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佐藤、著莪 「「月桂冠?」」

元スレ:佐藤、著莪 「「月桂冠?」」
http://hayabusa.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1327539342/
1 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/01/26(木) 09:55:42.20 ID:zz82bxEp0

閑静な住宅街の一角にそびえたつ1件のスーパー。

現在時刻は午後8時10分、あと20分ほどで半値印証時刻だ。

自動ドアをくぐると店内には落ち着きのあるBGMが流れている、そのメロディーを聴きながら青果コーナに向かい同時に彼等の気配を探る… 

2… 4…  6人か。

その中に1人、知り合いの気配がある

一瞬そちらに行こうかと考えたが… 今は獲物の確認のほうが先決だ。

青果コーナーから鮮魚、精肉コーナーを抜け、お惣菜、弁当コーナーへと向かう。

棚に惣菜はほとんど残っていなかった、特に揚げ物は壊滅的と言って良い、そこにはチクワ、かきあげ、その他もろもろ… いつも目にしている相棒達の姿はなかった。

唯一コロッケが3個残っているだけ、今日はこの店の需要と供給のつり合いが比較的上手く取れたのだろう。

普段お世話になっている身の上としてはスーパーが商売繁盛ってことは喜ぶべき事なんだけど、 …その反面、素直に喜べない自分も同時に存在している訳で…

だがそれは今宵、獲物が獲れなかったときに初めて関係することだ。ようは獲れれば問題ない、獲れれば…ね。

いよいよ弁当コーナーの前に来た、立ち止まることなく横目で見る。今宵の神の恵みは5つ、内2つが同じものだ。

一つ目はチーズカレー弁当、電子レンジで温めることを計算に入れてかカレーの上に粉チーズが降りかけられている。量も申し分ない。

2つ目はオーソドックスな幕の内弁当、3つ目もこれまた定番といえる鮭弁が2つ。



3 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/01/26(木) 10:01:53.68 ID:zz82bxEp0

そしてラストが特盛オムライス弁当、容器に『卵を3個使用』と書かれている。なるほど確かにほかの弁当の容器と比べて明らかにでかい。

これ1つで2人前くらいの量があるんじゃないだろうか?そんなことを考えながら近場の鳥棚へと歩を進める。

至って健康かつ食べ盛りな僕としてはチーズカレー、特盛オムライス、当然ながらこの2つの内どちらかを狙うべきなのだが、う~む… 定番には定番の良さがあるしな~

二階堂「来たか、佐藤」

前者の2つはみんな狙ってきそうだし、 …いや、あの特盛具合は半端じゃなかったぞ、それをまじめに狙う奴なんて本当にいるのか?

二階堂「おい、佐藤?」

佐藤「うわっ!先輩!?」

二階堂「ようやく気づいたか」

考え事をしていて忘れていたが、スーパーに来たとき気配で彼がいることには気づいていた。

二階堂連、丸富大学の2年で僕と著莪の先輩にあたる人だ。

あの初勝利の翌日にスーパーで声をかけられて以来、共闘したり、いろいろなスーパーの情報を教えてくれたりと、お世話になっている。

佐藤「すみません、どのお弁当にしようか考えていたもので…」

二階堂「食べ盛りのお前が好みそうなのが2つ、そして安心と信頼の定番が3つだからな」

迷うのも無理はない。そう先輩は言ってくれた。

二階堂「おまけに狼の数も少ない」



6 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/01/26(木) 10:08:12.42 ID:zz82bxEp0

そうなのだ、今日このスーパーには僕と先輩を合わせて7人の狼が居る、後から来る著莪を合わせると8人か。

8人の需要に対して供給は5、比較的、獲物を奪取できる確率は高いといえた。

二階堂「今日は、お前1人か?」

佐藤「いえ、アイツは友達の家に行ってその足で直接ココに来るみたいです」

二階堂「そうか、ならば俺たちも気を引き締めて望むとしよう」

俺達と複数形なのは先輩の後ろにガブリエルラチェットのメンバーが2人ほど控えているからだ。

《ガブリエルラチェット》主だったメンバーは丸富大学で先輩が所属している庶民経済研究部の人達で構成された組織で、先輩はそのまとめ役みたいなものなんだとか…

二階堂「なにせ脅威のルーキーだからな」

デビューしてからこの1週間、その内弁当が半額になる事5回、著莪の戦績は4勝1敗。

唯一の負けはあせびちゃんが来店したデビュー戦のときだけで事実上、彼女は負け知らずなのだ。ちなみに僕の戦績は1勝4敗と、著莪とは逆であの初戦以来、弁当を手にしていない…

二階堂「初戦の黒星もあの死神が居たのではいた仕方ないだろう」

《死神》とは、あせびちゃんのことで彼女は1度も半額弁当を手に入れていないにも拘らず、二つ名を得るという偉業を成し遂げていた。



7 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/01/26(木) 10:15:37.74 ID:zz82bxEp0

彼女が来店したときの被害は凄まじくジョニーに至っては、いまだに意識が戻っていない。

著莪が弁当にありつけなかった2日はあせびちゃんがスーパーに来たときで、彼女が来店すると重傷者が出る、もしくは弁当が半額になる前に売り切れたり…

やっぱり、あの子にはアレが憑いているんだろうな… 

それにしても、あせびちゃんに《死神》の二つ名をつけた先輩はネーミングセンス抜群だな。

ついでにどうでもいい事だがジョニーのお見舞いに行くのを忘れていた…

二階堂「ところで結局お前は何を狙うか決めたのか?」

佐藤「それなんですよね、何にしようか…」

グ~と、腹の虫が空腹を告げる、コイツはいつだって正直だな。

佐藤「チーズカレー弁当にします」

二階堂「そうか、お互い頑張ろう」

先輩は別のものを狙うようだ、正直ありがたい。

と言うのも僕が弁当を獲ることが出来ずにいる理由の大半は先輩とガブリエルラチェットに行く手を阻まれることが多いからなのだ。

だからこそ今回、先輩と獲物が被らなかった事が素直にうれしい。

そんなことを考えていると携帯がメールの着信を告げる。

たぶん送り主は著莪だろう。



8 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/01/26(木) 10:23:12.81 ID:zz82bxEp0

見ると案の定、彼女からで……  そこにはこんな文章があった。

〈先に謝っとくわ、ごめん佐藤〉

瞬間、背中に嫌な汗が流れる… 

他の人がこのメールを見ても何の事だか分からないだろうが、僕には分かる、従姉弟がなぜ謝っているのかその理由を。

二階堂「どうした?顔色が悪いぞ」

佐藤「先輩… すみません」

二階堂「いきなり謝られても対処できんのだが…」

佐藤「多分ですけど、今日ココにいる狼は全員弁当にありつけないと思います…」

二階堂「どういう事だ?」

理由を説明しようと僕が口を開きかけたとき、自動ドアが開き著莪の姿が見えた。

向こうも僕に気づいたらしく弁当のチェックをせずに直接こちらにやって来る。



9 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/01/26(木) 10:31:13.10 ID:zz82bxEp0

著莪「いや~ごめん、ごめん。予想以上に遅くなっちゃった」

二階堂「お前が遅れてくるとは珍しいな、弁当の確認はしないのか?」

著莪「佐藤、説明した…?」

佐藤「これからするところ…」

二階堂「?」

著莪「そっか… でも、もう必要無いんじゃない?」

佐藤「やっぱり来ちゃったんだ…」

著莪「うん… 止められなかった」

二階堂「何の話だ?俺にも説明を…」

先輩が言い終わる前に店の自動ドアが開く。 僕はポケットに手を突っ込み、お守りを握り締める、この前近場の有名な神社で初老の神主さんからこれが良いと進められた物だ。

ちなみにえらく大柄でゴツイ体をした神主で、もしこれで着物の下に刺青という名のアートが有ったらリアルでセガの名作シリーズ『龍が如く』だな。 みたいな事を考えたんだけど…

至って平凡な僕の身近にそんな非日常がある訳ないよね。



10 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/01/26(木) 10:38:07.94 ID:zz82bxEp0

…さて話を戻そう、思えば著莪が誰の家に遊びに行ったのか分かった時点でこうなる事は考慮するべきだった。

視線を彼女から先輩に戻すと、たった今ご来店した人物が誰なのか気配で察したらしく…… 大量の脂汗を流していた。

佐藤「…顔色が悪いですよ、先輩」

二階堂「悪くもなるさ…」

佐藤「ですよね…」

あせび「あっ、洋く~ん」

手を振りながらこちらに来る彼女の名は井ノ上あせび、僕と著莪のクラスメイトにして《死神》の二つ名を持つ者。

あせび「2時間ぶりだね~」

あせびちゃんのトレドマークでもある猫耳帽子の耳の部分がピコピコと動いていた。

いつも思うが一体どんな仕組みなのだろうか?どこぞの高校の心霊現象調査研究部の連中が見たら小躍りして喜びそうだが…

あせび「どうしたのぉ、洋くん?」

佐藤「な、何でもないよ、うん」

首をかしげて僕を見るあせびちゃん、彼女にアレが無ければ躊躇無く抱きしめているところだ。



11 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/01/26(木) 10:38:34.37 ID:bPQwY7Tg0

ベン・トーSSは貴重
期待している



13 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/01/26(木) 10:44:48.48 ID:zz82bxEp0

二階堂「佐藤… すまないが俺達は気分が優れん、今日は帰る…」

先輩を見ると、なるほど…顔面蒼白だった。さすがは情報通の二階堂先輩だ、あせびちゃんのことをよく分かっていらっしゃる…

あせび「二階堂先輩、だいじょうぶぅ?」

二階堂「あ、ああ、大したことは無い…」

あせび「そうだ、あっちお薬持ってるからあげるね♪」

二階堂「えっ」

先輩の顔がみるみる絶望に染まってゆく。ちなみに先輩の後ろに控えていた2人の姿がこの時点で消えていた、実に素早い。

あせび「はい、どうぞ♪」

二階堂「あ、ありがとう… 帰ってから飲むよ…」

震える手で薬を受け取る先輩… 彼の1人この場に取り残されたその姿に僕はとっさに、先輩ここは僕が代わりに引き受けます! …と、心の中で叫んだ。

あせび「その、お薬は即効性なんだって、だから今ココで飲んだ方が良いよぉ?」

二階堂「…」

あせびちゃんはポケットからペットボトルのお茶を取り出した… もう止めてあげてぇぇぇぇぇぇ!!!!!



