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淡「陽に照らされて星は輝く」 前半
引用元: http://hayabusa.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1348321239/
一年間戸惑い続けた私は再びインターミドルに出場して……結局、期待は落胆に散った。
淡(私と互角に戦える人なんてどこにもいなかった。全国にさえ)
淡(中学の麻雀部の皆は私を怖がって誰も私と打ちたがらなくなって、三年生に上がる前に私は退部した)
その時に私はようやく気付いた。私は他人とは違うのだと。
まるで星のように、見上げてくれる人はいても、隣にいてくれる人はいないのだと。
そうと気づいたら、もう麻雀なんて楽しくもなんともなくなった。麻雀への情熱も、すっかり冷めてしまっていた。
淡「プロ、かぁ」
淡(正直、プロの道にそこまで魅力を感じないんだよね)
確かにプロには私より強い人も大勢いるだろう。彼女らと打っている間は、きっと楽しく麻雀に没頭できると思う。
祖父は猛反対するだろうが、別にいい。だいたい、祖父は自分が遂げられなかった『プロになる』という夢を私に押し付けているだけだ。
淡「あれだけ手加減されて、わざと指し込んでもらってるっていうのに、『現役プロに見劣りしない戦績』だなんて、馬鹿みたい」
そんな人に私の進路をとやかく言われる筋合いなんてない。
別に白糸台に入らなくたっていい。どこの麻雀部に入ったって同じだ。
ただ、その年の優勝校が変わるだけ。
もう麻雀なんて、どうでもいい――。
淡「……イライラするなぁ……」
翌年
私は高校生になった。祖父の強い希望で、結局白糸台高校に入学することになった。
友「大星さん、おはよう!」
淡「おはよ」
友「ねえねえ大星さん、もう入る部活決めた?」
淡「うーん……一応、麻雀部に入ろうかなって」
淡(てか、おじいちゃんに絶対入れって言われたしなぁ……)
友「あ、大星さんもなんだ。私もだよ!」
淡「友ちゃんも?」
友「うん。やっぱり白糸台って言ったら麻雀部だよね。インハイ二連覇だよ、二連覇。すごいよね」
淡「あー……うん、そうだね」
淡(ふーん、二連覇してたんだ。興味なかったから知らなかった)
友「それになんと言っても、白糸台には宮永先輩がいるからね!」
淡「宮永? 誰?」
友「ええ!? 宮永照知らないの!? インハイ二冠王者の、高校最強の選手だよ!」
淡「ふーん」
淡(ああ、そういえばおじいちゃんが言ってたっけ)
友「あ、さては大星さん、初心者でしょ? これから麻雀をやろうっていうなら、宮永照は知っといた方がいいよ」
淡「……友ちゃんはどうなの?」
友「えへへ、私はこれでも小学三年生の頃から麻雀をやってるし、去年は個人戦で県ベスト16まで行ったんだよ!」
淡「ふーん」
友「ねえ、体験入部はどうするの?」
淡「体験入部?」
友「正式な入部までに、三回体験入部の機会があるんだよ。そのときに部の人と打ってもらったり
できるんだって。で、四回目に入部試験をするの。
すごいよね、気合い入ってるよね白糸台。さすがって感じ」
淡「それいつやるの?」
友「今日一回目があるよ。あーでも今日は私都合悪いから、二回目から参加するつもり」
淡「ふーん。行ってみようかな」
友「お、やる気だね。でも気をつけてね。間違っても二軍の人と打っちゃだめだからね。
白糸台は二軍でも県代表クラスの実力だって言うし」
淡「うん。分かった」
放課後
淡「麻雀部……ここか」ガラ
淡「すいません、体験入部しにきたんですけど」
A子「はーい。いらっしゃーい。どうぞ入って」
淡「失礼します」
淡(うわ、人多いな)
A子「はじめまして。入部希望の人だよね?」
淡「まあ、一応。――あの、宮永照っていう人がいるって聞いたんですけど」
A子「あら、ふふ。貴女も? みんな宮永さんのことを初めに訊くよね。でもごめんね、
いま一軍のメンバーは練習試合でいないの。次の体験入部の日にはいると思うけど」
淡「そうですか」
淡(まあいっか。二軍でも全国レベルらしいし)
A子「じゃあ、さっそく打とうか。中学で部活の経験は?」
淡「二年の終わりに辞めました」
A子「あら、どうして?」
淡「つまんなかったから」
A子「あー……そっか。うん、仕方ないよね。勝てなくて辞めてく子、実はうちも結構多いんだ」
A子「じゃあちょっと待ってね、今空いてる子探すから。――ねえ誰かー。三軍で手の空いてる子いるー?」
淡「あの」
A子「ん? なあに?」
淡「ここにいる中で一番強い人と打ちたいんですけど」
A子「え、でも……」
淡「誰が二軍で一番強いの?」
A子「えーっと、一軍っていうのがつまりスタメンのことで、五人しかいないんだ。
だから二軍のトップっていうと、白糸台で六番目に強いってことなんだけど……」
淡「それでいいよ。誰ですか?」
A子「一応、私……ってことになるんだけど。一軍のいない間、部を任されてるから」
淡「じゃああなたでいいです」
A子「う、うん……じゃあ、ちょっとまってね。二軍からあと二人連れてくるから」タタタ
淡(白糸台の二軍は県代表クラス。なら、彼女らと打てば、自然とインハイのレベルも見えてくる)
淡(もし二軍でも私と渡り合えるくらいに強いなら、高校生の麻雀のレベルにも期待できる)
A子「お待たせ。連れてきたよ」
B子「その子? 二軍と打ちたいなんて言ってるの」
C子「生意気だよね。自信過剰っていうか」
A子「コラ、そんなこと言わないの。この二人は二軍の八位と九位。ごめんね、この二人、
一軍に入れそうにないから最近気が立ってて」
B子・C子「「うるさい」」
A子「じゃあ打とっか。手加減はしなくていいんだよね」
淡「はい。よろしくお願いします」
淡(――見せてよ。白糸台の実力)ゴッ
一週間後
昼休み
友「はぁ~……」
淡「どうしたの? 今朝からずっと溜息ついて」
友「うん、昨日さ、麻雀部の二回目の体験入部行ってみたんだけどさ」
淡「あ、そっか。昨日二回目あったんだっけ」
友「うん。大星さんは来てなかったけど、私一人で行って、打ってもらったんだ。
でも……予想外すぎたよ」
淡「……うん。ほんとにね」
淡(ほんとに予想外だった。インハイ二連覇を達成した白糸台の実力……見誤ってた)
淡(まさか……あんなに弱いなんて)
淡『ツモ。8000オール』
B子・C子『……』
A子『……トびです』ジャラ
淡『……』
A子『あ、あなた……何者なの?』
淡『……失礼します』ガタ
A子『ちょ、ちょっと待って! ね、ねえ! 次はいつくるの?
一週間後にまた体験入部があるから、そのときなら一軍の人が――!』
淡『来ません』
A子『え……?』
淡『もう……ここには来ません』
友「大星さんさ、麻雀部入るの?」
淡「……分かんない。入らないかも」
友「だよね……。私も昨日体験入部行ってそう思った。あんな人たちと打つなんて嫌だよね」
淡「うん。ちょっと弱すg――」
友「強すぎるよね、白糸台。手も足も出なかったよ」
淡「……………………誰と打ったの?」
友「三軍のD子先輩とE子先輩と、体験入部の子。三軍であれだけ強いなんて予想外すぎるよ」
淡「……そっか」
友「あ、私このあと用事あるんだった。ごめん、先に教室戻るね」
淡「うん」
友「じゃあね。三軍に負けた私が言うのもなんだけど、大星さんみたいな初心者は麻雀部
やめといた方がいいよ。
あそこはほんとに強い人しかいないから、きっとすぐつまんなくなって辞めちゃうよ」
淡「……うん。そうだね」
淡「……」
淡(……もういい。入部なんてやめとこう)
淡(結局私は一人ぼっちなんだ。誰も私の隣を歩いてくれない)
そうだ。星は二つ並ばない。誰もいない闇の中で、一人孤独に在るしかない。
もう麻雀なんてやめよう。これ以上孤独感を味わわされるのなんて……耐えられない。
淡「……イライラするのよ。あんたたちが弱いせいで」
淡「弱い奴なんて、皆いなくなっちゃえばいいのに」
あるいは……。
淡(私が……もっと弱くなればいいのかな。そうすれば、もっと麻雀を楽しめるのかな)
淡(教えて……誰か教えてよ。麻雀、楽しくないよ……)
二週間後
放課後
友「じゃあ大星さん、また明日」
淡「うん。また明日」
淡「ふう……HR長引いちゃったな」
あれから、私は一度も牌に触っていない。祖父に何度か誘われたが、体調が悪いと断り続けた。
もう弱い祖父の相手をするのはうんざりだった。プロ子は祖父に気を遣って本気で打ってくれないし、
妹子は話にならないくらい弱い。そもそも、私はもう麻雀なんて打ちたくなかった。
淡(何もやる気がおきない。なんか人生がつまんないよ。はぁ……)
ガラッ
菫「失礼します。大星淡さんはいますか?」
淡「? はい、大星は私だけど」
菫「君か。はじめまして。私は三年の弘世菫だ。よろしく」
淡「なにか用?」
菫「ああ、少し話がある。時間いいか?」
淡「いいけど……」
菫「よし、じゃあ歩きながら話そう。ついてきてくれ」
淡「……?」
廊下
淡「あの」
菫「ん、なんだ?」
淡「もしかして、麻雀部の一軍の人?」
菫「へえ、どうして分かった?」
淡「空気で分かるよ、そんなの」
菫「それはすごいな。A子が言ってた通り、かなりの逸材らしいな」
淡「A子?」
菫「一度目の体験入部のときに、A子と打ったんだろ?」
淡「ああ……」
淡(三人と打ったけど、誰がA子なんだろ。まあいっか)
淡「で、今私たちは麻雀部に向かってると?」
菫「そういうことになるな。今日、入部試験があるんだ。それを受けてもらわないと、
いくら強くても入部できないからな」
淡「あの。申し訳ないんですけど、私麻雀部に入る気ないんで」
菫「どうして?」
淡「そんなの……決まってるでしょ」
淡「弱いからだよ。あなたたちが」
菫「……」
淡「もううんざりなの、弱い人と打つの。体験入部の日、ここで六番目に強い人と打ちました。
――雑魚でした。あれで六位なんて、一軍の実力もお察しって感じだね」
菫「……」
淡「ここって全国で一番強い高校なんでしょ? その高校の六位があんなんじゃ、
インハイのレベルも高が知れてるよ。そりゃ私が出れば全国優勝なんて余裕だろうけど、
でも私はごめんです。迷惑なの。あなたたちなんかと打ったって、きっと……」
きっと、私の中の孤独感が増すだけだ。そして対局の後、対局者は私を怯えた目で見上げるんだ。
まるで、決して手の届かない、宇宙の果てに輝く星を見つめるような目で。
淡「だから、もう麻雀部になんて行かない。用がそれだけなら、私は帰ります」
菫「……可哀想に」
淡「……は?」
菫「君は常に上を目指すタイプの人間なんだな。負けず嫌いだけど、でも常に自分より
強い人間を求めてる。一緒に歩く仲間を欲しがってる。
でも君は今まで、そういう人間に出会えなかったんだな。本当に、不憫でならない」
淡「……そんなの、いるわけないじゃん。星を目指す人なんているわけないでしょ」
菫「いるさ。たとえ宇宙の果ての星だって。あるいは暗い海の底だって。そこに
挑もうする人間はいるんだ。何度打ちのめされても、必死に食らいついて、目標にして、
〝それを楽しいと思える人間〟は、必ずいるんだ」
淡「……」
菫「だからこそ、私は君に麻雀部に入ってほしい」
淡「……どうして?」
菫「簡単だ。――あそこには、宮永照がいるからだ」
淡「宮永、照」
菫「今日の入部試験は、あいつとの対局の結果で合否を出す。もちろん勝てとは言わない。
実力を見るだけだ」
淡「やめた方がいいよ。その人、ここのエースなんでしょ? そんな人に一年生が
勝っちゃったら、申し訳ないし」
菫「ははは」
淡「……何が可笑しいの?」イラ
菫「いや、すまない。まあ一度打ってみるといい」
淡「体験入部の日、そんな風に私のことを小馬鹿にして笑った人と打ったよ。
もう顔も覚えてないけど」
どうやらこの菫とか言う人は、私が宮永照に勝てるはずがないと思っているらしい。
淡(いいよ。面白いじゃん)ゴッ
淡(高校生チャンピオン? 一万人の頂点? 笑わせる。私はそんな頂よりももっと高い、
遥か宙の果てにいるんだ)
それに、ちょうどいい。高校生チャンピオンと打てば、それで全国の高校生のレベルは
つまびらかになる。今日宮永照を下し、彼女より上はいないんだと理解すれば、
私は今度こそ何の未練もなく麻雀なんてやめられる。
淡(――もう終わりにしてやる。何もかも)
菫「さあ、ついたぞ。入ってくれ」ガラ
淡「失礼します」
淡(――あれか。宮永照)
後ろ姿しか見えないけど、どうやら打っているらしい。
周りに人垣ができていて、誰も何も話さない。不気味なほどの静寂だった。
照「――ツモ。12000オール」
淡「……っ」ピク
新入生A「……と、トびです」
新入生B「私も……」
新入生C「わ、私もです……」
菫「ちょうど終わったみたいだな」
照「じゃあ結果を発表します」
照「A子さん」
新入生A「は、はい……」
照「三軍」
新入生A「は、はい。ありがとうございます! よかったぁ……」パァ
照「B子さん」
新入生B「はい」
照「二軍」
菫「お」
部員たち「!」ざわ・・・ざわ・・・
新入生B「あ、ありがとうございます! やったあ!」
照「二軍のF子。繰り下がりで三軍」
F子「はい……」
部員「F子ちゃん、ついに落ちちゃったか……」ヒソヒソ
部員「覚悟してたと思うよ。うちって実力主義だし」ヒソヒソ
部員「でも、あんなに頑張ってたのに……」ヒソヒソ
照「C子さん」
新入生C「は、はい……」
照「――申し訳ないけど、あなたの実力じゃうちではやっていけない。不合格」
新入生C「……っ! は……はい……」
菫「あまり気を落とさないでくれ。うちは秋にもまた入部試験をやるから、そのときにまた来てくれればいい」
新入生C「……いえ、私は、その…………もう、いいです。ごめんなさい……!」タタタ
菫「あっ……ふー」
淡(フン)
淡(そうよ。弱いやつは消えればいい。トばされるような雑魚が麻雀なんかするのが悪いのよ)ツカツカ
淡(それになに? 三人トび? アホらしい。どんだけ弱いのよ。ほんとイライラす…………え?)ピタ
一子「え、私?」
菫「ああ。この四人で打つ」
部員「!!」ざわ・・・ざわ・・・
部員「そんな、新入生一人に一軍三人なんて……」ヒソヒソ
部員「ひどい……可哀想だよ」ヒソヒソ
部員「でも待って。あの子、ひょっとしてこの前の……」ヒソヒソ
菫「それじゃあ、始めようか」
四人「よろしくお願いします」
淡(じゃあ、お手並み拝見といこうかな)ゴッ
東一局
淡「リーチ」
菫「早いな。まだ四巡目なのに」
淡「あなたたちが鈍いんだよ」
淡(四巡もあれば十分。私の星の引力が、有効牌を引き寄せる)
淡(どんなに強くても、宙に投げ出されれば所詮、人は無力。より大きな力に翻弄されるしかない)
淡(――さあ、引きずり込んでやる。宇宙の闇へ――!)ゴォォォォォ!
一子「うっ……!?」ゾクッ
菫「これは……」ゾクッ
菫(予想以上だ。まさかこれほどとは……)
淡「――ふふ」カチャ
淡「――ツモ。リーチ一発ツモ三暗刻ドラ3。4000,8000」
三人「……」ジャラ
淡「…………」イラ
淡(なんなの? あれだけ息巻いておいて、このザマ? 結局この人たちも口だけか)
淡(イライラするなぁ……)イラ
照「……」ゴッ‼
淡「……ッ!?」ピク
淡(え、後ろ――)バッ
淡「……?」
一子「……っ」ビク
菫「……来たか」ピク
淡(なに……今、なにかを見られた……?)
菫(さあ、ここからだぞ大星淡)
東三局
親:照
ドラ:2索
照「……」白
淡「……ッ」ギリ
淡(くそ、鳴けない……私が役牌を鳴けないなんて……)
淡(宮永照……あれからもう三回和了られてる。安手ばかりだったから気にならなかったけど、
こんなにあっさり三連続和了されるなんて、ここ数年なかった)
淡「チッ」カチャ
四五六244赤5⑨⑨⑨北北白 4
淡(六巡目なのに、まだこんな手。かろうじて得意の手になれる形は保ってるけど、
明らかに普段より引力の効果が弱い)
淡(いや、違う……。私の支配が弱まってるんじゃない。それを超える支配が、今この卓に
充溢してるんだ。私の星の引力すら振り払う、圧倒的な支配が)
淡(高校生チャンピオン……多少はやるみたいだけど、あんまり調子に乗らないでよね)ゴッ
照「……」カチャ
淡「……」カチャ
淡(よし。三枚目の北。これで聴牌。三暗刻に高めドラ2がつく。
ちょっと安いけど、まあいいか)カチャ
淡(いや……待てよ。ここで素直に聴牌を取れば切るのはドラの2索か赤5索)
淡(こんな牌を切らなきゃいけないって時点で、私の支配に綻びが出てる証拠だ。
いつもならドラを暗刻にして5索の単騎待ちになってたはず。なら、この場は私ではなく、
宮永照の支配下にあるってこと)
淡(だめだ。この牌は切れない……。だったら……)
淡「……」北
淡(これなら!)
照「ロン」
淡「え……?」
二二三三四四112233北 北
照「12000」
淡「そんな……!」ガタッ
淡(素直に切っていれば、私が宮永照の当たり牌を潰していた。くそ、裏目?
いや、これはそんなんじゃない。もっと別の……)
菫(彼女は自分の麻雀に絶対の自信があるようだな。だが同時に、自分の力を超える支配の
存在を受け入れるだけの賢さも持っている。変にプライドにこだわったりせず、時には
自分の麻雀を曲げることも厭わない。だから小さな違和感にもすぐ気付けるし、
臨機応変に立ちまわれる)
菫(だがその麻雀は既に照に『見抜かれている』。下手に賢しく立ち廻ろうとすると、
照の思う壺だ。さあ、どうする?)
淡(くっ……)
一子「……っ」カチャ
菫「……」カチャ
淡(一子って人は必死に食らいついていってる感じだけど、この菫って人は
勝とうとしてない。ただ私の力を測ってる)
淡(正直……宮永照一人だけに注意していればいいっていうのはありがたい。一気に叩いてやる)
1四四五五六六発発白白白中 中
淡(よし、いつもの私の手だ。そうこなくちゃ。1索を落として聴牌。ツモでも親被りで
宮永照に痛手を負わせられる)
照「……」ゴッ
淡「ッ!」ゾクッ
淡(なに…………風?)
淡(感じる……何か強い力……強い風を)
でも、有り得ない。だって私の引力が効いてるってことは、今ここは『宙の中』のはず。
宇宙に風なんて吹かない。なら、今ここは宙なんかじゃなく……。
淡(違う……ここはまだ、宮永照の支配下なんだ……!)
照「……」ゴォォォォォ!
淡(まずい、このひと和了る度に打点が高くなってる。次はきっと直撃なら私を
トばせる点でくる)
淡(このままじゃ次巡、私はきっと宮永照の当たり牌を掴まされる。
なら聴牌を崩して別の牌を切るしか……でも、まさかそれも『見抜かれてる』?)
淡(くそ、どうすれば……!)
菫「……」白
淡「――!」
淡(――これだ!)
淡「ポン!」カチャ
淡「……」白
菫(食い替え……? まあうちでは禁止していないが……なるほど、この子ももう照の力
を見破ったか。だが――)
淡(これで私が当たり牌を引くことも打つこともない。それにツモ巡も変わって、
宮永照の予定していた牌と違う牌があっちに流れる。私の聴牌も崩れないし、
次に引力を使って中か発を引けば……!)
菫(――それでも、照は止められないのさ)
照「……」カッ
照「……」ガシッ ギュルルルルル
淡(なっ……!)
淡(まずい。この感じ……やられる! そんな……ツモ巡をズラしたのに!?)
ドゴォ!
照「ツモ。8000オール」
淡「……ぁ……」
菫「トびだ」ジャラ
一子「……私も」ジャラ
淡「……私、は……」
淡(……残ってる……けど、数千点……たったこれだけ? この、私が……)
淡(星の引力をものともしない、圧倒的な場の支配)
淡(まるで牌そのものが宮永照にかしずいてるみたいな、凄い力を感じた)
淡(この人……別格だ)
部員「……」ざわ・・・ざわ・・・
部員「すごい、あの子……宮永先輩と打ってトばなかった!」ヒソヒソ
部員「一軍の二人ですらトんだのに」ヒソヒソ
菫(最後のあの食い替え……あれがなければ彼女が当たり牌を掴んでいた。
直撃は24000点。彼女はトんでいた)
菫(照の和了りこそ防げなかったが、彼女は自分のトびを回避したんだ)
菫(大星淡……私の想像以上だな)
菫「どうだ照、感想は」
照「感想はともかく、入部試験の結果を発表する」
淡「わ、私はまだ入部するとは――」
照「大星淡さん」
照「一軍」
部員「!!!」ざわ・・・!ざわ・・・!
部員「い、一軍!? 一年生が、白糸台の!?」
部員「え、ってことは、じゃあ……!」
照「一子」
一子「……はい」
照「繰り下がりで二軍」
一子「…………はぃ。今までありがとうございました」ペコリ
部員「そんな……一子さん……」
一子「いいの。実力が全てなんだから」
部員「……」
淡「……」
菫「よかったな大星さん。文句なしで合格だそうだ。よく打ったよ」
淡「文句なし……? よく打った……? こんな、首の皮一枚繋がっただけで?
