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える「ほう、ほう、ほうたるこい」
里志「いやー、梅雨も明けたしもうすっかり夏だね。暑い暑い」
摩耶花「あっふくちゃん!遅いわよもう!」
本当に暑いと感じているのか疑問になるほどの軽い口調で福部里志が部室に入ってきた。
手芸部から直接古典部の部室に来たようで、またよくわからない布を制服の上に纏いながら、
その上からさらに纏わりついてくる勢いの伊原をやりすごしている。
里志「やあホータローに千反田さん。何をしてたんだい?」
える「こんにちは福部さん。私は今日出された数学の課題をやっているところです」
俺は黙って今読んでいる文庫本の表紙を里志に見せてやる。
里志と違って本当に暑さにうんざりしているので口を動かすエネルギーも惜しい。
相変わらず失礼な奴だ。
奉太郎「俺だって季節の移ろいに美しさを見出すくらいの感性は持ってるよ」
摩耶花「どうだか。あんたの目には桜も紅葉もみんな灰色に見えてるもんだと思ってたわ」
もっと失礼な奴がいた。
奉太郎「さいで」
まあこいつにはどんな反論をしても無駄だろう。
俺は無視を決め込み読書に戻ることにした。
伊原が一瞬拍子抜けしたような顔をしたが、俺の知ったことではない。
その本にも蛍はでてくるのかい?ホータロー」
奉太郎「なんだ。内容を知らないのか」
それなのによく趣のあるだのなんだの言ったものだ。
里志「僕が知ってるのはそれが川三部作のうちの一作だってことだけ。
まあ大事なのは今が蛍の季節で、その本のタイトルが『蛍川』だってことさ。
それにしても蛍はいいねえ。実は僕、まだ本物の蛍ってやつをちゃんと見たことがないんだ。
だからかな、こんなにも心ひかれてしまうのは」
える「蛍でしたら、私の家の庭で見ることができますよ、福部さん。
もしよろしければみんなで蛍を見ませんか?」
ぜひお邪魔させてもらいたいよ!」
摩耶花「ねえ、だったらせっかくだからちーちゃんの家でお泊まり会しない?
蛍を見るのは暗くなってからでしょ?今の季節なかなか暗くならないし、そうなってから帰るのは面倒だし。
あ、もちろんちーちゃんの家の都合が悪くなければ、だけど」
える「お泊まり会!いいですねえお泊まり会!古典部のみなさんでしたら大歓迎です!」
里志「それはいいね。あの豪邸で蛍を見ながら一泊できるなんて、それこそ夢のようだ」
伊原め。余計なことを。いつか温泉に行った時のことが思い出される。
える「折木さんも!しましょう!お泊まり会!」
奉太郎「そう、だな……。お邪魔させてもらうよ」
まあ、何時間もかけて田舎の温泉宿に行くよりは省エネだろう。
そういう合理的な理由で俺は誘いを受けたんだ。だからそんな目で俺を見るんじゃない里志。
える「ふふふ。みんなでお泊りです。ほう、ほう、ほうたるこい。ふふふ」
摩耶花「じゃあ、いつにしよっか。都合のいい日とかある?ちーちゃん」
える「そうですね。たしか来週の金曜日に地域の寄りあいのようなものがあって、その日は両親がそちらに出席して帰って来ないんです。
ですからその日はどうかと思うのですが、皆さんどうでしょうか」
それは都合がいい、とばかりに伊原と里志は口々に賛成の意を表明する。
摩耶花「こいつに予定が入ってる日なんてあるわけないでしょ」
奉太郎「俺にだって予定がある日くらいたまにはあるさ」
摩耶花「あら、じゃあ折木は来週の金曜は都合が悪いわけね。残念。私たちだけで楽しむことにするわ」
える「折木さん、来られないのですか……?」
途端に千反田の顔が悲しげに曇る。伊原め、今日はいつも以上に意地が悪い。
奉太郎「すまない。見栄を張った。俺もその日は暇だ」
える「そうですか!ではその日に決定ということで!」
摩耶花「最初からそう言ってればいいのよ。ほんとに折木は折木なんだから」
その日は僕のとっておきを持っていくからみんな期待しててよ」
える「なんですか福部さんのとっておきって」
里志「今は内緒さ。まあ当日までのお楽しみってことで」
という里志のなんとも嫌な予感のする言葉とともに、本日は各々帰宅の途につくこととなった。
お泊まり会当日
える「いらっしゃいませ皆さん。どうぞゆっくりしていってください」
里志「お邪魔します、千反田さん。やっぱりいつ来てもすごい家だね」
翌週の金曜日、我ら古典部の面々は割烹着を着た千反田に出迎えられていた。
以前集まったときとは違う離れに通される。どうやら普段から客を泊めるために使われているようだ。
一度それぞれ自分の家で着替えてから来ているため、全員が私服姿である。
える「はい。ちょっと早いですが、晩ご飯を食べて、お風呂に入っていればちょうどいい時間になると思って
あとはご飯が炊ければ出来上がりです。もうちょっとですよ」
摩耶花「ごめんねちーちゃん。何も手伝えなくて」
える「いえ。皆さんは一度帰ってからわざわざ来てもらっているので、これくらいは招待した者の義務ですよ」
よほど楽しみだったのだろう、千反田は少し上気した顔をしている。
しかし、友人が泊まりに来るだけなのにここまでしなければいけないとは初めて知った。
これはうかつに人も招けんな。なるべく俺の家には誰も上げないように気をつけよう。
里志「よくぞ聞いてくれました。まさにこれこそが僕のとっておきさ」
そう言って里志が得意げに包みから取り出したものは、見るからに高級そうな日本酒だった。
摩耶花「なになにふくちゃん……ってこれお酒じゃない!」
える「お酒、ですか?」
里志「いやー、縁側で蛍を見ながら晩酌だなんて風流だと思わないかい?
実はずっと憧れていたんだ」
奉太郎「お前、ただ酒を飲みたかっただけなんじゃないだろうな」
里志「とんでもない!言っただろ、『蛍を見ながら』っていうのが重要なんだ。
みんなもどうだい?これはいい酒だよ。まあ正確にはいい酒らしい、かな。僕もまだ飲んだことはないからね」
える「ばれないようにすれば大丈夫ですよ。それに、私も日本酒には興味があったので」
おいおい。ウイスキーボンボンで酔っぱらって大変な目に遭ったというのにこのお嬢様は。
奉太郎「千反田は弱いんだからやめておけよ。いつかのウイスキーボンボンのことを忘れたのか」
える「でも私、親戚の集まりで大人が日本酒をおいしそうに飲む姿を見てきて、ずっとどんな味がするのか気になっていたんです。
ちょっと味を確かめるくらいでいいんです。折木さんにご迷惑はかけないように気をつけますから。
……だめでしょうか?」
里志「それに、この酒は僕のだぜ。その僕が飲んでいいって言ってるんだからそれでいいじゃないか。
もしちょっとくらい酔っぱらったとしても、僕らは今日ここに泊まるんだから帰り道の心配もいらない。
なにもこれ一本を全部空けようってわけじゃないんだから、大目に見てくれよ」
酔い潰れて俺に迷惑かけないでくれればそれでいいさ」
里志「じゃあ決まりだね!いやー、やっぱり持ってきて正解だったなあ」
摩耶花「ほどほどにしてよねー、ふくちゃん」
える「あ、ご飯が炊きあがったようですね。それではみんなで晩御飯にしましょうか」
千反田が作った晩飯は文句なしに絶品だった。
そして信じられないほどの量だった。
田舎のおばあちゃんが久々に遊びに来た孫のために腕によりをかけて作った、といった感じの量だった。
完食するのは少し、いや大分辛かったのだが、あの嬉しそうな千反田の眼差しに見つめられては誰ももう腹いっぱいだとは言えなかったのだろう、全員がしっかりと
一粒の米も残らず完食した。
寝る準備万端で行った乾杯の時点ではまだ若干の明るさを残していた空も、調子に乗った里志とそれに付き合わされた伊原が酔い潰れて眠ってしまうころには
もうすっかり深い夜に包まれていた。
奉太郎「ふう。まったく里志の奴め。こうなるんじゃないかと思ってたんだ」
える「でも、お二人ともすごく楽しそうでしたよ。摩耶花さんも福部さんにぴったり寄り添って眠っていて。
ふふふ。かわいいです、摩耶花さん」
奉太郎「伊原が里志から離れないせいで布団まで運ぶのが倍大変だったけどな」
どうしても伊原が里志から手を放そうとしなかったため、結局二人を隣同士の布団に寝せることになった。
伊原は布団の上に寝ているが、里志の体はふた組の布団の隙間に落ちていて若干寝苦しそうだ。
まあ二人が離れようとしないから仕方ない。寄り添った状態では二人ともちゃんと布団には寝れんからな。
える「そうですね」
四人分の布団のうち、端のふた組は伊原と里志が使っている。
となると当然俺たちも隣同士の布団に寝ることになる。
える「今日はわざわざ来てくださってありがとうございました。とても楽しかったです」
奉太郎「そんなことないさ。わざわざ晩飯の準備やらなにやらさせてしまって悪かったな」
える「あれは私が好きでやったことですから。それに折木さんたちも後片付けは手伝ってくれましたし」
奉太郎「まあそれくらいはな。さすがに何もかも任せるわけにはいかないだろ」
える「折木さんはいつも優しいですね。さっきだって摩耶花さんと福部さんを無理やり引きはがそうとはしませんでしたし」
える「思ったことを正直に言っただけですよ。折木さんはすごく優しいって、私、本当にそう思っています。
いつも私の疑問に答えを出してくれます」
奉太郎「いつも言ってるだろ、たまたまだって。それに、それは単にお前が断らせてくれないだけだ」
える「そんなことないですよう。折木さんは優しいから私の頼みを断らないんです」
なんだか会話が成り立たない。こいつ、酔っぱらっているのか。
まあウイスキーボンボンで酔っぱらってしまうような奴だ。無理もないか。
奉太郎「さっきから同じことばっかり言ってるぞ。お前酔っているんじゃないのか」
える「そうですね。少し酔っているのかもしれません。でも自分が何を言っているのかは分かっていますよ。
ただ、いつもよりも本音が出てしまっていますね」
える「ふふ。折木さんらしいですね。
ああ、なんだか変な気分です。胸がどきどきして、全然眠くならないんです。
酔っているせいなんでしょうか。それとも折木さんが隣にいるせいでしょうか」
奉太郎「私、気になりますってか?」
える「先に言われてしまいました。ふふふ。
ねえ折木さん、まだお酒もちょっと残っていましたし、眠くなるまで一緒に蛍を見てくれませんか?」
酔っているせいなのか千反田が隣にいるせいなのかはわからんがな、とはもちろん口には出さない。
ともかく里志と伊原が飲み残した酒瓶を持って二人で縁側に腰かけた。
える「外は涼しいですね。風が気持ちいいです」
奉太郎「今が一番いい季節かもな。これから熱帯夜に悩まされると思うと嫌になる」
える「そうですね。私も冷房が苦手なので暑い夜は大変です。
でも、暑くなる分夏休みが近づいてくるのは楽しみです。去年の夏休みは楽しかったですね。
また今年もみんなでどこかに遊びに行けたらいいですね」
える「では、近くの温泉宿で一泊」
奉太郎「お前は本当に泊まりが好きだな」
える「楽しいじゃないですか。みんなでお泊まり。あと、私実は一人で寝るのがあんまり好きじゃないんです。
小さな頃から甘えん坊でして。だから今日皆さんを招待したのも一人で家にいるのが寂しかったからなんです」
奉太郎「なるほどな。だからあんなにしつこかったわけか」
える「む。意地悪です、折木さん」
俺と目が合うといっそう大きく頬を膨らませてみせたが、すぐに穏やかな顔に戻った。
大きな目だ、と改めて思う。
どれほどの時間が経っただろうか、先に目をそらしたのは千反田だった。
える「きれいですね。私、この庭の蛍をお友達と一緒に見るのは初めてなんです。ほう、ほう、ほうたるこい。ふふふ」
奉太郎「そいつは光栄だ」
える「蛍の光って、まるでお月さまみたいですね。丸くて、黄色くて」
そうだろうか。月のようだというには蛍の光はあまりにも儚げに見えるのではないだろうか。
しかし、その疑問はすぐに解けた。やれやれ、いつのまにか随分と詩的な人間になってしまったものだ。
これも酒のせいなのだろうか。そうだとしたら里志に感謝しないといけないな。
ともあれ、答えがわかったのなら発表しなければ。
待て待て千反田。それは男の俺が言うべき言葉だ。
奉太郎「蛍が綺麗だな、千反田」
える「…………はい」
千反田は一瞬驚いた顔をしたが、すぐにうつむいてそう言った
える「分からないと思ったんですけどね。でも、分かってほしいと思っていたのかもしれません。
ごめんなさい、折木さん」
しゅんとして、うつむいたまま千反田はぽつぽつと話す。まったく世話の焼けるお嬢様だ。
奉太郎「俺はお前をそんな顔にさせるために言ったわけじゃないんだぞ。
……今はこれだけしか言えんが、いずれちゃんとした言葉で言うよ。
そのときまで待っていてくれないか」
千反田が俺の手を握り返してくるのが分かった。それは感じたことのないほど優しい力だった。
える「今はそれだけで十分です。嬉しいです、折木さん」
そう言うと千反田は俺の肩に頭を預けてきた。
その時千反田が泣いていたのか、笑っていたのかは分からない。
千反田の体は思った以上に華奢で、布団まで運ぶうちに間違って折れてしまわないか心配になるほどだった。
しかしそれ以上に困ったことに、千反田も俺を放そうとしてくれないのだ。
俺は観念して千反田と同じ布団にもぐり込んだ。
朝里志たちにからかわれるだろうか。
かまうもんか、奴らも似たようなことをしているんだ。
覚悟を決めてもう眠ろうとしたとき、千反田の口がむにゃむにゃと動いた。
える「ほうたる、ほうたる……」
奉太郎「またそれか。お気に入りだな。そこのフレーズしか知らないということもあるまいに。
……いやそうか、ほうたるってのは俺のことか」
道理で歌っているとき楽しそうに俺のほうを見てくるわけだ。
俺はもう少し千反田の方へ体を近づけて、そして今度こそ目を閉じた。
まどろみの中で、千反田がもう一度、ほうたるこい、とつぶやいた気がした。
END
駄文に付き合ってくれた方々に敬礼
乙!
Entry ⇒ 2012.07.07 | Category ⇒ 氷菓SS | Comments (0) | Trackbacks (0)
える「折木さん、どうして中に出しちゃったんですか……」
千反田「外で出すっていうからコンドーム着けなかったんですよっ!」
折木「すまない…」
千反田「わかりました。わたしっ産みます!」
折木「!?」
千反田「立派な女の子ですよ♪あなた♪」
折木「なっ!?て、展開が早すぎるだろ」
折木「うぅ…」ムニャムニャ
千反田「折木さん。起きてください」ユサユサ
折木「女の…子」ウゥ
伊原「さっさと起きなさいよ馬鹿折木!」
千反田「こんなに魘されてる折木さん初めてです」
千反田「夢?」
折木「い、いや何でもない」
伊原「どーせ変な夢でしょーあたし漫研行ってくるからー」ガララ
千反田「行ってらっしゃいませ」
折木「おぅ…」
千反田「…」チラ
折木「ん?」
千反田「折木さんっ!」
折木「(このパターンはまさか)」
千反田「折木さんが見てた夢!わたしっ!気になります!」グッ
千反田「どんな夢だったんですか?」グィィ
折木「わ、忘れた」アセッ
千反田「思い出して下さいっ!」グィ
折木「うっ…」
千反田「…」キラキラキラ
折木「…千反田が出てきたんだ」
千反田「えっ…///」
折木「それで…ちょっと言い争いになった。それだけだ」
千反田「あぅ…///」カァ
折木「?」
折木「なんだ」
千反田「うわごとのように女の子、女の子と言ってましたよ」
折木「なっ!?」
千反田「私は女の子だと折木さんは知っているのに何故でしょうか…」
折木「わ、わからん」
千反田「他に誰か出てきたんですか?」
折木「んー………出てきてなかったと思うぞ」
千反田「…」ジーッ
折木「…」タラ
千反田「嘘、ですよね」
折木「う…」
千反田「私ですか?」
折木「あぁ。他には誰もいなかった」
千反田「そうですか…」
折木「もういいか」
千反田「もう一つ疑問があります」
折木「まだあるのか…」
千反田「夢の中の私は折木さんと何をしていたのでしょうか」
折木「ぶっ!!」
千反田「嘘ですっ!」ガタッ
折木「何故だ根拠があるのか?」
千反田「折木さんがこんなに慌てているの初めて見るからですっ!」
折木「こ、答えになってないだろ」アセッ
千反田「折木さん!」ズィ
千反田「わたしっ気になります!」
千反田「?」
折木「つまりだ、俺の言語能力では無理、というわけだ」
千反田「…そうですか」シュン
折木「さて、そろそろ帰るか」ガタッ
千反田「あっ!閃きました!」
折木「閃かんでいい」
千反田「言語で無理なら行動で示してみてはどうでしょう!名案です!」
折木「っっ!?」
千反田「まだですっ!私気になります!」グィ
折木「うぐ…」
千反田「折木さん…」ジー
折木「…分かった」
千反田「!」パァァ
折木「…本当にいいんだな」
千反田「?」
千反田「ここでは駄目なんですか?」
折木「あぁ…」
千反田「わかりました。行きましょう」
折木「千反田…」
千反田「はい?」
折木「俺は忠実に夢の内容を再現するからな」
千反田「はいっお願いします!」
折木「じゃあ行くか」ギュッ
千反田「ぇ…///」
千反田「あれ?保健室の先生いないみたいですね」
折木「…好都合だ」
千反田「え?」
折木「いやなんでもない」
千反田「折木さん、何処か怪我をしているんですか」
折木「怪我はしてな…」
折木「…いや、実は千反田に少し手伝って欲しくてな」
千反田「はい。なんでしょう」
折木「治療だ」
折木「…あぁ」
千反田「でも折木さんは現実では何処も怪我をなさってないみたいなのでよかったです」ホッ
折木「まぁな」
千反田「ふふっ」ニコッ
折木「…もしかすると怪我をしているかもしれない」
千反田「えっ?」
折木「正夢…というか」
千反田「大変です!早く治療しないと」
折木「あぁ…ちょっと後ろを向いていてくれるか」
折木「…」
折木「(そうだ…)」
折木「(これはチャンスなんだ…漢・折木奉太郎。やるしかない)」
折木「(最近は夜も省エネで過ごして来た今、この時の為に!)」
千反田「まだですかー?」
折木「…」ゴクリ
折木「…」カチャカチャ
折木「…いいぞ」
千反田「ひっ!」ビクッ
折木「驚かせてすまない」ギンギン
千反田「あ、あの…何か着てください…その…///」バッ
折木「千反田が治療してくれるんじゃないのか?」ピクッピクッ
千反田「えと、その…お、折木さん」
折木「なんだ?」ギンギン
千反田「あわ、あわわ…///…な、なんでそんなになっているのでしょうか」
折木「言っただろ?だから治療だと」ビクンビクン
千反田「で、でもその…私///」カァァ
折木「それにこれは夢の内容だしな、千反田が望んでいる行動に移してみたんだが…」
千反田「ぁう…」カァァ
折木「…頼む、千反田」
千反田「…うぅ」
千反田「(折木さんが私に頼み事をしている)」
千反田「(勿論断りたくないっ…で、でも)」チラッ
折木「…」ギンギン
千反田「…わ、わかりました。何をすれば良いのでしょうか」
千反田「はい…」
折木「…」ギンギン
千反田「ひぅ……に、握りますね…///」スッ
折木「あ、あぁ」ドキドキ
千反田「握りましたっ!」ギュウ
折木「うっ…」
千反田「!…凄く熱いです!」
折木「治療が必要のようだな」
千反田「氷、持ってきましょうか?」
折木「大丈夫だ、それより少し強く握って上下に動かしてくれ」
折木「っ…!」ガタッ
千反田「大丈夫ですか折木さんっ!」ニギッ
折木「大丈夫だ、それより、続けてくれ」
千反田「はい」
千反田「んしょ…んしょ」ゴシッゴシッ
千反田「んっ…んっ」ニギッニギッ
折木「いいっ…ぞっ…千反田」ハァハァ
千反田「硬くなってきました折木さん!」シコシコ
千反田「えっ?」ニギッニギッ
折木「っ…出るっ!」グィ
千反田「んっ!」ガタッ
折木「くぁっ!!」ビュルルッ
千反田「きゃっ!」パタタッ
折木「ううっ…」ドプッドプッ
千反田「ひうっ!?」ビクッ
千反田「な、なんか出てきました折木さん!…あの、大丈夫ですか」
折木「ぅあ…だ、大丈夫だ」ビンッ
千反田「…(すごい、匂い)」ポーッ
千反田「(ぬるぬるして、白い)」ギュッ
折木「うっッッ!」ビュルッ
千反田「(まだ、出てる…)」ポーッ
千反田「…」ポーッ
折木「…すまない汚してしまって」
千反田「…」ポーッ
折木「千反田?」
千反田「はい?」
折木「大丈夫か」
千反田「だ、大丈夫だと思います…」ユラッ
折木「っと」ガシッ
千反田「っ!?」
折木「大丈夫じゃないみたいだが」
千反田「あ、ありがとうございます…///」
折木「あぁ治療は終りだ」
千反田「そうですか…」
折木「…」
千反田「手…洗いますね」
折木「…ちょっと待ってくれ」
千反田「えっ?」
折木「…」ムクムク
千反田「あ、また…///」
折木「待て千反田」ピタッ
折木「これは同じ治療法でやっても埒が明かない」
千反田「確かに…そんな気がします」
折木「もっと刺激を効率的に与えるには…」
千反田「…口、ですか」
折木「よくわかったな」
千反田「…前に摩耶花さんに貸して貰った本にあったんです」
千反田「口でするとすぐに出ちゃうって…」
千反田「でも、折木さん」
千反田「これは…治療じゃないですよね?」
折木「(当たり前だ)」
千反田「…あぅ…///」
折木「ん?なんだ」
千反田「その、…」
千反田「え、えっちな本でした…///」カアァ
千反田「折木さん!これはえっちな事なんじゃないでしょうか?!」
折木「…あぁその通りだ」
折木「…俺は千反田と夢の中で卑猥な事をしてた」
折木「あまりにも千反田が絡むもんだから少し調子に乗った。治療というのは恥ずかしさを紛らわす為の方便だ」
折木「すまない、謝って済むことではないのは分かっている」
千反田「いえ、その…」
千反田「わ、わ、私は」
千反田「嫌じゃ…ない、ですから…///」
千反田「はい」
折木「この俺は省エネ主義者だ」
折木「しかし、それでも消費しなければ必ず身体に溜まっていくエネルギーがある」
折木「つまり、なんだ」
折木「エネルギー消費を手伝ってくれないか…」
千反田「…」
折木「(何という言い回しだ、我ながら引く)」
千反田「はいっ!折木さん」
折木「なっ…」
千反田「それに、私も」
千反田「エネルギー、消費したいですから…///」ポッ
千反田「はい」トサッ
折木「…」ジィッ
千反田「なんでしょう?折木さん」
折木「あ、すまない、…」
折木「…可愛い、と思った」
千反田「…照れるからやめて下さい…///」カァァ
折木「…いいか?」
千反田「…はい」
千反田「折木さん、…近い、です…///」
折木「不可抗力だ」
千反田「それに…あの口で…」
折木「それはもういい、俺は」
折木「俺は千反田の中に射れたい」
千反田「中…?と言いますと…」
折木「ここだ」サワッ
千反田「んあっ!」ビクンッ
折木「っと…」スッ
千反田「うぅ…///」
千反田「…///」フルフル
折木「…脱がすからな」ススッ
千反田「んっ…」
折木「…」シュルッ
千反田「あっ…」
折木「可愛い下着だな」スッ
千反田「あ、あまり見ないで下さい…恥ずかしいですから///」
折木「…」サワッ
千反田「んんっ!」ピクッ
折木「濡れてる、な」クチュッ
千反田「あっ…お、折木さん…のを握った時から、私の身体も徐々に熱くなって、それで…」
千反田「はい…折木さん」ポー
折木「我慢の限界なんだ」
千反田「はい」
折木「射れて、いいか…」
千反田「はい…折木さんの…お願いします」
折木「少し、痛いかもしれない」
千反田「大丈夫です。折木さん…ただ」スッ
千反田「手を握ってて貰えませんか?」
折木「…あぁ」ギュッ
千反田「ま、待って下さい…」
折木「ゆっくり、するから」
千反田「すぅ…はぁ」
千反田「お、お願いします…///」
折木「…」
千反田「んっ」
折木「(ぬるぬるしていて上手く入らない)」グィ
千反田「んんっ!……折木さんっ!」
折木「どうかしたか?」
千反田「今の…気持ちよかったです」
折木「あぁ…」ポンポン
千反田「ふぁ…」
千反田「…嫌です、折木さん、の欲しいです」
折木「わかった…」
千反田「…」ドキドキ
折木「うぐっ…」ググッ
千反田「痛っ……んぁっ!!」ギュゥ
折木「はいっ…た、ぞ、千反田」グッ
千反田「あっ動かさないでっ下さいっ…まだ痛いです…」ウルッ
折木「痛い、よな」ナデナデ
千反田「…えへへっ撫でられちゃいました」グスッ
折木「あぁ俺もだ」
千反田「私、今凄く幸せです」
折木「…」ナデナデ
千反田「ふふっ恥ずかしいですけど」
折木「…千反田」
千反田「はい」
折木「う、動かしてもいいか?」
千反田「はぅ…///ど、どうぞ」
千反田「んあっ!」ピクッ
折木「千反田、少し声を、な」
千反田「は、はい…で、でも難しいです」
折木「そ、そうか」
千反田「…折木さんが」
千反田「折木さんが、塞いでくだ、さい…///」
折木「…」スッ
千反田「んっんんっ…」
折木「…ぷはっ」
千反田「…おれきさん…」ポーッ
千反田「…」コクッ
折木「…」
千反田「んーんふっ…」
折木「っ…」グッグッ
千反田「んんっ!んふぁっ!」
折木「…っ…っぐっ!」パンッパンッ
千反田「んっ!…んっ!んんんっ…」
折木「くっ…ぶはっ!出るっ!出るぞっ!」パンッパンッ
千反田「出してっ下さいっ!折木っさんっ!」
千反田「折木っさんっ!」
折木「…ぐっ」ズポッ
千反田「ああっ!!」
折木「ぐぁっ…」ドクッドクッ
千反田「ふあぁ…」
折木「はぁ、はぁ」ビュクビュク
千反田「…あ、お腹に…」トロ
折木「ゴム…してなかったからな」
千反田「妊娠、しちゃいますからね」
折木「あぁ…」
折木「(正夢、じゃなかった。だが…)」
千反田「折木さんっ♪」ギュー
折木「正夢じゃなくて、よかった」
千反田「?」
千反田「…」テクテク
折木「千反田」
千反田「はい?」
折木「少し、近くないか?」
千反田「近くないですっ!」ギュゥ
折木「…まぁいい」
千反田「嫌、ですか?」
折木「そうとは言ってない」
千反田「…えへへ///」
折木「なんだ」ギュッ
千反田「…摩耶花さん達にはまだ内緒にしませんか」
折木「理由はなんだ?」
千反田「恥ずかしいですから…からかわれそうで///」
折木「構わないが」
千反田「それに…」
千反田「今は…二人だけの秘密、というのはいかがでしょう?」
Fin
では
ふぅ
いまいりす先輩とのいちゃらぶもかいてみたいです?