14 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/01/26(木) 10:52:32.04 ID:zz82bxEp0

あせび「あっ、ごめんなさい… お節介だよね…」

帽子の猫耳がみるみる垂れ下がってゆく、というかあせびちゃん… 君がそんなことを言うと先輩の退路が断たれて…

二階堂「…いや、そんなことは無い。」

ありがとう… 先輩はそう言うとあせびちゃんからペットボトルを受け取りキャップを開け、手に持っていた薬(錠剤)を口に含むと …一気に煽った。


著莪「何もおこんないね…」

佐藤「ああ、だが油断は禁物だ…」

その会話から、およそ20秒後……… 先輩はトイレの住人と化していた。

著莪「なあ、佐藤… コレ…」
 
著莪が差し出したのは先輩がトイレに駆け込む際に落とした薬の包みで…

佐藤「僕の目がおかしいのかな? 下剤って文字が見えるんだけど…」

著莪「安心しろ佐藤、私にもそう見えてるから…」

あせびちゃんの方を見ると彼女は、二階堂先輩、大丈夫かな~?、と心底心配のご様子だった。

佐藤「著莪… 今、僕等に出来ることは先輩が自らを犠牲にして守ったあせびちゃんの笑顔を絶やさないようにすることだけだ」

著莪「…そうだね、コレはあせびの目に触れないように処分しておくよ」

僕と著莪はトイレに向かって敬礼した…… 二階堂先輩、あなたの勇姿は一生忘れません。 



16 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/01/26(木) 11:00:54.82 ID:zz82bxEp0


翌朝、パンの焼ける匂いで目が覚めた。

目をこすりながらリビングに行くとパジャマにエプロン姿というなんとも斬新な格好の従姉弟がいる。

著莪「おっ、起きたか。佐藤おはよう♪」

佐藤「おはよう…」

著莪「顔洗ってきなよ、もうすぐ卵も焼けるしさ」

佐藤「ん~了解」

基本、家事などは当番制だが結局は僕が著莪の当番のときも代わりにやることが多いため彼女がこうして台所に立っている事は稀だ…

それ故、結構悪戦苦闘しているようで、彼女が手に持っていたフライパンの中にはおそらく目玉焼きになり損ねたと思しきスクランブルエッグが入っていた。



朝食を済ませ僕は2人分の食器を片付けてリビングで寛いでいた。著莪は脱衣所の方で制服に着替え中…


著莪「ごめん佐藤、私の部屋からブラ取ってきてー」

脱衣所から顔だけ出した状態で著莪はさも当たり前のように言い放つ。

佐藤「なんだよ、また持って行かなかったのか?」

今週に入ってもう3回目だぞ……ひょっとしたら彼女は若年性アルツハイマーなのか?



17 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/01/26(木) 11:08:59.98 ID:zz82bxEp0

著莪「へへっ、忘れちゃった」

佐藤「ふ~やれやれだぜ…」

著莪「頼む佐藤、一生のお願い」

佐藤「お前にはいったい幾つ一生があるんだよ… まあ、いいけどさ。で、今日はどのブラを持ってくればいいんだ?」

著莪「こないだ買ったやつ」

佐藤「カップの縁にフリルの付いてるやつ?」

著莪「そう、それそれ」

佐藤「オーケー」

著莪「お礼に私のブラどれか1つあげようか?」

佐藤「アホか」

著莪「またまた~そんなこと言ってホントは興味津々の癖に~」

佐藤「お前はどんだけ僕を変態にしたいんだよ」

著莪「だって佐藤は昔からブラが好きだったじゃん、ほら、小学校の修学旅行のちょっと前n「セガのゲームは世界いちぃぃぃぃぃ!!!!!!」

僕がセガのゲームへの気持ちを絶叫し、ゼーゼーと肩で息をする姿を見て著莪はアッハッハッと、笑う。

あの件のことを出されてはどうやってもアイツに太刀打ち出来ない、チクショウ… これ程までに若き日の自分を恨む日が来ようとは…



18 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/01/26(木) 11:15:42.74 ID:zz82bxEp0

彼女の部屋に入りタンスの1番上の真ん中の引き出しを開ける。

え~と… あった、これだ。

首尾よく目標を確保、……しかし著莪のやつ、いつの間にこんな立派に成長したんだろう

その、 ……乳房的なものが。

アイツは最近のその種の高性能サイズ偽装商品などではなく実力と素質でこの高みまで上り詰めたというのか!? 

我が従姉弟ながらすげえ…… 

改めて手にしているブラのサイズを確認する。

一瞬、見間違いかと思い視線を外して深く深呼吸、スーハー………落ち着け、まだ慌てるような時間じゃない。

再びソレに目を向ける… うん、間違いなくデカイ。

ここ半年で驚異の成長振りだ、…さすがはイタリア人とのハーフ。

純正の日本人でこのサイズに到達する者は多分少ないんだろうな…



20 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/01/26(木) 11:23:37.74 ID:zz82bxEp0

佐藤「ほら、コレで良かったんだよな?」

著莪「うん、これこれ。サンキュー」

脱衣場のカーテンの端から顔と手だけを出し、ブラを受け取る著莪。

著莪「なーんかちょっと遅かったからてっきり私のパンツでも被って『変態仮面参上!』とかやってるのかと思ったよ」

佐藤「さすがにそこまではちょっと…石岡君じゃあるまいし」

著莪「そうだよね、石岡の奴じゃあるまいし、佐藤はそこまではしないか」

実は割と本気でやってみようと思ったりしたんだけどね…

石岡君が昔、身体測定のときに、かの有名な三沢の乱で一躍世界にその名を知らしめた三沢君の白ブリーフを被り、『変態仮面参上! うっ… ブリーフのせいでパワーダウンが…』とか、やっていたのを思い出し正気に戻る事が出来た。

ありがとう、石岡君。ありがとう、変態仮面。おかげで僕は人の道を踏み外さずにすんだよ。


著莪「とか考えてない?」

佐藤「…」

僕の従姉弟はエスパーなのか?



21 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/01/26(木) 11:38:27.96 ID:zz82bxEp0

登校時の日課である、あの鉄壁のスプリガンとの壮絶なバトルを終えて自分のクラスの教室へと向かう。

今日もまた生徒会長の沢桔梗さんと副会長の沢桔鏡さんが止めてくれたおかげで何事も無く終わったが、いずれオッちゃんとは決着をつける日が来るだろう。

そうなれば無論、僕も無傷では済むまい ……具体的に言うとケツが。

教室の扉を開けると今日も著莪の周りに例の三人がたむろしているのが見え おっと、今日は2人か… クックックッ、バカめ、まんまと罠に掛かりやがった。

僕は常日頃から自分の席に勝手に誰かが座らないようにアレ仕掛けているのだ。

著莪の前の席に行きイスから残りの画鋲を回収して座る、すると斜め後ろの席に座っていたあせびちゃんが「おはよう~」と、いつもと変わらぬ笑顔で挨拶してくれる、相変わらず帽子の猫耳が動いていた。

そんな彼女に挨拶を返し空の鞄を机の横に掛けると後ろの席でなんとか2人を捌いていた著莪がやって来て僕に耳打ちする。

著莪「遅いぞ佐藤、朝話した通り実行するからな」

言うが早いか、彼女は家でいつもやっているみたいに後ろから抱きつくと僕の肩に自分のあごを置いてくつろぎ始めた。

教室の和気藹々とした空気が一瞬で凍りつが、すぐにチャラ男3人を始めとしたクラスの男子達から発せられる怒気のおかげで氷解してゆく。

女子連中はヒソヒソと時折こっちを見ながら会話しているし…… クラスメイトからの熱い(男子からは殺意の篭った)視線を全身に浴びながら僕は朝に著莪と交わした会話を思い出していた… 



著莪「最近いい加減、あの3人に付き纏われるのが億劫になってるんだよ、あいつ等しつこ過ぎ…」

佐藤「ああ、あの他のクラスのチャラそうな奴等のこと?」



22 >>2 1 凍りつが→ 凍りつくが 2012/01/26(木) 11:46:47.30 ID:zz82bxEp0

佐藤「高校に限らず昔からあんな感じのが少なからず居ただろう、今迄みたいに何とか出来ないのか? 」

著莪「大抵のやつ等はやんわりとお断りすればそれまでなんだけどね… あいつ等のしつこさは石岡並みなんだよ」

佐藤「だったら警備員のオッちゃんに報告したらどうだ?単1電池片手に迅速に排除してくれるんじゃないか?」

著莪「それも考えたんだけどね、なんか丸富に入ってから急に私に寄ってくる奴が増えたと思わない?」

佐藤「…確かに、でもしょうがないんじゃないか? お前ってその容姿だから目立つしさ」

著莪「…」

佐藤「小中学校のときは周りの面子がほとんど代わることが無かったから1回断られた奴はそれっきりだっけど高校は、ほぼ全員が初対面だしな」

著莪「この際、あの3人も含めてよってくる連中を一掃出来ないかな?」

佐藤「それだと対象が多いからいくらオッちゃんでも難しいだろ」

佐藤、著莪「「う~ん…」」


こんな感じの会話がしばらく続き、結局対策として著莪が打ち出したのは… 僕と家でいつもやっている事を学校でもしよう。コレだけだ。



23 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/01/26(木) 11:57:02.87 ID:zz82bxEp0

