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岡部「左義長……だと?」
まゆり「う、うんっ! 二人で街を歩いてたらね、急に……」
ここは日本の、しかも秋葉原だぞ。 日は暮れたとはいえ、人通りは途切れない。
――誘拐。
そんな目立ちまくるような犯行が、おいそれとうまくいったりするのだろうか?
まゆり「みんな覆面で顔を隠してたけど、多分、ファンクラブの人たちだと思う……」
岡部 「ファンクラブ!?」
だとしたら、今頃ひどい目にあわされているかもしれない!
ダルが喜びそうなシチュエーションだが。
と、馬鹿な事を考えている場合じゃなかった。
頭を振って、変な想像を振り払う。
まゆりは息を切らせながら、だんだんと目には涙を溜め始めた。
まゆり「違うの。男の子たちが作った、るかくんのファンクラブだよ……」
岡部 「な、なんだってー!?」
色々ととんでもない事になっているな!
おかしいだろ、ルカ子は男だ。
いやしかし……。
あの容貌に、あの性格。
人によっては、ルカ子を女よりも魅力的に感じる者もいるだろう。
そんな奴らが、奥ゆかしいルカ子に、とうとう我慢ならずに誘拐した?
もし本当にそうだとしたら、ルカ子はもっとひどい目にあわされる可能性がある。
ルカ子は痛々しいくらいに儚げで、かなり大人しい。
抵抗は出来ないだろう。
るか 『やっ……やめて、ください……っ!』
残酷すぎるビジョンが脳裏に浮かぶ。
岡部 「くっ……!」
反面、俺の顔からは血が引いていく。
きっと、端から見れば真っ青になっているだろう。
緊張から、手にはヒヤリと冷たい汗をかいていて。
俺は、上着の裾をギュッと握った。
なんて卑劣な。
下劣なクソガキどもめ。
絶対に許さない。
岡部 「まゆり! ルカ子がさらわれたのはいつ頃だ!?」
まゆり「え、えっと……!」
まゆりが、自分の腕時計に目を落とす。
まゆり「10分、くらい前だよ」
10分……か。
岡部 「……まだそう遠くへは行っていないな」
とりあえず、そのような犯罪者集団が、ルカ子をさらったうえで
電車やバスなどの交通機関を利用するとは考えにくい。
まゆりから詳しく聞くと、ルカ子を担いだ連中は、神田明神通りから路地裏に逃げ込んだらしい。
そうなると、この付近に潜伏している可能性が高い。
ダル 「あっつぅー。死ぬー」
ふと、玄関の影からダルが姿を現した。
ここまで走ってきたのか、汗だくだ。
フェイリスの顔写真がプリントされた団扇で、せわしなく顔を扇いでいる。
岡部 「ダル!」
ダルには、ルカ子がさらわれたと聞いてすぐに、メールで召集をかけてあった。
ダル 「状況は理解してるのだぜ」
ダルはそう言うと、研究室に入ってPCを起動している。
ダル 「とりあえず僕は、るか氏の携帯の電波を追って、場所を特定してみるお」
岡部 「わかった。頼んだぞ、ダル。 俺は今からルカ子を探しに行く」
ダル 「オーキードーキー。任せとけって」
まゆり「ま、まゆしぃも行くよ!」
岡部 「……いや、まゆりはここに待機していろ」
まゆり「で、でも……」
まゆりが、俺の腕にしがみついてきた。
既にその顔は、涙でボロボロになっている。
岡部 「ここは俺を信じろ、まゆり」
一緒に行けば、まゆりまでどうにかなってしまうかもしれない。
危険な目にあわせたくない。
心配そうな顔のまゆりを安心させるため、俺はその肩をポンポンとたたいた。
岡部 「まゆりよ」
まゆり「……?」
岡部 「お前は随時、ダルの情報をケータイから伝えてくれ。大事な役割だ」
まゆり「わ、わかった……。オカリン、無茶しないでね……?」
岡部 「わかっている。 それじゃあダル、頼んだぞ!」
ダル 「いいから、さっさと行けっつーの!」
ダルに急かされ、ラボを飛び出す。
蒸し暑い。
薄暗い、ブラウン管の明かりだけが頼りの店内。
その奥で、ムキムキのオッサンが頭に汗をかきながらラーメンを啜っている。
岡部 「ミスターブラウン!」
天王寺「なんだ、岡部かよ」
店長は、こっちを見ようともしない。
自然と、俺の声はトーンを上げた。
岡部 「至急、この秋葉原を封鎖してほしい!」
天王寺「あ?」
そうまで言っても、まだ振り返ろうとしない。
岡部 「FB!」
俺はカウンターに手を突いて、店の奥の大男に向けて頭を下げた。
天王寺「……M3としての用件か?」
天王寺「詳しく話してみろや」
俺は、ルカ子がさらわれた事、そしてその実行犯たちが、まだこの辺りに潜伏している可能性が高い事
現在、ダルがその位置の特定を急いでいる事を説明した。
その間FBは、話に割り込む事もなく、黙って話を聞いていた。
岡部 「お願いだ……! 時間稼ぎさえしてもらえれば……場所が特定出来る――」
岡部 「……っ!?」
急に、胸ぐらを掴まれ。
そのまま、上半身をすごい力で引っ張り起こされる。
俺は、たまらず呻いた。
天王寺「ナメてんのか?コラ」
額がぶつかりそうな距離から、FBが冷めた視線で睨みつけてきていて。
天王寺「そりゃてめぇ、完全に私用じゃねえかよ……」
天王寺「そんなもんに、ラウンダーを回せると思ったのか? ああ?」
さっきまで汗だくだった顔からは、完全に汗が引いている。
危険な、鋭さがあった。
岡部 「……くっ。 そこを何とか、お願い……します」
岡部 「大切な……仲間なんです」
ルカ子を助け出す。
たとえ反則技を使ったとしても、だ。
引き下がるつもりはない。
岡部 「お願いします……!」
俺はFBの視線を真っ直ぐに受け止めて、ギロリと睨み返す。
ふと、店長が舌打ちをして。
ギリリと握られていた、俺の胸ぐらが解放される。
天王寺「……時間稼ぎだけだ」
岡部 「……っ!」
天王寺「ここで、ラウンダーどもを派手に動かしすぎる訳にはいかねぇ」
天王寺「だから、始末はてめぇでつけやがれ。 いいな?」
俺は回れ右をして、出口に向かう。
と、背後から―――。
天王寺「ヘマすんなよ。 下手したら、てめぇを処分しなきゃならねぇ」
心配してくれているのか、FBが忠告を飛ばしてきた。
残念ながら、オッサンのツンデレには興味が無い。
俺は、店のドアを乱暴に押し開けながら、手を挙げて応えた。
心配は要らない。
ルカ子と、実行犯さえ確保出来れば問題はない。
どうせ、全て終わった頃には、無かった事になっているのだから。
既に、秋葉原駅の前は騒然としていた。
どうやら電車が止まっているらしい。
駅前の広場には、駅に入れず立ち往生している者や、急遽、電車から降ろされた者たちでごった返していた。
状況が状況だけに、そこかしこから怒声が上がっている。
結構大事になっているようだ。
萌郁 「M3……!」
人ごみの中から、それをかき分けるようにして出てきた萌郁が走り寄ってくる。
俺は立ち止まらず、萌郁もそれにあわせて併走した。
岡部 「M4か。首尾はどうだ?」
萌郁 「問題ない。電車は止めた。 車道の方は検問をかけているみたい」
萌郁 「封鎖は、ほぼ完了しつつあるわ」
岡部 「そうか、よくやった」
ラウンダーたちが上手くやってくれたらしい。
これで、奴らもそう簡単に街を出ることは出来ないだろう。
岡部 「M4、銃を」
萌郁 「なっ……」
岡部 「早く渡せ!」
萌郁 「な、何が起こってるの?」
声を荒げながらも、俺の心にはまだ他人を見やるほどの余裕があった。
隣を走る萌郁は、頬が上気していて。
その様子からは、だんだんと息が上がってきているのが見て取れた。
残念だが、萌郁にこのまま付いて来られても、足手まといにしかならないだろう。
岡部 「後で話す。 お前は先に帰っていろ」
萌郁 「わ、わかった……」
萌郁が、シャツの下から銃を取り出し、辺りを見回しながら慎重に差し出してくる。
俺が銃を受け取ると、萌郁はそこで立ち止まり、人ごみの中へと消えていった。
後で話すと言ったが、そんな事はない。
多分、そんな状況は永遠に来ない。
なにせ、お前には何があったのかすら理解出来ないだろうから。
さっきから走り続けているが、疲れは感じない。
しかし―――
いない。
ここにもいない。
ルカ子の姿を見つける事が出来ない。
一旦、引き返すべきだろうか。
そう思って立ち止まり、周囲に視線を走らせてみた。
空にはまだ藍色に橙色が入り混じっているものの、すっかり日は落ちて、大分暗くなってしまっている。
駅前が煌々とライトアップされ始めた。
まずいな……。
あれから、どれくらい時間が経った?
街を封鎖した事で、アドバンテージはこちらにあるものの、そもそもルカ子は無事なんだろうか。
こうしている間にも、ルカ子は助けを待っている。
数人のバカどもに囲まれて、死ぬほど怖い思いをしながら。
ルカ子の恐怖を想像して、鼻の奥がツンとするが、眉間に力を込めてこらえた。
……いや、待て。イライラするな。
冷静になれ。
そして、立ち止まっている場合ではない。 引き返している場合でもない。
今、俺のやるべき事は一つ。
ルカ子を見つけ出す。
そして、浅はかなクソガキどもに地獄を見せてやるのだ。
俺は、額に滲んでいた汗を拭い。
再び駆け出そうと、息を整えた。
俺は、すぐさまケータイを取り出して耳に添える。
まゆり『もしもし、オカリン?』
まゆりの声の向こうでは、ダルの興奮しきったような奇声が聞こえる。
岡部 「まゆりか!」
まゆり『うん! るかくんの居場所がわかったよ!』
岡部 「よし、すぐに教えてくれ!」
まゆり『で、でも……』
まゆりが言い淀む。
岡部 「なんだ? どうした?」
まゆり『オカリン、一人で危ない事しちゃ、ヤダよぅ……』
スピーカーからは、まゆりの泣き出しそうな声。
俺は、安心させるために、穏やかな声で話してやる。
まゆり『そ、そうなの……?』
岡部 「ああ、だから早く居場所を教えてくれ」
まゆり『わ、わかったよ……約束だからね? えっと―――』
この薄暗い雑居ビルの一室に、ルカ子は監禁されていた。
その周りを、見知らぬ男達が囲っている。
ドアが壊れる音に驚き、全員が一様にポカンとしてこちらを見つめてきた。
誘拐犯A「な、なんだお前は!」
男の一人がようやく声を発すると、他の連中からもどよめきが起こる。
見たところ、5人は居るようだ。
るか 「お、岡部さんっ!」
部屋の角に、身体を縛られたルカ子が座り込んでいて。
俺の姿を確認すると、堰を切ったように涙を流し始めた。
よかった。
見たところ、まだ何もされていないみたいだ。
安堵。
そしてすぐさま、怒りがわいてくる。
こいつら、揃いも揃って何てことをしやがる。
岡部 「……お前たち、よくも、うちのルカ子を怖がらせてくれたな?」
一人ひとり、睨みつけてやり。
岡部 「こんのぉ……HENTAIどもめがッ!」
大声で怒鳴ってやると、男たちがたじろいだ。
誘拐犯A「うっ……てめぇ、漆原の何なんだよ……か、彼氏か?」
るか 「……っ!」
またもや、部屋の中にどよめきが起こる。
この連中、かなりバカっぽい。
ルカ子は何故かうなだれてしまっているし。
岡部 「………いいや、仲間だ」
誘拐犯B「はは、ルカニャンを助けるために来たってのか?」
岡部 「ルカニャンって言うな!」
誘拐犯B「っ!」
そう言って鼻で笑った一人が、歩み寄ってくる。
誘拐犯A「おい、お前ら!」
それに続いて、部屋の真ん中に躍り出ていた俺を、男たちが取り囲んだ。
皆がニヤニヤとこちらを見ている。
その中の一人の手には、ナイフらしきものが光っていた。
誘拐犯C「おら、死にたく無かったらさっさと跪けや、コラ」
こいつだけが特にヘラヘラと笑っていて、やたらとかんに障る。
天井からパラパラと何かが落ちてくる。
すると、それぞれから悲鳴があがり、何人かは腰を抜かしてその場に這いつくばった。
ルカ子も信じられないと言った顔で、ブルブルと震えている。
岡部 「逃げようとしたら殺す。次に声を上げても殺す。 それと、お前」
淡々と言いながら銃口を向けてやると、ナイフを持っていた男がわなわなとそれを落とした。
岡部 「ふむ、物わかりがよくて助かる」
岡部 「さて、全員窓際に並んでもらおうか?」
俺の指示に従い、さっきまでのにやけ面を失った男たちはそそくさと窓際に列を作った。
ルカ子を縛っていたロープを切って解放してやる。
るか 「お、岡部……さん?」
岡部 「ルカ子……待たせたな」
るか 「あ、い、いえっ! そ、それより……その人たちを……」
ルカ子が涙目で、男たちを振り返る。
岡部 「……ああ、安心しろ。殺したりはしないさ」
俺の発言に、全員がビクリとした。
岡部 「だがしかし!」
また、連中が揃って震え上がる。
るか 「えっ……!?」
それにこいつらは、あろうことか実際に誘拐までやってのけた連中だ。
ルカ子に危害を加えた事実に変わりはない。
岡部 「ファンならファンらしく、遠くから応援していれば良かったものを……ククク」
俺は、窓際に立たされた5人に歩み寄った。
全員が、背筋を伸ばして息を呑んでいる。
俺は冷ややかに笑って、ナイフを持っていた男の顎を掴んだ。
誘拐犯C「な、何を……」
岡部 「喜べ。 今回、貴様だけは無傷で帰してやろう」
誘拐犯C「えっ……?」
男たちが不安そうにキョロキョロと顔を見合わせた。
ルカ子は俺の腕にしがみついている。
岡部 「だから、心配するな。こいつらを、お前から少し遠ざけるだけだ」
るか 「っ……」
それだけ伝えて、俺は、目の前の男の瞳を深く覗き込んだ。
誘拐犯C「……っ」
怯えた光が、こちらを見据えてくる。
岡部 「……これで終わりだ」
その真ん中には、ポカンと黒く、瞳孔が開いている。
岡部 「お前らとは、もう二度と、会うこともなかろう」
男の息が、まるで獣のように速くなっていく。
誘拐犯C「…………っ!」
その瞳孔から染み出すように、漆黒が俺の視界一杯に広がっていき。
耳なりが激しくなると。
俺の意識は、その闇に飲み込まれていった―――。
両目には、指で力一杯に押さえつけられたような痛み。
たまらず、何度も目をしばたたかせる。
頭蓋の中でスクリューが回っているような気持ち悪さ。
めまいが激しく、足許がおぼつかない。
顔からは、脂汗が一気に噴き出して。
そして、数秒も経たないうちに、不快感の渦は遠のいていく。
グニャリと歪んだ視界が、波をうって元に戻った。
ふらついていた足にも、ようやく力が入り。
俺は、堅いアスファルトを踏みしめる。
ここは……路地裏、のようだ。
まだ、空には日がある。
どうやら、上手くいったようだ。
ハッキング・シュタイナーが発動した。
誘拐犯B「おい、大丈夫かよ?」
覆面を被った男の一人が声をかけてきて。
その間抜けな格好に、俺は思わずマスクの下でニヤけていた。
誘拐犯C「……いいや? 大丈夫だ。問題ない」
誘拐犯B「そ、そうか? やけにフラフラしてたけど……」
路地裏から顔を出して、通りを窺っていた男が声を上げた。
男の指差す方に目をやると、まゆりとルカ子が談笑しながら歩いている姿が見える。
誘拐犯B「お、おっしゃ。 いいな、お前ら?」
誘拐犯A「おう。今なら人目も無いし、さっさと行こうぜ」
今にも駆け出そうとする男達。
俺はポケットを探って。
誘拐犯C「なあ、お前たち―――」
ナイフを、取り出した。
まゆり「うわぁ……」
るか 「こ、怖い、です……」
まゆり「ねぇねぇ、オカリン。この辺、大変な事になってるみたいだよ」
テレビの内容は聞こえていた。
なんでも、路地裏で4人が刺されたらしい。
岡部 「……えらく物騒な世の中だな」
岡部 「まゆりもルカ子も気をつけるように」
まゆり「う、うん……」
るか 「わかりました……」
二人は頷くと、またテレビに視線を釘付けにした。
紅莉栖「ちょ、岡部。なによそれ」
岡部 「え?」
紅莉栖「左義長の炎に、そんなもの入れていいの?」
紅莉栖「……これって、お正月で使った飾りやなんかを燃やすのよね」
岡部 「いや、知らん」
紅莉栖「知らん、って……」
紅莉栖「……ははぁ? あれ、さてはあんたの厨二ノートだろ?」
岡部 「ぐぬっ……!」
紅莉栖「やっぱり図星か。 ね、岡部。拾ってきて?」
岡部 「いや待て! こ、殺す気か!?」
紅莉栖「……いいから、拾ってこい」
岡部 「……はい、行かせていただきます」
おわり
Entry ⇒ 2012.01.17 | Category ⇒ シュタインズゲートSS | Comments (0) | Trackbacks (0)
シンジ「フライパンでアスカの後頭部を叩いたら動かなくなった」
アスカ「-------------」
シンジ「返事してよ!アスカ!」ユサユサ
アスカ「-------------」
シンジ「どうしてこんなことに・・・そうだ呼吸は!」スッ
アスカ「-------------」
シンジ「してないじゃないか!!ふざけんな!!」ドカッ
アスカ「-------------」
シンジ「いたっ!小指がっ!!」ピョンピョン
シンジ「なんでこんなところにアスカの頭みたいなものが・・・どこまで僕に嫌がらせ・・・あれ?」
アスカ「-------------」
シンジ「アスカ・・・?アスカだ・・・な、なんでリビングで寝てるの?」
アスカ「-------------」
シンジ「アスカってば!ゲルマン流は通じないって言ってるだろ!」ユサユサ
アスカ「-------------」
シンジ「無視しないでよ!アスカの今後を心配して言ってあげてるんだぞ!」ユサユサ
アスカ「-------------」
シンジ「いつもそうだ・・・僕の話なんて一つもきいてくれない・・・」
アスカ「-------------」
シンジ「・・・起きろって言ってるんだ!!」ドンッ!
アスカ「-------------」
シンジ「あれ・・・アスカ?・・・アスカ!?大変だ!!アスカが倒れて動かないよミサトさん!!」
シーン……
シンジ「なんでこんな時に・・・まさかミサトさんがやったの!?」
アスカ「-------------」
シンジ「なんで・・・なんでミサトさんが・・・」
シンジ「うわあああああああああああああああああ!!!」ダダダダッ
ホームセンター
シンジ「うわあ!蛇口だけでこんなに種類がある!柄にもなくテンション上がっちゃうね」
シンジ「さて、ノコギリは買ったし、ゴム手袋と黒ゴミ袋も買った。あとはガムテープと台車かな」
シンジ「ただいまー」
ぺんぺん「くわああ!!くあっくあっ!!」ペタペタ
シンジ「どうしたのぺんぺん。お腹すいたの?」
ぺんぺん「くあっ!くあぁ!」グイグイ
シンジ「そ、そんなに引っ張ったらズボンが伸びちゃうよ!リビングになにかあるの?」
ぺんぺん「くわあ!」グイグイ
リビング
アスカ「う・・・うぅ・・・」
シンジ「どうしたのアスカ壊れかけのレディオみたいな声だして」
シンジ「それにリビングにねっころがるなんていくら外人でもはしゃぎすぎだよHAHA」
アスカ「ぃしゃ・・・きゅうきゅう・・・」ズルズル
アスカ「いた・・・い・・・だれか・・・」
シンジ「誰かを射たい・・・?日本文化を勘違いするのもいい加減にしてよ」
シンジ「日本にはリビングに寝転がって誰かを射る風習なんてないだから」
アスカ「ぅ・・・うっ・・・」
シンジ「さて、ミサトさんが帰って来る前にご飯作らなくちゃ。今日はなににしようかな」ガサガサ
シンジ「あれ・・・?なんでロープ・・・ゴミ袋もこんなに」
アスカ「たす・・・たすけ・・・」
シンジ「だからいつまでもゲルマン流を引きずるの・・・は・・・アスカ!?ち、血が出てる!!」
アスカ「ぐっ・・・ふぐ・・・」
シンジ「ふぐ・・・?まさかっ!ふぐ食べたんじゃ・・・」
シンジ「ふぐの毒のなんとかドキシンは自然界の毒の中でも特段危険だから調理の際は国が発行する資格を持っている人があれしないとダメなんだよ!?」
アスカ「げはっ・・・はっ・・・・・・はっ・・・」
シンジ「外人は魚になれてないから仕方ないとはいえ・・・どうしよう・・・そうだ!牛乳だ!!」
シンジ「毒を飲んじゃった時は牛乳を飲ませればあれできるってコナンの結婚式の会で言ってた!!」
シンジ「牛乳!!牛乳は・・・!!」ガチャッ
シンジ「なんでビールばっかりなんだこの冷蔵庫は!!!」ドガシャーン!
アスカ「ぐぁっ!?」
シンジ「アスカこれのん」
アスカの下半身「・・・」ビクッビクッ
シンジ「なんで倒れた冷蔵庫から足が生えて・・・アスカ!?アスカどこいったの!?」
シンジ「ぺんぺん!アスカは!?」
ぺんぺん「くえっくえええ!!」ツンツン
シンジ「えっ・・・この足がアスカだっていうの?」
ぺんぺん「くええ!!」
シンジ「嘘つくな鳥のくせに!!」ゴキッ
ぺんぺん「ぐぎゃっ!!」
ドサッ
ぺんぺん「-------------」
ミサト「たっだいまー」
ミサト「あーおなかすいたー。シンちゃーんおつまみつくっt」ガラッ
ミサト「な・・・アスカ!?シンジくんっ!?」
その時ミサトが見たものは
冷蔵庫に潰されているアスカ
頭から血を流し倒れているシンジ
首がへし折れたぺんぺん
昨日までの幸せとは言えないまでも、温かな食卓とは180度違うものだった
リツコ「上は押しこみ強盗の仕業と断定したらしいわ」
ミサト「そんなわけ・・・そんなわけないじゃない!!なんで強盗がわざわざうちまで来るわけ!?」
ミサト「それにただの強盗が外にいた黒服の警備を抜けたって本気でいってるの!?」
リツコ「わたしだってチルドレンを狙ったプロの反抗だと思うわ」
ミサト「じゃあなんで!!」ガッ
リツコ「・・・」
ミサト「ごめん・・・あんたに言っても仕方ないってのはわかってる・・・わかってるのよ・・・」
マヤ「せんぱーい!せんぱいっ!」ドタドタ
リツコ「どうしたの」
マヤ「シンジくんの意識が戻りました!」
ミサト「シンジくんっ!」
シンジ「はい?」
ミサト「あぁ・・・よかったっ・・・よかった」ギュウウ
シンジ「わっ、ななななんですかミサトさん!」
ミサト「ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・」
ミサト「わたしが・・・わたしが守らないといけなかったのに・・・」
シンジ「な、なにがですか?」
自ら気絶して被害者を気取り別人の犯行に見せかけようとしたら何年も経ってたってやつ
ミサト(シンジくんは事件のことを一切覚えていなかった)
ミサト(心を守る為に記憶を消し去ったのだろう・・・)
ミサト宅
ウィンッ
ミサト(今は誰もいなくなったこの部屋)
ミサト(警察が調べつくして犯人の痕跡は出なかったというが、なにかあるはず・・・なにか・・・)ゴソゴソ
ミサト(アスカとぺんぺんを殺し、シンジくんの心に傷を負わせた犯人・・・絶対に捕まえる・・・わたしが・・・っ!)ゴソゴソ
ミサト「待てよ・・・なにも痕跡が出なかった・・・?」
ミサト「これだけ荒らされてるのになにも痕跡が残らないなんて・・・まるでもともと犯人なんていなかったみたいに」
ミサト「・・・・・・」
ミサト「犯人なんて・・・いなかった・・・?」
シンジ「そうです。犯人なんていなかったんだ」
ミサト「っ!?」
ゴキッ
ドサッ
シンジ「・・・あれ?なんで僕前の家に・・・ミサトさん?」
ミサト「-------------」
シンジ「なにリビングで寝てるんですか。飲み過ぎるのはやめてって何回も」
シンジ「・・・ミサトさん?」
終わり
Entry ⇒ 2012.01.17 | Category ⇒ エヴァンゲリオンSS | Comments (0) | Trackbacks (0)
パワプロ「センター試験……?」矢部「でやんす!」
パワプロ「どうしたんだい矢部君……いきなりセンター試験だなんて」
矢部「もうおいらたちも三年生でやんす!進路を考えないと不味いでやんすよ」
パワプロ「何言ってるんだい矢部君。俺はプロ野球選手になるって前から言ってるじゃないか」
矢部「でもよく考えて欲しいでやんす!このままプロ野球選手になれなかったら高卒でやんす!しかも同級生たちは就職組は簿記とか事務系の資格とかとってるしなんだかんだ言ってちゃんとしてるでやんす!おいら達も現実的な事を考えるでやんす!」
パワプロ「だ、大丈夫だよ矢部君。春はダメだったけどきっと夏の甲子園でスカウトの目にとまるような活躍をしてみせるさ!」
矢部「……あんまり言いたくないけど現実をちゃんと見るでやんす。バス停前高校に予選で二年連続で負けるようなとこに誰が注目するでやんすか」
パワプロ「」
矢部「おいらはエリートになりたいでやんす!だから今から勉強初めて一流大学を目指すでやんすよ!パワプロ君もプロ野球選手という夢を見るのもいいでやんすが野球ばっかりで食って行くのはほぼ不可能でやんす!」
パワプロ「……な、なるほど。でもなんでセンター試験なんだい?」
矢部「一流大学は大体国立でやんす。そこに入るためにはセンター試験で高得点を取らないとどうしようもないでやんすよ」
パワプロ「……なるほど。矢部君、今からでも大丈夫かな?」
矢部「きっと大丈夫でやんす!一緒に頑張るでやんすよ!」
パワプロ「そ、そうかな!じゃあ頑張ろう!」
矢部「まずは一ヶ月後にマーク模試があるでやんすからそれに向けて頑張るでやんす!」
パワプロ「おー!」
矢部「でやんす!」
━━━━━━━━━二カ月後。
担任「あー、この前の模試を受けた者は成績を返却する。自分の進路の参考にするように」
パワプロ「矢部君!この前のやつだね!」
矢部「でやんすね!結構自信があるでやんす!放課後一緒に見るでやんす!」
━━━━━━━━━━放課後。
パワプロ「じゃあ俺は矢部君のを先に見るね」
矢部「じゃあおいらはパワプロ君のを先にこっそり見せてもらうでやんす!」
パワプロ「どれどれ……?」
矢部
英語 90 リスニング 10
国語 66 ⅠA 14
ⅡB 6 物理 32
化学 41 地理 25
合計 264/900
東京大学E判定
京都大学E判定
パワプロ(矢部君………これは……)
矢部「どうでやんすか!?今回は一日一時間も勉強した上にアニメやゲームもいつもより控えたでやんす!いきなりA判定は多分無理だからC判定くらいでやんすか!?」
パワプロ「矢部君……俺からはまだ何も言えないよ……俺のはどうだい?」
?」
矢部「そうでやんした、どれどれ……?」
パワプロ
英語 90 リスニング 10
国語 66 ⅠA 14
ⅡB 6 物理 32
化学 41 地理 25
合計 264/900
東京大学E判定
京都大学E判定
矢部(これはひどい)
パワプロ「いやー、俺もこんなに勉強したの生まれて初めてだよ!実は俺も結構自信があるんだよね!」
矢部「……パワプロ君。悪い事は言わないでやんす。プロ野球選手を目指したほうがまだましでやんす……」
パワプロ「嘘……マジ?そんなに?」
矢部「マジでやんす。こんなに低い点数初めて見たでやんす。東大とか身の程をわきまえるべきでやんす」
パワプロ「」
矢部「で、おいらはどうでやんすか?」
パワプロ「そ、そうだよ!矢部君のだってかなりヤバイよ!はっきり言って今からプロサッカー選手を目指したほうが可能性あるレベルだね!」
矢部「何言ってるでやんすか!絶対にパワプロ君より点数は上のはずでやんす!負けたら自殺してもいいでやんす!」
パワプロ「な、何言ってるんだよ!そんな事言ったら俺だって負けたら野球やめてもいいね!」
矢部「言ったでやんすね!?じゃあ勝負でやんす!」
パワプロ「いいとも!せーのっ!」
矢部「」
パワプロ「」
パワプロ(まったく……)
矢部(同じでやんす……)
矢部「……こ、こんなの何かの間違いでやんす!そ、そうだ!マークミスしたに違いないでやんす!」
パワプロ「俺だってそうに違いないよ!矢部君より低いなんてありえないもの!」
矢部「ムキーッ!!言ったでやんすね!言ってしまったでやんすね!もうパワプロ君とは口も聞きたくないでやんす!」
パワプロ「こっちだって!矢部君の顔なんか見たくもないよ!」
矢部「じゃあ絶好でやんす!もう話しかけるなでやんす!」
パワプロ「あ、やっぱちょっと待った!……じゃあ矢部君、こんなのはどうだい?センター試験で決着をつける。それまではお互い干渉しない。というのは?このまま白黒付けないまま絶好は流石にちょっと寝覚めが悪いからね」
矢部「望む所でやんす!なんなら負けた方に罰ゲームをつけてもいいでやんす!」
パワプロ「よし、じゃあ負けた方はあおいちゃんが着替えてる最中に乱入してブラジャーを奪い取ってくるってのはどうだい?」
矢部「そ、それはさすがに犯罪でやんす……」
パワプロ「ん?自信がないのかい?」
矢部「そ、そんな事ないでやんす!かかってこいでやんす!」
パワプロ「じゃあ決定だね。来年の一月を楽しみに待ってるよ」
矢部「せいぜい勉強頑張るでやんす!負けるわけないでやんすがね!」
パワプロ「こっちのセリフだよ!じゃあね矢部君」
パワプロ「とは言ったものの……勉強の仕方なんて分からないしなぁ……どうしたものか」トボトボ
??「パワプロ様!?そこにいるのはパワプロ様ではありませんか!!」
パワプロ「げっ……カレンちゃん……」
パワプロ(ん……まてよ?こいつは使えるかも……)
カレン「こんな所で逢えるなんてまさに運命ですわっ!やはり私たちは結ばれる運命だったのです!」
パワプロ「所で確かカレンちゃんって勉強は得意だったよね?」
カレン「そこそこだと思います。そんな事よりデートいたしましょう!」
パワプロ「模試とかって受けた?よければどのくらいか教えてくれないかな?」
カレン「それでしたら丁度この前受けたやつがありますわ!こんなので良かったら存分にご覧くださいませ」
パワプロ(どれどれ……げっ!?900点中862点!?東大京大A判定!?)
パワプロ「カレンちゃん、いや、カレンさん!!俺に勉強を教えてくれないか!?もし成績がかなり上がったらデートでも何でもするよ!」
カレン「本当ですの!?パワプロ様のためならお安い御用ですわ!」
パワプロ(デートは適当なこと言ってごまかすとして……これは心強いな)
カレン「それではパワプロ様!私の早速お屋敷に参りましょう!勉強あるのみです!」
パワプロ「うん!よろしく頼むよ!」
その頃矢部は………
矢部「勢いに任せて言ったものの……全く自信はないでやんす……でも後半年以上あるでやんすから焦ることはないでやんすね!とりあえずマニアショップにでも行くでやんす!」
(注:七月上旬です)
矢部「おおっ!これはwarningの限定版フィギュアでやんす!ああっ!こっちにはリステリンズ・ゲートの初回仕様BDでやんす!」
矢部「来月から本気で勉強するとして……1日10時間やれば1500時間はセンター試験まであるでやんす!余裕でやんす!」
矢部「焦ってやってもどうせ飽きるでやんすから自分のペースでやるでやんす!」
こうして……パワプロはカレンちゃんに勉強を教えてもらい、矢部君は独学でやろうと決意した。こうして三ヶ月の時が過ぎた。(ちなみに夏の予選はバス停前高校にコールド負けをした)
━━━━━━━━━━三ヶ月後。
パワプロ「どうかな!?」
カレン「……これも、これもあってますわね。かなり出来るようになってますわ!流石はパワプロ様!」
パワプロ「本当!?間に合うかな!?」
カレン「このペースで行けば何とかなりそうですわね!あと三ヶ月……頑張りましょう!」
パワプロ「カレンちゃんのおかげだよ!ホントにありがとう!」
カレン「まだまだわかりませんわ!油断大敵です!」
パワプロ「そうだね!もう少しよろしく頼むよ!」
一方矢部は……
矢部「いやー今期は豊作過ぎて寝不足でやんす!新作のエロゲも当たりが多いし嬉しい悲鳴ってやつでやんすね!」テクテク
??「おーい!矢部君ー!」
矢部「ん?おお、あおいちゃんでやんす!久しぶりでやんす!」
あおい「クラス違うし引退してから顔合わせなかったからねー。最近調子どう?」
矢部「絶好調でやんす!あおいちゃんはどうでやんすか?」
あおい「ボクは最近勉強が大変かなぁ。野球ばっかりやってたから勉強は大変だよ」
矢部「あおいちゃんは受験するでやんすか?」
あおい「うーん、迷ったけど大学でまた野球やりたいからね!推薦は無理っぽいからセンター試験で何とか進学決めたいなって」
矢部「おお!おいらもセンター試験は受けるでやんすよ!お互い頑張るでやんす!」
あおい「え……でも矢部君ってこの前も補習じゃなかった……?大丈夫なの?ちゃんと勉強してる?」
矢部「自分のペースで進めてるでやんす!心配無用でやんすよ!」
あおい「そう?じゃあお互いがんばろうね!じゃっ!」
矢部「またねでやんす!」
矢部(とは言ったものの……さすがに三ヶ月何もして来なかったのはまずかったでやんすかね?)
矢部「でもしょうがないでやんす!おいらの事を待ってるアニメやゲームがあるでやんす!」
矢部「それに来週から本気出すとして……一日12時間やればあと1000時間はあるでやんす!それだけあれば余裕でやんす!」
矢部「パワプロ君もどうせやってないはずでやんすから……ハンデの意味も込めて本気出すのは来週くらいからで丁度いいでやんす!」
━━━━━━━━━━二ヶ月後。
パワプロ「この問題はモンモールの問題がモデルになってるのかな?」
カレン「どうやらそうですわね!」
パワプロ「通りで見たことあると思ったよ!この問題はこの示し方でも平気かな?」
カレン「加法定理の証明ですか?ド・モアブルを使うと循環証明っぽいですわね……素直にベクトルを使ったほうがよろしいかと思いますわ!」
パワプロ「なるほどなるほど……」
(注:勉強してるとこは適当です)
俺も
カレン「それにしてもパワプロ様の成績の上がり具合には頭が下がりますわ!センター試験レベルならもう完璧ですわね!」
パワプロ「それもこれもカレンちゃんのおかげだよ!」
カレン「いいえ!私は大した事してませんわ!パワプロ様の努力の結果です!誇っていいですわ!」
パワプロ「そ、そうかな……でもまだもう少しあるし頑張ってみるよ!」
カレン「私もお手伝いさせて頂きますわ!」
一方矢部は……
矢部「うっ……、ふぅ……」
矢部「あー、一回ヌいてから勉強しようと思ったでやんすが……なんかどうでもよくなってきたでやんすねぇ……」
矢部「それにしても如月群馬の描くハーレム物は最高でやんす!フェラの描写が半端ないでやんす!」
矢部「まぁ……、勉強は一ヶ月前に受けた模試の結果が帰ってきてから本気出すでやんす」
矢部「あと一ヶ月という事は……一日に15時間勉強すれば450時間はできるでやんす!余裕でやんす!」
矢部「あっ!そう言えば今夜は『JALの使い魔』の4期が始まる日でやんす!wktkでやんす!」
━━━━━━━━━━次の日。
担任「あー、この前模試を受けた者は成績を返す。もう時間もないからこの成績にそって進路を考えるように」
矢部「そういえばそんなのもあったでやんす!まぁ勉強はしてないけど自信はあるでやんす!少なくとも夏の成績は上回ってるはずでやんすね、今回はマークミスしてないか念入りにチェックしたでやんすし」ドレドレ
矢部
英語 0 リスニング 0
国語 0 ⅠA 0
ⅡB 0 物理 0
化学 0 地理 0
合計 0/900
得点率 0.00%
東京大学E判定
京都大学E判定
矢部「」
矢部「……えっ?」
矢部「いや、おかしいおかしい。見間違いだって」
矢部「もっかい見てみるでやんす」ソー
矢部
英語 0 リスニング 0
国語 0 ⅠA 0
ⅡB 0 物理 0
化学 0 地理 0
合計 0/900
得点率 0.00%
東京大学E判定
京都大学E判定
矢部「うそ……だろ……」
矢部「……夢じゃないでやんす」
矢部「全部自信を持ってマークして確認したでやんすのに……」
矢部「……このままではさすがにマズイでやんす……」
矢部「よし、放課後にマニアショップで作戦会議でやんす!」
━━━━━━━━━━放課後。
矢部「さて、マニアショップに来たでやんすが……とりあえず買物だけ済ませて考えるでやんす」
矢部「おお!『ラブマイナス+』のねんどろいどでやんす!可愛いでやんす!」
━━━━━━━━数時間後。
矢部「……またやってしまったでやんす……」ズーン
矢部「勉強は10日前から始めたら240時間は出来るでやんすから間に合うといえば間に合うと思うでやんすが……」
矢部「また繰り返してしまった事に自己嫌悪でやんす……はぁ」トボトボ
??「オーイ!ソコノ少年!」
矢部「ん?おいらの事でやんすか?」
??「ソウデース、ナニカオ困リノヨウデスネー」
矢部「なんか胡散臭い人でやんすね。誰でやんすか?」
??「ワタシ世界的スポーツ医学ノ権威、ダイジョーブ博士デース!ソンナ事ヨリ何カ悩ンデルノデシタラ力ニナリマスヨ?」
矢部「……まぁ聞いてもらうだけならタダでやんす」
矢部「実は……」カクカクシカジカ
ダイジョーブ「ナルホド、ツマリ頭ガ良クナリタイノデスネ?」
矢部「まあ端的に言うとそうでやんすかねぇ……」
ダイジョーブ「任セナサーイ!ワタシガ何トカシテアゲマショウ!」
矢部「ほっ、本当でやんすか!?ぜひお願いしたいでやんす!」
ダイジョーブ「イイ心意気デース!ソレデハ早速ワタシノ研究所ニイキマショー」
矢部「がってんでやんす!」
━━━━━━━━━━研究所。
ダイジョーブ「ソレデハ早速コノ薬ヲ飲ンデ横ニナッテ下サーイ」
矢部「分かったでやんす!あれ……なんか眠……く……んす」パタン
ダイジョーブ「デハ開始シマース。ゲドー君!準備ハイイデスカ?」キラーン
ゲドー君「ギョギョー!」
ダイジョーブ「……」チュイイイイイン
ダイジョーブ「……」ゴリゴリ
ダイジョーブ「……」ギコギコ
━━━━━━━━━━数時間後。
ダイジョーブ「ヤハリワタシハ天才デース!ゲドー君!コノ少年ヲ捨テテキテクダサーイ!」
ゲドー君「ギョギョー!」
━━━━━━━━━━街。
矢部「うーん、もう食べられないでやんすぅ……はっ!?」ガバッ
矢部「……あれ?何でおいらはこんなとこに寝てたでやんすか?うーん……思い出せないでやんす。んん!?なんか頭がスッキリして良くなった気がするでやんす!」
矢部「ちょっと帰って過去問やってみるでやんす!」
━━━━━━━━矢部家。
矢部「………やっぱりでやんす」
矢部「どうやらおいらは知らないうちに覚醒したようでやんすね……。去年の過去問が900点とはヤッパリおいらは天才だったでやんす!」
矢部「まあペンを握ると眠くなって起きたらマークが埋まってるんでやんすがね。細かい事はどうでもいいでやんす」
一方パワプロは……。
パワプロ「やった!遂にA判定でたよ!」
カレン「おめでとうございますパワプロ様!これでもうほぼ安心ですわね!」
パワプロ「ありがとうカレンちゃん!君がいなかったらここまでは出来るようにならなかったよ!」
カレン「いやですわパワプロ様、パワプロ様の努力の結果です」
パワプロ「照れるなぁ……。とにかく、あと少しでセンター試験だからそれまで最終チェックする事にするよ!」
カレン「それがいいと思いますわ!では私が力になれるのはここまでの様ですので結果報告を楽しみに待ってますわ!」
パワプロ「うん!本当にありがとう!」
━━━━━━━━センター試験当日。
パワプロ家
パワプロ「鉛筆、シャーペン、消しゴム、時計、受験票……忘れ物はないな!さあ、がんばろう!」
矢部家
矢部「えーと……鉛筆はないでやんすからシャーペンでも平気でやんすかね?あと……時計はどうせ教室にあるはずだからいいでやんすね。あとは……受験票が確かこの辺に」ゴソゴソ
矢部「ゲッ!写真が必要なんて聞いてないでやんすよ!しかも二枚も!」
矢部「まぁコンビニの前で写真とってけばいいでやんすね」
矢部「会場は……どこでやんすこれ?まぁ最寄り駅が書いてあるから行って受験生っぽいのを尾行すれば多分つくでやんす」
むかしはただの邪魔なデブスだったのに
見た目以外の面では
━━━━━━━━━━会場。
矢部「いやー、ギリギリセーフだったでやんす、……あ」
矢部(隣の席がパワプロ君でやんす。直前に無駄なあがきをしてるようだけどせいぜい頑張るといいでやんす。全部終わった後に泣いて謝らせるでやんす)
パワプロ(一時間目は地理か……宗教系は苦手だから出てほしくないなぁ)
パワプロ(……ん?よく見たら隣は矢部君か……なんか余裕そうだけど大丈夫かな?)
試験監督「えー、それでは問題配ります」
━━━━━━━━━地理終了。
パワプロ(ふぅ、なんとかいつもの力が出せたな……と言うかもしかして矢部君寝てた?なんかイビキみたいな声が……)
矢部(おお!やっぱり寝て起きたらマークが埋まってるでやんす!今日も何も心配する必要なかったでやんすね!)
━━━━━━━━━━そんなこんなで一日目終了。次の日。
パワプロ(よし!理科もいい手応えだった!後は得意の数学ⅡBだけだ!)
矢部(なんか寝るのも飽きたでやんすね……最後くらいは自力でやってみるでやんす!)
試験監督「それでは数学ⅡBを始めて下さい」
パワプロ(くっ……ちょっと難化したか?計算量が……)
矢部(真数が正?真数ってなんでやんす?嘘じゃない本当の数でやんすか?)
パワプロ(空間ベクトルか……焦らず冷静に)
矢部(sinA=cos2Bでやんすか……ということはA=2Bでやんす!簡単でやんす!)
パワプロ(数列もちょっと多いな……計算ミスに注意しないと)
矢部(等差数列?確か1、2、3、
5、7、11、13……でやんしたっけ?)
試験監督「はいそこまで!それでは回収しますのでペンをおいて下さい」
パワプロ(満点は逃しちゃったかも……)ズーン
矢部(かなり出来たでやんす!満点の可能性大でやんす!!)
矢部くんは素数と間違えてます。というか色々間違えてます
━━━━━━━━━━次の日。
矢部「この日を待ってたでやんす!」
パワプロ「こっちのセリフだよ矢部君!先に解答見て問題用紙に細工とかしてないだろうね?」
矢部「そんなみみっちい事するわけないでやんす!ちゃんと問題用紙持ってきたから交換してお互いの自己採点やるでやんす!」
パワプロ「望むところだ!」
━━━━━━━━━自己採点中。
矢部(な、なかなかやるでやんすね……まさかここまでとは……でも所詮は凡人でやんす!この天才のおいらに敵うはずがないでやんす!)
パワプロ(うそ……だろ……?)
パワプロ(それにしてもⅡB酷すぎだろ……わざととしか思えないよ……)
パワプロ「そっち終わった?」
矢部「終わったでやんす!」
パワプロ「じゃあせーので見せ合おう、せーのっ!」
矢部「やんす!」
直前に起きて解答をメモってるということにしといて下さい
矢部
英語 200 リスニング 50
国語 200 ⅠA 100
ⅡB 0 物理 100
化学 100 地理 100
合計 800/900
得点率 89.9%
パワプロ
英語 194 リスニング 48
国語 163 ⅠA 100
ⅡB 93 物理 92
化学 96 地理 76
合計 813.6/900
得点率 90.4%
1は素数じゃないぞ
ですので矢部君は馬鹿なのです
矢部「」
矢部「……ま、負けたで……やんす」
矢部「そんなバカな……でやんす」
矢部「もう……死ぬしかないでやんす……」
パワプロ「矢部君……」
パワプロ「矢部君だって頑張ってたじゃないか!!」バンッ
パワプロ「そりゃあ俺も死ぬほど頑張ったよ!けど矢部君だってたった半年でそれだけの点数をとれるだけ努力してきたんだろう!?」
つーかリスニングってどうやって勉強すんの?
俺は即単のCDを意味がわかるまでエンドレスでした
矢部「……そうでやんす。おいらもこの点数になるまで死ぬ程努力したでやんす……」
パワプロ「だったら!俺に負けたからって試験は終わってないじゃないか!2次試験一緒にがんばろうよ!!」
矢部「そう……でやんすね。おいら目が覚めたでやんす!パワプロ君!ありがとうでやんす!一緒に東大目指して頑張るでやんす!」
パワプロ「その意気だよ!がんばろう!」
矢部「がってんでやんす!」
━━━━━━━━そして一週間後。
パワプロ「ありがとうカレンちゃん!センター試験も成功したし後は2次試験頑張るだけだよ!」
カレン「もう少しですわね!私も一緒の大学に入れるように頑張りますわ!一緒に入ったらパワプロ様との夢のキャンパスライフが……素敵」
パワプロ(そろそろ縁切っとかないと……ヤバイか?もう得られるものはなさそうだしこのままだと確実に夢のキャンパスライフを邪魔される……)
パワプロ「う、うん。もし一緒に大学入れてもいい『友達』でいようね!」
カレン「なんか今不自然に強調しませんでした?」ゴゴゴゴ
パワプロ「そっそんな事よりこの問題なんだけどさぁ……」
一方矢部は……
矢部「うっ……ふぅ……」
矢部「やっぱJIN先生が描く寝取られは最高でやんすねぇ……」
矢部「勉強しなくても楽勝だってわかったでやんすから気楽なもんでやんす!」
矢部「女の子のみに囲まれた夢のハーレムキャンパスライフが楽しみでやんす・」ウットリ
━━━━━━━━東大試験当日。
パワプロ「ついに来たね矢部君!」
矢部「やんすね!」
パワプロ「春にはこの赤門を一緒にくぐれるように頑張ろう!」
矢部「おうでやんす!」
パワプロ「試験の対策は大丈夫かい?過去問どのくらい取れた?」
矢部「対策なんかいらないでやんす!過去問もやる必要ないからやってないでやんす!赤本買うくらいならその金でマニアグッズ買うでやんす!」
パワプロ(……オイオイマジかよ……)
━━━━━━━━━試験開始。
パワプロ(くっ……やっぱり会場で受けると実力が出せないな……)
矢部(…………ZZZ)サラサラ
矢部(……ここがいいでやんすか!?えぇ!?言ってみるでやんす!どこに何を入れて欲しいかちゃんとは言わなきゃわかんないでやんすよぉ!?……ZZZ)サラサラ
━━━━━━━━━試験終了。
パワプロ「ふぅ……疲れた。でもやれる事は全部やったな!矢部君はどうだった?」
矢部「おいらもいい夢が見れたでやんす!完璧でやんす!」
パワプロ「そっか!後は結果待ちだね!(夢……?)」
矢部「でやんすね!早く帰るでやんす!」
パワプロ「やったよ矢部君!解答速報と照らし合わせてみたら多分大丈夫そうだったよ!」
矢部「おお!よかったでやんすね!おいらも完璧でやんす!」
矢部(本当は解答なんて見てないでやんすがまぁ受かってるはずでやんす)
パワプロ「本当に!?じゃあ二人揃って東大生になれそうだね!」
矢部「これもパワプロ君が励ましてくれたおかげでやんす!絶交なんて言ってゴメンでやんす!」
パワプロ「いいんだよ!ちゃんとやる事はやってもらうから!」
矢部「……ん?やることってなんでやんす?」
パワプロ「やだなぁ、罰ゲームだよ罰ゲーム!まだやってなかっただろ?」
矢部「」
矢部「……た、たしかあおいちゃんに投げキッスでやんすよね?」
パワプロ「やだなぁ矢部君あおいちゃんのパンツとブラジャーを強奪するんだろ?」
矢部「さり気なくパンツが入ってるでやんす!ブラジャーだけだったはずでやんす!」
パワプロ「ゴメンゴメン。じゃあブラジャー追い剥ぎ頑張ってね!」
矢部「だ、騙されたでやんす……」
パワプロ「じゃあさすがにかわいそうだから罰ゲーム選ばせてあげるよ」
矢部「本当でやんすか!?さすがパワプロ君は出来た人間でやんす!」
パワプロ「とある女の子に付き合えるまで告白ってのはどう?」
矢部「そ、それも厳しいでやんすが犯罪者になるよりマシでやんすかね……所でとある女の子というの誰でやんすか?」
パワプロ「カレンちゃん」
矢部「」
矢部「カ、カレンちゃんってあの重戦車カレンちゃんでやんすか!?」
パワプロ「うんそのカレンちゃん」
矢部「こ、これは究極の選択でやんす……」
パワプロ「でもカレンちゃんスゴいいい子だよ?優しいし料理できるしモテナイから浮気は出来なさそうだし将来は絶対イイお嫁さんになるって!」
矢部「そーいう問題じゃないでやんす!うーん……」
パワプロ「じゃあアミダで決めよう!これで文句無しでいいね!?」
矢部「分かったでやんす!おいらも男。男は一度決めたらやり通すでやんす!」
矢部「そーいう問題じゃないでやんす!うーん……」
パワプロ「じゃあアミダで決めよう!これで文句無しでいいね!?」
矢部「分かったでやんす!おいらも男。男は一度決めたらやり通すでやんす!」
パワプロ「よく言った矢部君!よし、出来た!どれ選ぶ?」
矢部「何で選択肢が二つのはずなのに3まであるでやんすか!?」
パワプロ「細かい事は気にしないで。さあどれ?」
矢部「じ、じゃあ2を……」
パワプロ「えーと……あ、当たりだ。両方こなすだって」
矢部「な、なんでやんすかそれ!?どう考えてもおかしいでやんす!」
パワプロ「男に二言はないんじゃなかったっけ?」
矢部「ぐぬぬ……分かったでやんす!おいらも漢!やる時はやる漢でやんす!」
パワプロ「よく言った矢部君!じゃあ早速カレンちゃんからいこう。夕方に公園に来て下さいって手紙だしといたから多分そろそろ待ってると思うよ!」
矢部「なんかやけに手際がいいでやんすね……まあ分かったでやんす」
パワプロ(ちなみに残りの二個は両方こなすと告白だったんだ。ガンバレ矢部君!)
━━━━━━━━━━公園。
パワプロ(いたよ矢部君!後ろから見ても凄まじいあの存在感。間違いなく彼女だ)
矢部「ほ、本当に行くでやんすか?」
パワプロ(漢になるんだ矢部君!)
矢部「わ、わかったでやんす!行ってくるでやんす!」ウオオオオオ!
矢部「ま、待たせてゴメンでやんす。呼び出したのはおいらでやんす」
カレン「そ、そうでしたか……なんの御用でしょう?」
矢部「そ、その……」
パワプロ(ガンバレ矢部君!俺の明るい未来のために!)
矢部「すっ、好きでやんす!おいらと付き合って欲しいでやんす!」
パワプロ(言ったあああああ!よっしゃあああああ!)
カレン「!!……わ、わたくしには心に決めた方が……」
矢部「そ、そうでやんすか……」
パワプロ(おおおい!ヤバイヤバイ!何引いてるんだよ!おせ!押すんだ矢部君!)
矢部「でもそんなの関係ないでやんす!おいらの方がその人よりカレンちゃんの事好きでやんす!」
パワプロ(よしいいぞ矢部!)
カレン「や、矢部様……そこまで私の事を……」
カレン「……分かりました。わたくしは今から矢部様の恋人ですわ!」
矢部「ほ、本当でやんすか!?(彼女できて嬉しいはずなのに嬉しくないでやんす……)」
矢部「じゃ、じゃあ今日はこれまでにしてまた改めて会おうでやんす!」
カレン「そうですわね!それではごきげんよう!」ドスドス
パワプロ「いやー、矢部君グッジョブグッジョブ!!受験上手く行った上に彼女持ちなんて羨ましいなぁ」
矢部「なんかあんま嬉しくないでやんす……」
パワプロ「よしじゃあ、次に行こうか。明日野球部のOBみんなで練習混ざる事にしたから!……あとは分かるね?」
矢部「またしても手際がいいでやんすね……まぁいいでやんす。ここまで来たら後には引けないでやんすよ!」
パワプロ「その意気だよ矢部君!じゃあまた明日ね!」
━━━━━━━━━━次の日放課後。
パワプロ「矢部君準備はいいかい?」
矢部「バッチリでやんす!」フガフガ
パワプロ「しかし被り物をしてまでやるとは……さすがだね」
矢部「まだ捕まりたくないでやんすからね!」フガフガ
パワプロ「よし、今さっき練習終わってあおいちゃんは野球部の誰もいない部室に向かった。今は多分脱ぎ始めてる頃だろう」
矢部「興奮してきたでやんす!」
パワプロ「よし!いけ矢部君!解き放ってくんるだ!」
矢部「分かったでやんす!」ウオオオオオ!
━━━━━━━━━━その頃部室。
あおい「はぁ……久しぶりにみんなで野球したら少し疲れちゃったなぁ。でもパワプロ君とも久しぶりに話せたし楽しかったな!」シュルルパサッ
ウオオオオオ
あおい「ん?何の音?」
バターン!!
あおい「えっ!?な、なに?誰?」
矢部「ウオオオオオオオ!!!ヤンスヤンスヤンスヤンスゥゥゥゥ!!」
あおい「きゃっ、あっ……ちょっと……んっ、あん……や、やめ」
矢部「うっひょおおおおおお!たまんない感触でやんすゥゥゥ!!」
あおい「ちょっ、そっ……そこは……だ、ダメ……っ!」
矢部「ブラシャーは頂いたでやんす!こうなったらついでに下ももらうでやんす!」
あおい「や、やめて……ホントにこれ以上は……んっ……っやめてよぅ!」
矢部「本当は嬉しいでやんす!ほらほらアソコに手が伸びるでやんすよ」
あおい「やっ……いやぁぁぁぁ!!」
バンッ!!
矢部「!?」
あおい「!?」
パワプロ「大丈夫かいあおいちゃん!!この変態め!!」バキッ
矢部「ぶべらっ!」
パワプロ「この野郎よくもあおいちゃんを!」バキッドカッ
矢部「ぐぼっ、げはっ、や、やめるでやん……ぐはっ」バタン
パワプロ「ハァハァ……だ、大丈夫かあおいちゃん!?これを着て!」パサッ
あおい「グスッ……うん、あ、ありがとうパワプロ君……怖かった」ダキッ
パワプロ「助けるのが遅くなってごめんね……もう大丈夫だよ」ナデナデ
パワプロ「じゃあこの変態を連れて行くからあおいちゃんは先に帰ってて」
あおい「う、うん……。何から何まで本当にありがとうパワプロ君……」
パワプロ「気をつけて帰るんだよ?じゃあね」
矢部「……ひ、ひどいでやんす!パワプロ君は鬼でやんす!」
パワプロ「ゴメンよ矢部君……けど矢部君があまりにも暴走してたからあのままだと捕まると思って少し強行手段に出たんだ……手荒になっちゃってごめんね」
矢部「そ、そうだったでやんすか!ありがとうでやんす!」
パワプロ「という訳でどさくさに紛れて奪い取った水色の上下下着セットは助けたお礼として貰っとくね?」
矢部「そ、そんなっ……せめて匂いだけでも嗅がせてくれでやんす!」
パワプロ「でも俺がいなければ今頃東大生どころかブタ箱行きだったんだよ?」
矢部「そ、それは……くっ……もってけドロボーでやんす!」
パワプロ(なんか上手く行きすぎて逆に怖い)
そしてしばらくして……合格発表の日
━━━━━━━━━東京大学。
パワプロ「いやーついに来たね」
矢部「でやんすね!」
パワプロ「あれからカレンちゃんとはどうだい?」
矢部「なんか見慣れると可愛く見えるでやんす!もう毎晩激しいでやんすよ!」
パワプロ「そ、そう……それは良かったね(スゲェ……)」
矢部「おっ!張り出されたでやんす!パワプロ君の番号が早いからパワプロ君から見るでやんす!」
パワプロ「どれどれ……」
パワプロ「あっ、あった!」
パワプロ「あったあああああああ!」
矢部「やったでやんす!おめでとうでやんす!」
矢部「これで晴れて二人共東大生でやんすね!」
パワプロ「うん!ありがとう矢部君!……あっ一応矢部君のも見とこうよ!」
矢部「そうでやんすね!えーっと……」
矢部「ん?あれ?おかしいでやんすね?番号が飛んでるでやんす」
矢部「えっーと……あ、あれ?」
パワプロ「??どしたの矢部くん?」
矢部「な、ないでやんす……」
パワプロ「……えっ?」
矢部「おいらの番号がないでやんすよぉぉぉぉぉぉ!!」
パワプロ「……そ、それは……なんというか……(気まずい……)」
??「おーい!パワプロー!」
パワプロ「あっ?あおいじゃないか!どうしたの?」
あおい「えー、だってやっぱりパワプロの合格発表一緒に見たいなって……えへへ、あれ?矢部君どうしたの?顔青いけど大丈夫?」
矢部「………」
パワプロ「あ、あおい!ちょっとあっちに行こうか!じ、じゃあ矢部君!またね!」
あおい「あんっ、ちょっと引っ張らないでってばぁ。じゃあね矢部君!」
矢部「そんなバカなでやんす……何がダメだったでやんすか……」フラフラ
??「あっ、そこにいるのは!」
??「矢部様ー!矢部様ー!」ドスドス
カレン「矢部様!カレンは合格しましたわ!一緒にお祝いいたしましょう!」
矢部「うるさいでやんす!ほっといてくれでやんす!」
カレン「矢部様……」
矢部「そうでやんすよ!不合格でやんす!笑うがいいでやんすよ!」
カレン「矢部様……また一緒に一から頑張りましょう?カレンがついていますわ」フシューフシュー
矢部「もうダメなんでやんす……パワプロ君にあれだけでかい口叩いてこれでやんす……」
カレン「矢部様……大学受験はまだ大丈夫ですわ……25歳にもなってセンター試験受けてる>>1のような奴だっています!まだ慌てるような時間じゃありませんわ!一緒に頑張りましょう?」
矢部「本当にまだ……遅くはないでやんすか?」
矢部「そうでやんすか……もう少し頑張ってみるでやんす!」
カレン「その意気ですわ!」
こうして……底辺から始まった俺達の受験戦争は幕を閉じた。
次の夏に聞いたのだが、どうやら矢部君は開示されたセンター試験の点数が全科目0点だったらしい。
名前をマークするのを忘れてたののだろう……。
何で名前もマークしないでやんすか!この役立たず!と自分を罵っていたが、正直引いた。
ちなみに矢部君は次の年から急に物覚えが悪くなり、もちろん成績も下がり続けて受験どころではなくなり、今はカレンちゃんのお父さんの系列会社でバイトしているらしい。
なんか試験中寝ても解答ができ上がらないでやんす!とわめいていたらしい。当たり前だ。
俺はもちろん無事に東大生なり、女子大に行った可愛い彼女との交際も続いている。
院に行くことも決まり、彼女は野球部がある小さい会社に就職が決まった。
いつか結婚しようと思うのでそしたら矢部くんに会いに行こうと思う。こうなったのも全部矢部君のおかげだしね。
パワプロ「おしまい」
お疲れさん!完結してよかった
Entry ⇒ 2012.01.17 | Category ⇒ 版権物SS | Comments (0) | Trackbacks (0)
少女「こんにちはー!!お向かいさん!!」
このマンションの構造上、内向きにも縁側が作られている。
日の光は入ってこず、湿気が多い。冬になれば部屋と外の温度差で結露が窓を支配する。
構造的欠陥に文句を言うこともなく、大量の雫を拭き取る。
窓を開け、外にでる。向かいの部屋はカーテンで遮られ、中の様子はわからない。
こちらと向こう側までは約10メートル。少し大きな脚立が対岸を繋ぐ橋になりえる距離。
俺は他人の窓に背を向けて、冷たい空気に身を震わせながら濡れたガラスを拭こうとした。
「こんにちはー!!お向かいさん!!」
誰かの声に背中を押された。
振り返ると、そこには欄干に胸を乗せるようにして身を乗り出し、微笑んでいる少女がいた。
「なにしてるんですか?」
無邪気な好奇心で包まれた質問。特に何も思うこともなく、窓を拭いているとだけ伝えた。
「そうなんですかぁ」
それで会話を切り、窓ガラスを磨く。
時折、ガラスに映る少女の姿が気になったが、優先するべきは自分のこと。
全ての水分を拭き取ると、俺は対岸を見た。
少女の姿はない。ただ、吹き抜ける風が寒いだけ。
部屋に入り、鍵を閉め、リビングに向かった。
窓を開けて換気をする。朝の冷風が押し寄せ、机においてあったプリントが吹き飛んだ。
慌ててそれを拾おうと、向こう岸から視線を外した。
「おはようございまーす!!」
朝から威勢の良い声がした。肩越しに後ろを見れば、昨日見た少女だった。
近所にある学校の制服を着ている。その姿に一瞬だけ見惚れた。
「なにしてるんですか?」
昨日の同じ問い。俺は正直に答える。
「大変ですねぇ」
少女は微笑みながら、他人事だと言わんばかりの口調で告げた。
何か用事でもあるのか。そう訊こうかとも思ったが、俺は飛ばされたプリントを拾い集めることを優先する。
視線を戻したときには少女はいなかった。
部屋の明かりをつけ、本を読もうと本棚に近づく。
ふと、閉じられたカーテンが目に入る。
あの少女が覗いているのではないか、と不安になった。
夜にまで見られているのはあまり気分の良いものではない。
何故か足音を殺しながら窓へと向かい、指でカーテンに僅か隙間を作る。
外は廊下を照らす白光でほんのりと明るい。誰かがベランダに立っていればすぐにわかる。
しかし、向こう側の窓は暗く、鏡になっており、俺の情けない姿を映しているだけだった。
安堵してベッドに潜った。
少女の姿はなかった。
換気するために窓を全開にする。早朝の冷え切った微風が前髪を揺らす。
「おはようございまーす!!」
その頑健な挨拶に背中が震えた。振り向けば、またあの少女が制服を着て、笑っていた。
「なにしてるんですか?」
一言一句違わない問い。何もしていない。ただ、窓を開けただけだと答えるしかない。
「へえ……そうなんですか」
興味があるのかないのか、はっきりとしない返事。無視してもよかったが、昨日、一昨日とは違う。
俺にはやるべきことがなく、また少女のことも気になっていた。
君はなにをしているのか、ただそれだけが知りたかった。
少女は屈託なく告げる。
「なにもしていません。何もすることがないので」
「えへへ。いやー、朝は起きてすぐに外の空気を吸うのが健康にいいんですよね?」
それはいいことなのか判断できないので、肯定も否定もしない。
「お兄さんも私と一緒じゃないんですか?」
いいや、と頭を振る。先ほど説明したこと以外に意味なんてない。
少女は笑いながら、それもそうですねえ、と頬を掻いた。
そろそろ朝食の時間であることを伝えると、彼女は胸元で手を合わせた。
「いただきます、しないとだめですよ?」
頷き、俺はリビングへと移動した。
十数分後、案の定、少女の姿はなかった。
昨日と変わらない。廊下側から漏れる蛍光灯の光が夜の暗闇を払拭している。
少女の姿は見当たらない。
特に何もない。それが普通のこと。
夜にまで朝の豪快でいて強壮な声を出されては近所迷惑でもある。
カーテンの隙間を閉じ、電気を消す。
天井を見つめながら、朝のことを思い出す。
不思議な少女。
元気な挨拶。
ただのご近所付き合いだと思えばいい。
珍しいことでもないだろうと考えつつ、まどろみに身を委ねた。
「おはようございまーす!!」
抵抗なく挨拶を交わす。窓辺から喋るだけの人。向こう岸までの距離以上に俺と彼女には隔たりがある。
それでも動揺することなく返事をするだけの余裕は生まれつつあった。
「なにをしているんですか?」
見ればわかるだろう、と自嘲気味に言ってみる。俺は本当になにもしていない。
「私と一緒ですね」
微笑する彼女に引寄せられるように、俺はベランダに出た。
「今日も寒いですね」
頷く。確かに寒い。ベランダに出るだけでもジャケットは着た方がいい。
「着てきたらどうですか?」
そうすると言って部屋に戻り、ジャケットを羽織った。
戻ってみると、少女の姿は―――。
「おかえりなさい」
そこにかわらず、あった。
大学生。そういうことにしておいた。
実際は学校にも殆ど行かず、家に寄生しているだけ。
楽しみといえば食事と睡眠ぐらいだ。
「趣味とかあります?」
高校まではテニスをしていたが、それも中途半端な実力がついただけ。
ラケットもなんの未練もなく捨てることが出来た。
現時点では好きなものはない。
「楽しんですか、それ?」
憐れみの目が突き刺さる。確かに毎日無気力にいるだけで、楽しいことはない。
「ですよね。私も同じですから」
趣味がないのかと口から出る前に、彼女は言う。
「何もないんですよ。だから、趣味もありません」
「それではそろそろ失礼しますね」
そう言って少女は部屋の中へと姿を消した。
彼女のいう何もないが一体、どういうことを意味しているのか。
少しばかり考えてみるものの、すぐにどうでも良くなった。
所詮は他人のことだ。俺が気にしても仕方ない。
部屋に入り、もう一度彼女が居た場所を見る。
寒そうな白い壁と、錆びた欄干、そして空席になったベランダだけがそこにある。
あぁ、と声を漏らす。
あの子がいないと、結構寂しい場所なんだな。と今更気がついた。
ただ、俺のほうは見ずにただぼんやりと狭い寒空を仰いでいる。
窓をスライドさせると、いつものように少女は無垢な笑みを浮かべる。
「おはようございまーす!!」
彼女は手を大きく振ったので、こちらも挨拶と一緒に振り返す。
「今日は何をしているんですか?」
昨日と同じ問い。だから同じ答えを添える。
それでも少女は、そうなんですか、と関心があるのかないのかわからない感想を言う。
だから、負けじとこちらも昨日と同様の疑問を投げかける。
君はなにをしているのか、と。
だが、得られた答えはやはり変わらない。
「何も。何もないですから」
そう言うように指示されているかのように、軽やかな口調で言う。
少女は笑っていた。
「そうですね。何もないんです。そうとしかいえません」
少し間を置く。どのような設問にすれば、その先の答えが聞けるのか思案する。
冗談交じりに家はあるじゃないか。服もあるじゃないか。そういった。
「あー、確かに。そうですね。一本、とられましたぁ!」
俺のふざけた言葉に合わせたのか少女は大げさに破顔した。
でも、それ以上のものは彼女から零れそうになかった。
諦めて次の話題を探そうとしたとき、笑い声が凍りつく。
「家があっても服があっても、私には何もないんです」
そのとき初めて、温暖だった彼女の季節が冬に近づいた気がした。
「話すほどのことではありません」
健やかな笑みを残して、彼女は姿を消した。
体が震えた。自分の手に白い息を吐きつつ、部屋へと戻る。
換気は十分だろう。窓をそっと閉めた。
それにしても、彼女の言う何もないとはいかなるものなのか。
夢や希望、将来、あとはお金だろうか。
だが、考えられるのはここまで。
あの表情を見てしまっては踏み込むかどうか逡巡してしまう。
そしてそう言う場合、踏み込まないほうがいい。
仮に彼女が俺に何か救いを求めているにしても、気の効いた台詞が喉の奥から出てくるとは思えない。
きっと失望させるだけだろう。
あのベランダとの距離は埋められないのと同じように、きっと縮めてはいけないもの。
これからはもう少し言動に気をつけて、近所付き合いを楽しもうと思った。
ベランダに出て、挨拶をする。
気温が低いことに文句をいい、互いの変化など見られない日常を報告する。
そして俺が一つ冗談を言う。彼女はそれに微笑む。
それだけで十分に楽しかった。
寒いだけだった朝に色が付け加えられたのだ。
この数分の朝だけが、俺にとって特別になっていく。
夜になれば日が昇るのを待ち遠しく思い、目が覚めれば幸福に酔う。
そんな日が数日続き、いつしか少女との会話は何事にも優先され始めた。
この距離がとても心地よかった。
簡単に届くけれど、手を伸ばすだけでは足りないこの距離感が。
日曜日の朝は普段よりも寒気が和らいでいて、結露も大して発生していなかった。
カーテンを勢いよくあけると、いつもと同じように少女はいた。
茫々とした眼差しで空を見上げている。
釣られて俺も空を見る。建物の所為で空は狭められているが、天候だけははっきりと分かる。
曇天だ。
ベランダに出ると少女は笑顔になる。こうして話すことは彼女にとっても楽しみになっているのだろうか。
「おはようございまーす!!」
活発な声は反響し、空へと昇り、消えていく。そろそろ文句が出てもおかしくない。
「今日はなにをしているんですか?」
飽きもせずにその台詞を口にする。もはや、これも礼の一つになりつつある。
何もしてないよ。何もすることがない。そう答える。
いつもなら好奇の有無が判別できない言葉を聞くことになる。しかし、今日は違った。
「じゃあ、このまましばらくお話しませんか?」
彼女との距離がふいに無くなったようで、俺は戸惑った。
「なんでもいいです。何を話しましょうか?」
しばらく見つめあい、次の句を必死に探した。
先に見つけたのは少女のほうだった。
「あの休日は一日中、何もしていないんですか?」
訊かれて、ここ半年の休日を振りかえる。
家で惰眠を貪っていた記憶しかない。
そのまま伝えるのは流石にカッコ悪いと思い、俺は嘘を吐く。
大学での課題をしたり、バイトにいったり、そんな当たり障りのないことをいう。
課題なんて大学に行っていないのだから課題そのものが手元にない。
バイトに至っては先月に半日で辞めて以来、情報誌すら手にとってはいなかった。
「へえ、すごいですね」
内心、焦った。もし、その嘘に突っ込んできたらどうしようか。更に俺は嘘を上塗りしないといけない。
咄嗟に架空の課題とバイト先を頭の中ででっちあげたが、必要はなかった。
彼女はただ微笑んでいた。俺の嘘を見透かしているように、優しく。
どうぞ、と俺は右手の平を差し出した。
「平日は学校に行ってます。部活には入ってません。運動は好きなんですけど」
彼女はしばらく学校での様子を訥々と語り始める。
授業中での態度。クラスの雰囲気。ノートの取りかた。友達との関係。
聞けば聞くほど、彼女は私生活において充実しているようだった。
途中、話を断ち切って、何もないなんて嘘じゃないか。と口を挟みそうになるほどに。
そして週末の学校生活を語り終えると、「はい。私の話は終わりです」とやや唐突に話を断った。
長々と聞いていても、そうなんだ。としか言えない。俺はそういう人間だ。
愛想を尽かされても文句は言えないが、彼女は笑みを浮かべてお礼を言う。
「ありがとうございます。私の話を聞いてくれて」
俺はただ頷くだけだった。
冷たい風が下から吹いてくる。俺と彼女の前髪を揺らす。
そして冷風は彼女の言葉に巻き付く。
「私には何もありません」
背筋が震えた。
「何もないってどういうことだと思いますか?」
分からない。
「家があっても、お金があっても、友人がいても、食べ物があっても、それでも何もないって感じるときはありませんか?」
どうだろう。
「自分に価値がないと、正直何も無いのと一緒ですよね?」
自分は何の役にも立っていない。そういうことだろうか。
彼女が俺に何を言いたいのか、まだ分からない。
困惑する俺を見かねて、彼女は付け加えた。
「私、誰からも必要とされていないんです」
きっと答えも同然だった。だけど、俺の口が開くことはない。
そんなことはない。そう安っぽい台詞でいいのか悩んでいる間にも彼女は続ける。
「学校で話すだけで私生活では誰とも関われない。勉強ができても誰も関わってこない」
「それって、価値がない。ってことですよね?」
光の無い眼差しが俺を捉えている。
沈黙だけが俺にできる精一杯の虚勢だった。
「ま、学生にはよくある悩みなのかもしれませんけど」
彼女が寂しげに笑う。胸に痛みが走った気がした。
彼女は俺に何を期待して、そんな話を始めたのか。
どんな言葉を待っているのか。
そもそも、どうして俺に声をかけたのか。
色んな疑問が頭の中で回る。けれど、出た言葉は、そうかも。という平常通りの距離感を保った冷酷な返事だけ。
「そうですよね」
そういって少女は手を振って部屋の中に戻っていった。
俺はしばらく欄干に凭れかかり、狭い空を仰ぎ見ていた。額に一粒の雨が落ちてきた。
当然の帰結だろう。
俺はそれだけのことをしたし、それまでの男でしかない。
失った日常は大きいような気もするし、歯牙にもかけないようなものだった気もする。
カーテンを開けて、少女の姿がないことを確認する。
窓を開けて、対岸に背を向けても、朝の挨拶は聞こえてこない。
落胆はなかった。
元の毎日に戻っただけ。
この二週間は本当に楽しかった。だから満足するべきだ。
俺はリビングに向かい、味気の無い朝食を嚥下する。
食べ終えて時計の針を見る。
そのとき初めて、微かな喪失感を覚えた。
日が増すにつれ、カーテンを開ける前の期待と後の失意が大きくなっていく。
今日も姿は見えず、深い嘆息をつく。
白く濁った自分の息が消えていくのを見ながら、この部屋と自分の心が同じように凍えていることに気づく。
夜にこっそり外を眺めてみても、やはり少女の姿はない。
照明を落とし、黒く染まった天井を見ながら、あの元気な挨拶はもう聞けないのか。そんな不安が頭をよぎる。
どうしてそう思うか。
ただの近所付き合いで始めた朝の会話。
それが楽しくて、嬉しくて、そして少女に見栄まで張って、会話をした。
溜息をもらし、寝返りをうつ。
自然と彼女の姿と声を思い出し、もう一度、と呟いていた。
ベランダに出た。日曜日以来だった。
もう彼女には会えない。漠然とそう感じ始めていた。
あの距離感はもう味わえない。
もし会おうとするなら、この岸と岸を橋で繋ぐしかなく、二週間前には戻れない。
空虚な向こう側を眺めながら、俺は決心をした。
風が止むのを待つ。
頭のどこかで失敗してほしいと願う自分を確認する。
それでも風が止むと俺は自然と腕を思い切り振った。
向こう岸に袋に包まれたキャンディーが落ちる。
すぐさま後悔の念と自分の行動に対する嫌悪が押し寄せてきた。
でも、これでいい。
こうでもしないと、きっとあの子とは話せないから。
開けても彼女はいない。それが理由だった。
カーテンを閉めたままでも窓は開けられる。不都合なことはない。
そして夜を迎えるたびに虚無感に苛まれる。
もしかしたら居たかもしれない。そんなありもしない幻想を嘱望する。
だが、その閉じられた布に手をかけることはしなかった。
俺の出来ることは全てやった。
だから、その結果が出るまで待つことにしたのだ。
久しぶりに大学に行こうと思い立ち、準備を始めた。
どちらかというと家にはいたくなかった。
これからは真面目に大学に行くことになるかもしれない。
少女に感謝しないと、と電車内で考えた自分に呆れ、下を向いた。
汚い靴が目に入った。
家にいるのが辛いという所為もあるが、それでも半年も休学同然だった自分からすれば驚くべきこと。
しかし、講義の内容が頭に入ってきたことはない。
講師の言葉はただのBGMでしかなく、俺のノートはまだ真新しい。
前方の黒板よりもやや上をぼんやりと眺めつつ、少女の姿と声が頭の中に映りこむ。
もう彼女のことを考えない日はなかった。
けれど、あれからもうすぐ一週間。
そろそろ潮時だろう。
明日になっても何もないなら諦めるしかない。
俺はポケットにいれていた携帯電話を強く握りしめていた。
ポケットからゆっくりと取り出し、履歴を見た。
登録されていないためにアドレスがむき出しで表示されている。
画面を開くと『夜に』とだけ書かれていた。
何の感情もない無機質な機械が打ち出した文字。
それでも俺の心音は胸から飛び出し、講義の妨害をしてもおかしくないほどでかく感じられた。
胸を押さえて、深呼吸を二回。
時計を見る。
夜まであと3時間ほどだった。
厚着しても尚、夜の気温は容赦せずに身も心も震わせてくれる。
携帯電話で時刻を確認する。
もうすぐ8時になる。
現れないのか。そんなことを思う。
でも、こうして反応があった以上は、いつまでも待つつもりで居た。
もしかしたらカーテンの向こうでは友人を呼んで俺のことを指差し笑っているかもしれない。
それでもいい。
俺はそうされるだけのことをしたのだから。
震える手で携帯電話を見る。
時刻は9時になる。
彼女の姿は、ない。
諦観し、もう部屋に戻ろうかと何度も思う。
けれどその気を押し留めてくれるのは、朝の挨拶だった。
彼女と交わす朝の日常が恋しくて、自分はここにいた。
午前1時。とうとう眠気が襲ってきた。
欄干に凭れ、夜空を見上げる。
狭小な夜でも星がきちんと輝いていた。
そんなとき流れ星が目にはいった。生まれて初めて見た所為か、できもしないのに流れていった方向を目で追った。
そして、視線が真後ろにきたとき。
「こんばんは、お向かいさん」
少女がそこにいた。
少女は何も言わずこちらを見つめている。
いつも空を眺めていた、おぼろげな眼差しで。
大きく深呼吸をして、言葉を紡ぐ。
「ありがとう。見てくれて」
彼女はキャンディーの包み紙を取り出し、こんなことしてなんのつもりですか、と問う。
「アドレスを書いておけばメールしてくれると思った。ただそれだけ」
「飴は美味しかったです」
「よかった」
小さな笑い声が響く。
その弛緩した空気は気持ちよかった。
いつまでも浸っていたいと思えた。
だけど、その想いを断ち切るように喉から絞りだすようにして声を出す。
「君に会えなくて辛かった」
それだけなのに舌がうまく回らず、二回も言い直した。
「ずっと君のことを考えていた」
彼女はいつもと同じ好奇心があるかどうかわからない表情でいる。
「君と出会ってから、毎日が、正確には朝が楽しくて仕方が無かった」
「だから、君と会えなくなってから、俺には何も無くなった気がした」
彼女の双眸が僅かに大きくなった。
「君の気持ちがよくわかった。何もないって、こういうことだったんだな」
俺はあの朝だけ必要とされていた。
それが嬉しかった。
思えば俺は今まで一度も誰かに期待されたり必要とされたことがなかった。
学校でも家でも。
ただ彼女と違うのは、俺の周囲に人がいなかった点だ。
彼女は外での環境には恵まれているからこそ、家に帰るとその疎外感は強くなっていたんだろう。
一方の俺は外でも内でもそもそも俺に構ってくれる人がいなかった。
故に彼女が何を求めているのか分からなかったし、知りようもなかった。孤独に慣れ過ぎた、駄目な男が俺だ。
少女は俯く。
「こんなに楽しかったのは生まれて初めてって思えるほどだった」
喉が渇いていた。唾液を飲み込もうにも口内は枯渇している。
「今だから君に言えることがある」
少女の顔が上がる。俺と彼女の視線が交錯し、それを断つようにして風が吹き上げる。
それでも俺は目を瞑らなかった。瞑ればあの子がいなくなるような気がして。
「俺が君を必要としている。ちっぽけな価値だけど、何もないよりはマシだと思う」
到底、人の心を動かすには値しない、月並みの台詞。
ここ数日、考えに考えた安っぽい説得。
でも、俺にはこういうしかない。
「それが言いたかったんですか?」
少女の声に棘があるのも仕方が無い。
「それは君の見る目がなかったんだ」
だからこそ、一生懸命に俺は笑った。
彼女が笑う。いつもの朝が戻ってきていた。
「あのさ、どうして俺に声をかけたんだ?」
少女は口元に人差し指を当てて考える素振りをしつつ、柔らかい声で答える。
「いつも一人みたいだったんで、もしかしたら私の気持ちにも気づいてくれるかなって」
彼女曰く、ただ共感してほしかっただけだという。
友人や周囲の大人にその悩みを言っても当たり障りの無いもので、共感には程遠いものだった。
そんな中、いつも一人でいるお向かいさんになら、もしかしたらと考えたらしい。
「ごめんなさい。ただ、構って欲しかっただけなんです。それだけなのに」
彼女は精一杯の笑顔を浮かべ、
「あなたを困らせた」
涙を流していた。
「またメールしてもいいですか?」
俺は頷く。
「電話は?」
勿論、と答える。
「えっと……じゃあ、また」
そういって部屋に戻ろうとするのを俺は引きとめた。
「なんですか?」
ずっとポケットにいれていたキャンディーを投げる。
キャンディーは見事に彼女の両手に納まった。
「ありがとうございます」
夜の会話は終わった。
その余韻で中々部屋に戻れず、ベランダに立ち尽くしていた。
そんな中、携帯電話が震えた。メールが着たようだ。内容を確認してみる。
眩しい液晶画面には『これからもベランダで』と表示されていた。
冷え切った床に足を下ろすと、体の芯まで寒さが伝導する。
カーテンを開ける。窓を静かに開ける。
ベランダはいつも綺麗にしてある。だって、あの人に嫌われたくないから。
まだ朝の挨拶までは時間がありそうなので、空を見上げてみる。
雲が流れてその隙間から日の光が差し込んでいる。
今日は晴れ。体育の授業は残念ながら長距離走になるだろう。
それでも今日は一日上機嫌で過ごせるはずだ。またあの楽しみだった朝が戻ってきたのだから。
ただ共感が欲しかっただけなのに、それ以上の優しさを私にくれた。
だから今日もいっぱい共感してほしい。私のことを知ってほしい。
大好きな貴方に挨拶をするのが嬉しいって、感じて欲しい。
向こう側の窓がスライドする。私は満面の笑みを作ってスタンバイ。
間の抜けた彼の顔が視界に入る。私は大きく息を吸い、近所のことも考えずに叫ぶ。
「―――おはようございまーす!!お向かいさん!!」
END
泣いた
Entry ⇒ 2012.01.17 | Category ⇒ その他 | Comments (0) | Trackbacks (0)
猫「ねぇ、起きてよ」
男「んー…」
猫「起きて」
男「…あと5分…」ゴロン
猫「…むぅ」
男「いだっ!い、一体何…うわわわわわわわ!!!!!」
猫「うるさい」
男「ななななんで全裸の女の子が僕の部屋に…!!!!!」
猫「いつも見てたでしょうが。それよりご飯出して。お腹すいた」
男「ななななななんで…っ」
猫「うるさい」
猫「誰って…あなたの飼い猫よ」
男「…ね、猫…?君はユキだっていうのか…?」
猫「にゃー」
男「う…嘘だ!!こ、これは夢なんだきっと!!」
猫「とりあえず着るもの出して。それからさっきから何度も言うようだけどご飯も」
猫「ん、食べづらい。けど美味しい」ムシャムシャ
男「…これは夢だ。夢なんだ…」
猫「さっきからブツブツうるさい」
男「…君は本当に僕が飼ってた猫なの…?」
猫「そうよ、ユキよ」
男「…本当なの、か…?」
男「…えっ、それは僕のこと…?」
猫「私は茶色いブランケットが好きだわ。猫なのに水も平気。ひなたぼっこも好きよ。鮭を見ると飛びついちゃう」
男「(僕とユキしか知らないことばかり…)」
猫「そして」
男「…?」
猫「あなたの膝の上が一番安心する」
猫「主。私はこの通り、主と同じ人間の姿になってしまった。私はもういらない子?猫では無くなってしまったから、もう主の側には居られない?」
男「(…きゅ、急に元気が無くなったぞ…)」
猫「主…」
男「…そ、そんなこと言ってないよ」
猫「え…?」
猫「主…私嬉しい」ギュッ…
男「!?///」
男「(あ、暖かい…。本当に人間になったんだな…)」
猫「そうと決まれば」
男「え?」
猫「もっと綺麗なお洋服を着せてくれる?あとご飯もおかわり」
男「…はい」
男「い、いや…。想像通り人間になっても可愛いけど…性格はこんなにきつい子だったとは…」
猫「…主。今の言葉、私嫌い。傷ついた」
男「あっ、ご…ごめんユキ」
猫「…むぅ」
男「(怒ったときに顔を背けるのは人間になっても一緒なのか…)」
男「と、とりあえず着るものを買いに行かないと…」トボトボ
男「女の子のお洋服かぁ…。買いづらいし、高いんだろうなぁ…」
男「(でも…ユキが人間になって、なんだか嬉しい僕がいるんだよな…)」
友「よぉ、男!」
男「あ…友」
男「い、いやちょっと服を買いに…」
友「お前が服を?珍しいなぁ。そういや、幼がお前んちに遊びに行くって言ってたぞ?」
男「何だって!?」
友「…な、なんだよいきなり大声出して…」
男「…っ、悪い。また今度な!」ダッ
友「おい男!」
猫「…主、遅い」
~
男「いい?ユキ。僕はこれから買いものに行ってくる」
猫「分かってるわ。私が着るお洋服よね」
男「いつもみたいに留守番してて欲しいんだ。大丈夫だよね?」
猫「大丈夫。心配しないで」
男「じゃ、行ってきます」
~
猫「…そう、大丈夫。いつもみたいに主を待ってればいいんだから。寂しくなんか、ないもん」
コツコツコツ...
猫「誰か来る…。でも、主の足音じゃない」
猫「この声は…」
猫「(主と仲が良いご友人の方…確か名前は…)」
幼「おーい。幼だっての。早く開けろよ」
猫「(そうだ、幼さん。この方が来ると主はいつも嬉しそうにする。お家に上げたら、主は喜んでくれるかしら…)」
幼「おい、男。何度も呼ん…誰だお前」
猫「主なら居ないわ」
幼「…主って誰だ。てかお前も誰だ」
猫「先に自分の名前を名乗るのが礼儀じゃなくて?」
幼「あぁ?」
猫「まぁ、とりあえず入って。幼さん」
幼「はぁ!?てかお前俺の名前知ってんのかよ!」
猫「うるさい」
男「はぁ…っ、はぁ!」タッタッタッ
男「(早く帰らないとユキと幼が鉢合わせってことになって面倒な事態になってしまう…!)」
男「ユキ…!」
…
幼「んでお前は誰だ。男の何なんだ。なぜここにいる」
猫「…めんどい」ハァ
幼「聞こえてんだよコラ」
猫「やっぱり主以外の男性は受け付けない。無理。自分の飼い主が一番」キッパリ
幼「だからその主ってのも誰だよ!?」
猫「…は?」
幼「なんせ俺達は幼なじみだからな。小せぇ頃からずっと一緒だったんだぜ?」
猫「(この人…。やっぱり容姿が整ってるわりには何かしらうざったい…)」
猫「(それになんか…負けた感じがして苛々する…)」
バタンッ!
幼「な、何だ!?」
男「はぁ…はぁ…」
幼「男。帰ってきたのか。なぁ、このムカつく女何なん…」
男「ユキ。大丈夫だった?何もされてない?」
猫「えぇ、大丈夫よ主。おかえりなさい」ニッコリ
男「そう…。よかった…」
幼「俺を無視するな」
幼「はぁ?」
男「本っ当にごめん!」
幼「ちょ、押すなって…おい!」
猫「さよならー」ニッコリ
幼「そのどや顔やめろ、女!男、一体何な…」
バタンッ!
男「はぁ…ま、まだばれてない…?」
猫「えぇ、多分」
男「よかったぁ…」
幼「おい、男!…ちっ、何なんだよ…ったく」
女「…あれ、幼君?何してるの?」
幼「…」フイッ。スタスタ…
女「ありゃ、無視されちゃった。まだ嫌われてるのか私」
女「…男君、そろそろご飯の準備の時間かなぁ」
男「そうか。じゃ、幼とは大して話はしなかったんだね」
猫「うん」
男「はぁ…安心…」
猫「ねぇ、主。やっぱり飼い猫がいきなり人間になったなんてバレたら大変なことになってしまうのよね」
男「う、うん…。ニュースとかにも載ったりしちゃうかもしれないし…。前代未聞のことだからね…」
猫「なら、私は主の"従姉妹"ってことにしましょう」
男「なるほど!わかった。そういうことにしておこう」
男「あ…僕のことか。な、何かな」
猫「私は今日、どこに寝ればいいのかしら」
男「あ…」
猫「さすがにこの身体じゃブランケットの上では眠れない」
男「そ、そうだよね!じゃ、僕のベッドを使っていいよ」
猫「…主はどこで眠るの?」
男「ソファーに寝るから大丈夫だよ」
猫「…そう」
猫「…」
男「(わ…。なんかこの部屋に女の子がいるってだけでドキドキする…)」
男「(…僕は何を考えてるんだ!あの子はユキなんだぞ!元は猫なんだぞ!)」
猫「…主」
男「!な、何!?」ビクッ
男「あ…じゃ、布団増やすね」
猫「…それじゃダメよ」
男「え?」
猫「きっと、この家中の布団を使っても私は寒いままだわ」
男「それじゃどうしたら…」
猫「…来て?」
猫「こっちに来て」
男「…な、なななななんで」
猫「なんでって、一緒に寝るからに決まってるじゃない」
男「!?」
猫「…だめなの?」シュン...
男「いや、だめとかじゃないけど!」
男「そ、そうだね」
猫「だから、あなたのことは何でも知ってる」
男「…?」
猫「携帯で女の子の身体を見ながら気持ちいい声を出してることも」
男「!?」
猫「えっちな本を堪能しまくってる主の姿とかも、ね?」ニヤリ
男「そ、それ以上言わないで!///」
猫「なら一緒に寝て」
男「…はい」
男「…うぅ…」
猫「すごくすごくやらしい事ばかり私の前でしてきたくせに」
男「だから!///もう言わないでくれって!///」
猫「主、可愛い。すごく可愛い」
男「…っ、か、からかうな///」
猫「淫乱なご主人様ね」
男「するわけないだろ!?///お願いだから大人しく寝てくれ!」
猫「あら残念」
男「(そうか…。この子はユキだから俺のあんなことやこんなことも見てるわけか…なんか急激に恥ずかしくなってきた///)」
猫「大丈夫よ、主。人間にも猫にも性欲はあるわ」
男「頼むから大人しく寝てくれ!///」
男「え…?」
猫「こうやって主と寝られる日が来るなんて。ずっとずっとこうしたかった…」
男「…ユキ…?」
猫「やっと、あなたと同じ目線になれた。やっと、あなたと同じ動作ができる」
男「ユキ…」
猫「主、私は…スー…スー…」
男「…寝ちゃった…」
男「本当に、この子はユキなんだ。俺が大事に大事にしていたユキ…」
男「(そんなユキが俺の隣で寝息をたてて、気持ち良さそうに人間として眠ってる…)」
男「…やばい、これは眠れそうにないぞ…」ハァ
男「…結局、一睡も出来なかった…」
猫「んぅ…」
男「!お…おはよう、ユキ」
猫「おはよう、主」ニッコリ
男「(可愛いなぁ…)」
猫「お腹空いた。早くご飯ちょうだい?あ、あとそれからミルクも欲しい」
男「(やっぱり性格はちょっと…)」ハァ
猫「わかってる。私の嫌いな月曜日だもの」
男「僕も嫌いだよ。月曜日ってテンション下がるからね」
猫「…」
男「(なんか元気ないな…。もしかして…)」
男「ユキ…。もしかして僕が学校に行くようになってしまうから月曜日が嫌いだったの?」
猫「!…っ、ち、違う!」
男「顔が真っ赤だよ?」
猫「…むぅ」
男「(あ、むんつけた)」
男「それじゃ、行ってくるね」
猫「行ってらっしゃい」
男「いい?ユキ。何度も言うようだけど…」
猫「分かってる。絶対に部屋から出ない。誰か来ても無視する」
男「うん。じゃ、留守番よろしくね」
猫「主」
男「ん、何?」
猫「…何でもない、行ってらっしゃい」
男「?行ってきます」
猫「やっぱり言えなかった…。だめね、ちゃんと我慢しなきゃね」
猫「(…でも、お外まで出てお見送りできた…嬉しい…)」
猫「でも早く戻らなきゃ…」
女「ねぇ、あなた誰?」
女「ここは男君が住んでるアパート。そしてさっき、男君と楽しそうに喋って見送りまでしてた」
猫「(全て見てたのね)」
女「あなたは誰?男君の何?」
女「なに?」
猫「従姉妹です。初めまして」ペコリ
女「従姉妹…?」
猫「はい」
女「あ…っ、やだ!そうだったんだ!なーんだ!」
猫「(…表情と声のトーンがモロに変わった)」
猫「(きっとこの子、主のこと好きなんだろうな…)」
女「ところで男君って今彼女いないよね?結構自分で色々調べたりはしたんだけど、身内から決定的なこと聞いて安心しておきたくて」ニコニコ
猫「(決まりだな…)」
猫「えぇ、居ませんよ」ニッコリ
猫「それでは、失礼します」
女「あ、待って!」
猫「?」
女「ね、男君の好きな色って何色かな?」
猫「好きな色…」
猫「(確か…赤色の物を買う度喜んでた気がする…)」
猫「赤、じゃないですかね」
女「…そっかぁ。赤か」ニッコリ
女「あっ、別に!それじゃあね!」タタッ
猫「(…変な人)」
…
友「あー!やっと来たか男!」
男「な、何?」
友「幼のやつ、めちゃくちゃ機嫌悪いんだけどなんか知らねぇ?」
男「…やっぱりか」ハァ
幼「…んだよ、話って」ムスッ
男「そう怒らないで。この前は悪かったよ」
幼「別に怒ってねーよ」
男「(怒ってるだろ…)」
男「ちゃんと…話すよ」
幼「…おう」
…
男「…ってわけなんだ」
幼「…は?」
男「そうじゃない。本当だよ、事実なんだ」
幼「…あんなに可愛かったユキがなぁ」
男「人間になっても可愛いだろ」
幼「見かけだけはな」
男「…そ、そんなことないよ」
…
友「あれー?女ちゃん!今日も可愛いねー」
女「ありがとう。男君いる?」ニッコリ
友「どっか行っちゃったよー。何々?」
女「あっ、ううん。何でもないんだ…ただ…」
友「?」
女「…友君。友君の知り合いで彼女探してる人っているかな?」
友「そりゃ探せばいるけど…」
女「実は私の従姉妹が男に飢えててうるさくてね…。誰か紹介してあげたいんだ…もう嫌になる位、男が欲しい欲しいうるさいの…」
友「そりゃあ大変だ!俺の後輩がちょうど探してたから話しといてみるよ」
女「そう。ありがとう」ニッコリ
幼「…知らなかったとはいえ、あれだけ俺も可愛がってたユキに申し訳ないことしたな…」
男「あはは。いいよ、大丈夫」
幼「今度謝るわ」
男「別にいいのに」
幼「…なんか」
男「ん?」
幼「あのユキだってわかった瞬間、急に可愛く思えてしまうのはなんでなんだろうな」
男「それは幼がそれだけユキを大事に思ってたってことだろ。分かるよ、その気持ち」
猫「…ん、もうこんな時間…知らないうちに寝ちゃってた…」
猫「(主、そろそろ帰ってくる)」
猫「早く…帰ってきますように…」
ピンポーン...
猫「ん…誰だろ…」
猫「(覗くだけでも…)」
猫「…あれ」
猫「朝話しかけてきた人…確か主の同級生の…」
猫「(何かすごく焦ってる…。もしかして主に何かあったんじゃ…!)」
女「よかった!出てくれた!」
猫「あの…どうしたんですか…?」
女「大変なの…っ、実は男君が公園で大怪我をしちゃったみたいで…」
猫「え!?」
女「ここから真っすぐ行った公園でだよ!早く行ってあげて!」
猫「は…っ、はい!」ダダッ
猫「はぁはぁ…こ、ここで合ってるかしら…」キョロキョロ
後「よぉ」
猫「…主!?」パッ
後「おーっ、可愛いー!聞いてた通り」
猫「…誰ですか、あなたは」
猫「(何なのこの人…。それより主は…)」
猫「申し訳ありませんが急いでるので…」
後「会ったばっかじゃん!つうか近くのゲーセンでも行こうよ」ギュッ
猫「…っ、私に触らないで!」
猫「…や、めて…」
~
「ごめんね。もう飼ってられなくなったの」
「さよなら」
「誰かいい人が貰ってくれるといいんだけど」
~
猫「やめて…」
~
猫「主。私はこの通り、主と同じ人間の姿になってしまった。私はもういらない子?猫では無くなってしまったから、もう主の側には居られない?」
男「君を捨てたりなんかしないよ」
猫「主…私嬉しい」
~
猫「主…助けて…っ」
?「ちょっとそこの坊や。可愛い女の子に何してんのよ。不細工の分際で」
後「…んだよてめぇ!」
猫「…はぁ…はぁ…主…じゃない…」
?「大丈夫?立てる?」
猫「は…はい…」
後「…ったく意味わかんねぇ!」タタタッ
猫「い、いえ…ありがとうございました」
猫「(すごく綺麗な人…。主のご家族や知り合いではないはず…)」
猫「!…そうだ、主…っ、主は…!」
?「まずは一旦落ち着きなさい!いい子だから」
猫「…っ」
?「そう。じゃ、あなたは騙されてしまったのね」
猫「はい…」
?「それにしても面倒ね。恋してる女の子って。可愛いげがあれば別だけど」
猫「あの…助けて下さってありがとうございました…。えと…」
?「お礼なんかいいから早く帰りなさい。そのほうがいいんでしょ?」
猫「そうだ…っ、早く帰らなきゃ!」
猫「あの!ありがとうございました!…それじゃ!」
?「だからお礼はいいって言ってるのに」クスクス
猫「よかった…。主はまだ帰ってない…」ハァ
猫「(なんで女の子はあんな嘘ついたんだろう…。)」
猫「(まさかあの男の人もあの子が…)」
猫「それにしても…嫌なこと思い出してしまった…。もう忘れたと思っていたのに…」
猫「主…、早く帰ってきて…」ギュッ…
猫「!これは間違いなく主の足音…っ!」
ガチャッ
男「ユキ、ただいま。いい子にしてた?」ニッコリ
猫「あ、るじ…」
男「ユキ…?」
猫「主…主…」ギュッ
男「わわっ!倒れる…っ」
バタンッ
男「い、いた…ユキ、いきなりどうし…」
猫「主…」スリスリ
男「(僕の膝に擦りよってる…。まるで猫だった頃のユキだ…)」
猫「…何も」
男「どうして話してくれない…?」
猫「…寂しかった、だけ。猫の姿よりも人間の姿でいたほうが不思議と時間経つのが遅く感じてしまって」
男「そ、そっか…」
猫「ごめんなさい、主」
男「ユキが謝ることないよ」
猫「嘘をついてしまって、ごめんなさい…」ボソッ
プルルルル...
女「あ、後君?うまくいった?」ニコニコ
後「うまくいくどころか何かめちゃくちゃ感じ悪かったし、そのまま放置して帰ってきちゃいましたよー」
女「…え?じゃ、何もしてないの?」
後「何をですかー?」
女「…もういい。じゃあね」ピッ
女「今頃男君に慰めてもらったりしてるのかな…許せない…」
女「でも…でもやっぱり…」
~
「赤、じゃないですかね?」
~
女「私が知らない男君のことをあんな淡々と答えるなんて…。絶対に許せない!私より男君のことを知ってるなんて!認めない!」
男「え?女さんと会ったことがある?」
猫「だからそう言ってる」
男「いつ?」
猫「私が主を学校へ見送った日」
男「そっか…。ユキ、何もされなかった?大丈夫?」
猫「大丈夫だけれど…どうして?」
猫「話して」
男「あの子、すごく苦手なんだ。僕、一度も同じクラスとかになったことないのに僕のこと色々と知ってるし…それに…」
猫「それに?」
男「なんか…いつもいつも見られてるような気がして…」
男「ユキを飼い始めた頃あたりかな…。そんな風に感じるようになったの。だから、ユキが一緒に居てすごくすごく安心してたんだ」
男「ま、まぁ僕の思い過ごしだろうけどね!」
猫「…じゃ、私は少しでも主の役に立ててるの?」
男「もちろんだよ!役に立ててるっていうか…家族みたいなものだし、ユキが居てくれて僕は本当に、本当に幸せだから」
猫「主…。私、嬉しい。ありがとう」
男「こちらこそだよ、ユキ。なんか改めて言うと照れるね」
猫「そうね」ニッコリ
猫「主。早く来て」
男「やっぱり今日も一緒に寝るのか…」
猫「なに?嫌なの?」
男「嫌じゃないよ!けど…」
猫「…私、今日すごく寂しかった」
男「わわわわかったよ寝るよ!」
男「(なんだか…足元に違和感が…なんだこれは…)」モゾ...
男「!ぱぱぱぱんつ…!?///」
猫「主うるさい」
猫「だって変な感じがする。ムズムズする。だからいらない」
男「ちゃんと履いて!///」
猫「…むぅ」
男「(ってここで履いちゃったら中が見える…っ!)」
男「ややややっぱり履かないで!」
猫「…うざ。主うざい」
猫「…やっぱり履かなきゃいけないのね」ムスッ
猫「…主は、"彼女"って居ないよね」
男「い、いるわけないよ。ていうかそれはユキが一番よく知ってるだろ?」
猫「…そうね」
男「…?」
男「ユキ。おはよう」
猫「おはよう。主」
男「(ユキが人間になってから結構な時間が経ったな…。けど…)」
猫「…なに?ジッと私を見て」
男「な、なんでもない」
男「(猫に戻る気配はない…。このままでも全然いいんだけどね)」
猫「さては私を見てやらしいことを考えていたな。さすがはすけべな主」
男「違うよ!ていうか、すけべっていうな!///」
猫「行ってらっしゃい」
男「…」
猫「何よ、またジッと見たりして。さてはまたすけべな…」
男「違うよ!じゃあね!///」
タッタッタッ
猫「…主は本当に可愛いなぁ」クスクス
猫「猫の姿のときはすぐ眠くなれた。けど、人間の姿はあまり眠くなれない」
猫「眠っていたり、ひなたぼっこをしていると時間が経つのがあっという間だったから、あまり寂しくなかったのに…な」
猫「…一人でこうして待ってるのは、すごくすごく寂しい…」
女「どうやったらあの"従姉妹"が男君の家から出ていってくれるんだろう…」ブツブツ
親「女ー。今日ちょっと時間ある?」
女「あるよ。どうしたの?」ニッコリ
親「実はあたしの家で飼ってる猫を捨ててこいって頼まれてさ。男が噛まれて心底嫌いになったみたいで」
女「そっかそっか…。理由があるなら仕方ないよ。私も猫苦手だからわかるなぁ」
幼「なぁ。今日家行ってもいい?」
男「もちろんいいよ」
幼「その…ユキにさ、謝りてぇし」
男「あはは。まだ気にしてたんだ」
男「ただ…新しいユキの洋服とか買いに行ってから帰らないといけないからさ。先に行っててくれる?」
幼「おぅ」
猫「…暇。つまんない」グダー
猫「(人間の姿って便利だし楽しいけれど、時間が有り余って仕方ない)」
猫「まぁ、主が居ないからなんだろうけど…」
猫「…窓を少し開けるぐらい、大丈夫だよね」
ガラッ
猫「…あれは…」
猫「…あれ。段ボールの中に小猫が…」
猫「…!?」
…
親「…よし。ここら辺は住んでる人多いし誰か拾ってくれるっしょ!」
女「そうだね」
女「(参ったなぁ…。すぐそこは男君のアパートだから早くここから離れないと。こんなとこ見つかったら絶対に好感度下がっちゃう)」
女「ね。早くいこ?」
親「あ、うん」
猫「…っ、待って!」
親「え?」
女「あっ、ううん。何でもない」ニッコリ
猫「そこで…何をしているのですか?」
親「誰だかわかんないけどちょうど良かった!ね、今さペットとか欲しくない?この猫…」
猫「そこで、何をしているのかと私は尋ねたのです」
猫「その小猫を捨てるのですか」
女「(いきなり何なのこの子…。まさか真相を聞き出して男君に言う気じゃ…!)」
女「親…」
親「確かに捨てる気ですけど?なんか文句でもあるわけ?」
女「…」チッ
親「あんたには関係のないことでしょ!?」イライラ
猫「訳を知りたい」
女「ね、親。早くここから離れようよ」
猫「訳を話してほしい」
親「うぜーな!猫なんか毎日寝てばっかで、餌貰ってりゃ懐くし、構ってもらえなくたって一人で生きていけるじゃんかよ!」
猫「…っ」
親「はぁ?」
猫「…餌を頂けてることにも、構ってもらえてることにも感謝してる…心から…。でも…っ、お世話になってることもあって甘えるのを遠慮してる部分があるの…!」
親「な、なによいきなり泣き出して…」
猫「上手に、上手に素直になれないだけ…だから…っ」
女「だから頭がちょっとおかしいんだって。早く離れましょ?」ボソッ
猫「ま…待って…!この子を捨てないであげて…まだ小さいから一人で生きてくなんて無理なの…っ」
親「やば、おかしいよ本当に。女、行こ」
女「うん」
女「(よし、これで男君に直接見られなくて済む。後はいくらでも誤解は解け…)」
幼「おかしいのはお前らの頭だろうがよ」
親「あ…っ、幼君///」
女「(厄介なのがぞろぞろと…!)」ギリッ
猫「あ…」ポロポロ...
幼「泣くな泣くな。ユキらしくねぇぞ」
猫「…な、名前…どうして…」
女「(何話してるか聞こえない…)」イライラ
親「幼君…えっと、これには深いわけがあってさ。ていうか、家ここら辺なの?///」
女「(あぁ…親は幼君狙ってたんだっけか)」
親「え…っ」
女「幼君、ごめんね変なとこお見せしちゃって。でも何か勘違いしてるよ。親にも訳があって…」
幼「訳があろうがなかろうが、こんなところに放置してくって考えが頭おかしいっつってんだよ」
親「幼君…だからその…」
女「親、今はやめとこ。あの、幼君。このこと、男君には…」
幼「お前はもっと気持ちわりぃから早く消えろ」
女「…っ」タタタッ
親「あ、女待って!」
猫「…うぅ…」
幼「だーかーらー、泣くなっての!」
猫「わかってる…っ」グスッ
幼「…猫だったとはなー。もう立派な人間じゃねぇかよ。泣いたりするし」
猫「私のこと…主に聞いたのね?」
幼「ん。そう」
幼「主って、そういう意味だったのな」
猫「そうよ。私の"ご主人様"だもの」
幼「別に礼言われるようなことしてねーし。気持ち悪いやつに気持ち悪いつっただけだし」
猫「(やっぱり…素直じゃないところは私に似てる。この人)」
幼「結局猫置いてくし…。信じらんねぇ」
猫「この子…まだ子猫だから一人でなんか生きていけない。野良猫にでも襲われてしまったら…」
幼「…」
幼「名前」
猫「え…?」
幼「こいつに名前付けようぜ?名前がなかったら飼っててもなんて呼べばいいか分かんねぇし」
猫「…それって…」
幼「俺が飼うっつってんの」
親(親友)だったのね
幼「…だから、別にお前から礼を言われることなんてしてねぇって」
幼「(こんな嬉しそうに笑ったりなんかするんだな…)」
猫「名前…名前を付けてあげないと」ニッコリ
猫「…主じゃないの?」
幼「実は俺なんだよ。男がお前を拾った日、ちょうど俺も男の家に居たんだ」
猫「私の、名付け親…なの?」
幼「あの日雪が降ってたし、雪と同じくらい綺麗な毛並みしてっからさ、白色で。だから"ユキ"って名前付けたんだよ」
猫「雪…」
猫「ううん、嬉しい。私、この名前すごくすごく気に入ってるから
幼「それが聞けて俺も嬉しい」
猫「…っ///こ、この子の名前は!?」
幼「んー、そうだなぁ。悩むな」
猫「…え…やっぱり飼えないから…?」
幼「いや、そういうことじゃねーよ。ただ…」
猫「ただ?」
幼「俺の中でも、お前に付けた名前が一番気に入っちゃったから」
猫「え…?」
幼「あんな嬉しそうに気に入っただなんて言われたら、誰だって嬉しいっての」
猫「私が、名付け親?」
幼「ん」
猫「そうだなぁ…。じゃ、今の季節が春だからハルちゃん!」
幼「お前も安易だなぁ」クスクス
猫「…っ、私なりに、一生懸命考えたのよ!」
幼「いーんじゃね?お前も冬から来てるようなもんだし」
猫「…むぅ」
幼「よぉ。買い物終わったのか?」
猫「主、おかえり」
男「な、なんで急にそんな仲良くなってるの?」
猫「主、主。この子のおかげ」
男「あれ…猫?」
男「へぇ、可愛いねー。ハルちゃんかぁ」
幼「…男には、女のこと言うなよ?」ボソッ
猫「え?」
幼「男、女のことすげぇ気にしてるし精神的にも参ってる部分あるから」
猫「(幼さん、やっぱりそういう部分も気づいてたのね…)」
猫「分かったわ」
幼「女に何かされたら、俺に言うんだぞ?」
猫「…うん」ニッコリ
男「でも良かったね。幼が飼ってくれることになって」
猫「うん、良かった。嬉しい」
猫「…主様は、私を拾って嬉しい?」
男「前にも同じようなことを言ったけれど、僕は本当に嬉しいし幸せだよ」
猫「私も、主に拾われて嬉しいし幸せ」
男「あっ、あのさ」
猫「なに?」
男「…一緒に、寝てくれる?」
猫「はじめて人間になって、主から誘ってくれた」
男「だめかな…?」
猫「もちろんいいわ」ニッコリ
猫「そうね」
男「段々慣れてきたかも。やっとって感じだけど…」
猫「なら、私の前で気持ちよくなっても…」
男「ししししないよ!///」
猫「我慢すると良くないって、幼さんと主が喋っていたのを聞いたことがあるわ」
男「…忘れて下さい///」
猫「ふふっ、やっぱり主は可愛い」
男「今日は掃除が無くなったから早く帰れるなぁ」ニコニコ
友「すっげー嬉しそう。なぁ、なんで早く帰れると嬉しいんだ?」
男「一人でも寂しくないから、かな?」
友「は?」
男「話し相手がいるってすごく嬉しいことだなって改めて思えたんだ」
友「…意味わかんねぇ」
幼「まぁお前には一生わかんねーだろうな」
友「ひでぇよ!」
女「…あれから男君は何も言ってこない。普通に楽しそうだし…」
女「男君が楽しそうにしてると、すごくすごく嫌…。私じゃない誰かが男君を喜ばせてるなんて…」ブツブツ
男「…あ」
女「!」
男「…偶然?」
女「えっと…///なんか、学校でこうやって鉢合わせなんてなんだか照れちゃうねっ」ニコニコ
男「…そうだね」
女「なんか最近、すごく嬉しそうだけど…何かいいことでもあったの?」
男「うん。確かに"いいこと"かも」
女「(何を思い出してこんなに嬉しそうな顔をするの…っ。嫌だ…嫌だ…)」
女「え?あっ、うん!すごくすごく可愛い子だったね」ニコニコ
男「…まだこの街にも慣れてないし、人見知りする子だから、そっとしておいてくれる?」
女「わ…分かった!」
男「ありがとう。それじゃあね」
女「…そんなに大事にしてるんだね、あの子のことを」ギリッ…
猫「ふふっ。少しだけなら日中出掛けてもいいって言ってもらえた。やっぱり外は気持ちいい」
?「あら、この前の」
猫「(あ!私を助けてくれた美人な方…!」
猫「この前は本当にありがとうございました」ペコリ
?「全然よ。もう大丈夫そうで良かったわ」
猫「ありがとうございます…///」
?「お名前はなんて言うのかしら?」
猫「あ、ユキと申します」ニッコリ
?「ユキ。とても素敵な名前」
猫「はい!すごくすごくお気に入りなのです」
?「本当に可愛いわねぇ」クスクス
猫「え?」
?「きっと、あなたがこんなに可愛いから嫉妬してしまったのね」
猫「(前話した女さんのことかしら…)」
?「でも、忘れないで。あなたもとてもとてもいい子だから」
猫「(あなた…も?)」
?「あ、そうそう。今度ホットケーキやあんみつ、食べてみてね。きっと美味しいから」ニッコリ
猫「?は、はい!」
猫「(不思議な人…。まるで、私のことを全て見透かしてるような…)」
幼「ユキ!」
猫「あ…幼さん」
幼「一人で何してんだ?危ないだろ?」
猫「主が少しだけなら外に出て気分転換してもいいって」
幼「まぁ…少しだけなら大丈夫か」
幼「そうだと思って、明日一緒に遊びに行く予定だったんだよ」
猫「本当に!?嬉しい!」ニッコリ
幼「…そ、そうか///」
女「ん…?あれは幼君と…。隣にいるのはもしかして…!」
女「やっぱり絶対に絶対に許せない…まるであいつと一緒…」
…
幼「でも一人で歩ける位慣れてきたんだな。人間の暮らしにも」
猫「でもまだまだ分からないことがたくさんあるわ。人間って難しいし面倒なことがたくさん」
幼「よしよし」ナデナデ
猫「!?///」
幼「なんかあったら、いつでも頼っていいんだからな?」
猫「…う、うん」
猫「わ、私…」
幼「あ!悪い。そろそろバイトの時間だ。んじゃ、またなっ!」
猫「あ…っ、行っちゃった…」
猫「早いとこお家に戻らなきゃ…主が帰ってきちゃう。私が主をお迎えしなきゃ」
女「ねぇ」
猫「あ…」
女「あんた、いい加減にしてよ」
女「この淫乱女!次から次へと手出して恥ずかしくないわけ!?」
猫「(全くもって意味がわからない…)」ハァ
女「本当に気に食わない…っ。あいつと一緒よ!そうやって私から男君を奪おうとするなんて!」
猫「…あいつ…?」
猫「何を言って…」
女「あんたも一緒!私から男君を奪ってく!
あの小汚い雌猫と一緒!」
女「あんたも知ってるでしょ?男君んちで飼われてる白い雌猫」
ドクンドクンドクンドクンドクン…
猫「(…待って…)」
猫「(主は…ずっとずっと…)」
~
男「あの子、すごく苦手なんだ。僕、一度も同じクラスとかになったことないのに僕のこと色々と知ってるし…それに…」
猫「それに?」
男「なんか…いつもいつも見られてるような気がして…」
~
女「だから…っ、すごく悔しくて悲しくて…男君のことを異常なまでに執着するようになってしまった…。そのぐらい、憎くて、仕方なかったから…っ」
~
男「ユキを飼い始めた頃あたりかな…。そんな風に感じるようになったの。だから、ユキが一緒に居てすごくすごく安心してたんだ」
男「ま、まぁ僕の思い過ごしだろうけどね!」
~
猫「(わ、たし…が…)」
~
幼「…男には、女のこと言うなよ?」ボソッ
幼「男、女のことすげぇ気にしてるし精神的にも参ってる部分あるから」
~
猫「私が…居なかったら…主は…主は…」
女「…はぁ?何をぶつぶつ言ってるの?」
ドクンドクンドクンドクン…
女「まぁ、そうね。あの雌猫を飼い始めた話をしたときの男君のあの笑顔…。本当に今まで見たことなくて…っ。あー!本当にうざったい!」
猫「…私が、居なければ…私が…」
猫「…私が、居なかったら…主は傷つかなかった…嫌な思いもしなかった…」
猫「…ご、めんなさい…ごめんなさい…」
男「ん…?あれは…」
…
猫「…っ、ぅ…うぅ…」ポロポロ...
男「…ユキ!ユキ!」
猫「…!」ビクッ
男「こんなところで何してたの?」ニッコリ
猫「ごめんなさ…い…ごめんなさい主…」
男「え?」
猫「私が、主を傷つけてしまっていたのね…」
男「何を言って…」
猫「主、私はあなたの飼い猫失格でした」
猫「私は…あんなに大事に、大事にされていたのに…。お返し出来ていなかった…」
男「待って。一体何があったの…?」
猫「…っ、ごめんなさい…!」タタタッ
男「ユキ…!ユキ!」
男「とりあえず探さないと…!」
ダッ…ドン!
男「うわっ!」
?「…ったぁ…ちょっと!何なのよあんた!」
男「す、すみません…」
?「まぁ…私は大丈夫だけど…。そんなに何を急いでるのよ、少年」
男「…大事な、大事な…俺にとっては家族と同じくらい大事な存在の子が傷ついてしまったみたいで…」
?「…ふぅん。それは大変ね」
男「すみません…っ、急いでますので!」ダッ
?「色々と大変みたいねぇ」
幼「お疲れさまっしたー」
幼「(いつもよりバイト長引いちまった…)」
幼「…ん?不在着信が10件以上も…全部男から…」
幼「まさか…ユキに何かあったんじゃ…っ!」
男「もしもし!?」
幼「何かあったのか?」
男「実は…」
…
猫「…はぁ…はぁ…」
猫「(さっきから身体が熱い…苦しい…)」
猫「咄嗟に走ってきてしまったけれど…私はこれからどうしたら…」
子「お姉ちゃん、どうしたの?どこか痛いの?」
猫「え…?」
猫「大丈夫よ。心配ないわ」ニッコリ
子「でもすごくすごく苦しそう…」
猫「平気。私、こう見えても打たれ強いんだから」
子「…無理してる。嘘ついてる」
猫「え…」
子「お姉ちゃん、私のこと救ってくれた。だから今度は、私がお姉ちゃんを救う番」
子「お姉ちゃんを悲しませてるのは誰?」
猫「え、えと…」
子「女の人?」
猫「それが…」
猫「私が悲しんでるのではなく、私が悲しませてしまったの…」
子「…うそ!そんなこと有り得ない!」
子「本当にお姉ちゃんは誰かを悲しませてるだけ?幸せにはしてないの?」
猫「それは…」
子「お姉ちゃんは誰かを幸せにすることができる人なんだよ!わたし知ってるよ!」
猫「…っ」
~
「もちろんだよ!役に立ててるっていうか…家族みたいなものだし、ユキが居てくれて僕は本当に、本当に幸せだから」
~
猫「そうよ…主は優しい笑顔でそう言ってくれた…私に幸せだと教えてくれた…」
猫「主…主…」ポロポロ...
猫「う…っ、ぅ…」ポロポロ
子「お姉ちゃんは、その人のこと大事?」
猫「…ぐすっ。えぇ、大事。すごく大事よ」
子「じゃ、好き?」
猫「…す、き…?」
猫「…飼われてる立場な上にあんなに大事にして頂いてるだけで嬉しくて、幸せなのに…好きになるなんてとんでもない…」
子「…」ジッ
猫「!あっ、飼われてるっていうのは…その…」
子「お姉ちゃんは"今"飼われてるの?その人に」
猫「え…」
猫「(確かに飼われてはいないけど…居候の身だってことは変わってないし…)」
子「今飼われてないならいーじゃんか!」
猫「へ!?」
子「お姉ちゃんは、好きに生きていーんだよ?素直になっていーんだよ?」
子「今までいっぱいいっぱい素直になれなかった分、わがまま言ってもいーんだよ!」
猫「怖い…怖いの…っ」
子「大丈夫だよ。こんなに優しくて可愛いお姉ちゃんをもう誰も捨てたりなんかしない。絶対、絶対だよ」
子「わたしも、優しいお姉ちゃんとお兄ちゃんに拾ってもらえたからすごくすごく分かるよ」
猫「…今、なんて…?」
猫「ね、ちょっと待って。あなたは…」
子「お姉ちゃんのおかげで、わたしはすごく幸せ。この鈴がその証だよ」ニッコリ
猫「ハルちゃん…っ」
タタタッ…
猫「…行っちゃった…」
猫「ハルちゃんありがとう…私、頑張る…っ」
…
男「はぁ…っ、そっちにはいた!?」
幼「いや、全然だった…。ったく、どこに行っちまったんだよ…」
男「…僕、もう一度家の近くを探してくるよ」
チリンッ
幼「…ハル?」
猫「みゃー」
男「あれ、ハルちゃん?」
幼「何してたんだよこんなところで」
猫「みゃっ、みゃ」
男「とりあえず僕行ってくるね!」
幼「待てって!俺も…っ、ハル!なんでくっついてくるんだ!今忙しいんだからお前と遊んでる場合じゃないんだっての!」
猫「にゃ!にゃ!」
幼「…わりぃ。男一人で行ってくれるか?ハルをここに残しておけねぇし」
男「わ、わかった!何かあったら連絡するよ!」
幼「…お前さ!素直になってもいいと思うぞ!」
男「え?」
幼「もう"飼い主"じゃねぇんだからさ!」
幼「俺、お前のことなーんでも知ってっから。ユキよりもな」
男「…っ、な、何が!」
幼「もうユキは猫じゃねぇんだから、人間として好きになってもいいってことだよ」
男「…!」
男「ぼ、僕は…!」
男「それは駄目だ!!」
男「…あ…えと…」
幼「なら早く行ってこい。きっと待ってっから」
男「う、うん…!」
タタタッ…
幼「…さぁ、ハル。帰るか!」
猫「にゃー」
幼「なぁ、お前が俺のこと今足止めしたのは偶然じゃないよな?」
猫「みゃっ」プイッ
幼「お前も素直じゃねーな。どっかの白猫みてぇだ」
友「なぁ、マジ頼むよ!」
女「…合コンは興味ないなぁ」
女「(しつこいなぁもう…)」
友「一回だけ!女ちゃんが出てくれるってなったら皆喜ぶからさ!」
女「あのねぇ…っ」
友「あ」
女「え?」
友「あの走ってるやつ、男じゃね?」
友「すっげぇ全速力…。何かあったのか?」
女「(…確か…)」
友「つうか、すげぇ苦しそうなんだけど…」
女「…早く止めてきて!!!早く!!!」
友「え…え!?」
友「いきなり何だよ!?」
女「…ちっ!もう!使えない!」ダッ
友「女ちゃん!?」
…
猫「主…主…」キョロキョロ
猫「まだ…帰ってきてないのね…」
猫「きっと…きっと私には時間が無いんだわ…」
猫「主…っ、主…!」
…
男「…ユキ!絶対に、絶対に居てくれ…っ」
女「男君!!!」
女「嘘なんでしょ!あの女が従姉妹だって嘘!」
男「…はぁ…はぁっ…」
女「男君、私に隠し事してる!従姉妹なんかじゃないでしょ!」
男「…っ!」
女「!?」ビクッ
男「従姉妹なんかじゃないよ!ユキに言われるまで、そんな関係性を偽ることすら頭に無かった!!!」
女「男、く…ん…?」
男「必死に…必死に隠してたんだよ!!自分の気持ちに!!だって…だって俺は飼い主だったから…っ、あの子を好きになる資格よりも、大事に"親"同然の気持ちで育てていくことのほうが必要だって思ってたから…!」
男「ユキを拾ったときから…ずっとずっと、僕がこの子を大事に大事に育てていくって決めてたから…!」
男「あの女って呼ぶな…!あの子にはユキっていう名前がついてるんだ…!」
女「…!」ビクッ
男「…もう、僕達に構わないで。それじゃ…!」
女「待っ…怒らないで…嫌いにならないで…!」
女「男君!」
男「はぁ…っ、アパートの周りには居ない…」
男「もしかして…部屋にもう帰ってきてるんじゃ…」
タッタッタッタッ
男「ユキ!君に伝えたいことが…っ」
男「あれ…部屋の中にも居ない…」
猫「みゃぁ」
男「え…?」
猫「にゃ」
男「…ユ、キ…?」
猫「にゃ」
男「…駄目だよ。それは…ユキの好きだった茶色いブランケットだよ…」
猫「みゃぁ」
男「駄目だってば…。僕の膝はユキの大事な大事な場所なんだ…」
猫「…にゃ」
男「駄目、だよ…ユキと同じ白色で同じ毛並みなんか…駄目、駄目だよ…っ!」
猫「…みゃ」
男「やめて…名前を呼ぶ度反応しないでくれ…。まるで、まるで…」
男「待って…。まだ伝えてないことがたくさんあるんだ…っ。僕にはユキが必要なんだよ…!」
?「ごめんなさいね。時間が来てしまったの」
?「んー、そうね。その質問をされる度、私は困ってしまうのだけれど…まぁ、猫の神様ってところね。一応ね」
男「神、様…?」
?「あなたの飼い猫を人間にしたのは私よ」
男「ユキを…?」
?「えぇ。願いを叶えてあげに来たの」
男「な、なんで…」
?「ユキちゃんが人間の姿でいると…精神的に辛いことばかりで身体が耐え切れなさそうだったから」
男「精神的、に…」
?「元々、心に傷がある状態であなたの元に来た猫ちゃんだったから尚更ね」
?「あなたのせいではないのよ。私もきちんと事前に色々調べていれば、人間にさせる上手なタイミングがあったはずなのに…。本当に、ごめんなさいね」
男「ユキ…」
?「本当に、本当にいい子だったわ。あなたは素敵な愛情を注いでいたのね」
男「ユキ…ユキ…」
猫「にゃ、にゃ」
男「留守番は今までしてたから平気だとか…外に出しても大丈夫だからとか…安易に考え過ぎてたから…だから…っ」
男「ごめん…ごめんねユキ…」
猫「…にゃぁ」
?「それはユキちゃんも一緒よ」
男「…っ、ユキも…?」
猫「みゃぁ」
男「僕と…同じ気持ち、だったの…?」
猫「…にゃ」
男「ユキ…ッ!」
男「え…?」
?「さっき、私が言ったこと覚えてる?」
男「なにを…」
?「私は"願いを叶える前に"猫に戻したの、ってあなたに話したわ」
男「…じゃあ…!」
?「えぇ。ユキちゃんの願いは、私がちゃんと叶えてあげる」
?「ただし」
男「…?」
?「ユキちゃんが猫に戻ってしまったのだから、ユキちゃんがどんな願いをして、いつその願いが叶うかもあなたは分からない状態」
男「は、はい…」
?「あなたはそれでも平気?待っていられる?もし、あなたが望むような願いでなくても、ずっとずっとユキちゃんを大事にできる自信はある?」
猫のユキも、人間のユキも…僕にとっては家族…いや、家族以上に大事な存在です。
一番の気持ちは…もし人間のユキにまた出会えることが出来たら伝えたい…」
?「それが聞けて安心したわ。あなたも、ユキちゃんも本当に、本当にいい子だから…きっとあの子も幸せになれたのね」
男「…あの子?」
?「ごめんなさい。ユキちゃんとある子猫ちゃんを出会わせたのは私の勝手な行動なの。ユキちゃんなら、きっと助けてくれるって信じてたから」
?「何かしら」
男「ユキは、僕に拾われて本当に心から幸せだったのでしょうか?」
?「…それは人間のユキちゃんにまた出会えたら聞いてあげて」ニッコリ
男「はい…っ」
猫「にゃっ、にゃ」
男「ユキ…。猫の姿としては久しぶりだね」
猫「みゃぁ」
男「…あの!」
?「なぁに?」
男「色々と、ありがとうございました」ペコリ
?「お礼を言うのはまだ早いぞ、少年」
男「あ…す、すいません」
?「幸せにしてあげてね。お願いね」
男「…はい、約束します」
猫「みゃぁ」
…
男「ただいま、ユキ」
猫「にゃー」
男「ははっ、やっぱりユキを抱きしめると暖かいや。外は一段と冷えるから」
猫「みゃっ、みゃ」
男「今日はハルちゃんを連れて幼が遊びに来てくれるよ」
猫「にゃー」
男「幼が言ってた。ユキは僕への好きって気持ちを抑える為に無理矢理幼のことを好きになろうとしてた、って。本当なの?」
猫「みゃー、みゃ」
男「…どっちだか分からないよ」クスクス
猫「にゃ」
男「違うよ。ユキも一緒に行くんだ」
猫「…みゃっ」
男「こうやって抱きしめていれば外にだって一緒に行けるね」
猫「にゃ」
…
男「あ」
女「あ…」
「「…」」
女「…ごめんなさい!」
男「え…」
女「もう…本当に、何もしないから…。ごめんなさい」
男「そ、そう…」
女「そ、それじゃ…っ」
男「な…何だったんだ…」
猫「にゃー」
猫「にゃー」
男「まぁいいや。いこうか」
猫「にゃっ」
男「…夜はもっと冷え込むだろうなぁ」
猫「ねぇ、起きてよ」
男「…あ、れ…」キョロキョロ
男「そうか…夢か…」
男「(夢とはいえ…人間だった頃のユキを見るのは久しぶりだな…)」
男「ユキ…」
男「…あれ…」
男「どこに行ったんだ…?確かにブランケットの上で寝ていたはずなのに…」
男「ユキ…ッ!」
…
男「…はぁ、寒い…外にユキが飛び出るなんて滅多にないけど家には居ないし…」キョロキョロ
男「ユキ…ユキどこだ…?」
男「…」
~
「誰って…あなたの飼い猫よ」
猫「主。私はこの通り、主と同じ人間の姿になってしまった。私はもういらない子?猫では無くなってしまったから、もう主の側には居られない?」
猫「こうやって主と寝られる日が来るなんて。ずっとずっとこうしたかった…」
~
男「ユキ…」
男「ユキ…?」
雪「ごめんなさい。起こしてしまって。しかもこんな寒い中」
雪「でも、少しでも早くあなたに会いたかったから。お話したかったから」
雪「そうよ。"ユキ"よ」
男「人間に…なれたの…?」
雪「えぇ、あなたと一緒。これからもずっとずっと一緒」
男「…伝えたいことが、たくさん…たくさんあるんだ」
雪「奇遇ね。私もよ」
雪「私も…やっと言える。一人の男性として、あなたを好きでありたい。傍に居続けたい」
雪「もう…鮭が出てきて跳ねて喜んだり、茶色いブランケットで眠れなかったり、ミルクをお腹いっぱい飲んで猫なで声を出したりなんて出来ないけど…」
雪「それでも…それでもお傍に居てもいいですか…?」
雪「…よかった…」
雪「本当に、よかった…」ポロポロ...
男「泣かないで、雪」
雪「う、うん…っ。でも嬉しくて…私、ずっと素直になれなかったから…上手に気持ちを表現出来なかったから…っ」
男「それは僕も一緒だよ…。ごめんね、そしてありがとう」
雪「う…っ、ぅ…」ポロポロ
男「雪、おかえり。ずっとずっと君のことを待ってたよ」
雪「…ただいま、男さん」
end.
それなのにここまで読んで下さって本当にありがとうございました
チロルやあんみつのことを覚えててくれてる人がいて嬉しかった
もう2~3年ぐらい経ってるのに
ありがとう ありがとう
楽しめたよ
素晴らしく良かった!
良い話だった。
Entry ⇒ 2012.01.17 | Category ⇒ その他 | Comments (0) | Trackbacks (0)
猫「主様、起きて起きて!」
男「ん…あと5分…」ゴロン
猫「主様!お腹空いたー、喉渇いたー」ユサユサ
男「うるせ………あ?」
猫「!主様が起きたー」
ギュッ
猫「言葉が通じると便利!」
男「…誰だよお前」
男「人の話を聞け。大体、主様って何だ」
猫「…私のこと、分からない?」
男「…」
ジーッ
男「…おい」
猫「なになに?主様」
男「自分の名前、言えるか?」
猫「あんみつー!」
男「…どうしてこうなった」
猫「起きてたらこうなってたー」
猫「うん!」
男「…」
男「…とりあえず、これ着とけ」バサッ
猫「わ、主様のパジャマー。ふわふわ良いにおーい」
男「いいから着ろ」
男「(これから…どうすりゃいいんだ…)」
猫「ごーはーんー」
男「…猫まんまでも作るか」
猫「えへへー」
男「何だよ」
猫「主様とね、ずっと喋ってみたかったの!」
男「ほう」
猫「こっちが喋りかけてもね、全然通じなかったから!」
猫「だから、すーっごく嬉しー」ニッコリ
男「…俺は混乱中」ハァ
猫「えー、嬉しくないの!?なんで混乱するの!?」
男「いや、これからのこととか…色々」
猫「むぅ」
猫「私ね、あんみつって言うのー。自分の名前言えるのー」
猫「にゃー」
猫「すごいでしょー」
猫「みゃぁ」
男「おい!あんみつ!」
猫「あ、主様だ!」タタタッ
男「何してんだよ。外にはむやみに出るなっつっただろ?」
猫「お友達とお話したかったの。ごめんね主様」シュン
男「友達?」
猫「にゃー」
男「…なるほど」
…
猫「ね。主様っ、主様!」
男「何だ?」
猫「呼んでみたかっただけー。喋れるって良いね!」
男「お気楽で良いな、お前は」
姉「はい、頼まれたやつ」
男「サンキュ」
姉「何なの?いきなり。女もんの服だの下着だのよこせって…」
男「い、いや…。彼女が、その…」
姉「やだちょっと。変な女に誑かされてるんじゃないでしょうね?」
男「…っ、あんみつはそんな子じゃねーよ!!!」
姉「…随分美味しそうな名前ね」
男「(…しまった…)」
猫「主様が帰ってくるまでに帰ればいいよね!」ニパッ
トタトタトタ...
猫「すごいすごい!いつも見てる景色と違ーう!」
猫「(こんなに色鮮やかなんだなぁ…綺麗だなぁ…)」
猫「あ!あの人、お家に来たことある!確か…主様のご友人!」
猫「ご友人様!」
友「え?」
猫「こんにちはー!」スリスリ
友「…どこかでお会いしましたっけ?」
猫「!…あわわわわわっ、今は違う姿だったー!」
友「え、えと…」
猫「ごめんなさーい!」タタタッ
友「何だったんだろう…」
猫「恥ずかしい恥ずかしい!人間って難しいよー!」
猫「…はぁ、良かった!帰ってきてないや」
猫「この姿になって結構経つけど…、今だになれないなぁ…。服を着るのもやだし、お風呂入らなきゃだし…」ハァ
男「ただいまー」
猫「主様!おかえりー!」タタタッ
ギュッ
猫「学校楽しかった?」
男「まぁまぁ」
猫「そっかそっかー」ニコニコ
男「?随分機嫌がいいな、あんみつ」
猫「やっぱり、主様とお話出来るのは素敵だなって思って!」
男「俺も、最近は慣れてきたかな」
猫「わーい!」ピョンピョン
男「…とは言ったものの、これからのことを考えると憂鬱だな」ハァ
友「男がため息つくなんて珍しいね。何かあった?」
男「…話したら、お前絶対引く。頭おかしいって思う」
友「そんなことしないし、思わないよ」
男「じゃ、話すからな」
…
友「…」
男「ってわけだ」
友「…最近、寝てないんじゃない?何だったら近くの病院にでも…」
男「ほらやっぱり」
友「冗談だよ」
友「(まさか…猫が人間になるなんてなぁ…漫画じゃあるまいし)」ブツブツ
女「友くーん!」
友「あ、女さん。こんにちは」
女「…さっき、男君と喋ってたよね?」
友「うん」
女「何のことー?」
友「次の授業のことだよ」
女「あははっ、なら良かったー。ね、男君って彼女居ないよね!?」
友「うん」
女「…そっかぁ」ニコリ
友「(別れた後も未練たらたらなんだなぁ…この女)」
猫「主様ー!今日は一緒にねよー!」
男「無理」キッパリ
猫「にゃ!何で何でっ」
男「(久しぶりに”にゃ”って呼んだな…)」
男「無理なもんは無理なんだよ。諦めて一人で寝ろ」
猫「むぅ…」
男「(一緒に寝たら何すっかわかんねーからだっての…。これでも頑張って我慢してんだよ)」
猫「(猫の時はいつも一緒に寝てたのに!むーっ!)」
男「(寝たか…。よし、俺もそろそろ…)」
プルルルル...