構わん続けろ
Entry ⇒ 2012.07.06 | Category ⇒ 氷菓SS | Comments (1) | Trackbacks (0)
千反田える「私、気になりますっ!」折木「…俺も気になるよ」
千反田「えっ?私のどこが気になるんですか?」
折木「……面倒臭いから言わない」
千反田「言ってください折木さん!私、気になります!」
折木「……言わない」
千反田「気になります!気になります!言ってくださいよ折木さん!」
折木「……さっきの話はもういいのか?」
千反田「今は折木さんの方がもっと気になります!」
折木「……はぁ……わかった……言うぞ」
千反田「あっ………はい!ありがとうございます!折木さん!」
千反田「はい、一体私のどこが気になるのでしょうか?」
折木「どこがと言われると色々あるが……」
千反田「はい!」ワクワク
折木「……やっぱりやめた……無駄なエネルギーを使うのは俺の省エネ主義に反するからな」
千反田「お、折木さん……無駄かどうかなんて言ってみないとわかりません!お願いします!私、気になりますっ!」
折木「……だったら先に千反田に確認したい事がある」
千反田「はい!なんでしょうか!」
折木「お前は……千反田は…誰か特定の好きな人間、いや異性はいるかぁ?」
千反田「えっ?好きな……異性ですか?」
千反田「……折木さん、それは私のプライバシーに関わる事です、流石にそれは……言えません」
折木「…じゃあこの話はもうやめよう、俺にもプライバシーがあるからな」
千反田「……」
折木「はぁ……もういいだろ」
千反田「……」
折木「あの2人も来ないし、帰るか?千反田」
千反田「でも……私、気になります。折木さんがどうして私の事が気になるのか」
千反田「折木さん……」
折木「帰るぞ、もう下校時刻だ」(……こう言って忘れてくれるような奴じゃない……か、千反田は)
千反田「………」
折木(我ながら失言だった……いや、むしろこうなる事はわかっていたじゃないか……はぁ……何がしたいんだろうなぁ俺は……)
千反田「……折木さん」
千反田「それは……そうですね……わかりました、帰りましょう折木さん」
折木「ああ……」
千反田「………」
折木「………」スタスタ
千反田「………」スタスタ
折木「………」チラッ
千反田「……はい?」クルッ
折木「っと」クルッ
千反田「?」
折木「……あのさ……千反田」
千反田「はい」
折木「その、お前まださっきの事考えてるのか」
千反田「はい、気になります」
折木「はぁ……」(どうするかぁ……何か千反田が納得するような事をでっち上げて説明しない限り……コイツは明日も今の事を聞いてくるんだろうなぁ…)
千反田「私の事が……折木さんにはどう見えているのでしょうか。気になります!お願いですから言って下さい」
折木「どうって、そうだなぁ……まず第一に」
千反田「はい!」
折木「お前といると……疲れる事が多いな」
千反田「そ、そうですか……」
折木「第二に」
千反田「は、はい!」
折木「でも、そんなに嫌じゃないのかもなぁ」
千反田「え?」
折木「なんだかんだで……お前……達と居るのは悪くないからな、姉貴に強制されたからとはいえ古典部に入って良かった……と、少しは思う……かもしれない」
千反田「そ、そうですか!私も古典部に折木さんが居てくれて良かったです!」
折木「バカバカしい…たまたまだといったはずだろ、相変わらず千反田は俺を買いかぶりすぎだ、里志も伊原…はそうでもないか」
千反田「摩耶花さんも折木さんの事は口ではああ言ってもきっと認めてくれてますよ」
折木「はぁ……どうでもいいけどなぁ」
折木「う……あ、ああ」クルッ
千反田「折木さん?」
折木「……なんでもない……ふぅ…」
千反田「今の話を聞いて……安心しました!折木さんは私の事を嫌っている訳ではないようで良かったです!」
折木「あ、ああ、それはない……だから、安心してかまわん」
千反田「うふふ」ニコニコ
千反田「まだです」ギュッ
折木「む……」
千反田「私、気になりますっ。折木さんが私の事をどう思っているのか、今の説明では先ほど何故私に好きな異性がいるのかを聞いた事の説明がつきません!」
折木「ぐっ……」(…本当に失言だったなぁ)
千反田「………」キニナリマスキニナリマスキニナリマス
折木「」(また小さい千反田が出てきた……)
折木「ぐっ……断る……疲れる事はしたくないんだ」
千反田「……折木さん」
折木「というよりも……千反田は、本当にわからない……のか?」
千反田「……折木さん」
折木「あ、ああ…なんだ」
千反田「わからない訳がないじゃないですか……私はそこまで人の心がわからないほど愚かではありません」
折木「なっ!?」(や、やっぱりわかってたのか……千反田には俺の気持ちが…)
千反田「私は……折木さんの口から聞きたいんです」
折木「俺の……口から?」
千反田「……はい。折木……奉太郎さんから聞きたいんです……私の事をどう思っているのか」
折木「……」
折木「千反田……」
千反田「折木さんは今、私の目の前にいらっしゃるのですから……」
折木(…これは十中八九……いや間違いなく…)
千反田「……どうして言ってくれないんですか?……折木さん」
折木(千反田は知りたい事はもうわかっている、それでもまだ納得していないのは俺の気持ちが聞きたいから…)
折木(何故知りたいのかなんて……そんなもの…傲慢かもしれんが千反田も俺の事……)
千反田「………」
千反田「……はい」
折木「もう一度…さっきの質問をしていいか?」
千反田「……え?」
折木「どうしても確認したい」
千反田「………」
折木「……沈黙は肯定と受け取るぞ……それでもいいのか?」
千反田「………」
折木「…もう一度聞くぞ、千反田は誰か好きな異性はいるのか」
千反田「……」
折木「……肯定と受け取っていいのか?」
千反田「……はい」コクリ
折木「はぁ……そうかぁ……」
折木「……なあ千反田」
千反田「は、はい」
折木「俺は千反田の事をそんなに知ってる訳ではないし、千反田も……俺の事を知らない、だから……さ」
千反田「え……」
折木「今はまだ……このままの関係でいいんじゃないか」
千反田「折木さん……どうしてですか…私は…折木さんの事をもっと知りたいです……折木さんだって……さっき私の事が気になると、おっしゃたじゃないですか…」
折木「それは……失言だと言わなかったか」
千反田「……」
千反田「それは…はい、摩耶花さんは福部さんに好意を持っていらっしゃいます」
折木「俺達もあの関係でいいと思う、里志だって伊原の事が別に嫌ってなんぞいない、むしろ逆だ、それでも付き合ったりはしていない」
折木「このままの関係で……いい部活仲間でもかまわんと俺は思ってる」
折木「それに……これは俺達だけの問題じゃないからだ、確か千反田には兄妹はいなかったはずだよな」
千反田「え?はい、確かに私には他に兄妹はいません…ですがそれがどう関係あるのでしょうか」
折木「俺と千反田では立場が違い過ぎる」
千反田「立場…ですか」
折木「…里志が言うには……確か千反田は神山市の四名家の一つだ」
千反田「は、はい…そうおっしゃる方も中には確かにいらっしゃいますが…」
千反田「……はい?……あの……婿入り…ですか?」
折木「え?あ、ああ、そうだが」
千反田「婿入りと言いますと……わ、私と折木さんがけ、け、け、結婚!?」
折木「ぐ…いちいち言わなくていい…」
千反田「お、折木さん!いくらなんでも話を飛躍させすぎです!わ、私と折木さんが………け、結婚なんてまだ早すぎます!」
折木「……はぁ、なあ千反田」
千反田「そんなの早すぎます!早すぎます!早すぎます!……早すぎますよ……」ニコニコ
千反田「あっ!?待って下さい!」ギュッ
千反田「どうして折木さんは結婚まで話を飛躍させるのでしょうか!私達が今話してるのはそんな事ではないはずです!」
折木「くっ…」
折木「……千反田、俺の座右の銘を聞いてくれるか」
千反田「え?」
折木「俺はやらなくていい事はやらない、やらなければいけない事は手短に、疲れる事は避けられるものならしたくない、という省エネ主義の持ち主だ」
千反田「は、はい。それは福部さんからも何度か聞いた事がありますが」
千反田「それでは……それでは説明になってません……折木さん!」ギュッ
折木「……うっ…」
千反田「結婚なんてまだまだ先の話じゃないでしょうか!……先の事じゃなく、私は今」
千反田「今、この時の事を話したいんです!折木さんがどうしてそうはぐらかそうとするのか私にはわかりません!」
折木「……はぐらかしてなんぞいない、それに……先の事を考えて何がおかしい」
千反田「折木さん…」
折木「世間一般的に、彼女というものが出来れば薔薇色の高校生活が送れるんだろう、ましてや千反田のような可愛い女の子ならなおさらだ」
千反田「か、可愛いだなんて…そんな」
折木「だけどな、今の俺にはそれが物凄く眩しいんだ、疲れる、正直…今の関係の方が心はずっと整えられる……だからこの件は保留でいいじゃないか」
千反田「い、嫌です!そんなの…まやかしじゃないですか!折木さんは逃げてるだけです!」
千反田「はい?」
折木「……いや、なんでもない」
千反田「?」
折木「それ以上は言うな千反田」
千反田「……言いません。こういうものは、男性の方から言ってもらいたい、と私は思っていますから…」
折木「……千反田……悪いなぁ」
千反田「……摩耶花さんも普段からは想像できませんがこんな気持ちなのでしょうか…」
折木「伊原の気持ちか……そうかもなぁ……」
千反田「……」
折木「……気になります」ボソッ
千反田「もう!折木さん!私はそんなにデリカシーのない人間ではありません!」
折木「………悪い」
折木「わかってる、ただ……少し時間が欲しい、少しだけでいい、その時が来たら……必ず俺から千反田に話すから」
千反田「本当ですか?私は折木さんを信じていいのでしょうか?」
折木「ああ」
千反田「……」
千反田「わかりました、私、待ちますから。折木さんが話してくれるその日を」
折木「……ああ、本当に……悪い」
伊原「き~~!全くなによ!あの折木の態度!どんだけ怠惰的なのよ!あの怠け者は!もうちーちゃんは殆ど好きだって言ったようなもんなのに!」
福部「ははは、落ち着きなよ摩耶花、でも後は時間の問題だよ、奉太郎のあの様子だとね、もう心の中は千反田さんにメロメロさ」
福部「こらこら、人の恋路に無闇に介入しちゃダメだよ、僕達は暖かく見守ろうじゃないか、ね?摩耶花」
伊原「むー……人の恋路がダメなら……だったら福ちゃん」
福部「なんだい?」
伊原「福ちゃんは私の事好き?///」
福部「え」
伊原「今日こそは聞かせてほしいな、答えて……福ちゃん……///」ジー
福部「で、データベースは結論をを……」
伊原「福ちゃん……///」ジー
福部「あ、あわわ……奉太郎~!千反田さーん!」タタタッ
伊原「あっ!?福ちゃんずるい!」
折木「お前達……一体何処にいたんだよ、別に探してはいないが」
福部「え、あ、あはは!あー…えーっと、ふ、二人でデートしてたのさ!ね?摩耶花」
伊原「え、あ……そ、そう!そうなの!」
千反田「まあ!?お二人がもうそんな関係でしたなんて!」
福部「え、い、いや、ま、まあね…」
千反田「いつの間にそんな関係になられたのですか?私、気になりますっ!」
福部・伊原「え?」
千反田「気になりますっ!」
福部「ま、摩耶花まで裏切るの!?奉太郎~~僕を助けてよ~」
折木「俺も気になるな」
折木「里志、お前ら俺達の後をつけただろ」ボソッ
福部「げ、もしかしてバレてたのかい?」
折木「それに声をかけてくるタイミングが良すぎる、そう考えるのが自然だ」
福部「さすが奉太郎だね、その通りだ、確かに僕と摩耶花は君と千反田さんをつけていたよ」
折木「えらく素直に認めるんだな」
福部「僕はいつでも素直だよ、誰かさんとは違ってね」
折木「……む」
折木「……む」
福部「保留なんて言ってないでさ、楽になりなよ、千反田さんは容姿端麗頭脳明晰才色兼備の言うことなしじゃないか」
福部「奉太郎が省エネ主義なのは昔からだけど、どうしてそこまで意地をはるのか僕にはまるでわからないよ、そんなの疲れないかい?」
折木「疲れる…だが今はまだいいと言っている」
福部「どうしてさ」
折木「……千反田にフラレると…立ち直れる気がしないからなぁ」ボソッ
折木「ほっとけ…お前も自分の問題だろ、自分で片付けてこい」
福部「正論だね、正直に二人の会話を、全部盗み聞きしてた、って白状してくるよ」
折木「それはダメだ」
福部「どうしてさ」
折木「せっかく千反田の意識が逸れたんだ、蒸し返すとまた面倒な事になる…」
福部「でも僕はデータベースだからね、他の決定は出来ないよ?」
折木「はぁ……しょうがない、少し考えるか」
福部「それでこそ奉太郎だよ」ニコ
折木「……やれやれ、お前達といると本当に疲れる……」ハァ
福部「嫌なのかい?」
折木「……まあ…そんなに嫌じゃないけどなぁ」
今はまだ……4人でこうやって騒いでるだけで俺の高校生活は充分薔薇色だからな
end
原作買って出直してきます
支援どうもありがとうございました
Entry ⇒ 2012.07.04 | Category ⇒ 氷菓SS | Comments (0) | Trackbacks (0)
奉太郎「因縁ある古典部員の関係」摩耶花「あるいは謎のない日常」
そういってえるが帰宅してから30分程度経過した。
奉太郎は一人で読書していたが、家にいても同じことだと気付いて帰る支度をする。
奉太郎「さて、帰るか……」
たいして広くもない部室を横切って奉太郎が扉を開けようとすると、
摩耶花「あら折木じゃない。居てほしくなかったわ」
先にがらりと扉を開けたのは摩耶花だった。
奉太郎は眉ひとつ動かさずに切り返す。
奉太郎「おまえが来るのを待ってたんだ。来てくれて嬉しいよ」
奉太郎を押しのけて部屋に入った摩耶花。
摩耶花「あれ? ちーちゃんは?」
奉太郎「千反田なら帰った。家の用事とかで」
摩耶花「ふくちゃんは?」
奉太郎「あいつは総務委員で会議とか言っていたな」
摩耶花「む……」
難しい顔をしながら摩耶花がいつもの席に着席する。
奉太郎は立ったままため息をついた。
奉太郎「安心しろ伊原、俺は今から帰るところだから」
摩耶花「あっそ。それは安心したわ」
奉太郎のほうも見ずにつんとした調子の摩耶花。
奉太郎「そうか。じゃあな」
躊躇無く廊下に出た奉太郎は後ろ手に扉を閉めた。
かばんを揺らして階段を目指す。
奉太郎(今日はエネルギー消費の少ない、実に良い日だ)
がしっとかばんを掴まれた。
奉太郎「ぐえ」
バランスを崩しそうになるのをなんとか抑えて振り返る。
摩耶花「はぁっ、はぁっ……待ち、なさいよっ……!」
伊原摩耶花が彼を睨んでいた。
地学準備室に戻って再びいすに腰を下ろした奉太郎は頬杖をついて窓の外を眺めた。
山々は緑の色を濃くし、その上にはひとつ、まるい雲が浮いていた。
摩耶花「~♪」
奉太郎を文字通りひきずって部室へと連行した本人は、今は斜向かいに座して折り紙を折っている。
足を机の下でぱたぱたさせている。
奉太郎「……なあ伊原」
呼びかけると、摩耶花は鼻唄をやめてまた睨んでくる。
摩耶花「なによ」
奉太郎「帰っていいか?」
奉太郎「……睨むのを辞めろ」
ぷいっと摩耶花はそっぽを向いた。
摩耶花「だって、あたし一人で部室に居るとか、なんかむなしいじゃん」
奉太郎「だったら漫研の部室に戻ればいいだろう」
摩耶花「……古典部行ってくるって言っちゃったし……戻りにくい」
奉太郎は額に手を当てて顔をしかめた。
奉太郎「じゃあもう帰ろう。それで問題ないだろ」
摩耶花「ふくちゃんを待ってるの! わかりなさいよ!」
奉太郎(わからん)
摩耶花「なに読んでるの、折木」
奉太郎は黙って背表紙を摩耶花に向ける。
著者名を見て反応した彼女だったが、その著作は読んだことが無いようだった。
摩耶花「どういう話なの?」
奉太郎「文房具と鼬の戦争」
摩耶花「なにそれ? ファンタジー?」
奉太郎「さあ」
奉太郎は本を開いてさきほどの続きを読み始めた。
摩耶花「できたっ」
嬉しそうにそう宣言すると、鶴を奉太郎の前に置いた。
奉太郎はちらっとそれを見ると、手を伸ばして鶴のしっぽを折り曲げた。
奉太郎「……ダブルヘッド・ツル」
摩耶花「ちょっとォ! ツルも英訳しなさいよ!」
奉太郎(そこなのか)
奉太郎「伊原」
摩耶花「ツインテール・ツル……ぶふっ」
摩耶花「っるさいわね。あんただって古典部だから本読んでるわけじゃないでしょ」
奉太郎「それは、そうだが」
摩耶花「あたしに文句つけるのやめてよね。折木のくせに」
奉太郎(理不尽すぎる)
奉太郎「……だいたいおまえはどうして古典部に入ったんだ」
摩耶花「それは……ふくちゃんがいたし、ちーちゃんも誘ってくれたから……」
奉太郎「主体性の無いやつだ」
摩耶花「あんたにだけは言われたくないわよ!」
ぱたぱたぱたっと折った紙飛行機を奉太郎に投げつける摩耶花。
摩耶花「そうね。供恵さんのマンガにはお世話になったもの」
最低限の動きで奉太郎に回避された紙飛行機が床に落ちる。
摩耶花「そうだ! 今度また読ませてよ!」
身を乗り出した摩耶花に奉太郎は冷ややかな目を向けた。
奉太郎「学校にもってこいって言うのか? いやだね」
彼の頭の中で『省エネ』というワードが点滅した。
摩耶花「なによ。あんたんちに読みに行けばいいんでしょ」
しばらく奉太郎は考えていたが、自分のコストはすこぶる低い、と結論付けた。
奉太郎「――好きにすればいい」
摩耶花「やたっ♪」
がたんっと音を立てて座りなおした摩耶花は、口笛を吹きながらにこにこした。
奉太郎(喜びすぎだろ……)
奉太郎の視線に気付くと摩耶花はむっとしたような表情でじっとりと見返した。
摩耶花「なに見てんの」
奉太郎「なんでもない」
かち、かち、かち、という時計の音と、奉太郎が頁をめくる音、そして摩耶花のシャーペンが走る音だけがしていた。
摩耶花はなにかノートにメモを書き付けているようだった。
奉太郎「………」
摩耶花「………」
ぽふんと摩耶花がノートに突っ伏した。
呻く。
奉太郎「………」
反応しない奉太郎はじいっと見つめる摩耶花。
摩耶花「………」
本から視線をはずさない奉太郎。
奉太郎「なんだ」
摩耶花「たいくつー」
奉太郎「じゃあ帰るか」
摩耶花「それはいやー」
突っ伏したまま摩耶花は手足をばたばた動かした。
奉太郎「………」
摩耶花「……むう」
奉太郎「なんだ」
摩耶花「たいくつー」
奉太郎「………」
摩耶花「おれきー」
奉太郎「………」
摩耶花「……すぅ……すぅ……」
奉太郎(退屈すぎて寝たのか。子供だな)
摩耶花「……すぅ……ん、ほーちゃん……」
ふむ、と奉太郎は摩耶花に目をやった。
ノートに頬をつけて、寝ている。
背中が規則正しく上下している。
奉太郎(寝ているとほんとうに小学生のままだな、伊原は)
奉太郎(いや起きていてもか。あの苛烈な性格は幼少の時分からだった)
奉太郎「………」
摩耶花が起きる気配は無い。
摩耶花「……ほーちゃん……あそぼ……」
奉太郎「ああ、いいよ。摩耶花ちゃん」
古典部室を夕日が赤く染めていく。
摩耶花「むにゃ……?」
ゆっくりと摩耶花が目を開いた。
寝ぼけたまま上体を起こすと、ぱさりと布が床に落ちた。
摩耶花にかけられていたらしい。
前を向くと奉太郎は腕を組んで眠っていた。
眉根が寄っている。
摩耶花「………」
奉太郎「……やめろ姉貴……やめてくれ……」
うなされている彼を見て摩耶花は少し笑った。
摩耶花「わっ、なにこれ古……」
どうやら部室のどこかにあったタオルケットらしい。
目立った汚れは無いが、古い。
奉太郎へと目を移す。
摩耶花「……しかたないわね」
起こさないように、摩耶花は奉太郎の肩にタオルケットをかけた。
摩耶花「……ん?」
視線を感じて扉のほうを振り返ると、すこし開いた隙間からにこにこした顔が覗いていた。
里志「やっぱりベストカップルじゃないか」
摩耶花「ふくちゃあんっ!?」
奉太郎は自室のベッドで二度寝していた。
したしたと階段を上る音がする。
半分以上眠ったままの頭で奉太郎は姉が帰ってきたと思った。
摩耶花「折木ー! 起きなさーい!」
勢いよく扉を開けて入ってきたのは伊原摩耶花である。
ずかずかとベッドに近づくと、腰に手を当てて彼女はのたまう。
摩耶花「せっかくの休日にいつまで寝てんのよ!」
奉太郎「せっかくの休日だから好きなだけ寝させてくれ……」
摩耶花「ほらもう9時よ! 早く起きなさいって」
奉太郎「すまん姉貴……」
摩耶花「あたしは供恵さんじゃない!」
奉太郎「……おはよう、伊原」
摩耶花「おはよ、折木。いい目覚めね」
奉太郎「ねむたい」
摩耶花「しゃっきりしなさいよね、まったく」
奉太郎「それで……なんで伊原がうちに……」
摩耶花「このまえマンガ貸してっていったでしょっ」
奉太郎「……そうだったか」
摩耶花「そうなの!」
奉太郎「好きにしろ、俺は朝飯食べてくるから……」
摩耶花はまったくもう、というふうにそれを見送ったが、すぐに立ち上がった。
部屋を見回す。
摩耶花「折木の部屋も久々ね……」
ずいぶん物が少ないなという印象を受けた。
子供のころにはもっと雑然としていた記憶があるのだが。
摩耶花「これも古典部のおかげかな……」
ひとりごちる。
ぱっと勢いよく回転すると、今度は部屋を出て供恵の部屋へと向かった。
摩耶花「あ、おかえりー」
奉太郎「どうしてここにいるんだ……」
摩耶花「マンガ読みに来たって言ったでしょ」
奉太郎「だったら姉貴の部屋でいいだろ」
摩耶花「なによ、邪魔だって言うの? まだ寝るつもりなの?」
奉太郎「そうじゃない。そうじゃないが……」
奉太郎は力無くいすに腰を下ろした。
摩耶花「だったらいいじゃない。あたしのことは気にしないで」
雑誌を読んでいた奉太郎は静寂に耐え切れなくなり、TVをつけた。
にぎやかな音が部屋に流れ出る。
奉太郎「……はあ」
うつぶせになって足をぱたぱたさせていた摩耶花が顔を上げた。
摩耶花「折木」
奉太郎「……なんだよ」
摩耶花「うるさい。TV消して」
奉太郎「………。はいはい」
奉太郎「今度はなんだ」
摩耶花「……折木ってちーちゃんが好きなの?」
マンガに目を落としたままの摩耶花の言葉に奉太郎は一瞬動きを止めた。
奉太郎「……どうしてそうなる」
摩耶花「だって……、」
奉太郎「………」
摩耶花「だって、中学生のときとか、あたしがいくら誘っても遊びに行かなかったのに……」
摩耶花「古典部に入ったのだってちーちゃんがいたからなんでしょ?」
摩耶花は起き上がって奉太郎に顔を向けた。
摩耶花「そうなの?」
奉太郎「そうだ。千反田は断じて関係ない」
摩耶花「そうなんだ」
奉太郎「ああ」
摩耶花「でも温泉旅行とか……」
奉太郎「ぐ……、あれは……」
摩耶花「あれは?」
摩耶花「は?」
奉太郎「千反田の目を見ると、どうしても断れなくなる。承諾しなければいけない気になる」
摩耶花「………」
奉太郎「俺だって喜んで温泉いったり文集を作ったりしているわけじゃない」
摩耶花「……ふうん」
ぽて、と摩耶花は今度は横に倒れた。
摩耶花(でも……、それって、ちーちゃんが好きだからってことじゃないの)
階下に呼ばれた折木が階段を上ってくる。
奉太郎「伊原ーあけてくれ」
摩耶花「なによもう……」
マンガを置いて摩耶花が扉を開けると、奉太郎がお盆を持って入ってきた。
冷やし中華が二つ。
奉太郎「昼飯」
摩耶花「あっえっ、い、いいの?」
奉太郎「いいんじゃないか。それとも嫌いだったか?」
摩耶花「ううん! じゃあ、いただきます」
すこし居心地の悪さを感じる奉太郎。
奉太郎「……伊原は、里志のどこが好きなんだ」
奉太郎(しまった、どうしてこんなめんどくさい話題を俺は……)
じろっと摩耶花は奉太郎を一瞥した。
摩耶花「……優しいし、楽しいし」
奉太郎「ふうん……」
摩耶花「でもよくわかんないのよねふくちゃんって」
摩耶花は早口にそう言った。
奉太郎「……そうか」
どんな相槌を打てばいいかわからなくて奉太郎は困った。
摩耶花「『君の気持ちはわかったけど、君自身が本当の気持ちに気付かないと僕は付き合えない』とかなんとか」
奉太郎(おい里志おまえのせいで今俺がめんどくさいことになってるじゃないか)
摩耶花「本当の気持ちって何なんだろ。ホントよくわかんないよ」
奉太郎「……ああ」
冷やし中華が無くなって奉太郎は間が保たなくなった。
摩耶花のそれはまだ半分も残っている。
奉太郎「ん」
麦茶に口をつける奉太郎。
摩耶花「あたしってそんなに魅力ないかな」
奉太郎「!? ごほっ、げほっ」
摩耶花「だ、大丈夫!?」
奉太郎「あ、ああ。だいじょうぶだ」
奉太郎(なんだこれは。俺はどうしたらいいんだ)
―――女の子には優しくしなさい。けっして逆らっちゃダメよ。
―――落ち込んでいたら褒める。落ち込んで無くても褒める。
―――わかった? 女の子には優しく。
―――それじゃ、まずわたしのいうことを聞きなさい。いいわね?
