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末原「みんなー!たけのこの里、買ってきたでぇ!」
恭子「な、なんですか代行……」
郁乃「え~、そんなめんどくさそ~な顔しないでや~」
恭子「してませんって……で、用件はなんですか」
郁乃「部内で食べれるお菓子買ってきてほしいんよ~」
恭子「お菓子……ですか」
郁乃「あま~くて食べやすいもんでえ~から~」チャリン
恭子「はぁ……わかりました」
郁乃「おねがいな~」フリフリ
恭子「私の好きなもんでええんですよね?」
郁乃「うん~ええよ~」
恭子(麻雀中に食べれるお菓子……いや、休憩中に食べれるお菓子やろし、どれでもええなぁ)
恭子(ん、あれは……)
恭子「なんやと……たけのこの里が、半額や!!」
恭子「じゃあ、キノコの山はどうなんや……?」チラッ
恭子「あかん、増量してるだけで値段は変わっとらへんな……」
恭子「でも、これは買いやなぁ……」
恭子「うん、決めた…これでええやろ」ポイポイ
恭子「量も多いから、いつもより多く食べれるでー」ポワポワ
恭子「すんません代行、今もどりましたー」
郁乃「お~おっかえり~」
郁乃「で、なに買うてきたん?」
恭子「これです」ドサッ
郁乃「……これ、買うてきたん?」
恭子「半額でしたんで」
郁乃「……そう」
郁乃「あ、ひ~ろ~ちゃ~ん~」
洋榎「なにか用ですか?」
郁乃「恭子ちゃんから差し入れ~」
洋榎「お、ほんまですか」
郁乃「せやな~」ニコニコ
恭子「みんなー!たけのこの里、買ってきたでー」
姫松一同「………」
絹恵「え、えと……せんぱ……」
洋榎「恭子、それなんや」
恭子「え、どう見てもたけのこの里やん…安かったんやでー」ニコニコ
洋榎「……」
漫「……はぁ」
恭子「え……あれ?」
洋榎「うちらのこと侮辱しとるんか?自分」
恭子「そ、そんなこと……」
絹恵(みんなきのこ派なんやった……居辛いわ)
洋榎「たけのこでも……?」ピクッ
洋榎「あんなぁ、なんでうちらがたけのこの里なんか食べなあかんねん」
由子「せやーせやー」
洋榎「んなもん食うぐらいなら、死んだほうがマシや」
恭子「え…な、なんでや……」
洋榎「うちだけやないで」
漫「すんません、うちもちょっと……」
由子「うちもいやなのよー」
絹恵「……」
郁乃「……」ニヤニヤ
洋榎「せやから、うちらはそれ食べへんで」
恭子「で、でも…美味いやろ……」カタカタ
洋榎「んなもん、きのこに比べたらゴミクズ同然や…はよ、そのゴミどけとけや?練習できんやろ」ゲシッ
恭子「ぁ…」ポロ…
洋榎「それ、処理し終わるまで外でとけや」
恭子「は、はい……」ポロポロ
恭子「うう……」グシグシ
カリッ
恭子「美味しい、やないか……」モグモグ
恭子「でも……あかん、これ…10箱ぐらい買ってきたんやから全然減らへん……」
恭子「うぐっひっく……」ポリポリ
絹恵(先輩……)
俺がいますよ
ほら、一箱よこせよ・・・
恭子「……」ポリポリ
恭子「……はぁ、お腹いっぱいや」
恭子「はぁ……メゲるわ」ポリポリ
恭子「うちが、なにをしたんや……」ポリポリ
恭子「そういえば、主将、前はたけのこも食べてたはずなんやけど……」ポリポリ
恭子「うぅん……」ポリポリ
恭子「二箱目、終わったなぁ……」
恭子「つらいなぁ……」
絹恵「……先輩」
恭子「…っ!?」
恭子「な、なんや…絹ちゃんか」
絹恵「うちもそれ、食べてええですか?」
恭子「せ、せやけど……」
絹恵「ええんや、うちたけのこ派やから…へへ」
恭子「……あと八箱あるんやけどや」
絹恵「か、買いましたねぇ……」
恭子「部員の全員分やからなぁ……ははは……」
恭子「入部した時は、たしかに食べとったなぁ」ポリポリ
絹恵「でも、主将になった途端……」
恭子「……せやなぁ」
絹恵「なんでやろ」
恭子「……わからへんなぁ」
恭子「……っ、代行でしたか」
絹恵「えっと、どうしたんですか?食べます?」
郁乃「一つもらうわ~」
郁乃「うん、美味しい」
恭子「そうですか……」
郁乃「そういえば、知っとる~?ここの伝統~」
絹恵「……?」
恭子「エースを中堅に据える。じゃないんですか?」
郁乃「それもやけど~別のことなんよねぇ~」
恭子「……別のこと?」
郁乃「そやなぁ、調べれば情報がでてくると思うんやけど~」
恭子「……そですか」
郁乃「そやよ~」
恭子「お、おつかれさまでした」
絹恵「でした」
恭子「……伝統か、中堅以外にもあるんやな」ポリポリ
絹恵「初耳や」ポリポリ
恭子「なんにせよ、調べてみる価値はあるで」ポリポリ
絹恵「うちも、手伝いますよ」ポリポリ
恭子「うん、助かる……」ポリポリ
絹恵「言わんといてください……」ポリポリ
恭子「せやな……」ポリポリ
絹恵「んー、過去の部の資料とかないんやろか」ポリポリ
恭子「資料かぁ」ポリポリ
絹恵「うちもや」
恭子「あと六箱……やなぁ」
絹恵「結構量もありますなぁ」ケフッ
恭子「半額やったんで、買ってしもうた」
絹恵「なるほどなぁ」
恭子「とりあえず、資料とやら、探して見ましょうや」
絹恵「あいあいー」
絹恵「見事に当たってます……」
恭子「せやなぁ……なんかええのあらへん?」
絹恵「見つからんですねー」
恭子「んー、ハズレやろか……ん?」
恭子「過去の部員名簿や」
絹恵「ふむふむ……」
恭子「なんやこの欄は……派閥?」
絹恵「あ、これ……」
恭子「なんか見つけたんか?」
絹恵「二年前のお姉ちゃん、たけのこ派や」
恭子「なんやて!?」
絹恵「なんやて……」
郁乃「うふふ~半分ぐらい正解かな~」
恭子「代行……仕事は……」
郁乃「いいの~いいの~」
郁乃「それで、ここのもうひとつの伝統は」
恭子「……ゴクリ」
絹恵「もう一つの、伝統は……?」
郁乃「次期主将が、前主将の好みを受け継ぐとかなんとか」
「「へ?」」
郁乃「きのことたけのこの、どっちかをうけつぐの~」
恭子「そ、そういうことでしたか」
絹恵「そんなシステムが……」
これは許してはならない
郁乃「善野っちが言うには、同じ派閥の子が優先して次期に選ばれるらしいわ~」
恭子「なるほど、だいたいわかりました」
絹恵「お姉ちゃん……」
恭子「我慢なんてしてて、楽しいんでしょうかね、主将」
郁乃「ど~やろなぁ~」
恭子「少なくとも、うちはつまらないですね。生粋のたけのこ派なんで」
絹恵「うちもや」
恭子「ふふ……いっちょ、目を覚ましたろうやないか」
絹恵「あいさー」
恭子「洋榎、おるんやろ!!」
たけのこ派の運命や、いかに!!
末原大戦犯先生の次回作に乞うご期待
恭子「……なに言うとんの?」
郁乃「えへへ~」
恭子「とりあえずは……たけのこの里を消費しちゃいますか」
絹恵「せやなぁ」
郁乃「うちも食べるでー」
恭子「……太りますよ」
郁乃「それはいややわぁ」
絹恵「カロリー気にしなくていいならずっと食べてたいなぁ」ポリポリ
恭子「せやなぁ…」ポリポリ
郁乃「ふぇぇ~…二人ともまだ若いんだしいいじゃない~」ポリポリ
絹恵「結構腹にたまるなぁこれ……けふぅ」
恭子「うちこれで四箱目やで……」ポリポリ
絹恵「ご苦労様です……」ポリポリ
郁乃「うちももう一箱いかなあかんの~?」ポリポリ
恭子「たかが一箱や、問題ないやろ」
郁乃「ひどいわぁ~涙が出ちゃうわ~」ポリポリ
絹恵「はいはい」ポリポリ
洋榎「はぁー……」
洋榎「なんや、こないなところで騒がしい……邪魔したわ」
恭子「まちーや」
洋榎「……っ!」ピクッ
恭子「主将もひとつどうです?」スッ
恭子「それは、本心なんか?」
恭子「本心やったら、止めたりせーへん」
洋榎「う、うちは……」
洋榎「うちは、この看板背負っている間はきのこ派でいないとダメなんや……」
恭子「前代に任されたからですか」
洋榎「……」
絹恵「今のお姉ちゃん、らしくないで?」
絹恵「あの頃のお姉ちゃんはどこいってしまったん?」
洋榎「絹……」
郁乃「うふふ~」
洋榎「でも…いまうちが崩れたりしたら、部全体の崩壊につながるんや」
恭子「だからって、きのこに魂を売るように自分を押し殺すんですか?」
洋榎「……ッ!」
恭子「わからへんよ……でも、こんなうちでもわかることはあるんや」
恭子「今日、たけのこの里を罵倒する時、めっちゃ苦しそうな顔してたやん」
洋榎「……ッ!」
パシン!
恭子「つぅ……図星、なんやな」
洋榎「違う……うちは、うちは……」
恭子「素直になるんや」ギュッ
洋榎「っ……」
洋榎「きょう、こ……」
恭子「部の雰囲気だって、ゆっくりと変えていけばええ」
恭子「伝統だって、壊してしまえばええんや」
洋榎「……うん」
恭子「……ほれ、落ち着いたやろ?」
洋榎「うん」
恭子「たけのこの里、おいしいで?」スッ
洋榎「……」ポリッ
洋榎「うん、おいしい……」
恭子「あはは、買ってきたかいがあったわぁ」
洋榎「ひどいこと言って、ごめんな?」
恭子「いつもお世話になってるし、問題なしや」
洋榎「ふふっ…ありがた山の、とんびがらすやな……」
洋榎「ほんま、ありがとな」
おわり
すばらでした
Entry ⇒ 2012.07.03 | Category ⇒ 咲-Saki-SS | Comments (0) | Trackbacks (0)
咲「お姉ちゃんがシスコンだった……」
咲「そうなんだよ」
衣「ふーん、そうだったのかー?」
咲「はぁ……もう嫌になるよ、衣ちゃん」ナデナデ
衣「な、なでうな!」
咲「だって衣ちゃんかわいいんだもん」ナデナデナデ
衣「ふにゅうぅ~……」
咲(ああかわいい……衣ちゃんは全部私の物だよ……)
衣「!」
咲(電話だ……でももう少し衣ちゃんぎゅーってしていたい……)ギューッ
衣「ぐぇっ! お、おーい咲。電話が鳴ってるぞー?」
咲「分かってるよー。でも私、衣ちゃんを抱っこしてないと死んじゃう病気にかかってるの……」ギューッ
衣「と、突拍子も無い嘘を吐くな……く、苦しい……!」
(プルルルル……)
咲(もううるさいなー……どうせまたお姉ちゃんなんでしょ……)
『着信 ハッたん』
咲「ハッたん!?」
衣「うわっ!? 急に大声を出すな!!」
衣「……閑話休題、はったんとは何だ?」
咲「それよりごめん衣ちゃん、大事な電話だったみたいだからちょっと席外すね」スタスタ
衣「う、うむ」
咲「もしもし」
初美『あっ、やっと出ましたねー』
咲「ごめんね、ちょっと嫌な事があって気分転換してたの」
初美『えっ……嫌なことですかー?』
咲「うん。実はお姉ちゃんがシスコンだったことが判明してね……」
初美『し、シスコンですかー!?』
咲「そうなんだよ」
初美『うわっ……あのクールそうなお姉さんがそんなこと……』
初美『それは相当重症ですねー。もし私にそんな姉が居たとしたらへこみますよー』
咲「居たとしたら、かぁ……」
咲「初美ちゃん、もし良かったら私がお姉ちゃんに……」ボソボソ
初美『ん、何か言いましたかー?』
咲「う、うぅん。何でもないよ! それより何の用事で電話してきたの?」
初美『そうでした、今日は咲ちゃんに会いに来たのですよー』
咲「えっ……今どこに居るの?」
初美『さっき空港について、今は電車の中ですねー』
咲「そ、そうなの!? ごめん、今用事があって龍門渕高校に居て……」
初美『ありゃ。そうだったんですかー? やっぱりサプライズなんて考えるものじゃありませんねー』
初美『それだと方向が逆ですねー……どうしましょうかー』
咲「すぐに清澄に帰るよ」
初美『私がそっちに向かいましょうかー?』
咲「い、いや! せっかく初美ちゃんの方から会いに来てくれたんだし……」
初美『いえ、私は場所はどこでもいいのですけど……』
咲「あーほら、龍門渕の人たちも困るでしょ?」
初美『ふむ。それもそうですねー』
初美『分かりましたー。それではまた後でー』
咲「はーい」ピッ
咲「ハッたん……ついにハッたんが遊びに来てくれた!」
一「……」ジーッ
咲「……はっ!?」
一「『はったん』って、ボクの事じゃないんだよね……?」
咲「はじめちゃん!? い、今の聞いてた……?」
一「うん……ちょっとだけだけど……」
咲「えっ?」
一「たまに龍門渕に来ても衣と遊んでばっかりで……」
咲「……そっか、ごめんね。でもはじめちゃんも私の大切な、いも……友達だから」ギュッ
一「咲……」
一「ううん、こっちこそごめん。勝手な事言って」
咲「いいの。私ははじめちゃんが大好きだから……」チュッ
一「へへっ……ボクも大好きだよ、咲……」
咲「うん、知ってるよ」
咲「うん。名残惜しいけどもう行かないと」
一「そっか、またね……」
咲「うん。また……あっ、衣ちゃんにも挨拶していかないと」スタスタ
咲「そろそろ私帰るよー。またね、ころころー」
衣「おおそうか……って、『ころころ』と呼ぶのはやめろと云うに! またな!」
咲「えへへ、またねー♪」トテトテ
咲(もちろんはじめちゃんだって永遠の妹だけど……)
透華「あら、もうお帰りですの?」
咲「あーはい帰りますけど何か」
透華「いえ、何でもありませんわ。気を付けて帰るんですのよ」
咲「はい心遣い感謝しますそれではお邪魔しましたー」スタスタ
透華「ふぅ……宮永さんにも困ったものですわね」
透華「結構長い付き合いですのに、私に対してももう少し愛想良くなってもらいたいものですわ……」
透華「べ、別に衣や一のように友達になりたいというわけではありませんわよ?」
純「……誰に対して話してるんだよ」
初美『はいそうです、そのお店に居ますー』
咲「ちょうど私もそのお店の前に着いたから、出てきてもらえるかな?」
初美『わかりましたー』プツッ
初美「えーっと……」キョロキョロ
咲「あっ、こっちだよ初美ちゃん!」
初美「おお咲ちゃん! 久しぶりですねー」
咲「久しぶりだね。会いたかったよ」
初美「ふふ、私もですよー」
咲「実は、もし初美ちゃんがこっちに遊びに来たら一緒に行きたい場所があったんだよね」
初美「行きたい場所、ですかー」
咲「私だけが知ってる秘密の場所だよ。私の大切な思い出の場所……」
咲「ちっちゃい頃は何かあるといつもそこに行ってたなぁ。この街を見下ろせて、とっても眺めのいいところなんだ」
初美「へえ……それは素敵そうな場所ですねー。でもそんな大切な場所に私なんかが……」
咲「いいんだよ。初美ちゃんは大事ないm……友達なんだから」
初美「な、何だか照れますねー」
咲「ふふっ……」
初美「わぁ……」
咲「どうかな?」
初美「はい、確かにとっても素敵な場所ですねー」
咲「よくここに座って街を眺めてたなぁ……懐かしい……」
咲「初美ちゃん、私の膝の上に座ってみて」
初美「えっ……こ、こうですかー?」スッ
咲「うんうん」
初美「いえいえ、どういたしまして……って、どうして頭を撫でるんですかー!?」
咲「いや、初美ちゃんが愛しくてつい……」
初美「い、愛し……!? とにかく子ども扱いしないで下さいよー!」
咲「分かったよぅ」
初美「はぁ、まったく咲ちゃんは……」
咲「それならお胸を撫でるね」ナデナデ
初美「ひゃうっ!? な、何するんですかー!?」
咲「えっ。だって子ども扱いするなって言うから……」
初美「だからといって変なところを撫でないで下さい!」
初美「えっ……? べ、別に嫌というわけではありませんけど……」
咲「良かった、じゃあ続けるね」ナデナデサワサワ
初美「はうぅ!……やめて下さいって!」
咲「えー。だってこんなに触って欲しそうな格好してるのに……」ナデナデナデ
初美「ひゃっ……し、してません! 断じてそのような意図はありませんよー!」
初美「そういうわけですから私の胸を撫でるのはやめてください!」
咲「大丈夫大丈夫、私が幸せだからいいの」ナデナデ
初美「良くないですよー!! ばかー!!」
初美「うう……咲ちゃんえっちですよー……」
咲「ううん。私は初美ちゃんが大好きなだけだよ」
初美「や、やめて下さいそんな……照れるではないですかー」カァァ
咲「あはは、かわいいなぁ初美ちゃんは」ギューッ
初美「わわっ」
咲「私は初美ちゃんみたいなかわいい子が大好き……」スリスリ
初美「もう、咲ちゃんは仕方の無い人ですねー……」
初美「姉ですかー? また唐突な質問ですねー」
初美「うーん……まあ思わなくもなかったり……」
咲「じゃあ私がお姉ちゃんになってあげる!」
初美「ど、どうしてそうなるんですかー! 年齢的におかしいですよー!」
咲「身体的には合ってるよ」
初美「うう、ちっちゃいの気にしてるんですからやめて下さい……」
咲「そうなの? こんなにかわいいのに……」
初美「気になるものは気になるんですよー」
初美「一緒に、ですかー?」
咲「お姉ちゃんがシスコンでショックを受けたって話はしたでしょ?」
咲「だから今、私は癒しが欲しいんだよ……初美ちゃん……」ギュッ
初美「ぐうっ!? さ、咲ちゃんのお気持ちは分かりました。とりあえず離してください!」
咲「分かってないじゃん……私はこうやってずーっと初美ちゃんをぎゅーってしてたいの」ギューッ
初美「もう! 本当に困った人ですねー!」
咲「えへへー♪」ギューッ
初美「い、嫌ですよー。咲ちゃんすぐに北家飛ばすじゃないですかー」
初美「それに面子はどうするんですかー?」
咲「二人麻雀で……」
初美「北家が存在しないじゃないですかー。それでは面白くありませんよー」
咲「じゃあ三麻……」
初美「どのみち北家ありませんし面子の問題まで増えるじゃないですかー!」
咲「んもう、ハッたんってばわがままなんだから……」
初美「はったん!? もしかしてそれ私の事ですかー!?」
咲「えへへ」
初美「えへへ、じゃありませんよー……」
初美「ですからはったんって……まあいいです、そのつもりですよー。宮永さんの家に泊めてもらえますかー?」
咲「えっ……ご、ごめんね。今日は親戚の人が家に来てるから無理なんだ」
初美「そうですかー。大丈夫ですよ、宿泊施設に付いてはいろいろ調べて来ましたからねー」
咲「ほんと、ごめん……」
初美「謝らなくてもいいですよー。元々急な話だったのですし仕方ありません」
咲「うーん……でもハッたん、私の家に泊まりたかったでしょ?」
初美「まあ、もし泊まれるのならそうしましたが無理にとは……」
咲「だよね、私と一緒に寝たかったよね」
初美「えっ!?」
初美「そ、そんな事言ってませんよー!」
咲「代わりに今ここで一緒に寝ようか」ヌギヌギ
初美「ですからそんな……って、どうして服を脱いでるんですかー!?」
咲「だって寝るんだし……」
初美「私は就寝時に服を脱いだりしません!」
咲「そんな細かいことは気にしないで。裸の付き合いって言葉もあるし」
初美「それは少し意味が違うと思いますよー!!」
咲「えへへ、じゃあお風呂入りに行こうか」
初美「じゃあって何ですかー!? ものすごく嫌な予感がするのでお断りします!」
咲「えー、ハッたんと洗いっこしたかったのにー」
初美「咲ちゃんが言うと猥褻な意味にしか聞こえません……」
咲「猥褻な意味だから洗いっこしようよー」
初美「み、認めてどうするんですかー!! なおさら嫌ですよー!!」
咲「ほら、裸の付き合いって言葉もあるし……」
初美「もうそれはいいですって!」
初美「それはこっちの台詞ですよー……」
初美「……あっ、もうこんな時間ですねー。そろそろ宿を探しませんとー」
咲「ほんとだ、私もそろそろ帰らないと」
初美「今日はありがとうございましたー。いろいろとあれでしたが楽しかったですよー」
咲「いやいや、お礼を言うのはこっちの方だって!」
咲「というわけでお礼のお胸なでなで……」ナデナデ
初美「ひゃっ!? や、やめて下さいって!!」
咲「えへへ。それじゃ、またね」
初美「もう……はい、また会いましょうー」
咲(久々に泣き顔も見たいんだけど最近麻雀打ってくれないしなぁ)
咲(まあ遊びに来てくれただけでも嬉しいし、今日は十分ハッたんを堪能できたから良しとしよう)
咲(それより、今日はお父さんの居ない日だから……)
咲「ただいまー」
マホ「おかえりです、咲お姉ちゃん!」
咲「やっぱり来てたんだ。遅くなってごめんね?」
マホ「いえいえ、こっちがお泊りに来たんですから謝る必要ないですよ!」
咲「そっか。今日もかわいいねマホちゃんは」ナデナデ
マホ「えへへ……お姉ちゃん大好きです……」ギューッ
咲「ふふっ、私もだよ」
マホ「はい!」
咲「ご飯食べ終わったら一緒にお風呂入ろっか」
マホ「はい!」
咲「お風呂から上がったら一緒に遊ぼうよ」
マホ「はい!」
咲「また一緒に寝ようね?」
マホ「……はい♪」カァァァ
マホ「ごちそうさまです。咲お姉ちゃんはお料理も上手ですね!」
咲「そ、そんなことないよ。このくらい普通だって」
咲「それじゃ私は食器洗うからマホちゃんお風呂掃除よろしくね」
マホ「もう終わってます!」
咲「えっ、そうなの?」
マホ「はい。お湯もご飯食べてる時に入れておきました」
マホ「というわけでお皿洗い手伝いますよ!」
咲「そっかぁ。マホちゃんは偉いなぁ」ナデナデ
マホ「えへへ……」
マホ「はい!」
咲「ふぅ……癒されるなぁ……」
マホ「はい……」
咲「やっぱりマホちゃんとのお風呂が一番癒されるよ」
マホ「マホも咲お姉ちゃんとのお風呂が一番です……」
咲「マホちゃん大好きだよ……」ギューッ
マホ「お姉ちゃん……えへへ……」
マホ「あっ、はい」
咲(この膨らみかけのお胸……堪らないなぁ……)フニフニ
マホ「うっ……お、お姉ちゃん……」
咲「ん? どうかした?」フニフニフニ
マホ「そんなに胸ばかり……んんっ……」
咲「ああ、ごめんごめん」スッ
マホ「ひゃっ!! そ、そこは……」
咲「大事なところだからしっかり洗わないとね」ニコッ
マホ「……はい」
マホ「……」
咲「あれ、どうしたのマホちゃん」
マホ「咲お姉ちゃんがお風呂であんなことするから……」
咲「あんなことってどんなこと?」
マホ「そ、それは……」
咲「私はマホちゃんの体を洗っただけなんだけどなぁ」
マホ「うう……お姉ちゃんは意地悪ですよ……」
咲「あはは、マホちゃんがかわいすぎるからいけないんだよ!」ギューッ
マホ「わわっ! あ、危ないですってお姉ちゃん」
マホ「うーん、この辺のゲームはやりつくしましたし……」
咲「そうだねー。何か新しいゲームソフト買おうかな」
咲「でもゲーム詳しくないしなぁ。今どんなのが出てるんだろ」
マホ「あっ。それならマホ、お勧めが……」
(ピンポーン)
咲「あれ、誰か来たみたい。ちょっと待っててね」
マホ「はい!」
和「こんばんは、咲さん」
咲「あーこんばんは和ちゃんわざわざ私の家まで何の用かな」
和「咲さん、学校にプリント忘れたでしょう?」スッ
咲「そういえばそうだったかもありがとね和ちゃん」
和「つ、ついでに少しお話でもと思ったのですが……」
咲「ごめん今は従妹の子供が居るから無理なんだーまた月曜日ね」
和「そうですか……それではまた……」
咲「うんじゃあねー」ガチャッ
咲「あー、訪問販売の人だったよ」
マホ「そうですかぁ」
咲「なんかテンション下がっちゃったからマホちゃんで回復しないと……」ギューッ
マホ「えへへ、苦しいですよお姉ちゃん」
咲「私は幸せだよー」スリスリ
マホ「く、くすぐったいです……」
マホ「寝ますか?」
咲「そうだね。マホちゃんの大好きなあれの時間だよ」
マホ「あ、あれって何ですか!」
咲「ふふ、分かってるくせに」
マホ「ううー……やっぱり咲お姉ちゃんは意地悪です……」
咲「それじゃお布団に入ろっか」ヌギヌギ
マホ「はい……♪」ヌギヌギ
マホ「お姉ちゃんもです……」
咲「それにかわいいよ」ナデナデ
マホ「えへへ、お姉ちゃんも素敵です」スリスリ
咲「こらっ、くすぐったいよマホちゃん」モミモミ
マホ「ふにゃっ!?」
咲「ふふ、お返しだよ」スッ
マホ「あん……そこは駄目です……」
咲「何が駄目なのかな」サワサワ
マホ「ひゃっ……お、お姉ちゃんのえっち……」
マホ「う、うう……」
咲「ああもう、マホちゃんはかわいいなぁ」サワサワフニフニ
マホ「あっ……お姉、ちゃぁん……」
咲「……キスしよっか?」
マホ「はい……」
咲「大好きだよ、マホちゃん」チュッ
マホ「んんっ……」
マホ「……ぷはぁっ。マホも、咲お姉ちゃん、大好きですぅ……」
咲「ふふ……夜はこれからだよ、マホちゃん……」
マホ「あはは。咲お姉ちゃんは本当にお寝坊さんですね」
咲「朝は眠いから仕方ないって……」
咲「でもマホちゃん、昨夜あんなだったのにもう元気なの……?」
マホ「よ、夜の事は忘れてください!」
咲「嫌だよ。マホちゃんとの大切な思い出だもん」
マホ「それはまあ……そうですけど……」
マホ(マホだって、お姉ちゃんとの思い出は忘れませんよ……)
咲「うん。またね、マホちゃん」
マホ「はい、またです咲お姉ちゃん!」トテトテ
咲「はーい」
咲「さて……」
咲(今日はどうしようかな……)
咲(一番身近な優希ちゃんは、黙ってればかわいいんだけどうるさいしうざい……)
咲(阿知賀の灼ちゃんは愛想なさそうだし、宮守の胡桃ちゃんは生意気そうだしいまいちかな……)
咲(んー、劔谷の莉子ちゃんとかかわいいよね。千里山の怜ちゃんもそこそこだけどあの子には清水谷さんが居るし)
咲(実は姫松の漫ちゃんも結構好みなんだよね、胸はちょっと大きすぎるけど)
咲(でもやっぱり本命はネリーちゃんだよなぁ……でもでも外人さんは少し不安……)
咲「うーん……」
(ピンポーン)
咲「あれ、誰か来た」
照「おはよう咲」
咲「……」ガチャン
照「ま、待ってくれ咲!」
咲「はぁ……」ガチャッ
咲「どの面下げて会いに来たの、照さん?」
照「うっ……」
咲「……」
照「あの時の台詞はただの気の迷いだったんだ」
咲「……私はお姉ちゃんのものじゃないんだよね?」
照「あ、ああもちろんだ。私にお前を束縛する資格なんてない」
咲「妹だからって、胸とか変な所触ったりしないでよ?」
照「すまん! それももうしない!」
咲「一緒にお風呂入ったり一緒に寝たりも無しだからね」
照「ああ。よく考えたらお前ももう高校生だからな。そんな歳でもないよな、うん」
咲「……」
照「本当か!?」
咲「うん。でもまた変な事があったらその時は絶対に許さないからね」
照「当然だ。先日は少し精神的に混乱してただけなんだからな」
咲「そっか。用事はそれだけかな、お姉ちゃん?」
照「咲……」
照「……ああ、再び姉と呼んでもらえるのならば私は満足だ。またな」
咲「うん、またね」ガチャン
咲(妹だからって子ども扱いして頭撫でて来たり、胸とか触ってきたり……)
咲(お風呂とか寝るのとか一緒はありえないって……気持ち悪い……)
咲(まあ反省してるみたいだからとりあえず大丈夫かな)
咲「うーん……お姉ちゃんのせいでテンションだだ下がりだよ……」
咲「あっ、そういえばこの時間ならまだハッたんは鹿児島に帰ってないかな?」
咲「ハッたんを見送った後に龍門渕に行こうかな。位置的にも近いし……」
咲「……よーし、決まり!」
咲「今日は愛しの妹である衣ちゃんの頭とお胸をなでなでして一緒にお風呂入って一緒に寝て来ようっと!」
―終わり―
乙なの!
まあ面白かった乙。
Entry ⇒ 2012.07.02 | Category ⇒ 咲-Saki-SS | Comments (1) | Trackbacks (0)
菫「……もう、やめにしないか?」
照「応援、よろしくお願いします!」
「では会見を終わります。記者の皆様は――……」
◆◆◆◆◆
部員「「お疲れ様でした!!」」
菫「お疲れ。早かったな」
照「……っ」
菫「照?」
照「菫。早く、早く……っ」
菫「……お前、また」
照「早く来て!」
菫「っおい、照……」
ここ麻雀部にはいくつかの部屋が用意されている。広い練習室、休憩室、一軍専用の仮眠室。
これらは二年前、当時一年生だった宮永照の全国制覇という成績によって学校側から贈られたものだ。
特に仮眠室にはベッドやシャワールーム、冷蔵庫やPCなども完備されており、一軍はかなりの待遇を受けている。
だが、その仮眠室を使うのは、専ら私たちだけだった。
菫「おい、照……大丈夫か?」
照「菫……、菫っ」
菫「は……んむっ」
私と照が三年に上がって、少し経った頃からだろうか。
照はいつも、私をこの部屋に連れ込んだ。
照「す、みれ……?」
菫「先にシャワー浴びたぞ。お前も早く行って来い」
照「あ……私、また……」
菫「……っ照!」
照「ごめん、菫……ごめ、ごめんなさい……ごめ……なさい……っ」
菫「……いいから。もう、謝るな」
全国一万人の頂点、宮永照。彼女には大きな問題があった。
それは、時折「不安定」になってしまうこと。
教室、部室、会見の場……場所は様々だが、決して試合中には見せない姿。
そしてその度に、照は私の身体を求めるのだった。
菫「……いや、どうせ寝不足か何かだろう。心配いらないさ」
達した後、照はいつも糸が切れたように意識を失う。
以前、一部を伏せて医者に相談したところ、精神的なトラウマか何かが原因だろうが、詳しいことはわからないそうだ。
照「ここ、は……」
菫「起きたか?」
照「菫……私、また倒れたのか」
菫「……ああ。運んでくるのに一苦労だったよ」
照が気絶している間に、私はシャワーを浴びる。
私が上がったタイミングで、照が目を覚ます。
照が、私に謝る。
照を宥めてシャワーを浴びさせ、もう一度寝かせる。
そうして二度目に目を覚ましたとき、照は何も覚えていないのだ。
照「昔は病弱なんてことはなかったはずだけど、最近はしょっちゅうだな。迷惑をかけてごめん」
菫「……いいよ、気にするな」
不毛だと思う。
私の初めては照だった。
それから、もう何度目かはわからなくなった。
この行為の流れを理解してからは、ルーチンワークのようにソレをこなすようになった。
作り笑いが上手くなった。
照の営業スマイルと比べてみても劣らないだろう。無駄な自信がある。
菫「連絡を入れておいた。部活中に倒れられても困るからな。」
照「そうか……菫は?」
菫「私も今日は休むよ。送ってやるから鞄持って来い」
照「何から何まで、ごめん」
菫「……謝らなくていい」
さっき散々謝ってもらったからな、とは言えない。言わない。
こいつは知らないままでいい。
私だけが知っていれば、それでいい。
「まさに圧勝! 白糸台高校、今年も全国への切符を手にしました!」
◆◆◆◆◆
その記事を見つけたのは偶然だった。
長野県代表の清澄高校。大将、宮永咲。
私は確信していた。これはあいつに関係することだ。あいつの過去、そして現在に。
菫「清澄、って知ってるか?」
照「……」
菫「……お前、妹いたんじゃなかったっけ?」
照「……いや?」
照「私に妹は――いない」
照は嘘を吐くのが下手だ。
もう長い付き合いになるし、それくらいはわかっている。
これが、あいつのトラウマ。麻雀、長野、東京、妹、宮永咲。
――私はどうして、こんなにも必死なのだろう。
「宮永さん、あなた、妹さんはいらっしゃる?」
照「……私には、妹はいません」
◆◆◆◆◆
菫「あいつ、どこに行ったんだ……っと!」
衝撃。前方不注意だった。
バランスを崩しそうになるのを堪えて前を向くと、跳ねた横髪が目についた。
菫「なんだ、照か。探したぞ」
照「……」
照「ん……ちゅ」
菫「……っ! こんな所で、何を……」
照「……来て」
菫「痛っ……」
握られた右手が痛い。この馬鹿、麻雀が出来なくなったらどうしてくれるんだ。
ここは……医務室? ああ、そういえばうちの仮眠室以外でするのは初めてかもしれないな。
しかしここにはシャワーがないんじゃないか? 困ったな、汗だくのまま帰るのは勘弁したいところなんだが。
などとくだらない思考をしていると、えらく乱暴に投げ捨てられた。
照「……」
ベッドがあったからよかったものの、お前これがその辺の床なら数日は肩が動かないぞ。
今日はやけに力が入っているじゃないか。
制服にシワを付けるのだけは勘弁してくれよ。
なあ、照?
照「……」
菫「て、る……?」
照「う……うあ……くっ……」
照「はぁっ……、っ……」
明らかに様子がおかしい。いつもならこのまま事に及ぶはずだ。
だが、今の照はそれを拒否しようとしているようだった。
まるで何かを押さえ込むように、揺れる瞳が私を見つめている。
そんな顔をしないでくれ。
今までだってそうだったじゃないか。
このまま、お前の気が済むまで、好きなようにすればいい。
――何でお前が、泣きそうな顔をしてるんだよ。
菫「……なぁ、照」
照「っは……、はぁ……」
菫「……もう、やめにしないか?」
菫「わかってるんだろ? お前。こんなことしたって何にもならない」
照「……」
菫「私はお前の心が読めるわけじゃない。お前は照魔鏡のようだーなんて言われてるけどな」
照「……」
菫「お前のこと、わかってやりたいと思ってた。お前の気持ちが慰められるなら、こんな関係も別にいいかと思ってた」
菫「だけどな、私は……少し、疲れたよ」
菫「――……、ごめんな」
照「……」
照の最後のキスは、これまでのどんなキスよりも優しかった。
「さあ、全国大会も残すところ大将戦のみ!」
「栄光を手にするのはどの高校か!」
◆◆◆◆◆
「……お姉ちゃん。私、ずっとお姉ちゃんに会いたかった」
「家族がバラバラになって、麻雀も好きじゃなくなって……それでも、もう一度こうやってお姉ちゃんと会いたかった」
「麻雀なら、お姉ちゃんと話すことができるって、そう思ったから」
「……私、負けないよ!」
◆◆◆◆◆
インターハイでの活躍を認められ、私は推薦で都内の大学に進学することが決まった。
あの夏のインターハイ、それにまつわる色々なこと。
そして、あいつのこと。
様々な思いがめぐる中、私はもうすぐ高校を卒業する。
あいつ――宮永照は、母親と共に長野に帰り、そちらの大学へ進むそうだ。
妹と一緒に暮らすことになったようで、しばしば連絡を取り合っている。
仲睦ましいのはいいことだが、毎晩電話する意味はあるのか?
照「私のお母さんは少し……強引な人でね。私か咲、どちらかに麻雀で名を残して欲しかったらしい」
菫「それで、お前が選ばれたって訳か」
照「ううん、違う。お母さんが本当に目をかけていたのは咲だった。あいつ、昔はずっとプラマイ0で和了り続けてたんだ」
菫「それはまた、おっそろしい話だな」
照「だからとにかく麻雀を打って、気付いたらお母さんと東京に行くことになっていた」
菫「長野で妹と一緒にやっていくんじゃ駄目だったのか?」
照「みたいだよ。まあ実際、都会に出たほうが色々とチャンスは増える」
菫「それはそうかもしれないが……姉妹を引き離すってのも、なぁ」
照「私も咲も、もちろん離れたくはなかったし、お父さんも反対してた」
照「でもお母さんはどちらかを連れて行くって聞かなくて、両親はいつも喧嘩ばかり」
照「それで私も、咲を守らないといけないと思ったんだ。だから、わざと咲を突き放した」
照「それでもあのときの私には、そうするしかなかったから」
菫「……妹がいないって言ったのは?」
照「精神衛生上。私から咲を遠ざけたのに、まさか咲の方から私を追いかけてくるとは思わなかったから」
菫「つまり、照れか」
照「……そう一言で言い切れるものでもない」
思えば、照は初めから、それこそ私があの記事を見つけるよりもずっと前から、妹がまた麻雀を始めたことを知っていたのだろう。
そしてそれは、きっと私の初めての日だった。
菫「何だ?」
照「その……何て言えばいいのかわからないけど……あの日は、ごめん」
菫「あの日……ああ、あの日か」
照「あのときの私はどうかしていた。……手、痛かったよね」
菫「気にしてないから気にするな。むしろ私は、お前がまだ覚えていたことに驚いたよ」
照「忘れる訳ないだろう……あんなことをしておいて」
菫「だから気にするなって。未遂で終わったしな。キスはされたけど」
照「あ、あまり言わないでほしい……死にたくなる」
菫「思い出して悶絶とか、お前そんなキャラじゃないだろ」
照「これはまた別。……本当に、悪かったと思ってる。気にしていなくても謝らせてほしい」
菫「……律儀だなぁ、お前」
永水の神代じゃないが、二度寝してないからだろうな。
今思い返してみても、あれがどういうメカニズムだったのか、私にはわかるはずもなかった。
最後のキス。照から私への、最後のキス。
あのとき、照は何を思っていたんだろう。
記憶にはないはずなのに、まるでそれまでの私を労わるような、そんなキスだった。
最初から最後まで、一つ残らず覚えている、私のことを思うような。
照「もうすぐ卒業か」
菫「長かったようで、終わってみると短かったな」
照「……もう少し、ここで打ちたかったよ」
菫「……ああ、そうだな」
――菫と、とは、言ってくれないんだな。
菫「そうだな。そのときは妹も連れて来いよ。淡のやつが、もう一度咲ちゃんと打ちたいってうるさいからな」
照「咲もそう言ってたよ。……二人とも、まだまだ強くなるだろうな」
菫「お前もすぐ抜かれるんじゃないか?」
照「それはない。姉より優れた妹など存在しないから」
菫「妹に骨抜きの姉がよく言うよ」
お互いに、糸口を探っている状態だった。
まだ伝えたいことがある。伝えて良いかわからない言葉がある。
私たちの関係はいつも、こんな風にそれぞれが一方通行だった。
菫「……ん?」
照「これまで、私と一緒にいてくれてありがとう。菫がいてくれたことに感謝している」
菫「こっちの台詞だよ。お前がいたからインターハイ優勝なんて経験も出来たんだ。……ありがとう」
照「……私には」
照「今まで、麻雀しかなかった」
照「不器用で、必死で、それをひたむきと呼ぶことは私には出来ない」
照「それでも、いつでも菫はひたむきだったな」
……馬鹿。そんな顔するのは、反則じゃないか?
菫「……っ」
言葉が出ない。いつものように余裕ぶれない。
このままの関係でいいと思っていた。身体を重ねるだけでもよかった。私だけが知っている照がいるだけでよかった。
ああ、私はずっと、本当は――――……
照「……菫。ずっと、好きだった」
菫「……っ、遅いんだよ、馬鹿……っ!」
こうやって、心を通わせたかったんだ。
菫「やっとか……ったく、だから予定より一時間は早く来るつもりで動けと言っているのに」
誠子「まぁまぁ、久しぶりに会えるんですし、細かいことはいいじゃないですか」
尭深「……あ、茶柱」
照「遅くなった」
咲「お姉ちゃん、ちゃんと謝らないとダメだよ? ごめんなさい、ちょっと迷子になっちゃって……」
照「……ごめんなさい」
照「私にだけ辛辣」
咲「あ、あはは……」
淡「咲ちゃーん! 早く打とう今すぐ打とう!」
尭深「……せっかち」
誠子「ははっ、淡はホントに楽しみにしてたからなあ」
照「菫」
菫「ん?」
照「……ただいま」
菫「……おかえり、照」
俺がこのスレで言いたかったことは照菫が身体だけの関係にハマる淀んだセフレSSが欲しいということだけです。お願いします。
姉妹が離れたのって母親が原因とか意外とありそうな気もする
Entry ⇒ 2012.07.01 | Category ⇒ 咲-Saki-SS | Comments (1) | Trackbacks (0)
怜「夏祭り一緒に行かへん?」
怜「そ。今週の土曜にあるんやて。さっきクラスで班の子が言うてたわ」
竜華「へえー、何や珍しいなぁ。怜がそういうん行きたがるとか」
怜「そ、そう?」
竜華「そやそや。怜結構面倒がりやからな」
怜「それはほら、ウチ―――」
竜華「病弱やし、はナシやで」
竜華「たまには息抜きもわるないな」
怜「! そやったら…」
竜華「ん、せっかく怜が誘ってくれたんやし行こか」
怜「えへへ、ありがとな竜華」
竜華「あはは、そんなお礼言うことやあらへんってもー」
怜「? 竜華何かあるん?」
竜華「いや、ウチは何もあらへんけどな」
竜華「セーラ達の予定が空いてるか分からんやん」
怜「えっ」
竜華「土曜言うたらもう明後日やしな。もしかしたらもう先約入ってしもてるかもしれへん」
竜華「…そやったら善は急げやな。ちょっと皆に聞いてくる!」
怜「…竜華のアホ」
―――
怜(結局泉とフナQも一緒に行くことになってしもた…)
怜(セーラは家の用事で行かれへん言うてたらしけど)
怜(これじゃいつもと何も変わらへんやないか…)
泉(な、何でウチ睨まれとるんやろ…)
怜「ロン。清一三暗刻、25200」
泉「ひっ! …は、はいっ!」
怜「……」
泉(えぇぇ、ウチ先輩に何かしてもうたっけ?)
―――
竜華「―――ほな、お疲れさんでした!」
部員「「お疲れ様でしたー」」
浩子「結局、四人で行く流れかいな」
竜華「そやねー。セーラは親戚の手伝いする言うて部活にも来てへんし」
竜華「他の部員も何人か誘ったんやけど、用事とかで皆来れへんて」
怜(他にも誘っとったんか…竜華のドアホ…)
浩子「まあまあ待ちぃや。祭に制服で行くんか泉」
泉「あっ…でしたら一度帰って、一時間半後に千里山駅の西口に集合する感じでどないでしょ」
浩子「相変わらず仕切るねぇ」
泉「え、いやそのっ…」
竜華「まあええやんー、そうしよーやー」
―――
泉「んじゃ、ウチらはこの辺で」
浩子「ほな、後で駅でな」
竜華「うんー、お疲れー」
怜「……」
竜華「はー、今日はほんまに暑いなぁ」
怜「…そやなぁ」
竜華「…怜、元気あらへんみたいやけど大丈夫なん?」
怜「…大丈夫やで。ちょっと暑いなぁ思ただけやから」
竜華「そやったらええけど…」
竜華「怜、今からウチ来れへん?」
怜「え? でも着替えなあかんし」
竜華「ウチの家で着替えてけばええやん。な?」
怜「そやかて、着替え持ってきてへんよ?」
竜華「ふっふっふ。まあええからええから―――」
―――
怜「こ、これは…浴衣!」
竜華「そやでー。お祭りと言ったらやっぱりこれよー!」
竜華「ウチが前に着とったのが残ってるの思い出してな。多分怜にサイズぴったしやと思うでそれ」
怜「えぇ…でも浴衣て何や恥ずかしない?」
竜華「何言うてんの! むしろ浴衣やない方が恥ずかしいて」
怜「そ、そうなん?」
竜華「ほら、ウチも着るし。な、怜、一緒に着よ?」
怜「う、うん…」
竜華「多分大丈夫やと思うけど、一応腰紐とか伊達締めとか揃っとるか見といてな」
怜「だ、だて? 何やて?」
竜華「よろしくなー」
怜「…さっぱり分からへん」
怜(まあ浴衣広げて見てみるくらいしよか…)
怜「えっと…これは帯やな。こっちの紐みたいなんは…さっき竜華が言っとったやつかな…」
怜(ん、この浴衣…)
怜(竜華の家にあったから竜華の匂いがするんやろか)
怜(…竜華はいつ頃までこの浴衣を着とったんやろなぁ)
怜(ん…この匂いを嗅いどると…眠気が…)
竜華「ふー、さっぱりした…って」
竜華「寝とるー!」
怜「んぅ…竜華…?」
竜華「浴衣の上で寝たらあかんやろ! 今から着るのにシワになってまうやん」
怜「……?」
竜華「…寝ぼけとるな。まあええわ、ほらシャワー浴びといで」
怜「んー…」
―――
怜「竜華ー、上がったでー…ってうわ」
竜華「ちょ、開口一番『うわ』って怜ひどない!?」
怜「…や、まさか浴衣もう着てるとは思わへんかったんよ」
竜華「どお? ウチ似合うとる?」
怜(竜華、くるくる回るから…裾が…)
竜華「…怜?」
怜「…ん、似合うとるよ。可愛くてちょっとびっくりしてもうたわ」
竜華「ほんまに! 良かったぁ、似合わん言われたらもーどうしよかと思たわぁ」
竜華「あ、これ? 何や浴衣着る時はこういう風に頭の上でまとめるんが良いって聞いてなぁ」
怜「へえぇ…」
怜(あ、うなじ見えとる…)
竜華「怜もやってみる?」
怜「いや無理やろ。ウチの長さじゃ」
竜華「あはは、そやな。ほな怜も着付けしよか」
――――――
―――
竜華「お待たせー」
怜「遅れてごめんな」
浩子「ははぁ。えろう遅れたんはそれのせいですか」
泉「ほらー、言うたやないですか。お祭りは浴衣やって」
怜「泉もフナQも浴衣なんやな」
浩子「普通に私服で来るつもりやったんですけど、泉に電話されまして」
浩子「『浴衣どぉーしても着たいんやけど、一人だけやったら恥ずかしいんで先輩も着て来て!』言うて」
泉「そんな強調してませんて! けど電話して良かったやないですか、先輩一人だけ私服やったら寂しいですし」
竜華「えへへー、そやろー?」
怜「泉もフナQもよお似合てるで」
泉「園城寺先輩、何や和服美人ーて感じですね」
浩子「ほう。泉は『胸がないな』て言いたいらしいで」
泉「ちょっ船久保先輩、その解釈悪意ありすぎですて!」
怜「…泉ー?」
泉「あっ、ほらほら電車来てますて! とりあえず行きましょ!」
浩子「そこそこ規模大きい祭やし、行く人も多いんやと思いますわ」
泉「ウチ毎年このお祭り行ってんですけど、公園の中は激混みですよほんまに」
怜「…ウチがそないな所行って、生きて帰れるんやろか…」
泉「真ん中あたりの丘にベンチがあるんで、疲れたらそこで休めますよ」
竜華「そやったら安心や! 今日は暑いし、怜も無理せんといてな」
泉「わ、めっちゃ人乗って来ましたね」
怜「ちょ…押されて…」
竜華「怜! …ど、どないしよ、怜が!」
浩子「そない深刻にならんでも、電車の奥に追いやられただけやないですか」
浩子「まあどうせ次でウチらも周りも皆降りるやろから我慢っちゅうことで」
竜華「そ、そやかて…痴漢にでもあったら大変やん!」
浩子「そないなのがおっても動けませんてどうせ」
―――
怜「…はぁ、えらい目にあったわ」
竜華「と、怜! 大丈夫やった!?」
浩子「しんどいんやったら少し休んでから行きます?」
怜「ん…そうさせてもらうわ」
竜華「ほら怜、寄りかかってええで」
泉「さすがに今の電車ほどやありませんけど、会場も結構混んでますしねー」
竜華「ほな怜、お祭り中は手ぇ放したらあかんよ?」
怜「そ、そやな」
浩子「別に今から握らんでもええんとちゃいますの」
怜「ま、まあええやん。な、竜華」
竜華「?」
怜「ここまで太鼓の音とか聞こえとるもんなぁ」
竜華「会場が近いだけとちゃうの?」
泉「いえ、結構ありますよ。歩いて十五分くらいなんで」
怜「十五分やて… 生きるんは辛いなぁ」
浩子「何言うてはりますの」
竜華「ウチ何か買うてこよか?」
怜「いやええよ、それくらい自分で行けるわ。…ぃしょっ、ととと」
竜華「もーほんまに大丈夫なん?」
怜「いやこの草履がな…」
泉「…何やめっちゃナチュラルに二人で買いに行きましたね」
浩子「まあまあええやないの、仲良きことは何とやらや。ほほほ」
―――
泉「やっと会場に着きましたね!」
怜「すまんな、時間掛けさせてしもて。この草履っちゅうんは歩きづらいなぁ」
竜華「サンダルとそない変わらへんと思うけどな」
怜「や、そもそもサンダル履かんしなウチ」
怜「人も多いしここまで来るだけで一苦労やでほんま」
浩子「確かにまだ夕暮れ時やっちゅうのに、えらい人の数やな」
泉「まだまだこんなもんやありませんよ。花火大会始まるくらいになるとこの倍くらいは人が…」
怜「倍とか、ウチ死んでまうて…」
竜華「怜ー! 見て見てあれ! 可愛いー!」
怜「…ただのお面やん」
竜華「うわ、冷たっ!」
泉「あはは、ウチもずーっと昔はこういうん好きでしたわ」
浩子「ま、子供っぽくて先輩らしいんちゃいます?」
竜華「酷っ! 皆ウチの扱いわるない!?」
竜華「え? だって可愛いやんこのミッキ―――」
浩子「ストーップ!」
浩子「それはあかん、言うたらあかんで!」
竜華「ちょ、浩子?」
浩子「滅多なこと言うもんやないてほんま…怖い人が出て来はるかもしれへん」
浩子「…と言うか先輩もそのチョイスなんなんですか。ここ遊園地ちゃいますで」
竜華「え、ええやろ別に! 可愛いんやから!」
浩子「そやったら何か食べましょうや。時間もちょうどええ感じですし」
竜華「怜、何食べたい?」
怜「んー…こんだけあると迷ってまうなぁ」
泉「そんなら、軽い物食べつつ考えるとかええんとちゃいます? りんご飴とかチョコバナナとか…」
怜「お、それええなぁ」
竜華「じゃあウチりんご飴食べたーい!」
浩子「ほなそこで買いましょか。すんませんおばちゃん、りんご飴4つで」
竜華「何や怜、りんご飴見たことあらへんの?」
怜「あるわけないやんこんなん」
泉「結構一般的な物やと思いますけどねぇ。…はぐっ」
浩子「ま、縁日以外では目にせんわな」
竜華「~~っ! 甘酸っぱーい!」
怜(か、かぶりついて食べればええんやろか…)
怜(はぐっ…て硬っ!)