著莪「ほら、私もさすがに学校とかではやんなかったっしょ?だからソレをすればちょっとは効果があるかなって」

言われてみれば家や部室で2人きりの時以外は抱きついてきたりしなかったな…

佐藤「僕は構わないけど、ホントにそんな事で効果があるのか?」

著莪「よし、そんじゃあ決まりって事で!」

佐藤「お前が良いと言うならいいけどさ…と言うか、そろそろ僕の膝の上から降りてくんない?」

著莪「なんだよ~人の髪に後ろから顔突っ込んでクンカクンカしてる佐藤に気を使って動かないでやったのに~」

佐藤「…ってのは嘘でホントのところは?」

著莪「ココ座り心地がいいんだもん♪」


以上、回想終わり。なるほど… それでか。

家でいる時と同じようにって条件だし… なら特に構うこともないかな。



24 30分ほど席を立ちます、 残ってたら続きをやります 2012/01/26(木) 12:05:36.64 ID:zz82bxEp0

僕は著莪に構わず、あせびちゃんと昨日のスーパーでのことを話した。

あの後、大猪が1度に3人も現れて狩場が地獄絵図と化した事や、先輩がいつまで経ってもトイレから出てこないので泣く泣く放置して帰った事… 等々。

そんな他愛も無い会話を続けていると著莪はいよいよ家で居るときのようにリラックスしてきたらしく僕の顔に頬ずりをし始めた。

それを目撃していたチャラ男3人組がすごすごと教室から出て行くのを視界の端で確認する。

あと、どうでもいいが先ほどから教室の後ろの方で、ついこの間ファミ部に入部してきた山崎君が青い顔をして壁を殴っている。

時折、コレは夢だ… 夢に違いない… 早く覚めなきゃ… と、ブツブツ呟いているのが地味に怖い…

それともう1つ、ちょっと前から僕の耳には幻聴が聞こえていた。

具体的に言うと、校門の警備員詰め所の中で今まさにこの教室の様子をモニター越しに目を血走らせながら見ている『奴』のものと思しき絶叫が…

「嘘やぁぁぁぁぁぁあ!!!!!!!、こんなん嘘に決まっとるぅぅぅぅぅぅぅう!!!!!!!」

「あのボンクラァァァァァ!!! 俺のあやめちゃんになんちゅー事をォォォォォォ!!!!!」

「そうか!アイツ何かあやめちゃんの弱みを握りそれにつけこんでこないな… こないな事!!!」

「うおおぉぉぉぉぉぉぉぉお!!!! 許さん!!もう許さへんでぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!」

「コイツには単1電池でも足りん!! バッテリーや!バッテリーでチャージしたるぅぅぅぅぅぅぅう!!!!!!!!!」

「捻じ込んだらぁぁぁぁぁぁぁァァァァァァァアァ嗚呼ァァあ!!!!!!!!!!!!!!」


うわ・・・すご… どこぞのスーパーの半額神が作る弁当名の非じゃないくらい『!』が大量に使用されている…



29 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/01/26(木) 12:40:47.11 ID:zz82bxEp0

佐藤「しばらく正門を通るのは止そう…」

今あのスプリガンに遭遇すると僕のお尻の門と直腸の形が変りかねない、 冗談抜きで……

著莪「何か言ったか?佐藤」

佐藤「そろそろ離れろよ、先生が来るぞ」

著莪「ん~…名残惜しいけどしょうがない、また休み時間にな」

当初の目的は達した訳だし、もうやる必要は無いと思うんだが…



なんだかんだで放課後。

僕は今部室塔の屋上に居る、…かれこれ1時間ぐらい。

昼休みに二階堂先輩かメールが入ったからだ。

《放課後ファミリーコンピューター部のある部室塔の屋上に来い》

用件だけのいかにも先輩らしい文だ、たまには絵文字でも入れればいいのに。

そんな訳で放課後、屋上に来るも先輩の姿はナシ。で、今に至ると… まさか今もスーパーのトイレに居るってオチじゃないよな?

♪~♪~

おや電話が…



30 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/01/26(木) 12:45:06.15 ID:zz82bxEp0

佐藤「はい、もしもし」

?『…』

佐藤「もしもし?」

?『…』

悪戯か?

二階堂『…1人置き去りにされた者の気持ちが分かったか?」

先輩だった… 昨日の事をかなり根に持っているようだ…

佐藤「お、お元気ですか…?」

二階堂『おかげさまで、心置きなく休めたからな… トイレで」

ご立腹のようだ、やはり著莪の言うとおり正露丸の差し入れをしておくべきだったのか?

二階堂『まあ、この件はコレぐらいで勘弁してやる』

本題に入ろう… そう言って先輩が話し始めた内容は新参の狼である僕にとって、とても興味を引くものだった。



31 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/01/26(木) 12:52:42.72 ID:zz82bxEp0

著莪「月桂冠?」

僕はファミ部であせびちゃんと『桃鉄』をしていた著莪に、先ほど先輩に聞いた特別な半額弁当の話をした。

著莪「ふ~ん、じゃあ今夜その店でそのお弁当が出るんだ…」

佐藤「絶対とは言い切れないみたいだけど毎年かなりの確率で月桂冠が出るらしいんだ」

佐藤「先輩の話だとガブリエルラチェットの人達が1時間おきに店に行って目標の弁当が残ってるかどうかチェックしてるらしい」

著莪「こんな事言うのはアレかもしんないけどさ… ガブリエルラチェット人達って暇人の集まりなのかな?」

佐藤「考えてみれば弁当1つに対して凄い労力が掛かってるよな…」

著莪「佐藤、今度それとなく聞いてみてよ」

佐藤「嫌だよ、メンバー全員が学生とかならまだしも、仮に無職の社会人とか居たらどうすんだ。気まずいって」

著莪「……確かに。げっ! またサイコロの目が1だ、これでもう10回連続だぞ。絶対これプログラムがバグってるって!」

あせびちゃんのアレのせいだろうな… と思いつつ僕もゲームに加えてもらう。 そして1時間後…


佐藤「………」

あせび「わぁ~ またサイコロの目が1だぁ、洋くんついてないね~」

著莪「アハハハ!13回連続とか出来すぎだって!」

僕がゲームに加わってからというもの、それまで著莪に憑いていたアレの効力が僕の方に移動したらしく…



33 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/01/26(木) 12:58:59.71 ID:zz82bxEp0

現在時刻は19時ジャスト。僕と著莪はとあるスーパーの前に立っている。

あと30~40分で半値印証時刻になる筈だった。

著莪「ココで間違いないよな?」

佐藤「ああ、間違いなくココが先輩の言ってたスーパーだ」

著莪「二階堂の奴、昨日の事まだ根に持っていて違う店を教えたとか無いよね?」

昼間の事があるから絶対とは言い切れないけど…


二階堂「ほう、俺はお前達からそんな風に思われていたわけか」

佐藤「!?」

著莪「き、来てたんだ!? てっきり昨日のアレで寝込んでいるのかなー?と…」

二階堂「そうだな、お前達からしてみれば敵は1人でも少ない方がいいからな」

佐藤「そ、そんな!敵だなんて… な、なあ著莪?」

著莪「うえっ!?こっちに振るなよ! こんなグラスハートどう扱えば、あ…」  

佐藤「あ…」

二階堂「…」



34 >>32 ありがとうございます 2012/01/26(木) 13:05:36.77 ID:zz82bxEp0

このあと赤鬼のような顔をした先輩の機嫌を取ることおよそ20分。なんとか人間の顔に戻ってくれた…

争奪戦の前なのにかなり消耗した気がする、著莪もゲンナリとしていたが…… そういえば今日の先輩はガブリエル・ラチェットのメンバーを連れてきていない、昨夜の一件で先輩の求心力が落ちてしまったのだろうか?

気を取り直して3人仲良くスーパーの自動ドアをくぐり店内へ…

入店するとさっそく狼達の殺気立った視線が突き刺さる。

佐藤「さすがに月桂冠が出るかも知れない時は空気が張り詰めてますね…」

著莪「すごい殺気だな」

二階堂「数は9といったところか…」

今からこの雰囲気を意識していたらとてもじゃないが身がもたない、僕は意識を店の方に向ける。

外観を見る限り比較的小さい店という印象を受けたが、店内に入ると思ったより広く感じる。その事を先輩に話すと…

二階堂「この店は確かに建物そのものは小さい、だから余り動くことのない商品を置かないことで陳列棚を少なくし、ゆったりとしたスペースを確保しているんだ」

著莪「ホントだ、生活雑貨なんてゴミ袋とか最低限の物しか置いてない」

二階堂「オープンしたての頃はしょっちゅう売れ筋をリサーチしては商品を入れ替えていたぞ、最近はそんな事は殆ど無いがな」



35 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/01/26(木) 13:11:36.19 ID:zz82bxEp0

佐藤「青果と鮮魚コーナーも無いんですね」

二階堂「この店の両隣がそれぞれ八百屋と鮮魚店だったろう?」

佐藤「ああ、そういえば…」

二階堂「だから最初からその2つは無い」

普通スーパーに来ると大抵青果コーナーから回り込むようにして弁当コーナーを目指すのだが… 心成しか少しさびしい。

会話をする事で幾分か緊張が和らいだ。

店の外周に設置されている陳列棚の前を通り奥へ行くと精肉コーナーが見える。

なんだか酷く懐かしいものを見たような気分だ。そしていよいよ…


二階堂「だがオープンしてから今まで変らないものが1つある、それが惣菜、弁当コーナーの規模だ」



37 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/01/26(木) 13:17:35.33 ID:zz82bxEp0