奉太郎(トラウマが……!)
摩耶花「折木?」
奉太郎「俺は、」
奉太郎(褒める、褒める――)
奉太郎「俺は、伊原が可愛いと思うぞ」
摩耶花「………」
奉太郎「………」
奉太郎(なんだこれ異常に恥ずかしいんだが。なんか言えよ伊原)
摩耶花「……ぷっ」
奉太郎「?」
摩耶花「あははははっ!」
腹を抱えてげらげら笑う摩耶花に奉太郎は赤面した。
奉太郎「おまっ、笑うこと無いだろう!」
摩耶花「あはははっお腹いたい! 苦しい!」
奉太郎「……言うんじゃなかった……」
摩耶花「く、くふっ、冷やし中華美味しい……ぶふぅっ」
奉太郎「吹くな!」
摩耶花「ごめ、ふふっ、あはは!」
奉太郎(恨むぞ姉貴……)
奉太郎「……落ち着いたか?」
げんなりした顔の奉太郎。
摩耶花「うん。ごちそうさま」
対して摩耶花は笑顔である。
摩耶花「じゃあそろそろ帰るわね」
立ち上がった摩耶花に奉太郎も続く。
奉太郎「そうか。マンガはどうするんだ」
摩耶花「また読みにくるから! あと半分くらい残ってるし」
奉太郎「それじゃあな」
摩耶花「うん。………」
外に出て、摩耶花が振り返る。
摩耶花「あ、ありがと!」
扉が閉まった。
奉太郎「………」
奉太郎(……まぁ元気出たみたいだし、いいか)
摩耶花「……ふふっ♪」
思わずスキップなんで踏んでしまう。
にやけるのを止められない摩耶花。
摩耶花「折木に可愛いって言われちゃったっ」
その笑顔は太陽よりなお明るい。
終
たまにはこういうのもいいよね
Entry ⇒ 2012.06.24 | Category ⇒ 氷菓SS | Comments (4) | Trackbacks (0)
える「私、田んぼの様子が気になりますっ!」 折木「やめろ」
える「どうして止めるんですか折木さん!」
折木「今出て行ったら死ぬぞ」
える「でも田んぼが……」
折木「落ち着け。無理に下校するなと学校側も言ってただろ」
える「ですが、稲が!稲が倒れてしまったら……!!」
折木「千反田」
える「!」
える「へ……?」
折木「早く」
える「は、はい!」
える「すぅー………はぁー………」
折木「落ち着いたか」
える「はい」
折木「よし」
える「それじゃあ私は帰って畑を……」
折木「分かってない」
…………
…………………
…………………………
える「はい………」
折木「ここはどこだ?」
える「……神山高校特別棟4階・地学準備室です」
折木「そこまで詳しくなくていいんだけどな。
ところで俺たちはいまどうしてここに居るんだったかな」
える「それは……」
折木「もう下校時刻も過ぎたというのにな」
える「その……台風が来ているから、です」
折木「しかし台風が来ているなら寧ろさっさと帰るべきじゃないのか?」
える「………」
折木「それをどうして学校がわざわざ生徒を足止めしてるんだ?」
える「………今すぐ下校するのが危険だと、判断したから?」
える「…………」
折木「…………で、何の話だったかな。今から帰るって?」
える「うぅ……」
…………
…………………
…………………………
折木「しかしいざ『帰るな』と言われてもな」
える「…………」ソワソワ
折木「することもないし、いかんせんヒマだな……」
える「……………」ハラハラ
える「ううぅ………」アタフタ
折木「…………千反田」
える「は、はいっ!」
折木「お前まだ余計なこと考えてるな」
える「な、なんのことですか折木さん?」
折木「とぼけるな。目が泳いでるぞ」
えるたそのかわりに俺が見てくる
死ぬなよ……
折木「………大方、どうやって俺の目を盗んで学校を抜け出すか考えてたんだろう」
える「ど、どうして分かったんですか!?」
折木「……………」
える「…………あ」
折木「はぁ…………とりあえず、何か飲んで落ち着け。買ってくるから」
える「えっ?」
える「え、あ、ごっ、ごめんなさい!
でも、折木さんがそんなことをおっしゃるとは、思わなかったもので……」
折木「…………らしくないのは分かってるさ。
だが今日は運よく、可処分エネルギーが残ってるんでな」
える「そうですか……」
折木「言っておくがおごりじゃないぞ」
える「分かってますよ」
折木「……それともう一つ」
える「?」
折木「もし俺が買ってくる間に勝手に帰ったら一生口きかないからな」
える「…………その手がありました」
折木「おい」
…………
…………………
…………………………
ガラガラ
折木「買ってきたぞ」
える「………ありがとうございます」
折木「お茶でよかったか」ハイ
える「はい……」
折木「ん………帰らなかったんだな」
える「だ、だって!帰ったら折木さん口きかないっておっしゃったじゃないですか!」
折木「………あー、悪い。本気で受け取るとは思わなくて」
える「ひどいです!」プンプン
える「あっ………」
折木「とりあえず、今は学校の指示を待とう」
える「………そうですね」
…………
…………………
…………………………
える「そういえば」
折木「ん?」
える「福部さんと摩耶花さんはどうされたのでしょう」
折木「委員会の仕事なんじゃないのか?こういう時の総務委員だろ?」
える「大変ですね………」
折木「案外そんなことないんじゃないか?
里志はこういう台風の時テンションが高くなるタイプだからな」
える「そうなんですか?」
折木「そう。俺には理解できないが」
える「ふふっ、折木さんらしいですね」
折木「……………そうだな。
こんな暴風雨のなか外に出て行こうと考える人間の考えてることはもっと理解できない」
える「………今日の折木さん、少し意地悪です」
折木「そうか?だが実際畑や田んぼに行ってどうするんだ?」
える「!」
折木「見に行ったところでどうする事もできんだろうに」
える「何を言っているんですかっ!」
折木「」ビクッ
える「農家にとって田畑は我が子も同然なんですよ!?」
折木「……………」
える「我が子に危機が迫っているというのに、放っておけるわけがないじゃないですか!」
折木「」
折木「何というか………すまん、軽率な発言だった」
える「すっ、すみません!私ったら興奮してしまって……」
折木「いや、俺の言い方が無神経だった……と、思う」
える「そんなことは…………でも」
折木「どうした?」
える「いえ。その………今年は少し早いですけれど、もうすぐ台風シーズンですよね?」
折木「そうだな」
える「私としては、そんなもの来てほしくはないんですが……」
折木「それはそうだろう」
える「来てしまうものは仕方がありません。ですが……」
折木「ん?」
える「どうして、毎年亡くなる方がいるのでしょうか?」
折木「………あー………」
折木「確かに、その手のニュースを聞かなかった年がないな……」
える「そうですよね?」
折木「まぁ、交通事故が無くならないのといっしょだろう」
える「交通事故?」
折木「………言い方は悪いが、『運が悪かった』ってことだ」
える「確かに事故はそうかも知れませんが」
折木「だろう?」
える「でも台風は、基本的に家の中に居れば安全ですよね?」
折木「」
える「さっき出て行こうとした私が言うのも何ですが」
折木「………さっき自分で言っただろ『田畑は我が子も同然だ』って」
える「それはそうなんですが……」
折木「ならそういうことなんだろ」
える「でも、それなら何で亡くなるのはお年寄りの方ばかりなんでしょう?」
折木「それは………」
える「同じ農家として、他人事とは思えません!」
える「私、気になるんです!」
折木「」
…………
…………………
…………………………
折木(状況を整理しよう)
折木(学校で足止めを食らっていたら、千反田に『台風のときに年寄りが出て行くのはなぜか?』
と訊かれた)
折木(何を言っているのか分からないと思うが、俺にも分からない)
折木(というか、ハッキリ言って知ったことではない)
折木(ないが………)
折木「………………まぁ、理屈がつけられんこともない」
える「本当ですか?折木さん」
折木「あ、あぁ……」
える「それで、どうしてだと思いますか?」
折木「その前に千反田」
える「はい?」
折木「お前は何故出て行こうと思ったんだ?」
える「え?」
折木「毎年死人が出てるのは知ってたんだろう?
それでもなお出て行こうと思った理由は何だ?」
える「それは………」
える「………じ、自分は大丈夫だろう、と」
折木「ほう?」
える「その………私はまだ若いですし、うっかり足を滑らせるようなことは、ないかと……」
折木「それだ」
える「それ?」
折木「『自分だけは大丈夫だろう』」
える「!!」
こんな暴風雨の中出て行く連中はみんなそう考えてるに決まってる」
える「あ…………」
折木「それに『自分はまだ若い』、とも言ったな。それも年寄りの常套句だ」
える「あぅ…………」
折木「話は変わるが、田舎の年寄りっていうのは元気だよな」
える「えっ?」
折木「何というかこう、『生涯現役』を地で行ってるというか、
俺などよりもよほどエネルギッシュだとすら思う」
える「そうかも、知れませんね」
折木「そうだ。気を若く保つのは健康にもいいらしいぞ。
…………体がついていけばの話だがな」
える「あっ」
必ず来るものなんだよ」
える「…………」
折木「………………悪い。気を悪くしたなら謝る」
える「いえ………その通りだと思います」
折木「…………そうか」
える「…………今年も」
折木「?」
える「今年も、いい稲が育っていたんです」
折木「……………」
折木「……………」
える「何度か様子を見に行きましたが、それは見事なものでした」
折木「………一度見てみたいものだ」
える「いつか、ご案内します……今年は無理かも知れませんが」
折木「……………」
える「分かってはいるんですよ。
『天災はどうしようもない』って。ですけど……」
える「こうしている間にも稲が倒れてしまうんじゃないか。
何か出来ることがあるんじゃないか」
える「…………そう考えると、いても立ってもいられないんです」
折木「………………」
える「…………すみません。愚痴みたいなことをお聞かせしてしまって」
折木「……………これは俺の勝手な想像だが」
える「はい?」
折木「さっきお前は、『農家にとって田畑は我が子も同然』と言ったな」
える「…………はい」
折木「ならお前の両親も、田畑と同じくらいお前を大事に思っていると思うぞ」
える「!」
折木「…………いや、違うな。
娘より畑が大事な親なんていないんじゃないか」
える「………そう、でしょうか」
える「…………」
折木「それにな」
える「?」
折木「お前の身を心配してるのは家族だけじゃない。
お前に危険が及べば、きっと伊原や里志だって死ぬほど心配するに決まってる
そうでなくても、お前は普段から少々危なっかしいからな」
える「…………」
折木「………………俺だって心配だ」
える「!!!」
折木「と、とにかくだ。お前は気負い過ぎなんだよ。
もう少し肩の力を抜いたほうがいい」
える「…………そうですね」
折木「………話し相手がお前でよかったよ」
える「えっ?」
折木「里志や伊原なら間違いなく言うからな。
『お前が言うな』とな」
…………
…………………
…………………………
ピーンポーンパーンポーン
放送『校内の生徒の皆さんにお知らせします』
折木「お」
放送『ただ今、大雨・暴風警報が解除されました。お家の方と連絡を取るなどして、
安全な方法で速やかに下校してください。繰り返します……』
折木「………帰れるみたいだな」
える「ですね」
折木「意外と早かったな」
える「台風は上陸すると勢力が弱まりますから」
折木「なるほど」
える「でも、家に連絡ですか……」
折木「生徒が携帯を持っているのが前提の放送だったな」
える「どうしましょう……」
折木「職員室かどこかで借りればいいだろ」
える「いいんでしょうか?」
折木「渋ったら言ってやればいい。
『携帯電話なんて学校に持ってくるわけがないじゃないですか』ってな」
える「…………ふふっ、そうですね」
折木「だろ?」
…………
…………………
…………………………
ガラガラッ
える「お電話、借りられました!」
折木「そうか。で、家の人は何と?」
える「はい。あと15分ほどで迎えに来てくれるそうです」
折木「そうか………じゃあ俺も帰るか」
える「え?折木さんもお家の方に連絡されたんですか?」
折木「いや、俺は別に」
える「えっ」
折木「ほら、俺はお前と違って歩いて帰れる距離だしな」
える「そんな、ダメです!危ないです!」
折木「だが、ホラ見てみろ。雨脚もだいぶ弱く…」
ザァーーーザァーーーーッ
ビュオーーーーーーーーーーーーウ
ゴロゴロピッシャーーーーーン
える「横なぶりですね」
折木「」
える「折木さん」
折木「な、何だ」
える「まさか、お家に連絡されるのが面倒、などと言うことは……」
折木「」ギクッ
える「折木さん!」
折木「…………………な、何だ」
える「さっき私に仰いましたよね。私が危ない目に遭えばみんなが心配すると」
折木(こいつが伊原みたいな嫌味を言い出したら世も末だな……)
える「私も同じです!」
折木「何?」
える「折木さんが危険にさらされたら、私も心配です!」
折木「」
える「そうです、いいこと思いつきました!」
折木「…………言ってみろ」
える「私が折木さんをお家までお送りします!」
折木「何だと?」
える「うちは車で来てくれるそうなので、それで折木さんの家までお乗せします」
折木「いや、それは………」
える「だめでしょうか?
もしかして、何か都合の悪いことでも?」
折木「いや、そうじゃない。そうじゃないが……悪いしな」
える「そんなことはありません!折木さんにはお世話になりっぱなしですから、これくらいは!」
折木「あー………」
える「………だめですか?」
折木「」
…………
…………………
…………………………
折木(結論から言おう)
折木(俺は千反田の好意に甘えて家まで乗せてもらうことにした)
折木(車を回してくれたのはどうやら親父さんだったようだ)
折木(千反田父………初めてお目にかかった)
折木(それと分かったことがもう一つ。
千反田は家でも同じような感じらしい)
折木(一日学校であったことを嬉しそうに報告する千反田の姿は……
当り前だが、少し子どもっぽかった)
折木(だが千反田よ)
える「……それで、折木さんが『自分も心配だ』って言ってくださって……」
折木「これは何の拷問だ」カァァ
おしまい
遅くてすまんかったな。
オレもP4Gやりながら寝るわ。じゃあの。
おもろかった
Entry ⇒ 2012.06.20 | Category ⇒ 氷菓SS | Comments (0) | Trackbacks (0)
伊原「折木ってカラオケに行って童謡とか歌うタイプよね」 折木「」
伊原「人らしい感受性が死んでるアンタが最近の音楽なんて知ってるわけないし」
折木「」
伊原「かと言って頑なに歌わないのも面倒くさいから、
童謡とか唱歌みたいな面白くもなんともない歌でさっさと流してお茶を濁すタイプよね」
折木(こいつ、言わせておけば……)
福部「それは違うんじゃないかなぁ摩耶花」
折木(……里志?)
伊原「ふくちゃん?」
福部「ホータローはそんなことしないよ」
伊原「えっ?」
折木(いいぞ里志、言ってやれ)
福部「そもそもホータローはカラオケに行こうって話題が出た瞬間にこっそり帰ろうとするタイプさ」
折木(お前に期待した俺がバカだったよ)
福部「そうそう。空気が読めないっていうかね」
伊原「そうなのよ。まぁこんなヤツとカラオケに行ったところで面白くもなんともないけどね」
折木「さいで……」
ガラガラッ
える「遅くなって申し訳ありません」
福部「やぁ、千反田さん」
折木「よう」
える「何やらにぎやかでしたけど、どんなお話をされていたんですか?」
伊原(う゛っ……しまった、あんまり折木をいじめるとちーちゃん怒るのよね……
何とか話題をそらして……そうだわ!)
伊原「あっ、そうだちーちゃん、今日カラオケに行かない?」
福部「!……あーそうそう。さっき摩耶花と話してたんだよ。千反田さんを誘って行かないかって」
伊原(ナイスふくちゃん!)グッ
折木(………アホらし)
える「あの……実は私、カラオケというものに行ったことがなくて」
伊原「えっ、そうなの?」
福部「そんなカタく考えなくていいんだよ」
伊原「そうそう。あっ、じゃあ今日はちーちゃんのカラオケデビューってことで!」
える「摩耶花さん……」
伊原「ねっ、行こ?」
える「……はい、そういうことでしたら、喜んで」ニコッ
伊原「やりっ!」
折木(……………すっかり蚊帳の外だな)
ガタッ
折木「しまっ…」
える「あっ、折木さんも行きますよね?」
折木「いや、俺は……」
伊原「無駄よちーちゃん。こいつが歌なんて歌えると思う?」
折木(むっ)
伊原「そうそう。どうせコイツが来たって童謡くらいしか歌える曲なんてないわよ」クスクス
折木(………ここで感情的になっては省エネ主義者の名折れだ。
しかし………)
折木「お前らなぁ、人をおちょくるのも大概にしろよ」
折木(ここまで言われて大人しく引き下がる義理もない)
折木「俺にだって歌くらい歌える」
える「よかった、折木さんも来るんですね?」パァァ
折木「あっ」
伊原(よし)
福部(かかった)
折木「あー千反田。今のはコイツらに……」
える「失礼かもしれませんが、折木さんが歌うところが想像できなかったんです」
折木「だからな…」
える「折木さんはどんな歌を歌われるのですか?」
折木「あのな……」
える「私、気になりますっ!」キラキラ
折木「…………はぁ」
伊原「久しぶりねー」
福部「お、LIVE D●Mだ。ラッキー」
える「意外に暗いんですね」
伊原「あっ、今電気点けるね」
パチッ
折木(………やってしまった)
折木「………分かってるならどうしてあの時止めなかった」
福部「僕と摩耶花は止めたじゃないか」
折木「挑発したの間違いだろ」
福部「見解の相違だね」
折木「さよけ」
折木「………ふん」
福部「………それ以前に、あんな嬉しそうな顔されたら断れないだろ?ホータローにはさ」
折木(言ってろ)
える「ええと……このタッチパネルの機械はどうやって使うのですか?」オロオロ
える「そうですね、お願いしてもいいですか?」
伊原「オッケー。じゃあ私が最初に入れるから」ピッピッ
える「……あぁ、なるほど……」
伊原「それで最後にここで……送信!」ピピピッ
える「すごいです!」
折木「…………」
福部「何か言いたそうだね」
折木「知らん」
福部「」ニヤニヤ
http://www.youtube.com/watch?v=f3-q6HO0-zY
~~♪
伊原「あっ始まった!マイクマイク…」
える「わー」パチパチ
《あなたの名前呼んだらそこで 突然目が覚めそう》
《こんなに上手く行きっこない また偶然会えるなんて》
折木「…………」チラッ
福部「~♪」クリクリ
折木「……里志」
福部「何だい?」
折木「俺はこういう場の作法に疎いが、人が歌ってる間に携帯を弄るのは感じが悪いということは分かるぞ」
折木「『コレだよ』と言われても……何だこれは?」
福部「アプリだよ。あらかじめお気に入りの曲を登録しておいて、携帯から直接本体に送信できるんだ」
折木「ほう」
福部「勿論曲の検索もできるから普通にリモコン感覚でも使えるしね。
対応してる機種でよかったよ」
折木「………便利そうだな」
福部「ホータローもいい加減携帯くらい持ったらどうだい?」
折木「考えておく」
《ときめきの導火線が 体中を走ってく》
《バラバラにならないように しっかりしなくちゃ私》
える「摩耶花さん、かっこいいです!」
JOYならある
DAMは知らん
《でもちょっと 今日はちょっと 気持ちが迷子の仔猫》
《優しさで攻められたら ついてくしかないかもね……///》
える「?」
折木(コイツ今更恥ずかしくなったのか)
………
……………
…………………
~~~♪
える「摩耶花さん、すごいです!」パチパチ
伊原「ありがと、ちーちゃん。お世辞でも嬉しいわ」
える「いいえ、とってもかっこよかったですよ」
伊原「そう?……ありがと。………」チラッ
福部「さってと、次は僕かな」
折木(こいつの神経の太さだけはあやかりたいものだ)
http://www.youtube.com/watch?v=jRNIG2e2GrQ&feature=relmfu
《虫も殺さぬ顔して キツイことを平気で言う》
《自分じゃ出来もしないで 人に押し付けてばかり》
伊原「」
折木(今だけは同情してやるぞ、伊原)
《周りの顔を気にして 隣にならい物を言う》
《ロクに話も訊かずに 相槌打って作り笑い》
える「あれ……?あれれ……?」ピコピコ
折木「どうした」
える「あっ、いえ何でもありません……折木さん、お先にどうぞ」
折木「いや、俺も後でいい。それより何か飲み物を頼もう」
える「えっ?」
える「そうだったのですか。知りませんでした」
折木「まぁ来たことがなければ知らんだろう。それより何にするんだ?」
える「えっ?あ、はい。……あ、これがメニューなのですね
じゃあ……アイスミルクティーにします」
折木「ん……おい伊ば、ら………」
伊原「いつもいつもふくちゃんってばもー……だったら今度はこの曲で……」ブツブツ
折木「………俺が頼む」
………
……………
…………………
伊原(ふくちゃんってばいつもそう……こんな風にはぐらかして…)
《何だかんだ言っても そう君が好きだから》
伊原「!」
《上手く言えないんですけど 『マイペース』それもいいんじゃない》
《それじゃバイバイバイ それじゃバイバイバイ》
伊原「………///」
《それじゃまた明日ね バイバイバイ》
える「福部さん、素敵な歌でしたね」
福部「あ、そう?いやー千反田さんにそう言われると照れるなー」
伊原「」ムカッ
福部「結構前の曲なんだけど、カッコイイでしょ?」
える「そうですね!」
伊原(ちーちゃんは悪くないちーちゃんは悪くない……)イライラ
折木(伊原の怒気で里志がやばい)
伊原「………次はあたしだから」
福部「摩耶花はさっき歌っただろ?順番順番」
える「えと、私はもう少し後でも」
折木「右に同じだ」
福部「そう?ならいいけど」
伊原(見てなさいよふくちゃん……!)
http://www.youtube.com/watch?v=O9V37wJ_9qw
《なんでも自分でできるって 強がるだけ強がってもね》
《君がいなきゃ 何もできないし》
える「あっ、さっきの福部さんの曲と同じ方が歌われてるんですね」
福部「そっちでかぶせてきたかー。さすがだね摩耶花」
折木(コイツの辞書に反省の文字はないのか)
《冷蔵庫開けりゃ 何もありゃしないや》
《さぁ吸いこんでくれ 僕の寂しさ孤独を全部君が》
《さぁ噛み砕いてくれ くだらんこと悩みすぎる 僕の悪い癖を》
折木「鬼気迫るものがあるな」
福部「まーいいや何とっかなーるってもんでっしょ…♪」クルクル
折木(当の本人はこれだけどな)
福部「あっ、千反田さん、曲決まった?」
える「あの……すみません、もう少し……」
福部「了解。じゃー僕が繋ぎを……」
える「えっ?」
折木「ひょっとして、曲が見つからないんじゃないか?」
える「!」
折木「図星か」
える「どうして分かったんですか?」
折木「………何となくだ」
折木(リモコン相手にあれだけ首を傾げてたら普通は気付くだろ……)
折木「まぁ、世の中の全ての曲が入ってるわけじゃないからな。そういうこともあるだろう。
諦めて別の曲にしたらどうだ?」
える「見つからないというか、その……」
折木「?」
える「だ、題名を失念してしまって……」
折木「は?」
える「さっきから、どうしても曲のタイトルが思い出せないんです」
折木「」
える「正確に言うと、タイトルが分からないんです」
折木「分からない?」
える「はい」
折木「……どういうことだ?」
える「この間、お部屋でラジオを聴いていたんですが」
折木「ふむ」
える「それがとても素敵な曲で、一番が終わってから録音を始めたんです」
折木「なるほど」
える「そのあと何度も繰り返し聴いて大好きになったんですけど………」
折木「………曲紹介の部分が録音されていなかったと」
える「そういうことなんです」
折木「なるほどな……」
《止めなよ この世に男はアレだけじゃないよ》
《勘違い 思い違い してるだけでそりゃ愛じゃない》
える「歌っている方も結局分からなくて……」
折木「なるほど。そりゃ探しようがない」
える「二番の歌詞とメロディは覚えているんですが…」
折木「それじゃ難しいだろうな」
える「でも、今日ここにくることになった時、これだけは歌いたいと思っていたんです!」
折木「そう言われてもな……」
える「私の探していた曲が何なのか、分かりませんか?折木さん」
える「私、気になるんです」
折木「……………ハァ」
折木(曲名も歌手名も分からないんじゃな……ジャンル検索とやらも無理そうだ)
折木(唯一使える手掛かりは二番の歌詞だけ……厳しいな)
《冗談じゃないんだよ 本気で言ってんだよ》
《君は茶化して笑うでしょう》
《後悔をしないように 思いにうそはつけないよ》
福部「ウソハツケナイヨー」
折木「!」
折木「里志」
福部「ん?どうしたんだいホータロー。随分待たせたじゃないか」
折木「そうか?」
福部「もう僕と摩耶花でS●RFACE縛りが始まってしまうくらいにはね。それより何か用かい?」
折木「なに、すぐに済む」
折木「里志、携帯……というか、スマートフォンとイヤホンを貸してくれ」
……………
…………………
福部「なるほど、歌詞で曲を検索する機能があったね」
折木「ああ。見つからなくても、最悪検索エンジンで探せばいいしな」
福部「ね?やっぱりスマホって便利だろ?」
折木「お前の手柄じゃないだろ」
福部「まぁまぁ。でももってた方がいいって思っただろ?