怜「りゅ、竜華ー」
竜華「? 怜食べへんの?」
怜「いやこれ、硬すぎて食べられへんのやけど…」
竜華「あはは、ほんまに怜りんご飴食べたことなかったんやな」
竜華「これ外側に飴が付いとるから、それにヒビを入れる感じで食べるんやで」
怜「んっ…む、難しいて」
竜華「もー、ちょっと貸してみ?」
竜華「はぐっ…っと。よっしゃ! 飴が砕けとるとこからかじれば食べられるで!」
怜「あ、ありがとな竜華」
怜「……」
怜(竜華がなめて、かじった飴…)
竜華「どう? おいしい?」
怜「…甘酸っぱい」
竜華「そこがええんやってー!」
浩子「おっ、金魚すくいや」
怜「金魚すくいってほんまにあったんやな。フィクションの世界だけやと思てたわ」
泉「現実にもありますて。まあ確かに最近は金魚すくい、あまり見ませんけど…」
浩子「そないなことないで? 金魚すくいの全国大会なんてもんもあるし」
竜華「全国大会!? ほんまに?」
浩子「ほんまほんま。競技ルールもしっかりあるし、段位の認定もあるらしいで」
怜「何やすごそな世界やな…」
泉「ええですよー。実はウチ結構得意なんですわ」
浩子「ほお、自信ありげやな。そやったら皆で掬った数で競争しましょうや」
竜華「望むところや」
泉「負けた人は罰ゲームっちゅうことで」
怜「え、ウチめっちゃ不利やん。金魚すくいやったことないで」
竜華「大丈夫やって、そんなに難しくあらへんよ」
怜「ん」
竜華「よーし、沢山掬ったるで!」
泉「期待しとりますで先輩」
怜「竜華頑張れー」
竜華「ポイをあまり水に漬けへんように…よっ! …ってあれ!?」
浩子「あららら、ポイ破れてしもうてますね」
竜華「ええー! まだ一匹も掬ってへんのに!」
怜「何や竜華、へたくそやん…」
浩子「ほな、先輩方にウチがお手本お見せしましょか」
怜「フナQは金魚すくい得意なん?」
浩子「いや別に。とは言えポイの構造分かってれば、ある程度は素人でも行けますて」
竜華「うぐ…」
浩子「紙っちゅうんは濡れてる所と濡れてへん所の境目が一番破けやすいんや。そやから…」
浩子「ポイを水に漬ける時は全面を、抵抗が掛からんように漬ける!」
浩子「掬う時も水の抵抗に気を付けて…!」
怜「おお…ほんまに掬えたな」
浩子「ざっとこんなもんや」
浩子「あっれー、もうちょい行ける気がしたんやけどなぁ」
怜「次は泉?」
泉「ええ。…ウチは自信ありますで」
泉「何しろ毎年この屋台来とりますし。な、おじさん」
竜華「じょ、常連かいな…」
泉「基本はさっきの船久保先輩のやり方でええんですけど…」
泉「それに加えて金魚の動きを読んで、最適な位置で…ほっ!」
浩子「言うだけあるなぁ。なかなかの腕前やん」
竜華「後は怜やな。皆のは参考になった?」
怜「そやな。…竜華のは参考にならへんかったけど」
竜華「ああもう、言わんといてぇ…」
浩子「はいポイ、表こっちな」
怜(……)
竜華「…怜?」
怜「…ここや!」
浩子「おお、めっちゃ綺麗に掬ったなぁ」
怜「次は…」
竜華「…怜…あんたまさか!」
怜「…こっちや!」
竜華「あかん、怜!」
竜華「えっ、だって…今怜、絶対見ようとしたやろ」
怜「? 何を?」
竜華「…金魚の一巡先」
怜「…何やそれ、金魚の一巡先て」
竜華「えっ…金魚の動きを読むとか言うてたから、麻雀みたいに未来を見ようとしたんかなーと思たんやけど…」
竜華「…あれっ、違うたの?」
怜「単に麻雀で一巡先が見えるだけや」
泉(十分未来予知ですやん…)
怜「そやから、日常生活で先が分かる…なんてことは出来へんよ」
竜華「な、何やそうやったんか…堪忍な怜!」
竜華(怜が未来を見る時いつもしんどそうやし…)
竜華(何もこんな遊びで使わんでも、と思てつい止めてしもたわ)
泉「と言うかそもそも、掬った数もドンケツですしね」
竜華「へっ?」
泉「最初に言いましたやん、掬った数競争、負けたら罰ゲームて」
竜華「えー! あれ本気やったん?」
浩子「望むところや言うてたやないですか。けど罰ゲームて何やらすん?」
泉「えーと…言うて何にも考えてませんでしたわ。園城寺先輩何か案あります?」
怜「んー、そやなぁ…」
竜華(う…心なしか怜の目線が冷たい…)
怜(何や知らんけど怯えてる竜華かわええな…)
泉「え? りんご飴ですか?」
怜「そや。竜華それ好きみたいやし、ウチが没収てことで」
竜華「えー! まだ半分も食べてへんのに!」
怜「罰ゲームやししゃーないやろ竜華」
竜華「うぅ…くすん」
泉「あれ? 何で園城寺先輩が没しゅ―――痛っ!」
浩子「あー、りんご飴て味しつこいんでウチらは一つで十分ですわ。先輩で食べて貰えると助かります」
怜「そ、そやったら仕方ないなぁ、うん」
怜「ウチが言い出したことやし、責任持ってウチが食べることにするわ」
泉「あっちの方とかどないでしょう。ヨーヨー釣りとか射的の屋台があるんですけど」
怜(竜華のりんご飴…りんごに歯型が付いとる)
怜「ん…」
怜(…これ舐めとると、何や竜華と……してるみたいやな…)
怜(…実際間接でしてるんやけど)
怜(はあ…かじるんがもったいないで)
浩子「まだ言うとるんですか? 飴一個で女々しいわ」
竜華「言うてもりんご飴て、こないな時しか食べられへんやん…」
怜「……」
怜「しゃーないな、竜華は。はい」
竜華「え? …これ貰てええの?」
怜「元々ウチが食べてた方やけどな。もう半分もあらへんけど」
怜「全部取り上げてしもたらちょっと可哀想やし、竜華にあげるわ」
怜「りゅ、竜華?」
竜華「怜は、ほんっまにウチのこと分かってくれとるな…! さすがはウチの嫁や…」
怜「ちょっ、竜華…こないな所で抱きついたら恥ずかしいて…」
泉(園城寺先輩もまんざらでもなさそうですね)
泉(ここやなければええみたいな感じですし…)
浩子(さりげなく飴も交換しとるしな。熱々やでほんま)
怜「飴一つで機嫌変わり過ぎやろ竜華…」
竜華「ちゃうで怜。怜がウチのためにしてくれたことが嬉しいんや」
怜「竜華…」
浩子(何やもう口挟むのも躊躇われるなぁ…しばらく黙ってよか)
泉「あっ、先輩方、次あれとかやりません?」
浩子(…って泉…ある意味ツワモノやな)
竜華「あ、ウチ昔大好きやったわー。これが結構当たり出るんよ」
泉「末等でも何かしら貰えるんが嬉しかったですよね」
怜「けど…賞品おもちゃばっかりやん。水鉄砲とか貰てもしゃーないて」
浩子「ま、そもそも物が欲しゅうてやるもんやあらへんと思うけどな。この歳になったら」
竜華「えー、そう? ウチ結構おもちゃ楽しみなんやけど」
浩子「先輩はまあ…子供っぽいですし」
竜華「えぇっ!?」
竜華「てことは、また負けた人は罰ゲームあるの?」
泉「いやいやいや、運だけのゲームに罰ゲームて、ちょっと理不尽やないですか?」
浩子「そやけど泉、こういうの得意そうやん」
泉「えっ、そないな持ち上げ方されても…と言うか得意不得意あるんですかこれ」
怜「ウチは何やあかん気がするわ…こういうのでまともなの当たった覚えがないで」
竜華「ネガティブにならんの、怜」
竜華「せーの…!」
泉「おっ、四等や」
浩子「ウチはあかん、末等やった」
竜華「ウチもやー。一等の筒子ぬいぐるみ九個セット、欲しかったなぁ」
浩子「いや、あんなん当たっても持って帰るの大変やろ…」
泉「末等はサイリウムみたいですね。四等はお祭りの金券かぁ」
怜「…二等や」
竜華「えっ、すごいやん怜! 二等て何貰えるんやろ!」
泉「えーと二等は…」
泉「大型高性能水鉄砲らしいですわ…」
竜華「えっ…」
怜「何やせっかく当たったのに、全然嬉しないわ…」
―――
泉「ほんまに貰っとかんで良かったんですか? 水鉄砲」
竜華「持って帰ったらセーラとか喜びそうやけどな」
怜「あんなん持っとったら人混みの中まともに歩けへんて…」
怜「これやったら末等の方が良かったなぁ。それ何や綺麗やし」
竜華「サイリウムなー。これ何で光っとるんやろ」
浩子「化学物質か何かやろな」
竜華「これ、今綺麗に光っとるけど、明日の朝には消えてまうんよねぇ」
泉「そなんですよね。ウチ小っさい頃はそれが何や勿体のー思えて、これ貰ても使わずに取っておいてましたわ」
怜「こんなん家に置いといてもしゃーないやろ」
泉「や、今思えばその通りなんですけど…」
浩子「結局飴しか食べてへんしな」
泉「一品重い物食べるよりは、軽い物いくつか食べたいとこですね。せっかく色んな屋台があるわけですし」
怜「そやったら…あれとかええんとちゃう?」
竜華「お、たこ焼き。一パックを皆で分ければちょうど良さそうやな」
泉「さっきのウチの金券も使えるみたいですね」
浩子「ほないただきますー」
泉「結構おいしいですね。生地もべちゃべちゃしてへんですし、外側もサクサクやし」
竜華「ほんまやなぁ。結構レベル高いでこれ」
怜「りゅ、竜華ー」
竜華「どないしたん? …ってああ、そっか」
竜華「パック持っとったら手ぇ塞がってて食べられへんな」
怜「そやから、ちょっとパック持ってくれると…って」
竜華「はい怜、あーん」
怜「!」
竜華「ほらほら怜。たこ焼き冷めてまうで」
怜「うぅ…あ、あーん」
竜華「どお? おいしいやろ?」
怜「…そ、そやな」
怜(どきどきして味分からへんかった…)
竜華「はいもう一個、あーん」
竜華(目瞑って顔赤くして…怜、恥ずかしいんかな。ふふっ)
竜華(しっかし、首伸ばしてたこ焼き待っとる怜見とると…何やあかんことしてる気持ちになるな…)
―――
浩子「しっかし進むに連れて、ますます歩きにくなってきたな」
泉「ああ、真ん中の矢倉の周りで盆踊りやっとるんですよ。そのせいやと思います」
浩子「へぇ…泉踊ってきたらええんとちゃう? 金魚すくい上手いし」
泉「き、金魚すくいは関係ありませんて!」
浩子「…ん? あそこにおるんは…」
泉「どないしました?」
セーラ「焼きそば一つ? まいど! ちょっと待ってなおっちゃん!」
竜華「あれ? セーラやん!」
セーラ「おわ、竜華!?」
竜華「いやセーラにも言うたやん。土曜遊ぼうて」
セーラ「ああ、あれ祭行こうっちゅう意味やったんか…」
竜華「セーラこそ何なん? 何でお店で焼きそば焼いとるんよ」
セーラ「俺は言ったやろ、親戚の手伝いやって」
セーラ「毎年伯父さんがここで店出しとるから手伝ってんねん」
浩子「看板娘っちゅうわけですね。えらい可愛らし浴衣着てもうて」
セーラ「!!!」
浩子「おほほ、お似合いでございますわよ」
竜華「可愛いやんセーラ」
セーラ「るっせーっ!!」
泉「まさか先輩の乙女モード、こんな所で見られるとは思いませんでしたわ」
怜「さっきの笑顔良かったで。『まいど!』ってもう一回やってや」
セーラ「だあああ! もう帰れやお前ら!」
怜「ウチはせっかくやし盆踊り見たいなぁ」
泉「そやったら、あの丘のあたり行きましょ。ちょっと登りますけど上から見えるんで」
竜華「ベンチがある所やったっけ、確か」
泉「そですね。あの辺りは出店もないんで、人もあんまおらんと思いますけど」
竜華「よーし、じゃ怜行くで!」
浩子「あー先輩。ウチと泉はここで焼きそば買ってから行くんで、先行っといて下さい」
セーラ「ちょっ、浩子てめっ!」
浩子「何や泉、ウチ一人で焼きそば買ってこいて? 先輩パシらすとは酷い後輩やなぁ」
泉「へっ? や、すすすすみません!」
浩子「まあそういうわけで先輩方。結構焼きそば列並んどるし、多分遅くなるんで」
竜華「何や浩子、すまんなぁ」
浩子「いえいえ、ウチもウチでやりたいことがあるんで」
泉(ちらっとデジカメが見えたんは…気のせいやなきっと。うん)
―――
竜華「浩子、写真撮るんやろうなぁ」
怜「そやろなぁ。獲物見付けたー言う感じやったしな」
竜華「セーラも災難やな」
怜「あれはあれで、本気で嫌がってるわけやないと思うで。相手フナQやしな」
竜華「あはは、確かにそやな」
怜「ん、渇いたなぁ。水分ある物りんごくらいやったしな」
竜華「そやったら、あれ飲まへん? ラムネ」
怜「ラムネって炭酸やろ? ウチあんまり炭酸好きやないんやけど…」
竜華「大丈夫やって、そんなきつないし」
怜「そうなん? そやったらええけど…」
竜華「…ぷはぁ、生き返るわー!」
怜「竜華おっさんか。…て、どうやって開けたん? 固くて開かへんのやけど…」
竜華「あはは、指で押し込むのは無理やて」
竜華「この紐についてるやつを玉に当てて、上から体重掛けて押し込むねん」
怜「こう? んしょ…って、わわっ」
怜「な、何やめっちゃ溢れてきたやんこれ」
竜華「これはそういうもんなの。怜は反応おもろいなぁ」
竜華「そやろー? お祭りの定番やでこれ」
怜「定番か…」
怜「…実はな、ウチ、お祭りって今まで来たことなかったんよ」
竜華「そやったん?」
怜「うん。人混みとか苦手やったしな」
怜「そやから浴衣もりんご飴も金魚すくいもくじ引きもラムネも、全部初めてやった」
竜華「で、どないやった? 初体験の感想は」
怜「うん…ええな。思たよりずっと楽しかった」
竜華「そっか、うんうん」
―――
怜「ふぅ…」
竜華「しんどそうやな…登るんは少し休んでからにしとく?」
怜「ううん、大丈夫やで」
竜華「そお? あんまり大丈夫そうに見えへんけど…」
怜「まあ、ちょっとは疲れたけどな。草履はやっぱウチには合ってへんかも」
竜華「そっか…ごめんな」
怜「別に竜華を責めてるんとちゃうで。ウチも浴衣着てみたい思てたし」
怜「!」
竜華「ウチの肩に寄りかかってええで。支えたげるから」
怜「…何や恥ずかしない、これ」
竜華「もう暗いし、別に誰も見てへんて」
怜(竜華に肩抱かれて、寄りかかってると…)
怜(…うん、何かええな。めっちゃ安心するわ)
怜「ん…どしたん竜華」
竜華「ほら、あれ見てみ。池の辺り」
怜「…わぁ、蛍や。初めて見たわ…」
竜華「ウチも初めて。この辺にも蛍なんておったんやな」
怜「ほんまになぁ。蛍なんてフィクションの世界だけやと…」
竜華「ふふっ、またそれ? 怜はワンパターンやな」
怜「いや、別にボケとちゃうんやけど」
怜「確かに、写真やテレビで見るよりずっと綺麗やなあ。蛍の印象変わりそうや」
竜華「? 変わりそうって、前はどんなんだったん?」
怜「んー…、何や弱々しい生き物の代表、みたいな感じ?」
怜「ちょっとの環境変化でいなくなってしもたりとか」
竜華「ああ、確かにそういうんもあるなあ」
怜「写真で見ると、光もひ弱でそない綺麗やないしな」
怜「けど、そないな弱い生き物でも…こうやって一花咲かせられるんやなあ思たんよ」
怜「そう?」
竜華「そや。難しいこと考えんと、素直に楽しめばええやん」
怜「素直に、か…」
怜(……)
怜「竜華」
竜華「ん?」
怜「ウチ、インハイ頑張るで!」
竜華「うん…え? 何でこのタイミングで?」
―――
怜「思てたより距離あるなこれ」
竜華「そやなぁ。道が遠回りになっとるみたいや」
竜華「けど、さっきから誰とも会わへんし、泉の言うように上には人あんまおらんのかもな」
怜「ああ…はよぉベンチに座りたいわ…」
竜華「んな年寄りみたいなこと言わんといて怜」
竜華「もうちょいの辛抱なんやから、頑張りや」
怜「ほんまやね。…ふぅ、やっと座れたわ」
竜華「矢倉に盆踊りに出店がぎょーさん…こっからならよお見えるな」
怜「眺め良い割に人少ないんは何でやろな」
竜華「結構ここまで登るのが面倒やからちゃう? ずっと歩いてるとお祭り気分が抜けてまうのかも」
怜「まあ下は騒がしゅうてちょっと疲れたし、このくらいがちょうどええわ」
竜華「あ、怜ちょいと詰めて。ウチも隣座る」
怜「そやったら竜華、膝枕お願い」
竜華「何や怜、膝枕やと下見えへんやろ」
怜「んー、ちょっと休憩ー」
竜華「ふふっ、しゃーないなぁ。お疲れさん、怜」
怜「意外と、って何やねん」
竜華「あはは、何となく…でもそやったら、髪もっと伸ばしてみてもええんとちゃう?」
竜華「ほらそしたら、気分次第でポニーテールとかお団子とか色々できるし」
竜華「それに今日のウチみたいに、上でまとめるのも出来るやん」
竜華「な! 怜なら絶対似合うで!」
怜「竜華…」
竜華「どお?」
怜「ウチの髪で遊びたいだけやろ」
竜華「…たはー、バレたかぁ」
竜華「あかんで怜ー、そういうの面倒くさがるんは」
竜華「女の子なんやからちゃんとお洒落に気ぃ遣わんと」
怜「…それ、ウチやのーてセーラに言うてや」
竜華「ほんまになー! セーラも元はええんやから、もっと可愛くすればええのに」
竜華「髪をもうちょい伸ばして、服装もええ感じにして、それから…」
怜「…くすっ」
怜「えっ? 何が?」
竜華「一番長いのが似合いそうなの。セーラも泉もええけど、やっぱ怜やて」
怜「そ、そんなに?」
竜華「そんなにや。ウチの目に狂いがなければ絶世の美少女の誕生や」
怜「……」
竜華「…怜?」
怜「りゅ、竜華がそない言うんやったら、伸ばすのも考えとこかな…」
怜「よ、喜びすぎやって」
竜華「えへへー、ありがとなぁ怜ー」
怜「ちょ、竜華…くすぐったいて」
竜華「髪伸びたら、ウチに色々やらせてな!」
怜「…そんな半年やそこらで伸びるもんちゃうで」
竜華「? そらそうやろ?」
怜「いやそやから伸びる頃には…」
怜(その頃には、ウチらは…)
竜華「怜…」
怜「……」
竜華「…大丈夫やで怜」
竜華「何年経っても、怜の髪をいじれるような所におるから」
怜「竜華…」
竜華「肩も貸すし、膝枕だってしたるから…そんな顔せんで、な」
怜「…ありがと、竜華」
竜華「あ、花火始まったんや」
怜「ほんまやなぁ。…ぃしょっと」
竜華「あれ、怜、膝枕はもうええの?」
怜「うん、今は膝枕より…こうしてたいねん」
怜「肩枕、とでも言うんかな」
竜華「いや言わんやろ。肩に寄りかかってるだけや」
怜「そやな。でも、それがええんや」
竜華「…そか」
竜華「……」
怜「…花火綺麗やな」
竜華「ほんまにな。…このお祭りの名物らしいで」
怜「そないなこと泉が言うとったな」
竜華「そやな」
怜「……」
竜華「……」
竜華「ん?」
怜「ほんまはな、今日ウチ…竜華と二人で来たいな思てたんよ」
怜「フナQ達には悪いんやけどな」
竜華「えっ…そうだったん? 全然気付かへんかった」
怜「ちゃんとウチ『一緒に行かへん?』って誘ったのに…」
竜華「そっか…ごめんな、怜」
怜「別に謝ることちゃうで」
竜華「そやけど…」
怜「?」
竜華「来年また、このお祭り行かへん?」
竜華「今度は、二人で」
怜「!」
竜華「いや、来年だけやない。再来年も、その次の年も、そのまた次も…」
竜華「ずっと先まで一緒に、な」
怜「竜華…」
竜華「…こうやって並んで花火見たり」
竜華「な、絶対楽しいて!」
怜「…そやな、楽しみにしとくわ」
怜「竜華、―――…」
竜華「えっ? ごめん怜、花火の音で聞こえへんかったわ今」
怜「ふふっ、何でもあらへんよ」
竜華「何や気になるやん。教えてやー」
怜「内緒やもん」
怜(ありがとな、竜華。…大好きやで)
終わり
どう終わらせるか考えてなかったから途中からすごい時間かかっちった
乙
とてもよかった
こういう雰囲気えぇな
Entry ⇒ 2012.07.01 | Category ⇒ 咲-Saki-SS | Comments (0) | Trackbacks (0)
淡「宮永先輩、抱いてください」 照「しつこい」
照「『それくらい』じゃないし、ダメに決まってます」
淡「……あの、抱っこのほうです」
照「……紛らわしい」
淡「もしかして宮永先輩、別の方を想像しちゃいました? きゃー」
照「……してない」
淡「自分で『紛らわしい』って言っちゃったじゃないですか。 白状したも同然ですよ」
淡「先輩ったら耳年増ですね。 本の影響ですか?そうですか?」
照「うるさい」
淡「抱っこしてくれれば黙ります」
照「……はい」ポンポン
淡「嬉しい、ありがとうございます。 愛してます」
照「静かに」
淡「そういう約束でしたね」
照「足動かさない。 不安定」
淡「私じゃなくて私の足に言ってください。 嬉しくて勝手に動いちゃうんですよね」パタパタ
照「子供のやること」
淡「子供の落ち着かせ方、わかりますか?」パタパタ
照「……これでいい?」ギュッ
淡「……合ってます。 宮永先輩の腕の中は安心します……」
淡「ただ、もっと強くてもいいくらい。 私の意思では逃げられなくなるくらい、締め付けてほしいです」
照「逃げるの?」ギュウ
淡「いえ、逆に追いかける側でしょうね」パタパタ
照「とりあえず、やったんだから足止めて」
淡「ごめんなさい、嬉しすぎて無意識にやってました」
照「さっきのはわざと?」
淡「そう言われると、違いますけども」
照「ああ」
淡「えへへ。 マッサージチェアみたいです」
照「人を椅子扱いするな」
淡「だって先輩、こう背中がくっついてると、心臓の音が伝わってくるんですもん」
淡「温泉とかにありますよね。 先輩の上のほうが、比べ物にならないくらい気持ちいいですけど」
照「……そ」
淡「ドキドキしてるのが丸わかりなんですよ。 先輩にもう少し胸があったら、まだ誤魔化しが利いたかも」
照「言うな」
淡「まぁ、どの道顔を見ればバレバレなんですが」
照「……淡も大概だ」
淡「そうですね、私もです。 確かめますか?」
照「……いい」
淡「あらら」
淡「いえ、全く。 どれほどやっても、愛情を表現し切れる気がしません」
照「受け皿から溢れそうなんだが」
淡「溢れようと捨てられようと構いませんよ。 一度宮永先輩のところに渡ったのなら」
照「……」
淡「それに、私がこうなったのも、全部宮永先輩のせいですからね」
淡「めちゃくちゃなファーストキスをしてくれた記憶、未だに脳裏にくっついてます」
照「……お前がいいと言ったからだ」
淡「そうですね、おかげ様で不安はなくなりました。 やっぱり、宮永先輩はブレーキをかけてくれました」
淡「私は世界一幸せだと理解した瞬間です。 大好きです」
照「……私も淡といる時は、自分が世界一幸せだと思ってるから」
淡「……えへへ、じゃあ、1番は宮永先輩に譲りましょうか」
照「反省している」
淡「反省する必要はありませんよ。 少しクセになりましたし、いつでも受け入れますからね」
照「……自分を大事にしろって」
淡「するようにはしてます、じゃないと宮永先輩と一緒にいられないので。 その上で、です」
照「……どちらにしろ、そうそうは無理」
淡「なんでですか」
照「淡は純情すぎだ。 自分から誘うくせに毎回のぼせるから、後の世話が大変」
淡「そのあたりに野放しにしといて構いません」
照「……しない」
淡「知ってます。 どうあろうと、最終的には優しいですよね、先輩は」
照「それと、私が少し離れようとしただけでも駄々をこねるだろ」
淡「じゃあ、それを克服したら、毎日してくれますか?」
照「極端」
淡「じゃ、今度は口で塞いでみてはどうですか? 一発です。 身体の向き変えましょうか」
照「……一つ、淡のことで気が付いたことがある」
淡「先輩のメモリーに入れてもらえるなんて、嬉しすぎますね。 で、何に気が付いたんですか」
照「淡、お前のほうがチキンだろう。 最初のを含めて3回、全て私から」
照「するフリを何回かされたが、それも今思えば、本当にしないとわかっていたからできていただけかもしれないな」
淡「……先輩のほうからしてくれるようにしないと、成功しないじゃないですか」
淡「もしかして、緊張して自分からキスできなくなったとか? 情けないです」
照「いいよ」
淡「?」
照「確かに、普段はわざとキスしてない部分はある。 でも、今日からは許す」
照「キスでもなんでも、自由にしていい。 何もしないなら、今日はその間読書してるから」
照「早くしないと、他の部員が来るぞ」
淡「……わ、わかりました、とりあえず降ります……」
淡(どうしよう、宮永先輩、本当に読書始めちゃったし……)
淡(私の口から先輩の、口に、キ、キス……)
淡「うわわわ」プシュー
照「……おい、制汗剤って顔にかけるものだったか?」
淡「いや、その……」ゴシゴシ
照「だから制服シワになるって。 ハンカチ使え」
淡「あ、えっと、そうでしたね……はい」
照「それに、そんなに強く拭くと、顔に傷とかつくかもしれない」
淡「そ、それはいやです! 宮永先輩に嫌われちゃいます!」
照「その私は目の前にいるから。 それに嫌いにならない」
淡「え、えっと、あの……」
照「落ち着いて」
照「……」ペラッ
淡(はぁ、宮永先輩の横顔……じゃない、うん、キスしよう。 うん……)
淡(急がなくても、自分のペースで、落ち着いたらでも……)
照「そんなに見られると、私でも痒い。 もしかして、俯いてるとキスしにくい?」
淡「……えっ?」
照「わかった、読書やめる」パタッ
淡(先輩、わかってないです、こっち見過ぎです……私が今すぐしないといけない感じじゃないですか……)
淡「じ、じゃあ、やりますから……あの、膝、座ります……」
照「うん」
淡(宮永先輩……先輩も真っ赤……キス、直接ですよね……? あうわわわ……)グデッ
照「寄りかかってどうしたの? 重い」
淡「はぁ、はぁ……宮永先輩……」ギュッ
照(かわいすぎ)
照「なんで?」
淡「いや、あの、先輩の顔が赤いから……」
照「顔を近づけてる時は、いつもそうだったはず」
淡「……でも今日は、勘弁してあげますから……」
照「……わかった。 読書に戻る」
淡「はい、今退きま……」
照「戻るのは、淡とキスした後だけど」グイッ
淡「え、あの……っ! んぐっ……ぁ……」
照「……んむっ」
淡(あ……あ、先輩、唐突すぎます……頭が……)グラッ
照「……ちょっと」グイッ
淡「うぁっ……」
照「大丈夫……? 淡、また顔赤い。 冷えピタまだ残ってる?」
淡「ぁ……はい、はい……えへへ……」
………
……
淡「ってことがあったんですけど、私はどうすればいいでしょうか」
菫(長い……)
菫「なんで私に聞くんだよ……マジで……」
淡「私と宮永先輩の関係を知っている人が、弘世先輩しかいません」
淡「ちなみにこの前渋谷先輩と亦野先輩にバレそうになりましたが、宮永先輩がギリギリ隠し通してくれたみ
たいです」
菫「いや知らんし……わけわからない……」
菫「もう全員にバラしたほうが早いんじゃ……」
淡「それはダメです!!」
菫「!?」
淡「……あっ、大声出してすみません。 宮永先輩の負担になりそうなことは、藁ほどのものであろうと嫌です」
菫(……後輩の頼みを断れない私も私だけど)
淡「それが、遠回りのストックが切れそうになるくらい言ってるんです」
菫「遠回り?」
淡「はい。 宮永先輩って、なんというか最低限の会話しかしてくれないので、いっぱい言葉を聞くのは苦労するんです」
淡「『今日はいい天気ですね』なんて言ったら、心の中で『で?』とか思われてそうです」
菫「……あぁ、まぁ照はそういうやつだな」
菫「で、大星はどうしたいんだ」
淡「相談している立場でこういうことを言うのは失礼なんですが、私もどうしたいのか、正直よくわかってません」
淡「宮永先輩はあまり言葉にして伝えてくれませんから、よくわからないところが結構あります。 でも本当は、私が私自身をわかってないだけかもしれない、と思って」
菫「それで私に相談したい、と」
淡「はい。 時間を使わせてしまってすみません」
菫「いや、それは気にするな」
菫「私よりも淡のほうが、今の照については詳しいと思うが」
淡「でも、私は間違ってるかもしれませんから……」
菫「間違ってる、ねぇ」
淡「……少し前のこと、覚えていますか?」
菫「……トイレで野垂れ死にみたいなことになってた時か」
淡「はは……まぁ、そうなりますね」
淡「実はあの時、宮永先輩と、喧嘩になりそうになったんです」
菫「それは物騒だな」
淡「と言っても、教師が教え子を諭すような感じでしたけどね。 何らかの意見が食い違っていたわけでもなく、一方的に私が悪かっただけなので」
菫(あんなディープキスは諭すとは言わないだろ)
淡「先輩後輩としてはそれでいいかもしれませんが、恋人同士としてはあまりに陳腐に思えたんです」
菫「……大星の信念もあるだろうが、現実の話をすれば、大星は照より年下だ」
菫「照が拒否するならまた別問題だが、あいつは大星の未熟さを含めて受け入れてるはずだと思うし、寄っかかればいいと思うけどな」
淡「でも負担はかけたくないです」
淡「……その時の一件で、当時私が持っていた『宮永先輩がわからない』ことに対しての不安は、宮永先輩本人が消してくれました」
菫「でも今度は『自分がわからない』と」
淡「はい」
菫「わかるのは『宮永照が好き』ということだけ、ねぇ」
淡「はい……」
菫「深く考えすぎじゃないのか。 少なくとも、照のほうはああ見えて自然体だろ。 大星も自然体で接してればいいと思うが」
淡「宮永先輩といる時は、一緒にいたい一心で接してます。 でも、それだけではダメな気がして」
菫「……はぁ、大星。 お前、照にどうやって甘えていいかわからないんだろ」
淡「……うぇぇ……」
菫「ちょ、泣くなって……。 そうだな、気分転換に旅行でも行ったらいいんじゃないか」
淡「……ですか」
菫「丸1日一緒に入れば、嫌でも関係は縮まるだろ」
淡「……そういえば、そういうのしたことありませんね。 学校と家だけの関係でした」
菫「私も詳しいわけじゃないから、的外れな提案かもしれないが……」
菫「外部からこういうのもなんだが、あんまり自分に負担をかけるなよ。 元も子もないし、部としても困る」
淡「わかりました、頭に入れておきます」
淡「……正直、弘世先輩に嫉妬してました」
菫「照のことでか?」
淡「はい。 私が宮永先輩に最初に告白したのも随分前のことなので、嫉妬したのもまた前のことですが」
菫「最初に、って、何回告白したんだよ……」
淡「24回です」
菫(即答……)
淡「でも、弘世先輩に相談して、随分と気持ちが軽くなりました。 感謝してます、自分が恥ずかしいです……」
菫「誰だってそんなことはある。 別に気にするな」
淡「宮永先輩のことを好きになれたのも嬉しいですが、弘世先輩の後輩になれたのも、嬉しいです」
菫「……そういうのは照に言ってやれ」
淡(……そうだよね、私と宮永先輩は恋人同士なんだから、もう少し自信持っていいよね)
淡(少なくとも宮永先輩は選んでくれた……ですよね)
照「え? 何が『というわけで』なの?」
淡「行きたいです」
照「話が見えてこない……どこに?」
淡「宮永先輩と一緒なら、どこだって楽しいですよ」
照「じゃあ部室」
淡「渋る理由はないでしょう。 文学少女の先輩は、外出たら溶けちゃいますかね」
照「……冗談。 それに、どこにでもいいって言っても、それはただ無計画なだけ」
淡「無難に温泉とかですかね? 私、こういうのしたことないのでわからないんですが」
照「私はもっとわからないって」
淡「でも、行きたいところくらいはありますよね?」
照「ない。 私も淡とならどこでも楽しい」
淡「……っ」
照「……突っ伏してないで。 どこ行くの」
淡「……お、温泉で」
淡「……少し前から言うべきでした。 迷惑でしたか?」
照「違う。 心配」
淡「えっ?」
照「いつも唐突だけど、もっと唐突な時は、淡は大体何かあった」
淡「……えへへ、嬉しすぎますってば」
照「喜んでないで、何かあったの?」
淡「心配させてすみません。 けど、今回は何もないです」
淡「強いて言えば、宮永先輩とそういうことしてないかな、と。 本音を言えば、学校と言わず1日中先輩といたんですから」
照「……現実的に無理。 ただ、そういうのは言えばいいと思う」
淡「もうちょっと格好良い言葉が欲しかったですね」
照「無理なものは仕方がない」
淡「そうですね。 そう言っちゃうところも好きです」
照「淡、手動かしすぎ」
淡「おっと、すみません。 明日から宮永先輩を1日自由にできると思うと、テンションがバカみたいにあがるもので」
淡「明日遅刻したら許しませんよ」
照「淡のほうが遅刻しそうだ」
淡「なるほど、一理ありますね」
照「一理どころじゃない」
淡「実際、このテンションの行き場がないんですよねー。 寝られるか不安です。 というわけで先輩、吸収してくれます?」
照「……はいはい、来ていいから」ギュッ
淡「……んんー! 先輩に抱きしめられてると、照れるけど、それよりも落ち着きます」
淡「深呼吸させてください。 すぅー」
照「犬みたいでみっともないぞ」
淡「わん」
照「おはよう。 普段通りだ」
淡「やっぱりメンタル強いですね。 私なんか全然寝られませんでした」
淡「正直眠いです。 おんぶしてください」
照「無理。 私をなんだと思ってるんだ」
淡「私の恋人ですかね」ギュッ
照「ちょっ、駅の中で抱きつくな」
淡「せんぱーい」グイグイ
照「やめろやめろ、動けない。 新幹線乗った後にして」
淡「……後ならいいんですか! 眠気飛びました、さっさと行きましょう!」
照(単純……)
照「眠気飛んだんじゃないのか?」
淡「先輩といると安心して、また眠くなってきました」
照「起こしてやるから寝ろ」
淡「はい。 おやすみなさい」
淡「……おはようござ……あれ? 先輩?」
照「……」
淡「寝てる……もしかして、先輩も寝不足だったんでしょうか? だと嬉しいです」
淡「写メとっとこ」パシャッ
淡「誰も見てないし……い、今なら、キス、とか……」
淡「……うあぁ、やっぱ無理……」
淡「……ほっぺにしよう、うん……ちゅっ」
淡「あ、おはようございます」
照「……寝てたか、悪い」
淡「はい。 ベストショットです」パシャッ
淡「寝起きの先輩ゲット」
照「何やってるんだ、貸して」
淡「だめー」ヒョイッ
照「貸せ」グイッ
淡「うわわっ……急に引き寄せないでください……んっ」スルッ
淡「……って、携帯取らないでくださいよ!」
照「何枚あるんだよこれ……削除」
淡「あの……先輩の寝顔なんて貴重なのに……うぇっ」
照「ちょ、待って。 消してない消してない」
淡「! よ、よかったぁ」
照「寝てたからじゃないのか」
淡「全く、そういう冷めた答えはやめましょうよ」
照「そう言われても」
淡「まぁ、何度も言いますが、そういうところも大好きですよ」
照「何度も聞いた」
淡「じゃあ、これはもういいですね。 他に先輩に覚えてほしいこと、選んでおきます」
淡「しつこく言うので、覚悟しておいてくださいね」
照「……そんなことしなくても、簡単に覚えられると思うけど」
淡「……えへへ」
照「仮に私がハイテンションな性格になったとして、淡の好きな部分が一つなくなることになるのか?」
淡「そんなわけありません。 先輩に大しての気持ちを衰えさせる気はありませんし、自然現象的に衰えもしないでしょう」
淡「片思いの時に、不本意ながら何度も試しましたけどね。 無理でした」
照「……そうか」
照「寝てたのに?」
淡「乗り物に長時間乗った後って、それだけで疲れたりしませんか?」
照「さあな」
淡「まぁ、そういうと思いましたけどね。 柄じゃありませんし」
淡「すぐに旅館に行ってもいいですが、少しそのあたりぶらぶらしませんか」
照「任せる」
淡「またそうやって……」
照「淡が『一緒にいたい』って言って来たんだから、淡が一番望む形で構わない」
淡「嬉しいですけど、ただし自己責任。 その言葉、覚えておいてくださいね」
照「……自分からキスもできないクセに、何言ってるんだ」グイッ
淡「あっ……あの、ま、待って!」
照「……しないよ、イチゴみたい。 ……下向きながら歩かない、危ない」
淡「……人の寿命縮めたくせに」
淡「私もです。 あそこでたこ焼きでも食べましょうか」
淡「先輩、正座してないで足伸ばしてください」
照「このほうが落ち着くんだが……こうか?」
淡「ナイスです。 よいしょ」スポッ
淡「ふぅ。 こうしてると、身体の疲れが抜けていきます」
照「……本当にそういうの好きだな」
淡「こういうが好きというより、宮永先輩が好きです」
淡「座椅子があってよかったですね。 さすがに姿勢保ったまま支えるのは重たいでしょうから」
照「……たこ焼き、運ばれてくる前に退けてね」
淡「先輩は冬場のこたつから素早く出られますか? 私は無理です」
照「人に見られたりする方は、ちゃんと耐性あるんだな……」
淡「ですねぇ。 宮永先輩にはありませんからね、全くもう」
照「あんまりからかうと、耐性ないほうをやるぞ」
淡「……えっと、今はその、勘弁というか……」
照「……ふぅ」
淡「どうしたんですか。 空気抜けた風船みたい」
淡「……あぁ。 さっきの店員の人、園児のカップルを見るような目でしたよ」
照「思い出させるな……」
淡「ふふっ、とりあえず、食べさせてください。 あーん」
照「はいはい」スッ
淡「待ってください、焼きたてのたこ焼きは凶器なんですよ。 冷ましてほしいです」
淡「外側だけじゃなくて、一回噛んで内側もお願いします」
照「注文が多すぎる、相変わらず子供みたい」
照「……なぁ、腰に手回してるあたり、自分で手使う気ないだろ」
淡「はい、全く」
照「……わかったよ。 服に落として汚れても知らないから」
淡「先輩がつけてくれるなら、望むところです」
照「ふー」
淡「あーん……って、あれ?」
照「うん、おいしい」パクッ
淡「……ちょっと、先輩こそ子供みたいなことしないでくださいよ。 それ超久しぶりにやられました」
照「1個ずつ冷ましてると時間かかる。 ふー」
淡「私は時間かかったほうが嬉しいです。 ま、後半は注意深く冷まさなくて平気かと」
照「できた」スッ
淡「あーん……確かに美味しいです。 冷ますために、一回先輩の歯型がついたんですよね、これ」
照「変なこと言わない……」
淡「わかっててお願いしたんですけどね」
照「それもわかってる」
淡「……えへへ。 冷たい宮永先輩の表面、少しずつ暖かくなってくれてますね」
照「そういう性格なだけ。 大して冷たくない」
淡「私が一番知ってますよ。 他に言葉が思い浮かばなかっただけです」
照「淡、口拭いて。 ソースがべたべた付いてて行儀悪い」
淡「おかしいですね。 先輩のコントロールが下手だったんでしょうか?」
照「淡はずっとこんな調子だろうから、改善はする。 するが、とりあえず口拭け」
淡「ふいてー」
照「……もうちょっとズレて、拭きにくい」
淡「わかりました。 っと、これでいいですか?」
照「ああ……ぺろっ」
淡「んっ! ……ちょっ、ぁぅ、その……あの……」
照「はい、拭けた。 行こうか」
淡「わ、わかってて、言ってますよね……? ふーっ……と、とりあえず、その烏龍茶飲ませてください……」
照「じゃ、口開けて」
淡「はい……ん」コクコウ
照「口緩くしすぎ、思いっきりこぼれてる。 口舐めただけなのに、そうとう効いてるな」
淡「『だけ』じゃあないですよ……」
淡「……まぁ、なんとか」
照「ウブすぎる。 淡ほどウブな人見たことないぞ」
淡「私のことだけ知っていればいいですよ。 とりあえず、会計済ましちゃいましょ」
淡「……あれ? お財布がない!」
照「これのこと?」
淡「あっ、ありがとうございます……って、なんで手伸ばしてるんですか!」ピョン
照「全然届いてない」ヒョイッ
照「すみません、お会計お願いします」サッ
淡「何で隠すんですか!」
店員「あらあら、仲がよろしいわね」
照「いえ」
淡「先輩、私に払わせてくださいよ!」
照「財布見つけてから言え」
淡「先輩が持ってるじゃないですか!」
淡「……ご馳走様でした。 あの、なんでこんなことしたんですか?」
照「一緒に映画見た時のことを思い出した。 淡、今回絶対『自分が払う』とか言うと思ったし、現に口走っただろ」
淡「私が誘ったことですから、細かいことくらい持つのは普通だと思いますが」
照「ほら、気にしすぎ。 細かくもないし、年上が奢ると言ってくれてるなら、素直に従っておけ」
淡「……負担はかけたくないです」
照「そっちのほうが負担だ」
淡「あっ……ごめんなさい」
照「いい。 私に甘える時は器用なのに、そういうところがすごい不器用」
淡「……そうですね。 ねぇ、先輩?」
照「何?」
淡「好きですよ?」
照「知ってる」
淡「ですよねっ」ギュッ
照「本当にノープランだな……」
淡「まぁまぁ、東京とは違った方面で色々なものがあるんですから、ノープランでも問題ないでしょう」
淡「神社にでもいきますか?」
照「構わないが、なぜ神社? どこか目当ての場所でもあるのか」
淡「いいえ。 有名どころはこのあたりはたくさんありますが、一番の理由はゆっくりしてても誰も怒らないからです」
淡「目的地そのものより、先輩と一緒にいること自体が目的ですから」
淡「さすがに、ここまで歩くと疲れますね」
淡「おんぶしてください」
照「だから、無理だって。 私も同じくらい疲れてる」
淡「じゃ、抱きしめてください」
照「わかった。 ……手離してくれないと、腰に回せない」
淡「おっと、そうですね」パッ
照「人が来そうになったら離すぞ」ギュッ
淡「構いませんよ。 あー……疲労が薄まっていきます……」
淡「はい」
照「……淡が離してくれないと、意味がないんだけど」
淡「私は人が来ても離すなんて言ってませんし」
照「……もういいよ、バッチリ見られたから」ギュッ
淡「えへへ」
淡「……いけない。 あまりに心地良くて、先に進むのを忘れてました」
照「3回見られた……」
淡「でも、先輩だって手離しませんでしたよ」
照「私だけ離しても意味ない、どうせ淡は離さないんだから」
淡「これで先輩に耐性がついてくれればいいんですけどね」
照「人のこと言えない。 手」
淡「はい」ギュッ
淡「じゃ、行きましょうか」
淡「……」ボー
照「……どうしたの、こっち見て」
淡「えっ? あっ、いや、手合わせてる時の宮永先輩、凛々しくて見とれてました」
照「……そ」
淡「何お願いしました?」
照「言ったらいけないんじゃないの?」
淡「ま、そういう考えもありますね」
照「そういう淡は? ぼーっとしてただけ?」
淡「私の願い事は、もう叶っちゃいましたから」
照「……欲張ればいいのに」
照「……のろのろと歩くから、予想以上に時間がかかったな」
淡「まぁいいじゃないですか。 向かいながら、なんか食べてきましょ」
照「お寿司?」
淡「せっかくなので和食で。 私、こういう高級な寿司屋に来たのは始めてかも」
照「……それはいいけど、背もたれないから、直視されても膝には乗せられない」
淡「本音は?」
照「人が多いから目立つ」
淡「……じゃ、手繋いでください。 下なら見えないでしょう?」
照「……ん」ギュッ
淡「お寿司が片手で食べられるものでよかったですねっ」
照「……私?」
淡「先輩、右手使えないじゃないですか」
照「左手でも食べられるし、そんなことしてたら手を隠してる意味がない」
淡「えー、全くもう」
照「……まぁ、1回くらいなら」
淡「やった!」
淡「ご馳走様でした」
照「……珍しく大人しかった。 逆に怖い」
淡「そうですかね?」
照「淡にしては、な」
淡「私だって、ある程度は考慮しますよ。 もしかして、寂しかったですか?」
照「いや」
淡「相変わらずスパっと言う人ですね」
照「寝っ転がって、みっともない」
淡「……どうぞ?」
照「何が」
淡「……」
照「……相変わらず、自分からはこないんだな」グッ
淡「……っ、ちょっと、体重全部かけないでくださいよ……」
照「そっぽ向かれるとしにくい……」グイッ
淡「うぅ……んっ。 ……あれ? あの」
照「残念」スッ
淡「……なんでやめるんですか、ひどすぎますって!」
照「したかったから自分からすればいい」
淡「……私の口舐めたクセに」
照「ノーカン」
淡「まぁ、わかりましたよ……。 すぐにとはいきませんが……」
照「自分から言ったこと」
淡「ま、先輩もでしょう。 私と大して変わりません」
照「……私は、長時間歩いたから」
淡「そういうのは、せめて顔隠して言わないと。 バレバレですけど」
照「お風呂は?」
淡「まだ」
照「何しに来たのかわからないだろ」
淡「夜中の、人がいない時間がいいです。 目立つのは嫌でしょう?」
照「目立つ前提……」
淡「何されるか、わかったものじゃありませんからね」
照「こっちのセリフ……でもないな」
淡「む」
照「そういう事言うな……。 こうして見ると、結構髪長いな」
淡「短いほうがいいですか? なら、今すぐ切り落とします」
照「……だから、そういう事言うな。 そのままの淡がいい」
淡「……えへへ」
照「洗うから、反対側向いて」
淡「嫌です、このままで」
照「……」
照「洗い方がいまいちわからない」
淡「宮永先輩、髪短いですもんね。 困ってる顔も素敵ですよ?」
照「……正面向きながら洗ってるから洗いにくいのに」
淡「ぎこちなくてもいいので、宮永先輩のペースがいいです」
照「……わかった」
淡「んー、気持ちいい、最高です」
照「……顔近づけられると、手元が狂う」
淡「じゃ、次私の番ですね」
照「またやるのか……」
淡「当たり前です。 まぁ、任せて下さいよ」
淡「あ、こっち向いててくださいね?」
照「……わかったよ」
淡「先輩、お風呂入る前にのぼせそうなんですが」
照「顔近づけてるのはそっち」
淡「……息がかかるほど近いのに。 宮永先輩に余裕が出てきてますね」
照「だって、淡の方からこられないのは知ってるから」
淡「……私からキスできるようになるまで、宮永先輩のほうからきてくれないんですか?」
照「……少なくとも、こんなところでキスしたら大変なことになるだろ」
照「……また洗ってください、とか言う気?」
淡「はい」
照「さすがに身体は自分で洗うって……」
淡「……ばか」
淡「……せんぱーい」ギュッ
照「うわっ! ちょっと……」
淡「……なんなんでしょうか、これ。 かなりやばいです……」
淡「いつもそうですけど、直に抱きついてるとなると、どうにかなっちゃいそうです……」
照「……だろうな」
淡「やっぱり、バレちゃいます?」
照「それだけくっついてたら……まぁ」
淡「でも、もうしばらくはこのままです……」ギュッ
照「……風邪引かない程度にして」
淡「保証はできません」
照「淡が洗い場に長時間いたせい……無駄に冷えた……」
淡「でも、心は本当に温まりました」
淡「明日の昼くらいには出ないといけませんからね。 今のうちに甘えておかないと、損というものでしょう」
照「甘える、ねぇ……」
淡「はいっ。 というわけで、寄りかかってもいいですか?」
照「いいよ」
淡「ありがとうございます」
淡「安心します……行為自体はいつもやってることなのに、いつも以上に火照りませんか?」
照「……うん」
淡「そんなに遠く見てると、知りませんよ?」
照「何が?」
淡「首というのは、動物の一番の弱点なんですから」
照「……首を晒すのは親愛の証」
淡「……えへへ」
照「? ああ」
淡「それ以外にも、甘える時に愛情表現で甘噛みをしてきたりするんです」
照「……」
淡「……」カプッ
照「……っ」
淡「ふふっ」カプッ
照「……ぅ、今のは少し痛かった」
淡「あっ、ごめんなさい……少し喉に当たりましたか」
照「いいよ、気にしてない」
淡「優しいですね。 んー、ごろごろー、とか」
照「……」カプッ
淡「……ぅあっ。 ……あの、私は喉にあたってもいいですよ?」
照「……そ」カプッ
淡「いっ……」
照「人のこと言える?」
淡「言えませんね」
淡「……なんかこうしていると、世界に私たちだけしかいないみたいです」
淡「ずっとこうしていたいですが、残念……。 学生は辛いですね」
照「……いつも今回のようにはいかなくても、休日は一緒にいられる」
照「同じようなことをしたかったら、休日に家に泊りにくればいい」
淡「それじゃあ、毎週になっちゃいますね」
照「いいよ。 ……たまには、淡の家に泊めてくれるなら」
淡「もちろんです」
淡「……いい加減、熱くなってきましたね」
照「出る? 結局、最後まで淡いからはこなかったけど」
照「……」
淡「……ねぇ、宮永先輩。 こっち、向いててください……」
照「……っ」
淡「先輩、好き、です。 目、逸らさないでくださいね……?」
淡「……んっ……ちゅぷっ」
照「んぅ……ぁ……」
淡「ふぁっ……。 もう1回……んぐっ」
照「ぴちゅっ……ん……っ」
淡「……はぁっ。 えへへ……で、できました、ね……」
照「……淡、大丈夫?」
淡「ごめんなさい、立てません……なんか、のぼせて、頭も痛い……」
照「……出ようか。 掴まって」
淡「は、はい……」
………
……
照「ってことがあった」
菫(旅行行ったのは知ってるよ……なんでこいつら私にばかり……)
菫「長い……しかもなんで私……」
照「菫しか知ってる人がいない」
菫「……それで?」
照「淡のスキンシップが更に激しくなった。 どうすればいいかわからない」
菫「私に聞くなよ……」
照「冷たい」
菫「はいはいはいはいはい、この話終わり」
菫「……惚気話もいいが、この後雑誌の取材あるんだぞ? ちゃんとしろよ」
照「わかってる」
淡(先輩の笑顔……綺麗だなぁ……)ボー
記者「ありがとうございます。 で、ぶっちゃけ一番期待してる部員は?」
照「……大星淡ですね」
淡(先輩……またキスしたいなぁ……)ボー
記者「はいっ! とありましたが、宮永照選手に対してどう思ってますか!?」サッ
淡「……ぅえっ!? あ、あの、み、宮永先輩は好きです! ……あっ」
「…………」
亦野「……おぉ」
渋谷「……大胆」ズズ
菫(そろそろやばいなこいつ……)
照「ちょっ……」
淡「……あ、あの、さっきの取り消しで! いや、本音ですけど取り消してください!」
記者「……もう録音しちゃいましたよ?」
おわれ
甘々照淡乙乙
Entry ⇒ 2012.06.30 | Category ⇒ 咲-Saki-SS | Comments (0) | Trackbacks (0)
照「清…原…?」
ガヤガヤ
ガヤガヤ
新入部員A(ねえねえ、あれって弘世菫じゃない?)
新入部員B(えっ!?弘世菫ってあの帝央中学の!?)
新入部員A(そうそう、中学麻雀界最強の実績を誇る帝央中学でエースで主将
確か2年の春季大会では全国優勝も果たしてる)
新入部員B(白糸台に入るって噂は聞いたことあったけど本当だったんだ)
新入部員A(何かオーラがあるよね)
新入部員B(オーラっていうか、威圧感…?)
部長「まずは新入生諸君入学おめでとう
そして、我が麻雀部に入部してくれたことを心から歓迎する」
部長「だが、こんな言葉を掛けるのは今日だけだ
2ヶ月後にはもうインターハイの西東京予選が始まる」
部長「皆知っているかとは思うが、我が校はインターハイの全国大会出場を2年連続で逃している
隣の東東京では臨海女子が13年連続で代表になっているのに比べ西東京はまさに激戦区、
どこが勝ち上がってもおかしくない状況だ」
部長「だからこそ使える奴はたとえ1年でも使う、学年は関係ない!
もちろん、特待生も一般入部の者も入ったからには条件は同じだ」
部長「明日から1年はしばらく3軍の中に入ってリーグ戦を行ってもらう
部活といっても地方のインターハイ予選より熾烈だと言われる我が校のリーグ戦だ、心して懸かってほしい」
部長「それでは、明日からの戦いに備えて本日はゆっくり休養をとるように
最後に、君たちが我が校の全国優勝という悲願を果たす大きな力となってくれることを期待している
話は以上だ、解散!」
菫(……)トコトコ
菫(さすが名門の高校麻雀部だな、緊張感が中学の頃とは大違いだ)
菫(…それにしても堅苦しい挨拶だったな、あの部長)
菫(……)トコトコ
菫(…私と気が合うかも)
菫「ん?」
菫(前を歩いてるあいつ、さっき麻雀部の新入生の集まりの中にいたよな)
菫(下向きながら歩いて危なっかしい奴だな、ちょっと声かけてみるか)
菫「おい、そこのホーン生やしてるおま…」
キィイイイイイッッッッ
?「す、すいません…」ペコペコ
菫「おい、大丈夫か?」
照「……!」クルッ
菫(!?)
菫(な、泣いてる…!)
照「泣いてない」
菫「いや、だっておまえその眼…」
照「泣いてない、涙が頬を伝ってないからセーフだ」
菫「セーフって何だよ…」
照「私が今まで住んでたところでは全然平気だった
もっと道は広かったし人通りは少なかったし、そもそもあんな怖いおっさんいなかった」
菫「今まで住んでたところ?」
照「長野。東京に引っ越してきたのはつい2週間ほど前のことだ」
菫「まあ長野だろうとそれはだめだろ」
照「東京怖い」
菫「いや明らかにおまえが悪いから」
照「そんなことより、私に何か用か?」
菫(…そんなことって)
照「人に名前を聞くときはまず自分から名乗るもの」
菫「えっ、おまえ私のこと知らないのか?」
照「なぜ初対面なのに私がおまえのことを知ってるんだ?」
照(何だこいつ…新手の詐欺か何かか…?)
照(ここは東京だしありうる…)
照(だが、そう簡単に引っかかる私ではないぞ!)
照「そうなのか。私は宮永照。
悪いが中学では麻雀部に入ってなかったんだ」
菫「へぇー。麻雀は友達とでもやってたのか?」
照(…友達!)ビクッ
照「まぁ、主に家族とだが…」
菫「家族麻雀か。私は一人っ子だからそういうの憧れるな
ってことは兄弟か姉妹でもいるのか?」
照「……」
照「…まぁ…妹が一人…」フイ
菫(…?)
照「まぁ。家から近くてそれなりに麻雀部が強いって評判のとこなら別にどこでも良かったんだが」
菫「おまえ変わった奴だな。今日の部長の話聞いてただろ?
そんな軽い気持ちで白糸台の麻雀部に入ってくるやつなんてそうそう居ないぞ」
照「そうなのか?よく分からんが」
菫「おっと、私は帰り道こっちだからまた明日な。お互いリーグ戦がんばろう」
菫「せっかく友達になったんだしすぐ辞めたりするなよ、それじゃぁ」
照(……!!!)ドキッ
照「ああ、また明日」
照(…友達)ドキドキ
照(…ふふ)
菫(宮永照か…少し変だが何か面白い奴だったな)
~白糸台高校麻雀部部室~
3軍リーグ戦
照「ツモ」
照「ロン」
菫「ツモ」
照「ロン」
菫「ロン」
照「ツモ」
照「ロン」
菫「ツモ」
菫「ロン」
照「ツモ」
部長「ああ、弘世菫…噂通りの強さだ」
部長「そしてもう一人…宮永照…!」
部長「うちはとんでもない化け物を引き入れてしまったのかもしれん…」
部長「あの二人がいれば本当にいけるかもしれんぞ…全国優勝…!」
菫「おい、待てよ宮永」
照「弘世か、どうしたそんな慌てて」
菫「慌てて、って…昨日帰り道同じだったんだから今日も一緒に帰るだろ普通…
部活終わった瞬間知らん間にいなくなりやがって」ハァハァ
照(……うっ!)
照(…そういうものだったのか)
照「わ、悪い、ちょっと疲れててな」
菫「そんな風には見えなかったが、まぁいい。それより何だおまえの麻雀!」
照「何だって何だ?」
照「私は自分の麻雀を打ってるだけだ」
菫「おまえがいれば本当に全国優勝できるかもしれ…!?」
菫「……」
照「…どうした?」
菫「いや、何でもない…それよりこの後予定とかあるのか?」
照「別に何もないけど?」
菫「それなら今から喫茶店でも寄ってちょっとゆっくりしていかないか?」
照「…弘世」
菫「ん?」
菫「へ?」
照「学校の帰りに寄り道して買い食いなんてそんな不良みたいなマネ私はしない」
菫「お、おま…」
照「そもそも部長も言ってただろ。休養はしっかりとるように、って」
菫(こいつの今までの言動でもしや…いや間違いなくそうだろうとは思っていたが…)
菫「おまえ友達いなかっただろ」
照「!!!!」
照「……」プルプル
照「……」ジワ
菫「……!」
菫「おい、今のは冗談だ!だからそこの喫茶店にでも入って少し落ち着こ、な?」
照「……」コク
照「……」プルプル
菫「宮永もアイスコーヒーでいいか?」
照「……」コク
菫「すみません、アイスコーヒー2つお願いします」
店員「かしこまりましたー」
菫「でもなぁ宮永」
菫「私もあんなこと言って悪かったが、寄り道や買い食いはだめなんて今どき小学校高学年でも言わんぞ」
照「そうなのか…東京のティーンは進んでるんだな…」
菫「いや東京とか関係なく…てかティーンって」
菫「それじゃあ学校終わりとかおまえはどうやって過ごしてたんだ?」
照「ずっと本読んでた、親が早く帰ってきたら家族で麻雀したり」
菫(私も小中と放課後は麻雀漬けでろくに遊んでこなかったが
こいつを見てると自分がすごく青春してたように感じるな)
宮永は今まで部活に入ってなかったんだし高校の麻雀部できっと自然と友達もできるさ」
照「……うん」
照「……それに」
照「……もう一人できたし」
菫「な!?」
照「?」
菫(…こいつ…恥ずかし気もなくいきなり何を…//)
店員「アイスコーヒーの方お持ちいたしましたー」コト
店員「それではごゆっくりどうぞー」ペコ
菫「……」チュー ゴクゴク
照「弘世はコーヒーブラックで飲むのか?」
菫「ああ、甘いのは苦手なんでな」
菫(特に今はな…)
菫「宮永はクールそうにみえて実は甘いのが大好きとみた」
照「…いや、私も甘いのは苦手なんだ」チュー
照「ぶはっ!」ビシャ
照「……」
菫「…別に甘いモノ好きだからって子供っぽいとか思わんから好きに飲め」
照「……うん、そうする」ドバドバ
照「……」チュー ゴクゴク
照「おいしい」ホッコリ
菫(……すごい嬉しそうだ)
照「えっ!」
照「……いいけど」ドキドキ
菫「よし、それなら照も私のこと下の名前で呼んでくれ」
照「いや、それはちょっと…」
菫「何でだ?」
照「…何か恥ずかしいし」モジモジ
菫(くそ…ちょっと可愛いじゃないか…)
菫「じゃあ照が好きなあだ名付けてくれてもいいが、ヒロとか」
照「中学のときのあだ名とかなかったの?」
菫「親しい奴はみんな下の名前で呼んでたからなぁ」
菫「いや、あだ名とはちょっと違うがそういうのが1個だけあったな……」
菫「でもこれはあんまり言いたくない」
照「友達同士で隠し事しちゃいけないってばっちゃが言ってた」
菫「……」
照「……」ジー
菫「分かった…言うよ…」
菫「……清原」
菫「……清原だ、元プロ野球選手の清原和博」
照「……」プルプル
菫「うちの中学が東京ドームの近くにあってだな…
女の割に図体がでかくて威圧感があることと
名門麻雀部の主将ってことで番長っぽいイメージが重なってそう呼ぶ輩がいたのだ」
照「……くくく」プルプル
菫「おまえが笑ってるとこを初めて見たよ」
照「うっ…ふふ…あははははは」
菫「おい笑い過ぎだろ!」
照「ご、ごめん」
照「…分かった…それじゃあいくぞ」スゥー
照「か…薫…!」
菫「え?」
照「え?」
菫「……」
菫「せっかく勇気を振り絞ったとこ悪いが…私の名前…菫なんだが」
照「えっ!でもその学校用のバッグに薫って…」
照「!!!」
照「あのときは気が動転してて初めの方ちゃんと聞いてなかった…」
菫「そっか、おまえあのとき泣いてt」
照「泣いてない」
菫「言っておくが私はすぐ泣く女は好かんぞ、涙は女の武器だなんて言葉も大きr」
照「泣いてない、あれはセーフ」
菫「はぁ…そういうことにしておいてやろう。時間も遅くなってきたしそろそろ出るか」
……
店員「ありがとうございましたー」カランカラン
菫「明日また部室でな、照」
照「ああ、それじゃあ…す」
照「菫」
ここから誰得シリアス編突入
~菫自宅~
菫「……!」バッ
菫「ハァハァ…」
菫「…またあの夢か…」
菫「中学を卒業してからはあまり見なくなってたんだがな…」
菫「照に出会って、あいつの麻雀をみてからか……」
菫「照……おまえは私を……」
~白糸台高校麻雀部部室~
監督「それではインターハイ予選のオーダーを発表する」
監督「先鋒・部長……………大将・宮永」
監督「予選を勝ち抜いた場合、特にアクシデント等が無ければ本選もこのメンバーで臨む」
監督「メンバーに選ばれた者は体調管理に気をつけ、それ以外の者は全力でサポートすること。以上!」
菫「……」
~別室~
部長「弘世のやつはどうしたんでしょうか?
メンバー選抜戦、中盤まであんなに良い麻雀打ってたのに後半は逃げ腰になり失速
やはり実績はあっても1年生ということでしょうか」
監督「いや、あの子の一番の武器は肝っ玉の強さだ
それは彼女をスカウトした私が一番良く知ってる」
監督(……あの試合と何か関係が……?)
照「おい菫」
菫「どうした?照」
照「何故おまえがメンバーに入っていない
私と部長の次にメンバーに選ばれるのは実力的におまえのはずだろ」
菫「それは私を買い被りすぎだ
3年生はこのインハイが最後の大会だ、後半は先輩たちの気迫に押されて上手く調子が出なかったんだ」
照「誰よりも図太い神経してそうなおまえが?」
菫「何か失礼な言い草だな」
照「もしかして先輩に気を遣ったとかじゃないだろうな?」
菫「まさか。そんな甘ったれた考えはもってないさ
まあ今回はだめだったが次はメンバーに選ばれるよう頑張るよ」
照「……ならいいが」
菫(相手の麻雀の本質を見抜くおまえでもこの気持ちまでは分からないだろう)
菫(このことを知ったらおまえはどれだけ私に失望するだろうか…?)
菫(おまえの底知れない強さを知れば知るほど、私の中の葛藤はどんどん大きくなるばかりだ…)
菫(おまえさえいなければこれほど悩むこともなかっただろう…)
菫(なあ照……おまえなら私を……)
……
………
実況「試合終了ー!!白糸台高校1年宮永照!
団体戦に続いて個人戦でも全国優勝を達成です!」
実況「何という強さでしょう!恐ろしい選手が現れました!
インターハイは宮永照のためにあるのかーー!!!」
照「ありがとうございます!」
照「いえ、私はそんな…
優勝できたのは周りの人たちが支えてくれたおかげです!」
菫「……」
春季大会1週間前
~白糸台高校麻雀部部室~
監督「それでは春季大会のオーダーを発表する」
監督「……………大将・宮永照。以上だ」
菫「……」
照「……!」ワナワナ
照「待て菫!」
菫「ん?何か用か?」
照「しらばっくれるな!おまえどういうつもりだ!
この前と同じだ!途中まで完璧な麻雀を打ってるのに後半で不自然に失速する!」
菫「ああ、どうやら私は勝負弱いらしい」
照「そんな嘘が私に通用すると思っているのか!
今回の選抜戦、私はおまえのことを特に注意して観察していた」
照「何をぐるぐる考えてるのか知らんが、それでも焦りやプレッシャーなんてものは微塵も感じていなかった!」
菫「まあ落ち着けよ照。そうだ、久しぶりにあそこの喫茶店に寄っていかないか?」
菫「……」ズズ
照「3年生が抜けて迎える春季大会、メンバーにおまえが選ばれないのはあまりに不自然だ
そんなこと私じゃなくても分かる」
菫「……」
照「つまりおまえは自分がメンバーに選ばれないようにわざと手を抜いて打った
どういう理由があってかは知らんが、そんな行為私は絶対に許さない」
菫「麻雀に対する侮辱ってやつか?さすがチャンピオンは言うことが立派だな」
照「違う!」
照「手を抜いて打たれることがどれほど屈辱的かおまえに分かるか?
譲られた勝利がどれほど惨めで虚しいものかおまえは知ってるか?」
菫「……」
照「…私は嫌というほどそれを知っている…
だからどんな相手でも全力で叩き潰すと私は心に誓っている」
菫「……」
教えてくれないか、そのワケを?友達として、私に」
菫「……」
照「できれば私はおまえと一緒に全国優勝したいと思ってるよ」
菫「……」
菫「…前に話したことあったよな…私のあだ名…」
照「え?」
菫「私が清原と呼ばれていたことだ」
照「おい、こんなときに何の話を…?」
清原が現役時代何て呼ばれてたか知ってるか?」
照「…いや」
菫「『無冠の帝王』。彼は甲子園で大活躍しプロに入ったその年に強烈な成績で新人王に輝いた
その後も球界を代表する4番打者として存在感を示してきたが、
彼はその生涯で一度も打撃三冠のタイトルを獲得することはできなかった」
照「……」
菫「私は小4のときに初めて麻雀の全国大会に出場してから、団体戦と個人戦を合わせてこれまで9度全国の舞台に立っている
そのうち決勝の卓まで勝ち上がったのは5回、一度も優勝することはできなかった…」
菫「女の割にでかい図体、中学が東京ドームの近くにあったこと、
そして名門帝央中学を率いる優勝経験のない主将…」
菫「『無冠の帝王』…。自分でも呆れるほどぴったりなネーミングだよ…」
菫「そいつはすこし勘違いしているようだな。
その大会のメンバー登録の日の直前に私は体調を崩し2週間ほど入院してたんだ。
春季大会ということもあり大事を取って私はメンバーを外れ、その結果チームは全国優勝」
菫「それが皮肉にも無冠の帝王の名が定着するきっかけになってしまったわけだが…」
照「だが、おまえがそんなあだ名を気に病むような奴とは思えないが…」
菫「もちろん私も最初はそんなこと気にも留めていなかった。名付けた奴もほんの冗談でただの笑い話だったんだ
だが、中3の夏最後のインターハイの団体戦であれは起こった……」
菫「先鋒だった私は大量リードを奪ってバトンを渡し、後続の仲間もすばらしい麻雀を打ってそのまま大将まで繋いだ
優勝は確実だと思われた後半戦南3局、うちの大将が2位の親に国士無双を振り込みまさかの大逆転負け…」
照「……」
菫「もちろんそいつを責める奴なんて誰一人いなかった。
だがそいつが二度と牌を握ることはなく、高校も麻雀部のないところへ進学したよ…」
照「……」
菫「ずっと一緒に努力してきた一番気のおけない仲間だった
忘れられないんだ…残りの2局、泣きながら麻雀を打っていたあいつの姿が、どうしても…」
菫「私のせいじゃないかと思った…私の呪縛が、あいつをあんな目に遭わせたんじゃないかと…」
菫「それ以来、私を清原と呼ぶ者はいなくなった。冗談だったはずなのに誰も笑い話にできなくなっていた…」
照「それで、メンバーに選ばれるのを拒んだのか?自分がいたらチームが優勝できなくなると」
菫「そうだ…笑えるだろ?
威厳あるように振舞い男勝りだなんて呼ばれてその実は、こんなに女々しく情けないのが本当の私なんだ」
全国優勝への憧れは抱いたままなのに、より頂点に近い高校で麻雀を打つのが怖くなっていた」
菫「ここ数年全国を逃してる白糸台なら、全国優勝を夢みたまま自分が真剣に打ってもし届かなくても苦しむことはないと考えた…
だが、いざ入部してみると白糸台には照、おまえがいた…」
照「……」
菫「おまえの麻雀を知るほど、全国優勝が手の届く距離にあることを感じた…
そして、その分あのときのことを思い出さずにはいられなかった…」
菫「希望と不安が私の中でぐちゃぐちゃに混ざり合っていた
こいつなら、私のジンクスなんてものともせずずっと目指してきたあの場所まで私を連れてってくれるかもしれない」
菫「でも、照みたいなすごい奴が仲間にいてそれでもだめだったらどうしよう…
そのとき私は永遠に仲間を背負って卓に着くことができなくなるんじゃないかと思った…」
菫「そうなることがどうしようもなく怖かったんだ……」
照「おまえが抱えてきたものに対して私はとやかく言うことはできない…でも…一つだけ言わせてくれ、菫」
菫「…?」
照「私を信じてくれ」
菫「……」
照「私の側で麻雀を打つ限りおまえにもうそんな思いはさせない」
菫「……」
照「だから、菫の夢を私に託してほしい」
菫「……」
菫「…ああ」
菫「頼む」
……
照「ツモ」
実況「試合終了ー!!白糸台高校、次鋒の弘世菫が稼いだリードを一度も奪われることなく圧巻の勝利!!
2年連続のインターハイ団体戦優勝を達成しました!!!」
実況「永水の神代小蒔に龍門渕の天江衣!今年も新たな選手が大会を湧かせましたがこの選手はやはり別格か!!
白糸台高校宮永照!付け入る隙を一瞬も与えずその強さは今年も健在だぁ!!!」」
部員A「よくやったぞ宮永!」
部員B「おめでとうございます、宮永先輩!」
照「ああ、ありがと」
照「…ところで菫は?」
部員B「弘世先輩ならさっき廊下の奥の方へ歩いていきましたが…」
一番奥の個室「……ッグ……ヒッグ」
照「すぐ泣く女は嫌いじゃなかったのか?」
菫「……」
菫「…すぐ何かじゃない…私はこの日を…」
照「知ってるさ…少しからかっただけだ」
照「ここには私しかいない…好きなだけ泣けばいいさ」
菫「…こんなところで私なんかに構ってていいのか…主役がいなきゃ締まらんだろ…」
照「私がああいう場は苦手なの知ってるだろ…それに…」
照「あっちで歓喜の輪の中にいるよりも、こうしてここでおまえの泣く声を聞いてるほうが優勝したんだという喜びを実感できる」
菫「…そのセリフ…何か変態みたいだぞ…」
菫「……嬉しい……本当に……」
菫「……照」
照「ん?」
菫「ありがとう」
照「私は自分の麻雀を打っただけだよ」
照「清原の呪縛なんて微塵も感じなかった、それより…
おまえが稼いだ点棒がどれだけチームの皆の気持ちを楽にしたか…」
照「何だ?」
菫「…私が泣いたことは誰にも言うなよ」
菫「私の威厳というか…イメージが…」
照「ふふ」
照「分かってるさ」
照「おまえがここで泣いたことも、私がちょっぴり泣き虫だってことも二人だけの秘密だ」
照「当たり前だ。言っただろう?私の側にいる限りもうあんな思いはさせないと」
菫「…そうだったな」
照「それに」
照「もしこの先離れていつか戦うときが来たとしても」
照「私たちはずっと友達だ」
~END~
後半はストーリー作るために偉大な清原選手に力をお借りしました
ありがとう、清原和博
読んで下さった方はありがとうございました
百合じゃなく普通に青春してたのがすばら
清原は個人としては無冠だけど甲子園優勝2回日本一8回という輝かしい経歴の持ち主だということを忘れないで欲しい
親がKKコンビの大ファンだったこともあり私も清原選手は本当にすごい人だと思ってます
その辺は確かに引っかかりましたが「無冠の帝王」で思いつくのは私の知識では清原とレバンナぐらいだったこと
私が野球好きでできるだけ他の人にも馴染みある方をということで清原選手を題材にさせてもらいました
清原選手をネタにしようなんて気持ちはこれっぽっちもありませんので悪しからず
Entry ⇒ 2012.06.30 | Category ⇒ 咲-Saki-SS | Comments (0) | Trackbacks (0)
怜「玄ってひとがあまりに落ち込んでるから激励会をやるで」
玄「……」
怜「あんたの姉ちゃんも心配しとったで。もうわすれーな。今日はおごったるさかい、パーッとやって忘れよ、な?」
すばら「怜さん、太っ腹、すばらですっ!」
怜「あんたには奢らへんで」
すばら「すばらっ!」
すばら「すばらくないですね」
店員「サーセン!スグニオモチシマッス!」
怜「最近のバイトは抜けてる奴が多くてけしからんな」
店員「スイマセン!ご注文は焼き鳥でよろしかったっすか!?」
玄「……」ビクゥゥゥ!!
玄 グスッ
怜「アホ!ちゃうわ!うちらが頼んだのは刺身や!」
怜「全く……なんやあの店員は……アホちゃうか……」
すばら「焼き鳥とは空気読めて無いですねぇ」
怜「あんたも空気読めてないわっ!」
怜「全く……すまんな、別に店員も悪気があったわけやないと思うんや、許したってーな」
……
店員「サーセンッス!間違えて焼き鳥作っちゃったんで、食べてもらえませんッスカ!?」
玄 ガクガクガク
怜「だから焼き鳥はいらんって言ってるやろ!」
店員「いや~でもこの焼鳥美味しいんっすよ、ちょっと試しでいいから食べてみてくださいよ。焼き鳥サービスっす、焼き鳥焼き鳥」
煌(怜さん、ここは素直に受け取ってこの空気の読めない店員追っ払いましょう。玄さんに見えないようにかくして刺身を待ちましょう)ヒソッ
怜(せ、せやな、あんた、ここ一番ってときは頼りになるな・・・)
煌(すばらです)
怜「わ、わかったわ。もらう、もらうからはよ刺身持ってきてくれ……」
怜「そ、そや、ウチは宗教上、鳥は食べられへんのや、だから刺身はよ、持ってきてくれ」
玄 ガクガクガクブルブルブル
怜「あーもぅ!わかったからはよそれおいて厨房もどりーな!」
店員「わかりました!サーセンした!」
店員「あ、あとコレなんすけど」
怜「な、なんやこれは・・・!」
怜「な、なんでこないなもん……」
店員「ウチのサービスでして、焼き鳥マーク10コ集めると焼き鳥がタダになるんすよぉ!」
店員「洒落が効いてるでしょ~!あ、焼き鳥マークっていうのは麻雀で和了れてない人が」
怜「うるさいうるさい!なんやこれ、いらんわ!さっさと持って行って!ふざけるのもいいかげんにしてーや!」
怜「あんな、いま、うちらはうちらだけで話をしたいんや」
店員「でも洒落がきいてません?ほら焼き鳥の人って5000点とか払うじゃないですかぁ~?でもうちらの店だとタダでものが食えるんすよぉ~」
怜「あ~もううるさい!うちは宗教上焼き鳥食えへんって言うてるやろ!」
店員「そうなんですか~?でも焼き鳥ってシステムも酷ですよね~!だって和了れてない人に罰点を…」
怜「いまうちらは麻雀の話聞きとうないんや!」
店員「あ、お客さんその感じだと、今日負けたんすね!どんまいっす!じゃあその焼き鳥は俺からのサービスで」
玄 「」レイプ目
煌「お言葉ですがっ!職務中に雑談に興じるのはすばらくありませんよ!」スバラッ
店員「大丈夫っすよ~うちの店長そういうの寛容なんで~」
怜「ウチらはそんなに寛容やあらへんで」
煌「と、とにかく、あなたは早く厨房にお戻りください!」
店員B「お~い店員、手伝ってくれ~」
煌「ほ、ほら、呼ばれていますよ、早く戻らないとすばらくないことに…」
店員「そーっすか~!?じゃあまぁごゆっくり~!」
怜「全く、なんやったんや、あいつは…」
煌「興が削がれること、甚だしいことです」スバラッ
玄「……」
怜「……」
煌「……」
怜(あかん、空気が通夜みたいになってしもうた。どないしよ……)
煌「な、なにか頼みましょう!」スバラッ
怜「せ、せやな。ほな>>48たのも」(新道寺、ナイスや!)
怜「あんた、魚とかすきやったよな、じゃあこのぶりの照り(アカン)ゃき頼もうか」
怜(危なかった…)
煌「あ、あと飲み物を頼みましょう。…ウーロン茶3つでよろしいですか?」
怜「おっけーや」
怜(烏龍茶くるまでになんとか話題を作るんや・・・!)
玄「……」コクリ
怜(お、ちょっと反応したで)
煌(すばらです。無難に家族ネタで行きましょう)
怜「お姉ちゃん、優しそうでいい人やなぁ。ウチ、そういうのおらんから、ホンマ羨ましいねん」
煌「すばらですっ!なんて言うか、お姉さんからは母性っていうか、そういうものが溢れてましたね」
怜「せ、せやけど、なんでいっつも厚着しているん?夏でもマフラーつけとるし」
煌(園城寺さん!それは危険です!もしかしたら何らかの事故があって…とか…トラウマ話になる可能性が!?)
怜(な、なんやて・・・!ウチ、そんなつもりじゃ・・・)
怜「…あ、あ、言い難いことだったええねん、いや、出来れば、あんたのことも、あんたのお姉さんのことも、もっとよく知りたいなぁ、なんて思っただけやから」
玄「……お姉ちゃんは、寒がりなのです……」
怜(…これは、地雷回避したんか…?)
煌(なんにせよすばらですっ!)
店員「うーっす!五番テーブルの方~!」
店員「え~ブリの照り~ 焼き と り んごサワーですね~」
怜煌「「」」
店員「まじっすか~さーせん!で、ブリのてる? あぁ 照り焼きと~」
玄「」ビクゥゥ!
怜「なんでさっき読めてたのに間違えるんや!ええかげんにせえよ!」
煌「烏龍茶です!わたくしたちがたのんだのは烏龍茶3つ!」
店員「あ~まじっすか!サーセンシタ!」
店員「お~い!5番テーブルさん違ったわ~『ロン』みっつ~!」
上級店員「ん~きこえねぇぞ~?バイト!」
店員「『ロン』3つっす~」
怜煌「「」」
煌「あ・・・あ・・・」
上級店員「おいおいバイト~ちゃんと覚えろよ~『ロン』じゃウーロンハイか烏龍茶かわかんないだろ~」
店員「あ~サーセン!『ロン』茶3つっす~」
上級店員「それもちが~う!ウチの店の通し忘れたのか~!?わかりにくいから『茶』は数の最後に付けんだよ!」
店員「ソウデシタサーセン!えぇと、ロン!さんちゃー! ほぉぉ~ むずいっすね~これ」
玄(……さ、三家和・・・!?)
怜「・・・はよ!はよ!店員、お前は向こういき!」
店員「え~こまりますよぉ~ 今月からっけつなんですから~」
玄「……」ブクブクブク
怜「あ、あかん、気絶して…」
店員「あっ、ちょっと~吐くならトイレで吐いてくださいよぉ~」
怜「…こ、こいつ、殺す……」
煌「と、怜さん抑えて!とりあえず店員さん、あなたはちゃんと注文したもの持ってきてください!」
怜「だいぶ落ち着いたな」
玄「…す、すみません…」
怜「あんたが謝ることやない。だいたい、悪くないのに、むやみに人に謝るもんやないで」
煌「そうですよ。なんにせよ、このお刺身はすばらですっ。あなたも一口」
怜「ええと、家族の話をしてたんやったな」
店員「いらっしゃいませ~」
煌「あ、あの人は…」
1.知らない人だった
2.原村和
3.宮永照
>>91までの投票で
同一の場合は選ばせてくださし
煌「」ガクガクガク
怜(どした?!)
煌(まずいですよ)
怜(なんや?)
煌(今入ってきた人…チャンピオンが・・・この店に)
怜(な、なんやて?!)
怜(うちも正直もうあの人の顔見とうないけど……)
怜(いまこの人にチャンピオンの顔見せたらショック死してまう…!)
怜「あー、なんかーうちートイレに行きとうなってきてしもうた」チラッ
煌「園城寺さん、烏龍茶飲み過ぎたのではありませんか?」
怜「そーかもーしれんなぁー。ほなちょっとトイレに~」
玄「……あ、私も少し……おトイレに…」
怜煌「「!?」」
怜(あかん!それだけはあかん!新道寺、どないしよ)
煌(え~っと、え~っと~)
怜(ウチがトイレまでの道からチャンピオンをどけるから、それまで時間稼ぎ頼んだで!)
煌(わかりました。時間稼ぎ、まかされました!)
煌「え~っと、あぁそうだ松実さん、お冷いりませんか?」
玄「えっと、ごめんなさい。私はトイレに行きたいので…」
煌「あ、いやいや違います、違います。ちょっと最近冷えて来ませんかとお伺いしたのです」
玄「えっと、いま夏ですけど……」
煌「あ、そうだ、そういえばそうでございました。いやいや、わたくしとしたことが」(マズイマズイマズイ)
怜(いた、チャンピオン!なんでこないなとこに……)
怜「あ、あの!」
照「ん?」
怜「宮永照さんであってます?」
照「なんだ?私に用か?」
怜「用があるといえば用があるし、用がないといえばないんやけど」
照「用がないならどいてくれ、私は忙しいんだ」
照(咲がここにくるという情報をキャッチしたからな…)
怜「いや、いや、用ならあるで。あんた、ウチのこと覚えとらん?」
照(まて、宮永照!…なんかあったような気がするぞ、この子)
照(どうする、もし、この子が私と合っていて、自分のことを覚えてくれているかもしれないと勇気を出して話しかけてきたとしたら)
照(もし無下にしてこの子が泣き出しでもしたら・・・いや、それは看過できない!そしてもしそこに咲が来たら)
咲『お姉ちゃんひどい!そんな人だったなんて!』ウルウル
照(咲に罵られるのもいいかも・・・)
照(いや、だめだ、目を覚ませ宮永照!そんなことになれば生きていけない)
怜「照さん」
照「な、なんだ」
怜「鼻血でとるで」
照「」
怜「久しぶり言うほどの仲でもないと思うてたけど、チャンピオンに覚えてもろうてたってのは素直に嬉しいわ」
照「…」
照(そうだこういう時にどうすればいいか前に本で読んだぞ!)
照(名前は知らないけど、あったことがある気がする、そんなときは・・・!)
照「字は…」
怜「?」
照「名前は、どんな漢字を書くんだ?」
怜「え?ウチの名前の漢字か?」
怜「えっと、名前やな、名前の漢字は、これや」ヒョイ(ケータイ)
[怜]
照「……」
照(この漢字見たぞ・・・そうだ確かこないだのインター杯で…私とあたった相手だ…)
照(あの時は死人の形相で正直こっちは怖かったんだが、普段は可愛い顔をしているんだな)
照(思い出した。うん。思い出したはいいが…)
照(……漢字が読めない)
照 ピーン!
照「思い出した。久しぶりだな、レイ」ドヤッ
怜「・・・は?」
照「インター以来か。あの時のレイの打ち筋は、私の目に強く焼き付いている」
怜「あの」
照「なんだ?レイ?」
怜「レイやのうて、トキや」
照「え?」
怜「だから、うちの名前はレイやのうて、トキや。園城寺怜」
照「」
照(淡の嘘つき……)
照「どうでもよかったのか」
怜「あんた、なんでこんなところにおるん?あんた東京やろ?」
照「そ、それは…」
照(…まさかこいつ、差金か!?咲にまとわりついていた、和了だか放銃だか知らないがそんな漢字の…胸に余分な脂肪のついた…虫の差金…!?)
怜「そ、そか」
怜(良かった、一人やないんやったら、その人と席でおしゃべりでもしててもらって、その間にうちらが阿知賀を連れ出せばええな…)
怜「そ、それなら、はよ、席につきーや。あんたの連れはどこにおるん」
照(ま、まずい、これでは連れを見せなくては差金に嘘がバレてしまう・・・!)
照(時間を稼がなくては・・・!)
照「わ、私が入ろうとしたのを止めたのはお前だが」
怜「せ、せやったな。すまん。ちょっとチャンピオンがおったから話しかけてみたかったんや」
照「わたしに覚えてもらっているかどうかはどうでもいいと言っていたように聞こえたが」
怜「そ、それは、こ、言葉のあやや!ウチとて麻雀打ちとして、あんたみたいな麻雀打ちになりとう思ってる!」
照(こいつ、早く私を席に座らせようとして私のつれを確認するつもりに違いない…ここで何としても自然を装わなければ)
照「そ、それはとても光栄だ」
怜「せやろ?ほな、時間取って悪かったから、はよ、席に座りーや」
照「そ、それはそうなんだが」
照(いかん活路が見いだせない…)
照(そうだ…!トイレだ!トイレに行くふりをして一旦脱出、再度入り口で待ちぶせて咲をまとう!)
照「せ、せっかくあったところすまないが、私は今非常に、その、と、トイレに行きたいんだ、ではこれにて…」
怜「ま、ちょい待ち!と、トイレやって!?」
怜(そしたらショックで阿知賀は……まぁおもらしはトイレでしてくれた方が片付けは楽やけど)
怜(ってちゃうわ!アカン、それは最悪!最悪の展開や!)
怜「ま、まちーな!トイレはいま、そ、その、掃除中!掃除中で使えへんで!」
照(こいつ、私の作戦を見破っているというのか!?いや、しかしここですんなり引くとかえって不自然…そうか…これはブラフ!)
照(恐ろしい、さすが差金だ…私がトイレをここですんなり諦めたら、トイレに行きたかったのに行かなかったことになりかえって不自然…)
照(こいつは私のトイレ行きが嘘かどうか確かめているに違いない)
照「ト、トイレが清掃中で全部使えないなんてそんなことがあるはずなかろう」
照「トイレはこちらとお前の後ろの掛け看板に書いてあるが……」
怜(あ、あぁ~どないしよ~たすけて竜華ぁ~)
煌「で、だからわたくしはいってさし上げたんです『すばらですっ』って」
玄「あ、あの」
煌「はい」
玄「そ、そのお話、もう三回目…」
煌「・・・!これは失礼いたしました。いえ、この話には続きがありまして…」
玄「あ、あの!」
玄「もう、これ以上は・・・ホントに、そ、その…も、漏れちゃいそうなので…トイレに…」
煌(園城寺さん、申し訳ないですが…もうこれは限界かと…)
玄「す、すいませんっ!行かせてください!」
煌「ま、松実さん落ち着いて!」ドン
玄「あっ」
煌「あ、あのぉ…もしかして…ちょっぴり…」
玄「……っっ!トイレに行かせてください!」
タタッ
煌「あっ」
煌「し、しまった」
煌「お、おまちを!」タタッ
煌(園城寺さん…!なんとか成功してますように…!わたくしはあなたを信じ申し上げておりますよ…)
和「今日行くお店は、このへんではとても有名なお店なんですよ。」
咲「へぇ~楽しみだな~」
和「近くに住んでいる友だちに教えていただいたんです」
咲「そういえば、明日、昔のお友達紹介してくれるんだってね!楽しみだなぁ!」
和「はい!今日はちょっと遅いので旅館を予約してありますからそこに泊まって、明日会いに行きましょう!」
和(憧に教えてもらったんです…とびきり強いお酒がおいてあるお店…)
和(ふふふっ、咲さんに、ジュースと偽って、飲ませて……)ジュルリ
咲「…?よだれ出てるよ?」
和「へ…?あ、すいません…」(私としたことが…)
咲「ふふふ、よっぽどお腹が空いてるんだね!きっとすごく美味しいお店なんだろうなぁ!私もすごく楽しみ!一緒に楽しもうよ!」
和「…えぇ!もちろん」
照「だからそっちと書いてあるんだが」
怜「こっちのトイレは清掃中やねん」
照「さっき通りかかった店員が使えると言ってたが」
怜「あいつはアホや。うちらの注文何回も間違えたアホや」
怜&照((こ、こいつ・・・・埒があかへん&あかない))
照「どいてくれ!私も限界なんだ」
怜「だから!こっちのトイレは使えへんって!」
タッタッタ
怜「!?」
玄「…も、漏れちゃうよ・・・本当に」タッタッタ
怜「あ、あかんなんで阿知賀・・・!きたらあかん!あかん!」
照「は、はやくそこをどけっ!私はトイレに…」
煌「すばらっ!これは最高にまずい状況!!」
玄「と、トイレは・・・あれ、園城寺さん、トイレに行かれたのでは・・・」
怜「いや、これは、これはちゃうんや!」
照「さぁどいてくれ…ん?あいつは…おぉ、あいつは覚えてるぞ(誰かの妹だったから覚えている)」
怜(あかん!もうあかん!他家が東南西北ポンしてるとこに立直かけてて字牌ツモ切りしなきゃいけないくらいアカン!)
煌(これは…一体誰が最後の役牌を鳴かせたんでしょうかね…)
照「えーっと…インターであった」
玄 ビクッ
照「阿知賀女子先鋒の・・・」
玄 ビクビクッ
照「ドラゴンロード?とかいう…」
玄 ビクビクビクッ
怜「どうもこうもないで…」
煌「すばらっ」
玄「あ…ああああ・・・」
…その様子はまるで、夏の終わりを告げる夕立があたり一面を清めていくようであったという…
玄「わ、わたひぃ、と、トイレにぃ、いきたくて、でも…ここは、トイレじゃないのにぃ…」
玄 バタッ
怜照煌「「「」」」
客「おぃなんかすごい声がしたぞ?」
客「えーなにーちょっと見に行く?」
ドヤドヤ
怜(ま、まずい…どない、どないすれば…)
煌(これはもう…)
怜煌「「!?」」
店員「あーい、お冷ピッチャーで、って!?なんだあんた!?」
照「かりるぞ」
店員「おい!」
照、店員からお冷を奪い取り、コークスクリューで撒き散らす!