男「はい」
女「あっ、男?ごめんね、電話なんか掛けちゃって。今日久しぶりに学校で見…」
男「もう掛けてくんなって言っただろうが」
女「で、でもやっぱり…」
猫「んぅ…っ、暑い…」
女「!?」
男「…とにかく、もう掛けてくんなよ」
ピッ…プープー…
女「今…女の声がした…」
猫「主様は学校!私はいつも通りお留守番!」
猫「…暇ー。人間ってすっごく暇ー」
猫「…お外出ちゃえ!」
…
猫「わー、やっぱり気持ちがいいなぁ二足歩行は!」ニッコリ
?「あ、あのっ」
猫「?」
?「このへんで一番近い本屋さんってどこでしょうか?」
猫「…ほんや?」
猫「!私、”ほんや”は分からないけど”ご主人様”は分かるよ!私にも主様がいるよー!」
?「!ほんとですか!?」
猫「一緒だねー」ニコニコ
?「はいっ、一緒です」ニッコリ
猫「せっかくの機会だし、一緒に”ほんや”探してあげるー」
?「ありがとうございます…!助かりますっ」
猫「良かったねー」
?「本当にありがとうございました!えと、お名前は…」
猫「あんみつ!主様が付けてくれたの」
?「とても可愛いお名前ですね」
猫「お姉さんはー?」
チ「私はチロルと言います」ニッコリ
猫「なんか美味しそうな名前だね」
チ「あんみつちゃんには負けますよ」クスクス
猫「主様、お友達が一人出来たー!猫じゃなくて、人間のお友達ー!」
男「(やっぱり度々抜け出してたか…)」
男「良かったじゃねーか」
猫「今度会った時はお茶しようって言われた!」
男「…よし」
猫「?」
男「ん。ずっと前から、渡そうと思ってたやつ」
猫「なにこれ」
男「その中にはお金ってのが入ってる。お金ってのはだな…」
猫「むぅ!そのぐらい分かるー!でも、私にお金はいらないんじゃないかなぁ…」
男「好きなもん買えよ。その友達とお茶する時だって必要だしな」
猫「…っ!主様優しいね!ありがとうー!」スリスリ
男「…その擦り寄ってくる癖、そろそろどうにかしてくれ」
男「それは猫ん時に学んだのか?」
猫「んーん。これー」
男「あ、なるほどな。テレビでか」
猫「テレビさんには色々教えてもらったよー」
男「例えば?」
猫「”ふりん”とか、”おしゅうとめ”とか!」
男「…!」ブッ
猫「主様ばっちぃ!」
男「(完全に昼ドラからだろ…っ!)」
男「…あんみつ。お前が見ていいチャンネルはココとココだ。分かったな?」
猫「えー」
男「問答無用」
猫「むぅ」
男「…あいつが人間になって、大分経つな…」
友「ねぇ、そろそろ会わせて欲しいな。”あんみつちゃん”に」
男「そうだな。俺以外の人間とも話せるようになっただろうし」
友「楽しみ」ニコニコ
男「この前なんて、人間の友達が出来たっつって喜んでやがってさ」
友「へぇ」
男「今度一緒にお茶するんだとよ」
友「(随分嬉しそう…。親馬鹿ってこーいうことを言うんだろうなぁ)」
男「…お前やだ。うぜーから」
親「親友なのにうぜーってどういうことだよ!」
友「まぁまぁ」
親「あ、そういや。女のやつ、最近すっげー機嫌悪いみたいだぜ?」
男「俺には関係ねーよ」
親「ふーん」ニヤニヤ
男「…きも」
猫「ねー、主様。今日は一緒に寝たい!」
男「ダメって言っただろうが」
猫「やだ!寝る寝るー!」
男「…はぁ、無理だって」
猫「何で…?前は良く一緒に寝てたのに…」
男「それは”猫”だったからだろ?」
猫「今の姿じゃどうして駄目なのー…」
男「…お前にはまだ早い。とにかくもう寝ろ」
猫「主様と仲良く出来ないなら猫のほうが良かったー!!」ベシベシ
男「こら、でけぇ声出すな!近所迷惑だろうが!つーか痛ぇって…!」
猫「…」
男「んだよ、まだ怒ってんのか」ハァ
猫「怒ってるよ。あんみつ、すごーい怒ってるよ」ムスッ
男「怖くも何ともねーよ馬鹿」
猫「!馬鹿って言うほうが馬鹿なんだよ!」
男「じゃ、お前も馬鹿だろ」
猫「…むぅー!悔しい悔しい!」
男「言い方変えてきやがったなこの野郎」
猫「ふーんだ」
男「…悪い子には、これやんねーぞ?」
猫「…な、何それ」ジー
男「あんみつ」
猫「?あんみつは私だもん」
男「あんみつっていうデザート。すっげー甘い」
猫「!あ、まい…?ミルクより?」
男「そりゃもう」
猫「食べる食べる!私と同じ名前ー!甘いー!」
男「なんか色々混じって日本語が大変なことになってんぞ」
猫「…あれ」
男「どした」
猫「お友達が、何言ってるかわかんなくなってきちゃった」
男「…人間になったからじゃないか?」
猫「でもでも!最初はお話出来てた!」
男「んー、俺にはわかんねーな…」
猫「…寂しい」
男「んな顔すんなって。人間の友達作ればいい話だろ?明日には俺の友達もあんみつに会いに来てくれるしよ」
猫「うん…」
友「えっと次は移動だから…」
女「友君!」
友「!わっ、びっくりした…ど、どうしたの?」
女「嘘つき!」
友「え…?」
女「男君に彼女いないって言ったよね!?」
友「言ったけど…」
女「いるんじゃない!嘘つくなんて酷いよ…っ!」
タタタタッ…
友「意味が…分からないんだけど…」
ギュッ
男「おっと…っ、ただいま」
友「随分可愛らしいお出迎えだね。こんにちは、男の友達で…あ、あれ?」
猫「…あー!」
男「?お前ら、知り合いなのか?」
猫「あ、あの時は本当にごめんなさいでした…」オロオロ
友「いや、全然平気だよ。君があんみつちゃんだったんだね」
男「…」
友「偶然道端でばったり。ね?」
猫「ばったりー」
男「ふーん…」
…
友「じゃ、僕のことは覚えててくれてたんだ!嬉しいな」
猫「あんみつ、すごいすごい!?」
友「とってもね」ニッコリ
猫「…っ!主様、褒められちゃったー」
男「…」
猫「友さん、優しい人だったねー」
男「…」
猫「主様、さっきから私とお話してくれてない」
男「…別に」
猫「別に、じゃない!話し掛けても無視する!」
男「…っ、あんみつが悪いんだろ!?」
猫「!?」ビクッ
男「俺以外の奴に…簡単に懐きやがって…」
男「(うぜぇくらい、俺にしかまとわりつかなかったのによ…)」
男「…だろうな。俺もよくわかんねーもん」
猫「…主様、痛そうなお顔してる。ごめん、ごめんね」
男「あんみつ…」
男「…かった」
猫「…?」
男「お、俺のほうこそ悪かった…ごめんな、あんみつ」
ギュッ…
猫「主様…ちょっと痛い」
男「わりぃ…もう少しだけ…。頼む」
男「んー…?」
猫「主様にギュッてされたらドキドキした。すごくドキドキした」
男「いつも抱きしめてたじゃねーか」
猫「そう!だからびっくりなのー」
男「…可愛い奴」ナデナデ
猫「なでなでもドキドキするからやめてー」
猫「主様、どっか行くの?」
男「あぁ。今日は帰りが遅くなる」
猫「…あんみつは行けない?」
男「悪いな。今日はサークルの集まりだから」
猫「行ってらっしゃーい…」
男「行ってくる」
バタン
猫「…変だなぁ。お留守番は得意っていうか、一人になるのも好きだったんだけどなぁ」ショボン
猫「早く帰ってきてー…」
猫「にゃー」
猫「…ごめんね。何言ってるかわかんないのー」
猫「みゃぁみゃぁ」
猫「…っ!」ダッ
…
トボトボ...
猫「つまんないよー…」
友「あんみつちゃん!」
猫「!?」
友「こんなところで何してるの?男が心配しちゃうよ」
猫「今日、主様いないの。だから心配なんかされないの」
友「…」
猫「し、んぱいなんか…」
友「…一人が寂しいんだ?」
猫「…」コクリ
友「じゃ、僕が一緒に居てあげるよ」ニコッ
猫「!…ほんとに!?」
友「用事を済ませて帰ってきたところだったしね」
猫「ありがとうー!」
女「ねぇってば!」
男「しつけーな…。何回も言ってんだろ?やり直す気はねぇって」
女「…なんで?あんなに好きって言ってくれてたのに…」
男「あぁ、好きだったよ」
女「じゃあ…どうして…っ」
男「どうしてだ?よくそんなことが言えるよな。浮気したくせによ」
女「!そ、それは違うのっ」
男「…話になんねぇ。じゃあな」
女「やだ…っ、行かないで!」
ギユッ…
女「やだ…お願い、行かないで…」
男「ふざけんなよ…」ハァ
女「…っ、あれは勘違いだったの!私、男の気を引きたくて…だから…」
男「…聞きたくねぇし、興味もねぇ。じゃあな」バシッ
女「…っ!」
スタスタスタ...
女「…ふぇ…っ、ぅ…」ポロポロ
男「…何やってんだ、俺」
男「(抱きしめられた瞬間、すぐに引き剥がせなかった…。名前で、呼んじまった…)」
男「…っ、何なんだよ…」
…
猫「うわぁ、大きな噴水ー」
友「ここは来たことなかったんだ」
猫「私が出ていい範囲はお家のすぐ側までだから」
友「それは今も?」
猫「うん」
友「相変わらず大事にされてるんだなぁ」
友「忘れちゃってるのかな?」
猫「少しは覚えてるよ!…ねぇ、友さん」
友「ん?」
猫「私、大事にされてたの?」
友「そりゃもう。すごく可愛がられてたよ。それも覚えてない?」
猫「少しだけ。でも確かめたかったのー。友さんはよくお家に来てたから何でも知ってるでしょ?」
友「まぁ、ある程度はね」
猫「じゃあ、私が忘れちゃったことはまた色々教えてね!」
友「うん、いいよ。約束する」
友「そんなことないよ」
猫「お話出来るのってすごく嬉しい!」
友「今みたいに?」
猫「うん。猫の時はね、相手が何話してるか分からないし、何を話してるか分かってもらえないから」
友「へぇ」
猫「だから、いじけて生意気な態度取ったり無視したり、言葉が通じないから精一杯甘えたりしてた」
友「…なるほどね」
友「?」
猫「な、何でもない!」プルプル
友「…何かあったら、いつでも相談しなよ?僕で良かったら力になるからね」
猫「…ありがとう!」
友「どういたしまして」ニッコリ
猫「(友さんといると楽しい!主様とは違うドキドキだ!)」
男「…はぁ」
猫「主様、ため息つくと幸せが逃げちゃうよー」
男「逃げねーよ」
猫「むぅ。せっかく教えてあげたのにー」
男「(何でアイツのことばっかり考えてんだっての…)」
猫「あんみつ、もう寝るね。おやすみー」
男「…おい」
猫「?」
男「今日は、一緒に寝たいって駄々こねないのか?」
男「…は?」
猫「あんみつと寝れないって言ったのは主様だよ?」
男「いや、まぁ…それはそうだけど…」
猫「だからもう言わないの。今までとは違うって分かったから」
男「…あんみつ」
猫「おやすみね、主様」
男「…おやすみ」
男「(猫にも反抗期ってあったっけか…)」
猫「んー、迷う…。主様からもらった”お金”があるけど…むぅ…」
?「何かお困りー?」
猫「(綺麗な人…!)」
猫「お、おやつを買おうか迷ってて!」
?「へー、可愛いわね。何々?…あんみつ?」
猫「私と同じ名前で、甘くて、主様からもらったことがあるのです!」
?「待って待ってー。なんか日本語変よ」クスクス
猫「ほ、ほんとに良かったのですか!?」
?「いいのいいの。受け取ってちょうだい」ニッコリ
猫「!ありがとう…!大事に食べます」
?「あははっ、その心掛けは素晴らしいけど早めに食べちゃってね。腐っちゃうから」
猫「…!そ、そうでした!」アワアワ
?「…可愛い子。あんみつって名前も素敵ね」
猫「主様が付けてくれたの!」ニパッ
?「あなたとはまた会って話がしたいわ」
猫「ぜひお願いします!」
?「今度はホットケーキってものを食べてみてね?美味しいからオススメよ」
猫「了解ですー」ニッコリ
猫「ってわけで、お金を使わずにあんみつゲーット!」
男「それは良かったな。けど、今度会ったら改めてお礼言っとけよ?」
猫「はーい!」コクリ
猫「あんみつ、人間になれてまたちょっと嬉しくなっちゃったー」
男「よしよし。可愛いな」ナデナデ
猫「えへへ」
男「?」
猫「私、主様の膝元で寝るの好きだったでしょ?だから、少しだけっ。ね、おねがーい!」
男「す…少しだけだぞ」
猫「…!やったー!」ゴロン
猫「幸せ幸せー。猫の時に戻ったみたい!」
男「こ…これならいつだってしてやるよ」
猫「主様やさしー!」
親「男と寄りを戻したい?」
女「うん」
親「…無理だろ」
女「やだ…っ、戻したいの!親、どうにかしてよ」
親「はぁ?」
女「大体、親が勝手にあたしが浮気してるって勘違いして、男に告げ口したんじゃん!」
親「…そうだっけ」
女「惚けないでよ!!」
親「分かった分かった!頑張ってみっから」
女「…よろしくねっ」
男「…あんみつ。ちょっとこっち来い」
猫「はーい!」タタッ
男「せ、洗濯物はちゃんとしまえよ!///」
猫「あっ、忘れてたー。ごめんね、主様」
男「…分かれば良いんだよ」
男「(何で下着見ただけでドキドキしてんだ…馬鹿か俺は)」
男「わり、そろそろ家出ねーと遅刻しちまう!」ドタバタ
猫「主さまぁ…」
男「じゃ、留守番頼んだぞ!行ってくる」
タタタタッ バタン!!
猫「…むぅ。主様ひどい…あんみつ、こんなに苦しいのに…」シュン
猫「(お散歩行けば少しは気分転換になるかな…)」
…
猫「ふぁ…具合が悪い時は、主様何してたっけ。思い出さなきゃ…」
猫「!そうだ、お薬飲んでた!…主様からもらったお金で買ってみよ」
猫「お薬飲んで元気が出たら、主様心配させないで済むもんね…っ。やったぁー…」ニッコリ
タタタタッ…ドン!!
猫「…うわっ!…いたたた…あ、あのごめんなさい…大丈夫、です…か…」
猫「…あれ…?走って行っちゃった…」ジー
猫「!あれ…何で私のお財布を持って走ってるの!?だめ…っ」ダッ
猫「はぁ…っ、ま、待って…!」
猫「(全然追い付かない…!苦しい…!)」
猫「主様からもらったの…!大切にするって約束したの…!」ハァハァ
”ん。ずっと前から、渡そうと思ってたやつ”
猫「あんみつの…っ、為に用意してくれてたんだよぉ…!」
”好きなもん買えよ。その友達とお茶する時だって必要だしな”
猫「…っ、はぁ!お願い…、ぅ…っ、か、返して…!」ポロポロ
猫「はぁ…はぁ…、い…行っちゃった…」ポロ…
猫「ふ…ふぇ…っ、うわあああん!」ポロポロ
チ「!…あんみつ、ちゃん?どうしました?どこか痛いのですか?」オロオロ
猫「チ…ロルちゃ…」バタッ
チ「あんみつちゃん…!しっかりして下さい…っ」
猫「…あれ…」
チ「あぁ、良かった!気がついたのですねっ…」ギュッ
猫「チロ、ルちゃ…苦しい…!」
チ「あわわわ!ごめんなさいっ、つい癖で…」
猫「私…どうしちゃったの…?」
チ「道路でしゃがみ込みながら泣いていました…。私が声を掛けた途端、倒れてしまったのですよ…」
猫「…そうだ。あんみつ、お金取られちゃったんだ」ポロ…
チ「…酷い方ですね!具合が悪いあんみつちゃんからお金を奪うなんて…っ」
猫「しっかりしてなかった私も悪い…から」
チ「あんみつちゃんは悪くないです…!」
猫「だるかったのもそうだけど、猫の時より大分走るのが遅くなっちゃったなぁ…」ボソッ
チ「猫の時?あんみつちゃんも、昔は猫さんだったのですか?」
猫「(しまった…!この事はあんまり他の人に言っちゃいけないって主様から言われてたのに!)」アワアワ
猫「…あれ?」
猫「あんみつ、”も”?」
?「チロル、チロル!」
猫「?」
チ「あっ、ご主人様が呼んでいます!」
猫「チロルちゃん、早く行ってあげて」
チ「で、でもあんみつちゃんが…」オロオロ
猫「私ならもう大丈夫ー!それじゃあね!」ダッ
チ「ま、待って…っ」
猫「…チロルちゃんは良いなぁ…。心配して迎えに来てもらえるんだもんなぁ」ハァ
猫「また具合悪くなってきちゃった…早く帰らなきゃ」
…
猫「た、だいまぁー…」
姉「…」
猫「あれ?」
姉「あなたが、男の彼女なの?」
猫「…っ、姉様だ!主様の姉様だ!」
姉「あら、あたしのこと聞いてたの!なんか嬉しいー」ニコニコ
猫「姉様姉様っ!会いたかったー」
ギュッ
姉「…でも、その”主様”って何?あの馬鹿がそういう風に呼ばせてるわけ?」
猫「主様は主様だよー」
姉「(可愛い女の子に何を言わせてんのよ…)」
猫「?」
姉「よし!今度来た時は色々持ってきてあげるわ!」
猫「やったー」
姉「ね、何が好き?どんなブランドが好み?」ワクワク
猫「あんみつ!」
姉「あ、あんみつ?聞いたことないわね…。分かった!頑張って探すわ!」
姉「じゃ、また来るわ」
猫「またねー」
姉「…もうっ、本当に可愛い!」
ギュッ
猫「ま、また痛い…っ」
姉「あんた抱き心地良いわねー!」
…
猫「姉様、相変わらず優しかったー。相変わらず力も強かったけど…」
猫「姉様とお話してたら、いつの間にか具合良くなったみたい!良かった良かったー」ニッコリ
猫「私は、主様の”彼女”じゃないのになー」
猫「…じゃ、主様の”彼女”って誰、なの…かな…」
…
男「…なるほどね」
猫「ごめんね、主様」
男「何かされなかったか?怪我とかしてねーよな?」
猫「…心配、してくれるの?」
男「ばか、当たり前だろ?金なんかより、お前のほうが大事だからな」
猫「…主様、あんみつの心配してくれた…嬉しい…」
男「そういや…どうしてあんみつは人間になったんだろうな」
友「随分今さらな話だね」クスクス
男「そういう心配してる余裕なんかなかったんだよ」
友「…いつ、戻っちゃうんだろうね」
男「…」
友「戻ったら、寂しくなっちゃうね?男」
男「あ?別に寂しくも何ともねーよ。猫のほうが食費浮くし」
友「(嘘ばっか…)」
男「(猫に…戻る、か…深く考えたことなかったな)」
親「男ー!いたいた」タタッ
男「何だよ」
親「なぁ、明日暇?」
男「予定はねぇけど…」
親「やりぃ!じゃ、明日3人で遊園地行こうぜ!」
男「野郎と遊園地なんて嫌に決まってんだろ」ハァ
親「暇なら良いじゃねーかよ。じゃ、いつもんとこに9時なー!」タタタタッ
男「お、おい親…!」
男「…はぁ。ま、気分転換にはなる、か…」
猫「主様、今日もお出かけ?」
男「あぁ。出来るだけ早く帰るようには心掛ける」
猫「いってらっしゃーい」
男「…あんみつ」
猫「なぁに?」
男「お前は…猫に戻っちまうのか?」
猫「わかんない」
男「そんなキッパリ…」
猫「だってわかんないもーん。人間になった理由だってわかんないしー」
男「まぁ…そうだけど…」
猫「あんみつはいつ戻っても良いけどー。あ、そうだ主様!」
男「何だ?」
猫「気を付けてね!」
男「…おう」
男「…!何考えてんだ、俺…」
…
男「…誰もいねぇじゃねーか」
男「(親はともかく、友が遅刻って珍しいな…。電話でもしてみっか)」
ピッピ... ピ
女「男くーん!」
ピ...
男「…なんで、ここに女が…」
男「…何しに来た」
女「え?親君にここで男君と待ち合わせ、ってメールが来たんだけど…」
男「(あの野郎…後で殺す。ぜってぇ殺す)」
…
ゴソゴソ...
友「…あーあ。やっぱり怒ってる」
親「やべーかな、後で切れっかな、男」
友「殺されるかもね」
親「…」
男「何がせっかくだよ…俺は帰…」
女「いいから!」グイッ
男「お、おい…!」
…
友「あー、流されちゃってる流されちゃってる」クスクス
親「…案外楽しんでるな、友」
友「人間模様ほど、見てて面白いものはないんだよ?親」
親「こわー」
友「ま、僕はあんみつちゃんの味方になるかもしれないけどね」
親「あんみつ?」
女「次はあれね!あれっ!」
男「(…早く帰りてぇ…)」
男「(観覧車…。あんみつが喜びそうだな…)」
男「(あー、観覧車よりかはメリーゴーランドのほうが好きそうだ)」
女「…ん、男君!」
男「!な…何だよ」
女「人の話聞いてた!?」
男「いや…全然…悪かった」
女「もうー」
男「(あれ…。今、俺あんみつのことばっかり…)」
猫「(寝れないし、寂しいし、何だか苦しい…)」
猫「人間って…やっぱり辛いかもだよ…主様)」
…
女「男君、次はあれ…」
男「悪い、女」
女「…?」
男「もう、お前とはこうして二人にはなれない」
男「傍に居て欲しい人が出来たから、だろうな」
女「例の彼女?」
男「…彼女では、ない。けれど、前々から大事な存在だった」
女「…」
男「大切だったのに、なかなかその思いに気付けなかったんだ。でも…」
”…いつ、戻っちゃうんだろうね”
”気を付けてね!”
男「居なくなるかもしれないって不安を感じたことで、段々と大切さが分かってきたっていうか…」
男「それどころか、恋愛感情かどうかも分からねぇ」
女「…!そんなのおかしいよ!」
男「…あいつとの時間を何よりも大事にしたいんだよ、今は」
女「…」
男「確かに、お前のことは好きだった。別れてから、心が揺れたことも度々あった」
男「でも…今はあいつでいっぱいいっぱいになってる俺がいるんだ…」
男「馬鹿な上に単純だろ?そんなもんなんだよ、男って」
女「…」
女「やだ…やだよ、男君…」フルフル...
男「…悪いな。気を付けて帰れよ」
スタスタスタ...
女「やだ…やだよ…っ」
…
友「(僕が思ってる以上、だなぁ…当たり前か)」
親「お、おい!男が帰っちまったぜ!?」
友「男からも女さんからも責められちゃうだろうね、親」
親「…」
ガチャ…
猫「…!主様おかえりーっ!」
男「…っ、あんみつ…!」
ギュッ
猫「あ、あれ…?」
男「ただいま…ごめんな、寂しかっただろ…」
猫「(いつもは、私からぎゅーってしたり、すりすりしたりするのに…)」
猫「主様、変。何かあった?」
男「…」
猫「?もちろんだよ!楽しいし、すごく幸せだよ」
男「良かった…」
男「俺も、すげぇ幸せ」
猫「!…主様、あんみつが側に居るだけで幸せ?」
男「そりゃもう」
猫「じゃ、ずっと側に居るよ!それならあんみつにも出来るもん!」
男「…さんきゅ」ギュッ..
友「へぇ、一人暮らしするんだ」
男「あぁ。学校から近いほうが便利だと思ってな」
友「でも寂しいんじゃない?男、こー見えて寂しがり屋だから」クスクス
男「…んなことねーよ」
友「寂しいのなら、癒してくれるペットでも飼ってみたらどうかな?」
男「だから寂しくなんかねーっての!」
?「いらっしゃいませー」
男「(…来ちまった)」
男「(ま、まぁ別にちょっと見に来ただけだからな!)」
?「どんな種類の子をお探しで?」
男「…じゃ、猫で」
?「(じゃあ?)」
男「(猫なら実家でも飼ってるから慣れて…いやいや、ただ見に来ただけなのに何考えてんだよ!)」フルフル
?「…お、お客様?」
男「(…流行って何だ。猫は猫だろ)」
ジー…
男「…何で、コイツだけケージに入ってるんだ?」
?「あ、あぁその子は売れ残りでして…今から裏に運ぶ予定なんですよ」
猫「みゃぁ」
男「(…可愛いし)」
?「はい?」
男「この猫はいくらかって聞いるんですよ」
?「あぁ、無料で結構ですよ」キッパリ
男「…つい最近までは値を付けてたのに?」
?「もう売ってるわけではありませんから」
男「(良い人なんだか悪い奴なんだかわっかんねーな…)」
男「じゃ、俺が貰っていきます」
男「…美味いか?」
猫「…」モグモグ
男「無視かよ」
男「(つーか…飼っちまった…)」
猫「にゃあ」
男「…何だよ」
猫「にゃ、にゃ」
男「…ははっ、お前可愛いな」
ナデナデ
男「なぁ、さっきは無視なんて言っちまって悪かったな」
猫「…」モグモグ
男「無視かよ」
男「そういや、冷蔵庫にあんみつが…」
猫「にゃ!にゃ」
男「…何だ?急に」
男「おーい、美味いか?」
猫「…」
男「…そういや、冷蔵庫にあんみつ…」
猫「にゃあ!みゃ」
男「そういや」
猫「…」
男「冷蔵庫」
猫「…」
男「…あんみつ」
猫「みゃー!にゃあにゃあ」
男「…あんみつ」ボソッ
猫「みゃー」
スリスリ
猫「にゃ、にゃ」
男「お前の前世はあんみつなのか?」
猫「にゃ?」
男「…何でもない」
男「(猫相手に何本気に頭捻ってんだよ…)」
男「んでな、今日は友達にすっげー自慢してきたんだ」
猫「…」
男「名前呼ぶとすっげー反応してくれる、ってな」
猫「みゃー」
男「親馬鹿だ、って言われちまった。ったく、馬鹿って言ったほうが馬鹿なんだっての」
猫「?」
男「お前も覚えとけよ、あんみつ」
猫「みゃ!」
猫「…」
男「利用してるみてぇで…ごめんな」
猫「みゃ、みゃ!」
男「大丈夫だって、捨てたりしねーから。一人の寂しさに慣れたって、お前は手放さねーよ」
猫「にゃ…っ、にゃ」
男「今まで以上に、幸せにしてやっから。そしたら…帳消しとまではいかないだろうけど、少しは許してくれよな」
猫「…」
猫「みゃ」
男「今日は一緒に寝ようぜ」
猫「にゃぁ」
男「(…名前以外にも反応してくれるようになったな)」
男「お前が猫として側に居てくれて…本当に幸せだ」
猫「みゃ…」
男「ありがとな、あんみつ」
~
ギシッ…
男「(随分懐かしい頃の夢だったな…。)」
男「まぁ、何年も経ってねーか…」
猫「何が経ってないのー?」
男「!…いきなり声掛けんな、びっくりすんだろうが!」アセアセ
猫「主様がいけないんだよー、一人言うるさいからー」
男「ご主人様に向かって何だその言い方は」ベシッ
猫「むぅ。痛い!馬鹿!」
男「馬鹿って言ったほうが馬鹿だって何回も教えただろうが」
ピンポーン..
猫「!おっきゃくさまー。姉様かな?」
猫「はーい」
ガチャッ
友「こんにちは。あんみつちゃん」
猫「わぁ、友さんでしたー!」
猫「主様はただいま外出中!あんみつの好きなベーコンを買いに行ってくれてるの」
友「そっか。じゃ、これ渡しておいてくれる?」
猫「もちろんです!」
友「…僕は、ずっと前からあんみつちゃんの味方だからね。これからもずっと」
猫「?」
友「あはは、ごめんごめん。こんな話、急にされてもビックリするだけだよね」
友「なら良かった」ニッコリ
猫「でも、どうしてあんみつの味方で居てくれるの?」
友「…男のことを、誰よりも何よりも癒してくれてた存在だからだよ」
”聞けよ、友。あんみつの奴、自分の名前に反応するんだぜ”
”俺がこんなに幸せなのは、お前が薦めてくれたおかげだよな!サンキュ”
友「ずっと、ずっと前から君にお礼が言いたくて仕方がなかったんだ」
猫「…」
友「でも、男が助けてくれたんだ」
猫「主様すごい!」
友「うん。男が居なかったら、今の僕はなかったと思う」
友「だからね、男には恩返しがしたかったんだけど…なかなか出来なくて」
友「でも、僕の代わりに男を幸せにしてくれる存在が現れたんだ。それがあんみつちゃんなんだよ」
猫「…えへへ、嬉しいな」
猫「前に、主様にも同じようなことを気がする…」
友「両親が居ないからね、なかなか素直に接することが出来る人だって少ないだろうし」
猫「…私、ちゃんと主様のお役に立ててるよね?」
友「もちろんだよ。これからもきっとそうだろうし、僕が誰にも邪魔させない」
猫「…っ、私、これからもずっとずっと主様のお側に居るよ!友さんの為にも!」
友「ありがとう、あんみつちゃん」
友「うん。恩人だしね」
猫「友さんは優しいからあんみつも好き!」
友「僕も好きだよ」
猫「なんかね、友さんは主様とは違うの」
友「?」
猫「…友さんは、私のお友達でいいんだよね?」ソワソワ
友「うん、大歓迎だよ」ニッコリ
猫「!…嬉しいっ!」
猫「そうだよ!主様は、私の”ご主人様”だからお友達じゃないの」
友「うん、友達とは違うかもね」
猫「…主様には、”彼女”って居るのかなぁ」
友「居ないよ!てか、居るはずがないよ」
猫「どうして…?」
友「男はあんみつちゃんで頭がいっぱいだからね。他の女の子なんか眼中にないと思う」
猫「あんみつ、特別なんだね!」
友「そうだよ。特別」
猫「主様!お、おかえりー」
友「おかえり」
男「…何が特別なんだよ。気になるじゃねーか」
猫「な、何でもないよー!」アワアワ
男「?」
友「…」クスクス
猫「主様、主様」
男「んー?」
猫「いつもお側に居させてくれてありがとう」
男「…なんだよ、いきなり」
猫「だって、私が人間になっても気持ち悪がらないでくれた。変わらずに接してくれたもん、主様」
男「あんみつはあんみつだからな」
猫「だからね、あんみつ嬉しいの。ありがとう」
男「分かった分かった!あんまり言うなって。照れっから…」
猫「人間になれて良かったな、って久しぶりに思えたよ!こうやってお礼が言えたり、友さんともお話出来たしー」ニッコリ
男「…だから何なんだよ、何が特別なんだよ」
猫「ひみつー」
男「教えろよ!」
親「こ、この前はごめんな!」
女「…別に?元はと言えば私が頼んだことだし」
親「(…!怒られないで済む!)」
女「それに、まだ諦めたわけじゃないから」キッパリ
親「…へ?」
女「協力、してよね?」
親「(マジかよ…)」
友「男」
男「…」
友「(最近、ボーッとしてることが多いなぁ…)」
?「おーい、男!」
友「今は話し掛けても無駄みたい。どうしたの?」
?「男に話があるって、女の子が尋ねてきたんだよ」
友「(女さん…かな?)」
友「分かった。代わりに僕が応対するよ」ガタッ
友「こんにちは」ニッコリ
後「…あれ?友先輩、ですよね」
友「ごめんね。男、今忙しくて話を出来る状況じゃないんだ」
後「…」
友「何か言付けがあるなら、僕が伝えとくよ?」
後「…いえ、大丈夫です。ありがとうございました」ペコリ
スタスタスタスタ
友「(何の用だったんだろう…)」
友「男、男!」ユサユサ
男「…っ、あ…わり。どした?」
友「(よく見たらすごい顔してる…。寝てるのかな)」
友「さっき、後ちゃんが来たよ。男に用がありそうな感じだった」
男「…マジかよ。俺、あいつ苦手なんだよな」
友「何で?」
男「んー、色々とな。今更何の用なんだか」
友「…?」
猫「…ほぇ」
猫「んー、寝てたのかー…」グシグシ
猫「(まだ3時…。主様が帰ってくるのは4時くらい…)」
猫「…寂しいなー」ゴロン
…
親「さ、今日はデートデート!」
男「おい」
親「…な、何!?」ビクッ
男「掃除代われ」
親「…はい」
男「(…っ、はぁ…早く帰らねーと。あんみつには俺が…)」
ドン!!
男「…いてぇっ」
?「ちょっと!それはこっちの台詞よ!」
男「…あぁ?」
?「いきなり飛び出してきた君が悪い」
男「な…っ、あんただって走ってただろ!?」
?「…夢中になりすぎて、何かを見失っちゃ駄目よ」
男「何を言って…」
?「ちゃんと忠告しといたからね?少年」
猫「(今日は遅くなるって言わなかったもん。主様、嘘付いた!)」
ガチャッ…タタタタッ
男「あんみつ、ただいま」
猫「…おかえりー」ボソッ
男「はぁ…変な女に会ってさ。何だか知らねーけど説教された」ハァ
猫「(お、んな…)」
男「挙げ句の果てにはあんみつ奢れ、なーんて脅迫してきたんだぜ?有り得ねぇよな」
猫「…」
男「な、何だよいきなり」ビクッ
猫「あんみつ、すごく寂しかった…。心配だってしてたのに…っ!」
男「あ、あんみつ…」
猫「それなのに、あんみつのことなんか忘れて他の人とイチャイチャしてたなんて!」
男「イチャイチャなんかしてねーよ!」
猫「ばかばか!主様なんて嫌い!」
男「…っ!」
猫「…」
男「俺だって必死に走って帰ってきたってのに。お前が一人で寂しがってると思ったから…お前が、心配だったから…っ」
猫「…そ、そんなの嘘だ」
男「…そうか。分かった」
猫「あんみつのことなんて、どうで…」
男「ならそう思ってればいい。もう知らねぇよ、お前のことなんか」
猫「っ、そ、そーするもん!」
猫「…主様、どこか行…」
バタン!
猫「…っ!」ビクッ
猫「…あんみつ、主様のこと怒らせた…。ついムキになって、あんなことを…。最低だ、私…」ポロ...
猫「ご、ごめんね主様…駄目な子でごめんね…」ポロポロ
男「はぁ…勢いで外出ちまった…」
男「(俺の気持ちも知らないで…あんみつの奴…っ)」
トタトタトタ...
男「(!…あんみつ、か…?)」
男「んだよ。テメェか…」チッ
後「誰だったら良かったんですか」
男「関係ねぇだろ。つうか、もう関わってくんなって言ったよな」
後「私じゃなくて、誰が良かったか聞いてるのに」
男「(うっぜぇ…)」
男「…っ、うっせーな!俺の大切な女からの迎え待ってただけだっての!」
後「…そんな人居るなんて聞いてない」
男「何でお前にいちいち話さなきゃいけないんだよ」
後「女って人?まだ付き合ってるの?」
男「んなわけねーだろ」
後「…誰」
男「誰が教えるか。もう近寄んなよ」ガタッ
スタスタスタスタ...
後「…誰なんだろ」
猫「ぅ…っ、主…様…」ポロポロ
ガチャ...バタン
スタスタ…
男「…あんみつ」
猫「ひっく…、主様…主様」
ギュッ
猫「ご…ごめんね、ごめんなさい…っ」
男「あんみつ…」
男「俺こそごめん、ごめんな…」
男「最低なのは俺のほうだ。怒鳴った上にあんみつを放っちまったんだから…。結局、寂しい思いをさせたな…ごめんな、あんみつ」
猫「…あんみつのほうが悪かったの。ごめんね…ごめんね…。やっぱり、喋れないほうが迷惑掛けないよね…っ」
男「何言ってんだよ。悪いのは俺だって…」
猫「うぅ…っ、はぁ」
男「もう大丈夫だからな…」ギュッ
男「今日は寝付くまで側にいっから」
猫「…ありがとう」
男「本当に悪かった」
猫「私もごめんね、迷惑掛けちゃってごめんね」
男「…あぁ」ナデナデ
猫「私、主様に頭撫でてもらうのすごく好き。ずっと前から好き」
男「…おやすみ」
猫「おやすみ、なさい…」
男「それじゃ、行ってきます」
猫「行ってらっしゃい」
男「…」
猫「…」
男「今日はちゃんと4時に帰ってくるから」
猫「…!うん、待ってる!」ニパッ
男「いい子だ」ナデナデ
…バタン
猫「いい子って言ってもらえた!嬉しいなっ、嬉しいな」
猫「…あれ?」
猫「(このノート、主様のだ…。忘れ物かな?)」
友「(今日は機嫌がすこぶる良いみたいだなぁ)」クスクス
親「なぁなぁ」
友「何?」
親「なんか今日の男…にたにたしてて気持ち悪くね?」
友「幸せな証拠だよ」
親「何で幸せ!?新しい彼女でも出来た!?」
友「どうしていつも女関係の話に持ってくかな…親は」
男「(あんみつでも買って帰るか…。いや、帰ってから2人で買いに行くのもアリだな)」
親「今度は悩んでるな…」
友「コロコロ表情が変わるから見てて面白いね」
猫「…お家から出てきたは良いけど、学校がどこにあるか分からないんだったー!」
猫「(ど、どうしよう…!)」アワアワ
?「あら、今度は迷子?」
猫「この前の…!」
?「こんにちは」ニッコリ
猫「こ、こんにちは!」ペコリ
?「また会えるなんて嬉しいわ。それで?どこに行きたいの?」
猫「え…えと、主様の学校に…」
?「任せて」ニパッ
猫「…わ、ここが学校…」
?「ね?任せてって言ったでしょ」
猫「ありがとうございました!」
?「挨拶も、お礼もきちんと出来るのね。それに引き換え、”主様”は…」ブツブツ
猫「?」
?「何でもないわ。それじゃ、またね。ちゃんといい子にしてるのよ?」
猫「あんみつはちゃんといい子にします!主様との約束でもありますし!」
?「よしよし」
…
猫「(…あれ?そういえば、何であの人は主様がここの学校に通ってるって知ってるんだろう…?)」
猫「…ま、いいや!それよりも早く届けないと!」タタタタッ
猫「…よし、誰かに尋ねてみよー!」
猫「(待っててね、主様…!)」タタタタッ
…
猫「あ、あの…!」
女「?どうしたのー?」
女「(あたしよりちょっと下、かな?私服だから学生じゃないし)」
猫「(そ、そうだ!主様って呼んでも通じないんだ)」アセアセ
女「?」キョトン
猫「…男、さんって知ってますか?」
女「…!」
猫「も、もしもーし…」
女「…ちょっと。男君の何なの?」
猫「(い、いきなり雰囲気変わった!?」ビクッ
猫「わ、私は…」
友「彼女は男の従姉妹だよ」
猫「…友君」
女「あっ、そうだったの?なーんだ!それならそうと早く言ってくれれば良かったのに」ニッコリ
猫「へ…?」
女「(男君のご親戚に失礼な態度を取るとこだった…危ない危ない!)」
猫「主…、男…さんに忘れ物を届けに」
女「えーっ、わざわざ来てくれたんだ!」
友「分かった。男のところまで案内するよ」ニッコリ
猫「あ…ありがとう!」
女「またねー」
猫「は…はいっ」ペコリ
スタスタ…
友「大丈夫だった?」
猫「う、うん。あの人、ちょっと苦手かも…うぅ…」
友「気持ちは分かるよ」
猫「…それに、男君って呼ぶのにも抵抗あったの」
友「慣れてないからだろうね」
猫「…ありがとう。友さんが来てくれなかったら、あんみつ…どうすれば良いか混乱してた」
友「いや、僕も勝手に従姉妹だなんて言っちゃってごめんね」
猫「ううん!そう言っておいたほうが良いんだって、あの雰囲気で分かったから大丈夫。助かったよー…」ハァ
友「(結構…頭が良いんだよな、あんみつちゃんって)」
親「さっきから何ブツブツ言ってんの?」
男「お前には関係ねーよ」
親「ひでぇ!」ガーン
友「男」
親「友!良いとこに来たーっ。男ってば酷いんだぜ?なんか俺には…」
友「ちょっとうるさいから黙ってて」
親「もっとひでぇよ!」
男「…後だろ、どうせ」
友「(?随分表情が暗くなったな…何かあったのか)」
友「違うよ、あんみつちゃん」
男「…っ!!本当か!」ガタッ
友「うん。廊下で待たせてるから早く会いに行ってあげて」
男「サンキュ…ッ」タタタタッ
男「あんみつ…!」
猫「あ、主様ー!良かった、会えたー」ニッコリ
男「ど…どうしたんだよ」
猫「これ、お届けに来たの!」
男「(数学のノート…。でも、今日は必要なかったんだけどな)」
猫「主様が困ってるかな、って思って!あんみつ、頑張って学校に来たんだよ!」
男「…あんみつ」ジーン...
男「ありがとな、おかげで助かった。今日はこれがなきゃ駄目な日だったからよ」
猫「へへっ、良かったー」ニッコリ
猫「?」
男「今日、ずっとあんみつのことばっかり考えてたんだ。だから…お前が来てくれて、なんつーか…すっげぇ嬉しいんだ」
猫「…主、様…」
男「…変だよな!」アセアセ
猫「そんなことないよ、主様」
男「そ、そうか…?」
男「あ、んみつ…」
猫「ずっと、ずっと…主様が私を選んでくれた日から、ずっと」
猫「あんみつの大切な”ご主人様”だから」
男「…ありがとな。いい子だ」ナデナデ
猫「今日は褒められてばっかりだー」ニッコリ
男「…もう帰っちまうのか?」
猫「学校は私が長居しちゃいけない場所だから!お邪魔になっちゃう」
男「分かった。気をつけて帰れよ?」
猫「うん!あんみつ、ちゃんと帰って主様のお帰り待ってるー」ニパッ
友「(端から見たらカップルそのものだなぁ…)」
親「友!」
友「…何、邪魔しないでよ。せっかく今良いと…」
親「だ、誰だよあの女の子!」
友「男の従姉妹っていう設定だよ」
親「設定!?どういう意味だよ!」
友「…声大きいって」ハァ
親「…ノート持ったまま、立ち尽くしてるな」
友「顔が真っ赤だ。珍しいね」クスクス
スタスタ…
男「…んだよ、お前ら居たのか」
友「帰っちゃったの?」
男「あぁ」
友「なんだ、残念だな」
親「な、従姉妹っていう設定ってどういう意味だよ」
男「…友がそう言ったのか?」コソッ
友「うん」
男「サンキュ。そのほうが良いだろうな」
親「なー、教えろよー」
猫「ふんふんふーん。ちゃんとお届け出来たー」ニコニコ
猫「私、ちゃんとお力になれたよね。主様、喜んでくれたよね!」
…
親「なーに言ってんだよ!有り得ねーだろ!」
男「…だから言いたくなかったんだ」ムスッ
友「同意見だね」
親「は…?え、何?マジなの?」
男「(やっと放課後…!さっさと帰んねーと!)」ダッ
親「男!さっきの話の続き…ってもういねーし…」
友「僕が話してあげるから」
…
男「…くそっ、何でこーいう時に限って靴紐が解けてんだよ!」
後「…先輩」
後「さっき、女の子と喋ってたでしょ。見てた」
男「…何で2年の校舎に来てんだよ。相変わらずだな、お前」
後「先輩。誰?あの子。この前言ってた子?」
男「(めんどくせぇなもう…)」イライラ
後「…私だって我慢してたよ。先輩に、怒られてから…。でも、でも女って人とデートしてた…!私が、我慢してるのに先輩はデートだなんて…!」ギリッ…
男「(はぁ…。やっぱり行かなきゃ良かった)」
後「女って人ずるい。先輩と別れたと思ったら、またデートするなんて、ずるいずるい…!」
男「…俺とアイツが別れることになったのはお前のせいだろ」
後「…っ!」
男「親に女の浮気現場を見られるよう、仕向けたのはお前だろ」
後「…」
男「女は勘違いだって言い張ってるけどな。親は親でお前の思惑通り誤解しまくったし」
後「…どうして、私のせいだって分かったんですか」
男「女の浮気相手がお前の元彼だって聞いたら、そりゃあ誰でもピンと来るだろ」
男「…意味わかんね」ハァ
後「ねぇ、お願い先輩…。好きで、好きで仕方がないんです…!仕方がないことだったんですよ!」
男「…もう、うんざりなんだよ」
後「え…?」
男「浮気だとか、他の女がどうとか…うんざりなんだって…」
後「…」
男「お願いだから…今の幸せを壊さないで欲しい。頼むから」
男「本当に、大切なんだよ。初めてなんだよ、こんな気持ちを持ったのは」
後「せ…んぱい…」
男「…帰る」スタ..
後「…その存在って、やっぱり前に言ってた子ですよね。先輩の彼女なんですよね」
男「…っ」
後「い、とこ」
後「そ…んなの変ですよ!親戚に恋してるなんて…!」
男「うっせーな!関係ねーだろ!!」バンッ
後「…!」ビクッ..
男「もう話掛けるんじゃねーぞ…近寄っても来るな」
スタスタスタ...
後「おかしいですよ、先輩…。目を、覚まさなきゃ…」ボソボソ
男「(彼女ではない…。従姉妹、でもない…)」
タタッ...ピタ...
男「…今の俺とあんみつの関係って、何なんだろう…」
…
友「…ん?あれは…」
後「…」
友「(後ちゃん…。なんで下駄箱に立ち尽くしてるんだろ…)」
親「友ー!!わりぃ、待たせたな!!」
後「…!」ビクッ
タタタタッ...
友「…あーあ、行っちゃった」
親「?何がだ?」
猫「ね、主様ー」
男「ん?」
猫「さっきね、テレビ見てたの。そしたらね、男より女のほうが寿命短いって。本当なの?」
男「あー、ほんとほんと」
猫「どうして?」
男「さぁ、どうしてだろうな。それよりもお前、テレビを見る時は離れろっつったろ」
猫「だだだだってテレビ面白いからついつい近くで見ちゃうんだもん!」
猫「何?ちゃんと離れて見てるよ?」
男「そうじゃなくて」
猫「?」
男「…あんみつは、俺の…こ、こ…」
猫「こ?」
男「…っ、なんでもない」プイッ
猫「?変な主様ー」
男「(心臓がバクバクうるさい…!何だこれ…っ)」
男「行ってきます」
猫「行ってらっしゃーい!早く帰ってきてねー」
男「…お、おう」
猫「…なーんか変。主様、昨日から変!」
男「んなことねーよ…」
猫「変ったら変!」
男「よく考えてみると…新婚みたいだな…って、な…」ボソッ
猫「何?よく聞こえない」
男「…っ、行ってくる!」
ガチャッ...ダダダ
猫「…むぅ。やっぱり変」
友「…それで、あんみつちゃんと上手く話せないわけか」
男「おう…」
友「(意識してるってことに気付いてないのかな…)」
友「何でだか分からないの?」
男「分かってたらこうして相談なんかするかよ」
友「(無自覚か…)」
男「なぁ…何でだか友には分かるか?」
友「(男が男自身で気付く問題だよな…)」
友「どうだろ。分からないかも」
猫「…はぁ、やっぱりお外は気持ちいいなー」
猫「みゃぁ」
猫「…うぅ、ごめんね。何言ってるかやっぱり分からないや」ショボン
猫「(そう言えば、このお友達の猫ちゃんの名前…なんだっけ…)」
後「…あの」
猫「?」
後「…男さんの、お家って分かります?」
猫「はい!知ってますー」ニッコリ
後「どうして、分かるんですか?」
猫「ふぇ!?え…えと…」オロオロ
後「教えて下さい」
猫「(あ、あれを言えば…っ)」
猫「私、は…従姉妹だからですよ!」
後「(この子が…男先輩の言ってた…)」
猫「あ、あの…」オロオロ
後「…男さんに、会いたいんです。家の前で待たせてもらっても良いですか?」
猫「だ、大丈夫ですけど」
スタスタ…
猫「(あ、れ…何でこの人、こっち方面だって知ってるんだろ)」
猫「(結局…私が付いてく形になっちゃった。おかしい…)」
後「じゃ、待たせてもらうんで」
猫「…だめ」
後「は?」
猫「よ、用件なら私が聞いて男、さんに伝えます!なので、お帰り頂けますか…っ?」
猫「(やっぱりだ…。なんか、嫌な予感がする…。学校で会った女の人と喋った時と一緒の…)」
猫「(この人と、主様を会わせちゃ駄目な気がする…!)」
後「ねぇ」
猫「…っ」ビクッ
後「どうして、いきなりそんなこと言い出したの?」
後「もしかして、先輩から聞いてるの?」
猫「え…」
後「私が先輩のことを執着してて、ストーカーまでしてたこと」
猫「…す、とーかー」
”実はさ、最近ストーカーに悩まされてんだよな…”
”ずっと見張られてるみてぇで怖いんだ…。今日は一緒に寝てくれるか?”
”どうして、こんな目に合わないといけないんだろうな”
猫「(私が猫だった時…主様が悩んでたのは、この人のせいだったんだ…)」
後「!?」
猫「お願いだから帰って…っ!主様を困らせるのはもうやめて!」
後「…」
猫「主様、すごく傷付いてた…!いつも寝れない日々を過ごしてた!だか…」
パンッ!!
猫「…え…」
後「あんたに先輩の何が分かるの!?”従姉妹”だから特別とでも思ってるんでしょ!」
猫「(ほっぺ…じんじんする)」
猫「まっ…」
タタタタッ
猫「…行っちゃった」
猫「あんみつ…頑張ったよね。主様のこと、守れた…よね」
ポロポロ…
猫「っ…ひっく…わ、私は特別だもん…っ。”従姉妹”なんかより、きっと特別だもん…!」
猫「…痛いよ、主様…。色んなところが痛いよ…」
猫「(道路のど真ん中でしゃがんでたら…迷惑になっちゃう…)」スクッ..
トボトボ…
猫「最近…主様の様子がおかしかったのは、あの人のせいなのかなぁ…」
猫「はぁ…とにかく、早く冷やさなきゃ…」
男「ただいま。今日は少し時間があったからスーパーであんみ…」
猫「主様おかえりー」トタトタ
男「ど、どうしたんだよ…!その頬!真っ赤じゃねーか」
猫「(やっぱり冷やしても駄目だったかぁ…)」
男「あんみつ!」
猫「か、階段で転げ落ちちゃった時にほっぺを手摺りにぶつけちゃったの」アセアセ
男「…痛かっただろ。待ってろよ、今冷やすもん持ってくっから!」
猫「待って、主様」
男「…っ、なんだ…?」
男「…?」
猫「”従姉妹”よりも特別だよね…?主様の”ペット”だよね…?」
男「特別に決まってんだろ…。ごめんな、従姉妹だなんて嘘ついちまって」
猫「良いの。そう言わなきゃいけないこと、分かってるから…でも、少し不安になっちゃったの」
男「あんみつ…」
猫「私、ずっとずっと主様のこと見てきたよね?ずっと一緒だったよね?ちゃんと主様のこ…」
ギュッ…
男「あんみつが1番大切だ…。不安にさせて悪かった。ごめん、ごめんな…」
猫「…」スースー
男「寝てる…」
…
男「…おし、これで大丈夫だな」ピタッ
男「すっげー痛そう…。どんな落ち方したらこんなになるんだよ…」
猫「主…様…」
男「!…あ、んみつ…?」
男「(…寝言かよ…)」
親「なぁ、あんみつにはいつ会わせてくれんだよ」
男「…誰がいつ”あんみつ”呼ばわりしていいって言った?」ギロッ
親「(こわ…!)」
友「親、人間になれて数ヶ月が経ったからってまだまだ環境に慣れてないんだから初対面の人間に気軽に会えるわけじゃないんだよ」
親「お前は会ってるじゃねーか」
友「僕は猫の時から何回も会ってるからね」ニッコリ
親「だから俺も家に誘ってくれれば良かったのに!」
女「ね」
親「…!な、何だよ女か…」ハァ
女「最近、男君はどんな感じ?」
親「ど…どうって…あん…!」
”いい?あんみつちゃんのことは、あまり人にべらべら喋っちゃ駄目だからね”
女「何?」
親「あんパンにハマってるみたいだぜ!」アセアセ
女「はぁ?」
猫「(最近、チロルちゃんに会えてないな…)」
猫「連絡先、聞けば良かった…」ショボン
姉「あ、いたいたー」タタタッ
猫「!姉様っ」
姉「家に居ないから探しちゃったわよ!」
猫「(わざわざ探しに来てくれたんだ…っ。姉様はやっぱり優しいなー…)」
姉「ね、最近はどう?男と上手くいってる?」
猫「ちゃんと仲良し!いつも笑ってるよー」
姉「そう。良かった」ニッコリ
姉「あなたみたいな素敵な家族が増えるのなら大歓迎だわ!」
猫「家族?」
姉「2人が結婚したら、あたしはあなたのお姉さんになるのよ」
猫「結婚は無理だよー」
姉「まぁ、今はね!でも、このまま仲良くやってたらその可能性が無いわけじゃないわ」
猫「姉様、もう行っちゃう?」
姉「ごめんなさいね。仕事抜け出してきたものだから…そろそろ戻らないと」
猫「また会える?」
姉「もちろんよ!男にもよろしく伝えといて」
猫「うん!姉様、バイバイ!」
姉「またね」ニッコリ
猫「…また、会えるといいな」
猫「わっ、また会ったー」
?「せっかく腫れも引いたんでしょ?なら笑って笑って!」
猫「…笑えない、です」
?「どうして?」
猫「最近、嫌なことばっかり…。姉様にも、嘘付いちゃった」
?「あんなの嘘なんて言わないわ。お姉さんに心配掛けさせたくないが為のことでしょう?」
猫「…でも」
?「大丈夫。きっと、そのうち良いことが起きるから」
猫「ほんと…?」
?「私が保証するわ」
猫「…はっ、忘れてたー!」
?「コラコラ。せっかく教えてあげたのに」
猫「ごめんなさい。最近、物忘れが激しくて…」
?「…そうね、色々と忘れてるかもしれないわね」ボソッ
猫「へ?」
?「また会いましょう。その時は、ちゃんとホットケーキを食べた感想を教えてね?」
猫「は、はいっ!」コクリ
猫「…待って下さい」
?「何?」ニッコリ
猫「あなたは、何物なの?」
?「…どういう事かしら」
猫「どうして私の頬が腫れたことを知ってるの?どうして…」
?「お姉さんに嘘を付いたことを知ってるかって?」
猫「…!は、い…」コクリ
猫「な、んで…私が猫だったことを…」
?「言ったでしょ?ずっと見てきた、って」クスクス
猫「…あなたもストーカーなの?」
?「ちょ、ちょっと!そんな者と一緒にしないでくれる!?」アセアセ
猫「だ、だってずっと見てるって…」
?「私は、あなたを猫から人間に変えた張本人よ」
?「もう!ネタバレするのはもう少し先の話だったのに!」
猫「あ…あの…」
?「しっ!」
猫「!?」
?「その続きは今度会った時に聞いてあげる。その時まで、ちゃんと変わらず良い子にしてるのよ」
猫「は、はい…」
?「じゃあね」ニッコリ
猫「…私を、人間にしたのはあの人だったんだ…」
男「…俺、ずっと無意識に否定し続けてたのかも」
友「うん?」
男「あんみつは元々猫だったし、いつ戻るかも分かんねーだろ?」
友「そうだね」
男「だから…自分の気持ちを、必死に抑え込んでた。否定…し続けてた」
友「…」
男「…正直、どうすれば良いか分かんねーんだ」
友「男」
男「ん…?」
友「そろそろ、自分に正直になっても良いんじゃない?もう、考えはまとまってるだろうし」
男「…おう」
猫「(今日の出来事は…主様には言っちゃいけない、よね。きっと混乱しちゃうだろうし)」
男「…あんみつ」
猫「!な、なに?」
男「話が…あるんだ」
猫「は、なし?」
男「…っ、やっぱりまた今度で良い!」プイッ
猫「へ?」
トボトボ...
猫「(昨日の主様、おかしかったな…。もしかしてまた…あの人が…)」
後「…ちょっと」
猫「(噂をすれば、だ…)」ハァ
後「先輩とは一緒に住んでるの?」
猫「…だったら何だって言うんですか」
猫「私は…」
猫「(あ、れ…いつから、主様とは一緒なんだっけ…)」
猫「(そもそも…どうやって主様とは知り合ったん…だっけか…)」
猫「(あ、れ…あれ…?)」
猫「…」
後「…ちょっと!無視しないで!」ガシッ
猫「…っ!?」
後「この前から何よ、その態度…!見てて本当にムカつく!」ギリッ…
猫「い、いた…っ」
ギリ…ッ
猫「痛い…っ!」
後「私は出来る!彼女にも、奥さんにもなれるんだからね!あんたとは違う…!」
猫「…結婚が出来ないことくらい、知ってるもん」ボソッ
後「何…?」
猫「私は…、私は…!」
女「ちょっと!何してんの!!」
猫「…っ、あ…
」後「(この人に見られちゃまずい…っ!)」タタタタッ
女「あ、ちょっと!待ちなさいよ!」
猫「…はぁ」
女「…何よ、いつもはあんなに大人しいくせに逃げ足は速いんだから!」
猫「(二人は…顔見知りなんだ…)」
女「とりあえず冷やさないとね」
猫「…いたっ…」ズキ..
女「あ、ごめん。染みちゃったかな…」
女「随分強く掴まれたんだね…っ。すごく赤くなってる」
猫「(どうしよう…また主様に心配かけちゃう…)」
猫「あ、あの…ありがとう」
女「平気平気!それにしても酷いね…」
orz
さっきから本当にすみません…
この世界では出来ないという設定でお願いしm
女「!まだ座ってれば良いのに…」
猫「…いえ、ちゃんとお家で待ってる約束をしたので。それじゃ…」ペコリ
女「(何だ…すごく良い子じゃない)」
猫「っ、はぁ…」
猫「(痛いけど…そんなこと気にしてる場合じゃない…っ。早く、早く帰って主様に…)」
スタスタ…ピタッ
猫「…あ、れ…お家、どこだったっけ…」
猫「何で、私は”主様”なんて呼んでるんだろ」
猫「…あ、れ…」
?「腕を掴まれただけじゃなくて、引っ張られた時に足も捻ったのね。可哀相に」
猫「あ、はは…何でも、お見通しなんですね」
?「ごめんなさいね。もう少し猶予をあげたかったんだけど…。まぁ、あなたの中では考えがまとまってるみたいだから大丈夫よね」
猫「…?」
?「んー、”猫の神様”ってところね。あなたの願いを叶えに来たのよ」
猫「か、みさま…」
?「もう少しきちんと説明したいんだけど、精神的にキテるみたいだから…」
猫「…」ポロ...
神「…ご、ごめんなさい。せっかく人間にしてくれたのに…」
?「大丈夫よ。ちゃんと分かってるから」
猫「…っ、ぅ…はい…」ポロ...
?「あなたの主様ときちんと話し合って決めなさい」
猫「はい…はい、ごめんなさい…」
?「私こそごめんなさいね、辛い思いをさせちゃって。ホットケーキの感想、聞きたかったわ」
猫「うぅ…っ、ひっく…」
男「(あんみつ…何してんのかな)」ボー
友「…男」
男「んー…?」
友「女さん、話があるって」
男「…ぜってぇ聞かね」
友「後ちゃんのことで…話があるみたいなんだ。あと、従姉妹がどうとか…」
男「!?」
女「ごめんね、呼び出したりして」
男「…どうしたんだよ」
女「さっき、偶然見ちゃったの。後って子が男君の従姉妹に突っ掛かってるのを…」
男「…いつの話だ?」
女「今日の朝だよ。あたしが学校に来る前のことだから」
チ「ご主人はあっちを探して下さいね!」
主「う、うん」
主「(学校あるんだけどな…。ま、いっか)」
主「でも、そんなに焦るチロルも珍しいな。急用なのか?」
チ「いえ…。でも、今会っておかなきゃ…もう会えないような気がして…」シュン..
主「(引っ越しの予定でもある友達なのか…?)」
男「(あの時も様子がおかしかった…。思ってみれば、手摺りにぶつかっただけであんなに腫れるはずがないのに…)」
男「…後、のせいだったのか…」ブツブツ
女「…男?」
男「!…わり、ボーッとしてた…」
女「でも、さ…男がそんなに心配がるのなんて珍しいよね」
男「…」
女「そんなに大事な”従姉妹”なんだねっ!」
男「…違う」
女「?」
男「あんみつは…俺の、俺の…っ!」
男「…っ」
女「友、君…」
友「話し合ってる最中、邪魔しちゃってごめんね」
友「…女さん、さっき友達が呼んでたみたい。教室で待ってるって」
女「あ、うん…。分かった、ありがとう」タタッ
男「…」
友「…」
友「…ごめんね、少しだけ」
男「いや、お前になら良い」
友「やっぱり…後ちゃんが何かやらかしたみたいだね」
男「やっぱりって何だよ…」
友「前々から様子がおかしかったんだ。そんなに接触はしてなかったけど」
男「…あんみつが心配だ。俺、このまま抜ける」
友「うん、先生には僕からちゃんと…」
?「ちょっと待って、少年」
友「え、知り合いなの?」キョロキョロ
?「この前はどうも」ニッコリ
男「…慰謝料でも貰いに来たのかよ。わざわざ学校まで調べて」
?「…本当に生意気ね。あんたの飼ってた可愛い猫ちゃんとは大違い!」
男「…あ?」
友「(猫って…あんみつちゃんのこと、だよな…)」
?「少年…少しは言葉遣いに気をつけたら?仮にも私は”猫の神様”なのよ?」イライラ
男「はぁ?何を言って…」
友「待って!」
男「!?な、何だよ」
友「僕らが話を出す前に、あんみつちゃんの話題をしてきたのはあの女の人からだ」
男「それが何だってんだよ…」
友「あんみつちゃんが猫だって前々から知ってたってことだろ?」
男「…」
友「この人なんじゃないかな、あんみつちゃんを人間にしたのは…」
男「…!」
?「何よ」
男「本当に、”神様”なのか…?」
?「…そうよ?何か文句あるの、少年」
男「いや…そうだったら礼を言わなくちゃ、と思って」
?「礼?」
男「あんみつ、を…人間にしてくれたこと、すげぇ嬉しく思ってるから…」
?「…」
男「…ありがとう。そして、すみませんでした」ペコリ
?「…どうも調子が狂っちゃうわね」
友「…それは、何故?」
?「人間になって、自分の主と喋ってみたかったんじゃないかしら。あの子の場合はあなたの言ってることが通じなかったみたいだし」
男「…」
友「え、通じる場合もあるんですか?」
?「人間の言葉を理解出来る猫もいるわ。ごくたまーにだけどね」
?「誤解しないで。違うわよ」
男「…猫に戻すわけじゃないのか…」ホッ
?「随分と頭が良い猫ちゃんをお持ちで羨ましいわ。それに、とっても良い子だし」
男「…?」
?「私はね、そんなあんみつちゃんの願いをもう1度だけ叶えに来たの」
」
男「…願い…」
?「このことはもう、あの子には話してあるの。だから2人でゆっくり話し合っ…」
男「…!」ダッ
友「男!?」
?「あー、こら!まだ話の途中でしょうが!!」
男「…!」タタタタッ
男「(あんみつが、ずっとずっと人間でいられる…!これからもずっと…!)」
男「…っ、はぁ…これで、これでやっと言える…!」
…
ガチャッ!!ダダダッ
男「あんみつ…!」
男「ただいま…っ、いや、それどころじゃないんだ!お前も会ったんだろ!?」
猫「神様にでしょ?」
男「そうだよ!願いを叶えてくれるって…!だから、俺達はずっと人間同士として…っ」
猫「…」
男「俺、ずっと怖くて言えなかったけどやっと言えるんだ…お前のことが、」
猫「私、人間にはならないよ主様」
猫「私は、猫に戻るの。もう決めたの」
男「な、何言ってんだよ…冗談だろ…」
猫「ううん、冗談じゃない」フルフル
男「…っ、あんみつ!!」
猫「…ごめんね。私は、人間にはなれないの」
友「はぁ…、男足早過ぎ…っ。まぁ、家に向かったんだろうけど…」タタタッ
友「(それにしても…)」
~
?「…ったく、人の話は最後まで聞きなさいよ!」
友「あの…」
?「何、まだ居たの」
友「願いを叶えるにあたって、男やあんみつちゃんにリスクってありません…よね?」
?「…さぁ、どうかな」
友「答えて下さい」
?「駄目よ。内緒って言われちゃったの。私がここで喋ったら、約束を破ることになる」
友「…誰との、ですか」
?「あんみつちゃんとの」
~
友「(一体…何を隠してるんだ…)」
トタトタ...
友「…はぁ、やっと着いた…」
友「(ドアが開いてる…入っちゃって良いかな…)」
友「男…」
男「…ふざけんなよ!!!」
友「!?」ビクッ
友「(な、何だ…?)」
友「(どうして男が怒ってるんだ…?)」
猫「…説明も何も、もう決めたことだから…」
男「それで俺が納得出来るとでも思ってんのか!?」
猫「…っ」
男「…あんみつ」
猫「…い、から」
男「あ?」
猫「私は、ずっと…ずっと主様のペットとして生きていたいから…!」
”…っ、私、これからもずっとずっと主様のお側に居るよ!友さんの為にも!”
友「(あんみつちゃんは、ずっと…ずっと…)」
”…それに、男君って呼ぶのにも抵抗あったの”
友「…っ、…何で気づかなかったんだろう…」
”そうだよ!主様は、私の”ご主人様”だからお友達じゃないの”
猫「…」
男「喋れるし、感情をちゃんと表現出来るし…!」
男「お前だって言ってただろ!?俺と喋れて嬉しい、って…人間になれて良かったなって!!」
猫「…」
男「第一、あんみつが願ったことじゃねーかよ!!」
男「…っ、はぁ…」
猫「確かに人間になりたいと願ったのはあんみつだよ?人間になれて、素敵だなって思ったこともあった」
男「なら…!」
猫「でも、思い出して欲しいな」
男「な、何を…」
猫「私は本当に、人間になりたがってた?」
男「…な、何言って…」
”主様と仲良く出来ないなら猫のほうが良かったー!!”
男「違う…違う…」
”あんみつはいつ戻っても良いけどー”
男「そんなこと…そんなこと…っ!!」
”ずっと、ずっと…主様が私を選んでくれた日から、ずっと
あんみつの大切な”ご主人様”だから”
猫「ごめんね…ごめんね、主様」
友「(人間になっても、男を”主様”としてしか思ってなかったわけか…)」
男「…」
猫「主…さ、ま」
男「…ごめん、ごめん…気づけなくて、分かってやれなくて…」
猫「…」
男「この前の頬の腫れも、その手首の傷も…俺のせいなんだ」
~
?「…夢中になりすぎて、何かを見失っちゃ駄目よ」
男「何を言って…」
?「ちゃんと忠告しといたからね?少年」
~
男「…っ、そいつを責めたって何にもならないことは…学んだはずだったのに…」
男「お、俺が…ちゃんと対処してたら…あんみつが傷付かなくても良かった、から…!」ポロ...
男「ご…ごめん、ごめんな、あんみつ…っ」
男「っ、く…う…」ポロポロ
猫「主様は悪くないよ。悪いのは…人間になりたいだなんて、軽々しく願った私なんだから」
男「…!」
猫「私が、人間にならなかったら…主様も傷付くこと、なかった。他の人だってそう…」
男「ちが…ちがう…っ」
猫「あんみつは、人間になっちゃ駄目な子だったね。”願い”でも、何でもなかったね」
男「あんみつ…!!!」
猫「だから、もう解放してあげる。あんみつの”わがまま”から、解放してあげる」
”っ…ひっく…わ、私は特別だもん…っ。”従姉妹”なんかより、きっと特別だもん…!”
猫「人間でいれば、いるほど…何もかもを欲しがりそうな気がして…怖かった」
”…結婚が出来ないことくらい、知ってるもん”
猫「一つの”願い”が叶えば、また新しい”願い”が出来ちゃって…」
”…じゃ、主様の”彼女”って誰、なの…かな…”
猫「あんみつも…苦しかったんだ。すごく…辛かったの」
猫「…ご、めんね…本当にごめんなさい…」ポロポロ...
友「(全ては男に迷惑を掛けたくないが為のこと)」
友「”主様”として見てる他なかったってわけか…」ポツリ
…
男「…」
猫「え…へへ。あんみつ、最後までわがままだよね」
男「(あんみつは…)」
猫「ほ…っ、本当はね、主様が先に死んじゃうのも嫌だったのっ。ほら、前寿命のお話したでしょ?」
男「(俺のことを…ずっと、ずっと想ってくれてたのに…)」
猫「さ、早く神様にお願い叶えてもらわなきゃ!あんみつの記憶が無くなっちゃう前に!」
男「(なのに俺は…俺は…っ!)」
男「…分かった」
猫「え…?」
男「あんみつの”願い”なんだから、俺が無理強いするのも変な話だしな」
猫「主、様」
男「あんみつの好きにしたら良い。俺はもう、何も言わない」
猫「…」
男「…今度は、俺が我慢する番だから」
男「俺が嘘付いたこと、あるか?」
猫「…ない」
友「(男…)」
男「まぁ、前の生活に戻るだけだしな」
猫「…」
男「…ただ、戻るだけだ」
猫「う、ん」
男「…なぁ、あんみつ」
猫「なぁに?」
男「俺も、ずっとずっと…
…主人として、”ペット”としてのあんみつが好きだからな」
男「ほら、神様とやらんとこにさっさと行って来い。早いほうが良いだろ」
猫「主…様」
男「どうなるかは知らねぇけど、俺はずっとここに居るから」
猫「…っ、うん。行ってきます、主様」
男「気をつけてな、あんみつ」
猫「…」タタタッ
男「…うっせ、見物料取るぞ」
友「ほんと…二人揃って嘘つきだね」
…
猫「…っ、いた…!」ズキズキ
猫「(やっぱりまだ痛い…)」
猫「…違う。痛いのは、足と腕だけじゃないみたいだね…」
猫「…神様だぁ…。良かった、早めに見つかって」ホッ
?「ちゃんと、話し合ったのね?」
猫「…はい」コクリ
?「さっきのお願い事に変更は?」
猫「…ありません。よろしくお願いします」
?「あの2人には、あなたの”願い”のことに関して聞かれても絶対に何も話さない、って約束」
猫「…ありがとう」ニッコリ
?「まだ時間をあげられるわ。もう少し、お別れの挨拶でもしてきたほうが良いじゃない?」
猫「ううん、良いんです」
?「…後悔、しない?」
猫「はい!」
猫「私が後悔してるのは…知らず知らずのうちに”ご主人様”としてはなく、主様を見てしまっていたこと…ただ、それだけだから」
猫「…な、何だか怖いです
?「大丈夫大丈夫。すぐに終わるから」
?「あなたが願ってくれたことで、きっとあの少年も幸せになってくれるわ。今以上にね」
猫「…よかった、です」
?「自然に意識を失い始めるから、それまでは目を開けたら駄目よ」
猫「…神様」
?「なぁに?」
猫「主様にはあんなこと言ったけど、主様と過ごせたこの数日間、幸せでもありました…。ありがとう…」
?「…どういたしまして、あんみつちゃん」
ほわほわする。
…あ、チロルちゃんと約束してたお茶…行けなかったな。
ごめんね、チロルちゃん
姉様にも、お洋服ありがとうって言いそびれちゃった。
ごめんなさい。
学校でも、道路でも助けてくれた…あの子にもお礼を言いに行くつもりだったのに…
友さんにも、”ありがとう”って伝えたかった。
神様にちゃんとホットケーキを食べた感想も言いたかった。
…みんな、ごめんなさい。
あれ…あんみつ謝ってばっかりだ…。
やっぱり、私は少しでも早く戻りたかった。
主様に迷惑の掛からない姿に戻りたかったの。
最後までわがままでごめんね。
駄目な子で、ごめんなさい。
…大丈夫。寂しくなんかない。
これからはずっと、主様と一緒
これからもずっと、大好きな主様と一緒。
男「…」
”何を言ってるんだろう、この人…。どうしてずっと、こっちを見てるんだろう”
男「…」
”…何?怖い怖い。どうしてこの人にだっこされてるの?どこに連れていかれるの?
”やっぱり、私は他の猫とは違うんだ…。駄目な子、なんだ”
”あ、れ…。暖かい。さっきまでと居た場所じゃない”
”もしかして、この人が私を助けてくれたのかな…”
男「…」
”あれ、聞こえてないのかな…。すごい嫌そうな顔してる…”
猫「にゃ、にゃ」
男「…」
”…頭、撫でてくれた…。え、ちゃんと伝わったのかな。だから…褒めてくれたのかな…”
男「…」
”こ、今度は何か考えこんじゃった…。うぅ…難しい
男「…」
”待って…どこ行っちゃうの…?ごめんなさい、ちゃんと伝わるまで頑張るから…っ
猫「にゃあ!みゃ」
”だからもう…一人にしないで…っ”
男「…」
”私、ちゃんと感謝してるよ。本当だよ”
猫「みゃー」
スリスリ
”ありがとう、ありがとう…”
猫「にゃ、にゃ」
男「…」
猫「にゃ?」
”な、何でこの人首捻ったの?”
”あれ?でも、すごく嬉しそう…。あ、笑ってくれた…!”
”…あれ、でも今日は寂しそう…。どうして泣いてるんだろう”
男「…」
”泣かないで、お願いだから…”
猫「みゃ、みゃ!」
男「…」
”私がついてるよ…っ、ちゃんとお傍についてるから…”
猫「にゃ…っ、にゃ」
”ずっと、ずっとあなたのお傍に居るって約束するから”
?「泣かないで。大丈夫、別に記憶が全て無くなるわけじゃないんだから」
猫「ほ、んとに…?」
?「今回は特別よ。あなたの記憶が無くなっちゃったら、ホットケーキの感想が聞けなくなっちゃうもの」ニッコリ
猫「…お気持ちは嬉しいけど、私が猫に戻ったら…感想なんて、喋れない…」
?「猫に戻る、それがあなたの”願い”なの?」
猫「はい。だから、本当は話し合いなんか必要ないの。もう、決めたことだから…」
猫「…私、駄目なの。猫のくせに…主様を好きになりかけてて…。そのことで主様を困らせたり、傷付けちゃって…」
?「…」
猫「だから、事が大きくなる前に…幸せな記憶が残ってる間に、戻りたいんです」
猫「…主様が辛かったり、悲しんでる顔は…もう見たくないから…」
猫「その通りです…っ!さすがは神様ですね」
?「まあね。じゃ、あなたの”願い”はこんな感じでいいのよね」ニッ
猫「はい!え、へへ…ホッとしました。これで、主様にちゃんとご報告出来ます!ありがとう」
?「あんみつちゃん」
猫「はい?」
?「願い事には、色々な可能性が秘められてることと、上手なお願いの仕方があることを覚えておいてね」
猫「?分かりました!」ニッコリ
~
”あれ…何だか良い匂い…”
男「…あんみつー。もうすぐベーコンが焼きあがるぜ?俺1人で食っちゃうぞー」ボソッ
あ「…駄目!」ガバッ
”…あ、れ?”
あ「主様が…何言ってるか分かる…」
男「何ブツブツ言ってるんだよ。ほら、さっさと制服に着替えろって」
あ「!馬鹿って言ったほう…が…」
”あ…れ、主様と喋れてる…”
男「今日もお前のせいで遅刻したら晩飯抜きだからな」
”…ひょっとして、私…”
あ「私って、特別…?」
男「何だよ今更。当たり前だろ」
”…結婚が出来ないことくらい、知ってるもん”
あ「あんみつと、主様は結婚出来る…の?」
男「ちゃんとする約束しただろ?つーかそろそろ…、その”主様”って呼び方やめろよ。付き合ってんだから」
”…じゃ、主様の”彼女”って誰、なの…かな…”
猫「…っ、主様の”彼女”ってあんみつなの?」
男「こら、今更過ぎだろうが。他に誰が居るんだよ」
ギュッ
男「お、おい…っ。いきなり何だよ…!」アセアセ
あ「主様とあんみつ、ずっと一緒だよね!あんみつが彼女でも迷惑じゃないんだよね!」
男「迷惑なわけねーだろ。ずっと、ずっと一緒だ」
あ「良かった…っ、良かった…。これで主様の”願い”も、私の”願い”も叶ったんだ!」
男「何のことだ…?」ポカン
あ「ずっと、ずっと主様のお傍に居るからねっ。ちゃんと約束守るからね!」
Fin.
良かったよ
そして読み返してみたら矛盾点や誤字脱字が…うわああああ
いつにもまして内容がぐちゃぐちゃでした…。
すみませんすみません orz
でも、無事に終われて良かったです!
見て下さった方、保守や支援して下さった方本当にありがとう。
お疲れ様。
なんというか、図々しいリクエストかもしれんが
その後の友人たちやチロルとそのご主人様とかの絡みエピソードを書いてくれると嬉しい・・・w
考え次第、スレが残ってたらまた来ます。
ちなみに、あんみつ以外の人達の中では
あんみつ=男と長年付き合ってる同棲中の彼女
と都合よくインプットされてる、なんとも有りがちな設定です。
有りがち大好きですごめんなさい
ミ。・ω・ミ 乙でしたー
ミ_uuミ
次→猫「ねぇ、起きてよ」
Entry ⇒ 2012.01.17 | Category ⇒ その他 | Comments (0) | Trackbacks (0)
猫「ご主人様、起きて下さい」
男「ん…。何だよ、もう少し寝かせてくれよ」ゴロン
猫「起きて下さい。私、チロルですよ!人間になれたのですよ!」
男「…は?」
猫「えへへ、ご主人様」
ギュッ
男「…ダメだ、俺はまだ夢を見てるんだ」ゴロン
猫「!せっかく起きて下さったのにっ。寝ちゃダメですー!」
猫「はい、存じております」ニッコリ
男「君みたいに、真っ裸で男に跨るようなビッチな子じゃないの。分かる?」
猫「え?あわわわ、すみません///」
男「…」
猫「…ご主人様、この首輪をご存じですよね?」
男「俺がチロルに買ってあげたやつ。何してんの?そういうプレイが好きなの?」
猫「違いますってばー!」
猫「わ・た・し・が!チロルなんです!」
猫「はい」ニコニコ
男「君の好きな食べ物は?」
猫「鰹節の入った猫まんまとミルクです!」
男「好きなおもちゃは?」
猫「ねずみさんの形をしたやつと…あ、ねこじゃらしも好きです」
男「…一番好きな場所は?」
猫「ご主人様の膝の上です!」
男「…君は、猫だったよね」
猫「朝起きてたらご主人様と同じ姿になってましたっ。えへへ」
男「とりあえず、それ着てて」
猫「ぶっかぶかですー!それに、ご主人様の匂いがします」ニコニコ
男「…」
男「あのさ」
猫「はいっ」
男「俺ね、今すっげー混乱してる」
猫「そうは見えませんが」
男「ポーカーフェイスだからね」
猫「でも、私には色んな表情を見せて下さってみました!」
男「まぁ…前の君にはね」
猫「…」
猫「今の私には、見せて下さらないのですか…?」
猫「…」シュン
男「俺が今まで一緒に居たのは、今の君じゃないから」
猫「…でも、私はチロルですよ。ご主人様」
男「うん、まあね。でもさ、猫だったし」
猫「ご主人様は…私が人間になっても嬉しくはありませんか?」
男「…上手く答えられないや。ごめんな」
猫「…」
男「…でもさ」
猫「…?」
男「今、混乱してるだけだから。これから一緒にいれば、慣れてくるかもしれない」
猫「!本当ですかっ!?私、ご主人様の傍に居てもよろしいんですか!?」
男「当たり前だろ?君はチロルなんだから」
猫「…!ご主人様、大好きですっ」
ギュッ
男「…大丈夫かなぁ、俺の理性は」ボソッ
猫「私、これで良いです」ギュッ
男「いやいや駄目駄目。なんか色んな意味で駄目」
猫「…?そうですか」シュン
男「とりあえず、留守番しててね」
猫「はいっ。良い子にしてます。お留守番は任せて下さい!」
男「いってきまーす」
…
男「女性の服なんて買ったことないからなぁ…」キョロキョロ
女「あれ?男君じゃない」
男「(…誰だっけ)」
女「えー、覚えてないの!?同じクラスでしょ!」
男「あぁ!そうだったね」
女「ひっどーい…。てか、なんでこんなところに男君が?」
男「え…あ、いや…」
女「もしかして彼女さんへのプレゼントとか?」ニヤニヤ
男「ち、違う!従姉妹が…急に泊ることになって…」
女「ふーん」
女「(なーんだ。男君って彼女居るかと思ったのに…)」
男「あ、そうだね。じゃ、それにしよっかな」アセアセ
女「下着とかもちゃんとあるのー?」
男「…そうか、下着も必要なのか」
女「うわー。駄目だよ、ちゃんと用意しなきゃ!」
…
男「…さんきゅ。おかげで助かったよ」
女「いえいえ」
男「悪かったね、付き合ってもらっちゃって」
ゴソゴソ
男「はい」
女「?」
男「買物に付き合ってくれたお礼。こんなんで悪いけど…」
女「アメ…?」
男「嫌い?イチゴ味なんだけど」
女「ううん!嫌いじゃない。ありがとうね」ニッコリ
男「それじゃ」
女「またね!」
女「(男の子から…アメなんてもらったの初めて)」
ガチャッ
猫「!」
男「ただいまー」
猫「おかえりなさいませ、ご主人様」ニコニコ
男「寂しくなかった?」
猫「ちょっとだけっ。でも、慣れてますから」
男「(そうか…。いつもチロルには寂しい思いをさせてたんだな)」
男「…ごめんな」
猫「え?」
男「何でもない。それより、見て。服とか色々買ってきた」
猫「わぁ!”テレビ”というもので見たことがあるものばっかりですー」
男「お、似合ってる似合ってる」
猫「なんだかムズムズしますー」
男「ごめんな。でも、そういうのを着てないと駄目なんだよ。人間って」
猫「そうですねっ、我慢します!」
…
男「そういやさ、飯って何食べる?今日納豆なんだけど」
猫「!納豆は苦手ですーっ。ネバネバしてますもの…」
猫「私、いつものご飯で良いです」ニコリ
男「そ、それはちょっと…。あ!鮭があるからそれ焼いてあげるよ!」
猫「鮭!鮭は大好物なのです!」
猫「わーっ、美味しかったです!まっしろなご飯!」ニコニコ
男「そりゃ良かった」
猫「お風呂も面白かったですー」
男「…今度からは一人で入ってな」
猫「!嫌ですっ、ご主人様と入りたいですっ!」
ギュッ
男「…そろそろ寝ようか(あー、理性が…)」
猫「はい!」ニッコリ
猫「へ?お布団にもぐってますー」モゾモゾ
男「俺みたいに寝なきゃ駄目だって!窒息しちゃう」
猫「あ、そーでした!私、今は人間なのでした」
猫「…あの、ご主人様」
男「何?チロル」
猫「なぜ、お布団が2つあるのですか?いつもは1つでしたよ?」
男「…」
猫「ご主人様と一緒に寝るのが、やっぱり一緒良いですー」ニコニコ
男「(耐えろ耐えろ耐えろ相手は猫なんだぞチロルなんだぞ)」
猫「そーいえばご主人様。あれはしなくても良いんですか?」
男「あれって?」
猫「ほらっ、女の人がいっぱい写った本を見て、ご主人様が苦しそうな声を出しちゃうやつですよ」
男「!!!」
猫「今日はしないのですか?」
男「しないっつーか、出来ないっつーか…」
猫「!良かったぁ、私…ご主人様が苦しがってる声を聞くのがすごく辛かったんです…」
男「…あはは」
猫「ご主人様が苦しくなっちゃうのは、チロルにとっても苦しいことなのですよ」
男「(今も色んな意味で苦しいよ、ご主人様は…)」
猫「?はーい、おやすみなさい」
男「おやすみ…」
男「(もう寝ちゃえばこっちのもんだ…!)」
…
モゾモゾ
男「…ん、何…って、チロル!?」
猫「ご主人様…やっぱり私はもぐらなきゃ寝れないみたいです」シュン
男「(何で俺の股間に…!)」
猫「ここが一番暖かいので嫌ですー」スリスリ
男「う…っ、ぁ…」
猫「!ご主人様、今苦しい声が出ましたよっ。大丈夫ですか!?」
男「だ…大丈夫だよ…っ」
猫「ふぇ…苦しそうです…」スリスリ
男「!(もう我慢出来ない…っ)」
ガバッ
猫「わっ!」
男「チロル…」スッ
猫「ひゃぁっ///く、くすぐったいです…っ」
…
猫「…んはぁ、ご主人様…な、なんか変ですぅ///」
男「ごめん…我慢出来ない。俺も…男なんだよ…っ」
猫「や…っ、ご主人様…!」
猫「…ん、なんか…気持ち良いかも…っ///
男「チロル…俺もそろそろ…」
男「(我慢なんか出来ねーって…っ)」
猫「はぁ、ご主人様…ご主人様の体温が心地好いです…」
ギュッ
男「チロル…可愛い」
男「…あれ?」
猫「すーすー」
男「…寝てる」
男「(はぁ…良い雰囲気だったのにさすがにここで寝られたら萎え…)」
猫「んぅ…ご主人さまぁ…」スリスリ
男「…るわけがないよな」ハァ
男「(仕方ない…トイレで抜いてくっか…)」スクッ
スタスタ…ガチャッ
猫「えへへ…くすぐったいですよぉ…」ムニャムニャ
猫「んぅ…良く寝たぁ…」
男「…おはよ」
猫「にゃ!!ご、ご主人様!顔色が悪いですよ!?」アセアセ
男「だ、大丈夫。ちょっと眠れなかっただけ…」
猫「そ、そうですか…」
猫「(やっぱり、もぐって寝るのはいけなかったのかな。ご主人様の様子もおかしかったし…)」シュン
猫「ご主人様のお帰りが遅くなるってことですよね」
男「…さすがはチロルだね」ナデナデ
猫「えへへ」ニコッ
男「なるべく早く帰って来るから」
猫「はい!行ってらっしゃいませ」ペコリ
男「…行ってきます」ニコッ
猫「…どうしてでしょう。猫で居る時より、寂しさが増している気がします…」
男「…はぁ、これからどうするべきなんだ」
友「何だー?男、元気ねえな」
男「俺にも悩みだってあるんだよ」
友「聞いたか?親友。男にも悩みがあるんだってよ」
親「…友は男を何だと思ってるんだよ」ハァ
男「(今の姿も良いけど、色んな意味で危険だしなぁ…)」
猫「…全然、眠くならないです」
猫「どうしましょう…。寂しさを紛らわせるのは、寝るのが一番だったのに…」アセアセ
プルルルル
猫「!お、お電話が鳴っていますっ。私が取ってもいいのかな…」
猫「(…大丈夫ですよねっ)」
ガチャッ
猫「はい、もしもし…?」
猫「!ご主人様…っ!」
男「ちょっと心配でさ。電話してみた。大丈夫?」
猫「はいっ、全然大丈夫なのです!チロルはお留守番が得意ですから!」
男「ははっ、そうだったな。じゃ、帰るまでよろしく」
ピッ…ツーツーツ-
猫「ご主人様の…声を聞けるなんて思ってもみなかったです」ジーン
猫「(前の姿の時は、ただ我慢するしか出来なかったのに…。今は声を聞けることが出来るし、それだけで頑張れる気になります…っ!)」
男「…出来るだけ、早めに帰りたいな」ボソッ
女「あ!男くーんっ」タタタッ
男「…あぁ、女さんか。この前はどうも」ペコリ
女「やだ!さん付けなんて辞めてよっ。同い年なのに」クスクス
男「うん、分かった。ごめん」
女「今度からは名前呼びしてねー」
女「…そういえばさ、今日って暇?」
女「あ…やっぱり、従姉妹が来てるから?」
男「そう」
女「そ、そっか!じゃ、また今度ね。良かったら連絡先交換しよ!」
男「(ま、別に良いか)大丈夫だけど?」
女「やった!」ニッコリ
男「…それじゃ」
女「うん」
…
ピッ…ピ
プルルルル
女「…あ、もしもし?確かさ、あんたって男君の幼なじみだよね?ちょっと教えて欲しいことがあるんだけど」
ガチャッ
男「ただいま」
猫「お帰りなさい!」ニコニコ
男「何か、困ったこととかなかった?」
猫「はい!ご主人様が付けてって下さった”てれび”をずっと見ていました」
男「…あれ、飯は?昼に食べるように作ったものをテーブルに置いてったんだけど」
猫「!ご、ごめんなさい…っ!見てるのに夢中で、すっかり忘れてました」ペコリ
男「あはは、大丈夫大丈夫。俺と一緒に今から食べよ」
猫「…っ、はい!」ジーン
幼「…あのさ、男の幼なじみって俺以外に友も親も居るんだけど」
女「だって、あの二人とはそんな仲良くないし」
幼「あーそう…」
女「ね!男君の従姉妹って、どんな子なの?」
幼「俺が知るわけないじゃん」
女「うわっ、使えなーい…」
幼「(何コイツ自分から呼び出しておいて)」
女「その前に話聞いてよ!」
幼「お前が何か奢るっつーからわざわざ来たんだけど…」
女「…あたしね、男君のこと好きになっちゃったの」
幼「へー」
女「なんか反応してよ」
幼「だって前々からカッコイイとかどーとか言ってたじゃん」
女「違うの!本気で好きになったの!」
幼「(どーでも良いし…。つーか帰りたい)」
男「…あーあ。もう寝ちゃってる」
男「(初日はやっぱり緊張やら何やらがあったから、すぐに寝れなかったのだろうか…。今日は飯を食ったら、すぐにおやすみ3秒だったな)」
猫「ん…」ムニャムニャ
男「寝顔は…チロルの時そっくりだな」クスクス
男「(なんか、今日からは普通に寝れそうな気がする…!)」
猫「んにゃぁ…んふふっ」
男「…やっぱり無理かも」ハァ
猫「ご主人様ご主人様!」
男「何?」
猫「私、これやってみたいです!」ビシッ
男「”はじめてのおつかい”の再放送だろ、これ。…って、え?チロルが?」
猫「はい!ご主人様のお力になれるし、喜んでもらえるしで良いこと尽くしだと思ったので!」ニッコリ
男「チロル…!」
男「(猫のときから優しい奴だとは思ってたけど、ここまでとは…)」ジーン
…
男「もう一回、確認な。チロルが買ってくる物は?」
猫「牛乳と卵です!」
男「気をつけることは?」
猫「卵を割らないように、慎重に持ち帰ることです!」
男「よろしい。行っておいで」
猫「行ってきまーすっ」ニコニコ
猫「…いけません!そんなことを考えていてはならないのですっ。私は、”おつかい”をしなくてはならないのですから…!」フルフル
…
猫「わ…色んな物がいっぱいあります…」
猫「!お魚さんがいっぱい…!」
タタタッ…ピタ!
猫「だ、ダメですよチロル!お魚さんに目を奪われていては…っ」フルフル
?「…あの、何かお困りでしたか?」
猫「にゃっ!?」
猫「(ご主人様以外の方とお話するのは初めてですね)」
猫「…じ、実は”おつかい”をしにここへ来たんです」
?「私と同い年ぐらいなのに偉いですねっ!」
猫「でも、牛乳と卵がどこにあるか分からなくて…」シュン
?「私で良ければ案内しましょうか?」
猫「…っ!お願いしますです!」
猫「本当に助かりました!」ペコリ
?「いえいえ。お役に立てて良かったです。それじゃ」
猫「…あのっ」
?「え?」
猫「また、どこかで会ったらお話してくれませんか…?」
?「もちろん構いませんよ」ニッコリ
猫「にゃっ!嬉しいです!」
ギュッ
猫「あわわ、ご…ごめんなさい!つい癖で…っ」
?「あははっ、大丈夫ですよ」ニコッ
ガチャッ
猫「ご主人様ー!」
ダダダッ ギュッ!
男「わっ…ど、どした…?」
猫「私、ちゃんと買えましたよ!あと、女の子と仲良くなれたのです!」ニコッ
男「…!へぇ、そりゃ良かったな」ニッコリ
猫「はい!すごく嬉しかったのです」
男「チロルが嬉しそうで、俺まで嬉しくなっちゃったよ」ナデナデ
猫「えへへっ」
男「…ん、待てよ。抱き着いた衝動で…」
猫「?」
…
男「やっぱり…」
猫「ご、ごめんなさい!」ペコペコ
男「大丈夫大丈夫。二個割れてるぐらいだから。ホットケーキなら作れるし」
猫「はぅ…」シュン
友「今日みんなでカラオケ寄っていこうぜ!」
男「わりぃ。俺、すぐに帰んねーと。今度は行くから」
スタスタスタ…
友「んだよー!じゃ、俺と親と幼の三人か」
幼「俺、今日予定あるっつったじゃん。じゃあね」
スタスタスタ…
友「え?幼の用事って何だっけか?」
親「あれだよ。ずっと片思いしてる、初恋の子と待ち合わせしてるってやつ」
友「あー見えてすげぇ一途だかんなー」
幼「待ち合わせ一時間前から来ちまった…」
?「幼君!」
幼「…っ!初…///」ドキドキ
初「ごめんね?待ったかな」
幼「ぜ、全然!むしろ、もっと遅くても良かったし」
初「嘘ばっかー」クスクス
…
幼「なぁ、どっか行きたいとこある?」
初「んー…特には。帰りにスーパーには寄りたいけど…あ!」
幼「何?」
初「スーパーと言えばっ。この前、とっても可愛い女の子に会ったの」
幼「スーパーで?」
初「うん!なんか猫みたいで本当に可愛かったー」ニコニコ
猫「はぅ…っ」ジュル
男「チロル、よだれ出てる」
猫「!ご、ごめんなさいっ」フキフキ
猫「か、鰹節が踊ってます…!」
男「買ってきたばっかりだから」
猫「まんまるですねっ」
男「タコ焼きだからね」
猫「…」ワクワク
男「…いただきまーす」クスクス
猫「…っ、いただきます!」
猫「にゃー!素敵です、このまんまる!前にご主人様が作って下さった”ほっとけーき”と同じくらい、気に入りました!」
男「そりゃ良かった」モグモグ
猫「…あ、あの…今日は寒いので…」ソワソワ
男「!(チロルは寒い日ほど、布団にもぐる癖があったよな…)」
猫「今日は…もぐらせて下さいっ」ペコリ
男「…あ、足元でだったら良いよ」
猫「やったー!」ニコニコ
猫「おやすみなさいませー」モゾモゾ
男「おやすみ…」
男「(チロルが寝付いたらトイレに猛ダッシュだな…)」
猫「(色んなところに連れていってもらったし、色んな食べ物も知りました。人間って素敵です…!)」ワクワク
猫「…でも、”人間”で居るときのお留守番は辛いです…ご主人様」シュン
猫「そうだ!気晴らしにお散歩でもしてきましょうっ。短時間ならお許しが出てますし!」スタッ
幼「俺、世界一幸せ…」ジーン
友「あいつ、何一人で黄昏れてんだ?」
親「初恋の子に告白したらOKもらえたんだって」
友「!良かったな、幼っ。初彼女じゃねーか!」ニカッ
男「(…彼女か)」
…
男「(例え人間になったとしても、チロルは俺のペットだったっていう事実は消えない…。今だって、そういう関係で接してるんだ…)」
女「…ん、男君ってば!」バシッ
男「!ご、ごめん。考え事しててさ…」
女「もう!話し掛けても気付いてくれないし、連絡だって全然くれないじゃない」
男「悪い…」
猫「…毎日が楽しいはずなのに、モヤモヤが消えてくれません」ハァ
猫「(いつ猫に戻ってしまうか、心配だからなのでしょうか。それとも…)」
ドカッ
猫「…っ、す、すみません!考え事をしてたものですから…っ」アセアセ
猫「(わぁ…とても美人な方…)」
猫「わ…私は大丈夫ですっ!」コクコクッ
?「そう、良かった」ニコリ
猫「本当にごめんなさい…」ペコリ
?「…きちんと謝れるのね。優しい子」
猫「へ?」
?「良い子にしてれば、必ずあなたにとって、素敵なことが起こるわ。頑張ってね」
猫「は…はいっ」
…
?「あなたに…とってはね」
猫「ご主人様っ。今日、不思議な女の人に会いました」
男「またお友達が出来たの?」
猫「いえ、私が前方不注意でぶつかってしまったのです…」
男「ありゃりゃ」
男「まぁ元気出して。今日はチロルの好きな鮭だよ」
猫「?私はホットケーキやタコ焼きのほうが好きなのですっ!」
男「あはは、やっぱりそっちのほうが良くなったか」クスクス
男「いつも一緒に寝てるだろ?」
猫「あっ、そ…そうでした!では、おやすみなさいっ」
男「(最近もぐらないな、チロルのヤツ)」
猫「(私は…何てことを!ご主人様にぎゅーしてもらって寝たかったなんて…///)」ドキドキ
…
男「…」スースー
猫「(あわわわっ。モヤモヤして眠れません…!)」アセアセ
男「どした?」
猫「これ、付けてると痒いです…。取って頂けますか?」チャリ
男「あぁ、もう人間だから首輪は必要ないか。ごめんごめん。すっかり忘れてたよ」
男「…そういやこれ、初めてチロルにあげたプレゼントだったっけ」ジーン
猫「ご主人様!今日は私がお洗濯物を干しましょう」ニコニコ
男「あ、うん。よろしくね」
初「はぁ…」
幼「ど、どした!?デート…楽しくない…?」オロオロ
初「ううん、会えないなって思って…」
幼「?」
初「この前話した、猫みたいな女の子に…。今度会ったらお話しようって約束してたの」シュン
幼「きっとまた会えるって。な?」ナデナデ
初「うん…」
幼「(…初にこんなに思われてるなんて羨ましいんだけど)」
男「今日、何が食べたい?」
猫「ホットケーキ!」
男「よし、じゃホットケーキにしよう。牛乳切れてたから買わないと」
猫「にゃ!ご主人様ありがとうっ」
チュッ
男「い、今ほっぺに…っ///」
猫「こーすると男の人が喜ぶとテレビでやってたのですよ」ニコリ
男「ふ、不意打ちは卑怯だろ///」
幼「…男?」
男「(うっわ、絶対勘違いされる…!)」アセアセ
猫「?ご主人様のお友達ですか?初めまして、私は…むぐっ」
男「ちょっと黙って!」
幼「…ご主人様って…一体彼女にどんなプレイさせてんのは?お前」
男「か、彼女じゃねーよ!」
幼「!彼女じゃない女の子にご主人様って呼ばせてんのかよ!」
男「…はぁ、言うしかないか」
ガチャッ
幼「おっじゃましまーす。男の家久しぶりー」
猫「ただいまなのです!」ニコニコ
男「…」
幼「あれ?確か、チロルって猫飼うことにしたって言ってなかったっけ?」
男「あぁ」
幼「どこにいんの?チロルー?」
猫「はい!私がチロルなのですっ」ニッコリ
幼「…はい?」
男「そうだ、コイツがチロルなんだよ」
幼「…つまり、朝起きたらチロルが人間になってたわけか」
男「そう」
猫「はいっ。人間になれてたのです」ニコニコ
幼「…すげぇな」
男「すげぇよ」
幼「い、色々大変だろ」
男「大変だよ」
猫「?」
幼「ま、良いんじゃね?可愛いし。まぁ、初がいっちばん可愛いけどな」
男「人事だと思って…」ハァ
猫「初さん、という方もご主人様のお友達ですか?」
幼「んーん。俺の恋人さん!今度会わせてやるよ」ニッ
猫「!嬉しいですっ」
男「(…とりあえず、丸く収まって良かった…)」
男「俺はなんか疲れた…」
猫「(ご主人様が疲れてる時、私は何をすれば良かったんだっけ…)」
男「チロル」
猫「は、はい!」ビクッ
男「ここに頭乗っけて?」
猫「ご主人様の膝元に…ですか!?」
男「好きな場所だっただろ?おいで」
猫「…はい。失礼します」ドキドキ
男「(やっぱり、チロルを撫でてると落ち着く…)」
猫「(わぁ…なんか気持ちいいです…)」
女「あ!幼じゃない」
幼「げっ」
友「よぉ!女じゃん」
女「(友も一緒なの…!?やだなぁ、無駄にテンション高いから苦手なんだよねぇ…)」
女「二人で何してたの?」
友「いや、実はさ!男が飼っ…んん!?」アセアセ
幼「馬鹿じゃねーのお前!チロルのことは俺達4人だけの秘密って男に言われただろ!?」ボソッ
友「わ…わりぃ…っ、つか、く…苦しい…!」
女「…男君が、何?」
友「あ、あぁ!そーそー!」
女「…この前、従姉妹の話聞いたら知らないって言ってたじゃない」
幼「そ、それは…。最近になって男から聞いたんだよ」
女「…ふーん」
幼「じゃ、じゃあな!」
友「俺を追いてくなって!」アセアセ
タタタッ
女「…怪しい」ボソッ
親「俺のこと、覚えてない?何度か会ったことがあるんだけど」
猫「はぅ…ごめんなさい。覚えてないみたいです」シュン
親「そっか。でも、俺が君に会ったことは数えるくらいしかないからしょうがないよ」
男「チロルが家に来て、長い月日が経ってたわけじゃないしな」
猫「こ、今度はちゃんと覚えますっ!」
…
親「…うん、普通の女の子だね」
男「だろ?」
親「でも、やっぱりチロルちゃんの面影はあるかも」
男「今も昔も可愛いからな」
親「相変わらず溺愛してるんだね」クスクス
親「行ってらっしゃい」
猫「…行ってらっしゃいませっ」
バタン
親「じゃ、テレビでも見よ…チロルちゃん?どうしたの?」
猫「親さん…。私は駄目な子です。親さんにも、ご主人様にも、最低なことをしてしまいました…」シュン
親「チロルちゃん…?」
猫「…はい」コックリ
…
猫「私、ご主人様に”お留守番は得意なので任せて下さい”と言いました」
親「うん」
猫「寂しくても我慢出来ると、頑張るとも自分で約束をしました」
猫「…でも」ポロ…
猫「今では、胸を張ってお任せ下さいとは言えないのです。我慢だって、出来ないかもしれないのです…」
親「チロルちゃん…」
猫「心から、”行ってきます”を言ってあげることが出来ないし、親さんが一緒に居て下さってるのに…寂しいって思ってしまう私が居るのです…っ!」ポロポロ
親「…」
猫「私、やっぱりおかしいです…。苦しいんです…っ」
親「…チロルちゃん」
猫「は、はい…」
親「人間ってそういうものなんだよ。大好きな人の傍にいれないと、すごくすごく辛いものなんだ」
猫「…痛くもなりますか?く、苦しくなったりもしますか?」
親「うん、なるね。心臓がキュッてなっちゃう感じでしょ?」
猫「!そ、そうですっ!」コクコク
親「おかしくなんかないよ。猫の時から、ずっと男のことが好きだったんだもの。そーなって当たり前なんだ」ニッコリ
猫「私が…ご主人様を好き…」
猫「…私がご主人様を好きでいても、ご主人様は迷惑ではありませんか…?」
親「もちろん。きっと喜んでくれるはずだよ」
猫「好き、だから心臓が痛くなる…んですね」
猫「(でも…私は完璧な人間じゃない…いつ元に戻るか分からない…)」
猫「このままずっと人間でいたいですっ。そして…その…」モジモジ
親「言ってみて」ニッコリ
猫「!」
猫「大好きなご主人様と、ずっと一緒にいたいです!」ニパッ
男「(…俺が居ない間、一体何の話をしてたらそんな台詞が聞こえてくるんだよ///)」
男「…あー、なんか今日は寒いなー」
猫「そうですね!だったら掛け布団を増やしましょうっ」
男「いや、布団はこれで良いの」
猫「?」
男「俺が欲しいのは…抱き枕、かなっ///」
猫「にゃっ!?」
猫「…わ、私で良ければぎゅーして下さいませっ///」
男「しょ、しょうがないなー、特別だぞ」
猫「はいっ!」ニッコリ
猫「えっと…郵便ポストはどこに…」キョロキョロ
トントン
猫「うわっ!」ビクッ
初「やっと会えた。また何か探してるのかな?」ニコッ
猫「こ、この前の…!」
猫「そうでしたか!あなたが幼さんの恋人さんなのですね」
初「お話を聞いたら、すぐにあなたのことだって分かったの。この辺に住んでるって言ってたから、ちょっと探しちゃった」
猫「わ、私の為に…!嬉しいです…っ」ジーン
初「ねぇ、お名前はなんて言うの?そういう女の子が幼君のお友達と住んでるってしか聞いてなかったから」
猫「チロルです!」
初「チロルちゃんかぁ、可愛いお名前だね。私は初だよ」
猫「初、さん?」ドキドキ
初「普通にちゃん付けでいいよ。改めてよろしくね」
猫「よろしくお願いしますっ!」ニパッ
猫「あ、今日はご主人様がいらっしゃらないので鍵を使わなければならないのでしたっ」
ガチャガチャ
猫「んー、難しいのですー」アセアセ
?「でさー、数学の授業の時にメール来てさー」
女「あはは!やっぱり送ってきたんだ」
女「…あれ?この道、初めて通ったんだけど」
?「女知らなかったの?結構有名な道だよー」
女「へぇ」
?「女がカッコイイって言ってた男君が一人暮らししてるアパートもこの近くなんだから」
女「!ど、どこ!?」
女「へぇ…」
?「この前教えてもらってさー。うちの彼氏、男君と仲良いじゃん?」
女「(あそこに…男君が…)」
女「…あれ?」
?「えっ、嘘!女の子泣いてんじゃん!しかも、あのドアんとこって男君んちだよ」
女「!?」
猫「うぅ…、お家に入りたいですっ…」ポロポロ
?「うっわー…、男君と喧嘩でもしたのかな」
女「(どう見たって彼女にしか…。従姉妹なわけないじゃない…っ)」
ダッ
?「ちょ、女!?」
女「ごめん、先帰ってて!」
猫「な、なんて難しいのでしょう…。やり方を教えて頂ければ良かったです…っ」
猫「(このままお家に入れなかったら…うわわわわ、凍死しちゃいます!)」アセアセ
女「…何、してんの?」
猫「ほぇっ?」ビクッ
女「…ねぇ」
猫「!は、はいっ」ビクッ
女「何してんのって聞いたんだけど」
猫「あ…あの…鍵を上手く使いこなせなくて…」
女「(合鍵まで持ってるわけ…!?)」
猫「(な、なんか初ちゃんとは違って怖いです…っ)」ビクビク
猫「えっと…」
~
男「いい?チロル。もし、知らない人に俺との関係を聞かれたら、従姉妹って答えるんだ」
猫「?私はご主人様のペットですよ」
男「そう言っても、信じてくれない人が多いんだ」
猫「…分かりましたっ!」
~
猫「…私は”従姉妹”ですよ」
猫「はいっ、私は”従姉妹”です!」
女「そう」
女「(嘘を付いてるようには見えないけど…)」
…
女「じゃ、あなたには言っておこうかな!」
猫「?」
女「あたしね、男君のことが好きなの」
猫「え…」
女「は?」
猫「私も好きなのです!」
女「はぁ!?」
女「(い、従姉妹なのに!?てか、なんで嬉しそうに話してんの…!?)」
猫「えへへ、一緒ですねー」
女「そ、そうだね」
女「(ちょっと…色々喪失しちゃったんだけど…)」
猫「あ、はいっ」
ガチャガチャ…
猫「わ!開きました!」
女「鍵をさして、こっちに少し回すだけで良いみたいだよ」
猫「ありがとうございますっ!助かりました」ペコリ
女「じゃあね」スタスタスタ
女「…なんだ、良い子じゃんか」
猫「ご主人様ー!」
男「こら、ちゃんとタオルで髪の水分取って上がってこいっていつも言ってるだろ?」フキフキ
猫「…自分で水分を取っちゃうと、ご主人様にこうやって拭いてもらえなくなるから嫌なんです///」ドキドキ
男「…そ、そうなんだ///」
猫「(あの女の人は…ご主人様に対して、どんな”好き”なんでしょうか…)」
猫「今日は雨ですねー」
男「チロル、大丈夫?」
猫「全然平気なのですよ!」ニコニコ
男「風呂も平気だもんね」
男「(…あ、晴れてきたな。もしかしたら…)」
ガラッ
猫「ベランダに出られるのですか?」
男「チロルもおいで」
猫「はいっ」スタスタ
男「ほら」
猫「…わぁ!綺麗ですー!たくさんの色が…っ」
男「虹っていうんだよ」
猫「”虹”…ですか。とても綺麗です…」
男「俺も幸せだよ」ニッコリ
猫「…!///」
猫「(ど…どうしましょう…ドキドキが止まりません…っ)」
…
幼「…へぇ、チロルがね」
親「あれは恋愛感情として、好きなのかもしれない」
幼「でもさ、男はどーなの?めちゃくちゃ好きーってのはわかるけど…」
親「んー…どうだろ」
友「なぁなぁ、何の話だよ!俺も混ぜろって」
幼「俺的にくっついて欲しいなー。お似合いじゃん」
親「そうだね」
友「無視すんなって!」アセアセ
女「男君、おはよう!」
男「あぁ…おはよ」
女「ねぇ、この前男君が言ってた従姉妹の子に会ったよ」
男「!…そ、そうなんだ」
女「可愛らしい子だね」
男「あはは」
男「(一体、何を話したんだろう…。バレては、ないよな…)」
女「そういえば、男君のこと好きって言ってたよ?」
男「あぁ、それはあれだよ。仲が良いからね。お兄さんとしてじゃない?」
女「なるほどねー」
男「え…」
男「(…なんで、すぐに答えられないんだ?俺は)」
女「男君?」
男「ご、ごめん!そろそろ教室戻る」
女「ちょ、ちょっと…っ」
…
男「(何してんだ?俺は…。従姉妹として好きだって答えるだけなのに…。何逃げてんだよ…っ!)」
猫「はぁ、寂しいです…」
猫「気晴らしにお外にでも出てみましょう」
…
猫「今日は曇りですね…。今にも雨が降りそうです」トテトテトテ
初「チロルちゃん!」
猫「!初ちゃんっ」
初「こんにちは。私、今学校の帰りなの。チロルちゃんは?」ニッコリ
猫「あ、えと…お散歩に!」
初「ご一緒しても良い?」
猫「もちろんです!」ニパッ
猫「ま、もない?」
初「えっと、まだこの街になれてないのかなーってことだよ」ニッコリ
猫「はいっ。知らないことがいっぱいあります!」
初「あ、やっぱり!」
初「じゃ、何か困ったらいつでも相談してね」カキカキ
初「はい。これ、私の電話番号」
猫「!これにお電話を掛ければ良いのですね」ジーン
初「うん」
猫「ありがとうございます、初ちゃん!」
女「あ、この前の従姉妹ちゃんだー」
猫「!こ、こんにちはっ」ペコリ
初「(知り合いなのかな…?)」
猫「はいっ。初ちゃんは私のお友達なのです」ニコッ
初「こんにちは」ペコリ
女「そういえばー。この前ね、男君にあなたのことをどう思ってるか、こっそり聞いちゃった!」
猫「え…、ど…どうしてですか?」
女「気になっちゃってね。勝手に聞いちゃってごめんごめん」
猫「…っ、い…いえ」
初「(チロルちゃん…。辛い顔してる…)」
猫「…逃げ、た…ですか?」
女「きっと聞かれたくなかったんだね」クスクス
猫「な、なぜですか…」
女「だって、正直に”嫌い”なんて言えないじゃない。きっと、迷惑してるんじゃない?居候されて」
猫「…っ」
女「なんか様子もおかしかったしねー。嫌そうな顔してたし」
猫「そ、そんな…」
猫「き…らい…」ポロポロ
初「!チロルちゃん…っ」
女「は?」
初「この子と男さんは、すっごく仲が良いって私聞いてます!男さん、妹みたいに可愛がってるって!」
女「聞いただけでしょ?あなた自身が直接見たことじゃないのに、何でそんなこと言えるわけ?」
初「…っ!」
猫「…嫌い…私のことを、嫌い…」ポロポロ
女「(…やっぱりムカつく。あんたの話題を出しただけで表情がコロッと変わる男君も、すぐに泣きわめくこの子も…!)」
女「あたしは実際に話したしね。何なら、男君に直接聞いてみれば良いと思うよ?」クスクス
初「はい、これ使って涙拭いて?」スッ
猫「ありがとうございます…」
幼「ごめんね…。力になれなくて…」
猫「そ、そんなことないのですっ!」フルフルッ
初「チロルちゃんは、男さんの従姉妹だったんだね」
猫「…私、今までご主人様の傍に居るのが当たり前でした」
幼「(ご主人様…?)」
猫「ご主人様が、私の全てなのです」
幼「(ご主人様っていうのが…男さんなのかな)」
猫「…”従姉妹”というのは、自分の主の傍に居てはいけないものなのですか?」
幼「え…?」
猫「傍に居ることが迷惑な関係なのだと他の方に勘違いされるのなら…私はもう”従姉妹”と名乗るのは嫌です…っ。辛いのです…」ポロポロ
初「…チロルちゃん」
初「(従姉妹が何だか、分かってないんだ…。ってことは…)」
猫「ちゃんと、お話します」コクリ
…
初「そっか。チロルちゃんは、”飼い猫のチロルちゃん”だったんだね」
猫「はい…。このことは、あまり人に言ってはいけないとご主人様に言われました…」
猫「…私、すごくモヤモヤしてるのです。ご主人様との関係が分からなくて…」
初「うん」
猫「もう猫ではありませんから…”ペット”ではないし、幼さんと初ちゃんみたいな”恋人同士”でもないし…」
初「…」
猫「私は、ご主人様にとって何なのでしょう…。やっぱり、迷惑な存在なのでしょうか…」
猫「…っ、う…ひっく…」
初「どんな関係か、はっきりはしてないかもしれないけれど」
初「男さんにとって、チロルちゃんは大事な存在だってことには変わりないと思うよ?」
猫「だい、じ…ですか?」
初「うん。チロルちゃんにとってもそうでしょ?」
猫「!はいっ、ご主人様は大事なのです。とっても、とっても大事なのですっ」コクコク
初「なら、男さんもそう想ってるはずだよ」ニッコリ
猫「初ちゃん…」
初「ゆっくり、関係性を探していったら良いんじゃないかな?」
初「大事っていう気持ちが、どんな感情から来てるのかいずれ分かるはずだよ」
猫「…はいっ!」
ガチャッ...
猫「た、ただいまです」
男「おかえりー。遅かったね。心配してたんだよ?」
猫「ご…ごめんなさい」シュン
男「(そ、そんな怒ってるわけじゃないのにな…)」
猫「私、今日疲れました。もうおやすみをさせて下さい」
男「あ…うん、おやすみ…」
猫「おやすみなさいませ…」
男「(…何か、あったのかな?)」
幼「初ー!初から呼び出しなんて初めてじゃん!俺、すっげぇ嬉し…」
初「…幼君のばか」
幼「な、いきなり何!?」
初「チロルちゃんのこと!もっと、ちゃんと教えてくれれば良かったのに…っ」ポロポロ
幼「…!どうしたんだよ…っ、な、泣くなよ初!」アセアセ
初「も、もっとちゃんと分かってればチロルちゃん泣かせなくて済んだのに…」
幼「…誰かに何かされたのか?」
初「私は何もされてないもん!何も出来なかっただけだもん…!」ポロポロ
幼「ご…ごめん!頼むから泣きやめって…!」
モゾ...
猫「…眠れません」
猫「(あれ、ご主人様がいません…)」キョロキョロ
男「あ、起きたんだ」
猫「ご主人様…。ベランダに出てらしたんですね」
男「うん、チロルもおいでよ」
猫「は、はい…」コクリ
…
ガラッ...
猫「何をしてたのですか?」
男「星見てた。上、見てごらん」
猫「?」
猫「…うわぁ、キラキラです!」
男「今の時期は空気が澄んでて星が綺麗に見えるんだ」
猫「”虹”と同じくらい綺麗なのです…」
男「…少しは、元気出た?」
猫「ふぇ?」
男「いや、なんか落ち込んでたみたいだったから」
猫「あ…」
男「俺には話せない?」
猫「そ、そういうことでは…」
男「…」
猫「…あ、あの…」
男「ん?」
猫「私は…ご主人様にとって、”迷惑”な存在ですか…?」
猫「き、聞いてみたくなっただけです!わ、私”いそうろう”というものらしいので…っ」
男「またテレビで知ったの?」
猫「は…はい…」
猫「(嘘を、ついてしまいました…)」
男「答えはNOだよ。迷惑だなんて、思ったことない」
猫「ほ、ほんとですか!?」
男「我慢はしないといけないけどね。色んな意味で」ボソッ
猫「?」
男「我慢が出来るくらい、チロルが大事だってこと」
猫「!(初ちゃんが言って下さったことをご主人様から聞けました…!)」
猫「わ、私もご主人様がとっても大事です!」
男「嬉しい」ニッコリ
猫「(わ…わわわ…!)ドキドキ
男「…いや、大丈夫。ちゃんと出してるから」
猫「それなら平気ですね!良かったー」ホッ
男「…あはは」
…
男「さ、そろそろ寝ようか」
猫「はいっ。あ…ご主人様!」
男「何?」
チュッ
猫「えへへ、何だかしてみたくなっちゃいました」
男「…あ、ありがとう」
男「(今日は我慢して、一緒に寝てみようかな…)」
猫「ご主人様のお言葉でこーんなに元気になりました!ご主人様はやっぱりすごいのです!」
?「あははっ、楽しそうね」ニッコリ
猫「!…この前の美人な方!」
?「どう?良い子にしてる?」
猫「は…!…いえ、良い子ではないかもしれません」シュン
?「どうして?」
猫「わがままを言ったり、嘘をついたりしてしまいました…」
?「…あははっ!」
猫「ふ、ふぇ?」
?「そんなの当たり前のことよ。人間なんだもの」
猫「そ…そうでしょうか…」
?「大丈夫。あなたはちゃーんと良い子よ。その調子その調子」ニマッ
猫「は、はいっ!頑張ります!」
猫「(良い子にしてれば…迷惑な存在ではないはずなのですから)」
猫「頑張らなきゃっ!」ムンッ
…
女「な、何よ…怖い顔しちゃって」
幼「お前、俺の恋人になんかしただろ」
女「は!あの従姉妹、あんたと付き合ってるわけ!?」
幼「そっちじゃない」
女「…あぁ、あっちか」
幼「…!」ガシッ
女「いった…っ、いきなり何すんの!?」
幼「何したんだよ」
女「あたしは何もしてないってば…!」
幼「…お前、初に手出したら殺すから」
女「(こ、こわ…!あの子には近付かないようにしなきゃ…)」
男「…ん、あれは…」
男「初、ちゃんだよね?」
初「…どちら様でしょうか?」
男「幼から話聞いてないかな」
初「!男君ですかっ!?」
男「あたりー」
…
初「よく私が分かりましたね」
男「幼が初ちゃんの画像を待ち受けにしててさ。俺の恋人だって良く自慢されてるから」クスクス
初「…もう、幼君ってば///」
初「いえいえ!」
男「話聞いて、びっくりしなかった?」
初「ちょっとは。でも、会った時から猫っぽいなーとは思ってたんです」ニッコリ
男「あはは」
…
女「幼のヤツ…。まだ背中痛いし」イライラ
女「ん?あれは…男君と、幼の彼女…!?」
男「チロル」
猫「ほぇ?」
男「明日、一緒に公園にでも行かない?ほら、よく散歩に行ってたあの公園」
猫「お散歩で?」
男「あはは、やっぱり覚えてないか。結構前の話だからね」クスクス
男「きっと着いたら思い出すよ」
猫「ご主人様とお出かけ!楽しみですー」ニマニマ
男「(可愛いなぁ…)」
猫「…ほわぁ、お水がいっぱい出てます…」
男「あれは噴水っていうんだよ」
猫「噴水ですか!初めて見ました…っ」ジーン
男「チロルー。早くしないと追いてっちゃうぞー」
猫「あ、はーい!」
…
ピンポーン…
幼「…はいはーい」
ガチャッ
女「なーにー?今起きたの?」クスクス
幼「…わりぃけど、今お前に構ってる暇ねーんだよね。それじゃ」
ガシッ
女「良いの?話きかなくて」
幼「あぁ?」
女「あんたの彼女、浮気してるっぽいよ」
幼「…だから、初が浮気してるって?」
女「楽しそうに二人っきりで歩いてたよー」クスクス
幼「お前、馬鹿じゃね?」
女「は?」
幼「初は浮気するような子じゃねーし、男だって親友の女に手ぇ出すような奴じゃねーもん」
女「わ、わからないじゃん!」
幼「わかるんだよ。あーあ、マジ時間の無駄。じゃーな」
バタン!!
女「…っ、全然騙されなかったし…!」
親「しょうがないよ。二人共忙しいんだから」
友「でも遊びてぇんだもんよー」
親「わがままだなぁ」クスクス
…
プルルルル…
初「もしもし」
幼「あ、出た!」
初「どうしたの?」
幼「ししっ、俺ちょー頑張った。褒めて褒めて」
初「何を頑張ったの?」
幼「ひみつー」
初「何それー」クスクス
初「…頑張ったね、幼君」
幼「!やった、褒められたー」ニンマリ
男「やっぱり、家族連れやカップルでいっぱいだね」
猫「…カップル?」
男「恋人同士のことだよ」
猫「あぁ!幼さんと初ちゃん達のことですねっ」
男「そうそう」
猫「(この前の電話で、初ちゃんが両思いになると恋人同士になれると教えて下さいましたっけ)」
猫「(私とご主人様は…”カップル”になれるのでしょうか…)」
親「こんにちは、チロルちゃん」
猫「はいっ、お久しぶりです」ニコリ
友「へぇ、コイツがあのチロルかー!」
猫「(初めて見る方です…っ)」
親「多分、会ったことを忘れてるみたい。自己紹介してあげて」ボソッ
友「そうか!初めまして。男の親友兼幼なじみで、友っつーんだ。よろしくな!」ニカッ
猫「よ、よろしくですっ」ペコリ
友「かーわいいなー」ニコニコ
猫「はいっ、ご主人様」スタスタ
友「えー、男いいなぁ。やっぱり俺のこともご主人様って呼んでくれ!」
男「だーめ」
男「これは、俺だけの特別な呼び方だから。なぁ?チロル」
猫「は…はい!」コックリ
猫「(特別…。ご主人様だけ、特別…///)」ジーン
男「ホットケーキなら。自分で作って食え」
友「ラッキー!」ニッ
猫「…ホットケーキ…」
親「(わ、なんか欲しがってる)」
親「友」ボソッ
友「んぁ?お前も食べてぇの?」
親「いや、俺のじゃなくてチロルちゃんの分も作ってあげて」
友「おー、いいぜ!」
親「…なにこれ」
友「ホットケーキ?」
親「なんで疑問形なんだよ」
猫「わぁ…真っ黒焦げです…」
男「…ったく」スクッ
親「男、どこか行くの?」
男「ホットケーキの素、買いに行ってくる。チロルも…食べたそうにしてたから」
親「(あ、やっぱり気付いてたんだ)」
親「…大好きなんだね、チロルちゃんのこと」ニッコリ
男「…い、行ってくるっ///」
親「何?」
猫「あの…ご主人様はどこに…?」
親「あぁ、ホットケーキの素を買いに行ったよ」ニコッ
猫「お腹が空いてる友さんの為に…!ご主人様はお優しいのですっ…」ジーン
親「(9割以上はチロルちゃんの為だと思うけどなぁ)」
友「しっかたねーな。これ、食っちまうか。もったいねーし」
猫「真っ黒焦げのホットケーキって食べたことないです。た、食べられるのですか?」ドキドキ
友「まぁ食えるだろ!一緒に食おうぜ!」ニカッ
猫「はいっ」ニッコリ
親「た、食べちゃダメだよ!」アワアワ
男「えーと、ホットケーキの素は…っと」
?「ホットケーキって美味しいの?」
男「いや、俺は別に好きじゃな…って、誰ですか?」アセアセ
?「んー、内緒」ニカッ
男「はぁ…」
男「(美人だけど…怪しい人だな)」
?「…ごめんなさいね」
男「全然平気ですけど。まぁ、普通に美味しいですよ?ホットケーキ」
?「そういうことじゃなくて」
男「(な、なんだ…?)」
友「はぁ…早く帰ってこねーかな…腹減った」
親「友、さっきからそればっか」
猫「…無事に帰ってきてくれると良いのですが…」ハラハラ
親「ほら見なよ。チロルちゃんは男のことを心配してるっていうのに」
友「チロルは、男が大好きなんだなっ!」ニッ
猫「はい!一番好きですっ!」
こういうの大好き
猫「ほぇ?」
親「(…話を反らすべきか?いや、友の単純さで聞き出せることがあるかもしれないし…)」
猫「んー、どうなのでしょう…。まだわからないのです」
親「ははっ、こんだけ一緒に居ても、わかんねーことってあるんだな」
猫「!そうなのですよっ、わからないことだらけなのです!」
猫「ご主人様に大事って言われたり、特別って言われると心がポカポカするんです!不思議ですよねっ」
友「おー。そりゃ可愛いな」
猫「あ、あとですねっ。お出かけしたりするのも楽しいです!」
友「色んな思い出増えるもんなー」
親「(よしよし、いいぞ友)」
友「お?」
親「!」
猫「これが一番の謎かもしれません…。どうして、そんな気持ちになるのでしょう」
親「(…決定だな)」
猫「友さんも、ご主人様にチュッてしたくなりますか?」
友「俺はならねぇかも」
猫「はぅ!やっぱり不思議なのです…っ」
・・・ゴクリ
猫「さ、最初は…こうしたら元気が出るっていうのをテレビで見て、それを真似っこしたんです」
親「うん」
猫「でも…最近はご主人様が落ち込んでるわけではないのに…チュッてしたくなっちゃうんですよ」
親「(いつの間にか…って感じか)」
友「なぁ、それって男を恋愛感情として好きってことなんじゃね?」キッパリ
猫「え!?」
親「(あーあ…言っちゃった)」
親「チロルちゃん、落ち着いて!まだ決まったわけじゃないから…っ」
友「何言ってんだよ、親!もう決定だろー?」
親「…もうお前帰れ」ボソッ
友「はぁ!?」
ガチャッ
男「ただいまー」
猫「あっ、あわわわわ!」アセアセ
親「(はぁ…帰ってきちゃったし…)」
友「一体何してたんだよー」
男「…?チロル、どうした?」
猫「な、何でもありません!」フルフル
男「顔真っ赤なんだけど…」
親「…混乱しちゃってる」ハァ
…
友「いやー、ホットケーキはうめぇし、チロルには会えたしで満足満足」ニカッ
親「…へー、良かったね」
友「おい、さっきから何なんだよ。なんかあったのか?」
親「お前のせいだろ」
友「なんで?」
親「いきなり猫から人間になって、悩みや苦労だってたくさんあるのに、恋愛優先になっちゃったら頭爆発するに決まってるだろ?」
友「た、確かに…」
親「ゆっくり、わかっていけば良かったことだったんだ。チロルちゃんが自分で気付くまで」
友「俺やべぇじゃん!まずった!」
親「…」ハァ
猫「…きょ、今日はソファで寝ます!」
男「え…なんで…?」
猫「そういう気分なのです!」
男「チロルが居なきゃ、寂しいんだけど…」
猫「…っ、おやすみなさい!」ガバッ
男「…」
猫「(ご、ごめんなさいご主人様…っ)」
男「じゃ、行ってきます…」
猫「行ってらっしゃいませっ」ペコリ
男「今日は…一緒に寝れる?」
猫「た、多分今日もソファです!」
男「…そう」
バタン
猫「…私だって、ご主人様と本当は寝たいです。でも…でも、心臓が爆発しそうになっちゃうのですよ…っ」ギュッ…
男「(昨日、すごく寂しかった…。一睡も出来なかったし)」
男「(チロルが居ないと、駄目なんだな。猫の時はそんなことなかったのに…)」
男「はぁ…訳わかんね」
…
プルルルル
初「はい、もしもし」
猫「う…っ、初ちゃん…!」ポロポロ
初「チロルちゃん!?」
女「!ちょっと先行っててっ」タタタッ
…
女「男くーん!」
男「あ、ども…」
女「ちょ…どうしたの!?顔真っ青だよ!?」
男「あー…寝不足のせ…い…」
バタッ
女「!男君っ、しっかりして!」
初「そっか…だから、胸の辺りが苦しくなっちゃったんだね」
猫「そ、そうです…っ。も…どうしたら良いか分からなくて…」
初「落ち着いて、チロルちゃん。そういう時は男さんとの楽しかった時のことを思い出せば良いんだよ?」
猫「楽しかっ…た…こと…」
…
初「どう?落ち着いた?」
猫「はい…っ。あと、ご主人様にすっごく会いたくなりました!不思議です!」
初「よしっ、効果抜群だったね」ニッコリ
猫「初ちゃんはすごいですね!」
初「男さんが、チロルちゃんに素敵な思い出を作ってくれてたおかげだよ」
ズルズル…ガラッ
女「せ、先生…」
女「(あれ、がら空きだ…。もう、保健室の意味ないし…っ)」
女「と、とりあえず寝かさなきゃ」
男「…」スースー
女「なーんだ。本当に寝不足なだけか」
女「…睫毛長いなぁ」スッ…
男「ん…っ、チ…ロル…」
女「…チロル?」
猫「…ご主人様、遅いです…」
”何かあったら、いつでも電話してきて”
猫「ご主人様の携帯とやらに、掛けてみましょうかっ」
ピッピピ…
プルルルル
女「っ!男君の携帯かぁ…ビックリした…」
ゴソッ
女「…”自宅”から?ってことは…」
女「(他人の電話を勝手に使っちゃうのは駄目だよね…)」
プルルルル
女「…もう!」
ピッ
女「ご主人様?」
猫「!(この声は…)」ビクッ
猫「え、えと…なんであなたが電話に…?」
女「男君と今一緒にいるんだけど、手が空いてない状態だからあたしが代わりに出たの」
猫「!?な、何かあったんですか?」
女「…」
猫「(普通…一緒に居ることに突っ込んだりするよね)」
女「…学校で倒れただけ。寝不足で」
猫「倒れた!?」
猫「(朝、元気がなかったのはそのせいだったのですね…。あぁ、どうして気付いてあげられなかったのでしょう…っ)」
猫「(…そういえば…)」
”チロルが居なきゃ、寂しいんだけど…”
”今日は…一緒に寝れる?”
猫「わ、私は何てことを…。ご主人様…っ」ポロ…
猫「うぅ…っ、ごめんなさい…!」ポロポロ
女「また泣くしー…」ガクッ
猫「ご主人様は学校にいらっしゃるのですよね!?」
女「そ、そうだけど?」
猫「今からお迎えに上がります!」
女「はぁ!?」
猫「で…でも、早くご主人様に直接謝りたいのです…っ。早く、早くご主人様に会いたいのですよ…」
女「…」
女「(話の流れが掴めない。けど…)」
女「(男君のこと、すごく想ってるのがこっちまで伝わってくる…悔しいけど)」
女「え?あぁ、そうだけど」
猫「ありがとうございます!ありがとうございます…っ」
女「…」
女「…はいはい、もう降参しますよ」ハァ
猫「へ…?」
女「普通さぁ、あんなこと言われたらひがんだりするのが当たり前じゃない?こんなあたしに、お礼なんか言わなくて良いのに」クスクス
猫「え…っ、あの…」
女「やっぱり調子狂っちゃうなぁ。敵対出来たと思ったのに」
女「学校を入って、右に行くと保健室があるの。男君はそこに寝てるから」
猫「!ありがとうございます…っ」
女「…謝らないからね」ボソッ
猫「えっ?」
女「何でもない。じゃあね」
ピッ…
女「…はぁ、帰ろうかな」
男「…」スースー
女「本気、だったんだけどなぁ。珍しく」
スタスタスタ
女「…アメ、美味しかった。ありがとう」
ガラッ…バタン
タッタッタ…
猫「はぁ…この前お出かけした時に”学校”を教えて頂いておいて良かった…っ」
猫「(右に…いくと…!”保健室”発見です…!)」
ガラッ
猫「ご主人様…っ!」
猫「ご…ご主人様…?」
トテトテ…
男「…」スースー
猫「あ、いました…」
猫「(良かったです…本当に眠っているだけみたいです…っ)」
猫「ふぇ…ひっく…よ…、よかった…っ」ポロポロ
猫「!ご主人様…っ」
男「チロル!な、なんで学校に…!?」ビクッ
ギュッ…
猫「ご主人様…っ、ご主人様…!」
男「…チロル」
男「(チロル…暖かい…)」
男「なんか良くわかんないけど、心配かけちゃったみたいだね。ごめん」ナデナデ
猫「いえ…っ、悪いのは全てチロルなのです…!」
男「…」
猫「私は…ご主人様と色んなことがしたかったのです。でも、ご主人様と一緒にいると…心臓が爆発してしまいそうになるんです…!」
男「心臓が…?」
猫「ご主人様が倒れたって聞いた時は、それ以上に爆発しちゃうかと思うぐらい、胸が高鳴りました。今までで一番、苦しかったです…」
猫「でも…ご主人様の寝顔を見た瞬間、急にギュッて抱き着きたくなりました」
男「うん…」
猫「私、気付いたんです。心臓が爆発しそうになるのも、苦しくなるぐらい、心配しちゃうのも、チュッてしたくなったり…ギュッてしたくなるのも…」
猫「ご主人様が、大好きだから…っ」
猫「!わ、私はなんてことを…!?す、すみませんっ///」ペコペコ
男「…すごく、嬉しいよチロル」
猫「…っ///」
男「俺ね、昨日の夜すごく寂しくて一睡も出来なかった。だから今、こんな状態なんだ」
猫「…」
男「そのことで気付いたんだ。あ、俺にはチロルが居なきゃ駄目なんだって」
猫「ご主人様…」
男「最初は、興味本意ってか…俺も男だから、チロルに酷いことをしそうになっちゃったけど、ちゃんと我慢だって出来てるんだよ」
男「前にも言ったよね?そのくらい、大事だって」
男「ある時、聞かれたんだ。チロルとはどんな関係なの?って。”従姉妹”って嘘を付くことを提案したのは俺のはずなのに、そう答えることが出来なかった」
猫「!(前に、あの女の人が言ってたこと…)」
男「…嫌だったんだ。嘘でも、チロルとの関係を”従姉妹”なんて言うのは」
男「もっともっと、俺の中では大切だから…」
男「チロルを拾った時から、俺は君に救われてたんだ。ずっとずっと、大切だったんだ」
猫「う…っ、ひっく…」
男「楽しい時も、寂しい時も一緒だった。ねぇ、チロル…俺もチロルのことが…」
?「良いところだけど、ちょっとそこでストップね」
猫「…!?」ビクッ
男「あ、あなたは…」
男「俺が、スーパーで会った人…」
猫「!ご主人様、会ったことがあるのですか!?」
男「チ、チロルこそ!」
?「…美味しかったわよ?」
男「は…?」
?「ホットケーキよ!あんな素晴らしい食べ物を嫌いだなんて信じられないわ!」プンスカ
男「あ…そ、そうですか」
猫「ホットケーキは美味しいです!」
男「!」
猫「ホ、ホットケーキはジャムを付けても美味し…」
男「チロル待って」
猫「ほぇっ?」
男「…この人、変だ」
?「ちょっと、そこの少年。酷いんじゃない?変かもしれないなら分かるけど、変って断定してるじゃない」ムッ
猫「そ…そうですよ、ご主人様」アワアワ
男「だって変だ。親しいわけでもないのに、チロルのことを猫だって気付いてる」
男「…」
猫「え?え?」アワワ
男「あなたは、一体何者なんですか?俺やチロルに話掛けたり、猫だって気付いてたり…」
?「んー」
?「”猫の神様”ってところかな?」
男「…は?」
猫「か、神様ですか!?」
男「…仮に、神様だとしましょう。あなたの目的は何なんですか」
?「頭痛を止めるのが目的よ」キッパリ
男「頭痛…?」
猫「頭が、痛いのですか」
?「そうよー?どこぞのかわいい猫ちゃんが”人間になりたい”って、強くつよーく願うもんだから、あたしの頭がズキズキしちゃってねー。大変だったんだから」
猫「…!///」
猫「ご、ごめんなさい…!」ペコリ
?「あー、良いのよ良いのよ。あんなに願う猫ちゃんなんて何百年ぶりだから、あたしも戸惑っちゃったの」クスクス
男「…だから、頭痛を止める為にチロルを人間にしたんですか」
?「そのつもりだったんだけどねぇー…」
男「…?」
男「人間にしたのに?」
?「どうやら、新しいお願い事が出来ちゃったみたいでね」チラッ
猫「…っ///」ビクッ
男「チロル…?どんなお願い事なんだ?それが叶うのなら、この人が俺達にまとまり付かなくても大丈夫になるらしいから聞いておきたいんだ」
?「さっきからいちいち酷いぞ、少年」
猫「…あ、あの…っ」
男「うん」
猫「ずっとずっと…人間として、ご主人様のおそばに居たいのです…!猫には戻りたくないのです…っ」
?「こらー、簡単に言うでない。ていうか、その”え?何?出来ないの?”みたいな表情やめてくれない?」
男「…無理、なんですか?」
?「無理ではないわ。叶えなきゃ、あたしの頭痛も収まらないし」
猫「…本当ですか!?」
男「やった…!」
?「ただし、条件付きなの。猫ちゃん、前に言ったわよね」
?「”良い子にしてれば、必ずあなたにとって、素敵なことが起こるわ。頑張ってね”って」
?「すっごく、すっごく良い子だったわ。だから、あなたのお願いは聞いてあげる」
「「!」」
?「でも、”あなたにとっては”って意味について、きちんとお話してからね」
猫「?わかりました」
男「…」
男「(どんな条件なんだ…)」
猫「は、はい…っ」
?「でも、それは”猫”との契約を断ってしまうことになるの。従って、」
?「猫で居た時の記憶も、あたしが今ここで願いを叶えてあげるまでの記憶も全て無くなるわ」
男「…!?」
男「…」
”ごめんなさい、覚えてないです…”
”鮭、ですか?私はホットケーキが好きなのです!”
”噴水ですかっ。初めて見ました”
男「(待て…。いつからだ?チロルが”にゃ”と呼ばなくなったのは…。いつからだよ、布団にもぐらなくなったのは…!)」
?「そう、ぜーんぶよ」
猫「…でも、それを我慢したら人間でいられるのですね!」
?「えぇ、ずっとね」
猫「…なら、私は…」
男「待てよ!」
猫「!」ビクッ
?「…」
猫「ご主人様…?」
男「俺と出会ったことも、初めて首輪を付けたことも…!」
男「…っ!」
”これ付けてると痒いですー…”
男「…一緒に、散歩しに行ったことも…」
”散歩…ですか?”
