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十文字かほ「ようこそ、占い研究会へ」
引用元: ・http://hayabusa.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1345730268/
十文字「これで……よしっと」ゴトン
HRが終了すると、私はすぐに自分の机を廊下に出した。
机の前には、
「占い・相談 一件20分」
というはり紙をさげてある。
伊達や酔狂でこんなものを掲げているわけじゃない。
これが私の『部活』だ。
「あのー……」
十文字「はい?」
ほら、今日もお客さんがやってきた。
「占い研って、ここですか?」
十文字「――ええ」
自己紹介がまだだったかな。
私の名前は、十文字かほ。
十文字「ようこそ、占い研究会へ」
占い研究会の部長にして、唯一の部員だ。
――――
普段の部活は一人で占いの勉強をするくらいなのだけれど、
週に一回ほど、こうやってブースを出して他の生徒を占ったりしている。
フィールドワークというやつだ。
ちなみにお金は取っていない。
私の研究を手伝ってくれる人からお金なんて取れないから。
というのは建前で、校内で金銭のやり取りはいろいろとまずい。
??「あの……」
ほら、噂をすればお客さんだ。
十文字「いらっしゃい」
伊原「占い研って、ここでいいのよね……?」
ああ、この人は……知ってる。
同じ学年の伊原摩耶花さんだ。
えると同じ古典部で、図書委員もしていたはずだ。
そして……、
十文字「ええ。何か占ってほしいの?」
伊原「う、うん」
伊原「―――恋愛運を、占ってほしいんだけど」
彼女には、好きな人がいる。
………
………………
………………………
占いをしていると、自然に校内の噂は集まってくる。
特に、色恋沙汰に関しては必要以上に。
伊原「……中学の時から好きな人がいて。あ、その人も神高なんだけど」
十文字「うん」
彼女の好きな人というのは、福部君のことだろう。
福部里志君。私と同じ1年d組の男の子だ。
にぎやかなイメージだけれど、あまり話したことはない。
伊原「ずっとアタックしてるんだけど、手ごたえがないっていうか、誤魔化されてるっていうか……」
十文字「うんうん」
そして、この伊原さんが彼に対して熱烈なアプローチを続けているというのも有名な話だ。
伊原「それでも好きなことには変わりないけど、
このままじゃ埒が開かないと思うのよ」
十文字「……なるほど。それで恋愛運を占ってほしいってこと?」
伊原「う、うん……」
伊原さんが小さくうなずいた。
なるほど、恋愛運。
占いのジャンルとしてこれほどポピュラーなものもないだろう。
十文字「うん、わかった。じゃあ、名前と生年月日、あと血液型をこの紙に書いてくれる?」
私は伊原さんに小さなメモ用紙を手渡した。
伊原「ええ、わかったわ」
伊原さんが必要事項を記入している間に、私は占う対象――つまり彼女を眺める。
十文字(伊原さんが心配するようなことはないと思うんだけどな……)
ここだけの話、福部君の方も伊原さんを憎からず思っているのはほぼ確定事項だ。
これはいろんな方面から入ってきた情報で裏も取れている。
占いにあたって、こういう事前情報はノイズにしかならないという意見も根強いが、
私はそうは思わない。
占いは学問だ。
ならば、検証できるデータは多い方がいいに決まっている。
………
………………
………………………
伊原「書けました」
十文字「ありがとう。じゃあ占いに入りたいんだけど、どれにする?」
伊原「え?どれって……?」
十文字「タロット、手相、易、大体何でもできるけど」
伊原「ホント!?」
十文字「うん。太占とかは無理だけど」
伊原「太占!?」
廊下で火を使う占いは、さすがにまずい。
伊原「えっと、じゃあ手相でお願いします」
十文字「はい。ちょっと待ってね」ゴソゴソ
私は鞄から手相見用の虫眼鏡を取り出す。
まぁ、普通の虫眼鏡なんだけど。
十文字「はい、左手出して」
伊原「う、うん……」
伊原さんはこわごわと左手を差し出した。
十文字「………ふむふむ……へぇー……」
伊原「あ、あの……」
綺麗な手だ。小さくて白い、女の子の手だ。
ん?親指と中指の先に固いものがある。
……ペンだこ?
伊原「あ、あんまり見ないで!………はずかしいから」
伊原さんが真っ赤になって抗議してきた。
十文字「ごめんごめん。でも見ないと占えないから」
伊原「うぅ……」
伊原さんの手ばかりに没頭してはいられない。
彼女の手の線をじっくりと観察する。
うん、悪くない手相だ。
だけど………
十文字「うん、大体分かった」
伊原「本当に!?」
十文字「ええ」
伊原「それで、どう?私とふく……彼は上手くいきそう?」
十文字「………うーん、そうね。悪い方向にはいかないと思う」
伊原「ホント!?」
十文字「でも、すぐにってワケじゃない」
伊原「……えっ」
私の言葉に、伊原さんは露骨にがっかりした表情を見せた。
十文字「確かにいい線――幸運の兆しは見えるんだけど、事態はすぐには好転しない……
でも、それはあなたの力不足のせいじゃない」
伊原「どういうこと?」
十文字「これは私の勝手な憶測なんだけど……
多分、相手に原因があるんじゃないかな」
伊原「…………」
占った私にはさっぱりわからないけど、
どうやら彼女には心当たりがあるようだ。
十文字「その結果を踏まえて私が言えるのは……
『あきらめずにがんばれ』ってことくらいかな」
伊原「………それじゃ、今までと………」
私のアドバイスはあまりに月並みだったようで、
伊原さんはすっかりうつむいてしまった。
確かにこれが結果なのだが、依頼人が満足できなければ占いとは呼べない。
というより、ちょっぴり悔しい。
―――よし。
十文字「伊原さん、お役にたてなかったお詫びと言ってはなんだけど、
いいこと教えてあげる」
伊原「へ?」
十文字「ここを見て。線が入ってるのが分かる?」
伊原「………うん」
十文字「これは向上線と言って、目標に向かって絶えず努力できる人に出る線なの」
伊原「目標に向かって……」
十文字「だから、伊原さんの努力が報われる日は必ず来る」
伊原「…………っ」グスッ
十文字「それに、こんな可愛い女の子にアタックされて振り向かない男の子なんていないよ。
自信を持って。応援してるから」
伊原「………うぅ~~~~っ!!」グスグス
それから時間になるまで、伊原さんは机に突っ伏して泣き続けた。
………
………………
………………………
伊原さんは、落ち着くとすぐにお礼を言って帰って行った。
目は腫れてしまったけど、なんだか憑き物が落ちたような顔をしていた。
あの表情を見ることができただけで、今日のフィールドワークは成功と言ってもいい。
十文字(いいデータも取れたし、今日はおしまいにしようかな)
??「失礼。占い研究会の十文字さんかな?」
十文字「?」
お客さんかな?
