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ソーニャ「この広い青空の下」
元スレ:ソーニャ「この広い青空の下」
http://hayabusa.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1333102871/
「はぁ……、はぁ……」
くそっ……。こんなへまをするなんて迂闊だった……。
「がはっ……。うぅ……」
腹部に受けた傷がぎりぎりと痛み、口から血の臭いがしてきた。
打ち所が悪いみたいだ……。意識が……。
よたよたと歩いていると、後ろの方からどかどかと足音が近づいてくるのが聞こえてきた。
もう追い付かれたのか……。武器もまともに残っていないし、これじゃあ……。
自分の粗い息づかいだけが聞こえる中、闇雲にやすなを追いかけては虚空に手を伸ばしていた。
「こいつ……! いつも調子に乗りやがって……!」
いつもいつも私をおちょくって、殴っても蹴っ飛ばしてもうっとうしく纏わりついてきたバカ……。
私は……、私は……。
「はっ……!」
気がつくとやすなの影は無く、私は空を仰いで倒れていた。
横を見てみると、私を追いかけて来たたくさんの敵が倒れていた。
何だ? 私がやったのか……。
「へへっ……」
やすなの幻影で助けられるとは、私もいよいよだめかもしれない……。
とにかく任務は完了している。あとは撤収するだけだ……。
「はぁ……! はぁ……! うぐぅ……!」
揺らぐ視界の中で、ぽたぽたと体にあたる何かを感じていた。
「雨、か……」
どうやら体に当たるのは雨らしい。ぽたぽたと私の体を濡らしている。
雨は匂いとか足跡を消してくれる。好都合だ。
私は震える足を何とか動かして、先へと進んだ。
が……。
「うぅ……」
体が前のめりになるのを感じ、踏ん張ろうとしたがそれもできなかった。
足がもつれて、そのまま体は重力に引かれていった。
あぁ、落ちていく……。
何もできないまま宙を舞い、そんなことをぼんやりと考えていた。
ドボンッ。グルグルグルグル……。
ひどい衝撃と共に耳と鼻がキンと痛くなり、海水が口の中に入ってきた。
もう、死んでしまうのだろうか。
冷たい。体が寒い……。
体の感覚も時間の感覚も無くなってしまい、ただ流れに漂うだけ……。
人間なんて、死ぬときはみんなこんなものなんだろうか。
……。
光……? 何か、光っている……。
それに、温かい……。
天国、か? いや、私がそんな所に行くわけがない。
──大丈夫ですか?
誰だ……?
──立てますか?
何だろう。またあいつの声が聞こえる気がする……。
「……」
ほんのりと漂う温かい匂い。そうだ、これは太陽の匂いだ。
目を開いて見ると、辺りは真っ白な光が溢れていた。
「うっ……!」
意識がはっきりしてきて身じろいでみると、体中が痛く重かった。
どうやらここは天国ではないらしい。
頭を動かすと、真っ白な部屋に真っ白な棚がずらりと並んでいるのが見えた。
中には茶色い瓶が整頓されており、薬を入れておくものに見えた。
ここは一体どこだ?
更に頭を振ってみると、レースが風に揺られていてさんさんと注ぐ日光を弄んでいた。
「……温かい」
太陽って、こんなに温かかったんだな……。
生きてもう一度太陽が見られるとは思ってもみなかった。
「ソ、ソーニャちゃん……!」
誰かの声が聞こえてきたので視線をずらすと、白衣を着た同じ歳ぐらいの女性が入口に立っていた。
「目が覚めたんだね!?」
私が目が覚めたことを確認すると、弾けんばかりの笑顔を見せて駆け寄ってきた。
「よかった……! 本当によかった……!」
動く気力も無く、私はその女性に痛いぐらいに抱きしめられていた。
……あれ? 何でこいつが私の名前を知っているんだ?
ようやく頭が回り出し、私は警戒しながらその女性を見つめた。
私の名前を知っているやつなんてほとんど同じ稼業の奴しかいない。
だけど、こいつからはそんな雰囲気は無い……。こいつは誰だ?
「あれ? もしかして私が誰かわからない?」
一体誰なのか考えていると、涙目のまま私の顔を覗き込んできた。
何だか妙に馴れ馴れしい奴だな。それに、この雰囲気は……。
ま、まさか……。
「お、お前……、やすなか?」
「そうだよ、ソーニャちゃん!」
「ほ、本当にやすなか?」
目の前にいるやすなは白衣を着ていて、その姿は誰がどう見ても医者の格好だった。
やすなが医者だと? 悪い冗談だろう?
私の中にあるやすなと、目の前のやすながまったく一致しなかった。
「本当も嘘も無いよ。ソーニャちゃんの友達の折部やすなだよ」
疑っている私を見つめて、涙を拭いながらやすなはにっこりと笑った。
その笑顔はあの時のままで、何も変わっていなかった。
それに少しだけほっとしつつ、私は状況を確認した。
「やすな……、ここは……」
「無理しないで。ソーニャちゃんあれから一週間も寝ていたんだから」
「一週間……?」
まさか、あれから一週間以上も経っているのか……。
「おう、やすなちゃん。お友達が起きたかね!」
「あ、どうも!」
声のする方を見ると、初老ぐらいのおじいさんが入口でにこにこしながら立っていた。
「勝手に道具を使ってすみませんでした。費用は私の給料から引いておいてください」
「そんなの構わんよ」
「でも、悪いですよ」
「いいんじゃよ。それより、目が覚めてよかったのぉ」
「本当にありがとうございました」
やすなとのやりとりを聞いて、どうやら本当にここの医者らしいことはわかった。
「私は仕事に戻るけど、ケガが酷いんだから勝手に動いちゃだめだよ?」
しばらくここに残っていたいそぶりを見せたが、そう言い残すとやすなは出て行ってしまった。
正直こんな状態になっていると、この隙を突かれて襲われそうで不安だ。
しかし、体は重いし痛みもある。それにとてもだるくて何もする気が起きなかった。
仕方がない、ここはひとまず眠るか……。
「……」
私が目を覚ますと、ほとんど日は沈んでいて部屋が暗くなっていた。
こんなに寝たのは風邪で寝込んだ時以来だな。夢らしい夢も全く見た覚えも無く気持ちよく眠れた。
体はまだ痛いが、ようやく自分の置かれている状況を見渡せる余裕ができた。
さっきは気付かなかったが、どうやらここは診療所の奥の方にある部屋らしい。
向こうの方からやすなとさっきのおじいさんが話しているのが聞こえてきた。
「私が責任もって面倒見るので、心配しないで下さい」
何だかやすなにそう言われると癪にさわるが、実際に面倒を見てもらう側なので仕方がない。
「その方が良いかもしれんがなぁ……」
おじいさんは唸って悩んでいるようだったが、仕方がないなと笑った。
「何かあったらすぐにいいなさい」
「ありがとうございます」
「それじゃあ、頼んだよぉ」
「わかりました」
おじいさんはそう言い残すとドアの音を残して出て行った。
「あ、ソーニャちゃん起きた?」
「あぁ、今起きたところだ」
「ごめんね、電気つけるよ」
やすなは部屋の電気をつけると、ペットボトルとコップを持ってベッド脇の椅子に座った。
「はい、喉乾いているかと思って」
「すまない」
コップに注がれた水を少しずつ流し込むと、それに体中の傷が疼いた。
「大丈夫?」
「なんてことは無い」
少し強がって言ってみたが、水を飲むのにも苦労するとは思っていなかった。
「あ、ソーニャちゃん起きた?」
「あぁ、今起きたところだ」
「ごめんね、電気つけるよ」
やすなは部屋の電気をつけると、ペットボトルとコップを持ってベッド脇の椅子に座った。
「はい、喉乾いているかと思って」
「すまない」
コップに注がれた水を少しずつ流し込むと、それに体中の傷が疼いた。
「大丈夫?」
「なんてことは無い」
少し強がって言ってみたが、水を飲むのにも苦労するとは思っていなかった。
「ソーニャちゃん、ご飯食べられる?」
「少しぐらいなら何とか」
「ごめんね、本当なら点滴とかですませるんだけどここには無くて……」
「気にするな」
「さてと、それじゃあ何かスープのようなものでも作ってあげるね」
「え? お前が……?」
あからさまに嫌そうな顔をしたら、やすながふくれてしまった。
「そんな嫌そうな顔しなくてもいいじゃん……」
「じ、冗談だよ……、ははは……」
確かこいつの作ったものをいくつか食べた気がするんだが、味は悪くなかったな。
「絶対ソーニャちゃんがおいしいって言うものをつくってやるぅ!」
くそぅ! くそぅ! なんて懐かしい言葉を叫びながらやすなは台所へ行ってしまった。
やすなは昔から変なところで器用だったなぁ。
パペットだっけ? あの人形を作ったり、弁当もたまに自分で作ったものを持ってきていたりしていた。
あ、輪ゴム鉄砲とか作ったこともあったな。
しばらく待っていると、いい匂いがしてきてやすながお椀を持ってきた。
「じゃーん! 特製やすなみそ汁です!」
「……もっとケガ人に食べさせる食事ってあるだろう」
「結構気を使って作ったつもりなのに……」
「いや、みそ汁って違うと思うぞ?」
「そ、そうかな……」
まぁ、食べやすいと言えばそうだが……。
「まぁ、食べるよ。せっかく作ってくれたしな」
「自分で持てる?」
「大丈夫だ」
私はお椀を受け取ると、少しだけ飲んでみた。
「どう? おいしい?」
「……まぁまぁだな」
「もう、素直じゃないんだから」
みそ汁というのはあんまり飲んだことがないから一概には言えないが、これは不思議な味がするな。
辛くも無いし甘くも無い。おいしいといえばおいしいのだが味噌が入っているからもっと塩味がすると思っていた。
具は油揚げと豆腐とわかめが入っている。みそ汁ってこういうものなのか。
「あ、ソーニャちゃんってお箸使えたっけ?」
「い、一応は……」
日本に来た時は箸を使って食べるものが多くて閉口してしまったが、今ではそれなりに使えるつもりだ。
「でも、手もケガしているからスプーンにしようか」
やすなが銀色のスプーンを手渡してくれたが、みそ汁にスプーンってミスマッチじゃないか……?
しかし、この手ではそうも言っていられず私は仕方が無くスプーンでみそ汁を飲んだ。
みそ汁を飲み終えてようやく人心地がついたところで、私は気になっていたことを聞いてみた。
「やすな、ここは一体どこなんだ?」
「ここ? 華津穂島だよ」
「か、かづ……?」
「まぁ、聞いたことも無いような小さな島だよ」
島の名前を聞く限り、どうやらここは日本らしい。
しかし、あんな状態でよく助かったものだ。
海に落ちて漂流してきたのだろうか。泳いでくるほど体力は無かったし……。
「診療所に行こうと思ったら海に誰か倒れていてさぁ、助けに行ったらソーニャちゃんなんだもん」
やすなの話を聞きながら、私は未だに自分が生きていることが信じられなかった。
しかし、今はそれよりも信じられないことがある。
あのやすなが。あのやすなが!
大事なことなので2回言ったぞ。
ただでさえあんなにおバカだったのに医者だぞ?
夢だと思いたいような、どこか嬉しいような……
「ソーニャちゃんはここで休んでいて。片づけてくるから」
「お前、こんなに遅いのに家に帰らないのか?」
「あ、今日はここに泊まることにしたから安心して?」
「別に心配なんかしていない」
「またまたぁ~。ケガ人の世話は医者の仕事ですから安心してください!」
「……安心できん」
でも、今までの行動を見る限りだと少しは信用してもいいかもしれないな。
ベッドの横にある窓を開けると、潮の匂いとともに夜風が吹きこんできた。
周りはほとんど真っ暗で、家の明かりも遠くの方にしか見えない。
「……あ」
真っ暗だなぁと思い見まわしていると、空には数えきれないぐらいの星が輝いていた。
あれは、冬の大三角か。こんなにたくさんの星に囲まれているのにその存在はとても大きかった。
「すごいでしょ……」
片付けを終えたやすなが後ろからそっと囁いた。
「ここは人が少ないから星が良く見えるんだ」
「……そうか」
「ソーニャちゃん、ガーゼ取りかえてあげる」
「あぁ、頼む」
やすなは慣れた手つきでベッドの上で服を脱がし、体中に巻かれている包帯をするすると解いていった。
「ちょっと痛いかもしれないけど、我慢してね」
お湯を張った洗面器を用意して、ガーゼを取りかえるのと並行して体を拭いてくれた。
「こんなに傷だらけで、自分をもっと大事にしなくちゃ……」
「なぁ……」
「何?」
「何でお前、医者になったんだ……?」
「あ、聞きたい? 聞きたい?」
私が聞くと、やすなは待ってましたと言わんばかりにニヤニヤした。
「……やっぱいい」
あの頃と全く変わっていないウザさに内心ホッとしつつ、私はやすなの話に耳を傾けた。
どうせこいつは私が止めても話し始めるだろうし。
「まぁ、私にも色々あったんだよ」
「どうせろくでもない理由だろ?」
「そんなことないもん!」
……ほらな?