男「…くそ!全部全部、本当に忘れちゃうんだよ!」
男「…これから質問するから、答えて」
猫「…?」
男「君の、好きな食べ物は?」
猫「…ホットケーキです」
男「…好きなおもちゃは?」
猫「えっ?おもちゃって言えるかわかりませんが…テレビを見てるのが好きです」
男「…一番好きな場所は?」
猫「もちろん、ご主人様の隣なのですよ!」アセアセ
男「ほら…、消えちゃってるじゃないか…」
?「ね、だから言ったでしょう。”あなたにとっては”って」
猫「…ご主人様は、嬉しくないのですか?私がずっと人間でいられても」
男「そういう問題じゃないんだよ、チロル」
猫「…っ」
?「とにかく、三日だけ時間をあげる。その間にちゃんと話し合って決めなさいね。いい?仲良くしなきゃ駄目よ」
猫「は、はい…」
男「…出来っかよ…」
ガチャッ…
猫「た、ただいまです…」
男「…」スタスタ
猫「うぅ…」オロオロ
男「…座って」
猫「は、はいっ」ビクッ
…ストン
猫「へ…平気なんかじゃないですよ!」
男「じゃあ…何であんな平然と話なんか聞いてられたんだよ!!」
猫「…!」ビクッ
男「俺だけなのかよ…こんなに寂しいって感じてんのは…っ」
猫「…違う」ボソッ
男「俺達が過ごしてきた月日って、そんなに簡単に捨てられるものなのかよ…!」
猫「違うもん!!」
男「(チロルが初めて、叫んだ…)」
猫「…ご主人様、私は記憶が無くなってしまうことをとても辛いことだと思っていますし、今でも…心臓がまた痛いです…」
男「…」
猫「でも、人間でいれることが出来るのなら…私はその可能性に縋りたい…!ご主人様と、ずっと一緒に居たいのです!」
男「チロル…」
猫「こうやってお話が出来て、ご主人様と触れ合えて、笑うことが出来て…チロルはとても幸せなのです」
猫「猫の姿ではそんなこと出来ません…。私は、私は今の生活のほうが良いです…!」
男「…ううん。俺のほうこそ、わがままだったね。チロルの気持ちをきちんと考えてあげられてなかった」
猫「…大丈夫ですよ」
男「?」
猫「神様は、私だけの記憶を消すんです。ご主人様からは…私が消えることはないのですからっ」
男「(そうか…。記憶が消えるのはチロルだけ…)」
猫「…っ!は、はい…」
男「でも」
猫「…?」
男「無くなった記憶に、また新しく作り直した記憶を上乗せすれば良いだけの話」
猫「…」
男「俺が、ちゃんと覚えてるから。チロルに、また教えてあげるから」
猫「…ご主人様…っ」ポロポロ
男「うん、ごめんね。考えなしだった…」
猫「…でも、ご主人様が私のことも、今までのことも覚えてて下さるのなら…っ、大丈夫だと思ったのです…」
…ギュッ
男「うん、大丈夫。覚えてるよ。ちゃんと、教えてあげるから」
猫「どうか…どうか私のことを忘れないで下さい…ご主人様」ギュッ
男「これからずっと一緒に居られるんだから、忘れるわけないだろ?」
猫「…はいっ」コクリ
男「本当に一人で大丈夫?」
猫「はい!」
男「気をつけてね。あまり遅くならないようにするんだよ」
猫「みんなに”さよなら”を言いに行くだけですから、大丈夫なのですよ」ニッコリ
男「”またね”、だろ?」
猫「!そうでしたっ。また、会えますからね」ニッコリ
男「…どこから現れるんですか。いつもいつも」
?「神様だからそのぐらいへっちゃらなのよ」
…
男「あの、一つ疑問点が」
?「何よ」
男「普通、俺やチロルに関わった人間の記憶も無くすもんですよね?俺達が覚えてたら、チロルの記憶を無くしても意味がないと思うんですけど。また教えちゃえば」
?「あんた達から記憶を無くしちゃったら、猫ちゃんが人間になっても一人ぼっちになるじゃない!」
男「まぁ、そうなんですけど…」
?「んー、ホットケーキが美味しいって教えてくれた”お返し”かな」
男「…有り難く、受け取っておきます」ニッコリ
友「おー!人間になれんのか!良かったなぁ、チロル」ニカッ
猫「はいっ!でも…さっき話した通り、記憶が無くなっちゃうのです」
猫「また…お二人のことを忘れてしまいます」シュン
友「なら、また友達になれば良いだけの話じゃね?」
猫「え…?」
親「友の言う通りだよ。また皆でホットケーキ焼いて食べたりしようね」ニッコリ
友「今度はちゃんと綺麗に焼いてみせっからな!」
猫「親さん…、友さん…っ」ジーン
友「あ、じゃ今度こそはご主人様って呼んでもらおっかなー」
猫「駄目なのです!ご主人様だけの”特別”ですからっ」
友「ちぇ」
親「あははっ」
幼「え?記憶が消えるって今まで全部?」
猫「はいっ」
初「私達のことも…?」
猫「はい、ごめんなさい初ちゃん…」シュン
初「じゃ、またチロルちゃんが困ってたら助けに行かなくちゃ!」
猫「ほぇ?」
初「そして、またお友達になれば良いんだもの」ニッコリ
猫「初ちゃん…っ」
幼「俺とも、仲良くしてくれる?」
猫「もちろんです!」
猫「ありがとうっ、私は…私は本当に幸せ者です」ニッコリ
猫「…完全に迷子です」アワワ
猫「ど、どうしましょう…。あとお一人だけ…」
女「道のど真ん中で突っ立ってちゃ駄目でしょ」
猫「!いましたーっ」ジーン
女「な、何!?」ビクッ
猫「あ…あの…っ」
猫「(!この女の人は、私が猫だったことを知らないんでした…っ。)」
女「…もしかして、男君との惚気話でもしに来たの?」
猫「ちっ、違います!」
女「ふん。ま、良いけど。あたしだって良い男捕まえてやるんだから。その時は自慢しに行ってやる!」プンプン
猫「!ぜひお願いしますー!私に話掛けて下さいねっ」
女「はぁ!?普通は嫌がるとこでしょっ」アセアセ
ザァァァ…
男「はぁ…三者面談なんて、いらないのに」
スタスタ…
猫「うみゃぁ」
…ピタッ
男「…猫?」
猫「みゃー、みゃー」
男「捨て猫…だ。一人ぼっちじゃないか」
男「(…俺と一緒だ)」
猫「にゃあ…」
男「(これからもっと雨が強くなりそうだし…風邪引いちゃうだろうな)」
男「…俺と、一緒に住もうか。そしたら、お互い一人ぼっちじゃなくなるね」
猫「みゃぁ」
~
シーン…
男「…はぁ、夢か…」モゾッ
男「(いつのまにか、寝ちゃってたんだな…)」
ガチャッ
猫「ただいまですー!」
男「あ、帰ってきた」
猫「途中で迷子になっちゃったのですが、女さんに助けてもらったのでちゃんと帰ってこれました!」ニッコリ
男「(いつの間に仲良くなってたんだ…)」
猫「お名前をずっと聞くことができなかったんですけど、最後に…ちゃんと…」
男「大丈夫だよ。俺がまた教えてあげるから」
猫「!ありがとうございますっ」ニッコリ
猫「にゃあ」
男「ま、待って!ちゃんと拭かなくちゃ風邪引いちゃう」
ゴシゴシ…
猫「にゃ…」
男「珍しいなぁ。水、全然怖がらなかった」
猫「ふみゃぁ」
男「あははっ、気持ち良さそうだね」
猫「みぃ」
男「水は怖がらないし、気持ち良さそうな顔はするしで…何だか人間みたいだ」クスクス
~
猫「ん…。あ…あれ…」
男「疲れてたのか、あの後すぐ寝ちゃったんだよ」
猫「あ…そうなのですか…」
猫「…夢、を見ました」
男「へぇ、どんな?」
猫「猫と…男の子がお風呂に入ってる夢を…」
男「…え…?」
男「…チロル、俺を呼んで」
猫「は、はいっ!…えっと…」
男「…」
猫「あの…私は、なんてお呼びしていましたっけ?」
男「…っ」
男「(本当に、少しずつ色々なことがチロルの中から消えちゃってる…。大丈夫、落ち着け…落ち着くんだ)」
猫「あ、あの…」
男「…ご主人様、って呼んでくれてたよ」ニッコリ
猫「あぁ!そうでしたそうでしたっ」
男「(良かった…。まだ思い出せないところまでには到達してなかったんだな)」
男「自分の名前は、言える?」
猫「はい!私はチロルですっ。”ご主人様”が付けて下さったんですよね」ニコッ
男「…うん、そうだよ」
男「今日で、全ての記憶が無くなるんだ…」
”猫ちゃんが眠りについた時点で終わりよ。目が覚めた時には、ずっと人間でいられる権利が与えられているわ
男「…目が覚めた時には、記憶も無くなってるんだ」
猫「あ、あのっ」
男「ん?何?」
猫「この写真に写ってる、可愛らしい猫のお名前を教えて欲しいのですが」ニコッ
男「…」
男「!あぁ、ごめん…。ちょっとボッとしてた」
男「この子はね、”チロル”っていうんだ」
猫「私と同じお名前なのですね!」
男「…うん」
猫「どんな猫さんだったのですか!?」
男「明日、教えてあげる」
男「今、教えたって…意味がないからね…」ボソッ
猫「えっと…その…」
…
男「(とうとう、”ご主人様”が消えた…)」
男「大丈夫大丈夫…。今日さえ我慢すれば、チロルとずっと一緒にいられるんだ…っ」
猫「あの…」
男「…どうしたの?」
猫「何だか…眠いのです。おやすみしてもよろしいですか?」
男「!」
猫「な、何だかすごく眠くて」グシグシ
男「…って…」
猫「へ?」
男「待って…お願い…」ヨロ…
ギュッ…
猫「ど、どうしたのですか!?///」ドキドキ
男「まだ、まだチロルの中から消えたくないんだ…っ。お願いだから、もう少し待って…もう少しだけ、我慢して…っ」
猫「あ…えと…」オロオロ
ギュッ…
男「頑張って、心の準備するから…だからそれまでは寝たりしないで…。側に居て、チロル…」
猫「…分かりました」
男「チロル…」
猫「そんなお辛い声を出されている方を、チロルは放っておけるわけがないのです!お傍にちゃんと居ますからねっ」ニコッ
男「…ありがとう」
…。
おいやめろ
猫「…」
…チュッ
男「…チロル?」
猫「…きゅ、急にしたくなっちゃいました///」
”こ…こうすれば、元気が出ると思って…”
”私、気付いたんです。心臓が爆発しそうになるのも、苦しくなるぐらい、心配しちゃうのも、チュッてしたくなったり…ギュッてしたくなるのも…
ご主人様が、大好きだから…っ”
男「チロル…」
男「…ううん、むしろ…すごくうれしかった。ありがとう、元気が出たみたいだ」
猫「!それは良かったですっ」ニパッ
男「(俺がくよくよしててどうするんだよ…。ちゃんと支えてやらなきゃ)」
男「さ、ホットケーキでも焼いて食べようか」
猫「わ!嬉しいです」ニッコリ
猫「…むぅ」コクコク
男「(限界、だな…)」
男「チロル」
猫「…」
男「(…あぁ、そっか)」
トントン
猫「?」
男「もうそろそろ寝ようか。布団に入ろう」
猫「あ、はいっ」
男「寝る前に、ちょっと聞いてくれる?」
猫「はいっ、喜んで」
男「君の名前はチロルっていうんだ」
猫「可愛らしいお名前ですね。誰が付けて下さったのですか?」
男「もちろん俺だよ。センスあるでしょ?」
猫「はいっ」ニッコリ
男「(大丈夫。記憶が消えたって、こうやってまた話してあげれば良い話なんだ
から)」
猫「あははっ、”チロルちゃん”はおてんばさんだったのですねー」
男「こらこら。チロルは君だから」
猫「あっ、そうでした」クスクス
猫「他には、何か面白いエピソードってありますか?」
男「んー、色々あるからなぁ」
猫「じゃ、一番印象に残ってるもので!」
男「印象…に残ってるもの…」
男「今日はね、チロルにプレゼントがあるんだ」
猫「みゃぁ」
チャリ...
男「鈴もちゃんと付いてるんだよ。これで、どこに行ったかすぐ分かると思って」
猫「にゃー」
男「ピンク、気に入ってくれたかな?チロルに似合うかなーって考えながら選んだんだ」
猫「にゃ、にゃっ」
男「そっか、良かった良かった。今付けてあげる」ニッコリ
男「…よし!付いた」
猫「みゃー」
男「あ、やっぱり似合ってるよチロル。これで、正式に俺の家族になったね」
猫「にゃ、にゃ」スリスリ
男「あはは、くすぐったいよ」
~
猫「…?ど、どうかしましたか…?」
男「あ、ううん。何でもない」
男「(…泣くな泣くな。また心配させちゃうだけだ)」
猫「あの…今度は、私から色々お話したりしてもよろしいですか?」
男「え?い、いいけど…」
男「え…?」
猫「色んな事を忘れていますが、あなたを”好き”っていう思いはちゃんと…今でも心の奥底にあるちゃんとした気持ちです」
男「チロル…」
猫「あなたと同じ人間として、ずっと傍に居ることが私の何よりのお願いだったのです」
男「うん…」
猫「どうか、覚えていて下さい。私が忘れていても、私があなたを好きだったってことをきちんと思い出させて欲しいのです。”ご主人様”」
男「い…今俺のこと…」
猫「約束、して下さいますか?
男「…うん、約束するよ。約束するから…っ」
男「うん、頑張ったね。目を閉じても大丈夫だよ」
猫「おやすみなさい」
男「おやすみ、チロル」
猫「…今度はちゃんと、”恋人同士”になれたらいいなぁ」ポツリ
…
男「良い夢見てね。チロルの願い事は俺が必ず叶えてあげるから、安心してゆっくりおやすみ」
猫「わ…ここはどこなのでしょう」
猫「にゃー」
猫「わっ、可愛いのです!猫さんなのです!」ナデナデ
男「チロル」
猫「!にゃぁ」トテトテ
猫「あ…行っちゃいました…」
男「…?ほら、何してるんだよ。君もおいで」
猫「え?私も…ですか?」
男「だって、君も”チロル”だろ?」
猫「私も…?」
~
猫「わ、私は…記憶がないのです」
男「あぁ、そうなんだ」
猫「ご…ごめんなさい」
男「じゃ、俺がもう一回君に名前を付けてあげる」
猫「お名前を…下さるのですか?」
男「うん。忘れないでいて欲しいから」
猫「じゃ、私”チロル”が良いです!」
男「良いの?前と同じもので」
猫「はいっ、私は”チロル”ですから」
男「じゃ、君は今日からも、今日までも”チロル”ってことで」
猫「はい、ありがとうございます!」
男「忘れないでね。自分の名前」
猫「絶対に、絶対に忘れないのです!」
~
男「…ル、チロル」
女「ん…」
男「チロル、そろそろ起きて」
男「(大丈夫。ちゃんと、覚悟は出来てる)」
女「…」
男「おはよう。もうお昼だけどね」
女「…誰、ですか?」
”…!ご主人様、大好きですっ”
女「あの…ここはどこですか?」
”なぜ、お布団が2つあるのですか?いつもは1つでしたよ?”
男「…」
”…私、あなたのことが好きです”
女「あ、あの…」
”…今度はちゃんと、”恋人同士”になれたらいいなぁ”
男「初めまして。俺は男っていうんだ。君の、恋人だったんだよ」
女「私の…恋人…?」
男「うん。両想いだったんだ」
女「私と、あなたが…?」
男「そうだよ」
女「…そう、なのですか」
男「びっくりしちゃったよね、急にこんなことを言われて」
女「少し…だけ。でも…」
男「?」
女「なんだか、懐かしい感じがします。このお部屋…。そしてあなたも」
男「…」
女「初めまして、男さん。私の名前は”チロル”って言います」
End.
i | ミ.\ヾヽ、___ヾヽヾ |
| i 、ヽ_ヽ、_i , / `__,;―'彡-i |
i ,'i/ `,ニ=ミ`-、ヾ三''―-―' / .|
iイ | |' ;'(( ,;/ '~ ゛  ̄`;)" c ミ i.
.i i.| ' ,|| i| ._ _-i ||:i | r-、 ヽ、 / / / | _|_ ― // ̄7l l _|_
丿 `| (( _゛_i__`' (( ; ノ// i |ヽi. _/| _/| / | | ― / \/ | ―――
/ i || i` - -、` i ノノ 'i /ヽ | ヽ | | / | 丿 _/ / 丿
'ノ .. i )) '--、_`7 (( , 'i ノノ ヽ
ノ Y `-- " )) ノ ""i ヽ
ノヽ、 ノノ _/ i \
/ヽ ヽヽ、___,;//--'";;" ,/ヽ、 ヾヽ
ガチャ...
”ご主人様が帰ってきました!”
猫「みゃぁ」
男「…」スタスタ
猫「…?」
”元気がないようなのです…。また、”親戚”の方と喧嘩をしてしまったのでしょうか…”
猫「みゃぁ、にゃ」
”泣かないで下さい、ご主人様。辛い声をお出しにならないで下さい”
”あぁ、私はなんて無力なのでしょう…。こうやって、傍にいることしか出来ないなんて…”
猫「にゃ、にゃ」
男「…そうだったね、俺にはチロルが居るんだ…。大丈夫、大丈夫だよ。ごめんね」
”笑ってるのに、とても辛そうなご主人様”
ねぇ、愛しい愛しいご主人様。
私には、本当に出来ることは
これ以上何もないのでしょうか。
ご主人様と同じ”人間”になれば、
お力になれますか?
ずっと、傍に居ることが出来ますか?
愛して、あげられるのですか?
~
男「…あ、そろそろ時間だったね。ごめん、こんな時間まで起きてて」
”違うのですよ、ご主人様。ただ、元気付けたかっただけなのです”
男「今日は結構暑いからなぁ…。離れて寝たほうが良いかも」
猫「みゃ…にゃっ」
”嫌です…。嫌ですよ、ご主人様”
男「おやすみ、チロル」
”まだ…まだお話を聞いてあげたかったのに…っ”
ご主人様はいつも言って下さいました。
「傍に居てくれるだけで幸せだよ」と。
でも…チロルはもっと、ご主人様の為に尽くしたいのです。
もっと、もっと色んなことがしたいのです。
朝起きたら、ご主人様と同じ”人間”になってたら良いのになぁ…
…
猫「ご主人様、起きて下さい」
本当にすみません orz 重要な部分を忘れてました…
俺もこんな猫が欲しいぜヒャッハー
>>1乙です
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Entry ⇒ 2012.01.17 | Category ⇒ その他 | Comments (1) | Trackbacks (0)
岡部「紅莉栖をひたすら愛で続けたらどうなるか」
岡部「なんだ助手」
紅莉栖「………」
岡部「…………なんだ、紅莉栖」
紅莉栖「28回」
岡部「は?」
紅莉栖「今日、岡部が私以外の女の子とスキンシップした回数」
岡部「はあっ!?」
紅莉栖「まゆりと10回、フェイリスさんと13回、桐生さんと2回、漆原さんと3回」
岡部「…………」
紅莉栖「でもベタベタしてた。特にまゆりとフェイリスさん」
岡部「まゆりは幼馴染みなんだ。お互い無意識に肌が触れ合っている時もある。ノーカンだ」
紅莉栖「フェイリスさんは?」
岡部「あれは向こうが勝手に」
紅莉栖「岡部は嫌がってなかった」
岡部「今更拒絶しても仕方ない無駄だろ」
紅莉栖「でも、私以外の女の子と20回以上、スキンシップしたのには変わらないわ。約束よ」
岡部「……わ、わかった」
ぎゅっ
紅莉栖「んっ……」
岡部(1日、紅莉栖以外の女と20以上のスキンシップで10分ハグ、100以上の会話でキス、か……)
岡部(どうしてこうなった)
岡部「なあ、ダル」
ダル「なに、リア充」
岡部「ぐっ、貴様とて彼女持ちだろうが!」
ダル「僕と由季たんは場所をわきまえてイチャコラしてますしおすし」
岡部「そうだったな……その、お前から見てで俺と助手、どう思う?」
ダル「彼女持ちの僕ですらイラ壁するレベル」
岡部「そ、そうか。だがな?最近、助手が俺に対する束縛が酷い気がするのだが……お前の意見を聞きたい」
ダル「いや、それオカリンが悪いっしょ」
岡部「な、なんだと!?」
岡部「き、気持ち悪いだと!?俺は普通にラボメンとしてクリスティーナを」
ダル「今までまゆ氏くらいしか駅まで送ってあげなかったのに、牧瀬氏とは毎日のように一緒に帰ってたじゃん」
岡部「あ、あれはあまりこの地域を知らない助手を考慮して」
ダル「それ以外も何かプレゼント送ったって聞いたし。確かフォークだっけ?」
岡部「な、なぜそれを知っている!?」
ダル「オカリンがいない所でみんなに自慢してたお。そりゃあもう、嬉しそうに」
岡部「そ、そんな事まで……」
ダル「オカリン本気出しすぎだろ……」
岡部「俺、そんなに必死だったのか?」
ダル「そりゃあもう……」
岡部(紅莉栖と再開して早く以前のような関係になろうとしただけなのだが……急ぎ過ぎたか)
ダル「ただでさえ牧瀬氏、最初からオカリンに気があったみたいなのに、オカリンが本気出したせいで一週間しない内に完墜してたお」
岡部「えっ?最初から……」
ダル「うん、最初から。オカリンががっつき過ぎたせいで牧瀬氏の好感度が天元突破したんだお。つまり今の過度な束縛もオカリンのせいじゃね?」
岡部「お、俺が原因なのか」
岡部「か、かの!?……ま、まあそういう事になるが」
ダル「オカリンの周り、無駄にかわいい女の子が多いから牧瀬氏も心配なんでしょ」
岡部「全部ラボメンではないか。それに、それならお前だって同じように周りに女子がいると言える」
ダル「はあ……」
岡部「なんだ!そのため息は!」
ダル「だからオカリンはダメなんだお。とにかく、オカリンはもうちょい牧瀬氏の立場になって考えてみた方がいいと思われ」
岡部「助手の立場で……」
ダル「んじゃ僕、そろそろ由季たんとの約束あるで。じゃあなオカリン。牧瀬氏と末永く爆発してろお」
バタン
岡部「…………」
ガチャ
紅莉栖「ハロー。今日は岡部だけ?」
岡部「まゆりはバイト。ダルは由季さんとデートだそうだ」
紅莉栖「そっか」ポスッ
岡部「………」ススッ
紅莉栖「隣に座ったのになんで間を開けようとするのよ」ズイ
岡部「少し近すぎないか……?」
紅莉栖「私と岡部の関係は?」
岡部「こ、恋人同士だが……」
紅莉栖「なら適性距離よ」
ぎゅっ
岡部「そ、そうか」
ぎゅっ
岡部「冷たっ!……急に手を握るな!」
紅莉栖「外寒かったら……だから温めて」
岡部「………最初からそう言え」
ぎゅっ
紅莉栖「んっ………」
岡部「……随分と冷えているな」
紅莉栖「岡部はあったかいね」
岡部「今日は外に出ていなかったからな」
紅莉栖「ううん、そんなの関係なしに、岡部は暖かいのよ」
ぎゅっ
紅莉栖「あとでもらう。今はもう少しだけ、こうしていたい」
岡部「わ、わかった」
紅莉栖「ありがと……ふふっ」
岡部(こうやって二人きりで過ごしている時は最高なんだかな)
岡部「なあ、クリスティーナよ」
紅莉栖「………」
岡部「紅莉栖」
紅莉栖「なに?」
岡部「その、だな……お前は俺が他のラボメンと会話するのは嫌、か?」
岡部「なら、例の決め事も不要ではないかと」
紅莉栖「却下」
岡部「なぜ!?」
紅莉栖「岡部、自分がいまどんな立場にいるか考えた事ある?」
岡部「どんなって……フッ、無論!世界を混沌へと導く狂気のマッドサイエ」
紅莉栖「かわいい女の子に囲まれたハーレムリア充よ」
岡部「………」
岡部「えっ?」
紅莉栖「………」
岡部「……冗談はよせ、紅莉栖」
紅莉栖「まゆりにフェイリスさん、漆原さん、桐生さん……本当に冗談なら良かったのにね」
岡部「そいつら全員ラボメンではないか!ハーレムなどという俗物と一緒にするでない!……あとさり気なくそこにルカ子を混ぜるな」
紅莉栖「どう見てもハーレムです本当にありがとうございました」
岡部「だから違うと言っている!俺がハーレムならダルやルカ子にだってハーレムだと言えるだろうが」
紅莉栖「ダメだこいつ、早くなんとかしないと」
岡部「きゅ、急にになんだ」
紅莉栖「だからまゆりやフェイリスさん達に岡部を盗られなくない」
岡部「だ、だからあいつらはそういうのではないと」
紅莉栖「岡部はなにも分かってない。まゆり達が岡部の事、どう思っているか分かってない!」
ぎゅっ
岡部「紅莉栖……」
紅莉栖「みんな、岡部の事が大好きなのよ?だから不安になる。もしも岡部が私以外の女の子を好きになったら私は」
岡部「ふっ」
紅莉栖「な、なんで笑うのよ!私は本気で」
岡部「安心しろ。俺がお前以外に現を抜かすなんて有り得ない」
岡部「名前で呼んで欲しいから、か?……その、俺だってまだ名前で呼ぶのは恥ずかしいのだ。許してくれ」
紅莉栖「それも合ってるけど、もう一つ理由がある」
岡部「なんだ?」
紅莉栖「だって『助手』も『クリスティーナ』も前の世界線の私の渾名なんでしょ?」
岡部「それは……」
紅莉栖「けど、リーディングシュタイナーを持たない私からすれば、前の世界線の私は他人のようなもの。私は岡部に『今の私』を見てほしい」
岡部「紅莉栖……」
紅莉栖「ふふっ、私って結構嫉妬深いタイプみたいね。違う世界線の自分にすら嫉妬するなんて」
岡部「済まない……お前の気持ちを知らずに今まで」
紅莉栖「気にしないで。これから、岡部が私をずっと見てくれるならそれでいいわ」
岡部「わかった、必ず約束する」
紅莉栖「……なら、証明して」
ちゅっ
岡部「んっ!?……くり、す……」
紅莉栖「んむ、お、か、べ……んっ」
岡部「なあ、ダル」
ダル「なに、ヤリチン」
岡部「や、やり!?俺は紅莉栖としかしとらんわ!!」
ダル「その牧瀬氏と3日間、ずっとラボに来ないで牧瀬氏のホテルでちゅっちゅしてたんだろ……盛りすぎだろオカリン」
岡部「俺が他の女に靡くのが不安だと言ったから、ずっとあいつの側に居ただけだ」
ダル「でもちゅっちゅはしたんだろ?」
岡部「………否定はしない」
ダル「うわっ、のろけかよ」
岡部「最後まで聞け!……その、以前より悪化したのだ」
ダル「なにが?」
岡部「……俺に対する束縛だ」
ダル「例えば、どんな感じ?」
岡部「寝る時は必ず一緒のベッドで寝ろ、とか」
ダル「…………はっ?」
ダル「………」
岡部「あと、飯を食うときは必ず各おかずを互いに食べさせ合うなどもある」
ダル「」
岡部「紅莉栖の事は確かに好きだが……少々恥ずかしくてな。この前は手を繋いでサンボに入店して、互いに食べさせ合っていたら周りからの視線が凄まじかった。あれは思い出すだけで恐ろしい……」
ダル「なあ」
岡部「なんだ、まだ話の途中だぞ」
ダル「…………もう結婚したら?」
岡部「なにを今更、無論するに決まっているではないか。だが俺はまだ学生だ。今はその時ではない」
ダル「ああ……そう」
岡部「俺が恥ずかしすぎて死にそう」
ダル「あっ、うん……」
岡部「しかも、さっき言ったルールを守らなければペナルティが厳しいのだ」
ダル「一応聞くけど、どんなペナルティなん?」
岡部「搾り取られる」
ダル「わんもあ」
岡部「だから、搾り取られるのだ紅莉栖に一晩中」
ダル「…………そう」
岡部「かわいいからいいけどな!フゥーハハハ!」
ダル(なんかオカリンが壊れた)
紅莉栖「ハロー、岡部♪あと橋田も」
岡部「ああ、紅莉栖か」
ダル「なんかそこはかとなく扱いが雑な気がするお」
紅莉栖「………」ジー
ダル「なあ、オカリン。牧瀬氏がいきなり僕のこと殺気立った目で睨み付けくるんだけど」ヒソヒソ
岡部「……言ったろ、束縛が酷くなったと」ヒソヒソ
ダル「えっ?」
岡部「直に分かる」
紅莉栖「ねえ、橋田。あんな岡部と喋ってた?」
ダル「えっ?……まあ、うん」
紅莉栖「何分くらい?」
ダル「いや、そこまで覚えてないお」
紅莉栖「そう」
岡部「る、ルカ子はともかくダルはノーカンだろ」
紅莉栖「でも、不安なのよ。だから-3点」
岡部「くっ……」
ダル「なあオカリン、なにがなんだかわからない僕に産業で説明よろ」ヒソヒソ
岡部「紅莉栖の機嫌損ねたら減点
-10点でペナルティ
ダルとの会話で-3」
ダル「把握………えっ、ちょっ、待って!なんで僕とオカリンが会話しただけで牧瀬氏の機嫌損ねるん!?」
紅莉栖「男の八割はホモの素質があるらしい……抜かりはないわ」
紅莉栖「岡部……どうして挨拶のハグがなかったの?」
ぎゅっ
岡部「済まない、紅莉栖……これで許してくれるか?」
紅莉栖「うん、-1で許す」
ダル「話、聞いてないし……」
岡部「し、しかし、助手よ」
紅莉栖「-4」
岡部「く、紅莉栖!その、ハグは人前では恥ずかしいから今後は二人きりの時だけにしないか?」
紅莉栖「わかった」
岡部「よかった。あと滅多にこないルカ子はともかく、ダルとの会話で減点するのも止めてくれ」
紅莉栖「考えておく」
岡部「だから言っただろ……」ヒソヒソ
紅莉栖「二人でヒソヒソと……やっぱり橋田には素質が」
ダル「あるあ……ねーよ」
紅莉栖「じゃあ何話してたのよ」
岡部「お、お互い最高の彼女が出来て良かったなと称えあっていたのだ!フゥーハハハ」
ダル「そ、そうだお!いやー由季たんは最高だけど牧瀬氏みたいな女の子が彼女だなんてオカリンも幸せ者だお!」
紅莉栖「えへへ……ありがと」
岡部「いや、良くはないが……しかしどうすれば」ヒソヒソ
ダル「一度ガツンと言ってみればいいんじゃね?彼女の間違いを正すのも彼氏の役目だお」ヒソヒソ
岡部「そ、そうだな、わかった」ヒソヒソ
紅莉栖「岡部の最高の彼女か……ふふっ」
岡部「なあ、紅莉栖」
紅莉栖「なあに、おかべっ」
岡部「その、だな……あの減点方式のルール、止めにしないか?」
岡部「この3日間で俺がお前以外の女に現を抜かさない事は証明した」
紅莉栖「あの時はは、激しかったね……」
岡部「あ、ああ。初めてだったから、上手く出来なくてすまん」
紅莉栖「ううん、いい。私も初めてだったし……その、嬉しかったから」
岡部「そうか、それなら良かった……」
紅莉栖「岡部……」
岡部「紅莉栖……」
ダル「……ゴホン」
岡部「は、話が脱線してしまったな」
紅莉栖「でもそれじゃあ岡部とイチャイチャできないじゃない!」
岡部「えっ?」
ダル「はあ?」
紅莉栖「いや、あっ、その……そういうルールを作っておけば岡部と気兼ねなくイチャイチャできるし、もしルールを破れば岡部と一晩中……好きにできるから」
岡部「わざわざルールがなくてもイチャイチャ出来ると思うが」
紅莉栖「だってその……」
岡部「……仕方ない」
ぎゅっ
紅莉栖「あっ……」
岡部「ルールなんてなくても俺たちはイチャイチャできると証明してやろうではないか」
紅莉栖「ちょっ、まっ、待て!」
ちゅっ
紅莉栖「んっ、んむっ……」クチュクチュ
岡部「んっ、あむっ……んっ」クチュクチュ
ダル「………」
岡部「その、すまなかった」
ダル「……まさか目の前で濃厚なディープキスを見せられるとは思わなかった。僕に彼女がいなければ憤死していたお」
紅莉栖「岡部が好きすぎてつい」
岡部「紅莉栖が愛しすぎてつい」
ダル「ああ………そう」
岡部「だが、安心しろダル!これで俺たちはルールなんて関係なくイチャイチャできるようになったぞ!」
ダル「へぇー」
紅莉栖「えへへ、今日の晩も優しい、ね。倫太郎♪」
岡部「もちろんだよ、紅莉栖」
岡部・紅莉栖「「フゥーハハハ!」」
ダル(……僕らは健全な関係でいこうか、由季たん)
終わり
書き溜ないから遅くてごめんね。なんかネタあったらちょうだい。
読んでくれた人、保守してくれた人、ありがとニャンニャン
∧_,, ∧ ∧ ,,_∧
バン(∩‘ω‘)バン(‘ω‘∩)バンバン
/_ミつ__/ ̄ ̄ ̄/彡
 ̄ ̄ ̄ \/ (;;゚;) / ̄)
 ̄ ̄ ̄
|| ̄ ̄ ̄ ̄ ̄| 壁殴り代行会社は壁殴り代行サービスについて、
||冬季休業中| 予想を大きく上回る売れ行きと、スタッフ不足の為、
||_____| このたび代行を一時休止させていただくこととなりました。
| ::| お客様やお取引先様ならびに関係者の皆様に
_| ::|_ 多大なご迷惑をおかけしますことを、心より深くお詫び申し上げます。
Entry ⇒ 2012.01.17 | Category ⇒ シュタインズゲートSS | Comments (0) | Trackbacks (0)
鳴上「バレンタインデーか……」
~朝~
陽介「うーっす」
鳴上「おはよう」
陽介「相変らずさみーな」
鳴上「ああ」
陽介「気がつきゃもう2月かぁ…」
鳴上「……」
陽介「今年こそは女の子と甘~い一時を過ごしたいぜ」ボソッ
>正月ボケがまだ続いてるのかもしれない
陽介「続いてねーよ!」
クソックソッ
鳴上「ああ、そういえば…」
陽介「そういえばって、男にとっては一大イベントじゃねーか」
完二「うーっス。何の話してるんスか?」
陽介「なぁ完二、2月つったらまず何が思い浮かべる?」
完二「2月っスか?あー、豆まきスかね」
鳴上「歳の数以上に豆食べるよな」
完二「大してうまくないのについつい食べちゃうんスよね~」
陽介「ちげーだろ!?何呑気に豆まきのあるある会話し始めてんの!?違うでしょ!?」
完二「ああ?バレンタイン?」
鳴上「チョコが欲しいなら俺が今度作ってやろうか?」
完二「マジっスか!?」
陽介「あ、完二君やっぱソッチ系?」
鳴上「……義理だから」
完二「か、勘違いしてんじゃねぇよ!?べ、別にそんなんじゃねーからな!!」
陽介「ホモは置いといて…」
完二「ホモじゃねーぞ、コラァ!!」
完二「お、俺は別に…」
陽介「俺はほしーんだよ!あまつ恋人になっちゃったりなんかしちゃったりしたい!」
>陽介は必死だ
陽介「つかおまえはどうなんだよ」
陽介「前の学校とかでさ、ぶっちゃけチョコいくつ貰った?正直に言え、怒らないから」
鳴上「5個しか貰ってない」
陽介「しかとか言ってんじゃねー!!」
完二「花村先輩朝からテンションたけーっスね」
鳴上「元気がいいのはいいコトだ」
陽介「…貰えたよ」
鳴上「よかったじゃないか」
陽介「ジュネスのパートのおばちゃんからな」
完二「…あー」
鳴上「……」
完二「あ?」
陽介「おまえは去年いくつ貰ったんだ?」
完二「……まぁ……一個?」
陽介「母親から貰ったのはノーカンだぞ」
完二「……」
鳴上「お母さんを大切にな」
完二「…っス」
完二「てめぇなんかパートのババァからじゃねーか!」
陽介「うるせー!母親からしか貰ってないヤツよりはマシだ!」
完二「んだとコラァ!」
鳴上「……」
>醜い争いは続く……
完二「ドーカンだぜ」
陽介「きたる2月14日!どちらがより多くチョコを貰えるか勝負だ!」
陽介「負けたやつが勝者に愛家のスペシャル肉丼奢りな」
完二「っしゃ!」
>面倒なコトになってきた…
陽介「悠、おまえは強制参加だから」
鳴上「俺も!?」
~お昼休み~
陽介「とりあえず、4個は手堅いと思うんだ」
>何処からその自信が湧いてくるのか
陽介「里中、天城、それとりせちーに直斗。まず間違いないだろ」
鳴上「そうか?」
陽介「特別捜査本部の仲間だぜ?本命とまではいかなくとも義理は絶対イケるって!」
鳴上「それなら俺と完二も貰えるんじゃないか?」
陽介「問題はそこなんだよなぁ」
鳴上「…たぶん」
陽介「そこでだ!悠お兄ちゃんにお願いがある」
鳴上「……」
陽介「陽介お兄ちゃんにもチョコをあげるよう、それとなく言っておいてくれないか?」
鳴上「…陽介に?」
陽介「頼む!この際チロルでもいいので!」
鳴上「…ハァ…分かったよ」
陽介「恩に着るぜ!相棒!!」
千枝「やっほー。なんか元気ないね、どったの?」
>廊下を歩いていると千枝に声をかけられた
鳴上「大したことじゃない」
千枝「ふーん、ならいいんだケド。あ、それより鳴上君」
鳴上「…?」
千枝「あ、甘いモノって好きかな?お菓子とか…チョコ、とか…?」
千枝「チョコとケーキだったらどっちが好き?」
鳴上「…ケーキかな」
千枝「ケーキかぁ。頑張って練習しないと…」ブツブツ
鳴上「…?」
千枝「こ、こっちのこと!あ、あはは!それじゃね~!」
>千枝は行ってしまった
雪子「鳴上君」
>今度は雪子に呼び止められた
雪子「あのね…うん…」
鳴上「……」
>雪子は俯いてモジモジしている
具合が悪いかもしれない
雪子「そ、そうじゃないの!実は聞きたいことがあって…」
鳴上「聞きたいこと?」
鳴上「特に予定はない」
雪子「ホント!?」
>雪子はとても嬉しそうだ
雪子「その、もしよかったらなんだけど…」
雪子「2月14日に私と……!」
>昼休みの終わりを告げるチャイムだ
早く教室に戻らないと…
雪子「……そう、だね」
>雪子と二人で教室に戻った
りせ「ん~!やっと授業終わったぁ」
直斗「この後はまた先輩を?」
りせ「そ!デートのお誘いに行くの!」
完二「毎回毎回オメーはよぉ。いい加減迷惑じゃねーか?」
りせ「だって先輩ってばチョーイケメンだから、早いとこゲットしないと盗られちゃうもの!」
直斗「…たしかに」
完二「あン?」
直斗「な、なんでもありません…」
直斗「忘れてた…」
完二「!」
りせ「完二は一個も貰えなそ~」
完二「っせぇな!!」
りせ「友達のよしみであげてもいいよ」
直斗「その言い方はどうかと。僕も完二君にはお世話になっているので」
完二「お、オレに!?チョコくれんの!!?マジでぇ!!!?」
りせ「え、あ、うん…」
直斗「ひょっとしてチョコは嫌いでしたか?」
直斗「そ、そうですか」
完二(っべ!レーセーに考えたらこれ初チョコじゃねーか!うぉおおお!!)
完二(人生初チョコ!ビビるなオレ!ビビるんじゃねぇ!!)
りせ「アンタ、ひょっとして…」
完二「!」
完二「お、オレはビビッってねー!!」ダダ
直斗「…行ってしまいましたね」
りせ「……」
鳴上「ただいま」
菜々子「お兄ちゃんおかえりなさい!」
鳴上「お父さんは?」
菜々子「今日も遅くなるって」
鳴上「そっか」
菜々子「ねぇお兄ちゃん」
鳴髪「うん?」
鳴上「バレンタインデーか」
菜々子「うん!だからね、菜々子お兄ちゃんにチョコあげる!」
鳴上「楽しみにしてるよ」ナデナデ
菜々子「えへへ♪」
>そういえば陽介に頼み事をされていたような…
菜々子「お兄ちゃん大好き♪」ギュッ
>気のせいだろう
~朝~
直斗「お早うございます」
鳴上「おはよう」
直斗「今日はお一人なんですか?」
鳴上「ああ」
直斗「そうですか…」
鳴上「……」
>直斗はなにやら考えこんでいる…
鳴上「そうだな」
直斗「日頃の感謝の意味をこめて、先輩に差し上げようと思っているのですが…」
直斗「チョコは嫌いでしょうか?」
鳴上「好きだ」
直斗「!」
鳴上「…?」
直斗「あ、チョコのことですよね!」
>直斗の顔は赤い
熱でもあるのだろうか
直斗「平気ですから!本当になんでもないんです!」
鳴上「期待してる」
直斗「フフ、ならば期待を裏切るわけにはいきませんね」
>直斗と楽しく話しながら登校した
千枝「今月ってさ、バレンタインじゃない?」
雪子「そうだね」
千枝「雪子は誰かにチョコあげないの?」
雪子「鳴上君にあげようかなって思ってる」
千枝「雪子も!?」
雪子「千枝もなの?」
千枝「だ、だって日頃お世話になってるし?我らがリーダーじゃない?」
雪子「……」
千枝「感謝の気持ちをこめてドゾー!って感じでさ!」
雪子「うん。どうせなら手作りがいいかなって」
千枝「あたしはケーキにしようと思ってるんだ。チョコマフィン」
雪子「マハンマフィン?」
千枝「チョコマフィン!なんでそうなるの!?だいぶ無理ありますよ!?」
雪子「ご、ごめんね。今旅館の手伝いが忙しくて、疲れてるみたい」
千枝「…大丈夫?」
雪子「ありがと」
千枝「何かあったら言ってよ?」
雪子「うん。千枝もマハンマフィン作り頑張ってね」
千枝「ワザと言ってるよね!?」
>陽介は用事があると言って先に帰ってしまった
千枝や雪子も姿も見えない
>……
?「あら?まだ帰らないの?」
>!!
鳴上「あ、ああ…」
>大谷花子に声をかけられた
>心なしか彼女の顔は赤い
いや、きっと夕日のせいだそうに違いない
大谷「もしよかったら……」
鳴上「用事があるから。それじゃ!」
>教室を後にした
大谷「……」
大谷「…イケズ」
>大谷は追ってこない
なんとか逃げられたようだ
>このまま急いで帰ろう
?「だ~れだっ!」
>!?
りせ「せーかーい!」ギュッ
>りせが腕に抱きついてきた
鳴上「お、おい…」
りせ「正解した先輩には、りせと腕を繋ぐ権利を差し上げます!」
鳴上「……」
りせ「も~!もっと嬉しそうにしてよぉ」
>りせは頬膨らませて怒っている
フグのようでかわいい
りせ「フグみたいって…素直に喜べないよ…」
鳴上「…?」
りせ「今月の14日暇ですか?」
鳴上「とくに予定はない」
りせ「ほんと!?じゃあ放課後一緒にデートしたい!」
鳴上「遊ぶってことか?」
りせ「うん!ダメかな?」
鳴上「いいよ」
りせ「やった♪」
>りせはとても嬉しそうだ
鳴上「分かった」
りせ「~~♪」
>2月14日の放課後、りせと遊ぶ約束をした
忘れないようにしないと…
>りせと楽しく話しながら下校した
~朝・堂島宅~
>予定もないので暇だ
>久しぶりにベルベットルームに行ってみるのもいいかもしれない
>Pipipipipi!
鳴上「電話?誰からだ?」
>……エビだ
>一向に鳴り止まない
後が怖いので出ることにした
鳴上「も、もしもし?」
エビ「おっそーい!」
鳴上「!」
エビ「あたしが電話したら3コール以内に出なさいよね!」
エビ「まぁいいわ。で、アンタ今日暇?どうせ暇でしょ」
鳴上「は?」
エビ「また買い物に付き合ってよ」
鳴上「今日は都合が…」
エビ「じゃ駅前に10時でいいわね。こなかったら許さないから」
>そこで電話は切れてしまった
>……
鳴上「行くしかない、か…」
>エビと一緒に隣町まで買い物にやってきた
エビ「やっぱりこっちのが断然いいわ。ジュネスなんて田舎のショッピングモールって感じでダメダメよ」
鳴上「陽介が聞いたら泣くぞ」
エビ「陽介?あー、花村のこと?そういえばアイツって店長の息子なんだっけ」
エビ「もしあたしが花村と結婚したら、ゆくゆくは店長婦人?」
鳴上「いいんじゃないか」
エビ「金銭面では楽できそうね~」
鳴上「……」
鳴上「ノーコメント」
エビ「照れてんでしょ?かわいいとこあるじゃん!」
>エビはなぜか上機嫌だ
エビ「そうね、まずはあそこのお店に行くわよ」
鳴上「!」
>エビに手を引かれ、あちこちの店を見て回った
エビ「欲しい物もたくさん買えたし、今日はいい休日だったわ」
>荷物持ちでひどく疲れた
エビ「疲れた、じゃないわよ。ここは気をきかせて、最高に楽しかったよとか言うところでしょ?」
鳴上「……」
エビ「ほんと気がきかないんだから」
>……
エビ「はい」
>エビの手には缶コーヒーが握られている
エビ「きょ、今日付き合ってくれたお礼…」
>しかし、両手が荷物で塞がって受け取ることができない
エビ「しょうがないわね、アタシが飲ませてあげるわよ」
鳴上「!」
エビ「なに?」
鳴上「後で飲むから」
エビ「そしたら冷めちゃうでしょ。いいから大人しく飲まされなさい!」
エビ「いい?いくわよ…」
鳴上「ああ…」
エビ「…ん」
鳴上「ッ!」
エビ「ちょ、どうしたの!?」
鳴上「すごい熱い」
エビ「冷ませってこと?注文多いんだから…」
>文句を言いつつも、エビはコーヒーをフゥフゥしている
鳴上「…あ」
エビ「な、何よ?一口くらいいいじゃない」
エビ「それより、ほどよく冷ましてあげたわよ。感謝しなさい」
鳴上「どうも」
エビ「口開けなさいよ。また飲ませてあげるから」
>エビの言う通りコーヒーは丁度いい温度だ
冷えた体が温まる
エビ「…ど、どう?」
鳴上「おいしい」
エビ「あっそ♪」
鳴上「そうか」
エビ「……」
鳴上「…?」
エビ「今日は付き合ってくれてありがと。嬉しかった」
鳴上「誘うときは前日に言ってくれ」
エビ「いいじゃない!急にアンタと遊びたくなったのよ…」
>エビの顔は赤い
>エビだから……
エビ「ちょっと!何笑ってんのよ!?」
鳴上「ごめん」
エビ「…ねぇ、14日なんだけど暇?」
>14日はたしかりせと遊ぶ約束をしていた
エビ「どうせ暇なんでしょ?かわいそうだから、アタシが付き合ってあげるわ」
鳴上「!」
エビ「予定あってもアタシのためにあけなさい!いいわね!?」
>エビは帰ってしまった
>14日、エビに一方的に約束をされた
このままでは取り返しのつかないことになるかもしれない…
~???~
千枝「…て…起きてよ、鳴上君」
鳴上「う…」
雪子「やっと起きたね、寝ぼすけさん」
りせ「おはよ先輩♪」
直斗「…おはようございます」
鳴上「なっ!?どうしてここに!?」
エビ「アンタが呼んだんじゃない。忘れたの?」
鳴上「俺が……」
>そういえばそんな気もする…
エビ「アンタのために特性のチョコを作ってきてあげたわ」
りせ「絶対気に入ってくれるよ!」
直斗「恥ずかしいですが、先輩が喜んでくれるなら僕は…」
>しかし、肝心のチョコは見当たらない
雪子「目の前にあるじゃない」
鳴上「目の前?」
>気がつけば千枝たちはいつの間にか水着姿になっている
全員黒い水着を着ているが、もしかして…
直斗「これ、チョコで出来てるんです」
鳴上「!」
>生肉よりはマシかもしれない
エビ「はぁ?何ワケわかんないこと言ってんのよ。それより早く…しなさいよ…」
千枝「とけてビチョビチョになっちゃうよ」
直斗「僕は、あの、一番最後でもいいです…」
>チョコはドンドンとけてゆく
>このまま食べずに見ているのもいいかもしれない
雪子「お願い…早く…」
千枝「あたしの食べて…」
鳴上「!」
マガレ「あなたが食べたいのはそんなものじゃないでしょう?」
マガレ「大人のチョコ、食べてみたくはない?」
鳴上「……」ゴクリ
りせ「な、何よ!いきなり出てきて何様のつもり!?」
マガレ「子供には関係のない話よ」
千枝「そりゃあなたから見たら子供かもしれないけど」
雪子「鳴上君を思う気持ちは負けないもの!」
直斗「同感です!」
エビ「ま、一番はアタシだけどね」
りせ「私よ!!」
>喧嘩を始めてしまった
そっとしておこう……
鳴上「俺!?」
千枝「そうだよ!いつもいつも思わせぶりな態度とってさぁ!」
雪子「鳴上君は誰が一番好きなの?」
直斗「先輩……」
りせ「私でしょ!?ね、ね!?」
マガレ「答えは分かっているけど、もし万が一に私が期待しているものと違ったら…ふ、ふふ…」
>ただならぬ殺気を感じる…
「「「誰が好きなの!?」」」
~朝・堂島宅~
鳴上「うわぁあ!!」
>目が覚めるとあたりには誰もいない
どうやら夢を見ていたようだ…
>バレンタインデーまで後一週間
慎重に行動しなくては…
>菜々子が自室にやってきた
鳴上「おはよう」
菜々子「叫び声が聞こえたけど、大丈夫?」
鳴上「平気だよ」
菜々子「何かあったのかと思って心配しちゃった」
>菜々子の純真な優しさが伝わってくる…
鳴上「菜々子は優しいな」
菜々子「そ、そお?嬉しいけど、ちょっと恥ずかしいな」モジモジ
>そしてかわいいな……
>陽介はそそくさと帰ってしまった
聞くところによるとジュネスのバイトに精を出しているらしい
千枝「……」
雪子「……」
>二人から意味ありげな視線を感じる
>……
そっとしておこう…
菅直人じゃツライわな・・・
鳴上「!」
雪子「…ちっ」
千枝「あのさ、ちょっといいかな?」
鳴上「なに?」
千枝「じ、実はね、今マフィン作りにハマってるの!それでね、よかったら味見してもらいたいなー、なんて…」
鳴上「俺でよかったら」
千枝「ほんと!?ありがとう!」
千枝「雪子?」
雪子「チョコレート作ってきたんだけど、うまく出来たか味見してほしいの」
>なぜ自分で味見をしないのか
雪子「あなたに食べてほしくって…」
千枝「あ、あたしも!」
鳴上「……」
雪子「私は自信あります」
千枝「なっ!?」
雪子「自分でもうまくできたと思うの」
>……
>千枝のマフィンはなぜか紫色をしている
千枝「色々隠し味いれたから。あ、愛は大さじ3杯は入ってるよ!」
>色々ってなんだ…
謎のカレー臭がすること意外はフツーのチョコに見える
雪子「いっぱいそれっぽいの入れたから」
>それっぽいのってなんだ
千枝「肝心なのは味だよ!」
雪子「千枝、いいこと言った!」
千枝「さぁグイグイっといっちゃって!」
雪子「遠慮しなくていいよ」
主に胃が…
>……
鳴上「うっ!」
千枝「ど、どうしたの?」
鳴上「急にお腹の具合が…」
雪子「…痔?」
鳴上「違う!」
千枝「大丈夫?」
鳴上「また明日!!」
雪子「…あ」
千枝「逃げられちゃった」
雪子「千枝のマフィン、すごい色だもんね…」
千枝「雪子のだってカレーの臭いがすごいじゃん」
雪子「だってカレーチョコだし」
千枝「そ、そうなんだ…」
雪子「これ、どうしよっか」
千枝「…二人で味見してみる?」
雪子「そうだね」
千枝「召し上がれ」
雪子「……」モグモグ
千枝「ど、どう?」
雪子「ぷ!くくく!あははは!!」
千枝「なぜツボに!?」
雪子「み、見た目変なのに、あ、味はフツー!あははは!」
千枝「うぅ…」
雪子「あははは!」
千枝「もういいよ。次はあたしが食べる番だからね」
雪子「うん」
千枝「ほいじゃ、いただきまーす」モグモグ
雪子「どう?どう?」
千枝「チョコの甘さとカレー臭が口いっぱいに広がって…」
雪子「うん…」
千枝「混ぜるな危険って感じ、かな…」
雪子「おいしい?」
千枝「まずいっつってんの!!」
千枝「……」
雪子「料理って難しいね」
千枝「うん」
雪子「……」
千枝「…バレンタインまでに間に合うかなぁ」
雪子「……ぷっ!」
千枝「…………」
~朝・堂島宅~
>ついにこの日を迎えてしまった
放課後、りせとエビと遊ぶ約束をしている
>このままではまずい…
菜々子「お兄ちゃん!」
菜々子「これ!」
>かわいらしくラッピングされた箱にチョコが入っている
菜々子「バレンタインだから。大好きなお兄ちゃんにあげるね!」
>一口食べてみる
>素直においしい
菜々子の一途な思いが伝わってくる
菜々子「おいしい?」
鳴上「今まで食べた中で一番おいしいチョコだよ」
菜々子「ほんと!?やったぁ!」
>菜々子はピョンピョン飛び跳ねて喜んでいる
鳴上「……よし」
こんな妹がほしかった
千枝「いた?」
雪子「ううん、何処にもいない」
千枝「せっかくうまくマフィン作れたのに…」
りせ「先輩!」
千枝「りせちゃん…」
雪子「どうしたの?」
りせ「さっき先輩から今日は用事があるからってメールきて。放課後約束してたのに」
千枝(いつの間にそんな約束を…)
雪子「直斗君も鳴上君と約束したの?」
直斗「ええ、まぁ」
りせ「でも、どうして半径5km以内にはいないって分かるのよ?」
直斗「先輩の制服に仕込んだ発信機の反応がないからです」
雪子(発信機ってほんとにあるんだぁ…)
直斗「こないだお家にお邪魔したときに…」
りせ「先輩のうちにあがったの!?」
直斗「こないだ雨が降った日にちょっとありまして…」
千枝「ちょっとって…お家に上がっただけだよね…?」
直斗「……///」
りせ「あ、赤くなってんじゃないわよ!!」
雪子「海老原さん?」
エビ「あいつ知らない?」
雪子「あいつって、もしかして鳴上君のこと?」
エビ「そうよ。今日約束してたのに、急に用事ができたってメールきて」
りせ「私と同じ…」
エビ「あんたたちなら何か知ってると思ったんだけど、知らないみたいね」
直斗「僕たちも今先輩を探しているんです」
エビ「ふーん」
りせ「な、なによそれ!私だって先輩と遊ぶ約束したんだもん!」
エビ「あんたの勘違いじゃない?いるのよねー、勝手に約束した気になって浮かれるオンナ」
りせ「な、な、なんですってー!?」
直斗「久慈川さん、落ち着いて…」
りせ「勘違いしてんのはあんたじゃないの!?」
エビ「はぁ!?あ、アタシはちゃんと約束したわよ!絶対行くって言われたし!」
りせ「大方夢でも見たんでしょ」
エビ「あんた後輩のクセに生意気なのよ!」
りせ「恋に後輩も先輩も関係ないんだから!」
マガレ「ようこそ、ベルベットルームへ。主は只今席を外しております」
マガレ「それとも、私に会いにきてくれたのかしら?」
>そんなところだ
マガレ「ふふ、嬉しいわ」
>ここにいれば今日一日はひとまず安全だろう
鳴上「よく知ってるな」
マガレ「そうね、以前の私だったら外のことなんて気にもとめなかったのだけれど…」
マガレ「あなたの影響かしら、ふふ」
鳴上「……」
マガレ「これ、なんだか分かる?」
>チョコレートだ…
マガレ「あなたが来るんじゃないかと思って特別に用意しておいたの」
マガレ「さ、こっちにいらっしゃいな」
鳴上「おいしい」
マガレ「気にもらえて嬉しいわ」
マガレ「それから、もう一つとっておきのモノを用意してあるの」
鳴上「…?」
マガレ「きっと喜んでくれると思うわ」
マガレ「チョコのように、甘く切ない時間を過ごしましょう…」
>……
>マーガレットと長い時間一緒に過ごした
~朝~
陽介「うーっす」
鳴上「おはよう」
陽介「昨日何処行ってたんだ?みんな探してたぞ」
鳴上「ちょっと」
陽介「まぁいいけどよ。それよりチョコだ。おまえいくつ?」
>菜々子とマーガレットから貰ったから二つだ
陽介「マジかよ!?おまえなら10個以上貰ってると思ったんだけどな」
陽介「俺は4個」
鳴上「パートのおばちゃんから?」
陽介「ちげーよ。里中や天城たち。パートのおばちゃんはクマにゾッコン」
陽介「もらえる様に点数稼ぎにバイトやりまくったけど、あのマダムキラーには勝てねぇわ」
鳴上「そうか…」
陽介「そういや里中たちは完二にもチョコあげてたな」
鳴上「そうなのか?」
陽介「つーわけで、完二と俺は引き分け。まさかのまさかの悠の一人負けだ」
鳴上「……」
陽介「とにかく、スペシャル肉丼ゴチんなります」
鳴上「しょうがない」
完二「うーっす」
陽介「よう!」
鳴上「おはよう」
完二「花村先輩機嫌いいっスね。なんかあったんスか?」
陽介「今こいつの負けが決定したとこなんだ」
完二「あー、チョコの?」
鳴上「完二はいくつもらえたんだ?」
完二「オレは6個っス」
陽介「6だぁ!?」
陽介「お母さんとおばあちゃん?」
完二「ばっ!ち、ちげーよ!」
陽介「じゃあ誰から貰ったんだよ?」
完二「アミぐるみ作ったガキから…お礼だっつって…」
陽介「なんだ、子供か」
完二「チョコはチョコだろーがよ!」
陽介「まさか完二に負けるとは思わなかったぜ」
鳴上「ああ」
完二「先輩までひどいっスよー」
完二「なんか意外っスね」
陽介「逆の順位のがまだ納得がいくな」
完二「オレはビリ前提かよ」
鳴上「勝負は勝負だ。今度スペシャル肉丼奢るよ」
陽介「おう!楽しみにしてるぜ!」
完二「ゴチんなりまっス!!」
千枝「あー!」
鳴上「!」
雪子「すごく心配したんだよ」
鳴上「あ、ああ…」
千枝「一日遅れちゃったけど、これ」
雪子「私からも」
鳴上「ありがとう」
りせ「せーんぱーい!」
鳴上「ご、ごめん」
直斗「一体何処で何をしていのたです?」
千枝(直斗君いつの間に…)
直斗「まさか僕たち意外の女性と一緒だった、なんてことはありませんよね?」
りせ「そうなの!?」
鳴上「えーっと…」
>エビまできた…
エビ「あ!アンタ昨日何処ほっつき歩いてたの!?アタシとデートの約束したじゃない!」
鳴上「…ごめん」
りせ「また妄想が始まった」
エビ「も、妄想じゃないわよ!ガキはすっこんでなさい!」
りせ「ガキって、一つしか離れてないじゃない!あんたなんか精神年齢がガキよ!」
エビ「なによ!」
りせ「そっちこそなんなの!?」
>喧嘩を始めてしまった
そっとしておこう…
鳴上「俺!?」
千枝「そうだよ!いつもいつも思わせぶりな態度とってさぁ!」
雪子「鳴上君は誰が一番好きなの?」
直斗「先輩……」
りせ「私でしょ!?ね、ね!?」
>ただならぬ殺気を感じる…
「「「誰が好きなの!?」」」
陽介「……」
完二「オレら、一応勝ったんスよね」
陽介「ああ」
完二「先輩が貰ってるチョコってオレらが貰ったものより、すげー手が込んでないっスか?」
陽介「……」
完二「義理とかそーゆーんじゃなくて、なんつーか…」
陽介「やめろ。それ以上言うな」
陽介「だな」
完二「……」
陽介「サボって愛家行くってのもいいかもな」
完二「晴れてっから、スペシャル肉丼ないっスよ」
陽介「俺の心ん中は今どしゃぶりなんだよ、ちくしょう」
完二「……行くなら…付き合うっス」
陽介「…サンキューな」
完二「…うっス」
保守と支援ありがサンキュークマ☆
番長マジパネェっす
Entry ⇒ 2012.01.16 | Category ⇒ ペルソナSS | Comments (0) | Trackbacks (0)
阿良々木「岡崎、もう一度僕とバスケをしよう」
http://yutori7.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1260622826/
001
岡崎朋也との一連の出来事は、そういえば、未だに戦場ヶ原には話していない。
これは、戦場ヶ原と付き合う際に僕の方から提示した、
『怪異に纏わる話に関してお互い隠し事はしない』という条件を、
軽快とは正反対の心境で、爽快さも心によぎることすらなく、痛快なわけも当然のようにない、
我が事ながら本当にどろどろとした不愉快さを内包した気持ちで思いきりぶち破っているのだけれど、
しかしそこは、戦場ヶ原に慈悲や慈愛といった感情はおよそ皆無と知りつつもあえて言うならば、
どうか寛大な心で見逃して欲しかった。
というのも、僕にはあの一週間の出来事を果たしてどう話したものかよく分からないし、
そもそも出来うる限りあまり話したくないのもまた、事実なのだ。
はっきり言って、気持ちの良い話でもないし。
それにいかにあの戦場ヶ原と言えども、こればっかりは僕か、
あるいは神原辺りがなにか言わなければ気付かないと思う。
あの一週間の前後で、僕の身には――一切、なんの変化もなかったのだから。
心には、あるいは、あったのかもしれないけれど。
だって。
だってこの話は、
あの地獄の春休み――キスショット・アセロラオリオン・ハートアンダードの一件と同じで。
これは、岡崎朋也がただ失って。
そして阿良々木暦がなすすべもなく失っただけの。
そんな、およそ本筋に関係のない。
やっぱり誰一人として幸せにならない、そんな、失物の話だ。
002
僕が岡崎と知り合ったのは、本当に偶然で、
場所は町外れのストリートバスケットコートでのことであった。
数日先に控えた定期テストのための、
戦場ヶ原の家における勉強会――あえて言い換えるならば、
戦場ヶ原ひたぎの戦場ヶ原ひたぎによる戦場ヶ原ひたぎのための阿良々木暦をいたぶる会に向かう際、
僕はなんとも意気地のないことにわざわざ遠回りしていた。
ただでさえ戦場ヶ原は僕が勉強で行き詰まると、
ここぞとばかりにねちねちとまるで小姑の如くいじめてくるっていうのに、
ここ最近は、つい数日前の神原駿河の事件のおかげで、
僕相手のとき限定でそこはかとなく機嫌が悪いのだ。
神原とのことを黙っていたのが、僕の予想以上に、
戦場ヶ原にとってご立腹するのに充分で重大で重要な理由だったのだろう。
というわけで、わざわざ町をぐるりと一周するようにママチャリで走っていたところ、
ちょうど隣町との間にかけられた橋の上で、
ぼすぼすという小気味のいい音を聞き付けた僕は、
その音の出所を探してキョロキョロしたあと――その姿を見つけたのである。
橋の下にあるストリートバスケットコートで、一人ボールをつく、黒髪の男の姿。
ワイシャツに紺のズボン。クリーム色のブレザーが近くのフェンスに引っかかっていて、背格好からもどうやら学生のように見えた。
「一人でなにやってんだろ……」
ちょっとばかり人より遠目の利く僕は、なんとなく自転車を止めると、
橋にもたれかかって男がコートを走り回るのをぼんやりと眺めることにする。
戦場ヶ原の所に行くのが怖いから現実逃避しているわけでは、ない。
断じてない。ないってば。
ところでバスケと聞けば、もう僕の中ではすぐに、
それこそまるで条件反射とか鍵刺激みたいに神原駿河の名前が出てくるようになってしまったのだけれど、
それは神原のキャラクターが想像以上に強烈であったことに起因する。
まあそれはいいとして、しかしバスケの実力という点で、
神原は眼下の男との比較の対象にはなり得ないと、すぐに思い直した。
神原の超人的なバネとそれによるジャンプ力は、
確かに血の滲むような努力、
血を見るかもしれない恐怖、
そして血が流れかねない強迫観念から身についた彼女自身のものだけれど、
人間離れしていることには変わりない。
あれと比較しうる対象は、少なくともこんな田舎のストリートのバスケットコートにはいないに違いないだろう。
いるとしたら、それはきっと、まともじゃないモノだ。例えば――怪異とか。
そんなことを纏まりのない頭でぐちゃぐちゃと考えながらしばらく眼下のコート見ていると、
件のバスケ男の行動がなんだか妙であることに気付いた。
それは例えば重心の低さとか、
例えばくるりと回るときの足さばきとか、
例えば誰もいやしないのにかます細かいフェイントとか、
そういうあらゆる点から見ても男が素人ではないのは明らかで、
ゴール左からのレイアップは綺麗に決まるのに、
決して右からはシュートを打たないのである。
いや、正確には、それも違う。
打とうとは、するのだ。
とか考えているうちに、男はゴール右に走り込み、
ボールを掴み三歩で踏みきって、
一切の無駄がないフォームで飛び上がり――そのままボールを落っことす。
てん、てん、と転がるボールから一瞬遅れて着地した男は、
しばらくぼんやりと立ち尽くし、
やがてボールを拾い上げてドリブルを初め、
そしてまた右からのシュートの途中でやる気をなくしてしまったかのようにボールをとり落とすのである。
そんなことをバスケ男は、延々と繰り返していた。
だけどどうやら本人は至って真剣なようで、
だからその人影に気付いたのはバスケ男よりも、僕のほうが早かったと思う。
「………ん?」
声を漏らす。
橋の下にコテコテに改造されたバイクが何台か止まり、
露骨にガラの悪い、
赤とか金とかの髪の男たち数人ぞろぞろとバスケットコートに近付いていく。
男たちは、上半身はパーカーやらティーシャツやら、
それぞれ思い思いのファッションに身を包んでいるものの、
全員に共通する、チェーンのじゃらじゃらついた深緑の学生ズボンには見覚えがあった。
ここらじゃガラが悪いことで有名な工業高校の制服だ。
夏休みが明けると一年生の半分は学生を辞めていて、
辞めなかった半分のうち三分の二は休み中に最低一回は警察のお世話になり、
残りは同じく休み中に停学をくらって初日から登校することはできないという噂だ。
つまるところ件の工業高校は田舎の不良たちの収容所であり、
深緑のズボンはたまに家の前にかかっている『猛犬注意!』の札なのである。
で、そんな彼らにようやく気付いたバスケ男が、
ボールをつくのをやめた。
なにか話をしているようだが、いくら僕の耳でもよく聞こえない。
知り合いなのだろうかと思った、その瞬間――。
「あっ……ぶない!」
工業高校の男の一人が乱雑に振り回した拳が、
咄嗟に避けたバスケ男の前髪を掠める。
一瞬にして――空気が変わった。
あっという間にぐるりと取り囲まれたバスケ男は、
しかし少しも物怖じすることもなく男たちを睨み付ける。
それに怯んだのか、すぐには手を出すことはしない工業高校生たち。
だが、どうしたってこのままじゃ結果は見えているだろう。
……どうする。
考えるより先に――体が動いた。
僕はママチャリに飛び乗ると、一番近い階段を駆けおり、
運よく転ぶこともなく橋を下りおえ、
そのままママチャリを工業高校生たちの原付に突っ込むようにして止めると、
実にめでたくない円陣を作っている男たちに全速力で駆けよって、
その中心にいるバスケ男の腕を掴んで引っ張り――叫ぶ。
「こんなところにいたのか、えっと……そうだ、忍野っ!」
忍野、ごめん。
最悪な形で名前借りた。
「……あ?」
腕を掴まれたバスケ男は、こっちがびっくりするくらい鋭くて凄みのある目付きで、
ぎらりと僕を睨む。
ナイフのように切れ長の、どこか狼を思わせる瞳。
周りで呆気にとられている工業高校の猛犬なんかより、
よっぽど恐ろしいと思った。
「なんだ、てめえ」
「こいつの知り合いか」
「今ちょっとオレたちが話してんだからさ、引っ込ンでろよ」
ごめんなさい、嘘つきました!やっぱりこいつらも怖えーよ!
するとそんな僕を見たバスケ男がため息をついて、声をかけてきた。
「悪い。ちょっと遊んでたんだ。行こうぜ」
「あ、あぁ。みんな待ってる」
「そういうわけで、あんたらと遊んでる暇はなくなった。じゃあな」
そして円陣から抜け出し、歩き出す。
「……おい」
「え?」
少しもいかないうちに、ぼそぼそと忍野(仮)が話しかけてきた。
「あいつら追いかけてくる。1、2の3で振り返らずに走るぞ」
「え、ちょ……」
「1、2の、3っ!」
反論する暇もなかったけれど、
忍野(仮)が飛び出すように走り出したのを見て、僕も駆ける。
すぐに後ろから罵詈雑言というのがこれほどまでにふさわしい声は、
他にないだろうという怒声と(舌を巻きすぎてなに言ってんのか一割も理解できなかった)、
続けて慌ただしい足音が鳴った。
「こっちだ! あいつらバイクだろ、抜け道を使う!」
物凄いハイペースで走っていく忍野(仮)を追いかけて、僕もただひたすらに足を動かした。
「岡崎。岡崎朋也だ」
ひどくぶっきらぼうな口調で、
まるで吐き捨てるようにして岡崎は名乗った。
僕と岡崎はそこら中を駆け回ってなんとか工業高校生たちから逃げ切ったあと、
適当なコンビニで飲み物を買って、並んでへたりこんでいた。
岡崎は、あれだけの動きをバスケットコートでしていたのだから、
スタミナはあるかと思いきや息も切れ切れで、
僕のほうはある事情から疲労はまったくと言っていいほどないのだけれど、
精神的な疲弊でとうぶん立ち上がりたくもない。
ちなみに件の工業高校生たちは、
「このコートは自分たちのテリトリーだから誰に許可を得て勝手に使ってるんだ」
とかいう、ピントのズレた何年前の不良漫画だと言いたくなるような文句をつけて岡崎に絡んできたらしい。
絶滅危惧種に認定してもいいくらい、テンプレート通りの不良である。
「歳は16、高1」
岡崎は続ける。
「……お前は?」
「阿良々木暦、17歳で高3」
僕も名乗ると、岡崎は意外そうな顔をしてみせた。
「お前、年上なのかよ」
「悪かったな、身長165センチで中2からまったく伸びてなくてっ!」
「なにも言ってないだろ……」
「ていうか岡崎、年下かよ! なんだよ、その身長、ルックス、目付きの悪さ! 禿げろ! 禿げちまえ!」
「ざっけんな、目付きは関係ねえだろ!」
「禿げも関係ねえよ!」
「阿良々木が言ったんだろっ!」
言い合って、揃って肩を落とした。疲れる。
ただ、 一つだけ分かったことがあった。
それは向こうも同じのようで、同時に口を開く。
「「お前、ツッコミだろ」」
ツッコミ役はボケがいなくちゃ成り立たない。
ボケとボケは同じ部屋に閉じ込めても、ボケ倒しというジャンルが成立するのだけれど、
ツッコミとツッコミは一緒にいると喧嘩になるだけなのである。
顔をあげて、お前ボケろよ、と目線で訴えてみる。
隣で岡崎も同じ目をしていた。ちょっと凹む……。
「けど阿良々木、悪いな。飲み物まで奢ってもらっちゃって」
「いや、それお前自分の金で買ってただろ」
「え、後で払ってやるって言ってたじゃん」
「言ってねえよ! なんでそこまで面倒見なくちゃいけねえんだ、
僕はお前の保護者かなにかか!」
「いや、財布」
「僕たち出会ってまだ1時間も経ってないよなっ!?」
出会ったばかりの年下に財布にされる高校3年生が、そこにはいた。
――ていうか、僕だった。
「なんだよ、阿良々木が奢ってくれるっていうから奮発してペットボトルにしたのに」
岡崎はそんなことを言いながら、ぐいっとスポーツドリンクを煽る。
「……僕、帰っていいかな」
「帰る前に財布置いてけな」
「やだよ! なんでだよ!」
「ワンコインでいいから!」
「え、まあ、それくらいなら……」
「500円玉な」
「ふざけんなっ!」
「じゃあ、いちまんえんだまでいいよ」
「僕はカービィじゃないんだからそんなもの持ってないし、
あるいはもし仮に持っていたとしても、
それは明らかな偽硬貨だから普通の店では使えないな!」
ちなみにいちまんえんだまというのは、
『星のカービィスーパーデラックス』というスーパーファミコンのゲームにおける一つのステージ、
洞窟大作戦に登場する25番目のお宝である。
水の中を、ゴルドーとかいうトゲトゲのお邪魔ブロックみたいなものを避けながら進んだ先にあるのだけれど、
水には流れがあって、
一度取り逃すとまた最初からゴルドー避けに挑戦しなくちゃいけない仕様になっている。
僕なんかゲームがそんなに上手いほうではないので、
手こずってそこで何度もカービィを死なせたものだ。
「まったく、岡崎。
知り合ったばかりのやつにこんなこと訊くのもなんだかひどく屈辱的なのだけれど、
お前、僕がそんな財布役に甘んじるようなやつに見えるのか?」
「似合ってるぞー」
「そんなの似合ってるなんて言われて嬉しいわけないだろ!?」
「大丈夫、おまえ超スマートで超イケメンで
超気前がよさそうで超信頼されてそうで
超使いやすくてわずかスプーン一杯で驚きの白さになるから」
「え、はは、そうかな。
岡崎、なかなか男を見る目があるよな」
僕の周りには毒を吐く人間が多いので、実はこうして誉められるのに弱い。
「あぁ。だから財布寄越せよ」
「嫌だって言ってんのが分かんないのか!」
「うるせえな! さっきから話が進まねえだろ、さっさと出せよ!!」
「くそう、なんで僕がキレられてるんだ……」
助けたのは僕なのに、理不尽極まりない。
「あとなんか誉めてるとき最後の方、白さがどうとか言ってたけれど、
あれ、洗剤のキャッチコピーだろ……」
スプーン一杯で驚きの白さに。
……アタックだっけ?
「阿良々木は潜在的に財布の才能があるとかそういうニュアンスをこめてさ」
「そのニュアンスは出来ればこめて欲しくなかったな! うまいこと言ったつもりか!」
「ははっ、潜在的に財布だってよ。洗剤だけに」
「なにこの人、自分で言って自分で笑ってる……つーか僕の扱いがぞんざいすぎるだろ……」
戦場ヶ原といい。
八九寺といい。
最近、僕の周りには僕に対して毒を吐くやつが多すぎる。
神原は神原で、あいつは逆に僕のことを異常に持ち上げようとするのだけれど、
いわれのない賞賛はそれはそれで居心地が悪いし。
羽川くらいか、僕を普通に扱ってくれるのは。
でもあいつ、僕のこと不良だとか思い込んでるんだよなぁ……。
「とにかく」
岡崎はにやりと歪めていた口元を正し、仏頂面に戻ると。
「………たすかった」
なんだか変に、ぎこちない言葉。
スポーツドリンクを飲み干して、僕は答える。
「ん」
岡崎はそんな僕を一度見下ろしてから、
わざわざ右手に持っていたペットボトルを左手に持ち直し、
ひどく不慣れな動作でゴミ箱へ投げた。
当然、そんなやり方でうまくホールインワンできるわけもなく、
それどころか、
リングに擦ろうとかそういった意思すら垣間見ることさえ皆無な皆目検討もつかない方向へとすっ飛び、
かつん、と快活な音を立ててペットボトルはコンクリートに転がる。
「やーい、へたくそ」
「……あ?」
「ごめんなさいっ!」
散々毒を吐かれた仕返しに自分を馬鹿にした2歳も年下の男をからかったら睨まれて、
即座に謝る高校3年生が、そこにはいた。
――ていうか、やっぱり僕だった。
「よっ……と」
岡崎はわざわざ歩いてペットボトルを拾い上げると、今度はきちんとダストシュートする。
「じゃあ、阿良々木。俺はこのままどっか遊びに行くけど、お前は」
「僕は――あ、しまった!」
そうだ、僕は、戦場ヶ原の家に行く途中だったのだ。
時間を確認。
約束の時間を、もう1時間も過ぎていた。
今日が、僕の命日かもしれないと、真剣に、深刻な心境で思う。
言葉責めならまだマシ、ホッチキスどころか
カッター辺りのガチで凶器になりうる文房具を持ち出してくる可能性が、大いに考えられる。
「おい、大丈夫か? すげえ冷や汗だけど」
「大丈夫、いや……うん、大丈夫。ごめん、僕、用事があるんだよ。
せっかく知り合えたのに、悪いんだけどさ」
「……あ、そ」
僕は呆然としている岡崎への挨拶もそこそこに、走り出す。
とりあえず放置しっぱなしの自転車をとりに、件のストリートバスケットコートへ。
一応警戒して橋の上から覗くと、工業高校生たちは影も形もなく、
どうやら僕らを追いかけるうちにバスケをする気はなくなったようだ。
さっさと自転車を確保しに橋の下に降りて――フェンスに引っかかりっぱなしの、クリーム色のブレザーを見つけた。
「これ、たぶん、岡崎のだよな」
誰に言うでもなく呟いて。
僕は、今度会ったときに返せばいいやと、
それを回収して自転車のカゴに入れ、
戦場ヶ原の家へと向かったのだった。
なんのためにもならない、『もし』の話をするのなら。
もし、仮に、僕がこのときブレザーを回収しなければ。
あるいはこの話は、ここで終わり。
僕と岡崎は――たった1日限りの友達で、済んだのかもしれない。
誰も、なにも失わないで、済んだのかもしれない。
そんなのは本当に――本当に、誰も救わない、仮定の話なのだけれど。
【ともやウルフ】
003
「んんー、この制服と校章は、たぶん、光坂高校のじゃないかな」
翌日の放課後、紙袋に入れて学校に持ってきていた岡崎の制服を見せると、
羽川はそう言った。
「光坂高校っていうと……」
「ほら、隣町の。
私立光坂高等学校っていったら、このあたりじゃ一番の進学校じゃない。
うちも全体の進学率では負けてないみたいだけれど、
国公立大学への進学率だと、やっぱり光坂高校には負けるっていって、
毎年先生方が悔しがっていたはずだよ」
「へぇ。お前はなんでも知ってるな」
「なんでもは知らないわよ。知ってることだけ」
羽川。
羽川翼。
三つ編み、眼鏡。
委員長の中の委員長。
究極の優等生。
僕の命の恩人。
異形の翼を持つ少女。
そして――猫に魅せられた少女。
「ふぅん、私立光坂高校、ね。あいつ、頭よかったんだ」
一応僕も、世間一般では進学校と呼ばれる私立直江津高校に通っているのだけれど、
その実態は数学以外は赤点だらけの出来損ないだ。
所謂、RPG(Red Points Getterの略)である。
「格好良さげに言っても、普通に格好悪いよ、阿良々木くん」
「くっ……」
羽川の台詞に言葉が詰まる。
まごうことなき、正論であった。
そもそも僕だって、中学まではそこそこ頭もよかったのだ。
しかし無理して進学校に入学した途端に、
予想通りというか予定通りというか、見事に落ちこぼれた。
こういうのを、えっと……なんていうんだっけ。
「深海魚、っていうみたいね」
「さすが羽川。お前はなんでも知ってるな」
「なんでもは知らないわよ。知ってることだけ」
と、続けて通例のやり取りを交わした辺りで、
羽川はちょっと不安そうな表情を作った。
「阿良々木くん、どうしてそんなの持ってるの?
もしかして、また、なにか厄介事に首を突っ込んでる?」
「違うよ。
これはただ、友達の忘れ物なんだけれど、
次いつ会えるか分からないから、届けようかと思って。
だから――羽川が心配するようなことは、なにもない」
そう答える。
あとから考えると、羽川は持ち前の恐ろしいまでの勘の良さをいかんなく発揮していたのだけれど、
そのことに僕が気付くのはかなり後になってからであり、
そのとき僕は羽川の心配すること――すなわち、怪異のことを考えていた。
怪異。
怪しく、異なるモノ。
世の中には、その、怪異というものが、確かに存在する。
春休みのことである。
僕は、人類が月に到達し、
手に収まる小さな携帯電話で世界中の情報が一瞬で手に入り、
形のないデータをお金を出して買うようなこの現代に、
恥ずかしくて二度と部屋から出たくなくなるくらいの事実なのだが、
吸血鬼に襲われ――吸血鬼となった。
血も凍るような、美人だった。
美しい鬼だった。
とても――美しい鬼だった。
とにかく、そんな地獄の真っ只中にいた僕を救ってくれたのは、
たぶん一般人の感覚からすれば、普通、
例えばヴァンパイアハンターとかいう吸血鬼専門の狩人だったり、
キリスト教の特務部隊だったり、
あるいは吸血鬼でありながら同属を狩る吸血鬼殺しの吸血鬼だったりするのだろうけれど、
僕の場合、通りすがりの小汚くて胡散臭いアロハのおっさん、
忍野メメと――羽川翼その人であった。
羽川がいなければ僕は今、こうして生きていないと自信を持って断言できるし、
この先、羽川のためなら命を差し出したって構わないとすら思う。
彼女にはそれほどまでの、恩がある。
彼女自身は、絶対に認めようとしないけれど。
それでも僕が羽川に助けられたと思っているのは、事実なのだ。
紆余曲折の果てに吸血鬼もどきの人間――あるいは、人間もどきの吸血鬼となった。
それが、今の僕だ。
おかげで僕は、日光を浴びても身体は燃えないし、
十字架に触れても皮膚が焦げたりしないし、
ニンニクのにおいを嗅いでも鼻孔から神経を侵されることもなくなったのだけれど、
しかし、その影響というか後遺症で、
身体能力は、著しく、上昇したままだ。
もっとも、運動能力は、ちょっと疲れにくいとかその程度のもので、
顕著なのは新陳代謝など、いわゆる回復能力なのだが。
とにかくそれを契機に、僕は怪異に関わるいくつかの事件に首を突っ込んでいる。
羽川もゴールデンウィークに怪異に憑かれた一人だ。
忍野曰く、一度怪異に惹かれたものは、そのあとも惹かれやすくなる。
これまで僕が出会った怪異の数は、5。
鬼。
猫。
蟹。
蝸牛。
猿。
僕、いくらなんでも、出歩く度に怪異に関わりすぎだと思う。
もっとも、羽川は、彼女自身が関わった怪異の記憶、
ゴールデンウィークの悪夢を、まるっきり、忘れてしまっているのだけれど。
記憶の喪失。
それが、いいことなのか悪いことなのかは――分からない。
なにはともあれ。
「光坂高校か。助かったよ、羽川。
それだけ分かれば、なんとかなると思う」
「そう? よかったら案内しようか?」
「大丈夫だって、それに羽川、テスト勉強とかあるだろ?」
「んー、阿良々木くんのほうはテスト勉強はかどってる?」
「うっ……」
なにも言えねえ。
「もうテストまで時間ないけれど、大丈夫なの?」
「まあ、たぶん、今回はなんとかなるよ。
ほら、最近、戦場ヶ原に勉強を教わってるんだ。
あいつ、意外に人に教えるのうまいんだぜ」
少々スパルタが過ぎるところはあるけれど。
それでも最近、
そもそも勉強の仕方とはこういうことだったのかと思うような数々の勉強のテクニックを、
戦場ヶ原から叩き込まれている。
それだけでも僕には新鮮で、いい刺激なのだ。
「そっか。戦場ヶ原さんがついてるなら、安心だね」
「本当は羽川に頼みたいくらいなんだけどな。あいつ、厳しすぎるから」
「あはは、そんなこと言っちゃダメだよ。戦場ヶ原さんも自分のテスト勉強の時間を割いて、阿良々木くんに教えてくれてるんだから」
「まあ、そうなんだけどさ」
僕はそう言って席を立つと、自分の荷物を取り上げた。
戦場ヶ原の家に行く前に光坂高校に向かうなら、そろそろ学校を出ないと。
「とりあえず、戦場ヶ原のところに行く前に隣町まで寄ってみるよ」
「うん。じゃあ、阿良々木くん、頑張って」
もう一度羽川にお礼を言って、僕は教室を後にする。
別れ際。
羽川がまるで――まるで、頭痛を堪えるように頭を押さえていたのが、
少しだけ、気になった。
隣町とは言ったものの、
たかだか橋を一本渡っただけなのに、私立光坂高校のある町は、
僕の住むド田舎とはまったくもってそれはもう見事なくらい趣きを異にしている。
まず第一に、駅がある。
そして駅を中心に栄えたのであろう商店街なるものが存在して、
そこには本屋やレコード店もあれば、
クレープ屋なんていう祭りの屋台限定だと思っていたデザート専門の店がでんと構えていて、
雑貨屋みたいな洒落た店もあり、
そしてなんとあろうことかゲームセンターすらあるのだ。
ゲームセンターなんて不良の行くところで、
近寄るだけで3秒でかつあげされるに違いないとかいう丸出しの田舎っぺ根性を持つ僕は、
ゲーセンの前を通ったときに横からハンマーで殴られたみたいな騒音だけでかなりビビった。
隣町の商店街まで遊びに来たことがないわけではないけれど、
最後に来たのは中学生で、高校生になってからはおそらく初めて足を踏み入れる。
一緒に来る友達が、いなかったから。
「………………」
くそう。
……なにはともあれ。
都会である。
僕の住むあの町からしたら、もう、大都会である。
僕はどちらかと言えば、10代の人間にありがちな、
都会を不必要なまでに至高と考え、
東京と聞くだけどこか崇高な気がして、
どう考えてもズレているファッションをして欺瞞の孤高さを噛み締めたがるような田舎の若者ではないので、
都会なんて怖いところ早く去りたいとびくびくするのであった。
例えそれが最近の都会で流行りのファッションであろうと、
僕はドリルが人間になったみたいな髪型だったり、
頭に鳥かご乗せていたり、
ハート山総理を意識しているような女の子だったら、
いかにそれらが美人であろうと、普通に地味な黒髪のほうがよっぽど好ましい。
だって怖いじゃん、髪の毛がキリンの頭だったりするんだぜ。
閑話休題。
と、いうわけで、途中何度も迷い、
結局羽川に電話をして口頭で道案内をしてもらうという
最高に情けないことをやらかした末にようやく辿り着いた私立光坂高校は、
長い――長い上り坂の向こうにあった。
「うわぁ……」
思わずため息が漏れる。
こんな坂を毎朝のぼって登校するなんて、
もうそれだけで嫌になりそうだった。
ここまで来るのにかなり時間がかかってしまったから、
まだ岡崎が学校に残っているかは心配だったけれど、
せっかく来たのだからとりあえず校門の前へ。
下校する光坂高校の生徒たちに奇異の目を向けられつつ、
ここから先は入っていいものか迷っていると。
「あれ? ねぇ、なに、きみ、うちの学校になんか用?」
なんだか変に鼻にかかった、
人を小馬鹿にする感じの声にそんなこと言われた。
この場合、声単体が生き物として成立しているように思えてしまう文だけれど、
実際は当然のように声の主がいるわけで、
そいつはドぎつい金髪にたれ目気味、やや童顔の男子生徒。
泥だらけの体操服に身を包み、小脇にサッカーボールをかかえていた。
「ああ、いや……」
「ところでさー、きみ、お金貸してくんない?
いや、絶対返すからさ、へへっ、いくら持ってんの?」
「………は?」
「ほら、ジャンプジャンプ!
小銭持ってたらちゃりちゃり言うはずじゃん!」
友達を訪ねて他校に来たら、
さっそくかつあげされる男子高校生が、そこにはいた。
――ていうか、認めたくないけれどそれもやっぱり僕だった。
なんだろう、岡崎といい目の前の金髪といい、
最近、光坂高校ではかつあげが流行っているのだろうか。
ていうか、進学校だからと高をくくっていたら、
なんだか見た目も言動も凄まじく不良っぽいやつである。
なんせ――金髪である。
僕らの町では頭髪は基本的に黒であり、
ブリーチ剤なんてそもそも売っている店がない。
ちょっと茶色に染めたら不良と呼ばれるような世界である。
……うわあ、リアル金髪だ。
しかし、目の前の不良にはどこか迫力がない。
へたれ臭がひどい。
もっと言えば、立ち位置的に、ひどく僕と同じにおいがする。
ていうか、考えてみれば、昨日岡崎に絡んでいた工業高校生たちの中には赤い髪とか平気でいたしな。
慣れたのかもしれない。
……なんの役にも立たない上に、嫌な耐性だった。
「あー、えっと、お金はそんな持ってねえよ。
それより、人を探しているんだけど。
岡崎朋也って、まだ学校にいるかな」
「岡崎ィ? 誰、それ」
「あー、えっと……」
誰、と言われても、考えてみたら僕だって
名前と学年くらいしか岡崎のプロフィールくらいしか語れる要素の持ち合わせはない。
金髪男も、岡崎のことを知ってる様子はなさそうだし。
なので、冗談を言って流すことにした。
「岡崎ってのは……宇宙人なんだ」
「マジかよ! なにその宇宙人ってうちの生徒なの!?」
「他にもこの学校には異星人とエイリアンがいる」
「マジかよっ!!
僕、今までそんなやつらと同じ学校で過ごしてたなんて……うぅっ、寒気が」
うわあ、信じてるよ……。
ちょっと面白い。
あと、宇宙人も異星人もエイリアンも全部同じだと思うのだが、
金髪男はなにも不思議に思わなかったようだ。
宇宙人に、異星人に、エイリアン。
本当はなにか違いがあるのかもしれないけれど、正直よく分からない。
羽川に訊けば答えてくれるんだろうか。
「ん? ちょっと待てよ……」
男がなにかに気付いたように声をあげた。
からかったのに気付かれたかと身構えると。
「うちの学校に宇宙人がいるって知ってるってことは、おまえ、まさか……」
「………………」
杞憂もいいとこだった。
せっかくなので冗談を上乗せする。
「地球の平和を守るインベーダー」
「マジかよっ!?」
ちなみにインベーダーは、侵略者という意味である。
平和を守るふりして、あっさり侵略されていた。
「あ、でも一般人のお前がこの学校に宇宙人がいることを知ったら
……いや、なんでもない」
「なんだよ、言えよ! 不安になるだろ!」
「……いや、でも」
「言えってば!」
「でもなあ……」
「言ってください、お願いします!」
「消される」
「………………」
絶句していた。
「た、助けてくれよ……平和を守るインテリアなんだろ?」
「果たしてどうすれば室内装飾品に平和を守る機能がつくのか
僕にはさっぱり想像もつかないけれど、
宇宙人に消される人間を助ける力は僕にはない」
「うぅ……父さん、母さん……宇宙人に消される直前までバカやっててごめんよ……」
「どんまい!」
「明るく言わないでくれませんかね!?」
「お前のことは3分くらいは絶対忘れないよ!」
「嬉しくねえよ!
そんなのいいから僕のこと助けてくれよ、頼むから!」
「さっきからうるさいな、ちょっと黙ってろよ!」
「なんで僕がキレられてんすかねえっ!?」
金髪がそう叫ぶのとほぼ同時に、
遠くのサッカーコートから怒声が響いた。
「おら、春原ァーっ!
ちんたらしてねえでさっさとボール拾ってこい、ぶっ殺すぞっ!!」
「ひいいいいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃいい!!!!」
春原と呼ばれた目の前の金髪男がとんでもなく面白い顔になった!
と思ったら、地面に唾を吐いて毒づく。
「けっ、あいつら、たいして上手くもねーくせにいばりやがって。
宇宙人から逃げ切ったら絶対ボコボコにしてやる」
しゅっしゅっ、と明らかに素人なシャドーボクシングを始めた春原を横目に、
僕はさっさと気付かれないよう光坂高校を後にしたのだった。
岡崎がいるかどうかはまだ分からないままだったけれど、
いきなり不良に絡まれてかなり気分が萎縮していたのである。
都会ってこえーなー。
がさりと、右手の紙袋が音を立てた。
……制服は、またいつか渡せばいいや。
004
「それで、今日も時間に遅れた言い訳はあるのかしら、阿良々木くん」
僕が必死こいてケッタ(ママチャリの地方での名称である)
をすっ飛ばして戦場ヶ原の家の玄関をくぐった途端、
彼女はそんな言葉を突きつけてきた。
戦場ヶ原。
戦場ヶ原ひたぎ。
自称ツンデレ。
泰然自若。
僕の彼女。
そして――蟹に行き遭った少女。
「いや、戦場ヶ「有罪」
「戦場ヶ原の方から言ってきたのに言い訳する暇も与えてもらえないのかよ……」
「なにを言っているのかしら、阿良々木くん。
私が有罪と言ったのは、トラケロフィルム程度の阿良々木くんが人間の言葉を話したことに対してよ」
「戦場ヶ原の中での僕の評価は、
毛で覆われていて身体をくねらせたり回転させて動く微生物と同等なのか!?」
「むしろそれ以下ね」
間髪入れずに言い切りやがった。
戦場ヶ原、さっそく絶好調である。
「お前、トラケロフィルム以下の生き物の彼女でいいのかよ……」
「トラケロフィルム以下が彼氏、と言いなさいよ」
「違わねえよ!」
「違うわよ。
阿良々木くんの言い方だと、私のほうがトラケロフィルム以下の生き物の所有物みたいじゃない」
「言いたいニュアンスは分かるけど納得はいかない!」
こいつ確実に僕のこと所有物として見てやがる。
戦場ヶ原がこんな性格な以上、対等な関係だなんてもう思ってはいないけれど、
しかしそれはいくらなんでも下に見られすぎだった。
「トラケロフィルム以下のくせにいちいちうるさいわね。
阿良々木くんが、つい最近まで遊戯王のカードで水の踊り子ばっかり集めて、
下から覗きこんだら乳首が見えないか必死にチャレンジしていたクズだということを、
羽川さんにチクるわよ」
「僕のほうが初めてきくよ、なんだその話……」
つーかこれ、本当に付き合ってる男女の会話かよ……。
僕、そろそろ本当に戦場ヶ原に好かれてるのか不安になってきた。
「ていうか、遊戯王の話なんか、戦場ヶ原がよく知ってたな。
ほとんど縁がなさそうだけれど」
「私は遊戯王のカードなんか一度も触ったことすらないわ。
ただ、昔、神原が悔しそうに漏らしていたから」
「あいつなにやってんだよっ!」
まあそんなこったろうと思ったけどな!
期待を裏切らない後輩である。
「……阿良々木くん」
「うん?」
「昔、神原が悔しそうに漏らしていたから」
「分かったよ、繰り返さなくていいよ、別にそこにエロスは感じてないよ!」
「あら、そうなの?」
戦場ヶ原の中での阿良々木暦は一体どのような立ち位置を確立しているのか、
さっぱり分からない。
あ、トラケロフィルム以下だったな、うん。
……凹む。
「阿良々木くん」
「なんだよ……」
「昔、私が悔しそうに漏らしたから」
「なんでそこで自分を貶めようとするんだ、戦場ヶ原っ!」
「エロスを感じたかしら?」
「感じねえよ! ほんとにお前は僕のことなんだと思ってんだ!?」
「そっか……感じないんだ……」
「なんで落ち込むのかさっぱり分からない……」
「そっか……阿良々木くん、感じないんだ……」
「別に僕、不感症とかではないから語弊のある言い方は避けてくれないか!?」
なんかもう、あんまりである。
「阿良々木くん、私たちもう別れましょう」
「なんで? 僕が戦場ヶ原のお漏らしにはエロスを感じなかったから?
どんだけクズ野郎だよ、僕……」
「だって、私、少しは自信あったのよ」
「お漏らし姿に!? 捨てちまえ、そんな自信!
あぁ、もう、分かったよ、エロスを感じるよ!
阿良々木暦は戦場ヶ原ひたぎさんの悔しそうなお漏らし姿にエロスを感じます!」
「う、うわあ………」
「引いてんじゃねえよ、てめえっ!!」
この部屋ごと戦場ヶ原を川にでも放り込んで逃げ出してしまいたい気分だった。
もうほんと、僕は僕が不憫で仕方ない。
「昔、神原が悔しそうに漏らしていたから」
「くどい!」
「昔、八九寺真宵が悔しそうに漏らしていたから」
「……そういやあいつトイレとかどうしてんだろうなぁ。幽霊だから必要ないのか?」
「昔、羽川翼が悔しそうに漏らしていたから」
「くっ………いや、ま、まあ、羽川もなにからなにまで完璧ってわけじゃないだろ、はは……」
つい過剰反応しかけたら、ぎりぎりぎりと腹の肉に爪をつきたてられた。
痛い。本気で貫通させるつもりか。
「昔、忍野さんが悔しそうに漏らしていたから」
「おえっ……」
ていうかいつまで続けるつもりなんだよ、これ。
「なあ、戦場ヶ原。
お前さ、そんな些細なセリフの一つで興奮するだろうとか、
僕を中学生男子かなにかと勘違いしてないか」
いかに僕といえども、
ちんすこうやらAV機器やらぶっかけうどんやらちょっと悪意のある改造を施されたパチンコの看板を見て喜んでいた時期は、
さすがに卒業済みである。
「そんなことないわよ。
少なくとも、ミドリムシ以下くらいには思っているわ」
「トラケロフィルム以下から評価が上がってるのか下がってるのか微妙でよく分かんねえよ!」
一応、上がっているべきと考えるべきなのか。
ミドリムシって、微生物の中では結構ランク高そうだし。
……うわ、別に嬉しくねえ。
「ミドリムシって、今、食品に使われているらしいわね」
「え、そうなの?」
「ええ。ミドリムシパンとか、あるそうよ」
「へぇ……いや、正直、あんまりいい気持ちで食べれる気はしないよな。
ミドリムシじゃなくて、せめて名前を変えればいいのに。
栄養素みたいに、グリーンミンとかさ」
「アララギクンとかにね」
「戦場ヶ原は僕を食品に加工したいのか!?」
「安心しなさい。阿良々木くんが食品になったら、
私が責任を持って生ゴミとしてコンポストに入れてあげるから」
「せめて食べてやってくれ!」
「でも阿良々木くんはミドリムシにも劣る存在だから、食品にもならないわ。
よかったわね」
「あぁ、そうだったな、僕は微生物にも劣る存在だったよ……」
「ふふ」
戦場ヶ原は相変わらずにこりともしないくせに、
笑いを漏らす声をわざとらしくそのまま発音した。
僕が笑われているのは明らかなのだけれど、
まあ、戦場ヶ原の機嫌が治ったならそれでいいかと緊張を弛める。
「ったく、なにがおかしいんだよ」
「いえ、阿良々木くん、あなた、
自分のことを微生物にも劣る生き物って……」
「それ元はと言えば戦場ヶ原が言い出したことじゃねえか!」
「阿良々木くん、自分のことを微生物にも劣る『生き物』って」
「なんで生き物のところを強調したんだ!?
僕が生き物であることにくらいなんの疑問も持たないでほしい!」
「抱腹絶倒」
「めちゃくちゃ真顔!」
「報復絶倒」
「すげえ、前半の漢字変えただけでニュアンスがかなり変わった!」
報復して、絶対に倒す。
「まあ、いいわ。
私は阿良々木くんの彼女だけれど、阿良々木くん行動をすべて制限する権利はないもの」
戦場ヶ原は、ふう、と小さく息をつく。
一瞬なんの話か分からなかったけれど、
どうやら僕が遅刻したことに対する文句にようやく戻ったらしい。
しかし、そんな不意打ちみたいに、いきなり伏し目がちに言われると、
罪の意識がお鍋の中からぼわっと登場する。
いや、勿論、それ以前にも約束に遅れたことに対する罪の意識はあったのだけれど、
実のところ、戦場ヶ原があまりに普段通りだから安心してしまったのだ。
ダメ男の典型的な発想のような気もするが。
しかし、無駄とは知りつつ言い訳させてもらうのならば、
光坂高校までの道のりで、まさか迷うとは思わなかったのだ。
隣町をさ迷い歩いた1時間が、きっかりそのまま約束の時間に遅れた1時間に反映されている。
「ごめん、戦場ヶ原。
2日連続遅刻した僕の言うことなんか信じられないと思うけれど、
本当に悪いと思ってる」
「いいのよ、阿良々木くん。
私は気にしていないと言ってるじゃない。
燃えるゴミと燃えないゴミの分別と同じくらい気にしていないわ」
「それはむしろ2つの意味でもうちょっと気にしてほしいな!」
エコのこともそうだし、僕のことも実はまったく気にしないと言われると、
それはそれで不思議な気持ちなのだった。
「燃えるゴミと萌えないゴミくらい気にしていないわ」
「ツッコミが難しいボケはやめてくれ!」
「阿良々木くんは冴えないゴミよね」
「ほっとけよ!」
ひでえ言われようである。
せめてゴミを男に……いや、それも、なんだかなぁ。
「ちなみに私はデレないツンデレ」
「それはただのツンじゃねえか! あるいはツンドラ!」
さて、と戦場ヶ原は一呼吸置くと。
「それじゃあ、いつまでも遊んでいないで、
勉強を始めましょうか、阿良々木くん」
「ん、あぁ、そうだな」
散々僕に毒を吐いておいて、何事もなかったように席に着くように勧めたのだった。
そういえば、今更気付いたけれど、
結構真剣に鉄拳制裁――あるいは、鉄文房具制裁(ホッチキスやハサミ辺りは本気で鉄なので洒落になっていない)を覚悟してきたのに、
言葉攻めだけだったな。
僕は別にそこまで偏った性癖を持っているわけじゃないから、
胸に去来する感情は物足りないではなく、安心だった。
勉強中には、発言に気をつけよう。
そんなことを心に決めて、
戦場ヶ原の対面の座布団に腰をおろ「―――、――、ぎっ……いっ―――――!」ケツになんか刺さった!
床を転がって激痛を誤魔化しつつ確認すると、
三角定規がわざわざ垂直に立つようにセロテープで固定されていた。
痔になる。
「せ、戦場ヶ原っ!」
「あら私の三角定規そんなところにあったのね見つけてくれてありがとう」
「謀ったなっ!」
「謀ったわ」
戦場ヶ原ひたぎ。
時間にルーズな阿良々木暦には、容赦のない女である。
その夜のことである。
八九寺。
八九寺真宵。
厚顔無恥な小学生。
ツインテールに大きなリュックサック。
そして――蝸牛に迷った少女。
そんな八九寺と、出くわしたのは。
戦場ヶ原の家からの帰り道、ギコギコ音を立てながら、
そろそろこいつもメンテナンスしなくちゃなとか思いつつママチャリをこいでいた僕は、
その後ろ姿というよりは、バカでかいリュックサックに足が生えたみたいな生き物を見て、
スピードを緩める。
そのまま八九寺のすぐ背後まで近寄ると、
自転車から歩きに移動手段を変更して、隣に並んだ。
「よう、八九寺。夜に会うのは珍しいな」
「スララ木さんじゃないですか、こんばんは」
「人を背が高くて足の長いモデル体型みたいに言うな。
いいことを言えば全部誉め言葉になると思うなよ、
僕みたいに明らかに身長の低いやつに言ったら嫌味みたいになるだろ。
僕の名前は阿良々木だ」
「失礼、かみました」
「違う、わざとだ……」
「かみまみた!」
「わざとじゃない!?」
「タランテラ」
「もはや元の形に似せる気すらないだろ!」
字数しか合ってない。
戦場ヶ原も戦場ヶ原だけれど、八九寺も八九寺でさっそく絶好調だった。
どいつもこいつも、いつもそんなに全力で生きているのだろうか。
「まったく、阿良々木さんは相変わらず、呼び方一つでいちいちうるさい方ですね。
そういう人は社会に出てから敬礼されますよ」
「それすげえ尊敬されてるじゃん」
「あるいは経営されるとも言いますね」
「言わねえよ。
僕を経営するってなんだ、僕はアイドルにでもなるのか」
「痙攣されます」
「めちゃくちゃ嫌われてる!?」
ちなみに正しくは、敬遠されます。
ていうかさすがに、出会っただけで痙攣されるなんてことがあったら、
もう自室に引き込もってしまう。
そんなの、春休みに匹敵しうる地獄である。
「じゃあなんですか、阿良々木さんはどんな呼び方が好みなんですか」
やれやれ、と通販番組の外国人みたいに肩をすくめると、
我が侭を言う小さな子供を見るような目をする八九寺。
……なんだか非常に屈辱的である。
僕、何一つ間違ったことは言っていないはずなのに。
「いや、呼び方なんてさ、普通でいいよ。変に凝られても困るし」
「そんなだから没個性とか言われるんですよ?」
「ほっとけよ……」
「そんなだから友達がいないんです」
「ほっとけよっ!」
ただでさえついさっきまで戦場ヶ原にいじめられていたのに、
立て続けに八九寺に毒を吐かれるとかなり堪える。
「と、いうわけで」
こほん、とその八九寺はわざとらしく咳払いをすると。
「そんなに名前をいじられるのがお嫌なら、
『阿良々木』以外のところを変えることにしましょう」
「いや、『阿良々木』以外のとこって、
そこを抜いたらもう変えるとこ『さん』しかねえじゃん……」
「阿良々木くん」
「その呼び方、すでに3人が使ってるんだけど」
「阿良々木ちゃん」
「なにこれ、ちょっときゅんときた!」
「阿良々木じゃん」
「それ絶対最後にwがいっぱいくっついてるだろっ!」
あっれー、阿良々木じゃんwwwwww
くそう、トラウマが……。
「相変わらず阿良々木さんはいい切り返しをしますね」
「お前に言われたくはないな」
小学生との会話とは思えない鋭さである。
「それにしても考えてみたら、
私は阿良々木さんのこと、あまり知らないんですよね」
「びっくりするくらい唐突な話ではあるけれど、まあ、そうだな。
そもそも僕たち、知り合ってからまだ2週間とちょっとだし」
春休みの羽川を皮切りに、僕は多くの人と出会っている。
それはどれもこれも、ここ最近のことで。
しかし、その出会い方がみんな怪異絡みなだけに、
お互いに一歩目で深いところまで踏み込みすぎて――本来一つずつ積み上げて少しずつ理解していくべきものが、
欠けているのだろう。
互いの趣味とか。
互いの感性とか。
互いの、距離感とか。
「ではお互いの親睦を深めるために、質問タイムとしましょう」
「うん、まあ、いいけど」
「では、まずは私から。阿良々木さんの好きな動物は?」
「好きなっていうか、ちょっといろいろあって、猫は苦手だな」
「好きな食べ物」
「ラーメン」
「では好きな信号の色」
「信号の色に好きとか嫌いとかあるのか!? うーん、まあ、普通に青じゃないのか?」
「知っていましたか、その色はあなたの血液の色を表しているそうですよ。
青ですか、阿良々木さん最高に気色悪いですね、
今後一切私に近寄らないでください」
「なにそれ!?
確かに僕の血液は吸血鬼のそれだけれど、色は普通に赤だよ!」
「アニメのするがモンキーでは、緑色の血をいっぱい出していたじゃないですか」
「いや、あれはスクールデイズ的な意味で赤はマズイとか、
そういう処置なんじゃないのか……」
あと平気な顔してアニメとか言うな。
「お前の血は何色だァーッ!」
「赤だっつってんだろ!」
それにしても、今のところ他の誰と話すより、女子小学生との会話が一番楽しい僕って、重症かな。
いや、でも八九寺の場合、幽霊だから、一応生まれてからと考えたら、
僕より年上なのだけれど。
――幽霊。
そういえばこいつ、幽霊、なんだよな。
「なあ、今の八九寺って幽霊じゃん?」
変な気遣いをするのもどうかと思い、単刀直入に話題を変える。
八九寺が幽霊だと言うのなら、どうしても確かめたいことがあるのだ。
「ええ、まあ、そうですが。
阿良々木さんのおかげですっかり浮遊霊となることができました」
八九寺が頷き、僕はその言葉を、繋げた。
「じゃあさ、壁をすり抜けて風呂を覗いたりとか、できんの?」
「……は?」
きょとんとする八九寺。
「なにを言っているんですか、阿良々木さん。
ただでさえ腐っていた脳みそに、ついに蛆虫がわいたんですか」
「お前……いや、ほら、単純にさ、幽霊っていったらやっぱりそういうのは男のロマンじゃん?」
僕は続ける。
「例えば、羽川のお風呂シーンとかさ、ちょっと僕が八九寺に頼んで見てきて感想を教えてもらうんだよ。
気になるじゃん、羽川のあのけしからんお胸様が果たして、
衣服をすべて取り払った状態ではどんな素晴らしい造形美を保っているのかとか。
なるだろ?
あと意外に羽川って、腰周りとかも綺麗に引き締まってるような気がするんだよな。
羽川なら八九寺が上手く口裏合わせてくれれば、
なんか許してくれそうな気がするし」
更に続ける。
「あとは神原だけれど、あいつ普段からやたらと脱ぎたがるからな。
むしろそういうのにおおらかというか積極的なやつほど、
完全に油断しきってる風呂とかでいきなり誰かが現れたら、
恥ずかしがったりすんじゃないかな。
あの神原が、慌てて恥ずかしがって、その場でへたりこんじゃったりしてな。
ギャップ萌えっていうのか? 正直たまんないよ。
戦場ヶ原は、まあ、あれはそんなことやったら本気で笑い事じゃなくなるから、今回はいいや。
とりあえず風呂を覗くとしたら、羽川と神原だな」
まだ続ける。
「いや、勘違いするなよ、八九寺
。僕は別にそんなのに興味があるわけではないんだぜ?
まったくさ。0と言ってもいい。
でもさ、仕方ないんだよ。
視聴者的にはそういうのを望んでる人だっているっていうかさ、いや本当、困っちゃうよな。
僕はそんなつもり、まったく一切これっぽっちもないのに。
読者サービスだよ。人気のためにはそういうのも必要なんだ。
嫌なのは分かるけれど、そこは目をつむってもらうしかない」
「で、結局のところ八九寺、どうなの?」
「触らないでください、この変態っ!!」
「ぎ、――――、――ッ!!!!!!」
激痛。
僕は思いっきり股間を蹴り上げられて、その場にうずくまった。
おのれ、八九寺。
小学生にねちねちとセクハラ発言をして、股間を蹴り上げられる男子高校生の姿が、そこにはあった。
――ていうか、僕だった。
「まったく、阿良々木さんは本当にしょうがない人ですね。
阿良々木という苗字にはろくな人がいません」
「それは全国の阿良々木さんに謝れ!」
「問題ありませんよ、阿良々木という苗字は現在、
阿良々木暦さん、あなたしか使っていませんから」
「使ってるよ!
少なくとも僕の妹たちと両親と父方の親族はみーんな使ってるよっ!」
「なんと! グララ木さんにはご家族がいらっしゃったのですか!?」
「そんな驚くようなことか!?
僕は確かに半分吸血鬼だけれど、別に人造人間とかではないから家族くらい普通にいるよ!
あと、さりげなく僕の名前を地震人間みたいに言うな、僕の名前は阿良々木だ!」
「失礼、かみました」
「違う、わざとだ……」
「かみまみた!」
「わざとじゃない!?」
「髪切った」
「八九寺ちゃんのお洒落好きっ!」
「噛みきった」
「ぎゃぁぁぁぁぁぁああああああああああああっ!!!」
八九寺はたまに本気で僕のことを噛むので、ちょっと笑えない。
「あぁ、そういえば、幽霊で思い出しましたのですが」
ふと呟くように、八九寺は言った。
「阿良々木さんは、最近、この辺りでこんな噂があるのを知っていますか?」
「……なんだよ」
「最近、夜になると、出るらしいですよ。勿論、私以外のです」
「うん?」
八九寺は、そこで、息を潜めて。
胸の前で両手の手首の力を抜き、ぷらんとさせたお決まりのポーズで。
囁くように、その言葉を、落とした。
「つまり――この辺りで、オバケが出る、という噂です」
005
翌日の放課後。
「……幽霊?」
岡崎は、いぶかしむように眉を寄せた。
件のストリートバスケットコート。
どうしても外せない用事があるとかで戦場ヶ原塾が中止になり、
暇を持て余した僕は、図書館や自室で勉強に励んでいなくちゃいけないと自覚しつつ、
しかし現実逃避の魅力はとてつもなく強力で、ふらふらと気の向くままにママチャリサイクリングをしていた際に、
橋の上から岡崎の姿を見つけたのである。
「そう、幽霊。詳しいことは分からないけれど」
「ふぅん、幽霊ねぇ。阿良々木、お前、そういうの信じるタイプなわけ」
「まあ、そうだな。いるんじゃないかって思うよ」
なんせその話をしてくれた友達っていうのが、そもそも幽霊だったりする。
昨晩、八九寺から聞いた幽霊の話は、実に不確定で不確かな情報で、
どうやらこの辺りで幽霊が出るらしいというだけだった。
しかし火のないところに煙はたたないとも言うし、
一応、暇なときに調べておいてくれと頼んだら了解してくれたけれど、
まあ、たまに思い出したように浮上する都市伝説の類だろうと、僕は軽く考えている。
幽霊。
噂は噂。
都市伝説。
話半分。
道聴塗説。
ちょっと最近いろいろありすぎて、不安要素に、敏感になりすぎているのだろう。
「……あ、そ」
岡崎は、大した興味もなさそうにそう言葉を漏らし、続ける。
「しかし、暇だな」
「そうだな」
「せっかくだしなんかして遊ぼうぜ!」
「いいけど……なにすんの」
「阿良々木が俺のためにジュース買ってくるゲーム」
「それ僕がただのパシリなだけじゃん……」
「なら阿良々木が俺のために弁当買ってくるゲームにしよう」
「別に買ってくるものがジュースであることに文句を言ってたわけじゃねえよ!」
「え、文句ねえの?」
「ジュースのとこにはな!」
「サンキュー、ならさっさと買ってこいよ」
「パシリのところに文句があるんだよっ!」
なんで仏頂面がスタンダードなくせに、こういうときだけ無意味に楽しそうにするんだ。
「ったく、分かった。じゃあじゃんけんにしよう」
「あぁ、まあ、それなら公平だけれど」
「よし、じゃんけんして負けた阿良々木が俺のためにジュース買ってくるゲームな」
「え? ちょ、負けた阿良々木って、負けた岡崎は!?」
「いくぞ、じゃんけんぽんっ!」
「よし、勝った!」
「くそぅ……もっかい、じゃんけんぽんっ!」
「よっしゃあ、二連勝!」
「まだまだ! じゃんけんぽんっ!」
「はっはっは、三連勝!
………ってこれもしかして僕がジュース買いに行くまでじゃんけんを続けるだけのゲームなのか!?」
「うん」
「ふざけんなっ!」
勢いに任せてうまくのせられてしまった僕も僕ではあるけれど、
平然な顔をして岡崎は言いやがるのだ。
やり口が戦場ヶ原とも八九寺とも違う、新たなタイプの毒吐きキャラである。
「というわけで、ジュース買ってこいよ」
「行かねえよ……」
「頼むからっ!」
「頼んでも行かねえよっ!」
「一昨日不良に絡まれてる阿良々木を助けてやったのは誰だと思ってるんだ?」
「知らねえよ、記憶を改竄するな!
僕は不良に絡まれてる岡崎なら助けたけどなっ!」
すると岡崎は、ふいに視線を足元に落とすと。
重大な告白をするように、言葉を溢した。
「阿良々木、俺さ……実は、病気なんだよ」
「え?マジで?」
「ああ」
「治療は?」
「治らない。不治の病なんだ」
「病名は?」
「炭酸しゅわしゅわ中毒。炭酸ジュースを摂取しすぎると稀に発症するんだ。これにかかったやつは、炭酸を飲むと……」
「の、飲むと?」
「死ぬ」
「マジかよ……」
「余命はあと1時間。だからさ……俺の最後の頼みだと思って、ジュース買ってきてくれ」
くそ、せっかく知り合えたのに、死んでしまうなんて。
なんという不幸。
けどだからこそ、僕は笑って送り出してやろうと、決めた。
「それなら仕方ないな、行ってきてやるよ。旅立つ岡崎への、せめてもの手向けだ」
「ラッキー、俺コーラな」
「それお前即死するじゃねえかっ!」
「え、なんで?」
「いや、なんでって、炭酸しゅわしゅわ中毒なんだろ、岡崎」
「はぁ? なんだって? んなアホみたいな病気あるわけねえだろ」
「お前が言ったんだろっ!」
「あれ、そうだっけ?」
「……………」
「お前面白いな」
岡崎はそう言ってちょっとだけ笑うと、落ちていたバスケットボールを拾い、ドリブルを始める。
手慣れた動作。
経験者特有の、それ。
だから、なんとはなしにかけた僕の台詞が――岡崎のなにを突くことになるのか、予想できなかった。
「岡崎ってさ、部活とか入ってないのか? バスケットボール部」
瞬間。
喉を刃物で切り裂かれたと錯覚を引き起こすぐらいの、
頭の芯まで塩の塊を詰め込まれたみたいな、
鈍重で悪寒だらけの嫌悪感が、あった。
頭から冷水をかけられたような、ぞっとするほど奇妙な感覚。
全身の毛が逆立つ。
耳鳴りが渦を巻いて、五感があるべき方法を見失い、
遭難した視覚味覚聴覚嗅覚触覚を手繰り寄せようと呼吸をして。
そんな、ざわざわとした手触りの空気の中――ぎらついた、貫くような岡崎の双眼が、
僕を、真っ直ぐ、射抜いていた。
鈍く光る、切れ長の、ナイフのような。
ぎらぎらと紅く輝く。
灼けた狼の、瞳。
「岡ざ、き……?」
思わず漏らした僕の呻き声に、岡崎は、はっとしたような仕草のあと、目をそらした。
張りつめた空気が弛緩する。
「あ、いや、悪い、阿良々木。なんでもない」
「なんでもないって……」
岡崎は。
しばらく迷うように、黙ったあと。
「……中学の頃は、バスケ部だったんだ」
そう、言葉を落として。
「レギュラーで、キャプテンだったし、この辺りの中学じゃあ、そこそこ名前も売れてて」
まるで罪の告白をするように、続ける。
「スポーツ推薦で高校も決まってさ。
だけど、三年最後の試合の直前に親父と大喧嘩して……怪我して、試合には出れなくなってさ」
岡崎は、ボールを頭の上に構えようとして。
「それは、取っ組み合いになるような喧嘩で。
壁に右肩をぶつけて。
医者に行ったときにはもう――右腕は肩より上に上がらなくなってた」
右腕がボールごと、力なく垂れ下がった。
「部活は――それっきりだ」
スポーツ推薦が決まってからの怪我だったため、合格を取り消されることこそなかったものの、
結局バスケ部には入れなかったのだと岡崎は語った。
「スポーツ推薦で入った俺は勉強にもついていけないし、もうずっと、授業もろくに出てない。
遅刻とサボりの常習犯だよ」
それは――それは、果たしてどれほどの、苦痛なのだろう。
岡崎のそれは、例えば才能がなかったとか、努力が足りなかったとか、そういった挫折ですら、ない。
一言で言ってしまえば運が悪かったというただそれだけの、しかし明らかな、喪失だった。
その絶望が、どんなものなのか、僕には分からない。
分かるなんて言っては、いけないと思う。
だから。
「だけど岡崎は、バスケが嫌いになったわけじゃないんだろ?」
「あぁ、まあ。ここでこうしてバスケをしてるのはたぶん、未練だ。
二度と部活なんかできない右肩なんだって、確認してるんだよ――諦めるために」
だったら、僕は、ボールを拾い上げて。
「なら、僕とバスケをしよう」
「………は?」
「バスケだよ、バスケの勝負」
「あのな、阿良々木。俺は右肩が上がらないんだって今言っただろ」
「だからだよ。見てろ」
ぼすぼすとボールをつき、僕は素人丸出しのたどたどしいドリブルでゴール下に走り込み、
ジャンプをすると、片手でボールを掬い上げるようにして持ち上げ――放ったレイアップシュートは、
リングに擦ろうとかそういった意思すら垣間見ることさえ皆無な皆目検討もつかない方向へとすっ飛び、
ぼすん、と鈍重な音を立ててコートに転がる。
振り返り、呆然としている岡崎に言葉を投げる。
「見ての通り、僕は素人だ。自慢じゃないけれど、バスケなんか体育の授業でしかやったことがない。
でも、ちょっと事情があって、身体能力は普通の人間よりはいいと思う」
あるいは、それなら。
「右肩が使えないバスケ経験者となら、試合になるかもしれないだろ」
僕の言葉に、岡崎は挑戦的に口元を歪めた。
「阿良々木。なめるなよ」
「かかって来いよ、岡崎。バスケをしよう」
拾ったボールを岡崎に投げると、ぎゅっと体を沈め、臨戦体制をとった。
結果から言って、見事に惨敗だった。
そりゃそうだ、いくら吸血鬼補正で身体能力が上がっていようと、
単純な走りではついていけてもフェイントをかけられたら一発だし、
そもそもこっちのシュートが決まる確率はほとんど0なのに対して、
岡崎は左からのレイアップなら綺麗に入れてくる。
その結果、途中から数えるのも面倒くさくなった得点差が、
おそらく、20や30じゃきかなくなったであろう辺りで、僕は降参とばかりにコートに寝転がった。
気付けば辺りはもう薄暗く、ナイター用のみみっちい電灯が、
細々とした灯りを投げていて、わらわらと虫が集まってきていた。
このまま続ければ、吸血鬼補正で夜目が効く僕になら逆転のチャンスがあったかもしれないと、明らかな負け惜しみを思う。
「おい、阿良々木」
「……ん?」
ワイシャツ姿の岡崎が、ボールを小脇に抱えて、呆れたような顔で覗き込んできた。
さすがに息が切れている。
それに、僕は、笑ってやった。
「楽しいな、バスケ」
岡崎も、ふっと、口元を弛めると。
「いいからジュース買ってこいよ、負け犬」
「なんでだよっ!」
「え、そういうルールだったろ」
「……そうだっけ」
「あぁ。バスケで負けた阿良々木が俺のためにジュース買ってくるっていう」
「負けた阿良々木って、負けた岡崎はっ!?」
「負けない」
「ぐっ……」
実力差が圧倒的すぎて言い返せない。
「ま、いいや」
岡崎は、身体ごと放り投げるみたいな杜撰さで僕の横に寝転がった。
バスケットのゴールと、僕らの街を繋ぐ橋と、ちょっと濁った空に光る一番星。
星の名前なんか僕はほとんど知らないけれど、戦場ヶ原と、いつかもっと綺麗な星空を見たいと、ぼんやり思った。
「……阿良々木」
岡崎の声。
「うん?」
「そういえばさ、お前、後をつけられたりとかしてないか?」
「……いや、僕はあんまり目立たないほうだし、
誰かに目をつけられるようなことをした心当たりすらないけれど」
「そっか。まあ、一応、気をつけろよ。
俺、最近、後ろから誰かに見られてたり後をつけられてる感じがするんだ。
一昨日の不良たちかもしれない」
「それ、大丈夫なのかよ……」
「ま、大丈夫だろ。襲ってくる感じでもないし」
たいして気にもしていないように言って。
「ただ、前ここに置いてった制服のブレザー、あの工業高校生たちに持ってかれちまったのは困るな。
あれ一着しか持ってないし、いつか、ついてくるやつの一人捕まえて取り替えさないと」
「あ……あぁ、そうだな」
岡崎のあまりに不機嫌そうな声色に、僕が預かってると言えなかった。
岡崎は、しばらく黙ったあと。
「阿良々木」
囁くような、意思のない、ざらざらした声。
「うん?」
「おまえ、高校どこ?」
「……直江津高校」
「へぇ」
「とは言っても、落ちこぼれだよ。
数学以外は赤点ばっかりだし、今日だって、明後日のテストのために勉強しなくちゃいけないのだけれど、こうして遊んでる」
なにかに言い訳をするように付け加えると、
岡崎がからかうように口元で笑ったのが、なぜか見てもいないのにわかった。
「なら、橋の向こうの町か」
「そうだけど。岡崎は光坂だよな」
「……なんで知ってんだよ。あぁ、ワイシャツの校章見れば分かるか」
岡崎はそこで、一呼吸いれて。
「おまえ、あの町は好きか?」
「あの町って、自分の?
いや、どうだろう、岡崎のとことは違ってド田舎だから不便なのは確かだけれど、
町を好きか嫌いかで見たことってあんまりないし。
あの町に住んでたから巻き込まれた事件もいっぱいあるけれど、
まあ、それと同じくらい、あの町に住んでなきゃ知り合えなかった人も――たくさんいる」
キスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレード。
忍野メメ。
羽川翼。
戦場ヶ原ひたぎ。
八九寺真宵。
神原駿河。
そして――岡崎朋也だって、そうだ。
「だから、取り立て嫌いってわけじゃないかな」
「そうか」
隣で、もぞもぞと動く気配があった。
たぶん岡崎は、自分の街を見ているのだろうと、思う。
「俺は」
醒めた声。
「俺は――この町は嫌いだ」
熱のない、ざらついた感触。
「――忘れたい思い出が、染み付いた場所だから」
起き上がって、岡崎がどんな表情をしているのか見て、そして、なにか言うべきなのだと思った。
岡崎の抱えているものを、受け取ることはできないけれど、
せめてほんの1%でも、共有すべきなのだと思う。
岡崎は今、おそらく、悲痛な悲鳴を、あげているのだから。
それくらい、僕にだって分かる。
だけど。
だけど体は動かなかったし、勿論――声だって一つも出なかった。
006
さて、翌日水曜日の放課後。
例によって例のごとく、一度家に帰って着替えてから戦場ヶ原の家に向かって自転車をこいでいると、
なんだかもう見慣れてしまった感すらある後ろ姿が視界に入った。
あっちをキョロキョロ、こっちをキョロキョロと落ち着かない様子で歩きながら大きなリュックを揺らす彼女は、
言うまでもなく、八九寺真宵である。
八九寺との遭遇率が高いと、なんだかお得な気分になるのはどうしてだろうか。
僕はブレーキを駆使して自転車の速度を落とし、八九寺の横に並んだ。
「よっ、八九寺」
「おや、ネララ木さん」
「僕を某巨大電子掲示板を利用する人たちの総称みたいに呼ぶな、
いい加減ちょっと諦めかけているきらいもあるけれど、
僕の名前は阿良々木だ」
「失礼、噛みました」
「違う、わざとだ……」
「かみまみた!」
「わざとじゃない!?」
「加入した」
「なにに加わったんだ!?」
「おニャン子クラブ」
「古いよ!八九寺、お前何歳だよ!
せめてモーニング娘に憧れる歳だろ!?」
あれ、でも今の小学生ってモーニング娘に入りたいとか思わないのかな。
アイドルに詳しくはないのでよく分からなかった。
ていうか、モーニング娘ってまだあるのか?
「さて、それでは仕切り直しまして」
ごほん、とわざとらしく咳払いをすると。
「おや、墓場木さんではありませんか」
「お前さ、仕切り直す気全っ然ないだろ……
あともはやほとんど原型がなくなってるじゃねえか、それじゃあただの鬼太郎だ。
いいか、本日二度目だけれど改めて言うと、
僕の名前は阿良々木だ」
「失礼、かみまみた」
「違う、わざと……じゃない!?
って、面倒臭いからって段階を飛ばすな!」
「ラミアいた」
「逃げろ、そいつはギリシア神話に登場する、子供を拐う蛇女だっ!」
壮絶な噛み方である。
「しかし墓場木さん」
「阿良々木だっつってんだろ」
「でも、阿良々木さん、アニメのビジュアルではこう、
長い前髪で片目を隠して鬼太郎みたいじゃないですか」
「そうだけど! 確かにそうだったけれど、
そういうメタな発言は控えてくれないかな!」
「シャフトさんはダンス イン ザ ヴァンパイアバンド作るとか
荒川アンダー ザ ブリッジ作るとか言ってないで、
さっさとつばさキャットの続きを配信するべきだと思います」
「お世話になってんだからやめろよ……」
「あとおそらくそんなのより、傷物語と偽物語を見たいと思っている人が大半ですよ」
「お世話になってんだからやめろよっ!」
「あとみつどもえがシャフトっていうのは確かなんでしょうか?
ソースは?」
「知らねえよっ!」
ちなみに僕は個人的に、荒川アンダー ザ ブリッジが楽しみでしょうがない。
「あとさ、八九寺。
これ、一応するがモンキーとなでこスネークの間の話だから、このときアニメ化の話なんかまったく出てないはずなんだよ。
時系列がぐちゃぐちゃになっちゃうから、本当にやめてくれ」
せめて傷物語辺りの話になるまで我慢しような。
「……………」
答えはない。
ただの屍ではないようだけれど。
「……八九寺?」
「……………」
「八九寺ちゃーん?」
「……………」
「イタズラしちゃうぞー?」
「はっ! ………すいません、阿良々木さん。
ちょっと4と9の公倍数を数えるのに夢中になってしまいまして」
「なんでこのタイミングで!? そんなに僕が嫌いか!」
「いやいやいやいやそんなまさか阿良々木さん、
ご自分が他人に好かれるような人柄だとお思いでしたか?」
「否定すると思わせておいてなにより傷付く言い方をしたな!
そんなこと思っちゃいないけれど、かなり本気で凹むからやめてくれ!」
「おや、そんなに露骨に落ち込んでしまってどうなさいました?
ラブキューピーと呼ばれた私に何でも相談するといいですよ」
「どんな料理にもマヨネーズをかけて食べるからそう呼ばれているに違いないことが
悩み事の解決になんの関係があるのか僕にはさっぱり想像もつかないけれど、
今僕が悩んでいるとしたら、八九寺、お前のその口の悪さについてだよ。
いくら丁寧な口調で言っても、罵倒は罵倒だし侮蔑は侮蔑なんだぞ」
あとラブキューピーとか、たぶん、本当に一部の人しか反応できないネタだからな。
「阿良々木さん、私にそんなことを言ってもいいんですか?
私は曲がり尻尾にも幽霊なんですよ?」
「曲がり尻尾にもって、お前それ、猫の尻尾に対する形容じゃん」
それじゃ八九寺、猫ってことじゃん。
幽霊でもなければ、ましてや蝸牛でもねえよ。
まよいキャット。
いくらつばさキャットが配信されないからって、
八九寺じゃ羽川ほど猫耳が似合うキャラにはなれないから早々に諦めてほしいものだ。
なにせ羽川翼は、世界一猫耳が似合う女である。
ゴールデンウィークのことなんか、正直、思い出したくもない悪夢だけれど、
羽川の猫耳姿を見れたという点だけは阿良々木暦史に残る出来事だ。
ちなみに訂正が遅れたが、正しくは、曲がりなりにも幽霊。
「で、お前が幽霊だからなんなんだよ」
「分かりませんか?
つまり、阿良々木さんが一人夜道で歩いているところを後ろからこうやって」
八九寺は、眉をハの字にしながら、右目で上、左目で下を向き、
更にザクロみたいな綺麗な赤い舌を放心したようにだらんと出すという
実に器用で奇妙で面妖な(ていうか人間技じゃねえ)表情をしてみせて、言葉を繋げた。
「うらめしやー、と脅かすこともできるんですよ?」
「めちゃくちゃこえー!」
そんな表情できることが。
「ふっふっふ、チェロスいものです」
「甘いものが食いたいのか?」
ちょろいものです。
だが、しかし。
僕の反撃はこれからだ!
「甘いなー、八九寺は。今時うらめしやなんて、時代遅れだぜ?」
「そ、そうなんですか!?」
「そうだよ。お前、今時、驚いたときに『そんなバナナ!』って言われて笑えるか?
それと同じだよ。どんなにタイミングよく怖い顔をしても、
うらめしやーじゃあ怖がれないって」
「ふむ、勉強になります。
策士策に溺れて待ちぼうけというやつですね」
「うーん……確かにびっくりするくらい口当たりはいいけれど、そんな諺は明らかにお前の造語だ」
「うらめしやは時代遅れですか。
私、大変恥ずかしいことを言っていたと自覚しました。
私は大人恥ずかしな女です!」
「幽霊だからってサボってないできちんと流行にのらなきゃダメだぜ、八九寺ちゃん」
ちなみに大人恥ずかしは、大人にも劣らない知識だ、とか、大人も顔負けするほどだ、とかいう意味で、
自分の知識のなさを恥ずかしく思うみたいな意味はない。
むしろ誉め言葉である。
自分に使ったら自画自賛。
「阿良々木さん、私はいったいどうすればいいのでしょうか……」
「そうだなぁ。最近のトレンドといえば、やっぱりオタク文化だろ?
ロリってだけじゃ、やっぱりキャラが弱いんだよな」
八九寺の場合、毒を吐くという追加ポイントもあるけれど、
しかしある意味ツンデレみたいなものと考えれば新しさがない。
デレないけど。
……デレないけれどっ!
「ではこういうのはどうでしょう」
こほんと八九寺は咳払いをすると。
「まよいデレ」
「名前にデレをくっつけただけじゃねえか!
語呂なんかもうめちゃくちゃ悪いし、そもそもどんなデレなのかさっぱりわからない!」
「道に迷うとデレるんですよ」
「それはただ心細いだけだな!」
子供っぽいと言えば子供っぽいが。
「まよいデレデレ」
「まよいマイマイみたいに言うな!」
しかもまよいデレデレとかちょっと可愛いしな! 見てみたい!
「語呂がそんなに気になるのでしたら、四文字にしましょう」
「まあ、語呂が悪いよりはいいよ……」
「マヨデレ」
「お前はさっきからどんだけマヨネーズ好きなんだよっ!」
まよいマヨラー。
「もう分かりやすく語尾になんかつけてみろよ。
『だわ』とか『なの』とか」
「そんな恥ずかしい語尾、死んでも嫌です!
あるいは死ぬほど嫌と言い換えてもいいでしょう!
むしろそれを言うくらいなら死んだほうがマシです!
もう死んでますけどね!」
「『ですぅ』とか『かしら』ならどうだ」
「嫌に決まってます!
ていうか長台詞を喋ってボケたんですからスルーしないでください!」
「『でげす』は?」
「阿良々木さんは既製品の語尾に頼って満足なんですか?
そんなんだからありがちな平凡な主人公キャラから抜け出せないんですよ」
「余計なお世話だ!」
「いつまでもそんな男でいいと思っているんですか!」
「いや、僕は別にいいと思ってるけれど」
「びーけあふる! 阿良々木さんの意見なんて聞いていません!」
「質問しておいて!?」
ちなみに最初のびーけあふるは、びーくわいえっとの間違いだと思う。
「そんなに言うなら八九寺、お前、なんか独特で可愛い語尾を考えてみろよ!」
「そうですね。『エーストゥ』なんてどうでしょうか」
「いや、確かにそんな語尾のやつは見たことも聞いたこともないけれど、
可愛くないし明らかにおかしいだろ……」
「全然おかしくなんかないエーストゥ」
「やっぱりおかしい!」
「どこがおかしいエーストゥ?」
「全体的におかしいよ、可愛さ要素なんて皆無だしさ!
そもそも言いにくいだろ!」
「とっても言いやすいエーフヒュ」
「言い間違えてんじゃねえか!」
「失礼、かみましエーストゥ」
「違う、わざとだ……」
「かみまみエーストゥ!」
「わざとじゃない!?」
「えへっ、はにかみエーストゥ☆ミ」
「可愛すぎるーっ!!!」
アホな会話である。
どうしようもなく、アホな会話である。
「ところで阿良々木さんは、こんな時間からお出かけですか?」
八九寺はまるで何事もなかったような顔をして、
話を強行にまともな方向に戻した。
「ああ……先月末に会ったときに言ったろ?
戦場ヶ原の家で勉強なんだ」
「あぁ、知能テストがあるんでしたね」
「その言い方でも間違ってはいないけれど、
学校の定期試験を知能テストって言うやつ、僕は初めて見たよ」
「天井に吊り下げたりガラスの箱に入れたバナナを、
様々な道具を使って取れるかどうかってやつですよね」
「測る知能のレベルが低すぎる! 僕の知能はチンパンジー並かよ!」
ちなみにチンパンジーの知能って人間で言うと三歳児と同じくらいらしいから、暗に馬鹿にされているのだろう。
おのれ、八九寺。
それにしても、チンパンジー並か。
「八九寺、僕のことをなんだと思ってるんだ……」
「阿良々木さんほど形影相憐という言葉が似合う人もいませんよね!」
「けいえんそうりん……? なんだそれ、すげえ格好良いけど、どんな意味だ?」
「自分で自分を憐れむ、という意味です」
……最低だった。
「そういう八九寺は、なにしてるんだ? 散歩か?」
無理矢理話を戻した僕の問いかけに、八九寺はそうでしたと小さく言って、
「阿良々木さんを探していたのですよ」
そう、続けた。
「……僕を? なんでまた」
「先日お話した、幽霊の件です。
今分かっていることだけでもお教えしておこうかと思いまして」
ふいに八九寺の纏う空気が、真剣なものに変わる。
幽霊。
八九寺真宵の正体。
そして――今、密かに街を騒がしている、ナニカ。
八九寺の存在を認める以上、そもそも幽霊が存在しないなんてことはない。
だから僕が見極めなくちゃいけないのは。
それがただの噂話なのか、あるいは、深刻な実話なのか。
そして。
善意か――悪意か。
「結論から言いましょう」
「ああ」
「とは言っても、まだはっきりとしたことを言える段階ではありませんし、
私だってあれが本当に幽霊なのかと言われたら簡単に首を縦には振れませんが」
八九寺真宵は。
善意の幽霊は。
「少なくとも今回の噂の中で幽霊と呼ばれる存在は――確かに、実在します」
そう、答えを出した。
007
「よう、岡崎」
「お……えっと、名前なんだっけ?」
「一緒にバスケやった仲のに!」
「あぁ、思い出した。悪い悪い、最近よく会うな、斉藤」
「それは全然違う人だっ!」
「『さ迷える悠久の荒野』斉藤」
「勝手に変なキャッチコピーをつけるな! しかも斉藤じゃない、僕の名前は阿良々木だ!」
「惜しいっ!」
「惜しくねえよ!」
「分かってるって。お前の名前は斉藤アララギな」
「アララギが下の名前なんてことあり得るか!
斉藤ってのが誰のことなのかは僕にはまったくもって預かり知りえないことだけれど、
そいつのこと好きすぎるな、お前は!」
「斉藤ってすべての苗字の中で最強なんだぜ?」
「え、そうなのか?」
「あぁ。だからおまえは今から斉藤を名乗れな」
「名乗らねえよ!」
八九寺と別れてすぐあと、戦場ヶ原との約束の時間にはまだ余裕があった僕は、
橋の下のストリートバスケットコートにいた。
岡崎はやっぱりそこで一人でバスケをしていて、
だから僕が話しかけるといつものようなそんなやりとりのあと、
鋭い眼光に、口元をちょっとだけ弛めて言う。
「まあ、ともかくサンキューな。飲み物買ってきてくれたんだろ?」
「んなわけねえだろ……」
どんだけ気が効くやつだと思ってるんだ。
「なんだよ、違うのかよ」
「当然だろ。
岡崎、僕のことどういう風に思ってるのか知らないけれd「ジュース持ってないならお前もう帰れな」
「僕の価値はそんだけなのか!?」
「………え?」
「そんな、今更何言ってんのこいつ、みたいな目で僕を見るな!」
最近、僕に優しい人間に滅多に会わない。
僕の生活には圧倒的に、羽川が足りていないと思う。
明日は朝早く行って羽川と絡もうかな。
羽川って意外に使いにくいから、描写されることはないだろうけれど。
「まったく、まさか2歳も年下のやつにこんなにナチュラルにパシリ扱いされるなんて思わなかったよ」
「日頃の行いが悪いせいだな」
「まず間違いなくお前のせいだよっ!」
「んなことねえよ。
だってお前、毎日のように全裸で『ウヒャヒャヒャ』って笑いながら町中走り回る趣味に勤しんでるんだろ?」
「一回もやったことねえよ!
いくらうちの町が田舎だからって、さすがにそんなことをしたら捕まるくらいには警察も仕事してるよ!」
と、そんな風に、相も変わらずの言葉を交わしたあと。
「岡崎。またバスケットボールの相手になってくれよ」
僕は、そう声をかけていた。
「やだよ、めんどくせぇ……」
「そこをなんとかさ。友達だろ?」
「お前、他人って書いて『ともだち』って読むのな」
「普通に友達って書いて『ともだち』って読むよ!」
「え? じゃあお前の中で他人と友達って同義語なの?」
「普通に対義語だよ!」
容赦がなさすぎる。
いい加減ちょっと傷付く……。
「まあ、どうせ暇だし、いいけど。でも阿良々木、お前、昨日全然相手にならなかったじゃん」
「その点に関しては大丈夫だ。
今日、授業中にさ、図書室で借りてきたバスケットボールの入門書読んできたから、
基本はバッチリ頭に入ってる」
「勉強しろよ……」
まったくだ。
「とは言っても、岡崎と普通に勝負しても勝てないのは僕だって分かっているし
……よし、こういうのはどうだ?」
「あ?」
びしり、と岡崎を指差して、僕は声高らかに宣言した。
「時間内に、スコア差が三倍ついたらお前の勝ちだっ!!」
「それ、全然かっこよくないからな……」
「いいからやろう。初心者だし、ボール、僕からでいいよな」
「いいけど……昨日の二の舞になっても知らないぞ」
「昨日の僕と同じだと思うな。吠え面かいてやるよ!」
「それ、負けてるからな……」
勿論、結果は再び惨敗だった。
本を読んだだけで上手くなるようなら、誰も苦労なんかしないのである。
きっちり三倍、点数を離された。
……吠え面をかいた。
「くそう……」
コートの傍のベンチに項垂れる。
隣の岡崎はバスケットボールを手でいじりながら、乱れた息を整えていた。
「喉渇いたな」
「……そうだな」
僕の言葉に岡崎は頷き、続ける。
「悪い、買ってきてくれ」
「いや、僕が買ってもらいたいくらいだよ」
「だから悪いって言ってるだろ……」
「お前の誠意はそんな程度のものなのかよ……」
「うるせえな、さっさと行けよ!!」
「なんでお前がキレるんだよっ!?」
なんかもう、精神的な疲労が笑い事じゃない。
「いや、この前、他人のためにパシられるのが大好きでそれだけが人生の中での楽しみなんだって言ってたじゃん」
「そんなことを言った覚えはこれっぽっちもねえな!