遠垣内「壁新聞部の遠垣内だけど、すこし話を聞かせてくれないか?」
壁新聞部……ああ、『神高月報』の。
遠垣内「来月の部活紹介に載せる記事が欲しくてね。
今年新設された部に協力してもらってるんだ」
十文字「部と言っても、部員は私だけですけど」
遠垣内「事情はどこも似たようなものさ。部員の勧誘にもなると思うんだけど、
だめかな?」
……あんまり人が増えても仕方がないんだけどな。
十文字「……わかりました」
遠垣内「本当かい?いやあ助かるよ」
十文字「いえ。それで、聞きたいことというのは?」
………
………………
………………………
遠垣内「………こんなものでいいかな。十文字さん、ありがとう」
十文字「いえ」
遠垣内「それにしても占い研はずいぶんオープンに活動しているんだねえ」
十文字「フィールドワークですから」
遠垣内「フィールド?」
十文字「そうだ、せっかくですから、遠垣内先輩も何か占っていきますか?」
遠垣内「俺?いやいいよ。占ってほしいこともないし」
十文字「何でもいいですよ。将来のこととか、現在進行形の悩みとか」
遠垣内「……悩み?」
あ、食いついた。
十文字「まあ、無理にとは言いませんが」
遠垣内「待て、いや待ってくれ。
……何でも占えるのか?」
十文字「アマチュアですので、結果に責任は持てませんが」
遠垣内「いや……それでもいい。
聞いてほしいことがあるんだ」
………
………………
………………………
十文字「一年生から脅されている……」
遠垣内「そう」
先輩の口から語られた悩みというのはヘビィかつ何とも情けない話だった。
遠垣内「あのクソ生意気な一年坊主、この俺を顎で使いやがって……」
十文字「あの、そういうお話だとちょっと私の手には……
親御さんか先生方に相談された方が」
遠垣内「ダメだ!!!」ダンッ
十文字「」ビクッ
遠垣内「あ、いや……すまない。
だけどそれはダメだ。大人には相談できない」
十文字「はぁ……それで、私に何を占えと?」
遠垣内「そうだな。そんな感じで春からこっちツイてないからさ。
アレにこれ以上弱みを握られないように、何に気を付ければいいか占ってくれないか」
十文字「なるほど。厄除けですね?」
遠垣内「そういうことだ」
十文字「そういうことなら家でお御籤引いた方がいいと思うけど……
わかりました。やってみます」
遠垣内「そうか、助かるよ」
十文字「じゃあ、準備しますから」
………
………………
………………………
十文字「…………」
遠垣内「どうだ?」
十文字「……出ましたよ。ハッキリと」
遠垣内「本当か!」
十文字「ええ。こんなにはっきり出るのは珍しいんですけど」
遠垣内「……そんなに、はっきり出たのかい?」
十文字「ええ。
――――火難の相がクッキリと」
遠垣内「!!!」
遠垣内「!!!」
十文字「命の危険があるわけではないようです。
でも当分火の気には近づかない方がいいみたいですね」
遠垣内「………そ、そうか。気を付けるよ」
十文字「特に……火種には注意を払うべし、と出ています」
遠垣内「火種?」
十文字「ええ。ガスコンロとかバーナーとか、ライターとか」
遠垣内「ふざけるな!!」
十文字「………」
遠垣内「まさか……君まで俺を……」
十文字「あっ先輩、もう一つあります」
遠垣内「…………何だ」
十文字「ラッキーアイテムは消臭剤とブレス●アだそうです」
遠垣内「もういい!!!」
………
………………
………………………
十文字「あんなに怒る事ないのにな……」
十文字(何か疲れたし、今度こそ終わりにしようかな)
??「すまない」
十文字「はい?……ああ入須さん」
入須「久しぶりだな、十文字」
十文字「今日はどうしたんですか?父に伝言なら……」
入須「いや、今日は私用だ」
十文字「私用?」
入須「その………わかるだろう?」
十文字「……まさか」
入須「………わ、私も、占ってほしいんだ」
十文字「」
………
………………
………………………
十文字「自分のキャラ付けに悩んでいる……」
入須「……………そうだ」
十文字(めんどくさ……)
入須「お前も思っただろう?私に占いなんて似合わない、と」
十文字「いえ、別に……」
入須「私が悩んでいるのはそこなんだ」
十文字「……ああ、なるほど」
入須「私はこの神山高校で『女帝』というありがたくもない称号を頂戴している」
十文字(ピッタリだと思うけど)
入須「むろん、呼び名だけならさして問題はない。
そんなものは記号に過ぎないからな」
十文字「はぁ」
入須「問題は……その言葉のイメージが独り歩きしてしまった場合だ」
十文字「独り歩き……?」
入須「そうだ。たとえば……私が可愛いぬいぐるみを抱えてスキップしていたらどう思う?」
十文字「…………」
入須「笑うか?」
十文字「………いいえ」
入須「無理はしなくていい」
十文字「…………」
入須「たとえば、私がマジックショーに目を奪われてはしゃいでいたらどう思う?」
十文字「………………」
入須「可笑しいだろう?」
十文字「………………い、いいえ」プルプル
