
何度かペンをくるくると回し、考える。
……駄目だ、全く持って分からない。
える「……」
奉太郎「……」
ふと、千反田の方にちらりと視線を移す。
自分の問題を解いていて、静かなのだと思ったが……
奉太郎「……あまりじろじろ見ないでくれないか」
千反田は、俺の方をジッと見つめていた。
える「あ、ごめんなさい」
奉太郎「……まあいい」
そう言い、再度問題に目を移す。
それから5分程経ったが、結局何度考えても分からない。
またしても千反田に視線を移すと、やはりと言うか……千反田はまた、俺の方を見ていた。
俺は回していたペンを置き、千反田に向け口を開く。
奉太郎「何か、言いたい事でもあるのか」
える「……いえ、別に、大丈夫です」
何が大丈夫なのか分からないが。
奉太郎「なら、俺の方を見るのをやめてくれないか」
奉太郎「……集中できん」
える「そ、そうですよね」
少しくらい言っておかないと、こいつは多分また俺の方を見るだろう。
人に文句を付けるのは好きでは無いが……
それもまた、仕方の無い事だろう。
俺は一度置いたペンを取り、再び問題に取り組む。
える「だ、駄目です!」
奉太郎「な、なにが」
急に大きな声をあげる物だから、回している途中だったペンを落としてしまう。
える「折木さんが熱心に勉強していたので……我慢していたのですが」
える「やはり、我慢できません!」
える「折木さん!」
矢継ぎ早にそう言いながら、俺の方にぐいっと顔を寄せる。
……この感じ、あれか。
える「私、気になります!」
しかしまあ……その気になる事を解決出来たなら、千反田も幾分か落ち着くだろう。
なら、俺がやるべき事は一つ。
奉太郎「……何が気になってるんだ」
える「ええ、私」
える「そのペンが、気になるんです」
……ペンが?
まさか、俺が知らないだけで、千反田はシャーペンが大好きな奴だったのかもしれない。
ありとあらゆるシャーペンを集めていて、それで今日俺が持っていたシャーペンが千反田の持っていなかったペンだったのだ。
奉太郎「そうか、なら今度買った場所を教えよう」
える「……ええっと」
あれ、違うのか。
える「どちらかと言うと、筆の方が好みです」
える「いえ、そうでは無くてですね」
える「折木さんが持った時の、シャーペンが気になるんです」
奉太郎「……すまん、もっと分かりやすく説明できないか」
える「は、はい」
える「ええっと、折木さんはいつもこんな感じでペンを持ちますよね」
奉太郎「ああ、そうだな」
正直、自分がどんな感じでペンを持っているかなんて分からなかったが、ここで話の腰を折るような事はしない。
える「それでですね、時々こういう風に」
そこまで言うと、千反田は指をピクピクとさせている。
える「う、うまくできません」
ああ……そういう事か。
奉太郎「貸してみろ、そのペン」
える「あ、はい……どうぞ」
奉太郎「千反田が気になっているというのは、これだろ」
俺はそう言い、手の上でペンをくるりと回す。
そしてそのペンを、うまく掴むと、千反田は声を大きくしながら言った。
える「な、何が起きたんですか!」
奉太郎「ペンを回しただけだが……」
える「何故、その様な事が出来るのか……気になります」
何でだろうか、逆に聞きたい。
える「でも、私には全然出来そうに無いですよ」
奉太郎「うーん……」
奉太郎「授業中に、練習してみたらどうだ」
える「折木さんは授業中にやっているんですか?」
奉太郎「まあ、暇だしな」
える「いけません! しっかりと聞かないと駄目ですよ」
なるほど、確かに正論である。
だが俺にも言い分はあった。
奉太郎「それで、それを補う為にわざわざ放課後、部室に残って勉強しているのだが」
奉太郎「俺が集中出来ないのは何故か、分かるか千反田」
える「あ、そ、それとこれとは別です」
える「そんな事より、私にも教えてください」
俺の言い分は……そんな事と言う一言で片付けられてしまった。
奉太郎「しかし、教えると言ってもだな」
える「そこを何とか、お願いします」
奉太郎「ううむ……」
奉太郎「……まず、ペンを持ってみろ」
える「はい! こんな感じですかね?」
奉太郎「ああ、まあそれでいいんじゃないか」
奉太郎「で、その後はだな」
奉太郎「こうやって、こうだ」
そう言い、俺は自分が持っていたペンをくるりと回す。
何だろう、わざわざ失礼な事と前置きしてまで聞くと言う事は、大分失礼な事なのだろうか。
える「折木さんって、教え方が上手い方では無いのでしょうか」
奉太郎「……お前がそれを言うか」
える「す、すいません」
える「でも、全然分からなかったので……」
と言われても、俺も困ってしまう。
奉太郎「とりあえず、練習しておけばいいさ」
奉太郎「その内出来る様になるだろ」
俺は千反田にそう告げ、勉強を再開する。
える「……よいしょ」
奉太郎「……」
える「……あ!」
奉太郎「……」
える「……うまく行きませんね」
先程から、ペンの落ちる音が鳴り響いている。
その音が聞こえた後、千反田の独り言が聞こえてくる。
こんなんじゃ、勉強所では無いな……全く。
奉太郎「ああ、もう」
未だにペンを回そうと奮闘している千反田を見て、俺は席を立つ。
そのまま千反田の後ろに回り、ペンを持つ手を上から掴む。
奉太郎「こうだ」
俺はそう言い、いつもの要領で千反田の手を動かした。
うまく行くとは思わなかったが……ペンはうまい具合に一回転し、千反田の手に収まった。
える「すごいです、折木さん!」
奉太郎「別に凄くは無いだろ……」
奉太郎「もう一回、やってみろ」
俺は千反田後ろに立ったまま、手を離す。
える「はい、やってみますね」
える「……よいしょ」
……ああ、違う。
後ろから見ているとなんとなく分かる……こいつはペンを、指で追いかけ過ぎだ。
そう言い、俺は再び千反田の手を掴む。
その時、ふと千反田が俺の方に顔を向けた。
俺はこの時、まずいと感じた。
予想以上に、千反田の顔が近かったのだ。
そのまま数秒間、千反田と見つめ合う。
そんな沈黙に耐え切れず、俺は顔を逸らした。
千反田も顔を逸らし、口を開く。
える「あ、あの……」
える「少し……は、恥ずかしいです」
あえて言わなくてもいいだろうに、そんなの俺だって感じている。
そして千反田の手を離し、俺は自分の席へと腰を掛けた。
空気を変えるため、咳払いを一つすると、俺は千反田に話しかける。
奉太郎「……えっとだな、千反田はペンを追いかけ過ぎだ」
える「追いかけ過ぎ……ですか」
奉太郎「ああ」
奉太郎「ペンを押し出したら、そのまま戻ってくるのを待つんだ」
奉太郎「それで、タイミング良く掴む、それだけだ」
える「分かりました……もう一度、やってみますね」
える「ええっと、こんな感じで持って」
える「……えい!」
まあでも、さっきよりかは大分マシになっていた様に見える。
える「やはり、難しいですね」
奉太郎「その内出来るようになるさ、さっきも言ったけどな」
える「はい……頑張ってみます」
える「でも、折木さんは簡単そうに回して、凄いです」
奉太郎「そ、そうか」
える「折木さんの特技はペン回しだったんですね」
……なんか、とても情けない特技では無いだろうか。
奉太郎「そこまで大袈裟に言う程の物でもないだろ」
俺はそう言うと、千反田はやはりと言うべきか、顔を近づけ、言ってきた。
える「どんな些細な事でも、皆さんそれぞれ、得意な物や苦手な物があるんです」
奉太郎「……まあ、そうだな」
奉太郎「それは分かる」
える「ふふ、そうですか」
える「例えば折木さんは物事を組み立てるのが、得意ですよね」
そうなのだろうか、自分では良く分からないが……
える「でも、私は物事を組み立てるのが苦手です」
奉太郎「ああ、それは何となく分かる」
千反田に向けそう言うと、少しむくれながら続けた。
える「どんな些細な事でも、それらはその人と言う物を表していると、私は思います」
える「誰しも、これだけは負けられない、と言うのがあると思うんです」
奉太郎「俺にそれがあると思うか」
える「折木さんは……そうですね」
える「面倒くさがりな所は、誰にも負けませんよ」
さっきの仕返しと言わんばかりに、千反田はにこにこしながら俺に言ってくる。
奉太郎「……お前も随分言う様になったな」
える「でも、それもまた……折木さんという方を表しているんです」
える「写真を撮るのが得意な方、絵を描くのが得意な方、物を作るのが得意な方、ゲームが得意な方」
える「どれだけ小さい事でも、それらは立派な物だと……私は思うんです」
奉太郎「つまり、お前の好奇心も……千反田と言う人間を表しているのか」
える「ええ、そうなりますね」
える「それで、私も折木さんの様にペンを回せるのか……と感じまして」
奉太郎「ああ、それでペンが気になる、と言ったのか」
える「はい、そうです」
える「でも、私には少し難しいみたいです」
そう言いながら、笑う千反田の顔は……
どこか、寂しげだったのを俺はしっかりと記憶していた。
第13話
おわり
入須「千反田も、聞くだろうな」
入須はこちらに振り向きながら、続けた。
入須「必ず、聞くと私は思う」
奉太郎「……そうですか」
奉太郎「奇遇ですね、俺も丁度、同じ事を思っていました」
奉太郎「俺は……間違いなく、聞かれるでしょう」
入須「ふふ、君は千反田の事を一番理解しているからな」
奉太郎「……それは、過大評価って奴ですよ」
入須「……果たしてそうかな」
入須「それより、答えはまだなのか」
奉太郎「……今、考えている最中です」
入須「そうか、なら私は少し黙るよ」
奉太郎「ええ」
まあ、黙ってくれるなら有難い、今は考える事に集中したかったのだ。
俺は入須の横まで歩き、高台から下を見下ろす。
海の匂いが、少しだけした。
ふと、時計に目を移す。
時刻は丁度、22時を指している所だ。
そして視線を、高台から見える町並みより更に下に落とした。
……ああ、くそ。
まずいな、これは非常にまずい事になった。
俺がまずいと思ったのは、時刻のせいでは無い。
この高台に向かって、走ってくる人影が下に見えたのだ。
走り方や、外見の特徴。
そしてここからでも感じる、そいつの纏っている雰囲気。
間違いない、あれは千反田だ。
~折木家~
7月に入り、気温も大分上がってきた。
俺は勿論、この土日を満喫するつもりだ。
……満喫と言っても、外に出るつもりなんて一切無い。
家の中でぐだぐだと、ただ時を過ごすだけ。
まあ、そんな理想を抱いていたのもつい10分程前の事なのだが。
奉太郎「……わざわざ暑い中ご苦労様」
里志「うわ、嫌そうな顔だね」
摩耶花「暑いって言っても、今日は涼しい方よ」
える「そうですよ、折木さんも外に出てみたらどうですか?」
何の連絡も無しに、突然こいつらが家へ押し掛けてきたのだ。
奉太郎「それで、今日の用件は何だ」
里志「うーん、そう言われると困っちゃうな」
困る? つまりこいつらは用も無く俺の休日を妨害しに来たと言うのか。
俺がそれを言おうとした所で、千反田が割って入る。
える「ええっとですね」
える「今日は、折木さんのお姉さんに呼ばれて来たんです」
……俺の姉貴に?
姉貴がどうやってこいつらと連絡を取ったのも気になるが……それより今は。
俺はその言葉を聞くと同時に、玄関からリビングへと向かう。
供恵「あ、友達来たんだ」
供恵「暇そうなあんたの為に呼んだってのじゃ、駄目かな」
奉太郎「……」
供恵「嘘嘘、冗談よ」
供恵「じゃあ一回、リビングに集まって貰おうかな」
奉太郎「理由が分からんぞ」
供恵「いいからいいから、早く早く」
何だと言うのだ……
しかしそんな会話が聞こえたのか、玄関から里志の声が聞こえてきた。
里志「お姉さんもそう言ってる事だし、お邪魔しますー」
こうしてまたしても、俺の休日は浪費されていく。
……もう、慣れた。
奉太郎「それで、何故……里志達を呼び出したりしたんだ」
供恵「んー、もうそろそろ来ると思うんだけど」
丁度その時、チャイムが鳴り響く。
供恵「来たみたいね、ちょっと行って来るわね」
そう言い、姉貴は玄関へと向かう。
俺はそれを見送り、里志達の方へと顔を向けた。
奉太郎「大体、俺に一言くらい言ってくれれば良かったのに」
里志「いいじゃないか、驚かせたかったし」
奉太郎「……良くないんだが」
まあ、なってしまった物は仕方ないか。
過去を悔いるより、次に起こるべく問題の片付け方を考えた方が、効率的と呼べるだろう。
そう言いながら、姉貴はリビングへと戻ってきた。
……その後ろには、見覚えがある人物。
入須「お邪魔させて貰うよ」
入須冬実が居た。
それを見て、一番早く口を開いたのは千反田であった。
える「入須さん! お久しぶりです」
入須「ああ、久しぶり」
里志「驚いた、逆に驚かされる事になるとはね」
そんな里志の言葉に、入須は顔をしかめている。
無理も無い、さすがの入須でも里志が俺を驚かせようとしてた事なんて分かる訳が無い。
摩耶花「私もちょっと気になる、だって私達は折木のお姉さんから呼ばれたのに」
……そうか、こいつらは俺の姉貴と入須が知り合いだと言う事を知らないのか。
入須「私が来たのは用事があったからだ」
入須「君達、全員にね」
入須「この人が呼び出したのにも理由がある、私とこの人は知り合いなんだよ」
供恵「何よ、いつもみたいに先輩って呼んでよね」
入須「そ、それは」
珍しい、入須が口篭ってしまった。
やはり、姉貴の方が一枚上手と見える。
我ながら……末恐ろしい姉貴を持ってしまった物だ。
里志は何が満足なのか、とても嬉しそうな顔をしている。
える「それよりです!」
える「用事とは、何でしょうか?」
奉太郎「まあ、そうだな」
奉太郎「わざわざ集めてまでの用事は、俺も少し気になる」
入須「ま、隠す事も無いか」
入須「君達を、私の別荘に招待しようと思ってな」
える「別荘、ですか?」
入須「ああ、そうだ」
入須「私も小さい頃は良く行っていた」
やはり侮れない、別荘を持っている人は始めて見た。
里志「行きます!」
一番早く賛同を示したのは、俺の予想通り、里志であった。
摩耶花「私も行きたい!」
伊原は珍しく、自分の意見に素直になっている様子。
こいつも多分、別荘と言う響きにやられたのかもしれない。
える「入須さんのご招待を、断る理由はありませんね」
……こうなってしまっては、俺もやはり断れないか。
奉太郎「じゃあ俺も、行きます」
入須「実はね、その別荘の近くでは、一年に一回の花火大会があるんだよ」
える「わあ……素敵ですね」
入須「私とその花火師とは知り合いでね」
入須「今年が、最後の仕事だそうだ」
入須「それで、是非……彼が最後にあげる花火を見て欲しいんだ」
奉太郎「なるほど」
奉太郎「そう言われてしまったら、尚更行くしか無さそうですね」
える「最後の花火ですか、楽しみですね」
そう言いながら、千反田は俺の方に笑顔を向ける。
入須「次は彼の子供が受け継ぐそうだ」
ん、その入須が言う彼とは……一体何歳なのだろうか。
里志「その花火師の人は、おいくつなんですか?」
そんな俺の心の中の疑問を、里志が口に出す。
入須「今は確か……四十、だったかな」
入須「次の仕事は、ちゃんと決まっているみたいだよ」
奉太郎「随分、若く引退するんですね」
入須「まあ、そうだな」
入須「彼が仕事を始めたのは20歳と聞いている」
入須「仕事一筋な人でね、今まで失敗した事が無いそうだ」
ほう、それはいい花火が期待できそうだ。
入須「そうそう、彼の奥さんはこの神山市で働いているぞ」
……ま、それにはあまり興味が無かったので俺は受け流す。
入須「8月に入ってすぐだ」
える「……あ」
入須がそう言った後、千反田は何かを思い出したかの様に口に手を当てた。
える「実は、その日は家の用事がありまして……」
大変だな、こいつも。
える「でも、夕方には終わると思うので、それからでもいいですか?」
入須「そうだな……じゃあ先に私達で行って、千反田は後ほど合流という感じで、いいかな」
入須「地図は後で渡しておく」
える「ええ、分かりました」
8月の頭か……俺にも何か用事は。
……ある訳が無いな。
奉太郎「それで、花火大会は何時からですか?」
入須「午後の8時だ、これは毎年変わらない」
奉太郎「えっと、花火大会はどのくらいやっているんですか?」
入須「1時間半程だな」
奉太郎「……帰るのは大分遅くなりそうですね」
入須「何を言っている? 泊まりだぞ」
……予想はしていたが、いざ言われると、簡単に行くと言った事を後悔する。
奉太郎「……分かりました」
里志「はは、嫌そうな顔だ」
える「折木さんも行けばきっと、楽しくなりますよ!」
……どうだかな。
入須「それもそうだな」
入須「また、連絡するよ」
里志「予定は決まったね」
里志「宜しくお願いします、先輩」
入須「堅苦しいのは無しにしよう、折角の休みだろう」
摩耶花「楽しみだなぁ……花火大会」
入須「彼があげる花火は綺麗だよ、私も好きだ」
それより、いつまで話しているんだ、こいつらは。
奉太郎「じゃあ計画は決まった事だし、解散するか」
入須はそう言うと、席を立つ。
よし、これで残りの時間はぐだぐだとできる。
里志「何言ってるんですか、入須先輩」
里志「大学の話とか、参考までに聞かせてください」
なんの参考にするのかは分からない。
いや、待て待て、そうでは無いだろ。
入須「だが、迷惑では……」
ほら、入須はそう言ってるぞ。
える「いえ、大丈夫ですよ、お話しましょう」
千反田が大丈夫と言うと、俺も何だかそんな気が……する訳が無い。
摩耶花「それで、大学はどうなんですか?」
入須「まあ、特にこれと言って感想は無いが……」
入須「高校よりは、自由と言った感じかな」
里志「いいなぁ……憧れますね」
える「そうですね、楽しみです」
駄目だ……聞いちゃ居ない。
くそ、またしても俺の休日は消費されていく。
ああ、さようなら。
そうだった、こうして俺達はここへ来ているのだった。
思えばあの時、千反田は既に大学へ行く事を決めていたのだ。
真意は分からないが……あいつの決めた事だ、間違いは無いだろう。
それにしても、あれから何分経った?