「お金持ちになりたいなぁとは思っていたんだけど、やっぱり人の為になるほうがいいじゃない」
「……そんな事でよく医者になれたな」
「それだけじゃないよぉ!」
失礼しちゃうとか言いながらやすなは拗ねてしまった。
「で、何でこんなところにいるんだ?」
「医大を出てから就職先が決まらなくて、やっと仕事が見つかったと思ったらここだったんだ……」
「……お前なぁ」
全く、行き当たりばったりもいいところだ。やすならしいと言えばそうなんだけど……。
「でもね、ここもすごくいいところだよ。みんな優しいし、海もきれいだし、それに……」
「それに?」
言葉が詰まったので不思議に思って気にかけていると、一息いれてからやすなが震える声で言った。
「……ソーニャちゃんに会えたし」
「お、お前、どこ触って……!」
やすなの手があらぬ方向を触ってきたので一発殴ってやろうかと思い振り返ると、やすなが肩を震わせていた。
「……やすな?」
「本当に、心配したんだから……! えっぐ……」
やすなは……、泣いていた。
「ずっと連絡も、できなくて……! 二度と会えないって、思ってた……!」
「せっかく会えたと思ったら、ボロボロで……、死んじゃうんじゃないかって……!」
そのままやすなは私に寄りかかると、声を上げて泣き始めてしまった。
「……悪かった」
謝ることじゃないのに、私の心に少しだけ芽生えた罪悪感が口から漏れていた。
それから私は、しばらくはここで治療に専念することにした。
それしかすることはできなかったし、体が無ければこれからのことは何もできない。
しかし、傷が癒えていくにつれて私の中にある不安が募ってきた。
この傷が癒えたら私はどうするのかという漠然とした不安だ。
組織に戻るのが普通なのだろうが、その考えが少しずつ薄れていた。
あの時のように……。
「ほら、包帯変えるから服脱いで?」
「も、もう自分でできるからしなくていい」
「そういわずにさぁ」
あれからもうすぐ一ヶ月になろうというこの時には、傷もある程度塞がったので診療所からやすなの家にお邪魔していた。
やすながどうしても来てほしいと言うので仕方なく来たのだが、そこには捨ててきた日常があった。
ぎりぎりとした殺気に体を晒す必要もないし、精神をすり減らす必要もない。
そして、何よりここには……。
それを知らないやすなはいつものように接してくる。それは今の私にとって挑発以外の何物でもなかった。
「……だめだ!」
溜まった気持ちが爆発してしまい、包帯を変えようとするやすなの手を振りほどいていた。
「ど、どうしたの……?」
「あ……」
少し強くし過ぎたせいで、やすなは何か悪い事でもしたのかと不安そうな顔をした。
「ち、違うんだ。その……」
そろそろけじめもつけなきゃいけない時期だと思い、私は自分の気持ちをありのまま話すことにした。
「……お前はこんなにもしっかりとやっているのに、私なんかと関わっちゃいけないんだ」
「何でさ?」
まるで何も考えていないような顔しやがって……。もしかしたら何も考えていないのか?
「なぁ、お前は怖くないのか?」
「何が?」
「私のせいで、お前が怪我したり最悪死んだりするかもしれないんだぞ?」
「大丈夫だよ」
やすなは何の不安も無い顔で笑った。
「何でそう言い切れる」
「だって、そうなったときはソーニャちゃんが守ってくれるもん」
「やめろっ!」
私は堪え切れなくなって、ついに叫んでしまった。
「私は、そんなに強くない……。自分すら守れない奴が、お前なんて守れるわけだろう……?」
私は弱い。組織に戻らなくてはいけないのにたったひとりのこんなバカに心を乱されて、今ではこんなに……。
「お前を、失いたくないんだ……」
そう、高校を卒業する辺りに異動の為に日本を離れることになった時からずっと思っていた。
刺客に一緒に狙われて、命の危険にさらされたことも一度や二度ではなかった。
だから、だから……。
「……私だって、ソーニャちゃんを失いたくない」
タオルを握りしめて、いつになく低いトーンでやすなが呟いた。
「学校を卒業してから突然いなくなっちゃって、携帯でも連絡できなくて寂しかったの!」
「やすな……」
「このままだったら、ソーニャちゃんがまたいなくなっちゃう……」
いつもと違うやすなの顔にドキドキして、私は動けなくなっていた。
「どこにも行っちゃ、いや……」
まるで大切な宝物でも守るように優しく、しかし力強くやすなは私のことを抱きしめた。
いつもと違うやすなに戸惑いを隠せず、私はただ受け止めることしかできなかった。
包帯も巻き終わり、私たちはどうにか寝る準備をしていた。
「……寝ようか」
「……あぁ」
だが、変に意識をしてしまって一体何を話していいのかわからず気まずい雰囲気が流れていた。
「ねぇ、ソーニャちゃん」
「何だ?」
「一緒に寝て、いい?」
「えっ!?」
やすなと、一緒に寝る……!?
「もう、そんなにびっくりすることないじゃない」
「だ、だって……」
「ソーニャちゃんってば意外と初心なのねぇ~」
「早く寝ろ!」
「あだぁ……!」
いつもの調子を取り戻そうと、照れで威力二倍増しのげんこつを喰らわせてやった。
布団をかぶると、やすなも大人しくなって布団に入った。
「……ソーニャちゃん」
「ん?」
少し静かになったと思ったら、不意にやすなが話しかけてきた。
「……ごめんね」
「何だよ、急に」
「ケガが治ったら、組織に戻るんでしょ?」
「……」
「わかってるよ……。でも、行っちゃいやだ……」
それだけを言うと、やすなは布団を深く被ってそっぽを向いてしまった。
「……」
私だって、お前と一緒にいたいと思っている。
お前は心の底から安心していられるんだ。
硝煙の臭いも、血の臭いも、殺気もない普通の関係でいてくれる。
でも、私は色々と背負いこみ過ぎたんだ。お前と違う世界の人間なんだ……。
「おはよう」
「お、おはよう……」
くそっ、あれからこいつの顔がまともに見れないぞ……。
自分でも不思議だが、こんなアホ面のどこにドキドキしたんだろう。
「そろそろ診療所に行こうか」
朝食を済ませて準備をすると、検査の為に少し違和感の残る体を動かして診療所へ向かった。
「……」
「……」
いつもならやすなが話しかけてくるのだが、今日に限ってはずっと無言で歩を進めていた。
まぁ、昨日あんなことを言ったしな。こっちも考えるので精いっぱいだから助かる。
お互い無言のまま診療所につき、やすなはそのまま仕事に移った。
私は誰もいない待合室の椅子に腰かけて、自分の番を待った。
「はぁ……」
私以外の患者がいないせいか早速呼ばれて、私は診察室へ入った。
「おぉ、待っとったぞ。どうじゃ、調子は?」
「おかげさまで順調です」
「そうかそうか。しかしすごい回復力じゃのぉ」
傷口のあたりを確認し聴診器による診察を終えると、おじいさんはカルテを書きながら笑った。
「そうなんですか?」
「あぁ。やすなちゃんのおかげじゃな」
「……まぁ、そうですね」
「あの時、わしは助からんと思っとったんじゃが、やすなちゃんが大切な人なんですと言うてな、そりゃあ必死にやっとったわ」
「た、大切な人!?」
あのバカ、そんなことを言っていたのか……!
「絶対助けるからと何度も言うて、仕事そっちのけであんたに付き添っていたんじゃ」
向こうの方で薬の充填をしているやすなを見やり、仕事らしいことなんてここにはあまりないんじゃがな、と自虐的に笑った。
「ったく、あのバカ……」
「おやおや、ずいぶんな言い草じゃなぁ」
まぁ、バカは否定せんがなとおじいさんは失笑した。
「でも、やすなちゃんはいい子じゃ」
「……そう、なのかな」
「おや、そう思わんかね?」
「……あいつは単なるおせっかい焼きのバカですよ」
「そうかもしれんが、そういうことは言っちゃだめじゃ」
おじいさんは笑いつつも私を見据えて強く言った。
「人の善意を無視する奴は一生後悔するからのぉ」
「……」
「おっと、長く生きていると人におせっかいをしたくなるようじゃ。すまんすまん」
おじいさんは言いすぎたようだと私に謝りつつ、今日の診察を終えた。
善意、か……。
でも、それが本人にとっては辛いこともあるんだ。
「ソーニャちゃん」
晩ご飯を食べ終えて片づけていると、やすなが話しかけてきた。
「何だ?」
「あのね……」
そこまで言って、やすなは言い渋り言葉を濁した。
一体何をためらっているんだ? そんなに言いにくいことなのか?
しばらくもごもごしていたが、やすなは私と目を合わせないようにしながら話し始めた。
「……ソーニャちゃんは、私といるの嫌?」
やすなの口から出たのは、思いもよらない質問だった。
「何でそんなこと聞くんだ……?」
こいつは私が予想もつかないことをいつもしてくるが、これはまた種類が違う。
「またあの時みたいに突然いなくなったりするんじゃないかって、不安になるの……」
「一緒にいてほしい。ずっといてほしい。でも、ソーニャちゃんが嫌なら……!」
やすなは俯いたまま吐き出すように言った。それだけで相当思いつめていることは見てとれた。
「嫌……、じゃない。けど……」
「……けど?」
「こんな、こんなことはやっぱり間違っている……」
お前と私は普通なら関係を持つことすらなかったんだ。
誰が殺し屋と好き好んで友達になったりするというのだ。
「……私ね、ソーニャちゃんとなら怖くないよ」
「お前……」
「はっきり嫌だって、言ってくれないと……、私……」
答えを求めるように、やすなが私に寄り添った。
「ねぇ、私じゃ嫌なの?」
そのやすなの質問には色んなものが交じっているように思えた。
私だって子どもじゃない。それがどういう意味を持っているのかも、どういう答えを待っているのかも見当はついている。
やすなのことを思えば答えは決まっているはずだった。
しかし……、
「嫌……、じゃ……」
素直なやすなの瞳に射抜かれて、建前も言えなくなり言葉を濁してしまった。
それどころか見つめ合う瞳に吸い込まれるままに距離は縮まって、お互いの唇が触れ合っていた。
「……」
「……」
少し息苦しくなってそっと離れると、顔が燃えるように熱かった。
唇に残った感触がくすぐったくて、微笑むやすながとても……、とても……。
「キス、しちゃったね……」
「わざわざ言うな……」
「……じゃあ、もう言わない」
やすなはいたずらっぽく笑うと再びキスしてきた。
「ちゅっ……、はぁっ……、んんっ……!」
キス、キス、キスの応酬……。
始めは触れ合うだけだったのに、いつしかもっと深く、もっと濃密に、もっと淫らに私たちは絡み合っていった。
キスって、こんなふわふわした気持ちになるんだ……。
「ソーニャちゃん、好き……! 大好き……!」
キスの合間にうわ言のように繰り返しては、やすなは私を求めて舌を伸ばし絡めてきた。
やすなの言葉はまるで呪いのように私を絡め取って、動けなくしていった。
「ねぇ、ソーニャちゃんは……?」
唇を解放してやすなが私に問いかけてきた。
今までの私だったらこんなことまともに答えたりしなかっただろう。
でも、こんな状況で少しだけお前に甘えてみたくなったのかもしれない。
「……言わなくてもわかっているくせに」
「……ちゃんと言って欲しいな」
恥ずかしいからあまり言いたくないんだがな……。
「……好き、だよ」
「……えへへ」
私がそっと囁くと、珍しくやすなは頬を赤くして照れた。
「ちょっと、やすな……」
キスを続けていると、やすなが徐々に私のことを押し倒してきた。
「えへへ……。ソーニャちゃん……」
やすなはすっかりその気になっていて私の服を脱がしにかかっていた。
予測できなかったわけではないが、少し強気なやすなに戸惑ってしまった。
「ま、待て。いきなりこんな……」
「やだ、待たない。待てない」
「やすっ……、んんっ……!」
私が止めるのも聞かずに、やすなは焦った様にキスを繰り返してはボタンを外していった。
「……ちょっと待てって!」
肩を掴んで思い切り引き離すと、やすなは呆然とした顔をした。
「ソーニャ、ちゃん……」
「ちょっと落ち着け……」
乱れた息を整えながら制すると、やすなは不安そうな顔をして黙っていた。
そんな顔をするなよ……。どうしていいかわからなくなるだろ……?
