スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

女「どうせ、一人寂しく過ごしてるんでしょ?」

元スレ:女「どうせ、一人寂しく過ごしてるんでしょ?」
http://hayabusa.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1329563778/
1 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/02/18(土) 20:16:18.50 ID:Zg3Yn1Fd0

12月31日。

今日は、世間で言う大晦日というやつだ。

世間でなんて、まるで他人事のような言い方をしてはみたが、なにも俺が12月31日を、大晦日と呼んでいないと言うわけではない。

12月31日、それは俺からしたって、むしろ誰からしたって、大晦日は大晦日だろう。

ただ、誰からしたって大晦日は大晦日なわけだが、誰もが同じ大晦日なわけではないだろう。

俺が過ごす大晦日、他の人間が過ごす大晦日、同じ大晦日であっても、全く別の大晦日なのだ。

例えば、家族と過ごしたり、恋人と過ごしたり、友達と過ごしたりなど、その人によって様々だ。

今例えに出したのは、誰かと過ごす者であったが、それは大半の人間がそうであろうと思ったからだ。

一人で過ごす者もいるだろうが、それはたぶん少数だろう。

統計を取ったわけではないので、本当のところどうなのかはわからないが。

ただ俺が悲観して、そう思い込んでいるだけなのかもしれない。

・・・悲観して。

そう、俺は悲観している。



5 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/02/18(土) 20:19:55.43 ID:Zg3Yn1Fd0

なぜならば、俺はその少数派だと思われる中の、一人なのだから。

まあ散々周りくどく説明はしてきたが、ここまでのことを簡潔に説明するならば、

「俺は大晦日に一人でいる。」

ただそれだけ。

それだけの状況を説明するだけで、これだけ長くかかってしまったのは、俺がこの現実を受け入れるのが嫌だったからだろう。

なんてかっこよく振る舞ってみたものの、結局のところ、俺は寂しいだけなのだ。

大学に入って初めての大晦日。

そして、俺がこのアパートで一人暮らしを始めて、初めての大晦日。

悲しいことに、俺には恋人なんてものはいない。

さすがに友達はいるが、今日は声がかからなかった。



8 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/02/18(土) 20:23:04.97 ID:Zg3Yn1Fd0

別に友達が少ないとか、俺だけ声がかからなかったとか、そういうわけではないので、勘違いしないでほしい。

友達がいるからと言って、必ず大晦日に声がかかるわけではないだろう。

だからと言って、俺から友達に声をかけるとか、そんな積極性を俺は持ち合わせてはいないので、こうして一人、予定もなく家にいるのだ。

去年までは、予定がなくとも、半ば強制イベントでもあるかのように、家族と過ごしたりしていた。

ただ、今年は違う。

予定がないというのは、一人で過ごすと同義になってしまうのである。

大晦日なのだから、予定がなければ実家に帰ればいいんじゃないか?と思うかもしれない。

しかしそれは、貧乏学生の俺にとっては、難しいことなのだ。

俺が今住んでいるところは、実家のある田舎まで、新幹線で一時間半といったところだ。

さっきは難しいなんて言ったが、実際は難しくなんてないだろう。

帰ろうと思えばすぐ帰れるし、その分のお金がないわけでもない。



11 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/02/18(土) 20:25:58.81 ID:Zg3Yn1Fd0

ただ、そこはやはり貧乏学生。

少しでもお金を残して、自分のお小遣いとして使いたいのだ。

言わば節約というやつである。

決してケチなわけではない。

これはあくまで節約なのだ。

男「・・・うん、節約」

まるで自分にそう言い聞かせるかのように、そう呟いた。

そう自分に言い聞かせなければ、男一人で大晦日を過ごすという寂しさ、虚しさが、どんどんとこみ上げてくるからだ。

・・・まあそう言い聞かせていること自体、とても虚しいことではあるような気がするけれども。



13 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/02/18(土) 20:28:49.77 ID:Zg3Yn1Fd0

男「とりあえずテレビでもつけるか・・・」

この虚しさを少しでも和らげようと、テレビをつける。

一通りチャンネルを回してみたが、どの番組も年越しの特番をやっていた。

芸能人たちが、ワイワイと楽しそうにしている様子が、テレビに映し出しされている。

男「はは・・・。大晦日の番組って、こんなにおもしろくなかったっけ」

去年までは、大晦日の番組は普段の番組と違うという理由で、どこか楽しみで、おもしろかったような気がする。

それが今は、ただただ虚しさがこみ上げてくるだけのような気がした。

しかし、ここでテレビを消しても、部屋が静かになるだけで、余計虚しくなるだけのような気がしたので、とりあえずそのままテレビを見ることにした。

男「はあ・・・。年明けまであと一時間ってとこか」

時計を見ると、時刻は夜の11時をまわっていた。

年が明けたからといって、なにが起こるというわけでもないのだが、とりあえず年が明けるまでは起きているつもりでいた。

ピンポーン



16 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/02/18(土) 20:31:27.01 ID:Zg3Yn1Fd0

インターホンの音。

テレビの音しか聞こえないこの部屋に、突然無機質な機械音が鳴り響く。

男「こんな時間に、しかも大晦日に一体誰だ?ピザなんて頼んだ覚えはないけど・・・」

本当にピザの配達が来たのだと思ったわけではないが、そんなことを口に出してみた。

言ってみただけだ。

一人暮らしをしていると、自然と独り言も多くなってしまうものだ。

男「はいはーい。今開けまーす」

そう言って、俺は誰が来たのかを確認することもなく、ドアノブに手をかける。

多少無防備なような気もするが、男の一人暮らしなんてこんなものだろう。

これが若い女の子だったのなら、無防備すぎるとも思うが。

ガチャッ

男「どちらさまでしょ―」

言葉がそこで止まってしまう。



17 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/02/18(土) 20:34:29.04 ID:Zg3Yn1Fd0

一瞬なにが起こっているのか、わからなかった。

なぜなら、ドアの向こうにいたのは、よく見知った顔だったからだ。

いや、それだけの理由では、普通はこんな反応にはならないだろう。

俺がこんな反応をしてしまった理由は、よく見知った顔ではあるが、ここにいるのがおかしい人物であったからだ。

「久しぶり。来ちゃった」

いやいやいやいや。

来ちゃったじゃねえよ。

そんなこと、現実で言ってるやつ初めて見たから。

って重要なのは、そこではない。

男「なんで女がここにいるんだ・・・?」



18 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/02/18(土) 20:37:48.52 ID:Zg3Yn1Fd0

今目の前に立っているのは、小、中、高と一緒の学校だった、女だ。

実家から家も近く、いわゆる幼馴染というやつなのだろうか。

・・・なのだろうかなんて、そんな疑問めいた感じで言ってみたものの、特になにか深い意味があるわけではない。

ごめんなさい。

ただ単に、恥ずかしかっただけです。

この歳で幼馴染どうこうなんなんて、恥ずかしかっただけです。

正真正銘の幼馴染というやつだ。

女「どうせ、一人寂しく過ごしてるんでしょ?」

女「だから、私が来てあげたんだよ」

そう言って、女は部屋を見渡し、

女「・・・やっぱりね」

と呟いた。

男「いやいや、やっぱりってなんだよ!と言うより、そもそもなんでお前がこんな所にいるんだよ!」



19 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/02/18(土) 20:40:19.51 ID:Zg3Yn1Fd0

女がここにいるはずがない。

それは、こいつが小、中、高と一緒だった、地元の幼馴染だからである。

さすがに大学までは一緒ではない。

こいつは、高校を卒業したあと、地元を出て、都会の大学へと進学したはずだ。

まあここも地元に比べれば、十分都会ではあるのだが、それよりももっと都会。

俺よりも、地元より遠いところに行ったはずだ。

その女がどうしてここに?

女「久しぶりに会ったのに、その言い方酷いよ!」

久しぶり、その通りだ。

俺は高校を卒業してから、女と会うどころか、連絡すらろくにとっていなかった。

なのでもちろん、俺の住んでいるアパートの場所だって、教えた覚えはないのだ。

いくら幼馴染と言えど、住むところが別になってしまえば、そんなものだろう。



21 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/02/18(土) 20:43:14.45 ID:Zg3Yn1Fd0

地元の知り合いなんて、仲が良かったとしても、会わなくなれば、自然と疎遠になっていくものだ。

実際、地元では俺達は仲が良かった。

むしろ、仲が良すぎるくらいだったのだろう。

二人でいることが多かったので、よく付き合っているものだと、勘違いされていたくらいだ。

実際はそんなことはなく、俺と女が付き合うことはなかった。

いや、形にしてして付き合うことはなかったものの、実際は付き合っているのと同じだったのかもしれない。

俺は女のことを嫌いではなかったし、女も俺のことを嫌いではなかった。

・・・嫌いではなかったなんて、じゃあ好きでもなかったのかよ、なんて言われそうだが。

自分で言うのもなんだが、俺は恥ずかしかったりすると、少し見栄を張るくせがある。

ごめんなさい。

見栄を張らずに、正確に言うのであれば、俺達はお互い好きあっていたのだ。

両想いというやつだ。



22 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/02/18(土) 20:46:09.65 ID:Zg3Yn1Fd0

しかし、それをお互い確認したわけではない。

俺から女に好きだなんて言ったこともないし、女から好きだなんて言われたこともない。

じゃあお前の片思いだろ!変な妄想してんじゃねえよ!