……馬鹿にしないでよ」
菫「まさか。馬鹿になんてしてないさ。むしろ君の力に驚いてるくらいだ」
淡「でも――!」
菫「君だけだ」
淡「え?」
菫「今日照と打った人の中で、トばなかったのは君だけなのさ」
淡「は……」
淡「だ、だって、一人でもトんだらそこで終局でしょ?」
菫「ああ」
淡「じゃあ、じゃあなに? 今までこの人と打った人は全員、3人同時にトばされ
続けたっていうの? 私以外の全員が!?」
菫「そうだ。私と一子も含めて、君以外の全員が、同時にトばされた。照がつけた
記録によるとそうなってるな」
菫「君はそれを自分の力で回避したんだ。首の皮一枚だって十分さ」
淡「そんな……馬鹿な」
照「菫、私は少し外の空気を吸ってくる。後は任せてもいい?」ガタ
菫「ああ、お疲れ様」
照「それじゃあ。――それと、大星さん」
淡「な、なに?」
照「入部するなら、来週までに入部届けを持ってきて。それ以降は
受け付けられないから」ガラ ツカツカツカ
淡「…………ま」
淡「待って!」ガタ
屋上
淡「待って、宮永さん!」
照「何?」
淡「あなた……あなたは」
淡「どうして麻雀を続けてるの?」
照「……」
照「……どういう意味?」
淡「だって、あんなに強いなら、あなたとまともに戦える人なんているわけない!」
淡「現にインハイで二連覇してるんでしょ? だったら、もう周りは格下だらけじゃん!」
淡「そんなの……そんなの、絶対つまんないじゃん!!」
照「……」
淡「なのにどうしてあなたは麻雀を続けるの?」
照「……」
照「分からない」
淡「え?」
照「昔は、ただ強くなりたかった。私にも目標があった。でも今は……もう
なんのために麻雀を打ってるのかすら、思い出せない」
淡「だ、だったら」
照「でも多分……私には、麻雀しかないからだと思う」
淡「麻雀しか、ない?」
照「……そういうあなたはどうなの?」
淡「私?」
照「麻雀は好き?」
淡「……昔は好きだった。今は微妙」
照「私も」
淡「強い相手と戦いたいってずっと思ってた」
照「私も同じ」
淡「……全国には、あなたみたいな人が他にもいるの?」
照「私とやりあえる選手を二人知っている。長野に一人。鹿児島に一人」
淡「……私よりも、強いの?」
照「実際に打ってみればいい。そのためには部に入らないといけないけど」
淡「……ふふ」
淡「私……ずっと孤独感に苛まれてきた。強すぎて、誰とも近づくことはできないんだって」
照「……わかる。私も、たまに闇の中にいるような気分になる。誰もいない、寂しい世界に」
淡「一人じゃないよ」
照「?」
淡「私がいる。私が、あなたの傍にいます。私ならあなたと麻雀が打てる。一緒に歩いていける」
照「……そうだね」フッ
淡(そうだ。私はもう独りなんかじゃない)
やっと見つけたんだ。私と同じ所にいる人を。私と同じくらい……ううん、
それ以上に強くて、熱くて、大きくて……まるで太陽みたいに輝く人を。
近づけばその熱に焦がされて、誰も傍に寄ることすらできない。でも、私なら。
太陽の引力に引き寄せられて、どこまでも近づいていける。ずっと一緒に歩いていける。
星は二つ並ばない。でも、星は太陽の周りを廻り続ける。離れることなく、いつまでも。
淡「――これからよろしくお願いします。テル」
ようやく出会えた。
プロの世界にすら感じなかった、圧倒的な力。五年、十年。あるいはもっと先。
私が人生をかけて目指すに値する高み。私の――生涯の目標に。
照「よろしく。淡」
小さく笑った彼女の笑顔が眩しくて、まるで太陽の光みたいだと感じた。
その陽の光に照らされて、星はどこまでも輝き続ける――。
二ヶ月後
あれから、私は正式に白糸台高校麻雀部の部員になった。
入部と同時に一軍入りが確定していた私は、基本的に一軍のメンバーとしか麻雀を打たなかった。
二軍以下の実力は知っているし、興味もなかった。二軍以下は名前も覚えていない生徒がほとんどだ。
私の興味はただ一つ、テルだけだった。
照「――ロン。1000点」
淡「あ!」
菫「終局か。いつも通り、と言ってはあれだが、照のトップか」
淡「くっそー……今回はいけると思ったんだけどなー」
照「内容は悪くなかった。特にミスもなかったし、よく打ててたと思う」
淡「それって、単純に素の実力で負けてるって意味じゃん」
照「事実だから」
淡「ふーんだ。でもま、そうこなくっちゃね。私の目標なんだから」
照「でも、淡も強くなってきてる」
淡「あ、やっぱりそう思う? 私も、なんか最近すごい調子いいんだよねー」
菫「……」
菫(強くなってきてる、か)
菫(……確かに、この二カ月で大星は凄まじい成長を見せている。照の影響なのか本人の
やる気が今までと違うのか、とにかく入部当初とは比べ物にならないほど強くなった)
菫(今も半荘一局打って、照と大星の差は20000点。たった20000点しかない。もう東風
どころか半荘一局ですら、大星が照にトばされることはない)
菫(それどころか、照の支配に抗って逆に場を支配し返したり、照の連続和了を個人の支配
のみで止めるようになった)
菫(まるで一昨年の照を見ているようだ。もはや大星も照と同格……全国の怪物の一人だ)
菫(並の打ち手じゃないとは思ってたが、まさかこれほどとはな……)
淡「よーし、じゃあもう一局打とうテル!」
照「ああ。――あ、ごめん。そろそろ行かないと」
淡「え、帰っちゃうの?」
照「ああ。これから取材があるんだ。インハイが近いから、三連覇に向けての意気込みとか
いろいろインタビューしたいらしい」
淡「そんなぁ……」
照「また明日たくさん打てるから」
淡「……わかった。じゃあ私も帰る」
菫「……っ!」
照「いや、それは」
菫「何言ってるんだ大星」
菫「照はちゃんとした理由で早退するんだ。お前のそれはただのサボりだろう」
淡「だってテルがいないとつまんないんだもん。どうせ私がトップだし」
菫「っ……おい」
渋谷・亦野「……」
淡「あ、そうだ! ついでに私もテルと一緒にインタビュー受けるよ!」
照「え?」
淡「白糸台のナンバー2、最強の大型新人現る! みたいな。私って何気にインターミドルも
二連覇してるし、記者も喜ぶと思うんだよね」
菫「だめだ」
淡「む。なんでよ」
菫「何故もなにもないだろ。呼ばれてもいないのに取材を受けるなんて馬鹿な真似は
認めるわけにはいかない」
淡「じゃあ私はどうすればいいのよぉ」
菫「ここで麻雀を打つに決まってるだろ。大会までもう何日もないんだぞ」
淡「だから、テルがいない白糸台なんて意味ないんだって」
尭深・誠子・菫「……」
照「淡」
淡「はい」
照「こんなとこで怠けてるようじゃいつまでもたっても私には勝てないよ。大人しく練習に参加してて」
淡「……まあ、テルがそう言うなら」
照「それでいい。それじゃあ、私は行ってくるから」
淡「行ってらっしゃーい」
菫「……気をつけてな」
菫(……悪いな、照)
照「……」コク
ガララ、ピシャ
菫(大星の加入により、一軍の力は一ランク上昇したと言っていい。間違いなく、歴代の
白糸台メンバーの中で最強のチームだ)
菫(そういう意味では、私の先見は間違ってなかった。彼女ならきっとチームのエースとして
活躍できる日が来る)
菫(だが、一つ大きな誤算があった。それは、大星が照に入れ込みすぎて、
他の部員を全く顧みなくなったことだ)
菫(初めはみんな苦笑い混じりで許してくれていた。だが、もういい加減それも限界にきている)
菫(私もタイミングを見て何度か大星を注意した。だが大星は全く聞く耳を持たなかった)
菫(いや、というよりも、あいつは照以外の部員のことをカボチャか何か程度にしか思っていない)
菫(それは私たち一軍に対しても例外ではない。大星は照以外の部員との溝を、日毎に開け続けている)
菫「……」カチャ
淡「……」カチャ
菫(七巡目。大星は一向聴といったところか。それに安い)
菫(……明らかに遅い。照と打ってるときのこいつはもっと高い手を
四巡とかで作ったりする、高速高火力麻雀だ)
菫(それに……大星の支配が弱い。宇宙に引きずり込まれるようないつもの感覚がない)
菫(……手加減……いや、単純に〝本気じゃない〟のか)
菫「くっ……」カチャ
淡「……」カチャ
菫(張ったか。場を支配しなくても牌が自然とあいつのところへ集まってくる。
照以外でここまで牌に愛された奴を見るのは初めてだ)
尭深「……」カチャ
淡「ロン」
尭深「……ッ」
淡「8000」
尭深「……はい」
菫(強い……もう尭深や誠子じゃ相手にならない)
菫(――いや、私も、もう……)
淡「終わりだね」
菫「……そうだな」
尭深・誠子「……」
菫「半荘三回で全て淡がトップか」
菫(手を抜かれて、ここまで……)
淡「あーあ。つまんな」ボソ
淡「やっぱり私帰りますね」ガタ
菫「お、おい!」
淡「テルはああ言ってたけど、やっぱり意味ないですよ、あなたたちと打っても」
菫「大星!」
淡「何回打ってもどうせ私がトップですってば」
菫「そういう問題じゃ――!」
誠子「……いいじゃないですか。本人が帰りたいって言ってるんですし」
菫「お、おい誠子」
尭深「……私もそう思います」
菫「……」
淡「じゃ、そういうことで。お先にー」バタン
菫「……どういうつもりだお前たち。大会を目前に、チームがこんな状態でどうする」
尭深「チームに不和をもたらしてるの、どう考えても大星さんだと思います」
菫「しかし……」
尭深「大星さんが強いのは認めます。でも、いくらなんでも彼女の態度は酷いです」
誠子「入部してからずっとあんな感じだもんね。私たちだけじゃなくて、他の部員の子も
みんな大星さんと距離を置いてますよ」
菫「……」
誠子「大星さんを引き込んだのって先輩ですよね。できれば先輩になんとかしてほしいです」
菫「……わかった。大星には私から言っておく」
菫「だからお前たちももう少しだけ、大星のことを大目に見てやってくれないか」
菫「あいつは今まで、自分と対等に打てる奴がいなくて、私がここに誘ったときには麻雀を
辞めようとすら思っていたそうだ。そんなときに初めて自分以上の人間を見つけて、
あいつは今照に夢中で周りが見えてないだけなんだ」
尭深・誠子「……」
菫「きっといつか大星とも楽しく打てる日が来ると思う。だから……頼む」ペコ
尭深「や、やめてください先輩。顔上げてください」
誠子「まあ大星さんのことはまだ正直微妙だけど、同じ一軍のメンバーですからね」
菫「……すまない。ありがとう、二人とも」
菫(だが、大星が素直に言うことを聞くとは思えない)
菫(……大星に勝つしかない。そうすれば、きっとあいつも私の言うことを聞いてくれるはずだ)
菫「なんだと……!」
淡「いいよ。そこまで言うなら、テルと過ごしたっていうその実力見せてよ。
ただし、私が勝ったら今後は私の好きにさせてもらうからね」
菫「……望むところだ。――おい、誰か二軍で手の空いてる者はいないか?」
部員「……」サッ
菫(みんな一斉に目線を逸らした……。皆大星を怖がってるんだ。このままじゃ大星は本当に……)
菫「……一子、A子。卓に入ってくれ」
一子・A子「……!」ビクッ
A子「わ、私、ですか……」
一子「……」
菫「……頼む」
菫(半端な奴を入れたんじゃすぐトばされて終わるだけだ)
菫(だがこの二人でも大星が相手では正直力不足は否めない。いや、大星が言うように、
こいつと互角に戦えるのはもう、うちの部では照しかいない)
菫「……始めるぞ」
菫(ここで大星を倒す。倒してみせる……!)
淡「今頃リーチ? 菫、遅すぎるよ」
菫「なに……?」
淡「私の手の速さ知ってるでしょ? 私はとっくに聴牌してたんだよ。あなたたちがノロマだから
暇つぶしに打点を上げてたの。なのにリーチするなんて、打ち落としてくださいと言ってるようなものじゃん」
菫「なにを――」
淡「ポン」
菫「……!」
菫(ツモ巡が変わった?)
淡「さ、ツモってよ菫。それが当たり牌だから」
菫「……」
菫(そんな、馬鹿な……)カチャ
菫「……」カチャ 赤5
淡「……」ニヤッ
淡「ロン」
2223346北北北 南南南
淡「ダブ南混一色ドラ4。16000」
菫「な――!」ゾワッ
淡「あと二巡で南はツモれてたから三暗刻もつけれたけど、まあこのくらいにしといてあげる」
菫「……」ガクッ
ガラ
照「ごめん、遅れた」
部員たち「あ。お疲れ様です!」
菫「照――」
淡「テル!」パァ
淡「もう、遅いよテル!」ガタ
菫「お、おい大星! まだ対局中だぞ。席を立つな」
照「ごめん。進路相談が思ったより長引いて――ん? 尭深と誠子はどうしたの?」
菫「あ、ああ。二人は今日は休みで――」
淡「そんなことどうでもいいじゃんテル。さ、早く打とうよ!」
ガシャン、ジャラジャラ
菫「な――!?」
一子・A子「!」
菫「お前、山を崩して……何やってる! まだ対局は終わってないだろ!」
淡「え? ああ、もうこんな対局どうでもいいじゃん。どうせ私の勝ちだよ」
菫「な……」
淡「それより、早く誰か抜けてよ。テルが座れないじゃん」
菫「……大、星……お前……」
菫(どうでも、いい?)
菫(私は……お前を更生させたくて。この一局、私なりに一生懸命、全力で打ったんだ)
菫(なのに……)
A子「あ、あの。私抜けます」
一子「あ、ちょ、ちょっと待って。私が……!」
菫「……」
淡「さ。早く打とうテル。今日は半荘二回で30000点以内に収めてみせるからねー!」
照「ああ。がんばれ」
菫「照……」
菫(どうして何も言わないんだ照。お前は大星のやり方を認めるというのか?)
菫(今はいい。お前がいる内は大星も大人しくするだろう。だが来年はどうする)
菫(私とお前がいなくなったら、大星は完全に孤立するぞ。今度こそ本当に、大星は
一人ぼっちになってしまう。お前はそれでもいいって言うのか、照)
照「……」
淡「今日はとことんまで付き合ってよねテル」
照「ああ……うん。そうだね」
菫(……照!)
照「……」
淡「え」
234567③④⑤西西一一
照「1000点」
淡「……!」ゾクッ
淡(まただ……私が待ちを変えたらそこを狙い撃ちにされる。かといって素直に打っても、
そのときに限ってそれが狙われたりする)
淡(読まれてるんだ。私の打ち方そのものを……!)
淡(すごい……この人は本当にすごい。マグレとか運がいいとか、そんな偶然すらも蹴散らす、圧倒的な力。本物だ……)
淡(すごいよ、かっこいいよテル。私の同類……私の目標!)ドクン
淡(楽しい。麻雀が楽しい。さっきまであんなにつまらなかった麻雀が、まるで別の遊びみたいに思える)
淡(テルだけだ……テルと打ってるときだけは、私は心から麻雀が楽しいと思える)
淡(テル、あなたに出会えて本当によかった)
淡「――よっしツモ! 4000,8000!」
菫「お」
照(……和了られた。三連続和了で終わりか)
一子「……うぅ。わ、割れました」
淡「うはっ、テルの親のときに倍満和了っちゃった! ちょっと見てよこの点差。
半荘一局打ってたった12000点差だよ」
照「ああ。上出来だ」
淡「あは。もっと褒めてテル!」
菫「……」
菫(本当に凄い。照と一試合打っても25000点離されない計算だ。去年の全国大会ですら
そんな僅差で照に迫った選手はほとんどいなかった)
淡「さっ、今の感じを忘れない内にもう一局いこう!」
菫「いや、今日はここまでだ。もう練習終了時刻だ」
淡「え? ……うわ、もうこんな時間。あーあ。テルと打ってると時間が過ぎるの早いなぁ」
照「また明日打とう、淡」
一子(やっと終わった……)ホッ
菫「……照。このあと少し残れるか?」
照「? いいけど」
菫「そうか、よかった。大会の件でちょっとな」
照「……」ピク
淡「それなら私も一緒に残るよテル!」
菫「いや、大星は……」
照「淡は今日は帰って」
淡「えー、なんで」
照「淡にちょっとしたサプライズを考えてて、そのことについて話すの。
淡がいたら意味がないから」
淡「サプライズ? それってもしかして、大会では私が大将! とか?」
照「――まあ、そんなところかな」
菫「!」
部員「!?」ざわ・・・ざわ・・・
部員「い、一年生が大将……!?」
淡「ほんと!? 大将って、去年までのテルと同じポジションだよね?」
照「ああ」
淡「やった! 私、テルの後継者だ!」
照「だから白糸台の大将に相応しくなるために、帰ってどうして今日勝てなかったのか考えて」
淡「はーい。じゃあ、お先に失礼しまーす!」ルンルン
菫「……本気か?」
照「顧問にももう話してある。実力的にも、有り得ない話じゃない」
菫「……まあ、お前がそう言うなら私は構わないが」
菫(やはり照は、私たちよりも大星の力を買ってるのか……?)
部員「それじゃあ、お先に失礼します」
菫「ああ、戸締りは任せてくれ」
部員「はい。お疲れ様でした」ガラ
菫「――これで全員帰ったか」
照「それで、何の用?」
菫「大星のことだ」
照「……うん」
菫「正直なところ、大星のことどう思ってる?」
照「強いと思う」
菫「そうじゃない。あいつの日頃の態度のことだ」
照「……あまりよくはないと思う」
菫「なら、なぜ大星に何も言わない。エースのお前が放置してるのは良くないだろ」
照「……」
菫「……まさかとは思うが、慕ってくれてるから甘やかしてる、とかじゃないだろうな?」
照「そういうわけじゃない」
菫「なら何故だ。このままじゃ、大星は完全に部で孤立してしまうぞ。
いや、もう孤立してると言ってもいいぐらいに、部員との仲は険悪だ」
照「……」
菫「……本当は、お前の力を借りずにあいつを更生させたかった。だが、駄目だった。
私の力不足だ。もうあいつはお前の言葉でしか動かない。頼む、照。あいつに一言いってやってくれ」
照「……それだと」
菫「ん?」
照「それだと、淡は弱くなる」
菫「なに……?」
照「淡は孤高だから強いんだ。孤独こそが淡の力の源泉なんだ」
菫「な……」
照「淡のことを考えるなら、淡は部員と仲良くなんてなるべきじゃない」
菫「照……お前、まさか……」
菫「大星を、わざを部員と衝突させるように誘導してるっていうのか……?」
照「……」
菫「どうなんだ!!」
照「淡が部員たちにどういう態度を取るのかは、あくまであの子次第。私には関係ない」
菫「お前――!」
菫「強くなれるなら孤独になってもいいって……大星がそう望んでると本気で思ってるのか!?