怜「つ、冷たっ!なんやこれ!み、みず!?」
煌「はっ!まさか・・・!」
客「なんだなんだ」ドヤドヤ
照「みなさんお騒がせして申し訳ありません!急いで店内を歩いていたら、この女の子と店員さんにぶつかってしまいました!」
照「申し訳ありません!」
怜「喋り方…変わりすぎやろ…」
煌「これが…チャンピオン…」
照「あなた、大丈夫?」
怜(…新道寺!)
煌(…承知いたしました!)
煌「店員さん、申し訳ないですが、布巾をお借り出来ますか?」
店員「ア、アア…分かった」
煌「すばらですっ…」
怜(さすがやな、土壇場でこんなことを思いつくなんて…やっぱチャンピオンにはかなわへんわ…)
煌(麻雀だけの人かと思っていましたが…この危機管理能力…さすがは白糸台のエースです…すばらですっ!)
照(………日頃妄想、いや、仮想訓練をしていた、「咲inピンチを救うシュミレーションNo.92」がこんなところで役に立つとは思わなかったな)
怜「結局あのあと、宥さんに迎えに来てもらったわけやけど」
煌「当の松実さんが全部覚えていなかったのは幸いでしたね」
怜「ホンマやなぁ、でも実はあの夜のことウチもあんまり記憶ないんやけど」
煌「まるで酔っぱったみたいでしたねぇ」
怜「ただまぁ、なんとか事なきを得てよかったわ」
煌「あっ、ゲストが来ましたよ」
怜「今日こそ、リベンジせぇへんとな」
怜「遅かったやないか」
煌「おぉ松実さん、ようこそいらっしゃいました…すばらですっ!あれ?後ろの方は…」
怜「チャ、チャンp…」
煌(シーッ!!何言ってるんですか園城寺さん!松実さんが自分から照さんを連れてくるわけ…!)
照「こんにちは、いや、こんばんは、というべき時間か」
煌「ど、どうしてあなたがここに…?」
玄「あれ?煌さん、ご存知なんですか?」
怜「ご存知も何も…あんた、その人は…」
照(実はそのあと私が迷って30分でいけるところを3時間かかってしまったんだが)
照(今日も咲が来るというからリベンジしようとしたのだが…咲はもう退店してしまっただろうな)
玄「それで、とってもいい方で、話しているうちに仲良くなってしまって~」
玄「でもお二人のお友達さんでしたら話は早いですね!」
怜(な、なぁ、なんやあんた、阿知賀に忘れられとるんか?)
照(私も分からないが、まぁ、平和にすむならそのほうがいいだろ。私とて人を泣かせるは好きではない)
怜(よういうわ)
煌(何にせよ、すばらですっ)
怜「ま、まぁそういう事なら座りーや」
怜(インターで死ぬほど、ウチの場合は文字通りやけど、必死になって戦った相手とおしゃべりして・・・)
怜(せやな…なんや、うちら、麻雀好き麻雀好きいうてんのに、それでトラウマ作ってんやったら目も当てられん)
怜(麻雀は時の運、ヤオチュウみたいな不幸な牌しか来いへんときもある)
怜(でもそんなヤオチュウだって、揃えば役満にもなる…)
怜(ウチ、インターでこの人達死闘になったてのが不幸なことやったと思っとったけど・・・)
怜(それを通じてこうして楽しくおしゃべりできるんなら、それはそれで、役満あがったんちゃうか?ウチら)
玄「お水のみます?」
照「気付けに爪楊枝でもさすか?」
怜「アホ、そんな気付けの方法、聞いたことないわ」
照「冗談だ」
怜「あんたの、冗談に聞こえへんのや」
煌「まぁまぁ。あ、注文したもの来ましたよ」
怜「そや、刺身の盛り合わせたのんどいたからな。財布が厳しいから今日は奢れんけど」
煌「すばら・・・くないですね」
怜「ウチとてそんなに金持ちや無いわ!」
店員「あい~ご注文の焼き鳥セットお持ちしました~」
怜「!!!!アホ!!!!ウチらが頼んだのは焼き鳥や無いわ!!!!」
おわり
オチも良かったわ
Entry ⇒ 2012.06.29 | Category ⇒ 咲-Saki-SS | Comments (0) | Trackbacks (0)
淡「宮永先輩、キスしてください」 照「しつこい」
照「嫌」ペラッ
淡「なんでですか」
照「振り向いたらキスされる」
淡「自意識過剰です」
照「さっき自分が言ってたことを忘れたの? それに顔が近すぎる」ペラッ
淡「ああ、これですか。 宮永先輩の髪っていい匂いしますよね」
照「淡、変態?」
淡「宮永先輩限定で、そうかもしれません」
照「今の内に直したほうがいい」ペラッ
淡「仕方ないじゃないですか、余すところなく好きなんですから」
照「……ああそう」
淡「ちゅー」
照「残念」ヒョイッ
淡「……先輩のばか」
照「……」ペラッ
淡「はぁ、相変わらず冷たい人ですね。 早くしないとそこら辺の野良猫にあげちゃいますよ」
照「それはダメ」
淡「じゃあ早くしてください。 いっそのこと、強引にしてしまいましょうか?」
照「それもダメ」ペラッ
淡「ですよね。 だからこうやって聞いてるんですが、全く良い返事が返ってこないのはなぜでしょう」
淡「先輩、もしかして私のこと嫌いですか?」
照「淡は極端。 それとこれとは別」
淡「極端ですか。 極端でもいいですよ、それくらい宮永先輩のことが好きですから」
照「……そ」ペラッ
淡「っていうか読書やめてください」
照「わかった」パタッ
照「……まぁ、それくらいなら」
淡「やった」
照「ほら」ポンポン
淡「こうして膝に乗せてくれるのに、ちゅーはしてくれないんですね」
照「明らかにレベルが違う」
淡「先輩のレベルが低すぎます。 ポケモンで言うと8くらいですね。 低っ」
照「お前、仮にも私のことが……えっと、好きなんだよな?」
淡「はい」
照「物言いがひどすぎる」
淡「いいえ、違いますよ。 低いですが、大好きだからこそ、時間をかけてゆっくりいけばいいし、いく自信があります」
淡「そう思っただけです」
照「……あっそ」
淡「照れましたか?」
照「多少は慣れたよ」
照「求めたのは淡だ」
淡「そうですね。 許しが出るならもっと求めます」
照「……うわっ。 急にこっち向きに座るな……っ」
淡「あの、緊張しますか? 私はこんなに先輩の顔が近くて、心臓バクバクですが」
淡「ああ、先輩もですね。 こうしていると、私たちの鼓動が連動してるように思えて気絶しそうです」
照「……なぁ、動けない。 腕を後ろに回すな」
淡「ああ、確かにそうですね。 ということは、このまま顔を近づけるだけで、自動的にキスできることになりますね」
照「……」
淡「してほしいですか?」
照「いや、その……」
淡「まぁ、安心してください。 こう見えても、無理矢理したような形にはしたくありませんから」
淡「だから、早く許可をください」
照「……ダメだ」
淡「ばか」
淡「ほっぺ」プニッ
淡「はな」ツンッ
照「……っ」
淡「口は?」
照「ダメだ」
淡「そうですか」
照「……心臓に悪い、やめろ」
淡「でしょうね。 先輩、顔真っ赤ですよ。 顔だけ暑苦しいです」
照「淡、お前だって人のこと言えない」
淡「そうですね。 お風呂でのぼせた時ですら、こんなにはならなかったです」
照「……そろそろ皆が来る。 降りろ」
淡「はぁ。 このまま二人でいたいんですけどね」
照「公私は別けろ」
淡「わかってますよ」
照「……ねぇ、淡。 その、なんていうか……制服で顔を拭くな」
淡「なんでですか」
照「は、腹が見える……」
淡「もっと見ます? お腹だけじゃなくて、望むならどこでも構いません」
照「いいから、やめろ。 制服もシワになる」
淡「はぁ、全く。 仕方のない人ですね」
照「こっちのセリフ。 これ貸すから、それで拭いて」
淡「えへへ、ありがとうございます」スッ
照「……ちょっと、さり気なくポケットにしまわないで」
淡「あ、ごめんなさい。 どうぞ」スッ
照「明らかに柄が違う」
淡「私のです」
照「自分があるなら最初から使って……」
淡「まあまあ。 交換しましょ。 私、先輩のハンカチがいいです」
照「だからって、いきなり見せられても」
淡「本当に根性なしですね。 骨なしチキンどころか、中の肉すらなさそうです」
照「淡は私をどうしたいんだよ……」
淡「難しい質問ですが、当面の目標は唇を奪いたいです」
照「一々ストレートすぎる……」
淡「仕方ないでしょう。 包み隠してる余裕がないくらい好きなんですから」
淡「それにですね。 それくらいでないと、宮永先輩みたいな固い人とはやっていけません」
淡「……ですから、ちゅーしましょう」
照「は、はぁ!?」
淡「先輩、耐えられそうにありません。 猫が寝てる時に苛めたくなるような、今そんな感覚です」
照「強引にしないっていったのは淡!」
淡「知りません。 いつまでも過去を見ていたら成長できませんよ」グイッ
照「……ちょっ! だれか!」バタバタ
照「あっ……え、と……」
淡「あれ、もしかして期待しました? そうでしたらごめんなさい」
照「明らかに目が本気だった……」
淡「当たり前です。 先輩に対してはいつも本気ですよ」
照「……淡はなんでそんなに積極的なの」
淡「愚問ですね。 先輩が好きだからですよ」
照「知ってる」
淡「はい。 ただ、先輩が考えてるよりも、ずっとずっと好きなんですよね、これが」
淡「先輩が本好きで読書をするように、私も先輩が好きだから積極的になってます。 本が好きなのに読書を
せずにどうしますか」
淡「1から100まで先輩が好きです。 先輩はどうですか? 私のこと好きですか?」
照「……そりゃあ、まぁ」
淡「即答してほしかったですね」
淡(先輩、キスもしてくれないし……本当に私の事好きなんですか?)
照「うん」
淡「……今日の部活、私のトータルは部内トップでした」
照「ああ。 最近は元々の強さに、更に磨きがかかってる」
淡「……違いますよ、そうじゃないです」
照「どういうこと」
淡「『強い』だとか『磨きが』だとか、そういう具体的な言葉は他の人に言ってあげてください」
淡「私はもっと抽象的な、『おめでとう』だとか『頑張ったな』だとか、そういう言葉が欲しいです」
照「……そうだな、悪かった。 淡はいい子、私が目をかけただけある」ナデナデ
淡「えへへ、私も単純ですねぇ。 ちなみに先輩って、そういう感情的な部分から出る言葉、本当似合いません」
照「淡が言わせたんじゃ……」
淡「そういう感情的な言葉は、私だけが聞けると思うと嬉しいんですよ」
淡「多少なりとも独占欲はあります。 わかります?」
照「どうだろうか。 どうせそれも似合わないんでしょ」
淡(独占欲が出るほど、あなたは私のことが好きなんでしょうか?)
照「一緒に帰ってるのにか」
淡「宮永先輩のクールなところが好きです。 その裏にある暖かさが好きです。
それを隠そうと公私を別け、理を優先して行動するところが好きです」
照「……」
淡「実は優しく面倒見がいいところが好きです。 鋭さと鈍さが好きです。
クソ真面目で単純なところが好きです。 自分のペースに巻き込むところが好きです」
照「後半は文句のあるところじゃないか」
淡「独り言です」
淡「宮永先輩は、一体私のどこが好きなんでしょうかね」
照「……私は、淡の」
淡「人と帰ってる時に独り言ですか? 口塞ぎますよ。 口で」
照「それは困る……っていうか淡だけおかしい、理不尽」
淡「そうですかね」
淡(答えは、私に宮永先輩から愛されている自覚がついてから聞きますよ)
淡(キスするのも拒否されて……こうしてべったりなのも、自信のなさの表れなのかな)
照「何を」
淡「もう、こちらからキスをしてくれ、とは頼みません」
照「それは助かる」
淡「いえ、助けません。 頼まない代わりに、宮永先輩のほうからキスをもらおうと思いますので」
淡「いつでもいいですよ? 恋人らしい優しいキスでも、ボロ雑巾より乱暴な扱いをされながらのキスでもいいです」
照「もう少し、自分のことを大事にしたらどうだ」
淡「自分のことよりも、宮永先輩のほうが大事ですから」
淡「こういうのは重いですか? すみません」
照「そういうわけじゃないが……あんまり行き過ぎたのも悪いと思う」
淡「いいじゃないですか。 私が行きすぎても、先輩がブレーキをかけてくれるとわかってますから」
照「……確かに、その役目はいつも私だ」
淡「というかブレーキしかかけられてませんね。 そのうちエンジンかけてくださいよ」
照「……うん」
照「淡の背が小さいだけ」
淡「言ってくれますね」
照「淡のいつもの弄りと比べれば、こんなの言った内に入らない」
淡「私のは照れ隠しですよ。 先輩はそういうことがないでしょうから、わからないのも無理ありません」
照「そういうもの?」
淡「はい」
照「……いきなり背伸びして、どうしたんだ」
淡「先輩、顔が近いです」
照「淡が近づけてるんでしょ」
淡「そうですね。 これだけ近いと、先輩が望むなら簡単にキスできちゃいますね」
照「……なぁ」
淡「こんな即興の発想では、キスしたくなりませんか? 残念です」
照「……」
淡「……それじゃ先輩、また明日」
淡「私は帰宅した後も、先輩との一日を思い出し悶えているというのに」ゴロゴロ
淡「結局、私の気持ちは一方通行なのかな」
…………
………
……
淡「お邪魔します」
照「淡、靴脱いで。 じゃないと私が上がれない」
淡「……私が数十回と告白して軽く振られていた関係が続く中、ついに宮永先輩から『気持ちの整理を』と言わせることに成功したんです」
淡「それでまた数日待たせるなんて、さすがに待ちきれませんよ。 さあ、早く返事ください、さあ!」
照「玄関でか……とりあえず上がってくれよ」
淡「仕方ないですね。 先輩のそういうところが玉に瑕です」
淡「もちろん、そこも含めて好きですよ?」
照「また私が飲んだコップで飲んでる……」
淡「へーんーじー」
照「コップ置いて」ズイッ
淡「ちょっ……その冷たい顔、少しビックリ、いやドキッとしました」
照「自分から返事を求めておいて、ジュース飲みながら聞くのはないと思う」
淡「宮永先輩……。 4回目以降の私の告白を、読書をしながら聞き流していたのは誰ですか?」
淡「ま、とはいえ、置きますけどね。 先輩からの言葉は、心臓に染み込ませたいので」
照「じ……じゃあ、言う」
淡「かもん」
照「わ、私も淡のことが……す、す、すき……です……」
淡「……もう1回」
淡「もう1回」
照「……ねぇ、ちょっと」
淡「ダメですか?」
照「色々とおかしい」
淡「先輩だって、好きな本は何度も読み返すでしょう。 私も先輩の言葉は何度でも聞きたいです」
照「……却下」
淡「恥ずかしいですか? 顔、赤いですよ」
照「……で、どうなの」
淡「それ聞いちゃいます? 今更言うまでもないでしょう。 これで先輩の彼女として、大手を振って歩けます」
淡「まぁ、先輩の一度きりの言葉、しっかり無縁にしまっておきます。 とろけそうです……生きててよかった」
照「……そ」
淡「っていうかとろけちゃいました。 腰抜けて立てません……抱っこしてください」
照「はいはい」
………
…………
淡「あの時の宮永先輩はどこいったのかな」
淡「まぁ、宮永先輩みたいなクールな人を好きになってしまった代償だし、受け入れるしかなさそう」
淡「しかし、宮永先輩からキスを引き出すためにはどうすれば……」
淡「逆の立場で考えてみよう」
淡「……だめだ。 私からしたら、先輩が何してようとキスしたくなっちゃう」
淡「うーん……うーん……」
淡「とりあえず、思いついたのだけメモしておこう」
照「おはよう、それと急に抱きつくな」
淡「きもちーです」
照「頭押し付けて、犬みたいだぞ」
淡「先輩の犬なら歓迎ですね」
照「変なこと言うもんじゃない。 後、ここ目立つ……」
淡「はぁ……いい匂いです」
照「……わかったよ、少しだけなら」
淡「ありがとうございます」
淡(私の匂いをつけて、先輩をドキッとさせる作戦)
淡(逆に私が先輩の匂いにドキッとしてしまった……。 っていうか先輩、どちらかと言うと目立つことを気にしてたし)
淡(これは失敗かなぁ)
淡(……甘えられたのは成功だけど)
照「?」
淡「ゴミがついてますよ、取ってあげます」
照「自分で取れる」
淡(ばか)
照「取れた?」
淡「……いえ、全然」
照「じゃあ、取って」
淡「最初からそういってください……よっと」
照「ちょ、顔近っ……」
淡「はい、もう大丈夫ですよ」
照「う、うん……」
淡(ゴミなんかありませんしね)
淡(いい加減に理由をつけて顔を近づける作戦、これも失敗……っていうか、これ昨日やってた)
淡(……宮永先輩がちょっとだけ照れてくれたのは成功)
照「うん」
淡「……あーんは?」
照「……わ、わかったって」
淡「んー♪」
照「口についてる」
淡「取ってください。 ちゅー」
照「普通に取るから」スッ
淡「……はぁ。 逆の立場なら、私は迷わずちゅーっといきたいところですね。 先輩早くご飯粒でもつけないかな」
照「つけたところで、淡からはキスしないって言ってたはず」
淡「はいはい、そうですね」
淡(こんな単純なのじゃあ、さすがに無理がありますか? わかってましたが)
淡(これも失敗……でも先輩と食事できるのは成功)
淡(昼休みはいつもこうしてるけどね)
淡「そうですかね。 いつもこんなものでしょう」
照「……確かに」
淡「嫌ですか?」
照「全然。 淡、前に言ってた」
淡「何をでしょうか」
照「こういうのは『愛情表現』だ、って。 今日のもそうだと思う。 なら、別に」
淡「……えへへ、そういうの、反則ですよ。 そんなことをしてるから、私がいつまで経っても先輩から離れようとしないんです」
照「もうそれでいいよ」
淡「ずるいずるい。 そういいつつ、キスはしてくれないんでしょう?」
照「……まぁ、そうなる」
淡「はぁ、それもずるいですね」
淡(飴とムチ……まぁムチというほどのものではありませんが、まさにそんな感じですね)
淡(宮永先輩の思い通りに進んでるのは納得行きませんが、それが心地いいのだから、仕方ないんでしょうか)
照「ん」
淡「ついでにおトイレ寄って行きますから、寂しくなっても泣かないように」
照「そんなことするわけない」
淡「残念、先輩の涙は安くなさそうですものね」ガチャッ
菫「……あれ? 今日は大星と一緒じゃないのか。 珍しい」ガチャッ
照「教室に行った」
菫「そうか。 じゃあ私も飲み物を買ってくる」
照「待って。 ここにいて」
菫「は?」
照「菫がいる時は淡が暴走しない」
菫「暴走? どういうことだ」
照「それはいえない」
菫「……ああ、キスのことか?」
菫「いやな、照が早く来て読書をしているのは知っているが、結構前から大星も早く来るようになっただろう」
照「うん」
菫「で、数週間前に、悪気はなかったんだが……大星が『キスしてください』って言って、照が了承したのを聞いてしまってな」
照「……」
菫「てっきりそういう関係なんだと思ったんだが……違うのか?」
照「……まぁ、なんというか、淡とは付き合ってる。 そこは正しい」
菫「他にどこが違うんだ」
照「キスはしてない」
菫「? 意味がわからない」
照「あれは、その、なんというか、指を口につけて、その指を淡の口に、なんというか……」
菫「ああ、そういうことか。 些細な違いじゃないのか?」
菫「付き合ってるならいいだろ……それを暴走というのは、大星が可哀想だぞ」
照「いや、だって」
菫「照と大星は歳の差もあるんだ。 大星からしてみれば、したくなるのも当然だろうな」
菫「……もしかして、1回もしてないのか?」
照「うん」
菫「お前なぁ……」
照「だから、ここにいて。 菫がいれば、淡も誘ってこない」
菫「その話を聞いた後で残れと? 大星が可哀想だぞ」
菫「仮にも付き合ってるなら、それくらいのことはしてやったほうが喜ぶだろ」
照「冷たい」
菫「お前ほどじゃない。 じゃあな、遠回りして戻ってくるから」ガチャッ
照「……おかえり」
淡「あ、さっき弘世先輩見ましたよ。 職員室に用事があるとかで、遅れるそうです」
照(菫、絶対ウソついてる……)
淡「ふぅ、おいしい」ゴクゴク
照「……それ、もしかして嫌がらせ?」
淡「いいえ、ちゃんと宮永先輩の分も買ってきてます。 そのあたりは抜かりありません」
照「どこにもないけど」
淡「私が今手に持ってるじゃないですか。 はい、どうぞ」グイッ
照「……最近そればっかり。 貰うけど」ゴクッ
淡「仕方ないじゃないですか、いつまで経っても直接キスしてくれないんですから。 関節キスで我慢するしか」
淡「指もありますけどね。 ……あの、やってくれませんか」
照「……わかった」ピトッ
淡「えへへ。 これだけでも、脳内物質の出過ぎで脳が破裂しそうになりますよ」
照「!? ちょ、ちょちょちょっ」
淡「ぷはっ。 おいしいです」
照「なにやってるの……」
淡「これが口なら最高なんですけどね。 指で我慢しておいてあげます」
照「淡のせいでべたべた」
淡「ごめんなさい、責任とって拭きます。 手貸してください」
照「ほら」スッ
淡「……んー♪」パクッ
照「!?!?!?」
淡「……ふぅ。 いいですね、こういうの」
照「私は良くない……」
淡「そうやって見向きもしてくれないところも、大好きですよ」
照「誰がやったと思ってるんだ……」
淡「やったのは私ですが、宮永先輩がやらせてようなものです」
淡「いつまでも焦らすからですよ? 歯型つけてやろうかとも思いましたが、それはさすがにやめました」
照「痛いこと言わないで」
淡「こういうことされても、宮永先輩は冷静ですよね。 大好きです」
照「……」
淡「で、そろそろ口のほうにする気になりましたか? 口だったら、いちいち洗わずに済むのですが」
淡「むしろ洗いたくありませんね」
照「だから、そういう変なことを言うなと言ってるだろう」
淡「本心です」
照「……はぁ、とりあえず洗いに行く」
淡「そうですね。 麻雀できませんし」
照「誰のせいで」
淡「知ってますか? 兎は寂しいと死ぬんですよ」
照「兎なのか?」
淡「いいえ、先輩の彼女です」
照「ああ、そう……。 大体『兎が寂しいと死ぬ』なんてのは嘘だぞ」
淡「私の宮永先輩に対する気持ちは本物ですけどね」
照「私に繋げすぎ、全然会話が噛み合ってない。 後、手離して」
淡「えっ……」
照「いや、手洗えない」
淡「あ、そっちですか……嫌われたかと」
照「淡は細かいことに敏感すぎると思う」
淡「さあ。 私が敏感なんだか、宮永先輩が鈍いんだか」
照「淡が拘りすぎ」
淡「そういうことにしておきましょうか。 大好きな先輩の顔を立てておいてあげます」
照「だから、違う。 もう部活が始まる時間だから、牌を触る前についでに洗っているだけ」
淡「ごめんなさい、知ってて言いました。 そういう律儀なところも好きです」
照「……」
淡「私も洗いましょう。 失礼しますね」スッ
照「なんでこっち? 隣にも場所あるじゃないか」
淡「いいじゃないですか、細かいことは」
照「細かいこと気にしてるのは淡。 狭い」
淡「普段の距離が離れすぎてるんですよ。 私はこれくらい窮屈なほうが好きです」
照「……まぁ、いいけど」
淡「先輩、泡ください」
照「押せば出てくるぞ」
淡「いいですよ、もう。 そっちの手から勝手にもらいますから」ギュッ
照「……面倒なことを」
照「流してる途中に手を握ってきたのは淡だろう」
淡「はい」
照「大体、素直に新しいのを出せばいいのに」
淡「いいんですよ、これで」
照「よくわからない」
淡「でしょうね。 細かいことを気にするのは、所詮私だけですか」
照「……」
淡「ああ、先輩の泡が流されてゆく……」
照「なんだその言い方」
淡「私たちの関係も、この泡のように少ないんでしょうかね」
淡「こうやっていつか流されそうで、毎日毎日不安でなりません」
照「……ねぇ」
淡「いつもじゃないですか? それに責めているわけではなく、アピールとか、照れ隠しに裏返し、色々です」
照「今日は明らかに性質が違うんだよ」
淡「……そうかもしれませんね」
照「……どうかしたのか」
淡「ねぇ、先輩。 私たちって付き合ってるんですよね」
照「……ああ」
淡「それなのに、声をかけ、行動に表すのは私ばかり」
淡「先輩が何を考えているのか、どれくらい、どういうように私のことが好きなのか。 なんだかよくわからなくなったんです」
照「……」
淡「あ、勘違いしないで欲しいのですが、嫌いになったわけじゃないですよ?」
淡「先輩は元々、感情をあまり外に出す方ではありませんから。 そこも大好きです、愛してます」
淡「それでも、不安になる時は不安になります。 ごめんなさい」
照「……謝ることじゃないだろ」
淡「私は先輩の隣にいられるだけで幸せです。 のはずなのに、こんなことを思って申し訳ないです」
淡「宮永先輩は私の好きな人で、楽しい人で、大事な人で、尊敬する人で、私の彼女です」
淡「私は宮永先輩に恋するために生まれてきて、宮永先輩に恋するために16年間生きていたのだと思います」
照「大げさ……じゃあないんだよな、お前の場合」
淡「はい。 私はこんな感じですが、先輩は私のどこが好きなんでしょうか?」
淡「安心してください、同じようなものを先輩に求めているわけじゃありません。 これは私がおかしいだけ」
淡「ただ、先輩は私のどこが好きなのか、私は1つもわかってません。 なので、少し不安になってしまいました」
照「……言ってもいいの?」
淡「聞かせてください」
照「知らないからな……」
照「淡、このゲーム、お前の勝ちだよ」
淡「なにいって……んっ!?」
照「んちゅっ……」
淡「んぅっ……っ……」
照「……ふはぁっ」
照「『いつでもいい』とか言ってたのはお前だ。 したかった、だからした」
淡「うあっ……あぁ、わわわ……」
照「私は淡みたいに器用じゃないから、言葉を並べることはできない。 だから、1度しか言わないぞ」
照「淡が私に見せてくれる、その真っ直ぐな心が好きだ」
淡「あぁっ……はい、はいっ……ありが、とう、ござい、ます……」
照「……淡、赤すぎ。 自分から言ったのに、いざされると動揺して動けなくなるなんて」
淡「だって……えっと、あの……」
照「先に言っておく。 自分のしたことは自分で責任を取って」
照「緊張してたし、年上だから。 そういう理由で我慢してたのを外したのは、淡だからな」
淡「ちょ……んっ!」
淡「……うぁっ……んっ……」
照「…………んむっ」
淡「あっ……あ……」ドサッ
照「……大丈夫? 意識ある?」
淡「……ぃ……」
照「あるか。 じゃあ早く立って」
淡「……」
照「お前ウブすぎだ、また腰抜けてるぞ。 よいしょ」
淡「……」グデッ
照「顔上げて、無理なら勝手にあげるから……あつっ」グイッ
淡「……ぇ」
照「んぐっ……くぷっ……」
淡「……ぅ……んっ」
菫「照も大星もどこいったんだ? 部活が始まろうって時に」ガチャッ
照「あ」
菫「……は?」
照「気のせい」
菫「……舌がよだれで繋がってるんだが」
照「気のせい」
菫「確かに、私は『大星に構ってやれ』と言ったが、まさか短時間でそこまでするやつがいたとは……」
菫「……おい、こんな状態で部活できるのか?」
照「とりあえず顔冷やす」スッ
淡「……! いかないで!」ギュッ
照「……安心して」
淡「先輩、好きです……」
淡「えへへ、へへ……好き、好きです……」
照「……私も」
菫「お前ら、そういうのは校外でやれよ……」
おわれ
甘々すばら乙
乙乙
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Entry ⇒ 2012.06.28 | Category ⇒ 咲-Saki-SS | Comments (0) | Trackbacks (0)
淡「宮永先輩、付き合ってください」 照「しつこい」
淡「先輩こそいい加減にしてくださいよ。 私が何回告白したと思ってるんですか?」
照「今日で8回目。 慣れてきたから告白って感じがしない」
淡「それは先輩の立場の話で、私は毎回真剣です」
照「それなら私も毎回真剣。 世の中には通ることと通らないことがある」ペラッ
淡「通してくださいよ。 っていうか私が告白してる横で、なんで本読んでるんですか」
照「私が読書してる時に淡がきたんでしょ」
淡「普通は告白された直後に読書なんてできませんよ」
照「もはや日常」ペラッ
淡「悪い返事でもいいので、せめて読書やめて、真剣に答えてくれませんか?」
照「……」スッ
淡「! やっと振り向いて……」
照「ごめんなさい、付き合えません。 これでいい? 読書に戻る」
淡「……」
照「『悪い返事でもいい』って言ったのは淡の方」ペラッ
淡「前から思ってましたけど、宮永先輩って他人に冷たすぎる気がします」
淡「もう少し人を思いやる心とかを……具体的には後輩とか、もっと具体的には私とか」
照「冷たいわけじゃないし、思いやりも持ってる。 ただ淡とは付き合えない。 それだけ」
照「その私を好きになったのは淡なんだから、それくらいで文句を言う方がおかしい」ペラッ
淡「いやでも、交際してる仲であろうと、良い物は良いし、悪いものは悪いんですよ」
照「交際してない」
淡「してくださいよ」
照「しつこい。 読書に集中させて」ペラッ
淡「本当冷たいですね。 宮永先輩の悪いところです」
照「じゃあ、私のことなんか好きじゃなくていいでしょ」
淡「いや、そういうクールなところも含めて好きですけどね」
照「……あっそう」
淡「そのメンタルがあったからこそ、インターハイチャンプになったんでしょうか?」
照「皮肉? 読書は私の日課」ペラッ
淡「知ってます。 だからこそ、宮永先輩しかいない早い時間を狙って来てるんですよ」
照「無駄な努力だと思う」
淡「無駄じゃあないですよ。 こうやって先輩と夫婦喧嘩してる時間も好きですから」
照「夫婦じゃない」ペラッ
淡「でも早く来るために努力してることは事実ですね。 後輩の努力を踏みにじる気ですか?」
照「自分の都合を押し付ける人は好きじゃない」
淡「押し付けてませんよ。 あくまで告白がokするまで、先輩は私の彼女じゃありませんからね」
照「わかってるならこれっきりにして」ペラッ
淡「ま、okもらうまでは何度でも告白し続ける気ですけどね。 先輩、好きです」
照「知ってる」
淡「付き合ってください」
照「無理」ペラッ
照「……」
淡「先輩」スッ
照「何……いたっ」プニッ
淡「うわっ、こんな古臭い手法に引っかかるなんて」
照「高校生にもなってみっともない」
淡「そうやって型にはまった考えを持っていると、いつか痛い目見ますよ」
照「それとこれとは別」
淡「だから、頑固になってないで早く私と付き合ってください」
照「……」ペラッ
淡「あーあ、とうとう無視を決めましたか。 まあ構いませんけどね。 振り向くのも時間の問題なので」
淡「あー、先輩のほっぺ柔らかかったなぁ」
淡「……本当は振り向いた時にちゅーしちゃっても良かったんですけど」
照「! ……」
照「びっくりしただけ」ペラッ
淡「無視はやめてくれましたか」
照「……」
淡「先輩、こっち向いてくださいって」
照「……」
淡「無視がわざとらしいですよ。 照れてるんでしょうか? 照だけに」
照「寒い」ペラッ
淡「全然無視できてませんね」
照「無視してるほうが厄介だと理解したから」
淡「別に先輩を弄ってるわけじゃないですよ。 本当に好きだからこうしてるだけで」
照「それなら好きな人の都合も考えて欲しい」ペラッ
淡「そんなこと言われましても」
照「好きな人の新作。 集中させて」ペラッ
淡「え、ちょっと好きな人ってだれなんですか!?」
照「好きな人って、好きな作者のこと」
淡「あ、ああ、そうですか……ってそうですよね」
照「普通間違えない」
淡「仕方ないじゃないですか。 普通好きな人が目の前で『なんとかが好き』なんて言ったら、嫌でも同様します」
照「それは淡が落ち着いてないだけ」ペラッ
淡「皆そうなんですって。 先輩って恋したことありません?」
照「ない」
淡「あー、先輩って無性愛者っぽいですよね。 顔も性格もオーラも」
淡「まぁ、私も宮永先輩が初恋ですから、理解したのは最近ですけどね」
照「……あっそう」
照「何」
淡「弘世先輩に対して話す時と私に対して話す時」
淡「なんというか、少しだけ雰囲気違いません?」
照「淡と違って、菫とは日常会話が多い」
照「それに菫とは長い付き合いだから当然のこと」ペラッ
淡「うわっ、ハッキリ言いますね。 そういうところ好きですよ、もちろん深い意味で」
淡「私も、後2年生まれるのが早かったら、また少し違ったんでしょうか」
照「同じこと。 仮に菫に告白されたとしても、私は受けない」ペラッ
淡「あまり考えたくありませんね」
菫「また2人が一番乗りか?」
淡「あ、先輩こんにちは」
菫「2人の仲が良くなるのは喜ばしいことだ。 照は人間関係によく壁を作るから余計にそう思う」
淡「……そうですか」
照「そうだ。 菫、これ返す」
菫「そういえば貸してたな。 面白かったか?」
照「うん」
菫「ならよかった。 そうそう、この続編がちょうど今日発売するんだが、本屋に寄ってもいいか?」
照「構わない」
淡(……)
淡「ちょ、先輩、今日私と帰る約束じゃないですか!」
照「え」
菫「なんだ、そうなのか? 早く言ってくれればいいのに」
照「そんな約束してな……」
淡「ごめんなさい、弘世先輩。 宮永先輩借りていきますね!」
照「……どういうつもり」
淡「正直、少し嫉妬しました。 いや、大分嫉妬しました。 自己中ですよね、すみません」
淡「わかりました、じゃあもうしません。 けど、せめて今日限り一緒に帰らせてください」
照「淡、何か勘違いしてない?」
淡「はい?」
照「私は淡のことを拒否してるわけじゃない。 一緒に帰りたいなら、事前に言えばいいだけ」
淡「……ほ、ほんとですか!? じゃあ毎日帰りましょ!」
照「それはそれで……」
淡「そうだ! 私気になってた喫茶店があるんですよ! このまま行きましょ!」
照「話聞いて……」
淡「先輩、何頼みますか?」
照「……ねぇ」
淡「先輩、先に言っておきますけど、手引っ張ってもあんまり抵抗してませんでしたよね」
淡「満更でもないんじゃないんですか?」
照「まぁ、喫茶店くらいならいいか」
淡「そうこなくっちゃ!」
淡「とうとう私と付き合ってくれるんですか?」
照「全然違う。 なんで私の隣にくっついてるの?」
淡「ダメですか?」
照「注目の的になる」
淡「じゃあ膝の上なら」
照「もっとダメ」
淡「ひとつ、膝の上。 ふたつ、先輩の隣。 さあどっち!」
照「……もういいよ、隣で」
淡「ちなみに、みっつで私と付き合う、ってのもありますよ」
照「いいからメニュー見せて。 身動き取れない」
淡「はいはい」
照「飲む?」
淡「本気で言ってます? 関節キスですね」
照「私はそういう意味で言ったわけじゃないし、気にしてない」
淡「そうですか、私はめっちゃ気にしてます」
照「飲むのか飲まないのか、どっち」
淡「飲みます飲みます、次のチャンスがいつかわかりませんしね」ゴクッ
淡「……ふぅ、美味しいですね。 先輩が飲んだ後だからでしょうか」
照「気持ち悪いこと言わないで」
淡「ひどいですね。 あ、私の飲みます?」
照「じゃあ一口」ゴクッ
淡「……そんなに関節キスがしたいですか。 私は直接でもいいですよ」
照「だから、そういう意味じゃない」
淡「残念」
照「先輩として当然のこと」
淡「ありがとうございます」
淡「でも、先輩だとか後輩だとかじゃなくて、一個人として私を見てくださいよ」
照「『後輩の努力を』とか言ってた口から出る言葉じゃない」
淡「や、結構本気で」
照「心配しなくても、淡のことは一個人として見ている」
淡「……それって『麻雀部として』とかが前に付きますよね」
淡「なんというか、後輩の延長線上のような」
照「? そんな事言われても、淡をただの後輩と思ってないのは本当のことだし」
淡「はぁ、そうですか。 嬉しいですけど、それは私の望んでる特別とは違う形なんでしょうね」
照「そうなるかもしれない。 何度も言ってるけど、諦めたほうが早いと思う」
淡「それは私が決めることです」
淡「あ、そうですか。 遠回りして……なんて」
照「今更遅いし、帰宅を遅くする趣味はない」
淡「でも私と一緒に喫茶店行ってくれたじゃないですか」
照「……それとこれとは別問題」
淡「はぁ、先輩のことはよくわかりませんね。 そこも好きですよ」
淡「……私、宮永先輩のこともう少し知りたいです」
照「だから、無理だって」
淡「まだ具体的なこと言ってませんけど」
照「言う前からわかる。 変な意味が含まない形でなら、別に教えて上げてもいいけど」
淡「変じゃありません、私の気持ちは真っ直ぐですよ」
照「わかった、わかった……また明日」
淡「明日も一緒に帰ってくださいね」
照「ああ」
淡「……生殺しにされてる気分ですよ、こっちは」
照「はいはい」
菫「最近毎日一緒に帰ってないか」
淡「そうなんですよ! 先輩ったら私と一緒に帰りたいらしくて」
照「言ってない」
菫「はは、妬けるな。 休日も体調壊さないようにな」
淡(……妬けるのはこっちの方ですよ)
淡「先輩、手繋いでください」
照「え……」
淡「ダメですか?」
照「……それくらいなら、まぁ」
淡「やった!」ギュッ
照「ちょっと、痛い」
淡「あっ、ごめんなさい。 少し興奮しちゃって」
照「そ」
淡「もちろんマックスは先輩と付き合うことですけどね。 まぁ、今はこれで我慢します」
照「今は、ねぇ……」
淡「はい。 そのうち我慢できなくなるかもしれません」
淡「……先輩は告白の後にいつも『こっちの気持ちを考えて』みたいなこと言いますけど、それは先輩にも言えますよ」
淡「私の気持ち、少しは考えたことあります?」
照「あんなに毎日告白されてれば、それくらい誰でもわかる」
淡「わかってたら、私が『手繋いでください』なんて言っても、繋ごうとしませんよ」
照「? 淡から言ってきたことじゃないのか」
淡「……はぁ、先輩は鈍チンなんでしょうか」
淡(そうやって中途半端に私を救うから、私はいつまでも宮永先輩のことが好きでいてしまうんですよね)
照「せっかく手繋いでやったのに、なんでそんな不機嫌そうなんだ」
淡「……いや、もういいです。 私以外の子と、こういうことしないでくださいね」
照「縛られる筋合いはないし、大体そんなこと言ってくるのも淡くらいだ」
淡「先輩と歩いてると、時間があっという間に過ぎますね」
淡「それじゃあ、おやすみなさい」
照「ああ」
淡「はぁ……宮永先輩、どうして私に振り向いてくれないだろう」ゴロゴロ
淡「っていうか、せっかく先輩と一緒に帰ってるんだし、家とか教えてもらえばよかった」ゴロゴロ
淡「……! いいこと思いついた! この頭脳を持った自分が憎い!」
From:宮永先輩
本文:明日飽いてますか? 合いてたらデート活きましょう、向かえに行くのでお家教えてください。
淡「……なんか色々すっ飛ばしてる気がするけど、先輩にはこれくらいスッキリした文のほうがいいかな。 送信」
淡「! きた!」ドキドキ
Re:
本文:予定は別にないが……漢字間違えすぎだぞ。
淡「~~!!」
淡「どうしよう……ダメな後輩だと思われてないかな……」
淡「いったい!! ああ、なんで小指ってこんなに出っ張ってるの……」
淡「そうだ、せっかく休日に先輩と会うんだから、ちゃんと考えて洋服選ばないと」
prrrr
淡「……うーん……はーい」
照『おい、起きろ』
淡「!! えっ、今何時ですか!?」
照『自分の携帯に聞け』
淡「……あっ! すいません!!」
照『そっちから誘ったんだろう。 まぁいい、駅前の喫茶店にいるからな』ガチャッ
淡「……はぁ、色々考えて寝不足だし結局遅刻しちゃうし……」
淡「先輩怒ってないかなぁ……っ、やばっ、泣くな泣くな!」
淡「大丈夫、先輩の優しさは私が一番わかってる! とにかく早く行かなきゃ」
照「待ってたぞ」
淡「……あの、怒ってないんですか? 1時間遅刻したんですよ?」
照「? 別にこれくらいで怒る必要もないだろ」
照「待ってる間に朝食は食べたから、淡も何か頼んだらどうだ」
淡「……やっぱり、先輩は優しいですね。 大好きです」
淡「でも、できることなら朝食は待ってて欲しかったですね」
淡「仮にも私は先輩に恋してるんですから、一緒に食べたいと思うのが筋です」
照「なんで後から来てそんなに偉そうなんだ……」
淡「えへへ、でも怒らないんですね」
照「……変なこと言ってないで、早く注文しろ」
淡「やっぱり宮永先輩を好きになってよかったです。 さ、何食べよっかなー♪」
照「……」
淡「ちょ、ちょっと先輩ってば」
照「何?」
淡「人が食べてて暇とはいえ、読書はやめてくださいよ。 デート中ですよ?」
照「仕方ないだろ、他にすることがないんだから」ペラッ
淡「私の食べてる様子でも見ててくださいよ」
照「そんな趣味はない」
淡「私は先輩の食べてる様子、見たかったですね。 何食べてるかとか」
照「私がさっき頼んだのは、淡が今食べてるそれだぞ」ペラッ
淡「えっ、ほんと?」
照「そんなウソついてどうするんだ」
淡「……えへへ、やった! 最高です♪」
照「そんなに喜ぶことか? 同じものなんて、誰かと食べに行くなら普通に頼んだりするだろ」
淡「先輩はわからなくていいですよ。 どうしても知りたいなら、私と付き合えばわかることです」
照「変なの」ペラッ
淡「先輩、食後にジュースでも飲みませんか?」
照「なんで私に聞くんだ。 もう朝食は済んでる」
淡「いや、ここってメニューに恋人限定のジュースがあるんですよ。 ベタなやつ」
照「ここはよく利用するが、そんなのはないぞ」
淡「あ、じゃあ賭けます? 私が頼んで出てきたら、一緒にそれ飲んでください」
照「まあいいよ。 ないものはないから」
淡「……そうですね。 すみません、このジュースください」
照「普通のミックスジュースだろ」
淡「まあまあ、ちょっと待っててください……えい」プス
淡「さあどうぞ」
照「……これ、ストロー2つ刺しただけ」
淡「細かいことは気にしないでくださいよ! さあ私の勝ちです、一緒に飲んでください」
照「……はぁ」
淡「なんだかんだで付き合ってくれるんですね」
淡「……あー」
淡(興奮しててすっかり忘れてた……)
照「おい、何も考えてないのか」
淡「……まぁ、そうなりますね」
淡「いや、宮永先輩が悪いんですよ? 私の誘いに即答してくれたせいで、色々舞い上がって忘れちゃってました」
淡「先輩が私のハートを掴んだのが、全ての元凶です」
照「……その図々しさはどこから来るんだ」
淡「愛ですよ」
淡「ま、何もしないんじゃあ、味気ないですよね。 映画でも見に行きましょうか」
照「淡に任せる」
淡「いいんですか? ちょっと危ないところとか連れてっちゃうかもしれませんね」
照「映画」
淡「先輩って二つ条件を出されたら、絶対その中から選択しますよね。 正直扱いやすいです」
淡「そういう生真面目なところも好きなんですよね、これが」
照「なんでもいい」
淡「……はぁ、先輩こそ、その冷静さはどこから来るんでしょうね」
淡「デートって、もう少しその、ニコニコしながらするものでしょう」
照「淡にとってはそうでも、私にとっては普通のお出かけ」
淡「確かに、私が勝手に興奮してるだけですけどね。 仕方ない、先輩の笑顔は、彼女になるその時までとっときましょう」
淡「じゃ、これにしましょうか。 すみません、チケット2つ」スッ
照「……いい、私が払う」
淡「あの、また先輩後輩って話ですか? 私が遅れてきたんだから、私が持ちます」
淡「それに言いましたよ、そういう立場抜きがいいです、と」
淡「『宮永先輩』と呼んでますけど、私の中では『先輩』ではなく『宮永照』という個人です」
淡「先輩にも『後輩』じゃなくて『大星淡』として扱って欲しいですね」
照「……まぁ、そこまで言うなら」
照「わからない」
淡「でしょうね。 ま、私は宮永先輩とこうして同じものを見られるだけで幸せです」
淡「こんなに真っ暗だと、もしかしたら先輩に変ないたずらしちゃうかも」
淡「ちゅーとか」
照「? いくら淡が押しが強いとはいえ、さすがにそんなことはしないだろう」
淡「……そうですか」
淡(はぁ、結局何もできなかった……)
淡「宮永先輩のことを言えないくらい、私も単純だなぁ」
照「なんだそれ」
淡「こっちの話ですよ」
照「そうだな……んーっ」
淡「!」
淡「うわっ、宮永先輩でも、手足伸ばしたりするんですね……」
照「私だって疲れる時は疲れる」
淡「そうですけど、そんなに隙だらけというか、俗っぽいことをするのは意外です」
照「淡、お前も結構ひどいことを言うな。 私のことを言えない」
淡「ちょっとビックリしただけですよ。 でも嬉しいです」
照「?」
淡「長時間麻雀打った後でも、そんなところ見たことありませんしね」
淡「普段見られないところを見られただけでも、私は嬉しいです」
照「……そ」
照「私に聞くのか?」
淡「私は宮永先輩となら、どこへ行っても楽しむ自信がありますから」
照「……」
淡「先輩がなにもないなら、私はゲーセンに行きたいです」
照「ゲームするのに二人で行くのか?」
淡「あらら、先輩ってば無知ですね。 普通ですよ、普通」
照「……私なら構わないが、普通年上にそんな態度を取るもんじゃないぞ」
淡「安心してください。 私がこうやって自然体で接してるのは、宮永先輩くらいのものです」
照「で、なんでゲーセンなんだ」
淡「ゲーセンというか……先輩とプリクラが撮りたいです」
照「最初からそういえばいいだろう」
淡「回りくどい方法を選ばないと、先輩と長く会話できないじゃないですか」
照「ないな」
淡「慣れた手つきの意外な先輩ってのも見たかったですね」
淡「私があれこれ教えるのも、新鮮でまた楽しいですけど」
淡「先輩、笑顔笑顔」
照「……」
淡「ちょっと、下手くそですよ。 雑誌とかでは、いつも営業スマイル完璧じゃないですか」
照「営業スマイルってわけじゃあないんだがな」
淡「……もしかして、雑誌の記者といるよりも、私と一緒にいるほうがつまらないんでしょうか?」
淡「……迷惑かけてごめんなさい」
照「い、いや、そういう意味じゃ……」
淡「ふふっ、冗談ですよ。 そのままでいいですよ、普段の表情が一番です」
照「そうか」
淡(少しだけ、ショック受けたのは本当ですけどね)
淡「少しだけ微笑んでるこの笑顔。 ずっと眺めていたいです」
照「そ、そうか……なぁ、この後に写真が出てくるだけで、この値段なのか?」
淡「複数人で利用するからこそ、こういう値段が許されてるんです」
淡「あと、落書きとかできるんですよね」
照「するのか?」
淡「したいですか?」
照「いや、私はいい」
淡「なーんだ、じゃあ勝手に書いちゃいます」
照「好きにしろ」
照「……なんだこれ」
淡「あれ、見えませんか? 『好きです』って、でかでかと書いたはずですが」
照「そういう意味じゃない」
淡「色んなところに貼っちゃっていいですよ。 本当は私が多めに欲しかったんですが、なんならほとんどあげますよ」
照「映画はお前が出したんだろう。 これくらい出さなくてどうする」
淡「はぁ、またそういう……でも、本当は嬉しいんです。 ありがとうございます」
淡「さて、もう1回撮りましょうか」
照「え?」
淡「今のは宮永先輩の奢り。 次は私が個人的に撮りたいだけです。 さ、撮りましょ」
照「……まぁ、構わないが」
淡「♪」
淡「先輩、アイスクリームが食べたいです。 何がいいですか?」
照「抹茶」
淡「渋っ。 じゃ、行ってきますね」
照「いや、私が……」
淡「まあまあまあ、ちょっと待っててくださいよ」グイッ
照「うわっ」
淡「そこにいてくださいねー!」
照「……なぁ、一つしかないんだが」
淡「そりゃそうですよ。 二人で食べるんです」
照「本気で言ってるのか?」
淡「先輩に対してはいつだって本気です。 そろそろ振り向いてくれてもいいんですけどねー」
淡「さあ、食べましょうか。 コーンはさっさと食べないと大変ですよ? さあ!」グイッ
照「……これをやるために、自分から買いに行ったのか」
淡「どうでしょうね」
淡(はぁ、正直抹茶はあんまり好きじゃないんだけどなぁ)
淡(宮永先輩と一緒だから食べられる感じ)
照「おいしい」
淡「そうですか、私もです」
淡「えっ?」
照「少なくとも好きなものを食べる時のそれじゃないな」
淡「いや、別に私は……」
照「いいから待ってろ。 他のを買ってきてやる」
淡「……」
淡(ずるいですよ、そういうの)
淡(なんでこう、いつも空回りするんだろう。 先輩、相変わらず私の言ったことわかってないみたいだし)
淡(あーあー、こういうのしないでもらいたいなぁ。 これだから、何時まで経っても好きでたまらないんですよね)
淡「……」パクパク
淡「……まぁまぁおいしい、かな」
淡「あ、ありがとうございます」
照「……おい、抹茶は?」
淡「全部食べちゃいました」
照「お前なぁ」
淡「先輩が私を待たせた罰ですよ」
照「そんなに遅かったか? 一応急いできたんだが」
淡「はぁ、そういうところが……」
照「……?」
淡「まぁ、いいでしょう」パクパク
淡「はい、どうぞ」
照「これもか……」
淡「当たり前です」
照「なんだ」
淡「肩を貸して欲しいです」
照「……?」
淡「もう、ストレートに言いますね。 先輩に寄っかかりたいです」
照「……」
淡「了承と受け取りますね。 では遠慮なく」
淡「はぁ、最高ですね。 あ、読書とかしてていいですよ? 多分寝ちゃいますから」
照「人を誘っておいて寝るのか?」
淡「先輩にはわかりませんよ、私の気持ちは」
照「……嫌でもわかってはいるよ」
淡「表面上は、ですね。 中途半端な行動は良くないですよ。 さすがにそれはわかりますよね」
照「……お前が頼んでるんじゃないのか」
淡「そうですね、すみません。 ……少し眠ります、おやすみなさい」
照「ああ」
照「起きたか」
淡「どれくらい経ちましたか?」
照「2時間くらいだな。 寝不足だったのか?」
淡「まぁ、そうなりますね。 主に先輩のせいで」
照「私は何もしてない」
淡「何もしてないのが、なんかしてるんですよ……って、本は?」
照「別に読書とかはしてない。 ずっと壁に寄っかかってただけだ」
淡(……なんでだろう、なんでこんなに嬉しいんでしょうか)
淡(って、別に先輩が私に気があるわけじゃない……)
淡(それを前提に置いておかないと)
淡「はは、マネキンみたいですね」
照「段々辛口がひどくなっていってないか?」
淡「あのですね。 先輩にしたら押しの強い女に見えるかもしれませんが、私だって照れ隠しのオンパレードですよ?」
照「……」
淡「どこか食べに行きましょうか」
照「ああ」
淡「今の内に決めておきましょう。 何がいいですか?」
照「淡に任せる」
淡「本当に先輩は鈍いですね。 麻雀中の冴えてる先輩はどこにいるんでしょう」
照「おい」
淡「ふふっ、答えを教えてあげますね」
淡「私は先輩の好きなものはなんでも知りたい。 だから聞いているんです」
照「……わかったよ」
淡「で、なにが食べたいですか?」
照「じゃあ、うどんだな」
淡「あらら」
照「不満か?」
淡「いえ。 冗談でも言って欲しかったですね」
照「うどんくらい、普通に食べるだろう。 それに、好きなものを言え、と言ったのは淡の方だ」
淡「そうですね。 教えてくれて嬉しいですよ」
照「何食べるんだ」
淡「先輩と違うものを食べます」
照「お前は私のことを好きなのか嫌いなのか、どっちなんだ」
淡「好きじゃないです、大好きです。 先輩に対しての最低値は『嫌い』ではなく『好き』、というレベルで大好きです」
淡「まあ、頼みましょうよ。 ほら、はやくはやく」
淡「先輩、それ一口ください」
照「……そんなことだろうとは思ったよ」
淡「やっと私のことをわかってきましたか。 アタックを続けてきた甲斐があります」
照「で、食べるのか、食べないのか、どっちだ」
淡「もちろんいただきますよ。 あーんしてください」
照「……はぁ、全く」
照「……で、この後どうするんだ」
淡「そうですね、こう半端な時間じゃあ、逆に身動き取れません」
淡「……ねえ、先輩の家に連れて行ってくれませんか?」
照「自分で言うのもなんだが、私の家は殺風景でつまらないと思うぞ」
淡「お人形だらけのほうがビックリしますよ」
淡「それにですね、私にとっては先輩の家に行くのが本命だったんですよ? つまらないとかなんとか言わないでください」
照「……そうか」
淡「まぁ、物事には順序がありますからね。 朝っぱらからいきなり押しかけては、いくらなんでも迷惑でしょう」
照「淡、お前妙なところで律儀なんだな」
淡「何言ってるんですか。 先輩だって、好きなものは大切にするでしょう。 私もそうです」
照「……とてもそうには見えないけどな」
淡「いつものあれは愛情表現です」
照「今飲み物でも出すから、寛いでてくれ」
淡「ねぇ、先輩。 烏龍茶の蓋開けっぱなしですよ」
照「? 締まってるじゃないか」
淡「私が締めてあげたんです」
照「そうか、悪かったな」
淡「いえ。 しっかり整理されてる先輩らしいお部屋ですが、ちょっとだけ抜けてるところがありましたね」
淡「そういうダメな一面もあるんですね」
照「たかが蓋一つじゃないか。 失望したのか?」
淡「まさか」
照「有名だろ」
淡「そうですか、じゃあ私が見逃してるだけかもしれませんね」
淡「それか、先輩の家だからかもしれません。 料理も皿や店内の雰囲気が大事って、よく言いますもん」
照「……それはそうと、お前が今飲んでるの、私が飲んだやつだろ」
淡「いいじゃないですか、どうせ同じ中身ですし」
照「同じ中身だったら、尚更私のを飲む必要はない」
淡「厳しいですね」
照「普通だ」
淡「そうですね、いつも通りです。 やっぱりこういう先輩が一番好きです」
照「わかったから、自分のを飲め」
淡「嫌です」
照「悪かったな」
淡「いえ、つまらなくないですよ。 楽しいです」
淡「むしろ、何か遊べるものがあるほうが困ります」
照「なぜだ?」
淡「先輩とこうして寄り添うだけの時間のほうが、私は好きですから」
照「……」
淡「とはいえさすがに疲れました。 先輩、膝借りますね」
照「……まぁ、構わないが」
淡「おお、珍しく察しが良い。 痺れたら言ってください」
照「多分大丈夫だ」
淡「それはよかった。 多分、痺れても退きませんからね」
照「なんだ?」
淡「今までのこと、全部忘れてください」
照「……はぁ?」
淡「今までももちろん本気でしたが、最初の告白以降は、どこか諦めや弄りが入っていたかもしれませんね」
淡「半端者です。 それじゃあ思考停止と変わらないことに、ようやく気付きました」
照「……」
淡「ですから、今から、今度こそ、今度こそ心の底から言います」
淡「今までの人生で、一番本気を出します」
照「……そんな状態でか?」
淡「あはは、まぁ、少し締まらないかもしれませんが、退けそうにないですし、包まれてる内に言いたい気持ちもあります」
淡「本気です。 だから先輩も、全部忘れて、最初の時と同じように聞いてくださいね?」
照「……」
淡「好きです」
淡「宮永先輩、付き合ってください」
淡「これで、もう先輩に構うことも、後輩らしくもない弄りをすることもないでしょう」
淡「ありがとうございました……っ」
照「……おい、何泣いてるんだ」
淡「ああ、泣いてますか……? 気が付きませんでした、そうかもしれませんね」
照「……拭け。 泣いた跡がつくぞ」
淡「別にいいですよ、というかむしろ付けたいくらいですね」
照「……」
淡「……すみません、帰ります」
照「……ちょっと待て」
淡「なんですか?」
淡「何言ってるんですか、聞くまでもないです。 それとも、先輩には加虐趣味でもありますか?」
照「まあいい。 どうせその状態じゃ、主導権は私にあるんだ」
淡「はぁ、確かにそうですね」
照「……」
淡「なにしてるんですか、指なんか舐めてみっともない」
淡「プーさんの真似ですか? 似合いませんね……んっ」ピトッ
淡「……えっ、指……って、これって……」
照「……今はそれで我慢しろ」
照「今は、な」
照「気持ちの整理くらい付けさせろ。 淡、お前も人のことを言えないくらい鈍い」
淡「そうですか、そうですよね……」
照「……今日はもういい、寝ろ。 どうせ明日も休日だ」
淡「わかりました。 色々と言いたいことはありますが、おやすみなさい。 嬉しいですよ、これだけでも」
照「そうか」
淡「はいっ」
淡「宮永先輩、(指で)キスしてくださいよ」
照「しつこい」
淡「ねえ、もう月曜日ですよ? 2日経ってますけど……早く早くはやくー!」
照「……はぁ、仕方ない。 今日うちこい」
淡「やった! あ、でも今(指で)キスしてくださいよ!」
照「……ほら」
菫(照と淡が部室でキスしてるのを聞いてしまった……)
おわれ
実にすばらでした
続きも読みたい
次→淡「宮永先輩、キスしてください」 照「しつこい」
Entry ⇒ 2012.06.27 | Category ⇒ 咲-Saki-SS | Comments (0) | Trackbacks (0)
竜華「病弱が治った?」
怜「いやな、お医者さんにそう言われたんよ」
怜「元々ウチの体が弱かったのは一つの病気が原因やったんやけど」
泉「…どーいうことです?」
怜「それに罹っとると風邪引きやすなったり疲れやすなったりするとかいうことらしいわ」
浩子「免疫不全とかってことやろか」
セーラ「おお! それ知っとるで! 確かHMVがどうっちゅう…」
竜華「セーラはちょっと黙っとき」
怜「…まあまだ完璧に治ってへんのやけど、これからはどんどん良くなるて言われたわ」
セーラ「へえーっ、すごいやん! 良かったなぁ怜ー」
泉「ほな、完治したら部の皆でお祝いでもしましょか。快気祝い…って言うんでしたっけ」
浩子「快気祝いは病気しとる時にお見舞い来てくれた人への『お返し』の方や」
浩子「まあ部室でお菓子パーティー、とかええんやないでしょうか」
怜「何や世話になってばっかやし、泉の言う様にウチの方がお礼せなあかんのに…すまんなぁ」
泉「え、や、そそそそういうつもりで言ったんとちゃいますんで!」
竜華「……」
竜華(…怜の病弱が治るん?)
竜華(いや、いつも辛そうにしとったし、治るんはもちろん喜ばしいことなんやけど…)
怜「やなぁ。そういうん、ちょっと融通効かんとこあるからなぁ」
竜華(怜が元気になったら、ウチは…)
セーラ「大丈夫大丈夫! そーいう時はおばちゃんに信頼されとる竜華に交渉任せりゃええて!」
セーラ「なぁ竜華!」
竜華「……」
セーラ「…竜華?」
竜華「ふぇっ!?」
セーラ「あっははは、今すごい声出たで竜華! 『ふぇっ!』って!」
竜華「ちょっ、セーラ! 笑い過ぎや!」
セーラ「はー腹痛い。やーすまんな、何やらしくない思てな」
泉「園城寺先輩の快気…やなかった、回復祝いのパーティーしません?っちゅう話ですわ」
竜華「ああ、うんうん、ええなぁ! その時には監督に掛け合ってみるわ!」
怜「竜華…?」
―――
セーラ「怜ー、竜華ー! また明日なー!」
怜「またなー」
竜華「お疲れー」
怜「…セーラは元気やなぁ。敵わんわ」
竜華「ほんまになぁ。あ、怜、傘持つで」
怜「いや、ええって。牌持っとる竜華に傘まで持たせられへんよ」
竜華「そんなん気にせんでええのにー。ウチの方が背高いんやし、その方が楽やん」
怜「ええの。今日は持ちたい気分なんや」
竜華「…そか」
怜「竜華は雨嫌いなん?」
竜華「そやな。ちゅうか雨好きな人ってあんまおらんと思うで」
竜華「晴れやったら天気良い言うて、雨やったら天気悪いーっちゅうくらいやし」
怜「言われてみればそうやなぁ」
竜華「足元ぐしゃぐしゃやし、じめじめしよるし何も良い事あらへんて」
怜「梅雨やししゃーないて」
竜華「そやけど、春雨に梅雨に、夏の夕立に、秋の台風に…冬以外ずっと雨ばっかやん」
怜「いや大袈裟やろ。…そもそも春雨って食べ物やん」
竜華「…? あー怜、さては今日の古文寝とったやろー?」
怜「うっ…確かに寝とったけど…」
竜華「ちゃんと授業聞かんと、赤点取って部活できへんようになってまうで怜」
竜華「怜はうちのエースなんやから、そんなんじゃあかんよー?」
怜「…雨の日はしゃーないねん」
怜「気圧が変わるから、咳が出たりしてちょっと辛いんよ」
竜華「あっ、そ、そうだったん…ごめんな怜…」
怜「えぁ、や、そやけど前よりはだいぶ楽になったんよ! 部活前にも言うたけど、段々治ってきとるし」
怜「最近保健室もあまり行かんようになったしな。今回の試験は竜華にノート借りへんでも大丈夫そうやわ」
竜華「……」
竜華「…あぁ、うん、大丈夫やで」
竜華「それより怜、やっぱり傘ウチが持つわ。両手塞がってると大変やろ」
怜「あっ」
竜華「ほらほら、ちゃんと前向いて歩かんと水溜まりに足突っ込んでまうよー」
怜「……」
竜華「ん、どしたん」
怜「や…竜華がどしたんよ。今日ずっと、らしくなかったで」
竜華「えっ、そ、そやった?」
怜「そやった。…部活でも見え見えの混一振り込んだり、変な山からツモったり…」
怜「普段の竜華なら絶対せえへんようなミスばっかしとったし」
怜「話しとっても…何ちゅうか、上の空ーっちゅう感じやん」
竜華「べべ、別にぃ、そ、そんなことあらへんよー?」
怜「…竜華は嘘吐くん下手やな」
怜「竜華にはいつも世話になっとるし、たまにはウチが竜華の役に立ちたい」
竜華「……」
怜「ウチじゃ頼りないかもしれへんけど、」
怜「最近は竜華に助けられんでも大丈夫なように頑張っとるし、そやから―――」
竜華「怜のアホーっ!!」
怜「!?」
竜華「っ…!」
怜「ま、待ちいや竜華!」
―――
セーラ「―――でな、裏乗って2900が18000に化けるんよ! これすごない!?」
竜華「カン裏狙いなんてオカルトすぎやとウチは思うで」
セーラ「でもこう、点差ある時とか一発逆転に期待して…って、あれ怜やん」
竜華「!!」
セーラ「おーいっ、怜ー!」
竜華「あ、あー、ウチちょっと教室に忘れ物してもうたわ! 取ってくるなー!」
セーラ「お、おう?」
怜「あ、竜華…」
セーラ「?」
セーラ「はぁぁあ? 竜華と喧嘩したぁ?」
怜「喧嘩っちゅうか…何や竜華を怒らせてもうたみたいで」
怜「今日も朝から、まだまともに喋ってへんのよ」
浩子「珍しいこともあるもんですねぇ。あの人が怒るなんて」
セーラ「そやなぁ。しかも怜にやで」
泉「あ、もしかしてあれですか! お二人の熱い痴話喧嘩ーっちゅう…」
怜「泉、ウチは真面目に話してるんやで」
泉「うっ、すいません…」
浩子「まあまあ。昨日の帰り、何話してたか教えてもろてもよろしいですか?」
―――
竜華「…あかん、怜見たら頭真っ白になってつい逃げてきてもうた」
竜華「……」
竜華(急にアホー言うて逃げ出して、今日も避け続けて…怜怒っとるかな…)
竜華(…怒っとるわきっと。せやったら…もしかして、これからずっとこのままなんやろか…)
竜華(……)
竜華(ウチは勝手やな。自分勝手で最低な子や)
竜華(いつの間に降り始めとったんやろ…今日は予報で降らん言うてたのに)
竜華(…あかんな、今日は大きい傘持ってきてへん)
竜華(折り畳みのじゃ怜が濡れてまうし…って)
竜華(……)
竜華「怜…」
竜華「ウチは、寂しいよ…」
―――
浩子「ほな、今日はお疲れさんっしたー」
部員達「「「お疲れ様でしたー」」」
セーラ「…竜華は今日下級生の指導やっとったなぁ」
浩子「あら逃げですわ。顔合わせるんが気まずいのか知りませんが、」
怜「! わ、ちょフナQ、押さんといて」
浩子「埒明きまへんし、直接話して仲直りして下さい。恐らく原因はさっき話した通りです」
セーラ「二人がギクシャクしとると、部員もやりにくそうやしな」
怜「わ、わかっとるわ…」
浩子「ほな、頼んまっせ」
竜華「怜…」
怜「あ、あのな、今日傘忘れてしもたんよ」
竜華「…ごめん、怜。ウチも今日傘持ってきてないねん」
怜「せやったら、ちょっとここで雨止むの待たへん?」
怜「濡れて体冷やすとあかんやん。ほら、」
怜「…ウチちょっと病弱やし」
竜華「ぷっ…そのアピールやめえや」
竜華「……」
怜「なあ竜華」
竜華「どしたん」
怜「竜華は雨、嫌いなんやったよな」
竜華「…そんな話、昨日したなぁ」
怜「ウチもな、昔は雨の日が…ほんまに嫌いやったんよ」
怜「昔から雨の日は体調崩しやすいねん。やから…コホッ」
竜華「怜、調子悪いんやったら無理せんで…」
怜「…そやったら、竜華。あの…ひ、膝枕、頼んでもええ?」
竜華「な、何でそんな恥ずかしそうに言うねん! いつもやっとる癖にもう…」
竜華「…ほら怜、おいで」
怜「うん…」
竜華「ふふっ…」
怜「えと、どこまで話したんやったっけ」
竜華「んー、昔は雨の日苦手やったーってとこまで」
怜「そか」
怜「まあ流れ的に分かると思うんやけど、今は割と雨、嫌いとちゃうんよウチ」
竜華「へぇ…怜は変わっとるね」
怜「…体が治ってきて雨の日でも辛く感じへんようになってきたから、ってのはある」
竜華「……」
怜「けどそれは最近の話やもん。ウチが雨を前より好きになれたのは…竜華がおったからよ」
竜華「…? 何でウチ?」
怜「濡れへんように大きな傘持ってくれたり、体調わるなったら保健室連れてってくれたり…」
怜「竜華に助けてもろたおかげで…こう、雨の日の嫌な所が気にならんようになった」
竜華「怜…」
怜「このまま竜華に頼り続けてたら、きっと竜華に愛想尽かされてまう」
怜「…ずっとそんなこと考えてた」
怜「そやから、少しでも竜華に負担にならんようにと思って…」
竜華「そ、そんな! 愛想尽かすなんてことあらへんよ!」
竜華「怜のこと迷惑やなんて、一度も思ったことない!」
怜「!」
竜華「怜の病弱なんが治ったら、怜がどっか行ってまうんやないかって…」
竜華「…昨日怜が、ウチの助けはもう要らんー、て言うてるように聞こえてもうて」
竜華「すごく不安で、寂しかった。それでちょっと、昨日は、その…」
怜「竜華…」
怜「…ウチかてどっか行ったりせえへんよ」
怜「竜華が迷惑やないんなら…これからもウチのこと助けてくれると嬉しい」
竜華「…えへへ、ありがと怜」
怜「ふふっ、お礼を言うのはウチや。ありがとな、竜華」
怜「ウチもや…今日は普段の倍は疲れたで」
怜「全く病弱なんやから無理させんでほしいわ」
竜華「そやから病弱アピールやめぇって」
怜「へへ」
竜華「もー、ほんまに怜は…」
竜華「? 何が?」
怜「や、竜華て思ったより寂しがりなんやなぁと思て」
竜華「な、何言うてんの! 寂しがりなのは怜の方やん!」
怜「いや竜華やろ」
竜華「絶対怜やて」
泉「…言い合いながらも膝枕はやめへんのですね」
浩子「ま、あの人たちらしいわほんま」
セーラ「おーい、泉ー、浩子ー! いつまでも見てんと帰るで!」
泉「えーでもおもろいですよー。もしかしたらここからめくるめく怒涛の展開が―――」
セーラ「んなもんないって。ホラ、もうバス来てまうから行くで!」
怜「?」
竜華「外、雨やんどるな」
怜「へぇ、ほんまに?」
竜華「見たら分かるで。傘差しとる人おらんし」
怜「…うー、見えへん」
竜華「そらウチの膝の上に寝たままで見えるわけないやん。起きぃ」
怜「…っと」
竜華「ん?」
怜「もうちょっと、このままでいたいかも」
竜華「…ふふっ、ええで。ほな、のんびりしてから帰ろか」
……
竜華「ってちょっ、のんびりしとったらまた雨降り出してもうたやん!」
終わり
関西圏の人は脳内で補完しといてくれー
雰囲気が実にすばらだった
Entry ⇒ 2012.06.26 | Category ⇒ 咲-Saki-SS | Comments (0) | Trackbacks (0)
穏乃「んん~憧の靴下の匂い・・・たまんない、これ・・・」
・http://hayabusa.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1340353105/
穏「そろそろ戻って来ちゃう・・・でももう少しだけ・・・」 スンスン
穏「変な気分になってきた・・・はぁ、はぁ」
穏「憧ぉ・・・憧あこの足の匂い・・・」
ガチャッ!