著莪「広いなぁ…」

二階堂「ホントは通常の店とそれほど変らない広さなんだがな、鮮魚コーナーが無いからそう感じるんだろう」

まるでマっちゃんの店に居るような… そう思わせるほど値札が書かれているプレートの数が多い。

1時間ほど前には様々な種類の惣菜が並んでいたことだろうが現在それらの場所に惣菜は殆ど残されていなかった、売れたのだろう。

二階堂「この場に広がっている揚げ物の残り香は腹の虫を刺激するにはもってこいだろう?」

佐藤「はい…」

著莪「腹減った…」

言った直後、腹の虫が空腹を告げる。

二階堂「ハハッ、聞くまでもなかったか。ほら、もう弁当コーナーの前だぞ」

いつものように立ち止まらずに横目で獲物を見定め、その足で近場の鳥棚に向かう。

二階堂「5つか…」

佐藤「全部、散らし寿司でしたね」

著莪「でも1個だけ違う容器のがあった…」

二階堂「それが毎年、月桂冠になる弁当だ」

佐藤「あれが月桂冠に…」



38 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/01/26(木) 13:23:05.44 ID:zz82bxEp0

5つの内4つは四角い容器に入ったもので、それにガリの入った小さい容器が付いていた。

そして残る1つは先程の四角い容器を3分の1くらいカットしたような大きさの容器が2段重ねとなっている、こちらにはガリの入った容器が付属していない。

肝心の中身については見ただけで違いが分かる、前者は散らし寿司の表面に桜でんぶがあり。後者… 月桂冠候補の弁当には桜でんぶ代わりにシラスがふりかけられていた。

二階堂「ココの半額神の作る散らし寿司弁当は月桂冠にならないものでも凄く旨いんだ、だから…」

佐藤「先輩、目の前により旨い弁当があるのにソレを置いて他を獲るなんて事…… 僕達がすると思いますか?」

著莪「佐藤、良いこと言った♪」

二階堂「…そうだな、悪かった忘れてくれ」

そう言うと先輩はククッと笑い、それにつられて僕と著莪も笑った。

もしかしたら先輩は初めて月桂冠を目の前にする僕達を少しでもリラックスさせようとしてくれているのかも知れない。

そのときバタンという音と共に店内に緊張が走る、著莪と2人で目配せをし先輩を見る、彼は無言で頷いた… ソレを見て確信する。

この店の半額神が降臨したのだ。

この位置から姿は見えないが、その行動は耳に入る音で容易に想像できる。

僅かに残った惣菜を棚に並べ直す音、油性ペンで値札に横線を引く音、ポケットから新しい値札を取り出すパサリという音。

半額神の足音が少しずつ弁当の置いてあるスペースに近づいてくる…… そしてついに半額神が僕達の前に姿を現す。

佐藤「お婆ちゃん?」



39 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/01/26(木) 13:29:35.13 ID:zz82bxEp0

二階堂「そうだ、あの人がこの店の半額神、正しくは毎年あの散らし寿司弁当を作るときだけこのスーパーにお出でになる1日半額神…山本櫻さんだ」

桜ではなく櫻という昔の字を名前に持つ割烹着を着たお婆ちゃんの半額神は柔和な顔でゆっくりと、しかし決して遅いとは感じないペースで弁当に半額シールを貼ってゆく。

そして最後に残ったあの弁当に割烹着のポケットから別のシールを取り出し、それを…

貼った!

その瞬間、店内が歓喜の気配で一杯になる。 

僕も、著莪も、先輩も、今この店に居るすべての狼達もこの瞬間が来ることを待ちわびていたのだ。

お婆ちゃんはポケットにシール等を仕舞うと、なぜか僕達の居る方に顔を向け… 微笑んでくれた。

著莪「佐藤… 今あのお婆ちゃん…」

佐藤「僕達に微笑んでくれたような…?」

二階堂「ほう、良かったな。お前達は半額神に気に入られたようだ」

佐藤「…」

著莪「佐藤、絶対にあの月桂冠は私達で獲ろうな」

佐藤「ああ、もちろん」

僕達は今まで以上にあのお婆ちゃんの作った特別なお弁当が食べたくなった。



40 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/01/26(木) 13:35:52.31 ID:zz82bxEp0

お婆ちゃん半額神の足音がスタッフルームの扉の前で止まる。おそらく店内の方を向いたのだろう。

続いて衣擦れの音、深々と1礼している姿が頭に浮かび…  自然、僕も頭を下げる。

顔を上げると隣で著莪もまた頭を下げていた。彼女は顔を上げ僕を見ると。

著莪「えへへ…なんか自然とこうなっちゃってさ」

佐藤「僕もだよ」

そうして僕と著莪はクスリと小さく笑った、お互いに気持ちは充実し、腹の虫の加護も十分。


半額神の足音がスタッフルームの向こうに消えてゆき、続いて扉が……


 ……閉まる。



41 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/01/26(木) 13:41:44.84 ID:zz82bxEp0

月桂冠を求めいるからか何時になく体が軽い、おかげでいち早く弁当コーナーの最前線にたどり着けそうだ。

すぐ後ろに意識をやると著莪と先輩が続いているのが分かった、今なら2人に邪魔されることも無いと思い月桂冠に手を伸ばす。おいおい、楽勝だな…  

だが後ろを気にしたその一瞬で他の狼達も最前線にたどり着いていた。

僕の手があと少しというところで横に来た男に弾かれ、さらに続いて背後から著莪のミドルキックが僕の脇腹に突き刺さる。

横に居た2人を巻き込みながら最前線から弾き出されてしまう、くそっ!

立ち上がろうとするも予想以上のダメージですぐに立ち上がることが出来ない… みんな月桂冠のおかげでいつも以上に力が出せるのか。

こんなのをあと2,3発も食らったら間違いなく戦闘不能になるぞ…

すでに4人ほどが乱戦の外に転がっていた、起きる気配が無い。

考えようによっては好都合かもしれない、今日の戦闘では攻撃を食らう=気絶、もしくは何らかの動けない状態に陥る訳だから敵は減る一方だ。

但し自分がそうなる可能性も十分あるので素直には喜べないが…



42 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/01/26(木) 13:47:35.52 ID:zz82bxEp0

こんな事を考えている間にもさらに1人脱落者が追加される。


これが普段ならこのまましばらく成り行きを見ている手もあるのかも知れない。

だが今日の獲物は月桂冠ただ1つ、こうしている間にもし他の誰かに取られてしまったら?

自分を叱咤し立ち上がる。よし、やれるぞ! 

思った矢先にまた1人、戦闘不能になった者が僕の前に横たわる。

そんな彼を飛び越え再び乱戦の中へ…

戦線復帰した僕はまず著莪を…… 後ろから攻撃しようとしていた長身の男に先程の著莪が僕にやったのと同じヤツをお見舞いした。

まともに食らい吹っ飛ぶそいつを見て、やはり今日はいつも以上の力が出せていることを実感する。 


これで残る狼は僕を含めて、あと5人。



44 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/01/26(木) 13:54:48.53 ID:zz82bxEp0

ゼーゼー、と肩で息をつく僕と著莪、あの後すぐに著莪と合流し共闘を提案すると既に幾つかの攻撃を受け、かなりダメージを負っていた彼女は共闘する事を承諾。

なんとか1人、倒すことに成功する。

残るは僕達2人と先輩、そして恰幅の良い大男の計4人。

さすがにここまで残るにあたって全員が満身創痍だ。

特に著莪の疲労は色濃く、月桂冠のおかげでパワーアップしている今日の狼の攻撃をあと1撃受けたら間違いなく立ち上がれないだろう。

著莪「私が二階堂と戦るよ、佐藤はあの大男をお願い」

佐藤「まあ、それが妥当だろうな…」

今のコイツに大男は荷が重過ぎるだろう、でも先輩相手なら何とかなるかも知れない。

二階堂「いいだろう、受けてやる。…来い」

著莪「佐藤、お前はちゃんと弁当獲れよ。 んで少しアタシにちょうだい。」

ハグしてやるから、そう言って彼女は僕の顔を見て微笑むと、次の瞬間には先輩に肉薄していた。

バシッ!と、著莪の放った拳を受け止める先輩。

うん、あれだけ動ければアイツは大丈夫かな… 僕は僕で、こっちを何とかしないと。



45 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/01/26(木) 14:00:58.59 ID:zz82bxEp0

今一度気を引き締め大男に向かう、見ると先程まで彼も肩で息をしていた筈だが今は落ち着いている。どうやら僕達が会話を交わしている間に呼吸を整えていたらしい。

彼がまず動く、その巨体の全体重を乗せた右フック。

その攻撃は例え月桂冠の懸かっていない状態のものであっても1撃で食らった相手を戦闘不能にするだろう。

ましてそれに今日のようにいつも以上の力が上乗せされているとすれば、おそらく即入院3ヶ月コースだ。

但し… 当たればだけど。

大振りの上に攻撃にいまいちキレが無い、幾ら表面上、呼吸を整えようとダメージは残ったままなのだ。

僕は勢いよく彼の懐へ飛び込み攻撃を無力化させると同時に目の前に迫るドテッ腹目掛けて渾身の1撃を放つ。

ドドン!!という音が店内に響き渡り大男の体がくの字に折れ曲がる、だが流石に恰幅の良い巨体なだけあって吹き飛ぶことは無くその場に崩れ落ちる。

素早くバックスッテプをとり押し潰されるのを回避。ふ~危ない… 



46 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/01/26(木) 14:07:12.13 ID:zz82bxEp0

倒した相手に押し潰されて弁当が獲れなかった、なんて事になったら著莪のやつにどれだけ笑われるやら…

これで残るは著莪と先輩と僕の3人か、ん? そういえば僕が放った攻撃は1発のはず… なのに効果音は複数形のドドン!!、一体何故?