と思うかもしれないけれど、というより、大半がそう思うだろうけれど。

しかし、俺達は両想いだった、と俺は断定できる。

なにかそう断定出来る、確たる理由があるわけではないのだが、俺にはわかるのだ。

なんでわかるんだよと言われても、わかるものはわかるのだから、そうとしか言いようがない。

それは女も同じだろう。

女も、俺が女のことを好きだったことなんて、わかっていたはずだ。

しかし、俺達はそれを、お互い口にすることはなかった。

ではなぜ、俺達は両想いだとわかっていて、お互いそれを口にはしなかったのか。

簡単なことだ。

この微妙な距離感が、俺達にとって、とてもいい距離感だったというだけだ。



23 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/02/18(土) 20:49:04.74 ID:Zg3Yn1Fd0

・・・と言うのも、ちょっと恥ずかしくて見栄を張りました。

ごめんなさい。

まあ見栄を張ったと言っても、嘘をついたと言うわけではない。

確かに、この微妙な距離感が、俺達にとっていい距離感だった、というのは本当だが、所詮それは後付けでしかない。

ただ単に、俺は女との関係が崩れるのが怖かっただけだ。

あまり女に近づきすぎて、俺達の関係を崩したくはなかった。

それならば、このままの距離感を保っていた方がいいだろうと、俺は思っていたのだ。

よく、友達以上恋人未満なんて言葉を聞くが、まさしく俺達は、それだったのかもしれない。

まあそれは、今となっては昔のことだ。

今さら女に好きとか嫌いとか、そういう感情を持ってはいない。

というより、全然連絡もとっていなかったので、そんな感情は、忘れてしまっていたのだろう。

それなのに、今ここに、こうして女が俺の前にいることが、不思議でしょうがなかった。



24 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/02/18(土) 20:52:11.47 ID:Zg3Yn1Fd0

男「酷いとかじゃなくて、なんでお前が俺の部屋に来たのかを聞いてるんだよ!」

女「あー、そういうことか」

そういうことかって、むしろそれ以外になにがあるんだか、俺は聞いてみたい。

しかしここでそんなツッコミをしたならば、いつになっても本題を聞くことが出来なくなると思ったので、俺は我慢する。

女「男が一人で寂しそうにしてると思ったから、来たんだよ?」

男「そうじゃねえよ!!」

・・・ツッコんでしまった。

我慢していたこともあって、なかなかキレのあるツッコミだったと思う。

自画自賛だ。

そうでもしなければ、やってられない。



25 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/02/18(土) 20:54:52.42 ID:Zg3Yn1Fd0

男「・・・はあ」

俺はため息をつき、少し気持ちを落ち着かせる。

男「それはさっきも聞いたよ。こうなったら、一つずつ疑問点を解決していこう。OK?」

女「OK!」

男「じゃあまず一つ・・・っとその前に、そういえばここ玄関だったな」

そう言って、俺は自分達がまだ玄関で話していたことに気付いた。

玄関で長話もなんだろう。

これが全く知らない相手ならともかく、こいつは幼馴染だ。

部屋にあげることに、特に躊躇はない。

男「とりあえずあがれよ」

女「ありがとう」

なので俺は、ひとまず女を部屋にあげてから、詳しい話を聞くことにした。



26 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/02/18(土) 20:58:07.14 ID:Zg3Yn1Fd0

女「へー。それなりに綺麗にしてるんだね」

男「まあな。というより、物がないだけだけどな」

女「ふーん」

そんな声をだしながら、女は部屋を見渡す。

あまりジロジロと見ないでほしい。

そんなに見られると、さすがに俺も恥ずかしくなってくる。

女「あ!それより、台所借りてもいい?」

男「台所?」

女「うん!やっぱり大晦日って言ったら、年越しそばでしょ!」

まあ確かにその通りだろう。

俺も年越しそばは食べるつもりでいたので、準備はしていたのだ。

まあカップ麺のものではあるが。



29 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/02/18(土) 21:01:51.46 ID:Zg3Yn1Fd0

男「これから作るのか?」

女「うん!」

そう言うと、女はゴソゴソと、自分で持ってきた荷物から、なにかを取り出す。

女「じゃーん!」

男「おお。年越しそばの材料か。準備いいな」

女「まあね!だから台所使っていい?」

男「まあ別にそれはかまわないけど・・・」

年越しそばを作ってくれるというのなら、それは是非ともよろしくお願いしますと言うところだ。

カップ麺で年を越すくらいなら、手作りの年越しそばで、年を越した方がいいに決まっている。

だから台所を貸すことについては、なんの問題もない。

貸すことについては、だ。

問題なのは、

男「まだ疑問点を解決していない!」

というところだ。



31 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/02/18(土) 21:05:07.77 ID:Zg3Yn1Fd0

女「ああ、そういえば。でも早く作らないと、年越しに間に合わないから、作りながらでいい?」

男「いいけど・・・」

女「じゃあ台所借りるね」

そう言って女は台所の方に向かい、料理を始めた。

なんだか俺以外の人間が、この部屋で料理をしているなんて、とても不思議な光景のように思える。

男「じゃあとりあえず一つ目」

俺は料理をしている女の背中にむけて声をかける。

料理をしている人にむけて、手伝うわけでもなく、ただ質問をなげかけているだけだなんて、少し罪悪感のような気まずさを感じはしたが、仕方ないだろう。

女がそうしろと言ったわけだし。

男「なんで俺の住んでるところを知ってるんだ?」

女「それはおばさんから聞いたからだよ」

男「母さんから?」



32 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/02/18(土) 21:08:03.60 ID:Zg3Yn1Fd0

女「うん。本当は私、年末年始は実家に帰るつもりだったから、しばらく前に実家に電話したんだ。そしたらうちのお母さんが、おばさんから男は帰って来ないって話を聞いたって言うから、私から男の実家に電話したの」

なんでそこで俺の実家に電話するんだよ。

なにか、色々と間違っていると思うのだが。

女「そしておばさんに聞いたら、男が帰って来ないって意地張ってるって言うから、なら私が様子を見に行きますってなったわけ」

男「なったわけ。って全然意味がわからねえよ!なんでそうなるんだよ!」

というより、そもそも俺は意地を張って帰らないと言っていたわけではない!

あくまで節約のためだ!

・・・節約のためだ!

女「そうは言うけど、おばさん男のこと心配してたよ?全然帰ってこないし、それどころか連絡すらくれないって」

男「まあそれは悪いとは思ってるけど・・・」

女「だから、私が様子を見てくるので安心してくださいって話になったの。それならおばさんも、少しは安心だって言ってくれたから」



33 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/02/18(土) 21:11:48.76 ID:Zg3Yn1Fd0

なるほど。

つまり、母さんが俺を心配していたから、代わりに女が来たというわけか。

どうやら俺は、母さんにも女にも、迷惑をかけてしまったようだ。

なんだか突然、申し訳ないような気持ちでいっぱいになる。

男「でもそう言うことなら、なんで来る前に俺に連絡しなかったんだ?俺に予定があって、この部屋にいなかったら大変だったろ?」

女「それは大丈夫!」

男「大丈夫?」

自信満々といった感じだ。

それこそ、津波でも押し寄せてくるんじゃないかと思うほど、溢れんばかりの自信がある、といった感じだ。



34 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/02/18(土) 21:14:51.11 ID:Zg3Yn1Fd0

俺に予定がないことを、事前に知っていたのだろうか?

実家にも、そこまでは言っていなかったはずだけれど・・・。

女「男が一人寂しく家にいる姿が、容易に想像出来たからね」

男「ただの予想!?」

女「というより、むしろその姿しか浮かばなかったよ」

男「失礼!」

ただの予想だけで、女はあそこまで自信ありげにしていたっていうのか!?

そこまで自信たっぷりに、一人だと思われる俺って・・・。

女「男って友達いないの?」

男「いるよ!というか、もう俺を傷つけるのはやめて!」

これ以上は、俺の繊細な心がもたないから!



35 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/02/18(土) 21:17:54.43 ID:Zg3Yn1Fd0

女「なんて、冗談だよ」

男「え?」

冗談?