時計に目を移すと、22時5分。
千反田がここへ来るまでは、もう少し時間がありそうだ。
ならそうだ、何故こうなってしまったのかを思い出そう。
全部繋がる筈だ、答えを出せば……まだ間に合う。
俺はそう思い、意識をまた、記憶を掘り起こす作業に向けた。
~別荘~
里志「うへぇ、これはまた随分と、立派だね」
摩耶花「すごい……」
今、俺達の目の前にあるのは……千反田の家までとは言わないが、立派な別荘であった。
入須「見ていても何も起こらんぞ、中に荷物を置こう」
呆気に取られる俺達に、苦笑いしながら入須が声を掛けた。
奉太郎「そうですね、電車が遅れていたせいで……いつにも増して疲れました」
里志「はは、ホータローらしい」
無理も無い、電車は何かしらの大きな工事があるらしく、一時間も遅れていたのだ。
本数も減っていたせいで、ホームでかなりの時間待たされた。
明日には通常に戻るらしいが……いや、今日いっぱいの工事が明日に延期されてしまっては、俺にはとても神山市まで帰れる気がしない。
そんな事を思いながら、別荘の中へと入る。
中は洋風な感じで、しっかりと掃除されているそれは、なんだか居心地が良かった。
入須「そう言ってくれると嬉しいな」
奉太郎「ミステリー映画の撮影に、良さそうです」
俺はふと思いついた冗談を口にすると、入須は困った様な顔をしながら言う。
入須「……君は本当に、執念深いな」
奉太郎「冗談ですよ」
入須「ならいいが……」
そんな会話をしながら、部屋を案内される。
どうやら一人一部屋あるらしく、入須家の恐ろしさを身を持って知る事となった。
その後、全員が荷物を置き、リビングへと集まる。
里志「海に行きたいですね」
入須「……それは明日にしないか?」
摩耶花「何か、理由があるんですか?」
入須「理由と言うほどの事でも無いが……どうせなら」
入須「全員で、行こう」
そうか、千反田がこの場には居ないのか。
それをちゃんと考える辺り、入須はただの冷血な奴では無いのだろう。
まあそれは、去年の事でも分かっていたが。
奉太郎「じゃあ、どうするんですか」
入須「そうだな……」
入須「この辺りの町を、紹介するよ」
入須「一緒に行こうか」
つまりは、歩くと言う事か。
だが……今は簡便してほしい。
摩耶花「何よ、また面倒とか言う気?」
奉太郎「いや……面倒なのは面倒なんだが」
摩耶花「……?」
里志「はは、ホータローはここで寝ていた方が良さそうだ」
入須「なんだ、来ないのか?」
里志「いやいや、ホータローも来たい気持ちはあるみたいですよ」
摩耶花「なら、なんで?」
里志「今の顔、酔ってる顔だから」
その通り、電車の酔いが、俺にはまだ残っていたのだ。
立ち止まったり、座っている分には平気だが……歩くとなると、ちと辛い。
入須「なら折木君はここで休んでいると良い」
入須「夜には花火大会が始まるしな」
入須「それまでには、体調を治してくれよ」
奉太郎「……すいませんね」
俺は入須にそう言い、先程荷物を置いた部屋へと向かった。
……やはり俺は、前に伊原が言っていた様に、イベントを楽しめないのかもしれない。
そんな事を考え、扉を開ける。
明日は、海か。
里志に事前に言われ、一応は水着は持ってきて居たのだが……まあ見ているだけでもいいか。
そして俺は、ベッドへと横たわる。
……ああ、待てよ。
と言う事は……千反田も、水着を着るのか。
見ているだけでは駄目だ、いやむしろ……見るのすら駄目だ。
違う違う、今はそんな事を考える時では無いだろう。
……体調が悪くなるのは、明日の方が良かったかもしれない。
そう俺は結論を付けると、ゆっくりと目を閉じた。
第14話
おわり
そろそろ……千反田がここに来る。
入須「……まだかな?」
奉太郎「黙っていてくれるんじゃ、無かったんですか」
入須「すまんな、私もあまり……気が長い方では無いんだ」
奉太郎「そうですか」
入須「それに、そろそろ千反田が来るぞ?」
そう言い、入須が指を指す。
ああ、くそ。
もう一度、後一回だけ意識を過去に向けよう。
そうすれば、きっと答えが出る筈だ。
花火大会もいよいよ、終盤へと向かっている。
一際派手にあがる花火を一度見て、視線を地面へと向ける。
あの後だ……俺が目を覚ましたら、確か。
~別荘~
入須「折木君、まだ寝ているのか」
奉太郎「……ん」
その言葉で、俺はゆっくりと目を開けた。
奉太郎「……勝手に、部屋に入らないでくださいよ」
入須「ここは私の別荘だぞ、つまりこの部屋も私のだ」
奉太郎「……さいですか」
寝起きは最悪だった、そんな気分を表す様に、部屋が随分と暗い。
奉太郎「あれ、もう夜ですか」
入須「ああ、私はついさっき戻ってきた所だよ」
入須「今は19時くらい、かな」
奉太郎「花火大会って、何時からでしたっけ」
入須「20時からだ、だからなるべく急いでくれるとありがたいな」
それは最初に言うべき事では無いのだろうか。
まあいい、準備をするか。
俺は適当に返事をした後、身支度を整える。
そして入須と一緒に別荘を出た時、ある事に気付いた。
奉太郎「そういえば」
奉太郎「里志と、伊原は?」
入須「ああ、彼らなら二人で花火を見ると言っていた」
入須「まあ、恋人同士なら、そうしたいのが本音だったんだろうな」
奉太郎「……そうですか」
入須「まだ来ていないよ」
入須「電話はあったが、電車が遅れているせいで……もしかしたら間に合わないかもな」
奉太郎「なるほど」
奉太郎「つまりは入須先輩と二人っきりって事ですか」
入須「何だ、やはり私と二人は嫌か」
奉太郎「……別に、そういう訳では無いです」
入須「また、千反田に勘違いされたらと考えているのか」
入須「私と折木君が、特別な関係の様に」
奉太郎「入須先輩」
奉太郎「……いくら俺でも、それ以上言うなら怒りますよ」
入須「……すまんな、冗談だ」
入須「千反田がそんな勘違いをもう起こさない事等、私は分かっているさ」
入須「あいつは、賢いからな」
奉太郎「……すみません」
奉太郎「それじゃ、行きますか」
入須「まだ時間はありそうだな」
入須「何か、話でもしながら歩くか」
奉太郎「話、ですか」
奉太郎「……俺が気になるのは、花火師の人の事ですね」
入須「花火師の?」
奉太郎「はい」
奉太郎「その人は、どんな人ですか?」
入須「そうだな……」
入須「一言で言うなら……やはり、仕事一筋、と言った所だ」
入須「自分の仕事に誇りを持っていて、何より信念を持っていた」
入須「そんな人だよ」
奉太郎「なるほど、やはり」
奉太郎「素晴らしい花火が、期待できそうですね」
入須「そうとも、私が一番好きな花火だ」
入須がここまで言い切ると言う事は、多分誰から見ても……素晴らしい物なのだろう。
入須「私が思ったのは……」
奉太郎「何ですか」
はあ、俺とその花火師が似ている……か。
奉太郎「あり得ませんよ」
奉太郎「第一、俺はそんな面倒な事はしません」
奉太郎「仕事で選ぶとしたら、絶対に無いですね」
奉太郎「それにその仕事に、信念やプライドを持つ事も、無いと思いますよ」
入須「きっぱりと言い切るのだな」
入須「観点を、変えてみたらどうだろうか」
奉太郎「観点を?」
入須「ああ」
また姉貴か、余計な事を。
入須「それを花火師の仕事と置き換えるんだ」
入須「君はそのモットーに感じているのは、信念だろう」
奉太郎「……どうでしょうかね」
入須「私から見たら、似ているよ」
やはり……俺にはとても、そうは思えない。
入須は時計に目をやっていた。
入須「そろそろ20時か」
俺は設置されていたベンチに腰を掛け、その時を待っている。
入須「君は、花火は好きか?」
奉太郎「どちらでも無い、と言ったほうが本当でしょうね」
入須「そうか」
入須は手すりに背中を預けながら、腕を組んでいた。
奉太郎「不満ですか?」
入須「不満……とはどう言う事かな」
入須「ふふ」
入須「……君の事は少しは分かっているつもりだ」
入須「だから別に、不満と言う事も無いかな」
入須「ある程度は予想できていたと言う事だ」
奉太郎「それなら……いいですが」
入須「君は、おかしな奴だな」
真顔で言われると、なんだか嫌だな。
奉太郎「そう言う事を、単刀直入に言うのはやめた方がいいと思います」
入須「それなら良い、と言うくらいなら……最初から、どちらでも無いなんて言わなければいいじゃないか」
奉太郎「……俺は」
奉太郎「嘘はあまり、好きでは無いので」
入須「……ふふ、そうか」
入須「そう言えば」
入須「千反田も、嘘はあまり好きでは無かったな」
その時の入須の顔は、本当に嫌な笑い方をしていた。
奉太郎「……それは、初耳です」
俺がそう言うと、入須は眉を吊り上げながら、口を開いた。
奉太郎「……全く」
奉太郎「嘘よりも、あなたの事が嫌いになりそうですよ」
入須「……それもまた、嘘だと良いのだがな」
奉太郎「さあ、どうでしょうね」
その時、夜風が一際強く吹く。
夏はまだ始まったばかりなのに、その風はとても冷たく、俺は少しだけ身震いをした。
入須「……おかしいな」
奉太郎「おかしいとは、俺の事ですか?」
入須「いいや、違う」
何だ、さっきまでの空気とは変わって……入須は少し、いや、いつも通り真面目な顔をしていた。
入須「あれだよ」
そう言いながら、入須が指を指したのは時計。
俺は促されるまま時計に目を移す。
奉太郎「20時10分ですね」
奉太郎「別に、おかしい所はありませんが」
入須「はあ……」
入須「君は何の為にここまで来たのか、忘れたと言うのか」
何の為だったか……
ああ、そうだ、花火だ。
入須「いいや、それはあり得ない」
入須「私は今日、一度彼に会っているんだ」
彼……とは、花火師の事だろう。
入須「準備は完璧だった」
奉太郎「なら、その後に何か予想外の事が起きて」
入須「それも無いな」
入須「彼はこの仕事に……大袈裟に言えば、命を賭けていた」
入須「そのくらい、誇りに思っていたんだ」
入須「それはさっきも言っただろう」
入須「1分くらいの前後なら、時計のずれとも言えるがな」
入須「ここまで遅れた事は……今まで無かった」
ふむ……つまり、よく分からん。
奉太郎「まあ、その内始まるでしょう」
入須「だと良いんだが」
入須「……少し、心配だな」
そう言う入須の顔は、どこか寂しげで……
気付いたら俺は、顔を入須から背けていた。
多分、いつもの入須らしくない入須を、見たくなかったのだろう。
入須「……ああ」
それから5分、10分と経つが、花火大会は始まらない。
入須はどこか、そわそわしている様子だった。
奉太郎「先輩らしく無いですね」
入須「ふふ、君が私の何を知っているんだ」
奉太郎「……何も」
入須「本当に、おかしな奴だな……君は」
入須はそう言い、俺の隣に腰を掛けた。
奉太郎「結構です」
入須「聞くだけでも聞け」
入須「君なら多分、分かるしな。 私も解決して欲しい問題だ」
……ううむ、どうしようか。
まあ、何もしないで待っているよりは、いくらかマシか。
それに……俺が今日ここに居るのも、入須の招待あってこそだしな。
考えても、罰は当たらないか。
奉太郎「分かりましたよ、何ですか?」
入須「君ならそう言ってくれると思ってた」
入須「私が提示する問題は一つ」
……また無茶な。
奉太郎「それが俺に分かる訳が無いでしょう」
入須「どうだろうな」
入須は何がおかしいのか、笑っていた。
奉太郎「まあ、頭の隅には、一応置いておきます」
入須「ああ」
ああ、そうだった。
そうして俺は入須の問題へと取り組む事になったのだ。
そう思い、顔を上に戻した。
える「私、気になります!」
奉太郎「うわっ!」
勢い余って、ベンチから落ちそうになる。
奉太郎「ち、千反田か」
奉太郎「いきなり声を出すな、びっくりするだろ」
える「いえ、何度か声を掛けましたよ」
える「でも、考えている様子だったので……」
俺はそれほどまでに、しっかりと考えていたのか。
える「入須さんと同じ事です!」
それを聞き、視線を入須に移す。
入須「暇だったからな、全て説明しておいた」
くそ、最初からこれが狙いだったのでは無いだろうか。
まあでも、千反田が見えた時点でこの展開は予想できていた。
える「それで、何か分かりましたか?」
奉太郎「花火大会が遅れた理由、か」
える「勿論です!」
える「何故、失敗をする事になったのか」
える「万全の準備が出来ていたにも関わらず、何故それが起きてしまったのか」
える「私、気になります」
俺は千反田の言葉をしっかりと聞き、返す。
奉太郎「……失敗とは、少し違うかもしれない」
える「それは……どういう事ですか?」
過去を遡ったおかげで、大体の答えは出ていた。
確認するべき事は、あと一つ。
奉太郎「入須先輩」
入須「ん、どうした?」
入須「ええっと、どうだったかな」
入須「昼間、挨拶した時は見えなかったから、恐らくそうだろう」
奉太郎「そうですか、ありがとうございます」
やはり、そうか。
ならもう、答えは出た。
なんとか間に合ったと言う所だが……間に合った物は間に合ったのだ。
奉太郎「じゃあ、何故……花火大会が遅れたのか、説明するか」
える「はい!」
奉太郎「まず第一に、今日の花火大会は20時に予定されていた」
奉太郎「それにも関わらず、始まったのは21時だ」
奉太郎「一時間のずれ……千反田は何を予想する?」
える「ええっと、そうですね」
える「準備不足、花火の設置ミスが考えられます」
える「後は……あまり言いたくないですが、急病なども」
奉太郎「大体、そうだろうな」
奉太郎「入須先輩、急病は考えられますか?」
入須「……無いと思うな」
入須「風邪にも滅多に掛からない人だ、考えられない」
入須「勿論、断言はできないが」
奉太郎「それだけ聞ければ十分です」
入須「いいや、それもあり得ない」
奉太郎「そう、入須先輩が昼間に確認した時は、完璧に準備は出来ていたんだ」
奉太郎「つまり、先程、千反田があげた理由は全てが違う」
える「それなら、何故?」
奉太郎「……」
らしくないな、俺がこれを言うのはらしくない。
だが、それしか……そう答えを出すしか無かった。
……
いや、違う。
俺は、期待していたのか。
そうあって欲しいと。
俺がそう言うと、未だにあがり続ける花火に一度目を移し、千反田は口を開く。
える「ええっと? 今現在、見れていますよ」
奉太郎「そうだ」
奉太郎「だが、通常通りの時間……20時に始まっていたらどうだ?」
える「……恐らく、見れなかったでしょうね」
入須「……そう言う事か」
どうやら、入須は分かった様だ。
さすがと言うべきか、だが少し……気付くのが早すぎでは無いだろうか?
ま、そんな事今はどうでもいいか。
俺はそう結論付け、話を再開する。
奉太郎「今は22時を過ぎた所、通常通り行われていたら」
奉太郎「もう、終わっている時間なんだよ」
える「でも、それとどう関係が?」
える「まさか、私の為に大会が遅れた等は、言いませんよね」
奉太郎「……俺が、花火師だったとしたら」
奉太郎「その可能性もあったな」
そう俺が言った言葉は、花火の音に掻き消され、千反田には届いていなかった。
える「あの、今何て言いました?」
奉太郎「花火師は……奥さんの為に、大会を遅らせたんだろうな」
える「奥さんの、為ですか」
奉太郎「千反田がここに来るのに遅れた理由は、何だ」
える「ええっと、電車が遅れていたせい、ですね」
奉太郎「その通り」
奉太郎「それに巻き込まれたのは、花火師の奥さんも同じだったんだよ」
える「……と言う事は」
奉太郎「……自分があげる最後の花火」
奉太郎「それを、自分が一番好きな人に」
奉太郎「見て欲しかったんだと思う」
える「……」
入須が提示した問題、千反田が俺の目の前に出した問題。
その問題の答えを千反田に教えると、しばらく千反田は黙って花火を見ていた。
それを見ながら、千反田はようやく口を開いた。
える「素敵、ですね」
奉太郎「……意外だな」
える「私が、大会が遅れた理由を素敵と言った事がですか?」
奉太郎「ああ」
える「……誰でも、そう思うのでは無いでしょうか」
奉太郎「……そうかもしれないな」
える「折木さんは、どう思いました?」
俺か、俺は。
奉太郎「……自分の信念を曲げ、最後は愛する人の為になる事をした」
奉太郎「それを悪い事とは、言えないさ」
える「ふふ、そうですよね」
そうして、俺と千反田、入須は最後の花火があがり、夜空に消えるまで、口を開く事は無かった。
入須「やはり、折木君に答えを求めたのは正解だったな」
奉太郎「……それが合ってるかも分からないのにですか?」
入須「間違ってはいないだろう」
入須「この中で一番、花火師と付き合いが長い私が言うんだ」
入須「君の答えは、正解だよ」
奉太郎「……そりゃどうも」
そう言い、自然と入須は俺と千反田の前を歩く。
千反田と横に並び、帰るまでの道を歩く事となった。
奉太郎「さっき、俺が言った事だが」
える「えっと」
える「折木さんが意外と言った事ですか?」
奉太郎「千反田は、今回の事……見覚えが無いか?」
える「見覚え……」
える「すいません、無いですね」
奉太郎「俺は、似たような事が前に合ったのを覚えている」
える「それは、私も知っている事でしょうか」
奉太郎「勿論」
奉太郎「そうじゃなきゃ、聞かないさ」
千反田は腕を組みながら、しばらく考えた後に、口を開く。
える「ごめんなさい、私にはやはり……」
そうだろうな。
千反田には、分からない事だろうから。
える「今年の、ですか?」
奉太郎「いや……去年のだ」
える「去年の……」
奉太郎「その時、通常とは違うルートを通った筈だ」
える「あ、そんな事もありましたね」
奉太郎「ええっと、誰だったか」
奉太郎「あの、茶髪のせいで」
える「ふふ、小成さんの息子さんですね」
奉太郎「そうそう」
える「もう少し、人の名前を覚えた方が良いですよ」
奉太郎「……努力はするさ」
奉太郎「ああ、それで」
奉太郎「あの時、俺は言ったよな」
奉太郎「茶髪が違うルートにしたかった理由を」
える「ええ、覚えています」
える「その……行列が、桜の下を通る姿を」
その行列のメインは勿論、雛である千反田だ。
それを分かっていてか、少しだけ恥ずかしそうに千反田は言った。
奉太郎「それで、それに千反田は何て答えたか覚えているか?」
える「……確か、そんな事のために、と」
える「えっと、それと今回の事に、何の関係が?」
奉太郎「……俺は、あの時、千反田がそう言った時」
奉太郎「そんな事とは、全然思えなかった」
える「……それは、どういう意味でしょうか」
奉太郎「あの茶髪は、自分が良い写真を撮りたい為に、ルートを外させた」
奉太郎「花火師は、奥さんの為に、花火大会を遅らせた」
奉太郎「そのどちらも、極端に言えば自分の為だろう」
える「……そうなりますね」
奉太郎「でも、それでも」
奉太郎「他にも、救われた人が居るんだ」
奉太郎「そして、行列が桜の下を通ることで」
奉太郎「……俺は、今までで一番綺麗な景色を見れた」
える「あ、あの……それって、折木さん」
奉太郎「後ろから見ていても、綺麗だった」
奉太郎「どんな景色よりも……いい物だったよ」
える「……は、恥ずかしいです」
奉太郎「……すまん」
奉太郎「俺らしく、無かったな」
える「い、いえ……良いんです」
しかし、口をモゴモゴさせながら、ありがとうございますと言う千反田を見たら、どうしても言葉には出来なかった。
……多分、恥ずかしかったんだと思う。
どうにも自分の事は、分かり辛い。
入須「そろそろ着くぞ」
ふいに入須が、声を掛けてきた。
気付けばもう、別荘が見えている。
……なんだか今日一日で、物凄いエネルギーを使った気がするな。
あいつは、最初から全て分かっていたのでは無いだろうか。
花火大会が遅れた理由を。
奉太郎「……やはり、苦手だ」
そんな俺の呟きが聞こえたのか、入須は振り向きながら、口を開く。
入須「結論が出た所で、もう一度言うが」
入須「似ているよ、君は」
ああくそ、まんまと嵌められたって訳だ。
……今度誘われたとしても、断る方向にしよう。
次に花火を見る時は、そうだな。
千反田と二人でと言うのも、悪くないな。
第15話
おわり
Entry ⇒ 2012.11.01 | Category ⇒ 氷菓SS | Comments (0) | Trackbacks (0)
真美「お菓子持ってなかった人には問答無用でイタズラする」
真美「あ、あそこにいるのは>>5!」
千早「おはよう真美。朝から元気ね」
真美「んっふっふ~♪ トリックオアトリート!」
千早「えっ? ああ、そういえばそんな日だったわね。ええと……」ガサゴソ
>>10
千早はお菓子を持っていた?
