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ウルフルン「ハッピーとサニーのアルバムが随分溜まったぜ!」
ウルフルン「サニーのホットパンツから伸びる脚なんてもう……ウルッフウルッフ!」
アカオーニ「また、アルバムを見てニヤけてるオニか?ハッピーとサニーがいいなんてよく分からない趣味オニ……」
ウルフルン「あ゛?」
ウルフルン「ケッ……!あんな子供っぽいやつのどこがいいんだか……」
アカオーニ「そこがいいオニ!」
ウルフルン「泣いてばかりでうぜえんだよ。それに可愛いさアピールしてるとこが痛いぜ」
アカオーニ「なんだとオニ!」
ウルフルン「まったく、ピースピース……って趣味じゃねえもん押し付けられて迷惑だぜ」
アカオーニ「ぐぬぬ……!ピースちゃんの素晴らしさを教えてやろうと思ったのに……!表へ出ろオニ!」
ウルフルン「ああ、いいぜ。オレ様にはハッピーとサニーがついているんだ。負けるわけねえぜ!」
アカオーニ「オレ様が勝ったら、お前の秘蔵コレクションをヤフオクで売ってやるオニ!覚悟しろオニ!」
ウルフルン「させるかよ!」
ウルフルン・アカオーニ「あ゛!?」
マジョリーナ「お前たちの趣味は常軌を逸してるだわさ。可愛い女の子にうつつを抜かすんじゃないだわさ!」
ウルフルン「ああ?じゃあ。てめえの持ってるコレクションはどうなんだよ?」
マジョリーナ「マーチの口癖真似るんじゃないだわさ!」
アカオーニ「す、すまんオニ……」
ウルフルン「……」
アカオーニ「……あ~、なるほどオニ……」
ウルフルン「それにしたって、同性の写真を集めるなんてお前の方がマイノリティだぜ」
マジョリーナ「ヒッヒッヒ……。今、人間界では空前の百合ブームだわさ。そんなお前たちの保守的な考えなんてもう古いだわさ」
アカオーニ「ゆ、百合……?」
マジョリーナ「忌々しいサニーめ!あたしのマーチとイチャイチャして悔しいだわさ!」
マジョリーナ「できるならあたしもマーチとキャッキャウフフしたいだわさ!」
ウルフルン「オレたちはバッドエンド王国の三幹部だ!そんな甘い考えは捨てるんだ!」
マジョリーナ「わ、わかってるだわさ……。でも、辛いんだわさ……」
アカオーニ「うぅ……、ピースちゃーん、会いたいオニー!うおーん……」
ウルフルン「うるせえ!俺まで泣きたくなってくるだろうが……」
ウルフルン「ジョーカー!何のようだ……」
ジョーカー「なんでも願いの叶うロイヤルデコルの捜索をプリキュア達も始めたようです」
ウルフルン「そうか……!ロイヤルデコルを忘れていたぜ!」
ジョーカー「困りますね~……。とにかく、わたし達も急いで探し出しますよ」
ウルフルン(これで、ハッピーとサニーの2人でお出かけが出来るようになるぜ!ウルッフッフッフ……!)
アカオーニ(ピースちゃんと遊園地でデートが……むふふオニ。)
マジョリーナ(マーチと一緒にサッカーができる!あわよくば一緒にお風呂を……。ヒッヒッヒ……!)
ジョーカー(キュアビューティとの結婚にはどうしてもロイヤルデコルが必要です。三幹部のみなさんには頑張っていただかないと……。)
ピエーロ(あれ?こいつら、わたしを復活させる気がないのか……?)
ジョーカー「何の音です?」
ウルフルン「しまった!もうこんな時間か……!」
アカオーニ「急がないと遅れるオニ!」
マジョリーナ「プリキュア達の登校時間だわさ!今日のマーチを撮り忘れるところだったわさ!」
ジョーカー「なんと……!みなさんはそこまでプリキュアのことを……!わたしもキュアビューティの写真を撮りにいかないと……!」
ピエーロ(こいつら……!)
アカオーニ「ピースちゃんは今日も可愛いオニ!」
ジョーカー「ふふふ……、これはなかなかいいものですね。もっと、早くに始めればよかったですよ」
ウルフルン「ところで、マジョリーナのやつがいねえな。どこ行ったんだ?」
ウルフルン「ああ!こいつミエナクナールを使って、マーチを撮ってやがったな!」
マジョリーナ「ヒッヒッヒ……。これがあればマーチのありとあらゆる所を超接近して撮れるんだわさ!」
ウルフルン「てめえ……!」
アカオーニ「ローアングラーは敵オニ!」
ジョーカー(いいなぁ……。)
ウルフルン「くそ……!なんか悔しいぞ!」
アカオーニ「オレ様もピースちゃんを間近で撮りたいオニ!」
ウルフルン「こうなったら、突撃だ!」
アカオーニ「おー!!」
みゆき「うわ、オオカミさん!どうして……!」
ウルフルン「ウルッフッフッフ!」パシャパシャ
あかね「や、やめえや……!この変態!」
ウルフルン「怒りながらの恥じらい顔いただきだー!!こいつはレアだぜ!」パシャパシャ
やよい「いやぁぁ……!やめて……!」
アカオーニ「むふふ。なんだか興奮するオニ!」パシャパシャ
やよい「や、やめてよぉ……うっ…えぅ……」
アカオーニ「ピースちゃんを泣かせてしまったオニ!オレ様は最悪オニ!」パシャパシャ
れいか「ジョーカー……!この……!」
ジョーカー「反撃ですか?そんなの効きませんよ~」パシャパシャ
れいか「くっ……!卑劣な真似を!早くお止めなさい!」
ジョーカー「無理に決まってるじゃないですかぁ~」パシャパシャ
れいか「もう、許しません!たぁ……!」ヒラッ
ジョーカー「ス、スカートがめくれ……!ぶはぁぁぁぁ………!」ドサ
アカオーニ「幸せそうな死に顔オニ……。ゆっくり休むといいオニ」
ウルフルン「羨ましい奴だぜ……。オレ様もこんな死に方してみてえぜ」ギロッ
みゆき・あかね「ひっ……!」
アカオーニ「そうオニね。ピースちゃん協力してくれオニ」ニコッ
やよい「い、いやぁ……」
ウルフルン・アカオーニ「えっ……!?」
みゆき「助けてください!この2人が変なことをしてくるんです!」
お巡りさん「なんだって……!君たちは現行犯逮捕だ!」
ウルフルン・アカオーニ「な、なんだとぉぉぉぉぉ………!!」
ウルフルン「こうなったら……!」
ウルフルン「世界よ!最悪の結末、バッドエンドに染まれ!白紙の未来を黒く塗りつぶすのだ!」
お巡りさん「ううっ、僕も中学生の女の子と写真を撮りあいたい……」
あかね「……!?みんな、このお巡りさんも危険やで……!」
ウルフルン「ウルッフッフッフ……、別におかしいことじゃねえ。可愛い女の子を愛でるのは漢なら当然の行動だ」
アカオーニ「そうオニ!」
れいか「その成れの果てが、このような最期を遂げてもですか?」
ジョーカー「……………」
ウルフルン「いい死に顔じゃねえか」
アカオーニ「羨ましいオニ!」
なお「こんなの間違ってるよ!」
みゆき「人を怖がらせて、写真を撮るなんて………」
5人「絶対に許せない!」
5人「プリキュア、スマイルチャージ!」
ゴーゴー レッツゴー
ウルフルン「よっしゃー!来たぜー!!」パシャパシャ
アカオーニ「こっちに笑顔ちょうだいオニ!」パシャパシャ
マジョリーナ「きゃー、マーチ最高だわさ!」パシャパシャ
ウルフルン「おーし、いいぞ!ハッピー最高だー!」パシャパシャ
サニー「太陽サンサン 熱血パワー! キュアサニー!」
ウルフルン「サニー超かわいいよ!こっちに視線くれぇぇぇ!!」パシャパシャ
ピース「ピカピカぴかりん じゃんけんポン♪ キュアピース!」
アカオーニ「ああ!今日も負けちゃったオニ……。でも、ピースちゃんが見れて最高オニ!」パシャパシャ
マーチ「勇気リンリン直球勝負!キュアマーチ!」
マジョリーナ「きゃー、抱いてーーーーだわさ!!」パシャパシャ
ビューティ「しんしんと降り積もる清き心!キュアビューティ!」
ジョーカー「……………………」パシャパシャ
三幹部「おおぉぉぉ………!!」パシャパシャ
ハッピー「いくよ、みんな!はぁぁぁ……!!」バキッ
ウルフルン「ぐあぁあぁ………!い、痛え。だが、お前のパンチならいくらでも耐えられるぜ!」
サニー「そんなら、これはどうや!はぁぁぁぁ…………!」ドゴドゴドゴ……
ウルフルン「おぼっ、ぐぇ………ぐはっぁぁぁぁぁ!!!」ドサァァ
ウルフルン「いでよ!スーパーアカンベェ!」
スーパーアカンベェ「スーパーアカンベェ!」
ウルフルン「プリキュアたちを適度に痛めつけてやれ!やり過ぎるなよ!」
スーパーアカンベェ「スーパーアカンベェ!」ドガァァァ!!
ハッピー「きゃあぁぁぁ………!!」
ウルフルン「何やってやがる!もっと、優しくだ!」
スーパーアカンベェ「スーパーアカンベェ!」ドガァァァ!!
サニー「うあぁあぁぁぁ………!!」
ウルフルン「な、なんてことを………!すまねぇハッピー、サニー………!」
スーパーアカンベェ「…………!?」
アカオーニ「ふんっ………!ぐああぁぁ…………!!」ビリビリビリ
ピース「そんな、アカンベェを庇ったの………!?」
ウルフルン「おい、大丈夫か!スーパーアカンベェにあんな技は聞かねえんだからわざわざ庇わなくても……。はっ……、お前まさか!」
アカオーニ「ピースちゃんの浄化技、美味しい(?)オニ………ぐへへ」
ウルフルン「その手があったか………!」
マジョリーナ「待ってただわさ!うぎゃあぁぁぁ………!!!」ドガァァァ!!
マーチ「そ、そんな……わたしのシュートを止めた!?」
マジョリーナ「……………」チーン
ウルフルン「こいつら、こんなに安らかな顔で逝っちまうなんて……」
スーパーアカンベェ「スーパーアカンベェ!」
ウルフルン「いいから、オレ様の言うとおりにしやがれ!」
スーパーアカンベェ「……!」
ウルフルン「後のことは任せたぜ……!」
スーパーアカンベェ「スーパーアカンベェ……」
ウルフルン「ああ、かかってきな!」
ビューティ「それではいきます!プリキュア・ビューティブリザード!」
ウルフルン「お前じゃねぇぇぇ……!!!」ヒラリ
スーパーアカンベェ「スーパーアk……!!??」ドガアァァァ!!
ウルフルン「あっ、しまった!スーパーアカンベェに直撃させちまった!」
ビューティ「かわされたり、吸収されずに直撃させればレインボーバーストを使用しなくても勝てるようですね」
サニー「ふう、終わった終わった。はよ、学校に行かんとな」
ピース「デコルも2つ手に入れたし、これでロイヤルクイーン様の復活も目前だね♪」
マーチ「マジョリーナのあの動き、すごいキーパーの素質があるかも……。今度練習に誘ってみよ♪」
ウルフルン「おい、ちょっと待てよ!ハッピー!サニー!オレ様にも浄化技を使ってくれ!!」
れいか「体育で、確かバレーボールでしたよ」
あかね「よっしゃ、腕が鳴るわぁ!」
なお「今日は負けないよ、あかね!」
あかね「のぞむところや!」
やよい「あかねちゃん、わたしも頑張るよ!」
あかね「やよい、その意気やで!」
ウルフルン「くっそー!!なんでオレ様だけ……。不公平だぁぁぁぁ!!!」
おしまい
Entry ⇒ 2012.08.26 | Category ⇒ プリキュアSS | Comments (0) | Trackbacks (0)
小鳥「プロデューサーさん、か」
P「お、おはようございます……すみません、寝坊しちゃって」
小鳥「ふふ、寝癖立ってますよ?」
P「え、ああ!ちょ、ちょっと直してきます!」
小鳥「はい、まだアイドルのみんなも来てないので、ごゆっくり~」
P「は、はい!」
小鳥(……プロデューサーさんは、どこか抜けてる所があるのよねぇ)
小鳥(でも、そこが母性本能くすぐられるというか)
小鳥(いけないいけない……私も仕事しないと)
小鳥「お茶淹れよっと!」
亜美「おはよ→!ピヨちゃん!」
小鳥「おはよう、亜美ちゃん。今日は早いのね」
亜美「んふっふ→実は今日はゲームの発売日だから買ってそっこ→来たんだよ!」
小鳥「ゲームって……も、もしかして!?」
亜美「そう!!テイルズだよぉ!」
響「はいさーい……」
小鳥「おはよう、響ちゃん。あら?なんだか落ち込んでるみたいだけど」
響「ハム蔵と喧嘩したんだぞー……」
小鳥「また?」
響「そう、またなんだ」
小鳥「今度はどっちが悪いのかしら?」
響「自分は!!ハム蔵の好きな玩具を直してあげようとしたんだ!したら、余計壊れちゃって!!」
小鳥「それは響ちゃんが悪いわね」
響「でも、自分じゃどうにもならなかったんだぞー……」
小鳥「ふふ、じゃあ今日の帰り代わりのおもちゃ買っていってあげたらどうかしら?」
響「……そっか!」
小鳥「きっと機嫌なおしてくれると思うわ」
響「よーし!今日は帰りにお店寄って帰るぞー!」
亜美「ね→ね→!ピヨちゃんもやろ→よ→これ!」
亜美「大丈夫大丈夫、ピヨちゃんにも出来るよ!真美今日お仕事直で行ってるし→一人でやるのつまんな→い!」
小鳥「じゃ、じゃあちょっとだけ……って、こ、これは!!」
亜美「?」
小鳥「……こ、この女の子かわいいわね」
亜美「それは男だよ→?」
小鳥「なんですとー!」
響「ぴよ子が唸った……」
小鳥「こんなに可愛い子が……!?」
亜美「最近はそ→ゆ→のが狙いらしいね!」
小鳥「これ買うわ」
亜美「マジッ!?」
小鳥「帰りに買うわ!」
響「す、凄い衝動買いだぞー……」
小鳥「あら、やよいちゃん、お掃除お疲れ様」
やよい「えへへー、綺麗になりましたよ!」
亜美「おはようやよいっちー!」
響「はいさーい!やよいー!」
やよい「えへへー!あれ?プロデューサーは?」
亜美「そういや見ないネ」
響「ぴよ子知ってる?」
小鳥「ああ、さっき寝癖直しに行くって……」
P「す、すまんすまん。なんだ揃ってるな、亜美が遅刻しないなんて珍しいな」
亜美「当たり前じゃん!」
小鳥「ふふ……」
やよい「早起きは三文の得ですー!」
響「三文っていくらなんだ?」
やよい「え!?えっと……いくらなんですかぁ?」
やよい「えっ!?60円なんですかー!!!もやしが、1、2……」
亜美「しかし、やよいっちには高値だった!」
P「あはは……よし、今日は三人でオーディションだ!みんな頑張るぞ!」
やよい「オーディション……」
響「どんな番組のオーディションなんだ?」
P「今日は全国放送のオーディションだ!気合入れていけ!」
亜美「お→!」
やよい「は、はい!頑張りまーす!」
響「気合入れるぞー!!」
小鳥「みんな元気で可愛いわぁ……」
P「戻りましたー」
やよい「ただいまですー!」
亜美「帰ったぞ→!」
響「帰ったぞー!って亜美!自分の真似するなー!」
P「確か一週間後ですね」
亜美「今からゾクゾクするよ→!」
響「楽しみだぞー!」
P(よし!みんなのモチベーションもアップしたみたいだな!)
小鳥(ふふ、みんな嬉しそう……何よりプロデューサーさんが、凄い良い笑顔で……可愛いわ)
P「……?音無さん、どうしたんですか?」
小鳥「ハッ……!?な、なんでもないですよ!あ、そうだ……今から録画予約しておかないとっ!」
やよい「あ、私にもダイビング?っていうのしてもらえないでしょうかー」
響「やよい、それを言うならダビングだ!」
亜美「もぐっちゃ駄目だよ→」
やよい「あ!そうでした!えっと……HIVっていうのに……」
響「うが!それはまったくちがーう!!VHSだ!!」
亜美「やよいっち大胆!」
やよい「あ、そうでしたぁ!」
やよい「えっ!?うちはビデオしかないですー……」
亜美「あ!じゃあ、亜美のプレステ2あげるよ!」
やよい「え?いいの?」
亜美「うん、プレステ3でもプレステ2出来るし!」
小鳥「え……亜美ちゃんそれって凄い価値ある……」
亜美「んふふ~!」
やよい「わーい!それじゃあでぃーぶいでぃーでお願いしまーす!」
小鳥「わかったわ!」
P「あ、音無さん俺にも……」
小鳥「プロデューサーさんは自分でやってください」
P「ですよね……」
小鳥「はい♪」
響「プロデューサー!明日は何するんだ!?」
P「ああ、明日はレッスンだからな。みんな遅れないように。特に亜美」
P「よし、じゃあ今日はこれで解散」
やよい「お疲れ様でしたー!」
響「お疲れ様だぞー!」
亜美「お疲れちゃ→ん!」
P「しっかり休むんだぞー」
バタンッ
小鳥「プロデューサーさんもですね」
P「あはは、そうですね……でも、オーディション受かったからこそ、強みになって頑張ろうって思っちゃうんですよね」
小鳥「そうかもしれないですけど、身体がついていけなくなったら駄目ですから」
P「そ、それもそうですね」
小鳥「よーし……」
P「わっ!?」
小鳥「あら、結構肩こってますね」
P「あ、あぁ……気持ちいいですね……」
P「はい……実は休日出勤ばかりで、15連勤目で」
小鳥「え、ちょ、本当ですか!?駄目ですよ!お休み取らないと!」
P「今は休みよりも、ユニットの認知度が欲しいですから……安定したら、ゆっくり休みますよ」
小鳥「アイドルのみんなは大丈夫なんですか?」
P「はい、俺よりは休んでると思います」
小鳥「そうですか……よし」ポンッ
P「わっ!きゅ、急に押さないでくださいよ!」
小鳥「ふふ、お茶淹れますね」
P「は、はい……ありがとうございます」
小鳥「~♪」
P(変な音無さんだな……)
小鳥「……」
P「……」カタカタ……カタカタ……
小鳥「……」
P「……あの」
小鳥「はい?」
P「音無さん、もう11時ですけど、帰らないんですか?」
小鳥「え?帰って欲しいですか?」
P「い、いやそうじゃなくて……電車とか大丈夫なのかなぁって」
小鳥「ふふ、今日は月末処理があるので、もしかしたらお泊りかもしれませんね」
P「ま、マジですか?」
小鳥「はい!」
P「お、お互い、頑張りましょう!!」
小鳥「そうですね!ファイトです!あ、ポジティブとか流しますか?みんなの曲流したらリラックス出来ると思うんです」
P「ああ、いい考えですね。お願いします!」
P「……あーどうしよう」
小鳥「どうしたんですか?」
P「どうしても、オーディション前にレッスン日を3回入れたいんですけど、予定上入らなくて……」
小鳥「あら……営業とかでですか?」
P「そうなんです……あー、明日のレッスンをフルにするしかないか」
小鳥「そ、そんなことして大丈夫なんですか?」
P「はい……だ、大丈夫ですよ」
小鳥「もー……本当に倒れないでくださいね?」
P「が、頑張ります!」
小鳥「あ、そうだ。お夜食買ってきましょう、何がいいですか?」
P「そうですね……普通におにぎりとかでいいですよ」
小鳥「はーい、あとエナジードリンク買ってきますね」
P「是非お願いします!」
スタスタ
小鳥(今まで事務所でお泊りはあったけど、プロデューサーさんとは初めてかも……)
小鳥(しかも、二人きり、かぁ……)
小鳥(あ、危ない事が起きちゃったり!?あ、だめー!プロデューサーさーん!!)
小鳥(……なんで、起こるわけないか。仕事熱心なプロデューサーさんに限ってそれは無いかなー)
小鳥(それじゃあ……私が?)
小鳥(って、駄目駄目何を考えてるの!小鳥ー!!)
P「……音無さん?」
小鳥「ピヨッ!?」
P「お、おかえりなさい。喋りながら入ってきたってことは誰か居たんですか?」
小鳥「い、い、いませんよ!お、お化けとかじゃないですか!?」
P「あはは……音無さんも疲れてるんじゃないですか?」
小鳥「そ、そうかもしれませんね、おほほほ……」
P「あ、夜食貰っていいですか?」
P「?」
小鳥「サトウのごはんチンッしてきます!」
P「え?」
小鳥「はい!愛情おにぎりです!」
P「お、音無さんが握ったんですか?」
小鳥「ふふ、そうですよ、中身は梅です」
P「ありがとうございます!ああ、塩味が良い感じだ……コンビニに売ってるご飯とはまた違って良い感じです」
小鳥「コンビニのおにぎりはおにぎりで美味しいんですけどねー、飽きたらたまにこういう風にしちゃいます」
P「へぇー……流石ですね」
小鳥「ふふ、伊達に一人暮らししてませんから」
P「良いお嫁さんになりますね」
小鳥「ぶふっ!」
P「うわっ!?」
P「音無さん……汚いですよ」
小鳥「ご、ごめんなさい!ティッシュティッシュ……」
P「だ、大丈夫ですよ自分で拭けますよ!」
小鳥「ごめんなさい、本当に……」
P「大丈夫です、大丈夫です」
小鳥「ありがとうございます、あ!あとコンビーフもあるんですよ。食べます?」
P「あ、はい。頂きます!」
小鳥「コンビーフは、少し温めると美味しいんですよ?」
P「え、そうなんですか?俺いつもそのまま食べてました……」
小鳥「ふふ、じゃあ初温めコンビーフですね!」
P「そうですね」
小鳥「またレンジでチンッしてきますね!おにぎり食べててください!」
小鳥「ですよね~」
P「凄い、俺も温めよう、今度から……」
小鳥「是非是非!」
P「……」もぐもぐ
小鳥「ふふ……」
P「? どうしたんですか?」
小鳥「いや、今までお泊りは一人だったんですけど、こうやって誰かとお泊りは初めてなので。楽しいかな?って」
P「あ、そうなんですか……もしかして、月末っていつも?」
小鳥「そうですねー……運がいいと帰れるんですけど、律子さんが手伝ってくれたりすると、早く終わったり」
P「ええー……そ、それじゃあ俺も手伝いますよ!次から!」
小鳥「プロデューサーさんは、自分の仕事が安定してからにしてください!」
P「はい……」
小鳥「お気持ちだけでも嬉しいですけどね♪」
P「そ、そうですか……」
P「は、はい!!」
数時間後。
小鳥「ふぁあ……」
P「眠そうですね」
小鳥「そうですね……3時半辺りってピークな気がします」
P「本当に……ふぁあ……」
小鳥「あ、つられましたね」
P「あはは……」
小鳥「ガムでも限界が来ますよねー……」
P「そうですねー……ちょっと仮眠したほうが作業捗るのかなぁ……」
小鳥「そうかもしれないですね」
P「……ちょっと仮眠しようかな」
小鳥「それがいいと思いますよ?」
P「すみません……ちょっとソファで仮眠してきます……」
P「お願いします……おやすみなさい」
小鳥「はーい、おやすみなさい」
小鳥「……」
小鳥「…………」
小鳥「あ、仕事しないと……」
P「……スー……スー……」
小鳥「……」
小鳥「……い、いけないいけない、変な妄想が、駄目駄目……」
小鳥「…………」
小鳥「ちょ、ちょっとだけ」
―
――
―――
小鳥『寝顔案外可愛いのね……』
つんつん
P『う、ううん……』
小鳥『子供みたい……』
P『……』
小鳥『ちゅ、ちゅーしてみたり……』
P『……』
小鳥『ん……』
P『……小鳥さん』
小鳥『ピヨッ!?』
P『……小鳥さんがその気なら、俺……俺……』
小鳥『ああ!!だ、だめええええ!!』
―――
――
―
小鳥「……」
小鳥「さ、流石に無いわぁ、今のは……」
小鳥「プロデューサーさんが肉食なわけないもの……草食よね、確実に」
小鳥「いいからお仕事お仕事……」
小鳥「……」
小鳥「ひ、一人でやるほうが捗るなんて、思ってなかったわ」
小鳥「って、あれ!?もう4時!?い、急がないと徹夜しても終わらないは、洒落にならないわ……」
1時間後
小鳥「……」
小鳥「あ、あれ……何か忘れて……」
小鳥「あ!!そ、そうだ、プロデューサーさん起こさないと!!」
小鳥「ぷ、プロデューサーさん!!起きてください!!」ワサワサ
P「う、うーん……」
小鳥「ご、ごめんなさい、もう5時ですよー!」
小鳥「ごめんなさい、お仕事に夢中になっちゃって……」
P「い、いえ……起きれなかった俺も駄目なので……」
小鳥「すみません」
P「大丈夫ですって、んーんー!!よし!!!頑張るぞー!」
小鳥「はい!あ、目覚めのコーヒー淹れますか?」
P「お願いします!って音無さんは眠くないんですか?」
小鳥「私は大丈夫ですよ!怖いのは、肌くらいですけど……」
P「あはは……そうですよね」
小鳥「徹夜は女の天敵です」
P「しっかり手入れしないとですよね……大変ですね、女の人って」
小鳥「そうなんですよー?ふふ」
P「はい」
小鳥「じゃあ、淹れてきますね!」
P(あ、あれ……話題を変えられてしまった……音無さんは仮眠しなくていいのかな)
小鳥「おはよう、やよいちゃん」
やよい「二人共私達より遅く帰ったのに、早いんですねー!」
P「あ、ああ、そうなんだよ」
小鳥「実はてつ……」
P「お、音無さん!!こ、コーヒーお願いしてもいいですか!?」
小鳥「? は、はい」
P「やよいも早いんだな」
やよい「はい!朝お掃除したいなーって!お掃除すると気持ちよくお仕事出来るんですー!」
P「そうか、やよいは偉いな」
やよい「えへへー!」
P「やよいもコーヒー飲むか?」
やよい「あ、私は、コーヒー飲めないので……お掃除終わったら牛乳飲みますー!それじゃあ、お掃除行ってきまーす!」
P「ああ、頼んだぞ!」
小鳥「はい、でもなんでか聞いていいですか?」
P「はい……あんまり、アイドルのみんなには心配かけたくないっていうか……その、大切な時期ですから」
小鳥「ああ……そうですね、すみません」
P「いえ!音無さんは悪くないですよ!俺が早く安定すればいいんです……謝るのは俺のほうですから」
小鳥「ふふ、それじゃあ『頑張ってください』ですね」
P「はい!」
小鳥「コーヒー、ブラックがいいですか?」
P「そうですね!かなり目が覚めそうな奴で!」
亜美「おっはよ→ん!」
響「はいさーい!!」
P「おお、亜美、響。今日は一緒なんだな」
亜美「途中でひびきんとそこで会ったんだよ→ん!」
響「後ろからキックしてきて、大変だったんだぞー!」
響「でも痛かったんだ!!」
P「まぁまぁ……亜美も遅刻してこなかったんだし」
亜美「ほらほら、ね→?」
響「うぎゃー!もー!」
やよい「あ、二人共おはよーございますー!」
響「やよい!はいさーい!」
亜美「やよいっちは、また掃除?すごいね→!」
やよい「えへー!」
P「亜美も見習えよ?」
亜美「うが!兄ちゃん!それは言わない!」
小鳥「ふふ……」
P「あーそうだ、今日のレッスンはフルになったけど、午後予定入れてる人は居ないか?」
P「それは俺が買ってやる」
響「みんなの餌が……」
P「途中で抜け出せるようにするよ」
亜美「ゲームが……」
P「我慢しろ」
小鳥(なんだか学校の先生みたいね、プロデューサーさん……」
P「よし、じゃあフルでできそうだな。響だけは、途中で抜け出すしかないが」
響「あ!そうだ、ハム蔵!お願いしていいか?」
ハム蔵「任せろ、相棒」
響「それじゃあ頼んだぞー!」
P「……い、いいのか?」
響「なんくるないさー!」
亜美「ハム蔵やる~↑」
やよい「凄いです~……」
やよい「プロデューサー!?」
響「プロデューサー!」
亜美「兄ちゃん!!」
小鳥「ぷ、プロデューサーさん……大丈夫ですか?」
P「いたた、春香みたいな事しちゃったな……あはは……」
亜美「何も無い所で転ぶスキル!」
P「仕事に支障が出ないといいが」
やよい「プロデューサー大丈夫ですか?」
P「ああ、大丈夫だ!車出すから、先下で待っててくれ!」
「「「はーい!」」」
小鳥「プロデューサーさんっ」
P「は、はい?」
小鳥「……駄目ですよ、運転したら」
P「で、でも……」
P「あ……そ、そうですよね……」
小鳥「……タクシー使って行ってください!大丈夫ですから、しっかり領収書切れば」
P「すみません……」
小鳥「はい!それじゃあ、気をつけて行ってきてくださいね。ちゃんと休憩挟んでください!」
P「はい!!」
―――
――
―
――
―――
亜美「つ→か→れ→た→……↓」
響「流石に一日レッスンはこたえたぞ~……」
やよい「足がくがくですー……」
P「みんなお疲れさん、アイス買ってきたぞー!」
亜美「ほんと~↑」
響「シークァーサーアイスか!?」
P「響……そ、それは流石に売ってなかったが……やよいの言う通り、ガリガリ君だ」
亜美「んふふ~★なかなか気が利くじゃん!兄ちゃん!」
響「ひきかへふー……」
やよい「あ、頭がきーんって……」
P「ははは、アイス食べたら帰るからな」
「「「はーい」」」
P「戻りましたー」
亜美「ただいまだぞー!」
響「なま、ちゃん!」
やよい「ただ……え?なま、なんですかぁ?」
響「亜美が真似するから、方言使ってみたぞー!」
やよい「あ、方言なんですかぁー!凄いですー!」
響「す、凄いのかー?自分凄いのかー!?」
亜美「ひびきん、あんたは、凄い!」
小鳥「ふふ……」
響「うぎゃー!ぴよ子!何笑ってるんだぁ!」
小鳥「違うわよ、可愛いわぁ……って思っただけよ?」
響「ぐぬぬー……」
小鳥「あ、そうだ、可愛いはなんて言うのかしら?」
響「チュラカーギー……」
小鳥「それじゃあ、響ちゃんちゅらかーぎーね!」
響「納得いかないぞぉー!」
P「まぁまぁ、みんな今日はほんとうお疲れ様だな」
やよい「はい!プロデューサーもお疲れ様でした!」
P「え?」
亜美「あれ→?兄ちゃん、バレてないと思ってたの→?」
P「な、何がだ?」
響「プロデューサー、凄い目の下にクマできてるぞ?」
やよい「プロデューサー……徹夜してましたよね?」
P「あちゃー……」
響「今日はゆっくり休むんだぞ?」
亜美「そ→そ→、なんなら肩から腰からどこでもマッサージしちゃうよ~↑」
P「ああ、すまない……隠すつもりじゃなかったんだけど、みんなに心配かけたくなくてな……」
やよい「隠されるほうが心配しますー!」
響「やよいの言う通りだ!」
亜美「うんうん……兄ちゃんが倒れたら、亜美達プロデュースするのは誰なの~?」
P「うぐ……そ、そうだよな……すまん、でも……」
やよい「プロデューサー!めっ、ですよ!」
P「はい……」
小鳥「ふふ、アイドルのみんなには勝てませんね」
P「まったくですね、あはは……」
響「分かったぞー!お疲れ様だー!」
やよい「お疲れ様でしたー!」
亜美「お疲れちゃーん!!」
ガチャッ
P「ふー……」
小鳥「見事にやられちゃいましたね?」
P「はい……みんな勘が鋭くて……」
小鳥「まぁー気づかないのも仕方ないですよ、徹夜明けで判断力も違いますし……」
P「そうですよね……」
小鳥「それと今日のレッスンどうでしたか?」
P「え……普通のレッスンでしたけど」
小鳥「徹夜明けじゃなかったら、パーフェクトだったかも、ですよ?」
P「……そうですね」
小鳥「ふふ、別に責めてるわけじゃないんですけど、もうちょっと自分の身体を大切にしてくださいね」
小鳥「あ、でも、寝坊しないように、ですよ?」
P「はい!」
小鳥「……そういえば、プロデューサーさんって一人暮らしなんですよね?」
P「そ、そうですけど」
小鳥「じゃあーモーニングコールしてあげましょうか?」
P「え、でも……悪いですよ」
小鳥「ふふ、平気ですよ。ただ電話するだけですし、多分お昼休みの時間ですから!」
P「あ~……じゃあ、お願いしてもいいですか……絶対そのほうが起きるので……」
小鳥「それじゃあ、11時半くらいですか?」
P「はい、それくらいで!」
小鳥「了解です!……じゃあ、そろそろ帰りましょうか」
P「そうですね……二人共起きてる時間おかしいですからね」
小鳥「うふふ……そうですね」
小鳥「はい!お疲れ様でした~!」
ガチャッ
小鳥「……モーニングコール、か」
小鳥「ふふ、なんか楽しいわ」
小鳥「……」
小鳥「あ、でも早く帰ってネないと……」
小鳥「よーし!今度は忘れないようにするぞー!」
小鳥「そろそろね~……」
律子「何がですか?」
小鳥「あ、ちょっと電話しないといけない用事が入ってて」
小鳥(律子さん今日居たのすっかり忘れてたわ)
律子「そうなんですか、どこかのプロダクションとですか?お昼前なのに、珍しいですね」
小鳥「そうなのよー……どうやら、あっちのプロダクションさんはお昼が遅いみたいで」
律子「普通は正午からですよね」
小鳥「いいともも正午からだし」
律子「そこは関係あるんですか……」
小鳥「あ、でも最近はヒルナンデス!のほうが」
律子「わーわー!もう、ほら、半になりますよ!」
小鳥「ああ!本当!電話してきますねー!」
律子「ちょっと、小鳥さん!電話ここ……ああ、行っちゃった……うんん?会社の電話使わないのかしら……」
小鳥(セーフ……)
prrrrrrrrr
prrrrrrr
prr……ガチャッ
P『も、もし、もし……』
小鳥「ふふ、おはようございます、プロデューサーさん」
P『あ、ああ……音無さん……お、はようございます……』
小鳥「寝ぼけてますね?ほら、午後からお仕事ですよー!」
P『……!!ああ、そうだった!!急いで支度だ!!お、音無さん!!ありがとうございました!今日絶対ちゃんとお礼します!』
小鳥「はい!頑張ってくださいね!」
P『はい!』
ツーツーツー
小鳥「ふふ……」
律子「ははーん、なるほど……」
真美「ピヨちゃんが?」
やよい「付き合ってる、ですかぁ?」
律子「このメガネごしに見ちゃったのよー」
春香「でもありえますよね……十分」
響「というか、プロデューサーとぴよ子はどこ行ったんだー?」
伊織「さっき買い出し行くって行ったわよ」
亜美「あ~これは確実ですなぁ!」
千早「だったら素直に祝福しないと」
貴音「真良きことだと思います……」
律子「社内結婚かぁ……まぁ悪くはないし、無い話しじゃないわね」
春香「素敵!憧れちゃうな~社内結婚……」
真「って、春香はアイドルなんだから……」
亜美「いやいや!はるるんの担当のプロデューサーとはるるんが結婚すれば!!」
真美「でもでも、アイドルは恋愛禁止!」
あずさ「あらあら……よしよし」
春香「って!私の話しで進めないでよー!」
律子「と、も、か、く!!二人は悟られたくないみたいだから、みんな気づいてないフリするのよー!」
「「「「はーーーーい」」」」
小鳥「ックシュンッ……」
P「へっくしょん!」
小鳥「か、風邪ですか?」
P「お、音無さんこそ……あはは」
小鳥「ただいまー」
亜美「おかえり兄ちゃん!!」
真美「おかえりピヨちゃん!」
亜美真美「「二人一緒に仲良くおかえりー!!」」
ゴンッ
亜美「痛っ!」
真美「あだっ!」
律子「あ・ん・た・た・ちー!!」
亜美「うわぁああああ、りっちゃんが鬼の顔してる!!」
真美「に→げろ→!」
律子「あ、こら!待ちなさい!!まったく……」
P「どうしたんだ?律子、そんなに怒って」
律子「あ、いや、えっと、き、気にしないでください!」
P「?」
小鳥「?」
真美「やろやろ→!」
P「あ、昼終わったら仕事だからな。ちゃんと終わらせてくれよ?」
亜美「は→い」
やよい「あ、あのプロデューサー!」
P「ん?なんだ?」
やよい「あの、結婚したときって、お祝い金あげないといけないじゃないですか。その、うち貧乏なので……」
響「こ、こら!やよい!!そういうのは自分に相談するんだ!」
やよい「え、でも……」
響「いいからいいから!」
やよい「はわわ~……」
P「?? 一体どうしたんだ、みんな」
「……」シーン
P「おいおい……」
小鳥「不思議ねぇ……」
小鳥「? はい?」
P「なんだ、律子、プロデュースでの相談なら、俺も……」
律子「プロデューサー殿はそこで待機!」
P「お、おう……」
律子「実はですね……」
小鳥「ええ!?やっぱりさっきの聞いてたんですか……」
律子「そうなんです、って、もしかして……」
小鳥「付き合ってません!というか、付き合ってたら律子さんには言ってます!」
律子「あちゃー……私の早とちりか、ごめんなさい!」
小鳥「……まぁ大丈夫です、このほうが面白いと思いますから!むしろ律子さんグッジョブです!」
律子「え、ええ……小鳥さんがそういうなら……」
P「何話してたんですか?」
小鳥「秘密です!」
亜美「え→もうちょっと待って!こいつ倒してから→!」
P「だからやめられるようにって言っただろう!ほら、行くぞ!」
亜美「仕方ない!あとは任せたぞー!ぴよちゃん!」
小鳥「ぴよ!?で、出来ないわよ!」
P「お願いします!音無さん!!」
小鳥「ぐむむ……」
亜美「ニヤニヤ」
やよい「営業がんばりましょー!」
響「おー!」
P「今車出すからな、先行っててくれ!」
「「「はーい!!」」」
――
―
P「戻りましたー」
響「ナマチャーン!」
やよい「なまちゃーんですー!」
亜美「なまちゃんちゃんこー!!」
響「うが!二人に真似されたぞー!」
やよい「えへへー沖縄の方言面白いなーって!」
響「そうか!興味持ってくれたなら嬉しいぞ!」
亜美「なかなかユニークですな、ふむふむ」
響「もっともーっと知りたかったら教えるからな!」
小鳥「おかえりなさい、みんな」
P「今日の営業、ファンの人数がいつもより多く感じて凄かったんですよ」
小鳥「ふふ、徐々に認知度も上がってきましたね」
P「はい!」
やよい「亜美、何してるの?」
亜美「後半へ~続く!」
響「ちびまる子ちゃんかっ!」
P「ほらほら、今日は目に見えた結果が見れてみんな!よかったな!」
やよい「はい!」
響「嬉しかったからなー!」
P「この調子でどんどん大きくなって、頑張るぞ!」
「「「おー!」」」
小鳥「おー!ふふ……」
亜美「ピヨちゃんも頑張るの?」
小鳥「そうね、みんなの応援頑張るわ」
亜美「じゃー亜美もピヨちゃんの応援しちゃおうかな→!」
小鳥「あら?本当?嬉しいわ」
亜美「んふふ~♪」
「「「お疲れ様でしたー!!」」」
ガチャッ
P「ふー……今日は良い一日だったな……」
小鳥「ふふ、ちゃんと起きれましたものね」
P「あ、そうだ!!ちゃんとお礼言ってなかった、本当助かりました……ありがとうございます!」
小鳥「いえいえ、そんなことならどんどんお願いしてくださいね!」
P「はい……俺もどうしても朝弱くて……亜美のことあんまり言えないんですよね」
小鳥「早起きだけは、亜美ちゃんのお手本にならないと」
P「すみません……」
小鳥「でも、亜美ちゃんも遅刻減ってきてますから。大丈夫ですよ!」
P「は、はい……」
小鳥「さてと……私達もそろそろ帰りますか?」
P「あ、音無さん、このあと時間空いてますか?」
小鳥「ピヨ?」
小鳥「ピヨ!本当ですかー?嬉しいー!最近あんまり飲んでなかったので!」
P「ならよかった!じゃあ、下のたるき亭でいいですか?」
小鳥「もちろんです!」
P「じゃあ、さっさと片付けちゃいましょう!!」
小鳥「はい!!」
小鳥「ふふ、プロデューサーさんすっかり出来上がってますね」
P「そういえば、音無さん、付き合ってる人とか居るんですか?」
小鳥「ぶふっ!!」
P「うわっ!?」
小鳥「ゲホゲホ……きゅ、急に何を聞くんですピヨ!?」
P「い、いや、あはは……」
小鳥「居るように見えますか?」
P「ええ、音無さん綺麗ですし」
小鳥「むむむ……」
P「な、なんですか?」
小鳥「ちなみに居ません!」
P「えぇ~……」
小鳥「えぇ~ってなんですかー!もう!失礼ですよ!プロデューサーさん!」
P「いやいや……あはは……」
P「最近仕事が順調ですから……ついつい」
小鳥「……」
P「……小鳥さん」
小鳥「ピヨッ!?」
P「いや、なんか苗字で呼ぶのってなって思って。俺亜美もやよいも響も名前で呼んでましたから」
小鳥「あ、ああ……そうですね、じゃあ小鳥って呼んでください!」
P「いやぁ、でもさん付けしますよ。あはは」
小鳥「ピヨ―……まったく」
P「いや、今日嬉しかったんですよ……モーニングコール」
小鳥「……?そうなんですか?」
P「あんな風に起こされたの初めてですから」
小鳥「ふふ、さっきもいいましたけど、いつでもやりますよ?あれでいいなら」
P「あはは、それじゃあまたお願いしますよ……」
小鳥「喜んでっ!」
小鳥「あ、そうだ」
P「はい?」
小鳥「土曜日って確か午後フリーでしたよね?」
P「そうですよ」
小鳥「んー……じゃあ、ちょっと有る所に来て欲しいんですけど」
P「有る所?」
小鳥「はい!えっと……スマートフォンで出せるかも」
P「??」
小鳥「あ、出た!ここです!メモってください!」
P「は、はい!!」
小鳥「ふふ……」
P「??」
P「こ、ここかな……」
社長「ん?んん?君は」
P「わっ、しゃ、社長!?」
社長「なんだい?君も音無くんの歌を聞きに来たのかい?」
P「こ、小鳥さんの……歌?」
社長「何も聞いていないのかね?」
P「は、はい……」
社長「なら、入ってみるといい。なーに、今日は私の奢りだ。はっはっは!」
P「は、はぁ……」
カランカラン
P「あ、あれ……小鳥さんは?」
社長「んん、まぁそう焦ることはない、とりあえずウォッカでいいかね?」
P「あ、はい。お願いします!ありがとうございます!」
社長「うむ」
社長「最近君のユニットはどうなのかね?」
P「はい、徐々にファンも増えてきてます、あとアイドルのみんなも確実に成長をしています。響も、やよいも、亜美も、それぞれテレビ出演する際にはキャラも固まってきてますし」
社長「うむ……順調なら良いんだよ、君を信じているからね。私の目に狂いは無かったようだ」
P「は、はい……」
社長「そろそろだな」
P「……!?」
コツコツコツコツ
小鳥「……」ペコッ
小鳥「ひとつ~生まれた~種……」
P「……」
社長「どうだい?驚いたかい?」
P「小鳥さん……とても綺麗ですね」
社長「そうだろう?はっはっは」
P「歌も凄い上手くて……」
P「……そうですね、この歌唱力なら確実にトップクラスのアイドルになれます……それに、本当綺麗ですから」
社長「だがね、彼女にもいろいろあるのだよ」
P「俺、まだ小鳥さんの何も知らないですね」
社長「なーに、少しずつ知っていけばいいさ。君は、彼女のことが好きなんだろう?」
P「え、え、そ、そうなんでしょうか……」
社長「?? 事務所ではすっかり、噂になっているはずだがー……はて?」
P「え?」
社長「私が聞いた限りだと、君と音無くんが付き合っている、とかなんとか」
P「そ、それは噂ですよ……そんなことありません、自分に小鳥さんは―――もったいないです」
社長「ううむ、そうだったのかい。残念だねぇ……」
P「そ、そうなんですか?」
社長「彼女も、君のことを思っているものだとばかり思っていたからね」
P「あはは……それは……分かりませんね」
――
―
小鳥「ふふ、プロデューサーさん、どうでしたか?」
P「はい、凄い綺麗ですたよ、小鳥さん」
小鳥「社長と一緒に飲んでましたね、まさか今日社長来るなんて思ってなくて」
P「それは大丈夫ですよ!社長とも……砕けた話し出来ましたから」
小鳥「そうですか、ならよかったです!」
P「はい、え、えっと……あの、凄い噂を聞いたんですけど……」
小鳥「え?」
P「じ、事務所で俺と小鳥さんが付き合ってるって噂が流れてるみたいで……」
小鳥「ええ!?だ、誰から聞いたんですか?」
P「……社長からです」
小鳥「あちゃー……」
P「あ、あちゃー?」
小鳥「ピヨッ!?いや、なんでもないですよー!」
P「小鳥さーん?」
P「まったく……駄目ですよ、一応そういうのはー!」
小鳥「ごめんなさいピヨ~!」
P「……俺に小鳥さんはもったいないです」
小鳥「……ピヨ?」
P「俺なんてまだまだ新米プロデューサーで、自分の体調管理も出来ない奴ですから」
小鳥「……」
P「だから、もったいないですよ、あはは」
小鳥「プロデューサーさん!!」
P「は、はい!」
小鳥「今日なんで、私がここに誘ったか分かりますか?」
P「え、えっと……分かりません」
小鳥「もー……」
P「す、すみません……」
小鳥「私を知って貰いたいなって思ったからなんです」
小鳥「はい……まだ、過去のことは、ちょっと……言えません、でも少しだけ今日は言ったんです。私が歌を歌っていること、とか」
P「……はい」
小鳥「知ってるの、社長とプロデューサーさんだけなんですよ?」
P「え、ええ!?」
小鳥「まったく、ふふ……プロデューサーさんは鈍感ですね」
P「え、えっと……」
小鳥「そーゆーヘタれた所とか、アイドルのみんなに見せちゃ駄目ですよ?」
P「は、はい……」
小鳥「ふふ……」
P「……」
小鳥「プロデューサーさん、か」
P「?」
小鳥「……もったいないなんて、ことありませんよ?」
P「……!?」
P「……えっと」
小鳥「嫌いな人にモーニングコールなんてしませんっ!」
P「そ、その……」
小鳥「……私の口から言わせるんですか?」
P「……小鳥、さん」
小鳥「はい」
P「……俺、あなたのことが、好きになってしまったみたいです」
小鳥「……はい」
P「その、噂とか!じゃなく、正式に……これからお互いを知っていくということで!お付き合い、してくれませんか?」
小鳥「……ふふ、喜んで」
P「……ゆ、夢みたいだ」
小鳥「夢じゃないですよー?現実ですよー?」
P「あ、あはは……」
小鳥「じゃあ、社長にも感謝ですねー……気持ちを気づかせたのは社長ですよね?」
小鳥「あとは……噂広げてくれた、みんなか」
P「そうですね」
小鳥「と言うことは、765プロのみんなね!」
P「はい!」
小鳥「まぁ、その、しばらくは隠しませんか?付き合うことを」
P「そ、そうですね……それがいいと思います」
小鳥「そのほうが、ちょっと楽しかったり?」
P「楽しいかどうかは分かりませんけど……」
小鳥「きっと楽しいですよ、アイドルのみんな……楽しいですから」
P「……はい」
小鳥「それじゃあ、帰りましょうか!」
P「お、送りますよ!」
小鳥「ふふ、おうちに来るのはアウトですよ?それは、もーちょっとしてから、ね?」
P「は、はい……」
P「おはようございます!」
小鳥「おはようございます、プロデューサーさん」
P「ふーなんとか寝坊しないで来れました……」
小鳥「ふふ、でも寝ぐせは治す暇無かったんですか?」
P「あ!」
小鳥「じゃー、まだ誰も来てませんから。直してあげます」
P「え、い、いいんですか?」
小鳥「もちろん!しゃがんでください!」
P「は、はい……」
亜美「おっはよ→ん!」
P「あ」
小鳥「あ」
亜美「あ゛……お、お邪魔しました~↓」
小鳥「あ、亜美ちゃん!?違うのよ!!」
亜美「えーだって!久々に超早起きしたから一番乗りしようとしたら、ピヨちゃんとプロデューサーがイチャラブ1000%なんだもん!!そりゃ逃げる!!」
小鳥「だから、ただ寝癖を治そうと……」
亜美「え→?」
小鳥「……まぁ、思ってるがいいわ」
亜美「??」
P「??」
やよい「おはようございまーす!」
P「お、やよいおはよう」
小鳥「おはよう、やよいちゃん」
亜美「おはよう、やよいっち→!」
やよい「あれ?亜美が居る!珍しいね~!」
亜美「ぬぬ、それは失礼ってもんだぁぜぇ?やよいっち~?」
やよい「ご、ごめんね、それじゃあお掃除してきまーす!」
亜美「あ!亜美もやるー!それじゃあ、あとは若いの二人で、ごゆっくり~↑」
社長「うおっほん!!諸君おはよう」
P「社長!おはようございます!」
社長「今日は皆に報告がある……皆聞いてくれ」
P(な、なんだろう……重大発表かな)
社長「プロデューサーと音無くんの熱愛は噂、なんだね?」
小鳥「はい♪」
P(それかー!?)
亜美「え→?でも、朝イチャラブしてたよ→?」
やよい「え、そうなの?」
亜美「うんうん」
社長「何?そうなのかね?」
小鳥「だから、違いますぅ!」
社長「コホン……こういう噂は控えたまえ?」
律子「すみません、広げたのは私ですから……」
P「律子だったのか……」
律子「すみません……」
真美「まぁでもいいじゃん!本当になるかもだし!」
小鳥「ギクッ」
P「ギクッ」
「「「「ギク……?」」」」
小鳥「あ、えっと、これは違うのよ!」
P「そ、そうだ、今のギクは違うんだ」
社長「本当に君たちは付き合っていないのかね?」
小鳥「もう!社長それ以上はセクハラですよ!」
社長「むむぅ……しかし、社員間関係はだな……」
亜美「も→認めちゃえYO!」
真美「そ→だ!そ→だ!」
やよい「仲良しなのは良いことですー!」
真「うんうん、お似合いだと思うな」
春香「そうそう!お似合いですよー!」
亜美「チューしろ!チュー!!」
真美「そうだ!チューしろ!!」
律子「調子に乗らないの!!」ゴンッ
やよい「あ、でも結婚式の時のお金が……」
貴音「やよい、心配無用……これから売れればいいのですよ」
やよい「そ、そうですよね!」
小鳥「……これはもう、何言っても駄目ね」
P「そうですね……」
社長「じゃあ認める、ということかね?」
小鳥「はい……認めます……昨日プロデューサーさんに告白されちゃいました★」
P「ちょ!こ、小鳥さん!?ここでそれを言うんですか!?」
亜美「ひゅーひゅー!!!!!にくいねぇ!!」
律子「あーもう!ま、まさか噂が本当になるなんて……」
千早「でも素敵ですよね」
あずさ「本当、このままゴールインしそうよねぇ~」
雪歩「結婚ですかぁ……」
響「社内結婚かー!結婚式は盛大にするぞー!」
小鳥「け、結婚……」
P「……」
社長「う、うおっほん!!そろそろ、時間じゃないのかな?」
小鳥「にょわ!そうでした、みんな!そろそろお仕事よー!」
P「そ、そうだ!亜美!響!やよい、行くぞ!」
亜美「え→!行くとき詳しく聞かせてね!」
真美「ずる→い!メールで報告よろ~★」
亜美「了解!」
P「はい?」
小鳥「……行ってらっしゃい!」
P「はい!」
おしまい
やっぱり事務員さんは可愛いピヨ
数年後。
P「……亜美、やよい、響。お前達は、もう……トップアイドルだ」
亜美「うん……!」
やよい「はい!」
響「うん!」
P「だから……お前達はきっと一人ひとりでもやっていける、俺が保証する」
亜美「えっ!?」
やよい「そ、そんな……プロデューサー、これからもプロデュースしてくれないんですかぁ!?」
響「そんなの嫌だぞー!」
P「……ごめんな、俺には次の新人アイドルをプロデュースするって仕事があるんだ」
亜美「そんな……兄ちゃんじゃないとやだ!」
P「亜美……」
やよい「私も嫌です!」
P「やよい……」
P「響……分かってはいる、だけど、俺から離れないと、さらに上は目指せ無い!」
亜美「上なんていらない!兄ちゃんがいるの!」
P「分かってくれ!頼む!!」
響「……亜美、やよい…………プロデューサーの言う通りにしよう」
亜美「ひびきん!!」
響「今までだってそうして、成功してきたぞ!」
やよい「響さん……」
P「ああ、響の言う通りだ……」
亜美「じゃあ……じゃあ!!!条件が一つある!!!」
P「……なんだ?」
亜美「……ピヨちゃんにプロポーズしろ!!」
P「……な、なんでそこで小鳥さんの名前が出るんだよ……」
響「あ、それは賛成だぞ!」
P「あーもう……お前たちは……というか!最初からそのつもりだよ……」
亜美「ほほう?」
響「す、すごい!」
やよい「凄いですー!」
P「ある程度お金も溜まったしな……みんなも呼ぶつもりだ」
亜美「な→んだ、じゃあ安心して、兄ちゃんから離れられるかな!」
P「な、なんだ、それが心配だったのか」
亜美「そ→だよ→!」
P「やれやれ……」
やよい「それじゃあ、絶対ぜーーったい!プロデューサーと小鳥さんの結婚式のステージは私達に歌わせてくださいね!」
響「そうだぞ!じゃなかったら酷いからなー!」
P「も、もちろんだとも」
亜美「んふふ~それじゃあ楽しみになってきましたな!!」
響「これからしてくるのか?」
やよい「素敵ですー……」
亜美「やよいっち!そこの影から見よう!」
P「コラ!お前たちは家に帰るんだ!」
響「えー!自分たちも見たいぞー!」
P「見世物じゃないって!もー……」
やよい「ほら、二人共行かないと。邪魔しちゃ駄目だよ?」
P「そうそう」
亜美「しゃ→ない!兄ちゃんガンバ!」
響「頑張れー!プロデューサー!」
やよい「頑張ってください!プロデューサー!」
P「ああ!お前たちも、俺から離れても頑張るんだぞ!」
「「「はい!!」」」
――
―
小鳥「……」
P「お、おまたせしました!!」
小鳥「ああ、プロデューサーさん」
P「け、結構待ちました?」
小鳥「ふふ、今来た所ですよ」
P「そ、そうですか」
小鳥「……みんなにお別れは言ってきたんですか?」
P「はい……みんな、分かってくれました」
小鳥「そう、やっぱりプロデューサーさんのプロデュースしたアイドル達ね」
P「そう、でしょうか……」
小鳥「ふふ……」
P「……」
小鳥「……」
小鳥「はい」
P「……お話って言うのは」
小鳥「はい」
P「プロデューサーとしても、1つのユニット、3人のアイドルを無事に旅立たせることが出来たんです」
小鳥「そうですね……」
P「そして、これから、また新たな新人アイドルを育てていきます」
小鳥「はい」
P「……小鳥さんは、うちの事務所の事務員です。俺には必要不可欠な存在なんです」
小鳥「……」
P「だから、えっと……」
小鳥「プロデューサーさん、しっかり」
P「は、はい!……新米プロデューサーから抜けだした俺と、結婚してくれませんか?」
小鳥「はい……幸せに、してくださいね?」
P「もちろんです!!」
P「……」
小鳥「……」
P「」
小鳥「ん……」
――――
―――
――
―
社長「では、音無くん……じゃなかったね、もう。小鳥くん、と呼んだほうがいいかな?」
小鳥「はい♪プロデューサーとかぶりますから!」
社長「うおっほん……寿退社は無しということでいいのかね?」
小鳥「そうですね」
P「まだまだお互いこの事務所からは、抜けだせませんから……支えあってこれからもがんばろうと思います!」
社長「そうかそうか、いやー私としても嬉しい限りだね……で、式はいつなんだい?」
P「6月に予定しています」
亜美「ジューンブライド!?」
律子「こら!亜美!!」
P「な、なんだ、みんな聞いてたのか……」
やよい「えへへー」
響「気になっちゃってついつい」
小鳥「みんなもしっかり呼ぶから、来てほしいわ……あ、でもそうなったらみんなフリーの日……ぶ、物理的に無理かしら!?」
P「あー……そうですね」
小鳥「社長!」
P「社長!」
「「「「社長!!!」」」」
社長「祝い事は、765プロ、臨時休業だからね!!」
――――
――
―
そして、月日がたって。
結婚式が、やってきました。
小鳥さんは、ウェディングドレス姿で。
プロデューサーは、タキシード姿で。
結婚式が、始まります。
千早「如月千早でお送りします」
「「「わーーーーー」」」
P「適任ですよね……」
小鳥「生っすか!?でもやってるし……」
春香「それではまず!新郎新婦の入場です!」
千早「大きな拍手でお出迎えください」
パパパパーン パパパパーン
パチパチパチパチパチ
パチパチパチパチパチパチパチパチパチパチ
春香「大きな拍手!幸せの証ですね!」
千早「ええ、音無さんもとても綺麗で」
春香「だから、もう音無さんじゃないってば!」
千早「あ、そうだったわ」
\わはははは!!/
千早「春香、それだと完全に生っすか!サンデーよ……」
春香「そうだった、じゃなくて!こちらから!どうぞ!」
やよい「GoMyWay~」
響「GoMyWay~」
亜美「がんばぁってゆっきまっしょー!」
「「「いちーばんー大好きーなー!!わーたーしーにーなりーーーたーーーいいーーー!!!」」」
そうして、大きなステージも終わり
社長の緊張した声で行われたスピーチも終わり
いろんなものが終わって……
最後に……
小鳥「じゃあ、投げまーす!!」
律子「……むむむ」
あずさ「……」
亜美「もらった~!!!」
亜美「!?」
亜美(な、なんだ、この異様な……プレッシャー……だ、駄目だ、亜美じゃ、と、とれない……)
あずさ「あらあら?」
律子「あずささん、そこまでして……」
あずさ「私は何もしてないわよ~?」
真美「もらったー!!」
あずさ「」
真美「駄目だ!!」
あずさ「あらあら、私の手の中に……」
小鳥「ふふ、それじゃあ次はあずささんですね」
あずさ「あらま~運命の人がどこかに居るのね~……」
―――
――
―
P「ええ、結婚式は終わりました。でも、結婚生活はこれからですよ」
小鳥「その通りですね」
P「というか、どうしても敬語は抜けませんね……」
小鳥「そうなの……癖よね~……」
P「あはは……」
小鳥「……プロデューサーさん」
P「あ、あえてそう呼びますか。はい!」
小鳥「私、今最高に幸せです。これからも、ずーっと、私のこと、幸せにしてください、ね?」
P「……はい!!」
ほんとに、おしまい
小鳥さんと結婚したいです。
乙
Entry ⇒ 2012.08.26 | Category ⇒ アイマスSS | Comments (1) | Trackbacks (0)
える「ほうたる一週間」
える「最近折木さんが部活に来ません」
える(文化祭も終わりましたし、活動内容が内容なので強制はできませんが……)
える(そういえば部活の外で折木さんとお話したことはあまりありませんね)
える(部活に来ないときは何をなさって……)
「えっさ、ほいさ」ザックザック
える「………?」
える「グラウンドの方から聞き覚えのある声が……」
折木「えっさ、ほいさ」ザックザック
える(って折木さん!?一体何を……)
える(と、とりあえず物陰に隠れて様子を……)
折木「ふぅ、ほぼ完成したな。対里志用落とし穴」
える(落とし穴!?)
折木「いい汗かいたー」フキフキ
える(折木さんの口からそんなセリフが出てくるなんて……!)
折木「里志のヤツ、データベースのくせに最近伊原とイチャイチャして調子こいてるからな」
える(調子はこいてないと思います!)
える(逆恨みですか!?)
折木「有刺鉄線も仕込んだし」
える(からかいの限度を超えていますよ!)
折木「こんなところに落ちたらさすがの里志も『オアまァッ!!』とか叫んでのたうちまわりそうだな」
える(本当ですか!?私、気になります!!)
折木「まぁ、確実に激怒するだろうな。
里志が怒った時のために、便座カバー入れておくか」
える(それで本当に機嫌が直るんですか!?)
折木「便座大好き、福部里志」
える(何ですかそれ!??)
える(落ちないと思います!!)
折木「三日間部活にも行かずに掘った穴だからな。絶対うまく落ちてもらうぞ」
える(三日?折木さん、部活に来ないで落とし穴を掘っていたんですか?)
える(……折木さん、部活に来ないときはいつもこんなエキセントリックなことをしているのでしょうか?)
折木「さとしーのデコにねらーいをきーめて、便座カバー」ピンポン
える(その歌は何ですか!?)
える(とにかく、)
える(私、気になります!)
【月曜日】
える(というわけで)
える(私は一週間、折木さんの様子を影から観察することにしたのです)
折木「結局里志のヤツ来なかったな」
折木「せっかく伊原の筆跡に似せたラブレターまで用意して呼び出したのに」
折木「たかがデータベースの分際で」
折木「逆から読んだらスペースインベーダーじゃないか」
える(全然違いますよ!)
折木「………飽きた。里志のことなんかどうでもいいか。
というわけで今日は『こんな入須はいやだ』について考えよう」
える(それが今日の活動ですか!?)
―――― 一時間後
折木「たくさんできたな」
≪こんな入須冬実は清教徒革命で国外逃亡しろ!≫
・前髪が本体だ
・森に生えている
・シリコンだ(胸が)
・『そうとも。何故なら私は入須冬実だからな』とよく言う
・↓こんなだ
ちょっと意味がわからない
(例)「それを嘘と呼ぶかは、君の自由よ。童貞坊や」
・ネット上だとテンションが高い
・本当は出須夏実だ
折木「よし、今日の可処分エネルギー終了。帰るか」
える(読み上げてください!気になります!!)
【火曜日】
折木「よし、今日は遠垣内のモノマネをしよう」
える(それが今日の活動ですか!?)
折木『ぐへへへ~オイラ遠垣内って言いますぅ~。好物はヤニとニコチンですぅ~』
える(遠垣内さんってそんな方なんですか!?)
折木「うーん、ちょっとしか似てない」
える(すこしは似ているんですか!?)
折木「遠垣内のヘタレ不良っぷりがあんまり出てないな。
もっと普段着の遠垣内に挑戦しよう」
折木『その腕、よほど要らぬと見える』
える(怖い!怖いです折木さん!)
折木「お。今のはちょっと似てたな」
える(これは自信を持って言えます!似てません!!)
折木「さて、今日の可処分エネルギー終了。帰ろ」
える(えぇーっ!)
【水曜日】
折木「よし、一発ギャグでも考えるか」
える(いい加減に部活に来てください!)
折木「伊原摩耶花っ!!」ガッ
える(一発ギャグって、摩耶花さんのネタなんですか!?)
折木「………違うな。伊原のキモオタっぷりがうまく出てない」
える(『きもおた』って何でしょう?私、気になります!!)
折木「いはらーー……マヤカ!!」パカッ
える(何ですかそれ!?)
【木曜日】
折木「今日は何をして暇をつぶそうか……」
える(暇なら部活に来てください!)
折木「あ、そうだ。久しぶりに彼女に会いに行くか」
える(…………え……?)
折木「まあいないけどな、彼女」
える(…………っ)ホッ
える(………?……「ホッ」?)
【金曜日】
える「折木さん、今日は部活にいらっしゃるでしょうか」
折木「はははははー」ビュオンビュオン
える(無表情で笑いながらブランコにー!?)
える(といういか、この神山高校にブランコなんてあったんですか!?)
折木「さとしーのデコにねらーいをきーめて、便座カバー」
える(またその歌なんですか!?)
える(それは個人の自由ではないでしょうか?)
福部「あっ、いたいた!ホータロー!」ダダダッ
折木「ん?」
福部「今日は壁新聞部の取材の日なんだよ?こんなところで何油売ってるのさ」
折木「そんなもの千反田に代表して行かせればいいだろう。部長はアイツなんだし」
福部「その千反田さんが捕まらないからホータローを代役に立てたんだよ」
える(何だか、すみません……)
折木「ちっ、面倒くさいが仕方がない。面倒くさいが」
福部「二回言わなくてもいいよ。ほら、遠垣内先輩待たせてるんだから、早く早く!」ドッコイショ
折木「運ぶな運ぶな」
える(…………行ってしまいました)
―――地学準備室
遠垣内「あの一年生、俺を待たせるとはどこまでバカにしてるんだ……」イライラ
コンコンッ
福部「遠垣内先輩、ホータロ……折木を連れてきました」
遠垣内「やっと来たか」
ガラッ
折木「よーし今日の活動終了」ダッシュ!
折木「よーし今日の活動終了」ダッシュ!
福部「待ってよホータロー!そんなんじゃ取材にならないだろ!!」ダッシュ
福部「遠垣内先輩キョトンとしてたよ!!」
遠垣内『』キョトン
折木「あはははー」ダッシュ!
える(あっ、戻ってきました)
福部「アハハじゃないよ!先っちょだけ見せて何がしたかったんだよ!!」ダッシュ!
える(さきっちょ!?何の先っちょですか!??)
【金曜日】
える「今週折木さんを観察して分かったことは、折木さんが分からないということだけです……」
オーイ、ホータロー
ドコニインノヨー、オレキー!!
える「福部さんに、摩耶花さん?折木さんがどうかしたんですか?」
福部「あっ、千反田さん」
伊原「聞いてよちーちゃん!今日改めて壁新聞部の取材が来たんだけど、
折木のヤツ、おでこを手でパカッとして
『いはらーー……マヤカっ!!』って言ったかと思うと急に出て行っちゃってさ!!」
える(アレをやったんですか!?しかも摩耶花さんの前で!?)
福部「そーなんだ。遠垣内先輩もぽかんとしちゃってさ」
遠垣内『』ポカン
伊原「おまけに人のこと馬鹿にして……八つ裂きにしてやらないと腹の虫が収まらないわ!!」
福部「というわけで、ホータローを見かけたら教えてよ」
伊原「というか、キャメルクラッチで絞め落とした後大声で呼んで!!」
える「か、かめ………?」
福部伊原「じゃ!」ダッシュ!
アノテンパーカナラズブッコロス!!
マァマァマヤカ……
える「行ってしまいました……」
える(とりあえず、私も探してみましょう)
える(多分いつものブランコのあたりに……)
折木「あはははー」ビュオンビュオン
える(いました……)
折木「とう」タンッ
える(跳びました!)
折木「オアまぁー」ゴシャァー
える(転びました……)
折木「あー、駄目だ。何やっても退屈が晴れん。
なぜかは分からんが多分里志のせいだ」
える(それはもう逆恨みどころか八つ当たりです!)
折木「こうなったらあることないこと言いふらして、里志を社会的に抹殺するしかないな」
える(何を言っているんですか!?)
折木「人のバレンタインチョコとタニシをすり替えたことがある、とかどうだろうか」
える(折木さん………)
折木「うん、これは中々面白いな。でも何か物足りん………」
折木「ああ、そういえば」
折木「今週千反田の顔を見ていないな」
える(!!!)
える(……………!)
折木「千反田に振り回されるのも終わりかな。はははー」
える「…………折木さん!!!」ダダダッ
折木「おー、千反田。久しぶりだな」
える「久しぶりじゃありません!」
折木「どうしたそんなにいきり立って」
える「この一週間、折木さんのことが気になって気になって仕方なかったんです!!」
折木「は?」
える「対福部さん用の落とし穴とか、摩耶花さんの一発ギャグとか!」
折木「見てたのか。恥ずかしいな」
える「『こんな入須さんはいやだ』の内容も、遠垣内さんのモノマネも、」
える「わたし、気になります!!!」キラーン
折木「うーむ」
伊原「それは」
遠垣内「俺たちも」
入須「気になるな」
折木「」
入須「折木君。このメモについて聞きたいことが二、三あるのだが」ヒラッ
折木(おお、無くしたと思ったらそんなところにあったのか)
遠垣内「返答次第では………斬って捨てる」チキチキ
折木(わー、よく切れそうなカッターナイフだな)
伊原「覚悟はできてるんでしょうね………」ゴゴゴゴゴ
える「あ、あの、三人とも落ち着いてください」オロオロ
折木「そうそう」
三人『オマエが言うな!!』
福部「あっ、ホータロー!こんなところに居たん」
ズボッ
折木「異端?」
………
………………
………………………
折木「おーい大丈夫か里志ー」
<大丈夫じゃねぇーーーーー!!
折木「ほら、そこ、便座カバーあるぞ、便座カバー」
<いらねーーーーーー!!!!
える「え、えと……」
える「次回をお楽しみに!」
おしまい
スレタイの語感とドラマCDのノリだけで書いた。今では反省している。
じゃあの。
ドラマCDの中身、気になります!
Entry ⇒ 2012.08.26 | Category ⇒ 氷菓SS | Comments (2) | Trackbacks (0)
跡部景吾「ごらく部……?」
跡部「入部希望だ!」
跡部「テニス部と兼部だが、問題無いよな?」
跡部「まぁ俺様が入ってやるって言ってんだから、拒否するわけねぇよな?」
シーーーーン
跡部「なるほどSundayじゃねぇの」
跡部「よし、また明日来よう」
跡部「入部希望だ!」
4人「!」
跡部「お、今日はちゃんといるじゃねぇか」
京子(な、なんだこの人……)ポケーッ
結衣(か、かっこいいー……)ポケーッ
ちなつ(……俺様系を絵に描いたような奴ね)ジトーッ
あかり(じ、自分と同じ人間とは思えないような存在感が……)
跡部「兼部も大丈夫だよな?」
京子「あ、は、はい!」アセアセ
跡部「んじゃあ、入部で決定だな」
結衣「え、あ、は、はい」アセアセ
ちなつ(な、なんで自分から決めてるのよ……)
跡部「よーし」
京子「は、はい」
跡部「俺の名前は跡部景吾。三年だ」
結衣「さ、三年生ですか……?」
跡部「あぁ。テニス部に入ってんだけど、運動部は夏で終わっちゃうからな。ここは引退が無いって聞いたから、卒業までの暇つぶしに使わせてもらう」
京子「な、なるほど」
跡部「構わねぇだろ?」キラッ
京子・結衣「「!」」ドキドキ
京子・結衣「「は、はい!」」
ちなつ(こいつ、なんかむかつくわー……)ジトーッ
跡部「んじゃあ、4人も自己紹介してくれよ」
跡部「オッケー、京子な」チラッ
京子「!」ドキッ
京子「……」ドキドキ
結衣「わ、私は、船見結衣、同じく2年生です(な、なんか緊張するなぁ……)」
跡部「オッケー、結衣な(あ~ん? 2人共、悪くねぇじゃん)」チラッ
結衣「!」ドキッ
結衣「……」ドキドキ
ちなつ「私は吉川ちなつ、1年生よ」ムスッ
跡部「ふぅん、ちなつね(あ~ん? なんかむすっとしてやがんな)」チラッ
ちなつ「……」プイッ
跡部(ふふ……生意気な仔猫ちゃんじゃねぇか)
跡部「よし、京子、結衣、ちなつな。もう覚えた。よろしくな」
あかり「ちょーちょっちょっちょっちょ!」アセアセ
跡部「あ~ん? (もう一人いたのか?)」
跡部「お、おぉ(なんだこいつ……俺様の影の方が存在感あるんじゃねぇか?)」
跡部「京子、結衣、ちなつ、あかりな。覚えたぜ」
京子「あ、跡部さんの事はなんて呼べば良いですか?」
跡部「あ~ん? そうだなー……この部では、お前らの方が先輩なわけだから、呼び捨ててで構わなねぇぜ」
京子「え? よ、呼び捨てですか?」
跡部「あぁ。口調も、ため口で構わねぇし」
結衣「た、ため口ですか……?」
跡部「あぁ。敬語はいらねぇ。……まぁ、俺は景吾だけどな」
京子・結衣「「……」」
ちなつ「跡部、つまんな!」
跡部「!」
ちなつ「こんな感じで良いかしら?」フフン
跡部「あ~ん? 悪くねぇじゃん」
京子「か、活動ですかー……(いざそう言われると困るなー……)」
跡部「ごらく部っていうからには、楽しい事してんだろ?」
結衣「そ、そうですけど……」
跡部「だから敬語はいらねぇって」チラッ
京子・結衣「「!」」ドキッ
京子・結衣「「あ、う、うん(ど、どうしても……)」」ドキドキ
跡部「まぁ、俺はけ」
ちなつ「言わせないわよ」ジトッ
跡部「あ~ん?」
ちなつ「跡部はなにがしたいのよ?」
跡部「(こいつはどんどん来るな)お? 俺様が決めて良いのか?」
跡部「って言っても、今日する事の予定とかあったんじゃぇのか?」
ちなつ「別にないわよ」
京子・結衣(あー……言っちゃったー……)
跡部「あ~ん? どういう部活だよ」
あかり「いつも、集まってから好きな事するんだよぉ!」
跡部「!」
跡部「(油断してるといる事忘れちまうなこいつ……)なるほど、融通の利く部活ってわけだな?」
ちなつ「まぁ、聞こえ良く言えばそうね」
跡部「んじゃあ、そうだなー……」
完璧なつかみだな
京子「差し入れ? そんなの持って来てくれたのー? (お、やっとため口きけたよー……)」
跡部「あぁ」ガサゴソ
結衣「なになにー? (まだちょっと抵抗あるけど……)」
跡部「悪いけど、中学生だからただのショートケーキだな。しかも、一切れ五千円もしない安物の……」ガサゴソ
4人「「!?」」
4人(ひ、一切れ五千円……!?)
京子(な、なんとなく雰囲気からわかってたけど……)
結衣(跡部って……相当なお金持ち……!?)
ちなつ(まぁ、さすがにこの身なりとキャラで貧乏だったら笑い物だもんね)フフン
あかり(あかりとは違う世界に住んでる人なんだね~……)
跡部「よし。一人一切れな」包装バサッ
4人「「おぉ!! (なんか知ってるショートケーキと違う……!)」」
跡部「ショートケーゴだ」
4人「「」」
京子「あ、ありがとう。すごい豪華なケーキだね~」キラキラ
跡部「ほら、結衣」スッ
結衣「ありがとうー(男性側から取り分けるなんて……立ち振る舞いも上品だなー……)」ポケーッ
跡部「ほら、ちなつ」スッ
ちなつ「ど、どうも(一々鼻に付くわねー……)」ムスッ
跡部「……」ケーキ スッ
ちなつ「なっ」スカッ
跡部「これの名前を言ってごらん?」ニヤッ
ちなつ「は、はぁ?」
跡部「そうじゃなきゃ、あげないぜ?」
ちなつ「はぁ? ショートケーキでしょ?」
跡部「ちっちっ。ショート……?」
ちなつ「……馬鹿じゃないの」ケーキ スッ
跡部「あっ……」
京子・結衣・ちなつ「「……」」
跡部「んじゃあ、俺様に感謝しながら……」
あかり「あ、跡部~!」オロオロ
跡部「!」
跡部「あ、悪い悪い (ここまで忘れさせるって……なんかの能力か?)」スッ
京子・結衣・ちなつ(す、素かよ……!)
跡部「ほら、あかり」
あかり「ありがとう~!」
跡部「よし」
跡部「んじゃあ、俺様に感謝しながら、頂きな!」
4人「「いただきまーす」」
結衣「私達が今まで食べてきた安いショートケーキとは全然ものが違うねー……」モグモグ
跡部「あ~ん? これより安いのってあんのか?」
あかり「夕方のスーパーでは値引きで二切れ150円くらいで売ってるよぉ。跡部はお金持ちなんだねぇ!」モグモグ
跡部「あぁ。金持ちだぜ?」
京子・結衣・ちなつ(ふ、普通に認めた……)
跡部「……」チラッ
跡部「ちなつはどうなんだよ?」
ちなつ「!」モグモグ
跡部「あ~ん? 素直に言えよ」ニヤッ
ちなつ「お、おいしいわよ」
跡部「なにがだよ?」
ちなつ「……ショートケーキよ」
跡部「ちっちっ。ショート……?」
ちなつ「……」プイッ
結衣(きょ、京子……男の子の前だと恥ずかしいよ……)アセアセ
京子「いや~美味しかったよ~」
結衣「本当に美味しかったなー」
あかり「こんなに美味しいショートケーキ食べたの初めてだったよぉ。ありがとね、跡部!」
跡部「ふっ。俺様の美食に酔っちまったか」
跡部「……」チラッ
跡部「ちな…」
ちなつ「次何やりますかー?」
京子「そうだね~……(いつもだったら食休みーとか言って寝るんだけど……)」
あかり「跡部はなにやりたい~?」
結衣(お、あかりナイス)
跡部「あ~ん? また俺様が決めて良いのか? んじゃあ……」
京子「あぁ、学校の裏の林の奥にあるね~」
跡部「夏だし、もう夕方で、少し暗くなってきたから……」
結衣「ま、まさか……」
跡部「2-2に分かれて、肝試しでもしようじゃん?」
4人「き、肝試し……!?」
京子「うーん……でもまぁ、悪くないね~」
結衣「ってか、どう割れば2-2になるんだよ……」
あかり「跡部~! またあかりを忘れてたでしょう~!」プンスカ
跡部「あぁ、そうか(俺様の対極にいるような奴だな……) んじゃあ2-3だな」
結衣「んじゃあ、グッショでわかれるか」
ちなつ「わ~い! 結衣先輩と二人!」ダキッ
結衣(二人の方か……ちょっと不安だなー……)
ちなつ「私の所、守って下さいよ~?」ギューッ
結衣「私も恐がりだから、あんまり期待しないでよー……?」
京子「こっちは三人だし、男の子もいるから安心だな!」
あかり「肝試しは苦手だったけど、京子ちゃんもなんか強そうだし、あかりは大船に乗った気分だよぉ!」
京子「もし悪霊が現れても、私達が守ってしんぜよう! なぁ、跡部?」
跡部「あ、あぁ。れ、霊だろうと俺様の前に立ちはだかるなんて事は許されねぇからな」ドヨーン
京子・あかり(な、なんか落ち込んでる……)
結衣「一番奥に小さなお堂があるから、その横に、行った証拠としてなにか置いて来るって感じで良いかな?」
ちなつ「でもなにを置いてきます~?」
跡部「ちょうど2つあるから……これで良いんじゃねぇの?」カシッ
あかり「痛っ」
跡部「あ」
あかり「跡部~! それあかりのお団子だよぉ!」
跡部「あぁ、わりぃ、わりぃ」
京子(跡部レベルの存在感の塊になると……)
結衣(本当にあかりが目に映らなかったりするんだな……)
結衣「最初かー(ちょっと恐いなー……)」
ちなつ「先に行った私達が、この京子先輩の不思議リボンをお堂の手すりに掛けてきて……」
結衣「後の3人がそれを取ってきて、お互いに証明にし合うって感じなー」
京子「二人が掛けて来れなかったら元も子も無いから、しっかりねー!」
あかり(リボン無い京子ちゃん、新鮮だな~)
跡部「……」
跡部「も、もう一回グッ」
ちなつ「しないわよ」
ちなつ「じゃあ結衣先輩行きましょう~!」ダキッ
結衣「う、うん……(恐いよぉー……)」
ガラッ
跡部「………………」ドヨーン
京子(跡部のやつ……)
あかり(ど、どうしたんだろう……?)
跡部「……」ハッ
跡部「……」
跡部(あ~ん? なに俺様がこんな事でよ~? チャンスなんていくらでも作ればあるだろ?)
跡部「……」
跡部「ふぅ」キリッ
跡部「それにしても古臭ぇ部室だなぁ。何億か出してやるから立て替えるか?」ニヤッ
京子(お。元に……)
あかり(戻った……!)
京子「私も割と存在感はある方なんだけど、もうなんか完全にかすんでるよ~」
跡部「あ~ん? 生まれ持っちまったんだから仕方ねぇだろ?」
あかり「一体どうしたらそんなに存在感出せるのー?」グイッ
京子(あかり……迫真だな……)
跡部「(……俺からしたらお前の方が謎だ)存在感なんてのは、一種の才能だからどうしようもねぇだろ?」
あかり「そ、そっかぁ……。あかりには、存在感の才能が一切無かったって事だね……」シュン
跡部(いやある意味あんだろ……)
ちなつ「いや~ん、ちなつも恐いですぅ~!」ギュッ
結衣「ほ、本当かー……? (ちなつちゃん、全然恐がってる風じゃない……)」
ちなつ「こ、恐いですよ~!」クネクネ
結衣「そ、そっか」
ちなつ「当たり前じゃないですか~!」クネクネ
結衣「それにしても、道がどんどん鬱蒼としていくねー……」
ちなつ「本当ですね~! (もっと暗く! もっと暗く!)」クネクネ
結衣「しかも結構長いしー……」
ちなつ(永遠に続いてれば良いのに)ニヤッ
跡部「あ~ん? 学校に徒歩で来る方がおかしいだろ?」
あかり「く、車で送って貰った事さえないよぉ……」
京子「んで、テニス部の部長か~。上手いんだろうね~」
跡部「あ~ん? 当たり前だろ?」
京子(ここで認める所がすごいよなー……)
あかり(京子ちゃんに似てるって思ってたけど、色々と次元が違うよぉ……)
跡部「んで、ちなつはよぉ」
京子(そしてことあるごとにちなつちゃんの話に持ってこうとする……)
あかり(跡部、分かりやす過ぎるよぉ~……)
ちなつ「あそこがお墓の入り口ですね」
結衣「あぁ……(ふ、雰囲気やばい……!)」ギュッ
ちなつ「! (ゆ、結衣先輩の方から……!)」
ちなつ「……」キュンキュン
結衣「ゆ、ゆっくり行こう……?」ギュッ
ちなつ「はい。ゆっくりで良いですよー(ちっ……認めたくないけど……)」キュンキュン
結衣「ゆっくり、ゆっくりなー……」ギューッ
ちなつ「はい。ゆっくり、ゆっくり行きましょう(あいつ、良い提案するじゃない……!)」キュンキュン
京子「そ、そうなんだよー。ごめんねー」
あかり「だから活動もしっかり決まってないんだよぉ~」
跡部「そういう事だったのか……(通りで部活の体を成してねぇと思ったら……)」
京子「で、でも、楽しい事はいっぱいやるからさ~」
あかり「そ、そうだよぉ。だから、やめないでねぇ! い、一緒に、卒業までの思い出作ろうねぇ!」
跡部「……」
あかり・京子「「……」」
跡部「はっ!」
あかり・京子「「!?」」
跡部「頼まれちまったら仕方ねぇなぁ。この跡部様が、ずっといてやるよ」
あかり「よ、良かったよぉ」
京子「あ、ありがとな~!(なんか、主な理由は別にありそうな気がするけど……)」
ちなつ(あぁ……もう……)クラクラ
結衣「んっ……(お墓まで来て、ちなつちゃんもなんか様子おかしいし……)」ギューッ
ちなつ(さ、最高過ぎて……おかしくなりそう……)クラクラ
結衣「きゃっ!」
ちなつ「……?」
結衣「やだ、やだよー!」ガタガタ
ちなつ「ただの木の枝ですよ、結衣先輩」
結衣「あっ……」ホロッ
ちなつ「……」モンモンモンモン
結衣「……こ、恐かったよぉ……」ギュッ
ちなつ「……」クラクラ
ちなつ(なんかもう、跡部を褒めてつかわしたい気にすらなってきたわ)
ちなつ「ただいま帰りました~!」
結衣「た、ただいま……」
京子「お! リボン掛けてきたかー?」
ちなつ「バッチリですよ! (本当に最高の時間だったわー)」
結衣「か、かなり恐いから、気をつけて行って来いよー。どんどん日も落ちてるからな」
あかり(結衣ちゃんすっかりおびえ切っちゃってるよぉ……そんなに恐いのかなぁ……)ガタガタ
京子「大丈夫。こっちは三人だし、なにより男の子がいるからね!」
跡部「あ~ん? 一人で行ったって良いくらいだぜ?」
京子「お! 言うね~!」
ちなつ「は、はい(そっか! これで今度はこの弱り切った結衣先輩と部屋で二人切りになれるのよね……!)」
あかり「じゃあ行って来るよぉ!」スッ
ちなつ(つくづくナイス提案だったのね……!)