…はっ!もしかしてスタンドか!?

そうか僕はいつの間にかスタンド使いとして覚醒していたんだ! やったぞ!

幼い頃から親父と一緒に血の滲むような訓練を重ね、足や背中を攣らせて床をのた打ち回った成果が今日…… ついに花開いたんだ!

佐藤「著莪、やったぞ!ついに僕にもスタンドが…」

そう言って振り返った僕の目に真っ先に飛び込んできたのはスタンドでも、ましてや足や背中を攣らせて床をのた打ち回る親父の姿でもなく…


店の床に横たわる従姉弟の姿だった。



47 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/01/26(木) 14:16:10.68 ID:zz82bxEp0

アイツが、あの著莪が倒された?しかもあの先輩に?

正直なところ先輩が著莪を倒すなんて想像もしていなかった、僕の中での先輩のイメージといえばガブリエルラチェットの人達をうまく使って半額弁当を獲るって感じで…

二階堂「狼として戦うのは久しぶりだが、やはり楽しいな」

佐藤「…」

二階堂「そうか、お前達は知らなかったんだな、俺も昔は1匹の狼としてスーパーを駆けていたんだよ」

そう言って先輩は笑った、これまで僕が見たことの無い… イキイキとした顔で。

二階堂「お前達には感謝しているよ、おかげでこうして最高の舞台で思い出すことが出来た、狼として戦う事の楽しさをな」

先輩のその言葉を聴いたとき不思議と、ある感情が僕の胸に沸いてくる。  …この人と戦ってみたい。 

佐藤「僕も… 先輩と、著莪を倒すほど強い先輩とこうして戦えるのが楽しみですよ」

二階堂「…そうは言っても、俺はもう余り体力が残っていない、お前もそうだろう?」

佐藤「さあ、どうですかね?」

先輩は、いや… 今や1匹の狼に戻った二階堂連は構えを取ると僕にこう告げた。 1撃勝負だ、と… 僕も構えてそれに答える。

佐藤「分かりました、手加減はしませんよ?」

二階堂「フン、生意気な後輩だな。もちろん全力で来い」


僕達は少し笑うと、お互いに深呼吸を1度…   次の瞬間、空気が振るえ店内に炸裂音が響き渡った。



48 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/01/26(木) 14:22:11.63 ID:zz82bxEp0

僕の拳は先輩の腹部に、先輩の拳は僕の顔に、それぞれ見事に極まっていた… だけど。

先に膝を着いたのは僕の方だった。

佐藤「いけるかと思ったんですけどね…」

二階堂「今に至るまでのダメージの蓄積が勝敗を左右したんだろう、ほんの少しお前の方が俺よりダメージを受けていたというだけさ」

佐藤「でもまだ立つ事ぐらいは出来ますよ…」

二階堂「しぶとい奴だな、だがその程度なら俺の勝ちだ」

佐藤「どういうことですか…?」

二階堂「俺は《ガブリエル・ラチェット》の頭目だ、そしてガブリエル・ラチェットに所属する者達は俺の命令を絶対に守る。例え床の上を這ってでもな」

佐藤「?」

二階堂「…ソイツを死んでも離すな」

瞬間、腰周りを締め付けられたような衝撃が走る。



49 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/01/26(木) 14:29:49.63 ID:zz82bxEp0

驚いて後ろを見ると先程倒した筈の恰幅の良い大男がうつ伏せのまま僕のズボンのベルトを掴んでいた。こいつ《ガブリエル・ラチェット》のメンバーだったのか!?

二階堂「悪いな、月桂冠は俺が頂く」

なんてこった!普段メンバーは常に先輩の周りにいたせいでそれがあたりまえだと勝手に思い込んでいた、普通に考えれば狼達の中に紛れ込んで居る事だって十分に考えられたのに…

先輩が月桂冠に向かって近づいて行く、その距離あと5メートル。

何か、何か方法は無いのか? 知恵を振り絞れ! 佐藤洋!!

先輩がまた1歩目標に近づく、あと4メートル。

駄目だ!諦めちゃ駄目だ! 某有名バスケットボール漫画の主人公チームの監督も言ってたじゃないか! 諦めたらそこで試合終了ですよ。って…

馬鹿な事を考えてる間に先輩が!先輩が!! あと3メートル!!!

思い出せ、親父も言ってたじゃないか、ゲームを途中で投げ出すのは最低だって。そう言う自分は白昼堂々、息子の前であんな事をしようとして危うく人生を途中で投げ出しかけたと言うのに…

ああ!?親父のせいで先輩がー!!! あと2メートル…

はあ~ なんか親父が出てきたおかげで逆に頭が冷えてきた気がする… ん? 変だな… 

そういえば僕もそれに先輩も月桂冠のおかげでいつも以上に腹の虫の力を引き出しているはず。

そんな状態の渾身の1撃をお互いまともに受けてなお、どうしてこんなに動けるんだ? 同時KOになっててもおかしくないはずなのに…

あと1メートル。



50 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/01/26(木) 14:36:46.78 ID:zz82bxEp0

自分の指が月桂冠の容器に触れるまであと数センチ… 二階堂連は勝利を確信していた。

今なら誰も邪魔するものは居ない。

最後に組織の力を使って佐藤を抑えた事に若干後ろめたさを覚えたが… 

一応は直接対決で佐藤を下した事を思い出し、まあ、良いか。という気分になった。

あとは狼なら1度は手にしたいといわれるこの月桂冠を…   


……そのとき彼は後ろの方で、ブチッ!という音を聞いた。


思わず音のした方に顔を向ける… 瞬間。   ………彼にかつて無いほどの衝撃が走る。 



気持ちの面と…  物理的な面の両方に。



51 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/01/26(木) 14:43:04.28 ID:zz82bxEp0

ドスンという音で私は目を覚ます、少しの間気を失っていたらしい。

確か二階堂の一撃を受けて… その割には余り体に痛みが無い。

そーいや昔、佐藤の親父さんが、ホントにいい所に1撃を入れれば案外簡単に人は気絶するんだぞ。とか言ってたっけ。

そのあと佐藤はその話が本当か嘘なのか石岡辺りで実験するんだとか言ってたな、結果はどうだったんだろう?

とにかく立ち上がんなきゃ・・・ よっと、さすがに弁当はもう無いだろうな… 

まあ、最悪、佐藤が獲ってればソレを分けてもらうかな、そんでもって約束通りハグしてやろう。

万一、ソレが月桂冠だったらどうしようかなぁ? そうだ、キスしてやろう。それも思いっきりディープなやつ♪

そんな事を考えながら立ち上がろうと目の前の陳列棚に手を伸ばす、すると何かが指先に触れた。

なんだろうと思い、触れたソレを手でしっかりと掴む。

手触りからすると… どうやら弁当の容器らしい。


著莪「おっ! 残ってたよ、ラッキー♪」



53 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/01/26(木) 14:50:13.64 ID:zz82bxEp0

スーパーを出てすぐの所で先程買った荷造り用の紐をベルトの代わりにズボンに通して結ぶ、これでひとまずは良いだろう。

ガラス越しに店内を見ると何処に居ても目立つ偽物みたいに綺麗な金髪頭の従姉弟が弁当をレンジで温めながら、お婆ちゃんの1日半額神と楽しそうに話しているのが目に留まった。

本当は自分も一緒に話をしたいところだが、そこは今回の絶対的勝者である彼女の特権だと思いやめておく。

そう、アイツは僕の意図した通り月桂冠を手に入れたのだ。

いくらダメージがあったとはいえ戦う事を最優先にして腹の虫の加護を失っていた先輩の攻撃がそこまで著莪に効いたとは思えなかった。

たぶん昔親父が、ホントにいい所に1撃を入れれば案外簡単に人は気絶するんだぞ。とか言ってた通り先輩の1撃がピンポイントで決まったんだろう。

あの話を聞いた後、散々石岡君を使って実kゲフンゲフン…石岡君と協力して調べた結果、親父が言っていた事は真実だと突き止めた僕が言うんだから間違いない。



55 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/01/26(木) 14:56:43.83 ID:zz82bxEp0

それにしてもアイツが目を覚まし、何の気なしに半額弁当の1つを手にしたときは、あせびちゃんにお守りが無いときに抱きつかれたとき並みに冷や汗が出たが…

しかしそこは流石というかなんと言うか。

手に取ったのは月桂冠だった。

その幸運があれば、お守り無しであせびちゃんに対抗出来るのではなかろうか?

おっ、温めと話が済んだらしい。ん?著莪の顔が心なしか赤いような…あっ、お婆ちゃんが僕の方を見て微笑んでくれた。

軽く頭を下げながら思った、やっぱり話をしてみたかったなぁ……

ところで、何か忘れている気がするんだけど…… 確か昨日もスーパーで…

「お待たせ♪佐藤、行こう。腹減った」

著莪の声で思考は途切れてしまう、まあ、いいや。

そんなに大切な事ならきっと思い出すだろうし、このまま思いださないようなら… それはさして重要じゃないんだろう。



56 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/01/26(木) 15:03:33.22 ID:zz82bxEp0

結局、家に帰るまで我慢できそうに無かったのでスーパーから少し行った所にある公園で夕餉にすることになった。

著莪「おっ、ベンチ発見」

周辺に街灯は無いが月明かりがあるので問題なさそうだ。

著莪「満月の明かりの中での食事とかシャレてるじゃん、しかも桜の花が残ってるし花見も出来て一石二鳥。ココにしようよ佐藤」

佐藤「そうだな、空腹も限界だし…」

花より団子ってやつ?、そんなやり取りをしながらベンチに腰を下ろしレジ袋の中身を確認、袋の中には三つの容器が入っている。

その内の二つはメインの散らし寿司、どちらも外見上はさして換わらないように見える。

残りの一つは半額神がレジで直接入れてくれたらしい、お手製のガリか…

弁当は片方だけを温めるように半額神から言われたそうだ。

著莪「じゃあ、まずは温めた方の容器から開けよっか…」

著莪はそう言うと温めた方の弁当を取り出しフタを開ける

湯気とともに美味そうな匂いが広がった。 しかし、この香りは…?