持っていた場合何のお菓子?
真美「………なにこれ」
千早「何って……都こんぶ。なかなかのどに優しいのよ?」
真美「いや……もっと、なんていうか……キャンディとかないの?」
千早「のど飴の方が良かったかしら?」
真美「違うよぉぉぉ! そうじゃないよぉぉぉ!」
千早「その割にしっかり食べてるじゃない……」
真美「というわけでイタズラするよ!」モサモサモサ
千早「ええ……」
真美「千早お姉ちゃんへのイタズラは>>15だ!」
千早「な、なに?」
真美「真美にお菓子を寄越さなかった罰だよ! さあ困れ困れ!」ギュウ
千早「えっと……」
真美「ふふふ……」
千早「……」
真美「……」
千早「……」ギュッ
真美「!?」
千早「何?」
真美「何でギュッとし返したの?」
千早「ダメだったかしら?」
真美「だ、ダメだよ! イタズラは真美にのみ許される所業だからね!」
千早「あら残念」パッ
真美「あ……」
千早「……」
真美「し、してないよ!」
千早「その割に私から離れようとしないのね」
真美「ま、まだ真美のイタズラは終了してないぜ!」
千早「はいはい」
真美「むう……」
千早「ふふっ、真美」
真美「?」
千早「私でよければいつでもイタズラしていいわよ?」ボソッ
真美「」
真美「初戦の相手としてはハードルが高すぎたか……不覚!」モサモサモサ
真美「……お姉ちゃんが欲しくなってしまった……」モサモサモサ
真美「さて、気を取り直して次は誰にしよーかなー」モサモサモサ
真美「お、あれに見えるは>>25!」
小鳥「おはよう、真美ちゃん」
真美「トリトリ!」
小鳥「えっ?」
真美「もー! 今日はハロウィンでしょ?」
小鳥「あ、あぁ、トリックオアトリートの略なのね……初めて聞いたわその略語……」
小鳥「ええと……何かあったかしら?」
>>30
ピヨ子の鞄にはお菓子は入っていた?
入っていた場合何のお菓子が?
真美「おぉぉ! チョコじゃーん! さっすがピヨちゃん!」
真美「いただきまーす」パクッ
真美「……もぐもぐ」
小鳥「どう?」
真美「……」
真美「……ひっく」
小鳥「!?」
小鳥「真美ちゃん、ウイスキーボンボン食べるの初めて?」
真美「うぃしゅきーぼんぼん?」フラフラ
小鳥(わかっててやったとはいえ、なんだか大変なことになってきちゃったわ……)
真美「はーい、じゃあいまからピヨちゃんにイタズラしまーしゅ」フラフラ
小鳥「お菓子あげたのに!?」
真美「"今"ピヨちゃんはおかしもってないれしょ?」
小鳥「ええぇ……」
真美「ピヨちゃんへのイタズラは>>38れす!」
超えちゃいけないライン、考えろよ(驚愕)
真美「おりーぶおいる」
真美「これからピヨちゃんのメイクをおとそうとおもいまーす」
小鳥「いやいや! 明らかに食用の油よねそれ!? オイルクレンジングには専用のオイルがあるから!」
真美「んー、真美お仕事以外でお化粧しないからわかんなーい」
小鳥(もはや目の焦点があってない……)
真美「レッツMAMI'Sキッチン!」バッ
小鳥「やめてぇぇぇ!」
小鳥「ああっ、高い! 打点が高い!」
小鳥「うぅ……心なしかベトベトする……」
真美「」
小鳥「まさか顔面にオリーブオイル垂らされる日が来るとは思わなかったわ……」
真美「」
小鳥「私にそういうプレイの趣味は……真美ちゃん? どうかした?」
真美「……ピヨちゃんさ」
小鳥「?」
真美「普段お肌のお手入れどんなことしてる?」
小鳥「え? いや、特にこれといっては……」
小鳥「えっと……紫外線対策に、サンバイザーと日傘を持ってるとか……」
真美「サンバイザー……」
小鳥「ああっ! 今『おばさん臭い』って思ったでしょ!」
真美「お、思ってな……」
小鳥「こちとら必死なのよ! 女なんて若さという財産を浪費していく生き物なんだからね!」
真美「お、落ち着いてピヨちゃん、ちょっと何言ってるかわかんないよ」
小鳥「うわぁぁぁん! もうメイク落ちちゃったし帰るぅぅぅ!」ダダッ
真美「……っていうか」
真美「肌キレイすぎだよ! 赤ちゃんかよ!」バンッ
真美「…………真美もサンバイザー買おうかな」
真美「さ、とりあえず次に行こう。まだちょっとフラフラするけど……なんなんだろこれ」
真美「お! ターゲット発見! あれは>>54!」
真美「876プロでりっちゃんのいとこの! ええと……」
涼「涼、秋月涼だよ」
真美「そうそう、涼ちん!」
涼「そ、その呼び方はちょっと……」
真美「涼ちん、トリックオアトリート!」
涼「え? ああ、そっかハロウィンかぁ」
涼「ええと……」ガサゴソ
>>63
お菓子の有無!
お菓子の種類!
涼「?」
真美「これは何を意味しているんだろうね……」
涼「ななな何も意味してないよ! たまたま鞄に入ってただけだよ!?」
真美「たまたま? 何がたまたまなんだろうね……」
涼(なんか怖いよ真美ちゃん……心なしかお酒のにおいがするし……)
涼「わぁぁぁ! その先は言わないで!」
涼「あ、あんまり言いふらさないで欲しいんだそのこと……」アセアセ
真美「? 別に隠すようなことじゃないと思うんだけど」
涼「隠すようなことだよぉ! ばれたら恥ずかしいどこの騒ぎじゃないよ……」
真美「ほうほう」ニヤニヤ
真美「じゃ、イタズラさせて!」
涼「えっ」
真美「はーい、涼ちんへのイタズラは>>78に決定!」
涼「え?」クルッ
真美「隙有りィ!」ガバッ
涼「うひゃぁぁ!?」ドサッ
真美「んっふっふ~♪ いけませんなぁ、敵に背中を見せるとは……剣士の恥ですぞ?」
涼「なんの話!? っていうか真美ちゃん絶対お酒飲んだでしょ?」
真美「違うよー。ちょっとぽんぽん食べただけだよ」ガシッ
涼「!? な、何する気……?」
涼「っ!」ビクッ
真美「ここか? ここがええんか?」グニグニ
涼「ちょ、ちょっ! ダメぇっ!」
真美「おやおやぁ? 涼ちんの涼ちんが疼いているみたいだけど?」グリッ
涼「な、何言って……あぁっ!」ビクンッ
真美「真美は落ち着いてるよ?
涼ちんこそ落ち着いた方がいいんじゃない?」
真美「顔赤いし息上がってるし……色気バツグンですなぁ」ニヤニヤ
涼(ダメだ……完全に酔いが回ってる……)
涼(真美ちゃんがこうなった原因は何だ……?)チラッ
真美「何よそ見してるの?」グリッ
涼「うあぁっ!」ビクビクッ
涼(! テーブルのウイスキーボンボン……あれを食べたせいか……)
真美「そりゃ」グリグリグリグリ
涼「ッッ!!」ガクガク
涼(か、考えるんだ……箱の中のチョコは一個しか減ってない……!)
涼(つまり、真美ちゃんはウイスキーボンボンを一個食べただけでこんな風になってしまった……)
真美「真美の責めはチョコバットほど甘くないよ!」グニグニグニ
涼「うわぁぁっ!」ビクビクンッ
真美「ふぅ……何か涼ちん見てたら真美もおかしくなりそうだよ……ふふ……」
涼(つまり……これ以上ウイスキーボンボンを食べたら真美ちゃんは……)ググッ
真美「どこに行く気かな? これから第2ラウン……」
涼「真美ちゃん、ごめん!」バッ
真美「!? もごっ……」
涼「何も言わずに飲み込んで!」
真美「むぐ……」
真美「…………きゅう」バタン
涼「………だ、大丈夫かな」
真美「うーん、むにゃ……」
真美「あれ……真美、いつのまに寝てたんだろ……」
真美「んー、何してたんだっけ……何か足の裏に心地良い感触が残ってる気がするんだけど……」ウニウニ
真美「……まあいっか」
真美「あ、そうだ! イタズライタズラ!」
真美「お、あそこにいるのは>>105! 次は君に決めた!」
律子「おはよう、ってもう昼過ぎよ?」
真美「細かいことは気にしない! とにかくトリックオアトリート!」
律子「はいはい、お菓子ね。何かあったかしら……」
>>111
お菓子はあるか
種類は何だ
持ち歩く女子はどうかとおもうけど
律子「麩菓子」
真美「知ってるよ」
律子「こう見えて意外とカロリー高いのよね。お麩だと思って甘く見てると痛い目見るわよ」
真美「いや別に甘く見てないよ。そもそも麩菓子をそこまで深く考えたことないよ」
真美「何か涼ちんにも似たような物を渡された気がするよ……記憶が曖昧だけど……。秋月家はハロウィンに黒くて太い棒状のモノを渡す風習でもあるの?」
律子「?」
律子(あ、結局食べるのね)
真美「……うわぁ……なんか口の中の水分全部持って行かれたよ……」
律子「それが醍醐味みたいなところ、あるから」
真美「ないよ」
真美「……何かテンション下がっちゃったから盛り上げるためにりっちゃんにイタズラするね」
律子「えっ」
真美「りっちゃんへのイタズラはこれだ!>>122」
律子「嫌よ……イタズラされるとわかってて渡すバカがどこにいるのよ」
真美「…………」
真美「! りっちゃん後ろ! 見て見て!」
律子「え?」クルッ
真美「隙有りィ!」サッ
律子「あっ! ちょっと!」
真美「ふっ……またつまらぬものを盗ってしまった……」
律子「なら返しなさい!」
律子「ちょっ……!」
真美「あっという間にメガネを分解!」バラバラ
律子「いやぁぁぁぁ!」
真美(やばいもう後に引けない)
真美「ふふふ……果たしてその心許ない視力でこの小さなネジを探すことが出来るかな?」
律子「……」
真美「まあ、これもせっかくのハロウィンだってのに麩菓子を持ってきたりっちゃんが悪…………りっちゃん?」
律子「……ぐすっ……ひぐっ」
真美「」
真美「なんか知らんけどやりすぎた!」
真美「だだだ大丈夫だからりっちゃん! ネジで留めるだけで直るから! ネジで……あれ?」
律子「………?」
真美「ネジどっかいった」
律子「」
律子「うわぁぁぁん! もう帰るぅぅぅ!」ダダッ
真美「あっ! りっちゃ……」
ガチャッ バタン
真美「どうしよう……とりあえずネジを探さないと……」
真美「床におっこっちゃってたらアウトだよこれ……絶対見つからないよ……」
真美「ん……? あぁっ、これは!」
真美「麩菓子に刺さってる!」ドーン
真美「まありっちゃんのことはさておいて、イタズラ続行しようかな」モフモフモフモフ
真美「飲み物が欲しい」
真美「お、次の獲物は>>137だ!」
冬馬「連呼すんな。ええと、765プロのでかい双子の……姉の方だっけか?」
真美「真美だよーん」
冬馬「そうそう、双海真美。何か用か?」
真美「菓子よこせ!」
冬馬「雰囲気もへったくれもねーなお前……」
冬馬「ちょっと待ってろ……何かあったかな」ガサゴソ
>>145
お菓子の有無
種類は?
真美「お? クッキー? いいじゃん、やっとまともなのが来たよー」
冬馬「今まで何食ってきたんだお前……」
真美「いただきまーす」サクサクサク
真美「」モフモフモフモフ
真美「なにこれすごいデジャブ」
冬馬「?」
冬馬「はあ? 贅沢なやつだな……」
冬馬「ほら、缶のおしるこならあったぞ」
真美「なめんじゃねー!」バシッ
冬馬「!?」ビクッ
真美「口の中の水分がピンチなの! おしるこなんて何の助けにもならないよ!」
冬馬「そ、そうか……すまねえ」
冬馬「? 俺の手作りだ」
真美「ぶふっ!」
冬馬「な、なんだよ!?」
真美「あ、あまとうが手作りクッキー……」プルプル
冬馬「なっ! 笑うな! 勘違いすんじゃねぇ! 番組の企画で作っただけだ!」
真美「はいはいそういうことにしておくよ」
冬馬(こ、こいつ……!)
冬馬「待て。その質問は色々とおかしい」
冬馬「ハロウィンってのは菓子もらうかイタズラするかの二択だろ? 菓子やったじゃねえか」
真美「でもみんなが通ってきた道だからねー。あまとうだけやらないってのも」
冬馬「何の話だよ……」
真美「じゃあ、あまとうには>>155のイタズラを決行しよう」
冬馬「はあ?」
真美「涼ちんの涼ちんはアレだったけど……あまとうのあまとうはどうかな……」ニヤリ
冬馬(意味がわからねえ)
冬馬「お前……テーブルの上のウイスキーボンボン食ったせいだろそれ」
真美「………」
真美「! あまとう後ろ! 見て見て!」
真美「隙有りィ!」バッ
冬馬「させるか!」サッ
真美「!?」
冬馬「舐めんなませガキ! ご褒美なんかいらねえよ!」
真美「逃がすかぁ!」ガシッ
冬馬「うわっ!」
真美「穫ったぁ!」
グニッ
冬馬「…………」
真美「……あれ?」グニッ
冬馬「残念、それはチョコバットだ」
真美「うわっ……しかも溶けてる……」ベトベト
冬馬「双海、口開けろ」
真美「? あーん」
冬馬「ほら、ウイスキーボンボン」
真美「むぐ……」
真美「…………きゅう」バタン
冬馬「……こいつは将来酒は飲めねえだろうな……」
真美「うーん……むにゃ」
真美「……はっ、デジャブ!」ガバッ
真美「……またいつのまにか寝ちゃってたなぁ……」
真美「あまとうのクッキー食べたとこまでは覚えてるんだけど……」
真美「なんか手がベトベトする……」ゴシゴシ
真美「ま、いいか。イタズライタズラ」
真美「とりあえず次で最後にしようかなぁ。口の中パッサパサだし」
真美「じゃあ最後のターゲットは>>175だ!」
やよい「おはよー、真美!」
真美「もう夕方になるのにおはようはないよ、やよいっち!」
やよい「えぇっ!? 最初におはようって言ったの真美だよ?」
真美「真美は今起きたとこだからいいんだよ」
やよい「そっかぁ……ならいいのかなぁ」
真美「それはさておきトリックオアトリート!」
やよい「?」
真美「お菓子くれなきゃイタズラするぞ!」
やよい「??」
やよい「はろうぃん……?」
真美「Oh...」
真美「とにかく、鞄の中漁ってみて。お菓子があるかどうか確認して」
やよい「う、うん……」ガサゴソ
やよい「……お腹空いてるなら何か作ってあげようか?」
真美「いや、そういうのいいから」
やよい「あ、うん……」
>>185
やよいの鞄にお菓子が入っている可能性があるのか?
あったとしてその種類や如何に?
真美「あの……やよいっち?」
やよい「ちょっと溶けちゃってるけど、ジュースだと思えばきっと美味しいよ!」
真美「やよいっち……」
やよい「あ、それとももう一回凍らせれば……」
真美「やよいっち!」
やよい「」ビクッ
真美「もういい……もう、休めっ!」
やよい「私はけっこう好きなんだけど、最近食べてなかったなぁ……みんなで分け合いっこしたりして……」
真美「違うんだよ……違うんだよやよいっち……」
真美「チューペットってね……チューペットはね……」
真美「三年前に……製造が終わってるんだよ……」
やよい「!!」
溶けていない場合は、な
真美「最低でも三年前の物……ってことになるね」
やよい「そ、そんな……」ガクッ
やよい「せっかく……真美と分け合いっこできると思ったのに……」ポロポロ
真美(やよいっち……)
真美(どうしよう……こんなに真美のために泣いてくれるやよいっちに、真美はイタズラをすべきだろうか?)
>>210
するorしない
する場合はどんなイタズラか
やよいにいっぱいお菓子あげる
やよい「え? でもこれ捨てた方が……」
真美「いいから貸して! 後、すぐ戻るからちょっとここで待ってて!」ダダッ
やよい「ま、真美?」
…………
真美「はぁ……はぁ……おーい、あまとうー!」
冬馬「ん? げっ! 双海……」
真美「はい、このチューペット一本あげる! だからお菓子ちょうだい!」
冬馬「はあ? さっきあげたじゃねえか……つーかこのアイス、色が……」
真美「いいから! パッサパサのクッキーでもいいから全部!」
冬馬「わかったよ……んじゃ、ついでにこのおしるこ缶も持って行け」
真美「全然嬉しくないけどありがと! じゃあね!」
冬馬「……あのやろう」
真美「りっちゃーん!」
律子「」ズーン
真美「死んでる場合じゃないよ! メガネ持ってきたんだから!」カチャ
律子「……はっ! 私は何を……」
真美「りっちゃん何も言わずにこのチューペットを受け取って! そして真美にお菓子をちょうだい!」
律子「……またイタズラするんじゃないでしょうね」
真美「今度は何もしないよ! 純粋にお菓子が欲しいだけなんだよぉ!」
律子(それはそれで考え物だけど)
真美「ありがとりっちゃん! チューペットここ置いとくね!」
律子「溶けてるじゃない……」
真美「ジュースだと思えばいいんじゃない?」
律子(何か嫌な予感がするからあれは後で捨てておこう……)
真美「涼ちん!」
涼「ま、真美ちゃん! さっきはごめんね、真美ちゃん寝ちゃったから起こさない方が良いと思って……」
真美「このチューペットと何かお菓子を交換して欲しい!」
涼「お菓子? チョコバットじゃダメかな?」
真美「できればそれ以外で」
涼「うーん、わかったよ。ちょっと待ってて」
真美「うん!」
真美(……待ってろやよいっち!)