跡部「ちゃちゃっと終わらせてくるぜ」スッ
ちなつ「……」チラッ
跡部「……?」
ちなつ(……ありがとね)ウインク
跡部「!」ドキッ
跡部「……」ドキドキ
あかり・京子「「?」」
あかり「あ、跡部、どうしたの?」
京子「まさかここに来て、恐くなっちゃったのかー?」
跡部「あ、あ~ん? そ、そんなわけねぇだろ?」
あかり「あかり、こんな時間にこんな道、一人だったら絶対来られないよぉ~……」トコトコ
跡部「……」トコトコ
あかり・京子「「……?」」
京子「おい跡部~まさかびびっちゃってるのか~?」
跡部「!」
あかり「実はお化けとか苦手だったとか~?」
跡部「あ~ん? んなわけねぇだろ?」
京子「じゃあなに思いつめたような顔してるんだよ~?」
跡部「俺様は部活で、絶対に負けるわけにはいかない立場にいるから、こういう時でも常にテニスの事を考えてんだよ」
京子「へぇ~偉いんだな~」
あかり「どんな事考えてたの~?」
跡部「いや、その……(……そうだ)」
跡部「俺様のプレイスタイルは、相手をインサイトして、その弱点を見抜き、そこをつくってものなんだけど……」
跡部「今度、ミックスの公式試合があんだよ」
あかり「ミックス? なにそれ?」
跡部「男女混合のダブルスだ」
京子「あぁ、なるほどね」
跡部「だから、今は女子選手の所作を分析するって事もしてんだけど……」
あかり「相手に女の子のプレーヤーもいるから……」
京子「女の子の所作から、その弱点とかを見抜く訓練をしてるって事かな?」
跡部「あぁ、そういう事だ。……そんで、お前らも一応、女子だよな?」
あかり・京子「「い、一応……」」
跡部「んじゃあ仕方ねぇから、参考までに質問してやるよ。俺様の試合に活かされるかも知れねぇんだから、有り難く答えな」
あかり・京子「……質問?」
跡部「じょ、女子がいきなりウインクするのって、どういう時だよ?」
京子「そんな事を試合中にする選手がいるのー?」
跡部「いる」
京子「そ、そっか……(超即答されたよ……)」
あかり(あかり達は、テニスの事わからないもんね。きっといるんだろうね)
京子「しかしウインクかぁ。普段生活してて、中々しないよね~?」
あかり「そうだよねぇ。あかりもタイトルコールの時くらいだよぉ~」
跡部「あ~ん? タイトルコール?」
あかり「あ、なんでもないよぉ~」アセアセ
あぁ~ん?
跡部「あ~ん?」
京子「試合中の、どういうタイミングで、誰に向かってするのさー?」
跡部「なっ……」
京子「例えばサーブを打つ前にペアの人に向かってするのと、点を決めた後に相手に向かってするのとじゃ……」
あかり「同じウインクでも、意味合いは全然違うよねぇ」
跡部「そ、それは……」
京子「なに口ごもってんだよ~……」
跡部「えぇっと……あれだ(さっきのシチュエーションをテニスに例えるなら……)」
あかり「あれ?」
跡部「ゲームとゲームの合間に、相手に向かってするって感じだな」
京子「ゲームとゲームの間に……?(それってプレイ自体は関係ないよな……?)」
あかり「(プライベートのアイサインだよね……?)そ、それは……」
あかり・京子「「今度一緒にペア組みませんか……とかじゃないかな?」」
跡部「!!!」
京子「残念だったね~。多分、プレイ自体は関係無いから、そこから相手の弱点は見えて来ないんじゃないかな?」
あかり「上手く行けば、新しいダブルスのパートナーは増えるかも知れないけどねぇ」
跡部「…………」
京子「な、なにそんな思いつめた顔してるんだよ?」
あかり「ほ、他の動作から弱点を見つければ良いんだよぉ!」
跡部「…………」
京子・あかり「「……」」
京子(きっと、本当に責任感ある部長なんだなー……)
あかり(絶対に負けられない試合がそこにはあるってやつなんだねー……)
ちなつ(私はもう意識がぶっ飛びそうで恐いですぅ……)クラクラ
結衣「3人……大丈夫かなぁ……」ギュッ
ちなつ「だ、大丈夫ですよぉ(結衣先輩には悪いけど、実際、3人もいたら屁でも無い道よね……)」
結衣「んー……」ギュッ
ちなつ「ちょ、ちょっと、おトイレ行って来ますね」スッ
結衣「え?」
ちなつ「す、すぐ戻ってきますよ」
結衣「嫌だよ、ここにいてよちなつちゃん~……」ギューッ
ちなつ(も、もう今日で死んでも良いかも……)キュンキュンキュンキュンキュン
結衣「お願いー……」ギューッ
ちなつ(跡部の奴、もう一回くらい褒めてつかわしてもやっても良いわね)キュンキュンキュンキュンキュンキュン
あかり「あ、そこの欄干に京子ちゃんのリボン掛かってるよぉ」
京子「お、本当だ。よし」ヒョイ
京子「付けて……っと」シャキーン
あかり「おぉ! いつもの京子ちゃんが帰ってきたよぉ!」チラッ
京子「自分でもなんか違和感すごかったよ~」チラッ
跡部「ふぅ」
あかり・京子「「!」」
跡部「あ~ん? これで終わりかよ。ったく手応えねぇな!」
あかり・京子「「お、おぉ」」
あかり(跡部、やっと元に戻ってくれたよぉ……)
京子(さっきまでの沈黙切なげフェイスは一体なんだったんだ……)
あかり「今帰ったよぉ!」
跡部「ふぅ」
京子「ただいま~!」リボン シャキーン
ちなつ「あ、ちゃんと取って来れたみたいですね!」
結衣「良かったー……」ウルッ
京子「ゆ、結衣のやつ、どんだけ心配してんだよ~……」
あかり「余裕のよっちゃんだったよぉ! むしろ、楽しかったよぉ!」ドヤッ
ちなつ「こっちもとっても楽しかったですよ~」クネクネ
京子「待ってる側が楽しかったって……」
ちなつ「……」チラッ
跡部「……!」
ちなつ「……」ウインク
跡部「!!」
京子「そろそろ帰るかー」
ちなつ「こんなに遅くまで部活してたの、久し振りですねぇ」
あかり「それに、こんなにちゃんと企画やって、中身ある活動したのも久し振りだねぇ」
京子「確かになー。……跡部、お前」クルッ
跡部「!」
跡部「あ、あ~ん?」
京子「ごらく部の才能あるんじゃないかー?」
結衣「なんだよごらく部の才能って……」
跡部「ふっ。なにやらせても天才的な俺様になに言ってんだ?」
京子「お、相変わらずだねー」
ちなつ「まぁそこはちょっとは認めてあげても良いですね」フフン
跡部「!」
あかり「よーし、じゃあ帰ろう!」
京子「じゃあ行くかー」
あかり「早く帰って夕飯食べたいよぉ」
ちなつ(今夜は結衣先輩との密な時間を思い出しながら寝よう)モンモンモンモン
跡部「……」
結衣「ちょ、ちょっと待ってよー……」
あかり・京子・ちなつ「「……?」」クルッ
京子「ど、どうしたの結衣ー? (なんか怯えてる……?)」
結衣「い、いつもの帰り道だとちょっと暗くて恐いからさー……」
京子「ま、まだ恐がってたのかよ~……」
結衣「ちょっと遠回りになるけど街の方の道通って帰らないー……?」
京子「あぁ~あのルートかぁ。別に私達は構わないけど……」
あかり「そのルートだと、ちなつちゃんの家は逆になっちゃうから、ちなつちゃんがずっと一人になっちゃうねぇ」
ちなつ「(結衣先輩……可哀想……)わ、私は大丈夫ですよ!」
あかり「そうだよねぇ。もうこんなに暗いもんねぇ」
ちなつ「だ、大丈夫ですよ! 自分の身くらい、自分で守りますから!」
京子「で、でもー……」
ババババババババババババババババ
あかり・京子・結衣・ちなつ「「!?」」
ちなつ「な、なによあれ!?」
結衣「へ、ヘリコプター!?」
京子「ま、まさか……」
あかり「これって……」
跡部「ふぅ。おせーぞ、爺」
京子「ま、待った!」
跡部「あ~ん?」
京子「結衣も乗せてってよ!」
跡部「あぁ?」
あかり「そうだね、それが良いね! 結衣ちゃんの家は○○町の辺りだけど、跡部、大丈夫?」
跡部「まぁそれくらい、ヘリなら回り道にも入らねぇけど」ドヤッ
あかり「おぉ! さすが!」
京子「じゃあ結衣!」クルッ
結衣「ダ、ダメだよ!」
京子「え?」
結衣「私、飛行機とか空飛ぶもの苦手で乗れないんだ……」
京子「え、あ……そ、そう言えば……」
あかり「そ、そうだったよね……」
京子「(……そうだ!)待ったー!」
跡部「あ~ん? 今度はなんだよ?」クルッ
京子「じゃあちなつちゃんを乗せてってよ!」
跡部・ちなつ「「なっ……!」」
京子「ね? どう?(こうすれば万事解決だし……跡部も望む所でしょ!)」
あかり「そ、そうだね! そういう手もあったね!(京子ちゃん、ナイス援護だよぉ!)」
跡部「な、なんで俺様がこんなゴニョゴニョゴニョ」
京子「帰るのがこんな時間になったのは誰のせい?」グイッ
あかり「女の子が一人で帰るのが危ないような時間になっちゃったのは誰のせい?」グイッ
京子「これで今日、ちなつちゃんの身になにかあったらどうするの?」
あかり「そうだよぉ! あかり達だってそんなのは嫌だから、あかり達からもお願いするよぉ!」
跡部「ちっ……」
ちなつ「……」ムスッ
あかり・京子「「……」」
跡部「ふぅ」
跡部「おいちなつ、乗ってけよ」
ちなつ「……!」
結衣「ご、ごめんなー」
跡部「ふぅ」
ちなつ「……」
跡部「爺、降ろしてくれ」
梯子シャーーー
跡部「……」
ちなつ「……」
跡部「ほら、昇れよ」
ちなつ「べ、別に良いわよ。一人で歩いて帰るから」プイッ
ちなつ「だ、誰のせいよ」
跡部「俺様だよ」
ちなつ「……」
跡部「だから責任取ろうってんだよ」
ちなつ「……」
跡部「観念して早く昇れよ」
ちなつ「馬っ鹿じゃないの?」
跡部「あ~ん?」
ちなつ「梯子をスカート穿いた女の子から先に昇れるわけないでしょ!」プイッ
跡部「なるほど、セクハラじゃねぇの」
跡部「あ~ん? うちの愛機を舐めんなよ? 昇るって言っても、人間は掴まるだけで良いんだよ」
ちなつ「掴まるだけ?」
跡部「俺様が先に乗るから見てろ」
ちなつ「……」
跡部「よ……っと」カシッ
ちなつ(梯子の一番下に掴まって……)
跡部「……」ウイーン
ちなつ(あ、梯子が上がってく……)
跡部「……ふっ」ドヤッ ウイーン
ちなつ「……」
ちなつ(絵がシュール過ぎるわ……)
ちなつ「ふぅ(割とすんなり乗り込めたわ……)」
跡部「どうだよ? うちの愛機の乗り心地は?」
ちなつ「ヘリコプターなんて初めてだから、比較しようがないわよ」
跡部「ちょっと揺れるけどな」
ちなつ「これくらい、大丈夫よ」
跡部「よし。じゃあ」スッ
ちなつ「……?」
跡部「……」指パチン
シーーーーン
ちなつ「……」
ちなつ「……」
跡部「……」指パチン
シーーーーン
ちなつ「この轟音の中で……聞こえるわけないじゃない」
跡部「……」スーッ
跡部「爺! 出してくれ!」
爺「はい」
バババババババババ
跡部「揺れるぜ!」
ちなつ「きゃっ」
跡部「すぐ安定するから待ってな」
ちなつ「んっ……(すごい……こんな感覚初めて……)」
ちなつ「はぁ……はぁ……」
跡部「よし、安定したな」
ちなつ「な、なんで登下校にわざわざこんなもの使ってるのよ……(車の方が絶対良いでしょ……)」
跡部「あ~ん? 分かってねぇなぁ」
ちなつ「馬鹿みたいに、男のロマンとか言い出すの?」
跡部「いや、これは女の子も理解出来ると思うけどな」
ちなつ「はぁ? ヘリコプターで登下校したいなんて思った事一度も……」
跡部「ちげーよ。見ろよ、これ」
ちなつ「……これ?」
ちなつ「きゃっ」
跡部「ほら」
ちなつ「!!」
跡部「すげぇだろ」
ちなつ(ちょ、ちょっと……感動しちゃったじゃないの……)キラキラキラキラ
跡部「光栄に思えよ?」
ちなつ「こ、光栄ってなによ……」
跡部「俺様専用夜景の、最初のお客さんなんだからな」
ちなつ「……ほ、他の人はまだ誰も見た事が無いって事?」
跡部「まぁな。このヘリに人を乗せる事なんかあり得ないからな」
ちなつ「そ、そう。それはちょっと……嬉しいかもしれないけどゴニョゴニョゴニョ」
跡部「あぁ、あと爺か」
ちなつ「……それは良いでしょ」
跡部「お」
ちなつ「なによ? この音」
跡部「さっき家の住所入力しただろ?」
ちなつ「し、したけど……」
跡部「この直下にちなつの家があるって事だ」
ちなつ「え? もう着いたの?」
跡部「あ~ん? 空路なめんなよ?」
ちなつ「そ、そう」
ちなつ「な、なによこれ? (リュ、リュック?)」
跡部「降りるために必要なんだよ」グイッ
ちなつ(よ、よくわからないけど……)ショイ
跡部「よし、良いな。その後ろから出てる紐は手で持っとけよ」スッ
ちなつ「い、良いってなにがよ? (こ、この紐はなんなの?)」カシッ
跡部「その紐を引くのは、ヘリから降りて丁度5秒後な」
ちなつ「は、はぁ? 降りてから?」
バババババババババババ
ちなつ「ま、まさか……」
跡部「レディー」
ちなつ「ちょっと!!」
跡部「スリー、ツー、ワン!」
ちなつ「い……」
跡部「ゴー!」グッ
ちなつ「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」ヒューーーーン
ちなつ「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」ヒューン
ちなつ(そ、そうだ……!)
ちなつ(紐……! 紐……!)
ちなつ「んっ……(5秒ってのはよくわからないけど……!)」グイッ
ボンッ
ちなつ「!」
フワフワ フワフワ
ちなつ「ほっ……」
ちなつ「し……死ぬかと思った……」フワフワ
ちなつ「もう……なんなのよ……あいつ……」フワフワ
跡部「なるほど早過ぎじゃねぇの」
ちなつ(い、家がまだまだすっごい下なんだけど……)フワフワ
ちなつ「や、やっと……」
ちなつ「家の……屋根に……」
スタッ
ちなつ「ふぅー…………」
ちなつ「真っ暗な道を一人で歩いて帰った方が、よっぽど安全だったわ……」
ちなつ「……」
ちなつ「いつまでもここの上空にいないで、早く行けば良いのに」プイッ
ちなつ「それにしても、なんて説明すれば良いのやら……」
ちなつ「……」窓コンコン
ガラッ
ともこ「ち、ちなつ!?」
ちなつ「ただいまー……」
爺「おぼっちゃま」
跡部「あ~ん?」
爺「いつもとご様子が少し違いますが」ミラー越し ジーッ
跡部「あ、あ~ん?」
爺「とは申しましても、大変些細な事なので、取り立てて問題とすべきような事ではないのですが」
跡部「なにがどう違うんだよ?」
爺「ニヤニヤし過ぎですぞ」
跡部「なっ……じ、爺! なにを…」
爺「……」レバー クイッ
グイーン
跡部「! くっ……」カシッ
跡部「お、おい爺!」
爺「中々良いムードでしたよ」
跡部「!」
爺「爺は怖気づくおぼっちゃまなど見たくありませぬ」
跡部「……!」
爺「自信過多、自意識過剰、唯我独尊、独断専行、」
跡部「なっ……」
爺「それでも、実際に結果を出してしまうのが、おぼっちゃまなのですから」
跡部「!」
跡部(も、もっと俺様らしく行けって事か……?)
跡部「……」
爺「……」b
跡部「へ、悪くねぇじゃん」
跡部「んじゃあ来週にでも遊園地に…」
ちなつ「行かない」プイッ
あかり・京子・結衣「「……」」
跡部「んじゃあ来週にでもクルージングに…」
ちなつ「行かないってば」プイッ
あかり・京子・結衣「「……」」
跡部「んじゃあ来週にでも別荘に…」
ちなつ「行かないって言ってるでしょ!」プイッ
あかり(昨日あの後、一体なにがあったんだろう……)
京子(跡部の奴、完全にスイッチ入っちゃってるよ……)
結衣(こ、これが肉食系ってやつか……)
跡部「あ~ん? 来週じゃ待ちきれないって事か? んじゃあ、明日映画に…」
ちなつ「……学校はどうすんのよ」
跡部「なるほどWeekdayじゃねぇの」
京子「じゃあそろそろ帰るかー(跡部がいると、舌が肥えちゃいそうだよー)」スッ
結衣「そうだなー(このままじゃ安物食べれなくなっちゃいそうだなー……)」スッ
跡部「口の横に生クリームついてるぞ?」ニヤッ
ちなつ「……」プイッ
ガラッ
京子「今日はもう普通に帰れるよなー?」ニヤニヤ
結衣「も、もう大丈夫だよ!」
あかり「まだ明るいしねぇ」
跡部「おい、今日もヘリは空いてるぜ? 夕焼けも中々…」
ちなつ「明るいから普通に帰るわよ」プイッ
京子(口説き文句もここまで慢性化すると……)
あかり(もうBGMみたいなものだねぇ)
キーンコーンカーンコーン
あかり「ちなつちゃん、部室行こう~」スッ
ちなつ「う、うん」スッ
あかり「今日も跡部、なにかおいしいもの持って来てくれたかな~?」トコトコ
ちなつ「……」トコトコ
あかり(? ちなつちゃん、どうしたんだろう……?)トコトコ
ちなつ「……」ピタッ
あかり「ち、ちなつちゃん?」
ちなつ「あ、あかりちゃん」
あかり「? どうしたの?」
ちなつ「ちょっと部室行く前に、コンビニ行かない?」
あかり「コンビニ?」
ちなつ「う、うん」
あかり「なに買うの~?(コンビニならもっと近場にあるのに、どうしたんだろう~?)」
ちなつ「えぇーっと……(確かこのコンビニには……)あ、あっちにあるわね」トコトコ
あかり「……? (向こうにあるのは……花束? コンビニに花束なんて売ってたんだぁ)」トコトコ
ちなつ「えぇっと……」ガサゴソ
あかり「ちなつちゃん、花束なんて買うの?」
ちなつ「う、うん」ガサゴソ
あかり「花束なんて買ってどうするの?」
ちなつ「どうするって……」
あかり「……?」
ちなつ「花束なんて、人にプレゼントする以外ないでしょ?」
あかり「人に……?」
ちなつ「うん」
あかり「い、一体……誰に?」
ちなつ「……跡部よ」
あかり「!!」
あかり「じゃ、じゃあ、まさか、ちなつちゃんも……」カァッ
ちなつ「そんなわけないでしょ」
あかり「えっ……?」
ちなつ「じゃあ、部室行こう」ニコッ
あかり「う、うん(ど、どういう事……?)」
あかり「そうだねぇ」トコトコ
ちなつ「全く……こんな遠くまで歩かされて!」プンスカ
あかり「ち、ちなつちゃんが選んだんだよぉ~!」
ドンッ
ちなつ「あ、すみません!(余所見してたら……人に……)」
男1「おいおい」
あかり(な、なんか恐そうな人だよぉ……)
男2「あれ? お前、テニスウェアーに穴空いてんじゃん」
ちなつ「あっ……(花の棘が引っ掛かって……ちょっとほつれちゃってる……)」
男1「あぁー本当だー」カシッ
ビリビリビリビリ
あかり・ちなつ「「!?」」
ちなつ(じ、自分でウェアーを破いた……!?)
男1「どうしてくれんだよおい!」
男2「このウェアー20万すんだぞ!」
あかり・ちなつ「「なっ……!」」
男1「これは弁償だよね~」
男2「思い出分とかも含めたら、20万じゃ足りねぇよな」
あかり(よ、よく見たら、胸の所にある校章って……)
ちなつ(超お金持ちしか行けない事で有名な……私立八森高校のじゃない……!)
男「30万払ってくれる~?」
ちなつ「なっ……」
男2「思い出分たったの10万とか、優しいねぇ~!」
あかり(ど、どうしたら良いんだろう……!)
男1「はぁ?」
男2「なんで?」
あかり「だ、だいたい、破いたのは……(こ、恐いけど……言うべき事は……)」
ちなつ「じ、自分じゃないですか! (しっかり言わなきゃ……)」
男1「なに言ってんのこいつら?」
男2「なんで自分からウェアー破くわけ?」
あかり「そ、そんな……」
ちなつ「くっ……(完全に決め込んでる糞野郎みたいね……!)」
あかり(今のあかりのお財布には……700円くらいしかないし……)
男1(しかしこいつらすげぇ可愛いな)
男1(やべぇ……もっと苛めてぇ……)ウズウズ
男1(なんつーかこう……痛めつけてぇ……)ウズウズ
男1(……よーし)
男1「……」チラッ
男2「!」
男2「……」ニヤッ
あかり・ちなつ「「……」」
男1「……まぁ良いよ。じゃあ、お前らの言い分も1つとして取っておこうじゃん」
あかり・ちなつ「「え……?」」
男2「ただし、俺らはお前とぶつかったせいでウェアーが破けたと思ってる」
ちなつ「なっ……」
男1「だから、どっちが正しいか決めようや」
ちなつ「き、決める……?」
あかり「ど、どうやって……」
男1「正々堂々と……」
男2「テニスでだよ!」
あかり・ちなつ「「……」」
男1「これは家のプライベートコートだ」
あかり・ちなつ「「……」」
男1「試合して、勝った方の意見が正しい」
男2「負けた方の意見が間違い」
男1「俺らが勝ったら30万払って貰う」
男2「お前らが勝ったら土下座でもなんでもする」
男1「それで良いよな?」
ちなつ「で、でも……」
男1「あ?」
男1「……」
あかり「そもそもあかり達は、初心者ですし……!」
男1「……ふぅ」
あかり・ちなつ「「……」」
男1「知らねーよ」ギロッ
あかり・ちなつ「「!」」
男2「もうお前らはコートの中にいるんだぜ? ここまで来て逃げんなよ?」
あかり・ちなつ「「なっ……」」
ちなつ「……」ハーパン スーッ
男1(ちっ……ハーパン持って来てやがったか……)
ちなつ「あかりちゃん、ごめんね」
あかり「ううん。ちなつちゃんはなにも悪くないよぉ」
ちなつ「私が花束なんか持ってたから……」
あかり「それのなにが悪いの? 必要だったんだもん、仕方ないよぉ」ニコッ
ちなつ「……!」
あかり「やれるだけやろうよぉ。ダメだったら、借りるとかして、なんとか半分ずつ払おう」
ちなつ「ご、ごめんね……」
男1「早くしろ! (早く苛めてぇー)」
あかり・ちなつ「「……」」ほっぺ パンパン
あかり・ちなつ「「……」」キリッ
あかり・ちなつ「「……」」
男1「もう、このコートの入り口は全部施錠した」
男2「試合が終わるまで、出る事は出来ないし、誰も入って来られない」
あかり・ちなつ「「……」」
男1「さっそく始めるか」
ちなつ「わ、私達、ラケット持ってません」
男1「もちろん、それは用意してあるさ」スッ
男2「ふふ」
男1「お客さん用の極上のラケットをな!」バサッ
あかり・ちなつ「「!」」
ちなつ(こ、こんなスカスカじゃないわよね……?)
男1「ひひ。ちょっとガットが足りないけど、勘弁な」
ちなつ(あんなに網の間隔が広かったら……下手したら……)
男2「ふふ。これ、間から普通にボールすり抜けちゃうから、よろしく」スッ スッ
あかり・ちなつ「「!」」
男1「しっかり当てろよ?」
男2「あと、ガードに使うにも心許無いからな?」
あかり・ちなつ「「……」」
男1
ちなつ
あかり
男2「サーブ行くぞー」
男1「しゃあ!」
ちなつ(八森高校って言ったらただのボンボン校で、スポーツでは全くの無名校だけど……)
あかり(と、取れるかな……)ガタガタ
ちなつ(言っても男子対女子よ……しかも、こっちが初心者……)
男1「……」ニヤニヤ
男2「よ……っと」トス スッ
あかり(く、来る……!)
パンッ!
あかり「!」
ちなつ(サーブ高っ……!)クルッ
ちなつ「危ない!!」
あかり「っ……!」サッ
後ろにフェンスにカシャーン!
男2「ちっ (意外とすばしっこいな)」
ちなつ「なっ……」
男1「……」ニヤニヤ
あかり「あっ……」ガクガクガクガク
ちなつ「……」ギロッ
ちなつ(サーブ入れる気なんか……始めからないんじゃない……!)
男2(おっけー)アイサイン
男2「……」ポンポン
ちなつ(あかりちゃん、頼むから避ける事だけに専念して……!)
あかり「……」ガタガタ
男2「……」トス スッ
ちなつ(思いっ切りサイドに逃げても良いから……!)
ポフッ
ちなつ「!?」
ちなつ(め、滅茶苦茶緩い……?)
ポーン
あかり(こ、これなら……面に当てて返すくらいは……)スッ
パン
あかり「よし! (当たった!)」
男1「ひひ」バッ
ちなつ「! (う、浮いた球に……前衛が……!)」
男1「おらぁ!」
パンッ!!
ちなつ「あかりちゃん!」
あかり「!」ラケット サッ
バチーン!!
あかり「っ……」
ちなつ「あかりちゃん!!!」
ちなつ「あかりちゃん!! (顔に思いっ切り……!)」ダッ
あかり「だ、大丈夫だよぉ……」
ちなつ「大丈夫じゃないよ! (ほっぺが……真っ赤に……)」
あかり「い、痛いけど……」
ちなつ「……」クルッ
ちなつ「ちょっと!!」ギロッ
男1「!」
ちなつ「なにしてんのよ!!」ギロッ
男1「なにって……」
ちなつ「……」ギロッ
男1「テニスだよ」
ちなつ「はぁ?」
男1「なにがおかしいんだよ?」
ちなつ「こ、こんなのテニスじゃ」
男1「テニスだよ」
ちなつ「!」
男1「相手に当たる事だってあんだよ。もちろん、当てた方の得点で、そのまま試合は継続する」
ちなつ「なっ……」
男1「テニス舐めんなよ?」
ちなつ「っ……」
男1「じゃあ、続けるぞ」スッ
ちなつ「ちょっと待って!」
男1「あぁ? まだなにか…」
ちなつ「じゃあ、あかりちゃんに当てるのはやめて!」
あかり「!」
男1「は、はぁ?」
ちなつ(そもそも私のせいなんだから……!)グスッ
男1「馬鹿か?……相手のプレイを制限出来るルールなんかねぇっての」
ちなつ「わかってるわよ」
男1「わかってんだったらなんで…」
ちなつ「だから、お願いよ」
男1「!」
ちなつ「お願いをしているの」
男1「なるほどな。……んじゃあ、お前は良いのか? 当てても」
ちなつ「あかりちゃんに……当てないのならね」
あかり「ちなつちゃん!」
男1「へぇーそれは大層な心意気で」
ちなつ「……」
男1「でもそれじゃあ、別にイーブンになってねぇよな?」
男1「当たり前じゃねぇか。お前には当てて良いって言っても、それは元々ルール上問題ない事なんだから、譲歩でもなんでもねぇ。だから、これでこっちがお前の言う通りにしたら、こっちが一方的にお前のお願いを聞いてる状態だろ?」
ちなつ「そ、それは……」
男1「だから、お前がもう一人の子にボールを当てて欲しくないって言うなら、こっちからのお願いにも1個応えて貰わねぇとな」
ちなつ「なっ……」
男1「嫌か?」
ちなつ「……そ、それで本当にあかりちゃんに当てないでくれるなら……」
あかり「ちなつちゃん……!」
ちなつ「聞くわよ」キリッ
男1「おぉ。んじゃあ、そうだな~……」
ちなつ「……」
男1「ハーパン脱げよ」
ちなつ「!」
男2「ふふ」ニヤニヤ
ちなつ「……」
あかり「ち、ちなつちゃん、良いよぉ。あかり、当てられちゃっても頑張って耐えるから……!」
ちなつ「……」バッ
ちなつ「そんな事で良いの?」
男1・2「「なっ……」」
ちなつ「お安い御用よ」フフン
あかり「ち、ちなつちゃん!?」
あかり「ちなつちゃん! 良いよぉ!」
ちなつ「……」チラッ
ちなつ「……」ニコッ
あかり「! ち、ちなつちゃん……」
ちなつ「ふぅ」
ちなつ「……」目ギュッ
ちなつ(それくらいで、友達がこれ以上……)カシッ
男1・2「「おぉ……!」」ニヤニヤ
ちなつ(傷つかないで済むなら……)ススッ
男1・2「「おぉ……!」」ニヤニヤ
「ちょっと待ったー!」
結衣「そうだそうだー!」フェンス ガシャガシャ
あかり「きょ、京子ちゃん!」
ちなつ「ゆ、結衣先輩!」
男1「なんだ? こいつら」
京子「変われー! 私達に変われー!」フェンス ガシャガシャ
結衣「テニスなら休み時間に遊びでやってるから得意だぞー!」フェンス ガシャガシャ
結衣「そうだそうだ~!」フェンス ガシャガシャ
男1「良いよ、無視しとけ」
男2「まぁ、全部施錠してあるからどうせ入って来られないからな」
京子・結衣「「くっそ~! 開けろ~!!」」フェンス ガシャガシャ
あかり(きょ、京子ちゃん……)
ちなつ(ゆ、結衣先輩……)
京子・結衣「「……なんていうのは、冗談で」」
あかり・ちなつ「「……?」」
男1・2「「!?」」
京子「お宅のコート、上がガラ空きですぜ」ニヤッ
男1「う、上……?」
バババババババババババババババ
あかり・ちなつ「「!!」」
男1・2「「!! (へ、ヘリコプター!?)」」
バサッ
男1「な、なんか落ちて来たぞ!」
男1・2「「なっ……(ひ、人……だと……!?)」」
跡部「……」フワフワフワフワ
あかり「……!」
跡部「ふっ」ドヤッ フワフワフワフワ
ちなつ(ダ……ダッさ……)
跡部「……」フワフワフワフワ
跡部「……」ストッ
跡部「ふぅ」
あかり「跡部!」
ちなつ「なにやってんのよ……」
男1・2「「!?」」
男1(あ……)
男2(跡部……だと?)
男2(全国区の……)
あかり「跡部!」
跡部「おい、あかり」スッ
あかり「……?」
跡部「なにされたんだよ。ほっぺ真っ赤だぞ」ポンポン
あかり「んっ……」グスッ
ちなつ「あ、あかりちゃん……」
あかり「痛かったよぉ……」グスッ グスッ
跡部「ったく」ポンポン
あかり「……」グスッ グスッ
ちなつ(やっぱり……必死に耐えてたんだ……本当にごめんね……)
あかり「あっ」
跡部「怪我での交代は仕方ねぇだろ?」
ちなつ「で、でも……このラケットなんかおかしいのよ……!」
跡部「あ~ん? 弘法が筆を選ぶかよ」
ちなつ「ほら、スッカスカなの……! だから、跡部がいくらテニス部で上手くても、下手したら……当たらないかも……」
跡部「はっ!」
あかり・ちなつ「「……?」」
跡部「縦横一本ずつしか張ってないような奴もいる世界で俺は戦ってんだぜ? 充分だろ」
ちなつ(そ、そんな奴……)
あかり(い、いるの~……!?)
ちなつ「……」ムスッ
跡部「おいおい、お前が望んだペアの実現だぞ?」ニヤッ
ちなつ「は、はぁ? (なに言ってんのこいつ……)」
男1・2「「……」」そ~
跡部「おいおい」
男1・2「「!」」ギクッ
跡部「もうお互いにコートの中にいるんだぜ? ここまで来て逃げるなよ?」
男1・2「「うっ……」」
跡部「……」クルッ
男1・2「「ひぃ!」」
跡部「テニスしようぜ!」ドドーン
ちなつ(ダッさ……)
京子「あかり、頑張ったな。とりあえず、出られもしないし、私達も中に入れないから、そこのベンチに座ってなね」
あかり「う、うん……」トボトボ ストッ
結衣「お、ここにフェンスの隙間あるぞ」
京子「お、本当だ。手くらいなら入りそうだね。……よーし」ソソソ スッ
あかり「ん」
京子「よーしよし。今はこれくらいしか出来ないけど」ほっぺナデナデ
あかり「あ、ありがとう~」
あかり「……」
あかり「で、でも……跡部、大丈夫かなぁ……」
京子「舐めちゃいけないよ、200人の頂点を。……それに」
あかり「それに?」
京子「ちなつちゃんが脱がされそうになったくだりは、私達が持たされた機械から跡部にも音声が届いてたはずだから……」
あかり「あ、そうなんだ……!」
京子「あぁ見えて、ぶち切れてるだろうからね」
男1
跡部
ちなつ
男2(ど、どうしたら…・・)
男1(と、とりあえずやるしかねぇだろ!)アイサイン
跡部「……」ギロッ
男2「!」
男2(と、とりあえずここは……プッシュサーブで行こう……)
ポフッ
ちなつ「! (緩い……!)」
跡部「とりあえずどんだけ糞球でも良いから、面を合わせて向こうに返せ」
ちなつ(と、とにかく当てれば良いのね)
ポーン
ちなつ「んっ……」スッ
パン
ちなつ「よ、よし! (返せた……!)」
跡部「そしたら邪魔だから後はベンチにでも座ってな!」
ちなつ「なっ」ムカッ
男2(うわぁ……球こっちに来たよ~……どうすれば……)アセアセ
パンッ
跡部「」
男2「ふっ(我ながらナイスショットだぜ)」
跡部(……今の1ショットでわかるな。こいつらはスカスカにしたり王国作ったりする価値もねぇ……)
跡部「……」サッ
男2「!! (速い……!)」
跡部「……」スッ
パンッ!!
男2「!」
男2(こんなに差があるのかよ……!)タッタッタッタッタ
跡部(お? 追いつくか?)
男2「(これで終わったら情けなすぎるだろ……!)……おりゃ!」パンッ
跡部「おぉ。拾ったじゃねぇか」
男2「はぁ……はぁ……(よし、なんとかつないだ……)」
跡部「でもよ」ギロッ
男1・2「「!」」
跡部「球浮かしちゃダメだよな?」
男1・2「「!」」
男2(まずい……このままだと……)
跡部「歯ぁ食いしばれよ、前衛」
男1「!」
男2(まずい……!)
跡部「おらぁ!」
パンッ!!
通りすがりのおやじ「おぉ! 関東大会手塚戦の1ポイント目ばりのドライブボレーや~!」
男1「ぐぉっ……」
男2「だ、大丈夫か!」
跡部「ふっ(ちっ……久し振りにマジになっちまったぜ……)」
男「ぐっ……」
男2「おい! 大丈夫か!」
跡部(でもまぁ、これで……あいつらの気も……)
「そういう事するならやめてよ」
跡部「!」
跡部「あ、あ~ん?」
ちなつ「……」
ちなつ「もう一回言う?」
跡部「ど、どういう事だよ」
ちなつ「人にわざと当てるなら、もう試合しないでって言ってるの」
跡部「なっ…」
ちなつ「私、あかりちゃんが当てられてるの見て、本当に嫌な気持ちになったの」
跡部「……」
ちなつ「だからやめて」
跡部「……」
跡部「……」
ちなつ「そうじゃなかったら、もう試合やめて」
跡部「……」
ちなつ「……」
跡部「お前……」
ちなつ「……な、なによ」
跡部「本当に良い女だな」
ちなつ「……反吐が出るわ」
跡部「ふぅ。……ったく」
ちなつ「……」
跡部「……」首ポキポキ
跡部「ふぅ」
跡部「……もう一回言うぞ」クルッ
跡部「八森高の雑魚共」
男1・2「「……?」」
跡部「格闘じゃなくて……」
跡部「テニスしようぜ!」
ちなつ(まさかこいつ……この台詞かっこいいと思ってるの……?)ジトーッ
男2「はぁ……はぁ……(い、一点も取れない……)」
跡部「ゲームカウント4-0!」
男1・2「「ちょっちょっと待ってくれ!」」
跡部「あ~ん?」
男1「さ、さすがにここまで一方的なら……(さすがにプライドがもう……)」
男2「その、コールドゲームというか……(立ち直れなくなる……)」
跡部「あ~ん? そんなのテニスのルールにねぇだろ?」
男1「ま、まぁ……そうなんだけど……」
跡部「俺たちは今、テニスしてるんだぜ?」
男2「そうだけど……」
跡部「テニス舐めんなよ?」ドヤッ
ちなつ「!」
ちなつ(これはちょっとスカッとしたわ……)
跡部「ふぅー(煽り抜きで準備体操にもならないって事、本当にあるんだな……)」
ちなつ「……(疲れたー……)」
男1・2「「……」」
跡部「本当はいくらなんだよ?」
男1「い、いくら?」
跡部「そのウェアーだよ」ゴソゴソ
男1「え、あ……10万だけど……」
跡部「やっす! ……ほらよ」札束ポンッ
男1「なっ……」
跡部「金やる代わりに、今すぐここから消えろ」
男2「え?」
跡部「大事な儀式が始まるからな」
京子「やっと入れるようになったよ~」トコトコ
結衣(二人組はどっか行っちゃったけど、あいつらのコートじゃないのかぁ?)トコトコ
あかり「京子ちゃん、結衣ちゃん~」ダキッ
京子「おーよしよし」ナデナデ
結衣「恐かったな」ナデナデ
京子「……」チラッ
結衣「……」チラッ
跡部「……」
ちなつ「……」
京子・結衣(あの二人、コートの真ん中から動こうとしない……)
結衣(なんだあの雰囲気……)
跡部「ちょっとこっち向けよ」
ちなつ「……」
跡部「こっち向けって!」
あかり・京子・結衣「「!」」
跡部「言いたい事があんだよ」
ちなつ「……」
跡部「聞いてくれよ」
あかり・京子・結衣(こ……こ……これは……)ドキドキドキドキ
ちなつ「ちょ、ちょっと待って!」
跡部「あ、あ~ん?」
ちなつ「……」ダッ
あかり・京子・結衣「「!?」」
京子(ちなつちゃん……)
結衣(自分の荷物の置いてあるベンチに……?)
ちなつ「……」カシッ
あかり(あ! 花束……!)
ちなつ「……」ダッ
あかり(そのまま花束を持って……跡部の所に戻ってく……)
ちなつ「先に言わせてよ!」
跡部「!」
ちなつ「私、跡部が言いたい事はもうわかるから!」
跡部「なっ」カァッ
あかり・京子・結衣(おぉ……! まさかまさかのちなつちゃんから……!?)
跡部「いや、そういうのは男から言うもんで」アセアセ
ちなつ「……」スーーーッ
跡部「や、やっぱりここは、俺様から…」アセアセ
ちなつ「ご……」
ちなつ「ごめんなさい!!」
跡部「」
あかり・京子・結衣「「」」
ちなつ「これは、御断りのお詫びよ」花束スッ
跡部「……」
ちなつ「綺麗でしょ。私の大好きな……」
跡部「……」
ちなつ「百合の花よ」
跡部「ま、まさか……この俺様が……」
ちなつ「なによ?」
跡部「恋愛っつう……ここ一番の試合に……負けたっていうのか……?」
ちなつ「ううん。負けてないよ?」
ちなつ「うん。始めから、勝負になってないもの」
跡部「ど、どういう……」
ちなつ「競技自体が違ったのよ」
跡部「きょ、競技自体?」
ちなつ「私ね」スッ
跡部「!」
ちなつ「……」ゴニョゴニョ
跡部「」
あかり・京子・結衣(え? え? え? 一体どうなったの?)
ちなつ「早く帰りましょうよ!」荷物サッ
京子「え、あ、跡部は……? (どうなったのー?)」
ちなつ「しばらく一人にしてあげた方が良いんじゃないですか?」
結衣「そ、そうなの……? (やっぱり、振ったって事……?)」
あかり「ど、どういう事~!?」
ちなつ「良いから、良いからー」グイグイ
キー カシャン
あかり・京子・結衣(お、追いてっちゃって良いの~!?)
跡部「……」ポケーッ
跡部「……」ポケーッ
跡部「……はっ」パチッ
跡部「……」
跡部「……ふぅ」
跡部「……」クルッ
跡部「なるほど、lesbianじゃねぇの」
やりそうで怖い
跡部「おらぁ!」
パンッ!!
真田「ぐっ……」
審判「ゲームセット! ウォンバイ跡部! ゲームカウント6-2!」
真田「な、なぜだ……いつからこんなに強く……」
跡部「あ~ん? もう俺は負けたくねぇんだよ!」
真田「なっ……(気持ちの問題……!?)」
跡部「おら! 次、幸村出てこいや!」
審判「早くコートから退場しなさい」
部員「ある日突然……変わったよね……」
部員「テニスは滅茶苦茶強くなったけど……」
跡部「もう俺は、負けねぇんだよ!」ウルッ
部員「でも……勝ってもなぜかあまり嬉しそうじゃないよね……」
跡部(ちなつー!!)
終
乙
乙
Entry ⇒ 2012.08.26 | Category ⇒ 版権物SS | Comments (0) | Trackbacks (0)
岡部「みんな俺から離れていく……」
ピリリリリ
着信音。見覚えのない番号──
ピリリリリ
底知れぬ不安が思考を支配する。
出たくない。
ピリリリリ
だがそれが止まる気配はない。
意を決して指に力を込める──
ピッ
その瞬間、周りの景色が琥珀色に包まれ、ぐにゃぐにゃと揺れ始める。
平衡感覚は失われ、立っていられなくなり──
女性「ちょ、ちょっと!? 大丈夫!? しっかりして!」
ごめん……なさい……。
Chapter 1 『分離喪失のデジャヴュ』
からだが──
あたまが──
煮えたぎる熱湯の中にいるみたい。
ボコボコと湧き上がる泡が産まれては消え、産まれては消え──
延々と繰り返される。
見覚えのない記憶の泡が産まれては消え、産まれては消え──
延々と繰り返される。
永遠にも感じられる時間。
まゆり……。
たすけられない?
このまましぬ?
熱はやがて引いていく。
今、深く暗い海の底にいる。
無意識に息が漏れる。また泡。
くりす……。
くりす?
くりすってだれ?
岡部「……ぁ」
女性「あっ!」
岡部「あれ……」
女性「良かった。目を覚ましたのね、倫太郎くん」
岡部「……あ、叔母……さん? あれ……ぼくは……」
叔母「あなた一ヶ月も熱にうかされてて……もう大変だったのよ」
叔母「でも、もう大丈夫だからね」
岡部「ねえねえそんなことより聞いてよ!」
叔母「?」
岡部「夢を見たんだ、すごく長い夢」
岡部「ぼくが大人になるまでの夢!」
岡部「それでね? けんきゅうじょをつくって、色んな仲間もいて!」
岡部「それで……あれ?」
叔母「……大丈夫、叔母さんが付いてるから……」
岡部「ねえ……まゆりは? まゆりに会いたい」
叔母「まゆ……り? 誰かしら」
義叔父「友だちかなんかだろう」
叔母「でも、2000年クラッシュの直後だし……今は東京中が混乱してて……とてもお友達と連絡なんて……」
義叔父「日本──いや世界中も大混乱だ。そのせいで義兄さんたちの葬儀もいつになるか──」
岡部(そう……ぎ……?)
叔母「ちょっとあなた!」
義叔父「まだ8歳だ、葬儀の意味なんて分からんさ」
叔母「え、え!? す、少し遠くに行っちゃっただけよ」
岡部「今、そうぎって……」
義叔父「……っ」
岡部「うそだ、夢の中では二人ともずっと生きてて……」
岡部「うそだうそだうそだ……」
叔母「倫太郎くん……」
岡部「なんだよこれ……なんだよこれぇぇぇ!」
叔母「倫太郎くん……大丈夫、大丈夫だから……!」
~小学校~
少年「おかべって頭いいよなー」
岡部「そんなことないと思う」
少年「親がすぱるたなのか?」
岡部「いや、そういう訳じゃないんだけどさ。なんとなく解き方が閃くっていうか、覚えてるっていうか」
少年「またまたー、ガリ勉してんじゃねーのー?」
岡部「はは……」
叔母「あいつって誰よ」
青年「倫太郎。年下のくせに妙に落ち着いてるっていうかさ、なんか生意気」
叔母「あんたが子供すぎるの、中学生でしょ?」
青年「そうだけどさー……」
叔母「でも、もうちょっと子供らしくしてもいいのにねぇ……」
叔母「まだ私達に遠慮してるのかしら、もう随分経つのに」
叔母「少し可愛げないわよね」
岡部「……」
岡部(聞かなかったことに……)
ギッ
青年・叔母「!?」
岡部「……あ」
叔母「あ、や、やだ……いたの? あはは……」
岡部「……す、すみません」
~中学校~
少年A「なあ、数学の宿題見せてくれよー」
岡部「またか、いい加減自分でやってこいよ」
少年A「いいだろー? 岡部なら宿題なんてちょちょいのちょいだろ!」
岡部「……たく、仕方ないな」
少年A「へへっ、サンキュー!」
少年A「ったくよー。岡部の奴、また宿題ガチでやってやがった」
少年B「空気読めってんだよな、全問正解とか怪しまれるっつーの」
少年C「つか、ズルでもしてんじゃね?」
少年A「なくはねーよなぁ」
少年B「それで調子乗ってるとしたら痛すぎだろ」
少年C「たまに予言じみたこと言うのも痛いよなー」
少年B「そうそう、あいつの口癖、”なんか見覚えがある”だからな」
少年A「いてーいてー! はははっ」
岡部「……っ」
青年「はははっ!」
岡部「……っ」
岡部「くだらない……ただの厨二病じゃないか」 ボソッ
青年「は?」
岡部「……何がマッドサイエンティストだ!」
青年「……なにTVにケチつけてんだよ」
叔母「ちょ、ちょっと……」
岡部「あ……いや……」
青年「意味分かんね」
義叔父「おいおい、食事中だぞ、二人とも」
岡部「……すみません」
青年「……」
TV「フゥーハハハ!」
岡部(デジャブってやつなのか?)
岡部(まゆり……まゆりは今どこで何をしてるんだ)
岡部「……」
岡部(眠れないな、トイレにでも行こう)
岡部「……?」
『でもねぇ……』
『俺だって我慢してんの、でもあいつはいつまで経っても塞ぎこんだままだし、暗いし笑わねーし』
『今日の晩飯んときだって聞いたろ? 事あるごとにわけわかんねーことばっか言ってさ』
『そう言うな、倫太郎も両親を無くして辛い思いをしてきているんだよ』
『2000年を境に色々と変わってしまって、混乱してるのよ……』
『でももう4年だぜ!? 俺だって友達亡くしてたりなぁ!』
『最近は言わなくなったけど、最初の頃はまゆりがどーとかこーとか煩かったよな!』
『俺だって、あの頃は辛かったんだぞ!?』
『論点がずれてきている、ともかく倫太郎はまだ中学生だ、追い出すなんてとてもじゃないができない』
『そうよ、少なくとも中学卒業までは……ねぇ』
岡部「……っ」
岡部(俺の居場所は……ここじゃない)
岡部(学校にも……家にもないんだ)
岡部「記憶を頼りに来てみたが……本当にあったんだな。来たことなんてないはずなのに……」
岡部「大檜山ビル二階……」
岡部「……空き部屋……か」
岡部「……ははっ、ははは」
岡部(ここに来ればまゆりに会えるんじゃないか、そう思ったんだけどな)
岡部(会えるわけがない。当たり前だよな……)
岡部(俺にはもう居場所もないし、家族も、幼馴染もいないんだ……)
男「おい、何してんだ店の前で。客か?」
岡部「え? あ、いや……俺は……」
男「んだよ、ガキか。客って訳じゃあなさそうだな」
岡部「俺はガキじゃ……」
男「ガキだろ、高校生……ってとこか?」
岡部「……中学生です」
岡部「……」
男「で? ここらじゃ見ない顔だし、うちの客でもないみてーだけどよ、なんの用だ?」
岡部「……ここの二階って、ずっと空き部屋なんですか?」
男「あん? そうだけどよ」
岡部「なんだかここ、すごく懐かしくて……俺の居場所だった……そんな感じがするんです」
男「居場所? 変なこと言うじゃねーか」
岡部「……俺には居場所がないんです、家にも学校にも」
男「なんだよ、家にも学校にもいたくねえってか?」
男「……なぁ、真冬のマンホールの中──いや、ガキにする話じゃねーな」
岡部「……」
男「……おめーどっから来たんだ? 家は?」
岡部「中野……いや、池袋」
男「池袋っていやー、2000年クラッシュで特に被害がでかかった……」
男「……おめーみてーなガキにも色々あるってわけだな」
岡部「……」
男「俺は天王寺裕吾。おめー、名前は?」
岡部(てん……のうじ……)
岡部「岡部」 ボソッ
天王寺「あん?」
岡部「岡部……倫太郎」
天王寺「なんだと? 岡部倫太郎?」
岡部「……はい」
岡部(はしだ……はしだ……すず……?)
岡部「聞いたことは……あるような」
天王寺「……そりゃそうだよな、仮に会ったことあるっつっても覚えてるわきゃねーよな……」
岡部「……?」
天王寺「いや、こっちの話だ」
天王寺「なあ岡部、おめー今日からうちでバイトしねーか」
岡部「え? バイト?」
天王寺「っつっても、まだ中坊だからよ、実質手伝いみてーなもんだ」
天王寺「もちろん謝礼もそれなりに出してやる。そんで、おめーが中学卒業したら、ここの二階、格安で貸してやるよ」
岡部「え……?」
岡部「……中学生の俺でも分かるくらい安いですよねそれ……。いや、それとも、一日1000円とかですか?」
天王寺「んなわけねーだろ、月だよ月」
天王寺「あぁ、後、ブラウン管ちゃんを壊したら、家賃アップな」
岡部「……」
天王寺「どうする? 自信なかったら断ってもいいんだがな。欲しいんだろ? 居場所ってやつが」
岡部「いえ、やります、やらせてください」
天王寺「へへっ」
チャリンチャリンチャリン ガコン
岡部「……?」
天王寺「ほらよ」
岡部「これって……」
天王寺「マウンテンジュー、ガキは好きだろ? こういうの」
天王寺「いいから飲んどけって」
岡部「……」
カチッ プシュ
岡部「……美味い」
天王寺「そうか、そりゃ良かった」
こうして俺は、手伝いとしてブラウン管工房に出入りすることなった。
とは言え、時代はブラウン管テレビよりも液晶テレビ。
工房の手伝いは忙しさとは無縁だった。
たまに来る貧乏そうなお客の接客の他は、店内の掃除、店長の娘である綯の世話ばかり。
それでも俺は、中野にある叔母の家に帰らない日もあるほど、この場所に入り浸った。
居場所を求めて。
記憶の奥底にある、この場所を──
Chapter 1 『分離喪失のデジャヴュ』END
2006年 12月
天王寺「んじゃ俺はちょっと遠出するからよ、綯の世話と店番、頼んだぞ」
岡部「いってらっしゃい、店長」
天王寺「あ、言っとくが綯に手ぇ出したら殺す」
岡部「だ、出しませんよ……」
岡部「ごめんな綯、今日は店内の掃除しときたいから……」
綯「そっかー……じゃあ私、一人で遊んでるね」
岡部「ホントにごめんな」
岡部(物分りの良い子で助かる)
岡部「さて、と……」
岡部「よっ……」
岡部(TV重っ……)
綯「あ、お父さ~ん!」
天王寺「おー、よしよし、いい子にしてたか綯~?」
綯「うん!」
岡部「お帰りなさい、店長」
天王寺「おう、どうだ? 客は来たか?」
岡部「いえ、今日は一人も……」
天王寺「……かー、世知辛ぇなぁ」
岡部「それじゃあ俺、帰りますんで」
天王寺「おい、今日はうちで飯食って行けよ」
岡部「え、でも……」
天王寺「遠慮すんなって、シュークリームも買ってきてるしよ」
綯「わーい! ありがとうお父さ~ん!」
岡部「じゃあ、お言葉に甘えて……」
天王寺「んじゃ車用意してるから、店閉めといてくれや」
岡部「そうですかね」
天王寺「会った頃なんて、ひょろっひょろしてやがってよ。あー、おい、肉食え肉」
岡部「はい、頂きます」
綯「お父さん、シュークリーム!」
天王寺「おいおい、だめだぞ綯~、デザートは食後って決まってんだよ」
綯「え~」
岡部「はは……」
天王寺「送ってってやるよ」
岡部「でも、そこまでして頂くわけには……」
天王寺「おめーの老け顔なら夜道歩いてても大丈夫だろうが、まだ中学生だろ? いらねぇ遠慮すんなって」
岡部「……はは、酷いですよ、それ」
天王寺「うるっせぇ、男はなぁ、ちょっとくれー老けてたほうが貫禄あんだよ!」
岡部(なるほど、そう自分に言い聞かせてるんですね)
天王寺「ったく、また信号まちかよ……」
岡部「……」
天王寺「……もうすぐ高校受験だな、勉強はしてんのか」
岡部「いえ、あんまり」
天王寺「おいおい、高校浪人とかシャレになんねーからな、やっとけよ?」
岡部「大丈夫です、学校の授業はちゃんと受けてますし」
フラッ……
岡部「……っ」
天王寺「おい、冗談だよ、本気にすんなって」
岡部(あの……女……!?)
岡部「店長! ここまでで結構です!」
天王寺「あ、おい!」
ガチャ バタン
天王寺「おい、岡部! おめーどこに──」
岡部(どこだ、どこへ行った!)
岡部「はぁっ……はぁっ……」
岡部「くそ……どこに……」
岡部(見たことあるんだ……どこかで! 気になる……会って話がしたい……)
岡部「はぁっ……はぁっ……どこ……に……」
岡部「──あ」
岡部「お、おい!」
女「……」
岡部「こ、こんなところで寝てたら風邪を……」
女「……」
岡部「なぁ……」
ユサユサ カラン……
岡部(ん? なんだこれ)
岡部「す、睡眠薬!!?」
女「……」
岡部「大変だ……! で、電話! 救急車!」
岡部(着信……店長!)
ピッ
天王寺『やっと出やがった……おい! 岡部! おめー今どこに──』
岡部「店長! 大変なんです! 人が! 人が倒れてて!」
天王寺『は? お、おい、そりゃ本当──』
岡部「せっかく会えたのに! ど、どうしたら──」
天王寺『落ち着けって! あー、えっと、とりあえず場所を言え』
岡部「……あ…‥え、えっと……こ、公園! ○○公園……!」
天王寺『分かった、そこで大人しく待ってろ』
医者「心配要りませんよ、飲んだ睡眠薬の量はたいしたことはありませんし、最近のは安全性が高いですから」
天王寺「そ、そうか、そりゃ良かった」
岡部「……」
医者「それより、この寒さの中ずっと眠っていたら、危なかったかもしれませんね」
天王寺「ったく、自殺なんてバカなことしやがる」
岡部「あ……」
天王寺「お、目が覚めたようだな」
女「ここ……は」
天王寺「病院だ。感謝しろよ? こいつがいなきゃ今頃あの世行きだ」
岡部「……」
女「……」
天王寺「俺は医者を呼んでくる。少しの間任せたぞ、岡部」
女「おか……べ」
女「どうして」
岡部「え……?」
女「どうして死なせてくれなかったの!?」
岡部「お、おい!」
女「どうして! どうしてどうして!」
ガララ
天王寺「何があった!」
看護師「下がってください!」
女「どうしてよぉっ……!!」
岡部「……っ」
天王寺「な、なんだってんだよ一体……」
医者「とてもじゃないが話せる状態じゃありません。今日はもうお帰りになってまた後日……」
~病院~
岡部「……」
女「……」
岡部「なぁ……」
女「……」
岡部「……」
女「帰って」
岡部「……っ」
女「帰って……帰ってよ!」
岡部「……分かった」
岡部「また……来る」
女「来なくて……いいっ……」
岡部「……」
女「……」
岡部「なぁ、聞いてもいいか」
女「どうして」
岡部「え……」
女「どうして助けたりなんかしたの」
岡部「それは……聞きたいことが……あったからで……」
女「そんな理由で……そんな理由で助けたの?」
女「人の生き死にを左右させておいて、そんな理由で!?」
岡部「そんなつもりじゃ……」
女「あなたはそれで満足でしょうね……でも私は……っ」
岡部「……もうすぐ、退院できるんだってな」
女「……退院したところで、どうしようもない」
女「どうすることもできない。どう生きていけばいいのかも、分からない……」
女「家族もいない……私には……居場所がないの……」
岡部「……」
岡部「気持ちは、分かるよ」
女「……適当言わないで」
岡部「俺もそうだったから」
岡部「2000年に両親が死んだが、幸いなことに叔母夫婦に引き取られて面倒見てもらえた」
萌郁「……」
岡部「窮屈だった、俺の居場所はここじゃないっていつも思ってた」
女「消えてしまいたい、って思ったことは、ないの?」
岡部「どうだろうな……楽になりたいって思ったことはあるかもしれない」
岡部「それでも、生きてさえすれば考えも環境もいずれ変わる」
岡部「きっかけがなんであれ、居場所を作ることだってできる」
岡部「だから……死ぬだなんて、悲しいこと言わないでくれ」
岡部「絶望して一人で孤独に死んでいくなんて……そんなの悲しすぎるよ……」
女「……」
岡部「って、中学生なんかにお説教されても腹立つよな……」
女「え……」
岡部「ん?」
岡部「なんだよそれ」
女「見た目より、老けてる、から」
岡部「あのな……」
女「ふふ……」
女「……桐生、萌郁」
岡部「え?」
萌郁「私の、名前」
岡部(入り口の前で確認済みなんだがな)
岡部(まあいい……)
岡部「岡部倫太郎だ」
萌郁「ありがとう、岡部くん……もう少しだけ、頑張ってみようかな」
岡部(しかし、前向きになってくれたみたいでよかった)
岡部(これで記憶の謎を解く鍵が……)
岡部(って何を考えているんだ俺は!)
岡部(違う、そうじゃない! そんな理由で助けたわけじゃない……! あれは夢、夢なんだよ……!)
岡部(助かってよかった、前向きになってくれてよかったって、思ってる!)
岡部「うぅっ……」
女の子「あの……大丈夫ですか?」
岡部「あ、あぁ……心配要らない、少し立ちくらみが──」
岡部「え──」
女の子「んー?」
岡部「まゆり……? まゆりじゃないか!」
まゆり「え? どうしてまゆりの名前……」
まゆり「い、痛いよ!」
岡部「あ……わ、悪い……」
まゆり「え……えっと……」
岡部「なあ、覚えてないか? 俺のこと! ずっとまゆりのこと探してたんだよ!」
まゆり「え? え……あ……」
まゆり「あー! 岡部くんだぁー!」
岡部「そうだよ、岡部だよ!」
まゆり「なつかしいなぁ……小さい頃はよく一緒に遊んだよね~」
岡部「そう、そうだよ……」
岡部「……っ」
まゆり「え? あ、あれ? 岡部くん……? どうして……泣いてるの?」
岡部「え? い、いやっ……な、なんでだ……ははっ……」
岡部「よくわからないけど、まゆりの姿を見たらなんか……ぐすっ……」
まゆり「もう、大げさだよ~」
岡部「でも、どうして病院にいるんだ?」
まゆり「……」
まゆり「ねえ岡部くん、座って話そうよ。久しぶりに会えたから話したいこともいっぱいあるし」
岡部「あ、あぁ……」
それから俺たちは今まであった出来事を語り合った。
他愛もない話、世間話。
小さい頃の思い出。
2000年クラッシュでまゆりの両親が亡くなったこと。
それに伴い上野にいる叔母に引き取られたこと。
叔母はとても優しく、まゆりを本当の娘のように可愛がってくれたこと。
だけど、次第に話は暗転する。
まゆりは今、完治の難しい病気を患っている──
まゆり「うん」
岡部「がんばれよ」
まゆり「うん、ありがとう、岡部くん」
明るく振舞っていたが、目を見れば分かる。
まゆりは今、とても苦しんでいる。
だったら俺は、苦しみから救ってやりたい。
あの笑顔を守りたい。
連れてなんて行かせない。
そう、心に誓ったんだ。
あれ?
いつの話だ?
天王寺「もうおめーも高校生か」
岡部「ええ」
天王寺「よく頑張ったな、今日から2階は好きに使えや」
岡部「ありがとうございます、店長」
天王寺「言っとくけどよ、晴れて一人暮らしだからって、いきなり女連れ込むんじゃねぇぞ!」
岡部「そ、そんなこと……」
天王寺「しょっちゅう萌郁の見舞いに行ってたじゃねーか」
岡部「それは……別にそんな関係じゃないですよ、それに……」
天王寺「それに?」
岡部「勉強も忙しくなるでしょうし、そんな暇ありません」
天王寺「へぇ、おめーが勉強? これまでおめーが勉強してるとこなんてみたことねーのに」
天王寺「医者……か、そりゃあれか、例の幼馴染のためってやつか」
岡部「……」
天王寺「おめーの叔母夫婦への恩返しにもなるな。高校の学費は出してもらってんだろ?」
岡部「はい、本当に頭が上がりませんよ」
天王寺「まっ、頑張れや、立派な志だ」
~病室~
ガララ
岡部「まゆり元──」
るか「あ、こ、こんにちは……岡部さん」
岡部「あ、あぁ」
岡部(確かまゆりのクラスメートの漆原るか……)
まゆり「……あ、岡部くん。いつもごめんね」
岡部「いや、構わない。それより、いつもより元気が無いみたいだけど、悪いのか? 体調」
まゆり「ううん、そういうわけじゃないんだけど……」
るか「……」
まゆり「……ちょっとだけ疲れちゃったから眠るね?」
岡部「そうか……それじゃ仕方ないよな」
まゆり「ごめんね? せっかく来てくれたのに」
るか「……それじゃあボクも……これで」
るか「……」
岡部「何か知ってるんじゃないのか? よかったら教えてくれないか」
るか「で、でも……」
岡部「頼む、教えてくれ。まゆりの力になりたいんだ」
るか「え、えっと……ボク、病室の前でまゆりちゃんの叔母さんとの会話……聞いちゃって……」
るか「き、聞くつもりはなかったんですけど……ボク……」
岡部「いいから早く聞かせてくれ!」
るか「は、はい! それで、その……」
るか「まゆりちゃんの叔母さんもお金を借りてまで頑張ってはいるみたいなんですが……」
るか「これ以上の入院は難しいかも……って話……らしい、です」
岡部「そん……なっ……」
るか「うぅ……」
岡部「国とか自治体はなんとかしてくれないのかよ! そういう制度とかあるんだろ? なぁ!」
るか「それがその……全額を公費負担でというわけにはいかない、とか……そうおっしゃってました……」
岡部「なん……だよそれ……」
るか「あの……岡部さん?」
岡部(どうする……バイトを増やすか?)
岡部(でもそうすれば勉強がおろそかに……)
岡部(いや、そんなの関係ない。入院費が払えなくなってからじゃ手遅れなんだ)
岡部(そうだ、俺が今できることをしろ)
岡部(決めたんだろ? まゆりのこと守るって)
俺はただの学生。
当然働ける場所、時間は限定される。
それでも、もがくこと以外に術を知らない俺は、ガチガチのスケジュールの中、バイトと勉強に明け暮れていた。
が、そんな生活が長く続くわけはなく──
岡部「……」
岡部(7時にブラウン管工房を出たら、10時まで次のバイト……)
綯「ねえ」
岡部(少し遅れることを伝えないとな……)
綯「……ねえってば」
岡部(この店で仕事がない時は勉強させてもらおう)
岡部「ん? あぁ……綯か……いたのか」
岡部「今俺は忙しい、悪いが一緒に遊んでいられ──」
岡部「うぐっ……」
綯「お、お兄ちゃん!?」
岡部「はぁっ……はぁっ……な、なんでもない……」
岡部(くそっ……時間が足りない……金も足りない)
岡部(なんでまゆりなんだよっ! まゆりが何かしたってのかよっ!!)
岡部「……」
岡部「…………
岡部(今なら……)
ゴソゴソ
岡部(盗むのか? この金を? 俺に良くしてくれた店長から?)
岡部(それでいいのか? 本当にいいのか?)
岡部(でも、そうしないとまゆりは……まゆりはっ……!)
天王寺「おい、おめー何してんだ」
岡部「──!?」
岡部「店長、なんでもう戻って……」
天王寺「あん? この時間に戻るっつったろうが」
岡部「……っ」
天王寺「それよりなんだ? 金なんか握りしめて。そりゃおめーの金じゃ……ねーよな?」
岡部「こ、これはっ……」
天王寺「……はぁ」
岡部「……」
天王寺「見なかったことにしてやるからさっさとその金しまえ、くれてやる」
天王寺「遊ぶ金欲しさじゃねーってことは俺がよくわかってる」
天王寺「あれだろ? 例の幼馴染のためだろ?」
岡部「……はい」
天王寺「ただし、もうその幼馴染とやらのために頑張るのはよせ」
岡部「え……?」
天王寺「そうしねーと、おめーまでぶっ倒れちまう」
岡部「で、でも! それじゃあまゆりは──」
天王寺「岡部、なんでそうしてまで必死になる。他所の事情に口出ししてんじゃねえ」
岡部「でもまゆりにはもう……! まゆりを助けられるのはっ……!!」
天王寺「……岡部」
天王寺「おめー、人を殺す覚悟、あるか?」
岡部「……は?」
岡部「ひ、人を……?」
岡部「……」
天王寺「……」
天王寺「冗談だよ、忘れろや」
岡部「いや──」
岡部「ある、あります……」
岡部「俺はまゆりを助けるためなら……」
天王寺「……はぁ」
天王寺「……ったく、冗談のつもりだったのによ」
岡部「……」
天王寺「いいか、聞いちまったらもう戻れねーぞ」
岡部「はい……」
その日、俺は天王寺裕吾の裏の顔を知ることになる。
ラウンダー
FB
SERN
父親のように慕っていた人物の意外な一面。
しかしそれを受け入れるのに時間は要らなかった。
まるで最初から知っていたかのように。
こうして俺は、ラウンダー”地を這う者”として生きることを決めた。
身を裂くような寒さの中、しんしんと雪の降る日のことだった。
Chapter 2 『焦躁のサクリファイス』 END
2008年 2月1日
~高校~
ダル「岡部氏岡部氏」
岡部「なんだ」
ダル「最近休みがちだったけどだいじょぶ? 風邪?」
岡部「そんなんじゃない」
岡部(任務のせいで休んでるなんて言えるはずがないだろう)
ダル「あのさ、今日カラオケいかね? アニソン三昧」
岡部「悪いが他をあたってくれ、今日は用事がある」
ダル「ちょ、またすかー! 付き合い悪いっつーの!」
ダル「はいはい、厨二病厨二病、厨二病は不治の病」
岡部「だからそんなんじゃないって言ってるだろ」
ダル「つーか橋田っていい加減よそよそしいっつーに」
岡部「橋田は橋田だろ」
ダル「もう! 岡部氏って呼んであげないんだからね!」
岡部「一向に構わん」
ダル「ぐはー、岡部氏デレなさすぎ……」
ガララ
岡部「まゆり、元気か?」
まゆり「あ、岡部くん、いつもごめんね~」
岡部「いいんだ、俺には見舞いに来ることしかできないしな」
まゆり「学校やバイトも忙しいんでしょ?」
岡部「そんなに大したことじゃない」
まゆり「でも、無理はしないでね? まゆりなら大丈夫だから」
岡部「……それを言うなら、俺だって……大丈夫だ」
まゆり「……えっへへ。岡部くんは、優しいねぇ~」
岡部「……っ、そんなんじゃない! 俺はただ──」
岡部「そ、そうだ! 今日はまゆりにプレゼントを持ってきたんだ、誕生日だろ?」
岡部「ほら、開けてみろ」
まゆり「わ~、ありがと~!」
ガサガサ
まゆり「……っ」
岡部「その髪留め、まゆりに……似合うかと思って……」
まゆり「……」
岡部「どうした? 気に入らなかった……か?」
まゆり「……っ、ううん! そうじゃないの。とっても嬉しいなーって思ってたんだぁ」
岡部「そ、そうか」
まゆり「うん! ありがとう、岡部くん。大事にするね、えへへ」
岡部「気に入ってくれてよかった」
岡部「じゃあ俺はそろそろ……」
まゆり「え? もう行っちゃうの?」
岡部「ゆっくりしていきたいとこなんだが、これからバイトでな」
まゆり「そっかぁ……それじゃあ、仕方ないよね……」
岡部「また来るからな」
まゆり「うん、それじゃ、またね」
岡部「あぁ、がんばれよ」
ブーブー
ピッ
岡部「こちらM3」
FB『M3、任務だ』
FB『我々を嗅ぎまわっている連中が、ある場所に潜伏してるとの情報が入った』
FB『本日19時に奇襲を仕掛け殲滅する』
岡部「……っ」
FB『殲滅はアルファチームが担当する』
FB『M5の調べによると奴らの人数は6人』
FB『仕留め切れずに逃亡を図られる可能性も考慮しておめーには待機メンバーとして加わってもらう』
FB『殲滅作戦開始とともに、おめーにはγ地点に待機してもらう』
FB『万が一、連中が逃亡してきた場合……』
FB『……殺れ』
FB『……必ず仕留めろ』
岡部「……っ」
FB『どうした、不安か?』
岡部「い、いえ」
FB『気休め程度だが……γルートが脱出ルートとして使われる可能性は一番低い』
FB『18時に○○に集合、詳しいことはM5に聞け』
岡部「……了解」
FB『あまり気負うなよ』
岡部「……分かっています」
ピッ
岡部「……」
シーン
M5「よし、それではM6はα、M3はγ、俺はβ地点にて待機」
M5「アルファチーム、殲滅に移行しろ」
「「「了解」」」
~γ地点~
岡部「……」
パララララ グアア
岡部(始まった!)
岡部(早く終われ……終わってくれ!)
パラララ ガン ガン ウアア
岡部「……」
シーン
岡部「……止まった」
岡部(震えが止まらない、くそっ……こんなときに!)
岡部(来るな……来ないでくれ、誰も来ないでくれ!)
岡部(早く……早く殲滅完了の連絡をくれ……お願いだ!)
岡部「……」
シーン
ザ……ザ-……
──『こちらアルファチーム、目標6人全員の殲滅を確認した』
タッタッタ
岡部「──!」
『万が一、連中が逃亡してきた場合……』
タッタッタ
岡部「……ぁ」
男「はぁっ……はぁっ……」
岡部(なんだ? 一体どうして……全員死んだんじゃなかったのか!?)
男「はぁっ……はぁっ……ちくしょう! なんだってこんなことに……」
岡部(どういうことだ? 情報になかった仲間!? それとも目撃者か!?)
男「はぁ……はぁ……電話っ……連絡を……」
岡部(……まずい!)
『……殺れ』
ザッ
男「──!?」
パーン
男「かはっ……!」
岡部「はぁっ……はぁっ……」
男「う……ぐぁ……」
『……必ず仕留めろ』
岡部(うぅ、ま、まだ生きてる……んだよな、これ)
どうした、撃てよ
岡部「!?」
まゆりのためなんだろ
なんでもできるんじゃなかったのかよ
仕留めろよ
岡部「う……」
うわああああああああああああああ
ああああああああああああああああ
パーン
男「がぁっ!」
パーン
パーン
パーン
パーン
岡部「あああああ!!」
カチッカチッカチッ
M7「よせ、もう死んでいる」
岡部「うっ……ぁっ……うぇっ……」
M7「こちらM7、連中の仲間か……もしくはねずみがいたようだ」
M7「問題ない、M3が始末した」
岡部「あ……あぁ……」
M7「M3、余計な心配は無用だ。たとえ一般人だったとしても警視庁への根回しはFBが行なってくれる」
岡部「うぅ……」
岡部「…………」
殺した……俺が。
ぐちゃぐちゃになるまで……。
いや、覚悟はしてたことだろ。
わかってたんだ、いつかこんな日が来るって。
でも──
『一般人だったとしても』
俺は……俺は……。
ガチャ
萌郁「あの……」
どうだ、人を撃った感想は
どうだ、人を殺した感想は
岡部「……誰だ、お前」
萌郁「え? あの……覚えてない?」
俺はお前だよ
久しぶりだな
岡部「久しぶり」
萌郁「あ、うん……」
岡部「何しに来た」
萌郁「え? ご、ごめん、迷惑だった……かな。遊びに来てもいいって、言ってたから」
お前、このままじゃ壊れるぞ
なれよ、俺に
鳳凰院凶真に
萌郁「あの、岡部くん……?」
鳳凰院凶真の仮面を、被れよ
俺ならお前を助けてやれるんだ
楽にしてやれるんだ
岡部「……なら早く助けてくれ」
萌郁「おか……震えてる」
萌郁「手もこんなに冷たい……」 キュ
岡部「寒いんだ、とんでもなく寒いんだ」
寒さのせいだけじゃないだろ
早く被れよ、ペルソナを
萌郁「岡部くん……!」 ギュ
岡部「……ぁ」
岡部(萌……郁……?)
萌郁「私、君に助けられた……」
萌郁「君のお陰で、生きる意味、見つけられたの」
萌郁「ねえ、全部話して……。君が抱えてる物、私にも背負わせて……」
萌郁「……今度は私が、あなたの力になりたい」
岡部(萌郁……) ギュウ
やれやれ
まあいい、いつでも呼ぶがいい
俺は常にお前のそばにいる
俺はお前だからな
ピッ
岡部「FBからの連絡が入った、これから現場へ向かう」
萌郁「了解」
萌郁「……あの、岡部く──」
岡部「仕事の時は岡部と呼ばないでくれ」
萌郁「ご、ごめん……なさい」
岡部「行くぞ、M4」
萌郁「了解……M3」
そう、俺は仮面を被る
今は岡部ではない
俺が名は 我が名は
鳳凰院凶真
Chapter 3 『自己防衛のファケレ』 END
2009年 4月12日
~学校~
ダル「なぁなぁ岡部氏、僕達もいよいよ卒業の年っすな」
ダル「また一緒にクラスになれて嬉しいお」
岡部「橋田、今俺はものすごく眠いんだ、話しかけないでくれ」
ダル「ええー? 何? もしかして徹夜でネトゲしてたとか?」
岡部「……」
ダル「ちょ、無視すんなし」
岡部「少なくともお前が考えてるようなことじゃないとだけ言っておく」
ダル「3年になって厨二病がちょっとはマシになってるかと思いきや、加速してた件について」
岡部「……」
~病室~
ガララ
岡部「まゆり、元気か?」
まゆり「……」
岡部「ん? どうしたんだ? 調子、良くないのか?」
まゆり「岡部くん……まゆりね、聞いちゃったの」
岡部「……?」
まゆり「まゆりの入院費……払ってくれてたの、岡部くんだったんだね……」
岡部「……」
まゆり「全部、叔母さんから聞いたよ?」
まゆり「岡部くんずっと無理してた……よね」
岡部「そんな……こと……」
まゆり「このままじゃ、まゆりの知らない岡部くんになっちゃう気がして、怖いの……」
まゆり「もう大丈夫だから……私、岡部くんの重荷になりたくないよ……」
岡部「そんなことない!」
まゆり「……っ」
岡部「そんなことない、重荷だなんて考えたこと無い」
まゆり「なんで? どうして私なんかのために……」
岡部「なんかじゃない、お前がいたから今の俺がいるんだ」
岡部「きっと今も、自分の居場所を掴めないまま、どこかを彷徨ってたかもしれない」
岡部「決めたんだよ、守るって。どんなことを犠牲にしてもお前の笑顔を守るって!」
まゆり「岡部くん……」
岡部「だから……重荷になってるだなんて思わないでくれ……」
岡部「俺はそんなことっ……一度も思ったことはない」
まゆり「ホントに?」
岡部「あぁ、本当だ」
まゆり「……」
まゆり「……まゆりは愛されちゃってるねぇ……えっへへ……ちょっと照れくさいよぉ……」
岡部「……はは」
本当にそうか?
岡部「──!?」
岡部(頼むからまゆりの前で出て来ないでくれ!)
お前は嘘まみれだな
岡部(お前は一体誰の味方なんだ!)
俺はお前の味方だよ
お前は俺だからな
まゆり「岡部くん……?」
岡部「はっ……」
まゆり「だ、大丈夫? やっぱり、無理してるんじゃ……」
岡部「む、無理なんかしてないさ」
まゆり「でも、バイトもすっごく大変……なんだよね?」
岡部「そ、それはっ……」
まゆり「もしかして危ない事……とかしてない……よね?」
岡部「……大丈夫だ、心配するな!」
まゆり「そうなの?」
岡部「ほら、俺って理数系には強いだろう?」
岡部「画期的な発明品を売ってるんだ、小さいけど研究所だってある」
まゆり「そうなんだ~、岡部くんってやっぱりすごいねぇ~、えっへへ~」
岡部「そうだ、まゆりもラボラトリーのメンバーに加わるといい」
まゆり「ええー!? いいの~!? まゆり、何もできないよ?」
岡部「心配するな、まゆりはいるだけでいいんだ。ずっと俺のそばに……いるだけで……」
まゆり「ラボラトリーのメンバー……ラボメンかぁ……えへへ」
岡部「だったら早く元気になれよ?」
まゆり「うん……」
岡部「それじゃ俺はそろそろ帰るからな」
まゆり「岡部くん……」
岡部「ん? どうした?」
まゆり「ありがとうっ」
岡部「……あぁ」
ガララ
岡部「ふふ……」
岡部(まゆりの笑顔……俺は守れるだろうか、いや、守ってみせる)
自我をコントロールし
心の中の善と悪を分離させ
それぞれ独立させたつもりだろうが
まゆりがお前のそばから姿を消した時
お前はどうなるかな?
岡部「……」
~ラボ~
ダル「んんんんんんん~~……」
岡部「どうした、そんなに唸って。腹でも痛いのか?」
ダル「いや、なんつーか。……岡部氏、ゴミ量産してどうするんのさ」
岡部「な、なんだと!」
ダル「はっきり言ってセンス無さすぎっしょ……オモチャの光線銃にリモコン仕込んだだけって、アリエンティ、マジアリエンティ」
ダル「あえて言おう、カスであると」
岡部「ぐっ……橋田……殴られたいのかっ……!」
ダル「はいはい、厨二病厨二病」
岡部「大体、俺が4月にラボに誘った時には即断ったくせに、どういうつもりだ」
ダル「だって、秋葉の──それもメイクイーン+ニャン2の近くにあるなんて聞かされてなかったんだもの!」
ダル「あ、良かったらこれから一緒にどう?」
岡部「結構だ」
ダル「ぐはー! 即答すか。つかなんでよー! フェイリスたんに会いに行こうず」
岡部「だからそのフェイリスが苦手なんだよ、俺は……」
岡部「あいつと話してると頭が痛くなってくる」
ダル「ふーん、まあいいや、じゃあ僕はこれで」
岡部「あぁ……」
ダル「ふひひ、もうすぐ誕生日だしフェイリスたんにイベントお願いしよっと」
岡部(俺は発明に向いてないのか? だが、記憶の奥底でこれらのガジェットを作れと……)
ゴチャゴチャ
岡部(やはり俺に発明など向いてないようだな……)
~ATFエレベーター内~
岡部「おい橋田、バナナがゲル状になる理由はまだ分からないのか」
ダル「全くもってイミフ、つーか僕だけに任せてないで岡部も調べるべきだろ常考!」
岡部「俺は色々とやることがあるんだ」
ダル「ったくもー! あなたいつもそうやって言い訳ばかり! 今日だって集合時間に1時間も遅れてきて!」
岡部「気色悪い、殴りたくなるからやめろ。それに、昼頃メールしただろ、遅れるって」
ダル「は? 昼頃? 着てないけど」
岡部「何……? いや、確かにしたはず」
ダル「だから着てないっつに」
岡部「携帯貸せ!」
ダル「あ、ちょ!」
ピッピ
岡部「ない……消したのか?」
岡部「……っ」
かみ合わない会話に戸惑いを覚える俺。
ポーン
ふと耳に、目的の階に到着したことを知らせる軽快な音がこだました。
同時に鉄の扉が割れ、飛び込んくる光に目を細める。
ゆっくりと鮮明になっていく視界の先にその人物は柱を背に立っていた。
岡部「……ぁ」
岡部「紅莉栖……」
気がつくと俺は──
その女を強く強く抱きしめていた。
岡部「あの女ぁ……全力で殴りやがって」
『馬鹿なの!? 死ぬの!?』
岡部「……」 ペタ
岡部(まだヒリヒリする。……くそ、いつもの俺ならこんなことには)
岡部(”あの夢の記憶”は、るかや橋田の時に”蘇っても封印しとく”と強く誓ったはずだったのだが……)
岡部「今日の俺はどうかしてるな」
岡部「きっと疲れてるんだ、さっさとラボに戻ってゆっくりしよう」
岡部「ん?」
天王寺「おう、岡部か」
岡部「もう閉店ですか、今日は早いんですね」
天王寺「今日はバイトの面接があってな」
岡部「バイト? こんな客も来ない店にバイトとは物好きな」
天王寺「おめぇが言うなや」
女「おっはー」
天王寺「……」
岡部「……っ」
岡部(この女……?)
岡部「まさか、バイトというのは……」
天王寺「そのまさかだ」
天王寺「名前は」 鈴羽「阿万音鈴羽」
天王寺「年は」 鈴羽「18」
天王寺「志望動機は」 鈴羽「ブラウン管が好きだから」
天王寺「採用」
岡部「まて、これはコントか?」
鈴羽「そういう君は……誰?」
天王寺「岡部ってんだ、この上を間借りしてるバカだよ」
鈴羽「ふーん」
スッ
岡部「ん?」
鈴羽「握手」
岡部「あぁ」
ギュウ
岡部「……っ」
鈴羽「よろしく、岡部倫太郎」
岡部(牧瀬紅莉栖といい、阿万音鈴羽といい、なんなんだ……一体)
~萌郁のアパート~
ガチャ
萌郁「あ、岡部くん」
岡部「邪魔するぞ」
萌郁「いらっしゃい。急に、どうしたの?」
岡部「今日、泊めてくれ」
萌郁「え? うん、いいけど」
岡部「ラボに人が押しかけててな、うるさくて敵わん」
岡部(ったく、あいつら、俺の部屋だということを忘れやがって……)
萌郁「マウンテンジュー、持ってくるね」
岡部「あぁ」
萌郁「ケバブも、あるから、一緒に……食べよ?」
萌郁「……岡部くん、なんだか、最近、変。何か、あった?」
岡部「なんでもない」
萌郁「疲れてる? 仕事にも、身、入ってない」
岡部「なんでもないって言ってるだろ。……少し黙っててくれ」
萌郁「……っ、ごめん、なさい」
岡部「……」
岡部(早くしないと……まゆりが……)
岡部(もう長くない? ふざけるなよ!)
岡部(早くDメール……電話レンジの仕組みを解明して……)
岡部(過去を……今を……未来を変えなくては)
岡部「……FBから? 定時連絡の時間ではないはずだが」
萌郁「え?」
ピッ
岡部「こちらM3」
FB『M3、ヘマったようだな』
岡部「……? なんのことです?」
FB『今、お前を探ってる奴らがいる。俺んとこにも聞き込みに来やがった』
岡部「……っ!」
FB『恐らく相手はユーロポールの捜査官だ』
岡部「なぜ……バレたんだ」
FB『知らねぇよ。いつも冷静なおめーらしくもねーミスだな』
FB『このことは本部には内緒にしといてやる』
岡部「……了解」
ピッ
萌郁「……FBは、なんて?」
岡部「俺の正体がバレたかもしれない。相手は……ユーロポールの捜査官」
萌郁「……っ」
岡部「殺すしか無い、今捕まるわけにはいかない」
萌郁「岡部くん。私も、力になる」
岡部「……勝手にしろ」
男「……おい、応答しろ、おい」
甘いんだよ
それでこの俺を出しぬいたつもりか?
チャキ
恨みはないが、死ね
ズキッ
岡部「……ぐぅっ!」
岡部(ここのところ頻発してる頭痛……くそ、こんなときにっ……)
岡部(俺は……俺はまゆりのためにも……立ち止まるわけには……いかないんだよっ!)