57 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/01/26(木) 15:12:21.87 ID:zz82bxEp0

著莪「んじゃ、お先に。いただきます!」

佐藤「きっちり半分ずつだからな。食い過ぎるなよ…」

著莪「わかってるって」

言い終わるや否や一口…

佐藤「…」

咀嚼する彼女の横顔を凝視する、1秒が1分にも1時間にも感じられた…  遅い… 

なぜ何かを待っているときは時間の経過が遅くなるように感じるのだろうか…

例えば修学旅行の夜、広部さんのグループの部屋を覗kゲフンゲフン、遊びに行こうと画策してみんなが寝静まるのをを待っていたとき然り…

石岡君の家の玄関に仕掛けたトラップに石岡君が引っかかるのを今か今かとワクワクしながら待っていたとき然り…

まさか…スタンド? スタンドの攻撃を受けているとでもいうのか!?

なんてこった、今までまったく気づかなかったぞ。チクショウ… 

かくなる上は僕のジョジョ立ちで…

著莪「はい、こんどは佐藤が食べる番…… なにしてんの?」

佐藤「いや… スタンドがいたんでジョジョ立ちを…」



58 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/01/26(木) 15:18:30.34 ID:zz82bxEp0

著莪「はあ?」

著莪はいつのまにか食べ終わっていた。 が… 僕の気のせいだろうか?

彼女のひざの上に置かれた弁当容器の中身はすでに半分以上が無くなっているような…

僕がほんの少し考え事をしている隙に半分以上も食われている… だと…

佐藤「貴様、もしや…」

著莪「あ~はいはい… スタンドでもジョジョ立ちでもなんでもいいから。いるの?いらないの?」

佐藤「いただきます!」

著莪「ん、オッケー、はい、あ~ん」

佐藤「あ~ん…」

口に入れた瞬間、香りの正体の予想は確信に変わる。

この散らし寿司は …お酢の代わりに柑橘類の絞り汁を使っているのだ。



60 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/01/26(木) 15:23:23.04 ID:zz82bxEp0

だから容器のフタを開けたときに酢の匂いがしなかったわけだ。

容器の原材料表を見ると[完熟スダチ絞り汁]と、ある。

なるほど、よく熟れたスダチを使用しているから酸味がありながら甘みもあるわけか… 

さらに咀嚼する。

定番の具であるレンコン、我が家で食べていた歯ごたえの無いものとは違いコリコリとした歯ざわりがあるのがうれしい。

他に甘く煮付けてあるカンピョウ、シイタケ。

彩を豊かにするために細かく刻んで入れてある人参、煎りゴマに錦糸卵…

そして仄かな塩味のシラス…だがここで飲み込んでしまった。

すぐさま横を向き口を開ける、すると著莪が絶妙のタイミングでつぎの分を差し出してくる。

間髪いれずにそれを食べる…どちらかといえば比較的甘い味になりがちな散らし寿司。

だがそれに塩味のついたシラスを加えることで上手く釣り合いが取れるようにされていて、甘味と塩味の相乗効果でさらに次が食べたくなる。

僕は2口目を飲み込むと急いで横を向き、著莪に次を口に入れてるよう催促した。



61 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/01/26(木) 15:31:15.47 ID:zz82bxEp0

著莪「よし、じゃあ次はコッチね」

僕が食べ終えると彼女はすぐにレジ袋からもう1つの弁当を取り出そうとする、…だが2度も先手を渡すわけにはいかない。

佐藤「待て、こんどは僕が先に食べる」

著莪「え~」

ブーブーと抗議の声を上げる著莪を無視して温めていない方の弁当を手に取る。

著莪「きっちり半分ずつだからな!」

佐藤「わかってる」

先ほどのやり取りの逆を言い合い一段落ついたところでフタを開ける

こんどは湯気もなく温めていないのでそこまで柑橘系の香りはしない。

散らし寿司に箸を入れて一口分を取り、口に運ぶ。

暖めていないので先程のようにフタを開けただけでは香りこそあまりしなかったものの、やはり口に入れるとスダチの酸味と甘味が口の中に広がる。

冷めている分こちらのほうがより味がわかりやすいようだ、最初に食べたほうに比べてスダチの甘味をよく味わうことができる。

うん、こっちも旨い。



62 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/01/26(木) 15:37:53.31 ID:zz82bxEp0

けれど甘味が強くなった分、シラスの塩味だけでは足りない。

口の中が甘い散らし寿司の味に支配されてゆく、塩味。…もしくはピリリと締まるような辛味がほしい。

そうだ、ここであの付け合せのガリを…

袋からガリの入った容器を取り出してフタを開ける、ショウガ特有の匂いが鼻をついた。

早速それを1切れ口に入れると酸味と塩味が広がる… それも普通のガリより味が濃厚だ。

この味は……梅酢!

この弁当専用にお婆ちゃん半額神が自ら作った梅酢… それにショウガを漬け込んだ特製のもの。

確かにこれなら冷えて甘味が強くなった酢飯の味にも負けることはないだろう。

いや、むしろさらにメインの散らし寿司に箸が伸びる.



63 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/01/26(木) 15:42:21.44 ID:zz82bxEp0

著莪「お、おい、佐藤! 私の分まで食べんなよ!」

止められて気がついたときには弁当は半分ちょっと無くなっていた、…さすがは月桂冠、一味も二味も違う。

著莪「こんどは私の番だかんな!」

そう言って口を開ける著莪… 

佐藤「……なにやってんだ?」

著莪「さっきやっただろ?… あ~ん、だよ。あ~ん」

ああ… 思い出した

佐藤「はいよ… ほら、あ~ん」

著莪「あ~ん」


こうして僕達はそろって月桂冠を堪能した。



65 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/01/26(木) 15:53:53.31 ID:zz82bxEp0

佐藤「あ…」

著莪「どうした佐藤?」

佐藤「食べるのに夢中でお花見って感じじゃなかったなって…」

著莪「あ~ホントだ、すっかり忘れてた」

佐藤「まさに花より団子」

著莪「アハハッ、じゃあ今からやる?」

佐藤「もうなにも残ってないんだが」

著莪「飲み物だけで良いんじゃない?」

佐藤「僕は全部飲んじゃったよ、今から買いに行くのも面倒だし…」

著莪は立ち上がるとこちらを向いて、しょうがないな、私が買ってきてやるよ。何がいい?…そう僕に聞いてきた。

本日最高の笑顔で…



66 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/01/26(木) 16:01:31.47 ID:zz82bxEp0

満月の明かりに照らされた笑顔の彼女は舞い落ちる桜の花びらと相まって思わず見とれてしまう…

佐藤「…お言葉に甘えます」

著莪「うん、素直でよろしい♪」

そう言って彼女は走っていった。まだ僕が何を飲むか聞いていないのに…

まあ…任せても大丈夫だろう、お互い相手の好みは把握しているし。

近くの桜の木下がちょうど芝生だったのでそこに寝転がる、脳裏には先程の著莪の笑顔が焼きついていた。

出来ることなら時間を巻き戻してもう一度あの笑顔を見たいと思ったが。時は残酷である…

学校でもよく告白されていたし、やっぱりアイツは美人なのだろう。

今までずっと一緒にいたせいであまり意識する事も無かったんだけど…すごく綺麗だった。

なんというか、心を奪われるっていうのはこういうことを言うのだろうか?

目をつぶって暫し考える。



そして思うのだ。……これは、やられたかもしれない、と。



67 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/01/26(木) 16:07:13.53 ID:zz82bxEp0

スーパーの床で目を覚まし今日ココに居たメンバー全員に帰路につくよう指示をだしていると著莪あやめに会った。

著莪「あれ、まだ居たんだ?」

二階堂「最後に佐藤の捨て身タックルを受けてな、情けない話だが少し前までソコの床の上で伸びていた」

著莪「ああ、そういえば私等がレジに行くときに伸びてたっけ」

二階堂「丁度良かった、お前達に話したい事があるんだが。…佐藤はどうした?」

著莪「レイクパークって公園に居るよ、これからお花見の予定なんだ。私はその買出し、二階堂も来る?」

二階堂「そうだな、行こう… 2人揃っていた方が都合が良い」

著莪「もしかして愛の告h「ちがう狼としての話だ」

著莪「そんなに邪険にしなくてもいいじゃん」

本当に物怖じしないヤツだ、誰とでも気さくに話しすぐに打ち解けるようだし。

《ガブリエル・ラチェット》のメンバーの中にもコイツに好意を寄せている者が多いようだが。

…アイツが居るのではそれも叶わないだろう。



68 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/01/26(木) 16:12:20.80 ID:zz82bxEp0

著莪「あれ?佐藤が居ない、このベンチに居たはずなんだけど。…ひょっとして拉致されたかな? コイツの親父さんが北と接触があるってこの前聞いたし。」

さり気なく危ない事をいう奴だ、それに北と言っても色々ある。 ……まさかあの国、…無いな。

著莪「居た居た、そこの桜の下で寝ている」

夜の公園に男子高校生が1人、芝生の上で寝転がっているのはシュールだ。

佐藤「zzz」

二階堂「お疲れのようだな…」

著莪「そうみたいだね…」

起きる気配は無し、…か。

著莪「よいしょっと。ふぅ… 人間の頭って重いんだな、動かすのも一苦労だよ」

……前から思っていたがコイツ等は本当にただの従姉弟なのか?どう見ても…

二階堂「仲が良いんだな」

著莪「そうかな、普通だと思うけど?」

普通、従姉弟同士というだけであたりまえのように膝枕はしない筈だが…

まあ… 自覚の無い者にいくら言っても無駄か。



69 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/01/26(木) 16:17:49.52 ID:zz82bxEp0