入須「無理はしないでくれ。本当に」
十文字「………そ、それが悩み、ですか?」
入須「そうだ。私は常に求められたところを為してきた。
その上でたまわった名なら甘んじて受けよう。だが……
今ではその名に縛られている」
十文字「名前に縛られる……」
入須「期待、と言い換えてもいいな。
ふっ。期待を操ってきた私が期待にからめ捕られるとは、皮肉なものだな
自業自得だと笑ってくれ」
十文字「…………」
入須「だが………最近それがひどく煩わしいと思うことがある」
十文字「……それで、占ってほしいことというのは何ですか?」
入須「そうだな。私はどうすれば周囲の期待という名の誤解を解くことができるのか。
それが知りたい」
………
………………
………………………
十文字(正直占うまでもないなぁ……やることは明らかだし)
十文字(………占ったフリして言いたいこと言ってしまおう)
十文字「…………出ました」
入須「そうか」
十文字「うーん………」
入須「ど、どうだ?」ソワソワ
十文字「カードの導きによると……」ウムム
入須「よると……?」ソワソワ
十文字「『自分に素直になる事』、これです」
入須「自分に素直に……?」
十文字「そうです」
入須「………それができたら苦労はない」
十文字「そんなことはないですよ。試してみましょうか」
入須「試す?」
十文字「ここにさっき書いてもらったプロフィール表があります」
入須「それがどうしかしたのか?」
十文字「『好きな音楽:シューベルト』……見栄はりましたね?」
入須「う」
十文字「本当は?」
入須「…………松田〇子」
十文字「『好きな本:『正義論』』………ダウト」
入須「あう」
十文字「本当は?」
入須「………『夕べには骸に』」
十文字「これで最後です。
『欲しいもの:万年筆』………御冗談でしょう」
入須「ううぅ……」
十文字「ほ・ん・と・う・は?」
入須「…………大きなくまちゃんのぬいぐるみ」
十文字「………やればできるじゃないですか」
入須「うああああああ!!!」
十文字「何というか、周囲の期待とか関係なく見栄っ張りすぎますよ」
入須「フリで続けていたことが本心にすり替わる……ふん、皮肉なものだな」
十文字「いや、だからさっきのが本心でしょう?」
入須「今更そんなこと言えるわけがないだろう!
このキャラで2年弱やってきたのに急にかわいいもの好きをカミングアウトなんて出来る訳がない!!」
十文字「ふりだしですね」
入須「結局、私は孤独な玉座を守り続けていくほかないのか……」
十文字(玉座……)
十文字「あっ、じゃあこうしましょう」
入須「?」キョトン
十文字「入須さんが今一番したいことを言ってみてください。
私もそれに付き合います」
入須「したいこと……」
十文字「みんなに打ち明けるのがこわいなら、私で少しずつ慣らしていきましょう」
入須「しかしだな………」
十文字「私なら、だれにも言いませんから」
入須「!」
十文字「それに、今日はどうせこれでお終いにしようと思っていたんです」
入須「ほ、本当に?本当に誰にも言わない?」
十文字「入須さん、口調口調」
入須「はっ!……ご、ゴホン……本当に誰にも言わないな?」
十文字「はい、誰にも」
入須「…………」
十文字「入須さん?」
入須「………………ち」
十文字「ち?」
入須「……千反田と、もっと仲良く、したい」カァァァ
十文字「」
十文字「ええと………」
入須「私は老け顔かもしれないけど、お前たちと一つしか違わないんだぞ!
ずっと一緒にいた妹分が二人とも急に疎遠になってなぁ……」
入須「さびしかったんだぞ!!」
十文字「ええ。久しぶりに、三人で」
入須「………………いく」
十文字「じゃあ、今すぐえるを迎えに行きましょう!
きっと古典部の部室にいますから」
入須「………う」コクッ
十文字(あ、かわいい)
………
………………
………………………
―――地学準備室(古典部・部室)
コンコンッ
える「はい」
十文字「える、私。かほだけど」
える「あっ、はーい」トテトテ
ガラガラッ
える「いらっしゃい、かほさん……と、入須さん?」
入須「」ビクッ
える「どうかされたんですか?」
入須「う、うん、まぁそうだな」
十文字(入須さん)
入須(わ、分かっている)
入須「あ、あのな千反田」
える「はい、何ですか?」ニコニコ
入須「えーと、その……なんだ」
える「はい」ニコニコ
入須「………今日の放課後は空いているか?」
入須「さっきそこで十文字に会ってな、久しぶりに旧交を温めようかという話になったんだが」
える「まあ」
入須「今からどこかへ出かけようと思うのだが、お前も一緒にどうだ?」
十文字(よし)
える「ええと………ごめんなさい!」
入須「!!」
十文字「!」
える「今日はどうしても外せない用事が入っていて………
申し訳ありません」
入須「そう、か」フルフル
十文字「入須さん………」
入須「いや、いい。………邪魔をしたな、千反田」
える「……あの、入須さん」
入須「何だ?」
える「今週の土日は空いてますか?」
入須「………へ?」
十文字(うん?)