それ僕、ただの痛い人だろ!」
「だっておまえ、この前も全裸で『ウヒャヒャヒャ』って笑いながら町中走り回って俺のためにコーヒー買いにいってたじゃん」
「そんな僕がヤバい人みたいな出来事の記憶はまったくない!
すべてお前の妄想だろ!」
すると、本当に哀れむような目を向けてくる岡崎。
「そりゃおまえ、阿良々木がマジでヤバい人だからだよ……」
「うそ、マジで?
僕は全裸で『ウヒャヒャヒャ』って笑いながら町中走り回って岡崎のパシリをしておいてその記憶を失うようなヤバいやつだったのか!?」
「冗談だよ……」
「いや、分かってるけどさ」
「冗談だっつってんだろ!」
「そこまで急に元気に言われると逆に疑わしい!」
「じょ、冗談だって……」
「どもるなよ、不安になる! こら、目をそらすな、岡崎!」
「冗談だよな?」
「疑問系!? なんか僕、本当に自分がヤバいやつのような気がしてきた!」
「冗談じゃない」
「ついにそもそもの元の文が否定文になった! 冗談じゃないよっ!」
結局僕らは揃って近くの水飲み場で喉を潤すと、時計を見る。
そろそろ戦場ヶ原との待ち合わせに向かうにはいい時間だった。
「じゃあ、僕、そろそろ行くよ」
そう言うと、岡崎はほんのちょっとだけ残念そうな顔をした……ように思う。
「あぁ。じゃあな、えっと……宮越」
「誰だよ……」
「『何度でもやってくる月曜日』宮越」
「無条件で大多数に嫌われるようなキャッチコピーをつけるな!
そして僕の名前は宮越じゃなくて阿良々木だ!」
「惜しい、近付いたっ!」
「惜しくねえし近付いてもいねえよっ!」
別れ際までこんなかよ……。
008
「今日は時間通りなのね、心底意外だわ」
戦場ヶ原の家に着くと同時に、出迎えに出てくれていた戦場ヶ原にそんな言葉を渡された。
「意外って、僕がそんな時間にルーズなやつに……いや、見えるよな、2日連続で遅刻してるわけだし。
ごめん、悪かった」
「いいのよ、阿良々木くん。
私は、阿良々木くんがちゃんとここに来てくれるだけで嬉しいわ」
「戦場ヶ原……」
相変わらずにこりともしない仏頂面だけれど、戦場ヶ原はそんなことを言う。
彼女の本心。
愛情表現。
彼女なりの、デレ。
『デレないツンデレ』と自称した戦場ヶ原ひたぎは、そのキャッチコピーを失うのに3日もかからない。
「さ、今日も仲良く元気にお勉強を始めましょう。
とは言っても本番は明日だから、下手に詰め込むよりも軽く確認する程度で済ませたほうがいいかもしれないわね」
僕と戦場ヶ原が向かい合って席につくと同時に、彼女は澄ましたような伏し目がちで言った。
「へえ、そういうものなのか?」
「そういうものなのよ。
産まれてこのかたたったの一度だってテスト勉強というものをした経験のない阿良々木くんには、到底分からないことなのかもしれないけれど」
「失礼なことを言うな! 僕だってこうして落ちこぼれる前は、普通にそこそこ頭のいい学生をやっていたんだから、
テスト勉強くらいしたことあるに決まってるだろ!」
「前日の夜に焦ってとりあえず要点だけを徹夜で頭に詰め込むのは、テスト勉強ではなく、一夜漬けというのよ。
その辺りのこと、阿良々木くんは分かっているかしら?」
「……………」
分かっていなかった。
昔は一夜漬けでちょっと教科書を見直すだけで、テストなんて簡単にいい点をとれたものだから、
自分のことを天才だと思っていたこともある。
「もっとも要領のいい人はそれでなんとかなってしまうものだし、
中学時代の阿良々木くんはその類だったんでしょう。
……そんな阿良々木くんのために」
戦場ヶ原はそこで言葉を切り、席についたときからずっと気になっていた、
厚さ約1センチメートルほどの紙の束を取り上げて、表紙をこちらに向けた。
「『阿良々木暦用直江津高校定期テスト直前確認プリント』……?」
「そう。阿良々木くんのくせによく読めたわね、誉めてあげるわ」
「さすがの僕もこれくらい普通に読めるよ、バカにすんな!」
「だって阿良々木くん、たまにひらがなも間違えるから、
日本語の段階でちょっと残念なのかと思って」
「し、仕方ないだろ!
『わ』と『れ』とか、『め』と『ぬ』とか、『る』と『む』とか、ぼーっとしてるとたまに間違えるんだよ!」
あと、『は』って書きたいのになぜか『な』になっていることなんてよくある。
難しいよなー、日本語って。
そもそもひらがな、カタカナ、漢字っていう、三つの文字を使っているところから僕には甚だ疑問である。
ひらがなだけでいいじゃん。
台詞をひらがなだけで表記すると、それだけでみんなロリキャラみたいになるし、もう僕は幸せだよ。
……僕はロリコンじゃないけどな!
「ともあれ、そこでこれの出番なの。
これは私が独自のデータにより弾き出した、対直江津高校教師陣専用の直前暗記用プリント。
傾向と対策もばっちり。慣れるために予想問題も作っておいたわ。
量も内容も控えてあるから、雀の涙、猫の額、時代遅れのパソコン、阿良々木くんの脳みそ程度の記憶容量でも簡単に覚えられる優れ物よ」
「なんだかそこまでしてもらって本当にごめん、マジで助かるし、お前にはもう二度と頭が上がらないレベルに感謝しているけれど、
しかし一つ文句を言わせてもらうならば、僕の脳みそをごく僅かなものを形容する意味の言葉たちと同列に並べるな!」
「あぁ、ごめんなさい。
彼らのほうが阿良々木くんの脳みそ程度のものと同列に並べられたら迷惑よね」
「もう完璧に100%予想通りの返答だよ!
なあ、戦場ヶ原、そんなに僕をいじめて楽しいか!?」
「なに言ってるの、楽しいわけないじゃない」
戦場ヶ原は驚くくらいの速さでそう否定してくれる。
「だ、だよな。よかった、安心したよ……」
「阿良々木くんをいじめるのは私のライフワークだもの。
楽しいとか楽しくないとか、そういう次元の物事ですらないわ」
「ちきしょう、過去にこれほどまで、
ぬか喜びという言葉の意味をはっきりと理解したことは一度だってなかった!」
「黙りなさい」
「……………」
え、なんで今、僕、怒られたの?
「とにかく、始めましょう」
何事もなかったような戦場ヶ原の台詞で、僕たちは勉強を開始した。
それにしても。
それにしても、だ。
僕は目の前に広げられたプリントと、そこに羅列された英語を見て、嘆息する。
戦場ヶ原の作ってくれた手書きのプリントは、
非常に丁寧でちょっと砕けた言い回しの解説が驚くくらい分かりやすいのだが。
現実は、非情である。
解説ではなく肝心の問題のほうが、正直、難しすぎだった。
戦場ヶ原は馬鹿な僕でも分かるように作ったみたいなことを言っていたけれど、
彼女は僕の頭の悪さをまだまだ甘く見ていたようだ。
中でも苦手な英語でこんな問題を出されたら、長文問題の一文目で既に再起不能である。
いや、と思う。
あるいは、これは直江津高校の定期テストを意識した問題なのだから、
僕以外の生徒はこの程度のレベルは簡単に解けてしまうような問題のチョイスなのかもしれない。
「これくらいのレベル、出来て当然よ」みたいな。
「……だとしたら」
だとしたら、僕はもう、卒業とか諦めたほうがいいのかもしれない。
こんなの、一生かかっても分かる気がしない。無理無理。
第一、土台無茶な話なのだ。
今まで散々落ちこぼれていた僕が、たった1、2週間の勉強で、
他の生徒が必死に2年半積み上げてきて点数を争うテストに割り込もうだなんて。
いいよ、どうせ今回も赤点だらけだって。
「……さて、と」
なんてわざと大袈裟にネガティブなことを考えてから、息をついた。
こんなことでどうする、目の前の戦場ヶ原が、自分の勉強時間を削ってまで僕のために僕の勉強に付き合ってくれたりプリントを作ってくれたりしているっていうのに、
こんなんじゃ合わせる顔がない。
ぼんやりと戦場ヶ原に向けていた視線を、再びプリントに戻す。
しかし何度見直したところで分からないものは分からないのであり、
どうしても分からない問題に行き当たった場合は、下手に一人で悩むより、分かるやつに助けを求めたほうが利口だった。
「また分からない問題があったの?
阿良々木くん、あなた、実はやる気がないんじゃないの?」
質問のために戦場ヶ原に声をかけた僕への第一声が、それだった。
「……僕は真面目にやってるつもりだよ」
「そう。だったら、いや、これは考えにくいのだけれど……」
「なんだよ、言えよ」
「阿良々木くんは、もしかすると、私の想像を絶するほどの馬鹿なの?」
「すっげー傷付いた!」
つーか想像を絶する馬鹿ってどんなレベルだよ!
と、まあ、ここまではジョブみたいなもので。
「分からないのはどの問題?見せてみなさい」
そう言うと、戦場ヶ原はひょっこりと僕の手元のプリントを覗きこんだ。
ふわりと柔らかい匂いがして、反射的にそっと背をそらして逃げる。
「あぁ、そうね。確かにこのレベルじゃ、
阿良々木くんのアオミドロ程度の脳みそじゃあまったく一ミクロンだって理解できないでしょうね」
「なあ、お前は一つ何かを言うたびに僕をいじめなくちゃ生きていけないのか?」
あとアオミドロに脳みそはない。
「この英語の先生はね、毎回何問か洋画の台詞を使った問題を作るのよ。
確実に自分の趣味でね。
だから問題文の中にスラングや古い口語表現なんかが混じっていて、
羽川さんならともかく私だって読むのは難しいわ」
だから、と戦場ヶ原は続ける。
「阿良々木くんの鍛えるべきことは、必ず何問か混入されるそれらの問題を瞬時に見極めて、
解かないと選択する力なのよ」
「え、解かなくていいのか?」
「いいの。そういった問題は一つも答えなくても、
他をすべて正解すれば9割の点数はとれるようになっているから。
私たちは満点を目指すわけじゃないのだから、下手に訳の分からない問題に時間をとられて、
できる問題にまで手が回らなかったらどうしようもないでしょう」
そういうものなのか。
今まで、英語の問題なんか見てもそもそも映画の台詞が混じっていることすら気付かなかったから、勉強になる。
「つーか、戦場ヶ原はよく映画の台詞だって分かったな」
「なんだかんだ言って、使われるのは流行った映画の台詞ばかりなのよ。
阿良々木くんに渡したプリントの問題だって、有名な映画の一節よ。
そんなことも知らないの?」
「知らないな。僕、あんまり映画を見るって習慣はなかったし」
でも、僕よりそんなことに無頓着そうな戦場ヶ原が知っているということは、
やっぱりかなり有名なのだろうか。
「あぁ……映画を見にいく友達がいなかったのね」
「嫌な解釈をしないでくれないか!?」
「友達を作ると人間強度が下がる(笑)」
「おいやめろ」
罵倒はいいけれど、黒歴史をほじくりかえすのだけはやめろ。
死ぬ。
厨二病は死に至る病なんだぞ。
「安心して。阿良々木くんが厨二病で死んだら、私は厨二病を殺すわ」
「概念まで殺せるのかよ!?」
無敵すぎる、戦場ヶ原ひたぎ。
死の線でも見えているのだろうか。
「見えているのなら――阿良々木くんだって殺してみせる」
「それは普通の人殺しだな!
神様を殺してみせるくらい言ってみたらどうだ!」
「私にとって、阿良々木くんは神様のような存在だもの。
あなたがいなければ今の私は生きていないし、あなたがいなければ私が今生きてる必要もないわ」
「……戦場ヶ原」
「というわけでそれを踏まえて言い直すと、
見えているのなら――神様だって殺してみせる」
「あれ!? なんか全然格好よくねえぞ!」
台詞は変わっているのに、含まれているニュアンスにはまったくもって変化が見られなかった。
「まあ、そんなことより」
自らの命が奪われるという主旨の発言を、そんなことって言われた。
「この問題、本番では解かなくてもいいけれど、せっかくだから一応解説しておきましょう」
「ああ、うん……頼む」
僕は戦場ヶ原の言葉に頷いて、彼女の説明に聞き入ることにした。
……結局。
僕たちは日にちを跨ぐまで、机に向かって頭を使ったのだった。
009
私立直江津高校の定期テストは、すべての教科を一日で消費するという、
そのまんま言葉通り、鬼のようなスケジュールで実施される。
よってすべての日程が終わって校門を出る頃にはもう午後の7時を回っていて、
辺りはすっかり暗くなっていた。
戦場ヶ原と八九寺、更に最近知り合った新たな友達に加えて、
学校まで僕に優しくないなんて、本当に知らないところとか、
あるいは前世かなんかでなにか悪いことでもしたんじゃないかと思ってしまう。
勘弁して欲しかった。
「……それをどうして私に言うのだ、阿良々木先輩」
と、僕の愚痴を黙って聞いていた神原が、わざとらしく呆れたような表情を作って言った。
「いや、だって、戦場ヶ原とか八九寺とか岡崎とか、怖いし……
学校のカリキュラムにはそもそも、文句をつけようがないしさ……」
神原。
神原駿河。
直江津高校二年生。
健康的な短髪。
人懐っこそうな表情。
元バスケットボール部のキャプテン。
自他ともに認めるエロ娘。
そして――猿に願った少女。
神原は、つい先月まで、
バスケットボール部のエース、学校一有名人、学校一のスターとして名を馳せていた人物である。
私立進学校の弱小運動部を入部一年目で全国区にまで導いたとあっては、
本人の否応にかかわらず、そうならざるを得ないだろう。
ついこの間、左腕に怪我をしたという理由で、
キャプテンの座を後輩に譲り、バスケットボール部を早期引退。
そのニュースがどれだけ衝撃的に学校中に響いたか、
それは記憶に新しい。
古びることさえ、ないだろう。
神原の左腕には。
今も、包帯がぐるぐるに巻かれている。
「しかし、阿良々木先輩のほうから私ごときに会いに来てくれるなんて、僭越至極だ。
敬愛する阿良々木先輩が教室に来て、一緒に帰ろうと言ってくれたときの私の感動は、
言葉なんかじゃ到底言い表すことなどできようもないが、
それでも私の、阿良々木先輩のそれと比べることすらおこがましい極小のボキャブラリーを持ってして
阿良々木先輩に伝えることができたらそれはどんなに幸せなことだろうか!」
「えっと、そんなに大袈裟に言われるとなんだか照れるんだけどさ。
突然おしかけちゃって、大丈夫だったか?
他に友達と帰る約束をしていたとか」
「大丈夫だ、阿良々木先輩。
私にとって阿良々木先輩よりも優先すべき事柄など、
戦場ヶ原先輩を除けば他に存在しない!」
「ああ……ありがとうな……」
相変わらず格好良いやつだ、神原。
格好良すぎて、正直何を言ってるんだかたまに分からないくらい格好良いよ。
もう既に分かってもらえたと思うけれど、神原はどういうわけか、
僕のことを異常に過大評価しているきらいがある。
可愛い後輩に敬われるのは確かに悪い気分ではないのだけれど、
それがあまりに過ぎると落ち着かない。
いわれのない敬意。
根拠のない尊敬。
それらはむしろ、普通に貶されるよりも自分の卑小さを思い知るような気がして、
たまに気が滅入る。
「ふむ。さすがの阿良々木先輩も、テストで疲れているようだな。
受け答えにいつものキレがない」
「ん、そうか? そんなつもりはないんだけれど……
悪いな、僕のほうから誘っておいてこんなんじゃ、つまらないか」
「いや、そんなことを気にしないでほしい。
私は阿良々木先輩とこうして歩けるだけであと半年は戦えるくらいの幸福を味わわせてもらっている」
お前はなにと戦っているんだ、神原。
……悪の組織とか?
世界を蝕む闇の教団と、日夜人知れず戦い続ける孤高の戦士。
神原ならちょっとありえそうだ……。
「それより阿良々木先輩、テストのほうはどうだったのだ?
戦場ヶ原先輩との勉強の成果はあったのだろうか」
「ああ、それがさ、勿論答案が返ってくるまでは分からないけれど、
個人的な手応えとしてはかなりいいとこまでいけたと思うんだ。
元々のびしろが有り余ってた教科はまだしも、
得意教科の数学すら今までよりできたって気がしてる」
「ほう、それでこそ我が敬愛する阿良々木先輩だ、
隠しきれない才能は留まるところを知らないな!
私が目指すにふさわしい、まさに有為多望な人物だ!」
有為多望なんて四字熟語がぱっと出てくる神原のがすげえよ。
僕は腕をぐるぐる回しながら、誤魔化すように言葉を繋いだ。
「まあ、でも、さすがに朝早くからこんな時間まで集中しっぱなしだったから、さすがに疲れたな」
「……………」
「神原? おい、どうした、どうして黙ってるんだ?」
「いや……阿良々木先輩は、いつも私を困らせる」
「……はぁ?」
僕、なんか神原の気に触るようなこと言ったか?
「阿良々木先輩は、想像を絶するエロだったのだな!」
「いやちょっと待て、
今の話のどこに僕が尋常じゃなくエロいと結論づけるような根拠があったんだ!?」
神原の中でわけのわからないスイッチが入った!
「いや、その、だな……こういったことを阿良々木先輩の前で言うの非常に心苦しいのだが、
つまり阿良々木先輩はずっとシャープペンシルを持っていたということだろう」
「ああ、まあ……そうだけど」
「もう……もう、そんなのえっちすぎて私は正気でいられないっ!」
「お前の感じるエロチシズムはレベルが高すぎてこれっぽっちも理解できねえよ!
授業中とか大変だろ、そんな性癖!」
もはや変態とか異常性癖とか通り越して、完全に変質者だ。
「安心してほしい、阿良々木先輩。
私がシャープペンシルを持つ手の形をえっちだと感じるのは、阿良々木先輩に対してのみだ」
「なにをどう解釈すれば安心できるんだ……」
むしろ不安が増した。
「まあでも確かに神原ではないけれど、
シャープペンシルのお尻を噛む仕草とかはなんとなく色っぽい感じはするよな」
「お尻を……噛む……?」
「ああ、お前がそこに反応するであろうことは言ってる途中で僕も気付いたよ!
たまには僕の期待を裏切ってくれ!」
「私のお尻でいいなら思う存分に噛み千切ってくれて構わないぞ、阿良々木先輩!」
「噛まねえよ!」
「大丈夫だ、不肖神原、これでも自らの裸体には自信がある」
「くっ……神原、あんまりいたずらに僕の煩悩を刺激するなよ……」
「なぜ煩悩を抑える必要があるのだ。
これは公式に書物として出版されるわけではないから、
普段はできないことや描写できない単語などを口にしても誰にも怒られることはない」
僕は誰かに怒られるのが嫌だから神原に手を出さないわけじゃないってこと、
この後輩分かってくれていないんだろうか。
「例えばだ。普段は言えない次のような台詞も、悠々と言うことができる」
「……なんだよ」
「さあ、阿良々木先輩!私とセック「言わせねえよっ!」
やりたい放題である。
確かに神原のアイデンティティーの一つがエロさであるが故に、
通常業務時には鬱憤が溜まることもあるのだろう。
だが、しかし。
可愛い後輩のファンのために、
僕は神原のキャラクターを出来うる限り守ってみせる!
「原作の時点で私は相当あれだから、今更守るべき恥もなにもないと思うのだが……」
……まったくもってその通りだった。
「それに私は、直接的な表現よりも『行為』という呼び方のほうが好きだっ!」
「聞いてねえよ!」
「さあ、阿良々木先輩。私と行為に及ぼうではないか! 今すぐ!」
「及ばねえって! あとここ、通学路の途中だってこと忘れるなよ」
「ははは、阿良々木先輩は面白いことを言う。
野外でなんの問題があるのだ、気分がむしろ盛り上がるではないか!」
「面白いこと言ってるのは、徹頭徹尾お前だ、神原……」
「いいぞ、もっと私を罵ってくれ! 見下した目で見てくれぇ!」
「……………」
「ほ、放置プレイか? それはそれでたまらないな……はぅんっ!」
「……………」
ド変態で露出狂でドM。
無敵の神原さんだった。
……するがは、無敵だ。
「ところで先ほど、阿良々木先輩は岡崎という名前を口にしたが」
神原は先ほどまでのふざけた空気を一瞬で消し、
真面目な声質にチェンジして言った。
「それはもしや、岡崎朋也という人間か?」
「え、ああ、そうだけど」
突然ではあるが。
神原駿河は、百合である。
彼女は、単に先輩としてではなく、僕の彼女であるところの戦場ヶ原ひたぎのことを、心から愛している。
だから僕と神原は、簡単に言えば恋敵なのだけれど、
しかし先月末、神原の関わった怪異のおかげで僕に対して、
負い目というか恩義を感じてでもしまっているのだろう。
こうしてやたらとなつかれているのである。
そりゃあ、可愛い後輩になつかれるのは、先輩として気分は悪くないのだれけれど、
実は僕は神原に対してしてやれたことなんてほとんどないわけで、
向けられる敬意が誤解の産物であることを考えると少しばかり居心地が悪い。
忍野曰く。
戦場ヶ原と同じく、神原もまた、一人で勝手に助かっただけなのだから。
ともあれそんなやつだから、
神原の口から僕と忍野以外の男の名前を聞くのはなんだか不思議な感じがして、
違和感のある感触の空気を吸い込む。
「神原、知り合いなのか?」
「いや、こちらが一方的に知っているだけだ。
岡崎朋也といえば、この辺りでバスケットボールをやっている中学生の中では、
知らない者などいないくらいの有名人だったからな」
「そうなのか?」
そういえば、岡崎も自分で言っていた。
バスケットボール部のキャプテンで。
スポーツ推薦の話が来るくらいには名前も売れていて。
三年最後の試合の直前に父親と大喧嘩して。
上がらなくなった――右肩。
「年齢は私の一つ年下なのだが、彼は一年生の時から試合に出場していたな。
性差により直接手合わせをすることはついぞ叶わなかったが、
プレーは何度か目にしたことがある。
大きな身体のわりにしなやかな動きをする選手だった」
「へえ。やっぱりすごいやつだったんだな」
「噂によると中学最後の大会になぜか出場せず、
そのままバスケットボールをやめてしまったというが……阿良々木先輩は、どうして彼のことを?」
「さっき言った、新しい友達なんだ、岡崎は。
偶然知り合っただけなんだけれど」
「なるほど……そのようなスター選手とさえ瞬く間に打ち解けるとは、
阿良々木先輩は本当に素晴らしいお方だ。
一生かかっても追い付ける気がしない」
「そんなんじゃねえよ。
友達になるのにスター選手がどうとかなんて関係ないし、
それを言ったら僕からすれば神原のほうがよっぽど近寄り難いスターだ」
なんせ神原駿河は、直江津高校に通う人間なら名前を知らない人など一人もいないような超有名人で、
そのまんまアイドルみたいな扱いをされているのだから。
知り合う前は素性を知らなかった岡崎とは、違う。
「だから、お前とこうして友達になれたことを、僕は心からよかったって思ってるよ」
「阿良々木先輩……」
神原は虚をつかれたような顔をしたあと、ぱあ、と表情を綻ばせ、叫んだ。
「脱げばいいのか!?」
「なんでだよっ!」
意味が分からない!
「阿良々木先輩が私のことをそんなに想っていてくれていたなんて
……私にはそれに応える術は、脱ぐこと以外に存在しない!」
「お前が脱ぎたいだけだろうが!
そういうところがなければお前は完璧なのにな!」
ちょっとは常識を身につけろ。
「……それで」
本当に制服を取り払おうとする神原を、ほとんど抱きつくみたいにして食い止めたあと。
神原は、いつものように平然とした顔で、言った。
「阿良々木先輩、私と帰りたいなどというのは実のところ言い訳だろう。
一体全体どういった用件なのだ?」
神原は。
鋭く、僕が今日、神原を誘った理由を、問うた。
「……ちょっとさ、ついてきてほしいところがあるんだ」
単刀直入に、僕は言う。
「夕飯くらいは奢るからさ。
そのあと、ちょっと付き合ってくれないか」
昨日聞いた、八九寺真宵の話を思い出しながら。
「少なくとも今回の噂の中で幽霊と呼ばれる存在は――確かに、実在します」
八九寺真宵は、これっぽっちも厳かさを演出できていない舌足らずな声で、そう言った。
「実在する?」
「はい。私も幽霊という非常に曖昧な立場故に、
すべての人に話を聞けるわけではありませんから、情報自体はぶつ切りなのですが」
八九寺曰く。
件の幽霊は、『ストバスの幽霊』と呼ばれる男で、毎晩ストリートバスケットコートに一人で出現するらしい。
顔はフードですっぽり覆われていて誰も見たことがないが、
『ストバスの幽霊』はコートでバスケットボールに励む若者たちに勝負を挑み――そのすべてを、ことごとく打ち破っているそうだ。
連戦無敗。
百戦錬磨。
百戦百勝。
噂は噂。
話半分。
都市伝説。
道聴塗説。
――『ストバスの幽霊』。
「いや、ちょっと待てよ、八九寺。
確かに話は分かるけどさ、そいつ、
ただの正体不明のバスケットボールが上手いやつってことじゃないのか?
そりゃあ、そんなに強いやつがいきなり現れたら噂にはなるだろうけれど」
「幽霊と呼ばれるには、至らない」
僕の言葉の続きを引き継ぐように、八九寺は言った。
「その通りです、阿良々木さん。
ここまでの話なら、『ストバスの幽霊』はただバスケットボールが尋常じゃなく上手い人ということで終わりです。
それ以上、なにもありえません。
ではそれが1on1だけではなく、2on1、3on1、それどころか――5on1でも無敵だとしたら?」
「……それは」
そんなことは、あり得るのだろうか。
バスケットボールに限らず、球技と呼ばれるスポーツは選手の人数差が開けば開くほどゲームバランスは崩れる。
例えば相手チームより一人多いだけでもパスコースの選択肢が多くなり、
よって攻め方だってその分バリエーションが増す。
それを、只でさえコートの狭いバスケットコートの、
それもフリースタイルが主流のストリートボールで。
5人もの相手に、1人で勝つというのは。
……あり得る話なのだろうか。
「私もそれがどうにも引っかかりまして、
昨日阿良々木さんと別れたあと、
バスケットコートをいろいろ回って見てきたのですが」
そんなことまでしてくれていたのか。
「見つかったのか?」
「ええ。この目でしっかりと見ました……が、言葉で言い表すのは非常に難しいですね」
珍しく、困ったように言い淀む八九寺。
「……八九寺?」
「いえ、これは阿良々木さんがご自分の目で見られたほうが早いと思います。
知能テストが終わったら」
「定期テストだ!」
「……定期テストが終わったら、見てきてはいかがでしょう」
そんな、八九寺らしくもない、曖昧な表現で。
「はっきり言いましょう。私個人の意見なので信憑性には欠けると思いますが、あれはおそらく……」
まっすぐ僕の目を見て、続けた。
「怪異の類の仕業かと」
「なるほど、つまりその『ストバスの幽霊』の正体を見極めるために、
私に協力してほしいと、そういうわけだな」
「話が早くて助かるよ、神原」
神原と二人、学校の近くのファストフード店で向き合いつつ食事をとる。
僕の話を聞き終えた神原は、もうすっかり冷めてしまったフライドポテトの一番長いやつを、器用に結んでから口に放り込んだ。
「それにしても、5人を相手にして勝つなんて、
そこのところバスケットボール部の元エースとしてはどう思う?」
「うん? 私は5人くらいなら同時に相手にしても全然大丈夫だぞ」
「え、マジで? 神原クラスになるとそんなもんなのか?」
「勿論だ。将来的には夢の10Pを目指しているからな!」
「なんの話をしてるんだ!?」
「なんのって阿良々木先輩、そんなの決まっているではないか。セック「だから言わせねえよっ!」
ちょっとでもエロに繋がりかねない単語を避けて話さなくちゃ、真面目な相談もできやしない。
と思ったら、神原は自分のバッグをがさごそとやり、
一枚のプラスチックケースを取り出して僕に差し出し、本日最高の笑顔を見せる。
「ところで阿良々木先輩、このAVに出てくる男優が阿良々木先輩にそっくりなんだが、どう思う?」
叩き割った。
「な、なんてことをするんだ! いくら阿良々木先輩といえども許さないぞ!」
「うるせえ、お前は学校になんつーもんを持ってきてるんだ!
あとそれを嬉々として僕に見せるな!」
「だって! だって仕方ないではないか!
私は昔から男子のよくやっているアダルトグッズの学校での貸し借りというのをやってみたかったのだ!」
「え、そんなこと男子ってみんなやってんの?」
「…………ああ、阿良々木先輩には友達がいないのだったな……」
ものすごい哀れな生き物を見るような目を向けられた。
「ば、馬鹿、僕だってアダルトグッズを貸し借りしあう友達くらいいるさ!
馬鹿にするな!」
「申し訳ない」
「謝るな!」
くそう、確かにずっと気になってはいたけれど、
休み時間に教室の隅で集まってごそごそやってるやつらはみんな、
アダルトグッズの貸し借りなんかしてたのか……。
泣けてきた。
「しかしまあ、普通に考えて」
長いフライドポテトを結んで作った円に短いポテトを出し入れするというよく分からない動作をしつつ、神原は真面目な声を出す。
……なんであいつあんなににやにやしてるんだろう。
「相手が全員初心者でもない限り、5人を一度に相手にするなんて難しいと思う」
「やっぱりそうだよな。となると、なにかあるんだ」
それを可能にし、更に幽霊と呼ばれる理由にもなったなにかが。
普通の人にはできない。
怪しく異なる、なにかが。
それを見極めるために。
「よし、そろそろ時間もいいだろうし、行ってみようぜ」
「ああ、承知した!」
残ったポテトを豪快に口の中に流し込んだ神原と共に、
僕はストリートバスケットコートを目指して店を出た。
この付近には、ストリートのバスケットコートと呼ばれるものが意外に多く存在する。
それは無意味に土地が有り余っているからとか、
頓挫した多くの土地開発計画の後遺症で残ったコンクリートの駐車場がいつの間にかコートと化すからとか、
理由はだいたいそんなところなのだけれど、
毎晩いろいろなコートに出現する『ストバスの幽霊』が現れる場所を探すのは容易い。
最近では県内の腕自慢のストリートボーラーたちが『ストバスの幽霊』を倒すために盛り上がっており、
彼が現れると即座に連絡網が回りギャラリーやチャレンジャーが詰めかけるからだ。
町を徘徊する若者たちに聞けば、今日はどこにいるという情報はすぐに手に入る。
そして今日は、僕たちの町と隣町を繋ぐ橋の下――僕と岡崎を繋ぐバスケットコートが、『幽霊』の出現スポットだった。
「すごい盛り上がりだな、阿良々木先輩!」
神原が叫ぶ。
ギャラリーの人混みの音や歓声で、叫ばないと話ができないのだ。
田舎生まれの僕には少し刺激が強い体験。
「ああ!」
答える。
「ここからじゃよく見えない! 神原、一番前に行こう!」
「了解した!」
僕らが人垣を掻き分けてなんとか一番前に出たとき、ちょうど前の試合が終わったところのようで、
しょぼい電灯に照らされたコートには、
丸太みたいな腕を惜しげもなく晒すタンクトップのチャレンジャーが膝をつき――その前に、退屈そうにバスケットボールを弄ぶ『幽霊』が、いた。
細身の身体に、夏前だっていうのに長袖の上着を着て、
フードにすっぽりと覆われているせいで顔はあまり見えない。
「なあ、阿良々木先輩。あれって……」
「……………」
嫌な予感が、していた。
嘘だ、と思う。
耳鳴りがひどい。ぐらりと平衡感覚をなくした一瞬。
「次の挑戦者はいないのか!」
ギャラリーの中から、誰かが叫んだ。
しかし先ほどまでの試合を見ていて怖じ気づいたのか、誰も動く様子はない。
僕と神原は一度も試合を見ていないから、
これでは『ストバスの幽霊』の正体を見極める材料を得られないのだけれど。
どうする。
ほとんど麻痺している頭でそんなことを考えていると。
「……阿良々木先輩」
神原が、言った。
「公式の試合ではなく、ストリートバスケットボールなら、この腕でも大丈夫だろうか?」
真っ白い包帯をぐるぐるに巻いた左腕を、感触を確かめるように、握った。
その横顔を見る。
ぞくりとする、笑顔だった。
長く、長く望んだ待ち人が現れたかのような。
獲物を狩る獣の――猿の笑顔。
「いや、待て、神原……」
「大丈夫だ、阿良々木先輩。
どうせこの薄暗さ、私の特異性なんて気付かれない」
ぐっと、一歩目を踏み出す。
「それに、中学生の頃から、一度でいいから戦ってみたかったのだ。
だからすまない、阿良々木先輩!」
神原は軽いステップでスポットライトのような電灯の下に踊り出すと、
『幽霊』と向き合う。
「次の相手は私だ。お相手願えるだろうか」
猿の笑顔。
対するは、ちらりとほんの一瞬露出した――狼の瞳。
「やめろ、神原っ!!」
僕の叫びに、しかし反応したのは周りのギャラリーだった。
「神原? 神原って、あの神原か?」
「神原駿河? 怪我で引退したって聞いたけど」
「腕に包帯まいてるし、そうなんだろ」
「神原って誰?」
「ほら、直江津高校の――」
神原は……弱小女子バスケットボール部を全国大会まで導いた伝説の人物神原駿河の名前は、
こんなバスケットボール好きたちの集まる場では起爆剤にしかならない。
沸き上がる歓声。
その中で。
ボールを受けた神原が、弾けるように駆けた。
神原は、決して背が高いわけではない。
体格も小柄で、どちらかといえば痩せているほうだ。
だが、神原駿河は――跳ぶ。
腰を落としてディフェンスの体制をとった『幽霊』を、
しかし神原は、そんなものは知らないとばかりに一息で――飛び越えた。
沸き上がるギャラリー。
神原は、まるで彼女だけが無重力下にいるかのような、
ふうわりとした軽やかな跳躍で『幽霊』の頭を軽々と飛び越し、
かの有名なバスケ漫画を彷彿とさせる勢いで、ダンクシュートを決める。
電光石火のようだった。
それが、『人間越え』という名前のれっきとしたバスケットボールの技術であることを、
僕は後になって知ることになるのだが、とにかくそのときは、
ただあまりにも鮮やかな手口に見とれていた。
「まずは2点。さあ、次はあなたのオフェンスだ」
ボールよりも遅れて着地した神原は、『幽霊』にボールを渡すと腰を沈める。
ハーフコートのストリートボールでは、
このようにシュートが決まったりオフェンス側がスティールされると攻守を交代するルールのようだ。
ぼすぼす、と小気味のいい音がする。
『幽霊』は感触を確かめるように何度かドリブルをして。
手慣れた動作。
経験者特有の、それ。
素早い動きでボールを奪いに来た神原をおちょくるようにコートの中を走り回る。
しかし神原も神原で、それにぴったりくっつきゴール下に入れさせない。
そんな、一つひとつの動作にどれほどの技術が詰め込まれているのか想像もつかない応酬が一区切り終わり、
二人が再び距離をとる。
間髪を入れずに駆け寄る神原。
その、一瞬。
『幽霊』が――笑った。
彼は立ち向かってくる神原の右側をドリブルで抜けようと身体を進ませて――その反対方向に、パスを出していた。
「なっ……」
神原の体が止まる。
それはまさに、妖異幻怪と呼ぶにふさわしい光景だった。
誰もいない場所に放たれ、
まともに1on1をやろうとかそういった意思すら垣間見ることさえ皆無な皆目検討もつかない方向へとすっ飛び、
ぼすん、と鈍重な音を立てて行き場を失い落ちるはずだったボールは、しかし、
神原の左斜め後ろ付近の空中で一瞬静止し――Vの時を描くように動き出し、
右から神原を抜いていた『幽霊』の手に収まる。
動けない神原を嘲笑うかのように彼は3ポイントラインから、
恐ろしいほど綺麗なフォームでボールを放ち、ゴールネットを揺らした。
「神原……」
声を漏らす。
これが――『ストバスの幽霊』。
怪しく異なる、怪異。
試合は終始、神原に不利な展開で進んだ。
それもその筈である。
バスケットボールに限らず、球技と呼ばれるスポーツは選手の人数差が開けば開くほどゲームバランスは崩れると言ったのは、果たして誰だったか。
『幽霊』は、どういうカラクリか空中でボールを自分にパスさせることができるようで、
それはつまり神原にとっては1人で2人を相手にしているようなものなのだ。
神原もオフェンスに回れば持ち前の跳躍力で攻めるものの、しかし点差は無情にも離れていき、
初めてからそういうルールだったのだろう、『幽霊』が18点目を決めた段階で神原の敗北が決まった。
「神原っ!」
コートで項垂れる神原に駆け寄ると、彼女は困ったように笑った。
「阿良々木先輩の前で、恥ずかしい姿を見せてしまったな。残念ながら私の負けだ」
「いや、それはいいんだけれど……大丈夫か?」
「うむ、なにも問題はない。
左腕も……私が負けたことに対しては、文句がないようだ」
神原の左腕。
レイニー・デヴィル。
それにかけられた一つ目の願いは、もう期限が切れているのか、
あるいは今回の件をカウントには入れないと決定をくだしたらしい。
そのことを忘れて未知の相手に戦いを挑んだことは怒ってやりたかったが、
それよりもとりあえず茫然自失といった様子の神原が心配だ。
「本当に大丈夫か?
なにか好きな言葉を言ってみろ」
「ド素人!」
「なにかエロいことを言ってみろ」
「先生はトイレじゃありません!」
「政府へ文句を言ってみろ」
「児ポ法改正断固反対!」
「好きなゲームは」
「もじぴったん!」
「好きなおっぱい」
「つるぺったん!」
「よし」
大丈夫そうだった。
と、その時。
「阿良々木……」
僕の名前を呼ぶ、ざらざらとした声が背中に投げつけられた。
体が固まる。
ギャラリーであってくれ、と願った。
たまたまギャラリーにいて、僕を見かけたから追いかけてきたのだと。
意を決して、振り返る。
瞬間。
前に一度感じたことのある、
喉を刃物で切り裂かれたと錯覚を引き起こすぐらいの、
頭の芯まで塩の塊を詰め込まれたみたいな、
鈍重で悪寒だらけの嫌悪感が、あった。
頭から冷水をかけられたような、ぞっとするほど奇妙な感覚。
全身の毛が逆立つ。
耳鳴りが渦を巻いて、五感があるべき方法を見失い、
遭難した視覚味覚聴覚嗅覚触覚を手繰り寄せようと呼吸をして。
そんな、ざわざわとした手触りの空気の中――ぎらついた、貫くような彼の双眼が、
僕を、真っ直ぐ、射抜いていた。
鈍く光る、切れ長の、ナイフのような。
ぎらぎらと紅く輝く。
灼けた狼の、瞳。
「………岡崎」
『ストバスの幽霊』こと、右肩が上がらないはずの岡崎朋也が、そこには立っていた。
010
「送り狼」
僕の話をすべて聞き終えた忍野は、
例によって例のごとく人を見透かしたようなぺらぺらに薄い笑顔を浮かべ、
一瞬たりとも迷うこともなく「うん、成る程ね」と頷き、
わざとらしく一度天井を見上げてから、
火のついていない煙草の合間から吐き出すように言った。
「それはほぼ間違いなく、送り狼の仕業だろうね、阿良々木くん。
送り狼。送り犬。あるいはもっと単純に、山犬とか狼って言われることもあるけれど――」
「狼、か」
「そう、狼」
忍野は繰り返す。
「狼だよ」
狼。
ネコ目イヌ科イヌ属に属する哺乳動物。
鋭い牙、立った耳に太い尻尾を持つ中形の肉食獣で、その大きさは現生のイヌ科では最大を誇る。
「送り狼って言うとさ、ほら、現代ではもっと違うニュアンスで使われることが多いけれどね。
知ってるかい? 女の人を家まで送り届けるついでに肉体関係まで持ち込んでしまう、
ちょうど阿良々木くんみたいな悪い男のことだよ」
「おい、話を作るな。僕はそんなことしてねえぞ」
僕が言うと、忍野は本当に驚いたみたいな顔をしてみせた。
「そうなのかい?
今回はまあ、ともかくとして、阿良々木くんはいっつも違う女の子を連れてくるから、
てっきりそういう方法で手っ取り早く手なづけてるのかと思ってたよ」
「忍野、お前な、いい加減にしろよ」
「そう怒るなよ、阿良々木くん」
はっはー、と笑い。
「まったく阿良々木くんは元気がいいなぁ。なにかいいことでもあったのかい?」
そんな、お決まりの台詞を吐いた。
学習塾跡の廃ビル。
その四階。
バスケットコートでの一件があったその夜のうちに、神原は先に家に返し、僕は忍野と向かい合っていた。
忍野。
忍野メメ。
怪異関係のエキスパート。
専門家、オーソリティ。
趣味の悪いアロハの小汚ないおっさん。
居住地を持たず、旅から旅の根無し草。
大人として尊敬のできる相手では決してないが、それでも、僕らがこいつの世話になったことは、揺るぎない事実である。
猫に魅せられた羽川翼も。
蟹に行き遭った戦場ヶ原ひたぎも。
蝸牛に迷った八九寺真宵も。
猿に願った神原駿河も。
みんな、少なからず忍野から力添えをもらった。
軽薄な性格で、間違っても善意の人間ではない。気まぐれの権化。
忍野は、かつてはここで子供達が勉学に励んでいたのであろう机を、
ビニール紐で縛り合わせて作った簡易ベッドの上に胡座をかいていた。
「そもそもさ、阿良々木くん。
狼に関する伝承ってのは世界各地いたるところに残っているんだ。
強い動物、怖い生き物ってのはそれだけで神格化されやすいからね。
スラヴ地域では戦士が狼の皮で作ったベルトを身につけると狼の力を得るっていうし、
古代ローマやヨーロッパじゃあ穀物や豊穣の神様として狼神が奉られているのは有名な話で、
中国じゃあシリウス星のことを天狼星って呼んでたらしいよ。
全部、阿良々木くんには難しい話かもしれないけれど。
ああ、それにそれどころかモンゴルとかトルコ系の民族では、
自分たちの始祖は狼だなんて信仰まであったりするんだぜ」
僕も、狼に関するそれらの話は、聞いたことがないわけではなかった。
狼信仰と言われてもぴんとくる具体名こそないにしても、
しかし神格化された狼といえばむしろ耳に慣れた感じさえする。
「第一、狼って全体的に格好良いしね。
そりゃあ信仰するなら、僕だって狼がいいよ」
忍野は茶化すようにそんなことを言って、なにがツボに入ったのか「はっはー」と笑う。
意地の悪そうな笑顔に、本当に気分が滅入った。
「忍野。それで送り狼ってのは、どんな怪異なんだよ」
「そう急かすなよ、せっかく一から説明してるんだからさ。
まったく相変わらず阿良々木くんは元気がいいなぁ。なにかいいことでもあったのかい?」
本日二回目である。
通例のやりとりは羽川とのそれで充分だ、
こんな廃墟でおっさんと何度も繰り返したって楽しい気分になんかならない。
「ま、狼信仰ってのは阿良々木くんにはぴんとこないかもしれないから説明しとくと、
ほら、神話の中にもさ、狼を象った神様ってのは多く現れるだろ?
北欧、ゲルマン神話に出てくる太陽と月を飲み込む狼、
スコールとハティは……阿良々木くんが知らないのも無理はないね。
ああ、いいんだよ、阿良々木くんのそういう鈍いところっていうか、
早い話不勉強なところには、僕はもう慣れることに決めたってのは前に言ったっけね」
「僕もお前の僕を馬鹿にしたがることには慣れることにしたよ。
いちいち腹を立てていたら話が進まないからな」
「へえ、言うようになったじゃないか。まあいいや、えーっと何の話だったかな。
ああ、神話の話だったね。
そうだな、いくら阿良々木くんだって、フェンリルって名前くらいは聞いたことあるんじゃない?」
「……ロキ神の子供の大狼、だっけ」
僕を小馬鹿にするようなワードを挟んでくるのは、慣れることにしたとはいえ相変わらずやっぱり気になる。
……頑張って我慢した。
「そ、口を開けば上顎が天にも届くってやつだね。
阿良々木くん、よく知ってるじゃないか」
皮肉っぽく笑うと、忍野はくわえていた煙草をくるくると指で回す。
「まあ、海外に限らず日本の狼信仰だって相当なものだよ。
だいたい狼なんて、名前からして出来すぎだと思わないかい?」
「名前? 狼って名前が、どうかしたのか?」
「鈍いなー、阿良々木くん」
ちっちっち、と指に挟んだ煙草を揺らす忍野。
思う存分に僕を馬鹿にできるのが楽しいのだろう。
「狼ってのはつまるところ、オオカミ……大神だよ。
大きな神と書いて、大神。
過去の文献なんかじゃ狼を『大神』と書してるものなんて、そりゃもう掃いて捨てるほどあるしね。
あとはあれだよ、もののけ姫でも狼は神様かなんかとして登場するだろ?」
「最後のはできれば言わないほうがよかったな」
ここぞというときに格好つけきれないやつである。
そもそももののけ姫のあれは山犬で、神様でもなんでもなかった気がする。
「……そういうわけでさ、狼の怪異ってのも当然、数多く存在するわけだ。
民間伝承の数だけ怪異ってのは存在の可能性を許されるからね」
怪異とは。
人間がそこにいると思うから存在し、信じなければ存在しない。
どこにでもいるし、どこにもいない存在。
二律背反。
矛盾、パラドックス。
怪しくて、異なる。
「狼の怪異として分かりやすいのは、そうだな。
ワーウルフとかライカンスロープ、フランスではルー・ガルーって言ったかな……
まあいわゆる、狼男とか人狼のことだね。
他にも挙げだしたらキリがないけれど――その中の、送り狼。
日本の狼の怪異としちゃあ、かなりメジャーだよ」
ようやく本題に入ったと身構える。
送り狼。
狼の怪異。
……岡崎朋也。
「送り狼の伝承は、阿良々木くん、ちょっとくらいは知ってるかい?」
「まあ、本当に少しなら。森を歩いてたら狼があとをついてきたってやつだろ?」
「はっはー、今日の阿良々木くんは冴えてるね。
その通り、送り狼ってのは東北地方から九州まであらゆる場所に残っている言い伝えでね、
おかげで地域によって細部に差はあるけれど、まあだいたい大筋で共通してるのはこんなんだね」
再び煙草をくわえ、くいっと唇を歪めると。
「夜に山道を歩いていると、後ろから狼がぴったりくっついてくる。
途中で転ぶと途端に襲いかかってきて食い千切られるから、
転びそうになったら休憩するふりをして『どっこいしょ』とか『しんどいわ』とか言うと大丈夫で、
そして目的地までついたら『お見送りありがとう』とちゃんとお礼を言うと、
狼は帰ってくれるって話だよ。
狼があとをつけてくる理由には諸説あって、まあ、餌としての人間が転ぶのを待ってるってのもあるけれど、
怪異としての送り狼の特性を考えるともう一つの、
他の野犬たちから守ってくれているっていうほうが大切かな。
そうじゃないと最後にお礼を言うってところと噛み合わないしね」
「ちょっと待て、忍野。
怪異としての送り狼の特性? 伝承と怪異とで違いがあるのか?」
「いいところに食い付くね、阿良々木くん。今日のきみは本当に冴えてるよ」
普段僕のことを馬鹿にしきっている人間からやけに誉められると、
むしろ気味が悪くていい気がしない。
不安だ。
明日辺り、こいつに殺されるんじゃないだろうか。
「送り狼は、今までの伝承そのまんまの怪異とは違って、怪異としての属性を持っている。
その通りだ。
怪異としての送り狼は、タイプとしては――レイニー・デヴィルに非常に近い」
レイニー・デヴィル
猿の手。
雨合羽の悪魔の怪異には、つい先月、言葉通りの意味で散々痛めつけられたところである。
いくら吸血鬼の力で回復するからといって、それはそれは痛い思いをしたのだ。
「………レイニー・デヴィルか」
冷や汗が頬を伝うのを感じる。
今回もあんな痛い思いをするのは、できることなら遠慮願いたかった。
「そう怯えるなよ、阿良々木くん。僕の言いたいのはそういう、痛い意味でじゃない。
送り狼はね、大義としてはレイニーデヴィルと同じ――つまり憑いた宿主の願いを叶える怪異だ」
「願いを、叶える……」
神原のとき、忍野が言った言葉を思い出す。
レイニー・デヴィルは三つだけ願いを叶える。
その魂と、引き替えに。
「いや、願いを叶えるっていう言い方はちょっとよくないかもな。
正確には、願いの成就まで導くんだ。
その間、送り狼は宿主に、その願いの成就のために必要な特別な力を授けるらしい。
今回の場合、上がらないはずの右肩が夜のうちは上がるようになるのとか、あとは例の幽霊パスってやつがそれに該当するんだろうね。
そして送り狼は宿主が願いを叶えるまで、ぴったりとあとをついてくるって寸法だ。
その、なんとかっていうバスケくんは、最近誰かにあとをつけられてるって言ったんだろ?
ならそれはもう、送り狼で決まりじゃないか」
「いや、だからちょっと待てよ、忍野。
岡崎は、あとをついてきてるのは、工業高校生だって言ってたんだぜ?」
「工業高校生かもしれない、だ。
それを言うならね、阿良々木くん。
きみがその話を聞いたのは、きみたちが工業高校生に追いかけられてから2日後だろう?
だとしたらバスケくんがなにかにあとをつけられたのは少なくとも2日前から。
常識的に考えて、それなのに、『最近』なんて言い方をするかな」
「……………」
言葉もない。
単語の一つも、繋げない。
「ともあれ、送り狼だ。
勿論、送り狼は、宿主の願いの成就の手助けを無償でしてくれるわけじゃない。
そんな生易しい怪異じゃない。
そんな怪異はあり得ない。
伝承のほうの送り狼で、転んだら食べられるってやつと同じさ。
願いの成就の途中で宿主が一つでも失敗するか、あるいは願いが無事に成就されたら――がぶり、だ。
宿主は代償に、なにかを大切なものを奪われる。
おそらく今回の場合は、右肩がそっくりそのままなくなるか、
あるいはぴくりとも動かなくなるってとこだろうね。
……ま、レイニー・デヴィルなんかに比べれば、むしろ親切すぎるくらいだ」
「待てよ、途中で一つでも失敗するか、願いが無事に成就されたらって、
それじゃ、送り狼に憑かれたら必ずなにかは奪われるしかないってことじゃないか」
「そうだね。だから伝承のほうを思い出しなよ、阿良々木くん。
送り狼は本質こそレイニー・デヴィルだけれど、祓い方はどちらかといえば重いし蟹に近いよ」
重いし蟹――戦場ヶ原のときと?
送り狼の伝承。
送り狼は、目的地までついたら
『お見送りありがとう』
とちゃんとお礼を言うと、狼は帰ってくれる。
「……お礼か」
「そう。送り狼の正しい祓い方は、願いをきっちり成就してからお礼を言うこと。簡単だろう?」
確かに、レイニー・デヴィルよりはよっぽど簡単だ。
奪われるものも決して魂なんかじゃないし、むしろあれだけ強力なやり方で願いの成就を後押ししてくれている。
「だからさ」
忍野は。
怪異の専門家は、本当に意地悪な笑みを浮かべて言った。
「だから、今回のことは、放っておけばいいんじゃない?」
「………は?」
僕の間抜けな声に。
壮絶な笑みを、忍野は隠さない。
「だってほら、今回の場合、例のバスケくんはなにも困っていないどころかむしろ楽しんでる。
しかもただバスケットボールが強くなったってだけで、誰かに危害を加えるわけじゃないしね。
放っておけば勝手に願いは成就されて、ま、右腕は残念だけど諦めてもらうってことで。
わざわざ阿良々木くんが手を出すまでもないよ」
なんでそんなことを言うのか、理解できなかった。
怪異関係のエキスパート。
専門家、オーソリティ。
そんな忍野が、怪異を見逃せと。
「どうして……」
「うん? それは、どうして僕が放っておけと言うかって意味かい?
そんなの決まっているじゃないか、僕はあっちとこっちの橋渡し役であって、何でも屋じゃない。
あくまでバランスを保つものであり――怪異に甘えている人間を進んで助けるほど、酔狂じゃないよ」
その笑みは、春休みに一度だけ、見たことがある。
キスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレードの心臓を僕に見せたときと同じ種類の笑顔。
「それにさ、ツンデレちゃんとときと違ってバスケくんに怪異を祓う気がない以上、
送り狼みたいなタイプの怪異を祓うのは難しいよ。
だって宿主の願いってのがなんなのかそもそも分からないから、
それを成就させる後押しもしようがない」
そこまで言いきったあとで。
そんなにきっぱりと岡崎を見捨てると言い放ったあとで。
「それでも」
忍野は。
「それでも阿良々木くんが協力してほしいって言うんなら、
バスケくんにじゃなくて――きみに手を貸すのは、僕としてはやぶさかじゃあないけれど」
そんなことを、言いやがるのだった。
……どうする。
確かに忍野の言うことは、一理も二理もある。
現状で送り狼を祓うのは確実に困難だし、岡崎が楽しんでいるのなら手の打ちようだってない。
だったら、見逃すのか。
なにかできるかもしれない可能性を、見なかったことにして。
……本当に? 岡崎は、本当に楽しんでいるのか。
……いや。
『この町は嫌いだ――忘れたい思い出が、染み付いた場所だから』
岡崎は確かに。
悲鳴を、上げていた。
「……忍野」
「ん?」
僕の言葉に、忍野は片目を閉じて応える。
「夜中にいきなり押し掛けて、
これだけ散々解説をしてもらっておいてなんなんだけど――今回は、忍野の助けはいらない」
「へえ、なんでまた」
「だってさ、お前に頼むとなると、お前が怪異の専門家である以上タダってわけにはいかないし、
祓ったあとに岡崎に料金を請求したら詐欺みたいだしさ、
だからといって僕が払う余裕もないし」
それに、なにより。
「岡崎の願いは、僕、分かるから」
僕なら、分かる。
「それは、阿良々木くんが自分で彼の怪異を祓うと、つまりそういとことかい?」
「いや、怪異を祓うとか、そんなレベルの話じゃなくてさ」
知り合ってからまだ数日だけれど、
岡崎と僕は何度か一緒にバスケをして、馬鹿をやって、言葉を交わした。
そんな岡崎が今、なにか大切なものを失いかけていて。
だけどそれでも誰かに頼ろうとしなくて。
僕は、岡崎の意思を無視してそれを勝手に助けようというのなら。
「それはもうただの――友達同士の喧嘩だろう」
そう、だから今回、これ以上忍野は頼らない。
正直に言えば、協力してくれると言っている忍野を跳ね除けてまで我を貫き通すような不撓不屈の精神なんて、僕は持っていない。
いない、けれど。
「それでもこれは――僕の喧嘩だから」
011
僕は岡崎との喧嘩の準備のために、
ひとまず帰って睡眠をとってから神原の家に出向いて助言を求め、
それを元にして会場をセッティングし終えた頃には、
岡崎と出会ってから6日目の夕方になっていた。
テスト休みで授業がなかったのは、行幸だ。
特定の授業では、出席日数が危なくなる可能性も出てくるから下手に学校をサボれないのである。
「阿良々木先輩、それは本気で言っているのか?」
神原の家の前で、助言を求めにきた僕に対して神原は、
呆れや哀れみやあるいは羨望のような、
とにかく多くのものが入り混じった不思議な表情でそんなことを言った。
「本気だよ。本気じゃなきゃ、迷惑を承知でこんな朝っぱらから神原を訪ねてこない」
「そうか……いや、それでこそ阿良々木先輩だ。
どんな困難にもあえて立ち向かうその姿の、なんと神々しいことか!
いかに日月星辰といえども、阿良々木先輩の偉大さには敵わないだろう!」
「いや……さすがに太陽と月と星に勝てるほど、僕は狂ってねえよ……」
なんだか神原なら、僕がダメ人間の手本みたいなことを言ったとしても賞賛しそうな気がした。
近いうちに、阿良々木暦イメージダウン計画とでも名付けて試してみようか。
「それで、なんとかならないか?」
「ふむ……いや、あるいは準備さえしっかりすれば、阿良々木先輩なら可能かもしれない」
「本当か? 火中の栗を拾いにいく覚悟くらいあるから、どんな無理難題でも言ってみてくれよ」
「そんな特別なことはしない。
しかしこれなら勝てる――いや、勝たせてみせる」
力強い台詞。
味方につけておいて、これ以上頼もしい人材は他にないだろう。
「そうと決まれば、確か必要なものは蔵にあったはずだから、持っていってくれ。
作戦は道中で説明しよう」
蔵とかあるのか、神原家。
すげえ……。
「あ、それとさ」
颯爽と歩き出した神原の背中に呼びかける。
「今回の話、戦場ヶ原には内緒にしといてくれないかな。
岡崎とのことは、怪異のことも含めて全部、僕個人のただの喧嘩だから」
「……戦場ヶ原先輩に隠し事をするのは心苦しいが」
神原は一度立ち止まって振り返ると、ほんの少し目を伏せて。
「しかし、阿良々木先輩の頼みというのならば仕方ない。了解した」
「悪いな。今度また、飯でも奢るよ」
「そんなことよりむしろお礼として、私を罵ってくれ!」
「嫌だよ……」
相変わらずだった。
「そういや、阿良々木くん。
今回は、忍ちゃんに血をあげてパワーアップしとかなくていいの?」
忍野が住処としている学習塾跡の廃ビルの一階、
その廊下で僕が神原からもらってきたいくつかの材料と工具を使って会場を作る作業をしているとき、
それを眺めていた忍野はからかうようにバスケットボールで遊びながら、言葉を落とした。
「いいんだよ。忍野の力を借りないって決めたってことは、忍の力も借りないってことだから。
あいつにはゴールデンウィークに随分お世話になっちまったし、あんまり頼りすぎもよくないからな」
「はあん。阿良々木くんは甘いね。本当に甘いよ。
名前をつけてやった僕が言うのも、そりゃあおかしな話だけれど、
阿良々木くんは忍ちゃんを忍ちゃんじゃなくて、自分の一部だと考えるべきじゃないかって思うよ。
ほら、忍ちゃんはきみの、外部バッテリーみたいなものさ」
忍。
忍野忍。
吸血鬼。
――の、搾り粕。
吸血鬼。
――の、虚しい残骸。
僕は。
僕は、一生――吸血鬼。
吸血鬼もどきの人間。
人間もどきの吸血鬼。
人間では――ない。
「……あいつは、忍野忍だよ。ただの吸血鬼の成れの果て。僕にはそれ以外の考え方はできない。
ところで忍野、昨日から忍の姿が見えないけれど、今、どこにいるんだ?」
「さあ? 昨日は夜寝るの早かったし、今頃この廃墟のどこかを探険でもしてるんじゃないのかな」
「………………」
吸血鬼が、夜早くに寝るのかよ。
最高に虚しかった。
「でもさ、阿良々木くん。
幽霊の噂を『知らない』で通していたバスケくんが、自分の正体を知られてしまった今、
もう一度きみに会おうと思うかな」
と、忍野は相変わらず口の端をつり上げた笑みでそんなことを言った。
確かに疑問には思うだろうけれど、僕には忍野がこんな時間に起きていることのほうがよっぽど疑問だ。
「それについては心配いらないよ、忍野」
だから僕は、最終的に切札となりうるそれを思い浮かべつつ答える。
……僕と岡崎の、か細くて切ない繋がりは、まだ切れていない。
そして、夕方の下校時。
僕は隣町の光坂高校、その長い――長い上り坂の上にいた。
前回同様、下校する生徒に不審の目を向けられつつ、岡崎を待つ。
「………ん?」
そんな中、グラウンドの辺りがなにやら騒がしくなった。
目を凝らしてみると、サッカー場の裏にあるプレハブ小屋の辺りで揉め事があったらしい。
サッカー部員と思しき数人が、殴り合いの喧嘩をしている。
「あいつ……」
することもないので、吸血鬼補正に思う存分頼って見ると、
前にここに来たときに僕に絡んできた金髪男が騒ぎの中心らしい。
体格のいい数人の男たちを殴り、殴り飛ばされていた。
僕が野次馬根性丸出しで見に行こうか悩んでいると。
「……阿良々木」
ざらざらして渇いた声。
ワイシャツ姿の、岡崎がいた。
「よう」
短く答える。
「あんなところを見られたんだから、もう会えないと思ってた」
相変わらずの仏頂面。
「おまえ、変なやつな」
そんな岡崎の評価も、聞き流す。
僕が知らなくてはいけないのは。
「岡崎。あの力は――夜にしか、使えないんだな?」
岡崎は、一瞬面食らったようにたじろいで。
「……ああ」
頷いた。
「だったら話は早いんだ。今晩、この場所に来てほしい」
僕は岡崎に、小さい紙切れを渡す。
そこにはあの学習塾跡地の住所が書いてあり、あの紙は忍野からもらったものだった。
あの紙を持っていると、
忍野が張った結界により普通には辿り着くことができないあの場所に近寄ることができるらしい。
あれだけ格好をつけたのに、なんだかんだでやっぱり忍野の世話になりっぱなしだ。
「今晩って……夜にか」
「そうだ」
「……あれを見られたあとに、行くと思うか?」
岡崎の言葉。その疑問は、もっともだけれど。
「お前は来るよ、岡崎」
だってこっちには、切札が、ある。
だってこの話は、あそこから始まっているのだから。なんのためにもならない、『もし』の話。
もし、仮に、僕があのときそれを回収しなければ終わるはずだった。
僕と岡崎は――たった1日限りの友達で、済むはずだった。
誰も、なにも失わないで、済むはずだった。
だけれどそんなのは本当に――本当に、誰も救わない、仮定の話だから。
僕たちを繋いでいた、たった一つの、か細くて、切ない糸。
「お前が工業高校生たちに持っていかれたと思っている岡崎のブレザーはさ、実は、僕が持ってるんだ」
だから岡崎は、来ざるをえない。
その一瞬、岡崎の顔に浮かんだその表情を、果たしてなんと形容すればいいだろうか。
ちょっとだけひねくれた笑み。
挑戦的な目元。
狼の瞳。
灼けた狼の――瞳。
「いいぜ、阿良々木。行ってやるよ」
だから僕は、その言葉を口にした。
宣戦布告。
敵対宣言。
生まれる亀裂。
喧嘩の始まり。
決定的な――一言。
「岡崎、もう一度僕とバスケをしよう」
012
ストリートバスケットボール、いわゆるストリートボールと呼ばれるスポーツを、
実のところ僕はよく知らない。
町中で行うバスケットボールのことである。
海外では割とメジャーな遊びである。
ストリートボール専用の大会がある。
フリースタイルと呼ばれる、型に囚われないプレーが見られる。
その程度の知識しかない僕は、だからこれを果たしてストリートボールと呼んでもいいものなのか甚だ疑問ではあるのだけれど、
しかし僕の準備したバスケットコートは、それでもはっきりと分かるくらいに確実に異例なものだった。
「……こんなところでやんのか」
夜、僕の呼びかけ通りに学習塾跡地の廃墟にやってきた岡崎は、
約束の品である光坂高校のブレザーを受け取りながらそう呟いた。
「ああ。ここが僕たちが試合をするコートだ」
そこは、学習塾跡地の廊下の一階だった。
薄く入る月明かりに照らされたそこには、僕が神原の家から持ってきたボロボロのバスケットゴールが一つ、
廊下の突き当たりの壁にかかっている。
ちょうど天井が突き抜けてしまっている場所を選んだので、高さ的にも問題ない。
「ルールは?」
「岡崎がいつも夜にやってたストリートボールと同じでいいよ。
ゴールはあの一つだけのハーフコート、
シュートか決まるがスティールされてディフェンスがそこのハーフラインまで下がったら攻守交代。
点数は通常2点で、ほら、ここの3ポイントラインからのシュートが入れば3点だ。
先に18点とったほうの勝ち。あ、ただし――壁は床とは見なさないことにしよう」
「あ、そ」
岡崎は頷くと、転がっていたバスケットボールの空気の入りを確かめるみたいにして何度かバウンドさせる。
それも神原からもらってきたもので、昼間、僕が作業しているときに散々忍野が遊んでいた。
「阿良々木、どっちが先にオフェンスだ?」
「ここは僕のホームグラウンドみたいなものだからな。譲ってやるよ、岡崎」
「……………」
睨みつける眼光が、鋭くなった。
「おまえ、かなり余裕綽々な。勝てると思ってんのか?」
「勝てると思ってなくちゃ、こんな勝負挑まない」
「……あ、そ」
岡崎は、呆れたようにため息をつくと。
腰を落とす。
「いくぞ」
「ああ」
ぼすぼすというバウンド音。
手慣れた動作。
経験者特有の、それ。
「ゲーム――…」
「…――スタート!」
低い位置でドリブルをしながら突っ込んでくる岡崎を、僕は腰を落として迎え撃つ。
正直にいえば、上手くいくかはかなり不安だった。
相手はあの岡崎だ。右肩が動かない状態で、三倍の差をつけられた。
普通に考えれば、勝てるわけがない。
だけど、神原の言葉を思い出す。神原は言ったのだ。
「勝てる」じゃなくて、「勝たせる」と。
それなら負ける理由なんか――ない。
「……あの廃墟にゴールをつけてコートにする理由は、その……全部で5つある」
なにか悪い冗談みたいに馬鹿でかい蔵を漁りながら、
神原駿河はなんだか無意味に申し訳なさそうにそう言った。
あの神原のことだ、年上の人になにかを教えるということに抵抗を感じているのだろう。
根っからの体育会系である。
「5つ?」
「そう、5つ。阿良々木先輩が岡崎朋也に勝つための、5つの方法だ」
つまり、作戦。
僕が岡崎を、バスケで破るための。
「でもさ、そんなの卑怯じゃないか?
向こうは指定された場所に来ただけなのに、こっちは罠を仕掛けてるみたいなやり方」
「なにを言うか、阿良々木先輩。
阿良々木先輩のその堂々としたスポーツマンシップは敬意に値するが、
今回の件に関していえば岡崎朋也だって元々かなりの実力があるのにプラスして、
送り狼とかいう怪異の力を借りているのだから、どっこいどっこいではないか。
むしろあんな能力、こちらがどんなに策を練っても足りないくらいのハンディだ」
どこか機嫌が悪そうに言葉を投げる神原。
……負けたのが悔しいのだろうか。
「というわけで、阿良々木先輩はなにも気に病むことはない。
それで1つ目の理由だが――…」
突進してくる岡崎は、突如その無駄のない動きを乱し、
慌てたようにスピードを落として再び僕と距離をとった。
僕が追いかけてこないのを確認すると、
器用にドリブルを続けながら左手で目を押さえて頭を振る。
……神原の言う通りだ。
この暗闇――岡崎はあまり、目が見えていない。
「岡崎朋也が送り狼から受け取った力はおさらく、
『動かない右肩の回復』と『誰もいない場所とのパス』の2つだ。
つまり他の部分は普通の人間と同じスペックと考えていい」
神原の台詞が頭をよぎる。
「しかしその点、阿良々木先輩は吸血鬼の力が少し残っている。
その違いを突かない手はないだろう」
「はあん。だけどさ、神原。
僕が吸血鬼の力で残っているのって、実はたいしたことないぜ?
一応神原のレイニー・デヴィルのときに忍に多めに血をやった名残で、
今は多少、身体能力も補正を受けてはいるけれど、普段は新陳代謝と、」
「暗闇でも目が見える」
「……………」
なるほど、と思った。
あの廃墟は、廃墟が廃墟たる理由の一つをきちんとまっとうしていて、
だから勿論電気なんて通っていない。
すなわち、中に入ってしまえば夜はほとんど真っ暗だ。
レイニー・デヴィルのときは、つまり僕が神原を初めてあの廃墟に連れて行ったときは、
あの超人スペックの身体能力を持つ神原さえもが、僕のベルトを掴んで歩いていたくらいには。
それくらいには、濃くて深い、粘りけのある闇に沈み込む。
「しかし本当に真っ暗では、そもそもゲームが成り立たないから意味がない。
だから月明かりに照らされてある程度光量のある廊下を選ぶのだ。
そうすれば、少なくとも目が慣れるまでは岡崎朋也の動きは著しく鈍るだろう」
暗闇でも通常通り目が見える阿良々木先輩でも、
ギリギリついていくことができるくらいには、と神原は付け足した。
「阿良々木……おまえ……」
「悪いな、岡崎。
僕みたいな素人が岡崎みたいに上手い奴に勝つには、
こういう卑怯なやり方で差を埋めるしかないんだ。
初めてバスケをしたときに言っただろ?
僕はちょっとばかり――普通じゃない身体なんだよ」
恐ろしいくらい上手くいった作戦に、僕は不適に笑ってみせた。
しかしこれだって、いつまでもつか分からない。
昔からバスケットボールに触れ馴染んでいた岡崎なら、
ちょっと見えるようになれば普段の力を取り戻すだろう。
一流のアスリートは、目をつむっていてもある程度のことはできるというし。
だからそのあとは、2つ目の作戦が、効果を持つ。
「どうした、岡崎。僕はまだ――ここから一歩も動いてないぜ?」
「2つ目の理由は……その、なんというか……」
「なんだよ」
言いにくそうに言葉を切った神原に視線を向ける。
神原は珍しく困ったように目を背けて。
「はっきり言って、
阿良々木先輩じゃあ本気の岡崎朋也のドリブルを止めることは、100%不可能だ」
そう言った。
「単純な走りでならば、ついていくことくらいできるだろうが……」
それは、既に何度か岡崎とバスケットボールをしている僕には分かりきったことだった。
走力では引けをとらなくても、フェイントをかけられたら一発。
右肩の上がらない状態でさえそれなのだ、神原と岡崎の試合のような壮絶なドリブルの応酬なんか目の前で見せられたら、
なにもできないだろう。
「そこで活きてくるのが、廊下というくくりなのだ、阿良々木先輩。
これは3つ目の理由にも共通するのだが、横幅の狭い廊下なら少なくとも岡崎朋也の動きは思うように展開しない。
それでも埋めがたい技術の差、細かいフェイントで抜かれることはあるだろうが……」
「圧倒的に突き放されることは、ない」
その条件は勿論僕にだって跳ね返ってくることなのだけれど、
元々、辿々しいドリブルしかできない僕は横への展開なんてできない。
本気の岡崎を抜くなんて、どうせまともなやり方では無理なのだから、
初めからその可能性を潰しても問題はないのだ。
あってもなくても変わらないハンディだった。
神原駿河のドリブルが、すばしっこくするりと抜けていく疾風だとすれば。
岡崎朋也のそれは、まさに旋風である。
速く、疾く、すべてを撒き散らすような大胆さと、そこに詰め込まれた技術。
そんな岡崎でも、吹き抜ける場所が少なければ当然、
そこを抜けようとするほか方法はない。
凄まじい速度で突っ込んでくる岡崎から、腰を落として突破口を消す。
下がる岡崎と、緊張を解く僕。
そんなやりとりが、何度続いたことだろう。
すでに岡崎の息は切れ始めていた。
「……阿良々木」
瞬間。
ぞくりと、背筋が凍った。
来る、と直感する。
狼の瞳で、岡崎は――笑った。
「いくぜ」
その言葉を聞いたときには岡崎は目の前にいて。
僕の左側を抜けようとする身体。
その反対側、本来なら誰もいないはずの場所に――岡崎は、パスを出した。
誰もいない場所に放たれ、
まともに1on1をやろうとかそういった意思すら垣間見ることさえ皆無な皆目検討もつかない方向へとすっ飛び、
空中で一瞬静止し――Vの時を描くように動き出すはずだったボールは、
しかし。
「だが、いくらそれだけ阿良々木先輩に有利な条件を揃えても、
あの不思議なパスは防ぎようがない。
空中で跳ねかえるどころか……スピードまで自在に操られたのでは、
一度や二度では止めることはできないだろう」
ようやく発掘したボロボロのバスケットのゴールを持ち上げつつ、神原はそう宣告する。
「まあ、確かにな。
1on1なのにパスの選択肢があるっていうのは、決定的すぎる」
「だがそれを破壊しうるのが、やはり廊下というくくりなんだ」
それが、3つ目の理由。
「……な」
空中で静止するはずだったボールは、
しかし岡崎の手元には向かわず、僕の手に収まっていた。
ぼすんと音を立てて――壁と衝突したせいで。
「ナイスパス、岡崎」
狭い廊下では、当然、ドリブルと同じくパスだって大胆に横には展開できない。
しようとすれば当然壁にあたるし、短いパスならさすがに僕にだってカットできる。
『無人パス』を封じること。
それが岡崎に勝つための、3つ目だ。
僕は自分でも笑いたくなるくらいへたくそなドリブルでハーフラインまで戻り攻守を逆転させると、
呆然としている岡崎をあっさりと抜き去る。
慌てた岡崎が僕を追いかけようとするが、
しかし何度かの対戦で僕のシュートセンスのなさを知っているためか、
真剣に追ってくることはなかった。
だから僕はボールを両手で掴むと、3歩で踏み切り、跳躍した。
3ポイントラインから――壁に向かって。
伸ばした足がコンクリートの壁を捉える。
ぐっと下半身に力を入れて、足の裏でほとんど抉るみたいな勢いでもう一歩、更に二歩目、そして両足で、壁を蹴り。
それは、僕のような身長の人間が真っ当にバスケットボールをやっていたら、
おそらく一生、目にすることのないであろう光景だった。
リングが――自らの目線より、下にある。
「――おおおッ!!!」
僕はそのまま、手に持ったボールを――リングに、叩き込んだ。
「4つ目は、阿良々木先輩のシュート力だ」
「シュート?」
「うむ。事前に聞いた話では……阿良々木先輩はあまり、シュートが得意ではないそうじゃないか」
「まあ、恥ずかしい話だけれど、その通りだよ。
きちんとバスケットボールをやったことのない人間には、
動きながらあんな高い場所にあるリングボールを投げ入れるなんて難しすぎる」
「そんな阿良々木先輩に朗報だ。
どんなに下手な人間でもほぼ100%決められるシュートが、バスケットボールには存在する」
「え、そんなのあるの?」
無敵じゃん。
「ある。ダンクシュートだ。
ダンクシュートなら、投げ入れるわけではなくて、
目の前のリングにボールを入れるだけだから誰だって入れられる」
ダンクシュート。
ボールから手を離さずにリングに入れるシュート。
神原駿河の得意技。
「いや、理論上はそうなんだろうけれど、でも不可能だろ。
僕は神原みたいなジャンプ力はないし」
あんなもの、尋常じゃない身長か、あるいは超人的なバネでもない限り、素人の更に日本人には普通、無理だ。
そして残念ながら僕は、そのどちらも持ち合わせていない。
しかし神原、自信に満ちた表情で笑った。
「阿良々木先輩ならできる。
いや、阿良々木先輩にしかできない方法があるんだ」
壁走り。
ゴールの付近に壁があるこの特設コート、
更にレイニー・デヴィルの一件の名残で、身体能力に対する吸血鬼補正の著しい今の僕にしか、できないダンクシュート。
最初の宣言した通り、壁を床と見なさないルールがある以上、
壁を何歩走っても勿論反則にはならない。
反発は、ありそうだったけれど。
「これで3点だ、岡崎」
着地した僕は、岡崎にボールを渡す。
床の段階で3ポイントラインから飛んでいれば、
壁は床と見なさないのだからこれは3点シュートだ。
「次はお前のオフェンスだ」
岡崎の目付きが、本当の本当に本気になるのを、感じた。
ハーフラインまで下がった岡崎の身体が、力を溜め込むようにぐいっ沈んだ。
慌てて身構える僕との距離を一息で詰めた岡崎は、
さすがとしか言えないボール捌きとフェイントで僕を撹乱しつつ抜き去るタイミングを測る。
「ちっ……」
その合間に、舌打ちが聞こえた。
抜けないのだ。あの岡崎が、僕を。
いかに岡崎の技術でも、壁に囲まれたこのコートでは。
手応えを感じる。
随分卑怯な真似をしているが、それでも、いや、そうして初めて――岡崎と、やり合えている。
と思ったのも束の間、岡崎はボールを自らの後方に無造作に放ると、
それにつられて前に踏み出した僕の横を走り去る。
「しまっ……」
バスケットボールは。
僕の前方で動きを止め、高い弧を描くループパスとなって僕の頭上を通り越し。
「よしっ」
岡崎の手に収まっていた。
「くそっ!」
横だけじゃなくて、縦もアリなのかよ、あの無人パス!チートすぎる!
慌てて追いかけるものの、既にゴール前に走り込んでいた岡崎には追い付けない。
そのまま岡崎はゴール右側から飛び上がり、
送り狼の力により回復した右腕でレイアップシュートを――…
「最後の理由は」
神原は。
「これははっきり言って、私の推論になってしまうのだが……」
言うべきか躊躇するような仕草を見せてから、
居心地が悪そうな表情で囁いた。
「送り狼について、忍野さんが隠しているかもしれないことについてなんだ」
「忍野が……隠してる?」
「うむ。だがこれは本当に100%完全完璧に一切全て私の推論で、
忍野さんの語ったことがすべてである可能性のほうがよっぽど高い。
なんせ私は専門家でもなんでもない、ただの一般人だ。信用するなら忍野さんのほうだろう。
だからこれは、話半分に聞いてくれると、私としては非常に助かるのだが……」
「ああ、いいよ。
元々、無理言って助言を求めてるのはこっちなんだし、好きに言っちゃってくれ」
「……うむ」
それでも神原はしばらく言い淀んだあと。
「私が考えるに、送り狼が授ける特殊な能力を使うには、一つ、条件があるのだ。
『ストバスの幽霊』が夜中にしか現れなかった理由、なのだと思う」
「条件……?」
「そう。おそらく、送り狼はという怪異は――…」
「嘘、だろ……」
岡崎は――シュートを放たずに、いや、放つことができずに、
まるで途中でやる気をなくしてしまったかのような力の抜け方で、ボールを取り落としていた。
てん、てん、と虚しく転がるボール。
呆然と、岡崎は膝をついて。
苦痛に満ちた屈辱的な表情で、右肩を、抑えた。
この場所をコートに選んだ、最後の理由。
ゴールの周りだけは影になって――月明かりが射し込まない。
神原の予想とはつまり、送り狼に与えられた能力を使うには、
『月の下でなくてはならない』
という条件がある、というものだった。
そもそも狼と月を結びつける考え方は、そんなに珍しいものでもない。
満月を見ると狼に変身する狼男なんて、知らない人などいない有名な話で。
忍野がそれとなく言っていた、北欧、ゲルマン神話のスコールとハティも。
太陽と『月』を飲み込む狼の話だ。
それが、岡崎が昼間は相変わらず右肩が上がらない理由。
『ストバスの幽霊』が、夜にしか現れない理由。
僕は転がったルーズボールを拾い上げると、
一度ハーフラインまで後退して攻守交代、
そのまま本日二度目の3ポイントダンクシュートを決め、岡崎の隣に着地する。
「……岡崎」
「阿良々木……」
光を失った目で、僕を見上げる岡崎に。
ボールを、差し出した。
「俺、は……もう……」
項垂れる岡崎。
きっと、再び右肩が上がらなくなったことに打ちのめされたのだろう。
だけど、まだだ。
そんなことは、許さないとばかりに、僕は。
「これで6点だ、岡崎」
非情な言葉を投げた。
まだ、試合は終わらない。
僕が最後のゴールを決めたとき、岡崎はぼんやりとハーフラインの辺りで立ちすくんでいて、
ほとんど守備もなにもあったものじゃなかった。
ワンマンゲーム。
圧倒的な、スコア。
いつかの僕らとの、立場の逆転。
「僕の勝ちだな、岡崎」
「…………ああ」
そう、岡崎が呟いたとき。
岡崎の後方、闇夜の中に――光る二つの目を見た。
送り狼。
狼の怪異。
願いを叶えるまで、送ってくれる。
願いの成就の途中で宿主が一つでも失敗するか、
あるいは願いが無事に成就されたら、
宿主は代償に、なにかを大切なものを奪われる。
岡崎の腕を喰い千切るために実体化した送り狼を見ながら、
僕は、忍野の言葉を思い出していた。
「ところで阿良々木くん、
例のバスケくんとバスケットボールの勝負をするのは分かったけれどさ、
一体全体、それでどうやって怪異を祓うつもりなんだい?」
「どうやってって?」
「いや、だって、バスケくんにとっての願いがなんなのかは僕はまったく知らないけれど、
万が一……いや、億が一、あるいは兆が一、
阿良々木くんがバスケットボールの試合で勝ったとしたらさ――それはバスケくんにとっては、願いの途中での失敗ってことだろう」
忍野は、器用にバスケットボールを指先で回しながら長々と語る。
「だってバスケくんの能力ってさ、少なくとも確実に、
バスケットボールで勝つために得たものじゃないか。
それじゃあ送り狼は、阿良々木くんが勝った途端に、
バスケくんに襲いかかって腕を奪っていっちゃうよ」
まさかとは思うけれど、と忍野は小馬鹿にするように付け加えて。
「阿良々木くん、そうやって送り狼を実体化させてから退治しようだなんて、
そんなことふざけたは思っていないよね?
送り狼は、重し蟹みたいな、少なくとも戦闘向けではない怪異とは違うんだ。
完全に『狩り』向けの怪異だよ。
ツンデレちゃんのときに僕がやろうとしたみたいな方法は、やめておいたほうがいい。
今の阿良々木くん程度の吸血鬼性じゃあ、送り狼なんて絶対に祓えないよ」
「……そんなことは思ってないよ、忍野。
大丈夫、それについては、僕に考えがあるから」
勝負の方法にバスケットボールを選ばざるを得なかったのは、むしろ好都合である。
僕の狙いは、試合ではなく、勝った後にあるのだから。
それに、おそらく。
すべて、逆なのだ。
岡崎が送り狼に願ったのは――その逆で。
「岡崎」
だから僕は、岡崎の前に立って、言った。
「バスケットボールの試合でさ。
最後にみんなでセンターラインに集まって挨拶するのに、僕、憧れてたんだ」
「………はぁ?」
岡崎の背後の狼が、走り出す。
岡崎の右腕を、喰い千切るために。
僕は、焦らず、頭を下げた。
勝負の内容がバスケットボールなら、この流れに無理はない。
岡崎に怪異のことを知らせず、解決する方法。
「……………」
岡崎はしばらく鼻白んだ様子だったが、同じように頭を下げて。
「「ありがとうございました」」
同時に、言った。
送り狼。
その正しい祓い方は、願いをきっちり成就してからお礼を言うこと。
岡崎の背後で、狼が――満足したように立ち去ったのが。
僕には、分かった。
013
後日談というか、今回のオチ。
翌日、いつものように二人の妹、火憐と月火に叩き起こされた僕は、
まず最初に神原の家に向かい、一連の事件の片がついたことを報告すると、
次に忍野に会うために件の学習塾跡に足を運んだ。
ちょうど定期的に忍に血をやらなくてはいけない時期だったので、
首筋に金髪の少女を噛みつかせていると、忍野が珍しく感心したように言った。
「しかし阿良々木くん、よくバスケくんの願いに気付いたね。
今回の件で僕は、もう本当、きみの評価を改めなくちゃいけないと思ったよ。
勿論思っただけだけれど」
「思っただけなら言うな」
とりあえずツッコミをいれて。
「まあ、なんとなくだよ。
岡崎と何度か話して受けていた印象と、その言葉から、推測しただけで」
岡崎朋也の願いは。
きっと、バスケットボールで勝ち続けることではなく――負けることだったのだ。
正確には、部活でバスケットボールをすることを諦めるというのが、岡崎の願いだったのだろう。
自分がバスケットボールをしているのは諦めるためだと、
そもそも岡崎はきちんと口にしていたし。
それにもし岡崎の願いが、バスケットボール部に復帰することだったのだとしたら。
月の下でしか右肩が治らない、送り狼なんていう不便な怪異を呼び寄せたことに、説明がつかない。
「しかし、だからって右肩を治して更に無人パスを習得するなんてね。
僕にはバスケくんの考えが、よく分からないよ」
「……それは」
それは、たぶん、全盛期の状態の自分で負けたかったのだ。
だから右肩を治し――そしてバスケットボール、
それも部活でやるとなれば尚更、個人技ではなくチームプレーが軸となるから、
だから無人パスを身につけた。
そこまで万全な状態の自分が負けてしまえば――そんな自分より強い人間がいると知ってしまえば、
諦めることができると思ったから。
勿論これは、僕の勝手な推測でしかいけれど。
ともあれ昨日の一件で、送り狼は綺麗さっぱり後を濁すこともなく、消え去ったのだ。
「ああ、そうそう、阿良々木くん。
きみって実は僕への借金、まだ完済しきってないよね」
「そうだけど……なんだよ、忍野。
もしかして今回の件で料金を上乗せでもするんじゃないだろうな」
「違うよ。そういきりたつなって、もう、阿良々木くんは元気がいいなぁ。
なにかいいことでもあったのかい?」
相変わらず気味の悪くなるような底意地の悪い笑顔を浮かべると、
忍野は懐から一枚のお札を取り出した。
「『仕事』だよ、阿良々木くん。
きみの借金の分から引いておくから、ちょっと頼まれてくれるかい」
「……いいけど」
忍を肩にくっつけたまま忍野の前まで歩き、その札を受け取る。
「ほら、向こうにある山分かるかい?
あの中に、今はもう使われていない小さな神社があるんだ。
その本殿に、こいつを貼ってきてくれ」
「そんなんでいいのか?」
「ああ。言っとくけど阿良々木くん、
これはこの町の運命を左右するようなそれはそれは重大なお仕事だから、
適当にやろうなんて思っちゃダメだよ?」
「んなこと思ってねえよ」
なんだか忍野が与えてくるにしては簡単な仕事だなあとは思ったけれど。
「それと、ほら、例のレイニー・デヴィルのときの……」
「神原?」
「そうそう。その子も連れていくのを忘れずにね。
あのときはなんだか有耶無耶になっちゃったけれど、僕は専門家だからね。
彼女も僕に借金がある」
「その返済分ってことか」
「そゆこと。じゃ、まあ明日にでもよろしく頼むよ」
そう気軽に言って、忍野は僕の右ポケット辺りを叩いたのだった。
そんなこんなで僕が学習塾跡を出た頃にはもうすっかり太陽は登りきっていて、
通常土曜日でも授業がある僕ら私立直江津高校の生徒にとって貴重な、
テスト休みの土曜日を、もう半分近く消費したあとだった。
「どうすっかなぁ」
なんて呟きながら歩いていると。
「よう、阿良々木」
そこで、岡崎が待っていた。
岡崎。
岡崎朋也。
私立光坂高校一年生。
目付きと口が悪い。
抜群の運動神経。
遅刻とサボりの常習犯。
そして――狼に送られた少年。
「……岡崎。こんなところで、どうしたんだ?」
「ここにいれば、おまえに会えると思って」
そんなことを言った岡崎は、僕を睨みつけた。
鈍く光る、切れ長の、ナイフのような。
ぎらぎらと紅く輝く。
灼けた狼の、瞳。
「岡崎?」
「……おまえさえいなければ、俺はバスケを続けられたんだ」
ぐっと、右手を握る。
「おまえに負けたあとにさ、何度も試した。
だけど、もう、右肩が上がらない。
バスケができねえんだよ!」
その声は、堪えきれない苦痛に満ちてるように、僕には思えた。
心痛な、悲鳴にも似た。
「岡崎、お前はバスケを諦めたいんじゃなかったのかよ」
「そうだ。初めはそうだった。
だけど、だけどな……夜になると右肩が動くようになって。
なんだかよく分からないけどすごいパスができるようになって。
ストリートで好きなだけバスケをやってるのが、楽しかったんだよっ!」
裂けるような、叫びだった。
砕けるような、嘆きだった。
それは明確な――悪意だった。
「それをおまえが奪ったんだ、阿良々木ッ!!!」
「―――――ッ!!」
瞬間、激しい衝撃と共に首が左に思いっきり振れて、体が泳ぐ。
それから少し遅れて、痺れるような痛みが右の頬に広がった。
岡崎に顔を殴られたと気付くまでに、しばらくかかった。
「おまえさえ現れなければ、俺はずっとバスケをやっていられたんだっ!
あの場所で! 一人でだって! それで満足だったのにっ!」
もう一度、顔を殴られる。
それが利き腕じゃなくて左の拳で、
だから倒れるような衝撃ではないのが……すべてを、物語っている気がした。
少なくとも岡崎朋也にとって、送り狼は。
怪異は、悪ではなかったのだ。
「岡崎ィ……」
僕は、春休みや、あるいは神原のレイニー・デヴィルの一件で、
痛みならいくらでも経験した。
死ぬほど痛かったこともあるし、実際そのいくつかでは、
数えきれないくらい死んだ。
吸血鬼の再生能力で瞬時に回復しただけであって、
死ぬほどの痛みどころか死ぬ痛みを延々と繰り返しもしたのに。
それなのに。
なぜか、岡崎に殴られた右頬のほうが、そのどれよりも強烈に痛んだ。
右腕が肩より上に上がらないせいで、
利き腕でない左腕で殴られたっていうのに。
どんな死ぬ思いよりも――痛い。
それは、きっと。
僕の右頬の痛みは、産まれて初めて、本当の憎悪を向けられた――友達からの、暴力だったからだ。
憎悪のレベルでいったら、春休みに対峙した4人のほうが、岡崎の何百倍も上なのに。
それでも、岡崎から殴られたことのほうが、僕には痛いのだ。
痛くて、イタいのだ。
だから。
三発目の岡崎の拳を、僕は手首を掴み、ねじり上げた。
「なっ……!」
残念ながら僕の上の妹は空手二段の腕前で、
そもそもの性格が攻撃的なため――昔から何度も取っ組み合いの喧嘩をしてきた。
僕は、少なくとも生身の人間との喧嘩なら、慣れているのだ。
いくら岡崎が身体の大きい男だからといって、
その左の拳を受け止めることくらい、僕には造作もない。
左腕を、振り上げる。
「がっ――、ぎっ!?」
僕は、岡崎の憎悪に染まったその顔を、思いきり殴っていた。
最後まで振りきった、心からのパンチだ。
岡崎の身体がよろける。
「ふざけんなッ!!!」
自分でも驚くくらい、大きな声が出た。
とにかく、頭の中が熱かった。
脳みその代わりにマグマでも突っ込まれてるみたいな気がして、溢れる激情を止められない。
「甘えてんなよ、岡崎」
言葉を繋ぐ。
僕は――許せなかったのだ。
忍野の反対も無視して、岡崎と対峙した理由に、今更ながら気付く。
単純に、許せなかった。
だって。
だって、僕が知る怪異に関わった人間は、すべて。
猫に魅せられた羽川翼も。
蟹に行き遭った戦場ヶ原ひたぎも。
蝸牛に迷った八九寺真宵も。
猿に願った神原駿河も。
そして当然、僕だって。
みんな、少なくとも、悩んでいたのだ。苦しんでいたのだ。
決してそれに甘んじなかったし、それを解決した後にも、誰かの責任になんかせず、受け止めていた。
忍野は言った。
今回のケースは、レイニー・デヴィルと近いと。
でも、違う。
岡崎は神原とは、決定的に――違う。
「そんな甘ったれた考えで、どうにかしようなんてのがそもそもの間違いなんだよっ!」
もう一度、今度は右を振り抜く。
「ぐっ―――、ぁ、阿良々木ぃッ!!」
殴り返された。
弾けるような痛み。染み込んでいく痛覚。
「ぎっ――――、岡崎ぃッ!!」
仕返しにもう一度殴った。
一発殴る度に。
一発殴られる度に。
何かを、なくしていく感覚があった。積み上げた時間を喪失していく錯覚。
それはたぶん、岡崎朋也との――…
「随分と派手にやりあってたね、阿良々木くん」
硬いコンクリートの上で大の字になり空を眺めていると、
なにがそんなに楽しいのか、露骨ににやついた忍野の顔が視界に割り込んできた。
散々殴りあって、互いにボロボロになって、そして岡崎が立ち去ったあと。
僕は一人、吸血鬼の回復能力ですっかり傷は治ってしまったけれど、
じくじくと蝕むような、なぜか拭い去れない痛みに身を任せて、
寝転がっているところだった。
「……見てたのかよ」
「まあね。阿良々木くんのピンチだと思って、ついつい彼の通う光坂高校に通報までしちゃったよ。
おたくの生徒が貧弱でひ弱な中学生を殴って遊んでますよって。
……ちょっとばかり遅かったみたいだけれど」
忍野は懐から取り出した携帯電話を揺らしながら見せびらかす。
「誰が中学生だ! しかもそれ、僕の携帯電話じゃねえか!」
いつの間に盗ったんだよ。
お札を受け取って、最後に僕のポケットを叩いたときか。
吸血鬼の心臓を抜き去ることができるくらいだから、
僕みたいなぼうっとした高校生から携帯電話をくすねるくらい朝飯前なのだろうけれど、
相変わらず手癖が悪い。
「忍野、お前まさかこういうことになるって分かってたんじゃないか?
だから僕の携帯電話を……」
「はっはー、そいつはちょっとばかし、僕のことを過大評価しすぎだよ。
僕はただ、携帯電話をなくした阿良々木くんが慌てる姿を観察したかっただけさ」
「……そうかよ」
でも、と思う。
でも、忍野は機械に滅法弱い。
そんな忍野が、僕のピンチに光坂高校の電話番号を調べ上げて通報するなんてこと、
とっさにできるとは思えなかった。
忍野なりの、怪異に甘えていた岡崎朋也への。
小さな仕返しなんじゃないかと邪推してみる。
まあ、いいか。
忍野のことだ、いつもの気まぐれの可能性のほうが、よっぽど高い。
こいつのすることを、深く考えるほうが損だ。
「ともあれ、こいつはきみに返すよ。僕には必要ないものだしね」
寝転がったまま、携帯電話を忍野から受け取る。
発信履歴をチェックすると、本当にどこか僕の知らない番号にかけた記録があった。
「……なあ、忍野」
「なんだい、阿良々木くん」
気付いたら僕は、忍野に弱音を吐いていた。
知り合ってから、一週間だったけれど。
一緒にバスケットボールをして。
馬鹿をやって。
冗談を言い合って。
笑い合って。
「僕と岡崎は――友達だったのかな」
このときばかりは、忍野も、いつものようなどこか嘘くさくて薄っぺらい笑顔ではなく、
本当に心から呆れた顔をして。
「そんなことを僕に訊いて、どうしようっていうんだい」
「……そうだな」
まったくもってその通りだった。
そんなのは、忍野に訊いてどうなることでもない。
なら言うべきことは、そんな台詞ではあろうはずがなかった。
「忍野。僕と岡崎はさ――確かに、友達だったんだ」
そう、はっきりと言葉にする。
岡崎はこの先、一生ものになりうる友達と、出会ったりするのだろう。
一緒に馬鹿をやって、冗談を言い合って、笑い合って。
あるいはこの一週間、僕とやっていたように、
動かない右肩でバスケットボールをすることもあるかもしれない。
ただ、その誰かが――決して、僕ではないというだけ。
その相手に、僕は絶対に成り得ないというだけ。
ただそれだけのこと。
たったそれだけのこと。
だから、この話はこれで終わり。
だってこの話は、あの地獄の春休み――キスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレードの一件と同じで。
これは、岡崎朋也が――バスケットボールに対する情熱をただ失って。
そして阿良々木暦が――高校生になってから初めての心を許せる男友達をなすすべもなく失っただけの。
そんな、およそ本筋に関係のない。
やっぱり誰一人として幸せにならない。
そんな――失物話。
おしまい
キャラは活かせてないし、送り狼のくだりはいい加減だし、
初めてのSSで緊張したり、不安になったり、二度も寝落ちたりしましたが、
みなさんの支援と保守のおかげでなんとか完走することができました
ありがとうございます
ちなみに話をするがモンキーとなでこスネークの間にしたのは、
単純に撫子が使いにくいのと、
化物語後半になったら夏服になってしまうので岡崎と春原が出会うシーンのCGとの辻褄が合わなくなってしまうからと、
そうなるとスケジュール的に化の本編で一週間なにも描写されていないのはするがモンキー後だったのと、
あと>>1は化物語で忍野が一番好きだからです
忍野使いたかった
最後に
蛯沢真冬ちゃんは俺の嫁!!!!
読み応えあった
次回作に期待してるわ
和解の無い喪失感がまたいい!
014
誰か目撃者がいて、通報したらしい。
阿良々木との殴り合いのあと、帰りたくもない家に帰ると学校から呼び出しの電話がかかってきた。
仕方がないので取り返したばかりの制服に着替えて、
日曜日なのにわざわざ学校に行き、生活指導の教師に散々説教を聞き流して廊下に出ると、
幸村という、じいさん教師が俺を待っていた。
担任だから、俺を引き取りにきたのだろう。
もう何度も、こういうことはあった。
「ほっほ、これはまた酷い顔じゃの、岡崎」
「うっせぇ……」
喋ると殴られた傷が痛む。
「まあ、ついてきなさい。生徒指導室でお茶でも飲みながら話を聞こう」
歩き出した幸村の丸い背中を、黙って追いかける。
生徒指導室で説教の続きなんて、慣れっこだった。
……俺は、問題児だったから。
「なあ、じいさん」
幸村の背中に呼びかける。
「なんじゃ」
「俺……」
ほんの一瞬だけ、悩んで。
「俺、学校を辞めようと思う」
それは、前から考えていたことだった。
周りはガリ勉ばっかりで、とんでもない学校に入ってしまったと思ったものだ。
もともとバスケをやるために入った学校。
そのバスケができないのに、こんな場所に残っている意味なんて……ない。
阿良々木との一件はなんだかすべて夢の中のようなことだったような気がするが、
あれはあれでいいきっかけになったと思う。
あれのおかげで、俺はもうバスケはできないのだときちんと理解した。
バスケはできない。
それならこんな俺に……なにが残るだろう。
「……そうか」
幸村は、細すぎて開いているんだか分からない目をこちらに向けて、
それだけ言うとまた歩き出した。それに続く。
この先の生徒指導室で、退学の手続きの話をすることになるだろう。
そんな時。
俺は、ちょうどいいタイミングで職員室から出てきた一人の生徒とすれ違った。
……金髪のヘンな奴だった。
その顔は、俺と同じように最近喧嘩をしたばかりなのかもっとヘンで、
人相なんかほとんど変わっているように思った。
……それを見ただけで、大笑いした。
涙を流すくらいに笑った。
そんなこと……この学校に来て、初めてだった。
ああ、まだまだ笑えたんだって思った。
この学校に、俺と同じようなやつがいたんだと思った。
それが、無性に嬉しかった。
金髪のそいつは、俺のことを不思議そう眺めて……
やがて、我慢していたものが決壊したように、笑った。
気持ち良さそうに笑っていた。
小さな楽しみを……見つけた。
こいつと一緒に、馬鹿をやってみようと思った。
最後にもう一度、やってみようと思った。
学校を辞めるのは、そのあとでもいい。
「おい、おまえ。名前は」
「僕?」
ちょっと鼻にかかった、生意気そうな声。
「おまえ以外に誰がいるんだよ……」
「僕は春原陽平。おまえは?」
「岡崎。岡崎朋也だ」
「岡崎って、あの宇宙人の!?」
「……はぁ?」
「な、なんだ、人違いか……よかった……」
いきなり宇宙人がどうとか、気味の悪いやつだ。
「なあ、春原、生徒指導室で茶飲もうぜ。
いいよな、じいさん?」
「……儂は構わんがの」
「だってよ。行くだろ?」
「カツ丼出る!?」
「出ねえよ……」
生徒指導室だっつんてんだろ……。
「僕、腹減ってんだよねー。
まあ、別にいいけどさ、どうせ暇だし」
「じゃあ全裸で『ウヒャヒャヒャ』って笑いながら校舎走ってこいよ。そしたら飲ませてやる」
「なんで会って早々そんなこと言われなくちゃなんないんすかねえ!?」
「おら、さっさとやれよ」
「やんねえよ!」
「頼むからっ!」
「頼まれてもやんねえよっ!」
面白いやつだった。
一緒に馬鹿をやるには、うってつけだ。
春原と二人、笑って。
窓の外を眺めながら、かつて情熱を燃やしたバスケへの気持ちと、阿良々木暦という友人。
その、俺が失った2つへ、ほんの一瞬想いを馳せた。
……この町は嫌いだ。
忘れたい思い出が、また一つ増えた場所だから。
だけど……俺はまだ、ここにいる。
もう少しだけ、いてみようと、思う。
この町の、願いが叶う場所は……辿り着けなかったが。
俺は登り始めたばかりだから。
長い――長い坂道を。
ありがとうございました
投下ペース速すぎだろw
Entry ⇒ 2012.01.16 | Category ⇒ 化物語SS | Comments (0) | Trackbacks (0)
播磨「沢近に離婚突きつけられたったwwwww」
_播磨拳児、放浪生活開始
播磨「それにしても何でお嬢はいきなり・・・」
播磨「てめーの住みかぐらいてめーで何とかするさ」
播磨「とりあえず…」
播磨「…シュ、いりませんか」ボソボソ
播磨「ティ…、い…ません…」ボソボソ
播磨「ティッシュ、いりませんか…」ボソボソ
_播磨、恒例のティッシュ配り。
通行人B「…チッ」
通行人C「どけ!」ドカ
播磨「……」
播磨「…昔もこんな事あったよな…」
播磨「あん時は周防が……」
播磨「今回も周防の家に…」
播磨「…!」
ポスター「矢神市長!花井春樹!」
沢近「え?美琴?結婚したのよ?」
沢近「相手は…」
沢近「花井君」
~~~
播磨「…」
花井「播磨~~!!」
花井「おい!播磨!」
花井「しっかりせんか播磨!お前と言う奴は…!」クドクド
花井「播磨…お前も良い歳だろうが…」
花井「いい加減仕事を見つけて来い!」
~~~
播磨「」ブンブン
播磨「他に頼れそうな人は…」
~イメージ~
絃子「誰だっけ?」
今鳥「え~?男なんて泊めるわけねぇじゃん」
播磨「……」
_播磨、バイトもそっちのけで思索中
播磨「…」
播磨「…ということで、結局ここに来てしまったとさ」
播磨「…」
播磨「そう言えば、俺知り合い少ないかも…」
_播磨拳児、元一匹狼
播磨「高校以来、訪ねた事無かったんだよな」
播磨「…まっ、一時期俺は住んでたわけだし」
播磨「俺の第二の家みたいなもんだろ」
ピンポーン
?「ちょっと、今お風呂あがりだから出て~♡」
?「わかったー」
播磨「?」
ガチャ
播磨「…」
?「……播磨…か…?」
播磨「お…前は…今鳥」
播磨「…」
ガシッ
播磨「てめー今鳥!何してんだアァ~ン」
?「わわわわ、違う違う…俺だよ、覚えてないか?」
?「谷だよ…お前の元担任だ
播磨「誰だてめーはどう見ても今鳥だろうが」
_谷速人、今鳥との違いは眼鏡のみ
播磨「…谷…か?」
谷「呼び捨てかよ…別に良いけどさ」
播磨「何でてめーがここに?」
谷「あのな…播磨…落ち着いて聞いてくれよ」
谷「俺な…妙さんと…付き合ってるんだ!」
播磨(へ~、妙さんも良い年齢だしな」
谷「…」
谷(すまんが播磨…お前の気持ちに応える事はできん!)
_播磨、谷にラブレターを渡したことアリ。誤解はとけてない模様。
播磨(チッ、別のトコ探さねーとな)
谷「そうなんだよ…ハハ」
谷(すんなりと諦めてくれると良いんだけど…)
播磨「……」
播磨「…あのよ、今あいてるか?」
谷「・・・は?」
播磨「…いやよ、ちょっとばかしお前のトコに泊めてくんねーかな…って」
播磨(一応、訊いとくか)
谷「……」
谷(…)
播磨「まあ、そうだな」
谷「…」
谷「…悪いけど、お前の期待には応じられないぞ、播磨」
播磨「…チッ、やっぱりか」
播磨「でも別に少しばかりスペースを貸してくれれば良いんだぜ」
播磨「別に俺に構わなくても…」
谷「…」
播磨「そうか」
播磨「……」
ペコリ
播磨「すまん!やっぱり泊まらせてくれ」
播磨「ここに泊まれなきゃ、もう行くトコがねぇ」
播磨「後生だぜ」
谷「…」
谷「といっても、リビングは物が溢れてるから…」
谷「…妙さんの部屋か…」
谷「……俺の部屋しか空いてないぞ…」ソロー
播磨「そこで構わねぇ!」バシッ
谷「…!!」
谷「…といってもだな、落ち着け播磨」
谷「というか沢近はどうした?」
谷「お前ら結婚したんだろ」
播磨「谷さん、お嬢の事は言わないでくれ…」
播磨「もう、お嬢なんてどうだって良いんだ…!」
谷「…!!!」
谷「…」
谷「…と言ってもだな」
谷「…妙さんは、これから少し外出をしなくちゃ…」
播磨「俺は全く構わねぇぜ!」
谷「…!!!!」
_谷速人、人生最大の良心と貞操の葛藤
谷「…」スルー
播磨「…?」
ガチャ
バターン!
_谷、貞操の勝ち(圧勝)。
播磨「おい!」ガチャガチャ
播磨「おい!開けろ」ガチャガチャガチャ
扉
谷「…」ガクブル
妙「ね~速人♡」
妙「誰か来てたの?」
谷「…」ブンブン
播磨「…さて」
播磨「…もう行くトコがない…」
播磨「…といいつつ」
播磨「やはりあそこしか…」
ピンポーン
?「はーい」
ガラガラ
?「あっ…播磨さん…」
播磨「…よ、よぉ、久しぶり…」
播磨「…妹さん」
八雲「…はい……」
播磨「つーわけでよ」
八雲「…帰る家が無くなったと」
八雲「…」
播磨「…頼む!妹さん」
播磨「一晩、一晩だけ」
播磨「…俺を泊めちゃくれねぇか」
播磨「後生だぜ」
_播磨拳児、後生の意味はよく知らない。
播磨「本当か!?妹さん!恩に着るぜ…!」
八雲「…一晩だけですから…播磨さん、漫画を描いたりは…」
播磨「いや、今日はそういうんじゃねぇんだ」
播磨「そう言えば、漫画も久しく描いてねぇな」
八雲「…そうですか」
八雲「…だったら、お姉ちゃんの部屋を使って下さい」
播磨「!」
播磨「…いや、さすがに使えねぇーよ…」
八雲「…だったら……私の部屋で一緒に寝ますか…」
播磨「!!」
播磨「…」
八雲「……冗談です」
播磨「…あは、はは、ハハ、おいおい妹さん、笑えねぇ冗談だぜ…」
播磨「おっ!すまねぇな妹さん」
八雲「いえ…、書斎を使う必要もないようなので…」
播磨「それじゃあ、お言葉に甘えて」
播磨「…」
八雲「…」
播磨「…」
八雲「…」
播磨(…気まずい……)
播磨(前来た時は漫画書くことしか頭に無かったからな)
播磨(…いや、そんなこと無かったけど)
播磨(……いつからだっけ、漫画描かなくなったの…)
播磨「!…いいって、妹さんは座っててくんな」
サラサラ
八雲「…手際…良いですね」
播磨「そういえば、この家には随分お世話になったからな」
ハラッ
播磨「…これは」
播磨「てんっ!…塚本さんの手紙じゃないか」
八雲「…」
八雲「それで、お姉ちゃんが……」
八雲「烏丸さんは、順調に……」
八雲「サラは東京の大学で……」
播磨(妹さんも楽しく話してるし…)
播磨(…こういうのも良いのかもな)
播磨「それじゃあ世話になったな、妹さん」ペコリ
八雲「あの…別に私は…」
播磨「いや、いいんだ、俺も漢なら自分の寝床ぐれえ」
八雲「…」
播磨「…それより、最近大丈夫なのか?」
八雲「え?…ええお陰さまで…」
播磨「そっか、…じゃあ、また今度な!」
タッタッタッ
ヒュン
グシャ
播磨「ぶべらぁ!」
_播磨、懐かしい感触
播磨「何しやがんだよ!」
播磨「お嬢!」
沢近「…」ジロッ
播磨「…」
沢近「…」ギロッ
八雲「…!」
バシーン
播磨「おい!お嬢…」
バシーン
播磨「ぶっ」
播磨「おっ、おい…」
バシーン
播磨「どぶっ」
播磨「おっ、お」
バシーン
播磨「ぢぶれだらっ」
播磨「…」
バシーン
播磨「…」ピクピク
_沢近、播磨をハリ倒し。
八雲「…」
スタスタ
バシー・・・
八雲「…」ガッ
八雲「…」
播磨「…」ピクピク
沢近「…さすが泥棒…掴むのは得意なのね」
八雲「…」
播磨「…」ピクピク
八雲「…どういう……」
沢近「あんたが!このバカと不倫したって言ってんの!!!」
_沢近愛理、衝撃発言。
八雲「…」
沢近「何でこんなことしたのよ!」
八雲「…いえ…」
沢近「ふざけんじゃないわよ!そっちがやる気なら…」
八雲「いえ…してないです…」
沢近「してないじゃないでしょう!しらばっくれるの!?」
八雲「…だから……してないですってば」
沢近「ですって?」
沢近「こっちはね!証拠だって持ってんのよ!!」
八雲「…」
沢近「あんまり舐めてんじゃないわよ!!」
八雲「…って」
沢近「は?」
八雲「…してない…です」
沢近「聞こえないわよ?本気なの?」
八雲「いえ…してないんですよ…」
沢近「馬鹿にしないでちょうだいよ!」
いとこさん美しすぎる
八雲「…だから……」
播磨「う、う~ん」
播磨「俺はとんでもない悪夢を見ていたのだろうか…」
沢近「このっ…」
八雲「してないって言ってんだろうが!!!!!」
播磨「!」ビクッ
沢近「……」
八雲「……」
沢近「…」
八雲「…」
沢近「…そう、そこまで言うなら」
沢近「でるとこでましょうか!」
八雲「…」
沢近「では後日!ごきげんよう」
ガシッガシッ
播磨「…」ポカーン
播磨「…え?」
播磨「…もう一度言うけど…え?」
_播磨、完全に状況に乗り切れず。
高野「…ということで」
高野「播磨拳児、ドキッ☆、不倫事件簿の話合いをしたいと思います」
播磨「…え?」
高野「愛理」
沢近「フンッ!」
高野「美琴」
周防「よっ、よう…」
高野「花井君」
花井「…」
高野「一条さん」
一条「ど、どうも…」
高野「ハリー」
ハリー「ひさしぶりだな、サカヤケボーイ」
播磨(何かチームに分かれてるし…闘うのか?)
高野「そして、播磨陣営には…」
播磨(よっ、よくわからんが…強そうなのきてくれ…)
吉田山「ちーっす、播磨さん、お久しぶりーっス」
高野「東郷君」
東郷「ふっ、久しぶりだな、やはり俺とお前は相対する運命か…っ」
高野「今鳥君」
今鳥「くーくーくー」zzz
高野「ララさん」
ララ「ふんごーーーっ!!」
高野「天王寺君」
天王寺「…」ドカッ
天王寺(…え?俺なにすりゃいいの・・・?)
播磨「くーずーしーかーいーねーぇーーーーー」
_高野、意図的采配ミス。
烏丸「烏丸です」
播磨「お前らが何をしようとしてるのか、全く分からんのだが…」
ドンッ
沢近「ひげ!あんたが分かろうが分かるまいが関係ないの!!」
沢近「とにかく、私達は離婚!」
沢近「あんたはとっとと家からでてってちょうだい!」
播磨「はぁーー!??」
播磨「おい!お嬢!お前何言って…」
沢近「何って、当然の事よ!」
播磨「当然の事って…」
播磨「…それじゃあ、息子は?俺の子はどうすんだよ」
沢近「当然私が育てるわ」
沢近「あ、養育費は適当に入れといてちょうだい」
播磨「ふっっっっざけんな!」
播磨「『播磨 剣禍☆無想』は俺の大切な子供だぞっ…!」
_播磨拳児、例に漏れずDQNネーム。
沢近「ふざけないで!悪いのはあんたでしょ」
播磨「なんだとアjぎあっじゃあ」
沢近「なによgじおあじょあj」
播磨「gじゃいおgじょい」
沢近「がgじょいjgrじゃ」
?「…だったら」
?「だったら…決めちゃえばいいじゃない」
?「勝者が…!」
播磨「おっ、お前は…」
播磨「て、てて、ててててててってててえて」
播磨「ててててて…」
播磨「…塚本~~~~!!!」
_播磨、無理やりすぎる誤魔化し。
高野「ということで、総責任者の塚本天満さんです」
美琴「おい、高野聞いてねぇぞ!」
美琴「何で、何で塚本が」
一条「塚本さんはアメリカのはずでは…」
高野「それは…」
一同「それは…」
天満「烏丸君が病院にいないからに決まってるでしょー!!」
_塚本天満、当然過ぎる理由。
今鳥「くーくーくーんんーでぃー」スヤスヤ
美琴「いや、役者っていうか…変なのしかいないんだけど…」
美琴「というかこんだけいて、ツッコミは私と一条だけかよ…」
烏丸「…」
天満「烏丸君!何でこんなこと」
烏丸「よくわからないけど…協力した方がいいかなって…」
天満「といっても…今の烏丸君じゃ」
天満「誰が誰だか分かんないでしょ…?」
烏丸「うん、そうなんだ。」
烏丸「あそこにいるのが花井君ってことしか…」
天満「って!あれは播磨君でしょ!!」ズコー
烏丸「…あぁ、そうだった。ありがとう。中本さん」
天満「いえいえどういたしまして…って!」
天満「私は塚本ですっ!」ズコーズコー
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ
播磨「…」
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ
播磨(天満ちゃんのサプライズ登場で一気にテンションが上がったが)
播磨(何だ!あの夫婦漫才のノリは)
播磨(許さん!お前だけは許さん!…鳥丸)
高野「何?播磨君」
播磨「…さっさと始めようぜ」
播磨「烏丸を地獄に送るっていうデスゲームをな!!」
高野(…)
高野「…そうね、では始めましょう」
高野「チーム沢近VSチーム播磨」
高野「ファイッ!」
播磨「行くぜ!烏丸!!」
バッ
天満「待って!播磨君!!」
播磨「!」
播磨「…まさか、守ろうってのか…そいつを…」
播磨「そんな奴をよ…俺よりも…」ブツブツ
天満「ダメ!まだルール説明してないでしょ」
播磨「そんな!まさか俺が…」
(↑聞いてない)
烏丸「…」
美琴「ちゃんと説明してくれ」
美琴「勝負って言うと具体的にどうすんだ?」
高野「ちょっと待って、今考える」
高野「思いついたわ」
高野「まずは無難にクイズ勝負にしましょう」
播磨「なにー!勝負って闘いじゃないのかよ…」
高野「ちなみに、勝利チームには」
高野「英国高級ブランド『エレナマイヤー』のブローチをプレゼント」
播磨「!」
東郷「はっ!そんなのいらないぜ」
東郷「漢と漢のぶつかりあい」
東郷「生まれるのは友情だけで結構さ」
天王寺「…」
天王寺(どうすりゃいいんだよ…俺…)
天満「え!結構素敵かもっ!」
播磨「・・・」ピクゥ
播磨「やったるぜ!!」
高野「では各陣営から2人ずつ代表者を出して頂戴」
~沢近陣営~
沢近「…」フンッ
美琴(…あちゃ~こりゃ沢近の奴もえらくご機嫌斜めだな)
美琴「じゃあ、うちらのチームの代表者を決めようか」
美琴「競技はクイズか…」
花井「なら俺が出るしかあるまい」
美琴「・・・だよな、一応頭はピカイチだし」
美琴「…となると・・・もう一人は…」
ハリー「私が出よう」
美琴「!」
美琴「…大丈夫か?」
ハリー「これでも、英国から特待生扱いで転校してきたのだ」
ハリー「頭には自信がある」
美琴「…わかった」
美琴(本来ならあたしが出たいんだが…あたしの頭ではな…)
美琴「春樹もそれでいいな?」
花井「……」了解した
播磨「ということで、なんとしてもあのブローチが欲しいわけだが…」
播磨「…どうする?」
吉田山「播磨さんが出りゃいいんじゃないっスか?リーダーだし」
ララ「あんなものじゃツマラン!」
ララ「くいものよこせーー!!」
今鳥「…」zzz
東郷「…仕方ないな…っと」
東郷「俺が行こう」
播磨(…本当にコイツで良いのか…?)
播磨(ま、普段から難しそうな事言ってるし)
播磨(いいか)
天王寺「…」
天王寺(ここは、俺も自分から参戦すべきか…?)
ララ「東郷!ガンバレーー!」
東郷「…」
東郷「ララ、お前も出てみないか?」
_東郷、血迷ったかっ…!
東郷「待てよ!相棒!」
播磨「…誰が相棒だ…誰が」
(↑少し嬉しい)
東郷「俺の五感が告げてやがる!」
東郷「ここは野生の力を借りろとな」
播磨「…一応クイズなんだがな」
播磨「…」
播磨「…よし分かった!行ってこいお前ら!俺が許可する!」
東郷「おうよ!相棒!」
東郷「ララ、もし頑張ったら焼肉食い放題に連れてってやる」
ララ「ホントか!?イクゾーー!!」
ララ「よくわからんがガンバルゾー!!」
_東郷、ララの扱いも上達。
播磨(ここで『リーダーだから播磨行け!』なんて言われてたら…)
播磨(元々クイズは苦手なんだよな…)
吉田山「えー!何で行かないんスか!?播磨さん!リーダー…」
メコッ
吉田山「ぶるわぁあ」
八雲「…」
東郷「決着を着ける時だな」
花井「俺のセリフをとるな」
東郷「長かった俺とお前との勝負も今日が最後」
東郷「俺の勝利で見納めだ」
ハリー「…」
東郷「…そして、元相棒ハリー」
ハリー「…」
東郷「今日は全力で勝たせてもらうぜ!」
東郷「アブウェロの名に懸けて」
ハリー「…私も本気で行こう」
ララ「…?」
(↑あまり状況を呑みこめていない)
高野「ということで両陣営、代表者が決定しましたので」
烏丸「では…開戦!」
烏丸「アメリカの州の名前を分かるだけ答えよ」
ララ「メキシコーーーー!!!!」
一同「…」
天王寺「…」
天王寺(・・・あれ?合ってんのか?)
ハリー「…フッ」
花井「どうする」
ハリー「では交互で、私が先を行こう」
花井「流れは」
ハリー「名前で」
花井「…わかった」
東郷「俺が昔どこにいたか知ってるだろ」
東郷「アラス…」
ハリー「アラバマ」
花井「アラスカ」
ハリー「アリゾナ」
・・・・・・・・・
ハリー「ウィスコンシン」
花井「ワイオミング」
美琴「…」
ララ「なんでメキシコじゃないんだぁーー!!!」
美琴「…こいつは…とんでもねぇぞ…」
沢近「…」
播磨(アメリカなら放浪してたから結構分かったが…)
烏丸「矢神公園の周りにないものは」
烏丸「A.パチンコ屋」
烏丸「B.市立体育館」
烏丸「C.市立図書館」
烏丸「D.市立会館」
東郷「正解はA!」
東郷「あのきれいな矢神公園の周りにパチンコ屋などあるわけがない」
花井「…」
高野「なに?花井君」
花井「さっきから簡単な問題ばかり出してどういうつもりだ」
高野「仕方ないでしょ」
高野「とっさに思いつかなかったんだから」
花井「…」
花井「…まぁいい」
花井「正解はD!市立図書館だ」
東郷「熱い展開だな」
烏丸「ファイナルアンサー?」
東郷「あぁ、ファイナルだ」
花井「…東郷…忘れてないか?」
花井「市長だぞ…俺は…」
東郷「…」
花井「この町で俺の知らないことなど無い」
花井「あのパチンコ屋はそうそうに対処せねばと思っていたのだ」
花井「公園の近くにあり景観を損ねるどころか治安悪化にも繋がっている」
花井「私もファイナルアンサーだ」
烏丸「正解は…」
烏丸「Dです」
東郷「なん…だと…」
花井「…」
花井「1453628」
烏丸「第四問・生物」
ハリー「コリンウズラ」
烏丸「第五問・沢近さんの成績は?」
花井「象・象・獅子・獅子・獅子・象・獅子・象・獅子」
沢近「何で知ってるのよ!」
花井「…まずまずの成績だな」
沢近「…」イラッ
烏丸「第五問・地理」
ララ「メキシコーーー!!!」
花井・ハリー「キューバ」
烏丸「沢近陣営1580ポイント、播磨陣営11.2ポイント」
沢近「まあ、当然ね」
播磨「・・・」
東郷「…すまん相棒…あと一歩だったんだが…」
ララ「おい!腹減ったぞ!」
播磨「…コイツらに任せたのが間違いだったか…」
八雲(私が行っといた方が良かったのかな…)
烏丸「そうだね…次は…」
烏丸「デスマッチ…といこうかな」
播磨「デスマッチ…」
烏丸「そう。闘ってもらう。」
播磨「といっても…今回はブローチ無しか…」
高野「あら、勘違いしている様ね播磨君」
高野「今回勝ったからって、別にブローチを愛理達には渡さないわよ」
美琴「おい!」
一条「それって…だましってやつですかぁ…」
高野「第一回戦で決まったのはブローチの価値」
高野「そして、商品は買ったほうの総取り」
高野「つまり、これから万が一にでも」
高野「播磨陣営が1580ポイント以上取って勝つことがあれば」
高野「ブローチは素直に渡すわ」
沢近「そういうこと」
沢近「中々意地悪してくれるじゃない、晶」
高野「フッ」
高野「では、第二回戦の商品は高級ギターセットよ」
播磨(…これは…欲しい)
烏丸「では、三人組を作ってください)
~播磨陣営~
播磨「よしっ!バトルなら俺に任せろ」
播磨「俺が出てパパッとやっつけてくるぜ」
天王寺「…」
天王寺(さすが俺のライバル…)
播磨「それじゃあ…」
高野「あっ、そうそう」
高野「前回の戦いの選手は出れないので」
播磨「・・・はぁ!?」
播磨「…」
ミワタス
吉田山「…」
八雲「…」
天王寺「…」
今鳥「…」
播磨「今鳥」
今鳥「は?何が」
(↑今起きた)
播磨「そして…吉田」
吉田山「え!俺っスか?」
吉田山「嫌ですよ、水着相撲ぐらいしかやったことないし・・・」
播磨「仕方ねぇーだろ!妹さんをだすわけにもいかねぇし」
今鳥「けっ、何だか知らねーけど困ってるみたいだな」
今鳥「まっ、俺が手貸してやるよ」
吉田山(…これはチャンスかも)
吉田山(流れに乗って播磨さん…いや播磨を…)
天王寺「…」
_天王寺、自称播磨のライバル。
播磨「てめーらもとっとと決めやがれ」
周防「おっ奇遇だな」
周防「あたしらも今決まったとこだよ」
周防「といっても全員女の子だから」
周防「まぁ気軽に頼むよ」
播磨「…」
沢近「…」メラメラメラメラメラ
播磨「…(汗」
一条「はい、今鳥さん」
今鳥「何するか知んないけど」
今鳥「まぁ、俺が女に負けることはないし」
今鳥「本気で来なよ」
一条「はい!全力で行きます!」
_沢近陣営、最強の乙女集団。
烏丸「バトルはチーム戦、場所は近くの公園」
烏丸「各チームに一つずつ風船を渡してあるので」
烏丸「それを割られたら負けです」
播磨「なんでぃ、単純なルールじゃねぇか」
播磨「これなら、俺が全員ヤれば…」
烏丸「では、バトルはこの敷地内で」
播磨「ふんっ、女子供をヤるのは気が引けるが…」
播磨「まぁいけるだろ」
今鳥「え?俺は風船持ってるだけなの?」
播磨「ああ」
播磨「吉田、俺とお前で特攻をかける」
播磨「吉田は基本的に陽動をやれ」
吉田山「はい…でも俺よしだや…」
播磨「じゃあ行くぜ」
ボオオオオオ
播磨「おりゃりゃりゃりゃ」
播磨(しめた!一条は風船を守る係か)
播磨(お嬢と周防ならすぐに倒して)
播磨(遠距離から風船を狙うぜ)
吉田山「で、どうするんスか播磨さん」
播磨「あ?まずはアイツらを倒すぞ」
播磨「吉田は右の青髪をやれ」
吉田山「了解っス…でも俺よしだ…」
播磨「突撃だ!」
吉田山「現れたな周防!」
吉田山「ここは水着相撲の成果を示す時」
吉田山「戦ってる間に抱きついちゃうかもしれないし」ウヘヘヘ
吉田山(D!D!)
_吉田山、順調に今鳥化。
播磨「へっ、ここで会ったが百年目だぜ…お嬢!」
沢近「…」
播磨「何だかよく分からないことになってるが」
播磨「まずは…お前を倒す」ズビシッ
沢近「…」
朝まで残ってるかな
周防「…」
周防「あのなぁ、そんな風に弱点の頭を前面に持ってきちゃダメだろ」ヤレヤレ
周防「ただでさえ、タッパが違うんだからよ…」
周防「武道家相手なら尚更なっ」
ブンッ
播磨「お前に恨みは…」
播磨「…色々あるが……」
播磨「通してもらおう!!」
播磨「いきなりだが…奥義!」
『播拳蹴(ハリケーンキック)!!』
?「はーりーおー♡」
?「がんばるんだぞっ☆」
烏丸「ちなみに安全面から保健の姉ヶ崎先生に来て頂いてます」
沢近「…」プチンッ
ブンッ
吉田山・播磨「あれ?」
ヒュールールールー
グシャ
『おおっーと!播磨選手、吉田山選手アウト!』
烏丸「実況は冬木君が担当します」
冬木「両者とも脳天から落ちて気を失っているようだぞおー!」
スタタタタタタ
冬木「おっと!風船保持の担当であるはずの一条選手!突然走り出した」
冬木「一直線に今鳥選手に向かって行きます!」
今鳥「へっ?」
一条(ごめんね…恭介……)
一条「行きます!今鳥さんっ…」
今鳥「へっ?」
今鳥「ちょ、ちょ、顔がマジだよ…」
今鳥「いちさん」
『妖精の舞(ニンフズ・ダンス)』
今鳥「ぐべらぼらぁ」
冬木「妖精の舞、変形フランケンシュタイナー!!」
今鳥「…」キュー
一条「…すいません…今鳥さん」
パチンッ
冬木「試合終了ーーー!!」
冬木「何と沢近陣営!相手陣営を完全に玉砕してから」
冬木「余裕を見せての風船割りです!!」
冬木「恐ろしい!これはとんでもない試合になってしまったぁー!!」
烏丸「ということで、ただいまの勝負」
烏丸「沢近陣営の完全勝利です」
沢近「まぁまぁね」
周防「やったぜ~」
一条「やりましたぁ~」
播磨「何で俺、こんなことやってんだっけ?」
播磨「おい!吉田、俺どうしちゃったの?」
播磨「すげー、首が痛いんだけど…」
吉田山「あぁ?誰が吉田だ!ゴラァ」
吉田山「初対面のくせに調子に乗りやがって」
播磨「…」
播磨「あ?てめーもおかしくなってんのか」
播磨「仕方ねぇ、なおしてやる」
グリグリグリグリ
吉田山「ギャーーー!!!」
播磨「思い出したか?」
吉田山「思い出しました!思い出しましたから!!」
今鳥「…」キュー
_播磨陣営、またしても大惨敗。
高野「というか、これが最後の戦いね」
烏丸「大食い対決!」
?「で、なんで俺の店でやるんだよ」
?「そんなこと言わないの」
?「俺の店って言っても親のでしょうが」
?「そうだけどよ」
?「それじゃあ始めましょうかね、あっそちゃん」
高野「では、各陣営とも代表者を5人選出して」
周防「5人って言っても…」
沢近「そうね」
一条「食べるのは自信ないですけど…」
ハリー「ま、ここは漢のみせどころだな」
花井「俺のセリフを~」
播磨「よしっ!何はともあれ、このバカチームでも」
播磨「勝てる!食い物ならっ!」
播磨「気合入れて行くぞ!」
ララ「おおおぉおぉおおおおお!!!」
ララ「クウゾ~~!!!」
東郷「まぁ、勝つしかないな」
東郷「北米の歩くダストシュートと呼ばれた俺の実力みせてやる」
八雲「…ダストシュート……」
吉田山「いててて、まだ首が痛いけど」
吉田山「憧れの沢近さん…」
吉田山「あいにく敵だが…漢らしいとこをみせてやるぜ」
今鳥「…ココハドコ?ワタシハダレ?」
播磨「ラスト!行くぜ」
東郷「おう相棒!今日はやる気だな」
播磨「よせやい」
天王寺「…」
_繰り返しますが、天王寺、自称播磨のライバル。
烏丸「バトルは6VS6」
烏丸「食べた総量で決まります」
沢近「6人…?」
烏丸「そう、一人助っ人を呼ぶことが出来ます」
播磨「助っ人…」
天王寺「…」
天王寺(キタコレ!)
沢近「誰が良いかしら?」
?「ムシャムシャ」
周防「よく食べる奴だろ…」
?「ゴクゴク」
一条「同じクラスだった西本君なんてどうでしょう?」
?「プハー」
ハリー「いや、意外に彼のようなタイプは食べなかったりするものだ」
?「うぇっぷ」
花井「そうだとも、彼は単に運動が足りてないだけなんだ」
?「は~、お腹空いた~」
沢近「どこかに」
?「まだ食べ足りないよ…」
周防「バカ食いできる奴…」
周防「…」
一条「…」
ハリー「…」
花井「…」
?「…」
一同「いたーーーーーー!!!」
俵屋「なんですか!?急に!!」
播磨「どうするよ」
吉田山「どうするもないっスよ」
ララ「…」ウズウズ
東郷「俺の知り合いにはそんな奴いないぜ」
今鳥「シリアイ…シリアイ……ッテナニ?」
天王寺「…」
天王寺「……」
天王寺「…じゃ、じゃあ、おれ」
?「呼びましたかな?」
吉田山「誰っスか?」
ララ「シランゾ、コンナヤツ」
東郷「お前は…誰だ?」
今鳥「オオキイネ~、オジチャン、オオキイネ~」
?「失礼、私、沢近家の執事をやらせて頂いてます」
?「名を中村と申します」
_中村、国籍不明の巨人執事。
吉田山「確かにすごそうッスね」
東郷「へい、ビックボーイ!」
東郷「俺も漢としての器の大きさなら負けてないぜ」
ガラガラ
天王寺「…………さよなら
ガラガラ
烏丸「では、これから最終決戦を…」
天満「はじめまーす!!!」
天満(私のこともわすれないでよ)
烏丸「麻生家の中華料理を食べて、より食事代の高かった方の勝ち」
烏丸「ちなみに、最高額は『まんぷく定食』の900円です」
烏丸「では、…」
花井「ちょっと待て!」
花井「いくらなんでも、そのルールでは欠陥があるだろう」
花井「その食事代はどうするんだね?」
花井「このままでは思いっきり食べられまい」
ハリー「…それなら心配ご無用だ」
花井「何だと」
ハリー「ここでかかる食事代は全て私が払おう」
ハリー「そう提案しているのだ」
花井「そうだ、さすがにお前一人で払える値段では…」
ハリー「別に構うまい、私が払いたいと言っているのだ」
ハリー「お前達は存分に食べると良い」
周防「お前!大したヤツだな」
花井、麻生「!」
ハリー「ハハ、大したことナーイス」
ハリー「ほとんど彼女だろうしね」ボソッ
ボボオオオオオ
~播磨陣営~
播磨「おおおおお!!」
播磨「まずは頼むことだ!」
播磨「とりあえず皆でまんぷく定食を食い尽くすんだ!」
~沢近陣営~
沢近「とりあえず勝負に勝つことを考えましょ」
周防「どうすんだ」
沢近「そうね…まずは色々な品を頼むの」
沢近「そしてなるべく…コストパフォーマンスの悪い一品を探し出すのよ」
高野・烏丸・天満「はい?」
沢近「…じゃあ、烏丸君?」
烏丸「…なに?」
沢近「審判に訊きたいのだけれど」
沢近「完食はどういう基準で行うの?」
沢近「例えば…ラーメンとかはスープを残しても良いものなのかしら?」
烏丸「…」チラッ
高野「…」チラッ
天満「・・・?」
烏丸「完食の基準は皿に物が無くなったかです」
烏丸「…ラーメンはスープも飲む必要があります」
沢近「スープ系より米の方が良いかもね…」
~一方、播磨人生~
播磨「おおおおお!!!」
播磨「食って、食って、食いまくるぜ」
播磨「…………!?」
播磨「…あっ、ぐっ、ごれっ」
播磨「くっ…」
東郷「どうした、あいぼ…ぐあぁつ」
ララ「…?」
播磨「ががががが辛ぇえええええええ!!」
烏丸「言いわすれてましたが、色々な品にランダムで仕掛けがしてあります」
播磨「こんなの食えるわけえええ」
播磨「ねええええ
東郷「…アディオス」
東郷「南米の猛牛はこの辺境の島国で息を引き取るぜ」
_東郷雅一、渡米経験無し。純日本人。
東郷「…」チーン
吉田山「……最後に、キスぐらいしたかったぜ」バタッ
今鳥「…」キュー
沢近「キャッ!こんなの食べられるわけないじゃない」
周防「あたしも辛いのは大丈夫だけど苦いのはな…」
周防「ちょっちムリだわ」
周防「って、お前辛いの食べられないじゃんか」
花井「我が生涯に一遍の悔いなし」
周防「くだらないことで死ぬことを後悔しやがれ」
ハリー「…」パクッ
ハリー「…ギブアップといったところだな」
沢近「…」
麻生「お、おい」
麻生「なんかホールでとんでもない嬌声が聞こえるんだが…」
菅「いいからいいから」
菅「あそちゃんは頑張って作ってね」
菅「姐さん!できました」
?「はいはいー」
麻生「にしても嵯峨野が手伝いに来てくれるとはな」
麻生「割烹やの娘だし、中々器量もあるようだし」
菅「これはどうしちゃいます?姐さん」
嵯峨野「そうね…わさび大量投入の刑で!」
菅「ひゃ~、恐ろしいお人だ、姐さんは」
一条「あっ、これおいしい…」
俵屋「…」ムシャムシャ
~播磨陣営~
ララ「もっと、もっと食べるゾー!」
中村「うむ、これはこれは中々変わった味ですが」
中村「戦場で食べた蛇の丸焼きに比べれば」
中村「大変美味ですな」
菅「奴ら攻撃が全く効かないようだ」
嵯峨野「…困ったわね」
嵯峨野「…」
嵯峨野「!…そうだ!あの子なら」
俵屋「…なんれふか」モグモグ
嵯峨野「…そう言えばさ、なんで呼ぶ前からこの店にいたの」
俵屋「…」ボフゥ
嵯峨野「もう周防さんも結婚しちゃったしね」
嵯峨野「麻生君は意外と残っちゃったのよね」
嵯峨野「私もあんな赤紙じゃなくて麻生君選んどけば良かった…」
菅「…へっくしょん」
嵯峨野「今でも想い続けるなんて」
嵯峨野「結構一途なんだね」
俵屋「…」カアァァァァァァ
ガタッ
一同「?」
俵屋「あ、あの、わた、わたし…」
俵屋「用事を思い出したので帰らせて、、、頂きます」
沢近「えっ、ちょ…」
ガラガラ
ピュー
嵯峨野「…一人脱落」
嵯峨野「ねぇねぇ沢近さん」
沢近「?」
嵯峨野「ゴニョゴニョ」
沢近「…わかったわ、やってみる」
プルルルル
ガチャ
中村「はい、中村ですが」
沢近「大変よ!中村!」
中村「いかがなさいましたか、お嬢様」
沢近「家が、家が、燃えてるのよ…!」
中村「本宅ですか?お嬢様は危ないので」
中村「絶対にお近づきになりませんように」
沢近「それが違うのよ!別宅よ別宅」
中村「どこの別宅でしょうか?」
沢近「アフリカよ!アフリカ」
中村「…沢近家にアフリカの別宅は…」
沢近「とにかく!すぐ行ってちょうだい」
中村「ちなみに場所は?」
沢近「ジャングルの奥地ら辺よ」
中村「…」フゥー
プルルル
ガチャ
中村「マサルか?とりあえずすぐ来てくれ」
嵯峨野「二人目」
_嵯峨野恵、暗躍。
一条「ふー」
一条「もう、お腹一杯です」
嵯峨野「ありゃりゃ」
烏丸「…ということは」
ララ「ウガァアアーー!」
ララ「まだ食い足りないゾ!」
ハリー「…やはりこうなったか」
烏丸「…なるほど」
烏丸「では、最終決戦も終了です」
一同「…」
ララ「うがあああーーー」
烏丸「最終報告」
天満「ですっ!」
一回戦
沢近陣営1580P 播磨陣営11.2P
沢近「0.2って…」
二回戦
沢近陣営3万6400P 播磨陣営51P
播磨「得点計算どうなってんだよ!」
三回戦
沢近陣営5万2000P 播磨陣営5万8000P
沢近「どういうことよ!私のチーム負けてるじゃない」
烏丸「最終勝負は、1円=1Pで計算しました」
沢近「は!?納得いかないわよ」
播磨「ぐえええええ」
播磨(よくわかんないけど…勝ったのか?俺…)
高野「ということで」
高野「商品のブローチとギターと…」
沢近「そうよ、最後の商品は何なのよ」
沢近「は?商品券?」
高野「そう、ここの商店街でしか使えない…ね」
沢近「…」
沢近「…フンッ、大層な名目だから」
沢近「どんなに大した商品かと思ったけど…」
沢近「案外、大したこと無いのね」
沢近「どうせノドから手がでる程欲しかったんでしょ!」
沢近「…私に相談してくれれば、すぐ用意したのに」ボソッ
沢近「……そんなに私は信用ないの…かな」ボソッ
播磨「つってもな、これはチームのもんだし」
八雲「いえ、播磨さん」
八雲「播磨さん以外は皆倒れてます…」
八雲「今鳥さんに至っては…もう……」
播磨と沢近
どっちもお似合いなんだよなぁ
ただ、播磨が八雲と結婚したら
沢近は一生独身でいると思う
俺と同じ考えを持っているやつがいようとは……
八雲「いえ…私は十分してもらいましたから…」
沢近「…」イラッ
沢近「じゃあ、さっさと貰っちゃいなさいよ」
沢近「そんな大したことのない物が欲しかったんでしょ」
播磨「…確かに、全部、俺がメチャクチャ欲しかった物だな」
播磨「だから…」
播磨「ほい」
播磨「だから、ほい」
沢近「…」
播磨「いいから受け取れよ」
播磨「これはお前にプレゼントしたかったもんなんだからよ」
播磨「だーかーらーよ!」
播磨「このブローチもギターも商品券も!」
播磨「おめーにプレゼントするって言ってんの!」
播磨「その為に、やったんだからよ…」
播磨「…ほら、前、言ってたろ…」
播磨「家が傾いた時に、宝石とか売っちゃったって」
播磨「イギリスの、エレンマイカーだのの宝石は、お気に入りだったって」
播磨「やっぱり高すぎてさ」
播磨「今の俺には到底買えそうになかったからな…」
播磨「何か、…代わりにならねぇかなって思ってよ」
播磨「このブローチなら、ほら、お前のネックレスにも…」
播磨「…結婚指輪にも…ちょっとは合うかなって…な」
沢近「…でも、」
沢近「…でも、ギターは?」
沢近「私別に、ギターなんて欲しいと思ってないけど!」
沢近「それは、あんたが欲しかったんじゃないの!?」
播磨「俺には共にアメリカを旅して廻った相棒があるからな」
播磨「コイツと歌、そして紙とペン…」
播磨「これだけで、俺はアメリカを旅してきたんだ」
播磨「相棒以外のギターなんてありえねぇよ」
播磨「…でも、まぁ」
播磨「これは、俺の望みみたいなもんだけどよ」
播磨「このギターは…さ」
播磨「お前に弾いて欲しくてな」
播磨「昔、俺がビートルズとか色々弾いてた時」
播磨「お前、素敵とか、褒めてくれたからな」
播磨「…そのくせ、お前がギター持ってないってんだからよ」
播磨「俺が教えて…」
播磨「まぁ、物覚えの良いお前のことだ」
播磨「あっという間に上達するだろうしな」
播磨「そしたら、さ」
播磨「俺はベースも弾けるしな…」
播磨「家族でバンドすんのも…悪くねぇんじゃねぇのかな…」
播磨「って思ってさ」
播磨「……」
沢近「……けん」
播磨「…は?」
沢近「…」
沢近「商品券は!…どういう意味なの…」
播磨「ああ」
播磨「…いや、これはな…」
播磨「すこし前の俺もそうだったけど…」
沢近「…」
播磨「良いもん食って、お偉いさんに囲まれてさ」
播磨「そんでも、笑顔つくったりなんかして」
播磨「人付き合いの手段で、メシ食ってんだろ」
播磨「だから、たまには、町の油っこいテーブルで」
播磨「中華食べんのも悪くないんじゃねぇかって」
播磨「メシ自体を楽しむ為に…」
播磨「好きなやつと楽しく食うために…な」
播磨「昔…俺がてん、塚本追いかけてバスケした時」
播磨「皆で一緒にここでメシ食ったこと言ったら」
播磨「お前、少し、悔しそうな顔してたじゃねぇか…」
播磨「…男とはよく食いに行ってたらしいし」
播磨「塚本達とは、沢山遊んだんだろうけどな…」
播磨「お前自身、壁感じてたって言ってたじゃねぇか…」
播磨「…だからな…」
播磨「……たまには遊ぶのも悪くないだろ…」
播磨「…………体育祭の時みたいに」
沢近「……」
播磨「……」
沢近「………」
播磨「とまあ偉そうに語ってみたけど…」
播磨「正直言うと、俺は何も知らなかったぜ…」
沢近「・・・?」
播磨「事前には何も知らなかったし」
播磨「賞品は欲しかったから…遊んでる気は無かった…」
播磨「…全力だった」
播磨「口にも出してないような
播磨「俺の欲しい物を見抜いて」
播磨「そんで、こんな茶番しかけた奴らがいるわけだ」
高野「…」
烏丸「…」
播磨「ある程度、協力してくれる実行者がいないと…」
播磨「…こんな同窓会みたいには…」
播磨「ならないよな…」
チラッ
周防「…」ギクッ
花井「…」
一条「…」
播磨「他にも途中からでも知らされた奴らがいるんじゃないか?」
吉田山「…」
播磨「…」
沢近「…でも、なんで……?」
播磨「そりゃ、サプライズとか自分達が面白いとか…」
播磨「…俺達が上手くいってない…とか…」
沢近「…」
沢近「…そうよ」
播磨「?」
沢近「全部あんたが悪いんじゃない!」
沢近「あんたが八雲と浮気するから!!」
沢近「何よ言いたい事があるなら言ってみなさいよ!!」
播磨「その…」
沢近「あんたがそんな奴だなんて思わなかったわよ!!」
沢近「浮気するなんて!!っ…サイテー……」
播磨「それは、ちがっ…」
八雲「ちがいます!!」
八雲「実は…」
播磨「おいっ、妹さん…」
八雲「いいんです…もう…」
八雲「全て説明させていただきます」
八雲「私が談講社に勤めてることは皆さん知ってると思います」
八雲「談講社は男性の多い職場で」
八雲「そんな理由からか…お付き合いしている人もいないからか」
八雲「ここ数ヶ月…お付き合いのお誘いを沢山もらいました」
八雲「いえ…驕っていたのかもしれません…」
八雲「人間関係は最もしっかりしなくてはならないものであるにも関わらず」
八雲「はっきりとお断りを申し上げる機会を失ってしまって…」
八雲「…それで」
八雲「…」
八雲「…その方に付きまとわれるようになりまして…」
八雲「…」
八雲「……お姉ちゃんもアメリカへ行き」
八雲「サラも東京に行ってしまって…」
八雲「…一人で独りで、大変に恐ろしく、寂しく思ったました」
八雲「…播磨さんは、とても優しい方ですし」
八雲「……私の家の、親のことも…事情は知ってらっしゃいますから」
八雲「…相談してみたんです」
八雲「……播磨さんはその日のうちに談講社に乗りこんで…」
八雲「…その方ときっちりと話をつけた後」
八雲「…時々、私を家まで送ってくれて…」
沢近「…」
八雲「…そうしていくと頼りたくなってしまって」
八雲「時々、寂しい時に話を聞いてもらうために」
八雲「家に…招きました」
八雲「…私には…あの家は広すぎます…」
沢近「……それだけなわけないわよね」
沢近「…それだったら、別に隠す程の事でも…あるでしょうけど」
沢近「嘘をつくべきことではないわ」
八雲「……私は、…私は」
八雲「…好きなんです……どうしようもなく…」
八雲「播磨さんのことが」
播磨「…」
天満「……」
八雲「そのこと自体は十分自覚してました…」
八雲「愛理さん…」
八雲「愛理さんが、放浪の旅に出た播磨さんを探すために…」
八雲「たった、それだけの為に、…高校時代の夢でもなかった」
八雲「CAになった…
八雲「播磨さんを…彼を、追うために談講社に入った…」
八雲「…もちろん漫画の仕事にも、編集の仕事にも興味はありました…」
八雲「でも、やっぱり、彼がいたから…」
八雲「…あの時、偶然、私が播磨さんの荷物を見てしまったから…!」
沢近「…フンッ、戯言ね」
八雲「!」
沢近「別に、だからと言って、隠す必要はなかった…」
沢近「…違くて?」
八雲「播磨さんはっ!彼は違うんです」
八雲「彼は、私の今を不憫に思ってくれている…」
八雲「恋人も見つからず…」
八雲「歩行祭のとき…私はそれとなく伝えてみました…」
八雲「…わかっていました」
八雲「…断られること。本当に好きなのは姉さんであること。」
八雲「…自分の意志を貫くこと…」
八雲「…たとえ、たとえ、どんなに叶わなくても…」
烏丸「…」
八雲「私は想いを伝えてみました…」
八雲「今思うと恥ずかしいけど…当時は、精一杯の気持ちを…」
八雲「…でも駄目でした……」
八雲「どうしても、どうしても、はぐらかされてしまいます…」
八雲「そうなんです…播磨さんは、そういう人なんです」
八雲「自分が、どうと、どうとも全く思わない人にも…」
八雲「気を使ってしまう、傷つけたくないと思う」
八雲「そういう人なんです…」
八雲「私が、談講社に入った理由を知ってるから」
八雲「…自分のせいで、仕事、そして恋愛を狂わせてしまったことを知ってるから」
播磨「…」
沢近「…」
八雲「播磨さんは甘えさせてくれました…」
八雲「…望めば、望んだだけ…」
八雲「本当に、本当に愛理さんのことを愛してるんだなって…」
八雲「…ですから、不埒な行為は一切行ってません」
八雲「…播磨さんも私といて辛そうでしたし」
八雲「…でも、やめられませんでした…」
八雲「…あの時、あの時は、諦められたはずなのに…」
八雲「…愛理さんになら、とられてもいい」
八雲「…そう、そう思ったはずなのに…」
八雲「子供だって、心底祝福したつもりだったのに…」
八雲「……播磨さんは、私が播磨さんを好きでいることを」
八雲「皆さんに知らせたくなかったのでしょう」
沢近「で、ヒゲ!」
沢近「あんたはどう思ってるの?」
播磨「ああ」
沢近「八雲の説明する通りの気持ちで…」
沢近「同情で八雲と一緒にいたの?」
バシーーーン!!!