結果的に千反田さんの助けになったんだし」
折木「何故そこでアイツの名前が出る」
折木「…………前向きに検討しておく」
伊原「ちーちゃんどんな曲歌うだろ」ワクワク
える「ここを押して……できました!」ピピピッ
http://www.youtube.com/watch?v=K0slqS4Qiac
伊原「!!」
《やさしい陽だまりに チャイムがディレイする》
《ほほをなでる風 息吹は深くなっていく》
伊原「すごい!ちーちゃんどうしてこの曲知ってるの?」
福部「知ってるのかい?」
伊原「大好き!アニ……あー、ドラマの主題歌なんだけどね?」
折木(アニメだ)
福部(アニメだね)
伊原「主人公の女の子がすっごいかわいいのよ!」
《あどけないこんな気持ちを はじけ飛ぶほど笑いあえた日を》
《大切に育てていけるように》
《途切れ途切れの時を越えて たくさんの初めてをくれた》
《つながってゆけ とどけ》
折木「………………」
伊原「見とれてんじゃないわよ折木」
折木「なっ」
福部「いやぁ、聴き惚れていたの間違いじゃないかい?」
折木「何をバカな………」
あたしとふくちゃんはしばらく休むから」
折木「何でだ。別に好きに歌えばいいだろう」
伊原「アンタがちんたらやってる内に歌いまくって疲れたの!ほら、早く!」
折木「」
《放課後の夕闇 笑う君の背中》
伊原「ああ、ちーちゃんかわいい………ん?」
福部「どうしたの摩耶花?」
《僕の中の君と 君の中の僕で 絡まる未来色のライン》
《雨上がりの街の匂いと 夢みたいな秘密胸に抱いて》
《何度も泣きそうになって また笑う》
伊原「いえ、多分気のせいね……仮にそうだとしても認めないし、あんな奴」ボソッ
福部「?」
折木「どれにするかな……」ピッピッ
折木(部室でああ言ったはいいが……いざとなるとダメだな。
ちゃんと覚えている曲がほとんどない)
折木(普段音楽など聴かんからな……)
折木(………この際本当に唱歌で誤魔化すか)
折木(いや、それはダメだ。無条件降伏以外の何物でもない)
折木(………あっ、あれはどうだ。この間姉貴がリビングで見ていた映画の主題歌)
折木(つまらんだの大根だのと散々文句を言いながら何度も見ていたからな、
曲は覚えているぞ)
折木(歌詞を見ながらなら歌えんこともないだろう)
伊原「決まったの?」
折木「ああ」
伊原「なら早くしなさいよ、ほんっとグズなんだから」
折木(……俺は前世でこいつの親でも殺したのだろうか)ピピピッ
福部「うん?」
伊原「えっ?」
折木「あっ」
………
……………
…………………
《ほんの少し大人になってく 君になりたい僕を越えて》
《つながってゆけ 今すぐ君に》
《とどけ》
伊原「最高だったわよ、ちーちゃん!」
える「ご、ご清聴ありがとうございました」ペコリ
福部「いや、本当によかったよ。上手いっていうか、雰囲気が出てたね」
える「ありがとうございます」ニコニコ
える「?どうかしましたか、摩耶花さん?」
伊原「いや、あたしの見込み違いならいいんだけど……」
http://www.youtube.com/watch?v=wYAVkKDdL6U&feature=related
折木「始まったか」
《つぶらな瞳も 鼻にかかる》
《じゃれた声も その小さな手も》
伊原「で、ちーちゃん、話の続きなんだけど……」
える「あ、はい、何ですか?」
伊原「さっきちーちゃんが歌った曲」
える「はい?」
《行き交う人たちの幸せ 自分のことのように》
《どうして ねぇ 願うの?》
伊原「ひょっとして、アイツのこと?」
える「へ……あ……あぁ………っ」カァァァ
伊原(かわいい)
伊原「違うの?」
える「ええと、違うと言いますか……」
伊原「違うというか?」
える「…………今、気がつきました。
……あの曲が好きな理由」
伊原(無自覚とか何それかわいい)
伊原(………それにしてもよ)
《僕にしか言えない 言葉を今》
《君に 届けたい》
伊原「………わざとじゃないならアイツも大概ね」ハァ
える「摩耶花さん?」
伊原(もうなんなのこの二人!ほんと何なの!?)
伊原(特に折木!)
《飛び交う嘘や嫉妬に 迷い惑わされない心よ》
《まっすぐな 祈りよ》
《僕は目を閉じて 君との未来を思い描く》
《その笑顔も描いてる》
伊原(アンタほんとにわざとじゃないわよね!
傍から見てる身にもなりなさいよ!!)
伊原(こっちはこっちでこんなんだし……)
福部「やるねーホータロー」
伊原(ふくちゃんも相変わらずすっとぼけだし………)
伊原「……………グレてやろうかしら」
える「そういえば、私が先程歌った曲と名前が似ていますね」
伊原「!」
える「偶然でしょうか?」
伊原「偶然かどうかは知らないけど……」
える「えっ?」
伊原「実はね………」
………
……………
…………………
《来年も再来年も 今以上に君が好きで》
《それぐらい 僕のすべてで》
《僕にしか言えない 言葉を見つけたから》
《心まで 交わした想い 君に届けたい》
福部「すごいじゃないかホータロー!君にも人並みの感受性ってものがあったんだね!」
折木「お前な……」
福部「今日はそれが分かっただけでも収穫ってもんだね!」
それよりも分かったか伊原、俺だって……ん?」
伊原「」ニヤニヤ
える「…………///」
折木「………千反田?」
える「は、はいっ!?」///
折木「…………どうした?」
える「え!?なっ、何でもあり、ありませんよ?」///
折木「」
福部「…………摩耶花」ボソッ
伊原「何?」ヒソヒソ
福部「何をしたんだい?」ヒソヒソ
伊原「別に?」シレッ
福部「すっとぼけて……」ヒソヒソ
伊原「ふくちゃんには言われたくないわよ」フンッ
………
……………
…………………
福部「あーーーー歌った歌った」
伊原「たまにはこういうのも悪くないわね」
福部「明日声出るかな」
伊原「あっ、のど飴食べる?」ハイ
福部「おっ、気が利くね。いただくよ」
える「…………」
折木「…………」
折木(……店を出てから一言も話さないな)
折木(何かやらかしたか?心当たりはまるでないが……)
える「………」チラッ
折木「?」
える「!」フイッ
折木「」
える「…………////」
折木(………何なんだ一体)
折木「は?」
伊原「折木、ちゃんとちーちゃん送って行きなさいよ」
える「ま、摩耶花さん?」
伊原福部「「じゃ!」」ダッシュ!
折木「おい、待てお前ら!」
える「………行ってしまいました」
える「え?あ、いえ、私はここで結構です!」
折木「そうも行かんだろう。日も落ちてきたしな」
える「ですけど、折木さんが遠回りになってしまいます」
折木「じゃあ途中までだ。お前の家が見える所まで送る
それでいいだろ」
える「………ありがとう、ございます」
折木「ん」
……………
…………………
折木「…………」
える「……………」
折木(……まただんまりか)
折木「…………なぁ」
える「えっ!?あっ、はい、何ですか?」
折木「……………何でそんなに驚く」
える「べ、別に驚いてなんていません、よ?」
折木「………伊原に何か吹き込まれたな」
える「!!」ギクッ
折木「図星か………まぁ、話したくないならいい」
折木「それよりも、今日は楽しかったか?」
える「あ、はい!それはもう!」
折木「そうか……」
える「折木さんはいかがでしたか?」
折木「そうだな………とにかく疲れた」
える「………そうですか」ショボン
折木(しまった)
折木「ま、まあたまにならああいうのも悪くないんじゃないか?」
える「本当ですか?」
折木「あ、あぁ……」
える「じゃあ、えと、その……」
折木「?」
える「また、ご一緒してもいいですか?」
折木「……………………………気が向いたらな」
える「えっ!?」
折木「なぜそんなに驚くことがある」
える「あっ、ごめんなさい!
まさか、そういう返事が返ってくるとは思わなかったので」
折木「……………頼むからお前まで伊原のようなことを言うな」
える「すみません………」ショボーン
折木(しまった)
える「……………」
折木「あー………その、何だ」
える「……………」
折木「……………よかったぞ、お前の歌」
える「!」
える「………ありがとう、ございます」
折木(………俯いたままだが)
える「………………////」
折木(機嫌は直ったみたいだな)
………
……………
…………………
える「ここまでで大丈夫です」
折木「そうか」
える「わざわざありがとうございました」
折木「別にいい」
える「……………あの」
折木「ん?」
える「…………いえ、何でもありません」
折木「………そうか」
える「それでは、また明日」
折木「ああ、明日な」
………
……………
…………………
―――――翌日、地学準備室
ガラッ
折木「よう」
福部「やあ」
折木「………ん、里志だけか」
福部「そうだよ。今日は金曜だし、摩耶花も来ないんじゃない?」
折木「なるほど」
える「こんにちは」
福部「やぁ千反田さん」
折木「よう」
える「あっ、折木さん」
折木「どうした?」
える「あの、少し伺いたいことがあるんですけど……」
折木「断る」
折木「どうせ面倒なことになるに決まってる」
福部「ちょっとそれはひどいんじゃない?」
える「お手は煩わせません!知らないなら知らないと行ってくださって結構ですから!」
折木「……………はぁ。
……………………………言うだけ言ってみろ」
える「ありがとうございます!ええとですね、
『ヤレヤレ系』って、どういう意味ですか?」
折木「」
える「帰り道のお話をしたら急に摩耶花さんがイライラしだして」
福部「クッ……!」バンバン
える「耳になじみのない言葉だったので、訊き返したんですが教えてくれなくて」
福部「それはね、千反田さん。…プッ…ここにいる…」
折木「里志」
福部「ククッ……ごめんごめん」
える「はい?」
折木「伊原は、正確には何と言ったんだ。覚えてるだろ?」
える「はい。ええと確か………」
える「『ヤレヤレ系主人公なんて滅亡しろ』……だったかと」
折木「」
おしまい
伊原『はぁぁぁぁぁぁあ!?それだけ!?』
える「は、はい。それだけ御挨拶して別れました」
伊原『どんっ……だけグズなのよアイツは!!』
える「あの、摩耶花さん?」
伊原『これだからヤレヤレ系主人公はキライなのよ!滅亡しろ!』
える「ええと………」
伊原『えっ!?あっ…ゴメン、つい興奮しちゃって……』
える「いえ……ところで」
伊原『うん?』
える「『ヤレヤレ系』って、どういう意味ですか?」
伊原『!!!』
伊原(しまったぁぁぁぁぁぁ!!)
える「折木さんのことなんですか?」
伊原「えっ?あ、いや、何でもない。何でもないのよ?」
える「意地悪なこと言わないで教えてください!」
伊原『…………!』
える「私、気になりますっ!」
伊原『………ごめんちーちゃん、また明日!』
える「えっ?摩耶花さん?」
ガチャッ
ツー……ツー……ツー……
える「……切れてしまいました」
える「……明日折木さんにも訊いてみましょう」
える「明日…………」
える「…………ふふっ」ニコニコ
える「あどけないこんな気持ちを………♪」
ほんとにおしまい
おつ
Entry ⇒ 2012.06.19 | Category ⇒ 氷菓SS | Comments (0) | Trackbacks (0)
奉太郎「体育倉庫に閉じ込められるおまじない……だって?」
奉太郎「そうかーよかったなー」
里志「奉太郎、十円玉を持っているかい。それを二枚出してもらえる?」
奉太郎「悪いな。今日財布もって来てないんだ」
里志「それじゃ僕が出してあげるよ。これを縦に積み上げるんだ。いくら生きるのに不器用な奉太郎でもこれくらいは出来るよね」
奉太郎「俺はやらんぞー」
里志「つれないなぁ。もしかしてほんとに不器用だからやるのが怖いのかい?」
ガラッ
摩耶花「あーいたいたふくちゃん!さっき手芸部の人が呼んでたよ。折木ー、私今日漫研の方出るからちーちゃんにも言っといて」
奉太郎「自分で言え」
里志「そういうことだからまた後でね、奉太郎」
ピシャ
奉太郎「…………」
奉太郎「……里志のやつ十円玉忘れてるぞ」
みたいなやつ読みたいです
奉太郎「…………」
ガラッ
える「こんにちは、折木さん」
ピシャ
奉太郎「ああ」
える「今日はお一人ですか?」
奉太郎「いや、さっきまで里志がいたんだが手芸部に呼ばれてそっちに行ったよ。伊原は漫研で今日は来ない」
える「ならやっぱりお一人なんですね」
奉太郎「……そうだな」
える「あら?折木さん、こんなところに十円玉があります」
奉太郎「それは里志の忘れ物だ。戻ってきたら返しやってくれ」
える「はい。わかりました」
奉太郎「…………」
だれか続きはよ
える「そうですね、普段料理や裁縫もしてますのでそういったものなら自信はあります」
奉太郎「そうか」
える「…………」
奉太郎「…………」
える「今のはどういう意味の質問なんでしょうか、折木さん」
奉太郎「いや、なんでもない。忘れてくれ」
える「そんなこと言われても私気になります……」
奉太郎「いや、ほんとに深い意味はないんだ」
える「そんな……うぅっ……」
奉太郎「泣くほどのことかよ……分かったから泣くな」
える「嘘泣きです。この間摩耶花さんが折木さんが意地悪したらこうするといいって教えてくれました!」
奉太郎「…………」
える「はい。福部さんの忘れ物ですね」
奉太郎「その十円玉を縦に二枚積むことができるかって話をしていたんだ」
える「なるほど、分かりました」
奉太郎「ただそれだけの話だよ」
える「十円玉を二枚……縦にですね」
奉太郎「俺はそういう神経使うようなことは好きじゃないからなー」
える「…………」
奉太郎「すごい集中してるな……」
える「出来ました!折木さんできましたよ!二枚積み重なりました!」
奉太郎「おー、えらいなー千反田ー」
える「それでこれが何になるんですか?」
奉太郎「ただの器用さチェックだ」
奉太郎(おまじないだなんて言ったらまたやっかいなことになりそうだ……ところで何のおまじないなんだ?)
える「そうなんですか……」
奉太郎「そうだなー」
える「折木さんは今日は何の本を読んでらっしゃるんですか?」
ぐいっ
奉太郎「ああ、大したのじゃ……」
チャリーン
える「ああっ!倒れてしまいました……せっかく頑張ったのに……」
奉太郎「そんなこと頑張ることじゃないだろ。それにお金で遊ぶのはあんまりよくないしな」
える「そうですね……」
ガラッ
里志「お待たせー、って千反田さんこんにちは」
える「はい。こんにちは福部さん、手芸部のほうはもういいんですか?」
里志「うん。そんなに大した用事でもなかったからね。すぐに終わったよ」
える「そうでしたか。あ、これ忘れ物です」
里志「ああ、どうもありがとう」
「1年A組千反田さん、教務室まで来てください。1年A組……」
奉太郎「千反田ーなんか呼ばれたぞ。悪いことでもしたのか」
える「そんなことしてませんっ!でも、あまり心当たりはないんですけど……」
奉太郎「なんてな。もうすぐ体育祭だしその準備のことじゃないのか」
える「そうかもしれませんね。それでは私行って来ます」
ガラッ ピシャ
里志「確かに体育祭も近いし奉太郎の推測は間違ってないだろうね」
奉太郎「……あー、ところで里志。さっきのって結局何のおまじないだったんだ?」
里志「おお?さては奉太郎、僕が居ないところでこっそり実践したんだね。可愛いところもあるじゃないか」
奉太郎「残念だけどやってない。やったのは俺じゃなくて千反田だ」
里志「へぇ、ここで二人っきりでかい?」
奉太郎「……ああ」
里志「あれはね……実は……体育倉庫に閉じ込められるおまじない、なんだ」
奉太郎「……なんだそれ」
奉太郎「……そうなのか」
里志「奉太郎はこの学校の体育倉庫に行ったことはあるかい?」
奉太郎「いや……」
里志「体育倉庫はグラウンドの端っこにぽつんとあるんだ。野球部もサッカー部も近くにはよらないんだ」
里志「中に入ったら大声で叫んでもきっと誰にも気がつかれないだろうね」
奉太郎「…………」
奉太郎「うちの学校の体育祭に必要なものはみんなそこにあるのか?」
里志「ほとんどのものはね。一年で一度しか使わないものだったりするから体育準備室にはないだろうね」
奉太郎「とすると千反田は体育倉庫に行く可能性は十分にあるのか……」
奉太郎「…………」
里志「…………」
奉太郎「あー、ちょっと用事を思い出した。じゃあな里志」
里志「急いだ方がいいんじゃないかな?」
奉太郎「まったく……誰のせいだと思ってんだ……」
奉太郎「ああ、ちょっと用事を思い出してな……体育倉庫に」
える「そうなんですか!私もちょうど体育祭の準備で体育倉庫に行くところだったんです!一緒に行きましょう!」
奉太郎「ああ……」
体育倉庫
える「ここが体育倉庫ですね。折木さんはどんな用事なんですか?」
奉太郎「あー……あれだ。学校名所巡りだ。行ったことのない場所を探してだな……」
える「ふふ、おもしろいことしてらっしゃるんですね。それでは私、中で探し物をしてきますね」
奉太郎「ああ。俺はここで待ってるよ」
える「はい。よろしくお願いします」
ガラガラガラ……
奉太郎「…………」
奉太郎(もしおまじないが本物でも俺が外にいれば閉じ込められても問題ないだろ)
える「折木さーん!」
奉太郎「どうしたー千反田ー?」
える「ちょっと手伝ってもらえませんかー!」
奉太郎「悪い。無理だー!」
える「そんな、ひどいですー!助けてください!」
奉太郎「やれやれ……どうしたんだ?」
える「折木さん!あのですね……この下にあるものを取り出したいんですけど」
奉太郎「あー、なるほど……こりゃ確かに千反田一人では無理だな」
える「そうですよね。なので折木さんも手伝ってもらえませんか?」
奉太郎「いや、あきらめて戻ろう」
える「ダメですよー!もう係の先生も帰ってしまいましたし今日中にこれをグラウンドに出しておかないといけないんです……」
奉太郎「…………」
奉太郎「はぁ……わかったわかった……」
える「ありがとうございます!折木さん!」
奉太郎「これをどかせばいいんだな……」
奉太郎「げっ……重い……」
える「わぁ!やっぱり男の人ってすごいですね!私じゃ全然持ち上がらなかったのに」
奉太郎「いいからもっと端っこに寄っておいてくれ……落として怪我でもさせたら大変だ……ぐぐ……」
える「はい!わかりました!頑張ってください折木さんっ!」
奉太郎「でも……扉に寄りかかったりするんじゃないぞ……」
える「えっ?今なんて言ったんですか……きゃっ!」
奉太郎「おいっ!」
ガラガラガラ……ガチャン!
奉太郎「…………」
ガチャガチャ
奉太郎「…………」
える「……開きませんね」
奉太郎「…………」
える「…………」
奉太郎「どうしてこうなった……」
える「すみません……かばんの中に置いてきてしまいました」
奉太郎「失敗したな……俺もだ」
える「大声を出して助けを呼ぶ、って言うのはどうでしょうか?」
奉太郎「いや、ダメだな。来る途中に誰か一人とでもすれ違ったか?」
える「そういえば誰とも……」
奉太郎(里志の言っていたことは正しいみたいだな……)
える「私たちこれからどうなってしまうのでしょう?」
奉太郎「まだ学校には里志がいるからそのうち迎えに来てくれるさ。だから心配しなくていい」
える「そうですか……よかった」
奉太郎「はぁ……とんだことになっちまったな」
える「すみません……私が折木さんの言うことをしっかり聞かなかったばかりに」
奉太郎「気にすんなって。そんなのいつものことだろ?」
える「ありがとうございます……折木さん」
奉太郎(いや、ちゃんと反省してほしいんだが……)
奉太郎「そうだな」
える「あとはこの箱をどかせば良さそうですね!」
奉太郎「ああ。よっ……うぐっ、これも結構重いな……」
える「あ、折木さん。私もこっちを持ちます!」
奉太郎「あ、よせ!急に力を入れると……!」
える「きゃああぁぁ!!」
奉太郎「あぁ、くそっ!」
がたがたがたがったん!!