える「えっと、ですね。
再来週から定期考査が始まりますよね」
入須「そう、だな」
える「今度のテストは少し自信がないので、よろしかったら入須さんに勉強を見てほしいんですが」
入須「………お前なら心配ないと思うが」
える「いいえ!」ズイッ
入須「うっ」
える「今度のテストは本当に心配で!これはもう徹夜で勉強しないと間に合わないと思うんです!」
入須「そ、そうか」
える「だから、入須さんにみっちり鍛えてほしいんです!
その………泊まり込みで」
入須「!!!!」
十文字(おお)
える「――――いえ、違いますね。
入須さん、
今度の週末、久しぶりに泊りに行ってもよろしいですか!」
入須「……………十文字」チョイチョイ
十文字「はい」
入須「私のほほを思い切りひっぱたけ」
十文字「心配しなくても夢じゃないですよ」
える「えと……駄目、でしょうか?」
入須「そ、そんなことはない!
ぜひ来てくれ!私と母でごちそうを作って待っている!!」
える「い、いえ!そんなお構いなく!」
入須「気にするな!
そうだ、十文字!お前も来い!」
十文字「えっ、私も?」
入須(私のしたいことにつきあってくれるんだろう?)ヒソヒソ
十文字(ああ、そんなこと言いましたね)ヒソヒソ
入須「そうか、お前も来てくれるか!
じゃあ千反田、十文字。土曜日に待ってるからな」
える「はいっ!」ニコニコ
十文字「」
………
………………
………………………
十文字「疲れたな……」
今日はいつもよりお客さんも少なかったのに、いつもの倍疲れた気がする。
私は今日やってきたお客さんのことを思い出しながら家路を歩いていた。
停滞した恋に悩む女の子。
脛に傷のありそうな先輩。
そして、意地っ張りな姉のような人。
全員を笑顔にすることはできなかったけど、
……最後の一人はあんまり占いも関係なかったけど、
伊原『十文字さん、ありがとう!』
遠垣内『………協力、ありがとう』
入須『感謝するぞ、十文字』
みんな最後は、お礼を言ってくれた。
これだから、占い面白い。
だから私は明日も明後日も、
十文字「占い研で、お待ちしています」
おしまい
1: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/23(木) 22:57:48.85 ID:a3rm8g1c0
十文字「これで……よしっと」ゴトン
HRが終了すると、私はすぐに自分の机を廊下に出した。
机の前には、
「占い・相談 一件20分」
というはり紙をさげてある。
伊達や酔狂でこんなものを掲げているわけじゃない。
これが私の『部活』だ。
「あのー……」
十文字「はい?」
2: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/23(木) 22:58:44.01 ID:a3rm8g1c0
ほら、今日もお客さんがやってきた。
「占い研って、ここですか?」
十文字「――ええ」
自己紹介がまだだったかな。
私の名前は、十文字かほ。
十文字「ようこそ、占い研究会へ」
占い研究会の部長にして、唯一の部員だ。
3: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/23(木) 22:59:55.01 ID:a3rm8g1c0
――――
普段の部活は一人で占いの勉強をするくらいなのだけれど、
週に一回ほど、こうやってブースを出して他の生徒を占ったりしている。
フィールドワークというやつだ。
ちなみにお金は取っていない。
私の研究を手伝ってくれる人からお金なんて取れないから。
というのは建前で、校内で金銭のやり取りはいろいろとまずい。
??「あの……」
ほら、噂をすればお客さんだ。
十文字「いらっしゃい」
伊原「占い研って、ここでいいのよね……?」
5: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/23(木) 23:01:37.12 ID:a3rm8g1c0
ああ、この人は……知ってる。
同じ学年の伊原摩耶花さんだ。
えると同じ古典部で、図書委員もしていたはずだ。
そして……、
十文字「ええ。何か占ってほしいの?」
伊原「う、うん」
伊原「―――恋愛運を、占ってほしいんだけど」
彼女には、好きな人がいる。
6: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/23(木) 23:05:18.96 ID:a3rm8g1c0
………
………………
………………………
占いをしていると、自然に校内の噂は集まってくる。
特に、色恋沙汰に関しては必要以上に。
伊原「……中学の時から好きな人がいて。あ、その人も神高なんだけど」
十文字「うん」
彼女の好きな人というのは、福部君のことだろう。
福部里志君。私と同じ1年d組の男の子だ。
にぎやかなイメージだけれど、あまり話したことはない。
7: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/23(木) 23:08:26.48 ID:a3rm8g1c0
伊原「ずっとアタックしてるんだけど、手ごたえがないっていうか、誤魔化されてるっていうか……」
十文字「うんうん」
そして、この伊原さんが彼に対して熱烈なアプローチを続けているというのも有名な話だ。
伊原「それでも好きなことには変わりないけど、
このままじゃ埒が開かないと思うのよ」
十文字「……なるほど。それで恋愛運を占ってほしいってこと?」
伊原「う、うん……」
8: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/23(木) 23:13:43.37 ID:a3rm8g1c0
伊原さんが小さくうなずいた。
なるほど、恋愛運。
占いのジャンルとしてこれほどポピュラーなものもないだろう。
十文字「うん、わかった。じゃあ、名前と生年月日、あと血液型をこの紙に書いてくれる?」
私は伊原さんに小さなメモ用紙を手渡した。
伊原「ええ、わかったわ」