著莪「なんか言いたそうな顔してるけどさ…」

…顔に出ていたか。

著莪「そんなふうに自分の言いたいことを言わずにいるとそのうち後悔する事になるかもよ?」

ふん、…馬鹿なことを。

著莪「例えば好きな人を他の誰かに取られるとか」

二階堂「なっ!?」

著莪「…ひょっとして図星?」

二階堂「…」

著莪「わかりやすい奴だな~ もう少し突っ込んで聞きたいとこだけど…」

二階堂「……」

著莪「今日は止めとくよ、ところで話って何?」

空気も読めるようだな、…助かったが、もう話をする気分ではない。

二階堂「今日はもういい、俺は帰る…」



70 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/01/26(木) 16:23:01.23 ID:zz82bxEp0

あらら… ホントに帰っちゃった、すげー動揺してるみたいだな。

ココに来たときと帰る方向が逆だし、このあと公園の外周を迂回してバイク取りに行くんだろうな…


佐藤「zzz」

それにしても、…よく寝てるな。

著莪「佐藤…ホントに寝てる?」

佐藤「zzz」

著莪「ふっふっふっ、コノコノ~」

佐藤「う…んん…」

これだけいじっても起きないとは…

はっ!しまった、二階堂に油性ペンを持ってないか聞いとけばよかった。

せっかくこんなに無防備に寝てるんだから額に肉って書いてやる絶好のチャンスなのに。


そういえばコイツに今日のお礼をしてなかったな、え~と、確か月桂冠ならディープキスだっけ?


でも結局、実際に月桂冠を獲ったのは自分で、佐藤はアシストだったし …普通のキスいいか。



71 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/01/26(木) 16:28:35.20 ID:zz82bxEp0

公園の外周を歩きながら二階堂は呟いた。今日は厄日だ…と。

スーパーでは佐藤に背後から捨て身の一撃を受けたおかげで気絶してしまい月桂冠はおろか惣菜すら取れず…

公園では著莪あやめに古傷を抉られ…

おまけに、…コイツと鉢合わせするとは。

毛玉「まあ、人生そんな日もあるって、元気出せよ」

自称、歩くニュースペーパーを謳ったおり、サングラスにアフロヘアーがトレードマーク。

こんな時には絶対に会いたくない相手だった…

二階堂「黙ってろ、《毛玉》」

毛玉「つれねーなー兄弟、そんなにあの子に言われたことが効いたのか?」

二階堂「なっ!? お前見ていたのか?」

毛玉「ああ、バッチリとな。最近話題の美人ルーキーと《ガブリエル・ラチェット》の頭目であるアンタのツーショット。情報屋としては興味深かったんでね」

こんなふうに妙なところで鼻が利くからイヤな奴なのだ。



73 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/01/26(木) 16:36:30.49 ID:zz82bxEp0

毛玉「しっかしあいつ等にはたまげたぜ、いきなり膝枕かと思えばトドメのチューだもんな~」

二階堂「語尾を延ばすな気色悪い。あと、そんなとこまで見てたのか?…悪趣味だぞ」

毛玉「なに言ってんだか、アンタだってガン見してたろ?」

二階堂「ガン見はしていない…」

毛玉「見てはいたよな?」

二階堂「…」

そうなのだ、あのとき二人と別れてすぐに自分がバイクが置いてある所と反対の方角に来ていると気づきバツが悪いが引き返した。

そして少々遠めではあったが見てしまったのである…

著莪あやめが佐藤にキスをしているのを。それも結構長い間…

満月の明かり、桜の花びらが舞散る中でのその光景は彼女のボリュームのある金髪と相まって、まるで映画のワンシーンを見ているかのようだった。

毛玉「噂ではただの従姉弟って話だったが、どう見ても恋人同士… いや、あれは夫婦だな」

二階堂「それについでは俺も同意見だな」

毛玉「でなけりゃ、あんなに長いことブチュ~とはやらないよな」

口をタコのように突き出しながら毛玉は言う。

こんな奴と意見が合うのは甚だ不本意だがしかたあるまい、 …あんなことを平然とやってのける佐藤達の方がおかしいのだ。



74 >>72 クリスマスのやつならそうです 2012/01/26(木) 16:41:33.03 ID:zz82bxEp0

毛玉「それはそうと、二人への話とやらはなんだったんだ?」

二階堂「あいつ等のデビュー後の戦績は聴いているか? 正確には著莪あやめの方だが」

毛玉「5戦4勝だったか? 男の方は5戦1勝だが…女の方は間違いなく大物ルーキーだよな。」

二階堂「唯一の1敗はあいつ等のデビュー戦で《死神》が降臨した為だ、ちなみに佐藤の唯一の1勝がその時のもの」

毛玉「2人合わせて5戦全勝、今日の勝利も合わせて6戦全勝か… まあ、男の方は戦績もさほど芳しいとはいえないし、並みの狼がいいとこだろう」

二階堂「著莪あやめは今までの戦績だけでも十分評価に値するが、加えて今日の月桂冠」

毛玉「おい、まさか、お前…」

二階堂「二つ名を与えられるには十分だ」

毛玉「…そうだな、デビューしてから6戦中5勝、内1勝が月桂冠。1週間でというのは異例の早さだが、狼は実力がものをいう世界だからな… 良いんじゃねーか」

毛玉「しかし《ガブリエル・ラチェット》の頭目であるアンタがここまでご執心とはね」

二階堂「今回、ガブリエル・ラチェットは関係ない、俺個人としての興味だ」

毛玉「だが周りの連中はそうとは取らないかもしれないぜ?」

二階堂「そんな輩もあいつ等とやりあえば納得するだろう」

毛玉「確かに」

なにせ自ら《帝王》の犬であることを受け入れていた俺に再び狼としての気持ちを芽生えさせた奴らだからな…



75 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/01/26(木) 16:49:11.81 ID:zz82bxEp0

毛玉「で、肝心の二つ名は何にするんだ?」

二階堂「一応本人にも希望を聞こうかと思っていたんだが、もう必要なくなった」

毛玉「どんな名前なんだ?」

二階堂「今回はひとまず、より実績のある著莪あやめにのみ二つ名を付けることにする」

毛玉「勿体ぶんなよ」

あの人目を引く容姿、はじめて獲った月桂冠を食べていた公園の名前…レイクパーク。


加えて先ほど自分が見た光景で自然にソレが頭の中に浮かんだ。



「《湖の麗人》」



76 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/01/26(木) 16:54:50.95 ID:zz82bxEp0

明後日にはこの周辺じゃあ、知らないやつは居ないってぐらいに広めまくってやるよ。毛玉はそう言って愛車のスーパーカブに乗り行ってしまった。

こんなときは、やたらと騒ぎ立てるアイツは便利なものだ、おそらく奴が言う明後日にはこの周辺はおろか西区、ひょっとしたら隣町の狼達の耳にも入っているかもしれない。

結局、毛玉には話していない事のほうが多かったのだか本人が満足して帰っていったのだからこれで良いだろう。

佐藤達にはもう一つ話す予定だったものがある、帝王率いるガブリエル・ラチェットが計画している例の作戦のこと…

だが、今は話さずに済んで良かったと思っている。

佐藤達のことだ、きっと話を聞けば何らかの形で首を突っ込もうとするに違いない。

あんな個人の欲望を満たすためだけの計画にあの若い2人を巻き込みたくはなかった。


それともう一つ…

毛玉の奴は佐藤の方は並の狼がいいとこ、と言っていたが、あの二人の戦いをデビュー戦以外の戦闘すべてを間近くで見ていた俺の意見は違う。



77 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/01/26(木) 16:59:55.77 ID:zz82bxEp0

確かに初めてアイツ等の戦いを見たときは自分も毛玉と同意見だった。

著莪あやめは獲物である半額弁当を常に意識して戦っているが佐藤の方はエンジンのかかりが遅いタイプなのか、よく被弾したり、弁当コーナー最前列から離れるように動いたりと効率が悪い。

当然それが結果に現れる。ただ、…違和感が少し。

そして二度目実際に争奪戦の中に入り佐藤を観察しているとなんとなく違和感の正体が分かる。

ある時点から佐藤の動きが格段に良くなったのだ。そう、…彼の従姉弟、著莪あやめが獲物を獲った時を境にして。

その時点でかなりダメージがあるにも拘わらず、脅威的なタフさだ…おそらく見た目以上に体は鍛え上げられているのだろう。

次の日から、そのコトを意識して佐藤を見ていると、やはり 少なくとも自分の目には佐藤が常に著莪あやめが動きやすいようにサポートをしているように見えた。

もちもんあからさまにではなく、こちらが余程注意して見ていなければ分からない程度の些細なこと。

だが、その程度の些細なことで結果が変わるのがあのフィールド。佐藤の行動により、確実に著莪あやめは戦いやすくなっている。

普通あの場では他の人間を助けている余裕は無い筈だ、…それでもアイツはそうする事があたりまえの様に。

なんとも微笑ましいものだ、ただの従姉弟の為に自分のことを後回しにするとは。

今は自分とガブリエル・ラチェットのメンバーで袋叩きに出来ているが、今日のように直それでも抑えられなくなるだろう。

もし佐藤の奴がこの先さらに実力をつけ従姉弟に構う事がなければ…

あの《魔導士》とも互角以上に渡り合えるかも知れない。



78 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/01/26(木) 17:05:24.00 ID:zz82bxEp0

自分の憧れであり想人でもあった《女帝蝶》を倒した、あの最強の狼に勝てるかもしれないと思った自分に驚く。

しかもそれを成し遂げるかもと考えた人物は現、東区最強の狼《帝王》こと遠藤 忠明ではなく、新人の狼、佐藤 洋なのだ。

まだ1勝しかしていない目立った活躍も無い、ただの狼。

だが不思議とそれを疑う気は起こらなかった、何よりもなぜこうも自分の心が躍るのか?