穏「っ!!」 びくんっ
玄「あっ・・・」
穏乃「・・・」
玄「・・・」
穏乃「・・・///」クンカクンカ
玄「な、なにしてるの・・・?」
穏乃(く、玄さんに見られてる・・・でも・・・)
穏乃「・・・///」フガフガ
玄「シズちゃん・・・」
穏乃「・・・///」フンガフンガ
灼「ん、どうしたの玄」
玄「あ、灼ちゃん・・・!」
穏乃「・・・っ!?」
灼「? どうかした・・・って」
灼「・・・」
灼「なにしてんのあんた・・・」
灼「・・・」
玄「さっきからずっとこの調子なの・・・」
穏乃(やばい・・・灼先輩からも見られてる・・・)
穏乃(しかもちょっと見下された感じで・・・興奮する・・・)
穏乃「・・・///」フンガフンガフンガフン
灼(こいつ・・・やばい・・・ッ)
玄「お、お姉ちゃん・・・っ!?」
穏乃「・・・!?」
宥「? みんななに見てるの・・・?」
玄「み、見ちゃダメ!」バッ
穏乃「・・・」
宥「な、なんで私だけ除け者~・・・」
穏乃「・・・?」フンガ
灼「それ誰の靴下・・・?」
穏乃「・・・憧///」スンスン
宥(靴下・・・?)
灼「・・・」
玄(憧ちゃんのだったんだ・・・)
灼「き、汚いからやめなよ・・・っ」
穏乃「・・・? 汚くないよ?」フンガフン
灼「嫌だよ汚い・・・」
穏乃「・・・うそ。憧の靴下は私だけのものだもんね」スンスン
灼「・・・」
玄(ち、ちょっと嗅いでみたい)
宥「あ、あの・・・嗅ぐってなに・・・?」
玄「・・・っ!?」
玄「お、お姉ちゃんにはまだ早いことだよ!」
宥「玄ちゃんの方が年下じゃない~・・・」
玄「そ、それでもダメなの!」
灼「シズ、あんた・・・憧がきても知らないよ?」
穏乃「・・・!?」
穏乃(憧が・・・くる・・・?)
穏乃「・・・」
穏乃「・・・っ///」ゾクゾク
穏乃(な、なんだろう・・・この感じ・・・)
穏乃(わ・・・私、興奮してる・・・?)
灼(・・・こいつやばい)
玄「ダメったらダメ!」
憧「あんたらほんと仲いいわねー」
玄「な、仲はいいけど今はそれどころじゃ・・・!」
宥(チャンス! スキあり!)ヒョコ
穏乃「・・・///」フンガフンガ
宥「」
灼「あ」
玄「お、お姉ちゃんいつの間に・・・!?」
灼「宥が失神した・・・」
玄「お、お姉ちゃん・・・っ!」
憧「ちょ、どうしたの!?」ヒョコ
灼(あ、まずい・・・)
穏乃「・・・///」フンガフンガ
憧「え・・・」
穏乃「・・・あ///」
灼(・・・もう私はどうなっても知らない)
穏乃「あっ・・・あっ・・・///」
憧「え・・・ちょっと・・・」
穏乃「あっあっあっあっあっ・・・///」フンフンフンフンフンッ
灼(ちょ・・・w)
憧「」
玄「お、お姉ちゃんってば・・・」ユサユサ
宥「・・・ひゅ~ん」
灼(・・・い、イったのかな?)
憧「・・・あ、あんた・・・///」
穏乃「ごめん憧・・・でも憧の靴下いいにおいで・・・」スンスン
憧「や、やめてってばこの変態!」バシッ
穏乃「あっ・・・」
憧「・・・はぁ・・・はぁ・・・」
憧「あ、あんた頭おかしいよ・・・ッ!!」
穏乃「・・・」
憧「ひ、ひ、人の靴下のにおい嗅ぐとか・・・あ、ありえない・・・ッ!!」
灼(ですよね)
穏乃「・・・」
憧「・・・あ、あんた聞いてんの!?」グイッ
穏乃「・・・あっ///」
憧(ちょ・・・な、なに顔赤らめてんのよ・・・)
憧(ほ、ほんとこいつやばいんじゃないの・・・!?)
穏乃「ううっ・・・///」
憧(で・・・でも・・・)
憧(・・・ち、ちょっとかわいい・・・///)
憧「・・・ってあたしなに考えてんだ・・・ッ!!」
灼(の、ノリツッコミ・・・)
憧「な、なによ・・・」
穏乃「あの・・・ご、ごめん・・・」ショボン
憧「あ、謝ったって許すわけ・・・ッ!」
穏乃「・・・///」
憧(な、なに・・・っ!? なんでこの子こんなかわいいの・・・!?)
憧「・・・」ゴクリ
憧「し、シズ・・・あ、あんたあたしの靴下さ・・・」
憧「そ、その・・・い、いいいいいいい臭いとか言ったわよね・・・?」
穏乃「・・・だってほんとにいい臭いなんだもん・・・///」
憧「・・・」ゴクリ
憧「・・・」スンスン
憧「ううっ! おげぇ・・・!」
穏乃「・・・だ、大丈夫? 憧・・・」
憧「ぉえ・・・だ、だいじょぶよ・・・」
憧(3年使い古した雑巾をアンモニア漬けにしたみたいな強烈な悪臭・・・)
憧(こんなのをシズはいい臭いとか思っちゃってるの・・・?)
憧(き、気が狂ってるとしか思えないわ・・・それか極度の嗅覚障害ね・・・)
憧(ていうか、あたしの足がここまで臭かったって事実に今すごくショックを受けてる・・・)
憧「し、シズ・・・あんたにこれあげるわ・・・」ヒラヒラ
穏乃「ほ、ほんと・・・っ!?」
穏乃「あ、ありがとう憧・・・!」パァア
憧(よくそんな汚染廃棄物に歓喜できるわね・・・)
憧「べ・・・別にあんたが嗅ぎたいっていうなら臭いも嗅いで構わないから・・・」
穏乃「や、やった・・・っ!!」パァア
憧(おえっ・・・ちょっと気分悪くなってきたわ・・・)
憧「あたし先上がるから・・・後のことよろしくね」ポンッ
灼「え・・・」
憧「あとシズ・・・あんたそれちゃんと家に持ち帰んなさいよ」
穏乃「ティヒヒ! わかったよ憧!」クンカクンカ
憧「じゃお疲れ様・・・」バタンッ
宥「・・・ん、ここは・・・」
玄「お、お姉ちゃん・・・!」
玄「お姉ちゃん大丈夫?」
宥「あれ・・・なんで私倒れてたんだっけ~・・・」ポワンポワン
灼「・・・」
灼(もう私帰っていいですか・・・)
玄「? あれ、憧ちゃんは?」キョロキョロ
灼「先帰ったよ・・・」
宥「憧ちゃんきてたの~・・・? 私一度も会ってない・・・」
玄「シズちゃんは・・・」
穏乃「・・・ん~~~~~~っ///」ガフンガフン
玄「あ、まだやってたんだ・・・」
灼「あ・・・」
玄「・・・!? え、えっとお姉ちゃん・・・っ!! あれはね、その・・・っ!!」
穏乃「・・・宥さんも嗅いでみますか? 憧の靴下の匂い」
宥「憧ちゃんの・・・靴下・・・?」
玄「ちょっとシズちゃん、お姉ちゃんを変なことに誘わないでっ!」
灼(私はダメで、宥ならいいのか・・・)
穏乃「ほら、貸しますよ」スッ
宥「・・・うん、ありがと~」
玄「お、お姉ちゃん・・・っ!!」
宥「あ・・・玄ちゃん返して~」
玄「か、返しませんっ!」
穏乃「いやそれ私のだから!」
玄「な、なにいってるのシズちゃん・・・! これは憧ちゃんのでしょう・・・!?」
穏乃「私のだよ! 憧からもらったんだもん!」
玄「灼ちゃん・・・ほんとなの?」
灼「・・・」コクリ
玄「・・・」
穏乃「・・・んっ・・・か、返してっ・・・」ピョンピョン
宥「玄ちゃん、返して~・・・」
穏乃「そ、そんなぁ! それ私のなのに!」
宥「玄ちゃんのいじわる~・・・」
玄「いじわるじゃありませんっ! これは二人のためを思ってのことですっ!」
穏乃「・・・」
宥「・・・残念だね、シズちゃん・・・」
穏乃「いいもん・・・また憧からもらうもん・・・」グスン
宥「・・・そしたら私にも嗅がせてね?」
灼「・・・」
玄「・・・」ドキドキ
玄「ほら行くよお姉ちゃんっ」
宥「じゃあね二人とも~」
穏乃「・・・」ショボン
灼「・・・帰ろ」
穏乃「・・・はい」
---------------------
灼(なんか二人になると気まずいな・・・)
穏乃「・・・灼先輩」
灼「・・・っ!? な、なに・・・?」
穏乃「玄先輩はいつになったら返してくれますかね・・・?」
灼「・・・」
灼「しらないよそんなの・・・」
灼「・・・」
穏乃「・・・はぁ・・・憧の靴下・・・」
灼(・・・どんだけ執着してんのよ・・・)
穏乃「灼先輩」
灼「・・・今度はなに?」
穏乃「灼先輩の靴下っていい匂いしそうですよね・・・」
灼「・・・なっ!? し、シズお前・・・っ」
穏乃「・・・」ズイッ
灼「や、やめろ・・・っ」
穏乃「・・・てぃひひ」
灼「た、助けて・・・晴ちゃん・・・」ガクガク
灼(・・・へ、へ?)
穏乃「じ、冗談ですよ・・・ティヒ、なに本気でビビってんですか・・・」プルプル
灼「・・・」
穏乃「私は憧の靴下一筋ですから、他の人の靴下に浮気なんてしません」
灼「・・・」
穏乃「じゃ灼先輩、ここでお別れです。また明日」スタスタ
灼「・・・」
灼「・・・」ガクリ
灼「・・・」ブルブル
灼(も・・・漏れちゃったよぉ・・・)
ザリッ
灼(・・・っ!? だ、誰か近づいてくる・・・!?)
灼(あ・・・あぁ・・・も、もうおしまいだ・・・)
灼「・・・っ」
「おや灼じゃないか」
灼「・・・は、晴ちゃん・・・?」
伝説「よ。どうしたんだ、こんなところに座り込んで」
灼「・・・っぐ・・・えっぐ・・・」
伝説「ど、どうした灼・・・!?」
灼「晴ちゃんっ・・・晴ちゃん・・・っ」ポロポロ
灼「は、晴ちゃぁん・・・えっぐ・・・わ、私・・・」
伝説(・・・ん? あぁ、そういうことか・・・)
伝説「・・・大丈夫だ。私の家に行って着替えよう。すぐそこだから」
灼「うっ・・・えっく・・・」
伝説「ほら立てるか? 今ならだれも見てないから大丈夫だぞ」
灼「・・・っ・・・うん・・・」
伝説「よし、いい子だ・・・ほれ、私の背中に乗れ・・・な?」
灼「・・・ひっぐ・・・それはイヤ・・・」
伝説「・・・」
伝説「じゃほら、手貸すから」スッ
灼「・・・うん」
伝説「シャワールームはすぐそこな。後で着替えおいとくから」
灼「でも・・・晴ちゃんの服じゃ大きすぎるし・・・」
伝説「・・・ごっほん、私にだってお前くらいの年齢の時期があったんだぞ?」
伝説「その頃の服がまだ何着かあるだろうから、それ貸すよ」
灼「あ、そっか・・・わかった」
伝説「いいって。ほら、風邪引かないうちに入ってこい。着てる服は洗濯機に放り込んどいて」
灼「うん・・・ありがと、晴ちゃん」
伝説「いいってことよ」
灼「・・・んしょ」ヌギヌギ
灼「・・・というか、脱衣所散らかりすぎ晴ちゃん・・・」
灼「脱いだ服くらいちゃんと一か所にまとめてよ・・・」ヨイショ
灼「って、あれ・・・これってもしかして・・・」
灼「・・・」
灼(・・・晴ちゃんの脱いだ靴下・・・)
灼「・・・」ゴクリ
灼「・・・」ガラッ
灼(・・・晴ちゃんがくる気配はなし・・・)
灼「・・・」サササッ
灼「・・・」ドキドキ
灼「こ、これが・・・晴ちゃんが一日中はいてた靴下なんだ・・・」
灼「・・・///」
灼「・・・って何やってんだ私!!」
灼「・・・」
灼「ち、ちょっとくらいなら・・・」
スンスン
灼「・・・あっ・・・///」
灼(一瞬鼻をつくスパイシーな香り・・・その後に続く濃厚な香りは・・・)
灼(まるで・・・焼きたてのトーストのような甘く香しい・・・)
灼「これが本当に・・・靴下の匂いなの・・・?」
灼「・・・」スンスン
灼「・・・ぁ///」
灼「・・・」フガフガ
灼「・・・ぁあ///」
灼「・・・やばい・・・頭がくらくらする・・・」
灼「でも・・・やめられない・・・っ!」フゴフゴッ
灼「んぁ・・・///」
灼「・・・」スンスン
灼「・・・あぁ・・・いい匂い・・・」
---------------------
灼「っと、長湯しちゃった・・・」
灼「・・・」フキフキ
灼「・・・」
灼(こんな散らかってれば、靴下一足なくなったって気づきやしないはず・・・)
灼「・・・」ササッ
灼「・・・///」
灼「晴ちゃんあがったy」
灼「・・・」
伝説「・・・あらたあらたあらた~~~~~っ!!」バフンゴフンゴッ
灼「」
伝説「やっばいいい香りっ灼の指の間にたまった汗の香りが染み渡ってるっあぁんもう我慢できない~~~~~~~って、あれ?」
灼「」
伝説「・・・あ、あはっ・・・おかえり灼・・・」
灼「・・・」
伝説「・・・」
伝説「・・・」
灼「晴ちゃんもだったんだ・・・」
伝説「ま、まさか灼も・・・?」
灼「うん・・・ついさっき脱衣所で晴ちゃんの靴下見つけて・・・」
伝説「そっか・・・私の・・・」
灼「だからその・・・今のも、う、嬉しかったよ///」
伝説「灼・・・」
伝説「うん・・・私も嬉しいっ」
灼「晴ちゃん・・・私晴ちゃんが好きっ」
伝説「私もよ灼っ」
こうして二人は靴下を通じてアツく結ばれたのだった―――
第一部・完
ガチャ
玄「ただいまです」
宥「ただいま~」
玄「お姉ちゃん、お風呂沸かしておいて。私洗濯ものとってくるから」
宥「わかったよ~玄ちゃん」タタッ
玄「・・・」
玄(と、とりあえず憧ちゃんの靴下のことは後だ)
玄(早く洗濯ものとりこまないと)
玄「これは・・・」
玄(お、お姉ちゃんのストッキング・・・)
玄「・・・」ゴクリ
玄「ちょ、ちょっとだけなら・・・」
玄「だ、大丈夫・・・嗅ぐだけ・・・嗅ぐだけだから・・・」スンスン
玄「・・・」
玄(れ、レノアの香りしかしない・・・期待外れだ・・・)
宥「玄ちゃ~ん、手伝おうか~」
玄「えっ、あっ、大丈夫だよお姉ちゃ~ん!!」アセアセ
玄「・・・」
玄(やっぱり洗った後のものじゃ意味ないよね・・・)
玄「・・・」
玄「・・・い、今ならお姉ちゃんもお風呂入ってるし・・・」
玄「よしっ、憧ちゃんの靴下・・・嗅いでみるぞっ」
玄「・・・」スンスン
玄「・・・っ!!」
玄(なにこの強烈な臭い・・・下水臭いっていうか・・・)
玄「・・・」
玄「・・・」スンスン
玄「・・・っっ!!!」
玄(や、やっぱり臭いっ!!)
玄(憧ちゃんの足ってこんなに臭かったんだ・・・)
玄(・・・で、でも・・・)
玄「・・・」フンフン
玄「・・・っっっ!!!!」
玄「く、癖になる・・・///」
玄「・・・」フンガフンガ
玄「・・・~~~~~~っ!!!」
玄(やばい・・・やばいよシズちゃん・・・)
玄(私もわかっちゃったよ・・・憧ちゃんの靴下の香り・・・)
玄「・・・」バフンバフンッ
玄「っ!! ごほっ、ごほっ!!」
玄「・・・ハァ、ハァ・・・」
玄(嗅ぎすぎはダメか・・・一種の麻薬みたいなものね・・・)
玄「よ、よし・・・」
玄「あっ・・・お姉ちゃんもうすぐあがってきちゃう」
玄「脱衣所に着替え用意しておかなくっちゃ」タタッ
ガラッ
玄「・・・よいしょっと」
玄「お姉ちゃ~ん、着替えここに置いておくよ~」
「あっ、玄ちゃんありがと~」
玄「よし、戻ってお夕食の準備しなくっちゃ・・・っと」
玄「・・・」
玄(お、お姉ちゃんの脱ぎ立ての黒ストッキング・・・)
玄(す、すっごい蒸れてそう・・・)
玄(だ、ダメだよ私!! い、いくら何でも身内であるお姉ちゃんのものを・・・っ)
玄「・・・」
玄「・・・ち、ちょっとだけなら・・・」ガサゴソ
玄「あっ、あった・・・これだ・・・」
玄(すっごい湿ってる・・・まぁ今夏だし、人間の足は一日にコップ一杯分の汗をかくっていうしね・・・)
玄(ど、どんな匂いがするんだろう・・・か、嗅ぎたい・・・)
玄(で、でもでもっ、ここだといずれお姉ちゃんがあがってきちゃうよ・・・)
玄「で、でもっ・・・もう我慢できない・・・っ」
玄「・・・ちょっと嗅ぐだけだし・・・」
玄「・・・」スンスン
玄「・・・ッ!!!!!」ビリビリッ
玄(憧ちゃんのとは比較にならないほどの強烈な激臭・・・ッ)
玄(こんな臭いがお姉ちゃんの体から出てるとは到底思えない・・・)
玄「・・・」
玄(でも、なんだろう・・・)
玄「・・・」スンスン
玄(この匂いは・・・嗅いでいても辛くない・・・)
玄(むしろいつまででも嗅いでいたい・・・ッ)フンガフンガ
玄(こんな・・・こんな匂いが本当に存在するの・・・?)
ガラッ
玄「・・・っ!?」ビクッ
宥「ってあれ・・・玄ちゃん、どうしてここn」
玄「・・・」
宥「・・・」
玄「・・・お、お姉ちゃん・・・こ、こ、これはね・・・その・・・」
宥「・・・」
玄「・・・」
宥「・・・ひどいよ・・・」
玄「・・・お、お姉ちゃん・・・私・・・」
宥「ひどいよ玄ちゃん!! 私よりも先に靴下の臭いを嗅いじゃうなんてっ!!」
玄「・・・えっ」
宥「お風呂あがったらじっくり嗅ごうと思ってたのに・・・」
玄「えっ・・・でもこれお姉ちゃんのじゃ・・・?」
宥「そうだよ・・・だって玄ちゃん、憧ちゃんの靴下嗅がせてくれなかったから・・・」
玄「あ・・・」
宥「だからまずは自分のものの臭いを嗅いでみようと思ってたのに・・・ううっ・・・」
玄「お、お姉ちゃん・・・っ!」
宥「玄ちゃんに私の初めて奪われちゃったぁ・・・うわぁぁああああん・・・」ポロポロ
玄「あわあわ・・・ど、どうしよう・・・」
宥「・・・っ・・・ひっく・・・」
玄「お、お姉ちゃん・・・その・・・」
玄「えっ・・・責任・・・?」
宥「そ、そうだよ・・・私の初めて奪ったんだから、その責任・・・」
玄「せ、責任って・・・どういう・・・」
宥「玄ちゃんのムレムレニーソストッキングの臭い・・・嗅がせてよ・・・」
玄「・・・っ!? お、お姉ちゃん!?」
宥「・・・」ズイッ
玄「お、お、お姉ちゃん、ここじゃまずいよっ!!」
宥「場所なんて関係ないよ・・・」
玄「で、でもっ・・・お父さんたちもうすぐ帰ってくるし・・・っ」
玄「そ、それに、お姉ちゃんそのままの格好じゃ・・・その、風邪引いちゃう・・・」
宥「あっ・・・」
玄「・・・お、お姉ちゃん・・・?」
宥「いいよ・・・わかったよ・・・」
玄(お、お姉ちゃん・・・ホッ・・・)
宥「じゃあそのかわり・・・今日の夜、玄ちゃんの部屋行くから」
玄「・・・えっ」
宥「・・・だからそれまでお風呂入らないようにしてね・・・」
玄「えっ・・・お、お姉ちゃん」
宥「ふふっ・・・楽しみにしてるよ、玄ちゃん・・・ふふふっ・・・」
玄(・・・お、お姉ちゃんが怖いよ~~~~~っ!!)
玄「・・・ううっ・・・」ドキドキ
玄(お、お姉ちゃんもうすぐ来るはずだよね・・・)
玄(わ、私・・・なんでこんな緊張してるんだろう・・・)
玄(ただお姉ちゃんに私の靴下の臭い・・・嗅いでもらうだけなのに・・・)
玄「・・・」
玄(でも・・・もしお姉ちゃんに拒絶されちゃったらどうしよう・・・)
宥『おえ・・・く、玄ちゃんのニーソくっさぁ!!!』
玄(・・・な、なんて言われたりしたら私・・・っ)
ガチャ
宥「玄ちゃ~ん・・・おまたせ」ニコリ
宥「こないわけないよ・・・玄ちゃんのニーソが嗅げる絶好の機会なのに」
玄「・・・///」
宥「? どうしたの玄ちゃん」
玄「そ、そのっ・・・やっぱり嗅ぐの・・・? お姉ちゃん・・・」
宥「あったりまえだよ~。そのためにお母さんたちが寝るまでずっと我慢してたんだから~」
玄「・・・ううっ・・・」
宥「どうしたの玄ちゃん・・・?」
玄「わ、私・・・お姉ちゃんに嫌われないかどうか・・・不安で・・・」
宥「・・・」
宥「大丈夫だよ~。玄ちゃんみたいなかわいい子のニーソが、臭いわけないじゃない」
玄「・・・お、お姉ちゃん・・・」
宥「ほら・・・大丈夫だから、ね? ・・・早くお姉ちゃんに玄ちゃんのムレムレ変態ニーソの臭い嗅がせて?」
玄「・・・はい、お姉ちゃん・・・これ」スッ
宥「・・・え、なにこれ玄ちゃん」
玄「えっ・・・だから私のニーソだよ・・・?」
宥「・・・玄ちゃん・・・わかってないなぁ・・・」
玄「・・・え、えっ?」
宥「せっかく本人がいるのに、わざわざ脱いだものを嗅ぐ人がどこにいるっていうの~」
玄「お、お姉ちゃん・・・それって・・・」
宥「ほら・・・早くもう一度履いて? 玄ちゃん」
宥「玄ちゃんのムレムレ変態びしょびしょ純情ビッチニーソの臭い・・・直に嗅いであげるから・・・」
宥「・・・」
玄「・・・お、お姉ちゃん?」
宥「早くベットに腰掛けなさい・・・お姉ちゃんの命令よ」キリッ
玄(い、いつもの温厚なお姉ちゃんじゃない・・・)
玄「・・・は、はい・・・」
ギギッ
宥「足こっちに寄こして・・・」
玄「・・・はい・・・」
宥「・・・」
宥「ふふっ・・・ほんとにびしょびしょに濡れちゃってるね・・・玄ちゃんのここ」クニクニ
玄「・・・んっ・・・///」
宥「待ってて・・・今お姉ちゃんが玄ちゃんの初めて・・・奪ってあげるから・・・」
玄「・・・う、うん・・・///」
宥「・・・」スン
玄「・・・ど、どう・・・お姉ちゃん・・・?」
宥(こっ・・・これは・・・!!)
宥「・・・」スンスン
宥「・・・っ///」
玄「お、お姉ちゃん・・・?」
宥「ふふっ・・・玄ちゃんのえっちでムンムンな臭いがプンプンする・・・」
玄「・・・え、えっち・・・?」
宥「そうだよ・・・玄ちゃんはお姉ちゃんに足の臭いをかがれて興奮する変態さんだよ」
玄「そっ・・・そんなこと・・・」
玄「あっ・・・///」
宥「やっぱり・・・玄ちゃんはエロエロだね・・・」
玄「ちっ・・・違うってば・・・お姉ちゃんが・・・あんっ・・・///」
宥「くすくす・・・安心して玄ちゃん・・・」
宥「玄ちゃんの足の臭い・・・お姉ちゃんの大好物になっちゃったから・・・///」
玄「・・・っ///」
宥「・・・じゃあ、次は指の間をくぱぁって開いてごらん・・・」
玄「・・・こ、こう・・・?」
宥「そうそう・・・玄ちゃんのここはどんな匂いがするのかなァ・・・」
宥「・・・ほら、玄ちゃん・・・お姉ちゃんにお願いしないと」
宥「そうだよ・・・お姉ちゃんに『私のえっちな足指の隙間を犯してください』って」
玄「そ、そんな恥ずかしいこと言えないよぉ・・・」
宥「言わなきゃお姉ちゃん、もう帰っちゃうよ・・・?」
玄「うっ・・・ううっ・・・」
宥「ほら、ほんとはもっと嗅いでほしいんだよね? ド変態さんだもんね? 玄ちゃんは」
玄「お、お姉ちゃぁん・・・い、いじめないでよぉ・・・」
宥「いじめてなんかないよォ・・・これは教育だよ玄ちゃん」
玄「・・・き、教育・・・?」
宥「お姉ちゃんがかわいい妹のために色々なことを優しく教えてあげるのは当然だけど―――」
宥「それでも言うこと聞かないイケない子には、ときにはこうやって厳しくすることも必要なんだよ・・・玄ちゃん」
玄「・・・うっ・・・」
玄「・・・ううっ・・・わ、私の・・・」
宥「うん、玄ちゃんの・・・なに?」
玄「わ、私のえっちで変態な・・・」
宥「ふふっ・・・そうだよ、玄ちゃんはえっちでド変態な淫乱ビッチだよ」
玄「・・・ううっ・・・わ、私のえっちで淫乱でド変態なこの足指の隙間を・・・」
宥「そうそう・・・いい感じだよ・・・玄ちゃん」
玄「―――お、お姉ちゃんに無理やり犯されたいです・・・っ!!」
宥「・・・ふふふ、よくできました玄ちゃん」パチパチ
玄「・・・ううっ・・・お、お姉ちゃん早く・・・」
宥「玄ちゃんはほんとに我慢できない子だね・・・いいよ、玄ちゃんが嫌っていうまで嗅ぎ犯してあげる・・・///」
玄「・・・ぁ///」
宥「・・・」フゴフゴフゴ
玄「んぁ・・・そんな・・・鼻押しつけて嗅がないで・・・っ///」
宥「・・・んっ・・・嫌だよっ、やめないよっ!!」フンガフンガフンガ
玄「いやぁ・・・あんっ・・・お、お姉ちゃんっ・・・///」
宥「・・ふふっ、かわいい・・・ペロペロしちゃお・・・」ジュルリ ペロペロ
玄「あっ・・・そ、そんなに舐めたら汚いよぉ・・・」
宥「・・・ぁあ・・・玄ちゃんっ・・・!」ハムハム
玄「・・・んぁ・・・やだ・・・やめっ・・・て・・・
宥「・・・玄ちゃん・・・玄ちゃんっ・・・!!!」ハムハムッ
玄「らめぇ・・・ハムハムしちゃらめぇえええええええええッ!!!」
宥「ハァ・・・ハァ・・・」
玄「・・・っ!」ピクッ
玄「あ、あれぇ・・・私、どうして・・・」
宥「ハァ・・・あはっ・・・玄ちゃんおはよう・・・」
玄「お、お姉ちゃん・・・」
宥「ふふっ・・・玄ちゃんのニーソ、しゃぶりつくしちゃった・・・///」
玄「・・・あっ・・・///」
宥「今度また嗅がせてね・・・玄ちゃんの変態ニーソの匂い・・・///」
玄「うん・・・いつでもいいよ、お姉ちゃんなら・・・///」
こうして松実姉妹の長い長い夜は続いていく―――
第二部・完
憧「はぁ・・・ただいま」
望「あらおかえり憧」
憧「・・・ん・・・あぁ、お姉ちゃん帰ってたんだ」
望「うん、今日はほとんど何もすることがなくてね。早帰りできたの」
憧「ふーん」
望「なんか元気ないわね」
憧「・・・ちょっと具合悪くてさ、部活も早退してきた」
望「あら、大丈夫なの?」
憧「うん・・・風邪じゃないし、横になってればたぶん治ると思う」
憧「うん、さんきゅ・・・」
憧「・・・」
憧「あ、あのさ・・・お姉ちゃん・・・っ」
望「ん、なに?」
憧「わ、私って・・・さ・・・」
憧「小さい頃とか、その・・・足臭かったりした・・・?」
望「え、なに突然・・・」
憧「う、ううん! や、やっぱ何でもない! 寝てくる!」ダダッ
望「? 変な子ね」
憧「はぁ・・・私ったらなにわけわかんないこと聞いてるんだろ・・・」
憧「・・・」
憧「でも、女の子としてはさ・・・やっぱり足が臭うとか絶対許せないもん・・・」
憧「・・・すぅ・・・はぁ・・・えいっ」クンカクンカ
憧「うごぇ! げほっ、げほっ!!」
憧「・・・」
憧「あぁ・・・もうなんか泣きたい・・・」
憧「先にお風呂入ってきた方がいいかも・・・気になっちゃうし」
憧「特に足は念入りに洗わないとね・・・」ガチャ
望「あぁ、あんたお風呂入ってたのね」
憧「え・・・あ、うん・・・なんか気分さっぱりしたくてさ」
望「・・・」
憧「ど、どうしたの、お姉ちゃん?」
望「憧、あんたもしかして・・・足の臭い気にしてんでしょ?」
憧「・・・っ!?」ギクッ
憧「な、なななななななんで・・・っ」
望「あぁその反応で確信したわ。やっぱり気にしてたんだ」
憧「そ、そそそそっそそそそそんなことないわよっ!!」
望「まぁ今更隠し事なんてしなさんな。姉妹でしょうが」
憧「うっ・・・うぅ・・・」ショボン
憧(とりあえず穏乃変態行為に関しては伏せて、大まかに事の経緯を説明したわ・・・)
望「んじゃ、とりあえずその臭いってやつを嗅がせてよ」
憧「イヤに決まってんでしょ」
望「うそよ、じょーだん冗談。あたしだって嗅ぎたくないわよ」
憧「・・・」
望「まぁ女の子ってどうしても足蒸れやすいからねぇ・・・」
望「あんたはまだいい方よ。社会人になってパンストとかブーツ履きだしたらもっと悲惨」
憧「まさかお姉ちゃんも悩んでたりするの・・・?」
望「そりゃ仕事上足袋は必須だからね・・・あれもけっこう蒸れんのよ」
憧「・・・そっか」
望「でも何も対策してないわけじゃないのよ?」
憧「た、対策なんてあるのっ!?」
憧「・・・う、うん」
望「・・・えっと・・・おお、あったあった」ガサゴソ
望「これが今日一日私が履いてた足袋。ちょっと嗅いでみなさい」
憧「・・・」スンスン
憧「・・・うーん」
望「・・・なによその微妙な反応は」
憧「まぁ私のよりは全然マシだってことだけは言えるわ」
望「あんたどんだけ臭いのよ・・・」
憧「い、いいでしょ!? さ、さっさと教えてよその対策ってやつ!」
憧「別に不潔にしてるつもりはないけど・・・」
望「普通じゃだめなのよ。たぶんあんたは遺伝だか何だか知らないけど、他の人よりも臭いやすい体質だと思うの」
憧「それってけっこうひどい言い草よね・・・」
望「拗ねないの。私だってあんたと姉妹なのにこんだけしか臭わないのよ?」
望「ってことは対策次第ではここまで抑えられるってことよ」
憧「・・・うん」
望「まぁまずはお風呂でちゃんと足の指の隙間まで念入りに洗うことね」
望「今あんたお風呂入ってきたんでしょ? ちゃんと洗った?」
憧「うん、さっきはね・・・でも今まではそこまで気にしてなかったから、かなり適当だったかも・・・」
望「そう。じゃまずそこを改善」
憧「・・・うん」
憧「え、じゃあなんなの?」
望「汗は基本無臭なの。けど、そこに雑菌が繁殖して汗と混じり合うと異臭を発するようになるわけ」
憧「へぇ・・・」
望「それで、この時期は特に足が蒸れやすいじゃない?」
望「だからこそ、家の中だけじゃなく外でもちゃんとしたケアが必要なのよ」
憧「外って・・・どこでやればいいの?」
望「トイレの個室でもどこでもいいわよ」
望「市販品で足拭きシートみたいなの売ってるから、まずそれ買ってきなさい」
望「あとはそうねぇ・・・あんたは制服だし無理かもしれないけど、ソックスを絹製にすると通気性がよくなって臭いにくくなるわ」
望「まぁとりあえず、足を常に清潔にして、なるべく蒸らしたままの状態を維持させないことが重要ね」
望「消臭スプレーとかあるにはあるけど、根本的な解決にはならないからおすすめはしないわ」
望「まぁまずは今さっき私が言った通りのこと、実践してみなさい」
憧「・・・うん、お姉ちゃんありがとう」
望「いいのよ。まさかあんたが足の臭いで相談もちかけてくるとは思いもしなかったけどw」
憧「う、うるさいなぁ・・・」
望「ま、がんばんなさい」
憧「・・・」
憧(よ、よしっ・・・がんばるぞ)
憧「・・・」
憧(あの後、急いでウ○ルシアとし○むら行ってきて、足拭きシートと、絹製の靴下買ってきた―――)
憧(んで今日の昼休みは、ちゃんと足全体をシートで拭きとって清潔にしといた―――)
憧「そして今、私は再びトイレの個室にいる―――」
憧(あれだけやったんだから、大丈夫なはず・・・)
憧「・・・」
憧「いくぞ、私・・・っ」スンスン
憧「あれ・・・臭い・・・とれてる・・・?」
憧「うそ・・・やった・・・ついにやったぞ・・・」
憧「やっほおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
「っ!?」「ちょ、なに今の!?」「変人!?」
憧(あ、いけね・・・感激のあまりうっかり声あげちゃった・・・///)
憧(でも、これでやっと足の臭いの悩みから解放されるぞ・・・っ)
憧(早くシズに報告しないとなぁ!!)ワクワク
憧「おーっすみんなぁ! 麻雀打ってるー!?」
憧「ってあれ、今日は私が一番のりか。ちぇ、つまんないの」
憧「てかシズはたしか私よりも先に教室を出て行ったわよね・・・?」
憧「てっきり先に部室行ったものだと思ってたけど・・・」
憧「―――うーん、みんな早く来ないかな・・・」
---------------------
カァーカァー
憧「・・・」
憧(結局誰ひとりこなかった・・・)
憧(みんな用事でもあったのかな・・・)
憧(・・・帰ろう)トボトボ
憧(シズもあんな臭い靴下なんかよりも、今の方がきっと喜んでくれると思うし)
憧(あのシズの無邪気な笑顔・・・また見たいな・・・なーんて///)
憧(・・・うーん、考えれば考えるほどシズに会いたくなってきたわ・・・っ)
憧(よしっ、今からシズん家に乗り込もう! シズのやつきっと驚くぞ~・・・ふふっ)
---------------------
ピーンポーン
憧「ごめんくださーい」
憧「・・・」
ドタバタッ
憧「・・・?」
憧(シズのやつまたドジしてんのかな・・・)
ガチャ
穏乃「あっ、すみません・・・お待たせしましたっ」
憧「よっ、シズ」
穏乃「あ、憧・・・!? ど、どうしたのさ急に・・・?」
憧「いや、シズ今日部活来なかったでしょ? だから心配になってさ、様子見に来たの」
穏乃「へぇ・・・そっか、あははっ・・・憧には悪いことしたね」
憧「別にいいのよ。それよりもさ、シズ聞いてっ! 私、足の臭いなくなったのよ!?」
穏乃「へ? あ、足の臭い・・・?」
憧「うん、昨日自分の足の臭さにあまりにもショックを受けちゃってさぁ・・・w」
憧「あれからお姉ちゃんにアドバイスしてもらって色々試したら、今全っ然臭わなくてさぁ! すごくない!?」
穏乃「へ、へぇ・・・それはすごいね」
憧「・・・? シズ、さっきからどうしたの?」
憧「いやなんか挙動不審だし・・・」
穏乃「そ、そんなことないよ・・・っ」
憧「ほんと・・・?」
穏乃「ほ、ほんとほんと・・・」
憧「・・・」
穏乃「・・・あはは」
憧「じゃあ、その背中に隠してるのはなに?」
穏乃「・・・っ!?」
憧「ちょっと見して」
穏乃「い、いやこれは・・・っ!!」
憧「別にいいじゃない・・・貸しなさいよっ!」ガシッ
穏乃「あっ・・・」
穏乃「え・・・あ、うん・・・」
憧「・・・私のじゃないわよね・・・誰の?」
穏乃「え・・・えっと、お、お母さんのだよ・・・」
憧「・・・嘘でしょ」
穏乃「・・・っ!」
憧「まさかシズ・・・浮気してたの?」
穏乃「う、浮気って・・・べ、別に私と憧、付き合ってるとかそんなんじゃ・・・」
憧「でも、昨日はあんなに私の靴下の臭い好きだって言ったじゃない・・・っ!!」
穏乃「・・・」
憧「ねぇ、なんでよシズ!? 私の靴下じゃやっぱり物足りなかった!?」
穏乃「・・・」
憧「なんで黙ってるのよシズ・・・」
憧「・・・あっ、そうだ! 私の新しい靴下の臭い嗅いでみてよっ!」
穏乃「え・・・」
憧「これ嗅げばきっとそんな誰のとも知れない靴下なんか気にならなくなるはず・・・っ!!」ヌギヌギ
憧「ほら、嗅いでみて・・・!!?」
穏乃「・・・」
憧「ほら早くっ!!」
穏乃「・・・」スンスン
憧「・・・ど、どう?」
穏乃「うぉえ・・・」
憧「・・・え?」
穏乃「あ、憧・・・これほんとに憧の靴下なの・・・?」
憧「ええそうよ、だって今さっき目の前で脱いで見せたじゃないっ」
憧「え・・・」
穏乃「これじゃまるで腐ったドブネズミの腐乱臭だよ・・・っ!!」
憧「・・・ッ!?」
穏乃「憧には幻滅したよ・・・やっぱり見切りをつけといて正解だったかもね・・・」
憧「・・・そ、そんな・・・シズ・・・」
穏乃「もういいでしょ・・・帰ってよ」
憧「シズ・・・っ!!」
穏乃「帰ってって言ってんでしょ・・・っ!!」
バタンッ
憧「・・・そ、そんな・・・」
「ふふっ・・・」
憧「だ、誰・・・っ!?」
「・・・」
憧「あ、あんたは・・・」
---------------------
穏乃「いやァ・・・さっきの灼先輩の顔おもしろかったー」
穏乃「ん? あれこれって・・・白いソックス?」
穏乃「なんで一足だけ・・・」
穏乃「・・・」
穏乃(そ、そういえば今日は玄先輩に取り上げられちゃって憧の靴下がないんだよね・・・)
穏乃「・・・」ゴクリ
穏乃「こ、これは浮気じゃないんだからね・・・」スンスン
穏乃「・・・ッ!!?」ビビバビブベボッ
「あの~すみませ~ん!」
穏乃「・・・ッ!?」ビクッ
「・・・ハァ、ハァ・・・あの、こちらで私の靴下を見かけませんでしたか?」
穏乃「えっと・・・これ・・・ですか?」
「あ、それです! ありがとうございますっ・・・って、あれ・・・」
穏乃「あ・・・」
和「し・・・穏乃・・・?」
穏乃「な、なんでここに・・・」
和「や、やっと会えた・・・っ!! 穏乃っ!!」ダキッ
穏乃「あっ・・・ちょ、和っ・・・///」
和「よかった、ほんとによかった・・・」
穏乃(・・・む、胸が・・・当たってる・・・///)
和「ふぅ・・・元気でしたか? 穏乃」
穏乃「う、うん・・・まぁね。和は?」
和「私は・・・ちょっと元気じゃなかったです」
穏乃「そうなの・・・?」
和「だって・・・穏乃に会えなかったから・・・///」
穏乃「え・・・」
和「・・・長野に行ってからも、私ずっと穏乃のこと考えていました」
和「周りはオカルトチックな雀士ばかりで・・・ちっとも馴染めなかったんです」
和「だから我慢できずに、ついに今日新幹線で来ちゃいました・・・///」
穏乃「和・・・そんなに私のこと思って・・・」
和「穏乃・・・覚えてますか? 私たちがまだ小学生だった時にこの河原で何してたか・・・」
穏乃「ま、まさか和も覚えてた・・・の・・・?」
和「はいっ・・・もちろんですよ///」
穏乃「靴下の嗅ぎ合い・・・だよね」
和「ええ・・・懐かしいです」
和「ほ、本当ですか・・・? そ、それで感想は・・・」
穏乃「すっごい・・・すっごいよかったよっ!! この世のものとは思えないほどの、なんていうか神聖な香りだった!!」
和「穏乃・・・私、嬉しいです///」
穏乃「わ、私もだよ・・・和///」
和「じゃあまた昔みたいに・・・」
穏乃「あ・・・の、和・・・」
和「・・・?」
穏乃「わ、悪いんだけど・・・それはできない・・・」
和「え・・・」
穏乃「もう私、この人しかいないってパートナー・・・見つけちゃってるんだ・・・」
和「え、だ、誰ですか!? それは・・・」
穏乃「・・・憧だよ」
和「・・・っ!?」
和「・・・」ギリッ
穏乃「・・・だから、ごめんね・・・」
和「・・・」
穏乃「和と会えたのは本当にうれしいよ・・・でも私、憧を裏切れない・・・」
和「穏乃・・・」
穏乃「それじゃ・・・またね・・・」スタスタ
和「・・・穏乃っ!!」ダキッ
穏乃「・・・っ!? の、和!?」
和「穏乃・・・私じゃ・・・不服ですか・・・?」
穏乃(の、和・・・背中に胸当たってるよ胸っ!!)
穏乃「そ、それは・・・そういう問題じゃなくて・・・」
和「じゃあどういう問題なんですか!?」
穏乃「・・・私は・・・私は憧を、裏切れないよ」
和「・・・」
和「穏乃は薄情ですね・・・一時でも距離が離れただけで、私のことは全て忘れてさようならですか・・・」
和「転校した後も、私が穏乃のことをどれだけ思っていたか・・・」
穏乃「・・・っ」
和「・・・穏乃・・・わかりました。あなたがその気なら・・・」
穏乃「・・・の、和?」
和「実力行使で奪い去るだけです・・・っ!!」バッ
穏乃「・・・もがっ!! もっ、ももヴぁ!!」
和「さぁ味わってください・・・私のソックスの香りを・・・とくとっ!!」
穏乃「の、ど・・・か・・・っ」
穏乃(やばい・・・和の香りに脳みそが犯される・・・っ!!)
和「ほんとは私の方がいいんでしょう・・・? 穏乃・・・」グイグイッ
穏乃「そ、んな・・・私は・・・憧が・・・」
和「ふふっ・・・いくら強がったって無駄ですよ・・・」
和「・・・穏乃は昔も今も変わらず、私のソックスしか愛せないんですっ!!」
穏乃「・・・っ!」
和「ほらほらほらっ!! 私を愛してっ!! 私だけを・・・っ!!」
穏乃(やばい・・・も、もう限界だ・・・)
穏乃(ご、ごめん・・・憧・・・私・・・)
穏乃「」ガクリッ
和「・・・ふふっ・・・」
---------------------
和「そして一晩中私の臭いをかがされた穏乃は・・・もうすでに私の虜となってしまいました・・・」
憧「あんた・・・外道がっ!!」
和「ははっ・・・なんとでも言ってください。負け犬さん♪」
憧「穏乃の体も心も穢して・・・あんただけは絶対許せないっ!!」
和「・・・は? 穢した? 逆でしょうが・・・」
和「―――あなたに穢されていた穏乃を、私が清めてあげたんですよっ!!」
憧「う、うるさい!!」
和「ふふっ・・・まぁあなたがなんと吠えたてようと、穏乃の心はもう元には戻りませんよ」
和「さぁ・・・さっさと帰ってくださいこの腐れビッチがっ!!」
憧「くそっ・・・くそっ・・・!!」ダンッ
憧「和のやつ・・・許せないっ・・・」
憧「でも・・・シズはさっき・・・」
穏乃『憧には幻滅したよ・・・やっぱり見切りをつけといて正解だったかもね・・・』
憧「あれはシズの本心だったのかな・・・だとしたら私は・・・」ポロポロ
「なにを弱気になっているんだ、憧」
憧「・・・え? あ・・・晴絵・・・」
伝説(どやっ
灼「そうだよ・・・シズの心を取り戻せるのは、憧しかいない」
玄「憧ちゃんならきっとできるよっ」
宥「私たち信じてるよ~」
憧「み、みんな・・・」
憧(それに・・・シズを想う私の気持ちって、こんなことで崩れちゃうほど弱かったのか・・・?)
憧(いいや違う・・・この想いだけは誰にも負けない・・・負けたくなんかないっ!!)
伝説「いい目だ・・・」
灼「憧、あんたは自分がどうするべきなのか・・・もう知ってるはずだよ」
憧「・・・うんっ」
玄「行けっ、憧ちゃん!!」
宥「ファイトだよ~」
憧「みんな、ありがとう・・・っ!!」ダダッ
憧(私は・・・私はこの足の臭さが嫌いだった・・・っ!!)
憧(けどっ、シズを失うのはもっと嫌だっ・・・!! それに・・・)
憧(・・・シズが好きになってくれた私は・・・あの足の臭かったころの私じゃないか・・・っ!!)
憧(いくぞ・・・私っ!!)
憧(決戦は・・・明日だっ!!)
翌日・教室
憧「・・・シズ」
穏乃「・・・なに・・・もう話しかけてこないで」
憧「・・・っ」
憧「・・・シズ、今日の放課後・・・和を連れて部室に来て」
穏乃「・・・なんで」
憧「大事な話があるから・・・絶対だよ?」
穏乃「・・・」
憧「・・・」
---------------------
和「ねぇ穏乃・・・なんで私がこんなところに・・・」
穏乃「ごめん和・・・でも、これもけじめなんだ」
和「・・・」
穏乃「たぶん憧は・・・今日和に決闘を申し込んでくる」
和「・・・」
穏乃「でもそこで、憧が和に打ちのめされれば・・・」
穏乃「・・・っ」
穏乃「も、もう二度と私たちの前に現れてくることもない、はず―――」
和「・・・なるほど、さすが穏乃ですね。そうとわかったら―――」
和「私も、本気で相手をしなければなりません」ヌギヌギ
ガチャ
憧「・・・シズ」
和「・・・ふふっ・・・来ましたね、負け犬ビッチ」
和「さぁ・・・始めるんでしょう? 私はもう準備できてますよ」
憧「・・・シズ」
穏乃「・・・」
憧「私、あんたを絶対に連れ戻すから―――」
穏乃「・・・っ」
和「戯言ですね・・・ほら、シズ。まずは私のソックスの臭いを嗅いでください」スッ
穏乃「・・・」スンスン
穏乃「・・・っ!!」ビビビビビッ!!!
憧「・・・っ!?」
穏乃「・・・くっ・・・うぅ・・・///」
憧(あ、あんな恍惚としたシズの表情・・・初めて見た・・・)
和「ふふっ、どうですか穏乃・・・? 私のソックスの香りは・・・」
穏乃「す、すごい・・・っ!! さすが和だ・・・///」
憧「・・・っ」
和「ふふっ・・・そうでしょう?」
和「ほら、穏乃もこう言っていることですし・・・もう諦めたらどうですか? 憧ビッチさん」
穏乃「・・・」
穏乃(・・・そうだよ、憧・・・もう諦めて・・・)
穏乃(私なんて・・・和の誘惑に屈して、君を見捨てたひどい奴でしょ・・・?)
穏乃(そんな奴のために、こんな頑張ることないって・・・)
穏乃(もうやめてよ・・・憧・・・)
憧「・・・」ヌギヌギ
和「・・・あら、続けるんですね。ほんと愚かな人です・・・」
憧「・・・」
憧「・・・シズ、さぁ嗅いで・・・これが私の全力投球よ・・・っ!!」
穏乃「」
和「・・・」ゴクリ
憧「シズ・・・どう?」
穏乃「・・・」プルプル
憧「・・・シズ・・・?」
和「し、穏乃・・・? まさか・・・」
憧「・・・泣いてる?」
穏乃「・・・っく・・・えっぐ・・・」ポロポロ
和「・・・し、穏乃!? ど、どうしたんですか・・・!?」
穏乃「・・・っ、和・・・ごめん・・・」
和「え・・・? それってどういう・・・」
穏乃「でも今、二人の靴下を同時に嗅いでわかったんだ・・・」
穏乃「靴下って・・・結局は、好きな人の香りが一番鼻に“くる”んだなって・・」
穏乃「匂いが良いか悪いかじゃない・・・人と人との相性の問題だったんだ・・・」
穏乃「二人の靴下は客観的に嗅いだら五分五分で、どっちも素晴らしい匂いだったと思う・・・」
穏乃「でも・・・やっぱり心の底から私が本気で“好き”って言えるのは―――憧のしかないって、そう思った」
憧「・・・し、シズっ」ポロッ
穏乃「私・・・ぶれまくってるよね・・・最低だよね・・・こんなに二人の心をもてあそんで・・・」
穏乃「でも、私・・・やっぱり憧の靴下が好きなんだ・・・っ」
穏乃「だから、和・・・ごめん・・・こんな最低な私を許してほしい・・・」
和「・・・」
穏乃「・・・の、和・・・」
憧「・・・」
和「ごめんなさい、憧・・・今までひどいこと言って」
和「私、羨ましかった・・・あなたとシズ、傍目から見ても明らかに相性のよさそうな二人が・・・」
和「だから奪い取ってやりたいと思った・・・私も穏乃ことが本当に好きだったから―――」
和「でも・・・やっぱり両想いのパワーには敵わないってことですね・・・はは」
憧「・・・和・・・」
和「憧、シズをよろしくお願いします」
憧「・・・うん、任せて。私、ぜったいシズを幸せにするっ! 悲しませたりしないっ!」
和「・・・ありがとう。それからシズ―――」
和「今までのこと・・・ほんとにごめんなさい」ぺこり
和「最後にお願い・・・聞いてもらってもいいですか?」
穏乃「・・・なに?」
和「穏乃の靴下の臭い・・・嗅がせてほしいんです」
穏乃「・・・憧・・・?」
憧「・・・もちろんよっ、ほら、嗅がせてあげてっ」
穏乃「・・・う、うん・・・」ヌギヌギ
穏乃「・・・はい、和」スッ
和「・・・」
和「・・・」スンスン
穏乃「の、和・・・大丈夫!?」
和「・・・えっぐ・・・だ、大丈夫です・・・っ」
憧「・・・ほ、ほんとに?」
和「え、ええ・・・ただ・・・き、気づいてしまったんです・・・わたし・・・」
穏乃「・・・」
和「し、穏乃のこと・・・本当に好きだったんだなって・・・っ」ニコッ
穏乃「の・・・和・・・」
和「今までご迷惑おかけしました。私、長野に帰ります」
穏乃「・・・」
和「お見送りはけっこうです。私、向こうでもがんばります。願わくば、自分のパートナーも見つけて見せますっ」
和「・・・二人とも、お元気で―――」
憧「うん・・・」
穏乃「和・・・さようなら・・・元気で・・・」
ガチャリ
向こうの麻雀部にもだいぶ慣れてきたようで、ちょっと気になる人も見つけたそうだ―――
そして私たちは―――
憧「・・・シズ・・・どう?」
穏乃「やっぱり憧の靴下は最高だよっ!!」パァアア
憧「そう、よかったっ!」
穏乃「~~~~♪」クンカクンカ
憧「・・・ふふっ」
穏乃「・・・? なに?」
憧「あの・・・えーっと・・・その、さ・・・///」
穏乃「・・・?」
憧「あ、ああああんたの靴下の匂い・・・私にも嗅がせてよ・・・///」
穏乃「・・・」
憧「・・・ダメ?」
穏乃「・・・っ」パァアア
穏乃「もっちろん!! おっけーだよ!!」
おわり
乙でした
おつおつ
Entry ⇒ 2012.06.24 | Category ⇒ 咲-Saki-SS | Comments (0) | Trackbacks (0)
京太郎「意外に可愛いとこありますよね」蒲原「ワハハ...えっ?///」
京太郎「しかしせっかくの休日に男1人とは情けない...」
蒲原「ワハハー。お、あの後ろ姿は?」
蒲原「お、やっぱり清澄のやつだなー」ヒョコッ
京太郎「うわ!って蒲原さんじゃないですか!お久しぶりです」
わかる
京太郎「いや。今日は休みなんですけどね」
京太郎「オレ彼女いないんで時間をモテ余してる寂しい奴なんですよ」
蒲原「そうなのかー清澄は可愛い女子が一杯なのになぁ」
京太郎「そうですねぇ。でもそちらもそうじゃないですか」
蒲原「あぁ。加治木とかカリスマもあって可愛いぞ。部長顔負けだー」
京太郎「いやいや蒲原さんだって可愛いです。何時も明るくて素敵ですよ」
蒲原「ワハハ…へっ?///」
京太郎「いや、本心ですって!ところで蒲原さんも散歩ですか?」
蒲原「うー。あぁ、たまには足動かさないとな」
京太郎「なるほど。確かに麻雀ばかりではバランス悪いですしね」
京太郎「あ、御一緒していいですか?」
蒲原「さ、寂しいやつめー。お姉さんが相手してやろー」
蒲原(デートって奴じゃないのか?///)
蒲原(ダメだろくに経験無いから緊張してきた...)
京太郎「ん...蒲原さん?」
蒲原「ひゃっひゃい!///な、なんだ!?」
京太郎「大丈夫ですか?顔赤いですよ?」
京太郎「?ならいんですけど。しかし散歩気持ちいいですね」
蒲原「そうだなぁ。やっぱ自分の足で動くのいいぞー」
京太郎「蒲原さん免許持ってますもんね。俺も取ろうかなぁ」
蒲原「ウチは足がないと辛いからなぁ。取ればいいじゃないかー」
京太郎「でもなぁ、免許取ってしまうとなぁ」
京太郎「いや、便利だからこそ部活でコキ使わされそうで…」
京太郎「部長が蒲原みたいな人だったらなぁー」
蒲原「ワハハ。君は尻に敷かれるタイプなんだなー」
京太郎「否定できない自分が辛いですよ…」
京太郎「そうですねぇ。助手席に彼女を載せてドライブとか。」
京太郎「彼女いないですけど…」
蒲原「そんなに落ち込むなよー彼女じゃ無くても適当に誘えばいいだろー?」
京太郎「そうですけど…誰が乗ってくれるのか…」
京太郎「!」ハッ
蒲原「へっ?わ、私?///」
京太郎「はい。どうせ俺が誘ってもついてきてくれる子なんていませんし」
京太郎「蒲原さんなら免許持ってるから心強いですから」
蒲原「そうか…そうだな、責任なら仕方ないなー///」
蒲原「おねーさんに任せとけー」
蒲原「ワハハ。まぁがんばれよー」
京太郎「はい!あ、そうだせっかくだしアドレス交換しませんか?」
京太郎「せっかくこうして話せましたし約束もありますし」
蒲原「おーいいぞーちょっと待ってろー」
そういや無いんですかねでも合宿とか可能性は0では無い…はず
蒲原「ん。こっちもOKだぞー」
蒲原(家族以外の男の人の番号初めてだな///)
京太郎「ありがとうございます。けっこう長く歩いちゃいましたね」
蒲原「いやいや。良い運動になったよ。また機会があれば頼む」
京太郎「そうですね。俺も蒲原さんと話せて楽しかったです。」
京太郎「へ?何か変なこと言いました?」
蒲原「い、いやなんでもないぞー」
蒲原(自覚無いのか。さすが清澄唯一の男子だなー)
蒲原(少し意識してしまう///)
京太郎「もうすぐお昼か。蒲原さんこの後何かあります?」
京太郎「それは良かった。この近くにタコスが美味しい店があるんですけど」
京太郎「良かったらどうですか?」
蒲原「おおー良いじゃないか。是非お願いするよ」
京太郎「決まりですね。んじゃ行きましょうか」
蒲原の左に立つ
京太郎「さて行きましょうか。ほんと近いので」
蒲原「お?おう。なぁなんで左側に?」
京太郎「ん?あーあれですよ。車道側、危ないですから」
京太郎「女の子を歩かせるわけには行きませんよ」
蒲原(お、おお女の子って!不味い顔が熱い…)
京太郎「いやいやこれくらい普通ですよ」
蒲原「さ、さすが清澄のマネージャーだー」
京太郎「マネージャーじゃ無いですって!ひどいなぁ」
蒲原「ワハハ。ごめんごめんー」
蒲原(コイツは天然でやってるんだろうか、しかし女の子扱いは嬉しいものだなー)
蒲原「しかしタコスの店なんて珍しいとこ知ってるんだな」
京太郎「あー。うちに片岡優希っているんですけどね」
京太郎「そいつと良く来るんですよ。タコスジャンキーなんでアイツ」
蒲原「ワハハ。そうなのかー」
蒲原(なんだろう。なんか胸がチクチクするぞー)
蒲原「本当に近いんだな。中々雰囲気の良い店じゃないか」
京太郎「味も評判なんですよ。若い子からアラフォーまで人気があるとか」
蒲原「ほー。期待して良いんだなー?」
京太郎「はい!それに今日は俺が誘ったんで奢りますよ」
蒲原「良いのか?何だか悪いぞー」
京太郎「ウチの女子も蒲原さんくらい可愛げが欲しいですよ…」
京太郎「あはは。すいません」
京太郎「あ。メニューありますよ、何にします?」
蒲原「うーっ。そうだなぁタコスなんて意識して食べたこと無いし…オススメは?」
京太郎「そうですねぇ。テクス・メクス風かベタにハードタコスか」
京太郎「辛いのが苦手ならウェハースにアイスを包んだ本場風のチョコタコもオススメです」
蒲原「や、やけに詳しいんだなー」
京太郎「それに一応自分でも作れるんですよ?」
蒲原「すごいんだなー清澄の麻雀部は…」
京太郎「たぶんこれは麻雀関係ないですけどね」
蒲原「いやぁでも気がきいて料理ができるなんて良いじゃないかー」
京太郎「そんなに褒めないでくださいよ!照れるじゃ無いですか」
蒲原「んーじゃあ私はそのチョコタコってのにしようかな」
京太郎「ならオレはノパルタコスのアボカドサルサソースで」
蒲原「の、のぱる?」
京太郎「あーわかんないですよね。」
京太郎「ノパルってのはウチワサボテンっていうサボテンの若茎ですよ」
京太郎「歯応えが良くて美味しいんですよ」
京太郎「まぁ地域によって材料は変わるらしいですけどね」
京太郎「魚とか肉とか色々あるみたいですよ」
蒲原「さすがだなー。そこまで詳しいんだ作るタコスも美味いんだろうなー」
京太郎「まぁそこそこ人気ですよ。なんだったら今度ご馳走しましょうか?」
蒲原「!」
蒲原「い、いいのか?」
京太郎「なら次に会うとき作って持ってきますよ」
蒲原「ワハハ。約束だぞー?期待してるからなー」
蒲原(これで、次に会う口実が…)
京太郎「あ、でも」
蒲原「ん?どーしたんだー?」
蒲原「ワハハ。たしかにそーだなー」
京太郎「そこでです。蒲原さんも何か作って来てくれませんか?」
蒲原「えっ?私も?」
京太郎「はい。当日交換して食べるってことで!」
蒲原「うーっ。私料理の腕も普通だぞー?」
京太郎「いやいや、女の子の手料理に勝るものなんかないですよ」
京太郎「やった!約束ですからね!絶対ですよ!」
蒲原「ワハハ。わかったわかった。そうがっつくなよー」
蒲原「お、料理来たみたいだよ」
京太郎「おー美味そう!んじゃ食べますか」
蒲原「うん。美味しそう。頂きます!」
蒲原「なんだろ?クレープみたいな感じだね」ハムハム
京太郎「こっちも美味い。チョコタコはアメリカのチェーン店発祥ですからね」
京太郎「中々外れを引かないし良いですよ。辛いの苦手な人でも食べれますし」
蒲原「なるほどなー」ハムハム
蒲原「ん?どーした?」ハムハム
京太郎「意外に可愛いとこありますよね」
蒲原「ワハハ…えっ?///」
京太郎「いやなんかタコス両手で持って食べてるとことか」
京太郎「ギャップって言うんですかね?普段は部長として頑張ってるイメージなので」
蒲原「うー」///
京太郎「えっこれ辛いですよ?」
蒲原「う、うるさい///」ハムッ
蒲原「うっ!、か、かりゃい!」
京太郎「だから言ったのに…あぁもうほらとりあえずお茶飲んでください」
蒲原「」ゴクゴク
蒲原「ぷはっ」
蒲原「う、うん。ごめん///」
京太郎「オレのお茶全部飲むとか相当辛かったんでですね」
蒲原「うー。舌がぴりぴりする」
京太郎「とりあえずオレは飲み物また買ってきますね」
蒲原「いってらっひゃいー」
蒲原「お茶買いに行かせたし悪いことしたかなぁー」
蒲原「ん?お茶?」
蒲原(「オレのお茶全部飲むとか相当辛かったんですね」)
蒲原(オレのお茶…?)
蒲原「・・・」
蒲原「///」ボンッ!
蒲原(か、かかか関節キスってやつじゃないかこれは!)
蒲原(ファーストだってまだなのに!ど、どうすれば…)
蒲原(落ち着け…落ち着くんだ智美。点棒を数えて落ち着くんだ…)
蒲原(そうだ私は鶴賀学園麻雀部の部長だぞ。こんなとこでうろたえてどうする!)
蒲原(ましてや年下の男の子だ。ここは年上の女の余裕を…)
京太郎「ただいまでーす。ん?蒲原さん?」
蒲原「ひゃっ。ひゃい!///」
京太郎「あ、あとはいこれ」コトッ
蒲原「なにこれ?」
京太郎「ヨーグルトスムージーです。舌冷やすのにいいかなと」
蒲原「あ、ありがと///」
蒲原「美味しい…」チュー
京太郎(また両手で持ってる。可愛いな。)
蒲原「美味しかったなー」
京太郎「お、気に入ってもらえました?」
蒲原「そうだなー。まぁ納得はしたぞ」
蒲原「だが君のはもっと美味いと期待させてもらうぞー」
京太郎「げっ」
蒲原「ワハハー楽しみだぞー」
蒲原「ワハハ。ま、精々精進しろよー?」
京太郎「はいはい。んじゃそろそろ帰りますか」
蒲原「おー。んじゃ帰ろっかー」
蒲原「今日はご馳走さまだぞー」
京太郎「いえいえ。それではまた」
京太郎「んーチョコタコかー」
京太郎「バニラアイスも良いけどチーズクリームとかで…」ブツブツ
優希「なぁなぁ。犬は何をブツブツ言ってるんだじぇ?」ヒソヒソ
咲「京ちゃん部室に来てからずっとあんな感じなの」ヒソヒソ
咲「タコスのレシピ本見ながらずっと独り言」ヒソヒソ
和「料理人にでもなるんでしょうか?」ヒソヒソ
京太郎「いや、あえてベリーソースとかで…?」
蒲原「うー」
蒲原「卵焼き?いやウインナー…でも普通すぎるかなー」
加治木「どうした?先程から飯の話ばかりだぞ。腹でも減っているのか」
蒲原「あ、ユミちん。いやぁ色々あってねー」
加治木「悩み事か?相談ならいつでも乗るが…」
蒲原「へっ!?いやいやいや、別にそんなんじゃないよー」
蒲原「そうそう。お気になさらずー」
モモ「嘘はよくないッスよ。先輩」
蒲原「うわっ。モモいたのか…」
モモ「笑顔浮かべながらお弁当の献立を考える…それすなわち」
加治木「それすなわち?」
モモ「恋する乙女ッス!」
加治木「お前が恋か」
モモ「わかるッス…わかるッスよ先輩…」
モモ「恋をすることは苦しいッス…でも…」
モモ「誰かに自分を認めてもらうことはすごく嬉しいことッスから…」
加治木「モモ…」
モモ「先輩…」
蒲原(ワハハ。あれー?)
加治木「とにかくだ、蒲原私たちはお前の味方だ。なにより」
加治木「射程に入った獲物を逃すな。だ」
モモ「私も応援するッス!」
蒲原「モモ、ユミちん…」
蒲原「ワハハーそうだね!」
蒲原「ちょっと頑張ってみるよ。なんたって私は鶴賀学園麻雀部の部長だからねー」
蒲原「よし。けっこうレシピ決まってきたなあ」pipipi
蒲原「お、メールだ。どれどれ」
お久しぶりです、京太郎です。
前約束してた件ですか、今週末はどうでしょうか?
時間が良ければお願いします。
蒲原「おー。今週末は大丈夫だぞー。っと送信!」
蒲原「ふふふ。首を洗ってまっとけよー」
蒲原「えへへ///」
京太郎「お、大丈夫なのか良かった。」
京太郎「そういやどこ行くか決めてないなぁ。」
京太郎「どこか行きたいとこはありますか?っと送信!」
京太郎「うし、もっかいレシピ確認すっかな」
蒲原「うむ。場所かぁーそーだなー」
蒲原「一応男女なわけだしムードも大切だよなー」
蒲原「この「アラフォーでも分かる恋人になる100の方法」によれば…」
蒲原「ふむふむ…海か!」
蒲原「海にしよーよ。車出すし。っと送信!」
京太郎「良いですね。安全運転でお願いしますよっと送信!」
京太郎「さてさて、これは気合入れないとなぁ」
京太郎「それにしても楽しみだ」
京太郎「良く考えたら他校女の子と二人切りとかあんま経験無いし」
京太郎「んー。意識しちまうのは、仕方ないよなぁ」
蒲原「ワハハ。まかせとけーっと送信!」
蒲原「よしよし。射程内だなーなんつって」
蒲原(と言いつつ緊張するなぁ)
蒲原「でもここまで来たんだ頑張るぞー」
蒲原(楽しみ…だな-///)
蒲原「よし、仕込みはこんなもんかなぁ」
蒲原「けっこう量作ったけど大丈夫だよなー男の子だし」
蒲原「さて、次は服だな…どうしよ」
蒲原「私はユミちんみたいに身長も無いし」
蒲原「モモみたいに…その…胸とかもないし///」
蒲原「うー。こんな時こそ参考書「アラフォーでも分かる恋人になる100の方法」!」
蒲原「夏らしさ…生足…ほうほう」
蒲原「なるほど。」パタン
蒲原「服は大体決まったな。化粧は…苦手だしパス」
蒲原(せっかくの二人きりだもんね!か、可愛いとか言われたいし…///)
蒲原「えへへ///」
蒲原「うー。早かったかなー」ソワソワ
蒲原「服変じゃ無いかなぁ…」
京太郎「あれ、早いですね?15分前に着くつもりだったんですけど」
蒲原「ひゃあ!びっくりしたー!」
蒲原「脅かさないでよもー」
京太郎「なんかそこまで驚かれると傷つきますよ!」
蒲原「ワハハ。ごめんごめん!それじゃ行こうかー」
京太郎「はい!安全運転でお願いしますね」
蒲原「ワハハ。夏だからね。クーラー効くまでもう少し待ってなー」
蒲原「あ、ラジオでもつけるかー」ポチッ
<コイノリンシャカイホー♪
<お届けしたのはラジオネーム、アラサーだよっ!さんからのリクエスト
<「恋の嶺上開花」でした。
京太郎「すごい曲ですねぇ」
蒲原「まぁ良いBGMさー」
蒲原「お、海が見えてきたぞー!」
京太郎「おおー景色良いですねぇ、人も少ないし穴場だ」
蒲原「ふふふ。ここは前に鶴賀学園の皆で来たんだー」
京太郎「思い出の場所ってやつですか。良かったんです?」
蒲原「特別さ。光栄に思いなよー?」
蒲原(君だからこそ連れてきた…とか言えたらなぁ…)
京太郎(オレは女の子のどの部分が好きかと言われれば)
京太郎(おっぱいと全力で答えるだろう。これはオレの中の真理だ)
京太郎(しかし、しかしだ諸君)
京太郎(オレの目は完全に蒲原さんにいっている)
京太郎(これはおっぱいが原因なのか、いや違う)
蒲原(なんか真剣な顔してるなーちょっと格好良い///)
京太郎(蒲原さんはプロポーションが特筆しているとは言えない)
京太郎(しかしどどうだろう)
京太郎(夏の日差しの当てられた絹の様な柔肌が見せる幼さ)
京太郎(ミニスカートからちらりと見える太ももの色気)
京太郎(まさしく夏の魔物である・・・)
蒲原(うわわ。見られてる少し恥ずかしいなー///)
蒲原「は、はい!」
京太郎「服とても可愛いですね。似合ってますよ。」ニコッ
蒲原「ワハハ。そうかそうかー」
蒲原「素直に嬉しいぞー」
蒲原(可愛いって!可愛いって!///)
蒲原「おーそうだな。ん、潮風が気持ちいいなー」
京太郎「ですねぇ。あぁそれにしてもお腹空きました」
京太郎「今日のためにオレ朝から何も食べてないですからね!」
蒲原「ワハハ。気合充分だなー」
蒲原「んじゃ準備するからちょっとまってろー」
蒲原「いやぁ男の子にお弁当作るの初めてだから上手くできたかどうかー」
京太郎「いや、充分美味そうですよ!頂きます!」
蒲原「ワハハ。はいどうぞ召し上がれー」
京太郎「んじゃこの鳥の唐揚げから」ハムッ
蒲原「ど、どうかなー?」ドキドキ
蒲原「ワハハー」
京太郎「このだし巻きもソテーされたカマボコも」
京太郎「薄口の肉じゃがもほうれん草のソテーも」
京太郎「全部美味いです!」
蒲原「そうかそうかーどんどん食えよー」
蒲原(よかったぁ…頑張って作ったかいがあったぞー)
蒲原「ワハハ。良く食うなー」
京太郎「だって美味いですもん!いやぁ蒲原さんは良いお嫁さんになれますよ」
蒲原「へっ!?よ、嫁?///」
蒲原(やっぱ嬉しいもんだなー。今ならモモの気持ちがわかるぞー)
京太郎「美味い美味い」ムシャコラムシャコラ
蒲原「はい、お粗末さまだぞー」
蒲原(全部食べてくれたなー///)
京太郎「いやぁしかしハードルさらに上がりましたなー」
蒲原「ワハハ。そうだろそうだろー」
京太郎「しっかしオレも負けるわけには行かないですよ」
京太郎「まぁ誘ったのはオレですからね」ゴソゴソ
京太郎「よっし!はい、どうぞ!」ゴソゴソ
蒲原「これは…この前のチョコタコ!」
京太郎「はい。蒲原さん辛いのダメだろうと思いまして」
京太郎「こっちのほうが美味しく食べてくれるかなぁって」
京太郎「クーラーボックスで持ってくるの大変でしたけどね」
蒲原「お、美味しい!美味しいよこれ!」
京太郎「本当ですか?やった!」
蒲原「バニラとベリーソースもさることながら」
蒲原「この一緒にかかってるこれが…」
京太郎「お、気が付きましたか?さすがですね」
京太郎「ご名答!よくわかりましたね。」
蒲原「でも、この味…どこかで…」
京太郎「そりゃそうですよ。この前行ったあのお店のヨーグルトスムージーですから」
蒲原「えええ?でもなんで…」
京太郎「いやぁ前飲んでる時すごい美味しそうに飲んでたので」
京太郎「あの日からお店に通ってデータ集めて作ってみました!」
蒲原(嬉しいなぁー///)
蒲原「ありがとう。とっても美味しいぞー」ニコッ
京太郎(なんだこれ可愛ぇ)
京太郎「い、いや。喜んで貰えたなら光栄です!」
京太郎(不味いな…意識しすぎて味がわからん)
京太郎「い、いやなんでもないです!」
京太郎(やべぇ顔みれねぇや)
蒲原(おー照れとる照れとる可愛いやつめー)
蒲原(まぁ意識してるのはこっちもなんだけどな///)
京太郎「し、しかし本当に人いませんねぇ」
蒲原「そうだなー」
蒲原「…」
蒲原「あ、あのさ!」
京太郎「はい?どうしました?」
蒲原「あのね、君が嫌じゃなかったらでいいんだけどさ」
蒲原「もう少し……もう少し近くに行っていいかな?///」
蒲原「おー///隣失礼するぞー」
蒲原「よいしょっと」チョコン
京太郎(何だこれは白昼夢か…)
京太郎(隣には可愛い女の子、目の前は海)
京太郎(ここが天国か…)
蒲原「私はなーこうやって男の子と出かけたことはなくてなー」
蒲原「お弁当だとか服とかいっぱいっぱい悩んだんだぞー?///」
蒲原「でも、自分にもこういう気持ちがあるんだなって知れてさ」
蒲原「大変なこともあったし友達から応援も貰って頑張れて、そんな初めてを君とできて」
蒲原「すごい嬉しかったんだ。ありがとうなー?」ニコッ
蒲原「まぁバカな女の戯言だと思って聞き逃してくれー」
京太郎「蒲原さん」ガバッ
蒲原「ふぇ?」ギュッ
蒲原「わ、ワハハ。いきなり抱きしめるとかおねーさん勘違いしちゃうぞー?」
京太郎「…ですよ」
蒲原「えっ…?」
京太郎「勘違いしてくれて…いいですから。」
京太郎「料理だって大変だったけど」
京太郎「蒲原さんが笑ってる顔思い出したら全然辛くなかったです。」
京太郎「それなのに、急にこんなこと言われて嬉しくないわけ…ないじゃないですか…・!」
京太郎「オレからもお願いします。」
京太郎「隣でずっとアナタの笑顔を見させてください」
京太郎「はい、オレで良ければお願いします」
蒲原「そっか……グスッ…ヒック」
京太郎「蒲原!?」
蒲原「ゴメン…グスッ…すごく怖くて…でも嬉しくてさー…ヒック…」
蒲原「なんでだろうな…涙止まんないやぁ…」
京太郎「蒲原さん…こっち向いて、目閉じてもらえますか?」
蒲原「えっ…」チュッ
京太郎「これが…オレなりの精一杯です。」
京太郎「少しは落ち着きましたか?」
蒲原「お、落ち着くわけないだろ!初めてだったんだぞ!」
京太郎「奇遇ですねオレもですよ。」
蒲原「そうなのかー?えへへ///じゃなくって!大体泣いてる彼女にだな!」
京太郎「嫌、でしたか?」
蒲原「うーっ。い、嫌なわけないだろっ///」
京太郎「ならいいじゃないですか。」
蒲原「何か手玉に取られてる気がするぞー?」
京太郎「っともうこんな時間ですか」
蒲原「ふふふ。それもそうかもなー」
蒲原「さて、帰ろうか!運転頑張るぞー」
京太郎「オレも早く免許取らないとですね」
蒲原「ワハハ。そうだなー早く助手席に座らせてもらわないとだー」
京太郎「そうですね。彼氏が助手席は少しみっともないです」
京太郎「OKです!」
蒲原「よっし。んじゃ出発するぞー」ブーン
京太郎「しかし行きは友達で帰りは彼女ってすごいですよね」
蒲原「うーっ!君はすぐ恥ずかしいこと言うなー///」
京太郎「あははっ。ごめんなさい。でもやっぱり…」
蒲原「でもなんだよー?」
京太郎「意外に可愛いとこありますよね」
蒲原「ワハハー///」
おわり
ワハハ可愛いんであんまりいじめてあげないでくださいね!