奉太郎「…………」
える「…………」
奉太郎「……大丈夫か千反田?」
える「けほっ、けほっ……はい。折木さんのほうこそ……きゃ!折木さん!」
奉太郎「あー、多分大丈夫だ。ちょうど落ちてきた物同士で空間が出来てるみたいだ。重くはないが……悪い。動けそうにない」
える「そんな、折木さん……私をかばって……」
奉太郎「こっちこそ悪いな。なんていうか……その…馬乗り、っていうか……俺の下で」
える「あっ……」バッ
奉太郎「…………」
える「…………」
える「だいじょうぶ……です。折木さんなら……」モジモジ
奉太郎「えっ……?」
える「うぅ…………」カアァ
奉太郎「…………」
奉太郎(……何だよこの状況)
える「そ、そうですね……」
える「…………」
奉太郎「…………」
える「……お、折木さんあのっ!」
奉太郎「ど、どうした?」
える「その格好が疲れたら……く、くっついてもらってもかまいませんので……」
奉太郎「お、おう……?」
奉太郎「…………」
奉太郎(千反田ってやわらかそうな体してるよな……)
奉太郎「って何言ってんだ!ダメだろ!」
える「えっ、でもそれじゃ折木さんが……」
奉太郎「俺のことを考えてくれるんなら一刻も早くその場所から抜け出して俺の上のごちゃごちゃしたやつをどかしてくれ」
える「わ、わかりました!」
奉太郎(このままだと体力の前に精神的にヤバイ……)
奉太郎「どっちでもいいから好きな方にしてくれ……」
える「わかりました……」
える「んしょ……下のほうから抜け出してみますね」
奉太郎「ああ、わかった」
える「とりあえず足を抜きます……」
奉太郎(足で抜きます……)
える「よい……しょ……っと」
奉太郎(あー、やばい。千反田の足の間に俺の膝があるから抜け出そうとすると……)
える「んっ……」
奉太郎(右足と左足……つまりはさみうちの形になるな……)
奉太郎「……っ!」
える「あっ、すみません!痛かったですか?」
奉太郎「……いや、大丈夫だ。続けてくれ」
奉太郎(さっきから千反田の両足が俺の太ももにこすり付けられているわけだが……)
奉太郎「な、なぁ千反田……ちょっと休憩にしないか?」
える「え?あ、はい……そうですね……ちょっと体が熱くなってしまいました……」
える「…………」
える「あっ……わ、私汗臭くないですか?」
奉太郎「いや、大丈夫だ。どっちかって言うと埃くさい」
える「うふふっ……私もそう思ってました」
奉太郎(今のうちに奇数を数えるか……いや、それとも冷蔵庫の中の冷えたきゅうりを想像した方がいいんだったっけか)
える「折木さん」
奉太郎(さっき動いたせいで千反田の制服がずれて肌が見える。みえる。みえるえる……)
える「折木さんっ」
奉太郎「あ、ああ、どうした?」
える「そろそろまた動きますね」
奉太郎「お、おう……頼む」
奉太郎(ああ……ずれた制服が引っ張られて元に戻っていく……)
える「?折木さん、太ももの辺りに何か引っかかってるんですが……」
奉太郎「!ああ、携帯だすまん」
える「そうでしたか……よいしょっ……よいしょっ……」
奉太郎「…………」
奉太郎「…………」
奉太郎「白……か」
える「はぁ……はぁ……折木さんっ!出られました!」
奉太郎「ああ。よくやったぞー千反田ー」
える「あとはこれをどかせば……」
奉太郎「頑張れ千反田。お前だけが頼りだ」
える「はいっ!任せてください折木さんっ!」
奉太郎「やれやれ……何とか助かりそうだな……」
えるに反応したんだろ
奉太郎「おいおい、あんまり無理はするなよ……」
える「で、でも折木さんが私にしてくれたことに比べればこのくらい……」
奉太郎「お、動いても大丈夫そうだ」
える「きゃあぁぁ!!」
奉太郎(またか……)
える「お、折木さん!すみません助けてください……」
奉太郎「やれやれ……今度はどうしたって言うんだ」
奉太郎「よいしょっと、やと抜け出せた……って」
える「………うぅ」
える「な、縄が絡まってしまって動けないんです……助けてください……」
奉太郎(どこをどうやったら大縄で緊縛なんて起こるんだ……)
奉太郎「まったく、ちょっと待ってろよ」
える「はい……すみません」
奉太郎(ごくり……)
奉太郎「いいか?動くなよ……」
える「はい……」
奉太郎(しかしスカートがめくりあげられててさっきより丸見えだな……)
奉太郎「俺は何も見てないからな」
える「えっ?」
える「…………」
える「…………」カアァ
える「きゃあぁぁぁ!!!」
奉太郎「あっ、おいっ、バカ、動くと……!」
どさどさどさどてっ
奉太郎「…………」
奉太郎(千反田と一緒に絡まってしまった……)
える「はい」
奉太郎「絡まっているということは動く方向さえ間違えなければ解けるんだ」
奉太郎「だから俺たちはまずここから抜け出すことを一番に考える」
奉太郎「そのためにはどんな犠牲も仕方がないことだ」
える「はい」
奉太郎「だからこう……密着してもし変なところを触ってしまってもそれは必要な犠牲なんだ。わかるな?」
える「はい……」
奉太郎「よし」
奉太郎「千反田、右足を持ち上げて俺の脇に」
える「こう、ですか?」
奉太郎「ああ」
奉太郎「…………」
える「…………」
奉太郎「これじゃまるでツイスターゲームだな……」
奉太郎「ああ。二人組みで息を合わせるゲームだ」
える「なんだか楽しそうなゲームなんですね!私、気になります!」
奉太郎「……分かったから次左足な」
える「はいっ!よいしょっ……」
える「んっ……!」
奉太郎「変な声出すなよ……」
える「あ、すみません……こすれてしまって……」
奉太郎(こすれるとか言うな……)
奉太郎「あー、次はもっとくっつかないとだな……できるか?」
える「……はい」ギュ
奉太郎(…………)
奉太郎「やわらかいなオイ」
える「っ……!」
奉太郎(あ、間違えた)
える「えっ?」
奉太郎「……次に手をつける場所がない」
える「えっ、どういうことですか?」
奉太郎「いや、この体勢を維持しながら体位を入れ替えるとなると……」
える「はい」
奉太郎「お前の体のどこかに思いっきり手をつくことになる」
える「…………」
奉太郎「ふぅ……このまま里志が来るのを待つか」
える「だ、ダメですっ!」
奉太郎「…………」
える「どんな犠牲も厭わないって言ったのは折木さんじゃないですか!それなのにあきらめてしまうんですか?」
奉太郎「いや、でもな……」
える「私、折木さんにならどこを触られても気にはしませんから!」
奉太郎(……それはそれで傷つくんだが)
える「…………うぅ」
奉太郎「わかったよ……千反田にそこまで言わせたんなら俺も覚悟を決めないとな」
える「はいっ……折木さん……きてください……」
奉太郎「…………っ!」
奉太郎「いくぞ……千反田」
える「はい……」
える「…………」
える「んっ!……あっ、あぁん……」
える「はい……私のせいで折木さんに迷惑ばかりかけてしまって」
奉太郎「ああ、いいんだ。……そんなに迷惑でもなかったし」
える「折木さん……」モジモジ
える「それで、これからどうしましょう?」
奉太郎「そうだな………」
える「携帯もないので時間も分かりませんし……」
奉太郎「そうだな………」
える「あれ?携帯……?折木さんさっき携帯持ってるって言いませんでしたか?」
奉太郎「……いや、言ってないぞ」
える「そうでしたか……」
奉太郎「聞き間違えだな。それより時間なら俺は腕時計してるからわかるぞ」
える「そうですね!今何時ですか?」
奉太郎「ああ。ええと……って」
奉太郎(覗き込んでくるのか……)
える「はい。閉じ込められてからもう一時間になるんですね」
奉太郎「そうみたいだな」
奉太郎(千反田の髪の毛すごくいい匂いがするんだな……)
える「あっ、そうだ!」
奉太郎「ん?」
える「私クッキー持ってるんです!困ったときに食べようって思って」
奉太郎「いい危機管理意識だ」
える「ここに…………あっ」
奉太郎「見事にばらばらだな」
える「そう……ですね」シュン
奉太郎「まぁ、あれだけ派手に動き回ればな」
える「…………」
奉太郎「でも食い物には変わりないだろ。くれよ、はんぶんこしよう」
える「……折木さん」
える「折木さん……うぅ……ふぇ……」
奉太郎「お、おい、どうした千反田……」
える「分かりません……わからないけど……涙が出てしまいました」
奉太郎「…………」
える「うぅ……折木さん……おぃきさぁん……ぐすっ」
える「折木さんは……っ、折木さんはどうしてそんなに優しくしてくれるんですか」
える「うぅ……ぐすっ……」
える「どうしてっ……」
える「わたし……きになり、ます……!」
奉太郎「…………」
奉太郎「……どうしてなんだろうな」
奉太郎「……悪い」
奉太郎「こればっかりは……俺にもわからないよ」
える「そう、ですか……」
奉太郎「落ち着いたか?」
える「はい……また折木さんに迷惑をかけてしまいました」
奉太郎「だから気にしてないって。そんなのへのへのかっぱだ」
える「…………!」
奉太郎「?」
える「折木さんっ、思い出しました!」
奉太郎「なにを?」
える「へのへのかっぱです!」
奉太郎「……は?」
える「確か前に聞いたことがあったんです。もし体育倉庫に閉じ込められて出ることが出来なくなったらこのおまじないを唱えろって」
奉太郎「……えらくピンポイントなおまじないだな」
奉太郎「まぁ、あの十円玉もそうか」
える「折木さん?」
奉太郎「ああ、いや、なんでもない」
える「もし体育倉庫から出られなくなったら」
える「『のろいなんてへのへのかっぱ』と三回唱えろ」
える「上半身裸で」
える「です!」
奉太郎「いや、その理屈はおかしい」
える「おまじないなので理屈とかそういうものじゃないのかもしれません」
奉太郎「…………」
奉太郎「そうだな……」
奉太郎(しかしこんな時間か……)
奉太郎「千反田、その話は間違いないんだな?」
える「はい。私が聞いた話は間違いなくこの内容でした」
える「…………」
奉太郎「それじゃ俺が……」
える「お、折木さん!」
奉太郎「お、おう」
える「で、できればその……後ろを向いていてもれえませんか……?」
奉太郎「ああ……」
奉太郎「って、なんでだよ!」
える「えっ!?見られながら……あ、でも折木さんになら……私、もう……」
奉太郎「そうじゃなくてっ!」
奉太郎「なんで千反田が脱ぐんだよ!男の俺がやれば何も問題ないだろ!」
千反田「だ、ダメですっ!私ずっと折木さんに頼ってばかりでした……だから最後くらいは私にやらせてください!」
千反田「わ、私も折木さんの役に立ちたいんですっ!」
える「イヤですっ!私が脱ぎますっ!」
奉太郎「っておい!いきなり脱ぎ始めるな!」
える「早い者勝ちです!」
奉太郎(うおっ!千反田の白いブラがまぶしっ!ってそんな場合じゃない!)
奉太郎「千反田に脱がれる前に俺が脱ぐ!」
える「あっ、ダメです、ホックに手がうまく届きません……」
奉太郎「千反田!そのままじっとしていろよ……!」
える「ああ、折木さんずるいです!あっ、届いた!」
奉太郎「よし!俺のほうが早い!」
える「負けませんっ!」
ほうえる「のろいなんてへのへのかっぱ!」
ほうえる「のろいなんてへのへのかっぱ!!!」
ほうえる「のろいなんてへのへのかっぱ!!!!!!」
扉「ガラガラガラ」
摩耶花「…………やだ……なにこれ……」
里志「……あちゃー、これは完全に邪魔しちゃった感じだね?」
摩耶花「…………」
奉太郎「こ、これには訳があってだな……」
える「い、いやっ!」ギュ
奉太郎(オウフ)
摩耶花(十分問題よ……)
摩耶花「……先行こうよふくちゃん」
里志「うん。ほら、奉太郎も千反田さんも呆けてないでさ。いや、この場合は惚気てないで、かな?」
摩耶花「ふくちゃんが居ると二人は離れらんないのっ!行くよっ!」
里志「なるほど」
摩耶花「なるほどじゃなくて!」
奉太郎「…………」
える「…………」
奉太郎「……服、着ろよ」
える「……う、うん」
奉太郎「…………」
奉太郎「俺はどこで間違えたんだ……」
里志「それで、本当は千反田さんとどこまで行ったんだい?」
奉太郎「なんにもしてねーよ」
里志「確かにあのおまじないを解くには上半身裸で呪文を唱える必要があったのは知ってるけど、一時間以上も一緒にいて何もなかったって……」
里志「奉太郎、君もしかしてそっちの気があるとか言わないよね?」
奉太郎「殴るぞ」
里志「おおっと、怖い怖い」
摩耶花「ちーちゃん、ほんとに何にもされなかった?脅されてない?」
奉太郎(…………)
える「はい。折木さんはとても紳士で私のことを大切にしてくださいました」ポッ
摩耶花「……うわー」
奉太郎「ん?どうした」
える「私、やっぱり聞き間違えなんかしていません!折木さん、閉じ込められているときに携帯を持っていると嘘をつきました!」
える「どうしてそんな嘘をついたんですか?嘘をつく必要があったんですか?」
える「私、気になります!」
奉太郎「嘘なんてついてない。お前の聞き間違いだよ」
里志「へー、興味深いね。千反田さん、その話詳しく聞かせてよ」
摩耶花「え?なになに?」
える「かくかくしかじかというわけなんです」
里志「まるまるうまうま……つまり、千反田さんはその引っかかったものが何かを知りたいんだね?」
える「そういうことになりますね」
摩耶花「全然わかんないし」
奉太郎「……おい」
える「そう……なんですか」
里志「うん」
里志「でも、きっと千反田さんと奉太郎がもっと仲良くなっていつか教えられる日が来れば」
里志「その奉太郎の携帯電話を千反田さんに見せてくれるよ。ちゃんと千反田さんを受信してたみたいだしね!」
里志「奉太郎も、そのときはもう嘘はつかないんじゃないかな?」
える「もっと仲良く、ですか……」
奉太郎「千反田ー、里志の言うことなんて真に受けなくていいからなー。今のことも絶対忘れろよー」
摩耶花「え……どういうことなの?」
える「…………」
える「分かりました!」
える「私、頑張ります!」
える「折木さんの謎の携帯電話……絶対に見つけ出しますっ!」
おわり!
乙っ!
乙!
Entry ⇒ 2012.06.18 | Category ⇒ 氷菓SS | Comments (1) | Trackbacks (0)
折木「月が綺麗だな」
季節は秋
古典部の部室
里志「いやぁ、それにしてもすっかり秋だねぇ。」
折木「唐突だな。それがどうかしたのか?」
俺は読みかけの本にしおりを挟む
里志「いやいや特に何も無いんだけどね。」
里志「こう山々も紅葉で色づき初めて何だか風情があるねって話しさ」
える「確かに紅葉というものは良いものですね」
える「そういえば自宅の低い紅葉の木達も紅くなっていて綺麗なんですよ」
摩耶花「ちーちゃんの家のお庭立派だもんねー」
摩耶花「自宅で紅葉狩りできそうじゃない?」
里志「それは良いね。自宅で紅葉狩りなんて風情があるじゃないか」
折木「そんなもんか。」
摩耶花「まぁ感情の乏しいアンタにはわかんないでしょうね」
里志「そうだね。奉太郎の掲げるエコ主義でいえば」
里志「紅葉狩りに使用するエネルギーも無駄かもねぇ。」
二人がシシシと子供のように笑う
なんて失礼な奴らだ
俺にだって四季に趣を感じることくらいできる。
折木「馬鹿にするな」
少し声を荒げて言う
里志「ごめんごめん。でも秋と言えば月も綺麗だよね」
里志「なんだっけほら清少納言のさ…めぐりあいて…」
える「めぐりあひて見しやそれともわかぬ間に」
える「雲かくれにし夜半の月かな…ですね?」
千反田がスラスラと答える
里志「さすが千反田さん!」
摩耶花「それ知ってる!確か百人一首のやつだよね?」
える「はい。久しぶりに出会った殿方が慌ただしく帰ってしまった寂しさを」
える「雲に隠れた月に例えたんですよね。素敵な唄です。」
さすが学年TOPは違うな
これで亡者の如き知識の探求がなければ良いのだが
そう考えながら俺は千反田の顔を見る
える「!」
える「お、折木さんどうかしましたか?///」
折木「いや、なんでもない」
何故紅くなるのか
そんな俺達を見て里志がニヤリと笑う
摩耶花「折木にこの唄の良さがわかるのかしらねー」
折木「馬鹿にするなと言ってるだろうが」
里志「そうだね。ほうたろうは秋の趣がわかる人だもんね」
珍しく里志がフォローを入れる
里志「そうだ!明日休みだしそんな秋の趣がわかるほうたろうは」
里志「千反田さんのお庭を見せて貰ってきなよ」
そう里志が言い放った瞬間
千反田の目がきらきらと光り出した
える「そ、それはいいですね!」
える「幸いにもあすはお休みですし如何ですか?///」
キラキラとした大きな目がこちらに向く
これは不味い逃れられないパターンだ。
ちらりと目をそらすと里志が舌を出しながらウインクをしている
このやろうハメやがったな。
摩耶花が福部に耳打ちをする
摩耶花「ちょっと福ちゃん!どうしたのよ急に」
里志「いや、摩耶花も気づいているだろう?」
里志「氷菓の一件以来明らかに千反田さんは奉太郎を意識している」
摩耶花「なるほど…それで後押しなのね」
里志「ああ。それでデータベースから百人一首を取り出したのさ」
里志「まぁでも千反田さんが上手く食いついてくれてよかったよ。なにせ」
摩耶花「データベースは回答をだせない…でしょ?」
摩耶花「福ちゃんも素直じゃないんだから」
里志「ははは。これは手厳しいな」
向こうは向こうで夫婦らしい会話が続いている
里志め憶えておけよ
える「折木さんは何か明日予定があるのですか?無いのなら…///」
折木「いゃ…まぁ無いのは無いのだが…」
える「でしたら!」
折木「しかし俺のエコ主義がだな…」
える「折木さん…?」
折木「うっ...」
そういって少し潤んだ大きな瞳で千反田が顔を覗く
千反田は容姿も可愛らしくさらにこの涙目だ
この艶かしさに勝てる者などいないだろう
俺はふぅ。とため息を尽き
折木「わかった。なら明日お邪魔するぞ。」
える「はい!お待ちしてます!」
千反田は少女のような笑顔で言った。
その返事と同時に哀愁漂うチャイムが鳴り響く
時計の針は6時を指していた。
次の日
秋虫の鳴く夕方
千反田えるはもの思いにふけていた。
折木がくる時間までもうすぐである。
える「折木さんは私のために色々と尽力してくれました」
える「私の記憶…氷菓の思い出を取り返してくれました」
える「何故でしょう。あの時から折木のことを考えると胸がつまりそうになります」
える「このもやもやは何でしょうか、私気になります。」
ピンポーン
チャイムが鳴る
折木「よぅ千反田。今日は世話になる」
える「おはようございます折木さん」
える「どうぞごゆっくりしていってくださいね」
奥の間へと案内される
折木「しかし広い家だな。」
折木「そういえば家族を見たことがないがいるのか?」
える「ちゃんといますよ。ですが…」
折木「ですが…?」
嫌な予感がする
える「えと、き、今日は家族皆が出払っていまして!」
える「明日の朝まで…私だけ…です///」
折木「そ、そうか///」
える「はい///」
何だこれは
とりあえず話題を変えねば
折木「そ、そうだ千反田!庭を見せてくれるか?」
える「あ、はい!ではご案内しますね///」
俺達は庭へと出ることにした
庭にて
折木「しかし庭も広いなぁ」
折木「やっぱり庭師に頼むものなのか?」
える「そうですね。さすがにカバーできないところは」
える「お願いしているそうですが。あ、後古い木は樹木医さんに」
折木「まぁそうなるよな。しかし見事な庭だ。」
折木「紅葉だけでなく色々な植物が秋色に染まっている」
折木「こうも自宅で季節の変化を楽しめるところは無いだろ」
える「ありがとうございます!」
える「そうですね。縁側から見るだけでも季節がわかりますし」
える「自慢の庭ですよ」
折木「さすが名家だけはあるな」
折木「季節が変わるとまた綺麗なのだろう」
える「庭先の梅の花が春はとても綺麗なんですよ?」
える「来年の春に古典部の皆さんで見ると良いかもしれませんね」
折木「あぁ、それは良い案かもな」
それから俺たちは
他愛もない会話を続けながら
庭を見て回った。
氷菓についての話
学生生活について
古典部の部長としてどうあるべきか
楽しい時間が過ぎていく
折木「ふぅ。随分と話し込んでしまったな」
折木「時間が過ぎるのが早く感じる」
える「相対性理論ですか?」
千反田が顔を覗きこみ聞く
える「ということは折木さんは私と話していて」
える「楽しかった…ということでしょうか?///」
折木「ああ。まぁ否定はしないでおこう」
える「えへへ///」
折木「さて、そろそろ夜も遅いし帰るか」
える「あ、せっかくですから夕飯召し上がって行きませんか?」
千反田が再度聞く
折木「良いのか?」
える「はい!一人での食事は寂しいですしね。」
折木「そうか。なら悪い世話になろう。」
える「いえいえ。それでは支度をしましょうか」
俺達は台所へと向かう
千反田は鼻歌を歌いながら
台所に立ち料理をしている。
前に古典部におにぎりを振舞ったときのように
ながい髪を束ねポニーテールにしている
それが鼻歌と共に小刻みにゆらゆらと揺れていた。
男子厨房に入らずと
昔の言葉にあるが
こうして料理をしている女性を家族以外でまじまじと見たことがない俺は
楽しそうに料理を作る千反田を見て
自らが掲げるエコ主義には無縁の感情を
少しだけ感じたのだった。
しかしどうにも落ち着かない。
折木「なぁ千反田。何か手伝うことはないか?」
しびれを切らし声をかける
える「お気遣いありがとうございます折木さん」
える「そうですね、ではこの野菜を食べやすいように切っていただけますか?」
折木「あぁ、まかせろ」
そう言うと俺は千反田の隣に達包丁を動かし始めた
トントンと心地良い包丁の音
グツグツと鍋を回す千反田
今気づいたがこの状況は
折木「あれだな」
える「はい?どうかされましたか?」
折木「いや、その、なんだ」
折木「こうして二人で料理しているのと」
折木「新婚とはこんな感じなのかと思ってな」
我ながらなんと恥ずかしいことを言っているのだろうか
俺の言葉を聞くと千反田は紅くなりうつ向く
頬が紅葉のようだと少し詩的な印象を受けた
しかしすぐにこちらを向いて
千反田は言った。
える「そうですね。」
える「このような雰囲気が新婚なのならば」
える「私も早く結婚したいです」
える「今とても幸せな時間なので」
千反田が笑う
折木「そういうものか」
える「はい。」
える「そういうものです。」
える「折木さんはどうなんですか?」
折木「俺にはよくわからん」
折木「ただ、嫌ではないのかもな」
逃げるように俺は千反田から視線を外し
鍋の蒸気で曇った窓ガラスを見つめ言った。
しばらくして
える「これを盛りつけて完成ですね」
える「折木さん取り皿を並べていただけますか?」
折木「あぁ、わかった」
皿を並べ終え、盛り付けを済ます
える「では頂きましょう。」
える「お口に合うかわかりませんが」
折木「いや、美味そうだ。頂きます。」
根菜の炊き込みご飯
白身魚の焼き物
肉じゃが
サラダと漬物
いかにも千反田家らしい和風な食卓だ。
しかも美味い。
える「ど、どうですか?」
折木「あぁ普通に美味いよ。おにぎりの時も思ったが」
折木「千反田は料理が得意なんだな」
える「えへへ///これでも女の子ですからね」
折木「良いと思うぞ。千反田は良い嫁になりそうだ」
える「よ、よよ嫁ですか!?///」
あたふたと慌てる千反田
何かの小動物のようだ
える「それは、き、気が早いというか…ゴニョゴニョ」
折木「?」
える「なんでもありません!///」
このような談笑を交えつつ
俺たちは食事を終えた。
食後に千反田の淹れた茶を啜っていると
千反田が提案をしてきた。
える「そうだ。月も出ていますし少しお月見しませんか?」
折木「ほう。それは良いな。」
える「先に縁側へ行っていてください、お茶を淹れ直してあと菓子を持っていきます」
折木「悪いな、なら先に行く。夕飯ご馳走様でした。」
える「はい。お粗末さまです」
千反田が優しく答え、二人だけの月見をすることとなった。
風にススキが揺れ、空には丸い月が登っていた。
千反田と俺は茶を啜りながら話していた
える「名月をとってくれろと泣く子かな」
折木「小林一茶か?」
える「はい、子供ならあの月が欲しいと言ってしまうのも仕方ないですよね」
折木「確かにな。この月の美しさは子供にだってわかるものだろう」
折木「今日一日で秋を満喫した気がする」
折木「少しエコ主義を無視しすぎている気もするが」
える「良いじゃないですか。紅葉狩りに月見と」
える「この時期でしかできないですし」
折木「そうか。たまにはこういうのもいいのかもな。」
える「はい。なんというか風情がありますね」
折木「全くだ。しかし月が綺麗だな」
える「!」
える「あ、あの!もう一度言ってくれませんか?///」
折木「ん?なんだ俺は月が綺麗ですねと言ったんだが…」
える「ありがとう…ございます///」
折木「?」
折木「どうかしたのか?」
える「いや、なんでもありませんよ」
える「えへへ///月が綺麗ですよねぇ」
折木「ああ、そうだな。」
二人は月をぼんやりと見ていた。
かなり夜もふけて
折木「それじゃ、今日は世話になったな」
える「いえ、とんでもありません!」
える「またいらしてくださいね///」
折木「あぁ。一人なんだし戸締り気をつけてな」
える「ありがとうございます。」
える「さようなら折木さん。おやすみなさい///」
折木「あぁ、おやすみ千反田」
別れの挨拶をかわす
こうして俺は千反田家を後にし
帰路についたのである。
今日一日折木との時間を思い出し顔紅くしていた。
える「あひ見ては後の心に口ぶれば」
える「昔はものを思はざりけり…ですか」
唄を口ずさみながら
千反田は自分の気持ちに答えを見つけたのだった
おわり
/: : : : /: : : : : :ハ
イ: : : : : : : : : /: : ::「「l、
リ: : : : : : : : : : :j:.:} ‘,
乂:.:.:.:.:.:.:.:〈リjイ圦 __}
):.:.:.:イ _/ フニニ\ 駄文に付き合ってくれた皆様に敬礼
_/ニ==‐ュ ー′ ∨ニニ∧
/二二二二}__ │ニニニハ
/ ̄`ヽ , ィ/ニニニニニニ/ニ/ニニ=「\二ニ}
....:.:´ィ:.:.:.:.:.:.:.}/ イニニニニニニニニニニニニニニニニヽニ|
//:.:.:.:.:.:.:.:r// /二ニニニニニニニニニニニニニニニニニノ
{:::{:.:.:.:.:.:.:.:.//:.:Ⅵニ二二三三三三厂 ̄ ̄ ̄ ̄
Ⅶi:.:.:.:.://.:.:.::::::::|ニニニ二三三/ニニ}
Ⅵi:// :.:.:.::::::/|ニニニニニニニ/ニニニ′
∨ハ:.:.:.:.:.:.:::://|二二ニニニ/ニニニ/
Vハ::::.:.://::::::|二ニニ/ニニニ′
}::::}二 ィ:::::::::::/ニニ/ニニニニニ{
\::::::::::::::::::ィニニ/ニニニニニニハ
`¨¨¨¨´ } =彳ニニニニニニ/ニ.|
∧ニニニニニニニニ/ニニ|
すごく良かった
Entry ⇒ 2012.06.09 | Category ⇒ 氷菓SS | Comments (1) | Trackbacks (0)
折木「えるたそ………」 福部「」
福部「………」
折木「…………」ペラッ
福部(ホータロー……今何て言った?)
福部(幻聴……いや、聞き間違い?)
福部「えっ、あっ、な、何だいホータロー」
折木「何をそんなにうろたえる」
福部「べ、別にうろたえてなんていないよ?」
折木「変なヤツだな……」ペラッ
福部(キミにだけは言われたくないよホータロー……)
ヒュオーゥ
福部「あ、うん。わかったよ」ガラガラッ
折木「すまんな」ペラッ
福部「いいさ」
折木「チタンダエルまじ大天使………」
福部「」
福部(今絶対言った!絶対大天使って言ったよ!)
福部(これは突っ込むべきなのか、それとも聞かなかったことにするべきなのか……)
福部(………よし!)
福部「ホータロー」
折木「何だ?」
福部「今日は何を読んでるんだい?」
福部(あいだを取って話を逸らす!)
福部「いや、今日のはやけに分厚いから気になってさ」
折木「千反田のようなことを言うんだな」
福部「私、気になります!ってやつかい?」
折木「それ以上その似てない声マネをしたら蹴り殺す」
福部「」
そういうことにしておこう。その方がいい……)
折木「今日は古書肆が憑物落としと称して謎を解くアレだ」
福部「ああ、あのシリーズ」
折木「主人公のスタンスは尊敬せざるを得ない」
福部「肉体労働はしないって誓ってるんだっけ」
折木「俺もあやかりたいものだ」
折木「そうか?実に俺向きだと思うが」
福部「だって文庫本なのに文章量が半端じゃないじゃないか」
折木「実のあるセンテンスはごく一部だ。後は斜め読みでも理解できる」
福部「今その発言でシリーズファンの4割を敵に回したよ」
折木「それに一冊で普通の文庫の数倍はヒマが潰せる」ペラッ
福部「それなりの値段だけどね」
折木「ハードカバーを買ったと思えば安いものだ」
福部「………そんなものかな」
福部「何だいホータロー」
折木「『折木える』という名前はエゼキエルっぽくてちょっと語呂がいいと思わないか?」
福部「もうフォローしきれねえよ!」
福部「うるせえよ!黙って聞いてりゃあさっきから何なんだお前は!」
折木「落ち着け里志。キャラが崩壊してるぞ」
福部「だからお前にだけは言われたくねえよ!!