ザッ
男「──!?」
ズブッ
男「ぁ……が……」
ズッ
ビシャア
男「あ……ぁ……ぁ」
ドサッ
岡部「はぁ……はぁ……」
岡部(俺は一体、いつまでこんな事を続ければいいんだろうな)
ズキン
岡部「あぐっ──!?」
萌郁「ええ、そう。FBの予想通り、相手は、捜査官だった。……ユーロポールの」
萌郁「大丈夫。……2人とも、始末した」
萌郁「……目標αは、ガード下。目標βは、そこから離れた、路地に、死体、転がってる」
萌郁「……了解」
ピッ
萌郁「……M3、目標ブラボーも、排除してきた。後始末は、FBが。私たちは撤収を」
岡部「……萌郁」
萌郁「!? 初めて、名前、呼ばれた。こういう場では、本名呼ぶのは、まずいわ。コードネームを」
岡部「それより……なぁ」
萌郁「……?」
岡部「”思い出した”んだ、全部──」
そう、全部──
2010年 8月17日 17:00
もうすぐ、まゆりが死ぬ。
まゆりを救うためには最初のDメールのデータを消し、β世界線へと飛ばなくてはならない。
だがβ世界線にいけば、今度は紅莉栖が死ぬ。
なんでだよ……なんでなんだよ……こんなの、ひどすぎるだろっ……。
何かまだ、手があるはずだ! 諦めるな! 紅莉栖を見殺しになんて……俺にはできない!
俺は世界に抗う……!
だがどうすればいい。
ありとあらゆる可能性を考えても、答えは見つからなかったじゃないか!
岡部「ダメだ! 考えてる暇はない、そろそろまゆりが死ぬ時間だ! ここは一旦タイムリープして──」
『逃げるの?』
岡部「……」
『何度タイムリープしたって、1%の壁は超えられない!』
岡部(やってみなきゃ、わからないだろう……!)
岡部(鈴羽……こんな時鈴羽がいてくれればどれだけ心強かったか……)
岡部(鈴羽だったら何と答えてくれただろうか……)
『何年かに一度、世界線が大きく変動する大分岐のような年があるんだ』
『湾岸戦争があった1991年、2000年問題があった2000年、そしてタイムマシンが開発された2010年』
岡部(2000年……)
岡部(今ここで、俺がタイムリープに付いて回る48時間の限界を超えたらどうなる?)
『48時間を越えて跳躍すると、脳の物理的な状態の齟齬が大きすぎて障害を引き起こす可能性がある』
岡部「……っ」
岡部(人格も15年後の綯だった……よな?)
岡部(なら……俺にだって……!)
『障害を引き起こす可能性がある』
岡部「くっ……」
岡部(俺が初めて携帯を手にしたのは、1999年の誕生日に買ってもらった時)
岡部(届く。2000年に。あの時代の鈴羽に)
岡部(確か誕生日の夜、急な発熱で倒れたが……)
岡部(大丈夫、鈴羽は2000年の6月までは生きているはず。成功したら必ず鈴羽とコンタクトを取るんだ!)
岡部(10年もあれば何かしら対策が見つかる、きっと……見つけてみせる)
ピッピッピ
岡部「1999年へのタイムリープ……」 ゴクッ
『忘れないで』
岡部「紅莉栖……俺はっ……」
『あなたはどの世界線にいても一人じゃない』
岡部「お前もっ……」
『──私がいる』
岡部「助けるっ!!」
ピッ
その瞬間、周りの景色が琥珀色に包まれ、ぐにゃぐにゃと揺れ始める。
平衡感覚は失われ、立っていられなくなり──
Chapter 4 『暗中のメテンプシュコーシス』 END
世界線変動率 2.615074%
2010年 8月15日 17:04
岡部「ははは……そうか、そういうことだったのか。あの夢の正体も、記憶の正体も」
岡部「全部、あったことだったんだな」
岡部「俺の10年はなんだったんだろうな。タイムリープして……こんな、冗談みたいな世界線で……」
萌郁「M3……? タイム……?」
岡部「俺がやったことといえば2000年問題を引き起こし──
まゆりの両親、俺の両親を含め、多くの人間を死に追いやり──
まゆりを苦しめただけ──」
岡部「そしてまゆりも結局助からない……助けられない」
岡部「はは、ははは……」
萌郁「M3、しっかりして、よく、わからないけれど」
岡部「……」
岡部「…………」
岡部(冷静になって考えてみるとおかしい、腑に落ちない)
岡部(タイムリープしたところで世界線を大きく変動させることはできないはず)
岡部(にも関わらず、俺のいたα、βにも似通わない世界線へと変動を遂げた)
岡部(1999年12月14日に跳躍した後の俺は、記憶の通り、その後一ヶ月の発熱に倒れ──)
岡部(1月14日に気がついた時、記憶のほとんどはモヤがかかったような状態に陥り、単なる夢だったと思い込んだ)
岡部(おかしいじゃないか、俺は過去を変えるような行動は起こしていない)
岡部(なのになぜ世界線が変わった? それも、2000年問題が引き起こされるほどの大分岐)
岡部(俺のタイムリープそのものがファクターだったと? いや、そう考えるのは早計すぎる)
岡部(ともかく紅莉栖……それに鈴羽の意見も聞きたい、あいつらならば力になってくれる)
萌郁「……待って、M3!」
岡部「触るな」
萌郁「っ……どこへ、行くの? FBからは、待機命令がっ……」
~ラボの前~
岡部「紅莉栖」
紅莉栖「ぁ、お、岡部っ……」
岡部「よかった、お前に頼みが……」
鈴羽「噂をすれば……ってやつか」
岡部「鈴羽、お前にも頼みがある。お前はタイムトラベラー……だよな?」
鈴羽「っ……なんであたしが、タイムトラベラーだって知ってんの!?」
岡部「なんでって……」
鈴羽「確かに、ラボメンのみんなに話した。岡部倫太郎以外のラボメンにはね」
岡部「なに?」
鈴羽「お前はあたしの情報をどうやって手に入れた? 内通者か?」
鈴羽「岡部倫太郎、一緒にいた桐生萌郁って女は、何者なの?」
岡部「あいつは……」
鈴羽「ラウンダー?」
岡部「……」
鈴羽「肯定ととって構わないみたいだね」
紅莉栖「そんなことより! 何かいうことはないの?」
岡部「……なんのことだ?」
紅莉栖「何も言わないつもり!?」
岡部「俺のことはどうでもいい」
紅莉栖「見たのよ、さっき、ガード下で」
岡部「……っ!」
岡部「見たって、何を……」
鈴羽「服に血が付いてるよ」
岡部「待ってくれ、説明すると長くなるが──」
紅莉栖「ねえ岡部、全部嘘だったの? 私たちを騙してたの?」
岡部「だから説明をさせてくれ、Dメールを使うなりして世界線を変えれば──」
紅莉栖「使うってどうやってよ! 電話レンジの仕組み、まだ解明してないのに!」
紅莉栖「放電現象がいつ起きるかも不明確でしょ!?」
岡部「その原因は、42型ブラウン管TVだ、あれが付いてる時だけ──」
鈴羽「なぜ、それを知っている」
紅莉栖「ぁ……」
鈴羽「あたしたちは電話レンジの仕組みについて、この一週間ずっと話し合ってきた」
鈴羽「岡部倫太郎、お前も含めてね」
岡部「……確かに、そうだ」
鈴羽「今のはまるで……最初から知っていたような口ぶりじゃん」
紅莉栖「わかってて黙ってたの?」
鈴羽「お前は嘘まみれだね」
鈴羽「あたしがいた2036年でもそうだった」
鈴羽「嘘と裏切りだけで世界を手に入れたお前はさ」
鈴羽「その嘘を塗り重ねるために、数多の命を奪い続けてる」
鈴羽「だからあたしはタイムトラベルして来たんだよ、未来を変えるために」
岡部「だったら話は早い、今すぐ世界線を変えよう。こんな世界線は誰も望んじゃいない」
紅莉栖「あんた……あんた……なんであんなこと……」
紅莉栖「ねえ、あの子……まゆりはもう長くないんだから、もう悲しませるような真似は……やめてよ……」
岡部「紅莉栖、頼む、信じてくれ。俺は別の世界線から来た。いや、正確には”別の世界線の記憶も持っている”」
岡部「なかったことにすれば……α世界線に戻れば……」
岡部「……っ」
まゆりを助けるためにはそこからさらにβ世界線へと移動しなくてはならない。
しかしそうすれば今度は紅莉栖が──
紅莉栖「警察を……呼ぶわ」
岡部「紅莉栖。やめろ、やめてくれ。そんなことしても無駄だ」
紅莉栖「あんたはそうやって、自分のしたことを嘘で覆い隠していくのね……」
やめろ。
紅莉栖「次は……」
やめてくれ。
紅莉栖「次は私も殺すの!?」
ああああ……。
鈴羽「スタングレネード!?」
バン
キィィィィン
萌郁「岡部くん! 逃げて!」
鈴羽「くっ……仲間か!」
────
───
──
萌郁「あそこには近づかない方がいい、もう正体、知られちゃったから……」
岡部「まゆりに……まゆりに会いに行ってくる……」
萌郁「岡部くん……」
~病室~
ガララ
岡部「まゆり……」
まゆり「あ、岡部くんだぁ」
るか「岡部さん、今日はもう来ないかと思いましたよ、椅子どうぞ」
岡部「まゆりっ……」
岡部(俺は結局お前を苦しめただけ……赦してくれ……)
まゆり「岡部くん……どうしたの?」
岡部「……いや……なんでもない」
岡部「いや、本当になんでもないんだ」
るか「……あ、ボ、ボク、飲み物買ってきます」
るか「まゆりちゃんはオレンジジュース、岡部さんはマウンテンジュー、ですよね」
まゆり「ありがとう~、お願いするね?」
岡部「あぁ、頼む……」
るか「それじゃあ行ってきますね」
まゆり「うん、こうしてるとね~。なんだか昔を思い出して、ほわほわ~って気持ちになるのです」
岡部「はは、懐かしいな、この遊園地よくいったよな」
まゆり「え? 行ったのは、一回だけだよ?」
岡部「あ……そうか、そうだったよな」
まゆり「岡部くん?」
岡部「……」
まゆり「私ね? 岡部くんにはすごく感謝してるんだよ」
まゆり「まゆりのこと色々気にかけてくれて、髪留めもプレゼントしてくれて、入院費まで出してくれて」
まゆり「本当にね、どれだけ感謝しても、足りないのです、えへへ」
まゆり「あ、だめっ!」
岡部「……ぇ?」
まゆり「ごめんね……」
まゆり「この髪、医療用のウィッグだから……」
まゆり「……もうまゆりの髪は殆ど残ってないのです」
岡部「……」
まゆり「治療の副作用、でもね? そのおかげで、クリスマスまでは生きていられるかもって希望が出てきたんだぁ」
まゆり「クリスマスにはサンタさんに、もう少し時間をくださいって、お願いしようかな」
岡部「……っ」
岡部「あぁ……がんばれよ……」
まゆり「うんっ」
岡部「……少し、風に当たってくる」
わかってるんだ、これも全部自業自得だって。
こうなったのも俺が不用意に過去を改変したせいだ。
岡部「でも、こんなの……きつすぎるだろっ……」
何か、何かあるはずだ……世界線を元に戻す方法が。
冷静になれ。
今までだってそうしてきたじゃないか。
~萌郁のアパート~
萌郁「岡部くん……大丈夫? 顔色、すごく悪い……)
岡部(頭が割れそうだ……)
岡部(混在する記憶、離れていくラボメン)
萌郁「おか……べくん……」
岡部(助けられない……まゆり)
岡部(……いや、考えろ。世界線を戻す方法を……2000年問題、2000年問題さえどうにかできれば……)
ブーブー
ピッ
岡部「……もしもし」
FB『……M3か?』
岡部「……はい」
FB『もっとも、仕事とすら呼べるもんじゃねーがな』
FB『未来ガジェット研究所のタイムマシンを持って来い、本部に搬送する』
岡部「……っ」
FB『……発明サークルの奴らが抵抗してきた場合は殺せ』
FB『ただし、開発者の2人は殺すな、確保してSERNに連行する』
岡部「……」
岡部「なんとか……なりませんか」
FB『質問は受け付けない』
FB『作戦開始は3時間後だ』
FB『M3とM4は先行し、アルファチームとして突入しろ』
FB『バックアップとしてブラボーチームが応援に入る』
FB『お前らはタイムマシン確保を最優先だ』
FB『……はぁ』
FB『迷ってんならよ、今決めろや。
どっちにつくのかな。
覚悟がねーなら選ばないことを選べ、流されろ、従え』
岡部「……いえ、問題は、ありません」
FB『……』
カチャッ
ツーツーツー
岡部「……」
萌郁「FBは、なんて?」
岡部「電話レンジ……タイムマシンを回収しろ、と」
萌郁「……そう」
岡部(どうする……電話レンジが回収されてしまえば、過去改変を行うことができなくなる)
岡部(それはつまり俺はこの世界線から移動することができなくなるということ)
岡部(いや……鈴羽のタイムマシンを使えばあるいは……。しかし……乗ってしまえば戻ってこれない……)
岡部(未来の俺……鳳凰院凶真……俺は一体なぜ……?)
岡部(いや、考えるのは未来のことじゃない、今のことだ。……どうすればいい)
岡部(そもそも、Dメールで大分岐のような変動を起こせるのか? 2000年問題が起こった原因も分からないのに?)
岡部(そして起こせたとしても、Dメールによる事象のコントロールは難しい)
岡部(2000年問題を阻止するとなればなおさらだ)
岡部(となると──)
岡部(強引ではあるが……)
岡部「萌郁、俺を助けてくれるか?」
萌郁「え? もちろん、岡部くんのため、なら」
岡部「今から言うことをよく聞け」
俺は立ち止まるわけにはいかない。
犠牲にしてきた全ての思いのためにも。
Chapter 5 『暗黒回帰のハイド』END
私の知るあなたは、ジキル博士ではなく、ハイド氏だった。
彼が私に見せる顔は仮面。
彼は私を本当に必要としてるわけじゃない。
本当に必要してるのは別の人。
萌郁「そんなっ、そんなことしたらっ……過去を変える前に岡部くんが……死んじゃう……」
岡部「大丈夫だ、俺は絶対に死なない」
岡部「この世界線での俺は2036年時点でも生きている、つまり今の俺はどうやっても死ぬことはない」
萌郁「よく、分からない……」
岡部「不死身ってことさ」
萌郁「冗談は、やめて」
岡部「冗談なんて言っていない」
萌郁「でもっ……」
萌郁「でもっ、わざわざそんな危険な真似しなくてもっ」
岡部「誠意を見せるにはどうしたらいいか」
岡部「命をかけることだ」
岡部「俺は一人でもやる」
萌郁「……」
私は……どうしたいんだろう。
彼の望みが叶ったら、私と彼との関係はどうなるの?
過去が変わるってどう変わるの……?
それでも、私は──
萌郁「分かった……私、やる……」
岡部「すまない、お前には辛い選択をさせることになる」
岡部「辛くなどない、俺がやらなきゃダメなんだ」
萌郁「どうして、そこまで……」
岡部「……」
岡部「お前こそ、どうして俺に力を貸してくれるんだ? ラウンダーを裏切ることになるんだぞ」
萌郁「……岡部くんは、私に生きる意味、くれたから」
萌郁「私にとって、FBは父、岡部くんは……兄のような、もの」
岡部「そのFBも裏切ることになる」
萌郁「……いえ、岡部くんは……兄以上の特別な、存在」
岡部「……」
そう──
萌郁「岡部くんの……力に、なりたい」
ただ、それだけ──
~ラボの前~
ガヤガヤ
岡部「……」
岡部「よりによって、ほぼ全員集合とはな」
岡部「……時間はない、このまま作戦開始だ」
萌郁「……岡部くん」
萌郁「キス、するね」
岡部「──んっ、おまっ、何を」
萌郁「……終わったら、ケバブ、もう一度一緒に、食べたいね」
岡部「……」
萌郁「了解」
ガチャ
「岡部!」
「うおぉう、びっくりしたぁ!」
「岡部さん!」
「倫太郎!」
「何しに……来たの?」
「みんな、聞いてくれ」
萌郁(……始まる……できるの? 私に……)
萌郁(岡部くん……岡部くん……)
「まゆりを助けるためだった、信じてくれ」
「まゆりをっ……だしに使わないで!」
「岡部さん……すごく悲しそうな目……してます」
「倫太郎……嘘は言ってないニャ……」
「嘘だよ、そんなことあるはずがない」
「で、でもフェイリスたんのチェシャーブレイクは……」
「こいつは2036年では自らを神格化し、鳳凰院凶真と名乗ってる。さっきもそう言ったでしょ」
「嘘なんかじゃない。こんな世界線は変えなきゃいけない……そう思っている!」
「……みんな、俺が……信じられないのか?」
萌郁(合図……岡部くん……)
バタン
萌郁「動くな! 全員両手を上げろ!」
鈴羽「ラウンダー!?」
紅莉栖「岡部、これは一体……」
岡部「……」
萌郁「タイムマシンはSERNが回収する」
萌郁「開発者の牧瀬紅莉栖、橋田至……岡部倫太郎は付いてきてもらう」
フェイリス「倫太郎も!?」
萌郁「抵抗するのなら、容赦はしない」
ダル「ちょ、ど、ど、ど、どういうこと? 岡部はラウンダーを裏切ったってこと?」
鈴羽「……」
岡部「萌郁、無駄だ。こっちには鈴羽と俺がいる」
萌郁「手をあげろ! 岡部倫太郎!」
紅莉栖「岡部っ……」
岡部「俺は電話レンジを渡す気はない」
萌郁「……喋るな! 手をあげろ!」
るか「お、岡部さん、ダメです……撃たれちゃいます……」
岡部「俺は、電話レンジを使って、過去を変える!」
萌郁(岡部くん……! 岡部くん岡部くん岡部くん……!)
カチャ
フェイリス「り、倫太郎……ダメ……」
萌郁「……」
岡部「……」
萌郁(岡部くんのために、岡部くんのために、岡部くんのために……岡部くんを……!)
鈴羽「茶番だね……」
鈴羽「……はっきり言いなよ岡部倫太郎、目的は何?」
岡部「……何のことだ」
鈴羽「何を企んでいる?」
岡部「手厳しいな……」
鈴羽「今の君はどうやっても死なないからね」
鈴羽「ラボのみんなを信用させてDメールを送ろうったってそうは行かないよ」
岡部「なにを、バカな……」
萌郁「しゃべるな! 撃つぞ」
岡部「……」 チラッ
萌郁(岡部くん……私には、できないよ……)
ガタッ ガタタッ
ダル「わああ! な、なに!?」
M5「裏切ったようだなM3」
M6「M4、開発者は殺すなとの命令だ」
鈴羽「くっ……!」
萌郁(ブラボーチーム!? そんな! 早すぎる!)
ダル「わああ、やめて、撃たないで!」
M7「開発者三名の他は──」 カシャ
るか「ひっ……」
フェイリス「ぁ……」
鈴羽「くそ……!」
岡部「やめろ……」
M7「必要ない」
岡部「やめろおおおおおおお!!」
パララララ
岡部「あがっ……! はぁ……ぁぁぁ……」
萌郁(岡部くん──!!)
鈴羽「……っ」
紅莉栖「岡部……フェイリスさん達を庇って──いや、いやぁぁ!」
岡部「ぐっ……あぁっ……」
るか「岡部さん! 岡部さぁん!! 死なないで……死なないでぇぇ!」
M5「M4、タイムマシンを回収しろ」
『大丈夫だ、俺は絶対に死なない』
『この世界線での俺は2036年時点でも生きている、
つまり今の俺はどうやっても死ぬことはない』
『よく、分からない……』
『不死身ってことさ』
岡部「うぅっ……」
──でも、あなたは突っ伏したまま、今にも動かなくなりそうで。
つま先に触れるおびただしい量の血がそう訴えていた。
萌郁「いや…………いやぁぁぁぁ!!」
パーン
M7「がはっ!」
M6「な、M4……貴様!」
M5「裏切るのか!」
鈴羽「くっ……よく……分からないけど、とにかくこいつらを──」
ダーン ダーン
M6「ぐぁっ!」
ダル「わぁぁ!」
M5「くそっ!」
パララララ
紅莉栖「きゃあああ!」
ダーン ダーン
M5「くっ、ちょこまかとっ……」
パラッ パララッ
ダーン ダーン
M5「うがっ!」
鈴羽「ふー……」
鈴羽「なんとか……片付いたみたいだね」
萌郁「岡部くん! しっかりして岡部くん!」
岡部「……ばか、だな、それじゃさくせんのいみ、ないだろ」
フェイリス「あ……り、倫太郎! 死んじゃいやぁぁ!」
岡部「しんぱい、するな……おれは、しなない」
紅莉栖「救急車、早く……救急車!!」
るか「でも、このままじゃ岡部さんが!」
岡部「たのむ、よばないでくれ……いまは……はやく、かこ……かえっ……」
鈴羽「……とにかく、応急手当を。誰か車を用意して、この場所はもう危ない」
ダル「で、でも、誰も免許持ってなくね……?」
萌郁「わ、私が……近くに、車停めてある……」
鈴羽「……お願い」
岡部「……」
どうか死なないで……。
お願い……。
お願いだから……。
萌郁「車、用意して、きた……」
鈴羽「……さ、運ぶよ。手伝って、橋田至」
ダル「お、おう……」
岡部「うぐっ……」
るか「岡部さん……死に、ませんよね? 大丈夫、ですよね?」
紅莉栖「今はなんとも言えない……奇跡的に一発も急所に当たってないけれど、出血が多すぎるわ……」
鈴羽「大丈夫だよ、こいつは死なない。絶対にね」
フェイリス「こんなに血だらけなのに……?」
鈴羽「アトラクターフィールド理論……世界線の収束ってやつ、生存が約束されてるんだ」
萌郁(岡部くんが言ってたのと同じ……)
紅莉栖「ね、ねえ、電話レンジはどうするの?」
萌郁「……大きめのバンだから、全員乗っても、余裕、ある」
鈴羽「……持っていったほうがよさそうだね」
~ラジ館内~
紅莉栖「ひとまず、応急手当は終わったけど……」
ダル「ぼ、僕達これからどうなっちゃうん? つかラ、ラウンダーのおねーさんは一体……」
鈴羽「はぁ……もう訳がわからない」
萌郁「……」
岡部「うぅっ……」
るか「岡部さん!」
フェイリス「目を覚ましたの!?」
岡部「ここは……俺は一体……」
紅莉栖「ここはラジ館内。あんた、フェイリスさん達を庇って撃たれたのよ」
岡部「……さすがにもうダメだと思ったが、やはり世界線の収束によって死は免れたということか」
岡部「うぐっ……」
紅莉栖「無茶しやがって……バカ……」
紅莉栖「……それについては……謝るっ……」
岡部「もっとも、捜査官を殺したのは確かなのだから、無理もない……のかもな」
鈴羽「説明して岡部倫太郎、お前は一体何をしようとしている」
鈴羽「世界線の収束によってお前の死は否定されるにしても、あんなの……無茶すぎる」
岡部「言っただろう、まゆりを助けるため、だと」
るか「ボクたちを庇ったのは……どうして……」
岡部「……知らん、体が勝手に動いていただけだ」
フェイリス「倫太郎……」
岡部「ともかく……未来の俺が何を考えてるのかは知らないが、今の俺はそのためだけに動いている」
萌郁「……」
岡部「……そのためなら手段は選ばない、そう決めたんだ」
紅莉栖「岡部……」
鈴羽「……全部話してみて。信じるかどうかは……別だけど」
岡部「……あぁ」
彼の持つ能力のこと。
その能力で幾つもの世界線を漂流したこと。
α世界線では、椎名さんが世界に殺される運命にあったこと。
IBN5100を使いα世界線からβ世界線に移動することで、椎名さんを助けようとしたこと。
そして”クラッキングを実行することができなかった”ため、タイムリープの限界を超え、この世界線に来てしまったこと。
2000年問題を阻止し、α世界線を戻るのが、今の目的なこと。
紅莉栖「ふむん……」
ダル「それが本当だったらラノベ作家になれると思われ!」
るか「ボク、何がなんだか……」
鈴羽「リーディングシュタイナーなんて能力、信じがたい話だけど……」
鈴羽「世界線をまたいでも記憶が継続する力を、本当に持っているのだとしたらお前の話に矛盾はない」
フェイリス「り、倫太郎は嘘を言ってないのニャ、た、多分……」
鈴羽「確かに、世界線をまたげば椎名まゆりを助けることができるかもしれない」
岡部「だから、それを回避するために──」
鈴羽「結局、お前は何がしたかったんだ」
岡部「……っ」
鈴羽「いたずらに世界線を変えて、数多の人間を死に追いやって」
鈴羽「かと思ったら、今度はそれをなかったことにしようとしている」
鈴羽「ちょっと勝手すぎるんじゃない?」
鈴羽「この世界線に幸せを見出している人はどうなる? その人の気持ちを考えたことは?」
萌郁「……っ」
岡部「そ、それはっ……」
紅莉栖「ちょ、ちょっと鈴羽、言い過ぎよ……」
鈴羽「……確かに、ちょっと言い過ぎた。不本意だけど……謝罪する。……ごめん」
鈴羽「……実際は、あたしのやろうとしてることも同じなんだよね……」
岡部「鈴羽……」
鈴羽「ごめん、思わず頭に血が上っちゃったよ」
鈴羽「あたしも、ずっと葛藤があったから……」
鈴羽「こんな世界なんて変えてやる! なんて思っててもさ」
鈴羽「時々分からなくなるんだ。あたしや一部の人間の思いだけで変えてもいいのかって」
鈴羽「確かにあたし達にとって、2036年は酷い世界だった」
鈴羽「それでも……そこに生きる人達にも、それぞれ幸せを見出してたかもしんないんだよね」
萌郁「……」
世界線が変動してしまったら、私と岡部くんの関係はどうなってしまうのだろう。
少なくとも、今までのようにはならないよね……。
もしかしたら、彼と出会ってすらいないかもしれない。
彼に聞くのは……簡単。
でも聞くのが……怖い。
岡部「やってくれるのか?」
鈴羽「それがレジスタンスの仲間や、父さんとの約束だからね。あたしはやるよ」
鈴羽「迷ってちゃ……ダメなんだ」
岡部「父さ……そういえば、お前は父親の正体について知っているのか」
鈴羽「え? あー……うーん」
岡部「なんだ、微妙な反応だな」
鈴羽「……」 チラッ
岡部「……」 チラッ
ダル「う、うぇ?」
鈴羽「はー……あたしの父さん、カッコ良かったんだけどな」
岡部「……なるほど」
萌郁(なにかしら、この分かり合ってますオーラ……ちょっと悔しい)
鈴羽「んー、それがさ、世界線を変える鍵は岡部倫太郎が握ってる、としか聞いてないんだよね」
紅莉栖「岡部が?」
鈴羽「そう」
鈴羽「でも実際にどう握ってるのかは分からない。岡部倫太郎を抹殺することなのか、再起不能にすることなのか」
岡部「おい……」
るか「そ、そんな! だめです! 岡部さんは悪い人なんかじゃ……」
鈴羽「……冗談だって」
鈴羽「ともかく、レジスタンス内ではそういうことになってたんだ」
岡部「……そうか」
紅莉栖「つまり、2000年問題を阻止すれば、世界線は変わるってこと?」
岡部「そうだ、現に2000年問題が起きなかった世界線を経験しているからな」
ダル「2000年問題が起きなかった世界線があるん? 想像できんわな」
フェイリス「確かに、そうニャ」
るか「ボクたちの中では、当たり前の認識ですからね……」
紅莉栖「2000年問題……」
紅莉栖「年号を2桁で管理しているコンピュータが、2000年を1900年と誤認してしまい、処理を続行できなくなる問題のこと」
萌郁「表向きは、ね」
紅莉栖「え? ど、どういうこと?」
岡部「昨日、2000年問題について詳しく調べたところ、1つの疑問点が浮かんだ」
るか「あ……確かに、ボクも聞いた事あります」
岡部「にも関わらず、壊滅状態の地域もあれば、被害の少ない地域もある。かと思いきや、全く無傷な地域だってあった」
フェイリス「ワクチンプログラムを使わない、もしくは使えなかったとかはないのかニャ?」
岡部「おかしいと思わないか、世界規模で懸念されたバグだぞ」
岡部「少なくとも、甚大な被害を引き起こすと予想されるコンピュータへは最優先でワクチンが当てられたはずだ」
フェイリス「確かにそうだニャン」
岡部「そして、被害の地域にバラつきがあること、このことから1つの結論を導き出すことができた」
ダル「つまり、どういうことだってばよ」
萌郁「薬を作ってから毒をまく、SERNの常套手段」
萌郁「いえ、その薬こそが、毒、だったのかも」
紅莉栖「ええっ!? ちょ、説明しろ!」
萌郁「2000年クラッシュ後は、どれも、再起不能な状態、だった」
岡部「研究の分野は主に素粒子物理学や物理工学系」
鈴羽「それって、もしかして……」
岡部「あぁ、2000年クラッシュは、誤作動などではなく──」
岡部「ニセのワクチン──いや、ウィルスによって人為的に発生させられたものだったのかもしれない」
萌郁「目的は、タイムマシン研究を行わせないため……」
紅莉栖「そんな……」
岡部「SERNはエシュロンを使い全世界のタイムトラベルに関する情報を集めている」
岡部「これはどの世界においても共通なはずだ」
岡部「すなわち、SERNは大小問わず、タイムトラベルについて研究している機関を監視──」
岡部「脅威に感じたSERNは、機関にニセのワクチンを掴ませ、潰した」
萌郁「もちろん、カムフラージュだったり、経済の壊滅を目的として潰された地域もあったかも、しれない」
紅莉栖「もしそれが真実だとしたら、許せない……」
岡部「もう1つ分かったことがあるが、ワクチンプログラムの開発にあたった人物は自殺している」
萌郁「責任を感じて、なのか、消されたのかは……わからない」
鈴羽「なんてこと……」
ダル「うわー、SERNパネェっす……マジパネェっす……」
鈴羽「だとすると、未来を変える具体的な案──」
鈴羽「それは2000年までに、ウィルスに対するワクチンを開発、世間に公表する」
鈴羽「あるいは、SERNサーバー内にクラッキングを仕掛け、ウィルス自体を無害なものに改竄してしまう」
岡部「そうだ」
岡部「……が、やれるか?」
鈴羽「オーキードーキー、なんたってあたしは……」 チラッ
鈴羽「いや、なんでもないや」
ダル「お、おう……?」
岡部「……もっとも、今語った推察が当たってる証拠はどこにもない」
岡部「それとSERNのサーバー内にクラッキングを仕掛けるのであればIBN5100も必要になってくる」
岡部「恐らく、2000年クラッシュの計画は、最重要機密に近い扱いだろうからな」
鈴羽「とーなると……1999年じゃなくて、余裕を持って跳躍したほうがいい、ってことかな」
岡部「あぁ」
岡部「待ってくれ、最後に……謝罪の言葉をっ……」
鈴羽「ん?」
萌郁「……っ」
岡部「……まゆりと話をさせて欲しい」
鈴羽「でも、今の君が出歩くのは……」
るか「あ、でしたらボク、病院から電話してくれるよう頼みにいきましょうか?」
フェイリス「ニャニャ、だったらフェイリスも行くニャン、ルカニャンを一人にするわけには行かないニャン」
ダル「あ、だったら僕も」
岡部「橋田、お前はここにいてやれ」
ダル「えー、なんでさー! か弱い乙女二人を出歩かせるなんて紳士のやることじゃないお!」
るか「あの、ボクたちでしたら、大丈夫なので……ここ歩いて10分も掛かりませんし……」
紅莉栖「やんわりと断られてる件について」
ダル「ぐはー……」
るか「任せてください!」
岡部「二人とも俺を信じてくれてありがとう、礼を言う」
フェイリス「フェイリスは最初から倫太郎のこと信用してたニャン!」
萌郁(最後に話したいのは……椎名さんかぁ……)
萌郁(……そうよね、岡部くんにとっては、椎名さんを助けるためにやってきたんだものね……)
萌郁(何……期待してたのかしら、私ってば)
岡部「俺の能力を考えれば、そこに行き着くのは難しことではないだろう」
ダル「でもそれっておかしくね?」
ダル「岡部のリーディングシュタイナー……だっけ? を知ってるのって、限られた人だけじゃん? 例えばボクらみたいな──」
岡部・紅莉栖「あぁ、なるほど」
ダル「んぇ?」
鈴羽「ともかく、これでレジスタンスの創設者に顔向け出来る」
岡部「創設者……とある世界線では創設者は俺だったりしたんだが、この世界線では誰なんだ? 気になるな」
鈴羽「君が創設者ぁ~? バカも休み休みいいなよ、冗談にもなんないって」
岡部「くっ……俺が動けないのをいいことに……」
岡部「ほう、それは興味深いな」
鈴羽「おかげで、数ある反体制組織でもうちほどの勢力を持った組織は他になかった」
鈴羽「おまけにその創設者は女性。聡明で凛としてて、みんなの憧れの的だったらしいよ」
ダル「うひょー! 女ボスktkr」
紅莉栖「へぇ……すごい。尊敬しちゃうわね」
萌郁「……」
萌郁(すごい人……岡部くんと対等に渡り合うなんて……)
岡部「御託並べはほどほどにしろ。で、誰なんだ」
鈴羽「……えっと、それが、実際に会ったことはないんだ」
岡部「なんだ、知らないのか」
岡部「レジスタンスという立場を考えれば不思議じゃないな」
鈴羽「コードネームは世界でも知られてるんだけどね……」
紅莉栖「へぇ、なんて言うの?」
鈴羽「栗悟飯」
紅莉栖「ぶっ!」
岡部「……」
ダル・鈴羽「ん?」
萌郁「……?」
ピッ
岡部「……もしもし」
まゆり『岡部くーん、こんばんは~』
岡部「あぁ……元気にしてたか?」
まゆり『うん、今日は体調すっごくいいんだぁ』
岡部「わざわざ電話してもらってすまない。本来なら、俺から会いに行くべきなのに」
まゆり『ううん、そんなの全然気にしなくていいよ~、いつもお世話になってるのはまゆりだもん!』
岡部「……はは、今日のまゆりはホントに元気そうだな」
まゆり『……そういう岡部君は……なんだかとても辛そうな声だけど、大丈夫~……?』
岡部「いや、なんでもない。少しマウテンジューを飲み過ぎて腹が痛いだけだ」
まゆり「あはは、岡部くんってば好きだもんねぇ~、マウンテンジュー」
まゆり『ん~?』
岡部「病気、治るといいな」
まゆり『……うん、そうだね』
岡部「それじゃあ、切るな。いきなり電話なんかかけさせて、悪かった」
まゆり「ううん、気にしないで? 嬉しかったよ」
岡部「本当に……ごめんな……がんばれよ」
まゆり「え? う、うん、岡部くんも、頑張って」
岡部「あぁ……」
岡部「ふー……」
紅莉栖「全く、まゆりが相手となると人が変わったみたいに優しくなるんだから」
岡部「うるさいカメハメ波、少し黙れ」
紅莉栖「なっ!?「
紅莉栖「ちょ! あんたっ! それ、それをどこでっ!」 ガシッ
岡部「ぐぁっ! き、貴様! 今の俺に触るな! いて、いてて!」
ダル・鈴羽・萌郁「……?」
ダル「阿万音氏~、もう行っちゃうん?」
鈴羽「早く今を変えないと……きついでしょ、体」
紅莉栖「そうよね……途中から忘れてたけど、体中風穴だらけだもの……岡部ってば」
岡部「これくらい、大したことはない」
鈴羽「……今なら分かる気がするよ」
岡部「……?」
鈴羽「今の君はさ、2036年での悪逆非道の限りを尽くした鳳凰院凶真とは似ても似つかない」
鈴羽「ただひたすら椎名まゆりを救うことに必死になってる」
鈴羽「……見てて危なっかしくなるくらいね」
鈴羽「仮面の下で膨れ上がった悪意の塊。きっと……2036年の君はそれを抹殺しようとしていたのかな」
鈴羽「椎名まゆりを殺した世界を否定することで──」
岡部「……我ながら迷惑な話だ」
鈴羽「それじゃ後は任せたよ、岡部倫太郎」
鈴羽「あたしは手助けするだけ。椎名まゆりを救うのは君だよ」
鈴羽「きっと、未来を変えてみせるね」
岡部「あぁ……頼んだぞ」
ダル「阿万音氏~! 頑張れよ~、僕たち見てるからな~!」
紅莉栖「いってらっしゃい、鈴羽」
萌郁「……頑張って」
鈴羽「ふふ……」
プシュー バタン
萌郁「……」
シュー
あ、タイムマシンが輝いている──
世界が……変わる。
岡部くんと私の関係も……変わる。
岡部くん、今あなたは何を思っているの──?
誰のことを考えてるの──?
Chapter 6 『哀心迷図のカイン』 END
紅莉栖……すまない。
俺はこれからお前を見殺しにする選択をしなくてはならない。
そして萌郁……お前にも申し訳ないことをした。
最初はただ、お前を利用していただけなのかもしれない。
記憶を取り戻す鍵。もしくは単なる仕事仲間として──
でも今はただの仲間じゃない。
まゆりや紅莉栖たちと等しく大事な仲間だ。
お前も俺のことを特別な存在だと言ってくれた。
その気持ちを俺はなかったことにしてしまう。
今の関係をなかったことに──
岡部「ありがとう、萌郁。さようなら……また、会おう」
萌郁「……っ」
岡部(タイムマシンが……消えるっ!)
ダル「阿万音氏ぃ~!」
紅莉栖「あら、やけに残念そうね、橋田」
ダル「なんか他人って気がしなかったんだお」
紅莉栖「告白しとけばよかったのに、時間を超えた恋愛なんてロマンティックじゃない?」
ダル「ちょ、超えるのは次元だけでおkだお!」
紅莉栖「はいはい、ワロスワロス」
岡部「……」
萌郁「どうしたの、岡部くん、浮かない顔、して」
岡部(確かに……俺は物理的タイムトラベルで生じる世界線の変動を経験したことはないからはっきり断定することはできない)
岡部(しかし、鈴羽が過去に飛んだ時点でイレギュラーが生じ過去は変わるはず)
岡部(鈴羽が2000年問題を阻止したのであれば、リーディングシュタイナーが発動しなくてはならない)
岡部(だというのに──)
ダル「2000年問題かぁ、不謹慎ながらも当時は少しwktkしてますた、サーセン!」
萌郁「本当に、不謹慎……」
紅莉栖「ね、ねえ岡部、ちょっと……いい?」
岡部「……紅莉栖も気づいたか」
紅莉栖「なのに今私たちは”2000年問題が起こったこと”を覚えてる」
岡部「そのようだな」
紅莉栖「リーディングシュタイナーを持ってる岡部ならともかく、私たちも覚えてるってことは──」
紅莉栖「過去は変わっていない……」
岡部(これは……この状況は……)
くくく……失敗した。
まゆりは助からない。
岡部「……っ」
岡部(出て……来るな!)
岡部「……誰か来る」
ダル「フェイリスたん達じゃ?」
岡部「いや、この足音は……」
コツコツコツ
岡部「……」
天王寺「よう」
萌郁「FB……!」
紅莉栖「店長さん!?」
天王寺「裏切ったみてーだな、M3、M4」
ダル「ちょ! ど、どういうことなん!?」
岡部「FB、俺達の上司で──」
萌郁「──ラウンダー、よ」
天王寺「まさかとは思ったが、ホントに裏切るとはな」
岡部「……」
天王寺「ったく、ボロボロじゃねーか」
天王寺「しかしやってくれたぜ、片付けるの大変だったんだぜ、死体」
天王寺「まぁ……おめーは目的のためなら手段は選ばない男だからな」
萌郁「FB……どうして、ここが……」
天王寺「おい、うちのバイトはここにいねーのか? なんだよ、うちのバイトだけハブってんのか?」
岡部「まさか……フェイリスとるかを!?」
天王寺「おめーにしちゃ無用心だったな、M3」
岡部「くっ……」
天王寺「さあ、タイムマシンの在り処を教えろ。ラボから持ちだしたんだろ?」
岡部「この……罪のない人間にまで手を──」
岡部「……っ」
天王寺「そうだな。おめーがそれを言えるはずねーよな」
紅莉栖「岡部……ど、どうするの?」
萌郁「……っ」
岡部「萌郁、よせ」
天王寺「わーかってねーみてーだなM4、銃を降ろせ」
天王寺「俺が戻らなかったら他のラウンダー達に命令が通達するように仕向けてある」
岡部「くそ……!」
岡部「……分かった、渡す……渡すから……誰も、傷つけないでくれ……」
萌郁「岡部く……ん」
天王寺「それでいい」
これでDメールを送ることも叶わなくなる。
抵抗すればまゆりやフェイリス、るかも傷つく。
どうしようもない。
そして放っておけばまゆりが死ぬ。
どうしてだよ……なんで俺から奪うんだよ……。
どうして引き離すんだよ……。
岡部「俺はあなたのことを尊敬していた! なのにっ……!」
天王寺「裏切っといてよく言うぜ」
岡部「あなたも俺の気持ちは分かっていたはずだ! まゆりを救うのにどれだけ必死になっていたか!!」
天王寺「……はぁ」
天王寺「おめーらが裏切ったこと、本部には内緒にしといてやる」
天王寺「開発者の二人もすでに逃げたって報告してやる」
天王寺「だから今後、俺に近づくな。別の地域で1からやり直せ」
岡部「……」
天王寺「甘ぇな、俺も……」
それじゃ……意味が無い。
俺だけ別の場所でやり直したって意味が無い!
俺の居場所はそんなところにない!
萌郁「は、はい……」
コツコツコツ
ああ、これは罰だ。
きっと罰なんだ。
まゆりを助けるためとはいえ、罪のない人間に手をかけてきた報いだ。
だから世界は俺にこんなに辛く当たるんだ。
また……みんな俺から離れていく……。
ブーブー ブーブー
────
───
──
──かべくん!
萌郁「岡部くん!」
岡部「……っ! 俺は……一体……」
ダル「桐生氏と店長が階段降りてった後、放心状態だったお……」
岡部「そうか……」
ブーブー ブーブー
岡部「……?」
ピッ
From:M4
Sub:
本文:FBが後で御徒町の家に来いって
内緒の話があるみたい
岡部「橋田、そういえば紅莉栖はどこへ?」
ダル「あぁ、まゆ氏のとこに行くって言ってたお」
岡部「そうか……」
岡部「橋田、お前は紅莉栖のことを頼む。FBはああ言っていたが紅莉栖の身が心配だ」
ダル「え、ええ!? まだ危険なんすか!?」
岡部「わからないから頼んでいるんだ」
ダル「う、えっと……オーキードーキー!」
萌郁「それじゃ、岡部くん……肩」
岡部「あぁ、たの──うぐっ!」
萌郁「ごめん、なさい……まだ、痛むよね」
岡部「……大丈夫だ、気にするな」
~天王寺家~
天王寺「来たな」
岡部「一体どういうつもりです? 近づくなと言ったり、来いと言ったり」
天王寺「まあ座れや、萌郁もな」
萌郁「……さ、岡部くん、座って……」
岡部「あぁ……すまない」
岡部「う……くっ……ぅっ……」
天王寺「ったく、何発撃たれてやがんだ。ホントに死ぬぞ岡部」
岡部「問題はないですよ、この世界では俺は死ぬようにはなっていない……」
天王寺「……? まあいい、話ってのはつまり、あれだ」
天王寺「これを……」
ピラッ
岡部「手紙……?」
岡部「……これは……この手紙は……橋田鈴から!?」
天王寺「ったく、よりによってなんで今日なんだか」
岡部(この世界線でもFBは鈴羽の世話に……)
岡部(そう言えば出会った時にも……)
『なぁおめぇ、鈴さん……橋田鈴って知ってるか?』
岡部(因果はある程度収束するということか……例え大分岐によって変動した世界線でも…‥)
天王寺「茶、淹れてくるからよ。読んでろや」
岡部「……」
岡部(読むのが……怖い)
パラッ
おひさしぶりです。あまねすずはです。はしだいたるの娘です。
あなたにとっては、つい数時間前以来のことかもしれない。
今は、西暦2000年の、6月13日です。
これをあなたが読んでいる、だいたい10年前ということになります。
結論だけ、書く。
失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した
あたしは失敗した失敗した失敗した失敗した
あたしは失敗した失敗
これをあなたが読んでいる、大体9年前、10年前になります。
失敗した。
ワクチン、いや、ウィルスが配布される1999年12月15日15時
それを阻止するためにあたしは14日、SERNサーバー内クラッキングを仕掛けることにした
訳あってクラッキングは15日朝にした、でも問題なかった、間に合ったはずなんだ
あたしは確かにクラッキングに成功した
でも失敗した
あたしは確かにウィルスを改ざんした
でも失敗した
それがSERNにバレた形跡もなかった
でも失敗した
恐怖の大王は落ちた
予言より半年も遅れて
失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した
あたしは失敗
何が原因なのクラッキングはうまくいかなかったいやうまくいったはずだった
ゴメンね
あたしは、なんのためにこの歳まで生きてきたんだろう
あたしの計画は狂ってしまった。
その原因を、この1年考え続けていた。
そして、わかった。
12月14日と15日の間に、何者かがあたしのPCに忍び込んだ。
いや、盗み見たんだと思う。
そしてあたしの用意した偽装ウィルスを有害なウィルスへと書き換えた。
あたしはあの日、クラッキングを仕掛けなければならなかったんだ。
あの日を逃したらダメだったんだ。
でももう遅い。
ゴメン。
ゴメン。
こんな人生は、無意味だった──
なんだよこれ……・。
ああ……俺はまた鈴羽に絶望を味わわせて──
俺はまた──
俺は──
Chapter 7 『自己喪失のアポティヒア』 END
俺は──
俺は変わったか?
なあ、鈴さん。
天王寺「茶入ったぞ。まっ、ゆっくり飲んでけや。会うのは……最後になるだろうからな」
萌郁「……っ」
岡部「……」
天王寺「どうしたんだよ、固まっちまって」
岡部「FB……鈴……橋田鈴とはどういう関係だったんで……」
天王寺「……昔世話んなった人だよ」
岡部「FB、あなたは……橋田鈴の正体──いや、使命を……ご存知ですか?」
天王寺「……」
鈴さんの使命、それは恐らく──
2000年問題の阻止──だった。
岡部「……邪魔したのはあなたなのか?」
天王寺「その手紙に何が書いてあるのかわかんねーけどよ、もう終わったことだろ?」
岡部「終わったことだと……?」
岡部「橋田鈴は……鈴羽はそんなことをさせるためにあなたの世話をしたんじゃない!」
天王寺「お前に何が分かる! お前に鈴さんの何が分かるってんだ!」
岡部「分かるさ……彼女はさっきまで、ほんのさっきまで近くにいた」
天王寺「何言って……」
天王寺「なっ……」
天王寺(鈴さんがうちのバイトだと?)
『なあ鈴さん』
『ん?』
『あんた、なんで縁もゆかりもない俺にここまで親身にしてくれるんだ?』
『そうだね……』
『人は巡り巡って誰かに親身にしてもらうことになってる』
『だから君もいずれ誰かに親身にしてあげる事だよ』
『……』
だから俺は、こいつらをどうにかして救ってやりたかった。
鈴さんや綴が俺にしてくれたように。
天王寺「……何をだよ」
岡部「あの日……1999年12月14日に何があったのかを」
天王寺「聞いてどうする」
岡部「鈴羽は……未来を変えるために……変えるためだけに……タイムトラベルして自分の時間を犠牲にしたんだ」
岡部「それなのに……使命を果たせないなんて、あんまりじゃないか……」
天王寺「……」
天王寺「……鈴さんには悪いと思ってるよ。だがな、俺にはどうすることもできなかったんだ」
岡部「……」
岡部「……後悔してるんだな? ならば過去にDメールを送るんだ、そうすれば鈴羽もあなたも救──」
天王寺「過去を変える? 次は綯の命まで危険に晒せってのか」
天王寺「SERNを裏切ればどうなるかってことくらい……痛いほどわかってんだ、俺はよ」
天王寺「綴……綯の母親はSERNに殺された、俺のせいでな」
萌郁「……っ」
天王寺「ここまで言えばもう分かるだろ、俺のことはともかく、綯まで巻き込むわけにはいかねえんだよ!」
岡部「し、しかし、綯は世界線の収束で命は保証──」
天王寺「もう話す気はねえ! 茶飲んだらさっさと帰れ。そして──」
天王寺「二度と面見せんな」
プルルルル
プルルルル
天王寺「電話か……」
ピッ
天王寺「……」
天王寺「……っ」
萌郁「……?」
天王寺「……っ!?」
岡部「FB……?」
天王寺「……いや、問題はない。……了解した」
ピッ
萌郁「大丈夫……? すごい、汗……」
天王寺「未来ガジェット研究所に行くぞ」
岡部「ラボへ……?」
萌郁「そんな、どうして、いきなり……?」
天王寺「タイムマシンも持っていく」
萌郁「……え?」
岡部「電話レンジを?」
~ラボ~
天王寺「……」
岡部「なぜラボに電話レンジを……?」
天王寺「送る準備、してくれや……」
萌郁「もしかして……」
天王寺「そう、送るんだよ、Dメール。過去の俺によ……」
岡部「でも、なぜいきなり……」
天王寺「もうな、流されんのはやめたんだ」
岡部「……その前に、話してくれませんか、あの日のことを」
岡部「1999年 12月14日に何があったのかを──」
天王寺「……分かった、よく聞いとけよ」
そう、話さなきゃならねえ──
ずっと、後悔してきたから。
きっと、俺がこいつを変えちまったから。
プルルルル
ピッ
天王寺「こちらM2」
男『私だ』
天王寺「……」
男『仕事だ。要観察者、橋田鈴が所持しているPCをなんとか探ってほしい』
天王寺「……なんだと?」
男『彼女は何年も前から我々SERNにハッキングを仕掛けてきている、目的はいくつか考えられるものの不明だ』
男『だが、近いうちに何かを仕掛けてくる可能性がある』
天王寺「何を……仕掛けるんだ?」
男「……」
男『……それが分からないからこうして君へ電話している』
天王寺(鈴さんは何をしようと……?)
天王寺「よ、要観察者は……病院だ」
男『病院? 体調でも崩しているのか?』
天王寺「いや……どうもついさっき、目の前でガキが倒れたらしく、付き添ってるらしい」
男「……」
天王寺「しばらく戻らないかもしれない……そう言っていた」
男『好都合だな』
男『M2、君はこれから、要観察者の自宅に向ってくれ』
天王寺「……了解」
男『30分後、コンピュータに精通しているM1をそちらに向かわせる』
男『彼がPC内のデータを探っている間はサポートに回って欲しい。万が一要観察者が戻って来ることがあれば……殺せ』
天王寺「……りょ、了解」
男『以上だ』
M1「……これは驚きました」
天王寺「何か……分かったのか」
M1「彼女はどうやら2000年クラッシュを防ごうとしてるみたいですよ」
天王寺「2000年クラッシュ? コンピュータが誤作動を起こすっていうあれか」
天王寺「でもよ、そんなの個人で防げるもんじゃねーだろ」
M1「なるほど、あなたは知らされてないのですね」
天王寺「……?」
M1「あ、内緒ですよ?」
天王寺「あん?」
M1「SERNは2000年クラッシュを人為的に引き起こそうとしてます」
天王寺(何……?)
M1「そう、薬だと思って飲んだら毒だったっていうオチですよ、愉快でしょ?」
天王寺「……っ」
M1「そのウィルス──アンゴルモアが明日ばら撒かれるんですが、どうやらターゲットはこれをクラッキングで改竄しようとしてるみたいです」
M1「アンゴルモアに非常に似通ったプログラムがあったので、気になって覗いてみたのですが
中身はなんのことはない……誤作動のごも起こさせない様な欠陥品でした。ガッカリです」
天王寺「つまり彼女は、SERNサーバー内のウィルスを改ざんして、2000年クラッシュを阻止しようと……?」
M1「でしょうね、きっと情報を覗きみた際に計画に気づいたんでしょう、健気なことです」
天王寺「……なあ、2000クラッシュなんて起こしてどうしようってんだ」
M1「それは、あなたの知る必要の無いことです」
天王寺「……」
M1「不安ですか? 大丈夫、この地域はさほど被害が出ないと思いますよ」
天王寺「おい、どういうことだ」
M1「おっと、ちょっと喋りすぎました」
天王寺「何をした」
M1「無事に2000年クラッシュが起こるようにしただけですよ」
天王寺「……無事にって、おい……」
天王寺(鈴さん……俺はどうしたら……)
天王寺(あんたには世話になった、恩を讐で返すような真似はしたくない……)
M1「変な気は起こさないほうがいいですよ。最近お子さん、生まれたんですよね?」
天王寺「くっ……」
恐怖の大王は予言の半年遅れて落ちた。
たくさん人が死んだ。
結局俺は流された。
選ばないことを、選んだ──
Chapter 8 『恩讐のディーレクトゥス』 END
8月16日 20:32
~ラボ~
岡部「……電話レンジの設定、完了です。42型ブラウン管も点灯済み」
天王寺「……」
岡部「では……放電現象が発生したらメールを……」
天王寺「なぁ岡部、別の場所から送ることって出来んのか?」
岡部「可能ですが……」
天王寺「なら俺は下に行ってブラウン管眺めながら送ることにするよ」
岡部「……分かりました。それでは激しく揺れだしたら、メールの送信をお願いします」
萌郁「……私、FBと一緒に、いる」
岡部「……萌郁?」
岡部「そうか……今度こそ、本当に別れになるんだよな」
萌郁「名前……呼んでくれて、嬉しかった」
岡部「……さよなら……萌郁」
萌郁「うん……さよなら、岡部くん、また……会えるんだよね、それがたとえ、今の私じゃなくても……」
岡部「……」
岡部「……店長も、色々とすみませんでした」
岡部「まだガキだった俺に良くしてくれたこと、感謝しています」
天王寺「気にすんなよ、俺はただ恩を返そうと思っただけだ」
天王寺「──なぁ岡部」
岡部「……なんです?」
天王寺「人間がどれだけ科学を進歩させようと、所詮ただの人間だ」
天王寺「決して神のようにはなれねえ」
岡部「……?」
天王寺「年寄りの戯言だよ、聞き流せや」
───
──
岡部「しかし……なぜ店長はDメールを送ろうなどと……」
岡部「電話を取る前は頑なに拒んでいたはずだが……」
岡部(電話! もしかして──)
ガチャリ
紅莉栖「は、はろー……」
紅莉栖「あ、岡部……!」
岡部「紅莉栖……どうしてここに……」
紅莉栖「あの……店長さんの家に行って綯ちゃんに聞いたら、ラボに行くって言ってたから……」
岡部「なに? 店長の家に行ったのか?」
紅莉栖「いや、あの……」
紅莉栖「隠してもしょうがないわよね……」
岡部「……」
紅莉栖「これ……見て」
Sub:
本文:タイムリープ
ピッ
From:chris-m@docono.ne.jp
Sub:
本文:マシン作って
ピッ
From:chris-m@docono.ne.jp
Sub:
本文:岡部を助けて
紅莉栖「そ、Dメール。未来から……。送ったのは多分私……」
紅莉栖「タイムリープマシンの構想自体は、すでに私の頭の中にあったから……。さっき抜けだしてパーツを買ってきたの」
岡部「お前……電話レンジを改良するためにラボ……店長の家に?」
紅莉栖「電話レンジを改良してタイムリープも出来るようにしたいって言えば、店長さんも了承してくれるかなって思って」
岡部「……全く、無茶を……。お前は今、ラウンダーに追われてるんだぞ」
紅莉栖「だって、岡部の力になりたかったんだもの……」
岡部「紅莉栖っ……!」
『忘れないで』
『あなたはどの世界線にいても一人じゃない』
『──あたしがいる』
紅莉栖「ふぇっっ!? ちょ、あんた何いきなり抱きついて!」
岡部「……すまない、紅莉栖」
お前を見捨てる選択をしなくちゃいけないんだ。
なのに、お前は……そんな俺に力を貸してくれる。
岡部「すまない……」
岡部「どうしてお前なんだよって思ってた……」
紅莉栖「おか……」
岡部「本当に、すまない……俺はお前を……助けられない……」
紅莉栖「よく、分からないけれど……」
紅莉栖「最初会った時も、こうやって、いきなり……抱きしめられたのよね」
岡部「あぁ……そうだったな」
紅莉栖「ふふ、あんたってばホントに強引なんだから」
岡部「今度は、殴らないんだな……」
紅莉栖「当たり前、でしょ。今のあんた……こっちが痛くなるくらい弱々しいんだもの……」
天王寺「ったく、いつもイライラさせられてたあの揺れを待つ日が来るたぁ夢にも思わなかったぜ」
萌郁「FB……過去が変わったら私たちの関係、どうなるの、かな」
天王寺「……さあな」
萌郁「また、会えるよね」
天王寺「そうだといいな」
萌郁「FBは……私にとって、父みたいな存在、だった」
天王寺「……俺もお前のことは娘みたいに思ってたよ」
────────────────────────────────────────
紅莉栖「電話レンジ、改造しなくていいの?」
岡部「問題ない。近いうちに完成されるマシンを使って跳躍してきた人物がいる」
岡部「その人物がすでにDメールを送るために待機している」
紅莉栖「……そっか……ちゃんと、力になれたんだね、私」
岡部「あぁ、お前の作ったマシンの出来はガチだった」
紅莉栖「と、とと当然でしょ! なんて言ったってこの私が手がけたんだからっ!」
萌郁「覚えてる? 綯ちゃんがみんなで一緒にプールに行きたいって言った時」
天王寺「はは、忘れもしねーよ。あの時、頑なに拒んだんだよな、岡部」
萌郁「そ……プールなんて、子供の行くところ、だって」
天王寺「実際には泳げねえからだったんだよな。そっちの方がガキだっつーの」
萌郁「ふふ、岡部くんの、数少ない欠点」
天王寺「……あぁ、あん時は傑作だった」
────────────────────────────────────────
バリバリバリバリ
岡部「放電現象、始まった……」
紅莉栖「岡部……目、閉じて」
岡部「え?」
紅莉栖「いいから、早く閉じなさいよ!」
岡部「あ、あぁ……」
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ
天王寺「……来たか」
萌郁「……」
天王寺「……」
────────────────────────────────────────
紅莉栖「……」
ふと……・
唇に触れる柔らかい感触。
岡部「紅莉栖……お前……」
紅莉栖「……っ」
紅莉栖「キス……だけだからな!」
To:future-gadget8@hardbank.ne.jp
Sub:
本文:覚悟を決めろ
流されるな
選択しろ
天王寺「頼んだぞ……1999年の俺……」
ピッ
萌郁「……」
萌郁「さようなら、私のお父さん。きっとまた、会おうね……」
その瞬間、周りの景色が琥珀色に包まれ、ぐにゃぐにゃと揺れ始める。
平衡感覚は失われ、立っていられなくなり──
やがて世界は元の形へと収束する。
Chapter 9 『収束のデスペディーダ』 END
ここ……は?
ラボのようだ。
目の前には紅莉栖、世界線が変わる前と同じ光景。
だが、体中の痛みは消えている。
岡部「紅莉栖……」
紅莉栖「岡部……あんたは選ばなくちゃいけない。分かってるはずよ」
岡部「あぁ……分かっている」
紅莉栖「まゆりか……私か……二人共選ぶなんて都合のいい話は……ない」
岡部「……分かっている」
すまない……みんな。
俺が逃げだしたばかりに。
二人のどちらかを選ばなかったばかりに。
色んな思いを犠牲にしてしまった。
辛い思いをさせてしまった。
でも俺はもう逃げない、選ぶよ。
ガチャ
まゆり「ずるいよクリスちゃん、まゆしぃもその話に加わる権利はあるのです……」
岡部「まゆりっ!」
紅莉栖「ま、まゆり!?」
久しぶりにお前の元気な姿が見れて嬉しいぞ。
るか「そ、そうですよ! そんなのず、ずるいですっ」
フェイリス「凶真はフェイリスを選ぶのニャ! 2人は前世からのつよ~い絆で結ばれてるニャン!」
紅莉栖「ちょ! おま! い、いつから……!」
ん?
なんだこれ。
萌郁「そう、抜け駆けは、だめ」
鈴っ! 鈴羽!? 鈴羽だ!
なんでいるんだよ、お前はすでにタイムトラベルしてるはずじゃ……。
岡部「おい鈴羽、お前はSERNのディストピア構築を回避するために1975年に飛んだはずでは……」
鈴羽「え? SERN? ディストピア? なにそれ」
会話が噛み合っていない、これはもしや……。
鈴羽「いや、してたね、絶対」
萌郁「確率を2分の1まで高めて、あわよくば、選ばせる」
フェイリス「汚いニャンさすがクーニャンきたないニャン」
るか「ボ、ボクだって……岡部さんと……」
まゆり「みんなぁ、だめだよぉ……オカリンが困っちゃってるよ~」
紅莉栖「まゆりの言うとおりね!」
フェイリス「フェイリスたちを除け者にして選ばせようとしてたのはどこの誰かニャーン?」
鈴羽「そうだよー!」
るか「ボ、ボクだって、岡部さんに……」
萌郁「選ばれ、たい」
「オカリン!」 「岡部!」 「岡部……くん」 「岡部さん!」 「凶真ぁ~!」 「岡部倫太郎ーっ!」
みんな俺の近くに集まってくる……。
わかっているんだ、これも全部自業自得だって。
こうなったのも俺が不用意に過去を改変したせいだ。
まゆり「あれ~……オカリン、どうして泣いてるの……?」
岡部「でも、こんなの……きつすぎるだろっ……」
世界線変動率 3.08106%
Last Chapter 『比翼恋理のジキル』 END
ひよくの、、、?
8月18日
昨日、10年ぶり──俺の主観では──に池袋の実家に戻ってみた。
そこには遠い昔に見た元気な両親の姿があり、思わず目頭が熱くなる。
が、必死に堪える。知る必要のないことだから。
ただ俺は一言、随分放ったらかしにしてすまない、とだけ伝えた。
もっとも、両親は何を勘違いしたのか”だったら店番を頼む”と言ってきたのだったが。
秋葉にも違いはあるだろうかと、歩きながらあちこち眺めてみる。
街を行き交う人はかつてのように様々な顔を覗かせている。
その表情は、2000年問題の爪痕が深く残ったあの世界線よりも随分明るかった。
鈴羽「うーっす、岡部倫太郎ー」
岡部「鈴羽か」
俺はこの世界線での記憶が無い。俺は鈴羽から、それとなく聞き出してみる。
これまでどう過ごしてきたのか。なぜ鈴羽がタイムトラベルしてきているのか。
鈴羽「それで父さんってば、コミマの中心で萌え萌えキュン! だもんね、あはは!」
岡部「……それは見てみたかったな」
鈴羽「え? 君もいたじゃん」
岡部「え? あ……そ、そうだったな」
どうやら俺はダルとその嫁の仲を取り持ったらしい。
──こいつの存在を消さないために。
そのお礼に未来の情報を一つだけ教えると言ってくれた。
──安心した。
未来ではディストピアも構築されず、鳳凰院凶真もラボのみんなと仲良くやっているらしい。
ありがとう、鈴羽。これで肩の荷が降りた。
岡部「……」
フェイリス「あ、凶真ぁ~! おかえりニャさいませ~、ご主人様!」
俺はこの場所が苦手だ。
俺の居場所ではない、そう思っていた。
だが──
フェイリス「それで~、凶真は冥界より召喚されし黒き堕天使、4゜Cの策略からフェイリスとメイクイーンを守ってくれたのニャ!」
岡部「当たり前だ、俺の目の黒いうちはそんな奴の好きにはさせん」
フェイリス「ニャフフ、凶真はフェイリスの王子様なのニャ!」
岡部「俺は王子様などではない! あえて言うならば、地を這う者!」
このやりとりも随分と懐かしく感じる。
と言っても、俺にとっては記憶のみが存在するやりとりだけなのだが。
たまにはこういうのも悪くない。
もう居場所を失う恐怖に怯えなくてもいいのだから。
岡部「るか」
るか「あ、お、岡部さん! こんにちは!」
るかは神社の境内で掃き掃除をしていた。
相変わらず巫女装束が似合っている。
竹箒を持つその姿はとても可憐で、思わず見とれてしまうほどだ。
るか「それで、岡部さんはボクの修行に付き合ってくださって……」
るか「信じて素振りを続けていれば、清心斬魔流 の奥義を会得できる、と……」
岡部「あぁ、そうだ、信じていれば何事も乗り越えられる」
るか「はい……、ボク、頑張ります」
そういえばこの世界線のるかは男なのだろうか? 女なのだろうか?
いや、よそう。
るかは俺を慕って付いてきてくれる。
俺のことを信じてくれる。
男だとか女だとか、そんなことはどうでもいい。
岡部「邪魔するぞ」
萌郁「あ、岡部くん」
相変わらず部屋が雑然としている。
空のインスタント食品の容器。無造作に転がっている缶。積み上げられた雑誌。片付けられない女。
あの時の俺はこんな状態の部屋が好きだった。
綺麗にしてあると、汚れた俺が入ってはいけないと思うから。
岡部「相変わらずだな」
萌郁「……また片付け手伝ってくれる?」
岡部「……ああ」
岡部「それと、ケバブ……買ってきた。一緒に食おう」
萌郁「ありがとう、岡部くん」
今度は俺がこいつの力になってやろう。
もうペルソナを被る必要はないのだから。
ダル「オカリーン! ハーレムとか許さない、絶対にだ!」
岡部「おい、何の話だ」
橋田至、マイフェイバリットライトアーム。
α世界線においても、あの世界線においてもタイムマシンを作り上げ、歴史を動かした男。
もしかしたら、俺なんかよりずっと苦悩があったのかもしれない。
岡部「なあ橋……ダル」
ダル「ちょ、ハシダルって、変なあだ名つけんなし」
岡部「というかお前にはすでに阿万音由季という彼女がいるだろう」
ダル「それとこれとは話が別! ラボでラブチュッチュ*6とか無理! 死ぬ! 僕が死ぬ!」
相変わらず飛ばしている。
あの世界線においてもこういう会話で、いくらか救われていたのかもしれないな。
そして、おまえがいてくれたからこそ、俺はこの世界に来ることができた。
まゆりも紅莉栖も死なない世界線に。
ラボメンが元気に笑っている世界戦に。
ありがとう、お前は最高の相棒だ。
岡部「なんだ?」
紅莉栖「あんまり、見ないでよ……なんなのよ、一体」
岡部「いや、なんでもない」
サイエンシーに論文が載った天才少女。
気が強すぎるのが玉に瑕だが、何度も俺を地の底から救い上げてくれた女。
紅莉栖「ったく、私のホテルに泊まったからって”そういうこと”はまだ、ダメなんだからな! だからイヤラシイ目つき禁止!」
な、なに!? ホテル!?
泊まったのか!? 俺が? 紅莉栖と!?
まゆり「いいなー、まゆしぃも一緒に泊まりたいなー」
岡部「それは、どっちと……だ……」
岡部「……なるほど」
この笑顔に何度励まされてきたか。
俺はようやく、こいつの笑顔を守ることが出来た。
まゆり「またみんなでプールにも行きたいねえ~」
プール!? 行ったのか!?
勘弁してくれ……。
体を動かすのは得意なんだが水泳だけは唯一ダメなんだ。
紅莉栖「岡部がかわいそう、また溺れるわよ」
まゆり「大丈夫だよ~、今度こそ泳げるようになるよオカリン!」
やっぱり溺れたんだな。
紅莉栖「そ、その時は私も……お、教えてあげるから、泳ぎ……」
岡部「……ふふ、それではその時はお願いしようか」
どうもこの世界線の俺は色恋沙汰ばかりだったようだ。
やれやれ、この世界線に適応していくのは骨が折れそうだな。
ならば俺が変わってやろうか?
俺ならばスイーツ(笑)も軽くいなしてやるぞ
フゥーハハハ!!
それも悪くない。
が──遠慮しておく。
もう俺には必要ない。
そ、そうか……
岡部「こんにちは」
天王寺「おう、岡部じゃねえか、どうした」
岡部「いえ、たまたまた近くによったもので」
天王寺「そうか、まあ上がれや」
FB……天王寺裕吾。
居場所を探していた俺を救ってくれた恩人。
俺に家族のぬくもりを与えてくれた第二の父。
綯「オカリンおじさん、こんにちは……」
岡部「綯、俺はおじさんではない」
綯「ひぅっ……」
天王寺「こら岡部! 綯をビビらせてんじゃねえ! 殺すぞ!」
相変わらず娘を溺愛しているようだ。あまり変わっていないようで安心した。
そしてどうもこの世界線の綯は俺が怖いらしい。
α世界線では逆に俺をビビらせてくれたのに。
岡部「はは、それは横暴ですよ……」
綯「あ、お母さん!」
え──?
綴「あら、そちらの方は?」
天王寺「あぁ、工房の二階を間借りしてる岡部ってんだ」
岡部「あなたは……」
綴「いつも主人がお世話になってます。天王寺綴です、よろしくお願いしますね、岡部くん」
『綴……綯の母親はSERNに殺された、俺のせいでな』
岡部「そうか……変えることが出来たんですね……」
天王寺「あん?」
岡部「いえ、なんでもないですよ」
これがシュタインズゲートの選択というやつか。
Epilogue 『異世界線のアナザーヘブン』 END
長々と付き合ってくれてあんがと
だーりん、ブラウニアンモーション、ハイド、アンダーリンと
色々混ぜてるので原作だけの人は分かりにくかったかもねごめんね
感動した
ケバブ食べてくる
Entry ⇒ 2012.08.25 | Category ⇒ シュタインズゲートSS | Comments (0) | Trackbacks (0)
八九寺「これは絶対に実らない初恋ですから」
「阿良々木さん。偽物語という物語を知っていますか?」
いつかの、僕と八九寺の会話である。
「お前なあ、いくらなんでもそれは直接的すぎるだろう」
一応説明しておくと、偽物語というのは僕達が出演(なのだろうか?)した、
今年の冬から春にかけて放送された大人気アニメーションである。
「うわ、自分で大人気とか言っちゃいます?」
「……ともかくだ。いくらメタな立ち位置のお前だからって、
そんな平気な顔して偽物語の話とかするのは、僕としてはどうかと思うけどな」
「失礼。噛みました。偽物語じゃなくて伊勢物語でした」
「畜生!あざとすぎるぞ!絶対わざとだ!」
阿良々木さんはご存じでしょうか?」
八九寺は悪びれもせずに続ける。
「ああ、なんか羽川との古文の勉強会でやったな。
幼馴染同士が結婚する話だっけ?」
「まあ、幼馴染どころか友達さえいない阿良々木さんには関係のない話でしょうけどね」
「やめてくれ!お前はそんなことが言いたかったのか!?」
「いえ、そうではなくてですね。あの筒井筒という物語をもう一度思い出してみてください」
けれど妻が自分を浮気相手のところへ怒りもせずに送りだすのを訝しんで
こっそりと妻を覗いてみたところ、妻が一人で自分を心配してくれる歌を詠んでいて、
心を打たれて浮気をやめるという話だった。
「概ねそんな感じですね。ですが、その話には続きがあるんですよ」
と八九寺。小学生とは思えない知識量である。
「浮気相手の女は生駒山を挟んだ向こう側、河内高安という所に住んでいるのですが、
彼女も男が会いに来てくれないので、歌を詠むんですよ。
『君来むといひし夜ごとにすぎぬれば頼まぬものの恋つつぞふる』
―あなたが来ると言っていた夜もことごとく過ぎて行ったので、
あてにはしていないものの恋焦がれて過ごしています。と」
「ほう。浮気相手も割と小洒落ているんだな」
誰も気にさえしないですけれど、と八九寺は呟く。
その女の人、どういう気持ちで、その後どう過ごしたんでしょうね。
そんな話を、八九寺とした記憶がある。
あれは、果たしてプロローグだったのだろうか。
八九寺真宵という友人は、あらゆる点で、普通ではない。
僕の友人には普通でない人が多いが―もっとも、友人自体が少ないので、如何とも言い難いが―
それとは関係なく、八九寺真宵は、もっと根本的なところで普通ではない。
怪異なのである。
八九寺真宵。
大きなリュックサックにツインテール。
巧みな話術と丁寧な言葉遣いの裏に隠された毒舌。
蝸牛に迷った少女にして、怪異そのもの。死に続けている、浮遊霊。
そして、薄に消えた少女。
しかしながらパラレルワールド云々の話(傾物語を参照されたい)だけでは、完全とは言い難いのだ。
忘れ去られた部分があるから。
意図的に、隠蔽された部分があるから。
意図的に忘れ去られるというのも、なかなかどうして奇妙な言い回しなのだろうけれど。
奇妙なもの。怪しいもの。けしきもの。それを怪異と表現するのであれば、
今回のこの『意図的な忘却』についても、けだし納得がいくだろう。
くどい言い方になっているけれど、要するに。
怪異の影響で、僕達はこの物語を忘れているのだ。
そして、もっと言えば、その犯人は。
他ならぬ、八九寺真宵その人である。
誤解を恐れずに言えば、八九寺真宵のせいで、この物語は隠蔽されているのだ。
いささか疑問の余地を残すところではあるけれど。
つまるところ、この後悔の記憶のみが、僕の意識の奥底でのたうちまわっているといった感じだろうか。
八九寺ではないけれど、未練ある幽霊さながらに。
そんなわけで。阿良々木暦本人すら顕在的には記憶していないその物語と、
これから直面することとなるあなたに。どうか分かってほしいのだ。
僕の。この、後悔を。
これは、僕と忍が八九寺を助けるべく、しかし偶然に、
十一年前の別ルートへ入り込んだ後の、帰り道の物語だ。
誰も語ることのない、沈黙の物語だ。
気付いた人もいるのではないだろうか。
ゾンビやら、かの伝説の吸血鬼やらと相まみえることとなった話で、
出発したのは深夜だったのに、ふたたびこの歴史に帰ってきた時、八月二十一日の朝だったことに。
空白の十時間の間、阿良々木暦と忍野忍はどこにいたのかとパラドックスを感じた人もいるだろう。
結論から言うと、その空白は、空白なんかじゃなかった。
僕達は、出発した時間通りの午前零時に、北白蛇神社の境内に帰ってきたのだ。
「むこうの儂も、たいそう律儀なもんじゃの。こんないきなり戻ってきてしもうても、逆に感覚狂うわ」
忍が愚痴る。
「つーか、それはそれですごいよな。お前はこんな正確にできないだろう」
「むう、生意気な。儂は失敗など先祖」
「いきなり誤植してんじゃねーか」
忍は夜行性だから別に問題はないのだろうが、凡人たる僕にとっては、
半端ない眠気が襲って……来ない。
「そもそもお前様。さっき吸血鬼性を極限まで上げたではないか」
「ああ、なるほど」
「どうやら、朝までどこかで時間をつぶすことになりそうじゃの」
かかか、と。忍が愉快そうに笑う。久しぶりに、しかし実際にはさっきふれたとおりまったくタイムラグはないのだが、
ともあれ久しぶりにこの世界に帰ってきた僕達には、どんなことでも心から楽しめるようだった。
このまま忍と朝まで遊び呆けるというのも悪くない。僕は思い切りテンションを上げきって忍に尋ねる。
「鬼ごっこよ」
「なんでお前が絶望先生を知ってるんだよ……。しかもアニメの関連のアルバムじゃねえかそれ」
毎度思うが、こいつのそういう知識は、どうしてそんなに偏っているのだろう。
今度そういう情報の規制を行うべきかもしれない。
「儂はあれで新房シャフトにハマったのじゃ。新房監督はぱないの。
独特の演出で惹きつけておいて、掴むところをしっかり掴んでくる。
キャストもミスがまったくない」
「ああ、確かに。僕は最初、日塔奈美が新谷良子さんっていうのが想像できなかったんだけど、
いざ聞いてみれば完璧すぎて感動したぜ。
しかもそのキャストが後々原作にまで影響を与えることになるなんて、天才すぎるよ。
良子ちゃんの残念なキャラってのがねえ」
「お前様、楽しそうに話しすぎじゃ。それはもはや中の人が出てきてしもうておる」
忍が若干冷めた目で見ていた。ちぇっ、これから新谷良子がいかに残念で、
ウザくて、かわいいかについての談義をしてやろうと思ったのに。
「にゅう、がくしけん♪」
「そっちの中の人じゃねえよ!」
そこは禁句のところだ!
「かかか、よいではないか、二次創作くらいでしかこれをネタにできんじゃろうて」
「黙れ!僕は結構楽しみにしてたんだぞ!平野さんのキスショットを!」
「ほう? 『平野さんのキスショット』じゃと? それはもう流出し―」
「意味が違えよ!」
「まさに『傷物語』じゃな」
「とんだ自虐ネタだなあおい!」
この話は不毛だ。もうやめよう。
「つーか、これからっしょ」
「やめようって言ってんだよ!」
キスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレードのことだよ」
「というかお前様、一応その名は儂の前では二度と口にせぬはずじゃろう……」
「あ、そうだっけ?」
そういえば確かにそんなことも言った気がする。
「ま、いいんじゃね?これ二次創作だし」
「二次創作というのを逃げ道にしおってからに……」
「まあそう堅いこと言うなよ。元気がいいな、何か良いことでもあったのか?」
あの小僧の真似とは癪に障るのう、と忍。
まあ、実際に元気はいいが、真夜中特有のハイテンションだろう。
「良いことというか、むしろ少し滅入ることがあっての」
「へえ、忍が滅入るなんて珍しいな。何があったんだ?」
「なに、ついさっき人類が滅亡したパラレルワールドに迷い込んでしもうての」
「リアルに嫌な話だ!」
「なにネタにしてんだよ!」
「水着を上下さかさまに着けてしもうての」
「結局平野さんに帰結するのか!だから平野さんの話はやめろって!」
「ほう、お前様も随分と冷たくなったもんじゃな。
少し前までは平野さんじゃなくてあーやと呼んでおったのに」
「恥ずかしい過去を弄くり返すな。僕は花澤香菜ちゃん一筋だ」
「そっちも十分恥ずかしいわ」
というかお前様、と忍が見事なシャフ度を作って僕を見る。
「そこは斎藤千和と言わねばならぬ所じゃろう」
「しくじった!訂正する!」
うわあ!僕の馬鹿!
お前様はガハラさんが彼女で、愛人が神原で、結婚するのは羽川で、本命は八九寺で、
その上千石撫子一筋じゃと」
「その認識は大きく間違っているし、ちゃっかりガハラさんとか言ってんじゃねえ!」
「しかるにお前様よ、儂はお前様の何なのじゃ?」
「それは深い質問だけれど、この流れで言ったら何を言っても軽くしか聞こえねえよ!」
ちなみに忍は、僕としては相棒という言葉がしっくりくるかと思う。
「なるほどのう、愛の棒と書いてアイボウか」
「そんなエロい意味じゃねえよ!」
「これでエロいことを連想するお前様は相当汚れておるわ……」
正論だった。
「お前様はあれじゃな、中学生の頃お口の恋人をエロい意味に捉えておった奴じゃな」
さすがにそれはないと思う。
「ああ、確かになんか頭に残るし、買おうという気になるよな」
「『初恋の味』カルピスとか」
「うん、あれも良いな」
「『愛の棒』ポッキーとか」
「結局それが言いたかっただけかよ!」
途中から何となく気づいてはいたけれど!
「それもキャッチコピーなのか?」
「ツンデレというよりツンドラ、戦場ヶ原ひたぎ」
「ひどいフレーズだな」
「変態腐女子百合マゾ露出狂、神原駿河」
「もっとひどいのが来た!」
「ただのロリ要員、八九寺真宵」
「悪意あるなあ!」
「ラスボス千石」
「なんか強そう!」
「あと妹二人」
「途中から飽きただろお前!」
「しかしお前様の周りにはキャラの立っておるのが多いの。ギャルゲーみたいじゃ」
「いやな喩えだな……」
「そうなると悪友キャラがおらんのう」
「そもそも友達がいないからだよ!悪かったな畜生!」
「あと幼馴染キャラもおらんの」
アマガミかよ!
「でもそうなるとほら、先輩キャラもいないじゃん」
「あの陰陽師なんてどうじゃ?」
「影縫さん攻略対象なの!?」
やべ、そのギャルゲー超やりたい!
「戦場ヶ原ルートのバッドエンドは刺される」
「リアルにありそうで怖いわ!」
かーなーしーみのー、と忍が口ずさむ。忍野は一体、こいつに何を教えたのだろう。
「お前様、肝試しでもするか」
「別にいいけれど、果たして僕と忍で肝試しをやって、面白いのか?」
むしろ僕たちが、普通に怪異なわけで。
「それもそうじゃが、肝試しってなんか夏っぽくていいじゃろ?」
「まあ、普通なイベントだな」
「ふむ」
「……いや、忍。そこは『普通って言うなあ!』って言うところだろ」
「なんじゃその鋭角すぎる無茶ぶりは」
そんなことを話しながら。僕達は一番近くの墓地へと向かったのだった。
暇だから深夜に墓地を徘徊する受験生が、そこにはいた。
ああ、僕だとも。我ながらひどい話である。
「絶望したっ!自堕落な受験生活に絶望した!」
「どれだけSZBHが好きなのじゃお前様は」
「SZBHは僕の青春だ」
「なんと絶望的なことを。それを言うなら、涼宮ハルヒの憂鬱も儂の青春じゃった」
「そっちの方がよっぽど絶望的な発言だ!」
ふん、と忍が一笑する。坂本真綾さんの声で。坂本真綾さんの声でね!
暇だから深夜に墓地を徘徊する受験生が、そこにはいた。
ああ、僕だとも。我ながらひどい話である。
「絶望したっ!自堕落な受験生活に絶望した!」
「どれだけSZBHが好きなのじゃお前様は」
「SZBHは僕の青春だ」
「なんと絶望的なことを。それを言うなら、涼宮ハルヒの憂鬱も儂の青春じゃった」
「そっちの方がよっぽど絶望的な発言だ!」
ふん、と忍が一笑する。坂本真綾さんの声で。坂本真綾さんの声でね!
「ん。とりあえずこの道をまっすぐ抜けて、先のお寺の前まで行って、さい銭入れて帰ってこようぜ」
「丑の刻参りというわけじゃの」
「別に呪う気はねえよ。ただ、向こうの世界から無事に帰って来られたんだから、
ちょっとくらい神様にお礼をしたくなっただけだ」
「お礼参りというわけじゃの」
「だから別に恨みはねえよ!」
いや、こっちのがお礼参りの正しい用法なわけだけれど。
ここに祀られているのは仏教の仏じゃぞ?」
もっともな指摘だ。だが、僕たち日本人は、神様だろうが仏様だろうが
大して違いを感じていないのだ。クリスマスを祝った一週間後に初詣をするように。
神様仏様稲尾様、なんでもござれ。神仏習合。シンクレティズム。
信仰心が薄いと思われるかもしれないけれど、これはこれで一つの形なんじゃないかと思う。
「聞き捨てならんのうお前様」と忍。
そういえば忍は、やはり西洋らしくキリスト教を信仰していたりするのだろうか。
いや、そもそも十字架が苦手だし。ってか、こいつ何人なんだろう?
何にしても、忍には理解できない境地だったらしい。無理もない。異文化交流というものは、
特に宗教においては、非常にナーバスなところだったりする。
「神様仏様ときたら、普通はバース様じゃろうが!」
前言撤回。忍が異論があるのは、そこじゃなかった。
「お前阪神ファンかよ!」
熱血の吸血鬼にぴったりじゃろう、と忍が目を輝かせる。
熱血以外の称号を省略しやがった。
「好きな選手は平野じゃ」
「だからやめろって!」
巨人には坂本がいるわけだが。
「ちなみにサッカーはジェフ千葉が好きじゃ」
「へえ。またどうして?」
「太陽は苦手じゃからの」
「誰も分からねえよその喩え!」
一応説明しておくと、ジェフユナイテッド市原・千葉というチームは、
太陽をモチーフにした柏レイソルというチームとライバルだったりする。
ACLとかで日本の代表として戦っていると、応援してしまうな」
「実を言うと儂も別にレイソルが嫌いというわけではないのじゃ」
「どっちなんだよ!」
「んー、キャラ付けって感じ?」
「それどっちのファンにも失礼だよ!」
「まあ、つまるところは阪神ファンじゃな」
と、忍が八重歯を見せて笑う。
僕たちはなおも霊園の小道を歩き続ける。当然ながら幽霊は出てこないのだが。
「獣王の意気高らかに―」
「無敵の我らぞ―」
真夜中に大声で六甲おろしの二番を歌いながら、
墓地を徘徊する高校生と幼女がそこにいた。
ていうか、僕たちだった。迷惑にもほどがある。
忍がつまらなそうに言う。
「ええい、出てこんか幽霊!」
忍は時々、とても子どもっぽかったりする。
「でもさ忍。実際に幽霊が出てきてしまっても、それはそれで困るんじゃないのか?
その、退治とか」
「物騒なことを言いおるな。墓地には死者が弔われておるのじゃから、幽霊なぞおって当たり前じゃろう。
ここには、この街の住人の先祖が安らかに眠っておるのじゃ」
言われてみればそうだ。墓場。墓地。霊園。
霊なるものの、眠る園。
「そんな所にわざわざおちょくりに来て、幽霊を見つけたら退治、とは」
「すみませんでした!」
うわあ。でも、よく考えたら、肝試しってかなり残酷な遊びだよな。
夜中に死者の安眠を妨げに行って、幽霊が見られなかったらつまんない、なんて。
それに、こともあろうに退治だなんて。
忍野なら、間違いなくこう言うだろう。
元気いいねえ、なにか良いことでもあったのかい?