またSS書いてくださいましー
帰りに事故ってワハハだけ生き残るっていう鬱展開じゃなくてよかった
やめろォ!
良かった・……
Entry ⇒ 2012.06.23 | Category ⇒ 咲-Saki-SS | Comments (0) | Trackbacks (0)
蒲原「ワハハ……部室に居場所がない」久「あの、あの子はたしか」
久「県予選の中堅で戦ったわよね。清澄の竹井久よ」
蒲原「ああ・・・ワハハ、その節はどうも」
久「いいえ、こちらこそ。覚えててくれた?」
蒲原「ワハハ、もちろん。あんたに頭が弱いって馬鹿にされたのは今でも根に持ってるよ」
久「あーそういえばそんなことも言ったかしら。まぁ軽いジョークよ」
蒲原「ワハハー、うそつけー」
蒲原「え・・・いいの?」
久「? いいのってなによ?」
蒲原「ワハハ・・・いやさ、私なんかと・・・」
久「・・・? 何か嫌なことでもあったの?」
蒲原「い、いや別に・・・ワハハ・・・」
久「・・・」
久「まぁいいわ。話は追々聞くとして、どこか希望はある?」
蒲原「どこでもいいよ」
久「じゃあ私の行きつけの喫茶店にしましょ。ついてきて」
蒲原「わ、ワハハ・・・相変わらずだよ」
蒲原「といっても私とゆみちん・・・って言ってわかるかな?」
久「えーっと・・・ああ、鶴賀の部長の?」
蒲原「いや部長は私なんだけど・・・」
久「え、うそ!?」
蒲原「ワハハ、ほんとだよ。いっつも勘違いされるけどねー」
久「そりゃあねえ・・・だって似合わないもの」
蒲原「あんた容赦ないね・・・まぁそういうとこ嫌いじゃないけどさー」
久「まぁ県予選も終わったしね」
蒲原「そうなんだよー。で、部長を二年に引き継がせたわけだけど・・・」
蒲原「・・・」
久「・・・どうしたの?」
蒲原「あ・・・わ、ワハハー、いやなんでもないよー」
蒲原「それで元々部員も団体戦に参加できるギリギリの人数だったから、まーた部員が足んなくなっちゃってさー」
久「まぁ清澄も似たようなものね」
蒲原「そっか。あんた三年だもんね」
久「ええ、だからインハイが終わったら私ともう一人は引退。部員は一気に三人になっちゃうわ」
蒲原「ワハハ、大変だねー」
久「ふふ、お互い様じゃない」
あ、そうか。やべえ完全に忘れてた
久「ええ、おしゃれなとこでしょ?」
蒲原「わ、ワハハ・・・なんか私には似合わないなー」
久「・・・あなた、見かけによらず案外ネガティブなのね」
蒲原「え・・・?」
久「いい? そういうこと頭で考えちゃうから、そう見えちゃうのよ」カランカラン
蒲原「・・・」
いらっしゃいませー
久「何事もポジティブに考えなきゃ人生損よ?」
蒲原「・・・」
久「・・・」
久「・・・ええ、ありがとう」
久「なに暗い顔してるのよ。ほら、笑顔笑顔」
蒲原「・・・え、がお・・・?」
久「そうよ。あなたの一番の取り柄じゃないの?」
蒲原「取り柄だなんて・・・そんな大それたもんじゃ・・・」
久「でも、前に会ったときのあなたはもっと楽しそうに笑ってたわよ?」
蒲原「・・・」
久「・・・なんかあったんでしょ? よければ話を聞かせて?」
久「あらそんなことないわよ」
蒲原「いやいい奴だよ・・・」
久「・・・」
蒲原「じゃあ、ちょっと話聞いてくれる・・・?」
久「焦らなくていいわよ。まずは注文を決めちゃいましょう。あのすみませーん」
「はい、ご注文お決まりでしょうか?」
蒲原「えっと、じゃあ私は・・・このレモンティーで」
久「私はアイスコーヒーで」
「ご注文ありがとうございます。ごゆっくりどうぞ」
久「ありがとう」
蒲原「ワハハ、どうも」
久「・・・」カランコロン
蒲原「・・・」チュー
久「それじゃ、話してくれる・・・?」
蒲原「ぷはっ・・・うん・・・」
蒲原「えっとどっから話そうかな・・・」
――――――――――――
――――――――
---------
ガチャリ
蒲原「ワハハー、今日もあっついなー」
睦月「あ、先輩・・・」
蒲原「よーっす、ってあれ・・・むっきーだけか?」
睦月「・・・ええ」
蒲原「ん? どうしたんだー、そんな暗い顔してー」
睦月「・・・」
蒲原「ワハハー、ほれほれー」グリグリ
睦月「・・・や、やめてください・・・っ」
蒲原「・・・あ、ごめん」
蒲原「・・・わ、ワハハー・・・」
蒲原(むっきー機嫌悪いのかな・・・って)
蒲原「あ、もしかしてあの日かー? ワハハ、それじゃ機嫌が悪いのもしょうがn」
睦月「ちょっと黙ってください・・・っ!!」
蒲原「・・・!?」ビクッ
睦月「・・・先輩は気楽でいいですよね・・・」
蒲原「え・・・」
蒲原「む、むっきー・・・何があったのさ」
蒲原「え・・・何を?」
睦月「佳織さん、もう麻雀部辞めたんですよ」
蒲原「え・・・な、なんで・・・」
睦月「蒲原先輩が引退して、もう部にいる理由がなくなったから、だそうです」
蒲原「え・・・い、意味わかんないよ・・・え・・・?」
睦月「元々あの人は先輩に無理やり部に加入させられたようなものでしたからね・・・」
蒲原「む、無理やりだなんて・・・一応かおりんの許可はとったよ・・・っ!?」
睦月「・・・先輩もわからない人ですね。年上の幼馴染からの頼みを、そう簡単に断ることができると思いますか・・・?」
睦月「まぁ佳織さんも内心辛かったと思いますよ。やりたくもない活動に半強制的に参加させられて」
蒲原「・・・か、佳織はそんな子じゃ・・・」
睦月「退部の旨をあなたに知らせなかったことが何よりの証拠です」
睦月「まぁ先輩はもうすでに麻雀部の部員ではないのですから、その義理もないのでしょうが」
蒲原「・・・か、佳織・・・」
睦月「それとですね・・・」
ガチャ
加治木「お、睦月に・・・蒲原じゃないか! 久しぶりだな!」
蒲原「あ・・・ゆみちん」
睦月「・・・」
蒲原「ゆ、ゆみちんはさ・・・知ってたの? 佳織が部を辞めたこと・・・」
加治木「えっと・・・まぁ、そりゃあな・・・」
蒲原「・・・」
加治木「まぁでも仕方ないじゃないか! 妹尾にだって色々と都合はあるんだ」
加治木「むしろ彼女のおかげで県予選に参加できたことだけでも幸運だったと思うべきだ! うん!」
睦月「・・・よくもそんなことを抜け抜けと・・・」
加治木「・・・? 睦月?」
睦月「あなた、仮にも先日までこの部をまとめてきた責任者でしょう!? なのによくもそんな軽々しいこと言えますねッ!?」
蒲原「む、睦月・・・?」
加治木「い、いや・・・私も残念だとは思っているさ。だが仕方のないことじゃないか・・・? なぁ蒲原?」
蒲原「えっと・・・その・・・」
睦月「それが無責任だって言ってるんですよ!! やることだけやって満足したら、あとは部のことは私に全部押し付けてポイですか!?」
睦月「いい加減にしろってんですよ・・・ッ!!」
蒲原「む、むっきー・・・」
蒲原(このことが、むっきーを悩ませてたのか・・・)
蒲原(そして、その原因は私たち・・・?)
「・・・そこまでにしてくれないっすかね? むっちゃん先輩・・・」
睦月「その声は・・・東横さんですか」
桃子「はいっす。話はさっきから聞かせてもらってたっすよ」
桃子「・・・よくも加治木先輩にあられもない暴言を吐きたててくれたっすね」
睦月「だって本当のことでしょうが・・・」
桃子「むっちゃん先輩・・・あなたのやってることは子供の駄々と一緒っすよ」
睦月「・・・ッ!!」ダンッ
睦月「それをあんたに言われたくない・・・っ!!」
睦月「何でもかんでも部長に頼ってればいいと思ってるの・・・?」フルフル
睦月「甘えんなッ!! そもそもあんた、先輩方が引退した後は部の活動にまったく参加してないじゃない!!」
睦月「たまに部室に来たと思ったら、そこの無責任女とイチャイチャしてるばっかで!!」
桃子「・・・」
桃子「むっちゃん先輩・・・加治木先輩のこと、これ以上侮辱したらモモが許さないっすよ」
睦月「なに? やろうっての?」
蒲原「お、おい・・・二人とも・・・」
加治木「・・・」
蒲原(な、なんでゆみちんも見てるだけなんだよ・・・!?)
睦月「こっちはあんたらのせいで毎日毎日ストレス溜めこんでんだよ・・・ッ!!」
桃子「自分の器量のなさを、他人のせいにしないで欲しいっすね」
睦月「うるさい黙れ・・・それもこれも全部・・・」
睦月「お前と・・・ッ、その、クソ女のせいだって言ってんでしょ・・・ッ!!?」
桃子「・・・ッ!!」
ボカッ
睦月「ぐっ・・・ッ!!」
桃子「はぁ・・・はぁ・・・てめえ、先輩を侮辱すんなっす!!」
桃子「は、離せっす!!」ジタバタ
睦月「・・・はぁ・・・はぁ・・・お前、」
睦月「前々から気に食わなかったんだよ・・・ッ!!」
バスッ
桃子「うっ・・・ッ!!」
加治木「も、モモ・・・っ!!」
蒲原「も、モモ・・・ッ!!」
桃子「・・・ッ!!」バシンッ
蒲原「痛っ・・・!」
桃子「あんたもあの女の味方なんすか、蒲原先輩!!?」
蒲原(・・・二人にこんなことして欲しくないだけなんだ・・・ッ)
蒲原(なんて・・・言えるのか? 言う資格があるのか? 私に・・・私なんかに・・・)
桃子「もう我慢ならないっす。こんなクソみたいな部活、辞めてやるっすッ!!」
睦月「勝手にしろ!! 二度と部室に足を踏み入れるな!!」
睦月「あんたらもですよ・・・先輩たち・・・ッ」
加治木「・・・」
蒲原「そ、そんな・・・」
桃子「・・・先輩、行きましょうっす」
加治木「・・・ああ」
バタンッ!!
蒲原「・・・」
睦月「・・・はぁ・・・はぁ・・・」
睦月「・・・」
蒲原「ご、ごめんな・・・私が不甲斐ないばかりに・・・っ」
睦月「・・・」
蒲原「私が・・・っ、部長として、み・・・みんなを統率してやれなかった・・・っ」ポロポロ
睦月「・・・」
蒲原「そのことが原因で・・・っ・・・むっきーにすごく迷惑かけて・・・っ」ポロポロ
蒲原「ほんとに・・・ごめん・・・っ、ご、ごめんなさい・・・ううっ・・・」ポロポロ
睦月「・・・ってください」
蒲原「・・・え?」
睦月「出てってください。もう二度とその顔見たくありません」
蒲原「・・・ぁ」ポロポロ
蒲原『みんなは実際の距離も、心も離れ離れになってしまった』
蒲原『それもこれも、すべて私のせい』
蒲原『私が・・・』
蒲原『・・・』
蒲原『』
――――――――
―――――――――――――
久「・・・」
蒲原「とまぁ、そういうわけなんだ。笑えちゃうだろー」ワハハ
久「・・・あなた、泣いてるわよ」
蒲原「え・・・う、嘘だよ・・・な、泣いてなんか・・・」
久「・・・心がね、泣いてるのよ」
蒲原「・・・っ」
蒲原「・・・ワハハ・・・私は自業自得だよ・・・」
蒲原「むっきーたちの方が・・・よっぽど辛い思いをしているはずなんだ・・・」
蒲原「・・・」
久「・・・もう、自分を責めるのはやめなさい」ギュ
久「あなただって十分辛い思いをしてきたわ・・・もう我慢しなくていいの」
蒲原「・・・ぁ」
蒲原「・・・うぐっ・・・えっぐ・・・うわぁああああああああああん!!!」ポロポロ
久「あ、ごめんなさい。もう出るわ」
「あ、恐れ入ります・・・」ペコペコ
久「蒲原さん、とりあえずここを出ましょう。立てる?」
蒲原「・・・ひっく・・・っ」コクッ
久「いい子ね・・・はい、お代ここに置いとくわね」
「あ、ありがとうございます」
カランコロン
久「もう、日も沈むわね・・・」
蒲原「・・・」グスン
久「もう泣かないの」ヨシヨシ
蒲原「や・・・やめてっ・・・」
久「・・・」
蒲原「や、優しくされちゃうと・・・余計涙が出ちゃう・・・っ」グスン
久「・・・ごめんなさい」
蒲原「・・・っく・・・うぅ・・・」
久「とりあえず、あのベンチに座りましょう」
蒲原「うん・・・ありがとう」
久「私は何もしてないわよ」
蒲原「・・・っ・・・ふふ・・・」
久「? 何がおかしいの?」
蒲原「それ・・・口癖なのか? 『なにもしてない』っての」
久「そうみたいね。けど本当に何もしてないんだもの」
蒲原「ふふ・・・なんだそれ・・・」
久「・・・やっと笑ってくれたわね」
蒲原「・・・え?」
久「今日初めての、あなたのほんとの笑顔。とってもかわいいわよ」ニコッ
久「久でいいわよ」
蒲原「・・・うん、久」
蒲原「・・・こんなこと話せるの、誰もいなかったから・・・」
蒲原「なんか胸の奥が・・・ちょっとすっきりした気がする・・・」
蒲原「ありがとう」
久「・・・」
蒲原「・・・それじゃわたしもう帰るよ」
久「・・・待って、智美」
蒲原「・・・さ、智美?」
蒲原「え・・・うん、そりゃいいけど・・・」
蒲原「まだ私に何か・・・」
久「あなた・・・これからどうするつもりなの?」
蒲原「・・・」
久「鶴賀の麻雀部のことは、諦めるつもり・・・?」
蒲原「だって・・・どうしようもないよ・・・」
久「・・・私は二度同じことは言わないわ」
蒲原「え・・・?」
蒲原「・・・」
蒲原(あ・・・)
久『いい? そういうこと頭で考えちゃうから、そう見えちゃうのよ』
蒲原(そうだ・・・)
久『何事もポジティブに考えなきゃ人生損よ?』
蒲原(私は何をしてたんだ・・・私は、私は・・・)
久「ふふ・・・ようやく気付いたみたいね」
久「さて、聞きましょうか・・・智美、あなたの望みは?」
蒲原「わ、私は・・・」
蒲原「・・・」グッ
蒲原「私は、また鶴賀のみんなで麻雀がしたい・・・っ!!」
蒲原「・・・」
蒲原(そうだ、なにを諦めてんだよ私・・・ッ)
蒲原(私にとっての麻雀部ってなんだ? こんな簡単に諦めてしまえるほどのもんだったのか?)
蒲原(違うだろう・・・ッ、鶴賀の麻雀部は私の居場所だ・・・! そしてその部員は、私の大切な仲間だ・・・!!)
蒲原(壊れかけてしまった麻雀部の絆・・・それに僅かでも責任を感じているのなら)
蒲原「私は・・・鶴賀麻雀部部長として、みんなのバラバラになった心を繋ぎあわせなくちゃいけない・・・っ」
久「いい顔見せるようになったじゃない」ニコリ
蒲原「・・・ありがと、久。久には助けてもらってばっかりだ」
久「別に私は何もしてないわよ」パチッ
蒲原「・・・」ニコッ
蒲原「・・・明日、みんなを部室に集めるよ」
久「私も協力するわ」
蒲原「え、いいの・・・?」
久「乗りかかった船よ」
蒲原「ありがと」
久「・・・それから?」
蒲原「うん・・・それから、集めたみんなで麻雀を打つ・・・ッ!」
久「・・・いいじゃない」
蒲原「ワハハ・・・私に思いつく手段と言ったら、やっぱりこれしかないみたいだ」
久「そういうの、嫌いじゃないわ」
久「ええ。遅れちゃダメよ?」
蒲原「・・・うん」
久「・・・智美!」
蒲原「・・・?」
久「あなたなら、きっとできるわ」
蒲原(・・・ありがとう)
――――――――――――
――――――――
---------
翌日放課後・鶴賀学園前
久「―――まずは、あなたの幼馴染の妹尾佳織さんからね」
蒲原「・・・うん」
蒲原「あっ・・・佳織だ」
久「あの子ね・・・」
蒲原「・・・」
久「私はいかない方がいいわね。二対一ってなんかフェアじゃないし」
蒲原「・・・うん」
蒲原(それに、佳織は私の幼馴染だから・・・っ)
蒲原「佳織・・・!」
蒲原「ひ、久しぶり・・・だね」
佳織「・・・」
佳織「な・・・何か用・・・?」
蒲原(明らかに怯えた態度・・・これも私が・・・)
蒲原(いや・・・今はそんなことどうだっていい!!)
蒲原「佳織・・・ほんとのこと、話してほしい」
蒲原「麻雀部には・・・やっぱり嫌々参加してたのか・・・?」
佳織「・・・」
蒲原「・・・うん」
佳織「・・・正直、いまだに麻雀のおもしろさってわかんない」
蒲原「・・・そう・・・か」
佳織「でもね? 決して嫌々やってたわけじゃないよ」
蒲原「・・・!? ほ、ほんとに・・・?」
佳織「麻雀部の人たちはみんな良い人だったし、なにより智美ちゃんは私を楽しませようと精一杯頑張ってくれてた」
蒲原「・・・じ、じゃあなんで?」
佳織「理由はさっき言ったよ。麻雀のおもしろさがわかんなかったから」
蒲原「・・・」
蒲原「そうだな・・・嫌いなものを無理やり好きになることなんてできない」
佳織「うん・・・だから、こんな中途半端な気持ちでいるんなら辞めた方がいいと思ったの」
佳織「でも智美ちゃんに言わなかったことだけは謝るわ・・・これは単なる私の逃げでしかなかったから」
蒲原「いいんだ・・・佳織は悪くない」
佳織「・・・ほんとに、いいの?」
蒲原「え・・・」
佳織「何か、私にお願いがあってきたんでしょ? それ言わなくていいの?」
佳織「・・・智美ちゃん、変わっちゃったね」
蒲原「え・・・」
佳織「前は、こっちが頼んでもいないのにずかずか私の中に入り込んできたのに」
蒲原「・・・」
佳織「・・・何かあったんでしょ?」
蒲原「・・・ワハハ、佳織には敵わないなー」
佳織「・・・話してくれる?」
蒲原「・・・わかった。話すよ」
佳織「そんな・・・ことが・・・」
蒲原「うん・・・これは、私の責任でもあるんだ。だから―――」
佳織「・・・一人で解決しようって?」
蒲原「・・・」
佳織「智美ちゃん、昔っからそうだったよね。水臭いっていうか、何でも一人で頑張ろうとして」
蒲原「・・・」
佳織「私、部に戻るかどうかは今ここでは決められない」
佳織「けど、あんなにお世話になった麻雀部をこのまま放っておくなんてできない」
蒲原「か、おり・・・」
佳織「私も一緒に行くよ。智美ちゃん」
佳織「? この方は・・・?」
蒲原「ワハハ、私の友人だ」
久「昨日なったばかりだけどね」
佳織「もしかして、あなたが・・・智美ちゃんを手助けしてくれたの?」
久「手助けっていうほどのことはしてないわ。ただちょっと背中を押してあげただけ」
久「あなたに自分ひとりで声をかけるって決めたのも、智美自身よ」
佳織「そっか・・・ありがとうございます、えっと・・・」
久「竹井久よ」
佳織「久さん」
久「気にしないで。ほら次いっちゃいましょ」
蒲原「・・・うんっ」
蒲原「・・・うん」
佳織「居場所の目星はついてるの?」
久「それなら私に心当たりがあるわ」
蒲原「え?」
----------------
佳織「この先って・・・」
蒲原「お、屋上・・・!?」
久「ええ、その二人って部室でイチャつくほど仲良しさんなんでしょ?」
佳織「ええ、まあ・・・」
久「高校生の百合カップルが放課後をどこで過ごすかなんて、私にかかれば朝飯前よ」
蒲原「わ、ワハハ・・・それはどういう・・・」
久「ほら、さっさと行ってらっしゃい。次はあんたたち二人で何とかするんでしょ?」
蒲原「本当にこんなところに・・・」
「―――先輩・・・おいしいっすか?」
「ああ・・・よくできてるよ、モモ」
佳織「この声って・・・」
蒲原「・・・うん、ゆみちんたちだ」
トコトコ
蒲原「この上みたいだ・・・」コソコソ
佳織「・・・下から呼びかけてみる?」コソコソ
蒲原「・・・そうだね」コソコソ
蒲原「・・・」ゴクリ
蒲原「わ、ワハハ・・・あのー」
「・・・ひゃっ!?」
「ど、どうしたモモ!?」
「ひ、人の声が・・・ッ!」
「な、なに・・・!?」
加治木「お、お前らは・・・」
蒲原「・・・久しぶり、ゆみちん」
佳織「・・・どうも。ご無沙汰してました、先輩」ペコリ
加治木「・・・」
桃子「せ、先輩・・・?」ピョコ
桃子「・・・」
蒲原「モモ・・・」
桃子「何しにきたんすか・・・この裏切り者!」
桃子「先輩、もうここは危険っす。どっか別の場所行きましょう・・・!」
蒲原「ま、待ってくれモモ・・・っ!!」
桃子「うっさい黙れ!! 私と先輩の時間を邪魔するなっす!!」
蒲原「は、話だけでも聞い・・・」
桃子「かえれええええええええええええええええ!!!」
佳織「東横さん・・・っ!!!!」
桃子「・・・っ!?」
蒲原「・・・佳織」
佳織「・・・」
桃子「なにしてるんすか。真っ先に麻雀部を捨てた裏切り者が」
佳織「・・・」
佳織「そのことについては否定しません。だけど、それとこれとは話が別よ」
桃子「なにが別なもんか!! 私は誑かされないぞクソメガネ!!」
加治木「モモ・・・ッ!!!」バシッ
桃子「・・・ぁ」
蒲原「ゆ・・・ゆみちん・・・」
加治木「さぁ・・・蒲原、話してくれ」
蒲原「・・・うん」
蒲原「―――だから、一緒にもう一度麻雀を打ってほしい」
加治木「・・・」
桃子「・・・話はそれだけっすか」
蒲原「・・・うん」
桃子「・・・ハァ」
桃子「・・・まったく時間の無駄だったっすね。悪いっすけど私は帰らせてもらいます・・・」
加治木「待てモモ・・・っ!」
桃子「・・・ッ!! 先輩!!」
加治木「・・・」
桃子「先輩まで私を裏切るんすか!? ずっと一緒にいてくれるって約束したじゃないっすか!!」
桃子「もういやっす・・・どうにでもなれっす・・・」
桃子「先輩も、お前らも・・・みんな死んじまえっす・・・っ!!」ダダッ
加治木「も、モモっ・・・どこに行くんだ・・・!!」
蒲原「・・・っ」
ガチャ バターン!
加治木「待て、モモ・・・っ!」タタタッ
加治木「・・・っ!? モモか!?」
久「・・・残念ながら私よ」
加治木「久・・・」
久「・・・」
加治木「モモがここを通って行っただろう・・・っ!?」
久「・・・ええ」
加治木「・・・ッ、ならなぜ引き止めてくれなかった!?」
久「・・・」
加治木「おい聞いているn」
バシンッ
加治木「・・・」
久「・・・」
加治木「・・・っ」
久「あの子に責任を負ってるのはあなたでしょ? ならあなたが引き留めにいかなければ根本的解決にはならないわ」
久「でもま、そこまで遠くには行かないと思うわ。私の勘ではね」
加治木「ほ、ほんとか・・・っ!?」
久「あくまで勘よ。けど自信はあるわ」
加治木「そうか・・・」
久「だからまずは、あなたと東横さんのことについて、あの子たちにきっちりと説明してあげて頂戴」
加治木「・・・」
蒲原「ゆみちん・・・」
蒲原「・・・私はもう気にしてないよ、ゆみちん」
加治木「佳織にも迷惑をかけたな・・・」
佳織「いいえ。それよりも、お二方・・・特に東横さんの方はなぜ、部活に参加しなくなったんですか?」
加治木「・・・すべて、私のせいだ」
蒲原「・・・え」
加治木「モモを私に依存させてしまった。責任はすべて私にある」
久「・・・」
加治木「だが、県予選は図らずも敗退・・・更に私が引退する話が後押しになったんだろう・・・」
加治木「モモは部活よりも私と過ごす時間の方を優先したがるようになった―――」
久「なるほど・・・それであの態度か」
加治木「私の方はモモに少なからず負い目を感じていた・・・」
加治木「そしてなにより、私がいなくなったらあいつはどうなってしまうのか・・・その不安だけがどうにも拭いきれなかった」
蒲原「ゆみちん・・・」
加治木「みんな、本当にすまない。あいつも悪気があるわけじゃないんだ」
加治木「あいつだって本当は寂しいんだ。部のみんなでまた楽しく麻雀をやりたいはず。もちろん私だって・・・!」
加治木「私は今からあいつを探しに行く・・・みんな、付いてきてくれるか?」
蒲原「ワハハ・・・もちろんだよ、ゆみちん」
佳織「私たちはそのために来たんですから・・・」ニコッ
桃子(―――先輩のバカっす! もう知らないっす!!)タッタッタ
桃子「はぁ・・・はぁ・・・」
桃子「つ、疲れたっす・・・ぜぇ・・・」
桃子「ってここは・・・」
桃子(麻雀部・・・部室)
桃子「わ、私ってば、なんでこんなところにきちゃったんすか・・・」
桃子「・・・未練なんてあるわけないっす・・・だって私には加治木先輩が・・・」
「・・・っ・・・えっぐ・・・」
桃子(・・・中から誰かが泣いてる声が・・・)
桃子(・・・あれはむっちゃ・・・睦月の野郎っす・・・)
桃子(まさか、泣いてるんすか・・・?)
睦月「・・・うっぐ・・・わ、私だって好きであんなことしたわけじゃ・・・」ポロポロ
睦月「でも・・・ッ、部員も集まらないし・・・だ、誰も助けてくれないし・・・」
睦月「わ、私・・・どうしたらいいのか・・・ッ・・・ひっ・・・わからなくって・・・」
睦月「・・・ひっぐ・・・でもっ・・・一番バカなのは私だ・・・ッ」ポロポロ
睦月「口では強がって何も言わないくせに・・・ッ、いざとなったらヒステリックに喚き散らして・・・ッ」
睦月「と、東横さんの言うとおりだ・・・ッ」
睦月「・・・っ・・・えっぐ・・・」ポロポロ
睦月「なんで・・・ッ・・・なんでこんなことになっちゃうんだろ・・・っ」
睦月「うぅ・・・うわぁあああああああああああああん!!!」
桃子「・・・」
桃子(なんで胸がこんなに痛むんすか・・・)
桃子(むっちゃん先輩なんて・・・生真面目で、理屈っぽくて・・・)
桃子(話つまんないし、私と同じくらい存在感ないし、投牌するし・・・)
桃子「・・・でも」
桃子「私が一人でいるとき話しかけてくれるし、なんだかんだで頼りになるし・・・」
桃子「ぶきっちょだけど優しいし、誰よりも部のことを思ってくれて・・・」
桃子「そんなむっちゃん先輩が大好きだったのに・・・っ・・・私・・・」ポロポロ
桃子「か・・・加治木先輩のことしか目に見えてなくて・・・っ」
桃子「・・・っ・・・だ、大事なものを見失ってたっす・・・」
睦月「・・・と、東横さん・・・?」
桃子「わ、私が見えるっすか・・・? むっちゃん先輩・・・」ポロポロ
睦月「・・・っ・・・うん、見えるよ・・・モモの顔・・・」ポロポロ
桃子・睦月「うっ・・・うわぁぁあああああああああああああああああああああああん!!!」ダキッ
加治木「なぜ部室にいると・・・?」
久「頭では忘れようとしてても、体は覚えてるものなのよ」
久(自分の一番安心できる場所ってのはね・・・)フフ
ガチャ
加治木「モモ・・・っ!?」
桃子「・・・ひっく・・・か、加治木先輩・・・?」
睦月「み・・・みんな・・・」
久「智美・・・どうやら、すべてうまくいったみたいよ」コソッ
蒲原「・・・っ」
佳織「智美ちゃん・・・よく頑張ったね・・・偉いよ・・・」ダキッ
蒲原「・・・えっく・・・」
蒲原「んっ・・・うぐぅ・・・」ポロポロ
久「ほら智美、なに泣いてんの」
久「・・・笑わなきゃ。笑ってみんなに言うことがあるんでしょ?」
蒲原「・・・ん」ゴシゴシ
佳織(智美ちゃん、ファイトだよ・・・!)
蒲原「・・・」
蒲原「わ、ワハハ! みんな、麻雀でも打たないかー!?」
「「「「「「「・・・うんっ!!」」」」」」」
久(ふふっ・・・)
fin
即興にしてはかなりまとまりよく書けた方かな
度々休憩はさんですまんね。体力不足だわ
とりあえず最近の風潮から脱却させる意味でもワハハを幸せにしたかった
お前らワハハいじめはほどほどにな!
おつおつ
Entry ⇒ 2012.06.22 | Category ⇒ 咲-Saki-SS | Comments (0) | Trackbacks (0)
玄「う……うわあああああっ!!」ガチャガチャガチャ
煌「いくら負けてるからって……
していいことと悪いことがありますよ」
照「……」
玄「はあっ、はあっ、はあ……」
『あまりに負け過ぎてて正気を保てなくなったんでしょうか……しかしこれは試合妨害ですよ』
憧「玄……なにやってんのよ」
灼「これじゃ私達が反則負けになっちゃうんじゃ」
宥「玄ちゃん……」
ジャージ「ど、どうなっちゃうの?」
赤土「大会運営側の裁量に委ねるしかないわね」
『おっと、この局の最初からやり直すようです』
『松実選手には厳重注意がなされましたが、次に同じことをやるとさすがに失格でしょうね』
『では試合再開です』
怜(最強の高校生を相手にしてるわけやし、
まあ気持ちは分からんでもないけど……)
煌(このメンタルの弱さは致命的ですね)
玄「…………」
煌「ちょっと、次あなたの番ですよ」
玄「は、はいっ! えっと、えっと……」
玄「はあ、はあ、はあ……」
玄「ううう……」スッ
照「ロン」
玄「は、はいぃっ!」
怜(容赦無いなあチャンピオン……でも安い手で上がった)
煌(試合がやり直しになったから連続和了もリセットですか。
これはちょっと嬉しい誤算ですね)
玄「はあ、はあ……」
阿知賀が作ってくれた、白糸台との差を縮めるチャンス)
怜(一巡先を呼んで、一気に攻める)
キュイイイイイイイイイイイン
照『カン』
煌『リーチ!』
玄『う、うう……』
照『ロン』
玄『う……うわあああああっ!!』ガチャガチャガチャ
怜「またかよ!!」
煌「ど、どうしました? いきなり大声を上げて」
怜「あ、いや……なんでもあらへん」
怜(次に阿知賀の番が回ってきた時、またさっきと同じことをする……
そうなったら今度こそ阿知賀は退場や)
怜(そうなったらこの3人だけで打つことになるんやろうけど……
私は3人でやるんはめっぽう苦手やからな)
怜(なんとか阿知賀をおさえんと……)
そのせいで精神状態はズタボロや)
怜(心の安定を取り戻すには和了らせてあげんとあかん)
怜(でも私の手牌には阿知賀に振り込めそうな牌があらへん)
怜(ここはさっき協力して白糸台の連続和了を途絶えさせた時みたいに、
新道寺の協力を得たほうがええな)
怜「……」チラッチラッ
煌「?」
怜「……」チラッ……チラッチラッ
煌「どうしたんですか、あなたの番ですけど」
怜(ちっ、全然通じひん……)
怜(このままやと次の阿知賀の番が来た時この試合は……)
照「カン」
煌「リーチ!」
怜(まずいな……)
照「ロン」
玄「う……うわあああああっ!!」
煌「!?」
怜「こうなったら力ずくで止めるで!」
照「それには及ばん」ガッ
玄「うぐっ!?」
照「お前がやってるのは麻雀への冒涜だ……これ以上狼藉を働くなら……」ギリギリ
玄「うぐぐぐ……ぐうう……」
煌「ま、まあそのへんで……阿知賀の人だって悪気があるわけじゃ」
照「…………」パッ
玄「はあ、はあ、はあ……お姉ちゃあん……」
煌「まったく……はらはらさせてくれますね」
怜(そうや……別に和了らへんかっても、
誰か親しい人がそばに付いてたら心の支えになるな)
間一髪宮永照におさえられたぞー!』
『彼女は阿知賀の時限爆弾ですね』
『さあ、試合続行……おっと、タイムがかかったようです』
憧「ああもう、見ててドキドキするよ」
灼「このままじゃまたいつ暴走するか……」
赤土「ったく、あんなにメンタルが弱かったとはな……
ちょっと負けたくらいで心神喪失してしまうなんて」
宥「玄ちゃん……」
ジャージ「ど、どうなっちゃうの?」
コンコン
憧「あれ、誰かきた」
ガチャ
「運営本部の者ですが、松実宥さんいらっしゃいますか」
宥「はい、ここに……なんでしょう?」
「松実玄さんの精神状態がちょっとアレなので、会いに行ってあげて欲しいと……」
宥「あ、はい……」
ジャージ「そうだ、どうせならみんなで行こうよ!」
赤土「そうだな、そのほうが玄の励ましになるだろ」
灼「いや……宥さん一人だけのほうがいいんじゃ」
ジャージ「なにいってんの、一人より二人、二人より4人!」
赤土「そして、4人よりたくさんの方がいいに決まってる」
ジャージ「いくよ、灼さん、宥さん」
灼「ちょ、ちょっと!」
赤土「さあ、みんなで玄を励ましに行こう!」
宥「ま、待ってえ~……」
憧「大会終わったら退部しよう」
玄「あ、お、お姉ちゃん……」
怜(松実玄のお姉さん……ちゃんと来てくれたみたいやな)
煌(心が折れそうな時に大切なのは人に支えてもらうこと……
これで阿知賀の人も落ち着くでしょう。すばらですっ)
照(咲に会いたいなあ)
玄「お姉ちゃ……あれ、みんなも……」
宥「玄ちゃん、つらいかもしれないけど……くじけないでね。
いっぱい点取られちゃっても、みんなで頑張って取り返すから」
玄「ありがとうお姉ちゃん……」
しずの「そうですよ、決勝にいけるかどうかの瀬戸際なんで、
みんな頑張りますから!」
赤土「うむ、私たちは奈良県140万の県民の代表だからな。
それだけの期待を背負ってここに来てるんだ、負ける訳にはいかないな」
玄「…………」ガクガク
灼「あー……まあ、リラックスして打ってね……」
怜(なんか余計プレッシャーかかってへんか……)
玄「…………」ガクガク
煌(さっきより酷くなってる気が……)
怜(不安やな……もう1回、1巡先まで見とくか)
キュイイイイイイイイイイイン
照「ロン」
玄「うううううおああああああああ!!!」ドンガラガッチャーン
煌「ぎゃああ!」バタッ
怜「あかんわこれ……」
煌「どうしました?」
怜「いや、なんでもあらへん……」
怜(どうしたらええんや……このままやとまた……
今度も和了らせてあげることもできへんし……)
怜(松実玄の破壊衝動を抑えるにはもう手はない……)
怜(いや……おさえこまんでもええ……。
発散させたら、それでええんやないか!)
玄「はっ……はいっ!」ビクゥ
怜「あんたの気持ちはよう分かるで……
ほんまに強い人と打ったら、心が折れてしまいそうになる。
今のアンタみたいにな」
玄「は、はひ……」
怜「もう打つのが嫌になって、現実を認めたくなくて、
雀卓をめちゃくちゃにしたくなるのも、仕方ないかもしれへん……
でも今は全国大会の準決勝、誰にとっても大事な試合や……
そんな子供みたいな真似は許されへんのや」
玄「……」
怜「せやから、今度、雀卓をめちゃくちゃにしたくなったときは」
玄「……」
怜「代わりに私をめちゃくちゃにしなさい」
玄「は?」
煌「すばらです」
照「…………」
これはいかんなぁ
玄「つまり、あなたに八つ当たりしろってことですか」
怜「せやな」
玄「お気持ちは嬉しいですけど……
ほんとにいいんですか? そんなこと……」
怜「かまへんって。なっ、新道寺の」
煌「はい?」
怜「あんたも協力してくれるやろ?」
煌「えっ……」
玄「…………」
煌「す……すばらです」
怜「よし、これで決まりやな」
玄「すみません……私が弱いせいで」
怜「ええよ、また今度雀卓ぐちゃぐちゃにしたら、アンタ退場やしな……
一緒に戦ってる者として、そんなふうに勝負が終わるんは不本意やから」
玄「千里山さん……」グスッ
怜(次に阿知賀の順番が回ってきた時、阿知賀は白糸台に振り込む)
怜(そうなったら阿知賀はまた発狂や)
照「…………」スッ
煌「えいっ」スッ
玄「…………」スッ
照「ロン」
玄「うっ……はい……」
怜(あれ? 大丈夫や……)
怜(そうか、さっき私達が阿知賀の人に助け舟を出したお陰で、
阿知賀の人の気持ちを落ち着かせられたんやな)
煌(追い詰められていると平静を失って暴挙に出る……
でも後ろで支えてくれる人がいれば安心できる。すばらです)
照(チッ、つまらんな……)
バンッ
竜華「ときいいいいいいいいいいいいい!」
竜華「阿知賀の松実玄!控え室で聞いてたで、
怜をめちゃくちゃにするとか、やっていいと思てるんか!」
玄「ひい!?」
竜華「自分のハートが弱いのを棚に上げて
他人に甘えてばっかりいたらアカンでえ!」
玄「ひ、ひいい!」
竜華「おんどれウチの怜に手出しよったら承知せんぞ!
耳ん中に指突っ込んで奥歯ガタガタ言わせたるさかいのう!
覚悟しときや!」
玄「う、ううう……」
怜「りゅ、りゅーか……」
竜華「はっ…………もう大丈夫やで、怜ぃ~。
怜はウチがしっかり守ったげるからな~。ほな、ウチ戻るから」
怜「う、うん……」
玄「あ、ああああ……」ガクガクガク
煌(またなんか変なことに……)
また対策を練り直さんと……どうしたらええんや)
玄「…………」ガクガク
煌「ねえ、もういいんじゃありません?」
怜「えっ?」
煌「あなた、考えてるんでしょう?
阿知賀の人が雀卓をかき回して試合が無効になるのを防ぐ方法」
怜「そやけど……」
煌「そうまでして阿知賀の人を守る必要があります?
こんな精神状態で試合を続けてもアレですし……
いっそもう一度雀卓をぐちゃぐちゃにして、さっさと退場してもらったほうが。
ねえ宮永さん」
照「すばらだな」
怜(うっ……こいつらグルに……)
煌(千里山はこのまま阿知賀に退場されてもデメリットは皆無……
なら何故かたくなに阿知賀を救おうとするのか?
理由はひとつ……3人での試合を恐れているんですね)
玄「…………」
そんで思惑通り阿知賀がキレたらそれでおしまいや)
怜(なんとかして止めなアカン!
私にはそれが出来る、一巡先を読むことで……!)
キュイイイイイイイイイイイン
照『ロン!こくしむそ……』
玄『うわあああああ!!うわあああああ!!』ガシャーンバキーンドンガチャーン
照『ぐっ……ううっ』バタッ
怜(!! 阿知賀は次に白糸台に振り込む……
そしてぶち切れて大暴れして……宮永照が倒れる!?)
怜(そうなったら阿知賀と白糸台はこの試合からサヨナラ……
残りの相手は新道寺だけ! 有利……圧倒的有利!)
怜(でも……ほんまにそれでええんか?
人一人を犠牲にして勝ち進んで……それは許されるんか?)
怜(宮永照の和了り牌は私の手元にもある!
ここでこれを振り込めば阿知賀がキレるのも防げる、宮永照も助かる)
怜(でも国士無双なんか食らったら……私らの負けは確定的や)
怜(どうしたらええんや……!)
みんなの期待を背負ってるんや)
怜(だから甘いことは言ってられへん……
白糸台に振り込む必要なんかこれっぽっちもあらへんのや)
怜(でも……誰かが傷つくって分かってて、それを見て見ぬふりするのは……
ほんまにええんか? それでええんか?
……私は、千里山は、こんな勝ち方で……)
怜(雀士としてだけやなく……人としてアカンのやないんか……?)
怜(これは全国大会の準決勝や……
みんなこの時のために頑張ってきたんや……
ここまできて負けるなんてことになったら、それこそ……)
怜(でも、こんな勝ち方は卑怯やないんか……)
怜(私は……)
怜「…………」スッ
照「ロン。国士無双」
怜「はい」
怜(そうや、これで良かったんや……)
玄「…………」
――――
――――――
『準決勝先鋒戦終了ー! やはり白糸台の一人勝ちー!』
『千里山は後半で白糸台に何度も振り込んでいましたね。
そしてメンタルの脆さが危惧されていた阿知賀の松実玄は最後までおとなしくしてました』
怜「終わってしもたな」
煌「すばらでした」
玄「すみません、千里山の人」
怜「何が?」
玄「私のために、わざと白糸台に何度も振り込んで……」
怜「アンタのためだけやあらへん……
それにどっちにせよまだ千里山は2位やしな」
玄「はい……」
怜「もう、ええで」
玄「え?」
怜「雀卓ぐちゃぐちゃにしても」
怜「そっか。ほな控え室戻るわ」
玄「はい、お疲れ様でした」
怜「うん、また機会があったら打とうな」
煌「その時はぜひ私も呼んでくださいな。
普通の状態の松実さんと、ガチで打ってみたいですし」
玄「はい、そのときはよろしくお願いします」
怜「それじゃ、また」
煌「さてと、私もみんなに怒られに戻りますかね」
宥「玄ちゃ~ん」
玄「あっ、お姉ちゃん!」
宥「みんな待ってるよ、控え室戻ろう」
玄「うん!」
照「…………」
照「…………」
照「…………」
照「…………」
照「…………」
照「う……うわあああああっ!!」ガチャガチャガチャ
照「フフッ」
照「もう一回……」
白糸台控え室
菫「何やってんだアイツ……
まだカメラ回ってるのに……」
淡「…………」
おわり
面白かった乙
またSSかいてね!
乙
おつおつ
乙
Entry ⇒ 2012.06.21 | Category ⇒ 咲-Saki-SS | Comments (0) | Trackbacks (0)
竜華「あかん、パンツ履き忘れてもーた……」
|| |
|| ┼ヽ -|r‐、. レ | |
|| d⌒) ./| _ノ __ノ |
|l -――- . |
'"´: : : : : : : : :`丶 |
':.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:ヽ. _____|
/.::.::./.::.::.::.:j.::.::.:|.:ム;ヘ.::.:ハ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
,'.::.::.::i.::.::.::.:/|.::.:: l/ `|.::./7
:.::.::.::j:|.:!.:_:/´|_.::_」 くV <|
|:ハ_::_ル'´ /⌒丶 j//V|
|:::::::::i x==ミ _ 〈/.:|.::|
|:::::::::i:'" ´ ゙̄Y}!.::.l.::|
八:::::::圦 、' _ "/_ノ.::,'.::j
/⌒ヽ::::ト{\ _,.ィ__/.::/l:./
/ 丶∧::| 丶 `ニ´ 彡// :厶|∧
{/ 丶ヘ| ノ / |:/ (こ ハ
/ }ヽ、 ∧ / 'x┴〈 }_ゝ、
/ \∨ ∨ / ニⅣ } )
〈 _ノ∧ 厶=7 ,.-、) 人ノ
}⌒ヽ `<__,>イ |__ノ| |/∨
/ ヘ / │ 丶ノ.| | \
/ ヽ \__/ | | ノ
/ >'"⌒\ 〃⌒\| ト、__/
| / V ヽ| │
じょ、じょーだんやって!
帰らんといてーな!
みんなちょっと待ってーな
竜華「……なんか、スースーするなあ」ソワソワ
竜華「……あ、あれ?」
竜華「……どないしよ」
竜華「パンツ、履き忘れてもーた……?」
竜華(お、落ち着くんやで竜華、これは夢。錯覚か何かや……。まさか高校生にもなってパンツを履き忘れるなんて……)ドキドキ
竜華(…………)スースー
竜華(……あかん、ガチやん)
竜華「ひゃっ!? な、なんや怜かあ」
怜「えらい顔赤いけど、どないしたん? まさか……」
竜華「ま、まさか……?」
怜「竜華もわたしみたいに病弱になったんか?」クスクス
竜華「ち、違うわ~。何だか暑くってなあ~」
竜華(あかん。流石に怜にも言えるはずない……。こんなこと)カアア
キーンコーン、カーンコーン
怜「あ、予鈴なった」
怜「それじゃ、竜華、また後でなー」
竜華「……」ノシ
竜華(とりあえず、SHRが終わるまで我慢やな……)
――――
――
竜華「なんでよりによって……」ガクリ
怜「はあ、竜華。今日は大変やなあ」トコトコ
竜華「そ、そやなあ怜……」
怜「まさか、1限から5限まで小テストあるなんてなー。ほんまつらいわ」
竜華「ま、まったくやなあ……」
竜華(これじゃ早退しようにも出来ひん。でもこのまま過ごすのも……)
怜「……? 竜華、どしたんそんな難しい顔して」キョトン
竜華「ひぇ!? な、なんでもない。うん」
怜「そか。ほな、わたしはテスト範囲復習しておくなー」
竜華(何とか、一日乗り切るしかない)
竜華「パンツが無くたって、恥ずかしくない、恥ずかしくないんや……」ブツブツ
竜華「今日一日、なるべく席を立たなければええ……それだけのことや」キッ
――――
――
2限目/数学
教師「はーい、それじゃ、後ろの人は解答用紙集めてきてねー」
ざわざわ、がやがや
竜華「ふう……あまり集中できんかったなあ」
竜華(当然やなあ。こんな恥ずかしい状況で……)
女子A「竜華ー。早く回収してよー」
女子B「どしたん? 具合でも悪いん?」
竜華「んー?」
竜華(あ、ウチ一番後ろの席やから、用紙集めんといけないんや)
竜華(ま、まあ少しくらい立っても問題ないやろ)
竜華「ご、ごめんなー。今集める」ガタッ
風「ビュオオオオオオオオオオ」
竜華「ひやああああああ!?」バッ
女子B「うわっ。今日風強いなあ~」
女子A「そやなあ。窓、閉めた方がよさそうやっ、……って」
女子A「竜華、どないしたん?」キョトン
女子B「はやくはやくー」
竜華「な、なんでもないわ……それじゃ、集めるでー」カアア
竜華(あ、危ないところやった……。今日に限って、厄介な風やなあ)
怜「…………?」ジーッ
――――
――
いなかったとしても登下校時に駅の階段とかで男に覗かれるかもしれないじゃん
つまりめっちゃ興奮してきた
4限目/英語/12:00
教師「おっけー、解答用紙は全部集まったわねー」パンパン
教師「次の授業までに採点はしておくってことで……」チラリ
セーラ「せんせええ~! 今日は早めに終わろー」
教師「えー? まだ時間残ってるじゃない」
セーラ「細かいこと気にしてると、またシワが増えるでー」
教師「むかっ。あ、そういえば先週宿題だしてたんだったー」
怜「あーあ、セーラが余計なこと言わんでいれば気づかんかったのに」
セーラ「はああ、腹減ったなああ」
竜華(やば……お手洗い行きたくなってきた……)モゾモゾ
竜華(でも、あと数分の辛抱や……。じっとしればええねん)
教師「それじゃ、Unit12の和訳部分、黒板に書いていってねー」
教師「じゃあ、セーラが私をいじめた罰として、麻雀部には連帯責任を負ってもらいまーす」
竜華(え!? まさか……)
教師「1番がセーラ、2番が園城寺さん、3番が清水谷さん。はい、さっさと書く」
セーラ「そんなああ~……」ガックリ
怜「なんや、私とばっちりやん」
セーラ「なあトキい、答え教えてーな」
怜「まったく、セーラは仕方ないんやから……って、教えるかいっ!」ズビシ
女子C「あははは。セーラは相変わらずやなー」
女子D「怜のツッコミも厳しいわー」クスクス
竜華(どないしよ……。流石に黒板の前に立つのはヤバイかも……)
セーラ「竜華! なにしてんねん、はよ答え書かんと、昼休み短なるでー」
竜華「!? い、今行くで」スタッ
竜華(うう……おトイレも我慢しとるのに……)
竜華(さっさと終わらそ……)
怜「…………」カッカッ
セーラ「むむむむ……」チラチラ
怜「なんで私のノートみるん?」
セーラ「み、見てないわっ」
竜華「…………」カッカッ
竜華(あかん……。これ、私のだけ文が量が多い)
竜華(はやく、終わらせんと……)
怜「まったく、仕方ないなあ」スッ
セーラ「流石トキ! おおきにー」カツカツカツカツ
怜「うわ、字ぃ汚な」
セーラ「別に読めればええやん。っし、終わったでー」
怜「うちも。ほな戻ろ」
セーラ「せやなー」
竜華(やばっ、一人になったら余計に目立つやん……)
怜「……?」テクテク
怜(竜華……やっぱり様子がおかしいな)
竜華「…………」カッカッカッ
竜華(ウチ、見られてる)ウルウル
竜華(クラスの皆の視線が……ウチの背中に)
竜華(も、もし皆にウチが『のーぱん』だってバレたら……)
竜華(あ、あかん。手が震えて……)ガクガク
教師「……清水谷さん? 具合悪いのかしら? なんだかすっごく顔が赤いような……」
怜「…………」ジーッ
竜華「へっ!? そ、そんなこと、ないです」モゾモゾ
竜華(も、もうあかん……)ガクガク
怜「せんせー」
教師「なに? 園城寺さん」
怜「竜華、ちょっと朝から具合悪かったんです。私、保健室に連れていっても良いですか」
竜華「……怜ぃ」
教師「そうなの? 清水谷さん」
竜華「あ、はい……実は少しだけ……」
教師「わかったわ。気を付けてね」
竜華「すみません」ペコリ
教師「あと、園城寺さんもね」
怜「はい。竜華、行こ」スッ
竜華「……あ、ありがと。な、怜ぃ」コショコショ
怜「んー?」
竜華「保健室の前に、おトイレ寄ってええ?」コソコソ
――――
――
昼休み/保健室・簡易ベッド
怜「保健室のセンセ、今お昼ご飯食べてるみたいやな」
竜華「勝手に入って、よかったんかなあ」
怜「わたし顔利くから大丈夫。それより、竜華」クルリ
竜華「……」
怜「ほんま、どないしたん? いつも私を助けてくれる竜華が、今日はえらい様子が変や」
竜華「そ、そんなことあらへんよ……」シュン
怜「嘘ついてもわかるんや。竜華、私に何か隠してるんやないか?」
竜華「ほ、ほんまに何も……」
怜「……そか。体調が悪いわけでもないんやな?」
竜華「だ、大丈夫」
怜「ふう。良かったわあ。ただでさえ私が病弱なのに、竜華まで弱くなったら、インターハイに響くからなあ」
竜華「怜ぃ……」
怜「……いつも、竜華には助けてもらてるからなあ。少しはお礼しとかんと」
怜「わたし、購買で何か買ってくるなー」
竜華「……ごめん」
怜「あはは。お互い様やん」ガラリ
竜華「……ごめんな」
竜華「こんなの、恥ずかしくって言えるはずないやん……」
竜華「嘘ついて、ごめんな。怜」
――――
――
5限目/体育・グラウンド
怜「竜華、ほんとに体育でるん? 体調はもおええの?」
竜華「だって、今日は陸上競技のテストがあるやん」テクテク
怜「そんなん、次回にしてもらえばええやん」
竜華「だ、大丈夫やって。怜は心配症やなあ」
怜「……?」
竜華(体育やったらスカートやなくってブルマやし、問題ないわ……)
竜華(も、問題なくはないか……。でも、制服で居るより遥かにマシやわ)
竜華(この時間を乗り切れば、すぐ放課後になる……)
竜華(今日は部活休ませてもらって、はよ帰ろ)
体育教師(女)「はーい。みんな集まってえ。今日は、テストをしちゃいまーすっ」
セーラ「アラフォーなのに、そのキャラはちょっとキツイわあ~」
体育教師(女)「ちょ、ちょっとセーラさん! わたし、まだアラサーだよっ!」
女子E「あははは。まだお肌ぴっちぴちだし、大丈夫よセンセ」
体育教師(女)「そ、そうかな? えへ、実は最近エステに通い始めてね?」
女子E(よし、点数稼いだ)
女子F(あ、ずるい。なら私も……)
女子F「ほんと、28歳には見えないですね~。その若さの秘訣はどんなところにあるんですかあ?」
体育教師(女)「ええっとねえ、エステはもちろんだけど、まずは食生活から……」ペラペラ
女子E「あー」
女子F「スイッチ、入っちゃったなー」
――――
――
竜華「ええっと幅跳びの次は……縄跳びかあ」
怜「竜華。1分間で何回飛べるか計測なー」ペラリ
竜華「はあ、ウチ縄跳び苦手やー」
怜「そやったん? 知らんかったわ」
セーラ「ははは。怜でも竜華について知らんことあったんかー」
怜「何言ってんのセーラ……///」
竜華「怜、準備できたでー」
怜「そか。ほないくでー」ポチッ
竜華「……!」ピョンピョン
セーラ「……? 怜、あそこに居る人たち……」ビシッ
怜「……なんやろ。近くの高校生?」キッ
セーラ「……もしかして、ノゾキ?」
――――
――
近隣男子校生A「おっほwwwあの縄跳び娘のおっぱいやべーwww」
男子校生B「うっわマジでヤバイな。めっちゃ揺れてるやん」
男子校生C「いやお前らアマイわ。隣にいる華奢な娘のブルマとお尻がだな……」
男子校生D「いやー眼福だなあ。ってか、なんで千里山女子に男がいるんだろうか?」
男子校生B「あの短髪? わかんねーけど、出来ることなら俺も混ざりてー」
男子校生A「ばっかそれは無理だって。しかし……」
男子校生A「やっぱり、おっぱいは正義やな」
男子校生B「うむ」
男子校生C「やべえマジで惚れたかも……」
男子校生D「…………うっ。ふう」
――――
――
竜華(あの人たち……何でウチらの方見てるんやろか……)ピョンピョン
竜華(もしかして、ウチ見られてるんかな……?)プルンプルン
竜華(な、なんで? 今はブルマやし『のーぱん』ってことバレるはずないのに……)ピョンピョン
竜華(あ、あかん。考えんのやめよ……恥ずかしくなってきたわ)ポヨンポヨン
怜「はい。終わりやでー」
竜華「はあ……はあ……」
セーラ「次はオレの番なー」
怜「……竜華、大丈夫?」
竜華「へっ? だ、大丈夫。心配せんでええよ。怜」
竜華「…………」チラリ
竜華(あの人たち、まだコッチ見てる……)
セーラ「そんじゃ、怜。ちゃんと数えててなー」
怜「はーい」
怜「…………」
――――
――
5限終わり/更衣室
怜「はあ……疲れたなあ竜華」ヌギヌギ
竜華「そ、そやなあ……」
竜華(またスカートかあ……。なんでウチ、こんなスカート短くしてしもーたんかなあ)ハア
竜華(短い方が可愛いかなあと思ったんやけど……)
竜華(今日ばかりは昔のウチを恨むで……)
怜「……竜華、着替えへんの?」シュルシュル
竜華「う、うん……」
竜華(どないしよ、また短いスカート履いて、もし意地悪な風が吹きでもしたら……)
怜「……竜華?」キョトン
竜華「……そ、その手があった」ポン
怜「……?」
竜華「怜! スカート交換して!」
怜「……えええ?」
竜華「せやから、ウチのスカートと、怜のスカート、交換して欲しいんや」
怜「な、なんで?」
竜華「お願い! 理由は聞かへんで、今日だけ、お願いします」
怜「ま、まあ……構わんけど……」スッ
竜華(怜のスカートやったら、ウチのより長いんやし……うん。いける)
竜華「ほんまにゴメンなー」スッ
竜華(おお、すばらしいわ……この長さ)キュッ
怜「な、なあ竜華……このスカート、短すぎるわあ」モジモジ
竜華「な、なんでー? めっちゃカワイイやん! 怜もミニスカにしたらええでー」
怜「な、なんかスースーして落ち着かへん……」
セーラ「うっわー! 怜のスカートが短くなっとるー!」
怜「ちょ、セーラ騒がんといて」ビシッ
女子G「あ、ほんとだー。めっちゃ似合うよ園城寺ちゃん」
女子H「竜華のと取替っこしたんだねー」
女子G「ホント、ときりゅーかは仲がイイわー」
怜「み、みんな……からかわんといてーな……///」
竜華(……何とか、無事に家に帰れそうやな)ホッ
――――
――
15:40/放課後・教室
セーラ「竜華ー! 怜ー! 部活行こっ」トテテ
竜華「ご、ごめん。今日はウチ、休ませてもらうわ」
怜「…………」
セーラ「やっぱ体調アカンかったん?」
竜華「そ、そやなくって……。ま、また明日!」ダッ
セーラ「あっ! 竜華……」
怜「竜華、やっぱりどっかおかしいな」
セーラ「……なんか、あったんかなあ?」
怜「…………」
セーラ「トキ?」
怜「ごめん。今日私も部活休むわ。フナQに言っといて」トテテ
セーラ「あ、ちょっ! トキ……」
セーラ「…………よーわからんけど」ポリポり
セーラ「とりあえず、部室行こかな」
――――
――
16:00/竜華・帰路
竜華「今日は飛んだ一日やったなあ……」トボトボ
竜華「まさかパンツを履き忘れるなんて……」
竜華「もうすぐ全国大会も始まるっちゅーのに、こんなドジ踏んで大丈夫かな」ハアア
竜華「麻雀部のみんなにも、明日謝らんとなあ」
竜華「ウチ、部長やし、後輩たちにも示しがつかんもん」
竜華「…………とにかく、今は無事に帰ることだけ考えよっ」
怜「…………」スタタ
怜「……思わず追いかけて来てしまった」ジーッ
怜「……だって仕方ないやん」
怜「竜華のこと、心配なんやから……」ポッ
――――
――
男子校生A「……! お、おいお前ら! あれ!」ビシッ
男子校生B「ああん? って、おっぱい娘!」
男子校生C「おい華奢な娘は一緒じゃないのか……」
男子校生D「制服姿もめちゃくちゃ可愛いじゃん」
男子校生A「なあ、ちょっと声掛けてみねーか?」
男子校生B「ま、マジで? 何て?」
男子校生A「いや、ちょっとお茶しませんかーなんつって」
男子校生C「Dはどう思う」
男子校生D「まあ、少しだけなら……」
男子校生A「よ、よし……。行くぞお前ら……」
男子校生B&C&D「「「……ごくり」」」
――――
――
男子校生A「ねえちょっと……」
竜華「……? な、なんです?」
男子校生B「あのさ、キミ千里山女子の娘だよね?
竜華「は、はい……」ドギマぎ
男子校生C「君と一緒に居た華奢な娘はどk……」ゴスッ
男子校生D「お前はちょっと黙ってれ」
竜華「……?」アセアセ
男子校生A「俺たち〇△×男子校なんだけどさ、よかったら今からどっか行かない?」
竜華「え、えええ?」
竜華(こ、これって……『ナンパ』ってやつやろか? こんなん、どう対処すればええんやろ)
男子校生B「一緒にカラオケとかさ、行こうよ。ね?」
竜華(ウチ今『ノーパン』やし……。ってそれ関係ないか。男の人に見られたらと思うと恥ずかしいっていうより怖いわ……)ブルブル
男子校生D「ね、いいっしょ? ほらほら」ガシッ
竜華「やっ、やめっ」
竜華(今手掴まれたら、あかん……!)
竜華(もし、変な風が吹いたら……)
風「待たせたな」ビュオオオオオオオオ
男子校生A「うわあっ!」
男子校生B「ほああ!?」
男子校生C「むむむっ?」
男子校生D「あべしっ!?」
竜華「ひやああああああああああん」ペタリ
男子校生A&B&C&D「「「「えっ」」」」」
竜華(……や、やばっ。もしかして、見られた?)
竜華(う、嘘……。もしかして男のひとに……ウチ……)ガクガク
男子校生A(おいB、見えたか?)
男子校生B(何がだ)
男子校生A(もちろん『パンツ』だ)
男子校生B(いんや……。Cはどうだった)
男子校生C(残念ながら……。Dは?)
男子校生D(……右に同じ……)
男子校生A「ち、ちくしょー!!」
男子校生B「お、落ち着けA! っていうか……」
竜華「ううっ……ぐすん……」
男子校生C「な、泣いて……?」
男子校生D「お、おいどうする?」
男子校生A「あ、あの……キミ、大丈b」スッ
パシイッ!!
怜「……竜華に、触らんといてくれる?」ギリッ
男子校生A「えっ……?」
男子校生B「た、確かこの娘は……」
男子校生D「体育のときに居た……」
男子校生C「ブルマが素敵な女の子!!!」
怜「……え、えと……何なん?」
竜華「と、怜……? どうして、ここに……?」
怜「竜華のこと心配やったから、つけとったんよ。そしたらこの人らに……」
竜華「そ……そか……」グスン
怜「んで……竜華に何か用ですか」クルリ
男子校生A「え、えーっと……」
男子校生B「いえ何も……」
男子校生C「むしろ僕は君に用が……」
男子校生D「バッカっ! もう行こうぜ」タタタ
男子校生A「す、すんませんでしたー」
怜「……何やったん? あの人ら?」
怜「ってか、何で泣いてんの? 竜華」スッ
竜華「う、ううう……」
怜「……とにかく、どっかで休もうか」
――――
――
16:20/公園・ベンチ
怜「竜華、少しは落ち着いた?」
竜華「うん……ごめんな、怜ぃ」グスン
怜「別にええよ。ちょっとはビックリしたけどなー」
竜華「…………」
怜「一体、どしたん? 今日の竜華、ほんまにおかしいわ」
竜華「……ウチ、今からとっても恥ずかしいこと、言うで」
怜「ん……?」
竜華「お願いやから、笑わんといてな」
怜「……うん。ちゃんと聞くで」
竜華「実は……ウチ。今日の朝……」
怜「…………」
竜華「パンツ履き忘れてもーたんや……」
怜「……?」
竜華「な、なんやその目」
怜「え、えと……私最近耳の調子も悪うなったんかなあ? もう一回言ってくれるか?」
竜華「せ、せやから! ウチ、今日の朝に!」
怜「今日の朝に?」
竜華「パンツ履くの忘れてもーたんやー!///」ガタッ
怜「な、なんやてー!!!」ズコー
竜華「おお、怜にしては珍しい大きなリアクション」
怜「ちょ、ちょっと待って……。もしかして、今日一日竜華が変やったのって、『のーぱん』やったから?」
竜華「だって、普通で居られるわけないやん……。めっちゃ恥ずかし思いして……」
竜華「なのに今日に限って小テストは重なるわ、当てられるわ、絡まれるわで……」
竜華「さっきだって、もし男の子に見られてたらと思ったら……」
怜「…………」ポカーン
竜華「……怜?」
怜「ぷっ」
怜「あははははは」
竜華「わ、笑わないって約束したやん!!」
怜「ご、ごめっ……だって、そんなことで悩んでたんかー思たら……」コホコホ
竜華「そ、そんなことー?」
怜「だってそうやろ? ええやん別に」
竜華「……怜、何言ってんの?」キョトン
怜「だって……」
竜華「……??」
怜「私も、履いてへんもん」カアア
竜華「…………!!!」
竜華「えええええーーーーーーーーー!?!?!?」
怜「まったく、竜華は時代遅れやなあ」
竜華「ちょ、ちょまっ! どゆこと?」アセアセ
怜「そもそも私らの世界で、パンツなんてもの、あってはならないんや」
竜華「セカイ? 何言ってるん怜」ポカン
怜「ま、とにかく。そんなこと気にせんでええよ」
竜華「…………??」
怜「それより、せっかく助けに行ったてゆーのに、お礼の一つもないん?」スリスリ
竜華「え? あ、ありがとな。怜。ほんま助かったで」
怜「…………」ジーッ
竜華「な、なに?」
怜「そんなんじゃ足らへん」
竜華「え……?」
怜「今日私に嘘ついたから、おしおき」スッ
竜華「……っ!」
怜「ん……」
竜華「~~~! ちょ、と、怜ぃ……」トローン
怜「竜華……もう、私に嘘、つかんでなあ」スリスリ
竜華「怜……。うん。ごめんな」
怜「ほな、今日はこのままどこか行こか」
竜華「どこかって? どこ?」
怜「竜華の部屋……行きたいな」クルリ
竜華「……ええよ。怜」
怜「…………」
竜華「…………」
怜「……なあ、手握ってもええ?///」
竜華「しょうがないなあ、怜は」ギュッ
――――
――
怜「なあ竜華」
竜華「んー?」
怜「よくよく考えたらな。今日一日スカートの下にブルマ履いて過ごせば良かったやん」
竜華「…………」
怜「…………」
竜華「う、うわあああん」タタタ
怜「……はあ」
怜「なんやねんこのオチは」ハア
ふぁん
おつおつ
また書いてくださいね
Entry ⇒ 2012.06.20 | Category ⇒ 咲-Saki-SS | Comments (0) | Trackbacks (0)
淡「あー、あついー」パタパタ
照「!!」
照(ふ、ふとももが……)
照「スカートの裾をパタパタするな」
淡「これが涼しいんですよー」パタパタ
照「暑いなら、着替えてきたら、いいだろう……」
淡「え、なんでですか」
照「い、いや……その、な」
淡「……?」
照(いえないっ…汗で制服がぴったりくっついてて、その可愛らしい水色のブラジャーが透けてるなんて……いえないー!)