何だ『えるたそ』って!!何が『チタンダエルまじ大天使』だよ!!!」
折木「………」ソーッ
福部「おもむろに眼鏡をかけさせようとすんな!っていうか何処から出したその眼鏡!!」ガッシャーン
折木「いや、その方がツッコミっぽくなるような気がして」
福部「誰の所為だと思ってんだぁぁぁぁ!!」
折木「何かすまんな」
福部「いや、もういいよ。全てがどうでもいい……」
折木「ところでどこまで話したんだったか。なぜ千反田があんなにかわいいのか、だっけか?」
福部「さっきからどうしたのホータロー?豆腐の角に頭でもぶつけたの?」
折木「何だ、お前は伊原派だったか」
福部「だからそういう問題じゃねえっつってんだろうが!!」
折木「俺の主義主張と千反田がかわいいという事実に関係はないと思うが」
福部「うん、まぁ……うん?」
折木「大体高校生にもなって省エネとか痛すぎるだろ」
福部「自覚はあったんだね」
折木「大体省エネって何だ。老荘思想か」
福部「『無為』の意味をはき違えてるような気がするけどまあいいや。それで?」
折木「いや、千反田ってつくづく俺たち童貞の理想というか妄想が具現化したような存在だなって思って」
福部「ちゃっかり僕まで童貞認定されちゃったよ」
折木「違うのか?」
福部「そうだけれども!」
そして頭はいいがちょっと勘が鈍いというギャップ。 言うことなしだろ」
福部「そしてあの美しい黒髪!」
折木「あ?」
福部「」
福部「いや、だからやっぱり黒髪は最高だよねって……」
折木「…………ハァ」ヤレヤレ
福部「え、何その『お前何も分かってないな』みたいなため息」
折木「お前何も分かってないな」
福部「ホントに言ったよ!」
福部「うん」
折木「鴉の濡れ羽色とはああいう髪を言うんだろうな」
福部「緑の黒髪とも言うね」
折木「そうだな」
福部「ちなみここでいう『緑』っていうのは『若々しい』くらいの意味でグリーンとはあまり関係がないらしいよ」
折木「へぇ」
福部「」フフン
折木「でも今はどうでもいい」
福部「」
折木「俺が言いたいのは、千反田は黒髪だから可愛いわけではないということだ」
福部「というと?」
折木「茶髪だろうが金髪だろうが千反田はかわいい」
福部「ああそういう……」
福部「茶髪でもいいね」
折木「ショートにしちゃったりな」
福部「おでこも出してみたり!」
折木「千反田はおでこもきれいだろうな」
福部「あ、でもデコキャラは僕と被っちゃうね!」
折木「あ゛?」
福部「すみませんでした」
折木「何を?」
福部「えっ」
折木「えっ」
折木「だから何が」
福部「いや、だって好きなんだろ?千反田さんが」
折木「好きどころじゃない。愛してる」
福部「お、おう」
福部「どうしたっていうか……それならその熱い思いを千反田さんに届けようとは思わないのかい?」
折木「意味が分からん」
福部「どうしてだい?……ハハーン、まさか今更『恋愛なんてエネルギーの浪費だ』、なんて言い出すんじゃないだろうね?」
折木「違う」
福部「じゃあどうして?」
折木「もし振られたら立ち直る自信がない」
福部「」
福部「そんなに好きなのか……」
折木「愛してる」
福部「………そんなに愛してるのか」
福部「うん?」
折木「俺の千反田に対する感情が恋愛感情なのかすら定かではない」
福部「出来の悪い少女漫画みたいなこと言い出したね」
折木「どう思う?」
福部「知らないよ。心の底から」
折木「あんなことやこんなこと?」
福部「………健全な男子高校生なら一度は思うことだよ」
折木「お前千反田のことそんな目で見てたのか。最低だな」
福部「今日のホータローは95割増しでうざいね」
福部「うん」
折木「溺愛したい」
福部「はい?」
折木「言い方を変えるなら全力で可愛がりたい」
福部「とうとう全力とか言いだしたよ」
福部「膝枕『されたい』じゃなくて?」
折木「違うな。スイカとメロンくらい違う」
福部「どっちもおいしいねってか」
福部「あ、でも全部読み終わるまで寝付かないんじゃないかな」
折木「なぜ?」
福部「『私、続きが気になり』……」
折木「殺すって言ったよな?」
福部「ごめんなさい」
福部「段々詳細かつ気持ち悪くなってきたぞ」
折木「でもなぁ」
福部「どうしたんだい?」
折木「いや、身の回りの世話をするのはいいんだが」
福部「うん」
折木「千反田って自分のことは大概自分でできそうだな、と」
福部「ああ、なるほど。確かに意外に生活能力高そうだもんね」
折木「いざとなったらやることないんじゃないか?」
福部「でもお世話したいんだろう?」
折木「できることは自分でやらせたいんだよ」
福部「お母さんか」
福部「何だい?」
折木「千反田ってモテるのか?」
福部「ああ、やっとその話題なんだ。
そうだね、一年男子を中心にかなり人気は高いみたいだよ」
折木「本当か」
福部「本当さ。僕のデータベースに間違いはないよ」
折木「ほう」
折木「マジか」
福部「うん。今月だけで4回は下らないんじゃないかな」
折木「ふぅん」
福部「どうする、ホータロー?」
折木「どうもしないさ」
福部「へぇ?」
福部「ただ?」
折木「千反田を困らせるような輩はそのうち学校に来なくなるかもな」
福部「いいね。僕好みの回答だ」
折木「お前の好みなど知らん」
折木「何だと?」
福部「うん。取りつく島もなくバッサリだって。
振られた本人たちから直接聞いたんだから間違いない」
折木「」グッ
福部「ホータロー、今僕に見えないようにガッツポーズしただろ」
折木「しとらん」
福部「いや、絶対したね!」
折木「してないと言っている」
折木「……………興味がない」
福部「ふぅーーーーん?」ニヤニヤ
折木「生え際後退させてやろうか?」
福部「」サッ
折木「………腹が減った」
福部「そりゃあれだけ喋りまくればね」
折木「………帰るか」ガタッ
福部「そうだね」ガタガタッ
折木「千反田も伊原も来なかったな」
福部「用事でもあったんじゃないかな?」
ガラガラッ
千反田「…………」
伊原「……………」ニヤニヤ
折木「」
福部「」
折木「いつからいたんだ」
伊原「ふくちゃんが大声でアンタに突っ込んでたあたりからよ」
折木「千反田」
千反田「………はい」
折木「全部聞いてたのか?」
千反田「……………………ポッ」
福部「待ちなってホータロー!ここ四階だから!!」
折木「確実に死ねるな」グイグイ
福部「だから落ち着きなって!!」
伊原「そうよ。下に人がいたらどうするの」
福部「そう!そうだよ!!」
福部(ナイス摩耶花!)
伊原「死ぬなら誰にも迷惑がかからないように一人でひっそり死になさいよ」
折木「そうだな」ダッシュ!
福部「あっこら待てホータロー!!千反田さん!摩耶花!捕まえて!!」
伊原「げっ、コッチ来た!」
千反田「…………えいっ!!」
ギュッ
折木「おふっ」
ドサッ
福部「千反田さん、ナイスタックル!」
伊原「だ、大丈夫、ちーちゃん?」
千反田「私は、大丈夫です……」ムクッ
折木「………」
福部「観念した方がいいんじゃないかな、ホータロー」
伊原「そうそう、年貢の納め時よ」
千反田「…………折木さん」
千反田「…………わ、私、その……」
折木「…………」
千反田「私も、気になります。そのお話の続き――――」
伊原「平和ねー」モグモグ
福部「そうだね」モグモグ
伊原「空は青いし」
福部「弁当は美味しいし」ゴックン
伊原「言うことないわね」
福部「そうそう」
伊原「…………あんなのがいなければね」
折木「おい千反田、顔に米粒ついてるぞ」
千反田「えっ?どこですか?」
千反田「ここ、ですか?」
折木「違う、逆だ逆。……こっちだ」ヒョイパク
千反田「あっ……」
折木「早く取らないからだ」モグモグ
千反田「もぉー折木さん!」ポカポカ
伊原「……何アレ。気持ち悪いんだけど。主に折木が」
伊原「………私もふくちゃんと……」ボソッ
福部(………聞こえない聞こえない)
折木「この卵焼きも美味そうだな」
千反田「ありがとうございます」ニコニコ
折木「お前が作ったのか?」
千反田「はい!……あの、お一ついかがですか?」
千反田「はい、あーん」
折木「あー……ん」パクッ
千反田「どうですか?」
折木「もちろん美味い」モグモグ
千反田「本当ですか?」
折木「ああ」ナデナデ
千反田「うふふ、嬉しいです!」
伊原「折木しねばいいのに」
おしまい
保守・支援ありがとうございました。
昨日書いたSS↓
える「スケッチブック……?」
に引き続き今日も氷菓SSを書いてみました。
VIPでSS書くの本当に楽しいですね。
ではまた。
次回も期待してます
Entry ⇒ 2012.05.28 | Category ⇒ 氷菓SS | Comments (1) | Trackbacks (0)
える「私、気になりません…」
える「気になりませんから…今日は帰りましょう、折木さん」
折木「え…」
える「……」
折木「千反田どうした?」
える「はい?」
折木「具合でも悪いのか」
える「いえ、普通ですけど…」
折木「私!気になりますっ!」
える「ふふっ、私の真似ですか?折木さん」
折木「…笑われたよ」
える「そうですね、前はそういう感じでした…けど」
折木「けど?」
える「なんか疲れちゃって…」
える「これからは省エネで生きていこうかなって」
折木「おい待て」
える「はいっ、それが何か…?」
折木「俺とキャラが被るだろうが」
える「……」
折木「(なぜ黙る…)」
える「…私、もう気になりません」
折木「ぬ」
える「省エネだから帰ります、お疲れ様でした」
折木「(調子狂っちゃうな…)」
える「はぁ…」
える「私…気になりますっ」
える「ふふっ…今日も気になる事が一杯ありました」
える「帰り道、犬のうんちが綺麗なとぐろを巻いてたり…猫ちゃんがすごいセクシーな目で私を見ていたり…」
える「うぅ…気になりますょ…」
える「けど…」
える「(これも折木さんの為…)」
折木「はぁ…」
折木「千反田のやつ、何だってんだ」
折木「……」
折木「ふぅ…これは俺が一肌脱ぐしかないらしいな」
折木「このままじゃ、氷菓脱力感溢れるアニメになってしまう…」
える「ふむふむ…」
折木「おっす、千反田」
える「あっ、折木さん…こんにち…」
える「……!」
折木「……」ニヤリ
える「あ…あぁ…っ」
える「(なぜ…折木さんはアフロヘアーに)」プルプル
折木「ふぅ…今日は暑いな」
える「(その髪型じゃ…当たり前ですよっ…)」
える「わ、私…」
折木「どうした、千反田」
折木「(よし、言ってしまえ)」
折木「そうだな」
折木「(踏み止まったか…)」
折木「うーんと…」モフッ
える「……!」
える「(アフロからペンを取り出した…!?)」
える「(うぅ…他にも何か入っていそうですょ…)」ピクッピクッ
折木「(これでどうだ…)」
える「折木さん、冷たい麦茶などいかがでしょう」
折木「ああ…悪いな」
える「はい、どうぞ」
折木「ああ、そういやさ…菓子持ってきたんだ」
モァサッ
える「あ…ぁ…」ピクンッ
折木「千反田も食うか?」
える「(や、やっぱり…入ってました…)」
える「(この様子じゃ…まだ他にも…)」プルプル
える「わ…私」
える「…ありがとうございますっ、私、このお菓子大好きなんです」
折木「(…手強いな)」
折木「あぁ、またな」
える「……」
える「うっ…うわぁぁん!!」ダッシュ!
える「私、気になりますっ…気になりますっ!」
える「折木さんのアフロ…あそこまで収納性に優れたアフロ…!」
える「うぅ…う…」
涙を浮かべながら帰る、えるに対して
折木「明日はどうしよ」
折木「もっと千反田が気になるような事を…」
える「はぁ…」ゲッソリ
える「(気になって眠れなかったです…)」
える「ちょっとだけお昼寝しましょう…」スゥ
折木「……」ヌッ
折木「千反田、ここにいたのか」
える「折木さん」
折木「俺も昼寝しようと思ってさ、隣いいか?」
える「は、はいっ…」
折木「よいしょっと」
える「あぁ…っ!」
える「(わざわざ布団を…!?しかもどうみても家から持ってきた…)」
える「うっ…う…」ピクンッビクッ
える「(熊さんのぬいぐるみ…!!)」
える「(折木さんのキャラからは想像できない、可愛らしいデザイン…!)」
える「お、折木さん…私…」プルプル
折木「ん?どうした千反田」
える「…寝過ごしたらいけないので起こしてくださいますか?」
折木「わかった」
折木「(ぬぅ…)」
える「眠れないです…」
える「羊を数えても…折木さんのぬいぐるみが脳裏をよぎります…」
える「可愛かったな、どこに売ってるんでしょう…気になります…」
折木家
折木「千反田も、なかなかに手強いな…」
折木「明日で決着をつけよう…全然、省エネできてないし」
教師「今日は、水泳すっから」
える「はぁ…はぁ…」
える「(寝不足のせいか、準備運動だけで疲れました…)」
ザワザワ…
える「……!」
教師「おい折木、水着が学校のと違うだろう」
折木「ああ、すいません…次からは持ってきます」
える「折木…さん…」
える「(そ、そんなに…食い込みの激しいブーメランを…!)」
折木「……」
折木「(ちょっと痛い)」
教師「よーし、じゃあタイム計るから」
ザバッ
折木「ほっほっ」
える「あ…あぁ…」ビクッビクッ
える「(他の生徒がクロールの中…折木さんだけがバタフライ…!)」
折木「ふぅ…」
教師「折木、2分30秒…」
折木「気持ちいい!ちょー気持ちいい!」
える「……っっ!!」ビクッビクッビクッ
える「(そ、それは平泳ぎで…最下位なのに…)」バタ
教師「おい、千反田!どうした」
折木「千反田…」
もうやめてwwww
える「う…うぅん…」
折木「お、気が付いたか」
える「折木さん…」
折木「ゆっくり休むといい…今日の部活は中止だな」
ギュッ
える「帰っちゃうんですか…?」
折木「…千反田」
える「折木さん、意地悪です…」
える「私…私…!」
える「ずっと気になっていたんですよっ」
折木「(過去形)」
える「折木さんの事が気になって…夜も眠れなくて…」
える「え…」
折木「それが聞きたくて、色々してたってわけさ」
える「そ、そうだったんですか…」
折木「どんどん言ってくれ、その方が千反田らしいから」
える「お、折木さん…」グスン
折木「おい…泣くなよ」
える「気になりますっ…私…ううっ…う…」ガバッ
折木「お、おいっ…」
折木「(我慢してた緊張から解放されて泣いちまったか…)」
(::::::::....;;;;.....:...... ::";;;;;;;;....::::.....::::!、........::........ノ::::.....::::....;;;;;;;;゛:: ......:.....;;;;....::::::::)
ノ:::::::::......... ,..::::. ..........:::::::::.....:,',;;;;;;;;ヽヽ;;;;;;;;,',:.....:::::::::.......... .::::.., .........:::::::::ノ
ソ''r....:........::::....::....;;;;;;;;.;;;;........;;;;;;;;....::::..::::....;;;;;;;;........;;;;.;;;;;;;;....::....::::........:....r''ソ
jWw.....;;;;...........゙i゙''';:,ノ.y;wリ゙W゛jリ从jwwj从リj"W゙リw;y.ノ,:;'''゙/...........;;;;.....wWj
~''r::::::....;;;;;;;;;;;;;,.,!、i;:''::゙i........ト ;i:iii;::iii::iiiiii::;iii:i;wj从リjイ/::'':;iノ,.,;;;;;;;;;;;;;....::::::r''~
``Wj゙ハ'w,.......,,...゙i:;i::.゙゙ヽ(. | ..;;;ii;:''::;;:;;:;;::'':;ii;;;.. | .)ヾ゙.::i;:/...,,.......,w'バjW´`
ソ:リハw;::;;;j;;;;wi゙i;iiii;:ソ,゙゙゙:;i;:゙゙゙゙::iiii::゙゙゙゙:;i;:゙゙゙,ソ:;iiii;/iw;;;;j;;;::;wハリ:ソ
``Wj゙ハ'w,゙i:i;;i ;;゙゙゙:;;;;::.;;::;;;::;;;::;;.::;;;;:゙゙゙;; i;;i:/,w'バjW´`
゙i;ii:ii:;i::.゙;;゙゙..;i;::::;i;..゙゙;;゙.::i;:ii:ii;/
''r゙゙゙''';:,;;.:;:.:;ii;;ii;:.:;:.;;,:;'''゙゙゙r''
|;;;;..:;;;::゙゙゙... :: ...゙゙゙::;;;:..ヾ| <私、木になります
|. :;ii;::.゙゙,゙゙::;ii;;ii;::゙゙,゙゙.::;ii;:.|
|.ii゙:;''゙;.:ii.;::;i_i;::;.ii:.; ヾii.;;|、
,〉;.li;;;::.;ii;.. ; ;; ; ..;ii;.::;il.;|l
`l゙゙゙゙, ; i;,,;ii;;iiii;,,;i i;::゙゙,; ,゙〈
.ノ;;゙゙゙:;i;;;i::iii;;i;;i;;iii::i;;;i;:゙゙゙;;ヾ.
..,ヽ ;ヘ..::i;i;;;;;;iiノ;;ii;;ノiiii;;;;;;i;i::..ヘ; ヽ,..
折木「それで気にならないとか言ったのか」
える「はい…」モフモフ
折木「アフロを触りながら喋るな」
折木「負担になんてなってないさ」
える「け、けど…省エネが何とかって」モフモフ
折木「最近の一連の行動でエネルギー全開だったからな、だから慣れた」
える「そ、そうですか…」モフモフ
える「じゃあ…折木さん」モフモフ
折木「うん」
える「私、気になりますっ!」ニコッ
おしまい
乙っ…
Entry ⇒ 2012.05.27 | Category ⇒ 氷菓SS | Comments (0) | Trackbacks (0)
える「スケッチブック……?」
える「どういうことなのでしょう………」ドキドキ
える「………」ペラッ
える「!!!」
える「そんな……ええっ?」ドキドキ
える「まさか……本当に……」
える「私、気になりますっ!」
こんな平穏は何カ月ぶりだろうか。
里志が称するところの『女帝』事件に一通りの決着がついて数週間が過ぎた。
古典部の文集は入稿済みで印刷しあがるのを待つばかり。
このところは千反田がやっかいな案件を持ってくることもない。
その結果として俺は、この地学準備室――古典部の部室で文庫本を片手に無為な時間を享受していた。
折木(今日は誰も来ないな……)ペラッ
今日は金曜なので伊原は図書委員の当番に行っているはずだ。
里志も来ないところをみると、あいつもそっちへ行っているのだろう。
そして残る千反田もまだ顔を見せていない。
折木(平和なのは歓迎だが、本を読むなら家で読んでも同じだな)ペラッ
主人公のパートナーであり物語の語り部である記者の視点では主人公の眼の大きさがたびたび強調される。
「猫をイメージさせる」と形容されるその眼は、いかなる違和感も見逃さない……とのことだ。
大きな眼、か。
折木「……アイツはどちらかというと猫と言うより犬だな」
俺は、まだ来ないこの部屋の主の顔を思い浮かべた。
それにしてもこの主人公も記者も鈍感過ぎはしないか。
色恋に疎い俺ではあるがこうまで描写が露骨だと閉口してしまう。
なんだか白けてしまった俺は、いま呼んでいる章を読み終わったら帰ろうと決めた。
その時
ガラッ
える「おそくなりました……」
この部屋の主、我らが古典部部長・千反田えるが引き戸の影から遠慮がちに顔を出していた。
える「すみません、掃除当番だったもので」
折木「いや、非難しているワケじゃない。ただ、お前が黙って遅れるのは珍しいと思っただけだ」
える「そうですか」
折木「気を悪くしたなら、済まない」
える「いえ、そんな……」ガタッ
と、そんな話をしながら、千反田もいつもの席についた。
そう、いつも通りだったのだ。
この時までは。
折木「…………」ペラッ
える「………」チラッ
折木「……?」フイッ
える「!………」バッ
折木「…………何だ?」
える「あっ、いえ!何でも、ありません」
える「……………」チラッ
折木「…………」
………さっきから何なんだこいつは。
席に着くなり押し黙ったかと思ったらチラチラとこっちを見てくる。
しかも俺の見間違いじゃなければ、わずかに頬が赤いような気がする。
ハッキリ言ってものすごく気になるが、藪をつついて蛇を出す気は毛頭ない。
「やらなくてもいいことならやらない」、だ。
える「………」チラッ
折木「……何だ、と訊いている」
える「えっとその……何を読んでいらっしゃるのかなと」
折木「ならば最初からそう言えばいい」
える「す、すみません……」ショボン
へこんでしまった。
さすがにキツく言いすぎたか。
える「!」
まぁ、わざわざ隠すようなものでもあるまい。
折木「“面白くて知恵がつく、人の死なないミステリー”だそうだ」
える「人が死なない、ですか」
折木「ああ、俺に合っているような気がして手に取った」
える「折木さんに?」
折木「………人の生き死にに関わるのは、エネルギーがいるだろう?」
える「……そうですね」
える「はい。血なまぐさいものよりは」
折木「………読み終わったら置いていく。読みたければもっていけ」
える「!あ、ありがとうございます」
物の貸し借りとは本来それなりのエネルギーを使うのだが相手がこいつなら話は別だ。
借り手が千反田なら、ブツが帰ってこない心配をする必要がない。
とにかく、これで千反田の訊きたいことには答え……
える「……」チラッ
………られてはいないようだった。
俺は意を決して文庫本を閉じ、千反田に向き直った
折木「……さっきから何だ」
える「なっ、何のことですか?」ドキッ
折木「ごまかすな。さっきから人のことをじろじろと。気になって集中できん」
最初からそれほど集中していたわけではないが、こいつにはこれぐらい言っておいてちょうどいい。
える「す、すみません………」
折木「俺に言いたいことがあるならハッキリ言え、はっきり」
思えばこの一言が分水嶺だったのだ。
久しぶりに訪れた平穏と、
俺の矜持を賭けた闘争との。
える「はっきり……わかりました!」
折木「おお」
千反田は幾分か迷った後、
顔を真っ赤にしながらこう切り出した。
える「お、折木さんは、その………
男の人が好きなんですか!?」
折木「…………………………は?」
我ながらゾッとするほど冷たい声だった。
正直、耳がいかれたのかと思った。
える「だから、折木さんは男の人が恋愛対象として好きなんですか?」
折木「あー、千反田?」
える「やっぱり相手は福部さんなのですか?」
折木「あのな」
える「私、気になります!」
………頭が痛くなってきた。
どういうわけか千反田は、俺が男好き……同性愛者だと思い込んでいるらしい。
どういうわけか?
こっちがききたいわ!
折木「……千反田」ガシッ
える「!」ビクッ
俺は千反田の両肩をしっかりつかみ、
その清楚なイメージを唯一裏切る大きな瞳をまっすぐ射すくめたまま俺はこう切り出した。
出来るだけ声音を抑えることを忘れずに。
折木「お前がそのような……俺が同性愛者であるという 誤 解 をするに到った経緯を詳細に説明しろ。
一字一句、余すところなくだ……!!」
あくまで「誤解」を強調することも怠らない
える「は、はい……」
千反田の眼には若干怯えの色が浮かんでいる。
だが断言してもいい。
この場で恐怖しているのは間違いなく俺の方である、と。
える「一昨日のことです」
千反田はそう話し始めた。
一昨日と言えば、家の用で部室には顔を出さずに帰った日だ。
里志には伝えたはずだが。
える「はい。福部さんからもそのように聞きました。
その福部さんも総務委員の会議があると言って、私たちは特別棟の入口で別れたんです」
える「いつもの通り鍵を開けて部室に入りました。
そうしたら、机の上にあったんです。
一冊のスケッチブックが」
スケッチブック。
それが、千反田の荒唐無稽な『誤解』を生んだ真犯人と言うことだ。
折木「つまりお前は………その中身を見たんだな?」
える「………見ました」
折木「そうか……」
まぁ。ほぼ自分たちしか使っていない教室に見慣れないものがあれば思わず見てしまうのが人の性だろう。
……俺は放置するだろうが。
と。
ここまで聞いて大体分かった。
スケッチブックの存在と、今までの千反田の発言。
閃きも洞察力も必要ない。この二つを結び付けれ自ずと想像はつく。
折木「そのスケッチブックに描かれていたのは、俺と里志だな?
……………恐らく、異常に仲睦まじい様子の」
あまりの気持ち悪さに思わずマイルドな表現をしてしまったが、早い話が俺と里志の濡れ場………ラブシーンだろう。
える「!!! お、折木さんも見たんですか!!?」
折木「見てない。“恐らく”と言っただろう」
そして絶対に見たくない。
こいつ、動揺のあまり自分が数分前に言ったことも忘れているようだ。
折木「お前が言ったんだろうが。『相手はやっぱり里志か』、とな」
える「あっ……」
折木「そう。“やっぱり”と言ったんだよ、お前は。
この言葉は実際に見たり聞いたりしないと出てこない」
そして、それをこいつが実際に目撃することはありえない。
そんな事実は存在しないからだ。
折木「そのことに今の話の流れを合わせれば、描いてある内容は想像がつく」
える「なるほど……さすがは折木さんですね!」キラキラ
折木「感心している場合か!」
える「す、すみません!!」
折木「……怒鳴ってすまん。
で、そのスケッチブックはどうした?」
える「ええ。私、すごくびっくりして……
それを置いたまま帰ってしまいました」
折木「ここにか?」
える「はい」
折木「ふむ…………昨日はそんなものなかったよな?」
える「ええ。お昼休みにも探してみたんですが、この部屋にはありませんでした」
折木「となると、持ち主の元へ戻ったと考えるのが妥当だな」
える「そうですね……」チラッ
……こいつ、まだ要らん勘違いをしているようだ。
心を鬼にして、俺は努めて冷たい声音で訊いた。
える「あの……折木さんは本当に、そういう趣味はないんですよね……?」
折木「『誤解だ』………そう言ったはずだが?」
同じことを繰り返して言う趣味はない。
エネルギー効率が悪いからな。
そう、これは誤解だ。許されざる誤解だ。
普段の俺ならば、多少の誤解や讒言は放っておく。
誤解を解くのにはエネルギーを使うし、忘れるまで放置するのが一番だ。
だが相手が千反田なら話は別だ。
そして隠し事が絶望的にヘタだ。
誹謗中傷は別として、積極的に言いふらすことはしないにしろ、人に訊かれれば答えてしまうだろう。
そして噂が噂を呼び、俺の高校生活は灰色を通り越して真っ黒だ。
「やらなくていいことなら、やらない。やらなくてはならないことは手短に」。それがおれのモットーでありスタイル。
これは……絶対にやらなくてはいけないことだ!