「ただの人間には興味ありません。この中に自縛霊、浮遊霊―」
「『私のところに来なさい、以上』じゃねえよ!」
まさかの中の人リターンズ。
「思ったのじゃが、お主様、この場合ただの人間に会う方が、怖くないかの?」
「……。……おい、リアルに鳥肌が立つようなこと言ってんじゃねえ!」
この夜中に墓場で生身の人間が徘徊しているとしたら、確かにその方がよっぽど怖い。
……。
……まあ、僕なのだが。
一本しか道のない墓地というのも、なかなかないだろう。
「お前様よ。ここはひとつ、一人で行ってみんかの?」
「ああ、そうだな」
忍と二人で行っていると、結局ギャグパートになってしまうしな。
「まさかお前様、怖いのか?」
「うるせえよ」
つい今しがたゾンビの大群に遭ってきた僕が、怖がるわけないだろう。
それに忍の話を聞いていると、ここの幽霊は攻撃性がないようだし。
「なんだあれ」
忍と別れてすぐ。前方に微妙な炎がひとつ、見え始めたのだ。
雑木林がざわざわと揺れる。
さっきは怖がるわけないなんて言ったわけだけれど、訂正しようと思う。
ちょっと怖い。
しかしあの炎。怪異の知識に関しては素人ながら、なんとなく分かる気がする。
子どもの頃に見たゲゲゲの鬼太郎の知識だが。
真夜中の墓地に、炎といえば。
人魂。
立て続けに前言撤回して非常に申し訳ないが、今一度訂正しよう。
やべえ。かなり怖い。夜の墓場は、一人で来ない方がいい。
「うわあ。やめて。やめてください、僕まだ死にたくない!」
真夜中に一人で墓場を訪れて、腰を抜かす高校生の姿が、そこにあった。
マジびびりだった。
天使ちゃんマジ天使。
暦ちゃんマジびびり。
それらしく言っても、全然可愛くない。
その時。浮いていると思っていた炎の下に、ぼんやりと影が見え始めた。
小柄でひょこひょこと動くツインテール。その影は。
「おや、そこにいるのは阿僧祇さんじゃないですか。こんなところで何をしているのですか?」
八九寺真宵その人だった。
「人をとてつもなく大きい数の単位みたいに言い間違えるな、僕の名前は阿良々木だ」
腰を抜かした状態で反応できたのは、我ながら素晴らしいと思う。
「失礼。噛みました」
「わざとだ……」
「かみまみた!」
「わざとじゃないっ!?」
「ワイナイナ!」
「古い!」
「バイバニラ!」
「新しい!」
「ビアビアニ!」
「関係ねえ!」
そう。八九寺は、いつもの格好に、たいまつを持っていた。僕はこれを人魂と見間違えたのだ。
しかし、八九寺は答えを渋った。
「……まあ、これも八九寺Pの仕事と言いますか」
「どんな仕事だよそれ!?」
「丑の刻参りです」
「そんな物騒な仕事があるか!」
迷い牛の刻参り、なんて。八九寺は割と楽しそうにのたまった。
「いやあ、でも安心したよ。俺はてっきり、その炎が幽霊か何かかと思った」
「いえ、それ以前にまず私が幽霊なのですが」と八九寺。
「人を枯れているみたいに言わないでください。私はぴっちぴちですよ?」
「その表現が既にぴっちぴちじゃないな」
「じゃあビッチビチですよ?」
「それは嫌だ!」
八九寺は穢れないロリのままであってほしい!
「ところで阿良々木さん、私のリュックを返していただけないでしょうか」
「ああ、そうだった」
そういえば。別ルートに入る前の僕は、
八九寺が忘れて帰ったそのトレードマークとも言える大きなリュックサックを
八九寺に渡すという案件を抱えていたのだった。
渡すのはその後でもいいかな?」
「だめです!」
女子小学生の荷物の中身を覗こうとして全力で拒絶される高校生以下略。
もういいや。全部僕なんだよ。どうせ。
「でさ、八九寺。実際あの中には何が入ってるんだ?」
「夢と希望です」
「格好いい!」
「金と欲望です」
「汚らわしい!」
「鬼に金棒です」
「もうわけが分からない!」
「痴女と佳奈坊です」
「ひだまりラジオっ!?」
こいつといると本当に飽きない。
私のキャラクターを具象化したものなんですよ」
「ああ。迷い牛、ね」
迷い牛。蝸牛に迷った少女。
確かに、後ろに殻のように大きくリュックサックを背負っていると、それらしく見えないこともない。
「ですから、リュックを背負っていない今の私は、さしずめナメクジといったところです」
「気持ち悪いわ!」
うわー、と八九寺が冷たい目で見てくる。
「女子小学生に向かって気持ち悪いとか、イジメに発展しますよ?」
まごうことなき正論だった。
「う……。私にそんな話をするとは嫌がらせですか?もしや本当にイジメですか?」
「いや、お前も実はうまかったりするのかな、なんて」
「」
八九寺がツインテールをぴんと張って身構えた。明らかに警戒している。
「だって、お前が噛みついてくることはあるけれど、ほら、僕から噛みつくことは少ないだろ?」
「少ないってことはあるにはあるんじゃないですか!」
これも正論だった。
あれはあれでルーチンワークみたいになっていて、いまひとつ味わえてないんだよな」
「」
「ここはひとつ公平性という観点でも、僕に八九寺の二の腕、いや、そうだな、
耳たぶくらいで構わない。左の耳たぶを少しだけ食べさせてくれてもいいと思うんだ。
いや、本当は全部食したいくらいの気分なのだけれど、そこはほら、やさしさというか、
年上としてがっつくわけにもいかないかなと思ってさ。はは、僕ってつくづく優しいな」
「」
ちょうどいいや。それで八九寺の耳たぶを焼いて、あとは、ガーリックが要るな―」
「近寄らないでくださいこの変態!!」
ここでようやく、僕の長きにわたる耳たぶフェチ講義――もといツッコミ待ちのボケは、
八九寺がたいまつで僕を殴り飛ばすという形で終止符を打たれた。
「いってえな、何すんだこの野郎!」
「正当防衛です!」
「殴ってきたのお前からだろ!」
「では正当攻撃です!」
「そんな攻撃は存在しない!」
「僕は性的になんてエクスキューズは入れていないし、そんな性犯罪者まがいの発言で特定されるお里なんてない!」
僕は単に八九寺を食事として食べたいと言ったんだ。
「どちらにしても犯罪じみています!」
やっぱり正論だった。
「今ので思い出しましたが、私ずっとカニバリズムってサンバのことだと思っていたんですよ」
「ブラジルの人に全力で謝れ!」
正論の後に暴論だった。
カーニバルのリズムでカニバリズム。
「ああ、神原とのギャグパートでやったな。ブレスレットがどうとかいうやつか」
「まあ、今さら原作とネタ被りとか言うつもりはありませんが、
どうせなら原作で絶対にできないような話題をしてみたいと思いませんか?」
「……随分と挑戦的だな。どんな話題をする気だ?」
「『ひぐらしのなく頃にって、正答率1%とか言って、結局はミステリーですらなかったよねー』とか」
「皆が薄々思っていることを言うな!」
「『とある魔術の禁書目録って、萌え豚に媚び売りすぎで、キリスト教に対する偏見がひどいし、
本当に信仰している人たちを馬鹿にしてるよねー』とか」
「片っ端から批判をするな!」
「『化物語って、―』」
「やめんかい!」
グーで殴った。女子小学生を。
いのちにかかわるパンチをしますよ、だった。
「何するんですかはこっちの台詞だ、よりによってそんな大人気作品に喧嘩売るんじゃねえ!」
「うわ、化物語が大人気とか自分で言っちゃいます?」
なんかデジャヴ。
「……とにかくだ。原作で絶対にできない話ってのは、単に毒舌になればいいってことじゃない」
「えー、でも折角だし、シビアなことが言いたいですよー」
八九寺がむくれる。
「―そういう年頃ですもん」
「どんな年頃だよ」
「十歳と十一年間の亡霊生活」
「シュールな年頃だっ!?」
遊んでいるようにしか見えないのですが、受験勉強は大丈夫なんですか?」
う。結局シビアなことを言ってきやがった。
「ま、まあ? それなりに、かなー? あはは……」
「それなりにやってもそれなりの結果しか得られませんよ」
「……うん」
「大体ですね、阿良々木さんには受験生としての自覚がないんですよ。
意識的に勉強をするのではなく、常に勉強をしていて、たまに意識的に休むのが受験生です」
「……はい」
「阿良々木さんは、気がついたら勉強していたなんてこと、ありましたか? ないでしょう?
それくらい意識を高く持たないと、とてもじゃないですけれど戦場ヶ原さんと同じ大学なんて無理ですね」
「なんでお前そこまでシビアなんだよ!?」
「今日はいつになく攻めてます」
えへん、と八九寺。なんだこいつ。
大学受験とか経験してないくせに。
今ごろ寺の本堂に一人で佇んでいるはずなんだよな」
「露骨に話題を変えないでください阿良々木さん。というか、あれ?
たしか阿良々木さんと忍さんはペアリングされていて、そんなに離れられないのでは?」
「細かいことを言うな、二次創作の脆さが露呈するだろ」
正直な所、ペアリングとかなんとか、僕にはまだ今ひとつ分かってないんだよな。
「うわあ、丸投げですか……」
「そうか。じゃあ、僕は忍を探しに行くとするよ」
「……」
八九寺が急に黙り込んだ。
「……ん? どうかしたか?」
「……あ、いえ。……では、ごきげんよう……」
八九寺のテンションが、明らかに下がっている!?
「どうした八九寺!? そんなに僕と離れるのがいやなのか!?
とうとう待ちに待ったデレ期突入なのか!? ひゃっほう!」
「うるさいです阿良々木さん、消えてください」
強めに言われた。ちょっとショックだ。
忍のもとへと向かったのだった。
もしこの時、八九寺の異変に気付いていたなら、否、気付いていたところで物語の結末に
なんら変化は生じなかったのだろうが、それでも。
この時気付くことができなかったことは、非常に悔やまれるばかりだ。
松明を持って。寂しそうに黙りこむ少女のうしろ姿。
気付く要素はいくらでもあったのに。
僕は、何も考えず、八九寺真宵と別れたのだった。
「遅い」
「ごめん―」
「お・そ・い」
「だからごめんって」
「……ふん」
午前三時の寺の前。僕はひたすら忍に平謝りしていた。
忍さん、いささかご立腹の様子だ。
「まったく、いつまで待たせる気じゃ。それに、お前様の体から、
よく分からん怪異のにおいもするし」
うわあ。こいつ怪異のにおいとか分かんのか。
「儂を深夜の寺の本堂なんぞにほったらかしにして、どこをほっつき歩いておったのじゃ。
まあ、そのにおいからして、怪異に絡まれでもしたのじゃろうが」
「―『道端でセクハラをしておる』、あの蝸牛の小娘か」
「……」
ひどい認識だった。まあ、異論ないけれど。
「それで? そのあと何があったのじゃ?」
「いや、普通に一通り話をして、それだけだけれど」
「……ん?」
忍の目が三角になっている。『三角の目をした羽根ある天使』って、こんな感じの目なのだろうか。
ていうか、僕のちっちゃい方の妹、阿良々木月火のご立腹のときにそっくりだ。
「……うん。まあ」
「ふむ。ふむふむふむ。……死刑じゃな」
忍は少し考え込んだ後、にっこりとそう言った。
つーか、本当にいつぞやの歯磨き事件のときの月火ちゃんみたいだ。
「死刑、じゃなっ♪」
「かわいく言ってんじゃねえ!」
「し☆けい」
「美水かがみ劇場っぽくしてんじゃねえ!」
「しけい!」
「かきふらい先生原作の四コマ漫画っぽくもするな!」
忍が思い出したように遮る。
「え? どういうことだ? 本当にそれだけだぜ?」
「いやいや、その怪異のにおいは何なのじゃ?」
その、って言われても、僕は全く分からないのだけれど。
「なんだ? 八九寺のにおいじゃないのか?」
「いや、そんな小便臭いにおいではない」
「そうなのか……ってちょっと待て! 今お前なんつった!?」
八九寺のにおいが小便臭いって? マジで!?
「うわ、今度会ったら絶対嗅いでやろう! ……うぐっ!」
殴られた。忍にグーで殴られた。
いのちにかかわるパンチをしますよ、だった。
「すみません」
「……しかし、このにおいは、迷い牛ではなく、むしろ何か、そう、炎の燃えた後ような……」
「いや、確かに八九寺は萌える存在かもしれないけれど、……」
「うるさい、黙っておれ」
「……」
今日の忍ちゃん、微妙に厳しい。
「……逆に、あの小娘のにおいはせんの。お前様よ」
「なんだ?」
「蝸牛の小娘に何か普段と違う所はなかったか?」
「そうだなあ……。……あ」
そうだ。
「―たいまつ、じゃと?」
「うん」
「……ふむ」
なんとなく。ヤバい予感がした。
ギャグパートは唐突に終わりを迎え。
物語は急激に展開しだす。
「薄火」
忍が言う。
「名前の通り、弱い炎の怪異じゃ。消えかかっている炎のことを指して薄火と言う。
しかしの、お前様、薄いという字には、別の読み方があるのを知っておるか? 薄―すすきじゃよ」
薄。
イネ科ススキ属の総称。
「あの小娘―ハチクジとかいったか―あやつは今、迷い牛ではなく、薄火という怪異じゃ。
そうそう。すすきというのは、別の言い方では尾花とも言ったのう」
幽霊の、正体見たり、枯れ尾花。
八九寺真宵の、正体。
まこと、火と言うのは、様々な比喩に使われる。よって薄火にも色々な存在意義がある。
嫉妬の炎であったり、意欲の炎であったり、生命の炎であったり、叡智の炎であったり。
まあ、薄火の場合は、そのどれもが、薄い炎なのじゃが」
薄い炎。消えかかった炎。
枯れ尾花。
「あやつがどのような経緯で迷い牛から薄火に憑かれたのかが分からぬゆえ、
あやつの炎が何の炎なのかも分からぬが、火の不始末は惨事を招くというしの。
追ってみるに越したことはないと思うぞ」
少なくとも、僕の大切な友人、八九寺が何かに巻き込まれていることは確かなのだ。
否。これも後からの追想でしかないが。巻き込まれているなんていうその時の僕の考えは、
あまりに身勝手で、押しつけがましくって、被害者面もいい所だったのだが。
なにしろ、八九寺も。そして僕も。
紛れもなく、この物語の当事者なのだから。
そんなわけで、忍の霊圧探知(BLEACHか!)によって、僕と忍が八九寺を追ってやってきたのは、
他でもない北白蛇神社だった。
「マジか」
「マジのようじゃのう」
「今日はここにご縁があるのか?」
「単に背景画を少なくして予算を浮かそうと言う算段じゃろう」
「エロゲーかよ」
「戦場ヶ原ルートのバッドエンドは刺される」
「もういいって! ネタを再利用するんじゃねえ!」
「ふむ。確かに、人魂に見えんこともないの。どうやら肝試しは成功じゃな」
かかか、と忍が笑う。
いや、僕としては八九寺のピンチをそんなに楽しむ余裕はないのだけれど。
「おーい、八九寺!」
ぼんやりと、人魂が近づいてくる。
薄火。
八九寺真宵が、ゆっくりと闇の中から姿を現した。
「こんなところまでついて来るなんて、阿良々木さんはストーカーですかー?」
八九寺は相変わらずリュックのない不自然な格好に、たいまつの炎をゆらゆらさせて。
いたずらっぽく笑った。
「否、むしろ憑いておるのはうぬの方じゃ」と忍。
「おや、今度は忍さんもいらしたのですね……」
……。……おかしい。今、あからさまに八九寺の機嫌が悪くなった。
「そうやって」
八九寺が遮る。
「そうやって、こういうことには必ず首を突っ込むんですね、阿良々木さんは」
八九寺の言葉には、明らかな棘があった。
「無駄に嗅覚がいいというか……。ま、いいですけど」
「おい八九寺、どうしたんだ―」
「お察しの通り―」
八九寺がまた遮る。
「―私は、今、迷い牛ではありません。リュックを早くに返していただきたかった理由も、
半分はそれです。リュックを背負えば、いつもの私に戻れるかなって、この炎を、消せるかなって」
現時点では炎の怪異たる八九寺が、自分から炎を消そうとしている?
「でも、阿良々木さんが丁度いいタイミングで現われてくれたので、その必要はなさそうですね。
いいですよ、私が何の薄火なのか、全て、お話します」
それで、終わりにしましょう。
そういう八九寺は、妙に元気で。
不自然なほどに、笑顔だった。
「阿良々木さん。伊勢物語という物語をご存じですか?」
「……そんな話をしたこともあったな」
「おや、覚えていらっしゃいましたか。いやはや、ネタ被りは駄目ですね、すみません」
八九寺が誤魔化すように笑う。僕は先を促す。
「筒井筒、だっけ?」
「はい。幼馴染の女の子と仲良く暮らすだけの話です」
違う。
「お前は、その後日談、浮気相手の話もしてくれたよな」
「ああ、河内高安の女ですか」
ははは、と八九寺は鼻で笑う。心底馬鹿にするように。
「どうしたことか、今、私に憑いているのは、その霊の薄火なんですよ」
僕は訊き返す。
「ええ。男に相手にされなくなって、忘れ去られていく女の、霊です」
「けれど、伊勢物語って、実話じゃないんじゃないか?」
「無粋なことをおっしゃいますね。怪異が実在のものかどうかだなんて」
……。確かに。怪異が実在か、非実在かなんていうのは、ナンセンスもいい所だ。
「阿良々木さん、」
重要なのは、その女が、忘れ去られていくということですよ。
と、八九寺。
「もうお分かりかと思いますが、よって、この薄火は、他でもない恋の炎です」
忍が、口を開く。八九寺はなぜか眉をひそめた。
「待つ、のか。その男を」
待つ。掛け詞、松。
古語辞典を引けばすぐに分かるが、松というのは、しばしば松明―たいまつのことを指す。
受験生にとっては常識ともいえることなのに。
受験生の心得がないという八九寺の指摘が、今更になって僕の心にのしかかる。
「この小娘の初恋が―絶対に実らない初恋が―河内高安の女と惹かれ合った、ということじゃの。
惹かれ合って―曳かれ合った。まったく、不運な娘よのう」
かかか、と忍が哄笑する。八九寺が忍を睨む。
しかし。答えを訊くまでもなく、僕にはそれが誰なのか分かっていた。
だって。
八九寺真宵が、この街で待つ可能性のある男といえば。
「……あなた以外、誰を待つというのですか……」
八九寺が溜息とともに、俯いた。
「いつから、と訊けば、おそらく我が主様がうぬを家に連れ込んだ時からじゃろうな。
家での逢瀬があって、そして、うぬはリュックサックを忘れた」
蝸牛の殻を、出たのだ。
その瞬間から、八九寺は蝸牛ではなくなった。
彼女の、殻の中に籠っていた想いは、おぼろげな炎となって、とうとう燃えだしたのだ。
八九寺を巡って歴史を弄りまくった旅を終えた今、僕は図らずも八九寺から告白をされた。
なんというか、本当に……。
「あ、先に言っておきますが阿良々木さん。これでハッピーエンドを迎えない所が、
今回の絶対条件なんですよ。忍さんが言ったように、これは絶対に実らない初恋ですから」
八九寺が当たり前のように、機械的に話す。
自ら。絶対に実らない、と。
「当たり前でしょう? 私は幽霊であなたは生者です。実るはずもないですよ。
薄火というのは、その名の通り弱い炎です。消えかかった炎です。換言すると、
消えるためにある炎なんです。さながら河内高安の女の存在のように」
「恋心を忘れさせて、その物語を終わらせる。儂の記憶からも、お前様の記憶からも、
そして、その小娘の記憶からも、の。今回の薄火は、最も無害な類のものじゃったようじゃの」
その薄は、最初から枯れ尾花なのじゃから。
「待てよ。それって、こいつの想いは、誰にも記憶されずに―」
「―というかですね」
八九寺がみたび遮る。
「当たり前ですが、幽霊が恋愛なんてのはあり得ません。君の為なら死ねる、なんて言っても、
もう死んでるわけですし。さしずめ、忍ぶ恋でなく偲ぶ恋といったところですよ」
八九寺は冗談のように笑い飛ばす。
けれど。
僕には彼女が笑っているようには見えなかった。
河内高安の女は、幼馴染と仲直りしたら用済みです。物語の中では、すでに死んだ者なんです。
彼女との恋はあり得ないし、アマガミだって彼女のルートなんて用意してませんよ」
渾身のギャグだったのだろうが、今の八九寺は、どんなジョークを言っても全然面白くなかった。
「……やめろよ、そういうの。笑えないぜ」
「仕方ないですよ。攻略対象外なんです。棚町さんの親友の田中恵子さんみたいなものですね。
いえ、私だって、田中恵子さんを攻略したいなって思ったことはありますよ?
まあ、それに関しては、トゥルーラブストーリーにあるじゃんってことになったんですけどね―」
「やめろって」
なおも八九寺は早口でまくしたてる。
佐藤宏子、とか言われても誰だよ! って感じでしたね―」
「……八九寺、もういいって―」
「う る さ い で す ね 阿 良 々 木 さ ん ! ! ! !」
僕は、一瞬何が起こったのか理解できなかった。
目の前には八九寺真宵。
しかし、八九寺にいつもの元気で挑戦的な笑みはない。その目は、怒りで猛っていた。
そしてようやく理解した。八九寺が、怒鳴ったのだ。
ではあなたは私と結婚できるんですか!? 私は死んでるんですよ!?
無責任に調子のいいことばかり言って、いいですよね!? あなたは生きているんだもの!!」
八九寺真宵の本気の怒りは、僕の体に、心に、容赦なく突き刺さった。
「お父さんもお母さんもいて、帰る家があって、あまつさえ奇麗な彼女さんまでいて!!
あなたに何が分かるんですか!! あなたが他の女の人といちゃついている間、
私はこの街で話す相手もいなくて、帰る家もなくて、独りぼっちで迷い続けるんですよ!?
あなたにその孤独さが分かりますか!?」
八九寺も楽しんでくれているという自信はあったけれど、僕は一度だって、考えたことがなかったのだ。
僕と別れた後の八九寺の気持ちなんて。
八九時が、どんな気持ちでこの街を徘徊するのか、なんて。
そしてそれと真剣に向き合った時。
その事実はどうしようもなく悲痛で、そして耐えがたいものだった。
「ええ、あなたには分からないでしょうね!! 私のことなんて興味がないんでしょう!?
どうだっていいんでしょう!?
あなたに、あなたなんかに、恋をした私の、気持ちなんて……」
八九寺は俯いて、肩を震わせる。怒声は尻すぼみになり、かわりにその声は潤みを帯びだした。
今だって、亡き身でありながら、阿良々木さんに恋をしています。恋焦がれています。
あなたを思うと胸がどきどきします。あなたの笑顔が見たいです。
でも、でも! ……どうしようもないじゃないですか……。
私は幽霊。あなたは人間。あなたには恋人がいるし、河内高安の女というのは、
結ばれない役回りなんですから……」
そういう、物語なんです。と、八九寺は。必死に泣くのをこらえた。
僕は。八九寺を撫でてやろうとして、その手が動かなかった。
たった一メートルの距離なのに、頭を撫でる手すら届かない。
そこには、圧倒的な壁があった。
生者と、死者。
大和男と、河内高安の女。
このたいまつの光も消え、私に憑いたこの怪異―河内高安の女は、消え去ります」
八九寺が静かに言う。その声は、震えもなく、しっかりとしていた。
気がつくと、あたりは白みがかって。朝一番の山鳥が鳴きはじめている。
僕の胸に熱いものが込み上げてきた。
あまりに不条理すぎる運命だった。八九寺真宵は、死んで、迷って、彷徨って。
恋して、失って、忘れられるのだ。
そんなのってねえよ。死にきれねえよ!
八九寺がからかうように微笑んで尋ねる。そういう八九寺も、目元が赤くなっている。
「……お前が泣かないから。だから代わりに、僕が泣くんだ」
「うわ、Angel Beatsからのハガレンですか」
と八九寺。こんな時でもこいつは突っ込みを怠らない。
本当に今さらながら白状しよう。僕は八九寺が大好きだ。この想いが届かないとしても。
たとえすぐに忘れてしまうとしても。
僕は八九寺が大好きだ。
「……八九寺、僕は、僕は、お前が好きだ。大好きだ」
「おうおう、ここに来て泣かせることを言ってくれますね阿良々木さん」
「八九寺、は、はちくじ、愛している!」
「小学生にマジ泣きしながらガチ告白しないでください、阿良々木さん。
これは、ハッピーエンドではないのですから」
と、八九寺が言った。その声に、迷いはなかった。
まず八九寺がゆっくりと歌を詠み始める。
『来ぬ人を まつの明かりに かさぬれば うち堰き合えぬ 袖のしがらみ』
その姿は、さながら大和撫子だ。教養のある、そして格調高い歌だった。
僕は大泣きしながら、歌を詠み返す。根っからの現代人であるところの僕は、
即興で短歌を詠むなんて器用な真似はできるはずもないのだが、この時の僕はどうかしていたのだろう。
疲れていたのか、憑かれていたのか。
どっちにしても、僕にとっては“つきもの”だ。
言葉は口を衝いて出た。
『今はなき 社にすまる むらぎもの 心はまよひ ものかなしけり』
それは。真宵に詠う、真宵の歌だった。
人知れず、忘れ去られて、それでも闇夜の中で、阿良々木暦を待ち続ける。
そんな河内高安の女。
八九寺真宵に捧ぐ、歌だった。
八九寺が満足そうに微笑むのが見えるや否や、たいまつの灯りが消え。
僕は意識と、その大切な記憶を失った。
後日談というか、今回のオチ。
翌日、さすがのエキスパートである二人の妹、火憐と月火でも、北白蛇神社と地上を繋ぐ階段で
引っ繰り返って眠る僕を叩き起こすことはできなかったようで、僕はその日、普通にぼんやりと、
太陽の光で目が覚めた。
「起きたか、お前様」
「……おう。待たせたか?」
(以後、傾物語本文三三○頁に続く)
イセ物語『まよいラバー』
‐終わり‐
一応最後の和歌の解説を載せておきます
・来ぬ人を まつの明かりに かさぬれば うち堰き合えぬ 袖のしがらみ
来るはずもない人を、たいまつの明かりにその姿を重ねながら待っていると、
袖から溢れる涙を、押さえることができません。
※掛詞「待つ」と「松(松明)」
・今はなき 社にすまる むらぎもの 心はまよひ ものかなしけり
今はもうないけれど 北白蛇神社に集まっていた霊的エネルギーのように 心は彷徨って、
でもって真宵に傾いて 物悲しくって、八九寺が愛おしいことだ。
※掛詞「今は」と「今際」、枕詞「むらぎもの心」、掛詞「迷い」と「真宵」、
掛詞「もの(接頭語)」と「もの(物の怪)」、掛詞「哀し」と「愛し」
まあ和歌とかよく分からんけど
乙!よかったよ!
Entry ⇒ 2012.08.25 | Category ⇒ 化物語SS | Comments (1) | Trackbacks (0)
冬馬「ライブのチケット渡したけど来なかったよな」 春香「あ」
春香「いや……ね?あはは」
冬馬「まあ、別にお前が来ても来なくてもどっちでも良かったけどな」
春香「あ、そうなんだ……良かった」
冬馬「全く気にしてないぜ。俺らの小さな箱でやるライブなんて興味無えよな」
春香「いや……そういうのじゃなくって」
冬馬「俺らのライブに来るぐらいなら家で寝てる方がマシだもんな!」
春香(すごく怒ってる)
春香「違うよ!私売れっ子アイドルなんかじゃないもん……」
冬馬「……ははは、じゃあ俺たちは何だろうな」
春香「え?」
冬馬「あんたが売れっ子アイドルじゃなかったら俺らは一般人ABCか?」
春香「そ、そんなこと……」
冬馬「そうだよな!俺たちは駅前で歌ってる素人にしか見えねえよな!」
春香(すごくめんどくさい)
冬馬「前は……?」
春香「う、うん!私たちよりも人気があったと思うよ!」
冬馬「そうだよなぁ!ま!え!は!そうだったかもしれねえな!」
春香「ぇ」
冬馬「961プロじゃねえと俺たちは一般人ABCだよ!ギルティ!」
春香(どうしたらいいの)
冬馬「ああ、そうだ。あんたらの100分の1にも満たねえ人数がな!」
春香「そ、それは会場の問題じゃ……」
冬馬「だがな覚えとけよ!俺は皆と作り上げるステージが好きなんだ!今の方が俺は好きだ!」
春香「う、うん!皆と一体になるって良いよね!」
冬馬「お前らなんてどうせ流行りに便乗した連中しか来ねえんだろ!」
春香「な、何でそうなるの!?」
春香「わ、私たちだってそうだもん!」
冬馬「……」
春香「……」
冬馬「そうか、本当のファンの数も俺らとはレベルが違うって言いたいんだな」
春香「だ、だから今のジュピターは会場の広さが……」
冬馬「ちくしょう!やっぱり馬鹿にしてるんだろ!」
春香「してないって!!」
冬馬「じゃあ何で来てくれなかったんだよ!」
春香「だから……それはごめんなさい」
冬馬「落ち込んでるから励まそうと思ったらこれかよ!」
春香「あ、そうだったんだ」
冬馬「そうだったんだじゃねえよ!」
冬馬「大体あの時もほとんど俺が一方的に話してただけだよな!返事するのもダルイってか!?」
春香「だから落ち込んでたんだって」
春香「一回落ち着こうか」
冬馬「落ち着いてる」
春香「じゃあ状況を整理しましょう」
冬馬「おう」
春香「冬馬君は私があまり返事しなかった事とライブに来なかった事に怒ってるんだよね?」
冬馬「別に怒ってねえし。ぜんっぜん気にしてねえって言っただろ」
冬馬「そんなこと知ってるっつーの。だからチケット渡したんだよ」
春香「……で、ライブに来れなかったのはね」
冬馬「来れなかったのは?」
春香「それは……」
冬馬「それは?」
春香「……」
冬馬「……」
春香(忘れてたなんて言えない空気)
春香「う、うん……実はね」
冬馬「……」
春香「……」
冬馬「どうせ忘れてたとか言うんだろ!?そうなんだろ!?」
春香「ち、違うもん!」
冬馬「あんたらがゾウなら俺らなんてアリみたいなもんだから、仕方ねえよな!」
冬馬「何とか言えよ!」
春香「あー、もう率直に言います」
冬馬「あ?」
春香「完全に忘れてました。すいませんでした」
冬馬「な、何だと……」
春香「あの後のライブで舞い上がって、今日冬馬君に会うまで忘れてました」
冬馬「おおい!」
春香「反省してます。もう、なんというか本当にごめんなさい」
冬馬「ぎ、ギルティだぜ!ギルティ!ギルティ!ギルティ!」
冬馬「いいや、来ないね!大体別に来てほしくねえし!もう誘わねえし!」
春香「そうだよね……」
冬馬「あ、当たり前だろ!」
春香「ほとんど話した事も無いし、むしろ敵対関係に近かったし、というより一方的に迷惑かけられたし……」
冬馬「ぅ」
春香「響ちゃんや貴音さんも961プロのせいで危なかったし、千早ちゃんなんて声も出なくなったし」
冬馬「……」
春香「何とか声が戻ったから良かったけど、アイドル引退、下手したら自殺してたかもしれないんだ」
冬馬「……」
春香「まあ、その事にジュピターは関係ないけど。冬馬君が一々私たちに喧嘩ふっかけるぐらいで」
冬馬「……」
春香(全く関係ない話しだけどあっさり大人しくなっちゃった)
春香「うん、反省してるなら許してあげる。私も反省してるから許してね」
冬馬「ああ……」
春香「じゃあね、またライブ誘ってね」
冬馬「あ、待ってくれよ!」
春香「ん?」
冬馬「たまたまチケットが1枚だけ余ってるからよ……」
冬馬「俺たちが一番迷惑かけた如月千早に渡しといてくれ、詫びの意味を込めてな……」
春香「うん、ちゃんと渡しておくね」
春香「というわけで、はい」
千早「ジュピターのライブねぇ……」
冬馬「ライブのチケット渡されてるはずだけど来てくれなかったよな」
千早「あ」
千早『明日……何かあったような……』
春香『気のせいだよ!このメンバーで集まれるなんてそうそうないんだよ?』
雪歩『本当に久しぶりだねぇ』
真『また千早が100点出してくれるのかな?』
千早(あの時の違和感の正体はこれだったのね……!)
冬馬「あってなんだよ」
千早「ありがとう、あなたのおかげで謎が解けたわ」
冬馬「は?」
千早「え、じゃあ何で私にチケットを?」
冬馬「だから……おっさんが色々迷惑かけちまったから……」
千早「あー……春香が言ってたわね」
冬馬「でも、俺らのライブなんかとじゃ釣り合わないよな!765プロの歌姫様が来るような場所じゃございませんよな!」
千早「きゅ、急に何なの……」
千早「馬鹿になんかしてないけれど……」
冬馬「俺達のライブ会場みたいな小さな箱に来るだなんて耐えられない屈辱だろ?」
千早「……私は誰かが望むなら、公園だろうと道端だろうと歌うわ」
冬馬「……そうか、つまり俺らが下手くそだから聞きたくねえのか」
千早「一言もそんなこと……」
冬馬「どうせ『君を見失う……Alice……』でいっつも笑ってるんだろ!」
千早「……」
冬馬「マジかよ」
千早「いいえ、そうじゃないの……」ブフォッ
冬馬「吹き出してんじゃねえ!」
千早「ち、違うのよ。うちの双子アイドルがあなた達の真似をしてるのを思い出し……」ブフォッ
冬馬「笑いすぎだろ!何がそんなにおかしかったんだよ!」
千早「ふぅ……いい?私はあなた達じゃなくて物まねを思い出してわら……」プルプル
冬馬「クソッ!ちょっと気になってきたじゃねえか!」
冬馬「今更そんな事言われても何の説得力もねえよ!」
千早「言うまでも無く個々の歌唱力やダンスは見事。努力の賜物ね」
冬馬「ん、んなことねえよ……俺達はまだまだだっつーの」
千早「そして何より3人の内に秘めた熱さ、それを肌で感じる事が出来る」
冬馬「よ、よせよ。恥ずかしい」
千早「あら、私は素直に評価しているだけよ」
冬馬「……じゃあ何で来てくれなかったんだよ」
千早「……」
冬馬「お前もかよ!信じらんねえ!」
千早「うーん、多分そんなに重要な事だと思ってなかったのね。だから予定表にも書いてなかったんだわ」
冬馬「あれだけべた褒めした後にそれかよ!傷つく!」
千早「本当にごめんなさい」
冬馬「ギルティだろ!ギルティ!ギルティ!ギルティ!ギルティ!」
千早「そう言われても……今更どうしようも無いじゃない」
千早「まともに話した事もないのにそんな事言われても困るわ」
冬馬「せっかく勇気を出して謝罪の印を渡したのに!」
千早「……そんなに謝りたいなら、今ここで謝ったらどう?」
冬馬「あ、それもそうだな……おっさんが迷惑を掛けた」
冬馬「今までの事本当に悪かった。ごめんなさい」
千早「いいえ、もう大丈夫よ。私は二度と過去に囚われない」
冬馬「如月……」
千早(話しが摩り替ってる気がするけど気のせいね)
冬馬「あ、待ってくれ!」
千早「?」
冬馬「おっさんが迷惑を掛けた相手って他に誰がいる?」
千早「そうね……我那覇さんは結構大変な事になってたみたい」
冬馬「たまたまチケットが1枚だけ余ってるからよ……」
冬馬「我那覇に渡しといてくれ、詫びの意味を込めてな……」
千早「分かったわ」
千早「というわけで、はい」
響「ふーん……ジュピターかぁ」
冬馬「ライブのチケット渡されてるはずだけど来てくれなかったよな」
響「あ」
冬馬「そんなのどうでも良いんだよ!」
響「あの時はハム蔵が迷惑かけてごめん!あの時はつい怒っちゃったけど……」
冬馬「ああ、ペットはちゃんと見とけよ。特に飲食店だと店にも大迷惑だぜ」
響「うん、自分反省してる」
冬馬「なら良いけどよ。まあ俺も悪かったな、食いそうになって」
響「あははは、じゃあお互い様って事で」
冬馬「ははは」
響「あー、ライブかぁ……」
冬馬「別に我那覇が来なかった事を気にしてる訳じゃねえからな!」
響「じゃあ何で怒ってるんだ?」
冬馬「おっさんが迷惑かけたから……詫びだよ。でもお前が来なけりゃ筋も通らねえだろ!」
響「うぅ……ごめん」
冬馬「何でお前が謝るんだよ!先に迷惑かけたのは俺達だっつーの!」
響「え?自分どうしたら良いのか分かんなくなってきたぞ」
響「えぇ……?じゃあ、どうぞ……」
冬馬「毎度毎度無謀な事にチャレンジさせてすまねえ」
響(あれ?何かおかしいような……)
響「で、何で冬馬は怒ってるんだ?」
冬馬「別に怒ってねえよ!ただ、お前がどうしてライブに来なかったかって思ってるだけだ!」
響「ああ、何でだっけ……?」
冬馬「理由すら覚えてないのかよ!」
美希『響ー、そっちはどんな感じ?』
響『寒いぞぉ……』ガタガタ
千早『我那覇さん大丈夫かしら』
美希『響ならきっとやってくれるの!』
響「……」ガタガタ
冬馬「な、何だよ……いきなり震えて」
響「その日は生放送があったから……スケジュールの都合で行けなかったんだ」
冬馬「あ、そうだったのか」
響「いや、冬馬の連絡先とか知らないし……」
冬馬「……それもそうだな、悪い」
響「でも行けなくてごめんよ。また誘ってほしいぞ!」
冬馬「いやあ、てっきり俺らのこと……」
冬馬「お笑いユニットで売れなくなった芸人の集まりだって見下してるから来ないのかと思ったぜ」
響「な、そんなはずないだろー!一応ジュピターの事結構すごいと思ってるんだぞ!」
冬馬「あ、待てよ」
響「何だー?」
冬馬「おっさんが迷惑を掛けた相手って他に誰がいる?」
響「んー……千早と貴音は自分より大事になってたぞ」
冬馬「如月にはもう謝ったから四条にこれ渡しといてくれ」
響「ジュピターのライブチケット……?」
冬馬「たまたま1枚だけ余ってたからよ、詫びの印だ」
響「分かったー、貴音に会ったらちゃんと渡しとくぞ」
響「というわけで、はい」
貴音「ジュピター……ですか」
冬馬「ライブのチケット渡されてるはずだけど来てくれなかったよな」
貴音「あ」
貴音「な、何のことでしょうか?」
冬馬「お前ら、4回も誘ってるのに1人も来ねえってどういうことだよ!」バンバン
貴音「な、なんと……それは存じませんでした……」
冬馬「なんだってんだよー!また生放送なのか!?」
貴音「お、落ち着きなさい天ヶ瀬冬馬。そのように取り乱しても何も解決しません」
冬馬「誰のせいだよ、こんちくしょう!!」
プワーン
貴音『こ、この香りは……!今までのらぁめんとは違う……!』
貴音『……』グウゥ~
ガラガラ
貴音『なんと!新メニュー30種、制限時間内に食べればタダ!』
貴音『なんということでしょう』
貴音「仕方なかったのです……」
冬馬「どうせ忘れてたんだろ!!もー!!」
貴音「ああ、そのような事もありましたね……」
冬馬「何ちょっと思い出に浸った顔してんだよ」
貴音「ライブの一件、寿司屋の一件申し訳ありませんでした」
冬馬「へっ、俺らのライブなんて銀髪の女王様にとっちゃ見るに値しないってか!」
貴音「はて、そのような事は……」
冬馬「ウソつけ!どうせ北斗がバク転出来ない事馬鹿にしてやがるんだろ!?」
貴音「は、はぁ……?」
冬馬「言っとくがな、あいつは地獄の特訓の末習得したからな!いつまでも昔の俺らだと思うなよ!」
貴音「そ、それはおめでとうございます」
貴音「そういうつもりでは……」
冬馬「北斗のダンスがちょっと遅れてモタモタしてるからってなぁ……」
貴音「……」
冬馬「それをどうこう言うのは良くないと思うぜ。あいつだって気にしてるんだからな!」
貴音「ですから、私は何も……」
冬馬「チャオ☆チャオ☆言ってるだけの芸人だと思ってるんじゃねえぞ!」
貴音(……)
冬馬「あーん?」
貴音「天ヶ瀬冬馬は私がライブに行かなかった事に腹立てている、そうですね?」
冬馬「全然怒ってねえよ!ただ仏の顔も三度までって事だっつーの!」
貴音「つまり怒っているのですね」
冬馬「だから怒ってねぇって!!勘違いすんな!!」
貴音「怒ってます」
冬馬「どうせ俺たちみたいな落ち武者ユニットに興味無いから来てくれなかっただなんて思ってねえよ!」
冬馬「お前ら765プロが招待しても全然来ねえからだろうが!」
貴音「それは偶然が重なっただけです」
冬馬「4回も重なってたまるか!女王様よぉ!」
貴音「運命とは不思議なものですね」
冬馬「何ちょっと素敵な言い方にしてんだコラ!ライブ欠席しただけじゃねえか!」
貴音「ですから……私にも事情が」
冬馬「じゃあ話せよ!どうせ俺らの存在忘れてたんだろ!?」
冬馬「は?らーめん?」
貴音「ライブがある事は覚えていました。ですが私の前にらぁめんの誘惑が……」
貴音「どうしようも無かったのです……」
冬馬「忘れてるより性質悪いじゃねえか!俺らのライブはラーメン以下かよ!」
貴音「あなたは砂漠で歩いてる時に水があれば手にしませんか?それを無視して突き進むのですか?」
冬馬「何でんな極限状態に例えてるんだよ!ラーメンとかいつでも食えるだろうが!」
貴音「分かっていませんね……」
冬馬「俺を馬鹿にした顔でその台詞やめろ!何故か説得力あるんだよ!」
冬馬「どこが複雑なんだよ!単純明快じゃねえか!」
貴音「……今一度謝罪します。申し訳ありませんでした」
冬馬「別に俺は謝って欲しいわけじゃない。おっさんが迷惑をかけた事について詫びを入れたかっただけだ」
貴音「……なら初めからあなたが謝罪をすれば良かったのではないですか?」
冬馬「ん、言われてみればそうなんだが……あれ?」
貴音「……」
冬馬「あー、えっと……色々迷惑かけました。深く反省してます」
貴音「何故ここまで遠回りに」
冬馬「俺にも分かんねえ」
冬馬「あ、待ってくれ!」
貴音「何か?」
冬馬「たまたまチケットが1枚だけ余ってるからよ……」
冬馬「俺たち765プロに迷惑かけたから……詫び入れた天海、如月、我那覇以外の誰かに渡してくれ」
貴音「はい、分かりました」
冬馬(あれ?謝りたいだけなら会った時に謝ったらいいんじゃねえか?)
貴音「――に渡しておきます」
冬馬「お、おう……」
貴音「というわけで、確かにお渡しました」
誰かライブ行ってあげて
俺が行こう
Entry ⇒ 2012.08.25 | Category ⇒ アイマスSS | Comments (0) | Trackbacks (0)
マミ「私のツインドリルが男性器に変わってしまったわ」
マミ「…とりあえず…今日は学校は休むべきよね」グシグシ
QB「おはよう、マ…それは何の真似だい?」
マミ「うるさいわね!こっちが訊きたいわ!!」イライラ
マミ「一応確認するけど、QBの仕業じゃないのよね?」
QB「僕にこんな事をする力は無いし、そもそも意味が無いよ」サワサワサワ
マミ「うぅ…じゃあ当然解決策も謎…」
マミ「ちょっと!触ってないであなたも一緒に考えて!」
QB「きゅっ」ビクッ
マミ「え…そ、それはちょっと、グロテスクじゃないかしら…?」ザワ…
マミ「血とか吹き出したり…」
QB「ふむ。最終手段としては、アリって事だね」キュッ
マミ「私、実物って見たこと無いけど…」ジー
マミ「(…なんだか柔らかくて可愛らしいかも、)」
QB「さて、最低限の解決策は見つかった」
QB「原因を探ると、より理想的な策が見えてくるかも…」
マミ「原因って…私は何もしてないわよ?」シコシコシコ
QB「第一の疑問は…それは誰の男性器かという事だ」
マミ「えっ」
QB「誰かのものかも知れないし、全くの新品かも知れない」
QB「ただ新品の場合…僕が知り得る限り、それを可能にするような力はただひとつ」
マミ「…魔法少女の願い?」
QB「そうだよ」
マミ「って事はやっぱり…」ザワ…
QB「誰かの男性器が、何らかの理由で移動してきたようだね!」
マミ「いやああぁあああああ!!もうイヤよ!!なんで2本も」
マミ「切り落とすわ!今すぐよ!!包丁包丁」チャキ
QB「落ち着くんだ、マミ!」
QB「男性器は血流の盛んな部分…切り落とせば、誰かが死ぬ事になる」
QB「もちろん、僕は全く構わないけどね。君は耐えられるかい?」
マミ「うぅ…」グスグス
QB「とにかく…それが誰のものかを突きとめることが、現状の最善手だ」
マミ「ふぐぅ…グスッ、分かったわ…」グシグシ
マミ「……?」
マミ「……な、なっ」カァア
QB「標的は君…という事は、君の周囲にヒントがある可能性が高い。それを探るべきだ」
マミ「行けるわけないでしょ…こんなの付けて!!」ベシッベシッ
QB「…?訳が分からないよ」
マミ「……」テクテク
マミ「(一応、似た色のウィッグで部分的に覆ってあるけど…)」
マミ「(…重い…)」ブラブラ
QB「男性にはみな等しく有る物なんだから、隠す必要なんてないような気がするけどなあ」
マミ「私は女性よ…!!」イライラブラブラ
QB「そうか!男性器が無い男性を探せばいいんじゃないか!」キュプ
QB「手当たり次第に触ればすぐに分かるよ!」
マミ「あなた、少し黙っていてもらえるかしら?」テクテク
まどか「あ、さやかちゃん、あそこ!」
さやか「ん?あっ、おーい!マミさーん」ドドドド
まどか「ティロロッヒヒヒ」ドドドド
マミ「…あら、おはよう(まずい…)」ダラダラ
さやか「はあ、はあ…今日も、素敵なはあ髪ですねはあ、」デュフフ
QB「実はこれ、男せギュフッ」ギュッブイ
マミ「ふふ、ありがとう(喋ってる暇があったら、誰のか探ってきてくれる?)」グイグイ
QB「訳が分からないよ…」スゥー…
マミ「(早くね)」ダラダラ
まどか「もうギリギリの時間だよー」ヘラヘラ
マミ「う、うふふ…今朝は少し、色々あって…」
さやか「あー、もしかして!髪のセットに手間どったとか?」
まどか「いつも素敵ですけど、今日は特にボリュームがありますね!」
マミ「!!え、ええ、まあ(お願いだから違う話にして)」
QB「…男性器の無い男性は、果たして男性といえるのかな」テクテク
QB「これは想像以上に哲学的な問題だね、実に興味深い」キュッ
QB「そんな訳で、上条恭介の病室へ来たよ」
QB「あの魔法少女達が関わる男性の数なんて、たかが知れてるのさ」キュプイ
QB「まずはこの大本命から…」スゥーッ
さやか「ほんとだ、ドリルがいつもより太い!」
まどか「マミさんの髪の色だとよく似合いますね!」ウェヒヒ
マミ「あ、ありがとう…ねえ、急がないと、遅刻」ニコニコ
さやか「セット、手間かかりそー…触っていいですか?」ムギュ
マミ「あ、あ!ちょっ」
さやか「…ん?」モミュモミュ
上条「……」ゴソゴソ
上条「…うっ、く、ふ」モゾモゾ
QB「(不自然な挙動…一応覗いてみるか)」ゴソゴソ
QB「(やはり…空間が途切れている!)」
QB「(男性器のひとつは、上条恭介のそれだったようだね)」
上条「あ、あ!うぁあ」ビクンビクン
さやか「…あ、あれ?これ、髪…だよね?」サワサワギュッギュッ
まどか「えー?さやかちゃん、変なの!」ティヒ
マミ「も、もちろんよ…当たり前よ……」ダラダラ
QB『マミ、聞こえるかい』
マミ『QB!!』
マミ『そうなの!?…って、わわ、ちょっ、筒抜け』
さやか「え?え!これ、男性器??ちんこ??」バッ
まどか「だんせいき??」
さやか「で、ですよねー?あーよかった」
まどか「上条くんの??」
QB『?いや、本当にそうだよ!彼の男性器が無いのを見たから』
QB『しかも、男性器の感覚は伝わっているようだね。興味深い』
さやか「……」ピクッ
まどか「…どうしたんだろう??」
マミ「ち」
マミ「遅刻するから!!遅刻するから!!」ダッ
さやか「待ってマミさん!!」ガシッ
マミ「!!ちが、美樹さん、違うの!!」
マミ「私は女性なのよ!!!」グイグイ
まどか「プッ そ、それは知ってます…」ホム
さやか「それ、恭介のなんですか!!恭介のですか!?恭介ちんこ!??」ハアハアハアハアハアハ
マミ「うわあああん!!そうよ!!そうらしいのよ!私は女性!!!」グイグイ
さやか「ちょっとだけ!!少しだけ貸してくださいよ!」ユサユサ
マミ「うぅう…うぐぐ、私のじゃ、ないもの、」グッタリ
QB『実に興味深い…』
さやか「いいよね恭介!?はい!いいってさ!!」ハアハアハ
マミ「いやああああ」
マミ「ちょ、こんな毛とは何よ!割と高いのよそれ!!」ジタバタ
さやか「ワァオ!!恭介自身、御開帳!!!フシュヒヒフ」ダラー
まどか「こんなに欲望を露にしたさやかちゃん、初めて見るよ…」ゴクッ
さやか「ぶひ、くんくん」クンクン
マミ「きゃ、よだれ飛ばさないで!ペッペ」
まどか「今日は完全に遅刻だよ…」
─────
上条「う!?うああ、うわっ」ビクンビクン
QB『実に興味深い…!!』ジロジロ
まどか「うわあー…」キュン
マミ「もう、いいわ…もう…好きになさいよ…知らない……」グスグス
QB『上条恭介は限界が近いようだ』
さやか「えっ!!ちょっと待って、それは私の中で」ヌギヌギ
マミ「嘘やん!!やめて!!」ジタバタ
さやか「おあああああああ!!」ヌプッ
マミ「ひょえええええ」
まどか「…なんか、私も興味出て来ちゃった…」ジワア
マミ「っぶ、っぶ、っちょ、っぷほっ」ズンズンズンズン
まどか「…マミさんの…もう一本、ある…よね?」サワサワ
マミ「っぐえ、っちょ、まっ、かなめさ、」ズボッズボッズボッ
まどか「わあ…!!、これが…」スポッ
QB『上条恭介も興味深いが、もうひとつの男性器は一体…』
マミ「ぷほ、ぶほっ、美樹っ、さん、苦しホッ」ズムズムズム
さやか「いやあああだめえええ恭介ーーー!!」ヌプヌプヌプ
─────
ほむら「おほ、うおおおう…これは!!まどかの!!ペロペロね!!」クネクネ ビクンビクン
ほむら「……え?」ピタッ
─────
まどか「えへへ、一緒に、だよ……?」スルスル
マミ「ちょ、それは、むりほ、むりふ、ぶほ」ズムズムズム
さやか「あーいく、あーいく…恭介いく、恭ちんこ介」ヘロヘロ ヌプヌプ
まどか「…じゃあ…しちゃうね?」ヌププ
ほむら「……んっ!?」ピク
ほむら「お、お、おわあああ…きた、あ」ガクガク
─────
まどか「くは…っ、入っちゃったあ…」ヌルヌル
マミ「ふべえええええ」
さやか「うふ、くふ、くっ、きょ、きょう、きょ…」ヌプッヌプッヌプッ
─────
上条「うっ、くっ、志筑さん、あ…」ビクンビクン
QB「(…これはオフレコにしておこうか)」
マミ「もうっ、いやっ、ああっ、ああっ」ズムズムズム
まどか「あっ、あ、もう、いき、ああああ」ヌプヌプヌプブシャアアア
さやか「おほおお、ふぐっ、ふぐっ、ぬふふええ!!」ビクンビクンブシャアアア
─────
上条「うあ!あ!」ドクンドクン
QB『精液の行方も興味深い』ジロジロ
─────
ほむら「っか、ぐわ、おおっふ!!ふっ、まどっかぁーーー!!!」ドビュドビュドクンドクンビクンビクンブッシャアアア
さやか「ふひひ、ふしゅううう」プシャアアア ボダボダボダ
マミ「っぐへ!!ゲホゴホ…っちょ、その液体なにゴホッ」ゲッホゲッホ
まどか「ティヒヒ、オフッ、ウェヒティヒ」プシャアアア
マミ「ふげ、やめゲッホ、ふえええええ」デロデロ
マミ「おわああああああん」グスグス
さやか「恭介ってやっぱり素敵!」
マミ「うっうっ…」ベチョベチョ
まどか「あっ、もうこんな時間!でも2時間目には間に合うかも…」
さやか「やば、楽しみすぎたあー!マミさんもまた学校で!」
まどさや「うおおおおお」ドドドド…
マミ「…うっうっ、待ってよ、なんで…」グッタリ
マミ「もう、死ぬわ私…」グスグス
杏子「……食うかい?」
終わり
以下将棋スレ
7六歩
俺は嫌い、でも勝率は良いみたい
久々にこういうアホなSS見たな
Entry ⇒ 2012.08.25 | Category ⇒ まどかマギカSS | Comments (1) | Trackbacks (0)
蘭子「煩わしい太陽ね(おはよう! )」モバマスP「おはよう蘭子」
P「はい、分かりました。アイドルにもそう伝えておきます。はい、よろしくお願いします、失礼します」(ピッ
(ガチャ
蘭子「煩わしい太陽ね(おはよう! )」
P「あぁ、蘭子来てたのか、おはよう」
蘭子「その姿…何かを背負っているように見える…(お仕事の電話ですか?)」
蘭子「クク、造作もない!どれ、戯れに付き合ってやろう(はい!なんでも頑張っちゃいます!それでどんな企画なんですか?)」
P「それがアイドルには企画を知らせずに当日驚いてもらおうかと。ま、悪くはしないから許してくれ」
蘭子「ククク、魂が猛るわ(わかりました!楽しみだなー♪)」
……
…
P「今日の仕事は…、ついに来てしまったか。蘭子大丈夫かな」
(ガチャ
蘭子「煩わしい太陽ね(おはよう! )」
P「おはよう蘭子」
蘭子「厄介な太陽よ、我が生命の雫を奪いからん(おはようございますプロデューサー。今日もいい天気ですね♪)」
P「早速来てもらったところで悪いが…」
蘭子「何かしら?(どうしました?プロデューサー。近づいてきて…)」
蘭子「フッ、懐かしき漆黒の闇(ん…、プロデューサー。目隠しで真っ暗です…)」
P「この間行ってた企画でちょっとな。足元見えないけど、俺の両手に捕まってくれ、ほら」
蘭子「其方の願い聞き届けよう!(は、はい。危ないですもんね)ドキドキ」(プロデューサーの手暖かい…
P「じゃあ、外に車停めてるから」
蘭子「いざ約束の地へ!(行きましょう!仕事仕事~)」
…
P「さぁ、着いたぞ」
蘭子「ククク、魂が響鳴する!(見えないからわからない…)」
P「じゃあちょっと誘導するから、また俺の手に捕まってくれ、ほい」
蘭子「我が魂の赴くままに(はい、行きましょー)」
蘭子「其方の手を煩わすまでもない(え、えーっと、これかな。はい!座れました!)」
蘭子「我が力、開放はまだか(目隠しとってもいいですか?)」
P「あぁ、それは今日一日我慢しててくれ。ちょっとごめんな」
蘭子「ククク、これはなんの儀式だ(はい?…って、どうして後ろ手に縛るんですか?)」
P「はい、できた。痛くないか?」
蘭子「これ程の痛み、シェイドと牙を交えた事に比べれば造作も無いわ!(動けないですけど、痛くは無いです。それよりも、企画ってなんでs…)」
P「じゃあ、先に帰るわ」(スタスタ
(バタン
(シーン
蘭子「え…あの…プロ…デューサー?」
(シーン
蘭子「」
P(うん、まぁ、部屋の中にまだいるんだけどな)
P(真っ暗にしたうえ拘束して驚かしながら、神崎蘭子の素の表情を見る企画って…。こんなんいいのか…キャラ的にも倫理的にも…)
P(あ、戻った。意外と順応性高いな)
蘭子「フッ、このままではまどろみに躯を蝕まれてしまう…(暇だなー。眠いなー)」
P(もうちょっと待ってみるか)
…
蘭子「我の力、いざ解放せねば(プロデューサーまだかな…、もう1時間以上経ってるかも)」
P(蘭子がそわそわし始めた。真っ暗の中でこれだけ待たされたらそうなるか)
蘭子「ぁ…あ、あの…誰か…?」(ソワソワ
P(ここだな…足音でも鳴らすか…)
(コツン
蘭子「」(ビクッ
蘭子「な、何奴っ!(…だ、誰ですかっ?プロデューサーですか?)」
(シーン
蘭子「我だけに届き、闇よりの戯れか…(気のせいかな…)」
蘭子「…あ、あの…、誰がいませんかー」(ソワソワ
P(もしかして横においてある釣竿ってこの時のためか…原始的な…まぁ、いいや。やってみるか)(ゴソゴソ
蘭子(後ろから気配がする…)
P(できたけど…ここは王道に首筋かな。ツインテだから後ろから狙いやすいし、ほれっ)
蘭子「やっぱりプロデューサーが…
(ペタッ
蘭子「っっっ!!!ひゃっうっ…っっっ!!?!」
P(蘭子、声に出てるぞ)
蘭子「いやぁっ、やぁ、あ、あぁん!」
蘭子「やめっ…やあぁあん、…やめてはぃょぉ…」(グスッ
P(やばっ、やりすぎたか!?)(サッ
蘭子「グスッ…プロ、プロ…デューサー…、グスッ…どこにいるのぉ…」
蘭子「グスッ…(あぁ、そうだ…きっとドッキリなんだよね…。じゃあ、泣いてちゃだめ…もっと…もっと)」
蘭子「グスッ… フッ、フフフ、このようなこと他愛な、ないわっ(こ、こんな感じかな)」
P(恐るべきプロ根性…)
P(じゃあ続けないとな)(ニヤリ
…
蘭子「この闇の静粛心地が良い(しばらく何もない…)」
P(待つのも疲れるな…)
P(さて、次の小道具は…ボイスレコーダー?あ、メモがある。この字は小梅か?)
P(「本物の霊の声」って…俺が怖いんだけど…、まぁ、やってみるか)
蘭子「ええいっ、終焉の時はまだか!(いつ終わるんだろう)」
P(じゃあ…)
(ピッ
P(ん?何も聞こえないぞ、壊れてるのか)
蘭子「な、なにっ…何の声っ!!」
P(ん?え、おいおい、どういうことだ?!)
蘭子「はっ、いや、と、とっ止めて、もうやだぁ…やだよぉ…聞きたくない、やぁああぁあぁっっ!!!」
P(ふぅ、これでひとあんし…)
蘭子「やぁああぁん、来ないでよぉ…グスッ、グスッ…どうして…グスッ…止めてくれ…っ…くれなぃんですかぁ…」
P()
蘭子「やだぁ、やだょぉ…やだぁぁ、おっ、おかあさん、たっ、助けて…助けてはぃよ…」
小梅(だ…大丈夫ですか…?)
P(っっっ!!!)
P(なんで後ろにいるんだよ!!!)
小梅(…プ、プロデューサーさんが困ってるって…ゆ、夢で見て…!)
P(そ、そうか…、とりあえず何とかしてくれ…蘭子がちょっと放送の域を超えそうだ…)
蘭子「やぁんっ、あっ、あぁあっ、あぁぁん!」(ビクンビクン
P(そ、それで)(チラッ
蘭子「はっ…ん!んんっ!はぁ、はぁぁ!!いやっ、へっ、へんなぁあん、ん、ち、力がっあぁああん!!」
小梅「(ビクッ」(ピッ
小梅(…こ、これで…)」
蘭子「はぁっ、あ、はぁ…んっ、はぁっ、はぁ…な、何が…ハァ…ハァ…お…おこ、おこったの…」
P(助かった…というかもっと軽いの持ってきてくれ…)
小梅(…ご、ごめんなさい…、連れて帰ります…)
P(お、おぉ…頼む…)
(ガチャ (バタン
P(…あれ、どうやって入ってきたんだ…)
P(そろそろ可哀想だな…)
蘭子「…ハァ…ふ、フハハ、こ、このようなこと、たっ、たわっ、他愛もない!」
P(頭回らなさ過ぎて、さっきと同じ事言ってる…)
P(じゃあ、やるしかないか)(ニヤリ
…
蘭子(次は何だろ…怖くないといいな…)
P(さて、さっきからずっと肩肘張ってるからリラックスさせてやるか)
P(無言じゃテレビ的に面白くないしな)
(ガチャ (スタスタ
蘭子「きた…っ」(ビクッ
P「おーい、蘭子」
蘭子「プ…プロデューサー…?」
蘭子「プロデューサーですか?!早く開放してくださいっ!」
P「どうした、何かあったのか?」
蘭子「え、いや、だって…」
P「俺が部屋を出てから1分と経ってないんだけど…」
蘭子「えっ?!」
P「後、この部屋に持ち込みカメラがあってドッキリだから、リアクション頼むな」(ボソッ
P「2,30分したら終わるから、いけるか?」(ボソボソッ
蘭子「わ、我に不可能などない(分かりました…)」
蘭子「ククク、我への貢物か!心の底から味わってしんぜよう!(ありがとうございます!なんですか?)」
P「さっき下の自販機でコーヒーを、な。あ、ストローあるから近付けるぞ」
蘭子「ククク、この味、血が滾るわ(に、苦い…)」
P「一応、微糖だったんだが…、まぁ今ぐらいしか水分取れないし、熱中症になったら大変だから我慢してくれ」
蘭子「フフッ、我に命令とは…其方も翼を持ったか(はい…我慢します…。に、苦ぃよぉ…)」
P「お、じゃあ、ちょっと出てるな。頑張れよ」
蘭子「我が真の力を見よ!(超やる気!)」
(ガチャ (バタン
蘭子「我友も飛び立つ時か…(プロデューサー行っちゃった)」
蘭子「どれ、次に覚醒する我が翼、磨いておこうか(30分待つぐらいならへいきー♪)」
…
蘭子「あれから刻が止まったかのようだ(もう30分過ぎたんじゃ…)」
P(正確にはもう1時間、か。目隠しで時間間隔がなくなったのか?)
蘭子「そろそろ黄昏も恋しいものだ(目隠しとってくれないかなー)」
P(さっきから饒舌だな)
蘭子「やはり我が身、縛られるなど論外(ちょっと…危ないかも…)」(ソワソワ
P(蘭子がそわそわし始めた)
P(やっときたか!)
……
…
P(また、あれから1時間)
蘭子「………」(ソワソワ
蘭子「は…早くドッキリを…!(我の心を揺さぶる者はまだか!)」(ソワソワサスサス
P(逆だ、蘭子)
P(もはや足の動きを抑えきれていない)
蘭子「…ッ…フフフッ、わ、我…我には…」(ブルブル
P(そろそろいいか)
P「おい、大丈夫か?蘭子?」(肩ポン
蘭子「っっっ!!!~~~~~~~~んん!っっっっっんんん!!!」
蘭子「ううぅぅうっ…くぅっ…ん…!ふっぅぅっ…ふあぁ…あぁ…あっ…あっ」
蘭子「んううううううううううううううううううっ!?ああっ…あふっ…ふあぁっ…あぁ…あっ…あっ」
蘭子「ふぁぁぁぁっ…あぁっ…はぁっ…あ、あふぅっ……ぁはぁぁぁ…」
蘭子「………グスッ……グスッ……」
P「あっ」
蘭子「……ふぇっ…ふわああああぁぁぁあぁあああぁぁぁああんん!」
P「」
なーかしたー
……
…
ちひろ「……この映像はお蔵入りです」
P「…はい」
ちひろ「大体持ち込みカメラだったからいいものの、何をしてるんですか」
P「…ごめんなさい…」
ちひろ「いい大人が…」
P「…上げる頭もございません……」
蘭子「煩わしい太陽ね(おはよう! )」
ちひろ「おはよう、蘭子ちゃん」
P「おは…」
蘭子「なっ…そのビデオ……」
蘭子「~~~~~~っっっ!!!」
蘭子「我が下僕!恐怖の意味を知りなさい!!」
-おしまい
ドッキリに驚いて、素の熊本弁であたふたする蘭子ちゃんが見たかったんだ…
Entry ⇒ 2012.08.25 | Category ⇒ アイマスSS | Comments (0) | Trackbacks (0)
斉木楠雄「学園都市……?」
斉木(外部の人間は)
『学園都市はイカレちゃってるよ、アイツら未来に生きてんな』
斉木(と言う者も多いらしい……)
斉木(ここで僕は目立たないように何の能力もない、いわゆるレベル0であるという設定にしてある)
斉木(どうもここにいる超能力者とは一人につき一つの能力しか使えないらしい、そんな中で惜しげもなく力を使えば)
『えっ、あなたって瞬間移動が出来て心が読めて火とか氷とかも操れて物を動かしたりも出来るんですか?』
斉木(これがどういうことか例えると)
『えっ、あなたってイケメンで高身長で高学歴で高収入で運動が出来て性格までいいんですか?』
斉木(こんな目立つ存在になるのは絶対に嫌だ)
斉木(問題だったのはその途中で)
美琴「勝負しなさいって言ってんでしょうが!」
上条「だから嫌だって言ってんだろうが!このビリビリ中学生!」
斉木「…………」
斉木(あそこにいるのは上条当麻……僕が体験入学するにあたってルームシェアをしてくれる同級生だが……)
美琴「だから!あたしには御坂美琴って名前があんのよ!」
斉木(なぜ下校途中で恋愛ゲームよろしく素敵なイベントを発生させているんだ)
斉木(勝手に彼の部屋に入って中でスタンバってることも不可能じゃないが……)
上条「ああもう分かったから、御坂な。はい、じゃあ今日はもうこれで終わりな」
斉木(よし、そうだ。面倒事は早々に切り上げるに限る)
美琴「まだよ!あんたとの決着がついてないじゃない!」
斉木(……ずいぶん食い下がるな、何か特別な事情でも…)
美琴(馬鹿!もうちょっとあたしの相手をしてよ!)
斉木(神聖かまってちゃんか)
美琴(これくらいの電撃、アイツならどうとでも出来るわよね)
斉木(いやその理屈はおかしい。当たったら怪我じゃすまないだろ、その電圧)
上条「うおっ!?」
美琴(よ、避けた!?打ち消すんじゃなくて!?)
斉木(…………)
美琴(ヤバい!アイツの後ろにいる人に当たっちゃう!)
斉木(防ぐくらいはわけないが……僕がレベル0という設定である以上、目立つようなことは出来ないな)
斉木(考えられるパターンとしては)
パターン1……自然に防ぐ
美琴『どうしよう!あの人に当たっちゃう!』
ビュウ!
上条『あ、突然の突風で看板が飛ばされてきて電撃を防いだ!』
斉木(不自然だろどう考えても)
パターン2……回避
美琴『どうしよう!あの人に当たっちゃう!』
斉木「…………」サッ
美琴『えっ!?』
上条『電撃見てからのマトリックス余裕でした!?』
斉木(これもないな……なら、手は一つしかなさそうだ)
美琴「どうしよう!あの人に当たっちゃう!」
上条「避けろ!」
斉木(この速さの電撃を避けたら逆に不自然……なら)
斉木「っ……」
美琴「あっ……!」
上条「お、オイ大丈夫か!」
斉木(避けない以外にないだろう)
斉木「…………」
上条「しっかりしろ……って……お前、斉木じゃないか!」
美琴「あ、あんたの知り合い?」
上条「ああ、体験入学で学園都市に来てる……俺とルームシェアする予定の同級生だ」
美琴「外部の人ってことは……れ、レベル0ってことじゃない……!」
美琴(ど、どうしよう……あたし、レベル0の人に大変なことを……)
斉木(いや本当に。気絶した振りをするのって大変だからね)
斉木「!」
美琴「わ、分かってるわよ!」
斉木(しまった……救急なんて呼ばれたら大事になって余計に目立つ……起きるしかない!)
斉木「っ……」
上条「さ、斉木!良かった、意識が戻ったか!」
斉木(よし……このままならなんとか奇跡の生還をした雰囲気でこの場を乗り切れるか)
美琴「……意識が戻った?」
美琴(あの電撃をモロにくらって……そんな一般人、いるわけが……)
斉木(ちょっといい加減にしようかお嬢さん)
斉木「…………」
美琴「おかしいわ、何の治療もなしにこんな早く意識が戻るわけがないのに……」
斉木(そんな危ない電撃をホイホイ撃ってる君も十分おかしい)
美琴「よくよく見れば髪とかピンクだし……何か角みたいなサムシングもあるし」
斉木「!」
斉木(何故だ、そういう意識は確かに逸らしたはず……どういうわけか効果が打ち消されたとでも?)
斉木(……何にしても)
美琴「なーんか……怪しいのよね、あんた」
斉木(……困ったことになったんじゃないか、これは)
斉木「!」
美琴「それは……そうなんだけど……」
上条「だったらまず……ほら、言うことがあるだろ」
美琴「……あの、ごめんなさい……本当に」
斉木「…………」
斉木(やれやれ、今度こそターン終了か……君は少し1ターンが長すぎるぞ)
上条「まあ御坂も色々聞きたいだろうけども今日はここまでな、もうちょっとお前は我慢ってものを覚えろ」
美琴「わ、分かってるわよ……反省してるんだから」
上条「そうそう、胸とか体が小さくても心くらいは大きく……」
美琴「…………」バチッ
上条「あ」
美琴「喧嘩売ってんのかあんたはぁぁぁ!」
上条「ふ、不幸だぁぁぁ!」
斉木(基本的に馬鹿しかいないのかこの学園は)
エレベーター
上条「え、えらい目にあった……」
斉木(八割は君の自業自得と言って差し支えないだろ)
上条「っと……この上にあるのが俺の部屋だからな、覚えといてくれよ?」
斉木「…………」
斉木(……透視で他階の部屋を見る限り、そこまで広いわけじゃなさそうだ)
斉木(まああくまで体験入学だ、長居するわけでもない。数日過ごす程度なら問題ないな)
上条「で、この階にあるあそこが俺の部屋……っ!?」
斉木(……の前で誰か倒れてる、けど多分気のせいだろう)
斉木(だったら僕はそれを全部回避するだけだ……!)
上条「こ、こんなに血が……しっかりしろインデックス!傷はどこだ!?」
斉木(まずは傷か……どうやら背中を斬られてるようだが……)
上条「服は破れてるのに……どこにも傷がない?」
斉木(あの程度の傷、遠隔で治療するくらいなら簡単だ)
上条「けど血だまりが出来るくらいに出血してるのに、怪我がないはずが……」
斉木(まき散らされた血か……サスペンスには付き物だが……)
上条「あれ、これ……トマトの匂い?」
斉木(トマトジュースに変えてしまえば問題はない)
上条「……何だ、服の背中側をどっかに引っ掛けて切って、飲んでたトマトジュースを零しただけか」
斉木(単純って素晴らしいと思うよ、本当に)
上条「いや、でもおかしくないか……?」
斉木(……さすがに無理矢理変えすぎたか、やはりもう少し工夫を…)
上条「このトマトジュース……濃縮還元じゃない?」
斉木(そこじゃないだろ)
ステイル「何か騒がしいようだが……それ、回収させてもらえるかな?」
上条「!」
斉木「…………」
斉木(すいません、もういいですこういうの。こっちとしては二秒で切り返す勢いなんで)
ステイル「聞こえなかったかい、それを回収すると言ったんだが」
上条「……そんなにトマトジュースが好きなのか」
斉木(ごめん、ちょっと黙ってて)
ステイル「あーあ、派手にやりすぎちゃって……辺りが血だら……」
ステイル「…………」
ステイル(ちょっと待て、これ血じゃないんだが……え?これトマトジュー……え?ちょ、え?)
斉木(気付いたか、『血だらけで困ったものだ』とかカッコ良く決めたかったんだろうに……)
斉木(ニヒルな感じで言葉を切り出したんだ、もう戻れないぞ……どうする?)
ステイル「…………」
ステイル「あーあ、派手にこぼしすぎちゃって……トマトだらけだ」
斉木(何か色々とすいません)
上条「ふざけんな!インデックスをお前らの好き勝手にさせてたまるかよ!」
斉木(え、そういう感じ?今の流れから急に戦いになる感じなのか?)
ステイル「巨人に苦痛の贈り物を!」
上条「…………!」
上条(コイツが『異能の力』なら……俺の右手で打ち消せる……!)
キィン
ステイル「なっ……!」
斉木(バトル展開……まあ、ジャンプ漫画ならよくあることか)
斉木(僕はそんな柄じゃない、離れたところで見守っているとしよう)
上条「うおおっ!!」
ステイル「くっ……『イノケンティウス』!」
上条「なっ……コイツ、打ち消しても再生しやがる……!」
ステイル「これが僕のとっておきだ……いくらその右手でもどうにもならないだろう!」
斉木「…………」
斉木(不謹慎だが結構見てて面白いな、あのイノケンティウスっていうのは一体どうやって攻略するか……)
ステイル(フッ……この下の階に貼ってあるルーンがある限り、イノケンティウスは無敵だ)
斉木(分かった剥がしてくる)
・・・
ステイル「い、イノケンティウス?どうしたイノケンティウス!」
上条「事情はよく分からねえけど……そのイノケンティウスってのはもう出せないみたいだな」
上条「なら……こっち仕掛けて終わらせる!」
斉木(よし、ちょうどいい場面で戻ってこれたな)
ステイル「くっ……巨人に苦痛の贈り……」
上条「食らえ!DUVS(ダウン・アッパー・ブイ・ストーム)!!」
ステイル「ぐあっ!!」
斉木(どうみてもただのアッパーカットだろ)
上条「魔術師は……いなくなったか、なんだったんだあいつは」
斉木(むしろここまで立て続けに面倒を呼び込む君がなんなんだ)
上条「何はともあれインデックスが無事で良かったよ……悪かったな斉木、巻きこんじまって」
斉木「…………」
上条「とりあえず一旦部屋の中に入ろう、気絶してるインデックスをほっとくわけには……」
上条「……あれ、そういえばなんでインデックスは俺の部屋の前で気を失ってたんだ?」
斉木(……まあ当然の疑問か、やはりさっきの改変は少し無理矢理だったな。さて、これはどうやって…)
上条「よっぽどトマトジュース零したのがショックだったんだな」
斉木(どうやってもお花畑にしか見えない、君の頭が)
上条「い、インデックス……?」
斉木「…………」
斉木(千年アイテム?いや違う、二重人格というわけじゃないか)
禁書『出血多量に伴い、生命力が流出しています』
斉木(あ)
禁書『私の言う術式を組ん……』
禁書『…………』
禁書(ちょっと待ってください、これ血じゃないんですけど……え?これトマトジュー……え?ちょ、え?)
斉木(『術式を組んで治療してください』とでも言うつもりだったろうが……もう治療は終わってる)
斉木(撒き散らされていた血も今となってはトマトジュースだ……これ以上何を望む)
禁書『…………』
禁書『……すいません、間違えました』
斉木(台無しだよ)
禁書「二人とも、どうもありがとう!」
上条「礼なんか言うなよ……で、あいつは一体なんなんだ?」
禁書「……多分、私が持ってる十万三千冊の魔術書を狙ってるんだと思う」
斉木「…………」
斉木(大体の事情は把握したが、ずいぶん厄介なことになった……おそらくあの魔術師はまたやってくるだろう)
斉木(僕が撃退でもしようものなら……目立つどころの騒ぎじゃない、確実に僕も狙われる)
斉木(……なら)
上条「インデックス……心配するな」
斉木(この上条をヒーローにしてしまえば問題はない……!)
斉木(僕はあれだ、ドラゴンボールで出てきた戦いを見守る犬の国王くらいのポジションでいればいいだろう)
上条「お前は俺たちが必ず護ってやる!」
斉木(『俺たち』じゃない『俺』だからな、正しくは)
翌日、某所
斉木(……どうやら上条当麻には妙な力があるらしい)
斉木(どういうわけか彼の思考は僕に流れて来ないし、体が透けて見えることもない……)
斉木(魔術を打ち消していたことからも彼には何か特別な力があると考えていいだろうな)
斉木(ただ……上条一人ですべてを解決させるのはさすがに不自然だと思う)
斉木(……相棒が必要だろう、水谷豊には寺脇康文が必要なように。やはり神戸くんより亀山くんだ)
斉木(ちなみに最近は午後3時から相棒祭りをやっているから是非見てほしい)
斉木(ここにはレベル5と呼ばれる超能力者が7人いるらしい……あの御坂美琴とかいう中学生もその一人だそうだ)
斉木(彼女を味方に引き込むのもありだが……どうにも彼女は僕が一般ピープルであることに疑いを持っているらしい)
斉木(その辺は彼女の意識を変えたりすれば解決なのだが……)
美琴『無視すんなって言ってんでしょ!』
斉木(正直、なんていうか、絡みにくい。というか上条と一緒にしとくと心の声がうるさい)
斉木(彼女を除いて味方につけるべき人物を考えると、必然的に一番強いとされる人物になるだろう……)
斉木(彼なら多少の無茶をしても色々と何とかなるだろう、そっちに目が向けられれば僕も動きやすい)
斉木(今日からの目的が決まった……『一方通行を味方に引き入れる』……あと相棒を見る)
斉木(この能力がどこまで応用出来るかは分からないが……何にせよ一位には変わらない)
斉木(とりあえずは彼がどんな人物か、実際に見て確かめて見るとしよう……)
・・・
斉木(と言うわけで来てみたが……)
一方通行「へェ、オマエ本当に面白ェわ……」
上条「くっ……」
斉木(お前たちは何をやっているんだ)
一方通行「あン……誰かいやがるのか……?」
斉木(この状況で彼に見つかるのも面倒だ、ミスディレクションを使って影に……)
上条「さ、斉木!」
斉木(なぜオーバーフローさせた)
斉木(右腕に秘密があるようだが……今はそれどころじゃない)
一方通行「なンだ……オマエの知り合いか」
上条「止めろ!俺と斉木は関係もない、同じ部屋で暮らしてるただのルームメイトだ!」
斉木(同じ部屋で暮らしてるって時点で関係があるだろ)
上条「これは俺とお前の勝負だ!あいつを巻き込むんじゃねえ!」
斉木(だから極的に巻き込みに来てるのはお前だろ)
斉木「…………」
斉木(……大体のことは読めたな。つまり、このお嬢さんがあの一方通行に狙われていたと)
斉木(それを知った上条が助け舟を出してると……この女性はあの御坂美琴の妹か)
斉木(まったく、ずいぶんとお人好しだな……当然、僕だって好き好んで誰かが死ぬ場面をみたい訳じゃないが……)
斉木(その人物を助けに入ったことで自分が死ぬリスクを負うのなら関わりたくない、僕は死ぬことはないけども)
斉木(まあ上条の信条に僕が口出ししても仕方ない……前のように眺めているとしよう)
斉木(ですよね先輩、もう大人の余裕見せて軽く受け流す感じで頼みますよ)
一方通行(久々に退屈しなさそうな玩具が来たじゃねェの……少し遊んでからブッ壊すか)
斉木(いや先輩、それはおかしい。え?ちょっと何ですか?先輩あれですか?全てをぶっ壊したい病ですか?)
御坂妹(このままだと間違いなくあの人は殺される……しかしミサカの体ではもう……)
斉木「…………」
斉木(マズい、あの第一位……ガチで殺りに来ているのか)
斉木(まあ……昨日今日会ったばかりの上条は危険を冒してまで間柄じゃない、これで死んでも自己責任だ)
斉木(僕はそこまでお人好しじゃない)
斉木(……いや待てよ。万が一、上条が本当に殺されてしまったら……!)
マスコミ『今、殺された上条当麻さんの同居人が姿を現しました!』
『斉木さーん、何か一言をー!』
『ギロチンのまさゆきについて一言ー!』
斉木(それはマズい!!)
斉木(ガチで殺し合いをするつもりの第一位、一方通行……その相手をする上条当麻)
一方通行「行くぜェ……せいぜい頑張って避けるンだなァ」
斉木(二人の戦いに色々と水を差すことで……このガチな殺し合いの空気を……)
上条「くっ……オオオオッ!」
ナレーター『一斉に相手を打ちのめすべき飛び出した二人……』
斉木(ガチンコファイトクラブレベルにまで変えてやる)
『次の瞬間、信じられない出来事が引き起こされる!!』
一方通行「ぐっ……は……!」
一方通行(なン……だと……反射が効いてねェのか……?)
一方通行「テメェ……一体……!」
上条「ウオオオォォォッ!!」バキッ!!
一方通行「がっ……クッソがァァァ!」
御坂妹「どういうことですか……第一位と真正面から戦って勝負になるなんて有り得るはずが……」
斉木「…………」
斉木(やれやれ……まったく面倒を掛けられるな……)
斉木(皆は僕が手を貸していないと思うだろうが……いつから僕が何もしていないと錯覚していた?)
斉木(ヒントはさっきそこの妹さんが口にした言葉だ)
『第一位と真正面からやり合って勝負になるなんて』
斉木(……疑問に思わなかっただろうか、なぜあの一方通行はわざわざ『真正面からやり合って』いるのかと)
斉木(上条の右手が自分の能力を無効にしていることくらいすぐに気が付くだろう)
斉木(だったら話は簡単で……離れて戦えばそれですむはずだ)
斉木(例えば)
上条『掛かって来やがれ!一方通行!』
一方通行『オッケェ、じゃあ今からこの小石、音速でオマエにぶつけるわ』
上条『…………』
斉木(ぶっちゃけこれで決着がつくだろう)
斉木(僕がそうなるよう、彼の意識を誘導しているのだ……)
斉木(彼は色々と能力を反射してしまうようだが上条のような問答無用で無効化、というわけでもないらしい)
斉木(だったら意識をそらす程度、いくらでも方法はある……)
斉木(とりあえず、これで理不尽な形で勝負に幕が下ろされることはないだろう)
斉木(さて……次の問題は……)
一方通行「いくらその右手が妙な力を持ってよォと……捕まらなきゃ問題はねェ」
上条「くっ……!」
斉木(……近接戦闘に限定させても、やはりあの速さにはついていけないか)
一方通行「終わりだ……」
ブンッ
一方通行「!?」
一方通行(は、外しただと……?)
上条「らあっ!」バキッ
一方通行「がっ……て、テメェ……一体何を……!」
上条「喧嘩慣れはしてないみたいだな一方通行、早く動けても目測を誤ってちゃ世話ないな」
一方通行「…………!」
一方通行(どォなってンだ……今のをアイツはかわしてねェ、そんな動きすら見せなかったはず……)
斉木(ああ、上条自身はかわしてなんかないよ……動いたのは上条じゃない、上条が乗ってる地面だ)
一方通行(ここまでのことを全てあの無能力者一人でやったとは思えねェ……まさか)
斉木(しまったな、さすがに露骨な乱数調整をしすぎたか……)
一方通行「なァるほどな……そォいうカラクリってわけか」
上条「何言ってんだ……お前……」
一方通行「面倒で愉快なことしてくれてンじゃねェの……俺の敵は一人じゃなかったってワケだ……なあ」
「そうね」
一方通行「!」
上条「おっ、お前……なんで……!」
美琴「アンタの相手はそいつ一人じゃないわ!」
一方通行(第三位……まさか、さっきまでの妙な小細工をしてやがったのはあの斉木って奴じゃなく……)
一方通行「やってくれンじゃねェの……オマエ……!」
斉木「…………」
斉木(計 画 通 り)
斉木(通常ならば起こり得るはずのない苦戦を強いられ、なおかつ目の前にいる敵は右手以外に何の能力もない…)
斉木(この御坂妹さんは上条がやって来るまで戦っていただけあり、手の内は全て割れている)
斉木(だとすれば……一連の不可思議な現象を起こしていると考えられるのはこの場では僕しかいない)
斉木(だが……そのタイミングで……)
美琴「アンタに勝てるとは思ってない、けど……戦わないで逃げる訳にはいかないのよ!」
斉木(御坂美琴が現れれば必ずそちらに目が向くだろう……何しろ、彼女は自分と同じレベル5なのだから)
斉木(そして)
『第三位は自分より格下だ、自分より遥かに弱い、だがそれでもレベル5……戦闘を攪乱することくらいなら……』
斉木(そう考え、僕に対して向けていた疑いを彼女にぶつける……そして僕への注意が逸らされる、と)
斉木(全ては僕の思い通り……目立ってない、僕は今!完全にこの戦闘において空気と化した!)