播磨「痛っ!!」
沢近「舐めんじゃないわよ!」
播磨「・・・」
沢近「人のこと舐めてんじゃないって言ってんの!!」
沢近「私達…私とヒゲと八雲…は本当に長い時間一緒に過ごしたわ…」
沢近「…いえ、実際に一緒に居た時間は、そんなに多くない」
沢近「…でも、同じことを思い、考えてた」
沢近「私は八雲と同じ思いで、多くの時間を過ごしたわ」
沢近「ある意味じゃあ、私は八雲以上に八雲に詳しいつもりよ」
沢近「一緒の高校で、2年の時…」
沢近「あの時は、あんなに近くに居たのに…」
沢近「…いつも、意地悪言えたのに…」
沢近「本当に駄目駄目で」
沢近「適当に告白するし、姉ヶ崎先生とイチャイチャするし」
沢近「勉強はからっきし駄目」
沢近「学校にも来なくなったり…」
沢近「…本当、どうでも良い存在だったのに…」
沢近「そんな軽い男じゃなかった」
沢近「一人の人を思い続ける芯の強い人だって知ったとき」
沢近「同時に、彼が私を向いてないと知ったとき…」
沢近「…本当にショックだったわ」
沢近「少しは、少しは、彼も私に興味があるんじゃないか?」
沢近「…そう思ってたから」
沢近「彼が急に格好よく思えてね…」
沢近「……今まで、バカみたいに絡まってた行動も、仕草も…」
沢近「…少しは分かるように、なって…」
沢近「……でも、分かれば分かるほど、解ければ解けるほど…」
沢近「どうしても…どうしても、辛かった」
沢近「自分の恋心より、相手を大切に思う気持ち…」
沢近「いえ、このバカ流に言うなら」
沢近「プライド…ってやつなのかしらね」
沢近「…それで、粉々にフラれて…」
沢近「おかしくなりそうな、こいつに偶然会って」
沢近「もっと、こいつのことわかって」
沢近「もっと、こいつのことわかりたいって思って」
播磨「…」
沢近「要するに!よ」
沢近「要するに・・・ね」
沢近「こ、こいつは…」
沢近「このバカは」
沢近「わ、私が全身全霊を懸けて愛してるバカ野郎だから!!」
沢近「だから!…っ、だから、あんたに…」
沢近「誰にもこいつは、…播磨拳児は渡さないっ!」
沢近「…そういうことよ」
播磨「…」
天満「…」
烏丸「…」
周防「…」
高野「…」
八雲「………」
沢近「……うるさい」
沢近「…」
沢近「大体!だいたいね」
沢近「八雲!アンタもそう簡単に新しい恋諦めてんじゃないわよ!」
周防「あ、あたしか!?」
沢近「この女なんてね」
沢近「先輩に恋して、勝手に自爆して、その後には麻生君に手出して…」
沢近「そして結局、花井君なのよ、幼馴染の!」
周防「あんだよ!悪いかよ!」
播磨「…」
沢近「でも、結局結婚したわ」
沢近「私とコイツ」
沢近「コイツが少し前まで別の女のことしか見れなかったこと」
沢近「今でもたまに、辛そうな顔すること」
沢近「全部わかってんだから」
沢近「安易に恋しろとは言わないけどね」
周防「男を手玉に取ってたお前が言うか」
沢近「うるさい!」
沢近「全力でその人の為になりたいと思うもの」
沢近「相手が望まなかったり」
沢近「自分が冷めたり」
沢近「色々傷ついて、汚れて、ここまで来たけど」
沢近「私は昔の私を恥ずかしく思ったことも」
沢近「同情したことも無い!」
沢近「天満がいなかったらとか」
沢近「コイツが天満に会わなかったら」
沢近「とかね」
沢近「・・・少し思うときもあるけど」
沢近「でも良かった!」
沢近「コイツは天満に会って」
沢近「誠心誠意向き合って」
沢近「結局、私達が結ばれたけど」
沢近「でも、コイツが天満を好きになる人で良かった!」
沢近「今は心底そう思ってるわ」
八雲「…」
八雲「…いえ」
天満「…」
八雲「…今の私にはまとめられないけど…」
八雲「言いたいことは分かりました」
八雲「私も、愛理さん以上に愛理さんを知る人間ですから」
沢近「………言うじゃない」
沢近「この茶番も終わらせないとね…」
八雲「…」
天満「…」ガシッ
八雲「…」
天満「…私が言えることは何も無いよ…」
天満「でも、私は八雲の『お姉ちゃん』だからね」
沢近「ねぇ、ヒゲ」
播磨「あ?」
沢近「私のこと好き?」
播磨「…何だよいきなり」
沢近「いや、最後はわかりやすいほうがいいかなって」
沢近「そう…私も好きよ」
播磨「…」
沢近「伝わってると思ってたけど」
沢近「たまには言葉にしないとね」
沢近「ねぇ、拳児?」
沢近「私のこと…愛してる?」
播磨「もちろんだ愛理」
沢近「…そう、わたしも愛してる」
乙
ここまで付き合えて良かった
スクラン読みなおしてぇな、今度押し入れ漁ろう
ちょくちょく読み返すくらいスクランは好きな作品だ
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レッド「出直してこい」
ゴールド「あの……」
レッド「……………………」
デンwwwwwデンwwwwwwwwwデンwwwwwデンデンwwwww
デデンwwwwデデンwwwwwデデンwwwwデデデーンwwwwwww
レッド「……」
ピカチュウLv.88「ちゅぁぁああっ!」
ゴールド「!! いけ! ホウオウ!」
ホウオウ「ぎゃおーう」
ピカチュウのボルテッカー
ピカチュウ「ちゅぁぁああっ!」
バリバリバリバリ
ゴールド「ぎゃああああああぁぁぁぁぁ…………
ヒュゥウウウウウウウ
レッド「……」
レッド(伝説なんか使ってんじゃねぇ)
レッド(出直してこい)
レッド「……………………」
デンwwwwwデンwwwwwwwwwデンwwwwwデンデンwwwww
デデンwwwwデデンwwwwwデデンwwwwデデデーンwwwwwww
レッド「……」
レッドが勝負を仕掛けてきた
ピカチュウLv.88「ちゅぁぁああっ!」
ルビー「!! いけ! シザリガー!」
シザリガーLv.100「ありがとー」
ピカチュウのボルテッカー
ピカチュウ「ちゅぁぁああっ!」
バリバリバリバリ
ルビー「ぎゃああああああぁぁぁぁぁ…………
ヒュゥウウウウウウウ
レッド「……」
レッド(レベル100がいねーと僕に勝てないのかよ)
レッド(出直してこい)
レッド「……………………」
デンwwwwwデンwwwwwwwwwデンwwwwwデンデンwwwww
デデンwwwwデデンwwwwwデデンwwwwデデデーンwwwwwww
レッド「……」
レッドが勝負を仕掛けてきた
ピカチュウLv.88「ちゅぁぁああっ!」
プラチナ「!! いけ! ココドラ!」
ココドラLv.1「ドラ」
ピカチュウのボルテッカー
ピカチュウ「ちゅぁぁああっ!」
バリバリバリバリ
プラチナ「ぎゃああああああぁぁぁぁぁ…………
ヒュゥウウウウウウウ
レッド「……」
レッド(レベル1とか……僕を馬鹿にしてるのかよ)
レッド(出直してこい)
レッド「……………………」
デンwwwwwデンwwwwwwwwwデンwwwwwデンデンwwwww
デデンwwwwデデンwwwwwデデンwwwwデデデーンwwwwwww
レッド「……」
レッドが勝負を仕掛けてきた
ピカチュウLv.88「ちゅぁぁああっ!」
ブラック「!! いけ! メタグロス!」
メタグロス「ぐわーん」
ブラック「くそ! サザンドラにボーマンダ……カイリューにバンギラスまで……」
ブラック「切り札のガブリアス!」
レッド「……」
ピカチュウのボルテッカー
ピカチュウ「ちゅぁぁああっ!」
バリバリバリバリ
ブラック「ぎゃああああああぁぁぁぁぁ…………
ヒュゥウウウウウウウ
レッド「……」
レッド(600族オンリーで挑んでくるんじゃねーよ)
レッド(出直してこい)
レッド「……………………」
デンwwwwwデンwwwwwwwwwデンwwwwwデンデンwwwww
デデンwwwwデデンwwwwwデデンwwwwデデデーンwwwwwww
レッド「……」
レッドが勝負を仕掛けてきた
ピカチュウLv.88「ちゅぁぁああっ!」
コトネ「!! いけ! ガブリアス!」
ガブリアス「がおー」
レッド「……」
ピカチュウのボルテッカー
ピカチュウ「ちゅぁぁああっ!」
バリバリバリバリ
コトネ「ぎゃああああああぁぁぁぁぁ…………
ヒュゥウウウウウウウ
レッド「……」
レッド(この場で地震とか足場が崩れたらどうするんだよ? ピカチュウにスカーフ付けさせて良かった)
レッド(出直してこい)
レッド「……………………」
デンwwwwwデンwwwwwwwwwデンwwwwwデンデンwwwww
デデンwwwwデデンwwwwwデデンwwwwデデデーンwwwwwww
レッド「……」
レッドが勝負を仕掛けてきた
ピカチュウLv.88「ちゅぁぁああっ!」
ハルカ「!! いけ! キュウコン!」
キュウコン「こーん」
ぴかー
レッド「……」
ピカチュウのボルテッカー
ピカチュウ「ちゅぁぁああっ!」
バリバリバリバリ
ハルカ「ぎゃああああああぁぁぁぁぁ…………
ヒュゥウウウウウウウ
レッド「……」
レッド(いきなり日差しを強くするなよ。雪が溶けて足場が危ないだろ)
レッド(出直してこい)
レッド「……………………」
デンwwwwwデンwwwwwwwwwデンwwwwwデンデンwwwww
デデンwwwwデデンwwwwwデデンwwwwデデデーンwwwwwww
レッド「……」
レッドが勝負を仕掛けてきた
ピカチュウLv.88「ちゅぁぁああっ!」
ヒカリ「!! いけ! ホエルオー!」
ホエルオー「ぐわおー」
ピカチュウのボルテッカー
ピカチュウ「ちゅぁぁああっ!」
バリバリバリバリ
ヒカリ「ぎゃああああああぁぁぁぁぁ…………
ヒュゥウウウウウウウ
レッド「……」
レッド(デカいポケモン出すなよ。僕が落ちたらどうするんだ?)
レッド(出直してこい)
レッド「……………………」
デンwwwwwデンwwwwwwwwwデンwwwwwデンデンwwwww
デデンwwwwデデンwwwwwデデンwwwwデデデーンwwwwwww
レッド「……」
レッドが勝負を仕掛けてきた
ピカチュウLv.88「ちゅぁぁああっ!」
トウコ「!! いけ! ジャローダ!」
ジャローダ「ぎゅいーん」
うねうね
レッド「……」
ピカチュウのボルテッカー
ピカチュウ「ちゅぁぁああっ!」
バリバリバリバリ
トウコ「ぎゃああああああぁぁぁぁぁ…………
ヒュゥウウウウウウウ
レッド「……」
レッド(積んでんじゃねえよ。男女だまってフルアタだろ)
レッド(出直してこい)
レッド「……………………」
デンwwwwwデンwwwwwwwwwデンwwwwwデンデンwwwww
デデンwwwwデデンwwwwwデデンwwwwデデデーンwwwwwww
レッド「……」
レッドが勝負を仕掛けてきた
ピカチュウLv.88「ちゅぁぁああっ!」
ゴールド「!! いけ! エアームド!」
エアームド「かぐぴーん」
バババババ
レッド「……」
ピカチュウのボルテッカー
ピカチュウ「ちゅぁぁああっ!」
バリバリバリバリ
ゴールド「ぎゃああああああぁぁぁぁぁ…………
ヒュゥウウウウウウウ
レッド「……」
レッド(僕が帰れなくなるだろ。へんなものまくな)
レッド(出直してこい)
レッド「……………………」
デンwwwwwデンwwwwwwwwwデンwwwwwデンデンwwwww
デデンwwwwデデンwwwwwデデンwwwwデデデーンwwwwwww
レッド「……」
レッドが勝負を仕掛けてきた
ピカチュウLv.88「ちゅぁぁああっ!」
ルビー「!! いけ! アブソル!」
アブソル「ぷわぷわ」
きゅいーん
レッド「……」
ピカチュウのボルテッカー
ピカチュウ「ちゅぁぁああっ!」
バリバリバリバリ
ルビー「ぎゃああああああぁぁぁぁぁ…………
ヒュゥウウウウウウウ
レッド「……」
レッド(強化アイテムなんか使ってんじゃねえよ!)
レッド(出直してこい)
レッド「……………………」
デンwwwwwデンwwwwwwwwwデンwwwwwデンデンwwwww
デデンwwwwデデンwwwwwデデンwwwwデデデーンwwwwwww
レッド「……」
レッドが勝負を仕掛けてきた
ピカチュウLv.88「ちゅぁぁああっ!」
プラチナ「!! いけ! エンペルト!」
エンペルト「ぺんぺん」
きゅいーん
レッド「……」
ピカチュウのボルテッカー
ピカチュウ「ちゅぁぁああっ!」
バリバリバリバリ
プラチナ「ぎゃああああああぁぁぁぁぁ…………
ヒュゥウウウウウウウ
レッド「……」
レッド(ひんしのポケモンを復活させてんじゃねえよ)
レッド(出直してこい)
レッド「……………………」
デンwwwwwデンwwwwwwwwwデンwwwwwデンデンwwwww
デデンwwwwデデンwwwwwデデンwwwwデデデーンwwwwwww
レッド「……」
レッドが勝負を仕掛けてきた
ピカチュウLv.88「ちゅぁぁああっ!」
ブラック「!! いけ! ダストダス!」
ダストダス「ごみー」
ぽい
レッド「……」
ピカチュウのボルテッカー
ピカチュウ「ちゅぁぁああっ!」
バリバリバリバリ
ブラック「ぎゃああああああぁぁぁぁぁ…………
ヒュゥウウウウウウウ
レッド「……」
レッド(聖なる山にゴミ投げてんじゃねえよ!)
レッド(出直してこい)
よわい ポケモン
そんなの ひとの かって
ほんとうに つよい トレーナーなら
すきな ポケモンで
かてるように がんばるべき 」
レッド「……………………」
デンwwwwwデンwwwwwwwwwデンwwwwwデンデンwwwww
デデンwwwwデデンwwwwwデデンwwwwデデデーンwwwwwww
カリン「え? ええちょっとまったあたくしは貴方に注意を……」
レッド「……」
レッドが勝負を仕掛けてきた
ピカチュウLv.88「ちゅぁぁああっ!」
カリン「ったく……いけ! ヘルガー!」
ヘルガー「がー」
本当はやめて欲しいです。弱いポケモン……
特に硬くなるだけのトランセル6匹で挑んで来てほしいです。
え? コクーンでも良いですよ。
好きなポケモン使わないでたまには弱いポケモンで挑んできて勝たせてほしいです」
レッド「……」
ピカチュウのボルテッカー
ピカチュウ「ちゅぁぁああっ!」
バリバリバリバリ
カリン「ぎゃああああああぁぁぁぁぁ…………
ヒュゥウウウウウウウ
レッド「……」
レッド(言い訳してんじゃねぇよ!!)
レッド(出直してこい)
レッド「……………………」
デンwwwwwデンwwwwwwwwwデンwwwwwデンデンwwwww
デデンwwwwデデンwwwwwデデンwwwwデデデーンwwwwwww
レッド「……」
レッドが勝負を仕掛けてきた
ピカチュウLv.88「ちゅぁぁああっ!」
コトネ「がっ、頑張ってサンドパン」
サンドパン「びー」
ごろごろ
レッド「……」
ピカチュウのボルテッカー
ピカチュウ「ちゅぁぁああっ!」
バリバリバリバリ
コトネ「ぎゃああああああぁぁぁぁぁ…………
ヒュゥウウウウウウウ
レッド「……」
レッド(僕のところまで転がってきて僕を崖から落とす気か!)
レッド(出直してこい)
レッド「……………………」
デンwwwwwデンwwwwwwwwwデンwwwwwデンデンwwwww
デデンwwwwデデンwwwwwデデンwwwwデデデーンwwwwwww
レッド「……」
レッドが勝負を仕掛けてきた
ピカチュウLv.88「ちゅぁぁああっ!」
ゴールド「ゲンガー」
ゲンガー「がー」
ゴールド「やったー!!」
レッド「……」
ブン
バギッ
ゴールド「ぎゃああああああぁぁぁぁぁ…………
ヒュゥウウウウウウウ
レッド「……」
レッド(僕に勝ったからって調子乗ってんじゃねぇ!)
レッド(出直してこい)
レッド「……………………」
デンwwwwwデンwwwwwwwwwデンwwwwwデンデンwwwww
デデンwwwwデデンwwwwwデデンwwwwデデデーンwwwwwww
レッド「……」
レッドが勝負を仕掛けてきた
ピカチュウLv.88「ちゅぁぁああっ!」
ハルカ「伝説がダメらな準伝説で」
レジロック「ぎゃわー」
ピカチュウのボルテッカー
ピカチュウ「ちゅぁぁああっ!」
バリバリバリバリ
ハルカ「ぎゃああああああぁぁぁぁぁ…………
ヒュゥウウウウウウウ
レッド「……」
レッド(準伝説なんか使ってんじゃねぇ)
レッド(出直してこい)
レッド「……………………」
デンwwwwwデンwwwwwwwwwデンwwwwwデンデンwwwww
デデンwwwwデデンwwwwwデデンwwwwデデデーンwwwwwww
レッド「……」
レッドが勝負を仕掛けてきた
ピカチュウLv.88「ちゅぁぁああっ!」
ヒカリ「グライオン」
グライオン「ぐらいおん」
レッド「……」
ピカチュウのボルテッカー
ピカチュウ「ちゅぁぁああっ!」
バリバリバリバリ
ヒカリ「ぎゃああああああぁぁぁぁぁ…………
ヒュゥウウウウウウウ
レッド「……」
レッド(一撃必殺なんかに頼ってんじゃねぇよ)
レッド(出直してこい)
レッド「……………………」
デンwwwwwデンwwwwwwwwwデンwwwwwデンデンwwwww
デデンwwwwデデンwwwwwデデンwwwwデデデーンwwwwwww
レッド「……」
レッドが勝負を仕掛けてきた
ピカチュウLv.88「ちゅぁぁああっ!」
トウコ「オノノクス」
オノノクス「どぎゅおー」
レッド「……」
トウコ「やりー」
レッド「……」
ブン
トウコ「おっと! 女の子を殴るのは男の子として最低の行動じゃない?」
レッド「!」
トウコ「へへへ」ニヤニヤ
レッド「…………」
ヒュゥウウウウウウウ
トウコ「わっ」
トウコ「……いない」
トウコ「倒せたことをみんなに報告するために帰るか」
ブン
バギッ
トウコ「ぐはっ!」
ズルッ
トウコ「あああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……
ヒュゥウウウウウウウ
?「…………」
?(男が殴っちゃダメって事なら女なら良いのよね)
?(勝ったからって調子に乗らないでよね)
リーフ(出直してきなさい)
終わり
何度も挑戦できるトレーナーとはいい勝負が出来るパーティーで挑もうな
>>38
GBプレイヤー使ってたって事で
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ほむら「三度目のセンター試験」
http://hayabusa.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1326633750/l50
志望:国立文系
受験科目:英語筆記&リスニング/国語/数学ⅠAⅡB/世界史/地理/生物
1月14日(土) 午前5時
ジリリリ
ほむら「うーん……」
ジリリリ
ほむら「ん……朝ね……」
ポチッ
ほむら「寝坊しないで良かったわ。風邪も引いてない。天気もいい。無事に受けられそうね」
ほむら「一昨年の失敗から二年……。今年こそは受かってみせる!」
単語帳の類はいらないわ」
ほむら「朝ご飯は軽目で。お腹壊すのも嫌だし」
午前六時半
ほむら「多少早い気がするけど……。年には念を入れて」
ほむら「いい天気」
ほむら「遅延もないみたいね。ここまでは順調」
ほむら「まともに試験を受ける事がまず大事だもの。……ん?」
マミ「あ、暁美さん」
ほむら「巴マミ」
マミ「久しぶりね。あなたもセンター試験?」
ほむら「ええ。……あなたも?」
マミ「そうよ」
ほむら「(三浪……)」
ほむら「シャフト大学よ」
マミ「あら、同じね! なら……」
ほむら「悪いけど巴マミ、わたしは世界史の最終確認をしたいの」
マミ「あ……。そ、そうよね! わたしも社会やらなきゃ。じゃ、わたしはあっちの車両に乗るわね!」サササッ
ほむら「(……少し悪いことをしたかしら)」
ほむら「(いえ、試験は特別。それにこんなところでつるむのが友情ではないわ)」
「電車が参ります……」
ほむら「さて……」
ほむら「……誰もいない」
マミ「誰もいないわね。あ、ごめんなさい! 邪魔して」
ほむら「……。今くらいはいいわ」
マミ「ごめんね……」
ほむら「あの人に訊いてみましょう。あのー」
係員「はい」
ほむら「入場はいつからですか?」
係員「あっちの入り口から、8時ですね」
ほむら「ありがとうございます」
ほむら「そこらのベンチで待ってましょう」
マミ「そうね」
ほむら「……寒い」
マミ「手をあっためておかないとすぐにペンが持てないわね」シャカシャカ
ほむら「カイロ……」
マミ「暁美さん、持ってないの?」
ほむら「ええ」
マミ「なら、二つあるからあげるわ」
ほむら「いいの?」
マミ「もちろん」
ほむら「……ありがとう」
ほむら「開いたわ」
マミ「行きましょう」
係員「はい、受験票見せてくださいねー。はい、じゃあどうぞー」
ほむら「わたしの教室は……3階ね」
マミ「わたしは2階。ここでお別れね」
ほむら「じゃあ、健闘を祈るわ」
マミ「お互い頑張りましょう!」
ほむら「(誰もいない……。まあそうよね)」
ほむら「(社会一科目目は9時10分に教室集合だったはず。あと一時間以上あるわね)」
ほむら「ふう」
ほむら「(あれから二年か……)」
~~~~~~~~~~~~~~~
ほむら「まどか!」
まどか「ほむらちゃん……」
ほむら「じゃ、じゃあお互い結果を言いましょう」
まどか「うん。そういう約束だもんね。……せーの!」
「「不合格!」」
ほむら「……」
まどか「……」
まどか「ティヒヒ……。そうだね」
ほむら「まどか、まどかはこの後どうするの?」
まどか「私大に行くよ。うち、浪人できるほど経済状況良くないんだ」ティヒヒ
ほむら「そんな……。じゃあ、まどかの受験はこれで終わり?」
まどか「うん。……ほむらちゃんは、浪人が出来るって言ってたよね」
ほむら「ええ。今浪人を決めたわ」
まどか「わたしには出来ないこと出来るって、言ってたよね。だから、わたしに叶えられなかった夢、叶えてくれないかな……」
ほむら「まどか……! わたし、受かるわ! 何度繰り返すことになっても、絶対にこの大学を合格してみせる!」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
ガヤガヤ
ほむら「(……少し人が入ってきたみたいね)」
「ショウさん俺マジ緊張するんスけど」
「あー、お前、あれだよ。多少変な行動とっても周りにプレッシャー与えるんだよ」
「ショウさんなんかそのあたり上手いからうらやましいっすよねー。リスニングの時の咳とかマジウザいっすもんね」
ほむら「(つるんで来て会場でも喋っているなんて、なんて緊張感のないやつらなの!)」
ほむら「(まあいいわ。わたしはわたしよ。世界史の教科書でも読みましょう)」
「あれー、ほむらじゃん」
ほむら「!?」
ほむら「美樹さやか、何故ここにっ!」
さやか「聞かないでよー悲しくなるからさ」ハハハ
ほむら「……。じゃあ、わたしは教科書を読むから」
さやか「おっ、ほむらも世界史? じゃあ一緒に問題出し合いっこしようよ~」
ほむら「悪いけど、ひとりで勉強させてもらえるかしら」
さやか「怖~。余裕ないと逆に点落ちるよー? じゃあねー」
ほむら「……」
監督官「それでは、諸注意を始めます」
ほむら「(ざっと見たけど怪しいところはなかったわね。これが二浪の貫録……。悲しいけれど)」
ほむら「(いいかげんこの諸注意聞くのも飽きるのよね)」
試験管「携帯電話などの電子機器類を机の上に出して下さい」
ほむら「(そういえば今年はカンニング対策が厳しいのよね……。不審な行動と見られないよう気をつけないと)」
解答用紙、問題冊子配布……
ほむら「(さて、後は試験開始を待つだけね)」
⑤
④
②
①
世界史「キャハハハハハッ!!!!!」
ほむら「(今度こそ……決着をつけてやる!)」
ほむら「(多少現代史が多めな気がするけど、現役生は苦しいんじゃないかしら)」
ほむら「(……一通り終わり。30分も経ってないわね。とりあえずマークミスを確認しましょう)」
ほむら「(マークミスなし、凡ミスなし。受験番号も回答科目も大丈夫ね)」
ほむら「(まだ15分もあるし、地理の問題を見ておきましょう)」
ほむら「(天気図……まあこれは常識で解けるわ)」
ほむら「(それにしても思考力を試す問題が多い。ちょっと時間がかかりそうね)」
ほむら「(たぶんいくつか落とすかも……。まあ地理だしある程度覚悟はしていたわ)」
監督官「第一回答科目の回答を終了してください」
ほむら「(何度やっても手ごたえが感じられないのよね。得点も70代~90代と落ち着かない)」
ほむら「(逆に大コケはしないのが強みだけど)」
ほむら「(ふう。結構きつかったわ。でも一応終わった)」
ほむら「(ミスは確認したけど……85点取れていれば上出来じゃないかしら)」
監督官「第二回答科目の回答を終了してください」
ほむら「(ふう。とりあえず社会は何事もなく終わったわね。昼休みか……)」
ほむら「(どこで食べようかしら)」
ほむら「(現役時代は学校の友達がたくさんいたけど、今はホントぼっちね)」
ほむら「(まあ、教室の中でしょうね)」
さやか「ほむらほむらー」
ほむら「美樹さやか」
さやか「これの答えってさ、彩陶だよね?」
ほむら「……」
ほむら「ごめんなさい。初日の問題は答え合わせしないことにしてるの」
さやか「えー、ちょっとくらいいいじゃん! ほむらの見せてよー」バッ
ほむら「ちょっ……!」
さやか「ふむふむ……。大分違うなー。これってトリエステだよね?」
ほむら「返してっ……!」
さやか「はーいはい。あたしもご飯食べよーっと」
ほむら「(全く……)」
ほむら「(食べ終わったら何しましょうか。正直、英国なんてもうやることないのよね。多浪の余裕)」
ほむら「(ipodで音楽でも聴いて、集中力を高めましょう……)」
ほむら「(美樹さやかに限らず、余計な情報を入れてくる輩も多いし……)」
ほむら「(……巴マミは何をしているのかしら……)」
ほむら「(いえ、センターは独りの戦いよ……)」
ほむら「(去年は小説と漢文で爆死したけど……)」
ほむら「(今年の漢文は簡単ね。満点も狙えるわ)」
ほむら「(古文は……。よし、行ける!)」
ほむら「(さて、現代文……。……何なのこの文章……!?)」
ほむら「(抽象度が高すぎて理解できない……! いえ、落ち着くのよわたし)」
ほむら「(こういうのは大抵問題が簡単になっているもの。理解しようとしたら負け。よし、ペースを取り戻したわ)」
ほむら「(小説は、……井伏鱒二。……なんか普段と雰囲気が違ってやりにくいわね)」
ほむら「(まあ小説の多少の失点は織り込み済みよ。……よし、ちゃんと終わった!)」
監督官「回答を終了してください」
ほむら「……答え合わせはしたくないと言わなかったかしら」
さやか「あ、そっか。にしてもこの小説良く分からなかったなー」
ほむら「まあこの主人公の心情説明はあまり単純ではないわね」
さやか「第一問も意味不明だったし。100切るかも」
ほむら「……次は英語よ。備えなくていいの?」
さやか「おっとそうだ。ネクステ見ないと」
ほむら「……ふう」
ほむら「(英語は今までの二年間、一度も落としてないわ)」
ほむら「(多少傾向が変わっても平気なはずよ!)」
ほむら「(……にしてもスタンダードね。まあ英語なんてこんなものかしら)」
ほむら「(最後の問題がちょっと変わってるけど、パラグラフ趣旨指摘のマイナーチェンジってところね)」
ほむら「(どう転んでも9割は切らないでしょう)」
監督官「回答を終了してください」
ほむら「(何でリスニングのためだけに1時間もとるのよ。早く帰してほしいわ)」
ほむら「(まあトラブルがないことを祈りましょう……)」
リスニング試験開始
ほむら「(ぶふぉっwww何この仮面はwww何でこんなにバトン持った女がいるのよwwww)」
ほむら「(毎年リスニングはイラストのネタ度が高くて集中できないわwwww)」
ほむら「(まあそんなに点数にも響かないし、気楽にいきましょう)」
ほむら「(ふう、初日は何事もなく終わったわね)」
ほむら「(美樹さやかは……まだ荷物の準備をしている。絡まれないうちにさっさと帰りましょう)」
屋外
マミ「あら、暁美さん」
ほむら「巴マミ」
マミ「あ、話しかけちゃまずかったかしら……?」
ほむら「帰りはいいわ。そんなに気にされるとわたしが悪人みたいよ」
マミ「そ、そうね。ごめんなさい」
ほむら「帰りも同じ駅よね?」
マミ「ええ。どうだった?」
ほむら「まあ、普通よ。何より無事に終わって良かった」
マミ「そうね……。わたしも今日はなんとか」
マミ「理科に数学……。さすがに化学は大丈夫だけど、数学は何があるか分からないから怖いわ……」
ほむら「……あなたも一昨年爆死したクチかしら?」
マミ「……よく分かったわね」
~~~~二年前~~~~~~~~~
マミ「(今年の1Aは簡単みたいね。第一問も二問もすらすらいける! 時間もかからない!)」
マミ「(こんな幸せな気持ちで解くのなんて初めて。もう何も恐くない)」
マミ「(さて、第三問。平面図形ね……)」
なんかリアルすぎる
おもしろい
マミ「(えっ、この長さ……。いやいや、普通に余弦定理よね。え、外接円の半径?)」
マミ「(……)」
マミ「(……確率に行きましょう)」
マミ「(……これはどうやって考えるのかしら)」
マミ「(やっぱり図形……。外接円? 知らないわよ!)」
マミ「(やばい。1Aは100近くとらないといけないのに……!)」
マミ「(時間が……)」
監督官「回答を終了してください」
マミ「(マミった……)」
ほむら「わたしと恐ろしいほど同じパターンね。たぶん1Aで90超えていれば浪人することはなかった」
マミ「よくよく考えたら2B簡単だったのに……引きずっちゃってね。もうあんな思いはしたくないわ!」
ほむら「確認しましょう。まず回答科目のマークを忘れない」
マミ「ええ。マークはいちいち正しいところにしているか確認する」
ほむら「xの変域をaで計算していないか。場合の数に重複はないか」
マミ「数列はその一般項に代入して成り立つか」
ほむら「傾向が変わってもあわてない」
マミ「難しい問題が出たら、どうせ周りもあせってる」
ほむら「……はあ。これだけやっても不安がぬぐえないのが数学よね」
マミ「全くね。何事もないといいけど……」
ほむら「まあ小説の爆死もなさそうだし、今日の結果は気にしないで明日に備えましょう」
ほむら「今日は10時には寝るわ」
ほむら「そうだ、リスニングで貰ったイヤホンを使って音楽を聴きましょう」
ほむら「これ意外と音いいのよね」
ほむら「……よし、大丈夫。落ちつけてる。明日も頑張るわ」
ほむら「……まどか、今年は受かるからね」
ほむら「zzz……」
ほむら「(やっぱり早すぎたかしら……。周りは皆理系ね)」
ほむら「(まあ早すぎて困ることなんてないわ。教室に向かいましょう)」
教室
ほむら「(誰もいない。生物の最終確認でもしようかしら)」
さやか「……」
ほむら「(あら、美樹さやか。……様子が少し変ね?)」
さやか「……はぁ」
ほむら「(何かあったのかしら。……わたしから話しかけるのは気が進まないけど……)」
さやか「……おー、ほむらじゃん……」
ほむら「美樹さやか、何かあったの?」
ほむら「(あー、やっちゃったのか)」
さやか「英語155、世界史79、倫政77。まあここらはいいよ。国語84って……!」
ほむら「小説?」
さやか「小説もそうだし、評論もボロボロ。古文も和歌意味分かんなかったし、漢文も結構落とした……」
ほむら「(何て言葉をかければいいのかしら……)」
さやか「ほむらはどうせ出来てるよね。うん、いいよ。あたしってほんとバカだからさ」
ほむら「まだ理系科目があるわ。引きずらないようにね」
さやか「はは、ありがとー」
ほむら「(やっぱり当日自己採点はするもんじゃないわね……)」
ほむら「(ん、例年より簡単かしら……)」
ほむら「(一問一問時間はかかるけど、あまりミスってる気はしないわね)」
ほむら「(そりゃ多浪で生物落とすのも悲しい話だけど)」
ほむら「(90点くらいね。いい感じ)」
監督官「回答を終了してください」
ほむら「(美樹さやかは……まだ死んでる。よっぽど昨日のが響いたのね)」
ほむら「(まあ、わたしも今夜ああなっていない保証があるとは言えないけれど……)」
ほむら「(数学に備えて何をするべきかしら……)」
ほむら「(とりあえず問題は持ってきてあるわ。いくつか解いて頭を慣らしましょう)」
ほむら「(その後は……ひたすら精神集中ね)」
ほむら「(計算ミスしても、マークミスしても、慌てない)」
ほむら「(さて……)」
ほむら「(まずは二次関数からやりましょう)」
ほむら「(……なんの捻りもないわね。10分で終わったわ)」
ほむら「(じゃあ、平面図形。今年はどうくるか……)」
ほむら「(……何のことはない、平凡な問題じゃない)」
ほむら「(じゃあ第一問。……普通ね)」
ほむら「(必要十分は飛ばして……。確率……簡単すぎない?)」
ほむら「(命題と論証……あれ? 全部必要条件でも十分条件でもない?)」
ほむら「(ああ、自然数か。分かりやすくていいわね)」
ほむら「(……15分も余った。満点行けるんじゃないかしら)」
監督官「回答を終了してください」
ほむら「(特に間違えた気がしない。ひょっとして、今回はかなりいいんじゃないかしら)」
ほむら「(美樹さやかもちょっと顔に明るさが戻ってるし……)」
ほむら「(ちょっと外に出ましょう。歩いて頭を冷やしたいわ)」
廊下
マミ「あら、暁美さん」
ほむら「巴マミ。あの、1Aなんだけど……」
マミ「簡単、だったわよね?」
ほむら「……ええ。これなら正直2Bが70点くらいでも平気だわ」
マミ「わたしもそんなところ。あーよかったぁ」
ほむら「この問題が二年前出ていたら……」
マミ「それは言いっこなしよ。じゃあ、最後の2B、お互い頑張りましょう」
ほむら「ええ」
ほむら「(いつも通り微分積分からいくわ!)」
ほむら「(大丈夫。むしろ簡単なくらいね)」
ほむら「(12分で終わった。いいペースね)」
ほむら「(さて、ベクトル……)」
ほむら「(何、この設定)」
ほむら「(……なんだ。よく考えればただの直方体じゃない)」
ほむら「(……にしても量が多い。しかも計算スペースが狭い)」
ほむら「(……これでまだ半分!? まあいいわ。どうせベクトルは計算だけだし、後にしましょう)」
ほむら「(次は、第一問ね……)」
ほむら「(さて、三角関数……やっぱり見た目多いわね)」
ほむら「(ん?sinθが? ん?)」
ほむら「(ああ、そういうことね。+Π/2とかごちゃごちゃ変形して……)」
ほむら「(え、範囲? 面倒くさすぎるわよ!)」
ほむら「(無視して数列。これは解きやすい……のかしら。テンパってて分からないわ)」
ほむら「(この答えは合ってるの間違ってるの?)」
ほむら「(やばい、すごく焦っている……)」
ほむら「(数列は一応終わったの? 自信ないわ……)」
ほむら「(じゃあ、ベクトル……)」
ほむら「(だから計算が面倒すぎるのよ!)」
ほむら「(あ、あと7分……)」
ほむら「(三角関数……そもそも分からないし)」
ほむら「(くっ……! どうして? 何度やっても……あいつ(数学)に勝てない……)」
ほむら「(また浪人?)」
ほむら「(はっ……。繰り返せば、それだけ就活は不利になる……。わたしのしてきたことは一体……)」
ほむら「ううっ……うっ……」ポロポロ
監督官「回答を終了してください」
ほむら「」ポカーン
ほむら「……帰りましょう」
ほむら「(しかしあれでは……60……いや、50代もありうる……)」
さやか「ほむら……」
ほむら「美樹さやか……」
さやか「ねえ、あたしのしてきたことって何だったの? この受験ってやる価値あるの?」
マミ「あ、二人とも……」
ほむら「その顔を見る限り、死んだみたいね……」
マミ「皆死ぬしかないじゃない!!」
ほむら「ちょっ、落ち着いて!」
河合塾「数2Bはやや難化した」
ほむら「『やや』って何なのよおおおお!!! 超難化でしょう!?」
ほむら「……でも冷静になってみれば、微積と数列は簡単だった……」
ほむら「冷静になっていたら、取れたのかしら……」
ほむら「……嘆いたって点数は変わらないわ。自己採点を始めましょう」
ほむら「手が震えてきたわ……」
ほむら「……58点。笑えない」
ほむら「1Aは……97。あ、でも合計150は越えたか……」
ほむら「生物、90。ドンピシャね」
ほむら「世界史が……結構ミスしたわね。……92。地理、81。意外と行けてるんじゃないかしら」
ほむら「国語162。英語が188……190は無理か。リスニングは40。まあそんなものね」
ほむら「……意外と2Bは響かなかった。足切り余裕だったわ」
ほむら「あら、メール」
『ほむらちゃん、センター試験お疲れ様! ほむらちゃんならきっといい結果を残せていると思います。
大丈夫、信じようよ。だって魔法少女はさ、夢と希望を叶えるんだから! あと一カ月、ガンバッテ!』
ほむら「……これでわたしが失敗してたらどうするつもりだったのかしら」
ほむら「いえ、わたしを信じてくれてるのね」
ほむら「まどか、わたし頑張るよ……」
マミ『他の科目で稼いでたから大丈夫だったみたい。さっきは取り乱してごめんなさいね』
さやか『化学100点だった! はい、志望下げまーす(笑)』
ほむら「化学100点って、何が起こったのよ……」
ほむら「まあ皆思ったより落ち込んでいなくて良かったわ」
ほむら「今日は……休みましょう」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
大学入試センター「君たちはいつもそうだね。国語や数学が爆死すると、決まって何やら喚きだす。わけがわからないよ」
大学入試センター「しかし志望校合格という希望からセンター失敗という絶望へ叩き落された時のエネルギーの相転移は相当なものだ」
大学入試センター「そのエネルギーを回収するのが僕たちの役目なんだ」
大学入試センター「だから僕に願書を出して、センター試験を受けてよ!」
終わり
ありがとうございました。
乙
Entry ⇒ 2012.01.16 | Category ⇒ まどかマギカSS | Comments (0) | Trackbacks (0)
櫻子「家出だ~家出してやる~!!」
http://hayabusa.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1326033358/
花子「なんでこんなことするの!」
櫻子「だ、だからゴメンって言ってるだろ!」
花子「なら私のプリン返してよ!」
櫻子「そ、それは……」
櫻子「それにあんなとこに置きっぱなしにしてる花子も悪いだろ」ボソッ
花子「……」プチン
花子「どうして私が悪いのよ!」
花子「悪いのはどう考えても櫻子だし!」
花子「櫻子が居ると勉強も集中できないし……」
花子「居るだけでうるさいし……」
花子「私のプリン勝手に食べるし……」ジロ
櫻子「な、何だよ……」ピクッ
花子「全部わざとやってるんでしょ!」
櫻子「なっ!」
櫻子「そんな言い方って無いだろ!」
撫子「まてまて」
撫子「さすがに今回は櫻子が悪いぞ」
撫子「お前も一応お姉ちゃんだろ」
撫子「少しぐらいは我慢しないと…」
櫻子「……」
櫻子「何だよ……」ボソ
櫻子「何だよ!!」
櫻子「そんなに私が邪魔なのかよ!!」
撫子「おい、そうは言ってないだろ……」
櫻子「うるさい!うるさい!」
櫻子「私が居るだけで迷惑なんだろ!」
櫻子「いいもん、そんなに邪魔なら出て行ってやるもん!!」バタンッ
撫子「……」
撫子「はぁ…」
撫子(まぁ行き先はだいたい検討がついてるけど……)
花子「もう櫻子なんて知らないし!!」プイッ
撫子[やれやれ……」
撫子「……」
撫子「……あ」
撫子「そういや今日の夕食の当番は櫻子だったっけ……」
向日葵「な・ん・で 私の家に転がり込むんですの?」
櫻子「え~いいじゃん別に~」
櫻子「わざわざ櫻子様が来てやったんだぞ~」
向日葵「相変わらず偉そうですわね……」
櫻子「当ったり前じゃ~ん!もうあんな家帰ってやらないもん!」
向日葵「当たり前って…あなた学校は……」
櫻子「なんだよ~」
櫻子「せっかくこの私が来てやったんだかr」グゥ~
向日葵「……」
櫻子「……」
櫻子「向日葵飯~!」
向日葵「はぁ……」ヤレヤレ
向日葵「分かりましたわ」
櫻子「あ、ステーキがいいな!」
向日葵「殴りますわよ?」
櫻子「じゃあ寿司」
向日葵「帰れ!」
向日葵「櫻子、食べ物を口に入れたまま喋るのはよくないですわよ」
櫻子「お前は私のお母さんか!」ガタッ
向日葵「あと食事中に急に立ち上がらない」
櫻子「ぐぬぬ……」
楓「櫻子おねえちゃん喧嘩して家出したの?」
櫻子「そうだよ、もう帰らないって決めたもん」
向日葵「そういうの良くないですわよ」
櫻子「知らない!もう決めたことだもん!」プイッ
向日葵「……」
櫻子「ふ~んだ!」
向日葵「……でも櫻子」
向日葵「学校はどうするんですの?」
向日葵「ご飯は?」
櫻子「ここで食べる」
向日葵「寝るときは……」
櫻子「ここ」
向日葵「……」
櫻子「もちろん!」
向日葵「はぁ……」
櫻子「……」キョロキョロ
櫻子「ところで向日葵の親は?」
向日葵「居ませんわよ」
櫻子「もしかして家出…」
向日葵「違いますわよ!」
向日葵「旅行ですわよ、旅行」
向日葵「久しぶりに休みが取れたみたいですから」
向日葵「どうせなら両親二人水入らずで行ってもらおうと思いまして」
櫻子「へぇ~」
櫻子「なんだ~寂しいならそう言えばいいのに~」
櫻子「まったく向日葵は恥ずかしがりやだな」
向日葵「なんでそうなるんですの…」ジト
櫻子「そうだろそうだろ」
櫻子「楓はお姉ちゃんと違って素直だなぁ~」ナデナデ
向日葵「いきなり上がり込んどいてよく言いますわ」
櫻子「ふぅ~」
櫻子「ごちそうさま~」
向日葵「後片付けぐらい手伝ってもらいますわよ」
櫻子「わ、わかったよ」
向日葵「楓は先にお風呂はいっちゃいなさい」
楓「うん、わかった」
向日葵「櫻子は次に入ってもらいますわ」
櫻子「へ~い」
向日葵「ふぅ…いいお湯でしたわ」
櫻子「……」
向日葵「櫻子?」
櫻子「し~~」
楓「……」スヤスヤ
櫻子「うん」
向日葵「珍しく気が利きますわね」
櫻子「むっ」
櫻子「私はいつも気が利いてるよ」
向日葵「よく言いますわ」
櫻子「……」ナデナデ
櫻子「ほんとに楓はいい子だな~」
櫻子「それに比べてうちの妹なんかさ~」
櫻子「……」
向日葵「櫻子……」
櫻子「……」
櫻子「……あ~もう疲れた」
櫻子「私も寝る!!」
楓「うぅん……」ゴロ
櫻子「おっと……」
櫻子「私も寝る」ボソ
向日葵「言い直さなくていいですわよ……」
向日葵「……」
櫻子「……」
櫻子「ねぇ……向日葵」
向日葵「……まだ起きてましたの?」
櫻子「……」
櫻子「ずっとここにいていい?」
櫻子「だって帰りたくないもん」
櫻子「向日葵の家以外行く所ないし…」
向日葵「櫻子……」
櫻子「……」
櫻子「……」
櫻子「ひ、向日葵ぃ……」
向日葵「ぅ……///」ドキ
向日葵「わ///わたくしは櫻子と違って懐が深いんですわよ」
櫻子「……」
櫻子「なにー!」グイグイ
櫻子「このオッパイ魔人~!」グイグイ
向日葵「ちょ、ちょっといい加減にしてくださる!」
櫻子「知らん!」プイ
櫻子「寝る!」ゴロン
向日葵「……」
向日葵「はぁ…」ヤレヤレ
櫻子「……」グス
向日葵「…………ん…」
櫻子「……」エグッ
向日葵「…………」
櫻子「うぅぅ……」グス
向日葵(……櫻子…?)
櫻子「っ……」グス
櫻子「なんで……」ポロポロ
櫻子「花子のバカァ……」ポロポロ
向日葵(……)
チュンチュン
向日葵「ん……」
向日葵「うぅん……」
向日葵「ふわぁ~……」
向日葵「……」ボー
向日葵「!?……」ビクッ
向日葵「……」
向日葵「……ああ、そうでしたわね」
向日葵「…」
向日葵「さてと……」
向日葵「色々準備しないと」
櫻子「Zzz……」スースー
向日葵「櫻子」
櫻子「……」ムニャムニャ
櫻子「……」スースー
向日葵「さ~く~ら~こ~」ユサユサ
櫻子「ん~……あと十分~……」ムニャ
向日葵「……」スゥー
向日葵「起きなさい!!櫻子!!」
櫻子「…………ん」
櫻子「…うぅん~……」ムクリ
櫻子「…うるさいなぁ~……」ゴシゴシ
向日葵「おはよう櫻子」
櫻子「……」
櫻子「へ?……」
向日葵「……」
櫻子「なっ……」
櫻子「なんで向日葵が私の家にいるんだよ!!」
向日葵「そう言うと思ってましたわ」
向日葵「おはよう楓」
櫻子「おはよう楓~!」
楓「櫻子お姉ちゃんも……おはよう…」
櫻子「楓は早起きだなぁ」
向日葵「ほんとですわ、どこかの誰かと違って」チラ
櫻子「私のことかー!!」
櫻子「へ?」
櫻子「これ……」
向日葵「朝ごはん」
向日葵「作ったんですわ」
向日葵「それとお弁当も作っておきましたわよ」
櫻子「え……?」
向日葵「昼に何も食べないわけにはいかないでしょ」
櫻子「……」
原作知らんけど描写あんの
弁当の日と給食の日があるらしい
櫻子「え、えっと…///」
櫻子「……」
櫻子「そんなに言うなら食べてやらないこともない」フンス
向日葵「はぁ~この子は素直にありがとうも言えないんですの……」
櫻子「……」モグモグ
櫻子「うまい!」
向日葵「まぁ…いいですわ」フフ
櫻子「あ~眠い~」
向日葵「家を出た時間はいつもと同じでしょう?」
櫻子「ぜんぜん違う~」
櫻子「私はもっとギリギリまで寝たかったのに~」
櫻子「向日葵が無理やり起こすから……」ボソ
櫻子「なんだとー!」
向日葵「そうだ……」
向日葵「ちょうどいいですわ」
向日葵「この機会にあなたの生活習慣でも正してしまいましょうか」
櫻子「うぅぅぅ」
櫻子「嫌だぁぁ~!!」ピューン
向日葵「ちょ、ちょっと待ちなさい櫻子」
櫻子「オッパイ大魔王に捕まったら私の自由が奪われる~」ダダダ
向日葵「」カチン
向日葵「待ちなさい!櫻子ぉ!!!」ダッ
櫻子「あ~お腹減った」
向日葵「寝てばっかりだったのによく言いますわ」ゴソゴソ
櫻子「な、なんだよ減るもんは減るんだもん」
櫻子「それに向日葵が私のとこ追っかけ回すから疲れたんだよ~」
向日葵「逃げるあなたが悪いんですわ」コトン
櫻子「~♪」コトン
あかり「あれ~?櫻子ちゃんと向日葵ちゃんのお弁当お揃いだね」
向日葵「ああ、それは…」
ちなつ「お泊りでもしたの?」
櫻子「家出した!」
櫻子「うんうん」
ちなつ「……」
あかり「……」
あかり・ちなつ「え……?」
あかり・ちなつ『家出ぇぇぇ~!!!?』
ちなつ「櫻子ちゃん……な、なんで家出なんか……」
櫻子「えっとね~」
カクカク シカジカ
櫻子「……で今向日葵の家にいるの」
向日葵「そういうわけですわ」
櫻子「本当は嫌だったけど」パクパク
櫻子「向日葵がどうしてもって言うから……」モグモグ
向日葵「そんなこと言った覚えはないんですけど……」
ちなつ「でもやっぱり帰ったほうがいいんじゃない?」
あかり「そうだよケンカはよくないよ」
あかり「きっと今頃櫻子ちゃんのこと心配してると思うよ」
櫻子「……」
櫻子「ふ、ふ~んだ!」
櫻子「心配なんかしてるわけ無いよ」
あかり「櫻子ちゃん…」
向日葵「櫻子…」
櫻子「な、なんだよ!」
向日葵「櫻子!」
櫻子「ふん!何て言われようが絶対に私は帰らないもん!」
櫻子「……え」
櫻子「……」プルプル
櫻子「だからお前は私のお母さんか!!」ガタッ
向日葵「櫻子」ジロ
櫻子「ぐぬぬ」
あかり「あはは……」
京子・結衣『家出えぇぇぇ!!?』
櫻子「そうなんです」
結衣「またずいぶんと思い切ったことをしたな」
あかり「ほんとだよぉ」
ちなつ「私達も初め聞いたときは驚きましたよ」
京子「ちっぱいちゃんが家出かぁ~」
京子「うんうん、反抗期してるね~」
櫻子「いや~そんな~」テレッ
結衣「いや褒めてない褒めてない」
あかり「仲直りしたほうが……」
櫻子「私は悪くないもん…」
櫻子「ちゃんと謝ったのにクドクド言ってきた花子が悪いんだもん!」
櫻子「それにもう決めたことだし!」
櫻子「ぜえぇぇーーーーったい!!帰らない!!」
結衣「これは予想以上に深刻だな……」
京子「で、今はおっぱいちゃんの所にお世話になってると」
櫻子「そうなんですよ~」
京子「……と言うことは」
京子「同棲ってわけか~」
櫻子「な!///……ち、違いますよ!」
結衣「お前はオッサンか」ベシッ
京子「イテッ」
櫻子「本当は嫌だったけど」
櫻子「向日葵がどうしてもって言うから……」
向日葵「誰が『どうしても』ですって?」
櫻子「ぇ……?」チラ
向日葵「さ~く~ら~こ~!!」
櫻子「げっ!、向日葵」
向日葵「何仕事サボってるんですの!」
向日葵「あなたに仕事を任せたというのに……」
向日葵「それなのにあなたは何をやってるんですの!」
櫻子「え、え~と……ほら少し気分転換してただけ……」
向日葵「問答無用ですわ!!」ガシッ
櫻子「ぐぇ」
向日葵「ほら行きますわよ櫻子!」ズリズリ
櫻子「うわ~ん~!離せひまわり~!」バタバタ
結衣・あかり・ちなつ「」ポカーン
京子「アレは完全に尻に敷かれちゃってるね~」
ちなつ「いやそれ違うと思います…」
京子「……」ジー
結衣「何だよ」
結衣「やめろバカ」
ちなつ「えぇー!京子先輩だけズルイです!」
ちなつ「結衣先輩のためなら私も家出します!」
結衣「ちなつちゃんそれは色々おかしいよ」
結衣「と言うかそもそも家出なんかしちゃ……」
あかり「じゃああかりも家出しようかなぁ…なんて」
京子・結衣・ちなつ「それはないな」
あかり「ええ~そんなぁ~」ガーン
確かに家出する光景が思い浮かばない
向日葵「それじゃあわたくしはこれで…」
綾乃「ええ、わかったわ」
千歳「あとのことはうちらに任しとき」
りせ「……」
向日葵「さっきみたいにサボるんじゃないですわよ」
櫻子「む~」
向日葵「い・い・で・す・わ・ね!」ジロ
櫻子「わ、わかってるって~」
綾乃「また明日、古谷さん」
千歳「気いつけてや~」
りせ「……」
櫻子「ちぇ…」
綾乃「それで大室さん」
櫻子「なんですか?」
綾乃「古谷さんから聞いたわよ、家出したんだってね」
櫻子「う…」ギクッ
千歳「うちもそう思うで、きっと家の人も心配してるんちゃう?」
櫻子「先輩達まで…」
櫻子「……」
櫻子「どうせ心配なんかしてないよ……」ボソ
綾乃「わかったわ、ならこの話は終わり」
櫻子「杉浦先輩……」
綾乃「先に仕事を片付けちゃいましょ」
千歳「大室さんの分もやらないかんし」
綾乃「今日は大谷さんの分までキッチリ働くわよ!」
千歳「せやな~」
綾乃「それでいいわね?大室さん」
櫻子「わかりました」
夕方 向日葵宅
櫻子「た~だいま~!」
楓「おかえりなさい櫻子お姉ちゃん」
櫻子「おうおうただいま楓」
向日葵「あら櫻子遅かったですわね」
向日葵「はいはいご苦労様」
櫻子「む~もっと労わってくれたって……」グゥ~
櫻子「……」
櫻子「おなかへった!」
楓「……」
向日葵「あら、どうしましたの楓?」
楓「えっとね」
楓「お姉ちゃんと櫻子お姉ちゃん夫婦みたい」
櫻子・向日葵「なっ///」
櫻子「そ///そうだぞ//////なんで私がコイツなんかと!」
楓「?」
楓「でもそういう風だったよ」
櫻子「ち///違うもん!」
向日葵「い///いいから楓は向こうで待ってなさい」
楓「は~い」トテトテ
向日葵「……」
櫻子「た///ただいま……」プイ
向日葵「お///おかえりなさい……」
向日葵「ば///晩御飯できてますわ…よ……」
櫻子「うん……あ、ありがと///」
楓「……」ジー
櫻子・向日葵「か///楓!!」
撫子「櫻子今日も帰ってこなかったな」
花子「……」
撫子「少し言い過ぎたんじゃないのか?」
花子「……」
花子「知らないし……」
撫子「……」
撫子「やれやれ……」
撫子「しばらくは私が夕食の当番かな……」
櫻子「も~この問題難しい~」
櫻子「向日葵の見せてよ」
向日葵「自分で考えなさい」
櫻子「ちぇ~ケチ」
櫻子「だからおっぱいでかいんだよ…」ボソ
櫻子「だ、だって本当に解んないんだもん」
向日葵「はぁ……だったら」
向日葵「ヒントぐらい教えて差し上げますから」
向日葵「もう少しがんばってみなさい」
櫻子「う~わかったよぉ~」
櫻子「」プシュ~
向日葵「でここがこうなっ……櫻子?」
櫻子「……」
櫻子「……」スースー
向日葵「もう、仕方ありませんわね」
櫻子「ん~……」
櫻子「ふわぁ~……」
櫻子「……」ボー
向日葵「行きますわよ」グイ
櫻子「……」スースー
向日葵「……」
向日葵「……まったくこの子は……」
櫻子「……」コロン
櫻子「ん~…向日葵……」ギュッ
向日葵「ちょちょちょ、ちょっと///さ///櫻子!」
櫻子「ん~……」グガー
向日葵「」
向日葵(な、な、なんなんですのこの状況~///!!!)
櫻子「花子の……バヵ……」
櫻子「……」グス
櫻子「……」スースー
向日葵「櫻子……」
向日葵「……」
チュンチュン
向日葵「……」
向日葵「…………ん」
向日葵「あまり…眠れませんでしたわ……」チラ
7:40
向日葵「」
向日葵「……」
向日葵「…………櫻子?」キョロキョロ
櫻子「お~起きた起きた」
向日葵「櫻子……何やってるんですの?」
櫻子「見て分からない?」
櫻子「あと弁当」
向日葵「櫻子……」
櫻子「どうだぁ~楓、私の作った朝ごはんは~?」
楓「お、おいしいよ」
櫻子「……」
楓「だから元気だして!」
櫻子「ありがとよ」ウウ…
向日葵「……」
櫻子「ほら、向日葵もはやくしないと遅刻するよ」
向日葵「え?……ええ、そうですわね」
櫻子「ふんふ~ん♪」
向日葵「それにしても」
向日葵「驚きましたわ、櫻子がここまでするなんて」
櫻子「なんだよ~私だってやるときはやるよ!」
櫻子「それに『せいかつしゅーかん』がどうこう言ってたのは向日葵だろ~」
櫻子「どうだ少しは見直しただろ!」フフン
向日葵「ええ、少しだけ……ですわ」
櫻子「なにを~!」ガバ
向日葵「な、何ですの~!!」
櫻子「う~つかれた~」
あかり「……」
あかり「櫻子ちゃん…まだ仲直りしてないの?」
櫻子「……」
櫻子「だって花子が悪いんだもん……」プイ
ちなつ「ねぇ櫻子ちゃん今日もごらく部来ない?」
櫻子「え、いいの?行く行く~」
あかり「ちなつちゃん……」
向日葵「……」
京子「お~今日も来ましたかちっぱいちゃん」
櫻子「京子先輩結衣先輩こんにちわ~」
結衣「いらっしゃい」
京子「最近ちっぱいちゃんがよく来てくれるから退屈しなくていいよ~」
櫻子「ですよね!」
京子「…でまだ絶賛家出中なのかい?」
櫻子「」ギク
櫻子「そ、そうですね~」
京子「うんうん、反抗期してるねぇ~」
京子「あれ?そうだっけ」
京子「いやぁ~まいったなぁ~」
結衣「お前は」
あかり「……」
あかり「あかりやっぱりケンカしたままはダメだと思うの」
櫻子「あかりちゃんには関係ないだろ!」
結衣「……」
結衣「大室さんやっぱり自分の家に帰ったほうがいいよ」
結衣「やっぱり心配かけたままなのは良くないと思うんだ」
ちなつ「結衣先輩の言うとおりです」
ちなつ「このまま心配かけ続けるよりちゃちゃっと仲直りしたほうがいいよ」
櫻子「……」プルプル
櫻子「みんな花子に謝れって言うの!?」
櫻子「花子が悪いんだよ!なんで私が謝らなきゃいけないんだよ!!」
櫻子「私はぜ~ったいに謝らないよ!!」
櫻子「……」ダッ
あかり「櫻子ちゃん!」
綾乃「待ちなさい大室さん」
櫻子「……」ピタッ
櫻子「……杉浦…先輩」
綾乃「大室さんもう意地を張るのはやめなさい」
綾乃「そうやって逃げ続けてもなにも解決しないわよ」
櫻子「千歳先輩まで……」
綾乃「あなたがそうやってつまらない意地張っててどうするの」
綾乃「そんな人には時期生徒会副会長は任せられないわね」
櫻子「……っ!」
櫻子「なにさなにさ!」
櫻子「みんなも私だけがが悪いって言うのかよ!」
綾乃「そうは言ってないわ」
綾乃「ちゃんと自分と向き合いなさいって言ってるの」
櫻子「……」
櫻子「知らない……」
ちなつ「櫻子ちゃん!」
綾乃「……」
千歳「…綾乃ちゃん……」
綾乃「大丈夫よ千歳……大室さんならきっと分かってくれるわ」
あかり「……」
あかり「櫻子ちゃん……」
結衣「おい、どこいくんだよ」
京子「ちょっとトイレ~」テクテク
結衣「おい……」
結衣「まったくアイツは…」
櫻子「……」グス
櫻子「なんで…」
櫻子「なんで…私ばっか……攻められるんだよ」ポロポロ
櫻子「全部私が悪いのかよ……」ポロポロ
櫻子「ううぅ……」ポロポロ
向日葵「櫻子……」
櫻子「っ……」ビクッ
櫻子「……」ゴシゴシ
櫻子「な、何だよ向日葵」
櫻子「そんなわけないだろ」
向日葵「でも昨日も一昨日も花子ちゃんの名前呼んで泣いてましたわよ」
櫻子「……っ!」
櫻子「し、知らねーし!」
櫻子「なんで私が泣くんだよ!」
櫻子「大体悪いのは花子だろっ!!」
櫻子「なのにみんなよってたかって私が悪いって決め付けて!」
櫻子「酷いよっ…!」
櫻子「みんな……みんな嫌いだ!!!」
櫻子「」バチンッ
向日葵「嘘をついてるのはあなたじゃなくて?」
向日葵「自分自身に」
櫻子「な、なんだよ……」
櫻子「向日葵も私が悪いって言うのかよ!!」
櫻子「なんで……なんで」
櫻子「向日葵のことは信じてたのに…」グス
櫻子「信じてたのに!!!」
櫻子「向日葵の裏切り者!」
向日葵「櫻子!!」
櫻子「っ!」ビクッ
向日葵「……」ギュ
櫻子「ひ、向日葵…?」
向日葵「わたくしは……」
向日葵「わたくしはいつでも櫻子の味方ですわよ」
櫻子「……」
櫻子「……」グス
櫻子「ひまわぁりぃ……」ポロポロ
櫻子「うぅぅ……エグッ…グスッ」ポロポロ
櫻子「うわぁぁぁぁぁぁぁん!!!」ポロポロ
向日葵「……」ギュ
向日葵「はぁ……」
向日葵「まったく世話が焼ける子ですわね」
夕方 放課後 教室
櫻子「……」
向日葵「……」
櫻子「……わたし」
櫻子「わたし……帰りたい」
向日葵「櫻子……」
櫻子「花子相手にカッとなりすぎた……」
櫻子「……」
櫻子「私帰って花子に謝りたい……」
向日葵「そう…」
向日葵「櫻子がそう決めたのなら止めませんわ」
向日葵「行ってらっしゃい」
櫻子「……うん!」
櫻子「私行ってくるよ!」ダッ
向日葵「ええ」
櫻子「あ……」ピタッ
櫻子「向日葵!」
向日葵「どうしたんですの櫻子?」
櫻子「……」スゥー
櫻子「あーりーがーとーうー!!」
向日葵「櫻子……」
櫻子「向日葵と一緒に居たいってのは嘘じゃないからー!!」
櫻子「私ね…」
櫻子「私向日葵のこと大好きだよー!!」ニコ
向日葵「!」
櫻子「じゃ……行って来る!!」ダッ
向日葵「ほんと……」
向日葵「ほんとに世話が焼ける子ですわ」クス
櫻子「急げ~!」ダダダッ
京子「ふ、ふ、ふ」
京子「待ちなちっぱいちゃん」バン
櫻子「きょ……京子先輩!?」
京子「手を出してごらん」
櫻子「へ……?」
櫻子「……」サッ
京子「これを持っていくといい」ポト
櫻子「……」
櫻子「プリン?」
京子「きっとちっぱいちゃんの役に立つだろう」フッ
櫻子「ありがとうございます!京子先輩」ペコ
京子「うんうん、くるしゅうないぞ」
櫻子「……」ダッ
京子「……」
結衣「ほんと相変わらずだなお前…」ヒョコッ
京子「やっぱ結衣は気づいてたか~」
結衣「いや…まあ長い付き合いだし」
結衣「それにお前が一番人の気持ちに敏感だもんな」
京子「歳納京子ちゃんはデリケートですから!」ペカ
結衣「はいはい」
結衣「ところであのプリンどうしたんだ?」
京子「ああ、それは…」
ガタン!ガタン!
『どこに行ったの~!!!歳納京子ぉぉぉ~!!!』
『今回という今回は許さないんだから~!!!!!』
京子「なっ!」ニコ
結衣「『なっ!』じゃねーよ」
櫻子「はぁはぁ…」
櫻子「つ、着いた……」ゼェゼェ
櫻子「……」
櫻子「ただいま~!!」ガラッ
櫻子「は~な~こ~!」
花子「櫻子?」
櫻子「おお、見つけた!」
花子「……」プイ
花子「……何しにき…」
櫻子「ごめん!!!」
櫻子「ごめん花子!ねーちゃんが悪かった!!」
櫻子「あとコレ」ゴソゴソ
花子「ぁ……プリン」
櫻子「花子ほんっとうゴメン!!」
花子「……」
撫子「花子…」
花子「……」
花子「……えっと」
花子「わ、私も言いすぎたかも……ゴメン」ボソ
撫子「なんだって花子?」
花子「ぅぅ///」
花子「あ~もう!」
花子「ゴメン!!」
櫻子「花子……」
花子「櫻子」
花子「おかえり櫻子………お姉ちゃん」ニコ
櫻子「うん、ただいま花子!」ニコ
撫子「いや~よかったよかった櫻子が帰ってきてくれて」
撫子「……と言うわけで」
撫子「食事当番サボったぶんはキッチリ働いてもらうからな」
櫻子「え?」
撫子「お前がいない間私と花子でやったんだぞ」
櫻子「えぇぇーー!!!!!」
花子「まぁ少しは手伝ってやらないこともないよ」
花子「私にだって原因はあったんだし」
櫻子「花子ぉぉ…」ウルウル
花子「ところでさ……」
花子「このプリン『杉浦綾乃』って書いてあるんだけど……」
櫻子「…………へ?」
櫻子「だから嫌味かぁ~!!」バインバイン
向日葵「な///なにするんですの櫻子!」
櫻子「あかりちゃんとちなつちゃんも何か言ってやってよ!」
ちなつ「え~」
あかり「え、えっと~……」
櫻子「うるせ~!見せ付けてるんじゃね~!!」ボインボイン
向日葵「きゃっ」
向日葵「さ~く~ら~こ~!」イライラ
櫻子「バーカバーカ!おっぱい魔人」ダッ
向日葵「待ちなさいっ!」ダッ
あかり「またもとに戻っちゃったね」エヘヘ
櫻子「やーいやーいオッパイ大魔王!」
向日葵「櫻子ぉ!!」ダッ
櫻子「へっへ~んだ」
おわり
Entry ⇒ 2012.01.15 | Category ⇒ ゆるゆりSS | Comments (0) | Trackbacks (0)
あかり「・・・意気地なし」結衣「!?」
http://hayabusa.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1326545912/
■繁華街歩道■
あかり「ほらぁ、早くしないと遅れちゃうよぅ」
結衣「大丈夫だって、それより手を引っ張るな!」
あかり「だって結衣ちゃん、遅いんだもん!」
わたしはこのコが嫌いだ
控えめのようでいて人を振り回すし
こうやって、すぐ人にふれてくる
あかり「ぜぇぜぇ、あのまま・・・ぜぇぜぇ、歩いてたら」
結衣「わかったから、息整えなよ」
あかり「はひ・・・ぜぇぜぇ」
わたしはこのコが嫌いだ
自分の体力も分かってないくらいトロいし
なにより
わたしの想いに気付いてないから嫌いだ
あかり「やっと落ち着いたぁ」
結衣「十分時間みてるから、問題ないって言ったじゃん」
まったく
あかりを慌てさせないために、余裕もって出てきたっていうのに
あかり「だって映画の前にお茶したかったんだもん」
結衣「はいはい、アイスティでいいんだよね」
あかり「うん、シロップ2つね」
結衣「わかってるって」
あかり「だから結衣ちゃん好き♪」
くぅ
無神経にそゆこと言う、あかりは嫌いだ
あかり「わ~い♪」
結衣「ほい、シロップ2つ」
あかり「結衣ちゃんはなんにしたの?」
結衣「わたしはカフェオレ」
ほんとは同じのにしようと思ったけど、やめた
すっごくバカみたい、わたし
あかり「わ!ちょっと飲ませて!」
な、なに言ってんのあかり
間接キスになっちゃうじゃん!
結衣「や、やだよ、自分の飲みなよ」
あかり「え~?ケチぃ」
そうだよ
ケチとかいう問題じゃないよ
ドキドキするじゃんか
あかり「ええええ?あかりには飲ませたくないってこと?」
わ、話題変えないと
持たない
結衣「あかりはちょっと猫舌なんだよね、大変だな」
あかり「うん、熱いのどうしても遅くなっちゃう」
結衣「わたしとの時は、ゆっくり飲めばいいよ」
わたしとの時って、ちょっと強調しちゃった
あかり「じゃ、そのカフェオレ飲まして♪」
まだ言うかっ
結衣「それとこれとは話が別!」
結衣「ふ~んだじゃないよ、氷解けちゃうよ?」
わたし、顔赤くなってないかな
あかり「そういえば、映画館も久しぶりだね~」
結衣「あんまり面白そうなの、やってなかったしね」
なんてウソ
意識しすぎて誘えなかったんだ
一人で映画観るの、意外に切なかった
あかりはどうなのかな
誰かと来てたりしないよね
あかり「この映画は絶対観たかったんだ」
聞いてみようかな
結衣「相手がわたしで良かったの?」
あかり「え?」
そうだよ
普通はそうなんだよ
あかり「そんなことないよ、結衣ちゃんと観たかったんだもん」
ちくしょう
優しいけど、友達としてだよね
当たり前なんだけど
だけどさ
結衣「え~?寂しいな、それ」
なんだろ
なんでわたし、こんな自虐的になってんの?
あかり「あ、そろそろ行こっか、10分前から入れるよ」
結衣「そ、そうだね」
情けない
あかりの手
どうしても意識する
いきなり握ってみようかな
もしかして、握り返してくれるかも
いや
そんなことないよね
気持ち悪がられるだけ
あかりに気持ち悪いとか言われたら
わたし、どうなっちゃう?
でも
でもさ、近付けてさわるくらいなら
だって手を繋いできたんだし
そうだよ
全然問題ないじゃない
ぴとっ
結衣「!?」
あ、反射的に謝っちゃった
さわる前に手を引っ込めちゃうって
心のどっかで思ってたのに
不意打ちだよ、こんなの
あかり「こ、こっちこそ」
どう思ったかな
あかりは、どう思ったかな
結衣「気持ち悪いよね、はは」
あかり「気持ち・・・悪い」
!?
そうだよね
そうなんだろうけどさ
あれ?
いまあかりの声だった?
もしかして聞き間違いかも
そんな訳・・・ないか
結衣「ほ、ほんとにごめん」
もう消えたい
あかり「・・・・・・」
あかり、さっきから黙ったままだ
うぅ
この沈黙には耐えられないよ
結衣「どうした?気分でも悪くなった?」
あかり「そ、そんなことないよ、あはは」
無理してる
謝らなきゃ
さっきのこと、謝って許してもらわなきゃ
結衣「あの、さっきのことだけどさ」
あかり「ごめん結衣ちゃん、やっぱり調子悪いみたい」
あかり「先に帰るね!」
結衣「あ!」
やだよ
行かないでよ、あかり
そんな顔したままいなくならないでよ
でも、でもさ
わたしの足、言うこと聞いてくれないや
プルルルルル
頼む、あかり出て
あかり『はい、もしもし』
良かった、出てくれた
結衣「あ、あかり」
あかり『・・・結衣ちゃん』
結衣「その、大丈夫だった?」
あかり『うん、心配かけてごめんね』
結衣「そ、そっか」
あかり『・・・・・・』
結衣「あの、さ」
だめだ
言葉が出て来ない
結衣「な、なに?」
あかり『もう遅いから、また明日』
結衣「そうだね、おやすみ、はは」
あかり『・・・意気地なし』
!?
見抜かれてる
わたしが臆病で、謝りも出来ないのが
見抜かれちゃってる
もう
だめだ
明日、どうやってあかりと顔を合わせればいいのか
わからない
終わっちゃった
こんなことで終わっちゃうこともあるんだね
こんなちっぽけなことで
結衣「こうしてわたしの恋は終わりました・・・か」
わたしは枕に顔を押し付けて
泣いた
■繁華街歩道■
あかり「ほらぁ、早くしないと遅れちゃうよぅ」
結衣「大丈夫だって、それより手を引っ張るな!」
あかり「だって結衣ちゃん、遅いんだもん!」
わたしは今日、浮かれてた
結衣ちゃんと久しぶりの映画
学校でも一緒にいられるけど、こういうのは特別
わたしの中ではデートだったから
もちろん、結衣ちゃんは知らない
わたしのこんな気持ち
あかり「ぜぇぜぇ、あのまま・・・ぜぇぜぇ、歩いてたら」
結衣「わかったから、息整えなよ」
あかり「はひ・・・ぜぇぜぇ」
失敗しちゃった
手を繋げて、テンション上がっちゃったよぅ
結衣ちゃん呆れてないかな
うぅ
あかり「やっと落ち着いたぁ」
結衣「十分時間みてるから、問題ないって言ったじゃん」
あかり「だって映画の前にお茶したかったんだもん」
だって
その方がデートらしいもん
結衣「はいはい、アイスティでいいんだよね」
あかり「うん、シロップ2つね」
結衣「わかってるって」
わかってるって、なんかいいよね
だから言っちゃおうかな
もう
言っちゃえ
あかり「だから結衣ちゃん好き♪」
あかり「わ~い♪」
結衣「ほい、シロップ2つ」
あかり「結衣ちゃんはなんにしたの?」
結衣「わたしはカフェオレ」
ちょっと試しに言ってみたりして
あかり「わ!ちょっと飲ませて!」
結衣「や、やだよ、自分の飲みなよ」
あはは
やっぱり無理だったよ
あかり「え~?ケチぃ」
あかり「ええええ?あかりには飲ませたくないってこと?」
ちょっとスネてみたりして
結衣「あかりはちょっと猫舌なんだよね、大変だな」
あれれ
話を反らされちゃった
あかり「うん、熱いのどうしても遅くなっちゃう」
結衣「わたしとの時は、ゆっくり飲めばいいよ」
じゃあ
遠慮なく話を戻しちゃえ
あかり「じゃ、そのカフェオレ飲まして♪」
結衣「それとこれとは話が別!」
ちぇ
結衣「ふ~んだじゃないよ、氷解けちゃうよ?」
あんまりしつこくしても、しょうがないよね
あかり「そういえば、映画館も久しぶりだね~」
前に結衣ちゃんと来て以来だから
いつだっけ
結衣「あんまり面白そうなの、やってなかったしね」
あかり「この映画は絶対観たかったんだ」
もちろん結衣ちゃんとだよ
結衣「相手がわたしで良かったの?」
あかり「え?」
なに?
なに言ってんの?結衣ちゃん
そ、それはそうなんだろうけど
いま言わないでよ
いまは結衣ちゃんとデートなんだよ?
あかり「そんなことないよ、結衣ちゃんと観たかったんだもん」
結衣「え~?寂しいな、それ」
寂しいなんて、なんで言うの?
やめてよ
どうしよう、話題変えなきゃ
そうだ
あかり「あ、そろそろ行こっか、10分前から入れるよ」
結衣「そ、そうだね」
結衣ちゃんの手
すっごく意識しちゃうよ
握ってくれないかな
ずっと結衣ちゃんの方に手を置いてるんだけどな
でも
彼氏とかじゃないもんね
無理だよね、あはは
だ、だけどさ
万が一ってあるじゃんね
もう少し
もう少しだけ、結衣ちゃんの方に伸ばしてみようかな
ぴとっ
あかり「!?」
え?
なんで謝るの?
やっぱりこういうの、変なことなの?
あかり「こ、こっちこそ」
結衣「気持ち悪いよね、はは」
!?
いま
いまなんて言ったの?
あかり「気持ち・・・悪い?」
結衣「ほ、ほんとにごめん」
お願いだから
何回も謝らないでよ
気持ち悪いなんて思わないでよぅ
あかり「・・・・・・」
どうしよう
気持ち悪いって思われてる
どうすればいいんだろう、うぅぅ
結衣「どうした?気分でも悪くなった?」
あかり「そ、そんなことないよ、あはは」
嫌われたくない
結衣ちゃんに嫌われたくないよ
結衣「あの、さっきのことだけどさ」
!!!
あかり「ごめん結衣ちゃん、やっぱり調子悪いみたい」
あかり「先に帰るね!」
逃げよう
いまは少しでも早く、逃げよう
でないと
泣き顔・・・見られ・・・ちゃうよ
あぁ
今日の朝は、あんな幸せな気持ちだったのにな
急降下しちゃったよ
プルルルルル
あ、電話
お姉ちゃん・・・はお風呂か
あかり「はい、もしもし」
結衣『あ、あかり』
!!!
あかり「・・・結衣ちゃん」
結衣『その、大丈夫だった?』
あかり「うん、心配かけてごめんね」
結衣『そ、そっか』
結衣『あの、さ』
どうしよう
言葉が出て来ない
なにか
あかり「結衣ちゃん」
結衣『な、なに?』
あぅ
涙が出てきた
声で泣いてるってわかっちゃう
また
気持ち悪がられちゃうよぅ
あかり「もう遅いから、また明日」
結衣『そうだね、おやすみ、はは』
逃げた
また逃げちゃった
あかり「わたしの意気地なし」
わたしは大声で泣いた
お風呂から出てきたお姉ちゃんの慌てぶりからすると
すっごい泣き方だったんだろうって思う
こうして
バカなわたしの初恋は終わった
■あかり自宅■
あかり「はぁ」
学校行くのがこんなに憂鬱になるなんて
思わなかったよ
さぼっちゃおうかな
さぼりなんてわたしのキャラじゃないけど
あはは
あかり「いってきます」
ガチャ
あかり「!?」
結衣「おはよう」
結衣「謝ってもらいに来た」
あかり「え?」
結衣「わたしは意気地なしなんかじゃないから」
結衣「いまから、それを証明する」
あかり「意気地無しって、え?」
結衣「いくら嫌われても、いくら気持ち悪く思われて言う」
あかり「な、なにを?」
あかり「!?」
結衣「たとえこれで避けられたって、口を聞いてくれなくなったって」
結衣「この気持ちは譲らないから」
あかり「・・・・・・」
結衣「・・・・・・」
あかり「・・・すごいね」
結衣「え?」
あかり「すごい勇気だよね、さすがわたしのおやびんだよ」
結衣「・・・あかり」
あかり「でもね」
結衣「な、なにぃぃぃぃぃ!?」
あかり「だから謝らないもん」
結衣「う・・・謝りなよ」
あかり「やだよ、逆にこっちが謝って欲しいくらいだもん」
結衣「なんでさ」
あかり「だって、わたしの言いたいこと、み~んな言われちゃったから」
結衣「は?それってどういう・・・」
あかり「さぁ結衣ちゃん、学校いこ♪」
結衣「待ってあかり、いまのどういう意味!?」
あかり「さぁ?」
結衣「ちょっと、あかりぃぃぃぃぃ!」 おしまい
あかり「どうだった、どうだった?この紙芝居!」
結衣「どうだったって」
結衣「長いよ、京子なんか寝ちゃってる」
京子「zzz」
あかり「ひどい!?」
ちなつ「あかりちゃんがヒロインぶってて、すっごくムカツク」ぼそぉ
あかり「ちょっとぉ!そゆことは心の中だけで言ってよぉ!」
ちなつ「ちっ」
あかり「舌うちまでっ!?」
あかり「京子ちゃん、紙芝居!あかり紙芝居やってたんだよ!?」
京子「あ~、そうだっけぇ・・・おやすみ」zzz
ちなつ「わたし口直しに飲み物買って来ます」
あかり「ちょっとぉぉぉ!」
がくっ
結衣「まぁまぁ、わたしはちゃんと見てたから」
あかり「うぅ、やっぱり優しいのは結衣ちゃんだけだよぉ」
あかり「ん?」
結衣「ずいぶん内容きわどいじゃない」
結衣「バラしちゃうかと思ってヒヤヒヤしたよ」
あかり「だって、最近さぁ」
結衣「わかったよ、映画連れてけってことだろ?」
あかり「ちゃんと手も繋いでね」
結衣「わかった、わかった」
あかり「えへへ、だから結衣ちゃん好き♪」
END
Entry ⇒ 2012.01.15 | Category ⇒ ゆるゆりSS | Comments (0) | Trackbacks (0)
上条「…おィ、なンで俺がいンだよ!」一方通行「不幸だああああ!」
http://hibari.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1309934727/
一方「」
これが限界だってミサカはミサカは弱音をあげてみたり
上条「あァ?なンだよ三下ァ?」
一方「なんでこうなったか心当たりないのか?」
上条「あるわけねェだろォが、あったらそいつとっとと絞めてンよ」
一方「いや、変わったのは精神だけで能力そのまんまだぞ」
上条「」
一方「ちょ、落ち着けって」
上条「てめェ!さッさと俺の体をかえしやがれェェェーー!!」
一方「ちょ、まてっ!ベクトr(殴
一方通行「これが俺……?」
一方通行「その強い意志を体現したかのように立っている黒い髪……」
一方通行「一見締まりがねェように見えて熱い想いを宿した瞳……」
一方通行「そして無駄のない筋肉に勲章のように残った無数の傷……」
一方通行「……間違いねェ。三下の肉体だ」
一方通行「……」
一方通行「か、かっこいい……」
一方通行「腹筋もカッチカチで鉄板みてェだ!」サワサワ
一方通行「はっ!」グッ
一方通行「よっ!」ググッ
一方通行「ふんっ!」グググッ
一方通行「す、すげェ……。さすが三下の肉体だぜ」
一方通行「おい、俺の筋肉。おい、俺の筋肉」
インデックス「何してんのとうま……」
一方通行「ばあああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!???????」
インデックス「『これが俺……?』辺りから」
一方通行「最初っからじゃねェか! 声ぐらいかけやがれ!」
インデックス「そんなことより学校はいいの? 遅刻しちゃうよ?」
一方通行「学校だァ? この俺が今更そンなとこ行って何になンだよ」
インデックス「『成績悪いから進級のために一日でも休めない』って言ってたの、とうまなんだよ」
一方通行「何!?」
一方通行(この状況がどういうことなのかはわかンねェが……そういう事情があるなら休む訳にはいかねェな)
一方通行「ちっ……行ってくンぜ」
インデックス「行ってらっしゃいなんだよー」
一方通行「杖なしで歩けるどころじゃねェ! スキップまで自由自在じゃねェか! さすが三下の(ry」
美琴「スキップで登校なんて……朝からずいぶんとご機嫌みたいね」
一方通行「あァ!? ……なンだ、超電磁砲かよ」
美琴「なんだとは何よ! ムカつくわね!」
一方通行「わりィがテメェの相手してる暇なンざコンマ一秒もねェンだよ。学校に遅刻しちまう」
美琴「……! そうやっていつまでも見下してられると思ってんじゃないわよ!」
ビリビリー
一方通行「はいはい反射反射ってぎゃああああああああああああああああああ!!!?????!」
美琴「え!?」
一方通行「ちっ……忘れてたぜ……この肉体は三下の……能力も……」
美琴「きゅ、救急車……」
一方通行「余計なマネすンじゃねェ!」バン!
美琴「ひ……!」ビクッ
一方通行「学校に行かなきゃなンねェンだよ……。病院なンぞで、寝てられっか……」ヨロヨロ
一方通行「……で、ここが三下の通ってる学校か。いかにもパンピーが通ってそうなしけたとこだなァ」
一方通行「ここがあいつのクラスか。どいつもこいつも頭悪そうな顔してやがる」
青髪ピアス「カミやーん! おっはよー!」バシッ
一方通行「いでっ!? テメェいきなり何しやがる! 死にたいンですかァ!?」
青髪「え? 普通に挨拶しただけやのに……。今日のカミやん怖いわぁ」
小萌「みなさーん、席についてくださーい。出席をとるですよー」
一方通行(! あのロリ、三下のセンセーだったのか!)
小萌「――上条当麻ちゃーん」
一方通行「……」
小萌「上条ちゃん?」
青髪ピアス「カミやん。呼んでるで」
一方通行「え? あ、はいィ!」
小萌「ふふ、元気いっぱいの返事で大変よろしいですよ」ニコッ
一方通行「!」キュン
土御門「はいだにゃー」
一方通行「!? うおおおおおおおおおお!!!??」ガタッ
小萌「か、上条ちゃんどうかしたんですか?」
一方通行「テ、テメェがなンでここに!?」
土御門「クラスメイトにそれは、ちょっと酷いんじゃないかにゃー」
一方通行(小テスト!? やべェ、三下の教科書なんて一つも読ンでねェぞ)
一方通行「……」
一方通行(……何だァこの問題。舐めてるンですかァ?)カキカキ
小萌「採点終わったです。上条ちゃん、なんと100点ですよ!」
青髪ピアス「!?」
土御門「!?」
一方通行「けっ、あれぐらいの問題なら当然だろォがよ」
青髪ピアス「カ、カミやん! この裏切り者ー!」
「すげーな」
「やればできるじゃん」
一方通行「お、おォ、まァな」
一方通行(こ、こういうのも悪くねェな……)
一方通行「……」
黄泉川「? 上条、私の顔に何かついてるのか?」
一方通行「な、なンでもねェよ」
黄泉川「そうか? まぁいいじゃん。今日はサッカーやるじゃんよ」
一方通行(サッカー? くだらねェ。球蹴って走ることの何が楽しいんですかァ?)
土御門「カミやん、パスだにゃー!」
一方通行「っしゃァ! 行くぜェーっ!」
青髪ピアス「なんやカミやん、楽しそうやなー」
一方通行「何慌ててンだ?」
青髪ピアス「何って……カミやんこそ何悠長にしてんねん! はよ購買行かな売り切れてまうで!?」
一方通行「購買? 売り切れ?」
「うおおおおおおおおおおお!!!」
「おばちゃん! カツサンドとホイップサンド!」
「テメェ割り込むんじゃねえ!」
一方通行「こ、これは一体……!?」
一方通行「何!?」
青髪ピアス「うおおおおおおおおおお!!!!!!」
一方通行「うおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」
一方通行「ぐ! いでっ! ちィッ、前に進めねェ!」
一方通行(! 人の波に一瞬隙間が!)
一方通行「そこだあああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!」
一方通行「お、おばちゃン。サンドイッチと焼きそばパン! あとチョココロネ!」
青髪ピアス「カミやん、見てたで。ナイスファイトや」グッ
一方通行「テメェら……毎日こンなことやってンのか……?」
青髪ピアス「? いつも参加しといて何ゆうてんの? 変なカミやん」
一方通行(パンピーの一日もなかなかハードなンだなァ……)
青髪ピアス「何ゆうてまんのん。むしろもっと広げるべき思いますよ。下は6歳、上は還暦まで」
土御門「還暦はさすがに引くにゃー。カミやんもなんか言ってやるぜよ」
一方通行「ン? あァそうだな。……中学生はな、ババァなンだよ」
青髪ピアス「……」
土御門「……」
一方通行「な、なンてな。冗談に決まってンだろ。本気にすンなよ」
「男子ー。でかい声で下ネタやめなさいよー」
「三バカ自重しろよ。男子って一括りにされちまったじゃねえかー」
「さようならー」
土御門「カミやん、またなー」
青髪ピアス「さいならー」
一方通行「お、おう。……ま……また、な」
一方通行「ちっ、最悪の一日だったぜ」
一方通行「簡単なことで褒められてうぜェ。体育は疲れてうぜェ。飯一つ買うのに苦労してうぜェ」
一方通行「おまけにクラスのやつらがうざくて仕方ねェしよォ!」
「ママー、あのお兄ちゃんスキップしてるー」
「こら、失礼でしょ」
一方通行「あー、早く元の生活に戻りてェわァ」
「……見つけたぞ」
一方通行「あァン!? ……!」
上条「見つけたぞ、俺……!」
一方通行「寂しいと死んじゃうウサギを彷彿とさせる真っ赤な目!」
一方通行「風に吹かれたらぽきんと折れちまいそうな貧相な体!」
一方通行「ま、間違いねェ……。俺だ……」
上条「正確には、一方通行の肉体を持った上条さんだ……」
一方通行「三下……? そうか、俺が三下の体になったンだから、三下が俺の体になっててもおかしくねェどころか
そっちのが自然だなァ」
一方通行「……俺とテメェが入れ替わってるってこと以外は何も」
上条「この現象はある装置の誤作動だ。人間の脳波を共有させる研究……それが人の精神を入れ替えるという結果を
起こした。俺とお前はたまたまそれに巻き込まれた」
一方通行「へェ……今朝から今の間にそこまでわかったのか。テメェそういうキャラだったか?」
上条「ミサカネットワークに手伝ってもらってな。既に装置も研究者も抑えてる。あとは俺とお前が解除装置に
かけられれば一件落着だ」
一方通行「……」
一方通行「……別に、戻ンなくてもいいンじゃねェか?」
上条「な! 何言ってんだお前!」
一方通行「そっちの方がテメェに得があると思うぜ? テメェの代わりに学校行ってやったけどな、あのレベルなら
学年一位の成績なンざ楽勝だ。テメェが単位だのなんだの気にする必要はなくなる」
上条「……」
一方通行「それにテメェの今のその肉体は、貧弱という唯一の欠点に目をつむれば、学園都市最強の肉体だぜ。
能力、使えんだろ?」
上条「……ああ」
テメェは存分に第一位の生活を……」
上条「……打ち止めはどうするんだ?」
一方通行「!」
上条「お前、あの子を傍で守ってやるんじゃねえのかよ」
一方通行「そ、それは……。……い、いいンだ。俺なンかが傍にいるより、テメェが傍にいた方が……」
上条「!?」
一方通行「その方が、あのガキも幸せに……」
上条「この馬鹿野郎っ!」
バキッ
上条「いてええええええええええええええええええええええ」
一方通行「だ、大丈夫か三下ァ!? 俺の脆弱な体で無理するから……」
俺はこの状況になってすぐにあの子に説明したんだ。俺は一方通行じゃないって。
そしたらこんな馬鹿話をあの子は信じてくれたんだよ」
『うん、あなたは一方通行じゃないね。ミサカにはわかるよ。だって、あの人とミサカはずっと一緒だったもん』
一方通行「!」
上条「その後はずっとお前の心配をしてたんだぞ。それなのにお前は……」
一方通行「お、俺は……。……くそ! いいじゃねェか! たまにはこンな生活したってよォ! 普通に学校行って、
普通に勉強して、普通に友だちがいて……。俺だって……」
上条「一方通行……」
一方通行「! ラ、打ち止め……」
打ち止め「やっと見つけた、ってミサカはミサカは寂しかったんだよ?」
一方通行「……」
打ち止め「大丈夫だよ。今日一日ちゃんとできたんでしょ? だったらきっと、今度はあなたのままで……」
一方通行「……三下じゃなく、俺のままで……」
打ち止め「帰ろう、一方通行」
一方通行「……あァ。そうすっか……」
青髪ピアス「カミやん、どうしたん? 自分の体抱きしめたりして……」
上条「いやぁ、やっぱり自分の体が一番だとつくづく思ってな」
青髪ピアス「え゛。カミやん、ナルシストなん? キモいわぁ……」
上条「違うわ! 色々と事情があるの! ……それにしても小萌先生遅いな。何やってんだ?」
青髪ピアス「あれ、カミやん知らんの? 今日、転入生が来るんやって」
小萌「はーい、みんな席に着くですよー。転入生を紹介するです。男の子ですよー。
おめでとう子猫ちゃんたち、残念でしたね野郎どもー」
上条「い!?」
土御門「な、なんでお前が……!?」
青髪ピアス「男の子って聞いてがっかりしたけど、なんやあれぐらい線が細ければ僕全然いけるわー」
「えー……初めまして。長点上機学園から来ました×××××だ……です。趣味は特にねェ……ありませンが、
リハビリがてらにサッカーを始めたいと思ってます。……よろしくお願いしやがれ……いや、お願いします」
おわり
続きを見終わるまで
Entry ⇒ 2012.01.15 | Category ⇒ 禁書目録SS | Comments (0) | Trackbacks (0)
千歳「ウチのな…ウチの本当の気持ちは……」
http://hayabusa.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1326352869/
綾乃「としのーきょーこに告白するわっ!」バッキン
千歳「な、なんやてぇ!?ずいぶん唐突やけど…綾乃ちゃん本気なん?」
綾乃「大マジジブラルタル海峡よ!私もいつまでもくすぶっていてはいけないって思ったの」
綾乃「そりゃあふられるのは怖いけど…だけど、もう決めたことなのよっ」
千歳「そっか~これは応援せなな…ウチもついていこっか?」
綾乃「ううん、一人で行くわ。ありがとね、千歳」
千歳「りょーかいや、したらここで上手く行くのを祈ってるわぁ」
千歳「それにしても二人がついに正式に恋人に…ああ~ええなぁ~」ダクダク
綾乃「ちょ、ちょっと千歳…あーっもう!いってくるわね!」ガラガラ
綾乃(ううっ…いつになく緊張するわ…よ、よぉーし!!)
綾乃「とっ、としのーきょーこぉー!」ガラッ
京子「おーう、綾乃のアイドル京子ちゃんだよー♪」
綾乃「ちょっ…!?つまんない軽口叩いてんじゃないわよ!///」
京子「えへーごめんごめん。それで今日はどしたのー?」
結衣「どうせ提出物でも忘れてんだろー?」
ちなつ「そうそう、京子先輩ったらだらしないんだから。ねー結衣先輩っ」
京子「なんだよぉー二人してぇ~」ブー
綾乃「そ、そうじゃなくって!」
京子「えぇー手伝いぃ?しょうがないなー…あかり、ちょっと代わりに行ってこいよ」
あかり「ふぇ!?なんであかりにこういう役ばっかr」
綾乃「ちがうの!!!!」
4人「!!?」ビクッ
綾乃「あ…だ、だからね?ととっとしのー…きょーこにお願いしたいっていうか…だからその……うぅ…」
京子「…わかったよ。そんなにこの私を必要とするならついて行ってやろうではないかーっ」
綾乃「あ…う、うんっ、ありがと…」
京子「いーっていーって!」ニッ
綾乃(うああぁあぁあ……///)
京子「それらしいのは見当たらないよ?」
綾乃「うん…あ、あのね…」
京子「?」
綾乃「その…手伝いっていうのは…嘘で…」
京子「なにぃー!?この歳納京子をだまくらかすたぁ一体どういう」
綾乃「きいてっ!!!」
京子「おぁ」
綾乃「でも、こんな所まで来てもらったのは、大事な話があって…」
京子「話……?」
綾乃「変に飾ると上手く言えなくなっちゃうかもしれないから、単刀直入に言うわね!!」
京子「う、うん…」
綾乃「わ、私ね!私…としのーきょーこが…ううん」
綾乃「京子が…あなたが…好きなのっ…」
綾乃「いつも屈託のない笑顔を見せてくれる…そんなあなたが好き……なの…」
京子「綾乃……そっか」
京子「綾乃の気持ち、すっげー嬉しいよ」
綾乃「……きょう」
京子「でも…その……ごめんな」
綾乃「っ……」
京子「私……さ。付き合ってる人がいるっていうか…」
結衣「おーい、京子ー綾乃ー」
京子「およ?結衣だ」
綾乃「船見さん…」
京子「ちょうどいいや、紹介しておこう」グイッ
結衣「わ!おい何す…」
京子「これが私の恋人の船見結衣ちゃんだ」
綾乃「な……」
綾乃「なんですってえええ~~~~っ!!?」
結衣「ああ、綾乃には言ってなかったっけ?といってもつい最近なんだけどさ」
綾乃「そ…そんな……仲がいいとは思っていたけどまさかそんなっ……」
結衣「…な、なんだよ」
京子「ああ、夕日に照らされた横顔がかっこかわいいぜユッピー…んーっ♪」チュッ
結衣「んむっ…!?」
綾乃「んなぁっ!?」
結衣「ぷぁ…ば、ばか、綾乃が見てるだろ…キョッピー///」
綾乃「な、なななななな……」
綾乃(なんなのコレはぁ~っ!?いきなりキスしてるしなんか恥ずかしいあだ名で呼び合ってるし~!!)
結衣「ふん…きょーうこぉ~」ガシッ
京子「うわぁっ!?」
結衣「そらっ」モゾ
京子「ひゃぁっ///」ピクン
綾乃「ちょぉおぉ!?///」
京子「だ、だって…あんっ、ダメだよゆいぃ……///」
綾乃「あ、ああぁ…ちょ…ふ、ふふふな、ふなふなふなっ…」
結衣の指が京子の濡れそぼった(以下アッカリーン)
しかし京子も負けじと結衣の(以下アッカリーン)
(\アッカリーン/\アッカリーン/\アッカリーン/\アッカリーン/)
綾乃(あ、あああ…ああぁああああぁぁ…なんなのよコレはぁ…)ヘタリ
綾乃(そう…ゆ…夢よ…こんなの……悪い夢…)
綾乃「う…ううう……っ」
二人「…?」
綾乃「うわああああああん!!こんなのいやああああぁああぁぁぁ~~……」ピュゥゥゥ
結衣「あ、綾乃……」
京子「足がひと昔前の漫画のように…」
綾乃(がんばって…ぐすっ…告白したのに…ふられただけじゃなく…このっ…この仕打ちはなんなのよぉ……!)
綾乃(ぐす…くっ…涙が…止まらない…ひっく…止まらないないナイアガラよお……)
ドンッ!
綾乃「きゃっ!ご、ごめんなさ……え、な、何これ?大きな……足?」
???「うにー?」
綾乃「…って、ええぇえぇえええっ!!?」
綾乃「な、ななななな……」パクパク
???「うにー」
綾乃「なんなのこの東京タワーほどの大きさの子供はあああ!?」バァァァァン
綾乃「あ…あああ…あ…」ガクガク
大きな子供「もみあげー」ガシッ
綾乃「きゃああああああぁぁあああぁああ!?」
大きな子供「もみあげーもみあげー」ブンブン
綾乃「ひぃええええ!!はーなーしーてええぇぇぇ~~っ!!誰かっ、誰かたすけてええええぇぇ~~~!
!」
綾乃「いやあああああああぁぁぁ……
----
--
綾乃「あああぁぁぁ……はっ!!?」ガバッ
綾乃「はあっはあっ…はっ…はっ……ゆ、夢……」
綾乃(ああ……恐ろしい…恐ろしい夢だったわ……)
綾乃(途中からなんだかわけがわからなかったけど…)ゲッソリ
綾乃(夢とはいえ好きな人にふられるのは……やっぱり、辛いわね……)グスン
???「う~ん…綾乃ちゃん…?」モゾモゾ
綾乃「ぅわぁ!?ちっ、千歳!?」ドキッ
綾乃(ってそうだ、千歳が勉強会で泊まりに来てて…)
綾乃「う、ううん…なんでもないの、起こしちゃってごめんね千歳」
千歳「綾乃ちゃん…」
千歳「…もしかして、泣いてるん?」
綾乃「な、何言ってんのよ…ぐす…な、泣いてなんか……」
千歳「綾乃ちゃん…」
千歳「ウチなんかで良ければ、話してみてくれへんかなぁ?」
綾乃「千歳……ぐすっ」
綾乃「うぅ……ふわぁぁんちとせぇ~~~…」
千歳「あららら…よしよし」ナデナデ
綾乃「うん…おかしいわよね、私ったら夢だっていうのにこんな悲しんじゃって…」
綾乃「ほんっと、バカみたい……あはは…」
千歳「……よっしゃ」
綾乃「…?」
千歳「綾乃ちゃん、ちょっとじっとしててな?」ギュッ
綾乃「わ…///ちょ、ちょっと千歳…?」
綾乃「え?え?」
千歳「なんちゃらほーるどや~っ!」グワッ
綾乃「きゃっ…!」
……ぽふんっ
綾乃「……びっくりした…きゅ、急になんなのよ千歳…」
千歳「えへへ、綾乃ちゃん、今日はこうやって二人できゅってしながら寝よ!なっ?」
綾乃「う、うん…ありが」
千歳「おっと、勘違いしたらあかんねんで」
綾乃「ふぇっ?」
千歳「ウチがあったかくなりたいからってだけであって、別に綾乃ちゃんを元気づけたろってわけやないねんからなっ」プイッ
綾乃「…………」ポカーン
千歳「…………」
綾乃「…ぷっ、ふふふっ…なんなのよソレ……」
千歳「ん~?綾乃ちゃんのものまねやけどぉ~?」
綾乃「ふふ…わたしっそんなんじゃ……あはははっ…」
千歳「えへへへ…」
千歳「綾乃ちゃん…寝てもうたかな」
千歳「綾乃ちゃんの寝顔、子供みたいでかわええわぁ」ナデ
綾乃「…んん……」
千歳「ごめんな綾乃ちゃん、ちょっとだけ離れるな…んしょっ」
千歳(……)
千歳「歳納さん、うらやましい限りやなあ…」
千歳「夢に出てくるくらい綾乃ちゃんに想われとるなんて…」
千歳「…出てきてへんねやろな……」
千歳「…」ソッ
綾乃「……んっ…」ピクッ
千歳「ふふ…綾乃ちゃんのほっぺ、あったかいわぁ……」
千歳「…綾乃ちゃんのさっきの、夢で歳納さんに告白したって話を聞いてな、ウチも改めて気づかされたんや」
千歳「ただ綾乃ちゃんのそばに居れたらええって思ってたけど、やっぱりそうやない…」
ウチの…本当の気持ちは……
千歳「……ふふ…」
千歳(……綾乃ちゃんに、迷惑かけるわけにはいかへんもんね…)
千歳「ん~あかんあかん、ウチももう寝てしまおっ」
綾乃「すぅ……」
千歳(綾乃ちゃん、今度はどんな夢を見てるんやろか…)
千歳「……綾乃ちゃん、ホントの告白は上手くいったらええなっ」
ちゅっ
おしまい
おそまつさまでやんした
乙うううう
乙乙
おつ
Entry ⇒ 2012.01.15 | Category ⇒ ゆるゆりSS | Comments (0) | Trackbacks (0)
岡部「今日は助手だけか」
岡部「誰もそんなことは言っていない。そう拗ねるな、助手よ」
紅莉栖「拗ねてない」
岡部「拗ねているではないか」
紅莉栖「仮に私が拗ねていたとしてもその理由は他のところにあるんじゃないかしら?」ムスッ
岡部「……そうだな、悪かった。紅莉栖」
紅莉栖「ん」
絶対に途中で投げ出すなよ
紅莉栖「まゆりは漆原さんと買い物。橋田は阿万音さんとデートだって」
紅莉栖「桐生さんもフェイリスさんも今日はバイトだろうし、来ないんじゃない?」
岡部「そもそも、あの二人に関してはラボに来ることの方が珍しいくらいだからな」
岡部「やれやれ……どうやらラボメンとしての自覚が足りんようだな……!! 事と次第によっては査問会を開く必要が
紅莉栖「厨二病、乙」
>>3
大分前に書いたやつだけど一応最後まで書いてある
2、3分ペースでぼちぼちやっていく
岡部「やかましいぞメリケン処女よ! そういうお前もこの俺と顔を合わせない日はないくらいにこのラボに入り浸ってるではぬわぁいか!!」
紅莉栖「誰がメリケン処女だ!! だってしょうがないじゃない!」
紅莉栖「こっちに居れる時間は限られてるんだしちょっとでも岡部と……って言わせんな恥ずかしい!」
岡部「……///」キュンッ
紅莉栖「頬を赤らめるな!///」
岡部「また今度学会の発表などが控えているとかなんとか言っていたではないか」
紅莉栖「大体の骨組みは向こうで作ってきたからその点については大丈夫」
紅莉栖「データさえ持ってくればこっちでも書けるし、推敲ならこのラボでも出来る」
紅莉栖「なんだかんだ言ってもこのラボ結構居心地良いし、いろいろと捗る。……岡部もちょっとは勉強したら?」
岡部「ぐっ……貴様、このラボの長に対してよくもそんなに遠慮なく……!」
紅莉栖「はいはい、わろすわろす」
紅莉栖「で、実際のところどうなのよ。私でよければ勉強見てあげられないこともないと思うけど?」
岡部「フ……勘違いするな紅莉栖。お前はあくまでラボの長、この鳳凰院凶真の助手でありブレーン……断じて家庭教師などではぬわぁい!」
紅莉栖「だから二人のときは助手も厨二病も禁止といっとろーが!」
岡部「すまん、それに……」
岡部「お前はお前で多忙な身の上だ。ラボのことならともかく、俺個人の問題に関してそんな面倒はかけさせられない」キリッ
紅莉栖「……ばか///」キュンッ
紅莉栖「留年なんてことになったら、笑・え・な・い・か・ら」
岡部「シャラップだ! そこの天才HENTAIインテリ処女よ!」
紅莉栖「天才まで聞こえた」
岡部「はははこやつめ」
紅莉栖「ここ最近、ちょっと根を詰めすぎちゃってたから今日は休憩」
紅莉栖「一日ホテルで寝てようかとも思ったんだけど、眠れなくて。まゆりに勧めてもらった漫画でも読もうかなって。岡部は?」
岡部「今日はダルと新しい未来ガジェットについての話し合いを行う予定だったのだが……奴め、物の見事にすっぽかしやがった」
紅莉栖「橋田もさっきまでは居たんだけどね」
紅莉栖「なんでも阿万音さんが急に時間が出来たとかなんとかで、電話に出るなり飛び出して行ったわ」
岡部「リア充爆発しろ、だな」
紅莉栖「勉強しなさいよ」
岡部「そうだな、それもいいかもしれない」
岡部「だが断る」
岡部「そもそも今日はそういったものは全て実家へ置いてきてしまったのでな、フゥーハハハ! 勉強したくても出来ないのだ!」
紅莉栖「いや、高笑いするところか!」
岡部「なんとなく……そういう気分の日もあるものなのだ」
岡部「そう! このアインシュタインにも匹敵するIQ170の灰色の脳細胞を持つ狂気のマッドサイエンティースト! 鳳凰院凶真の考えは時に常人には
紅莉栖「厨二病禁止」
岡部「はい」
紅莉栖「ジョジョの奇妙な冒険。絵が受け付けないってずっと思ってたけど、案外読めちゃうわね」
紅莉栖「……話が進むほど、なんでも無茶苦茶な理論で敵を倒していくのはいただけないけど」
岡部「……お前には今度、キン肉マンを貸してやろう……って何!? 全巻あるのか!? SBRまで!?」
紅莉栖「そう。話をしたらまゆりがね、『読まず嫌いはよくないよー。まゆしぃの家に全巻あるから今度持ってくるねー』って」
紅莉栖「……文庫本の箱を手に大量に積み上げてまゆりが現れたときは本当に今起こったことをありのまま話したい衝動に駆られたわ……」
岡部「……まゆりは昔、本気で波紋の呼吸を会得しようとしていたからな、それくらいは朝飯前だろう……」
助手「第四部。……なんだかイタリア料理が食べたくなるわね」
岡部「分かる。分かるぞ助手よ」
岡部「それでは俺は堅実に一巻から……」ドサッ
紅莉栖「ちょ、おま……!! もう、狭いなぁ」
岡部「良いではないか。それとも地べたに座れと言うのか?」
紅莉栖「別にそんなことは言ってない。大体、座布団くらい買いなさいよ」
岡部「……そうだな、ラボメンの数も随分と増えたことだし、そろそろそういうものも買い足していかなければならんな」
紅莉栖「でしょ? じゃあ今度一緒にーー
岡部「だが金欠だ……って助手! 中身入りの箱を構えるのはやめろ!」
岡部「まあな、元々このラボは俺とダルのポケットマネーで成り立っているようなものだ」
岡部「萌郁はまあ……たびたび救援物資をこのラボに提供してくれているが」
岡部「その他はラボメンとはいえ、まゆりもるか子もフェイリスも女子高生だからな、流石にJKに金を恵んでもらうのはいろいろと問題があるだろう」
紅莉栖「……そうよね、改めて考えるとここ、それなりにいい立地だし……。家賃だけでも結構するんでしょ?」
岡部「いや全然?」
紅莉栖「え?」
岡部「そうか、お前にはまだ話していなかったが……このラボはMr.ブラウンの好意でな、ほぼタダみたいな家賃で貸してもらっているのだ」
岡部「金欠の理由は主に未来ガジェットの材料費や食費、それとダルのエロゲ代だな」
紅莉栖「駄目だこいつら早くなんとかしないと」
紅莉栖「……うん。別にそれくらいなら、私のポケットマネーから出してもいいから」
岡部「それは、最後の手段だな。だがありがとう。紅莉栖」
紅莉栖「……ばか」
紅莉栖「……」ペラッ
岡部「……」ペラッ
紅莉栖「……ドキドキ」ペラッ
岡部「……」ペラッ
紅莉栖「……」ペラッペラッ
岡部「……」ガタッ
<ウーッ、ドクペドクペ
<アッ、ワタシモイッポンオネガイ
<ウム。……ム?
岡部「買い溜めは余力のある時にダルと行ってくるとして……今日のところはコンビニで買ってくるとするか、助手よ。留守番を頼む」
紅莉栖「コンビニ行くの? じゃあ私も行く」
岡部「? 別にお前の分のドクペも買ってきてやるぞ?」
紅莉栖「そこじゃないわよ。そろそろお昼でしょ? 今日のお昼何にしようかなって考えてたの」
岡部「ラーメンなら棚の上に買い置きがあるではないか」
紅莉栖「たまには自分で選びたいの。ほら、行くなら早く行くわよ」
岡部「うむ」
岡部「ドクペドクペ……と」ゴトッ
岡部「紅莉栖、何にするか決まったか?」
紅莉栖「塩にするか醤油にするか悩んでる。先に会計済ませてて」
岡部「うむ、分かった」
店員「ピッ)袋ご入用ですか?」
岡部「いえ、シールで大丈夫です。……!?」
岡部「しまった……すいません、財布を忘れてきてしまったんで……
紅莉栖「おっちょこちょい。すいません、これも一緒でお願いします」
岡部「スマン、助かる。あとで返す」
紅莉栖「いいわよこのくらい。たまには私が奢ってあ・げ・る」ドヤ
岡部「高々ドクペ一本でそんな顔をされてもな。いや、ありがとうございます助かりました本当に」
紅莉栖「ったく……あ、お幾らですか?」
店員「クスッ……仲がよろしいんですね。485円になります」
紅莉栖「ふぇっ!?……え、ええ。まぁ……///」テレテレ
岡部「顔が緩んでいるぞ、助手」ニタニタ
紅莉栖「う……うっさい馬鹿!///」
岡部「……ゴクッゴクッ」ペラッ
紅莉栖「……」ペラッ
岡部「……」ペラッペラッ
紅莉栖「……そろそろね」パタン
ピピピ!!
岡部「タイマーに一瞥もくれずに四分間を言い当てただと!? 助手よ、貴様まさかあの伝説と謳われた『四分間の支配者(インスタント・マスター)』……!!」
紅莉栖「そのくらいで驚いているようじゃまだまだ甘いわね岡部、一流のヌードラーは五分以内でなら秒刻みの正確さを持つ体内時計を持っているのよ」
岡部「ヤルネェwwww」
紅莉栖「んんwwww」
岡部「……さて、伸びないうちに食うとするか」パキッ
紅莉栖「そうね」
紅莉栖「岡部のも寄越しなさいよね。はい」アーン
岡部「……」
紅莉栖「? どうしたのよ」
岡部「いや……『そう』来るとは思わなかったものでな。つい面食らってしまった」
紅莉栖「……。ッ!? こ、このHENTAI!!」
岡部「(む、無意識とは恐ろしい……)」
紅莉栖「べ、別に!? アメリカじゃこんなの(周りの人の間じゃ)普通なんだから。も、もう。いいから早くしなさいよ!」
岡部「う、うむ……」チュルチュル
紅莉栖「ど……どうなのよ味は」
岡部「あ、ああ。美味い」
紅莉栖「そ、そう……。じゃあ次は岡部が私にた、食べさせなさいよね!」
岡部「わ、分かった」アーン
紅莉栖「ん……」チュルチュル……
ーー
岡部「さて、食後のコーヒーでも飲むか?」ガタッ
紅莉栖「うん。でもそれくらい自分で淹れるのに」
岡部「気にするな、ドクペの礼だ。それに俺も飲みたいと思ってたところだしな」
紅莉栖「そう、ありがと」
岡部「うむ。砂糖は二個でミルクは一つだったな?」
紅莉栖「うん」
ーー
岡部「ズズズ……」ペラッ
紅莉栖「ズズッ……」ペラリ
岡部「ズズッ……」ペラッペラッ
紅莉栖「……」
岡部「ズズズ……」ペラッ
紅莉栖「……」
岡部「……」ペラリ
紅莉栖「……」コテッ
岡部「……む? 」
紅莉栖「……zzz」
岡部「……やれやれ。腹が膨れれば安心して眠るとは。学会でブイブイ言わせている天才少女といえど、中身はまだまだ子供ということだなフゥーハハハ!(超小声」
スチャッ
岡部「俺だ、機関による精神攻撃を受けている。……ああ、かなりやっかいだ。何せ身動きが取れん(超小声」
岡部「心配するな、この程度の危機も乗り切れんようではマッドサイエンティストの名が廃る。エル・プサイ・コングルゥ(超小声」
カチャッ
岡部「……本当に、これじゃ動けないじゃないか。紅莉栖……」
紅莉栖「zzz……」スースー
ーー
ーーー
ーー
カンカンカン
萌郁「岡部くん、祐吾さんから今月の家賃……」ガチャッ
萌郁「……」
岡部「zzz……」
紅莉栖「zzz……」スリスリ
萌郁「……クスッ」カシャッ
ーー
ーーー
ーー
紅莉栖「ちょっと岡部! 何よこれぇ!///」
岡部「ししししし知らん!! これはシャイニングフィンガーが勝手に……///」
紅莉栖「萌郁さんだったからよかったものの! もし泥棒でも入ってきたらどうすんのよ! ちゃんと戸締りしておきなさいよ!!///」
岡部「ぐ……ぬぬ……」
紅莉栖「……もう///」
岡部「……///」
「「(待ち受けにしとこ……///)」」
岡部「そうだな。どうする? もう帰るのならば送って行くが」
紅莉栖「……そうね、今日はもう帰るわ。ホテルまでエスコートよろしく」
岡部「ふむ、ダルが聞いていたらリピートを要求しそうなセリフだな」
紅莉栖「うるさいHENTAI!」
紅莉栖「そうね、あんたはセレセブーとか言うけど、私だって結構予算はギリギリなんだからね」
岡部「俺のようにこのラボに寝泊まりする……のは駄目だとこの前言っていたな」
紅莉栖「うん……そりゃあ居心地はいいけど……寝るのはソファーじゃなくてちゃんとしたところで寝たいし、湯船にも浸かりたいからね。それにあんたや橋田も寝泊まりするんでしょ? あぶないじゃないw」
岡部「ふむ、それもそうだな……」
岡部「……ならばウチへ泊まりに来るというのはどうだ?」
紅莉栖「……」
紅莉栖「Pardon?」
岡部「いやにネイティブな発声で聞き返すでないそこのメリケン処女よ」
岡部「落ち着け助手。心配するな、俺の家と言っても俺は実家暮らしだ」
岡部「それに俺は基本このラボに泊まり込んでいる。よってお前がこの俺の部屋で寝泊まりしようと別に問題はないというわけだ」
紅莉栖「そっちの方が問題よ馬鹿!」
紅莉栖「そ、そんなの岡部のお父さんとお母さんに迷惑かけちゃうし……」
岡部「その点は……心配ないと思うぞ。まあ、今日は聞いてみなければ分からんがちょうど昨日、お前の話をしたら『そんな勿体無い、是非ともウチに泊まりに来てもらえ』とかなんとか言っていたからな」
紅莉栖「それってつまり……」
紅莉栖「私のことをご両親に報告したってことか!?」
岡部「Exactly(その通りでございます)」キリッ
岡部「落ち着け助手よ! 何を一人で暴走しているのだ!」
岡部「……まあアメリカ育ちのセレセブ助手が『オーゥ岡部ボーイ、このような狭っ苦しい一軒家じゃミーはとても寝れないデース』などと言うのであれば俺も無理には誘わんが……」
紅莉栖「……」
ーー
紅莉栖「ほ、本当にいいの? 迷惑じゃない?」
岡部「しつこいぞ助手よ。さっきマイマザーに電話で確認はとった。『狭っ苦しい一軒家ですがこんなあばら家でよければどうぞ好きなだけお泊まりください』とのことだ」
岡部「……しかしスーツケース一つとはまた随分と少ない荷物だな、ほぼ着の身着のままか」
紅莉栖「まあ、数着の着替えさえあれば洗って着回せるし……それより本当に
岡部「くどいぞ助手」
ーー
岡部「な……何故あそこまで電車が混んでいたのだ……まさか機関による妨害工s……」グッタリ
紅莉栖「し……知らないわよ……あんな鮨詰めみたいなの初めて……もう駄目……ねぇ、ちょっと休憩しない……?」グテー
岡部「甘ったれるな助手……それにもう着いた。ここだ」
紅莉栖「なんだ……普通にいいお家じゃない。岡部が脅かすからどんなだか心配しちゃっただろ!」
岡部「フッ……あの程度の脅しで屈するようではこの家に張り巡らされた結界に阻まれ、一歩たりとも足を中へ踏み入れることは敵わんだろうからな、貴様の覚悟を試させて貰ったのだ……フゥーハハハ!!」
岡部母「何やってんの倫太郎」
岡部「」
紅莉栖「」
岡部母「あんな馬鹿笑いしといて何言ってんの」
岡部母「あんたが初めて彼女なんて連れてくるっていうから、今日はあり合わせで済ませるつもりだったのに買い物行ってきたってのに」
岡部母「帰ってきたら白衣着たひょろ長い怪しい男が家の前で高笑いあげてるんだもの。110しようかと思ったわよ」
岡部「ぐ、ぐぬぬ……!」
紅莉栖「(か、彼女……って、岡部のお母さんに彼女って……)」プシュー
岡部「あ、ああ。紅莉栖、これがマイマザーだ」
岡部母「倫太郎の母です。よろしくね、紅莉栖ちゃん」
紅莉栖「は……はいぃ……///」
岡部「そしてマイマザーよ、これがこの狂気のマッドサイエンティスト! 鳳凰院凶真の助手、クッリスティィィィn
岡部母「倫太郎。もう私も半ば諦めかけてるけどせめて、せめてウチの近所でそれはやめてちょうだいね」
岡部「はい」
紅莉栖「ま、牧瀬紅莉栖です。よろしくお願いします」
岡部母「倫太郎からいろいろとお話は聞いてるわよ。よろしくね、紅莉栖ちゃん」
岡部母「さあ、中に入って入って。すぐにお料理作るからね」
岡部母「なに言ってんの、あんたも手伝いなさい。あぁ、紅莉栖ちゃんは倫太郎の部屋で待っててちょうだいね。すぐに作るから」
岡部「なっ……!」
紅莉栖「え? いや、そんな。悪いです」
岡部母「いいのよ別に、気にしないで。さ、早くこっち来なさい倫太郎」グイグイ
岡部「ちょ、ちょっと待てマイマザー! せめて我がサンクチュアリを片付け……やめろ! 耳を引っ張るな!」
岡部「クリスティーナ! お、俺の部屋に入っても何も見るな! 絶対にだぞ! 目を瞑って俺が行くまで待機だ! いいな!?」
紅莉栖「盛大なフリですね? わ・か・り・ま・す」
岡部「違ぁーう!!」ズルズル
ーー
紅莉栖「ここが……岡部の部屋……」
紅莉栖「岡部があそこまで見られたくない物……って……? まさか……」
紅莉栖「へ、HENTAI的なものだったら許さないんだからな!///」
紅莉栖「……お、お邪魔しまーす……」オソルオソル
紅莉栖「こ、これ……」
紅莉栖「『追い付き追い越せ、打倒クリスティーナ!』? ……だから私はティーナでは無いと……」
紅莉栖「プププ……あいつ、こんなところ間違えてる……。まったく、仕方無いな……」キュッ
岡部母「紅莉栖ちゃーん、晩御飯の用意出来たわよー」
紅莉栖「はーい、今行きます」
ーーー
ーー
紅莉栖「~~♪」ニタニタ
岡部「(この女殴りたい……!)」
岡部母「(逃げたわね)」
岡部父「(逃げたな)」
岡部「なんだその目は! やめろ! ……まあいい。ところで今日、ここに来るまでやたらと混んでいたのだが何かあるのか? いつもはここまでじゃないだろう」モグモグ
岡部母「え? あんた知らなかったの?」
岡部父「今日は確か……隣町の神社で秋祭りがあったんじゃないか」
岡部「ほう、そうなのか。通りで妙にカップルが多いとは思ったが」モグモグ
岡部母「ああ、ちょうどいいじゃない。この後二人でぶらっと行ってきたら?」
紅莉栖「へっ?///」
岡部「えっ?」
岡部「物は言い様だな……って痛ッ!」
紅莉栖「……でもそんな、いいんですか?」ギリギリ
岡部母「いいのよ気にしないで。服は着る為にあるんだもの」
岡部母「それに紅莉栖ちゃん、ずっとアメリカ育ちじゃ浴衣なんて着る機会なかったんじゃない?」
紅莉栖「は、はい」
岡部母「じゃ、決まりね。ウフフ、なんだか娘ができたみたいで嬉しいわ」
紅莉栖「そんな…///」
岡部「……クリスティーナよ、テレテレしながら俺の足を踏み続けるのはやめて欲しいのだが……って痛ッ!」
岡部「さすがに一般ピーポー溢れるリア充スポットに白衣はマズいだろうということで強制的に着替えさせられてしまった……」
岡部「しかし遅いな、女の支度は長いとはよく聞くがまさかこんなに長いとは思いもしなかった……」
岡部「ふむ、@ちゃんでも見て時間を潰すか」
岡部「……む?」
紅莉栖「お、お待たせ……」
岡部「やっとか、遅かったではないかクリスティー……ヌァッ!?」
岡部「い、いや……その……なんというか……」
紅莉栖「い、言いたいことがあるならハッキリと言え!」
岡部「ああ……似合ってる、すごく似合ってる。ガチで。見違えるほどだ」
紅莉栖「こ、このHENTAI…///」
岡部「……」
紅莉栖「ごめん……」
ーー
岡部「……段々賑やかな音が聞こえてきたな」
紅莉栖「そうね」
岡部「アメリカでこういう祭りなんかはよく行っていたのか?」
紅莉栖「ううん。本当にたまに行くことはあったけど、向こうじゃ昔から私も周りの人も何にしても研究第一だったから……」
岡部「……そうか」
紅莉栖「だから今日は、凄く楽しみだよ?」ニコッ
岡部「!!(い、今キュンと来た……)」
岡部「……小さい頃はまゆりとよく来ていたが……小学生のある時期にもなると、俺もまゆりも別々の友達と遊ぶようになっていったからな」
岡部「ここ最近は俺も来たことがない。一人で行くようなものでもないからな」
紅莉栖「……ぼっち乙wwww」
岡部「今日のお前が言うなスレはここか?」
紅莉栖「ふふふ。冗談よ、うわぁ……!」
岡部「ほう、やはり中々賑わっているな」
ーーー
ーー
岡部「さて、晩飯を食べた直後だが何か食べていくか? メリケン育ちのお前には物珍しいものばかりだろう? 今夜は特別にこの鳳凰院凶真が助手に奢ってやろうではぬぁーいか……」
紅莉栖「そうね、じゃあまずは……」
岡部「あれ? ツッコミはどうした?」
紅莉栖「~~♪」ニコニコ
岡部「(……まあ、楽しんでいるようならいいか)」
紅莉栖「……ねぇ、岡部」
岡部「なんだ? 助手よ」
紅莉栖「助手じゃない! 紅莉栖! ……もういいけど」
紅莉栖「……ホントはね、来たことあるんだ。日本のお祭り。本当に、小さい頃の話だけど」
岡部「……ほう」
紅莉栖「あの頃は、パパと私も仲が良くて、こんなお祭りだと、はぐれちゃダメだからってしっかり私の手を握っててくれた」
岡部「……そうか」
紅莉栖「私から研究を取ったら、何も残らないじゃない? だから今まで私はひたすら研究だけに打ち込んできた……だけど私は正直……まゆりや、漆原さんや、フェイリスさんが羨ましいって思うこともある」
紅莉栖「だからもし……もしね? 私が、物理学に興味を持たずに、普通の女の子として過ごしてたら……」
紅莉栖「あんなことには、ならなかったのかな?」
紅莉栖「……」
岡部「……そうしたら、少なくとも俺とお前が出会うことは、こうして知り合うことは、恐らくなかっただろうな」
紅莉栖「……!」
岡部「それじゃ、不満か?」
紅莉栖「……ばか」
紅莉栖「あっ……」
岡部「確かにお前は世間知らずで友達少なくてその上ねらーかも知れんが」
紅莉栖「おい」
岡部「楽しいことも、嬉しいことも。これから……たくさん知っていけばいい」
岡部「その為に! 俺たちラボメンがいるようなものなのだからな! フゥーハハハ!!」
紅莉栖「……ありがと、岡部」ギュッ
ダル「楽しいことや嬉しいこと、それに加え気持ちいいことも教えてあげるんですね? わかります」
岡部「」
紅莉栖「」
紅莉栖「いいいいつからいたの!?」
ダル「フヒヒ、通りを二人で歩いてるところから、バッチリスネークさせてもらったお」
由季「私はやめようって言ったんですけど……ごめんなさい」
ダル「いやぁ、僕らも今夜のお祭り行こうと阿万音氏とアキバで時間潰してからここに向かってたんだけど、その途中でなんか見慣れた後ろ姿があるじゃん? これはもうスネークするしかないだろ常考! ってことでばっちり尾けてますた!」
ダル「それにしても今のオカリンのセリフカッコ良かったお。僕がおにゃのこなら完璧攻略されてるレヴェル」
岡部「ダルぅ……! 貴様ァ……!!」
ダル「そういえばさっきまゆ氏とるか氏も見かけたお?」
紅莉栖「えっ!?」
ダル「噂をすればだお、おーいまゆ氏ーこっちだおー!」
るか「ど、どうもお久しぶりです。岡部さん、牧瀬さん」
岡部「ふ、二人とも、こんなところで何をしてるのだ?」
まゆり「うーんとねー、るかくんとお買い物した後に、そういえば今日はお祭りの日だなーって思い出したのです。えへへ、なんだか懐かしいねぇ~」
るか「僕も敵情視察ということで……」
岡部「な、なるほど……」
まゆり「そうだねー。まゆしぃも久しぶりにお鍋食べたいなー」
るか「そうですね、なんだか少し冷えてきましたし……」
由季「私も皆さんがいいのなら……」
岡部「ふむ……。どうする? 紅莉栖」
紅莉栖「そ、そうね。行ってもいい、かな」
ダル「それじゃ決まりだお! コンビニ寄っていろいろ買って行くおー!」
ワイワイガヤガヤ……
ーーー
ーー
嬉しいことも、楽しいことも
これから知っていけばいいさ。
俺たちにはまだまだ、長い時間が残されているんだから。
~Fin~
ニヤニヤできる良いssだった
良いSSだったぜ
Entry ⇒ 2012.01.15 | Category ⇒ シュタインズゲートSS | Comments (0) | Trackbacks (0)
岡部「鈴羽を預かれだと?」 ダル「うん」
俺は、自宅を訪れた橋田夫妻を客間に通し、久しぶりの再会を果たしていた。
そして今日はダル夫妻の他に、もう一人来ている。
岡部「なに? 鈴羽を預かれ、だと?」
ダルの隣、ソファに座った小さいのが、こちらを不思議そうな顔で伺っていた。
鈴羽は2017年生まれ。もうすぐ5歳になるという。
すでにその栗色の髪にはダルの趣向かわからないが、おさげが出来上がってており、
あどけないながらも、俺達を根底から救ってくれたあの未来の戦士の面影が見られる。
しかしやはり、そのパーツのほとんどが阿万音由季氏に似たのだな。
まあ、それでもダルの犬っぽいクセ毛はしっかりと引き継いでいるが。
鈴羽が、ダルの横腹をつついてその顔を見上げた。
ダル「そう言うときはパパと呼びなさい」
鈴羽「この人がオカリンおじさん?」
あ、忘れられている……。
まあ、前に会った時は分別もつかない赤ん坊だったのだから仕方ない。
ダル「そうだよ。パパの古い友人なんだ」
鈴羽「へぇ、そうなんだー」
そう言って鈴羽は、にぱっと笑顔を浮かべた。
それから鈴羽は、道中買ってもらったと思しきソフトクリームに夢中になっていた。
ダル「今日1日だけなんだ。頼むよオカリン」
岡部「ううむ、そうだな……」
俺は今でもオカリンと呼ばれている。
以前は間抜けな響きだからと嫌っていたこのニックネームも、今となっては逆に心地よい。
そして以前に比べて縮小したとはいえ、未だ目に見えて巨大なダルの隣で、
何とも可憐な女性が俺の顔を見つめてくる。
由季「本当に悪いんだけど、何とかお願い出来ないかな?岡部君」
いや、こんな女性に哀願する風に頼まれて断れるはずもない。
すぐに頷いてやる。
岡部「…仕方がない、今日1日だけならば構わないさ。 しかし、未だに夫婦でコミマへ行ってるとはな」
由希「えっ、いや~。 へへ……いくつになってもやめらんないよね…」
俺が突っ込むと、阿万音由季氏……今の姓は橋田の由季が、照れくさそうに頭を掻いてみせた。
俺がそういうと、ダルが眼鏡の奥を煌めかせ、こちらに手を差し伸べてくる。
相棒の握手に応じるべくその手を握るや、突如怪力でグイッと引っ張られ、
たじろぐ俺にダルが耳打ちしてきた。
お前……口元はニコニコしているが、目が笑っていないではないか。
ダル「さっすがオカリン、感謝するお。 あ、ただし、変な事は吹き込まないでね」
岡部「なっ……あ、当たり前だ…!」
ダルの手を振り払う。
この俺が何を面白がって鈴羽に吹き込むというのだろうか。
しかし、その後もダルの親バカ攻撃は追撃コンボの手を緩めず、おかしな物を見せるな、
とか、変なものを食べさせるな、といった様々な注文を繰り出してきて、
俺はというと、そんな我が娘デレっぷりにいちいちと反応してやる事にだんだん疲れてきていた。
ふむ、この過保護ぶりでは鈴羽はきっと将来苦労するのだろうな…。
ダルの話を、宇宙の大規模構造について考えながら半分ちかく聞き流してやった。
岡部「……」
鈴羽「うん! とうさんもね!」
ダルがしゃがみこんで、鈴羽に視線を合わせる。
ダル「だからね? そう言うときはパパと呼びなさい、わかった? 鈴たん」
鈴羽「……」
あ、やっぱり言った。 鈴たんって言った。
しかも鈴羽はそれに答えてないし。
もしかして遠まわしに嫌がってるんじゃないか?