よかった・・・。

大晦日に、一人でいる姿しか想像出来ないような、そんな人間に思われているなんて、とてもじゃないが悲しすぎる。

女「さすがに、友達がいないわけはないよね!」

男「そこ!?」

女「え・・・?本当にいなかったの・・・?」

男「いや、そうじゃないから!そういうつもりで言ったわけじゃないから!」

だから、そんな哀れみの目で俺を見るのはやめてくれ!

友達は本当に、ちゃんといるから!

というか、俺が一人でいる姿しか想像出来ないって言うのは、冗談じゃなかったのかよ!



36 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/02/18(土) 21:22:03.69 ID:Zg3Yn1Fd0

女「でも、どうせ彼女はいないんでしょ?」

男「どうせってなんだよ。勝手に決め付けんなよ」

女「じゃあいるの?」

男「・・・いないけど」

女「だろうね」

男「だろうねってなんだよ!」

女と話していると、本当に疲れる。

でもその反面、なにか癒されるような、居心地がいいような、そんな不思議な気分になるのも事実だ。

俺は昔から、女といるこの雰囲気が、好きだったのだ。



37 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/02/18(土) 21:25:14.01 ID:Zg3Yn1Fd0

男「そういうお前こそ、彼氏なんていないんだろ?」

女「どっちだと思う?」

男「なんで質問に質問で返してくるんだよ・・・。というか、どっちもなにも、初めから彼氏いないんだろ?って聞いてるだろ?」

女「ふふっ。ご想像にお任せします」

男「え・・・?もしかしているのか・・・?」

ドクンと、心臓が高鳴ったような気がした。

女の意味深な言い方に、動揺してしまったのだろうか。

もし彼氏がいたところで、今さら俺には関係のないことのはずなのに。

女「いるわけないじゃん。もうちょっと考えようよ」

男「ってじゃあ最初からそう言えよ!少し焦っただろ!」

女「焦った?」

男「あ・・・」



38 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/02/18(土) 21:28:16.58 ID:Zg3Yn1Fd0

無意識のうちに、つい口にでてしまった言葉だった。

つまり、これが俺の本音なのであろう。

俺はいまだに、女が好きなのだ。

考えてもみれば、当然であろう。

俺はただ単に、しばらく会ってもいなかった女への想いを、忘れていただけなのだ。

忘れていただけで、無くしていたわけではない。

それを久しぶりに女に会って、女への想いを見つけ出して、思い出しただけ。

女「ふふっ。でも私もちょっと安心したかな」

男「え?それってどういう―」

女「出来た!年越しそば完成だよ!」

どうやら年越しそばが、出来あがったようだった。

どうだ!と言わんばかりの勢いで、女は俺のことを見ながら声をあげる。

その声に、俺の疑問の声はかき消されてしまった。



39 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/02/18(土) 21:31:07.39 ID:Zg3Yn1Fd0

女「じゃああっちの部屋に持って行って食べよ?」

男「ああ・・・。そうだな」

そう言って、俺達はそばを持って、テーブルを囲むように座る。

テーブルなんて言ってはみたが、所謂こたつだ。

冬を乗り切る為には、このこたつという物は、欠かせないアイテムである。

これさえあれば、他の暖房器具はいらないと言ってもいい。

・・・なんて、また見栄を張ってしまった。

いくらこたつがあっても、他の暖房器具がいらないなんてことはないだろう。

ただ、見栄を張ったのではあるのだが、これは事実でもある。

どういうことかというと、俺の家には、こたつ以外の暖房器具がないのである。

こたつがあるから他の暖房器具なんていらない、と思ってそうしているのではなく、節約の為にそうしているだけだ。

ケチなのではなく、節約をしているだけだ。

俺は倹約家なのだ。



42 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/02/18(土) 21:33:33.10 ID:Zg3Yn1Fd0

そんなことを考えていると、

女「さっきから思ってたんだけど、男の部屋って寒いよね?ファンヒーターとかってないの?」

と、女が聞いてきた。

なんてタイムリーな質問なんだ。

こいつは俺の心が読めるのか?

などと一瞬思ったが、俺の部屋は冗談抜きで寒いのだ。

その寒さゆえに、純粋に出てきた疑問なのだろう。

男「残念ながらこたつしかないよ。賢く節約ってやつかな?」

女「ふーん。部屋だけじゃなくて、懐まで寒いんだ」

余計なお世話だ!

別にお金がないんじゃなくて、節約してるだけなんだって!



44 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/02/18(土) 21:36:06.47 ID:Zg3Yn1Fd0

女「寒いから、早くそばでも食べて温まろ?」

男「はいはい。寒くて悪かったですね。ったく・・・いただきます」

一々こいつの言葉には、棘があるような気がする。

まあそれは、女が俺に心を許しているという表れなのだろうけど。

というより、そうでなければ俺が不憫すぎる。

ズルッ

男「うまい・・・」

女「本当に!?よかったー」

女は、俺が食べるのをジッと見つめていたようで、俺のうまいと言う言葉を聞くと、とても嬉しそうに笑顔をむけた。

そして一通り喜んだあと、女もいただきますと、笑顔でそばを食べ始めた。

それにしても、本当においしい。

女ってこんなに料理うまかったっけ?



45 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/02/18(土) 21:38:46.86 ID:Zg3Yn1Fd0

男「料理の勉強でも始めたのか?」

女「まあね。でもまだ、レパートリーは年越しそばしかないんだけどね」

男「少なっ!」

というか、それを果たしてレパートリーと言っていいのか!?

レパートリーもなにも、年越しそば限定じゃねえか!

作れるのが、年越しそば限定ってなんだよ!

そんな奴、日本中を探したってなかなか見つからねえよ!

・・・・・・たぶん。

男「それにしても、なんで年越しそばなんだ?他にも色々と料理はあるだろ。なにも、こんな大晦日にしか食べないような料理を、わざわざ最初に勉強しなくても・・・」

女「大晦日にしか食べないからだよ」

男「え?」

女「それじゃちょっと違うか。どちらかと言うと、大晦日に食べるから、かな」



47 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/02/18(土) 21:41:39.49 ID:Zg3Yn1Fd0

男「大晦日に食べるから?そんなに大晦日を大切にしてるのか?」

大晦日には、年越しそばを絶対食べなければいけないとか、そういうことなのだろうか。

昔から女はそうだったか?

そんな記憶はなかったと思うけど・・・。

女「・・・ばーか」

男「いきなりばか呼ばわり!?この流れで!?」

女「この流れだからだよ。なんでわからないかな・・・。そんなことだから、彼女できないんだよ」

男「なっ・・・!できないんじゃなくて、作らないんだよ!」

女「また強がり?男はすぐ見栄張るからね」

さすが幼馴染。

よくご存知でらっしゃる。

でもこれは見栄を張っているわけではない。

本当に作らないんだ。



48 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/02/18(土) 21:44:26.68 ID:Zg3Yn1Fd0

なぜなら―

男「俺はお前のことがっ・・・!」

女「え・・・?わ・・・私のことが・・・?」

男「うっ・・・・・えっと・・・・・・し、心配!そう!心配だからだよ!」

―心配だから。

そんな訳がない。

そんな訳のわからない理由の訳がない。

でもやっぱり俺には、本当のことを言う勇気がない。

女「え?心配?」

そんな俺の言葉に、女はキョトンとした顔をしている。

当然だろう。

自分でも、自分の発言にキョトンとしているのだ。



49 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/02/18(土) 21:46:47.71 ID:Zg3Yn1Fd0

男「お、お前も俺なんかに先越されたらショックだろ?だからお前がショックを受けないように心配しているというか・・・」

それでも俺は、訳のわからない言い分けのようなことを、続けてしまう。

本当に訳がわからない。

テンパっているにしても、もっとマシな言い訳があるだろう・・・。

女「本当にばーか・・・」

男「・・・うるせえよ」

俺がばかなのくらいわかってるよ。

結局、昔から俺はなにも変わっていない。

ばかで、見栄っ張りで、そして臆病だ。

そんな自分に嫌気がさす。

男「・・・」

女「・・・」

沈黙が続く。



50 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/02/18(土) 21:48:52.43 ID:Zg3Yn1Fd0

次になにを話せばいいのか、わからなくなってしまった。

俺のばかな発言によって、突然気まずくなってしまったのだ。

そんなことを考えると、どんどんと自己嫌悪に陥ってしまい、益々気まずさが加速してしまう。

『新年まで、残り10秒を切りました!』

すると、突然テレビから、もう少しで今年も終わるという知らせが聞こえてきた。

『5、4、3、2、1!』

『新年明けましておめでとうございます!』

年越しまでのカウントダウンがなされ、新年がおとずれる。

この部屋とは対照的に、テレビの中では、とても盛り上がっている様子だった。

女「年・・・明けちゃったね」

男「そうだな・・・」



51 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/02/18(土) 21:51:12.42 ID:Zg3Yn1Fd0