照魔鏡でなんでも見抜いたつもりになってるんじゃないだろうな!?」
照「部員と仲良くしたいなら淡はあんな態度はとってない。あれがあの子の答えじゃないの?」
菫「違う!」
菫「大星は友達が欲しかったんだ! 一緒に楽しく麻雀を打てる仲間が!」
菫「初めてあいつを見た時、私は大星にお前と同じ匂いを感じた。だからこそ、私は大星をここに誘ったんだ。
お前が私たちと仲間になれたように、きっと大星も私たちとやっていけるって」
照「無理だよ」
菫「なんだと?」
照「淡は強すぎる。並の打ち手じゃ、あの子の隣に並ぶことすらできない」
菫「……隣に並べなければ仲間じゃないとでも言いたいのか?」
照「少なくとも、それは淡の求めてる仲間じゃない」
菫「……」
照「ただ一緒に麻雀を打って、一緒に帰ったり、一緒に笑い合ったり、それだけの友達
が欲しいなら、
淡にもできるかもね。でも、淡はそんな友達なんて求めてない」
照「私が淡に言い聞かせて、部員と仲良くなるように命令すればあの子はしてくれると思う。
でもそれで淡が楽しめると思う? 誰と打っても簡単に勝てる麻雀を打ち続けて、相手に
気を遣って手加減したりして、……そんなことをしても、きっと淡はこう感じるはず」
照「『ああ、やっぱり私はこの子たちとは違うんだ。分かりあったりできないんだ』って。
打てば打つほどに、淡は今以上の孤独を感じることになる」
菫「……お前も、そうなのか?」
照「?」
菫「お前も、今まで私たちと打ってきて、そう感じていたのか?」
照「私のことじゃない。――でも、そう感じていた子を知ってる」
菫「? 誰のことだ?」
照「…………その子は」
照「あまりにも強すぎて、周りに自分と同じレベルで麻雀を打てる人がいなかった」
照「普通に打てば簡単に勝ってしまう。そうすると一緒に打っていた人たちは不機嫌になって、
その子に八つ当たりしたりしていた。でもわざと負けても、手加減してるとバレて叱られた」
照「だからその子は、勝ちも負けもしないような麻雀しか打たなくなった」
照「誰と打っても、何度打っても、全てプラマイゼロ。自分の勝ちを捨ててその子の
プラマイゼロを防ごうとしても、結局プラマイゼロで終局してしまう」
照「わかる、菫? 強すぎる人間が格下に合わせようとすると、そんな歪な麻雀が
生まれてしまうんだ。淡はあの子と同じ次元の打ち手だ。私はもう二度と……あんな風に
麻雀が歪んでいくところなんて見たくない」
菫「……だから、大星は孤独であるべきだと言うのか」
照「そう。淡は下を見るべきじゃない。どんなに互いが歩み寄ろうとしても、部員達と淡が
分かりあうことはない。どんなに手を伸ばしても星に手が届かないのと同じように」
菫「……」
照「だったら、淡は上を目指し続けるべきだ。そうすれば、ちゃんとした目標がある限り
あの子はどこまでも強くなれる」
菫「……照」
菫「お前の考えは分かった。だがお前には白糸台麻雀部のエースとして、先輩として、
それに見合った態度を取ってほしい」
照「分かった。これからは私からも言っておく。でも、無理に淡と部員を仲良くさせようとは思わない」
菫「……なあ照。大星がお前にとってどういう存在なのかは、私にはわからない。
本当に強い者同士でしか分からないもの、見えないものもあるんだろう。私ではその
領域に踏み込むには力不足なんだろう」
菫「だがな。私にとって、大星は可愛い後輩なんだ。強すぎるせいでお前に縋るしかない
あいつのことを不憫に思うし、大星の孤独を埋めてやれない私自身を恥ずかしく思う」
菫「お前がなんと言おうと、私は大星に部の皆と仲良くなってほしい。一緒に上を目指す
仲間になってほしい。それが麻雀部としてあるべき姿だと信じてる」
照「……」
菫「……話はそれだけだ。付き合わせてすまなかった」
照「構わない。じゃあ、私は帰る」
菫「ああ」
照「……」ガラ
菫「――照」
照「……?」ピタ
菫「最後に一つだけ訊いてもいいか?」
照「なに?」
菫「お前も大星と同じで……私たちと打っても、楽しくないのか?」
照「……」
菫「私たちはお前のことを大切な仲間だと思ってる。確かに、力の差があり過ぎて、たまに
お前が怖くなるときがある。でも、それでも私はお前と打っていて楽しいぞ。
だがお前は……私と打っても楽しくないのか? 孤独を感じるのか?」
照「……」
菫「応えてくれ、照。頼む」
照「……」
照「楽しくない」
菫「っ……」
照「でもそれは、菫のせいじゃない」
菫「?」
照「私は……」
照「私は、麻雀……好きじゃないんだ」
菫「麻雀を、好きじゃない?」
照「ああ」
菫「ならお前は、なんのために麻雀を打ってるんだ」
照「……」
照「……帰る」
菫「お、おい、照!」
ガラ、ピシャ
菫「照……」
菫「……私が間違ってるのか?」
菫「皆で楽しく麻雀を打ちたいって……そう思う私は間違ってるのか?」
菫「教えてくれ、照……大星」
二日後
昼休み
淡「あー、やっとお昼だ」
淡「友ちゃん、一緒にお昼食べよ」
友「あ、う、うん……」
友「あ、あの、ごめん大星さん……私、今日もちょっと……」
淡「……そっか」
友「う、うん。本当にごめんね。そ、それじゃ」タタタ
淡「……」
淡(私が白糸台の一軍に入ってから、あの子とも気まずくなっちゃったな)
淡(私のこと初心者とか言ってたのまだ気にしてるのかな。結局麻雀部にも入らなかったみたいだし)
淡(――ま、いっか。私にはテルがいるんだ。普通の友達なんていらないし)
淡(早く部活に行きたい……テルに会いたい)
ガラ
菫「大星、いるか」
淡「? 菫?」
菫「話がある。麻雀部に関することだ」
淡(あ、大将の話だ!)
淡「はーい、すぐ行きまーす!」ウキウキ
屋上
淡「菫、大将の件どうなったの?」
菫「ああ、さっき顧問とも話してきた。次の大会の大将はお前だ、大星」
淡「やったー! テルと同じポジション!」
菫「……それで、だ。大星」
淡「? まだなにかあるの?」
菫「お前の、日頃の態度についてだ」
菫「……大星。お前ももう高校生だろ。子供じゃないんだ。自分の発言が他人を不快にさせていることに気付け」
淡「私が勝ったら好きにさせてくれるって約束したくせに。先輩なら約束守ってよね」
菫「……あのな、大星」
菫「お前の気持ちは分かる。お前にとって照は初めて出会えた自分の同類なんだろう。
お前が照に入れ込んでるのもわかる。でもな、だからって他の部員のことを蔑ろに
していい理由にはならない。そうだろ」
淡「うるさいなぁ。文句があるなら私より強くなってから言ってよ」
菫「っ……大星!」
淡「それに、心配しなくても来年には私退部してるし、来年からはまた普通の白糸台に戻れるよ」
菫「――――」
菫「――――ぇ」
菫「な……ん、だと?」
淡「なにって、退部だよ。麻雀部を辞めるの」
菫「ど、どうして」
淡「だって、来年にはテル卒業しちゃうじゃん。なら麻雀部なんている意味ないし」
菫「……」
淡「ああ、でも麻雀は続けるよ。おじいちゃんに頼んで家にプロを呼んでもらって、
本格的に稽古をつけてもらうんだ。
テルは卒業したら大学にいくのかな? まああれだけ強ければ即プロ入りもあるだろうけど。
とにかく私も卒業したらテルと同じ道に進むの。クラブ活動なんかで遊んでる暇ないし」
菫「――大星」
淡「ああでも、テルと同じ大学に入ってインカレ四連覇ってのもありかなー。――ん?」
パシンッ!
淡「あぅ――ッ!」ドサ
菫「白糸台を……いや。全国の雀士を舐めるのも大概にしろ!!」
淡「……」
菫「白糸台の一軍になりたくて、でもなれなくて……三年間毎日毎日何時間も必死に
麻雀を打って、青春を捧げて、それでも一度も大会に出ることなく卒業する部員が、
いったいどれだけいると思ってる」
菫「一子だってそうだ。あいつは今年卒業で、三年になってやっと一軍入りして大会に
出られるって喜んでたんだ。だがお前が入部して、繰り下がりで二軍落ち……団体戦で
大会に出る夢はもう叶わない」
菫「だがそれでもあいつが文句一つ言わなかったのは、お前が……お前なら白糸台を優勝
に導く一人になってくれると信じたからだろ。全国優勝の夢をお前に託したからだろ!」
菫「お前はそういう……他の部員の夢や、期待や、想いを受け継いで、あるいは蹴落として。
白糸台の一軍の座を勝ち取ったんだ。そんなお前が……照がいないから部を辞めるだと?
ふざけるな……ふざけるなよ……馬鹿みたいじゃないか」
菫「お前みたいなやつがいてくれるなら、私や照が卒業しても大丈夫だって……
お前になら白糸台を任せられるって、そう思ってた私が……馬鹿みたいじゃないかぁ!」
淡「知ったことじゃないよ、そんなの」
菫「!?」
淡「あなたたちが勝手に私に期待して、勝手に失望した。それだけじゃん。
私があなたたちに勝手に期待して、勝手に失望したのと同じことだよ」
菫「……私たちの実力では、そんなに不足か。部にいることすら耐えられないほどに」
淡「はい」
淡「いつもあれだけ言ってあげてるのに、まだ気づいてなかったの?
あなたたち、本当に弱いよ。相手にならない」
菫「……」
淡「そんなあなたたちでも、全国ではそれなりに上位の選手なんでしょ? だから私は、
全国にも期待してない。だから全国優勝にも興味ない。
全国なんて、テルが行くっていうからついていってるようなものだもん」
淡「まあ、テルの強さを三連覇っていう完璧な形で歴史に残したいっていう気持ちはあるけどね。
そういう意味では、全国優勝には意味があるかも。でも、それだけだよ」
淡「だいたい、夢を受け継いだ? 笑わせないでよ。私は別に、一子の想いを
継いだから一軍にいるわけじゃない。――強いから。私は強いから一軍なの。
そして一子は弱いから二軍になった。それだけじゃん」
菫「……」
淡「そこに勝手に感情論を持ちこんで美的解釈しないで。麻雀部も、ただの部活でしょ?
つまんないから辞めるの。――話はそれだけ? なら帰るね」
菫「お前は……一緒に麻雀を楽しめる仲間が欲しくて、麻雀部に入ったんじゃないのか」
淡「違うよ」
淡「今なら、私がなんのために今まで麻雀を打ってきたのかわかる。私は
テルに出会うために、麻雀を続けてきたんだ」
淡「テルも同じだよ。私はずっと、どうしてあんなに強い人がこんなお遊びみたいな麻雀部で
腐らずに続けてこれたのか不思議だった。でも、きっとテルも私に出会うために今まで
部に残ってたんだ」
菫「違う」
淡「違わない。私たちが出会うためだけに、白糸台麻雀部はあったの。そして私たちは出会った。
まるで星と太陽が引力で引かれ合うみたいに。――ふふ、なんだかロマンチック」
菫「……」
淡「まあ、心配しなくても全国優勝はしてあげるから。テルが卒業するまでは部にもいてあげる。
でもその後は私の好きにさせてもらうから」
ガチャ、バタン
菫「……」ギリ
菫(もう、だめだ。大星はもう、何を言っても無駄だ)
菫(もう私では大星を止められない。諌めてやることすらできない。照も大星を放任してる……)
菫(誰かがあいつに勝つしか……全国で誰かが大星に勝てば、きっとあいつの考えも変わる)
菫(だが全国にすら、大星と渡り合える選手なんて何人いるか……)
菫(それに、大将の大星が負けるということは同時に、白糸台の敗北も意味する。それは……だめだ)
菫(大星が改心するためには、誰かが勝っても負けてもだめなんだ)
菫(勝ちもせず、負けもせず、それでも大星に負けを認めさせられるような選手……そんなの、いるわけない)
菫(くそっ……!)
一ヶ月後
菫「県予選突破、まずは御苦労だった。皆全国大会までの間、気を緩めることなく今の状態を
維持してくれ」
渋谷・亦野「はい」
照「……」コク
淡「……」ボー
菫「……大星、聞いてるのか?」
淡「え? ああ、聞いてるよ。それより、全国ではなるべく私に回る前に他家をトばしてくれません?」
菫「お前が予選で打ったのは決勝だけだろ」
淡「あの程度の相手に大将まで回ってくるのがまずおかしいんだよ。四人もいればどっかで
トばせるでしょ。わざわざ私の手を煩わせないでくださいよ」
菫・亦野・渋谷「……」
照「それは悪かった。私がもっと先鋒で点を取っていればよかったな」
淡「そんな! 違うよ。決勝でテルが何万点毟ったと思ってるの!
問題なのは風前の灯だった他家を三人がかりでトばせなかった後の人達だってば!」
菫「……とにかく、立ち上がりとしては悪くない。全国では大星まで回る回数も増えるだろう。
油断だけはするなよ、大星」
淡「……」シーン
菫「……」ハァ
淡「そうだ。他の県の結果も出たんだよね? どうなったんですか?」
菫「ん、ああ。だいたい予想通りといったところだな。千里山、臨海、永水、そして
うちがシード校になるだろう。他もだいたい予想通りだ」
淡(永水……テルの言ってた、テルとやりあえる二人のうちの一人、神代がいる高校か。私は大将だから先鋒にくるだろう神代とは当たらない。ちぇ)
淡(でももう一人……龍門渕の天江衣。彼女は大将、私と当たる。実はちょっとだけ
期待してるんだよね。テルのお墨付きなら、期待はずれにはならないだろうし)
淡「龍門渕は勝ったんですよね?」
菫「龍門渕は――ん? いや、来てない……? 予選で負けたようだ」
淡「は!?」ガタッ
淡「負けた? 龍門渕が? え、大将まで回らなかったの?」
菫「ちょっと待て、いま調べる」ペラペラ
菫「……いや、回ってるな。他校とさほど差はない状態で回ってきたらしい」
淡「はあああああ!? なにそれ、じゃあ単純に実力で負けたってこと!?」
菫「まあ、そういうことなんだろうな。龍門渕がどうかしたのか、大星」
淡「……」ガックリ
淡(なにそれ……いい加減にしてよ……どんだけ私の期待を裏切れば気が済むのよ)
淡「……で、どこに負けたの?」
菫「長野代表は……清澄……?」
淡「清澄? どこそれ」
菫「私も聞いたことがない。無名校だろう」
淡「無名校?」イラッ
淡(テルに認められたくせに、そんなどこの馬の骨とも分からないような高校に負けるなんて、
テルの顔に泥を塗るつもり? イライラするなぁ……)イライラ
淡「清澄の大将って誰?」
菫「えーっと……清澄、清澄……あった、これだ」ペラペラ
菫「大将――え?」
淡「? どうしたの?」
菫「……大将……宮永、咲……?」
照「――ッ!」ピクッ
淡「宮永?」チラッ
誠子・尭深「……」チラッ
菫「……照、お前の……妹さんか?」
照「……違う」
照「私に妹なんていない」
菫「……そうか」
淡(……ふーん?)
自宅
淡「……」ジー
淡「……弱いじゃん、龍門渕。っていうか全部。長野レベル低いなー」
淡「風越の先鋒と清澄の中堅はまあまあだけど、他が弱すぎる。原村和も
期待してたほどじゃないな。インターミドル優勝したらしいけど、ま、所詮は
私のいないインターミドルでだしね」
淡「さってと。退屈な副将までが終わったし、やっと大将戦だよ」ピッ
淡「……」ジー
淡「……」ジー
抽選日
ざわ・・・ざわ・・・
菫「トーナメント表の抽選日だ。まずはうちがどこと当たるのか、しっかりとチェック
しておくんだぞ」
渋谷・亦野「はい」
菫「……それにしても、意外だな。大星は今日来ないかもしれないと思ってたんだが」
淡「トーナメント表は私も興味あるからね」
菫(大星が最近やる気だ……嬉しいことだ)
淡「ふぁ~あ」
淡(退屈ぅ……どうでもいいよ、シード校にもなれなかった雑魚のことなんて。それより……)
『続きまして、清澄高校』
淡「お。やーっときた」
菫「なんだ。清澄を注目してるのか?」
淡「まあね」
『清澄高校――』
淡「……同じ側か。清澄と当たるのは準決勝か」
菫「清澄とうちが勝ち抜ければ、決勝でも当たる可能性はあるぞ」
淡「それはないよ」
菫「? なぜだ」
淡「清澄の大将は……」
淡「私が、潰すから」ゴッ
菫「……」ゾクッ
菫(本気だ……本気の大星だ)
菫(負けるわけがない。こんな怪物が……)
※ストーリーの展開上、抽選はこっちの都合にさせてください。
白糸台と臨海が入れ替わったと思ってください。
数日後
淡「さーて、準決勝か」
あれから、白糸台は当然のように勝ち進んでいった。私は準決勝まで一度も卓につくことなく、
全て副将まででどこかがトんで終わった。テルが殺し損ねた死に損ないに他の三人が
止めを刺すような形が常だったけど、私としてもまあ文句はない。
そして準決勝の日が訪れた。この日、白糸台は清澄高校と対決する。
菫「永水が敗退とはな。番狂わせもあったものだ」
淡(神代も期待はずれだった。最後にちょっといい感じの雰囲気になってたけど、アベレージは普通だったし)
照「……」
淡(それより……テルの様子が少しいつもと違う。普段よりももっと静かだ)
照「――じゃあ、行ってくる」
淡「行ってらっしゃい、テル」
菫「頼んだぞ、照」
照「……」コクン
淡「――あ、そうだ。テル!」
照「?」ピタ
淡「できれば今日は軽く流す感じでやってくれない? 私清澄の大将と打ちたいんだ。
テルが本気だしたらどっかトんじゃいそうだし」
照「……」
菫「馬鹿なこと言うな。照、いつも通り打ってこい」
照「分かってる」
淡「ほんと心配性だなぁ皆。私までに100点残してくれればそれで大丈夫だよ」
照「……」
淡「? どうしたの、テル」
照「……淡」
照「――侮ると負けるよ」
淡「――え?」
照「……」バタン
淡「……負ける? 私が……?」
菫「照の言う通りだぞ大星。どんな相手でも油断するなよ」
淡(……テルは私の強さを知ってる。その上で、私が清澄の大将に負けるかもしれないって言うの?)
菫「無論、私たちも手加減するつもりはない。最悪――いや、最悪ではないが、お前に
回さずにトばせるなら、そうするつもりだからな」
淡(テルが認めた二人、神代と天江衣。清澄はそのどちらにも勝ってる。それは偶然なんかじゃなく、実力通りの結果だったってこと?)
菫「お前はその日の気分で手を抜いたり全力でいったりムラがありすぎる。ただでさえ
お前はまだ全国で打ってないんだ。万が一ってことも……」
淡(咲……宮永咲。やっぱりなにかあるんだ、テルと)
菫「……大星、聞いてるのか?」
淡「菫、清澄の大将って宮永だよね? これ、本当にテルと無関係なの?」
菫「……さあ。私にもなんとも言えない。ただ、照に妹がいるという話は聞いた。
普段あいつは否定してるが、昔、ポロっとな」
淡「ふーん」
淡(妹……テルの妹、か)
淡(――面白そうじゃん)ゴッ
数時間後
実況『さあ、Bブロック準決勝も残すところこの副将戦の南場と、大将戦のみとなりました』
実況『先鋒で宮永選手が広げた大量リードを守る白糸台。しかし中堅戦で清澄と姫松に
大量失点を許してしまいました』
実況『続く副将戦、原村和のめざましい活躍により清澄が白糸台に猛追を仕掛けています。
両校の点差は20000点にまで縮まりました。白糸台はこのリードを守りきって
大将に繋ぐことができるのか。そして現在一人沈み状態の有珠山はここから
追い上げることができるのか』
淡「――あんなこと言われてるけど?」イライラ
尭深・菫「……」
淡「尭深……あなた中堅戦で何万点取られたか分かってる?」
渋谷「……」
菫「やめろ大星。個人のミスはチームのミスだ。それが団体戦だろ」
淡「は? で、個人の手柄もチームの手柄ってわけ? 今までそうやってテルの手柄を
自分のものみたいに語ってきたんだ」
菫「……っ」
淡「だいたい菫、あなたもマイナスだったよね。で、誠子もマイナス。……あほらし。
ていうか、なんか菫の試合でなにがあったのかよく覚えてないんだけど」
淡(そういえば、なんか次鋒戦はいつのまにか終わってたな)
菫「姫松と清澄の中堅は強敵だった。尭深には少し荷が重い相手だったんだ」
淡「誠子も苦戦してるっぽいね」
菫「確かに、清澄に追い上げられてるな。だが一位で大星に回すことはできるだろう」
淡「当たり前じゃん。テルが何万点取ったと思ってんの。これで逆転なんかされたら、
もう軽蔑だよ、軽蔑。もう絶対敬語使わないから」
渋谷「……」
照「淡」
淡「ん、なぁに、テル」
照「そろそろ淡の番。準備して」
淡「準備なんていらないよ。ふつーに打てば勝てるってば」
照「淡」
照「――言うことを聞け」
淡「――っ」
菫「……!」
菫(照が大星を嗜めた……?)
淡「……テル。本気で思ってるんだね、私が負けるかもしれないって」
照「ああ」
淡「……ふーん」
菫「……」
菫「大星、誰であれ油断は禁物だ。照が言いたいのはそういう――」
淡「黙ってて」
淡「……いいよ」
淡「じゃあテル、賭けない?」
淡「あーおっかしー……こんなに笑ったの久しぶり。なんだかんだで、テルも勝算のない勝負はできないか。
でもこれじゃあ賭けにならないよ。私もテルも、どっちも私の勝ちに賭けちゃったら、ねえ?」
菫「当たり前だ。だから賭けなんてのはもう――」
淡「はいはい、分かってるよ。この話は終わり。いいよね、テル?」
照「……」
淡「……テル?」
照「――なに言ってる。私がいつ淡の勝ちに賭けたの?」
淡・菫「え?」
照「私は『白糸台が一位通過する』と言ったんだ。『淡が勝つ』とは言っていない」
菫「ど、どういうことだ?」
照「私は――『宮永咲が勝つ』に賭ける」
渋谷・菫「……!?」
淡「……ふーん……? 一位通過するのは白糸台。でも勝つのは清澄の大将。そう言いたいんだね?」
照「そうだ」
菫「得失点差で大星が負ける、ということか?」
淡「ちがうよ菫。見て、あの誠子の無様な対局を。もう清澄と白糸台の点差はほぼ
無いに等しい。白糸台が勝つなら、最低でも私は1万点ビハインドくらいにしかならない。
まあ、別に私が清澄に得失点で100点でもマイナスになったら負け、っていう
条件でもいいけど、テルが言ってるのはそういうことじゃないよね?」
照「ああ」
照「打ってみればいい。淡の実力なら、それでどっちが勝者か判断がつく」
淡「最高に面白いよテル。あなたと打ってるときでも、こんなに武者震いはしなかった」
淡「ペナルティは後払いでいい? とびきりすごいの考えとくから、覚悟しといてね」
照「ああ」
実況『副将戦終了――! 清澄、怒涛の追い上げにより、ついに白糸台を射程圏内に
収めた――!』
淡「ちょうど終わったね。じゃあ、行ってきます」ガタ
バタン
菫「……照、どういうことなんだ? 白糸台が勝つのに、淡が負けるって……」
照「……」
照「点数で勝ったからといって、それが必ずしも勝利を意味するわけじゃない」
菫「……」
照『――強すぎる相手が格下にあわせようとすると――』
菫(照が言ってたのは……まさか……)
廊下
淡「……くそ」イライラ
イライラする。イライラする。イライラする――!
淡「私が負けるって? そんなわけない。私とテルが高校生最強なんだ。そこに
他人が割り込んでくるなんて、ありえない――!」
淡(清澄……潰してやる。もう麻雀が打てなくなるくらいにボコボコにしてやる……! 今日という日を一生のトラウマにしてやる!!)