しかし、あえて突っ込みはしない。
他人の趣向……もとい、教育方針に口を出すのは野暮というものだ。
それからというもの、もの惜しげに車に乗り込んだ橋田夫妻を見送り、家には俺と鈴羽だけが残された。
鈴羽「父さんも母さんも、いっちゃったね」
岡部「む……そうだな」
俺の手を握りながら、どことなく寂しそうな表情を覗かせた。
しかしバイト戦士め、随分と縮んでしまいやがって……。
手など、俺の半分もない。
なにか不思議な気分だ。
ええい、こいつめ。
などと、空いた方の手で頭をワシャワシャしてやると、鈴羽はあからさまに嫌そうな顔をした。
岡部「それにしても鈴羽よ……お前、手がベッタベタではないか」
さっきから気になっていた。
握った手が、糖分でベタベタと張り付いて気持ち悪い。
鈴羽「あー、ソフトクリーム食べたからかな…」
そう言って鈴羽が、ワンピースのスカートで手を拭おうとした。
岡部「あ、おい待て!」
鈴羽「ひゃっ!」
俺は、とっさにその手を掴む。
すると鈴羽は、小さく悲鳴を上げた。
思わず声を荒げてしまい、鈴羽は俺と目が合うや、目に涙を浮かべた。
鈴羽「ううっ……オカリンおじさん……こわい……」
岡部「うぐぬっ……!」
なんだこれは……!
何事にも物怖じしなかった、なんとも大物な性格まで確実に縮小しているではないか!
ダルのバカ! 親バカ!
と、心の中でダル批判をしてやる。
岡部「す、すまない……しかしな、その……服でベッタベタの手を拭うのは看過出来ん」
鈴羽「か、かんか?」
細い首を傾げ、顔でクエスチョンマークを転がす。
岡部「……大目に見てやる事は出来ない、と言っている。 特に俺のテリトリー……この家ではな」
鈴羽「う、うん……ごめーん……」
これは多分、よく理解出来ていないようだ。
鈴羽「な、なに?」
見上げてくる鈴羽の瞳には、先ほどとはうって変わって、警戒の色が浮かんでいた。
無理もない。三十路のお兄さんに怒鳴られた後だからな。
多分俺なら泣き出す。
岡部「俺は、お前が4歳だろうが5歳だろうが容赦せずに大人と同等の扱いしかするつもりはないぞ?」
だが、このスタンスは譲るつもりはない。
ダルから口うるさく言われたが、別に子供に対して大人になってへりくだれ、と命令された訳でもない。
俺は俺なのだ。
どこぞの親バカの店長やら、スーパーハカーのように甘々に接する事は出来ん。
鈴羽「う、うん……よくわかんないけど、わかったよ」
鈴羽「わ、わかった!」
そう答えた鈴羽は心許ない足取りで、パタパタと台所に向かっていってしまった。
それを見やったあと、肩でため息をつく。
今日は安請け合いしてしまったものの、本当に俺でよかったのだろうか。
根性なしの子供……しかも女の子を相手に、果たして俺のやり方でいいのか悪いのか……。
そんな時、テーブル上にほったらかしていた携帯がメールの着信を知らせるメロディを流す。
Frm.まゆり
Sub.お久しぶり~
『今日は、ダル君とこのスズちゃんが来てるんだって?』
『ダル君からメールが届きました』
『オカリン一人で大丈夫かな?』
『私はちょっと心配です(笑)』
……つまり、この俺を全然信用していないのではないだろうか?
なんだか悔しくなってきた。
まゆりからの屈辱的なメールに、力を込めて返信してやる。
To.まゆり
Sub.RE:お久しぶり~
『心配などいらない。お子様一人や二人の世話など、
俺にとっては赤子の手を捻るほど造作もない事なのだ』
そして、すぐさま返信が届く。
Frm.まゆり
Sub.ダメだよオカリン
『スズちゃんの手を捻ったら、ダル君に言いつけるからね(((´ω`;)))』
捻るかっ!
そこで返信する気も失せてしまい、俺は携帯をソファに放り投げて大の字に仰け反った。
鈴羽「オカリンおじさん、手洗ってきたよ」
岡部「ん?」
逆さまになった視界に、手を洗い終えた鈴羽が満面の笑みを浮かべながら戻ってくる。
それがバイトのサボり癖に繋がってたんじゃないかと思うと少し心配だが。
………まあ、もう少し俺一人で頑張ってみよう。
岡部「そういえば鈴羽よ……お前、今日は何かしたい事はないのか?」
鈴羽「うーん、したい事……?」
左右交互にゆっくりゆっくり首を傾げながら考え込んでしまっている。
岡部「ふむ、特に考えていないようだな?」
鈴羽「うん、考えてなかった」
そうかそうか。
いや、そうだろうそうだろう。
俺は、鈴羽にニヤリと笑ってみせる。
岡部「ならば……今日は我々が開発してきた未来ガジェットを“特別に”見せてやろう」
お前も一応、ラボメンではあるしな。
岡部「そうだ。 今は我が家の倉庫に眠っているのだが、これがなかなかにロマンたっぷりの代物なのだ」
鈴羽「へえー、ありがとうオカリンおじさん! それは楽しみだよー」
そう言って、鈴羽は笑顔を浮かべた。
岡部「ククク……そうして笑っていられるのも今のうちだ……よし、ついてくるがいいッ!」
鈴羽「おーっ!」
ダルから変なものを見せるな、とクギを刺されはしたが、別に未来ガジェットは変なものではない。
ただ、使い道がまるでないだけであって。
倉庫に通してやると、鈴羽はまず最初にビット粒子砲、サイリウムセイバーに目を付けた。
いきなりそのチョイス……実にお子様だな。
俺は、思わずにやけてしまいそうになるのを堪える。
すると鈴羽は、セイバーを構えながらビット粒子砲を俺に向けてカチカチと引き金を引いてきた。
馬鹿め、そんな事をしてもこの俺は倒せまい。
せいぜいテレビのチャンネルが変わるだけだ。
まあ、ここは乗ってやらない事もない。
岡部「や、やめろっ!それをこっちに向けるなー!」
鈴羽「にっひひー」
俺もよく、悔しくて仕方ない時は人に向けてやったものだが。
鈴羽「うーん、おじさん、これはなにー?」
岡部「ん? ああ、タケコプカメラーだな」
鈴羽「ふーん…」
いい事を思いついた。
岡部「付いて来い。それの機能について説明してやろう」
鈴羽の手を引いて庭まで連れ出す。
快晴の太陽が目に眩しい。
岡部「鈴羽よ、もちろん……竹トンボは知っているな?」
鈴羽「たけとんぼ? ううん」
岡部「なにっ!?知らないというのか……?」
鈴羽「うん」
鈴羽がコクコクと頷く。
これも世代の違い……ジェネレーションギャップだというのか…。
岡部「よく見ているのだぞ?鈴羽よ」
鈴羽「うんうん!」
鈴羽はまたもやコクコクと頷きながら、目を爛々と輝かせている。
岡部「そいっ!」
重ねた手のひらを交差させて引くと、タケコプカメラーはブーンと回転しながら空を舞った。
しかし所詮たけとんぼ。すぐに浮力を失って、パタリと地面に落ちる。
いやはや、なんともチープなデモンストレーションだ。
しかし、どうやら子供心を掴むにはあれで十分だったようで、
鈴羽「うわー!すごい!今のってどうやるの?」
などと、落ちたタケコプカメラーを拾ってきた鈴羽が好奇心に満ちた顔で聞いてくる。
鈴羽「うん! わかったよ!」
そう言って、タケコプカメラーは何度も何度も空を舞った。
こんなもので20分も時間を潰せるとは、この幸せものめ。
俺はというと、残念ながらだんだん飽きてきていた。
岡部「そろそろ次の機能についても説明してやろう……」
鈴羽が、驚愕の眼差しでタケコプカメラーを見つめる。
鈴羽「えー!まだ何かあるの?」
そう言って、今度は手元のタケコプカメラーと俺の顔を交互に見やる。
岡部「ああ、そのタケコプカメラーには、もう一つ恐るべき機能が隠されているのだ…」
実際にそれが恐るべき機能なのかどうかはわからないが、ある意味恐ろしいのは事実。
俺は再び、鈴羽を連れてリビングへ戻ると、テレビに配線を繋いだ。
あえてもったいぶるように言いながら雰囲気を演出してやる。
鈴羽「そうなんだー!すごーい!」
岡部「ま、まだ俺は説明していないっ!」
鈴羽「あ、そうなんだー」
岡部「ぐぬぬ……」
俺はガクッと膝が折れそうになるのを堪え、テレビの側までいくとその上部を手のひらでバンバンたたいた。
岡部「聞いて驚け……っ!このタケコプカメラー……なんと中にカメラが仕込まれていたのだ」
鈴羽「ほ、ほんとに!?」
岡部「ああ、本当だ……つまり、さっきからお前が喜んで竹トンボを飛ばしている間……」
俺は、ズバッと天井を指差す。
岡部「こいつは密かに空中を撮影し続けていたのだ!フゥーッハハハ!」
パチパチと拍手が返ってきた。
うむ、サンクス。
鈴羽「すごいすごい!そうだったんだ! 全然知らなかったよ!」
未来ガジェットが誉められると、実に気分がいい。
岡部「まあ無理もない……素人が見たところで、十中八九が竹トンボだ、と答えるだろう…」
俺はニヤけながらテレビの電源を入れ、入力切り替えボタンを押した。
岡部「それでは鈴羽よ、しかと見ろっ! これぞ、我が岡部家の上空映像だっ!」
意気込んで再生ボタンを押してやる。
すると、テレビにはなんとも気持ちの悪いものが映し出された。
左から右へグルグルと景色が吹き飛んでいき、目が回りそうになる。
鈴羽はすでに、小さな頭をぐわんぐわんと揺らしはじめていた。
鈴羽「う……なにこれ……」
岡部「う、うむ……回転していてよくわからないかもしれんが、これは間違いなく上空映像なのだ」
鈴羽「だ、だまされた……」
岡部「すまない……」
しかし、現実の厳しさを知ってもらう、という点に於いては俺の思惑通りと言って差し支えない。
そうして、再生を止めようとしたその時だった――。
???「あー、オカリン!やっぱりスズちゃんにおかしなもの見せてるー!」
背後から聞き覚えのある、限りなく気の抜けた怒り声。
鈴羽「あ!まゆりお姉ちゃん!」
まゆりの姿に気づいた鈴羽はソファから立ち上がり、彼女の足元に絡みつく。
まゆり「もー、やっぱりダル君の心配したとおりだったよ……」
岡部「い、いや……まゆり、これは断じておかしなものなどでは……」
とっさに苦しい反論をするが、まゆりは腰に手を当てたまま、依然こちらを睨みつけてくる。
まゆり「でもこれ、グルグルしてて気持ち悪くなるやつだよね?」
岡部「う、うむ……確かに。 しかしな……?まゆりよ」
真っ直ぐな瞳に見据えられてたじろぐ俺を、まゆりがさらに畳みかけてくる。
まゆり「オカリンの言う“おかしなもの”と、みんなの思う“おかしなもの”は全然違うと思うなぁー!」
ぐぬっ………ごもっともだ。
しかし、もっともだからこそ胸に痛い。
このままでは、完全にまゆりのペースにあてられてしまいかねない。
ここは話を逸らさねば。
まゆり「あっ……」
今度はまゆりがたじろぐ。
未だに、実に扱いやすい。
岡部「それは社会的に見ても、かなりマナーに反する行為ではないのか?」
まゆり「うう……ごめんオカリン。 昔からの癖でつい…えっへへ」
まゆりはそう言って苦笑いしながら、小さく舌を突き出した。
岡部「まあいい、タケコプカメラーの件を黙っていてくれるなら、お前の家宅侵入も罪には問うまい…」
まゆり「お、オカリン……相変わらずえげつないね……」
岡部「いや待て。 そこは合理的な取り引きだ、とでも言ってほしいものだがな?」
まゆり「あー……はいはい」
まゆりは、そう言って呆れ顔でかぶりを振ると、台所に引っ込んでいってしまった。
人の家だと言っているのに、随分なフリーダム加減だな……。
まゆりが台所から出てくるのを待った。
急に、右の袖口をチョイチョイと引っ張られる。
見ると、鈴羽が顔を寄せてきていた。
鈴羽「オカリンおじさん、さっきのすごかったねー」
俺のすぐ側で耳打ちしてくる。
岡部「さっきの……何がだ?」
鈴羽「まゆりお姉ちゃんがあんなに怒ってたのにさー」
岡部「ああ、あれか。 ……でも、あんなもの本来なら褒められたものではないのだがな?」
鈴羽「そうなんだー、じゃあオカリンおじさんが悪かったの?」
鈴羽がにぱっと笑いながら聞き返してくる。
岡部「……お前の言い方が妙にキツい気がするが……まあ、そういう事だ」
そう言ったところで、鈴羽が首を傾げた。
鈴羽「あ、でも、うちの父さんは、母さんに叱られるといっつもションボリしちゃうよ?かっこわるいよ……」
でも、きっとそうなのだろう。
それは多分、ダルが正しい。
岡部「……まあ、今のお前には難しい話かもしれんが、恐らくそれが正しいやり方なのだろう」
お前の父さんは、たいしたものだ。
鈴羽「え? ションボリしちゃうのが?」
鈴羽は、更に不思議そうな顔を向けてくる。
岡部「…ああそうだ。 そう言うときは黙ってションボリしちゃうのが正解なのだ」
そういって、鈴羽の頭に手を置いてやった。
鈴羽「ふぅん……よくわかんないけど、わかったよ」
岡部「うむ、よろしい」
そう言って、再び鈴羽の髪をワシャワシャしてやった。
そんな時、またもや後ろから声。
まゆり「へぇー、意外だねぇ」
こちらを見てにやついている。
……聞いていたのかよ……趣味の悪い。
まゆり「なんだかんだで、オカリンもだんだんらしくなってきたねぇ」
鬼の首でも穫ったように得意げに微笑むまゆりを鼻で笑ってやる。
岡部「ふん、何も変わってないさ。 俺は俺だ……未来永劫にな……フゥーハ――」
まゆり「はいはい、っと」
そう言って、まゆりはテーブルに持ってきていた茶菓子とコップを置いた。
まゆり「どうぞ、スズちゃん。オカリン特製の麦茶だから美味しくないけどねぇ」
鈴羽「えー! 美味しくないんだぁ!お茶なのに!」
岡部「ぐぬっ……やかましいぞ!まゆり!鈴羽!」
確かに……煮出しすぎて美味くないのは事実だが。
こいつ、俺の人質をやめてからというもの、少しずつ腹黒くなって来たんじゃないか?
岡部「うま……」
鈴羽「まっずー……なにこれ」
実に素直な感想だ。
岡部「まあ、これは……まずいよな……」
テーブルの向こうで、今度こそ、と得意げに微笑むまゆりの顔が見えた。
それから俺たちは昼も回ったという事もあり、まゆりの作ったマズい焼きソバを、
これまたマズい麦茶で黙って胃袋に流し込んだ。
……こればかりはダルの言いつけを守れなかった。
まゆりの焼きソバは、明らかにおかしな物を食べさせるな、というものに反しているし。
まゆり「それじゃあオカリン、私はこれで帰るね?」
鈴羽「えーっ、まゆりお姉ちゃん、帰っちゃうの!?」
台所で洗い物を済ませたまゆりが、タオルで手を拭いながらリビングへと出てきた。
鈴羽は例によってまゆりの足元に絡みついている。
岡部「なに? 今日はこの後も一緒にいてくれるのでは無いのか?」
俺はソファに座ったまま振り返り、まゆりを窺った。
そう言って、まゆりは微笑む。
それは以前の彼女と違い、大人じみた笑顔だ。
岡部「そうだったのか……」
まゆりのやつ、夜勤だったのか……だったら今頃は寝てなきゃダメだろう。
岡部「そんな無理を………いや、気を遣わせた。悪かったな」
まゆりは、目を伏せて首を横に振る。
まゆり「ううん、私もちょっと楽しかったし。 ルミちゃんにも面白いお土産話が出来たしねぇ♪」
岡部「な、なに……!? フェイリスには話すなよ? ……絶対にだ!」
まゆり「ええー? どうだろうねぇー、えっへへ」
岡部「むぐぐ……」
歯噛みする俺を見て、まゆりが続けた。
まゆり「でも、来てみてわかったけど、やっぱり心配無かったみたいだね」
まゆり「だってね、オカリンも真面目にちゃんと考えてるみたいだし」
岡部「………」
まゆり「んで、スズちゃんはオカリンに任せても大丈夫だね、って思えたから、それでよし…なのです」
なのです、に照れが見られる。
ていうか、さっぱり意味がわからん。
まゆりは、そのまま玄関の方へと踵を返した。
まゆり「じゃあね、スズちゃん、オカリン」
振り返りながら手を振ってくる。
鈴羽「うんっ! ばいばい、まゆりお姉ちゃん!」
鈴羽は小さな手をまゆりに向けてブンブンと振った。
岡部「ありがとな、まゆり。 また来てくれ」
俺は軽く右手だけ挙げて、まゆりの背中を見送る。
Frm.まゆり
Sub.今日はありがとう♪
『やっぱりオカリンは、昔から変わってないようなので安心しました』
『いつまでも、そのままのオカリンでいてね』
……よくもまあ、こんな純粋の塊みたいなメールを未だに送れるものだ。
でも……サンクス。
俺はソファで横になり、タケコプカメラーをクルクルと回しては、昔の事を思い出している。
あの時は上空映像の再生後、すぐにまゆりが気持ち悪くなってしまい、大変な事になったりもしたっけ。
ひどく懐かしい。
思わず口元がゆるんでしまう。
岡部「む、いかんいかん……」
ハッとした俺は、慌てて気持ち悪く歪んだ表情を引き締めた。
そんな時、鈴羽の方から声をかけられる。
鈴羽「ねーオカリンおじさん?」
岡部「ん……なんだ?」
鈴羽「さっき言ってた未来がぜっとけんきゅーしょってさぁ」
岡部「未来ガジェット研究所、だ」
鈴羽「そう、それそれ!みらい……がぜっと……」
岡部「ガジェット。 それがどうした?」
岡部「そうだ。連中は俺を入れて全部で8人いる」
鈴羽「8人も!? すごーい!」
岡部「だろう?俺もビックリだ。まずは俺、そしてまゆり、ダル、紅莉栖、萌郁、ルカ子、フェイリス……」
最後の一人を言いかけて、言葉に詰まる。
鈴羽「へぇー、そのみんなで、さっきの面白いオモチャを作って遊んでたんだね、楽しそう!」
岡部「あ、いや……あれはオモチャではないぞ? そこは勘違いしないでもらいたいものだな」
鈴羽「え、そうなの?」
岡部「ああ……あれは元々、悪の組織によってもたらされた世界の支配構造を破壊するための…」
鈴羽「へぇー」
岡部「さっ、最後まで聞けよ!人の話は!」
鈴羽「だってー、オカリンおじさんの話って難しいからよくわかんないんだもん」
そう言って鈴羽はふくれっ面を作った。
鈴羽「へぇー」
また聞いてないな。
こいつが“へぇー”と返事をしてきた場合、大体において聞かれていない場合が多い事がわかってきた。
岡部「とにかく、人の話は最後まで聞くように」
これは自分に対しても言える。
鈴羽「わかった!」
鈴羽は、それに対して元気よく返事をしてきた。
ソファから身体を起こし、鈴羽のいる窓側に向き直る。
鈴羽「うん?」
水槽を飽きもせずに眺めていた鈴羽が振り返ってくる。
水面の光が反射して、その白い頬にはゆらゆらと水のゆらめきが描かれていた。
岡部「……さっきは何をやるか俺が提案したのだ。今度はお前がなにか考えてくれ」
鈴羽「うーん、これから何をするか考えればいいの?」
岡部「そうだ。 そうしないと退屈で眠くなってしまうからな」
実際、もう結構やばいところまできている。
目がしばしばする。
俺は29を過ぎた辺りから、昔ほどの元気は出なくなったのだ。
これが食後となれば、なおさらひどい。
ソープに当直ってあるんだ……
岡部「なに? 鈴羽、お前絵を描くのか?」
見たところ、全然得意そうな感じはしないが……。
以前は完全に外でぶっ飛び回るようなアウトドア派だったのに、
今では随分と小さくまとまったものだな。
鈴羽「うん、お絵かきは好きなんだー」
岡部「ふむ……そうか。 ならば準備しよう。待っているがいい」
鈴羽「わかった、ありがとう!オカリンおじさん」
岡部「う、うむ。そして俺の画力の前にむせび泣くがいいわ!フゥーハハハ!」
と偉そうに言いつつ、俺も絵は得意な分野ではない。
言ってしまえば、ルカ子と同じ部類に入るはず。
そんな事はどうでもいいか。
はて……。
棚を開けたり引き出しを引いてみると、書類やらハンコやら、全然関係ないモノばかり出てくるではないか。
俺は、今までろくに家の片づけなどもやった事がないので、どこに何があるのか把握しきれていない。
途中、まゆりに電話で聞こうかとも思ったが、さすがにそれは怒られそうなのでやめておく。
岡部「あ、あったあった」
ようやく見つけた。
やっとの事だ。
岡部「なぜか台所にあったぞー」
隣室の鈴羽に向けて、発見報告をする。
鈴羽「へぇー!」
岡部「……」
するとリビングからは、力いっぱいの“へぇー”が返ってきてしまった。
まあ、それはそうだろうな。
テーブルの上には、俺が見つけ出してやったお絵かきセットが所狭しと鎮座している。
鈴羽「うわあ、いっぱいあるんだね?」
岡部「うむ。 俺のではないがな」
鈴羽は早速それらを手にとってためつすがめつし始め、俺もその中から鉛筆を選び出した。
そこから静かな時間が始まる。
聞こえるのは鉛筆が紙を走る音と、時計の針が回る音だけ。
鈴羽の集中力はすごいもので、さっきから話しかけてもうんともすんとも返って来やしない。
岡部「……ううむ」
一体こいつはなにを書いているのだ、と横から覗き込んでやろうとすると、
ようやくこちらの不穏な動きに気付いた鈴羽に絵を隠されてしまった。
鈴羽「あー、ダメダメ!できるまでは見せないからね!」
岡部「むう……ケチだな」
鈴羽「うるさーい!」
岡部「ぐっ……」
まさか4歳の子供に鬱陶しがられるとは……。
これはなんだ……?
俺は何を書いていたのだったっけ。
自分の紙に目を落としてみるも、何やらよくわからないものが描かれているのみ。
鈴羽は、再び自分の紙にカリカリと絵を描き始めてしまった。
よそ見をしたら置いてけぼりにされた気分。
俺は呆然と紙を眺める。
そんな時。
鈴羽「ふんふーん♪」
岡部「……?」
気分でも良くなったのだろうか。
鈴羽は紙の上で色鉛筆を忙しく動かしながら、急に鼻歌をうたいはじめた。
青空をイメージさせるような、それでいてどこか切なさを感じさせる曲だ。
しかし、今の時代の曲じゃない。
思わず口をついて、俺はそんな言葉を発していた。
鈴羽「うん?なにが?」
岡部「あ、いや。今、お前の歌っていたやつだ」
鈴羽「ああ、えへへ……」
岡部「いいメロディだ、と言った」
どこか、懐かしさを感じるような。
鈴羽「うん、ありがと」
岡部「えっ? ああ……」
何がありがとうなのかよくわからないが、俺はその鼻歌をBGMにして、
再び絵を描く事に取り組む事とした。
どうやら向こうも完成したようだ。
岡部「出来たのか?」
鈴羽「うん!オカリンおじさんは?」
岡部「ああ、俺のはとっくのとうに出来ている……ククク」
鈴羽「ほんと?すごい! 見せて見せて?」
岡部「う、うむ……」
鈴羽は立ち上がるとこちらに回り、俺の絵を覗き込んでくる。
鈴羽「……え?なにこれ?」
なんだろう。
岡部「わからん……」
鈴羽「え?」
岡部「いや、わからないのだ。自分でもなにを書いていたのかが」
鈴羽「それは……す、すごいね」
なんとも微妙な評価をいただいてしまった。
鈴羽「うん?」
岡部「そろそろお前の絵も見せてくれてもいいんじゃないか?」
鈴羽「あ、そうだね!はい、これ!」
鈴羽は自分の描いた絵を、ペラリとこちらに渡してきた。
俺はその絵を受け取り、それに目を落とす。
岡部「うむ……あ……え?」
思わず絶句してしまった。
だってこれは―――。
岡部「鈴羽……、これは何の絵だ?」
鈴羽「うん、オカリンおじさんだよ!」
岡部「……」
その周りには―――。
岡部「………この周りの人たちは誰なのだ?」
なんとなくわかっているが、信じられずに確認してみる。
鈴羽「オカリンおじさんのお友達!」
岡部「そ、そうか……」
家かどこかで、ラボメンたちの集合写真でも見たのだろうか。
それらは、間違いなくラボメンたちであった。
あ、でもそれにしては萌郁の姿だけが見当たらないな……。
岡部「鈴羽、何でラボメンたちの姿を知っている?」
鈴羽「え?」
岡部「こいつはパッと見で誰が誰かわかるほど上手く書けているではないか」
鈴羽「そう? ありがとー!えへへ」
そういって鈴羽は笑顔を浮かべた。
どうやら俺の質問は見事に右から左へ受け流されてしまったようだ。
改めて、この驚くべき絵に目をやる。
ふと、紙の端にとんでもないものが描かれているのが目に映った。
青い服を着た女の子で、髪を結っておさげにしている。
岡部「お、おい鈴羽よ……こいつは……一体誰だ?」
それを指さして、鈴羽に訊ねてみる。
まさか……他のラボメンの写真が残っていたとしても、
このバイト戦士の肖像が今の世界に存在しているわけがない。
この笑顔は、俺の記憶の中にしか存在していないはず。
だから鈴羽には、この戦士の絵を描けるはずがない。
鈴羽「ああ、その人はあたしのお友達だよ?」
岡部「な……に?」
岡部「……」
俺は、思わず鳥肌の立った二の腕をさする。
鈴羽はそんな俺の様子を気にもとめずに続けた。
鈴羽「夢の中でね、私とそのお姉ちゃんと、あと、その絵の中のみんなで遊ぶの!」
岡部「……っ」
夢の中で、みんなで遊んでいる、か。
鈴羽の言葉に、普通ならこれは有り得ない事だとわかっているのに、何故か涙が浮かびそうになる。
岡部「そうか……こいつは、すごくいい絵だな。とても……」
鈴羽「あはっ! ありがとう、オカリンおじさん!」
鈴羽が、屈託のない笑顔で微笑んでくる。
バイト戦士。
まさか、お前とこんな所で、しかもこんなタイミングで再び出会えるとはな。
これも運命石の扉の選択、なのだろうか。
俺は今、確かに鈴羽の中に未来を垣間見たような気がした。
また鈴羽の頭をワシャワシャとかいてやった。
鈴羽「あーもう、またやったー!」
鈴羽が、おさげを庇うように両手で押さえる。
鈴羽「おさげが崩れちゃうじゃーん!」
岡部「あ、ああ。すまなかった。そういえば、それは母さんがしてくれたのか?」
鈴羽「あ、うん。このお姉ちゃんとお揃いにしてもらったの!」
なるほど、こいつのおさげはそういう事だったのか。
岡部「……鈴羽、お前はよほど、そのお姉ちゃんの事が大好きなのだな」
岡部「…ああ。さっき絵を描いてた時にお前が歌っていたな?」
鈴羽「そう、あれもね、お姉ちゃんがよく夢の中で歌ってくれるから覚えたんだよ」
岡部「……」
……なんとも不思議な事ばかりが続き、いい意味で頭がクラクラとしてしまう。
岡部「そうか……やはりあれは……いいメロディだな」
鈴羽「ありがと!えへへ」
そう言って笑う鈴羽の頭に手を置いてやる。
岡部「よかったら、もう一回聞かせてくれないか?」
鈴羽「うん、いいよー!」
岡部「うわっ、ちょ……!」
俺の膝の上はヒョロヒョロでグラグラとしていて心許ない。
危ない!
グラつく鈴羽をとっさに支えようとして、意図せずその肩を抱いてしまった。
岡部「あ!すまん……」
何をやっているんだ、俺は。
これではまるでHENTAIのようではないか。
慌てて手を離そうとしたところで、鈴羽は目を閉じたまま、さっきのメロディを口ずさみはじめた。
頭をゆっくりと左右に揺らしながら。
鈴羽「―――――♪」
岡部「……」
俺も黙って目を閉じると、子供らしい甘ったるい香りが鼻に届く。
なるほど、実にお前らしい曲だな。
……バイト戦士よ。
俺たちは、俺の事や鈴羽の事についてをあーでもないこーでもないと、
途中で――子供相手に――マジになりながら話したり。
そんな事をしている内に、とうとう玄関のチャイムが鳴ってしまった。
岡部「鈴羽、父さん達が帰ってきたみたいだぞ?」
隣に座った鈴羽に、手をさしのべて立ち上がるよう促す。
鈴羽「えー? もう?まだ話足りないよー」
岡部「うん? そうか。じゃあ、続きはまた今度だな」
鈴羽「うーん……約束だからね?」
岡部「ああ、わかった。約束しよう」
そう言ってやると、ようやく鈴羽は俺の手を握ってくれた。
玄関先に立っていた由季氏が、ニコニコの顔で鈴羽に手招きをしている。
ダルはというと、車の方で買い込んだ荷物を整理し、もう一人分の座席を用意していた。
岡部「……なんだアレは。随分とエンジョイしてきたようだな」
由季「あはは、お恥ずかしい。そういえば……鈴羽はいい子にしてた?」
由季氏が申しわけなさそうに聞いてくる。
岡部「ああ、いや。 逆にこっちが構ってもらったようなものだ、なあ、鈴羽?」
鈴羽「うん!とっても楽しかったよ!」
そういって鈴羽は由季に駆け寄ると、こちらを振り返って笑顔を見せてきた。
鈴羽「うん、母さんもよかったね。えへへ♪」
由季「あー……ははは…」
あっと、そうだった。
岡部「鈴羽、こっちに来てくれないか?」
鈴羽「んー?なになにー?」
鈴羽が歩み寄ってくる。
岡部「ちょっと手を出してくれ」
鈴羽「??」
俺は、さっき用意しておいたピンバッジをポケットから取り出して、鈴羽に手渡した。
鈴羽は、それを不思議そうに手のひらの上で転がしている。
鈴羽「これは?」
そこで、バサッとマッドサイエンティストの決めポーズをとる。
随分久しぶりだ。
あ、しまった……由季氏がいたのを忘れていた……。
そろりと姿勢を戻し、コホンと咳払いをしてごまかす。
岡部「……ラボメンの証、そして思い出のバッジなのだ」
鈴羽「うわぁ!ほんとにー!?」
そう言ってやると、途端に鈴羽は目を輝かせた。
由季「あ、それ父さんが大事にしてるのと一緒だね。いいの?岡部君」
いや、むしろ鈴羽に渡すために一個残してあったのだ。
岡部「ああ構わない。鈴羽、それを大事にするように。 ……特にお前が18になるまではな?」
鈴羽「え? うん。よくわからないけど、わかった!」
岡部「よろしい」
ダル「おーい!車の準備が出来たぞーぅ!のりこめー!わぁい!」
由季「あ、それじゃあ岡部君、準備が出来たみたいだから行くね?」
岡部「ああ、気をつけて帰るようにな」
由季「うん、今日は本当にありがとう!」
その笑顔に照れてしまい、俺は思わず自分の頭に手をやる。
鈴羽「オカリンおじさん、またねー!」
鈴羽が振り返って、手を振ってきた。
無邪気なものだな。本当に。
俺も手を挙げてそれに応える。
岡部「あ、そうだ鈴羽」
鈴羽「なーに?」
岡部「また、夢であいつに会ったらよろしく伝えてくれ。あと、ありがとう、と!」
鈴羽「わかったー!」
そう返事をして、鈴羽はそのまま車に乗り込んでしまった。
それとすれ違いでダルが顔を出してくる。
ダル「オカリン、今日はマジでありがとな。これお土産」
ダルが差し出す紙袋を手に取ると、中にはフィギュアやらマンガ本らしきものが見える。
こんなものを貰っても、俺はどうすればいいというのだろうか。
岡部「サンクス……」
とりあえず、部屋にでも飾っておこう。
岡部「ああ」
踵を返して車に向かうダルの背中に声をかけてやる。
岡部「ダルよ、くれぐれも安全運転を心がけるようにな」
俺の注意に、ダルは黙ってサムアップして振り返らずに行ってしまった。
なんというか、思っていたより随分あっけないものだったな……。
俺は何ともいえないもの寂しさを覚えた。
それが急に全身にゾワリと感じ、たまらなくなった俺は財布と携帯だけを持って家を飛び出す。
しばらく歩いた頃には辺りはすっかり暗くなってしまっていて、
いつか見たような夜空には、数多の星が光って見えていた。
ダル『オカリンさー、うちの鈴羽に何したん?』
電話のスピーカーから、ダルの訝しげな声が聞こえてくる。
岡部「は? おいダル、人聞きの悪い事を言うな!俺はいかがわしい事など……」
ダル『あ、いやいや、そう言う意味じゃないんだけどさ、今日1日でオカリンにやたら懐いたみたいなのだぜ?』
岡部「なに? そ、そう、なのか?」
まあ、奴はもともと人なつっこい性格のようだからな……。
岡部「……そうか。 ま、まあ、鈴羽にはまたいずれ会いに行くさ」
ダル『おおう、わかった。そん時はよろしく頼むお』
まあ、しばらくは無理だ。
こっちもこれから忙しくなるはずだし。
岡部「奥さんにもよろしく言っといてくれ」
ダル『ういお、オカリン、今日は本当にありがと。でもさ、子供ってやっぱいいもんだろ?』
……ははあ、こいつめ。
やっぱり鈴羽を預けてきたのも、ダルなりの気遣いのつもりだったのかも。
でもまあ、それならそれで、やはりダルは大したもんだ。
岡部「……そうだな。 今は本当にそう思うよ。 こちらこそ感謝する、ダル」
岡部「……ああ」
あっと、しまった。
言い忘れるところだった。
岡部「あ、ダル。俺からも一つ頼みがあるんだが」
ダル『ん?なんぞ?』
岡部「鈴羽には、そのうち自転車を買ってやってくれ」
ダル『はあ?いきなりどうしたん?』
岡部「あいつには自転車が必要なのだ。もしお前が買わないのなら俺が買うが? 自費で」
そう言うと、ダルは電話の向こうで少し考え込んでいるようだった。
それからすぐに、返事が返ってくる。
ダル『……オカリンが何で自転車にこだわるかわかんないし、鈴羽にはあんま危ない事させたくないけど……』
……おい。
……なんだなんだ、照れくさいな。
岡部「……そうか、ありがとな」
ダル『うん、こっちこそ。 じゃ、オカリン、またその内遊ぼうぜ』
岡部「ああ、楽しみにしておく」
ダル『そんじゃなー』
プツリと音がして、先輩からの電話が切れる。
俺はそのまま携帯の電源を切ってポケットにしまった。
岡部「紅莉栖、調子はどうだ?」
紅莉栖「あら…こんな時間に会いに来るなんて、どういう風の吹き回しかしら?」
俺が声を掛けると、紅莉栖は凍りついた笑顔のままこちらを振り返ってきた。
……こいつめ、まだ昨日の喧嘩を引きずっているようだな……。
まあ、怒らせたのは例によって俺なのだが。
岡部「……そう怒るなよ。 ……昨日は俺が全面的に悪かった。すまない、紅莉栖」
そこまでいって、テーブルの上に自販機で買ってきたホットミルクを置いてやる。
途端に、紅莉栖がキョトンとした。
それだけ言って、ふい、と向こうを向いてしまう。
岡部「……よかった。 まあ……怒りすぎは胎児に悪影響を及ぼすというからな?」
紅莉栖「あ…はは……怒らせてるのは9割あんただけどな……」
やれやれ、と言った感じで首を振り、紅莉栖がホットミルクを一口含んだ。
岡部「すまん……それより、予定は早まったりしないのか?」
紅莉栖「……は?」
俺がそう聞くと、紅莉栖は目をまん丸にして見つめてきた。
言わずもがな、その目が語っている。
こいつはいきなり何を言い出すのか、と。
でも、なんかこう……俺がこんな風に思ってしまうのもしょうがないのだ。
今日は。
岡部「いや……その、出産予定日が、だ。前倒しで生まれたりはしないのか?」
紅莉栖「……あんたまさか、鈴ちゃんを見てて待ちきれなくなったとか?」
……。
岡部「ゲェーッ!なんでそれを知っている……!?」
思わず立ち上がると、俺の座っていた椅子がガターンと音を立てた。
紅莉栖「やかましいな!朝一番でまゆりから聞いとったわ!」
岡部「うわっ!お前っ!大きな声を出すなよ!」
紅莉栖「え、えっ?」
岡部「お腹の子に悪影響が……」
紅莉栖「……早くも親バカぶりを発揮か……」
岡部「ぐ、ぐぬぬ……それにしてもまゆりのやつめ……」
紅莉栖「……クスッ。 こないだまで、あんなに父親になる事にビビってたのにな?」
手を口に当て、プッと吹き出される。
しかし、それはそれで笑われると悔しいものだ。
岡部「ビビってなどいない!ちょっと腰が引けただけであってだな……」
紅莉栖「ワロスワロス。 意味が同じだろ……でも、あんたが思ってた通りの子煩悩そうで安心した」
そう言って、紅莉栖はさっきまでの仏頂面などどこ吹く風で、優しい表情を見せてくれた。
岡部「いや……でも、俺が子守りなんか引き受けて不安じゃなかったのか…?」
いつもだったら、俺が子守りなどを安請け合いしたと知った途端に怒りの電話を飛ばしてきそうなものだが……。
紅莉栖「んー……全然ね」
しかし、俺の考えに反して、紅莉栖の答えは随分とアッサリしていて意外なものだった。
紅莉栖「そ、全然。 まあ、信頼してるからね……それにちょっと期待してたっていうか」
岡部「き、期待……だと? 俺に……?」
聞き返すと、紅莉栖はウィンクするように片目を閉じて、得意げな顔をする。
紅莉栖「当たり前じゃない………なんせ、あんたは私の旦那様なのだぜ?」
紅莉栖はそう言うや否や、ふい、と向こうを向いてしまった。
ただ、耳まで紅いのは隠せていないのは昔のままだが。
しかし、やられた。
こうして惚れ直させられたのは何度目だろうか。
紅莉栖「……あんたは変わらなくていい。 私は……そのままの倫太郎が好き」
そうして、紅莉栖は自分の大きなおなかを撫でて――。
紅莉栖「きっと、この子もそう思はず。 きっとね……」
――と。
しかも、これからは三人での新しい生活が始まるのだという未来に胸が躍って。
思わず視界がぼやけた。
岡部「うぐぐ……っ」
紅莉栖「こ、こら!いい歳したオッサンが泣くな! 恥ずかしいだろが」
俺はぐずぐずの顔を見られたくなくて、つい、子供のように紅莉栖にしがみつく。
紅莉栖は、そんな俺の頭をいつまでも。
優しく、撫でてくれていた。
おわり。
よかったら最後に聴いて下さい。
阿万音鈴羽で『メロディ』
http://www.youtube.com/watch?v=hIQ1Yz_qNQs&sns=em
音量にはお気をつけて。
みなさん、今日は本当にサンクス。
乙でした!
やっぱオカクリはしっくりくる
Entry ⇒ 2012.01.15 | Category ⇒ シュタインズゲートSS | Comments (0) | Trackbacks (0)
姫「どこだ、ここは?」
姫「……」
ワイワイ……ガヤガヤ……
姫「……」オロオロ
姫「ここは、どこだ?」
姫「……困ったな」オロオロ
街頭テレビ『―――から来日中の姫君が迷子になったという情報がただいま入りました』
「彼女ー、ひとり?」
姫「なんだ?見ればわかるだろう?」
「うわ、外人じゃん」
姫「誰だ?」
「日本語うまいね」
姫「まぁな」
「俺とお茶しない?」
姫「茶だと?」
「そうそう」
姫「断る。何故、貴様のような下賎な輩と茶を交えなければいけない?」
「なんだよ、こいつ……」
姫「去れ。今なら見逃してやる」
「けっ、ブスが」
姫「ブス……?お前、死にたいのか?」
姫「……おのれ」
「なんだよ?」
姫「私に対して何たる暴言の数々。覚悟はできているのだろうな?」
「はぁ?どっかいけよ、きめえな」
姫「貴様……!!」
「ふん」スタスタ
姫「まて……!!」
ガヤガヤ……
姫「ちっ……見失ったか……」
姫「日本という国は慎ましやかところだと聞いていたが、どうやら間違った情報のようだな」
姫「……」
姫「帰りたい……」
姫「ここは、どこだ……」オロオロ
姫「ふむ……」トボトボ
姫「また景色が変わったな……」
姫「ここは静かで良い場所だ。先ほどのように空気や人が淀んでいない」
姫「んー……気に入った。ここに別荘でも建てようか」
猫「にゃー」
姫「ん?」
猫「にゃー」
姫「野良か。どこの国でも野に生きる者がいるのだな」
猫「にゃぁ」
姫「なんだ、纏わり付くな。服が汚れるだろう」
猫「にゃぁぁ」
姫「言葉が通じんか……しかたない。こほん」
姫「にゃぁー」
猫「にゃぁ?」
猫「にゃぁ」
姫「にゃー(分からぬのか、使えぬ駄猫めが)」
猫「にゃぁ」
姫「にゃー」
猫「にゃー」
姫「にゃぁ!!」
男「あの……」
姫「ん?」
男「すいません。俺の飼い猫になにか?」
姫「お前の猫か?」
男「はい」
姫「ならば、首輪ぐらいしておけ」
男「すいません。ほら、おいで」
猫「にゃぁ」
男「……あの」
姫「なんだ?」
男「えっと……もしかして迷子になってません?」
姫「迷子?私が?あはははは!!」
男「……」
姫「私を誰だと思っている。高貴にして壮麗の桜花とも言われているのだ。そんな私が迷子などと」
男「でも……」
姫「しつこいぞ」
男「すいません」
姫「それではな」
男「……」
姫「……」キョロキョロ
男「あの、どこに行こうとしてますか?」
姫「どこって……あれだ……風まかせだな。うん」
姫「もうよい。去れ」
男「……」
姫「ふむ……」キョロキョロ
男「あの、道案内でも……」
姫「くどい」
男「そうですか……」
姫「さらばだ」
男「はい」
猫「にゃー」
姫「……」
姫「……」オロオロ
姫「行くあてか……確かにないな」
姫「さて、どうしたものか……」
姫「椅子があるな」
姫「少し汚れているが、ま、問題はないか」
姫「ふぅ……」
姫「つかれた……」
姫「全く……私を置いて皆はどこへ行ったのだ」
姫「……」
姫「迷子……」
姫「ふん。ないない」
姫「私は迷子など、なっていない」
姫「ん?」
ブゥゥゥン……プシュ……
姫「なんだ、この大型の車は……」
姫「ああ、迎えか」
姫「すまんな」スタスタ
姫「ふむ……」
アナウンス『次は県立病院前。県立病院前です』
姫「……」
姫「おや?止まったな」
姫「ここで降りろということか」
姫「見知らぬ場所だが……」
運転手「あ。すいません、お金を」
姫「え?」
運転手「だから、お金を」
姫「いくらだ?」
運転手「240円です」
姫「……」
運転手「早くしてください」
姫「しばし待て……えーと……」ゴソゴソ
運転手「……」イライラ
姫「ふむ……ない」
運転手「え?」
姫「そもそも日本の硬貨をもっておらんかった……」
運転手「あのですね……」
姫「こまったものよぉ」
運転手「……これ、立派な犯罪ですよ?」
姫「謝罪しよう」
運転手「謝って済む問題じゃ―――」
おばあさん「ああ、ちょっと」
運転手「え?」
おばあさん「降りたいから、はやくしてほしいのですが」
運転手「あ、ああ。どうぞ」
おばあさん「じゃあ、480円払います。それでは……」
運転手「あの……」
おばあさん「さ、降りましょうか」
姫「うむ」
運転手「……」
おばあさん「今度からはお金を確かめてから乗らないとだめですよ?」
姫「お前は、誰だ?」
おばあさん「ちょっと腰が悪いおばあちゃんよ」
姫「私の祖母か。まさかこのような国にいようとは……」
おばあさん「あはは。面白い人」
姫「身内とはいえ、礼をしなくてはな」
おばあさん「いいですよ」
姫「やらせろ」
おばあさん「そう?―――じゃあ、病院まで話相手になってもらいましょうか」
姫「よかろう。なんでも話せ」
姫「そうだろう。手入れは欠かしていない」
おばあさん「そうですか」
姫「お前も中々、肌艶がいいな。その歳で男でも侍らせているのか?」
おばあさん「いやいや。そんなことないですよ。うちの孫がいい子でね。よく遊びにきてくれるの」
姫「ちょっと待て。孫とは私のことだろう?」
おばあさん「いいえ。もう一人の孫よ」
姫「……?」
おばあさん「うちで飼っている猫が好きでね。よく相手してもらっているのよ」
姫「そうか」
おばあさん「ちょうど、貴方ぐらいの年齢ね」
姫「私と兄妹になるのか?」
おばあさん「ちょうどそのくらいかもしれないわね」
姫「そうか。折角だ、挨拶ぐらいはしておきたいな」
おばあさん「そう。よろこぶと思いますよ」
おばあさん「ありがとう。楽しかったわ」
姫「そうか」
おばあさん「それじゃあ、ちょっと行ってくるから」
姫「分かった。気をつけてな」
おばあさん「はい」
姫「……」
姫「ふむ……」キョロキョロ
姫「椅子があるな」
姫「どうせやることもない。待つとするか」
姫「……ふぅ」
幼女「……」ジーッ
姫「……なんだ?」
幼女「しゃべった……」
姫「喋るに決まっている。かかしではないぞ」
姫「そうだな。日本の人間ではない」
幼女「へえ……」
姫「……」
幼女「おねえちゃん」
姫「なんだ?」
幼女「これよんで」
姫「母上がいるだろう」
幼女「いま、おいしゃさんのところにいるからだめなの」
姫「どうした?体でも悪いのか?」
幼女「うん。そうみたい」
姫「そうか。大変だな」
幼女「おねえちゃん、ごほんよんで」
姫「……」
幼女「……」
幼女「しらない」
姫「日本の童話には少しうるさくてな。いいか?桃太郎は桃から生まれたとされている」
幼女「……」
姫「そもそもどうして桃から生まれたなどという奇抜な設定が生まれたのか」
姫「この桃というのは元来―――」
幼女「つまんない」
姫「なに?!」
幼女「……ふわぁ」
姫「おのれ……」
幼女「おやすみ……」
姫「あ、こら。私の足を枕にするな!」
幼女「すぅ……すぅ……」
姫「なんだこの無礼者は……」
姫「……」
姫「……」ウトウト
母「あの……」
姫「ん……?だれだ?」
母「すいません。うちの娘が……」
姫「ああ、気にするな。足が痺れただけだ」
母「ほら、起きなさい」
幼女「ん……あ、お母さん」
姫「体は良いのか?」
母「え?」
姫「大病を患っているのであろう?」
母「あ……はい」
姫「ふむ……辛いだろうが気を落とすな」
母「どうも」
幼女「おねえちゃん、バイバイ」
姫「来たか。ほら、帰るぞ」
おばあさん「え?」
姫「私の弟が……いや、兄か?とにかく血族がいるのだろう?」
おばあさん「ふふ、どこまで冗談なの?」
姫「冗談?」
おばあさん「一緒に帰りましょうか」
姫「ああ」
おばあさん「行きましょう」
姫「お前も病気なのか?」
おばあさん「ええ。歳には勝てないみたいで」
姫「そうか。ま、気にすることはない。傍から見れば十分に元気だ」
おばあさん「ありがとう」
姫「それにしても私の兄妹か……一体、どんな人物なのやら……」
おばあさん「ただいま」
男「おかえ―――うわぁ!!」
姫「お前か」
おばあさん「あら、お知り合いだったの?」
姫「少しな」
男「ど、どうして……?」
姫「で、お前、年齢は?」
男「20歳だけど……?」
姫「そうか。では、私の兄だな」
男「え?」
おばあさん「さ、あがって」
姫「にしても埃っぽい家屋だ。もう少しマシな家を建てられなかったのか?」
男「ばあちゃん、この人……」
おばあさん「おもしろい人でしょ?ふふ」
おばあさん「お茶です。お口に合えばいいのですけど」
姫「頂こう」
男「……」
姫「うむ。まずいな」
男「……正直ですね」
姫「だが、温まる。これはこれで良いのもかもしれんな」
おばあさん「ありがとうございます。では、私はこれで」
男「ばあちゃん、部屋までついていくよ」
おばあさん「いいから。アンタはその人の相手をしてあげて」
男「でも……」
おばあさん「いいお嫁さんになるかもしれないよ?」
男「な……!?」
猫「にゃあ」
姫「お前もいたのか。飼い猫にしては凛々しいな」
猫「にゃぁ」
姫「腹を見せてどうした?」
男「撫でて欲しいんじゃないですか?」
姫「ほぉ?」
猫「にゃあ」
姫「こうか?」グシャグシャ
猫「ふしゃーー!!」
姫「何を怒っておる?」
男「そんな乱暴にするから」
姫「猫の癖に生意気な奴だな」
男「……」
姫「兄よ」
男「え?」
姫「茶のおかわりだ。はやくしろ」
姫「すまんな」
男「……」
姫「……あいつな。冷ませ」
男「自分でやってくださいよ」
姫「私の兄であろう?冷ませ」
男「なんで俺があなたの兄なんですか……」
姫「血縁上、そうらしい」
男「だれがそんなことを……」
姫「お前の祖母だが?」
男「……」
姫「……冷ませ」
男「はいはい……」
男「ふー……ふー……はい」
姫「おい。全然、冷めてないぞ。兄のくせに使えんな」
姫「どうとは?」
男「迷子、なんでしょう?」
姫「まだいうか?」
男「だって……」
姫「確かにどこにいけばいいかわからんが、迷子ではない」
男「そういうのを迷子っていうと思うんですけど」
姫「兄よ。そうやって妹を貶めて楽しいか?」
男「いや……そういうことじゃないけど」
姫「もうよい。兄とはどんな人物かと思って期待していたのに……」
男「……」
姫「猫のほうがまだ理性的だ」
猫「にゃぁ」
姫「にゃあ?」
男「なんなんだ……この人……」
男「……」
姫「なにか余興はないのか?」
男「そうだ。買い物にいかないと」
姫「買い物?」
男「ええ。ばあちゃんにごはんをつくらないと」
姫「兄は料理ができるのか?」
男「少しだけですけど」
姫「ほお……すばらしいな」
男「え?」
姫「そうかそうか……料理ができるか」
男「なんですか?」
姫「私に出来ぬことをやる。兄とはそうでなくてはな」
男「……とりあえず買い物に行ってきます」
姫「私もいく。兄よ、今まで離れていたのだ。しばらくは一緒にいてやるぞ?」
姫「ここは嫌いだ。空気が淀んでいる……」
男「じゃあ、帰ってもいいですよ?」
姫「ならん。兄よ、これからは兄妹の時間を大切にせよ」
男「……」
姫「なんだ?」
男「別に……」スタスタ
姫「うむ……あれはなんだ……?」フラフラ
男「あ、どこに行くんですか?」
姫「この人形はなんだ?カエルのような……そうでないような……」
男「薬局のマスコットです」
姫「ほぉ……これが噂にきく招き猫か」
男「猫じゃないし……」
姫「む?あっちはなんだ?」フラフラ
男(迷子になるわけだ……)
姫「ほお……すごいな。色とりどりだ」
男「貴女の国にはこういうところないんですか?」
姫「あるが。ここまで品物が揃って居る場所は殆どない」
男「そうなんですか」
姫「日本は豊かだな、兄よ」
男「そうですね」
姫「うむ。うまそうな果実だ。どれどれ……あーん……」
男「駄目ですよ」
姫「何故だ?日本には試食という文化があると聞いているが?」
男「それは……むこう」
姫「ん?」
「どうぞー!!食べていってくださいねー!!どうですかー!?」
姫「なるほど……向こうだな」トテトテ
男「あ、ちょっと」
「はい!」
姫「……」モグモグ
男「もう……」
姫「うむ……悪くない」
「そちらの方もどうですか?」
姫「兄よ。あーん」
男「いいですよ」
姫「私の好意を無碍にするか?怒るぞ?怒ると私は怖いぞ?」
男「はいはい……あーん……」
姫「ほれ」
男「……」モグモグ
姫「どうだ?」
男「美味しいですね。―――すいません、これ一袋もらいます」
「ありがとうございますー」
姫「兄よ」
男「なんですか?」
姫「これはなんだ?」
男「チョコレートですけど」
姫「よし」
男「駄目です」
姫「何故だ」
男「自分で買ってください」
姫「兄よ。妹に対して冷たくないか?あれか。ずっと離れていたから妹に思えないのだな?」
男「俺たちは別に兄妹ってわけじゃあ……」
姫「チョコレート……」
男「甘いの好きなんですか?」
姫「うむ。美味しいな!」
男「……どうぞ。でも、一個だけですからね」
姫「……」モグモグ
男「美味しいですか?」
姫「この国のチョコは美味だ。口内に残る香りが鼻腔を通るときが最も至福を感じることが出来る」
男「よかったですね」
姫「ああ。私は今、幸せだぞ。兄よ」
男「はいはい」
姫「……」モグモグ
男(この人、これからどうするんだろう……?)
姫「うまいなっ!」
街頭テレビ『―――速報です。迷子になった姫君に関し有益な情報を提供してくれた方に100万円の報奨金を出すと発表がありました』
男「ただいまー」
姫「戻ったぞ」
おばあさん「おかえり」
男「今、ごはん作るから」
おばあさん「悪いね」
姫「兄よ。手伝えることはあるか?」
男「え?」
姫「なんでも言ってくれ。妹は兄に従順であるべしと書物に書いてあった」
男「そうなんですか……じゃあ……」
姫「うむ」
男「野菜でも切ってもらえますか?」
姫「いいだろう。任せろ」
男「お願いします」
姫「よしよし」
姫「はぁ!!!」ダンッ!!
男「あぶない!!」
姫「なんだ?」
男「こうやって切るんですよ……」トントン
姫「ふーん」
男「いや……ふーんじゃなくて」
姫「わかった」
男「本当ですか?」
姫「こうだな?」ダンッ
男「そんな力いっぱいに切ったら駄目ですって!!」
姫「そうはいうがな……」
男「包丁、触ったことないんですか?」
姫「ないぞ」
男「……」
おばあちゃん「いつも悪いね」
男「いいから。さ、食べよ」
おばあちゃん「ええ」
姫「大母上よ。聞いてくれ。この野菜は私が切ったのだ。すごいだろう?」
おばあちゃん「ええ。すごいわ」
姫「ふふん」
男「形も大きさもバラバラですけどね」
姫「口に入れば同じだろうに」
男「そうですかね……」
おばあさん「そういえば、今日はどうするのかしら?」
姫「え?」
おばあさん「お家に帰る?」
姫「いや。折角こうして会えたのだ。私は兄といるぞ」
男「え……」
おばあさん「じゃあ、貴女はこの部屋を使ってね」
姫「しかし、兄と同室がいいのだが」
おばあさん「あの子、照れ屋だから無理よ」
姫「そうか。なら、仕方ないな」
おばあちゃん「おやすみ」
姫「ああ、ゆっくり休め」
おばあさん「はい。おやすみ」
姫「……」
姫「このように狭い部屋があろうとはな」
姫「窮屈だが悪くない」
姫「それにしても……」
姫「あいつらはちゃんと私を迎えにきてくれるのだろうな……?」
姫「兄とここで暮らすのもいいが、自国のこともあるからな……」
姫「……」ムクッ
姫「……」フラフラ
姫「トイレはどこだ……?」
姫「……」フラフラ
男「あ、どうしたんですか?」
姫「トイレはどこだ、兄よ」
男「えっと。突き当りを左にいったところです」
姫「わからん。案内しろ」
男「なんで……」
姫「いいから」
男「わ、わかりました」
姫「……」ギュッ
男「え……?あの、服を引っ張らないでください。伸びますから」
姫「いいから、案内しろ。この廊下は寒いし暗い。道に迷ってしまいそうだ」
姫「ここか」
男「それじゃあ」
姫「うむ。ご苦労」
男「……」
ガチャ……バタン
姫「ふぅ……」
姫「……」
姫「この便座……温かいな」
姫「どういうからくりだ……?」
姫「中々どうして落ち着くではないか……」
姫「ほぅ……」
姫「なんだ?ビデ……?」
姫「なんとも卑猥なボタンだ」
姫「……」ポチッ
男「あの人、普通じゃないよな……」
男「なんか上品だし……口は悪いけど……」
男「浮世離れしているところもあるし」
男「……ま、可愛いからいいけど」
ひゃぁぁぁぁぁ!!!!!
男「!?」ビクッ
男「なんだ……?」
ドタドタ!!
姫「あにぃ!!どこだぁ!!でてこい!!」
男「え……?」ガチャ
姫「あに!!」
男「どうした―――うわぁ!!!下、下、はいてください!!」
姫「なんだあの装置は!?いきなり辱めにあったではないかぁ!!」
男「と、とにかく下を!!!」
男「しりません」
姫「全く……もうお嫁にいけんぞ」
男「なんで……」
姫「まさか局部に放水されるとは……」
男「……」
姫「兄よ。よければ、大事になる前に私を娶るつもりはないか?」
男「ないです」
姫「そうか」
男「はやく部屋に戻ってください」
姫「兄は私のことが嫌いなのか?今日一日、まともに話してくれんではないか」
男「いや……そういうことじゃなく……ただ慣れてないだけです」
姫「なれていない?」
男「その……女性と話すのが」
姫「なんだ。そうか。だが、私は妹だ。気兼ねなく話しても良いのだぞ?」
姫「では、失礼する」
男「あ、そうだ」
姫「なんだ?」
男「ばあちゃんの付き添い、ありがとう」
姫「なんだ、そのことか」
男「ばあちゃん、楽しかったって」
姫「喜んでくれてなによりだ」
男「おやすみなさい」
姫「うむ。よい夢を」
男「……」
男「ちゃんと説明しとかないと、いつまでも兄だと思われるな……」
男「……」
男「悪い気はしないけど、やっぱり言わないとな……」
姫「ふわぁ……もう寝ようか」
猫「にゃあ」
姫「お前も来たか……」
猫「ふにゃ……」
姫「よいぞ。ともに寝るか」
猫「にゃぁ」
姫「よし……」
姫「ほら、こっちにこい」
猫「にゃあ……」ヒョコヒョコ
姫「おやすみ……」
猫「にゃあ……」
テレビ『では今朝のニュースです』
姫「ほう、今日も病院にいくのか?」
おばあさん「ええ」
姫「付き合おう」
おばあさん「いいのよ。家に居てくれて」
姫「気にするな」
おばさん「そう?」
姫「兄も行くだろ?」
男「え?」
姫「いくだろ?」
男「あ、うん」
おばあさん「うれしいわ」
姫「大母上のためだ」
男「……」
姫「よかろう」
男「……あの」
姫「なんだ、兄よ?」
男「えっと……言っておきたいことがあるんです」
姫「なんだ?申してみよ」
男「俺たちはその……兄妹じゃない」
姫「え?」
男「似ても似つかないし。きっと貴女が勘違いしているだけだと思う」
姫「父上は何人も浮気相手がいたから、その浮気相手との間に生まれたわけでもないのか?」
男「違うとおもう。うちの両親は随分前に死んだから」
姫「ふむ……」
男「なに?」
姫「兄よ。妹が有能だからと否定することはないだろう?」
男(駄目だ……決定的な証拠でもないと信じてくれそうにないな)
おばあさん「それじゃあ、行ってくるわね」
男「うん」
姫「ゆっくりでいいぞ」
男「さてと……」
姫「あ」
幼女「おねえちゃんだ」
姫「お前も来ていたか」
幼女「うん」
男「知り合いですか?」
姫「膝枕をしてやった仲だ」
男「膝枕?」
幼女「おねえちゃん、ごほんよんで」
姫「まかせる」
男「い、いやですよ」
男「貴女が頼まれたんでしょう?」
姫「そうだが」
幼女「ごほん……」
姫「はいはい……えーと……これは……?」
幼女「しらない」
姫「むぅ……」
男(意外と面倒見がいいのかな……?)
姫「えーと。昔々、あるところにおじいさんとおばあさんが……ってこれ桃太郎ではないか」
幼女「うん」
姫「何故、同じ奴をもってくる。他のにしたらどうだ?」
幼女「だって。おねえちゃんよんでくれなかったもん」
姫「解説をしようとしたらお前が寝てしまったのだろうが」
幼女「よんでー」
姫「よかろう。今度こそ私の講義を最後まで聞くのだぞ」
男「ちょっと」
姫「兄も聞いていくか?」
男「いや。その本にある文章を読んであげればいいじゃないですか」
姫「だから、私が詳しい背景を交えてだな」
男「そんなの誰も聞きたくないですって」
姫「なんだと……?」
幼女「……」コクコク
姫「じゃ、読まん」
幼女「え……」
姫「私のやりかたに文句があるのなら読まん」
男「我侭だ……」
幼女「……」ジーッ
姫「……」
姫「……おじいさんは山に芝刈りに、おばあさんは川に洗濯にいきました」
幼女「すぅ……すぅ……」
男「寝ちゃいましたね」
姫「こやつ……」
男「貴女の声が素敵だからですよ」
姫「なんだと?」
男「優しいというか、落ち着くというか、とにかくずっと聞いていたくなる声ですね」
姫「そうなのか?そんなこと言われたことなかったな」
男「そうなんですか?」
姫「ああ。演説をすることもあったが、声を評価されたりはなかった」
男「演説?」
姫「うむ」
男「それって―――」
母「あ、また」
姫「おお。こやつの母上か。また、世話してやったぞ。感謝せよ」
男「でも、今は気持ちよさそうに寝てますから……そっとしておきましょうか」
姫「なに?兄よ。この娘は今、私の足を枕にしておるのだぞ?」
男「いいじゃないですか」
姫「しかしだなぁ……」
母「あの、よければ少しの間だけ寝かせてあげてください」
姫「何故だ?足が痺れて大変なのだが……」
母「えっと……それはこの子が疲れているから」
男「疲れている?」
母「ええ……」
幼女「すぅ……すぅ……」
姫「どういうことだ?」
母「この子、体が生まれつき弱くて、こうして病院にも頻繁に来ているんです」
男「そうだったんですか」
姫「待て。母上のほうが病を患っているのではないのか?」
姫「そうなのか」
母「少し歩いただけで息切れしたりするし……」
姫「治るのか?」
母「先天的なものですから、難しいかと」
姫「ふむ」
男「すいません。そんな話を……」
母「いいえ。気にしないでください」
幼女「ん……あれ?お母さん……?」
母「あ、起きた?」
幼女「うん……」
姫「はよ頭をどけろ。痺れてかなわん」
幼女「あ、ごほんは?」
姫「続きはまた今度だ」
幼女「うん。やくそくだよ、おねえちゃん?」
男「大丈夫だった?」
おばあさん「ええ」
姫「よし。帰るか」
おばあさん「ごめんなさいね」
姫「構わん」
男「……」
姫「なんだ、兄よ」
男「いえ……」
姫「ふむ。では買い物でもして帰ろうか」
おばあさん「そうね」
男(やっぱりこの人、普通じゃないな……)
テレビ『―――続いてのニュースです』
男「あ、ちょっと待ってください!!」タタタタッ
テレビ『先日から行方不明になっている姫君に関しての情報は―――』
姫「……」モグモグ
男「チョコレート、美味しいですか?」
姫「うむ」
男「あ、そういえば」
姫「なんだ?」
男「着替え……」
姫「心配いらぬ。下着は大母上のを―――」
男「だめでしょそれぇ!?」
姫「何故だ?」
男「なんかこうビジュアル的に……」
姫「この国の下着は素材が素晴らしいな!」
男「想像しないようにしないと……」
姫「ふふん」モグモグ
男「……」
男「んー?」
姫「暇だな」
男「そうですね」
姫「兄よ。でかけるぞ」
男「え?」
姫「支度せよ」
男「ちょっと、どこに行くんですか?」
姫「いいからこい」
男「もう……ご飯の買出しは済んでるんですよ?」
姫「暇なのであろう?では、兄として妹の我侭に付き合うのが筋だ」
男「なんて横暴……」
姫「行くぞ」
男「わかりました」
姫「……ふむ」
姫「よし」
男「どこに行くんですか?」
姫「こっちだ」
男「はい?」
姫「……」トテトテ
男「……?」
姫「兄よ、あったぞ!!カエルだ!!」
男「薬局……?」
姫「失礼するぞ」
「いらっしゃいませ」
男「ここに何の用が?もしかして……あの、生理用品とか?」
姫「兄よ。デリカシーの欠片もないな」
男「だって……」
姫「もうよい。兄は黙っておれ」
「なんでしょうか?」
姫「万病に効く薬はあるか?」
「は?」
男「ちょっと!何を言ってるんですか!!」
姫「ええい、うるさい奴だ」
男「いや、万病に効くとか意味分かりませんから」
姫「ここは薬屋なのだろう?それぐらいおいているはずだが?」
「ええと、風邪薬ですか?」
姫「違う。なんにでも効く薬が欲しい」
「はぁ……?」
姫「ないのか?」
男「あるわけないでしょ?」
「総合剤ってことでいいんですかね?それならありますよ」
姫「ほら、あるではないか。兄よ、会計を頼むぞ」
姫「うむ。あの娘と母上にせめてもの贈り物だ。何度も病院通いなど辛いであろうからな」
男「あ……なるほど」
姫「だから、頼むぞ。私は生憎とお金がないからな」
男「家に帰ればいいのに」
姫「私の家はこの国にはない」
男「警察、いきます?」
姫「私はなにも悪いことはしていない」
男「でも……」
姫「それに私は兄ともう少し一緒に居たいからな」
男「……」
姫「どうした?」
男「い、いえ……なんでも……」
姫「そうか?」
男(一瞬、どきってした……)
男「―――それじゃあ料理の支度をします」
姫「よしきた」
男「貴女は座っててください」
姫「なんでだ!」
男「危なっかしいからです」
姫「兄よ!!拒絶するのもいい加減にしろ!!」
おばあさん「ふふ……」
テレビ『では、続いてのニュースです』
おばあさん「あら……?」
テレビ『昨日から行方が分からなくなっている姫君は、今日県立病院でそれらしい人物を見たと目撃情報がありました』
おばあさん「ねえ、ちょっと」
姫「どうした?」
男「え?」
テレビ『三日後には日本国民へ向けての親和演説を控えており―――』
姫「そうだな」
男「……」
姫「なんだ?」
男「お姫様……?!」
姫「うむ。だが、兄よ。気後れすることはない。身分は違えど血を分かつ者ではないか」
男「いやいや」
おばあさん「お姫さまだったのね……」
姫「知らなかったのか?大母上のくせに」
おばあさん「ごめんなさい」
姫「まあよい。私は気にしない」
男「あの……今から連絡して貴女のことを迎えにきてもらうようにします!!」
姫「こらこら。兄よ。いったであろう?私は兄ともう少し一緒にいたいとな」
男「だけど……!!」
姫「焦らなくても向こうも血眼で捜している。居場所が分かるのも時間の問題だ」
姫「この薬も娘に渡したいし、約束もある」
男「でも、いろんな人に迷惑がかかってるんじゃないんですか!?」
姫「それは……」
男「やっぱり連絡を……」
姫「兄よ」
男「……」
姫「妹としての最後の我侭をきいてくれないか?」
男「……」
姫「頼む」
男「……わかりました」
姫「ありがとう、兄よ」
男「だけど、薬を渡したらすぐに連絡しますからね」
姫「うむ。了承した」
姫「……」トテトテ
男「なにを?」
姫「おお、兄か」
男「……」
姫「明日、私はもうここに帰ってこれない」
男「……そうですね」
姫「そう思うと少しばかり感慨深い」
男「あの……」
姫「すまなかったな、兄よ」
男「え?」
姫「よくぞ一日だけとはいえ兄として振舞ってくれたな」
男「それは……」
姫「もう会うことはないと思うが、元気でな」
男「うん……」
男「あの」
姫「ん?」
男「俺も妹ができたみたいで嬉しかった。我侭すぎるのが玉に瑕だったけど」
姫「言ってくれるな」
男「本当のことですよね?」
姫「そうか?意識したことがないからなぁ」
男「本当に……」
姫「病院……一緒にいってくれるか?」
男「はい」
姫「そうか。では明日、病院を出るまでは兄妹だな」
男「そうなりますね」
姫「よろしく頼むぞ、兄よ」
男「わかりました」
姫「では行ってくる」
おばあさん「気をつけてね」
姫「心配はいらない。兄がいるからな」
男「まあ、はい」
おばあさん「全然似てないけど、本当に兄妹みたいね」
姫「当然だ。兄妹だからな」
男「ばあちゃん、お昼には帰ってくるよ」
おばあさん「わかったわ」
男「じゃ、いきましょうか」
姫「うむ!急ぐぞ!!」
男「あ、ちょっと腕を引っ張らないでください!」
姫「いそぐぞー!」
姫「さてと……」キョロキョロ
男「いないみたいですね」
姫「そうだな……」
男「今日は来てないんじゃ?」
姫「そういう可能性もあったか……」
男「そりゃあ……」
姫「ふむ……」トテトテ
姫「おい」
看護師「なんですか?」
姫「いつもあそこで絵本を抱えていた少女がいただろう?今日は来てないのか?」
看護師「ああ、あの子なら……」
姫「なんだ?」
看護師「昨日、緊急入院になったんです」
姫「入院?」
姫「―――邪魔するぞ」
母「あ……」
男「すいません」
母「いえ……」
姫「何事だ?」
母「昨日、突然高熱が出て……」
姫「死んでないのか?」
母「今は寝ています」
姫「……」
幼女「すう……すぅ……」
姫「では、この薬を」
母「え……?」
姫「目が覚めたら飲ませてやってくれ。きっと元気になるぞ」
母「ありがとう……ございます……」
姫「うむ」
母「失礼します」
男「残念……でしたね」
姫「母上に渡せただけでもよかろう」
男「……」
姫「絵本を読む約束は……どうやら果たせそうにないな……」ナデナデ
幼女「すぅ……すぅ……」
男「あの」
姫「なんだ?」
男「約束果たすまで居ましょう」
姫「え……?」
男「約束したのにそれを守らないのは一国の姫君としてはどうでしょうか?」
姫「うむ。兄よ。流石だな。確かに一度交わした約束を完遂できなくては恥ずかしくて演説もできない」
男「なら、連絡するのはこの子に桃太郎を読ませたあとでってことで」
姫「気にするな。また来る」
母「きっと娘も喜びます」
姫「うむ」
男「ではまた」
母「はい」
姫「―――ふふん、兄もいいところがあるな」
男「まあ、あの子のためでもありますから」
姫「そうか……優しいな」
男「そんなこと……」
姫「私の兄が優しくてよかった。誇りに思うぞ」
男「だから……」
黒服「―――姫様」
姫「あ……」
黒服「お怪我はありませんか?」
黒服「君は?」
男「あの……」
姫「こやつは私に良くしてくれた。なにもされてはおらん」
黒服「しかし……」
姫「くどい」
黒服「……わかりました」
姫「―――というわけだ。ここまでだな」
男「え……」
姫「楽しかったぞ?」
男「ちょっと約束はどうするんですか!!!」
姫「考えておく」
男「そんな……!!」
黒服「では行きましょう」
姫「うむ」
黒服「姫様、本当に何もされていませんか?」
姫「だから、されておらんと言っておるだろう」
黒服「なら、いいのですが」
姫「ふん……」
黒服「二日後の演説に間に合ってよかったです。あれはわが国と日本を繋ぐ演説になりますからね」
姫「そうか」
黒服「……あの男は何者だったのですか?」
姫「私に尽くしてくれた者だ。あとで謝礼を送っておけ」
黒服「わかりました」
姫「……」
姫「楽しかったぞ……兄よ……」
姫「さよなら……」
男「ただいま……」
おばあさん「おかえり」
男「……ごはん、つくるよ」
おばあさん「そうかい」
男「……」
おばあさん「……帰ったのかい?」
男「うん……」
おばあさん「そう……」
男「……」
おばあさん「少し寂しいね」
男「一日だけだったのにな」
おばあさん「そんなものだよ」
男「そっか」
おばあさん「ほら、中継がはじまったよ」
男「あ、うん」
姫『親愛なる日本の皆様へ―――』
男「……」
おばあさん「やっぱり衣装が違うと見違えるねえ……」
男「うん……」
姫『わが国と日本の架け橋をなるべく、私はやってきました』
男「さてと、お茶でもいれるよ」
おばあさん「お願いね」
姫『これからは手を取り合い、ともに繁栄を―――』
幼女「あ、お姉ちゃんだ」
母「ほんとね」
姫『―――以上で私の演説を終了します』
パチパチパチ
ガラッ
姫「ふう……よかった。起きていたか。寝ていれば洒落にならなかったぞ」
幼女「え?」
母「あ、あなた!?」
黒服「姫様……」
姫「外に出ておれ」
黒服「これがバレたら……」
姫「分かっている。だが、約束を果たすのもまた姫君としての務めだ」
黒服「分かりました。ですが、20分だけですよ」
姫「うるさいな。分かっているといっているだろう」
姫「生放送の演説で桃太郎でもよかったのだが、どうしてもこの国の偉い奴らが許してくれなくてな」
幼女「……」
姫「とりあえず、演説は録画したものを放送することにした」
母「でも……これ、生って……」
姫「そんなもの嘘だ。勿論、公に知られてはただ事ではないが」
母「そんなことまでしてもらっては……!!」
姫「気にするな。人一人の約束も守れず、親和を語るなど私にはできない」
母「……」
幼女「おねえちゃん!」
姫「時間がない。読むぞ」
幼女「うん!」
姫「寝るなよ?」
幼女「寝ない!」
姫「よしっ。いい返事だ。今、読み聞かせてやろう」
幼女「すぅ……すぅ……」
姫「こいつぅ……!!」
母「す、すいません!」
姫「仕方ない。続きはまたの機会だな」
母「え?」
姫「では、これで失礼する」
母「あの……本当になんと言ったらいいか……」
姫「私が勝手にしたことだ。気にすることはない」
母「あと……お薬も大事に使わせていただきます」
姫「ああ、存分に使え。賞味期限とかあるかもしれんから早めに飲めよ?」
母「ふふ……」
姫「では、さらばだ」
母「はい」
幼女「すぅ……おねえちゃん……つづきぃ……すぅ……」
黒服「姫様、もう無茶なことはおやめください」
姫「なあ。一つ、私が朗読するから感想を聞かせてくれ」
黒服「え?」
姫「いいか、いくぞ?」
黒服「あの……姫様……?」
姫「感想をいうだけでいいのだ。簡単だろう」
黒服「まぁ……はい」
姫「いいな?読むぞ?」
黒服「は、はい」
姫「ごほん」
姫「―――昔々あるところに」
黒服「……」
姫「どうだ?」
黒服「演説のときにはない声質ですね」
姫「具体的には?」
黒服「えっと、透明感があって、耳を撫でる風のような心地のよい読み方です」
姫「そうか」
黒服「あの……それがなにか?」
姫「私の朗読を何かに録音しろ」
黒服「は、はい?」
姫「ある男に言われたのだ、君の声はずっと聞いていたくなる声だとな」
黒服「そ、それで?」
姫「ならば、私の声を聞かせてやろうと考えた」
黒服「え?」
姫「CDにするんだ。私の朗読をな。―――そうしたら、あの娘との約束も同時に叶うかもしれん」
ピンポーン
母「はーい」
男「どうも」
母「あ、どうしたんですか?」
男「これ、あの子に渡そうと思って」
母「それは……」
男「もしかして……もう買いました?」
母「ええ。娘に懇願されて」
男「ですよね……」
幼女「おにいちゃんだ。こんにちは!」
男「こんにちは。あのCDもう聞いた?」
幼女「うん!おねえちゃんの声、いつでもきけるよ!!」
男「そうだな」
母「素敵ですよね。私もファンになりました」
男「……俺ももう一度、聞こうかな」
男「また新作出るって言うし……次は赤鬼と青鬼だっけ……?」
男「……」
姫「よ」
男「うわぁ!!!」
姫「兄よ、なにを驚いておる」
男「な、なな……!!」
姫「うむ。実は別荘を設けにきたのだ」
男「え?」
姫「ここに来たときに、別荘をここに建てようと思っていたからな。うむ。兄と近所になれて私もうれしいぞ」
男「あ、そ、そうなんだ……」
姫「年間50日ぐらいは来日するつもりでいる。その都度、妹の面倒を見るのだぞ?」
男「……わかった」
姫「それはそうと、私のCDは聞いてくれたか?聞いてないならその口にCDをねじ込んでやるぞ?」
姫「そうか」
男「あの子も何度も聞いているみたいです」
姫「おぉ。では約束は果たしたか。よかったよかった!」
男「でも、やっぱり直接聞きたいと思いますよ。今度、機会があれば読んであげてください」
姫「そうだな。別荘で朗読大会でも開こうか」
男「それいいですね」
姫「うむ。そのときは兄も一緒だぞ?」
男「勿論行きます」
姫「そうだ。再会したときにこれを言おうと思っていたのだ」
男「え?」
姫「―――ただいま、兄上」
男「うん、おかえりなさい」
おしまい。
気分よくなったよ
姫最高
ほっこりするいい話やった
Entry ⇒ 2012.01.15 | Category ⇒ その他 | Comments (0) | Trackbacks (0)
ゆっこ「なのちゃんが中村に狙われてるって……?」
なの「ハイ、実はこの学校に入ってからというもの……」
まだ学校になじんでいない私を気にかけてくれてるんだと思ったんです。
わざわざコーヒーをご馳走してくれた事もありました」
ゆっこ「え、あの中村が?」
みお「誰にでもムス~ってしてて、生徒とかにもまったく関心が無いあの人が……?」
麻衣「……」
ゆっこ「『ちょっと』どころじゃ無いと思うけどねあたしゃあ……」
なの「廊下を歩いている時とか、やたらと付回してきたり」
みお「疑うわけじゃあ無いけど……なのちゃんの考えすぎとかは?」
なの「最初はそうかなとも思ったんですけど……」ズーン
ゆっこ「どしたの?」
なの「なんていうか……双眼鏡で着替えを覗いて来たり……、
家まで押しかけてきたり……」ぞわぞわ
ゆっこ「マジで!」
みお「それはちょっと尋常じゃ無いかも……」
麻衣(ネタの予感)
ゆっこ・みお「?」
麻衣(……すごく面白い事の予感)
なの「わ、わわ私に……『お前の全てを深く知りたい』って……///」
なの「真剣な顔で、言われたんです……」
ゆっこ・みお「…………」白目
麻衣「…………」ktkr
「「ええぇぇええええええええええええええええええ!!?」」
ザワザワ ガヤガヤ
みお「ちょっとゆっこ、ここ教室だからっ!」
麻衣(面白い……)
なの「…………///」
in 屋上
中村先生(さっきから東雲は何を話しているのだろう……何かを相談しているようだが)
なの「────!! ……、…………!!」
ゆっこ「……! ───!!」中村の方を指差す
中村「む、気付かれたか……撤退!」
☆ ☆ ☆
in教室
ゆっこ「み、みおちゃん麻衣ちゃん……今、見た!?」
みお「バッチリ見ちゃった……」
麻衣「……」弥勒菩薩いじり中
なの「…………///」
ゆっこ「これまで昼休みになると研究室に閉じこもっていた中村が、
今日に限ってなのちゃんを双眼鏡で覗いていた……」
なの「今日だけじゃ、無いんです……」
みお「うわぁー……」
麻衣「…………」シュッシュッ 紙やすり使用中
ゆっこ「イヤイヤ、みおちゃんも結構分かるんじゃない?
同姓愛に興味があるって所が同じなんだし」
みお「バカだよね?」
ゆっこ「……」むっ
麻衣「…………ふっ」
みお「そうだねぇ……」
ゆっこ「とりあえず、なのちゃんは中村の事どう思ってるの?」
なの「ハイ、中村先生は親切でいい人だと思います。
でも……恋愛とかそういうのでは……ないんです」
ゆっこ「う~ん、やっぱりそうか~」
麻衣(……あれ、椅子が無い)
ストーカーってジラジラしてるとエスカレートするっていうし」
なの「ストーカーだなんて……中村先生はそんな」
みお「でも、なのちゃんじゃあどう断っていいか分からないんじゃないかな?」
なの「ハイ、情け無い話ながら……」
麻衣(うっかり弥勒菩薩の材料に使ってた)
ストーカーって第三者に言われるとアッサリ引っ込んじゃうっていうし」
なの「へ、よろしいんですか相生さん?」
ゆっこ「いいよいいよ、みおちゃんや麻衣ちゃんも大丈夫でしょ?」
みお「まぁ今日は得には予定無いし、付き合ってあげますか」
麻衣「……」コクン
なの「あ、スイマセン……ぜひお願いします」
モブ「中村がレズだって?」ざわざわ
モブ「そういえば何時も東雲さんの事気にしてたわよねー」がやがや
モブ「考えて見りゃ、あの人どっか男っぽかったよなぁ」わいわい
☆ ☆ ☆
中村「……何故か、私の名誉が損なわれているような気がする」
放課後
中村「フフフ……我ながら完璧なプランだ」
中村(明日、東雲に『学校はなれたか』などと気さくに話しかけながら
カンジュースを渡す。
私のトラップを数多く潜り抜けた東雲も未開封のジュースならばと油断する事だろう)
中村(だが甘い! カンのフチの部分にはついに完成したアレがたっぷり塗られている……
そう……)ゴソッ
中村「この、失神促進軟膏フラフラ君が……ってアレ?」ゴソゴソ
中村「な、無い!」
廊下、ゴミ箱付近
中村「な、無い! 無いぞ……バカな!!」ゴソゴソ
中村「一ヶ月の労力と、三か月分の給料をつぎ込んだ私の秘密兵器が!?」キョロキョロ
中村「お、お、おのれ東雲なの!! またしても先手を取られたというワケか……」ゴゴゴゴゴ
高崎「あ、中村先生」
中村「い、いやまだ希望はある! しかしアレは無い、無い……どこにあるんだ!」ゴソゴソ
高崎「ひょっとして、探しているのはコレでは」ポンッ
中村「」ビクッ
高崎「屋上に落ちてたんですけど……このチューブの表面に書いてる可愛らしいマークって、
たしか中村先生が開発した新薬とかに書いてる奴ですよね?」
つ失神促進軟膏フラフラ君
中村「…………///」ボシュ
中村(可愛らしい可愛らしい可愛らしい)
高崎「それで、さっきから中村先生も何かを探してるように見えたので……」
中村「あ、いや……どうも////」ボシュウ!
中村(私を見てた私を見てた私を見てた……)
高崎「それにしても凄いですよね。この前も何か薬を開発してたのに、
もう新しいのを作っちゃうなんて。中村先生って頭がよくてすごいですよねー」
中村(…………)脳みそ沸騰中
それじゃ、私は部活があるんでっ」
中村(…………)混乱中
高崎(う~ん、相変わらず気難しい人だなぁ……)タッタッタッタ
☆ ☆ ☆
中村(可愛らしい、見ていた、すごい人///)トコトコトコ
ゆっこ「あ、いたいた!」
中村「?////」
ゆっこ「中村せんせー、ちょっといいですかー?」
なの「あの、中村先生……」
中村「あぁ、東雲か。な、なんの用だ……///」
みお(なのちゃんを見ただけで顔真っ赤にしてるよ……)
なの「ちょっと中村先生に、話がありまして……」
中村(────チャンス!!)シャキン
中村(フラフラ君が戻ってきた所で丁度現れてくれた!
なんという幸運っ!)
中村(予定と少し異なるが……ええい、膳は急げだ!)
なの「あのー、どうしました?」
中村「いや 気にするな。丁度私も東雲に用件があったのだ。
さぁ来い、ぜひとも来い」グイッ
なの「あっ」
なの「あ、また右手がっ!」
中村「~~~♪ これ~で東雲は私のも~の~」ウッキウキ
みお「気付かずに右手だけお持ち帰りしようとしてる……っ!?」
なの「あぁー、待ってくださーい!」タッタッタッタ
麻衣(…………このネタ、75点)
中村「少し待っててくれ、すぐにコーヒーがあがるからな」
ビーカー「コポコポコポ」
「「あの~」」
中村「何だお前たち? 言っておくがコーヒーお前たちにはいれてやらんぞ」
ゆっこ「あ~コーヒーよりも中村先生、実を言いますとね、なんというか……」
みお「ちょっとお話したい事があるんですよ」
中村(さーてと、このフラフラクンを今のうちコーヒーカップに───)
ゆっこ「ずばり言います、あなたの好きな人の事です!!」
中村「!!!」ビキッ
みお「ちょっと、ゆっこ!」
中村「…………!!」
中村「な……ななななな、何の事だからさっぱり」ガタガタガタ
脳裏にモミアゲの顔が浮かぶ中村。
中村「違う、違うぞ。私は、ソイツ(モミアゲ)とは、別にそんな(好意を抱いている)ワケでは……」
ゆっこ「中村先生はそう言う(ストーカーの)自覚が無くても、相手(なのちゃん)はそうは思わないんです!」
みお「ちょっとゆっこ、直球ブレイクすぎるよ!!」
麻衣「……」←人体模型にイタズラ
中村「…………な、何を。アイツ(モミアゲ)がそんな事……」ピクピク
ゆっこ「とにかく、今後はその人に必要以上に近づかないでください!」
中村「…………」ムカムカムカ
なの「ひっ!」 みお「…………」ゾクッ ゆっこ「!!」
麻衣「これ……楽しい」←人体模型でパズル中
中村「そもそも、最初に私に言い寄って(可愛いと褒めて)きたのは相手(モミアゲ)の方だぞ!」
みお「えー!?」
中村「貴様らはそれも知らずに、言いたい事をツラツラと……!!」
みお「なのちゃん、マジ」ボソボソ
なの「ハイ、転校初日に理科実験室の場所を聞いたりしたので……ある意味は……」ボソボソ
みお「その事を言い寄るって……マジでおかしいでしょこの人」ボソボソ
なの「中村先生……」責任感
中村「貴様ら部外者が、私達の事に口出しするんじゃない!!!!」
ゆっこ「部外者じゃありません!!」
ゆっこ「私達3人の、大切な人(親友)じゃあいっ!!」
バンッ
………………シーン
なの「あ、あ……」
なの「相生さん」ジィン
中村「それ、本当か」
みお「…………」コクン
麻衣「…………」コクン
中村「…………」
中村「何だと……!」
ゆっこ「…………ふー」
ゆっこ「スイマセン、怒鳴っちゃったりして」
実は今日ここに来たのも、中村先生が好きな人(なのちゃん)から相談を受けてなんです」
中村「(モミアゲから)相談……?」
みお「その人(なのちゃん)から、中村先生の事が怖いって。
これまでの自分を省みたら、分かりませんか?」
中村(…………これまで)
中村(た、確かに落とし穴に落として放置はしたが……モミ崎だなんて呼んだりもしたが……)
中村「しかし、しかし……あんな小さな事で……」
なの「中村先生にとっては小さな事でも、相手は大きく傷ついたりするんですよ」
中村「」
中村「フ……」
なの「!」
中村「フフフフ……とんだお笑い草だな。好かれているつもりが、嫌われていたとは……」くっくっく
なの「中村先生……」
中村(落ち着け、落ち着け私。とりあえず何か飲んで気分を鎮めよう)スッ
ビーカー「グツグツグツ」
ゆっこ「な 中村、何して──」
みお「何の薬──」
なの「中村先──」
中村(…………熱々のうちぐいっと)グビッ
ゆっこ「へ……」
中村「」死ーん
ゆっこ「…………へ、嘘?」
みお「ぁ……ぁ……!」ガタガタガタガタ
なの「な……!
中村先生ぃ───────」
近づいて抱きかかえた中村先生は、穏やかな顔をしていました。
この顔を見て、誰が恋に敗れて自ら命を絶った女性の顔だと信じられるでしょうか?
そう、私が中村先生を拒否した事で、中村先生は死を選んだのです。
私が中村先生を殺したようなものです。
いったいどうすれば良かったのでしょうか?
あるいは、私が自分の気持ちに嘘をついて中村先生と恋人関係になるべきだったのでしょうか?
今となっては、何もかもが分かりません……。
ただ、この腕の中で女性が体温を少しずつ失っていくのを感じるだけです。
END
中村「先日は酷い目にあった……」フラフラ
中村「まさかフラフラ君を、一本丸々飲んでしまうとは……
一日たってもまだめまいが……」フラフラ
ガタンッ
中村「ふぅ~、ようやく椅子に座れた。午後は授業も無いし、
休めそうだ……」
────私達3人の、大切な人じゃあい!
中村「モミアゲの奴、意外とモテるんだな……」イラ
中村「うぐぐ、なぜ私はイライラしてるんだ!」イライラ
中村「ま、あれから何故か東雲がヤケに優しいし。
『あまり行き過ぎた行為に及ばなければ、私の事を教える』なんて言われたしな」
中村「東雲捕獲作戦はいつでも決行できるとして……」
桜井弟「高崎先生ー、どうです。ウチの姉ちゃんとの進展は?」
高崎「ば、バッキャロウ!そんな事を高校生が聞くもんじゃない!」
桜井弟「この分じゃ進展は無さそうですね」
高崎「う、うぅむむむむ!」
桜井弟「だったらもう、高崎先生から告白しちゃうのはどうです?
あのボケ頭なら、可愛いとか適当に褒めながら攻めればけっこうコロっと行くかもしれませんよ」
高崎「バ、バカヤロウ! 桜井先生みたいなすばらしく可愛らしい人がなぁ、そんな軽い人なワケ無いだろう!
その、バカも休み休み永眠しろ!! いくら桜井先生の弟でも、ぶ、ぶっちゃうぞ!」
桜井弟「高崎先生、マジでウチの姉ちゃんにゾッコンですね……」
中村「」←たまたま通りすがった
中村「ぐぬぬ……」ワナワナ
中村「生徒指導の桜井泉……」ギリッ
中村「いったいどのようにして、あのモミアゲを……」
中村「調べる必要がありそうだ」キラン
in 桜井自宅前
桜井「ただいま帰りましたー」トコトコトコ
中村「家族構成、父親と弟の3人家族……母親はすでに他界」メモメモ (←注:原作非公式)
in学校
桜井「え、え~と、本日、駅前で自転車のサドルにキュウリが突っ込まれる……その、事件がありまして
このようなことは、いけないと思うので……えーと」アセアセオロオロ
中村「性格、かなりの上がり性……と」装備:双眼鏡
in廊下
桜井「…………中村先生……?」トコトコアセアセ
中村「先ほどから見ていたが、廊下はしっかりと歩き、下校生徒たちへの挨拶も欠かさない。
真面目な性格……と」コソコソ
桜井「…………」アセアセ
☆ ☆ ☆
なの「はい、おかげさまで! 中村先生にはちょっと悪い事をしましたけど……」
みお「今回は良かったけど、場合によってはエスカレートしてたかもしれないんだからぁ。
気をつけてよゆっこ」
ゆっこ「あいやー」
桜井「はぁー……」
ゆっこ「あれ、桜井先生?」
ゆっこ「ため息なんてついてどうしちゃったんです?
何かいかにも悩み事がありますって感じですよ」
桜井「あ、聞かれちゃいましたか。ええ、実を言うと……」
ゆっこ「どうしたんですー?」
ゆっこ「桜井先生が中村に狙われてるって……?」
その場に居た全員が呆れの声を漏らした。
今度こそ本当にEND
乙
面白かった。本編にありそうだった
Entry ⇒ 2012.01.15 | Category ⇒ 版権物SS | Comments (0) | Trackbacks (0)
一方通行「テメェのおかずはなンだ?」
http://hibari.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1311397502/
一方通行「そォーじゃねェ…ったくオナニーのおかずに決まってンだろこの場合はよォ」
海原「常に御坂さんですね」
一方通行「あのショチトルとかってガキはどォーした」
海原「正直いって性の対象外ですよ」
土御門「俺も舞夏一筋!といいたいところだけど……最近はねーちんも中々だとおもってる」
一方通行「お前は?」
浜面「はぁ!?俺もかよ、てかなんで俺ここに呼ばれてんだよ」
一方通行「あの肉壺とかってやつか、ンじゃ次三下今度こそ意味が分かったな?」
浜面「テメェ、今なんつったぁ!」
一方通行「テメェの話はもう終わったからいいンだ」
上条「そうだな……最近インデックスでは勃たなくなってきたし…うーん偶然裸を除のぞくことに成功したオルソラ、あとキャーリサ辺りかな」
一方通行「オッ、意外と雑食だなァ」ニタァ
上条「そういうお前はどうなんだよ」
一方通行「……打ち止め とかいうとでも思ってンのか?」
土御門「全くだにゃ」
一方通行「馬鹿、お前らわかってねェ、わかってねェーよ……抜くだけだぞ?愛とか関係ねェーんだよ風俗でいちいち相手に恋でもするか?」
海原「なるほど、つまりあなたは、彼女は恋愛の対象であり性の対象ではないと仰りたいのですね」
一方通行「そォーいうことだよ」
上条「そんなもんか?俺はやっぱり好きな相手でした方が気持ちいいと思うけどな」
一方通行「これだから三下は」
土御門「まぁ、俺も舞夏好きだけど、実際別の子でも抜くしありがち間違ってる話でもないだろただかみやんの話も間違ってはいない」
―隣の部屋では―
麦野「それじゃ各自のおかず右から順にいってって」
結標「えっ、私!?」
麦野「アンタ以外にだれがいるっての?この露出狂」
結標「…っていうか言わなきゃだめ?……誰っていうよりも……空想なんだけど…」
麦野「ほぉ、どんな?」
結標「ほら、そこの超電磁砲のクローンに小さい子いるでしょ?その子みたいに一方通行が…ちっちゃくなったら…かわいいなっておもって…」
結標「…げ、現実に犯罪ちっくな事はしてないのよ!!セーフよ!!」
麦野「はい、次」
絹旗「私ですか?浜面で超たまにですけどします」
麦野「浜面は私のおかず、次から別の奴にしなさい。じゃないとオ・シ・オ・キ確定ね」
滝壺「…自慰はしない」
麦野「んじゃたまった欲求はどうしてるのよ」
滝壺「たまにはまづらがえっちなことしてくれるから」
麦野「はまづらぁぁぁあああああ」
滝壺「麦野、大丈夫はまづらはやさしくしてくれる」
麦野「…そんな事は関係ねェんだよ!!ったくはまづらの奴いつのまにそんなことをたまったら私に言えってさんざんいってあるのに…」ブツブツ
御坂「…私帰ってもいいかな、ここ場違いみたいだし…」
麦野「糞ジャリ、聞くだけ聞いて逃げようだなんて…」キュインキュイン
御坂「だ、だれにもいわないから、約束する……………はぁもぅ、わかったわよ…上条ていうつんつん頭の男…これでいいでしょ!」
麦野「あぁ、つまんねェーの普通すぎでしょあんた」
一方通行「そォーだな、月曜は黄泉川、火曜は芳川、水曜は番外個体、木曜は黄泉川、芳川のレズプレイ、で金曜は番外個体をSと仮定してで土日休みで一日3回ずつだな」
海原「…さすが学園都市第1位は違いますね」
土御門「ちゃんと休オナニー日を入れるなんて、しかも一日ごとにおかずを変えて飽きないようにしているとは恐れいったぜい」
上条「えっ、お前4人の女の人と一緒に生活しててそんなに抜く余裕あるの?俺なんかせいぜい週1くらいだぜ」
ザワザワッ
土御門「かみやん、ウソだろ…?」
上条「な、なにがだよ」
一方通行「週1でもつだと…?」
上条「だってばれないようにするのって結構難しいだろ?トイレとかでしたとしても匂いが残るし、そうなると結構かぎられてくるんだぜ?自分一人の時間って」
浜面「つか、あの禁書って子とエッチしてるんだろ?だから週1くらいで充分ってそんなオチじゃ?」
一方通行「オィオィ、誰だリア充をこの集まりに混ぜたのはよォ…」
海原「…自分ではありません」
土御門「右に同じ」
上条「浜面誘ったのは俺だけど、なんかまずかった?」
絹旗「そうです、麦野はいいとしても私の魅力に超気が付かないなんてありえません」
滝壺「……」ポケェー
結標「直接手を出すなんて犯罪よね…」
御坂「いやあんたの想像もかなりぎりっぎりのところだから」
結標「実際いない空想の人物なんだからセーフでしょ」
御坂「っていうかあのちょろっとした縞々のどこがいいわけ?」
結標「……モデルとしてしか使ってないけど…あえてあげるとしたら女の私にも容赦なくパンチをしてくるドSっぷりとかかしら?」
御坂「……」
結標「そんなドSの小さい子にめちゃくちゃにされる想像なんてしたら……ごめんなさい、ちょっとトイレいってくるわ」
ガチャッ、バタンッ
御坂「……どうしてこんなところに来ちゃったんだろ」
麦野「ところで、第3位あんた自分でするとき道具とか使うの?その能力生かせば3つや4つおもちゃ同時に使えるでしょ」
御坂「へっ?おもちゃって…」
麦野「こーいうの、もってんでしょ?カマトトぶるなよ」
麦野「ホントーか?ウソだろ?それじゃどうやってしてるの?」
絹旗「ちなみに私は浜面のあれのサイズを超しっかり計測しておいたものを手に集めた窒素で再現してそれで慰めてます」
麦野「やっぱり道具使うよな?」
絹旗「道具というか浜面そのものと寸分たがわぬ浜面コピーですけど」
麦野「こんどそれで私の事突いてみてよ」
絹旗「…えっ、超嫌ですよ」
麦野「一回くらいいいじゃないのよ」
絹旗「イヤですって、超これは私だけですから」
ガチャッ
結標「ただいまー」
麦野「話戻すけど、どうやってあんたはしてんの?」
御坂「…まだづづけるの?」
麦野「早くいいなさいよ」
御坂「………そ、そうね……はじめはこう胸を……やさしく触ってくれる想像をして自分で…」
御坂「想像だからいいじゃないのよ!!」
麦野「あー想像だったわね、続けて」
御坂「…それで、そのあとちょっと乱暴に下着をめくって…さきっぽを自分でいじって…気分が乗ってきたら下に…」
絹旗「そうなると超やっぱりこういうのほしくなりませんか?
御坂「…べ、別にそんなのなくたって」
麦野「あーこいつガキだから男のあれが想像できないんじゃないの?」
絹旗「…なるほど、超理解しました」
御坂「ば、馬鹿いわないでよ!私だって見たことくらいあるわよ!!」
麦野「ほほぉー、まさかパパのとかっいわないわよねぇ…」
御坂「……違うわよ」
麦野「じゃあどこで、誰の」
御坂「ネットで…知らない人のみたことあるもん……」
結標「あっ、その方法があったのね!えっと……これくらいの子の画像ってあるかしら?」
御坂「し、しらないわよ!!」
結標「大人男の人のっておっきくて怖いじゃないの!!」
絹旗「なれると超たまらないですよ?」
結標「でも……結構いたいんでしょ?」
麦野「うーんこれとかは慣れちゃそれほどでもないけど………」ブィィィン
絹旗「…初めは超いたかったですけど」
滝壺「はまづらはやさしいからあんまりいたくなかった」
御坂「し、しらないわよ!!道具とかもつかったことないし!!」
結標「あの人のは意外とちいさいとおもうんだけど…でもいざとなるとやっぱりねぇ…」
滝壺「…ところで、なんでみんな好きな人にしてもらわないの?」
「「「「!?」」」」
上条「へ?どっからそんな話になるんだよ」
浜面「いや、オナニーは別腹で普段はあの子して満足してるんだろ?でたまに巨乳系で抜きたくなるっていうかデザートみたいな感覚で」
上条「いや、俺童貞だけど?」
浜面「はぁぁぁああ!?でも付き合ってはいるんだよな?」
上条「だからどうやったらそういう話になるんだってさっきもいったばかりだろ」
浜面「え?でもあの子のためにロシアにもいったし魔術師とも戦ったんだろ?」
上条「そうだけど、だからって付き合うとは別だろ?まぁ好きだけど」
浜面「……」
海原「付き合うことだけがすべてではありませんよ、自分のように見守ることも1つの愛の形です」
一方通行「そォーいうことだ、性の対象と好きな人が別のようにな」
海原「あなたの場合は少々特殊だと思いますけど」
一方通行「ぶっ殺されてェーのか!!」
海原「いえ、一般論を述べただけです」
土御門「……(舞夏とさんざんやりまくってるとはこの流れじゃいえないな)」
絹旗「そりゃ超へた糞だろ浜面でも、ないよりかはましですよね」
麦野「………んで私じゃなくてこいつなのよ!!私の方が胸の大きいし、口でだってしてあげるのに絶対満足させてやるのに!!」
御坂「ねぇ、口でって…どういうこと?」
麦野「…こう」ジュポジュポ
御坂「指を舐めるの?」
麦野「実際は男のあれにきまってんでしょ?」
御坂「えっ?でも……汚くないの?それって」
麦野「そりゃ汚いわよ、でもね男はそういうなんだろ?俺の●●してるみたいなので満足してすごく気持ちよくなるのよ」
御坂「……私、そんなのできないかも……」
麦野「まぁお子様はちゅっちゅだけしてりゃいいのよ、こういうのは大人の話」
絹旗「とかいいながら麦野は超実際男性経験ありませんよね」
麦野「…そ、そんなわけ……!!」
滝壺「はまづらならたのめばむぎのとかきぬはたもしてもらえるとおもうけど…」
麦絹「「!!!」」
海原「では屋外で望遠鏡を使ってというのはどうでしょう?」
上条「さすがにそういう趣味はねーよ」
一方通行「俺だったら股間爆発しちまうな」
海原「ところで、なぜ御坂さんでは抜かないのですか?」
上条「御坂?どうして俺があいつで抜かなきゃいけないんだ」
海原「魅力的ですよね?彼女」
上条「???」
海原「あれ…?」
上条「上条さんはあんまりM属性ありませんよ?」
海原「まぁ普通の男性はそうですよね、ではなくて」
上条「じゃなかったら俺の事勝負よ!とかいってびりびりっってしてくる子にどうやってそういう欲求を?」
海原「顔とか……ほらあんな活発的なところとか、エリートなのエリートにぶらない気さくなところとか、あとスタイルとかソソリマセン?」
上条「いいえ」
海原「…ふぅ、理解できません」
麦野「今の話は本当なの!?」
滝壺「はまづらの事ならたぶん大丈夫」
絹旗「い、いまからでも……超お願いできますか?滝壺さん」
滝壺「電話……してみる?」
「「お願いします!!」」
滝壺「別に土下座とかしなくても…かけてみるね」
結標「浜面とかってやつたしか半端なやつだったわよね、あんたたちの下っ端のあんなさえないやつのどこがいいの?」
「「ショタコンは黙ってろ」」
結標「だから私は現実にはそんなの」
御坂「年上の方が私はいいとおもうけどな、リードしてくれそうだし…」
結標「あんたの憧れの人も童貞臭くない?」
御坂「そ、それでもよ!!」
滝壺「あれ、でない」
絹旗「でも近くから浜面の携帯の着信音が超かすかですけど聞こえてきますよ」
麦野「なーんだ近くにいるんじゃない」キュィィ
絹旗「麦野、それじゃ超早いもの勝ちということで」
御坂「ちょっと、あんた達なにしようとしてんのよ!!」
麦野「隣の部屋にいる生のおもちゃをもらいに」
絹旗「超いってきます」
バシュッ
浜面「ぬわぁぁぁ、な、なんだ!!」
一方通行「ンだこりゃ…?3位と4位か……あとは…その連れと、結標?ンでてめェーがここに」
海原「自分は隣にいることは知っていましたよ、だからこの部屋を予約しました」
麦野「はまづらぁぁ、肉奴隷確定ね」ニタァ
浜面「なんで俺、麦野にロックオンされてるわけ!?」
絹旗「浜面は馬鹿なんですから超おとなしく、素直に私の事を愛せばいいんです」
滝壺「はまづら、むぎのときぬはたがえっちしてほしいって」
浜面「はひぃぃ!?どうしてそんなことになってんだよ!!」
一方通行「…寒気が」ゾクッ
上条「って御坂?」
御坂「どうしてあんたまでこんなところにいるのよ!?べ、別に私はたまたまここを通りがかっただけなんだけど…」
上条「さては、もしかしてお前たちもオナニー談義でもしてたのか?」
御坂「どうしてあんたはそういうところだけ鋭いのよ!!!」
上条「うわっ、馬鹿こんなところで能力なんて」
御坂「わ、私はオナニー談義なんてしてない!!」
上条「いや冗談だったんだけど、まさか……本当にそんなことしてたなんてお前も意外とむっつりだな御坂」
御坂「……」プチッ
上条「意外と常盤台のお嬢様ってむっつりなのかもな~普段規律とか厳しくて抑圧されてるからありえないはなしじゃ…」
御坂「…あんたはぁぁぁあああ!!!」
上条「…あれ……これもしかしてピンチ…?」
一方通行「お前らまてェ!!!!!!」
「!?」ピタッ
一方通行「オナニーはな、夢なンだよ」
一方通行「オナニーはな――――――――!!」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
一方通行「テメェらわかったな、わかったのなら座れ」
上条「え…、解散なんじゃ…?」
一方通行「馬鹿言え、こンだけのオナニストが男女問わず集まったンだ」
海原「まさか……僕に御坂さんの前で…」
一方通行「オホンッ、えーェー第一回男女合同オナニー談義ィィィ!!!」
一方通行「よし、そこの4位から男女交互に順番に今一番愛用してるおかずをいってけ」
麦野「……浜面」
浜面「…なんだよ?」
麦野「だから浜面よ」
浜面「だからなんだって、鮭弁か?」
麦野「だから浜面でいっつもオナニーしてるっていってんのよォォォォォ!!!」
海原「次は自分ですね、自分は御坂さん一筋です」
御坂「…はぃ?」
海原「ということで、ちょっとトイレいってきてもいいですか?あっ、別にみられても構いませんのでここではじめてもいいんですけど」
御坂「や、やめてよ…そんなのださないで!!!」
海原「いや~みられると興奮するな~」
一方通行「オイ、オナニーで他人に迷惑かけるな外道、するならトイレでして来い」
海原「そうですか、残念ですね…それでは御坂さんまたのちほど」
御坂「……」ブルブルッ
一方通行「次ィ」
絹旗「私も超浜面でします」
浜面「えっと…頭が痛くなってきたんだけど、お前ら冗談だよな…」
絹旗「こんなことで嘘ついて超何の得があるんです?全く」
一方通行「ハイハイリア充は黙ってろ、よし、次は三下」
上条「えっと、俺は…やっぱり女の人の前でいうのは恥ずかしいな…」
結標「あら、この子ちょっとそそられるものがあるわね」
御坂「あ、あんたねぇ…ひ、人の」
上条「…知らない人も多いと思うけど最近はオルソラって人とキャーリサって人だな」
御坂「」
結標「ざまぁぁぁぁぁwwwww」
御坂「……」
上条「あれ?やっぱり知らない人とかじゃダメだったのかな?」
一方通行「別に関係ねェだろ、次は超電磁砲だな」
御坂「……」
一方通行「オラどォーした、ここに集まっている以上は人に聞かれてはずかしいなンて事はいわせねェーぞ!!」
御坂「……ん」
一方通行「ンだ…?指さして…」
海原「…も、もしかして自分ですか!?」
御坂「……ん」
上条「えっ?どういうこと」
御坂「……これでいいでしょ?」
一方通行「いいやダメだなァ…ちゃんと口でいわねェーと」
御坂「…でも……」
一方通行「オナニーを舐めたら死ぬぞ……それになこのオナニー談義は一方通行なンだよ、後戻りなンてできねェーからな」
御坂「……そこの上条当麻…」
上条「…!?」
御坂「あんたでいつもしてるわよ!馬鹿っ!!」
上条「御坂さん…あなたは何をいっているのでせうか?」
御坂「あんたが好きだからあんたでオナニーしてるのよ?悪い!?何かあんたに迷惑かけた?」
一方通行「ンだこいつも好きな相手でスル派かよ……つまンねェな…」
一方通行「次は俺だな…俺はさっきもこいつらにいったけど―――――――――――」
結標「…ねぇそのなかに私をいれてみたいとか思わない?」
一方通行「おもわねェーな」
一方通行「大きいってもオマエ、黄泉川以下だろォ、SとMっぷりも番外個体以下だし、クールなところも芳川以下だし、どこをどォーすりゃ俺様のおかずリストにリストアップされる?」
結標「…でも…悪くないでしょ?」
一方通行「テメェは半端なンだよ、よし、次」
結標「やっぱり……こんな妄想の世界の一方通行しかだめね…もうちょっと若くないと…こういうSっぷりはいいのだけれど、やっぱり」
結標「ねェ、貴方のDNAマップを頂戴!私それでそれで!!あなたのクローンを!!!」
一方通行「結標ェェェエ!!!!!」
結標「……なによいいじゃないのよ」
一方通行「さっきこいつにもいったがな……オナニーは他人に迷惑かけたらダメなンだよ!!」
結標「…そんなすこしくらい」
一方通行「テメェは波紋だ糞ったれ!!」
おしまい
あわきん積極的かわいい
乙
Entry ⇒ 2012.01.15 | Category ⇒ 禁書目録SS | Comments (0) | Trackbacks (0)
姉「近寄らないで!クズ!変態!色情狂!」
姉「んー?知らないよー?」
弟「姉ちゃん持って行ってなかったっけ」
姉「私借りたっけかなあ」
弟「何かいい曲探すとかで」
姉「ああそんなこともあったね、多分部屋にあるから持って行って」
弟「へーい」
弟「えーっと」
弟「つーか…きたねえ部屋だな…脱いだ服くらいなんとかしとけよ」
弟「机にはないな」
弟「あのコードっぽい」
―ズルズル
バサバサッ―ボトッ
弟「雑誌――じゃねえ、なんだこれエロ本じゃねえか」
弟「っとこれ…ローターとかいうやつか……?」
弟「うわあ…初めて見たわ…」
弟「しかもこのエロ本の内容、弟にヤられてるのばっかりだ…」
―ということは俺と一緒に居てあんなことやこんなことも
「あったー?」
弟(!)
弟(とりあえずこれ片付けよう)バサバサバサ
弟「あったー、さんきゅー」
「うんー」
弟(居ない時にゆっくり見るか…)
――
―
姉「ちょっとお買い物行ってくるねー」
弟「んー」
姉「何かいるものあるー?」
弟「特にー」
姉「あーい」
―パタン
弟「……」チラッ
弟(行ったか、忘れ物してないよな?)
弟(焦ったら負けだ、ばれちゃいけない)
――
―そろそろか
弟(部屋見られて何か思うところでもあったのか)
弟(今日は片付いてるな)
弟(ああいうものの隠し場所ってのは…)
弟(ベッドの下になけりゃ押入れかクローゼットだな)
弟(下着類もクローゼットの小箪笥に入れてるのか、へぇ)
弟(こうやってみると、女の子の下着って感じがするな)
弟(他の女の子もこういうの穿いてるんだろうな)
弟(やべ…ちょっと勃ってきた)
弟(なんでこんな幼女なんだよ)
弟(しかもどじっこ天然…)
弟(最近のそれっぽさはここからきてるのか)
弟(この弟の性格ないわー、実の姉にこれはない)
弟(姉も姉だな、弟にこんなことされて喜んでやがる)
弟(弟君にして欲しいの…か)
弟(姉ちゃんもそう思ってるのかな…)
弟(俺にして欲しいと…なんてな)
弟(なんかムラムラしてきた)
弟(一枚くらいならばれないよな…)
弟(…持ってきちまった)
弟(ポケットがなんか妙な感じだ…)
弟(後ろめたいものを隠し持ってるからか)
弟(早く部屋にもどろう)
姉「ただい、うわあ!びっくりした」
弟「うお!」
姉「ただいま!」
弟「お、おかえり…」
姉「んに?どうしたの?」
弟「なんでもねえよ!」
―スタスタスタ
姉「んぅ?」
弟(びっくりした…)ドキドキ
弟(心臓口から出ると思った…)
弟(…)スッ
弟(何だこの高揚感…)
弟(姉ちゃんのパンツ盗んできただけなのに…)
弟(…)クンクン
弟(姉ちゃんの匂い…)
弟(はぁはぁ…)
――
―
本当お願いします
―ゴソゴソ
弟(やばい…調子に乗って汚しちまった…)
弟(洗濯物に混ぜとけばわからないかな)
弟(寧ろばれた方が姉の思惑通り…)
弟(まさか…)
―いや、でも
母「明後日からお父さんとおばあちゃんのところ行ってくるからお留守番お願いね」
姉「うん、帰りは?」
母「1週間後になるかなあ…、おばあちゃんもう危ないでしょ」
姉「そっか…」
母「弟は?」
姉「わかんない、部屋に居るみたい」
母「御飯くらい食べればいいのに…」
父「あとで様子見に行ってやれ」
姉「はぁーい」
――
―
姉「弟君ー?」
姉「御飯食べないのー?」
姉「体調悪いのー?」
姉「もう…」
―スタスタスタ
――パタン
弟(はぁ…はぁ…)
弟(姉ちゃん…)
弟(あれは汚れちまったし、姉ちゃんが風呂入ってる時にでももう一枚…)
弟(はぁはぁ…)
母「お風呂空いたわよー」
姉「はーい」
――パタン
―スタスタ
姉「弟君、大丈夫?」
姉「寝てるのかなあ…」
―スタスタスタ
弟(姉ちゃんの後に風呂入れば…、脱いだものも…)
弟(ばれない、慎重にやればきっと大丈夫…)
弟(姉ちゃんをもっと…)
―サスッサスッ
弟(早く…早く戻ろう…)
弟(…)パタン
弟(ばれたら終わりだ…)
―スタスタスタ、キィ
姉「あ、弟君大丈夫?」
弟「―!」ビクゥ
姉「体調悪いの?」
弟「あ、ああ…」
姉「御粥でも持ってこようか?」
弟「いや、気にしないで」
姉「ん、わかったあ」
―スタスタスタ、パタン
弟(風呂上りの姉ちゃんが可愛く見える…)
弟(やばい…)
―カチッ
弟(姉ちゃんのはっと…)
弟(ない…ない…!)
弟(なんでないんだ!)
弟(待てよ…いつも姉ちゃんの洗濯物に下着類だけなかったな…)
弟(別の時間帯に自分で洗濯してるのか!)
弟(くそっ!くそがっ!)
―ガンッ
母「大丈夫ー?」
弟「ちょっとこけそうになっただけー」
母「大丈夫なのー?」
弟「平気ー」
弟(ちっ…)
―翌日、朝食
姉「弟君こないね…」
父「明日から出るのに心配かけないでほしいな」
母「あの子元気だからすぐに治りますよ」
姉「そうだといいけど…」
――
―
弟(姉ちゃんと会ったらまずい…)
弟(なんか色々我慢できなくなりそうだ…)
―コンコン
姉「大丈夫ー?」
弟「…」
姉「何か食べないと体に悪いよー?」
弟「あとで食べる」
姉「もう…」
―スタスタスタ
弟(俺が居ないと心配なのか―それとも親父になんか言われたのか…)
弟(俺にヤられたいと思ってるくらいだし、俺が居ないとダメなんだろうな)
弟「ハハハ…」
弟(腹減ったな)
弟(誰も起きてないだろうし何か食うか)
―スタスタ
母「あら、大丈夫なの?」
弟「ああ、こんな時間に何してんの」
母「明日から居ないでしょ、お母さん朝早いし
だからあんたの御飯作ってたのよ」
弟「ありがとな」
母「お姉ちゃんも居るから何かあったら言うのよ?」
弟「はいよ」
母「お腹減ってるならそこにカップラーメンあるから食べなさい」
弟「んじゃ部屋持ってく、おやすみ」
母「それじゃあ行ってくるから弟の事お願いね」
父「何かあったら言うんだぞ」
姉「はーい、いってらっしゃい」
―パタン
姉「下りてこなかったなあ、ご飯持っていこうかな」
―スタスタスタ
―コンコン
姉「弟君ー御飯もってきたよー」
姉「入るねー」
―カチャ
姉「弟く…―っ!」
姉「なに…え…これ…?」
弟「ん…」
弟「!」
姉「私の下着で……何して……」
弟「…こっちこいよ」
姉「いや…やだ……」
―ガチャン!
弟「あーあ、せっかく母さん作ってくれたのに、…よっこらせっと」
姉「こないで…」
弟「何で?大好きな弟君が目の前にいるよ?」
姉「ちが…こんなこと」
弟「エロ本に描いてあったみたいにしてあげるから、おいでよ」
姉「―っ!こないで!」パシッ
―バタン
弟「いってえ」
―ドンドン
弟「姉ちゃん、開けてよ」
姉「こないで!」
弟「酷いなあ、ちょっと下着借りただけじゃない」
姉「それで……何してたの…」
弟「姉ちゃんのこと一杯考えたなあ、早く二人っきりになりたいなあとも、ね」
姉「いや、やめて!」
弟「姉ちゃんは弟物のエロ本でいやらしいこと考えてるんだよねえ」
姉「違う!あれh―」
弟「ほら、愛用のローターも使ってあげるから、開けてよ」
姉「近寄らないで!クズ!変態!色情狂!」
無限ループって怖くね?
はよ
弟「姉ちゃん開けてよ」
姉「いや!」
弟「開けろって言ってんの!」ガンガンガン
姉「やめて…もうやだよ…こんなの……ぐすっ」
弟「じゃあいいよ、部屋で大人しく待ってな」
姉「ぇ…?」
弟「リビングに部屋の鍵のスペアあるでしょ」
姉「いや!やめて!」
弟「すぐ戻ってくるよ」スタスタスタ
姉「いやぁぁぁ!」
弟「せっかちだなー、出てこなくてもいいのに」
姉「誰か…誰か!」
―スタスタ
弟「逃げんなよ」ガシッ
姉「やめよう…よ……ね?弟君…?」
弟「残念だなあ、俺は姉ちゃんの顔を見てヤりたくてたまらないよ」
姉「や…やだ…」
弟「泣き顔も可愛いね…ほら、部屋に戻るよ」グイッ
姉「ぁ…ぁ…ぅ…」
弟「力で勝てると思ってるの?」
姉「やぁだぁ…」
弟「姉ちゃんの部屋にしようか、いい匂いがするから興奮する」
姉「誰か助けt―」
ドカッ!
姉「うっ…ぁ……」
弟「騒がないでよ、近所の人が通報しちゃうじゃん」
弟「殴られると痛いでしょ?だったら静かにしてないとね」
姉「うっ…ひくっ…ぐすっ…」
姉「や…」
弟「ほら、ベッドに座ってていいよ」
姉「なんでこんなことするの…」
弟「姉ちゃんが弟物のエロ本読んでるからそうして欲しいのかなあと」
姉「違うって!」
弟「違わねーよ、あれをオカズにやらしいこと考えてたんだろ?」
姉「…」
弟「ほら、手ぇ出して」
姉「なに…するの…?」スッ
弟「縛るに決まってるじゃん」
姉「やめて…」
―ガスッ!
姉「うっ…!やぁ…やめてぇ…もう殴らないでぇ…」
弟「大人しくしてれば殴らないよ、ほら手だして」ニコ
姉「うっ…うぅ…」ギュッ
弟「大丈夫だよ、すぐ気持ちよくしてあげるから」
姉「やぁだぁ…」
弟「姉ちゃんのおっぱい柔らかいよ…」モミモミ
姉「ぐすっ…うっ…」
弟「あぁいい匂い…、ずっとこうしたかった」
弟「姉ちゃんもこんなことされたかっただろ?」
姉「くすん…」フルフル
弟「素直じゃねえなぁ」
姉「下はやめて…」
弟「いいから開けよ」
姉「やだ…」
弟「ちっ…」ガスッ
姉「うっ!」
弟「脱がせられるか殴られるか選べよ」
姉「…」スッ
弟「最初っからそうしとけばいいのに」スルスル
姉「やだ…」
弟「姉ちゃんの好きなオモチャ使ってあげるよ」
―カチッ、ヴヴヴヴヴヴヴヴヴ
弟「ん、その前に…姉ちゃんの股に顔埋めたいな」
姉「ひぅ…ぐすっ…」
弟「湿ってるよ?あんなこと言いながらもして欲しかったんでしょ?」
姉「…」ブンブン
弟「じゃあわかるくらい濡らしてあげるよ」スリスリ
姉「や…ぁ…」
弟「えっちだなあ、シミができてるよ」
姉「違ぁ…んっ…」ピクッ
弟「感じてるじゃん、素直になっちゃいなって」クリクリ
姉「うぅ…ぁ…っ…」ピクン
―ヴヴヴヴヴヴヴヴ
姉「うぅ…」
弟「出てこないようにパンツの中で挿れちゃおうか」クチュックチュッ
姉「あぅっ…ぁ…はぁぅ…だめぇ…抜いてぇ…っ」ピクピクッ
弟「いい眺めだなあ、感じまくってるじゃん」
姉「ふぁっ…やっ……あっ……っ!」ピクッ
弟「えっちな汁いっぱい垂れてるよ?」モミモミ
姉「やぁ…抜いて!抜いてよぅ…ぁぅ…」
弟「泣きそうな顔でお願いする姉ちゃんも可愛いなあ」
弟「イきそうなの?いいよ」
姉「ぁぁぁっ!」ビクン
―ピクン
弟「気持ちよかったんだ?」
姉「はぁ…はぁ…」ヒクッヒクッ
弟「でもまだ俺は気持ちよくなってないからなあ」スリスリ
姉「ゃ…」
弟「姉ちゃんのえっちな汁美味しいよ」ペロペロ
姉「まっ…だ…イったばっかり…あっ…」ピクッ
弟「いいなあ…もっとえっちな声聞かせてよ」クリックリッ
姉「やぁっ…めて…」
―ブルン
姉「うっ…」
弟「姉ちゃんとしたくてしたくてたまらなかったんだよ」グニグニ
姉「うぅ…」
弟「優しく舐めてあげてよ――噛んだりしたらわかってるよね?」
姉「む…んっ…」
弟「ほら、早く舐めろよ」
姉「…」チロッ
弟「もっとおいしそうにしゃぶれよ」
姉「…」ペロッペロッ
弟「ほらよ」ズッ
姉「んむぅ…っ」
弟「姉ちゃんがしゃぶらないなら俺が腰振ってあげるよ」グチュッズチュッ
弟「ああ、姉ちゃんの口の中気持ちいわあ」グチョッグチョッ
姉「んぁ…げほっげほっ…」
弟「早く気持ちよくしてあげないと苦しいのは姉ちゃんだよ」ゴリッ
姉「んっ…むぁ…ぁぅ…らえる…あめるっ…から…」
弟「してくれるの?」ピタッ
姉「ゴホッ…ゴホッ…はぁ…はぁ…くちゅ…じゅぷっ…」
弟「いいね…気持ちいいよ」
姉「じゅぷっ…じゅぷっ…はぅ…ぁ…じゅっ」
弟「出そう、全部飲んで!」
姉「んっ……」
―ビクッビクン
姉「ゲホッ…うぇっ…ぅ…ぁ」
弟「あーあーこぼしちゃって、これは罰ゲームだなあ」
姉「や…やだ…」
姉「…」フルフル
弟「何?まだ抵抗する?」
姉「…ぅ」
弟「じゃあ股開いて、一回出しただけじゃ全然治まらないからさ」
姉「…」フルフル
弟「しかたないなあ、もう一度イかせるか」
弟「その方が感度も良くなるし」クリッグリグリ
姉「やぁ…あっ…うぁっ…」ピクン
弟「ブラずれてるから乳首立ってるの丸わかり」
姉「いわないで…ぇっ…あぅ…」ピクッ
弟「姉ちゃんはえっちぃなあ」クリクリ
姉「うぅ…ぁ…っ」ビクッ
弟「ここ気持ちいいんだ」クチュッ
姉「ひぅっ!」ピクン
姉「あぁぁ…でちゃう…でちゃう…っ…だめえ…やめてぇぇぇ…」
弟「いいよ、一杯だしなよ」クチュクチュクチュ
姉「あぁぁぁぁぁっ!」ビクンビクン
―プシャァァァァァ
弟「弄られ過ぎて気持ちよくなっちゃったの?」
姉「ぁ……ぅ」ヒクヒク
弟「じゃあそろそろ俺も気持ちよくしてもらおうかな」グッ
姉「や…ぁ…もぅ…やめ…」
弟「やめるわけないじゃん♪」ズプププ
姉「ひぎっ…ぁ!」
弟「あれ、姉ちゃん処女だったの?エロいくせにしたことなかったんだ?」
姉「うっ…ぁぅ…」ガクガク
姉「あっ…いやっ……あっ…」
弟「俺が姉ちゃんの初めての男になれるとはなあ」ズプッズプッ
姉「やっ…あぅ……っ」
弟「姉ちゃんも弟と初めてを迎えられて良かったね」ズプッズプッ
姉「いやぁ…ぁっ…ぁっ」フルフル
弟「姉ちゃんの締め付け気持ちよくてもう…」
姉「膣はだめぇ…っ!やめてえ!」
弟「できちゃったら俺働くよ、姉ちゃんとの子供大切にするから膣に…っ」
姉「いやぁぁぁぁぁぁ」
――ビュルッビュルルルッ
―ビクンビクン
姉「ぁ…」カクカク
弟「気持ちよかったね、姉ちゃん」チュックチュ
―それから私は毎日、弟の性処理に使われていた
弟「もっとうまく咥えてよ、吸い込み弱いよ」
姉「ふぐっ…むぐぅ…じゅぷっ」
最初は抵抗しようと思っていた
―しかし、その気持ちも三日経った頃には薄れ始め…
弟「ほら、大好きな弟君の汁飲みたかったらしゃぶりな」
姉「んっ…あふっ…じゅぷっ…はぁっ…」
―次第に何かを諦め始め
――性欲のままに、弟のモノを愛撫していた
弟「親父たち帰ってくるの今日だよな」グッグッ
姉「じゅぷっ…じゅぷっ…」
弟「明日からは静かにしないとな」チュポッ
姉「あっ…弟君のおちんちん…もっと…欲しいよぅ…」
弟「いい子だね、ご褒美に挿れてあげるよ」ズプッ
姉「あっ♡ 弟君のきたよぉ♡」
弟「気持ちいい?」
姉「うん、気持ちいいよぅ♡」
弟「今日は膣と口どっちがいいの?」
姉「弟君のせーし飲ませてぇ…」
弟「じゃあ口に…」
姉「でも下も欲しいよぅ…」
弟「わがままだなあ」
姉「えへへぇ…♡」
―それでもいいと思っている
私は永遠に弟君だけのもの
弟「で…るっ!」
姉「いっぱいきてぇぇぇぇ!」
―ビュッビュルルルル
姉「あはぁ…弟君のが一杯きてるよぅ…♡」
これからもこうしていくしかないんだろう
私はもう、壊れてしまったのだから
おわり
マジでいいわ
乙乙
乙
Entry ⇒ 2012.01.15 | Category ⇒ 兄弟姉妹「」SS | Comments (0) | Trackbacks (0)
紅莉栖「岡部に冷たく当たってみる」
紅莉栖「うるさい、喋りかけないで」
岡部「な… い、嫌とは言わせんぞ! これはラボメン命令なのだからな!」
紅莉栖「黙れって言ってるの いい加減にして」
岡部「お、おい、クリスティーナ…? なにか怒らせるような事をしたか?」
紅莉栖「うるさい! 黙れ! 話しかけるな!」
岡部「…」
紅莉栖(焦ってる岡部可愛いよぅ…)
岡部「く、クリスティーナよ! すまなかった! 許してくれ! この通りだ!」
紅莉栖「…何が?」
岡部「は?」
紅莉栖「自分のどこが悪いかわかって言ってるの? 謝れば許してもらえると思ってるの? 本当に最低 良いからもう話しかけるな」
岡部「…」
紅莉栖(あああ~ 岡部可愛いよぅ岡部可愛いよぅ ごめんね? こんな事して でも岡部が可愛すぎるのが悪いんだよ?)
岡部「く、クリスティーナよ… 悪いところがあったなら教えてくれ 頼む」
紅莉栖「…」
岡部「クリスティーナ…?」
紅莉栖「…」
岡部(無視…だと…)
紅莉栖「…」
岡部(い、嫌だ… 紅莉栖に嫌われるなんて… 嫌だ… でも… どうすれば良いんだ…)ジワッ
紅莉栖(きゃああああ岡部が! 岡部が涙目になってるよぅ! 可愛い抱きしめたい!)
紅莉栖「さっきから突っ立ってて鬱陶しいんだけど する事が無いなら出て行けば?」
岡部「…すまん」クルリ
岡部「…んなんだよ…」
紅莉栖「チッ なによ…」
岡部「悪いところがあるなら言ってくれよ…!」ポロポロ
紅莉栖「あんたの全てよ 見ててムカつくのよ」
岡部「ぐっ、うぅ…」ボロボロ
岡部「うるさい! お前のせいだろうがぁ!」ポロポロ
紅莉栖「自分の事を棚に上げてよくもぬけぬけとそんな事が言えるわね 最低」
岡部「もう、許してくれよ… 俺が何をしたって言うんだよ…」
紅莉栖「いーっつもぞんざいに扱ってるじゃない 人にされて嫌な事はしちゃいけないって言われなかったの?」
岡部「それは、お前が…」
紅莉栖「また人のせい? クズね」
岡部「お前を前にするとついからかうような事を言ってしまったんだ…」
岡部「全部、お前が… お前が好きだったからなんだよ!紅莉栖!」
紅莉栖「キモい 死んで」
岡部「」
岡部「くっ… ふ、フゥーハハハ すまなかったな! く、クリスティーナよ!」
岡部「…外に出てくる このラボには、もう来なくても良い …さらばだ」
グイッ
岡部「…?」
紅莉栖「待ちなさいよ」
言っておくけどマグマじゃないよ あとご飯食べたいよ
紅莉栖「紅莉栖って呼べ」
岡部「…? …紅莉栖」
紅莉栖「…本当に、私が好きか?」
岡部「…あぁ、好きだよ… もう良いだろう、手を離せ…」
紅莉栖「待てといっとろーが」
岡部「紅莉栖…?」
ロールキャベツ食べる
岡部「うぉっ」
紅莉栖「本当にバカね 逃がさないわよ」
岡部「どけよ… 俺の事が嫌いなんだろう?」
紅莉栖「そんな事一度も言ってない」
岡部「だが、俺の全てが悪い、見ててムカつくと…」
紅莉栖「嫌いだとは言ってないって言ってるでしょ バカ、大バカ」
紅莉栖「まだわからないの? だからダメなのよ」
岡部「…」
紅莉栖「…わからないなら、わからせてやるわよ」
岡部「なに?」
紅莉栖「目を閉じろ口を閉じろ耳を塞げ」
岡部「…わかった」
チュッ
紅莉栖「うるさい」
岡部「顔が赤いぞ」
紅莉栖「調子に乗るな このHENTAI」
岡部「キスしたお前が言うか…」
紅莉栖「いい加減にしないと無理やり黙らせるぞ」
岡部「勘弁してくr、んう」
岡部「…」
紅莉栖「…なんか言え」
岡部「黙れと言ったのはお前だろうに…」
紅莉栖「うるさい これでわかったかバカ」
岡部「あぁ…」
紅莉栖「バーカバーカ」ギュウ
紅莉栖「…なによ」
岡部「好きだ」
紅莉栖「…ズルい」
岡部「悪かったな」
紅莉栖「ズルい もう少し冷たくすれば良かった もう一回泣け 泣きなさい 泣かす」グリグリ
岡部「うぐぐやめてくれ」
岡部「じゃあ実力行使だな、っと」グイッ
紅莉栖「きゃっ、き、急に起こs、ん、ふ、ぅっ」
岡部「紅莉栖、好きだ」
紅莉栖「…このHENTAI」
岡部「お前が可愛すぎるのが悪い」
紅莉栖「っ、うぅ~…」
紅莉栖「うー… さ、さっきの泣いてた岡部だって可愛かったもん!」
岡部「な、何を言うかっ」
紅莉栖「冷たくされて焦ってたくせにっ 無視されて涙目になってたくせにっ」
岡部「そ、それは、お前に嫌われたかと…」
紅莉栖「鈍感 ヘタレ バカ 厨二病」
岡部「むぅ…」
紅莉栖「嫌うわけ、ないでしょ…」
紅莉栖「…きよ」
岡部「…聞こえないぞ」
紅莉栖「っ、好きよ! 大好きよバーカ!」
岡部「俺も、大好きだ」ギュウ
紅莉栖「ぁっ、うぅ…」ギュウ
岡部「まぁな、紳士ってやつだ それとも何か? 手を出して欲しいのか? HENTAI少女よ」
紅莉栖「…名前」
岡部「む、く、紅莉栖よ…」
紅莉栖「…出しなさいよ」
岡部「ま、マジか…」
岡部「お、落ち着け紅莉栖 俺は、その、出したいのは山々なんだが…」
紅莉栖「じゃあなによ…」
岡部「その、どうすれば良いのかわからん…」
紅莉栖「…童貞」
岡部「ぐぬっ 仕方ないだろう!」
岡部「すまん… とりあえず、一度どいてくれると助かr」
紅莉栖「私がする」
岡部「…なんと?」
紅莉栖「わ、私がしてあげるって言ってるの! わかったら動くな! そのまま後ろに倒れろ!」グリグリ
岡部「む、むちゃくちゃだ!」
岡部「し、しかしだな」
紅莉栖「問答無用! ちゅう」
岡部「んむっ、ん、ふっ、ちゅる」
紅莉栖「れろ、じゅる、んぷ、れるれる、ちゅ、ふぅっ、ん、ふふっ、ぷは」
岡部「…口の中って、気持ち良いんだな」
紅莉栖「…童貞乙」
岡部「これから卒業するさ」
岡部「…乾いたからな」
紅莉栖「…ぺろ」
岡部「なっ、お前…」
紅莉栖「ふふ、しょっぱい」
岡部「いきなり舐めるな びっくりするだろう」
紅莉栖「ふーん… れろ、れろちゅる」
岡部「うぉぉ!? おま、耳なんてっ や、やめてくれ!」
紅莉栖「ちゅぱ、れる、じゅるるる」
岡部「くうぅぅぅ…」
岡部「し、仕方ないだろ…」
紅莉栖「それに、こっちの方も、おっきくなったみたいじゃない?」ムギュ
岡部「っ…」ビクリ
紅莉栖「それじゃ、本番だよ…」ニコリ
以下省略
ダル「なーんか今日の牧瀬氏、機嫌良くね?」
紅莉栖「そう? 気のせいじゃない?」
まゆり「えっとねー、まゆしぃにも今日の紅莉栖ちゃんは嬉しそうに見えるのです」
紅莉栖「そうかしら…」
岡部「フゥーッハハハハ! ただいま帰還したぞ!」
まゆり「あ、オカリン とぅっとぅるー♪」
ダル「おー、オカリンオカリン、牧瀬氏の機嫌が良い気がするんだけどなんか知らん?」
岡部「ふむ、気のせいではないか? おーぅい、助手ぅー! クリースティーナー!」
岡部「ほらみろ、むっつりと黙り込んでいるではないか」
ダル「なんとなく余裕のようなものが見えるお… まさか!」
岡部「そ、それこそ気のせいではないか? なぁ、助手よ!」
紅莉栖「…」
まゆり「わぁー、紅莉栖ちゃんがにやけてるよー」
ダル「やっぱりそういうことなんだお! 屋上へ行こうぜ!」
岡部「だ、ダル! 落ち着けスーパーハカー! ダイエットコーラあるぞ!」
ダル「そんなもんじゃ釣られないお!」
紅莉栖「…」
ダル「鈴羽たん! オカリンを押さえるお! 裏切り者だお!」
岡部「な!お前!」
鈴羽「まさか、SERNの洗脳!? 岡部倫太郎、ちょっと我慢してね!」ガッシボカッ
岡部「ぐおお! 離せぇ!」
ダル「フェイリスたんに見破ってもらうお! まゆ氏、連絡頼んだお!」
まゆり「えっへへー、もうしてあるのです もうすぐ着くってー」
岡部「ぐぬぬ…」
紅莉栖「…」
岡部「る、ルカ子! 助けてくれ!」
まゆり「ルカ君とぅっとぅるー♪ オカリンはねー、女の子の敵なのです」
ルカ「お、岡部さん… そんな、ボク、ボク、信じてたのに…」ウルウル
岡部「ウェイウェイウェイ! 適当な事を言うな!」
パシャ
岡部「!? し、指圧師!? またお前か!」
萌郁「楽しそう……だったから……」
岡部「そうだろうと思ったよ!」
紅莉栖「…」
まゆり「萌郁さんもフェリスちゃんも、とぅっとぅるー♪」
ダル「フェイリスたん降臨! ktkr! 今こそその力を見せてほしいお!」
フェイリス「ニャー? つまりどういうことニャ?」
ダル「かくかくしかじかだお」
フェイリス「ふむふむ、そういうことならお任せニャ! 凶真! フェイリスの目を見るニャ!」
岡部「ぐうう…」
紅莉栖「…」
岡部「し、知らん…」
フェイリス「…ニャン、こいつは嘘を吐いている顔だニャ!」
まゆり「まゆしぃは悲しいのです…」
ルカ「あの、岡部さんは一体何を…?」
ダル「おそらく、牧瀬氏とねんごろになったんだお! そうならそうと言えお! 仲間だろぉ!?」
岡部「ぐ、そ、そう、だ…」
紅莉栖「…」
岡部「まったく… お前らは…」
まゆり「紅莉栖ちゃんもこっちにおいでよー」
紅莉栖「…はぁ」
ダル「おお、目に見えて顔が赤いお」
岡部「紅莉栖?」
紅莉栖「う、うるさい 黙って」
フェイリス「ツンデレだニャー」
ダル「ヒューヒュー」
紅莉栖「で、でも! 岡部が調子に乗るといけないから、その…」
紅莉栖「岡部に冷たく当たってみる」
終わり
この後オカリンがみんなにいじられたりルカ子に切なさそうに見つめられたり写メられたりどつかれたりして紅莉栖に助けを求めるけど冷たいから無視されちゃうところまで妄想した
そのまま>>1に戻るんですね分かります
長いことお疲れ
Entry ⇒ 2012.01.14 | Category ⇒ シュタインズゲートSS | Comments (0) | Trackbacks (0)
櫻子「冗談で向日葵に抱きついたらなんか真っ赤になってた」
http://hayabusa.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1326200124/
櫻子「は!?ち、ちげーし!!」
向日葵「急に目の前でもじもじしだしたと思ったら……」
櫻子「してねーし!!向日葵の方だろ!!」
向日葵「わたくしはそんなのする余裕もなく抱きつかれましたもの」
櫻子「ぐ、ぐぬぬ……」
向日葵「全く……」
櫻子「べっ、別に。ちょっと向日葵を驚かせてやろうと思っただけ」
向日葵「……」ジトッ
櫻子「な、なんだよぉ!」
向日葵「はぁ……いつまで経っても櫻子は
子供のままですわね」
櫻子「むかっ!」
向日葵「なっ!?」
櫻子「このあだるとおっぱい!!」ペチンッ
向日葵「きゃっ!」
向日葵「な、何をしますの!?そ、それに、あだるとだなんて、そんな言葉をどこで……」
櫻子「ふん!ちなつちゃんに教えて貰ったもんね!」エッヘン
向日葵「威張ることじゃないですわ」
櫻子「うっさい!このあだると向日葵!」
向日葵「悪口になってませんわよ」
櫻子「いいじゃん別に。誰も困らないし」
向日葵「わたくしが困りますのよ!!」クワッ
櫻子「向日葵しか困らないじゃん」
向日葵「あなたはわたくしを何だと思ってますの?」
櫻子「向日葵しかこんなことできないんだからさせてくれたっていいじゃん」
向日葵「なっ……!?また恥ずかしいことを……」
櫻子「は!?ち、ちげーし!!らいばるって意味でだし!!向日葵なんかと仲良くするわけないだろ!!」
向日葵「はいはい……なんだか疲れましたわ」
櫻子「ぐぬぬぅぅぅっ」
櫻子「うっ……だ、だって……」
ちなつ「だってじゃありません!」クワッ
櫻子「ひっ!ご、ごめんよちなつちゃん……」
ちなつ「私は別にいいけど、向日葵ちゃんともっと仲良くなりたいって言ったのは櫻子ちゃんでしょ?