女「明けましておめでとうございます。今年はよろしくお願いします」

男「なんで今年『は』なんだよ」

そこは今年もだろ。

去年だって、一昨年だって、その前の年だって、ずっとずっとよろしくしてきただろ。

女「じゃあ・・・今年こそはよろしくお願いします」

男「今年こそは・・・」

・・・。

本当に俺はばかなやつだ。

そして、お前もばかなやつだよ。

男「こちらこそ、今年こそはよろしくお願いします」

女「・・・男がそれ言うの?なんかずるいよ」

ずるい。

確かにそうかもしれない。



52 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/02/18(土) 21:53:47.90 ID:Zg3Yn1Fd0

でもやっぱり俺は、ばかで見栄っ張りで臆病で、それは新年を迎えたからって、変わらない。

しかし、変わらないけど、変われはする。

男「先に言ったのはそっちだろ?これでおあいこだ」

女「むー」

女は頬を膨らませ、機嫌が悪そうに、俺を睨みつけている。

怒っているのをアピールしているのだろうが、全く怖くはない。

それどころか、女のその顔を見て、俺は別のことを思ってしまった。

男「かわいい顔してるぞ」

女「なっ・・・!」

今度は顔を真っ赤にさせ、目をパチクリとさせている。

表情豊かなやつだな。

色々な顔が見れて、ずっと見ていても飽きなさそうだ。



53 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/02/18(土) 21:56:03.44 ID:Zg3Yn1Fd0

男「よし!じゃあ初詣でも行こう!」

しかし、俺は唐突に初詣を提案する。

女の顔をずっと見ているのも、楽しそうだとは思ったが、やはり、正月と言ったら初詣だろう。

女「・・・初詣?」

男「ああ。ここから少し行ったところに、神社があるんだ」

新年明けて早々、こんなに早い時間から初詣に行った経験があまりないので、これから行くと考えただけで、少し心が躍ってしまう。

まあそもそも、初詣は心躍らせて行くようなものではないのだろうけど。

女「ちょっと待って!」

俺が初詣に行く準備を始めようと立ち上がると、突然女が声をあげ、俺の腕をつかんだ。

女「その前に、どうしても男に言いたいことがあるの!」



54 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/02/18(土) 21:58:22.18 ID:Zg3Yn1Fd0

女の瞳は、まっすぐと俺のことを見ている。

その表情を見れば、さすがにばかな俺でも、なにか大事な話があるということくらいわかる。

そのくらい、女は真剣な表情をしていた。

女「さっき、彼女ができないんじゃなくて、作らないって言ったよね?作らないって言うのは、見栄じゃなくて本当だとしても、できないんじゃなくてってところは、やっぱり見栄だよね?作ろうと思っても、できないでしょ?」

男「ぶっっ!!そこつっこむかよ!!」

確かに見栄張ったかもしれないけどさあ!

というか、ここぞとばかりにかっこつけて、見栄張りましたけどもさあ!

男「それって今改めて言うことか!?」





58 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/02/18(土) 22:00:48.99 ID:Zg3Yn1Fd0

・・・



女「うわー・・・凄いね」

男「・・・ああ。こんなに人がいるとはな・・・」

俺達は、近くの神社に来ていた。

この辺では、それなりに有名な神社らしく、初詣といえばここらしい。

なにが有名で、なぜ初詣といえばここなのかはわからないが、そんなものだろう。

こんなにも人が集まってはいるが、この中で、この神社についてちゃんと説明できる人なんて、ごくわずかしかいないだろう。

それどころか、ここにいる人達の中で、この神社に参拝に来るのは、初詣だけだと言う人がほとんどではないだろうか。

正月だから、とりあえず初詣にでも行っておこう。と言うだけで来ている人達が、ほとんどだろう。

そんな形だけの初詣に、もはや意味なんてあるのかわからないが、まあ俺もそんなことをとやかく言える立場ではない。

かく言う俺も、そういう人達の中の一人なわけだから。



59 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/02/18(土) 22:03:30.75 ID:Zg3Yn1Fd0

女「見て!人がゴミのようだよ!」

男「やめろ!その発言は色々とアウトだから!」

なにがアウトだかは言わないが、アウトだ!

そうじゃなくとも、周りの人達をゴミ呼ばわりするのはやめろ!

こっちを睨んでいる人達がいるじゃないか!

女「ワロス!!」

男「惜しい!呪文を唱えようとしたんだろうけど、なにかが違う!」

そして、それじゃ余計周りの人達を煽っているように聞こえるからやめて!

周りの人達のこっちを見る目が、全然ワロエナイから!

とりあえずこの場から逃げ出さないと、周りの目が気まずい・・・。

男「ほら行くぞ!」

この場から逃げ出すために、俺は女の手をとり、視界の奥の方に見える、列の最後尾の方へと向かった。



61 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/02/18(土) 22:05:35.34 ID:Zg3Yn1Fd0

女「あ・・・」

男「ん?あっ・・・ごめん!」

慌てて手を離す。

焦っていたとはとはいえ、とっさに女の手を握っていたことに気づいたからだ。

女もいきなり手を握られたことに対して、声を出してしまったのだろう。

女「手が、手がぁー!」

男「ってそれが言いたかっただけかよ!もうそのネタはいいから!」

そしてその発言、何気に傷つくから!

俺に手を握られたら、手がどうなるって言うんだよ!

ちょっと照れちまった俺の純情を返せ!

女「ごめんごめん」

女は、あまり申し訳なくなさそうに謝る。

嘘でも、もう少し申し訳ないという気持ちをだしてもいいと思う。



62 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/02/18(土) 22:08:06.51 ID:Zg3Yn1Fd0

女「・・・はい」

と、今度は少し恥ずかしそうに、自分の手を差し出してきた。

男「え?」

女「・・・ばか」

そう言った女の顔は、この寒さのせいなのか、恥ずかしさからなのかはわからないが、少し赤みがかかっていた。

もう一度手を握れと言うことなのだろう。

それにしても、この上目遣いは反則だ。

ただでさえ、手を握るということだけで、ドキドキしてしまうのに、その表情で尚更ドキドキしてしまう。

俺は今、心音が外に聞こえてしまうのではないかと言うくらい、心臓がフル回転している。

男「ああ・・・ごめん。ちょっと待って」

女「三分間待ってやる!」

男「・・・」



63 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/02/18(土) 22:10:13.49 ID:Zg3Yn1Fd0

えっとー・・・、最後尾はあっちみたいだな。

今から並び始めて、参拝できるまで、あとどれくらいかかるのだろう。

気が遠くなりそうだ。

女「ごめん待ってよー!三分間じゃなくて、五分間でもいいから!」

最後尾に並び始めた俺のもとへ、慌てて女が駆け寄ってくる。

なにか見当違いなことを言っているような気がするが、気にしない。

こうなると、気にしたら負けだと思う。

女「ごめん冗談だから。今度こそ手をつなご?」

男「もういいよ。そもそも、もう最後尾まで来たわけだし、手をつなぐ必要もないだろ」

そう言って、俺は自分が着ていたダウンジャケットのポケットに、手をつっこむ。

散々からかわれた俺の、小さな仕返しのつもりだ。

女「むー・・・こうなったらこうだ!」

男「ちょっ!おまっ!」



64 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/02/18(土) 22:12:37.99 ID:Zg3Yn1Fd0

女が俺のポケットに手をつっこんできた。

小さなポケットの中で、女の小さな手のぬくもりが伝わってくる。

女「へへ。男の手暖かい」

男「・・・ったく。はぐれないように握っててやるよ」

そう言って、俺はポケットの中で、女の手を握った。

俺も甘いやつだ。

散々からかわれたあげく、最後にはこうやって、女の言うがままに手を握ってしまうのだから。

いや・・・これも見栄なのだろう。

女の言うがままになんて言ったけれど、俺が女の手を握りたかっただけなのだから。

男「お前の手、暖かいな」

男「知ってるか?手が暖かいのは、子供らしいぞ」

少しからかってみる。

女の思惑通りに、こうやって手を握ることになってしまったことが、少し癪だったからだ。



66 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/02/18(土) 22:14:54.03 ID:Zg3Yn1Fd0

女「・・・ロリコン」

男「なんで!?」

今の発言のどこに、ロリコン要素があったって言うんだ!?

今の発言だけでロリコンって、随分ロリコンのハードルって下がったんだな!

女「男の部屋に、自作のロリコン検定1級の賞状があったから、まさかとは思ってたけど・・・」

男「そんなのねえよ!あらぬ誤解を招くからやめろ!」

とんでもねえ話だ!

そんなの自作するわけねえだろ!

自分の名前が入ったロリコン検定1級の賞状を、ニヤニヤしながら作ってる自分の姿を想像しちまったよ!

そんなの自作してたら、まさかどころか、完璧にアウトだろ!

正真正銘そっち側の人間だ!