「ソーニャちゃん……」
「……もう、嫌だなんて言っていないだろう」
「でも……」
「いきなりは、嫌だってだけだ……」
それを聞くと、やすなは嬉しそうに笑って服を少しずつ肌蹴させていった。
「肌、きれいだね……」
「あ、あんまりじっと見るな。バカ……」
確かにやすなよりは白いとは思うが、私の肌は人並みじゃないのだろうか?
それに、今までの傷跡がちらほらと見えているというのに……。
「本当にきれい……」
それでもうっとりとした声を漏らし、やすなは私の首筋に舌を這わせ始めた。
「あっ……、お前っ……、あぁっ……!」
やすなの舌が光る跡を残しながら降りて行く中で、両手で胸を大事そうに包んで優しく触れた。
今まで感じたことのない感覚に戸惑い、変な声を出してしまった。
「ちゅうううぅ……!」
「んあっ!?」
舌で私の肌を弄んでいたと思ったら、吸血鬼のように首筋に吸いついてきた。
「あ、あああああぁ……!」
じんじんと熱い感覚が首筋に沸き起こり、やすなの唇が離れる頃にはそこに真っ赤なキスマークが刻まれていた。
「えへへ……。つけちゃった」
「お前、ふざけんなよ……! こんなところにつけやがって……」
今のはまずかった。私の理性がぐらぐらと揺れて、崩れていきそうだった。
いや、もしかしたらすでに崩れてしまっているのかもしれない。
やすなは私が怒っていると言うのににこにこ笑いながら首筋を舐めていった。
「あ、あああぁ……!」
やすなの舌がぬるぬると首筋をつたって鎖骨に降り、軽いキスをしながら私の胸を揉み始めた。
「んっ……! そ、そんなに揉むなよぉ……!」
「ソーニャちゃんのおっぱい、ぷにぷにで柔らかいよ」
自分でもそんなに触ったことないのに、他人に揉まれるなんて恥ずかしくて死にそうだった。
それに、何かむずむずとしたものが体中を駆け巡っていくのが耐えられなかった。
「気持ちいい?」
「し、知らん……!」
そういう知識で言えば胸を揉まれたら気持ちいいのだろうが、そんなことは全くなかった。
こんな感覚が気持ちいい訳が無い。こんなに背筋をぞわぞわとさせる感覚が……!
胸の間あたりを舐めていたやすなが乳首の方へ移動を始めると、敏感に反応して震えてしまった。
「はむっ……」
「んきゅぅ……! ち、乳首は……!」
固く充血した乳首をくわえられると、そこから何かが電撃のように走った。
「く、うあああぁ……! な、な、なああぁ……!」
ぬるぬるでざらざらなやすなの舌が乳首を舐め上げると、体中の力が抜けていくような感覚に襲われて怖くなった。
腰にも力が入らず、ふるふると震えることしかできなかった。
それがおもしろいのか、やすなは私を見上げてにやにやしながら乳首を責め続けた。
私は抵抗するにもどうしていいのかわからず、ただされるがままになっていた。
それをいいことにやすなは私の胸をリズミカルに吸い上げたり、乳首を唇で挟んでしごいてきたりしてきた。
「ちゅぱ……、ちゅる……、んっく……、はぁむっ……」
「や、やめろ……! だめっ……! おかしくなるっ……! や、やあぁ……!」
自分の胸なのに自分の思い通りにならず、それどころか私の心をこれでもかと掻き乱していった。
「ちゅぽん……。はぁ……、ソーニャちゃんってかわいい声出すんだね……」
散々胸を愛撫し尽くすとやすなは舌舐めずりをしつつ口を放し、すっかり呆けてしまった私を見て笑った。
「はぁ……、っはぁ……! はぁ……」
あのバカが、こんな顔になるのか?
その顔はあまりにもいやらしく、純粋だった。
「ソーニャちゃん、すごい顔しているよ……?」
「はぁ……! お、お前にいわれたくない……! はぁ……!」
出来る限りの威圧を持って睨んでみても、やすなは怖気づくどころかさらに嬉しそうに笑った。
「……変態」
「何とでも言いなさい」
やすなは全く動じていない様子で、私の胸から下半身に手を滑らせていった。
やすなの指が秘所に近づくにつれて疼きも大きくなり、腰の奥の方が熱くなった。
「ぴくんぴくん跳ねて、そんなに気持ちいいの?」
「ち、違う! ちょっとびっくりしているだけだ……」
やすなの指が秘所に触れるとぞくぞくとした感覚が腰に走り、今まで出したことのない声が鼻に抜けていった。
こんなあられも無い声を出すなんて恥ずかしくて堪らないが、やすなの指はそれを欲して私の体を愛撫してくる。
「あっ……! そ、そこ……! だめぇ……!」
くりくりと撫でまわすように動くやすなの指が敏感なところに触れて、私は一段と大きな声を出してしまった。
「くっ……! はぁ……! お前……!」
やすなにいいように弄られているのに耐えられなくなり、私は意を決してやすなの秘所に手を伸ばしてみた。
「あっ……! ソーニャちゃん。ゆ、指……!」
ショーツの上から指で触ってみると、じんわりと熱が滲んで絡んできた。
「お、お前……」
「ソーニャちゃんを見ていたら、こうなるよ……」
指先で軽く引っ掻いて見ると、息があがってきたやすなが恥ずかしそうに悶えた。
私に、そんなに興奮しているのか……?
意識してみると何だか変な感じだった。
「はぁ……! あっ……! そこっ……!」
やすなと同じように指を動かして見ると、あっという間に甘い吐息を漏らし始めた。
「はぁっ……! ソーニャひゃん……! んっ……!」
「うあっ……!? くぅ……! やすなぁ……! あっ……!」
反撃に出た私をあざ笑うかのように、やすながショーツに手を突っ込んで直接愛撫を始めた。
下半身の感覚があっという間に熱く濡れそぼった秘所だけに集中して、やすなの指の動きに反応してしまった。
私も負けじとやすなのショーツに手を突っ込み、秘所に指を這わせた。
「……ちょっといい?」
「な、何をするつもりだ」
「脱がないと気持ち悪いでしょ」
そういうとやすなは私のショーツに手をかけてするすると脱がしていった。
「ソーニャちゃん、ここぬるぬるだよ……」
「や、やめろっ……。恥ずかしいだろ……」
「そうだね。じゃあ……」
そう言うとやすなは目の前でショーツを脱ぎだした。
「ソーニャちゃん……」
「み、見ていないぞ……」
「……ソーニャちゃんのえっち」
「見ていないって言っているだろ!」
ちょっと怒鳴ると、やすなはくすくすと笑った。
「嬉しいな……」
「は?」
「私で興奮してくれたんだよね?」
「えっと……、その……」
今すぐにでも否定したいが、私の体はそれを裏付けるかのような反応がそこかしこに見られていた。
私は観念して小さく頷いた。
「電気、消そうか……」
「あ、あぁ……」
部屋の電気を消して、月明かりの中でやすなは私の横に並ぶように寝転がった。
「続き、しよう?」
艶めかしく笑うやすなの体を抱き寄せて、私は暗闇の中でその存在を確かめるかのようにキスをした。
産まれたままの体は熱く火照って、隅々まで痛いほど痺れていた。
「んちゅ……! んっ……! はぁ……! んっふ……!」
「はうぅ……! ちゅぅ……! ちゅく……! れろ……!」
淫らな舌の絡み合いの中で、私たちは曝け出されたお互いの秘所に手を伸ばした。
指先が触れると、熱い愛液がとろとろと出迎えてもっと欲しいとねだった。
「はぁ……、はぁ……、あうぅ……! あぁっ……!」
「くぅ……! うあっ……! はぁ……、はぁ……」
月明かりが差しこむベッドの上で、お互いの荒い息遣いと秘所から漏れだす淫らな水音だけが響いていた。
頭が真っ白になりそうだった。
自分がやすなとこんなことをしているなんて、考えらないことだった。
しかし、そんなことを考えている暇があればやすなの指がそれを吹き飛ばしてしまう。
私だけを見てと、指の動きを速めたりキスをせがんだりしてくるのだ。
それに呑み込まれそうになり、私は必死にやすなにしがみついていた。
「ソ、ソーニャちゃん……! そ、そこぉ……! あぁん……! はぁ……!」
偶然指が当たったところがやすなの弱点らしい。指がそこを擦るたびに体が強張り腰が跳ねた。
「ここが、いいのか?」
確認するように指で撫でつけると、やすながびくんと大きく跳ねた。
「そ、そこらめぇ……! あぅぁ……! あっ! あぁ……!」
かなり刺激が強いようで、すっかり私への愛撫をやめてしまい指の動きに翻弄されて嬌声を上げ始めた。
溢れだす愛液に助けられながら、私は指の動きを速めていった。
「ソーニャちゃん……! 私っ……、来ちゃうぅ……!」
肩に噛みつく様に堪えていたやすなが弱弱しく呻いた。
必死にしがみついてくるやすながとてもかわいくて、私はさらに指の動きを速めた。
激しく飛び散る愛液の音が部屋に響き、やすなの声が次第に高くなっていくにつれて私もなにかこみ上げてくるものを感じた。
「ひゃあぁ! らめぇ! ふあぁっ!? あぁっ! っ───!」
一際大きく跳ね上がった後、やすなは糸が切れた人形みたいにぐったりとベッドに沈んだ。
「あああぁ……! い、いっひゃっらぁ……!」
ぐちょぐちょになってしまった秘所から指を引き抜くと、どろりとしたやすなの愛液が絡みついてきた。
すっごいな……、これ……。
やすなは荒い息をがんばって整えようとしていたが、まったく収まる気配が無かった。
「大丈夫か?」
「う、うん……。はぁ……、はぁ……」
やすなが落ち着くまで待っていたが、その間にも私の体はじんじんと疼きに侵食されていた。
胸の鼓動は収まらないし、体温も高いままだ。
どうしたものか……。
すると、やすなが荒い息のまま私を抱き寄せてきた。
「な、何だ?」
「ソーニャちゃん、まだ、だよね……?」
私の体から火照りが抜けず、奥の方で渦を巻いているのをやすなは感じ取っているようだった。
「いいよ……、ソーニャちゃんの好きなようにして……?」
ベッドに横たわったままやすなは私を迎え入れる準備をすると、おねだりを始めた。
火照った私の体がそうさせるのか。それとも私を誘うやすながそうさせるのか。
一瞬ためらったものの、私はそのままやすなにのしかかり首筋に顔を埋めていた。
この疼きを鎮めたい。お前をめちゃくちゃにしてやりたい。
そのまま指を絡め合いベッドに組み伏せると、やすなの体が月明かりに白く浮かんだ。
白いシーツの上に広がる亜麻色の髪の毛と、私を射抜く亜麻色の瞳。
そして、小ぶりだがきれいな胸が息をする度に上下に揺れ動いていた。
「はぁ……、はぁ……、きて……?」
官能的な顔を見せながら、やすなは笑った。
その姿は、私の理性を完全に破壊するのに十分すぎた。
「……!」
一気に溢れだした自分の本能に身を任せて、私はやすなの唇を吸い舌をねじ込んでいた。
「んむぅ……! ちゅっ……! はぁ……! ソーニャ……、ひゃん! ソーニャちゃん……!」
「うあぁ……! あむっ……! やすな……! やすなぁ……!」
ベッドの上で足を絡め合い、腰を振っては体を抱きしめて激しいキスの応酬を繰り返した。
お互いの秘所はいやらしい水音を立てて糸を引き、お前が欲しいと口を開いていた。
私を縛るものはすっかり壊れてしまい、理性を失った獣のようにやすなに喰らいついては貪った。
何度も、何度も、何度も……。
「あぁん! や、ああぁ! あんっ! 気持ち、いいよぉ! ソーニャひゃぁん!」
ベッドに組み伏せた獲物を貪りながら、私は優越感に浸っていた。
私が動けばそれに合わせて嬌声を上げる、いやらしい獲物だ。
お前の唇、声、吐息、匂い、全部が私を狂わせるんだ。
もっとちょうだい、もっとちょうだいと私を欲して誘惑するんだ。
だから私は貪る。お前を、どこまでも……。
「そんなに激しくしちゃぁ! わたしっ……! 来ちゃうぅ!」
「はぁ……! やすなぁ……! わたしも、来るっ……!」
息も絶え絶えに喘いで限界が近いことを知ると、その先を目指してさらに動きを速めた。
「んああぁ! ソーニャちゃん! わらひ、またいくぅ! いっちゃうぅ! いっちゃううううぅ!」
「うあっ! あぁ! はぁ! やすなぁ! やすなあぁ!」
やすなの熱と私の熱が混ざっては離れて、混ざっては離れて……。
絶頂への荒波の中でお互いの体を固く抱き合い、真っ白になる意識を超えて高みへと登りつめた。
「「あああああああああぁ───!」」
そして、狭いベッドの上で私たちの体は絶頂に震えた。
「……はぁ」
こんなことをして何になるのだろう。
熱が冷めて我に返り、その思いが罪悪感のように湧いては私の心に溜まってぐるぐると渦を巻いていた。
人肌に触る機会なんて、生死の境でぐらいしかなかった私が人を抱いているのだ。
おかしいったらありゃしない。
血でまみれた私の手が、人を抱くなんて許されるのだろうか。
そんな私なのに、やすなは……。
「……どうしたの?」
「起こしたか?」
「ううん。……また考えていたでしょ」