真美「ピヨちゃん、ピヨちゃん!」
小鳥「ん? あら、真美ちゃん」
真美(化粧しなおしてる……)
小鳥「オリーブオイルはホントにもう勘弁してね?」
真美「反省してまーす」
小鳥「さて……真美ちゃん何か用事があったみたいだけどほっといて帰ろうかしら」
真美「ああん、ごめんなさい! 全力で謝るから!」
真美「とりあえずこのチューペットあげるから何かお菓子と交換して!」
真美「足りた……ような足りなかったような」
真美「気づいたら減っててなんか怖かった」
小鳥(酔った勢いで全部食べちゃったのかしら……)
小鳥「じゃあウイスキーボンボンもう一箱あるからそれあげるわ」
真美「ありがとピヨちゃん!」
小鳥(また酔って面白いことになるといいなぁ)
真美「千早お姉ちゃーん!」
千早「あら、真美。どうしたの? そんな息切らして」
真美「えっと、千早お姉ちゃんに頼みがあって……あれ?」ガサゴソ
真美「あ……チューペット、四本しかなかったんだ……」ガックリ
千早(チューペット……?)
千早「何かあったの?」
真美「えっと、実は…………」
千早「高槻さんのためにお菓子を……」
千早「そういうことなら、そんな対価が無くたってお菓子くらいあげるわよ」
真美「違うよー……やよいっちのチューペットと交換することが大事だったんだよ……」
千早「?」
真美「やよいっち、タダで物を貰うのを嫌がるから……せめて何かと交換くらいじゃないと」
千早(三年前のチューペットと交換されたお菓子を高槻さんが受け取るかどうかは甚だ疑問だけど……というか多分受け取らないだろうけど)
千早(それでも、真美は真美なりに考えた行動だったのね……)クスッ
真美「?」
真美「え?」
千早「対価が必要だっていうなら、イタズラと引き替えにお菓子を得るのがハロウィンなんじゃないかしら」
真美「千早お姉ちゃん……」
真美「と、トリックオアトリート!」
千早「ふふっ、ちょっと待っててね」
千早「はいこれ」
真美「?」
千早「チューペット……ではないけどね。似たような商品はいっぱいあるみたいよ」
千早「高槻さんと分け合いっこ、するんでしょ?」
真美「あ、ありがとう! 千早お姉ちゃん!」ダダッ
千早「どういたしまして」
千早「……たまにはイタズラされるのもいいんだけれど……」
千早「…………」
千早「高槻さんは都こんぶ、好きだったかしら……」
真美「やよいっちー!」
やよい「真美! 何その荷物!?」
真美「チューペットと交換してきた! お菓子軍団!」
やよい「で、でもあれ三年前の……」
真美「アイスに賞味期限はないらしいから大丈夫大丈夫!」
やよい(そういう問題なのかな……?)
真美「涼ちんは無難に板チョコとかスナックとかたくさんだね。ピヨちゃんはウイスキーボンボンくれたよ。中に変な液体が入ってるチョコね」
やよい「な、なんかすごいね……」
真美「で、千早お姉ちゃんからはこれ!」
やよい「これ、チューペット? でもなくなったはずじゃ……」
真美「チューペットに似てる何からしいよ。とりあえず分け合いっこ分け合いっこ♪」
真美「」チュー
やよい「美味しいね、えへへ」
真美「美味しいねー。分け合うと美味しさ二倍だね!」
やよい「みんなに後でお礼しないと……」
真美「ダメダメ! そんなのハロウィンにあるまじき行為だよ!」
やよい「ええっ、でも……」
真美「いいの! イタズラと引き替えだから!」チュー
やよい「ふーん……よくわからないなぁ」チュー
真美「来年はもっともっとイタズラしまくっちゃおっかなー? んっふっふ~♪」
終わり
安価SS初めてで出来心でした
おやすみなさい
お疲れ様でした
Entry ⇒ 2012.11.01 | Category ⇒ アイマスSS | Comments (0) | Trackbacks (0)
やよい「お姉ちゃん♪」春香「うひゃあ」
春香「ね、ね。もっかい言って?」
やよい「おね~えちゃん♪」
春香「はうっ! うぅ……やっぱりかわいい……!」
やよい「あの……春香さん。なんだかちょっと、恥ずかしいかなーって」
春香「そんなことないよ! うん、バッチリ! ねぇねぇ、もう一回!」
やよい「……おねえちゃん」
春香「――~~!!」
ぎゅっ
春香「やよいはかわいいなぁ……えへ、えへへ……」スリスリ
やよい「……えへへ……」
春香「ほ~らやよい、今日はクッキー作ってきたの!」
やよい「クッキーですかっ!?」パァ
春香「うんっ! 一緒に食べよう?」
やよい「うっうー! ありがとうございまーっす!」
春香「じゃあじゃあ……はい、あーん」
やよい「え?」
春香「あ~ん」
やよい「え、えーっと……わ、私、ひとりでも食べられま」
春香「あ~ん」
やよい「……あーん」
ぱくっ
春香「うひゃあ! 食べた食べた!」
やよい「……もきゅもきゅ……」
春香「もう、かわいいわね本当にもう! えへへへ」
やよい「……えへへ。おいしいですー……♪」
春香「ウフフフ」
やよい「えへへへ」
P「あはは、最近春香とやよいは仲が良いなぁ。本当の姉妹みたいだ」
小鳥「そうですねぇ~。眼福眼福……♪」
千早「……」
P「うわあ!? ち、千早……いたのか」
千早「……ええ」
P「どうかしたか? いつもより暗いというか……」
千早「私はいつもこんな顔ですから」プイ
P・小鳥「「……?」」
P「春香、やよい」
春香「あっ、プロデューサーさん!」
やよい「おはようございまーっす!」
P「おはよう。調子はどうだ?」
春香「もう絶好調ですよっ! あっ、そうだ、プロデューサーさんもクッキーいかがですか?」
P「おお、それはいいな! それじゃあ……」
春香「……?」
P「……」アーン
やよい「プロデューサー、どうしたんですか? お口がカラカラになっちゃいますよー」
P「いや、こうしてれば俺にもあーんしてくれるかなーって」
春香「あはは!」
スッ
P「え……」
春香「はい、どうぞ♪」
P「……手渡し……うん、わかってた。わかってたよ」
P「さみしいなぁ……」モグモグ
春香「そ、そんな顔しなくても……」
P「俺もあーんってされたかった……美味いけど」
春香「もうっ……いつもみたいな冗談なんでしょう? わかってますよーだ」
P「……」
春香「うぅ……」カァ
春香「わ、私はいま、やよい限定のお姉ちゃんだから、他の人には優しくしないんです!」
P「お姉ちゃん?」
春香「そうですよっ! んふふ……」
スリスリ
やよい「はわわ……えへへ」
P「本当に最近、ふたりは仲がいいよな。何かあったのか?」
春香「よくぞ聞いてくれました! えへへ、実はですね……♪」
【回想】
春香「思うに!」
亜美「へ?」
春香「亜美達は私への、えーっと、あれ! あれが足りないと思う!」
真美「急にどったのはるるん。落ちてるお菓子でも食べちゃったの?」
亜美「三秒以上経ったらキケンだよ~?」
春香「ち~が~うぅ~!」
春香「私が言ってるのはね、なんというか……お姉さんとしての威厳! ……というか」
真美「インゲン……?」
亜美「はるるんはお豆が食べたいのかな?」
春香「それも違うわよぅ!」
春香「つまりね、亜美たちは私のことを、同い年の友達みたいな感じに思ってるでしょ?」
亜美「うん!」
真美「あったりまえっしょ~! むしろ年下の後輩ちゃん、みたいな?」
亜美「そだね! はるるんってば、目を離したらすぐ3どんがらくらいしちゃうんだもん」
春香「うぐ……そ、そうはっきり言われるとは思ってなかったわね……」
春香「……とにかく、私は亜美や真美よりずっと年上なんだよ? だから、年上への敬いが足りない! ……と思うの」
亜美「そんなこと言われても~……」
真美「今更、ねぇ~」
春香「伊織や美希だってそうだし……たまには、お姉さんっぽく扱ってよう」
亜美「んっふっふ~! はるるん、そりゃ無理な相談ってもんっしょ!」
真美「そうだよ~。だって……真美達はみんな」
亜美・真美・春香「仲間だもんげ!」
ウフフ……
アハハ……
春香「……ってちがうぅ~!」
亜美「さっすがはるるんだね!」
真美「ノリツッコミもバッチリだね!」
春香「もう……中学生組の中で私のことを敬ってくれるのは、やよいだけだよ」
やよい「呼びましたかー?」ヒョコ
春香「あっ、やよい!」
やよい「えへへ、もうちょーっと待っててくださいね! もうすぐお茶の準備が出来ますからっ!」
春香「……やよいは良い子だなぁ……」
亜美「亜美達だって良い子だよ?」
真美「うんうん。……はるるん、真美達のこと、悪い子だって思ってるの……?」
春香「うぇ!? あ、い、いや、そういうわけじゃないのよ? で、でも……」
亜美・真美「「……」」ウルウル
春香「そうじゃないけど、そうじゃないけど! うぅ~……」
亜美・真美「「んっふっふ~!」」
春香「……もう……」
雪歩「はい、どうぞ」コト
春香「ありがと、雪歩……」ズズッ
雪歩「……春香ちゃんの気持ち、私もちょっとわかる……かも」
春香「え!? ほ、ほんと?」
雪歩「うん。あ、で、でも、気にしてるわけじゃないよ? ただ……えへへ、たまにはお姉さんになってみたいよね」
春香「うんうん! そうだよねっ!」
雪歩「やよいちゃん以外は、みんななんというか……そういう感じだし」
亜美「でもそれ、はるるんもだよね~」モグモグ
春香「う」
真美「はるるんの方が、ゆきぴょんより年下っしょ? 学年も違うもんね」
雪歩「あ、亜美ちゃん真美ちゃん! べ、べつに私は本当に、気にしてるわけじゃ……」
春香「……ご、ごめんね、雪歩……さん」
雪歩「やめてよぅ……なんか、恥ずかしくなっちゃうから」
春香「……ねぇ、やよい」
やよい「なんでしゅかー?」モグモグ
春香「私のこと、お姉ちゃんって呼んでみて?」
やよい「!? ……けほ、けほ」
春香「あぁ、ご、ごめんね! ビックリさせちゃったかな」
やよい「あう……だ、だいじょぶですっ。それで、あの……お姉ちゃん?」
春香「うん! 亜美達が私のことお姉ちゃん扱いしてくれないなら、
その分やよいがとことんお姉ちゃん扱いしてくれればいいかなーって!」
雪歩「春香ちゃん、その理屈はおかしいんじゃ……」
やよい「いいですよ! えへへ、私も春香さんのことは前からお姉ちゃんみたいだって思ってましたから!」
春香「ホント!? やった~♪」
やよい「それじゃあ……こほん」
やよい「……おねえちゃん♪」
春香「!!!!!!」ズキュン
【回想おわり】
春香「……というわけで、ズキュンと来ちゃったから、それ以来私はやよいのお姉ちゃんなんです!」スリスリ
やよい「はわわ……」
P「なるほど……ん? なるほどか?」
春香「それによく見たら、私達どことなく似てるって思いませんか!?」
P「そうだなぁ……瞳の色とか」
春香「はい! あとあと、元気いーっぱいなところとか!」
やよい「そうですね! 私と春香さんは元気くらいしか取り得がありませんからっ!」
春香「うんうん! ……うん?」
P「あはは……まぁ、深くは考えるな」
春香「……う~ん……ま、いっか」
P「でもまぁ……良いな、こういうの」
春香・やよい「?」
P「うん、うん……ふたりとも、ちょっと手を繋いでこっちに微笑んでくれないか?」
春香「いいですよ♪」
ギュッ
やよい「えへへ……」
P(ナチュラルに指を絡ませてる。よほどお気に入りなんだろうな)
P「ほい、ポーズ」
春香・やよい「♪」ニコッ
P「……うん! 思った通りだ、これは良い! ティンときたぞ!」
春香「プロデューサーさん、どういうことですか?」
P「ふっふっふ……」
やよい「ぷ、プロデューサーが悪い人みたいな顔してますっ! はわわ……」
P「春香とやよいで、デュオのユニットを組むぞ!」
―――
――
―
春香「リスナーの皆さんこんにちは! 『四月三月』の天海春香と……」
やよい「高槻やよいでーっす! いぇい!」
春香「やよい、なんだか元気いっぱいだね! 何か良いことでもあったの?」
やよい「はい! えへへ、実は今日は、週に一回のもやし祭りの日で……」
春香「わぁ! それってあれだよね、前も言ってたあの……」
P(春香とやよいの新ユニット、『四月三月』がデビューして約一ヶ月……)
P(一見姉妹のように見えるふたりだが、その実、時にはやよいがお姉さんになって春香のドジっ子をフォローしたりと)
P(ふたりのやり取りの微笑ましさが、様々な年齢層のファン達の間で大ブレイク!)
P(今ではネットラジオの番組を持てるまでに人気のユニットとなった! おそろしいくらいトントン拍子で怖いな!)
【765プロ事務所】
P「はい、はい……本当ですか! ええ、是非……ありがとうございますっ!」
P「……それでは……はい、失礼します」
ガチャ
小鳥「プロデューサーさん、またお仕事の依頼ですか?」
P「ええ! なんと、テレビですよテレビ! 完璧テレビ君!」
小鳥「まぁ、あの有名な教育番組の」
P「いやーあはは! これでまた、知名度も上がるってもんですよ!」
小鳥「ふふっ、順調ですね♪」
P「そりゃあもう! ……おや?」
千早「……」ブスー
P「……千早?」
P「えーっと……」
千早「……」
P「……千早さん?」
千早「……」シャカシャカ
P(ヘッドホンを付けてるから聞こえてないのかな)
P「……」
トントン
千早「……」プイ
P「……」
ガバッ
千早「きゃあっ! なな、何をするんですか!」
P「いや、なんか不機嫌そうだったから……」
千早「……私はいつもこんな顔です」ムスー
P「なんかそれ、前にも聞いた気がするけど……」
千早「……」
P「……何かあったなら相談に乗るぞ」
千早「ほ、ほっといてください。プロデューサーは今、春香達のことで忙しいでしょう?」
P「だけどさ、一応、俺はみんなのプロデューサーだし……ほっとけないよ」
ドタドタ
ガチャ
千早「!」
春香・やよい「「ただいまでーす♪」」
千早「……私、レッスンがありますから、これで」
P「あ、ああ……」
春香「あっ、千早ちゃん! 待っててくれたんだね!」
千早「……春香、高槻さん。お疲れ様」
春香「うん! えへへ、今日もいっぱい――」
千早「ごめんなさい、レッスンに遅刻しちゃうから……」
スタスタ
春香「歌って……あ、あれ?」
やよい「千早さん……?」
P「……う~む」
P「春香、千早と約束でもしてたのか?」
春香「はい……あの、借りてたCDを返そうと思って……」
P「そうか……しかし、取り付く島もないって感じだったな」
やよい「うぅ……千早さん、いつもよりちょっと怖かったかもです……」
春香「……そうかな?」
やよい「え?」
春香「こわい、って言うより……悲しい、って感じだったような」
P「……」
春香「……なにかあったのかな……」
P(千早……)
P(あいつ、もしかして……)
―――
――
―
千早「……私がゲスト、ですか?」
P「ああ。春香とやよいのラジオに、同じ765プロのメンバーとしてさ」
千早「……」
P「……どうだ?」
千早「……プロデューサーがそうしろ、というなら出演します。でも……」
千早「私なんかが、その……ゲストとして出演したって、きっと、楽しい話なんて……」
P「そんなことはないよ。春香もやよいも、千早のことは大好きなんだから」
千早「……っ」
P「いつも通り、事務所にいるみたいな感じで話してくれればきっと……ん、どうした?」
千早「……いえ」
P「……」
【ラジオ収録当日】
春香「ち~は~や~ちゃんっ♪」
ガバッ
千早「きゃ! は、春香……」
春香「えへへ、今日はよろしくね! 私、ずっと楽しみにしてたんだ~!」
千早「……そ、そうなの?」
春香「うん! それに、楽しみにしてたのはもっちろん……」
やよい「私もですーっ!」ピョン
千早「高槻さん……ふふ、ありがとう」
やよい「あの……それで、今日は」
春香「ああっ! だめだよやよい、アレのことはまだ、ない……しょ……」
千早「……内緒?」
春香「……えへへ……ま、まぁ、こうご期待ってことで!」
春香「リスナーのみなさーん! 『四月三月』の天海春香です!」
やよい「それと私は、高槻やよいでーっす! いぇい!」
春香・やよい「「こーんにちはー!」」
春香「……うんうん、いつも通り、良い返事ですね!」
やよい「みなさんのメラメラーって声が、ここまで伝わってくるかもー!」
春香「さぁ、今日も始まりました『春STATION』!」
やよい「今日はなんと! スペシャルゲストが来てくれてるんですよー!」
春香「それでは……どうぞ!」
クィドゥルルルル……
ジャジャン!
千早「……あ、あの」
春香「わー! ひゅーひゅー!」ドンドン
やよい「765プロの如月千早さんでーっす! わー!」パチパチ
千早「……うぅ……は、恥ずかしい……」
千早「……あなた達、いつもこんな感じなの?」
春香「え? こんな感じって?」
千早「なんというか、元気すぎるというか……」
やよい「えっへへ! 千早さん、このラジオのテーマは『元気!』ですからっ!」
春香「そうだよねぇ~♪ あっ、ほらほら、じゃあさっそく、今日の元気アイテム出しちゃうね!」
千早「え、元気アイテム?」
ジャーン
春香「じゃじゃん! なんと、お菓子ですっ! えへへ、全部私の手作りなんだよ!」
やよい「あ~……ケーキ……」ダラー
春香「あぁ、だめよやよい。今日はゲストがいるんだから、前みたいに全部食べちゃうのは」
やよい「はい……わかって……はわ~」
千早「……ふ、ふふっ……」
春香「! ……えへへ……」
P「……」
P(千早が、ようやく笑ってくれたな)
P(俺は思ったんだ。最近千早が元気なさそうだったのは、友達である春香達が忙しくて中々会えなかったからだと)
P(……無理矢理スケジュールを調整して、千早にゲスト出演させてよかった……よな?)