照「……」
淡「丈短くしていいですか?」
照「だめだ」
淡「えー、なんでですか」
照「風紀が乱れるからな」
淡「ぶー、ちょっとくらいいいじゃないですかー」
照「だめなものはだめ」
ガサゴソ
照「……ん?」
淡「膝上20cm!」
照「」ブシャア
淡「ご、ごめんなさい…」
照「いや、いまのは私が悪い」
淡「……」
照「……」
淡「……あつい」
照「…あぁ」
淡「買い置きのアイス、ひとつしかないし…」
淡「あれ食べたら怒りますか、先輩?」
照「あぁ、あれは楽しみにしてるのでな」
淡「……そうですよね」
淡「………」
淡「あーづーいー」バタバタ
照「ど、どうすればいいの……」
淡「プールですかー……」
淡「こんな貧相な身体を晒すなんてごめんですね……」
照「う、うん?」
淡「私、Aなんですよ…はぁー」
照「そ、そう……」
淡「なので、プールは厳しいんです」
淡「……」
淡「あづー」
照「……」
照「見事に暖房しかでないからなぁ」
淡「あづーい」パタパタ
照「だから、やめなさい」
淡「ううー、あついんだからいいじゃないですかー」
照「そういう問題じゃないの」
淡「ぶーぶー」
照「まったく……」
照「夏だからな」
淡「なつなんてーどっかにいっちゃえばいいのにー」カミフワァ
照「まった、それあぶない!!それあぶないからしまって!!」
淡「うー、脱いでいいですか」
照「却下」
淡「はい……あづー」
照「……どこかに避難すればいい」
淡「外歩きたくないですー」
照「……」
照「そ、そう…」
照「お前は女の子だろう…はしたないな……」
淡「欲望には敵わないですよー」
照「やっぱり透けブラ…」
淡「にょ?何か言いました?」
照「い、いや…風でも吹いたんじゃないか?」
淡「ほんとですか!」
淡「……無風です」
照「あぁ……」
照「……ん?」
淡「裸ワイシャツって涼しそう」
照「……やるなよ?」
淡「実はカバンの中にワイシャツが」
淡「あぁ、没収しないでくださいー!」
照「こんな破壊力のあるもの…やらせるわけにはいかん」
淡「ちぇー」
淡「オレンジジュースがのみたいな」
淡「飲み物、ありませんか?」
照「たしか、切れてるはずだが…」
淡「わ、ほんとだ……なにもない…」
淡「ううー、ひからびるー」
照「たしか正面玄関に自動販売機があっただろう」
淡「わたしうごきたくないです」
照「……私もいかないぞ?」
淡「……ダメ?」
照「だめ」
照「そうだな」
淡「すこしでも風が吹けばいいんですけど…」
照「そうだな」
淡「あついあついー」パタパタ
照「……そうだな」
淡「なんですかその間は」
照「……」
淡「わすれちった」
照「……」イラッ
淡「……」パタパタ
照「……そのスカート剥ぎ取るぞ」ガシッ
淡「きゃー先輩に剥かれるー!」
照「……」
照「……」スッ
淡「なんで戻したし」
照「ただまったりしてるだけじゃないか」
淡「でもこのままぐだーっとしてたいです」
照「なんでだ?」
淡「動くのヤダ」
照「……」
照「揉んでくればいいじゃないか」
淡「あんなの媚売ってるだけじゃないですか」
照「おいまて、それ以上は」
淡「はい」
照「はいじゃないが」
淡「……」
照「……」
照「……はい」
淡「なにやるんですか?」
照「ここには雀卓と雀牌があるだろう?」
淡「あぁ、そういえばそうでした」
照「席についたか」
淡「うい……」グデー
照「よし、じゃあやるぞ」キュキュキュ
淡「……先輩」
照「ん、なんだ?」キュキュキュ
淡「熱風が顔に当たるんでやめましょう」
照「……グスン」
淡「風、吹きませんねー」
照「あればだいぶ変わるんだがな…」
淡「あかん、うちしんでしまいそうだわ、病弱やし」
照「他人のネタパクらない」
淡「はーい」
照「で、できるかと聞かれたら、できると答えるが…」
淡「やってみてください」
照「腕が壊れるかもしれないんだ」
淡「ごめんなさいやらないでください」
照「え、と…結構無意識に出来ちゃうからなんとも言えないけど、こう、腕を小刻みに震えさせる」
照「だんだん周りの空気を取り込んで……」
淡「はたからみたら精神異常者かなにかキメてる人ですね」
照「言わないでくれ……」
照「やればできるじゃないか」
淡「でもめんどくさいです」
照「……」
淡「もういいや」
照「……」
照「グスン…」
照「……あぁ」
淡「暇です」
照「寝ればいいんじゃないか?」
淡「先輩が暇になっちゃいます」
照「……本がある」
淡「……」ムスッ
照「あぁ、おやすみ」
淡「いいんですか?寝ちゃいますよ?」
照「あぁ」
淡「おやすみなさいっ」
照「おやすみ」
淡「……」
淡(寝たふり寝たふり……)
照「……」ペラッ
淡「……」
照「……」ペラッ
淡「ううー……」
淡「あつくるしくてねれないー……」
照「おはよう」
淡「うう……」
照「そ、そうか…」
淡「よっと」ゴロン
照「……」チラッ
淡(ふふふっ、さりげなく腹チラ……!)
照「!!」
照「……コホンッ」
照「いくら夏でも腹出してたら風引くぞ」スッ
淡「!!!」
淡「は、はひ…」ドキドキ
照「お互い様だ」
淡「へっ!?な、なんのことかなぁ…」
照「ふふっ」
照「あつくなってしまったし、アイスでも食べるかなぁ」
淡「う……」
照「もちろん、一緒にな?」チラッ
淡「っ……」
淡「はいっ」
おわり
ゆるせっ……!
Entry ⇒ 2012.06.19 | Category ⇒ 咲-Saki-SS | Comments (0) | Trackbacks (0)
和「宮永さん、私のリー棒も受け取ってください」咲「う、うんっ!」
http://hayabusa.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1335050059/
早朝。和、起床。
和(今日はインターハイ県予選団体戦決勝だというのに……私はなんて夢を……!)
――――――数時間後・県予選会場・清澄控え室
咲「えっ!? 決勝の他校のオーダーが直前で変更になった? 部長、それ本当ですか?」
久「本当も何も、オーダー発表ならさっきされていたじゃない。見てなかったの?」
咲「すいません……おトイレに行っていて」
久「ま、うちはいつも通りだから、あなたと和は控え室で休んでいるといいわ。先は長いからね」
咲「わかりました。行こ、原村さん!」
和「は、はい/////」
和(まさか今朝のは正夢……! なんて、そんなことはないですよ……ね……?)
・アニメの出来がすばらだったので咲SSです。
・内容、喋り方、打ち筋、能力に違和感、矛盾あるかもですすいません。
・微妙に手牌描写がありますが、萬子:漢数字、筒子:○つき数字、索子:ローマ数字、字牌:漢字、赤:[]つき、となっております。
・公式の大会ルールがどうだったかは忘れてしまいましたが、このSSでは喰いタンあり、赤四枚(五、Ⅴ、⑤、⑤)、ダブロンあり、W役満なし、大明槓からの嶺上開花は責任払い、となっております。
・嫁のことはぜひ応援してあげてください。
世界の麻雀競技人口は一億人の大台を突破。
我が国日本でも、
大規模な全国大会が毎年開催され、
プロに直結する成績を残すべく、
高校麻雀部員達が覇を競っていた…………。
これは、
その頂点を目指す、
少女たちの――あったかもしれない――軌跡!!
<咲――その花は何度でも咲く――>
福路「いってらっしゃい」
池田「いってらっしゃいだしっ!」
**「はいっ!」
――――――龍門渕・控え室
透華「わかっていますわね? 今年もわたくしたちの優勝で決まりだと観客に見せ付けてくるのですわ!」
**「うん、任せてよ」
――――――鶴賀・控え室
かじゅ「頼んだぞ」
蒲原「ワハハ、ま、楽しんで打ってくるといいぞー」
**「はいっす」
先鋒戦前半
東:片岡優希(清澄) 南:国広一(龍門渕)
西:東横桃子(鶴賀) 北:吉留未春(風越)
タコス「(タコスうまうまだじぇー!)よろしくだじぇ」
一「(清澄の先鋒、また東場の起家か。ひとまず様子見ってところかな)よろしく」
モモ「(先輩……私、頑張るっすよ)よろしくっす」
みはるん「(立ち上がりは大事だよね。でも、さすがに先鋒は緊張するなぁ)よろしくお願いします」
『先鋒戦前半を開始します。対局者は席についてください』
タコス「じゃ……始めるじぇっ!!」
回される賽――しかし、神はサイコロを振らない。
全ては必然。この場にいる誰もが確信している――己の勝利。
それでも……勝者はただ一人。
インターハイ県予選団体戦決勝、その火蓋が今切って落とされる!!
先鋒戦――開始!!
互いに互いの出方を伺う張り詰めた空気……!
そんな中、最初に仕掛けたのはやはりこの人!!
東の風を味方につけ、天高く舞い上がる――一枚の凧!!
四巡目。
タコス「先制親リーだじぇっ!!」
一(早いな。一発が恐いし、ここは現物から落として回し打ちかな)タンッ
モモ()タンッ
みはるん(四巡目の親リー……こんなの読めないよ)タンッ
タコス「――来たじぇっ!! メンタンピン三色一発ツモドラ一、8000オール!!」
一(これはこれは…………)
みはるん(うわぁ……いきなり飛ばしてくるなぁ)
タコス(タコス力を無事チャージした私に敵はないじぇ! このままどこまでも突っ走るじょ!!)
清澄・片岡優希――早くも独走態勢っ!!
タ:124000 一:92000 モ:92000 み:92000
七巡目。
タコス「まだまだ行っくじぇー、リーチッ!!」スチャ
一(東場で爆発するタイプ……実際に対戦してみるとこんなに心が折られそうになる雀風はないよね……。ま、衣や透華ほどじゃないけど)タンッ
モモ()タンッ
みはるん(まるで華菜ちゃんを相手にしてるみたいだなぁ)タンッ
タコス「ほい来たじぇっ!! リーチ一発ツモドラ一赤一…………裏三!! またまた8000オールの一本場は8100オールだじぇ!!」
一(うわっ……またか。これは放っておくとさらに手が付けられなくなるタイプなのかな。ボクより純くんのほうが相性良さそうだよ)
モモ()
みはるん(先鋒戦が始まったと思ったら二連続の親倍一発ツモかぁ。困るなぁ。いくら東場に強いからって限度ってものがあると思うんだけど)
タ:148300 一:83900 モ:83900 み:83900
一巡目。
タコス「天和ならず……!! しょうがない――ダブルリーチで勘弁してやるじぇっ!!」タンッ
一「…………清澄、リー棒は?」
タコス「うおっ!? そうだったじぇ……」スチャ
一(ったく、西切りのダブリー。こんなのどうしろって言うのさ。……いや、こうするんだけど)タンッ
タコス(……う?)
モモ(………………)タンッ
タコス(こ、この流れはまさか……!)
みはるん(なるほどね……はい、これでおしまいっと)タンッ
卓上に並ぶ四つの西――四風連打、流局!!
タコス(で、でも……甘いじぇ。私の親はまだ終わってないっ!!)
タ:147300 一:83900 モ:83900 み:83900 供託:1000
一巡目。
タコス(配牌リャンシャンテンドラ三……流されたってなんだってことないじょ。タコス力は全然落ちてないじぇ!!)タンッ
一(さて、さっきはお茶を濁してみたものの、清澄が親なことに変わりはない。かと言ってボクには純くんみたいにうまく流れを操ることはできないしなぁ……)タンッ
モモ(…………)タンッ
みはるん「それ、ポンです」タンッ
三巡目。
モモ(…………)タンッ
みはるん「チー」タンッ
タコス「リーチだじぇっ!!」タンッ
みはるん「ポンです」タンッ
タコス(一発消されたじぇ……。ツモは……ならずだじぇ!)タンッ
みはるん「ポン」タンッ
タコス「じょ……?」タンッ
みはるん「ロンです。断ヤオ赤一。2000の三本場は2900です」
一(風越……。最高で四暗刻、少なくとも対々くらいは狙えたその手を序盤から崩して断ヤオ。
早和了りで清澄の親を流すため? 鳴いて場を荒らすのも目的だったのかな)
モモ()
みはるん(あぁあ……公式戦で裸単騎なんてしたの久しぶりかも。こんな打ち方をしていたら後で絶対コーチに怒られる。
でも、とりあえず清澄の親は流した。これ以上好きにはさせない)
タコス(思いっ切り警戒されてるじょ。強者は辛いじぇー!)
タ:143400 一:83900 モ:83900 み:88800
片岡はペースを乱され、テンパイ、リーチするも和了れず。
東二局親一。十一巡目、みはるんツモ。白のみ300・500。
タ:143100 一:83400 モ:83600 み:89900
東三局親モモ。九巡目、タコスリーチ。その巡、現物を切ったモモを一が直撃。断ヤオドラ二、3900。
タ:142100 一:88300 モ:79700 み:89900
東四局親みはるん。七巡目、みはるん、モモのヤミテンに放銃。平和一盃口、2000。
タ:142100 一:88300 モ:81700 み:87900
そして――南入……。
タコス(うぅ……タコス力が抜けていくじぇ……)タンッ
一(さて、ここからかな)タンッ
モモ()タンッ
みはるん(東場の借りはきっちり返す)タンッ
五巡目。
モモ()タンッ
みはるん「チー」タンッ
タコス(風越のメガネっ娘……また早和了りする気満々っぽいじぇ。でも、南場を早く回してくれるのはありがたいじょ)タンッ
みはるん「ロンです」パタパタパタッ
タコス(…………じょ?)
みはるん「中混一一通ドラ一赤一……12000」
タコス(これは……やばい気がするじぇ……)
一(風越が動き出した……じゃあ、ボクもそろそろ攻めようかな)
タ:130100 一:88300 モ:81700 み:99900
十一巡目。
一「リーチ」スッ
モモ()タンッ
みはるん(来ましたか……龍門渕)タンッ
タコス(うぅ……安牌ないじょ……仕方ない、とりあえずスジだじぇ……)タンッ
一「ロン。メンタン三色一発、12000だよ」
タコス「じょー…………」
タ:118100 一:100300 モ:81700 み:99900
一(清澄の……そうは言っても東場のリードは大きい。ここは連荘しないと……)
八巡目。
一「リーチ」スッ
モモ()タンッ
みはるん(強気ですね、龍門渕)タンッ
タコス(こ、今度は安牌あるじぇ!!)タンッ
モモ「それ、ロンっす。タンピン一盃口、3900の一本場は、4200っす」
タコス(そっちはノーマークだったじょ!?)
一(ちぇっ、さっきもその前もツモ切りだったからまだ張ってないと思ったんだけどな。
見たところ手替わりを待ってたわけでもなさそうだし……ボクの親リーを警戒してダマってたのかな)
みはるん(鶴賀の人……なんか影薄い……くせに自己主張の激しいおっぱい……!
それに比べて清澄と龍門渕は……ふん、勝った!!)
タ:113900 一:99300 モ:86900 み:99900
タコス「ノーテンだじぇ」
一「ノーテン」
みはるん「ノーテン」
モモ「テンパイ」
タ:112900 一:98300 モ:89900 み:98900
南三局一本場親モモ
十三巡目。
モモ()タンッ
みはるん「ロンです。三暗刻ドラ一赤一、8000は8300」
タ:112900 一:98300 モ:81600 み:107200
七巡目。
モモ「ツモっす。チャンタのみ、300・500。……これで前半戦終了っすね」
このとき、吉留と国広はふと違和感を覚える。
みはるん(あれ……? 鶴賀? いつの間に張ってたの……? というか、待ちに待った私のラス親をそんなゴミ手で……!)
一(鶴賀……そう言えば存在を忘れてたな。って……早和了りもいいけど、点差見えてないのかな。
いや、無名高だからって侮るわけではないけど……それとも何か他に意図が……?)
タコス(ふうー。なんとか南場を凌ぎ切ったじぇ……!)
タ:112600 一:98000 モ:82700 み:106700
誰もが片岡の派手な和了に魅入られ、次を期待する。
しかし、その裏で密かに進行していた一つの異常――。
龍門渕・国広、風越・吉留、両名とも片岡の制圧に気を取られ、まだその異常には気がつかない。
往々にして目に見える脅威などさして大きな脅威とはならない。
本当に恐ろしいのは……目に見えない脅威。
探知の網をすり抜けて、闇色の戦闘機が、間もなく空へ飛び立つ。
そこから先は――独壇場。
先鋒戦――真の戦いは……これから!!
先鋒戦前半終了
一位:タコス+12600(112600)
二位:みはるん+6700(106700)
三位:一-2000(98000)
四位:モモ-17300(82700)
タコス(前半後半……合計二回も東場が来るのは嬉しいじぇ!!)
一(なんだかんだでボクは前半原点割れ。トップの清澄とは14600点差。
単純に同じ戦略を取れば同じ結果が得られると仮定すれば、この半荘が終わる頃にはそれが29200点差に開いている。
それじゃダメだ。もっと別のやり方を考えなきゃ……どうする……?)
みはるん(また東場か……さっきは荒らしてみたけど、結局南場でその分を取り返せないと意味がない。
清澄は南場になると精細は欠くけど……オリるときはきっちりオリる。さすがにそうそう直撃を狙うことは難しい。
となれば……私のやるべきことは……)
モモ(………………)
五巡目。
タコス「ガンガン行くじぇっ!! リーチっ!!」スチャ
一「(早いっ!! 衣じゃないけど高そうで嫌な感じだよ。今のボクの手じゃたとえ打ち合いが出来たとしても分が悪い……。
仕方ない、とりあえず一発は消させてもらおうかな)……チー」タンッ
みはるん()タンッ
モモ()タンッ
タコス「じょーーーツモれずだじぇっ!!」タンッ
一(さて、もしかしてこのツモが清澄の当たり牌なのかな……っていうのはさすがに弱気過ぎるか。けど、これは一応抱えておこう)タンッ
九巡目。
一「ツモ。發ドラ一赤一、1300・2600」
一(まあ、こんなもんかな。基本は早く回して、期待値が高ければ打ち合い。安手でも極力ドラを使ったりして点数を上げる……。
芸がないような気もするけど、東場の清澄とまともにぶつかるのはリスクが高い。
衣や透華ほどではないにしろ、この人も常識が通用しないタイプみたいだし。……まあ、それでも勝つのはボクだけど)
みはるん(龍門渕……やっぱり清澄は警戒するんですね。さっきみたいに東場は早く流すつもりですか。さて……それに対して私はどうするか……)
タコス(うぅ……親が流されたじぇ……)
タ:109000 一:104200 モ:81400 み:105400
十二巡目。
タコス(こうなったら……ヤミでぶちかますじぇ……!)タンッ
一(あ、これは……またなんかヤバい感じ。でも、連荘したいから安手だけど突っ張ってみるか……?
いや、せっかくさっきツモったばかり。ここで無闇に点棒を減らすわけにはいかない)タンッ
みはるん(龍門渕、清澄にテンパイ気配が出た途端にオリですか。勝負できるような手ではなかったのかな……?
けど、親でそれはちょっと弱気過ぎますよね。ま、そっちがそういうスタンスならうちとしては大歓迎。去年の雪辱はばっちり果たしますよ)ツモッ
みはるん(清澄……さっきまでの清澄なら今のはリーチしていましたよね。学習したんですか……。
だけど、得意の東場でそんな小細工をするようになったあなたなんてもはや恐くない。私はもう東場でもオリません。
清澄……張りたかったらヤミで満貫でもハネ満でもテンパイすればいい……けど、私はそれの上を行く!!)
モモ()タンッ
タコス(うう……風越のそれ……惜しかったじぇ……!)タンッ
一(風越……そんな危険牌でリーチ……!? 相当高い手を張ってるのか……前半は四暗刻を捨ててまで場を荒らしてきたのに……)タンッ
みはるん(これくらいであっさり引いていたら名門風越でレギュラーは取れない。
清澄……東場の速攻タイプ。ほぼ毎局リーチする上に、満貫以上が当たり前の高火力……けど!!)タンッ
モモ()タンッ
こっちが引けば引くほど火力が上がっていって、あっという間に飛ばされる!)
タコス(うぅ……ツモれずだじぇ。風越のメガネっ娘……追っかけたいけどここでこのツモ切りは明らかに危険じぇ……。
仕方ないじょ、ここは一旦崩してチャンスを待つじぇ!)タンッ
一(清澄がオリた……! くっ……さっき崩してさえいなければ今のは鳴けてテンパイだった……!
安手だったけど風越のチャンスを潰すことくらいはできたかもしれなかったのにっ……!)タンッ
みはるん(そして……そんな華菜ちゃんからでもしたたかに直撃を取れるのがうちのキャプテンだ……!!
それに二人とも東場を過ぎれば危機が去るわけじゃない。南場になったってあの二人は止まらない……! 私は――そんな人たちとずっと卓を囲んできた!
このくらいの状況を切り抜けられないような力で勝ち取れるほど……名門風越のレギュラーは甘くない!!)ツモッ
みはるん「……ツモッ!! メンタンピン三色一盃口ツモ……裏二!! 4000・8000です!!」
一(風越……!)
タコス(じょー……)
みはるん(さあ、連荘してやるっ!!)
タ:105000 一:96200 モ:77400 み:121400
十巡目。
タコス「(さっきは引いてダメだったじょ……なら、押して押して押しまくるじぇっ!!)リーチ!」スチャ
一(んー。さっき崩したのが尾を引いてるのかな……? 思うように手が進まない。
いやいや、そんなの迷信だよね……落ち着けボク。冷静に、今できる最善のことを)タンッ
みはるん(清澄、押してくる気満々……。それでこそって感じですね。いいです。受けて立ちますよ!)
みはるん「リーチ!」スチャッ
風越・吉留、清澄・片岡に真っ向から立ち向かう、気合のリーチ。
普段のおっとりとした性格からは想像もつかないその強気な闘牌に、控え室で待機する部員たちの応援にも熱が入る。
しかし、風越キャプテン・福路美穂子だけは怪訝な表情でモニターを見つめていた。
福路(何か妙だわ……! 吉留さん……よくその場を見て……!!)
しかし、福路の願い、届かず。
「……いいんすか? それ……通らないっすよ」
沈黙は――破られた。
みはるん(鶴賀……? いたの? っていうか何を言ってるの……だってこれは清澄の現物……)
倒されるモモの手牌。霧が晴れるように明らかになる捨て牌と――リー棒。
モモ「ロンっす。リーチ一発チャンタドラ一……裏が乗って12000っす」
吉留――戦慄。
みはるん「なっ、リーチ!? しかも一発って……! あなた、ちゃんとリーチ宣言しましたか!?」
モモ「したっすよ」
みはるん「そ……んな……!?」
一(鶴賀……!? 今の和了りはなんだ……? 風越の言う通りだ……いつの間にリーチしてた……?)
タコス(じょー……?)
みはるん(鶴賀のおっぱい……どういうこと!?)
鶴賀・東横、ついに参戦!!
タ:104000 一:96200 モ:90400 み:109400
モモ(清澄のタコスさん、龍門渕の鎖さん、風越のメガネさん……。さすがに決勝の先鋒戦……みなさん強いっす……)タンッ
モモ(けど……もう手遅れっすよ。あなたたちの目に私は映らない。私のリーチはダマと同じ……私が当たり牌を切っても相手がフリテンになるだけ……)タンッ
モモ(ここからは……ステルスモモの独壇場っす!)タンッ
九巡目。
タコス「リーチだじぇ!」スチャ
モモ(清澄のタコスさん、前半と同じく東場は止まらないっすね。風越が勢いを呑んだようにも見えたっすけど、お構いなしっすか。
でも……もはや私には関係ないこと)ツモ
モモ(さて、張ったっすね。清澄は筒子の染め手が濃厚。ここでド真ん中無スジの五筒は明らかに危険牌……けど、だからなんなんすか。
私はもう……オリないっすよ)
モモ「……リーチっす……」スチャ
タコス(来い来い来いっ――)ツモッ
タコス「じょー! 赤いのっ! 私はお前をずっーと待ってたじぇ!! ツモ、一発! メンホン白赤一……裏は――乗らず! 残念、4000・8000だじぇ!!」
モモ(なあっ……!!)
一(ふう。東場の清澄……さすがに完全には抑えられなかったか)
モモ(清澄……!! 私の出した当たり牌を見逃した直後にツモってフリテン回避……!? しかもそこで赤五筒をツモってくるとかどんな化け物っすか……!?
私自身が放銃しなかったのは不幸中の幸いっすけど……結果的に清澄はツモと一発と赤一がついて出和了りなら満貫だった手が倍満……しかも私は親っかぶり……!)
モモ(いや……落ち着くっす。私のステルスが破られたわけではない。たまにはこんなこともある……それだけのことっす。
それに次からは南場……。清澄……! 私から持っていった点棒……利子つけて返してもらうっすよ!)
タコス「あれ? なんかリー棒も一本ついてきたじぇ! ラッキー!」
モモ()イラッ
一(え……!? 鶴賀……またリーチしてたのか。しかも清澄が当たり牌を見逃してる……? これはもうそういうことだって考えていいのかな……?
それにしても……今の清澄の見逃しはヒントだな。なるほど、捨て牌が見えなくても、ツモなら無関係に和了れる!)
みはるん(清澄……まさかツモれる自信があっての見逃し――ってことはないと思うけど。最後の最後にやってくれましたね。
それにしても鶴賀のおっぱいは一体なんなの?
姿は忌々しいおっぱいが目に入らなくなるからいいとして、捨て牌が見えなくなるなんて異常過ぎる……こんな打ち手は……風越にはいなかった……)
タ:121000 一:92200 モ:81400 み:105400
八巡目。
モモ「それ、ロンっす。メンホン南北。12000」
タコス「じょー!?」
一(また鶴賀の見えないリーチ……! しかもその捨て牌……第一打からしてあからさまな染め手!
捨て牌やリーチが見えないのを最大限に活用して手を高くしてくるなんて……やっぱりこの人……確信を持って消えているんだ……)
みはるん(鶴賀のおっぱい……! くっ……前半戦がやけに大人しかったのはこういうことだったんですか。なんて許しがたいおっぱい……!)
タ:109000 一:92200 モ:93400 み:105400
一(さて、テンパイしたはいいものの……鶴賀の動きがまるで見えない……どうしたもんかな)タンッ
流局。
一「テンパイ」
みはるん「ノーテン」
タコス「ノーテンだじぇ」
モモ「テンパイ」
一(うわ、鶴賀の……やっぱりリーチしてたのか。危ない危ない)
モモ(龍門渕の鎖さんのテンパイ……確か後半はずっとツモ切りだった。
ということは十五巡目で清澄を見逃したのはわざとってことっすか……私のステルスを警戒してる? ……厄介っすね)
みはるん(うわぁ……鶴賀のおっぱいまたいつの間にかリーチしてる……!?
困ったなぁ……清澄は爆発力があるだけだったから対処の仕様もあったけど……こんなおっぱい……どうやって戦えばいいの……?)
タコス(……なんだかよくわからないけど大変なことになってる気がするじぇ……)
タ:107500 一:93700 モ:93900 み:103900 供託:1000
一(鶴賀の……捨て牌が見えない。リーチには気付けない。
オマケにあっちが当たり牌を振り込んできてもこっちは必ず見逃す――今までの感じをまとめるとそんなところかな。
こんな相手は初めてだよ……でも、全国には同じくらい厄介な相手がゴロゴロいた。まさか新設の無名高にこんな隠し玉がいたとは思わなかったけど。
ただ、悪いね。去年のボクならいざ知らず、今年のボクには経験がある。そのくらいでは揺るがないよ)タンッ
一(さっきは清澄相手に弱気になって風越に出し抜かれた。清澄は南場になれば引っ込むからいいと思ってたけど……鶴賀はそうじゃない。
きっと最後まで見えないままだ。オマケに鶴賀はラス親……大人しくしていたら全部持っていかれる)タンッ
一(ただでさえボクは今最下位なんだから……これ以上離されるわけにはいかない……!)タンッ
一(捨て牌が見えない? リーチには気付けない? オマケにあっちが当たり牌を振り込んできてもこっちは必ず見逃す? だからなんだっていうんだ……!
衣と麻雀したときに比べれば全然恐くない。要するに清澄がやったみたいにやればいいんだ。相手より早くテンパイしてツモで和了る!
そんなの……これまでやってきたようにやればいいだけだ!!)タンッ
一「(来た、テンパイ。鶴賀がもう張っている可能性は十分にあるけど……いや、勝つためにはこれくらいのピンチで自分を曲げていちゃダメなんだ。
まっすぐに――正攻法なボクで行くっ!)……リーチ!」スチャ
みはるん(龍門渕のリーチ……! うぅ……ここは現物でオリたいけど……でも、鶴賀の当たり牌がまったく読めないし……く、通れっ!)タンッ
モモ(鎖さん……今度はリーチしてきたっすね。出和了りをするつもりがないのはさっきの見逃しで予想がつく。
ってことは私より早くツモれる自信があるってことっすか……。ただ、こっちも二巡前にリーチかけてるっすからね。
ツモしかできないあなたと、誰からでも和了れる私……どっちが早いか勝負っす!!)タンッ
十五巡目。
みはるん(お願い……通って……!)タンッ
モモ(くっ……出てこいっ!)タンッ
タコス(当たるんじゃないじょー!)タンッ
一(来いっ……!)ツモッ
一「ふぅ……ツモ。リーチツモドラ三赤一……! 6000オールの一本場は、6100オール」
モモ(鎖さん……!? 私の当たり牌を抱えての三面張……! 偶然とは言え、やってくれるじゃないっすか……)
一(おっと、やっぱり鶴賀もリーチしてたか……。けど、こうして和了ってしまえば問題はない!)
タコス(じょー!? 南場でのトップ転落は死亡フラグだじぇっ……!!)ウルウル
タ:101400 一:114000 モ:86800 み:97800
十三巡目。
一(と、さっきはうまくいったけど。
やっぱりツモのみで和了るのは無理があるな……この手牌でこの巡目まで来ちゃったら鶴賀の見えないリーチとは勝負にならない。ここは大人しくオリるか。
大丈夫……鶴賀はテンパイしているかもしれないけど、清澄に合わせておけばボクが鶴賀に振り込むことはない)タンッ
みはるん(うーん、張った。けど……鶴賀のおっぱい。何も見えない。どうしよう……いや、でもここは……!)
みはるん「通らば……リーチっ!」タンッ
モモ「通らないっす。メンタンピン……裏一……7700の二本場は8300っす」パタパタパタ
みはるん「……はい……」
モモ(これで三位……このまま全員ブチ抜くっす!)
一(風越の……もしかしてこういう相手には慣れてないのか?)
みはるん(ううう……また鶴賀のおっぱい……いつの間にリーチしてたんですか……?)
タコス(さっきから我最強に空気だじぇ!)
タ:101400 一:114000 モ:95100 み:89500
八巡目。
みはるん(ダメだ。目を凝らしても集中しても全然見えない……。こんなの本当に麻雀なの?
どうしよう……最後の親……ここで逆転したいのに、鶴賀の動きがどうしてもわからない。どうしたらいいの……私……どうしたら……!)タンッ
モモ(風越のメガネさん……最後の親だっていうのにかなり戸惑ってるみたいっすね……思うつぼっす)ツモッ
モモ「……リーチっす……」スチャ
モモ(本当は龍門渕から取りたいっすけど……鎖さんはさっきから清澄に合わせて打ってる。となると直撃は無理っぽいっすね。
ま、そっちがダメなら風越から点を奪えばいい。名門風越と差が開くならそれはそれで悪くないっす……)
九巡目。
みはるん(イーシャンテン……どうしよう、形は悪くない。けれど、どうしても振り込むイメージが頭から離れない。
捨て牌が見えないなんて……反則だよ……。ちょっと違うかもしれないけれど……もしかして去年の天江衣と対戦したときの華菜ちゃんはこんな感じだったのかな……?
華菜ちゃん……華菜ちゃんなら……こんなとき……どうする……?)
池田「ここは押せ押せだしっ!」
みはるん「押せ押せって……華菜ちゃんはこんな状況で親リーと勝負するの?」
池田「負けてるなら押しが当然だしっ!」
みはるん「私は……でも、ここは一旦オリて次のチャンスを待つのが正解だと思う。ここで勝負できるのなんて……それこそ華菜ちゃんかキャプテンくらいだよ」
池田「まあ、みはるんならそうかもね。けど、あたしはずうずうしいしっ! それに……もう負けるのは――絶対嫌だしっ!!」
みはるん「華菜ちゃん……」
――――――
華菜ちゃんは……やっぱりすごいよ……私と違って……)
出会ったことのない類の強敵に、弱気になる吉留。
『っていうか、みはるんくらい強いなら、もっとずうずうしくても全然いいと思うしっ!』
そんな吉留を励ますように、思い出の中の池田が笑う。
つられるように、吉留も微笑む。
みはるん(でも……そっか……! そうだよね……華菜ちゃん……! ありがとう!
不思議だな……華菜ちゃんのことを思い出したら鶴賀が急に恐くなくなったよ。うん、私いま……少しだけ華菜ちゃんの強さの秘密がわかった気がする!
ここは勝負っ! 私も華菜ちゃんみたいに強くなるんだっ!!)タンッ
モモ(一発ロンはならず……と、ツモもならずっすね。そうそう清澄のタコスさんみたいにはいかないっすか……。
それにしても……風越のメガネさん、今少し笑ったような……?)タンッ
タコス(全然テンパイできないじぇ……)タンッ
一(そろそろ鶴賀がリーチした頃かもな……)タンッ
みはるん(そうだよね……よくよく思い出せば、ヒントは龍門渕がいっぱい残してくれた。
見えないなら出和了りはしない。ただ相手より早くツモって、和了る。なんだ……!!
そう考えれば普通の麻雀だ。相手より早くテンパイして和了る。それを続けていけば……相手が誰だろうと勝てるっ!!)ツモッ
みはるん「通らば――リーチです」スチャ
モモ(残念……それは通しっすよ)タンッ
タコス(南場はつらいじぇ……!)タンッ
一(風越……持ち直したか?)タンッ
十八巡目。
みはるん「ツモです。リーチツモ三暗刻……裏三。6000オール」
モモ(ま……そんな……!? 龍門渕に続いて風越もっすか!!)
みはるん(どうですか、鶴賀のおっぱい!! あなたの好きにはさせません!)
一(鶴賀のリー棒を掻っ攫っての逆転トップ……。もう恐いのは鶴賀だけだと思っていたけど、さすがは名門風越。
まだ死んでないってわけか。面白い……望むところだっ!)
タコス(じょーーー!? 原点割れたじょーーー!!!)
タ:95400 一:108000 モ:88100 み:108500
モモ(去年の優勝校龍門渕、それに名門風越。考えが甘かったっすね……。
さすがは決勝……みなさん私の姿は完全に見えてないはずなのに……そう簡単には勝たせてくれないっす……。
いや、もちろん弱い相手だとは思っていなかったっすけど……完全なステルスモードに入ったっていうのにこの様……もしステルスがなかったらどうなっていたか……さすがに少し自信をなくしそうっす……)タンッ
モモ、前半の半荘を思い出す。消えることに専念していたとはいえ、他校の猛攻の前に一人沈み。
さらに後半、ステルスを最大活用して先制リーチをかけるも、結果的には清澄、龍門渕、風越の三校全てにツモ上がりを許してしまう。
現状はいくらか取り返したものの変わらずの最下位。ラス親とはいえ残り局数もあと僅か。ここで反撃できなければ、とんだ道化で終わってしまう。
小さく溜息をつくモモ。しかし、その心は折れない!
『私は君が欲しい!』
モモ(先輩……私を見つけてくれた先輩……!! こうしている今もモニター越しに先輩が私を見てくれている……!
だったら……弱気な姿なんて見せるわけにはいかないっすよね……! 先輩……私頑張るっすよ!
私は……私を見つけてくれた先輩のために……必ず逆転してみせるっす!! だから……先輩――見ていてください!!)タンッ
蒲原「モモのやつステルスモードなのに随分苦戦してるなー。いや、他の面子がそれだけ手強いってことかー」ワハハ
かじゅ「なに……モモなら心配は要らないさ。普通に打っても十分に逆転できる。
そもそも私があいつを麻雀部に誘おうと思ったときには、あんな特技があるなんて知らなかったしな」
蒲原「そうだったー、そうだったー」ワハハ
かじゅ「モモ……相手に不足はないぞ。思う存分打ってこい!」
――――――対局室
モモ(先輩……! 先輩の声が聞こえた気がするっす! 私……勝ちます。絶対勝って……全国に行くっす。そして……これからも先輩と一緒に麻雀をするっす!!)タンッ
モモ「ツモ、1300・2600の一本場は1400・2700」
オーラスに突入。風越・吉留と龍門渕・国広はモモのステルスを警戒するも、ステルスそのものを突破することはできず放銃。
モモ「ロンっす。5800」
モモ、まずは風越を直撃。
モモ「それ、ロンっす。7700の一本場は8000」
次いで龍門渕を撃ち落す。
一(鶴賀……さすがに粘るな……!)
みはるん(おっぱいのくせに……ツモってまくってやる!!)
モモ(まだまだ……!!)
タコス(南場だからなんだっていうんだじぇ……! 私は最後まで前に進んでやるじぇ!)
そして、モモ怒涛の三連続和了からの、南四局二本場親モモ。
タコス「やっとツモれたじぇ。リーチツモ……裏はなし。500・1000の二本場は700・1200だじょ!」
先鋒戦を終わらせたのは、この日南場での初和了りを決めたタコス。
一位:モモ+23500(106200)
二位:一-100(97900)
三位:みはるん-7400(99300)
四位:タコス-16000(96600)
名門風越と前回優勝校・龍門渕を押さえての、無名校・鶴賀・東横桃子の堂々たる一人浮き!
タコス(うう……後半はいいとこナシだったじぇ……)
一(ごめんね、みんな。負けちゃった……。けど、すごく楽しかったよ)
みはるん(鶴賀のおっぱい……この借りはいつか必ず返します!)
モモ(先輩……見ていてくれたっすか……!)
こうして先鋒戦は終了する。
いくらかの休憩を挟んで、次は次鋒戦となる。
次鋒戦前半
東・文堂星夏(風越) 南・染谷まこ(清澄)
西・井上純(龍門渕) 北・加治木ゆみ(鶴賀)
まこ「(最初はとりあえず様子見かのう……)よろしゅう」
文堂「(龍門渕の井上……不可解な鳴きに注意が必要。清澄は染め手が好みで、勢いに乗ると止まらなくなるタイプ。
鶴賀は……あまり情報がないが、これまでの試合結果を見る限り、実力的には鶴賀のナンバーワンと見ていい……油断は禁物だ)よろしくお願いします」
井上「(ったく国広くんのやつめ……見てろよ……速攻で取り返してやる)よろしくな」
かじゅ「(モモが取ったリード……ここで私が追いつかれるわけにはいかない)よろしく」
次鋒戦――開始!!
文堂(テンパイ……ヤミで11600。ここはリーチはしないほうがいいかな)タンッ
まこ(風越、さっそくテンパったんか?)タンッ
井上「(させねーよ)……チー」タンッ
かじゅ(龍門渕が鳴いたか……。井上純、妙な鳴きをすることの多い選手……となると、こうして今私がツモった三索は本来龍門渕がツモるはずだったもの……何か意味があるのかもな。一応持っておくか)タンッ
文堂(三・六索来い……! く、發か。ツモれず……まあ、チャンスはまだまだある……)スッ-
と、そのまま發をツモ切りしようとした文堂の手が止まる。
文堂(待て待て……! 龍門渕の井上が鳴いたら要注意だってキャプテンにあれほど言われたじゃないか……!! なら、ここで素直にツモ切りするのは危険かもしれない)タンッ
まこ(なんじゃ風越、テンパったと思ったんじゃが気のせいじゃったか?)タンッ
井上(風越……ツモ切りしてくると思ったんだがな。気付かれたか? しかし……ま、気付かれたところで流れが今オレに来ていることに変わりはない)ツモッ
井上「ツモだ。發ドラドラ、1300・2600」
文堂(さっきの發……切っていたら直撃だった)
まこ(おっと、そっちは見とらんかったのう)
かじゅ(ふむ……)
文:96700 ま:95300 井:103100 か:104900
八巡目。
まこ「(ほいじゃあ、最初の和了りは取られてしもうたが……リーチはわしがいただきじゃ。どれ、挨拶代わりじゃ!)……リーチ」スチャ
井上「ポン」タンッ
まこ(っと、龍門渕……さっきのといい変な鳴きしよってからに。そういや過去の牌譜もそんなんじゃったのう)
かじゅ「(このままだとまた龍門渕のツモるはずだった牌が私に来てしまう……なら、ちょっと試してみるか)……チー」タンッ
井上(ん、鶴賀がオレの手出しを鳴いただと……?)
かじゅ(さて。あとは風越がどう出るかだが……ここか?)タンッ
文堂「(鶴賀の手出し……鳴けばテンパイ。待ちも手広い。これで親リーを蹴る!)……ポンっ!」タンッ
まこ「ツモ。メンホンツモ……裏はなしじゃ。4000オール」
かじゅ(なるほど……ツモを回すとこういうことになるのか……)
井上(鶴賀の……今の鳴きはわざとだったのか……? よくわからねえ……何を考えている……?)
文堂(く、清澄……連荘はさせない……)
文:92700 ま:107300 井:99100 か:100900
十一巡目。
まこ「ほい、もう一発親リーじゃ!」タンッ
井上「(またかよ……連荘で調子付かれると厄介そうだな。潰しておくか)チ……」
かじゅ「ロンだ。七対子ドラドラ。6400の一本場は6700」
まこ(張っとったんか鶴賀……というか、なんじゃそのわけのわからん和了りは……!)
井上(鶴賀のやつ……さっきの鳴きといい……こいつはこいつで面倒臭そうだな。流れが見えにくい)
文堂(鶴賀……これでまだ和了ってないのは私だけか……次こそは……!)
かじゅ(さて、これでさっきの清澄の親満の分は取り返したな)
文:92700 ま:100600 井:99100 か:107600
十巡目。
文堂「(テンパイ……! 三面張の高め三色……龍門渕が親なのが恐いけど、ここで攻めないでいつ攻めるっ!!)リーチッ!」タンッ
まこ(おお、今度こそ高そうじゃ)タンッ
井上「チー」タンッ
かじゅ「…………チー」タンッ
井上(なっ……鶴賀……!?)
文堂「ツモですッ! メンタンピン三色ツモ、裏二。4000・8000!」
かじゅ(役ナシ確定の鳴きか……我ながら意味不明だ)
井上(倍満の親っかぶりかよ。風越の当たり牌……鳴かずに抱えていたほうがよかったか? いや、でも……それじゃオレが和了れねえしな。
……っていうか鶴賀のやつ、本当に何のつもりなのか全然わかんねえ。せっかく流れを変えてもこいつに乱されちまう……どうすりゃいい……?)
文:108700 ま:96600 井:91100 か:103600
六巡目。
かじゅ「リーチ……」スチャ
文堂(親リー……今のところトップはうち……振り込みは避けたい)タンッ
まこ(鶴賀のリーチ……さっきの和了りを考えると……ちょっと不気味じゃのう)タンッ
井上(鶴賀……よくわかんねえが……いい気になるなよ……!)タンッ
かじゅ(ん、リーチがかかったのに龍門渕が鳴かなかった……? この場は鳴かなくてもいい――ということなのだろうか……)ツモッ
井上(どうしたんだよ、鶴賀。和了りじゃないなら早く切れよ)ニヤッ
かじゅ(なるほど……鳴かなくていい場合もあるのだな。
流れ――というものがあるとして、鳴かないほうがむしろ自分に分があるときは大人しくそれに身を任せる。
へえ……一体どこまで見えているのか。本当に不可解だ。しかし……まあ、保険はかけておくものだな……)
井上(なああっ……!? オレの当たり牌を暗槓!? つーことはこいつ元々手の内にオレの当たり牌を三枚持ってやがったのか……?
リーチをかけてきたのは……もし鳴きでツモ順がズレてオレの当たり牌を掴まされても暗槓できるように……? くそっ、んなこと有り得てたまるか!)
かじゅ(嶺上はならず……ま、そりゃそうだ……)タンッ
流局。
かじゅ「テンパイ」
井上「ノーテン」
まこ「ノーテン」
文堂「ノーテン」
文:107700 ま:95600 井:90100 か:105600 供託:1000
十一巡目。
かじゅ(下手にリーチをかけると龍門渕が潰しに来る。かといって黙っていると……)タンッ
文堂「リーチです」スチャ
まこ「追っかけじゃあ」スチャ
かじゅ(……こうして他校が攻めてくる。困ったものだ)
井上(ちっ、鶴賀が気になるっつーのに風越と清澄が同時リーチかよ。
鶴賀の動きが読めねえこの状況でじたばたするとかえって傷が広がりそうだしな……仕方ねえ……ここは大人しく打っとくか……)タンッ
かじゅ「ポン」タンッ
井上(鶴賀……?)
文堂()タンッ
かじゅ「ロンだ。断ヤオドラドラ。5800の一本場は、6100」
井上(おいおい……そんなオレみたいなことしやがって……!)
文:100600 ま:94600 井:90100 か:114700
文堂(マズい……最初の和了りで龍門渕警戒かと思ったら……!)タンッ
まこ(んー、さっきからけっこういいの張っとるんじゃけどのう)タンッ
井上(このままじゃマズいってのに……鳴けねえ!)タンッ
かじゅ「ツモ。平和ツモ赤二。2600は2800オール」
文・ま・井(鶴賀が止まらない……!!)
かじゅ(さて、これで三本場。私にしては少々力が入り過ぎな気もするが……仕方ない。モモのあんな闘牌を見たあとでは……欲も出るというものだ)
文:97800 ま:91800 井:87300 か:123100
十六巡目。
かじゅ「チー」タンッ
文堂(これで鶴賀が三副露。染めているわけでもなければ、チャンタも断ヤオも三色もない。
一通は私が止めているから問題ないとして、他に可能性があるのは役牌……まだ河に一枚も出ていない東か)タンッ
次巡。
かじゅ()タンッ
文堂(え……ノータイムで東をツモ切り?
東を暗刻で持っているならカンをしてもよかった場面だと思うが……それともこの巡目、さっきのチーは役無しの形式テンパイ狙い?
なら……私もここはテンパイを崩さずにいくのが妥当か)タンッ
かじゅ「ロン。ダブ東ドラ一。5800の三本場は、6700」
文堂(東持ってたんですか!?)
かじゅ(ふう……これでさっきの風越の倍満分は取り返したか)
文:91100 ま:91800 井:87300 か:129800
六巡目。
文堂(鶴賀、さすがにもう張ってるなんてことはない……か?)タンッ
まこ(手はいいんじゃがなぁ。あと一歩で和了れん)タンッ
井上(ダメだ。変わらず流れが読めねえ。
普通に強いだけならまだやり様があるが……こいつはところどころで打ち方が不規則になる……カメレオンでも相手にしてるみたいだ)タンッ
かじゅ(おっと、また張ってしまった。これはあとで痛い目を見るかもな。リーチは……龍門渕が何かしてくるかもしれない……かけないほうがいいか)タンッ
まこ「ポン」タンッ
井上(清澄……? わざわざ自分から流れを悪くしにいって……なんのつもりだ?)タンッ
まこ「お、それもポンじゃ」タンッ
井上(オレが言えたことじゃねーが、わけわかんねー鳴きしやがって)タンッ
かじゅ(ふむ……)タンッ
まこ「それ、ロンじゃ。混一のみ。2000の四本場は、3200」
かじゅ(その手ならいくらでも高めを狙えただろうに。仕掛けてきたか……清澄)
文:91100 ま:95000 井:87300 か:126600
まこ、脱、眼鏡!!
まこ(さーて。やっとどんなもんか掴めてきたのう。とりあえず、風越と龍門渕は過去の牌譜通りっちゅう感じじゃな。まあまあ運が向いてくれば勝てなくはない相手じゃろ)タンッ
まこ(ただこの鶴賀の加治木とか言ったか……牌譜……この大会の分しかなかったからようわからんかったが……目の前にしてみると随分やりにくい相手じゃの。まるで久でも相手にしとるみたいじゃ)タンッ
まこ(久も鶴賀も……普段の打ち筋はデジタルじゃのに時々オカルトめいたことをし出す……どっちにも言えるんは、最終的にそれで勝てるっちゅうところかの)タンッ
まこ(鶴賀の……こういう静かで隙なく強いタイプにゃあ……下手に噛み付かんほうが身のためかもしれん。
ほうかと言って……このままやられっぱなしじゃ一年生どもに示しつかんからの)タンッ
まこ、先鋒戦が終わったあとの、タコスの涙を思い出す。
後輩がやられた分は――先輩が取り返さなければならない!!
まこ(ま、やるだけやってみるしかなさそうじゃ!!)タンッ
南一局親文堂、まずは風越・文堂から1000点の和了り。
まこ「ロンじゃ。チャンタのみ。1000」
文:90100 ま:96000 井:87300 か:126600
南二局親まこ、かじゅにテンパイ気配。その流れを乱そうと鳴いた井上の手出しを、まこが狙い撃つ。
まこ「ロン。断ヤオ赤一。3900」
文:90100 ま:99900 井:83400 か:126600
南二局親まこ一本場、今度も鳴きからのツモ和了り。
まこ「ツモ。東混一。2000は2100オールじゃ」
文:88000 ま:106200 井:81300 か:124500
井上「ロンだ。断ヤオドラ一赤一。3900は4500」
まこ(ま、そうそう楽はさせてくれんじゃろうな)
南三局親井上、連荘したい井上と積極的に仕掛けるまこの一騎打ちの様相。勝者はしかし、二人の鳴き合いの中で静かに手を進めていた、かじゅ。
かじゅ「ツモ。タンピン一盃口ツモ。1300・2600」
井上(ちっ……鶴賀の……!)
まこ(鶴賀……こりゃあ大変なのと当たってしまったのう)
南四局親かじゅ、配牌、ここまで攻めあぐねていた文堂に勝負手が入る。八巡目、文堂渾身のハネ満確定リーチ。
文堂(ここで……和了しなくては……!!)
しかし、井上の鳴きによって不発。文堂の一人テンパイによる流局で終了。なお、供託リー棒はこの半荘トップのかじゅの手に入ったものとする。
次鋒戦前半終了!!
一位:かじゅ+23500(129700)
二位:まこ+2800(99400)
三位:文堂-10600(88700)
四位:井上-15700(82200)
東:井上 南:文堂 西:まこ 北:かじゅ
東一局親井上
井上(ふう……休憩があってよかったぜ。おかげで落ち着けた。前半は鶴賀に踊らされてかなり焦っちまったな……ちっ、オレらしくもない。
しかし、鶴賀……このままタダで終われると思うなよ……)
まこ(鶴賀がラス親か……嫌な感じじゃのう。さっきは色々小細工してみたが……どれも決め手に欠ける。どうしたもんかのう……)
文堂(わかっていたことだけれど……決勝戦は今までの相手とは段違いだ……正直、私なんかじゃ歯が立たない……でも……でも……)
かじゅ(またラス親か。あまりいい予感はしないな。私はモモと違って後半になれば強くなるタイプというわけでもない。
鍍金がはがれる前に片を付けなければ……)
次鋒戦後半――開始!!
東一局親井上、かじゅの一人テンパイ、流局。
文:87700 ま:98400 井:81200 か:132700
東二局一本場親文堂、全員ノーテン、流局。
文:87700 ま:98400 井:81200 か:132700
東三局二本場親まこ、後半戦初の和了りは、前半戦から勢いに乗るかじゅのヤミテン。
かじゅ「ロン。七対子混老頭、6400は7000」
まこ(げっ……またそういう記憶にないことをしよってからに!)
かじゅ(なんとか和了れた……。このまま無事に済めばいいが……どうだろうか。
清澄と風越からはかなり警戒されているし……それに先程からやけに龍門渕が大人しい……何を企んでいる……?)
まこ(前半の鳴きの嵐が嘘のようじゃのう。
みんな龍門渕の井上を警戒しとるのかリーチがかからんし……そしてわしの手は悪過ぎじゃ……これじゃ和了るに和了れん……)
文:87700 ま:91400 井:81200 か:139700
そして、今局のかじゅの一見不可解な和了りを見て、次局ついに――風越・文堂が悪足掻く!!
文堂(キャプテン……! キャプテン……私は……!)タンッ
――――――回想・風越女子校内
福路「文堂さん、レギュラー入り、おめでとう」
文堂「ありがとうございますっ! 精一杯頑張ります!」
福路「大丈夫よ。あなたは強い。ここは運やまぐれでレギュラーになれるところじゃない――名門風越よ。
あなたはもっとあなたの強さに自信を持っていいと思うわ」
文堂「強さ……でも、キャプテンや池田先輩から見れば……私なんて全然……」
福路「そんなことないわよ。私や華菜や吉留さんと卓を囲んでも、文堂さんがトップのときもあったでしょう?」
文堂「いや……それはでも……先輩たちが打ち合っている中で最後にたまたま自分がツモれたとか……そんなのばかり。
練習試合を見たりしていても、やはりいざというときの先輩方には、私にない何かがあると思うんです!」
福路「それは……あるとしたら、経験かもしれないわね」
文堂「経験……ですか……?」
文堂「そんなの……五面張に決まってますよ。よほどの確信もなく……どうしてそんなわざわざ自ら悪い待ちにするようなことを……」
福路「そうね。私もそう思うわ。私も地獄単騎なんて滅多にしない。けれどね……」
文堂「けれど?」
福路「世の中にはね、ここだっていうとき、わざと自分から悪い待ちにして……しかもそれで結果的に勝ってしまう……そういう人もいるの」
文堂「そんな……漫画みたいなことが!?」
福路「あるのよ。にわかには信じられないかもしれないけど、そういう摩訶不思議な麻雀を打つ人が……実際に全国にも県にもたくさんいる。
その代表格が今度の県予選に出てくる龍門渕の天江衣……華菜でさえ去年は歯が立たなかった相手よ」
文堂「天江衣は……確かにそうですが……。それでも、キャプテン! 私は……それでも五面張を選びます。
そうやって――この風越でもレギュラーを取ったんです!」
福路「ふふふ、そうそう。それくらいの気迫が欲しいわね。文堂さんは素直で優しいから……それがあなたの強さであり、弱さでもあるわ。よく覚えておいてね」
文堂「は……はい!」
色んな人がいる。あくまでデジタルに徹する人、天江衣のように不思議な和了りを連発する人。
でも……大切なことはね、文堂さん。あなたがどれだけ勝ちたいと思っているかなの。
どれだけ勝てると信じているか……最後に笑うのは、そういう――強い信念と確かな誇りを持った人なのよ」
文堂「信念と誇り……ですか。なら……キャプテンの信念と誇りは……何ですか? もしよければ教えてください……」
福路「決まっているわ。私の信念は私がこの風越のキャプテンであるということ。そして私の誇りは……あなたたち……この風越の仲間よ」
文堂「……! キャプテンっ!!」
――――――
そう思う文堂の気持ちが届いたのか――九巡目、文堂テンパイ。
文堂(来た……これで一萬を切れば五面張。少し遠回りをしたような気もするけど……いつまでも黙ってはいられない。リーチだっ!)
と、いつもなら迷わず一萬を切って五面張に受けるところを、文堂の手が止まる。
『あなたがどれだけ勝ちたいと思っているかなの』
文堂の脳裏に、福路の言葉が蘇る。
文堂(私は勝ちたい……勝つための五面張……今まで私はそうやって打ってきて……名門風越でレギュラーを取った! ここだって、一萬切りが当然だ……!)
文堂(鶴賀の三年生……予選の牌譜を見る限りオーソドックスなタイプの打ち手だと思っていたけれど、さっきの七対子混老頭……あんなのがオーソドックス? 本当か……?
それから要注意人物、龍門渕の井上……この人こそまさにオカルトの塊みたいな人。鳴きで流れが変わるとか……そんなの迷信に決まってるのに。
それと清澄……前半戦、面前で進めていけばもっと高めを狙えた手を崩して……鶴賀の連荘を止めてみせた。そのあとも鳴きを自在に使って和了って……あの鶴賀の勢いの中でプラス和了り……)
文堂(私は……私はどうだろう……? 私は本当に……勝つための麻雀をしてきただろうか?
教科書通りに打って、練習通りに打って……それで私は勝って勝って……風越のレギュラーになって……それでどこか満足していたんじゃないか……?)
文堂(それじゃダメなんだ……! 今までと同じように打っても……この人たちにはまるで敵わない。さっきだって何もできないうちに半荘が終わってしまった……。
確かに私は手本や見本の通りに打っていたかもしれないけれど……それでも負けは負けでしかない……!!)
文堂(私は……私は一体誰を相手に麻雀をしていたんだ……!? いつも正確なコンピュータか? 有名なプロか? 厳しいコーチか? 風越の部員のみんなか……?
いや、違うっ!!
私が今勝たなくちゃいけない相手はそうじゃない! 龍門渕の井上純、鶴賀の加治木ゆみ、清澄の染谷まこ!!
考えるんだ……!! この場……この人たちの裏をかいて勝つために……私が今すべき最善のことを!!)
文堂(この感じ……ひょっとすると筒子――私の当たり牌は抱えられているかもしれないな……。
だとしたら、いくら五面張でも和了ることは難しい。それならいっそ一萬単騎のほうが……。地獄待ちになっちゃうけど、二萬や四萬が場にけっこう見えている。
少なくとも私なら、ドラを考慮に入れてもこの状況で一萬単騎の地獄待ちをしているなんてことは想像できない……。
そうだ……! 私がそれを想像できないのなら……どうして私がそんな待ちをしていると周りに読める……?
読めるはずがない。いつもの私なら……こんなことは絶対にしない! 実際……さっきまではしていなかった!)
文堂、願うことはただ一つ――己が勝利!!
文堂(いつも通りじゃ勝てないときもある。練習通りにやったってうまくいかないときもある。セオリー通りじゃ立ち行かなくなるときもある――それでも……私は勝ちたい……!!
私は……この人たちに勝つんだ!!)
文堂、一萬地獄単騎で受けるために八筒に手をかけ、かつてない心臓の高鳴りを抑えながら、静かに発声。
文堂「……リーチ」スチャ
かじゅ(風越のリーチ……清澄はひとまずオリ、龍門渕は鳴いてこない、か……さて)ツモッ
かじゅ(テンパイ……一萬を切ればヤミでも十分高めの手……)
かじゅは河を見る。
かじゅ(一萬……あるとしたら地獄単騎か。しかし、風越のこの選手……前半戦からそうだったが、リーチをしてくるときには必ず広い待ちの高い手で勝負してきた。
過去の牌譜も綺麗な手作りをしていたし……ドラを考慮に入れても……ここで彼女が地獄単騎とは考えにくい……)タンッ
かじゅ、打、一萬。
瞬間、文堂――開眼ッ!!
文堂「そ、それ、ロンッ! リーチ一発ドラドラ――」
裏ドラを捲る。裏ドラ表示牌は――九萬!
文堂「裏二!! い、12000っ!!」
かじゅ(……なんと……!?)
文堂(やった……!! 和了れたっ! 大丈夫だ……私はまだ戦える!! 私でも風越の……みんなの力になれるんだ!!)
風越・文堂、会心の一撃にて東場終了。南場へと移る。
文:99700 ま:91400 井:81200 か:127700
かじゅ(風越の……驚いた。過去の牌譜からも実際に打った感じからも全く予測できなかった……これは一本取られたな)タンッ
かじゅ(さすがは名門か……まさか対局中に強くなるとは。いい選手が揃っている。しかもこれで一年生か……来年のモモたちが対戦したとして……果たして勝てるだろうか……)タンッ
かじゅ(いや、今は来年のことなど考えまい……ただ、目の前の対局に集中しよう)タンッ
かじゅ(いかんいかん……少し気が昂ぶっているな。楽しい……モモや津山や妹尾もそうだが……人が目の前で成長するというのは見ていて嬉しいものだ)タンッ
かじゅ(風越の……しかし、いい後輩ならうちにもいる。鍛えればもっともっと強くなりそうなやつらがな……。私はあいつらを……全国の舞台で遊ばせてやりたい!)タンッ
十巡目。
かじゅ「ツモ……純全帯三色ドラ一。2000・3900」
かじゅ(これでプラスに戻した。勝つのは……うちだ……!)
文:97700 ま:89400 井:77300 か:135600
この局も途中までは静かに進行。十巡目を過ぎて、痺れを切らしたようにまこが鳴いて仕掛ける。しかし、不発。
まこ「テンパイ」
文堂「ノーテン」
井上「テンパイ」
かじゅ「ノーテン」
文:96200 ま:90900 井:78800 か:134100
南三局一本場親まこ
この局もまこ以外鳴かず。しかし、まこは形式テンパイすら取れず、流れる。
まこ「ノーテンじゃ」
文堂「ノーテン」
かじゅ「ノーテン」
井上「テンパイ」
文:95200 ま:89900 井:81800 か:133100
かじゅ(龍門渕……本当に大人しい。しかし、前局と前々局はテンパイしていた。
安手ではあったがリーチで裏を狙うこともできたろうに……なぜ動かなかった……?)
まこ(しまったのう……この半荘はまるでツキに見放されとる。このザマじゃ先輩の面目丸つぶれじゃて……)
文堂(鶴賀のラス親……連荘はさせない!)
三者三様の思惑を余所に――このオーラス……龍門渕・井上が静かに動き出す。
井上はこのときを待っていた。即ち、全ての流れが自分に来る、この瞬間を。
井上(このオレが半荘やって一度も鳴きもリーチもしなかったことなんてあったか……? いや、普通のやつでも半荘ずっと鳴かないなんてことはあまりない……)
井上(それもこれもこのときのためだ……! それが証拠にホラ……配牌時点でこの手牌……!)
井上(前半は他家の当たり牌を回すのに躍起になっちまったが――いや、いつもならそれで問題なくオレが和了れるんだけどよ――鶴賀がそれをさせてくれなかった。
せっかく人が流した当たり牌を本人のところまで運びやがって……絶対狙ってやがった……。たぶん、よくオレの牌譜を研究してたんだろ……感心するぜ)
井上(けど……わかってるか? 鶴賀……! お前はもう……今のオレから逃れることはできない……!!)
井上「……リーチだ」スチャ
かじゅ(龍門渕……この半荘で初めてのリーチ。絶対に何かある……一発で親っかぶりなどご免だからな……一応念を入れておくか……)
かじゅ「ポン」タンッ
かじゅ、井上のリーチ表示牌を強引に鳴き、井上の現物切り。回しながらの食いタンを目指す。
井上(いいのかよ、鶴賀。オレのを鳴いたら次にお前がツモるのは……)タンッ
文堂()タンッ
まこ(くぅ……鳴いて和了れるんならいくらでも鳴くんじゃが……)タンッ
かじゅ(このツモは……本来龍門渕が一発でツモるはずだったもの……これは――切れない)タンッ
静かな緊張感に包まれたまま、山牌が消費されていく。
そして、かじゅは自らの手牌の奇妙な仕上がりに、やっと井上の真の意図に気付く。
井上(今更気付いても遅いぜ、鶴賀っ!)タンッ
かじゅ(私がツモ順をズラしてから、私がツモったのは全て井上の手にいくはずだったもの……。
その中にはきっと井上の当たり牌も含まれているのだろう……だからあのときからずっとツモ切りはしなかったが……。
いや、違うな。ツモ切りをしなかったのはそれだけが理由じゃない……なぜなら……)
井上(鶴賀の手牌……なんとなく想像つくぜ。
なにせ、オレが今まで我慢に我慢を重ねて引き寄せたいい流れ――つまりオレのツモが……あのときから全部お前に入っているんだからな!
今頃お前の手は間違いなく満貫以上に仕上がってるだろうぜ。それをここに来て……ラス親で連荘したいはずのお前に……崩せるか?)
かじゅ(さっきからのこのバカみたいな引きの良さ……! 龍門渕……黙っていても十分に和了れただろうに!
わざわざ私を嵌めるために罠を張ったのか……私を……自分と勝負させるために……!)
井上(さあ……鶴賀、もうすぐ海底だぜ……お前はどう出る!!)
かじゅ(海底を目前にしてテンパイ……どう和了ってもハネ満。もし仮に海底ツモなんてことになったら……親倍か。
しかし、テンパイを取るために捨てざるを得ないのが――明らかに井上の危険牌。この状況を狙って作ったというのか……? 龍門渕……化け物め……!!)
かじゅ、長考。
かじゅ(落ち着け、私。私には今大きく分けて二つの選択肢がある。
一つは、ハネ満の手で井上と勝負する。その場合は、井上から直撃を受けて終了、私が勝って連荘、どちらも和了れずに流局して再び私の親、その他……の四パターン。
鶴賀のことを思えば……私がここで点を取らねば――蒲原はいいとして――津山や妹尾で他校を出し抜くのは厳しい。
そのためにはこの親でもっと稼ぐ必要がある……)
かじゅ(もう一つの選択肢は……勝負を諦めてオリる。幸い井上の現物はまだ手の内にある。テンパイを崩せば、残る巡目は海底のみ……逃げ切るのはたやすい。
そうなれば、ここで次鋒戦が終了し、あとは他のメンバーに託すことになる……)
かじゅ(さて……私はどうする……? 勝負か……オリか……!?)
『先輩っ! 私は勝って先輩と一緒に全国に行きたいっす!! 先輩ともっと一緒に麻雀をしていたいっす!』
かじゅ(あのとき……私はモモのその言葉に……答えられなかった)
そして、かじゅは、己の切るべき牌に手をかける。
かじゅ(ああ……私はやはり……卑怯者なのかもしれないな)
長考の末にかじゅが辿り着いた結論。
切ったのは……井上の現物。
かじゅは勝負を――オリた。
まこ「ろ、ロンじゃ! 一盃口のみ。1300の二本場は……1900!」
かじゅ「!?」
まこ(しもうたぁ! こんなことならさっき張ったときにリーチしとくんじゃった……!)
かじゅ(清澄の……ロンと言われた瞬間に心臓が止まるかと思ったぞ……)
井上(鶴賀……散々悩んだみたいだったが……しっかりオリたか。
絶対仕掛けてくると思ったのになぁ……中々どうして最後まで隙を見せなかった……心から完敗だぜ。けど……次はオレが勝つ!)
まこ(わしの修行不足じゃったのう。鶴賀の……こんなに色んな顔を持ってる打ち手はなかなかおらん……勉強させてもらったわ。ありがとうのう)
文堂(終わった……。キャプテン……見ていてくれましたか……? 私は……少しは強くなれましたか……? 少しはみんなの役に立てましたか……?
キャプテン……)パタッ
次鋒戦後半終了!!
一位:文堂+6500(95200)
二位:かじゅ+1500(131200)
三位:井上-1400(80800)
四位:まこ-6600(92800)
次鋒戦、結果は無名校鶴賀・加治木ゆみが他を押さえての圧倒的な一人勝ち! 前回優勝校・龍門渕は鶴賀に大きく引き離されての最下位。
果たして勝負の行方は!!
鶴賀は果たしてリードを守りきることができるのか……引き続き目が離せません!!』
中堅戦前半
東:竹井久(清澄) 南:天江衣(龍門渕)
西:妹尾佳織(鶴賀) 北:深堀純代(風越)
衣「よろしく」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ
久「(出てきたわね……龍門渕の天江衣。全国区の魔物……私の力でどこまでやれるか……勝負よっ!)よろしく」
かおりん「(三つずつ……三つずつです! えっと……他に加治木先輩が言っていたのはなんでしたっけ……)よ、よろしくお願いします!」
深堀「(龍門渕の天江……私のやるべきことはこの点棒をできる限り守ってこの半荘二回を終わらせること。
飛ばされなければ……キャプテンと池田さんがなんとかしてくれる……!)……よろしくお願いします……」
中堅戦前半――開始!!
誰もが天江衣に注目する中、最初の和了りは、風越・深堀。
深堀「あ……ロンです。東混一……5200」
かおりん「はっ、はい!?」
久(鶴賀の子……あんな見え見えの染め手に普通振り込む?
先鋒と次鋒はかなり強い人だったけれど、新設校で部員が少ないらしいから……選手の力にはバラツキがあるのかしら)
衣(わーい衣の親番だー)
そうして……地獄が始まる。
久:92800 衣:80800 ド:100400 か:126000
衣()ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ
放たれる魔物の気配。久と深堀が震える。
久(うっわー……これはうちの咲より性質が悪そうね……!)
深堀(これが……池田さんの言っていた天江の力……耐える!)
数巡後。
かおりん()タンッ
衣「ポン」タンッ
久(天江の鳴き……? これはもしかして……)
深堀(噂の海底コースってやつか……止めなければ……)
しかし、久も深堀も成す術もなく、ただ見ていることしかできない。底無しの地獄が行き着く先は――魔の海底……。
衣「ツモ……海底撈月。ダブ東ドラドラ。4000オール」
久(あらあら、好き勝手暴れてくれるわね)
深堀(くっ……どうにかしないと……!)
久:88800 衣:92800 ド:96400 か:122000
深堀(天江の親を流さなければ……このまま嬲り殺される。どうにかして……)
かおりん()タンッ
深堀「チー!」タンッ
深堀(よし……これでイーシャンテン!)
久(風越……和了ることに気を取られているわね……危険だわ)タンッ
衣()タンッ
深堀「それ、ポン!」タンッ
久(ああ、もう……それを鳴いちゃったら……!)タンッ
深堀(これでテンパイっ! ……えっ……待て……私、今なんてことを……!)
久(これで天江が海底コース!)
深堀(しまった……!)
衣()ニヤッ
衣「……リーチ」スチャ
かおりん(んー、なんだかずっと手が進まないですね……)タンッ
深堀(くっ……テンパイしてるのに……最後の一枚が出てこない!)タンッ
久(天江……今のツモ切りリーチは……そういうことなのよね。お願い、誰かこれで鳴いて!)タンッ
深堀(それじゃない……!)
重く冷たい水底に溺れる三者。
その中で悠々と月を掴み取る魔物が一人。
それは神か悪魔か――。
衣「ツモ。リーチ一発ツモ断ヤオ海底撈月……裏三。8000は8100オール」
魔物・天江衣――降臨!!
久(ひゃー……天江衣……本当に信じられない打ち手ね……!
中堅戦が始まって早々、二度の海底ツモで最下位から一気に独走トップだった鶴賀を抜き去るなんて……これが全国区の魔物……!)
深堀(くそっ、まだだ……できることはあるはずだ!)
久:80700 衣:117100 ド:88300 か:113900
久(天江衣……この異常な海底ツモは明らかに狙ったもの。
となれば……咲が嶺上を連発するように、天江の能力は海底ツモだってことでいいのかしら……? いや……)タンッ
久(違う……天江の牌譜……むしろ出和了りのほうが多い。
他家の手をまとめて抑えつつの海底……その力を見せつけておいて……焦って和了ろうとする相手の不用意な一手を出和了り。そういうケースもあった……)タンッ
久(かと言って……天江の出和了りを警戒しながら手を作っていたのでは……結局はテンパイが間に合わず、天江が海底で和了って連荘……その無限連鎖。
なんていうか、本当に魔物って感じだわ)タンッ
久(でもね、天江衣。あなたが強ければ強いほど……この場がどうしようもなければないほど……私はわくわくしてくるのよねっ!
逆境が何? 相手が魔物だから何? そんなピンチこそ……私は望むところっ!)タンッ
普通に打つなら……ここは浮いている端っこを切って手広く構えるのが自然。それなら断ヤオもつくし、運がよければドラも乗る……。
ただ……私にとっての自然は……残念ながらそっちじゃないのよ!)……リーチ!」タンッ
衣(ん……? 清澄の……わざわざ自ら点を下げた? 振り込んで来ると思ったが……しかし、ならばこちらが先に和了るまで)タンッ
かおりん()タンッ
久「ロン! リーチ一発……裏二。8000は8600よ!」
かおりん「は、はいぃぃ!」
衣(……!? 衣の親が流された!! 清澄の悪待ち……それと……先程から妙な捨て方ばかりする鶴賀……小賢しいっ!!)