9: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/23(木) 23:18:33.52 ID:a3rm8g1c0
伊原さんが必要事項を記入している間に、私は占う対象――つまり彼女を眺める。
十文字(伊原さんが心配するようなことはないと思うんだけどな……)
ここだけの話、福部君の方も伊原さんを憎からず思っているのはほぼ確定事項だ。
これはいろんな方面から入ってきた情報で裏も取れている。
占いにあたって、こういう事前情報はノイズにしかならないという意見も根強いが、
私はそうは思わない。
占いは学問だ。
ならば、検証できるデータは多い方がいいに決まっている。
………
………………
………………………
10: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/23(木) 23:22:45.84 ID:a3rm8g1c0
伊原「書けました」
十文字「ありがとう。じゃあ占いに入りたいんだけど、どれにする?」
伊原「え?どれって……?」
十文字「タロット、手相、易、大体何でもできるけど」
伊原「ホント!?」
十文字「うん。太占とかは無理だけど」
伊原「太占!?」
廊下で火を使う占いは、さすがにまずい。
12: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/23(木) 23:30:57.73 ID:a3rm8g1c0
伊原「えっと、じゃあ手相でお願いします」
十文字「はい。ちょっと待ってね」ゴソゴソ
私は鞄から手相見用の虫眼鏡を取り出す。
まぁ、普通の虫眼鏡なんだけど。
十文字「はい、左手出して」
伊原「う、うん……」
伊原さんはこわごわと左手を差し出した。
13: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/23(木) 23:35:14.46 ID:a3rm8g1c0
十文字「………ふむふむ……へぇー……」
伊原「あ、あの……」
綺麗な手だ。小さくて白い、女の子の手だ。
ん?親指と中指の先に固いものがある。
……ペンだこ?
伊原「あ、あんまり見ないで!………はずかしいから」
伊原さんが真っ赤になって抗議してきた。
十文字「ごめんごめん。でも見ないと占えないから」
伊原「うぅ……」
14: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/23(木) 23:39:48.82 ID:a3rm8g1c0
伊原さんの手ばかりに没頭してはいられない。
彼女の手の線をじっくりと観察する。
うん、悪くない手相だ。
だけど………
十文字「うん、大体分かった」
伊原「本当に!?」
十文字「ええ」
伊原「それで、どう?私とふく……彼は上手くいきそう?」
十文字「………うーん、そうね。悪い方向にはいかないと思う」
伊原「ホント!?」
15: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/23(木) 23:47:17.44 ID:a3rm8g1c0
十文字「でも、すぐにってワケじゃない」
伊原「……えっ」
私の言葉に、伊原さんは露骨にがっかりした表情を見せた。
十文字「確かにいい線――幸運の兆しは見えるんだけど、事態はすぐには好転しない……
でも、それはあなたの力不足のせいじゃない」
伊原「どういうこと?」
十文字「これは私の勝手な憶測なんだけど……
多分、相手に原因があるんじゃないかな」
伊原「…………」
占った私にはさっぱりわからないけど、
どうやら彼女には心当たりがあるようだ。
16: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/23(木) 23:52:11.81 ID:a3rm8g1c0
十文字「その結果を踏まえて私が言えるのは……
『あきらめずにがんばれ』ってことくらいかな」
伊原「………それじゃ、今までと………」
私のアドバイスはあまりに月並みだったようで、
伊原さんはすっかりうつむいてしまった。
確かにこれが結果なのだが、依頼人が満足できなければ占いとは呼べない。
というより、ちょっぴり悔しい。
―――よし。
十文字「伊原さん、お役にたてなかったお詫びと言ってはなんだけど、
いいこと教えてあげる」
伊原「へ?」
18: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/23(木) 23:57:43.23 ID:a3rm8g1c0
十文字「ここを見て。線が入ってるのが分かる?」
伊原「………うん」
十文字「これは向上線と言って、目標に向かって絶えず努力できる人に出る線なの」
伊原「目標に向かって……」
十文字「だから、伊原さんの努力が報われる日は必ず来る」
伊原「…………っ」グスッ
十文字「それに、こんな可愛い女の子にアタックされて振り向かない男の子なんていないよ。
自信を持って。応援してるから」
伊原「………うぅ~~~~っ!!」グスグス
それから時間になるまで、伊原さんは机に突っ伏して泣き続けた。
19: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/24(金) 00:01:07.10 ID:a3rm8g1c0
………
………………
………………………
伊原さんは、落ち着くとすぐにお礼を言って帰って行った。
目は腫れてしまったけど、なんだか憑き物が落ちたような顔をしていた。
あの表情を見ることができただけで、今日のフィールドワークは成功と言ってもいい。
十文字(いいデータも取れたし、今日はおしまいにしようかな)
??「失礼。占い研究会の十文字さんかな?」
十文字「?」
20: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/24(金) 00:07:27.37 ID:2XWqaCWh0
お客さんかな?