67 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/02/18(土) 22:17:12.09 ID:Zg3Yn1Fd0

女「じゃああそこにいる、両親と手をつないだ女の子―」

女「・・・ごめん・・・機嫌そこねた・・・?」

女は途中までなにかを言いかけたかと思うと、今度は申し訳なさそうに謝ってきた。

自分がとんでもない話をしていることに、気づいたのだろうか。

嘘の話まで作って、俺をロリコンに仕立て上げようとするとは、本当にとんでもない話だ。

まあ俺は、女のこういうことには慣れているから、一々そんなことでは怒らないけども。

男「いや、別にいいけど・・・」

女「よかった・・・。女の子なんて言ったから、機嫌そこねたかと思って・・・」

男「?」

女の子なんて言ったから?

・・・なぜだろう。

なんだか話がかみ合っていないよう気がする・・・。



68 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/02/18(土) 22:19:29.39 ID:Zg3Yn1Fd0

女「じゃああそこにいる、両親と手をつないだ幼女―」

男「幼女!?」

こいつ女の子を幼女に言い換えやがった!

幼女ではなく、女の子と言ったことに、俺が怒ったとでも思ったってことか!?

女「ロリコンの人は、女の子って言うより幼女って言ったほうがいいのかなって」

男「知らねえよ!」

俺はロリコンじゃないから、そんなこだわりはない!

そもそも、ロリコンの人にそんなこだわりがあるのかよ!

それこそ女の作り話じゃないのか?

女「まあ恒例の男の見栄張りはおいといて、」

そこは見栄じゃねえ!

本当に俺はそんなの知らないんだって!

女「男はあの子かわいいと思う?」



69 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/02/18(土) 22:21:41.59 ID:Zg3Yn1Fd0

俺は女の見ている方へと視線を移す。

そこには、お父さんとお母さんと娘だと思われる、三人家族がいた。

見た感じ、娘は小学生にあがるかあがらないかといったくらいの年だろうか。

女はあの子のことを、かわいいと思うか聞いているのだろう。

男「かわいいと思うよ」

素直に感想を述べる。

俺は子供が嫌いなわけではないので、素直にかわいいと思った。

女「・・・」

男「そこで黙るなよ!別に変な意味はないから!」

純粋に、子供としてかわいいと思っただけだ。

女「じゃあ、ああいう子好き?嫌い?」

その聞き方、なにか悪意があるとしか思えない。

だいたいなんで二択なんだよ。

好きか嫌いかの二択であれば、選択肢は一つしかないようなものだろう。



71 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/02/18(土) 22:23:58.96 ID:Zg3Yn1Fd0

男「好きだよ」

女「うわー・・・幼女が好きって公言しちゃったよ・・・」

男「違うっていうの!そしてその幼女がって言うのやめろ!」

幼女って言い方だけで、途端に危ない臭いが増す!

幼女好きとか、その言葉だけでお巡りさんが動き出しそうだ。

女「幼女って言うのをやめようじょ」

男「・・・」

そんな馬鹿な話をしながら、俺達の順番が来るのを待っていた。

周囲から、蔑むような目で見られていたことは、言うまでもないだろう。

特に子連れの親に。

もとい、幼女連れの親に。





72 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/02/18(土) 22:26:25.61 ID:Zg3Yn1Fd0

・・・



女「やっとお参り出来たね」

男「ああ。色々と疲れたけどな」

俺達は、相当な時間がかかってはしまったが、無事に参拝を済ませることができた。

並ぶのにも、あれから続いた女との馬鹿な話にも、ダブルで疲れてしまって、疲労感マックスではあるが。

女「男はなにをお願いしたの?」

男「お願い?そんなのしたかなー」

とぼけてみる。

まあこういうところでは、しっかりとお願いをする俺なのだ。

お願いが、初詣の醍醐味と言っても過言ではないと、俺は思っている。

でもお願いの内容を、女には言いたくない。

言わない。

言えない。



73 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/02/18(土) 22:28:41.33 ID:Zg3Yn1Fd0

女「わかった!世界中の女を幼女にしてくださいとか、そんな感じでしょ!」

男「そんなお願いしねえよ!」

いつまでそれを引っ張るんだ!

お前はどうしても俺をロリコンに仕立て上げたいのかよ!

そんな馬鹿みたいなお願いをするわけないだろ。

男「お願いは、人に言うと叶わなくなるんだよ。だから秘密だ」

女「えー」

女はつまらないといった風に、むすっとした顔をしている。

女がなにをお願いしたのか、少し気にはなったが、自分でこう言ってしまった手前、聞くことはできないだろう。

なので、別の話題をだしてこの話を終わらせる。



74 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/02/18(土) 22:30:55.55 ID:Zg3Yn1Fd0

男「せっかくだから、おみくじでもやってこうぜ」

女「おみくじやりたい!男には絶対負けないから!」

男「負けないって、おみくじは勝ち負けを競うものじゃないだろ・・・」

そんなことを話しながら、俺達はおみくじをするために、移動することにした。

女が異様に張り切っているみたいだったが、そういう奴に限って悪い結果しか出ないんだよ。

ご愁傷様。



・・・





76 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/02/18(土) 22:33:08.35 ID:Zg3Yn1Fd0

女「よし!じゃあいくよ!」

おみくじをやっている所まで来た俺達は、早速おみくじを引くところだった。

女「えい!」

女が勢いよくおみくじを引く。

そんなに勢いをつけたって、結果は変わらないだろう。

女「やったー!大吉!」

喜びを体全体で表しながら、はしゃいでいる。

どうやら女は大吉だったらしい。

俺の予想は外れてしまったようだ。

まあこういう時もあるだろう。

悪い方に外れたのではなく、良い方に外れたのだから、よかっただろう。



77 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/02/18(土) 22:35:17.37 ID:Zg3Yn1Fd0

さて次は俺だ。

男「こんなのどれでも変わらねえよ」

とりあえず手についたものを引く。

時間をかけて選んだところで、中身がわかるわけではないのだから、どれを選んでも一緒だろう。

おみくじなんて、結局は自分の運に任せるしかない。

男「どれどれ・・・」

そして俺は、おみくじの結果を確認する。

男「なん・・・だと・・・?」



78 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/02/18(土) 22:37:46.28 ID:Zg3Yn1Fd0

そのおみくじから俺の目に飛び込んできたものは、予想外の二文字だった。

うまく伝えることが出来ないかもしれないが、

『大凶』

そんな風に見えなくもない。

なんせ、俺はこんな字を見たことがないので、なんて読むのかもわからない。

だい・・・きち・・・?

最近の大吉は、こういう字を書くのだろうか?

まったく困ったものだ。

『だいきち』なら大吉と書いて欲しい。

これが近代化というやつなのだろうか。



79 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/02/18(土) 22:39:49.05 ID:Zg3Yn1Fd0

女「あっ!男大凶だー!」

男「うるせえよ!勝手に人の見るなよ!」

・・・ああそうですよ。

そうですとも。

そんなのわかっていましたとも。

こんなのが、近代化な訳がない。

『だいきち』と読める訳がない。

どう見ても『だいきょう』です。

本当にありがとうございました。

女「DA☆I☆KYO☆U」

男「なんかいらつくからその言い方やめろ」



80 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/02/18(土) 22:41:56.38 ID:Zg3Yn1Fd0

女「はっはっは!また男君に勝ってしまった」

男「またってなんだよ。俺は他にいつ負けたんだよ」

女「敗北を知りたい」

男「くっ・・・」

なんという屈辱だ・・・。

おみくじは勝ち負けじゃないはずなのに・・・。

別に負けたとかではないはずなのに・・・。

しかしこの、滲み出る敗北感の様なものは一体なんなんだ・・・。

まさかこの俺が大凶とは・・・・。

っ!

ふっ、なるほどな。

そういうことか。



81 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/02/18(土) 22:44:02.97 ID:Zg3Yn1Fd0

男「くっくっくっ・・・おもしろい。まさかこんなところにまで、奴らの手がのびてるとはな・・・」

女「奴ら?」
                           エンジェルス・ノティス
男「ああ。これは機関による陰謀だったんだ!大吉の力によって、俺の秘められし力が覚醒することを恐れた、機関による陰謀だったんだよ!」

女「痛い!痛いよ男!エンなんとかとか言っちゃってるけど、所詮大吉の力だからね!?大吉の力で目覚めるとか、なかなかのかっこわるさだよ!?」

男「近づくな!!俺の秘められし力の覚醒に伴う暴走に、巻き込まれたいのか!?」

女「秘められし力は、大吉の力で覚醒するんじゃなかったの!?男は大凶だよ!?早くも設定ミスだよ!」

男「あっ」

女「そして周囲から浴びせられる痛い目に、すでに私は巻き込まれてるよ!」

男「うっ・・・」

冷静になって周りを見てみると、痛い目の集中砲火のようになっていた。

ちょっとふざけてみたつもりが、本気になりすぎてしまったらしい。

・・・恥ずかしい。



83 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/02/18(土) 22:46:25.66 ID:Zg3Yn1Fd0

女「まったく・・・。周りの人達の目が痛いよ」

男「申し訳ない」

女「まあ子供達は楽しそうに、こっちを見てるけど・・・」

周りを見渡すと、大人達は相変わらず残念そうな目でこちらを見ていたが、子供達は目をキラキラと輝かせてこちらを見ていた。

どうやら子供達にはうけたらしい。

俺はこの子供達と、同じレベルということか・・・。

女「でも見てるのは男の子ばっかりで、男が大好きな幼女は見てないけどね」

男「男の子だけでもいいよ!」

幼女に見られたいなんて願望ないから!