淡「……ん?」
カツン、カツン
淡「あれは……」
淡「――テルのこと? やっぱり姉妹なの?」
咲「え、あ、うん」
淡「ふーん」
淡(そっか……ますます面白くなってきた)
淡「テルなら元気だよ。咲ちゃんも先鋒戦見たでしょ?」
咲「うん。凄かった。お姉ちゃん、びっくりするくらい強くなってた」
淡「……」ピク
淡(強くなってた? なに、その『昔は私の方が強かったのに』みたいな上から目線。
イライラするんだけど)
淡「咲ちゃん、テルと何かあったの?」
咲「え、どうして?」
淡「だってテル、『私には妹なんていない』とか言ってたから。もしかしたら
咲ちゃんのことなんて眼中にないのかも」
咲「……!」ビク
咲「……や、やっぱりそうなのかな……」
淡「うん。きっとそうだよ」ニッコリ
咲「……」グス
咲「私ね、昔お姉ちゃんにひどいことしちゃったんだ」
淡「ひどいこと?」
咲「……お姉ちゃんは、きっとまだ私のこと許してないんだと思う」
咲「だから私、麻雀でお姉ちゃんに伝えたいことがあるの。そのためにも、この試合、
絶対負けられないよ」
淡「ふふ、そうだね。絶対勝たないとね」
咲「うん。この試合で勝って、決勝に行って、お姉ちゃんに会いに行きたい」
淡(――無理だよ、咲ちゃん)
淡(あなた、ここで終わるんだから)ゴッ
1: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/09/22(土) 22:40:39.72 ID:qFGNSQMc0
原作設定や原作展開を無視してオリジナル展開や独自解釈があります
あくまでパラレルワールド的に捉えてください
麻雀そのものは弱いので、その辺は結構適当です。積み棒計算はできないので省きます
あくまでパラレルワールド的に捉えてください
麻雀そのものは弱いので、その辺は結構適当です。積み棒計算はできないので省きます
3: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/09/22(土) 22:41:45.09 ID:qFGNSQMc0
淡「ツモ。3000,6000」
プロ子「む……」
妹子「うぅ……」
爺「ほほ、これはこれは」
爺「終局じゃな。また淡のトップか。うむうむ、それでこそじゃ」
プロ子「本当に、お孫さんの実力は目を見張るものがありますね。これでまだ中学生とは、
将来が楽しみです」
爺「応とも。この子の両親は牌に触りもせず会社を大きくすることばかり考えておったから、
孫の代には期待しておらなんだが、よもやこれほどの逸材があの二人から産まれるとは。
ワシの遺伝子が受け継がれておる証拠じゃの。見てみい、ワシとて現役プロの君と比べても見劣りせん戦績じゃ」
プロ子「む……」
妹子「うぅ……」
爺「ほほ、これはこれは」
爺「終局じゃな。また淡のトップか。うむうむ、それでこそじゃ」
プロ子「本当に、お孫さんの実力は目を見張るものがありますね。これでまだ中学生とは、
将来が楽しみです」
爺「応とも。この子の両親は牌に触りもせず会社を大きくすることばかり考えておったから、
孫の代には期待しておらなんだが、よもやこれほどの逸材があの二人から産まれるとは。
ワシの遺伝子が受け継がれておる証拠じゃの。見てみい、ワシとて現役プロの君と比べても見劣りせん戦績じゃ」
4: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/09/22(土) 22:42:20.26 ID:qFGNSQMc0
プロ子「大星さんも、もう四十歳若ければスカウトがきていたでしょうね」
爺「ほっほ。言うようになったのう。――それに比べ、お前はなんじゃ妹子」
妹子「うっ……」ビク
爺「半荘五回打って全てラスとは……情けない。それでもワシの孫か?」
妹子「ご、ごめんなさい……」
爺「まあ、プロになるというワシの夢は淡が遂げてくれるじゃろうし、もうそれでよいわ」
淡「……」
淡「じゃあ、私部屋に戻って少し休むね」ガタ
爺「ああ待ちなさい淡。お前、本当に今年のインターミドルには出んのか?」
爺「ほっほ。言うようになったのう。――それに比べ、お前はなんじゃ妹子」
妹子「うっ……」ビク
爺「半荘五回打って全てラスとは……情けない。それでもワシの孫か?」
妹子「ご、ごめんなさい……」
爺「まあ、プロになるというワシの夢は淡が遂げてくれるじゃろうし、もうそれでよいわ」
淡「……」
淡「じゃあ、私部屋に戻って少し休むね」ガタ
爺「ああ待ちなさい淡。お前、本当に今年のインターミドルには出んのか?」
5: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/09/22(土) 22:43:49.55 ID:qFGNSQMc0
淡「……うん」
爺「何故じゃ。史上初のインターミドル個人戦三連覇……お前なら容易かろうに。のう、プロ子さん」
プロ子「確かに、貴女の実力は中学生の内では頭抜けているわ。絶対とは言わないまでも、
おそらく三連覇もできると思うわ」
淡「……だから嫌なのよ」ボソ
爺「む?」
淡「なんでもない。今年受験だしね、勉強しないと」
爺「……まあ、お前がそう決めたのなら強要はせんが。なら淡、お前どこに進学するつもりじゃ?」
淡「まだ決めてない。別にどこでもいいよ」
爺「何故じゃ。史上初のインターミドル個人戦三連覇……お前なら容易かろうに。のう、プロ子さん」
プロ子「確かに、貴女の実力は中学生の内では頭抜けているわ。絶対とは言わないまでも、
おそらく三連覇もできると思うわ」
淡「……だから嫌なのよ」ボソ
爺「む?」
淡「なんでもない。今年受験だしね、勉強しないと」
爺「……まあ、お前がそう決めたのなら強要はせんが。なら淡、お前どこに進学するつもりじゃ?」
淡「まだ決めてない。別にどこでもいいよ」
6: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/09/22(土) 22:49:47.74 ID:qFGNSQMc0
爺「そりゃいかん。高校は名門麻雀部のあるところに決まっておるじゃろう。高校で名門といえば……千里山なんかどうじゃ? あそこは強いぞ。ちょうど近くに別荘も持っておるしの」
淡「いやだよ、大阪なんて。東京から出る気はないから」
爺「そうか? じゃったら……やはり白糸台かのう。昨年は優勝しておるし、なにより昨年、強力な一年生が入ったらしいしの」
淡「強い一年?」
爺「うむ、確か名前は……宮永照、とかいったか」
淡「知らない。どうでもいいよそんなの。じゃあ私戻るから」ガチャ
爺「おい淡、進学先は白糸台でいいんじゃな?」
淡「まだ決めてないってば」バタン
淡「いやだよ、大阪なんて。東京から出る気はないから」
爺「そうか? じゃったら……やはり白糸台かのう。昨年は優勝しておるし、なにより昨年、強力な一年生が入ったらしいしの」
淡「強い一年?」
爺「うむ、確か名前は……宮永照、とかいったか」
淡「知らない。どうでもいいよそんなの。じゃあ私戻るから」ガチャ
爺「おい淡、進学先は白糸台でいいんじゃな?」
淡「まだ決めてないってば」バタン
8: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/09/22(土) 22:51:48.89 ID:qFGNSQMc0
自室
淡「はあ……」ゴロン
淡(インターミドル……やっぱり出るべきだったかな。もしかしたら今年は……)
淡(ううん、どうせ同じだよ。私より強い人なんているわけない……)
物心ついた頃から祖父の趣味の麻雀に付き合わされていた私は、気がつけば祖父を超えていた。
祖父は私のために家にプロを呼んで指導させてくれた。強い人と打つのは楽しくて、もっと強くなりたいと思った。それは私が一番麻雀を好きだった時期だ。
淡(……でも、二年前)
中学に入った私は一年生で麻雀部のレギュラーを取り、インターミドルに出場した。
――そして、愕然とした。同年代の子たちの、あまりの弱さに。
淡「はあ……」ゴロン
淡(インターミドル……やっぱり出るべきだったかな。もしかしたら今年は……)
淡(ううん、どうせ同じだよ。私より強い人なんているわけない……)
物心ついた頃から祖父の趣味の麻雀に付き合わされていた私は、気がつけば祖父を超えていた。
祖父は私のために家にプロを呼んで指導させてくれた。強い人と打つのは楽しくて、もっと強くなりたいと思った。それは私が一番麻雀を好きだった時期だ。
淡(……でも、二年前)
中学に入った私は一年生で麻雀部のレギュラーを取り、インターミドルに出場した。
――そして、愕然とした。同年代の子たちの、あまりの弱さに。
9: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/09/22(土) 22:54:08.13 ID:qFGNSQMc0
一年間戸惑い続けた私は再びインターミドルに出場して……結局、期待は落胆に散った。
淡(私と互角に戦える人なんてどこにもいなかった。全国にさえ)
淡(中学の麻雀部の皆は私を怖がって誰も私と打ちたがらなくなって、三年生に上がる前に私は退部した)
その時に私はようやく気付いた。私は他人とは違うのだと。
まるで星のように、見上げてくれる人はいても、隣にいてくれる人はいないのだと。
そうと気づいたら、もう麻雀なんて楽しくもなんともなくなった。麻雀への情熱も、すっかり冷めてしまっていた。
淡「プロ、かぁ」
淡(正直、プロの道にそこまで魅力を感じないんだよね)
確かにプロには私より強い人も大勢いるだろう。彼女らと打っている間は、きっと楽しく麻雀に没頭できると思う。
10: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/09/22(土) 22:55:13.10 ID:qFGNSQMc0
でも、五年後、十年後はどうか?
断言できる。十年もすれば、私はきっと世界最強の雀士になる。数多のプロを足蹴にもかけない、最強の打ち手に。
淡「……そんなことになったら、私はどうすればいいの?」
そしてきっとその時こそ、私は真の意味での孤独を味わうことになると思う。
淡「そんなのは……やだ」
淡「そんな思いを味わうくらいなら、もういっそ麻雀なんて……」
断言できる。十年もすれば、私はきっと世界最強の雀士になる。数多のプロを足蹴にもかけない、最強の打ち手に。
淡「……そんなことになったら、私はどうすればいいの?」
そしてきっとその時こそ、私は真の意味での孤独を味わうことになると思う。
淡「そんなのは……やだ」
淡「そんな思いを味わうくらいなら、もういっそ麻雀なんて……」
11: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/09/22(土) 22:56:38.98 ID:qFGNSQMc0
祖父は猛反対するだろうが、別にいい。だいたい、祖父は自分が遂げられなかった『プロになる』という夢を私に押し付けているだけだ。
淡「あれだけ手加減されて、わざと指し込んでもらってるっていうのに、『現役プロに見劣りしない戦績』だなんて、馬鹿みたい」
そんな人に私の進路をとやかく言われる筋合いなんてない。
別に白糸台に入らなくたっていい。どこの麻雀部に入ったって同じだ。
ただ、その年の優勝校が変わるだけ。
もう麻雀なんて、どうでもいい――。
淡「……イライラするなぁ……」
12: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/09/22(土) 22:58:35.35 ID:qFGNSQMc0
翌年
私は高校生になった。祖父の強い希望で、結局白糸台高校に入学することになった。
友「大星さん、おはよう!」
淡「おはよ」
友「ねえねえ大星さん、もう入る部活決めた?」
淡「うーん……一応、麻雀部に入ろうかなって」
淡(てか、おじいちゃんに絶対入れって言われたしなぁ……)
13: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/09/22(土) 22:59:46.10 ID:qFGNSQMc0
友「あ、大星さんもなんだ。私もだよ!」
淡「友ちゃんも?」
友「うん。やっぱり白糸台って言ったら麻雀部だよね。インハイ二連覇だよ、二連覇。すごいよね」
淡「あー……うん、そうだね」
淡(ふーん、二連覇してたんだ。興味なかったから知らなかった)
友「それになんと言っても、白糸台には宮永先輩がいるからね!」
淡「宮永? 誰?」
友「ええ!? 宮永照知らないの!? インハイ二冠王者の、高校最強の選手だよ!」
淡「ふーん」
淡(ああ、そういえばおじいちゃんが言ってたっけ)
友「あ、さては大星さん、初心者でしょ? これから麻雀をやろうっていうなら、宮永照は知っといた方がいいよ」
淡「……友ちゃんはどうなの?」
友「えへへ、私はこれでも小学三年生の頃から麻雀をやってるし、去年は個人戦で県ベスト16まで行ったんだよ!」
淡「ふーん」
14: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/09/22(土) 23:03:01.11 ID:qFGNSQMc0
友「ねえ、体験入部はどうするの?」
淡「体験入部?」
友「正式な入部までに、三回体験入部の機会があるんだよ。そのときに部の人と打ってもらったり
できるんだって。で、四回目に入部試験をするの。
すごいよね、気合い入ってるよね白糸台。さすがって感じ」
淡「それいつやるの?」
友「今日一回目があるよ。あーでも今日は私都合悪いから、二回目から参加するつもり」
淡「ふーん。行ってみようかな」
友「お、やる気だね。でも気をつけてね。間違っても二軍の人と打っちゃだめだからね。
白糸台は二軍でも県代表クラスの実力だって言うし」
淡「うん。分かった」
16: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/09/22(土) 23:05:21.67 ID:qFGNSQMc0
放課後
淡「麻雀部……ここか」ガラ
淡「すいません、体験入部しにきたんですけど」
A子「はーい。いらっしゃーい。どうぞ入って」
淡「失礼します」
淡(うわ、人多いな)
A子「はじめまして。入部希望の人だよね?」
淡「まあ、一応。――あの、宮永照っていう人がいるって聞いたんですけど」
17: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/09/22(土) 23:06:39.77 ID:qFGNSQMc0
A子「あら、ふふ。貴女も? みんな宮永さんのことを初めに訊くよね。でもごめんね、
いま一軍のメンバーは練習試合でいないの。次の体験入部の日にはいると思うけど」
淡「そうですか」
淡(まあいっか。二軍でも全国レベルらしいし)
A子「じゃあ、さっそく打とうか。中学で部活の経験は?」
淡「二年の終わりに辞めました」
A子「あら、どうして?」
淡「つまんなかったから」
A子「あー……そっか。うん、仕方ないよね。勝てなくて辞めてく子、実はうちも結構多いんだ」
18: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/09/22(土) 23:08:42.56 ID:qFGNSQMc0
A子「じゃあちょっと待ってね、今空いてる子探すから。――ねえ誰かー。三軍で手の空いてる子いるー?」
淡「あの」
A子「ん? なあに?」
淡「ここにいる中で一番強い人と打ちたいんですけど」
A子「え、でも……」
淡「誰が二軍で一番強いの?」
A子「えーっと、一軍っていうのがつまりスタメンのことで、五人しかいないんだ。
だから二軍のトップっていうと、白糸台で六番目に強いってことなんだけど……」
淡「それでいいよ。誰ですか?」
A子「一応、私……ってことになるんだけど。一軍のいない間、部を任されてるから」
淡「じゃああなたでいいです」
A子「う、うん……じゃあ、ちょっとまってね。二軍からあと二人連れてくるから」タタタ
淡(白糸台の二軍は県代表クラス。なら、彼女らと打てば、自然とインハイのレベルも見えてくる)
淡(もし二軍でも私と渡り合えるくらいに強いなら、高校生の麻雀のレベルにも期待できる)
19: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/09/22(土) 23:09:55.76 ID:qFGNSQMc0
A子「お待たせ。連れてきたよ」
B子「その子? 二軍と打ちたいなんて言ってるの」
C子「生意気だよね。自信過剰っていうか」
A子「コラ、そんなこと言わないの。この二人は二軍の八位と九位。ごめんね、この二人、
一軍に入れそうにないから最近気が立ってて」
B子・C子「「うるさい」」
A子「じゃあ打とっか。手加減はしなくていいんだよね」
淡「はい。よろしくお願いします」
淡(――見せてよ。白糸台の実力)ゴッ
22: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/09/22(土) 23:12:23.68 ID:qFGNSQMc0
一週間後
昼休み
友「はぁ~……」
淡「どうしたの? 今朝からずっと溜息ついて」
友「うん、昨日さ、麻雀部の二回目の体験入部行ってみたんだけどさ」
淡「あ、そっか。昨日二回目あったんだっけ」
友「うん。大星さんは来てなかったけど、私一人で行って、打ってもらったんだ。
でも……予想外すぎたよ」
淡「……うん。ほんとにね」
淡(ほんとに予想外だった。インハイ二連覇を達成した白糸台の実力……見誤ってた)
淡(まさか……あんなに弱いなんて)
23: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/09/22(土) 23:13:18.98 ID:qFGNSQMc0
淡『ツモ。8000オール』
B子・C子『……』
A子『……トびです』ジャラ
淡『……』
A子『あ、あなた……何者なの?』
淡『……失礼します』ガタ
A子『ちょ、ちょっと待って! ね、ねえ! 次はいつくるの?
一週間後にまた体験入部があるから、そのときなら一軍の人が――!』
淡『来ません』
A子『え……?』
淡『もう……ここには来ません』
24: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/09/22(土) 23:14:36.09 ID:qFGNSQMc0
友「大星さんさ、麻雀部入るの?」
淡「……分かんない。入らないかも」
友「だよね……。私も昨日体験入部行ってそう思った。あんな人たちと打つなんて嫌だよね」
淡「うん。ちょっと弱すg――」
友「強すぎるよね、白糸台。手も足も出なかったよ」
淡「……………………誰と打ったの?」
友「三軍のD子先輩とE子先輩と、体験入部の子。三軍であれだけ強いなんて予想外すぎるよ」
淡「……そっか」
25: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/09/22(土) 23:16:13.18 ID:qFGNSQMc0
友「あ、私このあと用事あるんだった。ごめん、先に教室戻るね」
淡「うん」
友「じゃあね。三軍に負けた私が言うのもなんだけど、大星さんみたいな初心者は麻雀部
やめといた方がいいよ。
あそこはほんとに強い人しかいないから、きっとすぐつまんなくなって辞めちゃうよ」
淡「……うん。そうだね」
淡「……」
26: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/09/22(土) 23:18:12.45 ID:qFGNSQMc0
淡(……もういい。入部なんてやめとこう)
淡(結局私は一人ぼっちなんだ。誰も私の隣を歩いてくれない)
そうだ。星は二つ並ばない。誰もいない闇の中で、一人孤独に在るしかない。
もう麻雀なんてやめよう。これ以上孤独感を味わわされるのなんて……耐えられない。
淡「……イライラするのよ。あんたたちが弱いせいで」
淡「弱い奴なんて、皆いなくなっちゃえばいいのに」
あるいは……。
淡(私が……もっと弱くなればいいのかな。そうすれば、もっと麻雀を楽しめるのかな)
淡(教えて……誰か教えてよ。麻雀、楽しくないよ……)
28: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/09/22(土) 23:22:58.68 ID:qFGNSQMc0
二週間後
放課後
友「じゃあ大星さん、また明日」
淡「うん。また明日」
淡「ふう……HR長引いちゃったな」
あれから、私は一度も牌に触っていない。祖父に何度か誘われたが、体調が悪いと断り続けた。
もう弱い祖父の相手をするのはうんざりだった。プロ子は祖父に気を遣って本気で打ってくれないし、
妹子は話にならないくらい弱い。そもそも、私はもう麻雀なんて打ちたくなかった。
淡(何もやる気がおきない。なんか人生がつまんないよ。はぁ……)
ガラッ
菫「失礼します。大星淡さんはいますか?」
30: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/09/22(土) 23:26:48.92 ID:qFGNSQMc0
淡「? はい、大星は私だけど」
菫「君か。はじめまして。私は三年の弘世菫だ。よろしく」
淡「なにか用?」
菫「ああ、少し話がある。時間いいか?」
淡「いいけど……」
菫「よし、じゃあ歩きながら話そう。ついてきてくれ」
淡「……?」
31: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/09/22(土) 23:28:01.54 ID:qFGNSQMc0
廊下
淡「あの」
菫「ん、なんだ?」
淡「もしかして、麻雀部の一軍の人?」
菫「へえ、どうして分かった?」
淡「空気で分かるよ、そんなの」
菫「それはすごいな。A子が言ってた通り、かなりの逸材らしいな」
淡「A子?」
菫「一度目の体験入部のときに、A子と打ったんだろ?」
淡「ああ……」
淡(三人と打ったけど、誰がA子なんだろ。まあいっか)
32: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/09/22(土) 23:30:42.59 ID:qFGNSQMc0
淡「で、今私たちは麻雀部に向かってると?」
菫「そういうことになるな。今日、入部試験があるんだ。それを受けてもらわないと、
いくら強くても入部できないからな」
淡「あの。申し訳ないんですけど、私麻雀部に入る気ないんで」
菫「どうして?」
淡「そんなの……決まってるでしょ」
淡「弱いからだよ。あなたたちが」
33: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/09/22(土) 23:32:16.01 ID:qFGNSQMc0
菫「……」
淡「もううんざりなの、弱い人と打つの。体験入部の日、ここで六番目に強い人と打ちました。
――雑魚でした。あれで六位なんて、一軍の実力もお察しって感じだね」
菫「……」
淡「ここって全国で一番強い高校なんでしょ? その高校の六位があんなんじゃ、
インハイのレベルも高が知れてるよ。そりゃ私が出れば全国優勝なんて余裕だろうけど、
でも私はごめんです。迷惑なの。あなたたちなんかと打ったって、きっと……」
きっと、私の中の孤独感が増すだけだ。そして対局の後、対局者は私を怯えた目で見上げるんだ。
まるで、決して手の届かない、宇宙の果てに輝く星を見つめるような目で。
淡「だから、もう麻雀部になんて行かない。用がそれだけなら、私は帰ります」
菫「……可哀想に」
淡「……は?」
36: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/09/22(土) 23:33:59.19 ID:qFGNSQMc0
菫「君は常に上を目指すタイプの人間なんだな。負けず嫌いだけど、でも常に自分より
強い人間を求めてる。一緒に歩く仲間を欲しがってる。
でも君は今まで、そういう人間に出会えなかったんだな。本当に、不憫でならない」
淡「……そんなの、いるわけないじゃん。星を目指す人なんているわけないでしょ」
菫「いるさ。たとえ宇宙の果ての星だって。あるいは暗い海の底だって。そこに
挑もうする人間はいるんだ。何度打ちのめされても、必死に食らいついて、目標にして、
〝それを楽しいと思える人間〟は、必ずいるんだ」
淡「……」
菫「だからこそ、私は君に麻雀部に入ってほしい」
淡「……どうして?」
菫「簡単だ。――あそこには、宮永照がいるからだ」
37: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/09/22(土) 23:35:43.13 ID:qFGNSQMc0
淡「宮永、照」
菫「今日の入部試験は、あいつとの対局の結果で合否を出す。もちろん勝てとは言わない。
実力を見るだけだ」
淡「やめた方がいいよ。その人、ここのエースなんでしょ? そんな人に一年生が
勝っちゃったら、申し訳ないし」
菫「ははは」
淡「……何が可笑しいの?」イラ
菫「いや、すまない。まあ一度打ってみるといい」
淡「体験入部の日、そんな風に私のことを小馬鹿にして笑った人と打ったよ。
もう顔も覚えてないけど」
38: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/09/22(土) 23:37:23.25 ID:qFGNSQMc0
どうやらこの菫とか言う人は、私が宮永照に勝てるはずがないと思っているらしい。
淡(いいよ。面白いじゃん)ゴッ
淡(高校生チャンピオン? 一万人の頂点? 笑わせる。私はそんな頂よりももっと高い、
遥か宙の果てにいるんだ)
それに、ちょうどいい。高校生チャンピオンと打てば、それで全国の高校生のレベルは
つまびらかになる。今日宮永照を下し、彼女より上はいないんだと理解すれば、
私は今度こそ何の未練もなく麻雀なんてやめられる。
淡(――もう終わりにしてやる。何もかも)
菫「さあ、ついたぞ。入ってくれ」ガラ
淡「失礼します」
淡(――あれか。宮永照)
39: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/09/22(土) 23:38:54.27 ID:qFGNSQMc0
後ろ姿しか見えないけど、どうやら打っているらしい。
周りに人垣ができていて、誰も何も話さない。不気味なほどの静寂だった。
照「――ツモ。12000オール」
淡「……っ」ピク
新入生A「……と、トびです」
新入生B「私も……」
新入生C「わ、私もです……」
菫「ちょうど終わったみたいだな」
照「じゃあ結果を発表します」
40: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/09/22(土) 23:39:34.76 ID:qFGNSQMc0
照「A子さん」
新入生A「は、はい……」
照「三軍」
新入生A「は、はい。ありがとうございます! よかったぁ……」パァ
照「B子さん」
新入生B「はい」
照「二軍」
菫「お」
部員たち「!」ざわ・・・ざわ・・・
41: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/09/22(土) 23:40:23.09 ID:qFGNSQMc0
新入生B「あ、ありがとうございます! やったあ!」
照「二軍のF子。繰り下がりで三軍」
F子「はい……」
部員「F子ちゃん、ついに落ちちゃったか……」ヒソヒソ
部員「覚悟してたと思うよ。うちって実力主義だし」ヒソヒソ
部員「でも、あんなに頑張ってたのに……」ヒソヒソ
照「C子さん」
新入生C「は、はい……」
照「――申し訳ないけど、あなたの実力じゃうちではやっていけない。不合格」
42: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/09/22(土) 23:41:32.43 ID:qFGNSQMc0
新入生C「……っ! は……はい……」
菫「あまり気を落とさないでくれ。うちは秋にもまた入部試験をやるから、そのときにまた来てくれればいい」
新入生C「……いえ、私は、その…………もう、いいです。ごめんなさい……!」タタタ
菫「あっ……ふー」
淡(フン)
淡(そうよ。弱いやつは消えればいい。トばされるような雑魚が麻雀なんかするのが悪いのよ)ツカツカ
淡(それになに? 三人トび? アホらしい。どんだけ弱いのよ。ほんとイライラす…………え?)ピタ
45: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/09/22(土) 23:42:56.89 ID:qFGNSQMc0
淡(と、東二局!? ちょ、まだ東場すら終わってないじゃない……!)