遠垣内「壁新聞部の遠垣内だけど、すこし話を聞かせてくれないか?」
壁新聞部……ああ、『神高月報』の。
遠垣内「来月の部活紹介に載せる記事が欲しくてね。
今年新設された部に協力してもらってるんだ」
十文字「部と言っても、部員は私だけですけど」
遠垣内「事情はどこも似たようなものさ。部員の勧誘にもなると思うんだけど、
だめかな?」
……あんまり人が増えても仕方がないんだけどな。
21: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/24(金) 00:12:48.49 ID:2XWqaCWh0
十文字「……わかりました」
遠垣内「本当かい?いやあ助かるよ」
十文字「いえ。それで、聞きたいことというのは?」
………
………………
………………………
遠垣内「………こんなものでいいかな。十文字さん、ありがとう」
十文字「いえ」
遠垣内「それにしても占い研はずいぶんオープンに活動しているんだねえ」
十文字「フィールドワークですから」
遠垣内「フィールド?」
22: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/24(金) 00:16:30.75 ID:2XWqaCWh0
十文字「そうだ、せっかくですから、遠垣内先輩も何か占っていきますか?」
遠垣内「俺?いやいいよ。占ってほしいこともないし」
十文字「何でもいいですよ。将来のこととか、現在進行形の悩みとか」
遠垣内「……悩み?」
あ、食いついた。
十文字「まあ、無理にとは言いませんが」
遠垣内「待て、いや待ってくれ。
……何でも占えるのか?」
十文字「アマチュアですので、結果に責任は持てませんが」
遠垣内「いや……それでもいい。
聞いてほしいことがあるんだ」
24: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/24(金) 00:24:10.03 ID:2XWqaCWh0
………
………………
………………………
十文字「一年生から脅されている……」
遠垣内「そう」
先輩の口から語られた悩みというのはヘビィかつ何とも情けない話だった。
遠垣内「あのクソ生意気な一年坊主、この俺を顎で使いやがって……」
十文字「あの、そういうお話だとちょっと私の手には……
親御さんか先生方に相談された方が」
遠垣内「ダメだ!!!」ダンッ
十文字「」ビクッ
25: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/24(金) 00:30:35.01 ID:2XWqaCWh0
遠垣内「あ、いや……すまない。
だけどそれはダメだ。大人には相談できない」
十文字「はぁ……それで、私に何を占えと?」
遠垣内「そうだな。そんな感じで春からこっちツイてないからさ。
アレにこれ以上弱みを握られないように、何に気を付ければいいか占ってくれないか」
十文字「なるほど。厄除けですね?」
遠垣内「そういうことだ」
十文字「そういうことなら家でお御籤引いた方がいいと思うけど……
わかりました。やってみます」
遠垣内「そうか、助かるよ」
十文字「じゃあ、準備しますから」
26: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/24(金) 00:33:36.80 ID:2XWqaCWh0
………
………………
………………………
十文字「…………」
遠垣内「どうだ?」
十文字「……出ましたよ。ハッキリと」
遠垣内「本当か!」
十文字「ええ。こんなにはっきり出るのは珍しいんですけど」
遠垣内「……そんなに、はっきり出たのかい?」
十文字「ええ。
――――火難の相がクッキリと」
遠垣内「!!!」
27: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/24(金) 00:38:22.22 ID:2XWqaCWh0
遠垣内「!!!」
十文字「命の危険があるわけではないようです。
でも当分火の気には近づかない方がいいみたいですね」
遠垣内「………そ、そうか。気を付けるよ」
十文字「特に……火種には注意を払うべし、と出ています」
遠垣内「火種?」
十文字「ええ。ガスコンロとかバーナーとか、ライターとか」
遠垣内「ふざけるな!!」
十文字「………」
28: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/24(金) 00:41:01.28 ID:2XWqaCWh0
遠垣内「まさか……君まで俺を……」
十文字「あっ先輩、もう一つあります」
遠垣内「…………何だ」
十文字「ラッキーアイテムは消臭剤とブレス●アだそうです」
遠垣内「もういい!!!」
………
………………
………………………
30: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/24(金) 00:47:31.80 ID:2XWqaCWh0
十文字「あんなに怒る事ないのにな……」
十文字(何か疲れたし、今度こそ終わりにしようかな)
??「すまない」
十文字「はい?……ああ入須さん」
入須「久しぶりだな、十文字」
32: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/24(金) 00:51:11.45 ID:2XWqaCWh0
十文字「今日はどうしたんですか?父に伝言なら……」
入須「いや、今日は私用だ」
十文字「私用?」
入須「その………わかるだろう?」
十文字「……まさか」
入須「………わ、私も、占ってほしいんだ」
十文字「」
33: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/24(金) 00:58:05.27 ID:2XWqaCWh0
………
………………
………………………
十文字「自分のキャラ付けに悩んでいる……」
入須「……………そうだ」
十文字(めんどくさ……)
入須「お前も思っただろう?私に占いなんて似合わない、と」
十文字「いえ、別に……」
入須「私が悩んでいるのはそこなんだ」
十文字「……ああ、なるほど」
34: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/24(金) 01:04:07.05 ID:2XWqaCWh0
入須「私はこの神山高校で『女帝』というありがたくもない称号を頂戴している」
十文字(ピッタリだと思うけど)
入須「むろん、呼び名だけならさして問題はない。
そんなものは記号に過ぎないからな」
十文字「はぁ」
入須「問題は……その言葉のイメージが独り歩きしてしまった場合だ」
35: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/24(金) 01:04:48.09 ID:Iuky3kJ10
十文字さんはもうアニメにはでないのかな
38: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/24(金) 01:08:32.54 ID:NLbdfxUN0
>>35
次の次辺りに正月の回があれば出ると思う
次の次辺りに正月の回があれば出ると思う
41: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/24(金) 01:12:46.80 ID:Iuky3kJ10
>>38
マジかよかった
マジかよかった
37: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/24(金) 01:07:57.84 ID:2XWqaCWh0
十文字「独り歩き……?」
入須「そうだ。たとえば……私が可愛いぬいぐるみを抱えてスキップしていたらどう思う?」
十文字「…………」
入須「笑うか?」
十文字「………いいえ」
入須「無理はしなくていい」
39: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/24(金) 01:10:49.90 ID:2XWqaCWh0
十文字「…………」
入須「たとえば、私がマジックショーに目を奪われてはしゃいでいたらどう思う?」
十文字「………………」
入須「可笑しいだろう?」
十文字「………………い、いいえ」プルプル
入須「無理はしないでくれ。本当に」
40: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/24(金) 01:11:50.45 ID:g9tzjpWPO
可愛いと思います!