むしろ男の子でも女の子でも、俺を見ないでほしい。

残念な大人をそっとしておいてほしい。

女「え・・・?ロリコンでショタコンなの・・・?」

男「そうじゃねえ!」

俺のキャラがわからなくなるから、これ以上はもうやめろ!

俺は至ってノーマルだ!



84 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/02/18(土) 22:47:47.98 ID:cJK7IipD0

大凶ってレアだから運が良いとも言えるんだよな

要は考え方次第、ってだけの話だけど



85 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/02/18(土) 22:48:36.59 ID:Zg3Yn1Fd0

男「それよりおみくじの話だよ!」

女「ああ、男が大凶を引いたって話ね」

男「くっ・・・」

そういえば俺は大凶を引いたんだった・・・。

またこの話をぶり返すのは失敗だったぜ・・・。

男「で・・・でも、考えてもみれば、逆に大凶を引くなんて凄いことだよな?こういうのって、大吉より大凶の方が少ないらしいぞ?」

女「ふーん。男がそれで納得するならいいんじゃない?大凶には変わりないけど」

男「くっ・・・」

なんというこだ・・・。

自分でフォローをいれたつもりなのに、逆に惨めな気持ちにさせられてしまった。

恐るべき大凶パワー。



86 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/02/18(土) 22:50:47.13 ID:Zg3Yn1Fd0

女「でも大丈夫だよ。私は大吉だから」

男「なんだよ。自慢かよ」

女「そういうことじゃなくて、私がいつも男のそばにいてあげるってこと。私の大吉パワーで、男の大凶パワーを打ち消してあげるから」

男「あ、ああ・・・」

確かにその考えはありかもしれないけど、いつもそばにいてあげるって・・・。

こいつはたまにさらっと恥ずかしいことを言うよな。

そもそも、そんなの無理だろ。

お互い住んでいるところも違うわけだし。

・・・付き合っているわけでもないし。

でもそれを口には出さない。

否定はしない。

否定はしたくない。

だから俺は、そこには触れないで、別のところに論点をもっていく。



87 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/02/18(土) 22:52:52.54 ID:Zg3Yn1Fd0

男「でも、女の大吉パワーで俺の大凶パワーを打ち消せるとは限らないだろ?逆に、俺の大凶パワーが女の大吉パワーを打ち消すかもしれないぜ?」

女「そっか・・・」

そう言った女の表情は、どこか残念そうだった。

それは俺が話に触れなかったことに対してなのか、女の大吉パワーを打ち消してしまうと言ったことに対してなのかはわからないが。

女「じゃあ勝負だね!」

残念そうにしていた顔から一変、今度は楽しそうな顔をむける。

本当にこいつは、コロコロと表情が変わるやつだ。

男「勝負?」

女「私の大吉パワーが勝つか、男の大凶パワーが勝つか、勝負!」

男「また勝負か・・・」



88 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/02/18(土) 22:56:32.47 ID:Zg3Yn1Fd0

まあ女らしいと言えば女らしい。

しかし、こんなにも勝ちたくないと思った勝負も珍しい。

どうか俺の不戦敗にしていただきたい。

女「やる気でてきたでしょ!」

男「でねえよ」

そもそも、俺がやる気をだしたところで、勝てるとかそういう話じゃないだろ。

俺のやる気に呼応して、大凶パワーも力が増すのかよ。

今まさに、とんでもないペアリングが、完成されようとしているようだ。

男「そんなことより、次は初日の出でも見に行こうぜ」

とんでもないペアリングが完成されてしまう前に、俺は別の話題を振ることにした。

参拝までの待ち時間やおみくじやらで、すでに結構な時間が経ってしまっている。

こんな時間になってしまったのなら、もう少し待てば初日の出も拝めるだろう。



89 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/02/18(土) 22:58:56.36 ID:Zg3Yn1Fd0

女「見る!私初日の出見るの初めて!」

男「それはよかった。初日の出は、いつもの日の出と違って、美しさが格別なんだぜ?」

女「そうなんだー!楽しみ!」

まあ俺も初日の出なんて、見たことないんだけど。

でもこういうのは気持ちの問題だろう。

きっと、初日の出補正がかかって、綺麗に見えるはずだ。

男「よし。じゃあ見に行こう!」

女「うん!」





91 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/02/18(土) 23:01:17.92 ID:Zg3Yn1Fd0

・・・



男「あともう少しで日の出だな・・・」

女「そうだね。楽しみ」

俺達はさっきの神社から少し歩いて、日の出が綺麗に見える、丘のようになっている場所に来ていた。

周りには、ちらほらと人が集まっている。

やはりここは、この辺ではそれなりに有名な、初日の出スポットなのだろう。

女「ちょっと寒いね・・・」

男「ああ・・・」

それもそうだろう。

日付が変わってから今まで、ずっと外にいるのだ。

どれだけ着込んでいても、やはり寒くなる。



92 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/02/18(土) 23:03:47.03 ID:Zg3Yn1Fd0

男「手・・・握っていいか?」

女「・・・うん」

俺はそっと女の手を握る。

女は寒いと言っていたが、その手はとても温かい。

やっぱり子供なんじゃないか?なんて、心の中でクスッと笑う。

女「男の手あったかい。子供だね」

男「そうきたか・・・」

先手を取られてしまった。

ちなみにさっき俺が似たようなことを言った時は、ロリコンって言われたんだけど・・・。

男「お前の手もあったかいよ。俺達二人ともまだ子供なのかもな」

女「かもね」

そう言って、女はおかしそうにふふっと笑った。



93 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/02/18(土) 23:05:56.78 ID:Zg3Yn1Fd0

女「でも子供の頃の男は、もっとかわいかったかな」

男「それはお互い様だろ。お前も昔はかわいかったよ」

女「それって、今はかわいくないって意味?」

女は頬をぷくっと膨らませる。

指でつっつけば、割れてしまいそうだ。

男「今は・・・どうかな」

女「どうかなって曖昧!そういうところが、君達日本人の悪いところだよ!」

男「君達って、お前も日本人だろ。お前のそういうところは、昔から変わらないよな」

明るくて、ちょっとお調子者で、でもやさしくて。

いつも俺を気にかけてくれている。

今回だって、俺の為にわざわざここまで来てくれたんだ。

今も昔も、それは変わらない。



94 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/02/18(土) 23:08:04.08 ID:Zg3Yn1Fd0

男「・・・変わっているようで、変わっていないのかな」

女「どうかな・・・。案外変わらないようで、変わっているのかも」

変わらないようで、変わっている、か・・・。

実際そうなのかもしれないな。

女も昔から変わらないと思ったけど、本当は変わっているのかもしれない。

いや、変わっているのだろう。

俺だって、昔から変わっていないわけではない。

いい意味でも、悪い意味でも、人は変わっていくものだ。

男「いつのまにか去年も終わって、今年にかわったもんな。俺達もそうやって、いつのまにか変わっていくんだろうな」

女「私達は年とは違うけどね」

・・・ごもっともな意見だな。

ちょっと雰囲気にのまれて、かっこつけすぎたかな・・・。

恥ずかしい・・・。



96 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/02/18(土) 23:10:21.24 ID:Zg3Yn1Fd0

女「でも、年は私達と違って、一度終わって新しくかわるって感じだよね」

男「まあ大晦日で年が終わって、元旦から新しい年がくるからな」

そういう風に考えれば、俺達のかわるとは、全然違うものなのだろう。

所詮考え方の違いであって、そんなことを考えたところで、なんの意味もないのだろうけど。

そういえば、古い年が行って、新しい年が来るみたいな言葉あったよな・・・。

えっと・・・

男「ゆく年―」

女「さる年」

男「そこで去っちゃダメだろ!いつまで経っても年が来ねえよ!」

そこは行く年来る年だ。

行く年去る年とか、年が行ってそのまままた去るなんて、そんなの悲惨すぎるだろ。



97 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/02/18(土) 23:12:37.31 ID:Zg3Yn1Fd0

女「ちっちっちっ。去る年じゃなくて、申年ってことだよ」

男「申年?」

女「そう。年が行って、今度は申年が来るってこと」

あー、なるほど。

それなら年が行きっぱなしで、来ないということはないわけか。

ふむ、ひとまず安心だ。

男「って今年は申年じゃねえ!辰年だ!」

危うく騙されるところだった!