春香「しょれでね~」モグモグ
やよい「きょふは~」モグモグ
千早「え、今収録中よね? お菓子食べていいの?」
春香「あぁ……ゴックン。うん! いつもこんな感じだから!」
やよい「はーい、千早さんも!」
千早「……そ、それじゃあ……」
パクッ
千早「! ……おいしい……!」
春香「えへへ……よかったぁ♪」
春香「今日は、千早ちゃんがいるということで! 特別コーナーをご用意しました!」
千早「特別コーナー? それって……」
やよい「えへへ! そ・れ・は~……じゃじゃん!」
春香「題して! 『千早お姉ちゃんに聞いてみよう!』のコーナーです!」
千早「え? ……えぇ!?」
春香「私とやよいが千早ちゃんの妹になってね」
千早「ちょ、ちょっと春香、こんなの台本に」
春香「あぁっ、だめだめ! 台本とか言っちゃだめだよ!」
やよい「さぷりめんとってやつですっ!」
春香「サプライズね! え~と、かいつまんで言うと……」
春香「私とやよいが千早ちゃんの妹になって、千早ちゃんに普段聞けないあれこれを色々聞いてみようってコーナーです!」
千早「……そ、そう……」
千早(……この企画、誰が考えたの?)ヒソヒソ
春香(プロデューサーさんだよ)ヒソヒソ
千早(……やっぱり……)ヒソヒソ
春香「えーっと、質問の内容はリスナーの皆さんから送られてきたハガキの中から選びます!」
ドサァ
やよい「わぁ、こんなにたくさん! えへへ、ありがとうございまーっす!」
千早「サプライズ企画なのに、私への質問が来てるの?」
春香「千早ちゃんが来ること自体はサイトでお知らせしてたからね!」
千早「そ、そう……」
千早(私としたことが……インターネッツのことはよくわからないから、チェックしてなかったわ)
春香「それじゃあさっそく……」ガサゴソ
やよい「あっ、春香さん! めっ! ですよ!」
春香「えぇ? な、何か私、またドジしちゃった?」
やよい「もうコーナーは始まってるんだから、妹にならないとだめですっ!」
千早「えぇ!? 高槻さん、それは質問のときだけでいいんじゃ……」
春香「なるほどぉ……たしかに、一理あるかもね」
千早「は、春香まで……」
春香「それじゃあ、改めまして……」
春香「千早お姉ちゃん♪」
千早「!」
春香「えへへ……はるか、一生懸命選ぶからね。ちゃんと答えてくれると、嬉しいなっ」
千早「え、ええ……」
やよい「おねえ~ちゃん♪」
千早「!?」
やよい「私もがんばります! えへへ……お姉ちゃんのこと、もっともーっと! 教えてねっ♪」
千早「……!」プルプル
P(ふふ……指導の甲斐があったな)
春香「えへへ! それじゃあそれじゃあ、最初のお姉ちゃんへのお便りは……これっ!」スッ
春香「千早さ……じゃなくて、千早お姉ちゃんは、とっても歌が上手だと思うの。あふぅ」
千早「そ、そうかしら……ふふ、でも、そういってもらえるのは光栄なことね」
春香「ラジオネーム『イチゴババロア』さんからのお便りだよっ♪」
千早「って、終わり!? それ、質問って言うのかしら……?」
春香「う~んとね、はるかは、どうやったら歌が上手になれるかをふわーって答えればいいんじゃないかって思うな!」
千早「そ、そうね……どうしたら歌が上達するか……」
千早「やはりまずは、トレーニングかしら。私も毎日、ボイストレーニングとはまた別に腹筋をしているし……」
千早「あと、歌いたい曲を聴き込むことも必要だと思います。その曲の世界観を知って、自分がその世界の……」
春香「お姉ちゃん!」
千早「え? な、なに?」
春香「もぅ~! そんなの、全然可愛くないよ!」
千早「……可愛く?」
春香「なんというか……他人行儀すぎるっていうか……もっとこう、お姉ちゃんっぽく!」
千早「そう言われても……」
春香「ほらほら~……」ワクワク
やよい「えへへ……」テカテカ
千早「……わ、わかったわ。そういう趣向の企画だものね」
千早「こほん。それでは、改めて……」
千早「……お姉ちゃんはね、歌うことが大好きなのよ」
千早「昔から、歌を歌って……それを聴いて、楽しんでくれる人がいたから」
千早「その人の笑顔を見ることが、お姉ちゃんは何より好きだった……ううん、違うわね」
千早「今でも、好き。私の歌で、誰かの心に、何かを残せたら……それが、感動でも、喜びでも……」
千早「それって、とっても素敵なことだと思わない?」
千早「……だから私は、歌うことが好き。まるで、恋人のようにね。ふふっ」
千早「恋人のことなら、自然と……どんなことでも頑張れると思う。イチゴババロアさんも、きっとそうよ」
春香「……だから千早お姉ちゃんは、いっぱいいっぱい練習して、歌が上手になったんだね」
千早「まあ、そんなところかしら……でもまだまだ私の歌なんて、レベルが低いと思うけれど」
やよい「そんなことないですーっ!」
千早「ありがとう、高槻さん。でも……今よりもっと上のレベルを目指すということは、明日への活力にも繋がるわ」
やよい「……千早お姉ちゃんは、頑張り屋さんなんですね」
千早「ふふ、そう? ……っと、こんな感じでよかった? 春香」
春香「うん! えへへ、なんというか……お姉ちゃんって感じがしたからオッケー♪」
千早「そう、それなら良かった……」
P「……」
P(千早……)
やよい「それじゃあそれじゃあ、次は私の番ですっ! えーっと……」
ガサゴソ
やよい「はーい! これに決めましたー!」スッ
千早「ふふ、高槻さんは何を選んだのかしら」
やよい「あっ、お姉ちゃん! めっ! ですよー!」
千早「え?」
やよい「あの……さっきもそうだったけど、その……妹なんだから、高槻さんって言い方は、や、です……」
千早「で、でも……」
やよい「……やよい、って……呼んで欲しいかなーって」チラ
千早「……――~~!」キュン
やよい「あの……」
千早「……え、ええ……」
千早「や、やよい……」カァァ
やよい「! えへへ……それじゃあ読むね、お姉ちゃん♪」
千早「うぅ……」モジモジ
春香(効いてる効いてる! えへへ、プロデューサーさんの読みどおり!)
春香(千早ちゃんの密かな性格、かわいいもの好き……!)
春香(実は千早ちゃんって、ちっちゃくてチョコチョコしてる、やよいとか響ちゃんのことが大好きなんだよね!)
春香(普段はあまり、ベタベタしたりしないけど……こういう機会を与えてあげれば、きっと……)
春香(千早ちゃんは元気になる!!)
やよい「えっへへ……♪」
千早「……は、はやく呼んでちょうだい、やよい……」
やよい「はーい! えーっと……」
やよい「千早お姉ちゃん、ののしってください!」
千早「……え」
やよい「ラジオネーム『P』さんからのお便りでーっす! ありがとうございまーっす!」
千早「の、ののののの……!?」
春香「あ、えーっと……」
やよい「あの、春香さん。ふりがな振ってあったから読めましたけど……ののしる、ってどういう意味なんですか?」
春香「うぇ!? わ、私に聞くの!? の、罵るって言うのは……うぅ~……」
春香「おねえちゃん、パスっ!」
千早「えぇ!? な、なんで私が……!」
春香「……お姉ちゃん、お願い」ウルウル
やよい「おしえてください……おねえちゃん」ウルウル
千早「うぅ……」
千早「」キッ
P「おうふ」ゾクリ
千早「……わ、わかったわ。妹の頼みとあれば、断ってしまってはこの企画の趣向に合わないものね」
千早「私はいま、お姉ちゃんなんだから……!」
春香「ワックワク」
やよい「テカカ」
千早「えーっと、罵るっていうのは……簡単に言ってしまえば、ば、ばかにすること、よ……」
やよい「ばかにするんですか!? えー……そんなの、ゼンゼン嬉しくなさそうかもです……」
千早「そうね。普通はそう。でも、たか……じゃなくて、やよい」
千早「世の中には、そういうことで喜びを感じる人もいるのよ……信じたくない事実だけれど」
やよい「そーなんですかー……世界はまだまだ私の知らないことでいっぱいです」
春香「……それで、どうするの、お姉ちゃん」
千早「え?」
春香「もしお姉ちゃんがどうしても無理って言うなら、パスすることも出来るけど……」
千早「……」
千早「……パスなんて、しないわ」
春香「!」
千早「……そう、お姉ちゃんはいつだって逃げない存在だもの」
春香「千早ちゃん……! きっとそれは、どこか間違った認識だけど……かっこいいよ!」
やよい「かっこいいですー……!」
千早「それじゃあ……ラジオをお聞きになっている『P』さん」
千早「精一杯、心を込めて罵りますから……聞いてください」
P「……」ワクワク
千早「……本当に、どうしようもないわね、あなたは」
P「!」
千早「やることなすこと、全部からまわり。今日もまた、失敗したんでしょう?」
千早「本当、姉として情けないわ……出来の悪い弟を持つと」
P「……!」
千早「……その顔、本当に……見ていて腹が立つわ」
千早「無理矢理笑ったって、だめよ。お姉ちゃんにはわかってるんだから」
千早「心の中で、まだまだそのことを引きずっているって」
千早「いつまでウジウジしているの?」
千早「失敗なんて、誰にだってあるでしょう」
千早「……そう、そうよ。私にだってある。でもね、あなたが自分の足で立たないで、どうするのよ」
千早「教えてもらったでしょう」
千早「あなたは、ひとりじゃないって。私を始めとした、大切な家族がいるって」
千早「……まだ、素直になれないの? 情けない、本当に……」
千早「……もう、本当に……」
ジワァ
春香「……!」
千早「嫌になる、わ……」
千早「……そんなあなたなんて、大嫌いよ……! 顔も、見たくない……!」
千早「……」
春香「……こ、これはPさんも、大満足の罵りだったんじゃないかな!」
やよい「あの、千早さん……」
千早「……ふふ、どうしたの?」
やよい「……えーっと」
千早「大丈夫、これは演技だから。本当に怒ってるわけじゃないわ」
やよい「……はい」
春香「えーっと! なんだかへんな空気になっちゃいましたけど! 時間も押してることですし、次のコーナーへ……」
―――
――
―
P(その後は、特に言うこともなく……みんないつも通りの明るさを取り戻して、ラジオの収録は終わった)
P(……千早……)
P(もしかして俺は……千早が元気が無かった原因を、勘違いしてしまっていたんじゃないか……?)
P「お疲れ、みんな」
春香「……はい!」
千早「……ええ」
やよい「あう……」
P「……千早、ちょっといいか?」
千早「……はい」
P「あの、さ……」
春香「待ってください、プロデューサーさん!」
P「え?」
春香「……千早ちゃんとは、私がお話しますから」
P「……春香……」
―――
――
―
テクテク
春香「……えへへ」
千早「……」
春香「こうやって一緒に帰るの、久しぶりだね」
千早「……そうね」
春香「さ、さっきメールで見たんだけど、小鳥さんがね! 美味しいお菓子を買ってきてくれたんだって!」
千早「お菓子?」
春香「うん! 事務所に置いてあるからって……楽しみだね」
千早「……そうね」
春香「……」
千早「……」
春香・千早「「あのっ!」」
千早「……ごめんなさい、春香から言ってくれるかしら」
春香「え、でも……」
千早「私、実はまだ、考えがまとまってないから……」
春香「そ、それは私だって同じだよう! うぅ~……」
千早「……お姉ちゃん命令」
春香「えぇ!? も、もう、収録は終わったんだよ?」
千早「ふふっ……でも、今日は散々、あなた達の言うこと聞いたじゃない」
千早「だから……お願い。春香ちゃんは素直で可愛い妹! ……なんでしょ?」
春香「……ズルいなぁ、千早ちゃんは」
千早「……」
春香「あのね……私、謝らなきゃいけないんだ」
千早「謝る?」
春香「うん……勘違い、しちゃってたと、思うから」
春香「……千早ちゃん、最近元気なかったよね」
千早「……そうかもしれないわね」
春香「その原因、ね。プロデューサーさんとも話したんだけど……
あんまり私達とお話が出来てなかったから、なんじゃないかなって思ったの」
千早「……そう」
春香「あ、あのね! わ、私なんかと話せなくて、千早ちゃんが元気なくなるなんて、
そんなのおこがましいというかなんというかだけど!」
春香「でも……その、千早ちゃんが元気なくなった時期が、ちょうど私とやよいが新ユニットを組んだ頃と重なってたから」
千早「……」
春香「だから……今日みたいに、前みたいにお喋りできれば、きっと千早ちゃんは元気になるって、思ったの」
千早「……でもそれが、勘違いだったの?」
春香「うん……実際お喋りしても、なんというか……あんまり、変わらなかったような気がするから」
千早「……そんなことないわ」
春香「でも……っ!」
千早「今日の収録、私も楽しかった。あんまり顔に出せなくて、申し訳ないけれど……
それでも、あなた達とお喋りが出来て、私だって本当に嬉しかったわ」
春香「……」
千早「……こういう表現は、まだ苦手なのよ。ごめんなさい」
春香「……うそ」
千早「え?」
春香「うそだもん……それくらい、わかるもん」
千早「……」
春香「ね、ねぇ……でも私、バカだから、それ以上はわかんないよ」
春香「千早ちゃんは、何を考えているの? な、なんで……」
春香「今も、苦しそうな顔をしているの?」
春香「……」
千早「……素直になれない自分に……腹が立ったのよ」
春香「え?」
千早「春香が言ったこと、それはほとんど、私の心境そのものだったわ。
……確かに私は、あなた達との時間が取れなくて、少し、寂しい思いをしていた」
春香「……」
千早「でも、何より私は……その、ね」
春香「千早ちゃん……?」
千早「自分の心が、憎らしくてしょうがなかったのよ」
春香「ど、どういうこと?」
千早「……も、もう……正直に、言ってしまうわね」
春香「う、うん……」
千早「ねぇ、春香。それを聞いても、私のことを嫌いになったりしない?」
春香「当たり前じゃない! 私が、千早ちゃんのことを嫌いになるなんて」
千早「……そう……」
千早「……――られちゃったんじゃないかって」
春香「へ?」
千早「だっ、だから……!」
千早「……春香が……高槻さんに取られちゃったんじゃないかって」
千早「そう……思ったのよ」
春香「!」
千早「……嫉妬、してたの。高槻さんに」
千早「お姉ちゃんだって言って、高槻さんにベタベタしてた春香を見ていて……」
千早「それと同時に、なんだか……私が、春香にほっとかれている気がして、いやな気持ちになった」
千早「私にとっては、春香も高槻さんも、同じくらい大好きなのに……!」
千早「そんな気持ちを感じてしまう自分が、いやになって、しょうがなかったのよ……」
春香「ほえ……」
千早「……以上です」
スタスタ
春香「うああっ! ちょ、ちょっと待ってよ千早ちゃん!」
千早「いやよ、い、今の私の顔を見ないで……!」
春香「やだ! 見~せ~て~……!」グググ
千早「……恥ずかしくて消えてしまいたい……!」グググ
春香「そっちがその気なら~……えいっ!」
ガバッ
千早「きゃっ!?」
春香「……」
ギュー
千早「……は、春香?」
春香「……えへへ。千早ちゃぁん……♪」スリスリ
千早「……なによ……うぅ……」
春香「千早ちゃんの体、熱いね」
千早「……春香には負けるわ」
春香「ここからじゃ見えないけど……きっと顔も、こんな感じになってるんだろうなぁ」
千早「じゃ、じゃあもう、確認は済んだでしょ? 離してくれないかしら」
春香「だーめ!」
千早「な、なんで……!」
春香「そんなの、決まってるじゃない!」
春香「私だって、千早ちゃんとずーっとお喋りできなくて、寂しかったんだから」
ギュー
千早「……春香……」
春香「……ばか」
千早「……本当に、そうね。ごめんなさい……」
春香「ううん……謝らないで。ほんとは……私のほうが、もっとばかなんだから」
【765プロ事務所】
春香「ただいま戻りました~♪」
P「おお、春香! それに、ちは……や……も」
千早「……見ないでください」カァァ
P「はは……なんだか、元どおりになったみたいだな。いや、前まで以上か……」
千早「……」プイ
春香「えへへ♪」
千早「……ね、ねぇ春香。やっぱり、その……」
春香「なあに?」
千早「さすがに事務所の中では恥ずかしいわ。手を離してくれないかしら……」
春香「だーめ!」
P「……千早、すまなかったな」
千早「え?」
P「お前達と別れてから考えたんだけどさ……
やっぱり俺が、あんなことを言い出したのがきっかけだったんだろ?」
千早「……ユニットの件ですか?」
P「ああ」
千早「ふふっ、いいんです。今ではこうして……その、元に戻りましたから」
P「……そうか……それなら良かった」
千早「……でも、プロデューサー?」
P「ん? どうした?」
千早「ああいうハガキは、今後一切送らないでくださいね」
P「う……はい、肝に銘じます」
春香「はい、あ~ん♪ 美味しい美味しい、小鳥さんのお菓子だよ!」
千早「じ、自分で食べられるわよ」
春香「でもでも、やよいはあーんで食べてくれたもんね?」
やよい「はいっ! えへへ……千早さん、一緒に食べましょーっ!」
千早「……た、高槻さんがそういうなら……」
春香「あーん♪」
千早「……」
ぱくっ
春香「うひゃあ! 食べた食べた!」
千早「……もぐもぐ……」
春香「もう、かわいいなぁ本当にもう! えへへへ」
千早「……は、恥ずかしい……!」カァァ
やよい「千早さんが元気になったみたいで、私もとっても嬉しいですーっ!」
春香「ねぇねぇやよい。千早ちゃんってばね、やよいに嫉妬してたんだって♪」
やよい「へ? シットですか?」
春香「うん! えへへ、なんでも……もがもが」
千早「……春香」
春香「ひゃい……」
千早「……お姉ちゃんさすがに怒るわよ……」
春香「す、すみません……」
やよい「あの……でもでも……ごめんなさいっ、千早さん!」
千早「え? た、高槻さんが謝ることなんて」
やよい「だって……千早さんが元気なかったのは、私が春香さんを独り占めしちゃってたからなんですよね?」
千早「!?」
千早(……言ったの?)ヒソヒソ
春香(言ってない言ってない!)ヒソヒソ
千早「……それは、どこの誰から聞いたのかしら」
やよい「えーっと……なんとなく、見ててわかりました。だから、ごめんなさいっ!」
千早「……そう」
やよい「……そうだってわかってたのに、私……春香さんにぎゅーってされると嬉しくて、だから……」
千早「ううん、気にしないで。私はもう、大丈夫だから」
やよい「ホントですかー……?」
千早「ええ。だから、そんな顔しないで」
ナデナデ
やよい「はわわ……えへへ」トローン
千早「……」
ナデナデ
やよい「えへへ……やっぱり千早さんも、お姉ちゃんみたいですー……♪」
千早「」キュン
春香「……あ、あれ? 千早ちゃん? なんか、顔が……」
千早「春香。私、決めたの」
春香「え? なにを……?」
千早「これからは、もっと素直になる、って」
春香「う、うん! それがいいよね! でも、その……」
千早「だから……私、高槻さんに言うわ」
やよい「なんですかーっ?」
千早「……高槻さん」
千早「私のこと、お姉ちゃんって呼んでくれないかしら」
春香(……こうして、素直になりすぎた千早ちゃんのおかげで……)
春香(今度はやよいと千早ちゃんが、私を残してベタベタするようになってしまい……)
春香(そして私は、ちょっぴり、ふたりに嫉妬するようになってしまうのでした)
春香(でもそれは、また別のお話です……)
終わり
Entry ⇒ 2012.11.01 | Category ⇒ アイマスSS | Comments (2) | Trackbacks (0)
豊音「ハロウィンパーティー?」
塞「ほら、うちの学校ってエイちゃんみたいに交換留学生がいるでしょ?」
塞「だから国際交流の一環ってことでこの時期にハロウィンパーティーをするの」
胡桃「皆で仮装したり、お菓子を交換し合ったりで実際のハロウィンとはちょっと違うけどね!」
豊音「そんな行事があったんだねー」
豊音「最近カボチャとか置いてあったりしたから、ずっと不思議に思ってたよー」
胡桃「三年生にとっては最後のイベントだし、皆気合が入ってるんだよね!」
豊音「何だか私ワクワクしてきたよー」キラキラ
エイスリン「ワタシモ、タノシミ!」
エイスリン「コトシハ、ミンナデマワレルカラ、ウレシイ!」
白望「お菓子を貰えるのは楽だけど、仮装するのはダルいなぁ……」
豊音「シロ、去年のパーティーで何かあったのー?」
塞「あー、えっと、ね」
塞「去年はシロ、ダルいダルい言いながら仮装したんだけどね……」
胡桃「タキシード姿だったから皆に人気でもみくちゃにされたんだよ!」
エイスリン「!」 カキカキ バッ(人に群がられるタキシード姿のシロの絵)
豊音「アハハ、何それー!」
塞「胡桃と二人でシロを引きずり出して助けるのが大変で大変で……」
胡桃「お菓子はたくさん貰えたのは有難かったけどね!」
豊音「人気があるのも困りものなんだねー」
エイ豊胡「オー!」
白望(……ダル……)
豊音「どんな仮装しようか迷っちゃうよー」
塞「また胡桃は子供っぽい格好になっちゃうのかな」ケラケラ
胡桃「う、うるさいそこ!」ウガー
エイスリン「カソウ……!」 カキカキ...