淡(そんな一瞬で三人をトばすなんて……この人、まさか私と同じ高火力麻雀……?)
照「ん?」
そのとき、背後の私の気配に気づいたのか、宮永照が後ろを振り向いた。
淡「――ッ!!」ゾクッ!
淡(な、なにこのプレッシャー……)
照「入部希望者?」
淡「……違います」
照「?」
菫「彼女は大星淡さん。お前と一局打ちたいそうだ。打ってやってくれ」
照「いいけど。東風でいいの?」
菫「ああ。君も、それでいいな?」
淡「なんでもいいよ」
菫「よし、じゃああと一人……一子。入ってくれ」
淡(そんな一瞬で三人をトばすなんて……この人、まさか私と同じ高火力麻雀……?)
照「ん?」
そのとき、背後の私の気配に気づいたのか、宮永照が後ろを振り向いた。
淡「――ッ!!」ゾクッ!
淡(な、なにこのプレッシャー……)
照「入部希望者?」
淡「……違います」
照「?」
菫「彼女は大星淡さん。お前と一局打ちたいそうだ。打ってやってくれ」
照「いいけど。東風でいいの?」
菫「ああ。君も、それでいいな?」
淡「なんでもいいよ」
菫「よし、じゃああと一人……一子。入ってくれ」
47: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/09/22(土) 23:44:36.45 ID:qFGNSQMc0
一子「え、私?」
菫「ああ。この四人で打つ」
部員「!!」ざわ・・・ざわ・・・
部員「そんな、新入生一人に一軍三人なんて……」ヒソヒソ
部員「ひどい……可哀想だよ」ヒソヒソ
部員「でも待って。あの子、ひょっとしてこの前の……」ヒソヒソ
菫「それじゃあ、始めようか」
四人「よろしくお願いします」
淡(じゃあ、お手並み拝見といこうかな)ゴッ
48: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/09/22(土) 23:45:37.76 ID:qFGNSQMc0
東一局
淡「リーチ」
菫「早いな。まだ四巡目なのに」
淡「あなたたちが鈍いんだよ」
淡(四巡もあれば十分。私の星の引力が、有効牌を引き寄せる)
淡(どんなに強くても、宙に投げ出されれば所詮、人は無力。より大きな力に翻弄されるしかない)
淡(――さあ、引きずり込んでやる。宇宙の闇へ――!)ゴォォォォォ!
50: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/09/22(土) 23:46:39.72 ID:qFGNSQMc0
一子「うっ……!?」ゾクッ
菫「これは……」ゾクッ
菫(予想以上だ。まさかこれほどとは……)
淡「――ふふ」カチャ
淡「――ツモ。リーチ一発ツモ三暗刻ドラ3。4000,8000」
三人「……」ジャラ
淡「…………」イラ
淡(なんなの? あれだけ息巻いておいて、このザマ? 結局この人たちも口だけか)
淡(イライラするなぁ……)イラ
51: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/09/22(土) 23:48:13.68 ID:qFGNSQMc0
照「……」ゴッ‼
淡「……ッ!?」ピク
淡(え、後ろ――)バッ
淡「……?」
一子「……っ」ビク
菫「……来たか」ピク
淡(なに……今、なにかを見られた……?)
菫(さあ、ここからだぞ大星淡)
53: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/09/22(土) 23:49:16.65 ID:qFGNSQMc0
東三局
親:照
ドラ:2索
照「……」白
淡「……ッ」ギリ
淡(くそ、鳴けない……私が役牌を鳴けないなんて……)
淡(宮永照……あれからもう三回和了られてる。安手ばかりだったから気にならなかったけど、
こんなにあっさり三連続和了されるなんて、ここ数年なかった)
淡「チッ」カチャ
54: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/09/22(土) 23:50:38.98 ID:qFGNSQMc0
四五六244赤5⑨⑨⑨北北白 4
淡(六巡目なのに、まだこんな手。かろうじて得意の手になれる形は保ってるけど、
明らかに普段より引力の効果が弱い)
淡(いや、違う……。私の支配が弱まってるんじゃない。それを超える支配が、今この卓に
充溢してるんだ。私の星の引力すら振り払う、圧倒的な支配が)
淡(高校生チャンピオン……多少はやるみたいだけど、あんまり調子に乗らないでよね)ゴッ
照「……」カチャ
淡「……」カチャ
淡(よし。三枚目の北。これで聴牌。三暗刻に高めドラ2がつく。
ちょっと安いけど、まあいいか)カチャ
55: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/09/22(土) 23:51:35.26 ID:qFGNSQMc0
淡(いや……待てよ。ここで素直に聴牌を取れば切るのはドラの2索か赤5索)
淡(こんな牌を切らなきゃいけないって時点で、私の支配に綻びが出てる証拠だ。
いつもならドラを暗刻にして5索の単騎待ちになってたはず。なら、この場は私ではなく、
宮永照の支配下にあるってこと)
淡(だめだ。この牌は切れない……。だったら……)
淡「……」北
淡(これなら!)
照「ロン」
淡「え……?」
二二三三四四112233北 北
照「12000」
56: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/09/22(土) 23:52:44.06 ID:qFGNSQMc0
淡「そんな……!」ガタッ
淡(素直に切っていれば、私が宮永照の当たり牌を潰していた。くそ、裏目?
いや、これはそんなんじゃない。もっと別の……)
菫(彼女は自分の麻雀に絶対の自信があるようだな。だが同時に、自分の力を超える支配の
存在を受け入れるだけの賢さも持っている。変にプライドにこだわったりせず、時には
自分の麻雀を曲げることも厭わない。だから小さな違和感にもすぐ気付けるし、
臨機応変に立ちまわれる)
菫(だがその麻雀は既に照に『見抜かれている』。下手に賢しく立ち廻ろうとすると、
照の思う壺だ。さあ、どうする?)
淡(くっ……)
59: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/09/22(土) 23:55:20.53 ID:qFGNSQMc0
東三局 ドラ:六萬
淡(最初に和了ってから、宮永照以外だれも和了れてない。もう五連続和了された)
淡(しかもこの人、私のこと狙い撃ちしてる。この私をトばすつもり? 図に乗って……!)
123四四五五発発白白白中 六
淡(よし、私の引力もまだ消えてない。三巡目で張った)
淡(でも、まだだ。こんな安い手で上がっても仕方ない。次の私の親――そこに強い流れを持っていきたい。
だからまだ上を狙う。索子を全部落として小三元と混一色まで絡める。やれる。私ならできる……!)
淡「……!」3索
照「……」カチャ
淡(最初に和了ってから、宮永照以外だれも和了れてない。もう五連続和了された)
淡(しかもこの人、私のこと狙い撃ちしてる。この私をトばすつもり? 図に乗って……!)
123四四五五発発白白白中 六
淡(よし、私の引力もまだ消えてない。三巡目で張った)
淡(でも、まだだ。こんな安い手で上がっても仕方ない。次の私の親――そこに強い流れを持っていきたい。
だからまだ上を狙う。索子を全部落として小三元と混一色まで絡める。やれる。私ならできる……!)
淡「……!」3索
照「……」カチャ
61: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/09/22(土) 23:57:06.08 ID:qFGNSQMc0
一子「……っ」カチャ
菫「……」カチャ
淡(一子って人は必死に食らいついていってる感じだけど、この菫って人は
勝とうとしてない。ただ私の力を測ってる)
淡(正直……宮永照一人だけに注意していればいいっていうのはありがたい。一気に叩いてやる)
1四四五五六六発発白白白中 中
淡(よし、いつもの私の手だ。そうこなくちゃ。1索を落として聴牌。ツモでも親被りで
宮永照に痛手を負わせられる)
照「……」ゴッ
淡「ッ!」ゾクッ
63: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/09/22(土) 23:58:39.12 ID:qFGNSQMc0
淡(なに…………風?)
淡(感じる……何か強い力……強い風を)
でも、有り得ない。だって私の引力が効いてるってことは、今ここは『宙の中』のはず。
宇宙に風なんて吹かない。なら、今ここは宙なんかじゃなく……。
淡(違う……ここはまだ、宮永照の支配下なんだ……!)
照「……」ゴォォォォォ!
淡(まずい、このひと和了る度に打点が高くなってる。次はきっと直撃なら私を
トばせる点でくる)
淡(このままじゃ次巡、私はきっと宮永照の当たり牌を掴まされる。
なら聴牌を崩して別の牌を切るしか……でも、まさかそれも『見抜かれてる』?)
淡(くそ、どうすれば……!)
64: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/09/22(土) 23:59:47.93 ID:qFGNSQMc0
菫「……」白
淡「――!」
淡(――これだ!)
淡「ポン!」カチャ
淡「……」白
菫(食い替え……? まあうちでは禁止していないが……なるほど、この子ももう照の力
を見破ったか。だが――)
淡(これで私が当たり牌を引くことも打つこともない。それにツモ巡も変わって、
宮永照の予定していた牌と違う牌があっちに流れる。私の聴牌も崩れないし、
次に引力を使って中か発を引けば……!)
菫(――それでも、照は止められないのさ)
65: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/09/23(日) 00:00:29.03 ID:PDMqfHI10
照「……」カッ
照「……」ガシッ ギュルルルルル
淡(なっ……!)
淡(まずい。この感じ……やられる! そんな……ツモ巡をズラしたのに!?)
ドゴォ!
照「ツモ。8000オール」
淡「……ぁ……」
菫「トびだ」ジャラ
一子「……私も」ジャラ
66: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/09/23(日) 00:01:20.38 ID:PDMqfHI10
淡「……私、は……」
淡(……残ってる……けど、数千点……たったこれだけ? この、私が……)
淡(星の引力をものともしない、圧倒的な場の支配)
淡(まるで牌そのものが宮永照にかしずいてるみたいな、凄い力を感じた)
淡(この人……別格だ)
部員「……」ざわ・・・ざわ・・・
部員「すごい、あの子……宮永先輩と打ってトばなかった!」ヒソヒソ
部員「一軍の二人ですらトんだのに」ヒソヒソ
67: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/09/23(日) 00:02:32.86 ID:p90dbjhN0
菫(最後のあの食い替え……あれがなければ彼女が当たり牌を掴んでいた。
直撃は24000点。彼女はトんでいた)
菫(照の和了りこそ防げなかったが、彼女は自分のトびを回避したんだ)
菫(大星淡……私の想像以上だな)
菫「どうだ照、感想は」
照「感想はともかく、入部試験の結果を発表する」
淡「わ、私はまだ入部するとは――」
照「大星淡さん」
照「一軍」
68: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/09/23(日) 00:03:34.33 ID:PDMqfHI10
部員「!!!」ざわ・・・!ざわ・・・!
部員「い、一軍!? 一年生が、白糸台の!?」
部員「え、ってことは、じゃあ……!」
照「一子」
一子「……はい」
照「繰り下がりで二軍」
一子「…………はぃ。今までありがとうございました」ペコリ
部員「そんな……一子さん……」
一子「いいの。実力が全てなんだから」
部員「……」
71: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/09/23(日) 00:04:45.81 ID:PDMqfHI10
淡「……」
菫「よかったな大星さん。文句なしで合格だそうだ。よく打ったよ」
淡「文句なし……? よく打った……? こんな、首の皮一枚繋がっただけで?
……馬鹿にしないでよ」
菫「まさか。馬鹿になんてしてないさ。むしろ君の力に驚いてるくらいだ」
淡「でも――!」
菫「君だけだ」
淡「え?」
菫「今日照と打った人の中で、トばなかったのは君だけなのさ」
72: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/09/23(日) 00:05:55.52 ID:PDMqfHI10
淡「は……」
淡「だ、だって、一人でもトんだらそこで終局でしょ?」
菫「ああ」
淡「じゃあ、じゃあなに? 今までこの人と打った人は全員、3人同時にトばされ
続けたっていうの? 私以外の全員が!?」
菫「そうだ。私と一子も含めて、君以外の全員が、同時にトばされた。照がつけた
記録によるとそうなってるな」
菫「君はそれを自分の力で回避したんだ。首の皮一枚だって十分さ」
淡「そんな……馬鹿な」
73: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/09/23(日) 00:06:38.21 ID:PDMqfHI10
照「菫、私は少し外の空気を吸ってくる。後は任せてもいい?」ガタ
菫「ああ、お疲れ様」
照「それじゃあ。――それと、大星さん」
淡「な、なに?」
照「入部するなら、来週までに入部届けを持ってきて。それ以降は
受け付けられないから」ガラ ツカツカツカ
淡「…………ま」
淡「待って!」ガタ
75: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/09/23(日) 00:07:48.91 ID:PDMqfHI10
屋上
淡「待って、宮永さん!」
照「何?」
淡「あなた……あなたは」
淡「どうして麻雀を続けてるの?」
照「……」
照「……どういう意味?」
76: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/09/23(日) 00:08:43.16 ID:PDMqfHI10
淡「だって、あんなに強いなら、あなたとまともに戦える人なんているわけない!」
淡「現にインハイで二連覇してるんでしょ? だったら、もう周りは格下だらけじゃん!」
淡「そんなの……そんなの、絶対つまんないじゃん!!」
照「……」
淡「なのにどうしてあなたは麻雀を続けるの?」
照「……」
照「分からない」
淡「え?」
77: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/09/23(日) 00:09:38.98 ID:PDMqfHI10
照「昔は、ただ強くなりたかった。私にも目標があった。でも今は……もう
なんのために麻雀を打ってるのかすら、思い出せない」
淡「だ、だったら」
照「でも多分……私には、麻雀しかないからだと思う」
淡「麻雀しか、ない?」
照「……そういうあなたはどうなの?」
淡「私?」
照「麻雀は好き?」
78: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/09/23(日) 00:10:15.51 ID:PDMqfHI10
淡「……昔は好きだった。今は微妙」
照「私も」
淡「強い相手と戦いたいってずっと思ってた」
照「私も同じ」
淡「……全国には、あなたみたいな人が他にもいるの?」
照「私とやりあえる選手を二人知っている。長野に一人。鹿児島に一人」
淡「……私よりも、強いの?」
照「実際に打ってみればいい。そのためには部に入らないといけないけど」
淡「……ふふ」
79: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/09/23(日) 00:11:01.84 ID:PDMqfHI10
淡「私……ずっと孤独感に苛まれてきた。強すぎて、誰とも近づくことはできないんだって」
照「……わかる。私も、たまに闇の中にいるような気分になる。誰もいない、寂しい世界に」
淡「一人じゃないよ」
照「?」
淡「私がいる。私が、あなたの傍にいます。私ならあなたと麻雀が打てる。一緒に歩いていける」
照「……そうだね」フッ
83: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/09/23(日) 00:12:26.87 ID:PDMqfHI10
淡(そうだ。私はもう独りなんかじゃない)
やっと見つけたんだ。私と同じ所にいる人を。私と同じくらい……ううん、
それ以上に強くて、熱くて、大きくて……まるで太陽みたいに輝く人を。
近づけばその熱に焦がされて、誰も傍に寄ることすらできない。でも、私なら。
太陽の引力に引き寄せられて、どこまでも近づいていける。ずっと一緒に歩いていける。
星は二つ並ばない。でも、星は太陽の周りを廻り続ける。離れることなく、いつまでも。
淡「――これからよろしくお願いします。テル」
ようやく出会えた。
プロの世界にすら感じなかった、圧倒的な力。五年、十年。あるいはもっと先。
私が人生をかけて目指すに値する高み。私の――生涯の目標に。
照「よろしく。淡」
小さく笑った彼女の笑顔が眩しくて、まるで太陽の光みたいだと感じた。
その陽の光に照らされて、星はどこまでも輝き続ける――。
87: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/09/23(日) 00:14:00.00 ID:4NdWDN/d0
衣と姫様は魔物だからね
照のいう私とやりあえる選手に咲さんは入っていない?
照のいう私とやりあえる選手に咲さんは入っていない?
88: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/09/23(日) 00:14:55.59 ID:iQ1azHBB0
>>87
照がまだ咲きさんの実力を把握してないからじゃね?
照がまだ咲きさんの実力を把握してないからじゃね?