一方通行「うざってェ……まとめて吹き飛ばされてェのか!!」
一方通行「こきかくかかくかきかここ……」
美琴「そ、そんな……空気を圧縮して……そんなことが……あんなのどうにも……!」
斉木(いや、あの、うん。もうちょっと頑張れない?)
上条「みんな手を挙げるな!元気を吸収されるぞ!!」
斉木(お前どれだけ頭の中が光る雲を突き抜けてFly awayすれば気が済むんだ)
斉木(しかしなるほど、相当なエネルギーが蓄積されているな。色々と物理法則を無視してる気がするけれども)
斉木(あれが炸裂すれば……まあ一般人なら生きてはいられないだろうな)
斉木(これはさすがに僕一人で目立たずにどうにかするのは無理だな、どこかへ逃げるべきか……)
御坂妹「はっ……はっ……」
御坂妹(助けなければ……ミサカのために戦うあの人を……私を妹と呼んでくれたあの姉を…)
斉木「…………」
斉木(いや……一人で逃げても、重傷者や死人が出てしまってはその場にいた僕も結局は目立ってしまうか)
斉木(やれやれ……まったく)
斉木(どこまでも手間のかかる)
一方通行(----!----!)
斉木(しかしすごいな……彼の思考が流れ込んでくるが凄まじく複雑な演算だ……)
斉木(ただ……これなら……)
美琴「くっ……」
美琴(ダメだ……これだけのエネルギー、私一人の力じゃどうにも……!)
--空気の流れを変化
美琴(えっ……?)
--まものAは、なかまをよんだ!
美琴(な、なに……テレパシー?一体誰が……!)
美琴「でも待って……あいつが演算してる空気の流れが自然のそれだけだとすれば……!」
美琴「お願い!アンタの力を貸して!」
御坂妹「えっ……?」
斉木「…………」
一方通行(なンだ……この空気の流れ、明らかに自然なものじゃ……!)
一方通行「あの風車……まさかテメェ……!」
美琴「気が付いたみたいね……そう、あの子たちよ」
一方通行「…………!」
上条「終わりだな……幕を引こうぜ、一方通行!」
一方通行「オマエみてェな最弱のレベル0に……最強の俺が……」
斉木「…………」
斉木(やれやれ……まったく、本当に出来過ぎなストーリーだったな……)
上条「行くぜ最強(さいじゃく)……俺の最弱(最強)はちっとばかしひ」
斉木(いいから早く殴れ)
一方通行「っ…………」
上条「はっ……はっ……」
御坂妹「終わった……のですか?」
上条「ああ、お前のおかげだよ……ありがとな、御坂妹……それに、御坂も来てくれて助かった」
美琴「…………」
上条「……御坂?」
美琴「えっ……ああ、ごめん……何?」
上条「いや……ありがとうなって、最後の風車を回すのだってお前が思い付いてくれたから……」
美琴「う、うん……」
美琴(あの声って……一体……)
斉木(さあ……気のせいだったんじゃないかな)
斉木「…………」
一方通行「…………」
斉木(……ちょっと待て、僕は何をしにここへ来たんだ?)
斉木「…………」
斉木(一段落……着くっていうか……段落そのものがなくなったな)
早く殴れ
・・・
斉木(しかし困ったな……まさか仲間に引き入れようとしたらその仲間を打ち倒す感じになるとは……)
斉木(まあ、あの様子なら御坂姉妹はいざという時は協力してくれそうだが……)
斉木(さながら、更木剣八を仲間にしようと思ったら朽木兄妹辺りが仲間なった感じか)
斉木(悪くはないが……さて……どうしたものか……)
一方通行「…………」
斉木「…………」
一方通行「……顔貸せ」
斉木(おっふっ……け、剣八……さん……)
斉木(マズいマズい、非常にマズい。学園都市の第一位と二人でお洒落なキャフェでコーヒーだなんてこの上なく目立つ)
一方通行「ビクついてンじゃねェよ……こンな人目に付くところで派手なことなンざしねェ」
斉木(むしろ僕はその人目そのものが怖い)
一方通行「……まあいい、話は単純だ」
斉木「…………」
一方通行「オマエだろ……あン時、色々と小細工仕掛けてやがったのは」
斉木「…………」
斉木(戦いが終わった後だったとしても、そこに気が付くとは……やはり天才か)
斉木(どこかのお花畑とはやはり違うな)
どっかのアホ中学生とはわけが違うぜ
斉木(それは僕がそういう風に意識を誘導したからな)
一方通行「何故か目標を誤って外すはずのねェ攻撃を外したり」
斉木(ああ、それも僕が外したからな)
一方通行「妙に都合のいいタイミングで現れた第三位……」
斉木(ああ、彼女がこっちに向かってると察知してから合流までの時間調節には大分苦労したな)
一方通行「三下が的外れなことを抜かして油断させにかかってきたのも……」
斉木(あ、それ僕じゃないです)
斉木(……大したやつだ)
一方通行「一つの能力じゃ……これだけのことは対応しきれねェ……」
斉木(こいつ……かなりの切れ者……)
一方通行「加えて、三下に頭が抜けてるよう振る舞うことまで指示してやがったと来た……」
斉木(もう僕が指示したってことでいいよ、もう)
一方通行「……オマエ、一体何なンだ?」
斉木「…………」
一方通行「……ハッ、言いたくねェンなら聞きやしねェがな」
斉木(どうする……この第一位なら何か話しても問題はないのかもしれないが……)
一方通行(チッ、話しやがらねェか……今度コイツがコンビニで並んでたら前に横入りして宅急便申し込ンでやる)
斉木(色んな意味でとんでもない嫌がらせだな)
某所
一方通行「オマエには少し興味があってな……仮にオマエがマルチスキルの能力者だとすれば……俺も色々と知りてェことがある」
斉木(少なくともコンビニの宅急便とかセコい復讐を考えてる奴に話すことは何もない)
斉木(さて……とりあえずは上条家に一旦帰宅……)
上条「…………!」
一方通行「あそこにいンの……三下じゃねェか?」
斉木(魔術師フラグだ)
上条「テメェは……!」
神裂「神裂火織、と申します。インデックスを……彼女を保護しに来ました」
斉木(うん知ってた)
斉木(チッ……バレていたか、これだから魔術師は……)
一方通行「オイオイオイ、なンだなンですかなンなンですかァ?随分な面白イベントが炸裂してるンじゃねェか?」
斉木(なんでお前はそんなに嬉しそうなんだ)
一方通行(あの三下守ることに漕ぎ着けて憂さ晴らしする絶好の機会が来たじゃねェか)
斉木(ああ、そう)
上条「それはつまり……インデックスを大人しく渡せってことかよ」
神裂「そういうことになりますね」
上条「ふざけんな!あの炎の魔術師みたいにいきなり襲ってくるような連中に渡せるか!」
神裂「以前は……歩く教会が破壊されているとは思わなかったので、私も少々やり過ぎてしまいましたね」
上条「以前って……まさかお前、前にもインデックスを……!」
神裂「あなたの家の前にあの子が倒れていたことがあったでしょう……あれは私がやったことです」
斉木(ああ、血だらけであのシスターが倒れていた件か)
上条「ふざけんなよ……なんで……」
神裂「私も……あそこまでするつもりはな」
上条「なんでテメェはトマトジュースを零しやがった!」
神裂「…………」
斉木(ごめん、そうだった。何かそんな感じにしてたね)
斉木(そのリアクションをしたのは君で三人目だよ)
上条「インデックスの奴は気絶してたんだぞ……お前が派手にぶちまけるから!」
斉木(もうそろそろ止めろ、見てるこっちが恥ずかしくなるから。いやホントに)
神裂「…………」
神裂(あの子はそんなにトマトジュースが……覚えておきましょう)
斉木(君も大概な馬鹿だな)
斉木(戦いは避けられない雰囲気だな……というか何だあの刀、どうやって鞘から抜くつもりなんだ?)
上条「ああ……ならねェな!」ダッ
一方通行(なンで能力の分からねェ相手に真っ直ぐ突っ込むンだあの馬鹿は)
斉木(君も似たようなことしてたけどね)
神裂「七閃……」
上条「ぐっ……!?」
上条(なんだ……右手の能力が効かない……?)
斉木「…………」
斉木(なるほど……レベルを上げて物理で殴ってきたか)
一方通行「チッ、馬鹿が……何やってンだ、あの三下は」
斉木(こっちには剣八がいる、一瞬でザラキを掛けてくれるだろうさ)
斉木(だから……上条……)
バキッ
上条「ぐっ……あ……!」
斉木(心置きなくメガンテでもなんでもするがいい)
気がつかなかった…
神裂「?」
上条「あの魔術師にしろアンタにしろ……それだけの力があるのになんで……なんでそんなことしかできねェんだよ」
上条「弱い俺とは違うだろ!それだけの力があれば誰だって守れるのに!誰だって救えるのに!」
上条「なのになんで……そんなことしかできねェんだよ……」
斉木(始まったか……メガンテが)
一方通行(前から思ってたけど話が長ェ)
上条「…………?」
神裂「十万三千冊の魔導書を持つあの子は……私の親友なんですから……」
上条「なん……だと……?」
一方通行(いや……そォいうお涙頂戴はいいンで、とっとと本筋を話せ本筋を)
斉木(気が短いな……お前とはサスペンスを見られないな、自供シーンはこんなモンじゃない)
斉木(今日の相棒なんか特に長かった……しかしまさか病院の医師のうち三人がグルだったとは……)
録画見るのを楽しみに待ってる子もいるんですよ!ここに!
上条「それが十万三千冊の正体だろ……見たものを全て残さず覚える能力……」
斉木「…………」
斉木(完全記憶能力……あのシスター、そんな能力を持ってたのか)
神裂「彼女の脳の八五%以上は禁書目録の十万三千冊に埋め尽くされてしまっている……」
斉木(……What?)
神裂「彼女は残りの十五%しか脳を使えない……常人と同じように生活していれば脳がパンクしてしまうんですよ」
斉木(……Pardon?)
斉木(いや、その理屈はおかしい)
上条「そんな……そんなわけ……」
斉木(なんでお前は狼狽えているんだ、こんな話に騙さ……)
神裂(上条当麻……この少年はあの子を思いやってくれている……でも、それでも記憶を消さなければあの子は……)
斉木「…………」
斉木(『真性』か、この魔術師は)
斉木(うわぁ)
神裂「--あなただって、一週間前の晩御飯なんて覚えていないでしょう?」
斉木(いやそんなドヤァって感じで言われても)
神裂「忘れることのできない彼女が生きていくには、誰かの力を借りて忘れる以外に道はないんです」
斉木(……これ、一方通行はどう思ってるんだ?完全に呆れかえってるんじゃないか)
一方通行(Zzz……Zzz……)
斉木(ゲッ、ゲェーッ!こ、こいつ……立ったままKOされてる!?)
「何だよそりゃ…立ったふざけんな!俺はインデックスの味方だ、どんな時でもな!」
神裂「…………」
斉木(あ、マジで切れる五秒前)
「何で説明して誤解を解いてやらない!何で敵として追い回してんだ!アイツの気持ちをなんだと思っ」
神裂「うるっせえんだよ、ド素人が!!」
斉木(君も大概なド素人だがな)
上条「ぐっ……あっ……」
斉木「…………」
神裂「あなたなんかに……何が……」
斉木「!」
斉木(あの太刀でフルスイングは……マズい)
神裂「あなたなんかに何がわかるって言うんですか!!」
ブンッ
上条「くっ……」
ガシッ
上条「……え?」
斉木「…………」
神裂「私の七天七刀を受け止め……あなたは……?」
斉木(……やってしまった)
神裂「あなたは……上条当麻の知り合いですか?」
上条「俺の友達だ……インデックスの話とは関係ない」
神裂「……部外者であるなら手を出さないでくれますか、これは私たちの問題です」
斉木「…………」
斉木(まったく、たちが悪いな……自分が言った話が本当だと信じ込んでいるから余計に扱いにくい……)
ステイル「……時間が掛かりすぎだよ、神裂」
斉木(そして、なんで面倒な奴が増えるんだ)
斉木(どこで覚えたか知らない知識を口走るよりかはここで一発、恥をかいておいたほうが幸せだろう……)
神裂「……何か、言いたいことでも?」
斉木(察しがいいな……じゃあなるべくオブラートに、外角低めを変化球で攻めるレベルで……)
一方通行「あン?そこの馬鹿が曰ってた馬鹿みてェなクソ脳科学の御高説はもう終わったのか?」
神裂「!?」
斉木(ジャイロ回転掛かったストレートで真ん中投げてきたよ)
神裂「そんな……私たちは真面目な話をして……!!」
一方通行「脳の構造についてクソみてェな知識しかない奴がほざいてンじゃねェよ」
一方通行「この--ド素人が」
神裂「…………っ!」
斉木(なんて美しいブーメランの軌道だ)
ステイル「何がおかしい……!」
一方通行「例えばだ……」
キィン
ステイル「うっ!」
一方通行「今オマエを吹っ飛ばしたのはベクトル操作によるものだが……能力を使うには演算が必要なンだよ」
神裂「演算……?」
斉木(えんざんと聞いてロックマンのライバルを思い浮かべた人と僕は仲良くなれる気がする、ちなみに僕は3派だ)
一方通行「演算において今まで俺は凄まじい量の情報を処理してきたンだがなァ……」
一方通行「どういうわけだ?パンクどころかむしろスッキリしてやがる」
斉木(それはさっき寝てたからだろ)
『十五%しか脳を使えない、完全記憶能力者のインデックスは一年も立てば脳がパンクする』
斉木(確かに完全記憶能力者っていうのは珍しい体質だが……世界に一人しかいないレベルの稀少価値じゃない)
斉木(完全記憶能力者が仮に脳の十五%も使って一年分の記憶しか溜められないなら……)
斉木(彼らは六歳か7歳までには死ぬって結論でファイナルアンサーだ……)
斉木(だからそこまで脳医学に詳しくない僕でも直感で分かった……)
斉木(嘘だろ、常識的に考えて……なのに)
一方通行「っつーわけでだ、オマエらの刷り込まれた知識は全部ゴミなンだよ」
神裂「そんな……」
ステイル「まったく……気が付かなかった……」
斉木(どいつもこいつも馬鹿ばかり……)
ステイル「だが……それなら一年周期であの子がうなされる原因は……一体……」
神裂「それを調べるのは私たちの仕事です……あなた達には迷惑を掛けました」
一方通行「…………」
斉木「…………!」
斉木(ちょっと待て、重大なことに気が付いてしまった……まさか……今の僕は……)
斉木(上条よりも目立ってしまっているんじゃないか?)
斉木(お)
上条「俺たちに謝ってどうするんだ……テメェらが謝らなきゃならない相手は他にいるだろうが!」
斉木(リーチ)
神裂「!」
一方通行「珍しく意見が合うなァ三下……オマエら、真実を知ったことが今までの贖罪になるとでも思ってンのか?」
斉木(味方が現れる演出のスーパーリーチ)
上条「お前らが記憶を消したインデックスは……この世から消えちまったインデックスはもう戻らない!」
上条「そいつらに対して何の言葉もないのかテメェらは!」
斉木(ボーナスステージ突入……勝ったな)
一方通行「体に付いた汚れってのはもう一生落ちることはねェよ……一生な」
ステイル「…………」
上条「だからそいつを忘れちゃダメなんだ……お前たちが記憶を消した今までのインデックスのことも!全部だ!」
上条「それを魂に刻み込んで……これからどうするかを考えろ!」
神裂「…………」
神裂「あの子に……謝ります、ちゃんと向き合って……心から」
ステイル「……ああ、そうだな」
斉木(……目立っていない。完璧だ)
数日が経ち
禁書「はぁ……はぁ……」
上条「くそっ……何なんだよ、コイツを苦しめてる物の正体は!」
神裂「あなたが分からなくても仕方ありません……専門家の私たちですら突き止めることが出来なかったのですから」
ステイル「だが……今回は大きな収穫があった、癪だがちゃんと礼は言わせてもらうよ」
御坂妹「科学の観点からも手を尽くして調べましたが、条件に一致する病名は発見出来ませんでした。と、ミサカは報告します」
上条「ありがとうな御坂……いきなり面倒かけて」
美琴「いいわよ……人の命が掛かってることなんだから……」
一方通行「チッ……」
斉木(不謹慎極まりないのを承知で言うが、こういう種の分からない謎解きは嫌いじゃない)
斉木(科学技術においては最高レベルのこの街で該当する事例がないということは……やはり魔術による物だろう)
斉木(しかし……どうやら彼女は『歩く教会』と呼ばれる防護壁に身を守られていたらしいが……)
斉木(ということは……どういう……)
禁書「はぁ……はぁ……」
斉木「…………」
斉木(透視してみたら……何か見えたぞ、喉の奥に)
御坂妹「お姉さまもやはりそう思われますか、とミサカは姉の考察に賛同します」
美琴「それも普段、他人に触られたり見られたりしないような……そういう……」
斉木(ナイスアシストだ御坂姉妹、あとでハッピーターンまでなら奢ろう)
神裂「そんな場所ていえば……口の中……とか、でしょうか」
上条「悪い……少し見せてくれ……」
上条(……なんだこれ、喉の奥に何かが)
キィン!
美琴「ちょっとアンタ!何やってんの!?」
上条「喉の奥に何かあったんだ……それに右手の人差し指で触れた途端……弾き飛ばされた!」
ステイル「これは……まさか……」
神裂「あの子が……魔術を……?」
御坂妹「なんにしても……戦闘準備をすべきですね、とミサカは慌てつつも状況を冷静に判断して進言します」
一方通行「ハッ……面白ェ仕掛けじゃねェか」
斉木「…………」
斉木(異能の力を打ち消す能力者に……学園都市の第一位……第三位とその妹、加えて魔術師が二人か……)
斉木(…………)
斉木(楽勝じゃないか)
上条「インデックス……今助けてやるからな、行くぞ斉木!」
斉木(なぜ僕に振る)
斉木「…………」
斉木(いや待て、おそらく今からこの操られた?インデックスと戦うんだろうが)
斉木(これだけの駒が揃っているんだ。はっきり言って、僕は必要ないだろう)
禁書「--『竜王の殺息』」
神裂「ドラゴン・ブレ……よ、避けてください!」
上条「くそ……この野郎が!」キィン
神裂(そんな……あの一撃すら打ち消してみせるなんて……)
一方通行「三下ァ!」
上条「この攻撃は俺が抑える!あとは頼んだぞ!みんな」
美琴「手荒になるけど……やるしかないわね」バチバチ
御坂妹「了解です」バチッ
斉木「…………」
斉木(僕は目立つことをなるべく避けて生きてきた)
上条「ぐっ……うっ……!」
斉木(そうするのが正しい選択だと思っていたし、それが間違いだったとも思わない)
美琴「何なのよあれ……電撃が弾かれてる!」
御坂妹「こちらの攻撃に対する防御障壁を展開しているのでしょう、とミサカは推測します」
斉木(だけれど)
一方通行「耐えろ三下ァ!!こっちは必ず何とかする!!」
斉木(自分以外の全員が命を懸けて動いているこの状況で何もしないのは)
ステイル「神裂!竜王の殺息に対抗する魔術結界は!」
神裂「術式を組み上げるのに時間が掛かりすぎます!」
斉木「尚更、目立つことになるじゃないか」
斉木(単に勝つだけならば無理やりに押し込んでごり押ししてもいいが……)
斉木(それによってインデックスやその他の誰かが傷付いてしまっては元も子もない)
斉木(なら……)
禁書「第一標的である上条当麻の位置が上空へ移動……攻撃の軌道を修正します」
上条「上空へ移動……?」
斉木(あの攻撃そのものをどうにかするのが難しいなら……攻撃される標的の認識をずらせばいい)
斉木(……衛星とか打ち落とさなければいいが)
美琴「急いで一方通行!」
一方通行「黙ってろ!もォ少しで障壁の解析が終わる!!」
斉木(一方通行がやってるが……さすがに魔術の解析なんてのはやったことがないらしいな)
斉木(もうしばらく時間がかかるとして……次にすべきは、インデックスに新たな動きをさせないことか)
禁書「竜王の殺息を継続使用、かつ他の侵入者に対しても同時攻撃を加えます」
ステイル「来るぞ……イノケンティウス!」
神裂「Salvare000!」
ステイル「これは……イノケンティウス!?」
美琴「違う……あたしが今までに放った電撃も……!」
斉木「…………」
斉木(なるほど……今までに自分が受けた攻撃と同等のものを相手に向けさせる食らわせる術式か)
斉木(面白いじゃないか、やってみるといい……僕がなんとでもしてやろうじゃないか)
バチバチ
斉木(電撃か……確かにこれだけの電撃、当たれば少しは堪えるが……)
斉木(当たらなければどうということはない)
ステイル「面白いじゃないか……あの子を護るための僕がいつも使ってきた術式だ……」
ステイル「僕のイノケンティウスがどれほどの力を持っているか……試させてもらうよ」
斉木(そして……神裂火織による七閃、これはどうするか……ちょっと時間を止めて考えよう)
斉木(さて、と……七つの線が一度に襲いかかってくるわけか……難しい)
斉木(…………)
斉木(……普通に時間が止まっている間に攻撃が届かないところまで退避すればいいのか)
斉木(もう終わったのか、さすがに早い。ちょっと奮発してブラックサンダーを奢ってやろう)
神裂「上条当麻……障壁が消えたら一気に駆け抜けてください、私たちがサポートします」
ステイル「その右手で魔術に支配されたあの子に触れれば……それで、僕たちの勝利だ」
御坂妹「失敗したらかっこ悪いですね、とミサカはある程度のプレッシャーを掛けつつ鼓舞します」
美琴「大丈夫、あんたなら出来るわ」
斉木(僕から言いたいのはただ一つ、余計な言葉の前にとりあえず手を出せ)
上条「うおおおっ!」
美琴「あいつへの魔術攻撃、全部撃ち落とすわよ!」
御坂妹「はい」
斉木「…………」
斉木(まったく、本当に慣れないことをした。まさかちょっとした戦闘までするとは……)
斉木(目立つのを極端に嫌がる僕がここまでやったんだ、何が何でもやり遂げてくれよ)
上条「この物語が神様の創造したシステムの通りに動いてるってんなら……」
まずはその幻想をぶち殺す!
キィン!
禁書「…………」
美琴「こ、これで……終わったの?」
斉木(あ、ちょ、それはフラ)
ステイル「いや、まだだ!」
斉木(フラグですよね)
御坂妹「あれは……羽、でしょうか。とミサカは見たままの感想をそのまま言葉にします」
神裂「ダメです!この羽に触っては!」
美琴「あんた!早くその子を連れてこっちに!」
上条「ああ、今行く……っ!」
上条(足が……動かねえ!)
神裂「ここにきて……上条当麻の体にダメージが……!」
斉木「…………」
一方通行「オマエ……待て!斉木!」
美琴「ちょ……ちょっとあんた何やって!」
御坂妹「!」
やはり、普段目立たないよう努めている人間は
ステイル「よせ!死にたいのか!」
神裂「危険です!あなたの命が!」
やはり、どんな局面であっても
上条「さ、斉木……っ?」
斉木(テキサス・コンドル・キーック!)バキッ!
上条「うあっ!」
神裂「け、蹴り飛ばされた上条当麻はこちらへ回帰しましたが……代わりに……!」
上条「さ、斉木ィィィ!!」
馴れないことをするものじゃない
全員が安全確保のためにその場を一度離れることとなる。
そして羽が降り止んだとき、再び決戦の場に足を運ぶと
そこに斉木楠雄の姿はどこにもなかった。
忽然として、最後に仲間を守り姿を消した斉木楠雄。
彼は今---生きているのだろうか。
斉木「生きているに決まってるだろ」
斉木(しかし僕も流石に慌てたか……移動した先がまさか)
つちの なかに いる
斉木(まあ、それでもこうしてちゃんと脱出できたんだ……とりあえずは良しとしよう)
斉木(果たして学園都市内で僕はどんな扱いになっている?とりあえず多少なりとも注目されてる可能性が高いな)
斉木(ちょうどいい、体験入学もこれで終わりだ……このまま僕の住んでいる街まで帰るとしよう)
斉木「!」
美琴「……悪かったわね、初対面のときは」
斉木(本当にな、あれは是非深く反省してほしい)
御坂妹「お元気で……とミサカは無難な別れの言葉を粛々と伝えます」
斉木(言うことないなら無理はしなくていい)
ステイル「……フッ、やってくれたね」
斉木(いや何を?)
斉木(……どうも)
神裂「聞き忘れてました……高校生のあなたから見て、私は一体何歳に見えているのでしょうか」
斉木「……18歳で」
神裂「斉木楠雄!必ず!また!会いましょうね!」
斉木(喜びすぎだろ、実年齢をそのまま口にしただけだぞ僕は)
神裂(初対面の方に十代に見られたのは生まれて初めてです!今日は赤飯ですね!)
(なんかすいませんでした)
一方通行「マルチスキルを持つレベルmの軌跡が見えたんだ……そンだけでもう言うことはねェ」
斉木(頭が切れたり、時には寝ていたり僕は君が最後までよく分からなかったよ)
上条「本当に……ありがとうな、最後は助けてくれて」
禁書「私ととうまのために命懸けで助けに来てくれて……ホントにありがとう!」
斉木「…………」
斉木(やはり、馴れないことをはするものじゃないな)
斉木(この僕が他人から感謝されるなんて……よほど目立つことをしたらしい)
斉木(まったく、とんだψ難だったな)
fin
燃堂とかとの後日談とか書こうかと思ったけど勘弁して
面白かった!
麻生先生毎週楽しみにしてます
すげー良いまとめ方したな
麻生先生の次回作にご期待ください!
機会があったらまた斉木SS書いてくれよな
期待してる
後日談でも違う話でもいいからまた書いてください
楽しかったぞ先生!
Entry ⇒ 2012.08.24 | Category ⇒ 禁書目録SS | Comments (1) | Trackbacks (0)
十文字かほ「ようこそ、占い研究会へ」
十文字「これで……よしっと」ゴトン
HRが終了すると、私はすぐに自分の机を廊下に出した。
机の前には、
「占い・相談 一件20分」
というはり紙をさげてある。
伊達や酔狂でこんなものを掲げているわけじゃない。
これが私の『部活』だ。
「あのー……」
十文字「はい?」
ほら、今日もお客さんがやってきた。
「占い研って、ここですか?」
十文字「――ええ」
自己紹介がまだだったかな。
私の名前は、十文字かほ。
十文字「ようこそ、占い研究会へ」
占い研究会の部長にして、唯一の部員だ。
――――
普段の部活は一人で占いの勉強をするくらいなのだけれど、
週に一回ほど、こうやってブースを出して他の生徒を占ったりしている。
フィールドワークというやつだ。
ちなみにお金は取っていない。
私の研究を手伝ってくれる人からお金なんて取れないから。
というのは建前で、校内で金銭のやり取りはいろいろとまずい。
??「あの……」
ほら、噂をすればお客さんだ。
十文字「いらっしゃい」
伊原「占い研って、ここでいいのよね……?」
ああ、この人は……知ってる。
同じ学年の伊原摩耶花さんだ。
えると同じ古典部で、図書委員もしていたはずだ。
そして……、
十文字「ええ。何か占ってほしいの?」
伊原「う、うん」
伊原「―――恋愛運を、占ってほしいんだけど」
彼女には、好きな人がいる。
………
………………
………………………
占いをしていると、自然に校内の噂は集まってくる。
特に、色恋沙汰に関しては必要以上に。
伊原「……中学の時から好きな人がいて。あ、その人も神高なんだけど」
十文字「うん」
彼女の好きな人というのは、福部君のことだろう。
福部里志君。私と同じ1年d組の男の子だ。
にぎやかなイメージだけれど、あまり話したことはない。
伊原「ずっとアタックしてるんだけど、手ごたえがないっていうか、誤魔化されてるっていうか……」
十文字「うんうん」
そして、この伊原さんが彼に対して熱烈なアプローチを続けているというのも有名な話だ。
伊原「それでも好きなことには変わりないけど、
このままじゃ埒が開かないと思うのよ」
十文字「……なるほど。それで恋愛運を占ってほしいってこと?」
伊原「う、うん……」
伊原さんが小さくうなずいた。
なるほど、恋愛運。
占いのジャンルとしてこれほどポピュラーなものもないだろう。
十文字「うん、わかった。じゃあ、名前と生年月日、あと血液型をこの紙に書いてくれる?」
私は伊原さんに小さなメモ用紙を手渡した。
伊原「ええ、わかったわ」
伊原さんが必要事項を記入している間に、私は占う対象――つまり彼女を眺める。
十文字(伊原さんが心配するようなことはないと思うんだけどな……)
ここだけの話、福部君の方も伊原さんを憎からず思っているのはほぼ確定事項だ。
これはいろんな方面から入ってきた情報で裏も取れている。
占いにあたって、こういう事前情報はノイズにしかならないという意見も根強いが、
私はそうは思わない。
占いは学問だ。
ならば、検証できるデータは多い方がいいに決まっている。
………
………………
………………………
伊原「書けました」
十文字「ありがとう。じゃあ占いに入りたいんだけど、どれにする?」
伊原「え?どれって……?」
十文字「タロット、手相、易、大体何でもできるけど」
伊原「ホント!?」
十文字「うん。太占とかは無理だけど」
伊原「太占!?」
廊下で火を使う占いは、さすがにまずい。
伊原「えっと、じゃあ手相でお願いします」
十文字「はい。ちょっと待ってね」ゴソゴソ
私は鞄から手相見用の虫眼鏡を取り出す。
まぁ、普通の虫眼鏡なんだけど。
十文字「はい、左手出して」
伊原「う、うん……」
伊原さんはこわごわと左手を差し出した。
十文字「………ふむふむ……へぇー……」
伊原「あ、あの……」
綺麗な手だ。小さくて白い、女の子の手だ。
ん?親指と中指の先に固いものがある。
……ペンだこ?
伊原「あ、あんまり見ないで!………はずかしいから」
伊原さんが真っ赤になって抗議してきた。
十文字「ごめんごめん。でも見ないと占えないから」
伊原「うぅ……」
伊原さんの手ばかりに没頭してはいられない。
彼女の手の線をじっくりと観察する。
うん、悪くない手相だ。
だけど………
十文字「うん、大体分かった」
伊原「本当に!?」
十文字「ええ」
伊原「それで、どう?私とふく……彼は上手くいきそう?」
十文字「………うーん、そうね。悪い方向にはいかないと思う」
伊原「ホント!?」
十文字「でも、すぐにってワケじゃない」
伊原「……えっ」
私の言葉に、伊原さんは露骨にがっかりした表情を見せた。
十文字「確かにいい線――幸運の兆しは見えるんだけど、事態はすぐには好転しない……
でも、それはあなたの力不足のせいじゃない」
伊原「どういうこと?」
十文字「これは私の勝手な憶測なんだけど……
多分、相手に原因があるんじゃないかな」
伊原「…………」
占った私にはさっぱりわからないけど、
どうやら彼女には心当たりがあるようだ。
十文字「その結果を踏まえて私が言えるのは……
『あきらめずにがんばれ』ってことくらいかな」
伊原「………それじゃ、今までと………」
私のアドバイスはあまりに月並みだったようで、
伊原さんはすっかりうつむいてしまった。
確かにこれが結果なのだが、依頼人が満足できなければ占いとは呼べない。
というより、ちょっぴり悔しい。
―――よし。
十文字「伊原さん、お役にたてなかったお詫びと言ってはなんだけど、
いいこと教えてあげる」
伊原「へ?」
十文字「ここを見て。線が入ってるのが分かる?」
伊原「………うん」
十文字「これは向上線と言って、目標に向かって絶えず努力できる人に出る線なの」
伊原「目標に向かって……」
十文字「だから、伊原さんの努力が報われる日は必ず来る」
伊原「…………っ」グスッ
十文字「それに、こんな可愛い女の子にアタックされて振り向かない男の子なんていないよ。
自信を持って。応援してるから」
伊原「………うぅ~~~~っ!!」グスグス
それから時間になるまで、伊原さんは机に突っ伏して泣き続けた。
………
………………
………………………
伊原さんは、落ち着くとすぐにお礼を言って帰って行った。
目は腫れてしまったけど、なんだか憑き物が落ちたような顔をしていた。
あの表情を見ることができただけで、今日のフィールドワークは成功と言ってもいい。
十文字(いいデータも取れたし、今日はおしまいにしようかな)
??「失礼。占い研究会の十文字さんかな?」
十文字「?」
お客さんかな?
遠垣内「壁新聞部の遠垣内だけど、すこし話を聞かせてくれないか?」
壁新聞部……ああ、『神高月報』の。
遠垣内「来月の部活紹介に載せる記事が欲しくてね。
今年新設された部に協力してもらってるんだ」
十文字「部と言っても、部員は私だけですけど」
遠垣内「事情はどこも似たようなものさ。部員の勧誘にもなると思うんだけど、
だめかな?」
……あんまり人が増えても仕方がないんだけどな。
十文字「……わかりました」
遠垣内「本当かい?いやあ助かるよ」
十文字「いえ。それで、聞きたいことというのは?」
………
………………
………………………
遠垣内「………こんなものでいいかな。十文字さん、ありがとう」
十文字「いえ」
遠垣内「それにしても占い研はずいぶんオープンに活動しているんだねえ」
十文字「フィールドワークですから」
遠垣内「フィールド?」
十文字「そうだ、せっかくですから、遠垣内先輩も何か占っていきますか?」
遠垣内「俺?いやいいよ。占ってほしいこともないし」
十文字「何でもいいですよ。将来のこととか、現在進行形の悩みとか」
遠垣内「……悩み?」
あ、食いついた。
十文字「まあ、無理にとは言いませんが」
遠垣内「待て、いや待ってくれ。
……何でも占えるのか?」
十文字「アマチュアですので、結果に責任は持てませんが」
遠垣内「いや……それでもいい。
聞いてほしいことがあるんだ」
………
………………
………………………
十文字「一年生から脅されている……」
遠垣内「そう」
先輩の口から語られた悩みというのはヘビィかつ何とも情けない話だった。
遠垣内「あのクソ生意気な一年坊主、この俺を顎で使いやがって……」
十文字「あの、そういうお話だとちょっと私の手には……
親御さんか先生方に相談された方が」
遠垣内「ダメだ!!!」ダンッ
十文字「」ビクッ
遠垣内「あ、いや……すまない。
だけどそれはダメだ。大人には相談できない」
十文字「はぁ……それで、私に何を占えと?」
遠垣内「そうだな。そんな感じで春からこっちツイてないからさ。
アレにこれ以上弱みを握られないように、何に気を付ければいいか占ってくれないか」
十文字「なるほど。厄除けですね?」
遠垣内「そういうことだ」
十文字「そういうことなら家でお御籤引いた方がいいと思うけど……
わかりました。やってみます」
遠垣内「そうか、助かるよ」
十文字「じゃあ、準備しますから」
………
………………
………………………
十文字「…………」
遠垣内「どうだ?」
十文字「……出ましたよ。ハッキリと」
遠垣内「本当か!」
十文字「ええ。こんなにはっきり出るのは珍しいんですけど」
遠垣内「……そんなに、はっきり出たのかい?」
十文字「ええ。
――――火難の相がクッキリと」
遠垣内「!!!」
遠垣内「!!!」
十文字「命の危険があるわけではないようです。
でも当分火の気には近づかない方がいいみたいですね」
遠垣内「………そ、そうか。気を付けるよ」
十文字「特に……火種には注意を払うべし、と出ています」
遠垣内「火種?」
十文字「ええ。ガスコンロとかバーナーとか、ライターとか」
遠垣内「ふざけるな!!」
十文字「………」
遠垣内「まさか……君まで俺を……」
十文字「あっ先輩、もう一つあります」
遠垣内「…………何だ」
十文字「ラッキーアイテムは消臭剤とブレス●アだそうです」
遠垣内「もういい!!!」
………
………………
………………………
十文字「あんなに怒る事ないのにな……」
十文字(何か疲れたし、今度こそ終わりにしようかな)
??「すまない」
十文字「はい?……ああ入須さん」
入須「久しぶりだな、十文字」
十文字「今日はどうしたんですか?父に伝言なら……」
入須「いや、今日は私用だ」
十文字「私用?」
入須「その………わかるだろう?」
十文字「……まさか」
入須「………わ、私も、占ってほしいんだ」
十文字「」
………
………………
………………………
十文字「自分のキャラ付けに悩んでいる……」
入須「……………そうだ」
十文字(めんどくさ……)
入須「お前も思っただろう?私に占いなんて似合わない、と」
十文字「いえ、別に……」
入須「私が悩んでいるのはそこなんだ」
十文字「……ああ、なるほど」
入須「私はこの神山高校で『女帝』というありがたくもない称号を頂戴している」
十文字(ピッタリだと思うけど)
入須「むろん、呼び名だけならさして問題はない。
そんなものは記号に過ぎないからな」
十文字「はぁ」
入須「問題は……その言葉のイメージが独り歩きしてしまった場合だ」
次の次辺りに正月の回があれば出ると思う
マジかよかった
十文字「独り歩き……?」
入須「そうだ。たとえば……私が可愛いぬいぐるみを抱えてスキップしていたらどう思う?」
十文字「…………」
入須「笑うか?」
十文字「………いいえ」
入須「無理はしなくていい」
十文字「…………」
入須「たとえば、私がマジックショーに目を奪われてはしゃいでいたらどう思う?」
十文字「………………」
入須「可笑しいだろう?」
十文字「………………い、いいえ」プルプル
入須「無理はしないでくれ。本当に」
十文字「………そ、それが悩み、ですか?」
入須「そうだ。私は常に求められたところを為してきた。
その上でたまわった名なら甘んじて受けよう。だが……
今ではその名に縛られている」
十文字「名前に縛られる……」
入須「期待、と言い換えてもいいな。
ふっ。期待を操ってきた私が期待にからめ捕られるとは、皮肉なものだな
自業自得だと笑ってくれ」
十文字「…………」
入須「だが………最近それがひどく煩わしいと思うことがある」
十文字「……それで、占ってほしいことというのは何ですか?」
入須「そうだな。私はどうすれば周囲の期待という名の誤解を解くことができるのか。
それが知りたい」
………
………………
………………………
十文字(正直占うまでもないなぁ……やることは明らかだし)
十文字(………占ったフリして言いたいこと言ってしまおう)
十文字「…………出ました」
入須「そうか」
十文字「うーん………」
入須「ど、どうだ?」ソワソワ
十文字「カードの導きによると……」ウムム
入須「よると……?」ソワソワ
十文字「『自分に素直になる事』、これです」
入須「自分に素直に……?」
十文字「そうです」
入須「………それができたら苦労はない」
十文字「そんなことはないですよ。試してみましょうか」
入須「試す?」
十文字「ここにさっき書いてもらったプロフィール表があります」
入須「それがどうしかしたのか?」
十文字「『好きな音楽:シューベルト』……見栄はりましたね?」
入須「う」
十文字「本当は?」
入須「…………松田〇子」
十文字「『好きな本:『正義論』』………ダウト」
入須「あう」
十文字「本当は?」
入須「………『夕べには骸に』」
十文字「これで最後です。
『欲しいもの:万年筆』………御冗談でしょう」
入須「ううぅ……」
十文字「ほ・ん・と・う・は?」
入須「…………大きなくまちゃんのぬいぐるみ」
十文字「………やればできるじゃないですか」
入須「うああああああ!!!」
十文字「何というか、周囲の期待とか関係なく見栄っ張りすぎますよ」
入須「フリで続けていたことが本心にすり替わる……ふん、皮肉なものだな」
十文字「いや、だからさっきのが本心でしょう?」
入須「今更そんなこと言えるわけがないだろう!
このキャラで2年弱やってきたのに急にかわいいもの好きをカミングアウトなんて出来る訳がない!!」
十文字「ふりだしですね」
入須「結局、私は孤独な玉座を守り続けていくほかないのか……」
十文字(玉座……)
十文字「あっ、じゃあこうしましょう」
入須「?」キョトン
十文字「入須さんが今一番したいことを言ってみてください。
私もそれに付き合います」
入須「したいこと……」
十文字「みんなに打ち明けるのがこわいなら、私で少しずつ慣らしていきましょう」
入須「しかしだな………」
十文字「私なら、だれにも言いませんから」
入須「!」
十文字「それに、今日はどうせこれでお終いにしようと思っていたんです」
入須「ほ、本当に?本当に誰にも言わない?」
十文字「入須さん、口調口調」
入須「はっ!……ご、ゴホン……本当に誰にも言わないな?」
十文字「はい、誰にも」
入須「…………」
十文字「入須さん?」
入須「………………ち」
十文字「ち?」
入須「……千反田と、もっと仲良く、したい」カァァァ
十文字「」
十文字「いえ、言いましたけど………さすがにちょっと予想外で」
入須「仕方がないだろう!
昔はあんなに一緒に遊んだというのに、私が受験生になったころからウチに寄り付かなくなって……」
十文字「えるもきっと気を使ったんですよ。そういう子だって知ってるでしょう?」
入須「うるさい!お前もだ!」
十文字「わ、私も?」
入須「そうだ!」
十文字「ええと………」
入須「私は老け顔かもしれないけど、お前たちと一つしか違わないんだぞ!
ずっと一緒にいた妹分が二人とも急に疎遠になってなぁ……」
入須「さびしかったんだぞ!!」
入須「うぅー………」ポロポロ
十文字「ああ、入須さん泣かないで。
そうだ、いいこと思いつきました!」
入須「う?」
十文字「えると入須さんと、それに私で、帰りにどこか遊びに行きましょう!」
入須「さ、三人で?」グスグス
十文字「ええ。久しぶりに、三人で」
入須「………………いく」
十文字「じゃあ、今すぐえるを迎えに行きましょう!
きっと古典部の部室にいますから」
入須「………う」コクッ
十文字(あ、かわいい)
………
………………
………………………
―――地学準備室(古典部・部室)
コンコンッ
える「はい」
十文字「える、私。かほだけど」
える「あっ、はーい」トテトテ
ガラガラッ
える「いらっしゃい、かほさん……と、入須さん?」
入須「」ビクッ
える「どうかされたんですか?」
入須「う、うん、まぁそうだな」
十文字(入須さん)
入須(わ、分かっている)
入須「あ、あのな千反田」
える「はい、何ですか?」ニコニコ
入須「えーと、その……なんだ」
える「はい」ニコニコ
入須「………今日の放課後は空いているか?」
入須「さっきそこで十文字に会ってな、久しぶりに旧交を温めようかという話になったんだが」
える「まあ」
入須「今からどこかへ出かけようと思うのだが、お前も一緒にどうだ?」
十文字(よし)
える「ええと………ごめんなさい!」
入須「!!」
十文字「!」
える「今日はどうしても外せない用事が入っていて………
申し訳ありません」
入須「そう、か」フルフル
十文字「入須さん………」
入須「いや、いい。………邪魔をしたな、千反田」
える「……あの、入須さん」
入須「何だ?」
える「今週の土日は空いてますか?」
入須「………へ?」
十文字(うん?)
える「えっと、ですね。
再来週から定期考査が始まりますよね」
入須「そう、だな」
える「今度のテストは少し自信がないので、よろしかったら入須さんに勉強を見てほしいんですが」
入須「………お前なら心配ないと思うが」
える「いいえ!」ズイッ
入須「うっ」
える「今度のテストは本当に心配で!これはもう徹夜で勉強しないと間に合わないと思うんです!」
入須「そ、そうか」
える「だから、入須さんにみっちり鍛えてほしいんです!
その………泊まり込みで」
入須「!!!!」
十文字(おお)
える「――――いえ、違いますね。
入須さん、
今度の週末、久しぶりに泊りに行ってもよろしいですか!」
入須「……………十文字」チョイチョイ
十文字「はい」
入須「私のほほを思い切りひっぱたけ」
十文字「心配しなくても夢じゃないですよ」
える「えと……駄目、でしょうか?」
入須「そ、そんなことはない!
ぜひ来てくれ!私と母でごちそうを作って待っている!!」
える「い、いえ!そんなお構いなく!」
入須「気にするな!
そうだ、十文字!お前も来い!」
十文字「えっ、私も?」
入須(私のしたいことにつきあってくれるんだろう?)ヒソヒソ
十文字(ああ、そんなこと言いましたね)ヒソヒソ
入須「そうか、お前も来てくれるか!
じゃあ千反田、十文字。土曜日に待ってるからな」
える「はいっ!」ニコニコ
十文字「」
………
………………
………………………
十文字「疲れたな……」
今日はいつもよりお客さんも少なかったのに、いつもの倍疲れた気がする。
私は今日やってきたお客さんのことを思い出しながら家路を歩いていた。
停滞した恋に悩む女の子。
脛に傷のありそうな先輩。
そして、意地っ張りな姉のような人。
全員を笑顔にすることはできなかったけど、
……最後の一人はあんまり占いも関係なかったけど、
伊原『十文字さん、ありがとう!』
遠垣内『………協力、ありがとう』
入須『感謝するぞ、十文字』
みんな最後は、お礼を言ってくれた。
これだから、占い面白い。
だから私は明日も明後日も、
十文字「占い研で、お待ちしています」
おしまい
眠いからここまで。
百合とかじゃなくて女の子が仲良くしているのがすきです。
じゃあの。
面白かった
Entry ⇒ 2012.08.24 | Category ⇒ 氷菓SS | Comments (0) | Trackbacks (0)
和「憧。百合に興味はありませんか?」アコス「へ?」
和「いえ。確かにそれも百合ですが、私の言っているのは植物ではない方の百合です」
アコス「植物じゃない百合?」
和「その調子では、どうやら憧は百合という言葉を知らないようですね」
和「百合というのはズバリ女性同士の恋愛のことです!」
アコス「はぁ!?」
和「本当にそう思いますか?」
アコス「あったりまえじゃん!」
和「……穏乃」
アコス「!!」ビクッ
和「憧が穏乃のことを好きだというのは、私の思い過ごしでしょうか」
アコス「ななななな!?」
和「いいえ、そんなはずがありません! 私の百合レーダーに狂いはない!」
アコス「なっ、何よ百合レーダーって!?」
和「百合レーダーは百合レーダーです!」
アコス「そこまで自信満々にこられると本当にそんなものがありそうな気がしてくるよ……」
アコス「……」
和「穏乃のこと、好きなんですよね?」
アコス「絶対誰にも言わない?」
和「ええ! マリア様に誓って!」
アコス「クリスチャンでもない和にそんなこと言われても何の気休めにもならないって……、まあいいけど」
アコス「和の言う通りあたしはシズのこと好きだよ」
和(いよしっ! よしよし!)
アコス(なんで気付かれたんだろ。そんなに態度に出てたかな……)
和「それはいけません! ちゅっちゅするような間柄を目指すべきです!」
アコス「そうはいってもさ、和。女同士とか正直普通じゃないじゃん」
アコス「シズには理解してもらえないだろうし、よしんばそこが上手くいったとしても世間から偏見浴びるのが関の山」
アコス「だったら今の仲良しこよしで満足した方が現実的だよ……」
和「いけません! 自分の気持ちに嘘をつくべきではないですよ、憧!」
アコス「もう! 他人事なのに勝手言わないでよ!」
アコス「あたしだって、そりゃ本当は……。でも……」
アコス「勘違い?」
和「まず1つ目の勘違い。私にとってこれは、単なる他人事などではありません」
和「というのも、真に非常に意外でしょうが、実は何を隠そう私は、女性のことが好きなのです!」
アコス(ああ。やっぱし)
和「ですから友人にして仲間である憧の恋路は他人事などではなく、まるで我がことのように大切なのです!」
アコス「……」
↓
山
和「百合は正義なので世間から偏見など浴びません!」
アコス「いやその論理展開はおかしいよ……」
和「最後、3つ目! 憧はIPS細胞というものをご存知ですか?」
アコス「ううん」
和「このIPS細胞というもの、様々な応用がきくのですが……」
和「なんと使い方次第では、同性でも子供ができるのです!」
アコス「えっ!?」
和「ええ。本当ですよ」
和「あと正しくはiPS細胞でした」
アコス(あたしとシズの赤ちゃん……)
和「ふふ。満更でもないようですね」
和「同性でも子供ができるなら、女同士で結婚するデメリットなどもはや皆無!」
アコス「けっ、結婚って! 何もそこまで!」
和「さ、どうですか憧。これでもまだ穏乃とお付き合いをすることに抵抗がありますか?」
アコス「……」
和「勇気を出してファイトです!」
穏乃「話って何?」
アコス「その。なんていうかな」
アコス「あたしね……、シズのこと、好きなんだ」
穏乃「ありがと。私も憧のこと好きだよ?」
アコス「本当!?」
穏乃「当ったり前だろー」
穏乃「おっと。そろそろ家の手伝いしないと」
アコス「へ?」
穏乃「ごめん憧! 続きは明日学校でいい!?」
アコス「……」
アコス(間違いない。コレ友達としての好きだと勘違いされてる空気だ)
穏乃「じゃ、またなー!」
アコス(うあーん!)
和「なるほど。恋愛感情とはとってもらえなかったと」
アコス「しくしく」
和「ふと思ったのですが」
和「ひょっとしたら穏乃にとって憧は身近過ぎて、家族の延長のような感覚になっているのかもしれませんね」
アコス「えええ!? それ恋人になるのは無理ってことじゃん!」
和「いえ。まだ手はあります」
アコス「本当!?」
和「ええ。距離が近すぎて駄目なら、一度あえて距離を置いてみればいいのです」
アコス「え……。やだよそんなの、シズと距離を置くなんて」
和「ここは我慢の時です、憧」
アコス「ううう……」
4年後
憧(それでシズとは違う中学選んだんだよねー)
憧(ああ、懐かし)
憧(ただ、こうして高校はまた同じになれたけど、あの頃とあんま変わらないんだよなあ……)
TELLLL TELLLL
憧(お。和から電話だ)
憧「もしもしー」
憧「今日はどんなご用件?」
『インターハイ前に最後の近況報告会を開こうかと』
憧「あいあい。と言ってもあたしの方はかわり無しだよ。まだ変化無し」
憧「今は麻雀に集中しなきゃだし、勝負はインターハイ終了直後かなって考えてる」
憧「そっちはどう?」
『私は……、ふふふ』
憧「まさかなんか進展あったの!?」
『はい! ついに咲さんと下の名前で呼びあえるようになりました!』
『キスはまだですが……、そっ、添い寝なら!』
憧「うおお! なんか凄い!」
憧「あ、そうそう。前も言ったけど、シズと一緒の時にインターハイの会場であうことがあったら……」
『ええ。私たちが今でも頻繁に連絡を取り合っていることはバレないようにする、でしたよね』
憧「うん。よろしくね。なんかシズには言い出せない空気でさ」
憧「あはは。健闘を祈ってって、それ麻雀の方? それとも別の」
『もちろん両方です!』
憧「和らしいや」
『とはいえ私の場合……』
憧「そだね。和は長野にいられるよう、全国優勝目指さなきゃならないんだっけ」
『ええ。ですから憧達とは、できれば一回戦では当たりたくありませんね』
憧「ま、ね。初戦で当たると必ずどちらか敗北だからなー……」
憧「シズには悪いけど、あたしも和とはトーナメント表近すぎないでほしい」
東京・インハイ組合せ抽選後
憧「直で会うのは超お久しだねー」
和「そうですね。何年ぶりか」
憧「あーあ。試合前の自由時間にお忍びで和と再会って、今更ながらシズを騙してるみたいで罪悪感」
和「誰かを傷つけない嘘ならそれもまた方便ですよ」
憧「ん。そーかな」
和「ええ。ということで、さっそくいつもの近況報告会です」
憧「いえー」
憧「ふっふふふ。あたしはシズと二人部屋だよー」
和「な!? それはもう実質結婚しているようなものではないですか!」
憧「それは言い過ぎ!」
憧「まっ、まあー。あたしとシズの心の通い合いは、熟年夫婦の域と言っても過言ではないけどね!」
和「ぐぬぬぬ」
憧「でもシズったら基本すぐに寝ついちゃうから、あんまりお話できないのが悩みどころよねー」
憧「各部屋に備え付けのちっこいお風呂に一人ずつ。和は?」
和「勝った! 私は大浴場です!」
憧「お。じゃあ咲さんと一緒に入れるのか。いいねー」
和「えっへん」
憧「何故威張る。ある胸を更に張っちゃって、このこの!」
和「きゃっ!? もうっ、憧ー。セクハラ禁止です」
和「そうですね。楽しい時間は過ぎるのがあっという間です」
憧「楽しさと体感時間の相関関係。これを新特殊相対性理論といいます」
和「嘘ばっかり」
憧「こんなでっち上げでもシズとか玄なら納得してくれんだけどなー、あはは」
和「あの2人は……、ふふっ、そうかもしれませんね」
憧「んじゃ、またね」
和「ええ」
憧「幸か不幸かトーナメント表は正反対。決勝で会えるよう頑張ろう!」
和「約束はできませんが、最善は尽くしします」
決勝翌日
憧「優勝おめでとー!」
和「ありがとうございます」
憧「いやはや、そちらの大将は強いね」
和「穏乃も土壇場で大物手をあがっていたではないですか」
憧「点差ありすぎて焼け石に水だったけどねー」
憧「和はあと個人もあるんだっけ?」
和「ええ」
憧「目指せ団体個人両制覇ー!」
憧「うん。近況報告会といきましょ」
和「こちらは……」
憧「全国中継されてる中で、咲さんとハグ!」
和「ううぅ、言わないでください……。あの時は優勝で感極まっていて……」
憧「まーまー。お熱いのはいいことじゃん」
和「優希にもからかわれてばかりで大変なんですよ……」
憧「つまり優希→和×咲?」
和「そんなんじゃないです!」
憧「誰のせいだ!」
和「おほん! それで、憧の方はどうですか?」
憧「あたしは……」
和「憧は?」
憧「シズと同じベッドで寝ちゃった! きゃー!」
和「なななななー!?」
憧「いやほら、シズったら試合後の夜になって気持ちが落ち着かなくなってきたみたいでね」
憧「決勝で負けたことが、後から悔しくてたまらなくなってきたみたいで」
憧「だから少しでもシズの心をあったかくできるよう……、えへへ。一緒のお布団でギュッてしながら寝ちった」
和「羨ましいです羨ましいです!」
憧「勢いでチューぐらいしときゃよかったかなー。なんちゃって」
憧「後だから言えることだわ、これ」
和「何がですか?」
憧「おっぱい淫乱レズピンク転校生と、こうも腹割って話せる仲になるなんて、ってね」
和「私は淫乱ではありませんし転校生だったのも昔のことです!」
憧「あはは。おっぱいレズピンクは否定無し?」
和「もうっ……。憧だって人のこと言えない癖に」
憧「なんにせよ、これからも仲良くできるといいね」
和「はい。本当に」
憧「そんじゃあたし、麻雀部で東京見物する約束あるからここいらで」
和「分かりました。では今回はお開きですね」
憧「個人戦ガンバ!」
和「憧も東京見物楽しんでください」
赤土「よし! 東京見物いくぞー!」
穏乃「お? あれが東京名物東京タワーか!」
憧「いや。それただの高層ビル」
穏乃「ガーン」
宥「玄ちゃーん……」
玄「ああっ、おねーちゃんがあったかそうにしつつも人波に押し流されていく!」
灼「はぐれる前に早く助けないと」
赤土「よし、4人はそこに固まっていて。私が救出してくる」
灼「あ。ハルちゃんも人波に巻き込まれた。二次遭難」
玄「赤土先生ー!?」
灼「駄目だこれ」
憧「……」
憧「ねえ、シズ」
穏乃「ん?」
憧「これ以上あたし達まではぐれないように手繋ごうよ」
その時、シズがほのかに、今まで見せたことのない類いの恥じらいを浮かべたのはあたしの気のせいだろうか
玄「こうなったらおねーちゃんと赤土先生の救出は私にお任せ……、わぁあああああ!?」
灼「うわ。ハルちゃんを助けにいった玄まで三次遭難」
灼「私がいくしかないか……」
穏乃「うわー! 灼さんが四次遭難!」
時と共に人と人の距離は移ろって、それにともない関係性や気持ちも変化して
この先シズとあたしが近くにいつづけられる保証なんてどこにもないけれど
憧(はからずもシズと2人きりですと!?)
憧(いやいや、迷子を喜んじゃいかんいかん)
憧「よし、こうなったらあたし達も突撃だ!」
穏乃「いけるかこれ!?」
憧「なんとかなるなる!」
きっと和との近況報告会で最高の報せが届けられる日に憧れを馳せて
インターハイ後もあたしの日々は続いていくのでしょう
和「憧。百合に興味はありませんか?」アコス「へ?」
おわり
また書いてね!
すばらです!
貴重な憧穏すばらです
Entry ⇒ 2012.08.24 | Category ⇒ 咲-Saki-SS | Comments (1) | Trackbacks (0)
P「伊織に"大好き"と言わせたい」
伊織「まあ、好きね」
P「うさちゃんは?」
伊織「好きよ」
P「やよいは?」
伊織「大好きよ」
P「よっしゃ! 言ったよ!」
P「って……違う違う!」
P「俺に言って欲しいんだよ!」
伊織「す………!」
伊織「ふん!」
プイ
P「おぉう……」
伊織「好きよ」
P「やよいは?」
伊織「大好きよ」
P「俺は?」
伊織「だいす………け!!」
P「だいすけ?」
伊織「ふんっ!」
伊織「……」
ふにふに
P「ほっぺ柔らかいな~」ツンツン
伊織「指、折るわよ?」
P「すいませんでした」
伊織「ふんっ」
伊織「いすきだいすきだいすきだ」
伊織「いすきだいすき」
伊織「だいす………け!」
P「ちぇっ」
伊織「ふん!」
伊織「嫌いだったら、こうして話したりしないわよ」
P「えへへへへ」
伊織「……」
P「そこはやるパターンだろ!」
伊織「ふふんっ」
P「素直になれない伊織なんか嫌……い?」
伊織「………っ」グスッ
P「ああああゴメン! 嘘だって!」
伊織「ふん!」
なでなで
伊織「……なによ」
P「ああ、嫌だったか?」
伊織「もう少し、撫でなさい」
P「はいはい」
なでなで
伊織「ふん」
伊織「いただくわ」
伊織「……へぇ、なかなか美味しいわね」
P「雪歩に習ったんだ」
伊織「………」
P「なぜそこで不機嫌に」
伊織「ふん!」
P「もうそんなに長くは生きられない」
伊織「うそ…でしょ?」
P「治す方法はただ一つ」
伊織「なんなの?」
P「伊織に"大好きっ"って言われることだ」
伊織「……本当に死んでみる?」
P「悪かったって!! ごめん!」
伊織「ふぅん?」
P「アタフタしてて可愛いかったよ」
伊織「それは良かったわね………きゃ!?」
ヒョイ
P「軽いなぁ、伊織は」
伊織「うぁ……あの…」キュッ
P(その仕草がたまりません)
伊織「ふんっ!」
ぐるぐる
伊織「ちょっと…危な…!!」
どさっ
伊織「いたた……この!」
P「」
伊織「……え?」
ゆさゆさ
伊織「ねぇ、起きてよ」
P「」
伊織「"いえーい! 死んだフリ!"なんて言って…私をからかいなさいよ」
P「」
伊織「ぐすっ……お願い、だからぁ…」
P「えっ、もう一度!」
伊織「だいす………死ね!!」
げしっ
P「ぎゃぁ!?」
伊織「馬鹿っ!バカバカバカっ!!」
P「ごめんて」
P「ごめん」
伊織「だめ、許さない」
むぎゅ
P「わっほい!?」
伊織「ずーっと、許してあげない」
伊織「にひひっ、困りなさい」
P「意地悪め!」
伊織「ふふんっ」
P「俺のこと、どう思う?」
伊織「大好き」
おわり
>>31
綺麗な時間だな
Entry ⇒ 2012.08.24 | Category ⇒ アイマスSS | Comments (0) | Trackbacks (0)
あかね「家庭教師の赤座あかねです」 結衣「……」
あかね「えぇ、私も結構気に入ってたんだけど……」
あかり「……」グスッ
あかね「あ、あかり、どうして涙ぐんでるの?」
あかり「どうして、お姉ちゃんはいつも真面目に働いてたのに、……うぅぅ……」ジワッ
あかね「ふふふ、お姉ちゃんクビになったわけじゃないのよ」ナデナデ
あかり「えっ?」
あかり「ネットの掲示板に、原材料ミミズ肉がうんぬんって書き込みしたとかじゃないの?」
あかね「うぅぅぅ、私はそんなことしないわよ……」
あかり「良かった……」ギュッ
あかね「……」ナデナデ
あかね「心配してくれたのよね、アルバイト辞めるなんて聞いたらビックリだものね」
あかり「うん、ホント驚いちゃった……ぇへへ、でも嬉しいかも」
あかね「……?」
あかり「えっとね、お姉ちゃんいつも忙しくて大変だったでしょ」
あかね「そうねぇ、夜にシフトが入ることもあったし、結構キツかったかも」
あかり「それなら自由な時間が増えてゆっくり出来るね」
あかり「お父さんもお母さんも寂しがってたよぉ、……あかりもだけどっ!」ニコニコ
あかね「あかり、ゴメンね……」
あかり「お姉ちゃん?」
あかね「お姉ちゃんね、代わりに家庭教師のアルバイトをすることにしたの……」
あかり「えぇっ!?」
あかり「そうなんだ、それならしょうがないね……」ショボン
あかね「時給を考えればこっちの方が羽振りも良いし、お夕飯はみんなで食べれるもの」
あかね「……だからしばらくはこっちのお仕事頑張ってみるわね」ニコッ
あかり「うんっ、お姉ちゃんならなんでも出来るよ、頑張って!」
あかね「……あぁ、あかりはほんとに可愛いわ」スリスリ
あかり「ぎゅむっ……お、お姉ちゃん、苦しいよぉ」
あかね「あらいけない、そろそろ初お仕事行かないと!」
あかり「えっ、今日からもう入ってるの?」
あかね「うんうん、最初の印象って大切だから遅刻はいけないものね」
あかね「確か依頼人の人は中学二年生だったかしら、とりあえず筆記用具だけ鞄に……」ゴソゴソ
あかり「へぇ~、あかりと同じくらいの年の人なんだ」
あかね「そうね、確か船見さん、だったかしら」
あかり「えっ!?」
あかね「いけない遅刻遅刻、ゴメンねあかり、お夕飯には間に合うから!」タタタッ
あかり「いってらっしゃーい、ふふふ……まさか結衣ちゃんだったりしてね」ニコニコ
あかね「はぁ、でも大丈夫かしら、二人きりって間が持つか不安」
あかね「それこそ問題児で不良みたいな子だったら……」ブルブル
あかね「……ま、その時は絞めればいいかしら♪」ニコッ
あかね「うふふ、あかりみたいな素直な子だったらいいわよねぇ~」
あかね「愛想よくしないとね最初が肝心だもの、……お姉ちゃん頑張るからね、あかり」
ママ『そうよ、休み明けにはまたテストあるらしいじゃない』
結衣「それはそうなんだけど、必要ないと思うけどなぁ」
ママ『ダメダメ、歳納さんのとこ京子ちゃんなんか一位取ったって聞いたわ』
結衣「まぁ、あいつは天才肌というかなんというか……」
ママ『結衣だってやれば出来る子なんだから、……お母さんも心配なのよ』
結衣「か、勝手に頭が弱いみたいな扱いしないでよ、二十位くらいをウロウロしてるからね」グスッ
結衣「むっ、ならどうしてまた家庭教師なんて」
ママ『お家でゴロゴロゲームばかりしてないかお母さん心配で……』
結衣「うっ……」
ママ『結衣、もしかして図星だったの?』
結衣「だ、だって、夏休みの宿題はもう終わったし……」
ママ『もうダメじゃない、このあとすぐ大学のお姉さんが来るらしいからしっかり見て貰いなさい』
結衣「えっ!?今から来るの、私まだ寝間着なんだけど!」
ママ『じゃあね、たまにはこっちにも帰ってくるのよ、ふふふ』プツ
結衣「ちょ、ちょっとお母さん、もしもし、もしもし!?」
結衣「洗顔とシャンプーを済ませてたのがせめてもの救いかな……」
結衣「今日の今日で言わなくてもいいのにお母さんも、まったくもう」
<ピンポーン!
結衣「えぇ、まさか……」
あかね「こんにちは、今日から家庭教師をさせていただく赤座あかねです」ペコッ
結衣「……こ、こんにちは、船見です」ピョコッ
あかね「あら……くすっ、可愛いパンダさんのパジャマね」
結衣「本当にすみません、すぐ着替えるので居間でくつろいでて下さい……」ペコペコ
あかね「いいえ、急がなくていいからね、寝坊ならしょうがないもの」
結衣「うぅぅぅ……恥ずかしい、もうやだ……」カァー
あかね(ふふふ、優しそうで可愛げのある子で安心ね、良かった良かった)ニコニコ
あかね「ご家族もいないみたいね、もしかしてここで一人暮らしなのかしら」
あかね「船見さん、……どこかで聞いたことがあるのよねぇ」
あかね「この近辺じゃ珍しい苗字だし、はて、私の勘違いかしら……」
ガララッ
結衣「本当にすみません、お待たせしました」ペコペコ
あかね「ふふ、さっきのパンダさんでも私としては全然問題ないけど」
結衣「えぇっ!?……さ、さっきのは忘れて下さい……」カァー
あかね(あらあら、顔に出やすい子なのね、真っ赤になっちゃった)クスッ
あかね「ふふふ、とりあえず改めて自己紹介ね」
あかね「今日から船見さんの家庭教師をさせていただきます、赤座あかねです」ペコッ
結衣「赤座……?あっ、もしかしてあかりのお姉さんですか!?」
あかね「あら、あかりのお友達かしら、それはちょうど良かった」ニコニコ
結衣「あかりとは昔から仲の良い幼馴染で、……あ、私の名前は船見結衣です」ペコッ
あかね「……結衣ちゃん、結衣ちゃん……うーん」
あかね「あっ……」ポン
あかね「そう言えば、金髪の子と、黒髪の可愛いコンビがよく来てたものね!」
結衣「良かった、覚えてていてくれて嬉しいです」ニコッ
あかね「昔は可愛い可愛いツインテールだったけど、すっかり変わっちゃって」ニコニコ
結衣「……あはは、よく覚えてますね」
あかね「懐かしいわぁ、あの結衣ちゃんがこんな風になるなんてねぇ、うふふ」
結衣「はいそうです、あいつもあかりと仲良くやってます」
結衣「後でアルバムでも持ってきますね、あかねさんも写ってるかもしれないし」
あかね「ふふ、ありがとね、……でも良かったわぁ」ニコニコ
結衣「……?」
あかね「実は今日が初めての家庭教師で、ほんと緊張してて……」
あかね「依頼人が結衣ちゃんみたいな良い子でほんと肩の力が抜けたというか」ホッ
結衣「……そ、そんな良い子だなんて!」
あかね「謙遜しないの、これは本心で言ってるんだから」ニコッ
結衣(ほんと、あかりそっくりでほわほわして、綺麗で優しいお姉さんだなぁ)
結衣「うぅぅ……それは、言い訳させて下さい……」
あかね「夏休みだもの、お寝坊なんてあかりもしょっちゅうしてるわよ」ニコニコ
あかね「その寝顔がほんと天使みたいで可愛いくて……うふふ」
結衣「えっと、実はついさっきお母さんから家庭教師が来るって言われて……」シクシク
あかね「えっ、今まで知らなかったの!?」
結衣「はい、だからケーキとか何も準備出来てなくて、……本当にごめんなさい」
あかね「結衣ちゃん……ふふふ、ほんとしっかりした良い子ね」
結衣「あっ……なんか、ナデナデなんてされるの久々です……」
結衣「……落ち着くなぁ」
あかね「さっ、こうしてお喋りしてるのもいいけど、お勉強しましょうね~」
結衣「あー……やっぱりするんですね」
あかね「それはもちろんよ、そのための家庭教師なんですもの」
結衣「あの、お手柔らかにお願いしますね」
あかね「……」ニコッ
結衣「な、なんですかその無言の笑みは……」
結衣「ええっと、…… Lily saves the world. 」
あかね「うんうん、主語が三人称単数だから動詞に"s"が付くのよね」
あかね「これくらいは序の口よね、じゃあ次は……」
あかね「姉妹ものの百合はとりわけ美しい、はいどうぞ」
結衣「むむっ、これはちょっと難しいな……うーん」
結衣「Lily of sisters is especially beautiful. ……かな」
あかね「そうねそうね、やっぱり結衣ちゃんもそう思うかしら……」ニコニコ
あかね「やっぱり早いうちからの教育って必要だもの、うんうん」
結衣「あかねさん、良かったらこのコーヒーでもどうぞ」コトッ
あかね「ありがとう結衣ちゃん、……ほんとしっかり者」
あかね「それにこの歳なのにブラックも飲めるなんて、大人びてるというか」
結衣「……」ズズッ
結衣「……うえっ、に、苦い……けほっ!」
あかね「あらあら、ちょっと背伸びしたいお年頃だものね……」ニコニコ
結衣「ち、違いますよ、ほんとは飲めますからね!?」
結衣「その、器官に入ってむせただけで……あかりにだけは言わないで下さい……」
あかね「ふふ、やだもう、さっきからニコニコしてばっかりね私ったら……」
あかね「お姉ちゃんは妹に、妹はお姉ちゃんに恋をしていたの」
あかね「あぁ、禁断の恋ね、いわゆる百合姉妹って呼ばれているものです」
結衣「……」
あかね「妹は思い切って思いの丈をお姉ちゃんにぶつけました、必死の思いで……」
あかね「お姉ちゃんは優しくその言葉聞き、頷いていました」
あかね「でもね、お姉ちゃんは妹を受け入れることはありませんでした……」グスッ
結衣「そんな!?」
あかね「さぁ結衣ちゃん、この時のお姉ちゃんの心境を60字以内でまとめてね」
結衣「むむむむ……というかなんの科目なんだろうこれは……」ウーン
あかね「その子の幸せを想うがゆえの決断だったのよ、血の繋がりというのは時には大きな壁になるの」
結衣「……なるほど、愛ゆえの、だったんですね」
あかね「まぁ私だったら駆け落ちするわね、うふふ」
結衣「私もたぶんそうしますね、お互い好きなのに、そんなの悲しすぎます……」
あかね「……ふふ、この調子ならきっと将来有望になるわね」
あかね「あら、そろそろ日も暮れてきたわね、初日はこれでおしまいかしら」
結衣「んんー……なんか充実した一日でした、楽しかったです」ニコッ
あかね「それは私もよ、結衣ちゃんとっても良い子で助かっちゃった」ナデナデ
結衣「あっ……そ、そうですか、えへへ……」
結衣「はい、親に無理やり言って聞き入れて貰ったんです」
あかね「ちゃんとご飯食べてね、カギはしっかりかけるのよ?」
結衣「ふふ、大丈夫ですよあかねさん、スタンガンとかトンファーも常備してますし」
あかね「……あはは、頼もしいわね」スッ
あかね「それじゃまた今度、次はお寝坊しちゃダメよ」ニコッ
結衣「……」
あかね「結衣ちゃん?」
結衣「あ、いえ、何でもないです、今日はありがとうございました」ペコッ
あかね「いいえこちらこそ、おじゃましました」
パタン……
結衣「……」モフッ
結衣「今日は、楽しかったな、最初は家庭教師なんて思ったけど」
結衣「自分で勉強するより効率も良かったし、それに……」
結衣「……」モフモフッ
結衣「お姉ちゃん、かぁ」
結衣「私は一人っ子だから、なんか新鮮だったなぁ……ふふ」
結衣「やっぱり、誰かに甘えたかったのかな、私も……」
結衣「……」zzz
結衣「ん゛ん……うるさい、うるさいなぁ……」
結衣「……ふへへ」zzz
結衣「はっ、いけない、今日はあかねさんが来る日だった!!」ガバッ
結衣「うぅぅ、またパンダのパジャマだよ、恥ずかしい……」
ガチャッ
あかり「おはよー結衣ちゃん、あれっ、まだパンダのままだね」ニコニコ
結衣「えっ、あかり!?」
あかね「ゴメンね結衣ちゃん、あかりったらどうしても付いて行くってって聞かなくて」
あかり「……ぇへへ」
あかね「もうあかりってば、私たち遊んでるワケじゃないのよ?」
あかり「えぇ~それでもお姉ちゃんと結衣ちゃんばっかりずるいよぉ」
結衣「ぷっ、ふふ、あはは……あかりは相変わらずだね」クシクシ
あかり「わわっ、……結衣ちゃん久しぶりだね、お元気?」
結衣「うん、元気だよ、それより二人とも早く上がってください」ニコッ
あかね「結衣ちゃん、ほんとにあかりもいいの?」
結衣「いいんですよこれくらい、ケーキもしっかりありますし」
あかり「け、ケーキ!?……結衣ちゃんは寂しがりやだもん、あかりが来て嬉しいんだよね~」テクテク
結衣「……う、うるさいな!!」
あかね「ふふ……」
結衣「暑い中大変だったでしょ、お疲れ様」
あかね「あの、やっぱり結衣ちゃん……」
結衣「あかりも今日は勉強していくんだよね、そうだよな」
あかり「え゛っ!?」
あかり「あ、あかりは、ナモクエの新作をやりに……」
結衣「だーめ、遊ぶのはまた今度」
あかね「そうね、あかりも今日は一緒にお勉強しましょう、一緒に教えてあげるわ」
あかり「……は~い」
あかね「んー、どれどれ、いま採点してあげるからね」
百合+姉妹=至高 ・・・(1)
百合+幼馴染=至高 ・・・(2)
(1)より、あかあか=至高 (2)より結あか=至高
よって、あか結あか=未知の世界 が導ける
Q.E.D
あかね「……」
あかね「……ううん、完璧よあかり、花丸満点だわ!」
あかり「ほ、ほんと!?」
あかね「やっぱり数学は難しいものね、でも一年でこれだけ出来てれば十分よ」
あかり「……ぇへへ、やっぱり褒められるのは嬉しいな」
あかね「えらいえらい、よく頑張ったわね」ナデナデ
あかり「んー、お姉ちゃんのなでなであかりだーいすき!」ニコッ
あかね「ふふふ、あかりは甘えん坊だもんね、……結衣ちゃんはどうかしら?」
結衣「……」
あかね「結衣ちゃん、ボーっとしてどうしたの?」
結衣「あっ、いえ、何でもないです……」
あかね「はーい、ちょっと待っててね」
あかね「うんうん、ここがこうなって、そして最後は……」
あかね「百合=切ない で、証明終了ね」
あかね「花丸よ、結衣ちゃんも満点です」ニコッ
結衣「ほ、ほんとですか!?」
あかね「えらい子にはなでなでしてあげるわね、ふふふ」スッ
結衣「えへへ……」
あかり「ふふふ、結衣ちゃんすごいなぁこんなに難しいの解くなんて、お姉さんだもんね」ニコニコ
結衣「うっ……そ、そうだ、そろそろお昼ですね、私オムライス作りますよ!」トテトテ
あかね「……」スカッ
あかね「あらら……」
結衣「ふふ、あかりは大好きだもんな、ちょっと待っててね」
あかり「お姉ちゃん、結衣ちゃんのオムライスってとっても美味しいんだよ~」
あかね「あらあら、それは楽しみね」ニコニコ
結衣「腕が鳴るなぁ、すぐ作りますからね」カチャカチャ
あかね「結衣ちゃん、良かったら私も手伝うけど」
結衣「あ、いえ、平気ですよ、あかねさんは座ってて下さい」
あかね「……でも」
結衣「やっぱり、あかりの前ではお姉さんでいたいんですよ私は、……きっと」
結衣「甘えてるところなんて見せられないし、今まで見せてきませんでしたから」ニコッ
あかね「……そう、それじゃあお願いね」
あかり「ふふっ、だから言ったでしょ~、結衣ちゃんのオムライスは世界一だもん」ニコニコ
あかね「ほんと、なんでも一人でやっちゃうのね結衣ちゃんって」
あかり「うんうん、足も速くてね、ツッコミも上手で、それで優しくて……」
あかり「結衣ちゃんはみんなのお姉さんって感じ、頼り甲斐があるんだ~」
あかね「ふふ、あかりが言うならきっとそうなのね」ニコッ
あかね「あの歳で一人暮らし、しっかり者だもの、みんな頼りにしちゃうわね」
あかり「うんうん、お腹空いたなぁ……ぇへへ」グゥー
あかね「あかりは結衣ちゃんのこと、好き?」
あかり「もちろん!京子ちゃんもちなつちゃんもお姉ちゃんも大好き!」
あかね「ふふふ、私も大好きよあかりのこと」
あかり「えっ?」
あかね「例えばの話し、あかりの素直な気持ちを聞かせて欲しいかな」ナデナデ
あかり「んー、そうだなぁ、あかりは……」
あかね「変だと思う?結衣ちゃんのこと見損なう?」
あかり「ううんっそんなことないよ、あかりも甘えん坊さんだし」ニコニコ
あかね「そうよね、あなた達の年頃ならそれが普通なのよ」ニコッ
あかり「……甘えん坊の結衣ちゃんも可愛いと思うなぁ」
あかね「なんとなくだけど、あの子はきっと人前では甘えたり弱みを見せないと思うの」
あかね「……ふふ、当たりでしょ?」
あかり「そうだね、あまりそういうところは見たことないなぁ」
あかり「……」グゥ-
あかね「ぷっ、もうあかりったらほんと正直者なんだから」
あかり「……ぇへへ、結衣ちゃんのお手伝いしてくるね!」タタッ
あかね「……ふふ」
あかね「可愛い妹の前ではいいところ見せたいものね、私も同じだもの」
あかね「きっと、結衣ちゃんも同じ、あくまで予想だけどね」
あかね「でも無理しても辛いだけだと思うわ、結衣ちゃん」
あかね「あなたはまだ子供なんだから、ね……」
結衣「うん出来たよ、このお皿運んでいってね」
あかり「わっ、やっぱり美味しそうだよぉ、んー楽しみ……」カタカタ
結衣「あぁ、危ない……」ハラハラ
あかね「大丈夫よそこまで心配しなくても、ああ見えてけっこうしっかり者なんだから」
結衣「あかねさん……」
あかね「それよりありがとね、お昼までご馳走になっちゃって」
結衣「いえいえ、これくらいどうってことないですよ」
結衣「……」グゥー
あかね「ぷっ、ふふ……」
結衣「……」カァー
あかり「うんっ!……いただきまーす!」
あかり「はむはむっ、おいひいよぉ、ほんと最高……」ポワーン
結衣「そっか、良かった……えへへ」
あかね「……」パクッ
あかね「……あら、ほんと美味しいわぁ、お店に出せるんじゃないかしら」
結衣「えっ……!」パァ
あかね「ふふ、あかり、はいあ~ん」
あかり「あ~ん……ありがと、お姉ちゃん!」
結衣「あっ……いいなぁ」
結衣「……はぁ」
あかね「ほんと、素直じゃないのに分かりやすいというか、ふふ」
あかね「はい、結衣ちゃんもあ~ん」
結衣「えっ!?」
あかね「……もう素直になってもいいんじゃない?」
結衣「な、なんの話ですか、変なこと言わないで下さいよ、もう」
あかね「あら、ほんと頑固ね……」
あかり「えっと、あかりは結衣ちゃんが甘えん坊でも嫌いになったりしないよ?」
結衣「……」ピクッ
あかね「結衣ちゃん、私の目を見て、話を聞いて」
結衣「うぅ……」
あかね「あなたはまだ14歳なのよ、甘えたりしても誰も笑わない」
あかり「……」ウンウン
結衣「で、でも私はみんなのお姉さんだから……」
あかね「なら今日だけでも、一日だけでも、素直になってみて」
結衣「……わ、笑わない?」
あかり「笑わないよ、あかりもお姉ちゃんに甘えるの大好きだもん」ニコッ
結衣「……そっか」
あかね「もういいのよ、それでも結衣ちゃんはみんなのお姉さんなんだから」ニコッ
結衣「っ……」ジワッ
あかね「はい、あ~ん……」
結衣「あっ、あむ……うぅぅぅ……あかねさんっ……」グスッ
あかね「このオムライスはあなたが作ったのよ、美味しいでしょ?」ナデナデ
結衣「はいっ、美味しいです……うっうぅぅ……」
あかり「ふふ、やっぱりお姉ちゃんはすごいなぁ、なんでもお見通しだもん」
あかり「結衣ちゃんも良かったね、……うまうま♪」パクパク
結衣「……えへへ、ありがとあかり」ギュッ
あかね「あらあら、ちょっと両極端なんじゃないの結衣ちゃんってば」
結衣「……きょ、今日だけ、今日だけですから」ギュッ
あかり「ふふふ、このまま結衣ちゃんも赤座になればいいのに」
あかね「可愛い妹が増えるわねぇ、もう困っちゃうわ」ニコニコ
結衣「お、お姉さん……?」
あかね「あ、今のもう一回大きい声で言ってもらえる結衣ちゃん?」
結衣「えっ、えぇ!?」
結衣「あっ……いやだ、嫌われたくない……です……」ギュッ
あかね「じゃあ言ってみて、もし素直になったらご褒美あげるから」
結衣「ご、ご褒美、ご褒美?」
あかね「えぇ、いーっぱいなでなでしたり、ハグしてあげるけど」
結衣「えっと、その……」モジモジ
あかり「ふふふ、お姉ちゃん楽しそうだよぉ……」ニコニコ
あかね「うふふ、ほんとはこうやって甘えたかったのよね」
結衣「うん、ずーっとこうしたかった、……えへへ」
あかね「良い子良い子、もう我慢なんてする必要なんてないんだからね」
結衣「いい匂い、大人の人……」ギュッ
あかね「あらあら、聞く耳持たぬって感じねぇ、お姉ちゃん困っちゃう」ニコニコ
あかり「いいなぁ結衣ちゃん……」
あかね「あら、あかりもいいのよ、いつもみたいに甘えて」
あかり「うんっ、……ぇへへ」スリスリ
あかね(あぁ、ここがまさに天国かしら)
結衣「あっ……えへへ……ありがと、お姉さん」
あかね「うふふ、しおらしい結衣ちゃんほんと可愛いわぁ……」
あかね「ちょっと照れ屋さんで、お姉さんって呼びのクールな妹ちゃん」ニコニコ
あかり「お姉ちゃん、あかりもなでなでして欲しいなぁ」
あかね「はいはい、もちろんあかりも可愛いわよ」ナデナデ
あかり「んー……ぇへへ♪」
あかね「正統派のデレデレの妹ちゃん」ニコニコ
あかね「やっぱり、ここまで来たらお姉様って呼んでくれる妹が欲しいわね」
結衣「にゃーん、ごろごろ……」スリスリ
あかり「お姉ちゃーん……」
あかね「うふふ、ほんと可愛いわ、良い子良い子」
あかね「……あら、確かあなたは」
京子「」
おわり
そして激しく乙!!
ニヤニヤしたわ
あかねさんの暗躍にご期待ください!