せっかく勇気だして抱きついたのにイタズラで済ましちゃってどうすんの?」
櫻子「は、恥ずかしくてつい……」
ちなつ「それを乗り越えるのが今回のミッションでしょ!?」
櫻子「だ、だけど!」
ちなつ「だけどじゃない!!」クワワッ
櫻子「ひぃっ!」
櫻子「こ、これを乗り越えたらあだるとになれるの!?」
ちなつ「アダルトどころじゃなくて……妖艶な女になれるよ」
櫻子「幼稚園じゃ子どもじゃん!!」
ちなつ「もーう!幼稚園じゃなくてよ・う・え・ん!!」
櫻子「よ、妖艶?なにそれ?」
ちなつ「と、とにかく凄いの!妖艶な女ってのはアダルトよりもっともっとすごいんだから!」
櫻子「よくわかんないけどなんかすごそう!!よーしっ!ようえんな女になるためがんばるぞぉ!おーっ!」
あかり「おーっ!」
ちなつ&櫻子「あかりちゃんいたのっ!?」
あかり「ひ、ひどいよぉ!あかりずっと居たよ!?」
あかり「無視っ!?」ガーン
ちなつ「他人任せって、一番成長しないんじゃないかなぁ……」ハァ
櫻子「えっ!?ち、ちなつちゃん!」
ちなつ「何をしたらいいかじゃなくて、何がしたいかで自分を語りなよ……」ハァ
櫻子「えっ!?えっ!?」
あかり「さ、櫻子ちゃんは向日葵ちゃんになんかしたいこととか、言いたいこととかあるの?」
櫻子「そ、それは……」
あかり「あるんだね」ニコッ
あかり「あかり、よくわかんないけど、正直にそれをしてみたらいいと思うなぁ」
櫻子「……じゃ、じゃあ……も、もっかい抱きつく。な、なんか……物足んなかったから」
あかり「うん!」ニコッ
櫻子「い、行ってくる!!」ガタッ
タッタッタッ
ちなつ「はぁ~……楽しいわぁ」ニヤッ
あかり「ちなつちゃん……」
向日葵「……」ジトーッ
櫻子「な、なんだよばか向日葵!じろじろ見んな!」
向日葵「櫻子、もうイタズラはやめてって言いましたわよね?」
櫻子「は、はぁ!?まだするなんて言ってないじゃん!」
向日葵「ということはやっぱりするともりでしたのね。まあそのモジモジをみればわかりますけど」
櫻子「げっ!!」
向日葵「で、具体的に何をするつもりでしたの?」
櫻子「だ、だきつこうと……」
向日葵「なっ!?……はぁ……まだですの……」
櫻子「い、いいだろ別に!何をしようと私の勝手だー!!」
櫻子「なんだとー!」
向日葵「じゃ、わたくし職員室に呼ばれてますので」クルッ スタスタ...
櫻子「こ、こんの~……ば、ばか向日葵ー
!!」タッタッタ ギュッ!!
向日葵「きゃっ!!ちょ、ちょっと危ないですわね!!急に後ろから抱き付かないでくださる!?」
櫻子「ひ、向日葵がばかにするからだろ!ふんっ!」
向日葵「どうでもいいから早く離れなさいな!こんなとこで!」
櫻子「い、いやだねっ!!」ギュー
向日葵「はぁ!?意味がわかりませ……ちょっと櫻子、あなた真っ赤ですわよ?」
櫻子「ばっ、あ、赤くねーし!!それを言うなら向日葵だって真っ赤っ赤じゃん!!やーいやーい!!」
向日葵「なっ……ほんっとうに子どもですわね……」ワナワナ
櫻子「まだ中学生だもん!!」
向日葵「いいから離れなさい!」
櫻子「だ、だって……」
ちなつ「だってじゃない!!」
櫻子「でも」
ちなつ「でもじゃない!!」
櫻子「じゃ、じゃあ」
ちなつ「あーもうじれったい!!ちゅーすればいいじゃんもう!!ちゅー!!」
櫻子「え、えぇ!?」
ちなつ「でもじゃない!!!!」
櫻子「い、言ってないし!!」
ちなつ「さすがにちゅーされたら好きって気づくでしょ。ね?あかりちゃん」
あかり「えっ?えっ?じゃ、じゃああの時の」
ちなつ「ああ、あれは違うけど」
あかり「えぇっ!?」ガビーン
櫻子「えっ!?えぇ!?」
ちなつ「ほらほら!早く行かないと昼休憩終わっちゃうよ!」
櫻子「う、う~っ……」
ちなつ「妖艶な女になるんでしょ!?」
櫻子「……わ、わかった。……ちゅ、ちゅーしに行ってくる!!!!」ガタッ
タッタッタッタ
あかり「あわわ、ほんとに行っちゃったよぉ……」
ちなつ「大丈夫大丈夫!ほんとにちゅーはしないでしょ、さすがに」
あかり「ちなつちゃん……」
あかり「あぅ……」カァ
ちなつ「櫻子ちゃん……今なんて?」
櫻子「だ、だから……ちゅ、ちゅーしてきたけど、次なにすればいいかなあって……」
ちなつ「え?……ちゅ、ちゅーをしてきた……?」
櫻子「だ、だって!妖艶な女になりたかったんだもん!!」
ちなつ「……そんな……驚きのあまりあかりちゃんのお団子落としちゃった……」
あかり「最初のポロッてその音だったのぉ!?わぁ!ほんとだ!!右側が無い!!」アタフタ
櫻子「だ、だって……ひ、向日葵と……な、仲良くなるためには、ちゅ、ちゅーしたら気づいてもらえるって……」モジモジ
ちなつ「ちょ、ちょっと詳しく聞かせて?参考にするから」
櫻子「え、えっと……」
向日葵「失礼しました」ガラッ
櫻子「あっ、ひ、向日葵っ!!」
向日葵「きゃ!……って、櫻子!?突然でてこないでくださる!?」
櫻子「び、びっくりする向日葵が悪い!!」
向日葵「はぁ……で、またですの?」ジトッ
櫻子「うっ……うん」
向日葵「いい加減にしなさいな。さっきもよろめきましたし、抱きつこうにもあなたは加減を知らn」
櫻子「ちゅ、ちゅーさせろ!!」
向日葵「……は?」
櫻子「ちゅ、ちゅー!させろ!!」
向日葵「は?い、意味がわかりませんわ!ちゅー!?」
櫻子「そ、そうだ!!」
向日葵「な、ななな、なにを……!あなた、いくらなんでもおふざけがすぎますわよ!?」
櫻子「おふざけじゃないし!!」
向日葵「……はっ?」
櫻子「あ、いや、ちが、違うし!!!!違うし!!!!!」
向日葵「もう何がなんだか……」
向日葵「次体育ですわよ?早く教室に戻らないと遅刻しますわ」クルッ スタスタ
櫻子「ちょ、ひま、向日葵ぃ~」タッタッタ
向日葵「はぁ……櫻子が何を考えてるのかわかりませんけど、おふざけなら本当にやめた方がいいですわよ?
抱きつくなら100歩譲ってありだとしても、キ、キスとなるとおふざけでするようなことでは無くなってしまいますもの」
櫻子「……」
向日葵「ちょっと、聞いてますの?」
櫻子「ねえ、向日葵」
向日葵「ん?」クルッ
櫻子「 」チュッ
向日葵「……えっ?」
櫻子「……お、おふざけじゃないもんね!!ばか向日葵ぃ!!」タッタッタッタ
向日葵「……えっ?」
向日葵「えっ?」
/▲ LIVE中継
▼/ 木間
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木間市タワー [Kima City Tower]
(1990竣工 日本)
ちなつ「……す、すごいよ櫻子ちゃん!!ほんとにするなんて!!」
櫻子「ま、まぁね……えへへ」
あかり「ま、待って、その後向日葵ちゃんはどこに行っちゃったの!?」
櫻子「ひ、向日葵なら……自分の席に、いる」プイッ
あかり「え?」
向日葵「……チラッ……チラッ……チラッ……チラッ」
ちなつ「ご、5秒に一回くらいこっち見てる……」
あかり「ひ、向日葵ちゃん真っ赤っ赤だよぉ……」
ちなつ「ちょっと、話してきたら?」
櫻子「べ、別に、話すことないしっ」プイッ
櫻子「うっ……な、なんか、今になると恥ずかしいんだもん」
ちなつ「いいのかなぁ……向日葵ちゃん話したそうにしてるけどなぁ」
向日葵「……チラッ……チラッ……チラッ…………チラッ」モジモジ
櫻子「そ、そんなのわかんないじゃん!」
ちなつ「ふ~ん……ま、櫻子ちゃんがそういうことなら別にいいけど」
櫻子「うぬぬっ……」
ちなつ「おーい!向日葵ちゃーん!ちょっと来てくれるー?」
向日葵「えっ!?」ビクッ
櫻子「ちょ、な、なにしてんの!?」
ちなつ「別に?私が個人的に向日葵ちゃんに用があるだけだけど」
櫻子「ちょ、ちょっとトイレ……」
ちなつ「あかりちゃん」クイッ
あかり「ごめんね、櫻子ちゃん」ガシッ
櫻子「わぁ!は、はなせぇ!」
あかり「あ、あかりだよぉ!お団子一個ないけどあかりってわかるよね!?」
向日葵「あ、ああ、よく見たら赤座さんですわね」
ちなつ(今までお団子で判断してたんだ……)
あかり「もぉ!ひどいよぉ向日葵ちゃん!」プンプン
向日葵「ごめんなさいですの……それと……」
櫻子「……ふ、ふんっ!」
向日葵「……」プ、プイッ
眠い
向日葵「な、なんですの?」
ちなつ「向日葵ちゃんってさぁ……」
向日葵「は、はいですの」
ちなつ「……好きな子いるの?」ニヤッ
向日葵「な、ななな、何を!?えっ?ど、どうしてですの!?」
ちなつ「いや、特に深い意味はないけど……ね?櫻子ちゃん?」
櫻子「え、な、なんでここで私にふるの!?」
ちなつ「べっつにぃ~」ヒューヒョー♪
向日葵「……」チラッ
櫻子「」チラッ
向日葵「!!」バッ
櫻子「!!」プイッ
ちなつ「まっ、聞かなくても私は知ってるんだけどね」
向日葵「えっ!?ど、どどど、どういうことですの!?」
櫻子「な、なんでちなつちゃんが向日葵の
好きな人知ってるの!?」
ちなつ(誰でもわかると思うけど……)
あかり「わあ!すごいねちなつちゃん!なんでもお見通しだね!」
ちなつ(この3人以外なら……)
向日葵「ハッ!!さては櫻子!言いましたわね!?」
櫻子「な、なんでそうなるんだよぉ!私も向日葵に好きな人がいるなんて聞いてねーし!!」
ちなつ「あ、そういえば櫻子ちゃんもいるよね」
櫻子「ちょっ!!」
向日葵「えぇ!?さ、櫻子が!?」
櫻子「い、いいい、いねーし!!」
ちなつ「効いてる効いてるw」
寝るっ!後は頼んだ!
向日葵「そ、それで、誰ですの!?その櫻子のす、すす、好きな人というのは!?」
ちなつ「え~っ?」
櫻子「わ~っ!わ~っ!!」
向日葵「お、教えてください!!ですの!!」
ちなつ「別にいいけどぉ……」
櫻子「ダ、ダメに決まってるじゃん!!何言ってんの!?」
ちなつ「その前に、向日葵ちゃんはなんでそんなに櫻子ちゃんの好きな人が気になるのかなぁ~?」ニヤニヤ
向日葵「そ、そそそ、それはっ!!」
ちなつ「ん~?」
櫻子「というか私の教えるなら向日葵のも教えろ!!」
向日葵「い、嫌ですわよ!」
ちなつ「えー、それは公平じゃないと思うけど」
向日葵「うぐっ……わ、わかりましたわ……櫻子の好きな人は諦めます」
ちなつ「えっ?諦めちゃうの?」
向日葵「仕方がありませんわ……」
ちなつ(これはダメな流れ……そうだ!)
ちなつ「じゃあ、当てあいっこしない?」
櫻子「へ?」
向日葵「あ、当てあいっこ……?」
ちなつ「お互いに好きな人のヒントを出し合って、相手の好きな人を予測する、みたいな」
櫻子「えっ!?そ、そそそれじゃ向日葵にバレちゃうじゃん!!」
ちなつ「でも櫻子ちゃんも向日葵ちゃんの好きな人わかるかもよ?」
櫻子「あっ……なるほど」ニヘヘ
ちなつ「向日葵ちゃんも、どう?」
向日葵「……し、心理戦のようなものですわよね? ということなら、櫻子に負ける気はしませんわ!ノーリスクハイリターン、ですわ!」
櫻子「な、なんだとぉこの脳みそおっぱい!!」
向日葵「いくらでも吠えるといいですわ。今に黙り込むでしょうから」
櫻子「わんわん!わん!」
向日葵「本当に吠えてどうするの!?ですわ!?」
ちなつ「よーし、じゃあ決まりね」
ちなつ(というか櫻子ちゃんも向日葵ちゃんも、「向日葵にバレちゃう」とか「ハイリターン」とか言っちゃってる時点で
もうお互いカミングアウトしてるようなもんなんだけどね……)
向日葵「って、なんで櫻子が先ですn」
キーンコーンカーンコーン
ちなつ「……へっ?」
向日葵「あぁ!し、しまった!ですの!次体育だということをすっかり忘れてましたわ!」
櫻子「えっ!?うわっ!ほんとだ!教室に私たち3人しかいない!?」
ちなつ「こ、これは急がないと遅刻しちゃう!じゃあ、続きは放課後で!」
パタパタパタ
あかり「……」
あかり「……あ、あった!やっと見つけたよぉ!私のお団子さん!!」シャキーン
あかり「やったぁ!!……って、あれ?」シーン
あかり「わ、わぁ!次体育なの忘れてたよぉ!うわーん!」
パタパタパタ
櫻子「そういえばあかりちゃんは?」
ちなつ「あっ」
向日葵「見かけませんわね……」
あかり「ここに居るよ!?」
ちなつ「い!?いつの間に……」
あかり「いつの間にって、更衣室でちなつちゃんと遅れてごめんってお話したのにぃ!」
ちなつ「えっ?……あはは、そうだっけ……?」
あかり「忘れられてる!?」ガーン
あかり「もう!ひどいよぉ!」プンプン
ちなつ「ご、ごめんねあかりちゃん……」
「ハーイ、それじゃあ体操するから2人組作ってー」
あかり「ちなつちゃーん!」
向日葵「吉川さん、よければわたくしt」
ちなつ「やろっか!あかりちゃん!」
櫻子&向日葵「……っえ?」
櫻子&向日葵「……」キョロキョロ
櫻子&向日葵「……」
「おっ、大室と古谷がちょうど余ってるから、2人でペア組めよ~」
櫻子&向日葵「……」
櫻子「……し、仕方なくだから!!別に向日葵と組みたいとかじゃないし!!」
向日葵「べ、別に聞いてませんわよ」
櫻子「……は、はいっ」スッ
向日葵「……えっ?」
櫻子「えっ?じゃなくて腕!!組んでよ!!体操するんでしょ!?」
向日葵「あっ、そ、そうでしたわね……」
ギュッ
そして放課後
ちなつ「各自活動は終わった?私とあかりちゃんは結衣先輩が美しすぎて部活休みになったけど」
あかり「えぇっ!?違うよぉ!結衣ちゃんが親戚の子が来るからって早く帰っちゃってすぐ終わったんでしょ!?」
ちなつ「あぁ、そういえばそうだったね。ま、一緒じゃん」
あかり「どこがっ!?」
向日葵「わたくし達も資料の整理だけだったのですぐでしたわ」
櫻子「ちょちょいのちょい!って感じだった!」
向日葵「櫻子は先輩方に手伝って貰って」
櫻子「だぁぁ!もううっさいうっさい!私の方が先輩方に気に入られてるってことだもんね~!」
向日葵「はいはい……」ハァ
櫻子「う、うん……」
向日葵「……」
ちなつ「じゃあ、あかりちゃん、スタートコールお願いね」
あかり「任せて!さくひま、はっじまっるy」
ちなつ「よーいスタート!!!」クワッ
あかり「えぇぇっ!?」ガビーン
櫻子「……そ、その」
向日葵「え、えぇ……」
櫻子「……だ、だから……」
向日葵「な、なんですの……?」
櫻子「あ……あぁもう!なんて聞けばいいかわかんない!!」
向日葵「はぁ……」
櫻子「ま、待ってよ!!まだ聞いてないし!!」
向日葵「何聞けばいいか分からないって言ったのは櫻子の方ですわ」
櫻子「わからないだけで私のターンが終わったわけじゃないもん!!」
向日葵「はぁ……仕方ないですわね」
櫻子「え、えーっと……」
向日葵「……」
櫻子「う~ん……」
向日葵「……」
櫻子「向日葵の好きな人って誰?なんちゃって」テヘヘ
向日葵「ふざけんなですわ」
これではいつまで経ってもわたくしの順番が回ってきませんわ!!」
ちなつ「えっ、いいの?」
櫻子「よぉし!言ってやれちなつちゃん!」
ちなつ「本当にいいんだよね?」
向日葵「櫻子に任せていたらキリがありませんもの!!」
ちなつ「ふふふ……じゃ、頼まれちゃおっかな」
向日葵「どんとこい!ですわ!!」
ちなつ「向日葵ちゃんの好きな人って、ヘアピン2つしてる?」ニヤッ
向日葵「ちょ、ちょちょちょ、ちょっと待つですわ!!!!」
櫻子「へ?ヘアピン2つって私じゃん」
向日葵「ま、待つですわ!!!待ちなさい!!!」
あかり「ひ、向日葵ちゃん落ち着いて!」
ちなつ「ん?つまりヘアピン2つが答えってこと?」
櫻子「え゛っ!?」
向日葵「ち、ちちち違いますわよ!!」
ちなつ「違うの?」
向日葵「ち、ちがっ……つ、次行きますわよ!!次!!」
櫻子「な、なんだよそれ!はっきり答えてないとかずるいし!!」
向日葵「仕方ありませんの!!」
櫻子「はぁ?意味わかんねーし……ちぇっ」
向日葵「わ、わたくしの番ですわね!」
櫻子「……」ジトーッ
向日葵「問答無用ですわ!!」
櫻子「なーんだ、そんなの余裕じゃん!おーいえす!」
向日葵「お、おーは要りませんわ」
ちなつ「それで生徒会に入ってるんだよね」
櫻子「おーいえs……ってちなつちゃん!!」
向日葵「せ、生徒会……?」
櫻子「な、なしなし!今のなし!流れで言っちゃっただけ!!」
向日葵「その方は生徒会の方ですの?」
櫻子「な、なんで!?というか二回もずるいし!!」
ちなつ「あ、もしかしてカチューシャしてたりして」ニヤッ
櫻子「な、なななななっ!!」
向日葵「そ、それって……」
あかり「ち、ちなつちゃん……」
ちなつ「質問が生ぬるすぎてつい口出しちゃう……」テヘッ
櫻子「と、とにかく質問は一回だから!同じ学校ってだけ!はい終わり!」
あかり「ふ、2人の好きな人って誰なんだろう……あかりまだそういうのよくわかんないけど、なんだかすっごくドキドキするよぉ!」ドキドキ ドキドキ
櫻子「わ、私の番だ!」
向日葵「と言っても質問するのは吉川さんでしょう……」
ちなつ「なんか先が遠すぎて終わりそうにないから、2人共生徒会の中の誰かが好きだってことをバラしちゃってもいい?」
櫻子「えっ」
向日葵「へっ……?」
あかり「ちなつちゃん!言ってる言ってる!」
ちなつ「……あっ」コツン☆ミ
櫻子&向日葵「えぇぇえぇえっ!?」
向日葵「さ、櫻子!!だ、誰ですの!?」
櫻子「ひ、向日葵だって!誰!?」
向日葵「うぅぅぅぅっですの!」
櫻子「ぐぬぬぬぬぬっ!」
ちなつ(ふふふふふふふ……面白くなってきた……)
ちなつ「ま、人の恋愛範囲なんて半径100mっていうし?そういう近いところにいる人のことを好きになっちゃうのは当たり前なんだけどね」
ちなつ「ほら、例えば家が近いとか」
向日葵&櫻子「!?」
櫻子「え……?ひま、ひまわ」
向日葵「な、なななんですの!?」
ちなつ「あ、そういえば2人の家は隣同士だったんだっけ?」ニヤニヤ
櫻子「そ、そうだけど……」
向日葵「櫻子……あなたまさか……」
櫻子「ひ、向日葵だって……」
というかまあ私は知ってるから隠しても無駄だけど」
向日葵「……うーっ……は、はいですの」
櫻子「!!」
櫻子「……え、えと……わ、私もあってる」
向日葵「!!」
ちなつ「で、向日葵ちゃんと櫻子ちゃんに家が近い人なの?」
向日葵「……」チラッ
櫻子「……」チラッ
ちなつ「沈黙は肯定とみなす」
ちなつ「それで、向日葵ちゃんはヘアピン2つで櫻子ちゃんはカチューシャの子が好きと……」メモメモ
向日葵「そ、そそそれは……!!」
櫻子「ま、まだわかんないじゃん!!せ、先輩達とかだっているし!!」
向日葵「な、何をですの!?」
櫻子「何を!?」
ちなつ「向日葵ちゃんは櫻子ちゃん!櫻子ちゃんは向日葵ちゃんが好きぃー!って!」
向日葵「そ、そそそんなの絶対ねー!ですわ!!」
櫻子「あ、ありえないから!!向日葵なんておっぱいだし!!」
ちなつ「じゃあなんで2人とも真っ赤で目ぇ合わせないの?」
櫻子&向日葵「!」ビクッ
櫻子&向日葵「だ、だって……」
ちなつ「だってじゃない!!!!」クワッ
向日葵「と、とてもしっかりした方で……尊敬できるというか……」
ちなつ「じゃあ池田先輩は?」
櫻子「いっつもフォローしてくれて優しい!」
ちなつ「松本先輩は?」
向日葵「影で私達を支えてくれてるといいますか……」
櫻子「すごい仕事できるしね!!」
ちなつ「じゃあ櫻子ちゃんは……?」
向日葵「うっ……」
ちなつ「向日葵ちゃんは?」
櫻子「げっ……」
ちなつ「はぁ……」
あかり「あ、そっか!」
ちなつ「ん?どうしたのあかりちゃん」
あかり「2人はお互いのことが好きだから、恥ずかしくてどう思ってるか言えないんじゃない?」
櫻子&向日葵「!!」ドッキーン
ちなつ(あかりちゃんナイス!!略してナイス!!)
ちなつ「そこんとこ、ど・う・な・の?お二人さん」ウシシシ
向日葵「そ、そそそっそそ、そん、そそっ」
櫻子「ねーし!!絶対ねーし!!そ、そんなのあるわけ……」
向日葵「」チラッ
櫻子「」チラッ
櫻子&向日葵「!!」プイッ
ちなつ「ま、さすがにここまで言えば気づいてるでしょ」
向日葵「……」
櫻子「ね、ねーし……」
ちなつ「じゃ、後はお二人でよろしくやってね!私、これからあかりちゃんと結衣先輩の美貌について語らないとだから!」
あかり「何それ!?あかり聞いてないよぉ!?」
ちなつ「ほらっ!あかりちゃん行くよ!」パシッ
あかり「あっ……」ドキッ
タッタッタッタ
向日葵「……っ」モジモジ
櫻子「……う、うーっ」モジモジ
櫻子「……な、なんで私が向日葵と2人で……」
向日葵「そ、それはいつものことじゃありませんの……」
櫻子「そ、そうだけど……ち、違うじゃん!!今日だけは……な、なんか違う!!」
向日葵「な、なんかってなんですの!?」
櫻子「わからないー!!違う違う違う!!なんかドキドキするー!!」ウルッ
向日葵「えっ……」ドキッ
櫻子「あっ……ち、違うし!!ド、ドキドキなんてしてないし!!」
向日葵「さ、櫻子……」
櫻子「と、とにかく違うから!!!!」
向日葵「わ、わたくしは……してますわよ……?」
櫻子「えっ……?」
向日葵「わ、わたくしは……あなたと並んで歩いて……ド、ドキドキ……してますわよ?」ウルッ
櫻子「えっ……?ひま……向日葵……?」
向日葵「……櫻子は……本当に、ドキドキ、しないんですの?」
櫻子「わっ、私は……」
向日葵「……私は?」
櫻子「……う、うぅぅうぅぅぅぅっ、うっ……うわあああ!!」タッタッタッタ
向日葵「ちょ、さ、櫻子っ!?待ちなさい!!」タッタッタッタ
櫻子「な、なんでついてくるんだよぉ!」
向日葵「あ、当たり前ですわ!!自分だけ逃げるなんて卑怯ですもの!!」ガシッ
櫻子「はぁ……はぁ……ちぇっ」
向日葵「櫻子……」
櫻子「な、なんだよもう……」クルッ
向日葵「……」チュッ
櫻子「……え゛っ!?」
向日葵「……あ、あの時の……し、仕返し……ですわ」タッタッタッタ
櫻子「えっ……い、いま……ちゅ、ちゅー……」カァァァ
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▼/ 木間
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木間市タワー [Kima City Tower]
(1990竣工 日本)
櫻子「……」プルプル
櫻子「……こ、こらー!!ばか向日葵ぃー!!」
櫻子「じ、自分だけ逃げるなんて、卑怯だぞー!!!」タッタッタッタ
この後、向日葵に追いついた櫻子が何をしたのかは、ご想像にお任せ
終わり
続けなさい
向日葵「な、なんで追いついてくるんですの!?」タッタッタッ
櫻子「こらー!止まれー!」
向日葵「い、嫌ですわ!!」
櫻子「な、なんだとぉ!!止まれー嫌味みたいに揺らしやがってぇー!!」
向日葵「か、関係ないですわっ!!」バインバイン
櫻子「くぅぅうぅぅぅっ……じゃあもう!!走ったまま言うから!!知らないから!!」
向日葵「か、勝手に言えばいいじゃないですの!!何を言うのかわかりませんけど!!」
櫻子「言うから!!本当に言うからね!!」タッタッタッ
向日葵「だ、だから、勝手にすればいいじゃないですの!!」タッタッタッ
櫻子「ほ、本当の本当に言うからな!!」
向日葵「な、なんですの一体!!いつものように嫌味の一つなら、さっさと言っちゃいなさいな!!」
櫻子「うっ……うぅぅぅぅぅっ!!」
櫻子「こっ……こら向日葵!!!」タッタッタッ
向日葵「なんですの!?」タッタッタッ
櫻子「わ……私……ほんとは……ほんとは……」
櫻子「す、すっっっごいドキドキしてたんだからぁー!!!!」
向日葵「櫻子!!」ギュッ
櫻子「わぁ!」ムギュ
櫻子「急に止まって抱きしめないでよ!!」
向日葵「ごめんなさい……ごめんなさいですわ……でも……でも」ギュッ
櫻子「な、なんだよぉ……」
向日葵「あまりに、あなたが可愛くて」ニコッ
櫻子「なっ、ななななっ、何言ってんのばか向日葵ぃ!?」カァァァ
向日葵「櫻子……」ギュウッ
櫻子「わわっ、く、苦しいって!ひま、向日葵ぃ!!」
向日葵「……はぁ、なんだか、隠すのもばからしくなってきましたわ……」
向日葵「本当に、吉川さんには、感謝ですわね」
櫻子「え?な、なに言ってんの?」
向日葵「櫻子……わたくし」
向日葵「……あなたのことが、好きですわ」
向日葵「この世で一番、ですわ!」
向日葵「その……櫻子も、気づいてはいたでしょう……?」
櫻子「……え、えっと……まぁ……今日の、放課後のあれで、も、もしかしてって……思ってはいたけど」
向日葵「大正解、ですわ。この勝負、わたくしの負けですわね」
櫻子「えっ?」
向日葵「だってそうでしょう?相手の好きな人の当てあいっこですもの。櫻子に、当てられてしまいましたわ」
櫻子「……そ、そんなの……嬉しくないし!!」
向日葵「えっ?さ、櫻子?」
櫻子「だ、だって、向日葵自分で答え言っちゃったじゃん!!そ、そんなの部屋じゃないし!!」
向日葵「フェア、ですわね……」
向日葵「えっ……でも、それって……」
櫻子「あぁもううっさいうっさい!!ほんとは知ってるんでしょ!?私の好きな人!!」
向日葵「……ま、まあ……そうですわね……100%とは言いませんけど……」
櫻子「だ、だから、100%にしてあげるって言ってんじゃん!!」
向日葵「わ、わかりましたわ……そこまで言うのなら……」
櫻子「わ、私は……わ、私も!!」
向日葵「さ、櫻子」
櫻子「わ、私も!!向日葵が……す、すす、……好きぃ!!!!」
向日葵「さ、櫻子……!!」
櫻子「……う、うわああああ!!!!!」タッタッタッタ
向日葵「だ、だから!!なんでそこで逃げるんですのー!!」タッタッタッタ
終われ
本当に乙
乙乙
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ←IRS5
...
、::::::............. Sドラドゥス
゙ `"─-::.::::........ 2000 (28億km) ........::::::::::::::::- "  ̄
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▼/ 太陽
1(130万km)
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木間市タワー [Kima City Tower]
(1990竣工 日本)
さくひまR・最終回
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┼ヽ -|r‐、. レ |
d⌒) ./| _ノ __ノ
Entry ⇒ 2012.01.14 | Category ⇒ ゆるゆりSS | Comments (0) | Trackbacks (0)
伊織「た、貴音が欲しい!……んだけれど」
貴音の匂いがする。
柔らかで、花のような、甘い香り。
「ふふっ、どうしたのです。いきなり抱きついたりなどして」
「……別に、何でもないわよ」
「そうですか」
「でも、特別にもう少しこのままでいてもいいわよ」
くすくすと鈴の音のような笑い声がする。
おデコをかきあげるように、驚くほど冷たい貴音の手の平が這う。
見上げると、貴音は寂しそうに満月を眺めていた。月明かりが横顔を照らしてる。
「……一度しか言わないから、よく聞きなさい」
私の欲しいものは手に入った。
「貴音、ずっと私の、その、傍にいなさい……よね」
な、何言ってるのよ、私ったら!
そんなの言える立場じゃないのに。
冷え切った部屋に反して、私の体が熱っぽくなる。
身長差があるから、ちょっと育ちすぎな貴音の胸のあたりに顔が埋もれる。
「……ありがとうございます」
いつもと変わらない、穏やかな声がする。
……あんた、ズルいわよ。
こんなときでも、落ちついちゃって。
「……んん」
また、貴音の柔らかい手のひらの感触がする。
なんだか、私のゼンブがすっぽり、貴音に包まれてるみたい。悪くないわ。
貴音のラブレターは、今でも大切に、箱にしまってある。
これを見ると、胸の奥がチクチクと痛くなる。
「貴音、私たちが出会った日のこと覚えてるかしら」
「……はて」
「私は、覚えてる」
背中に回した手に、力がこもる。
あんたと過ごした日々はこの胸に焼き付いてるから。
夜中の十二時を知らせる音だった。
「あんたね、忘れてんじゃないわよ」
「申し訳ありません。では、二人でゆっくりと思い出しましょう、まるで今あったことのように」
「……」
そして、それはきっと、私と貴音の関係が終わる合図。
……。
「あーもー、このスーパーアイドル伊織ちゃんをどうして放っておくのかしら! 全く信じられないわ!」
叩けば埃が出るソファ!
真っ白なホワイトボード!
おまけに仕事しないで漫画ばっかり読んでる事務員!
「そ、それは言いっこ無しよ、伊織ちゃん……」
小鳥が、チェアをきぃときしませながら言った。
思わず頭を抱えて、深いため息が出た。
765プロに所属したのはいいものの、なーんにも仕事が無いじゃない。
おまけにプロデューサーは律子しかいない。
本当にやっていけるのかしら……。
「あふぅ、おデコちゃん焦ったら負けって思うな」
「あんたもレッスンしないで、寝てばっかりいるんじゃないわよ!」
「ミキ的には~あんまり頑張らずにアイドルやっていきたいな、あふぅ」
隣で寝転がっている美希が、呑気にあくびをした。
「はぁ~、やっぱり兄さんの言う通りもっと大手に入っておくべきだったかも……」
また、ため息がこぼれる。もうなんだかストレスでおデコが広がっちゃいそうよ……。
……そう、たしかこの時はまだ貴音もプロデューサーもいなかったのよね。
朝、私服に着替えてふかふかのダイニングチェアに座るなり執事が、
呪文のような長ったらしい料理名を唱える。
「毎回ごくろうさま」
聞き流しながら、オレンジジュースに口をつける。
隣に座っているうさちゃんが、私を見つめる。
……あら、シャルロッテちゃんも食べたいのかしら。
「だけど、あげないわよ。にひひっ」
……なんてね。
いつのまにか執事は居なくなっていた。
シミ一つ無いテーブルクロスが遠くまで続いている。
そこにぽつぽつと、よりどりみどりのパイやテザートが置かれてる。
「……はぁ、こんなに食べきれないわよ」
ため息を漏らす。
また、しん……と静寂が広がる。
ここらだと、まるで視力検査のように、遠くの壁に標語が滲んで見える。
水瀬の基本理念、欲しいものは勝ちとること……か。
それにしても、あの事務所、私のお部屋より小さいじゃない。
お煎餅も、安っぽいし、庶民の生活は私にはさっぱりわからないわ。
「はぁ?」
事務所に来て、いきなりの手招きに付いていくなり、そう言われた。
律子は、私の反応を待つかのように、ペンでこめかみを掻く。
「……まだどこのオーディションすら受かってないのに気が早いじゃない」
「仮の話よ、仮」
「必要無いわ、伊織ちゃん一人で十分よ」
絶対に、私の力でお父様とお兄様を見返してやるんだから。
みんな、伊織なんかには無理だって鼻で笑う。
水瀬財閥の令嬢が、庶民の余興であるアイドルをやるだなんて、と随分後ろ指をさされた。
……今思い返しても屈・辱・だ・わ~!
まっさらなホワイトボードを横目でちらりと見て、言った。
「それに、私の背中を任せられるヤツなんているわけないでしょ」
「あっまっ待ちなさい、伊織──」
引き留める律子の手を振り払って、私はレッスンルームへと向かった。
途中、ヨダレを垂らして寝ている美希の頭を手の甲でコツンと叩く。
「ん、イジワルしちゃヤなの~」
まずは、一刻も早くデビューすること、ね。
こんな金髪毛虫に先を越されて堪るもんですか。
まだ、鐘の音が鳴っている。
貴音の肌は仄かに熱がこもってて、気持ちいい。
「なるほど、わたくしが765プロに訪れる前、伊織は随分ときかんぼうだったのですね」
「ま、若気の至りってとこかしら」
「少々、気が短いのは今も変わっていませんが」
「な、なんですって~!」
「……美希とも、私の知るはるか前より、様々な事があったのですね」
「まぁね……」
ギュッと。
服がくしゃくしゃになるくらいに抱きしめると、
貴音はそれよりも強く、私を引き寄せる。
「さぁ、続きを聞かせてください」
……。
「では、名前を呼ばれなかった人は帰っていいよ」
平坦な声のトーンで、不合格を伝えられる。
「な、何でよ!納得いかないわ!」
「残念だったね~おデコちゃん」
「ぜ、絶対に負けないんだから!行くわよっ美希!」
腕で、目をごしごしと擦って、美希の手を強引に引っ張る。
絶対に、絶対にトップアイドルになってやるんだから。
「ぜぇ……さすがにキツいわね……」
吐く息がきれぎれになる。
胸の奥から、気持ちの悪い何かが込み上げてくる。
今日のダンスレッスンは、ちょ~っと張り切り過ぎちゃったかしら。
美希にスポーツ飲料が入った水筒を投げつける。
「ありがとなの~おデコちゃん」
「あんたはお気楽なもんよね……」
ハンドタオルで、汗を拭きながらレッスンルームから出ると……。
「伊織、美希!喜びなさい、新しい所属アイドルが来るわ」
「ま、また?!」
興奮した律子が、鼻をすんすんと鳴らしながら言った。
「動物臭いヤツの次はどんなイロモノが来るのよ……」
遠くで、誰かがくしゃみをする音が聞こえた。
春の暖かな日射しに、銀髪が揺れていた。
礼儀正しそうに、深くお辞儀をして、そいつは言った。
「四条貴音と申します、以後お見知りおきを」
貴音との出会いだった。
……のだけれど。
「わたくしは、高みを目指すためにここへ参りました、どうかご助力……」
でっかいお尻が揺れる背後から、肩をぽんと叩く。
「あ、あんたね。どこ見て話してるのよ」
「おや?」
「そっち、テレビなんだけど……」
「これは失礼いたしました。わたくし、視力が悪い故、うっかりしていたようです」
そう言って、目を瞑って微笑む。
……や、やっぱりイロモノじゃない。
「おデコちゃん、またツッコミが忙しくなるね~」
「あんたに言われたくないわよ!」
「ふふっ、なんとも面妖なお二人ですね」
貴音は、そんな私と美希を見て、口元に手を当ててくすくすと笑った。
「二人ともいってらっしゃいなの~」
「水瀬伊織、今日もれっすんですね」
「つ、付いてくるんじゃないわよ!」
「良いではありませんか」
私よりずっと背の高い貴音の顔へと指さして、叫ぶ。
そんな私を見て、貴音は相変わらず口元を怪しく歪ませる。
なんだか随分と懐かれちゃったみたい。
私の数歩後ろをピッタリついてくる。
……いったい何なのよ。
たまらなくなって、私は立ち止まる。
同時に、もう一つの足音がぴたりと止む。
「一つ、言っておくけどね」
「はぁ……」
「あんたね、ちょっと気にいらないわ」
「! な、何故です。その、わたくし何かそそうをしましたでしょうか」
貴音は信じられないといった具合に、顔を横にふる。
「それはね……」
振り向いて、言った。
「私とキャラが被るからよっ!」
「ごきげんよう。水瀬伊織と申しますわ」
フリフリのドレスの裾を広げて、お辞儀をする。
周りのスーツ姿の富豪のやつらは、シャンパンをテーブルに置いて拍手をする。
あの、天下の水瀬財閥の令嬢だよ、そんなヒソヒソ声があちこちから聞こえる。
「……」
赤い絨毯とにらめっこしながら、歯を食いしばる。
……ふざけんじゃないわよ
私は、水瀬伊織であって水瀬財閥の令嬢って名前じゃない。
「伊織、そちらの方にも挨拶をしろ」
機械のような無機質な声が聞こえる。お兄様の声だわ。
私は、一度拳をキツく握って、顔をあげた。
「は、はい。お兄様……」
……。
照明の落ちた薄暗い壁にもたれかかって、頭のリボンを強引にむしる。
「はぁ……」
「伊織、アイドルはそろそろ諦めるころか」
時計を確認しながら、お兄様は私に背を向けて言った。
一気に、頭に血がのぼる。
「ぜ、絶対に兄さんには負けないわ!正々堂々、欲しいものは自分で勝ちとってみせるんだから!」
「水瀬伊織、今日もれっすん……」
「……!」
貴音の言葉を遮って、レッスンルームの扉を強引にしめる。
トレーニング用のピンクのジャージに袖を通して、水を軽く口に含む。
……悔しい!悔しいわ!
「今日は、ダンスも、ボーカルも一通りやらせてちょうだい」
……絶対に、おかしい!
「もう1回やるわ!」
何度も何度も、同じステップを踏む。
汗がしたたりおちて、床に染みを作る。
ふくらはぎがパンパンに張って、たまにフラつく。
……どうして、美希と貴音が私より先にオーディションに合格するのよ!
窓の外には、仄白い月が浮かんでいた。
……今日は、満月みたいね。
思考がまとまらない。
真っ白い霧のかかったように、くらくらする。
コーチは、呆れた顔をして、荷物をさっさとまとめて帰っていた。
一人っきりのレッスンルームで、BGMが鳴る。
私はもう頭では考えずに、機械的にステップを踏む。
「うっ……」
胃の底から、吐き気が不意にせり上がってきた。
口元を押さえて、レッスンルームから飛び出して、洗面所へとかけ込む。
「……ぅ……ぇ……」
鏡を見ると、青白い顔をした私が映っていた。
髪はぐしゃぐしゃで、額にはべっとりと汗が滲んでいる。
……社交界のやつらが私のこんな姿を見たらきっと大笑いするんでしょうね。
絶対に、貴音にも、美希にも、お兄様にも負けないんだから……。
「あら……?」
ふと、暗闇が続く廊下に、一筋の光が差し込んでた。
他のレッスンルームの窓からだった。
私は、何度も息を整えながら、進んだ。
体を持ち上げるようにして、ガラス窓を覗きこむ。
すると……。
「はぁ……はぁ……」
銀色が、舞っていた。
動くたびに毛の先から水滴が、飛び散って、床へと落ちる。
「た、たかね……?」
思わず、ぽろりと声が漏れた。
時計を見ると、もう夜中の10時だった。
「……おや」
私の方を一目見るなり、また貴音はいつも調子で微笑んだ。
大分、落ちついたわ。
と、いうより落ちつくまで貴音のレッスンを眺めてたんだけど。
視力が悪いからきっと私の具合にも気づかなかったでしょうね。
汗を滴らせたまま、隣に座る貴音が言った。
「すぐ近くで、必死に高みを目指している者がいる……」
「……」
「ならば、新人のわたくしも精進せねばならぬでしょう」
「……ばっ、ばっかじゃないの」
「ふふっ」
満足そうに、目を伏せて、貴音は汗を拭く。
銀色の「女王」……か。やっぱり私とキャラ被るのよね。
同じ時代に女王は二人もいらないんだから。
けれど……。
「さっきステップ、遅れてたわよ。あそこはもっとワンテンポ速くしないと」
「なっ……」
「か、勘違いしないでよねっ、あんたがあんまり下手で見てられなかったのよ!」
「……ふふっありがとうございます、水瀬伊織」
「し、仕方ないから、これからは私があんたを指導してあげるわ」
ま、ライバルとしてなら認めてあげてもいいかしら。
まだ鐘の音は鳴っている。
規則的なリズムが、二人だけの真っ暗な夜にこだまする。
「あの時、美希も途中までいたのですよ」
「えっ、ま、まさかでしょ?! あの時の美希って寝てばっかで……」
「寝ているだけで、おーでぃしょんに合格できるのなら、わたくしもそうします」
「……」
……。
すぐ後ろで、ブザーが鳴って、私は驚いて振り返る。
人ごみがごった返す、自動改札機の前で貴音がうろたえている。
「あ、あんた電車の乗り方すらわからないの?」
「なんとも面妖な……」
「そこで切符買うのよ! この常識知らず!」
「あ、ありがとうございます」
まったく、貴音といるとほんっと飽きないわね。
……まぁ、私も765プロに入ってから知ったんだけどね。
「さぁ、気合い入れていくわよ、貴音!これから大事なオーディションよ!」
「はい、れっすんの成果を見せるとき、ですね」
「あの時、伊織はもう少し……」
「そうね、貴音もサビの部分で……」
いつのまにか恒例になった反省会。
私たちは、オシャレな喫茶店で、ちょっと大人なティータイムをする。
「少しずつですが、高みへと登っている、そんな気がしませんか?」
貴音は紅茶を、音もたてずに掻き混ぜる。
ぼんやりと、くるくると回る渦を見つめる。
……二人、ときたま三人でレッスンするようになってから、オーディションも段々と合格できるようになってきた。
まだまだ、地方の小さな小さな番組とかだけど。
お兄様も、小言を言わなくなった。
やっぱり、貴音のおかげなのかしら。ついでに、美希。
「……伊織?」
「あっ……」
私の目の前には、いつのまにかブラックコーヒーが置かれていた。
「……」
私は、砂糖に手の伸ばそうとして、やっぱりやめた。
一口飲むと、慣れない強烈な苦みが口に広がる。一度、キツく口をつぐんで言った。
「貴音、あんたずっとソロでやっていくの?」
「このスーパーアイドル伊織ちゃんとユニットを組む気は無い、かしら?」
「ふふっ」
貴音は、ティーカップをゆっくりと両手で置く。
その笑い方、卑怯よね。
何考えてるんだかさっぱりわからないわ。
「……」
私は頬に手をついて、とんとんと指先でテーブルを叩く。
やがて、貴音は私の顔の前に、2本指を立てて、言った。
「二つ、条件があります」
「条件って、この伊織ちゃんに対して、いい度胸してるじゃない」
キッと貴音を睨むフリをして……。
そして私も、貴音に、お返しのように笑顔を向けてあげた。
「にひひっ」
「それで、条件って何よ」
「はい、伊織ならば納得してくれるでしょう」
「もったいぶらないで、さっさと言いなさいよ」
「簡単なことです。まず一つ、もう【わんらんく】上の【おーでぃしょん】に合格すること」
「……」
かしこまって、なにを言いだすかと思ったら、そんなことね。
私は、手のひらをひらひらさせて、言った。
「そんなのこの伊織ちゃんだったら、あっというまよ」
「ふふっ、そうですね。伊織だったら心配無いでしょう」
「で、もうひとつは?」
「はい……それは……」
その時、貴音は少しだけ普段とは違う、意地悪な笑顔をした。
……。
「な、何でよ! な、納得いかないわ!」
「なになに? なんの話?」
金髪が春風にそよぐ。
昼寝するなら、絶好の日ね……ってそんな事どうでもいいのよ!!
貴音は、美希の肩を掴みながら嬉しそうに言った。
「ユニットを組むのならば、星井美希も、一緒です」
「ダメよ! ミ、ミキとは絶対に負けたくない、その、ライバルなんだから!」
「ふぅ~ん、それじゃミキ、貴音と一緒なんだね」
「う……!」
思わず一歩、仰け反る。
相変わらず、貴音は意地悪そうに笑う。
それにつられて、美希もけらけらと笑う。
「あはっ、おデコちゃん真っ赤になっちゃって可愛いの~」
「こんなイロモノ二人抱えちゃ、私の体が持たないわよ!」
「よいではありませんか、美希も信頼できる仲間、でしょう?」
そう言って、貴音は私の手をキュッと握った。
貴音の手はとっても滑らかで、仄かに温かった。
「……!」
何故か貴音の手が触れた瞬間、心臓がドキドキした。
貴音の熱が、指先から全身へと伝ってくるようだった。
目を逸らして言った。
「……仕方ないわね」
私の言葉を聞いた貴音は、握った手を、そのまま美希の手の平に乗せた。
「では、いつか皆で、更なる高みを目指しましょう」
「うん、ミキね、もっとワクワクできそうかも」
「リーダーは私だからね」
……この時、ずっと三人はこのままでいれる気がした。
終わってく物など無いって、思った。
蒼白い薄明かりが、私たちの輪郭をくっきり映し出す。
このつめたく冷えた部屋で、貴音の温もりだけが確かだった。
「それにしても」
「んん……くすぐったいわよ……」
シルクのような滑らかな感触が、私のほっぺたをなぞる。
「突然、昔話がしたいといって呼びだされた時はまこと、驚きました」
「……悪かったわね、こんな遅くに」
「いえ、伊織もこのような月の美しい夜には、何か想うことがあるのでしょう?」
そう言って、また私から視線を外して窓に浮かぶ月眺める。
……何でもお見通しってわけね。
私と貴音の吐息がうっすらと立ちこめて、すぐに消える。
フタリで一つ分の影が伸びて、白い壁に絵をつくる。
この部屋で動いているのは、一定のリズムを刻む振り子だけだった。
まだ、十二時を知らせる鐘の音は鳴っている。
なんだか随分ロマンチックね。
まるでシンデレラになった気分よ。
……まぁ、でもそんな役が似合うのは悔しいけど貴音の方だと思うけど。
私は、唇をきゅっと結んで言った。口の端から煙のように息が漏れる。
「あ、あんたに謝りたいことがあるのよ」
「謝りたいこと……?」
胸の奥にしまってて、ずっと言えなかったこと。
……私は、貴音を取り返しのつかないくらい傷つけた。
「……話を続けるわよ」
桜並木を抜けた先にある英国風のオシャレなカフェ。
窓際の3人掛けの丸いテーブルが私たちの特等席だった。
「ブラックコーヒーをちょうだい、3分で持ってきなさいよね」
「では、わたくしは紅茶をいただきましょう」
そう言って、貴音は胸の前で小さく手をあげる。
最近は、毎週のように貴音とここに来るようになった。
それと、たまにもう一人……。
隣でテーブルにおでこを乗せて、すやすやと寝息をたてているヤツを肘で小突く。
全くどういう神経してるのよ……。
「あふぅ、えっとね~ミキはイチゴババロア!」
あくびをした後に、美希はぴんっと手をあげる。
「あんたね、いつも思うけど飲み物を頼みなさいよ……」
私がそういい終わる前に、ミキの頭がどんどんと下がっていく。
コンッとひとつ乾いた音がしてそのまま動かなくなってしまった。
はぁ……本当にこの3人でユニットなんてやっていけるのかしら……。
頭をかかえてため息をつく私を見て、また貴音がくすくす笑った。
そろそろ桜の花も散る頃ね……。
窓の外を眺めると、グレーのアスファルトにピンクの模様が出来ている。
貴音が、目を伏せたまま紅茶の匂いを嗅いで言う。
「今回の【おーでぃしょん】、一体だれが選ばれるのでしょう」
私はシュガーを小さじで3杯入れる。
うぅ、やっぱりオレンジジュースが飲みたいわ……。
「そんなの、この伊織ちゃんに決まってるじゃない」
「ん~お凸ちゃん緊張でガチガチだったの。ミキ的には無理って思うな」
「な、な、ななんですってー!」
こ、この金髪毛虫はまた私をおちょくって!
「っていうか誰がお凸ちゃんよ!」
立ち上がってテーブルを思い切り叩いた。周りの客が一斉に振り返る。
ウェイターが大慌てでモップを持ってくる。
あ、またやっちゃったわ……。
はぁ、また注文しなおさなきゃいけないじゃない。
「あら?」
だけど、テーブルを見下ろすと、不思議とコーヒーは一滴も零れていなかった。
見ると……。
貴音はカップを持ったまま、空いた左手で縁をしっかりと抑えていた。
「な……」
ぱくぱくと魚のように口を開く私を見て、貴音は笑って言った。
「やはりわたくし達はまこと、相性の良い仲間と言えるのではないでしょうか」
「は、はぁ?!」
その言葉を聞いた瞬間、765プロにある古びた瞬間湯沸かし器みたいに、一気に顔が熱くなった。
思わずうさちゃんを振り落としそうになる。
「い、いきなりなに言ってんのよ!バカバカッ!」
「さて、だとしたら伊織が夫になるのでしょうか……」
「あんたもノらなくていいからっ!」
指さすと、貴音はカップを音も無く置いて、ゆっくり微笑む。
周りの客は今度は私たちを見ながら和やかにひっそりと笑う。
私は、わざと大きな音をたてて椅子に座る。
まったく、とんだ赤っ恥をかいちゃったじゃないの!
テーブルに広げた反省会ノートには、それぞれ違った筆跡で、文字がびっしり埋まっている。
貴音は細くてやけに達筆な字で漢字ばっかり使う。
美希はまるっこい字で……
この余白にかかれてる、怒りながら額を光らせてるキャラクターってまさか私じゃないでしょうね……。
「さっ、気を取り直して反省会の続きよ」
「了解なの~リーダーさん」
「三人寄れば文殊の知恵、というものですね」
……この時はただひたすら先へ進んでいくのが楽しかった。
忙しなく流れて行く人通りの中、美希はマイペースに手をゆっくりと振る。
「じゃあね~、おデコちゃん、貴音」
「ごきげんよう。星井美希」
「あんた次は遅刻するんじゃないわよ」
ふらふらと歩く美希の背中を、笑顔で見送る貴音を、横目で眺める。
……最近気づいたことだけど貴音の表情って基本的に2パターンしか無いのよね。
何考えてるんだがさっぱりわかんないけど、無表情でだんまりしてる時。
それと、何考えてるんだかさっぱりわかんないけど、ちょっと楽しげに笑う時。
きっとポーカーをやったら765プロで一番強いんでしょうね……。
まぁ、常識知らずのこいつがルールを知ってるか怪しいもんだけど。
せっかくだし今度教えてあげようかしら。
そう言って、貴音は銀髪をかきあげる。ほのかに甘い匂いが鼻をくすぐった。
私は、うさちゃんを少し強く握って、見上げて言った。
「ねぇあんたって、私といて楽しい?」
「それは、もちろんです。伊織との日々は、かけがえの無いものですよ」
「なっ……!」
こ、こいつは……。
こういう気恥かしげなことも平気で言ってのけるから驚いたもんだわ。
呆れている私を見て、貴音は私の身長に合わせて膝を曲げた。
途端に眉を八の字にしてうろたえる。
「も、もしや伊織は、私といて楽しくないのでしょうか?」
「はぁ、楽しいわよ、色々な意味でね……」
「わたくし伊織にまた嫌われてしまったらどうしたものかと……」
「あんたは私が認めてあげたライバルなんだから、も~っとしゃきっとしなさい」
「ふふっ、そうですね、伊織には負けませんから」
それでも私が一番なんだけどね!
ま、でもあんたもソコソコかもね。
……たまに、貴音の普段とは違った表情を見ると、
ほんのちょっとだけ今日はラッキーな日だったわって、思った。
「食パン1枚でいいわよ!」
たくさんの料理の中から、オレンジジュースだけを選んで掴む。
グラスから水滴がこぼれて、テーブルクロスにシミを作った。
大急ぎで飲み干して、鏡を見ながらヘアスタイルを整える。
ち、遅刻じゃない!
今日は、よ~~やく新しいプロデューサーが来る日だっていうのにっ!
このスーパーアイドル伊織ちゃんの実力を魅せる時がついに来たのね!
無言で銀色のプレートを片づける執事に、リボンを選びながら言った。
「あ、言っておくけどこの前の超高級のヤツにしなさいよね!」
「かしこまりました」
最近は、早朝から貴音とのレッスンがあるから、ゆっくりモーニングジュースも飲めないのよね。
お腹が減ったら事務所のお煎餅でも齧ろうかしら。
「伊織、アイドルはまだ続いているようだな」
……髪を結ぶ手がピタリと止まった。
お兄様、今日は家にいるのね。
振り向かずに、きゅっとキツく結び目を作る。
「……ま~たイヤミを言いに来たのかしら」
「いや、正直、最近のお前が羨ましいよ」
「えっ」
驚いて振り返る。そのまま固まる。
お兄様は、水瀬の標語をじっと眺めている。
ブラックコーヒーを、最小限の手つきで口へ運んだ。
……今、何て言ったのかしら。
「な、なによいきなり」
「水瀬グループの社長なんてやってると、どうしてもキレイ事じゃ済まされないことも出てくる」
「……」
「その点、伊織。お前の仕事が羨ましくもある」
「……」
素直に嬉しかった。お兄様が私のことを少しだけど認めてくれた。
目の前がぼやける。慌てて腕で拭う。
「後はもう少し結果を残してくれれば言うことはないんだがな」
「……っあったり前でしょっ!」
うさちゃんを掴んで、急いでお兄様の隣をすり抜ける。
顔をゼッタイに見られないように。
重たい扉を押して、外へ出ると、かすかに蝉が鳴いていた。
太陽がじりじり照りつける。じっとりと汗を掻く。
季節はいつのまにか夏になっていた。
最近は深夜番組のミニコーナーくらいの仕事は舞いこんでくる。
この先は、今日来るプロデューサー次第ってとこね。
貴音、ユニットが組めそうよ。
一体、その時あんたはどんな顔をするのかしら。
「にひひっ」
「うっ……男の人ですぅ……」
「あらあら~ そんな緊張しないでちょうだい~」
その音が掻き消されるように、私たちのざわめきが事務所に響く。
更にそれより大きな声で、そいつは深くお辞儀をした。
「あ、あのっこ、これからよろしくお願いします! これから765プロのプロデューサーになりました……」
テレビでは大手プロダクション提供のCMが流れてる。
CGまで使っちゃって随分と手が込んでるじゃない。
ふぅん、961プロっていうのね……。
「目標は……そうだ! うちでもこんなコマーシャルが流せるくらいの事務所になることです!」
鼻息を荒くして、テレビを強引に叩く。
砂嵐が一瞬映って、すぐに妙な高笑いがテレビから聞こえる。
真っ白なホワイトボードをみんなが一斉に眺める。
「が、が、が頑張ります!」
……やる気はあるみたいだけど、なんか空回ってる感じね。ホントに大丈夫なのかしら。
「あふぅ、そこの人~。ミキ、お昼寝してるんだから静かにしてほしいの」
ソファで毛布に包まっている美希が言う。
「美希、いくら頼りの無い殿方といえども、礼節が足りませんよ」
貴音がいつもの声のトーンで美希を揺する。
「あ、あはは……」
新人プロデューサーの顔が引きつる。
「あー……この二人ちょっと天然入ってるから気にしないでちょうだい」
皆が新人に注目する中、なぜか律子だけが私をじっと見つめていた。
ソファでお煎餅を齧りながら5冊目のノートにペンを走らせる。
「どう思う?」
「どう?とは」
貴音はこの蒸し暑い日に、紫のカーディガンを羽織って煎茶をすすっている。
安いボールペンで顔をテキトーに書いてみた。とんとんとペン先で叩いて言った。
「こいつよ、こいつ」
「誠実な殿方で好感が持てるのではないでしょうか」
「ふぅん」
あんたはそう思うのね……。ま、悪いヤツじゃ無さそうだけど。
いつのまにか反省会ノートは、ただの自由帳になっていた。
ラーメン屋の名前がびっしりと並んで、上から順に一口メモが並ぶ。
二十郎とかなんだかに行った時は思わずカルチャーショック受けちゃったわよ……。
「美希は?」
「ん~これ誰?」
「聞いた私が悪かったわ……」
美希はその周りにまた私たちの似顔絵を書く。至る所にハートや星を散りばめる。
その時、遠くで律子が私に向かって手招きしているのに気づいた。
……一体何の用かしら。
「ちょっと行ってくるわ」
思わず、うさちゃんを床に落とす。
のぼせた頭から、熱が段々と引いていく。
律子が満面の笑みでクリップボードを握りしめる。
「ふふふ……驚くのも無理はないわね」
「ど、どういうことよ」
「前にちゃんと言ったでしょ、ユニットを組む気が無いかって」
「それは聞いたけど……」
「あの頼れるプロデューサー殿が来てくれて、私もようやくこのプロジェクトに専念できるわ」
“頼れる”という部分を強調て律子は言った。
武者震いをしながらクリップボードを差し出す。
私と、あずさと、亜美のポラロイドが張ってある。
その下にずらりと契約スポンサーと出演予定番組が並んでいる。
「おめでとう。この先1年間はもう色んな番組に引っ張りだこよ」
「1年……」
目を逸らすと、律子は不思議そうな顔を浮かべた。
「どうしたの? 嬉しくないの……?」
嬉しいわよ……今すぐ兄さんにメールで報告したいくらい……。
嬉しいけれど……。
私は、スカートの裾をぎゅっと握りしめて、目をキツく瞑った。
すると、貴音のいつもの笑顔が、瞼の裏にぼんやり浮かんだ。
貴音の表情は変わらない。
だけど、微かにカップを持つ手が震えていることに私は気付いた。
──では、いつか皆で、更なる高みを目指しましょう
あの嬉しそうな横顔を思い出す。
貴音はよく笑う。
けれど子供のようなあの無邪気は笑い方は、その時だけだった。
「……」
喉が渇いてきたわ。
だけど、目の前にぼんやり映るアイスコーヒーを飲む気にはどうしてもなれなかった。
私は、絞り出すように言った。
「ね、ねぇ。私断ろうかと……」
「水瀬伊織、いけませんよ」
「えっ……」
顔をあげると、いつになく真剣な顔をした貴音がいた。
「律子嬢の想いを、汲むべきです」
「だ、だって……!」
「それに、わたくし達のした約束は、高みを目指すこと」
「……」
「あなたと共にいる事ではありません。違いますか?」
──違うわよ。
「えっ……」
驚いて、周りを見渡す。いつものカフェの光景が広がっているだけだった。
今、私と全く同じ声がどこからかしたんだけど……。
そして、なぜか胸の奥がむず痒くなった。
その感覚はすぐに体の奥へと引っ込んでいく。
気のせい……か。
「伊織……?」
「……」
私は、ひとつ、小さく頷いた。
「わ、わかってるわよ」
顔を下に向けて、笑顔の練習をする。
ピカピカのタイルには、口の端がひくひくと引きつった私が映っている。
……負けないわ。
「……にひひっ」
「ふふっ、それでこそ伊織です……おや」
そう言って、貴音は突然人差し指を立てて口をぽっかりと開ける。
こ、今度は何よ……。
「わたくしに少々考えがあるのですが」
美希が口に咥えたペンライトで照らす。
ゆっくりと開けると、ピンク色のフリルのついたステージ衣装が入っていた。
「なんだかこういうのドキドキするね~」
「バレたら律子にこってり絞られるわよ……」
貴音は神経を張り詰めさせて、入口を見張っている。
「気配を察知したら、わたくしが合気道で……」
765プロ秘蔵のステージ衣装に、袖を通す。
ピッタリと身体に張り付いて、軽くて動きやすい。
スポットライトの中で踊れたら、きっと最高の気分なんでしょうね。
着替えが終わると、貴音が持ち込んでたカメラを用意する。
しばらく手のひらで転がしていると……貴音の首が斜め45度傾いた。
「あーいいわよ、私がやるから……」
ペンライトで照らしながら、タイマーをセットする。
何を言いだすかと思ったら……。
ほんっとーに貴音といると飽きないわ……。
「じゃ、いくわよー」
机にカメラを置いてボタンを一つ押す。
暗闇の中、ピッ……ピッ……と規則的な音が鳴る。
二人の待つ窓際に立って、うさちゃんを抱きしながら、歯を見せて笑った。
美希は顔の横で人差し指と親指を立てて、ウィンクする。
貴音は……
……へぇ、あんたピースサインなんてするのね。
また、知らない貴音の一つを見ることが出来たのね。
そう思ったら、胸の奥でトクン、とひとつ音が鳴って……。
じんわりと、そこから熱が広がった。
貴音に手を握られた時に似ていた感覚だった。
その瞬間、それを上書きするかのようにフラッシュが瞬いた。
貴音は、私と美希の肩に手の優しく乗せて言った。
「1年後、これを夢現では無いと証明しましょう。各々道は違えど、目指す場所は一つです」
続けて、貴音は言った。
そしてこの日々をいつまでも忘れないように、って。
「あの日……」
「えっ……」
私の頭を撫で回す手が止まる。
振り子時計の鐘の音はずっと鳴り響いて、感覚をマヒさせる。
まるでここは、お伽噺の中みたいね。
「今思えば、あの夏の日が、皆で集まれた最後の日でしたね」
「……」
それも、きっと私のせい。
口を開こうとすると、喉の奥が詰まる。
鼓動がゆっくりと高まっていく。密着している貴音にもきっと、伝わってるに違いないわ。
「さぁ、続きをどうぞ。伊織の思うままに」
ワガママなのはわかってる。
だけど私は、それでも貴音にずっと傍にいて欲しい
七彩のスポットライトが重なって、私を照らす。
手を振るたびに、大きな歓声が沸き起こる。
その声援をシャワーのように身体に浴びると、とっても気分がいいわ。
──いおりんのダンスマジ最高!
そんな声がドームに反響して、至るところから聞こえる。
あずさがおっとりした動きで、ステージのギリギリまで立って微笑む。
「みなさ~ん、私たちのライブに来てくれてありがとうございます~」
亜美があずさの背中に勢いよく飛び乗った。
「イエーイ!これからも亜美たちはメチャ頑張るよ→」
正面に立って、マイクを握りしめて言った。
お決まりの笑顔をつくる。
「にひひっ。みんな次のライブもよろしくお願いしまぁす」
竜宮小町を結成してもう3カ月。季節はもう秋ね。
もうしばらく行ってないけれど、カフェの前の桜並木はきっと紅葉がキレイなんでしょうねぇ。
「お疲れ様、今日も良かったわよ」
「あったり前じゃない。私をダレだと思ってるのよ」
熱気がこもった身体がゆっくりと冷めていく。
汗がだんだんと冷えていって、興奮がおさまっていく。
……最近は山のように仕事が入って事務所もロクに立ち寄れないわ。
はぁ~たまにあのしょっぱいお煎餅が恋しくなるのよね。
パープルを基調としたステージ衣装が、汗で身体に張り付く。
シャワーを浴びたい気分だったけれど、私はまっすぐ楽屋へと戻る。
お兄様がご褒美にプレゼントしてくれたバッグから、携帯電話を取り出す。
メールをチェックっと……。
0件、ね。
一つ、小さなため息をついてソファへ投げ捨てた。
胸の辺りをきゅっと握りしめる。
今日はもう帰ってすぐ寝ましょう……。
何かあったら新堂に申しつけろ。
お父様は大きなキャリーバッグを引きずって、私の頭を撫でる。
「う、うん。行ってらっしゃい。次はいつ帰ってくるの?」
そう聞くと、いつもお父様は、すぐ帰ってくる、とだけ言う。
だけど、その「すぐ」が3日だったり、3カ月だったりする。
リムジンに乗り込むお父様を、何十人もの執事と一緒に見送った。
「……」
──伊織、何が欲しい? 欲しいものなら何でも買ってやる。
お父様は財布を取り出して言う。来週は私の誕生日だった。
去年はジュエリーを好きなだけ貰った。一昨年は私専用の別荘。
「ね、ねぇ。お父様、今年はね、家に……」
言いかけて、止めた。
「ぬいぐるみでいいわ。ぬいぐるみを買ってちょうだい」
違うの、お父様。私が本当に欲しいのは……
……。
瞳をゆっくりと開くと、ガラスのシャンデリアがそこにあった。
「……」
電気スタンドを手探りで付けて、備え付けのミネラルウォーターを口に含む。
どうして昔のことなんて夢に見ちゃったのかしら。
私らしくないわね……。
淡い蛍光色が灯る。
……そのまま、そっと携帯電話を閉じる。
最近、貴音とはぜんぜん会ってない。
たまに事務所のホワイトボードを眺めると、貴音の欄には
ちらほらと「地方営業」や「番組収録」って文字がサインペンで書かれていた。
美希も貴音も、あのプロデューサーと順調にやってるみたい。
特に美希はレッスンをやけに頑張るようになった。
あのいつも寝ていた美希が……世の中どうなるかわかったもんじゃないわね。
……そう、先のことなんて、どうなるのかわからない。
また胸の奥が、優しい熱を帯びた。
あの日から、この仄かな温もりは段々と大きくなっていった。
浮かぶのは、決まって貴音の笑顔。そればっかり。
……一体なんなのかしら、これ。
私は、この不思議な感覚に名前をつけることができなかった。
ハンドルを握る律子が、不敵に微笑んだ。
窓ガラスからは、昔よくリムジンで通った765プロへ続く道が見える。
枯葉が舞い落ちて、歩道が赤く染まっていた。
そういえば、貴音とオーディションへ行く時にいつも通っていた。
……秋って、変にノスタルジックになっちゃうからイヤよね。
「伊織?」
「えっ? あっえぇ、わかってるわよ」
「あの961プロダクションとの対決よ、相手にとって不足は無いわね」
「961プロダクション……ね」
あのテレビに映ってた悪趣味な社長がいるトコね。
ま、どんな相手でも正々堂々、この伊織ちゃんの力を見せつけるだけよ。
「あっ……」
その時、窓から一瞬だけ、秋の景色にはちょっと不釣り合いな銀色が視界に入った。
慌てて、振り向く。
遠ざかっていく景色の中、貴音が、プロデューサーと歩いていた。
何か冗談を言ったみたいだった。口元に手を当てて、とびきりの笑顔を見せている。
突然、どうしようも無く胸が苦しくなった。
ズキズキと針が刺さったように、痛みが走る。何よこれ……。
こんな情けない姿を見られたくなくて、そっと隠れるように、うずくまった。
「おやぁ~? 一体どうしたのかな」
「あ、あんたの仕業でしょ! 卑怯よこんなのっ!」
頭に血が昇って、何も考えられなくなる。
私のかすんだ視界の先に、口元をぐにゃりと歪ませた顔がうつる。
ソイツの胸倉を掴む私を、あずさと亜美が肩を掴んで止める。
何で……何で急に課題曲が土壇場になって変更になるのよ!
しかもその曲が以前961プロがカバーしたものって……偶然にしてはちょっと出来過ぎよ!
それでも、私たちは僅かな残り時間で、必死に練習した。
けれど、いきなり本番でBGMが止まるアクシデントが起こった。
練習の時はなんとも無かったのにっ……!
「あ、あんたこんな事してまで勝って嬉しいの?!」
いきり立つ私を、黒井が冷笑する。襟を正しながら言った。
「なぁにを馬鹿なことを。勝負事は勝つことが全てだろう」
「まっ……待ちなさい!」
「反省して、よくよく覚えておくんだな、成金」
「……!」
血が出そうなほど唇を噛みしめる。
悔しい……! なによ……私が……間違ってるっていうの……!
「わかってるわよ、だけど今日はちょっと一人にさせてちょうだい」
……。
ふらふらと、急な階段を一段ずつ昇る。途中、何度かつかえて転びそうになる。
「非常出口」の標識の灯りに虫が群がる。
かすかに蛍光灯の光が漏れる事務所の扉の前に立った。
……ここも、久々ね。
不意に、ポケットから振動が伝わった。
携帯電話を取り出して、ゆっくりとボタンを押す。
[ミキ:おデコちゃん久しぶり。この前ね、プロデューサーさんがね~……]
……相変わらずお気楽よね。
ていうか最近いっつもプロデューサーがどうのこうのってメールばかりじゃない。
返信する気にはどうしてもなれなかった。ポケットにゆっくり戻す。
その時、目の前で扉がきしむ音がした。
顔をあげると……。
ちょっと羨ましいくらいの大きなバストがそこにあった。
更に顔をあげる。
「何をしてるのですか。こんな遅くに」
「貴音……」
こんなみっともない顔、見られたくなったし。
それに……。
貴音の顔を久々に見たら、何故か顔が焼けるように熱くなった。
本当に、なんのよこれ……。私、病気なのかしら……。
呟くように、言った。
「あんたこそ、何してるのよ」
「わたくしは、プロデューサー殿に大事な用事があったのです」
「そう、あいつ色んなトコ駆けずりまわってるものね」
「……」
そっと、私の肩に何かが触れた。懐かしい、貴音の手の平の感触だった。
「……敗れたのですね」
「……うるさいわよ」
「あなたはオーディションに落ちた時はいつも、そのような面持ちで夜更けまでレッスンをしますね」
「……うるさい」
「水瀬伊織、あなたはとても芯の強い人間です。わたくしは、そんなあなたを見ていると力がわいてくるのです」
「……うるさいっ……」
思い切り首を横に振る。
涙がこぼれそうになるのを、必死で堪える。
貴音の穏やかな声が、私の中に滑り込んで、蕩ける。
「……」
そのまま、沈黙が流れる。
灰色のアスファルトをひたすらじっと見つめる。
しばらくして、乗せられた手がそっと離れた。
「わかりました、では……」
それだけ言って、床にまで伸びる銀髪が視界から不意に消えた。
コツン、とひとつハイヒールが鳴る音が廊下に鳴り響く。
──伊織、何が欲しい?
「……」
「伊織……?」
気づいたら、私は貴音のスカートの裾を力無く握っていた。
「……」
また静けさが広がる。
すきま風が吹きつけて、身体を突き刺す。
遠くで換気扇の回る音が、妙に耳にこびり付く。
「なにか、わたくしに申すことでも……?」
曖昧な、その胸の底に溜まっている気持ちを、ただ理解したかった。
何度も何度も、自問自答を繰り返す。
どうして、私はこんなにこいつを見ると、胸が苦しくなるのかしら。
何か言おうとしても、喉で絡まって、言葉が出てこない。
「私は……」
……。
銀色の後ろ姿が、段々と小さくなっていく。
ハイヒールが床を打つ、小気味良い乾いた音も……やがて消えた。
結局、私は何も言えなかった。
そして、誰もいない事務所で、
私はプロデューサーの机に置いてある一通の手紙を見つけることになる。
それに少しだけ違和感を感じて、偶然目に止った。
ま、人の手紙を勝手に覗き見るなんてシュミ悪いわよね。
すみっこに置かれたホットコーヒーは、まだ湯気をたてていた。
どうやら一応アイツはちゃんと来てるみたいね。
ロッカーに置きっぱなしになっている、埃の被ったノートを拾い上げた。
めくっていくと……ステップの改良、好きな食べ物、
○×ゲーム、ポーカーのルール説明、週末のショッピングの場所。
そして、私の書いたプロデューサーの落書きと、美希の3人の似顔絵のページ。
そこから先は、白紙が続く。心無しかハートマークが増えている気がする。
「……」
不意に、かすかに開いた窓から秋風が吹いて、手紙が床へと落ちる。
私はそれを拾い上げる。
あら、この字……どこかでよく見た気がするわね……。
悪いとは思いつつも少しだけ、指先でめくるように、中を少しだけ覗きこむ。
「……!」
その手紙の内容は、最初の一行で理解できた。
お腹の底から、ドロドロの真っ黒い何かがせり上がる。
体が一気に強張って、思わず舌を噛みそうになった。
──プロデューサー殿。わたくしは、あなた様に恋焦れております。
うそ……でしょ……!
必死に、デスクに戻そうとするけど、体が鉛のように重くて動かない。
呼吸ができない。視界がかすむ。
必死に目だけを動かしていく。手紙の文末は……。
もし、わたくしの気持ちが届かないのならば、全て忘れ去ってください。
それを見たとき、ある一つのアイディアが浮かんだ。
その瞬間、頭の中に濁流のように、意識が流れ込む。
──水瀬の基本理念、欲しいものは勝ちとること。
──正々堂々、欲しいものは自分で勝ちとってみせるんだから!
──どうしてもキレイ事じゃ済まされないことも出てくる
──勝負事は勝つことが全てだろう
渦のように、ぐるぐると掻き混ざる。
「やめて……」
誰か私を叱って止めて……。止めてよ……。……貴音。
背中から、ドアが軋む音がした。
心臓が跳ねあがる。
振り向くと、コンビニのレジ袋を抱えたプロデューサーがそこにいた。
「おぉ、伊織。久しぶりだな。どうしたんだ? こんな夜更けに」
「……あ……」
私は、気づいたら手紙をぐしゃぐしゃに握りしめていた。
何知らぬ顔で腕時計を見て、プロデューサーは言う。
「丁度、夜中の12時だ。送っていくから今日はもう帰れ」
鐘の音はまだまだ鳴る……。それにしても長いわ。
「……」
貴音は私の告白をただ黙って聞いていた。
瞳を閉じて、人形のように、ただただ私の言葉に耳を傾ける。
身震いするこの身勝手な体を、なんとか収めつつ言った。
「な、なにか言いなさいよ……」
「……」
「話を」
「えっ」
「話を続けてください」
感情のこもって無い、平坦なトーンでぽつりと言った。
私の背中に回す貴音の指先が、氷みたいに冷たい。
思わず鳥肌が立つ。
そして……。
そして……あまりにあっけなく、貴音の恋は終わりを告げる。
いえ、始まりすら無かった。私のせい。
765プロオールスターライブのために事務所に集合したその日。
髪をばっさり切り落として、茶髪になった美希が満面の笑みで言った。
その隣でプロデューサーが、苦笑を浮かべて頬を掻く。
「ミキね、ハニーとラブラブになっちゃったの~」
「お、おい……」
「トップアイドルになったらね、結婚してくれるんだって」
「ばっ……! それは内緒だって……」
……!
大きな祝福の声があがる。
真が茶化したり、あずさが羨ましいと言って嘆いたり……。
その中で、私と、貴音だけがただ呆然と立ち尽くしていた。
やがて、貴音は大きな瞳をそっと閉じて、泣きそうな声で言った。
「おめでとうございます……美希……どうかお幸せに……」
その声はしばらく私の頭の中で、ひたすらリフレインした。
ぐるぐると、同じ思考が回り続ける。
「…ぅ…!」
もしかしたら、手紙を受け取っても結果は変わらなかったのかも知れない。
だけど、プロデューサーの隣に立っていたのは貴音の可能性もあった。
今だともう、決してわからないこと。
貴音を深く傷つけた罪悪感の片隅で、これで良かったって思う自分が堪らなくイヤだった。
私は、貴音に謝らなくちゃいけないわ。
だけど、それがどうしてもできない。
ジレンマに押し潰されそうになる。
気づいたら朝だった。
執事が、また機械的な手つきで山ほどの朝食を並べる。
「お嬢様、今日のメニューは……」
「……いらないわ」
この広い部屋でいるのは私だけ。
てきぱきと、執事がオレンジジュースやパイをかたずけていく。
壁にかかったカレンダーをチェックする。
家族が帰ってくる予定は、全て未定だった。
……私は……私はただ……そう、貴音が欲しいだけ……。
枯れた落ち葉を踏む。ぱきぱきと割れた音を鳴らす。
もうすっかり寒くなってきたわ。
そろそろ、冬が来るのね……。
朝の陽ざしが、事務所の扉を照らす。
一つ、深呼吸をした。白い吐息が霧のように立ち込めて、すぐに消える。
ドアノブに手をかけようとすると、中から声が聞こえてきた。
「ねぇ、どうして? ミキ何か悪いことしたのかな?」
「お許しください……」
「せっかくの二人でのお仕事なんだよ? おデコちゃんもきっと来るよ。貴音楽しみにしてたよね」
「わたくしは、わたくしはなんと愚かなのでしょうか……」
「ちゃんと言ってくれなきゃわかんないよ」
そのまま、何も聞こえなくなる。
消え入りそうな足音が近づいてきて、ゆっくりと扉が開く。
「あ……」
「……!」
貴音は、私を見て大きく目を見開いた。
「くっ……!」
「まっ……!」
そして、そのまま何も言わず背を向けて走り去っていった。
引き留めようとした手が、視界の先で揺れる。
貴音……泣いてた……。
このところ、この感覚がまとわりついて離れない。
「そろそろ1年がたつけれど、あなたはリーダーとして本当に良くやってくれたわ」
「……」
律子の声が、ノイズがかかったみたいに聞こえる。
書類を渡される。簡単なチェックシートみたいなものだった。
765プロでの契約期間は、基本的に52周。
そこで一旦、引退コンサートを必ず行う。
なんだか変な話だけど、とにかく、私はもうすぐ大きなドーム公演を控えている。
「そこから先はあなたの自由よ。私の勝手に付き合ってくれて本当にありがとう」
「私は……」
「今すぐ決める必要は無いのよ、ゆっくり考えてちょうだい」
……。
他の皆はみんなアイドルを続ける、と即答していた。
その中で、美希だけはプロデューサーとの婚約があるから、出来次第ってことになる。
最近の、美希の熱意の入り方は尋常じゃなかった。
初めて出会った時とは信じられないくらいにレッスンをこなすし、仕事も全くサボらない。
そして……。
私は、一番送信履歴の多い相手にメールを送った。
[あんたは、どうするの?]
「四条さん、あんなに高みを目指すって……」
いつもの事務所が、これ以上無くざわつく。
ソファに座る貴音が、目を伏せて言った。
「もうよいのです。このままではきっとわたくしはもう、歩けませんから」
「でも……」
「いつからかわたくしは、脆くて愚かな心に囚われていた。それだけのことです」
貴音の視線が、わたしに向く。
そして、ゆっくりと微笑んだ。
「……!」
貴音の微笑は今まで何度も見てきたから、きっと私だけ気づいた。
その中には……感情が、全くこもっていない。
今までの貴音の笑顔には、温もりがあったんだって知った。
ぐっと、うさちゃんを握りしめて、何かを耐えた。
貴音は、色の抜け落ちた瞳で言った。
「わたくしは、故郷に帰ろうと思います」
執事がトレイにオレンジジュースを持ってくる。
私はそれを受け取って、ぼんやりと考える。
私たちが目指した場所はひとつのハズだった。
だけど、振り返ってみると……。
美希は全てを。そしてプロデューサーを手に入れた。
貴音には、何も残らなかった。
私には……一体何が最後に残るの?
胸の奥が、またむずむずする。
そして、締め付けられるような痛みが襲う。
「……!」
この気持ちが、ハッキリすれば貴音とも向き合える気がする。
ソファでうなだれていると、革靴が大理石を叩く音が聞こえた。
小さな紙袋を私の前に置く。きっとご褒美のネックレスか何かね……。
「伊織、久しぶりだな」
「……」
プロデューサーにも、美希にも、律子にも相談できない。
ちょっと気は乗らないけれど……。
私は、引き留めるように腕を握って……ぽつりと言った。
「お兄様、ちょっと聞いてほしいことがあるの」
全て話し終えたらと、また身体が熱っぽくなる。
お兄様は、私の眼をひたすらじっと見つめて、話を最後まで聞いていた。
「……」
お兄様は腕を足の前で組む。そのままぴくりとも動かない。
それから、ひたすら沈黙が流れる。
壁際の、古時計の振り子が降られる音だけが鳴る。
やがて、お兄様は重い口を開いた。
「……諦めろ」
「……えっ」
「お前は水瀬財閥の令嬢だ。いずれ後悔する」
「い、言ってる意味がよくわからないわよ……」
「お前では背負いきれない」
そう言って、お兄様は立ちあがって去っていく。
去り際に、一言だけ言った。
「問題なのは、お前の覚悟だ」
えっ……。
かく……ご……?
私は、その言葉を噛みしめた。
「覚悟……」
無事に成功。私はピンクのライブ衣装を身に纏って、
大歓声の中、マイクを置いてステージを下りる。
……。
貴音は、紅茶を掻き混ぜる。そのまま口へ運ぶ。
「おめでとうございます。水瀬伊織」
「……」
貴音の空っぽの笑顔が、心臓を突きさす。
「待たせたわね」
「……?」
貴音は無表情というより、無機質な顔で私をみつめる。
ブラックコーヒーを、一口含む。
そのまま、一気に飲み干した。
「1年も待たせて、本当にごめんなさい」
「……」
その言葉の意味を理解したのか、貴音はやがて苦しそうに顔を歪めた。
「何故ですか?」
「あんたが、その、大切、だから……言える立場じゃないけど……」
「……」
貴音は横目で、ひとつだけぽっかりと抜け落ちた空席を眺めて、言った。
「伊織、あなたはいけずですね」
……そして、私は覚悟を決めて、貴音を部屋へ呼んだ。
「ん……」
貴音の匂いがする。
柔らかで、花のような、甘い香り。
「ふふっ、どうしたのです。いきなり抱きついたりなどして」
「……別に、何でもないわよ」
「そうですか」
「でも、特別にもう少しこのままでいてもいいわよ」
くすくすと鈴の音のような笑い声がする。
おデコをかきあげるように、驚くほど冷たい貴音の手の平が這う。
見上げると、貴音は寂しそうに満月を眺めていた。月明かりが横顔を照らしてる。
「……一度しか言わないから、よく聞きなさい」
「貴音、ずっと私の、その、傍にいなさい……よね」
これで私の告白は全て終わり。
古時計を見ると、針が十二時ピッタリで止まっていた。
そのまま、少しだけ右にズレ動いて、また戻る。
……どうりで長いと思ったわ。
「……」
貴音は、眠っているかのように動かない。
……許す、なんて都合のいい言葉は聞きたくないわ。
私を叱ってよ。殴られるのも、覚悟のうちだから。
「貴音……?」
おそるおそる聞くと、貴音は口を開く。寒気が体を駆け巡った。
だけど、聞こえた言葉は意外なものだった。
「えっ」
「うすうす感じてはいました。あなたがあの夜に、手紙に気付いたであろうことは」
「それって……」
「伊織のことならば、何でもわかりますから」
そう言って微笑む。抜け殻の貴音。
「ですが……わたくしも怖かったのです。真実を知ることが」
「……」
「伊織、あなたを、信頼するあなたを、例えほんの少しでも恨みたくはなかった……」
そう言って、貴音は手の平で私の胸をとんと押す。
また、じわりとそこから熱が広がる。
貴音は窓際の手すりに手をかけて月を眺める。
「伊織の兄方の言う通りです。わたくしなどとと居ても伊織は、きっと後悔しますよ」
そして、震える声で言った。
「忘れましょう。全て。なにもかも。わたくしとあなたは、出会ってなどいなかったのです」
えっ……。
忘れる……。
それは私にとって、何よりも優しくて、何よりも残酷な言葉だった。
「い、いやよ!」
私は、喉を奥が痛くなるくらいに、思いっきり叫ぶ。
振り返って、真剣な顔で貴音に言った。
「では、あなたに背負いきれますか? 過去と現在と、未来。そのすべてを」
「うっ……!」
「わたくしでは、とてもとても出来ぬことです」
「……」
私の曖昧でハンパなあの気持ちが、わだかまりを作っている。
──私は、こんな抜け殻のような貴音が欲しかったの?
「……伊織、そのほうがお互いにとって良いことなのですよ」
「わかった……わよ……」
遅れて、自分の声だって気づいた。
──なにもわからない。
「悪かったわね……手紙……返すから……」
段々と、その音が意識を麻痺させる。
なんだか半透明な膜の中にいるみたいだった。
「……わたくし、様子を見てまいります」
ゆっくりと時計に近づいていって、貴音は背を向けて跪く。
私は、そんな貴音を横目で見ながら、
大切にしまってある小さな箱の蓋を開けた。
くしゃくしゃになって黄ばんだ手紙を取り出す。
昔よく遊んだオモチャとか、昔のお父様からのプレゼントとか、
とにかく私が大切に思ったものは全部ここにしまってあった。
……辛くなるから、すべて返すわ。
あなたと笑ったことも。フタリの記憶を全て。
ふと、ぼやけた視界の先で、あるものが目に止った。
小さな小さな、一枚の白い紙だった。
これって確か……。
指先でつまんで、拾い上げる。
それを、そっと裏返すと……。
「……!」
──1年後、これを夢現では無いと証明しましょう。各々道は違えど、目指す場所は一つです。
満面の笑顔を浮かべた写真が折り曲がって入っていた。
私と、美希と、貴音の3人の、ピカピカのステージ衣装で映っている。
「っ……!」
その写真を見て、私が本当に欲しかったものは、この貴音との日々のそのものだってことに気づいて、
そして、それはもう二度と手に入らないものだと悟ってしまったとき……。
「……ひぐっ……!」
今頃私は、涙が溢れて止まらなくなった。
「これは一体……異国の時計でしょうか……」
貴音は、相変わらず膝をついて時計と睨めっこしている。
一歩ずつ、貴音へと歩み寄る。
どうせ、あんたじゃ直せないわよね。
……あんたが機械に疎いのは知ってるわよ。
英語が全く読めないことも知ってる。視力が悪いことも、、
コーヒーよりも紅茶が好きなことも、ポーカーは案外弱いことも、
普段は抜けてるくせに妙に勘が鋭いことも……。全部知ってる。
そして、あんたはやっぱり私がいなくちゃダメってことも。そうでしょ?貴音。
だってあんた、未だに一人で電車に乗れないじゃない。
「いお──」
私は、そっと貴音の頭を胸に引き寄せて、強く抱きしめた。
頬に貴音の、銀髪のさらさらした感触が伝わる。
貴音の生温かい吐息が、体の芯まで伝わってくるようだった。
更に力を込めて抱きしめる。
この体から溢れ出しそうな想いを、決してこぼしてしまわないように。
ありがとう、貴音。
果てしない時間の中で、あなたと出会えたことが何よりも私を強くしてくれた。
……月にはウサギがいるっていうけれど、本当の話かしら。
貴音は、床にぶらりと下げた腕を、おそるおそる背中に回す。
そのまま、くすぐるように指先が表面をなぞって……。
やがて、ほんのすこしだけ力がこもった。
ねぇ貴音、もうすぐ、また私たちが出会った春がやってくるわよ。
今年は去年よりもずっと寒いみたい。
冬を越えて、枯れた命は証を残す。また新しい花が芽吹くのね。
そして、暖かな風が優しい香りを運ぶ。貴音と同じ香りを。
ねぇ、貴音、ねぇ……。
──貴音、好き……。
私はそっと、貴音と手と手を重ねて、壊れた時計の針を右へと進めた。
2度でも3度でも書いてよ
乙!
どのSSでも美希は美味しいとこもっていくな…
Entry ⇒ 2012.01.14 | Category ⇒ アイマスSS | Comments (0) | Trackbacks (0)
雪歩「温泉掘り当てちゃいましたぁ・・・」
雪歩「やっぱり私なんてダメダメですぅ・・・・」ザクッ
雪歩「もう二度と出れないくらい深い穴を掘って、一生埋まってやりますぅ~!!」ザクッ
雪歩「・・・あれ?」サクッ
雪歩「なんか、だんだん土が柔らかくなってきたかも・・・・」サクッ
ゴゴゴゴゴ・・・・
・・・ズドドドドドドドドドド!!!!!!!
雪歩「!?」
P「うん、気持ちのいい朝だ!」
P「天気もいいし、今日も一日元気にプロデュース頑張っていこう!!」
P「こんなに早く出社するなんて久しぶりだな・・・・って、あれ?」
『おいでませ! 萩原温泉』
P「え?」
P「・・・・」ゴシゴシ
P「・・・・えっ?」
その発想・・・天才か
P「それが、なんで温泉になってるんだ?しかも萩原温泉」
P「・・・・・」
P「ま、考えても仕方ないか。とりあえず中に入ってみよう」
P「どうせ温泉なら朝シャンするのも悪くはないかな!ははっ」
雪歩「あっ・・・お、おはようございますぅプロデューサー!」
雪歩「萩原温泉へようこそっ」ニコッ
P「いやぁー・・・まさかこんな都内のど真ん中で温泉に出会えるなんて、思いもしなかったよ」
雪歩「えへへ・・・プロデューサーは、お一人様ですか?」
P「ああ、大人一人で!」
P「・・・・って違ーーーーうっっ!!!!!」
雪歩「ひぃぃっ!?」ビクゥ
P「何をどうしたら昨日まで事務所だったビルが温泉になってるんだよ!!」
雪歩「ご、ごめんなさいぃ・・・・昨日穴を掘ってたらつい、温泉を掘り当てちゃったみたいで・・・・・」
P「だからってなんで温泉にしちゃったの!?事務所はどこいったの!?」
雪歩「うぅぅ・・・お父さんが勝手にこりゃあいいや!って言って、大浴場に改築しちゃったんですぅ・・・・・」
P「よくないよ!全然よくないよ!」
雪歩「あっ、それなら・・・・」
社長「ああ君か。おはよう!朝から騒々しいが、どうかしたのかね?」
P「どうかしたのかね?じゃないですよ社長!俺達の事務所が大変な事になってるじゃないですか!」
社長「いやあ・・・大変素晴らしい湯加減だったよ。たまには朝風呂というのも、いいものだねえ」
P「・・・へっ?」
社長「まあまあ、今日はまだ始まったばかりだよ。君もここは一つ、ゆっくりと朝の温泉を堪能してみるのもいいんじゃないかな?」
P「・・・・・」
P「大人、一人で」
雪歩「かしこまりましたぁ!えへへへっ・・・♪」
P「(でもよくよく考えたら、都内にいながらして24時間いつでも温泉を満喫できるのか・・・)」
P「(・・・これはこれで、アリかもしれないな)」
雪歩「こちらが脱衣場となっておりますぅ」
P「あれ?なんか風呂場の入口は一つしかないみたいだけど、もしかして混浴なのか?」
雪歩「はい、そうなんですぅ・・・・」
P「そっか、混浴なのか!それじゃあ仕方がないな」
P「・・・え?マジで?」
P「混浴ってことは、流石にタオルの一枚でも巻いておかないとマズイよな・・・」
P「ま、まあさっきまで社長が入ってたみたいだし、女の子が入ってる事はまずないか・・・」
P「・・・・」
P「いやいや!なにガッカリしてるんだ俺!ゆっくり朝の優雅なひとときを過ごせるんだからそれでいいじゃないか」
P「お邪魔しまーす」
ガラガラ
P「うわっ、中広すぎだろ!どこにこんなスペースがあったのか謎だ・・・・」
『執事風呂
動物風呂
らぁめん風呂
ツンデレ風呂
もやし風呂
大人のお風呂(はぁと)
・
・
・ 』
P「こ、こんなに分かれてるのか・・・」
P「俺が今いるところが大浴場で、それぞれの部屋が個室になってるみたいだな」
P「(・・・というかうちの事務所ってこんなに広かったっけ?)」
P「まずは・・・執事風呂か」
ガチャ
真「お帰りなさいませ、お嬢様」ペコ
P「ま、真か・・・それになんだお嬢様って、俺はプロデューサーだぞ?」
真「そういう設定なんだから仕方ないんです!ささ、どうぞこちらに!」
P「(さすがに女の子達は水着か・・・・いや、決して期待してたわけじゃないけど)」
真「それではお背中をお流しいたしますね、お嬢様」
P「そうか?じゃあ、よろしく頼むよ」
真「~♪」
ゴシゴシ
真「(プロデューサーの背中、おっきいなぁ・・・・)」
P「おお・・・なかなか気持ちいいよ。真は背中を洗うのが上手いなぁ」
真「へへーっ、任せてください!小さい頃はよくお父さんと一緒にお風呂に入ってましたから!」
真「どういたしまして!また来て下さいね、プロデューサー!・・・じゃなかった、お嬢様!」
P「ふー・・・なかなか趣のある風呂だった」
P「なるほどな、こんな感じでみんながおもてなししてくれる温泉なのか」
P「えーと、次は動物風呂か、行ってみよう!」
P「よう響!動物風呂っていうだけあって、まんま動物たちとお風呂に入れるんだな」
響「自分もいつもペット達とお風呂に入って癒されてるさー!」
アヒル「クワッ♪クワッ♪」スリスリ
P「ああー・・・確かにこれは癒されるかもしれない」ナデナデ
響「だよねだよね!プロデューサーにも自分の気持ちがわかってもらえて嬉しいぞ!」
ガブッ
P「っっ!!?いってええええ!!!ケツかじられたぞ!!ガブッて!!!」
響「ああっ!?ワニ子、いつも人のことかじっちゃダメだって言ってるじゃないかっ!」
P「風呂にワニなんて放しておくヤツがいるかっ!」
ワニ子「ガルルルル・・・・」
P「ま、まずい・・・完全に獲物を狩る目をしている・・・っ!」
P「悪いが響、俺はこれで失礼する!動物達の世話はちゃんとしておくんだぞ~!」スタコラサッ
P「はぁはぁ・・・・し、死ぬかと思った・・・・」
P「くそっ、まだケツがヒリヒリする・・・・」
P「まあいいや。次はなんだったかな」
P「よくわからないけど、とりあえず行ってみよう」
P「お邪魔しまーす!」
伊織「ちょ、ちょっとアンタ!なに勝手に入ってきてるのよ!」
伊織「このお風呂がスーパーアイドル伊織ちゃんのお風呂だと思ってのこと!?」
P「そ、そんな事言われても・・・まあ、いいや。勝手に入らせてもらうぞ」
チャプ・・・
P「つ、冷たッ!?なんだこれ、水風呂だったのか!?」
伊織「いい気味ねっ!にひひっ♪」
P「く、くっそー・・・まんまと罠にハマってしまったわけか・・・」
P「(でもケツがヒリヒリするから結構ちょうどよかったりする)」
P「・・・にしても、伊織の水着姿なかなか似合ってるな。可愛いぞ」
伊織「なっ・・・・!?///あ、アンタ急に何言ってるのよっ・・・・///」カァァ
P「(・・・あれ?なんだか湯船が暖かくなってきたぞ)」ジンワリ
P「でもさ、伊織ってふだんはツンツンしてるけど、実は誰よりも仲間思いだってこと俺は知ってるよ」
伊織「な、なんなのよさっきから・・・//ほめても何も出ないんだからっ・・・///」
P「(おお、心地良い湯加減になってきた)」ポカポカ
P「べつに俺は思ってる事を言ってるだけだよ。伊織のそういうところ、俺は大好きだよ」
伊織「~~~~っ・・・!///」カァー
P「(うおっ!ちょ、あっ・・・熱い!!)」ボコボコ
伊織「もうさっきから恥ずかしい事ばっかり言ってなんなのよっ!!アンタなんか出ていきなさ~~~いっっ!!///」
P「い、言われなくても熱くて入ってられん!!お邪魔しましたー!!」ダッ
P「けど、あのツンデレ風呂ってどういう仕組みだったんだ・・・気になる」
P「よし、次行こう次」
『もやし風呂』
やよい「うっうー!おはようございます、プロデューサー!」
P「ああ、やよい。おはよう」
P「(うわぁ・・・予想はしてたけど、もやしが湯船一面ビッシリだな・・・・)」
もやし風呂
P「(そんな事ないけどな・・・)」
P「ま、まあ確かにそうかも」
やよい「それにこのもやし、ちゃんと食べられるんですよ?私、我慢できなくてつまみ食いしちゃいましたー・・・えへへ」
P「まあそりゃ、もやしだからな・・・どれどれ」パクッ
P「(ふにゃふにゃしててまずい)」
やよい「このもやしは、貴音さんのらぁめん風呂との相性もバッチリなんですよー?」
やよい「好きなだけ持ってってくださいねっ!」ニコッ
P「ああ・・・わかった」
P「(もやしはどうでもいいけど、個人的にはやよいの嬉しそうな顔が見れたからそっちの方が満足かな)」
P「やよいもああ言ってたし、次はらぁめん風呂かな」
貴音「お待ちしておりました、プロデューサー」
P「おお貴音!本当にらぁめんを作ってるのか、すごくいい匂いがする」
貴音「ええ、わたくしらぁめんを食べるだけでは飽き足らず、作る事にも挑戦しているのです」
P「いいこころがけだな」
貴音「はて・・・この鍋が、まさしく風呂釜でございますが」
P「・・・は?」
貴音「このすーぷ、何かが決定的に足りないと思っていたのです」
貴音「ですが、その答えは今ハッキリとわかりました。このすーぷに足りない物、それは貴方様でございます」
P「・・・つまり、この俺にダシになれと」
貴音「はい・・・わたくしのらぁめん道の発展のためにも、ぜひ貴方様のお体添えを頂戴いたしたく思うのですが・・・」
P「(す、すまん貴音・・・さすがにそれは無理だ・・・・)」
P「どうだ、貴音。うまいか?」
貴音「ええ・・・真、美味でございます。ありがとうございました、プロデューサー」
P「そ、そうか。なら良かったよ、ははは・・・」
P「うーん・・・なんからぁめん食ってるのみてたら腹が減ってきたな・・・」
P「とは言っても、さすがに風呂場の中に食い物屋なんてあるわけが・・・・」
『料亭 如月』
P「なんかあったんだけど」
P「な、なんで千早は料亭を開いてるんだ?みんなと一緒にお風呂に行けばよかったのに」
千早「そんなこと私に聞かないでください」
P「そ、そうか・・・ごめん。でも、板前さんの服装もなかなか様になってるじゃないか」
P「ん?板前・・・・・?」
P「・・・・」
P「(・・・あ、なるほどな。そういうことか)」
千早「なにかを悟ったような顔をしないで下さい!!・・・くっ」
P「お?なんだ、露天風呂もあるんじゃないか。気分転換に、外の空気でも吸いがてら出てみよう」
ガラガラッ
亜美「亜美と!!」
真美「真美の!!」
亜美真美「ウォ→タ→スライダ→!!!」
P「うおっ!びっくりした」
亜美「やっぱウォ→タ→スライダ→っていったら高いトコからじゃないとつまんないっしょ?」
P「そりゃそうだけど・・・いくらなんでも角度が急すぎだろ・・・」
真美「あっれぇ→?もしかして兄ちゃん、ビビってる?」
P「そそそんなわけないだろ!さあ、どっからでもかかってこい!!」
亜美「それじゃあカウントダウン、いっくよ→?3!」
真美「2!」
P「・・・1」
亜美真美「行ってらっしゃ→いっ!!」ドンッ!
P「うっぎゃああああああああああああ」
P「しかも帰りは階段っていうのがなんとも言えないな・・・・」カツ…カツ…
P「さて、次でいよいよ最後の部屋だ」
P「なんといっても最後は」
P「『大人のお風呂(はぁと)』」
P「ここまで様々な試練を耐え抜いたんだ、いったいどんなご褒美が俺を待っているのか・・・・」
P「・・・ゴクッ・・・・」
律子「どうして私までこんなこと・・・」
P「おおおっ・・・・二人ともとんでもなくグラマーじゃないか・・・・」
P「いやあ、ここまで頑張ったかいがあったってもんだ!」
あずさ「うふふ、まだ喜ぶのは早いですよ?これから私たちが、プロデューサーさんのことを隅々まで洗ってあげますからね」
P「な、なんと・・・・・!」
律子「こ、こんな機会もう二度とありませんからね!//」
P「そ、それじゃあお言葉に甘えちゃおうかなー・・・・?」
あずさ「ふふっ・・・さあプロデューサーさん、力を抜いてくださいね~?」
ぱふ・・・ぱふ・・・
ムニュ ヌルッ
・・・・・・
・・・・
・・
P「ハニー風呂か・・・」
P「なんだか甘ったるい響きだけど、せっかくだし行っておかない手はないよな」
ガチャ
美希「ハニー!ちょっと来るのが遅いんじゃない?ミキずっと待ってたの」
P「順番に回ってたら遅くなっちゃって・・・すまないな」
P「って・・・なんだ、この異様に甘い匂いは・・・・」
美希「美希のハニーと、ハニーをかけて、ハチミツ風呂なの!」
P「うーん・・・ベトベトして、あまり気持ちいいとは言えないな・・・」
美希「えーなにそれ!つまんないの」
P「そんな事言われても・・・・」
美希「あっ、ハニーのほっぺたにハニーがついちゃってるよ?ミキがとってあげるね!」ペロッ
P「!?」ドキッ//
P「ちょ、おい!今のは卑怯だぞ!」
美希「えへへへ・・・ミキもハチミツみたいに、ハニーと甘い恋がしたいなぁ」
P「・・・悪くはない、かもな・・・・」
P「ふぅ・・・」ツヤツヤ
P「なんだか全部の風呂を回ったら、最高に気分がスッキリしたな!」
P「・・・まぁ主に大人のお風呂(はぁと)の所為だろうけど」
ガラガラッ
雪歩「萩原温泉、楽しんでいただけましたか?プロデューサー」
P「お、雪歩!」
雪歩「大浴場に私が入って、これぞホントの萩原温泉~!!」
P「・・・」
雪歩「・・・ど、どうですか?」
P「・・・それだけ?」
雪歩「うぅぅ・・・ごめんなさぃぃ・・・何も思い浮かばなかったんですぅ・・・・」
雪歩「いっそのこと、ダメダメ風呂とか生き埋め風呂とかにすれば良かったかもですぅ・・・・」ブクブク
P「そ、それはちょっと嫌だな・・・・」
雪歩「ほ、本当ですか?良かったぁ・・・・」ホッ
P「こんな風にアイドル達と一緒に温泉に入れる施設とかあれば、きっと儲かるだろうなあ」
P「(・・・ん?いや、待てよ)」
P「・・・・・はっ!!」
P「そうか!!ひらめいたぞ!!!」ザパァ!!!
雪歩「ひゃあぁっ!?///ぷ、プロデューサー!!前、隠してくださいぃぃーーっ!!///」
P「そんな事はどうだっていい!!俺はとんでもない事を思いついてしまった!!!」
P「でかしたぞ雪歩!!!」
雪歩「・・・・・?///」チラッ
P「会いに行けるアイドルならぬ、一緒に温泉に入れるアイドルだ!!」
P「これってもしかして新しいアイドル時代の幕開けなんじゃないか!?これからは温泉アイドルの時代が来るぞ・・・!!」
P「雪歩がこうして温泉を掘り当ててくれたおかげで、みんながトップアイドルになれる可能性を切り開いてくれたんだ!!!」
雪歩「・・・・・・///」ジーッ
P「はははっ!!お客さん、たくさん来るだろうなあ・・・・きっとみんなも賛成してくれるよな?なっ、雪歩!?」
雪歩「!!」ビクゥ
P「・・・ってあれ、雪歩いまの話聞いてた?」
雪歩「ひゃいぃ!も、もちろんでふぅぅっ!!///」コクコク
後に長く続いていく事になる温泉アイドル時代の先駆者的存在となった。
765プロは一躍有名事務所となり、
アイドル達への仕事のオファー、そして、萩原温泉への客波が途絶える事はなかった。
それもこれも全部、雪歩のおかげだ・・・ありがとう雪歩。
雪歩はダメダメなんかじゃない。何を隠そう、お前が765プロのナンバーワンだ!!!
のヮの「私の出番・・・・」
小鳥「決して特徴が無かったわけじゃないのよ?元気出して、春香ちゃん!」
おしまい!
乙
俺も入りに行きたい
Entry ⇒ 2012.01.14 | Category ⇒ アイマスSS | Comments (0) | Trackbacks (0)
ヒーロー「命をもらう!」 女幹部「かかってらっしゃい」
俺たちは知り合ってから、けっこう経つ。
なのに、互いのことは全く知らないし、聞こうとも話そうともしない。
一日のうち、この喫茶店で会うわずかな時間が全てだった。
男「そのオッサン、泥水まみれになっちゃって……」
女「アハハ、かわいそうに」
男「だろ? でさぁ──」
ピーピーピー
男「!」
女「あ、なにか鳴ってるよ? 腕時計じゃない?」
男「やべっ、変な時間にセットしちゃってたみたい、これ。ハハハ」
なのに、お互いのことは全く知らないし、聞こうとも話そうともしない。
一日のうち、この喫茶店で会うわずかな時間が全てだった。
女「私もたまにやっちゃうよ、そういうこと」
男「あ! そういやちょっと用事を思い出した! 悪い……金は払っとくから!」
女「え、あっ、う、うん」
女「………」
女(ちょうどよかった。私もそろそろ抜けなきゃいけなかったし……)
男「ここら辺でいいかな……」
男「変身っ!」
ヒーロー「これでよし、と」
ヒーローは腕についている装置から、指令を読み取る。
さっきのアラームは指令の合図なのである。
『□□県○×市でワール団の連中が暴れている。至急向かってくれ』
ヒーロー「了解!」
ヒーロー「○×市はここから北に20kmだったな……出動っ!」
ドヒュン!
ボスの下に三人の幹部がおり、さらにその下に大量のザコ戦闘員がいる。
<○×市>
ザコA「道路にガムをひっつけてくれるわ~!」
ザコB「横断歩道の白い部分を全て黄色に変えてやる~!」
ザコC「市内のベンチというベンチを、ペンキ塗りたてにしてくれる~!」
市民「くそっ……なんてひどいことを!」
警官「ワール団め……。お前たちやめないか! う、撃つぞっ!」
幹部「我々に銃など効かぬと、分かっているくせに……」
ドラゴン「俺らの悪事の邪魔はさせねえ。どいてろ」
ドカッ!
警官「うぎゃあ!」
市民「ヒ、ヒーローだっ! ヒーローが来てくれたぞっ!」
幹部「やっと現れたか、ヒーロー。我々の狙いはキサマだからな」
ドラゴン「ガハハハハ、やっちまえ! おめえら!」
ザコA「オラーッ!」
ザコB「アチョー!」
ザコC「強めにお願いします!」
ヒーロー「せりゃっ!」
バキッ! ドゴッ! ガゴッ!
ザコA「ぐはぁっ!」
ザコB「げふぅ!」
ザコC「ありがとうございました~!」
ヒーロー「ワール団! 今日という今日こそ、成敗してくれるっ!」
ヒーロー「……ん? 今日は三幹部のうち幹部とドラゴンの二人しか来てないのか」
ヒーロー「来いっ!」
バキッ! ドカッ! ガンッ!
幹部(さすがはヒーロー、ドラゴンが押されている。仕方ない、加勢するか……)
女幹部「お待たせ~」
幹部「遅いぞ、何をしていた!」
女幹部「あらやだ、レディに野暮なこと聞かないでよ」
幹部「ちっ……これだから女は! まぁいい、ドラゴンを助太刀するぞ!」
女幹部「はいはい」
バゴッ!
ドラゴン「ぐおおっ! くっ、くそう!」
幹部「今加勢するぞ、ドラゴン」
ヒーロー「まとめてかかって来い!」
ヒーロー「これしきの炎、正義に燃えている俺には通じんぞ!」
ドゴッ!
ドラゴン「うぎゃあっ!」ドサッ
幹部「おのれ、エネルギーボール!」ボボボッ
ヒーロー「はあっ!」バシバシバシッ
幹部(全て弾いただと!?)
幹部「くそぉっ! おい女幹部、早く私に加勢するんだ!」
女幹部「うるっさいな、男のくせにみっともないよ!」
(全力疾走してきたばっかで技出せる状態じゃないの、ほんとゴメン)
ヒーロー「とりゃあっ!」バキッ!
幹部「ぐ……また負けた……!」バタッ
ヒーロー「残るはお前一人だ! 観念しろっ!」
女幹部「フン、今日こそアンタを倒してやるよ!」
シュルッ!
ヒーロー「しまった!」
女幹部「このムチで縛られたら、もう身動きできないよ! 覚悟はいい?」
ヒーロー「なんのぉっ!」ブチッ!
弾け飛んだムチの破片が、女幹部の頬をかすめ、傷がついた。
女幹部「あぅっ!」
ヒーロー「あ……!」
女幹部「やるじゃない、キラーウィップを破るとはね! ええいっ!」
ヒーロー「(バカ、動揺している場合か)ていっ!」
バシィッ!
女幹部「くっ……!」ガクッ
女幹部「ちくしょう、次こそはお前を倒してやるからね! 覚えておきなよ!」
ワール団はみじめに退散していった。
市民「やったやったー!」
警官「ありがとうございます、助かりました!」
ヒーロー「うむ、では達者でな!」ヒュンッ
~
ヒーロー「任務完了しました」
『ご苦労』
シュンッ
男(やれやれ、今日もみすみす逃がしちまった……。甘いなぁ、俺は)
男(不可抗力とはいえ、あの女幹部の顔……傷つけちまった)
男(敵とはいえ女だから、なるべく顔は狙わないようにしてたんだけど)
男(──ってかまうもんか! 相手は悪党で、俺はヒーローなんだ!)
ボス「なんという醜態だ!」
ボス「またしても、幹部揃ってヒーローにやられたのか! バカモノどもが!」
幹部「申し訳ございませんっ!」
女幹部「ご、ごめんなさい……!」
ドラゴン「すいませんっ!」
ボス「打倒ヒーローはワシの……我がワール団の悲願なのだぞ!」
ボス「こんなことではいつになったら達成できるか分からん!」
ボス「もうよい、下がれ!」
~
鏡の前で女がつぶやく。
女「この傷、絶対聞かれるよね。どうしようかなぁ……」
女(……にしても、今まであれだけ戦ってるのに、顔に傷ついたの今日が初めてとは)
女(さすがヒーローってだけあって、やっぱ優しいなぁ)
女(なぁ~んてね、相手の優しさに喜んでるようじゃ悪の幹部やる資格ないよね)
<喫茶店>
ヒーローとして戦う日々、ここで彼女と過ごすわずかな時間が俺の唯一の生きがいだ。
互いに互いを探らず、当たり障りのないことばかりを話す。
それだけで十分幸せなはずだったのに──
男「ちょっ……どうしたんだよ、その傷!?」
女「え、と……料理でミスっちゃって……」
男「なにをどうミスれば、料理で顔に怪我するんだよ!」
男「だれかにやられたんだろ!? いえよ、俺が成敗……や、やり返してやるよ!」
女(相手はヒーローでした、なんていえるはずないよね)
女「こんなのすぐ治るし、別にいいじゃない。なんか今日、ちょっと変だよ……?」
男(俺としたことが、女幹部との戦いを思い出してしまった……!)
男「いや……いいんだ。なんでもないんだ。ゴメン」
男「俺たち、互いのことは詮索しないってなってたのにな」
女「こっちこそゴメンね。心配してくれたのに……」
互いに互いを探らず、当たり障りのないことばかりを話す。
それだけで十分幸せだったはずなのに──
女「(話題を変えないと)あ、ニュースやってる」
テレビ『昨日、□□県○×市にワール団一味が現れ、さまざまな悪事を働きましたが』
テレビ『まもなくヒーローが駆けつけ、ワール団は撃退されました』
女「またヒーローが活躍したんだね。おっ、空飛んでるよ。かっこいい~」
男「あんなもん、全然かっこよくないよ」
女「え……?」
男「無駄に腕力ばかりある無能だよ」
女「急にどうしちゃったの? やっぱり今日の男は変だよ……」
男「変じゃないよ。近頃じゃ、ワール団以外の悪の組織も台頭してきてるし」
男「敵は全て殺すくらいの意気込みでなきゃ、真の平和なんて永遠に訪れないんだよ」
女「たしかに、あなたのいってることは正しいのかもしれない……」
女「でも、ヒーローが敵を殺さないのは、なんていうのかな……」
女「たとえ悪人に対しても、優しさを忘れない……みたいなことなんだと思う」
男「優しさなんかじゃないよ、単なる甘えだよ」
男「ようするに怖いんだろうな、殺すのが。決定的な恨みを買う恐れもあるし」
女「ヘ、ヘタレって……! あんなに頑張ってるのに……!」
男「ふうん、お前は悪人にのさばって欲しいとでもいう気か?」
男「あ、女。お前、もしかして実は悪者の一味とか?」
女「ひ、ひどいっ!(す、鋭い……!)」
女「男こそ、まるで自分がヒーローみたいな口ぶりじゃない!」
男「な、なにいってんだ、意味わからねえよ!(し、心臓止まるかと思った……)」
女「そっちが最初にいったんじゃない!」
男「どうせ俺は、ヒーローみたいに優しくねえよ!」バンッ!
女「………」
男「………」
男「………」
男(普通なら、ここで追いかけるんだろうな……)
男(家の前で待ってたりとか……)
男(でも、俺はあいつの住んでる場所を知らない。連絡先すら知らない)
男(むろん、あいつも俺の住んでる場所その他を知らない)
男(知り合ってから今まで、一度たりともお互いの過去を話したことはない)
男(俺には話せない事情があるし、きっと彼女にもあるのだろう)
男(それが暗黙の了解だった。利害が一致した)
男(だから、とても楽だった。心地よかった……)
男(なぜなら、それを教えることは俺がヒーローであるとバラすのとほぼ同義だからだ)
男(きちんと口止めさえすれば、バラすことになんのペナルティもない……)
男(もしバラしても、彼女なら決して他言しないだろう)
男(でも、バラせない)
男(あんなにヒーローに羨望の眼差しを向けている女に、今更いえるわけがない)
男(失望させるだけだ……)
男「はぁ……」
ピーピーピー
女(男がいつもと様子がちがうってのは、分かりきってたのに)
女(とりあえず、家に戻るか……)
<ワール団アジト>
女「ただいま」
青年「お、なんかご機嫌斜めなんじゃないか? ん~? もしかして生理か?」
ドスッ!
青年「いってぇ……ジョークが通じねえ奴」
女(ったく、変身時と性格が違いすぎるっての!)
ドラゴン「今日は活動予定もないのに、えらく帰りが早いじゃねえか。どうした?」
女「なんでもない……」
女「部屋、行ってるね」
女(思い返してみると──)
女(私は女としても女幹部としても、ヒーローのいい面しか見ていない)
女(もしかしたら、ヒーローにだっていわゆる人に見せたくない面があって)
女(普段のヒーローとしての顔とのギャップに苦悩しているのかもしれない)
女(……そして、男もきっと私の知らないところで“いい役目”を演じる立場にいて)
女(なにか辛いことがあって、あのヒーローのニュースで抱えてたことが爆発した……)
女(警察官……とかなのかな? もしかして)
女(悩みがあるのなら聞きたい。聞いてあげたい)
女(でも、自分のことをなにも教えられない私が、聞けるはずがない)
女(私がワール団の幹部だって知られたら──幻滅される)
女(あんなに悪を憎んでいるあの人に、いえるわけがない……)
<△□市>
ヒーローは、悪の組織『アーク団』の怪人軍団と対峙していた。
新鋭の組織であり、悪事の度合いはワール団の比ではない。
怪人A「来やがったか、ヒーロー! 昨日もご活躍だったそうじゃねえか」
怪人B「俺たちはワール団みたいな、甘っちょろい組織とはワケが違うぜ」
ヒーロー「………ブツブツ」
怪人C「フッ、今のうちに念仏でも唱えてるのか?」
ヒーロー「お前たちのような悪がのさばっている限り」ブツブツ
ヒーロー「俺はヒーローをやめられない……」ブツブツ
ヒーロー「好きな人に自分の素姓すら明かせない……」ブツブツ
怪人A「な、なんだぁ? お前、本当にヒーローか? まさかニセモノ?」
グシャッ!
怪人A「ぐげぁ!」
怪人B「な、な、な……!」
ヒーロー「お前たち、皆殺しだっ!」
女(あー……ウジウジ悩んでてもしょうがない)
女(テレビでも見るか……気が晴れるとは思えないけど)
ピッ
テレビ『こちら△□市の上空です……』
テレビ『え~……ヒーローとアーク団の怪人軍団が凄まじい死闘を演じております!』
女「!」
テレビ『で、ですが、なんというか……語弊があるかも知れませんが』
テレビ『ヒーローの戦いぶりが、とてもいつものヒーローとは思えません!』
テレビ『まるで血に飢えた獣のような……』
女「……なんなのこれ。まるで──」
ザッ!
女「はぁっ!」
ブワァッ!
女幹部「行かないと……!」
青年「お、どこ行くんだ? 金に困ってカラダでも売りに行くのか?」
ダダダッ!
青年(む、無視かよ)
ドラゴン「アイツ変身なんかしてどこ行く気だ? ボスからはなにも聞いてないぜ」
青年「……世話の焼ける妹分だ」
ヒーローは10体の怪人軍団のうち、すでに7体を倒していた。
怪人H「ヒィィッ! 助けてくれェ~! も、もうやめ──」
ヒーロー「だまれっ!」
ゴシャッ!
怪人I「お、俺逃げるぜ……あんなのと戦えねえよ……」
怪人J「オイラも……」
ヒーロー「逃がすと思ってるのか? 一刻も早くお前らを全滅させ──」
「待ちなさいな」
女幹部「ずいぶん派手にやってるじゃない、ヒーロー」
怪人I「キサマ、ワール団の女幹部だな!? ワール団如きの出る幕などないぞ!」
怪人J「ここはオイラたちアーク団の戦場だ! 立ち去れ!」
女幹部「アンタら、ジャマ」
女幹部「どいてくれる?」
怪人I&怪人J「ど、どきます……」スゴスゴ
ヒーロー「なんの用だ? まさかアーク団を助けに来たってワケじゃないだろう?」
女幹部「かろうじて、まだ一匹も殺してないみたいね」キョロキョロ
女幹部「まだ、あの不器用なヒーローっぽさが心のどこかに残ってるのかもね」
ヒーロー「なんの用だと聞いてるんだ!」
(むしろアーク団のゲスなやり口はヘドが出るくらいだし)
女幹部「なんていうか、今のアンタ、私の好きな人とソックリだったの」
女幹部「ちょっと他人事とは思えなくってね」
ヒーロー「お前たちのような悪党でも好きな人なんているのか。初耳だな」
女幹部「アハハ、するに決まってるじゃない」
ヒーロー「うらやましいね」
ヒーロー「俺にも愛する人はいる」
ヒーロー「だが俺は恋なんかできない。俺がヒーローである限りな……!」
ヒーロー「だからもう、お前たちに容赦はしない……!」
ヒーロー「命をもらう!」
女幹部「かかってらっしゃい」
女幹部「抱えてるモノ、全部受け止めてあげる」
女幹部「アンタが愛してる人の代わりに、ね」
ビシィッ!
ヒーロー「ぐうっ!」
女幹部「どうしたの、昨日より動きが固いよ? やっぱり戸惑ってるんじゃない?」
ヒーロー「う、うるさいっ! だまれっ!」
バチッ!
女幹部「──つっ、こんなんじゃ、ウチのザコたちも倒せないねぇ」
ヒーロー「う、うるさぁい!」
バキッ! ドゴッ! ドスッ!
女幹部「う……ぐっ! ふふっ……。まだ……悪は生きて、るよ……」
ヒーロー「こ、このっ!」
怪人J「今のうちに仲間連れて逃げよう。アイツが殺られたら、次はオイラたちだぜ!」
ダダダッ!
女幹部「も、もう動け……ないね。さぁ、殺しなよ……」
ヒーロー「……くっ」
女幹部「アンタに殺されるなら……悔いはないさ……」
女『あなたに殺されるなら……悔いはないよ……』
ヒーロー「!」
ヒーロー(な、なんで今、コイツと彼女が重なって見えたんだ! ちくしょう!)
ヒーロー「俺にはもう……できない」
女幹部「ふふ……元の顔に戻れた……じゃないの」
女幹部「よ、よかった……」
ヒーロー「女幹部!」
ヒーロー「敵にこんな気持ちになるのは生まれて初めてだ……」
ヒーロー「だが、やはり俺の一番は……あの人なんだ……。すまん……」
女幹部「ハハ……残念……。少し、妬ける、ね……」ガクッ
ヒーロー「女幹部!? 女幹部っ!」グイッ
ザッ
幹部「遅かったか……! ヒーロー……よくもやってくれたな……!」
ドラゴン「弔い合戦といこうじゃねぇか!」
ヒーロー「……お前たちも来てたのか。ちょうどいい」
ヒーロー「女幹部はまだ生きてる。治療してやってくれ……じゃあな」ドヒュンッ!
幹部(なんだ? 今までのヒーローと、まるで表情がちがったぞ……)
ドラゴン「オイ幹部! 女幹部を連れてアジトへ戻ろう! まだ助かるぜ!」
幹部「あ、ああ……!」
女「えぇっ!? 一週間もここで寝てないといけないの?」
青年「あんだけこっぴどくやられたんだ、当たり前だろうが」
青年「お前の回復力でも完治に一週間はかかる。絶対外に出さないからな」
女「やっぱお父さん怒ってた……? 勝手に動いちゃったし」
青年「激怒も激怒、大激怒だ。治ったら覚悟しとけよ~」
女「分かったよ……(すぐにでも男に会いたいのに……)」
青年「ところでお前、なんでヒーローにあんなにボコられたんだ?」
青年「まさかヒーローの秘密を知っちゃったとか? 包茎とか」
女「んなわけないでしょっ!」
青年「……まぁ、お前は俺の妹みたいなもんだ。あんま心配かけるんじゃないよ」
青年「ドラゴンやザコたちもみんな心配してくれてんだから。じゃな」
ガチャッ バタン
女「うん……」
男(今日は一日待ったが……来なかった。やっぱフラれたかな……)
男(だがいつかまた必ず来てくれる……そんな気がする)
男(その時こそ、俺はもう逃げない)
男(俺に、あの女幹部がしてくれたように……)
~
ヒーロー「さぁ、デビル結社の悪魔ども! かかってこい!」
悪魔A「かかれーっ!」
悪魔B「うおーっ!」
ドゴッ! バキッ!
悪魔A「やられたー!」
悪魔B「ぐえー!」
ヒーロー(こうやって健全にヒーローやってれば、必ず来てくれる……!)
ヒーロー(そんな気がする)
タッタッタッ
女(あ~あ、まさか二時間も説教されるとは……)
女(男はいるかなぁ、いるといいなぁ)
女(でも、一週間もいかなかったし……もし、もう来ないと思われてたら──)
<喫茶店>
マスター「今日こそ来るといいねえ」
男「うん」
マスター「お互いケータイの番号も知らないなんて、古風にも程があるよ」
男(まったくだ)
マスター「でも、だからこそ芽生える愛ってのも──」
ガチャッ カランカラン
女(いたー!)
男(来たー!)
男「いや……おかげで心の準備ができたから、ある意味ではよかったかも」
女「心の準備?」
男「今日は大事な話があるんだ」
女「………」ゴクリ
男「ちょっと前置きしようか」
男「一週間前、喧嘩別れしたろ? あの後、俺はヤケッパチになってた」
男「だが、俺はある人によって救ってもらった。踏みとどまらせてもらった」
男「その人は俺に正面から向き合ってくれた」
男「だから俺も見習って、今日こうして話すことにしたんだ」
女(男もヒーローと同じく、この一週間で悩みから立ち直れたんだ)
女(救ったのが私じゃないってのが、正直少し悔しいけど……ね)
男「俺──」
男「俺、実はヒーローなんだ」
女(え、え、え、え!? えぇ~~~!? え、え、え? え、え、え?)
女(えぇ~~~~~!? えぇ~~~~~!? えぇ~~~~~!?)
女「ふうん……そうだったんだ……」
男「あまり、驚かないんだな」
女「なんとなく……そんな気がしてたから……」
(え、え、え!? ちょっと待って、ちょっと待って待って、どういうこと!?)
男「日々変身して、ワール団やアーク団といった連中と戦ってる」
男「完全な秘密厳守ってわけでもないんだ。でも、いえなかった」
男「君の憧れであるヒーローの正体が、こんなヘタレだと知られたくなかったから……」
女「あなたはヘタレなんかじゃないよ」
(あ~……そういうことだったのか……。まだちょっと混乱してるけど……)
男「ずっと黙っていて……ゴメン」
女「……いいよ。その代わり、私の話も聞いてくれる?」
女「私ね、宿敵でもあり憧れでもあった男性がいたの」
女「私はその人の強い部分しか知らなかった。本当はとても繊細な人なのに」
女「そして、ある日私はその人の弱い部分を見てしまった……」
女「でも、その人はすぐ立ち直ってくれた。やっぱり私の思った通りの人だった」
女「だからその人のためにも、今から本当のことを話す」
男(俺なんかと違って、すばらしい奴なんだろうな。きっと……)
女「私ね──」
女「ワール団の女幹部なの」
男「………」
男(ん~? ん? ワールダンノ、オンナカンブ? ん? ん? ん? ん?)
男(ん!? ん~!? 待てどういうこと? どういうことなんだこれは?)
男「俺も……なんとなくそんな気がしてた……」
(してないしてない! してない! だ、だれか今の状況を分かりやすく教えてくれ)
女「……キ、キラーウィップ」ボソッ ヒュッ
男(この手つき、ホンモノだ……! ちょっと照れてるけど)
男「──ん、ちょっと待てよ。じゃあもしかして一週間来なかったのって……!」
女「アハハ、いやぁ~効いたね、あれは。右脇腹への一撃が特に」
男「ゴメン! 本当にゴメン!! 今すぐにでも、あの分やり返してくれ!」ガタン
男「いや、五倍くらいにしてくれていい!」
女「いいよいいよ、私たち敵同士なんだし。こうして完治したしね」
女「お互いのことを全く知らない二人が、ずっと戦ってたなんてロマンチックじゃない?」
男(そ、そうかぁ……?)
ついに、二人は互いの正体を明かした。
お互いが恐れていたような破滅はなく、意外にも両者すんなりと受け入れることができた。
しかし、これはまだスタート地点に立っただけに過ぎないのだ。
男「多分情報はあるだろうけど、俺は国立ヒーロー本部で暮らしている」
男「たった一人のヒーローである俺を、日々大勢のスタッフが体調管理してくれてるんだ」
男「目的は当然、ワール団やアーク団といった警察じゃ歯が立たない悪党どもの対処だ」
男「5歳の時、俺は父親に本部に連れてかれた。素質があるからってことでな」
男「あ、親父もヒーローだったんだ。いわば先代だな」
男「んで、ずっとそこで教育とか訓練とかを山ほど受けて育った」
男「そして数年前から、俺は親父の後を継いでヒーローになった」
男「親父は一年前に逝っちまった。まだ若かったのによ」
男「女と知り合って喫茶店での会うようになったのも、それからすぐのことだったな」
男「あとはまぁ……知っての通りだ」
女「私みなし子でね、お父さんに拾われたの。あ、お父さんってボスのことね」
女「幹部も同じような境遇よ。私より少し年上だから、実の兄のように接してくれた」
女「ドラゴンも元々はどこかで捨てられてた動物で、お父さんが力を与えたらしいわ」
女「そして悪の英才教育を受けて、今では三幹部の一人にまでなったわ」
女「お父さんも昔は相当ワルだったみたいだけど、今じゃヒーロー打倒に夢中よ」
女「お父さんは、あなたのお父さんとライバルだったみたいだね」
女「私、お父さん大好き。悪の組織の人間がなにをって思うかもしれないけど」
女「いたずらに人を傷つける悪事はしないし、学校も通わせてくれたし」
女「でも今は……あなたが一番好き」
まるでこれまでの分を取り返そうとするかのように。
男「いや~でもお前ってさ、女幹部の時って全然キャラ違うよな。声もドスきいてるし」
男「普段からずっとあの格好なんだと思ってたしさ」
女「な、なによ。あなただって人のこといえないでしょ」
女「でも、たしかに変身すると、まるで別人になった気分になれるから……」
男「分かる分かる。俺も、シラフじゃ恥ずかしくていえないような台詞バンバンいえるし」
女「この間も“正義に燃えている俺に炎は通じん”っていってたよね」
男「ゴメンやめて、ホントやめて」
女「でもホント何度も戦ったよね、私たち」
男「あぁ、俺はヒーローで、お前はワール団幹部なんだもんな」
女「………」
男「………」
男「──そう、俺たちは敵同士なんだ……」
女「私も無理……だね」
男「だが、戦う宿命にある。俺たちは戦い続けなきゃならない」
男「だからさ、ちょっと練習してみないか?」
女「いいかも!」
シュンッ! ブワァッ!
ヒーロー「よし、あのムチを出してくれ」
ヒーロー「少なくともこれからも、戦うフリはしないとヤバイ」
女幹部「キ、キラーウィップ……」ペチッ
ヒーロー「加減しすぎだろ。あと、なんで恥ずかしがるんだよ。いつもの調子でやれよ」
女幹部「ご、ごめんね……」
ヒーロー「いや、その姿で謝られると、なんか戸惑うからやめてくれ」
ヒーロー「マズイな……」
女幹部「うん、どうしても八百長っぽくなっちゃうね」
ヒーロー「場末のヒーローショーの殺陣のが全然マシってレベルだ」
ヒーロー「こんなの実戦でやったら、俺は悪と癒着してるんじゃ、って疑われそうだし」
ヒーロー「お前だってワール団での立場が怪しくなるだろう」
女幹部「うん……」
女幹部「だから私、考えてみたんだけど」
女幹部「ワール団を抜けようと思うの」
ヒーロー「そんなことできるのか?」
女幹部「分からない……。でも、それが一番だと思う。私たちが一緒になるには」
女幹部「それは大丈夫だと思う、けど」
ヒーロー「う~ん」
女幹部「大丈夫よ、必ず説得してみせるって!」
女幹部「とりあえず兄さんに相談してみる。信頼できる人だから」
ヒーロー「分かった。なんかあったらすぐさっきの番号にかけろよ」
ヒーロー「たとえ他の任務があっても飛んでいくから」
女幹部「アハハ、そりゃまずいでしょ」
ヒーロー「俺は本気だよ」
女幹部「……ありがとう」
青年「──なるほど、ヒーローに惚れてしまったからもう戦えない、と」
女「うん」
青年「………」
女「やっぱりまずいかな……」
青年「……ふっ」
青年「成長したな」
青年「俺は嬉しいよ。こんな薄暗いアジトで育ったお前が、人並みに恋をしてくれてよ」
青年「しっかし、あんだけ自分をボコにした相手を好きになるとはなぁ」
青年「ま、こういうのは内緒にしとけばしとくほど、あとが怖い。さっさと済ませよう」
青年「俺も一緒にボスのところに行って、話してやるよ」
女「ありがとう……兄さん」
青年「気にすんな。妹の悩みくらいいつだって聞いてやるよ」
青年「解決できるかどうかはまた別問題だけどな! ハハ」
青年「ところで今度、ヒーローに包茎かどうか聞い」バチッ!
幹部「ボス、単刀直入にいいましょう」
幹部「このたび女幹部がヒーローと恋仲に落ちました」
幹部「なので、自由にしてあげてくれませんか。抜けた穴はこの俺が埋めてみせます」
ボス「な、な、な、なにぃ!?」
幹部(やっぱり……)
女幹部(こうなるよね……)
ボス「このバカモノどもが! ワシとヒーローの長年の因縁は知っておるだろう!」
ボス「部下がだれと逢引をしようといちいち騒ぐワシではないが──」
ボス「よりにもよって相手がヒーローだと!?」
ボス「キサマらワシが手塩にかけて育ててやった恩を、仇で返す気か!!!」
娘が可愛いだけの頑固おやじなのだ
ボス「うるさいっ!」
ドガッ!
幹部「ぐっ!」
ボス「女幹部よ、お前はワシの期待を裏切った」
ボス「ドラゴン! コイツを牢に閉じ込めておけ!」
ドラゴン「はい。命令だ、悪く思うなよ」ガシッ
女幹部「う……!」
ボス「ヒーローめ、ワシの部下をたぶらかすとは……許せんっ!」
ボス「……ちょうどいい機会だ! この上はヒーローに決闘を申し込む!」
ボス「ザコD! お前、足が速かったな。今すぐ果たし状を持っていけ!」
ザコD「はいっ! 私のDはダッシュのDです!」
女幹部(とんでもないことになってしまった……)
男(今日のトレーニング終了、と……)
男(ところで、女はどうなったかな……。こっちから電話かけてみるか?)
男(いやでも、急かすようで悪いよな……)
タタタッ!
スタッフ「た、大変だ!」
男「どうしました?」
スタッフ「君宛に、ワール団から果たし状が届いた!」
男「は、果たし状!?」
果たし状
国立ヒーロー本部所属 ヒーロー殿
我々ワール団は総力を挙げて貴殿に決闘を申し込む
日時は○月×日 17:00
場所はワール団アジト
当日迎えの者をそちらに寄こす
万全に準備を整えた上で来られたし
ワール団首領 ボス ○月△日
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
男(タイミング的に考えて、彼女に何かあったとしか考えられない!)
男「くそっ」ピポパッ
電話『おかけになった電話番号は、電波の届かないところにあるか~』
男「クソッ!」ダンッ!
スタッフ「ひぃっ!」
男(○月×日……ちょうど一週間後か)
男「いいだろう……受けて立ってやる! ワール団!!」グシャッ
青年「……すまなかったな。まさか、あそこまでキレるとは予想外だった」
女「ううん、気にしないで」
青年「できれば出してやりたいが……」
女「大丈夫だって。とりあえずは、しばらくここにいるよ」
女「それより決闘ってどんな内容なの?」
青年「ボスは本気だ。俺やドラゴン、自分も含め全戦力で迎え撃つつもりだろう」
青年「日時は○月×日、場所はここだ。すでに果たし状は送ってある」
青年「やるからには俺もワール団幹部として本気で戦う。それは……分かってくれよ」
女「……うん」
(ごめんなさい、男……! もしあなたが死んだら私も──!)
<国立ヒーロー本部>
男「変身っ!」
シュンッ!
ヒーロー「いよいよか……」
スタッフ「ほ、本当に応援部隊はいらないのかい?」
ヒーロー「えぇ、申し訳ないですが、かえってやりにくくなるので」
ヒーロー「大丈夫、ワール団なんかちょちょいと片付けてみせますよ」
ザコE「ちょちょいとは大きく出たな」ザッ
ヒーロー「お前が迎えか」
ザコE「あぁ、そうだ。今からアジトに連れていく。ついてこい」
ヒーロー「望むところだ!」
ヒーロー(おそらく彼女はボスの怒りに触れて幽閉でもされたんだろう……)
ヒーロー(ボスを倒し、ワール団を壊滅させ、彼女を取り戻す!)
ヒーロー(ヒーローとして、これ以上ないシチュエーションだ。絶対に勝つ!)
ドラゴン「ボスは本気なのか……!?」
幹部「命令なんだ。俺たちは従うだけだ」
ドラゴン「だがよぉ……」
幹部「くどいぞ。俺たちはここでこうしているのが精一杯だ」
ドラゴン「ち、ちくしょう……!」
幹部「しっ、声が大きいぞ。ボスに聞こえたらどうする」
幹部「ちゃんと見ておくんだぞ」
ドラゴン「く、くそ~」
ザコE「……ここだ」
ヒーロー「大勢で出迎えてくれると思いきや、誰もいないじゃないか」
ザコE「お前の相手は……あのお方だ」
ヒーロー「あれは……!(ただならぬ気配を放っている……アイツはまさか……)」
ボス「待っておったぞ、ヒーロー!」
ヒーロー「……ボスか?」
ボス「いかにも!」
ボス「キサマの父親は……強かったぞ。さてキサマはどうかな?」
ヒーロー「果たし状にはワール団総力を挙げる、とあったが?」
ボス「つまりはそういうことだ。ワール団の兵はワシ一人のみ!」
ヒーロー「!?」
<ワール団アジト>
幹部「いよいよヒーローとの決戦は明日です。ボス、どのような布陣で──」
ボス「布陣など必要ない」
幹部「は……?」
ボス「ワール団は本日をもって解散する!」
幹部「な、なにを!?」
ドラゴン「どういうことですか!」
ボス「安心せい。お前たちの次の道は責任を持って用意する。ワシも顔が広いからな」
幹部「俺が聞いてるのは、そういうことじゃありませんよ!」
ボス「実をいうとな……前から決めておった」
ボス「ワシが、このように老いぼれてなお、ワール団を続けてきたのは──」
ボス「ひとつはむろん、ヒーローを倒すこと!」
ボス「そしてもうひとつは、近年台頭する外道どもをのさばらせたくなかったのだ」
ボス「弱きを傷つけ、なぶり、骨までむさぼり尽くす。まるで仁義など感じられぬ」
ボス「だから少しでも奴らを抑えるため──と思ったが、年々ワシの影響力は落ちておる」
ボス「もはや、ここらが潮時なのだ」
ボス「お前たちほどの能力があれば、こんなカビの生えた組織におらずともよかったはず」
ボス「よくぞ、今日までついてきてくれた。心から礼をいう」
幹部「ボスッ!」
ドラゴン「ボスッ!」
ザコ軍団「ボスッ!」
ボス「……いかに鍛えてるとはいえ、ワシの肉体はこれから先、朽ちる一方だろう」
ボス「ちょうどいい機会というのは、このためだ。明日、ワシは一騎打ちを挑む!」
ボス「ワシのプライドと娘を賭けた一世一代の大勝負!」
ボス「これが最後の命令だ! 明日、絶対にワシの邪魔はするな!」
ボス「お前の求めるモノはあそこにおる!」
ボスが指差した先には、女が立っていた。縛られてすらいない。
女「男……」
ヒーロー(なんだ……どういうことだ!?)