「……何を?」
「ごまかしちゃってさ」
人肌の、いや、お前の温かさを求めるように私は抱く力を強めた。
「今だけは、忘れてほしいな」
「そうもいかない」
「……私じゃ忘れられない?」
「……」
少し難しい顔をしたら拗ねてしまったようで、私の胸に顔を埋めてきた。
「ソーニャちゃん、もうどこにも行かないで……」
「……」
私だって、今ぐらいは忘れたい。お前とずっと一緒にいたい。
でも、硝煙と血の匂いが染みついたこの体が忘れさせてくれない。やはり私は殺し屋なのだ。それはどうやっても変わらない。
私はやすなをさらに抱き寄せると、眠ることに努めた。
お前を抱いている時は忘れていられそうなんだ。
今は、今だけは、お前とふたりきりでいたい。
それから私はやすなと愛し合うようになった。
始めは戸惑いもあったり迷ったりもした。それに、私が組織に見つかるかもしれないという不安が常に付きまとっていた。
その不安を振り払うように、自分がまだ生きていることを確かめるように私たちは肌を重ね合った。
でも……、私はどこまでも弱い人間だった。
「やすな、言っておきたいことがある」
「何? 改まって」
眠りにつこうとしていたやすながもぞもぞと私の胸から顔を上げた。
「もしも、組織から逃げられなくて私が死んでも、殺した奴のことを恨まないでくれ……」
「えっ……?」
やすなは酷くびっくりしたようで、私の顔を見つめて息を呑んだ。
「それでお前の人生を狂わせたくない。無理かもしれないが……」
そこまで言いかけて、やすなの唇がその先を奪った。
「それ以上言わないで……」
「でも、これ以上私に付き合わなくていいんだ。ずっと平和な世界で生きていてほしい」
「……無理だよ。こんなにも愛しているのに」
ここまで深入りしておいてこんなことを言うなんてかなり酷なことだと思ったが、これも本心なんだ。
「嬉しいけど、わかってくれ……」
せめて、私がいなくなった後ぐらいは迷惑をかけたくないんだ……。
そんな日々が少し経った頃。
すっかり傷も癒えて最期の検診も終わった帰り道でのことだった。
「相変わらず隙が無いですねぇ」
「!?」
やすなと過ごす日々が勘を鈍らせていたのか、私の後ろからどこか抜けたような声が飛んできた。
背筋に嫌な汗が流れていくのを感じつつ、私は後ろにいるであろう人物の名前を呼んでみた。
「あ、あぎり……」
「どうも~。このまま気づかれなかったらどうしようかと思いましたぁ」
後ろに立っていたおばあさんがべりべりとマスクを剥がし、おっとりとしたあぎりの顔が現れた。
「お前、何でこんなところに……」
「それはこっちが聞きたいですぅ。組織には戻らないんですかぁ?」
「……」
「ソーニャちゃん、どうしたの?」
「どうも~」
「あ、あぎりさん! いつここに?」
懐かしい顔を見て笑顔を見せたやすなだが、私は到底そんな気分になれなかった。
「戻る気は、なさそうですね」
「な、何を……」
「顔に書いてありますよぉ」
一体何を考えているのかわからないその笑顔に、私は覚悟を決めた。
「ソーニャがそういう気持ちなら、私はあなたを消さなくてはいけませんねぇ」
「ちょ、ちょっと一体何の話!?」
いつもと雰囲気が違うのを感じ取り、やすなも何かおかしいと気づいたようだ。
「仕事の中で機密情報など知り得ている可能性もありますしねぇ」
「やすな、下がっていろ……」
「ソーニャちゃん……! あぎりさん……!」
やすなはこの状況がどういうことなのか気付いたらしい。すがるような声であぎりに呼びかけた。
だが、あぎりはそんなに甘い奴じゃない。それは私が一番よく知っている。
「あぎり……、手間をかける」
「……もっと抵抗らしい抵抗をすると思っていました」
「今の私は丸腰だ。それに、お前と戦う気なんて無いよ」
遅かれ早かれいつかはこういう時が来ると思っていた。ターゲットが組織から逃げるなんてできないんだ。
「お前で、よかったと思う」
「そんなこと言っても何も出ませんよぉ?」
あぎりはそういうと懐から何やら怪しげな道具を取り出し、それを私に向けた。
「やすな……」
顔を見ない様にして呼びかけると、泣いているのかひどく息を詰まらせた声が聞こえた。
「今まで、ありがとう」
「ま、待って……! 待ってよぉ……!」
涙でぼろぼろな声を絞り出して引き留めてくれたやすなに別れを告げて、あぎりの前に立った。
私が死んで泣いてくれる人がいるなんてな……。
私はそれだけで十分幸せだよ。
「これでいいんだ……」
目を瞑り、私は最期の時を迎える準備を終えた。
「それじゃあ、さようならぁ」
あぎりが構える音が聞こえて、乾いた音が響いた瞬間に私はこの世から消えた。
……はずだった。
「……?」
体に何も感じず、私は違和感を覚えた。
何だ? もう終わったのか?
恐る恐る目を開いて見ると、そこには色とりどりのカラーテープを撒き散らしたクラッカーを持って笑っているあぎりがいた。
「あ……、あぁ……!」
緊張が解けたのか、やすなが震えたまま地面に座り込んで泣き出してしまった。
これは一体どういうことなんだ?
答えを求めてあぎりを見つめると、相変わらずにこにこ笑っていた。
「ど、どういうことか説明しろ」
「都合の悪い人間の存在を消すのが、殺し屋の仕事ですから」
「……?」
焦る私をのほほんとかわしながら、あぎりは散らかったクラッカーを片づけながらいつもの調子で話し始めた。
「ここに来たのは組織の命令ではないんですよぉ」
「何だと!?」
「偶然立ち寄ったらソーニャがいただけです」
「ぐ、偶然……?」
「あ、組織ではソーニャはもう死んでいることになっていましたよぉ。状況が状況でしたし」
クラッカーのくずを集め終わると、どこから取り出したのかゴミ袋につめて一息ついた。
「ソーニャに戻る意思があるのなら連れ戻してもよかったんですけど、驚かせすぎましたかね?」
「……やすなにはやり過ぎたかもな」
未だに体が震えてへたりこんでいるやすなを立たせると、私もようやく力を抜いた。
「このことは報告しませんからご安心を」
「あぎり、いいのか……?」
「殺し屋のソーニャはもういませんしねぇ」
とぼけた感じでウィンクすると、あぎりは背中からカイトを引っ張り出すとワイヤーを張って広げていった。
「それじゃあ、私はそろそろ行きますねぇ」
「あ、あぎりさん!」
立ち去ろうとするあぎりをやすなが呼びとめた。
「あ、あの! もし組織を抜けられたら、ここで一緒に暮らしませんか!?」
あぎりは少し黙ると、振り向いて低いトーンで話し始めた。
「……人を知らず、世も知らず、影の中に生きる。それが忍者です」
「あぎりさん……」
「……でも、考えておきますねぇ」
あぎりは嬉しそうに笑うと、そのままカイトを使って飛び立ってしまった。
それから……。
私はここでやすなの仕事を手伝っている。
仕事柄薬剤の知識はあったからそれなりに仕事はできた。
最近ではやすなに仕事をとらないでと怒られることもしばしばだ。
「はぁ……」
船で運ばれてきた薬の充填も終わり、私は青空を仰いで一休みしていた。
「あ、また考えてる」
一緒に作業をしていたやすなが私の顔を覗き込みながら少し不満そうに言った。
「いきなり何だ」
「自分が幸せになるなんて悪いなぁ~、って顔してるよ」
……本当にこいつは変に鋭いな。
「いいじゃん。他人なんてさ」
そばにあった椅子に腰かけると、やすなは元気に言った。
「ソーニャちゃんの人生なんだから、好きなように生きなきゃ損だよ」
「……そうかもな」
この広い青空の下、私はまだ生きている。
どうしようもなく愛おしいバカと一緒に。
おわり
http://hayabusa.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1333102871/
1 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/03/30(金) 19:21:11.78 ID:cOmuiqFv0
TVアニメ、キルミーベイベー最終回記念
後日談っぽい話なのでやすなとソーニャは20代ぐらい
後日談っぽい話なのでやすなとソーニャは20代ぐらい
2 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/03/30(金) 19:24:05.95 ID:cOmuiqFv0
「はぁ……、はぁ……」
くそっ……。こんなへまをするなんて迂闊だった……。
「がはっ……。うぅ……」
腹部に受けた傷がぎりぎりと痛み、口から血の臭いがしてきた。
打ち所が悪いみたいだ……。意識が……。
よたよたと歩いていると、後ろの方からどかどかと足音が近づいてくるのが聞こえてきた。
もう追い付かれたのか……。武器もまともに残っていないし、これじゃあ……。
3 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/03/30(金) 19:26:39.41 ID:cOmuiqFv0
──ソーニャちゃ~ん。
くそっ、こんなときにこいつの顔が浮かぶなんて……。
──ソーニャちゃんって意外と小心者なんじゃないのぉ~?
しかも、何だかイライラしてきた……。最期なのに何でこいつのことばっかり……。
──や~い! ソーニャちゃんのぶああああぁか! ぶああああぁか!
「……いい加減にしろおおおぉ!」
──ふふふ、腕が鈍ったんじゃないのぉ?
手ごたえはあったはずなんだが、逃げられた!?
「何だとぉ……! こいつっ……!」
くそっ、こんなときにこいつの顔が浮かぶなんて……。
──ソーニャちゃんって意外と小心者なんじゃないのぉ~?
しかも、何だかイライラしてきた……。最期なのに何でこいつのことばっかり……。
──や~い! ソーニャちゃんのぶああああぁか! ぶああああぁか!
「……いい加減にしろおおおぉ!」
──ふふふ、腕が鈍ったんじゃないのぉ?
手ごたえはあったはずなんだが、逃げられた!?
「何だとぉ……! こいつっ……!」
4 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/03/30(金) 19:28:10.00 ID:cOmuiqFv0
自分の粗い息づかいだけが聞こえる中、闇雲にやすなを追いかけては虚空に手を伸ばしていた。
「こいつ……! いつも調子に乗りやがって……!」
いつもいつも私をおちょくって、殴っても蹴っ飛ばしてもうっとうしく纏わりついてきたバカ……。
私は……、私は……。
「はっ……!」
気がつくとやすなの影は無く、私は空を仰いで倒れていた。
横を見てみると、私を追いかけて来たたくさんの敵が倒れていた。
何だ? 私がやったのか……。
6 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/03/30(金) 19:29:20.89 ID:cOmuiqFv0
「へへっ……」
やすなの幻影で助けられるとは、私もいよいよだめかもしれない……。
とにかく任務は完了している。あとは撤収するだけだ……。
「はぁ……! はぁ……! うぐぅ……!」
揺らぐ視界の中で、ぽたぽたと体にあたる何かを感じていた。
「雨、か……」
どうやら体に当たるのは雨らしい。ぽたぽたと私の体を濡らしている。
雨は匂いとか足跡を消してくれる。好都合だ。
私は震える足を何とか動かして、先へと進んだ。
が……。
8 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/03/30(金) 19:32:10.09 ID:cOmuiqFv0
「うぅ……」
体が前のめりになるのを感じ、踏ん張ろうとしたがそれもできなかった。
足がもつれて、そのまま体は重力に引かれていった。
あぁ、落ちていく……。
何もできないまま宙を舞い、そんなことをぼんやりと考えていた。
ドボンッ。グルグルグルグル……。
ひどい衝撃と共に耳と鼻がキンと痛くなり、海水が口の中に入ってきた。
もう、死んでしまうのだろうか。
冷たい。体が寒い……。
10 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/03/30(金) 19:36:03.76 ID:cOmuiqFv0
体の感覚も時間の感覚も無くなってしまい、ただ流れに漂うだけ……。
人間なんて、死ぬときはみんなこんなものなんだろうか。
……。
光……? 何か、光っている……。
それに、温かい……。
天国、か? いや、私がそんな所に行くわけがない。
──大丈夫ですか?
誰だ……?
──立てますか?