91: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/09/23(日) 00:16:46.22 ID:Ek7agYvW0
個人戦二位の憩さん……
94: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/09/23(日) 00:20:37.29 ID:LzVnlQY0O
荒川ナースさんに言わせても照は人間じゃないらしいからな
レベル差はありそう
レベル差はありそう
98: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/09/23(日) 00:25:10.76 ID:PDMqfHI10
二ヶ月後
あれから、私は正式に白糸台高校麻雀部の部員になった。
入部と同時に一軍入りが確定していた私は、基本的に一軍のメンバーとしか麻雀を打たなかった。
二軍以下の実力は知っているし、興味もなかった。二軍以下は名前も覚えていない生徒がほとんどだ。
私の興味はただ一つ、テルだけだった。
照「――ロン。1000点」
淡「あ!」
菫「終局か。いつも通り、と言ってはあれだが、照のトップか」
淡「くっそー……今回はいけると思ったんだけどなー」
99: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/09/23(日) 00:25:50.59 ID:PDMqfHI10
照「内容は悪くなかった。特にミスもなかったし、よく打ててたと思う」
淡「それって、単純に素の実力で負けてるって意味じゃん」
照「事実だから」
淡「ふーんだ。でもま、そうこなくっちゃね。私の目標なんだから」
照「でも、淡も強くなってきてる」
淡「あ、やっぱりそう思う? 私も、なんか最近すごい調子いいんだよねー」
菫「……」
菫(強くなってきてる、か)
菫(……確かに、この二カ月で大星は凄まじい成長を見せている。照の影響なのか本人の
やる気が今までと違うのか、とにかく入部当初とは比べ物にならないほど強くなった)
100: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/09/23(日) 00:26:42.40 ID:PDMqfHI10
菫(今も半荘一局打って、照と大星の差は20000点。たった20000点しかない。もう東風
どころか半荘一局ですら、大星が照にトばされることはない)
菫(それどころか、照の支配に抗って逆に場を支配し返したり、照の連続和了を個人の支配
のみで止めるようになった)
菫(まるで一昨年の照を見ているようだ。もはや大星も照と同格……全国の怪物の一人だ)
菫(並の打ち手じゃないとは思ってたが、まさかこれほどとはな……)
淡「よーし、じゃあもう一局打とうテル!」
照「ああ。――あ、ごめん。そろそろ行かないと」
101: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/09/23(日) 00:27:14.12 ID:PDMqfHI10
淡「え、帰っちゃうの?」
照「ああ。これから取材があるんだ。インハイが近いから、三連覇に向けての意気込みとか
いろいろインタビューしたいらしい」
淡「そんなぁ……」
照「また明日たくさん打てるから」
淡「……わかった。じゃあ私も帰る」
菫「……っ!」
照「いや、それは」
菫「何言ってるんだ大星」
103: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/09/23(日) 00:27:49.62 ID:PDMqfHI10
菫「照はちゃんとした理由で早退するんだ。お前のそれはただのサボりだろう」
淡「だってテルがいないとつまんないんだもん。どうせ私がトップだし」
菫「っ……おい」
渋谷・亦野「……」
淡「あ、そうだ! ついでに私もテルと一緒にインタビュー受けるよ!」
照「え?」
淡「白糸台のナンバー2、最強の大型新人現る! みたいな。私って何気にインターミドルも
二連覇してるし、記者も喜ぶと思うんだよね」
菫「だめだ」
104: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/09/23(日) 00:28:28.98 ID:PDMqfHI10
淡「む。なんでよ」
菫「何故もなにもないだろ。呼ばれてもいないのに取材を受けるなんて馬鹿な真似は
認めるわけにはいかない」
淡「じゃあ私はどうすればいいのよぉ」
菫「ここで麻雀を打つに決まってるだろ。大会までもう何日もないんだぞ」
淡「だから、テルがいない白糸台なんて意味ないんだって」
尭深・誠子・菫「……」
照「淡」
105: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/09/23(日) 00:29:04.49 ID:PDMqfHI10
淡「はい」
照「こんなとこで怠けてるようじゃいつまでもたっても私には勝てないよ。大人しく練習に参加してて」
淡「……まあ、テルがそう言うなら」
照「それでいい。それじゃあ、私は行ってくるから」
淡「行ってらっしゃーい」
菫「……気をつけてな」
菫(……悪いな、照)
照「……」コク
ガララ、ピシャ
106: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/09/23(日) 00:30:35.85 ID:PDMqfHI10
菫(大星の加入により、一軍の力は一ランク上昇したと言っていい。間違いなく、歴代の
白糸台メンバーの中で最強のチームだ)
菫(そういう意味では、私の先見は間違ってなかった。彼女ならきっとチームのエースとして
活躍できる日が来る)
菫(だが、一つ大きな誤算があった。それは、大星が照に入れ込みすぎて、
他の部員を全く顧みなくなったことだ)
菫(初めはみんな苦笑い混じりで許してくれていた。だが、もういい加減それも限界にきている)
菫(私もタイミングを見て何度か大星を注意した。だが大星は全く聞く耳を持たなかった)
菫(いや、というよりも、あいつは照以外の部員のことをカボチャか何か程度にしか思っていない)
菫(それは私たち一軍に対しても例外ではない。大星は照以外の部員との溝を、日毎に開け続けている)
110: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/09/23(日) 00:31:54.31 ID:PDMqfHI10
菫「……」カチャ
淡「……」カチャ
菫(七巡目。大星は一向聴といったところか。それに安い)
菫(……明らかに遅い。照と打ってるときのこいつはもっと高い手を
四巡とかで作ったりする、高速高火力麻雀だ)
菫(それに……大星の支配が弱い。宇宙に引きずり込まれるようないつもの感覚がない)
菫(……手加減……いや、単純に〝本気じゃない〟のか)
菫「くっ……」カチャ
112: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/09/23(日) 00:32:55.65 ID:PDMqfHI10
淡「……」カチャ
菫(張ったか。場を支配しなくても牌が自然とあいつのところへ集まってくる。
照以外でここまで牌に愛された奴を見るのは初めてだ)
尭深「……」カチャ
淡「ロン」
尭深「……ッ」
淡「8000」
尭深「……はい」
菫(強い……もう尭深や誠子じゃ相手にならない)
菫(――いや、私も、もう……)
114: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/09/23(日) 00:33:32.86 ID:PDMqfHI10
淡「終わりだね」
菫「……そうだな」
尭深・誠子「……」
菫「半荘三回で全て淡がトップか」
菫(手を抜かれて、ここまで……)
淡「あーあ。つまんな」ボソ
淡「やっぱり私帰りますね」ガタ
菫「お、おい!」
淡「テルはああ言ってたけど、やっぱり意味ないですよ、あなたたちと打っても」
116: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/09/23(日) 00:34:10.19 ID:PDMqfHI10
菫「大星!」
淡「何回打ってもどうせ私がトップですってば」
菫「そういう問題じゃ――!」
誠子「……いいじゃないですか。本人が帰りたいって言ってるんですし」
菫「お、おい誠子」
尭深「……私もそう思います」
菫「……」
淡「じゃ、そういうことで。お先にー」バタン
128: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/09/23(日) 00:51:31.18 ID:PDMqfHI10
菫「……どういうつもりだお前たち。大会を目前に、チームがこんな状態でどうする」
尭深「チームに不和をもたらしてるの、どう考えても大星さんだと思います」
菫「しかし……」
尭深「大星さんが強いのは認めます。でも、いくらなんでも彼女の態度は酷いです」
誠子「入部してからずっとあんな感じだもんね。私たちだけじゃなくて、他の部員の子も
みんな大星さんと距離を置いてますよ」
菫「……」
誠子「大星さんを引き込んだのって先輩ですよね。できれば先輩になんとかしてほしいです」
菫「……わかった。大星には私から言っておく」
菫「だからお前たちももう少しだけ、大星のことを大目に見てやってくれないか」
132: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/09/23(日) 00:55:39.97 ID:PDMqfHI10
菫「あいつは今まで、自分と対等に打てる奴がいなくて、私がここに誘ったときには麻雀を
辞めようとすら思っていたそうだ。そんなときに初めて自分以上の人間を見つけて、
あいつは今照に夢中で周りが見えてないだけなんだ」
尭深・誠子「……」
菫「きっといつか大星とも楽しく打てる日が来ると思う。だから……頼む」ペコ
尭深「や、やめてください先輩。顔上げてください」
誠子「まあ大星さんのことはまだ正直微妙だけど、同じ一軍のメンバーですからね」
菫「……すまない。ありがとう、二人とも」
菫(だが、大星が素直に言うことを聞くとは思えない)
菫(……大星に勝つしかない。そうすれば、きっとあいつも私の言うことを聞いてくれるはずだ)
135: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/09/23(日) 01:02:44.72 ID:PDMqfHI10
三日後
淡「ちわーす」ガラ
菫「挨拶はきちんとしろ大星。部のルールは守れ」
淡「はいはい。……あれ、菫だけ? 他の一軍のメンバーは?」
菫「尭深と誠子は今日は休みだ。照は進路の件で担任と話があるから、その後でくる」
菫(二人には今日は休んでもらった。照が進路相談をするこの日に合わせれば、私と大星の
一騎打ちになる。そこで私が勝てば、大星も文句はないはずだ)
菫(……照には何も言っていない。もし言えば、あいつは個人的に大星と話を付けるかもしれない。
だが、それじゃだめだ。照の言うことなら素直に聞くだろうが、それだと根本的な解決にならない)
菫(私個人の力で大星に勝たないと、意味ないんだ)
淡「えー、テルいないの? なーんだ。じゃあテルがくるまで休んでますね」
菫「何が休むだ。まだ何もしてないだろ」
淡「だってメンバーがいないんじゃ打てないじゃん」
菫「何言ってる。メンバーなら沢山いるだろ。二軍から二人呼べばいい」
部員「……!」ビクッ
淡「ちわーす」ガラ
菫「挨拶はきちんとしろ大星。部のルールは守れ」
淡「はいはい。……あれ、菫だけ? 他の一軍のメンバーは?」
菫「尭深と誠子は今日は休みだ。照は進路の件で担任と話があるから、その後でくる」
菫(二人には今日は休んでもらった。照が進路相談をするこの日に合わせれば、私と大星の
一騎打ちになる。そこで私が勝てば、大星も文句はないはずだ)
菫(……照には何も言っていない。もし言えば、あいつは個人的に大星と話を付けるかもしれない。
だが、それじゃだめだ。照の言うことなら素直に聞くだろうが、それだと根本的な解決にならない)
菫(私個人の力で大星に勝たないと、意味ないんだ)
淡「えー、テルいないの? なーんだ。じゃあテルがくるまで休んでますね」
菫「何が休むだ。まだ何もしてないだろ」
淡「だってメンバーがいないんじゃ打てないじゃん」
菫「何言ってる。メンバーなら沢山いるだろ。二軍から二人呼べばいい」
部員「……!」ビクッ
137: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/09/23(日) 01:04:58.95 ID:PDMqfHI10
淡「はあ? ちょっと冗談やめてよ菫。なんで私が二軍なんかと」
菫「大星。最近お前は部というものを無視し過ぎてる。これ以上我を通すつもりなら、
いい加減黙っている訳にもいかないぞ」
淡「ふふん、偉そうに。私を退部でもさせるつもり?」
菫「最悪の場合、そうなる可能性もある」
淡「菫にそんな権限ないでしょ。あるとすれば顧問だけど、顧問は私の実力に期待してる。
学校としても白糸台の三連覇は是非とも達成してほしいところだろうし、私を退部なんてさせるわけない」
菫「だが照が口添えすれば有り得ない話じゃないぞ」
淡「あははっ。テルが私を追い出すって? それこそまさかだよ。テルだってやっと
自分と互角に戦える打ち手に出会えて喜んでるんだよ? むしろ私の退部には反対するに決まってる」
菫「なに?」
淡「だってそうでしょ? テル、あんなに強いのに今まで退屈してなかったわけないじゃん。
弱い人とばっかり打ってきて、うんざりしてたに決まってるよ」
菫「――大星」ギリッ
菫「私たちの雀力について何を言おうが我慢してやる。だがな、私たちと照が共に
過ごしてきた二年間まで侮辱するつもりなら、いくらお前でも許さない!」
淡「ふふ、共に過ごしてきた? テルの強さの後ろをとことこついて行っただけでしょ?
よかったね、テルと一緒に過ごせて。あの人と同じチームにいるだけで、インハイ
三連覇の栄光を我がもの顔で語れるんだから」
菫「大星。最近お前は部というものを無視し過ぎてる。これ以上我を通すつもりなら、
いい加減黙っている訳にもいかないぞ」
淡「ふふん、偉そうに。私を退部でもさせるつもり?」
菫「最悪の場合、そうなる可能性もある」
淡「菫にそんな権限ないでしょ。あるとすれば顧問だけど、顧問は私の実力に期待してる。
学校としても白糸台の三連覇は是非とも達成してほしいところだろうし、私を退部なんてさせるわけない」
菫「だが照が口添えすれば有り得ない話じゃないぞ」
淡「あははっ。テルが私を追い出すって? それこそまさかだよ。テルだってやっと
自分と互角に戦える打ち手に出会えて喜んでるんだよ? むしろ私の退部には反対するに決まってる」
菫「なに?」
淡「だってそうでしょ? テル、あんなに強いのに今まで退屈してなかったわけないじゃん。
弱い人とばっかり打ってきて、うんざりしてたに決まってるよ」
菫「――大星」ギリッ
菫「私たちの雀力について何を言おうが我慢してやる。だがな、私たちと照が共に
過ごしてきた二年間まで侮辱するつもりなら、いくらお前でも許さない!」
淡「ふふ、共に過ごしてきた? テルの強さの後ろをとことこついて行っただけでしょ?
よかったね、テルと一緒に過ごせて。あの人と同じチームにいるだけで、インハイ
三連覇の栄光を我がもの顔で語れるんだから」
140: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/09/23(日) 01:07:33.05 ID:LzVnlQY0O
これは教育が必要ですなぁ
143: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/09/23(日) 01:09:03.79 ID:PDMqfHI10
菫「なんだと……!」
淡「いいよ。そこまで言うなら、テルと過ごしたっていうその実力見せてよ。
ただし、私が勝ったら今後は私の好きにさせてもらうからね」
菫「……望むところだ。――おい、誰か二軍で手の空いてる者はいないか?」
部員「……」サッ
菫(みんな一斉に目線を逸らした……。皆大星を怖がってるんだ。このままじゃ大星は本当に……)
菫「……一子、A子。卓に入ってくれ」
一子・A子「……!」ビクッ
A子「わ、私、ですか……」
一子「……」
菫「……頼む」
菫(半端な奴を入れたんじゃすぐトばされて終わるだけだ)
菫(だがこの二人でも大星が相手では正直力不足は否めない。いや、大星が言うように、
こいつと互角に戦えるのはもう、うちの部では照しかいない)
菫「……始めるぞ」
菫(ここで大星を倒す。倒してみせる……!)
148: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/09/23(日) 01:13:57.84 ID:PDMqfHI10
南三局
菫(この感じ……)
淡「……」ゴォォォォ
菫(照と打ってるときの大星と同じだ。本気で勝ちに来てる)
一子「……」カチャ
A子「……」カチャ
菫(二人はもう聴牌すら目指してない。大星に怯えて、安全牌を切ることしか頭にない)
菫「……」カチャ
菫(大星を止められるのは私しかいない。だが、この局が終わればもうオーラス。
大星と私の点差は19000点以上ある。このままじゃ……)
菫「……」カチャ
菫(張った。八巡目で三面待ち。リーチをかければ倍満確定。一気に逆転できる!)
菫「リーチ!」
菫(射抜いてやる……大星の支配は確かに強力だが、絶対に攻略できないようなものじゃない)
淡「――ふふ」
菫「!?」
菫(この感じ……)
淡「……」ゴォォォォ
菫(照と打ってるときの大星と同じだ。本気で勝ちに来てる)
一子「……」カチャ
A子「……」カチャ
菫(二人はもう聴牌すら目指してない。大星に怯えて、安全牌を切ることしか頭にない)
菫「……」カチャ
菫(大星を止められるのは私しかいない。だが、この局が終わればもうオーラス。
大星と私の点差は19000点以上ある。このままじゃ……)
菫「……」カチャ
菫(張った。八巡目で三面待ち。リーチをかければ倍満確定。一気に逆転できる!)
菫「リーチ!」
菫(射抜いてやる……大星の支配は確かに強力だが、絶対に攻略できないようなものじゃない)
淡「――ふふ」
菫「!?」
149: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/09/23(日) 01:17:07.74 ID:PDMqfHI10
淡「今頃リーチ? 菫、遅すぎるよ」
菫「なに……?」
淡「私の手の速さ知ってるでしょ? 私はとっくに聴牌してたんだよ。あなたたちがノロマだから
暇つぶしに打点を上げてたの。なのにリーチするなんて、打ち落としてくださいと言ってるようなものじゃん」
菫「なにを――」
淡「ポン」
菫「……!」
菫(ツモ巡が変わった?)
淡「さ、ツモってよ菫。それが当たり牌だから」
151: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/09/23(日) 01:18:33.67 ID:PDMqfHI10
菫「……」
菫(そんな、馬鹿な……)カチャ
菫「……」カチャ 赤5
淡「……」ニヤッ
淡「ロン」
2223346北北北 南南南
淡「ダブ南混一色ドラ4。16000」
菫「な――!」ゾワッ
淡「あと二巡で南はツモれてたから三暗刻もつけれたけど、まあこのくらいにしといてあげる」
菫「……」ガクッ
155: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/09/23(日) 01:21:13.16 ID:PDMqfHI10
菫(……勝てないのか、私では。この強さ……本当にもう照と遜色がない)
菫(皆……すまない)
淡「……」
淡(まあ、菫はまだ勝とうとしてるし、絶望的に弱いわけじゃないからいいけどさ。
他の二人はなんなの? 聴牌すら目指してない。ただ逃げ回ってるだけ。恥ずかしくないの?)
淡(一緒に打ちたくないのはこっちも同じだっての。まるで鳩撃ちしてる気分だわ)
淡(……イライラするなぁ)
オーラス
菫「……」カチャ
一子「……」カチャ
A子「……」カチャ
淡(つまんない。全然楽しくない。早く終わりたいなぁ)ボー
菫「……おい、お前のツモ番だぞ、大星」
淡「え? ああ、うん」
淡(これ以上続けて何になるの? もう役満直撃じゃないとマクれないんだよ?
あーもう……イライラする)
菫(皆……すまない)
淡「……」
淡(まあ、菫はまだ勝とうとしてるし、絶望的に弱いわけじゃないからいいけどさ。
他の二人はなんなの? 聴牌すら目指してない。ただ逃げ回ってるだけ。恥ずかしくないの?)
淡(一緒に打ちたくないのはこっちも同じだっての。まるで鳩撃ちしてる気分だわ)
淡(……イライラするなぁ)
オーラス
菫「……」カチャ
一子「……」カチャ
A子「……」カチャ
淡(つまんない。全然楽しくない。早く終わりたいなぁ)ボー
菫「……おい、お前のツモ番だぞ、大星」
淡「え? ああ、うん」
淡(これ以上続けて何になるの? もう役満直撃じゃないとマクれないんだよ?
あーもう……イライラする)
162: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/09/23(日) 01:25:06.73 ID:PDMqfHI10
ガラ
照「ごめん、遅れた」
部員たち「あ。お疲れ様です!」
菫「照――」
淡「テル!」パァ
淡「もう、遅いよテル!」ガタ
菫「お、おい大星! まだ対局中だぞ。席を立つな」
照「ごめん。進路相談が思ったより長引いて――ん? 尭深と誠子はどうしたの?」
163: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/09/23(日) 01:27:12.63 ID:PDMqfHI10
菫「あ、ああ。二人は今日は休みで――」
淡「そんなことどうでもいいじゃんテル。さ、早く打とうよ!」
ガシャン、ジャラジャラ
菫「な――!?」
一子・A子「!」
菫「お前、山を崩して……何やってる! まだ対局は終わってないだろ!」
淡「え? ああ、もうこんな対局どうでもいいじゃん。どうせ私の勝ちだよ」
菫「な……」
淡「それより、早く誰か抜けてよ。テルが座れないじゃん」
菫「……大、星……お前……」
164: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/09/23(日) 01:27:45.16 ID:iQ1azHBB0
これはあかん
172: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/09/23(日) 01:30:22.08 ID:PDMqfHI10
菫(どうでも、いい?)
菫(私は……お前を更生させたくて。この一局、私なりに一生懸命、全力で打ったんだ)
菫(なのに……)
A子「あ、あの。私抜けます」
一子「あ、ちょ、ちょっと待って。私が……!」
菫「……」
淡「さ。早く打とうテル。今日は半荘二回で30000点以内に収めてみせるからねー!」
照「ああ。がんばれ」
菫「照……」
174: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/09/23(日) 01:33:07.59 ID:PDMqfHI10
菫(どうして何も言わないんだ照。お前は大星のやり方を認めるというのか?)
菫(今はいい。お前がいる内は大星も大人しくするだろう。だが来年はどうする)
菫(私とお前がいなくなったら、大星は完全に孤立するぞ。今度こそ本当に、大星は
一人ぼっちになってしまう。お前はそれでもいいって言うのか、照)
照「……」
淡「今日はとことんまで付き合ってよねテル」
照「ああ……うん。そうだね」
菫(……照!)
照「……」
178: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/09/23(日) 01:35:53.89 ID:PDMqfHI10
照「リーチ」
淡「え、いきなり? させないよ!」
淡「ポン」発ポン
菫「……」白
淡「ポン」白ポン
一一二三四中中 白白白 発発発
淡(小三元確定で聴牌。一萬と中のシャボ待ち)
淡(けど、私は役満は和了れない。なら引けるのは一萬だけ)
照「……」カチャ
淡(テルは当然見抜いてるはず。きっとテルの手牌の頭は一萬。私の待ちは握られてる)
一一二三四中中 白白白発発発 三
淡「なら、これでどうだ!」一萬
淡(これで聴牌も崩れないし、手代わりもできる。あとは私とテルの支配力の
どちらが勝るか――!)
照「ロン」
淡「え、いきなり? させないよ!」
淡「ポン」発ポン
菫「……」白
淡「ポン」白ポン
一一二三四中中 白白白 発発発
淡(小三元確定で聴牌。一萬と中のシャボ待ち)
淡(けど、私は役満は和了れない。なら引けるのは一萬だけ)
照「……」カチャ
淡(テルは当然見抜いてるはず。きっとテルの手牌の頭は一萬。私の待ちは握られてる)
一一二三四中中 白白白発発発 三
淡「なら、これでどうだ!」一萬
淡(これで聴牌も崩れないし、手代わりもできる。あとは私とテルの支配力の
どちらが勝るか――!)
照「ロン」
180: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/09/23(日) 01:38:00.73 ID:PDMqfHI10
淡「え」
234567③④⑤西西一一
照「1000点」
淡「……!」ゾクッ
淡(まただ……私が待ちを変えたらそこを狙い撃ちにされる。かといって素直に打っても、
そのときに限ってそれが狙われたりする)
淡(読まれてるんだ。私の打ち方そのものを……!)