塞「それじゃあ当日、会場の体育館の前に集合ってことで!」
胡桃「ごめんごめん!ちょっと着替えるのに手間取っちゃって!」
豊音「まだシロが来てないから大丈夫だよー」
塞「たぶん自力で来てくれるとは思うんだけどね………」
エイスリン「シロ、マイペース!」
胡桃「それにしても色々と仮装してきたね!エイちゃんなんか凄い気合い入ってるじゃん!」
エイスリン「フランケンシュタイン!ガンバッタ!」フンス
豊音「頭にペンが刺さってるように見えるとか、発想が面白いよー」
塞「まさか顔の縫合跡まで自分でペイントするとは思わなかったけどね…」
胡桃「えっ!?それペイントだったの!?」
豊音「そうだよー!……似合ってるかなー?」
エイスリン「very good ダヨ!」
胡桃「うん、凄い似合ってる!」
塞(高身長に白い肌、赤い目に黒い服………)
塞(よく考えると普段から吸血鬼みたいな格好してるんだよね……まぁ、それはおいとこう)
胡桃「塞は魔女なんだね!モノクルもしておけば雰囲気出たのに!」
塞「いや、それはそれでどうかと思うんだけど」
エイスリン「」カキカキ バッ(モノクルの絵)
塞「いや、頼まれても今はモノクル持ってきてないしなぁ……」
胡桃(......)
胡桃(魔女→老魔女→年寄り→おばーちゃん!)
胡桃「おばーちゃんだからだね!」
塞「誰がおばーちゃんだ」ゴッ
……
豊音「あ、シロが来たよー」
白望「…………ダル」ノソノソ
エイスリン「シロ、ハヤ……ク…?」
胡桃「ちょっとシロ!流石に遅すぎる……よ……?」
塞(えーと、白い耳に尻尾、首元に光る赤い首輪……)
胡塞(……猫!?しかも白猫!?)
胡桃「……念のため病院行く?」
豊音「シロが猫になってるからシロネコさんだねー!ちょーかわいーよー」
エイスリン「......!」カキカキ バッ
胡桃「おー、シロにそっくり!さすがエイちゃん!……じゃなくって!」
塞「どんな風の吹き回し?シロがそんな格好してくるなんてさ」
白望「これを付けるよう頼まれた……」
白望「付けるだけだったし、着替えるのはダルくない……」
胡桃「まぁ…シロらしいからいいんじゃない?」
豊音「それで誰から頼まれたのー?トシさんとかかなー?」
塞「いや、トシさんは流石に違うでしょ」
白望「…………」ウーン
白望「確か黒髪で長髪の子だった……」
塞胡((あぁ、あの娘か……))
塞「胡桃は……何で着物?えーと、座敷童子…で合ってる?」
胡桃「……い、いーでしょ別に、座敷童子だって妖怪なんだから!」
胡桃「私が魔女とか幽霊の衣装をしても、どーせちんちくりんだって言われるし」
胡桃「だったらいっその事自分に似合う方がまだいいかな、と思って……」
塞(それでも十分子供っぽさは抜けてないと思うけど)
白望(むしろ幼さを強調してるんだよなぁ……)
塞「まあ、ここでハロウィンをやる自体が和洋混在だし、良いんじゃないかな」
豊音「そうだよー、十分似合っててちょーかわいいよー!」
エイスリン「ニンギョウ、ミタイ!」
胡桃「……あ、ありがとっ」テレテレ
塞「何だか顔が赤くない?胡桃」ニヤニヤ
胡桃「う、うるさいそこっ!」
白望(胡桃、誉められ慣れてないからなぁ……)
豊音「盛り上がってるみたいでちょードキドキだよー」
......
ワイワイ ガヤガヤ
モブ「わー、姉帯さんきれーい!」ハイ、オカシ
モブ「吸血鬼かー、かっこいいねー!こう、貴族みたいな?」ハイ、オカシ
モブ「黒い服と白い肌のミスマッチだし!本物の吸血鬼みたいだし!」オカシダシ!
豊音「え、えへへー/// そんなに似合ってるかなー///」テレッ オカシダヨー
胡桃「豊音、凄い人気だねー」
塞「まあ女子であそこまで吸血鬼が似合う人もそんなにいないしね」
胡桃「ちょっ、な、なでるの禁止!」
エイスリン「」カキカキ バッ
モブ「エイスリンちゃん、ありがと~!この絵、大事にするねー」オレイノオカシ
………
塞(胡桃もエイちゃんも楽しめてるようで良かった、まあ私も楽しめてるから良いけど)
塞(さて、問題はシロの人気なんだけど……)
???「あああああぁぁぁぁぁぁん!小瀬川さぁぁぁんっ!」ダキッ
白望「!?」
塞「!?」
黒髪「このまま家に連れて帰りたいくらい!そして私が身の回りの世話を全部してあげるの!」
黒髪「ねえ、頭なでさせて!匂いクンカクンカさせて!耳ハムハムさせて!」
黒髪「あ、そういえばこれはハロウィンパーティーだったわね!ゴメンなさいね、テンション上がっちゃって!」
黒髪「とりあえずお菓子あげるから悪戯させて!ね、小瀬川さん!」ダッ
白望(………何かダルいことになっちゃったなぁ……)ハァ
黒髪「小瀬川さん小瀬川さん小瀬川さん小瀬川さん小瀬川さん小瀬川さん……」スリスリナデナデ
胡桃(きもちわるい……!)ドンビキ
豊音「な、何か分からないけどシロが攫われちゃったよー」アタフタ
エイスリン「!!!」カキカキ バッ(黒髪モブ子をドツいている絵)
塞「ちょっと待ってて、あの子物理的に塞いでくる」ダッ
???「ふー、やっと治まったかな?」
塞「ごめん、正直助かった。引き剥がすの手伝ってくれてありがとね」
着崩しモブ子「いえいえ、むしろお礼を言わなきゃいけないのはこっちの方だし」
着崩し「ゴメンね、二人とも。この子、小瀬川さんのこととなるとちょっと周りが見えなくなっちゃうのよ」
塞(これでちょっと!?)
着崩し「とりあえずお礼とお詫びを兼ねて、はいお菓子」
白望「ありがとう……」
白望「……でも、ダルいのは止めて欲しい……」
着崩し「あぁ、それは大丈夫」
着崩し「ちょーっと私が代わりに『イタズラ』しておいてあげるから」ニヤリ
塞「」
塞「正直今年もここまでお菓子が集まるとは思ってなかった……」ドッサリ
エイスリン「トヨネ、ニンキダッタ!」
豊音「あんなに誉められたの、生まれてきて始めてだよー」カンゲキ
豊音「エイスリンさんも、たくさんお菓子貰ってきたねー」
エイスリン「ミンナニ、エ、カイタ!」
エイスリン「オモイデノオスソワケ!ソレデモラッタ!」
胡桃「うぅ……下級生にまで頭なでなでされたっ……」
塞「ほら、愛らしさがあるってことで!私がたぶん一番この中だと平凡だし!」
豊音「あれ、そういえばシロはー?」
エイスリン「アソコデ、ダルクナッテル!」
白望「」グテー
胡桃「シロが寝そべってると、何か本物の猫みたいだね!」
豊音「シロに猫耳って本当ピッタリだねー」
塞(……シロの横にあるお菓子の山についてはツッこまないでおこう、うん)
豊音「ちょーたのしみだよー」
エイスリン「ブシツデ パーティー!」
白望「……お菓子を運ぶのダルい……」ドッサリ
~~部室~~
白望「!」ピキーン シュバッ
塞「わっ、シロどうしたのそんな急に動いてっ……こ、こたつ!?」
胡桃「あれは部の奥に封印しておいたはずなのに!?」
白望「着替えるときについでに出しといた……」グデーン
塞「あーもう!シロこれずっと出てこないじゃん」
白望「……猫はこたつで丸くなる……ダル……」
胡桃「ちょっと上手いこといってゴマかさない!」
エイスリン「シロ、オカシタベル?」ハイ、アーン
白望「ん」アーン
塞「……そうだね、せっかくのハロウィンなんだし、ウンザリするまで満喫しようか!」
胡桃「……ウンザリするまではちょっと勘弁かな」
塞「いや冷静に返さないでよ」
はしゃぎすぎだアラフォー
豊音「ハロウィンパーティー、ちょーたのしかったよー」
胡桃「途中トシさんも来たのには少し驚いたけどねっ」
塞「お菓子だけじゃなくて、カボチャのランタンも皆にくれたしねー」
豊音「こうやってランタンを吊るしながら歩くのも良いかなー、とかとか」
エイスリン「………………」
白望「…………どうしたの、エイスリン?」
塞「あれ?エイちゃん浮かない顔してるけど」
胡桃「もしかしてパーティーでホームシックになっちゃった?」
エイスリン「.........」カキカキ バッ
豊音「これは……飛行機と、エイスリンさん?」
胡桃「あー、エイちゃん来年には帰っちゃうもんね……」
エイスリン「キョウハタノシカッタケド、、ワタシ、モウスグミンナトハナレル……」
エイスリン「カエラナキャ、ダケド……ミンナトハナレタクナイヨ……」グスッ
胡塞「エイちゃん……」
豊音「エイスリンさん……」
塞「ちょ、シロ!?」
白望「……別に離れ離れになるだけで、一生会えない訳じゃない」
エイスリン「デモ、シロ……!」
白望「……塞は永水の薄墨さんと仲良くなったし、胡桃も姫松の人と意気投合した」
塞「(……!)……まぁねー、試合中はアレだったけど話してみると普通の子だったしね」
胡桃「こっちは試合中も普段もあの調子だったけどね!……楽しいけど」
白望「豊音も団体戦や個人戦で知り合った人たちと今でも連絡を取ってる」
豊音「皆と麻雀が打てて楽しかったし、友達も増えてちょーうれしいよー」
豊音「それに色んな人からサインも貰えたから感激だよー」
白望「……どんなに離れていても、一回出来た絆は早々消えない」
白望「日本とニュージーランドくらい離れてても、それは変わらない……と思う」
白望「……だったら、帰国しても私達はずっと『友達』なんじゃないかなぁ」
塞「それに私達のほうからニュージーランドを訪ねることだって出来るし」
豊音「あ、それナイスアイデアだねー!こっそり行ってサプライズっていうのも面白そうかもー」
白望「……ほら、皆だって考えてることは同じでしょ……?」
白望「だから泣かないで……それにまだ帰るまで四ヶ月もあるんだし」
白望「その間にもっともっと、忘れられないくらい思い出を作っていこう……」
白望「そうすれば、私達もエイスリンも、絶対に今年のことを忘れないから」
エイスリン「……ウン!」ゴシゴシ
エイスリン「クルミ、サエ、トヨネ、シロ!」
エイスリン「……ミンナ、ズットトモダチ!」
白望「………………」クテー
胡桃「ちょっとシロ、何で座り込んでるの!?」
エイスリン「シロ、ハヤク!」
白望「……喋りすぎてダルい、誰かおんぶして……」
塞「せっかくの感動が台無しじゃないそれ!?」
豊音「アハハ、じゃあ私が途中までおんぶしていくよー」ヨイショ
塞「あんまり甘やかすのも……まぁ、今日くらいは良しとしてあげますか」
……サエ、カボチャモッテ エ、ワタシ!? ソコ、オバーチャンニモタセナイ! ダレガオバーチャンダ! ギャー! アハハ
………
……
…
……
………
「何か色んな人からお菓子を貰ったんだけど……」
「そりゃ見た目小学生だし、ニュージーランドなら尚更でしょ」
「……お菓子は嬉しいけど、なんかフクザツ!」
「……まさか空港で年齢詐称を疑われるとは思わなかったなぁ」
「うるさいそこ!これでも少し身長伸びたんだからね!」ムキー
「もしもだけど、プリーズとフリーズを間違える、とかはないよねー?」
「……アメリカじゃないし大丈夫……だと思う」
「まぁ、エイちゃんが出てくれば大丈夫でしょ」
「それじゃ押すよー?」
ピンポーン…… パタパタ、ガチャ
エイスリン「Who's i……ミンナ!」
白胡塞豊「「「「トリックオアトリート(だよー)!!!!」」」」
カン!
とりあえずハロウィンである内に終えられてよかったです
短かったですが保守・支援ありがとうございました
乙!
宮守最高や
Entry ⇒ 2012.11.01 | Category ⇒ 咲-Saki-SS | Comments (0) | Trackbacks (0)
京子「trick or treat!!」
京子「よし、仮装してお菓子でも貰いに行くか...」
京子「何に仮装しようか...ドラキュラかな?」
京子「よし!じゃあさっと作って出発だ!」
ピンポーン
あかり「はーい」ガチャ
京子「trick or treat!!」
あかり「.......え?」
京子「あ...お菓子をくれなきゃいたずらするぞ~」
あかり「意味くらいあかりだって知ってるよ!」
京子「あれ?そうなの?反応薄いから分からないのかと...」
あかり「いや、そうじゃなくて...どうして家に来たの?」
京子「ほら、今日ハロウィンじゃん!」
あかり「そういえばドラキュラの仮装してるね」
京子「だからお菓子貰いに来ました!」
京子「何?」
あかり「あかり、今お菓子持ってないよ...」
京子「なに!?」
あかり「ごめんね京子ちゃん!来るって分かってたら用意してたんだけど...」
京子「な~に、気にすることはないよ」
あかり「京子ちゃん...!」
京子「ただ、お菓子が無いなら...い・た・ず・らをするしかないよね」ニヤ
あかり「い、いたずら...」ビクビク
あかり「ほ、本当?」
京子「本当本当!それじゃあイタズラするね」
あかり「うん....」
京子「かくごー!」
ギュ
あかり「えっ?」ドキッ
京子「終わったよー」
あかり「えっ...でも今のはイタズラなの?」
京子「私はあかりの心をイタズラしました!」ニカッ
あかり「...!!」ズッキューン!
あかり「...京子ちゃんはずるいな...」
京子「えっ?」
あかり「ううん、なんでもない」ニコ
京子「...じゃあそろそろ私はまたお菓子を貰いに行くね」
あかり「あっ、待って!」
京子「ん?」
あかり「あかりも一緒に行っていい?」
京子「えっ、いいの?」
あかり「パーティは多い方が楽しいでしょ?」ニコ
京子「あかり...!」
あかり「あかりも仮装するの?」
京子「当然!私たちはお菓子を貰いにいくんだよ?仮装しなくてどうする」
あかり「言われてみれば...」
京子「う~ん、何が良いか...」
『怨念がおんねん』
京子「...幽霊」
あかり「へ?」
京子「よし!あかりは幽霊に仮装だ!」
あかり「え~~~!」
あかり「いや、そうじゃないけど...」
京子「じゃあ白いシーツでも被っといて」
あかり「ええー!なんか適当じゃない!?」
京子「いやだってさ、幽霊ってさ全身白じゃん?」
京子「だから頭からシーツ被って顔の部分を切っちゃえばいいかな~って」
あかり「う~、そこまで言うならそうするよ」バサッ
京子「良い子だ」ナデナデ
あかり「えへへ~♪」
京子「そんじゃあしゅっぱ~つ!」
あかり「おー!」
京子「さて、どこに行こうかな~」
あかり「決めてないの?」
京子「今から決めるよ~...でも最初はあかりからって決めてたよ」
あかり「えっ?」ドキッ
京子「最初に行かないと忘れそうだから!」
あかり「ひどいよ~!!」ウガー!
京子「ごめんごめん」
あかり「...ふん」ツーーン
京子「拗ねちゃったよ...」
あかり「京子ちゃんが悪いんだもん!」
京子「まったく、そんなことで...」
あかり「う~~、そんな事じゃないもん!」
あかり「ふ~~んだ」
ギュ
京子「私があかりのことを忘れるわけないじゃん」
京子「あかりは私の大切な友達なんだし」ギュウ
あかり「...友達...か」ボソ
京子「親友のほうがよかった?」
あかり「なっ!なんで聞こえてるの!?」
京子「声にでてるよー」
あかり「う~~」
京子「ほら、次行くとこ決めよう?」
あかり「うん...」
京子「次は結衣あたりかな~~」
あかり(最初に来てくれたからもしかしたらって思ったのにな...)