折木「ときに千反田よ」
える「は、はい!何ですか、折木さん?」
折木「そのスケッチブックに描かれていた絵について、他に覚えていることはないか?」
える「他に、ですか?そう言われましても……」
やはり強烈なファーストインプレッションが邪魔をして上手く思い出せないようだ。
思い切ってカマをかけてみるか。
折木「何でもいい。たとえば……俺が着ていた服とか」
える「……あっ!」ハッ
折木「思いだしたか」
える「はい!確か折木さんも福部さんも制服を着ていました!それも…」
折木「神高の制服じゃなかった、だろ?」
える「!!!」
ビンゴ。
手近にあった紙に描いて説明してみる。
……我ながら絵心のカケラもないな。
だがまぁ、概ね特徴は捉えられていると思う。
今はこれで十分だ。
折木「こういう制服じゃなかったか?」
える「折木さん……やっぱりあのスケッチブックを見たんですね!?」
折木「くどい。見てないと言っている」
折木「やっぱりな……」
える「やっぱり?どういうことですか?」
折木「………この制服はな、千反田」
折木「俺が卒業した鏑矢中のものだ」
根拠は全くない。ほとんど言いがかりレベルの仮説だ。
しかし、その仮説に基づく推論が全て正しかった場合、
やはりそれは「真実」と呼ぶのがふさわしいのだろう。
折木「もう分かっただろ、千反田」
える「はい………」
える「スケッチブックの持ち主は、摩耶花さんだったんですね」
なおかつこの部屋に頻繁に出入りしており、
そして千反田が一目で「それ」と分かるほどの絵が描ける人間。
そんなヤツは一人しかいない。
伊原摩耶花。
俺や里志と同じ鏑矢中学出身で古典部員。
さらに漫画研究会もかけもちしているアイツにまちがいない。
俺たちのいない昼休みを使ってな」
この地学準備室は特別棟の四階。
神高の最辺境だ。
人目を忍んで何かをやるにはうってつけである。
折木「まぁ何をしていたかは……この際どうでもいいだろう」
える「えっ」
折木「そういうことにしておけ。それが伊原のためだ」
千反田がいくら好奇心の塊でも、このことだけは俺の胸にしまっておいた方がいいだろう。
伊原の名誉のために。俺の身の安全のために。
感謝しろよ、伊原。
折木「ギリギリまで作業をしていたんだろうな。始業のチャイムが鳴って、伊原は慌ててここを飛び出した。
ここから教室まで、どんなに急いでも5分はかかるからな。
そして、大事なスケッチブックを置き忘れてしまった、と。
まぁこんなところだろう」
える「待ってください折木さん」
折木「何だ?」
える「普通、そんな大事なものを忘れたと気づいたら、急いで取りに来るんじゃないでしょうか?
もし私が摩耶花さんなら、放課後すぐに…」ハッ
折木「取りに来れなかったのさ。
一昨日は漫研の活動日だったからな」
そうでなくても俺たちは一年生だ。
休んだり遅れたりして先輩方から無用な不興は買いたくないだろう。
折木「それでも隙を見て取りに行くことはできただろうな。
お前がそれを見て、顔を真っ赤にしながら逃げ帰るには十分な時間が経った後だろうが」
える「折木さん!」カァァ
これで状況の説明は出来たはずだ。
このお嬢様の誤解も……
える「………………」
………………解けていないというのか?
折木「どうした。まだ何か納得いかないことがあるか?」
える「スケッチブックの持ち主が摩耶花さんだということも、それがこの部屋に合った理由も分かりました。
ですが……」
折木「何だ?」
える「それって折木さんが同性愛者じゃないことと何の関係もないですよね?」
折木「」
バレた。
俺は何でそんな気色の悪いものがこの部屋にあったか、という状況に理屈をつけただけで、
こいつの最初の問いには何も答えてはいない。
俺のホモ疑惑は未だ晴れていない……!
やばい、冷や汗が出てきた。
折木「あー……千反田さんや」
える「やっぱり……折木さんは、福部さんとただならぬ関係に!」
折木「千反田」
折木「これから俺の言うことに深い意味はないからそのつもりで聞け」
そうだ、これはあくまで「やらなければならないこと」なのだ。
他意はない。あるわけがない。
俺はさっきのように、千反田の両肩をつかみ、
紫苑の瞳をまっすぐ見つめてこう言った。
折木「いいか。俺は恋愛というものがよく分からん」
える「………はい」
える「そう……ですか………」
まて。下を向くな。そんな悲しそうな顔をするな!
俺はまだ何も肝心なことは言っていない。
折木「だけどな」
折木「もし俺が誰かを好きになるとしたら、それは間違いなく女だ」
える「えっ……?」
俺の言葉に千反田は再び上を向いた。
える「あの……折木さん。私、その……
そういう方たちに対して差別的な感情を持っているのではないのですよ?」
折木「!」
コイツ、この期に及んで何もわかっていない!!
える「その、人を好きになるというのはとても素敵なことですし!
たとえそれがどんな形であっても立派な一つの愛というか……」
折木「ちがう!!」
結局コレを言うしかないのか。
この一言を言うのが、一番疲れる。
だから言いたくなかったのに。
だけどこうなっては仕方がない。
それが、
俺の「やらなければいけないこと」だから。
やらなくてもいいことならやらない、それが俺だ。折木奉太郎だ!」
える「折木さん…………」
折木「本当だったらな、こんな下らないデマ放っておくんだ。
聞いた人間全員の誤解を解くなんて体力の無駄だからな。
みんなが忘れるのを待つのが一番手っ取り早いんだ!」
折木「その俺がこんなにみっともなく声を荒げている理由がお前に分かるか!」
折木「お前には!お前にだけは!そんな誤解をしたまま俺に接してほしくなかったんだ!!」
える「!!!」
さっき自分で言った通りだと思った。
こんな狭い空間で、女子の肩を掴んで、声を張り上げて。
くそっ。
コレでは省エネ主義の名折れだ。
里志が見たらさぞ笑い転げることだろう。
える「」ポーッ
見ろ。千反田も面食らっている。
こいつは神高一年屈指の優等生だ。
今まで人に怒鳴られた経験があまりないのだろう
える「あっ……いえ」
俺は千反田の肩に掛けたままの手を下し、
脱力するように椅子に腰を下ろした。
折木「………さっきも言った通り、深い意味はない」
える「……はい」
折木「ただ……俺がどれだけ必死かは伝わったか?」
える「はい!」ニコッ
今日初めて、千反田が笑った顔を見た。
あーくそ。顔から火が出るとはこのことか。
える「折木さん」
折木「…………何だ」
俺は千反田から顔をそむけたまま答えた。
というよりも、今はまだ千反田の顔をまともに見れそうにない。
える「私の誤解の所為で、折木さんを傷つけてしまったみたいですね」
折木「そういう言い方はやめてくれ」
人を乙女みたいに言うな。
える「本当にすみませんでした」
折木「っ………」
何故だろう。強烈な罪悪感がわいてくる。
折木「頭を上げてくれ。………俺も言いすぎた。
乱暴な物言いをしてすまなかったな、千反田」ペコッ
俺も一緒に頭を下げる。
える「いえ!折木さんは悪くありません!私がその……ヘンな早とちりをしたせいで」
折木「そうか。じゃあ……お互い様、だな」フッ
える「……ですね」フフッ
部室に残された一冊のスケッチブック。
それをきっかけにこの部屋で起こった「コップの中の嵐」は、
俺たちの「仲直り」によって幕を閉じたのだった。
折木「ところでそのスケッチブックのことなんだが」
える「はい?」
………………それで済むはずがないだろうが伊原ぁ!
ほ、本当のことじゃ、ないんですよね?」
伊原よ。あとで存分に後悔するがいい。
折木「ああ、そんなものはすべて伊原の妄想の産物だ」
自らの恥部とも言うべきスケブをこんな場所に置き忘れたことを。
える「ええ。でも、その、摩耶花さんは福部さんのことが、その……」カァァァ
折木「そのことなんだがなぁ、千反田。
俺に一つ仮説がある」
そして俺はお前に恥をかかされた分、
折木「伊原はな、腐女子なんだよ」
―――お前の恥を全力でブチ撒ける!!
折木「あー、それは字が違う。俺が言ってるのはな、『腐った女子』と書いてフジョシと読むんだ」
える「なっ……!折木さん!言っていいことと悪いことがあります!」プンプン
うむ。思った通りの反応だ。
折木「違うんだよ千反田。これはある特定の作品群を愛好する女子の総称なんだ」
える「作品群………?」キョトン
折木「BL……ボーイズラブと言ってな。
男同士の恋愛を描いた作品を愛してやまない女性諸君が、
自嘲気味に生み出した呼び方が腐女子なんだ」
える「お、とこどうし……」ハァァ
伊原は文集の台割りの作り方を知っていた。
普通の高校生……ついこの間まで中学生だったヤツが知ってることじゃない。
つまり。
折木「伊原は恐らく今までに自分で本を作ったことがあるんだ。
同人誌、ってやつだな」
える「同人誌……?アララギ派文学などの、アレですか?」
さすがは優等生。言葉の正しい意味を知っている。
折木「本来はそういう意味なんだがな。今では自主製作の本や漫画を指すことが多い
そしてこの同人誌製作に手を出すのはもう救いようのないレベルの腐女子ばかりだ」
える「そう、なのですか?」
折木「そうだ」コクン
俺は今日で一番力強くうなずいた。
いや、精神そのものと言っても過言ではない
そしてそれを見られるということは、
自分の恥部を、いや、頭の中をカチ割って覗かれるも同義なのだ。
折木「だから伊原ははぐらかしたんだ。千反田に『台割りの書き方なんてどこで覚えたのか』と聞かれたときにな」
える「はぁ………でもそれだけじゃ」
折木「もちろんこれは俺の推測だ。
―――だから確かめに行く」
折木「あぁ」
える「でも、どうやるんですか?
それはその、摩耶花さんにとって恥ずかしいことなのでは……」
折木「心配するな。策はある。
伊原が恥をかかずに、俺たちだけが真実をしる方法がな」
える「そんな方法が?」
折木「ある。あのな――――」
―――図書室
伊原「あ、ちーちゃん!………と、何だ、折木も一緒か」
いきなり御挨拶だな。
伊原「今日はどうしたの?何か必要な資料でもある?それなら一緒に探すけど」
える「いえ、その」モジモジ
伊原「……ちーちゃん?」
さすがの伊原も、千反田のただならぬ様子に気がついたようだ。
デカい声で人聞きの悪いことを言うな。
誰が変なことなどするか。
える「違うんです。……摩耶花さん!」
ちょっと要らない知恵を吹き込んだだけだ。
伊原「な、何?」
える「せ……」
伊原「?」
える「『攻め』の反対は何ですか?」
伊原「!!!!!!?」
10分前
える『それだけでいいんですか?』
折木『ああ。「攻め」の反対は何か?………そう訊けばいい』
える『えと……守り、ですよね?』
折木『そうだ。伊原が迷いなくそう答えたらシロ。
一瞬でも言い淀んだり、動揺したりしたらクロだ』
える『????』
折木『………ま、訊けばすぐに分かる。行くぞ』
える『はい』
伊原「ち、ちーちゃん?それはどういう……?」ワナワナ
える「……折木さん」クルッ
折木「クロだな」
伊原「!!!!!やっぱりアンタかおーれーきー………!!!!」ギヌロッ
怖い怖い。
伊原は俺を視線で殺さんばかりの勢いで睨みつけてきた。
伊原「八つ裂きにしてやる……!!」
だが残念。そんな気迫だけで俺は殺せん。
何せ、俺は先ほどお前の不始末の所為で社会的に抹殺されるところだったのだからな。
伊原「アンタ……あれを見たのね!?」
折木「いや、見たのはコイツだけだ」
伊原「なっ!!
ほ、ホントなの、ちーちゃん?」
える「摩耶花さん」
伊原「」ビクッ
える「摩耶花さんの嗜好を、私は否定しません」
伊原「あ…あ……」カァァァァ
える「いつか、読ませてくださいね。
摩耶花さんの描いた作品を」ニコッ
ゴツン!
という鈍い音が図書室に響いた。
伊原が貸出カウンターに突っ伏して頭をぶつけた音だ。
伊原「……………死にたい……………」プシュー
ショートカットからわずかに見える耳まで真っ赤になっている。
………勝った。
こいつとは里志以上に長い付き合いだが、ここまで完膚なきまでに叩きのめしたのは初めてだった。
今日は初めてづくしだ。
折木「用は済んだ。行くぞ、千反田」
える「え?あの、摩耶花さんは?」
折木「糸魚川先生も里志もいるし、心配ない。俺たちは『部活』の続きだ」スタスタ
―――伊原さん?どこか具合でも悪いの?
折木「……な?」
える「………はい」タタッ
そのまま俺たちは、敗残兵を振り返ることなくその場を後にし、部室へ引き返した。
える「………折木さん」
折木「何だ?」
図書室が見えなくなったところで、千反田がそう囁きかけた
える「部室で折木さんが言ってくださったあの言葉」
おいやめろ。
せっかく勝利の余韻に浸っているのに思い出させるな。
える「あれを聞いた時、私もほっとしたんですよ?」
っ…………
本当に、このお嬢様は………
折木「お互い様、か?」
える「ですね!」ニコッ
おしまい
乙!
原作っぽさも出ててよかったよ
かあいかったぜ、雰囲気もよかった
Entry ⇒ 2012.05.25 | Category ⇒ 氷菓SS | Comments (0) | Trackbacks (0)
える「私、気になりまs……あぅ///」折木「……」ナデナデ
える「お、折木さん……////」
える「……////」
折木(しかし何というか、こう……こうしていると俺も落ち着く)
折木(いや待て。何を考えているんだ俺。いかんいかん)
える「あの、折木さん……////」
える「いえ、あの、はずかしぃ……デス////」ゴニョゴニョ
折木「ん? 何だって?」ピタッ
える「あっ……な、何でやめちゃうんですか!? 何かよくないことでもあるんですか!? 私、気になりますっ!!」
折木(う、うるさい!)
える「ぁぅ////」
折木(……こうして見ると、意外に……まぁ可愛いといえる顔かも知れんな)
える「……////」
折木(ちょっと、からかってみるか。普段俺のエネルギーを消費させてる仕返しだ)
折木(……)ツンツン
える「むにゃっ///」
える「や、やめてくだしゃい///」
折木「やめていいのか」
える「ぁ……」
える「や、やめないでくださいっ!! 私、こうしていると新たな何かを見つけ出せそうな気がするんですっ!!」
折木「わ、分かった分かった!」ツンツン
える「はぁぅ////」
える「////」
折木「……」ツンツン
える「////」
折木「……」ピタッ
える「折木さんやめないでくだs――!!」
折木「」ツンツンツンツン
える「////」
折木(これは省エネではないッ……!!)ツンツン
折木(今日は伊原とその他も部活に来ないから、こんなこともできたが……)
折木(もし明日、廊下なんかで急に――)
える「折木さん! なでなでつんつんしてくださいっ!!」
エー アノフタリソウイウカンケイダッタノー キャー
折木(いかんいかんいかん! それだけは……非常に面倒くさいことになる……!!)
える「折木さんっ! 手が止まってますっ!!」
折木「うがッァ……」ガタンッ
える「!? ど、どうしたんですか折木さん!」
折木「くッ、バ、バカ……近づくなっ!」
折木「ぁア……ぁぁあぁああ!」グガガガ
える「えぇええっと……ど、どうしましょう!?」
折木(疲れるなぁこれ)
える「えっえっ……」オロオロ
折木「これは俺の深い闇と凄惨な過去により生じた事象、お前に介入してほしくないッ……」
える「で、でもっ! ほ、保健室に行きましょう!」グイッ
折木「!?」
折木(千反田の手……すべすべでやわらかくて……何だッ!?)
える「はいっ? どうしました? 苦しいんですか? 大丈夫ですよ、すぐに保健室へ――」
折木「違う、そうじゃなくて……」
える「?」
折木「……」
折木「……」ペロッ
える「ひゃわっ!?////」
折木(あ、甘い……)
甘いのか!?女の子の手は甘いのか!?
える「お、おれきっ、さんっ……指を……ぁあ////」ビクビクッ
折木「……」ペロペロ
折木(まさか……)ピタッ
える「……折木さん? やめちゃうんですか? 何でやめちゃうんですか?」
折木(やっぱり)ペロペロ
える「ぁぁあっ////」
える「ひゃぁぅっ! ぃゃぁ////」
折木「……」パクッ
える「むにゃぁ!?////」
折木(甘い。氷菓子みたいだ)
える「……折木さん……////」
折木(こいつの伯父が文集を『氷菓』と名付けたのは、こいつが氷菓子のように甘いからか?)
折木(……。いや、伯父がこいつの味を知ってるってのは無理があるな。名付ける意味もない)
折木(でも他の可能性を考えるのも面倒だし、これを結論にして後で三人に発表するか)
える「あ、あの、折木さんっ」
折木「ん」
える「早く、保健室に……」
折木「ああ、そうだったな。それじゃあ、行こうか」
える「はい?」
折木(俺は思春期の男子高校生だ。この欲求は決して異常ではない)
折木(まずはドアに鍵をかける)ガチャガチャ
える「え? 折木さん、どうして鍵を?」
折木「すまん。さっき鍵をかけてたんだ」
える「……そうでしたっけ?」
える「はい。分かりました……」
折木(小首を傾げている。どうにも腑に落ちていないようだな。さすがは好奇心の亡者)
える「……」ガタガタンッ
える「え? あれ? 折木さん、ドアが開きません――」
折木(そして後ろからこうする、と)ギュゥッ
える「ッ!?////」
折木「大変だ千反田。倒れそうだ。しばらく肩を貸してくれないか」
える「か、肩じゃない……/////」
折木「ん?」
える「なんでもない……です……/////」
折木「ぁあ、今すぐ倒れそうだぁ。しっかり支えてくれぇ」ギュゥゥゥゥ
える「ゃぁぁ……/////」
折木(そういえば前に読んだ小説で、『女の子は耳が弱い』っていう話があった)
折木(よし、やってみるか)
折木「なあ、ちょっといいか」
える「は、はい……」
折木「……える」ボソリ
える「はぅ!?/////」
折木「えるって可愛い声してるよな」
折木「目も大きくて、えるに引き込まれるようだ」
折木「千反田えるって名前も、響きが素敵だと思う」
折木「なあ、折木える、にならないか? それとも千反田奉太郎かなぁ」
える(だ、だめ……そんな……おかしくなりそう……////)
える「ぁ……////」
える「」
折木「える?」
える「」
折木「……何てこった。気を失っている」
える「」プシャァァァ
折木「うわッ! こ、これはやばいかも知れん」
折木「とりあえず、寝かせておくか。いや、でもこんなびちゃびちゃだと身体に悪いな」
折木「……」
折木「スカートと下着を脱がせて、イスを並べて寝かせよう」
折木「よし」スッスッ
折木(下半身に何も身に着けていない少女の横で読書し続ける忍耐。何て辛いんだ)
折木(……)チラッチラッ
折木(いかん。邪な考えは捨てろ。手を出したら人生が終わる)
折木(既に終わってる感が否めないが、さらに終わる)
える「……ぁ……ぅ?」
折木「あ、おはよう」
える「おれき……さん?」
える「あれ? えーと……」
える「……」
える「あ」
える「……」
える「…………」
える「ほ、奉太郎のえっち/////」
折木「!!?」ドッキーン
折木「……千反田、まずは下を隠せ」
える「へ?」
える「……」
える「ひゃあぁぁあっ!!?/////」
折木「……」フーヤレヤレ
える(あぁぁあう! ぬ、ぬがされた……ってこと……? みられた……? みられた……!?)
える(折木さんに……みられた……ぁあぁぁ……)
える(……しかも、名前で呼んでもらえなかった)ショボン
える「ぁ、ぁの……///」モジモジ
折木「ん?」
える「あっち向いててもらえませんか……?////」
折木「ああ、すまん」
える(いつもの折木さんだ……)
折木(さっきまでの俺はどうかしてた。ああ、俺らしくない)
折木(いろいろと手遅れかも知れんが、今まで通り千反田に接しよう、そうしよう)
折木(……)
折木(……)チラッ
折木(エロい……)
折木(千反田も落ち着いてきたか。さっきから俯いて動かないままだ)
折木(髪がだらっと垂れて、何というか、貞子みたいだな)
える「……」
折木「なあ、千反田」
える「はひっ!?」ビクッ
折木「さっきはすまなかったな。謝っても許されることではないと思うが」ペコリ
える「い、いえ! ほうたr……折木さんも男性ですし……」
折木「奉太郎って言おうとしたよな?」
える「!! ち、ちが……噛んだだけですよ」
折木「言おうとしたよな?」
える「……はぃ////」
える「////」
折木「ふむ」
える「……?///」
折木(千反田と会話しているというのにこの静けさ。この状況はもはや芸術の域に達している)
える「折木さん……?」
折木「何でもない。そのままでいい」
える「そのまま?」
折木「気にするな」
える「えっ」
折木「おやすみ」
える「あ、は、はい。おやすみなさい」
折木「……、……Zzz」
える「……」
折木「Zzz」
える「……」
折木「Zzz」
える「……」ドキドキ
折木「Zzz」
える「……ほ、ほーたろ////」ボソッ
折木「何だ?」ヒョイッ
える「きゃぁぁあっ!?」
折木「ほーたろーのお目覚めだ。何か用か?」
える(あぁぁぁ……ぁああぁ! 恥ずかしいぃぃ……/////)カァァァッ
折木(顔が真っ赤だ。何とまあ可愛らしい)
える「……はい」
折木「……」
える「……」
折木「Zzz」
える(怪しい。わたし、気になります)
える(そうだ。呼べばいいんだ)
える「折木さーん?」
折木「Zzz」
える(返事がない。寝てる!)
える「ほーたろ////」
折木「Zzz」
える「ほーたろ、寝てますか……?////」
折木「Zzz……ん……Zzz」
える(あんまり声かけると起きちゃうかな)
える(でも、名前呼ぶの何か楽しい)ドキドキ
える「ほーたろ♪ ほーたろー♪」
折木(里志、分かったよ。俺は千反田に惹かれていたんだ。もう変な見栄は張らない)
える「ほーたろ」ドキドキ
える「……好き、ほーたろー////」
折木(ッ)ドキッ
折木(……)
折木「んー……むにゃむにゃ」
える「!」
える「あ……////」
える「私も、愛してます。好きです。大好きです////」
折木「うん……俺も……」
える「……ほーたろー////」ギュゥゥゥ
折木「える……」
える「……」スピー
折木「いつの間にか、寝ちまってたのか。こいつまで……」
折木「……」
折木「……」チュッ
える「……えへへ///」
折木「うわッ!?」
える「ほーたろ、大好き////」
折木(は、はめられた……なんてこった……)
里志「やぁホータロー。今日は早いね」
折木「いろいろあってな。生活を改めることにした」
里志「へぇ? 失恋でもしたのかい?」
折木「縁起の悪い……まぁ紙一重とは言うが……」
里志「紙一重!? ついにホータローも恋を……!」
折木「いや口が滑った。じゃない、冗談だ冗談」
里志「本当に〜?」
里志「やぁ。そうみたいだね」
折木「……」
里志「ホータローぉ? 何だか寂しそうだねぇ」
折木「な、何言ってんだ。ちょっとぼーっとしていただけだ」
里志「ふ〜ん?」
伊原「え、なになに? 折木が何かオモシロイことになってるの?」
折木「あー、もう……やめてくれ」
里志「まさかぁ、千反田さんと何かあったのかなぁ?」
里志「おぉ? こりゃ図星みたいだね」ニヤニヤ
伊原「なによぉ、いつの間にデキてんじゃないわよぉ」ニヤニヤ
折木(恥ずかしい……辛い……)
える「お、遅れてごめんなさいっ」ガララッ
里志「おっ。ウワサをすれば」
える「へっ?」
伊原「ちーちゃん、やっほー♪ お待ちかねだったよー」
える「あ、は、はい……はい?」
える「ふぇっ!?////」
折木「おいッ!?」
里志「いやぁ、ビックリだね。もっと早く教えてくれたらなぁ」
える「え、あ、その……昨日、お付き合いを始めさせていただいて……////」
折木「えるも何言ってんだ!」
伊原「わっ。下の名前で呼んでるんだ! アツアツだね〜」
折木(ぎゃああああああああ)
える「////」
希望を胸に抱いて、さあ、レッツ省エネ生活!
おしまい
は?
いやいやいや
もうちょっと行きましょうや
あとちょっと!!
える「ほーたろ! これってどういうことなんでしょう!? わたし、気になります!」
折木「……」ナデナデ
える「はうっ////」
折木「……」ナデナデ
える「……////」
折木「謎はどうでもよくなったか?」
える「はい////」
折木「いいコだ」ナデナデ
える「んっ……///」
折木「おう」
える「ご、ごめんなさい……」
里志「いや幸せそうで何よりだけどさ。ホータローの膝の上に千反田さんが乗ってる絵はなかなかシュールだね」
折木「こいつ軽いからな。膝に乗せても問題ない」
折木「あと、良い匂いがする。もう俺は、この匂いなしじゃ生きていけん」
える「ど、どんな匂いなんですかそれ////」
折木「甘くて、何ていうのかな、大好きなヒトの匂いがする」
える「〜〜〜/////」
里志「ホータローも結構クサいセリフを吐くねぇ」
折木「余計なお世話だ」
折木「……」
える「……」
折木「あ、手が滑った」フニッ
える「んぁっ////」
える「ほ、ほーたろっ……えっちなのはだめです……////」
折木「手が滑ったと言っているだろう」モミモミッ
える「んぅっ……! ぁぅ……////」
折木「二人きりなんだから……な?」
える「……はぃ////」
おしまい!