何だろう。またあいつの声が聞こえる気がする……。
11 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/03/30(金) 19:39:11.97 ID:cOmuiqFv0
「……」
ほんのりと漂う温かい匂い。そうだ、これは太陽の匂いだ。
目を開いて見ると、辺りは真っ白な光が溢れていた。
「うっ……!」
意識がはっきりしてきて身じろいでみると、体中が痛く重かった。
どうやらここは天国ではないらしい。
13 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/03/30(金) 19:42:18.39 ID:cOmuiqFv0
頭を動かすと、真っ白な部屋に真っ白な棚がずらりと並んでいるのが見えた。
中には茶色い瓶が整頓されており、薬を入れておくものに見えた。
ここは一体どこだ?
更に頭を振ってみると、レースが風に揺られていてさんさんと注ぐ日光を弄んでいた。
「……温かい」
太陽って、こんなに温かかったんだな……。
生きてもう一度太陽が見られるとは思ってもみなかった。
14 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/03/30(金) 19:47:01.91 ID:cOmuiqFv0
「ソ、ソーニャちゃん……!」
誰かの声が聞こえてきたので視線をずらすと、白衣を着た同じ歳ぐらいの女性が入口に立っていた。
「目が覚めたんだね!?」
私が目が覚めたことを確認すると、弾けんばかりの笑顔を見せて駆け寄ってきた。
「よかった……! 本当によかった……!」
動く気力も無く、私はその女性に痛いぐらいに抱きしめられていた。
……あれ? 何でこいつが私の名前を知っているんだ?
ようやく頭が回り出し、私は警戒しながらその女性を見つめた。
私の名前を知っているやつなんてほとんど同じ稼業の奴しかいない。
だけど、こいつからはそんな雰囲気は無い……。こいつは誰だ?
「あれ? もしかして私が誰かわからない?」
一体誰なのか考えていると、涙目のまま私の顔を覗き込んできた。
何だか妙に馴れ馴れしい奴だな。それに、この雰囲気は……。
ま、まさか……。
15 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/03/30(金) 19:53:14.12 ID:cOmuiqFv0
「お、お前……、やすなか?」
「そうだよ、ソーニャちゃん!」
「ほ、本当にやすなか?」
目の前にいるやすなは白衣を着ていて、その姿は誰がどう見ても医者の格好だった。
やすなが医者だと? 悪い冗談だろう?
私の中にあるやすなと、目の前のやすながまったく一致しなかった。
「本当も嘘も無いよ。ソーニャちゃんの友達の折部やすなだよ」
疑っている私を見つめて、涙を拭いながらやすなはにっこりと笑った。
16 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/03/30(金) 19:57:05.74 ID:cOmuiqFv0
その笑顔はあの時のままで、何も変わっていなかった。
それに少しだけほっとしつつ、私は状況を確認した。
「やすな……、ここは……」
「無理しないで。ソーニャちゃんあれから一週間も寝ていたんだから」
「一週間……?」
まさか、あれから一週間以上も経っているのか……。
17 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/03/30(金) 20:01:27.37 ID:cOmuiqFv0
「おう、やすなちゃん。お友達が起きたかね!」
「あ、どうも!」
声のする方を見ると、初老ぐらいのおじいさんが入口でにこにこしながら立っていた。
「勝手に道具を使ってすみませんでした。費用は私の給料から引いておいてください」
「そんなの構わんよ」
「でも、悪いですよ」
「いいんじゃよ。それより、目が覚めてよかったのぉ」
「本当にありがとうございました」
18 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/03/30(金) 20:04:35.87 ID:cOmuiqFv0
やすなとのやりとりを聞いて、どうやら本当にここの医者らしいことはわかった。
「私は仕事に戻るけど、ケガが酷いんだから勝手に動いちゃだめだよ?」
しばらくここに残っていたいそぶりを見せたが、そう言い残すとやすなは出て行ってしまった。
正直こんな状態になっていると、この隙を突かれて襲われそうで不安だ。
しかし、体は重いし痛みもある。それにとてもだるくて何もする気が起きなかった。
仕方がない、ここはひとまず眠るか……。
21 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/03/30(金) 20:08:22.02 ID:cOmuiqFv0
「……」
私が目を覚ますと、ほとんど日は沈んでいて部屋が暗くなっていた。
こんなに寝たのは風邪で寝込んだ時以来だな。夢らしい夢も全く見た覚えも無く気持ちよく眠れた。
体はまだ痛いが、ようやく自分の置かれている状況を見渡せる余裕ができた。
さっきは気付かなかったが、どうやらここは診療所の奥の方にある部屋らしい。
向こうの方からやすなとさっきのおじいさんが話しているのが聞こえてきた。
22 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/03/30(金) 20:13:56.70 ID:cOmuiqFv0
「私が責任もって面倒見るので、心配しないで下さい」
何だかやすなにそう言われると癪にさわるが、実際に面倒を見てもらう側なので仕方がない。
「その方が良いかもしれんがなぁ……」
おじいさんは唸って悩んでいるようだったが、仕方がないなと笑った。
「何かあったらすぐにいいなさい」
「ありがとうございます」
「それじゃあ、頼んだよぉ」
「わかりました」
おじいさんはそう言い残すとドアの音を残して出て行った。
23 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/03/30(金) 20:17:26.32 ID:cOmuiqFv0
「あ、ソーニャちゃん起きた?」
「あぁ、今起きたところだ」
「ごめんね、電気つけるよ」
やすなは部屋の電気をつけると、ペットボトルとコップを持ってベッド脇の椅子に座った。
「はい、喉乾いているかと思って」
「すまない」
コップに注がれた水を少しずつ流し込むと、それに体中の傷が疼いた。
「大丈夫?」
「なんてことは無い」
少し強がって言ってみたが、水を飲むのにも苦労するとは思っていなかった。
24 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/03/30(金) 20:18:06.88 ID:cOmuiqFv0
「あ、ソーニャちゃん起きた?」
「あぁ、今起きたところだ」
「ごめんね、電気つけるよ」
やすなは部屋の電気をつけると、ペットボトルとコップを持ってベッド脇の椅子に座った。
「はい、喉乾いているかと思って」
「すまない」
コップに注がれた水を少しずつ流し込むと、それに体中の傷が疼いた。
「大丈夫?」
「なんてことは無い」
少し強がって言ってみたが、水を飲むのにも苦労するとは思っていなかった。
25 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/03/30(金) 20:23:59.23 ID:cOmuiqFv0
「ソーニャちゃん、ご飯食べられる?」
「少しぐらいなら何とか」
「ごめんね、本当なら点滴とかですませるんだけどここには無くて……」
「気にするな」
「さてと、それじゃあ何かスープのようなものでも作ってあげるね」
「え? お前が……?」
あからさまに嫌そうな顔をしたら、やすながふくれてしまった。
「そんな嫌そうな顔しなくてもいいじゃん……」
「じ、冗談だよ……、ははは……」
確かこいつの作ったものをいくつか食べた気がするんだが、味は悪くなかったな。
「絶対ソーニャちゃんがおいしいって言うものをつくってやるぅ!」
くそぅ! くそぅ! なんて懐かしい言葉を叫びながらやすなは台所へ行ってしまった。
やすなは昔から変なところで器用だったなぁ。
パペットだっけ? あの人形を作ったり、弁当もたまに自分で作ったものを持ってきていたりしていた。
あ、輪ゴム鉄砲とか作ったこともあったな。
27 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/03/30(金) 20:28:10.25 ID:cOmuiqFv0
しばらく待っていると、いい匂いがしてきてやすながお椀を持ってきた。
「じゃーん! 特製やすなみそ汁です!」
「……もっとケガ人に食べさせる食事ってあるだろう」
「結構気を使って作ったつもりなのに……」
「いや、みそ汁って違うと思うぞ?」
「そ、そうかな……」
まぁ、食べやすいと言えばそうだが……。
「まぁ、食べるよ。せっかく作ってくれたしな」
「自分で持てる?」
「大丈夫だ」
31 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/03/30(金) 20:58:56.82 ID:kGlUrC5D0
私はお椀を受け取ると、少しだけ飲んでみた。
「どう? おいしい?」
「……まぁまぁだな」
「もう、素直じゃないんだから」
みそ汁というのはあんまり飲んだことがないから一概には言えないが、これは不思議な味がするな。
辛くも無いし甘くも無い。おいしいといえばおいしいのだが味噌が入っているからもっと塩味がすると思っていた。
具は油揚げと豆腐とわかめが入っている。みそ汁ってこういうものなのか。
「あ、ソーニャちゃんってお箸使えたっけ?」
「い、一応は……」
日本に来た時は箸を使って食べるものが多くて閉口してしまったが、今ではそれなりに使えるつもりだ。
「でも、手もケガしているからスプーンにしようか」
やすなが銀色のスプーンを手渡してくれたが、みそ汁にスプーンってミスマッチじゃないか……?
しかし、この手ではそうも言っていられず私は仕方が無くスプーンでみそ汁を飲んだ。
34 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/03/30(金) 21:03:49.87 ID:kGlUrC5D0
みそ汁を飲み終えてようやく人心地がついたところで、私は気になっていたことを聞いてみた。
「やすな、ここは一体どこなんだ?」
「ここ? 華津穂島だよ」
「か、かづ……?」
「まぁ、聞いたことも無いような小さな島だよ」
島の名前を聞く限り、どうやらここは日本らしい。
しかし、あんな状態でよく助かったものだ。
海に落ちて漂流してきたのだろうか。泳いでくるほど体力は無かったし……。
「診療所に行こうと思ったら海に誰か倒れていてさぁ、助けに行ったらソーニャちゃんなんだもん」
やすなの話を聞きながら、私は未だに自分が生きていることが信じられなかった。
しかし、今はそれよりも信じられないことがある。
あのやすなが。あのやすなが!
大事なことなので2回言ったぞ。
ただでさえあんなにおバカだったのに医者だぞ?
夢だと思いたいような、どこか嬉しいような……
38 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/03/30(金) 21:07:34.06 ID:kGlUrC5D0
「ソーニャちゃんはここで休んでいて。片づけてくるから」
「お前、こんなに遅いのに家に帰らないのか?」
「あ、今日はここに泊まることにしたから安心して?」
「別に心配なんかしていない」
「またまたぁ~。ケガ人の世話は医者の仕事ですから安心してください!」
「……安心できん」
でも、今までの行動を見る限りだと少しは信用してもいいかもしれないな。
39 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/03/30(金) 21:12:39.47 ID:kGlUrC5D0
ベッドの横にある窓を開けると、潮の匂いとともに夜風が吹きこんできた。
周りはほとんど真っ暗で、家の明かりも遠くの方にしか見えない。
「……あ」
真っ暗だなぁと思い見まわしていると、空には数えきれないぐらいの星が輝いていた。
あれは、冬の大三角か。こんなにたくさんの星に囲まれているのにその存在はとても大きかった。
「すごいでしょ……」
片付けを終えたやすなが後ろからそっと囁いた。
「ここは人が少ないから星が良く見えるんだ」
「……そうか」
42 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/03/30(金) 21:15:51.73 ID:kGlUrC5D0
「ソーニャちゃん、ガーゼ取りかえてあげる」
「あぁ、頼む」
やすなは慣れた手つきでベッドの上で服を脱がし、体中に巻かれている包帯をするすると解いていった。
「ちょっと痛いかもしれないけど、我慢してね」
お湯を張った洗面器を用意して、ガーゼを取りかえるのと並行して体を拭いてくれた。
「こんなに傷だらけで、自分をもっと大事にしなくちゃ……」
「なぁ……」
「何?」
「何でお前、医者になったんだ……?」
「あ、聞きたい? 聞きたい?」
私が聞くと、やすなは待ってましたと言わんばかりにニヤニヤした。
「……やっぱいい」
あの頃と全く変わっていないウザさに内心ホッとしつつ、私はやすなの話に耳を傾けた。
どうせこいつは私が止めても話し始めるだろうし。
44 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/03/30(金) 21:21:50.27 ID:kGlUrC5D0
「まぁ、私にも色々あったんだよ」
「どうせろくでもない理由だろ?」
「そんなことないもん!」
……ほらな?