43: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/24(金) 01:18:09.28 ID:2XWqaCWh0
十文字「………そ、それが悩み、ですか?」
入須「そうだ。私は常に求められたところを為してきた。
その上でたまわった名なら甘んじて受けよう。だが……
今ではその名に縛られている」
十文字「名前に縛られる……」
入須「期待、と言い換えてもいいな。
ふっ。期待を操ってきた私が期待にからめ捕られるとは、皮肉なものだな
自業自得だと笑ってくれ」
十文字「…………」
44: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/24(金) 01:26:53.51 ID:2XWqaCWh0
入須「だが………最近それがひどく煩わしいと思うことがある」
十文字「……それで、占ってほしいことというのは何ですか?」
入須「そうだな。私はどうすれば周囲の期待という名の誤解を解くことができるのか。
それが知りたい」
………
………………
………………………
十文字(正直占うまでもないなぁ……やることは明らかだし)
十文字(………占ったフリして言いたいこと言ってしまおう)
十文字「…………出ました」
入須「そうか」
45: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/24(金) 01:31:59.00 ID:2XWqaCWh0
十文字「うーん………」
入須「ど、どうだ?」ソワソワ
十文字「カードの導きによると……」ウムム
入須「よると……?」ソワソワ
十文字「『自分に素直になる事』、これです」
入須「自分に素直に……?」
47: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/24(金) 01:38:35.42 ID:2XWqaCWh0
十文字「そうです」
入須「………それができたら苦労はない」
十文字「そんなことはないですよ。試してみましょうか」
入須「試す?」
十文字「ここにさっき書いてもらったプロフィール表があります」
48: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/24(金) 01:40:08.38 ID:2XWqaCWh0
入須「それがどうしかしたのか?」
十文字「『好きな音楽:シューベルト』……見栄はりましたね?」
入須「う」
十文字「本当は?」
入須「…………松田〇子」
十文字「『好きな本:『正義論』』………ダウト」
入須「あう」
50: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/24(金) 01:46:59.06 ID:2XWqaCWh0
十文字「本当は?」
入須「………『夕べには骸に』」
十文字「これで最後です。
『欲しいもの:万年筆』………御冗談でしょう」
入須「ううぅ……」
十文字「ほ・ん・と・う・は?」
入須「…………大きなくまちゃんのぬいぐるみ」
十文字「………やればできるじゃないですか」
入須「うああああああ!!!」
53: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/24(金) 01:56:03.03 ID:2XWqaCWh0
十文字「何というか、周囲の期待とか関係なく見栄っ張りすぎますよ」
入須「フリで続けていたことが本心にすり替わる……ふん、皮肉なものだな」
十文字「いや、だからさっきのが本心でしょう?」
入須「今更そんなこと言えるわけがないだろう!
このキャラで2年弱やってきたのに急にかわいいもの好きをカミングアウトなんて出来る訳がない!!」
十文字「ふりだしですね」
入須「結局、私は孤独な玉座を守り続けていくほかないのか……」
十文字(玉座……)
十文字「あっ、じゃあこうしましょう」
入須「?」キョトン
十文字「入須さんが今一番したいことを言ってみてください。
私もそれに付き合います」
55: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/24(金) 02:01:36.65 ID:2XWqaCWh0
入須「したいこと……」
十文字「みんなに打ち明けるのがこわいなら、私で少しずつ慣らしていきましょう」
入須「しかしだな………」
十文字「私なら、だれにも言いませんから」
入須「!」
十文字「それに、今日はどうせこれでお終いにしようと思っていたんです」
入須「ほ、本当に?本当に誰にも言わない?」
十文字「入須さん、口調口調」
入須「はっ!……ご、ゴホン……本当に誰にも言わないな?」
56: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/24(金) 02:05:56.38 ID:2XWqaCWh0
十文字「はい、誰にも」
入須「…………」
十文字「入須さん?」
入須「………………ち」
十文字「ち?」
入須「……千反田と、もっと仲良く、したい」カァァァ
十文字「」
60: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/24(金) 02:12:11.75 ID:2XWqaCWh0
入須「な、何だその顔は!したいことを言えと言ったのはお前だろう!」
十文字「いえ、言いましたけど………さすがにちょっと予想外で」
入須「仕方がないだろう!
昔はあんなに一緒に遊んだというのに、私が受験生になったころからウチに寄り付かなくなって……」
十文字「えるもきっと気を使ったんですよ。そういう子だって知ってるでしょう?」
入須「うるさい!お前もだ!」
十文字「わ、私も?」
入須「そうだ!」
十文字「いえ、言いましたけど………さすがにちょっと予想外で」
入須「仕方がないだろう!
昔はあんなに一緒に遊んだというのに、私が受験生になったころからウチに寄り付かなくなって……」
十文字「えるもきっと気を使ったんですよ。そういう子だって知ってるでしょう?」
入須「うるさい!お前もだ!」
十文字「わ、私も?」
入須「そうだ!」
61: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/24(金) 02:16:53.05 ID:2XWqaCWh0
十文字「ええと………」
入須「私は老け顔かもしれないけど、お前たちと一つしか違わないんだぞ!