おい
寸どめとはこれいかに
Entry ⇒ 2012.05.25 | Category ⇒ 氷菓SS | Comments (2) | Trackbacks (0)
千反田える「アニメ『氷菓』の評価が私……気になります!」
える「違います! ただ純粋に気になるんです!」
奉太郎「(まためんどくさそうなことを……)」
里志「千反田さんならそう言うと思ったよ。僕もちょっと気になっててね」
奉太郎「お前もかよ」
里志「やっぱり自分が出てる作品がアニメになったら周りがどんな反応してるのか気になるじゃないか」
奉太郎「そんなもんかね……」
える「折木さんは気にならないですか?」
奉太郎「別に……」
摩耶花「折木はほんと何にも興味ないのね。無くなりかけの電池みたいに動かないし」
奉太郎「ほっとけ」
奉太郎「(アニメ氷菓の世間の評価……か)」
奉太郎「知らん」
里志「冷たいなぁー奉太郎は」
奉太郎「あのな、大体アニメの評価なんてネットでも何でも見ればわかるだろ」
里志「わかってないね〜奉太郎」
奉太郎「何が?」
里志「千反田さんは奉太郎が意見をまとめて、考えて、客観的に見た正当な評価が知りたいんだよ」
奉太郎「俺の?」
里志「だよね? 千反田さん」
える「はい! 折木さんならきっとアニメ『氷菓』の評価を正しく伝えられると思うんです!」
奉太郎「伝える? 誰に?」
える「だれ……でしょう?」
何でハゲてんの?
える「はい!」
里志「さすが奉太郎。話が早いね」
奉太郎「(めんどくさい……何とか誤魔化すか)」
奉太郎「あ〜千反田」
える「はい?」
奉太郎「人には個人個人で色々な感情があるのはわかるな?」
える「もちろんです。十人十色、同じ人なんていません」
奉太郎「と言うわけだ。アニメの評価だって十人十色、面白いと言うやつもいればそうじゃないやつもいる。そう言う価値観に俺がどうこう言えるわけがない」
える「それは……そうですけど」
奉太郎「また何だよ」
里志「ネットってのは群衆心理が働くから何もかも鵜呑みにしてたら正しいことも悪く見えちゃうもんなんだよ」
奉太郎「そう言うもんなのか」
里志「データベースの僕が言うんだ間違いない」
摩耶花「(福ちゃん暇だからってちーちゃん焚き付けて折木に推理させようとしてるのバレバレ……」
里志「(でも実際気になるだろ? 僕らのアニメなんだしさ」
摩耶花「(それは……まあ。でもやめといた方が……」
える「折木さん……お願いします……」ウルウル
奉太郎「……はあ(また省エネはお預けか)」
奉太郎「(まあこれで勝手に調べて勝手に落ち込まれても後が悪い。何とかしてみるか……)」
奉太郎「……次の土曜日、また千反田家で検討会な。それまでに各々アニメ『氷菓』の評価について調べて来ること。それを聞いた上で俺の意見と合わせて総評、それでいいな千反田?」
える「はいっ!」
える「では、これより第二回検討会を始めます」
里志「もう第二回かー早いね。もしかしたら神高月報みたいに500回近く行っちゃったりしてね」
奉太郎「やめてくれ……考えただけで頭が痛い」
える「では、前と同じく私から時計回りで」
える「アニメ、『氷菓』は米澤……」
奉太郎「千反田、そこはいい。原作には最後までなるべく触れない方向で行こう」
える「はい。ではアニメのみでの評価ですね。図書館のインターネットを使ったり街で聞き込みしたりで評価を募りました」
奉太郎「街でって……街頭アンケートじゃあるまいし」
摩耶花「折木、静かに聞く」
奉太郎「へーい」
奉太郎「……」
摩耶花「……(いきなりきっついの来たわね」
里志「……(端から見たらそう見えちゃうのかもしれないね。さて、主人公の奉太郎君はどう答えるのでしょうか?」
奉太郎「千反田、次を頼む」
える「はい」
摩耶花「(スルーかよ)」
える「10代男性の方『内容がない。アニメには向かないんじゃないかな。でも黒髪の子は凄い可愛いと思う』」
奉太郎「次」
える「30代男性の方『リアルえるたんキターーー』」
奉太郎「よし、もういいぞ千反田」
おじさんが何で中退したかえるたんちで推理大会したあたり
チタンダ家で検討会したとこ
える「福部さんに教えてもらったにちゃんねると言うところのすれっど?と言う話し合いの場が持たれているところを見てみたのですが……」ウルウル
奉太郎「そうか……」
さて、これは困ったな。
奉太郎「千反田、良いことは一つも書いてなかったか?」
える「……はい」
奉太郎「……ってことはそれが世間の」
里志「ちょっと待った!」
奉太郎「ん?」
える「?」
里志「もしかして千反田さんアンチスレの方しか見てない?」
える「アンチスレ……?」
里志「やっぱり……そっちはちょっと難アリでね。もう片方の方を見てほしかったんだけど……」
摩耶花「そっちの報告は私からするわ」
摩耶花「さっきちーちゃんが言ってた話し合いの場での意見だけどこっちは比較的まともだったわね」
里志「頭ごなしに否定せずにちゃんと面白いと思うところ、つまらないと感じる人がどの辺りでつまらないと思うのか、その思いに至った経緯何かも詳しく書いてたよ」
摩耶花「福ちゃんこれ私の報告」
里志「はは、ごめん摩耶花」
摩耶花「で、良いと思ったって人の意見ね。『推理の過程の描き方、みんなで意見を出し合い最終的に答えに辿り着くと言う連帯感などが面白い』ってさ」
奉太郎「やっとプラスな意見が出てきたか……」ホッ
える「大人気ですねー」
摩耶花「これちーちゃんのことだよ?」
える「え?」
摩耶花「え?」
える「?」
摩耶花「……ま、いっか」
奉太郎「さすがに全否定はなかったか」
里志「善は否に、否は善に至るって言うからね。それこそ一番反対派が多いのは人気アニメだしさ」
奉太郎「で、お前は何を調べて来たんだ? 里志」
里志「よくぞ聞いてくれました。聞いて驚かないでくれよ」
奉太郎「ほぉ」
摩耶花「何々?」
える「」わくわく
里志「僕が調べて来たのはアニメ、氷菓の視聴率さ」
里志「とは言っても深夜番組の視聴率なんてあんまりあてにならないし、大体数値しかわからなかったんだけどね」
奉太郎「いくらぐらいなんだ?」
里志「平均2%前後かな。深夜ならまあこんなもんだよ。ちなみに深夜でもっとも視聴率が高かったのは僕らの先輩の某バンドアニメだったよ」
奉太郎「……」
摩耶花「凄いね〜」
里志「じゃあこれを踏まえた上での奉太郎の見解を聞こうか」
奉太郎「……わかった」
える「いよいよ折木さんの番ですね!」
摩耶花「どうせ中途半端に終わるわよ……」
奉太郎「今回はちょっと真面目に調べてみた。暇だったからな」
里志「はいはい」
奉太郎「先に言っとくがちょっと長いからな」
摩耶花「折木の長いなんていいとこカップ麺が出来上がるぐらいじゃない?」
摩耶花「前置きはいいから早くしなさいよ」
奉太郎「じゃあ始めるか。まずこのアニメ『氷菓』についてだがこれの製作は京都アニメーションだ」
摩耶花「有名なの?」
里志「知る人ぞ知る、だよね」
奉太郎「その筋の人には有名だな。で、このアニメ『氷菓』を語るにはまずはこの会社の特色から伝えなきゃならない」
える「特色……ですか?」
奉太郎「今回はアニメの話のみで原作云々はなるべく触れない方向だからな。こうなるのが自然だろう」
里志「奉太郎が一番気になってるんじゃない? アニメの評価」
奉太郎「うるさい」
奉太郎「京都アニメーション、通称京アニは昭和56年創業した動画や仕上げを中心とした下請け会社からスタートした会社だ」
摩耶花「へ〜最初下請けだったんだ」
里志「仕事が認められて昭和60年に有限化、平成11年には株式化してる実力のあるアニメ会社だよ」
奉太郎「この辺りからもう既にアニメ、『氷菓』の評価についての答えが見えつつあるが……わかるやついるか?」
摩耶花「ぜんぜん」
里志「まったく」
える「皆目検討もつきません……」
奉太郎「……じゃあ続けるぞ」
奉太郎「まずは『フルメタルパニック? ふもっふ』だ」
里志「有名なライトノベルだよね」
奉太郎「ああ。それの短編集がアニメ化されたものらしい。アニメは見たことないがかなり反響は良かったそうだな。話も面白いが作画がいいと特に評判だったらしい」
える「作画……?」
里志「アニメを作るために用要られるアニメの1シーン1シーンが書かれたものだよ。パラパラ漫画みたいなもんかな」
える「ああっ」
奉太郎「もっとも今じゃほとんどコンピューターでやってて実際書いたり貼ったりはほとんどしてないだろうけどな」
里志「人気アニメのセル画も今じゃプレミア価格だそうだしね」
摩耶花「(話についていけない……って言うか福ちゃん何でそんなアニメに詳しいの?
もしかして福ちゃんって……そっち系なんじゃ)」
える「作画ですね」
\京都アニ/
≡作
≡画
ササッ
奉太郎「そうだ。京アニはその丁寧な仕事を続けつつある作品を手掛けた」
里志「涼宮ハルヒシリーズだね。京アニがここまで大きくなった一端を担っていると言っても過言じゃないよね」
奉太郎「ああ。原作は同じくライトノベルだ。ジャンルは学園SF物だな。ちなみにさっきのフルメタルパニック? ふもっふも学園物。その後に手掛けたフルメタルパニックの続編はバトルがメインになって来る。ここも重要だから頭に入れて置いてくれ」
摩耶花「ふぁ〜了解」
える「わかりました」ニコッ
奉太郎「それはこの次の奴と一緒に説明する」
里志「わかったよ」
奉太郎「と言うか里志、お前なんでそんな詳しいんだ。さては調べて来たのに説明しなかったな?」
里志「気のせいだよ奉太郎。さ、続けて続けて」
奉太郎「はぁ……で、だ」
奉太郎「その涼宮ハルヒシリーズだがここで京アニは更なる試みを試したんだ」
える「試みですか?」
奉太郎「ああ。話を面白く見せる為に敢えて原作の発行順や時系列を無視して放送したんだ」
える「まあっ」
摩耶花「へ〜……で、それってどう面白くなるの?」
奉太郎「主に原作を買った人に対するサプライズをする為だろうな。いきなり自画撮りのアニメが第1話で流れたらしい」
里志「当時はそれはもうお祭り騒ぎだったそうだよ」
える「アニメ『氷菓』もそうなってくれたらいいのですが……」
奉太郎「それはちょっと無理だろうな」
える「えっ……」
奉太郎「総評はまだだからな千反田」
える「あっ、ごめんなさい」
奉太郎「とまあ京アニはこれでアニメ会社として作品をどう面白くするか? のノウハウも培われてきたわけだ」
奉太郎「涼宮ハルヒシリーズにはもう一つ京アニを躍動させる出来事があるんだが……それは一旦置いといてさっき里志が仄めかした作品を上げよう」
里志「key作品だよね」
奉太郎「ああ」
摩耶花「key作品?」
奉太郎「主に恋愛シミュレーションゲームを作ってる会社だ」
里志「所謂ギャルゲーってやつだね。ちなみにギャルゲーって言うのはガールズゲームなまってそうなったって言われてるよ」
摩耶花「へ〜そう言うのもアニメ化するんだね」
奉太郎「ああ。しかも元のゲームは18禁だ」
える「18……禁ですか?(18禁って言うと……)」
里志「言っちゃったか。じゃあ包みはずすけど所謂エロゲーってやつだね」
摩耶花「折木ぃ……あんた女の子二人がいるところでなんて話するのよ!」ポカポカ
奉太郎「仕方ないだろ。今回の総評に関わることなんだ」ガード
里志「やっぱりこういう偏見があるよねー18禁ゲームは」
える「(よっぽどグロテスクなんでしょうか……)」
摩耶花「何よ私が悪いみたいに言っちゃってさっ!」
里志「まあまあ。一般的にだよ」
奉太郎「この二本ともストーリーがいい→全年齢対象版が出る→アニメ化と言う流れをたどっている。つまり簡単に言うと話は出来上がっていると言うことだ」
摩耶花「そんなにいい話なんだ……」
える「やってみたいですね!」
里志「泣きゲーとしてならトップクラスらしいよ。今ならアニメも全年齢版もあるし買って見たら?」
摩耶花「でも女の子がギャルゲーって……」
奉太郎「……、続けるぞ」
奉太郎「Kanonの方は前作があれだったらしいから楽な仕事だったろうな」
里志「厳しいこと言うね〜奉太郎」
奉太郎「こうして京アニはこういう元々素材のいいものを新鮮(綺麗に)提供するのが得意な会社になっていったわけだ」
摩耶花「寿司職人みたいな?」
奉太郎「それが近いな」
える「涼宮ハルヒシリーズで京アニを躍進させたもの、ですね」
奉太郎「そうだ。そしてそれはEDにある」
える「エンディングですか?」
奉太郎「ああ。アニメには基本必ずOP、EDがあるだろう? あれだ」
摩耶花「あれがどうしたのよ?」
奉太郎「EDで革命を起こした、いや、起きた、のか? 意図的かどうかは知らないが凄い人気が出たんだよ。涼宮ハルヒの憂鬱のEDは」
里志「オリコンは確か3位ぐらいまでいったかな?」
摩耶花「3位って!」
里志「深夜アニメじゃ革命的だよね」
摩耶花「ってことは」
奉太郎「京アニの特色その2、OP、EDへのこだわりだ」
\京アニ/
作OP
画ED
へ
の
こ
だ
わ
り
/‖‖\
ガシャン
奉太郎「それを含めてらきすたと言うアニメを制作した。ジャンルはゆる萌え系学園アニメだそうだ」
摩耶花「もはやなんでもありね……」
里志「オリコン2位だったかな」
摩耶花「そんな売れるもんなんだ……」
奉太郎「この辺りでアニメの環境はガラリと変わってきた。いや、もっと前から変わってたし昔から『萌え』というものがなかったとは否定しない、が、俺の見解では京アニはこのらきすたから萌え要素も多く取り入れて来たんじゃないかと思ってる」
里志「フルメタやAIRはちょっと萌えとは特色が違うから……僕はハルヒから取り入れてたと推理するけどね」
摩耶花「二人とも、ちーちゃんがそろそろついていけてないわよ」
??
える「もえ……、とは一体なんでしょうか……」
里志「今の時点でもう十分長いから問題ないよ奉太郎」
奉太郎「次に製作したのは『CLANNAD』とそのアフターストーリーだな」
里志「……奉太郎、お茶飲むかい? それと便座(ry」
奉太郎「バカはほっとこう。間違われ気味だがCLANNADは元から全年齢対象でそこからアニメ化した作品だ」
里志「そこをキッチリ言うなんてさすがだよ奉太郎!」
奉太郎「これは家族愛がテーマらしいな。話はAIRやKanonと同じで折り紙つきだったから後は新鮮なまま捌いて提供したわけだ。まあコケる要素がないな」
奉太郎「なんだ千反田?」
える「CLANNADさんはハルヒさんとらきすたさんの後に製作されたんですよね?」
奉太郎「ああ。そうだが」
える「ではCLANNADさんではOP、ED革命は起らなかったんですか?」
奉太郎「っと、すまない。説明し忘れてたな。AIR、Kanon、CLANNADは元々ゲームからの輸入物だから最初からOPがあったんだよ。だから好き勝手出来ないから映像だけでお楽しみくださいと言うわけだ」
える「なるほどです」
奉太郎「EDはいじれただろうけどジャンルがジャンルだしな。その素材に余計な真似したくなかったんだろう」
里志「監督の差もあるかもだけどね」
摩耶花「まだ二つもあるんだ……」
奉太郎「一つはさっき里志が某バンドアニメと言っていたものだ。タイトルは『けいおん!』ジャンルはバンドアニメだな」
里志「はは、お菓子研究会の間違いじゃない?」
奉太郎「当たらずしも遠からず、か」
摩耶花「あ、それなら知ってる。女子校でのガールズバンドの練習や日常とかがメインの話なんだよね」
奉太郎「ああ。ひたすらお茶会してちょっと練習して遊ぶだけのアニメだ」
える「それを……アニメで流したんですか?」
里志「そうだよ」
える「それって……」
奉太郎「千反田が言いたいこともわかる。だが、売れた。しかもかなり」
奉太郎「これもアニメ『氷菓』の評価に関わってくる問題だから覚えておいてくれ」
える「わかりました」メモメモ
奉太郎「千反田以外は知ってるみたいだな」
摩耶花「OP、EDとかキャラソンとかバンバン売れてたよね」
里志「グッズ関連も合わせると京アニで一番稼いだアニメかもね」
奉太郎「らきすたもそうだがこれも原作は4コマ漫画だ。この次のアニメ、『日常』も4コマ漫画だな」
摩耶花「ほうほう」
里志「幅を広げたかったんだろうね」
奉太郎「じゃあ最後にアニメ、日常だが」
里志「けいおんはもういいのかい?」
奉太郎「日常には悪いがちょっと比較にさせてもらうからな。けいおんはこの辺でいい」
摩耶花「ってことは……」
里志「つまり……」
える「古典部のお話なんですね!」
奉太郎「違う」
里志「違うと思うよ千反田さん」
摩耶花「それだと駄々被りじゃんか!」
える「そうですよね……」シュン
奉太郎「アニメ、日常は簡単に言えばギャグアニメだな」
里志「シュール度がちょっと強めだけどね」
奉太郎「これが2クールあったわけだが……結果は言いたくないが……売れた方ではなかったな」
摩耶花「ギャグアニメって難しそうだもんねー」
奉太郎「ああ。少なくともけいおんやハルヒ並みに売れるってことはかなり難しいだろう」
摩耶花「ってことはもう総評も見えたんじゃ」
里志「確かに売り上げも大事だけどそれは一つの要素でしかないよ摩耶花。アニメって言うのはそんな簡単じゃない」
摩耶花「福ちゃんちょっとオタクすぎな気が……」
里志「気のせいだよ」
える「教えてください折木さん! 日常と氷菓の類似点を!」
奉太郎「……日常と氷菓の類似点、それは……」
摩耶花「ジャンルの……」
える「狭さ……?」
奉太郎「このアニメ『氷菓』のジャンルはミステリー&ホラーだ。まずこの時点でちょっとアニメには向いてない」
摩耶花「なんで?」
奉太郎「今まで置いてきたものを回収するとするか。千反田」
える「はい。ふもっふさんがバトルものと言うことと、後はけいおんさんのことですね」
奉太郎「そうだ、で、フルメタはライトノベルだが……伊原、ライトノベルで売れる三大要素って何か知ってるか?」
摩耶花「ライトノベルよりは漫画派だからあんまり詳しくないけど……漫画だとバトル物は基本よね。後は恋愛物とか?」
奉太郎「いい線行ってるな。正解は『学園物』『バトル』『ハーレムないしヒロイン、出てくる女の子がとにかく可愛い』だ」
え?ミステリー日常じゃないの?怖くなるの?これ?マジで?
奉太郎「と言うことは、だ。ライトノベルにも売れる要素があるように……」
える「アニメにも売れる要素があるんですね!」
奉太郎「ご名答。それがさっきも言ってた『萌え』だ」
摩耶花「萌えって可愛いってことであってるんだよね?」
奉太郎「おおよそはな。勿論それだけでもない。さっき言った作画やOP、ED革命も大事だ」
える「と言うことは……」
奉太郎「京アニはアニメ会社として大切なものは持ち合わせていると言うことだ。あまり誉めすぎると焦げ臭くなるからこれぐらいでやめておこう」
里志「賢明だね」
里志「きっと可愛いからみんな応援を惜しまなかったんだろうね」
える「氷菓には……それがないんですか?」
奉太郎「あるにはあるが……」チラッ
える「?」
摩耶花「まっ、あるわよね!」ドヤァ!
奉太郎「路線が違うからな」
える「路線……ですか」
摩耶花「こらぁ!無視するな!」
里志「ドウドウ」
毎回こんな感じでディスカッションしてんの?
まあ話し合ってることは話し合ってるけど……どうにもその話題が興味をあまりそそられないというか
1巻氷菓の話が一番地味だからなぁ
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■カタンコトン
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奉太郎「こんな感じに駅が別れてるとでも思えばいい。無理に萌え駅に行くと脱線してしまうわけだ」
える「難しいですね……」
奉太郎「さて、いよいよ総評に入るか」
里志「いよっ、待ってました!」
摩耶花「やっとか……折木の長いをちょっと舐めてたわ」
える「」ドキドキ
える「折木さん……私……気になります! アニメ『氷菓』の評価が!」キラキラ
奉太郎「(こいつは本当に自分が出るアニメを大切に思ってるんだな……だから誉められると素直に喜んで……駄目だと落ち込んで……ほんとに……俺とは対照的だな)」
CLANNAD AIR フルメタ
けいおん 奉太郎 Kanon
日常 京アニ らきすた
奉太郎「総評は……」
────
里志「随分遅くなっちゃったね」
摩耶花「折木が延々と話してるのが悪いのよ」
奉太郎「ちゃんと最初に断っただろ。長いって」
摩耶花「いつもはあんな動かないくせにこういう時だけは最大まで回したゼンマイの玩具並みに動くんだから」
奉太郎「別に動いてはないけどな」
里志「それだけ千反田さん思いってことさ奉太郎は」
奉太郎「言ってろ」
里志「じゃ、またね。千反田さん」
摩耶花「また学校で〜」
える「……」
える「……あのっ! 折木さんっ!」
奉太郎「ん?」
里志「……」
摩耶花「ん? 福ちゃん? なんで押すの? 」
里志「(いいからいいから」ニヤニヤ
奉太郎「さっきも言っただろ。いいんだよこれで」
える「でも……」
奉太郎「……」
奉太郎「氷菓の総評は、このままでいい、だ」
える「えっ……」
里志「ほほー」
摩耶花「え?いいの!?」
奉太郎「あくまで俺が思う総評、だけどな」
える「それは……何でですか?」
奉太郎「俺は氷菓は京アニアニメで言うAIR、Kanon、CLANNADに位置し、尚且つ日常みたいな新しい枠組みを作るための試行錯誤する為に作られたアニメだと思ってる」
える「最初から話が出来上がっているから……?」
奉太郎「そうじゃない。ここだけの話だが氷菓の原作は最初は凄く人気がなくて頓挫してたんだ。他の作品から人気が出てアニメ化にまでなったんだけどな」
える「そうだったんですか……」
奉太郎「氷菓、というのはアニメ上のタイトルであって内容そのものは複数あるんだ。氷菓もその内の一つ、これ以上はネタバレになるからやめておこう」
でも確かに、京アニが色んなことに挑戦しようとしてんだなってのは素人の自分でもなんとなくわかった
奉太郎「里志、お前最初から知ってたな?」
里志「まあね」
える「……じゃあ本当に……このまま漫然とやっていれば面白くなるんですね?」
奉太郎「それはどうだろうな」
摩耶花「はっきりしないわね〜」
奉太郎「当たり前さ。アニメってのはそういうもんだ」
奉太郎「この氷菓はアニメ、と言うよりラノベがそのまま映像化したっていう特色が強い。
本を手にとって立ち読みしてつまらないと戻す人もいる。
買って全部読んでつまらないという人もいる。
買って面白いと言ってくれる人もいる。
それはアニメもラノベも同じなんだよ」
奉太郎「原作ありき、新鮮さがあるかはわからないが握りでどうぞ、だ。
アニメを見る人が元々ラノベ層と違うのもわかってる。
いっぱい可愛い女の子が出てくるアニメの方が見たい人も多いだろう。
選り好みするのをわかっていても製作側はこのままを選択したんだ。
なら俺達はこのままを演じるのが一番じゃないか?」
える「……そう、ですね」
奉太郎「俺の見解、そしてみんなの意見をまとめて出した総評は以上だ」
パチパチパチ
里志「素晴らしい総評だったよ、奉太郎」パチパチパチ
摩耶花「ふん……」パチパチパチ
える「……パチパチパチ」
────
える「はい?」
奉太郎「いいんだよ。俺達は俺達で」
える「えっ」
奉太郎「最後の結果がどうあれ……それは俺達には関係ないことなんだから」
える「……あれ……なんだか頭がぼーっと……します」フラフラ
奉太郎「(そうだ。作品の総評を決めるのは俺達じゃない。実際手にとったり見たりした人達だ。そしてその意見をアニメ会社が受け止めればいい)」
える「あれ? 折木さん? なんで私の家の前に……あれ?」キョロキョロ
奉太郎「小テストの勉強しに来てたのもう忘れたのか?」
える「そうでしたっけ……? 何か気にかかってたことがあったんですが……」
える「はいっ! また学校で、折木さん」
それに……
奉太郎「……」
まだ総評には早すぎるさ。
もう少しじっくり見てから決めてくれた方があいつも喜ぶだろう。
頼むぜ、あんたら。
まだ俺達の物語は、始まったばっかりなんだから────
なんてな。
終
ちょちょっとwikiで目を通して書いてみました。
氷菓の評価は今のところイマイチだけどきっと面白くなると信じてます
後氷菓SS流行れ
なんか興味わいてきたから今度氷菓見てみる
Entry ⇒ 2012.05.17 | Category ⇒ 氷菓SS | Comments (2) | Trackbacks (0)