京子「あかりは結衣ん家で良いと思う?」
あかり「うん、いいんじゃない」
京子「あれ?まだ怒ってる?」
あかり「別になんでもないよ」ニコ
京子「な、ならよかった///」
京子「じゃあレッツゴー!」
あかり「ゴー!」
ピンポーン
結衣「ん?誰だろう」ピッ
結衣「...誰もいない...」
『今日は何の日でしょうか?』
結衣「えっ?京子???」
『早く答えてよ~』
結衣「えー...え~っと...」
結衣「七森中の創立記念日?」
京子「ちがーーーう!!!!」ガバッ
結衣「下の方にいたのか...」
京子「なんで創立記念日がでてくるのー!」
結衣「ごめんごめん、ハロウィンでしょ」
京子「分かってるなら最初から言ってよ!」
ガチャ
あかり「トリック・オア・トリート♪」
結衣「ええ!?あかり!?」
あかり「えへへ、あかりだよー♪」
結衣「おばけ可愛いな~、似合ってるよあかり」
あかり「///」
結衣「そういえば京子は?」
京子「ドアの後ろでーす」ヒョコ
京子「trick or treat!!」
結衣「うわああ!大声だすなよ、近所迷惑だ!」
結衣「ん~、今お菓子あるかなー?」
結衣「ちょっと待ってて」
タッタッタ
結衣「うすしおチップスとラムレーズンしかなかった」
あかり「うすしお!」パアア
京子「ラムレーズン!!」キラキラ
結衣「はい、どうぞ」スッ
あかり「わぁいうすしお あかりうすしお大好き♪」
京子「ラムレーズン♪ラムレーズン♪」
結衣「この子達可愛すぎる...!!」
結衣「何かに目覚めそうだ...」
結衣「とりあえず家にあがりなよ」
京子「ほーい」
結衣「なあ京子?」
京子「なあに?」
結衣「今朝の9時30分だけど何時から始めてるの?」
京子「う~~ん?8時ごろかな~」
結衣「朝ご飯は食べた?」
京子「あ...忘れてた」
結衣「あかりは?」
あかり「あかりもご飯食べずに来ちゃった...」
グウウ
京あか「.....」
結衣「作ろうか?」クスッ
京子「ありがとうございます、結衣様~」ドゲザァ
あかり「ご、ごめんね?」
あかり「ありがとー」ニコ
---結衣調理中---
京子「今のうちに回るとこ決めようぜー」
あかり「いいよー」
京子「とりあえずちなちゅは次だな」
あかり「えっ?なんで?」
京子「ここから一番近いから」
あかり「あ...そういうこと」
京子「問題はちなちゅの次だな~」
あかり「櫻子ちゃんのお家は?」
京子「ちっぱいちゃんか...よし!ちなちゅの次はちっぱいちゃんだ!」
結衣「これ以上迷惑かけるなよ」コト
結衣「あかりを誘ってる時点で」
京子「え...迷惑だった?」ジワッ
あかり「!!迷惑じゃないよ!?あかり今日暇だったし!」
あかり「寧ろ誘ってもらって嬉しいよ♪」
京子「あかり...!」
結衣「はい、出来たよ」コト
京子「おおおお、美味しそう...!」キラキラ
あかり「うんうん!」キラキラ
京あか「いただきまーす!」
結衣「召し上がれ」ニコ
京子「はむっ!...うめぇ!」パクパク
あかり「あむっ!うん♪やっぱり結衣ちゃんのオムライスは最高だね!!」モグモグ
結衣「ふふっ、よかった」
京子「ごちそうさまー」
あかり「ごちそうさま~」
結衣「お粗末さまでした」
京子「よし!ラムレーズン!」パクッ
京子「んん!うまい!!」パクパク
結衣「京子は食ってばっかだな」クスッ
あかり「ねー♪」
京子「ん?何の話ー?」
あかり「なんでもなーい」ニコニコ
結衣「そうそう」ニコニコ
京子「結衣も食べる?」
結衣「ん、じゃあ」ヒョイ
京子「だめ!」
結衣「ええええ!?」
京子「私が食べさせるの!」
結衣「まったく...」
京子「はい、あーん」スッ
結衣「あ、あ~ん」パクッ
結衣「...」モグモグ
京子「美味しい?」
結衣「うん、美味しい」
京子「いいよ食べて」っカップ
あかり「....ふぇ」
あかり「ひどいよぉ...うぅ...あかりには...グスッ...食べさせてくれないんだ...えぐ...」ポロポロ
京子「あわわわ、泣かないでよあかり!?」アセアセ
京子「冗談だからね?」
あかり「...ぐすっ...本当?」
京子「本当本当!あかりが可愛いからちょっと意地悪したくなっただけ」
あかり「可愛い...///」カアアア
京子「はい、あ~~~ん」ニコ
あかり「あ、あ~ん///」パクッ
京子「私が食べさせたアイス美味しい?」
あかり「うん、美味しい♪」
あかり「もう意地悪しないでね?」
京子「うん、もうしないよ」ギュ
結衣「...私もいいかな?」
京子「いいよ、おいで」
結衣「」トテトテ
結衣「」ギュ
京子「」ギュ
結衣「あったかい...」ギュ
京子「最近寒いもんね」ギュ
あかり「ぽかぽか~♪」ギュ
京子「あかり...良い匂い...」
あかり「京子ちゃんもだよ...」
京子「もちろん結衣も」
結衣「あかりも京子もだよ」ギュ
結衣「え...」
あかり「次はちなつちゃん家行かないといけないし」
結衣「....」シュン
京子「...一緒に来てほしいな~」ニコ
結衣「まったく、しょうがないな、京子は」ニコ
~~~~~~~~~~~~
京子「結衣も行くなら仮装しないとな」ニカ
結衣「やだよ、中学生にもなって恥ずかしい...」
京子「じゃあ連れて行かないぞー」
京子「え~っと...」キョロキョロ
京子(あ、救急箱...なんかはみ出てる...包帯?)
京子(包帯...包帯...ミイラ...?)
京子「よし!結衣はミイラね」
結衣「なんでだよ」
京子「いや、だって包帯があったから」
結衣「明らかに足りないよ」
京子「...縮めばいける」
結衣「無茶言うなよ」
結衣「それ以前に私はミイラはお断りだ」
京子「なんでだよ」
京子「そりゃあ道歩くんだし」
結衣「包帯グルグル巻きの人が道歩いてたらどう思う?」
京子「包帯巻くのが下手な人」
結衣「どんだけ下手なんだよ!」
京子「じゃあ全身血だらけで包帯を全身に巻きつけて歩いてる人」
結衣「病院いけよ」
京子「まあ、どちらにせよ変なのは確かだね」
京子「でも今日ハロウィンだし、大丈夫だよ」
結衣「だとしても...」
京子「じゃないと一緒に行けないよ~?」
結衣「...もうどうにでもなれ」
京子「」ニヤ
京子「じゃあ包帯買ってくるからちょっと待ってて」
京子「ただいまー」
結衣「おかえり、京子」
京子「じゃあさっそくいきますか」
結衣「...優しく巻けよ」
~~~10分後~~~
京子「完成ー!」
結衣「うぅっ、恥ずかしい...」
あかり「わああ~、結衣ちゃん可愛い~」
京子「似合ってるぞー」
結衣「...まあ、嫌いじゃないかも」
京子「それじゃあしゅっぱーつ!」
結あか「おー!」
ピンポーン
ちなつ「はーい」ガチャ
京子「trick or treat!!」
あかり「とりーと~♪」
結衣「おはよう、ちなつちゃん」
ちなつ「結衣先輩!?どうしたんですかその包帯!?」
ちなつ「もしかして大怪我!?」
結衣「いや、実はね...」
-------------
ちなつ「...なるほど、そういうことですか」カシャ
あかり「!?」
京子「いえーい!クッキー!!」パク
ちなつ「結衣先輩もどうぞ」サッ
結衣「ありがとう」パク
ちなつ「はい、あかりちゃん」スッ
あかり「わーい」パク
あかり「美味しいー!」
結衣「ほんと、甘さがしつこくないし焼き加減も上手だね」
ちなつ「ありがとうございます♪」
京子「」モグモグ
ちなつ「どうですか?」
京子「うん、美味しい♪」
ちなつ「それ食べたらさっさと行きますよ」
京子「あれ、ちなつちゃんも来てくれるの?」
ちなつ「暇だからですよ、暇だから」
京子「ありがとーちなっちゃーん」ギュ
ちなつ「ちょっ、抱きつかないでください!」グググ
京子「ちなつちゃんは魔女ね」
ちなつ「魔女ですか...」
京子「やっぱりちなつちゃんは魔女系が似合うよ」
ちなつ「それ喜んでいいんですか...」
ちなつ「やっぱり着るんですか...」
ちなつ「じゃあちょっと待ててください」ヌギ
結京あか「!!??」
京子(な、なぜここで...)
あかり(ここ、お外だよ...)
結衣(一体何が...)
ちなつ(先輩...私を見て下さい...!)ヌギ
ちなつ「出来ましたー!」キャルルル
京子「よし!後はホウキだな」
京子「お!こんなところにちょうどホウキがある!」スッ
結衣「おい、それ勝手に使って良いのか?」
京子「大丈夫!後で返すから!」
結衣「絶対返せよ」
京子「これでパーティはドラキュラ、幽霊、ミイラ、魔女の四人だ!」
結衣「ハロウィンっぽくなってきたな」
京子「次はちっぱいちゃんだー!」
櫻子「あ~、暇だな~」
櫻子「何か面白い事ないかな^^」
ピンポーン
櫻子「はーい」ガチャ
京子「トリック・オア・トリート~♪」
櫻子「?なんです、それ?」
京子「え?」
櫻子「そのトリックなんちゃらって?」
結衣「.....」
あかり「.....」
ちなつ「.....」
京子「...お菓子をくれないとイタズラするよ」
櫻子「ああ~!そういう意味ですか!ようやく分かりました!」
櫻子「向日葵のクッキーならありますよ」サッ
京子「さっき食べたけど別にいいか」パク
京子「!!なんだこのクッキー...!?すごく美味しい!」パアア
ちなつ(私の時はそんな反応しなかったのに...)
櫻子「で、私今暇なんですよ、だからもし良かったら一緒に仮装しても良いですか?」
京子「もちろんいいよー」
櫻子「やったー!ハロウィンならなんでもいいんですよね?」
京子「うん、そうだね」
櫻子「なら私、かんおけがいいです!」
結衣「かんおけって...」
あかり「かんおけは歩きづらいよ?」
京子「ツッコミ所そこじゃねえ」
結衣「なんでかんおけがやりたいの?」
櫻子「そんなの決まってますよ!夢ですよ夢!!」ドヤ
櫻子「ほら、かんおけの中ってどうなってるか気になるじゃないですか!」
櫻子「だから中に入って確認したいんです!どうなってるか!」キラキラ
結衣「そ、そうなんだ...」
京子「確かに気になるよね!」キラキラ
ちなつ「かんおけに入っても面白くないと思うよ?」
櫻子「そんなの入ってみないと分からないじゃん?」
ちなつ「ま、まあね」
ちなつ「京子先輩はだめです!」
京子「へ?なんで?」
ちなつ「中に入ったら前が見えなくて危ないじゃないですか!」
ちなつ「もし京子先輩が転んで怪我でもしたらどうするんですか!」
京子「あ、えっと....ご、ごめんね」
ちなつ「分かれば良いんです、分かれば」ニコ
京子(え、笑顔可愛い...)キューン
京子「かんおけは時間かかるからちょっと待っててね」
あかり「あかりも行こうか?」
結衣「大丈夫、私と京子で作るよ。あかりに迷惑かけられないし」
あかり「迷惑なんかじゃないよ?」
結衣「平気平気、パッパと作ってくるから」
京子「てなわけで倉庫貸してね~」
櫻子「どうぞー」
結衣「よし!完成だ!」
京子「じゃあさっそく持って...」ズルッ
京子「うわあああ!!!」
結衣「えっ、ちょっ」ズルッ
バタン、ガチャ
結衣「いてて...」
京子「...ここどこ?」
結衣「たぶんかんおけの中だから出ればだいじょう...」ガチ
京子「どうしたの?」
結衣「...開かない」
京子「ええ!?」
結衣「たぶん飾りに使おうとした鎖がかんおけの上に落ちたんじゃないかな」
京子「...つまりそれって」
結衣「閉じ込められちゃったわけだ」
ピーーーー
結衣「こんな時に電池切れかよ...」
結衣「京子携帯は...?」
京子「家に置いてきちゃった...」
結衣「...まあ、なかなか帰ってこなかったらあかり達が探しにくるよ」
京子「......」ギュ
結衣「...京子?」
京子「....っ」ブルブル
結衣「ま、まさか京子...暗いの苦手?」
京子「....くらいよゆぃ~」ジワッ
結衣「安心して京子、私が付いてるからさ」ギュ
京子「こわいよ...ゆぃ...」
京子「えへへ、ゆぃの手あったかい...♪」
結衣「よかった」ナデナデ
京子「...ゆぃの顔、見えない...うぅ...」ジワッ
結衣「あっ、....じゃあこうしたらどう?」ズイッ
京子「ゆぃの顔だぁ」ニコ
結衣「顔近づけたからね(京子が昔の頃みたいになってる...)」
京子「ゆぃ~♪」ギュ
結衣「甘えん坊な京子だな」ナデナデ
京子「えへ~♪」ギュ
ちなつ「先輩大丈夫ですか!?」
あかり「結衣ちゃん、京子ちゃん!?」
櫻子「大丈夫ですか!?」
結衣「うん、大丈夫だよ。ありがとう」
ちなつ「ん?」チラッ
京子「...ぐすっ」
ちなつ「京子先輩どうしたんですか?」
結衣「どうやら暗いのが怖かったらしくて」
京子「....」ギュウ
ちなつ「まったく、先輩にあんまり迷惑かけちゃだめじゃないですか」
京子「うぅ、ごめん...」
ちなつ「...私がいるからもう大丈夫ですよ」ナデナデ
京子「うん!」パアア
櫻子「あ、向日葵じゃん、どうしたの?」
向日葵「なんかやけに騒がしかったので様子を見に来たんですけど...」
ちなつ「ああ、それなら大丈夫だよ、もう解決したから」
向日葵「そ、そうですの...?」
京子「んじゃあ助かった所でおっぱいちゃんも入れて出発だー!!」
櫻子「おーー!」
結衣(さっきの京子...なんだか可愛かったな~)
櫻子「かんおけー!」バタン
櫻子「うおおお!かっこいいーー!」
向日葵「落ち着かない子ですわね...ん!?みなさんその格好は!?」
京子「気づくの遅いよーおっぱいちゃん!」
ちなつ「みんなで仮装して家を回ってたんだよ」
向日葵「そうでしたの...」
向日葵「これは...コウモリの着ぐるみ...?」
京子「うん、おっぱいちゃんはそのコウモリに仮装ね」
向日葵「コウモリ...微妙ですわね...」
ちなつ「でもかんおけよりかは良いかも」
向日葵「そうですわね...あっ!」
あかり「どうしたの?」
向日葵「その、もしよろしかったら楓も一緒に連れて行ってはダメでしょうか?」
結衣「楓ちゃん...?」
櫻子「向日葵の妹ですよ」
京子「そうなんだ~、全然大丈夫だよ」
向日葵「ありがとうございます、では楓も連れてきますわね」
櫻子「あ、私もー」
向日葵「着替え完了ですわ」
楓「おねえちゃん達、こんにちは」ペコリ
京子「おお!なんと礼儀正しい!」
結衣「京子とは正反対だな」
京子「何をー!」
楓「あ、あの...楓の魔女姿...どうですか?」
京子「すっごく可愛いよ!」キラキラ
結衣「ちなつちゃんとはまた違うオーラがあるね」
ちなつ「まあ、こどもですしね」
花子「......なんで花子まで」
花子「花子の都合も考えて欲しいし!」
楓「花子お姉ちゃんも楓と同じのだー♪」
花子「本当だし...」
京子「うーんと、花子ちゃんは行くで大丈夫だよね?」
花子「楓もいるし迷惑でなければお願いだし...」
京子「やったー!これでお菓子が貰いやすくなるー!」
結衣「オイコラ」ペシッ
京子「あうっ」
京子「じゃあレッツゴー!」
ピンポーン
千歳「お客さんやね~」
綾乃「ちょっとみてくるわね」タッ
綾乃(誰かしら...もしかして歳納京子...んなわけないか...)
ガチャ
京子「トリック・オア・トリート!」ババン
綾乃「と、歳納京子ー!?」
綾乃「なんでいるのよー!!」
千歳「どないしたん?」
結衣「実はね...」
綾乃「なるほどね、それで家にお菓子を貰いに来たと」
京子「そうそう」
綾乃「じゃあ、楓ちゃんと花子ちゃんにお菓子あげればいいわね」ゴソゴソ
京子「なんで!?」
綾乃「お菓子が二人分しかないのよ...」
京子「....ちぇ」
綾乃「あ、後でまた作ってあげるわよ!!」
京子「ほんと!?」
綾乃「ほんとよ!!」
綾乃「はい、楓ちゃん、花子ちゃん」スッ
楓「わああっ....お姉ちゃんありがとう!」
花子「...ありがとうだし」
綾乃(可愛いわね...こどもって)ホワアア
綾乃「な、なによ」
京子「仮装だけど...もう思いつかなくて...」
綾乃「...えっ?」
京子「だから私と同じだけど良い?」
綾乃(と、歳納京子とおなじ...///)
京子「綾乃?」
綾乃「しょ、しょうがないわねっ!しかたないから着てあげるわ!」
京子「ほんと!?ありがとう綾乃ー!」
綾乃「///」
京子『私と一緒だよ綾乃』
綾乃『い、一緒...』カアアア
京子『そうだよ、私と綾乃は一心同体なんだよ』
綾乃『/////』
京子『赤くなって美味しそうな頬...』ペロッ
綾乃『ひゃい!?』ビクッ
京子『私がいっぱい食べてあげるね...』スッ
綾乃『ふぁ...そこはだめぇ...』ビクッ
千歳「最高やーー!」ビシャビシャ
結衣「うわっ!?鼻血!?」
あかり「結衣ちゃん、ティッシュ!」サッ
結衣「ありがとう」スッ
ブスッ!
結衣「妄想もほどほどにね」
千歳「せやね~」
京子「千歳はおばけで良い?」
あかり「!!!」
千歳「全然かまへんよ~」
京子「よかった~...ん?」
あかり「むぅぅ....」プクッ
京子「あかり...?」
あかり「京子ちゃんはあかりのために作ってくれたんじゃないの!」
京子「へ?」
あかり「~~~~!!」
京子「何?」トコトコ
結衣「お前気付かないのか...?」ヒソヒソ
京子「何が?」ヒソヒソ
結衣「あかりはあのおばけ、自分のためだけに作ってくれたと思ってるんだぞ」ヒソヒソ
京子「そ、そうなの...?」ヒソヒソ
結衣「あかりがあんなに嬉しそうに着てたのはそういう事だと思うぞ」ヒソヒソ
京子「そうだったのか...ごめん、あかり」ヒソヒソ
京子「ごめん千歳!あのおばけは『あかりのために』作ったものだから!ごめん!」
あかり「...えへへ」ポカポカ
結衣「なんとも幸せそうな顔」クスッ
京子「んなわけだから千歳も私と同じで良い?」
千歳「ええよ~」
京子「よし!これで全員着替えたな!」
あかり「うん~!」
京子「それじゃあお菓子を貰いに行くぞーー!
一同「おーー!!」
それから京子達はたくさんの人を訪れ、手に持ちきれないほどのお菓子をたくさん貰い、みんな笑顔になった。そんな京子達の大仮装は七森でも有名になり、とても可愛らしい笑顔に見る人全てが幸せな気持ちになった...時は午後6時、京子達はそれぞれ帰路に着こうとしていた。
京子「今日は楽しかったなー!」ノビーッ
櫻子「とっても楽しかったです!」
向日葵「ほんと、今日はお誘いいただいてありがとうございました」
結衣「いいっていいって」
綾乃「まあ、それなりに楽しめたし、一応感謝するわ!」///
千歳「綾乃ちゃんたっら素直やないんやから」
綾乃「ふん!」
京子「それじゃあ今日はこの辺で」
向日葵「はい、今日はありがとうございました」
楓「お姉ちゃん達ありがとうー!」
花子「また一緒に仮装するし!」
櫻子「来年もまたやりましょうねー!」
京子「とうぜんよーー!」
トコトコトコ
櫻子「ねえ、向日葵?」
向日葵「なんですの?」
櫻子「...今日泊まって良い?」
向日葵「...もちろん良いに決まってますわ」
向日葵「まったく...櫻子は」
花子「...楓」
楓「なあに?」
花子「楓は今日花子の家でお泊りするし」
楓「ええ、良いの?」
花子「良いに決まってるし!」
楓「やったーー!」
花子(...ひま姉、頑張るし...)
綾乃「じゃあ私たちも帰るわね」
京子「うん、また明日」
千歳「ほな、気いつけて帰りや」
結衣「うん、そっちこそ気をつけてね」
...................
結衣「...私たちも帰ろっか」
ちなつ「はい」
あかり「うん」
京子「ちょっと待ったーー!」
三人「!?」
結衣「いや、もう暗いし...」
京子「そんなの関係ない!よし!決めた!!」
結衣「?」
京子「今から結衣の家で娯楽部ハロウィンパーティを開催する!!」
結衣「ハロウィン...?」
あかり「パーティ...?」
ちなつ「...ですか...?」
京子「そう!私たちは『大事な友達』だからね」
あかり「.....」
結衣「...やれやれ、しょうがないな、京子は」
ちなつ「今回だけですよ」
京子「よっしゃあーー!やるぞーーー!!」
京子「じゃあ結衣の家目指して出発!」テクテク
...私はきっと...京子ちゃんだけの『特別』になりたかったんだと思う...