ボス「ヒーローよ! あれはワシの娘も同然の女!」
ボス「いかにキサマが好いていようと、そうやすやすとくれてやるワケにはいかん!」
ヒーロー「………」
ヒーロー「ワール団ボス……。ヒーローとしてでなく、一人の男として申し上げる!」
ヒーロー「娘さんを、ぼくにください!」
ボス「ならん! あれが欲しくば、このワシを越えてゆけ!」
ヒーロー「分かりましたっ……!」
ボス「ぬおおおおおおおおおおおおおっ!」
ヒーロー「うおおおおおおおおおおおおおっ!」
ドドドッ! ガガッ! バシッ! ドドドッ! ガンッ!
両者の拳が火花を散らす。
ズバッ! バババッ! ドゴッ! シュババッ! バチィッ!
ヒーロー「娘さんはいただくっ!!」
ボス「断じてならぁーん!!」
身体能力ではヒーローが上だが、経験と気迫でボスはそれをカバーする。
しかし、戦いが長引けば、やはり若いヒーローが有利になってくる。
徐々にヒーローがボスを追い詰めていく。
バキィッ!
ボス「ぬぐぉっ!」
女(お、お父さん……!)
ボス「ぬうっ……(父親以上の強さだ! よもやここまでか……!)」
「待ったっ!」
ヒーロー&ボス「!?」
幹部「ヒーロー! 女を手に入れるのに、いきなり父親からとは──」
幹部「ショートカットしすぎなんじゃないか?」
幹部「まずは兄であるこの俺から、倒してってもらおうか!」
ボス「バ、バカモン! 絶対に邪魔するなと──」
幹部「バカで結構!」
ヒーロー「いや……たしかに俺は順番を間違えていた! 勝負っ!」
幹部「エネルギーボール……連射ァッ!」
ズドドドドドドッ!
大砲以上の威力を持つ無数の光球が、ヒーローめがけて飛んでいく。
ヒーロー(これは避けてはならない……全て真っ向から弾く!)
ババババババシッ!
幹部「バ、バカな!?(さすが、妹が惚れた男だ……!)」
家族愛ってすげー
ヒーローのパンチが、幹部の腹にめり込んだ。
幹部「や、やるな、ヒーロー……ぐほぉっ!」
(お前になら、任せられる……!)
ドラゴン「ならば、次は友人代表として俺様が挑むぜぇっ!」
ヒーロー「来いっ!」
ヒーローはドラゴンの巨大な尻尾攻撃を真っ向から受け止め、持ち上げる。
ドズンッ!
ドラゴンは地面に叩きつけられた。
ドラゴン「ぐおおっ……!」
(さすがは俺たちが、長年倒せなかった男だ……ぜ!)
すると今度は、大勢のザコたちが走ってきた。
ザコ軍団「部下代表として、お前に挑むぅ~!」
ヒーロー「来いっ!!」
ボス「ど、どいつもこいつも……バッカモン!」
幹部(結局総力戦じゃないか……ハハ)
ヒーロー「せりゃあっ!」ドゴッ! バキッ! バシッ!
ザコA「うごふっ!」
ザコB「えぼぁっ!」
ザコC「超気持ちいいっ!」
いつものことではあるが、ヒーローの強さは圧倒的だった。
しかし、今日のワール団は気迫が違っていた。
先ほど倒した幹部やドラゴンも復活し、大混戦になっていった。
ザコD「喰らえっ!」バキッ
ヒーロー「ぐぁっ!」
ザコD(や、やった……! は、初めてヒーローに一発入れた……!)
女「(いくらなんでも数が違いすぎる……)このままじゃ……」
ボス「ふん……」
女「!」ビクッ
ボス「ワシはお前が乳飲み子の頃より、ひたすら悪の道を叩き込んできたっ!」
ボス「こんな時に親不孝ひとつ出来んで、どうするかぁっ!」
女「───!」
幹部「ついでに兄不孝もな」
ドラゴン「竜不孝も頼むぜぇ!」
女(みんな……ありがとう!)
ブワァッ!
女幹部「キラーウィップ!」
ドドドシュッ!
ボス「うごふっ!」
幹部「いってぇ!」
ドラゴン「あだだっ!」
ヒーロー「女……。いや女幹部、いいのか……!?」
女幹部「なぁに驚いてんの。私は悪なんだから、裏切りくらい当然でしょ」
ヒーロー「ザコ軍団の中に突っ込むぞ! 準備はいいか?」
女幹部「オッケー」
二人が組んだことによる戦力上昇は、加算(+)ではなく、乗算(×)だった。
ヒーロー「うおおおおっ!」
女幹部「でやあああっ!」
ズガガガガガッ!
瞬く間にザコたちが蹴散らされていく。
ドラゴン「つ、つええっ! すげぇコンビネーションだ!」
幹部(……まったく。あんなに生き生きと戦う女幹部を見るのは初めてだな)
ボス(クックック。祝福するぞ、我が娘よ!)
ザコたちは片付いた。残るは幹部二人と、ボスのみ!
二人の突撃に、幹部二人のコンビですらなすすべなく吹っ飛ばされた。
ドラゴン「ごふぅ!(完敗だぜ、チクショウッ!)」
幹部「がはぁっ!(ナ、ナイス共同作業……!)」
ヒーロー&女幹部「残るはボス一人っ!」
ボス「フハハハァー! ワシを越えてみせろぉぉぉ!」
ヒーロー&女幹部「いっけぇぇっ!」
ズバシュッ!
ヒーローの拳と、女幹部のムチが、同時にボスを直撃し──打ち倒した。
ボス(最大の好敵手の後継ぎと、最愛の娘に倒されるなんざ……)
ボス(悪の首領冥利に尽きる、ってもんだ、ぜ……)
ボス「ワシは、幸せ者だ……」ドザッ
ボス「完敗だ」
女幹部「大丈夫? お父さん、じゃないボス……」
ボス「キサマらとは鍛え方がちがうわ、バカモン(若い頃から何度負けてきたと思っとる)」
ボス「しかし、こうして全戦力投入して、ワール団は敗北したのだ」
ボス「ワシは現役を退き、ワール団は解散する」
幹部「いや」
幹部「解散はしないよ。俺がワール団を継いで、悪として外道どもを抑えてやる」
幹部「ヒーローだけにこの国を任せておけるものか」
ボス「……勝手にしろ」
ドラゴン「ガハハハ、ワール団は永久に不滅だ!」
ザコ軍団「やったやったぁー!」
ヒーロー(この場に俺がいるってこと、みんな忘れてないか?)
ヒーロー(まぁいいや、聞かなかったことにしよう……)
幹部「ワール団を辞めてヒーローと一緒になるんだろうが、女ヒーローにでもなるのか?」
女幹部「………」
女幹部「今更ヒーローってのも性に合わないし、私は悪のままやらせてもらうよ」
幹部「でも、それだとヒーローと戦うはめになるぞ?」
女幹部「ううん、戦わないよ」
女幹部「だからさ、ヒーローを油断させて寝首をかくために──」
女幹部「一時的にヒーローのパートナーになった悪の女幹部ってことで!」
幹部「そ、そうかい……」ポカーン
ドラゴン「ガハハハ、すげぇ!」
ボス(なんというムチャクチャな設定だ! さすがワシの娘!)ウルッ
女幹部「──というわけで、よろしく!」ガバッ ギュッ
ヒーロー「は、はいっ!(柔らかい……)」
ボス(くそっ、やっぱりいつかヒーローは倒す! 個人的に!)
ヒーローは本部から出ることを許された。
ささやかな結婚式を挙げた男と女は、現在アパートで暮らしている。
女「最近、出動が多いね。大丈夫? 疲れてない?」
男「へっちゃらだよ。本部にいた頃より調子がいいくらいだ」
男「でもやっぱり、ワール団のボス、君のお父さんが引退したのはでかかったようだな」
男「彼の威光を恐れて水面下にいた組織が、次々に表に出てきた」
男「でも被害そのものは以前よりぐっと減っている」
男「新生ワール団が悪側として、奴らを抑えてくれてることも大きい」
女「ありがとう。兄さんたちを褒めてもらえると、なんか嬉しいよ」
男「さて──」
ピーピーピー
戦闘員A「この市庁舎は我らが『バトル団』が乗っ取った!」
戦闘員B「×□市民は我々のドレイとなるのだ!」
ヒーロー「そこまでだっ! 悪党ども!」
女幹部「アンタらみたいな三流どころは大人しくしときなさいな」
戦闘員A「キ、キサマ……ヒーロー!? ……と」
戦闘員B「なぜかヒーローのパートナーになったワール団の女幹部!?」
(もっとも業界じゃ、ヒーローを油断させるための演技だって有名だがな)
ヒーロー「説明ご苦労! じゃあ覚悟はいいな!」ドゴッ!
女幹部「キラーウィップ!」ズガッ!
戦闘員A&B「へぼっ!」
ヒーロー「やれやれ、大したことない奴らだったな。さ、帰るか」
女幹部「お疲れ様。今日は晩ご飯フンパツしてあげる」
ヒーロー「お、ありがたいね」
女幹部「アハハ、たまにはね」
二人は、今日もどこかでこの国の平和を守っている。
~ おわり ~
乙
ヒーローも女幹部もボスも皆カッコ良かった
Entry ⇒ 2012.01.14 | Category ⇒ その他 | Comments (0) | Trackbacks (0)
木原 「愛してる」 一方通行 「なン……だと……?」
http://yutori7.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1271855174/
木原「いや、本気だぜ一方通行。俺も唐突に湧き上がる気持ちにわけが分からねぇが、この気持ちは本物だ」
木原「そもそもてめぇみたいなガキが、こんな暗部にいちゃいけねぇんだ。来い、子供は堅気の世界へ行くべきだ!!」
一方「…(誰だコイツ)」
初春「佐天さん、まだ能力分からないんですか?」
佐天「うん、何かしてる手応えはあるんだけどさー」
初春「それにしても、いきなりレベル2だなんて、びっくりしちゃいました」
佐天「あはは、今回のシステムスキャンでいきなりだもんね」
佐天「えへへへへ」
初春「でも枯葉一枚動かせないし、透視ができるわけでもないし」
佐天「ううう…」
初春「はわわ、げ、元気出して下さい佐天さん!きっとすぐに分かりますよ!先生も『興味深い例だ』って調べてくれてるじゃないですか!」
佐天「…本当にそう思う?システムスキャンが何か間違ってたってだけじゃないかなって、少し思うんだけど…」
初春「そんなことあり得ないですよ。ほら元気出して下さい佐天さん、レベル2能力者の佐天さん」
佐天「初春…」
初春「はい?」
佐天「もっと言って?」
初春「ふふ…レベル2、立派な能力者の、佐天さん」
初春「次のシステムスキャンじゃレベル3だ佐天さんー」
佐天「ふへへへ…」
初春「末は8人めですよ佐天さん」
佐天「いやぁーはっはっはっ」
初春「クスクス…」
佐天「はっはっは…。ふふ、ありがと、初春」
初春「いーえ、佐天さんが嬉しそうだと、私も嬉しいですから」
佐天「よーし!今日はお祝い!お茶行こ、初春。何でも奢っちゃうよ!」
初春「あ、じゃあ黒蜜堂行きましょう。こんど新メニューが…」
佐天「あ、容赦ないね初春…」
木原「俺は何であんなセリフを…?あのガキを堅気に戻す?出来るわけがねぇだろ。っつーか『愛してる』って…
疲れてんだな。今日は早めに休むか…
―同時刻、佐天の部屋―
佐天「机にティッシュを広げてー、えい!」キュピーン
佐天「……駄目だ、ふわりともしない…。なんなんだろ、私の能力…」
―木原ンち―
キュピーン
木原「アイツを堅気に戻すにはどうすりゃいい?
必ず救ってやるぜ一方通行ァーー!!」
一方「木原クゥゥン?今日は頭の調子はどォなンだよ?ちったァまともに戻ったか?」ニヤニヤ
木原「ああ、気分爽快だぜ、やっと愛するてめぇを救う計画ができたからな」
一方「」
一方「…ぐァ、あンまりイカれたネタなンで一瞬トンじまった。誰をどうするって?」
木原「一方通行、てめぇのデータを書き換えた。てめぇは今日、事故で死ぬ」
一方「あァ?」
木原「出してやるっつってんだよ、この闇の底からな」
一方「…昨日の今日で繰り返しだが、正気かオマエ」
もちろん、そう見せかけるだけだ」
一方「おい」
木原「そして俺はこう報告する…『一方通行の能力は、強力ではあったが完璧ではなかった。』
『被験者の死亡に伴い、一方通行開発計画を終了する』」
一方「おい、こら聞けェ!」
木原「あ?何だガキ」
一方「勝手に話進めてンじゃねェ!!いつ誰がオマエに助けなンざ求めたよ?
いいか?俺は最強、絶対になるンだ。気色悪ィオマエの正義なンざ、興味ねェンだよ!」
一方「はァ?」
木原「てめぇのそれは、光の世界に相手にされないから闇に浸る、逃げだ。
てめぇで積極的に闇を目指してるわけじゃねぇ。それじゃあ、闇の世界でも這い回るだけだ」
一方「……」
木原「いいから騙されたと思って行っとけ。明日からてめぇは髪を染めてカラコン入れて、
レベル0、ちっと顔色が悪ぃ、ただのガキとして生きるんだ。
その上で、てめぇで闇に生きようと決めたんなら…いつでも戻って来い」
一方「…オマエは大丈夫なのかよ?話が明るみに出ると、ただじゃ済まねェぞ?どうしてそンなリスクを犯してまで俺なンかに…」
木原「っは、何度も言ってんだろうが、頭の悪いガキだ。愛だよ、愛」
一方「やっぱ似合わねェ、っつうか、キモっ…」
それ以外あり得ないに決まってるじゃないですか
佐天「私の能力分かったんですか!?」
研究者「ああ、精神操作系の能力だったよ。分かりにくいはずだ。
現象が目に見える形で顕れるわけじゃないからね」
佐天「それで、私の能力って…」
研究者「このグラフをご覧。君が能力を使用する前と後で、対象の動物の脳内における、
伝達物質の分泌量の変化を見たものだ。見ての通り、セロトニンや、アセチルコリンといった
沈静系の伝達物質の分泌量が極端に増えている。知っての通りセロトニンは…」クドクド
佐天「すいません、分かりません」
研究者「いささか文学的に過ぎる表現だが、まぁ、その通りだ」
佐天「…具体的に、何が起こせるんです?誰かを私に都合よく動かせたり?」
研究者「何が起きるかはケースバイケースだが、それは無理だろうな」
佐天「誰にでも効くんですか?」
研究者「さぁ…?」
佐天「レベルが上がるとどうなるんですか?」
研究者「さっぱりわからんね」
佐天「……」
ステイル「追い詰めたよ、禁書目録…(ごめんよインデックス)」
禁書「くっ…」
神裂「大人しく来てもらいます。あなたの頭の中身は私たちが責任を持って守ります。
(いずれ消さねばならない記憶なら、せめて消えても惜しくないような記憶に)」
―同刻、別の場所―
佐天「はぁー…」
初春「ため息なんかついちゃって…。どんな能力か分かって良かったじゃないですか」
佐天「うー、でもさー。どうせなら、もっと分かりやすくてすごいのがよかった。わくわくしてたのになー」
初春「いいじゃないですか、『誰かをほんの少しだけ優しくする能力』。佐天さんらしくて素敵だと思いますよ?」
佐天「初春は優しいなぁ。…そうだ!」
初春「?」
佐天「初春、もっと私に優しくなーれ!」キュピーン
初春「ちょっと佐天さん!?」
キュピーン
ステイル「…神裂。やっぱり僕らは間違ってるんじゃないか?」
禁書「…?」
神裂「ステイル・マグヌス、その点については、一年前に議論は済んだはずでは?」
ステイル「しかし今さらだが…本当に今さらなんだが。僕は思うんだ。たとえ何度記憶を消すことになろうと、
どれほど失いたくない記憶であろうと、何度も消さなくてはならないとしても」
ステイル「次の一年はそれ以上に幸せな記憶を作れるなら、きっと恐ろしくはないんじゃないだろうか。なかったんじゃないだろうか
僕らは、そのように努力すべきだったんじゃないか?」
神裂「何を…何を今さら!」
禁書「…二人は何を言ってるのかな?まるで、二人が本当は私のともだちみたいに聞こえるんだよ…?」
ステイル「インデックス…。実は、その通りなんだ」
神裂「……」
ステイル「君の脳は103000冊の魔導書に、その容量の90%以上を使用してる。その上君には完全記憶能力がある。
君の脳は一年ごとに記憶を消去しないと、積み重なった記憶に押し潰されてしまうんだ」
禁書「だから私を追い回してたの…?」
ステイル「…そうだよ」
木原「ごほ、ごほん!」セキバライ
木原「あっあー…偶然居合わせた専門家として意見さしてもらうとだなぁ…」
神裂(誰?)
禁書(誰かな…?)
ステイル(誰…)
木原「記憶のし過ぎで脳がパンクするなんざありえねぇ」
ステイル「なん…だと…?」
木原「いいか?人間の脳には優に200年分は記憶を溜めるポテンシャルがあるし、そもそも知識とエピソードは記憶する場所が違う
思考能力、生存に関わる部分はもっと違う。まかり間違って記憶野が一杯になったとしても、それが命に関わるなんざ、絶対に、ねぇ」
神裂「そんな…じゃあ何故私たちはそう教えられて…」
つまりお前らはそいつにノせられた正真正銘の
\ ¦ /
\ ¦ /
/ ̄ ̄ ヽ,
/ ///', / _/\/\/\/|_
\ ノ//, {0} /¨`ヽ {0} ,ミヽ / \ /
\ / く l ヽ._.ノ ””', ゝ \ < バァーカ! >
/ /⌒ リ `ー'′ ' ⌒\ \ / \
(  ̄ ̄⌒ ⌒ ̄ _)  ̄|/\/\/\/ ̄
` ̄ ̄`ヽ /´ ̄
ってわけだな」
ステイル・神裂・禁書「「「……」」」イラッ
ステイル「と、とにかく。これはあのクソアm…最大主教様に問い合わせるべきだね」
神裂「ええ、その通りです。…インデックス、あれだけのことをした私たちを、今さら信用してとは言えない。けどここはどうか私たちについてきてくれませんか?」
禁書「……」
ステイル「何でも食べていいよ、ごちそうしよう」
禁書「し、仕方ないなぁ、罪人を信じてあげるのもシスターの勤めかも」
神裂(餌付けた…)
木原(餌付けだな…)
―4人の足元の学生寮の一室―
上条「布団が良く乾く。ああー、今日は平和だなぁ…」
初春「いきなりひとを実験台にしないで下さい…」
佐天「うーん、あんまり変わらないね」
初春「話を聞いてくださいよー、もう。でも、そうですね、何か変わった感じはしませんね」
佐天「まぁ、初春はもともと私に優しいからね。効かないのかも」
初春「…そうですか?」
佐天「うん、きっとそうだよ。…ねぇ」
初春「はい?」
佐天「大好きだよ、初春」
初春「はははははい!?どうしちゃったんですか佐天さん!?」ボンッ!
佐天「どうもしてないよ、ただちょっと言ってみたかっただけ。いつもそう思ってるんだからね」
初春「わ、私も佐天さんのことは、大事な親友だと思ってます」カァー
佐天「ふふふっ」
初春(素直な佐天さん…?もしかして、自分自身に能力の効果が出てる…?)
木原「おかしい。絶対におかしい。どう考えても俺の人格(ソフト)じゃねぇだろ、あれは。
一方通行を逃がしたのも、あんなクソ場違いな神父だのシスターだのの話に首つっこんだのも」
木原(…能力者か。俺を操ってやがるのか?一方通行の研究を止めさせたい何らかの陰謀…?)
木原(報告すべきか。『一方通行を逃がしました』ってか?馬鹿馬鹿しい。消されるか、今の仕事は出来なくなる。
ああ、クソ、八方塞がりかよ!)
―同時刻、とある通学路―
ニャー ニャー
佐天「あ、初春ー」
初春「佐天さんどうしたんです?…捨て猫?」
佐天「うん…。どうしよう、もうすぐ雨降りそうなのに、こんなところに放っといたら死んじゃうよ」
Pllll...
木原「(ピッ)誰だ」
テレスティーナ「はぁーい、数多」
木原「テレサか。なんの用だ」
テレスティーナ「そっちのLV6候補が死んじゃったって聞いて、一言お悔やみをね」
木原「ちっ、心にもねぇことを…」
テレスティーナ「くくく…いや、本当にお気の毒。どうやらLV6を最初に作り出すのはこっちのようね?」
木原「あァ?」
テレスティーナ「最近ポルターガイストって地震もどきが頻発してるでしょ?幻生の置き土産よ。
あのじじいの実験で意識不明になったガキどもが覚醒しようとして、地震を起こしているんだけど
それがちょーうどいい素材になりそうなのよ」
テレスティーナ「ほえ面かいてろ無能め。あぁ、無能と言えば、あの木山って女もケッサクだったなぁ
例のガキどもの元教師なんだがよぉ、『能力体結晶の1stサンプルがあれば子供達を助けられる』って必死こいてやがんの
立場上『我々でも探させますわ』って言っといたがよ、笑いをかみ殺すのが大変だったぜ」
木原「あぁ、目の前のお前が持ってるんだからな」
―通学路―
初春「でも、どうするんです?私のところも、佐天さんの部屋も、ペット禁止じゃないですか」
佐天「ううう…ジャッジメントの支部じゃ飼えない?」
初春「…難しいと思います。最悪、保健所に送るのを早めてしまうかも…」
佐天「そんなの駄目!…そうだ!」
初春「?」
???「カミやんカミやん、帰りどうする?どっかよってくかにゃー」
?「あの地下街のゲーセン、新しい筐体入ったんやてー」
??「おう、行く行く。…、おまえも行くだろ?」
????「あァ、付き合うぜ」
佐天(物陰)「私たちで飼えないなら、飼える人に拾ってもらおう」
初春(物陰)「それが出来るなら一番ですけど…。でもどうやって?」
佐天(物陰)「まぁ見てなって。えい!」キュピーン
?「ん?捨て猫やん」
???「本当だにゃー。まだ仔猫だぜい」
??「よーしよしよし」
????「撫でるだけなら止めとけよ、どォせ飼えねェだろ?余計な気を持たせるだけだぜ」
??「まぁ、な。かわいそうだが…」
?「ボクんとこの下宿先も、食品扱ってるし…」
キュピーン
???「…こっそりなら、飼えるんじゃないかにゃー?」
??「おいおい、」
????「あァ、別に管理人が見回りに来るわけでもねェしなァ」
??「えー、さっきと言ってることが真逆ですよ!」
?「名前はなんにする?」
佐天(物陰)「ほら、上手くいった」
初春(物陰)「…いいのかなぁ?」
―同刻、とある病院―
Plllll...ピッ
木山「…はい?」
??「木山春生か」
木山「(変声機)……誰だ」
??「能力体結晶の1stサンプルは、テレスティーナが持っている。テレスティーナ=木原=ライフラインが、だ」
木山「!!お前は誰だ、なぜそれを!?」
??「何でもいいだろうがよ。まぁ、強いて言うなら、ヤツに先を越されるのが気に食わない者だ。じゃあな」ブツッ
み○(TV)『次の話題はこちら。学園都市で治安維持組織の女ボスが暴力事件』
み○(TV)『「私のものを盗んだだろう」と言いがかりをつけて、白昼堂々、元教諭の女性をボッコボコ。
…人体実験に関わってるとの噂も…』
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. . .... ..: : :: :: ::: :::::: :::::::::::: : :::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::
Λ_Λ . . . .: : : ::: : :: ::::::::: :::::::::::::::::::::::::::::
/:彡ミ゛ヽ;)ー、 . .木原「何をしてるんだ俺は…」:::::::::::::::::::::::::
/ :::/:: ヽ、ヽ、 ::i . .:: :.: ::: . :::::::::::::::::::::::::::::::::::::::
/ :::/;;: ヽ ヽ ::l . :. :. .:: : :: :: :::::::: : ::::::::::::::::::
 ̄ ̄ ̄(_,ノ  ̄ ̄ ̄ヽ、_ノ ̄ ̄ ̄ ̄
ただじゃあ済まさねぇからなぁぁ!!??』
―――
――
―
木原(んで、三日もしねぇうちに猟犬部隊へ配属か。分かりやすくて結構なことだ)
木原「自分がクズであることの最も嫌な点は、クズどもの中で仕事をしなきゃならねぇことだな…」
猟犬A「は?」
木原「何でもねぇよ、女の恨みはおっかねぇなって話だ」
猟犬A「はぁ…?…ああ、木原さん。ナンシーから通信です。標的を発見した、と」
木原「んなこといちいち報告すんな、殺せ。口を動かすのは『さっさと殺して』からだ」
猟犬A「了解、伝えます(…あんたの方がよほどおっかねーよ…)」
上条「…、じゃーなー!」
土御門「明日にゃー!」
一方「あァ、またな」
木原「よう、楽しんでるじゃねぇか」
一方「……オマエか。何の用だ」
木原「相っ変わらず無愛想なガキだ…。別に。ちっと様子を見に来ただけだ。割と上手くやってるじゃねぇか」
一方「言い出したのはオマエだろうが。止めようと思えば、別に俺はいつでもこンな茶番はお開きにできンだぜ?」
木原「おーおー、ガキが一丁前の口きくじゃねぇか。誰に向かって口きいてるか分かってんのかクソガキ」
一方「……」
木原「……」
一方「はっ。下らねェ」
木原「全くだ馬鹿馬鹿しい。ガキの意地っ張りに付き合っちゃいられねぇな」
申し訳ない
っていうかあはぎゃは状態じゃないときの木原くンのテンションとかよくわかんね
一方「……くねェよ」
木原「あぁ?」
一方「何度も言わせンじゃねェよ。悪くねェ、っつったンだよ、こういうのもなァ。満足か?」
木原「…あぁ。てめぇがミスれば、てめぇを逃がしたこっちにもとばっちりがくるからな。上手くやってんなら、それでいい」
一方「…それだけかよ、『愛してる』とか言ってたくせによォ…」ブツブツ
木原「なんか言ったか?」
一方「何でもねェよ、用は済ンだだろォが、俺ァもう行くぜ。貧乏なダチんとこで鍋パーリィなンでなァ」
木原「あいつ、結構本気で楽しんでんじゃねぇか」
上条「だぁあ不幸だー!」
美琴「何事よ、一体?」
上条「うぉうビリビリ!いつからそこに!」
美琴「私の名前は御坂美琴だって…まぁいいわ、話進まないもの…。どうしたの?」
上条「自販機に…飲まれた…」
美琴「…また?1000円?」
上条「……2000円」
美琴「よく持ってたわね…そんなレアなお札。…仕方ない、ちょっと見てなさい」
上条「え、おい、何する気だ、まさか…」
木原「作戦終了だ。撤収班、消臭剤撒いとけ。あと、おいマイク、ジョーを始末しろ。本番でビビるゴミは残しておけねぇ」
ジョー「そんな、嘘だろ!?」
マイク「了解」スッ
木原「待て」
マイク「?」
木原「マガジンを6個やる。一発も外すな、撃ち尽くすまで殺すな」
マイク「…了解」ガチャ
ジョー「ひぃぃぃ!!」
ガガガガガガ!!
ジョー「いぎゃあああああああああ!!!いだいいだいいでゃああああああ!!!!」
ナンシー「了解。…悪く思わないでね。あんたが悪いんだから」
ジョー「んうううん!!んんんん!!」モゴモゴ
ガガガガガガ!!
ジョー「んぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
木原「ああ、アレイスターか?弟4学区の『ゴミ処理』の件だが…。ああ?後ろが騒がしい?
こっちもこっちでゴミ処理中だ」
佐天「えい!」キュピーン
キュピーン
美琴「ちぇい…さー…」
上条「止めろー…って蹴らないのかよ!そしてスカートの裾押さえて恥らうのかよ!短パンだろ!?」
美琴「いや…。なんだか急に、蹴るのはさすがにまずいかなーって気がしてきて。あと短パン履いてるとはいえ、
スカートの下を見られるって何か、恥ずかしいっていうか…」
上条「ま、まぁ普通はな…」
美琴「……見えた?」モジモジ
上条「いや、寸止めだったしチラとしか…っていうか見えてません見てませんから!」
美琴「……」カァー
上条(いつもと反応が違う!?ってかなにこの空気…。どうしてこうなった!?)
ガガガガガガ!!
ウグンンンン!!ンンンンン!!
木原(電話中)「だからな、(キュピーン)…ちょっと待て」ピッ
マイク「…木原さん?」
木原「……」ダンダンダン!!
ジョー「――……」
マイク「…まだ撃ち尽くしてませんが」
木原「後ろでうるせぇんだよ」
ナンシー(さっきまで平気で会話してたのに、どうしたのかしら…?)
木原「恐縮です、とでも言えばいいのか?」
アレイスター『ふっ。休みなしで悪いが、新しい任務だ。量産能力者計画を知っているね?』
木原「確か…、LV5第三位の『超電磁砲』のクローンを作製し、オリジナルと同様の能力開発を行って、超能力者を量産する計画だったか。
スーパーコンピュータ、樹形図の設計者(ツリーダイアグラム)の演算により、クローンの能力はオリジナルの1%程度と判明し、頓挫したと聞いてるが」
アレイスター『さすがだな、その量産能力者計画だ。計画は、本来の意図では君の言うとおり頓挫していた。
しかし、君が開発していた『一方通行』の絶対能力進化に寄与する形で、再起していたのだ』
幼女「……」ギュ
一方「面倒なもん拾っちまったな…(袖を離しやがらねェ)。ようチビ、どうした?迷子か」
幼女「……うん、ある意味そうかも、ってミサカはミサカは肯定してみる。ミサカは存在理由を見失ったの」
一方「重いな。ガキの癖に」
幼女「むっ。あなただって言うほど大人には見えないかもってミサカはミサカは反論してみたり!」
一方「俺が大人じゃねェことが、オマエがガキである事を否定する理由にはならねェだろ。ガキは普通に生きるだけでいいンだよ」
幼女「……ミサカには、それは許されないの。だって生まれたときから、ミサカは殺される為の存在だったもの、ってミサカはミサカは私たちの存在理由を明かしてみる」
一方「……どォいう意味だ?」
幼女「私たちを殺すはずだった実験の被験者が死んじゃったの、ってミサカはミサカは説明してみる。一方通行って人なんだけど…」
一方「!!」
木原「…どういうことだ?(なぜここでアイツの名前が出る…?気づいてやがるのか?やつが生きていることに)」
アレイスター『『2万通りの戦闘パターンで、量産能力者を2万回殺害すること』。一方通行の絶対能力進化計画の概要だ』
木原「……(さすがは学園都市のボス、俺たちなぞ目じゃないレベルでイカれてやがる!)」
アレイスター『そのために実は既に結構な数の量産能力者『妹達(シスターズ)』が作製されていたのだ。
しかし、君も知っての通り、一方通行がああいうことになってね。結局、『妹達』は破棄が決まった』
木原「なるほど、その『ゴミ処理』を我々にやれ、というわけか?」
アレイスター『察しが早くて助かる。『妹達』は軍用クローンで、自身の危機には抵抗する手段を選択するようプログラムされている。』
木原「おいおい、いくら相手がインスタントとはいえ、大人数同士でドンパチ撃ち合えっつーのは『猟犬部隊』には荷が重いぜ?」
アレイスター『彼女らには反乱防止のシステムが組み込まれている。『最終信号』という名前の個体だ。
とある病院に、その個体を含む『妹達』が終結している。『最終信号』さえ回収してくれればいい。それが任務だ』
木原「了解だ」
木原(どうやらアレイスターは、一方通行の死を疑ってねぇな)ホッ
木原(とにかくあいつに関わる実験とその関係者は早めに潰しちまうべきだ、俺の安全のために。ちょうどいい仕事じゃねぇか。くっく…)
一方「打ち止めっつったか。つまりオマエは一方通行の標的として『生産』されたクローンたちの一員で、
その一方通行がくたばりやがった為に、廃棄処分されそうになってる、と?」
打ち止め「おおむねそれで合ってるよ、ってミサカはミサカは歩きながら頷いてみる。ミサカたちはこれから、
調整を受けてた病院に立てこもって最後の抵抗をするつもり」
一方「……」
打ち止め「あ、病院が見えてきた、ってミサカはミサカははしゃいでみる!ここまででいいよ、送ってくれてありがとう、
ってミサカはミサカは名前も知らないあなたにお礼を言ってみたり。私たちのこと、最後に誰かに話せてよかった」
一方「…あァ」
打ち止め「さよなら、ってミサカはミサカは走りながら手を振ってみる。ばいばーい」タタタタ...
一方(…俺があいつらを助ける理由は無ェ)
一方(話から判断するに、実行すンのは学園都市の暗部だ。俺がしゃしゃって行けば、確実に『一方通行の生存』を知らせちまう)
一方(木原にも、危険が及ぶ。せっかくアイツがこっちに押し上げてくれたのに、無駄にしちまう)
一方「……」
木原「てめぇのそれは、光の世界に相手にされないから闇に浸る、逃げだ。
てめぇで積極的に闇を目指してるわけじゃねぇ。それじゃあ、闇の世界でも這い回るだけだ」
木原「いいから騙されたと思って行っとけ。明日からてめぇは髪を染めてカラコン入れて、
レベル0、ちっと顔色が悪ぃ、ただのガキとして生きるんだ。
その上で、てめぇで闇に生きようと決めたんなら…いつでも戻って来い」
―――
一方「どォやら、俺はこの決断をする為に、オマエに光の世界に押し上げて貰ってたんだ」
久々に、反射がオンになる。髪を染めていた染料がどんな漂白剤を使うより速やかに流れ落ち、瞼の下でカラーコンタクトが砕け散る。
赤く、白く。
学園都市第一位が復活する。
ナンシー「手間取ってますね。連中、病院のそこかしこにバリケードを設置して粘ってます」
木原「チッ」
木原(猟犬部隊は軍人じゃねぇ。襲撃してさっさと殺すのには慣れてても、正面きっての撃ち合いなんざ未経験だ)
(アンチスキルどもは理事会が抑えてるが、いつまでも時間かけるもんじゃねぇし……)
木原「最低限の本部要員を残して、突入部隊に回す。俺も出るぞ。着いて来い」
猟犬「了解」
『ミサカ00004号より、一階西口バリケード、状況イエロー。敵の攻撃は散発的。負傷者なし、弾薬にも精神状態にもまだ余裕があります、とミサカは報告します』
『ミサカ11443号より、正門エントランスバリケード。こちらは不気味なほど静かです。状況ブルーとミサカは報告します』
『ミサカ00356号より、一階東口バリケード、状況レッド。こちらが敵の主攻と思われます。負傷3名、死者なし、弾薬の損耗が激しいです。応援求む、とミサカは報告します』
『ミサカ00001号より11443号へ。東口バリケードへ予備戦力の一部を回して下さい、とミサカは指示します』
『ミサカ11443号より00001号、了解』
……あれ、シスターズの10032以前は全部一方通行に殺されてなかったっけ?
絶対能力進化実験が始まるより前に、この一方さんは死んだ(ことになっていた)わけさ。
ズズン!!
『ミサカ00001号より全ミサカへ。今の衝撃は何...ザザ...か?と...告を...ザザザ...す』
『ミサ...ザザ...がECMを使y...ザザ...通信は不可能...ザザ』
『正門...ザザ...奇襲...ザザ...!』
木原「ぎゃはははははは!!てめぇらのスペックは解析済みなんだよ、廃棄物どもめ!」
ガガガガ!!
11443号「退却!正門エントランスを放棄、退却!」
デニス「逃がすか、よ!」ドカ!
11443号「くぅっ」
デニス「やれやれ、ようやく血が見られる。じゃあな、お嬢ちゃ…」
って20001人が全員病院にいるのか?
入りきるのかwww
まぁ100人くらいってことで
打ち止めだって、使用用途からしたら最初に作られてなきゃおかしいのにシリアルナンバ20001だし、
多分あのシリアルナンバって適当だと思うんだ
シリアルナンバって通し番号のことだから色々おかしいけど
気にスンナ
デニス「!?」
11443号「!?」
木原「!?」
一方「血が見てェのか?…叶えてやるよ」
デニス「ぶぎゅ?」びしゃ
一方「ひゃははははははははは!!!」
一方・木原「「何で(オマエ/てめぇ)がここにいやがる!?」」
一方「暗部の仕事をしてるのァ知ってたが、アレイスターの犬までやってたかよ。…知りたくなかったぜ。
クソムカつく大人の代表格のオマエが、人にペコペコ媚売ってる姿はよォ」
木原「ムカつくガキだ、相変わらず。てめぇはどうした?責任でも感じちゃったのかこいつらに?いつからそんなおセンチな人間になったよ?」
一方「…オマエのせいだろうが…!」
木原「あぁ?」
ヴェーラ「一方通行、動くな!」ガチャ!
11443号「うう」
一方「くっ…」
木原「ああ、良くやったヴェーラ。ちょっと動くなよ…」ガシャ
ヴェーラ「?」
ダンダン!
11443号「ひっ…?」
ヴェーラ「何…故」バタ
木原「悪ぃな、俺、裏切るわ」
一方「木原?」
一方「……」
木原「愛だなんだなんざじゃねぇ。てめぇが生きてるのが知れちまった以上、猟犬としての役割を果たしても俺に先はねぇのさ。
いくらでも換えのきくクズどもよりは、学園都市第一位のてめぇとの抱き合わせの形に持ってった方が、俺の生存に有利だ」
一方「それだけの為に、部下を撃ったのかよ?」
木原「悪いか?」
一方「…いいや。っは、強かな野郎だ。大した悪党だな、オマエ」
木原「あぁ悪党といやぁ…」ツカツカツカ
一方「?」
ガツン!
木原「てめぇ、せっかく人が押し上げてやった光の世界から、何あっさり転げ落ちてやがる!!」
一方「!!??」
木原「…反射越しに殴られたのが納得いかねぇか?愛の力だ!」
(本当は拳の返しを利用した体術だが)
一方「…愛なンざじゃねェンじゃねェのかよ…」
一方「まァ、堅気の世の中も悪かなかったがよ。だが、こっちに身を置かねェと守れねェものもあンのさ。
俺があっちにいたのは、それを知るためだったンだと思ってる」
木原「半人前が知ったような口を…」
一方「それによ」
木原「あ?」
一方「オマエは闇の側だろ?」
木原「あぁ、さっきてめぇも言っただろう。俺は悪党だ、とびっきりのクソったれのな」
一方「だったら、俺もこっちでいい。オマエと同じ悪党がいい」
一方「……」
木原「気色悪いんだよ!」ガツン!
一方「ぐはっ!…オマエ…!」
木原「そらとっとと行け。まだ戦闘は続いてんぞ。猟犬どもは俺が無線で適当に混乱させとくから、適当にブッ潰してこい」
一方「オマエ…戻ったら覚えとけよ!」ダッ
木原「けっ、ガキめ。ちっと甘い顔すりゃ、すぐに懐きやがる」ニヤニヤ
木原(ま、あいつを味方につけときゃ、そうそう簡単に粛清はされねぇだ…)
ダァン!
木原「…チッ」ドサ
ナンシー「裏切り者は殺す。あなたがいつもしてきたことよね?」
木原「……」
ナンシー「でも残念だわ、あなたの事はいつも好きだったのに。じゃ、さよな…」
ガシャ!
ナンシー「!?」
ダンダン!!
木原「……」ヨロ
ダンダンダンダンダンダン!!
ナンシー「――……」
木原「…口を動かすのは殺してからだ、っていつも言っといたよな?」
木原「ごぶっ(ビシャビシャ)…。チッ、肺を抜いてやがる…。やっぱり、あいつなんざ、大…嫌い…」ドサ
木原(一方通行、てめぇなんざ大嫌いだ)
木原(てめぇみたいなクソ生意気なクソガキのために、俺はこんな下らない死に方をするハメになっちまった)
ズズン…!
木原(ったく、人が大変だってのも知らずに気分良さそうに暴れやがって…)
木原(だが、まぁ…)
木原(お前を作り上げたっつーのは、俺の人生の誇りってことにしてやらねぇこともねぇ)
木原(あぁ、悪くねぇ人生だった)
一方「よォ、ゴミ虫退治なんざあっという間だったぜ、さっきはよくもやってくれやがったなァ」
一方「何だよ俺を働かせておいて何座りこンでやがる。ひとりで楽しやがってよォ」
一方「おい、どうした、ムカつく口はお休みですか木原くン?」
一方「おい?…おい、起きろよ」
一方「……木原?」
(了)
でも知るかオナニーだし
オマケを後でちょっと書く
お付き合いありがとうございました
え?
本気で涙腺を破壊しに来てるじゃねェか畜生
佐天「うん、序列8位。びっくりだよね」
初春「はぁー」
佐天「ある意味1位だーなんて私を研究してる人は言ってたよ、手前味噌だろうけど」
初春「なんだか、佐天さん凄い人になっちゃいましたね…」
佐天「そんなことないよ、だって相変わらず何もできないもん」
初春「ふふっ。まぁ『何も起こらなくさせる』のが佐天さんの能力みたいなものですからね」
佐天「何か私に似合ってるかもね、そう考えると。えーい!」キュピーン
ーとある街角ー
不良「へいへーい彼女ー遊ぼうぜー」
女の子「困ります…」
不良「んだとごらぁぁぁ」
キュピーン
不良「怖がらせてごめんね、出直すわ」
女の子「あ、はい」
アウレオルス「敢然、あの子を救うべく吸血鬼の研究をしようと学園都市に来たが、ふと思いついてイギリスに連絡したらあの子はもう治療されていたそうなので、止めることにした」
キュピーン
神裂「攻撃がとまった…?」
ミーシャ「回答の一、エンゼルフォールされたのはムカつくが、人間が頑張っているそうなので術式解除を少しだけ待ってあげます」
神裂「」
海原(偽)「いきなり分解とかするわけないじゃないですか」
キュピーン
天井「ょぅι゛ょかわいいぺろぺろ」
キュピーン
シェリー「エリスはきっと復讐なんて望んでないから、学園都市襲うのやめるわ」
キュピーン
ヴェント「弟はきっと(ry」
「機械が能力を持つかどうかより、年下の男の子の方が重要よね」
キュピーン
キャーリサ・ヴィリアン「「私たち仲良し!」」
エリザード「善き哉善き哉」
ナイトリーダー「嬉しゅうございます!」
キュピーン
ショチトル「お兄ちゃん大好き!」
海原(偽)「はっはっは、ショチトルは甘えん坊さんですね」
キュピーン
美琴「当麻大好き!ちゅっちゅっ!」
上条「どうしたビリビリィィィィ!?」
駒場・半蔵・浜面
「「「俺たちゃ義賊・スキルアウト!堅気のもんには手は出さねぇぜ!」」」
キュピーン
滝壺「柵川中学の方から信号が来てる…」
麦野「最近暇ね…」
絹旗「私たちの仕事が超すくないのは超結構なことなんですよ。それよりこの映画…」
フレンダ(完全体)「結局、…なんだっけ?」
キュピーン
フィアンマ「リモコンで女の子を操るなんて小物臭い真似、俺様ができるか」
アレイスター「『あれ』を、排除せよ」
アレイスター「計画の遅延が、許容の範囲を遥かに超えている。原因は弟8位『物語殺し(ストーリーブレイカー)』だ」
アレイスター「彼女を排除せよ、可及的速やかに、いかなる手段を用いても」
暗部部隊員「しかし…」
アレイスター「どうした?」
暗部部隊員「子供に危害を加えるというのは、いかがなものかと」
アレイスター「ぐぐぐ、ここまで影響が出ているとは…。もういい、私が出撃する。『杖』の用意を…」
キュピーン
アレイスター「…普通の学園理事長というのも悪くはないか」
アレイスター「廊下を走るなと説教したり、長い挨拶で子供達をうんざりさせたり」
アレイスター「そういう生き方もいいかも知れん」
佐天「うわ!?落雷!?」
佐天「びっくりしたねー初春…初春?」
佐天「あれ…初春がいない…っていうか、ここ、どこ?」キョロキョロ
??「佐天涙子よ…」
佐天「誰?」
神「私は神だ」
佐天「へ?」
神「お前の能力は私の領域を侵し、物語を破壊している」
佐天「うっ!あ、頭が…割れる…!」
神「運命を捻じ曲げる力、この世界には不要だ」
神「全ては理想のため、物語のため…消えろイレギュラー」
佐天「うわぁぁぁぁぁぁ!!」バリバリ!
俺「私だ」
神「お前だったのか」
俺「また騙されたな」
神「全く気づかなかったぞ」
神「あまり世界を好き勝手に弄ぶな」
俺「ハッピーエンドとか…好きだから」
神「情熱を持て余した」
俺「作者様(笑)の」
俺・神「「手慰み」」
木原「…生き…てんのか?」
カエル顔の医者「当たり前だね?君はどこで負傷したと思っているのかな?」
木原「そういやぁ…病院だったなぁ…」
カエル顔「『私の』病院だね?…まぁ偉そうなことを言ったけど、彼の処置が無かったら危なかったかも知れないね?」
木原「…?」
一方「……」スースー
カエル顔「肺といくつかの大きな血管が破れていたんだけどね?ガス交換も血流も、あたかもそんな傷が無いかのように行われていたよ。
破れた血管を飛び出した血液が、まるで透明なチューブを通るようにまたもとの血管に戻っていくんだ」
木原「…ったくこのクソ生意気なガキめ…」
一方「……」スー
木原「愛してるぜ」
一方「なン……だとォ……?」ムニャムニャ
今度こそ
終わり
木原君殺さないでいてくれてありがとう( ;∀;)
佐天さんチートすぎだろwww
優しくなってもヤバいのが何人かいたなw
Entry ⇒ 2012.01.14 | Category ⇒ 禁書目録SS | Comments (0) | Trackbacks (0)
ケンシロウ「世紀末からあと3ヶ月で12年か」
預金は枯れ、無い内定、あらゆる就職先が絶滅したかに見えた!
だが…!
会社員は死滅していなかった―!!
ジャギ「まぁ滅びかかってはいるがな」
ケンシロウ「」←無職
ラオウ「」←無職
トキ「」←学生ニート
シュウ「南斗みんなで会うのも久しぶりだな」
シン「シュウに誘われたら無碍に断れん」
ユリア「シンったら素直じゃないんだから」
ユダ「素直にユリアとバーベキュー楽しみでしたって言えばいいじゃないか」ヒソヒソ
シン「ばっ!? 馬鹿言え!!」ビクッ
シュウ「はは、相変わらずだな」
サウザー「さっさと帝王に肉をもってこい」
シュウ「オフになると園長も相変わらずだ…」
シン「具材はサザンクロスの提供だ。一番いいところを持ってきた」
シュウ「シン、助かったよ」
シュウ(園長の口に合う物となると高くつくからなぁ…)
ユリア「やっぱりシンは頼りになるわね!」
シン「いや、折角のバーベキューだからな…」
ユダ「ユリアの前だからって張り切っちゃって」ニヤニヤ
シン「…!」グググッ
ユダ「…!」グググッ
ユリア「喧嘩しない」
シン「北海道の大地で育った栄養豊富な玉ねぎだからな」
ユダ「このかぼちゃ、甘さだけじゃなく…こう、深みが…」
シン「わざわざ岐阜から取り寄せているからな。これからのシーズンの目玉だ」
シュウ「この椎茸のプリプリさ! まるで海老の食感だ!!」
シン「はは! そう誉められたら栃木の農家の方々も本望だろう」
サウザー「帝王に肉以外などいらぬ!」
シン「成人病になれ」
サウザー「言われてみれば、貧相な水鳥が見当たらんな」
シン「…」
ユリア「…」
シュウ「まだ来てないのかな?」
ユダ「いや、既に…ブフッ 来てるよ」クスクス
シュウ「え?」
サウザー「どこだ?」
レイ「……はは」ヒラヒラ
シュウ「……ん?」
サウザー「何を言ってる。見知らぬ女が座ってるだけじゃないか」
ユダ「酷いなぁ、六星の仲間に見知らぬなんて」
レイ「…れ、……REIでーす」キメッ
シュウ「」
サウザー「」
全く別の世界で生きる二人は繰り返す毎日の中少しずつ離れていく!
マミヤとのすれ違いに疲れきったレイはトキに悩みを打ち明ける!
レイの力になりたいトキは藁にもすがる思いで天才科学者アミバを紹介したのだった!
シュウ「そんな事があったのか…」
ユリア「マミヤさんの事となると周りが見えなくなるんだからっ」
シン(俺は評価するぞ…見事な執念だ!)
ユダ「うーんッ! 恥じらう姿も美しい!」
シン「服も見事に着こなしてるな…」
ユリア「元々スタイル良かったしね…」
シュウ「…園長、どうしました?」
サウザー「て、帝王に愛などいらぬッッッ!!」ゴゴゴゴゴ
ユリア「急にどうしたのよ!」
帝王なので踏みとどまったようです
ユリア「あら、お肉嫌いだっけ?」
レイ「いや、女になってから好みが変わって…」ムシャムシャ
ユダ「もっとかぼちゃを。緑黄色野菜は美と健康の星なのだ」
シュウ「お! 茄子もうまいなぁ」
シン「キャベツぐらい食え」
サウザー「葉っぱなどいらぬ」
こうして! 南斗六星BBQは滞りなく(?)終わった!
11年経っても変わらぬ友情を確かめ合い、再びそれぞれの道へと戻っていったのだった!
ケンシロウ「あー、南斗乱れねーかなー」
ラオウ「出番が足りぬぞ」
黒王号「ブルブルッ」
ジュウザ「…」
ラオウ「ぬ!?」
ジュウザ「…」
ラオウ「…なんだ?」
ジュウザ「この雲のジュウザの命、あんたにくれてやる!」バンッ
ラオウ「いらぬ。北斗家のペット枠は一杯だ」
ジュウザ「…残念だ」
前より悪化してんじゃねぇかwwww
ラオウ「うぬこそっ」
トキ「やめろ二人ともっ …ジャギに見つかる」
アイリ「あ! これとかどうですー?」
ジャギ「うーむ、こっちの柄の方が似合うと思うぞ」
アイリ「そう? 試しに着てみようかなー」
ラオウ「ジャギの分際で」
トキ「私の方がイケメンなのに」
ケンシロウ「二人とも凄く醜いぞ」
アイリ「でね、でね、でねー」
ジャギ「ははは、話に脈略がないぞー」
ラオウ「なんだアレは」
トキ「手の一つも繋がず何がデートかっ」
ケンシロウ「愛するが故に見守る愛もある」キリッ
トキ「ほーおー?」
ラオウ「何だ? 今日は妙に常識人ぶるなぁ?」グリグリ
ケンシロウ「嫉妬カコワルイっ」
ジャギ「おいおい、そんなに急がなくても…」
モヒカン「ヒャッホー!! かっ飛ばせー!」
ジャギ「危ねぇ!」
アイリ「…へ?」
ドカァァッッ
モヒカン「りちっ」ドサッゴロゴロゴロ
ジャギ「ぐっ…大丈夫か?」
アイリ「あ、ありがとう…ジャギさ……」
トキ・ラオウ・ケンシロウ「あッ!!」
ジャギ「!? メットがっ!?」
アイリ「あ、あの」
ジャギ「み、見たな!?」
アイリ「は、はい…」
ジャギ「ぐっ…!」
モヒカン「ぐっ…バイクは無事か?」グイッ
バキッ
モヒカン「あわびゅっ」
ジャギ「見たって! 見たってさー!!」ブォォォォンッ
ラオウ「泣いておったな」
トキ「無理もないな」
ケンシロウ「そこ、ニヤニヤを抑えろ」
元々も残念な顔だったにも関わらず一度あべし済みのジャギの顔!
アイリとの付き合いも一歩引いてしまう一番の原因!
アイリを守る為とはいえ、一番引け目を感じていた部分を晒した事で、ジャギは深く傷付いた!
そう、北斗家の食卓が三食出来合いになる程に!!
トキ「今は洒落を言っている場合じゃないぞ」
ケンシロウ「誰もこの状況と出来合いの飯を掛けてねぇよ」
ラオウ「あの愚図、いつまでいじけておるつもりだ」
ケンシロウ「このままだと栄養失調になってしまう」
トキ「私の介護も雑になってきたし」
ケンシロウ「ここは一つ、ジャギ・アイリラブラブ大作戦といくか」
ラオウ「フ、全く世話の焼ける奴よ」
アイリ「…ユリアさん、話って何だろ」
アイリ「今はそれどころじゃないのに…」
「ヒャーッハーッ」
アイリ「え!?」
モヒカン(ケン)「汚物はもう死んでいる」
アイリ「…え」
モヒカン(ラオウ)「汚物は滅せいッッ」
アイリ「汚物汚物連呼しないで下さい!!」
アイリ「何なんですか!? その格好!?」
モヒカン(ケン)「俺達はモブキャラ。北斗家とは何ら関係ない」
モヒカン(トキ)「ヨーネーチャン、チョットツキアエヨー」
アイリ「無理がありすぎです!」
ジャギ「…あれは!」
モヒカン(ラオウ)「お茶に付き合わぬのならアイリにも死あるのみ!!」ゴゴゴ
モヒカン(ケン)「嵌り役すぎて怖い!」
アイリ「いやー!? ゴツキモいよー!!」
ジャギ「止めろ!!」バッ
アイリ「ジャギさん!」
モヒカン(ケン)「土下座しろ!」
モヒカン(トキ)「破顔拳されてーか!」
ジャギ「ぐっ…」
アイリ「ジャギさん…」
ジャギ「こいつらは俺が食い止める! 早く逃げるんだ!」
モヒカン(ケン)「汚物は消毒ォアタァ!!」
バキッ
ジャギ「ぐはっ!」ボコッ
モヒカン(ケン)「…あれ」
モヒカン(トキ)「ちゃんと手加減しないと駄目だろ!」ヒソ
モヒカン(ケン)「いや、ちゃんと避けて反撃できるようにしたんだけど…」ヒソ
モヒカン(トキ)「見てろ! 有情拳はこうやるんだ!」ヒソ
モヒカン(ラオウ)「これぞ天をも握る手加減!」ヒソ
ボカッ シュビッ
モヒカン(トキ)・モヒカン(ラオウ)「あ」
アイリ「ジャギさん!」
ジャギ「大丈夫だ…早く逃げろ!」ダラッ
ジャギは社会人になる際に自らの拳を封印した!
封印是即ちいかなる危機にも解くことのできない足枷!
ジャギはこの屈強な男達からアイリを守る為、決死の仁王立ちをするのだった!
モヒカン(ケン)「いつもみたいに羅漢撃とか使えばいいのに…」
モヒカン(ラオウ)「今日に限っておかしいな…」
モヒカン(トキ)「いかん…ジャギのコスモが弱くなってる」ヒソ
モヒカン(ケン)「しかし、このままでは計画が…」ヒソ
ジャギ「がァッ!?」グイ
モヒカン(ラオウ)「この腰抜け…見損なったわ」
モヒカン(トキ)「いかん! ラオウがキレた!」
モヒカン(ケン)「ダメだラオウ! 今殴ったら本当に滅しちゃう!」
アイリ「ジャギさんを離して!!」バッ
ジャギ「アイリ!?」
モヒカン(ラオウ)「何故この腑抜けを庇う!」
アイリ「ジャギさんは腑抜けじゃない! 人の痛みの分かる強い人なんだから!」
モヒカン(ラオウ)「ならばその節穴で本当に強いか見届けるがいい!!」
モヒカン(ラオウ)「天んんんに召ッッッせぇぇえええいッ!!」グァァァッ
「俺はユリアを守る!」
「私はラオウみたいに強くなりたいな」
「俺は天を掴む! トキ、お前に追いつかれなどせん」
「ジャギ、お前はどうするんだ?」
モヒカン(ラオウ)「がッ!? 針!?」
北 斗 千 手 殺
ジャギ「はッ― はッ―」
モヒカン(ラオウ)「…見事だ」
ドサッ
ケンシロウ「迫真の演技だったよ兄さん!」
ラオウ「ジャギに一撃入れられた…」シクシク
トキ・ケンシロウ「…」
トキ「でもこれで二人は…」
「よくも弟分を!!」
ケンシロウ・トキ「え!?」
ケンシロウ・トキ(親父ー!!!?)
ジャギ「…」
アイリ「ジャギさん」
ジャギ「心配するな」
モヒカン(リュウケン)「北斗神拳奥義…七星点心!!」スァァァッ
スッ
モヒカン(リュウケン)「何!?」
ジャギ「今日だけ…今だけでいい……アイリを守る力を!!」
ジャギ「天翔百裂拳!!」無
ジャギ「北斗剛掌波!!」想
ジャギ「天破、活殺!!」転
ジャギ「北斗羅漢撃!!」生
モヒカン(リュウケン)「ひでぶぅ!!」ブギャッ
アイリ「ジャギさん!」タタッ
ジャギ「来るな!」
アイリ「!」
ジャギ「わかってたんだ。俺はアイリに相応しくないって」
ジャギ「こんなバケモノじみた顔、誰の愛も…」
パチンッ
ジャギ「…」
アイリ「馬鹿」
ジャギ「!」
ジャギ「でも、俺の顔見た時震えて…」
アイリ「あれはジャギさんに抱かれてドキドキしてたからよ! 言わせないで…」
ジャギ「アイリ!」ダキッ
アイリ「ジャギさん!」ギュッ
ケンシロウ「愛を取り戻したか」
トキ「それ思いついたけど地雷っぽいから止めた」
ラオウ「ベタすぎる」
ケンシロウ「うるさい!」
ケンシロウ「とりあえず、晩飯は期待できるかな」
アイリという太陽に照らされ、愛の花咲く春が訪れたのだ!
それに伴い、北斗家の食卓も再びジャギの手料理に戻った!
そればかりではなく、時々アイリとの共同料理が出るようになった!
アイリの花嫁修行は順調に進んでいる!
ジャギ「味はどうだ?」
トキ・ラオウ・ケンシロウ「あまーい」
アイリ「もうっ」ポッ
リュウケン「」☆
ガチャッ
ジュウザ「…」
アミバ「…」
ジュウザ「この雲のジュウザの命、あんたにくれてやる!」バンッ
アミバ「ほう…」
アミバ「なるほど、いい締まりをしている!」
アミバ「合格だ」
ジュウザ「しゃあッ!」☆
ジャギ「新聞、と…お知らせ?」
ジャギ「おーい、みんな」スパン
トキ「おはようジャギ」
ジャギ「おはよう兄者。ラオウ兄者達は?」
ラオウ「おうジャギ、今日はいつもよりのんびりだな」スパン
ジャギ「おはよう、…なんで汗だくなんだ?」
ケンシロウ「朝稽古してたからだ。いい汗かいたなぁ!」
【町内運動会のお知らせ】
ジャギ(絶対これの影響だ)
ジャギ「地域の親睦を深める意味合いを込めてらしいが、優勝チームへの商品見ろよ」
トキ「お米一年分…?」
ジャギ「そうだ!一年分だ! これはどんな手を使っても勝たねば!」
ラオウ「安心しろジャギ、この拳王がいる限り北斗家に敗北は無い」
ケンシロウ「ガイアが主人公として輝けと囁いている」
ジャギ「世紀末以来のやる気マンマンぶり! 期待してるぞ!」
…
ジャギ「…」←赤
トキ「…」←赤
ケンシロウ「…」←白
ラオウ「…」←白
見事に分かれました
ジャギ「ん? なんだ、下に小さく何か書いて…」
※負けたチームは一年分の米を納めて下さい※
トキ「」
ジャギ「」
ラオウ「白組恐怖の伝説は今より始まる!」ムキッ
ケンシロウ「白組を倒そうという奴には全てこの拳で応えるのみ!」ムキッ
ニート、下克上のチャンス
トキ
ジャギ
シン
レイ
シュウ
白組
ケンシロウ
ラオウ
サウザー
ユダ
ミ ス タ ー X
トキ「誰だこのチーム分けした奴」
シン「ミスターX…一体何者なんだ…」
| |ス
ゴ| |タ
||〓〓〓〓〓〓〓〓||
ル| |ト
| |
ケンシロウ「何この壁」
シン「どこがレーンだ?」
バット「説明します、一度しか言わないのでよく聞いて下さい」
バット「皆さんは、その壁の内側だけを走って下さい。最初にゴールしたチームに勝ち点が入ります。以上!」
シュウ「つまりレーンは一つという事…!」
バンッ
ヒュィィィンッ
トキ「先頭に立てればこの勝負、必勝…!」ヒュイイイッ
ラオウ「北斗剛掌波ァッ!!」ゴッ
トキ「な…ッ ああああああッ!?」ドガァァッ
ラオウ「前の者など倒して進めばよい」ズゥゥゥン
シン「トキィ!! 目を覚ませぇ!!」
トキ「」
シン「くっ!」
ラオウ「どけ小物。うぬに興味などないわ」
シン「俺様を見下した台詞は吐かせん!」
シン(とはいえ、この闘気! 対峙するのがやっと…!)
ラオウ「ぬぅんッ」ドンッ
シン(トキ…早く目を覚ましてくれ!)
ラオウ「むんッ」ムキィ
ドガッ
シン「馬鹿な!? 受け止めただと!?」
ラオウ「そのような怯えた拳では傷一つ付けられぬ!」
ラオウ「塵と砕けよッッ!」グァッ
シン「がはぁあッ!!」ズザァァッ
両陣営―
ユダ「わが組は圧倒的じゃないか」
シュウ「誰かラオウの行進を止められる者はいないのか!」
「―待てッ」
ラオウ「…ほう、まだ立つか」
シュレン「拳王の行進は…この俺の命で食い止める!!」メラメラッ
ラオウ「」
ユダ「あれは有りか?」
シュウ「…無しかな」
ラオウ「…」バッ
シュレン「まっ マントで前が!?」
ラオウ「ぬんッ」ズブッ
シュレン「あ―」ピキーン
ラオウ「新血愁を突いた。うぬは3日後に死ぬ」
シュレン「ひ、ひぃい!?」
ユリア「やっぱり駄目だったわね」
ケンシロウ「今の秘孔下痢のツボだし」
シン「俺とやり合えるな」ユラッ
ラオウ「雑魚が何匹も…」
シン「あんな執念の足りん奴と比べて欲しくないな」
ラオウ「ならばその執念とやら、試してやろう」
ラオウ「どこからでも打ってくるg」
南 斗 弧 鷲 拳 奥 義
シン「南斗翔鷲ぅッ!?」スカッ
レイ「いきなり奥義撃った!」
ユダ「様式美がなってないな」
ケンシロウ「あーゆーのユリア嫌いって言ってた」
ラオウ「ふ、その執念、本物らしいな」ドキドキ
シン「な、南斗弧鷲拳…」グラッ
ラオウ「見事だ、本当に見事な執念だった」
ラオウ「この拳に我が生涯の全てを込めてッッ!」
シン「…翔鷲」☆
ラオウ「天に召せぇぇぇい!!」
ゴォォォォオオッ
シュウ・ジャギ「消し飛んだー!?」ガビーン
シュウ「審判! あれ反則でしょ!」
バット「壁内を通って最初にゴールすれば後はなんでもいいです」
ジャギ「まずい…全員兄者に殺されるぞ」
シュウ「和気あいあいとした運動会が何故こんな事に…」
ユリア「お米のせいね」
マミヤ「お米ね」
シン「」☆
ヒューイ「しっかりしろ!」
フドウ「もう直ぐ保健室だ! 気を確かに!」
バンッ
ヒューイ「先生! 急患です!」
アミバ「ほう、それは手術しかないな!」
シン「」★
レイ「知ってるだろ、あいつが負けず嫌いなの」
ケンシロウ「ああ、最後の最後まで負けず嫌いで…」
レイ「なにもこんなところで」
ケンシロウ「言うな!」
レイ「…」
マミヤ「サウザーがゴールしてるのに気づかないなんてねぇ」
ユリア「あればっかりはないわぁ」
白→10点
トキ「気絶してしまって申し訳ない」
シュウ「気にするな、次で取り返そう」
レイ「しかし、接触しうる競技では勝ち目がないな」
ジャギ「戦闘力では勝てないからな」
トキ「ああ」
シュウ「全く」
レイ「その通りで」
ジャギ「ごめん、一辺死んでくる」
ジャギ「だ、大丈夫かこれ…」
サウザー「フハハハ! 己の不運を呪うがいい」
スタート
↓
超平均台
↓
超網潜り
↓
超飴探し
↓
借り物
↓
ゴール
マミヤ「借り物だけ普通ね」
ユリア「ネタ切れでしょ」
サウザー「極星十字拳!」ザンッ
ジャギ「ばわっ」
レイ・シュウ「え――――――?」
ユリア「倒した方が早いものね」
マミヤ「そこに気付くとは…」
サウザー「勝てばいいのだ!!」アミアミ
ケンシロウ「調子に乗りすぎだろ」
ユダ「自分の名言が合わないからって」
バシャッ
サウザー「冷たっ!?」
ジャギ「そうだ、お前の言うとおり勝てばいい」シュボッ
サウザー「や、止め…」
メラァァァァアアアアッッ
サウザー「アアアアアアアアアッ―――」
ジャギ「ヒィャハハハハハハハハハ!! どうだ悔しいか!!」
ユダ「あーあ」
ケンシロウ「本気になったジャギは瞬間風速でユリアを超えるからな」
ジャギ「さて、ゆっくり飴でも探すか」
ジャギ「ん…これは…もしや!?」
シュウ「ジャギー!! メット!メット!」
ジャギ「くっ!? なんとか!」グリグリ
メラメラメラ…
ユラッ
トキ「まずい! ジャギー!! 後ろ後ろ!!」
ジャギ「んだよ、後ろだぁ?」
ゴウッ
ジャギ「うわっ 熱っ!?」
サウザー「帝王に逃走は無いのだぁぁあああああ!!」メラメラッ
ケンシロウ「キャー!聖帝様カッコイイ!」裏声
ラオウ「不死鳥ー!!」裏声
ジャギ「ばわっ」ビギャッ
サウザー「フハハ…飴玉は2つもいらぬ(?)」コンガリ
マミヤ「ちょっと何言ってるかわかんないですね」
ユリア「というか彼は最早誰なんでしょうね」
サウザー「むうっ!?」
【愛】
サウザー「わざとだろ! 誰だ書いたやつ!」
サウザー「愛などいらぬと言ってるだろ!」
マミヤ「体真っ黒顔真っ白で何叫んでるんですかね」
ユリア「さあ?」
白組→10点
レイ「ジャギ、ナイスガッツ」
ジャギ「ジャンプを仕込んでたおかげで助かったぜ」
シュウ「この調子で逆転だ!」
赤組『オー!!』
トキ「さあこの勢いに乗って、次の種目もっ」
第三種目「世紀末玉入れ」
トキ「えー? 欠員でてるのにー?」
シュウ「いくらトキのコントロールとスピードでも流石に二人分の働きは…」
ジャギ「…なあ」
トキ「何だ?」
ジャギ「ミスターXって誰だ?」
シュウ「あ」
レイ「忘れてた」
ジャギ「どいつだ?」
レイ「そもそも来てるのか?」
シュウ「あ!! あいつじゃないか?」
トキ「…え、アレ?」
レイ「確かに額にXって書いてるけども」
ジャギ「俺てっきりバッファローマンだと思ってた」
ケンシロウ「Xさーん、そろそろ出場種目決めてもらわないと…」
ミスターX「No,thank you」
ケンシロウ「はは、わかりましたぁ~」
ケンシロウ(ムカつくーッ!!)
シュウ「向こうは総力で来るみたいだな」
レイ「となると俄然不利だな…」
「お困りかな~?」
レイ「―!?」ビクーッ
トキ「その声は…アミバ!」
アミバ「よう凡人共」
アミバ「いーやー? シン君の治療が終わったから連れてきただけだ」
シュウ「何、本当か!」
レイ・トキ・ジャギ(嫌な予感しかしない)
アミバ「ほれ、すっかり元通りだ」
金のロングヘアー!
鋭い眼光!
輝くボディ!
ダイヤモンドチップを使用したドリル!
トルクチューンモーター搭載!
DX!超合金"KING"シン!
ジャギ「ロボだこれーッ!?」ガビーン
ジャギ「一体どんな治療をしたらこうなるんだよッ」
アミバ「いやいや、本当に元通りなんだ。あれを見ろ」
DXシン「ピピ…ガガッ」ウイーン
DXシン「ビビッビッ」ガガガッ
DXシン「…ナントゴクトケン」ピカッ
ジャギ「」
レイ「お帰りシン」ナデナデ
トキ「心配したぞ」ナデナデ
シュウ「すっかり元気そうで何よりだ」ナデナデ
ジャギ「待て待て待てーい!?」
シュウ「はしゃぎ過ぎだぞ」
トキ「シンは病み上がりなんだから、ちょっとは気を使ってだな…」
ジャギ「おかしいだろ! ソレどう見てもロボだって!」
トキ「…そうなのか?」
DXシン「ウィッウイーン」ゴゴゴ
DXシン「ロボチガウロボチガウロボチガウロボチガウロボチガウ」カタカタカタ
トキ「違うって」
ジャギ「お前ら全員目ぇ見えてんのか!?」
レイ「だって金髪だし」
シュウ「南斗獄屠拳使ってたし」
トキ「執念足りてそうだし」
ジャギ「お前らの判定基準おかしい」
「まもなく、世紀末玉入れを行います」
ジャギ「げぇ! 時間かよ!」
シュウ「よーし、頼むぞシン!」
DXシン「ナントゴクトケン」ピガー
ジャギ「終わった…」
DXシン「ナントゴクトケン」ピロロロ
ラオウ(ロボだ)
ユダ(ロボだ)
サウザー(ロボがいる)
バット(何でロボ?)
ケンシロウ(ちょっと欲しい)
ジャギ(…すげぇ見られてる)
バット「あと妨害なし。正々堂々やりましょう」
ラオウ「どの辺が世紀末なんだ」
サウザー「戦わずして何が世紀末だ」
ケンシロウ「すごく…高いです」
ユダ「籠どこだよ…」
ケンシロウ「全っ然届かへん!」
ユダ「ラオウが投げても半分ぐらいしか行かないぞ」
サウザー「赤もまだ入ってないようだ。作戦を練るぞ」
ラオウ「…」
ケンシロウ「…どうした?」
ラオウ「天に還りがてら入れれば…」ブルブル
ケンシロウ「止めときなさい」
ジャギ「引き分けかぁー!!」
トキ「おーい!!」
ジャギ「何だ兄者」
トキ「このシンすごいよ!流石は南斗のKING様!」
DXシン「ナントライシンショウ」シュバババババ
シュウ「シンに玉を込める簡単な種目だな!」
ジャギ「シン、お前がナンバーワンだ」
バット「では各チーム玉を一つずつ投げましょう」
ケンシロウ「投げる玉がない…」
バット「赤組は?」
シュウ「なみなみ入ってるぞ!」
バット「まずいなぁ…」
トキ「え、何が?」
バット「この種目、そんなに差がつかないと思って1玉1点なんですよ」テヘ
ケンシロウ「」
ラオウ「」
ユダ「」
サウザー「」
X「woo…」
白組→10点
ケンシロウ「」
ラオウ「」
ユダ「」
サウザー「」
DXシン「シュウネンガタリン」テッテレー
ピッ
ピッ
ピピーッ
バット「ビグザムの完成です」
パチパチパチパチ
DXシン「シネッケンシロウ」ビガー
ケンシロウ「組体操ぐらい仲良くやろうぜ」
ピッ
ピピーッ
ラオウ「重い…」
ケンシロウ「兄さんはまだいいよ。ユダとかかわいそうに…」
バット「ピラミッドの完成―」
サウザー「南斗鳳凰拳奥義―」ザッ
トキ「ちょ! おもっ」←天辺
サウザー「あっ!? 足元がっ!?」グラッ
ワー バタバタバタ
シュウ「またですか…」
サウザー「つい」
バット「では内野と外野を分けて下さい。内野に最低一人いれば外野四人でも構いません」
白組
内野 ラオウ、ケンシロウ
外野 ユダ、サウザー、ミスターX
レイ「トキ、内野頼んだぞ」
シュウ「トキのスピードなら大丈夫だ」
ジャギ「激流に身を任せるだけでいいんだ」
DXシン「ナントゴクトケン」ピロピロ
トキ「嫌だ!死にたくない!」
レイ「負けちゃった☆」テヘ
シュウ「仕方ないなぁ~」
ジャギ「かわいいから許すっ」
トキ「許すか! ボール取られたじゃないか!!」☆
トキ「ほら! なんか不吉なやつがこれ見よがしに光ってるし!」☆
ジャギ「兄者」
トキ「なんだ!?」☆
ジャギ「頭はセーフだってよ」
トキ「いや! それダイレクトでアウトだから!(?)」☆
ユリア「四人掛かりでトキを押し込んでるわね」
マミヤ「あ、殴った」
ユリア「グーは駄目でしょ」
マミヤ「今度はトキさん、四人からストンピング食らってます」
ユリア「トキを内野にシューゥ!」
マミヤ「超エキサイティングですね」
トキ「」☆
ラオウ「…投げても良いか?」
トキ「」☆
ラオウ「せめて決め球で葬ろう」ザッ
ラオウ「北斗有情破顔球!」ゴゥッ
ラオウ「トキ…リンチされてなければ…」
トキ「」★
ケンシロウ「うわぁ…どこまでが頭だよ…」
シュウ「ラオウ!」
ラオウ「次は貴様か?」
シュウ「お前に言っておく事がある…!」ゴゴッ
ラオウ「…」ゴゴッ
シュウ「頭はセーフだ…ッ」
ラオウ「何…!?」ピシャーン
トキ「」★
バット「赤組は内野に入る人を決めて下さい」
レイ「見切れたか?」
シュウ「いや、まだ…」
ジャギ「目で追うのがやっとだ」
レイ「まだ球数を稼ぎたいな…」
シュウ「となると…」チラッ
DXシン「ナントゴクトケン」ピルルル
ラオウ「…むうっ」
ジャギ「兄者が止まった!?」
レイ「見ろ! ラオウの闘気が逃げていく!」
シュウ「獄屠拳が効いているのか!?」
ジャギ・レイ(それは無い)
レイ「しかし本当にどうしたんだろうな」
ラオウ「ケンシロウ、シンはうぬに任せる」ヒュ
ケンシロウ「決着をつけろ、と?」パシ
ラオウ「…」
ケンシロウ「…わかった、任せろ」
ラオウ「…」
ラオウ(どこまでが頭か分からん…!)
トキ「」★
ヒューイ「おい! しっかりしろ!」
フドウ「息がない! 急ぐぞ!」
バンッ
ヒューイ「急患です!」
アミバ「んー?」
トキ「」★
アミバ「…ニヤッ」
アミバ「捨ててこい」ドーン
フドウ「御意」
ケンシロウ「アタァ!」ビッ
バコンッ
DXシン「ビピガッ」ブーッブーッ
ケンシロウ「えっ」
ウーッ ウーッ
ユダ「なんだなんだ?」
シュウ「サイレンか!?」
スペード「抵抗を止めろ! 貴様らは完全に包囲されているッ!」
ケンシロウ「えっ」
世紀末救世主 警察署へ任意同行
レイ「なんだか知らないけど圧してるぞ!」
シュウ「いいぞシンー!」
ラオウ「ええい! 調子に乗りおって!」
DXシン「…ビガーッ」チカチカ
DXシン「キサマノケンポウデハシナン」ピーッ
DXシン「―サラバダ」
カッ―――――――
―――――ドンッ
レイ「」
シュウ「」
ジャギ「」
ラオウ「」
レイ、シュウ、ジャギ(内野)
白組
ラオウ(内野)、サウザー、ユダ、ミスターX
ラオウ「ジャギ、うぬもトキ同様にしてくれる」
ジャギ「受け止めるのは無理だがメットがありゃ死には…」
バット「ヘルメットは反則なので取って下さーい」
ジャギ「」
ユリア「内野から距離がありましたからね」
マミヤ「次はどんな体にされるんでしょう」
ユリア「粉微塵だから復活は無理でしょうね」
マミヤ「そういえば、ジャギさんメット没収されましたね」
ユリア「防御力に不安が出ましたね、どうですか解説のアイリさん?」
アイリ「お兄ちゃんをかわいいって言ったのが気に入りません」
ユリア「アチャー」
ラオウ「北斗剛球波!」ボッ
ジャギ(あ…頭に球が)
ラオウの放った剛球がジャギの頭を襲う!
しかし、この時ジャギの脳裏を一つの記憶が駆け抜けた!
ドゴォッ
ジャギ「」☆
ラオウ「呆気ない」
ガシッ
ラオウ「何!?」
ジャギ「兄者…ボールは頂くぜ」☆
ピキーンッ
ジャギ「ばわっ」★
ジャギに蘇った記憶!
それはケンシロウの高校受験日の決死の替え玉作戦!
頭を吹き飛ばして顔を隠すという逆転の発想!
これによりケンシロウは(勉強せず)高校に合格し、ジャギは生死の境をさまよった!
それは恐怖! 死を恐れる心!
弱者は強者を目の前にして、既に心で敗北している!
だがジャギは恐怖しなかった!
ラオウの投球の際、ジャギは替え玉作戦時の記憶に自分を置き換えた!
頭を吹き飛ばす事で目的が果たされる!
そう思うとジャギは笑えたのだ!
そう! ボールが当たってジャギは笑ったのだ!
ラオウ「ジャギ…いい笑顔だったな」
サウザー「Mは理解できん」
シュウ「墜ちよ拳王!!」ゴォッ
ビュゥゥゥゥンッッ
ユダ「は、速い!」
サウザー「シュウにこんな才能が!?」
バシィィィンッ
ラオウ「速いが球が軽いな」
シュウは軽い球になった ブブーッ
ジャギが犬死になった ブブーッ
シュウ「がぁぁぁぁぁああああ!?」ガクッ
ラオウ「む!?」
レイ「シュウ! どうした!」
ユダ「急に苦しみだしたぞ!」
レイ「おのれラオウ! どさくさに紛れて天破活殺でシュウを!?」
ラオウ「この拳王、そんな回りくどい事はせぬ!」
シュウ「肩が!? 肩がぁー!!」
シュウ、野球人生の終わり
スペード「悪戯で通報するとはいい度胸だな! 豚箱にぶち込んでやる!」
ケンシロウ「アタァ!」
ピキーン
スペード「…あ」
ケンシロウ「お巡りさんサン、ボクをどこに連れてくんデスカ?」
スペード「…さあ?」
ケンシロウ「ボク運動会の選手だから戻らなきゃいけないんだケド」
スペード「あ、ああ、すまない。今パトカーで送るからね」
ケンシロウ「アリガトー」
ケンシロウ「ちょろいな」
レイ
白組
ラオウ、サウザー、ユダ、ミスターX
レイ「ついに一人になってしまった…」
レイ「というか、まともにうごけるのが俺しかいないという」
トキ→ちにゃ!
レイ→健在
シン→自爆
ジャギ→ばわっ
シュウ→肩がぁー!!
レイ「今気づいたが、チームメイトに恵まれなかったな…」
レイ「くっ」
ラオウ「ぬふふ、せっかく別嬪にしてもらったのに剛球で体がひしゃげるのは残念だろう」
レイ「う、うるさい!」
ラオウ「しかし許しを乞うなら助けてやらんでもないぞ」
サウザー「調子にのっているな」
ユダ「調子ノリ男だな」
ラオウ「ふん! 雑魚が粋がりおって」
ラオウ「さて、どこを狙おうか…」
ラオウ「ラオウだけに、な」プフッ
サウザー「」
ユダ「」
レイ「」
ガコッ
ラオウ「えっ」
ラオウ「ぬおおおおぉぉぉ…」ヒュウウ…
レイ「なんか知らないけど助かった!」ヨシッ
ユダ(さっきの調子ノリ男はセーフなのか…)
ザッ
サウザー「フハハ…水鳥を狩るなど容易い」
レイ「くっ…一難去ってまた一難か」
サウザー「フハハ…」
サウザー「これが本当の巨星落つ、か」
バコンッ
サウザー「ああぁぁぁぁ…」ヒュウウ…
レイ「…」
ユダ「全く、せっかくボールはこちら側なのに…」
ユダ「消える魔球かっつーの!」
バコッ
ユダ「しまったああああぁぁぁぁ」ヒュウウ…
レイ「すごいスピードで落ちてった…」
レイ「残るはあのバッファローマンだけ!」
X「…」
レイ「ミスターX、実力はいかに…」
X「…」ゴゴゴ
X「…俺は」
ガコッ
X「え!?」
X「何故だあぁぁぁぁ…」ヒュウ…
レイ「えー」
マミヤ「何がアウトだったんですかね」
ユリア「全部でしょ」
シュウ「失礼します…」ガラガラ
アミバ「うぇるかむ! ワタシノ保健室ニヨウコソ!」
アミバ「アナタすぽーつまんデスネ!」
シュウ「まぁ似たようなものですね」
アミバ「今コノ紙ニさいんスレバ、アナタのナヤミは解決デース!」
シュウ(怪しいなぁ)
アミバ「アナタ野球人生オワリマシタネ」
シュウ「! 何故それを…」
アミバ「ワタシニワカラナイコトアリマセーン!」
アミバ「ワタシニ不可能アリマセーン! ダイジョーブデース!」
シュウ「わかりました!」サラサラ
アミバ「…」ニヤッ
シュウ「これでまた甲子園を目指せる…!」☆
アミバ「ゲドークン、オサエナサーイ」
ジャッカル「ぎょぎょ」ガシッ
シュウ「えっ」
アミバ「新しい秘孔を試してみよう」ズブッ
シュウ「あああああああッ!?」ピキーン
白組→10点
レイ「点差があるとはいえ、俺一人で世紀末リレーは無理だ…」
レイ「せめてシュウが治療から戻ってこないと…」
「待たせたな!」
レイ「! ナイスタイミング!シュウ」
シン「やあ」
レイ「」
レイ「シン…生きていたのか」
シン「あっはっはっは! 何を言うかと思えば」
シン(3)「俺は多分、三人目」
シン(4)「戦争は数だぞレイ」
シン(5)「殉星の比率おかしいだろ」
シン(6)「こんだけいりゃ執念足りるだろ」
レイ「」
第1走者 サウザー、クローンシン
第2走者 ユダ、クローンシン
第3走者 ラオウ、クローンシン
第4走者 ミスターX、クローンシン
第5走者 ケンシロウ、レイ
ラオウ「無しだろ」
サウザー「無しだな」
ユダ「あれは無い」
スペード「すまなかったね」
ケンシロウ「いえいえー」バタン
ケンシロウ「ふ…ヒーローは遅れてやってくる」
ケンシロウ「時間的にはそろそろ終盤戦の筈…つまりヒーロー登場の時!」
ケンシロウ「みんな! 待たせたな!」
シン(3~6)「久しぶりだなケンシロウ」
ケンシロウ「増えてるー――――!?」ガビーン
ラオウ「お前のライバルだ」
サウザー「なんとかしろよ」
ユダ「お前一人で800m走れよ(一人200mだから)」
ケンシロウ「どうしてこうなった…」チラッ
シン(3~6)「じーっ」
ユダ「きっとアイツらお前の事好きだぜ」
ケンシロウ「やめて、死にたくなる」
ユリア「普通に考えるとサウザー選手の方が速そうですが…アイリさん、どうでしょう」
アイリ「…ジャギさん」ナデナデ
ジャギ「………」スースー
アイリ「ふふ、お疲れさまでした」
ユリア「ジャギ選手が許された模様で一安心です」
サウザー(だが問題はラオウとユダ! 特にラオウは見るからにパワータイプ。リードは多い方がいい)
バット「よーい」バンッ
ダ――――――ッ
レイ「な!?」
シン(3)「に!?」タタタッ
ユダ「なんでスタートしないんだー!?」
サウザー「フハハハハ! 帝王は逃げ馬ではないのだ!!」
マミヤ「テイオーが逃げ馬でもいいじゃない」
ダッ―――――
レイ「速い!!」
ケンシロウ「あの走り! 新馬戦から怒涛の六連勝を見せたフサイチホウオーを彷彿させる…!」
サウザー「フフフハハハハ ハ ハ!!」ドップラー効果
ケンシロウ「流石にあんなには速くなかった」
レイ「だろうな」
ユダ「早くバトンを渡せバカ!」
マミヤ「やはりチーム戦に向かないですね」
ユリア「王を名乗る人はそういうとこありますねー。空気読めないというか」
シン(4)「泣くな! あと少しだろ!」
シン(3)「だってユリアが…」
シン(6)「俺達のチームワーク見せてやろうぜ!」
ユダ「はっ! はっ!」バタバタ
マミヤ「二人目のシン選手、すごい気迫です!」
ユリア「グングン距離が縮まります!」
マミヤ「鬼の形相で追い上げてますが、さっきから涙が…」
ユリア「空気抵抗で目が渇くんですかねー」
マミヤ「にしてもユダ選手、マント邪魔そう」
ユリア「白組は馬鹿ばかりですな」
ユダ「くっ 抜かれた!」
シン(4)「頼むぞ5号!!」
シン(5)「お前の涙、無駄にはしないッ」ブワッ
ユダ「ラオウ、すまない!」バッ
ラオウ「よい、すぐに突き放してやるわ」
ラオウ「ゆくぞ黒王号!!」
黒王号「ヒヒーンッ」
バット「はいだめー」
シン(6)「その呼び方やめてくれ!」ダダッ
シン(5)「はぁ…はぁ……どれぐらい突き放したかな」チラッ
ラオウ「ふう、ふう…」ノッシノッシ
シン(5)「お、遅ぇ……」ズーン
ケンシロウ「遅すぎワロエナイ」
レイ「周回遅れにナッチャウヨ」
ラオウ「! 閃いたぞ!」
レイ「なんだ? ラオウが仰向けに寝転がったぞ」
ケンシロウ「寝てる場合がアホウ! 真面目に走れ!」
シン(6)「勝負を捨てたのか?」テクテク
ラオウ「我が生涯に一片の悔いなしッッ」
ドゴォォォオオンッッ
ケンシロウ「天に還る力を横に打ち出すとは考えたな!」
ユダ「すごくシュールな図だけどな」
マミヤ「すごい推進力です! ラオウ選手、あっという間にミスターX選手のところへ!」
ユリア「到着、そして通過したわね」
ケンシロウ「戻れアホウー!!」
ラオウ「」★ ドゴーンッ
シン(6)「な、何の音だ…?」クルッ
ラオウ「」★ ゴォォォオ
シン(6)「な!? ぐはぁ!?」ドガッ
シン(6)「ああああぁぁぁァ」ゴォォォオ
マミヤ「最後のシン選手巻き込まれました!」
ユリア「ラオウの股に挟まっててすごく気色悪い光景ね」
シン(6)「ユリァァァアアアア!!」ブワッ
マミヤ「ユリアさん、呼んでますよ」
ユリア「困る」
ユリア「このまま行くと壁にぶつかるわね」
マミヤ「まぁラオウ選手に限って激突死はありえませんが、シン選手はどうでしょう」
ユリア「あら、シンには代わりがいるじゃない」
マミヤ(ユリアさんがさっきから投げやりだ…)
マミヤ(お、アイリちゃん言い過ぎだとユリアさんに言ったれ!)
アイリ「超スピードで飛ぶラオウさんを昇天ロケットと呼びましょう!」
ユリア「私はミサイルニートがいいわ」
マミヤ(駄目だ、アイリちゃんにツッコミは期待できない)
ドガァァアアアンッ
ラオウ「」★
マミヤ「ラオウ選手刺さったー!!」
ユリア「あのポーズで飛んでって刺さっているんだから、もう見事としか言えないわね」
ケンシロウ「X! ラオウからバトンを取るんだ!」
ミスターX「…!」ググッ
ケンシロウ「くっ、死後硬直か…死んで尚も迷惑な奴!」
ラオウ「」ブシャッ
ケンシロウ「指が離れた! 走れX!」
X「…」スタタタ
シン(3)「6号ー! どこだー!?」
シン(5)「いた! ラオウの股下で潰れてる…」
シン(6)「」★
シン(4)「うわぁ… この死に方だけはやだ」
シン(5)「駄目だ! ラオウの股にガッチリホールドされてる」
レイ「ならばラオウを壁から引き抜くしかないな」
シン(4)「ケンシロウ、悪いが手伝ってくれないか」
ケンシロウ「むう、少し考えたんだが聞いてくれるか?」
レイ「何かいい考えでも?」
ケンシロウ「考えるに、拳王フルバーニアが最良かと」
レイ「わかった、ラオウを切断してしまおう」
ケンシロウ「よし! 張り切って引っ張るぞ!」
マミヤ「ミスターX選手速い速い!!」
ユリア「全盛期のトキ選手を彷彿させる素晴らしい走りですね」
マミヤ「ミスターX…一体何者なんでしょう」
ユリア「やっぱりバッファローマンじゃないでしょうか」
ミスターX(フフ…俺の正体が気になるようだな)
ミスターX(超人的身体能力を持ったマスクマンがいたら気にならない訳がない!)
ミスターX(さらば昨日までの冴えなかった自分! そしてこんにちは新しい自分!)
マミヤ「あー、ミスターX選手、風圧でマスクがずり上がってますね」
マミヤ「下からジュウザの顔が覗いてますねー」
相変わらず扱いひでぇwwww
ミスターX「っていねぇぇぇえ!?」ガビーン
ケンシロウ「ラオウの奴、本当にロクな事しねぇんだから…」
ミスターX「どこ行ってたんだよ! 早く準備しろよ!」
ケンシロウ「あ、ジュウザだ」
レイ「本当だ、ジュウザだ」
シン(3~5)「なんだジュウザか」
ミスターX「バレてるー!?」ガビーン
ユリア「何だろう、バッファローマンじゃないってわかった時の喪失感…」
マミヤ「私も、もしかして本物なんじゃ…って少し期待してました」
アイリ「バッファローマンだったら良かったのになぁ」
アイリ「あ! ジャギさん、メットの代わりに…」
ジャギ「お断りします」
マミヤ(被れよ…)
ユリア(素顔も隠れて一石二鳥じゃない)
ケンシロウ「案外レイって足遅いんだな、ちょっと意外だ」
レイ(胸が邪魔で上手く走れない)タユンタユン
ジュウザ「Oh…ダイナマイ」
シン(3~5)「アーアー何も見えない」
ユダ「いいよーレイちゃん!」REC
アイリ「見せられないよ!」
ジャギ「見ないって!」
ラオウ「…ここは」
トキ「目が覚めたか」
ラオウ「トキ、ここはどこだ?」
トキ「多分、マクドナルドの二階席…かな」
ラオウ「…え」
トキ「だって深夜のマクドナルドってこんなだろ!」
ラオウ「確かにそうだが…何でまた」
トキ「あ、喫煙席に誰かいるな」
トキ「すみません、相席いいですか?」
オウガイ「ああ、構わんよ」スパスパ
ラオウ「失礼する」ズシッ
トキ「予約席の札がありますが、迷惑でしたか?」
オウガイ「気にするな。いつ来るかもわからん奴だからな」
ラオウ「遅刻常習犯か、迷惑な奴だな」
オウガイ「リュウケンというんだがな」
トキ「おうふ、本当に迷惑な奴だった」
ラオウ「不本意ながら俺達の師父だ」
オウガイ「という事は、北斗の跡取り息子たちか!」
トキ「ええ、私はトキ、こちらは私の兄ラオウです」
オウガイ「いや、なかなかいい面構えをしている。立派な息子を持ってリュウケンも安心だろう」
ラオウ「…」←ニート
トキ「はは…」←学生ニート
トキ「はあ?」
オウガイ「北斗神拳は一子相伝だったな。後継者争いに敗れたか」
ラオウ「ぬ、何故それを」
オウガイ「でなければあの世なぞ来るまい?」
トキ「え」
ラオウ「あの世?」
オウガイ「左様、一見マクドナルドに見えなくもないが、ここはあの世の待合室じゃ」スパー
トキ「オウガイさん、我々用事を思い出しました」
オウガイ「おおそうか、久しぶりに若者と話ができて楽しかったよ」
ラオウ「またここに来る事があれば、次こそ茶でも飲みつつ語り合おう」
オウガイ「ああ、楽しみにしてるよ」フッ
オウガイ「ああ、最後に」シュボッ
トキ・ラオウ「はぁ」
オウガイ「息子によろしくな――――――
……
…
…
ラオウ「…」
トキ「…ラオウ」
ラオウ「見たか」
トキ「ああ…」
ラオウ「入口でシンとシンが争ってたな…」
トキ「オウガイさん驚くだろうな…」
シン(4)「そうなるとこの種目に負けても50点しか縮まらないから俺達の勝ちだな」
バット「それもつまらないので最後は100万点にします」
ケンシロウ「よっしゃああああああい」ダダダ
レイ「ええええええ!?」タユンタユン
マミヤ「レイのたゆんたゆんが激しく…!」ダー
ユリア「マミヤ、鼻血」
サウザー「決めてしまえ!」
ジュウザ「あと30m!」
ケンシロウ「圧倒的差! 今日のヒーローは俺で決まりだな!」
ケンシロウ「もうゴール手前だし、レイが来るの待っててもいいけど」
ケンシロウ「手加減なしでいこう! レイに失礼だしね!」キリッ
ガコッ
ケンシロウ「え」
サウザー「あ」
ジュウザ「あ」
ユダ「あ」
ケンシロウ「なんじゃこりゃああああああああぁぁ…」ヒュウ…
バット「はいブー」
白組→10点
バット「赤組優勝!」
レイ「や、やったぁ…」
ジャギ「何だろう、素直に喜べない」
ケンシロウ「じゃあお米一年分譲ってくれよ!!」
ケンシロウ「くれよ!!」クワッ
シン(3、5)「南斗獄屠拳!!」
ケンシロウ「うぶぅ!?」バキッ
シン(4)「何本目に死ぬかな?」ズブッ
ケンシロウ「ちょ、調子にっ アウンッ のりましたぁアアンッ」ビクッ
ユリア「さ、帰ろ」
様々な犠牲を出しつつも見事優勝を勝ち取った赤組は、一年分のお米を贈呈されることとなった!
一方!
ケンシロウ「あの…ジャギ様」
ラオウ「ワタクシ共にもご飯を…」
ジャギ「…」チラッ
トキ「甘やかすなよジャギ」
ジャギ「でもよお…」
トキ「お米こそ正義、いい時代になったものだ」
北斗家の中ではニート内でも格差がつき、トキがジャギに次ぐ権利を手に入れた!
もっとも、一年後にボコボコにされるのだが…!
世界は核の炎に包まれた
海は枯れ、地は裂け
あらゆる生命体が絶滅したかに見えた
だが…人類は死滅していなかった!
生き残った人々は、僅かな水と食料を求めて争いを繰り広げていた…
ケンシロウ「うー、水ぅ~」フラフラ
ケンシロウ「あ…目眩が……」
バタッ
ウワーナニアレ
キモーイ
チョウロウ、フロウシャデスヨ
長老「ホームレスは豚箱行きだ!」
ケンシロウ「ううッ」ズザーッ
バット「うわっ 臭ぇ! 洗ってない犬の臭いがする!」
バット「誰かー! こいつと牢屋を変えてくれー!」
リン「…」
バット「あ、リンちゃん、今日もかわいいね! お願いだから隣の牢屋に移してくれよ!」
リン「…!」タタッ
バット「あ…」
バット「お前が臭いからリンちゃん逃げたじゃねーか!」バキッ
ケンシロウ「ぐ…」
バット「あ、食事の時間か。ありがとうリンちゃん!」
リン「…」スッ
バット「それにファブリーズか! サンキュー!」
バット「ヒャッハー! 汚物は消毒だー!」シュッシュッ
ケンシロウ「ゲホッ ゲホッ!」
バット「ゲホッ! ファブリーズと混ざってさらに悪臭がっ!?」
リン「――――臭いぃぃ!!」
バット「リンちゃんが…喋った!」
バット「リンちゃん! 良かった!」
リン「バットくん!」ギュ
バット「お、おい…照れくさいぜ」
リン「あれ、さっきのおじさんは?」
バット「ありゃ!? 鉄格子がひしゃげてる! 脱獄だ」
リン「臭いからいいけど」
ケンシロウ「タクシー!」バッ
ジード「へーい」キキッ
スーパー サザンクロス
シン「!」ピーン
シン「この感じ…ケンシロウが来やがった…」
シン「今日も大方たかりに来たんだろうな…」
ケンシロウ「アタァッ」
ピキーン
ジード「…あれ?」
ケンシロウ「会計が済んだのだからさっさとドアを開けてもらいたいのだが」
ジード「あ、ああすいません!」バムッ
ケンシロウ「シン…」ボキボキッ
シン「ああ、現地の人達と掛け合ってようやく実現することができたよ」
ユリア「やっぱり野菜が多いわね。逆にお酒とか銘菓は少ないかも」
シン「ユリア、ここはスーパーだ。デパートみたいな飾った催しはいらない。東北フェアの成功で東北の食品の優秀さが浸透すればそれが一番だ」
シン「まぁ、ウチ一件が頑張ってもあまり変わらないかも知れないが」
ユリア「シン、自信を持って! サザンクロスは町内1のスーパーよ!」
シン「ユリア…!」
ケンシロウ「そこまでだ」
シン「…きたか」
ケンシロウ「ユリアを返してもらおう」
ユリア「ちょっと、いきなり何言ってるのよ」
モヒカン「お客様! 店内で揉め事は…」
ケンシロウ「アタァッ」ボクシャッ
モヒカン「ぶべっ」
シン「! 地獄へ突き落としてやる!!」クワッ
ユリア「ああっ! もう二人ともっ!」
ユリア「大丈夫?」
モヒカン「うう… グスッ」
ケンシロウ「…ふっ」バシッ
シン「何!?」
ケンシロウ「俺を変えたのはお前の教えた執念だ」
ユリア(食への欲求でしょ…)
シン「貴様の執念などたかが知れている!」
バッ
シン「この岩手県産二子芋でどうだ」
ケンシロウ「…ほう」
ケンシロウ「ユリア…わかった」
シン・ユリア「ほ…」
ケンシロウ「ァアタタタタタタタタタタタタタ!!」
シン「ぐぁああああああ!?」ドガァァアッ
ユリア「」
ケンシロウ「北斗十字斬!」
ケンシロウ「ユリア、わかっている。俺の(食への)執念は芋だけで収まる物ではない」
ケンシロウ「この食品、いただいていくぞ」ドッサリ
シン「お…お芋ちゃん……」
ユリア「馬鹿ケン! シン、ちゃんと代金は払うから…」
シン「ユリア…いいんだ」
ユラッ
ユリア「シン! 立っちゃ駄目!」
シン「ケンシロウ…俺達の戦いは終わっていない…」
ケンシロウ「明日も来る」
シン「さらばだー!!」バッ
ユリア「シーーーンッ!!」
シン「うわらばっ」ゴキッ
クラブ「店長、いくら二階でもそんな毎日落ちてたら死にますよ」
クラブ「お先ですー」
シン「お疲れ」
モヒカン「お先失礼しまーす」
シン「今日はすまなかったな」
モヒカン「いえ、店長のせいじゃありませんよ」
シン「…すまない」
ダイヤ「店長、お先です」
シン「おお、お疲れ」
ダイヤ「あ、休憩室にいい物ありますよ」
シン「いい物?」
お詫びと言ってはなんだけと、東北の食材で鍋を作りました
皆さんで食べて下さい ユリア】
シン「ユリア…おにぎりまで」
シン「…もう一枚あるな」ペラ
【ごめん、もうしない ケンシロウ】
シン「…」グシャ
シン「ユリアの手料理…美味いな……」
シン「グスッ おにぎりはちょっとしょっぱすぎるぜ」
ケンシロウ「たまには世の中の役に立てとユリアに怒られてしまった…」
ケンシロウ「ゴミ拾い…ダルいな」ヒョイ
ケンシロウ「むっ、これはっ」
【フィットネス&エクササイズ!
更には魅惑の超人ボディで北斗神拳も怖くない!?
フィットネスクラブGOLAN】
ケンシロウ「面白そうな匂いがプンプンプンだ」
兵士「いらっしゃーせ! 入会希望の方ですか?」
ケンシロウ「ええ、ちょっと今日は見学を」
兵士「ハイハイハイ、こちらへどうぞ!」
マッド「はいワントゥ、ワントゥ」
マッド「美しい心は美しい体から! シェイプアップ&ビューティフルマインドよ!」
ケンシロウ「」
兵士「あちらが講師のマッド先生です」
兵士「ああ!? お客様!」
ケンシロウ「おい、変態マッチョマン」
マッド「まあなんて汚い言葉! アナタもレオタードに着替えて! 美しく変身させてあげるわ!」
ケンシロウ「お断りします」
マッド「ふふ、これを見てもそう言えるかしら?」
ケンシロウ「何?」
ケンシロウ「」
マッド「見なさい! この腹筋!」
ケンシロウ「ホアタァ!」ピキーン
マッド「あ、あら? 体が動かない!」
ケンシロウ「体の自由を奪う秘孔を突いた。お前は一生ブリッジで生きるのだ」
マッド「た、助けて!」プルプルッ
ケンシロウ「さて、まだ気持ち悪い奴がいそうだな」スタスタ
コンコン
大佐「どぞー」
ケンシロウ「ちわー、死神でーす」ガチャッ
大佐「あら、いい男」ウホッ
ケンシロウ「」
この時、ケンシロウは初めて感じた!
この戦い、間違いなく死闘になる!
本気で戦わないと、ヤられる…と!
ケンシロウ「」ゾッ
大佐「あら、そっちが来ないならこっちから行くわよ!」ダッ
ケンシロウ「ひいい! 来るなぁぁ!」
ダダダッ
大佐「逃がさないわ!!」シュッ
ヒュンヒュンヒュンッ
ケンシロウ「ブーメラン!?」バッ
大佐「無駄よ!」
スタッ
ケンシロウ「ぬうっ!?」ズバッ
大佐「ふふ…逃・が・さ・な・い」スッ
ケンシロウ「後ろ!?」ブンッ
大佐「残像よ」
大佐「さあ、愛してあげる」ダキッ
ケンシロウ「き、キモーイ!?」ジタバタ
大佐「ハァハァ…い、いくわよ!」ビンッ
ケンシロウ「ほ、北斗壊骨拳!」ズビッ
大佐「はうンっ」ビクンッ
大佐「アァンッ もっと殴ってぇ!」ビクンビクンッ
ケンシロウ「お前の命はあと10秒ぐらいだ! 己の変態行為の数々、あの世で悔いろ!」
大佐「嫌よ! アナタの尻穴に子種を…!?」ピキーン
ケンシロウ「死ね!変態!」
大佐「きもちいいいいいいいいいいいっ!!」ズビャァア
ケンシロウ「怖かった…怒ったユリアより怖かった……」
なんで適当なんだよwww
ユリア「あら、駅前のフィットネスクラブ閉店ですって」
ユリア「通おうか悩んでただけに残念ね…」
ケンシロウ「馬鹿! ユリアの変態!」
ユリア「な、なによ! 馬鹿はともかく変態って!」
ケンシロウ「腹へった……いつになったらジャギ帰ってくんだよ」グー
ケンシロウ「…鳩の餌か」チラッ
マミヤ「…」スタスタ
ケンシロウ「! ユリア、いいところに!」
マミヤ「…」
ケンシロウ「ユリア、飯作ってくれよ」
マミヤ「…」
ケンシロウ「…変態って言ったの怒ってるのかな」
マミヤ「えっ!?」
ケンシロウ「怒らせたならごめん、でも一言だけ聞いてほしい」グッ
マミヤ「は、はい」
ケンシロウ「俺の為に毎日飯を作ってくれ!」クワッ
マミヤ(え!? 何、告白!?)
ケンシロウ「お願いしますっ」バッ
マミヤ「え、えと…」
ユリア「あ、ケーン」
マミヤ「え!?」
ユリア「え!?」
ケンシロウ「え!? ユリアが二人!?」
ユリア「ケン、誰この人」
ケンシロウ「え、あ、…ユリア……かな」
マミヤ「無理もないですよ、私もドッペルゲンガーかと思いましたから」
ユリア「まあ確かに瓜二人つだけどさ」
マミヤ「それにしてもユリアさん」
ユリア「何?」
マミヤ「…お強いんですね」
ユリア「まぁね」
ケンシロウ「」☆
マミヤ「え、はい」
ユリア「これも何かの縁だしお茶しに行かない?」
マミヤ「いいですね、お供します」
ユリア「ケン、私達お茶してくるからご飯は自分で作ってね」
ケンシロウ「」☆
ジャギ「出張中の我が家は大丈夫だったのか…不安だな」
レイ「すいません、そこのメットの方」
ジャギ「あ? 俺?」
スパッ
レイ「7つの傷の俺…! 覚悟!」バッ
ジャギ「なんかわからんけど多分人違いだ!」
ジャギ「なるほど、7つの傷を持つ男が暴れてると」
レイ「ええ、スーパーで強盗を繰り返したり、フィットネスクラブを閉店に追い込んだり…」
ジャギ(絶対ケンシロウだ…)
ジャギ「わかった! 俺も犯人探しを手伝おう!」
レイ「おお! 助かります!」
ジャギ「とりあえず連絡先はこれな。俺は一度家に帰って土産を置いてくる」
レイ「では手分けしましょう。俺は駅の南を探します」
ジャギ「俺は北だな、了解」
わかりにくくてすいません
ケンシロウ「腹へった…シンはどこだ」
レイ「ここが件のスーパーか、常習犯なら今日もいる筈」
レイ「あ、すみません」
ケンシロウ「はい」
レイ「7つの傷を持つ男を知りませんか?」
ケンシロウ「ああ、それなら」プチプチ
レイ「どうしても探し出して殺さなきゃいけないんです」
ケンシロウ「…」パチッパチッ
レイ「先日、駅前のフィットネスクラブを閉店に追いやった凶悪犯です」
ケンシロウ(あのオカマの店か…)
レイ「おまけに強盗の常習犯らしく、町内で被害が相次いでるらしいんですよ」
ケンシロウ「ほ、ほうほう」
レイ「そんな悪党、この義星が生かしておかん!」ビッ
ケンシロウ「あ」グーッ
レイ「なんだ、腹が減ってるのか」
ケンシロウ「朝から何も食べてなくて…」
レイ「何か奢ってやろう、あまり高い物はご馳走できんが」
ケンシロウ「あなたが神か」
ケンシロウ「生き返った…」ゲプ
レイ「よくあんなバカデカいラーメン食べきれるな」
ケンシロウ「こんな時代だからな、質より量…そう質より量なんだよ!」クワッ
レイ「わかった! わかったからニンニク臭い息をかけるな!」
ケンシロウ「腹も膨れたし、俺も犯人探しを手伝おう」
レイ「おお! それは助かる!」
ケンシロウ(こいつの傍を離れるのは危険だ…)
ジャギ「俺の名を言ってみろー」ガラガラ
ジャギ「ありゃ、誰もいねぇ…って何だこの散らかり様は!?」
ジャギ「しかも何だ! ゴミはカップ麺ばっかりじゃねぇか!」
ジャギ「仕送りはちゃんとしてたのに……あっ!?」
ジャギ「MTGのボックスに大正野球娘のブルーレイ、それにCRフィーバーマクロスの実機とソニーBRAVIA40インチテレビだぁ!?」
ジャギ「あいつらぁぁあ!!」ワナワナ
レイ「そうですか、ありがとうございました」
レイ「見つからないな…」
ケンシロウ「上半身露出してる奴なんかそうそういないって」
レイ「確かに…これは大変な捜査になりそうだ」
ジャギ「ケンシロウ~!!」ブロロロゥンッ
ケンシロウ「ジャギ!」
ジャギ「てめぇ! 俺のいない間に好き放題しやがって!!」
レイ「ジャギさん…さっき会った時と雰囲気が違う…」
ケンシロウ「あれがジャギの本性だ! 見ろ! あの復讐に燃える瞳!」
レイ「俺を騙したのか!」ギリッ
ザッ
レイ「南斗水鳥拳の伝承者の名にかけて…貴様を処刑するッ」スッ
ジャギ「へっ」
レイ「フゥゥゥッ」シュピッ
ジャギ「ぎゃ!? 違っ! 俺じゃない!」プシッ
ケンシロウ「ジャギ…貴様には地獄すら生温い」ニヤッ
ジャギ「レイ! 見ろ! この凶悪な顔!」
レイ「覚悟!」シュピピピッ
ジャギ「ぎゃぁぁ!?」ブシュッ
ケンシロウ「ジャギ…」スタスタ
ジャギ「ケンシロウ…この恩知らず!」
ケンシロウ(ごめんジャギ! 後でチロル奢るから!)アイコンタクト
ジャギ(割に合わねえ!!)アイコンタクト
ケンシロウ「これはシンの(食材の代金)分!!」
ジャギ「ぐえっ」ボグッ
ケンシロウ「これは俺の(オカマから受けた屈辱)分!」
ジャギ「ひいっ」ズブッ
ケンシロウ「そしてこれが…俺の(飢えて苦しんだ)分だァタタタタタタタタタタタタッ!!」
ジャギ「ぶべぇっ!!」ドガァッ
ジャギ「俺が…何かしたってか…っ」ビギッ
ケンシロウ「お前は俺を飢えさせた」
ジャギ「自業自得ばわっ!!」ピキャーン
ケンシロウ「悪は滅んだな」キリッ
レイ(しかし何だろうこの違和感…、出会った時は優しい瞳をしていたのに)
ケンシロウ(ジャギが帰ってきてて助かったー)
ユリア「全く! 何考えてんの!」ゴチッ
ケンシロウ「あいたっ!?」
ユリア「すみませんジャギさん…私がついていながら」
ジャギ「もういいさ…これぐらいで怒ってたらこいつの兄はできん」
ケンシロウ「さすがジャギ!」
ゴチンッ
ユリア「強く言っておきます!」
ケンシロウ「…ごめんなさい」
ケンシロウ「天才整形外科クリニック?」
ユリア「そう、ジャギさんの顔が治るかなって」
ケンシロウ「胡散臭いなぁ」
ユリア「だから下見してきたらって言ってるのっ」
ケンシロウ「面倒くさ…」
ユリア「何か言った?」
ケンシロウ「行ってきまーす!」
ケンシロウ「うわ…本当に天才って書いてる…」
ケンシロウ「…よし、入ってみよう」ゴクリ
トキ「で、ここが王柱です」
アミバ「ふむ」サラサラ
アミバ「いやぁすまないね、研究を手伝ってもらって」
トキ「いえ、医学の進歩に貢献できて光栄です先生」
トキ「ありがとうございます!」ペコ
アミバ「それに大学側にもよくやってくれてると言っておこう。院への推薦も必要なら言ってくれ」
トキ「そんな…何から何まで」
アミバ「いいんだよ、私は君の大学の先輩に当たるしね。君ならいい線いくよ」
トキ「先生にそう言っていただけると…」
ガチャ
アミバ「ん?」
ケンシロウ「トキ、最早北斗神拳の真髄すら忘れたか!」
ケンシロウ「そんな事はどうでもいい。ラオウを目指していたトキはどこへ行った!」
トキ「いや、被曝したあたりで諦めたって言ったじゃないか!」
ケンシロウ「言い訳は聞きたくねぇっ!!」ビッ
トキ「うわ!?」
ケンシロウ「本気で来いトキ、北斗神拳が人殺しの拳という事を思い出させてやる!」
トキ「…仕方あるまい、かかってくるがいい」
アミバ(さあ、盛り上がってまいりました)
トキ「…」スッ
ケンシロウ「アタァッ」ビッ
トキ「…」スッ
ケンシロウ「ァアッ」バッ
トキ「…」フッ
ケンシロウ「ホォアタァッ」ズバッ
ビシッ
ケンシロウ「ッ!?」
トキ「激流を静水」ユラッ
ケンシロウ「ァアタタタタタタタタタタタタタタ!!」
トキ「激流に逆らえば飲み込まれる」バキッ
トキ「むしろ激流に身を任せ同化する」ベキッ
トキ「激流を制するは静水」ドガッ
ケンシロウ「ホォォォァ…」ボコボコ
アミバ「すげぇ! 攻めてた方がボコボコになっとるわ!!」REC
ケンシロウ「ァァアアタァッ」ズバッ
スゥゥッ
トキ「勝機!」
バキッ
ケンシロウ「うぐっ!?」
バッ
トキ「天翔百裂拳!!」ババババッ
ケンシロウ「ぐぅううううッ」ズバババッ
ケンシロウ「ぐはぁっ」ゲフッ
アミバ「素晴らしい…」REC
トキ「ケンシロウ、お前は師父リュウケンの想像を遥かに超え怠け過ぎてしまった。ユリアの前でさえも!」
トキ「堕落したお前では私には勝てない。帰って初心に戻り、一から己を…」
ピキーンッ
トキ「なっ!?」ガクッ
ケンシロウ「北斗神拳奥義…残悔積歩拳!」
ケンシロウ「言った筈だ…本気で来いと!」
トキ「アミバ先生! 早く秘孔封じを!」テクテク
アミバ「残悔積歩拳、実に興味深いぞ!」
トキ「先生――――」
ガシャアアアンッ
トキ「あああああああああ!!」
ウラワバッ
ケンシロウ「ふう、つい熱くなっちゃった」
ユリア「どうだった?」
ケンシロウ「駄目だね、とんだ藪医者だったよ」
ユリア「そっか…」
ユリア「ところで、トキさんの様子がおかしいんだけど」
ケンシロウ「そりゃ大変だ! 医者に連れてかないと」
トキ「ぁぅぁぅぁー」
ジャンジャンバリバリ
ラオウ「ありえん! 映画予告からの最終決戦で外すなどありえん!」バンバンッ
スタンダットゥーザッビクトリー
ラオウ「誰だ…拳王の勝負に水を差す奴は」パカッ
送信者:ジャギ
件名:ケンシロウが暴れてる!
本文:トキが重傷を負わされた!
俺もボコボコにされたし、手に負えない!
兄者だけが頼りだ!なんとかしてくれ!
ラオウ「今忙しい」パタン
アイリ「はえ?」
コマク「そう、あなたですお嬢様」
アイリ「私!?」
ダガール「美しいあなたに少々お話がありまして」
アイリ「美しいだなんて…」モジモジ
コマク「恥じらう姿もまた美しい」
ダガール「これほどの逸材ならユダ様もきっとお喜びになられる」
アイリ「うわぁキラキラだ…」
ユダ「アイリ君、芸能界に興味はないかい?」
アイリ「芸能界ってあの!?」
ダガール「アイドルやモデル、歌手等あなたの想像している芸能界ですよ」
コマク「我々はあなたの美貌、そしてスター性を高く評価しています」
ユダ「さあ!! 我々と共に芸能界で輝こうじゃないか!」
レイ「ちょっと待った!」
アイリ「お兄ちゃん!」
レイ「ユダ、久しぶりだな」
アイリ「お兄ちゃんの知り合い?」
レイ「ああ、悪い奴ではないんだが…」
ユダ「レイ、俺はアイリ君の化粧姿が見たい」
レイ「止めてくれ、アイリには普通の人生を送って欲しい」
ユダ「それはアイリ君の決めることだろ?」
レイ「ぐ…確かに」
ダガール「芸能界でスターとして輝くか!」
コマク「一人の女の子として普通の人生を送るか!」
ユダ「さあ、選びたまえ!」
アイリ「…」
レイ「アイリ、自分の人生だ…好きにしなさい」
アイリ「ユダさん、ごめんなさい」
ユダ「フッ…振られたか」
ユダ「そんな事はない。夢は等しく美しい」
レイ「ユダ…」
ユダ「レイ、そんな顔をするな。そうだ、お前が芸能界デビューするか?」
レイ「はは、断る」
ユダ「残念だな、お前程の色男はそうそういないのに」
アイリ「いえ、私こそ期待してもらったのに」
コマク「とんでもない。駄目でもともとなんです、スカウトなんて」
ダガール「それに、美しいお嬢さんと会話できただけで役得ですよ」
アイリ「まぁ」クスッ
ユダ「見てろレイ、俺は必ずお前をも唸らせる逸材を見つけてやる!」ニッ
レイ「ああ、頑張れよユダ」ニッ
後に恋人マミヤと自分自身が芸能界デビューする事になろうとは
この時のレイは予想だにしなかった
レイ「ところで」
アイリ「何?」
レイ「お嫁さんって、…誰か意中の男がいるのか?」
アイリ「気になる?」
レイ「そりゃあ…気になるさ」
アイリ「ふふ、それが全然!」
レイ「そうなのか? 言い寄る男は少なくないだろう」
アイリ「でもねー、なんだか違うんだよねー」
アイリ(私の白馬の王子様は、いつ現れるんだろう―)
白馬の王子様ではなくバイクに乗ったメット男とは
この時のアイリは知る由もない―
サウザー「ああ、何をして遊ぼうか」
ジャア、チキュウボウエイグンゴッコ!
エンチョーセンセイハ、カイジュウネ!
サウザー「フハハハハ! バルタン聖帝だ!」
バルタンハニンジャダヨー
シュウ「オウガイ先生…今日も世界は平和です」
ケンシロウ「子供か…いいなぁ……悩みとか無いんだろうな」
ケンシロウ「しかしあの子供達、あんな強面のマッチョからよく逃げないな」
「それは愛情を感じてるからだ」
ケンシロウ「誰だ!」バッ
シュウ「久しぶりだなケンシロウ」
ケンシロウ「シュウ…」
ケンシロウ「仕事中じゃないのか?」
シュウ「かまわんさ、そろそろお昼寝の時間だ」
ケンシロウ「そうか」
シュウ「ケンシロウ、サウザー園長が恐ろしいか?」
ケンシロウ「えっ」
シュウ「誤魔化さなくていい。無邪気に遊ぶ子供達を見守るお前の目は愛情に満ちていた」
シュウ「だがサウザー園長が現れた途端、時化る海の如く荒々しい目になった」
ケンシロウ「いやまて、シュウはその時外にはいなかったじゃないか」
シュウ「私は目が見えぬ。見えぬ代わりに心を感じるんだ」
ケンシロウ(ちっ…厄介だな…)
シュウ「今厄介だと思ったろ」
ケンシロウ「ううん、全然」
ケンシロウ「おい待てよ、誰も荒れてなんか…」
シュウ「心を開けケンシロウ」
ケンシロウ「俺はいつもオープンだって!」
シュウ「Open your mind」
ケンシロウ「…」
シュウ「…」
ケンシロウ「シュウ、もう止めてくれ」
シュウ「悩みがあるなら聞くぞ」
ケンシロウ「…もう沢山だ」
シュウ「ケンシロウ…」
ケンシロウ「鬱陶しいんだよ!」
ドギャッ
シュウ「………ケンシロウ」ボタボタ
ケンシロウ「!! ああ…」ズブッ
サウザー「!…いかん、俺まで寝てしまった」
キャーッ
エンチョウセンセー!
サウザー「!! 何事だ!!」バッ
サウザー「これは…!?」
シュウ「ケンシロ…」☆
ケンシロウ「来たか、園長サウザー!」
サウザー「シュウを解放しろ!!」
サウザー「シュウ、喋るな! 体に障る!」
シュウ「聞いて下さい…! ケンシロウを憎しみから…解放するには……愛情がっ」☆ガハッ
ケンシロウ「余計な事を言うな!」スパッ
シュウ「…あ」☆ヒュウッ
サウザー「シュウ!!」ダッ
ケンシロウ「北斗飛衛拳!!」バキッ
サウザー「ぐぅッ」ドサッ
シュウ「ケンシロウを…頼みます…!!」☆
ドチャッ
サウザー「シュウゥゥウウウ!!」
ケンシロウ「は、はは…余計な事を言うから」
サウザー「ぐ……うう」ブルブル
ケンシロウ「…お前の愛情も所詮ただの子供好きレベルだろ。平等に与える事なんて出来ないただの自己満足…」
サウザー「ああそうだ…万人に与えうる愛などない」
サウザー「貴様の様な汚物に与える愛などな!!」
サウザー「世の全ての人間が善の心を持ち、罪を憎み人を憎まず、許し合い歩み寄れば何時の日か争いのない世界が訪れる…」
サウザー「そのような平和ボケした理想はいらぬ」
サウザー「大切な人々を守れぬ愛なら、愛などいらぬ!!」クラッ
ケンシロウ「その愛憎に満ちた瞳…強敵と呼ぶに相応しい」ザッ
間違いが増えてきた…
サウザー「そろそろ体が崩壊する…か?」
ケンシロウ「!?」
サウザー「帝王の肉体に北斗神拳は効かぬ」
サウザー「そして二度も拳を突き入れる事は出来ぬのだッ!!」バッ
ケンシロウ「速い!」
ズバッ
ケンシロウ「ぐうっ!?」
サウザー「死ねぇッ!!」バッ
ケンシロウ「アタァ!!」ブンッ
フワ…ッ
ケンシロウ「……翔んだ」
サウザー「せめて奥義で葬ろう」ツー…
サウザー「南斗鳳凰拳奥義」コォォッ
天 翔 十 字 鳳
ケンシロウ「ああ……!!」
サウザー「トドメだ!!」
エンチョウセンセイ…コワイ
サウザー「!」
センセイ、オコッテル
ゴメンナサイ…
ヒッ…グスッ
サウザー「ち、違う! 俺は…」
サウザー「はッ!?」
ケンシロウ「これぞ北斗神拳が奥義、剛の拳…!」
北 斗 剛 掌 波
サウザー「ぐぅぅぅううう!?」ドガァァッ
ケンシロウ「サウザー、貴様でも俺の渇きは癒せなかった」
サウザー「鳳凰聖帝幼稚園は潰えたか…」△
ケンシロウ「誰よりも愛深き故に……愚かな男よ」
ケンシロウ「ここが貴様の愛の墓場だ。将星…墜ちるべし!!」
サウザー「…確かに、俺の肉体も、魂も! 師オウガイの墓に果てる」△
サウザー「だがッ! このサウザーの与えた愛は、ぬくもりは滅びぬッ!」△
サウザー「愛とは、永久に続くものなのだ――――――」
グシャァッ
ケンシロウ「……」
ユリア「うん」
リュウガ「だからさっさと別れろと言っている」
ユリア「兄さん!」
リュウガ「あんな奴のどこがいいんだか…」
ジャギ「あんな奴の兄も一応いるんだが」
リュウガ「これは失敬、だがおかしいのは今に始まったことじゃないだろ」
ジャギ「まぁな」
ユリア「兄さん達!」
ジャギ「ご近所からも苦情が来てるんだ、アンタの頭脳で何とかしてくれ」
リュウガ「あちこちで北斗出没注意の看板を見るのは忍びないしな。わかった、この天狼星リュウガが一計を案じよう」
ユリア「ありがとう兄さん!」
リュウガ「いいって、ところでラオウの部屋はどこだい?」
ジャギ「ああ? こっちだ」
ジャギ「こんなの上手くいくのか?」
リュウガ「罠は単純な程効き目抜群なんだよ、単純な相手なら尚更ね」
ユリア「でも…これはちょっと」
リュウガ「ユリア、次々に犠牲が出ているんだ。これはケンシロウを倒す為の必要悪なんだ!」
ユリア「…」
ジャギ「その必要悪で実害を被るのは俺ん家なんだけど」
リュウガ「ラオウの奴遅いな…」
ジャギ「こうしている間にも被害が…」
リュウガ「よし、足止めにピッタリな奴がいる。そいつをけしかけよう」ピッ
ジャギ「ケンシロウの噂を聞いてホイホイ動く奴がいるのか?」
リュウガ「いるんだよ、一人だけ」ピッ
リュウガ「ああ、ヒューイ? 悪いけどひとっ走りお使いに行ってくれや」
リュウガ「あ? 仕事? ユリアのお願いなんだけどなぁー」
ジュウザ「我が生活の為にこの場にケンシロウ! お前を葬ろう!」
リュウガ「あいつなら米一合で命を賭ける」
ジャギ「お前魔狼だろ」
ジュウザ「我の拳の真髄、その目に焼き付けるんだな」
ケンシロウ「北斗神拳は無敵だ」
ケンシロウ「…」スッ
ジュウザ「…」ニッ
ケンシロウ(…気配が読めない!)
ジュウザ「我が拳は我流、我流は無型! 無型故に誰にも読めぬ!」
ジュウザ「撃壁背水掌!!」
ジュウザ「撃壁背水掌!!」
ジュウザ「撃壁背水掌!!」
ジュウザ「撃壁背水掌!!」
ケンシロウ「ひでぶっ!?」
ジュウザ「我が拳の真髄は背水!! 生活に余裕があってはそこに油断…甘えが生ずる!!」
ジュウザ「ケンシロウ…泥を啜らねば死ぬ背水の拳の威、ヒモのお前にはさぞ堪えたろう!!」
ケンシロウ「あべしっ」ドガァッ
ジュウザ「よし!! これで米一合! 半年は戦えるぞ!!」グッ
ジュウザ「…」
ジュウザ「ついでに財布ももらっていくぞ」
ガシッ
ケンシロウ「お前の言う通り、余裕があると油断が生じるな」
ジュウザ「しまったァ!!」
ケンシロウ「北斗百裂拳!!」バキッ
ジュウザ「がはぁっ」ドザァッ
ケンシロウ「ジュウザ、俺はあんたから一つ学んだ」
ケンシロウ「その勝利への貪欲さ! (全盛期の)兄ラオウをも凌駕する見事な物だった!」
ジュウザ「どうせなら他人にたからないとこを学べよ…ッ! ガハッ」
ジュウザ「ところでこれ、何に見える?」
ケンシロウ「携帯…?」
ジュウザ「持ってる訳…ないだろッ」☆プルルルッ
ケンシロウ「ん!? あの低燃費少女ハイジのストラップ、俺の携帯に間違いない!」
ジュウザ「もしもし、ドミノデラックス3つとポテナゲ6つにコーラ8本、アイスはそれぞれ4つずつ。北斗さん家によろしく」
ケンシロウ「馬鹿! なにやってんだ!!」
ジュウザ「ざまぁみたかケンシロウ! 俺は最期の最期まで雲のジュウザ!!」
ケンシロウ「こんな姑息な奴初めてだ」
テンショウホンレツッ バゴォッ
ジャギ「帰ってきたな。しかも相当不機嫌だ」
リュウガ「玄関を破壊するとは穏やかじゃないな」
ラオウ「あり得ぬ…ッ!! 灼熱将軍から将軍に降格などあり得ぬッ!!」ガチャッ
ラオウ「!? 何の冗談だ…」
ラオウ「俺の大切なリボルテック達が…、マーヴルヒーローが!! キングゲイナーXANまで!?」
【ラオウの馬鹿 ケンシロウ】
ラオウ「」ブチッ
ケンシロウ「腹へった…早く家入ろう」スタスタ
ラオウ「…」ドドドド
ケンシロウ「ラオウか、ただいま」
ラオウ「待っていたぞケンシロウ」
ケンシロウ「ピザが届いてるのか?」
ブ ウ ン ッ
ケンシロウ「…何の真似だ」スウウッ
ラオウ「それは此方の台詞よ」
ケンシロウ「…お前には関係ないだろ」
ラオウ「ふ…」
ラオウ「ぬぅうあああああああああああッッ!!」ゴォォオオッ
ケンシロウ「…く!」
ユリア「凄まじい闘気ね」ムシャムシャ
ジャギ「効果覿面だったな」パクパク
リュウガ「当然だ」チューッ
スァァッ
ケンシロウ「無想転生」
ケンシロウ「アタァッ」ズァッ
スァァッ
ケンシロウ「これは…無想転生!?」
ゴグシャッ
ケンシロウ「うぶぅっ」ドシャッ
ラオウ「この俺もこの心を血に染めて哀しみを背負うことが出来たわ」
ケンシロウ「うぅっ!? 重!!」
ラオウ「ジョイヤッ!! ドゥリャッ!!」バキッ バキッ
ケンシロウ「はがぁっ あぐぅっ」ブフッ
ラオウ「うぬが! 謝るまで! 俺は! 殴るのを! 止めないッ!!」
ジャギ「あーあマウントとられたな」ペロペロ
リュウガ「ケンシロウの優位性って無想転生だけだからな」ペロペロ
ユリア「ちょっと! カップアイスは舐める物じゃないわよ!」パクッ
ケンシロウ「ブフッ」
ラオウ「ぬっ!? 目がァ!!」グラッ
ユリア「あっと毒霧だ!」
リュウガ「口の中を切ったのを上手く使いましたね」
ジャギ「汚いなさすがケンシロウきたない」
ケンシロウ「零距離剛掌波!!」
ラオウ「べげ!!」
ケンシロウ「黙れ…パチンカス!!」ドガッ
ラオウ「ユリアの…ヒモがァ!!」ベギャッ
ケンシロウ「ぬかせ…寄生虫!!」ズガッ
ユリア「うわぁ…」
ジャギ「醜い…」
リュウガ「正に悲劇だな…」
リン「なんか…野蛮」
バット「悪戯止めよう…ああはなりなくないし」
ケンシロウ「」
ラオウ「」
ジャギ「あ、決まった」
リュウガ「首が向いたらいけない方角向いてる」
ドサッ
ユリア「ダブルKO?」
リュウガ「このまま二人ともくたばればいいのに」
ラオウ「」
ユリア「起きないねー」ズルズル
リュウガ「いいよもう、中入ろうぜ」ズルズル
ジャギ「蕎麦のおかわりは?」
リュウガ「あ、よろしく」
ケンシロウ「」ピクッ
ケンシロウ「メシ…」ググッ
ユリア「ケン!!」
リュウガ「うわ!? 立ち上がった!」
ケンシロウ「メシ…ッ」グラッ
ケンシロウ「撃 壁 背 水 掌」
リュウガ「ぶぎゃあ!!」ベギャッ
ユリア「兄さん!?」
ケンシロウ「美味」ズルズル
ラオウ「ケンシロウは!」
ケンシロウ「ごちそうさま」
ジャギ「一足先に起きてたぞ」
ラオウ「そうか…敗れたか」
ラオウ「み…見せてくれ、このラオウを倒した男の顔を…!」
ジャギ「ほら、行けよ」ドン
ケンシロウ「うわっ」
ラオウ「フ…見事だ、弟よ……!」
ケンシロウ「ラオウ」
ユリア「ラオウさん…!」
ジャギ「兄者!」
トキ「らうー」
ラオウ「ふ…俺のような男でも心配してくれる人間がいるのか」
ド ン ッ
ラオウ「我 が 生 涯 に 一 片 の」
ラオウ「悔い有り」バタッ
ジャギ「だろうな」
ケンシロウ「あー疲れた」ゴロゴロ
ユリア「ケン、あなた最近変よ? どうしたのよ」
ケンシロウ「ここ最近じゃない…一年前からだ」
ジャギ「一年前…?」
ユリア「一年前?」
ラオウ「一年前!?」ピシャーン
ジャギ「何かあったか?」
ラオウ「知らん」
ケンシロウ「最近ユリア来ないなぁ…メールも電話も出ないし」
ケンシロウ「何があったんだ…」ゴロン
フラーインッザスカーイッターカクハバタケー
ケンシロウ「ユリア!? シンかよ…」ポイ
ケンシロウ「!?」バババッ
差出人:シンのすけ
件名:ユリアはいただいた
本文:いつまで経っても働かない怠け者のお前に愛想が尽きたとさ
女の心変わりは恐ろしいのう
フラーインッザスカーイッターカクハバタケー
ケンシロウ「何だようるさ…ユリア!?」
差出人:ユリア(マイスイートハニートースト)
件名:さよなら
本文:このメールに本文はありません
ケンシロウ「」
ケンシロウ「マジで?」
ケンシロウ「は…っ! は…っ!」ダダダダ
バンッ
ケンシロウ「ユリア!?」
ユリア「はいダーリン、あーん」
シン「あ、あーん…」モジモジ
ユリア「美味しい?」
シン「あ、ああ…」カアアッ
ケンシロウ「」
シン「!」
シン(我が生涯に一片の悔い無しッッッ!!)ドゴーン
ユリア「ダーリン?」
シン「ハッ よーし、あーんだ」
ユリア「あーんっ んー! 美味しい!」
ケンシロウ「あの…ユリアさん?」
ユリア「見てんじゃねーよ」
ケンシロウ「」
シン「愛は支え合いだ、無償ではない。貴様のような根無し草が、どうしてユリアと支え合える?」
ケンシロウ「いや…その、心とか…」
シン「現にこうやって心変わりを起こしているが?」
ユリア「ごめんねケンシロウ、あなたの面倒見るの疲れちゃった」
ケンシロウ「」ピシッ
シン「ほれ、負け犬はとっとと失せろ」バキッ
ケンシロウ「あうん」
ラオウ「止まれ愚弟」
ケンシロウ「…」
トキ「ケンシロウ、今日限りでお前を勘当することななった」
ケンシロウ「…え」
ジャギ「無職の面倒は見切れねぇよ!!」
ケンシロウ「そんなの、ラオウも…」
ピラッ
ケンシロウ「…採用通知……?」
ラオウ「無職はうぬだけだ、愚弟」
ケンシロウ「」ビキッ
ジャギ「じゃあな、ケンシロウ」
ケンシロウ「ま、待って…」
ケンシロウ「………」
クラブ「見ろ、こんなとこにいたぜ」
ダイヤ「生気を感じないな! まるで抜け殻だぜ」
クラブ「連れてくぞ!!」
ケンシロウ「……」ズルズル
ケンシロウ「…っ」ドサッ
ケンシロウ「……真っ暗だ」ダラン
カ ッ
ケンシロウ「っ」
『ドッキリ大成功ー!!』
ケンシロウ「………………え」
ケンシロウ「はぁ」
ジャギ「今日が何月何日か言ってみろ」
ケンシロウ「4月1日……………あ」
トキ「そう、エイプリルフールだ」
ケンシロウ「はぁ」
ラオウ「うぬは見事騙されたという訳だ」
ケンシロウ「はぁ」
シン「いやぁ日頃やられてるから今日ぐら」
パリンッ
シン「びひぃっ」メゴッ
ケンシロウ「ああああああああああああああああッッ!!」
ジャギ「ぎゃ!? ばわっ」
……
…
ケンシロウ「俺は深い哀しみを背負った」
ジャギ(一年前の4月馬鹿でグレたのかよ!!)
ラオウ(どれだけ堪え性無くて執念深いんだ)
ユリア(私達は取り返しのつかない間違いを冒したのかも知れない)
トキ「あうあうあー」
リュウガ「」☆
それはユリア達が想像しているより遥かに深かった!
生来の堪え性の無さ、さらにシン以上の執念深さが露呈したケンシロウは、台風の如く八つ当たりを繰り返した!
しかしラオウとの決闘(殴り合い)を経て少しガスが抜けたのか、少し改善の兆しが見えた!
が、未だ収まりが付かないのか、数日経っても値札貼り替えやトレカサーチ等悪逆非道のを繰り返していた
そんなある雨の日!
ラオウ「今帰った」ガラガラ
ジャギ「お帰り、今日は勝ったんだな」
ラオウ「ああ、大神さんが強くてな。土産だ」
ジャギ「無洗米か、パチ屋は何でもあるな」
ラオウ「さて、黒王号を拭くタオルを…」
ジャンジャンバリバリ
ラオウ「ん?」
ケンシロウ「…」ジーン
ラオウ「あれは何だ」
ジャギ「マクロスの実機だろ」
ラオウ「そんな事はわかっている! 何故ケンシロウが打っているんだと聞いている」
ジャギ「雨降ってて出掛けれなかった上、アルトネリコ2クリアして暇になったからだろ」
モーヒトリーボッチジャーナイー
ケンシロウ「ラオウ、ジャギ」
ラオウ「なんだ」
ケンシロウ「俺、間違ってた!」キラキラ
ジャギ「そ、そうだな」
ラオウ「なんていい目だ」
暴力の愚かさに気付き、愛の素晴らしさに目覚めたケンシロウは、その後数日間某歌姫のPOPとCDプレーヤーを持って町内を練り歩いたという!
その姿を見た町内の人々は、ケンシロウの事を世紀末救世主(笑)と呼んだという!
実質ミンメイの手柄である!
ケンシロウ「愛っていいなぁ…」
ユリア「そうかい」
ミンメイすげえwww
ラオウ「今回の件で気づいた事がある」
ジャギ「なんだ」
ラオウ「演出目的でパチンコ打つ奴は気持ち悪いな」
ジャギ「そう思うならゲキテイ!聞くの控えろ」
ラオウ「うむ…少し控えるか」
ァタアッ バキャーンッ
ジャギ「噂をすれば」
ラオウ「初ホールはどうだったかな」
ジャギ「お帰り」
ラオウ「その様子だと負けたか?」
ケンシロウ「ジャギ! これ!」バッ
ジャギ「貸した3万か」
ケンシロウ「マクロスがどこにもなかった! 胸糞悪い!」
ラオウ「一昔前の台だ、仕方ない」
ケンシロウ「マクロスのないパチンコなんて海水の無いクラゲみたいなもんだ!」
ジャギ「そりゃ何も残らねーだろ」
ラオウ(きもちわるい)
トキ「……知ってる天井だ」
トキ「何か……長い夢を見ていた気がする…………」
トキ「……よし、起きよう。何か無性に家族の顔が見たくなってきた」
ジャギ「思い出したぞ!! お前ら! 仕送りを浪費しやがって!!」
ケンシロウ「忘れてた…」
ラオウ「むう…」
トキ「まだ覚めなくてよかった…」
アミバ「医学の発展には尊い犠牲が必要だ」
アミバ「捨ててこい」
シュウ「ここは…私の家か」
シュウ「運動会に出ていた気もするが…まあいいか!」
闘気が30下がった 攻撃力が1下がった
見切りが1下がった 防御力が1下がった
コントロールが20上がった 球速が3上がった
変化球ポイントが上がった 筋力ポイントが上がった
一週間の長きに渡りお付き合いいただき誠にありがとうございました
いろいろ矛盾してると思いますが、そこはギャグという事で一つ
本当はBBQ、運動会、過去の三本で終わらす気はなかったのに…
計画性の無さがでました、すみません
オチたかな? オチてたらいいなぁ
ケンとユリアの話とかも見たかった
Entry ⇒ 2012.01.14 | Category ⇒ 版権物SS | Comments (0) | Trackbacks (0)