淡(すごい……この人は本当にすごい。マグレとか運がいいとか、そんな偶然すらも蹴散らす、圧倒的な力。本物だ……)
淡(すごいよ、かっこいいよテル。私の同類……私の目標!)ドクン
淡(楽しい。麻雀が楽しい。さっきまであんなにつまらなかった麻雀が、まるで別の遊びみたいに思える)
淡(テルだけだ……テルと打ってるときだけは、私は心から麻雀が楽しいと思える)
淡(テル、あなたに出会えて本当によかった)
184: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/09/23(日) 01:42:33.25 ID:PDMqfHI10
淡「――よっしツモ! 4000,8000!」
菫「お」
照(……和了られた。三連続和了で終わりか)
一子「……うぅ。わ、割れました」
淡「うはっ、テルの親のときに倍満和了っちゃった! ちょっと見てよこの点差。
半荘一局打ってたった12000点差だよ」
照「ああ。上出来だ」
淡「あは。もっと褒めてテル!」
菫「……」
菫(本当に凄い。照と一試合打っても25000点離されない計算だ。去年の全国大会ですら
そんな僅差で照に迫った選手はほとんどいなかった)
185: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/09/23(日) 01:45:06.65 ID:PDMqfHI10
淡「さっ、今の感じを忘れない内にもう一局いこう!」
菫「いや、今日はここまでだ。もう練習終了時刻だ」
淡「え? ……うわ、もうこんな時間。あーあ。テルと打ってると時間が過ぎるの早いなぁ」
照「また明日打とう、淡」
一子(やっと終わった……)ホッ
菫「……照。このあと少し残れるか?」
照「? いいけど」
菫「そうか、よかった。大会の件でちょっとな」
照「……」ピク
淡「それなら私も一緒に残るよテル!」
菫「いや、大星は……」
188: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/09/23(日) 01:47:35.20 ID:PDMqfHI10
照「淡は今日は帰って」
淡「えー、なんで」
照「淡にちょっとしたサプライズを考えてて、そのことについて話すの。
淡がいたら意味がないから」
淡「サプライズ? それってもしかして、大会では私が大将! とか?」
照「――まあ、そんなところかな」
菫「!」
部員「!?」ざわ・・・ざわ・・・
部員「い、一年生が大将……!?」
淡「ほんと!? 大将って、去年までのテルと同じポジションだよね?」
照「ああ」
淡「やった! 私、テルの後継者だ!」
照「だから白糸台の大将に相応しくなるために、帰ってどうして今日勝てなかったのか考えて」
淡「はーい。じゃあ、お先に失礼しまーす!」ルンルン
192: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/09/23(日) 01:52:41.79 ID:PDMqfHI10
菫「……本気か?」
照「顧問にももう話してある。実力的にも、有り得ない話じゃない」
菫「……まあ、お前がそう言うなら私は構わないが」
菫(やはり照は、私たちよりも大星の力を買ってるのか……?)
部員「それじゃあ、お先に失礼します」
菫「ああ、戸締りは任せてくれ」
部員「はい。お疲れ様でした」ガラ
菫「――これで全員帰ったか」
195: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/09/23(日) 01:56:45.11 ID:PDMqfHI10
照「それで、何の用?」
菫「大星のことだ」
照「……うん」
菫「正直なところ、大星のことどう思ってる?」
照「強いと思う」
菫「そうじゃない。あいつの日頃の態度のことだ」
照「……あまりよくはないと思う」
菫「なら、なぜ大星に何も言わない。エースのお前が放置してるのは良くないだろ」
照「……」
198: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/09/23(日) 02:01:13.40 ID:PDMqfHI10
菫「……まさかとは思うが、慕ってくれてるから甘やかしてる、とかじゃないだろうな?」
照「そういうわけじゃない」
菫「なら何故だ。このままじゃ、大星は完全に部で孤立してしまうぞ。
いや、もう孤立してると言ってもいいぐらいに、部員との仲は険悪だ」
照「……」
菫「……本当は、お前の力を借りずにあいつを更生させたかった。だが、駄目だった。
私の力不足だ。もうあいつはお前の言葉でしか動かない。頼む、照。あいつに一言いってやってくれ」
照「……それだと」
菫「ん?」
照「それだと、淡は弱くなる」
200: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/09/23(日) 02:06:25.47 ID:PDMqfHI10
菫「なに……?」
照「淡は孤高だから強いんだ。孤独こそが淡の力の源泉なんだ」
菫「な……」
照「淡のことを考えるなら、淡は部員と仲良くなんてなるべきじゃない」
菫「照……お前、まさか……」
菫「大星を、わざを部員と衝突させるように誘導してるっていうのか……?」
照「……」
菫「どうなんだ!!」
照「淡が部員たちにどういう態度を取るのかは、あくまであの子次第。私には関係ない」
菫「お前――!」
201: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/09/23(日) 02:07:01.96 ID:iQ1azHBB0
照も鬼畜やった
208: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/09/23(日) 02:13:22.39 ID:PDMqfHI10
菫「強くなれるなら孤独になってもいいって……大星がそう望んでると本気で思ってるのか!?
照魔鏡でなんでも見抜いたつもりになってるんじゃないだろうな!?」
照「部員と仲良くしたいなら淡はあんな態度はとってない。あれがあの子の答えじゃないの?」
菫「違う!」
菫「大星は友達が欲しかったんだ! 一緒に楽しく麻雀を打てる仲間が!」
菫「初めてあいつを見た時、私は大星にお前と同じ匂いを感じた。だからこそ、私は大星をここに誘ったんだ。
お前が私たちと仲間になれたように、きっと大星も私たちとやっていけるって」
照「無理だよ」
209: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/09/23(日) 02:15:20.41 ID:PDMqfHI10
菫「なんだと?」
照「淡は強すぎる。並の打ち手じゃ、あの子の隣に並ぶことすらできない」
菫「……隣に並べなければ仲間じゃないとでも言いたいのか?」
照「少なくとも、それは淡の求めてる仲間じゃない」
菫「……」
照「ただ一緒に麻雀を打って、一緒に帰ったり、一緒に笑い合ったり、それだけの友達
が欲しいなら、
淡にもできるかもね。でも、淡はそんな友達なんて求めてない」
照「私が淡に言い聞かせて、部員と仲良くなるように命令すればあの子はしてくれると思う。
でもそれで淡が楽しめると思う? 誰と打っても簡単に勝てる麻雀を打ち続けて、相手に
気を遣って手加減したりして、……そんなことをしても、きっと淡はこう感じるはず」
照「『ああ、やっぱり私はこの子たちとは違うんだ。分かりあったりできないんだ』って。
打てば打つほどに、淡は今以上の孤独を感じることになる」
212: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/09/23(日) 02:19:55.53 ID:PDMqfHI10
菫「……お前も、そうなのか?」
照「?」
菫「お前も、今まで私たちと打ってきて、そう感じていたのか?」
照「私のことじゃない。――でも、そう感じていた子を知ってる」
菫「? 誰のことだ?」
照「…………その子は」
照「あまりにも強すぎて、周りに自分と同じレベルで麻雀を打てる人がいなかった」
照「普通に打てば簡単に勝ってしまう。そうすると一緒に打っていた人たちは不機嫌になって、
その子に八つ当たりしたりしていた。でもわざと負けても、手加減してるとバレて叱られた」
照「だからその子は、勝ちも負けもしないような麻雀しか打たなくなった」
215: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/09/23(日) 02:22:37.31 ID:ME3x3UU40
そんな咲さんを更生した原村さんってすごいですよね!
218: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/09/23(日) 02:23:33.39 ID:4NdWDN/d0
>>215
全国大会の二回戦をみてみろよ
魔王は改心してないぞ
全国大会の二回戦をみてみろよ
魔王は改心してないぞ
220: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/09/23(日) 02:25:47.49 ID:zkNwxrrm0
>>218
手ごわい人がいたからだから(震え声)
手ごわい人がいたからだから(震え声)
217: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/09/23(日) 02:23:24.90 ID:PDMqfHI10
照「誰と打っても、何度打っても、全てプラマイゼロ。自分の勝ちを捨ててその子の
プラマイゼロを防ごうとしても、結局プラマイゼロで終局してしまう」
照「わかる、菫? 強すぎる人間が格下に合わせようとすると、そんな歪な麻雀が
生まれてしまうんだ。淡はあの子と同じ次元の打ち手だ。私はもう二度と……あんな風に
麻雀が歪んでいくところなんて見たくない」
菫「……だから、大星は孤独であるべきだと言うのか」
照「そう。淡は下を見るべきじゃない。どんなに互いが歩み寄ろうとしても、部員達と淡が
分かりあうことはない。どんなに手を伸ばしても星に手が届かないのと同じように」
菫「……」
照「だったら、淡は上を目指し続けるべきだ。そうすれば、ちゃんとした目標がある限り
あの子はどこまでも強くなれる」
菫「……照」
222: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/09/23(日) 02:28:12.31 ID:PDMqfHI10
菫「お前の考えは分かった。だがお前には白糸台麻雀部のエースとして、先輩として、
それに見合った態度を取ってほしい」
照「分かった。これからは私からも言っておく。でも、無理に淡と部員を仲良くさせようとは思わない」
菫「……なあ照。大星がお前にとってどういう存在なのかは、私にはわからない。
本当に強い者同士でしか分からないもの、見えないものもあるんだろう。私ではその
領域に踏み込むには力不足なんだろう」
菫「だがな。私にとって、大星は可愛い後輩なんだ。強すぎるせいでお前に縋るしかない
あいつのことを不憫に思うし、大星の孤独を埋めてやれない私自身を恥ずかしく思う」
菫「お前がなんと言おうと、私は大星に部の皆と仲良くなってほしい。一緒に上を目指す
仲間になってほしい。それが麻雀部としてあるべき姿だと信じてる」
照「……」
223: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/09/23(日) 02:32:21.66 ID:PDMqfHI10
菫「……話はそれだけだ。付き合わせてすまなかった」
照「構わない。じゃあ、私は帰る」
菫「ああ」
照「……」ガラ
菫「――照」
照「……?」ピタ
菫「最後に一つだけ訊いてもいいか?」
照「なに?」
菫「お前も大星と同じで……私たちと打っても、楽しくないのか?」
照「……」
226: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/09/23(日) 02:36:54.70 ID:PDMqfHI10
菫「私たちはお前のことを大切な仲間だと思ってる。確かに、力の差があり過ぎて、たまに
お前が怖くなるときがある。でも、それでも私はお前と打っていて楽しいぞ。
だがお前は……私と打っても楽しくないのか? 孤独を感じるのか?」
照「……」
菫「応えてくれ、照。頼む」
照「……」
照「楽しくない」
菫「っ……」
照「でもそれは、菫のせいじゃない」
菫「?」
照「私は……」
照「私は、麻雀……好きじゃないんだ」
230: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/09/23(日) 02:39:48.05 ID:PDMqfHI10
菫「麻雀を、好きじゃない?」
照「ああ」
菫「ならお前は、なんのために麻雀を打ってるんだ」
照「……」
照「……帰る」
菫「お、おい、照!」
ガラ、ピシャ
菫「照……」
菫「……私が間違ってるのか?」
菫「皆で楽しく麻雀を打ちたいって……そう思う私は間違ってるのか?」
菫「教えてくれ、照……大星」
292: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/09/23(日) 16:16:57.36 ID:PDMqfHI10
二日後
昼休み
淡「あー、やっとお昼だ」
淡「友ちゃん、一緒にお昼食べよ」
友「あ、う、うん……」
友「あ、あの、ごめん大星さん……私、今日もちょっと……」
淡「……そっか」
友「う、うん。本当にごめんね。そ、それじゃ」タタタ
淡「……」
淡(私が白糸台の一軍に入ってから、あの子とも気まずくなっちゃったな)
295: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/09/23(日) 16:23:10.38 ID:PDMqfHI10
淡(私のこと初心者とか言ってたのまだ気にしてるのかな。結局麻雀部にも入らなかったみたいだし)
淡(――ま、いっか。私にはテルがいるんだ。普通の友達なんていらないし)
淡(早く部活に行きたい……テルに会いたい)
ガラ
菫「大星、いるか」
淡「? 菫?」
菫「話がある。麻雀部に関することだ」
297: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/09/23(日) 16:25:12.04 ID:PDMqfHI10
淡(あ、大将の話だ!)
淡「はーい、すぐ行きまーす!」ウキウキ
屋上
淡「菫、大将の件どうなったの?」
菫「ああ、さっき顧問とも話してきた。次の大会の大将はお前だ、大星」
淡「やったー! テルと同じポジション!」
菫「……それで、だ。大星」
淡「? まだなにかあるの?」
菫「お前の、日頃の態度についてだ」
300: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/09/23(日) 16:32:30.49 ID:PDMqfHI10
淡「……」ハァ
菫「最近のお前の、部員に対する態度はあまりにも目に余るものがある。先輩に対しても「弱すぎる」だの「あなたと打っても仕方ない」だの、
挙句の果てには「雑魚」とまで言ったことがあるらしいな」
淡「だって本当のことじゃないですか」
菫「心の内でどう思おうとそれはお前の勝手だ。だが本人を前にしてわざわざ言う必要のないことだろ」
淡「陰口ならオッケーってこと?」
菫「そういう問題じゃない! 話を逸らすな!」
淡「こういうのって、「陰口を叩くくらいなら本人に直接言え」とか言われるものだと
思ってたけど。直接言うのもだめなんですね」
菫「当たり前だろ」
淡「だって弱いんだもん。菫、私はあなたにも期待してたんだよ?」
菫「なに……?」
淡「テルと打って、白糸台の一軍は別格なんだ、って嬉しかったのに。蓋を開けてみたら強いのはテルだけじゃん」
菫「……」
淡「白糸台で歴代最強とか、チーム虎姫とか言われてるけど、私に言わせれば白糸台なんて
テルのワンマンチームだよ。ま、今は私とテルのチームだけど」
菫「最近のお前の、部員に対する態度はあまりにも目に余るものがある。先輩に対しても「弱すぎる」だの「あなたと打っても仕方ない」だの、
挙句の果てには「雑魚」とまで言ったことがあるらしいな」
淡「だって本当のことじゃないですか」
菫「心の内でどう思おうとそれはお前の勝手だ。だが本人を前にしてわざわざ言う必要のないことだろ」
淡「陰口ならオッケーってこと?」
菫「そういう問題じゃない! 話を逸らすな!」
淡「こういうのって、「陰口を叩くくらいなら本人に直接言え」とか言われるものだと
思ってたけど。直接言うのもだめなんですね」
菫「当たり前だろ」
淡「だって弱いんだもん。菫、私はあなたにも期待してたんだよ?」
菫「なに……?」
淡「テルと打って、白糸台の一軍は別格なんだ、って嬉しかったのに。蓋を開けてみたら強いのはテルだけじゃん」
菫「……」
淡「白糸台で歴代最強とか、チーム虎姫とか言われてるけど、私に言わせれば白糸台なんて
テルのワンマンチームだよ。ま、今は私とテルのチームだけど」
303: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/09/23(日) 16:42:12.21 ID:PDMqfHI10
菫「……大星。お前ももう高校生だろ。子供じゃないんだ。自分の発言が他人を不快にさせていることに気付け」
淡「私が勝ったら好きにさせてくれるって約束したくせに。先輩なら約束守ってよね」
菫「……あのな、大星」
菫「お前の気持ちは分かる。お前にとって照は初めて出会えた自分の同類なんだろう。
お前が照に入れ込んでるのもわかる。でもな、だからって他の部員のことを蔑ろに
していい理由にはならない。そうだろ」
淡「うるさいなぁ。文句があるなら私より強くなってから言ってよ」
菫「っ……大星!」
淡「それに、心配しなくても来年には私退部してるし、来年からはまた普通の白糸台に戻れるよ」
菫「――――」
菫「――――ぇ」
菫「な……ん、だと?」
307: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/09/23(日) 16:57:31.36 ID:PDMqfHI10
淡「なにって、退部だよ。麻雀部を辞めるの」
菫「ど、どうして」
淡「だって、来年にはテル卒業しちゃうじゃん。なら麻雀部なんている意味ないし」
菫「……」
淡「ああ、でも麻雀は続けるよ。おじいちゃんに頼んで家にプロを呼んでもらって、
本格的に稽古をつけてもらうんだ。
テルは卒業したら大学にいくのかな? まああれだけ強ければ即プロ入りもあるだろうけど。
とにかく私も卒業したらテルと同じ道に進むの。クラブ活動なんかで遊んでる暇ないし」
菫「――大星」
淡「ああでも、テルと同じ大学に入ってインカレ四連覇ってのもありかなー。――ん?」
パシンッ!
308: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/09/23(日) 17:07:11.84 ID:PDMqfHI10
淡「あぅ――ッ!」ドサ
菫「白糸台を……いや。全国の雀士を舐めるのも大概にしろ!!」
淡「……」
菫「白糸台の一軍になりたくて、でもなれなくて……三年間毎日毎日何時間も必死に
麻雀を打って、青春を捧げて、それでも一度も大会に出ることなく卒業する部員が、
いったいどれだけいると思ってる」
菫「一子だってそうだ。あいつは今年卒業で、三年になってやっと一軍入りして大会に
出られるって喜んでたんだ。だがお前が入部して、繰り下がりで二軍落ち……団体戦で
大会に出る夢はもう叶わない」
菫「だがそれでもあいつが文句一つ言わなかったのは、お前が……お前なら白糸台を優勝
に導く一人になってくれると信じたからだろ。全国優勝の夢をお前に託したからだろ!」
311: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/09/23(日) 17:17:13.47 ID:PDMqfHI10
菫「お前はそういう……他の部員の夢や、期待や、想いを受け継いで、あるいは蹴落として。
白糸台の一軍の座を勝ち取ったんだ。そんなお前が……照がいないから部を辞めるだと?
ふざけるな……ふざけるなよ……馬鹿みたいじゃないか」
菫「お前みたいなやつがいてくれるなら、私や照が卒業しても大丈夫だって……
お前になら白糸台を任せられるって、そう思ってた私が……馬鹿みたいじゃないかぁ!」
淡「知ったことじゃないよ、そんなの」
菫「!?」
淡「あなたたちが勝手に私に期待して、勝手に失望した。それだけじゃん。
私があなたたちに勝手に期待して、勝手に失望したのと同じことだよ」
菫「……私たちの実力では、そんなに不足か。部にいることすら耐えられないほどに」
淡「はい」
313: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/09/23(日) 17:24:49.56 ID:PDMqfHI10
淡「いつもあれだけ言ってあげてるのに、まだ気づいてなかったの?
あなたたち、本当に弱いよ。相手にならない」
菫「……」
淡「そんなあなたたちでも、全国ではそれなりに上位の選手なんでしょ? だから私は、
全国にも期待してない。だから全国優勝にも興味ない。
全国なんて、テルが行くっていうからついていってるようなものだもん」
淡「まあ、テルの強さを三連覇っていう完璧な形で歴史に残したいっていう気持ちはあるけどね。
そういう意味では、全国優勝には意味があるかも。でも、それだけだよ」
淡「だいたい、夢を受け継いだ? 笑わせないでよ。私は別に、一子の想いを
継いだから一軍にいるわけじゃない。――強いから。私は強いから一軍なの。
そして一子は弱いから二軍になった。それだけじゃん」
菫「……」
318: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/09/23(日) 17:32:09.70 ID:PDMqfHI10
淡「そこに勝手に感情論を持ちこんで美的解釈しないで。麻雀部も、ただの部活でしょ?
つまんないから辞めるの。――話はそれだけ? なら帰るね」
菫「お前は……一緒に麻雀を楽しめる仲間が欲しくて、麻雀部に入ったんじゃないのか」
淡「違うよ」
淡「今なら、私がなんのために今まで麻雀を打ってきたのかわかる。私は
テルに出会うために、麻雀を続けてきたんだ」
淡「テルも同じだよ。私はずっと、どうしてあんなに強い人がこんなお遊びみたいな麻雀部で
腐らずに続けてこれたのか不思議だった。でも、きっとテルも私に出会うために今まで
部に残ってたんだ」
菫「違う」
淡「違わない。私たちが出会うためだけに、白糸台麻雀部はあったの。そして私たちは出会った。
まるで星と太陽が引力で引かれ合うみたいに。――ふふ、なんだかロマンチック」
324: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/09/23(日) 17:39:32.22 ID:P21fbm/C0
菫さんこの年でストレスがマッハだな。
菫さんが魔物クラスになっても、淡ちゃんはそれ以外の部員とは馴れ合いはしなさそうだし
菫さんが魔物クラスになっても、淡ちゃんはそれ以外の部員とは馴れ合いはしなさそうだし
325: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/09/23(日) 17:40:34.09 ID:PDMqfHI10
菫「……」
淡「まあ、心配しなくても全国優勝はしてあげるから。テルが卒業するまでは部にもいてあげる。
でもその後は私の好きにさせてもらうから」
ガチャ、バタン
菫「……」ギリ
菫(もう、だめだ。大星はもう、何を言っても無駄だ)
菫(もう私では大星を止められない。諌めてやることすらできない。照も大星を放任してる……)
菫(誰かがあいつに勝つしか……全国で誰かが大星に勝てば、きっとあいつの考えも変わる)
菫(だが全国にすら、大星と渡り合える選手なんて何人いるか……)
菫(それに、大将の大星が負けるということは同時に、白糸台の敗北も意味する。それは……だめだ)
菫(大星が改心するためには、誰かが勝っても負けてもだめなんだ)
菫(勝ちもせず、負けもせず、それでも大星に負けを認めさせられるような選手……そんなの、いるわけない)
菫(くそっ……!)
333: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/09/23(日) 17:53:30.37 ID:PDMqfHI10
一ヶ月後
菫「県予選突破、まずは御苦労だった。皆全国大会までの間、気を緩めることなく今の状態を
維持してくれ」
渋谷・亦野「はい」
照「……」コク
淡「……」ボー
菫「……大星、聞いてるのか?」
淡「え? ああ、聞いてるよ。それより、全国ではなるべく私に回る前に他家をトばしてくれません?」
菫「お前が予選で打ったのは決勝だけだろ」
340: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/09/23(日) 18:12:58.07 ID:PDMqfHI10
淡「あの程度の相手に大将まで回ってくるのがまずおかしいんだよ。四人もいればどっかで
トばせるでしょ。わざわざ私の手を煩わせないでくださいよ」
菫・亦野・渋谷「……」
照「それは悪かった。私がもっと先鋒で点を取っていればよかったな」
淡「そんな! 違うよ。決勝でテルが何万点毟ったと思ってるの!