次はとも結ちなもいいと思います
あ、いいですねそれ、頑張ってやってみます
Entry ⇒ 2012.08.24 | Category ⇒ ゆるゆりSS | Comments (0) | Trackbacks (0)
ハリー「もてたいんだ」ロン「……その喧嘩、1シックルで足りるかい?」
ロン「君は英雄だろ?そんな悩み、マーリンの髭さ」
ハリー「どうでもいいってことかい?君はそういうけど、僕、この城に来てから一度だってもてたことなんかないよ」
ロン「何を言ってるのさ。いるじゃないか、君にゾッコンで追っかけレベルな娘」
ハリー「えっ。誰だいそれ、気づかなかった。この寮の……」
ロン「マートル、嘆きのマートルさ」
ハリー「その喧嘩、1ガリオンで足りるかい?」
ロン「そんなにもらったら僕は無抵抗で君に殴られるよ、もちのロンでね」
JKローリングなだけに
ロン「それこそ本当に僕に喧嘩を売ってませんか、だ。1シックルが僕の何ヶ月分のお小遣いだと思っているのさ」
ハリー「ワールドカップの時の金貨でも使えばいいんじゃないのかな」
ロン「またそれかい、悪かったってばいつか返すよあの時の金貨は」
ハリー「ところで僕の県下がシックルなら、ハーマイオニーは?」
ロン「十回で1クヌートかな。毎度1シックル払ってたら、僕ん家の庭はクラップさえ何も食べるものがなくなっちゃうさ」
ハリー・ロン「「HAHAHA!」」
ハリー「それで、どうやったらもてるかって話だけど」
ロン「あぁ、まだ続けるのか……」
ハリー「それはハーマイオニー談じゃないか……うん、そうだったらとても嬉しいけどさ」
ロン「なんだい?他に狙っている女の子でもいるのかい?協力するよ相棒」
ハリー「さっきまで渋っていたのにこの乗り気だよ……そういうことじゃないんだったら」
ロン「何だよ……君は女の子のこととなると、まるでいつもの勇敢さがないな。去年のダンパティの時もそうだったけど」
ハリー「ダンパティって言うのはよしてくれ。軽くトラウマだから」
ロン「あぁ、騎士団本部で夏休みにね」
ハリー「うん。なんだかスナッフルたちは、結構なもてもて学生生活をしていたらしくて」
ロン「誰かブラッジャーブチ当てればよかったのにな」
ハリー「そこで僻むんじゃなくってさ、ロン。僕達も一度でいいからそうなりたい、そう思わないかい?」
ロン「……君がそういうことを言うのは珍しいね、ハリー」
ハリー「前にイメチェンを目指した時に、変わってどうなりたいのかって考えたんだ」
ロン「君は偶に真面目だね」
ハリー「……そうだね」
ロン「というか、正直な話。僕は何度も言ってるけど、君は英雄じゃないか」
ハリー「? それが?」
ロン「だから、君が声さえかければなびく女の子はこの城に結構いる、ってことだよちくしょうマーリンの髭!」
ハリー「と、突然怒鳴らないでくれよ……ホグワーツの女の子って、そんなに単純かなぁ?」
ロン「あぁ、単純でミーハーな女子ばっかりだと僕は思うね」
ハリー「……そんな風だから」
ロン「なんだい?ちょっと待ってくれ、小遣いの入った巾着袋持ってくるから」
ハリー「なんでもないさ、座ってくれよ」
ロン「ほら、思い出しただろう?君をダンスパーティに誘った女の子が、何人かいたじゃないか」
ハリー「……話したこともない下級生の子と、僕より何十センチも背が高い人、だったね」
ロン「あれはかなりの、っく、上玉だったじゃないか……今でもあの人とハリーがダンパティしてるのを想像すると、感動で涙が」
ハリー「口元覆って肩震わせてるのは何も感動だけじゃないと僕は思うね。笑いすぎだろう、何だい自分が背が高いからって。君があの人と行けばよかったじゃないか」
ロン「勘弁してくれよ。あんなトロールと行くならまだミリセント・ブルストロードの方がレタス食い虫一匹分マシさ」
ハリー「君、ほんと彼女になんの恨みがあるんだい」
ハリー「君、割と語彙が無いよね。トロールがさっきの人と被ってるじゃないか」
ロン「それだけ悪態としてトロールが優秀なのさ。そう考えるとスリザリンの大半はトロールだよな」
ハリー「でかくてうすのろで」
ロン「おまけに臭い」
ハリー・ロン「「HAHAHA!」」
ハリー「背丈だけは見習いたいな」
ロン「君があんな図体になったら、押入れから出られなくなるんじゃないかい?」
ハリー「四年ほど前に卒業してるよ、ありがたいことにね」
ハリー「だから、別に誰かに、ってわけでもないんだけど……」
ロン「じゃぁこう考えようじゃないか。今から、またあのダンパティが開催されるとするよ?」
ハリー「なんだいその悪夢……あとダンパティはやめろよ」
ロン「さぁ、君は今すぐパートナーを見つけなくちゃいけない。みんなの前で一人でダンスは無様じゃないか?」
ハリー「僕はまた否応なしに代表なんだね、分かっていたけど」
ロン「それともなんだい?マートルでも相手にするのか?文字通りの意味でシャドーダンスと決め込むかい?」
ハリー「上手くないよ、ロン」
ロン「あぁ、語彙が無いからね僕は。そういうのはハーマイオニーの担当さ」
ハリー「ハーマイオニーはそもそもそんな冗談言わないよ……」
ハリー「君、彼女にも割りと酷いこと言ってるよね……うーん」
ロン「ほら、そうなるとおのずと、誘いたい相手っていうのが出てくるだろう?」
ハリー「まぁ、それはそうだけど」
ロン「その子にもてたいんだよ、君は。そうに違いないさ」
ハリー「言い切ったね……もちろん、チョウが気にならないって言ったら嘘になるよ?」
ロン「じゃあ決まりさ。『君と、ダンパティたい……!』って言いに行こうよ」
ハリー「ロン、十ガリオン払うからぶん殴っていいかな」
ロン「……ごめん」
ハリー「……今、謝るかガリオン貰うか迷っただろう」
ロン「なんだよ、煮え切らないな。用はチョウに告白しっちまえばいいんだろう、君の話は」
ハリー「いや、それだと……モテるっていうのとなんだか違う気がするんだ」
ロン「……スナッフルに憧れるのはいいけどね、ハリー。君の言ってること、割と大概だよ」
ハリー「煽っておいてなんだい急に」
ロン「誰かと、ならそりゃ後押しするけどさ。そんなロックハートを目指すようなのは、アーニーあたりとでも話してくれよ」
ハリー「親友の君だから話せるんじゃないか」
ロン「……まぁね!」
ハリー「ロン、僕はたまに君がちょろ過ぎて不安になるよ」
ロン「うーん。僕らってそういう話題とはとんと程遠いかったからなぁ。あ、君は別で」
ハリー「『僕ら』って言っておいてなにさ……」
ロン「やっぱり、頭が良いのはもてるんじゃないか?」
ハリー「と、言うと?」
ロン「あぁ。今はほら、クソッタレの魔法省にいるパースだけど。あんな堅物でも、ガールフレンドはいたわけだし」
ハリー「なるほどね……監督生、とかってことかい?」
ロン「うん。あと、やっぱりスポーツが出来る奴って、もてるよな」
ハリー「あー、そうだね。セドリックも……やめよう」
ロン「そういやあいつも監督生だったな……あぁ、よそう。あとは、そうだな。ノリがいい、とか」
ハリー「ノリ?」
ロン「フレッドとジョージみたいな奴らのことさ。あのダンパt……ダンスパーティーの時の鮮やかな誘い方、覚えてるだろう?」
ロン「アンジェリーナのまんざらでもない顔ったらなかったよな。それに連中はクィディッチチームスタメンで、スポーツも出来る」
ハリー「成績も、悪くはないんだろう?」
ロン「完璧・パーフェクト・パーシーと比べられてママには何か言われてたけど、あぁ。悪くない」
ハリー「背も高いね。そうだ、背の高さももてるのには……?」
ロン「女の子は気にするって言うよな、君もだけど」
ハリー「ほっといてくれ。君が高すぎるんだ」
ロン「ハハハ、まぁね……………あれ?」
ハリー「うん?」
ロン「……ハリー。僕って……監督生だよな?」
ハリー「今更なんだい?夏休みにそれが夢じゃないのかってうわごとは散々頬をつねってやったはずだけど」
ハリー「あぁ、君の実力でね。そうさ、もちのロンで君の実力で勝ち取ったのさキーパーを!何のことさ!」
ロン「何でそんな必死なのさ……それで、僕は……背が高い」
ハリー「あぁ、うん。そうだね。いつか追いついてやりたいけど」
ロン「……」
ハリー「……?」
ロン「……なんで僕、もてないんだろう」
ハリー「…………あぁー」
ハリー「あー、ロン。あのさ」
ロン「僕の内面とか何かにこうダンブルドアがこう、あれしてくれたんだろうけど、さぁ」
ハリー「そんなに気にすることは、ほら」
ロン「背だってずっとずっと学年で一番だし……」
ハリー「あー……」
ロン「そりゃぁまだ試合でいいところは見せてない、けどさぁ……」
ハリー「大丈夫さ、ロン。来年になれば、うん。君にもその、べったりでおべんちゃらな彼女が出来るはずだよ」
ロン「なんだよそれ……」
ロン「本当かい?」
ハリー「うん。だからそんなに気を落とすなよ。リーマスも、スナッフル達といながら女生徒とはあまり関わらなかったって言ってたじゃないか」
ロン「それはリーマスが、自分の体質を気にしてのことだろう……どうせもてもてだったのさ、彼も」
ハリー「あー……否定はしづらいけど」
ロン「……そばかすかなぁ」
ハリー「あ、アンみたいで、いいじゃないか」
ロン「ハリー、悪いけどその褒め言葉?は、今までマグル生まれの奴らに1万回言われてる」
ハリー「なんだい?」
ロン「僕も君のモテモテ作戦にのっかるよ、ハリー」
ハリー「ここに来てそっちに乗り気なんだね、ありがたいけど」
ロン「やっぱり学生生活にそういう潤いがないのは、ダメだよな。ビルもそう言ってた」
ハリー「あぁ、ビル。かっこよくてクールでホグワーツ首席卒で高給取りの」
ロン「奴さん、休暇中は午前中のほとんどを女の子達からの手紙を読むのと返事書くのに費やしてたからな」
ハリー「そこまでもてるのも考えものだね」
ロン「僕は羨ましいな、あぁ」
ハリー「エロールとピッグウィジョンが過労で倒れるよ、特にエロールは」
ロン「爺さんも本望だろうさ」
ハリー「やりきれないよ」
ハリー「ビルの場合は外見も相当だろうけどね」
ロン「あぁ、君が珍しく見た目を褒めまくってたもんな……珍しくね」
ハリー「なんで不機嫌になるのか分からないよ。えっとそれじゃ、今から猛勉強でもして首席を目指すかい?」
ロン「……パスで」
ハリー「だよね」
ハリー「今でも十分愛されてるじゃないか」
ロン「それはいいんだよ。そもそもさ、この理論はおかしいよ。今気づいたけど」
ハリー「どうしてさ」
ロン「だって、そうすると。ハハハッ。ハーマイオニーがモテモテじゃなきゃ、おかしいじゃないか」
ハリー「……」
ロン「HAHAHA!……あれ?ハリー?」
ハリー「そういえば、ロンにはその問題があったかぁ」
ロン「?」
ロン「なんだい?」
ハリー「もしも今から、ダンスパーティーが開かれるとするだろう?」
ロン「僕は不参加だね今年こそ。あんなダンスローブは二度とゴメンだ」
ハリー「もしも、って言ってるじゃないか。君は僕に散々想像力が無いとか言っておいて……」
ロン「分かった分かった。それで?マダム・ロスメルタが給仕を引き受けてくれるなんて夢のようなパーティがなんだい?」
ハリー「そこまで飛躍しろとは言っていないよ」
ロン「監督生の仕事が増えそうでやれやれだね」
ハリー「じゃあその時だけ君を解任するようダンブルドアに頼むから」
ロン「やったね。それじゃ僕は心置きなく料理を……」
ハリー「ロン、ダ、ン、ス、パーティだ。いいかい?」
ハリー「君は、もちろんハーマイオニーをパートナーに誘うよね?」
ロン「……な、なにを的外れなことを言ってるんだ、ハリー!?ぼ、僕がハーマイオニーを誘う!?はは、ははっ!バカらしいね、マーリンのあれさ!!」
ハリー「……分かりやすいなぁ」
ハリー「ロン、僕が言えた義理じゃないかもしれないけど……いや、僕が言うべきことなのかな。みんなの代わりに」
ロン「話が見えないね、ハリー!なんなのさ、一体……」
ハリー「みんなが知ってる、でも君だけ知らない、君がハーマイオニーをどう思ってるのか、ってことさ」
ロン「ど、どうって……友達だ!そうだろう!?」
ハリー「僕はそうだけど……」
ロン「は、って何さ!は、って!」
ハリー「そのまんまの意味だよ……正直に言いなよ、ロン?どう思ってるんだい?」
ハリー「君ね、去年あれだけ色々ごねておいてそりゃないよ」
ロン「ご、ごねるって何さ……じゃ、じゃぁ!じゃあ仮に……あー、仮にだぞ!?」
ハリー「うん」
ロン「ぼ、僕がハーマイオニーのことを、こう、なんだかその君が思うおかしな風に思っていたとして!」
ハリー「あぁ」
ロン「どうしろっていうのさ!」
ハリー「告れよ」
ロン「!?!?」
ハリー「いやもうね、僕最近疲れたんだよ、君たちの痴話喧嘩に付き合うの。思春期だし」
ロン「ち、痴話って言うなよ!!!」
ハリー「もう早めにひっついて欲しいのさ」
ロン「おかしな話をするなよ!想像力豊かだな君は!羨ましいね!」
ハリー「君ほどじゃないけど」
ロン「じゃぁ、もう君の想像、いや妄想に付き合ってやるよ。うん……で、僕がどうすればいいって?はぁ」
ハリー「……遠まわしに相談してないかい」
ロン「もちのロン、違うさ」
ハリー「言いたいだけだよね今の」
ロン「僕はいつだって自分のしたいようにしてるよ」
ハリー「そう。それじゃそのノリで、ほら」
ロン「……の、ノリって何さ、そんな大事なことを!!」
ハリー「大事って言ってるしさ……えぇっと、例えばさぁ」
ハリー『やぁ、ハーマイオニー』
ハーマイオニー『あら、ハリー』
ハリー『僕、君のこと好きだよ』
ハーマイオニー『あら、ありがとう。私もよ?』
ハリー『ハハハ』
ハーマイオニー『フフフッ』
ハリー「ほら簡単」
ロン「恋愛に関してねんねちゃんな君に相談した僕がバカだったよ!!!」
ハリー「失礼な……相談って言ってるし」
ハリー「僕の方こそ、君がどうしたいのかさっぱりだよ」
ロン「君の妄想に付き合ってやっただけだよ!!」
ハリー「……妄想妄想、って言うけどね」
ロン「なんだい」
ハリー「さっきの、実はこの間の僕とハーマイオニーの、簡単な会話の一例だったんだけど」
ロン「」
ハリー「……」
ロン「」
ハリー「……冗談だよ?」
ロン「……笑えないこと言うなよ!!!!!」
ハリー「どこまでも分かりやすいね君……」
ロン「な、なにを……」
ハリー「ロン、僕はね。君とハーマイオニーが親密になることはいやじゃない、むしろ歓迎なのさ」
ロン「……」
ハリー「そうすれば、ほら。僕が心おきなく、モテるために頑張れるだろ?」
ロン「そっちかい」
ハリー「このぐらい言わないと君は堪えないと思って」
ハリー「うん?モテたいってこと?最初から言っているじゃないか」
ロン「そっちじゃなくて。僕と、ハーマイオニーが……って奴」
ハリー「もちの君で」
ロン「……」
ハリー「……ハーマイオニーなら、図書館だよ。さっき誘われたけど、僕は君と話すことがあったから断ったんだ」
ロン「……とんでもなくくだらないことだったけどね」
ハリー「うん、『あ、そう!ロンと仲良くどうぞ!!』ってプリプリ怒ってたよ。話しかけるときは慎重にね」
ロン「だ、誰も会いに行くなんて言っていないだろ!……ちょっと、トイレに行って来る!」ガタッ
ハリー「マートルによろしく」
ロン「あぁ、君が会いたがってたって言っておくよ」
ハリー「勘弁してよ」
ハリー「あはは、ロンの鈍さもハーマイオニーの言う通りだよ。モテたい、なんて話を、僕がするわけないじゃないか」
ハリー「……チョウ、かぁ。チョウは確かに素敵だけどさ……彼女はセドリックの……ダメだよ、うん」
ハリー「……僕もちょっと、外に出ようかな」
ハリー「そうだ。シリウスに手紙でも出そう……『モテモテになる秘訣って、何かな』っと」カキカキカキ
ハリー「……よし」
バタンッ、キィィーーーーーーッ
ルーナ「あ、ハリー。こんにちわ」
ハリー「……ルーナ?」
ルーナ「あたしがあげたカブ、首からかけてくれてるんだね。似合ってるけど、イヤリングの方が効果が大きいもン!」
ハリー「あぁ、うん。流石に男の僕がイヤリングは目立つからさ」
ルーナ「それもあるけど。あのハーマイオニーって子が、不機嫌だったから」
ハリー「?から?」
ルーナ「あの子が不機嫌であたしに返事するときは、大抵あんたと何かあったときだもン」
ハリー「……よく見てるよね、君は」
ルーナ「計り知れぬ英知こそ、レイブンクローの宝なり~♪」
ハリー「はははっ。ちょっと今からフクロウ小屋に行くんだけど、付き合うかい?」
ルーナ「うん。あんたのフクロウ可愛いもんね」
ハリー「ありがとう……ルーナ」
ルーナ「なに?」
ハリー「僕、君のこと割と好きだよ」
ルーナ「あたしも。友達だもンね!」
ハリー「あぁ、ははっ。友達さ」
ルーナ「カブ、もいっこいる?」
ハリー「遠慮するよ」
ハーマイオニー「なによ、ハリーったら。そんなにロンとお話したいんですかそうですか」
ハーマイオニー「男の子って!もう!」
ハーマイオニー「折角いい機会だから、ハリーを私と同じ優等生路線にと思ったのに!」
ハーマイオニー「あぁ……でも前のあの勉強ぶりを見るとハリーには少し荷が重いかしら」
ハーマイオニー「いいえ、でも得意なとこから伸ばして、勉強の楽しさを知ってくれれば……それで、ロンも刺激されて」
ハーマイオニー「……そういえば、ロンの最近の練習ぶりも聞きたかったのよね」
ハーマイオニー「いいとこなしだ、ってへこんでいたし……」
ハーマイオニー「まったく、選手に選ばれるだけ凄いのに。それに、飛んでるロンは……」
ガタガタッ
ハーマイオニー「? あら、ハリー?来てくれたの?」
ロン「……僕で悪かったね、だ」
ハーマイオニー「あなたを誘ってもカエルチョコが忙しいって言うと思ったから、よ」
ロン「……まぁ、ある意味ね。人生の」
ハーマイオニー「……?珍しく深いもの言いだわね」
ロン「君のいつもおっしゃってるほどじゃないけどね」
ハーマイオニー「茶化すなら勉強に戻っていいかしら?あなたもそうしたら?」
ロン「うん……いや、違うんだ。僕、君に話があって」
ハーマイオニー「?」
ハーマイオニー「な、なに、ロン?」
ロン「……僕」
ハーマイオニー「……」
ロン「き、君と、ぼく、ダンパティいたい?」
ハーマイオニー「……?」
ロン「」
ハーマイオニー「え?ロン、なぁに今の、ふふっ。なんだかおかしな……」
ロン「ハリーのせいだ」
ハーマイオニー「よく分からないけれど、あなたのメンタルの問題だと思うわ」
ハーマイオニー「ねぇ、ロン。何を言いたかったのか分からないけれど、そんな机につっぷしていないで。もう一度はっきり言えばいいじゃない」
ロン「無理だよ、無理さ。もうあと二年は無理だね、あぁ」
ハーマイオニー「さっぱりだわ。もう、それならほら。あなたも一緒に勉強しましょうよ。道具は?」
ロン「テスト前でも課題があるわけでもないのにそんなものを持って歩くほど、僕は頭が沸いてないよ」
ハーマイオニー「その喧嘩、1クヌートで買ってあげてもいいのよ?」
ロン「もういいよそれは……それより、さ。何か君の、その……お勧めの本、教えてくれよ」
ロン「何さ。僕だってたまには、そういう気分の時もあるよ」
ハーマイオニー「あら、そう。ふふっ。それがいつまでも続くといいのだけど」
ロン「……君の趣味を少しでも分かってやりたい、っていうのは変わらないと思うけどさ」
ハーマイオニー「?なに?もう、さっきから。今日のロンは煮え切らないわね」
ロン「なんでもないよ、それよりほら、面白くって楽しくって笑えっちまうようなのを頼むよ、ハーマイオニー」
ハーマイオニー「はいはい……っふふ。少しは気を使えるようになったのね、ロン」
ロン「なんだよ」
ハーマイオニー「なんでもないわ。もちのあなたで、ね」
完
シリウス「……リーマス、二角獣の角の粉末は、今の相場でどのくらいの値段がするだろう。あとはそれと、私の髪の毛だけなんだが」
リーマス「シリウス、ポリジュース薬がホグワーツのあのババアの検問を通るはずないし、ハリーを目下を持って犯罪者の君の姿にしてどうしたいんだと言いたいし、自分の姿になればモテモテってどれだけナルシストだい。餌は抜きだね」
今度こそ、完
もちのロンでな!
ラドクリフお大事に!
じゃあの!
ハリー・ポッター シリーズ
一巻~七巻まで
世界的大ヒット発売中!
2014年後半 USJにて
ハリポタアトラクション建設決定!!
面白かったわ
いつもの通りシリウスが酷いwwww
Entry ⇒ 2012.08.23 | Category ⇒ 版権物SS | Comments (0) | Trackbacks (0)
苗木「舞園さんが……死んだ……?」舞園「ええ!?本当ですか!?」
十神「間違いなく死んだ。これ以上確認するまでもない」
舞園「本当ですか?私死んじゃったんですか……?」
十神「だからそうだと言っているだろう。これだから負け犬は物わかりが悪いな」
朝日奈「ちょっと!今の言い方ってないんじゃない!?」
霧切「おちつきなさ……え?」
舞園「そうですよ!いくらなんでもひどすぎます!訂正してください!」
十神「フン。負け犬を負け犬と言って何が悪い。さっさと捜査を始めるぞ。
俺はお前らとのくだらんお話に付き合っている暇はないんでな」
スタ、スタ、スタ……
霧切「……(あれ?今舞園さんいなかった?気のせい?)」
大和田「んのヤロォ……いつかぶち殺す!」
石丸「それは極端だが、確かに彼の態度はよくないな!」
舞園「まったくです。いつになったらみんなと打ち解けてくれるんでしょうか」
桑田「そうだといいんだけどよぉ」
霧切「ん?あれ?」
苗木「どうしたの霧切さん」
霧切「……いえ、その」
葉隠「なんだべ、珍しく歯切れが悪いなぁ、変なもんでも食べたか?」
霧切「……今、舞園さんがいなかった?」
一同「……」
霧切「き、気のせいだと思うわ。ごめんなさい。そうよね。いるわけないわよね……」
苗木「……」ズーン
朝日奈「……霧切さん、気持はわかるけどさ」
舞園「そうですよ。私は死んじゃったんですから……いるわけないじゃないですか」
霧切「おったああああああああ!!!」
腐川「ひぃっ!?」
苗木「き、霧切さん!?」
石丸「いい加減にしないかっ!!」
セレス「……舞園さんが死亡したのは紛れもない事実ですわ。それを何故いまさら否定するので?」
霧切「いやその、今、そこにいるっていうか……。ゆ、幽霊かな?」
葉隠「そんな非科学的なもん存在しねーべ」
山田「キミが言うの!?」
江ノ島「だから言ってんじゃん……舞園はもう死んじゃったんだよ……ねー。舞園」
舞園「はい……」
霧切「会話してるぅぅぅ!?いやいやいや!なんで!?なんで!?」
石丸「会話をすることの何がおかしいんだっ!!」
霧切「いや、だから舞園さんと会話……」
セレス「だから、舞園さんはもう死んだと言っているでしょう?それよりも今は、学級裁判のことですわ」
大神「取り乱すのはわかる……されど、今は落ち着け」
霧切「え、えぇ……」
霧切「(落ち着いて冷静になったはずなのに)」
舞園「……」ドキドキ
霧切「(なんでおるん!?)」
モノクマ「……おやおやぁ?ボクへの暴力は校則違反だよ?」
江ノ島「それがどしたってのよ!」
ムギュ
モノクマ「……出でよ!!グングニル!!悪なるものを貫き!全ての希望を絶望へと!!」
ギュォッ!
ズガガガガガガッ!!!
江ノ島「……何よ、これ」
霧切「(ってはうあーー!!ボーっとしてたらえのしまさん殺されとるー!!!)」
ドシャッ……
苗木「……うあ……あ……」
石丸「……そんな」
桑田「……お、おい、冗談だろ?」
葉隠「……あ、ありえねぇよ!」
江ノ島「……マ、マジありえないんだけど!!」
霧切「みんなおちつ……えっ!?」
セレス「どうか?」
苗木「……霧切さんも、今ので動揺してるんだよ、セレスさん」
セレス「なるほど……もう少し冷静な方かと存じておりましたが」
霧切「いや、違うの、今江ノ島さんが!」
大神「それは全員が目の当たりにした……」
霧切「違う!違うって!普通に喋ってたって!」
十神「……お前は何を言っている?今のはどう見ても即死だろうが」 ザッ
苗木「十神君!」
モノクマ「ということで!気を取り直して!これから一定時間後に学級裁判をはじめまーす!」
石丸「……犯人を見つけろ、ということか」
苗木「……(舞園さんを殺した犯人)」
苗木「……許せない、僕が絶対に!」
舞園「その意気ですよ苗木くん、さぁ、とりあえず現場検証にいきましょう」
大和田「俺たちは先に現場の見張りに行ってるぜ」
苗木「うん!」
霧切「……あっれー」
舞園「どうやらここで取っ組み合いでもしたのでしょうか?とにかく、激しい戦いがあったんじゃないでしょうか」
苗木「なるほど、でもそれじゃあ隣の人に気付かれるんじゃ?」
大神「それはないな」
舞園「どうしてですか?」
大神「この部屋は完全防音だ。一度確かめたが……どれだけ大きな物音がしても聞こえることはない」
苗木「……なるほど」
舞園「殺人をするのにうってつけ、ってことですね……」
霧切「……(出番まだかな)」
霧切「(ものすごく答えたいけど、ていうか舞園さんに全部聞きたいけど、ここは無視……)」
舞園「コンタクトレンズでも探してるんじゃないでしょうか」
苗木「そっかぁ、じゃあ邪魔しないでおこうか」
霧切「(えっ)」
舞園「あ、苗木くん!これ見てください!」
苗木「なに?」
舞園「ドアノブが外れかかっています!」
苗木「ドアノブが……!?なんで」
霧切「それは」
舞園「おそらく、犯人に襲われた私がシャワールームに逃げ込み、その後犯人がシャワールームに入ろうとしたら」
苗木「そうか!建てつけが悪くて……鍵がかかってると思い込んだんだね!」
舞園「そのはずです。だから犯人はドアノブを怖そうとしたら、何故かドアが開き」
苗木「たてつけが悪いだけだもんね」
霧切「……(帰ろうかな)」
舞園「何がですか?」
苗木「僕の部屋の工具セットは使われた形跡がないんだよ。
普通犯人がここでシャワールームにいる舞園さんを追い詰めたいなら、わざわざ自分のものを使わなくても、僕のを使えばいいだけじゃないかな」
舞園「確かに」
江ノ島「ねーねー苗木」
苗木「どうしたの江ノ島さん?」
江ノ島「確か、犯行現場は苗木の部屋だったよね?何でネームプレートが舞園なの?アンタの趣味?」
苗木「えっ……?」
苗木「もしかして、ネームプレートが変わってる?」
江ノ島「見りゃわかるじゃん
舞園「ということは……おそらく犯人は、犯人を私の部屋だと思い込んでたんじゃないでしょうか?」
苗木「確かに……ネームプレートが舞園さんで、シャワールームが開かなければ、『女子の部屋だから鍵がかけられる』と思い込む!」
舞園「やりましたね、すこしずつ解明に近づいてきましたよ!」
苗木「うん、じゃあ次は……」
霧切「(テトリスたのしい)」
舞園「苗木くん」
苗木「……舞園さん」
舞園「見たくない気持ちはわかります、でも……手がかりがきっと残されています。
犯人を見つけるためには、避けては通れません」
苗木「……そう、だよね。」
苗木「……行くよ」
舞園「それでこそ苗木くんです」
苗木「ありがとう前園さん」
苗木「(犯人は……必ず僕が見つける!!)」
霧切「(……いや、そこの本人に聞いたらあかんの?)」
苗木「……うっ!」
苗木「(むせ返るような血の臭い……ここで、本当に)」
舞園「うわぁ……何度見ても酷いですね……。あれ?」
苗木「どうしたの?舞園さん」
舞園「……ここ、何か変じゃありません?」
苗木「……手?別にどこも、あっ」
苗木「金粉……?いや、部屋の模造刀の、金箔?」
舞園「みたいですね。左手には血が……」
苗木「あっ、体の後ろに文字が……?」
舞園「……11037?これじゃなんのことかわかりませんね」
苗木「数字に詳しいと言えば、あの人だな」
霧切「(言っちゃダメな縛りでもかけてるのかな。あー逆転裁判おもろ)」
苗木「いや、わからないなら仕方ないよ」
不二咲「役に立てなくて……ごめんね」
舞園「気にすることありませんよ。誰にだってわからないことくらいあります」
――――
苗木「それにしても、不二咲さんにもわからない数字って……」
舞園「もしかしたら、数字じゃないのかもしれませんね」
苗木「え?」
舞園「だって、か……彼女は『超高校級のプログラマー』ですよね。数字に関しては、誰よりも詳しいはずですよ」
苗木「そんな彼女がわからないということは……数字ですらないってこと?」
舞園「憶測にすぎないんですけど……」
苗木「(いや、十分すごいよ……探偵じゃないんだから)」
舞園「いえいえ、だって私、苗木くんの助手ですから」
苗木「心を読まれた!?」
舞園「エスパーですから」
苗木「たまに本当に焦るよ」
舞園「とにかく、今はダイイングメッセージのことはおいておきましょう」
苗木「確かに、他にも確かめたいことがあるしね」
―――トラッシュルーム
ガチャガチャ
苗木「ダメだ……シャッターが下りてて……ん?」
舞園「やけに、ごちゃごちゃしてるんですね」
苗木「だね……ガラスの破片に、何かの燃えカス?」
モノクマ「掃除当番以外は入れないよ!!!」
苗木「わかったよ、その掃除当番ってのを探せばいいんだろ!?」
霧切「(出番来た!!!これでかつる!!)」
霧切「……何?」
苗木「掃除当番ってのを探してるんだけど……」
霧切「……掃除当番?少なくとも私ではないけど」
苗木「そっか、ありがと」
舞園「次行きましょうか」
苗木「そだね」
霧切「えっ」
スタスタスタスタ……
霧切「……もうりょっとRe:アクションしてくれてもいいのに」
苗木「え、じゃあトラッシュルームのシャッターをあけてくれたりってできる?」
山田「ええ~どうしよっかなぁ……」
舞園「お願いします」
山田「さぁ行きましょうか!!!」
葉隠「二次元限定って設定はどこ行ったんだべ?」
――――トラッシュルーム
山田「開けゴマ!!しお!!」
苗木「塩って必要?」
舞園「それ以前にその呪文は必要なんですか?」
山田「いやぁ……なんというかノリの一種でして」
苗木「なるほどね……ん?これなんだろ?」
山田「火鼠の衣……いや、シャツの一部ですかな?」
舞園「このシャツ……血がついてます!」
苗木「……じゃあ、これって!」
舞園「それより山田君」
山田「今夜が山田!どうなされました」
舞園「火って、常につけっぱなしにしておくんですか?」
山田「え?」
ゴオォォォ
山田「ドッヒャアアアアアアアー!つけっぱになっておる!!」
苗木「え!?これ山田くんじゃなかったの!?」
山田「当たり前ですぞ!我はちゃぁんと、火を消した以外ありえないwwww」
舞園「ということは……」
苗木「火をつけたのは、山田くんじゃない……?」
山田「それと、こんなガラスも拙者はみておらんでござるしなぁ……」
苗木「山田君口調がブレすぎだと思うんだけど」
山田「色々な掲示板の影響受けてるんで(震え声)」
苗木「ああ、そう……」
山田「しかしー、焼却炉まではシャッターを通して10m程度も離れておりますぞよ。どうやってスイッチを?」
舞園「このガラス……もしかして、『ガラス玉』だったんじゃないでしょうか?」
苗木「ガラス玉……?」
舞園「確か、ガラス玉を持ってる人がいたはずです」
苗木「たしか、体育館だったよね」
霧切「がんばれー」
――――
葉隠「ああ!そりゃたしかに俺んだべ!」
苗木「やっぱり……このガラス玉」
葉隠「いやぶっちゃけ水晶玉だったはずなんだけどなぁ……」
舞園「普通にガラスでしたけど」
葉隠「マジか……世界を総べる水晶玉っていうから高い金はらったのに」
苗木「うわぁ……いくらしたの?」
葉隠「一億」
舞園「……あっ、す、すごい高い金額ですね!!!」
葉隠「ぶっちゃ月一億くらい稼いでそうだけどなあんた」
舞園「そんなことありませんよ!」プンスカ
――――舞園の部屋
苗木「……うーん、もうすこしで謎が解けそうなんだけど」
舞園「……ですね、何かもうひとつ、手がかりでもあれば」
デヒューゥン(モノクマの出てくる音)
モノクマ「ごめん、そろそろ始めたいんだけど」
苗木「えっもう」
モノクマ「いや大丈夫大丈夫、なんとかなるって」
苗木「いや……でも」
モノクマ「わかったよ!!一回だけヤる時間やるから!!10分後開始な!」 ドヒューヤオォン(モノクマの帰る音)
苗木「何をだよ!」
葉隠「と、いうわけで……模造刀の先制攻撃だべ!」
苗木「……たぶんそうだよね」
霧切「えっ」
石丸「なるほど、それでその後隠し持っていた包丁で犯人が」
霧切「えっ、えっ」
舞園「そうですよ、シャワールームになんとかして入ってなんかしたんですよ」
霧切「えっ、えっ、えっ」
苗木「なんだかんだあって包丁とか舞園さんの部屋、現在は僕の部屋だけど何故か舞園さんの部屋になってる鍵を入手した犯人は」
苗木「とりあえず包丁はもってたけど手近な模造刀で襲い掛かり、そしてついでに包丁で殺そうとした!」
苗木「そこでシャワールームに逃げ込んだ舞園さんを追い詰めるべくわざわざ部屋にもどってドライバーを回収、使用」
苗木「そして舞園さんを殺したんだ!!」
葉隠「なるほど……完璧な推理だべ!!」
十神「……ん?あれ?」
セレス「……まぁいいんじゃないでしょうかですわ」
大和田「しっかしよぉ、肝心の犯人は誰になるんだ?やっぱり苗木か?」
苗木「それは違うよ!」論破!
石丸「なぜ言い切れる?」
苗木「僕はなんやかんやでシャワールームのたてつけが悪いことも知ってたし、コツさえつかめば簡単に開けられることは知ってた。
だからシャワールームの鍵を壊す必要性がないんだよ、そこのモノクマが証人だよ」
モノクマ「そのとーり!!」
石丸「なるほど、では苗木くんではないんだな」
苗木「ちょっ前園さん……」
石丸「本人が言うなら仕方ないな」
十神「チッ……では苗木は犯人ではないとして、誰が犯人なんだ?」
桑田「(眠い……)」
霧切「……えー」
苗木「……それは」
苗木「……これが僕の答えだ!」
→桑田
桑田「……えぁ!?俺ぇ!?」
苗木「……11037、その他にも犯人を指し示す様々な手がかりがあったんだよ」
朝日奈「11307?」
苗木「舞園さんのダイイングメッセージだよ。彼女の左手には血痕が付着していて……死ぬ直前に書いたものだよ」
桑田「そ、その数字と俺となんの関係があるってんだよ!!」
苗木「……ん?ぶっちゃけないけど?」
桑田「だったら俺なんの関係も……」
苗木「桑田君」
桑田「あ、はい」
苗木「君は決定的なミスを犯したんだ、それは……
僕の部屋を掃除した
→殺人後、金箔を洗い流してるところを僕にみられた
自分の工具セットを使った
苗木「これが僕の答えだ!!」
霧切「え」
桑田「ッ!!」
苗木「きっと君は、返り血を浴びた自分の服を処分することに夢中で、テープのゴミまでは処分してない!!
適当に自分の部屋のゴミ箱にでも捨ててあるはずだ!!」
霧切「いやいくらなんでもそんな」
桑田「ア……アァ……」
霧切「マジで!?」
セレス「お粗末ですわね」
桑田「ま……まだだ!!まだ決定的な証拠はねぇだろ!!俺はぜってぇ認めねぇぞ!!」
苗木「……桑田君、君は昨日、僕と会話したとき、 こう言ったよね?」
スゥッ(回想)
ガチャー
苗木「ハロー!!皆の苗木くんだよ!!舞園さん元気してる!?」
桑田「オラァ!!」
バキィッ!
舞園「きゃあっ!!」
カランカラン
苗木「桑田君なにしてんの?舞園さんと」
桑田「……ええっ!?苗木ィ!?」
苗木「ちゃんばらごっこ?」
桑田「……そ、そうだよ!!ちゃんばらだよ!!ちゃんばらしてたんだよ!」
苗木「なんだちゃんばらか。じゃあ仕方ないね。なるべく早く寝ようね。おやすみ」
桑田「お、おうおやすみ!!」
ガチャン……
苗木「この会話には……明らかにおかしい点があるんだよ!」
桑田「ど、どこがおかしいって言うんだよ……」
苗木「桑田君は僕と部屋の交換をしていない……なのに何故、舞園さんの部屋に?」
桑田「……!!!」
桑田「……う、う嘘言ってんじゃねぇよ!!昨日は俺は部屋で寝てた!!お前と会ってすらいねぇぞ!!」
葉隠「いや、昨日お前らが話してるところはおれっちもみてるんだべ」
桑田「えっ」
朝日奈「そういえば私も」
山田「あ、我も」
桑田「えっ、えっ」
霧切「えっ、えっ」
苗木「……どう桑田くん、これでもまだ僕と会っていないって言う?」
桑田「あ……ちが、違うんだ」
桑田「お、おれはこうあれだ、舞園にちゃんばらごっこに誘われて……それで……」
十神「勢いあまって殺してしまったということか……」
セレス「何を言ってなさるのですか?」
桑田「アホッ」
セレス「打撃を与えたあと……わざわざシャワールームをこじ開けるために部屋の工具セットを持ちだしてきてますわよね?
これはつまり、明確な殺意があったのでは?」
桑田「……ア、アポ……」
モノクマ「議論は決したようですねぇ」
霧切「(もうどーにでもなーれっ☆)」
モノクマ「では、投票タァイム!!」
ジャカジャカジャカジャカ……ジャン!!
石丸4
桑田6
不二咲2
苗木1
十神2
モノクマ「おみごと!!正解です!」
パンパカパーン!
えっ?
舞園さんが桑田に殺されたじゃないか!
なんてこと言うんだ!
石丸「あれ?これは自分の名前を押すのではなかったのか?」 VOTE石丸
大和田「え?これ一番可愛い奴押すんじゃなかったのか?」 VOTE不二咲
葉隠「……そうか!!苗木っちは犯人じゃなかったのか!」 VOTE苗木
十神「目をつぶって押してみたのだが」 VOTE石丸
朝日奈「私も……一番可愛い子だと思っちゃった」 VOTE不二咲
山田「リア充は早めに死ねば良いと思った所存ですぞ」 VOTE十神
江ノ島「なんか風紀委員うざかったから」 VOTE石丸
苗木「実は僕も石丸君に入れたんだ」 VOTE石丸
腐川「一緒に死ねば地獄に一緒に行けると思ったの……」 VOTE十神
残り:桑田
霧切「(馬鹿しかいない……)」
モノクマ「では、おしおきタァーイム!!」
千 本 ノ ッ ク
ドカッ、ドカッ、ドカッ、ドカッ、ドカッ、
ドガガガッ
ドガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ
ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ
ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ
ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ
プシュウ……
苗木「(その光景を見て……誰一人声を出すことができなかった)」
苗木「(あまりにも残酷、残忍、凶悪……)」
苗木「(言葉では、語れないほどの……絶望)」
桑田「……マ、マジありえねぇ」ガクガク
霧切「……えぇー」
イキキキキキキキル
END
to be continued
チャプター2なんて不二咲可愛いだけだしいいよね
舞園さんをもっと攻略したかったですまる
チャプター6までやってくれるんじゃないんですか!?
ともかく乙
乙
Entry ⇒ 2012.08.23 | Category ⇒ 版権物SS | Comments (0) | Trackbacks (0)
しんのすけ「ひびきちゃーん!」響「お?」
しんのすけ「はくさーい!」
響「それを言うなら、はいさいだぞ!」
しんのすけ「何語?」
響「日本語だよー!」
シロ「わんっ!」
響「おー!シロ!」
響「元気かー?」ナデナデ
シロ「わふっ」
響「ん?どした?」
しんのすけ「今日はいぬ美ちゃんは一緒じゃないの?」
響「あぁ、自分は今から事務所に行く途中なんだ」
響「だからいぬ美はお家でお留守番だよ!」
しんのすけ「ほーほー」
しんのすけ「やっぱり、事務所にも組長っているの?」
響「組長…はいないなぁ…」
響「って、事務所「にも」ってなんだ?」
響「それ、園長じゃないのか?」
しんのすけ「ううん。組長」
響「どんだけ見た目怖いんだよ、その人…」
しんのすけ「うーん。組長の怖さかぁー…」
しんのすけ「やよいちゃんなら、わかると思うぞ?」
響「あぁ、やよいが番組で遊びにいったことあるって言ってたな」
響「でも、「優しい人でしたー」だったぞ?」
しんのすけ「任侠ってそういうもんだぞ」
響「時々思うんだけど、しんのすけはそういう言葉はどこで覚えてくるんだ?」
しんのすけ「でも、やっぱり見た目って大切よ?」
響「うーん…」
響「確かに犬は平気なのにヘビやワニが怖いって奴は多いからなぁー」
しんのすけ「ひびきちゃんもワニを散歩させてるあたり、ちょっと普通の女の子じゃないよね…」
響「えー!?ワニ、可愛いだろぉ!?」
しんのすけ「ええー…」
響「なぁ、シロもそう思うよな?」
シロ「くぅーん…」
響「えぇー!?なんでそんなこと言うんだよー!?」
しんのすけ「でも、オラそんなズれてるひびきちゃんのことが結構スキ…///」
響「そ、そうか!?しんのすけは自分のこと好きか!?」
しんのすけ「結構ほどほどに好きよ」
響「どっちだよ…」
響「でも、そっか!嬉しいぞ!」
響「やっぱり完璧なアイドルには子どもに好かれないとだもんな!」
響「ちなみにそんな自分もしんのすけのことは結構気に入って…」
しんのすけ「あぁ、でも。やよいちゃんの方がスキかも」
響「おい!?」
響「…自分のことは何番目ぐらいに好きなんだ?」
しんのすけ「んとねー」
しんのすけ「あずさおねーさん、たかねおねーさん…」
しんのすけ「ちはやちゃんは…おっぱい無いからビミョーなラインだな…」
響「…自分は結構あるぞ?」ポヨン
しんのすけ「うーん…確かにオラ好みのサイズなんだけどー」
しんのすけ「けど、ひびきちゃんってなんだか子どもっぽいよね?」
響「うがっ!?」
響「自分は高校生!立派なおねーさんだぞー!?」
しんのすけ「やよいちゃんは子どもっぽいけど、おねーさんっぽくて、なんかスキ」
響「ちょ、ちょっとー!?」
響「なんで、やよいがおねーさんで自分はおねーさんじゃないんだよー!?」
しんのすけ「えぇー?口で言わなきゃわかんないのー?」
響「わかんない!わかんない!」
しんのすけ「もぉーホントにひびきちゃんはしょうがないんだからー」
しんのすけ「あのね、ひびきちゃんがおねーさんじゃないわけはー」
響「うんうん!」
しんのすけ「…なんていうか」
しんのすけ「会話のノリが完全に子ども…」
響「……」
響「ええっ!?」
しんのすけ「たとえばやよいちゃんは」
しんのすけ「オラみたいないたいけな幼稚園児達と同じ目線になってお話してくれるけど」
響「じ、自分だって動物達と同じ目線で会話をしたりするぞ!?」
しんのすけ「…ひびきちゃんは最初から目が合ってる」
響「ええっ!?」
響「そ、それはあれか!?」
響「じ、自分の背がちっこいからか!?」
しんのすけ「ほら、もうそういうとことか」
しんのすけ「大丈夫。理解しないままの方がアンタは子どもから人気出るよ」
響「ほ、ホントか!?」
しんのすけ「オラ、ひびきちゃんにはそのままずっと変わらずにいてほしいよ…」
響「だ、大丈夫か!?自分、このままでも平気か!?」
しんのすけ「うん。幼稚園児を代表してオラが保障する」
響「そ、そうか…!」
しんのすけ「でも、とーちゃんはやよいちゃんを娘にしたいって言ってた」
響「じ、自分は…!?」
しんのすけ「会うなら浜辺とかで会いたいって」
響「なんだそれ!?」
響「浜辺で追いかけっこしたい娘って意味か!?」
しんのすけ「ううん」
しんのすけ「ただ、会うなら浜辺で会いたいってだけ言ってたよ?」
響「だから、それどういう意味なんだ!?」
しんのすけ「オラに聞かれてもなー」
響「ううっ…!」
響「し、しんのすけ!」
しんのすけ「なに?ついにアイドルまでオラに惚れちゃった…?///」
響「今日はしんのすけのパパはお家にいるのか!?」
しんのすけ「えっ?」
響「じゃあ、ママは!?」
しんのすけ「かーちゃんは…寝てるかな」
響「そうか!」
しんのすけ「ってか、どったの急にひびきちゃん?」
しんのすけ「オラをくださいってのいうのは、さすがにまだ気がはや…」
響「今から、しんのすけの家に遊びに行っても良いか!?」
しんのすけ「……」
しんのすけ「…なに言ってんのアンタ?」
響「自分のこと娘に欲しくないか!?って!」
しんのすけ「ありゃま…マジでプロポーズじゃないの…」
しんのすけ「ひびきちゃん、かわいいけど…でも、やっぱりオラの好みじゃ…」
しんのすけ「ていうか、お仕事行かなくていいの、ひびきちゃん?」
響「なんくるない!まだ時間あるぞ!」
しんのすけ「……」
しんのすけ「えっ?マジで言ってんの?」
しんのすけ「いや…うん…わかるんだけどさ…」
しんのすけ「ホントにウチくんの?」
響「うんっ!」
しんのすけ「かーちゃんとお話しに?」
響「うんっ!」
しんのすけ「……」
しんのすけ「やれやれ…」
しんのすけ「やっぱりひびきちゃんはオラと同じ目線だぞ…」
みさえ「ん…んんっ…?」
みさえ「だれよー…?せっかくのお昼寝タイムに…」
ひまわり「たーい…?」
ピンポーン
みさえ「はいはーい…いま、でますよー…」
トテトテトテ…
ガチャ…!
しんのすけ「おかえり!」
響「はいさい!」
みさえ「……」
みさえ「えっ?」
響「娘にしてください!」ペコッ
みさえ「……」
みさえ「…しんのすけ?」
しんのすけ「お?」
みさえ「えっと…こちらのお嬢さんは…?」
しんのすけ「ひびきちゃんだぞ」
響「我那覇響だぞ!」
響「よろしくな!みさえ!」
みさえ「……」
みさえ「ええっ!?」
ひまわり「た?」
みさえ「響って…あのテレビに出てる響ちゃん…?」
しんのすけ「うん。やよいちゃんのお友達」
響「しんのすけとも友達だぞ!」
しんのすけ「あれ?友達どまりで良いの?」
みさえ「……」ポカーン
しんのすけ「あーうん。かんたんに言うとねー」
しんのすけ「シロのお散歩してたら、お知り合いになった」
響「ぞ!」
みさえ「いやいやいやいや!?」
みさえ「なにそんな子とナチュラルにお知り合いになってんの、アンタ!?」
ひまわり「たーい?」
響「しんのすけ!自分、有名だって!!」
しんのすけ「よかったねーひびきちゃん」
響「うんっ…!自分アイドルやってて良かった…!」グスッ…
しんのすけ「おーよしよし」ポンポン…
みさえ「……」
みさえ「でも、お互いに波長は合ってるわね…」
みさえ「え、えっと…何かケーキとか買ってきた方が…」
響「あぁ!そんなに気を遣わないでくれ!」
響「自分は親しみやすい、おねーさん系アイドル娘だからな!」
みさえ「は、はぁ…」
みさえ「(テレビで何度か観たことあるけど…)」
みさえ「(このキャラクターって、まんまなのね…)」
しんのすけ「ていうか、ひびきちゃん…自然体過ぎ…」
ひまわり「た!」
響「おっ?」
ひまわり「た?」
響「名前はなんて言うんだ?」
ひまわり「たたたの!」
響「おー!良い名前だなー!」
響「ひまわりかー!」
みさえ「しんのすけ、アンタひまのこと教えた?」
しんのすけ「ううん。ちっとも」
みさえ「……」
みさえ「(アイドルって腹黒そうに見えて実はみんな心がピュアなのかしら…?)」
風間くんはナチュラルボーンオタクだからな
アイドルどころか二次嫁以外の他のキャラには一切興味を示さなそう
というかこれくらいの歳の子って大抵そうだ
響「こ、こら!ピアスを引っ張るのはダメだぞ、ひま!」
みさえ「ひまがもう懐いてる…」
しんのすけ「目線が同じだからね」
みさえ「…そうなんだ」
しんのすけ「ていうか、ひびきちゃん?」
響「ん?どした?」
しんのすけ「本来の目的、忘れてない?」
響「……」
響「…あぁ!」
響「自分としたことがもっさり忘れたぞ!?」
しんのすけ「それを言うならこってりだぞ!」
響「そうとも言うな!」
みさえ「つっこまないわよ?」
みさえ「は、はいっ!?」ビクッ!
響「自分って娘にしたいって思うか!?」
みさえ「……」
みさえ「…はい?」
響「自分もやよいみたいに娘にしたいって思うか!?」
響「正直な意見を聞かせて欲しいんだ!」
みさえ「……」ポカーン
みさえ「…やよいちゃんって、高槻やよいちゃん?」
しんのすけ「うん」
みさえ「あの子は…うん…娘にいても良いかなー…」
響「やっぱり、みさえもそうなのか!?」
みさえ「うえっ!?」ビクゥッ!
みさえ「え、えーと…?」
みさえ「(えっ?なに?娘って?)」
みさえ「(この子、もしかしてしんのすけに惚れてるの?)」
みさえ「(いやいや響ちゃんって高校生でしょ?それはいくらなんでもー…)」
ひまわり「たーい?」
響「たいの!たいの!」
ひまわり「たー!」
みさえ「……」
みさえ「(…否定しきれない)」
みさえ「いや、動揺っていうか展開についていけてないっていうか…」
しんのすけ「さっき、やよいちゃんの名前噛んだでしょ?」
しんのすけ「やおいちゃんはあんまりだぞ…」
みさえ「えっ!?そんな酷い言い間違いしてた!?」
ひまわり「た!」チリン…
響「えっ?これはピアスって呼んじゃダメなのか?」
響「しまった!イヤリングとピアスの違いをひまに教えてもらってたら本題を忘れていた…!」
響「みさえ!」
みさえ「は、はいっ…?」
みさえ「(ていうか、ナチュラルに高校生に呼び捨てにされてるって私どーなの?)」
響「自分は娘としてダメなのか!?」
響「ママ視点から厳しい意見をくれ!」
みさえ「え、えーっと…」
みさえ「(まぁ…とりあえず元気よね…)」
みさえ「(明るくて人当たりも良く…)」
みさえ「(そういえば見かけによらず結構家庭的なのよね…)」
みさえ「お嫁さんとしては…中々…」
響「……」
響「えっ!?」
みさえ「うん…」
みさえ「(しんのすけとなら案外夫婦円満な…)」
響「お、お、お…」
しんのすけ「お?」
響「お、お嫁さんだって!しんのすけ!!」
しんのすけ「オラはあずさおねーさんの方が…」
響「うっきゃぁ///そっかぁ///そうなんだぁ///」
響「自分ってお嫁さん系アイドルだったんだー///」
みさえ「…喜んでるけど、これで良かったの?」
しんのすけ「うん。ひびきちゃん、頭の中がひまわり組だからへーき」
しんのすけ「お?」
みさえ「響ちゃんと将来を誓い合っても良いの?」
しんのすけ「え」
響「ねぇねぇ、しんのすけ!自分、ウエディングドレス似合うかな!?///」
しんのすけ「……」キュン…
しんのすけ「…オラが大人になった時のことを考えたら良いかもしんない」
しんのすけ「ひびきちゃん?」
響「自分、旦那様は自分の趣味や環境を理解してくれる人が…!」
しんのすけ「オラと将来結婚する?」
響「……」
響「えっ?」
しんのすけ「あずさおねーさんとかは憧れのおねーさんでー」
しんのすけ「身近で親しみやすいって意味じゃ…」
しんのすけ「オラ、ひびきちゃんのことが一番スキかも」
響「……」
響「ほ、ホントに…?」
しんのすけ「うん」
響「やよいよりも好き…?」
しんのすけ「うん」
響「…!!」
しんのすけ「うん」
響「これからも、たまには一緒にシロのお散歩してもいい…?」
しんのすけ「うん」
響「じゅ、十三年後も好きって言ってくれる…?」
しんのすけ「むしろ十三年後の方が今よりもひびきちゃんスキになってるかも」
響「……」
響「~!!!」
響「み、みさえ…さんっ!」
みさえ「は、はいっ!?」ビクッ!
響「い、いや…違うか…?先に…」
響「そうだ…先に…!」
みさえ「……」
響「し、しんのすけ!」
しんのすけ「ほい」
響「じ、自分も…」
響「自分もっ…!」
響「しんのすけのこと好きだぁー!!!」
しんのすけ「おおっ!?」
響「もしも十三年後もお互いの気持ちが変わらなかったら…その時は…!」
響「お、お嫁さんに…してくださいっ!!」
しんのすけ「いいよー」
みさえ「……」ポカーン
みさえ「(極上のプロポーズなんだけど…なんだこりゃ…)」
みさえ「あっ、は、はいっ!!」
響「しんのすけに自分をあげてくださーいっ!!!」ペコッ
しんのすけ「なんじゃそりゃ…」
みさえ「……」
みさえ「…ま、まぁ…十三年後の話だし…別に…うん…」
響「ホントか!?」
ひまわり「たー♪」
響「ありがとう、ひま!今日から自分は君のねぇねだぞ!」
ひまわり「たいっ♪」
みさえ「……」
みさえ「(正直、今の今まで疑ってた…)」
みさえ「(アイドルだし、そういうお芝居もあるかもって…)」
みさえ「(でも…)」
みさえ「(響ちゃん、これマジだわ…)」
響「お仕事なんて言ってる場合じゃないさー!」
響「十三年後を見越して今から電撃引退だー!!」
しんのすけ「おぉー!かっくいー♪」
響「惚れなおしたか?」
しんのすけ「ひびき、抱いて!」
響「おバカ!そこは抱っこしてだろ!」ダッコ
しんのすけ「あはーん♪」
みさえ「……」
みさえ「えっ!?ちょ、引退ってアンタ!?」ガビーン
しんのすけ「いってらー」
ひまわり「たー」
みさえ「……」
響「お邪魔しましたー♪」
ガチャ…バタン…
しんのすけ「野原響って中々良いと思わない?」
みさえ「…そうね」
みさえ「ホント全身に響いたわよ…」
みさえ「あの子のキャラクターの濃さには…」
しんのすけ「お?」
響「はいさーい!」
響「引退しにきたぞー!」
P「響!?お前、今まで何をやって…!?」
P「……」
P「えっ?」
響「プロデューサー?ちゃんと十三年後は明けといてくれよー?」
P「……」
P「わりとマジでなに言ってんだ、お前?」
響「…///」
しんのすけ「おぉー!?///」
しんのすけ「髪の毛おろした響ちゃん、すっごい可愛いぞー///」
響「えへへ…///」
響「これは生涯を共にすると決めた人の前でしか見せないんだからな?」
響「だから、自分や自分達の家族のこと…」
響「ずっと大切にしてね!しんちゃん///」
みさえ「すっげーよ…マジかよ…」
ひろし「なぁ、あの二人ってどういう経緯で…」
ひまわり「ねぇね、チョーかわいいー!」
P「……」
P「…えっ?」
P「お前、あの時何歳の子と結婚の約束したんだよ…?」
おわり
そりゃ 驚きもしますよ
嘘だろ…
でも、みさえも髪ストレートにしたらかわいいよね
アニメでそんなのあった気がする
Entry ⇒ 2012.08.23 | Category ⇒ アイマスSS | Comments (5) | Trackbacks (0)
律子「徹夜7日目のプロデューサー殿」
律子「おはようございまーす」
P「……」カリカリカリカリカリカリカリカリ
律子「あ、プロデューサー殿、徹夜ですか? 体に悪いですよ?」
P「ああ、サラブレッドだ。旧体制に火をつけると騒ぎ出すからな」
律子「……はい?」
P「律子も右から来る電灯には愛情表現を忘れるなよ?」
P「それじゃ」
P「……」カリカリカリカリカリカリカリカリカリカリ
律子「ぷ、プロデューサー、殿?」ガクガクブルブル
律子「こ、小鳥さぁん!」
小鳥「ピヨっ!?」
小鳥「そんなに慌ててどうしたんです?」
律子「プロデューサー殿が、プロデューサー殿がぁ……!」ウルウル
小鳥「プロデューサーさんが?」
P「小鳥さん」
小鳥「あ、おはようございます」
P「辞書の集団が根負けしてたので交通整備しておきましたよ」
P「キーボードの端まで歩いて行ったのであとで見てください」
小鳥「」
律子「プロデューサー殿は一体どうしちゃったんですか……?」
高木「むう、あれが噂に聞く『不眠不休』……」
律子「知っているんですか社長!」
不眠不休―― その源流は遥か古代に遡る。人類が誕生した古来より畏怖と尊敬の対象であった不老不死。その恐ろしさ美しさにあやかって多くの者が不眠不休という偉業に挑戦してきた。かの皇帝ナポレオンも不眠不休という説があるが、学者の間でも意見が別れている。
小鳥「つまりどういうことです!」
死ぬだろ
ブラック乙
高木「言ってしまえば彼の頑張りすぎだ! いいかげん休ませなければ!」
律子「いったい何日眠ってないんですかあの人は……」
小鳥「とにかく、さっさと休ませましょう……」
小鳥「ってあれ? プロデューサーさんがいない……」
高木「い、いかん! いまの彼はなにをしでかすか分からんぞ!」
P「春香?」
P「う、うわぁぁぁぁ!!!」
春香「ど、どうしたんですか?」
P「く、来るな! 鳥人間め! また俺を閉じ込めに来たのか!」
春香「え? え?」
P「赤信号は嫌だぁぁぁぁ!!」ペシッペシッ
春香「い、痛い! 痛いです! ネクタイで叩かないで!」
P「うわぁぁぁぁぁ!!」ダダダダダ
春香「ああっ! どこ行くんですか!」
律子「は、春香! プロデューサー殿を見なかった?」
春香「あ、あっちの方へ」
律子「ありがとう!」ダッ
春香「なにがどうしちゃったんですか……?」
ゆめにっきは関係ないんだ
千早「どうしたんです?」
P「鳥人間が見解を大きくしたんだ! このままじゃ柑橘類が!」
千早「??」
P「ああ千早! お前も背中が二つになってる!」
千早「おいコラ」ゴスッ
律子「プロデューサー殿ぉ!」
律子「ち、千早! プロデューサー殿をいじめないで! 彼はいま錯乱してるの!」
千早「そうだったんですか?」バキッ
律子「逃げる前に回収しないと……!」
P「うわあああああ!!」
千早「あ」
律子「ああ! 待ってくださいプロデューサー殿!」
P「あ、響……」
イヌ美「わんわんお」
P「イヌ美もいるのか……」
P「あ、ああ、実は……」
イヌ美『右目からイヤホンが凝固してるぞ』
P「ひっ!?」ビクゥ
響「?」
イヌ美『金属製の手袋が通報を隠したから、もうお前は手首を増やせないな』
P「あ、あああ、ああ……」
響「プロデューサー? なんだか様子が変じゃないか?」
イヌ美『方位磁石が風を作ってる内に四角を蒸発できるか?』
P「あああああ!! 電気カマキリの靴磨きにはなりたくなぁぁぁぁい!!」
P「ああ、ああああ、うあああああ!!!」
響「ひぃぃ!?」
律子「ああ、見失った!」
P「このままじゃ鉛筆がコンセントを枯らしてしまう……」
貴音「あなた様? なにを呟いているのです?」
P「た、貴音!」
P「頼む! 日の光を返してくれ!」
貴音「えっ///」
P「麦畑が実るまでには間に合わせるから!」
貴音「そ、そんな急に申されましても///」
P「このままじゃ俺はどうにかなってしまいそうだ……」
貴音「わ、わかりました」モジモジ
貴音「そこまでも申されるのであれば、わたくしも心を決めます」
貴音「あなた様の、伴侶となりましょう……///」ギュ
貴音「……あなた様」
律子「同時期に消えた貴音との噂を最近耳にするけど、いまとなっては真相はわからない……」
律子「それ以上に世間を騒がせているのは、もうひと月も形を変えない満月の方……」
律子「二人ともどこへいってしまったの?」
おわり
律子「……」ギュ
P「律子?」
律子「プロデューサーは、きっと疲れてるんですよ」
律子「お願いですから、休んで下さい」
P「でもなぁ、この企画書仕上げたいし……」
律子「……」ギュウウ
P「い、痛い! 分かった、分かったから!」
翌日
P「結局、休むことになってしまった」
P「うーん。アイドルのみんなが頑張ってるのに」
P「プロデューサーが休んだりしていいものなのだろうか」
P(……とりあえずみんなの予定だけでも確認しておこう)
P「あ、律子のやつ今日休みになってる」
P「プロデューサーが揃って休むのは不味いよなぁ……」
P「おはようございまーす」
春香「あれ? 今日は休みって聞いたんですけど……」
P「いやぁ、みんなの事を思ったらとても休んでなんかいられなくて」
春香「プロデュサーさん……」
P「春香……」
春香「ちゃんと休まないとダメですよ!」
P「えっ?」
春香「律子さんから聞きました! 変な夢を見たんですよね?」
P「夢くらいで大げさな」
春香「そんな事ありません! ほらソファーを使って」グイグイ
P「お、押すな押すな……」
春香「今日は私たちでなんとかしますから」
P「うーん……」
数時間後
P「んあ!」
あずさ「おはようございます。プロデューサー」
P「……おはよう? もしかして俺寝てました?」
あずさ「はい~」ナデナデ
P「あずささんの膝で?」
あずさ「はい~」ナデナデ
P「なんか、スイマセン……」
あずさ「良いんですよ」
あずさ「日頃から働きづめなんです」
あずさ「たまには、ゆっくり……」
P(あずささんの膝枕は素晴らしいな)
P(まるでこの世の物とは思えない心地よさだ)
雪歩「プロデューサー? お茶をどうぞ」
P「ありがとうな」
雪歩「隣、失礼しますね」ストン
P「お?」
雪歩「?」
P「雪歩とゆっくりお茶するのって、珍しい気がする」
雪歩「そうですか? でも、今日はゆっくりできますね」
P「そうだな、こういうのも悪くない」
雪歩「ずっとこうしていたいですね……」
雪歩「ずっと……このままで……」
P「休むように言われたとしても、これ以上仕事場でくつろぐのも問題だよな」
P「そろそろ書類をば……」
小鳥「あ、その書類ならもう終わりましたよ?」
P「ホントですか? いやぁなんだかすいません」
小鳥「プロデューサーさんはいつも頑張ってるんだから、たまには役に立たせてください」
P「ありがとうございます」
P「えーと、じゃあこっちの書類は」
小鳥「それも終わらせてありますよ」
P「え?」
P「じゃ、じゃあこれは……」
小鳥「それもです」
P「こ、これは」
小鳥「やっておきました」ニコ
P「……」
P(俺の案件なんだけど……)
P「い、伊織か。後ろから声を掛けないでくれ」
P「びっくりするだろ」
伊織「ねぇ、今日は休みだったんじゃないの?」
伊織「書類なんて持って、仕事でもする気なの……?」
P「伊織?」
伊織「ダメよ、仕事をしすぎると人は定規になってしまうの」
P「は、はあ?」
やよい「そうですよ、だからプロデューサーは仕事をしちゃダメなんです」
やよい「ずーっと休んでないとダメなんです」
P「やよいまで何を……」
美希「休んで」
亜美「休まないと」
響「休まないの?」
P「お、お前等までどうしてしまったんだ!?」
ガチャ
貴音「あなた様? どこへ行こうというのです?」
P「そりゃあ、休憩に……」
真「嘘はダメですよ? また外回りに行く気なんですね?」
真美「兄ちゃんは油断するとすぐ働こうとするんだから……」
律子「ほんと、ダメな人……」
P「り、律子!」
律子「ダメじゃないですかプロデューサー殿……」
律子「黙って出て行っちゃうようなプロデューサーはちゃぁんと繋いでおかないと」ジャラ……
P「俺を外に出してくれー!」
P「俺に仕事をさせてくれー!」
P「閉じこめられるのはいやだああああ!!!」
律子「……それが何か?」カリカリカリカリカリ
P「えっ?」
律子「そんな作り話したところで、休みなんてもらえませんよ?」カリカリカリカリカリ
P「別にそんなつもりで言ったつもりは……」
律子「心底どうでもいいです」カリカリカリカリカリ
律子「それよりほら、プロデューサー『殿』の仕事が遅い所為で」クイッ
P「?」チラッ
P「う、うわあ!? なんだこの書類の山は!」
律子「自業自得でしょう? これは徹夜必至ですね」カリカリカリカリカリ
律子「そうですね、軽くみても……」カリカリカリカリカリ
律子「7日は徹夜しないとダメですね」
おわり
拙くて申し訳ない
関係無いけどお前ゆめにっき好きだろwww
ゆめにっきもLSDも怖いからやってない
Entry ⇒ 2012.08.23 | Category ⇒ アイマスSS | Comments (3) | Trackbacks (0)
咲「い、良い加減……つ、付き合お?」 和「……!」
咲「全国大会も終わったしさ。しばらくゆっくりとした時間過ごせるから、良いかなって」
和「つ、つ、付き、付き、付き合」
咲「うん。付き合お?」ニコッ
和「!」
咲「ね?」
和「え、えぇっと……そ、それはつまり、その……」
咲「私、和ちゃんの事、好きだよ」
和「!」
咲「の、和ちゃん?」
和「あhんjkさんぁんぁんxjさんx」クラクラ
咲(い、いきなりこんな事言っちゃって、びっくりさせちゃったかな……)
和「rhfれfんjskjfんskんjfwsckんさkんcsjcんk」クラクラ
咲(そ、それとも……もしかして、他に……)シュン
和「!」パッ
咲「ご、ごめんね、いきなりこんな事言っちゃって」
和「あ、いえ……(いけません、しっかり意識を保たなきゃ……!)」
咲「勝手に一方的に……。和ちゃんだって、他に好」
和「いませんよ!」キリッ
咲「!」
和「私だって、咲さんの事が好きですよ! 大好きですよ!」
咲「……!」
和「あっ……(思わず、本音も本音を思いっ切り……)」
咲「……」
和「あ、あの、すみません……」カァッ
咲「う……」
和「……」
咲「う、嬉しい」
和「!」
咲「嬉しいよ、和ちゃん!」手ギュッ
和「……」カァッ
咲「ほ、本当に嬉しいよ……」ホロッ
和「……」
和「……」
咲「いつも一緒にいて、いつも二人で頑張ってこれたから、気持が抑え切れなくなっちゃって……」
和「……」
咲「で、でも、も、もしかしたら、両想いじゃない可能性もあるかもしれないって考えたら……」グスッ
和「……」
咲「ずっと眠れない日が続いてたけど……」グスッ
和「……」
咲「ほ、本当に、良かったよ」ポロッ
和「……全く」スッ
咲「……」
和「なんて無意味な心配してるんですか」ポンポン
咲「……!」
和「私が咲さんを好きじゃないなんて事、あるわけないじゃないですか」ポンポン
咲「……」グスッ グスッ
和「……」
咲「……」
和「……」
咲「こ、恋人同士になったのは良いんだけどさ……」
和「は、はい」
咲「な、なにをすれば良いのかな……?」
和「た、確かに、こうしてただ部室の椅子に並んで座っていたのでは、今までと変わりませんね」
咲「な、なにか、恋人同士っぽい事しよっか」
和「えっ……」ドキッ
咲「の、和ちゃんはさ、なにがしたい?」
和「えぇっ……そ、そんな、いきなり聞かれても……(抱き合う、キス、自主規制、自主規制、自主規制、自主規制……)お、思い浮かびませんよ」ドキドキ
咲「そ、そうだよね、ごめん、ごめん。……じゃあ……」
和「じゃ、じゃあ……?」ドキドキ
咲「手、つなごっか」
和「あっ……(こ、このままじゃ……)」
咲「和ちゃん?」
和「ちょ、ちょっと待って下さい……(汗がすごくて……)」フキフキ
咲「あ……あはは。私も汗すごいや(き、緊張で……)」フキフキ
和「ふぅ。……い、良いですよ」スッ
咲「う、うん! 私も」スッ
咲・和「「……」」カシッ
ギュッ
咲「!」
和「!」
咲「……」カァッ
和「……」カァッ
和「……」ギュッ
咲「……」ドキドキドキドキ
和「……」ドキドキドキドキ
和「……」ギュッ
咲「な、なんか……不思議だね」
和「ふ、不思議ですか?」
咲「うん」
和「な、なにがでしょうか……?」
咲「ただ、手をつないでるだけなのにさ」
和「……」
咲「触れ合ってるのは、体のうちに、ほんのごく一部なのにさ」
和「……」
咲「しかも、普段一番色んなものに触れる、手っていう部分なのにさ」
和「……」
咲「大好きな人とだと、こんなにドキドキして嬉しいんだね」ニコッ
和「!」
和「は……はい!」カァッ ////
手つなぐくらい本編でもしてたっけか
和「……」ドキドキ
咲「和ちゃんは、次、なにがしたい?」
和「わ、私ですか?」
咲「うん。最初は私のしたい事をしたからさ」
和「そ、そうですか。では……」
和(咲さんとしたい事と言ったら……抱き合う、キス、自主規制、自主規制、自主規制、自主規制……)
和(ダ、ダメです!)ブンブン
咲「?」
和(ここは、もっと控え目に……)
咲「なにかある?」ニコッ
和「!」ドキッ
和「も、もっと」
咲「うん?」
和「も、もっとくっついて良いですか?」
和「……」
咲「もうちょっと近く寄るね」スッ
和「!」ドキッ
咲「……」ススッ
和「……」ドキドキ
咲「こ、これくらいで良いかな?」ピタッ
和「あっ……(顔が……近い……!)」カァッ
咲(顔すっごく近くて、さ、さすがに照れるよ)カァッ
和「でも、も、もうちょっとですね」
咲「……も、もうちょっと?」
和「……」ススッ
和「……」ピトッ
咲「! (い、いよいよ近い……!)」カァッ ////
和「……(も、もう、むやみに顔を動かせません……)」カァッ ////
和「……」
和「う、腕が邪魔なので、お互いに、腰に回しませんか?」
咲「こ、腰に?」
和「はい。こうして……」スッ ギュッ
咲「う、うん」スッ ギュッ
和「……」
咲「なんか不思議だね」
和「こ、今度はなにですか……?」
咲「さっきまでは、ちょっとでも和ちゃんと体がふれあうと、ドキドキして仕方無かったけど……」
和「……」
咲「いざこうして、思いっ切りくっついちゃうと……」
和「……」
咲「逆にすっごく落ち着くね。心の底から癒されるというか……」ムギュッ
和「!」
和「い、言われてみれば……」
咲「ずーっとこうしてたいな」ムギュッ
和「……!」カァッ
和(咲さん、可愛い表情ー……)
咲(なんかもう、癒され過ぎて……)ギューッ
和(子どもみたいで可愛い……)
咲「ねぇ、和ちゃん」パッ
和「は、はい?」
咲「ごめんね。変なお願いなんだけどさ……」
和「……?」
咲「あ、甘えて良い?」テレッ
和「甘える?」
和「甘えるっていうは……」
咲「こうやって、思いっ切りくっつくから……」ギュッ
和「んっ……」
咲「その……なでなでしてくれたら嬉しいな、なんちゃって。えへへ」テレテレ
和「……」
咲(さ、さすがに恥ずかしいお願いだったかな……)
和「……」スッ
咲「……!」
和「……」ナデナデ
咲「! わ~い……!」ギュギューッ
和「……」ナデナデ
咲「んー……」ムギュー
和「……」ナデナデ
咲「和ちゃん」
和「はい?」ナデナデ
咲「大好きだよ」
和「! わ、わかってますよ!」ナデナデナデナデ
咲「世界で一番、大好きだよ」ギュッ
和「!」カァッ
和「……」ナデナデナデナデナデ
咲(このままずっといたいなぁー……)
和「……」ナデナデ
咲(このままずーーーーーっと……)
和「……」ピタッ
咲「……? (あれ……?)」
和「そろそろ、代わってください」
咲「か、代わる?」
和「わ、私にも、同じ事してください」テレッ
咲「!」
咲「そっか、そっか。ごめんね」スッ
咲「じゃあ、ここにくっついて……あ」
和「……?」
咲「ごめんね。和ちゃんと違って私……」
和「?」
和「……」ジーッ
和「……」ツルペターン
和「……」
和「……良いですよ」スッ
咲「!」
和「……」ピトッ
咲「んっ……」
和「これはこれで、すごく良いですよ(あぁぁぁぁぁぁ咲さんの胸……!)」ムニムニ
咲「そ、そっか。良かったよ」
和「で、ではお願いします(どっちに集中すれば良いのやら……)」ムニムニ
咲「うん。よしよし、和ちゃん」ナデナデ ナデナデ
和「!」
和「……」ポケーッ
和「んっ……(こ、これは……)」ムギュー
咲「よしよし。和や~。……なんちゃってね。えへへ」ナデナデ
和(こ、こんなに良いものだったとは……)ムギュー
咲「おっと、和さん。抱きついてくる力がどんどん強くなっておりますぞ」ナデナデ
和「あ、す、すいません」パッ
咲「ううん。良いよ」ナデナデ
和「……」カァッ
咲「……」ナデナデ
和「……」ムギュー
咲「……」ナデナデ
和「さ、咲さん」
咲「? どうしたの?」
咲「うん?」
和「宇宙で一番大好きですから!」
咲「!」
咲「……」カァッ
和「う、宇宙ですよ……!」ムギューッ
咲「おっと、上をいかれちゃったよー」ナデナデナデナデ
和「……」カァッ
和「ふぅ」
咲「こんなに暑いのに、あんなにくっついちゃって……えへへ」
和「お互いもう、汗でびっしょりですね」
咲「……」チラッ
和「……」チラッ
咲「な、なんか、どこ触ってないと寂しいから……」スッ
和「て、手はつないでましょうか」スッ
咲・和「……」ギュッ
咲・和「……」カァッ
咲「んー……」
和「?」
咲「なんかちょっと悔しいなー……」
和「く、悔しい?」
咲「うん」
咲「だって、和ちゃんが宇宙で一番なんていうからさ」
和「なんだ、そんな事ですか……」
咲「私の方が、和ちゃんの事好きなのに」
和「!」
和「そ、そんな事ありませんよ!」
咲「ううん。私の方が好きだよ」フフン
和「私の方が、咲さんの事が好きです!」キリッ
咲「私の方が!」キリッ
咲「……」ジーッ
和「……」ジーッ
咲「……」カァッ
和「……」カァッ
すばらっ!
和「じゃあ……?」
咲「私は、ノドカーで一番、和ちゃんが好きだよ!」
和「……の、ノドカー?」
咲「うん。私が今決めた、宇宙より外にある、宇宙より大きい空間だよ!」
和「!」
和「じゃあ私は、サキーで一番、咲さんが好きです!」
咲「さ、サキー?」
和「ノドカーの更に外にある、ノドカーより大きな空間ですよ!」
咲・和「……」ジーッ
咲・和「ぷはっ」
咲「……こ、こういうの、なんていうか知ってる?」
和「な、なんですか?」
咲「バカップルっていうんだよ」
和「確かに……馬鹿ですね……」
和「あ、本当ですね」
咲「そろそろ帰ろっか」
和「は、はい」
咲「……」スッ
和「……」スッ
咲「用意出来た?」
和「はい」
咲「じゃあ、行こっか」
和「はい」
キッ バタンッ
咲「……」トコトコ
和「……」トコトコ
咲「……」
和「あ、あの……」
咲「うん、良いよ」ニコッ
和「え……? ま、まだなにも……」
咲「手だよね? つなご!」
和「あっ……」
咲「……」スッ
和「……」スッ
咲・和「……」ギュッ
咲「……」トコトコ
和「……」トコトコ
和「……」トコトコ
咲・和「ふぅ」ドキドキ
咲「な、なんか手はもう散々つないだはずのに……」ドキドキ
和「な、なんか違いますよね……」ドキドキ
咲「歩きながらだと……」ドキドキ
和「本当に恋人同士のような感じで……」ドキドキ
咲「のようなって、私達はちゃんとした恋人同士だよ!」ドキドキ
和「まぁ、そうなんですけど……」ドキドキ
咲・和「……」ドキドキドキドキ
咲「なんか、本当に緊張しちゃうから……」
和「しちゃうから……?」
咲「なにか面白い事しながら歩こっか」
咲「うん! モノマネ合戦」
和「も、モノマネ合戦……?」
咲「まず、私から行くよ」
和「は、はい」
咲「……」コホン
咲「モノマネ・和ちゃん」コホン
和「……」
咲「そうなんだ、じゃあ私、生徒会行くね」声マネ
和「……」ジトーッ
咲「なんちゃって。えへへ」ポリポリ
咲「お? 良いよー」
和「……」コホン
和「では行きます。モノマネ・saki」
咲「……」ワクワク
和「強くなりたくば喰らえ!!」声マネ
咲「……」ジトーッ
和「……」ドヤッ
和「……」
咲「しかもお父さんの言葉やしー……」
和「あかん、あかん」
咲・和「……」
咲・和「……」ジーッ
咲・和「ぷはっ」
咲「私達、本当にバカップルだね」
和「大バカップルですね」
咲「ふぅ。ここでお別れだね」
和「は、はい」
咲「……」
和「……」
咲「帰りには、手、離さなきゃね。えへへ」
和「そ、そうですね」
咲「……」
和「……」
咲・和(離せない……)
和「……」
咲「じゃあ、せーので放そっか」
和「わかりました」
咲「せー……」
和「の!」
咲「……」
和「……」
咲・和(は、離せない……)
和「どうしますか……」
咲「まぁ、単に離せば良いんだけなんだけどね……」
和「そ、そうですけど……今の私達には、なぜかそんな事が難しいんですね……」
咲・和「……」カァッ ////
咲「じゃ、じゃあさ」
和「?」
咲「引いてダメならさ」
和「ひ、引いてダメなら……?」
咲「いっその事……」スッ
和「!」
咲「思いっ切り抱き合っちゃおうよ!」ギュッ
和「……!」
和「んっ……」
和「は、はい……!(しっかり前面と前面で思いっ切り抱き合うのは、初めて……)」ギュッ
咲「……」ギューッ
和「……」ギューッ
咲「よし。これで、手はほどけてるから……」
和「このまま体を離せば……」
咲「……」ギューッ
和「……」ギューッ
咲「体を……」
和「離せば……」
咲「……」ギューッ
和「……」ギューッ
和「……」ギューッ
咲・和「……」ギューッ
咲「じゃ、じゃあ、せーので」
和「いや、多分それでは……」
咲「ダメだよね……」ギューッ
和「そうですね」ギューッ
咲「このままじゃ帰れないね」ギューッ
和「そうですね」ギューッ
咲「ど、どうしたら……」ギューッ
和「さっきと同じですよ」ギューッ
咲「さっきと同じ?」ギューッ
和「引いてダメなら、押してみるしかないですよ」ギューッ
咲「で、でも……」ギューッ
和「はい? (……もうダメです)」ギューッ
咲「お、押すっていっても、これ以上は……」ギューッ
和「体はこれ以上くっつきませんよね (もう、自分に正直になります)」ギューッ
咲「う、うん。そうだよね」ギューッ
和「だから……」スッ
咲「! (和ちゃんの顔が……目の前に……!)」
和「……」スッ
咲「……!」
和「……」チュッ
咲「!」
和「……」チューッ
咲「んっ……」
和「ふぅ」ドキドキドキドキ
咲「の、和ちゃん!」ドキドキドキドキ
和「どうしました?」ツン
咲「あ、なにその顔~! なにもおかしな事はしてませんよ、みたいな!」
和「だってしてないですもん」ツン
咲「さ、さすがにいきなりキ、キスは……」
和「恋人同士なら普通ですよ?」ツン
咲「あ、そ、それもそっか……」
咲・和「……」ジーッ
咲・和「……」ボンッ
咲(でもさすがに、キスは恥ずかしいよ~……!)カァッ ////
和(もう咲さんの顔、しっかり見れません……!)カァッ ////
和「ま、まぁ初めから、完全に私達のさじ加減でしたけどね」カァッ
咲「……」テレテレ
和「……」テレテレ
咲(や、やっぱりキスってすごいんだな……)テレテレ
和(あれだけ部室で色々したのに、破壊力が全然違いますね……)テレテレ
咲「……」チラッ
和「……」チラッ
咲「あっ……」カァッ
和「あっ……」カァッ
咲(もう顔が見れない所か……)ドキドキドキドキ
和(一瞬目が合っただけでも、鼓動がすごい……!)ドキドキドキドキ
和(恥かしくて仕方ないけど……)ドキドキ
咲(なんか……)ドキドキ
和「……」ドキドキ
咲「……」ドキドキ
和「……」ドキドキ
咲・和「あ、あの……」
咲・和「!」
咲・和「あっ……」
和「いえいえ、咲さんからで良いです」
咲「……」
和「……」
咲「……って言っても、多分」
和「……」
咲「言おうとしてた事、同じだよね」
和「!」
咲「さっきは和ちゃんから積極的に来てくれたから、今度は私が言うよ」
和「……」
咲「もう一回、キスしよ!」ニコッ
和「!」ドキドキドキドキ
和「は、はい (さっきは勢いでやってしまいましたが……)」
咲「えぇーっとじゃあ……」
和(改めてするとなると、緊張して……)
咲「うーん……」
和(どうしたら良いか……)アセアセ
咲「和ちゃんは、そのままじっとしててね」
和「! は、はい」
咲「じゃあ、いくよ」
和「は、はい……!」
咲「目を閉じてね」
和「は、はい」ギュッ
咲「……」スッ
和「……」
咲「……」チュッ
和「!」
咲「……」チューッ
和「んっ……」
咲「ふぅ」
和「はぁ……はぁ……」
咲「ダメだね。あんまりやっちゃうと……」
和「はぁ……はぁ……」
咲「本当にクセになっちゃいそうで……えへへ」
和「い、家に、帰れなくなっちゃいますね」
咲「ふぅ」
和「ふぅ」
咲「じゃあ、最後にさ」
和「さ、最後に……?」
咲「お互いに好きって言ってから別れよ!」ニコッ
和「! 良いですね」
和「良いですね。交際開始からちょうど5時間ですから、最初の記念イベントとして」時計ジーッ
咲「あ、そうなんだ……」
和「はい」
咲「よし。じゃあ、いくよ」
咲「私、宮永咲は、」
和「……」
咲「初めて見た時から、原村和の事は、可愛い子だなぁと思っていましたが、」
和「……」カァッ
咲「地区大会、全国大会などを経て、どんどん惹かれていき……」
和「……」
咲「今ではぞっこんです!」キリッ
和「……!」カァッ
咲「……」ニコッ
和「……」テレテレ
咲「……」
和「実は、かなり初期の段階から、宮永咲に本気で恋慕の情を抱いておりましたが、」
咲(そ、そうだったんだ……!)カァッ
和「地区大会、全国大会などを経て、その恋慕の情はいよいよ熾烈を極め……」
咲「……」
和「今ではもう、自分でも手をつけられないような遠大な愛に成長してしまいました!」キリッ
咲「……!」カァッ
和「何度も言いますけど、私の想いの方が、絶対に上ですからね」ニコッ
咲「……」テレテレ
和「は、はい!」
咲・和「……」ジーッ
咲「さ、最後に一瞬だけ……」
和「そ、そうですね。一瞬だけ……」
咲・和「……」スッ
咲・和「……」チュッ
咲・和「……」パッ
咲「また帰りたくなくなってきちゃう前に……」スタッ
和「急いで帰りましょう……!」スタッ
タッタッタッタッタッタ
――草むらの陰――
京太郎(俺はなにも見てない聞いてない、俺はなにも見てない聞いてない、俺はなにも……)プルプルプルプル
終
すばらでした!