思わずニヤケそうになるが何とかこらえる。

夜に公園の前で1人薄ら笑いをしている男など… 誰かに見られたら即座に通報されかねない。


最初は面白い新人が居ると聞いて、あの計画に加担しているというストレスから少しでも離れたい… 気晴らしになればという程度の軽い気持ちで見に行っただけ。

それが今はどうだ、あの暗澹としていたつまらない毎日が嘘のようだ。あいつ等が現れなければ自分はこの先どうなっていたことだろう…

まったく、大変な後輩が出来たものだ。



79 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/01/26(木) 17:10:16.55 ID:zz82bxEp0

バイクの元に行きヘルメットを被る。と、そこでなぜか今日スーパーで意識が薄れる直前に見たアイツの姿を思い出した。

ベルトを引き千切ったおかげでズボンがずり落ちパンツ姿を衆目に晒していた佐藤の姿を……


今度はダメだった、笑いを堪えきれずに盛大に噴出してしまった。

しかも間の悪いことに通行人の女子高生が自分の目の前に3人… 内2人は顔を青くして立ち尽くし、残る一人は今まさに文明の利器である携帯電話を取り出そうとしている。

まず弁解しよう頭では考えているのに体の方はまるで独自の意思を持つかのように、急いでバイクに跨りエンジンを指導させるとウイリーをかましかねない勢いで…   逃げた。

後方で「もしもし、警察ですか?今レイクパークっていう公園の前で不審者が…」とか聞こえた気がする、いよいよマズイ…

日本は世界に誇る法治国家で、その象徴たる警察は市民の味方で頼もしい存在だ。…犯罪者には容赦しない。

くそっ!どうしてこんなことに!? ともかく今は一刻も早くこの付近から離脱しなければ、…テレビか新聞の地方ニュースに名前が、…下手したら顔が写るかも知れない。


事の元凶である佐藤の顔を思い浮かべる。先ほどの良い印象はどこへやら、今は忌々しい顔という印象しかなかった。

今度会ったら、今回の腹いせにアイツのことを《変態》と呼ぶことにしよう。

二階堂連はそう強く決心してアクセルをさらに開ける、先程からパトカーのサイレンがどんどん近づいている気がした。


…はたして自分は無事にこの難局を乗り切れるのか?

嫌な汗を流しつつ、二階堂連という名の狼は夜の街を駆ける。



80 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/01/26(木) 17:16:35.35 ID:zz82bxEp0

著莪「やっぱり出来過ぎだよな…」

著莪あやめは呟いた、場所はこの春から住んでいるアパートの一室、佐藤の部屋のベッドの中である。

あのあと寝ている佐藤で遊んでいたらさすがにやりすぎたのか彼が起きてしまい結局ココに帰ってくることに相成ったのだ。

横を見るとこの部屋の本来の主である従姉弟が寝息を立てていた。

帰宅後、シャワーを浴び、いつもどおりコイツに髪をやってもらいベッドに入る。

シャワーを済ませ自分の部屋にきた佐藤だったが余程疲れていたのか何も言わずにベッドに入り、すぐに寝てしまった…

その彼の顔を見つめながら彼女は思い出す、今日スーパーで二階堂に捨て身の攻撃を加えた後によろよろと立ち上がった彼の姿を。


決まったと言わんばかりの顔をして親指を立て………  ズボンがずり落ちたせいでパンツ姿を衆目に晒していた従姉弟の姿を。

やばい、思い出したらまた笑いが… こんなときはアレだ、佐藤の親父さんのことを思い出すんだ!

「…」

オーケー、収まった。



82 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/01/26(木) 17:23:34.40 ID:zz82bxEp0

再び横に居る従姉弟の顔を見ながら考える。

自分で言うのもなんだが私はそこらの男子より遥かに強いと思う、だからスーパーでも正直そこそこは勝てると考えていた。

自分の予想では2回に1回は勝つ感じ、それが今のところ5戦4勝… 唯一弁当が獲れなかったときもあせびが居たからであって負けたという感じじゃないし。

著莪「これってやっぱりお前のおかげなのか?」

聞いてみても目の前の従姉弟は答えない。


昔からいつもそうだった、バレンタインの時には毎年家で一人になるはずだった私のところに来てくれたり。

高校進学のときも私の提案を跳ね除けて、烏田高校に行くことも出来たはず。

佐藤はいつも私の傍にいてくれたり気にかけたりしてくれている、それからいくと今回のスーパーでの異常ともいえる勝率も佐藤のおかげなのだろう。


同居人の横顔を見ていてふと、ある事を思いつき…彼の鼻先を人差し指で押してみる。

やはりというか、思った通りだ。

著莪「ブルドッグみたい…」



83 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/01/26(木) 17:28:33.16 ID:zz82bxEp0

佐藤「う~ん…著莪…?」

またしても弄り過ぎたせいかブルドッグ佐藤が薄目をあける、チッ、起きたか。ケータイのカメラで今の顔を撮ってやろうと思ってたのに…

佐藤「良い匂い…」

著莪「匂い?あぁ…佐藤、好きだもんね、このシャンプーの匂い。」

ママの実家から送られてくるヤツで、私自身はもとより佐藤の奴がシャンプーの香りを事のほか気に入っている。

いつも風呂上りに髪をやってもらうときに後ろから髪に顔を突っ込んで嗅いでるくらいだしな、…ん?そーいや、今日は嗅いでこなかったっけ。

著莪「嗅ぐ?」

佐藤「うん」

ベッドに横になったままクルリと身を反転させ佐藤に背を向ける。

すると少し間を置いて、……佐藤の顔が私の髪にゆっくりと埋まってゆくのを感じた。



84 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/01/26(木) 17:31:18.69 ID:OfgE3EQpO

なんだこの夫婦


85 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/01/26(木) 17:42:34.62 ID:zz82bxEp0

どの位時間が過ぎただろうか、佐藤の顔が私の髪から離れる。寝たのかな?

再度体を反転させると案の定、その瞳は閉じられてる。

昔からこの顔を見ているだけで不思議と心が安らぐ。暫く瞼を閉じた彼の顔を見ていると、………いつのまにか無意識のうちに佐藤と唇を重ねていた。

佐藤の鼻息があったて少しくすぐったい、けれど嫌というわけでもなかった、出来る事ならこのままずっとこうしていたい…が、そうもいかない。

名残惜しいが唇を離す。

相変わらず、その瞳は閉じられたままで…… なんだか見ていると胸の奥が苦しくなった、ぎゅ…と、締め付けられたような感じ。

それと同時に湧き上がる、この気持ち…

ふと今日のスーパーでのことを思い出す、弁当を温めている間あの1日半額神のお婆ちゃんと話していたときの事を。

一通りの説明を終えたお婆ちゃんは何故か佐藤の事を聞いてきた。

私とアイツの関係、私が普段抱いているアイツの印象。

1つ目の質問には当然、従姉弟と答え。2つ目の質問には…

著莪「一緒にいても1人の時のような気楽さ、でも、一緒にいれば1人の時のような寂しさがない。……そんな、う~ん…そうだ、ペット。…ペットみたいな奴かな?」

…と、答えた。アレは自分でも言ってて可笑しかったなぁ…



86 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/01/26(木) 17:45:10.88 ID:zz82bxEp0


しかし、3つ目の質問をされたときには言葉が詰まった、 なにせ…

半額神「あやめちゃんが将来結婚するとしたらどんな男の人を選ぶのかしら?」

コレには心底参ってしまった、しかも考えに考えた結果、出てきた答えに何よりも驚いた……

顔を赤くしている私を見てお婆ちゃんは、あらまあ…と、言って微笑んでいたっけ。

半額神「こんなお年寄りが図々しくあんな事を聞いちゃってごめんなさい、でも老婆心ながら最後にもう1つだけ言わせて?」

そう言うと、お婆ちゃんは私の顔をさらに熱くさせるようなことを口にした……


半額神「相手が、たとえそれが従姉弟や自分の両親であっても口に出して言わないと伝わらない事もあるのよ?」



87 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/01/26(木) 17:48:48.28 ID:zz82bxEp0


彼女は気付いているのだろうか? 僕が起きている事に…

正直あれだけ顔を弄られて起きない奴はいない。

起きてるって言えば良いんだけどなんというか…… こうなったら狸寝入りを決め込もう、みたいな意地を張っちゃってさ…

著莪「…佐藤……ホントは起きてるでしょう?」

僕の従姉弟はエスパーなのか?

著莪「エスパーじゃないけどさ、佐藤のことならなんとなく…ね」

どうりで昔から僕の英知が結晶されたような秘蔵本の隠し場所を幾度となく暴けたわけだ……

著莪「起きなくても良いからさ、聴いて欲しいんだ…」

頬を赤く染めた彼女を見て、僕にも今だけは著莪の考えていることがなんとなく分かる気がした、だとすれば僕の返事は既に決まっている。

なにせ今日の公園、そして今まさにこの瞬間。僕は彼女に… やられてしまったのだから。


著莪「いつも傍に居てくれてありがとう、大好きだよ、佐藤」


そう言って著莪は僕に今日3度目の少し長いキスをするのだった…


 〈了〉



89 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/01/26(木) 17:51:59.89 ID:zz82bxEp0

ご支援とレスありがとうございました

少しでも暇つぶしになっていればいいのですが。




88 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/01/26(木) 17:51:38.05 ID:OfgE3EQpO


原作読みたくなった



91 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/01/26(木) 18:05:34.09 ID:SaMfDquDO

これで終わり?

乙!!


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