久(ふう……なんとか和了れたわ……。ただ、結果的に龍門渕を浮かせてしまった……。できればツモりたかったのだけれど。
ただ……今の感じだとツモは無理だったかもしれないわね。私が和了れたのは鶴賀の無警戒な振り込みのおかげって気がするわ。
天江の力に対抗するためには……私一人じゃダメ……他の協力が不可欠。ただ……どうもあの鶴賀の人の打ち筋が安定しないのよね……どうしたものかしら)
深堀(清澄……! 有難い。これで天江の親はひとまず終了だ)
衣(許さない! 衣は子供より親やるほうが好きなのに!!)
久:89300 衣:117100 ド:88300 か:105300
深堀(う、この感じは……)タンッ
久(あっちゃー……調子に乗って鶴賀のを鳴いちゃったのは失敗だったかな。でも、白のみだけどテンパイ……。
お願い、鶴賀でも風越でもいいから差し込んで……!)タンッ
十七巡目――海底を目前にして、天江衣、ツモってきた九筒を見もせずに河に叩きつけ、二度目の海底直前リーチ。
衣「……リーチ」スチャ
と、衣のリーチを受けて、鶴賀・妹尾、手が止まる。
衣「……どうした、鶴賀。鳴かないのなら早くツモれ」
かおりん「あ……えっと、その……すいません! ……ちょっと整理するので待ってください」アセアセ
久(鶴賀……?)
深堀(鶴賀……整理するって……なんて雀頭以外を一つずつ区切って数える必要が……)
このとき、鶴賀の異常にいち早く気付いたのは――魔物・天江衣。
衣(!? ……まさか……そんな……清澄ばかりまばっていたら……!?)
かおりん「あっ、よかった、ちゃんと揃ってる! ロン、です! えっと、なんだったっけ……これは……」パラパラパパラ
それは一・九・字牌だけで構成される、最も出易い役満の一つ。
かおりん「よくわからないけどとにかくすごいやつです!!」
深堀(親の役満……!)
久(信じられない……)
衣(………………!!)
かおりん「えっと……これ、何点でしょうか……?」
国士無双――親の役満は、48000点!!
久:89300 衣:69100 ド:88300 か:153300
蒲原「ワハハ。佳織のやつ、やってくれたなー」
睦月「佳織さん……いつの間に国士無双なんて覚えていたんですか? まだ役満は教えてなかったはずですが」
モモ「先輩、何か知ってますか?」
かじゅ「いや……妹尾が天江とぶつかると知ってな、私が念のためにと思って国士だけは教えておいたんだ」
睦月「なぜ……?」
かじゅ「天江の牌譜を研究したんだが……天江が連続和了をするとき、他家はイーシャンテンからずっと動けなくなる。
ぎりぎり他家と協力して鳴きが成立すればまだいいほう。たった一人で手を作るのはほぼ不可能な状態に陥るんだ。ただ……」
モモ「ただ……なんすか?」
初心者の妹尾が実力で全国トップクラスの力を持つ天江衣を下すのはどう贔屓目に見ても不可能だ。
だから妹尾には……なんだか手が進まないと思ったらとにかく一・九・字牌を一つずつ揃えろと言っておいた。
そのうちのどれかが雀頭になっていればとにかくすごいやつが和了れるから、とな。まさか本当に和了ってしまうとは思っていなかったが……」
蒲原「けど、和了っちゃたわけかー。しかも親の役満を天江に直撃とは。さすがは佳織だー!」
モモ「さすがは先輩っすねっ! ちなみに、他には天江対策で何か言ってあるんですか……?」
かじゅ「そうだな……あとは、どうしようもないくらい手が悪いときでも、七対子なら最速で七回ツモれば和了れると吹き込んでおいたくらいだが……」
蒲原「確かに。国士は十四回ツモらなくちゃいけないからなー」ワハハ
――――――
深堀(あれ……? 鳴けるぞ……手が進む)
久(さっきの役満直撃で天江衣の力が弱まった……? そんな可愛らしい性格だとは思えないけど……でも、今なら和了れる!)
かおりん()タンッ
深堀「ろ、ロンです! 断ヤオ赤二、3900の一本場は4200!」
久(風越……鶴賀の下家は鳴きやすそうで羨ましいわ)
久:89300 衣:69100 ド:92500 か:149100
天江()ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ
深堀(ぐ……手……手が進まない……)タンッ
久(うーん……天江衣……一回休んでさっきよりもさらに元気になった感じね。役満直撃も火に油だったかしら)タンッ
久(このまま黙っていれば天江は海底コースには乗らない。ただ、乗らないなら乗らないで、天江自ら強引に鳴いて自分に海底をもってくる……。
けど、現実として、どう見ても初心者の鶴賀が、マグレだかなんだかわからないけどあの天江衣を叩き落としたのは事実。
ここでこっちが引く理由はないわ……どうせ天江に海底を持っていかれるくらいなら……ここはちょっと無理してみましょうか!)
久手牌(二二四四[五]五六七七八九九西・ドラ九)
ここで、深堀が打、三萬
久「チー!」タンッ
久手牌(二四[五]五六七七八九九/二三四・ドラ九)
これを見た衣、打、七萬
久「ポンっ!」
久手牌(二四[五]五六八九九/七七七/二三四・ドラ九)
久(これで萬子の清一が見えてきた……さて、私はここで何を切る……?)
衣(その手で五萬……しかも赤? 清澄、何を考えている……?)
かおりん「そ、それポンです!」タンッ
衣(鶴賀……!? く、わかっているのか、その鳴きでは役無しのはず……反射的に赤ドラに飛びついたのか……?
まさか清澄はそれを狙って……!?)
深堀()タンッ
久(ツモ……はいはい最後の七萬。待ってました――さて、ここで二萬を切れば三面張の清一。高めで倍満……となれば、当然切るのはここよねっ!)タンッ
久手牌(二四五六八九九/七七七/二三四・ツモ七・ドラ九)
ここから、久、打、九萬。
衣(なっ……! 九萬切り? 清澄、倍満ほどになっただろう手をわざわざ安くして……なんのつもりだ……?)
かおりん「それもポンですっ!」
衣(この――初心者……!? また安易にドラを鳴いて……それじゃ役無しだというのがわからないのか!!)
久手牌(二四五六七八九/七七七/二三四・ツモ八・ドラ九)
久(おっと、ここで八萬……? その意味はなんなのかしらね……。よし……決めた。これでどう!)
久、打九萬。三萬カンチャン待ちテンパイ。
衣(清澄……!! くっ……なんてこと……)ツモッ
衣手牌(一二三三六ⅤⅥⅥⅦⅧ④[⑤]⑥・ツモ六)
衣(清澄の……まさかここまで狙っていたのか? これでは三萬が切れない……!
本来ならばさっさと捨てるはずだったものを……二度もツモ順を飛ばされたことで結果的に当たり牌を掴まされるなんて……! 悔しいが……ここはツモ切りか……)タンッ
久(ん、天江が睨んできてる? なんかよくわからないけど、うまくいったみたいね!)
このまま行けば海底牌をツモるのは天江衣。
二人の和了り牌はともに残り一枚の三萬!
久(こんなふざけたことして和了れなかったら……あとで和に何を言われるかわからないわね……!)
そして――海底の一歩手前、久、自らのラスヅモに手を伸ばす。
盲牌、久、微笑。
ツモ牌が宙に舞い上がる!
久、それを右手で掴み――そのまま卓上に叩き付け、手牌を倒す。
久「ツモ! 清一、2000・4000!!」
久(いける……! やり方次第では私もあなたに勝てる……まだまだ戦えるわ、天江衣!)
衣(清澄……!!)
久(ってまたまた……これは火に油どころの騒ぎじゃないわよ……イーシャンテンどころかリャンシャンテンにも持っていけないなんて。……風越、これは鳴ける?)タンッ
深堀(それじゃない……! しかし、清澄の……天江を抑えてくれるのは嬉しいが……できればもっと穏便にやってほしかったような……)
痛いほどにピリピリと冷えた空気。静かに進行していく場。一つの鳴きすら許さない衣の支配。
そしてやってくる――魔の十七巡目。
衣「リーチ……」スチャ
かおりん(またこんなところでリーチ……天江衣さん……まるで初心者みたい!!)タンッ
深堀(今回は鶴賀も鳴けるものを出してくれない……く、清澄!)タンッ
久(残念……もうこれしかないわ、風越)タンッ
深堀(ぐ……ダメだ……!)
衣、海底に手を伸ばし、月を掬う!
衣「リーチ一発ツモ、ダブ南ドラドラ海底撈月……裏三! 6000・12000!!」
久(ひゃあ……さっきの満貫で持ち直した分を一瞬でパーにされたわ。天江衣……本当に楽しませてくれるじゃない! 燃えるわっ!!)
深堀(天江……役満直撃からもう復帰した……ああ……逃げ出したい)
久:85300 衣:91100 ド:82500 か:141100
この局も配牌から衣の支配のすさまじさが伺える。
久(何よこれ……九種九牌ならぬ八種八牌かしら……これじゃ流せもしない。私も国士とか狙っちゃおうかな)タンッ
深堀(なんか……天江衣の力……どんどん強くなってないか……? ぐう……こんなの……私には荷が重いですよ……)タンッ
十五巡目、衣、鶴賀の打牌をポン。
これで衣は海底コース!
久(ここで連荘を許したら、たぶん今度こそ殺される……! 風越っ!)タンッ
深堀(清澄……ダメだ……。こんな……二人がかりでも止まらないなんて……!)
十七巡目、衣、打西。
かおりん「あっ……! それポ――なんでもないですっ!!」
深堀(鶴賀!!? 役無しでもいいから鳴けるなら鳴いてっ!!)
久(今……鳴けたの……? 天江の支配下にあるこの状況で……?)
衣(鶴賀……? 妙だ。さっきは役無しでも鳴きを入れていたのに……いや、あれはドラだったからか……?)
鶴賀・妹尾が自風でもドラでもない西をこの終局間際まで二枚抱えていたことの意味……。
そしてテンパイを崩さないためとは言え、自ら海底がズレるような打牌をしてしまったという……その計算の食い違いに……。
衣の西切り。直後の、妹尾のツモ。
かおりん「あ……ツモですっ!」パラパラパラパラ
深堀(え………………?)
久(は………………?)
衣(鶴賀……そんな……!!?)
かおりん「ツモ、七対子。役牌……はつかないんですよね。ドラはないので800・1600です!」
深堀(鶴賀……そんな……実戦では初めて見る……!)
久(確かに七対子ツモは800・1600。けど、鶴賀……あなたのそれは桁が違うわよ……)
衣(こんなの……こんなのは――衣の知っている麻雀ではないっ!!)
かおりん「えっ……どうしました?」
妹尾の手牌。確かに対子が七つ揃った、紛れもない七対子!
ただし……その全てが字牌であるとき、対子は煌く巨星となる!!
大七星――字一色七対子!!!
800・1600改め、8000・16000!!
鶴賀・妹尾、二度目の役満ッ!!
久:77300 衣:75100 ド:74500 か:173100
場合によっては大七星自体をW役満
字一色とあわせてT役満とするバケモノ役
全国区の魔物。
去年のインターハイの最多獲得点数記録保持者。
牌に愛された子――天照大神の一人――龍門渕の天江衣!
その後の南三局、南四局をきっちりと海底ハネ満ツモで締めくくり、その底知れぬ強さを見せ付け、中堅戦前半戦終了!!!
中堅戦前半終了
一位:かおりん+32900(164100)
二位:衣+18300(99100)
三位:久-21500(71300)
四位:深堀-29700(65500)
久(ふう……なんだか心臓に悪い半荘だったわね。
けど……全国大会で三校を同時にトバすなんて離れ業をやらかす天江衣と対戦して、半荘一回の失点が二万点と少しなら安いものなのかしら……。
にしてもあの鶴賀の子がなぁ……いや……彼女にはむしろ感謝すべきなのかもしれないけれど……完っ全に予測不能なのよね……困ったわ。
でも……私もこのままでは終われない。……後半は足掻いてみせる!)
深堀(さすがの天江衣……鶴賀と清澄がいなければどんなことになっていたか。残るは後半戦のみ……いや……しかし……この面子を相手に私は本当に耐え切れるのか……?)
衣(鶴賀の……こんな相手は初めてだ。まるっきりの素人……初心者、か。そう言えば衣は初心者と麻雀を打ったのはこれが初めて。
理解不能な手作り……捨て牌が不規則で計算が狂う……鳴きも無茶苦茶……。しかもなぜかテンパイ気配や手の高さが読めない……。
まさか……本人がテンパイや点数の高さを自覚していないから……?
原因はわからないが……とにかく……本当にこんな相手は初めてだ……。
衣がいつものようにやっても勝てない相手……か……)
かおりん(嘘……私、かかか、勝っちゃいました……!? あの天江衣さんに!?)
ここが決勝戦の折り返し!!
中堅戦後半へ――続く!!
久:71300 衣:99100 ド:65500 か:164100
東:深堀 南:衣 西:久 北:かおりん
東一局親深堀
俄然力を増してくる天江衣。夜が近いからだろうか――。
久(このままじゃ……またずるずると海底コースね)タンッ
深堀(天江の海底……親っかぶりは勘弁したいが……)タンッ
そして、一つの鳴きも入らないまま、十六巡目。
衣(いつも通りだ……力は充足している。それが証拠にあと二巡で衣が海底……既に手は出来上がっている。ハネ満は確実の好手……)タンッ
衣、打、ドラの九索。
かおりん「ポンですっ!」タンッ
いや、それよりも……! その鳴きではまた役無し……それどころかテンパイにもならないはず!!
衣を海底からズラすため……?
いや、鶴賀はそんなことをしない……そもそもどう鳴けば誰が海底になるのかすら理解していない初心者なのでは……!!)
深堀(有難い、鶴賀!)タンッ
衣(くっ……どうしたら……どうしたらいい……!?)タンッ
久(鶴賀の……天江を海底からズラしたのはいいけど……さっきの役満のこともある。まさか清老頭ってことは……いや、さすがにないか……?)タンッ
かおりん(ツモ……九索……。あ、これでテンパイできました!)タンッ
深堀(鶴賀の……ドラ三が見えているのは恐いが……しかし、このままなら天江に海底はいかない! 私の親はノーテンで流れてもいい……とにかく天江には和了らせない!)タンッ
衣(……こんな……バカな……衣が海底を和了れないなんて……!!?)タンッ
久(本来は天江に行くはずだった海底……それを鶴賀がツモる。下手すれば河底がありそうで恐いけれど……さて、どうなるか……!!)タンッ
かおりん「ツモです。海底ドラ四。2000・4000」
久(えぇ……! 天江を回避してもこれなわけ!? ただ……考えてみるとちょっと面白い現象かもしれないわね。今度咲と同卓したときは私も嶺上狙ってみようかしら)
深堀(……もう勘弁してくれ……)
衣(こ……衣の海底が盗られた――!?)
鶴賀の初心者・妹尾――後半戦でも止まらず!!
久:69300 衣:97100 ド:61500 か:172100
衣の支配の中で、その掌中に収まらない打牌を無作為に無意識に行う妹尾は、衣の天敵かもしれなかった。
深堀「チー!」タンッ
深堀、妹尾の捨て牌を拾い――テンパイ。
久「ポン」タンッ
久も妹尾の捨て牌によって手が進む――テンパイ。
衣「(鶴賀……! どうしてそこでそんな牌を切れる! 一体どんな打ち方をしていればそんなことが……!!)ポンッ――!」タンッ
衣、久から強引に鳴いて、自分を海底コースに乗せる。
久(しまった……また天江が海底……! けど、今度はテンパイしている……待ちは悪いけれど……むしろ悪いからこそ……和了ってみせる!)タンッ
かおりん()タンッ
深堀(清澄もテンパイしているのか……なら、天江の親を流すためにもここは清澄に振り込み……?
いや、でも、うちは今最下位で清澄も三位だ。うちと清澄で点のやり取りをして場を進めたのでは、それはそれで天江や鶴賀の思う壷……)タンッ
衣(烏合の衆がちょろちょろと……蹴散らすっ!)タンッ
十七巡目。衣、ツモる――山から引いてきたのは、北。
既に手は出来上がっている。自身の和了り牌でもない北。しかし、ここで衣の手が止まる。
衣(これを切って……次に海底をツモって連荘。清澄と風越はもう虫の息……ここまできてしまっては和了れまい……だが……!)
衣、対面の妹尾に目をやる。妹尾、衣の視線には気付かず、自分の手牌を見て何かを数えている。
衣(いつもなら……こんなところで迷ったりはしない。北を切って、海底を待って……和了る。そうやってずっと勝ってきた。今まで……それでなんの問題もなかった……。
だが……この状況はなんだ……!!?)
衣は自分から見えるヤオ九牌の数を数える。
一筒が残り二枚……その他は……一枚……どれもこれも最後の一枚が見えない。
そして衣の持つ北は唯一――衣から四枚見えている牌。
脳裏に過ぎるのは、前半戦でのあの和了り。
『よくわからないけどとにかくすごいやつです!!』
衣(鶴賀の……感覚を信じるなら、テンパイすらしていないように思える……が、果たしてこの相手を前にして……衣のこの感覚は正しいのだろうか……?
今までこれを信じて……信じるままに打ってきて……それで負けたことなどない……)
『お前のは麻雀を打ってるんじゃない。打たされてるんだ』
衣(こういうことなのか……?
感覚の通じない相手……感覚を乱す相手……衣の支配を受け流し、何の前触れも気配もなく役満を和了ってくる相手……そんな相手を前にして……衣は如何にせん!)
衣(いいだろう……感覚を信じるなら――ここは当然の北切り。次巡に海底をツモって連荘。今まではそうやって打ってきて、そうやって勝ってきた……!!)
衣、北を握る手が震えていることに気付く。
衣(なるほどな……確かに……それでは所詮感覚の傀儡に過ぎなかったというわけか……そうではなく……己の感覚を選択肢の一つとして戦う……。
そういう麻雀を……衣は……これからはしてもいいのかもしれない……)
衣、しばし逡巡するも、北切りを決意。
衣(だが……!! 今回はこれを選ぶ。鶴賀の気配は全くの無。そもそも振り込みすらしない! そして海底を和了って衣の勝ちだ!!)
衣、対面の妹尾を見据える。
妹尾、ふと気付いたように顔を上げ、衣を見返す。
衣「和了るか、鶴賀の」
かおりん「ご、ごめんなさい……ちょっと、今、確認してるところでして……」
鶴賀・妹尾、雀頭以外の手牌を一つ一つ区切り、指折り何かを数え上げる。
衣(衣は今までの自分と同じ打ち方を選んだ。でもこれで――この自分が敗衄するようなことがあるのなら……)
かおりん「お待たせしました……! ちゃんと揃ってました……ロンです……えっと」パタパタパタパタ
場に三枚見えていて、残り一枚しかなかった北。
それを和了れる役は、ルール上、一つしかない。
かおりん「えっと……とにかくすごいやつです!!」
鶴賀・妹尾、再びの国士無双。
子の役満は――32000点……。
久:69300 衣:65100 ド:61500 か:204100
その、妹尾の初心者丸出しの発言に、衣は意図せず微笑する。
衣「その役の名は国士無双――この世で最も強い者が和了るに相応しい役満だ……鶴賀の初心者、よく覚えておくがいい」
かおりん「は、はい! ありがとうございますっ!」
鶴賀・妹尾、煌く巨星――太陽のような笑顔。
その光は――孤独な月を照らし出す。
その熱は――深く冷たい海底に届く。
深海のように重苦しく暗かった先程までの場が嘘のように、暖かく、溶けていく。
衣「鶴賀、勝負はまだ終わったわけではない! 最後に勝つのは衣のほうだ!!」
かおりん「わ、私も頑張ります!」
久(あらあら、急に仲良くなったわね。微笑ましいことだわ)
深堀(!!? そうだ……! 確かに天江の言う通り……勝負はまだついてないじゃないか……!!
私は何を弱気になっていたんだ……! 無名校の鶴賀がここまでの活躍を見せたんだ……守るだけじゃない……ここからは私も勝ちに行く……!!)
ついに麻雀を打ち始めた魔物・天江衣。
幸か不幸か――中堅戦後半はまだ続く!
この局から、衣の支配は一見して薄らいだ。
六巡目。
久(どういうこと……? けど、張れるのは有難い!)タンッ
かおりん(が、頑張らなきゃ……!)タンッ
深堀(攻めるっ!)タンッ
衣「チー!」タンッ
久(天江……海底狙いでもない鳴き? 今度は何をするつもり……?)タンッ
かおりん(えっと……ここはこっちのほうがよさそうかな……?)タンッ
衣「ロン! 三暗刻東白、8000!」
かおりん「ひゃ、はいい!」
久(早いっ! 巡目が回ると鶴賀の手牌が読みにくくなるから、海底は狙わず速攻に切り替えたってこと!?)
深堀(天江衣……本当になんでもありか!!)
久:69300 衣:73100 ド:61500 か:196100
八巡目。
久(今回も例の力は感じない……天江、打ち合いをしようってことかしら……? いいわ、受けて立つ!)
深堀(来たっ! テンパイ、これで……やっと……!)――リーチ!」タンッ
天江「ポンッ!」タンッ
久(風越、それに天江も張ったか……私も張ったけど、いくらテンパイできるからってここでこれは出せないわ……)タンッ
かおりん(えっと……えっと……これかな?)タンッ
深・衣「ロンっ!!」
かおりん「ひ……はいぃ!!」
久(ダブロン!? うわっ……さっきのは出さなくて正解だったわね。
けど、鶴賀の人、わかってはいたけど本当に初心者なのね……でもなんというか……むしろ永遠にそのままのほうが強いのかも、この子の場合)
深堀、8000。天江、7700の和了りにて、東場終了!
久:69300 衣:80800 ド:69500 か:180400
深堀(ぐぬぬ……天江……衣……!)
久(本当に……気持ちいいくらいやりたい放題やってくれるわね……! この子は……!!)
衣、自然に進めば海底が舞い込んでくる南家になった途端、能力発動――イーシャンテン地獄。
じわじわと進んでいく場。
十七巡目、衣、ツモ切りリーチ。
久と深堀は鶴賀の妹尾に淡い期待を抱くが、今回の妹尾は動かず。
これで最後の希望も絶たれた。
衣「ツモ! リーチ一発ツモ海底裏一……2000・4000!」
久:67300 衣:88800 ド:65500 か:178400
久(テンパイ……天江、今度は海底狙いじゃないみたいね。さて、当然ここはリーチするとして……さっきのツモの意味を考えれば……私はここで切るべきなのは……これよね!)リーチ!」タンッ
衣「ロンッ! 断ヤオドラ一赤一、7700!」
久(なあ!? うわっ、その捨て牌でそこを単騎待ち!? 完璧に私の打ち筋を読んだってことじゃない……!!)
久:59600 衣:96500 ド:65500 か:178400
南二局一本場親衣
衣「ロン、南ドラ三。12000は12300!」
かおりん「はいぃぃ!」
久:59600 衣:108800 ド:65500 か:166100
南二局二本場親衣
衣「ツモッ! 断ヤオ海底撈月赤一。2000は2200オール」
かおりん(あわわわわ……!?)
深堀(この……!! 化け物め……!!!)
久(これで六連続和了……! 出和了りしたり海底したり……止まる気配がないわね!!)
久:57400 衣:115400 ド:63300 か:163900
十巡目。
久(テンパイ……。さっきは天江に完全に読まれていた……今更だけど、天江は海底牌だけじゃなく相手の手牌や手の高さまで見切っているわけ……?
単純に打ち合いならなんとかなると思ったけれど……そうでもなかったみたいね。場そのものを支配する力……ってとこかしら。
まあ、それならそれで……高度な支配だからこそ――鶴賀がそうだったように――抜け道はあるはず!)
久「リーチ」タンッ
衣(む、清澄……さすがに同じ手は食わないか……!)
かおりん(リーチ……! わわわ……ここ……?)タンッ
久「ロン。リーチ一発タンピン一盃口赤一……裏はなし。12000の三本場は、12900!」
久(しまったなあ……ちょっと気付くのが遅かったかしら。前半が始まったときからそうだったけれど……この場を制する鍵になるのは天江ではなかったんだわ。
鶴賀の初心者……この子をどう扱うかが……この場の突破口になる!)
深堀(清澄の和了り……そうか! 鶴賀を狙うことで結果的に天江を抑える……!! 無理に天江に挑む必要はないのか……!!
この場を切り抜けようと思うなら……そっちのほうが現実的!)
久:70300 衣:115400 ド:63300 か:151000
久(さあ、この親で稼ぐわよっ!!)タンッ
かおりん(み、みなさん強いです……! さっきから何もさせてもらえません!!)タンッ
久「ポンッ!」タンッ
久(考えろ……私! より早く、より高く和了るにはどうすればいいか!)
かおりん(えっと……えっと……)タンッ
深堀(まだできることはある……!)タンッ
久「ポン!」タンッ
久(さあ……来いっ!)
かおりん(うーん……ここ、ですかね……?)タンッ
久「ロン。發混一ドラ一、11600!」
かおりん(わわわっ……! なんか大変なことになっている気がしますっ!)
久(さて……これで私も十分あなたに手が届く。そう簡単には勝たせてあげないわよ、天江衣っ!!)
衣(清澄の……衣の力を理解していながらいささかも絶望の色が見られない……面白い!)
久:81900 衣:115400 ド:63300 か:139400
衣(己が無力さを思い知るがいい!)ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ
深堀(ぐぐ……! ここに来てまたか……!)
久(勝つためには容赦ないわね……それでこそ天江衣……倒し甲斐があるわ!)
十一巡目。
深堀(天江の鳴きが入って……このまま黙っていたらまた天江に海底を持っていかれる。それは……絶対に避ける!)
かおりん(んー。今更ですが……なんだか今日はたまに寒気がするときがありますね。ま、気のせいですよねっ!)タンッ
深堀(鶴賀の……これなら鳴ける……! しかし、これを鳴くとかえって手が悪くなってしまう……。
この巡目……天江が海底を和了るつもりなら、ここでズラしたところでまた天江が強引に鳴いてくることは十分にありうるが……。
しかし、どの道ここで鳴かなければ結果は見えている……ならば……!)
深堀「チー!」タンッ
衣(風越……清澄の真似事のようなことを。しかし、そんな安手、和了られたところで仔細なし!)タンッ
久(風越……やっぱり鶴賀の下家はやりやすそうね。ただ……今回は天江の上家で海底の親っかぶりがあるから、それを考えるとプラマイゼロかな)タンッ
衣(鶴賀……!? 無闇にカンをするなど初心者のやること……!!)
かおりん(うう……できるからついカンしてみたけど……全然手が進みませんでした……)タンッ
深堀「か……それ、カン!!」
衣(なっ、風越――そのカンは……!)
深堀(これは……鶴賀の捨て牌がカンドラで……今のカンで私のところにカンドラが四枚……!
食いタン赤一2000点の手が一気にハネ満まで跳ね上がった! しかも……嶺上牌で手が進んで――テンパイ!)タンッ
衣(くっ……風越の……掴まされたか……!)タンッ
久(天江がオリた……? よし、それならもう海底はない!)タンッ
かおりん(あっ! やった! これでイーシャンテンですっ!!)タンッ
深堀「そ、それロンです! 断ヤオ赤一ドラ四、12000の一本場は12300!!」
かおりん(ひゃわわわわわ……!!?)
久:81900 衣:115400 ド:75600 か:127100
中堅戦、オーラス。
初心者ながらも、加治木の教えた天江対策をしっかりと実行し、その期待以上の活躍を見せた、鶴賀・妹尾佳織。
時に悪待ちを駆使し、魔物・天江衣を相手に最初から最後まで臆することなく策を巡らし奮闘した、清澄部長・竹井久。
飛ばされなければ御の字――その方針に従い、結果としてここまで一度も天江から直撃を喰らうことなく凌ぎ切った、風越・深堀純代。
しかし、この中堅戦、最後を飾ったのはやはりこの人……。
龍門渕――魔物・天江衣!!
衣「ツモ……対々三暗刻赤一……海底撈月……! 3000・6000!!」
牌に愛された子――天江衣、この日八度目の海底撈月を鮮やかに和了り、中堅戦に幕を下ろす!!
でも、楽しかった……! 私ももっと頑張らなくちゃね!)
深堀(耐え切った……! 池田さん……キャプテン……あとはお願いします!!)
衣(勝った……。そうか……麻雀で勝つというのはこんなに嬉しいものだったのか。そして……負けるのはこれの逆……。
今まで……衣は随分とひどいことをしてきたのだろうな……)
かおりん(ひゃああああ……後半はすっごい負けちゃいました……!
これが全国レベルの麻雀ですか。加治木先輩の助言がなかったら今頃どうなっていたかわかりませんでしたね……。
けど、戦えてよかったです……! あっ、そうだ!)
かおりん「あ、あの、天江さん!」
衣「鶴賀の……。どうした?」
衣「!! お前は……衣とまた麻雀を打ってくれるというのか……?」
かおりん「はいっ!! もちろんです。こんな私でよかったら!!」
衣「鶴賀……!」パアアアア
久「あ、そのときは私も混ぜてよねー。あなたたちみたいな楽しい打ち手はなかなかいないもの」
衣「ぬ、清澄!」
深堀「じゃあその……面子が足りなかったら呼んでください」
衣「風越の!」
久・深・かおりん「あと、次は私が勝つから(勝ちますから)!!」
衣「は、はは……あはははははっ! 烏滸言をっ!! 有象無象の下等生物どもが調子に乗って……!!!
構わん、いくらでも勝ちに来るがいい――全員まとめてトバしてやるっ!!!」
中堅戦。天江衣の活躍で前回優勝校・龍門渕が暫定トップ!!! 鶴賀が僅差でそれに続き、名門風越と清澄が二校を追う展開となった!!
中堅戦後半終了!!
一位:天江衣+28300(127400)
二位:竹井久+7600(78900)
三位:深堀+7100(72600)
四位:妹尾-43000(121100)
このまま二校のどちらかが飛び出すのか、それとも清澄と風越の逆転はあるのか。勝負の明暗を分ける副将戦、間もなく開始です!』
池田「(天江衣に借りは返せず、か。
けど……それとこれとは今は関係ない。あたしは風越の副将としてここにいる……みんなが今までやられた分をまとめて取り返す!
そして……うちの逆転優勝だしっ!!)よろしく」
ともき「(風越のスコアラー池田華菜……去年は衣に完封されていたけれど、その実力は間違いなく県内トップクラス。
それに原村和……去年のインターミドルチャンピオン。透華の話ではあのネット最強の『のどっち』の正体でもあるとか……こちらも強敵と見たほうがいい。
それから鶴賀の……データはあまりないけれど、これまでの面子を考えるとこの人も一癖あるかもしれない……)……よろしく……」
睦月「(みんなが頑張ってプラスにしてくれた点棒……大切にしなきゃ……絶対に守ってみせる……!)よろしくお願いします!」
和「(相手が誰であろうと……関係ありません)よろしくお願いします……」
咲「原村さん……!!」バンッ
和(えっ!? み、宮永さん……! まだ眠っていたはずでは……!?)
咲「頑張って!!」
係員「こら、キミ。もう対局が始まるから……」
咲「あ、す、すいませんっ!」ダダダダダダ
和(み、宮永さんが見てる……///////!! か、勝ちますっ!!)
宮永咲――フラグ立直!!
副将戦前半……開始ッ!!
東:津山睦月(鶴賀) 南:池田華菜(風越)
西:原村和withエトペン(清澄) 北:沢村智紀(龍門渕)
東一局親睦月
副将戦前半、まずは鶴賀・睦月から先制のリーチが入る。
三巡後。
睦月「ツモです。リーチツモドラ一……。2000オール」
睦月(……精一杯……私なりにできることを……)
池:70600 と:125400 和:76900 む:127100
五巡目、和、特急券を獲得。
和「ポン」タンッ
ともき(『のどっち』が動き始めたか……?)タンッ
睦月(う、さすがにもう張ってるなんてことは……)タンッ
和「ロン。中ドラ一赤一、3900の一本場は、4200です」
睦月「はい……」
池:70600 と:125400 和:81100 む:122900
十一巡目。
ともき「ツモ……チャンタドラ二ツモ……2000・4000」
池:66600 と:133400 和:79100 む:120900
十巡目。
和「リーチ」スチャ
ともき(むむ……これは……)タンッ
睦月(現物、現物……っと)タンッ
池田()タンッ
和「ツモ。リーチ一発ツモ平和……裏はなし。2600オールです」
池:64000 と:130800 和:86900 む:118300
七巡目。
和「リーチ」スチャ
八巡目。
ともき「リーチ」スチャ
睦月(現物がないときは……生牌じゃない字牌から……!)タンッ
池田()タンッ
和(…………)タンッ
ともき(…………)タンッ
睦月(……字牌がなくなったら……次は……)タンッ
九巡後。
ともき・和「テンパイ」
睦月・池田「ノーテン」
流局。
池:62500 と:131300 和:87400 む:116800
静か過ぎる……。
天江衣・妹尾佳織の印象的な活躍があった大荒れの中堅戦。
その余韻がまだ残る中で始まった副将戦は、しかし、非常に淡々と穏やかに進行していた。
しかし、それは嵐の前の静けさ。
嵐を巻き起こすのは無論この人――。
去年の苦い経験を糧に……、
一年間の厳しい鍛錬を積み……、
汚名返上!
名誉挽回!!
絶対の雪辱を誓う彼女が!!
副将戦ここまで唯一沈黙を保っていた彼女が!!
そろそろ…………混ざるッ!!!!
名門風越のスコアラーにして押しも押されぬNo.2。
池田華菜――満を持して始動ッ!!
池田(どいつもこいつも……大人しいな。特に清澄のインターミドル……全然大した力を感じない。
元々力が外に出るタイプじゃないのかもしれないけど……それを抜きにしても……さっきからの気の抜けたような闘牌……まるで身が入ってないみたいだ。
これくらいの打ち手なら準決勝の相手のほうが強いくらいだったし)タンッ
池田(全中王者と言っても所詮中学レベルってことなのか? ま、決して弱いやつじゃないんだろうけど。
でも、こっちは去年の決勝から……ずっとあの天江衣を想定して……夢にまで出てくる天江の幻影と……戦って戦って……一年間……この日のために鍛えてきたんだ……!
正直……今のあたしにお前の相手なんて役は不足もいいところだし……!!)タンッ
池田(例えば……もしかして今お前は本調子じゃないのかもしれないけど……あたしは気が短いほうなんだ。
相手に合わせて力を出し惜しみするような失礼な真似はしないし……! 最初から最後まで……全力で叩き潰すっ!!)タンッ
池田(インターミドル……お前がどれだけ強いのかはまだ正確にはわからない……! けど……どんなにお前が強くたって……華菜ちゃんはもっと強いし……!!
見せてやる……高校の麻雀――名門風越の麻雀を……!)タンッ
和「リーチ」スチャ
池田「そいつは通らないし……ロン!」パラパラパラパラ
池田、手牌を倒す。それは本日三度目の――。
池田「国士無双……32000の二本場は、32600」
池田、和を睨むように見る。
和、しかし、眉一つ動かさない。
和「はい」カチャ
池田(って動揺なし!!? うわっ、なにこいつ超可愛くないしっ!! この……見てろよインターミドル……!! 南場に行く前にお前をトバして終わらせてやるしっ!!!)
池:97100 と:131300 和:54800 む:116800
七巡目。
池田「リーチだしっ!」スチャ
和()タンッ
ともき(……風越の池田……面倒な相手……)タンッ
睦月(現物がないときは……)タンッ
池田「それ、ロンだし! リーチ一発ドラ三……裏一、12000!」
睦月(うっ……!?)
池田(鶴賀、現物がないなら字牌から切ってくるんだろ? 見え見えだし。さて……これで鶴賀は撃ち落した……! 残るは……龍門渕、お前だけだしっ!!)
ともき(むむむ……)
池:109100 と:131300 和:54800 む:104800
七巡目。
ともき「(……風越……突き放す……)リーチ……」スチャ
睦月(こ、今度は現物がある……!!)タンッ
池田(と……ツモった。ツモのみ1100……)
池田、対面のともきを一瞥。そして、小さく首を振る。
池田(ダメだ……これを和了って流すだけじゃ……龍門渕は倒せない……まだ……まだだ!)タンッ
次巡。
池田(フリテンだけど……一盃口がついて2000……違う……もっと……!)タンッ
次々巡。
池田(ドラツモ……4000……違う……もっともっとだ……!!)タンッ
次々々巡。
池田(フリテン解消……! リーチをすれば……高めでハネ満……!!)
池田、再び卓を囲む面子を一瞥。
池田(見たところ清澄はオリ……鶴賀もオリか。まったく……どいつもこいつもわかってないな……!
そんな麻雀で勝てるほど……去年の優勝校・龍門渕は甘くないんだよ。そう……! うちが確実に勝つためには……まだ……これじゃ全然足りないしっ……!!!)タンッ
池田「リーチせずにはいられないな」ピッ
ともき(ここで追っかけ……どういうつもり……風越……?)
和()タンッ
ともき(く、ツモれず……)タンッ
睦月(一発には絶対に振り込まない……!)タンッ
池田(龍門渕……リーチをすればあたしが大人しく引き下がるとでも思ったか……? 二万点以上もリードがあればうちから逃げ切れると思ったか……?
もしそうだとしたら華菜ちゃん笑っちゃうな……! 去年……!! あの敗北!! あのときからあたしが!! どんな気持ちでこの日が来るのを待っていたか……!!
わからないとは言わせないっ!!!!)ツモッ
池田「ツモッ!! リーチ一発ツモ平和……純全三色一盃口……ドラ一――裏二……!! 数え役満――8000・16000!!」
ともき(ま……た……?)
和()
睦月(そ……そんな!?)
池田(これで逆転トップだし……!! 見たか龍門渕……! 今年こそ!! 今年こそ勝つのはうち……風越女子だっ!!)
池:142100 と:122300 和:46800 む:88800
十三巡目。
池田(おいおい……せっかく清澄をトバして終わらせようと思ってたのに……よりにもよって今くんなよ)
池田、ツモ牌を見て、溜息。
少し迷った後、手牌を倒す。
池田「四暗刻単騎ツモ……16000オール」
ともき(ま……そんな……風越……)
睦月(……ば……化け物……!!)
池田(これで八万点差……けど……まだダメだし。当たり前だけど勝負は終わるまでわからない……! この親で稼げるだけ稼いでやるしっ!!)
池:190100 と:106300 和:30800 む:72800
誰もが更なる池田の独走と、名門風越の復活を思い描いた――その刹那。
和(………………あれ?)カチャ
このとき!
ここにきて!
やっと! ついに!! とうとう!!!
彼女の頬が赤く染まる――ッ!!!
和(………………なんだかものすごく点棒が減っている気がします……!!)
池田の連続和了に……眠れる天使―― 完 全 覚 醒 !!!!
和(宮永さんに格好悪い姿は見せられません……すぐに取り返します!!)
『おはよう、のどっち!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!』
六巡目。
ともき「(風越……調子に乗っている……させない……)……リーチ」スチャ
睦月(くっ……どうしてそんなにすぐテンパイを……)タンッ
池田「(ふん、安牌ないけど、鳴いて回して和了ってやるし!!)チー」タンッ
和()ヒュッ
ともき(ツモならず……)タンッ
睦月(当たらないで……)タンッ
池田(押せ押せだしっ!)タンッ
和()ヒュッ
和()ヒュッ
十巡目。
和()ヒュッ
十一巡目。
和()ヒュッ
十二巡目。
和()ヒュッ
――――――
と・池「テンパイ」
睦・和「ノーテン」
目覚めた天使の第一戦!
それは見惚れるほどにパーフェクトな――オリッ!!
池:191600 と:106800 和:29300 む:71300 供託:1000
池田「リーチだしっ!!」スチャ
ともき「……リーチ」スチャ
睦月(二人同時……! 困った……仕方ない……これは対子だったけど……)タンッ
和「ポン」ヒュッ
發――特急券ッ!!
ともき(む……一発消された)タンッ
睦月(清澄に鳴かれた發……とりあえず、これは安牌!)タンッ
池田(ツモ…………れずだしっ!!)タンッ
和「ロン」パタッ
池田(!? 清澄……!!?)
和「發中混一ドラ一赤一。12000の二本場は12600です」
池田(おまっ……ええ!? なんでそんなに顔を赤くしてるんだし……!? 大丈夫かよ!? 病院行けよっ!!)
池:178000 と:105800 和:44900 む:71300
五巡目、和、肩慣らしのようにツモ、2100。
和「ツモ。平和ツモ、700オール」
池:177300 と:105100 和:47000 む:70600
南三局一本場親和
八巡目、和、ヤミテン、7700。
和「ロン。南ドラ二、7700は8000」
ともき(……清澄……さっきまでとは別人……これは要注意……)
池:177300 と:97100 和:55000 む:70600
南三局二本場親和
九巡目。
池田(清澄の……急に和了り出した。とうとう本領発揮ってわけか。なるほど……インターミドルの肩書きは伊達じゃなかったみたいだし。
っていうかこれだけ打てるのになんで最初からそうしなかったしっ!)タンッ
和「ロン。三色赤二、11600は12200」
池田(にゃっ!? それ前巡鶴賀が出してたしっ!! 直撃狙いって……にゃあああホント可愛くないし!!)
池:165100 と:97100 和:67200 む:70600
ともき「ノーテン」
睦月「テンパイ」
池田「ノーテンだし」
和「テンパイ」
流局。
池:163600 と:95600 和:68700 む:72100
南三局四本場親和
池田(ほい来た断ヤオドラ四赤三! ほぼ全てのドラは華菜ちゃんに集まるんだしっ!!)
池田「リーチだし!」タンッ
和「ロン。白のみ、2000は3200」
池田(にゃあああああああ!!?)
睦月(……清澄の連荘……このままじゃうちが……最下位……転落……!)
池:160400 と:95600 和:71900 む:72100
五巡目。
和「リーチ」ヒュッ
ともき(……清澄が立て直してきた……早い……手が追いつかない……)タンッ
睦月「(……や……安手でもいいから上がらなきゃ……)そ、それポン」タンッ
池田(ツモ……よし、張った張った……! タンピン三色ドラドラ……どう和了ってもハネ満!
さて、インターミドル。たぶん序盤で手替わりを待ってたんだろうけど、さっきからヤミテンで人を狙い撃ちにしてくれちゃって……今度は逆にこっちから狙い撃ってやるし。
華菜ちゃんをコケにしたことを後悔させてやるっ!!)
池田、平和に受けるための浮き牌を手に掴み、それを河へ。
『池田ァァ! おまえが倍満振り込んで風越の伝統に泥ォ塗ったの忘れたのかよ!』
瞬間、池田の頭が、真っ白になる。
気付けば、牌を握る手が震え、視界が滲んでいた。
涙を拭って、池田、深呼吸。
池田(……いや……この状況でこれが清澄の当たり牌かどうかなんて……キャプテンでもないのにわかるわけがないけどさ……)
池田、掴んだ牌を手に戻し、点棒を確認。
池田(160400点……これは……あたしの点棒じゃない。
みはるんが最善を尽くして、文堂が自分の殻を破って、深堀さんがあの天江衣から必死に守り切った……あたしたちのみんなの……大切な点棒……)
池田(あたしは何をやっているんだ……?
役満を和了ったくらいで……二位と六万点以上差があるからって……明らかに高めの親リー相手にたかだか子のハネ満で直撃狙い……?
はは……バカげてる。そうじゃないだろ池田華菜……! あたしはこの一年間何をしてきた? 思い出せ……! みんなと共に高め合って……あたしが何を得てきたのかを……!)
それから放たれた一打は、平和を崩す形での、四萬。
清澄の現物であり、且つ――。
睦月「ろ……ロンですっ! 白、赤一! 2000の五本場は……3500!!」
池田「はいよ……」カチャ
池田(そう言えば……去年のキャプテンがそうだったっけ……バカツキしてた龍門渕を他家を上手く使っての抑え込み……。
ま、自分から振り込んでおいて上手く使ってるも何もあったもんじゃないけど。
キャプテン……あたし……あのときのキャプテンと同じ学年なんですよ……? キャプテンはどう思いますか……?
今のあたしが……去年のキャプテンと戦ったら……どっちが勝つと思いますか……? なんて……そんなの! 決まってる!)
池田、人知れず微笑む。
池田(絶対絶対キャプテンだしっ!!)
何度数えても、増えもしないし、減りもしない。
和了れば増え、和了られれば減る――ただそれだけの長細いプラスチック。
しかし、そこにはきっと何かが宿っている。
この場についた者にしかわからない――何かが……。
池田(あたしの後にはキャプテンが控えている……! 役満はただのラッキーだった。
本番はこれから。あたしの仕事は確実にうちのリードのままでこの副将戦を終わらせること。無理して他家をトバそうなんて考えなくていい。
っていうか……うちの優勝を決めるのは……絶対にキャプテンであってほしいしっ!!)
池田、大きく息を吸い込んで、場に集中する。
池田(何度でも言ってやる……! 勝つのは……あたしたち風越だっ!!)
池:156900 と:95600 和:70900 む:76600
睦月は身体の震えが止まらなかった。
睦月(寒い……。私はどうしたら……どうしたらいいんだ……いや、それよりも……どうして私は……)タンッ
睦月(風越の池田華菜……半荘一回の間に役満を三回も和了ってみせる選手。
龍門渕の沢村智紀……前回優勝校の副将を任されるほどの力を持った実力派の選手。
清澄の原村和……去年のインターミドルチャンピオン……つまり、今年の高一で最も注目されているルーキー……対して、私はどうだ……?)タンッ
睦月(他家がリーチをしてきたら放銃が恐くてベタオリしかできない……。
ここまでで和了れたのはたったの二回……取った点数は一万点……あとは……いいように点を取られていく一方……反撃もできない……)タンッ
睦月(私だって……頑張ってきたつもりだった。勉強してきたつもりだった……。
私は加治木先輩や蒲原先輩みたいに強くないし……桃子みたいな不思議な力もない……佳織さんみたいな運もない……だから……私なりにできることはなんでもやった……!
足手まといにはなりたくなくて私は頑張ってきた……!!
そう……思っていたのに……!!)タンッ
睦月(また龍門渕のリーチ……私の手は……なんだこれ……? サンシャンテン……? ひどい……こんなの……オリるしかないじゃないか……)タンッ
池田(龍門渕……ただでは転ばないか……!)タンッ
和(リーチが来たということはそれがそうで……ブツブツ)ヒュッ
ともき(……一発こず……)タンッ
睦月(安牌……現物……よかった……三枚もある……これなら今回は放銃しなくて済むかな……)タンッ
池田「チーだし」タンッ
睦月(あ……。風越に鳴かせてしまった……これでテンパイか……?)
和(そのチーならあれがそうで……ブツブツ)ヒュッ
ともき(風越が張った……? く、先に和了る……)タンッ
睦月(どうしよう……風越の捨て牌……捨て牌なんて……見たって読めないよっ!!
現物以外信じられない……スジとか字牌とか……だって、さっきはそれを読まれて私は風越に振り込んだ……。どうすればいい……? 何を切れば……?
とりあえず……少なくともリーチしている龍門渕にだけは振り込まないように……)タンッ
ともき(清澄……オリてなかった……むむ)タンッ
睦月(清澄も……!? まさかテンパイ……三人同時に……? っていうか清澄……そんなにすぐ打牌を選べるってどういうことなの……?
私はこんなに毎回……考えて考えて打って……それでも振り込む。清澄はあんなに早く打って……なのにあんなに勝てる……。ダメだ……格が違う……)タンッ
池田(清澄も張った? どこで待ってる……?
いや、ここはオリよう……清澄に振り込む可能性が一番高いのはリーチしている龍門渕だし。それで前半が終わってくれるなら悪くない)タンッ
和(次にあれならその次は……ブツブツ)ヒュッ
ともき「ツモ……リーチツモ一盃口……裏一。3900オール」
睦月(3900オール……! はは……龍門渕……! 私の精一杯だった一万点を……たった一回のツモで取れる……!
これが……!! これがここでは普通なんだ……!!
これがこの人たちの普通なんだ……ははは……私みたいな弱いやつが……どうしてここにいるんだろう……場違いだったんだ……最初から……)
ともき(……どうにかラス親で原点復帰……まだまだ……)
睦月(もう……家に帰りたい……帰って眠りたい。麻雀なんて私には向いてないんだ。
きっと風越みたいに高い手をバンバン和了れて……清澄みたいに計算が速くて……龍門渕みたいに冷静で柔軟な……そういう選ばれた人がやる競技なんだ。
私みたいな凡人が……こんなところ――県大会の決勝……それも副将戦なんかに……人数合わせでも出るべきじゃなかったんだ……)タンッ
睦月(点棒……ひどいな……桃子と加治木先輩と佳織さんが強豪相手に勝ち取った分を……たった一回の私の半荘でこんな……あっという間に……取られて……!
どんな顔してみんなに会えるんだよ……! こんなことなら……いっそ誰か飛ばしてくれないかな……)タンッ
ともき「……リーチ」スチャ
睦月(また来た親リー……早過ぎるでしょ……。三人ともそうだけど……本当に同じ確率で手牌が配られているのかな……どうして私だけいつも遅いんだろう……。
あ……。そうか……。私が弱いから……か……)タンッ
池田(足掻いてくるな……龍門渕。まずは現物から……)タンッ
和(その捨て牌ではあれがああだったからここは……ブツブツ)ヒュッ
ともき(一発……ならず。この面子相手ではツモだけが頼りなのに……)タンッ
あはは……私……考える力もない……。言われたことしかできない……それじゃ……私がここでこうして打っている意味なんてあるの……?
コンピュータでもよかったんじゃないか……? いや、私よりきっとそっちのほうが勝率はあったかもな……)タンッ
池田(んーこれは無理だし。オリるし)タンッ
和(それのときはそうでそれから……ブツブツ)ヒュッ
ともき(……来い……くっ……)タンッ
睦月(えっと……字牌が尽きたら……スジの一・九だったっけ……)タンッ
池田(よし、オリるだけなら安牌いっぱいあるし!)タンッ
和(ここが入ったときはこうしてと……ブツブツ)ヒュッ
ともき「ツモ。リーピンツモ……裏は乗らず。1300は1400オール」
ともき(さっきから鶴賀も風越も清澄も手堅い……。ヤミで和了れるならそれでもいいんだけれど……点数が伸びないんじゃ風越までは手が届かない……。
それに……若干だけど、清澄は先制リーチを仕掛けたほうが大人しくなってくれる……勝負手が来るのなんて待っていられない。
ここは……意地でも連荘する)
睦月(龍門渕……二連続ツモ。いいなぁ……。やっぱり全国レベルにもなると引きが違うのかな……。ああ……連荘できたらきっと気持ちいいんだろうな……)
ともき(次が正念場の……二本場)
池:151600 と:111500 和:65600 む:71300
八巡目。
和「リーチ」ヒュッ
ともき「(清澄が来たか……ここは……しかし、引けない)……リーチ」タンッ
睦月(だああ、もうっ! 久しぶりにテンパイできそうだったのに……! 二人してリーチなんて……!
……ああ……いいや……そうか……ここで清澄に振ればこの場が終わる……なら……それもいいか……)タンッ
池田(うおっ、鶴賀も押し……!? これってまさかの華菜ちゃん大ピンチだし!)タンッ
和(この場合だと一発の確率はどれくらいでしょうか……ま、狙いませんけどそんなの……しかしリーチしたあとはあまり考えることがなくて楽ですね)ヒュッ
ともき(一発……こ……ない……)タンッ
睦月(あ……テンパイした……?
どうしよう……いっか……どうせ振って終わらせるつもりだったんだ……迷うことなんてないや……考えることもない……リーチしちゃえ……)
睦月「……リーチ……」スチャ
池田(三人同時!? うう……これは何を切っても振る気がする……! にゃあ、通れっ!)タンッ
睦月「あ、ロンです……えっと、リーチ一発白……裏三……12000は12600です……」
池田(にゃあー!? 三人同時リーチに対して安牌ゼロ……からの打牌がよりにもよって鶴賀に直撃!? リーチ白のみに一発と裏がついてハネ満とか……!!
絶対龍門渕のリーチのほうが安かったに違いなかったしっ! にゃーもーこんなの笑うしかないしっ!!)
睦月(えっ……?)
ともき(リー棒を持っていかれた……しかし、一時に比べれば風越も大分落ちた……まだ勝てる……)
和(……宮永さん……)
睦月(風越の……今……笑ってなかったか……?)
睦月、これまで堪えていたものが、半荘終了で気が緩んだところに、一気に溢れてくる。
睦月(風越の……!! そう言えばさっきも清澄の連荘のとき……私の安手に差し込んできた感じだった! じゃあ今の笑いは……そういうことなのか……?
私みたいな雑魚からならハネ満くらいはいつでも取り返せるって……そんな……そんな……!! じゃあ……清澄も!? 龍門渕も……!?
対局中に私があんなに悩んでいたのなんて……全部この人たちから見れば……!! ははは……バカみたい……!!
私なんて何をしたって何を和了ったってどこに振り込んだって……この人たちには関係ないんだ……! どうせ私が……弱い……から……!!)
睦月、弾けるように席を立って、零れそうになる涙を隠し、真っ赤な顔で叫ぶ。
睦月「も――もう麻雀やめるっ!!!」
睦月、そのまま駆け出して、対局室から逃げていく。
残された三人は、突然のことに、ただその後ろ姿を見つめることしかできなかった。
和、咲のことを考えたらもらい泣き。エトペンで顔を隠しながら、やはり逃げるように対局室を出る。
池田、椅子にもたれて睦月の出ていったほうを眺める。
池田「麻雀やめる……? ふん、このあたしから最後の最後でハネ満和了っといて勝ち逃げとか許さないしっ!」
ともき「誰かさんが役満和了って凹ますから……」
池田「いやいや、鶴賀の中堅じゃないけどあんなのただの偶然だし。いや、誰かさんのリーチを掻い潜っての数え役満は華菜ちゃんの貫禄勝ちだったけど。
というか、たった半荘一回の大負けで一々やめるなんて言うなよなぁ」
池田「ふふーん、負け惜しみにしか聞こえないしっ!! 悔しかったら役満和了ってみろしっ!!」
ともき「それは私のキャラじゃない……あと、まだ負けてない。後半戦がある……」
池田「そうだったな……。しかし、鶴賀の副将、後半までに回復できそうかな。自棄になった打牌はそれはそれで恐いけど……」
ともき「たぶん……きっとどこかの誰かさんが無意識に彼女を傷つけるようなことをしたのではないかと……。
きっと彼女は誰かさんのせいで心に一生残るような深い傷を……」
池田「ちょ、言いがかりだしっ!!」
副将戦前半終了
一位:池田+66400(139000)
二位:和-14300(64600)
三位:ともき-16900(110500)
四位:睦月-35200(85900)
睦月「すっ……すいませんでした!!!」ポロポロ
かじゅ「つ、津山……?」
蒲原「どうした……むっきー、何が起きた……?」
睦月「私……私なんて……副将戦を戦う器じゃなかったんです……! こんなに負けて……私、ごめんなさいっ!
私じゃ……みんなの迷惑にしか……! ならなくて……!」ポロポロ
モモ「む、むっきー先輩……」
妹尾「そ、そんなことないよ。さっきの私のほうが大失点だったよ!」
睦月「いや、もう失点の大小とか……そんな次元じゃないんです! 私……打っててわかったんです。あの人たち……ものすごく強い……!
先輩方と同じくらい……! そんな人たちから見れば……私なんか場にいてもいなくても同じ……!
私は……私には……みんなと一緒に戦えるような力なんてないんです……!
今からでもいい……誰かもっと強い人を代理に……私なんてこのチームにいないほうがいいんです……!!
ごめんなさいっ! 私はもう……何もかもが恐くて……これ以上……麻雀を打ちたくないんですっ!!」ポロポロ
モモ「むっきー先輩……」
妹尾「睦月さん……」
睦月「え……あ……あの……ごめんなさい……!」
蒲原「ワハハー。もっと他に言うことがあるだろー」
睦月「あの……本当に……みんなの頑張りを……守れなくて……」
加治木、見かねて睦月を抱き寄せ、先ほどの牌譜を睦月の目の前に突きつける。
かじゅ「あのな……結果をよく見ろ、津山」
睦月「……だから……私はマイナス35200点の断ラスで……」
蒲原「もー何を言っているんだねキミはー」
かじゅ「津山、お前が戦ってきた相手は誰だ。言ってみろ」
睦月「風越の池田華菜……龍門渕の沢村智紀……清澄の原村和……です」
あとは原村、知っていると思うが彼女は去年のインターミドルチャンピオン。今年の高校一年の中で最も注目されている選手の一人だ。
それがお前の戦ってきた相手だ。わかったな?」
睦月「はい……だから私なんかとは格が違うと……」
かじゅ「格? なんだそれは? 誰が測っている? 誰があいつらとお前で格が違うと言った? そいつを今すぐここに引っ張って来い!」
睦月「あの……」
蒲原「あのなーむっきー。ユミちんが言いたいのはこういうことなんだよ。むっきーはあの池田とあの沢村とあの原村と戦ってきた。
その結果が……これ。よーく見てみなってー」
睦月「だから見なくとも結果は私の負けで……」
かじゅ「違う。風越が139000点でトップ。次いで龍門渕が110500点。三位がうちで85900。
負けたのは明らかに最下位の清澄だ。なんと64600点だぞ。トップと七万点差だ。こんな点差は少なくとも私じゃひっくり返せない」
蒲原「対してうちはどうかなー? 二位の龍門渕とは24600点差。風越とは53100点差。龍門渕なら親満、風越なら親倍直撃ですぐ背後を取れる。
その程度の差しか開いてないんだよー」
かじゅ「蒲原の言う通りだ。お前はあの三人と戦って、十分勝負できる点差まで持ちこたえた。その結果を誰が責める。なぜ謝る。もっと胸を張れ。
お前がここに帰ってきて言うべき言葉は『ごめんなさい』じゃない。笑顔で『やってやりましたよ!』だ」
睦月「でも……」
お前が食らった直撃は原村と池田からの二回だけだ。
いいか、津山。お前の食らった直撃とお前が食らわせた直撃を比べれば、お前はほぼプラマイゼロなんだよ。それのどこが『ごめんなさい』なんだ」
睦月「でも……私が直撃を取れたのは……風越が清澄の連荘を止めるためにわざと振り込んできたからで……。
あと、最後のハネ満だって……あれは自暴自棄でリーチしたらたまたま……」
蒲原「ワハハ、わざと振り込んでくれたのかー? だったらそんな有難いことはないぞー? あと、たまたま取ったハネ満かー。
じゃあ、狙って取ったハネ満とそれって具体的にどこが違うんだー?」ワハハ
睦月「それは……でもっ!! そんなことを言ったら……結局……私は負けて……負けたんですよ! 私は!!」
かじゅ「負けたからなんだ。私以外はみんな負けたぞ。
モモは前半、消えないうちはやられ放題だったし、妹尾の後半なんか他の三人からいいように狙い撃ちされて大負けだぞ。だけどそれがどうした。
お前が負けたら鶴賀が負けるのか? はは、偉くなったもんだな、津山。私たちがまだいるというのにもう部長気取りか」
蒲原「そーそー。っていうかさー、むっきー。負けて逃げたらそれこそ勝ったやつの思うつぼじゃないか。いいかー? 負けたらバイプッシュ。勝つまでバイプッシュ。
逃げたりやめたりするのは勝ってからすればいいじゃないか。それなら絶対負けないんだぞー?」
睦月「私……」
確かにお前は私や蒲原より弱いかもしれない。でもな、私たちは五人で鶴賀なんだ。代えは利かない。代える気もない。
そして……全国で私たちが勝ち抜くためには……どうしてもお前が必要なんだ。
津山、何度でも言う。
私たちにはお前の力が必要だ。いてもいなくても変わらないなんてことは絶対にない。
だから……負けてもいい。それでお前が強くなってくれるなら……この副将戦は私たち鶴賀にとって値千金だ。
幸い相手はみな全国レベルの強者……こんなにいい実戦相手がそうそういるものか。教わってこい。盗めるものは盗んでこい。
あいつらがどうして強いのか――それを肌で感じて、お前の力にしてみせろ。
わかったか、津山。お前は鶴賀の立派な一員なんだ。そもそもお前がどんなにやめたいと言っても部長の蒲原が許可しない。
いいな、だから好きなだけ負けてこい」
睦月「……私……は……」
本人は今年天江にリベンジする気満々だったみたいだが、どうだろうな。今日の天江と池田……同じ卓を囲んだら案外池田がまたトバされて終わりそうな気がするぞ。
県内トップクラスのスコアラーなんて、所詮はそんなもんなんだよ。
それから清澄の原村だが……知っているか? 清澄の原村と片岡は同じ中学の出身……二人ともこうして県大会の決勝に出てくるほどの選手だ。
しかし、その原村と片岡擁する中学はな、団体戦ではなんと予選で早々に敗退しているんだ。原村は個人で全国優勝をしたに過ぎない。
そして、私たちが今やっているのは個人戦ではない。団体戦だ。みんなの気持ちを背負う団体戦の経験に関しては、原村とお前はどっこいどっこいくらいなんだよ。
蓋を開ければそんなものなのだ、インターミドルチャンピオンなど」
睦月「……先輩……」
誰だってそうだ。かく言う私だって、次鋒戦のオーラスでは卑怯にも井上との勝負をオリた。あの天江衣でさえ……妹尾に振り込んだときは手が震えていたぞ。
とんでもない力があろうが役満を和了ろうが……結局はみんな同じ人間なんだ。
大切なことはだな、津山。お前がどれだけ勝ちたいと思うかだ。
そして――お前がどれだけ自分を信じることができるかだ。
お前が信じるお前なら……私たちもそれを信じよう。お前を責めることはないし、お前の負けはみんなで泣いてやる。
だから安心して負けてこい。お前の全てをぶつけてこい。結果はみんなで受け止める。それがチーム――団体戦だ。わかったか?」
睦月「あ、の……私……」
かじゅ「まだわからんならとっておきで沢村の話をしてやるが……」
睦月「加治木……先輩……! その……大丈夫です。ありがとう……ございました」
蒲原「おっ! 勝てそうな気がしてきたか、むっきー?」
睦月「全くしません……今すぐ家に帰りたいくらい恐いです……でも……」
かじゅ「でも……なんだ?」
蒲原「おー! その意気だっ、むっきー!」
モモ「むっきー先輩!」
かおりん「睦月さんっ!」
かじゅ「うむ、じゃあそろそろ休憩が終わる。行ってこい、津山。大丈夫だ。たとえ十万点差がついても蒲原が取り返してくれるからな」
蒲原「ユミちん十万点はちょっと……」
睦月「わかりました!」
蒲原「ちょ、むっきー!?」
睦月「やるだけやってきますっ!!」タッタッタ
蒲原「おーいーせめて六万点差が限度ー……って行っちゃったなー」
かじゅ「まったく……手のかかる後輩どもだ」
モモ「えっ、『ども』って先輩!?」
蒲原「いいからいいから。ここからはむっきーのターンだよ。静かに見守っていようぜー」ワハハ
かおりん「そうだねっ!」
睦月「あ」
ともき「あ、鶴賀の……」
池田「帰ってきたな」
睦・池「あ……あの……」
睦月「……ああ、すいません。なん……でしょうか?」
池田「えっと……その、だし……」
睦月「?」
池田「華菜ちゃんさ! なんつーか昔っからこうずうずうしくてウザいところあるからさ……! その……何かムカってきたことがあっても気にすんなしっ!
たぶん本人に悪気はないしっ!! だから……華菜ちゃんのこととかどうもいいというか、麻雀とは全然関係ないっていうか……とにかく麻雀は続けろよ!
ここでお前にやめられて……鶴賀が棄権にでもなったらうちのキャプテンの活躍が見れないしっ!! わかったな!!?」
睦月「は……はい! こちらこそ……さっきは対局後だというのに変なことを言ってすいませんでした……」
池田「わ、わ、わかればいいんだしっ!!」
睦月「後半もよろしくお願いします。今度は……私も簡単にはやられません」
ともき「……しかし最後に勝つのは……私……」
池田「勝手に言ってろしーっ!!」
と、そこに和も戻ってくる。
和「……? 何か、皆さんで話していたんですか?」
池田「ああ? 後半は誰が勝つかって話だよ」
和「あ、それなら私ですよ」
池田「こ、の……一年……っ!!」
『後半戦間もなく開始します……対局者は席についてください』
和「なるほど。わかりました」
ともき「ちなみに私は西家」
睦月「私は南です」
池田「ふふ、お前ら今頃気付いたな……! 華菜ちゃん北家、ラス親だしっ!! ボコスカ連荘しまくって全員トバしてやるしっ!」
と・和「いいから席について(ください)」
睦月(喋ってみればよくわかる……。みんないい人たちなんだな……そして……みんな自分の勝ちを信じて戦っている……。
そんな人たちと卓を囲んでいたのに……大負けしたくらいで飛ばされてもいいなんて……さっきの私はなんて失礼だったんだろう……!
よし……後半戦こそはっ!!)
和「み、宮永さん……!」
咲「原村さん……」
和「そ、その……か、勝ちますよっ! つ、次は絶対!!」
咲「ええ……? 絶対……? でも、原村さん、いつも半荘一回くらいじゃ強い弱いは測れない、どんな人でも絶対に勝つなんてありえないって……」
和「それはそれです。いいんです。気持ちの問題ですから」
咲「はあ……」
和「確かに半荘一回だけなら、どんなに強い人だって大負けすることはあります。弱い人が和了りまくることだってあります……。けど、私はこうも思うんです」
咲「うん?」
いえ、思うだけです。勝ちたいときに絶対勝つなんて……そんなオカルトありえません……でも、そういうのを信じたいって気持ちを持つことは……いいのかもしれないと思ったんです」
咲「うん……そうだね……!」
和「これ……宮永さんを見ていて思ったんですよ……?」
咲「えっ!? あ、そ、そうなの!? なんか照れる……////」
和「あの……そういう赤面は……感染するのでやめてほしいのですが/////」
咲「はっ、原村さんだって……さっきの南二局からずっと赤い……よ」
和「あれは……! なんというか……いいじゃないですか、そっちのほうがうまく打てるんですから!」
咲「そ、そうだね!」
和「…………宮永さん……」
咲「な……何?」
和「次は――絶対勝ちます。勝って宮永さんに託します。たとえこれが一生に一度の……私の絶対に勝てる半荘だとしても……ここで使うのは全く惜しくありません。
だから……見ていてください!」
咲「う……うん/////」
和「じゃ、私は対局室に戻りますので……////」
宮永咲――二度目のフラグ立直!!
副将戦後半
東:和 南:睦月 西:ともき 北:池田
東一局親和
七巡目。
池田(さて、テンパイ。断トツの今はリーチしたくないけれど、しないと役ナシ……手替わりでどうにかなるわけでもない……ならここは当然!)
池田「リーチだし」スッ
和()ヒュッ
睦月(風越が先制リーチ。対してこちらは……手なりで進めてやっとイーシャンテン……清澄は……さすがにいきなり危険牌は切れないみたい。それはそうか。誰だって一発なんか食らいたくない……なら、私も……)タンッ
ともき(風越……さっきの終盤から大人しかったというのに自ら危険を冒して先制リーチ? ひょっとしてリーのみ……とか? ただ……こちらはそれ以下の手……勝負にならない)タンッ
池田(さっきから全員きっちりオリやがって……こういう相手はやりにくいしっ! でも、関係ないしっ! 華菜ちゃんツモるしっ……にゃ、ツモれず……!)タンッ
池田「テンパイ」
和「ノーテン」
ともき「ノーテン」
睦月「ノーテン」
ともき(風越……リーチしなければ役ナシのくせにドラ三赤一とか……ツモか裏が乗ればハネ満……後半でも勢いの衰えは期待できそうにない)
睦月(オリたぞ……最後まで! あのまま行っていれば放銃していたかもしれないけど、清澄も龍門渕もオリだったから安牌が増えて助かった。
私には捨て牌から風越の手を読むなんてことはできないけど……相手の点数を見切って押し引き判断とか無理だけど……そんなの……できないなら周りの人がどう対処しているか見て真似してみればいいんだ。
なんたってこの人たちは私よりずっと強いんだから!)
池:141000 と:109500 和:63600 む:84900 供託:1000
八巡目。
睦月(テンパイ。タンピンの三張面……高め三色の絶好形。ここは行くしかないよな……。三人の捨て牌……うう、さっぱりだ。
けど……恐いけど……この恐さは乗り越えないといけない恐さだ……! もしこれで当たったりしたらそのときはまた別のやり方を考える!)
睦月「リーチ……」スチャ
ともき()タンッ
池田()タンッ
和()ヒュッ
睦月(三人ともオリたか……? でも、この待ちでこの巡目なら十分ツモ和了りも期待できるはず……一発はならなかったけど)タンッ
睦月(げっ……清澄にドラポンさせてしまった……! オリたんじゃなかったのか……?)タンッ
ともき()タンッ
池田()タンッ
和「ツモ。中ドラ三、2000・3900の一本場は2100・4000」
睦月(うわぁ……清澄……フリテン覚悟で一発放銃を回避して、そこからドラ鳴きでツモ和了りに持っていくなんて……!
ただオリるだけじゃない……チャンスがあればフリテンでも和了りを目指す……そしてたぶん、うまくいかなかったらいかなかったできっちりオリ切るつもりだったんだろうな。
今の私には考えられない選択肢の幅……これが全中王者の麻雀……!)
池田(うわ、清澄の和了り……ちょっと格好いいしっ!)
池:138900 と:107400 和:73800 む:79900
副将戦、幾度もテンパイ・リーチするものの我慢を強いられてきたともき、ここに来て一発逆転の勝負手が入る!
ともき「(この点差……この相手……出し抜くためには……ここはリーチせずには済まされない)……リーチ」スチャ
ともきの手、三暗刻ドラ三、リャンメン待ち……ヤミの出和了りでも親満。リーチをかければ親ハネ確定。しかし……ともきはさらに上を目指す。
ともき(清澄のインターミドルは底知れない……風越は天井知らず……鶴賀からは二人ほどの脅威は感じないけれど、リーチにはしっかりオリてくるから出和了りは期待できない……)タンッ
ともき(私は……純のように何かが見えるわけではない。一のように小さい頃から麻雀に親しんで思い入れがあるわけでもない。衣や透華のように身の内に魔物を飼っているわけでもない……龍門渕で最も地味な打ち手……それが私……)タンッ
ともき(けれど……きっと勝ちたいと思う気持ちなら……私はみんなに引けを取らない。いや、ひょっとすると一番かもしれない……。
勝って当然の衣、性格の悪い純、目立つことが第一の透華、フェアプレイを好む一……四人にとって麻雀で勝つことはきっと結果でしかない……ただ、私は違う。
私にとって麻雀は……ゲームは……勝たなければ意味がない……)タンッ
そして何より……最後に私が勝つから……面白いんだ……)タンッ
ともき(透華に出会えて本当によかった。麻雀は楽しい。勝てるかどうかわからない相手と全力で戦って……それでも最後に私が勝つから楽しい。
勝てない麻雀なんてつまらない。泣きたくなるほど大嫌い……。
だから私は……誰が相手でも妥協なんてしない……できる限りデータを集めて……対策を練って……そして……絶対に勝つ……)ツモッ
ともき(来た……。普段ならここはスルーだけど……ここが勝負の分かれ目……絶対に決めて見せる……)
ともき「……カン」パタ
睦月(親リーの暗槓……!)
和(この決勝戦……そう言えば何度かあったカン。でも、最初に嶺上開花を決めるのは宮永さんであってほしい……! そんなオカルトありえませんけど……!!)