ちょーよかったよー
Entry ⇒ 2012.08.23 | Category ⇒ 咲-Saki-SS | Comments (0) | Trackbacks (0)
貴音「まんまるお月様」
765のテープが張られた事務所の窓も、例外なく雨に叩かれています。
夏が過ぎたばかりというのに気温は低く。
落ちる水は冷たく、人の体を震えさせるのには十分。
小鳥嬢とプロデューサー、そしてわたくしは控えめの暖房に吹かれながら事務所の外を見ているのでした。
「雪歩ちゃんもいませんし、私コーヒーのお湯、コンロにかけてきますね」
「お願いします、小鳥さん」
じとっとした空気を買えるためか、小鳥嬢が席を立しました。
傘を持っていなかったために、事務所の服掛には普段わたくしの使っているコートが水を滴らせています。
床が濡れないようにとバケツをコートの下に置いてあるため、一定時間でぴちょん、という音が聞こえてきます
。
「まぁこの時期の天気は変わりやすいみたいだし、仕方ない。天気予報も外すことだってある。ほら言うだろ、
女心と秋の空ってさ」
「今宵は十五夜でありますのに…。それまでには晴れますでしょうか?」
腰まで届く長い髪を丁寧にタオルで拭きながら尋ねました。
「それにしても、貴音は今日外で撮影だっただろ。まず月よりそっちの心配じゃないか?」
「まぁまぁプロデューサーさん、今日はせっかくの十五夜ですもの。日本人なら月のことも考えるでしょう、ね
、貴音ちゃん?」
小鳥嬢が給湯室から戻ってきたようですね。
わたくしに話しかけつつ席につき、ハンケチで手を拭いております。
「…変わり易い女心」
「あなた様!」
「プロデューサーさん、こういうときに茶々をいれたらダメですよ」
「はは、ごめんごめん」
あの日思いを伝えてから、あなた様と互いの気持を確かめ合ってから。
あなた様はわたくしに対し少々厳しいような気がします。
厳しい、というのは少し違いますね。
なんと言えばよいか。
子供のような揚げ足取りをしたり、おひゃらかしたりすること。
わたくしはまだこの行為を表す言葉を持ち合わせていないようですね…。
確かに窓から望む限り、雨は先ほどより幾分弱くなっているようで。
時折雲の切れ目から日差しが見えるようになりました。
「あら、本当ですね。これは今夜は765プロの皆でお月見ですかねぇ」
「お、小鳥さんにしてはいい考えですね」
「む、失礼ですよプロデューサーさん!」
「ははは」
765ぷろの皆で、ですか。
あいどるの仲間は皆好きです、しかし、それでもわたくしは…。
「ん?どうした貴音」
「本日は夕方より、わたくしもあなた様も予定がないと記憶しております」
「あぁ、そうだな」
「あなた様のお時間をわたくしにくださいませんか?」
「………」
「いや、構わないぞ。そうかぁ、貴音から誘われちゃったか」
「…それでは!」
「いやさ、ホントは俺も同じこと言うつもりだったんだ。俺から誘いたかったんだけどな、先に言われちゃった
なぁ」
「あらあら、ここには私もいるんですよ。ふふ」
プロデューサーが顔を赤らめ頭を掻く、その様子がとても可愛らしくて…。
給湯室のやかんがぴぃと音を立てました。
幸い仕事に向かう前に雨は止み、撮影は予定通り行われるみたいですね。
ただ、プロデューサーに聞いたところによると撮影場所に若干の変更があるようで。
助手席から街を覗くと半そでの人間はやはり少なく感じられました。
「しかし、先ほどは皆で月見と言っておりましたのに、よろしいのですか?」
「言ってみただけだよ、いや多分残った皆でするんだろうけど」
雨上がりの街は人がまばらで、いつもの喧騒はありません。
「あなた様」
「どうした?スタッフとの集合場所ならもうすぐ着くけど」
「いえ、そうではないのです。あなた様は今宵わたくしを誘ってくださるつもりだったのですよね?」
「…改まって確認されると何か恥ずかしいな」
赤信号、車が静かに止まり、プロデューサーが息をひとつ吐きました。
「どこへ連れて行って下さるおつもりだったのですか?」
「トップシークレットだ」
「…いけずです」
「逆に貴音は、俺を何処へ連れていってくれるんだ?」
「とっぷしぃくれっとですよ、あなた様」
「知ってた」
「やっぱりあなた様はいけずです…」
気になったものといえば湿度の高さくらいでしょうか。
湿気と相まってセットしにくい長い髪のせいで、スタイリストに迷惑をかけてしまったのは言うまでもありませ
ん。
真に申し訳なく思います…。
現在時刻は午後三時を少し回ったところ。
「そうだな、さっきクライアントから一本、番組の出演要請があったからそれのスケジュール調整のために一旦
事務所に帰ろうと思う。貴音も事務所に帰るだろ?」
「いえ、わたくしはここで一度自宅のほうへ帰らせて頂きたいのですが」
「ん、そうか。なら近くまで送るよ」
「ありがとうございます、あなた様」
高く上った太陽は地表をじりじりと照らし雨を蒸気へと変え。
不快な残暑に顔をしかめ、文句のひとつでも言いたくなります。
しかしながら、逆にそれが嬉しくもありました。
この調子なら夜にはからっとした空気の中、美しい月が見られそうですね。
あなた様と見る月を思い浮かべ、わたくしは笑ってしまうのでした。
夢を、見ていました。
夢の中でわたくしは船になっていました。
ただ広い海の中に浮かんでいるだけの一隻の船。
わたくしだけではどうすることもできません。
辺りは闇で覆われ、波の音が喧しく聞こえてくるのみです。
そこへ、何処からでしょうか、優しく、そして力強い風が吹いてきたのです。
わたくしはその風を帆に受けて少しずつ、少しずつではありましたが前へと進みだしました。
風は、明確な意思を持ってわたくしを導いてくれているようでした。
その心地よさに身を委ね、わたくしは導かれるべき方向へと舵を取りました。
どれほどそうしていたでしょうか。
やがてうっすらと彼方に地平線が見えてきました。
同時に、地平線を浮かび上がらせる太陽も顔を出し始めたようです。
風が勢いを増し、わたくしの速度もぐんぐんと速くなります。
波は黄金色に光り、闇はわたくしの後ろへ逃げ帰るよう。
ここまでくれば風がどなたかははっきりと分かりました。
海にたゆたうわたくしと、その思い。
それをここまで連れてくださったのは、あぁ…。
「…あなた様」
近くまでわたくしを迎えに来てくださったプロデューサーの車に乗り込みました。
「ゆっくり休めたか、貴音?」
「えぇ、すこし寝てしまいました」
「いいことだ、寝られるときは寝るに限る。とくに俺みたいな仕事してればなおさらさ」
「いつもありがとうございます、あなた様がいたからこそわたくしは…」
「あぁ、いや、いいんだいいんだ。別に今のは恩着せがましく言いたかったわけじゃない。ところで貴音」
「はい、なんでしょうか?」
「その荷物は?」
「これは…」
「またトップシークレットか?」
「ふふふ、着けば自ずとわかりましょう」
昼間の陽気のおかげでしょうか、空気は湿りすぎず渇き過ぎず。
かと言って気温は暑すぎず、涼し過ぎず。
月だけは爛々と美しすぎました。
「そういえば、貴音の向かいたい場所を聞くのを忘れてたな、何処に行きたいんだ?」
「あなた様は、わたくしが『風花』のぴぃぶいを撮影した場所を覚えていますでしょうか?」
「覚えてるけど…ここから車だと三時間ちょっとかかるぞ」
「そこへ連れて行って頂きたいのです」
「…よし、わかった。明日は幸い午後出勤だしいくらでも付き合ってやるさ」
そう言うとプロデューサーは今までよりも強く踏み込み、車を加速させました。
「あ、あなた様!急に速度を上げられては」
「悪いな、今夜の俺はアウトローなんだ」
あうとろぅ…ういろうのような食べ物でしょうか…?
「もう少しで着くからな、酔ったりしてないか?」
「わたくしは大丈夫です、それよりあなた様も運転でお疲れではないでしょうか?」
「なんのことはないよ、貴音が隣にいてくれるんだ。それだけで疲れなんて吹っ飛ぶ」
「…あ、あなた様は恥ずかしいことを平然と言ってのけるのですね」
「本音を言ってるだけさ」
傍から見ているだけでなんと幸せな気分になれましょうか。
あなた様はきっとこう答えるのでしょう。
わたくしが「月が綺麗ですね」と問えば「貴音のほうが綺麗だよ」と。
自惚れと言われればそうだと言えましょう。
けれどわたくしはあなた様からこそ、「月が綺麗だね」と言って欲しいのです。
これは過ぎた望みでしょうか。
車は小高い岡の斜面の下で停車しました。
辺りに街灯はなく、月の光だけがわたくし達を照らしています。
プロデューサーと手を取り、二人で歩幅を合わせ斜面を登ると『風花』の撮影場所へと辿りつきました。
以前のように花が咲き誇っているということはありませんが、代りに芒が生い茂っています。
「さて、貴音そろそろその荷の正体を教えてくれないか?」
「そこに腰を下ろしていただけますでしょうか、あなた様」
「ん?こうか?」
わたくしの言葉に従いプロデューサーが胡坐をかいて座りました。
「では、これを」
私が風呂敷から取り出したものは、そう、酒坏でした。
「おいおい、酒か。いくら明日が午後からとはいえ…」
とくとくとく……
わたくしはプロデューサーの言葉を流し、酒坏に日本酒を注ぎました。
「ま、いいか」
「貴音…今日だけだからな」
プロデューサーの言わんとすることは分かります、当然わたくしは未成年。
この国ではまだ飲酒することができません。
でも、今宵だけは…。
「…随分と可愛らしい」
「古来より日本の貴族は月を直接見ることをせず、このように杯や水面に写る月を愛でたと言います」
「貴族達は何を思い、この小さな月を見ていたのでしょうか」
「わたくしは…あなた様を思いつつこのたゆたう月を見ております」
「あなた様は一体何を思われているのでしょうね」
静かでした、この世の何処よりも。
「…月が綺麗だ」
「貴音、月が綺麗だなぁ…」
あぁ、あなた様。
ふと、目頭が熱くなるのを感じました。
「呑もう、貴音」
「…はい、あなた様」
銀の光が二人の影を落とす。
どうしようもなく、途方もなく美しい。
芒の葉がこそりと揺れた。
Entry ⇒ 2012.08.22 | Category ⇒ アイマスSS | Comments (1) | Trackbacks (0)
折木「(千反田が部活に来ない…)」
場所は我らが古典部の部室。
摩耶花「ちょっとふくちゃん!まだ話は終わってないんだから!」
里志「摩耶花、ちょっと落ち着いて。」
摩耶花「誰のせいで怒ってると思ってるの!」
里志と伊原が猛烈な言い合いをしている。発端は何だったか…忘れたけどまぁ、些細な事だろう。
ふと気になって時計を見ると、下校時刻が迫っていた。俺は読んでいた本に栞を挟み、席を立とうとする。
さぁ、帰るか。
…。
隣から視線を感じる。
ち、近い。
隣どころじゃない。
めちゃくちゃ近い。
いつからその体勢だったんだ。
俺は一歩下がって言う。
折木「…何だ千反田。」
千反田は一歩足を踏み出して言う。おい。折角俺が一歩引いたのに。
千反田「折木さん、あの2人のケンカ、止めなくて大丈夫でしょうか…。」
千反田の視線が近すぎて目のやり場に困る。さりげなく里志たちに視線を移しつつ、言う。
折木「何だ、そんな事か。あいつらは仲がいいから喧嘩をしてる訳だし、放っといて大丈夫だろう。」
千反田「そ、そうでしょうか…。」
折木「ケンカするほど仲がいい、って言うだろ」
千反田「言われてみれば、あの2人はいつもきちんと話をしてケンカしますよね。」
折木「冷戦状態とは無縁だな。」
千反田「素敵ですよね…あの2人のケンカは、きちんと、次に繋がるケンカです。」
折木「しないにこした事はないがな」
千反田「まぁ、そうですね…。」
千反田はそう言って再び、不安そうな顔で2人の様子を見守り始める。
…。
さて、帰るか。
俺は再度決意をする。
鞄を手に、起立!立席!前へ進め!
千反田「…おれきさん…。」
後ろで千反田が泣きそうな顔をしている。何もそこまでお前が気にする事はないだろう。そんな顔でこっちを見るな。
折木「千反田。こういうのは思い切りが肝心だ。見るから気になる。見なければ気にならない。」
千反田「ええ…まぁそうなんでしょうが」
折木「帰るぞ」
千反田「えっ」
回答を待たずに千反田の手と鞄を掴んで部室を出る。
千反田に、あいつらの喧嘩を見て見ぬふりする事が出来ない以上、さっさと帰るのが一番手っ取り早い。
これは俺の掲げる「省エネ主義」の信条に合っている。恐らく。
どっちにしろ下校時刻はもうすぐなんだ。
校務員が来て喧嘩は強制終了させられる事だろう。
校内は無音。
昼間の喧騒はどこへやら、静寂の中に居ると不思議な気持ちになる。昼の学校と夜の学校は、どうしてこんなにも雰囲気に差があるのか。
窓から外を見下ろす。夕暮れも近い。
下駄箱まで降りてきて千反田と一度別れる。
俺はA組、千反田はH組。2年に進級して、クラスが遠くなった。
教室や下駄箱の地理的条件から考えれば最も遠い事になる。
靴を履き替えて、玄関付近でしばし待つ。
…来ない。
…来ない。
まさか、あまりにも完璧な俺の棒立ちっぷりに、人体模型や彫像の類と勘違いをして横を通り抜けてもう帰宅したか?
いや、それなら俺が気付くか。
…もしかしてあいつ、里志と伊原の様子が気になって再び部室に戻ったのか?
などと思慮を巡らせつつ、H組の下駄箱に歩を進める。
千反田発見。自分の下駄箱の前で、立ち尽くしている。
折木「千反田?」
千反田「っ!!!」
俺が声を掛けると、千反田は靴箱の扉を壮絶な勢いで閉めながら、どこかぎこちない笑顔で言う。
千反田「お、お待たせしてすみませんでした。暗くなってしまう前に、帰りましょう。」
折木「…ああ。」
ここまでが、1週間前の話。
俺が所属する古典部は、4階の地学準備室を部室として活動する文化部だ。
と言っても、何をする部活なのか定かではない。
俺にも分からん。誰にも分からん。
古典部は俺達の入学と入れ違いに部員が全員卒業してしまった為、廃部の危機だった。
だが俺や千反田、里志や伊原が入部した事で古典部は無事に存続できる事になり、千反田を部長に、部員は一丸となって部活動に励んできた。
ただ、一度部員がいなくなっているので、何をする部活なのかがいまいち定かではないのが玉にきずではある。
多くの場合、千反田は彫像を掘り、伊原はシャドーボクシングをし、里志は1人で組体操の特訓をして時間を潰している。
てんでバラバラだ。
ちなみに嘘だ。
要は…古典部は集まっても特にやる事がない。
部室にはそれぞれが行きたい時に行き、行きたくなければ行かない。行けば誰かがいるかも知れないし、いないかも知れない。活動内容が定かではないのだからそれは当然の事なのかも知れないが。参加に強制力は無い。
とにかく、古典部は俺にとってそこそこ、居心地が良かった。行きたい時に行き、誰かが居れば少し話したりもする。積極的に約束されないが連綿と続くもの、それがあの場所にはあるのかもしれないと。俺は、知らず知らずのうちにそう思っていたのかもしれない。
長々と説明を挟んだが、要するに何が言いたいかというと、
この1週間、千反田は古典部に姿を見せていないという事だ。
普通に学校生活を送る上では、なかなか偶然会う事も無い配置だ。
俺はあの放課後以来、千反田の姿を見ていない。
部活動の参加に何の強制力も無い以上、何も言えないとはいえ、気にはなる。
…何か、あったんだろうか?
摩耶花「ここ1週間、ちーちゃんを見ないんだけど…」
里志「僕も全く会わないや。」
摩耶花「何かあったのかな…」
俺は小説のページをめくる。
里志「部活にも全然来ないしね」
摩耶花「いつもはちーちゃんが一番部室に顔出すのにね…」
俺は更にページをめくる。
摩耶花「逆に、折木がここ1週間毎日部室に居るのも何か違和感あるけどね。」
俺は更に更にページをめくる。
里志「ホータローは週2か週3が基本形だもんね。何で居るの?」
居たら悪いみたいな言い方はよせ。
摩耶花「まさかちーちゃんに会いに来てるとか?」
おい。
里志「あー、ホータロー。どうなの?そこんとこ。」
俺は居た堪れず個人的に貫いていた沈黙を破る。
折木「偶然だ偶然。ここは静かで読書に最適だからな。」
言い切ってから不安になる。
…俺、仏頂面、保ててるか?
摩耶花「ふーん。まぁどうでもいいけど」
おい。
折木「ああ。お前らが喧嘩してた日の放課後以来会っていない。」
里志「僕はその翌日の早朝、下駄箱で会ったっきりだなー」
摩耶花「下駄箱?」
そいつは初耳だ。
里志「うん。顔面蒼白っていうか…あんまり顔色良くなかった。」
摩耶花「早朝って…どのくらい早朝?」
里志「まだ教務室が開いてないくらい早朝。」
摩耶花「総務委員も大変ね…でも、ちーちゃんはそんなに朝早くに学校に来て何してたんだろ?」
里志「うーん、何か用事でもあったのかな?」
ふむ。
折木「千反田」
千反田「お、折木さん?」
俺と向かい合った千反田は、どうしてここに?と言いたげな目をしている。
ここはH組。やぁ偶然、という言い訳はなかなか通りにくい場所だ。敢えて言ってみるのも面白そうだが。脳内再生してみる。「やぁ偶然!」…無理だ。キャラ的に。
だが会いに来たのだとは尚更言いにくい。俺の心理的に。
なので要件だけ手短に。
折木「何かあったのか?」
千反田「え?」
折木「最近部室に顔を出さないから」
千反田「え、ええと…なかなか顔を出せなくて本当に申し訳ないです。」
…そんな事じゃなく。
謝る事はない。お前は悪い事など何一つしてないではないか。
部室に顔を出して欲しいのは俺………達が勝手に思ってる事なのに。
まずこの行動は俺の信条に合っていない。
次に、この行動は余りにも自分本位すぎた。
一瞬の葛藤の間に、俺はさぞ微妙な顔をしたのだろう。
千反田は俺の表情に、理由を求められてると感じたようだ。
違うのに。
俺ってそんなに顔に出るのか?
千反田「…探し物を、しているんです。大切な物をなくしてしまって。」
…探し物?
正直に言って、千反田が部室に来ないのは俺….……達が知らず知らずのうちに何かをしでかしてしまった為ではないかと思っていた。
だから部室に顔を出さないんじゃないのかと。
…良かったー。…のか?
というか、それならそうと言ってくれよ。
探し物なら俺達にも手伝えるだろうに。
思ったままを口にしてみる。
折木「なら尚更だ。里志や伊原はお前の為なら喜んで協力するだろ」
俺も、とは言わない。敢えて。特別な理由は無い。無いったら無い。
千反田は俺から目を逸らす。
千反田「いえ…これは、私がやらなくてはいけない事だと思うので。心配してくださって、ありがとうございます。」
…。
そうまで言われたら何もできないだろ。
里志「何だか寂しいね」
摩耶花「頼って欲しいな…」
俺が千反田の様子を告げると、即座にそんな感想が帰ってきた。
俺の抱いた感想と大体同じなのは置いておこう。
銀河系の隅辺りに放置。ぽーい。
里志「省エネ主義のホータローが、わざわざ千反田さんの教室まで行くなんて驚いたよ。」
折木「さっさと解決しないとエネルギーの浪費に繋がりかねんからな」
里志「それって噛み砕いて言えば、心配しすぎて気になっちゃうからさっさと解決したいって事だよね?」
折木「噛み砕くな。そのまま飲み込め」
俺達に協力を頼めないもの。
里志が見た『下駄箱で顔面蒼白になっていた千反田』の様子から考えて…何が思い付くだろうか?
里志「不幸の手紙が靴箱に入っていたとか?」
里志がぼそりと言う。
里志「うちの学校の靴箱は下方に若干の隙間がある。手紙程度なら入れられなくもないよね?」
…ありうる。
摩耶花「じゃあ探してるっていうのは…不幸の手紙を無くしちゃったって事?」
それもありうる。
里志「あれって確か、人の手を借りずに、手書きで○日位内に○枚書いて誰かに渡さないと不幸になる、みたいな内容だよね?」
摩耶花「ちーちゃんの場合、渡す人に申し訳なくて次の人に回せなさそうだけどね」
…不幸の手紙説、一理ある。
が、何か違うような。
靴箱で起こる事なんてたかが知れている。
「それによって顔色が悪くなるような出来事」なら尚更限定されるだろう。
不幸の手紙。確かに一理あるが…
例えば、「靴を隠された」としたらどうだろう。
見た瞬間失われた靴を見て顔面蒼白になる。
俺達に言えない理由としてもそれなりに筋は通りそうだ。
待てよ。
この学校の下駄箱は、個人に鍵が与えられている。
鍵は個人に1つずつと、忘れた時の為に教務室に全ての鍵が1つずつ。
普段なら教務室に行けば借りられなくもないだろうが…里志が千反田を見た時、時刻は早朝。
教務室は開いていなかったと言っていた。
つまり予備の鍵を借りる事もできなかった筈だ。
その前日、俺と千反田が帰宅した時刻も下校時刻ギリギリだった。
教務室で鍵を借りる事はできなかっただろう。
という事は、……なんてこった。
千反田の下駄箱は、少なくともあの日の放課後から翌日の早朝までは『千反田にしか開けられなかった』という事になる。
使えるのは靴箱の下方、僅かな隙間のみ。
なら、やはり不幸の手紙?
手紙なら僅かな隙間ながら、入れる事は可能だろう。
だが…いくら千反田と言えど、不幸の手紙を恐れるか?
俺は先週の千反田を思い出す。
あの日も、靴箱の前で…
俺の姿に驚いて靴箱を閉めた。
…靴箱?
里志が見たのはその翌朝。
再び靴箱。
今度は顔面蒼白で。
そうか。逆転の発想か。
おそらく千反田は、靴箱の中に「あるはずのないものが入っていた」から苦しんでいるのではなく「あるはずのものが無かった」から苦しんでいる。
そして俺が見た時には靴箱にはまだそれが「入っていた」
原因は、分かった。
解決する手立ても、恐らくは。
だがしかし。
俺が踏み入っていいものなのか…
少なくとも千反田は探し物が何であるのかを隠そうとしていた。…無理もない。
…どうする?
折木「千反田」
翌日、俺は再びH組の前で千反田に声を掛けた。
千反田「折木さん」
折木「千反田が探してる物は、恐らくこの学校にはもう、無いんじゃないかと思う。」
千反田「…」
折木「千反田?」
千反田「折木さんは何でもお見通しなんですね…」
折木「そんな訳ないだろ。俺なりに必死に考えた」
千反田「…ありがとうございます」
豪農千反田家の御令嬢で、眉目秀麗頭脳明晰、その上料理の腕も立つ。まぁ、もてるだろうな。
ただ、あまり知られていないが千反田は好奇心の申し子で、気になる事があればなりふり構わずにそれを追求してしまう傾向にある。それに振り回されるのは大抵俺、折木奉太郎である訳だが。
俺は千反田に振り回されながらも、俺自身、考え方や身の振り方に変化が現れてきたように思う。
例えば今回の件も。
今までの俺なら、ここまで積極的に千反田の問題に干渉しようとは思わなかっただろう。
俺はしばしば、俺の中の省エネ主義が致命的に脅かされているような感覚を感じる事がある。
それがいい変化なのか悪い変化なのか…変化を望まない俺にとって、この事象自体、どう受け止めていいか分からない…が。
折木「…千反田は、手紙を無くしたんだな?」
千反田「…はい。そうです。」
折木「1週間前の放課後、千反田は鍵を開け、靴箱を開いた。すると、見慣れない手紙が入っていた。その手紙の内容はまぁ………その、省くとして…それを読んでいたら、俺が千反田の様子を見に行ってしまった」
千反田「…はい。」
折木「その様子を見られたくなかった千反田は慌てて隠した。急いで手紙を靴箱に戻して、鍵を掛け、俺と共に下校した。」
千反田「そうです。」
折木「翌朝、千反田は靴箱を開け、手紙を回収しようとした。だが」
千反田「手紙は、入っていませんでした。」
折木「…里志が千反田を見たのは、その時なんだな」
千反田「そうです。私があんまり血の気の失せた顔をしていた為か、随分心配してくださいました」
折木「そして、千反田は手紙を探し始めた。」
千反田「…はい。先週、折木さんと別れた後、学校まで取りに戻ろうとしたんですが…下校時刻が過ぎていて、玄関も閉められた後で…。」
千反田は更に続ける。
「私にしか鍵は開けられないから、翌朝でも大丈夫だと、思って…でも翌日、靴箱を開けたら手紙が見当たらなくて。」
「きっと、折木さんと別れる前に、靴箱に入れたつもりになっていただけで本当は入れてなくて、どこかに紛れてしまったんだと思って…散々探しました。だけど見つからないんです。」
言いながら千反田は目に涙を浮かべる。いかん。俺が泣かせてるみたいじゃないか。
ええと…何と言えばいい?「泣かないでくれ」「お前は悪くない」違う、ええと…どうしたらいいんだ?
折木「…お前は手紙をなくしてはいない。」
…悩んだ割に簡素な言い方になってしまった。
千反田「なぜそう言い切れるんですか」
千反田が俺を見つめる。
涙は零れない。とりあえず安堵。
折木「靴箱の鍵は教務室に1つずつ予備がある。あの鍵を使えば、手紙を盗む事は可能だろう」
千反田「で、でも。鍵を借りれば分かるはずです!教務室の先生に声を掛けなくてはなりませんし、名前を書かないと借りられません!それに、あの時は時間的に、恐らく借りる事すら出来なかったと思います。」
千反田「なぜ知っているんです」
折木「俺も何度か世話になった」
千反田「そうなんですか」
千反田「….だとしたら、一体どなたが…わざわざ手紙を持って行ったんでしょう…?」
折木「…いや、そもそも俺達は前提から間違っていた。俺は手口に検討が付いてから、自分の靴箱に行き、検証してみた。そしたら…手紙は、入れられなかったよ。靴箱の隙間からは、手紙を入れるのは無理だった。」
千反田「え!?」
折木「靴箱の隙間は下方しか空いてない。手紙を入れるには、どうしたって靴が邪魔だ。」
千反田「言われてみればそう…ですね」
折木「第一、あの日の放課後、千反田は俺が行くとすぐに靴箱の扉を閉めて俺と一緒に帰った。つまり、お前は手紙を発見する前に、既に靴を履き変えていたことになる。もしかして、手紙は『靴の下に』置かれていたんじゃないのか?」
千反田「!そ、その通りです…私、確かに…靴を履き替えようとして、靴を持ち上げて…それで手紙に気が付きました…」
折木「手紙を靴の下に滑り込ませるなんて芸当は到底不可能だ。なら、手紙を抜く時だけでなく、入れる時にも鍵が必要になる。」
千反田「…ではもしかして」
折木「そうだ。手紙を入れた人物と、手紙を抜いた人物は、同一人物だ。」
千反田「…!…で、でも…先程も言いましたが、あの時は時間的に、教務室は開いてませんでした。鍵を借りる事はできなかったと思います。」
折木「事前に借りて、そのまま返さなければいい。」
千反田「それは無理です。鍵は使ったらすぐに教務室に戻す事になっていますから」
折木「千反田の靴箱の鍵を借りて、自分の靴箱の鍵を千反田の靴箱の鍵の代わりに教務室に返せばいい。そうすれば鍵の数は合う。実際に使用するまで鍵が合わない事に気付く者はいないだろう。」
千反田「そんな…」
折木「これなら鍵を借りる動作は1回で済む。その代わり、自分の靴箱は開けっ放しか閉めっぱなしの二択になるがな」
千反田「…」
折木「手紙を入れた人物は、おそらく下校時刻直前に手紙を入れた。翌朝千反田が見る事を想定して。しかし翌日になって、手紙を渡すべきか思い直して回収しに行ったんだろう。その人物にとっては、千反田が手紙を既に読んでいたことは誤算だった」
折木「…それは……」
千反田「…。いえ、そもそも、あの手紙を下さった方が誰だか分からないんです。無記名でした。だから尚更…どうしていいか分からなくて。」
折木「…」
折木「朔太郎だな」
千反田「ええ。萩原朔太郎さんの詩の一節ですね。」
折木「お前のクラスに、最近転校した奴はいるか?」
千反田「え?は、はい。います。数日前に引っ越してしまいましたが…」
折木「その詩は新天地への期待の詩だ。手紙を渡すか渡すまいか悩んでいた事や、自分の靴箱の鍵の開閉状態に無頓着だった事から考えると…まぁ、差出人はその転校した奴、だろう。」
千反田「え?」
折木「詩を引用した意味は、『さよなら、ありがとう。元気でやって行きます。あなたも元気で。』くらいのものだろうな」
千反田「そう、なんですか…」
ふと、千反田の顔を見る。
普段は近すぎて色々な意味で直視しにくいのだが…今は普通の距離感。
なんとなく、ほっとしたような顔をしている。
俺はというと、最後の最後まで千反田の問題に…特にこの問題には、踏み込んでいいものか悩むところがあった。
故に、俺も、ほっとしていた。
折木「千反田」
千反田「はい」
意を決して、俺は言う。
折木「部活行くぞ」
ええい、二度言わすな。
唐突過ぎた感は否めんが。
折木「皆待ってる」
千反田「…はい!」
かくして、『千反田部長、部活に不登校』事件(里志命名)は終わりを告げた。
例え差出人が分からずとも、そこに込められたものは本物。それを紛失してしまった事に対して、千反田は自らを責めた。取り戻さなければならないと考えた。
俺達に頼れなかったのも、おそらくはその為。
今回の件に関して、俺が思った事はただ一つ。
恋文とは、これまた古風な。
それに尽きる。
だが、千反田が恋文を受け取った事に気付いた時、どうにも動揺してしまった自分が居たのは事実だったと思う。
ふと思い立ってあの詩の一部を吟じてみる。
折木「ふらんすへ行きたしと思へども ふらんすはあまりに遠し…」
里志「朔太郎?」
里志が口を挟む。
折木「ああ」
里志「その詩、ホータローらしくないね。」
折木「なぜだ」
摩耶花「折木は自発的に、わざわざ遠くへ行こうだなんて思わなさそうね」
好き勝手言うな。
…だがその通りか。反論のしようもない。全面降伏。
里志「ホータローときたら、隣の町に行く事すら億劫そうだもんね」
摩耶花「勤労感謝へのアンチテーゼも大概にしてほしいわ」
なんだそれは。
千反田「『せめては新しき背広をきて きままなる旅にいでてみん。』です。この詩は、遠い場所へ向かう事だけではなく、むしろ旅路の経過を楽しむ事の重要さを言っているように、私は思います。」
折木「新しい背広で、気ままなる旅に、か。」
俺にとっての背広は、俺の生き方をほんの少しだけ、変える事なのかもしれない。
そうして、気ままなる旅へ。
行く先は遠い遠い新天地。
経過を楽しめ、か。
俺は千反田の横顔に、そっと目をやる。
俺にとっての新天地は、地理的な場所とは違う。
こちらに向かって来てくれているのかもしれない。
思うほど、遠くはない。それなら。
もしかしたら、俺も向かえるのかもしれない。新天地へ。
…と、そこで。
千反田がこちらに振り返った。
あ、目が、
合った。
長い長い時間のように感じた。
でもそれは俺達……いや、俺、にとってそう感じられただけで、他の人にとってはごく一瞬だったのかもしれない。
沈黙を破ったのは千反田。
千反田「そうだ!折木さん」
言いながら、俺の方へと歩いてくる。歩いてくる。まだまだ歩いてくる。
…おい。近いぞ。これは対話をする距離じゃない。背比べをする距離だ。接近しすぎなんだよお前は。
折木「…な、何だ?千反田」
…動揺が、顔に出てないといいが。
千反田「私、学校に来る途中で、気になる物を目にしたんです!どうか、どうか、あの謎を解いては貰えませんか?私ではいくら考えても、分からなかったんです…」
千反田の好奇心に振り回されるのも久しぶりだ。なんとなく新鮮な気持ちで、答える。
千反田「ありがとうございます!ぜひ、お願いします!」
感極まった千反田が更に一歩前に身を乗り出す。
おい、まだ近付く気か。
既に…なんというか、人肌を感じてしまう距離なんだが。
暖かい。
俺は精一杯の仏頂面を作り、精一杯のぶっきらぼうな言い方で、言った。
「行くぞ」
end
なかなかであった
支援ありがとでした
最後まで貼れるとは思いませんでした
以下、後日談貼っていきます
短めです
摩耶花「どういう事?」
里志「いや、だってさ。さっきの話はホータロー目線で書かれたものだったろう?」
摩耶花「それがどうかしたの?」
里志「僕はホータローが信用できないっ!」
摩耶花「親友に向けて何言い放っちゃってるの!?」
里志「あっ、いやそういう意味じゃなく。全面的には信用してる。信頼してる。…でもこれ本人には内緒ね。さすがに僕にも少々の羞恥心が」
摩耶花「言わないわよ。あいつと話す事、そもそもそんなに無いし」
里志「それもどうなんだろう…あ、でね。話を戻すけど、僕はホータローの目線で語られる物語が信用できないんだ。」
摩耶花「つまり?」
里志「そうだねー。例を出すとね、ホータローが
俺は今、部室で読書をして優雅なひと時を満喫している。
なんと満たされている事か。
…そこに、勢いよく扉を開けて我らが部長が部室に駆け込んで来る。
「折木さんっ!力を貸して下さいっ!気になる事があるんです」
身を乗り出して俺に迫る。
おい。俺から穏やかな時間を奪う気か…。
好奇心に満ちた目が、真っ直ぐに俺を見る。
こうなったら仕方ない。
「分かったよ。何が気になるんだ?」
「はいっ!あちらです!」
千反田は俺の手を掴んで駆け出す。
俺は大きなため息をついた。
…みたいな事を書いたとするじゃん?」
里志「でもそれは、ホータロー目線の話だから。ホータローが本当の事を書くとは限らない。ていうか、ホータローすら自分が嘘を書いてる事に気付いてないのかも」
摩耶花「ああ、なんとなく分かって来たわ。ふくちゃんの言いたい事が」
里志「なんせホータローは、ああ見えて意外と顔に出る。」
摩耶花「そうかも」
里志「ホータロー自身は気付いてないっぽいけどね」
摩耶花「そこがまたおかしいわよね」
里志「つまり、さっきの文章を僕目線から書くと、結果は全然違うって訳さ!」
摩耶花「書いてみて」
ホータローは今、部室で読書をしている。向かいには僕。いつも通りの仏頂面。
…もうちょっとなんとかならないもんなの?僕は親しい友人として、それなりに心配だよホータロー!
そこに、勢いよく扉を開けて我らが部長が部室に駆け込んで来る。
千反田部長のおなーりー!!
彼女は、開口一番こう言った。
「折木さんっ!力を貸して下さいっ!気になる事があるんです」
ホータローに向かって身を乗り出す。…あれ?今一瞬、ホータローが赤くなった?
…と思ったらまた仏頂面に戻った。えっ、何なの今の。見間違い?白昼夢?蜃気楼?幻覚の類?
えーと、巾着に目薬入ってたっけ?
千反田さんの好奇心に満ちた目が、真っ直ぐにホータローを捉える。
あ、ホータローが降参した。そっぽ向いた。てか顔赤くない?
「分かったよ。何が気になるんだ?」
「はいっ!あちらです!」
千反田さんがホータローの手を掴んで駆け出す。
手を掴まれた瞬間のホータローの顔と言ったら!すぐにまた仏頂面に戻ったけど。
行ってらっしゃいホータロー!僕は隠れて見てるからね!
さぁ2人を追いかけなくちゃ!
摩耶花「あー…なるほどね」
里志「ホータローは、千反田さんを前にした時に、自分がどれだけ優しい表情をしているのかに気付いてない訳だよ」
摩耶花「なるほど…折木目線で書かれた物は、少なくとも折木の心理描写に関しては結構、語られない部分も多いのかもね」
里志「だと思う」
摩耶花「じゃあもう全部ふくちゃん目線で書けば?」
里志「そうすると頻繁に嘘とか余談とか織り交ぜちゃうよ?」
摩耶花「うーん…そっか…」
里志「摩耶花が書けば?」
摩耶花「そしたら登場人物から折木はいなくなるかな」
里志「ええー…じゃあ千反田さんに書いてもらうとか」
摩耶花「色々なものに興味を持っちゃうから話がなかなか展開しなさそうね」
里志「まぁ、誰が書いても結果的には一長一短になっちゃうかな」
摩耶花「となるとやっぱり折木目線で書かれたものを読んで、語られない折木の心理描写を想像すればそれなりに補填できるって事かな」
里志「脳内補填しなければならない部分を僕は一番知りたいんだけどねー」
end
折木「」
千反田「あの、これ」
折木「これは何だ」
千反田「えっと…手紙、です」
折木「」
千反田「私の思いの丈を込めました」
折木「」
千反田「ちょっと恥ずかしいので、1人で読んでくださいね」
折木「」
里志「で?何が書いてあったの?」
折木「不幸の手紙だった」
里志「えっ」
折木「不幸の手紙だった」
里志「二回言った!」
折木「…」
里志「ちょ、ふて寝しないで」
千反田「あっ…あれ?何でさっき渡した筈の手紙がまだ鞄の中にあるんでしょう…。折木さんは、面と向かって感謝の意を伝えると顔をしかめてしまいますので…今回は手紙で感謝を伝えようと思ったのに…。ど、どうしましょう。さっき渡したのは何だったのでしょうか…。」
end
俺が向かうは古典部部室。
相変わらず辺境の地にある。
扉を開ける。
…誰も居ない。
俺が一番乗りか。
椅子に腰を落とし、読みかけの本を開く。
さて。次に部室に来るのは誰だろう?
掃除当番のせいで遅れてしまいました…。もうどなたか、部室に来てらっしゃるでしょうか。
扉を開けます。
あっ、いました。折木さん。
折木さんこんにちはー…って、…あれ?寝てらっしゃいます。
起こしたら申し訳ないですね。
しーっ!です。
私、初めて知りました。
寝てる時の折木さんは、なんだか幼い顔をしてらっしゃるんですね。うーん、かわいいです。意外な一面です。それにしてもとっても気持ち良さそうに眠っていますね。なんだか私も眠くなってきました。
…ん?いつの間にか寝てたか。
っておい!?
千反田!?な、何で俺に寄りかかって寝てるんだ!?
え、ええと、、、、、、
な、何だこの状況!?
動くと千反田を起こしてしまうし…
ええと、ええと…。
あれ?ここは…
あ、そうでした。部室です。部室で寝てしまったんですね。
…!えっ
私、いつの間にか折木さんに寄りかかってしまってました。
ああ、ごめんなさい折木さん。
…でも折木さんはまだ寝てますね。
ああよかった。
…さっきも思いましたが、やっぱり寝てる折木さんはとても幼い表情で…かわいいです。もっと間近で見たいです。
…折木さん、寝てますよね?
もうちょっと、近づいても大丈夫でしょうか?
千反田、起きたのはいいが、なんで俺の顔を覗き込んでるんだ!?
ち、ちたんだ!!!近いっ!
正直言って俺はもう顔から火が出そうなんだが…!!!
…むー。
折木さんの寝顔、写真に収めたいです。
…っ、いけません!いけません!
…いけないのはわかってますが…写真、欲しいです…
むー。
目に、焼き付けておきます。
じーーーーーー。
里志「やぁ!皆居るかい?」
千反田「えっ」
里志「あっ」
折木「あ…」
千反田が、里志を見て…次に俺を見て…この世の終わりみたいな顔をした。
千反田「え…あっ…お、折木さん起きてたんですか!?あ、あの…ご、ごめんなさい…っ」
千反田が真っ赤になる。
だが、負けず劣らず俺も動揺していたと思う。ああ、もう。こいつといるとペースを乱されっぱなしだ。
里志が扉を閉めようとする。
ていうか閉めやがった。
ご丁寧に鍵まで掛けて。
しーーーーん。
おい。どうしてくれるんだこの微妙な空気。
しかも廊下を駆けていく音がする。おい。鍵掛けたまま走り去るな。この部屋は内側からは鍵を開けられないのに。
千反田がこちらに向き直る。
千反田「起きてたのに寝てるフリしてたんですか…っ」
千反田「うぅ…恥ずかしいです。ごめんなさい…。折木さんの寝顔が見たくて、ついつい覗き込んでしまいました…」
折木「寝顔!?」
千反田「寝てる時の折木さんの顔はちょっと幼く見えたので。…私は昔の折木さんを知りませんので…ちょっと気になってしまいました」
折木「…俺も、気になるな。どんな感じだったんだ?昔の千反田は」
千反田「私、ですか?」
折木「ああ」
千反田「じゃあ、順番です。お互いに、教え合うというのはどうでしょう?」
折木「そうするか」
千反田「」
折木「どうした」
千反田「いえ…その…」
心なしか千反田の顔が赤い。
折木「体調でも悪いのか」
千反田「いえ…そうではなくて…今、折木さんが…とても優しい表情をなさっていたので。ちょっと、驚いてしまいました。」
…そんなに見るに耐えない表情だったのだろうか。
一応謝っておくか。
折木「悪かったな」
千反田「いえ、いえあのそんな!むしろいつもその表情でいてください」
折木「はぁ?」
千反田「あっ、でも秘密にしておきたい気もします…ああ、、どうしましょう。これは困りました」
言いつつますます赤くなる。
何だこの可愛い生き物は。
そういえば、里志はどこへ行ったのだろうか。相当な勢いで駆けて行ったが…。
もう暫く、こうしていたい気もする。心の底で里志に感謝する。
…と。
部室の外から声が聞こえる。
「あれ?ふくちゃん、何してるのそんな所で」
「あー!!し、静かに!今いい所なんだから!!」
どこかへ行ったんじゃなかったのかよ。
前言撤回。俺は執拗に里志のつま先を踏みつけてやりたい衝動に駆られた。
ガラガラ
扉を開けて伊原と里志が入ってくる。古典部員全員集合。
摩耶花「…どういう状況?」
里志は盗み聞きに失敗し、悲しげな表情をしている。
千反田はどういう訳か顔が真っ赤。
俺は…どんな顔をしていたのだろうか。自分では分からなかった。
摩耶花「ちーちゃん、何で顔赤いの?折木に何かされた?」
折木「何でそうなる」
摩耶花「あんたも顔赤いから」
…えっ。
自覚症状が無かった。
里志「あーあ…いい所だったのに」
里志がぼそりと言う。
折木「俺も聞いた」
千反田「いつの間に戻ってきてたんでしょう…私、気になります」
里志「そりゃ2人が会話に夢中になってる間に決まってるじゃないか。」
…。気づかなかった。
里志「まぁ何はともあれ部員全員集合という事で。部活でも始めようか。」
摩耶花「特にする事も無いけどね」
それを言うか。
千反田が何か言いたげな目でこちらを見ている。
何だ?
俺が千反田に向き直ると、そっと耳打ちされた。
ほんの、小さな声で。
耳に吐息がかかる。何だか落ち着かない。
千反田「今度改めて、聞かせて下さいね。折木さんの子供の頃の話を。」
…こちらこそ。
2人きりの時にでも。
end
ほんとありがとうございました
乙
Entry ⇒ 2012.08.22 | Category ⇒ 氷菓SS | Comments (0) | Trackbacks (0)
豊音「追っかけるよー」末原「何でついて来んねん……」
豊音「大阪の選手にサイン貰おうと思って」トコトコ
末原「サイン……」スタスタ
末原(そういえば二回戦終わった後、神代のサインもろてたな)スタスタ
豊音「まず姫松の愛宕さんでしょー、それから千里山の園城寺さんと江口さんと――」トコトコ
末原「そんで三箇牧の荒川、ですか」スタスタ
豊音「その通りだよー」パァァ
末原「……」スタスタ
豊音「アハハ」トコトコ
末原(なんやねん……)スタスタ
豊音「名前覚えててくれたんだー」ダキッ
末原「!?」
豊音「ちょーうれしいよー」
末原「ちょっ、抱きつかんといてください! 暑いんで!」バッ
豊音「あっ……」
末原「……まったく//
何で姉帯さんは私についてくるんですか……」
豊音「姫松高校まで行こうと思ったら迷っちゃったんだ。
そしたら末原さんが歩いてたから……」
末原「はあ」
末原「何ですか」
豊音「学校までの道を教えてくれないかなー、とかとか」
末原「それは構いませんけど……」
豊音「けど?」
末原「もうこんな時間ですよ?」
豊音「あっ……!
そっかー……迷ってるうちに夕方になっちゃったんだ……」ショボーン
末原「――っ」ブルッ
末原(何このかわいい生きモン……!)
豊音「うう……」ウルウル
末原「……。
あの、姉帯さんはどっか泊まる場所とか決めてるんですか?」
豊音「えっ、まだ決めてないけど」
末原「じゃあ、もしよかったらウチに泊まって行きませんか?」
豊音「!?」
末原「そしたら明日の朝、学校まで案内しますけど。どうします?」
豊音「……」
末原「姉帯さん……?」
豊音「ふぇ……っ」ジワッ
末原「え、ちょっ、姉帯さん!?」
豊音「ひぐ……っ、ぐすっ……」ポロ
末原「あわわ……」オロオロ
末原(しもた……何か気に触ることでもあったんやろか……)
豊音「うわああああああああああああああん」ポロポロ
豊音「ふえぇぇん……末原さん何で謝るのぉ……?」グスッ
末原「だ、だって泣かせてもたから……」
豊音「ちがうよぉ……これはぁ……ひっぐ……うぇぇ……っ」ウルッ
末原「違うって何が――」
豊音「うわああああああああん、末原さん優しすぎだよぉぉぉぉ」エーン
末原「は……!?」
末原(え、何? どういうことなん?)
豊音「ちょー感激だよぉぉぉぉ」ビエーン
ぐうかわ
豊音「うう……ごめんねぇ……泣き虫で……ぐすっ……」ヒック
末原「……」
末原(あんなデカいのにしゃがんだらちっこいんやな……)ナデ
豊音「!」ピクッ
末原「あっ、すんません。つい――」パッ
ガシッ
末原「えっ?」
末原「あ、あの……姉帯さん?」
豊音「……」スリスリ
末原(掌に頬擦り……)
末原「えっと……」
豊音「……。
もっと撫でて欲しいなー」ジィ…
末原「――っっ!!」キュン
末原(何このかわいすぎる生きモン……!)フルフル
豊音「?」ワクワク
――――
末原「ただいま」ガチャ
末原母「今日はえらい遅かったなー」
末原「ん、ちょっとな……」
末原(さすがに人の頭撫でてて遅なったとは言えんわ)
末原母「あれ、その人は……って、デカっ!?」
末原「岩手から来た姉帯さんや」
豊音「よろしくお願いしまーす」ペコッ
末原母「こ、こちらこそ……」ビクビク
末原「どうぞ、上がってください」
豊音「お邪魔しまーす」
末原母「……」カタカタ
豊音「末原さんお母さんとそっくりだねー」
末原「そうですか?」
豊音「ちょー似てるよー」
末原「はあ」
末原(なんやろ、馬鹿にされた気がする……)
豊音「?」
末原(……気のせいやな)
アポトキシンでも飲んだの?(無知)
なんだこれは
末原「なんですか」
豊音「下の名前で呼んでもいいかな?」
末原「……別にいいですよ」
豊音「やった! ありがとう恭子ちゃん!」
末原「っ!?」
豊音「恭子ちゃん?」ズイ
末原「あ、いや……その、『ちゃん』っていうの恥ずかしいんですが……」
豊音「えー、私はかわいいと思うけどー」
末原「ううっ……やめてください……///」
末原「……なに」
豊音「呼んでみただけー」ニコニコ
末原(何やねん……)
豊音「恭子ちゃんも私のこと下の名前で呼んでよー」
末原「……。
と、豊音」
豊音「はい」
末原「豊音……」
豊音「えへへ」
末原(うーん、なんかムズムズするわこれ……)
末原「……姉帯!」
豊音「ええっ」ガーン
豊音「いただきまーす!」
モグモグ
豊音「ごちそうさま!」ペロリ
末原「早いわ……」
―末原先輩と姉帯さんは―
末原「ふう……」チャプ…
豊音「ちっちゃくてかわいいよー」ジー
末原「こら、どこ見とんねん。
……って何で入ってきたんや!///」ザバッ
―仲良くなったのです(キンクリ)―
末原「……」ペターン
豊音「?」ポヨン
末原(メゲるわ……)
末原「どうしたん?」
豊音「パジャマ忘れちゃったよー」
末原「姉帯はドジやなぁ……。
仕方ない、私の貸したるわ……」
豊音「ありがとう恭子ちゃん!」ムニュッ
末原「裸で抱きつかんといてや……」
末原(ほんまメゲるわ……)ズーン
豊音「うう、小さすぎるよー……///」カァァ
末原「ご、ごめんな……」
チュン…チュン…
末原「――ん……ああ、もう朝か……」
布団<Zzz……。
末原「朝やで姉帯、はよ起きい」ユサユサ
布団<むにゃ……もう食べられないよー……。
末原「またベタな寝言やな。ほら、捲るで」ガバッ
豊音「ふにゃ……? 眩しいよー……」モゾモゾ
末原「っ――!!」ドキッ
末原(しもた……そういえば私の服着てるんやった……///)
豊音「きょーこちゃん……?」ボー
末原「……」ゴクッ
末原(なんで唾飲み込んでるんや自分――!)
末原「……///」ドキドキ
豊音「……」ジー
末原「……?」
豊音「えいっ」グイッ
末原「!?」ポスッ
末原(は……?)
豊音「ふふふー……きょーこちゃん……」ギュ
豊音「ちょーあったかいよー……」ムニャムニャ
末原(あ、姉帯が私を押し倒して、そんで抱き締めて……!!)
末原「はっ、早まんな姉帯」ジタバタ
豊音「うー……けらないでよー……」ギュウ
末原「あわわ……あかんて、まだ心の準備が……///」プルプル
ガチャ
末原母「恭子、早く起き――」
末原「」
末原母「……。
失礼しました」バタン
末原「ちょっ、お母さん誤解や!!!!」
末原「……」ゲッソリ
末原(お母さんに説明すんのめっちゃ疲れたわ……)
豊音「恭子ちゃん元気ないよー。どうしたの?」
末原「どうもせえへんで……」
末原(寝ぼけてたから覚えてないんか。まあその方がええけど)
末原「はあ、ダルいわ……」グター
豊音「わー」パァァ
末原「何や……」
豊音「恭子ちゃんシロみたいだよー」
末原「シロ……ああ、先鋒の……」
豊音「そうだよー!」ニコニコ
末原「……」
豊音「それで――そのとき私が――」
末原(なんや、えらい嬉しそうに喋るな……)モヤモヤ
豊音「そしたらシロったら――」
末原(……何でこんなにおもんないんや)ズキ
豊音「――っていう事があったんだー……って恭子ちゃん?」
末原「……」
豊音「ねー、恭子ちゃーん?」
末原「あ……。
あー、はいはい。聞いてたよ、うん……」
豊音「……?」
なあ姉帯」
豊音「なに?」
末原「姉帯はその……もしかして小瀬川さんのことす……っ!?」
末原(ちょっ、自分なに聞いとんねん……)アセアセ
豊音「ん? シロがどうしたの?」
末原「ちゃ、ちゃうんや……私は別に――」
末原母「ご飯出来たでー」
豊音「おおー!」
末原(ナイスお母さんッ!!)グッ
末原「何で赤飯なん……」
末原母「不束な娘ですがどうか」フカブカ
末原(あ、これあかんわ。まだ勘違いしとる)
末原「ほな行ってくるわ」
末原母「楽しんで来てな」
末原「……?
いつも通り麻雀部行くだけやで」
末原母「デートちゃうん?」
末原「ちゃうわ」
「恭子ちゃーん、まだー?」
末原「……行ってくる」クルッ
末原母「行ってらっしゃい」
豊音「行ってきまーす」
末原「ほら、はよ行くで」グイ
豊音「ええー、さっきまで待たせてたのそっちじゃーん」
末原「ええからはよ」スタスタ
末原母「ふふ、健闘を祈るで……」
洋榎「それロンや」パタッ
漫「うっわ、またラスですか……」
洋榎「まだまだしごいたるからな!」
絹恵「ほどほどにしといたってなぁ」
漫「うう……」
ガラッ
末原「おはようございます」
洋榎「恭子! なんや今日は遅かっ――」
豊音「お邪魔しまーす」ヌゥ
洋榎「――ッ!?」ビクッ
由子「姉帯豊音なのよー……」
末原「知ってると思いますが宮守の姉帯さんです」
豊音「よろしくねー」
洋榎「お、おう。よろしくな」オドオド
豊音「愛宕さん!」ズイッ
洋榎「な、なんや!」
豊音「サイン下さい!」
洋榎「サ、サインかぁ……どないしよ……」
末原(主将が怯えとる……? いや、そんなアホな)
豊音「もしかして駄目なのかなー……」シュン
末原「……主将、サインぐらい書いたってもええやないですか」
洋榎「せ、せやな! 恭子が言うんやったら仕方ないなぁ……へへ、サインかぁ……///」テレテレ
末原(照れてるだけかい)
豊音「わーい! じゃあこれにお願いします! あっ、あとここに『豊音ちゃんへ』って――」
末原「ん? どないした漫ちゃん」
漫「なんであの人大阪におるんですか」
末原「まあ色々あってな」
漫「い、色々って……。一体どんな事情が……」
末原「姉帯はな、サイン貰うためにわざわざ岩手から来たんや……」
漫「そんな理由ですかい!」
洋榎「豊、音、ちゃ、ん、へ……っと!」
豊音「ちょー感激だよー!」パァァ
洋榎「せやろーさすがやろー?」ドヤッ
豊音「受けて立つよー」
末原「ほら、漫ちゃんも行ってき」
漫「はあ!? そんな無茶苦茶な!!」
末原「無茶苦茶ちゃうわ」
漫「うっ……ううっ……」トボトボ
洋榎「おっ、漫ちゃんもやるんか」
漫「はい……お手柔らかに……」
豊音「それじゃ、恭子ちゃんもしよっか」
末原「はあ!? そんな無茶苦茶な!!」
漫「……」タン
豊音「チー」
末原(また裸単騎……)
豊音「ぼっちじゃないよー」
――
漫「ツ、ツモ! 8,000オールです」
末原(漫ちゃんが爆発してる……)
――
末原(くっ……これか……?)チラ
末原(いや、ひょっとしてこっち――)トンッ
洋榎「ロン」
末原「」
~~~~
洋榎「き、きっとうちの指導のおかげやな!」
豊音「上重さんちょーつよいよー」
漫「そんな、偶然ですよ!」アセアセ
豊音「サイン下さい!」
漫「ええっ!?」
末原「こんなん勝てるわけないやん……」ズーン
絹恵「末原先輩、大丈夫ですか?」
末原「うう、絹ちゃん……メゲるわ……」
由子「ズタボロなのよー」
「あれぇ~、末原ちゃんどないしたん~?」
末原「!」ガバッ
代行「その呼び方やめてって言うてるやろ~」
豊音「この人は?」コソッ
洋榎「ウチの監督代行や」
代行「姉帯ちゃんやっけ? 何でおるん?」
豊音「サイン貰いに来たんです!」
代行「ふーん……。
で、末原ちゃんラス引いたんや?」
末原「……はい」
代行「じゃあこれ罰ゲーム~」スッ
末原「何ですかこれ!?」
洋榎「おっ、また全国のときみたいになるんか」ニヤニヤ
末原「なりませんよ! 絶対嫌ですからね!」
代行「ええ~、せっかく末原ちゃんに合わせて作ったのに~」
末原「何でサイズ知ってるんですか!?」
代行「末原ちゃんのことなら何でも知ってるで~。確か、上から――」
末原「言わんといてください!」
代行「言わんかったら着てくれるん~?」
末原「……っ」
末原「うう……///」カァァ
代行「末原ちゃんかわいいわ~」パシャッパシャッ
末原「散々や……」ドヨーン
豊音「恭子ちゃんちょーかわいかったよー」
末原「うっさいな……。別にかわいくないわ」
豊音「でも私は恭子ちゃんのかわいいところ、いっぱい知ってるよー?」
末原「……///」カァァ
豊音「あれ、顔赤いけど……」
末原「ちょっと風邪ひいてもただけや。
とりあえず、そういうことにしといて……」
豊音「それどういうこと?」キョトン
末原「あー、もう。つまり姉帯はアホやっちゅーことや」
豊音「えー、それひどいよー」
豊音「んー?」
末原「主将のお母さんが千里山まで送ってくれるかもしれへんって」
豊音「本当!?」
末原「まだ決まったわけやないけどな」
豊音「じゃあ……」
末原「今夜もウチに泊まっていいで」
豊音「わーい、ちょーうれしいよー!」ダキッ
末原「ちょっ……。もう、しゃーないなぁ……豊音は」
豊音「!!
恭子ちゃん、今私のこと下の名前で……」
末原「っ!?」
末原「ちがっ……今のはつい……」
豊音「もう一回呼んでよー」
末原「せ、せやから……」
豊音「ダメ?」ジィ
末原「っ……」
豊音「……」
末原「と、とよ……」
豊音「……」
末原「……姉帯っ!」
豊音「ええっ」ガーン
おしまい
寝る
乙、また描いてくだしあ
おつおつすばらでした
二人ともちょーかわいいよー
Entry ⇒ 2012.08.22 | Category ⇒ 咲-Saki-SS | Comments (1) | Trackbacks (0)
華菜「社会人とかまるで悪夢だし……」
華菜「はいっ!ただいまだし!」
「池田ァッ!発注間違えてんぞ!」
華菜「申し訳ありませんだし」
「池田ァッ!お茶が温くて不味いぞ!」
華菜「すみませんだし」
「池田ァッ!」
華菜「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい……」
華菜「環境や人間関係を呪うのは弱者の思考だけど……これはもう呪わずにはいられない……」
華菜「はぁ……まるで悪夢だし」
華菜「でも妹たちの為だ華菜ちゃん頑張るし!」
華菜「気晴らしにちょっと麻雀打って帰るし」
「………」イライラ
カァン!←引きツモした音
「………」イライラ
華菜「にゃ~~~ッ!!」
「………」イライラ
「全く……五月蝿い人がいると困るよね」
『咲っちょだけ……咲っちょだけならいいよね……』
『ん……』
『ただいまだし!』
『あれ?部屋間違えた?邪魔したし!』
「………」ムカムカ
「何だか嫌なこと思い出しちゃったよ……ちょっと麻雀楽しませてきたほうがいいかな?」
咲「久し振りだね……」
華菜「お?華菜ちゃんと打つつもりか?華菜ちゃん、今流れに乗ってるからちょっと強いぞ?」
咲「試してみる……?どちらかが破産するまで……」
華菜「え……?」
咲「あっ、カモ(お客さん)が来たよ」
咲「麻雀って……楽しいよね」
華菜「お前……華菜ちゃんをどうするつもりだ?」
咲「ん?うん……破滅させるよ……今ここで毟れるだけ毟って……二度と泣いたり笑ったり出来なくしてやるんだぁ」
華菜「………」
咲「それロン……24000」
華菜「………お金はちょっと待ってくれないか……?」
咲「えっ?」
華菜「華菜ちゃん、そんなにお金持ってないし……」
咲「………」
華菜「両親が事故に遭ったばかりで……今ここで私が破産なんてしたら私の妹たちが……」
咲「金もないのに賭場に来たんだぁ……」
華菜「すみませんだし……」
咲「じゃあ……お金の代わりに私の言うこと聞いてもらおうかな」
華菜「え……」
照「咲ちゃんおかえりなさい」
咲「お姉ちゃん、お姉ちゃん!私、猫拾ってきたんだぁ」
華菜「………」
照(……猫?)
咲「お姉ちゃんは犬の方がよかった?」
照「え?あ、いや……」
照「え?飼うの?ここで?」
咲「うんっ!だって可愛いんだもん!」
照「……ごめん、お姉ちゃん少し疲れてるみたいだからそろそろ寝るね……」
咲「お姉ちゃん、おやすみなさい」
華菜「………」
華菜「あ、あの……私、明日会社が……」
咲「あれれ?なんで猫が喋ってるのかな?おかしいな……?」
華菜「に、にゃぁ……」
咲「うんっ!それでいいの」
華菜「………」
咲「そんなに心配しないで……親御さんも、妹さんたちも決して悪いようにはしないから、ね」
華菜「にゃ、にゃー……」
咲「いい子だね……華菜ちゃんは」ナデナデ
華菜「にゃーにゃー……」
咲「きっと辛いこといっぱいあったんだよね……」ナデナデ
咲「でも、ここにいれば何も辛いことないからね」ナデナデ
華菜(……これからどうなるんだろ?)
照「咲ちゃんいってらっしゃい」
咲「私がいない間もいい子にしてるんだよ?」ナデナデ
華菜「にゃ、にゃー……」
咲「ん、いい子だね」
照「………」
華菜「………」
華菜「………」
照「………」ジジー
華菜「……にゃ、にゃあ?」
照「……おいで」
華菜「にゃあー」
照「………」ペラッ
華菜「………」
照「………」ペラッ
華菜「………」
華菜(何でこの人、私を膝に乗せて姉妹百合の本読んでんだし!姉妹百合とかそんなオカルトありえないし!ってか、ツッコむとこそこじゃないし!)
照(この猫重い……)
照「……!?」
華菜「何でこんなことしてるの?とか、普通は思うはずだし」
照「猫が……」
華菜「だいだいおかしいし!人をペット扱いするなんて」
照「シャベッタアアアアアアアア!!」
華菜「うおい!」
華菜「見て気付けし!」
照「咲ちゃんが猫だって言い張ってたからてっきり……」
華菜「騙されるなし!」
照「その猫耳は本物?」フニュフニュ
華菜「はぅ……さ、さわんな……し……」
照「私も魔物とか言われてたけど、リアル猫耳生えてる人は初めて見る……」フニュフニュ
華菜「ん?どうしたんだし?」
照「お腹減った……」グー
華菜「さっき朝ご飯食べたばっかだし!」
照「朝ご飯……」ググー
華菜「………」
照「………」グーグー
華菜「分かったし……華菜ちゃんが何か作ってやるし」
華菜(何でうちの妹たちより手がかかるんだし……)
照「咲ちゃんおかえりなさい」
華菜「にゃー」
咲「華菜ちゃん、いい子にしてた?」ナデナデ
華菜「にゃ、にゃぁ……」
照「咲ちゃん、その猫すごいんだねぇ。ご飯も作ってくれたし、家事もやってくれたよ」
咲「え……?」
華菜「にゃ……」
咲「どうしてペットがそんなことするの?ありえる?ありえないよね?間違ってるよね?ねぇ、どうして……?」
華菜「にゃ、にゃー……」
咲「ちょっと調教が必要みたいだね……」
咲「何で猫が喋ってるのかな?」クチュクチュ
華菜「あっ……あぅ……ん……」
咲「ほら、猫っぽく鳴かないとダメだよ?」グチュグチュ
華菜「にゃ……ん……にゃぁ……」
咲「ふふ、その調子だよ」
華菜(美穂子……さん……ごめんなさい…だし……)
『池田ァッ!発注間違えてんぞ!』
『池田ァッ!お茶が温くて不味いぞ!』
『池田ァッ!』
『池田ァッ!!』
『池田ァッ!!!』
華菜「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい……」ブツブツ
咲「華菜ちゃん、すごいうなされてる……怖い夢でも見てるのかな?何か安心させてあげられたらいいけど……」
咲「槓…もいっこ槓…もいっこ槓…もいっこ槓…ツモ…ロン…昏鐘鳴の音が聞こえるか?…槓…槓…槓…もいっこ槓…麻雀って楽しいよね」ボソボソ
華菜「うっ、うぅ………」ガクガクガク
小池A「あ、おねーちゃん」
小池B「おきたー?」
小池C「すごくうなされてたけど、だいじょーぶ?」
華菜「ここ……私の家?今までの全部夢……?」
華菜「そうだ……会社行かなきゃ……」フラフラ
小池A「おねーちゃん、ふらふらだよ?」
小池B「だいじょーぶ?」
小池C「むりしないで」
華菜「大丈夫、大丈夫……今や私が一家の大黒柱なんだから……このくらいで休んでらんないし……」フラフラ
「池田ァッ!おはよう」
「池田ァッ!急にここに転属する奴がいてな……教育係頼めるか?」
華菜「え?あ、分かりましたし!」
咲「初めまして、今日付けでここに配属されることになりました宮永咲です。皆さん、どうかよろしくお願いしますね」
華菜「あっ、あぁ……」カタカタ
咲「これからよろしくお願いしますね。華菜ちゃん――」
槓!
Entry ⇒ 2012.08.22 | Category ⇒ 咲-Saki-SS | Comments (0) | Trackbacks (0)
真「真美を子供扱いしてみよう」
真「そういえば今日発売日だったっけ…折角だし買って行こうかな…ちょうど最後の1枚だし」
真「これください」スッ
店員「○○円になります」
真「ええと…よし、足りるね」スッ
店員「ありがとうございました」
真「さて、早速家に帰って聞こうかな」
子供扱いしないでー♪すぐ上から目線ー♪
真「いい曲だよなあ…なんかいかにも女の子らしい感じの曲だし」
真「はあ…ボクも女の子らしい曲歌ってみたいなあ…」
真「子供扱いしないで…か、そういわれるとしたくなっちゃうんだよね」
真「よし、明日は真美を徹底的に子供扱いしてみよう」
真「おはようございまーす」
真美「あっおはよ→まこちん」
真「おはよう真美、真美はまだまだ子供だなあ」
真美「…急に何言ってんのまこちん?」
真「いや、真美はまだまだ子供だなあと思って」
真美「もう…真美は中学生になったから子供じゃないもん」
真「いやいや、ボクから見ればまだまだ子供だよ」
真美「むうー…じゃあまこちんは大人だって言うの?」
真「あはは、そりゃもちろん」
真美「…じゃあさ、さっき冷蔵庫見たら入ってたこのブラックコーヒー飲めるよね?」ニヤニヤ
真「えっ!?あああああ当たり前じゃないか」(まずい…普通のなら飲めるけどブラックは飲めないんだよなあ…)
真「…よし」ゴクッ
真「ブッ!?」(にがっ!?)
真美「うわあ!?ちょ、ちょっとまこちん!」
真「けほっ…けほっ…」
真美「ああもう…えっとタオルは…」ゴソゴソ
真(うわあ…やっちゃったよ…今のめちゃくちゃカッコ悪いじゃないか…)
真「う、うん…」
真美「ごめんね…まさか噴き出すとは思わなくて」フキフキ
真「いや、ボクが強がっちゃっただけだよ…」
真美「ほんとは真美、まこちんがブラック飲めないの知ってたんだ…」フキフキ
真「そっか…結構前に飲んだ時すごく苦かったからさ…それ以来飲めなくなっちゃったんだよね」
真美「そうだったんだ…よし、拭けたよ」
真「ありがとう…」
真美「それじゃ真美、そろそろお仕事の時間だから行くね」
真「うん、頑張ってね」
真美「ありがと、それじゃ行ってくるね→」
真「いってらっしゃい」
ガチャッバタンッ
響「真…」
真「うわあ!?ひ、響…いたんだ」
響「さっきの…真の方が子供っぽかったよな?」
真「…そんなことないと思うけどなあ」
響「コーヒー噴き出して真美に口の周り拭いてもらっといてか?」
真「……」
真「いや…何でもない」
響「そうか…それじゃ自分もそろそろ仕事行くな」
真「あっうん…いってらっしゃい」
ガチャッバタンッ
真「…子供扱いするはずが子供扱いされてたのか…くそっ次こそは子供扱いしてやるぞ!」
ガチャッ
真美「ただいま→」
真「おかえり」
真美「あっまこちん、朝はごめんね」
真「あれはボクが悪かったんだから気にしなくていいよ」
真美「うん…」
真「やっぱり真美は子供だなあ」
真美「…またそれ?」
真「うん、真美は子供だよ」
真美「…子供じゃないもん」
真「あはは、そうかな?それじゃあ…今から出す問題に答えられたら認めてあげてもいいよ?」
真美「ほんとに?」
真「うん、ほんとに」
真美「よーし、絶対答えてやるかんね!」
真美「いい国作ろう鎌倉幕府だから…1192年?」
真「ぶっぶーはずれでーす」
真美「違ったっけ?」
真「正解はいい肉作ろう鎌倉幕府の1129年でした!」
真美「えっ…」
真「やっぱりまだまだ子供じゃないか、真美」
真美「……」
春香「ただいまー」
真「あっおかえり春香」
真美「……」
春香「ただいま…真美、どうかしたの?」
真美「ねえ、はるるん…鎌倉幕府って1192年成立であってるよね?」
春香「うん…それがどうかした?」
真「何言ってるんだよ真美、1129年だろ?」
春香「…?」
真美「で、でも…はるるんだってこう言ってるんだし」
春香「ええと…なんで1129年?」
真「なんでって…いい肉作ろう鎌倉幕府だからでしょ?」
春香「…うん?」
律子「ただいま戻りました」
真「あっおかえり律子」
春香「おかえりなさい律子さん…あの、1つ聞きたいことが」
律子「何かしら?」
春香「鎌倉幕府って1192年成立でしたよね?」
律子「ええ、そうよ」
真「ええ!?律子まで何言ってるんだよ、1129年だろ?」
律子「…あんたこそ何言ってるの?」
真「いい肉作ろう鎌倉幕府で1129年でしょ?」
律子「真…いい国作ろう鎌倉幕府、1192年が鎌倉幕府成立よ、このくらい覚えときなさい…」
真美「じゃあやっぱり1192年であってたんだ!」
律子「ええ…このくらい一般常識でしょ?」
真「…あーボクちょっと用事思い出しちゃった…それじゃ皆またね!」ダッ
春香「ま、真?」
ガチャッバタンッ
真美「よかったー…真美、間違ってるのかと思っちゃったよ」
律子「それで…なんでそんな話してたの?」
春香「私もよくわかんないんですよ…真美が急に聞いてきて」
真美「なんかまこちんが真美のこと子供扱いするんだもん…それで問題出してきてさ」
律子「なるほどね…これは恥ずかしいわね」
春香「あはは…」
真「やっちゃったやっちゃったああああああああああああああ」
真「なんだよこれ…いい肉作ろう鎌倉幕府って…ドヤ顔で真美に言っちゃった…」
真「明日からどうしよう…どうせ今頃皆に広まってるんだろうな…」
真「…よし、過ぎたことは忘れよう!明日こそは真美を子供扱いするぞー!」
真「おはようございまーす」
真美「おはよ、まこちん」
真「真美は相変わらず子供っぽいなー」
真美「…昨日からなんなのまこちん」
真「いや、真美は子供っぽいなーって思ってさ」
真美「……」
真(あれ…怒っちゃったかな…)
真美「ねえ…どうすれば真美が子供じゃないって認めてくれる?」
真「あー…それじゃあじゃんけんで勝ったらいいよ」
真美「えっ…そんなことでいいの?」
真「うん…ただしボクが勝ったら罰ゲームを受けてもらうけどね」ニヤニヤ
真美「…わかった」
真美「……」チョキ
真「よし、ボクの勝ちだね」
真美「うう…まあ負けは負けだかんね、それで罰ゲームって何?」
真「それじゃ隣の部屋で」スタスタ
真美「わかった…」スタスタ
伊織「おはよう…あら、まだ誰も来てないのかしら」
マコチンソレデナニスンノ マアチョットマッテヨ
伊織「隣の部屋から誰かの声が聞こえるわね…」
―――――――――――――――――――――
真「それじゃあ早速だけど…靴下脱いで」
真美「えっ…うん」
真「さーて…それじゃ始めるよ」ギュッ
真美「痛っ!?」
真「こら、暴れちゃだめじゃないか…罰ゲームなんだからさあ」ニヤニヤ
真美「うう…」
伊織「え?な、何?脱ぐとかなんとかって…」
伊織「それにこの声…真と…もう1人は真美よね」
伊織「痛いとか暴れるなとかって…もしかして…」
伊織「どどどどうすればいいの?」
真「それにしても…真美の足ってプニプニでスベスベだね」ギュッ
真美「っ!?へ、変なこと言わないでよぉ」
真「あはは…そろそろ慣れてきちゃったかな?」
真美「うん…まだちょっと痛いけど」
真「そっか…それじゃあ本気でやるよ」ギュウウウ
真美「痛っ!?まこちん待って痛い!」
真「あはは、だめだめ…まだボクは満足できないんだよ」
伊織「…これって…その、あれよね///」
伊織「真…やっぱり男だったの?…でも慰安旅行の時はついてなかったわよね…」
伊織「それじゃあ取り外し式なのかしら…」
ガチャッ
雪歩「おはようございますぅ」
伊織「……」ドキドキ
雪歩「あれ…伊織ちゃん?」
伊織「!?ゆ、雪歩…」
雪歩「何してるの?ドアに耳近づけて」
伊織「ちょっとあんたもこっち来なさいよ」
雪歩「えっ…うん…」
真「…まあこんなもんかな」
真美「はあ…はあ…ひどいよまこちん…いきなりあんなことするなんて」
真「あはは、でも罰ゲームありでじゃんけんしてもいいって言ったのは真美だよ?」
真美「そ、そうだけど…」
真「はあ…それじゃ真美にはご褒美をあげようかな」
真美「えっご褒美?」
真「うん…ボクのカルピスあげるよ」
真美「えっいいの?」
真「うん、いいよ」
真美「ありがと…」
伊織「かかかかカルピスぅ?」
雪歩「ま、真ちゃん…そんな…」
伊織「ちょっと…どうすんのよこれ…」
雪歩「わ、私だってわかんないよぉ…」
伊織「あーもう…それじゃ一緒に開けましょ」
雪歩「うん…」
伊織「行くわよ…せーの」
ガチャッ
伊織「朝っぱらから何してんのよあんた達!」
雪歩「ふ、不純同性交遊はよくないと思いますぅ」
真「伊織!?雪歩!?」
伊織「それはこっちのセリフよ!」
真「ボク達は足つぼマッサージをしてただけだけど?」
雪歩「えっ…」
真美「いやーまこちん手加減なしに強く押してくるから痛くて痛くて」
伊織「…紛らわしいのよ!ばか!」
真「ええ!?」
雪歩「じゃ、じゃあ…カルピスっていうのは…」
真美「えっこれのこと?」
伊織「…普通のカルピスね」
真「朝コンビニで買ったんだけどご褒美として真美にあげたんだよ」
雪歩「そ、そうだったんだぁ…」
伊織「な、なななな何でもないわよ///」
雪歩「別にエッチなことなんて想像してないですぅ///」
真「はあ…そういうことか…」
真美「まあいおりんもゆきぴょんもそういうお年頃ですからなあ」
伊織「ふ、ふんっ…行くわよ雪歩」
雪歩「う、うん…」
真「まったく…ボク達がそういうことするわけないだろ…ねえ真美?」
真美「……」
真「…真美?」
真美「えっ!?ああ、うん…」
真「さて…それじゃボク達もレッスン場に向かおうか」
真美「うん…」
亜美「あれ、真美とまこちんじゃん」
真「亜美がいるってことは竜宮小町もここでレッスンなのかな?」
亜美「そだよ→りっちゃんがあずさお姉ちゃん探しに行ってて暇してたんだよ→」
真美「あれ、いおりんは?」
亜美「なんか遅れるって言ってた」
真美「そっか」
亜美「ねえ、まこちん」
真「何?」
亜美「いい肉作ろう?」
真「…勘弁してください」
亜美「えー違うっしょー?いい肉作ろう?」
真「…鎌倉幕府」
亜美「ブフッ…」
亜美「ううん?なんで真美はまこちんを庇うのかな?」
真美「べ、別になんだっていいっしょ!」
亜美「ふーん…」ニヤニヤ
真美「何?」
亜美「べっつにー?」
律子「はあ…あずささん、次からは迎えに行く時あまり移動しないでくださいね」
あずさ「すいません律子さん…」
亜美「あっおかえりりっちゃん、あずさお姉ちゃん」
律子「ただいま…伊織は遅れるって言ってたから一応揃ったのかしら」
亜美「そだね→」
真「それじゃボク達は向こうの方でしようか」
真美「うん」
律子「あら、真と真美もレッスンなの?」
真「うん、そうだけど」
律子「折角だから一緒にみてあげましょうか?」
真「ええっと…」
真美「ちょ、ちょっと亜美!?」
亜美「んっふっふー、真美とまこちんも鬼軍曹の指導を受けるがいい」
律子「誰が鬼軍曹ですって?」
亜美「うあうあーなんでもないよ→」
あずさ「あらあら~でも皆でレッスンするのってとても楽しそうね」
真「そうですね…」
真美「うん…」
律子「さあ、それじゃ早速始めるわよ、伊織は後からくるでしょうし…」
亜美「あーい」
真「はあ…はあ…結構疲れたかな」
真美「はあ…はあ…まこちんすごいね」
真「そんなことないって…真美は平気?」
真美「ちょっと…休憩してる」
真「わかった…それじゃはい、これ飲み物」スッ
真美「あ、ありがと…」
律子「お疲れ様2人とも…普段は竜宮小町しか見てないけど2人ともすごく上手にできてたわよ」
真「そっか、ありがと律子」
律子「特に真はやっぱりすごいわね、流石ダンスが得意ってだけはあるわ」
真「あはは…」
律子「真美も亜美と同じかそれ以上に良くできてたわよ」
真美「ありがとりっちゃん…」
真「えっ…何?」
律子「なんか今日あんた達にあまり近寄らない印象があったんだけど何かあったの?」
真「あー…ちょっとね…」
律子「そう…喧嘩なら早く仲直りしなさいね」
真「あはは…別に喧嘩じゃないから平気だよ」
律子「それならいいけど…あっいけない、そろそろ行かないと」
真「そっか、律子も頑張ってね」
真美「りっちゃんがんばー」
律子「ありがとう2人とも、それじゃあまたね」
ガチャッバタンッ
真美「うん…」
真「…もう少し休んでく?」
真美「ううん…大丈夫」
真「そっか…それじゃあ戻ろう」
真美「うん!」
真「ただいま戻りましたー」
真美「ただいま→」
小鳥「あらおかえりなさい真ちゃん、真美ちゃん」
真「小鳥さんだけしかいないんですか?」
小鳥「ええ、あっ真ちゃんと真美ちゃんはこの後はオフよね?」
真「はい、そうですけど…」
小鳥「ちょっとプロデューサーさんに届けものがあるから留守番お願いできる?」
真「そんなことですか、ぜんぜん構いませんよ」
小鳥「ありがとうね、それじゃちょっと行ってくるわね」
真「はい、いってらっしゃい」
真美「いってら→」
ガチャッバタンッ
真美「まこちんどうかした?」
真「いや、真美は子供だなあと…」
真美「もう…いい加減にしてよ…」
真「うーん…やっぱ子供だね、真美は」
真美「…子供じゃないよ」
真「へえー…それじゃ証明してみせてよ」ニヤニヤ
真美「……」スッ
真「えっ!?」ムニュ
真「えーと…」ドキドキ(あれ…どうしてこうなった…?)