「お金持ちになりたいなぁとは思っていたんだけど、やっぱり人の為になるほうがいいじゃない」
「……そんな事でよく医者になれたな」
「それだけじゃないよぉ!」
失礼しちゃうとか言いながらやすなは拗ねてしまった。
「で、何でこんなところにいるんだ?」
「医大を出てから就職先が決まらなくて、やっと仕事が見つかったと思ったらここだったんだ……」
「……お前なぁ」
全く、行き当たりばったりもいいところだ。やすならしいと言えばそうなんだけど……。
45 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/03/30(金) 21:26:55.66 ID:kGlUrC5D0
「でもね、ここもすごくいいところだよ。みんな優しいし、海もきれいだし、それに……」
「それに?」
言葉が詰まったので不思議に思って気にかけていると、一息いれてからやすなが震える声で言った。
「……ソーニャちゃんに会えたし」
「お、お前、どこ触って……!」
やすなの手があらぬ方向を触ってきたので一発殴ってやろうかと思い振り返ると、やすなが肩を震わせていた。
「……やすな?」
「本当に、心配したんだから……! えっぐ……」
やすなは……、泣いていた。
「ずっと連絡も、できなくて……! 二度と会えないって、思ってた……!」
「せっかく会えたと思ったら、ボロボロで……、死んじゃうんじゃないかって……!」
そのままやすなは私に寄りかかると、声を上げて泣き始めてしまった。
「……悪かった」
謝ることじゃないのに、私の心に少しだけ芽生えた罪悪感が口から漏れていた。
47 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/03/30(金) 21:33:53.67 ID:kGlUrC5D0
それから私は、しばらくはここで治療に専念することにした。
それしかすることはできなかったし、体が無ければこれからのことは何もできない。
しかし、傷が癒えていくにつれて私の中にある不安が募ってきた。
この傷が癒えたら私はどうするのかという漠然とした不安だ。
組織に戻るのが普通なのだろうが、その考えが少しずつ薄れていた。
あの時のように……。
「ほら、包帯変えるから服脱いで?」
「も、もう自分でできるからしなくていい」
「そういわずにさぁ」
48 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/03/30(金) 21:39:15.41 ID:kGlUrC5D0
あれからもうすぐ一ヶ月になろうというこの時には、傷もある程度塞がったので診療所からやすなの家にお邪魔していた。
やすながどうしても来てほしいと言うので仕方なく来たのだが、そこには捨ててきた日常があった。
ぎりぎりとした殺気に体を晒す必要もないし、精神をすり減らす必要もない。
そして、何よりここには……。
それを知らないやすなはいつものように接してくる。それは今の私にとって挑発以外の何物でもなかった。
「……だめだ!」
溜まった気持ちが爆発してしまい、包帯を変えようとするやすなの手を振りほどいていた。
50 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/03/30(金) 21:45:19.80 ID:kGlUrC5D0
「ど、どうしたの……?」
「あ……」
少し強くし過ぎたせいで、やすなは何か悪い事でもしたのかと不安そうな顔をした。
「ち、違うんだ。その……」
そろそろけじめもつけなきゃいけない時期だと思い、私は自分の気持ちをありのまま話すことにした。
「……お前はこんなにもしっかりとやっているのに、私なんかと関わっちゃいけないんだ」
「何でさ?」
まるで何も考えていないような顔しやがって……。もしかしたら何も考えていないのか?
「なぁ、お前は怖くないのか?」
「何が?」
「私のせいで、お前が怪我したり最悪死んだりするかもしれないんだぞ?」
「大丈夫だよ」
やすなは何の不安も無い顔で笑った。
51 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/03/30(金) 21:47:06.99 ID:kGlUrC5D0
「何でそう言い切れる」
「だって、そうなったときはソーニャちゃんが守ってくれるもん」
「やめろっ!」
私は堪え切れなくなって、ついに叫んでしまった。
「私は、そんなに強くない……。自分すら守れない奴が、お前なんて守れるわけだろう……?」
私は弱い。組織に戻らなくてはいけないのにたったひとりのこんなバカに心を乱されて、今ではこんなに……。
「お前を、失いたくないんだ……」
そう、高校を卒業する辺りに異動の為に日本を離れることになった時からずっと思っていた。
刺客に一緒に狙われて、命の危険にさらされたことも一度や二度ではなかった。
だから、だから……。
54 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/03/30(金) 21:54:48.16 ID:kGlUrC5D0
「……私だって、ソーニャちゃんを失いたくない」
タオルを握りしめて、いつになく低いトーンでやすなが呟いた。
「学校を卒業してから突然いなくなっちゃって、携帯でも連絡できなくて寂しかったの!」
「やすな……」
「このままだったら、ソーニャちゃんがまたいなくなっちゃう……」
いつもと違うやすなの顔にドキドキして、私は動けなくなっていた。
「どこにも行っちゃ、いや……」
まるで大切な宝物でも守るように優しく、しかし力強くやすなは私のことを抱きしめた。
いつもと違うやすなに戸惑いを隠せず、私はただ受け止めることしかできなかった。
55 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/03/30(金) 21:58:57.58 ID:kGlUrC5D0
包帯も巻き終わり、私たちはどうにか寝る準備をしていた。
「……寝ようか」
「……あぁ」
だが、変に意識をしてしまって一体何を話していいのかわからず気まずい雰囲気が流れていた。
「ねぇ、ソーニャちゃん」
「何だ?」
「一緒に寝て、いい?」
「えっ!?」
やすなと、一緒に寝る……!?
57 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/03/30(金) 22:05:22.51 ID:kGlUrC5D0
「もう、そんなにびっくりすることないじゃない」
「だ、だって……」
「ソーニャちゃんってば意外と初心なのねぇ~」
「早く寝ろ!」
「あだぁ……!」
いつもの調子を取り戻そうと、照れで威力二倍増しのげんこつを喰らわせてやった。
布団をかぶると、やすなも大人しくなって布団に入った。
60 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/03/30(金) 22:11:34.89 ID:kGlUrC5D0
「……ソーニャちゃん」
「ん?」
少し静かになったと思ったら、不意にやすなが話しかけてきた。
「……ごめんね」
「何だよ、急に」
「ケガが治ったら、組織に戻るんでしょ?」
「……」
「わかってるよ……。でも、行っちゃいやだ……」
それだけを言うと、やすなは布団を深く被ってそっぽを向いてしまった。
「……」
私だって、お前と一緒にいたいと思っている。
お前は心の底から安心していられるんだ。
硝煙の臭いも、血の臭いも、殺気もない普通の関係でいてくれる。
でも、私は色々と背負いこみ過ぎたんだ。お前と違う世界の人間なんだ……。
64 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/03/30(金) 22:27:53.76 ID:kGlUrC5D0
「おはよう」
「お、おはよう……」
くそっ、あれからこいつの顔がまともに見れないぞ……。
自分でも不思議だが、こんなアホ面のどこにドキドキしたんだろう。
「そろそろ診療所に行こうか」
朝食を済ませて準備をすると、検査の為に少し違和感の残る体を動かして診療所へ向かった。
「……」
「……」
いつもならやすなが話しかけてくるのだが、今日に限ってはずっと無言で歩を進めていた。
まぁ、昨日あんなことを言ったしな。こっちも考えるので精いっぱいだから助かる。
お互い無言のまま診療所につき、やすなはそのまま仕事に移った。
私は誰もいない待合室の椅子に腰かけて、自分の番を待った。
「はぁ……」
67 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/03/30(金) 22:42:32.28 ID:kGlUrC5D0
私以外の患者がいないせいか早速呼ばれて、私は診察室へ入った。
「おぉ、待っとったぞ。どうじゃ、調子は?」
「おかげさまで順調です」
「そうかそうか。しかしすごい回復力じゃのぉ」
傷口のあたりを確認し聴診器による診察を終えると、おじいさんはカルテを書きながら笑った。
「そうなんですか?」
「あぁ。やすなちゃんのおかげじゃな」
「……まぁ、そうですね」
「あの時、わしは助からんと思っとったんじゃが、やすなちゃんが大切な人なんですと言うてな、そりゃあ必死にやっとったわ」
「た、大切な人!?」
あのバカ、そんなことを言っていたのか……!
72 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/03/30(金) 22:54:23.25 ID:kGlUrC5D0
「絶対助けるからと何度も言うて、仕事そっちのけであんたに付き添っていたんじゃ」
向こうの方で薬の充填をしているやすなを見やり、仕事らしいことなんてここにはあまりないんじゃがな、と自虐的に笑った。
「ったく、あのバカ……」
「おやおや、ずいぶんな言い草じゃなぁ」
まぁ、バカは否定せんがなとおじいさんは失笑した。
「でも、やすなちゃんはいい子じゃ」
「……そう、なのかな」
「おや、そう思わんかね?」
「……あいつは単なるおせっかい焼きのバカですよ」
73 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/03/30(金) 22:58:16.84 ID:kGlUrC5D0
「そうかもしれんが、そういうことは言っちゃだめじゃ」
おじいさんは笑いつつも私を見据えて強く言った。
「人の善意を無視する奴は一生後悔するからのぉ」
「……」
「おっと、長く生きていると人におせっかいをしたくなるようじゃ。すまんすまん」
おじいさんは言いすぎたようだと私に謝りつつ、今日の診察を終えた。
善意、か……。
でも、それが本人にとっては辛いこともあるんだ。
76 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/03/30(金) 23:03:37.21 ID:kGlUrC5D0
「ソーニャちゃん」
晩ご飯を食べ終えて片づけていると、やすなが話しかけてきた。
「何だ?」
「あのね……」
そこまで言って、やすなは言い渋り言葉を濁した。
一体何をためらっているんだ? そんなに言いにくいことなのか?
しばらくもごもごしていたが、やすなは私と目を合わせないようにしながら話し始めた。
「……ソーニャちゃんは、私といるの嫌?」
やすなの口から出たのは、思いもよらない質問だった。
「何でそんなこと聞くんだ……?」
こいつは私が予想もつかないことをいつもしてくるが、これはまた種類が違う。
「またあの時みたいに突然いなくなったりするんじゃないかって、不安になるの……」
「一緒にいてほしい。ずっといてほしい。でも、ソーニャちゃんが嫌なら……!」
やすなは俯いたまま吐き出すように言った。それだけで相当思いつめていることは見てとれた。
77 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/03/30(金) 23:08:16.81 ID:kGlUrC5D0
「嫌……、じゃない。けど……」
「……けど?」
「こんな、こんなことはやっぱり間違っている……」
お前と私は普通なら関係を持つことすらなかったんだ。
誰が殺し屋と好き好んで友達になったりするというのだ。
「……私ね、ソーニャちゃんとなら怖くないよ」
「お前……」
「はっきり嫌だって、言ってくれないと……、私……」
答えを求めるように、やすなが私に寄り添った。
78 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/03/30(金) 23:11:49.73 ID:kGlUrC5D0
「ねぇ、私じゃ嫌なの?」
そのやすなの質問には色んなものが交じっているように思えた。
私だって子どもじゃない。それがどういう意味を持っているのかも、どういう答えを待っているのかも見当はついている。
やすなのことを思えば答えは決まっているはずだった。
しかし……、
「嫌……、じゃ……」
素直なやすなの瞳に射抜かれて、建前も言えなくなり言葉を濁してしまった。
それどころか見つめ合う瞳に吸い込まれるままに距離は縮まって、お互いの唇が触れ合っていた。
「……」
「……」
79 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/03/30(金) 23:14:37.48 ID:kGlUrC5D0
少し息苦しくなってそっと離れると、顔が燃えるように熱かった。
唇に残った感触がくすぐったくて、微笑むやすながとても……、とても……。
「キス、しちゃったね……」
「わざわざ言うな……」
「……じゃあ、もう言わない」
やすなはいたずらっぽく笑うと再びキスしてきた。
80 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/03/30(金) 23:15:58.46 ID:MIheWzs1i
キマシタワー
81 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/03/30(金) 23:17:07.56 ID:bZyg3g2P0
すんばらしい
82 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/03/30(金) 23:17:24.68 ID:kGlUrC5D0
「ちゅっ……、はぁっ……、んんっ……!」
キス、キス、キスの応酬……。
始めは触れ合うだけだったのに、いつしかもっと深く、もっと濃密に、もっと淫らに私たちは絡み合っていった。
キスって、こんなふわふわした気持ちになるんだ……。
「ソーニャちゃん、好き……! 大好き……!」
キスの合間にうわ言のように繰り返しては、やすなは私を求めて舌を伸ばし絡めてきた。
やすなの言葉はまるで呪いのように私を絡め取って、動けなくしていった。
83 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/03/30(金) 23:20:46.14 ID:kGlUrC5D0
「ねぇ、ソーニャちゃんは……?」
唇を解放してやすなが私に問いかけてきた。
今までの私だったらこんなことまともに答えたりしなかっただろう。
でも、こんな状況で少しだけお前に甘えてみたくなったのかもしれない。
「……言わなくてもわかっているくせに」
「……ちゃんと言って欲しいな」
恥ずかしいからあまり言いたくないんだがな……。
「……好き、だよ」
「……えへへ」
私がそっと囁くと、珍しくやすなは頬を赤くして照れた。
84 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/03/30(金) 23:23:25.68 ID:kGlUrC5D0
「ちょっと、やすな……」
キスを続けていると、やすなが徐々に私のことを押し倒してきた。
「えへへ……。ソーニャちゃん……」
やすなはすっかりその気になっていて私の服を脱がしにかかっていた。
予測できなかったわけではないが、少し強気なやすなに戸惑ってしまった。
「ま、待て。いきなりこんな……」
「やだ、待たない。待てない」
「やすっ……、んんっ……!」
私が止めるのも聞かずに、やすなは焦った様にキスを繰り返してはボタンを外していった。
85 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/03/30(金) 23:24:32.48 ID:XX41YrNf0
わっふるわっふる
86 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/03/30(金) 23:26:22.98 ID:kGlUrC5D0
「……ちょっと待てって!」
肩を掴んで思い切り引き離すと、やすなは呆然とした顔をした。
「ソーニャ、ちゃん……」
「ちょっと落ち着け……」
乱れた息を整えながら制すると、やすなは不安そうな顔をして黙っていた。
そんな顔をするなよ……。どうしていいかわからなくなるだろ……?