申年が来るのなんて、まだまだ先じゃないか。

女「じゃあ行く年辰年?」

男「もはや全く関係なくなっちゃったよ!」

それがありなら、もうなんでもありだろ。

十二支全てで成り立ってしまう。

全十二パターンを、一年ごとに使い分けるようだ。

そうなったら、もはや最初の行く年なんか取ってしまって、申年とか、辰年とか、そのままでよくなってしまうだろう。



98 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/02/18(土) 23:14:41.30 ID:Zg3Yn1Fd0


女「でもさ、ゆく年くる年って、年の部分を人に変えたらなんか嫌な言葉だよね」

男「ん?行く人来る人ってことか?別に嫌な言葉だとは思わないけど」

別れがあって、新しい出会いがある。

そんな感じの意味に、捉えることが出来ると思う。

それは、特に嫌な言葉ではなく、むしろなにか良い言葉のような、そんな感じにさえ思える。

女「逝く人来る人って、どうなのかなって」

男「なんか重い!」

逝く人とかやめてくれ!

まあ人が逝って、新しい人が生まれて来ると考えれば、それは自然の摂理であって、確かにそうなのだけれども。

でも今までの展開から、話の重さが変わりすぎだろう。

女「まあそれは冗談として、行く人来る人って、行く年来る年と違って、必ずじゃないんだよね」

男「?」



100 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/02/18(土) 23:16:47.81 ID:Zg3Yn1Fd0

必ずじゃない?

女の言わんとしていることが、よく伝わってこない。

なにが必ずではないというのだろうか。

女「年って言うのは、必ず行くものだよね。そしてそれと同時に、年が行けば、必ず年が来るわけだよ」

男「えっとー・・・つまり、今年が終われば、次は必ず来年が来る、とかそういう意味か?」

女「うん。まあそういう意味だね。でも人って言うのは、必ず行って、必ず来るものじゃないと思うの」

男「・・・必ず行って、必ず来るものじゃない?」

女「つまり、わかり易く言い換えれば、人って言うのは、必ずしも別れがあって、必ずしも出会いがあるわけではないでしょ?年と違って、行く人を止めることは出来るし、来る人が来ないかもしれない」

そして、女は少し間をあけ、

女「・・・人は年と違って、別れたくなければ、別れなくていいんだよ」

と言った。

その顔はとても真剣な表情をしていて、でもどこか寂しそうで・・・。

女の表情も、そして俺達の間のなにかも、崩れてしまいそうな気がした。



101 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/02/18(土) 23:18:56.32 ID:Zg3Yn1Fd0

女「私、高校を卒業してから今日まで、男と全く会ってもなければ連絡もとってなくて、このまま疎遠になっていくんじゃないかと思った。そんなことを考えたら、なんだか急に寂しくなっちゃって・・・会いたくなっちゃったの・・・」

男「女・・・」

それでわざわざ、俺のところに来たということか・・・。

俺の母さんが心配してたからなんて言ってたけど、結局は俺に会いたかっただけだったってことだ。

お前も俺に負けず劣らず見栄っ張りじゃないか・・・。

でもやっぱり、見栄っ張りでは俺の方が上だ。

男「俺も・・・寂しかった・・・」

男「本当は女に会いたくてしょうがなかったんだ・・・」



102 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/02/18(土) 23:21:16.71 ID:Zg3Yn1Fd0

今日まで女のことを忘れたことはない。

女が俺の家に来た時、なんでいるんだ?みたいなことを、平然な顔をして言ったが、あれは見栄だ。

内心嬉しくてしょうがなかった。

女への想いを忘れていて、それを思い出したなんて言ったが、あれも見栄だ。

思い出したもなにも、最初から忘れてなんていない。

全部、見栄だ。

俺の話は、見栄で固められた話だ。

もしかしたら、今までの話、ここまでの出来事、全部見栄だったのかもしれない。

常日頃から見栄を張っている俺には、それが見栄なのか、真実なのか、もはやわからなくなっているのかもしれない。

でも、そんなことはもうどうでもいい。

見栄を張るのは終わりだ。



103 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/02/18(土) 23:23:32.94 ID:Zg3Yn1Fd0

男「俺は・・・・」

ここからの話は全て、見栄ではなく、真実だ。

嘘偽りない―

いや、言うなれば見栄偽りない、真実の話。

俺の本当の気持ち。

男「女のことが好きだ!付きあってくれ!」

女「・・・・・・・・・」

沈黙。

女は俯いてなにも言わない。

このタイミングでの俺の発言は、失敗だったのだろうか・・・。



104 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/02/18(土) 23:25:52.59 ID:Zg3Yn1Fd0

女「・・・・・・・うぐっ・・・ひっく・・こちらこぞお願いじます」

男「え!?泣き!?というかOK!?でも泣き!?」

喜んでいいの!?

でも泣いてる女の横で、俺だけ喜んでいいの!?

というより、なんで泣いてんの!?

女「だっで・・・やっと言ってくれて・・・」

女「嬉じぐて・・・」

男「わ、わかったから、とりあえず落ち着け。な?」

女「・・・うん」

俺も人のことを言えないくらい、落ち着いたほうがいい動揺っぷりだったように思えるが・・・。

でもまずは女が泣いているのを、どうにか落ち着かせようと、俺は必死にかける言葉を探す。



105 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/02/18(土) 23:28:03.38 ID:Zg3Yn1Fd0

そして、俺なりにチョイスした言葉をかける。

男「大丈夫だ。俺がそばにいてやるから」

女「うわーん!男にそばにいてあげるって言われたー!」

男「なんで更に泣くんだよ!」

さっきより号泣じゃないか。

必死にチョイスした言葉だったはずなのに、かける言葉を間違えたか?

女「男が・・・女心を全然わかってないからだよ・・・」

男「悪かったよ。頭撫でててやるから、少し落ち着け」

女「うわーん!男が頭撫でてくれるってー!」

男「いやだから本当落ち着けって!」

いい加減、周りがざわつき始めたから!

これじゃ俺が、女を泣かせたみたいじゃないか!

・・・まあ実際そうなんだろうけど。

でも頼むから、俺にも喜びの余韻に浸らせてくれ!



107 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/02/18(土) 23:30:20.41 ID:Zg3Yn1Fd0




・・・



男「落ち着いたか?」

女「うん・・・。さっきはごめんね」

男「まあ別にかまわないけど・・・。」

あれから周りの目が気になって、仕方なかったけどな。

どこからともなく、「若いっていいなー」みたいな声が聞こえ始めたときは、恥ずかしくて逃げ出したかったよ。

女「やっと男からその言葉を聞けて、つい嬉しくなっちゃって・・・」

男「だからって泣くなよ・・・」



109 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/02/18(土) 23:32:21.94 ID:Zg3Yn1Fd0

女「だって私、生まれたときからその言葉ずっと待ってたんだよ?」

男「それは嘘だ!」

お前と初めて会ったのは、そんな昔の話じゃない!

もう少し成長してからだ!

女「むしろ前世から」

男「それも嘘だ!いや・・・でも本当なのか・・・?」

当たり前だが、俺に前世の記憶なんてものはない。

だからこいつに前世の記憶があるというのなら、俺に否定することはできない。

もしかしてこいつ、前世の記憶があるとでも・・・

女「そんなわけないじゃん。前世なんて知らないよ」

男「そりゃそうだ!」

前世なんてわかるわけねえよ!

そんなの覚えているなら、それこそ今更言うかよって話だ。



110 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/02/18(土) 23:34:26.95 ID:Zg3Yn1Fd0

女「でも、ずっと待ってたって言うのは本当だよ?」

男「ごめん・・・。待たせちまったな」

女「本当だよ。前世の時からだから、かれこれ―」

男「もうそれはいいって!」

でもまあ、女が言うほど大袈裟な時間ではないが、この言葉を言うまでに時間がかかったのは事実だ。

それこそ、何年、十何年と。

女「そう言えば、私の初詣のお願い叶っちゃった」

男「俺もだよ」

初詣のお願い。

今更あえて言うことでもないので、なにをお願いしたかは言わないが、俺も女も願い事は一緒だったのだろう。

女「大吉パワーのおかげもあるのかな?」
 エンジェルス・ノティス
男「大吉の力か!?」

女「ちがうよ」

男「・・・」



111 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/02/18(土) 23:36:37.35 ID:Zg3Yn1Fd0

女「でも私は大吉パワーで幸せになれたんだったとしたら、案外男は大凶パワーで不幸せになるのかもね。私と付き合うことで」

そう言いながら、女はおかしそうにふふっと笑う。

なんだかこいつ幸せそうだなあと思いながらも、俺は、

男「やなこと言うなよ・・・」

と、少し暗くなってしまう。

それが付き合い始めた彼氏に、彼女が言うことかよ。

私と付き合うことで不幸になるかもねって・・・。

女「冗談だよ。男の大凶パワーは私の大吉パワーに打ち消されちゃったんだよ」

男「だといいけど・・・」

女「きっとそうだよ。だから私の勝ち」

男「勝ち?」



112 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/02/18(土) 23:38:44.34 ID:Zg3Yn1Fd0

ああ・・・。

そういえば、そんなことで女と勝負してたんだった。

全く勝つ気はなかったから、忘れてたけど。

女「だから罰ゲームとして、なんでも言うこと聞いてね?」

男「そんな罰ゲームあったか!?」

女「今作った」

男「理不尽!」

勝ってから罰ゲーム決めるとか、傲慢すぎるだろ!