真美「……」ドキドキ
真(…真美の鼓動が伝わってくる…すごいドクドクいってるなあ)
真美「ま、まこちん…これでも子供って言える?」ドキドキ
真「……」
真美「…な、なんとか言ってよ」ウルウル
千早「ただいま戻りました」
美希「ただいまなのー」
貴音「ただいま戻りました」
真「!?」
真美「……」ウルウル
千早「…あなた、何をしているの?」
真「えっ…ボク?」
美希「…真美、泣いてるの?」
貴音「真美、こちらへ」スッ
真美「あっ…」
真「いや、えーと…」(言いわけは…できないよね…)
千早「なぜ真美の胸を触っていたの?…なぜ真美は泣いていたの?」
真「その…ボクのせいです…」
美希「…でも真クンが何の理由もなくあんなことするなんて思えないの」
千早「そうね…だから理由を聞かないとなのよ」
真「…その、ボクが真美のことを面白半分に子供扱いして…後は成り行きでああなったんだ」
貴音「真美、それは本当ですか?」
真美「うん…子供じゃないって証明するために真美がああしたんだよ」
千早「なるほど…そういうことなら納得いくわ…真、さっきは失礼なこと言ってごめんなさい」
真「いや、気にしてないよ」
真「えーと…ジェミーを聞いてる時に子供扱いしないでってフレーズがあってさ…それで…」
貴音「子供扱いしてみたくなった…といったところでしょうか」
真「その通りだよ…真美、ごめん」
真美「ううん…それで…真美は子供なの?」
真「…いや、もう子供じゃないよ」
真美「ほんとに?」
真「ほんとだよ…」
真美「…よかった」
真「何?」
美希「さっき雪歩が真クンに借りてた漫画返したいって言ってたの」
真「そっか、それじゃちょっと雪歩のところに行ってくるよ」
美希「うん、行ってらっしゃいなの」
ガチャッバタンッ
美希「うん、そうだね…」
貴音「ふふっそうですね」
真美「えっ何の話?」
千早「いえ、何でもないわ…真美、さっき亜美が探していたわよ」
真美「えっほんとに!?それじゃちょっと亜美のとこ行ってくる」
美希「行ってらっしゃいなの」
ガチャッバタンッ
千早「これでいいのね…さっきは早とちりしてしまったわ」
美希「千早さんが急にあんなこと言うからミキも焦ったの…」
千早「ごめんなさい…」
貴音「そろそろ来るころでしょうか」
千早「そうね…」
伊織「おまたせ」
春香「おまたせー」
美希「遅いの2人とも…」
伊織「仕方ないでしょ、こっちも時間合わせてきたんだから」
春香「そうだよー」
千早「それで…私達は何をすればいいの?」
伊織「ちょっと話したいことがあってね…真美と真について…よ」
貴音「なるほど…」
伊織「もう気付いてると思うけど…あの2人はお互いを意識しているわよね?」
美希「そうだね…2人ともわかりやすすぎだし」
春香「そうだねーなんか恥ずかしいミスしちゃったみたいだけど」
千早「春香…それは言わないであげましょう」
伊織「なぜそうしたのか…わかる?」
美希「簡単なの、好きな子にはちょっかいだしちゃうみたいな感じでしょ?」
伊織「美希にしてはよくやるわね…その通りよ」
貴音「しかし先程は真美のジェミーを聞いて思いついたと言っておりましたよ?」
伊織「まあそれも1つの理由でしょ…根本的な理由は真美が気になるから…自分の気持ちが素直に言えないってことね」
春香「真って変なところで不器用だしね」
美希「素直になれないってでこちゃんと被ってるの…」
伊織「い、今はそれは関係ないでしょ!」
伊織「まあ…見ててむかむかするからさっさとけりつけようと思ってね」
貴音「では考えがあるのですね?」
伊織「ええ…真が気持ちを伝えざるを得ない状況を作ればいいのよ」
春香「なるほど…つまりどういうこと?」
伊織「まあ演技をするのよ…私達が真美をいじめる感じでね」
美希「いじめ絶対だめなのー」
伊織「だから演技って言ってるでしょ!」
千早「なるほど…それだけで真は気持ちを伝えるのかしら」
伊織「ふふっそこはまかせなさい…私があいつを煽ってなんとかするわよ」
伊織「亜美にこのことを伝えるよう言ってあるから平気よ」
春香「それなら完璧だね…あれ、真は戻ってくるの?」
伊織「雪歩に少し引きつけた後また事務所に戻らせてって言ってあるわ」
美希「さっすがでこちゃんなの」
伊織「でこちゃんゆーな!」
千早「そういうことなら…私も気になっていたしいいと思うわ」
貴音「私も賛成です」
春香「それじゃ私もー」
美希「美希もそれでいいよ」
伊織「じゃあ決まりね、あっ真美に暴力とか振るうのはだめよ、あくまで演技だからね?」
美希「わかってるの」
亜美「ただいま→」
真美「ただいま…」
春香「おかえり2人とも」
伊織「真美、先に謝っておくわね…演技とは言えひどいことを言ってしまうのは明白だから…」
真美「別にいいよ→まこちんの演技力を上げるためにやるんだよね?」
千早「ええ、そうよ…」(そういう設定にしたのね…亜美)
貴音「伊織、真はいつごろ帰ってくるのですか?」
伊織「ええと…30分後くらいには帰ってくるわね」
美希「それじゃさっさと準備するのー」
春香「そうだね」
雪歩「真ちゃん、事務所に1回戻ってくれないかな?」
真「えっ…いいけど、どうして?」
雪歩「伊織ちゃんが話があるって言ってたから」
真「わかった、それじゃまたね、雪歩」
雪歩「またね、真ちゃん」
雪歩(真ちゃん…頑張ってね)
真「ただいま戻りました」
伊織「あらおかえりなさい、真」
真美「ぐすっ…ひっく…」
真「真美!なんで泣いて…」
春香「……」
真「それにこれ…真美の衣装じゃないか…」ボロッ
千早「……」ニヤニヤ
真「…皆、正直に話してくれないかな…これはどういうこと?」
美希「どういうことって…見ればわかるの」
貴音「ふふっ…」
真「…何がおかしいんだよ…なんだよこれ」
亜美「まこちーん、さっきから何が言いたいの?」
真「亜美…亜美までそっち側なの?」
亜美「そっち側ってどっち?」
真「…このっ!」ガッ
貴音「暴力を振るうのですか?」
真「…くそっ」バッ
春香「仲間に暴力振るうなんてひどいよ…」
伊織「気に入らないから…簡単なことでしょ?」
真「気に入らないから?…たったそれだけの理由でこんなことしたって言うのかよ!」
千早「ええ、そうだけど」
真美「まこちん…もういいよ…」グスッ
真「よくない!…真美がよくても…ボクが許せないんだよ!」
伊織「1つ聞くけど…なんであんたはそこまでこいつのために怒れるの?」
真「ボクはこういうの…1番許せないんだよ!」
伊織「そう…でもこいつとあんたは赤の他人でしょ?」
真「赤の他人?…本気で言ってるの?」
伊織「ええ、ただの同じ事務所所属の赤の他人、違う?」
真「…たしかに戸籍上はそうなるかも知れない…でも…ボクは」
伊織「何?それ以上に何かあるの?」
真「…好き…だから」
真美「……」ビクビク
真「真美…こんなに震えて…」ギュウ
真美「あ…」
真「ごめん…気付けなくて…ごめん…辛い思いさせちゃって…守ってあげられなくて」
伊織「…ははっ情けないわね…こんなことにも気付けずに守る?笑わせないでくれない?」
真「…たしかに情けないよ…ボクは…でも…ボクは…」
伊織「何?言いわけでもするつもりかしら?」
真「ボクは…たとえ全世界が真美の敵になったとしても…この手で真美のことを守るって…ボクの魂に…誓ったんだ!!」
真美「!?」
真「…え?」
千早「ごめんなさい真…実はすべて演技だったのよ」
真「えん…ぎ…?」
美希「真クン…すごくかっこよかったの」
春香「これは誰でも惚れるんじゃない?」
亜美「まこちーん、かっこよすぎだよ→」
貴音「すみませんでした、演技とはいえこのようなことをしてしまって…」
真「は…はは…よかった」ポロポロ
真美「ま、まこちん…」ドキドキ
伊織「ごめんなさい、演技だとしてもあんたを不愉快にさせちゃったわね」
真「いや…いいよ…」
真「えっ!?ああ…本気だよ…」
真美「まこちん…」
真「真美…」
千早「…私達は帰りましょうか」
春香「そうだね…」
亜美「真美ー先帰ってるね→」
貴音「お先に失礼します」
美希「ばいばーい」
伊織「…折角演技までしたんだから…幸せになりなさいよね」
ガチャッバタンッ
真美「うん…」ドキドキ
真「真美…好きだ」
真美「ま、真美も…好きだよ…まこちん」
真「真美…」チュッ
真美「…まこちん」
真「あはは、なんかばかみたいだなあ…あんな周りくどいことしないでちゃんと言えてれば…」
真美「じゃ、じゃあ…子供扱いしたのって…」
真「うん…真美が気になってたから…その…気持ちを伝える勇気がなかったんだ」
真美「そうだったんだ…」
真美「まこちん///」
真「あはは、何言ってんだろボク…」
真美「あのね、真美がまこちんに子供扱いされるの嫌だったのってね…」
真「……」
真美「女の子として見てもらえないんじゃないかって思って…それですごく子供扱いされるのが嫌だったんだ…」
真「そうだったんだ…ごめん、そんなことにも気付けなくて…」
真美「ううん…今はこうやって気持ち伝えられたし…その…恋人になれたし///」
真「そうだね///」
真「おはようございまーす」
真美「おはよ→」
春香「おはよう真、真美」
伊織「おはよう」
真美「ねえまこちん、実は今日ね…まこちんのためにお弁当作ってきたんだー」
真「えっほんと!?嬉しいなあ…真美のお弁当が食べられるなんてボクは世界一の幸せものだ」
真美「もう…大げさすぎだよ///」
真「真美…愛してるよ」
真美「真美も…」
春香「…完全に私達がいること忘れてるよね…これ」
伊織「そ、そうね…まあいいんじゃないかしら…」
真「真美…なんで真美ってそんなに可愛いのかな?」
真美「な、何言ってんの///…その、まこちんも可愛いよ」
真「ありがとう…でも真美の可愛さには勝てそうにないな」
真美「まこちん…」
真「真美…」
春香「…本当にいいのかな?」
伊織「…ま、まあ少しすれば収まるんじゃないかしら」
美希「なんかドラマ見てる感じがするの…」
真美「まこちん///」
伊織「…だあー!あんたら少しは自重しなさいよ!ここは事務所なのよ」
真「えっ!?あ、ごめん…その、つい可愛い真美を見てたら」
真美「まこちん…そんな可愛いって言われたら…真美…」
真「ん、どうかしたの真美?大丈夫?」
春香「…自重する気ないよね、この2人」
美希「あふぅ…」Zzz
真「真美…ずっと一緒にいよう…好きだよ」
真美「うん…ずっと一緒にいて…真美のこと離さないで…まこちん」
伊織「はあ…もういいわ」
春香「そうだね…でも2人ともさ…幸せそうじゃない?」
伊織「そうね…私達の演技も無駄じゃなかったみたいだし」
春香「あはは…」
真美「ん、何?」
真「真美はやっぱり子供だなあ…」
真美「むうー…」
真「あはは、その反応だよ…すごく可愛い」
真美「もう…仕方ないから今は子供でいいや///」
真「そっか…後でさ…ボクが大人にしてあげるよ…真美」
真美「うん…お願いね、まこちん」
伊織「何堂々と変な宣言してんのよ!」
真「変な宣言って…ボクは別にそんなつもりは…」
伊織「じゃあ大人にしてあげるって何よ?」
真「それは…まあ想像にまかせるよ」
真「そ、そんなことは…あるかな」
春香「あるんだ…」
真「だ、だってさあ…子供扱いしてプリプリ怒ってる真美ってすごく可愛いじゃないか!」
真美「まこちん…そんな風に思ってたんだ…」
伊織「なんかきもいんだけど…」
真「べ、別にいいじゃないか!好きな人の新しい一面が見れるんだしさ」
真美「もう…そんなことしなくても後で全部の真美を見せてあげるのに…」
真「真美…ごめん、ボクが間違ってたみたいだ…」
伊織「もうほっときましょ…」
春香「うん…そうだね…あっそうだ、ドーナツ作ってきたから食べる?」
伊織「あら、それじゃ貰おうかしら」
真美「えっドーナツ!?食べる食べる→」
真「ありがとう春香、貰うね」
春香「どうぞ」スッ
真美「美味しい!流石はるるんだね!」
春香「あはは、ありがとう」
真「…やっぱり真美は子供だなあ」
END
Entry ⇒ 2012.08.22 | Category ⇒ アイマスSS | Comments (0) | Trackbacks (0)
サーニャ「あんっ、エイラ……そんなに見ちゃダメぇ……」
サーニャ「ほらほら、もうこんなにぐちゅぐちゅになってるゾ?(低音)」グチュグチュ
サーニャ「い、言わないで……」
バシィッ(自分の尻を叩く)
サーニャ「ひゃあっ!?」
サーニャ「いい声で鳴くじゃないカ(低音)」
サーニャ「ほらぁ、自分の目で見てみロ。なんだこれハー?(低音)」ヌルッ
サーニャ「ケツ叩かれて感じてんだロ、やっぱ好きなんだナ(低音)」
サーニャ「違わねーダルルォ!? オラッ、鳴けブタッ!」パシッペシッ
サーニャ「ひぐぅぅ! いっ、く……」
サーニャ「んん? 聞こえねーゾ」
サーニャ「ひあっ、イくぅっ! さ、サーニャはエイラにお尻叩かれて感じるマゾ豚なのぉぉ!」
サーニャ「マゾ豚ぁ? ブタが一丁前に人間様と会話してんじゃねーゾ! 鳴けっつったロ!」
サーニャ「ぶひ、ぶひぃぃん!!」
サーニャ「は…ぶひぶひぃ!」
サーニャ「おらイけッ!」パシーン
サーニャ「ぶっ、ひぐっ……ひゃぁぁぁぁん!!」ビクンビクン
サーニャ「……」グッタリ
サーニャ「はあ……結構良かった…」
ドンドン!
サーニャ「? 誰かしら、こんな夜中に」
バルクホルン「サーニャ、まだ起きていたのか。なら私が部屋を訪ねてきた理由も分かると思うが」
バルクホルン「はっきり言ってうるさいぞ。みんな寝てるんだから静かにしろ」
サーニャ「……」
バルクホルン「分かったか? 少佐たちには黙っておくから、もう寝ろよ。おやすみ」
サーニャ「待って下さい」
バルクホルン「うん?」
サーニャ「……『静かにしろ』って、何を静かにシたらいいんですか?」
バルクホルン「は?」
バルクホルン「お、お前、何を言ってるんだ」
サーニャ「教えて下さい」
バルクホルン「うぐぅ……それは、だな……つまり…」
サーニャ「……」ジッ
バルクホルン「……ええい、自分のことは自分で分かるだろう! とにかく静かに寝ててくれ! いいな!」
サーニャ「……」
サーニャ「あの」
バルクホルン「何だ!」
バルクホルン「ううむ……それなら、あまり大きな声では言えないが、寝酒とか――」
サーニャ「添い寝して下さい」
バルクホルン「えっ」
サーニャ「エイラみたいに添い寝してくれる相手がいれば、ぐっすり眠れます」
バルクホルン「ええっ」
サーニャ「さ、どうぞ」
バルクホルン「ちょっとまって」
バタン ガチャッ
サーニャ「大丈夫です。私が寝たら部屋に戻って貰って構いませんから」
バルクホルン「そうじゃなくて、エイラに見られたら」
サーニャ「今夜はエイラが哨戒に出てます、あと5時間は帰ってきませんよ」
バルクホルン「でも……」
サーニャ「もうっ! そんなことだから、いつまで経ってもハルトマン中尉に振り向いてもらえ」
バルクホルン「ヘイ! 分かった、お前の言う通りにしよう」
バルクホルン「そ、添い寝って、こうでいいのか?」
サーニャ「はい」
バルクホルン(サーニャの匂い……)
バルクホルン(よく考えたら、さっきまでサーニャはここで……)ドキドキ
サーニャ「大尉」
バルクホルン「ファッ!?」
サーニャ「もっとくっついて……」
バルクホルン「あ、ああ」モゾモゾ
サーニャ「そうです、そしたら」
サーニャ「ちょっとお尻を撫でていて下さい」
バルクホルン「!?」
バルクホルン「!?」
サーニャ「もちろん大尉のじゃなくて私のお尻ですよ」
バルクホルン「それは分かっているが……さすがにそこまで行くのは」
サーニャ「じゃあこれならどうですか? 私とお尻を共有して、互いに撫で合いましょう」
バルクホルン「は?」
サーニャ「全てお尻は公共のものであり、その恩恵は同志諸君が等しく賜るべきです」
サーニャ「同志バルクホルン! 我等の手によってケツコミュニティを築くのです!」
バルクホルン「生まれて初めてサーニャが怖い……」
バルクホルン「逆らったら二度と朝日を拝めなくなる気がする。よく分からないが、素直に従っておこう」
サーニャ「んっ」
バルクホルン「こう、か……?」
サーニャ「はい……大尉も」
バルクホルン「わ、私は」
スルッ
バルクホルン「ひゃ……おい、中は…!」
サーニャ「しーっ」
バルクホルン「くっ……」
サーニャ「♪」
バルクホルン「んっ……はあ…」ムニムニ
サーニャ「上手ですよ、大尉ぃ……」
バルクホルン(ダメだ、なんだか頭がのぼせてきた……)
バルクホルン(サーニャがどういうつもりなのか知らんが……早く寝かしつけないと……)
ゥウン
バルクホルン「……ん? ストライカーの音…」
サーニャ「?」
バルクホルン「……気のせいだったよう、ひゃあぅんっ!?」
サーニャ「よそ見しないで」
バルクホルン「ふぐぅ……もう、いいだろ……?」
サーニャ「ダメです」スリスリ
ブウウウン
バルクホルン(うう、また外から妙な音が)チラッ
<○> <○>
バルクホルン「!?」
<○> <○>
サーニャ「窓?」
<○> <○>
サーニャ「」
<○> <○>サーニャー バルクホルンー ナニシテルノカナー
サーニャ「え」
サーニャ「エイラ……」
ガシャアアアン
<○> <○>フタリガコンナニナカヨカッタナンテシラナカッタゾ
サーニャ「エイラ、違うの。これはね」
<○> <○>サーニャノハナシハアトデユックリキクカラナ
サーニャ「ひっ……」
<○> <○>バルクホルン
バルクホルン「あの……言い訳みたいだが、私はサーニャにそそのかされて」
<○> <○>サヨナラダナ
ガシャッ
ババババババババババババババババババ
サーニャ「きゃあああああーっ!」
サーニャ「はっ」
サーニャ「……私、いつの間に眠って…」
サーニャ「そうだ、エイラ! 大尉……!?」
ガチャッ
エイラ「お、丁度起きたカ。サーニャを迎えに来たんダ」
バルクホルン「うむ。ちょ、朝食の時間だぞ」
サーニャ「……エイラ?」
エイラ「ん? なんダ?」
サーニャ「大尉」
バルクホルン「……どうした。私の顔になにか付いているか?」
サーニャ(夢……だったのかしら?)
サーニャ「大丈夫。行きましょう」
エイラ「っと、部屋に忘れ物してきちまっタ。二人は先に行っててくれ」
サーニャ「そう、分かったわ」
エイラ「悪いナ」
バルクホルン「……」
バルクホルン「……んっ……ふぅ…」
サーニャ「大尉?」
バルクホルン「な、ん……だ!?」
サーニャ「……どうかしましたか?」
バルクホルン「きっ、気にする、な。行こう、早くっ……!」
サーニャ「?」
エイラ「バルクホルンめ。受けてもらうゾ、しかるべき報いを!」
ヴィィィィィン
「あ…! いっ……!」ガクッ
「た、大尉、やっぱり変ですよ!?」
「――っ! 見る、なぁ…!」ペタン
「えっ……まさか…」
エイラ「……」
エイラ「妹に調教されるなら本望だよナァ、バルクホルン? 宮藤じゃないのが残念かも知れないけどナ」
エイラ「まだまだこんなもんじゃ終わらせなイ……サーニャの尻を揉みしだいた罪は重いゾ」
「うあああ! やめろ、エイラぁぁぁ! いっ……くぅぅっ!」
エイラ「……」ニヤニヤ
エイラ「サーニャのお仕置きは……お尻ペンペンで許してやるカ」
おわり
バルクホルン「もう、やめてくれよ……私が悪かったから……」グスグス
サーニャ「……」
サーニャ「エイラ! いるんでしょ!?」
エイラ「……何だヨ?」
サーニャ「大尉に何をしたの?」
エイラ「見れば分かるだロ。あんなことしといて、この程度じゃ許さないからな」
サーニャ「こんなの……」
バルクホルン(サーニャ……私をかばって……)
サーニャ「……うらやましいじゃない! 私にもして」
バルクホルン「えっ」
エイラ「それじゃお仕置きにならないだロ?」
サーニャ「く……大尉も何か言って下さい! 私も大尉と同じ罰を受けるべきですよね?」
バルクホルン「えっ」
サーニャ「ほら、大尉もそうだって」
エイラ「言ってねーヨ」
サーニャ「むう……」
バルクホルン「ちょ、ちょっ」
ヴィィィィィン
バルクホルン「っああああん!」
エイラ「ほらぁ、立て! とりあえず今日はそれ挿れっぱなしだゾ」
サーニャ「こんないやらしい匂い嗅ぎながらお預けなんて……」
エイラ「サーニャには貞操帯付けてやらなきゃナ」
バルクホルン「!」
芳佳「バルクホルンさん! おはようございます!」
バルクホルン「お、おふぁよ、う」
芳佳「? 顔が真っ赤ですよ、ちょっといいですか……」ピトッ
エイラ「……」カチッ
バルクホルン「!! う゛……っ」ギュッ
芳佳「え、もしかしてどこか痛んだりしますか?」
バルクホルン「ひゃ、いや、違う。ほっとけ、だいじょぶだか、らあっ!」
芳佳「でも……」
バルクホルン「う…る…さいっ! 頼む、から……向こうに、行け!」
芳佳「あ……」シュン
芳佳「……ごめんなさい…」トボトボ
バルクホルン(すまない、許してくれ、宮藤)
バルクホルン「!」
シャーリー「よう。聞いたぜ、珍しく宮藤に怒鳴ったらしいな」
シャーリー「なんかあったのか?」
バルクホルン「……い、いや…」
シャーリー「……何か隠してるだろ。それぐらい、私にも分かるぞ」
カチッ
バルクホルン「ひおっ……お…ぐぅぅ……!!」ブルブル
シャーリー「な、なんだコイツ? どっか具合でも悪いのか」
バルクホルン「うっ……う……」フラフラ
シャーリー「おい、どこいく」
ドゴオオン
シャーリー「うわっ!」
バルクホルン「来る…な……! ああぅ、ぐ…!」
シャーリー「……」
サーニャ「んん……」カリカリ
エイラ「上から引っ掻いたって無駄だゾ」
ガチャッ
エイラ「おっ」
バルクホルン「はあ、はあ……」
エイラ「あははは、通り道に水溜まりが出来てるじゃあないカ。何回イッたんダ?」
バッ
バルクホルン「エイラ、お願いだ! 二人きりになればどんな命令だって聞いてやる、だからみんなの前で……う゛あ゛あっ!」
エイラ「聞いてやる、ダァ? ちょっとは従順になったかと思ったけド、まだ足りなかったみたいだナ」
バルクホルン「ひぁ、やだ、もうやめ……うわあああーっ!」プシャアアアア
エイラ「Foo↑ カールスラントのスーパーエースも形無しだナ?」
サーニャ「いいなあ……」
エイラ「そうだナ……じゃあ次は、ちょっとハンガー行ってオナ」
「次はテメーの番だぜ、エイラ」
「ひとつ人の世の愛液すすり」
「ふたつ不埒な淫行三昧」
「みっつ淫らな浮世の鬼を」
芳佳「退治てくれよう! 懲らしめ人!」
エーリカ「トゥルーデ!」
バルクホルン「はる、とまん」
ブワッ
バルクホルン「うええーん……」メソメソ
エーリカ「ごめんね、全然気付かなかった……ごめんね……」
エーリカ「シャーリーと宮藤が教えてくれたんだ」
芳佳「もう大丈夫です、バルクホルンさん!」
シャーリー「ああ。あとは……」
エイラ「くっ」
いいな
シャーリー「……」
エイラ「なんとか言ってみロ!」
シャーリー「だからどうした?」
エイラ「あ?」
シャーリー「お前はサーニャに手を出されたからバルクホルンに報復して、私たちはバルクホルンが傷付けられたからお前に報復する」
シャーリー「どっかおかしいとこがあるか?」
エイラ「そ、そんなノ……」
シャーリー「悔しかったらやり返してみな、としか言えねーぜ」
芳佳「サーニャちゃんは乳首だけでイくのは初めてかな? んん? ホラホラホラホラ」クリクリチュパチュパ
サーニャ「んああ、しゅごいのぉぉぉ! おっぱいアクメ止まんないぃぃぃぃ!」ガクガク
エイラ「」
シャーリー「さあ、覚悟しな」
エーリカ「シャーリー! 見てみてこんなに一杯オモチャが!」
シャーリー「お、いいなこれ」
エーリカ「このローター何個入るかな?」
シャーリー「よし、じゃあぶち込んでやるぜ!」
エイラ「ひ……」
「ンアッー!」
バルクホルン「……」
バルクホルン「なあ、そろそろ許してやっていいんじゃないか。もう私は……」
エーリカ「あれー? どうしてエイラはしっぽが二本あるんだー?」
エイラ「お…お……」フルフル
エーリカ「これ邪魔でしょ? 一本抜いてあげるよ」ズリュリュリュリュリュリュ
エイラ「ん゛お゛お゛ーっ!」ビクンビクン
シャーリー「コラァ、口休めんな! 舐めるんだよ、早くしろよ」
芳佳「サーニャちゃん、次はボディペインティングだよ」
サーニャ「う、うん(はぁと」
芳佳「水性ペンだから汗かいたり濡らしたら消えちゃうからね、じゃあ行こうか」
サーニャ「♪♪」
バルクホルン「……これでいいのか?」
おわり
乙!
乙
Entry ⇒ 2012.08.21 | Category ⇒ 版権物SS | Comments (7) | Trackbacks (0)
里志「昨日部室で何が起こったのか」 摩耶花「気になるわね」
わたしは、花瓶に花を活けていました。
昨日、部室を整理していると、可愛らしい花瓶が出てきたので、ちょっと思い立ったのです。
花は、今朝家から持ってきたものです。これで部室も華やぐでしょう。
える「フ~ンフフ~ン♪ フフフフフ~ンフフ~ン♪ フフ~ン♪」
気付けば、鼻歌まで口ずさんでいました。
なにしろ今日のわたしは、ご機嫌なんです。
だって昨日は……、昨日は……。
いけませんいけません! 自分でも、顔がだらしなくにやけているのがわかります。
こんなところ、とても他人様にはお見せ出来ません。
でも……、でも……。
……今日は一日、これを抑えるので精一杯でした。
花が形になったので一息吐き、窓の方へ向かいます。
窓を開けると、爽やかな春の風が舞い込んできました。
あまりの心地よさに、しばらく身を任せていると、突然部室のドアが開きました。
摩耶花「おーす、ちーちゃん。元気~?」
える「あ、摩耶花さん。こんにちは。はい、元気ですよ」
そして机の上の花に気付くと、言いました。
摩耶花「わぁ~、綺麗。ねぇねぇ、どうしたの?」
える「はい、昨日部室の整理をしていたら、この花瓶が出てきたんです。
それで、花でも飾ろうかってことになったんです」
摩耶花「そっかそっか。うんうん、やっぱこういうのがあると、部室も華やぐってものよね」
やがて、指先で花びらを突付きながら、いたずらっぽく笑ってこう言いました。
摩耶花「ま、いくら綺麗な花を飾っても、あの朴念仁には猫に小判よね」
朴念仁。言うまでもなく、折木さんのことです。
摩耶花さんや福部さんは、時折こうして折木さんのことを、悪し様に言うのです。
える「ふふっ。いいえ、摩耶花さん。最初に花を飾ろうって言い出したのは、折木さんなんですよ」
摩耶花「ええ~~~っ!? あの折木が!? あ、あり得ないわまさかそんな……。
ねぇ、冗談なんでしょ? 冗談って言ってよちーちゃん!」
摩耶花さん、いくらなんでもうろたえ過ぎです。
摩耶花「! まさかこの花も折木が!?」
える「いえ、それは今朝、わたしが……」
摩耶花「そ、そうよね。流石にそれは冗談が過ぎるってもんだわ……」
流石は摩耶花さん。もう落ち着きを取り戻した様子で、続けます。
摩耶花「これは天変地異の前触れに違いないわっ!」
える「そんな……、大げさですよ。花瓶を見たら、花を活けようと思うのは、ある種当然の成り行きです」
摩耶花「そりゃそうなんだけど……。な~んか、腑に落ちないのよねえ」
そこで会話は途切れ、しばしの沈黙が訪れました。
沈黙を破ったのは、摩耶花さんでした。
摩耶花「ねえ、ちーちゃん」
える「はい」
摩耶花「昨日さ、何かあった? ……その、折木の奴と」
今度はわたしが驚く番でした。
声が裏返ってしまいました。
でもでも、摩耶花さんが来てからは、ニヤニヤしたりしてませんでしたし、気取られるようなことはしてないはずですっ!
そういえば以前、折木さんに言われたことがあります。
『お前は、思ってることがすぐ態度に出やすい』
昨日のことも、全部わたしの顔に書いてあったりしたんでしょうか?
摩耶花「やっぱり。て言うか落ち着いて! ちーちゃん」
摩耶花さんは、慌てふためくわたしを、必死になだめようとしてくれます。
そうです。とにかく落ち着かないと。
こういうときは、深呼吸です。
すぅーーー、はぁーーー、すぅーーー、はぁーーー、すぅーーー、はぁーーー。
摩耶花「どう? 落ち着いた?」
はい、何とか。
それでも、その言葉は声にはなりませんでした。
摩耶花「ん?」
える「どうして……、わかったんですか? わたし、そんなにわかりやすい性格してるでしょうか……」
摩耶花さんはニヤリと笑うと、うーん、と唸って天井を見上げました。
摩耶花「……何となく、ね」
える「え?」
摩耶花「ほんとに何となくなんだけどね。今日のちーちゃん、折木のことを話すとき、何だか熱の篭ったしゃべり方だったから」
える「……」
摩耶花「あとは、折木が『花を飾ろう』って言ったってのも、ポイントかな?
わたしには、折木が花瓶を見ただけで、『花を飾ろう』なんて言う奴には思えないんだ。
ここは折木の奴にも、何らかの心境の変化があったと見たわけね。
例えばだけど、照れ隠しに言った、とかいうなら、わからなくはないから」
……そう、そうです。確かに昨日、折木さんが花を飾ろうと言ったのは、その……、事後、でした。
流石は摩耶花さんです。よく人を見ています。
……いやそれはないか。あの省エネ主義者が進んで色恋沙汰に精を出すわけないもんね。
え? 何? じゃあちーちゃんの方から迫ったの!? きゃーーー!!」
あの……。
摩耶花「……あ。ゴ、ゴメンね。何か白熱しちゃって。ちーちゃんが言いたくないなら、言わなくていいのよ。
無理には、訊かない」
そう言って摩耶花さんは、バツが悪そうに笑います。
わたしは、昨日のことを、摩耶花さんに話そうと思いました。
昨日、折木さんとしてから、わたしの胸の中に、かすかな“痛み”が同居を始めました。
嬉しくて、幸せで仕方ないのに、痛いんです。
放っておけば、忘れてしまいそうなくらい、小さなものでしたが、わたしはそれが、気になりました。
摩耶花さんに話すことで、少しは和らぐかもしれない。そんな期待がありました。
それに、摩耶花さんは自分の好奇心より、わたしの気持ちを優先してくれました。
『この人に話したいな』そう思わせてくれたんです。
える「昨日の放課後は、部室にはわたしと折木さんの二人だけでした。
わたしが来たときは、既に折木さんがいて、いつも通り折木さんは、椅子に座って本を読んでいました」
摩耶花「いつもの光景ね」
える「はい。それでわたしが、たまには部室の整理をしようと言い出したんです。
折木さんは、最初は嫌がっていましたが、最終的には渋々ながらも、手伝ってくれたんです」
摩耶花「あいつもものぐさだからねー。ま、腰を上げただけでも上出来ね」
える「そのときに、この花瓶も出てきたんですよ。折木さんが見付けたんです。
そして整理整頓が終わって……。実は恥ずかしながら、そのあと何を話したのか、詳しくは覚えていないんです。
他愛のない、とりとめのない話をしました」
摩耶花「ふふっ。わかる。ちーちゃんたち、いつもそんな感じだもん」
える「そ、そうでしょうか。それで例によって、何か気になることがあったんでしょうね。
わたしが折木さんに、詰め寄ったんです。顔をこう、近づけて……。
最初折木さんは、文庫本に目を落としたまま、気のない返事をするばかりでした。
でもやがて、わたしのしつこさに観念した様子で、やっとこちらを向いてくれたんです」
摩耶花さんは何がおかしいのか、笑いを噛み殺した様子で、わたしの話を聴いています。
そうです。折木さん、いつもはわたしの方を見ても、チラチラと視線を外すことが多いんですが、そのときは……」
摩耶花「?」
える「その、真っ直ぐわたしの眼を見つめて、話をしてきました。よっぽど自信があったんでしょうか。
とにかく、わたしも負けじと、折木さんの眼を見つめ返しました。気迫だけでも、負けてはいけないと思ったんです。
やがて折木さんの話は終わりましたが、わたしたちは、見つめ合ったままでした。
いえ、にらみ合っていた、といった方が正しいかもしれません。そうしてしばらく経ちました」
わたしは、話のラストスパートに向けて、ほうっ、と息を吐きました。
摩耶花さんも、もう笑うこともなく、真剣に話を聴いてくれています。
える「だんだん頭がぼうっとしてきました。多分折木さんもそうだったと思います。眼が虚ろでしたから。
何分くらい、そうしていたでしょうか。5分? 10分?
もっと長かったような気もしますし、本当はもっと短かったのかも知れません。
そして、わたし達は……」
摩耶花「ゴクッ……」
える「どちらからともなく、顔を寄せ合って、そ、その……。くち、唇と唇を、重ね合わせたんです……」
える「その後は至って普通でした。そんなことがあったのに、わたしも折木さんも、何事もなかったかのように振舞いました。
帰り際、折木さんが言いました。そのときの会話だけは、何故だかよく憶えています。
『なあ、さっき花瓶が出てきただろ。あれに花でも活けたらどうだ?』
『いいですね。折木さん、どんなお花がいいですか?』
『千反田に任せる。俺は花に詳しいわけじゃないからな』
『わかりました。明日早速持ってきます。楽しみにしててくださいね』」
以上です。小さく言うと、摩耶花さんは。
摩耶花「そっか」
同じく小さく呟きました。
摩耶花「ちーちゃんは、折木のことが好きなのね」
える「……」
……そう、なんでしょうか。いえ、そうなんでしょうね。
折木さんとキスをしたことが嬉しくて、舞い上がってしまったわたし。
もとより客観的に見れば、明らかなことでした。
摩耶花さんにお話ししたことで、わたしの、折木さんへの気持ちが、はっきりと、形を成していくようです。
と、同時に、胸の痛みが大きくなっていって……、わたしは……。
摩耶花「ちーちゃん? 泣いてるの?」
泣いてません。返事は、嗚咽で言葉になりませんでした。
える「ふっ、ふえええぇぇっ、うわあああぁん」
摩耶花さんは、黙って肩を抱いていてくれました。
える「おっ、お見苦じいところを、ひくっ、お見せしましたぁ」
摩耶花「ううん。ほら、涙拭いて」
そう言って、摩耶花さんは、ハンカチを差し出してくれました。
ありがとうございます。―――――ちーーーん。
える「………………、ふぅ」
泣いたことで、わたしの心は晴れやかでした。いつの間にか、胸の痛みも消えていました。
える「すみません、摩耶花さん……。ハンカチ、洗ってお返ししますね」
摩耶花「落ち着いたみたいで、よかった。どう? スッキリしたでしょ」
える「はい、とても」
摩耶花さんは、優しい笑顔を向けてきました。わたしも、笑顔で応えました。
昨日のことは、わたし、一生忘れないでしょう。そして、今日のことも。
摩耶花「……さてと、それじゃ、わたしそろそろ」
える「え、もうお帰りですか?」
摩耶花「うん。このまま折木が来たら、なんか色々言いたくなっちゃいそうだし。それに……」
える「?」
摩耶花「ううん、何でもない。それじゃあね、ちーちゃん!」
える「さようなら、摩耶花さん」
そうして摩耶花さんは、元気よく部室を出て行きました。
……と思ったら、ヒョイと顔だけ覗かせて。
摩耶花「……あいつも、ちーちゃんのこと、好きだと思うな。言っとくけど、気休めじゃないから。じゃ、頑張ってね」
わたしは、自分の頬が染まるのがわかりました。
といっても、特に用があったわけではない。何となく、古典部には足が向かなかったのだ。
……いや、何となくではないな。俺は自嘲気味に笑う。
決まっている。原因は昨日の千反田とのことだ。
バカなことをした、とは思わないが、何であんなことをしたのか、とは思う。
俺は百科事典のページを繰った。
……昨日。俺は、二人きりの部室で、千反田とキスをした。
千反田が迫ってきたわけではない。かといって、俺から求めたわけでもない。
何故だかそんな雰囲気になったので、どちらからともなく、というのが正しい。
昨日の、その後の様子から察するに、千反田は別に怒ったり、悲しんだりはしていないだろう。
というか、いつも通りだった。まったくいつもと変わることなく、俺と接していたのだ。
そのことが、今になって、俺の心をざわつかせている。
今どき、キスひとつで、惚れた腫れたでもあるまい。
何より俺は、自分の信条として、省エネ主義を掲げている。その心は。
『やらなくてもいいことなら、やらない。やらなければいけないことなら手短に』
キスしたからといって、何か変わらなきゃいけないことも、しなけりゃならないことも、ないのだ。
それは千反田だって同じだ。千反田は俺のように、省エネ主義を信奉しているわけではない。
だが、世間一般的に言っても、それは同じことだろう。
人は、変わりたければ変えようとするものだし、きっかけがあれば、変わっていくものだろう。
同じように、きっかけがあっても変わらないことも、いくらでもあるのだ。
千反田の態度は、そのことを雄弁に物語っている。
俺は変わりたいのか? 何かを変えたかったのだろうか?
神山高校に入学して、俺は古典部に入り、千反田と出会った。
それ以来、いくつかの事件に遭遇し、自分で言うのもなんだが、俺はそれらの事件の解決に、主導的な役割を果たした。
それらは、まったく、やらなくてもいいことに違いなかった。
結果だけ見れば、俺は自分の主義に、大いに反し続けている。
だが事件の陰には、いつも千反田がいた。
不思議なことだが、千反田がいたから、もっと言えば、千反田の為に俺は事件に挑み続けたのだろうか。
奴は、頭を掻き、ニコニコ笑みを浮かべて、近づいてくる。
こいつ、さては今まで、俺を観察していたな?
里志「やあ、ホータロー。辞典を眺めながら、独りでニヤニヤするのは、いい趣味とは言えないね」
奉太郎「やっぱり見ていたのか……。お前こそ、趣味が悪いな」
里志「ゴメンゴメン。悪いとは思ったんだけどね、面白かったんで、つい、ね」
まったく、見世物じゃないぞ、と呟きながら、ふと、さっき思ったことを訊いてみる気になった。
奉太郎「なあ、里志。お前はこの一年で、俺が何か変わったと思うか?」
里志は、一瞬きょとんとしたが、すぐに元の顔に戻って言った。
里志「う~ん、正直ね、この一年で、ホータローに意外と思わされたことは何度かあったよ。
でもホータローはやっぱりホータローだよ。基本的には変わってないね」
奉太郎「そうか……」
ぐっ、鋭い奴め。
奉太郎「いや、何かってわけじゃない……」
あいまいな返事をする。
奉太郎「お前はこれから古典部に?」
里志「いや、今日は別の用事があるんだ。と言っても、急ぎじゃないから、親友の生態観察に勤しんでいたわけさ」
奉太郎「お前は、伊原の観察でもしてろよ」
里志「ハハハ、それは勘弁。そう言うホータローこそ、部活には行かないのかい。
外はこんなに晴れてるのに、帰りもせず、部活にも行かないなんて、ホータローらしくないじゃないか」
奉太郎「たまには、蓄えられた知を取り込む行為も、悪くないと思ってな」
里志「そうかい。ま、したいことをするのが、一番いいよ。
それじゃ、僕はそろそろ行こうかな……」
見送ろうと、手を上げようとすると、思い出したように里志が言った。
あれ、どうしたんだろう」
ああ、それはな、と言いかけたところで言葉を飲み込む。
本当に持ってきたのか。確かに、今日持ってくると言っていたが……。
いや、千反田はちょっとしたことでも、いい加減なことを言う奴ではない。
今日持ってくると言ったら、最初からそのつもりだったのだろう。
里志は、そんな俺の様子を見ていたが、やがて言った。
里志「じゃ、行こうかな。ホータロー、考え事もいいけど、たまには自分の思う様生きてみるのもいいんじゃないかな。
それじゃあね!」
奉太郎「ああ、じゃあな」
どうやらお見通しだったようだ。俺も、人のことは言えないかも知れないな。
とは言ったが、答えはもう、決まっているようなものだった。
古典部に行こう。
……もう少し、自分の考えをまとめてから。
里志はさっき、『自分のやりたいことをやれ』というような意味のことを、言った。
やりたいこと。
俺の生活信条には、登場しない言葉だ。
しかしだからといって、俺は全ての事柄を、やらなくていいことか、やらなければいけないことか、で処理してきたわけではない。
伊原や里志が、よく俺のことを、『何の趣味も目的もない、つまらない男』のように言うことがあるが、それは全面的には正しくない。
ちなみに里志の場合は、半分冗談だが、伊原は本気で言っているかも知れない。
だが俺とて、人生に何の楽しみも感じていないかといえば、そうではない。
テレビや映画は観るし、音楽だって聴く。
それに学校で、部活動にも入っている。
美味いものを食べれば、美味いなと思うし、四季の移り変わりや、風景に趣を見出したりもする。
この一年で関わった事件だって、千反田のせいにするのは簡単だが、最終的には俺がそうしようと思ったから、関わったのだ。
昨日のことだってそうだ。多少雰囲気に流された感はあるが、俺は千反田と、キスがしたいと思ったから、した。
そう。やりたいことだったから、やったのだ。
そして今、俺は千反田に会いたいと思っている。千反田は、まず部室にいるだろう。ならば俺も、部室に行けばよい。
しかしそこで、俺の心は再びざわついた。
その正体に、俺はもう気付いていた。
昨日は偶然そうなっただけだ。現に昨日の、その後の千反田の態度は、芳しいものではなかった。
あれは、俺と気まずくなるのを避けていたのだろうと思える。
俺はみたび笑った。
ここまで来ると、もう認めざるを得ないだろう。
俺は、千反田えるのことが、異性として気になっているようだ。好きと言っても、いいかも知れない。
だから千反田に、そのことで拒絶されるのが、怖かったのだ。
けど、別にそれでいいじゃないか。
千反田が、俺のことをどう思っていようと、俺が千反田に会いたいと思うことには、何の関係もない。
もちろん、千反田の意思を無視してまで、自分を押し通すことはしないが。
千反田は、いつものように、接してくれるだろう。
確かに、千反田が俺の気持ちを受け入れてくれるなら、それはどんなにか嬉しいことだろう。
しかしそのためには、兎にも角にも、千反田に会わなければ始まらない。
幸い俺は、千反田に会いたいと思っている。ならばもう、迷うことは何もない。
自分のしたいことを、するだけだ。
そうして俺は、この後千反田に会ったときの会話を、頭の中でシミュレートするのだった。
部室のドアを開けると、千反田はそこにいた。
少しホッとする。
だが千反田は、俺がドアを開けると同時に、顔を背けて窓辺の方に行ってしまった
奉太郎「へえ、いいじゃないか」
える「えっ?」
奉太郎「花、飾ったんだな」
える「あ、ああ、そうですね。ありがとうございます」
なんだ? やっぱり様子がおかしい。
……昨日のことを、気にしてるのか?
奉太郎「なあ、千反田」
える「はい」
……何てこった。
昨日あの後普通だったから、大丈夫だと思ってたのに。
千反田は明らかに機嫌を損ねている。
おれは、暗澹たる気分になった。
正直、どうしていいものか、分からなかった。
それにしても、千反田に冷たくされるのが、こんなに堪えるとは思わなかった。
謝るべきだろうか?
ダメだ! 声が震えているのが自分でも分かる。
だが言わねば。
奉太郎「昨日は、その、なんと言うか、す、すまなかった」
える「……」
俺がバカだったんだ。こんなこと言うのはムシが良すぎると、自分でも思う。
昨日のことは忘れて、その、今まで通りに振舞ってくれないか?
もうあんなことはしない。約束する」
える「!」
言ったぞ。これで許してくれるかは、千反田次第だが……
何だ? 笑っているのか?
と、突然千反田は、振り向きざま俺の横を、走ってすり抜けようとする。
奉太郎「まっ、待ってくれ!」
俺は反射的に、千反田の手首を掴んだ。
違う
今分かったが、千反田は笑っていたのではなかった。
千反田は泣いていた。
奉太郎「な、何で泣くんだ」
える「……折木さんには関係のないことです」
千反田は俯いたまま、かぶりを振る。
える「それ以上言わないでください……」
奉太郎「と、とにかく俺の話を聴いてくれ!」
える「ごめんなさい、ダメなんです」
それと、頼むから逃げないでくれ。
お前が俺の話を聴きたくないっていうなら、俺がお前の話を聴くから」
える「うっ、うっ、うわあああん」
千反田はその場に泣き崩れてしまった。
俺はその様子をただ呆然と、見ていることしか出来なかった。
それにしても、この場に里志や伊原がいないで良かったと思った
まるで痴話喧嘩だ。何を言われるかたまったもんじゃない。
える「……その、ごめんなさい。取り乱してしまって」
奉太郎「いや……、いいんだ。悪いのは俺だからな」
全てわたしの問題ですから」
そういうと、千反田は、今日初めての笑顔を俺に向けた。
だが、その表情は相当無理をしているのがありありだった。
そしてそのまま、しばしの沈黙が訪れた。
える「その、どこから話したものか……」
奉太郎「なあ、千反田。俺にはよく分からないんだが、お前の問題とはどういうことだ?
お前は、昨日のことで怒ってたんじゃないのか?」
千反田は一瞬きょとんとして、言った
える「いいえ、怒っていませんよ。そもそもあれは、折木さんが一方的に、無理やりしたことではないですから」
奉太郎「じゃ、じゃあ何でさっき俺が部室に入ってきたとき、俺にそっぽを向いてたんだ?
俺は、てっきり……」
そう言うと、千反田は俯いた。
える「……わたしの身勝手で、折木さんを傷つけてしまっていたんですね。
本当に、ごめんなさい」
千反田はかすかに頬を染めて言った。
える「その、さっき折木さんの方を向かなかったのは、な、泣きあとを見られたくなかったからです!
どうして泣いていたかについては、すみません、黙秘させてください」
ペコリと頭を下げる千反田。
奉太郎「え? 泣いていたのは、今だろう?」
える「いえ、その、さっき折木さんが来る前に少し泣いていたんです……
あの、これ以上は……」
ああ、そういうことか。千反田は俺が来る前に泣いていて、俺が来たときにはまだ腫れていた泣き顔を見られたくなかったということか。
それで俺の方を向かなかったのか。
やっと得心する。
奉太郎「それじゃあ、最後の質問だ。
どうして俺が昨日のことを謝ったら泣き出したんだ?
正直わけが分からなくて、戸惑ってるんだ」
いつの間にか、俺が千反田を問い詰める形になっているが、気にしない
俺は真実が気になるのだ。
胸が少し、チクリと痛んだ。
える「それは……。
あの、どうしても言わなきゃダメですか?」
俺は黙って頷く。千反田には酷な話なのかもしれないが、このままにはしておけない。
千反田は諦めたように溜め息を吐くと、言った。
える「わかりました。お話します」
える「わたしが泣いたのは……、わたしが折木さんのことを好きだからです。
折木さんの言葉が、悲しかったからです!」
千反田はまた泣いていた。
える「……バカなことじゃ、ないです。わたし、折木さんとキスしたことが嬉しくて、
ひくっ、それなのにもうしないって言われて、悲しくて、我慢できなくて、
うううっ」
俺は今度こそ自分の愚かさを呪った。
決して望んだことではなかったのに。
俺がしたことは、目の前の少女を泣かせ、あまつさえ、秘めていた心の内を白日の下に曝け出すことだった。
なんて馬鹿野郎なんだ、なんて……。
俺は泣きじゃくる千反田と向き合って、呆然とすることしか出来なかった。
俺はまだ呆けていた。
千反田は既に泣き止み、今は鼻をかんでいた。
その表情がどこか晴れやかだったのがせめてもの救いだろうか。
千反田は俺に向き直ると、今度は明るい笑みを浮かべて言った。
える「あの、折木さん。本当に折木さんが気にすることはないんですよ。
最初からわたしの心の問題なんですから。
ちょっと悲しかったけど、もう大丈夫です。
ですから、その、わたしと今までと変わらず接してくれませんか。
この上他人行儀になられては、それこそわたし、立ち直れなくなっちゃいますから」
あくまで冗談めかして言う千反田。
俺は……。
える「折木さん、それは……」
奉太郎「いや、言わせてくれ。本当に自分でも呆れるくらいなんだ。
折木奉太郎は大馬鹿野郎だ。それこそ里志なんか足下にも及ばないほどだな」
おどけて言ったので、千反田はクスリと笑う。
える「はい、そういうことにしといてあげます」
あれは無しだ」
途端千反田の顔が曇る。
ここからが肝要だ。
奉太郎「いや、そんな顔をするな。今までの付き合いを基に、新しい関係を築こうって言ってるんだ」
千反田が首を傾げる。
える「あの、それはどういう……?」
奉太郎「本当はお前に言わせるつもりはなかったんだけどな。
俺の話も聴いて欲しい。
千反田、俺はお前が好きだ。よかったら俺の彼女になってくれないか」
千反田は首を傾げたまま固まった。
奉太郎「その、な。俺のような馬鹿な男に愛想が尽きていなければ、の話だが」
何やってるんだ、と言おうと思ったら千反田が先に口を開いた。
える「本気、ですか?」
奉太郎「冗談でこんなことは言わない」
すると千反田の瞳が見る間に潤んで……。
困った。千反田は目の前で泣いている。
これは嬉しくて泣いているんだよな?
そう訊くこともできず、俺はオロオロする。
ええい。俺は千反田の両肩を掴んだ。
奉太郎「ちっ、千反田! その、俺は……」
千反田は泣きながら、何度も頷く。
よかった。拒絶されてるわけではないようだ。
そう思うと肩の力が抜け、俺はごく自然に千反田の肩を抱いた。
このまま放してしまうのは、何だかもったいない気がする。
俺は少し千反田を抱く腕に力を込める。
すると千反田もその腕を俺の胴に回してきた。
ううっ。女の子と抱き合うってのはこんなにゾクゾクするものなのか。
俺達はしばらくそのままで、夕暮れの部室に佇んでいた。
える「ねえ、折木さん。キス、しませんか?」
奉太郎「はあっ!?」
思わず声が上ずってしまった。いきなり何を言い出すんだ、こいつは。
える「いやですか?わたしは、したいです」
いやではない。決していやではないのだが。
奉太郎「夕日が綺麗だな」
える「折木さんっ!」
千反田が上目づかいで睨んでくる。
奉太郎「分かった、分かったよ。じゃあしようか」
千反田が嬉しそうに忍び寄ってくる。
俺はエネルギー消費の少ない人生に心の中で敬礼した。
二度目のキスは、涙の味がした。
稚拙な文章に付き合ってくれた方々に、敬礼!
即興で文章書くのって大変ですね
壁殴ってくる
乙!
Entry ⇒ 2012.08.21 | Category ⇒ 氷菓SS | Comments (0) | Trackbacks (0)
貴音「さすらいはらぁめんの後で」
律子「一度食べたら病みつきになってしまうって評判ですね」
P「どうだ、行ってみないか?」
律子「いいですけど、貴音を誘ってあげた方が喜ぶんじゃ?」
P「それも考えたんだけどな。貴音のやつ、事務所に顔出さなくてさ」
律子「件のラーメン屋に夢中なのかも」
P「ははは、ありそうで怖いよ」
少年「いらっしゃいませ!」
少年「今すぐ食べるとなると、相席になってもらいますけどいいですか?」
P「ああ。構わないよ」
少年「こちらです」
律子「感心しちゃいますね」
貴音「親子で開いたこの店を全国ちぇーんまで大きくするのが夢だそうです」
P「へぇー。こんな時代に立派なもんだ」
律子「これだけ繁盛してるんです。近いうちに叶いますよ」
貴音「そうですね。わたくしもそう思います」ニコ
P「……貴音、事務所に顔を出さないと思ったら」
P「やっぱりここにいたのか」
貴音「はい。ここのらぁめんは格別ですから」
少年「はい。とんこつラーメン3つ」
律子「ありがとうね」
P「貴音も頼んでたのか?」
貴音「三杯目です」ニコニコ
律子「流石ね……」
律子「ほんと。これは繁盛するのも納得ね」
貴音「そうでしょうそうでしょう」
P「なんでお前が嬉しそうなんだよ」
律子「また来たいですねー、ここ」
律子「この前行ったラーメン屋、最近さらに人気になってきたみたいですね」
P「もう一回行ってみるか。貴音もいくだろ?」
貴音「ええ! 喜んで!」
客「ハムッ ハフハフ、ハフッ!!」
客「ショリショリ・トットット・パカッ、フワッwwwwwwww」
客「アチ、ハフ、ぷり、とろ、じゅわ、うま〜」
P「な、なんだ? 客の様子がおかしいぞ?」
律子「店の内装も様変わりしてますね……」
P「まぁ、繁盛はしてるみたいだし味は変わってないんだろう」
店員「ラーメン、3つです」
貴音「……あの少年は?」
店員「……ごゆっくりどうぞ」
貴音「……」
律子「新しい店員、雇ったんでしょうか」
P「これだけ繁盛してればなぁ。人手も必要だろ」
律子「うちの社長も、増やしてくれませんかね……」
P「言うな……」
貴音「……」
律子「……」ズズズッ
P「う、うまい! さらにうまくなっている!」ズルズル
律子「箸が止まらないわ!」ズズ-ッ
貴音「……」
P「貴音? 食べないんだったらくれないか?」
貴音「……ええ、どうぞ」
律子「あっ! ズルいですよプロデューサー殿!」
P「欲しかったら自分で頼むんだな!」ズズズッズッ
律子「あーっ!」
貴音「……」
・・
・
P「あー、美味かった。仕事がなければもっと食ってたのに!」
律子「私、明日も来ようかしら……」
貴音「……」タタタッ
律子「あ、貴音! どこへ行くの!?」
P「追おう!」
P「貴音、どうして急にこんなところに」
貴音「こちらから中の様子が伺えます」
律子「美味しさの秘密でも探るの? いい考えね」
P「どれどれ……」
うあ~……あ~……
律子「う、唸り声? なんで厨房から……」
P「それに料理してる人達、なんだか様子が変だ……」
貴音「すうぷの鍋をご覧ください」
P「なんだ? 大量の粉?」
律子「調味料じゃないの?」
貴音「あれは……おそらく麻薬のような物……」
P「ま、麻薬!?」
貴音「そして厨房で働かされているのは、その中毒者」
律子「た、食べたらやみつきになるって、もしかしてそういうことなの……?」
貴音「そしてこのような外道な行いを」
貴音「あの少年がいなくなった事にも関係がありそうですね……」
P「もう少しで俺たちもああなっていたのかと思うと恐ろしい話だ」ゾゾ…
律子「大変な事だわ……」
律子「早く警察に!」
シュ!
P「なんだ!? 律子の携帯が消えた!」
???「この鞭でな」
貴音「用心棒ですか……」
貴音「鞭使いの、てんがろん遅川……」
遅川「嬢ちゃん、俺を知っているのかい」
貴音「ええ。その筋では有名ですから」
貴音「ただし、その腕は日本で二番目……」
貴音「ふふっ」
貴音「ちっちっち……」
P(舌打ちできないのか……)
貴音「わたくしです」ビシッ
遅川「いいだろう。……なら勝負だ」
遅川「眼鏡のお嬢、二つ結びにして離れた所に立ってもらおうか」
律子「わ、私!?」
律子「……///」エビフリャ-
遅川「ルールは簡単だ。俺は右の結びを鞭で狙う」
遅川「俺の鞭を貸してやる。嬢ちゃんは左だ」
貴音「承知いたしました」
P「ま、待て! 律子に当たったらどうする! それに女の髪をこんなことで……!」
貴音「あなた様」
P「!」
貴音「わたくしめにお任せください」
P「くっ……。頼んだぞ、貴音」
遅川「話はまとまったようだな」
遅川「では彼女が両目を瞑ったら合図としようじゃないか」
遅川「……」
律子(もうどうにでもなーれ)
遅川「今だ!」
貴音「!」
ババッ!!
P「律子ぉ!」
貴音「いえ……」
貴音「この勝負、わたくしの勝ちですね」
遅川「何を言う。嬢ちゃんこそ外しているではないか」
貴音「ちっちっち……」
P「あ、あれは!」
P「用心棒のテンガロンハットが落ちている!」
P「そうか! 貴音のやつ、用心棒の鞭をはたき落としただけではなく、返しの勢いで用心棒の帽子だけに鞭を命中させたんだ!すごい!」
遅川「~♪」ピューイ
遅川「……キザな嬢ちゃんだ」フッ
遅川「今回の事件、黒幕は『ラーヌン団』なる組織の仕業だ」
貴音「『らぁぬん団』……」
遅川「せいぜい気をつけることだ」
遅川「さらばだ」
貴音「貴方はどこへ?」
遅川「さてね」
少年「」フラフラ
貴音「!」
貴音「少年! いったいどうしたのです!」ガッ
少年「お、お姉さん……」
貴音「はい。わたくしですよ。一体なにがあったのです?」
貴音「少年のらーめん屋は一体どうしてしまったのです?」
少年「実はあの店は、借金をして建てた物だったんだ……」
貴音「……」
少年「父さんは金を返すために頑張ったけど、間に合わなくて」
少年「どこかへ連れていかれてしまった……」
貴音「な、なんと……」
少年「なんとか店だけでも守りたかったけど……」
貴音「っ……!」ワナワナ
貴音「らぁぬん団……!」
小鳥「それで、この子を預かってればいいの?」
貴音「はい。ご迷惑をおかけします、小鳥嬢」
小鳥「気にしないの。迷子をあずかるだけなんだから」
貴音「……」
prrrrr
小鳥「電話?」
小鳥「はい765プロ。……ええ、四条貴音は確かにおりますが」
小鳥「……」
小鳥「貴音ちゃん。あなたによ」
貴音「わたくしに……?」
『765プロのプロデューサーの二人は預かった』
『二人の命が惜しければ○○ビルの×階まで来る事だ』
プツッ
貴音「……」
小鳥「貴音ちゃん?」
貴音「申し訳ありません」
貴音「少し、用事ができてしまいました」
○○ビル ×階 ラーヌン団事務所
ボス「本当に来るとは、見上げたものだ」
貴音「さあ、2人を開放してください」
ボス「そんな約束をした覚えはないのだが」
P「貴音! 罠だ!」
ボス「もうおそい! やれ!」
三下ども「ふへへ……」
貴音「ふふ……。これくらいは予想しておりました!」
貴音「はっ!」
バシバシィ!
三下ども「ぬわーーーーっ!!」
律子「い、一瞬……」
P「すごい鞭さばきだ……」
P「! 貴音、後ろだ!」
貴音「!?」
ガツン!
貴音「うぅっ!?」
三下ども「ふへへ……」
ボス「うちの用心棒を退けている時点でその展開は読んでいた!」
ボス「油断したなぁ?」
貴音「くっ……」
P「た、貴音……」
律子「手下の数がさっきよりも多いわ……。してやられたわね」
P「 くそ!」
ボス「そうだな、その男にはラーヌン屋で働いてもらおう」
P「……」
ボス「女は高く売れそうだ……」
ボス「ふふふ……」
ボス「これからラーヌンは世界に広まる! そして中毒者だらけの世界の中で私は頂点に立つのだ!」
ボス「その出鼻を挫こうとした小娘、貴様は殺してやる!」
ボス「やれ!」
三下ども「イッー!」
貴音(……無念!)
バシィィン!!
三下ども「ぬわーーーーっ!!」
ボス「だ、誰だ貴様!」
P(赤いヘルメット……)
律子(赤いスーツ……)
貴音(そしてあの鞭……)
「ズバッと参上、ズバッと解決!」
「人呼んでさすらいのヒーロー!」
「快傑ズバァット!!」
ズバット「親子の夢を踏みにじり、ラーメンの名を被った薬物で人々を惑わし、あまつさえ罪のない人々にまで手にかけようとしたラーヌン団ボス!」
ズバット「許さん!」
ボス「ぬうう……。行け三下ども!」
三下ども「うぇーい!」
ズバット「でぇぇぇい!!」
三下ども「ぬわーーーーーっ!!!」
ズバット「2月2日! 飛鳥五郎という男を殺したのはお前か!」
ボス「違う! 俺じゃない!」
ズバット「……」
ボス「その日はジンバブエに……」
ボス「信じてくれ!」
ズバット「ズバットアターック!」
『この者凶悪ラーヌン事件犯人!』
律子「そうですね……おや?」
男「あ、あんた達、息子をしらないか?」
貴音「息子? もしや、貴方はあのラーメン屋のご主人?」
男「あ、ああ。そうだが……」
貴音「無事だったのですか?」
男「早川とかいう男に助けられて……」
男「『潜入捜査の必要がなくなったから来れた』とか」
貴音「……そうですか」
貴音「少年は無事ですよ。わたくしの知り合いの元にいます」
男「ほ、本当か!?」
数日後
P「あれ? 貴音は?」
律子「さすらいの旅ですって」
P「ラーメンの食い歩き程度でおおげさだなぁ」
とあるラーメン屋
モブ「俺を知っているのか?」
貴音「ええ。らあめん早食いの達人……」
貴音「しかしその腕は日本では二番目……」
チッチッチ……
早川「いいや、三番目だ」
おわり
楽しかったよー
Entry ⇒ 2012.08.21 | Category ⇒ アイマスSS | Comments (0) | Trackbacks (0)
妹「なでれ」
妹「なでれ」
兄「いや、見た通り食事中なので、お断りします」モグモグ
妹「なでれ」
兄「いや、だから」
妹「なでれ」
兄「…………」ナデナデ
妹「んー」
妹「やや」
兄「満足してください」ナデナデ
妹「んー」
兄「どうでしょうか」
妹「ん。満足」ムギュー
兄「何故抱きつく」
妹「満足の結果?」ムギュー
兄「なるほど。しかし、飯を食いにくいのでやめてほしい心持ち」モグモグ
兄「ふむ。口を開ける所作がひな鳥に似てるのであげよう。はい、どうぞ」
妹「もぐもぐ。おいしい」
兄「うまかろううまかろう。存分にうまがるがいい」
妹「なんか偉そうだけど、私が作ったような」
兄「そうだった。いつもありがとう」ナデナデ
妹「なでれって言ってないのになでられた。らっきー」
妹「で」
兄「いつまで抱きついているのでしょうか」
妹「……死ぬまで?」
兄「手に永劫に取れない接着剤か何か付着していたのですか」
妹「いや、心積もりを」
兄「日常生活に支障をきたすのでやめるのがオススメ」
妹「そればかりは否定できない。仕方ない、離れよう」
兄「ん」
妹「…………」
兄「…………」
妹「…………」スリスリ
兄「おい」
兄「離れてませんが。それどころか兄の背中にすりすりとしているような」
妹「気のせい」
兄「気のせいか」
妹「ん」スリスリ
兄「…………」(気のせいじゃないように思えるが、断言されたので指摘できない)
兄「やはり抱きついていたように思えて仕方がない」
妹「気のせい」
兄「…………」(不満)
妹「さて、後ろから抱きつくのはとりあえず満足したので、次は前から抱っこしてもらおう」
兄「さっき気のせいと言ったのに」
妹「抱っこしろ」(ずりずりと兄の前に移動しつつ)
兄「兄の話を聞いているのか」
妹「抱っこしろ」
兄「いや、だから」
妹「抱っこ」(手をこちらに伸ばしつつ)
兄「…………」ムギュー
妹「んー」ムギュー
妹「排便中は遠慮しているが?」
兄「が? じゃねえ。当然だ」
妹「びっくり。きっきょー」
兄「うるせえ。吃驚じゃねえ」
妹「きっきょーまん」
兄「キッコーマンだ」
妹「許さん」
兄「…………」
妹「ただ、口移しで私に飯を移すのであれば、考えなくもない」
兄「…………」モグモグ
妹「飯を再開。私に飯を移す心積もりか。当方に移される用意アリ」
兄「…………」ズズズ
妹「む。味噌汁。汁を移されるのか。初めての体験に、ちょっとドキドキ」
兄「ごちそうさま」ゲフー
妹「…………」
兄「…………」
妹「…………」ションボリ
兄「よしよし」ナデナデ
妹「うううううー」
兄「さて、皿を洗うか」
妹「私の話を聞けー」
兄「よっこらしょっと」
妹「よっこらSHOTを回避」モゾモゾ
兄「勝手に人の背中に乗るでない」
妹「乗っていい?」
兄「いい。ああしまった、優しく聞かれたから思わず許可してしまった」
妹「しめしめ」
妹「奇形ではない。可愛い可愛い妹との噂」
兄「可愛い妹型のこぶができたと思えば」
妹「ぬぬぬ」
兄「じゃあシンクに皿を持って行きましょう」
妹「紅茶を淹れて頂戴、JUN」
兄「その真紅ではない」
妹「しんくー、しんくー」
兄「違います天子様」
妹「……うう。もうネタがない」
兄「素直に兄の背中に負ぶされていなさい」
妹「仕方ない、通常おんぶで我慢しよう。……あっ、おんぶとおんぷが似ている。……プルルンプル」
兄「黙ってないと下ろす」
妹「もうちょっとで変身できたが、降ろされるのは勘弁してほしいので黙っていよう」
妹「ふむ。つまり、こうか!」ブシャー
兄「こうじゃない」ビショビショ
妹「おお。水も滴るいい兄」ウットリ
兄「どうして水道を指で塞ぎ、上手に水しぶきを全て兄にあてる」
妹「建前は色々あるが、本音はびしょびしょにさせてお風呂に入れさせ、隙を見て一緒に風呂に入ろうと画策したから」
兄「建前をうやむやにしたまま画策しないでください」
妹「画策ってボスの腰巾着の名前みたい。カクとサク」
兄「人の話を聞け。あと水戸黄門を馬鹿にするな」
妹「この紋所が目に入らぬか」グリグリ
兄「それは紋所ではなく、後ろから頬ずりしているだけだ」
妹「間違えた。しっぱいしっぱい」
妹「お兄ちゃんとなら……いいよ?」
兄「何が」
妹「雰囲気を作っているのだから、しばし逡巡してから私を抱きしめるべき」
兄「だから、何が」
妹「子供は野球チームを作れるくらい?」
兄「ていうか普段俺のことをお兄ちゃんなどと呼ばぬくせに」
妹「ここぞという時なので、媚びた」
兄「別に今はここぞという時ではない」
妹「がーん。誤った」
妹「私も入ろう。いいね、兄?」
兄「だめだよ。はい下りた下りた」
妹「うまくいかない」ションボリ
兄「次は上手にやりましょう」ナデナデ
妹「分かった、次はあらかじめ風呂場に潜んでる」
兄「慰めるんじゃなかった」
兄「さて、風呂場へ移動したわけだが」
兄「軽くシャワーでも浴びてとっとと出ようと思ってたら」
妹「やあ」
兄「冗談だと信じていたのに、宣言通り妹がすでにいる。しかも、スク水を着て」
妹「ただのスク水ではない。伝説と言われる、旧スクだ。その違いは、大きい……!」
兄「ああ、水抜き穴がある方な」
妹「詳しい」
兄「しまった、兄の性的嗜好がばれた」
妹「中に手、入れる?」グイー
兄「はい」スポッ
妹「!」
兄「あ。あまりのごちそうに、思わず何も考えずに手を入れてしまった。でも、妹はこんな感じだし、別に」
妹「…………」///
兄(イカン)
兄「まさぐる」サワサワ
妹「兄の頭がおかしい!」
兄「しまった、本能が強すぎた」
妹「でも、まあ、お腹側だったので一安心。これがスジ側に手をやられていた日には、明日には挙式でしたよ旦那」
兄「スジとか言うな」
妹「もう寿司屋に行けない」
兄「そういうことじゃない」
妹「いつかあの動くレーンの上に鎮座したまま、店を一周するのが夢だ」
兄「人の夢と書いて儚いと読むので諦めましょう」
妹「運ばれてえ」
妹「兄が妹の腹をスク水の水抜き穴越しに触る」
兄「……捕まるかな?」
妹「捕まるね」
兄「やめるべきかな?」
妹「兄はどしたい?」
兄「理性と本能のせめぎあい」
妹「なるほど。とりあえず、お風呂にざんぶとつかればよい考えも浮かぶかと」
兄「それは名案だ」ザンブ
妹「わっしょい」ザンブ
兄「はふぅ……」
妹「はふぅ……」ギュー
兄「はっ。気がつけば妹とお風呂に入っている」
妹「ふはははは、ばーれーたーかー」スリスリ
妹「兄は着てない」ジーッ
兄「しまった。こっちを見ないで」
妹「さきほどから私の下腹部にあたるこの固いモノは……!」
兄「勃ってませんが」
妹「ちっ。露出が足りんか」ヌギヌギ
兄「脱ぐな!!!」モドシモドシ
妹「貧乳だから男の子と間違えたとかって理由でなんとかならないかな?」
兄「ああもう、先っちょ見えちゃったよ……」
兄「鹿力を発揮した覚えはないが、好都合なのでそうしてください」
妹「ただ、その代わりに、なでれ」
兄「濡れますよ?」
妹「こちとら兄に触れてるだけで既にびしょびしょだ」
兄「……髪の話ですよ?」
妹「私もだが?」
兄「…………」
妹「…………」スッ
兄「目を閉じるな」
妹「ぐぬぬ。絶対そうだと思ったのに」
妹「や、髪がぬっそりと濡れるのは好ましくないので、なでなではいい」
兄「お前がしろと言ったのでは。あと擬音がおかしい」
妹「んー……じゃ、抱っこしろ」
兄「既にしてます」
妹「むぎゅーってしろ。すりすりしろ。結婚して下さいって言え」
兄「はいはいいいえ」
妹「巧みな誘導尋問だったのに……」ションボリ
兄「さて、そろそろあがるか」
妹「まだ何もされてない」
兄「ちっ」
妹「ん」コクコク
兄「……冷静に考えると、風呂場でスク水着た妹を抱っこしてるのか。すごいな」
妹「はやくしろ」
兄「はいはい」ギュー
妹「んー」
兄「で、なんだっけ。これで終わりか」
妹「すりすり!」
兄「ちっ」
妹「このようにやる」スリスリ
兄「なるほど」スリスリ
兄「それは断りました」
妹「残念なこと大雪山おろし……」
兄「まるで分からないが、残念なのは伝わった」
妹「ゲッターは偉大だ」
兄「それは関係ない」
妹「登場人物全員頭おかしい原作漫画版がすき」
兄「女子なのに」
妹「もっとイチャイチャしてえ。ちゅーとかしてえ。ちゅーしろ」
兄「お断ります」
妹「スク水で頼んでるのに……」
兄「そこを強調されても」
妹「分かった。水抜き穴に差し込んでもいいからちゅーしろ」
兄「何を」
妹「…………」ジーッ
兄「分かった。分かったから見るな」
妹「ち」
兄「分かったと言ってます!」
兄「分かった、分かったよ。ほら、ほっぺこっち向けろ」
妹「口のハズだが?」
兄「そんな約束はしていない」
妹「隙間なく互いの口唇同士を塞ぎ、まるでそれ自体が別種の生き物であるかのように舌を絡ませ合うハズだが?」
兄「そんな約束もしてない」
妹「ちゅー……」ションボリ
兄「まあ、嫌ならしなくても」
妹「そうは言ってない!」プンプン
兄「なんでうちの妹はこうも偉そうなんだろう」
妹「じゃあ、はい」ズズズイッ
兄「寄り過ぎだ」
妹「私の兄に対する愛情度を距離で示してみた」
兄「目と鼻の先ですね」
妹「じゃあ、軽く顔を寄せればちゅーになるのでしてみてはどうだろう。その際、偶発的に横を向いてしまい、口にちゅーしてしまうかもしれないが、あくまで偶然なので責めてはいけない」
兄「その偶然が起きたら一ヶ月は口きかない」
妹「なんて酷い刑罰を思いつくんだ、この兄は」(涙目)
兄「そんなんで泣くな。やらなきゃ済む話だろ?」
妹「しかし、ちゅーがとてもしてえ」
兄「諦めてください」
妹「ぐぬぬ。なんて意思が強いんだ。こうなってはいつものように夜、兄が寝てる時にちゅーするしかないのか」
兄「聞き捨てならねえ」
兄「兄の話を聞け。どういうことなのか説明を求める」
妹「兄が寝ている時にちゅーをしているだけだが?」
兄「何その当然みたいな反応」
妹「一つ屋根の下に兄がいるのだ、ムラムラしてちゅーの一つや二つしたくなっても当然では?」
兄「当然ではない。ああ、だから最近朝起きたら顔中べったべただったのか。何か怪しい奇病にでもかかったのかと思ってたよ」
妹「舐めまくりだが?」
兄「もう言っても無理だろうからするなとは言わないが、せめて終わったら拭いてください」
妹「ん」コクコク
妹「後生大事にするものでもなし、問題無いだろう。だから今ここで妹にちゅーしても問題無いだろう」
兄「…………」
妹「わくわく」
兄「しません」
妹「がーん」
妹「そんな!?」
兄「それとも、もう夜に兄にちゅーしないか?」
妹「する」(即答)
兄「…………」
妹「今日からは起きててもする」
兄「眠れる獅子を起こしてしまったようだ」
妹「がおー」
兄「あら可愛い」ナデナデ
妹「がおんがおん」(嬉しい)
妹「髪がぬっそりする」
兄「あがったら乾かしてやるよ」
妹「兄が妹の髪を燃やそうとする」ブルブル
兄「もうちょっと安全な方法で乾かすよ」
妹「兄が焼身自殺する際の熱量で私の髪を乾かそうとする」
兄「……えっと、そうだな。極めて安全な方法で乾かすよ」
妹「どらいやー」
兄「当たり」ナデナデ
妹「ふふん」
兄「うけたまわろう」
妹「…………」(嬉しい)
兄「じゃ、そういうわけで、そろそろあがるか?」
妹「ん。ちゅーはまた後でいい」
兄「ちっ。覚えていたか」
妹「忘れるハズないわけだが?」
兄「まあ、ほっぺだし、いいか……」
妹「夜には口にするわけだが?」
兄「…………」
妹「おおおおお。ほ、保健体育の勉強をしなければ」アワアワ
兄「何を慌ててんだ」
妹「子作りのおさらいを」
兄「しません」
妹「そういう雰囲気だったハズだが」
おわり
続け
好きです
個人的にはかなり好みだった
元スレ:http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/internet/14562/1345300436/
Entry ⇒ 2012.08.21 | Category ⇒ 兄弟姉妹「」SS | Comments (1) | Trackbacks (0)
美希「『夏!恋人たちを大胆に』?」
美希「あついなぁ……」
美希「むしむしして気持ち悪いの……ハニー、まだかなぁ」
P「おーい、美希!」
美希「! ハニー、遅いよー」
P「すまんすまん。って、外で『ハニー』はホント勘弁してくれ……」
美希「ぶー、遅刻した人には何も言う権利は無いの!」
P「うぐ……と、とりあえず帰るか」
美希「車の中涼しいのー♪天国なの♪」
P「はい、飲み物。レッスン終わってのど渇いてるだろ?」
美希「わーい! さすが女心をわかってるの!」
P「女心ってそういうものじゃないと思うが」
美希「細かいことはいーの。いただきます」プシュッ
P「今日のレッスンはどうだった? 変わりないか?」
美希「んー、カモナクフカモナク……って感じだったの」
P「……絶対意味わからず使ってるだろその言葉」
美希「そんなことないの。ちゃんと律子から教えてもらったもん」
P「その割には発音が完全に呪文だったぞ」
美希「……ぷはぁ」
美希「今の、どうだった?」
P「…………ん、何が?」
美希「ええぇ……ちゃんと見てなきゃダメなの……炭酸ゴクゴク飲むの大変なんだから」
P「運転中だ。というか、何を見ればいいのかわからん」
美希「男の人って、女の子が飲み物飲むときののどのラインが好きなんでしょ? 汗かいてると特に」
P「どこ情報なんだそれは……」
美希「雑誌に書いてあったの」
P「すぐそういうのに影響される……別に良いが、俺で試すのは止してくれ」
美希「……試してるわけじゃないの」
美希(一応実践なんだけどなぁ……)
美希「確かに運転してるときのハニー、3割増しくらいでかっこいいの」
P「そうなのか? 嬉しいが、見られてると思うと緊張するな」
美希「あーあ、これがプライベートだったらなぁ」チラッ
P「……マイカーがあればな」
美希「じゃあ買おう!」
P「スナック菓子買うんじゃないんだぞ? 一サラリーマンにとっては一世一代の買い物なんだから」
美希「じゃあ美希がトップアイドルになって買ってあげるの!」
P「あはは。気持ちはありがたいけど、その情熱は自分のために燃やした方がいいと思うぞ」
美希「もー、つれないなぁ……」
P「雨、降ってきたな」
美希「朝から曇ってたもんね」
P「少しは涼しくなってくれるといいんだが……」グビッ
P「ん? 何かこの缶コーヒー桃の味が……」
美希「……間接キスだね、あはっ」
P「お前なぁ……」
美希「疲れてるからお小言は無しにして欲しいの」
P「そう思うならお小言を言われるような行動を控えてくれ」
P「ん、携帯が……なんだ、メールか」
美希「あれ? ハニー携帯変えた?」
P「いや? 仕事用とプライベート用、二台持ってるだけだよ。こっちはプライベート用 」
美希「ええぇぇ!?」
P「な、なんだどうした?」
美希「美希に教えてくれたの、お仕事用だったの?」
P「ああ、そうだけど……」
美希「ヤなのー! たった今ハニーとの距離が開いた気がするのー!」ジタバタ
美希「……」グビッ
P「おい、また俺のコーヒー……」
美希「この味は……嘘をついてる味なの」
P「何に影響されてるんだお前は……」
美希「……ハニーにとって、飲み会はお仕事?」
P「」ギクッ!
美希「そんなわけないよね? しっかりしたハニーのことだから、飲み会の話はプライベート用でするはずだよね?」
美希「あずさと小鳥には教えてるんでしょ?」ニコニコ
P「……わかった、俺の負けだ」
P「赤外線のことだろ? ああ、ついてるぞ」
美希「やーりぃ♪ ハニーの番号、ゲットだぜ!」
P「あのな、俺は美希にプライベートを大切にして欲しいからあえて教えずに……」
美希「ちょっと何言ってるかわからないの」
P「ああ、美希の将来が心配だ……」
美希「それとも、ハニーのプライベートに美希は邪魔? 」ウルウル
P「……そんなわけないだろ」
美希「へへー♪」
P「今までもちょくちょく電話してたろ?」
美希「今まで以上に!」
P「……まあ、節度は守ってくれ」
美希「はーいなの」
その夜ーー
美希『ーーでね、そしたらお姉ちゃんがーー』
P「待て。その話は明日にしよう、な? もう夜も遅いし」
美希『あれ、もうこんな時間かぁ。うーん、わかったの』
P「じゃあ、おやすみ美希」
美希『おやすみ、ハニー』
ピッ
P「はぁ……甘いなぁ、俺……」
美希「~♪」
伊織「? なんか楽しそうね。良いことでもあった?」
伊織(どうせプロデューサー絡みでしょうけど)
美希「ハニーにメールなの」
伊織(ま、そうよね)
伊織「はぁ……あんた最近プロデューサーにいれこみすぎじゃない? どんどん悪化してる気がするわ」
美希「そうかなぁ? セツドは守ってるよ?」
伊織「驚いた……美希から節度なんて言葉が出ると思わなかったわ」
美希(まあ、意味はよくわからないけど……)
伊織(意味わからず使ってそうだけど……)
美希「確かにハニーはかっこいいの」テレテレ
伊織「…… 男を見た目で決めると痛い目見るわよ?」
美希「待って欲しいの。見た目で好きになったわけじゃないの。でこちゃんだって、ハニーが良い人だって知ってるでしょ?」
伊織「ま、まあそりゃあ……」
美希「でこちゃんはハニーのこと、嫌い?」
伊織「……嫌いだったら一緒に仕事してないわよ」
美希「シタタカ?」
伊織「……精々がんばりなさい。スキャンダルにならない程度にね」
美希「がんばるの!」
伊織「脳天気ねぇ……」
伊織「……ま、もしそんなことになりそうだったら私が助けてあげる」
美希「? 何か言った?」
伊織「なんでもないわよ。じゃあね」
ーーいつも同じ夢を見る。
どこか、キラキラした世界で私と彼は笑っている。
そこは事務所でもスタジオでもなくてーーいつだってあの人と二人だけでーー
そこは、そう、私がずっと望んでいた場所だ。具体的にはわからないけど、そこがずっと夢見た場所なのだと、私にはわかる。
幸せな夢。そのはずなのに、私の心は満たされない。
夢だとわかっているからだろうか。
違う。
私が、彼との距離を感じているからだ。
夢の終わり、私と彼はいつも隣り合わせに腰掛ける。
すぐ側に置かれた彼の左手に、私は汗ばんだ右手を恐る恐る伸ばす。
触れようとするーーだけだ。いつだってそこでおしまい。
後一歩なのに。「この手を握って」と言うだけでもいいのに。
彼の顔は見えない。見れない。
膝の上に戻した右手の上に、涙がこぼれた。
美希「むにゃ……あふぅ……」
「美希、起きて美希」
美希「んん……ハニー……?」
菜緒「? ハチミツが何? どんな夢見てたのか知らないけど、もう朝だよ」
美希「なんだ……お姉ちゃんかぁ」ゴロン
菜緒「こら、二度寝しないの。今日もお仕事あるんでしょ?」
美希「今日はお仕事する気分じゃないのー」
菜緒「三日に一回は同じ事言ってるよ?」
美希「」ガバッ
菜緒「お、起きた」
美希「そ、そっか! 今日家に直接迎えに来てくれるんだっけ!」
菜緒「昨日自分で言ってたじゃない」
美希「わーいなの♪ なんか今日は調子がいいの」
菜緒「どっちなのよ……」
美希「ふわ……あふぅ」
P「悪いな、こんな朝早くの仕事取っちゃって。現場までけっこう時間かかるから、寝ててもいいぞ」
美希「昨日たっぷり寝たから大丈夫なの。あ、コンビニ寄ってもいいかな?」
P「ん、ああ、そうだな。俺もコーヒー買いたいし」
美希「……あはっ」
P「間接キスはもう禁止だからな」
美希「心を読まないで欲しいの……」
美希「~♪」
美希(飲み物と……雑誌でも買っておこうかな)
美希「ファッション誌……『夏!恋人たちを大胆に』かぁ……」
美希「ふーん…………」ペラリ
美希「……ま、たまにはこういうベタなのもありなの」
…………
美希「お待たせ、ハニー」
P「おう、じゃあ行くか。……ん? 何の雑誌買ったんだ?」
美希「ヒ・ミ・ツ」
P「?」
美希「んふふ~」
美希「ハニー、水瓶座だよね?」ペラリ
P「ああ」
美希「水瓶座……あちゃー、今週の運勢最悪なの」
P「金運は?」
美希「お金のことばっかり気にしてると出世できないよ?」
P「よ、余計なお世話だ」
美希「でも恋愛運はそこそこだよ? ……あ、見て見てハニー!」
P「ん、どうした?」
美希「水瓶座と相性の良い星座! 何座だと思う?」
P「射手座か?」
美希「ピンポーン」
P「己の苦難は己で振り払う」
美希「うわぁ……なんかあんまりかっこよくないの」
P「…………」
P「そうだ、占いといえばこの前春香がおみくじ入りのクッキーを作ってきたんだよ」
美希「ええー、良いなぁ。美希も食べたかったの」
P「今度頼んでみたらどうだ? おみくじは大吉しか入ってないけどな」
美希「あはは、春香らしいの」
美希「お菓子作りかぁ……」
美希「ねえ、やっぱり女の子は料理とかお菓子作りとかできた方がいいのかな?」
P「え? うーん、まあ……男としては嬉しいんじゃないかな。実際、春香は良いお嫁さんになりそうだし」
美希「へ、へぇ~」ピクリ
P「まあ、それも春香のキャラ込みなのかもしれないし、人によって似合う似合わないはあるんじゃないかな? ははは」
美希(ぐぬぬ……暗に『お前には似合わない』って言われた気がするの……)
美希「……」ポチポチ
伊織「おはよ、美希」
美希「おはよー、でこちゃん」
伊織「でこちゃん言うなって……」
美希「むむむ……」
伊織「何よ。今日はこの前と違って神妙な顔してるわね」
美希「今メールボックス整理中なの」
伊織「?」
美希「ハニーからのメール、全部保護するには多すぎるなーって……」
伊織「……いよいよもってストーカーじみてきたわね、あんた」
伊織「一途と盲目的は紙一重なのよ。例えばあんた、春香とプロデューサーがベタベタイチャイチャしてたらどうする?」
美希「んー? 別にどうもしないの」
伊織「いやいや、そんなわけないでしょ……」
美希「ホントだよ? だってーー」
美希「だって…………」
美希「…………」
伊織「? どしたの、美希?」
美希「……なんでもないの。美希、今日はもう帰るね……ごめんなの」
伊織「え、あ、ちょっと……」
ガチャリ パタン
伊織(わ、私なんか悪いこと言っちゃったかしら……)
美希「花火大会?」
P「ああ、ちょうど美希がオフの日なんだが……どうかな?」
美希「……うん、いいよ。他には誰が来るの?」
P「それが、みんなスケジュールが合わなそうでな……美希だけになるかもしれない」
美希「ふーん……美希は別にいいけど、ハニーはいいの? みんなに怒られちゃうんじゃない?」
P「……美希、最近元気ないだろ? みんな心配してるんだ」
美希「……ハニーは?」
P「?」
美希「ハニーも心配してくれてたの?」
P「何言ってるんだ。当たり前だろ」
美希「そっか、そうだよね……」
美希「うん。行こう、花火大会。久しぶりだから楽しみなの。えへへ」
P(美希……)
美希「うわぁー! すごいね! 屋台がいっぱいなの!」
P「そりゃこのあたりで随一の大花火大会だからな」
美希「ええと……やきそばとたこやきとわたがしとりんごあめとかき氷と……」
P「……それ、食べるものをラインナップしてるわけじゃないよな?」
美希「二人で分ければ食べきれるの。あ、もうこの際だから端から屋台回っていこうか?」
P「貴音かお前は。勘弁してくれ……俺を財布ごと消し飛ばす気か」
美希「今週は水瓶座の金運良かったよ?」
P「その占いは当てにならないって、たった今証明されたな」
P(結局全部一口ずつ食べて俺に押しつけてきた……)
美希「ねえ、そろそろ花火あがるんじゃないかな?」
P「あ……マズいな、もう座る場所がないかもしれん」
美希「んー、どうする?」
P「ちょっと離れるけど向こうの方に展望台があったから、そっちに行くか」
美希「はーいなの」
美希「よく見えそうだし人いないし、絶好のロケーションだね」
P「意外に穴場みたいだな。やっぱり離れてるからか?」
美希「とりあえず座ろ、ハニー」
P「ああ」
ドーン パラパラ
美希「わあ、ナイスタイミングなの」
P「ちゃんと見えるみたいだな。良かった」
P「……ああ、いいぞ」
美希「……意外なの。あんまりくっつくなー、とか言われるかと思ったのに」
P「今だけプロデューサーとアイドルはお休みだ。……っていうのは言い訳になるか」
ドーン パラパラ
美希「……ねえ、ハニー。良い機会だから聞いて欲しいの」
P「何だ?」
P「……ありがとう」
美希「でももしハニーが美希の気持ちに答えてくれちゃったら、美希、たぶん困っちゃうの」
P「……」
美希「美希は、アイドルも捨てたくないから」
ーー春香とプロデューサーがベタベタイチャイチャしてたらどうする?
ーーんー? 別にどうもしないの。
美希「美希ね、知ってるんだ」
ーーいやいや、そんなわけないでしょ……
ーーホントだよ? だってーー
美希「アイドルやってる限りハニーが振り向いてくれないこと、知ってるんだ」
ーーだって、そんなことありえないもん。
美希「でも、ハニーに振り向いてもらうためにはアイドルやめなくちゃいけなくて……アイドルやめたらキラキラできなくなっちゃって……ハニーに嫌われちゃうんじゃないかって、怖いの」
美希「だったら、いっそこのままの方がいいの……夢、見続けてたいの。側にいられなくなるのはもっと辛いから……」
美希「……ごめんね? めんどくさいよね? こんなこと言われても、困っちゃうよね?」
美希「おかしいの……ハニーを困らせないために話してるのに……」ポロポロ
美希「おかしいの……泣くつもりなんてなかったのに……」
美希「……ハニー……?」グスッ
P「ごめんな。そこまで追いつめちゃってたんだな」
美希「謝らないで欲しいの……全部、美希のせいなの」
P「美希は悪くない。俺は正直、美希は恋に恋してるだけなんだと思ってた。勝手に思いこんでた……最低だ、俺は」
美希「ハニー……」
P「だから、俺は美希の側にいる。ずっとだ。それでもし美希が大人になって、そのとき隣にいる俺をまだ好きでいてくれたなら……そのときにまた……」
美希「……わかったの。約束なの」
P「ああ、約束だ」
美希「でも今は……もう少しだけ、手を握ってて欲しいの。ずっと、夢見てたの……」
P「……頑張ろうな、美希」ギュッ
美希「うん……これからもよろしくね、ハニー」
伊織「砂吐きそうなくらい甘い話ね。まあアイツらしいっちゃアイツらしいけど」
美希「でこちゃんにも心配かけてごめんね? なんか心配しすぎて泣いちゃったって聞いたけど」
伊織「な、泣いてないわよ! っていうか誰よバラしたの!」
美希「なんにせよ、これで美希とハニーは将来を誓い合った仲なの……」キラキラ
伊織「…………ま、いつもの調子に戻ったみたいで安心したわ」
P「美希ー、伊織ー。そろそろ車出すから準備しといてくれー」
美希伊織「りょうかーい」
伊織「美希、この雑誌どうするの?」
美希「……捨てちゃっていいの」
伊織「ん、わかったわ」
バサッ
美希「……約束だから、待っててね。ハニー♪」
『夏!恋人たちを大胆に』
終われよ
よかったら聴いてみてね!
やっぱ美希はかわいい
Entry ⇒ 2012.08.21 | Category ⇒ アイマスSS | Comments (0) | Trackbacks (0)
真紅「安価でSSを作りましょうなのだわ」
乙
そういえばそういうタイトルだったな
乙!
Entry ⇒ 2012.08.20 | Category ⇒ 版権物SS | Comments (0) | Trackbacks (0)