「ソーニャちゃん……」
「……もう、嫌だなんて言っていないだろう」
「でも……」
「いきなりは、嫌だってだけだ……」
87 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/03/30(金) 23:30:14.24 ID:kGlUrC5D0
それを聞くと、やすなは嬉しそうに笑って服を少しずつ肌蹴させていった。
「肌、きれいだね……」
「あ、あんまりじっと見るな。バカ……」
確かにやすなよりは白いとは思うが、私の肌は人並みじゃないのだろうか?
それに、今までの傷跡がちらほらと見えているというのに……。
「本当にきれい……」
それでもうっとりとした声を漏らし、やすなは私の首筋に舌を這わせ始めた。
「あっ……、お前っ……、あぁっ……!」
やすなの舌が光る跡を残しながら降りて行く中で、両手で胸を大事そうに包んで優しく触れた。
今まで感じたことのない感覚に戸惑い、変な声を出してしまった。
「ちゅうううぅ……!」
「んあっ!?」
舌で私の肌を弄んでいたと思ったら、吸血鬼のように首筋に吸いついてきた。
「あ、あああああぁ……!」
88 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/03/30(金) 23:34:09.75 ID:kGlUrC5D0
じんじんと熱い感覚が首筋に沸き起こり、やすなの唇が離れる頃にはそこに真っ赤なキスマークが刻まれていた。
「えへへ……。つけちゃった」
「お前、ふざけんなよ……! こんなところにつけやがって……」
今のはまずかった。私の理性がぐらぐらと揺れて、崩れていきそうだった。
いや、もしかしたらすでに崩れてしまっているのかもしれない。
やすなは私が怒っていると言うのににこにこ笑いながら首筋を舐めていった。
「あ、あああぁ……!」
やすなの舌がぬるぬると首筋をつたって鎖骨に降り、軽いキスをしながら私の胸を揉み始めた。
「んっ……! そ、そんなに揉むなよぉ……!」
「ソーニャちゃんのおっぱい、ぷにぷにで柔らかいよ」
自分でもそんなに触ったことないのに、他人に揉まれるなんて恥ずかしくて死にそうだった。
90 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/03/30(金) 23:37:34.08 ID:kGlUrC5D0
それに、何かむずむずとしたものが体中を駆け巡っていくのが耐えられなかった。
「気持ちいい?」
「し、知らん……!」
そういう知識で言えば胸を揉まれたら気持ちいいのだろうが、そんなことは全くなかった。
こんな感覚が気持ちいい訳が無い。こんなに背筋をぞわぞわとさせる感覚が……!
胸の間あたりを舐めていたやすなが乳首の方へ移動を始めると、敏感に反応して震えてしまった。
「はむっ……」
「んきゅぅ……! ち、乳首は……!」
固く充血した乳首をくわえられると、そこから何かが電撃のように走った。
「く、うあああぁ……! な、な、なああぁ……!」
91 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/03/30(金) 23:40:05.21 ID:kGlUrC5D0
ぬるぬるでざらざらなやすなの舌が乳首を舐め上げると、体中の力が抜けていくような感覚に襲われて怖くなった。
腰にも力が入らず、ふるふると震えることしかできなかった。
それがおもしろいのか、やすなは私を見上げてにやにやしながら乳首を責め続けた。
私は抵抗するにもどうしていいのかわからず、ただされるがままになっていた。
それをいいことにやすなは私の胸をリズミカルに吸い上げたり、乳首を唇で挟んでしごいてきたりしてきた。
「ちゅぱ……、ちゅる……、んっく……、はぁむっ……」
「や、やめろ……! だめっ……! おかしくなるっ……! や、やあぁ……!」
自分の胸なのに自分の思い通りにならず、それどころか私の心をこれでもかと掻き乱していった。
93 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/03/30(金) 23:40:58.85 ID:MIheWzs1i
なんと濃厚な
94 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/03/30(金) 23:43:09.79 ID:kGlUrC5D0
「ちゅぽん……。はぁ……、ソーニャちゃんってかわいい声出すんだね……」
散々胸を愛撫し尽くすとやすなは舌舐めずりをしつつ口を放し、すっかり呆けてしまった私を見て笑った。
「はぁ……、っはぁ……! はぁ……」
あのバカが、こんな顔になるのか?
その顔はあまりにもいやらしく、純粋だった。
「ソーニャちゃん、すごい顔しているよ……?」
「はぁ……! お、お前にいわれたくない……! はぁ……!」
出来る限りの威圧を持って睨んでみても、やすなは怖気づくどころかさらに嬉しそうに笑った。
「……変態」
「何とでも言いなさい」
やすなは全く動じていない様子で、私の胸から下半身に手を滑らせていった。
95 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/03/30(金) 23:48:01.12 ID:kGlUrC5D0
やすなの指が秘所に近づくにつれて疼きも大きくなり、腰の奥の方が熱くなった。
「ぴくんぴくん跳ねて、そんなに気持ちいいの?」
「ち、違う! ちょっとびっくりしているだけだ……」
やすなの指が秘所に触れるとぞくぞくとした感覚が腰に走り、今まで出したことのない声が鼻に抜けていった。
こんなあられも無い声を出すなんて恥ずかしくて堪らないが、やすなの指はそれを欲して私の体を愛撫してくる。
「あっ……! そ、そこ……! だめぇ……!」
くりくりと撫でまわすように動くやすなの指が敏感なところに触れて、私は一段と大きな声を出してしまった。
「くっ……! はぁ……! お前……!」
やすなにいいように弄られているのに耐えられなくなり、私は意を決してやすなの秘所に手を伸ばしてみた。
「あっ……! ソーニャちゃん。ゆ、指……!」
ショーツの上から指で触ってみると、じんわりと熱が滲んで絡んできた。
96 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/03/30(金) 23:51:15.81 ID:kGlUrC5D0
「お、お前……」
「ソーニャちゃんを見ていたら、こうなるよ……」
指先で軽く引っ掻いて見ると、息があがってきたやすなが恥ずかしそうに悶えた。
私に、そんなに興奮しているのか……?
意識してみると何だか変な感じだった。
「はぁ……! あっ……! そこっ……!」
やすなと同じように指を動かして見ると、あっという間に甘い吐息を漏らし始めた。
「はぁっ……! ソーニャひゃん……! んっ……!」
「うあっ……!? くぅ……! やすなぁ……! あっ……!」
反撃に出た私をあざ笑うかのように、やすながショーツに手を突っ込んで直接愛撫を始めた。
下半身の感覚があっという間に熱く濡れそぼった秘所だけに集中して、やすなの指の動きに反応してしまった。
私も負けじとやすなのショーツに手を突っ込み、秘所に指を這わせた。
98 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/03/30(金) 23:57:30.67 ID:kGlUrC5D0
「……ちょっといい?」
「な、何をするつもりだ」
「脱がないと気持ち悪いでしょ」
そういうとやすなは私のショーツに手をかけてするすると脱がしていった。
「ソーニャちゃん、ここぬるぬるだよ……」
「や、やめろっ……。恥ずかしいだろ……」
「そうだね。じゃあ……」
そう言うとやすなは目の前でショーツを脱ぎだした。
「ソーニャちゃん……」
「み、見ていないぞ……」
99 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/03/30(金) 23:59:34.98 ID:kGlUrC5D0
「……ソーニャちゃんのえっち」
「見ていないって言っているだろ!」
ちょっと怒鳴ると、やすなはくすくすと笑った。
「嬉しいな……」
「は?」
「私で興奮してくれたんだよね?」
「えっと……、その……」
今すぐにでも否定したいが、私の体はそれを裏付けるかのような反応がそこかしこに見られていた。
私は観念して小さく頷いた。
100 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/03/31(土) 00:02:31.28 ID:l6HlhUiS0
「電気、消そうか……」
「あ、あぁ……」
部屋の電気を消して、月明かりの中でやすなは私の横に並ぶように寝転がった。
「続き、しよう?」
艶めかしく笑うやすなの体を抱き寄せて、私は暗闇の中でその存在を確かめるかのようにキスをした。
産まれたままの体は熱く火照って、隅々まで痛いほど痺れていた。
「んちゅ……! んっ……! はぁ……! んっふ……!」
「はうぅ……! ちゅぅ……! ちゅく……! れろ……!」
淫らな舌の絡み合いの中で、私たちは曝け出されたお互いの秘所に手を伸ばした。
指先が触れると、熱い愛液がとろとろと出迎えてもっと欲しいとねだった。
101 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/03/31(土) 00:06:26.55 ID:kGlUrC5D0
「はぁ……、はぁ……、あうぅ……! あぁっ……!」
「くぅ……! うあっ……! はぁ……、はぁ……」
月明かりが差しこむベッドの上で、お互いの荒い息遣いと秘所から漏れだす淫らな水音だけが響いていた。
頭が真っ白になりそうだった。
自分がやすなとこんなことをしているなんて、考えらないことだった。
しかし、そんなことを考えている暇があればやすなの指がそれを吹き飛ばしてしまう。
私だけを見てと、指の動きを速めたりキスをせがんだりしてくるのだ。
それに呑み込まれそうになり、私は必死にやすなにしがみついていた。
102 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/03/31(土) 00:12:03.18 ID:l6HlhUiS0
「ソ、ソーニャちゃん……! そ、そこぉ……! あぁん……! はぁ……!」
偶然指が当たったところがやすなの弱点らしい。指がそこを擦るたびに体が強張り腰が跳ねた。
「ここが、いいのか?」
確認するように指で撫でつけると、やすながびくんと大きく跳ねた。
「そ、そこらめぇ……! あぅぁ……! あっ! あぁ……!」
かなり刺激が強いようで、すっかり私への愛撫をやめてしまい指の動きに翻弄されて嬌声を上げ始めた。
溢れだす愛液に助けられながら、私は指の動きを速めていった。
「ソーニャちゃん……! 私っ……、来ちゃうぅ……!」
肩に噛みつく様に堪えていたやすなが弱弱しく呻いた。
必死にしがみついてくるやすながとてもかわいくて、私はさらに指の動きを速めた。
激しく飛び散る愛液の音が部屋に響き、やすなの声が次第に高くなっていくにつれて私もなにかこみ上げてくるものを感じた。
105 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/03/31(土) 00:18:39.29 ID:l6HlhUiS0
「ひゃあぁ! らめぇ! ふあぁっ!? あぁっ! っ───!」
一際大きく跳ね上がった後、やすなは糸が切れた人形みたいにぐったりとベッドに沈んだ。
「あああぁ……! い、いっひゃっらぁ……!」
ぐちょぐちょになってしまった秘所から指を引き抜くと、どろりとしたやすなの愛液が絡みついてきた。
すっごいな……、これ……。
やすなは荒い息をがんばって整えようとしていたが、まったく収まる気配が無かった。
「大丈夫か?」
「う、うん……。はぁ……、はぁ……」
107 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/03/31(土) 00:23:10.22 ID:l6HlhUiS0
やすなが落ち着くまで待っていたが、その間にも私の体はじんじんと疼きに侵食されていた。
胸の鼓動は収まらないし、体温も高いままだ。
どうしたものか……。
すると、やすなが荒い息のまま私を抱き寄せてきた。
「な、何だ?」
「ソーニャちゃん、まだ、だよね……?」
私の体から火照りが抜けず、奥の方で渦を巻いているのをやすなは感じ取っているようだった。
「いいよ……、ソーニャちゃんの好きなようにして……?」
ベッドに横たわったままやすなは私を迎え入れる準備をすると、おねだりを始めた。
火照った私の体がそうさせるのか。それとも私を誘うやすながそうさせるのか。
一瞬ためらったものの、私はそのままやすなにのしかかり首筋に顔を埋めていた。
この疼きを鎮めたい。お前をめちゃくちゃにしてやりたい。
108 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/03/31(土) 00:26:02.57 ID:l6HlhUiS0
そのまま指を絡め合いベッドに組み伏せると、やすなの体が月明かりに白く浮かんだ。
白いシーツの上に広がる亜麻色の髪の毛と、私を射抜く亜麻色の瞳。
そして、小ぶりだがきれいな胸が息をする度に上下に揺れ動いていた。
「はぁ……、はぁ……、きて……?」
官能的な顔を見せながら、やすなは笑った。
その姿は、私の理性を完全に破壊するのに十分すぎた。
「……!」
一気に溢れだした自分の本能に身を任せて、私はやすなの唇を吸い舌をねじ込んでいた。
109 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/03/31(土) 00:30:26.66 ID:l6HlhUiS0
「んむぅ……! ちゅっ……! はぁ……! ソーニャ……、ひゃん! ソーニャちゃん……!」
「うあぁ……! あむっ……! やすな……! やすなぁ……!」
ベッドの上で足を絡め合い、腰を振っては体を抱きしめて激しいキスの応酬を繰り返した。
お互いの秘所はいやらしい水音を立てて糸を引き、お前が欲しいと口を開いていた。