ちなつ「ちょっと待って下さいよー!」
...でも、今は違う。こうして結衣ちゃんやちなつちゃん、京子ちゃんと過ごすこの瞬間が私は大好き...
結衣「走ると危ないぞ京子」
...たとえ京子ちゃんだけの特別になれなかったとしても...
京子「あかりー?早く来いよー!」
あかり「あ、ごめんー!今行くー!」
...今この瞬間は私の求めていた『特別』なのだから...
~~~fin~~~
Entry ⇒ 2012.11.01 | Category ⇒ ゆるゆりSS | Comments (0) | Trackbacks (0)
雅枝「エロゲしとる所を娘に見られてしもた……」
雅枝「……ふふ」
雅枝「かわええなぁ、やっぱ小さい子は最高やわ」
雅枝(……―――ハッ!誰か来る)カチカチッ
雅枝(ALT+TABで作業用のファイルと切り替えや!)ポチッ
コンコンッ ガチャ
絹恵「ご飯できたでー」
雅枝「おー、ご苦労さん」カチッ
絹恵「母ちゃん、家にまで帰ってきてお仕事?」
雅枝「まあなぁ、インハイが終わったとはいえ結構忙しいんやで」カチッ
絹恵「大変なんやなぁ……」
雅枝「ほな、メシにしよか」
絹恵「せやね」
咲「エロゲーって楽しいよね!」
http://ssweaver.com/blog-entry-1880.html
のスピンオフです。
時系列的には、洋榎ちゃんがエロゲバレして菫さんがまだチャットに居る頃のお話。
雅枝「はいはい」
絹恵「ほな、食べましょ」
「「いただきますー」」
洋榎「今日の夕飯は絹が作ったんよな?」
絹恵「せやでー」
洋榎「さすが絹やな、めっちゃ美味いで!」
絹恵「ほ、ほんまか!」
絹恵(お姉ちゃんに褒められた……めっちゃ嬉しいわ……///)
洋榎「さすがうちの妹やな!」
雅枝「アホ、うちのお陰や」
洋榎「でもほんま、美味いで絹」
洋榎「次も絹のメシが食べたいわ」
絹恵(お姉ちゃんがこんなにも喜んでくれとる……)
絹恵(ほんまに嬉しいわ……)
絹恵「あ、ありがと……」
絹恵「……お姉ちゃま///」
雅枝「ブゴォォッ!!」ブフォ
洋榎「ちょ、オカン汚っ!!」
洋榎「お、オカン……大丈夫か?」
雅枝「だ、大丈夫や……そ、それより」コホン
雅枝「絹」
絹恵「えっ、なに?母ちゃん」
雅枝「……」
雅枝「……う、うちのこと、”おかあたま”と呼んでみてくれへん?」
絹恵「……」
絹恵「……は?」
雅枝「えっ、あ、いやっ、これはやな……その」
雅枝「……ご、ごっそさん!」ガタッ
絹恵「あ、母ちゃん!?」
洋榎「お、おい!オカン――」
洋榎「――……て、行ってもうた」
洋榎「なんやったんや……」
絹恵「せやね……」
………
……
…
雅枝「……はぁ」
雅枝「うちは娘に何を言わせようとしてんのや……」
雅枝(親として色々と失格やろ……)
雅枝(……でも)
雅枝(一度でええから呼ばれてみたいわぁ~!!)
雅枝(何がええやろ、やっぱ”おかあたま”やろか!)
雅枝(いや、”おかあちゃま”も子供っぽくてええなぁ……!)
雅枝(あえて”かあさま”や”かあや”ってのも悪うないな……!)
雅枝「ふふっ……ふふふふふ……」
雅枝「ふ……ふ…………」
雅枝「はぁ……くだらん事考えとらんで、”はじめてのおやばん”でもやるとしよ……」カチカチッ
洋榎「ん?なんや電話鳴っとんで……」
洋榎「……誰も取らんのかいな」
洋榎「絹は風呂に入っとるやろし……オカンは何しとんのや」バタム
TELLLLLLLLLL TELLLLLLLLLLL
洋榎「ああもー!わぁったわぁった、出るっちゅーねん!」ガチャ
洋榎「はいー愛宕ですー……はい……はい、ほなお待ち頂けますかー」
洋榎「オカーン!電話やでー!」
洋榎「……」
洋榎「なんや、聞こえてへんのか?」
雅枝(でゅふふふ……!)
雅枝(最高や……やっぱ小さい子はええなぁ)
雅枝(裸でも子供やから恥ずかしくないもんな!!)
雅枝(うひょおお……!来るでー!えっちなこと来るでー!!)
洋榎「オカン、オカンに電話来とるでー」ガチャ
雅枝「えっ?」
『ふぁあっ……!純君っ……だ、だめだよおっ!』
『はぁっ……はぁあっ……国広君!!そろそろイクぞっ!』
洋榎「」
雅枝「」
雅枝「こ、これは……その、あれや!」
雅枝「うちの部員が如何わしいモン持っとったから、没収しただけや!」
雅枝「確認ついでに中身も見とっただけやねん、何もおかしい事なんてあらへん」
雅枝「せやろ!?」
洋榎「……」
洋榎「や、さすがにちょっとそれはキツい冗談やろ……」
雅枝「せ、せやろか……」
洋榎「せやろ」
雅枝「…………えと……」
洋榎「……とにかく電話来とるから、はよ」
雅枝「あ、ああ……」
……
…
雅枝「はい……はい、わざわざありがとうございますー」ガチャン
雅枝「……ふぅ」
洋榎「……」
雅枝「……」
洋榎「……オカン」
雅枝「……なんや」
洋榎「なんでオカンがエロゲーなんてしてるんや……」
洋榎「知っとったんかいな……」
雅枝「大体ヒロ、部屋に入る時はノックしろ言うたよな?」
雅枝「ノックしてへんやろ、悪いんはヒロやで」
洋榎「いや……確かにうちがノックせえへんかったのは悪いと思っとるけど……」
洋榎「そうとちゃうやろ……悪い悪くないの話やないでこれ」
洋榎「別にエロゲーするんはええと思うよ、うちもしとるし」
洋榎「せやけど……」
洋榎「ロリゲーはさすがにアカンとちゃうか……」
雅枝「……っ」
雅枝「き、絹っ……」
洋榎「絹……丁度ええわ、絹もこっちきい」
絹恵「?」
洋榎「絹、オカンはな……」
雅枝「なっ……ヒロ!おまっ!」
洋榎「エロゲーを‥…しとるみたいなんや」
絹恵「」
雅枝「き、絹……っ」
洋榎「それもただのエロゲーやない、ロリゲーや」
絹恵「ろ、ろりげい……」
絹恵(ロリゲーってなんやろ……エロゲーとはちゃうんか?)
洋榎「せやけど、ロリゲーはアカンと思うねん……」
雅枝「な……何がアカンねん」
洋榎「だってせやろ、高校生の娘がいるオカンがいい歳してロリゲーやで!?」
洋榎「人妻モノとか熟女モノとか、そういうのもさすがにあれやけど……それならまぁわかるわ」
洋榎「せやけどロリゲーはアカンやろ、どうみても○学生にしか見えへん奴ばっか出るやろ!」
絹恵「え……母ちゃん、○学生とかが好きなん……?」
雅枝「ちゃ、ちゃうねん絹、ホンマ誤解や」
洋榎「誤解もクソもあるか!普通やないで!」
雅枝「……は?」
洋榎「えっ」
雅枝「普通やないからうちがロリゲーやったらアカンの?」
洋榎「そ、そらアカンやろ……」
雅枝「こんのドアホォォ!!!」ガタァッ
絹恵「ひっっ」
雅枝「ロリゲーはアカン?何言うとんのや!」
雅枝「アカンのはあんたのしょぼくれた脳みそやないのか!!」
洋榎「オ、オカン……?」
雅枝「ああそうや!うちはロリゲーが大好きや!!」
雅枝「”牌少女”……”野外麻雀”……”ボクのメイドたいけん”……”赤土先生だーいすき”……”むすメンゼン”」
雅枝「どれも最高やないか!!」
洋榎(つか、今の作品名を知っとるうちも結構アカンとちゃうか……)
雅枝「ロリゲーをやった事もない連中がただひたすらにロリゲーを批判する」
雅枝「あまりにも幼すぎる容姿が大げさに叩かれ、メディアで無様に晒される」
雅枝「ロリゲーを持ってるだけであいつは犯罪者やと」
雅枝「何がアカンねん!!うちらは何も悪い事してへんやろ!!」
雅枝「ロリゲー言うても、見た目がちょっと子供っぽく見えるだけやないか!」
洋榎「せ、せやけど……いくらゲームて言うても子供のエロシーンはアカンやろ……」
雅枝「誰が子供や言うたんやタコォ!!」
雅枝「子供っぽく見えるから子供やと?ふざけんな!!」
雅枝「登場人物は全員18歳以上やろが!!」
洋榎「い、いや……さすがにどうみても18歳以上には見えへんやろ……」
雅枝「人を見た目で判断すんなやボケェ!!」
雅枝「世の中にはな、どうみても○学生なのに20代の子とか普通におんねん!」
雅枝「どうみても30近いのに17か18歳の子とかも普通におるんや!!」
雅枝「AVかて、大抵○学生モノっちゅーもんは30近いオバハンがやっとんねん!!」
洋榎(そんなんうちに言われても)
洋榎「や、誰も言ってへんけど」
雅枝「絹はどうなんや!?」
絹恵「え、う、うちぃ!?」
雅枝「絹もうちの事を変態ロリコン年増BBAと思っとるんか!?」
洋榎「や、だから誰もそこまで言ってへんがな」
絹恵「……え、えっと……その」
絹恵「うちは別に……母ちゃんの好きにしたらええと思うで」
雅枝「……」
雅枝「えっ?」
絹恵「たまたまえっちなゲームしとったからって」
絹恵「その人の事を全否定するのはおかしい」
絹恵「他人を嫌う前に、まず自分からその人の事を理解せなアカンて」
絹恵「人間誰にでも一つや二つ秘密がある」
絹恵「その秘密を知ってもうたからって、うちは母ちゃんの事を嫌いになったりはせんよ」
絹恵「ま、まあ……さすがに子供っぽい女の子ばっかり登場するゲームをやってたんは驚いたけど……」
絹恵「好きなものは好きだから、しゃあないよね」アハハ...
雅枝「絹……っ」
絹恵「ええもなにも、母ちゃんの趣味にうちらが首突っ込むのとちゃうやろ」
洋榎「そういう問題なんか……?」
絹恵「お姉ちゃんも他人にエロゲーを全否定されたらどう思う?」
洋榎「……」
洋榎「ま……まあ……イラッとは来るかもしれへんな」
絹恵「せやろ」
絹恵「なにもかも否定する前に、まずはうちらがオカンの事を理解してあげなアカン」
絹恵「そうやとちゃう?」
洋榎「……」
雅枝「え?」
洋榎「うちが間違うてた……なんて言うつもりはあらへんけど」
洋榎「ロリゲーも立派なエロゲーや、それを否定してしもたら自分を否定してまう事になるからな」
洋榎「だからオカンの事、認めるわ」
雅枝「ヒロ……」
絹恵「……うん、これでこの話はおしまいや!」
絹恵「ほら、お姉ちゃん。風呂上がったからはよ入ってき」
洋榎「お、おおう……」トコトコ
雅枝「……」
絹恵「……」
雅枝「ありがとうな、絹」
絹恵「母ちゃんが以前言ったことをそのまま言っただけやから」
雅枝「絹……」
ぎゅっ
絹恵「……?母ちゃん?」
雅枝「ホントに……ありがとうな」
雅枝「絹が娘でホントに良かったわ」
絹恵「……んもう」ギュッ
雅枝「……」スンスン
雅枝(風呂から上がったばかりなせいやろか、めっちゃいい匂いするな……)
雅枝(胸も随分と大きくなったし……腰つきも細いし……)
絹恵「……」
絹恵「母ちゃん、なんかヘンな事考えておらへんか?」
雅枝「ふぁっ!?」
絹恵「いくら小さい子が好き言うても、うちはもう高校2年生やで?」
雅枝「な、何を言うとるんや!うちかて娘に邪な事を考えたりせぇへんわ!!」
雅枝(ちょっと考えたけどな!!)
絹恵「ホンマかいな……まあええけど」
絹恵「母ちゃんも程々にな」
雅枝「あ、ああ……」
雅枝「……」
雅枝「……ふぉ……ふぉおおお……」
雅枝(フォオオオオオオーーーーーッ!!!)
雅枝(絹ちゃんまじ天使!!きゅいんきゅいんっきゅっきゅいーーーーんん!!ぺろぺろぺろぺろ!!)
雅枝(娘最高や!!まじで!!ほんまに!!イヤッホオオオオオゥゥゥ!絹ちゃん最高ーーーっ!!)
雅枝(ロリもええけど、娘の破壊力はやっぱたまらんな!!)
雅枝(今日は絹ニーで決まりやな!はい決定!超決定!!)
雅枝(そうと決まれば早速、今まで撮り続けてきたアルバム全38巻を引っ張りださな!!)
………
……
…
――とあるネット掲示板で知り合った数人の猛者達が――
――互いに集い語り合う 淑女達のグループチャットである――
ひろぽん:おるかーー?
かじゅ:えっ?
ひろぽん:よーし、おるな!
トキ:ここやで (トントンッ
ピカリン: 西 濃 は 神
魔法少女すみれ:もう何も言うまい
巫女みこカスミン:今日はどうしたのかしら?
ひろぽん:いや、それがな……聞いてくれへんか
ひろぽん:実はな、オカンがロリゲーやっとったんや……
かじゅ:ロリゲー?
トキ:ロリゲーってあれやろ、”はじおや”とかそういうの
魔法少女すみれ:はじおや……”はじめてのおやばん”だっけか
トキ:小さい子供がはじめての親番で絞り取られるまくるっちゅーあれや
ピカリン:わかってるくせに
かじゅ:実際にやったことはないが、名前くらいは聞いたことがあるな
巫女みこカスミン:で、その神ゲーをお母様がやってらしたの?
ピカリン:誰も神ゲーなんて言ってないと思う
巫女みこカスミン:は?(怒)
ひろぽん:まぁその通りや、部屋に入ったらやってる所を見てしもた……
かじゅ:親がエロゲー……それもロリゲーをやってるとはな……
魔法少女すみれ:なんとも言えない気持ちになるな
トキ:ちゅーか、ひろぽん家すごすぎやろ
トキ:自分もエロゲーマーで妹はギャルゲーマーでオカンもエロゲーマーとかどんだけやねん
ピカリン:エロゲーマーの家系か
怜ちゃんが監督と会った時の心境はどんなんやったんやろか
そういやそうやったな…
ひろぽん:うちも今でこそは納得しとるけど
魔法少女すみれ:まぁそうだろうな
かじゅ:普通のエロゲーですら親がやっていたら誰だって驚くさ
巫女みこカスミン:そうかしら、私は別にいいと思うわ
トキ:カスミンはロリゲーマーやからそう言えるんやろ……
ピカリン:私も妹がエロゲーやってたら驚く、歓喜の意味で
魔法少女すみれ:誰も妹の話はしてない
ひろぽん:やっぱ皆もそう思うやろ
トキ:私は別にええと思うけどな
かじゅ:ほう?
トキ:人が何を趣味にしとったって別にええと思わへん?
魔法少女すみれ:そりゃあ…‥そうかもしれないが
かじゅ:でもロリゲーだぞ?
トキ:ロリゲーでもエロゲーでも一緒や
トキ:そりゃリアルで幼女にエロい事したりするのはアカンけども
トキ:ゲームでくらい好きにやったってええと思うで
巫女みこカスミン:私もそう思います
巫女みこカスミン:他人に迷惑をかけるのは勿論いけない事ですけど
巫女みこカスミン:別にエロゲーが趣味なくらいいいのではないでしょうか
魔法少女すみれ:ふむ……
ひろぽん:今ではオカンがロリゲーやってても別にええと思っとるんや
ひろぽん:なんちゅーか、オカンがロリゲーをやっているのを否定してしもたら
ひろぽん:自分自身まで否定してしまう事になるやろ
かじゅ:なるほどな
魔法少女すみれ:自分自身を否定する事になる……か
トキ:ロリゲーもエロゲーもジャンルは違えど同じエロゲーやからな
トキ:それを否定してしもたら、エロゲー全般を
トキ:そしてエロゲーをやっとる自分まで否定してしまう事になるっちゅー事や
ひろぽん:そういうことやな
巫女みこカスミン:私達って、結局どこまで行っても表には出ることの出来ない存在だと思うの
巫女みこカスミン:表に出られない私達を自ら否定してしまったら
巫女みこカスミン:それこそ、私達の居場所がなくなってしまうわ
魔法少女すみれ:……
かじゅ:結局、私達はどこまで行ってもエロゲーマーなんだ
かじゅ:エロゲーマーがエロゲーを否定する事など、無意味なことに過ぎないのかもな
トキ:なんかかっこいい事言っとる
ピカリン:\キャーカジュサーン/
かじゅ:う、うるさい!
………
……
…
洋榎「結局のところ、うちらはエロゲーマーなんや」
洋榎「いや、うちだけやない、オカンも……他の皆もそうなんや」
洋榎(……でもよう考えたら、むしろうちって恵まれてる方なんとちゃう?)
洋榎(親がエロゲーしとるってことは、エロゲーに理解があるっちゅーことやろ?)
洋榎(普通は娘がエロゲーしとったら、親はええ顔せえへんもんな……)
洋榎(うちかて、オカンにエロゲーを全否定されたら流石にヘコむわ)
洋榎(……)
洋榎(オカンも……うちに否定されてヘコんでたりするんやろか)
洋榎(結構キツい事言ってしもたしなぁ……)
洋榎(やっぱもう一度ちゃんと謝った方がええかもしれん……)
雅枝「幼稚園児の絹はめっちゃちっこくてかわええなぁ」
雅枝「お、こっちは音楽祭の奴やな、他の子とは比べ物にならんくらいめっちゃかわええで」
雅枝「んひょお!これは家族でプールに行った時のやつや!」
雅枝「子供用水着って露出も少ないのになんでこんなに反則的な可愛さなんやろか……」
雅枝「アカン、どれも素晴らしすぎて決められへん……」
雅枝「……しゃあない、今日はこれでスるとしよか……」ヌギヌギ
雅枝「おぉっと……ついでヘッドホンもして”むすメンゼン”のエロシーンも起動しておかな」カチカチッ
洋榎「オカーン、おるかー」
洋榎「……」
洋榎「……?おらんのかいな?」
コンコンッ
洋榎「……」
洋榎「オカン、入るでー?」ガチャ
『お母様ぁっ!わ、わたしもうだめだよおおっ!』
『ええよ!穏乃っ!もっと気持ちよくしたるからなぁっ!』
雅枝「絹―――っ……!……?!ひ、ヒロ!?」グショ
洋榎「」
雅枝「」
つづカン
エロゲバレなど序章に過ぎなかったかぁ
楽しみにしてる
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