問題なのは風前の灯だった他家を三人がかりでトばせなかった後の人達だってば!」
菫「……とにかく、立ち上がりとしては悪くない。全国では大星まで回る回数も増えるだろう。
油断だけはするなよ、大星」
淡「……」シーン
菫「……」ハァ
341: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/09/23(日) 18:15:14.52 ID:PDMqfHI10
淡「そうだ。他の県の結果も出たんだよね? どうなったんですか?」
菫「ん、ああ。だいたい予想通りといったところだな。千里山、臨海、永水、そして
うちがシード校になるだろう。他もだいたい予想通りだ」
淡(永水……テルの言ってた、テルとやりあえる二人のうちの一人、神代がいる高校か。私は大将だから先鋒にくるだろう神代とは当たらない。ちぇ)
淡(でももう一人……龍門渕の天江衣。彼女は大将、私と当たる。実はちょっとだけ
期待してるんだよね。テルのお墨付きなら、期待はずれにはならないだろうし)
淡「龍門渕は勝ったんですよね?」
菫「龍門渕は――ん? いや、来てない……? 予選で負けたようだ」
淡「は!?」ガタッ
342: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/09/23(日) 18:16:12.73 ID:PDMqfHI10
淡「負けた? 龍門渕が? え、大将まで回らなかったの?」
菫「ちょっと待て、いま調べる」ペラペラ
菫「……いや、回ってるな。他校とさほど差はない状態で回ってきたらしい」
淡「はあああああ!? なにそれ、じゃあ単純に実力で負けたってこと!?」
菫「まあ、そういうことなんだろうな。龍門渕がどうかしたのか、大星」
淡「……」ガックリ
淡(なにそれ……いい加減にしてよ……どんだけ私の期待を裏切れば気が済むのよ)
淡「……で、どこに負けたの?」
菫「長野代表は……清澄……?」
346: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/09/23(日) 18:19:32.29 ID:PDMqfHI10
淡「清澄? どこそれ」
菫「私も聞いたことがない。無名校だろう」
淡「無名校?」イラッ
淡(テルに認められたくせに、そんなどこの馬の骨とも分からないような高校に負けるなんて、
テルの顔に泥を塗るつもり? イライラするなぁ……)イライラ
淡「清澄の大将って誰?」
菫「えーっと……清澄、清澄……あった、これだ」ペラペラ
菫「大将――え?」
淡「? どうしたの?」
菫「……大将……宮永、咲……?」
348: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/09/23(日) 18:22:01.58 ID:PDMqfHI10
照「――ッ!」ピクッ
淡「宮永?」チラッ
誠子・尭深「……」チラッ
菫「……照、お前の……妹さんか?」
照「……違う」
照「私に妹なんていない」
菫「……そうか」
淡(……ふーん?)
351: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/09/23(日) 18:25:07.23 ID:PDMqfHI10
練習後
淡「菫」
菫「ん、どうした?」
淡「清澄と龍門渕の県予選決勝の映像とかってある?」
菫「ああ、あるぞ。欲しいのか?」
淡「うん。ちょっと全国に向けて相手チームを研究しとこうかな、って」
菫「! お、大星……!」パァ
菫「どうした、いつになくやる気じゃないか。ああいいぞ、すぐ持って来てやるから、
そこで待っててくれ!」タタタ
菫(大星が相手チームを研究するなんて。よかった……大星もやっと本気になってくれたか)
菫「――ほ、ほら、持ってきたぞ。長野と大阪、鹿児島に……強豪校のはあらかた――」ハァハァ
淡「長野だけでいいよ。じゃ、これ借りるね」ヒョイ
菫「え……?」ポカン
淡「菫」
菫「ん、どうした?」
淡「清澄と龍門渕の県予選決勝の映像とかってある?」
菫「ああ、あるぞ。欲しいのか?」
淡「うん。ちょっと全国に向けて相手チームを研究しとこうかな、って」
菫「! お、大星……!」パァ
菫「どうした、いつになくやる気じゃないか。ああいいぞ、すぐ持って来てやるから、
そこで待っててくれ!」タタタ
菫(大星が相手チームを研究するなんて。よかった……大星もやっと本気になってくれたか)
菫「――ほ、ほら、持ってきたぞ。長野と大阪、鹿児島に……強豪校のはあらかた――」ハァハァ
淡「長野だけでいいよ。じゃ、これ借りるね」ヒョイ
菫「え……?」ポカン
367: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/09/23(日) 18:59:46.41 ID:PDMqfHI10
自宅
淡「……」ジー
淡「……弱いじゃん、龍門渕。っていうか全部。長野レベル低いなー」
淡「風越の先鋒と清澄の中堅はまあまあだけど、他が弱すぎる。原村和も
期待してたほどじゃないな。インターミドル優勝したらしいけど、ま、所詮は
私のいないインターミドルでだしね」
淡「さってと。退屈な副将までが終わったし、やっと大将戦だよ」ピッ
淡「……」ジー
淡「……」ジー
372: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/09/23(日) 19:05:48.76 ID:PDMqfHI10
淡「……ふーん」
淡(天江衣……悪くないじゃん。確かに、この県の中では別格だわ。白糸台でも余裕で
一軍入りできる。というか、テル以外でこの子に勝てる人、うちにいないな)
淡(案外私ともいいとこまでやりあえるかも。テルが認めるだけある)
淡「……あとは……清澄」
咲『――ツモ。嶺上開花』
淡「……」
淡「まあ、悪くはないね。天江に手も足も出ない他の二校と違って、ちゃんとやりあえてるし」
淡「でも、総合力だと天江の方が面白いね。別に清澄の大将には魅力感じないや」
淡「天江衣とやりたかったな……この子個人戦にも出ないらしいし、なんなんだろホント」
解説『――数え役満! 宮永咲選手が本大会二度目の数え役満を和了りました!』
淡「……宮永、か」
淡(実力云々よりも、この名字が気になる。テルの反応から察するに、どうも何かしら
テルと関係ありそうなんだよね)
淡「……オッケー。とりあえず、期待しといてあげる」
淡「失望させないでよね、宮永咲……!」ゴッ
淡(天江衣……悪くないじゃん。確かに、この県の中では別格だわ。白糸台でも余裕で
一軍入りできる。というか、テル以外でこの子に勝てる人、うちにいないな)
淡(案外私ともいいとこまでやりあえるかも。テルが認めるだけある)
淡「……あとは……清澄」
咲『――ツモ。嶺上開花』
淡「……」
淡「まあ、悪くはないね。天江に手も足も出ない他の二校と違って、ちゃんとやりあえてるし」
淡「でも、総合力だと天江の方が面白いね。別に清澄の大将には魅力感じないや」
淡「天江衣とやりたかったな……この子個人戦にも出ないらしいし、なんなんだろホント」
解説『――数え役満! 宮永咲選手が本大会二度目の数え役満を和了りました!』
淡「……宮永、か」
淡(実力云々よりも、この名字が気になる。テルの反応から察するに、どうも何かしら
テルと関係ありそうなんだよね)
淡「……オッケー。とりあえず、期待しといてあげる」
淡「失望させないでよね、宮永咲……!」ゴッ
375: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/09/23(日) 19:08:11.51 ID:ME3x3UU40
咲さんのベストプレイって最後の数え役満より池田への槍槓差し込みだと思う
377: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/09/23(日) 19:09:18.95 ID:KzCoLkHp0
>>375
あとカンドラも乗せも
あとカンドラも乗せも
378: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/09/23(日) 19:13:48.91 ID:PDMqfHI10
抽選日
ざわ・・・ざわ・・・
菫「トーナメント表の抽選日だ。まずはうちがどこと当たるのか、しっかりとチェック
しておくんだぞ」
渋谷・亦野「はい」
菫「……それにしても、意外だな。大星は今日来ないかもしれないと思ってたんだが」
淡「トーナメント表は私も興味あるからね」
菫(大星が最近やる気だ……嬉しいことだ)
380: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/09/23(日) 19:17:37.18 ID:PDMqfHI10
淡「ふぁ~あ」
淡(退屈ぅ……どうでもいいよ、シード校にもなれなかった雑魚のことなんて。それより……)
『続きまして、清澄高校』
淡「お。やーっときた」
菫「なんだ。清澄を注目してるのか?」
淡「まあね」
『清澄高校――』
淡「……同じ側か。清澄と当たるのは準決勝か」
菫「清澄とうちが勝ち抜ければ、決勝でも当たる可能性はあるぞ」
381: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/09/23(日) 19:18:11.34 ID:PDMqfHI10
淡「それはないよ」
菫「? なぜだ」
淡「清澄の大将は……」
淡「私が、潰すから」ゴッ
菫「……」ゾクッ
菫(本気だ……本気の大星だ)
菫(負けるわけがない。こんな怪物が……)
※ストーリーの展開上、抽選はこっちの都合にさせてください。
白糸台と臨海が入れ替わったと思ってください。
387: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/09/23(日) 19:37:33.88 ID:PDMqfHI10
数日後
淡「さーて、準決勝か」
あれから、白糸台は当然のように勝ち進んでいった。私は準決勝まで一度も卓につくことなく、
全て副将まででどこかがトんで終わった。テルが殺し損ねた死に損ないに他の三人が
止めを刺すような形が常だったけど、私としてもまあ文句はない。
そして準決勝の日が訪れた。この日、白糸台は清澄高校と対決する。
菫「永水が敗退とはな。番狂わせもあったものだ」
淡(神代も期待はずれだった。最後にちょっといい感じの雰囲気になってたけど、アベレージは普通だったし)
照「……」
淡(それより……テルの様子が少しいつもと違う。普段よりももっと静かだ)
389: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/09/23(日) 19:43:06.66 ID:PDMqfHI10
照「――じゃあ、行ってくる」
淡「行ってらっしゃい、テル」
菫「頼んだぞ、照」
照「……」コクン
淡「――あ、そうだ。テル!」
照「?」ピタ
淡「できれば今日は軽く流す感じでやってくれない? 私清澄の大将と打ちたいんだ。
テルが本気だしたらどっかトんじゃいそうだし」
391: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/09/23(日) 19:49:39.65 ID:PDMqfHI10
照「……」
菫「馬鹿なこと言うな。照、いつも通り打ってこい」
照「分かってる」
淡「ほんと心配性だなぁ皆。私までに100点残してくれればそれで大丈夫だよ」
照「……」
淡「? どうしたの、テル」
照「……淡」
照「――侮ると負けるよ」
395: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/09/23(日) 19:54:21.96 ID:PDMqfHI10
淡「――え?」
照「……」バタン
淡「……負ける? 私が……?」
菫「照の言う通りだぞ大星。どんな相手でも油断するなよ」
淡(……テルは私の強さを知ってる。その上で、私が清澄の大将に負けるかもしれないって言うの?)
菫「無論、私たちも手加減するつもりはない。最悪――いや、最悪ではないが、お前に
回さずにトばせるなら、そうするつもりだからな」
淡(テルが認めた二人、神代と天江衣。清澄はそのどちらにも勝ってる。それは偶然なんかじゃなく、実力通りの結果だったってこと?)
398: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/09/23(日) 19:57:34.69 ID:PDMqfHI10
菫「お前はその日の気分で手を抜いたり全力でいったりムラがありすぎる。ただでさえ
お前はまだ全国で打ってないんだ。万が一ってことも……」
淡(咲……宮永咲。やっぱりなにかあるんだ、テルと)
菫「……大星、聞いてるのか?」
淡「菫、清澄の大将って宮永だよね? これ、本当にテルと無関係なの?」
菫「……さあ。私にもなんとも言えない。ただ、照に妹がいるという話は聞いた。
普段あいつは否定してるが、昔、ポロっとな」
淡「ふーん」
淡(妹……テルの妹、か)
淡(――面白そうじゃん)ゴッ
401: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/09/23(日) 20:03:52.31 ID:PDMqfHI10
数時間後
実況『さあ、Bブロック準決勝も残すところこの副将戦の南場と、大将戦のみとなりました』
実況『先鋒で宮永選手が広げた大量リードを守る白糸台。しかし中堅戦で清澄と姫松に
大量失点を許してしまいました』
実況『続く副将戦、原村和のめざましい活躍により清澄が白糸台に猛追を仕掛けています。
両校の点差は20000点にまで縮まりました。白糸台はこのリードを守りきって
大将に繋ぐことができるのか。そして現在一人沈み状態の有珠山はここから
追い上げることができるのか』
淡「――あんなこと言われてるけど?」イライラ
尭深・菫「……」
403: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/09/23(日) 20:06:13.67 ID:lMycG9XG0
安心と信頼のワカメキンクリ
405: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/09/23(日) 20:09:45.17 ID:PDMqfHI10
淡「尭深……あなた中堅戦で何万点取られたか分かってる?」
渋谷「……」
菫「やめろ大星。個人のミスはチームのミスだ。それが団体戦だろ」
淡「は? で、個人の手柄もチームの手柄ってわけ? 今までそうやってテルの手柄を
自分のものみたいに語ってきたんだ」
菫「……っ」
淡「だいたい菫、あなたもマイナスだったよね。で、誠子もマイナス。……あほらし。
ていうか、なんか菫の試合でなにがあったのかよく覚えてないんだけど」
淡(そういえば、なんか次鋒戦はいつのまにか終わってたな)
菫「姫松と清澄の中堅は強敵だった。尭深には少し荷が重い相手だったんだ」
淡「誠子も苦戦してるっぽいね」
菫「確かに、清澄に追い上げられてるな。だが一位で大星に回すことはできるだろう」
淡「当たり前じゃん。テルが何万点取ったと思ってんの。これで逆転なんかされたら、
もう軽蔑だよ、軽蔑。もう絶対敬語使わないから」
渋谷「……」
414: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/09/23(日) 20:13:50.77 ID:PDMqfHI10
照「淡」
淡「ん、なぁに、テル」
照「そろそろ淡の番。準備して」
淡「準備なんていらないよ。ふつーに打てば勝てるってば」
照「淡」
照「――言うことを聞け」
淡「――っ」
菫「……!」
菫(照が大星を嗜めた……?)
416: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/09/23(日) 20:17:59.15 ID:PDMqfHI10
淡「……テル。本気で思ってるんだね、私が負けるかもしれないって」
照「ああ」
淡「……ふーん」
菫「……」
菫「大星、誰であれ油断は禁物だ。照が言いたいのはそういう――」
淡「黙ってて」
淡「……いいよ」
淡「じゃあテル、賭けない?」
418: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/09/23(日) 20:20:36.74 ID:PDMqfHI10
照「賭け?」
淡「私と清澄、どっちが勝つか」
照「……」
菫「おい、馬鹿な話はよせ。これは全国大会なんだぞ。トトカルチョなんて言語道断だ」
照「構わない。その勝負乗る」
菫「お、おい照!」
淡「決まりだね。安心してよ菫。私はもちろん、私の勝ちに賭ける。私が自分から
負けにいくようなことはしない。むしろ、これで心おきなく全力で清澄を潰せるよ」
淡「で、テルは清澄の勝ちに賭けるんだね?」
照「……」
照「いや、勝つのは白糸台だ」
淡「え?」
菫「……? 照……?」
淡「……」
淡「――――ぷ」
淡「あ、あはははははっ。な、なぁんだテル、やっぱり私が勝つと思ってるんじゃん!」ケタケタ
淡「私と清澄、どっちが勝つか」
照「……」
菫「おい、馬鹿な話はよせ。これは全国大会なんだぞ。トトカルチョなんて言語道断だ」
照「構わない。その勝負乗る」
菫「お、おい照!」
淡「決まりだね。安心してよ菫。私はもちろん、私の勝ちに賭ける。私が自分から
負けにいくようなことはしない。むしろ、これで心おきなく全力で清澄を潰せるよ」
淡「で、テルは清澄の勝ちに賭けるんだね?」
照「……」
照「いや、勝つのは白糸台だ」
淡「え?」
菫「……? 照……?」
淡「……」
淡「――――ぷ」
淡「あ、あはははははっ。な、なぁんだテル、やっぱり私が勝つと思ってるんじゃん!」ケタケタ
421: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/09/23(日) 20:25:53.50 ID:PDMqfHI10
淡「あーおっかしー……こんなに笑ったの久しぶり。なんだかんだで、テルも勝算のない勝負はできないか。
でもこれじゃあ賭けにならないよ。私もテルも、どっちも私の勝ちに賭けちゃったら、ねえ?」
菫「当たり前だ。だから賭けなんてのはもう――」
淡「はいはい、分かってるよ。この話は終わり。いいよね、テル?」
照「……」
淡「……テル?」
照「――なに言ってる。私がいつ淡の勝ちに賭けたの?」
淡・菫「え?」
照「私は『白糸台が一位通過する』と言ったんだ。『淡が勝つ』とは言っていない」
菫「ど、どういうことだ?」
照「私は――『宮永咲が勝つ』に賭ける」
渋谷・菫「……!?」
淡「……ふーん……? 一位通過するのは白糸台。でも勝つのは清澄の大将。そう言いたいんだね?」
照「そうだ」
422: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/09/23(日) 20:29:03.12 ID:PDMqfHI10
菫「得失点差で大星が負ける、ということか?」
淡「ちがうよ菫。見て、あの誠子の無様な対局を。もう清澄と白糸台の点差はほぼ
無いに等しい。白糸台が勝つなら、最低でも私は1万点ビハインドくらいにしかならない。
まあ、別に私が清澄に得失点で100点でもマイナスになったら負け、っていう
条件でもいいけど、テルが言ってるのはそういうことじゃないよね?」
照「ああ」
照「打ってみればいい。淡の実力なら、それでどっちが勝者か判断がつく」
淡「最高に面白いよテル。あなたと打ってるときでも、こんなに武者震いはしなかった」
淡「ペナルティは後払いでいい? とびきりすごいの考えとくから、覚悟しといてね」
照「ああ」
425: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/09/23(日) 20:33:38.80 ID:PDMqfHI10
実況『副将戦終了――! 清澄、怒涛の追い上げにより、ついに白糸台を射程圏内に
収めた――!』
淡「ちょうど終わったね。じゃあ、行ってきます」ガタ
バタン
菫「……照、どういうことなんだ? 白糸台が勝つのに、淡が負けるって……」
照「……」
照「点数で勝ったからといって、それが必ずしも勝利を意味するわけじゃない」
菫「……」
照『――強すぎる相手が格下にあわせようとすると――』
菫(照が言ってたのは……まさか……)
427: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/09/23(日) 20:35:49.50 ID:PDMqfHI10
廊下
淡「……くそ」イライラ
イライラする。イライラする。イライラする――!
淡「私が負けるって? そんなわけない。私とテルが高校生最強なんだ。そこに
他人が割り込んでくるなんて、ありえない――!」
淡(清澄……潰してやる。もう麻雀が打てなくなるくらいにボコボコにしてやる……! 今日という日を一生のトラウマにしてやる!!)
淡「……ん?」
カツン、カツン
淡「あれは……」
429: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/09/23(日) 20:41:34.13 ID:PDMqfHI10
咲「――」カツン、カツン
淡(あの子が――宮永咲)
咲「……あ」
淡「――よろしく、清澄さん」
咲「あなた確か、白糸台の……」
淡「大星淡。あなたは宮永さんだよね?」
咲「はい」
淡「宮永はうちの部にいるから、呼びづらいから咲ちゃんって呼んでいい?」
咲「あ、はい。じゃあ私も淡ちゃんって呼んでもいいですか?」
淡「もちろん。仲良くしてね。あと、同級生なんだから敬語使わないで。なんかムズムズするから」
咲「あ、ごめんなさい」
淡(まあ、今日以降あなたと卓を囲んで会うことはないだろうけどね)ゴォォッ!
咲「あの」
淡「ん、なあに?」
咲「その……お姉ちゃん、元気かな?」
淡(あの子が――宮永咲)
咲「……あ」
淡「――よろしく、清澄さん」
咲「あなた確か、白糸台の……」
淡「大星淡。あなたは宮永さんだよね?」
咲「はい」
淡「宮永はうちの部にいるから、呼びづらいから咲ちゃんって呼んでいい?」
咲「あ、はい。じゃあ私も淡ちゃんって呼んでもいいですか?」
淡「もちろん。仲良くしてね。あと、同級生なんだから敬語使わないで。なんかムズムズするから」
咲「あ、ごめんなさい」
淡(まあ、今日以降あなたと卓を囲んで会うことはないだろうけどね)ゴォォッ!
咲「あの」
淡「ん、なあに?」
咲「その……お姉ちゃん、元気かな?」
430: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/09/23(日) 20:46:03.73 ID:PDMqfHI10
淡「――テルのこと? やっぱり姉妹なの?」
咲「え、あ、うん」
淡「ふーん」
淡(そっか……ますます面白くなってきた)
淡「テルなら元気だよ。咲ちゃんも先鋒戦見たでしょ?」
咲「うん。凄かった。お姉ちゃん、びっくりするくらい強くなってた」
淡「……」ピク
淡(強くなってた? なに、その『昔は私の方が強かったのに』みたいな上から目線。
イライラするんだけど)
435: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/09/23(日) 20:49:23.14 ID:PDMqfHI10
淡「咲ちゃん、テルと何かあったの?」
咲「え、どうして?」
淡「だってテル、『私には妹なんていない』とか言ってたから。もしかしたら
咲ちゃんのことなんて眼中にないのかも」
咲「……!」ビク
咲「……や、やっぱりそうなのかな……」
淡「うん。きっとそうだよ」ニッコリ
咲「……」グス
436: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/09/23(日) 20:50:43.86 ID:fioKv4Q0O
あわあわそれ以上はやめとくんだ
439: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/09/23(日) 20:51:26.32 ID:PDMqfHI10
咲「私ね、昔お姉ちゃんにひどいことしちゃったんだ」
淡「ひどいこと?」
咲「……お姉ちゃんは、きっとまだ私のこと許してないんだと思う」
咲「だから私、麻雀でお姉ちゃんに伝えたいことがあるの。そのためにも、この試合、
絶対負けられないよ」
淡「ふふ、そうだね。絶対勝たないとね」
咲「うん。この試合で勝って、決勝に行って、お姉ちゃんに会いに行きたい」
淡(――無理だよ、咲ちゃん)
淡(あなた、ここで終わるんだから)ゴッ
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- 名無しさん - 2012年09月25日 00:20:28
咲さんが淡に40万点取らせた後オーラスで何時間もかけて全部むしり取り続けるSSを思い出した