私を縛るものはすっかり壊れてしまい、理性を失った獣のようにやすなに喰らいついては貪った。
何度も、何度も、何度も……。
「あぁん! や、ああぁ! あんっ! 気持ち、いいよぉ! ソーニャひゃぁん!」
ベッドに組み伏せた獲物を貪りながら、私は優越感に浸っていた。
私が動けばそれに合わせて嬌声を上げる、いやらしい獲物だ。
お前の唇、声、吐息、匂い、全部が私を狂わせるんだ。
もっとちょうだい、もっとちょうだいと私を欲して誘惑するんだ。
だから私は貪る。お前を、どこまでも……。
111 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/03/31(土) 00:35:05.45 ID:l6HlhUiS0
「そんなに激しくしちゃぁ! わたしっ……! 来ちゃうぅ!」
「はぁ……! やすなぁ……! わたしも、来るっ……!」
息も絶え絶えに喘いで限界が近いことを知ると、その先を目指してさらに動きを速めた。
「んああぁ! ソーニャちゃん! わらひ、またいくぅ! いっちゃうぅ! いっちゃううううぅ!」
「うあっ! あぁ! はぁ! やすなぁ! やすなあぁ!」
やすなの熱と私の熱が混ざっては離れて、混ざっては離れて……。
絶頂への荒波の中でお互いの体を固く抱き合い、真っ白になる意識を超えて高みへと登りつめた。
「「あああああああああぁ───!」」
そして、狭いベッドの上で私たちの体は絶頂に震えた。
113 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/03/31(土) 00:39:32.64 ID:l6HlhUiS0
「……はぁ」
こんなことをして何になるのだろう。
熱が冷めて我に返り、その思いが罪悪感のように湧いては私の心に溜まってぐるぐると渦を巻いていた。
人肌に触る機会なんて、生死の境でぐらいしかなかった私が人を抱いているのだ。
おかしいったらありゃしない。
血でまみれた私の手が、人を抱くなんて許されるのだろうか。
そんな私なのに、やすなは……。
「……どうしたの?」
「起こしたか?」
「ううん。……また考えていたでしょ」
「……何を?」
「ごまかしちゃってさ」
120 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/03/31(土) 01:10:36.14 ID:l6HlhUiS0
人肌の、いや、お前の温かさを求めるように私は抱く力を強めた。
「今だけは、忘れてほしいな」
「そうもいかない」
「……私じゃ忘れられない?」
「……」
少し難しい顔をしたら拗ねてしまったようで、私の胸に顔を埋めてきた。
「ソーニャちゃん、もうどこにも行かないで……」
「……」
私だって、今ぐらいは忘れたい。お前とずっと一緒にいたい。
でも、硝煙と血の匂いが染みついたこの体が忘れさせてくれない。やはり私は殺し屋なのだ。それはどうやっても変わらない。
私はやすなをさらに抱き寄せると、眠ることに努めた。
お前を抱いている時は忘れていられそうなんだ。
今は、今だけは、お前とふたりきりでいたい。
122 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/03/31(土) 01:18:13.66 ID:l6HlhUiS0
それから私はやすなと愛し合うようになった。
始めは戸惑いもあったり迷ったりもした。それに、私が組織に見つかるかもしれないという不安が常に付きまとっていた。
その不安を振り払うように、自分がまだ生きていることを確かめるように私たちは肌を重ね合った。
でも……、私はどこまでも弱い人間だった。
「やすな、言っておきたいことがある」
「何? 改まって」
眠りにつこうとしていたやすながもぞもぞと私の胸から顔を上げた。
「もしも、組織から逃げられなくて私が死んでも、殺した奴のことを恨まないでくれ……」
「えっ……?」
123 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/03/31(土) 01:23:32.32 ID:l6HlhUiS0
やすなは酷くびっくりしたようで、私の顔を見つめて息を呑んだ。
「それでお前の人生を狂わせたくない。無理かもしれないが……」
そこまで言いかけて、やすなの唇がその先を奪った。
「それ以上言わないで……」
「でも、これ以上私に付き合わなくていいんだ。ずっと平和な世界で生きていてほしい」
「……無理だよ。こんなにも愛しているのに」
ここまで深入りしておいてこんなことを言うなんてかなり酷なことだと思ったが、これも本心なんだ。
「嬉しいけど、わかってくれ……」
せめて、私がいなくなった後ぐらいは迷惑をかけたくないんだ……。
124 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/03/31(土) 01:28:55.40 ID:l6HlhUiS0
そんな日々が少し経った頃。
すっかり傷も癒えて最期の検診も終わった帰り道でのことだった。
「相変わらず隙が無いですねぇ」
「!?」
やすなと過ごす日々が勘を鈍らせていたのか、私の後ろからどこか抜けたような声が飛んできた。
背筋に嫌な汗が流れていくのを感じつつ、私は後ろにいるであろう人物の名前を呼んでみた。
「あ、あぎり……」
「どうも~。このまま気づかれなかったらどうしようかと思いましたぁ」
後ろに立っていたおばあさんがべりべりとマスクを剥がし、おっとりとしたあぎりの顔が現れた。
「お前、何でこんなところに……」
「それはこっちが聞きたいですぅ。組織には戻らないんですかぁ?」
「……」
127 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/03/31(土) 01:33:42.20 ID:l6HlhUiS0
「ソーニャちゃん、どうしたの?」
「どうも~」
「あ、あぎりさん! いつここに?」
懐かしい顔を見て笑顔を見せたやすなだが、私は到底そんな気分になれなかった。
「戻る気は、なさそうですね」
「な、何を……」
「顔に書いてありますよぉ」
一体何を考えているのかわからないその笑顔に、私は覚悟を決めた。
「ソーニャがそういう気持ちなら、私はあなたを消さなくてはいけませんねぇ」
「ちょ、ちょっと一体何の話!?」
いつもと雰囲気が違うのを感じ取り、やすなも何かおかしいと気づいたようだ。
128 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/03/31(土) 01:37:50.56 ID:2XK/jpzm0
にんじゃマジ厄介
130 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/03/31(土) 01:38:40.56 ID:l6HlhUiS0
「仕事の中で機密情報など知り得ている可能性もありますしねぇ」
「やすな、下がっていろ……」
「ソーニャちゃん……! あぎりさん……!」
やすなはこの状況がどういうことなのか気付いたらしい。すがるような声であぎりに呼びかけた。
だが、あぎりはそんなに甘い奴じゃない。それは私が一番よく知っている。
「あぎり……、手間をかける」
「……もっと抵抗らしい抵抗をすると思っていました」
「今の私は丸腰だ。それに、お前と戦う気なんて無いよ」
遅かれ早かれいつかはこういう時が来ると思っていた。ターゲットが組織から逃げるなんてできないんだ。
「お前で、よかったと思う」
「そんなこと言っても何も出ませんよぉ?」
あぎりはそういうと懐から何やら怪しげな道具を取り出し、それを私に向けた。
132 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/03/31(土) 01:44:12.99 ID:l6HlhUiS0
「やすな……」
顔を見ない様にして呼びかけると、泣いているのかひどく息を詰まらせた声が聞こえた。
「今まで、ありがとう」
「ま、待って……! 待ってよぉ……!」
涙でぼろぼろな声を絞り出して引き留めてくれたやすなに別れを告げて、あぎりの前に立った。
私が死んで泣いてくれる人がいるなんてな……。
私はそれだけで十分幸せだよ。
「これでいいんだ……」
目を瞑り、私は最期の時を迎える準備を終えた。
「それじゃあ、さようならぁ」
あぎりが構える音が聞こえて、乾いた音が響いた瞬間に私はこの世から消えた。
133 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/03/31(土) 01:49:16.14 ID:l6HlhUiS0
……はずだった。
「……?」
体に何も感じず、私は違和感を覚えた。
何だ? もう終わったのか?
恐る恐る目を開いて見ると、そこには色とりどりのカラーテープを撒き散らしたクラッカーを持って笑っているあぎりがいた。
「あ……、あぁ……!」
緊張が解けたのか、やすなが震えたまま地面に座り込んで泣き出してしまった。
これは一体どういうことなんだ?
答えを求めてあぎりを見つめると、相変わらずにこにこ笑っていた。
「ど、どういうことか説明しろ」
「都合の悪い人間の存在を消すのが、殺し屋の仕事ですから」
137 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/03/31(土) 01:54:23.28 ID:l6HlhUiS0
「……?」
焦る私をのほほんとかわしながら、あぎりは散らかったクラッカーを片づけながらいつもの調子で話し始めた。
「ここに来たのは組織の命令ではないんですよぉ」
「何だと!?」
「偶然立ち寄ったらソーニャがいただけです」
「ぐ、偶然……?」
「あ、組織ではソーニャはもう死んでいることになっていましたよぉ。状況が状況でしたし」
クラッカーのくずを集め終わると、どこから取り出したのかゴミ袋につめて一息ついた。
「ソーニャに戻る意思があるのなら連れ戻してもよかったんですけど、驚かせすぎましたかね?」
「……やすなにはやり過ぎたかもな」
未だに体が震えてへたりこんでいるやすなを立たせると、私もようやく力を抜いた。
139 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/03/31(土) 01:58:40.34 ID:l6HlhUiS0
「このことは報告しませんからご安心を」
「あぎり、いいのか……?」
「殺し屋のソーニャはもういませんしねぇ」
とぼけた感じでウィンクすると、あぎりは背中からカイトを引っ張り出すとワイヤーを張って広げていった。
「それじゃあ、私はそろそろ行きますねぇ」
「あ、あぎりさん!」
立ち去ろうとするあぎりをやすなが呼びとめた。
「あ、あの! もし組織を抜けられたら、ここで一緒に暮らしませんか!?」
あぎりは少し黙ると、振り向いて低いトーンで話し始めた。
「……人を知らず、世も知らず、影の中に生きる。それが忍者です」
「あぎりさん……」
「……でも、考えておきますねぇ」
あぎりは嬉しそうに笑うと、そのままカイトを使って飛び立ってしまった。
140 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/03/31(土) 01:59:47.72 ID:eP6XNMLRO
あぎりさん……
143 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/03/31(土) 02:01:20.33 ID:N/nrFQJs0
良かった…悪い忍者なんていなかったんだね
145 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/03/31(土) 02:04:07.51 ID:l6HlhUiS0
それから……。
私はここでやすなの仕事を手伝っている。
仕事柄薬剤の知識はあったからそれなりに仕事はできた。
最近ではやすなに仕事をとらないでと怒られることもしばしばだ。
「はぁ……」
船で運ばれてきた薬の充填も終わり、私は青空を仰いで一休みしていた。
「あ、また考えてる」
一緒に作業をしていたやすなが私の顔を覗き込みながら少し不満そうに言った。
「いきなり何だ」
146 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/03/31(土) 02:06:39.14 ID:l6HlhUiS0
「自分が幸せになるなんて悪いなぁ~、って顔してるよ」
……本当にこいつは変に鋭いな。
「いいじゃん。他人なんてさ」
そばにあった椅子に腰かけると、やすなは元気に言った。
「ソーニャちゃんの人生なんだから、好きなように生きなきゃ損だよ」
「……そうかもな」
この広い青空の下、私はまだ生きている。
どうしようもなく愛おしいバカと一緒に。
おわり
152 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/03/31(土) 02:08:44.25 ID:l6HlhUiS0
以上です。
こんなに長く、そして遅くまで付き合ってくれてありがとう。
保守してくれた人もありがとう。
こんなに長く、そして遅くまで付き合ってくれてありがとう。
保守してくれた人もありがとう。
155 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/03/31(土) 02:10:37.91 ID:5AW7Cd0O0
乙!
いい話をありがとう
いい話をありがとう
158 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/03/31(土) 02:17:10.18 ID:5ECRRtrq0
追いついたら丁度終わった
乙!よかった
乙!よかった
161 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/03/31(土) 02:30:20.86 ID:wN9TUCu70
乙乙!!!
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No Title - 名無しさん - 2012年03月31日 23:02:26