ずっと一緒にいた妹分が二人とも急に疎遠になってなぁ……」
入須「さびしかったんだぞ!!」
62: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/24(金) 02:19:16.12 ID:2XWqaCWh0
十文字「う、うーん……」
入須「うぅー………」ポロポロ
十文字「ああ、入須さん泣かないで。
そうだ、いいこと思いつきました!」
入須「う?」
十文字「えると入須さんと、それに私で、帰りにどこか遊びに行きましょう!」
入須「さ、三人で?」グスグス
入須「うぅー………」ポロポロ
十文字「ああ、入須さん泣かないで。
そうだ、いいこと思いつきました!」
入須「う?」
十文字「えると入須さんと、それに私で、帰りにどこか遊びに行きましょう!」
入須「さ、三人で?」グスグス
68: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/24(金) 02:36:09.10 ID:2XWqaCWh0
十文字「ええ。久しぶりに、三人で」
入須「………………いく」
十文字「じゃあ、今すぐえるを迎えに行きましょう!
きっと古典部の部室にいますから」
入須「………う」コクッ
十文字(あ、かわいい)
70: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/24(金) 02:38:09.03 ID:2XWqaCWh0
………
………………
………………………
―――地学準備室(古典部・部室)
コンコンッ
える「はい」
十文字「える、私。かほだけど」
える「あっ、はーい」トテトテ
ガラガラッ
える「いらっしゃい、かほさん……と、入須さん?」
入須「」ビクッ
71: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/24(金) 02:43:25.24 ID:2XWqaCWh0
える「どうかされたんですか?」
入須「う、うん、まぁそうだな」
十文字(入須さん)
入須(わ、分かっている)
入須「あ、あのな千反田」
える「はい、何ですか?」ニコニコ
入須「えーと、その……なんだ」
える「はい」ニコニコ
入須「………今日の放課後は空いているか?」
72: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/24(金) 02:49:05.20 ID:2XWqaCWh0
入須「さっきそこで十文字に会ってな、久しぶりに旧交を温めようかという話になったんだが」
える「まあ」
入須「今からどこかへ出かけようと思うのだが、お前も一緒にどうだ?」
十文字(よし)
える「ええと………ごめんなさい!」
入須「!!」
十文字「!」
73: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/24(金) 02:54:28.04 ID:2XWqaCWh0
える「今日はどうしても外せない用事が入っていて………
申し訳ありません」
入須「そう、か」フルフル
十文字「入須さん………」
入須「いや、いい。………邪魔をしたな、千反田」
える「……あの、入須さん」
入須「何だ?」
える「今週の土日は空いてますか?」
入須「………へ?」
十文字(うん?)
75: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/24(金) 03:00:30.99 ID:2XWqaCWh0
える「えっと、ですね。
再来週から定期考査が始まりますよね」
入須「そう、だな」
える「今度のテストは少し自信がないので、よろしかったら入須さんに勉強を見てほしいんですが」
入須「………お前なら心配ないと思うが」
える「いいえ!」ズイッ
入須「うっ」
える「今度のテストは本当に心配で!これはもう徹夜で勉強しないと間に合わないと思うんです!」
入須「そ、そうか」
える「だから、入須さんにみっちり鍛えてほしいんです!
その………泊まり込みで」
入須「!!!!」
十文字(おお)
76: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/24(金) 03:03:30.42 ID:2XWqaCWh0
える「――――いえ、違いますね。
入須さん、
今度の週末、久しぶりに泊りに行ってもよろしいですか!」
入須「……………十文字」チョイチョイ
十文字「はい」
入須「私のほほを思い切りひっぱたけ」
十文字「心配しなくても夢じゃないですよ」
78: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/24(金) 03:09:49.59 ID:2XWqaCWh0
える「えと……駄目、でしょうか?」
入須「そ、そんなことはない!
ぜひ来てくれ!私と母でごちそうを作って待っている!!」
える「い、いえ!そんなお構いなく!」
入須「気にするな!
そうだ、十文字!お前も来い!」
十文字「えっ、私も?」
入須(私のしたいことにつきあってくれるんだろう?)ヒソヒソ
十文字(ああ、そんなこと言いましたね)ヒソヒソ
入須「そうか、お前も来てくれるか!
じゃあ千反田、十文字。土曜日に待ってるからな」
える「はいっ!」ニコニコ
十文字「」
81: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/24(金) 03:15:12.00 ID:2XWqaCWh0
………
………………
………………………
十文字「疲れたな……」
今日はいつもよりお客さんも少なかったのに、いつもの倍疲れた気がする。
私は今日やってきたお客さんのことを思い出しながら家路を歩いていた。
停滞した恋に悩む女の子。
脛に傷のありそうな先輩。
そして、意地っ張りな姉のような人。
82: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/24(金) 03:21:43.39 ID:2XWqaCWh0
全員を笑顔にすることはできなかったけど、
……最後の一人はあんまり占いも関係なかったけど、
伊原『十文字さん、ありがとう!』
遠垣内『………協力、ありがとう』
入須『感謝するぞ、十文字』
みんな最後は、お礼を言ってくれた。
これだから、占い面白い。
だから私は明日も明後日も、
十文字「占い研で、お待ちしています」
おしまい
83: ◆r4vICyDKLo 2012/08/24(金) 03:22:52.98 ID:2XWqaCWh0
終わりん。
眠いからここまで。
百合とかじゃなくて女の子が仲良くしているのがすきです。
じゃあの。
眠いからここまで。
百合とかじゃなくて女の子が仲良くしているのがすきです。
じゃあの。
84: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/24(金) 03:24:31.89 ID:mGospS/8i
おつ
85: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/24(金) 03:26:15.06 ID:NLbdfxUN0
乙
87: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/24(金) 03:51:18.72 ID:i5IatjI40
乙
面白かった
面白かった
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