まあ元から勝ちたくない勝負ではあったけども。

男「・・・で、罰ゲームってなんだよ?」

こういうときの女は、なにを言っても無駄だということを俺は知っているので、半ば諦めの様な感じで、罰ゲームの内容を促す。

こういうのは、さっさと済ませてしまった方がいいだろう。

あとから言われるのも面倒くさい。



113 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/02/18(土) 23:41:32.68 ID:Zg3Yn1Fd0

女「・・・私とずっと一緒にいてください」

男「へ?」

予想だにしなかった女の言葉に、俺は素っ頓狂な声をあげてしまう。

女「だからっ、私とずっと一緒にいてって言ったのっ!」

男「いや、それはわかったけど・・・。そんなことでいいのか?」

俺は思ったことを、素直に口にする。

女のことだからどうせ、「日の出と同時に俺はロリコンだーって大声で叫んで」とか、そういう理不尽な罰ゲームを言うものだとばかり思っていた。

それがこんな罰ゲームだなんて、一体どこの俺が予想しただろうか・・・。

女「そんなことって、私にとっては大事な事だもん!」

男「いやそういう意味じゃなくて、そんな簡単なことでいいのかって話。むしろ罰ゲームどころか、俺にとってはご褒美と言ってもいいくらいだぜ?」

女「っ!なんで男は、そんな恥ずかしいこと平気で言うかな!」

男「罰ゲームじゃなくても、最初からそうするつもりでいたからな」

女「あうぅ・・・」



114 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/02/18(土) 23:43:38.93 ID:Zg3Yn1Fd0

女は恥ずかしそうに、顔を真っ赤にして俯いてしまった。

まあ実は俺も、平気で言ってはいないんだけどな。

あんな臭いセリフ、言った後に火が噴き出そうな程恥ずかしくなってしまった・・・。

男「まああれだ。そんなこと罰ゲームで言われなくたって、俺はお前とずっと一緒にいるよ」

女「男・・・。ありがとう・・・」

男「そんな礼を言われることじゃないだろ」

むしろ俺からも、ずっと一緒にいてくださいとお願いしたっていいくらいだ。

まあそんなこと、恥ずかしいから言えないけども。

・・・でもよくよく考えてみれば、俺がさっき言った言葉も、十分恥ずかしいよな。

・・・。

やべー・・・超恥ずかしいんですけど・・・。



115 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/02/18(土) 23:45:42.66 ID:Zg3Yn1Fd0

女「じゃあ罰ゲームだなんて思わないってこと?」

男「あ、ああ。当然だろ」

自分の言葉を思い出して、急に恥ずかしくなってしまった俺は、必死に平然を装うとする。

俺の顔、今真っ赤かも・・・。

女「それなら、罰ゲームは他のを考えないとね!」

男「っておい!なんでそんな話になるんだ!」

女「なにがいいかなー」

男「人の話を聞け!」

とんでもないやつだ。

一人で恥ずかしくなって、顔を真っ赤にしている場合じゃないぞ。

今度こそ、とんでもない理不尽な要求がくるはずだ・・・。

女「じゃあ、日の出と同時に俺はロリコンだーって大声で叫んで!」

男「やっぱりそうきたか!」



116 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/02/18(土) 23:47:58.55 ID:Zg3Yn1Fd0

やはりこいつは、期待を裏切らないやつだぜ。

そんなところで、期待を裏切られなくても、なにも嬉しくないけれど。

女「なんて、冗談だよ。彼氏がそんなこと叫び始めたら、私が恥ずかしいもん」

男「彼氏じゃなかったら、よかったのかよ」

女「うん。男が私と付き合ってなかったら、言わせてた」

男「その基準がわかんねえ!」

彼氏でも彼氏じゃなくても、一緒にいるやつがそんなこと叫び始めたら、普通に恥ずかしいわ!

彼氏になっていなかったら叫ばされていたんだと思うと、改めて彼氏になれてよかったと思う。

いや、でも待て・・・。

もし彼氏にならなければ、そもそも罰ゲーム自体なかったわけで・・・。

女「馬鹿がなにかを必死に考えてる」

男「突然人を馬鹿呼ばわりするな!」

人が少し真剣に考えてるだけでこれだ。

あともう少しで、なにか真理のようなものに辿り着けるような気がしたのに。



117 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/02/18(土) 23:50:04.87 ID:Zg3Yn1Fd0

女「でもそんな男も好きだよ」

男「こいつ・・・」

そんなこと言われたら、なにも言い返せないだろ。

こいつだって、平気な顔して恥ずかしいこと言ってんじゃねえかよ。

女「あっ!男見て!」

男「え?」

俺は突然声をあげた女に反応し、その見ている方へと視線をむける。

男「おお・・・」

そこには、綺麗に空をオレンジ色に染める、眩しいくらいの日の出があった。

女「綺麗だね・・・」

男「そうだな・・・」



118 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/02/18(土) 23:52:06.47 ID:Zg3Yn1Fd0

初日の出を見るのは初めてだったが、思った通り綺麗な日の出だった。

いや。

思っていたより、凄く綺麗だった。

こんなにも綺麗なのなら、見に来た甲斐があったというものだ。

男「・・・」

女「・・・」

俺達は、しばらくの間、初日の出に見入っていた。

周りには他にも人はいるのだが、二人だけしかいないような、そんな気さえしてくる。

・・・。

静まり返る時間。

そんな中、沈黙を破るように女が口を開いた。



120 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/02/18(土) 23:55:52.50 ID:Zg3Yn1Fd0

女「来年も一緒に見にこようね・・・」

男「ああ」

女「ちゃんと予定空けておいてよ?」

男「わかってるよ」

言われなくても、予定なんておけておくさ。

と言ったって、こいつの場合、次は必ずこう言うはずだ。

女「あっ。そんなこと言わなくても、」

女「どうせ、一人寂しく過ごしてるんでしょ?」

ってな。



121 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/02/18(土) 23:58:17.77 ID:Zg3Yn1Fd0

前までの俺なら、そんなことねえよ!なんて見栄を張っていたかもしれないけど、もう見栄を張るのはやめた。

俺は素直に答える。

男「そうだな。お前との予定以外は入らないよ」

来年も、そのまた次の年も、さらにそのまた次の年も、ずっとお前以外との予定は入らない。

入らないし、いれない。

男「だから、これからもずっと一緒にいよう」

女「ぷっ。なに真顔で臭いセリフ言ってるの?恥ずかしいよ?」

男「ちょっ!空気呼んでくれ!」

今ちょっとかっこつけたいところだったんだよ!

というか、そういうこと言うのやめて!

本当に恥ずかしくなってくるから!



122 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/02/19(日) 00:00:30.16 ID:4imTV9Gi0

女「でも、そんな男が好きだよ!」

男「まったく・・・」

本当にこいつは調子いいやつだよ。

ふざけてみたり、笑ったり、怒ったり、泣いたり。

こいつと一緒にいるのには、俺の体力がいくつあっても持たないかもしれない。

でも、俺はそれでもいいと思ってる。

なんてったって、俺はこいつの彼氏なのだから。

こいつは俺の彼女なのだから。

そしてなにより、

男「俺もそんな女が好きだ!」

俺達は、こんな感じでいつまでもずっと一緒にいるのだろう。

これは見栄なんかではなく、俺が心からそう思えたから。

                                 fin.



125 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/02/19(日) 00:05:45.17 ID:Zg3Yn1Fd0

終わりです。
最後まで見てくださった方、ありがとうございました。
SS書くのも、むしろスレ建てするのも初めてだったので、とりあえずVIPでやってみたんだけど、なんか場違いだったかも・・・。
ごめんです。



124 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/02/19(日) 00:05:26.14 ID:/uyHpWC6O




126 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/02/19(日) 00:07:49.69 ID:cJK7IipD0



この記事へのコメント

トラックバック

URL :

最新記事
スポンサードリンク
カテゴリ
月別アーカイブ
おすすめサイト様新着記事