ともき(嶺上はならず……いや、それよりもカンドラが乗らなかったのが悔やまれる……けど……これで裏は増やした……暗刻の多いこの手なら……三倍満も決して夢ではない……)タンッ
池田(うにゃあああああああ!? ぐるぐる回し打ってたらここに来てカンドラモロノリッ! 美味し過ぎるしっ!!)タンッ
ともき(風越の池田……その顔はまさかカンドラが……く、本当に面倒なやつめ……)
ともき「あら……衣。今回はあまり遊んでこなかったのね……あんな早々に風越を飛ばすなんて……何か見たいテレビでもあった……?」
衣「否、衣はもっと遊んでいたかった。それなのに風越が……」
ともき「風越が……どうかした?」
衣「うむ……他の者はもう諦めていたようだったが、風越だけはちょこざいな悪あがきをしてきた。だからつい勢い余って飛ばしてしまった……不覚。
ぴったり0点にしてやるところだったものを……」
ともき「確か……風越の池田華菜……私たちと同じ一年……」
衣「ともき、心しておくがいい。風越のあいつはかなり面倒だ。
手がバカ正直過ぎて衣の敵ではないが……しかし、油断しているとどんな状況からでもこちらを喰いにくる」
ともき「たとえ点数がゼロになっても……?」
衣「そこまではさすがに皆目無見当。ただ……あれも一年というのなら、来年も再来年も……ずっとこの県にいるのだろう。
できれば今回で再起不能にしておきたかった」
ときも「いや、あの振り込みじゃしばらく牌を握れないと思うわ……あの子」
衣「それならば良し。しかし、あいつがまた衣たちの前に立ちはだかるときがあるとするならば……用心しておくがいい。
衣も……次があるなら本調子のときに叩き潰す」
ともき「へえ……風越の池田……ねえ……」
――――――
池田(ツモれず……! けど、これは龍門渕の安牌……次のツモに賭ける!)タンッ
ともき(衣……あなたはたぶん……たくさんのいい打ち手を摘み取ったのと同じくらい……たくさんのいい打ち手を育てたのかもしれない……私たち四人のように……)タンッ
池田(またツモれず……でも、これも龍門渕の安牌だからまだまだセーフ。早く次のツモ来いしっ!!)タンッ
ともき(このまま……流局か……? それとも風越か……? いや……私が……ここで和了ってやる……!)
池田(親リー蹴り飛ばしてやるしっ!!)
そして――十七巡目。
池田「ツモだし……断ヤオツモ赤一ドラ三……! 3000・6000!」
瞬間、ともき、思わず天を仰ぐ。
ともき(……やら……れた……。けど……私はまだ諦めたわけじゃない……。親はもう一度来る……それまでに立て直して……連荘でまくる……)
池田(ふう……マジ危なかったしっ!)
池:151900 と:100400 和:70800 む:76900
十巡目。
池田(さっきはなんとか打ち合いに勝ったけど……いや、これはどうだろう……)
池田の手牌、既に萬子のメンチンをテンパイ。赤と一盃口がついてどう和了っても倍満確定。
池田(また華菜ちゃん無双だと思ってたけど、どっちかっていうと夢想だったかもしれないしっ!)
池田のツモ。生牌の西。清澄の捨て牌を一瞥。三巡前にリーチしている。
池田(この西……不吉な臭いがプンプンするし。かといってこれを抱えて混一狙いにいったところで……)
龍門渕、二巡前にリーチ。捨て牌からして萬子の染め手が濃厚。互いに互いの当たり牌を抱えている可能性が大きい。
池田(前門の虎、後門の狼……か。なら、あたしは虎を選ぶ。前に進んでいたいから。どんな状況に置かれようと……天江衣に追いつくために……あたしはこれからも前に進み続ける!)
そして、池田、打、西。
和「ロン。リーチチートイ……裏二。8000です」
池田「はいよ……」チャ
ともき(……風越……私ではなく最下位の清澄に振り込むほうを選んだか……)
池田(清澄の……しれっと裏を乗せてくるとかやっぱ可愛くないしっ!!)
池:143900 と:99400 和:79800 む:76900
序盤、鶴賀・睦月からリーチが入る。しかし、全員オリ。
鶴賀「テンパイ」
和「ノーテン」
池田「ノーテン」
ともき「ノーテン」
流局。
池:142900 と:98400 和:78800 む:78900 供託:1000
南二局一本場親睦月
和「ツモです。メンホンツモ、2000・4000は2100・4100」
睦月(うう……また清澄の満貫ツモで親流された……!)
池田(清澄、さっきにも増して隙がなくなってるな。休憩中に何があったか知らないが……本当に前半序盤のあれはなんだったんだってくらいに無茶苦茶強いし。
インターミドルチャンピオン……原村和、か。天江衣に次いで個人的にぶっ倒したいやつランキング二位にしとくしっ!)
池:140800 と:96300 和:88100 む:74800
ともき「テンパイ」
和「ノーテン」
池田「ノーテン」
睦月「ノーテン」
ともき(……大丈夫……まだ反撃のチャンスはある……)
池:139800 と:99300 和:87100 む:73800
南三局一本場親ともき
ともき、前半同様、ラス親で粘りのツモ。
ともき「ツモ。リーチツモ赤一……2000オールは2100オール」
池:137700 と:105600 和:85000 む:71700
ともき、今度は鳴きを入れてテンパイ。
しかし、その次巡。
池田「ロンだし。ダブ南白赤一。8000は8600」
ともき(……しまっ……た……)
池田(逆転狙いで手が重くなったところを狙い撃ち……。天江衣……お前にはある意味感謝しないといけないのかもしれないな……。
去年あたしをトバしたこと……後悔してももう遅いしっ!!)
池:146300 と:97000 和:85000 む:71700
池田(この半荘トップは清澄……あたしは今のところ一応プラスか。ここに来てラス親が重く感じるな。
始まる前は連荘とか言ってたけど、別にここで清澄からトップを奪う必要はないのに……親っかぶりの危険が常に付きまとう……ウザ……)
この局、しかし、池田の思いとは裏腹にいい引きが続く。
池田(うわ……また一索……ヤオ九牌のドラが暗刻で固まったし。赤もこんなときにぞろぞろ集まってくんなし……!
お前らドラは有難いけどリーチしないと役にならないからヤミだと出和了りできないんだしっ!!)
それでも、ドラを抱えることで他家の打点が下がると積極的に考え、淡々と手を進めていく池田。
その――対面。
睦月(ツモ……これだと平和ツモ……1300。リーチしておけばよかったかなぁ。これを和了れば……その瞬間に副将戦終了。前半のオーラスだったら……ここで終わりにしてただろうな……)
睦月、卓上、そして卓を囲む面子を見回す。
睦月(結局ここまで私だけ焼き鳥……はは……先輩方はああ言ってくれたけど……負けていいなんて……やっぱり嫌だ……私が……私が嫌だ……!!
ここでツモ和了りをして終わるくらいなら……! 私だって……私だって……一矢報いるくらいのこと……してみせるっ!!)タンッ
睦月(なんだこの手……三色も十分見れるじゃないか……! リーチして……フリテンになっても清澄みたいにツモで引いてくればメンピン三色ツモ……満貫……!
いやいや……! とにかくまずは引くことだ。皮算用ならいくらでもできる……!!)
睦月、次巡、次々巡と的確な引き。
睦月(三色……本当についた。けど……これじゃフリテン……)タンッ
その次巡。睦月、再び和了り牌をツモる。
睦月(平和ツモ三色……5200……これなら和了ってもいい……かな……)
睦月、山牌を見る。まだ……ツモはあと五回残っている。
睦月(はは……! これ……あとで絶対後悔するパターンかも……!!)タンッ
睦月、二度目の和了り拒否。雀頭を崩す。
睦月(まだ河にはドラも赤も見えていない。誰かが抱えているのかもしれないけれど……山に残っていないなんてどうして断言できる……?
いや、それにドラではなくとも……単騎待ちならフリテンは解消。この手なら、ヤオ九牌が来ればチャンタか純全帯もつくし……十分高い……!)
次巡、睦月、ドラの一索を引き当てる。思わず、身震い。
睦月(これは……ダマでも純全帯三色ドラドラでハネ満。ツモれば倍満……リーチをかければ……出和了りでも倍満確定……どうする……!!)
それは決して悪いイメージであってはいけない。
できる限り――いいイメージ。
例えばそう、前半の風越・池田の数え役満のような……見ている者が震えるほどの――美しいイメージ。
睦月(私も……あんな風に……なれたら……!!)
睦月、ドラの一索で単騎待ち。不要牌を河に置き――曲げる!!
睦月「リーチですっ!!」スチャ
睦月のこのリーチ……観戦室から見れば、当たり牌を全て池田に抱えられている絶望的なリーチ。
しかし、このリーチによって、何もなければドラを抱えたままこの局を終わらせようとしていた池田の思考が――揺れる。
睦月のリーチに対し、先程はツモってきた睦月の現物をそのまま切った池田。今回ツモったのは、しかし、またも不吉の象徴・生牌の西。池田の手が止まる。
池田(西は対面の役牌……しかもまだ生きている。捨て牌を見てもチャンタ気配バリバリ……どうする……手を崩すか?
ただ、そうかと言って赤とくっついてる中張牌を切るのもな……清澄も龍門渕も鶴賀のリーチにツモ切りだったから張ってる可能性は十分にある。
はは、華菜ちゃんまたまた大ピンチ。さっきから高いのを張るか安牌ゼロ状態か……生か死か……極端な二択だし……)
池田、思考を進める。
池田(或いは……ドラの一索……。二索はあたしから四枚見えているから、当然あるのは単騎待ち。
この状況ではけっこうよくある待ちだ……ま、しているとしたら誰か一人ってことになるけど……)
池田の脳裏にまたあの言葉が浮かぶ。
『池田ァァ! おまえが倍満振り込んで風越の伝統に泥ォ塗ったの忘れたのかよ!』
振り込み――その苦々しさは、振り込んだ池田自身がよくわかっている。
だからこそ――今日まで池田は精一杯強くなるための努力をしてきた。きっと校内の誰よりも……或いは県内の誰よりも……。
池田、覚悟を決めて、打牌を選ぶ。
池田(いやいや……そうじゃなかった。あたしが強いか弱いかなんて今は関係ないんだ。忘れていたわけじゃない。あたしは……みんなと勝つために……ここに戻ってきた。
そのために……この点差この状況……あたしがすべきことは何か……? 和了らせない……振り込まない……そして……うちのトップで副将戦を終わらせる。
それがあたしのするべきことだ……ならここは……こうだろ……!)
池田、テンパイを崩しての、打、六萬。睦月の現物であり、清澄と龍門渕にはスジ。
ロンの声は――かからない!
池田(このまま無傷でオリ切って副将戦終了だしっ……!)
同巡、和、暗刻で抱えていた西を打つ。
池田、それを見て、つい溜息。
そして、淡々と山牌が消費されていき――。
睦月「テンパイ」
池田「ノーテン」
ともき「テンパイ」
和「ノーテン」
終局。なお、供託リー棒はこの半荘トップの和の手に入ったものとする。
ともき(……風越……完全にやられた……)
睦月(和了れなかったか……。はは……これは……やっぱり後悔するパターンだったな……)
池田(鶴賀はドラ単騎だったのか。危ない危ない。
華菜ちゃん……また課題が一つ……これからは他家が張ってもキャプテンくらいにばっちり読んでもっと上手にかわせるようになってやるしっ!)
副将戦後半――終了!!
副将戦後半
一位:和+19900(84500)
二位:池田+5800(144800)
三位:ともき-12000(98500)
四位:睦月-13700(72200)
対局終了後、池田、「これはきっとウザがられる」と思いつつも、つい睦月を呼び止める。
池田「おい、鶴賀の津山とか言ったな」
睦月「風越の……池田さん。なんでしょうか……?」
池田「あたしさ、本当は天江と戦いたくてここまで来たんだ。だから、今日の面子見てどこかがっかりしてた。
でも……今は違う。お前らと戦えてよかったって思ってる。あたしなんかまだまだだって……再確認できたし……すごく勉強になった。ありがとうな。
それと……最後のリーチ、華菜ちゃんの真似っこするのは十年早いけど……華菜ちゃんはああいうの嫌いじゃないしっ! 悔しかったら次は一発でツモってみろしっ!!」
睦月「……!! こ……こちらこそ……勉強させてもらいました……!!」
池田「うちが全国行くときは鶴賀も練習試合に付き合ってくれよな。そこでいっぱい対局するんだしっ!
あと、またいつか麻雀やめたくなったら今度は華菜ちゃんが相談に乗ってやってもいいしっ! じゃ、言いたいことはそれだけだしっ!」
睦月「はい……またよろしくお願いします……。あ、でも……」
池田「にゃ?」
睦月「こんな私が言うのもなんですが……全国に行くのは……私たち鶴賀です」
池田「にゃはっ! ずうずうしいにもほどがあるしっ!!」
睦月「いや、あなたにだけは言われたくありませんよ……」
睦月、帰還。出迎えるチームメイト。
かじゅ「津山、よく頑張ったな。いい闘牌だったぞ」
蒲原「むっきー、今度は誰にも振り込まなかったじゃないかー」
モモ「むっきー先輩、お疲れ様です!」
妹尾「最後のリーチ、すごく格好よかったよっ!」
笑顔の四人に迎えられた瞬間、睦月、対局室では絶対に泣くまいと堪えていた涙が、込み上げる。
睦月「私……私は……!! 私は負けました……!!」ポロポロ
かじゅ「うん。負けたな。ラスだっただけじゃない。鶴賀も最下位に転落だ」
睦月「はい……!! 私……すごく……負けたのが……みんなの力になれなかったことが……!! すごく悔しいです……!!」ポロポロ
蒲原「そうだなー。それは悔しいだろうさー。それで……むっきーはこれからどうするー?」
睦月「はい……!! もっと勝てるようになるまで!! いつかちゃんと勝つまで……!! 私……麻雀をもっと続けます……!! 私は!! もっと麻雀で勝ちたいんです!! だから……どうか……こんな私を鶴賀の一員のままで…………いさせてください……!!」ポロポロ
蒲原「そーだそーだー。それになー、むっきー。負けられるときに負けておかないとな、いつか勝ちたいときに勝てなくなるもんだ。
今回のむっきーはいい経験をしたんだよー」
睦月「はい……ありがとうございます……!」ポロポロ
かじゅ「ほら、津山。これで涙を拭け」
睦月「……ありがとう…………ございます……」
睦月、加治木からハンカチを受け取って、ソファに泣き崩れる。モモと妹尾、睦月を励ますように睦月の両隣に添う。
そして、そんな後輩たちの姿を立ったまま見ている加治木と、蒲原。
かじゅ「本当に……完膚なきまでにやってくれたものだ」
蒲原「まったくだー。うちの可愛い後輩を泣かせやがって頭くるよなー」
かじゅ「おい、蒲原。わかってるだろうな?」
蒲原「ああ……わかってる。ワハハ……」
ワハハ――そう言って笑うも……その顔はもはや笑っていない!
蒲原「撃ち落せばいいんだろう、風越を」
鶴賀・大将――蒲原智美……出陣!!
天江衣の記録を塗り替えて本日の前後半合計獲得点数ハイスコアを叩き出し、最下位だった風越を一気にトップまで押し上げた、池田華菜。
しかし、そんな誇るべき結果を持ち帰った池田を待っていたのは……。
久保「池田ァァァァ!! テメェさっきの闘牌……!! ありゃなんだァ!!」
池田「はいぃぃぃぃ!! す、すいません……!!」
久保「マグレで役満和了ったからって調子に乗りやがって……!! そういうところがまだまだ甘いって言ってんだよ池田ァァァァァ!!」
池田「はぃぃ…………!! すいません…………」
久保、しょげて縮こまる池田を睨みつつ、舌打ち。
久保「わかってんのかァ? 今のテメェじゃ天江とやっても勝てねえぞ。オーダーがズレてよかったな。なァ、池田ァァ!!」
池田「は……はい! さっきの中堅戦……天江も今年は更に強くなっていました……! あの天江に勝つのは今のあたしでは無理です……だから、コーチ……!!
あの……清澄の原村……あいつの牌譜があるなら全部見せてください……! あの打ち回しができれば……もっと天江に近づけるような気がするんです……!!」
久保「そうだなァ……テメェみたいなバカにつける薬なら原村の他にもいくらだってあるだろうよ……あとでまとめてやるからしっかり研究しとけ!!」
池田「は……はい!!」
テメェが天江レベルと打って勝てるようになんねえとうちが全国優勝するのは無理なんだよ。だからそのときまで死ぬ気で練習しろ!!
わかったかァ!! 池田ァァァ!!」
池田「は…………はい!!!」
池田(って……! コーチもう全国に行った気でいるしっ!? いや……! そりゃそうか……なんたってうちの大将は……!!)
久保「おい、福路。言ってみろ。風越の主将であり大将であるテメェの仕事はなんだ?」
福路「名門風越を優勝に導くことです」
久保「わかってんならいい。さっさと行って決めてこい。池田のバカがトップになった時点で方々に連絡して強化合宿の段取りを進めておいたからな。
負けたら承知しねえぞ!」
福路「はい、大丈夫です。絶対に……優勝するのは私たちです」
久保「はん。相変わらず返事だけは達者だな、テメェはよ!」
風越・大将――福路美穂子……開眼!!
ともき「……衣が去年風越をトバした反動がどうして私に……」
衣「オーダーがズレたのなら仕方あるまい。本当なら衣が返り討ちにしてくれるところだったのだが」
井上「風越のはそんなでもねえ感じしたけどな。清澄のほうがヤバそうだったぜ。ま、どっちみちオレなら勝てた」
ともき「うるさい……鶴賀相手に手も足もでなかったくせに」
井上「ばっ! あれはあれだよ……サシの勝負に拘らなければオレが勝ってた。…………っていうかお前ちょっと泣いてないか?」
ともき「……黙れ……オンナ男……」
井上「せめてオトコ女にしろよっ! つーかオレは背が高いだけで全然正常だろうが。お前みたいなネットオタクよりはよっぽど普通だ」
一「まあまあ二人とも喧嘩しないで……」
ともき「ああ……一……あなたも私たちと同じ……マイナス収支組……」
一「はぁ!? 何言ってるのともきー!? ボクのマイナスはあってないようなものでしょ!? 前後半合わせてたった2100点だよ!?」
井上「何を言ってんだ国広くん、大小なんて関係ねえよ」
一「もー! ええー? どうしてこの流れでボクが責められる感じになってるのさ。ねえ透華、聞いてよっ。ともきーと純くんがひどいんだ!」
一(え……? 透……華……?)
ともき(……これは……不完全な気もするけれど……)
井上(……まさか……県予選で見ることになるとは思ってなかったな……)
衣「とーか!! とーかが衣たちの大将だ。相手はなかなかどうして油断大敵! 思う存分暴れてくるがよかろうっ!!」
透華「そ、そんなことは言われなくてもわかっていますわ……それじゃあ……行ってきますわね……!」
一(と、透華……!!?)
龍門渕・大将――龍門渕透華……異変!!
久「とうとうここまで来たわね。気分はどう、咲?」
咲「ちょ、ちょっと緊張しています……」
タコス「咲ちゃん、対局前におトイレ行ったほうがいいじょー」
咲「そ、そうだね」
まこ「なんじゃ珍しく萎縮しとるのう。わりゃぁこと麻雀だけは生意気じゃと言うんに」
咲「いえ……ちゃんと気持ちは整っているんですけど……。なんだかさっきから寒気が止まらなくて……」
和「宮永さん、大丈夫ですか……?」
咲「う、うん。たぶん……気のせいだと思う……心配しないで。私、勝つよ。勝ってみんなと全国に行くんだもん」
久「じゃあ……私たちの分まで頼んだわよ、咲!」
タコス「全員トバしてしまえばいいじょー!」
まこ「お前さんのことは心配しとらんけえの。好きなように、楽しんで、思うように打ったらええ!」
和「宮永さん……! 頑張って……!!」
咲「はい……。行ってきます……!!」
清澄・大将――宮永咲……登場!!
東:福路「よろしくお願いします」
南:蒲原「お手柔らかにー」
西:透華「よろしくですわ……」
北:咲「よろしくお願い……します……!」
大将戦前半――開始!!
先鋒戦前半、東発速攻の清澄・片岡、開始早々二度の親倍ツモでリードを広げます。
各校、積極的に片岡を封じにかかりましたが、前半戦はそのまま片岡の逃げ切りで終わりました。
後半、三校から警戒された片岡、東場で思うように和了れず。
そんな中でまずは風越・吉留、次いで龍門渕・国広が頭一つ抜け出します。
しかしその後、それまでラスに甘んじていた鶴賀・東横が奇妙な和了りを連発。
結果は東横の見事な一人浮きとなりました。
しかし、東四局に入って抜け出したのが鶴賀・加治木。東横の稼いだリードを更に広げます。
中盤以降、清澄・染谷が加治木に抵抗するも、加治木がそれを振り切って終局。
またも無名校・鶴賀の一人勝ちとなりました。
後半、このまま加治木の独走かと思われましたが、東四局、風越・文堂が加治木を直撃。
止まらないように思われた加治木に待ったをかけます。
その後は各校決定打が出ず、膠着状態のまま終局を迎えました。
しかし、その直後、鶴賀・妹尾が天江に親の役満を直撃。
鶴賀・妹尾は南二局でも字一色七対子を和了ってみせ、他を大きく引き離し、トップでこの局を終えました。
後半、鶴賀・妹尾、東場開始早々に海底ツモ、二度目の国士無双とさらにリードを広げます。
しかし、妹尾の活躍もそこまででした。
まずは天江が妹尾に満貫を直撃してからの六連続和了。
以後、これまでの苦境を跳ね除けるように清澄・竹井と風越・深堀も鶴賀を直撃。
そんな大荒れの中堅戦でしたが、前後半を通してプラスで和了ったのは天江衣ただ一人。
龍門渕・天江、その強さを遺憾なく見せつける結果となりました。
そんな中、東三局二本場にて風越・池田がこの日三度目となる国士無双を清澄・原村に直撃。
池田はその後も立て続けに役満を和了り、副将戦開始時の点差を見事にひっくり返します。
終盤、清澄・原村の目覚しい活躍で風越のリードが多少削られたものの、大きく崩れることもなく、そのまま風越・池田が逃げ切って終局となりました。
後半、前半同様、風越・池田と清澄・原村の両選手が場を支配します。
龍門渕・沢村、鶴賀・津山、途中勝負を仕掛けるもその力及ばす、終局を迎えました。
また、この時点で風越・池田が本日の前後半合計獲得点数のハイスコアを記録。
名門風越の復活を見ている者に知らしめました。
トップが他を大きく突き放しての名門・風越女子、144800点。
次いで、ほぼ原点の前回優勝校・龍門渕、98500点。
その後ろに三位清澄、84500点。
四位鶴賀学園、72200点となりました。
清澄・宮永を除き、各校の部長がチームの命運を背負って顔を揃えた運命の一戦。
しかし、その前半はあまりに一方的な結果に終わりました。
場に唯一の一年生、清澄・宮永咲。
その圧倒的なまでの――完封負けです』
モモ「あっ、帰ってきました!!」
妹尾「わわ、どうやって迎えるのが一番いいかな!?」
鶴賀・大将、蒲原智美。大将戦前半……結果。
一位:蒲原+29800(102000)
鬼気迫る闘牌を見せ、トップ帰還。
蒲原「ワハハ。なんだかバカみたいにツイてなー。さっきは。こりゃ明日は槍が降るぞー」
控え室に戻ってきた蒲原。
出迎える鶴賀の面々。
睦月「蒲原先輩……」ポロポロ
蒲原「むっきー泣くなよー。まだ終わったわけじゃないぞー」
睦月「でも…………」ポロポロ
加治木、睦月の背中を優しく叩き、それから、蒲原の前に立つ。
かじゅ「…………」
蒲原「…………」
鶴賀三年、加治木、蒲原、両名しばし見つめ合う。
二人とも、そのまま無言で片手を頭の上に挙げて、その平手を――思いっきり叩き合う。
心地よいハイタッチの音が鶴賀の控え室に響く。
かじゅ「お前が大将で心からよかったと思うぞ、蒲原!」
蒲原「ワハハ。そいつは嬉しいなー、ユミちん!」
モ・妹・睦「うわああああああああああ!!!!」
直後、後輩にもみくちゃにされる加治木、蒲原。
どちらも、まんざらでもない笑顔だった。
久保「福路……テメェ」
福路「期待に副えず……申し訳ありませんでした……コーチ」
氷のように冷え切った空気。
部員一同、固唾を飲んで見守る。
池田、万が一久保が手を上げた場合、いつでも福路の前に身代わりで飛び出る構え。
久保「ふん……次は蹴散らせよ。いいな?」
福路「…………はい」
久保、そのまま携帯を持って控え室を去った。
風越・大将――福路美穂子。大将戦前半……結果。
三位:福路-7200(137600)
失点はしたものの、チームとしては十分に首位を保持。
みはるん「キャプテン……!」ウルウル
文堂「キャプテン……!」ポロポロ
深堀「キャプテン……!」ドムドム
部員一同、目には涙。
しかし、福路の目に涙はない。
後輩の敗北に涙を流しても。
自分の敗北には決して涙を見せまいという、キャプテンとしての――意地。
福路「ごめんなさい。リードを広げるつもりだったのに……削られてしまったわ。けれど……次は必ず勝ってみせる。勝って優勝する。
みんな一緒に……笑って表彰台に立ちましょうね」
部員全員「キャプテーーーーーン!!!!!!!」
一「あっ、透華!! 気がついた!?」
透華「あら……わたくし何を……ここは……? えっ? た、大将戦はどうなりましたの!!?」
井上「さっき前半が終わったとこだよ。で、前半が終わった直後にお前と清澄がぶっ倒れてな。今は休憩を延長してる。
あと三十分経っても二人の意識が戻らないようなら、後半は明日に延期だとさ」
透華「前半が終わったですって!? き、記憶にございませんわよっ!? そんな……わたくしはどうなりましたの?」
ともき「牌譜……見る?」
透華「ええ……」
衣「衣は見ていて楽しかったぞ、とーか!」
透華「………………こ、こんなの……こんなのわたくしじゃありませんわ!!」
龍門渕・大将、龍門渕透華。大将戦前半……結果。
二位:透華+14100(112600)
淡々とした和了りでトップ風越に迫る。
しかし、注目すべき彼女の功績は、恐らく記録には残らない。
牌譜から読み取ることは決してできない、冷たい気配。
それは、同卓した者にしか、感じられなかっただろう。
咲「…………ん……あ……」
和「宮永さん! 気がつきましたか!!」
咲「あ……私……? あれ……ここは?」
和「仮眠室です。宮永さん、対局が終わったあと、気を失って倒れたんです。龍門渕の人も倒れて……そちらはチームメイトが控え室に連れていきました。宮永さんは……こっちに」
咲「え……? どうして私は清澄の控え室に運ばれなかったの……?」
和「それは……みんながそのほうがいいって言ったので。起きたときにみんなの顔があったら……宮永さんが辛いかもって。
それで……私一人で付き添うことになったんです。お身体の具合は大丈夫ですか……?」
咲「身体はなんともないよ。心配かけてごめんね。でも……ああ……そっか。私……負けちゃったんだよね……」
清澄・大将、宮永咲。大将戦前半……その結果。
四位:咲-36700(47800)
和「宮永さん……」
咲「ごめんね、原村さん……私…………勝てなかったよ……」
和「み、宮永……さん……!!」
肩を落として、目を伏せる咲。そんな咲の姿を見て、和の目から、涙が零れる。
和「……宮永さん……! 宮永さん……! 宮永さん…………!!」ポロポロ
咲「え……どうして原村さんが泣いてるの……?」
和「だ、だって……宮永さんが……そんな顔するから……! そんな……負けが決まったみたいな……顔……!!」
咲「あ……ご、ごめん……!」
和「本当ですよ……!! たった一回の半荘を負けたくらいで……なにを弱気になっているんですか……!!」
和、ここぞとばかりに咲に抱きつく。
和、咲の顔に自分の顔を寄せて、涙ながらに訴える。
和「それでも……宮永さんなら……! 最後には勝ってくれるって……!! 私……信じて待っているんですから……!!
だから……そんな顔しないで……勝てなかったなんて……言わないでください……!! 宮永さんが負けて終わるなんて……そんなのありえませんよ……!!
そんな終わりはありえません!!」
咲、和から目を逸らして、照れるように、微笑む。
咲「私は……大丈夫だよ、原村さん。まだ……戦えるよ……」
和「宮永さん……?」
咲「ごめんね……そんなつもりじゃなかったんだけど……へ、変な顔しちゃって」
和「み、宮永さんの顔は変じゃありませんよ! とても綺麗ですっ!!」
咲「は、原村さん……//////?」
和「し……失言でした……///////」
咲「えっと、その、原村さん」
和「なんでしょうか……?」
咲「私は大丈夫だよ。だから……最後まで見ていて……約束だよ」
和「は……はい!!」
咲「私……次は絶対勝つよ。勝って、原村さんと全国に行くんだ」
和「わかりました……。ごめんなさい、私……勘違いして取り乱したりして」
和「信じて待っていて……いいんですね?」
咲「うん、もちろんだよ」
和「じゃあ……待っています。みんなと……あなたが勝って帰ってくるのを……!」
咲「うん……ありがとう」
さて、このとき実は影から二人を覗いていた三人。
タコス「うわああああ! のどちゃんヘタレだじぇ! どうしてあそこで押し倒さないんだじぇ!!」
久「いやいやここはこれでいいのよ……! わかってないわね……それは優勝してからのお楽しみ……!!」
まこ「二人とも、とんでもなく悪趣味じゃのう……」
その後、透華、咲の自己申告により、対局は再開することとなる。
透華「清澄、具合が悪いならわたくしは明日でも構いませんでしてよ?」
咲「いえ、大丈夫です。ご迷惑をおかけしてすいませんでした。そういう龍門渕さんのほうは……?」
透華「わたくしはこの通りなんともありませんわっ!」
咲「そうですか……よかった。万全じゃない人を倒すのは……なんだか悪いような気がしていたので……」
透華「あなた……今さらっととんでもなく失礼なことおっしゃいませんでした?」
咲「あ、いえ……」
蒲原「ワハハ、強気だねえ、ルーキー」
福路「でも、そういう宮永さんのほうこそ、本当に万全なの?」
咲「はい。もちろんです。具合が悪いときに勝てるようなみなさんじゃないことは前半でよくわかっていますから。
だから……心配も……手加減もしないでください。そうじゃないと……勝ったときに嬉しくありません」
蒲原「頼もしい一年生だなー」ワハハ
福路「いいでしょう。わかりました。あなたがそう言うのなら……後半も全力をもってお相手します」
透華「まったく、そんなの当然のことですわっ!」
咲「じゃあ……みなさん。大将戦後半も……よろしくお願いします」
大将戦後半
東:蒲原智美(鶴賀) 南:福路美穂子(風越)
西:宮永咲(清澄) 北:龍門渕透華(龍門渕)
東一局親蒲原
蒲原(さーて、泣いても笑ってもこれが最後の半荘かー。
トップ風越とは35600点差……さっきはなんだか調子の悪そうだった清澄から和了って稼いだけど……今回もそううまくいくかなー?)タンッ
福路(清澄の宮永さん……あの上埜さんが大将に持ってきた人。
前半は龍門渕の妙な気配に圧倒されていたような感じだったけれど……今回その龍門渕がいつもの雰囲気に戻った……となれば……この後半で宮永さんは絶対に何かをしてくる……。
これは……点差を考慮しても……一番の危険人物はやはり宮永さんかしらね……)タンッ
咲(見ていてね……原村さん!)タンッ
透華(先程はわたくしらしくない闘牌でしたわね……。そんなので勝っても全然嬉しくありませんわ! 今度こそわたくしらしく勝たせていただきますの!
わたくしはラス親……華麗にまくって終わらせてさしあげますわ!)タンッ
咲「カン」
透華(加槓……? ドラを増やすつもりでしょうか)
蒲原(有難い。ドラがなかったけど、これならカンドラか、リーチで裏ドラが乗るかもしれないなー)
福路(宮永さん……大将戦に入って初めてのカン。予選の牌譜を見る限り……ここは嫌な予感しかしない……ついに動き出すというわけね)パタッ
咲「ツモ。嶺上開花。400・700」
蒲原(えー……嶺上開花……? いやーまーそれはいいとしても清澄……最下位のくせに随分安い手で和了ったなー……さっぱり狙いがわからんぞー)
透華(清澄……何を考えていますの……?)
福路(やはり……嶺上開花。そしてその和了りの形……嶺上開花以外では役無し。点数はともかく……今の宮永さんのカン……明らかに嶺上開花を狙いにいったものと見ていいでしょう。
上埜さん、どうやらあなたはとんでもない人を見つけたみたいですね……)
十巡目。
咲「カン!」パタッ
透華(また……!?)
蒲原(今度は暗槓かー……まさかまた嶺上開花なんてことは……)
福路(生牌はしぼっていたんですが……暗槓ではどうしようもありません……)パタッ
咲、嶺上牌をツモり……テンパイ。
そして――。
咲「もいっこ、カン!」パタッ
透華(連槓……!?)
蒲原(おいおい清澄……)
福路(二連続……! これは……予選の牌譜にはなかったけれど……!)
咲「ツモ。嶺上開花。70符2飜……1200・2300」
嶺上の花……完全開花は――間近ッ!!
咲:54000 キャ:134900 と:111000 ワ:100100
福路(開始早々二連続の安和了り……まるで肩慣らしですね。そして……ここで宮永さんの親……これはそろそろ大きいのが来る……?)タンッ
咲()タンッ
透華(清澄の……いつか廊下ですれ違ったときに衣のような気配を感じましたが……まさか本当に……あなたも魔物を飼っているんですの……?)タンッ
蒲原(ここで清澄の親か……嫌な予感しかしないなー)タンッ
咲「ポン」タンッ
咲、蒲原の六筒をポン。
透華(六筒ポン……? よくわかりませんわね……単純に食いタンで親の連荘狙い……?)タンッ
蒲原(さて……清澄。何をしたいのかはよくわからないけど……こっちも張ったからなー。今更安手で回したことを後悔するなよー)タンッ
福路(鶴賀がテンパイしたようですね……直撃は避けたい。宮永さんは気になるけれど……見たところ宮永さんの手は張ってすらいない。
あまり神経質になり過ぎるのもよくないかしら……)タンッ
しかし、各校――或いは咲を一番の危険人物と警戒する福路すらも――咲の真価をまだはっきりとは理解していなかった。
もちろん、この点差、連続和了したとは言え、清澄が圧倒的劣勢なことに変わりはない。
だがそれも、後に嶺上使いとまで呼ばれるようになる宮永咲にとっては、無関係なのかもしれなかった。
対局の様子をモニター越しに見守っていた観客の中には、少なからず、そう感じた者もいただろう。
咲、ツモ――六筒。
咲「カン!」カンッ
透華(加槓……! またですの!?)
咲、嶺上牌を手の中へ。
イーシャンテンからのテンパイ。
そして、まだ手の内に残っている、槓材。
まさか――と誰もが思う。
そう……咲はここで止まらない――!!
蒲原(二連続……!! また嶺上開花……!?)
そのとき観客からははっきりと見えていた、三連続三度目の嶺上開花!!
しかし……咲はそれでも止まらない!!
その花は――何度でも咲く!!
咲「……もいっこ、カン!!」カカカンッ
福路(なっ……!? 三連続カン……!! 上埜さん……!!!)
嶺上開花和了拒否――からの――同巡三度目の槓!
喰いタン一飜――張ってすらいなかったその手が――たった一巡で華麗に変貌する!!
咲「ツモ……嶺上開花…………断ヤオ対々三暗刻三槓子……8000オール」
晒された手牌に、卓を囲む三人が、ようやく宮永咲の異常性を認識。
その存在の大きさに――身を震わせる。
福路(……やってくれましたね……!!)
透華(意味不明!? 意味不明ですわっ!!)
蒲原(いやーこれはなー……ユミちんならこの子どうするよー?)
清澄・宮永咲――完 全 開 花 !!!!
七巡目。
咲「カンッ!」カンッ
透華(来た……!)
蒲原(いやいや、また嶺上開花なんてそんなバカな……)
咲「もいっこカン!!」カカンッ
福路(いや……二連槓では嶺上開花はできないはず……だって宮永さんはまだ……)
咲「…………」タンッ
透華「えっ……?」
咲「切りました」
透華「ああ、いえ、わかっていますわよ……!」
透華(そうですわよね……そうそう嶺上開花なんて和了られたらたまりませんわ!)タンッ
蒲原(清澄のカン……今度は嶺上開花ではなかった……いやー、ワハハ。ホントわっけわっかんないなー。でも……まあ……それはそれとして……)タンッ
でも……宮永さんが自在にカンで手を進められるのだと仮定すれば……ここはテンパイを待ってから嶺上開花を狙うはず。
それなら親の連荘でまたチャンスが来るはずだったのに。なぜ……?)タンッ
福路、嶺上牌で手を進めてテンパイした咲の当たり牌をかわす、打、八筒。
その、瞬間。
蒲原「ワハハ。風越、それは通らないなー」パラパラパラ
福路(鶴賀……!? しまっ……警戒を怠ったわけではなかったけれど……!! そして……その手は……!)
蒲原「断ヤオドラ四。8000は8300」
福路(その捨て牌とその和了り……! 私の読みを逆手にとって……点が下がるのも構わず迷彩をかけていたなんて……!
しかも……宮永さんのカン……あれでドラ四が加わって……ただの断ヤオが満貫に……!!)
福路(え……ちょっと待って……! じゃあ宮永さん……まさかこれを見越してわざと嶺上開花を和了らずにカンのタイミングを早めたの……!?)
福路、その手牌。咲の大明槓を防ぐために生牌をしぼりつつ、さらに咲の暗槓をも警戒して、安手ながらも既に三面張テンパイ。
咲が槓材を揃える前に、早和了りで咲の親を終わらせようという手作り。
福路(宮永さん……自分の手では私の早和了りに追いつかないと判断して……カンで自分に注意を向けさせておいて私が鶴賀に放銃するように仕向けた……?
しかも……カンドラで鶴賀の手を高めることで結果的にトップであるうちの点を下げることにも成功している……。
宮永さん……嶺上開花を自由に和了るだけならまだどうにかなると思っていましたが……今のを故意にやってのけたというのなら……正直、恐ろしいです)
蒲原(うーん……一盃口がつかなくて満貫止まりに終わったのはさすが風越ってことなのかなー。
けど……ま、これで完全に射程距離。絶対に撃ち落してやるからな。待ってろよー、風越)ワハハ
咲:78000 キャ:118600 と:103000 ワ:100400
透華(まったく! ですわ! わたくしさっきから何もさせてもらえませんの! こんなの屈辱ですわ。
いえ、まあそれも仕方がないのかもしれませんわね。この面子、さすがのわたくしも苦戦必至ですわ。
しかし……清澄……どうやら衣と同じ魔物の類だと思ったほうがよさそうですわね。ただ……わたくし……こう見えて魔物退治は得意でしてよ……!
一体誰が……あの天江衣をこの舞台に引っ張ってきたと思ってますの……!)タンッ
透華(さて。さっきからヤミで張ってますのに全然出てきませんの。まあ待ちは広いですからそのうち出てくるとは思いますけれど……。でも……でもですわっ!!)
そのとき、透華のアホ毛、立つ。
透華(そんなんじゃ目立てませんの! 今頃ギャラリーの目は清澄の嶺上開花に釘付けに決まってますわ!! そしてきっと誰もがまた清澄の嶺上開花を期待しているに違いありませんの!
そんな中でヤミテンを和了っても……きっとわかってくれるのは一部の玄人だけ。清澄よりも目立って、なおかつわたくしが和了る……そのためには……!)ツモッ
透華、たった今ツモった一索と、先程咲が蒲原から鳴いた二索の明刻を一瞥、そして――。
透華(ぶちかましてやりますわっ!!)タンッ
透華「いらっしゃいまし! リーチですわっ!!」スチャ
蒲原(龍門渕……さっきとはまるで雰囲気が別人だけど……これはこれで厄介だなー)タンッ
福路(龍門渕……妙なところで妙なリーチをしてきましたね。
見たところ待ちの広い手のようだったから、てっきりヤミで和了りを待つのかと思っていましたけど……この数巡で一旦テンパイを崩してまで手替わりをした。
何か意図がある……?)タンッ
咲「カン!」カンッ
蒲原(また来た、清澄……!)
福路(宮永さんの加槓……。あ、そうか……! そういうことなのね……龍門渕……!!)
透華「その嶺上、取る必要ありませんわっ!!」
咲(え……!?)
透華「リーチ一発槍槓!! 7700ですわっ!!」
咲(えええー!?)
なんか変なことしてるような気はしてたけど……それ……高め三色の平和と断ヤオと三面張と――全部崩して私の加槓を狙ったってこと…………だよね。
そんな……びっくりだよ……! さっきの龍門渕さんは別として、普段の龍門渕さんは原村さんみたいな打ち手だって聞いてたのに……)
透華(やりました!! やってやりましたわっ!! どうですか、見ましたか!? わたくしのこの華麗な狙い撃ち!!!
清澄の嶺上開花を抑え込んでの一発和了りっ!! 絶対目立ってるに違いありませんわ!!)
透華「さあ、わたくしの連荘でしてよ!!」コロコロ
――――――龍門渕・控え室
一「透華……ボク心臓が飛び出るかと思ったよ」
衣「愉快痛快! 抱腹絶倒!!」
ともき「……目立つためだけに色々なものを捨てた……」
井上「いやまあ過程はどうあれ結果は最高だろ。あのまま待ってても透華の当たり牌は風越と鶴賀の手の中。黙ってたらテンパイ流局が積の山だった状況を覆したんだからよ」
福路(龍門渕……前半と比べても遜色のない強敵……見事な槍槓……)タンッ
福路(もちろん……わかっていたことです。この場の誰一人として……簡単に勝たせてくれるような相手ではない。
そう……魔物は清澄だけではない……鶴賀も……龍門渕も……この場に魔物は三人いる……! そう思って打たないといけませんね……)タンッ
福路(焦らずにいきましょう……私は名門風越のキャプテン……ここで負けることは許されない……!)タンッ
十巡目。
福路「ツモ。タンピン一盃口ツモドラ一……2000・4000は、2100・4100」
蒲原(この人は本当に隙がないなー)
透華(あー! わたくしの親が流されましたわっ!! わたくしは子供より親やるほうが好きなのに! ですわっ!!)
咲(うーん……なんかイマイチな感じだよー……)
咲:68200 キャ:126900 と:106600 ワ:98300
蒲原(風越……なんだかんだでこの大将戦一度もトップから転落していない。
っていうかさっきの直撃……よーく思い返してみると……あれが風越にとってこの大将戦初の放銃だったわけで……。
ぶっちゃけこの人のほうが清澄以上に信じ難い打ち手だよなー……。
となると……ここはツモ和了りに期待するしかないかー)タンッ
八巡目。
蒲原「ツモ。リーチ一盃口ツモ。2000オール」ワハハ
蒲原(これが最後の親……できる限りのことをやるしかないなー。最善を尽くして、そこにさっきくらいのバカツキが味方してくれれば……ここから風越をまくるのは決して不可能じゃないはず。
ただなー……あの清澄がなー……あの倍満以降大人しいのが……恐いっちゃ恐いけど……うーん。
ま、なんにせよ、まだまだここで終わらせるわけにはいかないよなー。
モモと……ユミちん……佳織に……むっきー……私はみんなと笑って終わりたい……。
みんな……最後まで見ててくれよ。
無理でもいい……無茶でもいい……絶対に勝って帰るからなー……)ワハハ
咲:66200 キャ:124900 と:104600 ワ:104300
五巡目。
福路「ツモです。白ドラ一、500・1000は600・1100」
蒲原(うわっ、風越早いなー……。親が流されたかー……)
福路(親の連荘などさせません!! このまま私が逃げ切ります……!!)
蒲原(逃げる気満々って感じだな……ワハハ……そうこなくっちゃなー……)
咲:65600 キャ:127200 と:104000 ワ:103200
咲(うーん……なんかおかしいよ……。力は十分な気がするんだけど……何か違う……。家族麻雀や合宿最終日での感じ……あれがまだ……)タンッ
『ここ……この割れ目が……割れ目がこすれて気持ちいいじょ……』
咲(あ――! 思い出した……!!)タンッ
透華(清澄……対局中になにをもぞもぞと……?)タンッ
蒲原(ん、清澄……どうした……?)タンッ
福路(宮永さん……?)タンッ
咲、おもむろに靴を――そして靴下を脱ぐ。
咲(……これだ!!)
咲、裸足ッ!! 魔王力を最大まで高めた! そして、裸足状態での最初のツモ!
既に嶺上開花の構えに入っていた咲、そのツモで暗槓が成立!!!
咲「カン!!」カンッ
清澄・大将宮永咲――ここで本日四度目の……!!
咲「ツモ。嶺上開花ツモ赤一……1300・2600です!!」
咲:70800 キャ:124600 と:102700 ワ:101900
福路(宮永さん……また安手の嶺上開花……それで私の親が流れたのはどちらかと言えば助かりましたが……ただ、これで終わるわけがありませんよね)タンッ
福路(東場……肩慣らしのような二連続和了からの親の倍満……。またそれを狙うつもりですか……? しかし、そう何度も何度も……同じ手は食いません……)タンッ
九巡目。
福路(さて……ここで六萬ツモですか。先程からカンチャンの四萬待ちでテンパイしている私はここで当然この六萬を残し、四・七萬のリャンメンに切り替えるために三萬を切ります。ただ……)
福路手牌(********三五六六六・ツモ六)
福路(宮永さん……恐らくはもうテンパイしている。見えている範囲では……恐らく二・四・五萬待ち)
咲手牌(*********三三三四)
福路(この三萬は宮永さんの当たり牌ではない。しかし……宮永さんならここで三萬を大明槓する可能性がある。大明槓のツモは責任払い。
本来当たり牌でもなんでもない三萬で……私が親の宮永さんから直撃を受けることになる。
リャンメン待ちを捨ててでもここは六萬打ちが正解かしら……。でも……ここでこの六萬が来た……このことに……何か意味があるような気もします……)
福路(そう言えば……中堅戦の天江衣。海底を連発する全国区の魔物。ただ……その天江がいるなかで……中堅戦一度だけ天江以外の人が海底を和了った。
鶴賀の妹尾さん。鳴いてツモ巡をずらし……そして……自分が天江に代わって海底。同じ魔物を相手にするのに……これはヒントかもしれません)
福路、前巡、前々巡のことを思い出し、さらに思考を進める。
福路(宮永さんはずっと手替わりしていない。宮永さんはかなり前からテンパイしていた。なのに……最下位にもかかわらずなぜかリーチをかけなかった。
その理由の一つは……リーチ後では大明槓ができないから。それと……もう一つ)
福路(宮永さんのその手では……リーチをすると大明槓だけでなく暗槓もできなくなる。それでは嶺上開花は和了れない。
結論として、宮永さんが今までリーチをしなかったのは、大明槓か暗槓のチャンスを待っていたからということになる。
つまり……よほどの確信を持って、嶺上開花を和了れると思っているわけね)
福路(天江衣に海底牌が見えるように……宮永さんには嶺上牌が見えているのかもしれない。
だとすれば……当然宮永さんは四萬を嶺上でツモって和了り。最初から二・五萬で和了るつもりなんてない。それならとっくにリーチをかけている。
きっと……宮永さんの眼には嶺上の四萬しか映ってないんだわ)
福路手牌(********三五六六六・ツモ六)
咲手牌(*********三三三四)
福路(四萬待ち、か。私と…………同じね……!!)
福路――仕掛けるッ!!
福路「カン!!」パラッ
咲(!?)
福路、嶺上牌に手を伸ばす――盲牌、瞬間、微笑!!
福路「ツモ――! 嶺上開花ツモ断ヤオドラ一。2000・4000!!」
福路、咲、交錯する視線――!!
咲(わ……私の嶺上が……盗られた……!!!?)
咲――動揺ッ!!
福路(さあ――これで突き放したわよっ!!)
福路――磐石ッ!!
咲:66800 キャ:132600 と:100700 ワ:99900
福路(ふふふ……驚いてる驚いてる。海底を和了られたときの天江もそうだったけれど……あなたたち魔物は自分の領域を侵されるのが一番応えるみたいね。
さて、宮永さん。これであなたのラス親はおしまいよ。龍門渕は当然連荘狙いでくるだろうけれど、そんなことは私がさせないわ。
最後にもう一度私が和了って終局。それでうちの優勝が決まる。宮永さん……上埜さんに大将を任された一年生……あの天江衣と同等の魔物。
けれど、わかっているわよね? 今の嶺上開花で私とあなたの点差は65800点。役満直撃でも私をまくることはできない。
それでも……あなたはここから逆転するつもり……? そんなことがもしできるとしたら……それはそれで……見てみたい気もするけれど……)
咲(こんなのってないよ……! 私の嶺上開花……!! 誰かに盗られたまま終わるなんて……そんなの絶対に嫌……!!)
福路(でも……ダメ! やっぱり優勝するのは……私たち風越よ!!)
咲(そうだよ……! これくらいで諦めるわけにはいかない……!! 嶺上の花は私だけのもの……何度だって咲かせてみせる!!
そして……私たちが優勝するんだ……!!)
福路(最後の一局……必ず……勝ってみせる!!)
咲(最後の一局……咲くのは……私!!)
果たして勝利の花は誰の元に咲くのか――!!
インターハイ県予選団体戦決勝……ついに最後の一局へ!!
咲:66800 キャ:132600 と:100700 ワ:99900
透華(この親で連荘……まくって優勝……!! 勝って目立ってやりますわっ!!)タンッ
蒲原(この点差……倍満直撃でもちょっぴり足りないかー。これは思っていたよりもきっついぞー。でも……みんなが見てるからなー。これくらいで諦めるわけにはいかないさー)タンッ
福路(勝つのは風越です……! ここで私が和了って……私たち風越が最強であることを証明します)タンッ
咲(……原村さんと約束したんだもん……私……絶対に勝つよ……)ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ
そして、場は静かに進行していく……。
――――――観戦室
「の、和先輩のお友達さんの手……すごいことになってます……!」
「いや……他の人たちの手もなんだかえらいことになっているような……」
「ねえ……これ……誰が勝つと思う……?」
「わからない……勝ってほしいところなら……決まってるけど」
十一巡目。
福路(ツモはならず。それにしても、ここで……一筒)
福路手牌(二二二四四五[五]六六七八九九・ツモ①・ドラ西)
福路(宮永さんの手……明らかに筒子の染め手。この一筒が宮永さんの当たり牌でもあるだろうし、大明槓の可能性もある)
福路、点差を確認。
福路(この状況……もし宮永さんから役満の直撃を受ければ……優勝は龍門渕……)
福路、小さく首を振る。
福路(いや……それはありえないわ。宮永さんはまだ私に勝つことを諦めていない。この状況で他校の優勝を決めるような和了りは絶対にしない。それは信じましょう。
この卓にいる全員が……まだ勝ちを諦めていない。となれば……)
福路(ここはこの一筒を切っても問題はない。逆に、例えばこの一筒を抱えたままテンパイするとして……そのために切らなくちゃいけなくなる九萬は……龍門渕の当たり牌。
宮永さんの動きには最大の注意が必要だけれど……現実的に、龍門渕に振り込むほうが遥かにリスクが高い)
透華手牌(一一七七八八九⑤⑥⑦ⅦⅧⅨ・ドラ西)
福路、打、一筒。
咲「カン!!」ボッ
福路(本当に来た……大明槓……!!)
透華(清澄……!?)
蒲原(清澄……何をする気だ……!!?)
咲手牌(②②②②③③③③④[⑤]/①①①①・嶺上ツモ④)
咲「もいっこ、カン!」ボボッ
咲手牌(③③③③④④[⑤]/①①①①/②②②②・嶺上ツモ④)
咲「もいっこ――カンッ!!」ボボボッ
咲手牌(④④④[⑤]/①①①①/②②②②/③③③③・嶺上ツモ⑤)
咲、嶺上開花和了。嶺上開花清一対々三暗刻三槓子赤一――数え役満!!!
咲、打、嶺上牌の五筒!!
福路、咲の打五筒を見て、ひとまず安堵の溜息。
しかし、直後に気付く!
魔物――宮永咲の真意に!!
福路(し――まった!! まさか……そんなことって……!! そういうことなの……!? 宮永さん……!!)
当然増える――ドラ!!
三枚捲られたカンドラ表示牌は――六萬、九萬、九索!!
即ち、七萬、一萬、一索が……ドラッ!!
透華手牌(一一七七八八九⑤⑥⑦ⅦⅧⅨ・ドラ西・一・七・Ⅰ)
透華、高めでも平和一盃口だった手に……ドラ四がつく!
もちろん……それはヤミでも十分な手。最低でも親満。ツモか一盃口がつけばハネ満。親で連荘が狙える現状なら、わざわざリーチをする必要などない。
透華(わかっていますわ……ヤミでも十分。ここを和了って、次にもう一度でも二度でも和了ればいいだけの話……)
透華(ツモ和了りができるのならそれで問題はありませんけれど……どの道ツモで和了れる運命にあるのなら……リーチがかかっているかいないかなんて無関係!!)
透華、山から牌をツモる。それは自分の当たり牌でも風越の当たり牌でもない牌。
透華……風越・福路を見据える。
透華(風越……あなた相手に連荘ができるなどと……わたくしそんな都合のよいことは考えていませんの!
それならば……このワンチャンス……!!
リーチでハネ満を確定させ、ツモではなく……あなたにハネ満を直撃する……! それならその瞬間に私たちの優勝ですわっ!!)
透華、ツモ牌を河に置き、曲げる!!
透華「――リーチですわっ!!」ゴッ
透華(不確定な未来などわたくしはアテにしませんの! 今……この今に逆転のチャンスが舞い込んできたのなら……! それを掴み取ってこそのわたくしですわ!!
風越……悪いですわね……!!
今年もまたわたくしたち龍門渕の優勝ですわよっ!!!)
蒲原(ワハハ……これは……笑うしかないなー)
蒲原手牌(三三三四五六七ⅠⅠⅠ西西西・ドラ西・一・七・Ⅰ)
蒲原(これなら三暗刻がつかなくても、リーチをかければリーチドラ七で倍満。それを風越に直撃すれば……龍門渕の出してくれたリー棒も合わせて逆転できるじゃないかー。
もしくは七萬を一発で引いてくれば……一発ツモ三暗刻ドラ一がさらに加わって数え役満……直撃じゃなくてもひっくり返るぞー)
蒲原、山から牌をツモる。それは自分の当たり牌でも風越の当たり牌でも龍門渕の当たり牌でもない牌。
蒲原「ワハハ。これは私もリーチするしかないなー」スチャ
蒲原(ついに捉えた……あとは撃ち落すだけ。見ていろー、風越)
しかし、風越・福路、この同時リーチに対する動揺は――皆無!
なぜならこのとき、
福路手牌(二二二四四[五]五六六七八九九)
透華手牌(一一七七八八九⑤⑥⑦ⅦⅧⅨ)
蒲原手牌(三三三四五六七ⅠⅠⅠ西西西)
ドラ表示牌は南・六・九・Ⅸ。
さらに河を合わせれば……。
福路(この状況……たぶん私と龍門渕と鶴賀の三人で当たり牌を持ち合っている。
完全な膠着状態……龍門渕と鶴賀はリーチをしてきたけれど、かえってリーチで二人の手が固まったから、私が手を崩さない限り二人が和了れる可能性はゼロに確定した。
このままツモ切りを続けていけば、三人テンパイで流局。親の連荘は嫌だけれど……そうそう逆転できるような高い手など作れないでしょう。今度こそ私が和了って、おしまいにします……)
福路の両眼から見れば、龍門渕と鶴賀の脅威はもはやないと言ってよかった。
しかし、そんな福路でも見切ることのできない――拭い切れない最後の不確定要素が、清澄・宮永咲!!
宮永さんのカンドラによって手が高くなった龍門渕と鶴賀……その二校から場に出された二本のリー棒……これで……これで宮永さんは私を射程に捉えた……この状況で宮永さんが私から役満を和了れば……ほんの200点差ですが……清澄の勝利……逆転が可能……!
本当に……魔物としか言いようがありません……!!)
福路、山から牌をツモる。
それを見て、福路、唇を噛む。
福路(これが……これがあなたの麻雀ですか……!? 清澄……宮永……咲…………!!!)
福路が掴んだツモ牌は、四筒。
咲手牌(④④④[⑤]/①①①①/②②②②/③③③③)ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ
福路(落ち着きましょう……私。一つずつ、私が今何を切るべきか……考えましょう……)
深呼吸をしてから、福路はその両眼で、卓上の全てを見る。
福路(これはダメ……これはダメ……これはダメ……これはダメ……これはダメ……これはダメ……これはダメ……これはダメ……これはダメ……これはダメ……これはダメ……これはダメ……これは……ダメ)
福路、端から順番に手牌の十三牌を、全て伏せる。
となれば、自動的に、消去法で、当然の打、四筒。
福路(これだけが……まだ一縷の望みがある牌。なら……ここはこれしかない……他に切る牌がないのだから……これしか……ない……)
福路、四筒を河に置こうとして、手が止まる。
福路(これしかない……か)
そして、福路、三人から見られないように、僅かに微笑む。
福路は未来の風越のことを思う。
福路(この状況……私がこのまま四筒を切って……もしそれで風越が負けるようなことがあったとして……それを見た子たちは……私の牌譜から何を感じるかしら……)
当然の、一打。自動的な、一打。消去法の、一打。
福路(私がここで四筒を切る……そのことに変わりはない。けれど……私のこの一打はきっといつまでも部の歴史に残る。
名門風越のキャプテンとして……県大会の決勝……大将戦後半……オーラス。その最後になるかもしれないこの一打。
それをいつか……私の……風越の後輩たちが見る。その子たちは……一体……そこから何を感じるかしら。
いいえ……違う。私は……その子たちに……何を伝えたいかしら……)
福路、点棒を確認。
福路(吉留さん、文堂さん、深堀さん、華菜……それに部員のみんなと……久保コーチ。みんなのおかげで私はここまで来ることができました……。本当にありがとう……。
私は最後まで……風越のキャプテンとして……名門風越の名に恥じない麻雀を打とうと思います。私は私の信念を貫きます。
そして……私は私の誇りに……たくさんの未来の後輩たちに……風越の素晴らしさを伝えたいと思います……!)
福路「宮永さん……あなた、ここで勝てると思っているのですか?」
咲、急に話しかけられて、戸惑いながらも、毅然と返事をする。
咲「はい。勝って、全国に行きます。みんなと約束しました。それに私には……全国で戦いたい人がいるんです」
福路「そうなの……。でも、あなたは全国がどういうところか……知っていますか?」
咲「い……いえ」
福路「私は……多少だけれど知っているつもりです。全国には――あそこには……今のあなたでは敵わないような人が……たくさんいます」
咲「は、はい……。それはなんとなくわかります。頑張ってもっと強くなって……そういう人たちにも勝てるようになりたいと思います」
福路「そっか……さすがですね、あなたくらい頼もしい一年生はそういないですよ」
咲「あ、ありがとうございます……」
福路「宮永さん……もし、あなたが全国に行くというのなら、そのときは……私たち風越も一緒につれていってほしいんです」
咲「え……? どういう……ことですか?」
福路「こういうことです」
福路、河に置いた四筒を、曲げる。
そして、点棒箱から千点棒を取り出し、宣言。
福路「リーチ……」チャ
咲「風越……さん……?」
福路「もしあなたが全国へ行くというのなら、このリー棒は私たち風越からの餞別です。受け取って……そして……失くさずにとっておいてください。
また来年……私ではない……私の後輩たちが……必ず取り返しにいきますから」
咲「風越……さん……!」
蒲原「ワハハ。風越、面白いことを言うなー。よーしそれなら清澄。ここでもしお前が勝ったら……うちのリー棒も持っていっていいぞー。
ちゃんと大事に取っておけよー。来年利子つけて返してもらうからなー」
咲「鶴賀さん……!!」
龍門渕「仕方ありませんわね、清澄! あなたが勝ったときはわたくしたちのリー棒も持っていってよろしくてよ。
ただ……鶴賀や風越と違ってわたくしたちは二年……この手で取り返しに行かせていただきますから覚悟しておいてくださいまし!!
うちの衣はそれはそれは恐ろしいですわよ……せいぜい腕を磨いて備えておくことですわねっ!」
咲「龍門渕さんも……!! はいっ!! ありがとうございます。私……私たち……絶対にみなさんの分まで……全国で勝ってきます……!!」
福路「宮永さん……もしかしてもう勝った気でいるんですか? 勝負はまだ終わってないのに」クスクス
蒲原「大した自信だなー。本当に面白いやつだよ、清澄」ワハハ
龍門渕「さあ、風越は牌を切りましたわよ。鳴くわけでもないなら早くツモってくださいまし。わたくしは気が短いのですわっ!」フフン
咲「みなさん……! はい……わかりました……! でも……やっぱり勝つのは清澄です!! 全国に行くのは――私たちです!!!」
ツモ……!
嶺上開花…………
…………四槓子……!!」
風越・福路、帰還。
池・み・文・深「キャプテン……!」ウルウルウル
福路「みんな……」
池・み・文・深「わああああああああああん!!!!」ボロボロボロ
部員全員、号泣して福路に抱きつく。
福路、ちょっと困り顔。
そこに、携帯を持った久保、登場。
久保の放つ覇気によって、部員たちは福路から引き離される。
そうして福路の前に立つ久保。福路、深々と頭を下げる。
福路「申し訳ありませんでした」
久保「頭を上げろ、福路。私はそんな台詞を聞きに来たわけじゃねえよ。ただ……最後のリーチ。ありゃなんだ。言ってみろ」
久保「テメェ……福路――!!」
久保、手を上げる! 池田、飛び出せず! 福路、覚悟は出来ている!
しかし、振り上げられた久保の手はそのままそっと福路の頭の上に置かれ――、
久保「……よくわかってんじゃねえか……」
久保、そう言って福路を自らの胸に抱き寄せる。
福路「!! は……はい……! ありがとうございます……コーチ……!!」ウルウル
福路、必死に涙を堪える。久保、そんな福路を見て、溜息。
久保「いいから……泣きたいなら泣けよ。キャプテンであるテメェの涙を受け止めるのは、監督である私の仕事だ」
福路「で……でも……! それではコーチのお召し物が汚れてしまいます……!!」ウルウル
久保「バカ野郎!!」
久保、福路の目を見つめる。
久保「テメェのその綺麗な瞳から零れた涙が……汚ねえわけねえだろうが!」
福路「コ……コーチ……!!!」ポロポロッ
池・み・文・深(コーチやっべええええええええええええ……!!!)
池田「は、はいぃぃ!!?」
久保「なに羨ましそうにこっち見てんだ池田ァァ!!」
池田「は、はい!! すいませんっ!!」
久保「そんなに羨ましいならテメェが来年風越を優勝させればいいだろうが池田ァァァ!!!」
池田「は、はい!! は……え……?」
久保「テメェが来年風越のキャプテンとして県予選決勝の大将戦で龍門渕の天江と清澄の宮永を同時にトバして優勝決めろっつってんだよ池田ァァァァァ!!!」
池田「は、はいいいい!!」
久保「そしたら観客席からこいつが泣きながらテメェに抱きつきにくるだろうがそれくらいわかれよ池田ァァァァァァ!!」
池田「わ……!! わかりましたっ……!!!! 来年こそ……!! 来年こそ絶対にうちが優勝して全国に行きます!!!!」
久保、微笑。
久保「今の言葉は忘れねえからな! そうと決まれば、テメェらァ!」
全員「はいぃぃ!!」
久保「ホテルを連泊できるようにしておいたから、今日は全員ゆっくり休みやがれ!!」
全員(今日のコーチマジやべええええええええええ!!!)
蒲原、帰還。
モモ「お疲れ様っす!!」
妹尾「お疲れ様!!」
蒲原「おお、モモに佳織。出迎えご苦労。いやーまいったまいった勝てなかったー。いやー本当にメンボクないー」
睦月「蒲原……先輩……!!」
蒲原「おー、むっきー。取り返せなかったよ。悪かったなー」
睦月「いえ……そんなことは……いいんです……!」
蒲原「そっかー。じゃあまー、むっきー。来年の鶴賀をよろしく頼んだぞー」
蒲原、そう言って睦月の肩に手を置く。
蒲原「今年はこうやって決勝まで来れたんだ。きっと来年は新入生がわんさか入ってくるからなー。自分だけじゃなく後輩もみっちり鍛えてやるんだぞー?
そんで来年……むっきーたちの全国応援に行くの、私もユミちんも楽しみにしてるからなー!」
睦月「はいっ! 先輩……! 私……頑張ります……!」
蒲原「おー。その意気があれば大丈夫そうだなー。なあ、ユミちん?」
加治木、小さく溜息をついて、無言で蒲原の元に歩み寄る。蒲原の首に腕を回す加治木。二人はそのまま控え室の外へと出て行く。
モ・妹・睦「え?」
かじゅ「あのなぁ、蒲原」
蒲原「なんだよー、ユミちん」
かじゅ「負けたときくらいは泣いてもいいんだぞ」
蒲原「さすがユミちんは男前だなー。モモじゃなくても惚れそうだー」
かじゅ「心配するな。みんなには黙っといてやるから」
加治木、強引に蒲原を抱き寄せる。
蒲原、諦めたように加治木の肩にもたれる。
加治木の肩は、震えていた。
蒲原と、同じように。
たった二人の三年生。
部の始まりからここまでを。
共に歩んできた仲間。
その二人の間に。
見栄や意地は――不要。
かじゅ「……なんだ……蒲原……」
蒲原「……負けちったよー……」
かじゅ「……そうだな……」
蒲原「……私たち……みんなで戦うのはこれで最後かー……」
かじゅ「……ああ…………そうだな……」
蒲原「……ワハハ……ワハハハ…………」
かじゅ「…………蒲原……何を……笑っている……」
蒲原「……おいおい……ユミちん…………これが……笑ってるように見えるのかー……?」
かじゅ「……わかってるだろ…………お前と同じだ…………今の私は何も見えん……」
蒲原「……ワハハ……だーよなー……ワハハハハハハ………………」
龍門渕透華、帰還。
井上「よう、帰ってきたな」
ともき「……お疲れ様……」
一「おかえり、透華」
衣「うむ。いい半荘であったな」
透華を暖かく迎える四人。透華、少し目が潤む。しかし、そこは龍門渕透華、笑顔で胸を張る。
透華「残念ながら優勝はできませんでしたわ!」
井上「おう、そうだな」
透華「これは来年リベンジするしかないですわね!」
ともき「うん……わかってる」
透華「それまでにまた強くなるんですわ!」
一「そうだね。またみんなで頑張ろう」
透華「そうと決まれば特訓! 特訓ですわ!!」
衣「ちょ、ちょっと待って……とーか……」
衣「来年……それが終わったら、そのあとはどうなるのだ……?」
不安げな表情で尋ねる衣。しかし、衣以外の四人は、微笑っている。
井上「お前は何を言ってんだよ、衣」
ともき「……そんなのわかりきったこと……」
一「もちろん決まってるよ。ね、透華」
透華「ええ。来年も再来年もそのあともみんな一緒ですわ!! わたくしたちはもうただの友達じゃない――家族みたいなものなのですわよ?
家族なら……これからもずっと一緒に決まってますわっ!!」
衣「か……ぞく……!」
衣、感極まって透華に飛びつく。一、井上、ともき、それを見守る。
衣「とーか……みんな――ありがとう……!!」
他家の出したリー棒を含めて65800点差をひっくり返し、大逆転。清澄高校の優勝を決めました。なお、大将戦並びに大会結果はごらんの通りです』
大将戦前半
一位:蒲原智美+29800(102000)
二位:龍門渕透華+14100(112600)
三位:福路美穂子-7200(137600)
四位:宮永咲-36700(47800)
大将戦後半
一位:宮永咲+54000(101800)
二位:蒲原智美-3100(98900)
三位:龍門渕透華-12900(99700)
四位:福路美穂子-38000(99600)
総合優勝
一位:清澄高校
二位:龍門渕高校
三位:風越女子高校
四位:鶴賀学園高等部
先鋒:東横桃子(鶴賀)
次鋒:加治木ゆみ(鶴賀)
中堅:天江衣(龍門渕)
副将:池田華菜(風越)
大将:蒲原智美(鶴賀)
半荘獲得点数上位
一位:池田華菜+66400点(副将戦前半)
二位:宮永咲+54000点(大将戦後半)
三位:妹尾佳織+32900点(中堅戦前半)
四位:蒲原智美+29800(大将戦前半)
五位:天江衣+28300点(中堅戦後半)
役満和了
・国士無双(妹尾佳織・池田華菜)
・字一色(妹尾佳織)
・四暗刻(池田華菜)
・数え(池田華菜)
・四槓子(宮永咲)
Most Valuable Player
宮永咲(清澄)
My Yome Player
竹井久(清澄)
竹井久(清澄)
おい
対局が終わっても、戦いの跡はまだ卓上に残っていた。
『嶺上に――咲くは五輪の――赤い花』
この決勝――後にその記事を書くことになった誰かが……そんな見出しを提案したとかしないとか。
その花を咲かせた当の本人は、しかし、眼下の花ではなく、対局室の高い天井を見上げて呆然としていた。
咲(……勝った……)ボー
和「宮永さん……!!」
咲「は、原村さん……!! みんなもっ!!」
タコス「咲ちゃんなかなか帰ってこないから迎えにきたじぇー」
まこ「お疲れ様じゃ。わりゃあ本当にようやってくれたのう」
久「それで、咲。どうだった、大将戦は?」
咲「大将戦は……すごく、楽しかったです……!」
久「そう。それはよかった」
和「あ……宮永さん、そのリー棒……」
久「またえらいものを受け取ってしまったわねえ」
咲「はい。でも……これで、全国で戦う理由が増えました!」
久「そうね。県の代表として精一杯戦いましょう」
咲「はいっ!」
和、リー棒を持つ咲の手を、両手で包む。
和「宮永さん、勝ってくれると信じてましたよ」
咲「ありがとう。私もね、最後の嶺上、絶対引けるって思ったよ」
和、咲、少し見つめ合って、同時に笑い出す。
和「そんなオカルトありえません」
咲「あ、それ言われると思った」
その後、清澄の五人は表彰式の前に一枚の写真を撮った。
そこに写っていたのは五輪の大花。
美しい――笑顔の花が――咲いていた。
<槓>
スレ立て代行さん、
支援・保守してくれたみなさん、
読んでくれたみなさん、
そのほかのみなさん、
そしてこんなに素敵なキャラを大量生産できる原作者さん、
ありがとうございました。
楽しんでいただけたら幸いです。
大将戦前半をカットしたのは、
・ご察しの通り点数調整(ただ個人的にはワハハにはあれくらいのポテンシャルがあると信じています)のためと、
・透華(冷たい)の打ち筋が原作にないから書けないのと、
・衣と透華(冷たい)以外の人間が咲さんと半荘を二回もやったら何点差あっても咲さんの勝ちになってしまいそうだったからです。
では、皆様よいゴールデンウィークを。
これだけ考えるのは大変な時間がかかっただろうな
麻雀やりたくなったがルールわかんねwww
よくそれでこんな長いの読んだなwwwwwww
作者も良い休みを
乙
Entry ⇒ 2012.04.23 | Category ⇒ 咲-Saki-SS | Comments (0) | Trackbacks (0)